博愛者。
- 1 名前:リースィー 投稿日:2004/10/03(日) 12:05
- はじめまして、リースィーーと申します。
石川さんメインでりかみきとなちりか中心になると思われます。
目に留めていただいただけでもこれ幸い、ということで。
- 2 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:15
- 目に映る景色はいつもと違っていた。
外はまだ太陽の光が見える時間なのに、ありえないくらい厚い雲があるせいでずっと向こうの景色は見えなくて。
気に入ってるところなのに。そう思いながらも先に帰ってしまったメンバーの事を心配する声に耳を傾けていた。
「大雨警報?・・・な〜んか風も強いみたい」
「・・・帰れないじゃん」
触れた窓が異様に冷たい。ってか、今日ちょっと寒すぎない?
ただで超寒がりなのに。
「みんな車で行っちゃったんだよね。あ〜・・・私達も無理言っとけばよかったかなあ」
「車に乗ったにしてもみんなの注目の的じゃん。そんなんでぶち壊されたくないし」
「・・・何か今日の美貴ちゃん、いつもよりテンション分かんないね」
「・・・誰のせいだと思ってんのよ」
できるだけ小さな声でツッコみながら、ソファで雑誌を読んでくつろいでる梨華ちゃんの所を向いた。
雨のせいでいつもより明るい楽屋の中。
いつも騒がしいこの空間も今は、二人だけ。
- 3 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:21
- 「ねえ」
「なぁに?」
「・・・何でそんなに落ち着いてんの」
「落ち着いてる・・・かなあ。そんな風に見えてる?」
「こっちが質問してんですけど」
梨華ちゃんの隣に座って開かれた雑誌のページを覗き込む。それだけじゃなくて、家の中にいる時みたいに肩に頭を乗せてベッタベタにくっ付いて。
「今から“どっか行こう”って予定だったのにさ。このまんまじゃ家にも帰れないかもしれないんだよ?」
「まぁ、ねぇ。でもそんなに長く降るわけでもないみたいだし」
「何で分かんのよ。天気予報見たの?」
「ちゃあんとテレビをチェックしてから家出たからね」
美貴の話にはちゃんと言葉を返してくれるんだけど、視線は雑誌にばっかり。
「・・・ねぇっ!」
ホントに。
美貴、マジで切れるよ?
- 4 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:28
- 「っ?・・・ととっ」
首筋に腕を回してぎゅうってする。首絞めるつもりじゃないんだけど全体重掛けて梨華ちゃんとソファに倒れこんで。
雑誌は、取り上げた。
「いーしかわっ!!」
耳元でデッカい声。それでやっとこっちを向いた梨華ちゃんの目。
軽く笑ってるけどちょっと怖がってるかな。
でも、仕方ないじゃん。
「さっきからずっとくっ付いてんのに何でそんな風にしてんのっ?」
「えっ?私、何かした?」
「何もしてないけど何かしたっ!」
もう自分でも訳分かんない。
だけど今の美貴は何かに・・・多分、怒ってる。
「ね、美貴ちゃん。とりあえず落ち着こ?」
「だめ。今のままじゃ絶対落ち着けない」
落ち着かせてよ。今の美貴を止めて。
梨華ちゃんのやり方で。
「・・・どうにかして」
「・・・・・」
何も応えなくなった代わりに、ため息と一緒に微かな笑い声が届いた。
- 5 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:33
- 「もう、美貴ちゃんは・・・」
笑い声に混じって梨華ちゃんの手が頬に触れた。
いつもの、ホントに二人きりでいるときの優しい甘い顔がそこにあって。それを見ている間に両手で顔を包まれて、引き寄せられて。
・・・美貴が上にいるのに、結局梨華ちゃんにキスしてもらうような形になった。
「ん・・・」
楽屋のドアの方からはソファの背もたれがあるから見えない。
それを良い事に梨華ちゃんの唇は。
「・・・っはぁ・・・」
熱いため息が出ちゃうくらいに、体の芯をくすぐるような感覚を連れて。
離さないように包まれた手の中でゆっくりと温められてく頬。思わず目を閉じると、唇を柔らかく噛む感触に体が勝手に反応する。
・・・あ〜、やられた。
なんて今更遅い、でもそこまで悪くない後悔。
- 6 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:38
- 「・・・美貴ちゃん?」
「・・・ん」
耳の裏をゆっくりと撫でる指を掴んで目を開く。
「落ち着いた?」
「・・・・・」
何にも言わないで首筋に顔を埋めた。
イライラしてるのに、こういうコトですぐにおさまっちゃう自分がちょっと情けなくて。
「ねえ、美貴ちゃん?」
「・・・ん?」
少しだけ顔を上げて梨華ちゃんを見る。手はもう頬から離れてるのにまだ熱い感じがするのは気のせいかな。
そう思いながら、梨華ちゃんの服を掴んだら。
・・・耳元に、唇を寄せられて。
「今度は、さ」
・・・誰でヤキモチ焼いちゃったの?
- 7 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:44
- 「っ・・・」
少しピクッとしてしまう。別に意識していた訳じゃないんだけど、それでも何かしら感じていたのは事実だった。
多分、今のはその証拠のような反応。
「・・・ばか」
分かってるくせに聞いてくるその根性。
ってか・・・この無自覚。
美貴がいつもみたいに・・・を装ってるように・・・睨んでみても、返ってくるのは「フフッ」って含み笑いだけ。
「分かってたんなら最初からちゃんとなだめてよ」
「そうなんだけどねぇ。でもさっきまでの美貴ちゃん、可愛かったから」
「・・・そんなんで可愛いとか言われたくないっ」
もう・・・ほんとに。
美貴がわざと“そう”いう風にしてもシットしない人。
なのに・・・彼女は無自覚に“そう”して、美貴をこんな風にする。
その日の後はどんな風に隠したって気持ちのボロを手繰り寄せるんだ。
指先で、すぅっと。
同い年なのに、誕生日も近いのに。
・・・ずるくない?それ。
- 8 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:49
-
「大雨は行っちゃったかな」
窓を叩いていた雨の音がいつの間にか消えていた。
ソファに横たわっていた体を起こされて、腕を回されたまま手で髪を梳かれる。
「それとも通り雨だったのかなあ」
「・・・朝からずっと通り雨な訳無いじゃん」
何かまた、梨華ちゃんが言うような“変なテンション”。低くも無いし高くも無い、どこに自分のポジションがあるのか分かんない、みたいな。
「風もおさまったね。遊びに行けるよ?」
「・・・うん」
手を掴んで、指まで絡めて。
そうして今度は自分からキスした。
「やっぱり・・・良いや」
「ん?」
「どこにも行かない」
「・・・行かないの?」
下から覗き込んでくる顔に笑われる。まだシットしてると思われてるのかな。
でももう、そんなんじゃない。
- 9 名前:無自覚な指先で。(りかみき) 投稿日:2004/10/03(日) 12:55
- 「家にいたい。・・・梨華ちゃんと」
映画は家で見るよ。
もうとにかく。時間の許す限り、今日は。
「・・・だめ?」
降参するからさ、ホントは負けず嫌いだけど。
だって梨華ちゃん、全然気付いてないけど・・・敵わないんだもん。
戦いたいところがいっつもズレてるから。
美貴がどんなに大きな台風連れてきたって、そこにあったはずの的がいつの間にか消えてるから。
・・・きっと、あの子が梨華ちゃんとケンカしたこと無いって言った理由はそこにあるんだと思う。
「じゃあ、焼肉もいいんだ」
「・・・今日はガマンするよ」
仕方ない。それでも梨華ちゃんを取ってしまう。
絡めた指は口元に移動してゆっくりと甲に口付けられた。
「それじゃあ、帰ろっか?」
「・・・うん」
素直に頷く。そんな美貴の様子に梨華ちゃんは満足そうに笑った。
美貴の気持ちごと掴む手をまた、口付けながら。
終。
- 10 名前:リースィー 投稿日:2004/10/03(日) 13:01
- はい、とりあえず終了です。
これからかなり間が空くとは思いますが、できるだけ多く書いていきたいと思います。
では。
- 11 名前:習志野権兵 投稿日:2004/10/03(日) 20:35
- カップリングものは、あんまり見ないけど面白そうですね。
楽しみにさせていただきます。
- 12 名前:習志野権兵 投稿日:2004/10/03(日) 20:36
- カップリングものは、あんまり見ないけど面白そうですね。
楽しみにさせていただきます。頑張ってください。
- 13 名前:習志野権兵 投稿日:2004/10/03(日) 20:41
- 更新中に一言付け加え忘れたので取り消し、付け加えたのですが・・・。
汚してすみませんでした。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/04(月) 21:45
- 新作期待しています。
りかみき、なちりかって、あんまり見かけないですね〜。
これからも楽しみにしています!
- 15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/05(火) 22:28
- 通りがかりに読んでみたらはまってしまいました。
素敵なお話ですね。
私もりかみき書いています。
こんなにツボをつかれたのは初めてです。
なちりかも楽しみにしています。
また読みに来ます。
- 16 名前:リースィー 投稿日:2004/10/10(日) 10:12
- 感想、ありがとうございます。励みになりますっ。
では、またりかみきを。
- 17 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:14
-
その時目に映った美貴ちゃんは、十日前に見た時より少し細く見えた。
ただでさえ細身なのに、なあ。なんて。
でも。
「・・・おかえり」
小さい声で、聞こえてるか聞こえないか位でそう伝えるしかできずにいた。
- 18 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:19
-
袖をちょっと曲げてからレモンティーに口を付けた。
屋上からの眺め。空は青いけど、やっぱりどこか秋の兆しが見え始めてる。手に持つ缶も汗をかく時間が遅くなっていた。
携帯は持ってるけど電源は入ってない。
一応時間は計ってるし、今日の収録はそんなに急なものじゃないから。
探しに来る人だって、どうせ「ちゃんと」私を見つけてくれる。
・・・そうだなあ。
今頃はよっすぃーとベタベタしてんのかな。
「誰とベタベタしてるって?」
- 19 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:23
-
「?・・・あ」
ドアが開いた音に気付けてなかった。
丁度外の大きな音に紛れて・・・これだから屋上は。
「こんな早く来るとは思わなかったなあ」
「一人でフラッと出てくとこ見たら追いかけるに決まってんでしょ」
出っ張ったセメントに腰掛ける私のところまで来て、腰に手を当てて仁王立ち。
なんか、怒ってる?
「何で勝手に外出てくの」
「んー・・・いつもの事だけど」
そう応えてレモンティーを一口。
そしたら「フッ」と鼻で笑う声が。
「ホントいつもだよね。美貴が見てても助けてくんないし」
笑い声は多分、「ジチョウ」というものだったんだろう。
私に一つ言った後。美貴ちゃんは隣に座った。
- 20 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:28
- 「一口ちょーだい」
「ん」
一つだけ応えて缶を差し出した。一回しかめくってなかった袖は急の風にあおられて元に戻ってく。
美貴ちゃんの手は伸びて、缶に触れてく。
でも、それを通り抜けて私の手に伸びた。
「・・・美貴ちゃん?」
「・・・・・」
何も言わない唇。
顔は鼻先が付くんじゃないかって思う程に近付いて。
視線は・・・私を見て。
「・・・ホントに鈍感だよね」
「・・・・・」
一瞬の唇の感触は、罰かな?とか思いつつもやわらかくて。
まだ少し、熱があるような。
「・・・・・」
私、何かした?
雲はただ流れて、風もただ吹いて。
そんな事がただ十日間続いたんだ。
その間にも色んな事があったはずだけど、さ。
・・・さっき唇が触れるまで、何も思い出せなかった。
- 21 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:34
-
レモンティーを飲む仕種を見て、それからまた空に視線を移した。
言葉が出てこないというよりも、敢えて自分から何も言わないカンジ。だから美貴ちゃんも何も言わずに私のレモンティーを飲んでる。
「全部飲んで良いの?」
「うん」
「どーも」
遠慮無くレモンティーを飲む音。
空を見ていた目は、閉じた。
「・・・あのさ」
「ん?」
「矢口さんとか美貴ちゃんみたいに、さ・・・」
病気でおっきいお休みってしたこと無いんだよ、私。
でもさ。もし、ね?
私が美貴ちゃんと同じコトになったら。
「・・・私も美貴ちゃんと同じ気持ちになるのかなあ、って」
多分、無理だけど。
美貴ちゃんみたいに「メンバーの人気者」ってワケじゃないし。
「アホくさいなあ」
「分かってて言ってるんだけどね」
だから、絶対。
美貴ちゃんは今の私と同じ気持ちにはならないね。
黙って置いてく事は無いでしょう。
- 22 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:38
- 「じゃあ何で今日は美貴を置いてったの?」
「・・・・・」
目を開いて、一番先に映った色は緑に近かった。
そこから視線を下ろして、ゆっくり。
美貴ちゃんの顔を見ずに、手を握った。
「おかしいね、私」
今頃気付いた訳じゃないけど。
「・・・メンバーといる美貴ちゃんをね、そっとしといてあげたいなあって」
・・・変な気の使い方、してたんだよね。
だからちゃんと大きく言えなかった「おかえり」。
メンバーはとにかく心配してメールしてたのに、私は。
本当は、誰よりも心配してたのに。
「A型人間だね」
「・・・そっちもじゃん」
言葉は伝えて、強がって。
震える声に気付いてたけど・・・強がって。
- 23 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:42
- 「梨華ちゃん」
「・・・・・」
「ただいま」
「・・・おかえり」
きゅっち、力の入る手。
美貴ちゃんが握り返してくれてる。
「ホントに美貴がいないとだめだからなー、梨華ちゃんは」
「・・・・・」
「これでホントにデビューできんの?来週でしょう?」
「・・・ハハッ」
そう、だ。
こうしてたらいけないんだよなあ、って。
やっぱり美貴ちゃんに怒られたよ。
「大丈夫?」
「・・・ん」
「何かあったらすぐに言ってよ。必ず応えるから」
「・・・うん」
手だけだった温かさが、ゆっくり体に回る。
力を失った空き缶が迷惑な音を立てて転がっていった。
- 24 名前:二人、一つ・・・一時の 投稿日:2004/10/10(日) 10:45
-
「疑似体験」させたかったのかなって思ってみたりもする。
あなたが側にいないのがどれだけ辛いのか、とか。
あなたが側にいるのがどれだけ嬉しいのか、とか。
・・・それでも辿り着いた唇は一緒で。
それですごく、安心した。
レモンティーの香りが行き来する。
過ぎた十日間の空白を埋めるように続いてく、一時の。
・・・優しい、許された時間の中で。
終。
- 25 名前:リースィー 投稿日:2004/10/10(日) 10:48
- 更新終了、です。
時期的に藤本さんが復帰したころの話です。ちょっと前に書いたものですので・・・。
今度はもう少しオトナな感じでも・・・?
では。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/11(月) 17:43
- 更新お疲れ様です。
二人のゆったりした空気感がイイナ〜と思いました。
オトナな感じ、とっても期待してます!
- 27 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/10/12(火) 19:47
- 更新お疲れ様です。
作者さんの書く二人の雰囲気、なんかいいですねぇ。
自分もりかみき書いてるけど、こう書けたらなぁ…って。
楽しみにしてます。
- 28 名前:リースィー 投稿日:2004/10/24(日) 09:24
- 感想、本当にありがとうございます。
それではまた一つ。
- 29 名前:「温いカラダ、ふたつ」 投稿日:2004/10/24(日) 09:31
-
シャワーを止めたら、訪れた静けさは酷かった。
二回目のバスルーム。でも入るには遅い時間。
汗を落として体を温めるつもりだったけど、今は後ろから抱きしめてくれてる体温だけが伝わって。
「・・・梨華ちゃん」
「・・・・・」
淡く、甘い体温。
それにさっきまでの事を思い出さずにはいられなかった。
「ねぇ・・・冷えちゃうよ」
「分かってる・・・」
コックに触れる手に指まで絡められたら、止まっていたシャワーのお湯がまた。
「梨華ちゃ・・・?」
「・・・ごめん」
再び訪れた水音に声が混じる。
「もっと、美貴ちゃんに触れさせて」
・・・寂しくなるから。
突然降った言葉を自分的に考えてみるけど。
何かね・・・梨華ちゃんを感じてても、まだ理解できてないよ。
- 30 名前:「温いカラダ、ふたつ」 投稿日:2004/10/24(日) 09:36
-
明日は午後からの仕事だからちょっと遅い時間に寝ても大丈夫。二人とも眠る事は好きだし、そこらへんは計算して朝まで。
「・・・あのさ」
「ん?」
ちゃんと服を着て横になってるけど、ちょっとした癖で梨華ちゃんの手は服の下の腰に落ちる。たまにイタズラまでする時もあるけど、今日はもう・・・安心したいだけみたいで。
それを感じながら話を続ける。
「ちょっとね・・・びっくりした」
理解はまだできてないけど、それでもその気持ちみたいなものは少しずつ形になっている。
そんな形をちゃんとしたものにするまでの間で美貴の中に芽生えたものは驚きというもので。
・・・だって、珍しい。
梨華ちゃんの口から「寂しい」なんて。
- 31 名前:「温いカラダ、ふたつ」 投稿日:2004/10/24(日) 09:42
- 「いっつも甘えてるから・・・言葉としては美貴が言いそうじゃない?」
「そう、かなあ・・・。でも・・・」
・・・私も言いたいから、たまには。
「たまに?いつでも言ってよ」
向かい合わせで横になってる梨華ちゃんの首筋に腕を回して引き寄せる。
薄暗闇だったけど梨華ちゃんの困ったような笑い顔を見つけた。
「いつでも言えるのは美貴ちゃんの特権じゃない?」
「特権じゃないよ。梨華ちゃんも言って。そしたら・・・」
・・・言葉が止まった。
梨華ちゃんの唇に止められたんだけど、その前にもう自分自身で言うのを止めてて。
「・・・・・」
無言になった唇が、そっと離れてく。
「・・・自分で分かってるの」
頬を触れ撫でる手。
「自分のわがままとか思ってる事とか言っちゃったら多分、どんなに時間あっても足りないし・・・」
自分がね・・・壊れちゃいそうだから。
「・・・・・」
何も言えずに、ただ胸が酷く痛んだ。
人生で最高の「究極の選択」とか、良いかな。
今の自分の前にある道を歩くか。
それとも美貴を選ぶか。
・・・「もしも」でも良いとしたら、どっちにする?
- 32 名前:「温いカラダ、ふたつ」 投稿日:2004/10/24(日) 09:54
-
あれから少し泣いた。美貴じゃなくて梨華ちゃんが。
家に来た時から不安定だったんだろうなあ、っていうのは何となく感じてた・・・家で落ち着いて大分経ってから・・・けどそれでも一緒にいて、美貴が何とかできるんじゃないかって思ってたから。
そうしていつもより静かに過ぎていった時間。
いつもより柔らかで、弱く感じた愛撫。
何か不安を抱えているっていうのを、言葉でなくても伝えて。
「・・・梨華ちゃん」
唇に少しだけ声を乗せる程の大きさで呼びかける。
梨華ちゃんは目を閉じたまま動かない。泣いたまま美貴に抱きついて、・・・それでも強がろうとして笑ったりして、さ。
・・・今のままで究極の選択なんてさせたら、絶対怒るよね。
だから目を覚まさないで聞いて。
「一人きりじゃないんだよ」
ちょっと気付きにくいけど、世界は意外に小さい。
自由でいられる分広く感じちゃうだけなんだけどね。
美貴はその世界からもっと小さいこの世界に入ったから分かる。
その道を逆に進むって事は、梨華ちゃんの言う「寂しさ」ってものなのかな。
・・・だとしたらこれから来る時間の中で少しずつ大きくなってく気持ちも名前を付けたら一緒?
でも、それでも「一人なんだ」って思ったことは一度も無い。
「寂しいと思っても・・・美貴がいるのは変わらないでしょ・・・?」
「・・・・・」
額に感じる淡い体温。腰にある掌と繋がってそれだけでもちゃんと梨華ちゃんを感じられる。
瞳は見えない。
・・・それで良い。
だらだらと並べてるわがままを梨華ちゃんが聞いたら、くだらない事なのにまた泣かせちゃうから。
嘘でも良いから「美貴ちゃんを取る」って。
そう言わせたいだけのわがままだから。
- 33 名前:「温いカラダ、ふたつ」 投稿日:2004/10/24(日) 09:59
-
うとうとしていたけど眠るまではいかない。
視線を下に向けてため息を吐いたら、それが鍵になって瞳は開いた。
「・・・美貴ちゃん」
「うん・・・?」
「眠ってなかったの?」
「・・・ちょっと起きちゃっただけ。ごめんね」
ちょっとした嘘。心配させたくないだけの。
シーツに落ちていた梨華ちゃんの手が肩に回って、少しだけ熱くなった体はどこからが肌か感覚では区別が付けられなくなった。
「ねえ、もし・・・」
美貴が魔法使えたら、本当に一つになれちゃったりもするかな。
「・・・するかもね」
眠そうな笑顔。
・・・そんな顔されたら、ほんとに魔法が使いたくなるじゃん。
一つになれる魔法。それも良いけど、もっと。
もっと悪く汚れた気持ちを梨華ちゃんに植え付けても。
- 34 名前:「温いカラダ、ふたつ」 投稿日:2004/10/24(日) 10:02
-
「梨華ちゃん・・・」
軽く触れるようなキスをして。重なった手は離れないように解けないように、指まで。
「・・・何?」
「・・・・・」
もう一度口付ける。
「ねぇ・・・」
美貴を選んで。
「え・・・?」
「・・・何でも無い」
最後にそれだけ伝えて梨華ちゃんを抱きしめた。
笑ってるのに、視界が揺らいでるのを見られたくなかったから。
終。
- 35 名前:リースィー 投稿日:2004/10/24(日) 10:05
- 更新終了、です。
「オトナな感じに」とは言ったものの、そうなってるかどうか・・・。
期待外れでしたらゴメンナサイです。
それでは次回ぐらいにはなちりかを?
では。
- 36 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/10/24(日) 22:25
- すごく大人っぽい感じがします。
軽い感じで読んでたのでなんか圧倒されました。
なちりか更新待ってます。
- 37 名前:通りすがりの者 投稿日:2004/11/03(水) 01:24
- 更新待ってます。
- 38 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/05(金) 21:39
- しっとりとした物語に魅せられました。
素敵な物語をありがとうです。
「なちりか」もあまり見られないから、楽しみですよ。
ですけど、作者さんのペースでゆっくりとお待ちしておりますよ。
- 39 名前:リースィー 投稿日:2004/11/14(日) 09:22
- 感想、ありがとうございますっ。
それでは「なちりか」を。
・・・なんですが、時期的には安倍さんが卒業する前のお話です。
大体クリスマスドラマの頃です。
- 40 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 09:26
-
ある言葉を口にしたら、隣にいたごっちんが“ふっ”とため息を吐いて軽く笑った。
「今度の恋はタイミングが悪いね」
そうして被ってた帽子越しに“ぽふっ”って手を置かれて。
「・・・そう、だね」
私も笑い返して遠くの方を見つめる。
そこに彼女はいた。
「でも・・・」
分かってる。
「これで最後だよ、きっと」
この胸の痛みに誓って。
- 41 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 09:38
-
帰りの車の中、後ろの方に座ってる私と梨華ちゃん。他のメンバーはみんな途中で降りていった。さっき矢口に聞いたら、梨華ちゃんは事務所で待ち合わせしてる人がいるって事でそのまま乗ってるらしい。
「安倍さんも何か用事があるんですか?」
「ん・・・まぁ、ね」
返答に困りつつも、メールでごっちんに助けを求めた。ごっちんも事務所に用があるらしかったから話が繋がる。とりあえずモンブランを奢る事も約束して。
「・・・何か、ちょっと寒いですね」
「んー、そうだねぇ」
ヒーターは点けてあると思うけど、奥の方に座ってるから温かい風がここまで来ないんだ。
・・・私はくっ付いてるから寒くないけど。
「そういえば梨華ちゃん、今から遊びに行くの?」
「はい、そうなんですよ。柴ちゃんから二、三日前に電話があって・・・」
窓のほうを向いてた顔がすぐにこっちを向いた。その顔はすごく嬉しそうで、「今からご飯を食べに行く」ってだけでワクワクしてるのが、可愛い。
「久し振りなんで息抜きになるかなって思って」
「そっかぁ、最近は忙しかったもんねぇ」
くっ付いてた腕はすぐに温かくなる。梨華ちゃんは笑って「楽しみだなあ」って。
「・・・うん」
事務所に近付く車の中で、私の返事が小さく響いた。
- 42 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 09:45
-
一瞬だけ。ほんとに一瞬だけなんだけど。
・・・私に向けるその笑顔が、私「の為」に向ける笑顔じゃないことがすごく、悲しく思えた。
「おつかれさまでしたー」
二人でマネージャーさんに挨拶して車から降りた。外は暗くなって、寒さは予想以上で。
「あー、柴ちゃんまだ来てないんだ・・・」
事務所の待合室で立ち止まって帽子の前の方だけをくいっと上げると、そこには受付の人しかいなかった。ごっちんが来るまでまだ二十分くらいあるから、自販機で温かいティーを買って暖を取ることにした。梨華ちゃんは携帯を手にとってメールをチェックして。
「うー・・・」
小さくうなって。
「何、どしたの?」
「仕事押したから少し遅くなるらしくて・・・。“先に行ってて”ってあるんですけど・・・」
寒いんですよねぇ、外。
「あ、じゃあなっちもごっちん待ってるからそれまでこっちいる?」
話し相手にならなれると思うけど、って言って手で「おいでおいで」ってする。
「良いんですか?・・・じゃあ少しだけ・・・」
「うん」
あまり人の通らない待合室のイスに座ってた私の横にメールを打ち終えた梨華ちゃんが来た。
- 43 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 09:51
- 「柴ちゃんどれくらい遅れるって言ってたの?」
「待ち合わせの時間はもうすぐなんですけど、それから十五分くらい遅れるって」
「あ、じゃあごっちんが来るのと同じくらいじゃない?」
分刻みの話だからそんなに気にする事じゃないはずだけど、私にとってはちょっとだけ問題だった。
ごっちんが先に来るか、柴ちゃんが先に来るか。
それが・・・ほんとにちょっとだけ問題だった。
「?・・・梨華ちゃん、手痛いの?」
ふと目に入った梨華ちゃんの手は重なって、軽く曲げられた指が口元にあった。
「いや・・・ちょっと手が冷えちゃって」
「・・・あー・・・」
車の中でも寒いとか何とかってずっと言ってたな、そういえば。
・・・それよりも、私の言葉に対しての応えが一つ一つ申し訳無さそうなのがすごく気になる。
そんな風に・・・しなくても良いのになあ。
・・・もっと、私の側にいてくれても良いのに。
- 44 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 09:57
-
「・・・梨華ちゃん」
「・・・はい?」
「手、貸して?両方」
「え・・・」
何でですか?って言葉がくっ付く前に暖を取ってた缶を梨華ちゃんに持たせる。そうして上からまた、私が梨華ちゃんの手を包んだ。
「あ・・・」
小さく、また声が聞こえる。けど聞こえない振りした。
「少し冷めちゃってるけど、温かいっしょ」
「あ、はい・・・」
お互いにちょっとだけ向き合って手を重ねて。体はそうしてるのにためらいがちに応えた梨華ちゃんの視線は私には向かなかった。手か、そこから少し外れて床らへん。
・・・でも、それでも良かった。
ちょっと痛いけど、今はそれで。
「梨華ちゃん、冷え性だっけ」
「はい、ちょっと・・・」
「じゃあちゃんとしなくちゃね。寒いと思ったらすぐに温めないと」
「・・・すいません」
「ハハ・・・謝る事じゃないよ」
本当に礼儀正しい子だなあって思う。正しいというか、相手に対してかしこまり過ぎてるというか。
・・・ほんとは、もう少しくだけた感じでも良いんだけどなあ。
後、十分。
それまでずっと・・・こうして肌に触れてたい。
- 45 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 10:05
-
携帯の着信音が虚しくタイムリミットを知らせた。
それから自然に離れてく手。女の子らしい梨華ちゃんの指はほんのりと赤くなってた。
「すいません・・・ありがとうございます」
「良いの良いの。次から気を付けよう?」
「はい」
梨華ちゃんの返事にまた軽く笑う。そしたら声は聞こえてきた。
「なっちー」
「梨華ちゃーんっ」
それも、二人。
「あ、ごっちんっ」
「柴ちゃん」
事務所のドアから待合室に向かって歩いてくるのはもちろんごっちんと柴ちゃんだった。二人共“ばったり”だったらしい。
「安倍さんも待ち合わせだったんですか。梨華ちゃん大人しくしてました?」
「ちょっ・・・柴ちゃん、何よその言い方ーっ」
失礼ねー、って梨華ちゃんの肘が柴ちゃんを突っ込む。
「じゃあ行きますね。おつかれさまでした」
「うん。おつかれー」
缶を持ち直して梨華ちゃんに応える。そしたら背中を向ける前に小さく「ありがとうございました」って聞こえた。それにまた梨華ちゃんらしさを感じつつ手を振る。
温いと言えなくなるくらいに缶が冷えた頃、指でそっとプルタブを起こした。
- 46 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 10:10
- 「ね、ごっちん」
「んー?」
「・・・ありがとね、柴ちゃんと同時に来てくれて」
「?・・・え、どういう意味?」
「うん・・・」
ティーを一口飲んでため息を吐く。
「もしどっちか片方しか来てなかったら、私ちょっとヤバくなってた」
一人にするのも一人になるのも、私にとってはものすごく嫌な事だったから。
・・・でも。
「二人共すっぽかされてた方が・・・一番良かったのになあ・・・」
一人にしたって一人になったって、お目当ての人が同時に来たって。
結局離れることが嫌だったんだ、私。
「・・・恋だねえ」
「うん・・・」
失礼な言葉を空気に乗せてしまったけど、ごっちんは怒らずに聞いてくれた。
「でも・・・」
今度の恋はタイミングが悪いね。
「・・・・・」
・・・そう、だね。
・・・タイミング、悪すぎるよ。ホントに。
- 47 名前:「時は止まらずに」 投稿日:2004/11/14(日) 10:11
-
「これが最後だよ、きっと」
痛みに誓って、ティーを一気飲みする。
ごみ箱に捨てた缶はもう、冷たくなってた。
終。
- 48 名前:リースィー 投稿日:2004/11/14(日) 10:18
- はい、更新終了です。
というか・・・ちょい古でゴメンナサイ(TT)。
やっぱり「りかみき」のほうが圧倒的に多くありまして・・・。
あと、この二つに限らず石川さん絡みのお話も次回から乗せていきたいと思います。それも色々とあるので。
いつも時間が無くて・・・お一人お一人に挨拶ができなくてゴメンナサイです。
では。
- 49 名前:名無し読者さん 投稿日:2004/11/20(土) 21:29
- そうですか。( ^▽^)<なっちぃー!とか
結構いろいろあると思うんですけどね、なちりか。
作者さんの目には止まってないようで残念です。
次回更新待ってます。
- 50 名前:リースィー 投稿日:2004/11/28(日) 09:21
- 感想、ありがとうございます。
>名無し読者さん。
そうですか・・・。
( ^▽^)<なっちぃー!
とかあったんですね。私の住む地域ではハロモニすら見れないので、とても大変ですし残念です。(TT)
でもこれからも頑張って書いていきますよ。ありがとうございます。
それでは、今日もちょい季節はずれ?のお話を。
石柴です。
- 51 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:27
-
何か嫌な音。
いつも聞いてて、収録の時にはあまり気にならない音なんだけど。
・・・今は、何か嫌だ。
「石川が誰かと待ち合わせしたらいつも雨じゃない?」
「・・・そんな事無いですよ」
事務所に用があったからここでそのまま待ち合わせることにしたんだけど・・・私を送ってくれたマネージャーさんはちょっと、ウルサイ。
「まあ、久し振りに柴田とデートだもんねぇ」
「デート?・・・ってそんなもんでもないですけど・・・」
携帯を手にしてる私の目は窓の向こう。
そこに空色は見えない。
おーい、梨華ちゃん。
「?」
携帯で「着いた」事を伝えるもんだと思ってた私の耳に着信音は届かず、直接「感覚」は降った。
- 52 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:31
- 「柴ちゃんっ」
「待った?」
そこにはちゃんと、私のお目当ての人がいた。
・・・けど。
「あれ?」
柴ちゃんはいた事はいた。
でもその後ろにはあと二人。
「よっすぃー・・・」
・・・美貴ちゃん?
「どうしたの?珍しい三人組だね」
「うん、私もそう思ったんだけど。・・・って言わなかったっけ?」
「・・・あ」
そこで思い出す、昨日のメール。
確か。
「三人で収録があったんだ」
「そうだよ。ほんとに忘れやすいんだからなあ・・・」
「ごめんごめん」
何となく続いてく会話。でもまだ二人が視界に入る。
マネージャーさんと何か話があるのかな・・・まあ、とりあえず。
- 53 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:35
- 「行こっか。お腹空いちゃったし」
「うん」
私から手を握って柴ちゃんと歩き始めた。
嫌な音がまだ耳に入ってくるけど、今はもうそれを気にしてる暇は無かった。
「お疲れ様でした。・・・よっすぃー、美貴ちゃん、明日ね」
「うん、お疲れ」
私に手を振ってくれたのはよっすぃー。
でも、もう一人は。
「いつものとこ?」
「うん。そこが良いよ」
何かを言おうとする気配が無かったから、そのまま会話を続けて隠した。
その存在ごと、そこにあった「何か変な空気」をかき消すように。
柴ちゃんには、言ってない事。
ホントは今日の仕事、私が受けるはずだったんだ。
- 54 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:39
-
いつものお店のボックス席。ここは静かで会話が他に聞こえる事も無いから直接聞いてみた。
「美貴ちゃんに何て言われたの?」
「・・・え?」
おしぼりに手をつけて、微妙な位置で止まる変な「だるまさんがころんだ」。
それで素直に止まったって事は、私の予想通りって事だ。
「・・・バレバレか」
「バレバレだよ」
私の一言で、開き直ったのを教えるように大きい音で袋が破られる。
そこから出されたおしぼりは、柴ちゃんの手をゆっくり綺麗にして。
「言われはしなかったよ。ただ・・・」
「態度?」
「だと思った」
じゃないと出来ないよ、あんな変な空間。
- 55 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:43
- 「でもさ、収録が始まるまではそんな事無かったんだよ」
「ん・・・」
「けど、・・・梨華ちゃんメール送ったでしょ?」
あれから、なんだよ。
「・・・そっか」
私もおしぼりで手を拭く。
「気にしなくても良いよ。多分ね・・・私の事だから」
「メール?」
「ん〜ん。とにかく私の事。柴ちゃんはもう心配しなくて良いよ」
もう、今のこの空間ではその話はしたくない。
柴ちゃんとは・・・「変な空気」の中で一緒にいたくない。
原因を知っていたのは、柴ちゃんじゃなくてよっすぃーからメールが来たから。
“藤本がいるんだよ。柴ちゃんの隣に”。
その一行でも分かった、よっすぃーの伝えたかった事。
- 56 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:47
-
雨はまだ止んでなかった。
知らない店の先。傘は持ってたけど、それでも濡れてしまいそうだったから雨宿り。
柴ちゃんも隣で、パーカーのポケットに手を入れて。
「・・・秋、ってさ」
「ん・・・?」
雨の音に紛れるその声。
「何か・・・色々あるね」
「・・・・・」
その言葉の意味を自分なりに解釈して、すぐ。
「・・・そうだね」
静かに、応えた。
「梨華ちゃんがって事だよ?」
「分かってるよ」
ずっと一緒に遊んでるんだよ?色んな事知ってるんだよ?
・・・その言葉だけで、分かるに決まってるじゃない。
「あ〜あ・・・今日はずっと雨だよ」
「雨ばっかだね・・・」
上を向く私の目には、もう暗闇しか映らない。
でもその向こうから確実に降ってくる、ものは。
- 57 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:52
- 「・・・ね、柴ちゃん」
「ん?」
上を向いてても分かる、こっちを見てる柴ちゃんの顔。
・・・私も、ちゃんと柴ちゃんを見て言った。
「色々考えるの、やめよう?」
今だけでも。
今は、私の目に柴ちゃんが映ってるって事だけを感じてたい。
まだ雨は止まない。そして少しだけ強くなる風。
私は柴ちゃんの手を取った。
ゆっくり、笑って。傘を開いて。
「・・・考えたら、キリ無いからさ」
もう何も言わないよ。指先で気付いて。
柴ちゃんとはバカしてたいから。
いつまでもそんな風で・・・いたいから。
雨の中。傘で隠れた私達。
指先には温かさを感じて。
・・・それ以上の何かを、唇に感じて。
- 58 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 09:55
-
一つの記憶。
それが多分、一種の理由。
「・・・ごめんね。その気持ちは受けられない」
「・・・・・」
何も言わなくなった美貴ちゃんの側を足早に通り抜けてく。その時にもう一度「ごめん」って。
きっと焦ってたんだ。だから美貴ちゃんは私に気持ちを伝えた。
私に、「誰か」がいる事が分かってても。
そうだ。
あの日も、嫌な音が続いてた。
・・・その時は、何て言ってかき消した?
- 59 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 10:02
-
次の日、音を消してた携帯を見た。
朝までずっと眠っていたい私の事を知ってる柴ちゃんからのメールは一通だけ。「おはよう」って、それだけ。
それに「おはよう」って返した後、他に誰から来てるか見たら・・・そこにあったのは、二通。
どっちも、美貴ちゃんからだった。
“電話して。お願い”
“待ってるから”
「美貴ちゃん・・・」
思わず名前を呟いていた。
普段はそんなにメールをくれない人。それで余計に心配する二通目のメール。
・・・返事を、何か小さい事でも送らないと、って思ったけど。
「・・・だめだよ」
きっとどんな返事も望んでない。
送られた時間だって夜中だし、きっと寝てるはずだ・・・って。
そう言い聞かせて、返信するのをやめた。
- 60 名前:「秋の雨音。」 投稿日:2004/11/28(日) 10:05
-
「私は・・・ずるくなれないんだ」
もっと早く出逢ってたら、美貴ちゃんと。
もっと遅く出逢ってたら・・・柴ちゃんと。
・・・そう振り切って、音をかき消したんだ。
カーテンを開ける前から嫌な音が続いていた。
けど・・・もうそんな敏感になっちゃいけない。
今日も、雨みたい。
「・・・だから何よ」
自分の中で、全てをかき消す。
そこにある空の色が分かってても、手はカーテンを開いた。
雨の音なんかかき消す程の、大きな大きな音を立てて。
終。
- 61 名前:リースィー 投稿日:2004/11/28(日) 10:10
- 更新終了です。
秋、といえばというと私的に「雨!」という感じなので、この季節は雨のお話ばっかです。
そして石柴。
あんまり見かけないので「どうかな?」とも思ったのですが、このお二人も好きなのでいろいろ書いてます。
機会があれば他のもどうかと。
でも情報・・・少ないんですよねえ・・・色々と。
では。
- 62 名前:名無し飼育さん 投稿日:2004/11/29(月) 00:47
- なんかせつないなぁ。
後からじわじわとくるものがあります。
たしかにあまり「石柴」はみないかもですね。
なんか新鮮でした。
次回作楽しみに待ってますよ。
- 63 名前:リースィー 投稿日:2004/12/19(日) 09:10
- 感想、ありがとうございます。
>名無し読者さん。
ありがとうございます。
じわじわ、じわじわ、来ちゃってください。
今回は、りかみきです。
ちょっとパラレルです。
- 64 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:13
-
ここからどこへ行こう。
二人で手を取り合って、笑いながら語るのは明らかに暗い話。
・・・ううん。
未来はね、暗く感じなかったんだよ。
隣にいつも、温もりがあったから。
- 65 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:16
-
夜です。
・・・うん、夜なんだけどね。
明日は、お仕事じゃないんだけどね。
「・・・おーい・・・」
「・・・・・」
「梨ぃ〜華ぁ〜・・・ちゃあん・・・」
・・・甘い声なんだけど、お酒臭い。
私の同居人はいつも、休みの前日には遅く帰ってくる。誘われたらとりあえず行って、お土産もちゃっかり。
というのも。
「せっかく梨華ちゃんの為に持ってきたんだよぉ?梨華ちゃんが全然付き合わないから〜」
「・・・・・」
ホントに、もう。
「・・・美貴ちゃん?」
「ん?」
毛布の中から顔半分だけを出して、気持ちちょっとだけ睨む。
あ〜あ・・・電気消したのにものすっごいピッカピカ。
- 66 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:21
- 「今何時だと思ってんのよー・・・」
「一時二十分くらいかな」
「・・・それは帰ってきた時の時間でしょ」
ちゃんと時計見てたんだから。
「とりあえず起きてよっ」
「もう分かったから・・・起きますって」
一応ね、同い年。
でも私の方がちょっとお姉さんなんだよ?
・・・とか言っといて。
「起きろー起きろーっ」
「・・・はいはい」
お酒が入ってなかったらこんな子じゃないって分かってる分、仕方なく起きちゃう。
そう。いつものパターン。
二人で同じ会社に入ってもう一年。
それはそれは幸いなことで、今では人間関係もうまくいってる。
特に美貴ちゃんは先輩に「飲み」に誘われまくりだし。
・・・でも、うん。
本当は、こういう「幸せ」が早く来るなんて思ってもみなかったんだよね。
- 67 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:27
-
結局お土産をちょうだいしてまた歯磨き。その間に美貴ちゃんは鼻歌交じりでシャワーを浴びてる。
「先に行ってるよ」
「お〜っ」
お酒が抜けてきたのかゆる〜い言葉遣いじゃなくなってきてる。
部屋に戻って一息吐く間に目に映った時計はもう二時を過ぎていた。
美貴ちゃんが出てくるまでの間が少し暇だったから携帯をチェックすることにした。
「?・・・あ〜、のの」
思わず呟く。
「のの」こと辻希美は・・・一応私の妹。名字は訳あって違うんだけど。
“近いうちにそっち行くよん”
日付が変わる前に届いたもの、なんだけど。
「・・・来るのかよっ」
もう何回泊まりに来てんだか。
こっち来る為に「友達の家に泊まる」とか言ってるみたいだけど・・・ホントにうまくいってるのかな。
- 68 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:32
- 「梨華ちゃん・・・?あ〜、メール見てんだ」
「うん、ののから。遊びに来るみた・・・」
振り返った瞬間、そこで言葉が。
「・・・・・」
その時一瞬だけ「何話すんだっけ」って、記憶が。
「・・・梨華ちゃん?」
「・・・・・」
・・・っだぁっ!!
「ちょっ・・・美貴ちゃっ・・・何でパンツ履いてないのっ!?」
やられた原因は目の前の光景。
部屋のドアが開いた状態で、そこに立った美貴ちゃんの格好は・・・。
少し大きめのシャツに・・・多分、下着だけ。
パンツって・・・そうそう、ホットパンツとかの事だよ?
そんな事話してんじゃなくってさ、って。
あ〜・・・もう・・・。
「良いじゃん。どうせもう寝るんでしょ?」
「そうだけどっ・・・さあ・・・」
携帯を片付けてテーブルに置く、って動作だけで冷静になろうとするけど・・・。
- 69 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:38
- 「どうせ明日は遅くまで寝るんでしょ?」
「・・・ん〜・・・」
「それならあんまり着こまない方が良いかな〜ってさっ」
「・・・そう、だけど」
あのね、問題はそこじゃないの。
・・・いつもの事なの、気付いてないでしょ・・・。
「美貴ちゃん・・・寒がりでしょ?」
「梨華ちゃんと寝るから良いもーん」
訂正。
まだお酒抜け切ってないよ、この人。
「あのねー、美っ・・・」
「もうおしまいっ。早くベッド行こうよ」
ぐいっと服を引っ張られて。
言葉を掛けようとした私を遮って行く先はもちろん・・・私のベッド。
・・・ね、いつも思うんだけど。
「美貴ちゃんさ・・・絶対分かっててそういう事してるでしょ」
「“そういう事”って?」
ぽふって音を立てて先に横になった美貴ちゃんが腕を伸ばして首元を捕まえた。
そうしてそのまま引き込むように私を胸元に。
- 70 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:42
- 「良いじゃん。梨華ちゃんしか見てないんだから」
だめ?
「・・・だめ、じゃないけど」
胸に“おいで”ってやられたら、勝手にそう応えちゃうでしょう。
「いっしかっわさんっ」
「・・・はーい・・・」
胸元に“わざと”沈められてた顔を上に上げた。
そこに映る美貴ちゃんの笑う顔。
・・・あー、もう。
どうにかなりそう。
「・・・ねぇ、美貴ちゃん」
「ん?」
「あの・・・ちゃんと応えてね」
分かっててやってるんでしょ、ホントは。
私が「どうにか」なっちゃってんのもさ。
「・・・ははっ」
声が聞こえる。
正解は。
「当たり」
じゃないとイジワルしないよ?
- 71 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:50
-
ごほうびみたいに訪れた唇が色んなところに触れる。
額とか頬とか。最後にはやっぱり、唇。
「・・・ん」
声が出る。私のじゃなくて、美貴ちゃんの。
力の入ってない唇を割って、舌でゆっくりと口の中を撫でてあげて。
唇の裏をなぞって、離れたら。
「・・・まだだめ・・・」
首筋の圧迫が少し強くなって、また唇が近づいた。
「っ・・・ぅん・・・」
重なれば重なるだけ溢れる声。
すごい、心地良いから余計・・・止まんなくなってく。
だから、また離れた。
「ぁ・・・」
舌先から伸びて伝う糸。
名残惜しそうな声に、ちょっとだけ笑ってしまう。
「梨華ちゃん・・・ずるい」
「何で?美貴ちゃんがして欲しがってたんでしょ?」
「・・・イジワルしないと梨華ちゃん・・・してくんないじゃん」
そう拗ねたように言って、美貴ちゃんの手は私の指をシャツの下へと誘う。
「好きなのに、さ?」
「こうするのが?」
「・・・梨華ちゃんがに決まってんじゃんっ」
また唇を塞がれる。その行動にもう、さっきまでの“イタズラ心”は感じない。
・・・そうだね。こんなに私の事想ってくれてるんだし。
「・・・嬉しいね」
そう、お礼を呟いてゆっくり。
暗闇の中に紛れていった。
- 72 名前:「ありふれない生活。―いつものっ―」 投稿日:2004/12/19(日) 09:55
-
形は違うんだけど、ね。
・・・実を言うと、こういうコトも週末のいつものコトだったりする。
朝。
でも太陽がものすっごい高いところにあるからもう昼前かな。
もちろん、二人とも何も着ないで毛布の中。
美貴ちゃんは私の腕の中でまだ夢の途中。
・・・てか、私の胸んとこに顔埋めててさ、息できんの?
「美貴ちゃん」
「・・・・・」
「美貴ちゃんてば。もう起きないと」
「・・・んー」
もぞもぞ動いて返事するけど起きるまではいかない。
顔はまだ私のところで、今は頬だけが埋まってる。
ちょっと・・・寝顔が可愛いんですけど。
「・・・はあ」
いつもね、こういうトコにやられるのよ。私は。
いつからそうなったんだか分かんないんだけど、気付いたら美貴ちゃんにしてやられてばっかりなんだよなあ。
・・・別に、良いんだけどね。その・・・うん。
「好き」って言ってくれるから、ね。
「・・・今日もゴロ寝か」
一つ笑って、美貴ちゃんの頬に軽くキスして。
また・・・いつものように目を閉じた。
終。
- 73 名前:リースィー 投稿日:2004/12/19(日) 09:58
- 更新終了です。
何となく書いてみたパラレル。・・・分かりづらいかもですが。
これはこれからも短編の続き物で行ってみようかなと思うております。
では。
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 14:22
- りかみきってあまりイメージできなかったのですが、いいっすね。
ハマっちゃいそうです。
続きがあるかも?ということなので、楽しみにしてますー。
- 75 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/01/04(火) 23:45
- 素敵なお話ありがとうです。
続き、読んでみたいなぁ。
なんかかしましのPVが浮かんできましたよ。
- 76 名前:リースィー 投稿日:2005/01/09(日) 09:18
- 感想、ありがとうございます。
>74:名無飼育さん。
ありがとうございます。
続き、頑張って書きますっ。
>75:名無し飼育さん。
ありがとうございます。
「素敵」という言葉、ありがたいです。
はい、今回は「ありふれない・・・」の続きです。
少々重めですが。
- 77 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 09:25
-
何の目的も無く歩いていたら、公園のブランコで揺れてる見慣れた人が。
「あ」
「・・・あ」
確実にこっちが先に見つけたのに、声を出したのは向こうからだった。
「美貴ちゃん、散歩?」
「・・・まぁ、そんな感じ」
「ふ〜ん・・・」
聞いといてそっけない返事。視線はさっきまで向いてた空。
音はキコキコ鳴って、また一人の世界?
「梨華ちゃんも暇つぶしなんだ」
「まぁ、そんな感じ」
同じ返事。
「・・・そか」
でも分かってる。二人ともそっけない理由。
「美貴も乗ろっかな」
梨華ちゃんの隣にあったもう一つのブランコに向かう。
太陽の出てない、特に暑くもない午後。
暇つぶしの散歩にはならなそうだった。
- 78 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 09:30
-
「いつからここにいたの?」
「美貴ちゃんが来る前くらいかな」
「・・・それ当たり前じゃん」
空を見続ける梨華ちゃんにツッコむ。そしたら「あ、確かに」って小さい笑いが。
「でもそんなに経ってないよ。多分・・・」
美貴ちゃんが家出るちょっと前に出たはずだから。
「・・・気付いてたんでしょ?私が家出たの」
「・・・・・」
何も言わずに隣に視線を移す。
見てないで話してると思ったら・・・梨華ちゃんは美貴の方をまっすぐ見ていた。
「玄関の音、おっきかったでしょ?」
「・・・・・」
一瞬、応えに迷って。
「・・・うん」
素直に返した。
その時の美貴の視線は、空を向いて。
- 79 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 09:36
- 「でも、梨華ちゃんがここにいるとは思わなかった。会うとも思ってなかったし」
足先で地面を軽く蹴ってブランコの振りを大きくした。
話を締める為・・・でもなかったけど、今はあんまりそういう話をしたくない。
特に梨華ちゃんとは、「その方面」の話は。
「いつまでここにいるの?」
「暇つぶしだからここに来たんだけどなあ」
「じゃあいつまでここにいるつもりよ」
キーコキーコって、鉄同士の擦れる音が長く伸びていく。そこにタイミングよく入ってく短い音に紛れて、梨華ちゃんの笑い声が。
「ここにいつまでもいられるならそうしたいね。あとは話し相手とか」
「それ美貴の事?」
まだ鳴ってる音の中。今度は少し大きめに声が届く。
「誰でも良いって言ったら何か嫌だから・・・」
やっぱ美貴ちゃんかな。
「・・・素直じゃねぇー・・・」
「これでも頑張ってんのっ」
とうとう音をかき消す程の声が聞こえて、美貴の隣でも長い音が響き始めた。
どうあがいたって家には帰んなきゃいけないんだ。
だけど・・・それをためらわせてる原因は。
- 80 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 09:42
-
周りが暗くなっていた。
それは夕方のせいではなくて、いかにも怪しい雲が出始めたから。
「ね、気付くの遅いよ」
「私、きしょーよほーしじゃないもん」
「美貴も違うし・・・」
上を向いた美貴の目には少し速い速度で通り抜けてく雨雲が映っていた。
ため息を吐きながら器用に呟かれてる独り言。
二人共服が濡れちゃって、結局は屋根付きのベンチに逃げ込んだ。
「あのまんまブランコに乗ってても良かったのに」
「じゃあいとけば良かったじゃん」
「でも手引いたでしょ?」
「・・・・・」
何も言えずに美貴もため息を吐く。そして、無意識に握っていた梨華ちゃんの手を離した。
- 81 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 09:48
- 「じゃあ行けば?」
「いーよ、遠いし」
「すぐ目の前でしょ」
「良いってば。めんどくさい」
斜めになった屋根は、雨を滝のようにして美貴達の目の前を落ちていく。そこから見る公園は歪んで、遊具は一目見ただけじゃ形が定められない。
「でも、良かったかもね」
「・・・何が?」
「雨・・・ずっと降ってたらそれだけ帰るの遅くなるじゃん」
大雨とかどしゃ降り、とか。そんなもんでもないけど何となく足を止めさせるじれったい雨。いつもならイライラしてるはずだけど、今日はそうでもない。
「・・・遅かろうが早かろうが関係無いけどね。門限なんて元々無いし」
濡れてないのを確認してベンチに座る梨華ちゃんの髪の先から雨の滴がポタポタと落ちていく。
「帰っても、どうせ口ゲンカばかりだから」
「・・・・・」
雨の音が、少し強くなった気がした。
指が届く位置にある髪。そこからとめどなく滴が流れてる。
「そんな事言うなよ」なんて励ますほどの親友じゃないし。
「ゴシュウショウサマ」なんて毒付けるほどの位置にもいない。
・・・美貴、は。
- 82 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 09:55
-
「・・・美貴ちゃん?」
「・・・・・」
何も言わずに髪に触れた。もちろん梨華ちゃんの、髪束からはぐれた分の方。
ただ下に落ちてくだけだった滴は、美貴の掌で崩れて流れてく。
「何・・・?」
「・・・・・」
何も言わない。
何も言えないから、こうしてるの。
「美貴は・・・同じ境遇だからって同情しないよ」
ソンナコトナイヨって言われたって、ゴシュウショウサマって思われたって、伝えられても嬉しいと思わなかったしどっちかって言われればいらなかった。
梨華ちゃんはどうか分からないけど、それでも。
「何も言わない」
「・・・・・」
「・・・何も言わないけど」
「・・・・・」
今度は梨華ちゃんが無言になっていた。
頬にかかっている髪も指先でよけて耳にかけて。
「・・・美貴が誰にもしてもらえなかった事、してあげる」
雨で見えないのはきっと外側の世界も一緒。
美貴達の事も歪んで見えてるこの向こう側の世界。
見えてるのはひねくれの形。
それでも生きてる美貴達は、とても真剣なんだ。
ただ、真剣だったんだ。
- 83 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 10:04
-
もう夜だった。
雨は止まずに美貴達を濡らし続けて、家に帰ってすぐにシャワーを浴びないといけなくて。
「・・・帰りたくない」
素直に言葉に出した梨華ちゃんの手をずっと握ったまま、二人でシャワー室に入って。
雨を、温かいお湯で流した。
「着替えは?」
「美貴の着れば良いよ」
「ご飯とか・・・」
「二人分ぐらい余裕」
「・・・寝るとこ・・・」
そこで唇を塞いだ。もう何も言わせないつもりで。
「・・・美貴と寝れば良い」
自分で、梨華ちゃんの目の前で誓ったんだ。
美貴なら梨華ちゃんを温めてあげられる、って。
「欲しがっていいよ。美貴は拒まないから」
何もかも。今まで梨華ちゃんが手に入れられなかったものを、もっと欲しがっても良い。
そうする事で、美貴も愛されたいから。
「・・・暇つぶしがこんな風になるなんて、思ってもみなかったよ」
お湯が心地よく肌を滑っていく。少し苦く笑った梨華ちゃんの頬が美貴の同じところに触れて・・・それから優しく、首筋まで落ちていく。
お互いの指先は、お互いの肌に張り付く服を引きはがしていった。
「今ね・・・美貴も同じ事思った」
意識に関係無くため息が熱く零れてく。
もうそれ以上、会話を続ける事ができなかった。
それから一年。
美貴と梨華ちゃんは逃げた。
愛さないものから、逃げた。
- 84 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 10:11
-
「・・・雨」
「あ、ホントだ」
「窓は?閉まってる?」
「うん。っていうか・・・」
服着てないから、毛布から出らんないよ。
「・・・ん、確かに」
ふと目覚めた夜。映る窓には雨の滴が張り付いていた。
いつも通り「明日はお休み」の日の、いつものコト。
だから二人共毛布から出られない。
「何、もしかしてこうなるの読めてたとか?」
「雨が降るのは、まぁね・・・ちょっとは不安に思ってたかも」
少しだけ身をよじって体勢が変わる。美貴を取り込むみたいにして胸の方に抱いて、右耳を下にして梨華ちゃんはまた目を閉じてく。
あの日に比べて楽ではない暮らしになったけど、それでも二人でいるからすっごい楽しい。というか幸せ。
一緒に住んで、一緒の仕事で。
ケンカもたまにするけど、一年前に比べれば何もかも柔らかい。
「梨華ちゃん」
「ん・・・?」
「また眠っちゃう?」
「・・・ん」
背中と頭に回る腕に少しだけ力がこもる。指先には美貴の髪が絡まって。
唇は、目の前の肌色にためらう事無く口付けてた。
「ねぇってば、眠っちゃうの?」
「・・・もう・・・」
雨に紛れた声。それは少しだけ甘みを含んで。
普段そんなに聞かない声だから・・・余計に目が覚めちゃうじゃない?
- 85 名前:「ありふれない生活―暇つぶしっ―」 投稿日:2005/01/09(日) 10:16
- 「・・・どうしたの?」
「ん?」
「何か・・・ちょっとね・・・」
いつの間にか目が合ってたみたいで、梨華ちゃんの視線は少し伏せ気味で逸らされた。
うん・・・多分。
この感情は「いつもの」事ではないかも。
でも本人は気付いてないんだよね、いつも。
「梨華ちゃん・・・?」
「・・・・・」
今度は美貴が梨華ちゃんの頭を捕まえる。
そうして・・・そのまま。
いつまで経っても何もかもに自覚の無い梨華ちゃんにどれだけの暇を潰されたんだろう。
美貴が梨華ちゃんの「欲しい物」になれるのなら。その想いだけでここまで来た事でやっと気付いたその感情の名前。
二人につながってる、ちっさいけど粘り強い・・・愛みたいな?
なんてね。
でも暇つぶしだろうが何だろうが。
二人は、真剣です。
終。
- 86 名前:リースィー 投稿日:2005/01/09(日) 10:19
- 更新終了です。
二人の馴れ初め?ですかね。
今度もりかみきを載せようかと思うております。
では。
- 87 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/01/10(月) 18:30
- 続きをありがとうです。
しっとりと、けどどこか切なくて…。
やっぱり素敵です。
あんまり上手い言葉ではいえないけど、続き楽しみにしてますよ。
- 88 名前:リースィー 投稿日:2005/01/16(日) 11:25
- 感想、ありがとうございます。
>名無し飼育さん。
ありがとうございます。「素敵」と言っていただいて・・・。
これからも頑張りますよ。
それでは、またシリーズで。
今度は年の暮れあたりの話です。
- 89 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 11:31
-
白い息が本当はすっごく寒いんだって事を教えてくれる。美貴達を通り過ぎる人も少なくて、「この時間帯にしては」なんて思ってみたりもする。
「まだ“くりすます”してるところがあるんだねぇ」
「年明けまでやってると思うよ。クリスマスまでだけじゃ電飾もかわいそうじゃない」
「まぁ私達も楽しめるから良いけど〜・・・」
「?」
喋ってる間もずっと白い息。それが確実に美貴より多い隣の人はいきなり、吹き出すように笑い出した。
「梨華ちゃん?」
「ふははっ・・・」
「何笑ってんの、一人で」
「ん〜?・・・あ〜、何か・・・あははは・・・」
「・・・ちょっと〜・・・」
少し先を歩き出した梨華ちゃんの腕を捕まえてこっちを向かせようとする。
でもそうした事で一つ、悟った。
「・・・やっぱ飲ませるんじゃなかったかぁ・・・」
いつもは手土産を持つのは美貴だけ。
でも今日は梨華ちゃんも。
それも何故か、二個。
- 90 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 11:39
-
巷では「忘年会ラッシュ」というものがあるそうで、美貴達が就いた先の会社でもそれはフツーに訪れた。
「今日ぐらい飲みなさいよ石川っ」
「そうだよ。一年の締めくらいは〜っ」
一応ずっと前から決まってたし美貴はどうって事無かったんだけど、それでもある意味「未知との遭遇」。梨華ちゃんがどうなっちゃうか分かんないからって、飯田さんと矢口さんの二人に「まぁまぁ・・・」って言って止めようと思ったんだけど・・・。
「あの〜・・・顔出す分は良いと思うんですけど、梨華ちゃんに勧めるっていうのは・・・」
ちょっと笑いながら、いつの間にか手を取ってた矢口さんを引き剥がしつつ梨華ちゃんをかばおうとする。一応先輩さんだけどここはちゃんと断らなきゃ。
「ほら、その代わり美貴が一生懸命相手しますから」
「え〜?でも・・・ヨッタリカチャンモミテミタイシナア・・・」
「今何て言いました?」
「あ、いやいや・・・何も言ってないよぉっ!?」
ものすっごい地獄耳かと思ったよ、美貴。
俯いてしまった矢口さんはそのまま笑って後ろに下がっていった。
よし、とりあえず矢口さんはよけられた。
・・・と思ったら。
「・・・ぃぃい〜しぃ〜かぁぁああわぁぁぁあああー・・・?」
- 91 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 11:45
-
「っ!!!?」
「はっ・・・はぃいっ?」
何も話さなくなってた飯田さんの口の中から突然聞こえてきた不気味な声。
いつの間にか美貴達の後ろに回って・・・ついでに梨華ちゃんを囲うように腕を回して。
「・・・飲むよね?」
最後に、ちょー意味深な笑い顔。
いいえ、って言ったらそのまま窓から放られそうな。
「・・・はい」
それには梨華ちゃんも気付いたらしくて、やっぱそう返事しちゃった・・・。
「藤本もいつも通り相手してね?」
「・・・は〜い・・・」
そう返したら、片っぽの腕が伸びて美貴も捕まった。
「それでこそ圭織のハニーちゃん達だよっ」
ものすっごい微妙な名前を付けられて。
それからその忘年会はどうだったかって?
決まってんじゃん。
梨華ちゃんのいるトコだけピンクのハートが飛びまくってたよ。
- 92 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 11:53
-
いつもは美貴一人だからタクシーで帰ってるこの道。だけど今日は梨華ちゃんと一緒だから近いとこで下りて帰ることにした。
「何か、ねぇ・・・冬だね」
「とっくに冬だよ」
笑いがおさまったと思ったら今度は空を眺めながら歩き始めた梨華ちゃん。上にはかろうじて遠くのネオンが見えるか外灯かって感じ。それでも危なっかしくよたよた歩くから片っぽの手はしっかりと捕まえた。
昨日降った雪が道端にまだ残ってる。冷え込みも少し強くなってきたから、また明日には降るんだろう。
「雪?見れるかなあ」
「何で?」
「遅くまで眠っちゃうよ〜、明日は。お休みだし、起きた時に止んでたら悲しいかも」
でも寒いって言って一回起きちゃうかなあ。
はだかんぼだし。
「っ・・・?へっ・・・裸?」
「そうじゃないの?」
「えっ・・・何で裸なの?」
「何でって・・・」
・・・しないの?
「っっ・・・」
あのね、実際こういう風にストレートに言われると苦手なタイプなの、美貴は。
ムードに任せてね、そういう風にしないと恥ずかしいんだよ。
「あれぇ?美貴ちゃん顔赤いよ。まだお酒残ってる?」
「・・・はいはい。残ってますよ」
と言っても梨華ちゃんが心配だったからいつもみたいには飲めませんでしたけど?
・・・そんな事も知らないで飯田さん達に飲まされちゃってさあっ。
- 93 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 12:00
- 「美貴ちゃん?」
「もう〜・・・風邪引いちゃうから早く帰ろっ」
実際ちょっと手が痛かったりする。それを梨華ちゃんの手でどうにか暖を取るようにしながら少し早く歩いた。
「あ、美貴ちゃん」
「何?」
「雪」
「雪?」
歩くスピードをそのままに上を見る。そしたら少しずつだけど白いやつがぱらぱらと。
「ほらぁ・・・やっぱ明日遅く起きるからって今降ってくれたんだよ」
「はいはい。そうかもね」
「・・・美貴ちゃん」
「何」
「・・・怒ってる?」
「・・・・・」
ホントに心配そうに聞いといて手、離そうとしないでくれる?
「怒ってないよ」
今度は少し後ろを歩き始めた梨華ちゃんの方を向く。
すぐに見えた顔はすごい泣きそうに見えた。
何もしてないのにね。・・・でもおもしろいから。
「雪。口に付いてる」
「へ・・・?」
そこにあった変に形を曲げてる唇にすばやくキスした。
年に何回か見る見ないくらいの、すっごい珍しいモード。
無自覚マックスで、すっごい危ない。
・・・美貴以外の人もやられないワケないでしょう。
ずっと瞳潤ませちゃってさ。
- 94 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 12:08
-
白いけど、雪とは違ってちょっとピンクの混じってるような色の中。
「ちょっ・・・せまいよぉ」
「良いじゃん。こんぐらいの方が」
泡に包まれた浴室で、美貴が後ろから抱っこするみたいにして梨華ちゃんとお湯に浸かってる。
まだ酔いが醒めないうちに入っちゃったから、フザけてぶちまけた泡が天井にも垂れ下がってる。
浴室全体が泡に包まれてて当然、美貴達も泡だらけだった。
フワフワしてるみたいな、柔らかいものに触れてる幸せ。
それにちょっとだけ・・・ちょっとした気分の隠し味。
「っ!?・・・ゃ、もぉ・・・」
急に上がった梨華ちゃんの声。・・・とか言っといて、計算だったりする。
「そんなとこっ・・・」
「え〜、美貴どこ触っちゃったの?」
もう一度“触っちゃった”ところに手を伸ばす。
良かった、後ろで。
顔ニヤニヤしてるの丸分かりだからね。
「そっちっ・・・お腹じゃないでしょっ?」
「梨華ちゃんのお腹ってどこよ」
「もっと下!」
「あー、もっと下ね?」
はい、下に行きました。
・・・見えないからどこまで下に行けば良いのか知らないまま行っちゃったけど。
「っ・・・」
ひくんって、声無く反応した体で分かった。
- 95 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 12:13
- 「・・・梨華ちゃん?」
「・・・・・」
そのまんまの体勢で呼んだら、美貴より前屈みだった梨華ちゃんの顔だけが、こっち向いた。
「美貴ちゃん・・・」
「ん?」
「・・・ずるいよ・・・」
「・・・・・」
至近距離で感じるその息遣い。
顔が赤いのはもう照明のせいじゃないよね。
小さく小さく、何度も立つ波。
揺れて零れた先の泡は排水溝にだらだらと集まって流れてく。
ずっと点けっ放しの明るい明るい浴室の中。
色々なものに酔わされた梨華ちゃんの声が耳の側で響いていた。
- 96 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 12:20
-
さすがに裸のまんまじゃ寒いでしょ、って事で、シャツを羽織る程度でベッドに飛び込んだ。
最初のうちは毛布が冷たくてギャーギャー騒いで、それからようやく落ち着いて、部屋を暗くして。
「もう三時過ぎてんだ・・・」
「美貴ちゃんが私の事ずっといじめてたら・・・そりゃあねぇ」
くいって、美貴の横髪を軽く引っ張って遊ぶ梨華ちゃんは、もういつものように戻っていた。
惜しいなあ。醒めるまでいなきゃ良かったかも。
「のぼせちゃうでしょ?」
「のぼせてたじゃん」
「あれはのぼせたって言わないよ・・・」
苦笑い。
ホントはちょっと自覚してんなぁ?
「でも、あれだね」
「何?」
「梨華ちゃんの予想、外れたんじゃない?」
「・・・ああ」
そんなんで悟ったらしく、目に映る頬はちょっと赤っぽく見えた。
「だって・・・ね、美貴ちゃん・・・しちゃうから・・・」
「何を?」
「・・・もう良いよぉ」
分かってんでしょ、ってもう一度横髪を引っ張られる。
もういじめるのはこれくらいにしといて、引かれるまま梨華ちゃんに抱きついた。
明日はお休みの日だけど、そのまんま眠ろうか。
ちょっとした美貴の気持ちに気付いたらしくて、梨華ちゃんも頭を撫でるだけで小さく、笑っていた。
- 97 名前:「ありふれない生活―あわゆきっ―」 投稿日:2005/01/16(日) 12:25
- それから訪れた、呼吸の音だけが広がる空間。
外でちらついてる雪を、外灯の光越しに見る。
「・・・雪見れたし、満足かも」
「うん」
「明日はそのまんま、お昼寝までしようよ」
「・・・うん・・・」
呼吸がすごく落ち着いている。気が付いたらそのリズムは重なって、急激な眠気を美貴達に連れてきた。
「おやすみ」って梨華ちゃんから聞こえた。それにちゃんと、美貴も応える。
あとはもう・・・まどろみの世界。
さらさらの雪、か。
ふわふわの泡、か。
そんな、合体してできたみたいな「泡雪」の中に包まれてる夢を見た。
少し頬の赤い梨華ちゃんと腕を絡ませて、そこでずーっと、笑い合って。
目が覚めるまで、いつまでもいつまでも、「泡雪」を眺めてた。
終。
- 98 名前:リースィー 投稿日:2005/01/16(日) 12:31
- 更新終了です。
何となくこのシリーズにはまり始めてる私を否めません。
作者なのに、右脳が一人歩きしています。
次回もりかみきです。
では。
- 99 名前:87の人 投稿日:2005/01/16(日) 23:07
- このシリーズすきです。
作者さん、ありがとう。
今回も素敵です。っていうか、素敵すぎ。
かわいいお話ですよね。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 00:47
- 何かもの凄くここのりかみきが好きです。
作者さん乙!
- 101 名前:リースィー 投稿日:2005/02/06(日) 09:15
- 感想、ありがとうございます。
>87の人さん。
毎度ありがとうございます。このシリーズを気に入っていただけたようで、嬉しい限りです。
>名無飼育さん。
ありがとうございます。
これからもりかみきで頑張りますっ。
では、またシリーズで。
- 102 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 09:23
-
指先に感じてるのはきっと、額の熱。
いつもより少し熱いような、それとも私の指が冷たいだけなのかな。
冷たい?・・・ああ、寒いんだ。洗面所だもんね。
「・・・寒い」
唇で呟く私。でもだからと言って何もしない。
目の前にあるから自然と映る鏡。小さい灯りの中でも見える私の顔は・・・。
「・・・梨華ちゃん?」
「・・・・・」
私のすぐ後ろから分身したみたいな登場の仕方。
照明がより大きく、美貴ちゃんを照らしていた。
「どうしたの、こんなとこで突っ立って」
「うん・・・?」
肩の方に不自然に止まってた手を握られながら振り向く。
鏡越しじゃなくて、直に見る美貴ちゃんの顔。
それは、私の様子を歓迎してくれているものにはどうしても見えなかった。
「手、熱いじゃん。熱あるの?」
「・・・ん」
「ん、じゃなくてっ」
片方の手で指先を握られて。
片方の手が私の額に当てられる。
とうとう、全部捕まった。
「・・・やっぱり」
「・・・・・」
本当は私が吐くべきため息を美貴ちゃんから感じる。
どうしてかな。
今の私、何もかも掴めてないよね。
何が、起こってるのかって事から。
- 103 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 09:25
-
早く行こう、って言われたのまでは覚えてる。
そうして歩こうと頑張って、美貴ちゃんも手を引いてくれたのに。
「?・・・梨っ・・・」
「・・・・・」
気持ちだけが、動いた感じ。
意識だけ抜けた体は、美貴ちゃんの呼びかけを中途半端に切って、崩れた。
- 104 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 09:34
-
毛布を擦れる音と一緒に感じる重さ。
ところどころ違うみたい、って思って薄目を開けたら、ベッド脇に美貴ちゃんが座っていた。
「大丈夫?」
お決まりっぽい第一声。
何て返せばおもしろいかなって、場違いな気持ちが顔を出した。
「・・・じゃない」
でも。
「ばかっ」
お決まりの突っ込みは少しきつめで、言えば本気で。
「どれくらい心配したと思ってんのよ・・・」
「・・・う、ん」
喉で応えるようにしてごまかす。また目を閉じた私を撫でる指先は、さっきの突っ込みとは逆に優しく触れてくれて。
すっと訪れた冷たさで、額が冷やされてる事を知る。
「ホントに、すごい倒れ方するんだから」
歩くのかなって思ったら一歩目行く前に“ストン”だもん。
帰ってきた時からおかしいとは思ってた、んだけどさ・・・。
「・・・こんな酷いなんて思わなかったよ」
「・・・・・」
「梨華ちゃん」
「・・・ん?」
目を開けずに返事をする。そしたら目の縁を撫でられて。
次に降ってきた言葉は。
「・・・また思い出したの?」
「・・・・・」
「それとも、疲れただけ?」
「・・・・・」
何も言えなくて毛布に少しだけ顔を埋めたら、指が引っかかるように触れていた目の縁がくすぐったく感じた。
- 105 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 09:39
-
いつまでもいつまでも残ってる記憶。
その日は、いつもはそこにいないはずの生物が母の側でうろついていた。
「嫌いなのよねぇ、全く」
そう言っていたのを覚えてる。
笑って、追っ払って。
最後の最後の、言葉は。
「イッテキマス」
何に恨まれていたんだろう?
羽ばたく生物。
笑顔だった母は次の日、目を閉じたまま器用に帰ってきた。
「鳥は嫌いだけど羽根はほしい」
それを成し遂げてしまったんだと、その時すぐに分かったんだ。
それから当分の間、温もりというものに出会う事ができずにいた。
・・・というよりも、あえて出会わなかったのかもしれない。
- 106 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 09:49
-
超寒がりなのに、よくこんな時間まで上着だけでこらえてるよなあ、って思う。
時々意識が浮いて目を開ける度に視界に美貴ちゃんが映るから。
・・・カウンセリングを受けてみたら?って、あの頃は色んな人に言われた。でもそんなにまで何かがあったってわけじゃなくて・・・。
何と言うか、クウキョカンというか。
だから、自分自身もこれを「傷」と呼んで良いのか分からない。ただ、何かしら突然こんな風になってしまうから名前を借りてるだけ。
忘れた頃にやってくる、災いのような。
「・・・ね」
「?・・・起きたの?」
額に当たる冷たいタオルが視界にちょっとだけ入るから、目の前が少し白くかすんでる。その先にいる美貴ちゃんは、腕を組みながらまだ座っていた。
「ねぇ・・・」
もう、良いんだよ。
きっと明日の朝には大分良くなってる。
いつもそうなの、美貴ちゃんも分かってるでしょ?
だから。
「・・・こっち来て」
私から、手を伸ばした。
熱い私なら、ずっと外に出てた美貴ちゃんもすぐに温めてあげられるから。
「梨華、ちゃ・・・」
「何も・・・言わないで」
欲しいのは冷たさだけど。
暑さじゃなくて温かさも欲しいんだよ、今は。
「・・・ぎゅってして・・・」
肩を掴んで、美貴ちゃんを引き寄せる。
毛布の中。
芯まで冷えてるんだろう肌は冬なのに心地良かった。
- 107 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 09:56
-
・・・多分。
避けていたのはこの「発作」を酷くしないようにする為だったのかもしれない。
温もりを欲しがる体になる事を、ためらってたんだ。
- 108 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 10:04
-
私を腕で囲う美貴ちゃん。
いつもと逆だねって言ったら、一つだけ笑い声が聞こえた。
「明日は休む?」
「美貴ちゃんは行って・・・?私は大丈夫だから」
「三十九度近いくらい出したクセによくダイジョウブって言えるねその口は」
言われて後言葉を返そうとしたら指で唇を封された。
「明日は休んで」
美貴も休むから。
「良いの?そんな事して」
「良いんだよ。皆勤賞コンビだもん」
・・・そうだね、確かに。
一日ぐらい二人で休んでも、怒られないかな。
「何かあったら美貴がどうにかするよ」
「どうにか・・・?」
「えっと・・・まぁ、色々とね」
へへ、って笑って美貴ちゃんは私の頭を撫でてくれた。
いつもはじゃれて、子供っぽくて。
でも・・・。
たまにこういう大人なところを見ると、すごく落ち着く。
私、ホントに愛してもらってるんだなあって思えるの。
泣きそうにもなるんだよ。恥ずかしいから美貴ちゃんには言えないけど。
それぐらい、何もかもが心に染みてくる。
- 109 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 10:11
-
朝には体も動かせるようになって、昼食も軽めのやつを作ってみようかなってくらいの気力は戻ってきた。
美貴ちゃんはまだ寝てる。
遅くまで起きてくれてたし、今起こしちゃったら絶対機嫌悪い。
睡眠時間が四時間以下だと私は体が動かせなくなって、美貴ちゃんはコワくなる。
それをお互い分かってるから、「いつもの」日は遅くまで寝るの。
「サラダだけ?」
「オオゲサに作ったら美貴ちゃん起きちゃうじゃない」
昼、というには遅い時間。
私が起きてから丁度二時間くらいかな。だからまだマトモな美貴ちゃんが隣にいる。
最初のあいさつはボサボサ頭のまんま、手を額にぴたっと当てられて。
「微熱だね」
「結構やるでしょ、私の体」
「んー、まぁ・・・美貴が冷やしたおかげかな」
「・・・ちょっとは誉めてよ」
そうして、笑い合って始まった。
それからサラダを私と美貴ちゃんで交互に「あーん」して食べて。
- 110 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 10:20
- 「飯田さん大変な事になってたよ」
「飯田さんが電話取ったの?」
「ううん。紺野が取ったんだけどね、“飯田さん、後ろで吠えてます”って。高橋が矢口さんと一緒に止めてたみたい」
「紺ちゃんも愛ちゃんも良い子なのにね」
私達の次に入ってきた紺野と高橋。
二人も、おもしろいのにね。
「今日どうしよっか」
「え・・・寝る?」
「また?」
「また、って・・・梨華ちゃん、一応病人なんだからね」
片付けに行こうとした私を止めて、ガラスの器とフォークを持って美貴ちゃんが席を立つ。
「いつも通りでいようよ」
「いつも?」
「昼まで寝てたら、ご飯食べてもぼぉ〜ってしてんじゃん」
そんなんで良いんだよ。
それで美貴が時々梨華ちゃん診てさ。
それだけ。
「何か提案があるなら考えるけど?」
「・・・・・」
そんな事言われなくても、美貴ちゃんがどんな事考えてるのか分かるから応えやすいよ。
「・・・そのままで良い」
水の入っていたコップとテーブル。そしてシンクと器が柔らかくぶつかる音が重なった。
それが合図のように、「フッ」っと一つ笑った美貴ちゃん。
「うん」
心地良い声の後、シンクに見ずの音は落ちた。
- 111 名前:「ありふれない生活―そのままっ―」 投稿日:2005/02/06(日) 10:23
-
このまま流れ続けていくうちにぶつかる岩。それが私の「発作」なのだと思う。
でも、ちょっとよけて通り抜ければ流れはまた続いていく。
・・・そのままで良い。
欲しがって、与えて。
温めて。
そうしていつの間にかまた、忘れていく。
美貴ちゃんとキッチンに背を向けて、少し上を向いてみる。
今更惜しみなく染みてきたものが、私を泣かせようとしてた。
終。
- 112 名前:リースィー 投稿日:2005/02/06(日) 10:30
- 更新終了です。
今回は少し重めかなー・・・という感じです。
まぁ、今が幸せだから良いかな、と。
今度は藤本サンの過去もどうにかこうにか。
では。
- 113 名前:87の人でした 投稿日:2005/02/06(日) 23:13
- さすらいゴガールです。
いつも楽しく読ませていただいてます。
しんみりとふと触れた過去にじわじわと気がついて…。
切ないですけど、二人の関係と互いを思う気持ちにほっとしました。
いいお話をありがとうです。
今一番、楽しみなお話です。
- 114 名前:リースィー 投稿日:2005/02/27(日) 09:15
- 感想、ありがとうございます。
>87の人でした=さすらいゴガールさん。
毎度ありがとうございます。
いつも来て下さってたんですね。嬉しい限りです。
こういう風な持ちつ持たれつな二人を書くのが好きなんですよ。
では、またこのシリーズで。
- 115 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 09:25
-
パスタをくるくるとフォークに絡めたまま、動きを止める。
目の前で同じ動きをしていた人は、心地が悪かったのか水を一口、口に運んだ。
「何か・・・急だね」
「うん・・・」
今にも消え入りそうな返事を聞いて、今度はこっちが心地悪く思えた。
・・・別に、責めてるつもりも無い、んだけど。
それでも目に映る梨華ちゃんの背中に、ものすごい罪悪感?みたいなものが見えた。
何だかんだごまかしても、分かりやすい人。
笑ってるけど、ちゃんと笑えてないってすぐ分かる。
「ほら・・・あの子ももうすぐ卒業するし。それなりに色々考えてるんじゃないかなって思って」
「・・・・・」
美貴の手はずっと、パスタをたぐり寄せる動きをする。
「私に会わせたい人がいるんだって。バイトもしてるみたいだし、どうしても今日じゃないと時間が持てないって言うから・・・」
「・・・ん」
梨華ちゃんの説明が多くなればなる程、フォークに絡まるパスタの量が多くなってるような気がする。
だから・・・別に責めてないんだってば。
「・・・ごめんね」
「・・・何が?」
「・・・うん」
パスタの向こうに見える梨華ちゃんの手。それは、もう動くのを止めていた。
喫茶店のボックス席。奥の方だから店員意外はあまり人の通らない空間に、沈黙は広がっていく。
・・・だからっ。
- 116 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 09:30
- 「・・・大、丈夫、だよ」
「・・・え?」
「美貴だって家で留守番くらいできるよ?」
まだ絡むパスタ。・・・でももう、吹っ切らないと。
「でも・・・」
「大丈夫だって。いつもは梨華ちゃんが美貴の事待っててくれてるでしょ?」
「・・・・・」
「たまには・・・逆があったって良いじゃん」
持ち上げると、重みと絡まりで引きちぎれたパスタがフォークの上で揺れた。
「行ってきてよ。ののちゃんに会いに」
「・・・・・」
「・・・大丈夫だから」
今日何回目だろう、この言葉。
でももう考えるのもイヤに思えてきたから、揺れてるパスタを全部口に突っ込んだ。
いつのまにか一人でいた。
気が付けば一人で働いて、一人で毎日を過ごしていた。
別に、ね。何か支障があった訳じゃなくて・・・。
多分、それが自然だと思ってた。
- 117 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 09:40
-
梨華ちゃんとは会社で分かれた。ののちゃんからまたメールがあったみたいで、・・・その割にはあまり嬉しい顔をしてなかった気がする。
「気を付けてね」
「うん・・・」
お互いに、手を振って。
何か変だなあ、とか思いつつちょっと笑ってみる。
家は一緒なのにね、帰るとこは。
「ただいま」
・・・・・。
考えてみれば、先に帰っちゃえば返事してくれる人っていないんだよね、二人で暮らしてんだし。
でもやっぱいつものクセで、オカエリって言ってくれるんだって反応で、動きが一瞬だけ止まってしまった。
・・・いないのに。
「だーから、美貴がお留守番だって」
自分に言い聞かせて家に上がる。お腹もぐーぐー言ってるし。何か作るかって事ですぐ冷蔵庫をオープン。
って・・・。
「・・・何も無いじゃん」
作り置きでもあるかなって思ったのに、目に映ったのは冷蔵庫の割には広く感じる中身。
水と、お茶と、ちょびっとの野菜。
梨華ちゃんはいつもどこから材料を取り出してるんだろう?何かものすごい不思議に思えてきた。
- 118 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 09:47
- 思えてきたら・・・何か。
「・・・んー・・・」
唸って。
唸ったら。
「・・・んー」
唸るほど、何だかお腹が急にしぼんできたような気がした。
食欲はあるんだけど「ガツン」とは食べたくないなあ・・・くらいのレベル。
でもやっぱり何か食べたいから、一人で暮らしてた頃みたいにモヤシをゆでて食べる事にした。
「いただきます」
どんぶりいっぱいのゆでたモヤシにちょっと味を付けてモシャモシャ。
普段は梨華ちゃんに怒られるからってやめてた、ソファの上での食事。テレビも真ん前だし、すっごい特等席なのになあって思ってたんだけど、やっぱりそうだった。
あー、そういえばニュース。ってモシャモシャ。
明日は晴れかあ。ってモシャモシャ。
おもしろいとこないかなあ。ってリモコン取りながらモシャモシャ。
で、子供向け番組のとこで止まってモシャモシャ。
- 119 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 09:51
- 「・・・ふ〜ん・・・」
最近の教育番組でもお笑いの人って出てんだ。
へぇ、おもしろーい。
「ねぇ、梨っ・・・」
・・・・・。
「・・・あ、そっか」
振り向いた勢いのせいで、戻したら首が小さく“コキ”って鳴った。
「・・・・・」
また、モシャモシャ。
今度はテレビを消して、できるだけ早く。
・・・でも何か、しょっぱく感じた。
久し振りに作ったからかな。・・・とか、思いたい。
- 120 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 09:56
-
あまりにも静かな家の中。
そこでわざと大きな音を立てて片付けをしてみる。
だぁーってすっごい量の水を流してみたり。
シンクにどんぶりをガッタンガッタンぶつけてみたり。
それで飛び散った水滴を拭うためだけに布巾でシンクをごしごし力まかせにこすってみたりして。
何か、いつも見るより綺麗じゃないかなあ。
梨華ちゃんも気付くかな。
「・・・気付くよね」
・・・・・。
「ってか、気付いてよね」
・・・・・。
「気付かないと怒るよ、美貴」
・・・・・。
「・・・ぜったぃ・・・」
最後の最後の、抵抗。
シンクに向かって思いっきり強く、布巾をぶん投げた。
何かもう・・・分かったよ。
今までと何が違うのか。
・・・痛いくらい。
- 121 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 10:01
-
いつもこんな感じなのかなあ、って。
帰ってくる人がいるの知ってて、その人が帰ってくるのをずっと待ってるこの時間と、空間。
一度聞いた事あるけど。
「うん・・・もう慣れてるから」
梨華ちゃんはフツーに笑って応えてくれた。
待つ事は結構慣れてるの、って。
・・・じゃあ、美貴は。
でもそういう事だけじゃ納得できない。
側にいてくれて。気付けば視界に映って。
話せば聞いてくれて。声を掛けてくれて。
笑ってくれて。怒ってくれて。
気付けばそれが、自然になってた。
- 122 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 10:08
-
・・・美貴、何してたんだろ。
いつの間にかソファで眠ってたみたいだった。
「・・・ん」
何かまだ眠い。そう思ったらまた毛布を・・・。
「?」
・・・毛布?
「っ・・・?」
ぱっと、目が覚めた。
それで毛布は膝下まで落ちて、一気に上半身を起こしたせいで軽くメマイが。
というか、部屋の灯りもちょっと眩しい。
確か大きい電気は点けてなかったはずだけど・・・。
その前に、毛布?
「・・・んー・・・」
「・・・・・」
不意にちょっとしたから聞こえた声。
美貴の、・・・じゃなくて。
「・・・梨華、ちゃん?」
「・・・・・」
ソファのちょっと空いてるスペースに頭を乗っけて、上着を毛布代わりにして梨華ちゃんが、眠ってた。
「梨華ちゃん?」
「・・・・・」
「おーい、梨華っ」
「・・・・・」
ちょっとユサユサと体を揺すってみるけど、それでも起きる気配が無い。
・・・って、何よ。
またいつもと一緒じゃん。
美貴が梨華ちゃん起こすってさっ。
「・・・もう・・・」
いつもと・・・一緒じゃん。
- 123 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 10:13
- 「んん?・・・美貴ちゃん、起きた?」
「・・・・・」
「・・・美貴ちゃん?」
ホントに寝てたはずなのに、パッと起きて美貴を見つける瞳。
「っ・・・」
顔を、わざと大きく逸らした。
ついでに、毛布でも隠した。
「どうしたの?ねぇ・・・」
「何でもない」
「何でもなくないじゃん」
「ないからっ!」
「?・・・ねぇってば・・・」
手が美貴の背中に置かれた。
すっと撫でる感覚が、すぐに訪れてく。
「美貴ちゃん・・・?」
「・・・・・」
声が、呼ぶ。さっきまでずっと聞こえなかった声。
・・・いつも聞こえてた声。
聞きたかった声。
「・・・寂しく、ないから・・・」
本当に最後の最後。
でも抵抗と呼ぶにはもう、声が震えまくってた。
すぐ聞こえた「ごめんね」って声。
そして、「ただいま」って。
- 124 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 10:19
-
はがされた毛布の下の顔はもちろん、少し突っ張る感じで。
頬がちょっとパリパリしてるなあって思ったら、そこに口付けられた。
「美貴ちゃん、自分でご飯作って食べたんだね」
「ん・・・うん」
「でもちゃんと作んなきゃ。野菜は全部ダンボールに入れてあったんだよ?」
なのに、モヤシだけ食べててさ。
「・・・何で分かんの」
「分かるよ。キッチンの番よ?私は」
ふふっていつもみたいに笑って、ぎゅってして。
「布巾使ったら片付けないと。綺麗にしてくれたのは嬉しいけど」
「・・・うん」
良かった。気付いてくれたんだ・・・。
「梨華ちゃん」
「ん?」
「・・・おかえり」
軽く、かるーく。できるだけ。
声はまだ少しだけ震えたけど梨華ちゃんはまた「ただいま」って言ってキスしてくれた。今度は、唇に。
- 125 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 10:25
- 「お風呂は?」
「ううん。そのまま寝ちゃってた」
「じゃあ、また一緒入ろっか」
「え?せまいってグチってたのに?」
「それは、さあ・・・良いじゃんっ」
ぎゅうって、もっと抱きしめられる。
胸のとこだから柔らかくて気持ち良い。
「ね」
「ん?」
「・・・もう少しこのまんまで良い?」
胸の中で目を閉じて、背中に回した手で服を握る。
「何か、すっごい落ち着くから」
心臓を音が直に聞こえる。
美貴のじゃない呼吸の音も混じって。・・・今、美貴の事を抱きしめてくれてる人がいるんだなあって、実感してる。
多分、一人が自然じゃなくなった理由。
この人のこの音じゃないときっと、美貴じゃいられないんだ。
・・・って、オオゲサかな。
「子供っぽくなっちゃったね、美貴ちゃん」
頭を撫でつづけてくれる梨華ちゃんが笑ったのに気付く。
何か反論しようかな、って思ったけど、やめた。
「うん。子供番組見たから」
それを口実に、何のためらいも無く胸んとこに顔を埋めた。
- 126 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 10:36
-
梨華ちゃんがののちゃんに呼ばれたのは、どうやらちゃんとした相談があっての事だったらしい。
「ののがね、私達みたいに家を出て暮らしたいんだって」
“ちゃんと、大切な人と一緒に”って。
「同級生でね、同じバイトしてるって」
「カッコ良かったの?その子」
「・・・女の子だったんだけどね」
「へぇ〜・・・。って、美貴達と一緒じゃんっ」
思わず出たノリツッコミ。
梨華ちゃんの含み笑いが後ろから聞こえた。
湯舟の中。今日は美貴が前。
梨華ちゃんの腕が相変わらず体を囲ってる。
「家賃の話とかさ、お仕事の事とか。色々と質問されたなあ・・・」
「・・・じゃあ美貴も行った方が良かったのかな」
今考えたら美貴、すっごいヘマしてたんだ。
「あー、でも行かないで正解でもあったかも」
「?」
肩にまんべんなくお湯を掛けてくれてた手が、頬に触れた。
そのまんま力を抜いてもたれてたら、回りこむように顔が近づいて。
「こういうコトまで話掘り下げられそうだったんだもん」
呟いて、唇が重なる。
それはそれは深く。
「・・・ん」
確かに、こういうコトは話できないね。
大人の世界は、まだ早いよ。
・・・まあ、美貴達も人の事言えないけど。
「今度、さあ・・・そういう事があったら美貴も連れてって」
「うん?・・・やっぱりお留守番はツライか」
「それも・・・まあそうだけど・・・何だろうなあ・・・」
ちょっとね、教えてあげたい。
- 127 名前:「ありふれない生活。―つよがりっ―」 投稿日:2005/02/27(日) 10:43
- 「?・・・何を?」
「・・・ナイショ」
「え〜?二人で生活する事に関わるんでしょう?」
「そうだけどね」
「言ってよぉ。気になるじゃん」
笑うだけの美貴を思いっきりぎゅっとしてくる梨華ちゃんの腕で、お湯の波が大きくなった。
ぱしゃぱしゃって音の中、笑い声。
・・・そうだなあ。
「ほらっ」
「あ〜、あのねえ・・・」
・・・一つ、呼吸を置いて。
ちゃあんと、応える。
「間違っても布巾はぶん投げないように」
「・・・はっ?」
聞こえてきたのはものすっごい短いリアクション。
何か遠回しな表現だと思ってるでしょ。首傾げっ放しだよ。
・・・ね?ナイショの方が良かったのに。
「今度ちゃんと理由付きで説明してあげる」
「え〜・・・何〜・・・?」
八の字眉になって美貴を見る目が可愛くて、今度は美貴からキスした。
ののちゃんに会った時にね、教えてあげる。
今マトモに話したら何か照れくさいから。
それでバレても布巾の事は・・・ご愛嬌って事にして?
終。
- 128 名前:リースィー 投稿日:2005/02/27(日) 10:49
- 更新終了です。
今回は藤本サンを書いてて楽しかった感があります。
右脳もまだ歩いてます。まだまだいけそうです。
では。
- 129 名前:さすらいゴガール 投稿日:2005/03/01(火) 18:41
- 更新お疲れ様です。
まだ右脳、歩いてますか。
よかったです。うれしいです。
ワタクシもがんばって歩いてますよ。
ちょっとささやかな意地なんか張ってみるフジモトさん。
かわいいなぁ。二人への愛を感じますよ。
少しずつ背景も見えてきて、二人の気持ちを丁寧に描いてて、
毎度上手くいえないですけど、勉強にもなりますです。
またの更新、楽しみにしてますよ。
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/09(水) 23:03
- ここの藤本さんの感じが好きです。
そしてもの凄くパスタが食べたくなりました。
更新頑張って下さい。
- 131 名前:リースィー 投稿日:2005/04/24(日) 09:23
- 感想、ありがとうございます。
>さすらいゴガールさん。
毎度ありがとうございます。
意地っ張りな藤本サン、私も好きです。
そこに意地っ張りがもう一人加わるともっと好きです^^
>名無飼育さん。
ありがとうございます。
少々遅ればせながらですが、パスタは召し上がりましたか?
これからも頑張りますっ。
シリーズはここでちょっとお休みに。
次のお二人はりかみきではないので「ちょっと・・・」な方はスルーしてください。
今回は、りかみよです。
- 132 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 09:33
-
珍しく食べ物関係じゃない雑誌を読んでるなあって思ったら、言葉は急にぶつけられた。
「石川さん、前世って信じます?」
「・・・へぇ?」
ストローが口から離れて、レモンティーの入ったグラスの縁に沿って一回転した。
甘〜い水分が喉を通り越してからすぐに声を出したから、変なイントネーション。
「どうしたの急に」
目の前でスイートポテトを頬張る紺野に問いかける。
紺野は片手でペラペラと雑誌をめくって、ずっと「ん〜・・・」って。
「今、ぱって見たら“前世占い”のホームページの紹介があったんで」
前世占いってよく言うけど、結局は動物占いみたいなタイプ分け系なんですよねぇ。
じゃなくて。
「ちゃあんとした自分の前世ってやつの話なんですけど」
「・・・そこまで一瞬で考えが飛んだのね」
「そうみたいです」
道理で突然だった訳だ。
「どうかなあ・・・そこまで特別考えた事って無いけど」
もう一度レモンティーを口に含んだら、また言葉にならない紺野の相槌が。
スイートポテトはもう残り少ない。
「あんまり信じてないって事ですか?」
「ん〜・・・」
今度は私が微妙な相槌。
紺野の手はまた前世占いのページに戻っていた。
「そういう訳でもない、かな・・・」
また、グラスの縁に沿ってストローが回る。
「でも・・・」
少し冷えた手は、伸びて。
「あるとは、思う」
たまにそうなのかな?って思うときがあるから。
- 133 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 09:41
- 「・・・へ?」
気の抜けたような返事があって、その後の紺野の顔は少し膨れてしまった。
少し前に「差し入れです」って言って岡田ちゃんが持ってきてくれた手作りにスイートポテトの中で一番大きいやつを取ったから。
「じゃ、行ってくるね。レモンティー飲んでいいよ」
席を立ってドアに向かいながら、甘い粉の付いた指先をぺろっと舐める。
「どこ行くんですか?」
「散歩。食後のね」
行ってきまーすって出て行ったらそこは静かな廊下。
いるのは私だけで、聞こえるのも私の足音だけ。
・・・だったけど。
・・・石川さん?
どうやって私が通ってくのを知るのか分からないタイミング。
確かに通り過ぎたはずのドアは開いて。
「一人ですか?」
「うん」
何気無く応えてみる。
顔だけ見せてる子。
その後は、多分・・・。
「あの・・・それじゃあ・・・」
すこしきょろきょろと視線を泳がせた後。
「・・・一緒についてっても良いですか?」
「・・・・・」
まっすぐ、私を見て言う、言葉。
「・・・うん」
私も、ちゃんと彼女を見て応える。
同い年なのに未だに敬語の彼女に、ふわっと柔らかく笑みは降った。
- 134 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 09:45
-
一度だけ聴いた事のある曲。
それ自体歌詞を見たことがあった訳じゃないんだけど、やけにすんなりと、綺麗に言葉として歌声は入ってきた。
泣きそうになるほど感動したりとか、そんなんじゃない。
もう二度と聞きたくないものではもちろんなかった。
・・・ただ、何というか。
一度だけ見た事のある長い長い夢の物語に限りなく似ているという驚きだけが、私に残って。
- 135 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 09:53
-
屋上は意外と危ないモンだよってな事をマネージャーさんに言われて以来、よく来るようになったのは非常階段。
空色の天井にどこまでも高く伸びようとしているようなコンクリートの壁。同色の階段は人が通らない割にほこりっぽくは無い。
「そのまま行けば屋上なんだよ」
「いつもの散歩コースだったんですよね」
「でもここを教えてもらってからはここにいるの」
メンバーにも教えてない場所。
屋上はもうバレちゃってるけど、ここを知ってるのは今のところ・・・。
ここにいた三好ちゃんだけで。
「まさかねぇ・・・三好ちゃんも散歩癖があったなんてね」
「私は何となくここに来てみただけなんですけど、でも・・・」
「?」
青い天井を見上げてた目を下ろすと、少し背の高い三好ちゃんが笑って私を見ていた。
ついこの間までと同じように。
「・・・ぐーぜん」
エレベーターで上がろうとすればすぐに分かっちゃうから、シンドイけどちょっとだけ非常階段を使わせてもらおうかとドアを開けた瞬間、そこにいた三好ちゃんにそう、声をかけていた。
多分、私と同じように驚いた顔。
「ああ・・・」
けど、急に笑って後の三好ちゃんの言葉は。
「正夢だ」
「・・・え?」
その日も続いていた、青い青い天井。
降り注いだ光は暑さも無く私たちを照らした。
いつか見た、顔の無い物語の世界みたいに。
- 136 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 10:03
-
今のところ私の中だけで完結していた物語だし、長ったらしいから敢えて説明する事もしたくない。でも私の頭の中にしてはよくできすぎていた話で。
少しだけ、やけに透き通ったでもない不思議な空気のようなものが胸の辺りを覆っている。
「さっきね、楽屋にいる時」
紺野が前世の話をしてきたの。
どんなんだったと思いますか?なんてもんじゃなくてさ。
「・・・信じますか?って」
私それ聞いて何か・・・ちょっと固まっちゃって。
「何でですか?」
「うん・・・」
首を傾げる三好ちゃんに少し、笑って見せる。
「丁度ね、そういう事考えさせられるような事があったから」
不思議。
私がこういう世界でお仕事するようになった時に側にいてくれたみんなとは何となく違う、刺々しさの無い空気。
ぶつかるから生まれた仲だった人達と、私の立場が「立場」だからかな?っていう接し方。
・・・じゃない、そんなものとはちょっと違う感じ。
私を覆う透明な空気が心地良く胸を締めつける。
まるで。
「ずーっと前から知ってる人とまた会ってるのかな私は・・・ってね」
運命みたく、この今の世に生まれたからめぐり会う事になったなんて始まりのものではなくて。
ずっとずっと、前から。
「まぁ・・・私がただ思い込んでるだけなのかもしれないけどね」
長い長い夢。
一度だけの歌。
正夢だと言った偶然。
それが全てつながってるものなのかは分からない。
私と・・・あなたの初対面で。
あなたは私から何を感じ取ったのかは分からないけど。
- 137 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 10:07
-
宙に浮いてる話なんだろうなって思う。
首を傾げては青い天井を見上げる三好ちゃんはたまに困ったように笑って、私の話に相槌ばかり打って。
だから、途中かもしれないけど私から話を切った。
西日の色が付いてきた空の天井を一緒に見た。
このまま、吸いこまれそうな青。
外の自動車の音は遠く、ただ高く伸びる壁に体を預けて空を見上げる。
胸の締めつけは、少し痛くなっていた。
- 138 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 10:13
-
そこにある灯りが太陽の光で作られたものなのかは分からなかった。
私はただ、外の世界に触れる事を許されずに。それでもいつか来るんだろう何かに期待していた。
ただ耐える事を強いられていた、気がする。・・・もうそうだったのかも分からない程に、私の中以外の感覚をすり潰して。
すり潰して、減っていって。
もう、紙一枚程の気持ちしか残ってないんじゃないかって、頃。
長い長い間暗かった視界に、一筋のちゃんとした光は、射し込んだ。
目に映るものは、物でもなく者でもなく。
何が映ってるのかも分からずに。
・・・ああ、もう戻らなくなってるんだ。私の感覚は。
そう悟ったと同時に、紙一枚ほど残った感情で、私は笑っていた。
目の前に「あった」、赤色にまみれたモノに。
- 139 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 10:18
-
「・・・前世、は」
「・・・・・」
「超能力とか超常現象みたいなものはちょっと・・・って思いますけど」
前世は、あると思います。
「・・・そっか」
できるだけ軽く応えた。
さっき紺野に出した私の応えと一緒。それが何となくおかしくて少し笑ってしまった。
もう、気付いてるけど。
「似てるね、そういうところ」
考え方がさ、同じまではいかないけど、似てるよ。
多分・・・もう少し「深い」ところも。
私の見た長い長い夢と、一度だけ聴いた歌。
限りなく似ていた二つの世界は最後の最後だけ大きく違った。
・・・酷く悲しみにくれていた。
それは歌。
・・・私の、夢は。
- 140 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 10:26
-
いつの間にか握られていた手。
・・・でも形的には私が三好ちゃんに近付いていた。
「何か・・・不思議です」
「・・・・・」
「石川さんといると」
どこかでずっと一緒にいたような気がして。
気持ちがすぅーっとなって・・・。
「・・・触れたままでいたくなる」
「・・・ん」
冷えた影が、伸びた壁を這って、進んで。
とうとう、私達を覆い隠す。
夜の小さな始まり。
でも、見えなくても分かっている。
私は変わらず微笑みを。
・・・あなたも変わらず、微笑みを。
「触れていて・・・?」
目を閉じて、私から暗闇を誘う。
まだ瞼に降る眩しさの中、揺らめくような影が少しずつ、私の薄暗い視界を支配して。
「・・・離さないで」
もう二度と。
あの悲しみに、出会わないように。
「・・・はい」
やっぱり直らない口調で柔らかく耳に囁かれた後。
誓いのように、唇は降った。
- 141 名前:「光の前。夢から後。」 投稿日:2005/04/24(日) 10:36
-
私の見た長い長い夢。
最後の悲しみは同じようなものだったかもしれないけど。
・・・こんな風に柔らかい口付けをもらったなんて言葉、あの歌には無かった。
楽屋に向かう途中。少し騒がしくなってきた廊下をすれ違う人達にあいさつしながら歩いてく。
収録までもう少しだ、と思いながら着いた三好ちゃん達の楽屋。
「石川さん」
少し俯いていた視線を、上げる。
多分、あの夢と同じように笑ってるんだろう、私を映す瞳。
「・・・ん?」
あの夢と同じように笑い返してる、彼女。
会えるまで封されていた前世のお話。
止まっていた時間の歯車が噛み合って回るように。
触れる小指同士が軽く絡み合って、するりと解けた。
終。
- 142 名前:リースィー 投稿日:2005/04/24(日) 10:47
- 更新終了です。
んー・・・どうでしょう?というか感じでしょうか。
なんとなーく気になって。
それから無性に気になりだしたお二人です。
なんとなく二人とも惹かれあってる感じがすごい気がしたので・・・。
気が付いたら右脳が走っておりました。
んー・・・どうでしょう?(二回目)
では。
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/06(金) 03:15
- りかみよ、実は私も結構気になってます。
これからは今までよりも更に一緒にいる場面が多く見られそうですよね。
卒業は寂しいけれど、これからの美勇伝に期待してます!
次回も期待して待ってます。
- 144 名前:さすらいゴガール 投稿日:2005/05/28(土) 04:00
- 素敵なお話です。
なんか、リースィーさんの話は、読むほどにじわじわと伝わってくる。
なんとセも゜読み返したくなるお話です。
りかみきもすごくよいです。
でも、もっといしみよも読んでみたいなぁ、そんな風に思います。
ゆっくりと待ってます。
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/27(水) 01:43
- そろそろ更新こないかな・・・
- 146 名前:リースィー 投稿日:2005/08/06(土) 09:39
- 感想、ありがとうございます。
・・・というよりもお待たせしてしまいました、が先ですね・・・ごめんなさいです(TT)
身の回りの環境が急激に変化してしまって、更新しようにもできなかったもので・・・。
>143の名無飼育さん。
ありがとうございます。
私も美勇伝には大いなる期待をもって応援しております。
そしてりかみよも・・・。
>さすらいゴガールさん。
毎度ありがとうございます。
「何度でも読み返したくなる」というのは、私にとって最高の誉め言葉ですよ^^)
嬉しい限りです。
>145の名無飼育さん。
ありがとうございます。そして申し訳ありませんでした。
今回は頑張って更新します。
さてさて。
今まで「りかみき」のお二人で続けていたシリーズなのですが、今回はその前。石川さんの過去の話を書きたいなと考え、思い切ってもうひとつシリーズを出します。
今回は過去のお相手とのお話にしようかな、と・・・。
というわけで、始めます。
- 147 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 09:44
-
いつもの原付の音が駐車場に響く。俗に言われるゴールデンタイムの真っ只中。
ぶぉんって一度大きな音が鳴って、それからすぐにエンジンは止まる。また今日も豪快に、それも一発で止めたんだろう。
私のバイクも止まってるのに間隔は一定で、同じ向きで。
「・・・もうそろそろか・・・」
読んでいた雑誌をソファの隅に避けて、やれやれと思いながら台所に立つ私。
やかんに水を入れて、コンロにセットして。
後はもう少しで聞こえてくるインターホンの音を待つ。
手で、常備品となってしまったレモンティー用の紅茶葉の間をポンポンと軽く叩きながら。
- 148 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 09:49
-
小さい頃から気が付けば視界にいた存在。
幼馴染、というにはそんなに近くにいた訳じゃないけど、何となくお互いに気になってた感覚。
でもそれも中学までのものになるんだろうなって、何となく思ってたら。
「あ、れ・・・?」
高校入試。私はもう一人暮らしすることになってたからどうせならってかなり遠いところを選んだ、んだけど。
・・・中学の制服。セーラー服まみれの生徒達の中に、彼女が私と同じブレザー姿で立っていた。
「・・・あ」
もちろん、気付いたのは私だけじゃない。
私と同じように、ただ目を見開いている彼女も。
「石川さん・・・」
「・・・三好ちゃん」
幼馴染、というけれども、何故か昔から変わらない私達の呼び名。
ざわついた校内だったけど、それでも私は彼女の声を聞くことができていた。
・・・というよりも。
彼女しか、目に映ってなかった。
- 149 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 09:57
-
小テーブルにカップを置いてベッドに座る。
紅茶の香りが辺りに広がって、一人小テーブルに向かう体は後ろから見ても嬉しそうだった。
「あ〜、おいし。三好ちゃん紅茶作るのうまくなったね」
そう言って、一口一口の合間に小さなため息。
まあ・・・石川さんが家に来る度に「レモンティーちょうだい」って言えば、それなりにうまくなるだろう。
それはそうと。
「大丈夫ですか?明日はバイトですよ」
「大丈夫大丈夫。三好ちゃんも同じ時間に出勤でしょ、どうせ」
「そう、ですけど・・・妹さんには?」
「口裏工作は万全です」
「・・・そうですか」
私達は呼び名もそうだけど、こんな風に敬語対タメ口っていう変な会話になる。でも二人はこれが自然で、当たり前。
小さい頃からずっとそう。
今更下の名前で呼べって言われたって・・・何か呼び辛い。
「・・・じゃ、今日もお泊りですね」
「うん、よろしく」
カップを持ったまま私の方を向いて、一つ、笑って。
計算でやってるんだかそうじゃないんだか分からないけど、絶妙な角度で首を少し傾けさせて。
また、やれやれって思う私がいる。でも笑って見せる彼女にそれ以上何も言えなくて。
・・・何で私の家に入り浸るようになったのかなんて根本的な理由を認識していれば、こんな風になってしまう事も無いはずなんだけど。
- 150 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:06
-
三好さん、一人暮らししてるんだって?・・・両親が海外?すごいねー、仕送りしてもらってるんだー。
「・・・まぁ、そういうところです」
大体そんなとこから始まっていく初対面の会話。私の外見が自分で言うのも何だけどサバサバしてるもんだから話し掛けやすいみたい。
ホントのところ、実はそういう訳でもないんだけど。
ないから、こんな中学の知り合いがいないところに来たんだけど。
うちの両親が日本にいないってとこのどこが良いのか。少しずつ仕送りも減ってるし、バイトもしなくちゃってくらい危機感でいっぱいなのに。
・・・とかいう愚痴は言いたくないからみんな笑って話を終わらせて、頃合いを見て席を立っていく。
そんなこんなな学校生活の始まり。
「これじゃあ中学の時と一緒だよ」
高校は一部、中学の延長です。とはよく言ったものだ。そう一人毒づきながら校舎を出て、昼食時間の残りを散歩に費やす事にした。
校舎は見学としてみんな回って見たけど、外って意外と見ない。授業中とか時々外に目を向けると大きな木とか見つけたりして、そっちの方が楽しいと思うんだけどな。
- 151 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:11
- 学校のシンボルみたいになってもおかしくないくらいの大きさなのに、ある場所はひっそりとした校舎の裏。
何となく目に入って、自分でも分かる程に引き寄せられていく感じ。
私の腕を回しても後ろまで届かないくらいの大木。それは分かってるんだけど思わずそうしたくなる。・・・それが性分なのかなあ、なんて自分で笑いながらそっと、木に触れてみた。
何となく、お気に入りかも。
今度はここで昼食とかも良いかな。
そう、色々と考えながら木を見上げてみた。
ら。
「?・・・あ」
一瞬止まった呼吸。
ぴたっと止まった体。
見上げたままになってしまった目。
・・・大きな木から伸びる太い枝に、同じ制服の見慣れた顔。
「石川さん・・・っ」
石川さんが、うまい事木にもたれて目を閉じていた。
- 152 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:17
-
パタンッと軽く音が鳴って、石川さんが髪を拭きながらシャワー室から出てきた。
「ありがとねー」
「いーえ」
いつもの事じゃないですか、家に来たら。っていうのは心の中だけで続けて。
「髪乾いたらもう眠っても良いですよ」
代わりの布団を押入れから取り出してポンッとベッド脇に投げ置く。
そしたらタイミング良く聞こえてきたブーイング。
「えー、別々に寝るの〜?」
「そうですよ?」
って私が言うなり手足をバタバタ。
まるで子供のように。
「この前は一緒に寝たじゃんっ」
「あれはこの布団じゃ寒かったからですよ」
この前って言う程でもない、つい四、五日前の話。
それも一緒に寝たって言うより私が端っこによって少なからず布団を重ねて横になったんだ。
「・・・それでも一緒に寝てくれたじゃん」
結局、石川さんは拗ねたように唇だけで呟いて、そのままポスンッと布団に体を預けてしまった。
・・・あ、髪っ?
- 153 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:22
- 「石川さん、髪乾かしてから寝て下さいよ」
「・・・・・」
「・・・石川さん?」
「・・・・・」
後ろ向きになって、タオルを下に敷きながらも濡れた髪が小さく広がる。
それをベッド脇から顔半分だけ出して見てたけど、こっちを向くどころか動く気配さえ見えない。
・・・三秒で寝るアニメのキャラっていたけど、もしかしてそういう気質のある人なんだろうか。
「・・・石川さんってば」
「・・・・・」
やっぱり反応が無い。
仕方ないなあ、とか思いつつ、少し様子を見ようと体をベッドに上げてみた。
古っぽいベッドのせいで少しだけ軋む音が鳴る。でもかまわず、石川さんの上半身を腕で跨いだ。
「・・・?」
そこに見えた顔。
でも、目を閉じてる訳じゃなかった。
- 154 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:24
-
きゅっと閉じた唇。
頬の方に枕をするように添えられてる左手。
すぅっと一点を見つめる、瞳。
・・・その瞳はゆっくり、静かに私の方に移っていく。
- 155 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:27
-
気が付けば地面より一、二メートル程高い場所。
目指した先は座る枝じゃなくて多分、石川さんだった。
春といえどまだ肌寒い風。でも穏やかに太陽の光が降り注ぐ。
目指した先は、心地良い温もり、だったか。
「・・・石川さん?」
「・・・・・」
こんな近くで囁いてるのに、そこにあるはずの瞳はずっと隠れたまま。
・・・だから、その瞳が見えてしまう前に。
目指した先の温もりは、柔らかだった。
- 156 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:32
-
湿った髪の先が指にちょっとだけ触れる。
とうとう私を向いた、瞳。
気が付くと、私の頬に広く触れる柔らかい感触が。
「ね・・・」
「・・・・・」
「今日もちょっとさ・・・寒かったよ?」
春を思わせる事が多く伝えられる中でもまだ続く冷たい風が、ほんの少しだけ開けた窓から鳴き声を連れて髪を揺らす。
スタンドライトの淡い光に照らされて、私の瞳に映る顔。
・・・多分、分かってる。
この、心拍数。
- 157 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:34
-
「・・・結構ないたずら」
瞳が見えた時、小さな笑みと一緒に発せられた言葉。
でも私は、笑えなかった。
「いたずらでこんな事しませんから」
思わず握る制服の袖。
何故か変わらない笑顔。
自覚してないのか。
試されてるのか。
嵌められてるのか。
・・・どっちにしろ。
「・・・好きなんです」
変わらずに笑みを含むその瞳に、はぐらかしは効かないと思った。
- 158 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:38
-
布団の上で、伸びた腕同士が絡んでいく。
頭を抱え込もうとする私。
背中に回そうとする石川さん。
・・・多分、理性はまだ生きてるんだと思う。
だけどそれももう少しの命だ。
「石川さん」
呟く唇。声が届いたんだろうその瞬間。
「・・・うん?」
確かめるように応えて笑みを広げて。
瞳が、閉じていく。
もう何も言わずに。
視界に映る全てだけを頼りに。
・・・体を、堕とした。
- 159 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:42
-
袖を握る手をやんわりと解かれて、いつの間にかまた重なっていた唇も少しの間隔だけを開けて離れていく。
眠気を帯びたままの瞳。それが柔らかい笑みの色を含んでいく。
そして、ふっと声でも笑ったら。
「・・・知ってたよ?」
ひゅうっと一度だけ吹いた風に紛れて。
少し冷たいが頬に触れた。
それはそれは優しく。
それはそれは、緩やかに。
その指先に、ああ・・・この人は、って思った。
こんな風に頬に触れられる度に見えない何かを引っ張られる。
ずっと、心の奥底まで沈めて隠していた気持ちまで。
- 160 名前:「ありふれない関係―冷たい温もり―」 投稿日:2005/08/06(土) 10:46
-
堕ちた意識の中、暗闇に浮かぶ顔は笑ったまま。
ふわふわとした感覚に二人、包まれて。
それでも何かに飲み込まれそうな私は、抵抗する。
「やっぱり、あなたが意地悪いです」
優しく、緩やかに。
柔らかく、私を刺す。
何もかも分かって・・・いるのに。
「・・・そうだね」
分かっている口調で、あなたはまた笑う。
そしてまた、指先が頬に触れていく。
・・・あの日と同じように。
冷たい指先で、抑えきれないかすかな涙を拭って。
終。
- 161 名前:リースィー 投稿日:2005/08/06(土) 10:53
- 更新終了です。
シリーズなのですが、名前は一応「生活」編と「関係」編に分けてあります。
つながりはあるのですが、まだ分かりにくいですかねぇ・・・。
お相手は三好さんでした。
このお話はまだ続きますが、「生活」の方をベースにしていくので、たまーにポンッと出てくる可能性も。
と言いつつも、このお二人も好きなので・・・。
では。
- 162 名前:さすらいゴガール 投稿日:2005/08/07(日) 01:01
- 待ってました。
素敵なお話ありがとうです。
お相手はちょっと予想外でしたけど、すごく楽しみです。
環境が変わって大変かと思いますけど、
どうぞ作者様のペースで。
のんびりとお待ちしてます。
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/18(日) 12:12
- 作者さんの優しい文章がすごく好きです
りかみよって、雰囲気のある二人ですよね
- 164 名前:リースィー 投稿日:2005/10/08(土) 10:22
- 感想、ありがとうございます。
>さすらいゴガールさん。
毎度ありがとうございます。
予想外でしたか〜。でも「過去の人」と思い浮かべた時、浮かんだのがこの方だったので。
右脳さんはまた歩き出しているので、お話楽しみにしていて下さい。
>163の名無飼育さん。
ありがとうございます。
「優しい」と言って頂けて・・・少し照れますね^^)
雰囲気のある二人・・・私はそれにやられてしまいました。
これからもやられつづけると思います。
では、また「りかみよ」で。
- 165 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:25
-
いつも、はっきりとした瞳は、まっすぐに。
どこを見ているの?
「・・・石川さん?」
少し離れたところからでも分かる、潤んだ光。
そこに私が映るように立った。
ねぇ・・・。
誰を見てるんですか?
- 166 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:26
-
指に触れる先は少し濡れてる気がするけれど、目の前の彼女は「そんな過去は無かった」と訴えてこらえているようだった。
それでも、潤んでいる瞳はいつもと変わらないけど。
都会にしては澄んだ色の青空。
その下で二人、の建物の一番上。
石川さんの得意な逃げ道。
私達にさえも教えて・・・感付かせてくれなかった場所。
「三人で走って行きたい」
けど・・・リーダーだから。
- 167 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:29
-
「・・・何か悪いことでもありましたか?」
「・・・・・」
ただ滑らせてる指を頬で感じてるんだろう石川さんは、口を閉じたままでいる。
うつろな瞳が似合う表情だね。
・・・でも、今そこにある瞳は違う。
「・・・分かってるくせに」
うつろになるどころか。
ますます強くなる光に紛れて、隠した涙をまた頬から逃がす。
証拠にほら、掠れた涙声。
爪に降る小さな雨。
「・・・もう私に黙ってそんな事しなくても良いじゃん」
ずっと分かってたよ、私が気付かないワケ無いって。
でもさ・・・ずっと信じてたんだよ?
・・・信じてた私がバカみたいだったよ。
聞こえた声は強い声そのものだった。
あなたを表す強い声。
あなたを表す、脆い声。
- 168 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:30
-
「三好ちゃん、さ・・・」
「・・・・・」
「何で、そんなに私に優しくするの?」
誤解しちゃうじゃない。
今の私は、何でも勘違いしちゃうよ、きっと。
だから。
「・・・そんなに優しく触んないでよ・・・」
振り払おうと、力無く左手は動いた。
そうする前まではずっと胸の前で手を組んで、微かな震えを指先を動かす事で隠していたのに。
「・・・石川さん」
私はもう一度呼びかけた。
さっきまでの、何かを探るような声じゃない。
ゆっくり・・・何もかもを。
「っ?・・・みよっ・・・」
「・・・・・」
包み込むように。
閉じ込めるように。
封じ込めるように。
・・・抱きしめた。
- 169 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:32
-
あなたは華。
私は香り。
だから私は、あなたを優しく包み込むんだ。
たとえ今のあなたに私がまだ映らなくても。
- 170 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:34
-
「華」の持ち主だった人に、「香り」の存在を教えていたのに。
「私はこんな風に石川さんを悲しませて遊んだりなんかしませんよ」
華に降る雫は綺麗だったのだろう。確かにそうだった。
でも、それを降らせるのには少々強引過ぎたんじゃないか?
「・・・どうだか」
笑って告げた時の、その人の引きつった顔。
言葉は返ってきたけど、その時の伏せた色の無い瞳を忘れない。
何も映さない、彼女とは全く別物のくすんだ、色。
その瞳になんか絶対、ならない。
- 171 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:37
-
風が背中を撫でていく。空はゆっくり白い雲を流して、遠くに聞こえる街の音をただ、耳に入れる。
今聞こえ続けてる自分の鼓動の早さ、強さに気付いてないフリをする為に。
「誤解でも良いです」
「・・・・・」
「勘違いもしてください」
掌で髪を撫でて、そのままゆっくり背中に下ろす。
今は大人しい石川さんをこのまま、逃がさないように。
「・・・でも」
でも。
これだけは間違わないでください。
「私は、優しさだけでこんな事しませんから」
あなただから。
あなただから抱きしめて。
あなただから涙を拭った。
「石川さんが好きです」
華に魅せられて、周りに人は集まるんですね。
・・・なら、いっそ。
「私は石川さんだけしか見ませんから」
香りは、華を引き立たせる。
あなたの為だけの、私でいるから。
香りは実体が無いけれど。
気付けばいつでも存在を感じられるところにいる。
・・・絶対に。
「石川さんを、一人にはしない」
今は咲き誇り、実を付けて。
いつか朽ち果てて、堕ちる時が来ても。
私がいつでも、側にいてあげる。
香りとして、あなたの側で存在する事ができるまで。
- 172 名前:「その時、一瞬だけ。」 投稿日:2005/10/08(土) 10:39
-
まだ止まない風は、まるで私達二人をまとめて?げるようにすり抜けていく。
高くなっていく空。私たちがようやく辿り着いて、もうすぐ二回目の季節を迎える。
空を見上げたまま一度深呼吸をして、ゆっくりと顔を下ろした。
未だに石川さんの瞳の光は強い。でも・・・。
「・・・梨華ちゃん」
ありったけの今の自分の気持ちを込めたら繋がった視線は、ゆっくりと優しく笑って、涙ごと崩れた。
「もう泣かないで」
指先をもう一度這わせて雫を掬ったら、もう拒む事は無かった。
そうして・・・ゆっくり、ゆっくり。
閉じていく瞳につられて、顔を近付ける。
その時一瞬だけ時間が止まったような気がして。
その時一瞬だけ、ふわりと鼻を何かがくすぐった気がした。
終。
- 173 名前:リースィー 投稿日:2005/10/08(土) 10:46
- 更新終了です。
はい・・・何なんでしょう(笑
何と言うか、三好さんにものすごい告白をさせたいが為に出来たようなものですかな・・・。
でも私の中では現にこういう風なことをさらっと言ってしまいそうな人にも思えるんですよね。
キザっぽくなく、さらっと。
そういう人に私は・・・なれないとは思いますが(笑
訂正。
最後のほうで「まとめて?げる」となってしまってますね・・・。
これは「まとめて繋げる」です。申し訳ございません。
では。
- 174 名前:さすらいゴガール 投稿日:2005/10/09(日) 02:14
- 更新お疲れまです
待ってました
美しい素敵なお話
どこかせつなくて、ここの三好さんはなんか強いなぁ
引き込まれました
作者様の書く物語の雰囲気、とても好きです
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 01:32
- りかみよ、いいですねぇ。
>こういう風なことをさらっと言ってしまいそうな人
これ、すごくわかる気がします。
「器用に」とか「慣れてる」とかじゃなく、
でもちゃんとまっすぐに気持ちを伝えることができそうな人ってイメージです。
- 176 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:34
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 20:38
- 更新待ってます
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