〜アイ�A〜

1 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/09(土) 15:25

前スレです。

on
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wood/1089774336/l50

2 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/09(土) 15:29

えーーー実は言い難いのですが、今回最終回なんですよ。
引っ越していきなり終わる･･･自分でもどーよ？って思った
のですが、このラストはもう最初から考えてあったんで、他が
思いつかないのです。どう考えても前スレでは上げきれないし、
ダメダメな自分をお許しください。

それでは最終回、参ります。

3 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/09(土) 15:29

◆◆◆


カシャッ!!!


梨華チャンの笑いを滲ませた目許が、驚きに見開かれて行く。

近づくほどに、引力を増す瞳の色。
磨き上げられた黒曜石みたいに、艶やかで透明度の高い輝きと
濡れた彩り。

カシャカシャカシャッ･･･

飯田サンのシャッターを切る音が、あたしを急かすように
鳴り続けてた。


モットモットモットチカヅケ･････
ハヤクハヤクハヤクアノメノナカニ
ホカノモノヲウツシテハイケナイ･･･ダカライソゲモットチカヅケ


笑いの余韻を楽しむように、無防備に開かれたままの唇･･･
美しく花弁を開く華のよう。
枯れることを知らない華は、甘美な色であたしを惑わす。

引き寄せられてしまえば、もう抗うことは出来ない。
だからあたしは、そこに触れた。

4 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:30

そう、あたしは。気づけば、いつの間にか。
梨華チャンの唇に、自分の唇を押し当てていたのだ。

やっちゃったよ･････

なんでまた、よりによってこんな時に？！
あたしが頭を抱えたくなった時。
梨華チャンが、ズルズルとその場に崩れるように座り込んだ。
両手で、自分の口許を押さえて。

そして、コマ送りのようにぎこちなくあたしの方へ顔を向けた。

その目はあたしを責めている。
なんで？ねぇなんで？なんでこんなことしたの？って。


･････知るかよ。
やっちゃってたの！気がついたら･･･こっちだって驚いてるんだ。

そりゃ、したいと思ったことがないとは言わねーけど。

5 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:30

だからって、別にいますぐしようなんて考えてなかった。
漠然と。いつかそういう日が来たらって。･････それが。
それがなんで今しちゃったのか･･･んなこと勢いとしか
言いようがねーつーの。マジわかんねーんだって！

参ったなーーー
なんか言ってやるべき？けど、なんて言うんだ？

大丈夫だって、減るモンじゃねーから、って、オイッ！
ぜってー違うだろ？ソレはっ！

やべぇ〜〜〜　なんも浮かんで来ねーよ。
てか、あたしまで、テンパッてるし頭ん中。

言葉もなく、あたしと梨華チャンがお互いの顔を見ていると
飯田さんの声が、すぐ後ろでした。

「君。雰囲気造りがやたら上手いね。勘の良さもプロ並。
　さっきさ、カメラの声が聞えたでしょ？」

･････カメラの声？

訝しげな顔をするあたしに、飯田サンはニンマリと笑った。

6 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:31

「カメラの前で自分の気持ちを隠す事は出来ないんだよ。
　君みたいな繊細な感性を持った子は特にね。
　カメラと共鳴してさ、本音が引き出されちゃうんだ。
　隠してるつもりの本音ってのがね？だから現像しなくても分かる。
　この写真、かなりいい出来だってこと。」

本音ね？････確かにな。
でもさ、あたしは別に隠そうなんて思ってたわけでもねーし。

ただ。
なんとなく、梨華チャンを前に改まって告白めいたことをする
なんて考えられなかっただけで。
今回の撮影も、慌てふためく梨華チャンを面白がってたってとこ
あるけど。それだけじゃねーつーか。
これがなんらかのキッカケみたいなもんになって、梨華チャンに
あたしの気持ちが伝わったなら、それはそれで面倒な手間が省けて
いーんじゃねーかとか、どっかで思ってた･･･かも知れない。

･･･なんかラクんなった？

けど。

7 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:31

壁に背中をあてて、どっか空ろな表情をしてる梨華チャンは
どー見ても、あたしの気持ちに気づいたって感じじゃねーしな。
･･･やれやれ。

相変わらず、座り込んだまま、どっかに旅に出てた梨華チャンは
見かねた保田サンに、声をかけられて無事戻って来れたらしい。
チラリとあたしの顔を見て、パッと目を逸らすと、そそくさと
立ち上がった。

「作品のインタビュー、片付けちゃいましょう。」

ネジの切れた人形みたいになってる梨華チャンの背中を押して
保田サンは、ダイニングの椅子に座らせてる。

どーすんだよ、これから？･･･マジ、参ったなーーー

あたしも梨華チャンの顔を見るのが、気まずく感じながら
取り合えず、お茶の支度をする為にキッチンに入った。

新しくお湯を沸かしているうちに、飯田サンは帰ってしまって
いた。しなやかな成猫みたいに動く人だと思った。

8 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:32

二人分のお茶をテーブルにセッティングしていると聞く気は
なくても二人の会話が耳に入ってくる。

「この話を通して、読者に対してメッセージってある？」
「･･･えっと、はい。
　みんなのいるところに、愛があったらいいねって。
　自分がいる場所に、その想いがあったら、どんなに辛いことが
　あっても、きっと笑えるんじゃないかなって思うんです。
　･･･そしたらその場所は･･･その人にとって、ひとつしかない
　代わりがない所になるんじゃないかなって･･･だから、読者の
　みなさんにも見つけて欲しいです。ずっとここにいたいって、何が
　あっても最後はここに戻って来たいって、そんな風に思える、
　みなさんにとっての、たったひとつの居場所を。」



たったひとつの。いつでも自分が居たい場所。

代わりがないもの。かけがえのないもの？･･･だけどさ。
世の中に代わりがないもんなんて、ホントにあんのかな？

9 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:32

「じゃ、ヒロミのキャラの誕生について。エピソードとかある？」

息を呑む気配がして、ぼんやりしてたあたしは、急いでお茶の
セッティングを済ませた。

あのあたし、もういいっすかね？って声をかけるとお疲れ様って
保田サンは笑った。
梨華チャンが、ホゥと小さく息を吐く。

だよなぁ〜　いくらなんでもあたしを目の前に、ヒロミの話は
出来ねーだろ？梨華チャンってこんなにわかりやすいのに、保田サン
ってさ？案外ニブいよな。
あたしは、ニヤリと笑いそうになる顔に、意識して普通に感じの
よい笑顔を浮かべた。

10 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:33

「お疲れっす。」
「あなた、なかなか良かったわ。」

軽く下げたあたしの頭の上で、感情のこもった声がした。
顔を上げると、保田サンは片目は半開きで、口をへの字に曲げた
まま中途半端に開けて、という世にも奇妙な顔をして、もう片方の
目をバチバチと瞬きした。･･･な、なんだぁ〜〜〜？

「･･･ハハハ、そりゃどーも。」

あたしの顔はたぶん引きつってたと思う。


自分の部屋に引き上げて、ベッドに寝転がっても保田サンの不気味
な表情が頭にへばり付いたままだった。

･･･ありゃーいったい、なんなんだ？

あたしはブルッと一回身震いして、ソレを頭から振り払う為に
枕の下に隠してた、例の雑誌を取り出すと、パラパラと捲った。



･･･トントン。

11 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:33

ノックの音は遠慮がちだったのに、意外なほど本に夢中になってた
あたしの頭は、切り替えが上手く出来ない。
勢いをつけて体を起しながら、出した声は微妙に上ずった。

「ど、どぉーぞ。」

手に本を持ったままだったことにハッとして、慌てて枕の下に押し込む。

音もなく静かに開かれたドアの向こうに、俯いてる梨華チャンが
立っていた。

「終わったの？･･･保田サン帰った？」

首を回して聞いたあたしに、梨華チャンは俯いたままでこくん
こくんと二回頷いた。

暗れぇぇぇーーー
うへぇ〜　あたし苦手だ。この感じ･･･
けどなー　逃げ場なんてねーし。しかたねーなぁ。

「･･･何？なんか用あんの？
　だったら言ってよ？黙ってないでさ。」

げろ。なんか早口になっちまった･･･
さすがに、あんなことしでかして気マヅイあたしの声は硬い。
梨華チャンは無言のまま。俯いたまま。

12 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:34

あたしは小さく溜息をついて立ち上がった。
開いたドアの向こう側に突っ立ってる梨華チャンの腕を掴む。
その腕がしなるようにビクンッって震えた。

なんだかなあ。あたしってスゲー極悪人みたいじゃねえ？
けど。んな悪いコトしたか？してねーだろ？･･･たぶん。

「入って。」

掴んだ腕を引っ張った。取りあえず部屋ん中に入ったものの
相変わらず突っ立ったままの梨華チャンに、座れば？って
ソファベッドを指す。
さすがに横に座る気はしないから、その正面の何も置いてない
出窓のでっぱりにあたしは半分腰を乗せた。


「････････。」　　　　　　　「････････。」

あたしは黙ったまま、垂れた梨華チャンの頭を見てた。
ふいに梨華ちゃんが何か言った。
けど、その声は掠れてて。小さくて。
あたしには聞こえなかった。だから、聞き返した。

「･･･え？何？」
「なんでぇ？･･･な、なんであんなこと･･･したの？私に･･･」

13 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:34

梨華チャンの呟く声は悲しそうだった。
それでもあたしは、後悔なんてちっともしてない。
だから、思ったままを口にする。

「･･･したかったから。」
「･･･へ？」

今度は梨華ちゃんが聞き返してきた。
バッと上げられた顔は、信じられないって表情だ。
どことなく間が抜けて見える程。けれど、その頬は見る見るバラ色に
染まっていく。恥らうように。
梨華チャンの顔に浮かぶ感情の変化を、ジッと見ながら、あたしは
繰り返した。

「したかったからしたんだよ。アンタはイヤだった？」

あたしは意地悪く笑う。
そしてそんな自分に苦笑する。別に自分のことを性格がいいなんて
思っちゃいなかったけど、ここまで意地が悪いとは知らなかった。

あたしは梨華チャンの笑った顔を見るのが、スゲー好きだけど。
戸惑う顔も。泣きそうな顔も見たいらしい。･･･困ったもんだ。

梨華チャンは熱が五度は上がったんじゃねーかってくらい
真っ赤な顔になって、小さく首を横に振った。

「･･･イ、イヤとか、そ、そういうんじゃなくて･･････」

14 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:35

「じゃ、いーじゃん？
　二人ともいいなら問題ないでしょ？」

あたしは立ち上がって、腕を組むと梨華チャンを見下ろした。
梨華チャンは上目遣いで、あたしを睨む。

「だ･･･だけどっ･･･ひとみちゃんの言うことって変だよっ！
　ふ、普通はっ･･･そ、そのぉ･･･そういうことする時って
　人前でなんかしないもんっ！問題あるもんっっっ。」
「問題あんの？何が？･･･あーそっちね？
　じゃする？今から？二人っきりだし、な。」

梨華チャンの顔から、サーーーッと表情がなくなった。
ヤバい。すげー面白い。もうちょっと遊んでやるか？

あたしは梨華チャンの前に膝をついた。
そしてゆっくりと頬に手を伸ばす。

が、その手がガシッと捕まれた。物凄い形相の梨華チャンに。
マズい。噴出しそう･･･
あたしは横を向いて一回咳払いすると、捕まれた腕を反転させて
逆に細い腕を掴んだ。そしてそのまま引き寄せる。

15 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:35

驚いた梨華チャンの顔が、あたしに近づく･････

枯れることのない永久の華。
梨華チャンの顔を間近に見ると。蕾だったその華が、花開こうとして
いるように感じる。微かにかかる息にさえ甘い蜜の匂いをさせて。
･･･花盗人はさ、罪にならないってアンタ知ってる？

なんだかあたしは、おふざけの遊びだけで終われるのか自信が
なくなってきた。

どう見ても嫌がってねーだろ？ならいいか？
このまま流されちゃおうか？この感情の波に。
･･･それも案外いいかも知れない。

もう一度、捕まえた腕を引っ張ると、触れ合いそうな唇から
震える声がした。

「こ、こんなことしたら･･･困るのはひとみちゃんなんだから･･･」
「･･･困まらねーよ。」
「･････嘘。」

梨華チャンは俯いた。サラリと揺れる髪の一筋があたしの
唇に微かに触れた。

16 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:35

「きっと･････きっと。
　･･･噂になっちゃうと思うの。･･･ひとみちゃんとのこと。
　保田さんは、あの写真使うもの。すごく良さそうな絵だったって
　喜んでたし。そしたら･･･
　あれを見た人はみんな、私たちのこと噂するよ？
　面白可笑しくあることないこと言うに決まってるもんっ！」
「じゃ･･･責任とってよ、噂の。ね？梨華チャン。」
「責任･････？」

顔を上げた梨華チャンは、なんで自分が？って顔してる。
そりゃそーだ。

あたしはさ？梨華チャンの傍から離れる気なんてない。
噂上等、するなら勝手にしてろってカンジだ。だから。

「そー。要するに。
　あたしは梨華チャンと出来てるって、みんなが思うってことだろ？
　･･･だったら、それでもあたしは構わない。･･･だからさ。
　梨華チャンが養ってよ？あたしを。
　その代わり、ずっと美味いメシ食わせてやるから。」
「･･･そ、そんな･･･の･････」

17 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:36

梨華チャンは忙しなく瞬きを繰り返してる。
その眼は、いろんな感情がせめぎあってるらしく、映し出す表情を
慌ただしく変えて行く。そしてそれを繰り返す。
あたしはそれを黙って見てた。
格闘の末、どんな答えが出たのか、梨華チャンはあたしを見た。
真っ直ぐに。

「･･･私が書けなくなったらどうするの？」

げっ！ソコに引っかかるのか？
別にヒモになりたいわけじゃねーんだけど？あたし。

あたしにだってプライドってモンはある。
だから、今、梨華チャンに言った言葉だって、実は結構前から
考えてたことだけど、なかなか言えずにいたんだ。
あたしを食わせてくれ、なんてさ。けど。

人はみんなそれぞれだ。その関係にいいも悪いもない。
他人の目にどんな関係に映ろうとどうでもいいことだろ？

18 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:36

人と比べることや、他人に認めてもらうことにもたいした意味
なんてない。違うか？･････あたしは思ったんだよ。
関係を結ぶ二人が、これでいい、と思えるのなら。それでもう
いいんじゃないかって。そうだろ？

あたしは軽く微笑んだ。

「･･･いいよ。そしたらあたしが稼ぐから。」
「で、でもっ･･･私、ひとみちゃんみたいにお料理もお掃除も
　得意じゃないもんっ」
「だから･･･いいんだって。
　役割を決めるとか、そういうことが言いたいんじゃねーから。
　そしたらそっちも、あたしが面倒見てやるし。」
「そっそんなの･･･そんなのダメだよぉ･････」

梨華チャンは眉を寄せ、泣き出しそうに顔を歪めた。

「･･･なにもかもひとみちゃんまかせなんて絶対ダメッ！」

起こっても無い架空の話に、梨華チャンは熱くなって、あたしに
捕まれてた腕を、力を込めて掴み返してきた。

19 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:36

「私っ頑張る！すっごくすっごく頑張って、お話を書くからっ
　きっと立派な小説家になって、絶対にひとみちゃんを苦労させたり
　しないからっ！だから安心して？！」

･･･なんだかな。燃えどころが微妙にズレてる気もするけど。
ま、いっか。そこが梨華チャンらしいとこだし。

だからあたしは、ニヤリと笑って、期待してるって言っておいた。

「あ、でも。ネタに困っても、あたしのこととか書くなよ？」
「･･･え゛っっっ！」

カチーッンと固まった梨華チャンの、さっきから捕まえてる腕と
もう一方の腕も捕まえて、あたしはその引きつった顔を見上げる。

「アンタってさ〜
　前から気になってたんだけど、ひょっとして、ヘンな幻想持ってない？
　･･･あたしに。」

ビクッと後ろに引こうとする身体を、腕に力を込めて止めた。

20 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:37

「言っとくけど。
　あたしはアンタの夢見てる王子サマみたいな、キャラじゃないぜ？
　･･･たぶん。
　だからアンタはきっと書けないよ。あたしのことは。」

え･･･？って。
驚いたように、僅かに開かれた梨華チャンの唇。
あたしは素早く、無防備な口許の下唇を、自分の唇で挟んで吸い
上げた。最後に軽くチュッと音をさせて離す。
そして、二人の唇の距離が遠くなる前に、上唇を舌先で舐め上げてた。
　
「･･･アンタって、ほんとわかってねーなぁ
　二人っきりの時にこんなことしちゃったら、それだけじゃ済まねー
　んだって。」

あたしは、微かに震えだした梨華チャンの口許を横目で見ながら
ゆっくりと、その身体をソファに沈めて行く。

「･･･っ！？･･･ちょっ、ねっ･････あ！」

あたしは腕に力を込めて、身体を起そうとする梨華チャンの動きを
封じる。そして耳元に顔を寄せ囁いた。

21 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:37

「･･･ね？見たくない？アンタの知らないあたしを。
　あたしは見たい。･･･今まで知らなかった、アンタのこと。」

そのまま耳朶を甘く噛んで、首筋を舌先でなぞる。
自由を奪っていた両腕を離して、襟ぐりの開いたセーターの首元に
指先を忍ばせると、すべらかな肩先の丸みを帯びた感触を愉しむ。

あたしの手は冷たい？
ビリビリと見えない緊張の糸が張り廻らされてる身体。
スローなステップを踏むように、踊るあたしの指先。

首筋から続く、鎖骨が綺麗に浮いた繊細なラインを、あたしの
舌先は、下へ、下へ、と辿っていく。

「･･･んっ、んん･････」

堪えきれずに零れてしまったような温度の高い吐息。
それがかかると、あたしの髪が微かに濡れた気がした。

はだけた薄い肩に、いくつもの口づけを落としながら、横たわる
身体を少し斜めにして、セーターの裾から手を入れた。
指先を広げ、優美な隆起を描くカーヴに手が届いた、その時。

22 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:38

「あああぁぁぁーーーっっっ!!!」

耳を劈くような絶叫と共に、あたしはすっ飛ばされた。
ソファから落ちて、呆気にとられてるあたしを見もしないで
梨華チャンは、猛然と立ち上がった。

「たっ大変っ！そうっ大変なのっっっ大変、大変っ！！！」

闇雲に大変だけを繰り返して、物凄い勢いで部屋から出て行って
しまった。･･･速えぇぇーーー･･･

お〜〜〜い･････

あーーーあぁ･･･逃げられちゃったよ･･･
･････ま、しょうがねーか？いきなりだしな。

梨華チャンには、ちょっと刺激が強すぎた？
なーんか、ついついマジんなっちまったし。

目の前にご馳走ぶら下げられて、我慢出来るか？ってな。
･･･まだまだだな。あたしも。

23 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:38

あたしは俯くと、声を殺して笑い出した。

今日のとこは逃がしてやるよ？･･･だけどさ。
あたし達は、ひとつ屋根の下。いつまでも逃げれると思うなよ？

梨華チャンの困った顔や、イィーーッダってしてる顔が、あたしの
頭に次々浮かんだ。

いつからか。アンタはあたしの中に住みついちまった。
そんで、出てこうとしないんだ。

な、アンタはさ？今みたいなあたしをどう思う？
今まで見たことないだろ？
自分の感情の趣くまま、突っ走る強引なあたし。

ひょっとして、ちょっとはイヤになっちまった？

けど。
アンタだって、あたしに見せてないとこをまだまだいっぱい
隠してるだろ？

24 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:39

これからさ。一緒にいる時間が長くなればなるほど、色んなことが
あって、もちろんいい時ばっかなわけなくて、傷付け合ったり
顔も見たくないって思う日が来るかも知れないよな。

そんな、そんなさ？
いい時も悪い時も、ずっと一緒にいて。
いろんな想いが増えたり、減ったりして。それを繰り返して。

それでも。
いまあたしの真ん中にアンタがいるように。

ずっとそこにアンタがいてくれるなら。
たぶんアンタは、あたしにとってのかけがえのない何かに
変わって行くんだろう。

変わって行く中にあるからこそ、代わりが無いってわかる想い。

そしたら、あたしはいつか･･･
いつか、アンタが居続けるその場所のことをアイって名前で
呼ぶのかも知れない。

25 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:40

だけど。
そんな悟りきったようなセリフは、全然あたしらしくない。

アイとかコイって呼ばれるモンに、上手く出来るレシピなんて
ねーから･･･
ひとさじ、ひとさじ、様子を見ながら、自分で確かめて行くしか
ないんだろう。

優しい味や、甘い匂いに仕上がるとは限らなくて、苦すぎたり、
辛さに我慢できなくて、吐き出したくなる時もあるだろう。


それでも。･･･一緒にやってみようよ？


そして。それがどんな味でも。
二人で味わって行けたなら、それでいいと思わねぇ？

26 名前：〜アイ〜 投稿日：2004/10/09(土) 15:41

だから。

傍にいようぜ？･･･････ずっと離れないで･･･さ。






おしまい。

27 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/09(土) 15:41

更新終了致しました〜
お叱りをうけそうで････････コワイ。

そして。レスをありがとうございました。
マジで、レス下さった方がいらっしゃるから、書いて
これたんで。感謝してます。

28 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/09(土) 15:42

414名無飼育様。
　今回、お気に召して頂けるか？ドキドキドキ･････

415名無飼育様。
　続きましたよぉ〜〜〜こんな感じでｗ

416名無飼育様。
　ヤルと決めたらプロ並目指してってキャラですからｗ

417名無飼育様。
　いいとこ隠し。自分も少ぉ〜し、意地が悪いんでｗ

いつもの名無し様。
　気づくとことつかないとこの落差が激しそうですな、彼女はｗ

419名無飼育様。
　嬉しいお言葉をありがとうでした！

29 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/09(土) 15:42

また話が浮かんだら、書きますんで！
時間が空いてしまうかもしれませんが、その時にまたお付き合い
頂くことが出来たなら、最高にハッピィ〜♪です。

30 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/09(土) 20:08

更新＆完結お疲れさまでした。
くぅ〜〜〜！！！
よっちぃ〜カッケー！！カッケー！カッケー！！！！
もうね、ウォーウォーって叫びたい感じでした。(ｗ
しかし梨華ちゃんは相変わらずどこまでも(ｗ
このお話の続き・・・読んでみたくなりました。

では次回作待ってます！

31 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/09(土) 22:13

完結お疲れ様です！
最後まで可愛い梨華ちゃん＆カッケーよっすぃ、最高です。
今後の二人の関係も気になるところですが…。
次回作も期待して待ってます！

32 名前：ラヴ梨〜 投稿日：2004/10/10(日) 02:01

完結おつかれさまです
やっぱり、群を抜いてうまいと全編をとおして感じました
キャラクタ描写が魅力的すぎて、作者様の描く梨華ちゃんに惚れないわけがない状態です
次回作も期待してます

33 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/10(日) 03:19

やほ―――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!
やったぜベイビー
梨華ちゃんあなたは何故そんないいとこで・・・・・・・・
梨華ちゃんのﾊﾞｶﾊﾞｶﾊﾞｶﾊﾞｶ

きちんと契りを結んで欲しいわ
くぅぅぅぅ
それだけが・・・心残り・・・・ｶﾞｸｯ

34 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/10(日) 03:24

あ　書き忘れた

あなたの小説を待ったり読んだりした期間は
とても興奮しました

ありがとうございました

35 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/10(日) 09:39

完結お疲れ様です！！

いきなりの最終回でびっくりしましたが
ほんとおもしろかったです。(>_<)
作者さんの描くいしよしサイコーｗｗ

次回作期待しつつ続編も期待したりして。

36 名前：プリン 投稿日：2004/10/10(日) 14:50

完結お疲れ様でしたー！
すんげーﾖｶﾀですｗｗ
毎回、『おっ、更新されてるー！』なーんて喜んでましたｗ
最後梨華ちゃんとよっちゃん、どーなったのか気になりますが（ｗ

次回作も期待してます！
ﾏﾀｰﾘ待ってまーす！頑張ってください！

37 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/10(日) 22:44

最後までｲﾁﾞﾜﾙよっちぃでしたねｗ
34さんと同じく
更新の度に次の展開を考えたり
凄く楽しい時間が過ごせました
ありがとうございました。

38 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/10(日) 23:55

完結お疲れ様でした。
おもしろかったで〜す。梨華ちゃん、逃げちゃったけど（笑）
更新されてると嬉しくて、待ってる間も
楽しみで、本当にありがとうございました〜♪
ぜひぜひ、いしよし・書き続けて下さいね！！

39 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/11(月) 16:59

とても良かった。
続編に期待！！！！！！

40 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/14(木) 01:12

えーーー始めに。
申し訳ありませんが〜アイ〜絡みではないので、ご了承の程
お願い致します。
一話限りの短編です。よろしければお付き合い下さいませ。

41 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:14

眠れないの。
そうメールを打てば、あたしの部屋に来てくれる優しい恋人。
なのに･･･
よっちゃんの存在は、いつでもあたしを頼りなく不安な気持ちに
させる。

いつからかな？
あたしの胸の中で一匹のサカナが泳ぎだしたのは。

42 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:14

そのサカナは尾ひれをふらふら揺らして。
こっちを見てって呼んでたの。

よっちゃんがふと何かに気づいたようにこっちを向いて、笑ったり
すると、サカナは身体を真っ赤に染めた。

赤いサカナは嬉しくて、ぼちゃんっと跳ねた。
あたしの胸の真ん中で。
だからあたしの胸も、サカナが造る波紋に合わせて、ゆらゆら
揺れたり、ざわざわ波立ったり、休まる暇がない。

だけど。
サカナは水槽の中から出られない。
愛しいあの人の笑顔は、いつでも透明な衝立の先。
こんなに近くにいるのに。
あたしが手を伸ばせば、触れられるのに。
なにかにいつも怯えてる、怖がりなサカナ。

43 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:15

よっちゃんは、あたしの部屋に来ると、コートを脱ぎながら
あたしの顔を見て、肩を竦める。

ほんの少しだけ、イジワルそうなキレイな目。
あたしの心の真ん中に深く食い入るような眼差し。
その目に見つめられると、サカナが鷲掴みにされて･･･
あたしの心臓がギュッと縮む。

「よっちゃん･････」

小さな声で名前を呼ぶと、長い腕が伸びてきてあたしを
抱きしめてくれる。
透き通りそうに薄い肌。胸元の一際白い肌の色が眩しくて
あたしはそっと目を瞑った。

あたしが飼ってるサカナ。
よっちゃんのことばかり考えてるの。
あんまりよっちゃんのことばっかり考えてるから･･･
なんでそんなに考えちゃうのかわからなくなってきて。

･･･あたし、怖くなる。

44 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:15

よっちゃんは、あたしのパジャマのボタンを一つ、二つと
外すと、服の中にこもってたあたしの体温を奪うように
冷たい手を忍ばせてくる。

「手。冷たいよ。」

あたしがつっけんどんに言うと、よっちゃんは手を引いて、
今度は唇を寄せてくる。

「唇も！ちょこってあたる鼻も冷たいのっ」

よっちゃんの頭がピクッて震えて、怒らせちゃったかな？って
少し、不安になる。
だってあたし。抱いて欲しいんじゃないんだもん。

だけどよっちゃんは顔を上げないで、今度は熱い舌を押し当てた。

「違うのぉーーーっ」

あたしがよっちゃんの身体を押し退けると、さすがに苛立った声が
返ってきた。

45 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:16

「･･･っんだよ？
　よく眠れるよーにして欲しーんじゃねーの？」
「･･･えっちしてなんて言ってないもんっ！」
「あーそー
　んじゃ、何すればいいわけ？
　眠くなる話かよ？･･･なんじゃそりゃ？どんなネタだよ。
　それか、子守唄でも歌えってか？」

あたしの言うことがわからないって顔するよっちゃん。
だけどあたしにもわからない。
なにがしたいのか？どうして欲しいのか？
だけど傍にいて欲しいの。
こんな風に眠れなくなっちゃった夜には。

「もしもーーーし。
　こんな寒みぃー夜に呼び出してさー
　その顔はなんなの？
　あたしに、どーして欲しいか言えよ？」

･･･わかんないんだもん。

「好きにしてていーよ？
　よっちゃんの好きにしてて。」

46 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:16

フンッて鼻で笑う声がしたから、あたしは居た堪れなくなって
丸めた膝に顔を埋めた。

「ほんっとわかんねー女だな。
　じゃーいーよ。好きにするから。」

よっちゃんが、ゴソゴソ動く気配がする。
あたしが顔を横にずらして見ると、携帯を手に持っていた。
そして、あたしの方を横目で見ながらよっちゃんは声を出す。

「あ〜〜〜ごっちーん？
　んーあたしぃ。ねーいま暇？今からそっち行っていい？」


えっごっちん？！
ヤだっヤだヤだヤだぁ〜〜〜〜!!!

あたしは、よっちゃんの手から携帯を取り上げようと手を
伸ばした。
よっちゃんはあたしを軽くかわすと、立ち上がる。

「わかった。
　コンビニデザートねー　ラジャッ！」

47 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:16

携帯を片手でパタンッと折りたたむと、ヘタリと座り込む
あたしによっちゃんは言い放つ。

「んじゃ。吉澤、帰りまーす。」
「ダメッ！行かないでっ
　ごっちんのとこには行っちゃダメーーーッ」
「･･･好きにしろって言ったのそっちじゃん？
　だから好きにさせてもらったまで、つーことで。」
「ごっちんトコはヤだってばーーーっ！」
「あのな？付き合いきれんのよ。ワケわかんなすぎて。
　･････じゃーなっ！」

よっちゃんは無造作に放ってあったコートに腕を通すと
振り向きもしないで、出て行ってしまった。

バカ･･･
よっちゃんの･･･バカァーーーッ

あたしはぐすんっと鼻を啜りながら、コートを持つと部屋を
飛び出した。

48 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:17

ごっちんの部屋の前。
キッチンの前のガラス窓が、換気の為か少し開いている。

もわもわと上がる蒸気が見えて、二人が淹れたての熱いお茶を
飲みながら談笑してる姿が目に見えるよう。
･････見えないけど。

二人がギャハハハハと楽しげに笑う声が響いてきた。
あたしは身体だけじゃなくって心の中までシーーーンと冷える。

ごっちんはよっちゃんのモトカノ。
二人はとても気が合ってたんだって。
なんで別れちゃったのかは、あたしは知らない。

あたしがごっちんとのことを聞くと、妬いてんの？って
いつでもはぐらかされちゃうし。
いまはマブダチってよっちゃんは笑う。

ごっちんのことは、あたしも好き。
すごくいい子ってわかってる。魅力的なのも知ってる。
奔放なとこがあるのに、どこか脆そうで。
見えない翼を持ってて、留まることをしないで、羽ばたいて
行きそうな子。

49 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:17

だから。
よっちゃんが好きになったのもわかる気がする。

･････よっちゃんはね？
きっとあたしのこと、そんなに好きじゃない気がする。
いつでも、恋人になれても、少しだけあたしは片想いなの。

だけどそれでいい。それが落ち着くの。
ガラスの水槽の中から、サカナは外の世界に憬れる。
キラキラした世界。
愛しいあの人が息する場所。

それでも水槽から出るのは怖い。
あの人への気持ちの濃度があまりに濃すぎて、隔てるフィルターが
なくなってしまったら、きっとサカナは息することさえ出来なく
なってしまうから。

それにここから見る外の世界はいつでも綺麗。
あの人の笑顔も。あの人の声も。
あたしはうっとりと、安らいだ気分になれる。

「よしこさぁ〜まーだ梨華ちゃんと続いてんだよねぇ〜」

突然、自分の名前を言われて、あたしは飛び上がる程、驚いた。

50 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:18

「んーまぁーねぇ･･･」
「ごとーと付き合ってる時から、よしこの追っかけみたいだった
　よね？あの子。
　よしこを見る目がさぁ〜なんつーの？ありえないくらい乙女
　しててさ〜もうこう目がハートみたいな･･･あはっ
　よしこキショくないの？」
「まーキショいっていえば、キショいんだけどな〜
　いま一応あたしの彼女なワケじゃん？アイツ。
　なのにこうーなんつーか距離が縮まんないわけ。
　観察されてるみてーつーか、観葉植物かよっオレは？みたいな？」
「あっぶなーい！観察日記とかつけられてたりして？」
「アハハッ･･･て、してそーで笑えねーよっ」
「ストーカーみたいにずっとついて歩かれてたりして･･･
　よしこは今日、○○してました。みたいなね？ヤバッ！てか
、疲れない？そんな付き合い方してて？」
「まー疲れるって言やー疲れるわな。
　いまいち本音言わねーから、何考えてっかわかんねーし。
　なんだよ？そんな気にしてくれちゃって。ヨリ戻そうってか？」

51 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:18

「自惚れないでよ〜
　そもそもねぇごとーを口説きたいなら、あっちと別れて･･･」

ダメッダメダメダメ！それだけは･･･

「ダメーーーーッ!!!」

気づいたら、あたしは大声を出してしまっていた。
慌てて口を押さえた時、がちゃりとドアが開く。

「･････ほんとにつけてきてるし。」
「ウハハハハッ最高っ！梨華ちゃんって、危なすぎーーーっ」

呆然としてるよっちゃんの肩をバンバン叩きながら、ごっちんは
目に涙を浮かべて笑ってる。
･･･あーーーっやってしまいました、あたし。

「･･･いーかげんにしとけよ？」
「ハイ･････」

よっちゃんの呆れた声に、あたしはしゅんっと肩を落とした。

52 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:19

「･･･はぁ」

よっちゃんは小さく溜息をついた。

「コイツ送って来るわ。
　なんか悪りーね、ヘンなこと巻き込んじゃって。」
「いいって。かなり面白かったから。」

お前は謝れって頭を押されて、あたしはぺこんと頭を下げる。

「･････ゴメンナサイ。」
「いーよぉ。今度、ごとーとも遊ぼうねぇ〜」

朗らかな声にホッとして顔を上げると、ごっちんは笑ってた。

「行くぞっ！」

怒ってるのか、呆れてるのか、恥ずかしいのか、よっちゃんは
いつもの素っ気なさに輪をかけた投げやりな感じで、そう言うと
サッサと前を歩き出した。
もう一度、頭を下げて顔を上げると、ごっちんがバイバイって
手を振っていた。

53 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:19

無言のよっちゃんの後を、やっぱり無言でついて歩くあたし。

なんだかごっちんと、また差がついちゃった感じ。

どうしたらいいのかな？
失うことが怖くって、どんどん何も言えなくなるあたし。
よっちゃんへの抱えた想いを持てあましてるあたしは、何が
したいのかわからなくなって、トンチンカンなことばかりして
しまう気がする。
こんなあたしが、どうしたら、いつまでもよっちゃんの心の中に
いれるのかな？

このままじゃ、そのうちほんとに怒らせちゃって、捨てられちゃったり
忘れられちゃう日がきちゃうかも。

ごっちんみたいによっちゃんから離れて行ったら、今よりもっと
あたしのことを考えてくれるようになるのかな？

こんなあたしでも、思い出になれたら、よっちゃんはあたしのこと
ずっと覚えたままでいてくれるのかな？

54 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:20

「ねぇ？よっちゃん･････」
「ん？」

よっちゃんは穏やかな声で振り返る。
暗い夜道。月の淡く柔らかい光を浴びて浮かぶ美しい顔。

「もし･･･もしもあたしが。
　ある日突然、よっちゃんの前からいなくなったら･･･
　よっちゃんあたしのこと、ずっと忘れないでいてくれる？」

よっちゃんがあたしのことを忘れないでいてくれるなら･･･
あたしのことを思い出す時間だけは、よっちゃんはあたしの
ことだけ考えて、あたしのものになってくれるはず。

よっちゃんの大きな目が、なぜだか切なげにあたしを見つめる。

「･･･忘れるよ？･････あたしは･･････
　忘れっぽいからね？傍にいないとすぐ忘れちゃうんだ。」


じゃあ、あたしはどうしたらいいのっ？！
ずっと、ずっと･････そう、ただ、ただ、どうしていいか
わからなくなっちゃうくらい･････あなたのことが欲しくて。
ほんとは････独り占めしたくて。

55 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:20

サカナが跳んだ。
高く、高く、あたしの心の見えない境界線を越えて。

溢れる想いの渦に押し上げられて。
愛しいあの人に背中を向けられ、いつか忘れ去られてしまうくらい
なら、水槽の中で飼われることは死んでいくことと同じこと。
ならば出て行け。
もうここが安らかな楽園なんかじゃないことに気がついたなら。

あたしは叫んだ。身体を二つに折って。声を張り上げて。

「じゃぁっ･･･傍にいてよっ！
　ずっとずっと･････離れないでっっっ!!!」
「･････いいよ。」

涙でぐちゃぐちゃになってたあたしの視界。
それがいつの間にか見慣れたコートで塞がれている。

よっちゃんはあたしの頭をグシャグシャッと撫でた。

56 名前：恋するサカナ 投稿日：2004/10/14(木) 01:21

「･････やっと言ったな。
　これからはさ、思ってること、そうやって口に出して言ってよ？
　あたしは鈍感だから、なんにも言われなきゃ、何もわかって
　やれないよ？
　だけど･････言われたことを聞いてやることと、自分の言ったことに
　守ることくらいは出来ると思うから。」

あたしは頷いた。何度も。ただ頷いた。

あの臆病なサカナはどこにいってしまったんだろう？
もうあたしの心の中には何かを怖がり、身を守る透明な垣根は
なくなってしまっていた。

顔を上げたあたしの目に映るのは、甘い微笑み。

「そうだな〜
　後は･･･とりあえず、キスがしたいよ。」

よっちゃんの指があたしの顎をそっと撫でて、持ち上げた。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終。

57 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/14(木) 01:21

ちらりと覗いたら、頂いたレスが嬉しすぎて。
ちょっと調子に乗って、勢いで短編など上げちゃ自分が
かなりイタイと思う秋の夜。

なんだかな。自分でもいまひとつの気もしますが、
ま、こんなモンなんでｗ
暇つぶしにでも読んで下さるなら光栄でございます。

58 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/14(木) 01:23

感謝！感激!!!レスのお礼に参ります。


いつもの名無し様。
はい。ありがとうございます。
続きですか？考えてみますが･･･いつになることやらｒｙ


31名無飼育様。
はい。ありがとうございます。
今後の二人関係･･･ちょっと想像つく感じしません？ｗ


ラヴ梨〜様。
はい。ありがとうございます。
イヤ〜またまた過剰評価を頂いて恐縮でございますぅ〜


33＆34名無飼育様。（同じ方でよろしいですよね？）
アハハハッ！
自分の書く梨華チャンの味なんで大目に見てやって下さいｗ
こちらこそ、嬉しすぎる御言葉ありがとうございます。

59 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/14(木) 01:24

35名無飼育様。
はい。ありがとうございます。
びっくりさせて申し訳ない！楽しんで頂けてたなら良かったです。


プリン様。
はい。ありがとうございます。
どーなったんでしょう？そのうち書けたら書こうかと･･･ｒｙ


37名無飼育様。
自分の書くものを読むことが楽しみな時間にカウントして下さる
なんて、こちらこそ、ほんとにありがとうございました。


38名無飼育様。
はい。ありがとうございます。
頑張って書いてみましたがｗ･･･どうなんだろ？


39名無飼育様。
ありがとうございます。
書けるだろーか？あまりご期待なさらないことをお勧めします。

60 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/14(木) 01:30

リアルタイムでドキドキしながら読ませてもらいました。
初レスですが、いっつも楽しみにしてます。
名無し飼育作者さんの大ファンです。これからも楽しみにしてます。

61 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/14(木) 02:46

ぬふっ
短編だー
梨華ちゃん乙女だね　かわいい


33と34は同じ人ですよー

62 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/14(木) 09:20

更新お疲れ様です。
キショキャラ梨華ちゃんかわいすぎいｗｗ
勢いで書いた短編と思えないです。
作者様すごすぎです(>_<)

63 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/14(木) 22:46

更新お疲れ様です。
何だか拙者不覚にも。･ﾟ･(つД｀)･ﾟ･。うるうるしてしまったでござる。
切腹しとこうかな？(w

64 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/15(金) 19:43

〜アイ〜のサイドストーリーです。

ただ、あまりいしよしとは言えない模様なので、上げるか
迷ったのですが、本編更新時から考えていたお話なので
思い切って上げさせて頂きます。

気に入って下さる方がいらっしゃれば嬉しいのですがｗ
どうだろ？ちと不安･････

65 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:44

そもそも事の始まりは。
雑誌に乗ってた季節のフルーツケーキが美味しいお店に
美貴が行ったとこから始まる。

その店で偶然見かけたアクの強〜い顔。
眼光をギラつかせて。
シーサーだっけ？ほらあの、沖縄名物の獅子。

それがウンウン唸ってるんだから、怖いもの知らずって友達の間で
有名な美貴も、さすがにちょこっとビビッたね。

けど。
美貴の出身校である女子高は、割りとお堅い、上下関係やら
挨拶やらに拘っちゃう校風だったから、それが染み込んでた
美貴は、先輩の顔を見つけたら、無視なんか出来ない。

「保田･･･先輩ですよね？ご無沙汰しています。」

66 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:44

保田先輩はギョロッと大きな目を美貴に向け、誰だっけ？と
いう顔をした。

なぁ〜んだ、覚えてないんだー
考えてみれば、それもそうか？

保田先輩と美貴は同じ学校に通っていたと言っても、その時期が
微妙にズレている。
なのになんで美貴が知ってるかというと。
部活が一緒だったから。それだけのこと。

美貴が通ってた学校は、部活にリキが入ってて、必須科目扱いだった。
生徒の自主性を重んじて、やりたいことをなんたらかんたら。
一週間の中で、半日だけ授業を潰してまでやらせるんだから
その力の入れようは半端ではない。

そして。
その成果の発表の場。それは学園祭。
そんな流れで、それを望む卒業生には毎年招待状が送られる
ことになっている。
学園祭の後でOGを囲んで、反省会だか感想を聞く会って、ワケの
わからない内輪の集まりがあるのも恒例のことだった。

67 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:45

先輩は今、どんなお仕事をなさっているんですか？

当たり障りのない会話。
普段なら忘れてしまう社交辞令。

なのになんで美貴が覚えてたかって言うと、アクのある顔や
押しの強い雰囲気とかじゃなくて。
保田先輩の仕事が、雑誌の編集者だったから。

格好いいじゃん？
なんか。バリキャリアーウーマンって感じで。

「岡村女学園の後輩です。
　学園祭の後、お話させて頂いたんですけど、覚えて
　いらっしゃらないですよね？」

･･･あぁ。保田先輩は目許を緩めた。
覚えてるとも覚えてないとも言わないとこを見ると、やっぱり
覚えていないんだろうなー。

「先輩の会社、このお近くなんですか？」
「･････そこ。」

保田先輩は店のガラス窓の先にあるビルを指差した。

68 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:45

美貴は意識して、感じの良いお嬢さん的に微笑む。

「確か。雑誌の編集なさってるんですよね？
　お忙しいでしょう？お疲れ様です。」

美貴の言葉に、保田先輩は驚いた顔をする。

「あなた、よく憶えてるのね？･･･一回会っただけでしょう？」

美貴はゆっくり頷いた。

「あたし、人の顔とか憶えるのわりと得意なんですよー」

なんちゃって。
好きなこととか、興味のあることは確かに忘れないんだけどね。
けど。就職難のこのご時世。
よさげなツテは逃さないように、自分を売りこむのは当たり前。

保田先輩は値踏みするように美貴の顔を見た。

69 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:45

「あなた･･･今、大学生？お名前は？」
「はい。藤本美貴です。」
「何かアルバイトしてる？
　もしこの業界に興味があるようなら、バイトしてみない？」


こうして美貴は雑誌社のバイトになったのだった。


保田先輩の所属部署がジュニア小説って聞いた時は、一瞬
げっ！って思ったけど。
何事も経験。美貴は切り替えが早いのだ。

それに仕事って行ったって、子供のお使いみたいなのと
作家さんのご機嫌伺いぐらいなもんだし。

自分で言うのもなんだけど、勘が良くて要領のいい美貴は
気難しいって言われる作家さんにも、そこそこ気に入って
貰えたって思う。そして保田先輩は･･･
藤本ってこの仕事に向いてるかも知れないわねぇ、と言う
ようになった。

70 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:46

ある日、保田先輩が美貴を呼んだ。

「藤本にまかせたい子がいるのよ。」
「はい？藤本にですか？」
「問題のある子じゃないから。ずっとあたしが見てきたんだけど。
　ちょっと視野が狭いとこがあるのよ？
　田舎から出てきて、あんまり知り合いもいないみたいだし。
　だからこう、友達みたいに接してやって欲しいの。」


そして美貴は梨華ちゃんに引き合わされたのだった。

今時、こんな子が残ってたんだって美貴は思ったね。
よく言えば、生真面目で純情。
ストレートに言っちゃえば、融通の利かない世間知らず。

だけどさ。なんかこう。放っとけないんだよね？
突っ込み好きの美貴としては、ついつい構わずにはいられない
天然ボケが染み付いた体質。

だからあるイミ。
美貴は興味と執着を持ってしまったんだ、梨華ちゃんに。

71 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:46

そんな梨華ちゃんが少しづつ変わって行ったのは
ある女の子と同居し始めてから。
彼女の名前はひとみちゃん。

梨華ちゃんのもともと甘ったるい声のトーンが、彼女の話を
する時に、大盛砂糖三倍分上乗せされてることは、きっと
無自覚の大サービスなんだろう。

ただでさえ、生身の女って言うより夢見る人形みたいだった
梨華ちゃんは、どんどんそっちの世界に傾斜していく。

もともと勘が鈍くて、先の読めない梨華ちゃんは何かに気を
囚われだすと、もう目の前にいる美貴の話さえ聞いてるようで
耳に入ってないようだった。

色ボケですか。そうですか。

梨華ちゃんは一人で突っ走る暴走列車だ。
周りの風景はおろか、自分の向かう先さえ、なんにも見えちゃいない
に決まってる。

72 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:47

ほんのちょっとだけ。つまんないって思った。

だけどそれは、ずっと美貴の後をついて歩いてた近所の子が
引越し先で、違う友達を見つけてしまったみたいなもんで。

胸が痛むとか、何かを失くしてしまったとか。
そんな風に心が打ちのめされる感情にはほど遠い。

だたなんとなく寂しいだけ。

美貴が小さく溜息をつきながら、デスクに行くと吹き飛ばされそうに
でっかい溜息をつく保田先輩がいた。

「ど、どうしたんですかー？」
「あ、藤本？お帰り。」

保田先輩はかったるそうに顔を上げた。

「そうだ。お茶しに行かない？」
「え？奢ってくれるんですか？」
「もちろん。ただし社員用の自販だけどね。」

ちぇっ！

73 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:47

衝立で仕切られてる、喫煙コーナーで保田先輩は煙草に火を
つける。
紫煙の向こう側の顔は、なんだかいつもより疲れて見えた。

「石川･････ヤバいかも。」

･･･え？
ポツリと保田先輩が漏らした呟きは、美貴に聞かせる為って
言うより、独り言に近かった。

「一応、次の連載枠は死守出来たけど。
　･･･それで結果が出せなかったら、その次は･･･あたしでも
　守ってやることが出来ないわ。」
「･･･そう、ですか。」
「あの子には足りないものが一杯あるってわかってる。
　プロとしてやっていく意識の低さとか、経験とか。
　だけどそんなものは身につけようと思えば、身につくのよ？
　それよりあの子には、原石みたいな核になる部分がちゃんと
　あって。･･･それが見つけられたのに、輝かせてあげられない
　自分が歯がゆいのよ。」
「･･･保田さん。とりあえず、今の梨華ちゃんの一番問題なとこって
　どこだと思います？」

74 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:48

「･････そうね。
　やっぱり経験の足りなさかしら？
　今まではそこも売りだったのよ。現実をわかってないから
　溢れ出す想像力ってあるじゃない？
　女子高生作家だったしね。･･･だけどそれももう限界。
　あの子はもう制服なんて着てないから。
　半端に大人になって行く感性と、伴わない経験値。
　バランスが悪いのよ。
　あの子が脳内だけじゃなくって生身で恋愛出来ればねぇ･･･
　必ず、いいものが書けると思うわ･･･あたしは。」

ここの師弟関係はホントにガチガチ。
保田先輩は鬼の編集って、ちょっとは恐れられてるような人なのに
梨華ちゃんに対してだけはメチャメチャ弱気で、強引なやり方を
したことがない。

だけどね、それじゃダメなんですよ？保田先輩。
梨華ちゃんはかなりニブいんだから。
保田先輩がキリキリ胃の痛む思いで、自分を見てるなんて
きっと気がついちゃいないんです。

75 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:48

仕方ないなぁ〜

ここは美貴のオハコの強引さで、一肌脱いであげるとしますか。

「保田先輩。梨華ちゃんは恋してますよ？
　ただ、本人が気づいちゃいないですけどね。」
「え？えぇぇーーーっ？！
　ふ、藤本っソレほんと？！･･･あの子が？！
　いつどこで？って、相手は誰なの？あんた知ってるの？！」

赤い布を目の前で振られた牛のように、興奮しだした保田先輩を
まぁまぁ、と美貴はなだめる。

「ちょっと時間を下さい。
　相手の子の気持ちが梨華ちゃんに向いてるかもわからないし。
　あ〜〜〜でも失恋ってのも、人を成長させますよね？
　取りあえず、もう少しリサーチしてみますから。」

失恋･･･呟いて、保田先輩は眼の色を暗くする。

出来れば傷つけたくないって表情で。
保田先輩が梨華ちゃんを大切にしてるのわかるよ？わかるけど。

76 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/15(金) 19:49

このままじゃ梨華ちゃんは夢を見る人形のままで、きっと大人に
なれないよ。
それじゃ困るんでしょ？保田先輩。

ま。まかせて下さいよ？美貴にね。

名付けて、恋の大作戦！

どんな花が咲くのか散るのか美貴にもまだわからないけど。
取りあえず、梨華ちゃんに咲かせてみせましょ、恋の花ってね。

77 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/15(金) 19:49

レスをありがとうございます。

60名無飼育様。
　リアルタイムでレス頂くの初めてです！自分もドキドキｗ

61名無飼育様。
　アーンド61様も同じお方ｗこのスレを可愛がって頂いて嬉しいです。

62名無飼育様。
　勢いと言っても、原案はあったんで。ただ書いたのが勢いですｗ

いつもの名無し様。
　お侍さまーーーっ！切腹はなりませぬ〜〜〜ｗなんちて。

78 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/15(金) 20:31

更新お疲れ様です。
いやぁ〜あの裏って言うかなんと言うか・・・
そう言うの見たいって思ってたんですよねぇ〜(w
美貴ちゃんのあの時の行動がわかるんですね(>へ＜)
次回期待です。

79 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/16(土) 02:42

ぉぉぅっ
こんな視点からっ
ちょっとわくわく

80 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/16(土) 21:59

更新お疲れ様です！

美貴様視点だ〜！！
私もあの時の美貴様の心境が気になったんですよね。
どきどきしながら待ってます(w

81 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:41

思い立ったら美貴の行動は早い。

次の日。
取りあえず、梨華ちゃんのマンションまで行ってみた。

今日は午後から外せない講義があるから、その前にと思った
のはいいけど･･･ちょっと早過ぎ？

うぅ〜む。こんな時間に訪ねてくってかなり不自然？
美貴は携帯の時計を見て、少し駅前で時間を潰そうかなって
考える。と、その時。

エントランスから出てくる人影。

目深に被ったキャップ。
襟足で明るい色の髪がサラリと揺れた。
大きなスライドで歩いてく、すらりとしたスタイル。
一見少年風だけど、よく見ると。
身体のラインの優しい丸みで女の子だってことがわかる。

アレは･･･ま、まさに！

82 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:42

美貴はつけたね。
こんなチャンスがあるもんかい？ってさ。

程よく混んだ少し遅めの通勤時間。
尾行はかなりスムーズだった。

最近、ドラマの撮影がよくされてるって評判の新興住宅地がある
駅でひとみちゃん（推定）は降りた。
おシャレな商業ゾーンじゃなくて、閑静な住宅地側に出る。

ソロソロと後をついて歩いてたけど、駅前から離れてくると
このままじゃバレちゃうじゃんって美貴は少し青くなる。

と。とある家の中にひとみちゃん（推定）は入って行く。
何気なくその前を通り過ぎて、美貴はガッツポーズを取った。

少しレトロな洋風の一軒屋。
そこはまさに隠れ家的なレストランだったのだ。

ビンゴ!!!

昔から美貴は引きが強い。クジ運もじゃんけんも強いのだ。

83 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:42

梨華ちゃんからひとみちゃんが料理人だったということは
聞いている。
働き出したってのは知らなかったけど。

美貴はもう一度、中を覗きながら店の前を通り過ぎた。
ひとみちゃんの顔が拝めなかったのは残念だけど。
これ以上深追いしたら、美貴も顔バレしてしまう。

美貴は駅への道を戻りながら携帯を取り出した。

えーと。亜弥ちゃん･･･亜弥ちゃんっと。
携帯のアドレスま行。松浦亜弥。

新規メール画面。

　　亜弥ちゃん、元気ィ〜〜〜？！
　　実はちょこっと相談があったりする美貴なのだ。
　　会いたいんだけど。速攻でよろしく(o^-')b

送信っと。


〜〜〜♪♪♪

84 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:43

わわっマジ早っ！
さすがにフリーで仕事してる子の反応は違うねー

美貴は感心しながら携帯を耳にあてる。

（やっほぉーい！亜弥ちゃんどぅ〜ぇす。どちたのぉ美貴たん？）

うへぇ･････

梨華ちゃんとはまた一味違うテンション可動中。
限りなき突っ走り系だけど。
亜弥ちゃんはフル装備のスポーツカーだ。
速く走る為に、すべての準備が整っている。
飛ぶ景色も。行き先も。すべてを楽しんで駆け抜けてく。

「亜弥ちゃん、会えない？
　込み入ってるような、そうでもないような話なんだわ。」
（およ？美貴たんにしては歯切れが悪いのぉ〜
　まつぅらも会いたいのは山々なのじゃが。今テンパッてんのだよ。）
「へ？どした？」
（じっつはさぁ〜。取材した店が雑誌に載せんなって言って
　きたのだ。オーナーのご意向だそうで！
　締め切りは二日後だってのに。ありがたくって、あやや
　泣いちゃうぞぉ〜って感じ。）

85 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:43

ありゃりゃ〜
けど。その割にその余裕溢れる口調ってどーよ？
美貴は心配よりも可笑しくなってククッと笑った。

（笑いごとではないのだよ？美貴たんクン！）
「あーごめ〜ん･･･」

お！閃いたっ!!!

「ねー？亜弥ちゃん。
　確か今って、隠しておきたい名店みたいな感じのお気に入りの店
　特集の取材だったよね？」
（んにゃ。いかにも。）
「いい店、あるよ〜」

美貴はいま歩いてきた道を振り返って、ニヒヒと笑った。

86 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:44

移動中の亜弥ちゃんと、これから大学に行く美貴の中間地点位の
駅で落ち合う。
駅前にはお約束的コーヒーチェーン店があって、そこに入ると
マフィンを頬張る亜弥ちゃんがいた。

「オィースッ！」

美貴の声に亜弥ちゃんは片手を上げて、カフェオレをグビッと
飲んだ。

「オィースッ！美貴たん今日もかわゆ〜ぃねぇん？
　ま、アタクシほどじゃないけどぉ〜〜〜おほほっ！」
「ハハッ･･･」

片手の甲を頬にあてて、マダム的高笑いをする亜弥ちゃんに
美貴はヒクヒクしながら笑い返した。
あるイミ、亜弥ちゃんは最強だし。
このバイトを始めてから、なぜこうも？ってくらい濃ゆいキャラに
囲まれていく美貴である。

87 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:44

ザッと経緯を話すと亜弥ちゃんは、ふぅ〜ん、と、どうでも
良さそうに鼻を鳴らす。
そして、拳に顎を乗せて挑発するみたいに美貴を見た。

「まっさか美貴たんともあろうお人が、そーんな慈善事業みたいな
　お遊びの為に、まつぅらを使おうってコトはないよね？」

うーーーん、まぁ･･･

「恋の大作戦！裏タイトルは･･･就職大作戦ってとこかな？」
「ヨシッ！」

亜弥ちゃんはニンマリと微笑んだ。

「保田サンはさぁ〜義理人情に厚いタイプだよぉー
　ここで恩を売っといて美貴たんに損はないっ！
　美貴たんが卒業後、あの雑誌社に就職したら、まつぅらを
　可愛がってねん。まつぅらも、もちスキルアップしとくし。
　美貴たんに恥はかかせないよぉん。」
「じゃ。一肌脱いで頂けますか？亜弥ちゃんサン！」
「一肌とは言わず、脱げるとこまで脱いじゃいましょ〜
　美貴たんクンッ！」

88 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:45

オデコがくっつきそうなくらいテーブル越しに顔を近づけあって
美貴と亜弥ちゃんは同時にブッッッと噴出した。

「けどその店。いいねぇ？美貴たんに名前聞いて思いだしたんだ。
　確か、有名な老舗出身の女性がオーナーシェフしてんだよ。
　オープン時に表だって取材とかはされてなかったから、一般の
　ヒトビトには知名度がいまいちかも知んないけど。
　まつぅら達ライター仲間では名前が出てた店だし。」
「･････取材出来そう？」
「ま、まつぅらに任せてちょ！ちょっとアポ取ってみる。」

亜弥ちゃんは携帯を片手にウィンクを決めて、颯爽と店から
出て行った。
ガラス張りの自動ドアの向こうで、亜弥ちゃんがニコニコと
話してる。
弾む笑い声が聞えてきそう。結果は聞くまでもないらしい。

自動ドアの向こうから、小首を傾げながら携帯を肩に挟んだ
亜弥ちゃんが大きな丸を作りながら、美貴を見た。

89 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:46

「で、まつぅらに何を聞いて欲しいんざましょ？」

席に戻ってきた亜弥ちゃんは超ご機嫌で美貴を見る。

だよね〜･･･亜弥ちゃんはさ？
自分にもメリットがなかったら動くような子じゃないし。

「どんなキャラか分析してくれる？それと、恋愛してそうか探って
　欲しいんだ。亜弥ちゃんの洞察力ってマジすごいから。
　後、何かあった時に使えるから亜弥ちゃんが連絡とれる
　関係になってくれたらベスト。」
「ほいほぉ〜いっとな。まつぅら、頑張っちゃうよぉ〜ん。
　今日のランチが終わったら来てくれって話だから、カメラの人
　捕まえないとならんし、まつぅらもう行くねん。
　夜、美貴たんちのパソにメールいたしますわ。
　貸し一つ。出世払いでドカンとよろしく♪」

亜弥ちゃんは席を立つと、バッイバァ〜イ、と陽気に手を振って
そのまま店を出て行った。

さて、と。
サイは投げられた。どう出るか？･･･ククッ！楽しみだ。

90 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:46

八時。
友達のカラオケの誘いを断って家に帰った美貴は夕飯も食べたし
お風呂にも入った。

パソを立ち上げて、メールチェーック！

･･･着てないし。
美貴はパソに向かったまま、鼻に皺を寄せた。

ネットウェイブしてリンクを飛びまくってたら、十時を過ぎてた。
メールを見る。お！新着一件。なんだかドキドキ･････

受信箱を開く。やったっ亜弥ちゃんからだ！

91 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:47

件名：ご依頼の回答でごじゃるd(^-^)

容姿　：イイねっｗ
　　　　わりと長身。標準よりやせ型。
　　　　サラサラの長めショート、色は明るめ栗色？秋だしｗ
　　　　全体的に色素薄め。目とかもね。色白だしさ。
　　　　取り合えず、ケチがつけられないくらいのビボーよぉん。
　　　　んで、なんつーか不思議なフェロモンがあんのｗ
　　　　女ながらに女をその気にさせちゃうぞぉ〜みたいな？
　　　　まつぅらもあーゆうタイプって見たことないから、うまく
　　　　言えなくてゴメンちゃい"(ノ""o"")へ"
　　　　
分析　：シェフでござるって服着てたからってゆーのもあるけど
　　　　ピリピリした緊張感みたいの漂わせてた。
　　　　アレはプライド高いよ。かなり。自信家。
　　　　話す時は温和に微笑むんだけど、フッて横向いた時とか
　　　　かなり冷めた表情してる。曲者と見た！
　　　　年より大人びてるねぇーなんでも中卒で働きだしたって話
　　　　なんとなく経験値高そう。色んなイミで（￣〜￣）

92 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:47

考察　：あの子ね。好きな人いるよん、たぶんにゃ。
　　　　身近に･･･かなぁ？
　　　　あの子が料理食べさせたことあるのは固い。
　　　　料理の話からさ、どういう気持ちで･･･みたいに話を
　　　　移行させてみた。したら、笑顔にしたいんだと。
　　　　自分の料理で！その話をした時。
　　　　何かを思い出す顔してねぇーソレがさ？キミィ！
　　　　別人みたく微笑むワケｗ優しげっての？┐(´ー｀)┌
　　　　アレ考えてたねぇ個人的なダレかを。間違いナシ。

おまけ：後日、若き女性シェフのインタビューをお願いするかもって
　　　　言っといたから、一時間半くらいの拉致なら可能。以上。



ゆっくりと二回読んだ。間違いない。

梨華ちゃんと、ひとみちゃんは両思いってヤツだね。
で。ここで引っかかるのは、ひとみちゃんが自分の気持ちに
気付いてるかってこと。

93 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:48

不思議なモンで、人は気づきたくないって蓋をしちゃうと
意外と自分の本音が見えなくなったりするから。

プライドが高いのかぁ〜〜〜
それも、あの亜弥ちゃんに、かなりとか言わせちゃうくらい。

自発的に気づいて頂くよう持って行くしかないかな？


何を使おう？
そーゆータイプに効果が高いのは･････嫉妬？

94 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/17(日) 21:49

美貴はシナリオを考えた。
なんだか古典的クサさに行きついてしまったけど。
普遍的ってことは、人がハマりやすい落とし穴ってこと。

恋の大作戦！（マル秘名、就職大作戦!!!）の話をしよう。
明日。保田先輩に。

95 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/17(日) 21:49

更新しました。


いつもの名無し様。
　今回はこんなモンでした。画策するミキティ！ｗ


79名無飼育様。
　この視点、結構自分的に書きたかったんですよぉ〜ｗ


80名無飼育様。
　自分の思い入れだけでなく、脳内美貴帝が書けって仰るんでｗ

96 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/18(月) 01:02

おほ―――
なんだかおおごとに…
すごーい

97 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/19(火) 00:22

更新お疲れ様です。
美貴ちゃんナイスな策士ですなぁ〜(w
あややもなかなかやりますなぁ〜ナイス分析！
きましたよ！いよいよ次は例のアレですね(w
ククッ・・楽しみです！(w

98 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/19(火) 15:21

こういう視点もいいですねー
傍目からするとすっごいもどかしい二人なんでしょうけれどw

99 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 18:57

恋の大作戦！決行日。
亜弥ちゃんの書いたあの店の記事が載った、雑誌の発売日から
十日後にした。

保田先輩に上手いことジャブを決めてもらって、美貴がワン
ツーパンチッ！
会ったこともないひとみちゃんだけど。
フィニッシュは任せた。

美貴は祈るような気持ちで、少しばかりいつもより逸る自分の
心音を聞きながら、梨華ちゃんがいるはずの喫茶店に向かう。

いたいた。どんより空ろな目をしちゃって。

･･･コンコン
窓ガラスを叩く美貴。驚いて顔を上げる梨華ちゃん。
立ち上がろうとするのを止めて、美貴は店に入った。

「珍しいじゃん？美貴もなんか飲もうかなー」
「いいの？そんなこと言って。編集部、目の前だよ。」

偶然会った感を何気に演出中。
案の上、早く家に帰りたそうにする梨華ちゃんに、美貴は
梨華ちゃんちに行くって、思いついたように言った。

100 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 18:57

予想外の抵抗にあいながら、店員の視線を気にしだした梨華ちゃんに
腕を引っ張られて、店の外へ出る。

美貴が梨華ちゃんちに行きたがるのが、そんなに腑に落ちない？

感じるモンがあるのかな？
腕を離された美貴は、梨華ちゃんの顔を見て、意味深に笑って
しまった。

「だってさ〜ぁ、梨華ちゃんがウルサイんだもんっ
　ひとみちゃん、ひとみちゃんって。」

驚いた顔をする梨華ちゃんに、口を挟む隙を与えず、美貴は
からかうように次々、話し続ける。

思い当たるとこがあるのか、居心地の悪そうな表情に変わって
いく梨華ちゃんの顔を楽しみながら、最後の決めゼリフ。

「こんだけメーワクかけられたら、美貴には見る権利があると
　思う。実物を。」

納得しかけた梨華ちゃんの表情が、あ、と何かに気づいた顔に
変わる。

101 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 18:57

「美貴ちゃん、でもね？
　いま、ひとみちゃん、おうちにいないと思うよ。
　知り合いの人のお店に、お手伝いに行ってるから。」

ここが勝負のしどころだ！

「えぇぇーーーっ！マジで？」

やばっ！驚きすぎ？
知ってることを知らない顔するのって案外難しいもんだ。

「うーーーん。でもいーや。美貴、今日予定なくて暇だし。
　梨華ちゃんのノロケ話に付き合ってあげるよ？
　そのかわり、ケーキ買っておいてね？･･･あの店のモンブラン
　美貴の好物だから。」

いかにもいつも通りのちゃっかり者の美貴が言いそうな言葉を
おまけにつけて、美貴は喫茶店を指差した。

「じゃ！待ってろよ！」

実は命令形口調に何気に弱くて、言うことを聞いてくれる梨華ちゃんに
しっかり釘を刺すと、美貴は編集部のあるビルに入った。

102 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 18:58

梨華ちゃんから死角になる柱の影で、素早く亜弥ちゃんに
ショートメールを打つ。


　一時間半後でよろしく(o^-')b 　　･･･送信っと。


〜〜♪　　　早っ！受信っと。


　あいあ〜い任せてちょd(^-^)


パタン　携帯を閉じた美貴は大きく深呼吸。
そしてビルから外に出る。
まだ腑に落ちないって顔しながら、ケーキの箱を持って
喫茶店から出てきた梨華ちゃんに声をかける。

「ごくろう、ごくろう。さてと梨華ちゃん、行きますか。」

ムッと尖らせられた唇に、ついつい目が行ってしまう美貴。

これからが本番。どーか上手く行きますように！

103 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 18:59

104 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 18:59

ずっと梨華ちゃんが無言だ。かなり不自然。

モンブランのクリームの山を崩して、口に頬張ると上品な秋の
匂いが広がる。
手と口を動かしながら梨華ちゃんを見ると、唇が不服そうに
への字になってる。

わかりましたよ。さっき美貴が言いすぎたんですねっ！

･･･梨華ちゃん、キミはね？
自分じゃわかっちゃいないけど、顔がおしゃべりなんだよ。

しかし困ったぞ？
梨華ちゃんが何もしゃべらないと作戦に移れないじゃん！

こっちから動く？
美貴はわざと音を立てて、フォークをお皿に置いた。
気の弱い小動物みたいにビクッとする梨華ちゃん。

「･･･ところで、だ。」

美貴の声に、来るなら来いって感じで梨華ちゃんが、大袈裟に
身構えるから、笑いを堪えるのが辛い。

105 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 18:59

「今日、保田さんとこ行ったんでしょ？何か言われた？」

知ってんだけどね。何、言われたかさ。

明らかにホッとした顔をする梨華ちゃん。
その後、深刻そうな表情に変わる。

あ〜〜〜辛い。
美貴は込み上げる笑いに耐えてる口許を隠す為にティーカップに
手を伸ばす。･･･喉が詰まりそ。
カップを唇にあてると名前を呼ばれた。

「ねぇ？美貴ちゃん･････」　　　　「ん？」

軽く相槌を打ちながら、紅茶を口に含んだ時。

「キスしたい？」　　　　　　

ブッッッ!!!

なななんで？何？バレたの？！
こんなドンくさい梨華ちゃんに？美貴の計画が？！
そんなバカな！そんなことありっこナイよ？落ち着けー美貴！

106 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:00

「もーーーぉ！ヤだっ美貴ちゃん。汚い。」

自分の服を点検してる梨華ちゃんを横目に、美貴は小さく
深呼吸を繰り返す。
落ち着けー美貴。落ち着けー美貴。落ち着けー美貴。

美貴は拳を口許に持っていくと、舌が張り付きそうな喉をどうにか
上下させた。んん、コホンッ。

「イキナリだね。梨華ちゃん･･･したいの？」

眉を寄せ、困った顔で小首を傾げる梨華ちゃん。

あんたねーーーっちっともわかってナイんじゃんっ
驚かせないでよ？･･･あーびっくりした。

余裕を取り戻した美貴の口からは、落ち着いた声が出た。

「じゃ、なんでそんなこと聞くの？美貴に。」

実は･････って、梨華ちゃんが話出した内容は、予定通りだ。
美貴は、ホッとして思わず口から大きな溜息が出る。

107 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:00

「そういう話なわけ？なーんだ。」

よかったよかった。梨華ちゃんがニブくて。

梨華ちゃんは、なーんだってことはないでしょ？ってご立腹の様子。
そして得意の大変なことって言い方をしだす。

「･･･大変ねぇ〜〜〜」

美貴はサイドの髪を摘んで見る。

ねー？梨華ちゃん。
キミはすっごく大切にされてたんだよ？
大変な目に合うことなんてないように、ずっと影で守ってて
くれてる人がいたんだ。気づいちゃいないだろーけど。

美貴はちょっぴり保田先輩に同情する。
だってさ、なんだかいつの間にか、この美貴までが余計なこと
しようとしてるんだから。

だけど梨華ちゃんは、それも気づかないよね？
ま、気づかれちゃ困るんだけど。

美貴はちょっと意地悪な気持ちになって、摘んだ髪を指から
離すと、梨華ちゃんの顔を見た。

108 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:01

「･･･それより梨華ちゃん。
　作家としてって言うなら、言葉の使い方の勉強した方が
　いいよ。」

とたんにムッ！とした顔をする梨華ちゃんに、美貴は心の中で怒れ
怒れって喜んだ。
ところが梨華ちゃんは頬杖をついて、なにかに想いを馳せさせ出す。
あのねぇーーー！

どーよ？その態度っ
って、美貴が怒ってどーすんの？･････はぁ

何を考え始めて旅立っちゃったのか聞かなくてもわかる気も
するけど。

「おーい！梨華ちゃーーーんっ美貴の話、聞いてる？」
「そう、そう美貴ちゃん！この間ね。
　ひとみちゃんが、こう言ったんだよ？」

109 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:01

出た！
分かりやす過ぎるのもここまでくると嫌味だ。
目なんかキラキラさせちゃって、こころなしかほっぺたも
ほんのり染めちゃってるし。･････いー加減にしてよ？
ほんとにもうっ！その上、その話、長いんですか？

嬉々として話す梨華ちゃんの顔を見たまま、横目で時計を
チェック。･････やば。そろそろ動かなければ。

「もういいよ。」　　　　　　「･････え？」

まずいっ！て顔してる梨華ちゃんの顔を、美貴はジィィィと
嫌味っぽく見据える。

ひとみちゃんの話は聞き飽きたとか、その話は面白くないとか
揺さぶる話の持って行き先は･････

「さっきの保田さんが言ってたこと･･･。」

そう言いながら、立ち上がった美貴は、へ？って顔してる梨華ちゃんの
手を取る。

110 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:02

場所はあそこ。
リビングのドアが開いた時。効果的なその位置。

梨華ちゃんの手を引っ張りながら、時計を半分睨むように見た。
ヤバッ･･･美貴、そーとー怖い顔してるね？いま。マジで。
ソファに並んで座った美貴の横顔は、梨華ちゃんにはどんな風に
映ってるんだろう。ちょっと気になる。

そして。美貴は心の中でカウントを始める。
後、数分で、亜弥ちゃんとの約束の時間。

リビングのドアが開いた時、初対面のひとみちゃんはどんな目で
美貴を見るんだろう？これも気になる。だけど。
取り合えずいまは、余計なことを考えてる場合じゃなく。

美貴はザワつく気持ちをどうにか静めて、ゆっくりと梨華ちゃんの
顔を見た。

「なんなら、美貴が教えてあげてもいいよ？」

ムードを出して、梨華ちゃんに近づきながら、その髪を梳いて
みたりなんかして。

111 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:02

ごくっ。梨華ちゃんの喉が鳴る音がした。
緊張してんだ？梨華ちゃん。･････実はさ？美貴もだよ。

ここまでくれば、さすがの梨華ちゃんでも身の危険を感じる
らしい。ずりずりと後ず去って行き止まると、梨華ちゃんは
美貴の顔を、大きく見開いた目で見てる。

さ、行くよ？ごめんね梨華ちゃん。キミの為だ。うぅ〜ん？ま
･･･そういうことにしとこう。

「今まで、そういう目で梨華ちゃんのこと見たことなかったけど。
　よく見ると･･･うん。可愛いし。
　さっきの保田さんとの話、あれ、聞いちゃうとさ。
　他のヤツと、梨華ちゃんが、こーゆうことするくらいなら
　美貴が相手のがいいでしょ？梨華ちゃんも。」

美貴は顔を斜めにして、瞼を薄く閉じかけるように、梨華ちゃんに
近づけた。
梨華ちゃんは、往生際悪く、さらに美貴から逃れようと身体を引いて
ソファの上に倒れ込む。

おいおい。しやすくしてどーすんの？
けど。おっかしーなぁ･･･もうひとみちゃんご登場の時間なのに･･･
そして、この状況。ここまで追い込んで止めたら変でしょ？

112 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:03

美貴はことさらゆっくりと時間をかけて、ソファに片手をついた。

ヤバい。マジ、間が持たない･･･ほんとにしちゃう？
チューくらい美貴は構わないんだけど。
梨華ちゃんの顔が可愛いのはほんとだし。
でもそれじゃ計画がぁ〜〜〜

取り合えず、いつリビングのドアが開いてもいいように、梨華ちゃんに
顔を近づける。ついでに手も出す。ほっぺたに。

「いまキスしたら、モンブランの味がするよ？」

何言ってんだぁ？美貴。困った。はぁ…早く帰ってきてよ〜

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと、待ったぁーーーっ」

肩を押し戻されて、美貴は地団駄を踏みたいくらいイライラする。
もーーーほんとにさ。ダメだよ？ひとみちゃん！
どーして帰って来ないかな？
時間は守ってよ！･････こっちにだって都合ってもんがあんだから。

113 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:04

･･･だけど。梨華ちゃんの表情。･･･ちょっとそそられる。
さっき美貴が梨華ちゃんに言った言葉。それが美貴自身に返ってくる。


　−　なんなら、美貴が教えてあげてもいいよ？　−


女の子に迫ったことなんてなかった美貴だけど。
それを体験してみるのもちょっといいかな？なんて思ったりして。

あ゛ーーーっ自分の策に美貴が嵌ってどーすんの？！

いい。もうここまで来たら後には引けない。美貴は決めた。
ひとみちゃんが間に合わなかったら、シナリオを書き換えてやる。

「やーだーねっ！美貴に火ぃつけたの梨華ちゃんだし。」

八つ当たり気味の、ちょっとだけ本音を混ぜた言葉を口にして
美貴は、梨華ちゃんの細っこい手首をギュッと掴んだ。
もう追いかけっこは終わり。
美貴は序々に腕に力を入れて顔を近づけた。

114 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:05

梨華ちゃんは何かに耐えるように、口許を引き結んで顔を背ける。


･････ダメだよー
やっぱ･････美貴には無理だぁ〜〜〜
だって梨華ちゃん･･･嫌がってんのに。

なのに、この状況。
じゃ、じゃー美貴はどうすりゃいいのさーーーっ

115 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/19(火) 19:05

コンコンッ

「お取り込み中、失礼。」

ちょっと掠れ気味のアルトの声がビリビリと冷たく響いた。

はぁ〜〜〜助かったぁ･････だけど、ねっ？！
遅いんだよっひとみちゃん!!!

腕に込めてた力を抜きながら、美貴は心の中でもう一度、梨華ちゃんに
手を合わせる。ごめん、怖がらせて。

そして、ゆっくり身体を上げる。

ひとみちゃん待ってたよ？ほんっとにさぁ･････待ちに待ったその顔
とくと拝ませてもらおうじゃない？

美貴は振り返ると、言った。

「あ、おかえり。」

116 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/19(火) 19:06

更新しました。


96名無飼育様。
　アハハ。仰る通り自分の書き方ってちっとオーバーかもｗ


いつもの名無し様。
　ちゃっかりしっかり意外に人情味ある、うちの美貴様ですｗ


98名無飼育様。
　すべてお知りの読者様には、かなーりもどかしいかもｗ

117 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/19(火) 21:23

更新お疲れ様です！

美貴様すごいなぁ(w
あの状況でそんなに色んなことを考えてたんですね(w

118 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/20(水) 01:16

どひょ―――――っ！
美貴ちゃん　すごすぎっ　すーごーすーぎ――

119 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/20(水) 01:20

更新お疲れ様です。
いやぁ〜いい！じつにイイ！！
美貴ちゃん最高！！w

120 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:21

初めて見た、ひとみちゃん。
だけど。
梨華ちゃんは聞かなくても煩いし。
亜弥ちゃんからのメールで客観的な事前調査も終わってるから
なんだか初対面って気がしない。

「ひとみちゃんでしょ？
　美貴、えぇと、藤本美貴です。よろしくぅ！」

美貴は立ち上がると、ひとみちゃんの方へ近づいて行った。

イメージしてた通りっていうか、名は体を表すってゆーの？
大きな瞳。どことなく冷ややかに見下してくる視線。
それが一瞬だけ、驚いたように見開かれた。

「何してたの？二人で。」

落ち着き払った声には、微妙な意地悪さが覗いてる。
だけどそんな声音で、ビビるような美貴様ではない。
美貴も同じようなトーンの声を出した。

「練習･･･かな？･･･ね？梨華ちゃん！」

121 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:21

予想通りっていうか期待通り、梨華ちゃんは放心状態。
ひとみちゃんの目線が、呆れたように宙を舞って、梨華ちゃんの
顔の上で止まると、梨華ちゃんの名を呼んだ。

へぇ？
名前で呼び合ってるの？･･･なんか意外。

ひとみちゃんが醸し出す雰囲気は、すごく不器用そうに見える。
梨華ちゃんみたく恋愛経験値が低いとか、そういうんじゃなくって
他人にも、自分と接することも苦手そう･･･っていうか。
よくわかんないや。とにかく梨華ちゃんみたく扱い易くは
なさそうだ。

「はぁいぃぃぃっ」

どっかにすっ飛んでくボールを打っちゃったみたいな、めちゃ
くちゃ粟食ってる梨華ちゃんの返事に、ひとみちゃんの目の底が
暗く光った気がした。
･･･こえー。取りあえず敵に回したくないタイプかも。

「･･･なんの練習？」　　　　　「な、なんの？」

梨華ちゃんは、もう見ていられないくらい動揺してる。

122 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:22

それでも、ひとみちゃんは許す気はないらしい。
さらに、声のトーンを低くして言葉を重ねていく。

「そう。なんの？」

･･･やっぱり、怒ってるんだ。
ねぇ？ムカついてるんでしょ？ひとみちゃん。
それがなんでか考えてみてよ。それとももう気づいてる？
そこまでは聞けないしなぁ〜

このままじゃ、意識的か無意識かはわかんない痴話喧嘩に
発展して行きそうだから、美貴はひとみちゃんを止めること
にした。

「･･･ひとみちゃんってサディストなんだ？
　ま、そんなことはどーでもよくて、美貴の存在、忘れてるでしょ？」

ひとみちゃんの目の奥が、ちらりと揺れた。
だけどすぐ、何ごともなかったかのように無表情で、頭に手を
やっている。･･･この子、わかりにくいなぁ〜
人を誤魔化すのが上手いのか？自分を抑えるのが得意なのか？
どっちにしろ、こうゆうちょっと難しそうな子は梨華ちゃんでは荷が重そう

123 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:23

「今日、早く上がれたからさ。夕飯作ろうと思って。
　でも･････邪魔、しちゃったみたいだな。悪い。」

そう言って、追い討ちをかけるみたく梨華ちゃんに意地の悪い笑みを
向けるひとみちゃんに、美貴は、おまけにけっこうしつこいしと、
付け加えた。

そしてひとみちゃんは、首を回して横にいた美貴を見た。
なんの感情も浮かんでない顔で。
むしろ、はっきり言っちゃえば興味がないってゆうの？

なんとなく。
こっちが本物、と言うか、本当はひとみちゃんってこういう
表情ばっかりしてきた子なんじゃないかな？って美貴は思った。

人ってさ。自分に欠けてるって思うもんに執着したりしない？

だからなんとなく。
ひとみちゃんが梨華ちゃんを好きになったのは、間違いのない
ことのような気がしてきた。

124 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:23

「もう、練習はいいの？
　するなら消えるし、しないなら、藤本さんも夕飯食べてく？」
「そーだなぁ〜　どーする？梨華ちゃん？」

梨華ちゃんが使いものにならないことは明らかだったけど
一応、話を振ってみる。･･･やっぱし。

ただ首を振るだけで、声さえ出せない梨華ちゃんに、美貴は
ちょっとだけ罪悪感を感じてしまった。やりすぎたかなって。
普通の感覚だったら、全然 たいしたことない話なんだけど。

梨華ちゃんは、田舎で無農薬みたいに育った子だから。
こういう毒には免疫がないんだよね。
だからこそ、荒療治の意味があるってもんなんだけど。

梨華ちゃん？考えてみて。
美貴にキスされそうになって、誰かの顔が浮かんだりしなかった
かってことを。
そういう場面を見られて、そこまで焦ってしまうのがなんでなのか
ってことも。
答えは梨華ちゃんの心の中にあるはずだから。

125 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:24

ひとみちゃん、キミはさ、わかってるのかな？
たぶんひとみちゃんは、感情をあまり外に出すタイプじゃないよね？
それが梨華ちゃんが絡んでると、冷静さを失くすでしょ？
その意味を。

後は二人で、胸の内の想いを打ち明けあってくれたら、美貴は
こんなふざけた芝居をしたかいがあるってもんなんだけど。

楽しめそうもないから止めとくって言いながら、美貴は、いつから
自分がこんなおせっかいババァになっちゃったんだろ？って思う。
けど。ま、それも悪くないよ。なんとなく、ね。

美貴は、じゃって片手を上げて帰りかけて、言い忘れたことを
思い出した。

ひとみちゃん、なんて。
呼ぶ方もキモいんだよね。梨華ちゃんみたいなキショキャラが売り
じゃないと。
ひとみちゃんだって、寒いよね？美貴にまでそんな風に呼ばれたら。

126 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:24

だから。よっちゃんサンって呼ぶことに決めた。
美貴はいいじゃん？って、一人納得する。
このくらいの距離感が一番いい。
よっちゃんサンって、美貴が見ても、結構、魅力的だと思わないわけ
じゃないけど。

けど、たぶん。
そう遠くない未来に、美貴の大事な友達の恋人になるだろう人だし、ね。

「んじゃね、梨華ちゃん。よっちゃんサン。」

美貴は、くるりと踵を返した。

あ゛〜〜〜終わった、終わったぁっと。

そのまま伸びをしそうになる腕を、どうにか止めた。
ヤバい、ヤバい。玄関出るまでは気を抜いちゃダメじゃん。

美貴がオヤジだったら、迷わず赤提灯で一杯行くね。
そんなことを考えながら、美貴は梨華ちゃんちを後にした。

127 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:25

梨華ちゃんちを出て、駅に向かいながら、保田先輩に電話した。

「藤本です。いま終わりました。」
（･･･お疲れ様。で、どんな感じ？くっつきそうなの？）
「問題ないですよ？あれね。
　梨華ちゃんが失恋する可能性は0パーセントって感じです。
　ただ･･･梨華ちゃんは奥手だから。
　自分の気持ちに気づいたからって、行動に移せるかってのは
　微妙だし。相手の子も一癖ありそうで、素直にくっついて
　くれるか･･･美貴にも、ちょっとわかりません。」
（そう･･･でもこれがきっかけで前進するわ。
　あたし、そう思う。それに、藤本がここまで石川に親身になって
　くれて、すごく嬉しいわ。
　･･･でも、ちょっと気になるわね。電話しようかしら？）
「･･･保田先輩、いい加減にして下さいよ？･･･はぁ
　ま、いいですよ。今回は大目に見てあげますから。
　ただし余計なこと言わないように注意してくださいね。」
（わかってるわ。･･･まったく適わないわね？藤本には。
　明日、社でまた話ましょう。それじゃ、ほんとにお疲れ！）

128 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:26

お疲れ様でした。美貴は通話を終わらせると、今度こそ大きく
伸びをした。

129 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:27

130 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:27

恋の大作戦！から一週間。
何も変わったことは起こらなかった。

どうなったんだろ？
あんなに意識しあってる二人が、あんな場面を見られちゃったり
見ちゃったりしておいて、何も起こらないはずはないと、美貴は
思うんだけど。

梨華ちゃんちに行ってみようか？
なんとなく行きづらいけど、このまま会わないわけにもいかないし。

午後に取ってる講義がひとつあるにはあるけど。
そう重要ってわけじゃない。

美貴は、ちょうど目の前を通った顔馴染みの子を捕まえて、代返と
ノートのコピーを頼むと、梨華ちゃんちに向かった。


ピンポーン〜♪　　･･･なんだかドキドキする。

131 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:28

「はぁ〜い。」　　　　　　　　　　「あ、美貴。」
「美貴ちゃん？いま開けるねーっ」

･･･全然、普通。
なんだこりゃ？身構えてた美貴はガックリと力が抜けた。

部屋のインターホンを押すと、パタパタとスリッパの音がして
ドアがガチャリと開いた。

「いらっしゃーいっ♪」
「梨華ちゃん･･･いきなり開けるなんてね、無用心だとおもわない？
　美貴じゃなくって、強盗だったらどうするのさ。」
「ヤだっ美貴ちゃん！ひとみちゃんと同じコト言う〜〜〜」
「･･･ひとみちゃん、ね？」

美貴が意味深に笑うと、楽しげだった梨華ちゃんの笑い顔が
ヒクッと引きつった。
そして、そのほほが僅かに赤らむ。おやおや。

132 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:28

「･･･美貴ちゃん。
　この間みたいなからかい方は、もう止めてね？」
「･･･え？」
「私、ちょっとだけだけど。真剣に悩んじゃったんだから。
　でもその、ひ、ひとみちゃんが美貴ちゃんがからかったんだって
　大笑いするから。なんだ、そうなんだって思って。」

ふぅーーーん。
そういうオチか。それで梨華ちゃんは納得しちゃって、普通で
いれるんだ？･･･ま、いーけど。

「あ、ま、ちょっと調子にのって悪かったよ。
　ごめんね？梨華ちゃん。なんかつい面白くってさぁ〜
　ところで。ひとみちゃんは他にもなんか言ってた？」

そう美貴が聞いたとたん。梨華ちゃんの顔が、真っ赤っかに
染まった。秋の紅葉顔負けに見事なほど。

言ったんだ？･･･それってもしかしてぇ？

133 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:29

梨華ちゃんは、サッと俯いた。

「べ、べつに、それだけよ？･･･上がって、美貴ちゃん。」

そう言って、美貴に背中を向けると、サッサとリビングに戻って
しまった。

う。気になる･･･告られたとか？
けど、そんな上手いことスムーズに行くもんかな？

美貴は小首を傾げると、梨華ちゃんの背中を見ながら、リビング
に入った。

まだ、少しほっぺたに赤味を残してる梨華ちゃんの顔を横目に
取り合えず、突っ込むのはもう少し後にしようと美貴は考えた。
で、だ。違う話題。

「ど？進展した？」　　　　「へっ？し、進展って何が？！」

やたら動揺してるよ？なんで？
梨華ちゃん･･･ま、まさか？！まさかもう？！
進んだ関係に発展したとか？･････えぇぇーーー？！

･･･って、んなワケないよね？梨華ちゃんに限って。

134 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:29

「し･ご･と！書けてんの？」

美貴の言葉に梨華ちゃんは、ハッとしてカレンダーを振り返った。

「あ！･･･だから美貴ちゃん来てくれたんだ？･･･そっか。
　今日で一週間だもんね？」

ありゃ。美貴も忘れてた。
保田先輩が、少し脅かして締め切りを短めに伝えておいたって
言ってたの。梨華ちゃんは眉を寄せてる。

「うぅ〜〜〜ん。途中までは。
　美貴ちゃん、読んでみてくれる？まだ題名決めてないから
　いつものフォルダのテキストってファイルに入ってるから。
　私、お茶淹れるね？」
「了〜解！」

美貴は梨華ちゃんの仕事部屋で、フォルダを開いた。

テキストっと。　　　･･･ふむふむ。

･･････　････････　････････

ダメ、だと思う。　･･･あっちゃぁーーーどーするよ？

135 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:30

今日中ってのは大袈裟だとしても、来週には上げないとってのが
あるワケで。
たぶん保田先輩は梨華ちゃんに、そこまではっきりとは言えてないと
思うけど、次の作品は梨華ちゃんの作家としての明暗をわけちゃう
くらい重要だから。･･･このままじゃイカンだろ？
あまりにも変わり映えしなさすぎ。

美貴が片手で頭を抱えながら、閉じたフォルダ画面を睨んでいると
フォルダの中に、無題ってかかれたファイルが入ってた。

なんだろ？
他にも書いてたのかな？

美貴はファイルを開いた。･･･そして、読んだ。


こ、こ、これってーーーっ！


それは多少、設定をいじってあるけど、どこからどう読んでも
梨華ちゃんの恋の実況中継以外の何ものでもなかった。

136 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:30

夢中で読んで。面白い、と思った。
そこに描かれてるのは、ある日自分の心に起こった恋する気持ちに
戸惑い、ときめく、揺れる、リアルな感情の吐露だった。

これならイケる。
美貴は確信すると、そのまま保田先輩のパソに送信した。

絶対イケる。
美貴は自分の心臓がドクドクと高鳴って、すごく興奮してることに
気がついた。

最近、恋なんてもんに縁遠い美貴は、梨華ちゃんの身辺のことで
ヤキモキしてる。
だけど。困ったことに、それが結構嫌じゃない。

梨華ちゃんに起こる出来事に、一緒に一喜一憂して。
それがこんな風にいい作品へと姿を変えて。
それを一番始めに読むのが、美貴の楽しみになる。

美貴って、つくづく編集者向きだ。
仕事が恋人。そんな人生もいいかも知れない。

美貴は口許を緩めながら、もう一度、無題を読み返すことにした。

137 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:31

「お待たせ〜美貴ちゃん。お茶入ったよ？」

ドアをガラガラ開けて、ひょこっと顔を出した梨華ちゃん。
美貴は、頬杖をつきながらパソと向き合ってた顔を上げた。

「いいじゃん？これ。」　　　　　　「え？ほんと？」

梨華ちゃんは嬉しそうに微笑んで、美貴の背中越しから
パソを覗き込む。
その目が。スローモーションで、これ以上は無理ってくらい
まで見開かれた。

「･･･う、そぉ･････な、なんでこれ･･････」

なかなか次の言葉が口から出てこないらしい。
こういうのってほんとに絶句って言うんだろうな。

梨華ちゃんは顔色をなくすと、小さい声で言った。

「これ･･･これはっ･････」

そして。美貴の顔を強い光を秘めた眼差しで見つめてくる。

138 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:31

言いたいことわかるけど。
でも言えないよね？梨華ちゃんには。
美貴のこと酷いヤツって思うなら、思ってくれて構わない。

だってさ。
いま美貴、決めたんだ。美貴の進む道っての。

美貴のやり方は、保田先輩とは違うから。
だけど。梨華ちゃんにはビックな小説家になって欲しい。
この思いは先輩にも負けてないかもって思う。

小説家として、これからもやっていく気があるよね？
梨華ちゃんは？
だったらさ。ここらで覚悟を決めてよ。
面白いものを書く為なら、多少のプライバシーの切り売りも
しょうがないって思えるくらいマジになって見せてよ。

そのくらいの決意が出来た時。
きっと梨華ちゃんは殻が破れて、もっとずっと読者の気持ちに
訴えかけられる物が書けるようになると思うから。

139 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:32

「･･･このお話は、雑誌に載せるのは嫌。
　私はその･･･そういうつもりで書いたんじゃないの。」

迷うように言葉を選んで言う梨華ちゃんに、美貴はシレッと答えた。

「なんで？面白いよ〜よく書けてるじゃん？」
「･･･な、なんでって･････」
「じゃ、聞くけど。
　梨華ちゃんって小説家だよね？
　人に読ませる気がないなら、なんで書く必要があんの？」
「そ･････それは･･･」
「ま。試しに書いてみたいだけってのも、あるのかも知れないけど？
　よく書けてたら発表するのが仕事ってもんじゃない？･･･それに実は
　もう保田さんとこ送っちゃったし。」
「え？･･･えぇぇーーーっ？！」
「･･･なんでそんなに驚くかな？美貴はさ？
　梨華ちゃんのよき友達でいたいってはあるけど、その前に
　雑誌社から、安いながらもお金貰ってバイトしてるわけよ？
　美貴って、仕事に熱いタイプなの。知らなかった？
　それに梨華ちゃんだって、いつも美貴に読んでって言ってるからさぁ」

140 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/20(水) 20:32

美貴ちゃん･････
梨華ちゃんは小さな声で美貴の名前を呟くと、それ以上、何も
言わなかった。

その顔には、ちょっとした失望がある気がして。
なんか寂しくなったけど。仕方ないよね？

美貴は、梨華ちゃんと繋がっていたいけど。
たぶん美貴が進もうとしてる道には、梨華ちゃんの信頼が失望と
シーソーみたいに揺れる関係でしか得られない気がする。

「･･･お茶、冷めちゃうよね？飲もうか。」

美貴は立ち上がると、梨華ちゃんの顔を見ずにリビングへ出た。

思わず小さな溜息をついていた。
美貴のやり方。間違っているのかな？

それはまだ、わからない。

141 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/20(水) 20:33

更新しました。


117名無飼育様。
　そーですねぇ･･･たぶん律儀者なのでしょうｗ


118名無飼育様。
　そ、そんなに？←やり過ぎたかとビビってますｗ


いつもの名無し様。
　なんだかいい人街道まっしぐら、てなことに･･･なぜ？ｗ

142 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/21(木) 01:50

美貴ちゃんはー
さいこーだ―――っ!!
視点が変わるだけでまた味わい深いものに…ほぅ

143 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/21(木) 19:51

更新お疲れ様です。
もちっと意地悪なのかと思っていたのですがぁ〜
あれ〜おかしいなぁ〜？
美貴ちゃんこっちではいい人に見えるぅ〜ｗ

144 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/22(金) 11:20

更新お疲れ様です。
藤本さん大人ですね。
純朴な梨華ちゃんとは、ほんと良い仕事のパートナーだろうなぁ。

145 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 13:59

やっぱり美貴って、やり手の編集者になれるかも？

梨華ちゃんが書いた例の話は、案の定、保田先輩からも一発OKが出て。
急いでタイトルを考えてもらった。

そして。雑誌が発売されると。
読者のアンケートでいきなり上位に名前が出てきた。

保田先輩はすっかり上機嫌で、奢るわよ？と笑った。

いま保田先輩が見てる新人さんとか、同期入社の他の部の人と
梨華ちゃんと美貴で、イタリアンのお店に行った。

「財布はあたしと矢口が持つから。
　あんた達好きに頼んでいいわよーっ」

矢口さんって言うのは、ファッション誌の編集さんで、保田先輩と
かなり親しい仲のようだった。
ここだけの話。
保田先輩が美貴に耳打ちしたのは、梨華ちゃんの発想って、突飛と
いうか面白いところがあるから、矢口さんとこのティーンズ向けの
雑誌で、そのうち日常のエッセイを書かせてみたいと言うのだ。

146 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:00

梨華ちゃんって、ほんと幸せモンだよね。

梨華ちゃんが大真面目でしてる話に、お腹を抱えて笑う矢口さんを
見ながら、たぶんこの話は実現して行くんじゃないかな？って
美貴は思った。

食事が終わって、解散した後。

まだ仕事が残ってるからって保田先輩は社に戻ると言った。
梨華ちゃんが拗ねた口調で美貴に言う。

「美貴ちゃんはまだいいでしょ？私に付き合ってよ。」
「･･･いいけど。美貴、もう食べれないよ？」
「食べるわけないじゃんっ！お酒が飲みたいのっ！
　美貴ちゃんなら、お店とか知ってるでしょ？」
「えっ飲むの？二人でぇ〜？」
「･･･なによ？私とじゃ飲めないって言うのっ」

飲む前から絡まれてる気がするんですけど？
美貴は気乗りしなかったけど、一人でも飲みに行っちゃいそうな
梨華ちゃんを置いて帰るわけにも行かず、渋々付き合うことにした。

147 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:00

駆けつけ三杯とは、まさにこのこと？
次々、グラスを空けていく梨華ちゃんを見ながら、ひょっとして
見かけによらずお酒に強いのかな？なんて美貴は考えた。

けど。そういう訳ではなかったらしく。
自棄になってたっていうのが正解らしい。
すっかり呂律が怪しくなりながら、まだカクテルを選ぼうとする
梨華ちゃんから、メニューを取り上げた。

「もう止めなって！なんでそんな飲み方するかな？
　梨華ちゃん、お酒強いわけじゃないんでしょ？」
「の〜まぁなきゃ、かぁえれましぇーーーんっ」

美貴は眉を寄せた。何言ってんの？
梨華ちゃんは美貴の寄せた眉の間を人指し指で弾くと、据わった目を
向ける。

「美ぃ〜貴ぃちゃんっ！わったしぃはおこぉってぇいまぁすっ
　美貴ちゃあんのぉせぇいでぇ〜ひぃとおみちゃぁんと、かぁおが
　あわぁせぇづらいのぉですっ
　だぁからぁ〜きょおは、のむぞぉぉぉーーーっ！」

のむぞぉぉぉーーーっ！って、おいっ･･･止めてよ〜

148 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:01

「すっぃまぁせぇぇ〜えんっっっ！」

美貴の心の懇願が届かないらしい梨華ちゃんは甲高い大声を出す。
その超音波バリのキーキー声に、店員さんはおろか周りのお客さんまで
このテーブルを振り返る。　

寄ってこようとする店員さんに、いいですって美貴は口の動きと
身振りで伝えて、梨華ちゃんを見た。

「そんな酔っ払い。よっちゃんサンは嫌いだと美貴は思うな。」
「きぃらい？ひぃとみちゃあんがぁ？わぁたしを･･･」

見る見る梨華ちゃんの目に涙が溜まってきて、美貴がマズいと
思った時には、すでにボロボロと泣き出していた。

「･･･えっ･･･ぐぅ･･･ヤァ･･･そ、そん、なのぉ･･･ふぅ、えっ･･･」

参った。
もう勘弁してと、美貴の方が泣きたい気持ちになる。

美貴は梨華ちゃんの背中を擦って、謝り宥め続けた。
店中の好奇と白い目に耐えながら。

149 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:01

どうにか泣き止んだ梨華ちゃんに、今日はもう帰ろうよ？
美貴が送っていくからって言った。

高いスツールから降りる時。梨華ちゃんの足元がグラッと揺れて
美貴は慌てて、腰に手を回すと支えた。

やだなー。
まるで酒飲ませて、酔わせて、良からぬことを企んでるみたい
じゃん？美貴が。
女の子同士だし？考えすぎかも知れないけど。
ちょっと前に謀をしてた美貴は、居心地が悪くて、なんだか弁解
したい気分。

興味深々って感じで纏わりついてくる視線を無視して、梨華ちゃんを
支えながら店を出ると、美貴はタクシーを拾った。

シートに並んで据わって、運転手さんに行き先を告げる。

車が走り出すと、梨華ちゃんが美貴の肩に、ちょこんと頭を
乗せてきた。

「･･･美貴ぃちゃぁん･･･はぁ、わぁたしのぉことぉ･･･
　きぃらぁわ、なぃでぇ･････ひっく･･･」

びっくりした。　･･･酔っ払って心細くなった？

150 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:02

美貴の胸が一回だけ、小さく鳴る。高い音で。キュンって。
それはなんだか切ない音だった。

美貴は。･････違うよね？
誰だって。こんなに無防備に自分を出してくる子を見て、嫌いになんて
なれるわけがないって思う。むしろ反対じゃんって。

梨華ちゃんは、ヘンにすれたとこがなくって。
こっちの言うことを何でも鵜呑みにしちゃうような素直さが
あって。
いつでも、何にでも真面目に向き合おうとする。

ひょっとしたら、そこが保田先輩が見つけたって言ってた、作家
としての原石ってヤツなのかも知れない。

だけどその懸命さが、上滑りして、とんでもない方向に向かおうと
するから、美貴はついつい口を出してしまうのだ。

そしてたぶん。今なら、美貴が何を言ったとしても。
明日の朝、目が覚めた梨華ちゃんは覚えていないだろう。

151 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:02

美貴の口から、息するように自然に言葉が滑り落ちた。

「美貴さ？･･･ずっと梨華ちゃんが気になって仕方なかった。
　それって。ひょっとしたらだけど。･･･ちょっとだけだけど。
　好きになりかけてたのかも･･･梨華ちゃんのこと。」

なんだろ？
何言ってるかわからない、自分が。･･･やだなぁ。
美貴も酔ってるんだ。

車が揺れると、梨華ちゃんの顔が反対側を向いた。
ギクリとする。だけど。
梨華ちゃんは目を閉じてた。寝ちゃったの？･･･長い睫。

街の明かりが、梨華ちゃんの頬に残った涙の後を浮かび上げた。
長い睫の濃い影が、その上に落ちる。

その顔を見てたら。なぜだか美貴は、目の奥がジンジンしてきて。
慌てて瞬きを繰り返した。

152 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:03

タクシーが止まって、お金を払った美貴は、明日、保田先輩に
請求しなきゃって領収書をポケットに押し込む。

そして、梨華ちゃんを揺すって起す。起きてって！

「ん〜？･････ぃいやぁだぁ〜･･･」

嫌だじゃないっ！もーーーっ!!!

美貴はズルズルとタクシーから、梨華ちゃんを引っ張り出して
半分担ぐように抱えた。
そのまま、梨華ちゃんちのマンションのエントラスに入ると
部屋番号を押す。

･･･出ないし。
まさか出かけちゃってないよね？

たらり。美貴の額に一筋、汗が流れる。
力の抜け切った人間って、なんでこんなに重いんだろ？
美貴は体力には自信がある方なのにぃ。

重いやら、暑いやらで、イライラしながら、もう一度チャイムを
鳴らした。

153 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:03

「･･･はい？」

いたっ！
訝しげなよっちゃんサンの声に、美貴は、なんでキミはいつも
美貴を待たせるんだよって、ムカつきながら声を張り上げた。

「早く〜〜〜っ美貴もう限界だって。」

自動ドアが音もなく開いて、美貴はズルズルとその中に入る。
１階で待っていたエレベーターに乗って、ボタンを押す。

･･･ふぅ。あと一息だ。

チンッと上昇感が止まって、ドアが開いた。
美貴が、ズリ下がってく梨華ちゃんを担ぎ直して、廊下に出ると
よっちゃんサンが見えた。

「よっちゃんサン！早く手伝ってって。」

よっちゃんサンは、美貴の反対側から梨華ちゃんの身体を支えた。

「こんなんなるまで、飲ませるか？フツー。」

154 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:04

愛想のない呆れた声がして、違うだろ？！って美貴は思う。

「美貴が飲ませたんじゃないよ！止めても飲むんだもん。参ったよ。」

あのさぁ〜　まずは美貴に。
ありがとうとか、迷惑かけたねとか、そういう挨拶はないのかなぁ！
なんでこんなことになってると思ってんのさ？
ほんとにもう。キミらは好き合ってんだから･･･
サッサとくっ付けよっ！

美貴の口から、かつて出したことのないデカさの溜息が出た。

と、寝てたとばかり思ってた梨華ちゃんが、いきなり顔を上げるから、
美貴は寿命が三十分は縮まるくらいギョッとした。

そしてまた美貴を責めだすから、ちょっとは悪いかな？って
思ってた美貴も、もうどうでもいいやって気になってくる。
さすがに今度は、まったく気持ちの入ってない、ごめんの言葉を
しょうがなく口にした。

梨華ちゃんの向こう側から、何かあった？って表情で、こっちを
見てる、よっちゃんサン。

まったくもう！なんかあったじゃないんだよっ

155 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:04

原因はキミだよ。･････ま、美貴も加担してるけど。

･･･ね〜むぅいぃぃって梨華ちゃんの声がして。
美貴は半分、怒鳴るように言葉を返した。

「待ってって！もうちょっとだからぁ〜」

腕を出すと。肩にかけてるバックの中で荷物が揺れた。
あ。新刊入れたままだった。そして、ふと美貴は思う。

いっそのこと。
これをよっちゃんサンに見せてしまおうか？

だけど、それは。
美貴は俯いて、出した腕をズリ下がってく梨華ちゃんに添えると
自分の中で、もやもやとしてくる考えを振り払うように、ただ
足を前へ出すことに集中した。

開いたままのドアに辿り着いて、美貴はよっちゃんサンに聞く。

「この酔っ払いどーする？」 　　　「あそこのソファ。」

156 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:04

･･･ソファ？部屋じゃ、なくて？

ラジャ！と答えながら。美貴は考える。

やっぱりこの二人。
このままじゃあまり進展しなさそうって。

梨華ちゃんをソファに寝かせたら。
よっちゃんサンは、仕方ないって顔で靴を脱がせてやってる。

だけどその顔は。優しげで穏やかだ。
しょーがないなぁコイツはって心の呟きが聞えてきそうな眼差し。

「よっちゃんサン、お水いい？」　　　「どーぞ。」

美貴は小さなボトルに手を伸ばしながら、思い出す。

よっちゃんサンって。
結構やるよねって思った。あの、無題を読んだ時は。

しなかったことになってるけど。
キスの迫り方も、場数を踏んでそうで。
これならもう、美貴は余計なお節介をする必要はないって。

157 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:05

だけど。
ほんとにそうなのかな？

美貴はドアの前に移動して、水をゴクゴク飲みながら、
よっちゃんサンを見た。

一見。行動力がありそうに見えるけど。
こういうプライドが高そうなタイプほど、いざとなると臆病な面が
外に出てきて、迷い出したりするのかも？

梨華ちゃんの靴を持ったよっちゃんサンが、美貴の横を通ろうと
するのに、声をかけた。

「ご協力、感謝。」

色んなイミで。
美貴は、笑いたい気分じゃないのに、勝手に口角が上がる。
だからきっと、美貴の顔は歪んで見えただろう。

よっちゃんサンの顔に、一瞬だけ苛立ちが見えた。

やっぱりまだわかってないと思った。それは困る。
このまま二人の関係が曖昧だったら、なんだか美貴が困ることに
なりそうな気がする。･･･そんなことにはなりたくない。

だから、覚悟を決めた。美貴はボトルの水を飲みきると。
バックから新刊を出して、よっちゃんサンに押し付けた。

158 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:05

「美貴から、プレゼント。」

これを見せるのはルール違反かも知れない。
美貴はしてはいけないことをしようとしている？
こんな風に手段を選ばない行動は軽蔑される？･････でも。

今夜の美貴は酔っているのだ、何かに。
その酔いが醒めないで、明日も続いてしまうことの方が怖い。
だから今日のことは、感情も行動も全部お酒のせいにして。
やれることは、なんでもやってしまって、明日の朝には忘れて
しまえって思う。

困惑しながら、よっちゃんサンは雑誌を受け取った。

今、渡した目に見える物とは、何か違う、美貴が大切にしてたものまで
一緒に渡してしまった気がして、胸の奥に冷たい風が吹いた。

「もっと頑張ってよ？よっちゃんサン。
　･･･んじゃ、美貴、帰るね〜後、よろしくぅ！」

自分でも、そうと意識しないうちに、出した声に何かを秘めて
しまった気がして、美貴は慌てて、声を明るめに変えた。

そしてそのまま、片手を上げて、リビングを後にする。

159 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/22(金) 14:06

梨華ちゃんちを出て、振り返ると。北風が吹いた。

美貴の髪と、コートの裾を揺らして、身体の中にまで入って
来ようとするようだ。
美貴は首を竦めて、駅への道を歩き出す。

そう。もっと頑張ってよ？よっちゃんサン。

ガチガチのベタベタにくっ付いて見せてよ？
もう。美貴が余計なことを考えなくていいように。

今日という日を･･･
いつか、後悔する時が来るのかな？

美貴は、足を止めて。暗い夜空を見上げた。
チラチラと小さな瞬きがいくつか見えた。

･･･しない。絶対にしないね。してたまるかっての。

あ〜寒っ。美貴は夜空を見上げたまま、声に出して言うと
前を向いて、足を速めた。

160 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/22(金) 14:07

更新しました。


142名無飼育様。
　スルメのよーな話が、作れたならと望んでおりますｗ


いつもの名無し様。
　ねぇ？おっかしいなぁ〜〜〜なんでだろ？ｗｗ


144名無飼育様。
　大人すぎ〜の気もしないではありませんがｗ

161 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/22(金) 19:01

うーん、美貴ちゃんも複雑ですねぇ。
頑張れ、みんな

162 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/22(金) 20:25

更新お疲れ様です。
いい人美貴ちゃんもお疲れ様ですｗ
なんだかそんな美貴ちゃんカッケー！
でも全然表からわかんないね、その行動ｗ
それがまた面白い！

163 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/23(土) 08:40

っぷ
飲みすぎで気持ちが思わしくないのです…
美貴ちゃん　何気に切なげ？可愛いね――
ほほほ　スルメのように噛んで噛んで

164 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/23(土) 09:25

噛みごたえバッチリなのです

165 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:15

その後。
二人はどうしただろう？

翌朝。酔いが醒めると美貴はなにやらとんでもないことを
したような気がしてきたものだ。

他人のプライベートな感情を、本人の了承なしに、それを向けてる
相手に教えるっていうのは、どう考えても、おせっかいで済ませる
には、度を越していると思う。

だけど昨夜は。
美貴は何かに追い立てられるように、それをしないではいられなかった。

こうして何日か経つと、何があそこまで美貴を駆り立てたのか
自分でもわからない。　･･･やっぱり酔ってたんだ。

自販機に小銭を入れながら、小さく溜息をついたら。
喫煙コーナーの衝立の向こうから、美貴のに輪をかけたような
大きな溜息が聞えた。

166 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:15

ウーロン茶を片手に衝立の向こうを覗くと。やっぱり保田先輩。

「どーしたんですかぁ〜」
「あ。藤本。」

保田先輩は昨日まで、超がつく機嫌の良さだった。
それもそのはずで。

なんと梨華ちゃんが、読者アンケートで初の一位になったのだ。

数日前のやり過ぎたって思いを引きずってた美貴は、キャーキャー
喜ぶことが出来なくて、保田先輩は少しだけ白けた顔をした。
そして、モデルクラブの顔写真のチェックを始めたのだ。

「･･･例の巻頭カラー用のいいモデルがいなくてね。
　石川が頑張っていい作品を書いたんだから、あたしもそれを
　バックアップできるいい絵をつけてやりたいんだけど。
　なーんかイメージに合わないのよね〜」

保田先輩の唇から、宙へと舞い上がっていく、くぐもった白い
わっかを見ながら美貴は口を開く。

167 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:16

「保田先輩･･･ヒロミに女の子使うって言ってましたよね？」
「まぁ〜ねぇ･････」

ああ、美貴はまた余計なことをしようとしてる。
もう止めとけって言う美貴に、もう一回だけって別の美貴が言う。

前回のことは、当事者の意思を無視してしまったから。
ここまで後味が悪いけど。
今、美貴が思いついたことは、本人の意思を事前に確認したら、
そう悪いことをさせようとしてるわけじゃない、と思えた。

それになによりも。
ここまできたからには、目に見える結果がなければ、美貴の
作戦に使った時間は、ただ無意味でムダなものになってしまう。

美貴は舞い上がる紫煙をぼんやりと見てた目を、保田先輩の顔に
向けた。

「例の計画に、もう一押し行くとしましょう。
　美貴が首謀者でいいですけど、今回は保田先輩も共犯ですからね？」

168 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:16

そして。
保田先輩の頑張りがあって、美貴の「恋の大作戦！」計画は
無事成功となったらしい。

169 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:17

撮影の時。
ヒロミ役のよっちゃんサンとリカコ役の梨華ちゃんは、それは
もういい雰囲気だったと、保田先輩から電話がきた。

美貴も誘われたけど。
どんな顔して見てたらいいかわからないし。
途中で、余計なこと言ってしまうのも避けたかったから。
残念そうな顔をしつつ、わざと断った。

そして二人のキスが。
初々しくて。見てるこっちが胸が詰まるように良かったと
聞いた時。
すべてが終わった。と美貴は思ったのだ。

良かったねー？梨華ちゃん。

170 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:17

夢見る人形キャラなんて。
いまどき珍しすぎて。梨華ちゃんがただの女の子だったなら
変わらせることなく残したまま、見ていたかったとこだけど。

梨華ちゃんは、大人への階段を上り続けて。
自分の中で起こる感情の全てを、文章に変えて行くっていう
特殊な生き方を選んだ女の子だったんだから。
美貴は諦めることにしたんだよ。

だけどもちろん。
これからも見続けていくよ？
今度は変化し続ける梨華ちゃんを、ね。

171 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:18

計画の終了とともに、なんだか気が抜けたのと。
色々、画策したせいで、梨華ちゃんちの敷居が高く感じた美貴は
すっかり梨華ちゃんちから、足が遠のいてしまっていた。

頼まれたお使いを一件すませて、編集部に戻ると、保田先輩が
言った。

「藤本ー　そろそろ石川のとこチェックしに行って来て！」
「あ･････はい。」

一瞬。やだな、と思った。
梨華ちゃんの美貴を見る目はきっと変わってる。

だけど。
過去に戻れても、美貴はきっと同じことをする。
「恋の大作戦！」を決行しない美貴は美貴じゃない。

だから。
行ってきます！と笑顔で行って、編集部を後にした。

172 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:18

とか居直った美貴だけど。
インターフォンを押す指が、躊躇うように止まったりする。

おいおい。ダメじゃん？
あたしは誰だ？美貴様だ！よしっ！

美貴に弱気は似合わない。これからもゴーイングマイウェイ。
人の目なんかに囚われないで、自分の決めた通りに進んで行こう。

インターフォンを押すと。

はぁ〜い、と相変わらず、どこか甘い声。

「美貴。」　　　　　　

ちょっと強張った声が出てしまった。
だけど梨華ちゃんは、ふわふわと柔らかい声のままだった。

「はいはぁ〜い。　いま開けるねぇ〜」

ありゃ？
今まで通りに接してくれるなら、不満があるはずなどないけど。

173 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:18

なんだか腑に落ちない。
美貴の頭の中で、木の葉を乗せた狸と狐が踊りだした。

ん〜〜〜っ　ま、顔を見よう。そうしよう。

部屋のインターフォンを鳴らすと「はい」と声が聞えてきた。

お！成長してるよ。「新聞屋でーす。」

美貴が低い声音で言うと、ドアがガチャリと開いて、笑顔が覗いた。

「もぉ！嘘ばっかり。」　　　　「へへっ」

ニヒッと笑う美貴に、梨華ちゃんはクスクス笑いながら、上がってと
ドアを大きく開いてくれた。

「お邪魔〜って、あれ？梨華ちゃん一人？」
「うん。ひとみちゃんはお買い物。･･･そうそう。
　お夕飯、食べてけばって、ひとみちゃんが言ってたよ？」

何気ない普通の会話。全然不自然さがない梨華ちゃん。

174 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:19

美貴はダイニングの椅子に座ると、梨華ちゃんの顔をマジマジと
見てしまった。
顔は変わってない。けど。中身が別人にすりかわってたりして？

「どうしたのぉ？美貴ちゃん･･･ヘンな顔して。」
「ヘンって、おいっ！･･･なんか。なんかさ？
　梨華ちゃん、怒ってないのかなぁ〜って思ってね。」
「ふふっ･･･怒ってたよ？
　だって美貴ちゃん、余計なことばっかりしてくれるんだもん。」
「ははは･･･」

美貴の乾いた笑いに、梨華ちゃんはまたクスクス笑った。

「でも。保田さんがね？」　　「保田先輩？」

梨華ちゃんは美貴を見て、ふわりと優しく微笑んで頷いた。

そして。
この間、来てくれてね？って梨華ちゃんは思い出す顔をした。

175 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:19

石川。藤本を悪く思わないでやってよ？
藤本は･･･石川とはタイプが違うけど。
やっぱり同じように、真面目で真摯なの。

率直で。客観的で。分析力と、行動力もあるわ。
それは編集者にとっては、得がたい美点なの。

あの子は。大学を出たら、きっとうちの若手ナンバーワンになれる。
そして。担当作家の一人目は、絶対に石川なのよ？

作家である石川には自分というものが必要だけど。
それは意固地さじゃなく。謙虚でしなやかであって欲しい。

それには。石川を影で支えて。よりよい方向へと導く為になら、言い辛い
ことをあえて口にしたり、したくないことにも向かって行けるというか
信念のままに行動出きる、そんな参謀タイプの編集者が不可欠なのよ。
藤本になら、それが出来るって、あたしは思うの。

仕事をしていく上で、いいパートナーになれると思う。二人は。
何より藤本は、あんたのことをよく見てるから。

それに、これを見て。

176 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:20

「それでね？あの撮影の写真を見せて貰ったの。　･･･私、
　すごくいいと思った。」

自分で言っちゃうけど。って梨華ちゃんは悪戯っぽく笑った。
美貴ちゃんも見てくれた？って聞かれて、美貴は頷く。

「もちろん。カメラマンの人の腕ってあると思うけど。
　私の訴えたい感情が体現化されてたの、あの写真には。
　それはやっぱり、自分の書いたものを読んでくれる読者の皆に
　伝わったらいいって。その想いが私にあったからだと思う。
　だから。私がモデルをした意味がちゃんとあったって思えたの。」

最近になってやっと気づいたんだけどって梨華ちゃんは続けた。

177 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:21

「私は･･･自分の考えや感情を売る仕事をしてるんだなぁって。
　もちろんすべてが、本音じゃないよ？　･･･だけど。
　共感してもらえる幻想を創るって言うのかな？･･･とにかく。
　綺麗な作り事だけじゃダメってわかったのね？
　あの撮影の日。
　保田さんは私の仕事が夢を売ることだって言ったんだ。
　だけどその夢って、ありえない夢物語ってことじゃなくって。
　こういうのがいいなって夢見てもらえる物話を、創っていく
　ことなんだってわかったの。」

ふいに梨華ちゃんを、とてもいい女だと思った。

恋は人を成長させるって、ほんとなんだ？

梨華ちゃんの胸の内におこる感情のすべてを知る術は、美貴には
ないけど、梨華ちゃんは恋をして、今まで経験したことない気持ちを
実感して。そして変わろうとしてるんだ。

178 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:22

自分が気持ちを向ける相手もまた、自分のことを想ってくれてる
その自信が、梨華ちゃんを眩しいくらい輝かせて行くんだね。

これからの梨華ちゃんに、美貴はあんまり必要ないかも？って
思ったら、少し寂しくなる。

見当違いで勘が鈍いから、人を巻き込まずにはいられない我がままさに
文句をいいながら、渋々付き合うのが嫌いじゃなかったから。

･･･だけど。喜ぶべきだよね？

「おーーーいぃ美貴ちゃん聞いてるぅ？」


げ!!!
梨華ちゃんに突っ込まれるなんて、美貴は終わったね。

179 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:27

梨華ちゃんは顔中いっぱいに笑顔を広げて、美貴を見てる。

「私、頑張るよ？
　頑張れば書けるってもんでもないような気もするけど。
　読んでよかったって思ってもらえる作品が書けるように。
　･･･だからね、美貴ちゃん。これからも協力してね？
　作家として頑張ってくって決めた私には、美貴ちゃんは
　なくてはならない人なんだから！」

一瞬言葉に詰まったけど。美貴はすぐに笑顔で親指を立てた。

「あったりまえじゃ〜ん。
　ベストセラー作家になって、韓国焼肉ツアーに連れてって
　貰いましょう。もち梨華ちゃんの奢りで！」
「もぉ〜〜〜調子いいなぁーーー。」

顔を見合わせて笑い合った。大袈裟に上を向いて声を上げて笑った。
笑っていないと、胸の奥に詰まった温かい気持ちが、別のものに
姿を変えて、流れ出てしまいそうだったから。

目の前で微笑む梨華ちゃんと。元祖お節介ババァの保田先輩。
二人に出会えて、ほんと良かったなって美貴は思うよ？

180 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:27

それから美貴は原稿チェックして。
梨華ちゃんとよっちゃんサンと夕食を共にした。

181 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:27

お腹いっぱい美味しいものを食べた後。ケーキまで出てきた。

毎日、こんなに心のこもった料理を食べてたら、味がいいだけで
高い外食や、ただお腹を膨らませるだけのジャンクフードなんかは
食べる気がしなくなるだろなぁって、美貴は梨華ちゃんが、心底、
羨ましいと思った。

程よく紅茶の香りが残るシフォンケーキに、甘みが少なくて濃厚な
舌触りの生クリームをたっぷりつけたのを、口に頬張りながら
美貴は、よっちゃんサンを見た。

「美貴が男だったら、絶対よっちゃんサンを彼女にするよ。」

よっちゃんサンは、へぇ？と言って笑った。

「あたしも男だったら、藤本サンを彼女にしたいな。」

えっ？！って、梨華ちゃんはよっちゃんサンを睨んで膨れた。

「･････何それ？私はっ？！私の立場はどーなるのよっっっ！」
「だからー･･･男だったらって言ってんじゃん？」

ニヤニヤしながら、梨華ちゃんの顔を見るよっちゃんサン。

182 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:28

美貴にはわかるけど。
そんな遠まわしな言い方じゃ、梨華ちゃんには伝わらないか？

さっきは、すごく大人びて見えたけど。
やっぱり梨華ちゃんは梨華ちゃんだ。
見えないとこは、まだ見えないままらしい。

〜だったら〜したい、なんて所詮ありえないことで。
それをお互いによくわかってるし、これからも上手くやって行きたいって
気持ちで、相手を認めてるからねってリップサービスしてるだけだ。

いま目の前にある現実には、かないっこないっていうか、そもそも全然
次元が違うんだよ？

だけど。梨華ちゃんはムキになる。
私はぁ？私はぁ？って自分の顎を指しながら、アピールしてる。

よっちゃんサンは、えぇーどうすっかな〜？なんて言いながら
目がバカだなぁって笑ってる。

はっきり言って、やってられないです。バカバカしくて。
ケーキを食べ終えた美貴は、もう帰りたかったけど、二人のじゃれ合いが
すごすぎてなかなか口を出すチャンスがないのだった。　･･･はぁ。

183 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:28

ここで終われば。美貴の画策が実を結んで。

微笑ましい（？）バカップル誕生って感じなんだけど。
話はまだ続きがあったりする。

184 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:29

数日後。
梨華ちゃんが前から読みたいっていってた本を、偶然見つけた美貴は
それを片手に、インターフォンを押した。

「･･･はい？」
「あ。よっちゃんサン？梨華ちゃんいるかなぁ？」
「いまネイルサロン行ってる。
　でも、もう帰ってくる時間だから上がって待ってれば？」

美貴は、そうすることにして、部屋に上がらせてもらった。

リビングに通じるドアを開けると、キッチンから深みがあるようで
柔らかい、なんとも言えないいい匂いが立ち上がってる。

「何作ってるの？よっちゃんサン忙しいんじゃない？」
「ん？コンソメスープ。
　アク取りしてるから、手は忙しいけど、口は暇だから。」

上手いなぁって美貴は思った。気の遣い方が。

185 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:29

ふと。
美貴はよっちゃんサンを試してみたくなった。

中学卒業と同時に社会人になったなら、さぞかし揉まれたこと
だろう。世間の荒波ってヤツに。

恋愛経験だって、背伸びして大人びたものを身につけているかも
知れない。

美貴がちょっかいを出しても、動揺するとは思えないけど、梨華ちゃんが
目の前にいないと変わるところが、出てくるのか美貴は俄然興味を持った。

美貴はキッチンに入ると、よっちゃんサンの背後から腕を回して、
腰の辺りで組むと、お鍋の中を覗き込んだ。

「いい匂い。　･･･美味しそうだねー？」
「飲んでく？」

やっぱり無反応。
堂々としたもんだ。梨華ちゃんとはえらい違いだね。

186 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:30

だけど。
それじゃ、面白くもなんともない。

美貴はよっちゃんサンの肩に、ほっぺたを押し付けて「いいの？」って
聞いた。

「もちろん。　･･･だけどさ？」

よっちゃんサンは、美貴の組んだ指先をポンポンと二回叩いた。

「こーゆう遊びは、ギャラリーがいないとつまんないでしょ？」

やられた！
っていうか、言うなぁ･････

梨華ちゃんの前だったら、してもいいけど。
いないとこではしちゃ駄目なことってね。

一途なんだ？見かけによらず。･･･なーんて失礼か？
だけど美貴は、安心したよ。なんだか、さ？良かったねって。

それもそうだねって、美貴が離れようとした時。
玄関でドアがガチャリと開く音がして。

187 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:31

「ただいま〜！　美貴ちゃん、来てたんだぁ？」

機嫌よさそうに弾む声が近づいてきた。

そうしたら。
なんとよっちゃんサンは、外そうとした美貴の手を、押さえるように
止めたのだ。げっ!!!

こ、こいつーーーすごい確信犯だ。

リビングのドアを勢いよく開けた、梨華ちゃんはくっ付き合ってる
よっちゃんサンと美貴を見て、サーーーッと顔を青くしたあと
カーーーッと真っ赤になった。

「あ、おかえり。」

全く自然に、シレッと答えるよっちゃんサンに、梨華ちゃんの唇が
わなわなと震えだす。

「なっなななにしてんのよーーーーーーっ!!!」

188 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:31

梨華ちゃんの悲痛な叫び声に弾かれたように、慌ててよっちゃんサンの
手を振り払った美貴は、誤解だって、と梨華ちゃんに言った。

そしてシミジミと美貴は思ったよ。

よっちゃんサンは、梨華ちゃん一人の手に負えるような優しいだけの
恋人にはなりそうもないって。

だからさ。
困ったことがあったら、美貴に言っておいでよ。

美貴は梨華ちゃんの頼れる参謀なんだから。美貴を信じて？
何か策を考えてあげるから。

梨華ちゃんの恋が、ずっと上手くいく作戦を。

189 名前：恋の大作戦！？ 投稿日：2004/10/23(土) 14:32

ま、まかせてよ？　…美貴に、ね。






　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　お終い。

190 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/23(土) 14:33

更新終了しました。

お付き合いと、レスを頂くことが出来て嬉しかったです
ありがとうございました。

191 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/23(土) 14:33

161名無飼育様。
　仰る通りですねｗ皆どこか複雑な部分を抱えて。
　それでも頑張って行こうねって思いますですよ。

いつもの名無し様。
　いい人ってしんどいですよね？いつか爆発しなけりゃいーなとｗ
　けど自分は、ヤセ我慢に美学を感じるタチなんで。

163名無飼育様。
　あはは。そんな体調でも読みに来て頂けて嬉しいでございますよ。
　胃がお疲れなんじゃ？　…スルメ吐かないで下さいまし。ｗ

164名無飼育様。
　なら、良かった。と一安心ｗ
　脇キャラを掘り下げるのもまた一興と思って頂けたら幸いです。
　

192 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/23(土) 18:02

梨華ちゃん…
ぐっふっふ　可愛いねぇ

酔っちゃんもいいし
美貴ちゃんもいい

みんなｽﾃｷだ―――

この一ヶ月泊まりの出張を
頑張って拒否してきた甲斐もあったよ

193 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/23(土) 20:36

更新お疲れ様でした。
いやぁ〜最後まで美貴ちゃんいい人だったじゃないですかｗ
よっちゃんに遊ばれている美貴ちゃんもかわゆい！
美貴ちゃんそのうち爆発？・・・待ってますよ！それをｗ

194 名前：ラヴ梨〜 投稿日：2004/10/24(日) 01:00

こっそりしっかり完読させて頂きました
コンソメスープ作って気の利いたセリフを言うよっちゃんにうまいな〜っと美貴が感心してますが…私に言わせれば作者さん、うますぎですから！！
登場人物の細やかな思考や感情描写に毎日うなってました
作者さんは人生のベテランに違いない！
ホントに高質で精緻な作品ありがとうございました

195 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/24(日) 20:56

最後の最後までいじわるなよっすぃー(w
こういう関係のいしよしが大好きで…。
それを美貴様視点から見るのがすごく新鮮でした！

本当にお疲れ様でした。

196 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/24(日) 23:18

お疲れ様でした。
ほっっ〜んとうに作者さまお上手ですね〜
コメディの中にもせつなさがあったりして・・
楽しみにずっと拝見してました。
これからも、甘々のいしよし・期待しちゃっていいですか？

197 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/25(月) 20:08

私の求めるいしよしがここにありました。
ありがとうございました。

198 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/25(月) 22:09

短編です。

今回は結構、マジ路線でｗ
宜しければ、一時。お付き合い頂けたら嬉しゅうございます。

199 名前：I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:09

たくさんの事を知っているより、もっと大事な事を知る人。
そうゆう賢い大人に成れると思ってた。

あたしは四月生まれで、幼い頃から何かにつけ人よりよく
出来る子供だった。
だけど。
手を抜くことを憶えた兎は、懸命さがみっともなく見えた亀に
あっけなく抜かれてしまうものなのだ。


「…あぁ、ハルが来て〜君はぁ〜キレイになったぁ〜
　去年よりぃ〜ずっと、キレイになったぁ〜〜〜」


音程をわざと外して歌う。白いブレスが鼻先から舞った。

いまは真冬だ。だけど石川は、また綺麗になった。
もともと美人だったのかも知れないが。
正直、ぶっちゃけると。石川に初めてあった時の印象は薄い。
大人しそうとか。普通レベルで可愛い子って思ったんじゃないかな。

200 名前：I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:11

新しい世界に入ってく四人の中に、うちらは入ってた。
それが発表された時。
あたしは、高熱が上がり続ける時みたいに、自身の意識が
どっかに飛んでっちまう気がした。だけど、そんなあたしを
もう一人の自分が冷ややかに見下してるような居心地の悪さ。
高揚と冷淡。分離の嵐が去った後。


石川と目が合った。


あの表情が。あたしが初めて、石川梨華って子をちゃんと見た
瞬間だったと思う。

その目の色。
緊張。歓喜。安堵。不安。焦燥。媚態。自信。困惑。恐怖。期待。

そこに浮かぶ色彩は、人が瞳に映す色んな感情をごちゃまぜにして
危うい影を造っていた。

201 名前：I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:12

だからあたしは、なんとなく名前を呼ばずにはいられなくて。
呼んだのだ。梨華ちゃん、と。
あたしに向けられたのは、必死で探し物をしている切羽詰った顔。
だからこう続けた。これからよろしくねって。

その時の石川の表情の変化を、あたしは忘れない。いつまでも。
いつになっても忘れることは･････出来ない。
あたしには出来ないんだ、きっと。

202 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:13

知らない場所に足を踏み入れることは、人を興奮させる。

高鳴る鼓動。火照る身体。それを感じる時。
隣りにいつも同じ顔があったら、人は勘違いしてしまうのだろうか。
この人の傍にいるから、だと。

いったい、いつ頃からだっただろう？
あたしを見る、石川の瞳の色が濃度を増したのは。
来る日も来る日も、変わらずに隣から注がれていたから、あたしは
その視線に、すっかり鈍感になっていた。

ひとみちゃんが好き。大好き。傍にいてくれてよかった。

惜しみなく注がれるのは温度の高い眼差しだけではない。
あたしにとっては、それらの言葉すら、顔を見た時に交わされる
挨拶のように、習慣化された日常的な会話の延長でしかなかった。

203 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:13

石川を象るのは、痛々しいほど繊細な造形。
疲れた日にその目を縁取るのは、薄っすらとした隈。
薄墨色の影が落ちた顔は、頼りなげで儚くて。
あたしは抱きしめたくなった。

石川はあたしに何かを求めてた。
それは心？目に見えないあたしの気持ちと言うものだろうか？
それとも身体？あたしの体温を知ることで、何かを確かめたかった
のだろうか？

だけどあたしは、それを与えたりしなかった。
抱いてしまえばよかったのかも知れないけど。
その選択の意味を、理解した上で簡単に出来るほど、あたしは
大人に成りきれてなく。
一時の好奇心のみの遊戯として行動を起すほど、無鉄砲な子供
でもなかった。

204 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:14

それよりもあたしは満足していたのだ。
石川と自分の関係に。

あたしに対する、ある種の忠誠。
どこか憧れに似た崇拝。盲目的と言えるほどの服従。

石川はあたしの鏡だった。
その目を見れば、いつでも望むあたしが映る。

「よっすぃ〜はあたしのこと好き？」

不安げに何度も聞かれたあたしの気持ち。
平坦な声で好きだよと答えるあたし。
いつでもあたしを見てる石川が好き。
その目に映る自分を感じるのが好き。

石川の目に映る自分に夢中だったあたしは、自分を呼ぶ声が
変わってしまいつつあることに、なかなか気づけなかったのだ。

205 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:15

ある時から鏡は角度を変えて、あたし以外のものを映すように
なった。
序々に大きく開いてずれてゆく角度。
角度が変われば、映り方も変わる。
今まで映らなかった死角が露になってゆく。

そこに映ってたのは、どんなあたしだったのか。
たぶんそこにはもう、石川の理想を投影したあたしはいなく
なっていただろう。

石川のあたしを見る眼差しは、親しげなままだったけど。
そこにはもう、何かを乞うような切実さは消えていた。

あたしはもう一度。失くしてしまったそれを石川の目の上に
浮かべたかったけど、その術がわからない。
自分を呼んでると思えないほど、馴染めない平温な石川の声。
けれど。どんなに馴染めないと思ったことも、積み重ねられると
人は慣れていくらしい。諦めと引き換えに。

石川を呼ぶことをしなくなったあたしが、今度は鏡になった。

206 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:16

石川を映し続けるあたしの目。
存在を感じさせる声。しなやかな骨格。ふと香るその匂い。
石川が生まれ持った素のフェロモンが、傍によるだけであたしを
気持ちよくさせていたことに、改めて気づかされた衝撃。

石川を追いかけるあたしの視線は、小さなサイン。
けれど、自らが輝けることを知った星には遠く届かない。

輝きが増し続けていく石川と目を合わすことが出来ずに、その名前を
呼べない唇は、まるで癖のような溜息を吐き出す。

今日の空の色はどんなだっただろう？
仲間との話の輪の中で、ふとそんなどうでもいいようなことを考えて、
俯き笑い出すあたしがいる。

目まぐるしく変貌して行くようで、実は同じような毎日の繰り返しに、
消費され続ける、あたし。疲れきって移動車の中で眠り込んだ。
小さな振動に瞼を開けると、切り取られた車窓が見せるのは
風が吹きつける痩せた木。

207 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:16

細い枝を風に煽られ、残された僅かな葉さえ弄ばれるように
揺れている。
だけど、そこにあるのは。
全身を震わせながら、それでも懸命に凛と立っている姿。

強くなりたい、と。そう思った。

どんな時も真っ直ぐに、顔を上げていたいと。
そして。石川の目の中に映るあたしは、笑顔でありたいと。

ずっとあたしを悩ませていたものは。たぶん･･･愛だったのだ。
どこまでも自分勝手な想いだったけれど。

確かに大切に思っていた。傍にいたいと願っていた。
誰よりも味方でありたくて、味方でいてくれるを疑ったことは
ない。一番近い他人。そうまるで、何かに契った夫婦の様に。

いま、手の中で見る見る萎れていく花のように、消えて行こうとする
想いでの中の時を、どうか消えないで、と、心の奥で抱きしめた。

208 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:17

新しい景色に胸を躍らせて、握り合っていた手と手。
その手の先にいた仲間が二人、うちらの傍から旅立った。
次に飛び立って行く石川が、久しぶりにあたしに向けた不安げな
眼差し。懐かしさに胸が痛み出すような目の色。
あたしはもう、けしてその小さなサインを見逃したりしなかった。

「あのさぁー久しぶりにメシでも食わねぇ？」

あたしの誘いに、石川は驚きと戸惑いでその目を染めた。

「誘ったからって奢らねーよ？割勘ね？割勘。」

おどけたあたしに、石川は小さく笑う。

「あたしも奢らないわよ？」

仕事が早く終わった、夕暮れの道。
隣りを歩く石川の顔がほんのりとオレンジに染まる。
遠い空と同じように。立ち並ぶビルさえも同じ色に。


あたしは目を凝らしてた。

209 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:17

見逃さないように。目に焼き付けるために。
石川が隣りにいる景色のすべてを。

どこか頼りなく、なんとなく移り気なくせに、それでも妙に
一途なあたしの想いと一緒に。


外では落ち着かないからと、石川の部屋に行った。

二人きりで、見つめ合うことに、初めてデートする子供のような
心もとなさを感じる。
そう広くもない、パステルトーンの部屋の空気が、二人が吐く息で
埋もれていく。どこか甘やかなやるせなさに満ちていく部屋。
息苦しい。
あたしが落ち着かなくて胡坐をかくと、ふいに石川が微笑んだ。

「･････よっちゃん。今まで、傍にいてくれてありがとう。
　あたし、なんだかんだ言っても･･･こうしてやってこれたのって
　よっちゃんがいてくれたからだと思ってる。」
「何言っちゃってんの？」

まるで一人別れを決めた恋人のような石川の言葉を、あたしは
茶化すように、軽くかわす。

210 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:18

「あたしは･････あたしね？ずっと考えてた。
　よっちゃんの隣りにいるのに、よっちゃんが何考えてるのか
　わからなくて、不安になったりして。
　もっとあたしを見て欲しいって思ったりしたの。
　だけどあたしも、よっちゃんのことちゃんと見れてるのかな？
　あたしはよっちゃんに、何かをして上げられてる存在だって
　言えるのかな？って。
　ベッタリくっ付いてることだけが、全てじゃないっていまは
　わかるようになったの。だから･･･ありがとう。」

離れて行こうとしてるの？あたしの傍から？
環境と言う名の身を置く場所と一緒に心の位置さえも？

「止めてよ。
　うちらは家族でしょ？それは変わんないだからさ。
　子供が二人もいる夫婦は、そう簡単に別れたり出来ないもん
　なんだよ。」

そうだね？石川は可笑しそうに笑った。

「今さらって思うかも知んないけど、傍にいるよ？
　一緒に過ごす時間が少なくなって、限られてくるからこそ
　離れて行こうとしないで。　…あたしから。」
「･･･あたしだって、離婚する気なんてないよ？」

211 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:18

今度は石川に茶化すように言われて、あたしは少しムッとする。
珍しく素直に言えた言葉なのに。
石川はこんなに女っぽいナリしてるくせに、意外と肝が据わってる
から、いつでもあたしの臆病さにちっとも気づかない。

石川は仏頂面をするあたしに、大人びた表情で薄く笑いながら
そっと手をさし出した。

「はい、握手。」

あたしは、目の前に出された、ほっそりした手をギュッと握ると
そのまま引っ張って、抱き寄せた。

「握手ぅ？･･･そんなのヤだねっ！
　そんなことしたらタダのダチになっちゃうじゃん？
　うちらは夫婦なんだろ？･･･そうだ。･･･そうだよ。いっそのこと
　ほんとの夫婦になろうぜ？うちら。･･･今から、さ。」
「･･･バ、バッカじゃない？･･･自分が何言ってるかわかってるの？
　よっちゃんっ･･･て、ほんとにバカッ！なれるわけないじゃんっ！
　それに･･･それにね？すっごい我侭だよ･･･もーーーぉ･･･
　ほんとにほんとに･････」

212 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:19

それでも。
こんなあたしを石川は許してくれるんでしょ？

「　･･･なれるよ？　うちらならなれる。そうだろ？」

抱きしめた腕の中で、あたしへの小さな非難を繰り返していた
石川の唇から、深い吐息が洩れた。

石川はあたしを拒めない。
あたしにはそれが、今、はっきりとわかった。ズルいかなぁ？

抱きしめたまま顔の角度を変えて唇を重ねると、石川の全身から
ぷつりと糸が切れたように、力が抜けていった。
あたしの胸の奥が大きくぶるっと震えて、抗えないほどの熱情が
産声を上げた。

微かに離した唇の隙間から、･･･ほんとに自分勝手なんだから、と
諦めに似た最後の抵抗の声がした。

その唇をもう一度塞ぐと、何かに急かされるように、あたしは
石川の服に手をかけた。
甘やかさと愛おしさのヴェールに包んだ、少し乱暴な仕草で。

213 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:19

体内を激しく流れ続ける血流。
そこにいま、温もりが通って二人を結ぶ。
鼓動が聞える。耳から聴くのではなく身体が感じてる。

温め合った体温が、更に深く交わり合うと、もうずっと前からいつでも
こうしていたという気がした。

目を閉じていてもその存在の確かさを感じられるから。
繋いだままの手と手に。重なる心音に。

大事にしようと思った。
いまのこういう色んな想いを。
ずっとずっと大切にして行きたいと思った。

そんな感傷的な、いままで感じたことのない感情の波の中を
あたしは漂っていた。

214 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:20

どんな想いも色褪せる時がくるようで、手を伸ばすのが怖かった。

だけど。ちゃんと目を開いて。目を凝らして。
そして見えたものは。
結局。変わることがなかった石川への想い。

信じてみようと思う。自分のいまの気持ちを。

石川に出会って、あたしは自分で思うほど強くもなく、ひとりで
歩いていけない人間であることを知った。
出す声をなくして。それでも心が呼び続けていた名前。

石川と紡いだ時間が、あたしに気づかせてくれた、たくさんの
かけがえのない日々。だから、あたしも言おう。

215 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:21

　　･･･そばにいてくれてありがとう･･･

216 名前：　I an Calling you … 投稿日：2004/10/25(月) 22:21

だけどそれをあたしは、終わりの合図にはしない。
新たな始まりの言葉として、いま伝えよう。
目の前にいる石川に。

そしてこれからもよろしくと続けよう。出逢った頃のように。
心が呼ぶままに。その名を唇に乗せて。




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終

217 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/25(月) 22:23

温かいレスの数々を頂いて。ムヤミにヤル気（書く気？）に
なっちまう、おバカな自分ですｗｗ


192名無飼育様。
　出張を拒否…って、素敵すぎですよｗ大丈夫なのでしょうか？

いつもの名無し様。
　え？爆発待ちですかぁ〜？しませんよぉたぶん、ねｗ

ラヴ梨〜様。
　自分、某精神年齢鑑定ではハタチなんだそうで。笑っとこｗ

195名無飼育様。
　第三者って、当事者より色々とよーく見えるのではと思ったりｗ

196名無飼育様。
　あはは…次回は自分なりの甘さで（？）行こうかな、とｗ

197名無飼育様。
　こんな物で宜しかったとは。有難い御言葉です。

218 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/25(月) 23:53

更新お疲れ様です。
・ﾟ･(ﾉД`)･ﾟ･うるうる・・何だかええ話やのぉ〜
たまにはこう言うのもいいもんだぁ〜ね。

219 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/26(火) 06:19

やっぱ作者さんのいしよしサイコーっす。これからも応援してます（^〜^0)^∇^）

220 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/27(水) 03:44

うっは――！
また新作だ―― !!
出張から帰って一寝入りしちゃって
見てみたらこんな…こんな…
ｨｪ―――ｯ!!　ｱﾘｶﾞﾄー！

221 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:37

その日まで。
よっちゃんはあたしにとって、ただの幼馴染のはずだった。

222 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:38

お父さん達が同じ会社で働いてて。
お母さん達は毎日井戸端会議。

よっちゃんは下に弟が二人いて。
うちにはお姉ちゃんと妹がいた。

大きな社宅の敷地の中で、あたし達は毎日どこかで顔を合わせてた。

もちろん会うのは、よっちゃんだけじゃなくって。
吉澤家の人々ともよく顔を合わせた。

そして全員が口を揃えてこう言うの。

223 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:38

「梨華ちゃんは今日も可愛いねぇ･･･ほら、うちはむさ苦しいの
　ばっかりで。石川さん家は女の子が三人もいるんだから。
　梨華ちゃん、いっそのことうちの子にならない？」って。
（弟くん達は、ここで姉ちゃんにって言うんだけど。）

うんと小さい時は、ひぃーちゃん。
中学を卒業するまでは、ひとみちゃん。
高校生の頃は、よっすぃ〜。
今はあたしが、よっちゃんと呼んでる、吉澤家には長女がいる。
その事を言うと。吉澤家の人々は、あぁアレと言った。

その後。
おばさんは、あたしねぇ、女の子を産んだつもりだったけど、違った
のよって豪快に笑って。
おじさんは、娘がいたら家が華やぐだろうなぁ。いいなぁ。って
諦めたように笑い。
弟くん達は、うちにはアニキしかいねーってって、情け無さそうに
笑った。

そう言われると、あたしも愛想笑いを返すしかない。

224 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:39

「よっちゃん、すごい美人さんじゃないですかぁ〜」

これはあたしの本音。よっちゃんってほんとに整った顔してるの。
それに認めたくないけど、色黒と言われ続けたあたしにとって。
よっちゃんの抜けるように白い肌は、溜息が出るほど、羨ましい。
光があたると甘くブラウンがかる、大きな目はチャームポイントって
言えると思うし。
最近になってスリムになったよっちゃんは、身長が高めなことも
あって、一段とジーンズを格好よく穿きこなしてる。

だけどやっぱり。吉澤家の人々は口々にこう言う。

中身がねぇ？口調がなぁ？仕草がさぁ？格好がよぉ？

225 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:39

そうなんだよねぇってあたしも思う。

よっちゃんは、よく見ると、とっても女の子らしい顔してるのに。
その顔で、皮肉なこと言ったり。無愛想なしゃべり方したり。
乱暴な態度を取ったり。パンツしか穿かなかったりで。
すっかり男の子のような雰囲気になってしまっていた。
そうすると、表情までそう見えてくるから不思議。

そんなよっちゃんとあたしが気が合うワケはなく。
駅とかで偶然会えば、そりゃ一緒に帰ったりするけど。
普段は二人で出かけたり、電話したり、メールさえ、ほとんど
することがない。

それでも、うんと子供の頃はよく遊んでた。
当時、この社宅には同じ年頃って男の子ばっかりだったから。

226 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:40

今晩も敷地の外に出る前に、吉澤のおばさんと会った。

「あら、梨華ちゃん。最近ますます綺麗になって…
　石川さんも楽しみよねぇ〜　そうだわ梨華ちゃん、あなた
　いっそのこと、うちの長男の嫁にならない？」

長男？･･･よっちゃんのすぐ下の弟くんのこと？
まさかおばさん･･･よっちゃんのことじゃないよね？

あたしが曖昧に微笑むと、おばさんはいつもの様に豪快に笑って
たまにはうちに遊びにいらっしゃいと言った。

はい。あたしは今度は、にこやかに笑って、ペコンとお辞儀を
して歩き出す。

そう言えば。昔はよく遊びに行ったよね？よっちゃんちに。
そしてぼんやりと、よっちゃんのことを思い出したりした。

227 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:40

子供の頃の写真。
小さかったあたしの横には、いつも青っぽい服で、ズボンを穿いた
よっちゃんがいた。ピンクのヒラヒラしたスカートを穿いたあたしと
仲良く並んで写ってる。

下の子が男の子だってわかった時から、弟達におさがりとして
使えそうなものばかりに、囲まれて育ったよっちゃん。
お姉ちゃんのおさがりと、妹にも再利用出来そうな、いかにも
女の子っぽいものばかりを、与えられて育ったあたし。

それはそのまま、今のあたし達の基盤みたいなものに、なって
しまった気がする。

あれはまだ小学校に上がる前。
男の子に囲まれて、競うように木登りするよっちゃん。
一番上まで行くと、見上げるあたしに得意そうに手を振った。

ブランコを漕いで。靴の飛ばしっこ。
いつでもあたしが遠くまで、よっちゃんの足が放り出した靴を
拾ってきてあげた。

228 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:41

当時、近所にあった空き地。伸び放題の雑草に、手入れされてなく
名前も知らない、大きい木と小さい木が作る山みたいな影。
懐中電灯を首から下げて、夕闇の中でした探検ごっこ。

そして。二人で作った秘密基地。

いま考えると。顔から火が出そうに恥ずかしいけど。
あたしは本気で、よっちゃんと結婚するつもりだった。

秘密基地は二人の住む家。

お気に入りのレジャーシートを敷いたあたしは、よっちゃんに
おうちなんだから、靴を脱いで上がってと言ったっけ。

泥団子のご飯。食べた振りしてるよっちゃんの頬っぺたについた
泥んこを、あたしが拭いてあげると。
よっちゃんは、あたしにギュと抱きついてきて、こう言った。

りかちゃん。あいしてる。
りかもだよ？ひぃーちゃん、あいしてる。

愛なんて言葉の、本当の意味を知ってるわけはないのに。
それでもテレビの影響だったのか、その言葉を知ってたあたし達は
その言葉を交わし合っていた。

229 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:41

そして。
これは秘密なんだけど。

あたしのファーストキスの相手は、なんとよっちゃんだったりする。

すきって言い合って。おとなになったらけっこんしようねって。
唇をぶつけ合うように合わせた。

恥ずかしいなんて気持ちは全然なくて。
家に帰って、得意げに家族に報告までした気がする。

あの時。誰かが笑って言ったんだ。誰だったかなぁ？
お母さん？それとも、お姉ちゃん？

ひとみちゃんは女の子なんだから、お嫁さんになるのは無理よって。


う゛ぅぅ〜〜〜〜っ恥ずかしすぎっ！

･･･それにしても。
なんであたしは、こんなによく憶えてるのかなぁ？

うちの家族も。
それを言い合ったよっちゃんでさえ、もう憶えてないだろう事を。

230 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:42

薄闇が刻々と濃くなる道を、あたしが駅へと向かって歩いていると
タッタッタと、後ろからリズミカルな足音が近づいてきた。

「よ。」

トーンの低い、だけど女の子だとわかる声。

「あ、よっちゃん。」

振り返ったあたしと、肩を並べてよっちゃんが歩き出す。

「こんな時間から出かけんのかよ？
　夜遊びってかぁ〜　いいやねー女子大生はお盛んで。」

…相変わらず、ヤな言い方。

ちょっとムッとしちゃったあたしに、よっちゃんは口許を片側
歪めて、薄く笑う。

「…よっちゃんこそ、どこ行くのよ？」
「バイト。」
「ふぅーん…。」

言葉が続かない。重い沈黙。

231 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:42

いつからだろう？
よっちゃんと二人でいると、居心地が悪く感じ始めたのは。

あぁ、そっか…
別々の高校に通うようになってからかな？
だってなんか…何しゃべっていいかわからないんだもん。
その頃から。どこかで顔を合わせても、なんだかよっちゃんは
どんどん無口になっちゃってたし。

それに。あのことがあってからは、特に。

ぼんやりしてたあたしは、よっちゃんにグイッと肩を押された。

なっなにすんのよぉぉぉ〜〜〜

ニ、三歩よろけたあたしが、よっちゃんの顔をキッと睨むと
細い路地を、大きな車がスピードを出したまま、通り過ぎて
いくとこだった。

あっと言う間に、すっかり闇に包まれてしまった道。
楕円のヘッドライトが、一瞬、よっちゃんの横顔を浮かび上げる。

「こんな狭めー道で、スピード出しやがって。」

バカみて。掃き捨てるようにそう言うとサッサと歩き出す。

232 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:43

よっちゃんって、いっつもこう。
あたしと一緒にいると、なんだか機嫌が悪くなっていく気がする。

せめて、危ないとか、なんとか言ってくれるなら。
あたしも、ごめんとかありがとうとか、返せるのに。

あたしが立ち止まってると、よっちゃんが振り返った。

「帰り。あんま遅くなんなよ？
　この辺。最近、痴漢が出るらしーぜ？」

あたしはちょっと鳥目っぽくて、暗い道に立つよっちゃんの表情が
よく見えない。だけど。
心配してくれてるって言うより、やっぱりどこか責められてる気が
して、あたしは言い返した。

「…よっちゃんこそっ」
「へーき。
　暗い道で俯いて歩いてたら、パッと見、男か女かわかんないから。
　石川は、どっからどー見ても女じゃん？
　ひ弱そーだし。襲ってくれって言ってるよーなもんだね。」

233 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:43

おっ襲･･･って！随分じゃない？

カチンッときたあたしは、つい早口になる。

「酷い言い方するのね！？まるで、あたしが悪いみたいっ」
「…悪いだろ？
　んな格好して。フラフラ歩かれたら、ヤりたくて堪んねー男が
　後から次々付いてくるぜ？…意外と、それ狙いだったして。」

クックックと笑う声がして。
普段、温厚なあたしもさすがに、カァーーーッと頭に血が上る。

ムカつくっムカつくっ超ーーームカつくっ！

あたしは、よっちゃんに駆け寄るとドンッと突き飛ばした。

「サイテーーーッ！」

大声で怒鳴って。
そしてそのまま、後ろを振り返らずに駅まで走った。

234 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:44

235 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:44

あんなこと言われた後で。
楽しく過ごせるわけがない。

先輩の誘いを断って、あたしは一次会で帰ることにした。

だけど。
実はちょっと怖くなってしまったって言うのもある。

デニムのギャザーがよったスカート。最近のお気に入りのアイテム。
だけど。丈が短いかな？とか。
今年買った、おニューのロングブーツ。ヒールが結構高くて、もしも
何かがあったら。あまり早く走れないかも、とか。

だけどまだ十時過ぎ。
いくら住宅街とは言え、人通りもそんなに少なくはないはず。

236 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:45

と、ところが。
改札を抜けて、大きな国道を渡る時までたくさんいた帰り人たちが
あたしが住む住宅街の方へと、誰も曲がってくれない。

街灯はちゃんと灯ってるのに、まるで海底に沈んで忘れられた町
みたいに、静まりかえった家が並ぶ細い路地。
コツコツとあたしのたてるヒールの音が、スッと吸い込まれていく。

ヤぁ〜〜〜だぁ･･･

前から、あるのは気づいていたけど、無人らしく荒れた家。
伸び放題の葉をつけた木がワサワサと揺れる影に、あたしの喉が
ゴクリと動いた

　…気にしない気にしない。見ない見ない。

いつもだったら、全然気にならないのに。
意識しだすと、あの真っ暗な古びたおうちから、何かが飛び出して
きそうで、あたしは足を早めた。

237 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:45

ふいに。
後ろの方で、誰かが近づいてくる足音がした。

知り合いかも？
振り返ろうとしたけど、身体にヘンな力が入って振り返れない。

急ぎ足で近づいてくる音が、やけに響く。
だったらいっそのこと、追い越してもらおうと、足を止めた。
なのに。
あたしが立ち止まると、近づいてきた足音が急に止まった。

な、なななんで･･･止まるのよぉ〜〜〜

あたしはなんだか泣きたくなった。

怖いよぉ。
そう思った瞬間。あたしは走り出していた。

238 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:45

ハァハァと自分が荒くつく息が、聞える。
ドクンドクンと、激しく鳴り出す心臓の音。

そして。
あたしのたてるヒールの音とは別の、追いかけてくる足音。

ヤだヤだ止めてーーーっ！

頭の中で声にならない悲鳴を上げて、全速力で走り続けた。
そのまま角を曲がると、社宅が見えてきた。

駐車場になっている敷地を囲っているチャーンを、急いで跨ごうと
上げた足の踵の細いヒールが、チェーンに絡まったらしい。

グイッと足が、強い力で引っ張られたと思ったら。
膝がコンクリートにずるように打ちつけられて。
自分が転んだらしいとわかったあたしは、パニくった。

ヤだどうしよヤだヤだどうし･･･

「　･･･おい。」

239 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:46

へ？

聞きなれた声。この声って･･･
転んだままで振り返ると･･･よっちゃんがいた。

な、なんだ･･･なんだ、なんだ、なーーーんだ･･･

そりゃずっとついてくるわけだよね？
それならそれで、なんで声かけてくれないのよぉーーーっ

あたしの目頭がじんわりと熱くなる。
よっちゃんは、あたしの横で膝を付いた。

「　･･･ぬげよ。」　　　　　　　　　　　
「へっ？！」
「ブーツ。石川、そのままで立てんの？」

あ。ヤだあたし。何を動揺してんだか。

あたしがブーツから足を抜くと、よっちゃんがチェーンから
外してくれた。

240 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:46

「ほら。」

素っ気無く渡されたブーツに足を入れてたら。
なんでか、なんでかわからないけど。

急に涙が溢れてきた。

よっちゃんが、驚いたように目を見開いてあたしを見てる。
それがわかるから、あたしはグイッと目を擦ると、俯いて
不貞腐れた声を出した。

「痛いのっ！　･･･膝がものすごーく痛いのっっっ」

よっちゃんは、あーぁと小さく呟いた。

「派手にやったなー。
　だからって泣くかぁ？オマエいくつだよ。」

よっちゃんの声が、なんだかいつもより優しく聞える。
そんな声を出されたら、もっと泣きたくなってくる。

241 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:47

あたしは。

たぶん。とても安心してしまっていた。
目の前にいるのが、よっちゃんだってことに。

だけど、それをよっちゃんに知られるのは嫌だった。

そんなことで涙ぐむ自分が、すごく悔しくて。

だったら転んで泣いてるって思われた方が、ずっといいって
思った。

だからあたしは、不貞腐れた声をまた出した。

242 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/10/29(金) 11:48

「年なんて関係ないもんっ　痛いものは、痛いのっ！」


フッと笑われた気がするけど。
俯いてたあたしに、その表情は見えなかった。

243 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/29(金) 11:49

更新しました。

アイの続編を書こうと思っていたはずが･･･
何故か、このどーしようもなくよくある話が脳内に浮かんで
来てしまい、書きたくてしょーがな…（ｒｙ

今回。よっちゃん、オトコっぽ過ぎるかも知れません…（汗
可愛らしい彼女がお好き方はごめんなさい。

こうなるには、それなりの背景があったと言うことで。
取り合えず。楽しんで頂けたらいいな、と思っております。

244 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/10/29(金) 11:49

いつもの名無し様。
　そうですねｗうるうるして貰えて嬉しかったです。

219名無飼育様。
　ありがとうございます。自分はいしよししか萌えないんでｗ

220名無飼育様。
　ウヒャヒャヒャッ…失礼。面白い方ですね〜〜〜ｗ

245 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/29(金) 13:46

新作キタ━━━━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━━━━!!!!!

カッケーよちゃんも好きなので
楽しみにしてますｗｗ

246 名前：名無し飼育 投稿日：2004/10/29(金) 16:09

う〜ん・・・ここのお話はホントどれも良質だ
読むのが楽しくなってくる
つい作者さんを応援したくなってくる

247 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/29(金) 18:26

作者さんいやん　そんなに笑わないで〜ん

ちょっとバンカラなよっちゃん…
これでこれはこれでえんやん

248 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/10/29(金) 20:02

更新お疲れ様です。
やっぱりよっちぃ〜はどんな感じでもカッケーなぁ〜ｗ
なに！？あの続編があるとな！？
それも気になるけどもこっちの続きも気になりますねｗ
出来れば波乱を･･･o(メ¬¬)=○○ )T.T)☆☆☆

249 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/10/29(金) 22:27

更新お疲れ様です！

おとこっぽいよっすぃ〜いいです！
今日のＭステみたいな女の子よっすぃ〜もいいですけどｗ

250 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:13

電話が鳴った。

あたしが雑誌から顔を上げて見ると、すでにお母さんが
受話器を取っている。

「はい。石川でございます。
　あら、こんにちは。　･･･え？まぁ･･･そうなの？
　心配ねぇ〜　･･･　」

どうやらお母さんのお友達みたい。
それは勿体無いわよって力説してる。

また雑誌に目を落とすと。ふいに自分の名前が出てきて
あたしは顔を上げた。

「…迷惑だなんてとんでもないわぁ、困った時はお互い様。
　いいの、いいの。どうせあの子、冬休みで暇なんだから。」

それじゃぁねって受話器を置いたお母さんと目が合う。

…なによ？

251 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:14

あのね？梨華ちゃんってお母さんは話始めた。

吉澤さんちが商店街の年末福引で温泉旅行を当てたのよ。
子供達は、折角だから夫婦でゆっくりしてくればって言った
らしいんだけど。ほら、冬休みじゃない？

だからどうせなら家族旅行にしましょうってことになって
子供達の宿泊分はお金を出すことにして予約したらしいの。

そうしたらね？　…出発する今日になって。
ひとみちゃんが風邪を引いてしまったんですって。

奥さんは、自分も行くのを止めるって言ったんだけど。
ひとみちゃんが、もう子供じゃないから一人で大丈夫だし
キャンセル料、増やすのもバカらしいって言うらしいの。

だけど。熱がかなり高いみたいよ？
だからあなた、夕方にでも見てきてあげてちょうだい。
お母さん、お粥作るから。それ持って、ね？


･････げっ!!!

あたし。顔に出ちゃったみたい。

252 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:15

お母さんは、あたしをフフンと睨んだ。

「…嫌だなんて言わないわよね？
　ご近所のお友達が大変な時だもの。」
「い、いいわよっもちろん！」

なんだか喧嘩腰の大声が出ちゃったあたしに、お母さんは
溜息をついた。

「お母さん、前から気になってたんだけど。
　あなた達、なんかあったの？･･･昔はあんなに仲良かった
　じゃないの？」
「…ないよ。」

素っ気無く答えると、あたしはまた、雑誌を見てる振りをした。

これ以上聞かれたくないから。だって。
なんて答えればいいのかわかんないんだもん。
ただなんとなく…なんとなく遠くに感じるようになっていただけ。

そうなんだよね〜　ふと、気づいたら。
よっちゃんはあたしといると、楽しそうじゃなくなってたの。

253 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:16

あの感じってなんだろう？

そう。見えない壁があるみたい。ビリビリ何かを張り巡らせてる壁。
そしてその壁を越えると、すべての形が変わっていくみたい。

あたしの言葉は、いつでもそのままの形で、よっちゃんに
届いてない気がした。
他愛無くかけた挨拶の言葉も。
最近どうしてるの？なんて日常的会話も。

とにかくあたしが話しかけると、よっちゃんは不機嫌そうな
顔して、必ずヤな感じで返してくる。

おはようって言うと、いま昼じゃん？とか。

くだらないんだけど。そんな風にばかり言われると。
やっぱり、こっちも不愉快な気持ちになっちゃうんだよね。

だけど。この間は…
そのビリビリ光線の壁が、故障中だったみたいで。

口調はいつもと変わらなかったけど。
なんだかよっちゃんを囲む雰囲気が変わってて。
だからあたしの方が落ち着かなくなっちゃって…
そう、とにかく落ち着かなくて。

254 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:16

「いつまでヘタリこんでる気だよ。…ほら。」

よっちゃんはあたしの腕を掴むと、グイッと引き上げた。

立ち上がると、ヒールの高さで、よっちゃんの目があたしと
近い位置にあった。

その目が。あたしを見てたの。
いつでも逸らされてた目線が、真っ直ぐあたしを見てたの。
あたしも思わず見ちゃった。よっちゃんの目。

そしたらね？
その目が、あんまり深い色をしてて。
何もかもを見透かしてしまいそうで。
おまけに、グサリと刺さりそうに強かったの。

…あたし。
なんでだろう？急に心臓がドキドキ鳴り出して。そしたら。
掴まれてる腕が、急に熱くなってきて…

怖い、と思った。
何が怖いかわからなくて。それがよけいに怖くて。
だからあたし…


走って逃げちゃった。

255 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:17

ヤだな。
ふいに浮かんだ気持ち。何が嫌なのかはわからない。

だけど憂鬱。

「ヤだなぁ…」

あたしは声に出して言っていた。

256 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:17

日が暮れた後。

お母さんに、お粥と林檎を持たされたあたしは、吉澤家の
チャイムを鳴らした。

少し待つ。

…寝てるのかな？
あたしは、吉澤のおばさんが出がけにうちに置いて行った合鍵を
出すと、ドアをガチャリと開けた。

「…お邪魔しまーすぅ」

一応声をかけて、つっかけていたサンダルを脱ぐと、電気をつけた。
シンと冷えた廊下に、少し温もりが伝わったような気がして
あたしは一息つくと、辺りを見回した。

変わってない？変わった？…よくわからない。
だって、見慣れすぎたうちと同じ間取りなんだもん。

257 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:18

よっちゃんの部屋。前と同じだよね？

あたしは最後に来たのはいつだったっけ?って思いながら
部屋のドアをノックした。

やっぱり返事は無し。

ノブに手をかけてまわすと、カチャと小さな音がした。

家中がシーンとしてるから、あたしは物音をたてないように
そぉっとよっちゃんの部屋に入って、開いたドアもゆっくり
閉めた。
手に持ってたトレーを、取り合えず机に乗せて、ベッドに
近づく。
よっちゃんは布団に包まるようにして、壁の方を向いている。

ふぅ…　あたしは小さく息を吐いた。

何を緊張しているの？！　…バッカみたい。

あたしが両肩を上げた時。
よっちゃんが寝返りを打って、こっちを向いた。

258 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:18

頬っぺたが赤い。

閉じられてた瞼が、小さく震えて。
ゆっくりと上に上がって行く。

トロンと焦点の合ってない目が潤んでる。

そうとう熱がありそうだよ！？
これって、ヤバいんじゃ…

あたしが無言のまま、よっちゃんの顔を見てると、潤んだままの
目の焦点が、だんだん合ってきた。

「…石川？」

掠れて、殆んど音の無い声。あたしは頷いた。

「お薬飲んでる？」
「一応…昼、飲んだ。」
「お粥持って来たんだけど、食べれそう？」
「わりぃ　…無理。」
「飲み物は？なんか飲む？」

よっちゃんは、億劫そうに瞬きをした。

259 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:19

「…口移ししてくれんなら飲めるかも。」

なっっっ
なんてことゆーのっ！病人のクセにっ!!!

　･･･て、あ。病人だから？

待って、でも…フツー言わないよね？そんなこと。
やっぱりふざけてるの？熱がある時まで？！

もぉっあたしがカッカしてきちゃうじゃない！
相手は病人なんだから。熱があるんだから。怒っちゃダメ！

「…冗談。
　第一、んなことしたら、うつるだろ？風邪。」

やっぱりふざけてたのねっ？！信じられないっ！

だけど。
キツそうにまた目を閉じる顔を見てたら。
怒ることなんて出来ないよ。

あたしは、よっちゃんのおでこに手をあてた。

…熱い　やっぱりそうとう熱がありそう。

260 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:19

そうだ！
冷やしてあげよう！

「よっちゃん。冷えピタとかある？」
「…わかんねー」
「あたし。家にかえ･･･」

って取ってくるって言おうとして。
おでこからうかした手を、よっちゃんが掴んだ。

「このままにしてて。　･･･スゲー気持ちいい。」

瞼を閉じたままのよっちゃんの口許が、薄く笑う。

でも。でもね？
あたしの手首を掴んでる、よっちゃんの手と。
あたしの手の平が触れてる、よっちゃんのおでこ。
シャレにならないくらい熱いよ？

･･･どーしよう？

あたしが眉間に皺を寄せた時。携帯が鳴った。

「あー。机に投げたまんまだ。ちょっと取って。」

261 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:20

よっちゃんの手が、あたしの手首を離す。
握られてたとこと、おでこに触れてたとこが熱い。
よっちゃんの熱を吸ってしまったみたいに。

あたしはもう片方の手で、熱を持った片手を擦りながら
机から携帯を取った。

「はい。」
「めんどくせーなぁ　･･･誰から？」

あたしはサブ待受けの小さな画面に浮き出てる名前を読んだ。

「オガワマコトって人。」
「マコトかぁ〜　･･･出る。かして。」

よっちゃんは咳き込みながら、携帯を開いた。
耳にあてて、いつもより低い声を出す。

「　･･･あ。ん、ごめんな？今日。･･･ん、ハハッ…」

262 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:20

　
　−　オガワマコト　−



誰かな？
ゴメンって、今日、約束でもしてたの？

そんなにしんどそうなのに、その人の声を聞いたら
笑顔になれちゃうような関係の人？

ひょっとして？
…ひょっとしたら…よっちゃんの彼氏とか？

急に。
この部屋にいたくないと思った。

あたしが知らない誰かと、楽しそうに話してるよっちゃん
なんか見たくないって。

あたしはそのまま、よっちゃんの部屋を飛び出した。

263 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:21

一度も振り返らずに、自分の家の玄関まで戻って。

肩でついていた息を落ち着かせる。

あたし。
何をこんなにイライラしてるの？

だって。
だって、よっちゃんが人の気も知らないで、呑気に電話なんか
してるから…

そう、そうだよ！
あたしが心配してあげてるのに！
あんなに熱が高そうなんだから、病人らしく寝てればいいのよ。

264 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 12:22

そう、そうなの。それだけだよ。


かなり落ち着いてきたあたしは、やっぱりよっちゃんちに
冷えピタを持って行ってあげようと思った。

265 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/06(土) 12:22

更新しました。
レスをありがとうございます！嬉しいっす！


245名無飼育様。
　ずっと楽しみにしてもらえたらよいなとｗ


名無し飼育様。
　楽しんでもらって、応援して頂けるなら嬉しい限りです！

266 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/06(土) 12:23

247名無飼育様。
　いや愉快な方だとｗええやんええやん♪


いつもの名無し様。
　波乱…この話は短め予定だし、期待なさらないでぇ〜（汗


249名無飼育様。
　最近のよっちゃんの可愛らしさったら、敵ナシですなｗ

267 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/06(土) 12:40

ﾊﾋ―――――ｯ!!!
よっつぁん　いいじゃないの〜
ちょっとぉ　どきどきしてきたよ
ﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｷﾄﾞｺﾄﾞｷﾄﾞｷ………･････････････････

268 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 18:51

三十分後。
冷えピタを持って、もう一度よっちゃんちに行くあたし。

玄関を開けて、鍵を閉めてなかったことに気づき。
ドアを開けて、廊下の電気が点けっぱなしだったことに
自分で呆れた。

こんなのお母さんに知られたら、何を言われるかわからない。
ま、よっちゃんにもだけど。

よっちゃんの部屋のドアを、そぉっと開ける。
ノックなんかしなかった。
だってさっきは、そういう音で起してしまった気がするから。

269 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 18:51

ベッドの上で丸まってる布団の塊。
その下に無造作に投げ捨てられてる携帯。
あたしは携帯を拾うと、机の上に置いた。

あの後。どのくらいお話したの？
五分？十分？十五分？
…どんなお話をしたの？

よっちゃんはあたしの前では、あんなに屈託ない笑顔を
しないクセに。なんだかズルいよ。

子供の頃はあんなに仲良しで。
よっちゃんの笑顔は、いつでもあたしに向いていた。

それが、少しづつ、大人への道を歩き出した途中で。
よっちゃんは、あたしから目を背けるようになった。

子供のままではいられないってわかってるけど…

ねぇ？いまのあたしって、よっちゃんにとってどんな存在？

ふっと、聞いてみたくなった。

270 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 18:52

あたしはベッドの前に膝をついて。
丸まる塊に話しかけた。

　･･･こっち向いてよ。ねぇ、こっち見て。

高熱の病人に、あたしは何が言いたいんだろう？
よくわからない…
だから。もちろん声に出したりしなかったのに。

よっちゃんの顔がこっちを向いた。
目を閉じたまま。ポツリと言う。

「　…寒みー」
「寒いの？熱上がったのかな？」

よっちゃんは答えない。目も開けない。
寝言？

おでこに、また手を当ててみて。
あたしは小さく息を呑んだ。

さっきより、熱くなってる気がする。

取り合えず、冷えピタを貼って。
よっちゃんの寝顔を見てると。唇が小さく震えていた。

どうしよう？
こういう時はどうしたらいいんだっけ？

271 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 18:52

あ！温めるんだ!!!
汗をかくと熱って下がるんだよね？

だけど。
いくらよっちゃんちとは言え、勝手に家捜しする気には
なれない。

あたしはちょっと考えて。
それから、よっちゃんのベッドに上がると小さく震えてる身体を
布団ごと抱きしめた。

いいよね？女の子同士だもん。

よっちゃんが身じろぎするから、嫌だったのかな？と思って
抱きしめていた腕を離すと、よっちゃんはしんどそうに眉を寄せ
目を閉じたまま、掛け布団を上げて腕を開いた。

そ、その中に入れってことぉ〜？

あたしはなんだかドキドキした。ううん。なんだかなんてもん
じゃなく心臓がドッキドッキってウルサい。
だけど。
よっちゃんにソレがバレちゃうのがイヤだった。
だって昔は、よくそうして寝てたもん。当たり前だったもん。
ドキドキなんてしなかったもん。

272 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 18:53

きっと。久しぶりだからだよ。
ちょっと緊張しちゃっただけ。

あたしは、自分の考えに納得して、よっちゃんの腕の中に入った。

そしたら。
柔らかく抱きしめられて。
そのあたしを抱きしめる腕に、だんだん力が入ってきて。

あたしは息苦しくなった。

相変わらず、心臓はウルサくて。
もっと別の得体の知れない何かが顔を出そうとする。

ヤだっ！

あたしは目を閉じると、昔のことを考えた。
こうやって、よっちゃんの腕の中にいるのを当たり前だって
思ってた頃のことを。だってそうしていないと。
あたしの心のドアの向こう側で、大人しく寝てた何かが、起き
出してきてしまいそうで、なんだかとても怖かったから。

273 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 18:53

小学校の頃。

あたしはお休みの前の日に、よくよっちゃんちに泊まった。

3DKの社宅。
当時、うちはお姉ちゃんが一人部屋で。
あたしは妹と同じ部屋だった。
よっちゃんは女の子だから一人部屋で。
弟くん達が同じ部屋。

夜。同じベッドに入って。
あたし達はいろんな話をした。

だけど。眠くなってきて、あたしが欠伸をすると。
よっちゃんは必ず怖い話をする。

それはテレビだったり、噂話だったり。

あたしが怖くなって、耳を塞いで、身体を丸めると。
よっちゃんはいつでも、あたしを抱きしめてくれた。

274 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 18:54

「バァーカ。怖がりー♪　大丈夫に決まってるだろぉ〜
　あたしがいる。いつでもあたしが梨華ちゃんを守って
　あげる。」

あたしは半べそをかきながら、頷いて。よっちゃんにしがみついた。

そうすると。
よっちゃんに抱きしめられてると。
ほんとに世の中に怖いものなんか一つもない気がした。

いつだって。
よっちゃんはあたしを守ってくれる。
物心がついた時から、いつでもあたしを守ってくれようと差し
出され続けた腕。それに甘えるのはあたしにとって当たり前の
ことだった。

275 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:01

そしてあれはいつだったっけ？
五年生か六年生の夏休み。

町内で肝試しがあった。

シンとした暗い道。
賑やかな夏祭りが楽しかった時とは違う顔してる神社。

風で木が揺れる度に、あたしは足がすくんで、よっちゃんと
繋いでる片手に力を入れた。

よっちゃんは、あたしを安心させるように、その手にギュッと
力を入れて握り返してくれる。

「大丈夫。あたしがいる。あたしが守ってあげる。」

よっちゃんの声にあたしは安心して。顔を上げた。
怖くて、自分の足元ばかり見てたあたしは、初めてよっちゃんの
顔を見上げた。

そして。気づいた。

276 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:01

よっちゃんの顔が、緊張で青白くなってることに。
繋ないでいる手が小刻みに震えているのは、それは…

あたしだけじゃなくって。
よっちゃんも震えていたからだってことに。

あたし。
その時、思ったの。
なんてバカだったんだろうって。

あたしが甘えてばかりだから。
よっちゃんはいつでも無理してたんだって。

別に、よっちゃんを男の子の代わりだと思ったことはなかった。
だけど、あたしは。
よっちゃんを女の子の友達とも違う接し方をしていたと思う。

あたしにとって、よっちゃんは。
男の子とか、女の子とか、そういう括りみたいのが無くて。
いつでも強くて、怖いものなんかなくって。だから。
無条件で、頼って、甘えていい相手だと思ってたから。

277 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:01

だけど、違った。
よっちゃんは女の子で。やっぱり怖いものがあるって。
そんな当たり前のことに、あたしは、始めて気がついた。
そう。
よっちゃんだって、たまには誰かに守ってもらいたいって思ってる
普通の女の子なんじゃないかってことに。

だからあたしは。
対等な友達になりたいと思った。
ううん、対等にならなきゃいけないと思った。
だってそれが友達だから。

278 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:02

その後で泊まりに行った夜。

また怖い話をするよっちゃんにあたしは言った。

「ねーひとみちゃん？
　ひとみちゃんも、ほんとはオバケ苦手でしょ？」

よっちゃんは、ギョッとした顔をしてから、目を逸らした。

「べーつーにぃ〜」
「ウソだぁ！
　ね？あたしの前で格好つけなくていいよ？　
　だってあたし達、友達じゃん！」

よっちゃんが顔を背けたまま答えてくれないから、あたしが顔を
覗きこむと、よっちゃんは、まるでどこかが傷ついたような、
その上、なにかを怒っているような表情をしていた。
あたしは驚いた。

なんでぇ？

無理しなくていいよって言いたかっただけなのに。
喜んでもらえると思ったのに。

279 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:02

その夜。
あたし達は背中を向けたまま眠った。

すごく寂しくて。
なんだか泣いちゃいそうに悲しかった。

だからあたしは、その夜以降。
よっちゃんちに泊まりに行きたいとは言えなくなった。
そしてよっちゃんも、泊まりにくればと言わなくなった。

280 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:04

「…温けぇ」

耳元にくぐもった熱い息がかかって。
あたしの背筋がぴくんと跳ねた。

「……苦しいんだ…･･マジで苦しくて、苦しくて･･･
　もう我慢出来ないかも･････このままじゃ…頭がおかしく
　なっちまう……楽になりてーよ」

うわ言みたいに繰り返される、よっちゃんの呟き。

そんなに苦しいの？

あたしは心配になって、慌てて顔を上げた。

よっちゃんはあたしのことを見ていた。
熱に浮かされた、濡れた目を開けて。

「…もう死にそう」

よっちゃんは、力なくそう言うと。また瞼を閉じた。

281 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:04

あたしは急に泣きたくなった。

なんだか切なくて。
胸がキリキリ痛んだ。

今やぐったりと力の抜けたよっちゃんの身体を、あたしは
思い切り抱きしめた。

「…いいよ？
　そんなに苦しいなら。あたしかわってあげる。
　あたしね？意外と熱に強いんだからっ！」

あたしは薄く涙ぐんだ。
強がってばかりのよっちゃんは、きっとこんな時にしか
本音を言わない。

だからこそ。
少しでもあたしに甘えてくれるなら、あたしは受け止めたい
って思った。そうしたら。
よっちゃんの熱が下がった後も、昔みたいな仲良しになれる
気がして。

282 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:05

・・・だろ

よっちゃんは呟いた。

だけど。
熱で掠れてる上に、小さすぎる吐息のような音は、もうちゃんと
した声になって、あたしの耳に届かない。

苦しそうに目を閉じたまま。
それでもまだ何か言おうとするよっちゃんを、あたしは
止めた。

「明日。明日聞かせて？
　熱が下がってから、ゆっくりお話しようよ？ねっ？！」

よっちゃんは、薄く目を開けて、また何か言いかけ。
諦めたように目を閉じた。

283 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/06(土) 19:05

明日になったら、きっと楽になってるよ？
いきなり平熱は無理かもしれないけど。

きっと微熱くらいにはなってる！

あたしはそれを強く信じて、自分も目を閉じた。
そう強く思い続けることだけが、自分がよっちゃんにして
あげられることだって思えたから。

284 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/06(土) 19:06

ほい。しつこく本日二回目更新。


267名無飼育様。
　もぉっとﾄﾞｷﾄﾞｷして頂けたか？ｶﾞｯｸｼされちゃったかｗ

285 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/06(土) 20:21

更新お疲れ様です。
いつも読ませていただいてます。
今回のは特に惹きつけられます。スゴク良いな〜。この感じ。

286 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/06(土) 20:47

ｵｲ―――――ｯ!!　ﾒｲ―――――ｯ!!
何で更新されてるのっ!?
びびびっくりよ
ﾄﾞｷﾄﾞｷが止まらないわ

287 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/11/06(土) 20:59

更新お疲れ様です。
いいなぁ〜いいなぁ〜何だかとってもいい感じですね。
ポワ〜ンって感じでいいっスね！
続きが楽しみですよｗ

288 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/06(土) 23:13

おぉ！おもしろい！
更新期待してます♪

289 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/06(土) 23:57

更新お疲れ様です！
今回もおもしろ〜い♪イイですね〜
作者さまのファンのひとりです・・

290 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/07(日) 03:23

更新お疲れ様です！

梨華ちゃんが可愛いすぎぃｗ
もーやばいっす(*´Д`)ﾎﾟﾜﾜ

291 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/07(日) 21:23

更新お疲れ様です。

梨華ちゃんうらやましい…。
私もよっすぃ〜の布団に潜り込みたいなぁw

292 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:22

よっちゃんを抱きしめたままで、目を閉じてたけど。
上手く眠れない。だって暑いんだもん。
よっちゃんとくっついてる身体だけじゃなくって、あたしは
額もじんわりと汗ばんできていた。

それに抱きしめるっていったって。
あたしの方が、身体が小さいから、よっちゃんの腰の辺りに
腕を回して、しがみついてる感じなんだよね。
なんだか格好悪い。

そうなんだよね〜
小さい時から、今まで。
よっちゃんの身体はいつでもあたしより大きかった。
さっき抱きしめられた時も。
あたしは腕の中に、すっぽりと包まれてしまった。
かなり細いのに。大きさを感じる身体。長い腕。
ちょっと悔しい。

だからかなぁ？
よっちゃんが、あたしより一つ年下だってこと。
すぐ忘れてしまう。はぅ…あたしって情けない。

293 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:22

あの時、学校に。
なんでよっちゃんがいなかったんだっけ？って思ったら
あたしは中学生になっていて。
よっちゃんはまだ小学生だったんだってことに気がついた。

あの最後のお泊りの後。
よっちゃんにしばらく会わなかった気がするのは。
丁度そんな境目の時期だったのかも知れない。

だけど。
よっちゃんが中学に通う頃には、また仲良くしてたと思う。
なにがきっかけだったとか、もう憶えてないんだけど。

よっちゃんはバレー部に入った。
あたしはもうテニス部に入っていた。

部活って終わる時間がだいたい同じだから、あたし達は
いつも一緒に帰ってた。
朝も一緒だったよね。
だって同じ場所から行くんだもん。

294 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:23

うちの社宅は学区の外れだったから。
三十分以上かかったんだ。学校まで。

そうそう。
遅刻しそうな日。
自転車通学が禁止されてたのに、よっちゃんは自転車を
出してきた。

スカートを翻して、立ちこぎするよっちゃんの自転車は
信じられないくらいのスピードで走り抜ける。

あたしはこのまま走り続けたら。
見たことも無い知らない場所まで行ける気がしたっけ。

よっちゃんのすぅすぅという寝息があたしの髪にかかる。
なんだか少しづつ苦しくなさそうに変わってきてる気がする。

その寝息を聞きながら、目を閉じたら。

優しい夕日が照らしてる。少しだけ急な坂道を。
スピードをあげて滑り降りる、二人乗りの自転車の上で。
悲鳴を上げるあたしと、よっちゃんが楽しげに笑う声が、聞えた
気がした。

295 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:24

夢だとわかってた。

296 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:24

中学生のあたしが体育館に続く、渡り廊下を歩いてる。

濃い緑。上空で吹く風は足元まで届かない。乾いた地面。
そこに映る生い茂った枝葉の影が微かに揺れるだけ。

蝉が狂ったように鳴いている。
まるでこの光景を忘れるなと言うように。

あ。この感じ…
あれは中三の二学期。


ダメッ！そっちに行かないでっ！あたしは中学生のあたしに叫んだ。
だけど。あたしは足を止めない。


渡り廊下の曲がった先からキャッキャと愉快そうな女の子達の
笑い声がする。
その笑い声の中に、あたしとひとみちゃんの名前が出てきて。
やっぱり、中学生のあたしは足を止めた。

297 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:25

ダメだってば!!!聞いちゃダメッッッ

中学生のあたしは、小首を傾げると。足音を忍ばせて。
曲がり角に身を隠しながら、聞き耳をたてている。


吉澤さんのチャリの隠し場所…
チクってやった…
二人乗り…イチャイチャしやがってムカつく…
石川、いい気になってる…先輩だからって調子にのんなっ…
吉澤さんが可哀想…変な噂までたてられて…
あのふたりレズだって…


ミーンミーンミーン…ミーンミーンミーン…ミーン…

ああ。ウルサい。あの蝉。お願い、止めてよ。
忘れないよ。忘れたりしないから。もう鳴かないで。

太陽が燃えてる。ギラギラと真っ白に燃えてる。
なのになんで？
どうして？あたしの身体は震えているの？
なんだか寒い。違う。暑い。暑くて暑くて。

…眩暈がする。

298 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:25

「…ったく、誰だよっ？！チクりやがって！」

いつもは優しい夕暮れが。
今日は辛い。夕焼けが赤すぎて。なんだか目に痛い。

「ねぇひとみちゃん…」
「…ん？」

部活で日焼けしたひとみちゃんの顔。
ミルク色だったのが、ミルクティーみたいになってる。
あたしは濃い。うんと濃いストレートティー。

「あたし三年じゃない？
　そろそろ部活引退するから…だから…
　もうこんな風に一緒には帰れない。」
「････････」
「それと…朝練ももうないから。朝も別々だね。」
「････････」
「あと…体操着とか。忘れた時、同じ学年の子に借りなよ？」
「…なにそれ？なんで急にそんなこと言うんだよ？」
「…急にじゃないよ？
　前から…前からちょっと気になってたの。
　体操着って学年毎にカラー違うから…ほら、忘れたって
　目立っちゃうし。」
「…ふぅ〜ん。……わかった。」

299 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:26

ひとみちゃんは怒ったみたいに。急に早足で歩き出した。
あたしから離れていく背中。

やっぱり今日の夕焼けは。目に痛い。

あたしが瞑った瞼の裏に浮かんだのは。
ひとみちゃんの背中にあたる、オレンジ色の残照。

300 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:26

「…吉澤さんと梨華ちゃんは目立つもん。」

一人でも目立つ人が。二人揃ったら、なお目立つ。
親友の柴ちゃんは、しょーがないじゃんって肩を竦める。

あたしは柴ちゃんに聞いてみたのだ。
ひょっとして。あたしとひとみちゃんって変な噂とかって
あるのかなぁ？って。

柴ちゃんは。…あぁって曖昧に笑って。そう答えた。

あたしが唇を噛むと。柴ちゃんは慌てて続けた。

「大丈夫だって。人の噂なんていちいち間に受けることないし。
　二人は、幼馴染で特別なんだから。
　堂々と仲良くしてなよ！
　どーせ、吉澤さんファンのやっかみでしょ？」
「･･･うん。」
「だけど、ちょっと惜しーよねぇ〜
　吉澤さんが男子だったら。すっごいお似合いのカップルに
　なれんのに。」

ひとみちゃんが男の子だったら？

301 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:27

それは違うよ。
確かにひとみちゃんは男の子っぽいけど。

彼氏みたいにして欲しくて傍にいたんじゃないよ？

ひとみちゃんはひとみちゃんだもん。
ずっと傍にいたんだもん。いつでも。
いちばん傍にいるのが当たり前な人だったんだもん。

だけど。周りはそう思ってくれない。
ひとみちゃんが男の子っぽいから。まるであたしが彼女気取りで
くっついてるって見てる。

だけど。
ひょっとして逆？違うの？
あたしが傍にいるから。ひとみちゃんは男の子っぽくなって
しまうの？
あたしが相変わらずしっかりしてないから。甘えちゃうから。
だからひとみちゃんは。
頼りがいがあって。決断力があって。行動力があってって。
どんどん、強く、しっかりとした男の子みたいになっていったの？

302 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:27

あたし間違ってたのかな？
　
このままあたしがひとみちゃんを頼り続けたら。
ひとみちゃん…疲れちゃうかも。
好きな人とか出来ても、こんな噂があったんじゃ困るだろうし。

そう言えば。
ひとみちゃんから、好きとまでは言わなくても。
気になる男子の名前とか、聞いたこと…ない。

今度。今度、聞いてみよう。

303 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:28

304 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:28

ひとみちゃんとあたしが駅前を歩いてる。

三つ先の大きな駅。

ああ、そうだ。
ひとみちゃんが新聞屋さんからもらった映画のチケットが
あるからって誘ってくれたんだ。

流行のロードショウだった。日曜日ですごく混んでた。
一番大きなスクリーンで上映してて。
劇場を出る時。
視線を感じて振り返ると、同じ学校の子がいた。

その視線に、気を取られてたあたしは、人波に肩を押されて。
ひとみちゃんは、よろけたあたしの腕を支えるように掴んだ。

こっちを見てた視線の先の女の子達が、耳打ちしてる姿が見えて。
あたしは、ひとみちゃんの腕を振り払った。

305 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:29

もうっ！大丈夫だよ…？
子供じゃないんだから…？
いちいち構わないで…？

なんか言ってるあたし。
プイと顔を背けたひとみちゃん。

気まずくなった帰り道。

まだあの視線が自分達に絡まってくる気がして。
たまらず、あたしは聞いたんだ。

ひとみちゃん。気になる男子とかいないの？って。

ひとみちゃんは、少し間をおいて。いない。と答えた。
そして。
ポツリと呟いた。…そっちは？って。

306 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:29

あたし。
その時まで気づいてなかった。

自分にも、そんな男の子いないってこと。

格好いいと言われてる子もいたし。
すごくモテてる子もいた。
なのにあたし。
誰のことも。いいと思ったことなかった。

いつも心のどこかで。
比べてた気がする。ひとみちゃんと男の子を…

あたし。ショックだった。

なんだ。やっぱりあたしが悪かったんだって。
無意識だったけど。
あたしがひとみちゃんを、そんな風に見てたから。
ひとみちゃんは、どんどん男の子っぽくなっていくんじゃないか。
無理をさせてるのはあたし。ふいに、そんな気がして。

だから。そうしなきゃいけない気がして。

307 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:29

嘘をついた。


気になってる子ならいるよって。


ひとみちゃんは何も答えなかった。

誰？って聞かれたら、どうしようって思ったけど。
聞かれなくてホッとした。

それであたし、こう続けたんだ。

「あたし…もうすぐ受験だから。
　暫くの間、こういう風に出かけられないと思うの。
　だけど。来年の春になったら、どこかに行こうね？」

ひとみちゃんは返事をしなかった。
何か言いたいことを堪えれるように、真っ直ぐに引き結ばれた唇。

あたしが急に遊べないって言い出したから、怒ってるんだと思って
それならそれで、怒鳴られたってかまわない。

それ以上、あたしは何も言わなかった。

308 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:30

我ながら、いいアイディアだと思ってたから。

暫くの間。二人で会わないようにして。
時間が経てば。噂だって消えるだろう。
あたしが違う学校に通うようになれば、二人でいるところを
見られたって、視線が気になることもない。

あたしはすごく満足していた。自分の考えに。

だってあたしは。
この噂をひとみちゃんに聞かせたくなかったから。絶対に。
ずっとあたしを守ってくれてたひとみちゃん。
だからあたしは。何をしてでも。
この噂が、ひとみちゃんを傷付けることからは守り通したかった。

そして。
ひとみちゃんも何も言わなかった。

309 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:30

だけど。

次の年の春。
あたしとよっちゃんが出かけることはなかった。

それどころか。
日を重ねる毎に、よっちゃんはあたしから遠ざかって行った
気がする。

さらに次の春。
よっちゃんは、あたしとは違う高校を受験した。
そしてよっちゃんは、高校生になっても男っぽいままだった。

結局。
よっちゃんはそういう性格だっただけなのかも。と思ったりした。

いま思えば。
すべては他愛ない、気にすることなどないことばかりだった
のかも知れない。

それでも。
中学生の頃のあたしにとっては大問題だったのだ。

310 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:31

あの出来事は、確かに引き金になったかも知れないけど。

だけど。それだけじゃなくて。
そういう時期が来ただけ、という気がした。

あたしとひとみちゃん。
物心つく前から。ただ、一緒にいた。
理由なんてなかった。ただ一番、傍にいた。

それを疑問に思うことなんてなくて。
無邪気に四六時中、くっついていればよかった子供の時間。

それが終わってしまったってことだけなのかも知れない。

311 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/08(月) 18:31

もともと、趣味というか好きなものも違ったあたし達。
自分の好みが確立されて。
どんどん交友関係が広がっていくと。
離れてしまうのは仕方のないことなのかな？って。

あたしは時折。考えたりしていた。

312 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/08(月) 18:32

更新しました。
皆様のレス感謝！日々励まされております!!!


285名無飼育様。
　こういうのがお好きですか？なら良かったｗ


286名無飼育様。
　ギャハハハハッ！自分を笑わせてどーしようとｗ


いつもの名無し様。
　ポワ〜ン…ですか？飛んでく〜風船〜みたいな？ｗ

313 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/08(月) 18:32

288名無飼育様。
　おもしろいぃ？マジでぇ？　…嬉しいっす！


289名無飼育様。
　自分みたいなののファンとは！照れますなぁ〜ｗ


290名無飼育様。
　可愛いと思ってもらえて。ホッと一安心ｗ


291名無飼育様。
　自分も妄想しててうらやま…ｒｙ

314 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/08(月) 19:44

更新お疲れ様です。
そうそう、中学生くらいだと些細なことが気になって…
もどかしいもんですよねぇ

315 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/11/08(月) 20:00

更新お疲れ様です。
そうそう！
風船のように空に飛んでいってパンって割れるみたいなｗ
おおぉ〜！！梨華ちゃん！！・・・意味も無く叫んでみたｗｗ
いやぁ〜それにしてもイイ！実に続きがドキドキ楽しみです。

316 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/08(月) 20:06

更新お疲れ様です。
そうそう。中学生の頃って…
思い出せ――――――――ん!!
なんちゃって　ｴﾍ　うそ

317 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/08(月) 20:59

すれ違いとかで悩む時期ですよね〜
感情的になりやすいというかそれを無理やり押しつけたりしてしまう。
これからも頑張ってください

318 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:44

朝起きた後。

あたしはちょっと混乱した。

身体に馴染んだ部屋の空気。
だけど。あたしの部屋じゃない。
少し、違和感のある寝心地。

あ！

あたしは飛び起きた。ここはよっちゃんの部屋。

でも。昨夜の夜。
高熱で、もう死にそう、なんて言ってたよっちゃんは隣りに
寝ていない。

あれ？
あたしは首を傾げた。

測ったわけじゃないけど。そうとうあった筈のよっちゃんの熱。
そんなに簡単に下がったのかな？って。

319 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:44

あたしは起き出して、ダイニングを覗いた。

ダイニングテーブルの向こう側の和室。
うちでもお父さんとお母さんが寝ている部屋。

そこに布団が敷かれてて。誰かが寝てる。
この場合…
誰かってよっちゃんしかいないじゃないっ！

なぁ〜によぉ…
あたしと一緒じゃ寝れないってゆーのっ？！

どーいうことよ！？
こっちは心配してっ！泊まってあげてっ！添い寝までして
あげたっていうのにーーーっ!!!　…ムカつく。

だけど。相手は病人。それに。
そんなに寝相が悪いとは思ってないけど…

あたしもよっちゃんの布団取っちゃうとか？
絶対しなかったとは言いがたいし。

320 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:44

…帰ろうかな？

あたしは廊下を振り返って、玄関の方を見る。
だけど。無言で帰るのも…

かと言って。寝てる病人起してまで、挨拶が必要だとも
思えないし？

やっぱり。このまま帰ろう。
そう思って踵をかえしたら、声がした。

「…よく寝れた？」

寝てる病人の第一声がよく寝れた？
あたしはよっちゃんの方へ、また踵を返す。

とっちかって言うと。
ソレはあたしのセリフだと思うよ？

だけど。同じ言葉を返す気にはならない。
だって。よっちゃんが昨夜よく寝れたなら、こんなとこで
寝てる訳ないもんね？

321 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:45

あたしは気まずくて。軽く咳払いすると。
和室に入って、よっちゃんが寝てる布団の横に正座した。

「熱…どう？」
「んーマシ。まだあると思うけど。昨夜なんか目ぇ開けると
　目の前、グルグル回ってた。洗濯機ん中見てるみたいに。」

よっちゃんは、あたしの顔を見て、そう言いながら。
大きな目を見開いて、黒目を回して見せる。

あたしは拳を口許に持っていくと、クスクス笑った。

ふいに。ふいに思った。

いまなら。いまのよっちゃんになら。
あの時のこと。中学時代の噂話をしてもいいんじゃないかって。

なんでそう思ったのかなんてわからない。ただ。
頭の中に。さっきまで見ていた夢の名残があまりに強烈に
残っていて。なんだか話してみたくなった。

322 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:45

それに。
よっちゃんは知らなかったから。きっとビックリする。
その驚いた顔が見たかった。

「ねぇ？よっちゃん…」
「…ん？」
「あのね？あたし達。噂されてたんだよ？中学校の時。」
「…なんて？」

あたしはちょっと口ごもった。
やっぱり言い辛い。
ダメじゃないっ！…もう過ぎたこと。ここはサラッと！

「レズだって？」

サラッと言ったのは　…よっちゃんだった。
そして。
驚きに、目を見開いたのはあたし。

「なに驚いてんの？」
「…し、し、知ってたのぉーーーっ!!!」

323 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:46

「アホか。知ってたよ。　･･･ってゆーか。
　噂になるようなことしてたの、あたしだしな。」

……へっ？

ポカーンと、口まで開けてしまうあたしに、よっちゃんは
少し、意外だという顔をした。

「当たり前だろ？
　部活の後、待ってたし。朝だって待ってたし。
　忘れ物にかこつけて、しょちゅう上級生の教室入り浸って
　んだから。」

……え？
え？え？えぇぇぇーーーーーっ!!!

うそぉ…　ポツリと洩れたあたしの呟きによっちゃんは眉を寄せる。

「まさか…まさか石川
　全部が全部、偶然だなんて思ってないよな？」

あたしは首を横に振った。ブンブンと。

324 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:46

「…だろ？
　帰りはあるかも知んねーけど。
　毎朝必ず偶然会う、なーんて、ありえねーだろ？」

違うっ！違ーーーっう!!!

首の振り方を間違えた？
あたしは小首を傾げた後。そんなことはどうでもいいって
気がついて。声を出した。

「思ってた！　･･･あたし。思いっきり偶然だと思ってた。
　たまたまいっつも同じになるんだって…」

よっちゃんは　…はぁ？と聞き返した後。絶句した。
そして投げやりに一言。…エスパーなのかよ？って。

あたし達は見つめ合ってた。暫くの間。ずっと無言で。

よっちゃんはあたしの顔を見てたけど。
頭の中では何か、目まぐるしく考えごとをしているようだった。
そして。
ふいに呟く。イヤそんな…待てよ？って。

325 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:47

なぁ？
何か思いつめた顔のよっちゃんは、あたしを真っ直ぐ見た。

「…高校ん時。石川、家の前に男といて。
　あたしが通り過ぎた後。石川が止めてよって叫んで。
　あたしが男を追い返したことあっただろ？
　あの時、石川。あたしと変な噂がたつのが嫌だとかって
　怒ったよな？」

あぁ…アレ。
思い出すのも気分が悪い。

だけど。よく憶えてる。
だってあのことがあってからだった気がするから。

よっちゃんがあたしの顔を真っ直ぐ、見なくなったの。
ビリビリの壁が出来ちゃったのも。

そう言う意味じゃないもん。
あたしは話し出した。よっちゃんがあの噂を知ってたなら。
もう隠す必要はないことだから。

326 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:47

アイツは、あたしの学校の友達の彼氏の友達だった。

彼女のいないヤツが、ダブルデートしたいっていうから
一回だけ付き合って。そう頼まれて。

二人っきりじゃないし。別にいいかなって思った。
その時は遊園地に四人で行って。
それでお終いだと思っていたのに。

アイツは次の日、学校に来て。付き合ってくれって言った。
あたしが断っても、しつこくうちまでついてきて。

よっちゃんが帰ってきた時も、階段の前で。
あたしは家へと上がることが出来なくて困ってた。

そしてよっちゃんが通り過ぎた後。
アイツは。いいじゃん、付き合ってるヤツいないんだろ？
もったいぶるなよって。あたしの腕を掴んだのだ。

止めてよっ！

あたしが叫んで。
よっちゃんは、こっちを振り向いた。

327 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:48

「…オタクさぁ〜　嫌がられてるよぉ？
　テメーの相手なんかしたくねーんだってさぁー
　わかんねーの？…アッタマ悪りぃーなぁ」

よっちゃんは怒鳴った。
思いっきり、バカにしたように。

サッと顔色をなくしたアイツの手が緩んで、あたしはホッとして
掴まれてた腕を擦った。

アイツは近づいてくるよっちゃんを睨んでたんだけど。
急に卑下た薄笑いを浮かべた。

「アイツ…一年の吉澤じゃん？
　学校でも男みたいなヤローだと思ってたけど…
　そう言えばアイツ。中学ん時、レズって噂だったんだろ？
　なるほどねぇ〜　その相手がアンタか？」

あたしは急に胸が苦しくなった。ヒヤリと汗が出る。

アイツは小声で自分が早口に言ったセリフに、能面みたいに
表情をなくしたあたしを見て、満足そうにこう続けた。

「そういうシュミなら俺はお相手出来ないなー　悪いけど
　こっちはノーマルだからさぁ…」

328 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:48

身体を硬くしたあたしの前に、よっちゃんが立つと。
アイツはフッと勝ち誇ったように鼻を鳴らして、帰って行った。

あたしは怖かった。

まだ消えてなかった噂が。そんなことをいつまでも面白可笑しく
言い続ける人がいるってことが。
それだけじゃなく。アイツがよっちゃんを知ってるってことや。
さらに噂を広げたりしないかってこと。そして。
よっちゃんを傷付けようとするんじゃないかってことも。

だから。
あたしは堪らず怒鳴ってしまっていた。目の前のよっちゃんに。

「あんな言い方してっ！
　変な噂がたったらどうするのよっ!!!」

よっちゃんはムッとしてこう言い返したよね？

「べつに噂ぐらいかまわねーじゃん？
　こんなことで、あたしと噂がたって迷惑だっつーなら
　誤解されたくない相手を連れてこいよ！
　そしたらいつでも言ってやるっ　…あたしとコイツは
　なんでもありませんってな!!!」

329 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:49

よっちゃんが心底驚いてる。
まるで時間が止まってしまったように。
その上、言葉も忘れてしまったように。

何にそんなに驚いているんだろう？

あたしがその顔を、不思議そうに見ていたら。
よっちゃんの唇が動いた。

中学の時…って、すごく掠れて聞き取り難い声で言う。

「…一緒に帰らないって言い出したの、その噂を気にして？」

あたしは頷いた。

「じゃっ…気になるヤツがいるって言ったのは？」
「…嘘だよ？」
「なっなんでそんな嘘をつくっ？！」
「…なんとなく？」
「なんとなくって…なんなんだよっ？！」
「だからぁ…なんとなく？」

330 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:49

なんだか怒られてる気がする…
なんで怒られなきゃいけないのぉ〜

あたしは唇を尖らす。

あたしを見ていたよっちゃんは、眩暈を起した人みたいに
天井を見て目を閉じた。大きな溜息をつきながら。

あたしはなんだかよっちゃんに、すごぉーく呆れられてる気が
して、言い訳したいような気持ちになった。

「だって…だってあたし。
　あの噂を聞いたら、よっちゃんが気にすると思って。
　傷ついちゃうかなーーーとか？
　だから、だから。あたしが守ってあげなくっちゃって
　思ったんだもんっ！
　だから学校、別になるまで、二人で出かけたりしない方が
　いいかなーとか、色々考え…」
「…もういい。
　よーくわかった。あたしがバカだった。
　石川がここまでわかってねーヤツだって、気づかんで。
　フツーに受け取ってた、あたしが間抜けなんだ。」
「……なによぉっその言い方！」
「そうだよな。そう言えば昨夜も石川、トンチンカンな
　こと言ってたし…」

331 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:50

昨夜？

昨夜なんて、会話らしい会話してないもんっ！

あ!!!
そうだっ思い出した！
よっちゃんは何か言いたそうにしてて。
明日聞かせてって、あたし言ったんだ！

あたしの閃いた得意げな顔に、よっちゃんはフンッと小バカに
したように、鼻先で笑う。

なっなぁにぃぃぃ〜〜〜〜
病人のクセしてぇ超ーーーヤな感じっ！

「昨夜。熱が苦しくて、もう死にそうとか弱音吐いてたクセにっ！」

思わず、ムッとしたあたしの口から出た言葉に。
よっちゃんはクッと笑いを喉に詰まらせる。

「弱音だぁ？たかだか熱くらいでぇ？このあたしが、か？
　確かに。熱に浮かされて。頭が朦朧としてて。つい口を
　滑らせたけど。全然意味がちげーよ。
　転んで泣きべそかくよーな、どっかのお子チャマと
　一緒にすんな。」

332 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:50

あ、あああ、あったまきたっっっ！

もうっもうもうもぉーーーっう!!!

一分一秒だって、よっちゃんの傍になんか居たくないっ！

あたしは立ち上がろうと、足に力を…って

イヤ〜〜〜〜〜ッ…

正座を崩した瞬間。
足が…足がぁ〜〜〜ジンジンジーーーンッ　…と。

物凄く痺れてて。
あたしはヘナヘナと横据わりになった。

333 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:51

「…ブッッッ!!!」

よっちゃんの噴出す声が聞える。

「もう…マジたまんねー　…オマエ、スゴすぎっ！」

そして。とうとう大声で笑い出した。

334 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/09(火) 17:51

あたしはあまりに情けなくって。涙が零れそうだったけど。

ここで泣いたら。
きっともっと笑われる。

だからあたしは我慢した。

それこそ。もっと、もっと泣きそうになりながら。

335 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/09(火) 17:52

更新しました。


レスッありがとうーーーーーっ!!!（叫んでみたｗ）


314名無飼育様。
　大人と言われる年になっても意外とそのままだったりｗ

いつもの名無し様。
　風船さんバンッって割れちゃったんですねぇ〜ｗ

316名無飼育様。
　自分は過去が遠すぎてｗ（遠征しすぎて支離滅裂中）

317名無飼育様。
　ひたむきさがね〜方向音痴で迷子になったりｗ

336 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/09(火) 19:37

ちょっとちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
いい感じ　いい感じっっ！
さいこーだ―――――――――――ぁよ

337 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/09(火) 19:42

うーん、思わずニヤニヤw
更新早くてホント嬉しいです。
続きも頑張ってください！

338 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/11/09(火) 21:24

更新お疲れ様です。
クックックッ(*￣m￣)噛み締めてもこみ上げてくる笑いｗｗｗ
お・も・し・ろ・い・ｗ
これからどのような展開になっていくのかめっちゃ楽しみ♪

339 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 12:57

数日後の夜。

電車から降りたあたしが駅前を歩いていると。
後ろから、頭をスコーンッと叩かれた。

痛っ!!!

こんなことするのって。
お姉ちゃんか妹に決まってる！

あたしは頭を擦りながら振り向いた。

「…いったいなぁ〜　何す…」

げっ!!!

あまりに意外な人物が立っていて。
あたしは口をあんぐりと開けた。

…よよよよっちゃん？

340 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 12:58

「よ。」
「ちょっとーーーっ
　いきなり人の頭、叩かないでよっ！」
「石川が隙だらけだからさぁー　ぼぉっと歩いてたら
　世の中は危ないんだってこと、教えてやってんの。」

いったい何なのよ？！
ふーんだっ！相手してらんないっ

あたしがプイッと顔を背けて歩き出すと。
よっちゃんが横に並んだ。

「送ってやるよ。」
「もぉっ帰るとこ同じでしょ？！そういうのはね？送るって
　言わないのっ！一緒に帰るっていうのっっっ!!!」
「そーとも言うな。」

バッカみたいっ！

「どこ行ってたんだよ？」
「…友達んち。」
「ふぅーん。　
　あ。石川さ、帰りの時間がこんくらいの時…」

341 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 12:59

なによっ？！また嫌味でしょ？それとも、お説教？

あたしが睨むように、顔を見上げると。
よっちゃんは唇の脇を掻いた。

「あたしの携帯に電話しろよ？
　バイトの遅番が、こんくらいで終わるから。一緒に帰って
　やるから。」

へ…？

あたしは眉を寄せると。
よっちゃんの顔を、マジマジと見つめてしまった。

いったいどうしたの？
なんで急にそんなこと言い出すのよ？

「なんだよ？言葉が出ねーほど、嬉しいってか？」
「そんなワケないじゃんっ！バッカじゃないのっ!!!」
「かぁ〜　
　かわいくねーなぁ。昔はスゲーかわいかったのに。」
「よっちゃんにカワイイなんて思ってもらわなくっても
　結構ですっ」
「あーそーですか。ところでコレなんだよ？」

342 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 12:59

あたしが持ってたパンフレットを、横から奪い取ると。
ふ〜んスキーねぇ〜って言いながら、ページをパラパラ
捲ってる。

今日のよっちゃん変っ！すっごく変っっっ!!!

あたしはもとに戻らない寄せた眉のまんまで、よっちゃんの
ことを観察する。

なんだかよくおしゃべりするし。
おまけに。顔つきまで楽しそうに見える。

なんでぇ？　･･･なんでなのぉ〜〜〜全然わからない。

あたしの困惑なんかお構いなしに、今日のよっちゃんは
じゃべり続ける。

「…スキー行くんだ？」
「うん。お正月明けたらね。」
「転んで泣くなよ？」
「……泣きませんっ！
　よっちゃんこそ、そんなの見ながら歩いてたら
　転んだってしらないからねっ」
「…転ばねーよ。」

343 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:00

よっちゃんは一通りページを捲ると、パンフレットを丸めて
また、あたしの頭を叩こうとする。
あたしが片手でそれを遮ると、ニヤリと笑った。

「おぉ〜〜〜学習してるよー」

もうヤだ…この人。

あたしは相手をするのは止めて、サッサと歩き出す。
観察してもわかんないだけだし。

そしたら、よっちゃんがこう言った。

「今度、温泉連れてってやるよ？それも泊まり。おまけにタダ！」
「……はぁ？」
「喜べよ。」
「なんであたしが、よっちゃんと温泉行かなきゃ行けないの？」
「ほーんとかわいげがねーヤツ…　
　あのなぁ？こないだうちの家族が泊まった旅館で、アンケートに
　答えたら宿泊券が当たったんだと。
　んで、母さんが、この間のお礼に石川と行ってくれば？って
　言うんだよ。」

…なるほどね？
おばさんの好意なんだ。それなら断れないじゃない？

344 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:00

「…じゃ。行く。」

なんだ？それ。よっちゃんが笑うから。
あたしもつられて笑ちゃってた。　…なんとなく。

社宅の前まで帰って着たら。
よっちゃんが、ちょっと付き合えよって、あたしに言う。

どこに行くのかと思ったら。
Ａ棟とＢ棟の間にある児童公園だった。

サビて、ペンキの剥げた動物たち。
あのコはコアラだったっけ？こぐまだったっけ？
背の高いコは　…そう、キリン。

ちっちゃい時。
あたしはキリンに乗りたかったのに。
いつでもよっちゃんに取られちゃって。しょうがなく
ちっちゃいコに乗ってたんだよねー

よっちゃんが、一つしかないベンチに座って。
隣りを指差すから。あたしはそこに腰掛けた。

345 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:01

目の前には、三段にわかれてる鉄棒。

そうだあたし。
ここで始めて、逆上がりが出来るようになったんだ。
あの日も。隣りによっちゃんがいた。

すっごく久しぶり、この公園。社宅の敷地内にあるのに。
ずっと素通りしてたよ。

だけど。どの場所を見ても。
その想いでには必ずよっちゃんが横にいて。
なんだか…懐かしいより不思議な感じ。

だって想いでの中のよっちゃんは。あんなに小さかったのに。
今、あたしの横に座ってるよっちゃんは、こんなに大きい。
同じ人だと思えないくらいに…

よっちゃん…また、背が伸びた？

横目でよっちゃんを見上げたら。
よっちゃんが首を回してあたしを見た。
目が合って。ドキッとする。

346 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:01

「手、出して。」
「へっ？」
「いーから、手。」

あたしが手を出すと、その上によっちゃんがお菓子を乗せた。
淡いピンクの柔らかい紙に包まれてる可愛いのを。

「あたしのバイト先のヤツ。」
「え？　…よっちゃんが作ってるの？」
「ちげーよ。あたしは箱詰めとか。ま、メインは梱包だから。
　金もらって筋トレしてるみてーなもん。」
「そっかぁ。だから最近よっちゃん痩せたんだ？」
「痩せたんじゃなくって。締まったの。まーいーや。
　とにかく食ってみ？結構美味いよ。」
「ん。じゃ、いただきまーす。」

あたしは、いっそ繊細といってもいいような薄い包装を
そっとはがした。

出てきたのは小金色で真丸い。ちっちゃいお月様みたいなお菓子。

347 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:01

一口かじって。口の中でゆっくり味わった。

素朴な野菜の味。
あとからふんわりとした程よい甘さが広がっていく。

「スイートポテト…だね？
　美味しい！なんだろ？いくらでも食べれちゃいそう！」
「･･･だろ？
　働いてると、包装ミスとか。歪なのとか。
　食べ放題状態でマコト…あ、バイト先の後輩だけど。
　また太っちゃいましたぁ〜〜〜とか言ってんだ。
　オマエが食いすぎなだけだって感じだけどな。」

…マコトって。

飲み込もうとしたスイートポテトが。急に喉に引っかかる。

この間のよっちゃんの電話の相手！
…そう。バイト先の人なんだ。

喉を意識して上下させて飲み込んだ。
だけど、なんだか。さっきの優しい味がしない。

348 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:02

「…仲いいんだ？」
「仲いいつーより、懐かれてるっつーか…なんつーか
　懲りないヤツなんだよな。」

懲りない？　…どう言う意味？

さっき胃の中に落ちていったスイートポテトが。
今頃。ズンッって重く感じた。

よっちゃんはベンチの背もたれに背中を伸ばして。
空を見上げた。
それからゆっくりとあたしを見る。

「…告られた。彼女にして下さいって。」

…え？
彼女になって下さい、じゃなくって、して下さい？

マコトって人　…女の子だったんだ。
あたしと同性の。よっちゃんとも同性の。

「…ズルい」
「えっ？！」

よっちゃんに聞き返されて。あたしはハッとした。

349 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:03

あたし何を言ったの？！
何を言おうとしたの？！

ダメッ考えたら出てきちゃう。
ずっとずっと。あたしの心の一番奥のドアの向こう側で。
静かに眠ってたあの夏。

狂ったように鳴いてた蝉。
自分の想いを声の限りに叫び終わった蝉は。
煩がられて、迷惑がられて、抜け殻になるだけ。

だからあたしは。けして孵ったりしないように。
ずっとずっと眠ってるように。


そこにあるのさえ。気づかないようにしてたのに。

350 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:03

　　　　女の子でもよかったの？！


ひとみちゃんが好き…
　　　　　　　　　　　　　　　好きなんかじゃない！
　　　
　　　ひとみちゃんの迷惑になるからダメッ！


　　　　　　　　だったらあたしでもよかったの？！

　　　
　　　　ひとみちゃんが大好き…

　
違うよ、そんなの間違ってる。


　　　　　　　　　　　　　あたしたち友達でしょ？

　　仲のいい友達なだけ。


　　　　　　　　そんなのズルい！

351 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:04

あたしの方が…あたしの方が…
ずっと…ずっと前から…

352 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:05

ひとみちゃんが好き…

噂が怖い、違うの、ほんとに怖いのは、噂のせいで
この気持ちをひとみちゃんに知られること。

そして嫌われること。
友達でさえいれなくなること。

だけど一番、一番怖いのは…
ひとみちゃんが去って行ってしまうこと。

ひとみちゃんと、今まで一緒にいれたのは、二人が子供だったから
大人になったら、きっと別々の道。

それは仕方のないこと、わかってる。
いつまでもなんて無理なこと。

だってあたし達、幼馴染と言う名の友達だから。

だからせめてその日まで、大人になる日まで。

こうして近くにいる為に、ただの幼馴染でいよう…

353 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:05

あたしの想いが。わざと目を逸らしてきた色んな想いが。
これでもか、これでもかって流れてくる。

わかってる。わかってる。

マコトって子はズルくない。
よっちゃんだってズルくない。
一番ズルいのは…自分の気持ちから逃げてばかりいたあたし。

だけど。
グルグル渦巻く濁流のような感情は、あたしを混乱させる。

「…石川？」

よっちゃんがあたしの手を、そっと握った。

「あ…あたし…あたし…」

354 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:06

唇が震える。上手く舌が回らない。

何て言えばいいのかわからない。

突然。
物凄い寒気に襲われて。あたしの身体がブルブル震えた。

「…帰るっ！」

よっちゃんの手を振り払って、立ち上がった時。
あたしの手から月が落ちた。ほんの少しだけ欠けた小さな月。

…ごめんね？

あたしは走り出した。


「逃げんなよっ！」


よっちゃんが何か叫んでる。だけど。あたしは走り続けた。

355 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:06

その夜。あたしは発熱した。

どうりで寒いわけだよ。頭もガンガン痛む。

「…苦しいよ？…すっごく苦しい…辛いの。
　ねぇよっちゃん？…あたし、死んじゃいそう…」

声に出して言ったら。
涙が後から後から流れてきた。

あたし。自分に仕返しされちゃった。

本当に大切な気持ち。誰かを好きになる気持ち。
それを、ずっと殺してきたから。
あたし自身の気持ちを。あたしが殺してきたから。


だからいま…こんなに、苦しい。

356 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/10(水) 13:07

逃げるなよっ！


溢れてくる涙に瞼を閉じたら。
よっちゃんの声が追いかけてくる。


あたし。どうすればいいの？


両手で顔を覆って。声を殺して泣いた。

357 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/10(水) 13:07

更新しました。

レスを頂けると、安心する小心者の自分ｗ
ココロの拠所っすねｗありがとうございますっ！


336名無飼育様。
　お、落ち着いて〜ｗけど、その興奮嬉しかったり♪


337名無飼育様。
　更新の早さだけが売りにならない様、力を尽くしておりますｗ


いつもの名無し様。
　走り出して〜上って〜　…その次は、このよーな…ｒｙ

358 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/10(水) 13:29

ﾔﾎ――――――――ｨ
なんだか嬉しくなってくる
ﾆﾔﾆﾔしてきちゃう　ﾍｯﾍｯﾍ…

359 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/10(水) 14:57

ど〜なっちゃうんだ〜
まだまだめがはなせん(>_<)

360 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/10(水) 21:28

更新おつかれさまです！
作者様ホントに更新早いですね。
読む側としては嬉しい限りです！

梨華ちゃん素直になるんだぁ〜w

361 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/11/10(水) 22:10

更新お疲れ様です。
で、上げておいて地面に叩きつけるみたいなｗ
いやぁ〜梨華ちゃんかわいい！
どっちも素直になれとｗ

362 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 08:59

よっちゃんの風邪がうつったと思いこんでたあたしは
病院に行かなかった。

丸二日。まったく熱が下がらなくて。
お母さんに病院に連れていかれたら。

インフルエンザだと言われた。

もう特効薬も間に合わなくて。
あたしは年明けまで、寝込むことになった。

よっちゃんがお見舞いにきてくれたらしいけど。
インフルエンザだし。うつったら困るから。
そう言って、お母さんが断ってくれた。

あたしは正直、ホッとした。

いまはまだ。
よっちゃんにどんな顔して会って。
何を話したらいいのか、よくわからなかったから。

だって。あの夜のあたし。
あまりにも……不自然だったよね？

363 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 08:59

熱で。夢と現を彷徨いながら。
あたしはよっちゃんのことばかり考えていた。

あの、告白されたマコトって子に。
よっちゃんは何て答えたんだろう？とか。

あたしも告白してしまおうか？とか。

だけど。結局。
よっちゃんと付き合う人は、よっちゃんが決める。

そんな当たり前のことが。
平熱に戻りつつあるあたしが、やっとわかったことだった。

364 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 08:59

異性とか。同性とか。あたしが世間の目みたいな秤で。
想いを寄せるってことを、罪のように感じてた戒め。

あたしが怯んでしまった性別の壁。だけどそんなものは。
意外と簡単に、乗り越えられるものなのかも知れない。

あたしは頭でっかちになりすぎていた。

恋の条件は。実はとてもシンプルで。
好きになった人に好きになってもらうこと。ただ、それだけ。

よっちゃんが誰を好きになったとして。
性別さえ拘らない、好きだから。そう言うのなら。
どうでもいいことになる。それが真実。

そんなことより、よっちゃんが選ぶ人。それは誰なのか？
それがあたし意外なら、全て同じ意味になるってこともわかった。

365 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:00

異性でも。同性だって。名前だけ知ってるマコトって子だとしても。





あたしには。
よっちゃんがあたしを好きだとは、とても思えなかった。

366 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:01

何年もの間。
偶然、会っても。目を合わせてくれなかった、よっちゃん。
話をしていても、空々しいだけだった二人を包む空気。

最近の数日間は、昔に戻れたみたいで楽しかったけど。

だったら。このまま黙っていれば。
これからは昔みたいに、仲良しの友達に戻れるかも知れない。
そうも考えたけど。でも。いまはもう。

自分の中にある、よっちゃんへの恋情とわかってしまっている
気持ちを、友情にすりかえるのは、あたしには、とても難しく
出来そうにない気がした。

それに。よっちゃんに好きな人がいるんだとしたら、友達づらして
傍にい続けることは拷問のように思える。

無知な子供の時間が過ぎて。あたしはようやく気づく。

そう。あたしは復讐されたのだ。
見殺しにしてきた、あたしの恋心に。

告白してもしなくても。
あんなに恐れてた、よっちゃんを失うということで。

367 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:01

熱が下がった。

ダイニングで、遅れてお雑煮を食べるあたしに、お母さんが
ちらりと電話を見ながら言った。

「梨華ちゃん。
　あなた、ひとみちゃんにお電話した？
　熱が下がったら電話下さいって言ってたわよ？」
「いいの！後でメールするから。」
「メールだなんて。電話すればいいじゃない？
　心配してくれた人には、元気になったら声を聞かせるとか
　ご近所なんだから、顔を見せに行くとかするものよ。」
「もぉ〜お母さんウルサーい！いいったらいいの。
　メールでわかるもんっ」
「あなたって変なとこで強情なんだから。女の子はね？
　意地ばっかり張ってると損するわよ？」


…ちょっとグサッときた。

なのにあたしは。
結局。メールもしなかった。

368 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:02

そして。
すっかり元気になったあたしは、年が明けてからよっちゃんと
顔を合わせることもないまま、スキー旅行に出かけた。

まるで傷心旅行みたい？
ううん違うよね？逃避旅行だ。

向こうで知り合った男の子のグループと、遊んだりした。
もちろん。全然楽しくない。
なのに不思議。あたしったら笑ってる。

なんだか自分が、急に老けちゃった気がした。
ほんとの気持ちと顔に出る表情が違ってる、あたし。

もしも。これを大人っていうのなら。
大人になるって、くだらないって思えた。

369 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:02

よっちゃんのことばかり考えてたあたしは。
目の前にいる男の子が、だんだんよっちゃんに似て見えてきて。

帰ってからも遊ぼうよって言われた時。
うっかり頷きそうになっていた。


逃げんなよっ！


ふいに。よっちゃんに怒鳴られた気がして。

瞬きを繰り返したら、あたしの目の前にいた男の子は。
やっぱり。よっちゃんとは、全然違う顔してた。
…当たり前だよ。


それで。あたしは思ったのだ。

世の中で一番、最悪なのは、臆病者かも知れないって。

370 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:02

スキー旅行から帰った数日後。

あたしのハタチのバースディだった。
なんとなく家にはいたくなくって。

中学校以来の親友の柴ちゃんと、イタリアンのお店に行った。

「梨華ちゃんさ〜記念すべきハタチのバースディを、あたし
　なんかと過ごしてていいわけ？」
「いいのいいのっ！毎年、恒例にしよーかな？」
「なに言ってんのよー」
「いーから。いーから。柴ちゃんも飲んでっ！」

甘いカクテルを何杯か飲んだ。
なのにちっとも酔えない。

きっとハタチのバースディは、忘れたくても忘れられない日に
なっちゃうかも？それも悪いイミで。

なぁんて。あたしは酔えない頭で、ぼんやり思ったりしていた。

371 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:03

今日だけは、よっちゃんのことを考えたくなかった。

なのに。
柴ちゃんとバイバイして。駅前を歩いている間。

何回も。よ。って声がかかるんじゃないかって。
後ろを振り返ってばかりいた。

だけどやっぱり。
世の中、そんなに思う通りになるワケはなく。

あたしは一人、無言のまま。
社宅の敷地まで帰ってきた。

あたしの家へと続く階段の下が視界に入った時。
誰かが、そこに座ってるのが見えた。

薄暗くて誰だかわからない。なのに。
あたしの身体は、それが誰だか知ってるみたいに心臓を
ドキドキ鳴らし始める。

372 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:03

一歩、一歩。階段へと近づくあたし。

座ってた人影は、あたしの足音に気づいて、ゆっくりと
立ち上がった。

「…お帰り」
「た、ただいま…」


よっちゃんだった。

もう…もう顔を見ただけで。
あたしは、涙ぐみそうになる。

いきなりお酒が回ってきたのかな？
そんなわけないよ。　…ほんとは、ほんとは今日
一番、会いたかった人、だから。

逃げちゃったあの日から。ずっと…見たかった顔。

「ハタチ、おめでと。」

よっちゃんは、サラリと。
あたしが欲しかった言葉をくれた。

373 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:04

「…それと。忘れんな。…人の話は最後まで聞け。」
「はいぃ？！」
「幼稚園で教わっただろ？」
「…そ、そうだっけ？！」

よっちゃんのよくわからないお説教に。
ありがとうって言葉も。涙ぐみそうな気持ちも。
すっかり置いてきぼりにされてしまった。

たぶん。
間の抜けた顔をして、突っ立てるだけのあたしによっちゃんは
早口で言った。

「あたしは、マコトと付き合ってなんかいない。
　ついでに言うと。誰とも付き合ってない。」
「…う、うん。あ、あたしも…」
「いい。想像つくから。」

あ、あのぉ〜〜〜？　いきなり却下なのーっ？！

あんなにグジグジ悩んでたのが、バカバカしくなるほど。
よっちゃんは普通だった。

ひょっとしてよっちゃん。
この間のあたしの態度。全然怪しんでないの？！

374 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:04

「いまから。
　石川の誕生日プレゼント、探しに行くからな。」

へっ？！さ、探す？！あ、あたしが探すの？！

そ、そう言えば。
よっちゃんはなんでスコップなんて持ってるの？！
おまけに、首から懐中電灯まで下げて。

「そうだ。石川、着替えてこいよ？
　ジーンズとか。持ってるだろ？…そうだな。五分後に出発。」
「ね…ねぇ？よっちゃん？さ、探すって、いったい…」
「あ。四分三十秒になった。」
「えぇぇぇーーーっ？！」
「つべこべ言わない。
　たまには素直に、言うこと聞けよ？これ以上、ぐだぐだ言ったら
　あたし…怒る。」
「う、嘘ぉ〜〜〜〜」
「いいから！走れーーーっ」

375 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/11(木) 09:05

あたしは走った。
よっちゃんの横を通り過ぎて。階段を駆け上った。

376 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/11(木) 09:06

更新しました。

皆様、おはよーございます。天気がアヤシイです。
今日も何か一つでも良いことがあるとイイっすね〜ｗ

377 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/11(木) 09:07

358名無飼育様。
　ハッハッハ…ご想像通り運びますでしょーか？この二人。ｗ

359名無飼育様。
　取り合えず。出来れば目は離さないで頂きたいな、と。ｗ

360名無飼育様。
　もう出来てるんで、この話。暇見て上げるのみなんでｗ

いつもの名無し様。
　ドォーーーンッとねっｗそしたらもうその後は…ｒｙ

378 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/11(木) 21:39

超町長いい感じっ！蝶々長調いい感じっっ！
あせって気持ちが前のめりになるのだった
もぅ…たまらなぁぁぁい

379 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/11/12(金) 01:02

更新お疲れ様です！
ゴロゴロ転がって・・・←しつこいｗｗ

よっちゃんカッケーよ！
おぉ〜！！！そう来たか！！
きっとあぁ〜なってこうなるんだろうなぁ〜などと勝手に思いつつ
次回期待！ｗｗ

380 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:03

あたしはダッシュでジーンズに穿き替えて。
目を真丸くさせてるお母さんに、ちょっとよっちゃんと
ファミレスに行ってくるって、嘘をついた。

今日はハタチの誕生日だし。
相手がよっちゃんで。場所がファミレスなら。
帰りが遅くなったって、お母さんも大目に見てくれるだろう。

そうは言っても。もう夜も十時半近い。

いったいよっちゃんは、あたしをどこに連れて行くつもり
なんだろう？

あたしが階段を駆け下りると。

「二分遅刻。」

そう言って。
いつの間にか出してきていた自転車に跨ったまま、よっちゃんは
ニヤリと笑った。

381 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:04

「ねぇ？どこ行くの？」
「まぁ、乗れ。場所は着いてのお楽しみー」

あたしは荷台に跨った。
ジーンズを穿いてるから、横座りなんかしない。

「飛ばすぞぉーーーしっかり捕まってろよ。」

よっちゃんが。
グイッとペダルを踏み込むと。ぐんっと景色が後ろに流れた。

暗い水底のような、どこまでも変わらない住宅地。
ライトを灯して走る自転車は、迷いこんだ潜水艦みたい。

あれ？だけど。この道って。

よっちゃんが、スピードを落とさずに車体ごと斜めに
大きくハンドルを切った時。

行く先に見えてきたのは…静まり返った中学校の校舎だった。

382 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:05

学校の門の前で。
よっちゃんはブレーキと足まで使って、自転車を急停止させる。
あたしの鼻先が、よっちゃんの背中にぶつかった。

「到着。」

…懐かしい。
あたし達が通った中学校は、当時、新設校だった。

うんと子供の頃。
あちこちにあった空き地は、ニュータウン建設と謳われ
大きなマンションに変わって行った。

新鋭のデザイナーが提案したのは。開かれた学校。
そんなテーマで、時折、取材を受けたりしていた。

校舎を囲む壁は低く弓状で、子供たちを閉じ込めるのではなく
敷地の範囲を教えているだけだった。

よっちゃんは持っていたスコップを、校庭に投げ入れると
あたしを振り返った。

383 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:05

「乗り越えられる？」
「うっ…た、たぶん…」
「押し上げてやるよ。」

あたしが鉄棒の要領で、壁についた両手に力を入れて身体を
引き上げると、よっちゃんがあたしの腰に手をあてて、グイッと
持ち上げてくれた。

その勢いのまま、あたしは壁を乗り越えた。
続いてよっちゃんも壁を乗り越えると、懐中電灯を首から
外して、明かりを灯した。

「これ持ってて。」

よっちゃんは、落ちてたスコップを拾い上げると、校舎へと
続く、桜並木の横を歩き出す。

「…よっちゃん？…ねぇ、よっちゃん？」
「ん？」
「な、何するつもり？」
「あ？まぁ…　あ、あったここだ。」

よっちゃんが足を止めた、桜の木の根元には、もとは白かった
らしい小さな案内板が刺し込んである。

384 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:06

よっちゃんはそれを引き抜くと。

「石川、ここ照らしてよ。」

そう言って、案内板が刺してあった下の土を掘り始める。

「ね？ねぇってばっ！」
「なんだよっ　あたし今忙しいんだよ？見てわかるだろ？」

わかるけど。忙しそうなのは。
だけど。なんでそんなことしてるのかがわからない。

「タイムカプセル…埋めたんだ。あたしのクラスさ？
　卒業記念に。
　ハタチの…大人になった自分へって。笑えるだろ？」
「……………」
「あんま掘ると、出す時大変だって先生が言って。
　だから、すぐ出てくると思うんだけどなー」

よっちゃんの学年がハタチになるのは今年。
たぶん。入学や卒業にちなんで春あたりには掘り起こすはず。

なのになんで今日、それをしようとするの？って。
聞こうかと思ったけど、なんとなく止めた。

385 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:06

暫くの間。無言で掘り続けてたよっちゃんが。
あちーって言いながら、ジャンバーを脱いで、足元に投げた。

「…あたし、手伝おうか？」
「どうやってだよ？犬みたいに手で掘るか？」

笑いを含ませた声で、そう言うから、あたしは頬をぷぅっと
膨らませた。
よっちゃんは横目で、あたしの顔を見て小さく笑う。
その顔が、あ。と真顔に変わった。

「あたった…あった。」

よっちゃんは、それまでみたいに力を入れて大きく掘るのを
止めて、小さく、小刻みにスコップを動かす。

「…出た来た。もっとこっち来いよ。んで、こん中照らして。」

掘った地面の中を、覗きこむように膝をついたよっちゃんの横に
あたしはしゃがみ込んで、言われた通り、その中を照らした。

386 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:06

よっちゃんは腕を突っ込んで、その中を探ってる。
邪魔になるのか、時々、ノートやら、オルゴールみたいな箱
なんかが、地面の上に置かれて行った。

「…あった。」

よっちゃんは何か小さな丸いものを片手に掴むと、立ち上がった。
釣られて立ち上がった、あたしの目の前に、握った手の平を
突き出すと、そのまま指を開いていく。

「石川にプレゼントだ。ハタチのな。」

よっちゃんの手の平の上に現れたのは。
ガチャポンの丸いケースだった。

387 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:07

「開けて。」

そう言われて。
あたしはそのケースを受け取った。

ちょっと固くて。なかなか開かなかった。
ケースの中で、何か小さな物が揺れて、かちゃかちゃ音がする。

あたしが眉を寄せてよっちゃんを見ても、肩を竦めるだけで
開けてくれる気はないらしい。

両手でつなぎ目をへこますように力を入れたら、ケースが
カチャッと回って離れた。

その中に入っていたのは…
薄いピンクの大きなハートが付いた、子供の指輪だった。

あ…

あたしはそれを手にとって見た。
知ってる…　あたしこれ知ってるよ？
欲しくて。欲しくて。しょうがなかった指輪。

388 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:07

「…憶えてる？」

指輪から顔を上げると、首を傾けて、あたしを見てる
よっちゃんと目があった。

「…これ？…あたしがすごく欲しがってたのだよね？
　五、六歳くらい？…確かまだ、小学校に行く前だったっけ？」

石川が小学校に通い始めるちょっと前なって。
よっちゃんが答えた。

そう。休みが続いてる時だった。あれは春休みだったんだ？

買い物にお母さんと行って。…そうそう、よっちゃんと
よっちゃんちのおばさんもいて。

玩具売り場から離れない、あたしとよっちゃんにお母さん達は

しょうがないわねぇ…絶対ここから離れたらダメよ？
お母さんたちが戻ってくるまで、二人でここにいなさい。

そう言って。下の子たちを連れて違うフロアに行ってしまったんだ。

389 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:08

二人になったあたしとよっちゃんは。
おもちゃ売り場をグルグル回って、次々色んなものを手に取って
みたり、解放されてるプレイコーナーみたいなところで、遊んでいた。

ゲームコーナーもあって…
そこに、すっごくたくさんのガチャポンが並んでて…

あたしはコレを見つけたんだ。
色んなアクセサリーが入ったガチャポン。

ガチャポンが出てくる本体には、商品写真が出ていて。
特に大きなピンクのハートがついた指輪。
コレにあたしは魅入られた。

あたしはうっとりと見つめ続けた。

うちのお母さんは、あたしにガチャポンをさせてくれないって
わかってたから。

あんなの。何が出てくるかわからないのよ？

いつもそう言われて。
あたしは何回も唇を噛みながら、ガチャポンの前を通り過ぎた。

390 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:08

石川がさ？　…よっちゃんはちょっと笑いを噛み殺す声を出す。

それをあたしにくれって言ったんだ。

ひとみちゃんがオトナになって。
お金持ちになって。ガチャポンいっぱい出来るようになったら。
梨華に、この指輪をちょうだいね？って。

そしたら梨華は、ひとみちゃんのお嫁さんになってあげるねって。

あたしは目を閉じた。
慌てて何回も瞬きする。だってひとみちゃんの顔が滲んで
きちゃってよく見えない。

そう。幼稚園も年長になると、マセてる女の子がふえてきて。
なんとかくんが好きって、言い出す女の子たちがいた。

梨華ちゃんは誰が好き？

そう聞かれたあたしは。迷わずひとみちゃんって答えた。

391 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:09

だけど。お友達は首を振る。

違うよ？それは仲良しさんでしょ？
好きって言うのは男の子のこと。

なんで？あたしにはその子の言ってることがよくわからなかった。

男の子も女の子も関係ないよ。
だって梨華が一番好きなのはひとみちゃんだもん。
あたしはそんな風に思ってた。

お母さんとかお姉ちゃんに、ひとみちゃんのお嫁さんになるって
言った時も笑われたけど。どうして笑われなきゃいけないのか
やっぱりあたしにはわからなかった。

だってお母さんに、どうしてお父さんと結婚したのって聞いたら。

一番大好きで、ずっと一緒にいたかったからよって。
梨華ちゃんにもそういう人が現れたら結婚するのよって。

お母さんは、そう答えてくれたから。

だから、あたしは。ひとみちゃんしか考えられないって
思ってたんだ。

392 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:09

「…だけど。これ」

よっちゃんが中三の時って言ったら、あの日からちょうど十年後
くらい？

あたしが不思議そうな顔をすると、よっちゃんは照れ臭そうに
俯いて、少し笑いながら。前髪を掻き揚げた。

あの後さ？すぐあたしの誕生日がくるじゃん？
んで、母さんに言ったんだ。
プレゼントはいらない。だからガチャポンいっぱいやらせてって。

あたしがアクセサリーのガチャポンの前に行った時。
母さん、すげぇー驚いて。あの顔、可笑しかったよ。

百円玉を十枚くれてさ。これだけだからねって言ったんだ。
だけど。貰った金がなくなっても、ソイツが出てきてくれなくて。

あたし母さんに頼み込んだ。

クリスマスにサンタさんが来なくてもいいから。
だから、もっとやらせてくれって。

393 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:09

母さんは、目を丸くしてた。
自分で言うのもアレだけど。あたしってあんま物を欲しがったり
する子供じゃなかったし。

でもだからだろうな。母さんは百円玉をもう一枚だけくれた。

サンタさんのことは、母さんにはわからないんだよ。
だからあと一回。一回だけだからね。
ねぇひとみ。おまえだって、もうわかるでしょ？
どんなに欲しくたって、手に入らないものもあるんだからって。

あたしはガキだったから。そんなの嘘だって思った。

どんなモノだって、真剣に望んだら、なんだって手に入るって
信じてたんだ。

一生懸命。神さまみたいなもんに祈った。
どうしても、あの指輪が欲しいんだって。

そしたら。やっとソイツ出てきてくれたんだ。

394 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:10

すげぇー喜ぶだろうって思って。すぐにやろうと思ったけど。
なんだか勿体無い気がしてさ？

言っとくけど、指輪じゃねーぞ？
なんつーか。それを受け取った時の石川を見るのがさ。

んで。もう少し後にしようなーんて思ったのが間違いで。
時間が経つにつれ、ソイツはただのガチャポンのおもちゃなだけ
だってことが、あたしにはわかるようになっちまってたんだ。

ま、いつか。なんかのシャレで見せてやろうって思って。
机の奥にしまっておいた。

だけど。あたしが中二の途中で。
石川、あたしから遠ざかって行っただろ？
あん時、気になってるヤツがいるって言うし。

だからソイツ。捨てようと思った。もういらねーじゃん？
なのに、捨てれねーんだよ。

なんでだか、わかるか？　…それはな？


ソイツは、あたしの気持ち。そのものだって思い知ったから。

395 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:11

あたしは震えてた。
ガタガタと唇が。身体が小刻みに震える。

なんで震えてるのかわからない。だって。身体はこんなに熱い。

おでこもぼぉっと熱かったけど。
それはとめどなく溢れて、流れて、落ちていく涙のせいだって
わかっていた。

ひとみちゃんは、落ちてたジャンバーを拾って。
あたしの肩にかけてくれた。

そしてまるで。あたしの涙を自分の服で拭おうとするみたいに
片手であたしの頭を抱き寄せた。


「　…あたしは三年になっても、ソイツを捨てられなかった。」


静かな声が。呼吸で上下するよっちゃんの胸の鼓動のように
温かく、あたしの胸に沁みこんでくる。

396 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:11

だからあたし。決めたんだ。
ハタチがオトナって言えるのか？なんてわからなかったけど。

取り合えず、そん時まで。ソイツは埋めておこうって。

そんで。
ハタチになっても…やっぱりソイツを捨てられなかったら。


ソイツを手にした頃。
石川としていた約束を。もう一度、口にしてみようって。

397 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:11

「……好きだ。……好きなんだ。　
　いつからかなんてわからないほど、子供の時から。
　石川がハタチになった、いまでも。」
「…うっ…う、うぅぅ…」

堪えても。堪えても。
我慢できない嗚咽があたしの唇から洩れた。

「結婚なんて。んなこと言えるほどガキじゃなくなったけど。
　その意味がずっと傍にいるってことなんだとしたら。　
　約束出来る。離れない。」

あたしは顔を上げた。
涙で曇った目をちゃんと開けて、よっちゃんを見上げる。
そして。ブルブルと震え続ける唇を開いた。

「………は、離れないで…」

あたしはそれだけを言うのがやっとで。
それでも。よっちゃんは、微笑んで頷いてくれた。

そして。
あたしの頭を抱えこむと、グシャグシャッと少し乱暴に撫でる。

398 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:12

あたしは我慢出来なくなって。よっちゃんに抱きつく。
あなたから離れない。この腕を離さない。


頭の上から降ってくる。厳かな声。


「…誓いの口づけを。」


見上げたら。
目だけを細めて笑うよっちゃんの顔。

首をほんの少しだけ斜めにして。その顔が近づいてくる。
あたしは。瞼を閉じていく。　…ゆっくりと。

399 名前：ハタチの約束。 投稿日：2004/11/12(金) 09:12

よっちゃんの背中の向こうで。見守ってるからねって。


お月さまが笑ってた。







　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　終。

400 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/12(金) 09:13

更新終了しました。
お付き合いして下さった方々。レスを下さった方々。
本当にありがとうございます。

401 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/12(金) 09:13

378名無飼育様。
　お褒めの言葉、嬉しいです。
　次回もお付き合いして頂けたら、更に幸せです。


いつもの名無し様。
　ハンドル通りに応援して下さる事、感謝しております。自分が書きたくて
　書いているのだとは言え、やはり読んで下さる方の存在あってなのでｗ
　

402 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/12(金) 11:11

完結おめでとうございます！
梨華ちゃんの最後の台詞いいですね。思わずニヤリw
ロマンティストなよっちゃんもかっけーです。

毎日の更新楽しみにしてたのでちょっと寂しいですがw
次回作も期待してます！

403 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/12(金) 12:21

すげー！
最後鳥肌立ったですよぉ。
よっちぃかっけー！

404 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/12(金) 16:50

　　　　　　　　離れないで…

　　　　　　　　　　　　離れないで…

　　　　　　　　　　　　　　　　　離れないで…

私の頭の中で響きながら何度も繰り返されてるよ
なんて素晴らしいんでしょう。このご両人は
そして
なんて素晴らしいんでしょう。あなたの紡ぎだす言葉は

付き合うわっ！ずっと付き合っちゃうわ
あなたｽﾃｷよ　ﾋｭ―――――――――――――――――…

405 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/12(金) 18:37

初めてレスさせていただきます。
いやぁ本当に良かったです！
梨華ちゃんは可愛いしよっちぃはカッコいいし・・・。
作者様の小説は心が温かくなりますね。
ずっと応援しています。

406 名前：プリン 投稿日：2004/11/12(金) 19:12

更新＆完結お疲れ様ですっ！
ぎゃあああああああ（ｗ
素晴らしかったです(*´Д`)ﾎﾟﾜﾜ
すんげーいいもの読ませてもらいました！ありがとうございました！
なんか続編ｷﾎﾞﾝﾇな感じです（ｗ

407 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/11/13(土) 01:31

更新＆完結お疲れ様です。
いやぁ〜ホントまたまたいいもの見せてもらったよ！って感じですよｗｗ
やっぱよっちゃんカッケーよ！うん。
今度はイジイジウジウジするよっちゃん見てみたいような気も・・・ｗ

408 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/13(土) 21:15

更新お疲れ様でした！
かっけーよっすぃ〜にかわいい梨華ちゃん。
これぞいしよし!って感じでしたw
ステキな作品ありがとうございました。

409 名前： アイ�A− 欲望 − 投稿日：2004/11/14(日) 16:42

私は梨華。石川梨華。十代も最後の最後の大詰めで。
後、少しで二十歳になる。

実は私。
ジュニア小説なんて書いている。
あんまりパッとしなかったんだけど…最近は少し、上昇中。
その上、なんと。ほんのちょっと前。

たぶん、初めて。恋人らしき人が出来たばかりで。
その人と私。一つ屋根の下で暮らしてたりするの。
もとはコックさんだった彼女の名前は、ひとみちゃん。

私の生まれた冬。十代最後の冬。二十代最初の冬。
今年の冬は、なんだか忘れられない冬になりそうな気がする。

今は…　そんな特別な冬真っ只中だった。

410 名前：アイ�A− 投稿日：2004/11/14(日) 16:42

◇◇◇


ハンドネイルのアートが終わると、真希ちゃんがホワンと笑う。

「梨華ちゃんさ〜ぁ　まだ時間あったりする？」
「なぁに？」

私が小首を傾げると、真希ちゃんは人差し指をリズミカルに振った。

「ティ〜タァ〜ィムッ♪」

私はもちろん、ニッコリ笑って頷いた。
次のお客さんの予約まで時間があると、真希ちゃんはこうして
お茶をご馳走してくれたりする。

キッチンの横にあるテーブルセット。
南国のリゾートに置いてあるようなラタンの椅子に腰掛けると。
お客さんの中国土産で貰ったジャスミンティーが、いい香り
なんだよね〜って、真希ちゃんはキッチンに入ってお湯を沸かす。

「どぉ？よしことは？」
「ん？　…ん〜〜〜っ」
「なぁーによ？ケンカァ？」

ケンカ？･････ケンカはしてない。と、思うんだけどぉ〜

411 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:43

「お待たせぇ」

真希ちゃんが真っ白いソーサーに乗った、浅いティーカップを
コツンと私の前に置いてくれる。

ホワホワと安らぐような湯気が上がってる。
カップを持ち上げると、その中になんとお花が入ってて。
紫がかった細い花びらを、静々と広げていく。

「キレーじゃない？それも貰い物なんだけどさ。」

真希ちゃんってほんとにセンスがイイよねぇ〜って。
私は関心しながら、お茶を飲んだ。

「あ。梨華ちゃん、今日のハンド、デジカメで撮らせてよ？
　ごとーんとこのＨＰに乗せるから。」

うん。
私が頷いたら、真希ちゃんは黒いビロードの布をテーブルに敷いた。

「アートしたごとーが言うのもナンだけど。
　いいねぇ〜可愛い手。まるでプレゼントみたいじゃん？
　ベビーピンクに、ラメのレッドとシルバーのリボンで飾って。」

412 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:43

よしこに食われちゃうんじゃん？
真希ちゃんは軽い調子で言って、デジカメを置いた。

目を見開いて、フリーズしちゃった私を見て。
ありゃりゃ当たっちゃった？って気まずそうに笑う。

そう。
この間、二週間前にしてもらったアートもとても可愛かった。
おうちに帰った私は得意げに両手の指を広げながら
ひとみちゃんに見せたの。
すっごく、可愛いでしょ？って。

その前の日。
私の作品を載せてもらってる雑誌のちょっとした撮影があって。
それが終わった後、ひとみちゃんの部屋に行った私は、なんと
ひとみちゃんに押し倒されちゃったりして。

もちろん。心の準備なんて全然出来てなくって。
そもそも、ひとみちゃんが私にあんなことしたいと思ってるなんて
考えたこともなかったから、慌てて逃げちゃった。

その夜も、真希ちゃんのところにくる前も、なんとなぁ〜く
ひとみちゃんのこと避けちゃったりしてた。

413 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:44

それで勢いというか、誰かに話したくなっちゃって。
なんか真希ちゃんにならいいかなぁ、とか思って。

前の日に、ひとみちゃんが。
私に養ってとか、代わりに美味しいご飯を作ってくれるって
言うんだよ？っていったら。

真希ちゃん、ビックリしてた。
よしこがねぇ〜んなマジメなこと言うんだ？って。
どこらへんが真面目なのか、私にはいまいちわからないんだけど。

お幸せにぃ〜なんて送り出されて。
好きとか言われたわけじゃないけど。昔からのお友達の真希ちゃんが
そう言ってくれるってことは。
ひとみちゃんは私のこと、好きになってくれたってことだよね？って
思って。

指を飾るネイルは可愛いし。
ひとみちゃんとも、よくわからないうちになんだか両想いになれた
みたいだしで、私は浮かれてた。

414 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:44

で。得意げに見せた私の指先を、ひとみちゃんは掴んだ。

「…ドロップみてー美味そうじゃん？」

そしてなんと。
そのまま口の中に入れちゃったんだよっ？!!!

温かく濡れた場所で、包み込むように吸い上げられて。
ヒャッ！って私が手を引いたら、また掴まれて。

「もっと味わわせてよ？」

そう言いながら。指と爪の間に舌を這わせたりするの。

「…甘い。…溶けちゃったりして。」

どことなく潤むような声で言って。
一本一本の指をなぞるように唇を鳴らしてキスしたり。
指と指の間で舌先を滑らされて。

最初はただもうビックリして。
ひとみちゃんのすること見てたんだけど･････変なの。

途中でなんだか。
項から頭の後まで何かがゾクゾクって這い上がってきて…

415 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:45

「大変っ!!!　わ、私ったら、まだ手を洗ってなかった！」

そう叫ぶと。慌てて手を引っ込めて、洗面所に逃げちゃった。

で。こう〜なんて言うのかな？
やっぱり、ひとみちゃんと、距離を取ろうと取ろうとしてる私がいて。
ここに来る前にとうとう･･･

「…よしこって、上手そうだよね？」
「へっ？！」

回想に浸ってた私は、真希ちゃんが何を言い出したのか、一瞬
わからなかった。
頬杖をついた真希ちゃんの口許が、ニタニタと冷やかすように
笑ってる。

「う、上手いって、お料理のこと？」

真希ちゃんは、まるでひとみちゃんが乗り移ったみたいに
…はぁ？って語尾を上げて、呆れたような声を出す。

416 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:45

「んなことは、わざわざ梨華ちゃんに聞かなくたって、
　ごとーも知ってるよっ！
　…あっちの腕はごとー知らないからさぁ〜
　よしこと付き合ったことないし。…けど、ほらなんかさ？
　料理、上手いヤツって、あっちも上手そうじゃん？」


あ、ああああっちぃぃぃ〜〜〜〜？
それって。それって。あーゆうコトのことだよね？

ま、真希ちゃんって、そういうコト。
堂々と話すタイプだったんだぁ〜　…し、知らなかった。

「そ、そんなのっ　…わかんないもんっっっ！」

なんだか大声が出ちゃったよ。顔がカッカと火照ってくる。

「あ、ごめん。…梨華ちゃん、ひょっとしてよしこがお初？
　んなら、そんなことわかんないか？」
「…ちっ、ち、違ーーーうっ！」
「え？…経験豊富なの？それはまた見かけによ…」
「だ、だからぁ、そうじゃないのーーーっ」

私は思わず、立ち上がっていた。

417 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:46

突然立ち上がった私に、ビックリして身体を仰け反らす真希ちゃん。
私は俯きながら座り直すと、蚊のなくような声を出した。

「…してないもん。」

え？って。　一瞬、間を置いて。

「えぇぇぇーーーっ？！」　今度は真希ちゃんが絶叫した。

珍しい動物に遭遇したような目で、あたしを見る真希ちゃんに
そんなに変なこと？って、私は思う。

「…してないといけないの？」
「イ、イヤーーーッ　いけなくはない。いけなくはないよ？全然。
　たださ？あんまり意外すぎて。
　だってさぁ〜　お互い、両想いってわかってんでしょ？
　その上、一つ屋根の下なワケだし。一日中一緒にいるんだよね？
　おまけに相手は、あの、よしこでしょ？」

ピクッって私の耳が反応する。
あの、よしこって　…どう言う意味？

ジロリと見あげるように睨んだら、真希ちゃんは、ハッとして
目を逸らす。

418 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:46

怪しい　…すっごぉぉぉくっ怪しい！

ひとみちゃんて……そんなに遊び人だったの？
私はひとみちゃんの過去を知らない。まったくと言っていいほど。

いくら私だって。
ひとみちゃんを見てれば、今まで付き合った人はいるんだろうなって
それくらいはわかる。わかるけど……
聞いてみたいと思っちゃう。やっぱり気になっちゃうし。
どんな人と。どんな風に付き合っていたのかな？って。

「…真希ちゃんて、ひとみちゃんの中学校時代からのお友達
　なんだよね？
　じゃ、じゃぁ、ひとみちゃんのこと、色々、知ってるんだよね？
　…そ、そのぉ〜　ま、前、付き合ってた人とかも。」

真希ちゃんは頬杖をついた顔を、斜め上にあげて。
知らないよって短く答える。

嘘、ついてる。　…絶対、嘘っ！

真希ちゃんって、名前を呼んで腕を揺すったら、こっちを向いた。

419 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:46

「マジで知らないんだって〜　そもそもさ？
　よしこって、自分の話、全然しないヤツなんだよ？
　ただ…知らない仲じゃないし。共通の知り合いもいるから。
　噂は聞くよ？　だけどさ？噂ってあてになんないじゃん？
　だから、ごとーは言いたくない。
　さっきはさ？　憶測っての？で、よしこのこと誤解させる
　よーな言い方して悪かったよ？ごめんね？梨華ちゃん。」

真希ちゃんの言うことって、もっともだと思う。
噂で人を判断したらいけない。

だけど、それをわかってる真希ちゃんが、さっき漏らした言葉は
やっぱりそれが、ひとみちゃんらしいってことだって思ってる
からでしょう？

納得出来ない。

そりゃぁ。ひとみちゃんが昔付き合っていた相手を知ったからって。
いまのひとみちゃんとは関係ないのかも知れないけど。
それでも。ひとみちゃんって人が、少しはわかるようになれるかも
知れないじゃない？

でも、お口にチャックって感じで、涼しい顔してお茶を飲んでる
真希ちゃんは、これ以上何も話したりしないんだろうな。

420 名前：アイ�A−欲望− 投稿日：2004/11/14(日) 16:47

帰る時。
いつものように玄関で見送ってくれてる真希ちゃんが
ポツリと呟く。

「…聞きたいことがあるなら、本人に直接聞くのが一番いいよ？
　ごとーは、そう思う。」

私はこくんって頷いて。またねって言いながら。
真希ちゃんちの玄関のドアを閉めた。

421 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/14(日) 16:48

更新しました。

遅ればせながら、〜アイ〜の続編だったりします。
宜しければ、お付き合い頂けたら幸いです。


402名無飼育様。
　ありがとうございます。
　よっちゃんは、実はロマンティストな感じしません？照れちゃいそうだけどｗ

403名無飼育様。
　ありがとうございます。
　鳥肌……嬉しすぎっ!!!

404名無飼育様。
　ありがとうございます。
　あはは。心変わりされないよう、頑張りまぁーすｗ

422 名前：名無し飼育作者 投稿日：2004/11/14(日) 16:48

405名無飼育様。
　ありがとうございます。
　そろそろ冬到来ですしね？　温まって頂けたなら、幸いですｗ

プリン様。
　ありがとうございます。
　続編は…書けそうなら、いつか書きたいな、とは思っておりますｗ

いつもの名無し様。
　ありがとうございます。
　自分の書くよっちゃんは、梨華ちゃんの前では格好つけずにいられないのでｗ

408名無飼育様。
　ありがとうございます。
　自分のいしよし原点も、わりとこ〜ゆ〜ノリなので書きやすかったですｗ

423 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/14(日) 18:00

ｼﾞｬｰﾝ ｼﾞｬｼﾞｬﾝｼﾞｬﾝ ｼﾞｬ―――――――――――――ﾝ
ﾃﾞﾀ――――――――――――ッ!!
いけいけよっちゃん
やれやれ梨華ちゃん
ﾜ――――――――――――――――――――――――――――――――

424 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/14(日) 18:19

上の人〜ちょっともちつけｗ
いやいやお待ちしておりましたよ、続編。
これはまた面白いことになりそうですね。

425 名前：いつもの名無し 投稿日：2004/11/14(日) 20:32

更新お疲れ様です。
おおっ！！例の続編ですね！
これからまたまた楽しくなっていきそうな予感がｗｗ

426 名前：名無飼育さん 投稿日：2004/11/15(月) 09:44

続編キタ━━(ﾟ∀ﾟ)━━!
なんだかえっちぃよ〜
よっちゃんの過去きになります。

427 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:04

◇◇◇


真希ちゃんのとこに行く前に、ひとみちゃんとの出がけの
問題があったから。

おうちに帰る足が、ちょっぴり重かったりする。

はぅぅぅ･････

当たり前だけど。
恋って気持ちが通じ合ったら終わりじゃないんだよね？
ほんとはその先が難しいんだ。
なぁーんて、そんなこと。
頭の中でならわかってるし？
文章としてなら書けたりするのに。

実際に自分の身に起こってしまうと。
ひとみちゃんの言うことや、やることが、私の想像出来る
パターンと、あまりにかけ離れてて……

私、どういう風に対応したらいいのかわからなくなっちゃう。

それに。
ほんとに通じ合えてるって言えるのかな？　……私たち。

428 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:05

足だけじゃなくって、気持ちまでズシリと重くなりながら
玄関のドアを開けたら。

美貴ちゃんの靴を発見っ！

よ、よかったぁぁぁ〜〜〜
んっもう！美貴ちゃん、大歓迎よっ!!!

「ただいま〜！　美貴ちゃん、来てたんだぁ？」

私は目一杯、明るく元気な声をはりあげながら、廊下を進んで
リビングのドアを開けた。

その瞬間。

私の目に飛び込んできた光景……

信じられる？！…　信じられなーーーーーっい !!!
なななっなんてことっっっ
ひひひとみちゃんとっ、みみ美貴ちゃんが…美貴ちゃんが…
ピタッって、ピタッって、く、くっついてんのよっ？！

「あ、おかえり。」

私の方を見もしないで。お鍋の中を見ながら返事するひとみちゃん。

429 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:05

「なっなななにしてんのよーーーーーーっ!!!」

私の頭の中では、名画まで登場しちゃって一緒に叫んでる。
美貴ちゃんは、銃砲を聞いた野生動物みたいに素早く、私のとこに
すっ飛んできた。

「誤解だって。」

誤解ってなによ？
こんな場面を見せ付けられて。
何をいったいどう言う風に思えばいいって言うのっ？！

それも出掛けにあんなことを言われた後でっっっ
ひとみちゃんって…ほんとはっほんとは……

430 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:06

そうよ。そう言えば。
美貴ちゃんったら、この間うちにきた時も。
自分が男の人だったら、ひとみちゃんを彼女にしたいって
言ってたし？
ひとみちゃんもひとみちゃんで、私というものがありながら
自分もそう思うみたいな、調子の言いこと言っちゃって。

男だったらって言ってんじゃん？なんて、実はただの言い訳で。
ほんとのほんとは、私より美貴ちゃんのがいいって、心の中で
比べちゃったりしてるんじゃないのっ？！

ほんとは…そうよっ
たまたま傍にいたのが私ってだけで…実は他の子でも全然OKとかって
思ってるんじゃない？
だから、好きだってはっきり言ってくれてないんじゃないの？！

431 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:06

いーわよっいーわよっ！それなら、それでっ!!!
どうせ私なんかが相手じゃ物足りないでしょっ？！
ひとみちゃんなんか、誰とでも勝手にしたらいいんだわっ

私もう、知ーーーらないっっっ


何か言いたそうに私の顔を見てる美貴ちゃんを、軽く睨んでしまった。

「どーぞ、ごゆっくりっ！」

そう言い捨てて。
私は、ドカドカと足音を立てながら、自分の部屋に入ると思いっきり
ドアを閉めた。


バッタンッッッ!!!

432 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:07

◆◆◆


バッタンッッッ!!!


梨華チャンが怒りを盛大にぶつけて、ドアを閉めた音が響いた。

あ〜〜〜ぁ…
モノにあたる女はヤだねー　…頭、悪そーで。

「…よっちゃんサン、やりすぎなんだってぇーーー」

情けない声を出す藤本に、あたしは自分でも微笑とも苦笑とも
つかない笑みを口許に漂わせる。

「……なにが？」
「なにが？じゃないよ！まったくさぁ〜…って、あれ？
　よっちゃんサン…ひょっとして？機嫌悪い？
　なんか、なんかよくわかんないけど、実は怒ってたりする？」

藤本は鋭い。誰かサンとは大違いだ。

「…怒ってねーけど？なんで？」
「だってさ？急に、マイナス百度の世界に迷い込んだみたいに
　凍えた感じ。」
「へぇー？そう？いつもこんなだけど？」
「…………」

藤本が疑り深そうな視線を注いでくるのを、軽くかわした。

433 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:07

あたしは自分の感情を表すのは苦手だし。
口で説明しようなんて思わない。

だから人とよくぶつかる。短気だし、攻撃的だしってな。
褒められたことじゃないってわかっちゃいるけど。
そういう風にしか出来ないんだから仕方ない。

水臭いとか、冷たいとか？　偉そうに何様？と、まで。色々と
言ってくるヤツらはいたけど、なんでもかんでもぶちまけりゃ
いいってモンでもねーだろ？誰かサンみたいに。

「今日は…美貴、帰るわ。」
「そ？…飲んでくんじゃなかったっけ？これ。」
「ん〜やっぱゴメン、帰る。…それよか、よっちゃんサン…優しくして
　あげてよ？梨華ちゃんに。」
「…考えとく。」

藤本は、じゃ、また来るからって。
お馴染の片手を上げて、そそくさと帰って行った。

悪りーけど。
当分、優しくしてやるつもりなんかない。
拗ねるなら、勝手に拗ねてろ。


さて、と。
コンソメをどうすっかな？

434 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:08

暫く出てきやしねーだろうと踏んでたのに。
呆気ないほどすぐ。梨華チャンが部屋から出てきた。

あたしはチラッと顔を見て、目線を手元に落とす。
何か話したそうな顔してた。
いつものあたしなら、何？とか、どうした？とか声をかけてやる
とこだけど、そんなヌルいことをする気はない。　…無視。

「…あ、あのねっひとみちゃん　…いま美貴ちゃんから電話もらって。
　さっきのはほんとに誤解だって。
　コンソメの作り方を聞いてただけって。
　今日、コンタクト忘れちゃったから、見えにくくって、ついつい
　くっついて見ちゃっただけって言ってたけど…そうなの？」

435 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:08

はぁ〜〜〜〜…んで、早く帰りたかったのか？

藤本って、見た目はイマドキの、自分一番なキレーめのお気楽な
おねーチャンに見えるけど。
中身は下町の世話焼きオバチャンみたいなヤツだな。

ま、だからこそ。
ナイーヴそうに見えて、実は結構、図太いから、人の心の機微に
まったく無頓着で、見当外れな対応してくる、梨華チャンと上手く
やってこれたんだろーけど？

436 名前：−アイ�A−欲望 投稿日：2004/11/15(月) 17:09

そうは言っても。
他人のことに、ここまで骨を折ってんだ。
あたしも、少しは妥協してやるとするか？

「…そうだよ？なんでさ？
　さっきアンタ、何してんのよーとか叫んでたけど。
　いったい何の誤解をしてたワケ？」

あたしは肉の下処理をしていた手を止めて、梨華チャンの顔を見た。

気まずそうに俯く顔。

誤解させるように仕向けたのは、こっちだしな。
あたしの冷ややかな怒りは、氷河期突入だ。
そうそう簡単には溶けねーんだよ。

「…み、美貴ちゃんが、何があったか知らないけど。
　早く仲直りしなよって、言うの。
　ひとみちゃん…ひょっとして、さっきのこと怒ってるの？」

長く濃い睫に縁取られた目を悲しそうに、瞬かせて、上目遣いで
見上げられると、さっき自分が口にしたばかりの言葉を、一瞬で
吹っ飛ばしそうになる。　……いかんいかん。