さよならブルースカイ

1 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/13(水) 22:28

はるか昔にフリスレで短編を書いていた者です。
こそこそと書き連ねたものが溜まってきたので自スレ立てました。
短・中編中心。カプとか適当に雑食。
更新も不定期になると思いますがよろしくお付き合いください。
2 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:29



          ☆さよならブルースカイ☆


3 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:31

雨上がりの青空
ポケットの中には言いそびれた言葉。
胸の中には後悔の苦いうずき。
―――涙はでなかった。
ただ空が青くて、高くて手が届かない。
触れたら濁ってしまいそうな空にやけに悲しくなる。
こんなに綺麗な空じゃなかったら涙が枯れ果てるまで泣けたかもしれない。

君を思う度胸が痛むよ。
自分の意気地のなさが恨めしくつらくなる。
晴れた日はいつも君を想う。

くじけそうな日は空をみあげる。

遠く広いこの空のどこかに君がいるような気がして。
青い青いこの空のなかでいつまでも君の青を探すよ。

4 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:32

普段より一時間早いだけで学校はまるで違う表情。
その違和感に気が付いたのは校門に駆け込んでから。

「あっちゃー・・・やっちゃったよ・・」
玄関先に掛けてある時計を見て苦笑する。なんて勘違い。
時計を読み違えるなんて、お昼の笑い話にもってこいだ。
「ま、いっか」
そううそぶくと軽く肩をすくめて自分の失敗を水に流す。
別に大した失敗じゃない。遅刻するより断然マシ。

内履きに履き替えて階段を登る。
途中の窓から遠く澄んだ青空が見えて、
これから一日あの青空の下に出て行く事無く過ごすのだろう、と思った。
中間テストまであと少し、要領よく点数を稼ぐにはこれからの授業が大切だった。
主要科目がぎっしり詰まった時間割が今日はなんだか恨めしい。
5 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:32

別に真面目って程でもないし、かといってすんげー不良ってわけでもない。

暴力は振らない、口げんかはする、悪口は言っても人は陥れない。

毎日学校へ来て適当に授業に臨む、時たまサボるけど成績はそこそこの軽い問題児。

それが高校に入った自分のポジション。

あの人とは正反対な、自分のポジション。
6 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:33

誰もいない教室、誰もいない廊下、かすかに響く自分一人の足音。

教室の扉を開ける音がやけに大きく響いて、
一人きりの教室はガラン、と広くて閉塞感を感じずにすんだ。
ひんやりと乾いた空気。欠伸をした喉がかすかに渇く。

「ねむ・・・」
一時間早く目が覚めた分、一時間早く睡魔がやってくる。
これから眠れば一時間目は眠ることなく受けられるかもしれない。
(今日は来るかな・・・)
だんだんと重くなる頭を腕に乗せて机の上にうつぶせる。

来たとして、話しかけることも無く一日を過ごす人のことを思う。
来ても、来なくてもあたしの日常に変化は無い。
いつも通り淡々とやり過ごすだけ。

「ばっかみてぇ・・・」
誰が。何が。
考えるより先に目を閉じる。
瞼の裏側でさっき見た青空がやけに鮮やかに蘇った。
7 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:35

ガラッ、と戸が開く突然の音に反射的にカラダを起こす。
なぜか後ろめたいような、不意打ちで隙をつかれた後味の悪さを感じる。

「・・・おはよう」
入り口付近に立ったまま、少し意外そうな顔をして挨拶してくる。

時間が、ゆっくりと、動き出す。

「・・・早いね、いつもは人いないからびっくりしちゃった」
わずかに返事を待って、それからいそいそと席に付く。
あたしは軽く下唇を噛む。
窓際の彼女の席に目を向けると向こうに透けるような秋の空。青空。
吸い込まれそうで、でも眩しくて目を逸らす。居心地が悪い。息苦しい。

「・・さんは・・」
「え?」
苦し紛れに思わず漏れた声に彼女は反応し、振り向く。あたしの席は教室のほぼまん中。
「安倍さんっていっつもこんな早いの?」
あたしの視線は黒板の「日直」と書かれた文字を追う。
よく知らない女の子とお昼を一緒に食べる女の子の名前が書かれている。
壁掛け時計があたしが目を閉じてから10分も経過していないことを教える。
8 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:36

「ん。なんか、好きなんだ」
―――誰もいない教室とか。

カバンからノートや教科書なんかを取り出す。
カバンに付いた猫のキーホルダーが揺れるのを見つめる。こんなこと、聞かなきゃ良かった。

「だから来れる日は早く来るの。あと宿題とかやっちゃったり、ノート写したり」
「ふーん」
しまい終わったカバンを机の脇にかける。猫が揺れる、あたしは黙る。

「・・・矢口さんは?どうしたの、今日」
「時間間違えたの」
笑い話にもならないようにすっぱりと言い切る。
「ああ、そうなんだ」
―――取り付く島も無い。
彼女の困惑が少し伝わってくる。

「あ、ごめんね?起こしちゃって」
「いいよ、べつに」
ぶっきらぼうなあたしの言葉を受け取って彼女は再び前を向く。
昨日、一昨日とその姿はなかったのになぜか違和感なく溶け込んでいた。
9 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:37
あたしは再び机にうつぶせる。
腕に感じる自分の頭の重さがうっとおしい。睡魔は青空の向こうへ飛んでいった。
静かな教室の中に時折人の気配がする。
ページをめくる、消しゴムのカスをはらう、シャーペンをノックする。
あたしはなぜかその気配に耳を澄ます。
彼女は休みがちだ。
噂で聞いたことだから真偽のほどはわからないけど、心臓が弱いとか何とか。
先生はいつも病欠で済ませる。
一年の頃からぽつん、と体育の授業を見学しているのを見かけた。
絶好のサボりポイントの音楽準備室の窓がグラウンドに面していたから。
軽く頭を持ち上げ乗せる位置を変える。
左腕が少し痺れていた。

時折かすかな咳払い、ペンのキャップを開け閉めする音。
休みがちなのにあたしよりずいぶんといい成績の理由は彼女が努力家だから。
ネタなんてばれてしまえばあっけなくも単純。
―――誰だよ、教師に色目使って下駄履かせてもらってる、なんて言ったの。
腕の中で目を開ける。茶色の木目が腕の隙間から漏れる光の中に見える。
前に使っていた誰かが開けた深い穴。そこに詰まった消しゴムのカス。
昨日書いて消え残った落書き。独特な、机の匂い。
こもった空気を吸ってもう一度目を閉じる。
10 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:38

教室の中は相変わらず静かで、自分と、彼女の気配しかしない。
まるで地球上に二人きりで取り残されたように錯覚する。そんなの、あくまで錯覚だけど。
ぎゅるるる・・・
突然お腹がなった。やけに大きく、長く。
あたしらしくなく狼狽する。
「聞こえた?」
「へっ?」
「や、お腹なったの」
思わず顔を上げて尋ねると振り返った彼女は何のこと?と言わんばかりの顔。
「いや、いいや。邪魔してゴメン」
それだけ言って手を振ると腕に額を押し付ける。
彼女は自分ほど相手の存在を、あたしを、意識していない。
耳が熱い。
早く誰か来ればいいと思う。
二人きり。誰もいない教室。誰もいない廊下。
無言。
沈黙。
時折重なる小さな呼吸。
かすかな、空気の温もり。
―――耐えられない。
11 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:38

30分が過ぎた頃廊下が少しだけざわめきはじめる。
足音が数個教室に近づき、通り過ぎた。隣の教室から戸の開く音。
なぜかほぅ、と息を吐き出す。
どうにも頭の重さに腕が耐え切れなくなって顔を上げる。
誰もいない。
救いの来ない宇宙船の、最後の生き残り。そんなものは比喩に過ぎない。
視線が窓側へ向う。相変わらず青い。透き通って、遠く、高く、少しだけ心が静まる。
彼女の背中はいつも思うけど儚くて、後ろに広がる青に融けていくのではないかと思う。
こんなのはもちろんあたしの勝手な空想でしかないけど。
張り詰めたような青空。彼女の、こげ茶色の短い髪。ひどく傷んだ自分の金髪。
消しゴムをかける手の動き。揺れる、猫のマスコット。
黒板の赤いマグネット。鈍く光る窓枠の銀。微かに見える、白いうなじ。
シャーペンのすべる音、机の軋み、あたしの呼吸。
もう一度小さくお腹がなった。
再び訪れる眠気。大あくび。
鼓動、
鼓動、
鼓動。
―――早く寝てしまえ。
12 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:39

「うわー、どーしたのやぐっつぁん。こんな早くに。気持ち悪ぅい」
「うっさいよ」

二人の沈黙の均衡を破ったのは日直のごっちん。
その後ろから電車で来たのであろう数人の集団。
あっというまに教室には十数人が集まってきていた。
ここにある全ての席が埋まったら、また一日あの閉塞感と戦わなければいけない。
ちらり、と窓側の席を見つめる。
彼女は静かに本を読んでいた。

「昨日は途中で帰ったから今日は遅刻すんのかと思った」
―――なのにあたしより早く来てるし。
ひとしきり珍しがってごっちんも自分の席へ。
珍しいのはあんただ。家から歩いて五分のこの学校に今まで何度遅刻した?
自分の机に向うのを目で追う。
重力に任せて机に乗っけたカバンからは頼りないような音しかしなかった。
そのまま振り返って、おはよう、と笑顔で後ろの席の少女に声をかける。
あたしの席から、頷いた彼女の表情は見えなかった。
空はより青さを増している。誘うように晴れ渡り、開放の意味を体現する。
―――テストが近いからサボるわけにいかないじゃないか。
13 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:40

ごっちんが戻ってくる。
あたしは机に肘を付いてそこに顎を乗っける。
つまらなそうに右手の中指のささくれを気にする。
(ひっぱったら血ぃでるかな)
「安倍さん、今日は来たんだね」
まだ持ち主の現れないあたしの前の席に勝手に腰を下ろし低めた声でそう言う。
普段の明るさで喋るにはまだ教室には人が少なすぎる。
「なんか話した?」
「別になんも?おいら寝てたし」

爪で千切り取ろうとしたのにささくれは深い裂け目を作って皮膚から離れた。
すぐに血が湧き出してくる。思わず顔をしかめる。
「もったいない」
ふふ、と空気だけで笑ってごっちんはポケットからティッシュを取り出す。
14 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:41

「あーしてるとホント、薄幸の美少女だよね」
「そぉ?」
取り出したティッシュで吹き出した血を拭う。
真っ白い中で小さな赤い点々がやけに鮮やかに目立つ。
適当に拭って丸める。礼を言ってごっちんに残りのティッシュを返した。
「なんか話しかけづらいよね。いっつも誰と話してんだろ。やぐっつぁん知ってる?」
「さぁ、気にしたことないからわかんない」
「やぐっつぁん、クール」
あはっと笑って長く茶色い髪の毛先をいじる。
彼女が笑顔で誰かと話してるとこなんて、見るわけないじゃん。知らないよそんなの。

空は果てしなく遠く、青い。決して手の届かない透明な青。自由。あこがれる。
そして焦燥。
やめておけ、決して触れられない青に憧れるのは。
―――くだらない感傷は捨ててしまえ

右手の中指からまた少し血が湧き出してもう一度軽く拭った。
白地に赤い点が尾を引いて走って、
白み始めた夜空を駆ける死にかけの彗星のようだと思った。
15 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:41












16 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:42
中間テストも今日で終わる。

視線が窓際をなぞる。ただ静かに佇んで教科書を読んでいた。
見る気もない机の中の教科書類はロッカーに移動させられた。
カンニング対策。不条理な不信用。カバンの軽さがせめてもの救い。
ボヤく、嘆く、詰め込む。生徒の憂鬱が空を曇らせる。あたしは解ける問題だけに取り組む。
強迫観念のない生徒にとってテストは自由時間と同じだ。時折窓の外を眺める。
よどみなくシャーペンを走らせる儚げな背中。
手持ち無沙汰で余白に落書きする。
テスト終了まであと4分。
急激に慌しくなる教室。
問題用紙をめくる音、あちこちで机が軋む。
―――深い、誰かのため息。
チャイムが鳴った。
17 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:42

「やぐっつぁんどーだった?」
自分の席に座ったまま話しかけてくるごっちん。
あたしは筆箱にシャーペンと消しゴムを突っ込みながら首を振る。苦笑い。
視線の先は帰り支度をする背中。窓の外はどんよりと重く垂れ込めている。
「またまたぁ、そーいーながら結構できてるクセにぃ」

彼女が帰り支度を終えて立ち上がる。あたしはとっさに視線を落としてカバンを掴む。
「安倍さんもう帰るの?あ、もしかしてバス?」
「うん、コレ逃すと20分待ちだから」
「そっかー、じゃぁねぇ」
「うん、ばいばい」
手を振って歩き出す。俯いてカバンに筆箱を詰める。教卓の前を通る、通り過ぎ、入り口に向う。
あたしはそっと左頬の内側を噛む。目を伏せたまま意味もなくカバンの留め具をいじる。
いつもの習慣で机の中に手を入れる。何もない空間。
確かめるように撫でてた手にわずかに感じる違和感。
「?」
手に当たったそれを取り出す。
薄い空色の便箋が宛名もなく入れられていた。
18 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:43

誰もいない昼下がりの自宅。

置いてあった昼食にも手を付けずに自室にこもる。心臓がなぜか早鐘を打つ。
静まれ心臓。
こんなのはきっと、誰かの悪戯に違いない。
アホらしい。こんなことが起こるはずがない。そう思ってカバンを開ける。
―――ソレは確かに存在していた。

不安定な爆発物でも扱うようにソレをそっと取り出す。
その封筒はこの前見た青空に白雲のベールをかけたような淡い色をしていた。
宛名はない。差出人の名も、封さえもしていない。
かすかに震える手で中に入っている同じ色の便箋を取り出す。
几帳面に四つ折にされた便箋を広げる。
19 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:43











              あなたが好きです












20 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:44
便箋の真ん中にたった一行そう書いてあった。
21 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:44





22 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:45

朝から雨が降っていた。
あたしは始業一時間前の校門の前で立ち尽くしている。吐き出す息が白い。
時間を間違えたわけじゃない。最近やけに早く目が覚める。
家にいても落ち着かなくてなんとなく学校へ来てしまう。
この時間から逃げ込めるような気の利いた店なんてこの辺りにはない。
おかげで教師の間ではあたしの突然の更生の原因が何かという話題でもちきりらしい。
そんなこと、教師たちにはまったく関係ないと思うのだけれど。
―――もうじき始まる期末テストの結果さえ教師を満足させられる程度なら。

仕方なく校舎内へ入る。
湿気のせいで内履きの立てる音がやけに耳に付く。誰もいない。雨の音と自分の足音だけの世界。静か過ぎる世界の中で自分だけが異質だった。
滅亡した地球にたった一人送り込まれたエイリアン。
ここが廃墟でないことがむしろ不思議な気がした。
異空間に通じるゲート、重い音とは裏腹に滑るように戸が開く。
「「あ」」
人類最後の生き残りと、侵略したエイリアンとの奇跡の邂逅。
―――馬鹿馬鹿しい。ただのクラスメイトじゃないか。
23 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:45

「おはよう」
「おはよ」
いつものようにそっけなくそれだけ言って自分の席に座る。
机の表面までもが湿って、カバンを乗せた音を吸収する。腰を下ろして大きなため息。
どんよりと重く垂れ込めた雲から幾億もの雨粒が地上に落下する。
全ての音を閉じ込めるように、重くのしかかりながら、地面で砕ける音だけを周囲に撒き散らす。
その中に混じる乾いた咳。
あたしは掲示物を眺めていた視線を向ける。
「風邪?」
放っておけばいいのに。歯噛みしたい気持ちで髪を掻き揚げる。

「うん、ちょっと」
軽く鼻を啜る音が笑いを含んでいるようでますます落ち着かない。
騒ぐ心を落ち着けるように携帯を取り出して意味もなくスクロールする。
頭の中ではまったく別のことを考えている。
窓の外の雨音。
窓に打ち付ける音、滴る音、遠い記憶を呼び覚ますような小さなざわめき。
時折混じる咳、携帯のボタンに当たる爪の音、吐き出されるあたしのため息。
―――頭の中ではまったく別のことを考えている。
24 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:46

不意に水のざわめきが大きくなる。
あたしの中を流れる血の音だと気付いたのは、
雨の流れる窓に映った横顔を見つめてたっぷりと二分は経ってからだった。
外は薄暗い。教室の中の明るさが自然の摂理を無視して自己主張している。

あと5分もしたら誰か来るだろう。
パタン、と見てもいなかった携帯を閉じる。
窓を打ち付ける雨は一層激しくなる。それに負けない音が体の中から聞こえていた。
「安倍さん」
自分でも予想もしないタイミングで声を掛けて、自分自身が一番驚いて何もない教室に広がる空気の震えを鼓膜で感じる。風に煽られた雨粒が無残に窓に叩きつけられ悲鳴のように音をたてる。その音以上に耳の奥がうるさくて、あのさざめくような雨音を恋しいと思った。
25 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:47

視線は机に開いた穴を見つめる。

「手紙くれたの、安倍さん?」
きつく握り締めた携帯が体温を吸収する。空いた左手には爪が食い込んだ。
「え?」
ゆっくりと振り向いたその顔を、あたしはなぜ見なかったのだろう?

「・・・手紙って、何のこと?」
あたしの覚悟など必要としていないかのように視線は彼女に吸い寄せられて、そして不思議そうにこちらをみている顔が水晶体の奥で像を結ぶ。あたしはきっと探偵には向いていない。
「あ・・・なんでも、ごめん。変なこと聞いちゃった。忘れて」
笑顔にヒエラルキーがあるなら底辺の底にやっとぶら下がるような笑顔を返した。
―――ほらみろ、だから言ったんだ

相変わらず外は薄暗く、窓を流れる小さな河が幾筋も流れを刻んで水溜りの海へと注いでいく。
そのうちの一つに自分の心を溶かし込んでさっさと流れて消えるよう祈った。
26 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:48



「なんかやぐっつぁん最近ぐったりモードだね」
放課後を迎えた教室に他の生徒の姿はない。
試験中は部活動も禁止になる。
「ベンキョー疲れ?」
「まさか」
倒していた体を起こして笑ってみせる。
消されたストーブの余韻もだんだんと薄れ始め少しずつ外気と同じ温度に近づき始める。
確実に真冬へと変化していく外の世界をぼんやりと眺める。
先ほどまで説教のためにいた会議室のタバコの臭いが制服に染み付いているようで不快だった。
27 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:48
「テスト終わったらカラオケいこーよ」
「お、いいねぇ。久々にパッーとね。ラストって何だっけ、教科」
「保体と地理と家庭科。楽でいいねぇ」
「地理ヤバイけどね」
「地理はみんなやばいよ。光男の話なんて何言ってっか誰にもわかんないし」
「確かに」
髪をかきあげながらごっちんが隣の席に腰を下ろす。

「っつーかさぁ、地理の教科書最近見かけないんだよねぇ」
「はぁ?」
呆れたようなごっちんの声に思わず苦笑する。
もともと頻繁に教科書を開く性質じゃないから殆どの教科書は学校におきっぱなしにしてある。
そして気がついたら地理の教科書が見当たらなかった。
「のんきだねぇやぐっつあん、テストどーすんの?」
「んー、石川さんからノート借りたから」
それでなんとか・・・と言葉を濁すあたしにごっちんも適当に相槌を打つ。

お互い試験なんてものにそんなに重きを置いていない同士、大したことじゃない。
「どっちにしろ光男の地理ってプリントばっかで教科書使わないしね」
あたしは隣のごっちん越しに窓を見ながら笑う。
外の寒さなど想像もできないような綺麗な青空が広がっていた。
28 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:49

あたしが外を眺めているのに気付いてごっちんも窓の方へ目を向ける。
「天気いいねぇ」と呟いたまま二人して黙って空を眺めた。
一月半続いた無遅刻ライフが崩れて、それが教師達の好奇心を掻き立てたのかやたらに説教ついでに理由を問われることが多くて余計に気が滅入る。広がる青空に少しだけ心が癒される。
理由なんてないさ、別に。ただ前の自分に戻っただけ。
早起きしてた自分がおかしかったんだ。あたしはこっちが普通なんだよ。

「試験全部休んじゃってどーすんだろねー」
窓を眺めているんだとばかり思っていたごっちんがアゴで指した机。
持ち主はここ2週間姿を見せていない。
「さぁー?追試受けるんじゃない?休み明けとかに」
「ごとーも追試かも、数学と化学」
「がんばれぇ」
「うわ、すっごいココロない」
笑ったごっちんがあたしの目の前の席に腰掛ける。
二人でぼけぇっと空を見上げる。雲が遠くで薄くたなびくのが見えた。
29 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:50

「空ってなんで青いかやぐっつぁん知ってる?」
「はぁ?なにそれ、知らない」
突然の問いに考えることもせずに笑って、頬杖をついたままごっちんを見上げる。
ごっちんはちょっと得意そうにこちらを振り向いた。
「空気が青いからなんだって」
「えー?空気なんて透明じゃん、ホラ」
目の前の何もない空間を指で指し、それからパタパタと手をふった。
「なんかね、すっごい薄い青なんだって。だから遠くに行くほどそれが重なって青く見えるらしいよ」
見てみ、と窓の外に広がる小さくごちゃごちゃと並んだ町並みを指差す。
おもちゃのように並んだ家々の向こうにさほど高くもない山が見えた。

「なんか青っぽくない?」
たしかに、木々の緑とは違うくすんだ青緑だった。
「んー言われてみればって、カンジ・・・てか空が青いからだと思ってた、青っぽく見えるの」
あたしの言葉にごっちんも笑って、あたしも軽く口元を緩めた。
30 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:51
「つーか物知りだネェ、ごっちん」
「いや、安倍さんに教えてもらったんだけどね、前に」
「ふーん、そんなことまで知ってるんだ。やっぱあたまいーねー」
頬杖をついた姿勢のまま右のつま先で左の踵を軽く突付いた。
あたしはそのとき何をしていたんだろう?

「なんか安倍さんが言うとちょーロマンチックなカンジしない?」
「ごっちんが言っても十分ロマンだよ、つーかむしろ奇跡に近い」
「あー今ごとーのこと馬鹿だと思ったでしょ」
不機嫌なわりにコミカルなアヒル口をするごっちんにそんなことないよ、と笑って言った。
「でもなんか最近元気なかったからねぇ、やっぱカゼひどいのかな」
「んー、そうなんかもねー」
「もー、やぐっつあんクラスメイトなのに冷たいなー」
「・・・んな事言われても」

ごっちんがカバンを持ったのを合図にあたしも席を立つ。
教室から出ると冬の匂いが鼻先を掠めた。
31 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:51





32 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:52

「さむ・・・」
半ば埋もれるように巻いたマフラーの隙間から白い息が漏れ出す。
寒さに比例して空も澄み渡っていた。
太陽は顔を見せているものの
この時間はまだその温もりを地上に届けるだけの力が備わっていない。
昨日の霙交じりの冷たい雨が残した水溜りがところどころで曇った鏡のように凍っている。
地理のプリントを置き忘れなかったらせめてもうすこし太陽の恩恵を受けれたかもしれない。
ずっと肩をすくめていたせいで首のあたりが硬くこわばっていた。

「はぁ〜あ、だりぃな」
目の前に広がった白い靄が思いもよらず広がって自分の憂鬱の体積を見た気がした。
(今日は、くるかのな)
おせっかいにもそんな事を思ってほとんど何も入っていないカバンを振り回す。
凍えた空気が攪拌されて顔に当たる風が冷たかった。

時間が早いのとテスト期間のせいで校舎内には人影はない。
いつものように靴を履き替え、廊下を進み、階段を登る。
澄み切った青空の色が胸に広がる。自然と教室へ向う足が速くなる。
ドアの前まで来て一瞬ためらってから戸を開けた。
『おはよう』
―――澄み切った青空の向こうから声がした。
33 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:52
「安倍さん、来てたの?体、もういいの?」
何日かぶりで見る彼女は前よりいっそう儚さを増し、今にも融けていきそうに見えた。
「うん、ちょっとね、用事があって」
ふふ、と悪戯っぽく笑って首をすくめる。
こんな風に打ち解けた様子で話すことなんて今までなかったのに
大した違和感もなく受け入れてしまった。
少しだけ早まった動悸を気にしないようにしながら席についた。
彼女は相変わらずこちらを見て笑っていた。
「なに?」
「ううん、なにも」
そういってまた少し笑ってまだこちらを見ている。
―――おちつけ
だんだんと頬が熱を持っていくのがわかって左手で右手の親指の付け根を抓った。
できるだけ彼女を視界に入れないように、できるだけ話しかけられるのを避けるように顔を背ける。なぜそんなことをしなければいけないのか。その理由を考えることを考え付かなかった。
34 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:53

手持ち無沙汰で、カバンを開ける。筆箱を取り出すと見る気もなかった教科書を取り出す。
家中を探してもやっぱり地理の教科書は無く、机の中もいつか同様空っぽだった。
―――なぜそう思ったのかはわからない。
わからないけれど不意に思いついてしまったのだ。
普段ならできる限り接触しないように過ごしてきた相手に、教科書を見せてもらおう、と。
「あのさ・・・」
「ごめんね、教科書・・・」
あたしが声をかけたのと、彼女が声を上げたのはほぼ同時だった。
彼女の言葉に驚いてすぐに窓側に顔を向ける。
「・・・え?」

そこにはただ、明るく澄み切った青空が窓越しにどこまでもどこまでも続いていた。
35 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:54
「安倍、さん・・・?」
確かに存在していたはずの少女の姿がほんの一瞬で見えなくなった。
確かに声を交わし、笑顔を返し、こちらを見つめていたはずの相手。
教室の中を見回してもその姿はない。出て行く気配なんてこれっぽっちもしなかった。

「や、なに?」
驚きと、不安と、ほんの少しの恐怖に耐えながらとりあえず窓辺の席に近寄っていく。
机の下にでも隠れて、驚かそうとでもいうのだろうか?
「ちょっと、安倍さん?」
その場にはやはり彼女はいなかった。
手触りすら感じるくらいその気配はあるというのに。
窓の外を見て、それからもう一度教室の中を見回す。
が、どこにもその儚げな姿を捉えることはできなかった。

「安倍さん!」
誰もいない静まり返った教室の中で自分の声だけがやけに寒々しく響く。
この教室には誰もいない。私以外。
「・・・・・・・」
見れば彼女の席にはカバンがかかっていない。ハッとして机の中を覗き込む。
―――何もない空間。
いや、一冊だけ本があった。

「・・・これ、おいらのじゃん」
取り出した地理の教科書にはふざけて書いたあたしの名前が踊っていた。
36 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:54

「おはよーやぐっつあん、今日でテスト終わりだねー」
放心したように自分の席で座っていたら目の前にごっちんのアップ。
「どーしたの?ぼけーっとして、寝不足?」
一夜漬けでもしてたんでしょー、と笑いながら付け足す。
「あべさん、きた?」
「へ?」
「安倍さん」
抜け殻のようなあたしの問いかけに眉をひそめつつ、
ごっちんは窓側の席を確認すると首を振った。
「来てないみたいだよ?・・・あ、教科書見つかったんだ」
机の上に乗ったままの地理の教科書を見つけてごっちんが言った。
あたしはただこくん、と頷いた。
「さぁ、最後の詰め込みガンバルか。じゃやぐっつあん、後でね」
軽く手を振って自分の席に戻るごっちんを黙って見送る。
言ったってどうせ信じてくれるはずがない。自分でも全然信じられないんだから。
もう一度窓際の席を見遣る。
既に人で埋まっている教室の中、そこだけが切り取られたようにぽつん、と空いていた。
37 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:55

結局たいした復習もしないままテストに突入する。
文字を読んでも意味が頭に入ってこない。
視線が文字の上をただ無意味に滑ってく。
混乱している頭の中で、それでも少し冷えている芯の部分でありえない妄想を否定しようとした。
否定しようとしていること自体すでのその可能性を認めているようで歯がゆい。
(そういえば今日、HRのときの担任の様子はどうだったっけ?)
思い出そうとしても薄い靄の向こうを透かし見るようにしか思い浮かばない。
残りのテスト時間が早く過ぎ去ってくれることを半ば期待し、半ば恐れていた。

それでも時間は無常に流れる。
流れる水のように、枯れ行く花のように、決してどこにもとどまることなどなく。
落胆と、開放の入り混じったため息の下、無機質なチャイムが全校に鳴り響いた。
38 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:55

テストが終了したにも拘らず、そのまま待機を命じられた時点であたしは薄々気付いていた。

「突然ですが今日の朝方、安倍さんが亡くなりました・・・・」
担任の言葉はあたし以外のクラスメイトに多少の衝撃と動揺をもたらした。
心臓病ではなく、白血病を患っていたこと。
遅ればせながらドナーの提供者が現れて大手術を行ったこと。
それでも結果が思わしくなく、結局は死に至ったこと。
テストへの影響を考えてテスト終了後に報告したことなど淡々と教師の口から語られる情報をぼんやりと聞き流していた。クラスのあちこちから鼻を啜る音が聞こえた。
あたしは放心したまま窓の外を見上げる。
そこだけ切り取られたようにぽっかりと開いた空間は、間違いなく彼女がいたはずの空間で、
彼女の代わりに今は広がる青空がその隙間を埋めていた。
―――彼女は本当に青空に融けていった。
39 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:56
淀んだざわめきを残しつつ次第に教室から人気がなくなるのをあたしは待った。
少しだけ、もう少しだけ、この教室の空気の中に浸っていたかった。
こんなこと以前のあたしにはありえないことだった。
教室はいつだってあたしを閉じ込める狭い檻でしかなかった。
ごっちんもさすがに気分を殺がれたらしく手を振ってさっさと帰っていった。
多分、一人になったら泣くんだろう、とあたしは密やかに予想を立てた。
―――あたしはなぜか涙も出ず、それでも胸の奥に粘土が詰まったような苦しさを感じる。
お昼を過ぎた教室はあたし一人きりを残して眠ったように静まり返った。


空には遠くにわずかな雲がかかるのみで、この時期特有の冬晴れの空が続いている。
風もさほどなく、外は暖かそうに見えた。
あたしは重くなった腕を動かしカバンの中に入れていた地理の教科書を取り出す。
普通の教科書に比べ、大判で色鮮やかな表紙にいくつかシールが貼ってある。
裏を返せばちょっと凝ったカンジのレタリング。こんなものをどうして彼女は持っていたのだろう。
ぱらぱらとページをめくるとちょうどまんなからへんで何かに遮られ、それが姿を現した。

―――それは、いつか見た空色の便箋だった。
40 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:57

おそるおそる手を伸ばす。心臓が痛いくらいに高鳴っていた。
本来あて先を書く部分には一言「これを届けたくて教科書を借りました」とだけあった。
甘酸っぱい慨視感を感じながらその封筒に手を触れる。
やはり封はされていなくて、中から四つ折の紙が出てきた。
少しだけ戸惑って、その手紙を開いた。









            ウソついてごめん。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・


41 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:58

空色の便箋に書いてある文字を何度も、何度も読み返す。
あらゆる物の中で一番自分の核に近いものがきゅぅ、と縮むような感覚を覚えた。
心の中で一番柔らかで、まだ穢れていない部分が激しく震えるような錯覚。
苦しくて、大きく一度息を吐き出すと窓際の席を見る。
―――しばらく
持ち主の代わりにどこまでも青い空がその席を包み込んでいた。
薄い青は重なり、やがて掴むことのできない青い層を作る。
世界中の命を包み込む、青くどこまでも続く層。
彼女はもう、その空の向こう側にいる。
―――しばらく恋はしないだろう



制服のポケットに手紙をしまうと左手にカバンを持ち、立ち上がる。
教室を出て、早足に玄関へと向う。
目の前に広がる、彼女が融けたあの青空の下に行くために。
決して届かぬあの青空に、わかっていても手を伸ばすために―――。
42 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 22:59









           ウソついてごめん。













                       それと、さようなら




43 名前:さよならブルースカイ 投稿日:2004/10/13(水) 23:00

雨上がりの青空
ポケットの中には言いそびれた言葉。
胸の中には後悔の苦いうずき。
―――涙はでなかった。
ただ空が青くて、高くて手が届かない。
触れたら濁ってしまいそうな空にやけに悲しくなる。
こんなに綺麗な空じゃなかったから涙が枯れ果てるまで泣けたかもしれない。

君を思う度胸が痛むよ。
自分の意気地のなさが恨めしくつらくなる
晴れた日はいつも君を想う

くじけそうな日は空をみあげる

遠く広いこの空のどこかに君がいるような気がして。
青い青いこの空のなかで君の青を探すよ。
44 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/13(水) 23:03
以上です。
こんなカンジでたらたら行こうと思います。
感想とかも待ってますのでてきとーにレス下さい。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/13(水) 23:46
うわぁ…。切ない。
ウルウルしてます。ヤバいっす…。
タイトルに惹かれて一気に読んでしまいました。次も楽しみにしてます。
46 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/14(木) 23:03
>>45さん
レスありがとうございます。
とりあえずこんなカンジで行きますので楽しんでいただけたら幸いです。


というわけで、調子に乗って更新です。
次田亀いきます。
47 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:04



             ○窓ガラス○



48 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:05



湿った空気は昨日から続いている雨のせい。




曇った窓ガラスに絵里が何か書いている。
「何それ、ブタ?」
「猫だもん」
そう言って振り返った絵里を手招きする。
九州生まれのあたしには東京の秋は寒いと思う。

「やだ」
私の指摘が気に入らなかったのかそれだけ言うと、
さっきの絵の横に新しく何か書き始めた。
「そっち寒いっちゃろ?こっちこんね」
直接だと喉が乾燥するから座っているソファの足元に当たるように向きを設定したエアコンから暖かい空気が流れてくる。だけど上半身はすうすうする。
手っ取り早く暖かいものが欲しくて、一番手近な暖かいものである絵里を呼ぶ。
だけど・・・。
49 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:06

「寒くないもん」
さっきの猫(ブタにしか見えん)の隣に犬(もしかしたらネズミかも知れない)を書きながら素っ気無い返事。あたしはしばらく黙って絵が完成するのを待った。・・・寒いなぁ、もう。
「何に見える?」
再び振り返った絵里はわくわくした期待の表情。
―――これはハズすワケにはいかない。

「・・・ネ・・いや、犬だ。犬でしょ?」
「ブー、正解はねずみでしたぁ」
そう言いながら出来上がっていた絵に手を加えてネズミにした。
「それズルいから」
「いーの」
黙ってれば結構落ち着いて見えるのに、
言動はかなり子供な彼女は笑いながら「チュー」とネズミの上に書き足した。
50 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:07

「もーいーっちゃろ?こっち来て」
そう言いながら自分から近寄ってく。
マイペースな彼女に付き合っていたらいつまでたっても暖をとれない。
「や、くすぐったい。離して」
「やだ」
思いっきり後ろから抱きついたらわき腹に手が当たったのか絵里が身をよじる。
服越しでも絵里の体温が伝わってきて暖かい。

「つーか絵里、絵下手すぎ」
見れば見るほどブタにしか見えない猫に噴出す。
「絶対これブタだって」
「ブタじゃない」
「ブタ」
腕の中で絵里の温もりを味わう。

可愛くて愛しくて仕方ないんだけどあたしの口から出るのはからかいの言葉ばっかり。
自分でも子供っぽいと思うけど、素直になるのはホント、照れくさい。
ちゃんとマジメに「好き」とか言えたらいいのに。
51 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:08

「・・・じゃぁこうする」
しばらくあたしと言い合っていた絵里は何か思いついたのか再び窓に何か書いた。

「・・・どーゆー意味、コレ?」
「だってブタって言ったら・・・」
最後まで聞かずに絵里の頭にツッコミチョップ。
あたしが散々「ブタブタ」言ってた絵の上に「れいな」なんて書くんだから当たり前だ。

「痛ーい。れいなのばか」
「そっちが悪かやろー」
頭を擦る絵里の首をきゅー、と絞める。
途端に弾けるように絵里が笑って必死で手を振り解こうとする。
くすぐったがりの彼女にはこの刑が一番効く。
「やだやだ、もう、離し・・」
あたしの手を掴んでこちらを振り返る笑顔の絵里。

笑いすぎたのか頬が少し赤い。
目もなんか潤んでる。
苦しそうに弾む息。
52 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:09

―――ヘンタイじゃないか、って自分でも思う。
だけどくすぐったがる絵里を見てると、絵里の潤んだ目を見てると、
絵里の事、もっと困らせたくなる。

困らせて、泣かせて、支配したいって思う。
頼って、縋って、甘えて欲しいって思う。
もっともっと側にいて、あたしで彼女を満たしたいって思う。
―――危険なくらい彼女に惚れてる

そんな事を思いながら、気がついたら彼女の唇を奪っていた。
絵里は大した抵抗もせずに受け入れてくれる。
少しの隙間も許したくなくてきつく抱き寄せたら、やっぱりくすぐったがって身をよじった。
53 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:09

「・・・れいなのえっち」
唇を離してまだ熱っぽい息のまま絵里が囁く。
「絵里んがやらしか」
「やらしくない」
膨れる絵里はその尖らせた唇があたしの心を揺さぶってることに気付いてない。
非難めいた視線があたしを焚きつけてる事に気付いてない。
無自覚でいて無上の誘惑。
息苦しさを感じて曇った窓を見る。

さっきまでの肌寒さはとっくにどこかへ消えていた。
54 名前:窓ガラス 投稿日:2004/10/14(木) 23:10

「絵里のほうがやらしいっちゃ」
ホラ、と窓を指差すと絵里が描いたラクガキ。
あたしの名前とネズミの鳴き声。
その部分を指で指す。
ついでに「して」と書き足した。

『れいな チュー して』

「ほらね、絵里のほうがやらしいっちゃろ?」
得意げに覗き込んだら絵里が思いっきり笑って、それから抗議しようと口を開いた。
あたしはそんな絵里を唇を使って黙らせる。

九州生まれのあたしには東京の秋は結構寒い。
だからほら、もうちょっとカラダがあったまる事をしようか。二人で。


                            〜END〜
55 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/14(木) 23:15
以上、田亀でした。
お国言葉はてきとーです。
56 名前:名無しでござる 投稿日:2004/10/15(金) 01:14
さよならブルースカイ
窓ガラス
一気に読ませて頂きました。いいじゃないですか!いいじゃないですか!
たらたらと作者様はおっしゃってますが、私にとっては直球ど真ん中って
感じですよ。読後感が爽やかになれるので、次回作も楽しみにしておりま
す。いやあ、嬉しいなぁ。
57 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/16(土) 23:04

超マイナーなミニポポ(りかぼん)でいきます
書いたのが加護卒業前なので何も気にせずに読み飛ばしてください。
58 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:05








               ◎バス停にて◎







59 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:05

まったくもう、なんで電車は数分おきなのに、バスは何十分も待たなきゃいけないのよ。
さっさと家に帰りたいっていうのに。
とにかく家に帰って、この真っ白なワンピースにべったりついたチョコレートを落さないと。
この前買ったばかりなのに染みになっちゃう。

「ごめんなぁ、梨華ちゃん」
隣から聞こえる小さな声は無視。
ホントにもう、一日何回いたずらしたら気が済むのよ。
当分は口利いてあげないんだから。

「梨華ちゃぁん・・・」
ああ、もう、そんな声で騙せるのは飯田さんと安倍さんと矢口さんくらいなんだから。
私はあんなダメなオトナみたいに甘くないわよ。
いっくら可愛いって言われてるからってね、やっていいことと悪いことがあって・・・

「・・・もう、梨華ちゃんのバカ」
「はぁ!?」
何よ、逆ギレ?
遊園地に興奮して動き回って人にチョコレートアイス塗りつけておいて逆ギレするの?
「何回も謝ってるやんかぁ」
プックリしたほっぺを膨らませて見上げてくる。
ちょっと、そんな謝り方じゃ誠意が伝わってこないのよ。
60 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:06

「あいぼんさぁ、私『走っちゃだめだよ』って言ったよね?
『食べ物こぼさないようにね』って言ったよね?」
「言ったっけ?」
なによ、そのいかにもなすっとぼけ方は。まったく反省の色がないわよ。
「言いましたー。それなのにさ、きゃぁきゃぁ言って走るわ騒ぐわ・・・
で、結局こうなっちゃったじゃない」
ほら、と指差す胸元のチョコレートのプリント。
「だって、あそこで落ちるなんて思わないもん」
確かに半分事故みたいな部分もあったけど、それだってあいぼんが私にアイスを向けなければこうはならなかったわけで。
マイクみたいに人に向けるからこうなるんじゃない。
61 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:07

せっかく久々に二人で遊ぼうとしてたのに半日もいないうちにご帰宅コース。
なによ、私だって絶叫系コースター乗りたかったのに。
結局あいぼんがいってたやつしか乗ってない。
せっかく一日フリーパス買ったのになんかすっごく損した気分。
だからってこのままじゃかっこ悪いし。

「梨華ちゃん」
するっと伸びてきた手が意外にもしっかり絡んできて振り払うことができなかった。
「ほら、機嫌直して?」
そんなあいぼんスマイル見せたってね、私の機嫌は・・・・。
そう思っていたら目の前に差し出された小さな手。

「何よ?」
グーの形で握り締められた手に思わず自分の手を差し出す。
「はい、コレあげるから許して」
そう言って渡されたのは小さなキャンディーだった。
「おいしいよ?」
そーいってくりくりした目で見上げてくる。
あいぼんのこーゆーとこ、結構可愛いのよね。
62 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:07

「しょ、しょーがないなぁ、もう。今度からはあんなことしちゃダメだよ?」
「うん」
「あと、人がいっぱいいるところであんまり騒がない。人が集まってきちゃったら大変だし、周りの迷惑になるから。・・・・わかった?」
「うん、わかった。」
何?やけに素直じゃない。
やっと私にも年上の貫禄が出てきたってことかな?
ま、あいぼんも反省してるみたいだし私の寛容な心に免じて許してあげよっかな。

「じゃぁ、貰うね」
私は差し出されたキャンディーを笑顔で受け取った。
63 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:08

バスが来るまであと1分くらいかな?時刻表通りなら、だけど。

「あいぼん、今日楽しかった?」
「うん、ちょっとしか乗れなかったけど楽しかった」
「何が一番楽しかった?」
「んー、とねー?梨華ちゃんと一緒にいたこと、かな?」
「え?そうなの?」
あいぼんの顔を覗き込むと照れた顔して笑ってる。
やだもう、あいぼんてば、可愛いこといってくれるじゃない。
「だって最近梨華ちゃんと仕事一緒じゃないし」
ああ、タンポポなくなっちゃったしね、私が大人チームに入っちゃったせいもあるよね。
「なんかね、さみしかったの・・・」
ウルウル・・・って感じのつぶらな瞳。
「あいぼん・・・」

もう、さっきまでのムカムカなんて綺麗さっぱり水に流しちゃう。
そうだよね、寂しいよね、うん、私も寂しかったよ。

「だからね、今日はしゃいじゃって・・・」
ごめんね?だって。
もう、あいぼんてば寂しがり屋さんなんだからぁ。
いたずらばっかりするのも、私のこと「キショいキショい」言うのも、「アゴ、アゴ」ってからかうのもホントはかまって欲しいからなんだよね。うん、私ちゃんとわかってるから。
「私も楽しかったよ、久しぶりにあいぼんと一緒にいられて」
「ホント?」
「うん!」
「もう怒ってない?」
「うん、怒ってないよ」
よかったぁーなんて胸をなでおろすあいぼん。もう、可愛いなぁ。
ホントやんちゃな妹、って感じよね。
とするとさしずめ私はしっかり者のお姉さん、ってカンジかな?
面倒見がよくて、優しくて、でも時には厳しくて
・・・なかなかいい感じじゃない?ウフフ・・・
64 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:09

「梨華ちゃん、一人で笑ってキショ〜い」
わかってる、コレはあいぼんの照れ隠しなのよね。
もう、そんな事言わなくてもかまってあげるって。
「笑うとアゴがくくって前出るよね」
ときどき余計なこと言うけどホントは心の優しい子なのよね。
悪気は全然ないんだよね。
「あと、声がなんか、声が高すぎるの、さっきも『きゃぁ〜』とか言って・・・」
ほ、本当に悪気はないのよね?大丈夫よね?
私嫌われてるわけじゃないよね?ね、あいぼん。
「あっ、梨華ちゃん胸はだけてる!・・・ってなんだチョコレートかぁ。
色が似てるから見間違えちゃった」
・・・ホントにさっきの事反省してるのかしら?
65 名前:バス停にて 投稿日:2004/10/16(土) 23:10

「あっ、バス来たよ。梨華ちゃん」
「うん」
「あと、そのアメ家帰ってから食べてね?」
「なんで?」
「いいから、いいからぁ。ほら、乗ろうよ」

差し出されたあいぼんの掌。昔より大分大きくなった掌。
細くて長くてドキッとするほど白いそれは、
だけど触るとあったかくてふにふにしてて、いかにもあいぼんらしい。
きっと舐めたら甘い味かするんじゃないかな。

「また来ようね、梨華ちゃん」
「うん。今度はイタズラしちゃダメだよ?」
「はぁい」
最近ちょっとオトナっぽくなってきたかなぁって思ってたけど満面の笑顔はあんまり昔と変わってない。
なんか懐かしくて、安心して、ホッとできる。
大人になるのも大切だけど、イタズラ止めるのも良い事だけど、
でも、もうちょっとだけ可愛い妹でいて。
ね、あいぼん。
66 名前:お・ま・け 投稿日:2004/10/16(土) 23:13

「あ、のの?・・・え?タンポポ飴?うん、梨華ちゃんにあげたよー。
・・・・大丈夫でしょー舐めても別に毒じゃないから。・・・あっ!そんなことよりさぁ・・・」

「ぐぇ、なっ、何コレ・・・まずっ!・・水!水!」
―――あいぼん、やっぱりもうちょっとだけ大人になってちょうだい(泣)



                                〜END〜

67 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/16(土) 23:16

ミニポポの絡みは好きなのに作品が少ないので自家発電しました、更新です。
カプといってもいいのかわからんような感じですが。

>>56さん
レスありがとうございます。
萌え要素の薄い作文ですが今後ともよろしくお付き合いください。

ではまた。
68 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/18(月) 22:27

突然ですが「なちよし」強化週間に突入です。
といってもストックが少ないのであっという間に終了する予定。

あと、なちよしラヴラヴなのではなく「よし→なちまり」みたいなカンジで

「なちよしラヴラヴなのがええのんじゃぁ!フニャァ!!」
という人にはお勧めできない。

ではさっくりとレッツ La ゴー
69 名前:残り香。 投稿日:2004/10/18(月) 22:29




            ○残り香○


70 名前:残り香。 投稿日:2004/10/18(月) 22:31

「ちょっと、よっちゃん、また勝手に髪の毛切ったっしょー」
部屋に入るなり椅子に座ってくつろいでいたあたしに素っ頓狂な声が振ってくる。
カバンも帽子もそのままにつかつかとあたしの元に歩み寄ってくる。
怒っているような半分呆れているような、子供っぽい顔。
ホントに二十年以上生きてんですか?

「やー前髪がね、ちょっと鬱陶しかったもんで・・・似合います?」
「もー、勝手に髪形変えたらダメって何度も言ったっしょやー」
おちゃらけて髪を摘むあたしに詰め寄ってぷん、とした先輩顔。

でも部屋に入って一番に気付いてくれましたよね?

そんでもってすぐさま駆けつけてくれましたよね?

それだけで髪切った事に意味ができるんですよ。


「だってしばらくテレビの仕事ないし」
「明後日のハロモニは?」
「あ・・・ま、まぁいいじゃないですか」
曖昧にごまかしてへらへら笑うと呆れたような表情が崩れて安倍さんは笑い出す。
71 名前:残り香。 投稿日:2004/10/18(月) 22:32

「もーホントよっちゃんはあれだ、マイペースだ」
ケラケラ笑ってるアナタもそぉとぉなもんだとおもいますけどね。

「で、どーですか?似合いますか?吉澤的にかなりいい感じでザックリいけたと思うんですけど」
ホラホラ、ってカンジで髪を指差すと安倍さんは身を乗り出してふーむ、って観察する。

ホント、子供の目ですよね。子供が、アリかクワガタ観察するような。
せめてハムスター見てるときみたいな顔してもらえませんか。自信なくしますよ。

「とろこどころバサバサしてる」
「あ、こっちでしょ?やっぱ目立ちます?さすがのバーバー吉澤もやりにくいんですよ、ここ」
気になっていた右側の髪に手を滑らせながら「バーバー吉澤ってなにさー」なんて笑う安倍さんを見ていた。こんな無邪気な笑顔でいつまで笑ってるつもりなんですか。
いい加減オトナになった方がいいんじゃないですか?
72 名前:残り香。 投稿日:2004/10/18(月) 22:34

「でも、あれ、結構いい感じ。ホラこことかキレーにカットされてる。さすがバーバー吉澤」
ふざけながらあたしの髪をくしゃくしゃと撫でて、しっかりとあわせた目線のまま微笑んだ。

もう、こういうこどもっぽいとこ早いとこ卒業してください。
あたしに心臓発作起こさせる気ですか。生殺しのままじゃ飽き足らず。

「やすいですよぉ、バーバー吉澤。カット一回10000円でキャンペーン中です。」
「たっか〜い!」
一人できゃっきゃっはしゃいじゃって。そんな無邪気さがどうしてあなたにだけ許されるんだろ。
その無邪気さに勘違いして苦しんでる人間がここに居るのに。

「あ〜もう、よっちゃんはおもしろいねぇ」
よしよし、なんて家来でも褒めるみたいに撫でる小さなてのひらに噛み付きたいんですけど。


「安倍さん、・・・吉澤の事好きですか?」
「ん〜?よっちゃんの事?おう、もっちろんダイスキ!愛してるよぉ!」
そんな満面笑顔で答えたって。
小さなからだ全体で思いっきり抱きしめてきたって。
結局その気持ちはあたしの気持ちのカケラほどなんて、コレって結構屈辱ですよ?

「あ〜でもやっぱタラコがいい!もうホントあれハマる。次も楽しみしてるから、ね!」
「あー、明後日は一徹なんですけど」
台本昨日貰いましたよね?
「あっ、そうだった?・・・んー、まぁいいや。一徹さんも好きだし」
からからと笑って自分の化粧台に向う背中をぼんやりと眺める。

なんだかせつなくなって大きく息を吸って吐き出した。
さっき抱きついたときに移ったのか微かにだけど安倍さんの匂いがした。


                              〜END〜
73 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/18(月) 22:39
なんかついでなのでもう一作。
夏なんてとっくに終わってるけどそんなことは気にしない。

これもよし→なちまりなんで「なちよしのラ(ry


では、更新。
74 名前:夏が来た。 投稿日:2004/10/18(月) 22:40



            * 夏が来た *



75 名前:夏が来た。 投稿日:2004/10/18(月) 22:41
夏が来た。
太陽を見る時間なんて一日のうち何時間もないけどやっぱりそこらじゅうに蔓延ってる夏のあの独特の暑さとそれを煽るようにはしゃいじゃってるような空気がやっぱ夏だ、って実感させる。
ケータリングのメニューも変っていかにも夏っす!って感じにスイカとか桃とか冷やし中華とか涼しげに彩られてる。ドリンクがつけてある氷水も頻繁に取り替えられて、もとから多いアイスの類にさらにカキ氷も加わった。

汗でベタベタ。
さっきこぼしたアイスがベタベタ。
まとわり付いてくる小さいのがベタベタ。
部屋の奥の大人チームの小さい二人もベタベタしてる。
76 名前:夏が来た。 投稿日:2004/10/18(月) 22:42

「あっついっ!も〜うやだ。離れて。あっち行って矢口」
「ひっどぉ〜い。何その言い草。ソロ活動で疲れたなっちが夏バテしないようにってさぁ、わざわざ癒してあげようとしてんのに、ねぇ梨華ちゃん、ひどくない?」
「矢口がいると余計バテるよ。あ、梨華ちゃん、そこにあるアイスとって」
「え、何味がいいですか?チョコと、バニラと・・あとカキ氷とかもありますけど」
「んー、じゃぁカキ氷。イチゴのとかある?」
「あ、ありますよ。矢口さんは?何か要りますか?」
「いや、いいよ。おいらなっちから貰うから」
「矢口はホラ、あれ食べな。エサ、食べな。梨華ちゃん、それ、そこのヤツとって」
「エサとか言うなって!梨華ちゃん、この田舎者の言うこと聞かないでいいから」
「え、あの、でも・・・」

あたふたと二人の間を行ったり来たりの梨華ちゃんにお構いなしにカキ氷のふたを開ける人と、そのカキ氷を狙ってスプーン持った手を自分の方に引き寄せる人。それを何とか阻止しようとしてんぎぎ、って粘って結局赤く冷たい塊がスプーンから転げ落ちておまけに腕が当たったのかテーブルの上に置いてあった誰かの紙コップが倒れて残ってたオレンジジュースがこぼれた。
77 名前:夏が来た。 投稿日:2004/10/18(月) 22:43

「あーほらーなっちが素直によこさないからだよー?あ、梨華ちゃんごめんティッシュとって」
「なにさ、したら、なっちが悪いのかい?矢口がムキんなって引っ張るからっしょー」
「いいじゃん一口くらい。心せまぁい。」
「そんなに欲しいんなら自分で持ってくればいいっしょ!あ、梨華ちゃん、ここベタベタするから雑巾かなんかない?」
「え、雑巾とかってどこに置いてある・・・」
「あ!そこにウエットティッシュあるよ。いや、逆!そっちのテーブルの隅」

右往左往する梨華ちゃんに指示を飛ばして小さいふたりは互いに罪を擦り付け合いながら楽しそうに笑って、顔を見合わせて笑って、テーブルの上で黄色く染まった何かのプリントを見て笑って、慌ててウエットティッシュを掴んだせいで隣に重ねてあった空の紙コップを倒した梨華ちゃんにまた笑い声が弾けた。
78 名前:夏が来た。 投稿日:2004/10/18(月) 22:43

本当に夏はベタベタする。

一昨日カバンに入れといたのど飴が溶けてベタベタ。

Tシャツのプリントが肌に張り付いてベタベタ。

こんな風景にちょっと傷ついてる自分も少女漫画なみにベタベタ。
79 名前:夏が来た。 投稿日:2004/10/18(月) 22:45
二人は笑って、梨華ちゃんにスプーンを要求する。
しょうがなく、やりどころのない寂しさを演じるためにすぐ近くにいた小さい子に抱きついた。

「いやぁ〜ん。よっすぃが変なことするぅ」
「ひーちゃん、あいぼんおそっちゃだめでしょ、めっ!」
「くぅ〜ん、わんわんっ!」
「ちょ、カオおそうのもNGだから!」

こんなくだらない小芝居にちょっとでも傷ついて欲しいと思っても
目の前の小さい二人は結局二人で一つのカキ氷を分け合って食べてた。

笑いながら、嬉しそうに食べてた。

                              〜END〜
80 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/18(月) 22:50
以上です。
ほんと「なちよしラ(ry な方の要求に応えられんですんません。

では、また。
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/19(火) 00:35
作者さんの書くなっちはすごい可愛いですね♪
なっちがほのぼのしてるのが余計によっちゃんの切なさを引き立たせている気がします。
82 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/20(水) 21:58
>>81さん
レスありがとうございます。やはりレスいただけると励みになります。
なっちさんがかなり鈍感でよっさんが気の毒な気がしますw
気の毒なよっさんですがお気に召していただければ幸いです。

てことで、引き続きなちよし強化週間です
やはりよし→なちまりなのでなちよし(ry

さくさくっと行きます。
83 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:00



          ■手にはケータイにぎりしめて■



84 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:01

楽しそうだなって思ってたんだ、最初は。
いっつも必ず近くにいて、
楽しそうに二人互いにつつきあいながら笑ってた。

日向で子犬がじゃれあうように、
森の小さな動物が冬の寒さに寄り添うように、
いつも二人で笑いあって、二人でいるのが本当に楽しそうで
見ているこっちも笑顔になった。

なんとなく見ているうちに、
お互いが相手にしか見せない表情を持ってることに気付いて、
互いに触れるときの優しそうなタッチになぜか自分が照れてしまって、
なにかいけないものを見たような気がして瞳を逸らした。

さりげなく交わす意味ありげな視線とか、
相手を呼ぶときの声の質が他の人のときと比べて甘いとか、
そんなことばかり気になって目で追ってそして堕ちた。
85 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:02

くすぐったそうに笑う笑顔に、

してやったりの得意顔に、

わずかに曇った無表情に、

些細な表情にいちいち目を奪われてることに気付いたとき

いつの間にか頭の中で立場を置き換えてる自分に気付いたとき

とっくに堕ちてることに気付いた。


――――“ああ、ウチは安倍さんのことが好きなんだ”
86 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:03

だからどうしようってワケじゃない。

入ってく隙間なんて今更ないし、釣り合うなんて思ってないし、
何より二人でいるときの安倍さんが好きだったから。

営業用とは違うあの笑顔を
こんなに間近でみれるのならそれでいいと思ってたんだ。
例え、それが自分に向けられたものでなかったとしても。

疲れる日々の中の、心のオアシスみたいな位置であなたを好きでいたかった。
硬く凝った心をほぐしてくれるお気に入りの小物みたいな気持ちで、
あなたを、好きでいたかった。

いられると思っていたのに。
このまま何も言わずに。
ただ黙って好きでいられると、そう、思っていたのに。
87 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:04

「次、安倍さんお願いしま〜す」
かけられた声に笑顔で返事を返して読みかけの雑誌を置いて立ち上がる。

あたしはソレを奥のソファにふんぞり返って横目で追ってる。

撮影を終えた順に帰ることが許されていて
年少組みのいない楽屋は静かだった。
ケータイの画面の中で『か』の文字が点滅している。

あと3歩歩いたら立ち止まるはず、
ドア近くの鏡台の前には順番を待つ矢口さんがいる。

あたしは興味を失ったフリをしてメールの続きを打つ。
『き、く、・・・け、こ、か、き、く、・・・』
なかなかたどり着けない『き』にイライラする。

そのイライラを言い訳にまたその人のほうを見る。
コワイモノ見たさに近い感覚。
なんて、自虐的なコイゴコロ。
88 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:05

案の定安倍さんは立ち止まって鏡越しに矢口さんを見る。

安倍さんより先に鏡の中の姿を目で追っていたらしい矢口さんが
鏡の中で『くっちぃ〜』の変顔をする。
吹き出して、ちょっとだけ慌てた安倍さんが矢口さんの肩を叩く。
イタズラが成功したみたいに矢口さんが得意げな顔をする。

『け・・・こ・・・か・・・き』
わざとゆっくりと、しっかり画面を見つめてボタンを押す。
MDを聞いていれば良かったと思う心と反対に
途切れ途切れに聞こえる会話を必死で拾おうとするあたしがいる。
89 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:06

「・・今日の、忘れないでねー?」
「そんな、何べんも言わなくたってわかってます」
「都合いい時間でいいから」
にひっと笑った矢口さんを安倍さんは呆れた顔で見た。

それが嬉しくてしょうがないのを隠すみたいな表情に見えたのは
あたしがこの恋に対して卑屈にひねくれてるからだろうか。

「・・ハイハイ・・んじゃね、いってきマス」
「ハイヨ、お仕事ガンバって」

軽く伸ばされた矢口さんの手が安倍さんの甲に触れて、
その手を掴んだ安倍さんが矢口さんの親指を軽く摘んだ。

頭の中でそっと矢口さんと自分を入れ換えたりしてみる。
・・・みじめだ。
90 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:07

「じゃ、やぐちもメイクがんばって!」
「いや、てゆーかもうすでに完璧だから」

軽くじゃれあう二人を見ていたのはあたしだったのに
見たくて見ていたはずなのに二人に傷つけられたような顔でケータイを睨む。
反転していた文字を漢字に変換する。
二人の笑い声を意識から締め出す。

ドアが閉まる前に完成させたメールが次の指示を待っている。
ドアが閉まる寸前安倍さんがこっちを見たような気がして少し後ろめたい。
―――奥歯を噛み締めたまま、送信ボタンを押した。
91 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:08

言わずに好きでいられると、そう思ったのはいつだろう?

二人でいるのを見ているのが「楽しい」から「苦しい」に変わったのはいつからだろう?

もっと軽く好きなんだと思っていたのに。

動物の赤ちゃんやお気に入りのブランド物みたいに好きなんだと思っていたのに。

歯止めが利かないほど好きになるなんて思いもしなかった。


ホントに・・・ホントにバカだなぁ、あたしは。

気が付いたらもう、自分の胸にしまっておけるほど、
一人で抱え込んでおけるほど小さな想いじゃなくなっていた。
もう苦しくて、限界だった。

相手を苦しめることになるかもしれなくても限界だった。
うっかり、好きになり過ぎた。
92 名前:手にはケータイにぎりしめて。 投稿日:2004/10/20(水) 22:10

この恋を、一人で殺す方法なんて世界のどこにも存在しない。

この恋が成就する可能性はむしろ、ゼロの方がいい。

こんなに好きじゃなかったら、
もう少しあたしが強かったなら心に秘めたままいられたのに。

明日のことを考えることすらできないほど好きに、なってしまっていた。



テーブルに置いてある雑誌の横でケータイが激しく震えた。
振り返った矢口さんが好奇心とわずかばかりの不安の宿った目でケータイを見つめる。

あなたがそんな顔しないで下さい。
コレはあたしの、この恋を葬るための合図の鐘みたいなモンなんです。
負けるための試合の、最初で最後のゴングなんです。


あたしは傍らにおいてあったバッグを掴むと
「お疲れさまでした」を上の空の矢口さんに投げかける。

とりあえず、一人になって泣ける場所につくまで眠っていたかった。



                              〜END〜
93 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/20(水) 22:15
以上です。

あいかわらずよっさんが切ないです。
書いててかわいそうになってきましたw
そのうちいい思いをさせてあげようと思います。
お付き合いありがとうございました。

では、また。
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/21(木) 09:02
セツネエなぁ。いい思いさせてやってください。
95 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/26(火) 22:45

前述通りちょこっと黒よっすぃ〜です。

この話を読む前に赤版倉庫にある「作者フリー短編用スレ3集目」の中の
「なちよしとか」を読んでいただけると
黒よっすぃ〜に慣れる事ができると思います。
この話のちょっと後がこの話、みたいな。

もちろん読まなくても話は独立してるので差し支えはありません。

http://mseek.xrea.jp/red/1041273312.html の349から

これもやっぱりよし→なちま(ry

黒い話が苦手な人はご注意ください。
96 名前:   跡   投稿日:2004/10/26(火) 22:47




           ● 跡 ●



97 名前:   跡   投稿日:2004/10/26(火) 22:48

楽屋の中のいつもの風景。
あたしはソファの一角に陣取ってケータイをいじくる。
部屋の中央に設けられた机の上にはジュースやらお菓子やらがふんだんに置いてあって
そこにいる二人を眺めていた。


「はい、コレなっちの分」
かいがいしく世話を焼く矢口さんにほんの少し遠慮する安倍さん。
覗き込むような矢口さんを慌てて手で押しのけて、
何気なく襟の開いた服から覗く首筋を手でなぞる。
その行動の意味をあたしだけが知っている。


首筋にはごく薄く、鎖骨の下と肩口にやや濃く、谷間とわき腹にはくっきりと刻んだ刻印。
隣ではしゃいでる恋人には決して見せられない裏切りの烙印。

歪んだあたしの精一杯の愛情表現。

矢口さんが顔を近づけるたびに体がビクついて、
無意識なのかあたしの付けた愛の印を手で隠そうとする。
その不自然さにコイビトの顔が不安に翳るのにも気付かず。
―――今はそれでいい。
98 名前:   跡   投稿日:2004/10/26(火) 22:48

負い目は不安を呼んで不安は疑惑を生んで疑惑は疑念に変わる。

白い身体に残した赤い跡は二人の恋を破滅へ導く片道切符。
醜く歪んだ独占欲の、呪いのこもった小さな花だ。

あたしのものにならないのなら誰にも渡したくない。
あの跡がある限り二人は「そういうこと」をしない。
それだけで嫉妬で荒れた心が少しだけ凪いでいくのがわかる。
99 名前:   跡   投稿日:2004/10/26(火) 22:49

矢口さんが隣の梨華ちゃんと話している間にメールを送る。

ビクッと体を強張らせてからケータイを取り出す一連の動作だけで
ゾクゾクするほどこの恋心はあたしを冒している。

さっと顔色が変わる瞬間思わず口元が歪んだ。

振り返った安倍さんが向ける恨みを込めた冷たい視線。

精一杯の虚勢を張ってにやり、と笑って唇を舐めた。
―――彼女が自分の身体の上を伝うあたしの舌の感触を思い出すように。
100 名前:   跡   投稿日:2004/10/26(火) 22:51

噛み締めた唇と少しずつ上気する頬をあたしは当然のように見つめる。

あたしは手に持ったケータイを振る。

彼女たちの全てを壊すのに労力は要らない。
親指の先で二つ三つボタンを押せばいい。
保存してある画像を添付したメールを送る。それだけでいい。

だけど同時にそんなことはしないだろうということもわかっている。
彼女を支配しているあたしを支配しているのは結局彼女への想いなのだ。


あたしの視線をぐっと受け止めて振り切るように視線を逸らす。
あたしは満足気に頷く。


むなしい恋だってコトは百も二百も承知だ。
それでも、突き上げる気持ちを抑えきれない。
101 名前:   跡   投稿日:2004/10/26(火) 22:52

再び矢口さんが安倍さんに話をふる、ぎこちない笑顔を浮かべて安倍さんは笑う。
そんな安倍さんに矢口さんは眉を顰める。あたしは口元を歪める。


『今日会いたいんですけど』

手の中のケータイが震えて、再び赤い花を散らせることを心の底から願っていた。


                              〜END〜
102 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/26(火) 22:53
金曜深夜に放送されたハロモニを録画して
土曜の午前中にのほほんと見ていたのに
その日の夕方にWと同じような体験をするとは思いませんでした、更新です。

生まれて初めて震度5を体験しました。
幸い大事に至らなかったのですが余震とかもあったので更新を休ませていただきました。

Wのおかげで冷静に対処できたような気がします。ありがとう地球戦士。
ま、なにはともあれ防災グッズは用意しておいた方がいいんだな、と。
今回被害に遭われなかった方も今後のためにぜひ。
103 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/26(火) 22:54
さて、なちよしも残るところあと一個となりました。
別に続き物でもないですが次のでストックがなくなるのでw
その後はまた適当なカプで通常営業です。
更新は多分明日。

では、また。
104 名前:名無し一作者 投稿日:2004/10/28(木) 23:40

一日遅れてしまいましたが「なちよし強化週間」ラストです。
続きものではないのであんまり関係ないですがw
105 名前:  共 犯 者。  投稿日:2004/10/28(木) 23:42



× 共 犯 者。 ×


106 名前:  共犯者。  投稿日:2004/10/28(木) 23:43
夜の闇に浮かび上がる白いあなたに胸が震えた。
「もうさ、どしたらいいか・・わかんない・・・」
そう力なく笑ってあたしの腕の中にもたれかかってきたあなたを壊してしまいたかった。
力の限り抱きしめて、あの人を好きだった心ごと全部。
「ごめん。・・・・なんか、利用して、る」
わずかに離れようとした体を抱きとめる。
「いいんです。利用でもなんでも・・・」
泣きそうなほど神聖な気持ちで自分よりかなり低いところにある肩に額を押し付けた。
神様の足元に跪くように恭しく。
「好きなんです、安倍さんが・・」
「・・・・よっ・・・」
まだ何か言おうと口を開いた彼女の唇を自分の唇を使って黙らせる。
欲しいのは、言葉じゃなかった。
107 名前:  共犯者。  投稿日:2004/10/28(木) 23:45

昇ってくる朝日があなたの茶髪をゆっくりと輝かせるのをただ黙ってぼんやりと眺めていた。

オレンジに染まっていく頬が感情を排除したような無表情で、それがとてもキレイで。
心も体も脳も覚醒しないままの瞳でただぼんやりと。
光の角度が変わって毛先が金色に近い色に輝いてそれがなぜか急に誰かを思い出させてあたしの胸をジリジリと焦がしていく。

見つめいていたことに不意に気付かれた。

「・・・なに?起きてたの?」
ふふ、と笑った顔に朝日とは別のものが影を作っていた。
「・・・すいません」
「よっすぃが謝ることじゃないべ?」
「後悔・・・してます?」
「・・・・よっすぃは?」
「ウチは、してません」
はっきりと、しっかりと、まっすぐにそう言って、
深い湖に落とした斧を探るような眼で覗き込んだ。
その淵はとても深い。

「コウカイは、してないよ」
そう言って笑って羽織ったままだったシャツのボタンを留めた。
108 名前:  共犯者。  投稿日:2004/10/28(木) 23:46
前に誰かも見たかもしれない光景を
あたしはただ嫉妬と感動が綯交ぜになったような感情で見つめる。
首筋に淡く紅い痕が残っていた。

「よっすぃの事は好きだけど、でもよっすぃが思ってる『好き』とは違うと思う」
無表情のまま神様の宣告を告げるみたいに厳かに、うつむいたままそう言った。

「絶対に、傷つけるよ。よっすぃの事」
泣きそうな顔して笑いながらそういった。

上手くはいかなかった誰かと重ね合わせているのか、
気持ちもないのに肌を許した自分を罵っているのか、
泣き出しそうなほど情けない笑顔で「ごめんね」と付け加えた。

「いいんです、ウチが望んだことですから」

曖昧なまま笑うくらいならいっそ全てを悲嘆するように泣き叫んでくれればいいのに。
そうすればその隙に乗じてあなたの心を掴むための狡賢い計算に満ちた愛で自分を割り込ませることができるかもしれないのに。
アナタの中のあの人との距離の間に。
109 名前:  共犯者。  投稿日:2004/10/28(木) 23:47

黙ったまま部屋の隅を見つめる。

そんな彼女の長いまつげと硬く引き締められた口元とシャツから覗く首筋を見つめる。

もっと、幸せな気分で迎えられると思っていた淡い期待と渾身の願いが無残に砕け散っていく。
110 名前:  共犯者。  投稿日:2004/10/28(木) 23:49

「やめちゃいなよ、こんなヤツ。」

その方がシアワセだ、なんて口に出して言われなくたって何度も考えましたよ。

何度も、何度も。
何度も
何度も
何度も。
―――でもダメでした。

「諦めたら幸せになれる」なんて
諦めなかった今を知ってたらわかったかもしれないけど
あの時は分からなかったんだからもう遅いんです。
今更一人だけ加害者のフリしないで下さい。
ウチらはもう共犯者になったんです。
一人で罪を抱え込むのはあたしの存在を無視するよりもっとずっとあたしを傷つけること、知っておいてください。

「やめませんよ。言ったじゃないスか好きだって」

こんな女のどこがいいんだ、ってそういう顔もしないで下さい。

あなたが思ってるよりもっとずっとあたしはあなたを好きだし
あなたがくれる愛があたしの望んでいるものとカタチが大分違うことも理解しての上で
それでも止められなかったくらい好きなんです。そうですよ、アタマおかしいんです。
そんなちょっと悪ぶった態度であたしの想いを避けられるなんて思わないで下さい。
あたしの愛こそあなたを傷つけるって事まだまだ秘密にしておきたいんで。
111 名前:  共犯者。  投稿日:2004/10/28(木) 23:51

「・・シャワー借りてい?」
「ああ、どうぞ。場所わかりますよね?」
頷いて立ち上がるのを、立ち上がって歩き出すのを、歩き出して立ち去るのを一コマももらさず見つめていること後頭部の辺りでカンジんでしょ、肩が緊張してますもん。

後悔したいならすればいい、だけどあたしは決して一度掴んだあなたを離さないし多分どうがんばっても離せないしあなたも自分からは離せないでしょう。

縋ったのはあなた。

そうさせたのはあたし。

ホラ、二人はこんなに繋がっている。

今更一人だけ逃げ出すような狡さをあなたが持っていたらあたしもこんなにあなたを好きにならずに済んで、
二人で笑いながら朝を迎えられたかもしれないのに。

さっきまで座っていた場所に朝日が強く差し込んで
あたしの網膜に残った残像を白く焼き消す。
こんなにも禍々しい幸福な不幸せをくれた誰かに呪いを込めて感謝した。



                             〜END〜
112 名前:名無し一作者  投稿日:2004/10/28(木) 23:54
以上でなちよし強化週間終了です。
どこがなちよしなのかと言われると答えに窮しますがw

次からはまた雑食カプに戻ります。(たぶん6期かな?)
よろしければお付き合いください。

では、また。
113 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/29(金) 01:16
黒なっちだ…よっちゃんかわいそう
痛いというか切ないというか
情景描写がきれいで画が浮かぶようでした
よかったです
114 名前:メカ沢β 投稿日:2004/11/01(月) 17:47
文章が巧みだなぁ、と感嘆の声を上げながら読ませていただきました。
次回も楽しみにしています。
115 名前:名無し一作者  投稿日:2004/11/01(月) 23:32
>>94さん
レスありがとうございます。すいませんレス返すの忘れてました。
セツネェ よっさんいかがでしょうか。
いい思いさせてあげたいとは思っているのですがどーなることやら。

>>113さん
レスありがとうございます。
なっち・・・黒いですか?(w 
こんなカンジのアダルティーななっちは珍しいかもしれません(何気に訛ってるけど)
そのうち可愛い安倍さんも(書ければ)書こうと思います。

>>114さん
レスありがとうございます。
つたない作文ですがお気に召していただければ幸いです。
よろしければ今後もお付き合いください。

さて、なちよし強化週間も終了したので通常営業雑食カプスレに戻ります。
とりあえず「田亀」からいきます。
116 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:33



         □ ご機嫌ナナメのそのワケは □


117 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:34

なんか怒ってるなぁ、って事はわかるんだけど・・・。
その理由に心当たりがまったくない。

「れーな、どうしたの?」
さっきっからむっつり黙り込んだままのれいなはちら、
と私に視線を走らせる。

だけどすぐにふん、ってカンジで雑誌に視線を戻す。

なんか、ご機嫌ナナメだなぁ。

そう思っても、コレといって思い当たることもないし。
喧嘩したわけでもないし。

さっきまで仕事でスタジオにいたけどそのときは普通だったし。
タクシーに乗ったときはどうだったっけ?
考えてみたけどれいなの家に来るまでうとうとしてたから思い出せない。

「ねぇ、何怒ってるの?」
「べーつにー?れな全っ然怒ってないから」
「・・・やっぱり、怒ってる」

だってさっきから私が話てるのに「うん」とか「そう」とかそっけない返事ばかり。
急にれいなの家に行きたいなんて言って迷惑だったのかな。
118 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:34

「・・・絵里、帰ったほうがいい?」
「はぁ?なんで?」
「だって、なんかイライラしてるみたいだから」
一人になって休みたいかな、って。

「別にイライラなんか・・・」
「してるもん」

グッと言葉に詰まったれいなはふー、と息をつくと
膝の上に乗せた雑誌を閉じた。
119 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:35

「絵里さ、今日の帰り吉澤さんと何話してた?」
「何って・・・」

なんだったっけな、なんか別にたいした話でもないんだけど吉澤さんが冗談を言って、
私は笑ってただけでコレといった会話なんて。

「いや、別に興味があるわけじゃないけどぉ、
二人だけで楽しそうに何話してたのかなぁって・・・」
雑誌の表紙に視線を向けたままれいなが呟いた。

ああ、もしかしてれいなも仲間に入れて欲しかったのかな。
だけど二人だけで盛り上がってたからスネてるんだ。
120 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:36

「あ、でもれいなには関係ない話しかしてないよ?」

失敗失敗今度からはれいなも仲間に入れてあげるからね。

「・・・楽しかった?」
「うん、吉澤さんすごいおもしろいの」
吉澤さんが話してた話をれいなにもしてあげた。

せっかく喜ぶと思ったのにれいなの眉間はどんどんと険しくなる。
「あっそ」とか「ふ〜ん」とか明らかに乗り気じゃない感じ。
なんなの?
なんでそんなに怒ってるの?

「仲良いんだ、吉澤さんと」
「ん〜、さくら組みで一緒だし結構可愛がってもらってる、かな?」
「へー」
自分から聞いておいて全然興味なさそう。

何よ、ちゃんと答えてるんだから会話しようよ。
ちょっとムッとした私はそれっきり黙った。
れいなも黙ったまま再び雑誌を広げた。
121 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:37

私もれいなも黙ったまま。
れいなは私の存在なんてまるで気にしないかのように雑誌を見ている。

なんだろう、私何か気に障ることしたのかな?
嫌われちゃったのかな?
―――別れようとかいわれちゃうのかな?

内心びくびくしながられいなを見つめる。
しばらくじっと見てたられいながこちらに眼を向けた。

「・・・絵里って吉澤さんの事好き?」
「え?・・・うん、好きだけど?」
おもしろいし、優しいし、おおらかっていうか何でも来い!みたいな所とか安心するし。

そう言ったられいなは「ふ〜ん」なんて言ってまた黙ってしまった。

あ、もしかしてれいなは吉澤さん苦手なのかな。
だから私が吉澤さんと仲良くするのがいやなのかな?

でもそんなこと言われても困る。
お仕事一緒にしなきゃいけないし。

頭の中であれこれと考えていたら急に音を立てて雑誌を置いたれいなが私を睨んだ。

結構怒ってるみたいなしかめっ面。

私、何言われちゃうんだろう?
122 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:38

「絵里ってさ、れなと吉澤さんどっちが・・・」

せっかく口を開いたれいなは途中で口をつぐんでしまった。

「どっちが・・・何?」
「やっぱなんでもない」
手を振って打ち消すと再び雑誌に視線を落とした。

「何?言ってよ、気になる」
「なんでもないっちゃ」
「やだ、中途半端で気持ち悪い。れいなと吉澤さんがなんなの?」

さっきまで勝手にむくれていたと思ったらわけのわからない質問しだして、
せっかく答えても素っ気無い反応しか返さないし、
挙句に途中で勝手に話止めるし。

もう、なんなんの?
123 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:39

しつこく何度も理由を尋ねるとれいなは呆れきったようなため息をついた。

「・・・絵里って鈍感?」
「は?」
「だぁかぁらー、ふつーコイビトの前で他の人のこと好きとか言わなくない?」
「あ・・・」
「おまけに目の前でイチャイチャしてるし、その人の話嬉しそうにするし・・・」

れいなに言われて初めて気がついた。
そうか、だかられいな機嫌悪かったんだ。

れいなはまだむっとしたまま決まり悪そうにそっぽを向いて黙り込んでる。
―――もしかしてコレってヤキモチ、ってヤツ?
124 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:39

「べ、別に絵里が誰と喋っててもいいけどさぁ、どーせれなにはカンケーないし?」
「カンケーないんだ・・・」

さっきまでの八つ当たりの仕返しにちょっとだけイジワル。

「じゃぁ明日も吉澤さんと喋ろーっと」
「だめっ!」
ガシッと私の手を掴んだれいながちょっと必死で
可愛くておもしろくて思わず頬が緩んでしまう。

「だって絵里が誰と話してもカンケーないんでしょ?」
久しぶりに優位な立場に立ったから調子に乗って突付いてみた。

「やっ、あるから。めちゃくちゃカンケーあるから」
れいなって結構打たれ弱い。
それにクールに見えるけど心はアツイっていうか。

もしかしたら自分で思ってる以上にれいなに想われてるんじゃないかって、
最近ソレがわかってきてすごくうれしい。
125 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:40

「あのね、絵里が好きなのはれいなだからね?」
そう言って頭を撫でたら珍しく振り払われなかった。

「さっき吉澤さんの事好きっていったくせに」
「でもそういう好きじゃないもん」
そういったられいなはちょっとだけほっとしたように笑って、
その顔が可愛くってぎゅーって抱きついた。

「ちょっ、絵里っ!?」
「安心した?」
「はぁ?」
「ヤキモチ焼いてたでしょ?」
首に巻きついたまま顔を覗き込んだら真っ赤な顔してふん、って目を逸らした。

もう、素直じゃないんだから。
そう思っていたら背中に手が回ってきた。
126 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:41

「・・・絵里、可愛いから心配」
耳元で囁かれて強く抱きしめられて心臓が飛び跳ねる。
胸の中心がきゅぅっとなる感じ。

「じゃ、じゃぁれいながちゃんと捕まえてて・・・」
ちょっとだけ大人ぶったそんなセリフにれいなはこくん、と頷いた。

――― 今の私、きっと耳まで真っ赤だ。
127 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:41

ようやくれいなの機嫌が治って二人でお茶することにした。
二人の気持ちも確かめ合えたし、これで楽しい時間が過ごせる。
―――と、思ったのに・・・。
128 名前:ご機嫌ナナメのそのワケは 投稿日:2004/11/01(月) 23:43

「どーしたの、それ?」
カバンから取り出した大量のお菓子にれいながたずねる。
「ああコレ?加護さんと紺野さんと新垣さんから貰った」

「あれ、ストラップ変えた?」
「うん。安倍さんがくれたの」

「・・・このポーチなんか見覚えある」
「それ?可愛い、って言ったら矢口さんがじゃぁあげるよって」

「・・・・・・この鏡は?なんかゴージャス」
「それはさゆが誕生日に・・・」

「・・・・・・・・・何?『愛の歌詰め合わせ』って」
「高橋さんが「聞いて」って。自前のMDみたい。ね、れいな紅茶でいい?」

「これなんねっ!」
振り返ると藤本さんとのツーショットのポラを握ったれいながプルプルと肩を震わせていた。
「それは休憩中に辻さんがカメラ持ってきて・・・あ、これ食べていいよ」
貰ったクッキーを開けてれいなに差し出す。

「絵里の・・・」
「ん?」
「絵里のアホーッ!!」
「えっ、れいなっ!?」
なんだか私、またれいなの逆鱗に触れたみたい。

〜END〜
129 名前:名無し一作者 投稿日:2004/11/01(月) 23:44

以上モテ亀・・・もとい「田亀」でした。
辻加護登場してますが
書いた時期がアレなので辻加護ありということで脳内でケリをつけてください。

では、また。
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 21:52
亀井の鈍さが可愛い
高橋のプレゼントがあまりにもらしくて最高ですた
131 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 22:55



         ♀乙女組さんちの田中さんの事情♀



132 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 22:56


「絵里、絶っ対そこにおってね。れながあがるまで。」
「んー、わかったー」

眠たそうな彼女にもう一度釘をさすとホテルの狭いバスルームに入る。

「えりぃ、ちゃんとそこにおるー?」
「いるよぉ」

もう一度確認してから服を脱ぎ始めた。
133 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 22:57

地方のライブでホテルに泊まるのはもうかなりの回数だけど
やっぱり部屋で一人きりになるのはコワイ。

一人でいるとオバケが出そうだし寂しいし
つまんないからいつも誰かにいてもらう。

同期の二人は「れいなの怖がりー」なんてからかってくるけど
背に腹は変えられない。
第一さゆと絵里は一緒に入ってるから人のこと言えないし。

いつもはさゆを呼び出すんだけど(そうすると絵里もおまけでついてくる)
今日はちょっと具合が悪いらしいので部屋で休んでる。

だから早くも寝ようとしていた絵里を呼び出して部屋に来てもらった。
134 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 22:58

大急ぎでシャワーを浴びて髪と体をあらってライブの汗を流す。
ホントは湯船につかりたいけど時間もないしめんどくさいからガマン。
シャワーを止めると急に静かになってそれが怖くて嫌いだ。


「えりぃ、いるー?」

湯気が立ち込めるバスルームからドアの前にいる(ハズ)の絵里に声をかける。

「えりー?」
耳を澄ましても帰ってくる返事がない。

「おーいえりー、いないのー?」
途端に不安になってさらに大きな声で呼びかける。返事なし。

何?あたし置いてでてっちゃったの?

それとも変な人が入ってきて口でも塞がれてるんじゃ・・・

それともオバケに連れて行かれたとか・・・

うわっ、ヤダ!怖い怖い!!怖すぎるってマジで!!
135 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 22:59

自分でどんどん恐怖を煽るようなことばっかり考えてどんどんどんどん怖くなる。

何もないバスルームに一人でいるのが怖くて怖くて急いでタオルを体に巻きつける。

髪の毛も乱暴に拭いて水分を軽く飛ばす。

目の前の鏡なんて見れない(変なのが写ったらヤだから)。

急いでる自分がさらに恐怖を助長させて
焦ってる自分にさらに焦って転がり出るようにしてバスルームのドアを開けた。


「えり!いたら返事せんねっ!」


結構必死な形相で叫びながら部屋の中を見回すと・・・いた。
人のベッドに寝っ転がっている。
136 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:01

「えりっ!・・・・ん?」
テレビがついてるからてっきり起きてるんだと思って覗き込むと
絵里は小さな寝息を立てて眠っている。

ホッとすると同時にちょっとムカついた。

「なんで寝とぉとや〜?」
人がコワがってるのにぐーぐー寝やがって。

勝手な言い分だけどそれだけコワかったって事。

「んんっ・・・」
軽く頬をつねったら絵里が呻いた。起きろ。起きやがれコノヤロー。

「れな・・・?」
眠そうな目を無理やりこじ開けてしかめっ面してあたしを見上げる。
「ちゃんと起きて待っとってよ」
そんなに長時間入ってるわけじゃないんだから。
いると思ってる人から返事がなかったら逆に怖くなるじゃんか。

まだ半分寝ぼけてるみたいな絵里を揺らして無理やり起こす。
一人で寝るなんてズルイ。
137 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:02

「・・・・れな、なんでハダカなの?」
やっと覚醒したらしい絵里は部屋の眩しさにか目を瞬かせて、不思議そうに聞いてきた。

「へ?」
絵里の視線を追って自分の体を見ると
さっきまで体に巻きつけていたタオルが下に落ちている。
ってことはつまり・・・タオルの下は何も身につけてなかったわけで・・・。

「みっ、見るな!バカ!」
「ぶっ!」

慌てて絵里の顔に枕に押し付けると急いでタオルを拾う。
顔が一気に熱くなったのはお風呂上りのせいだけじゃない。
と、とにかくなんか着ないと・・・。

ベッドの向こうにおいてあるカバンに絵里の体越に手を伸ばす。
枕を押し付けられた絵里が苦しそうに手足をばたばたさせた。

「んー、ん〜」
「わっ、ちょ、ヘンなトコ触るなって!服取ったら放すけんちょっと大人しく・・・」
伸ばした手でカバンを引き寄せた瞬間。

ガチャ・・・

「田中ー、おとめ組だけで打ち合わせするから飯田さん・・・・」

138 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:03

ドアを開けて入ってきたのは藤本さん。
絵里を押さえつけたままのあたしと目が合って固まる。

「・・・トコに集合・・・・って、・・・取り込み中?」
びっくり、って言う顔から物珍しそうな表情に変化した藤本さん。
さすが、肝の据わり方が違う。・・・ってそうじゃなくて。

「あの・・・」
この状況。ヤバイ。ものっそいヤバイ。

ホテルの部屋という密室で、

ベッドの上で二人っきりで、

その上あたしはハダカで、

さらに仰向けの絵里に覆いかぶさるようにして押さえつけてる。

枕の下でむーむー呻いてる絵里の声だけがしん、と静まり返った部屋の中に響いた。

139 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:05

「ふぅ〜ん・・・」
藤本さんの笑顔が邪悪だ。物凄く邪悪だ。

「ちっ、ちがうんですよ!コレには事情があって・・・」
「大丈夫!美貴絶っ対誰にもいわないから♪」
いや、その顔は言う気満々って顔ですよ!
「違うんですっ!ほん、ホントに・・・!」
ああもう泣きそう。よりにもよって藤本さんに・・・。

「ふ〜ん、田中っちがえりえりをねぇ〜」
なんだか一人納得してる藤本さん。

「じゃ、ちょっくら飯田さんに『田中は遅れる』って言ってきてあげるから♪ごゆっくり〜」
これ以上楽しい事はないって顔で手を振る藤本さんが部屋を出て行く。
・・・あたしのモー娘。人生終わったかも。


呆然と見送るあたしの手が置かれた枕の下で絵里の抵抗が次第に弱くなっていった。
140 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:06

「だからね、カオリは愛に形はないって思うのね。
でもいくら好きでもムリヤリは良くないと思うんだ。
田中の情熱はいいと思うよ?でもそういうことは力づくじゃなくて、二人の気持ちが・・・・」

さっきから無限ループに陥った説教を聴きながら足の痺れを堪える。

「いやぁ、田中っちはやる子だと思ってたけどあそこまでとは。美貴も驚きましたよ」
飄々と言ってのける藤本さんをキッと睨みつける。だけど藤本さんは涼しい顔。

「ねぇ田中。そんなに亀井ちゃんのこと好きならあたしに相談してくれれば良かったのに。
恋の相談ならこの石川梨華にまかせなさいっ!」
「石川さん、田中ちゃんどうしたんですか?」
隣からしゃしゃり出てきた石川さんに何事が起きたのか尋ねる小川さん。

「マコっちゃんにはまだ早い話。ねーのの」
「そーそー、マコっちゃんには早すぎるよねぇ」
アイスかと思ったらどうやら豆腐らしいものを頬張りながら頷く辻さん。
なんでそんな自信満々なんですか?

「なぁ〜んでですかぁ?」
二人にお子ちゃま扱いされた小川さんはぷくーっと膨れてふてくされてる。
141 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:07

「ねぇ、聞いてる?田中。物事にはね、順番ってゆーものがあって、
カオリそーゆーのは守ったほうがいいと思うんだ。田中も女の子だからわかるよね?
いきなりそーゆーことされたら田中だって嫌でしょう?
だから亀井にはカオリからちゃんと説明してあげるからそんな泣きそうな顔しないの」
「だからぁ、違うんですってば・・・」
泣きそうなのはみんなの勘違いのせいです。

「照れないでいいよ。あたし達そーゆーの気持ちワルイなんて思ってないから!
おとめのみんなで応援しちゃうゾ!」
「そーそー応援しちゃうのダ!」
藤本さん、キャラ違ってますよ。
142 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:08

「あー言いてぇ、あいぼんに教えたいよぉ」
お願いですからさくら組にまで飛び火させるのは止めてください辻さん。

「駄目だよのの、いくら仲いいっていってもあいぼんさくら組でしょ?
これはおとめ組の問題なの」
勝手にみんなの問題にしないで下さい石川さん。
なんでそんな対抗意識燃やしてんですか。

「ねぇねぇ、どーして田中ちゃんが正座させられてるんですかぁ?
教えてくださいよぉ石川さぁん」
「いやぁ、麻琴、キモぉい」
「キモくないですってば!」

一人正座させられてるあたしの横で
さゆを除いた乙女組の面々は自分勝手好き勝手にぎゃぁぎゃぁと騒いでいた。

「・・・・もぉヤダ」
そんなあたしの呟きなんて誰の耳にも届きやしなかった。



                         〜END〜

143 名前:乙女組さんちの田中さんの事情 投稿日:2004/11/09(火) 23:09
ちょっと更新の間が空いてしまいましたが
とりあえずドタバタコメディー調の田亀(?)でした。
なんか田中さんはこわがり(幽霊・おばけなどに対して)のイメージが強いです。
一体何でそんなイメージを刷り込まれたんだか・・・
あと振り回される田中さんが自分的にツボだな、と改めて認識しましたw

>>130さん
レスありがとうございます。
高橋さんのプレゼントが「(高橋)愛の歌」の詰め合わせなのか
愛さん選曲のラブソング(主に宝塚)集なのか
はたまた亀井さんへの愛を綴った詩集を音読したものの録音なのか作者にも分かりません。
鈍感亀ちゃん気に入ってもらえれば幸いです。

では、また。
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 12:43
全員のキャラがものすごくはまってて好き。
邪悪な藤本とか。寝てる亀井とか。
けどやっぱなんつっても強がってるのに恐がりの田中が「これだよこれ」というか。
道重除いた全員というのが説得力あってよいと思った。
145 名前:名無し一作者 投稿日:2004/11/21(日) 20:47
>>144さん
レスありがとうございます。邪悪ふじもん気に入ってもらえてうれしいです。
強がりつつ怖がりな田中さんが愛しくてなりません。


ちょっとPCからありえない匂いがしたとおもったらAC電源のケーブルがPCの
根元で焼けてました。昨日新しいの買ったばかりなのにまた焼けました(泣
今度は本体ごと修理に出すつもりなので少し更新が滞ると思います。
申し訳ありません。
思い出した頃に時たま覗いてみてください。すみません。
146 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/04(土) 21:59

えー、大分間が空いてしまいましたが本日めでたくPCが戻ってまいりましたので更新を。
待っていてくださった方には謝意を込めて、
たまたま覗いてしまった方にはサービス精神で3作ほど一気に更新です。
順番は なちまり、さゆえり、あやみき、です。
147 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:01


     好きな人に寄り添って眠りたい、なんて乙女心丸出しの欲望を
     アナタに対して抱いている事にまだ少し戸惑っていた頃の話し。


148 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:02



        ◎ 夢色片想い ◎


149 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:03

番組のロケはかなり順調に進んでくれて予定の時間より少し早い時間に開放された。
だけど中途半端に田舎のロケ地じゃ
現地解散なんてわけにはいかなくてバスに乗って都心まで。

せっかく「早く帰れるねー」なんて気分良くバスに乗り込んで喋っていたのに
ロケバスは都合悪く渋滞にハマってくれたりなんかする。

まぁいいけどね。
どうせ撮影が長引いたらこのくらいの時間にはまだ
バスにすら乗れなかったかもしれないんだし。

時間が思い通りに行かない事くらいイヤというほど経験で学んだし。

―――それにホラ隣には君がいるもんね。

150 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:04

「なかなか進まないねー」
「ねー。これでまた帰るの遅くなっちゃうねー」
「あとどれくらいだー?」
「一時間とかかかるんじゃない?」
「げー!せっかく早く終わったのになぁ・・・」
「だねー。・・・あ、圭ちゃん寝てる」
「んー?カオリも寝ちゃってるよ」

さっきまでぼそぼそ話してた後ろの席の二人はいつの間にか夢の国へ旅立っていた。
今日は珍しく人数多くもないのに二台に分乗してて、
こっちの車は圭ちゃんとカオリとウチらだけ。
いつもの行楽気分の移動に比べてちょっと静かなオトナの空間。
151 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:05

「なっち、お菓子残ってるけど食べる?」
「んーいらないや。もうお腹いっぱい」
「もうコレも飽きたよねー」
「矢口そればっか食べてたもんね。飽きるよそりゃ」
「あー、でも最初なっちの方がハマってたじゃん」
「そうかい?」
「そうだよ!なっちがあんまりおいしいおいしい言ってるから
 買ってみたんじゃん、しかも3っつ!全種類!」
「あははは、矢口買いすぎ!」
「なっちが欲しいのにケチって買い渋ってるから代わりに矢口が買ってあげたんですぅ」
「あ〜それはワザワザどーも!やぐちさんはやさしいですねぇ〜」
「うわっ!すげームカつくその言い方!」
「あははは」

後ろの二人を気にして少しボリューム抑え気味の声がなんかセクシーで、
普段会話するよりはるかに顔の距離が近くなってて意識してドキドキして自己嫌悪。

ひとしきり笑いあってわずかに黙る。
車の中は静かでエンジンの音とホンの少しだけ窓の外の喧騒。

あとは積み込まれた荷物がかすかにぶつかる音だけ。
なんとなくあくびをしたら伝染したように隣のなっちも大あくび
152 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:06

「ちょっと寝る?まだ結構時間かかりそう」
「うーん、そだね。このまま矢口と話ててもしょうがないし」
「なんだとー」
「だってもうほっぺた疲れて痛いし」
「てかなっち笑いすぎ!」
「矢口がおかしいからっしょ?」
「それはおもしろいってことだよね?」
「んーどっちかっていうと、ヘン?」
「なにおー」
「あ、ホラ、大声ださない」
急にオトナっぽく(しかも得意気に)いうなっちが可愛くて愛しくて頭突き。

「いたー。もーバカ矢口!」
頭を摩りながら上目遣いで笑ってるなっちにドキリとして
それでもなんとか笑い返して。それから強引に話題転換。
153 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:08

「さって寝るかっ!いつまでもこーしててもしょうがないしっ」
そう言いながら少しカラダをずらして隣のなっちに寄り添ってさらに頭を肩に乗せる。
なのに・・・

「なんでわざわざ寄りかかってくんのさー」
頭を乗せた肩を上下に揺らす嫌がらせ。

いいじゃんよ、それくらいの夢見させてよ。
行き場のないこの恋心がにじみ出る隙間くらい作らせて。
そうじゃないとなんか結晶みたいに固まって二度と融けそうにないから。
鋭く尖った結晶が心ん中で転がって痛いから。

「なんだよケチぃ・・・ふんっ!・・なっちなんか嫌いだぁ」

肩から頭をはずして反対側にカラダを傾けたのは、
わざと怒ったような拗ねたような口調でいったのは、
そうするとアナタが優しくしてくれるのを知っているからで。

そんなこずるい駆け引きで叶えたいこの小さな乙女心に我ながら呆れる。

「も〜ほら、こっちおいで。肩かしてあげるから〜」
「しょうがないな〜」なんてコドモに向けるみたいな表情で笑って体を小さく傾けた。

ほらやっぱりって思う自分がどこかで笑ってて、
だから勘違いしそうになるんだよって思う自分が困ってて、
けど好きなんだって思ってる自分が喜んでた。
154 名前:夢色片想い 投稿日:2004/12/04(土) 22:10

「よだれたらすなよ〜」
「ん〜、たらすかも」
「んじゃ、やっぱやめ」
「うそ。たらしません。気をつけます」
「はい。そうしてください」

再び頭を乗せた肩はさっきよりずいぶん寄りかかりやすく傾けられていて
ちらりと上目遣いで見上げたら「ん?」ってカンジで覗き込まれた。

「なっちは?寝ないの?」
「ううん。もう寝るよ」
もう一度身じろぎして体勢を整えて
なんとなく深呼吸したら甘い香水に混じるなっちの匂い。
眠気が急に押し寄せてきた。

「んじゃ、おやすみ」
「うん、おやすみ」
目を閉じて感じる体温が優しくて嬉しくてセツナイ。

―――少し甘酸っぱい夢を見た。


                   〜END〜
155 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/04(土) 22:11
 
156 名前: 雨音  投稿日:2004/12/04(土) 22:12



         |||||| 雨音 ||||||



157 名前: 雨音  投稿日:2004/12/04(土) 22:13

「絵里眠いの?」
「ん・・・」
子供がするみたいに軽く目を擦って絵里が頷いた。

「昨日遅くまでビデオ見てて・・・」
オフの前の日ってなんか寝ちゃうのもったいなくない?
それわかる。学校もない日なら特にね。

「寝る?」
「いいの?」
せっかく遊びに来たのに。
「いいよ、起きたら遊ぼ?」
どうせ雨のせいで外に出る気もなくなったし。

「でも、起きないかも知れないよ?」
それは困る。

だけど目の前の絵里は本当に眠そうで、
さっきから返事する声もふにゃふにゃと頼りない。
小さなあくびを一つした。
158 名前: 雨音  投稿日:2004/12/04(土) 22:14

最初は遠慮していたみたいだけど結局睡魔には勝てなかったのか
座っていたカーペットの上に崩れ落ちた。

「ベッド空いてるよ?」
「ん〜・・・いい」
もう一歩も動けません、って感じ。

「さゆ・・・」
のそ、と起き上がるとごそごそと動いてあたしの隣に寄ってくる。

「膝枕?」
「うん」
猫みたいに擦り寄ってくる絵里に足を伸ばして腿を叩く。

「どうぞ」
「ありがと」
ぽふ、と頭を乗せるとすぐに満足そうに目を閉じる。

「あったかいね」
「絵里もあったかい」

あたしの体温と、絵里の体温が少しずつ近づいて混じって同じ温度になる。

先輩達の前でこんなことすると結構驚かれるけど
あたしと絵里にとっては当たり前のこと。
変かな?女の子同士で膝枕するのって。

目をつぶってる絵里の頭をそっと撫でた。
159 名前: 雨音  投稿日:2004/12/04(土) 22:17

「眠れそう?」
「ん・・・なんか音してるね?」
「雨が降ってるから」
遠くのベランダに打ち付ける雨の音がかすかに聞こえる。
決して激しくはなくて優しい子守唄のよう。

腿の上で絵里がかすかに身じろぎする。
スカートから出ている素肌の部分に絵里の髪が当たってくすぐったかった。

「おやすみ、さゆ」
「うん、おやすみ絵里」
すぐに寝息を立てはじめた絵里の髪を優しく撫でる。

安心しきった寝顔。幼くて、無防備で、年上なのに守ってあげたくなるカンジ。
ずっとこうしていたくて、小さな音を立てるベランダから雨で霞んだ外を見ていた。

穏やかな温もりに包まれて満足しきる。
そんな雨の日の休日の午後。

なんか、幸せ。


               〜END〜
160 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/04(土) 22:18





161 名前:君の為に 投稿日:2004/12/04(土) 22:19


君の為に、ただ走るよ――――。


162 名前:君の為に 投稿日:2004/12/04(土) 22:19


    三三 君の為に 三三


163 名前:君の為に 投稿日:2004/12/04(土) 22:20

『カゼ、ひいたかも・・・』
頼りない鼻声は強がりな彼女のSOS。
飛び出した街は深夜まであと一時間を切っていた。

『あっ、でもね?じっとしてれば治るから・・・』
あたしの声そんなに心配そうだった?
それともめんどくさそうだったかな?

『だから、うん。心配しないで・・・』
笑った後にセキするくらいだったらそんなに心配しないけど。
すん、って鼻が鳴った後の沈黙があたしにバッグを掴ませた。
164 名前:君の為に 投稿日:2004/12/04(土) 22:21

交差点を渡って、歩道を爆走。
大通りに出て流れてくるタクシーを捕まえる。
ああ、髪の毛ボッサボサ。
道理で走りにくいと思ったら両足違う種類のスニーカー。
心配丸出しルックじゃん。
呆れた笑顔は自分に向けて、心は遠く彼女の元へ。


ちょっと手前のコンビの前で降りてそのまま中へ入る。
帽子もメガネも未装着。
バレたって構わない。
スポーツドリンクと冷えピタと桃缶を手にレジに向って、
「あ」って顔した店員は無視。
早いトコレジ打ってよ。

『じゃぁ、あたしもう寝るね。・・・おやすみ』
期待してくれてるかもしれないんだから。

―――待ってて、くれてるかもしれないんだから。
165 名前:君の為に 投稿日:2004/12/04(土) 22:22

コンビニを出たら後はもうラストスパート。
人もまばらな道を駆け抜けて、手にしたビニール袋がガシャガシャ音を立てる。
君の為に、ただ走るよ。ひたすらに。
166 名前:君の為に 投稿日:2004/12/04(土) 22:22

『・・・はい?』
「・・あや、ちゃん?・・・ちょ・・・開けて、くれる?」
『えっ、みきたん!?』
ねぇ、ホントはわかってたんでしょ。
あたしがこーすること。
ホントは部屋で暖まりながら待ってたんでしょ、あたしが来るの。
遅いなーくらい思ってたんでしょ?

「おく、れて・・・ごめん」
「みきたん!来てくれたの?」
だからほら、そんな笑顔でお出迎え。
でも、その顔が見たくて走ってきたんだ。ホントだよ?
「ハイ、これ」
167 名前:君の為に 投稿日:2004/12/04(土) 22:23

だけどコンビニ袋はあたしの手にぶら下がったまま。
あたしの首に亜弥ちゃんがぶら下がってきた。
少し熱いその体を抱きしめる。
これも、君の為にできる沢山の事の一つ。


                   〜END〜
168 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/04(土) 22:24
以上です。
今後はまた不定期ながら小まめに更新できたらいいな、と。

では、また。
169 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/06(月) 13:21
更新お疲れ様です。

かわいらしい話、というかほのぼのした話、というか
つい微笑んでしまう話、とでもいいましょうか……。
非常に好きです。頑張ってください。
170 名前:群青色の憂鬱 投稿日:2004/12/07(火) 21:42



         ■ 群青色の憂鬱 ■



171 名前:群青色の憂鬱 投稿日:2004/12/07(火) 21:44

真夏の太陽の原色より、彼女には秋の日差しに映える色が似合うと思う。


薄い青の闇があたりを包んでいた。
寝返りを打ったはずみで覚醒しないまま目を開けた。

「・・・たん?」

いつもなら軽く触れ合うはずの温もりがなくて違和感が脳を起動させる。
上半身だけを軽く捻ってむき出しの肩を毛布で覆った。

「みきたん・・・?」

部屋の中は厚でのカーテンをまだ突き破れないでいる太陽のせいで
筆を洗った後のような群青色をしていた。

群青色の中に彼女の姿は無い。
完全に起こした上半身の素肌を撫でて毛布が落下していく。

人一人には十分な隣のスペースに腕を潜らせる。冷たい。
沈殿した群青色は夜の間にこもった熱を感情も無くひんやりと冷ましていく。

ベッドの下に落ちている部屋着を拾って上だけ身につける。ゆっくりと。
そぉっと寝室のドアを開けたのは落胆しないようにするための、
本能がとった一つの防衛手段だった。

期待して開けたわけじゃない。これは日常の、いつもの生活の一部と、
そう思わないと黙っていなくなった彼女を恨んでしまいそうで。
―――泣いてしまいそうで。

『明日、入り早いんだよねぇ』
昨夜の会話が蘇る。
忙しいのは、すれ違うのは、この感情とは無関係だ。
172 名前:群青色の憂鬱 投稿日:2004/12/07(火) 21:45

扉の向こうのリビングは昇ってきた日が差し込んで
水色を薄くしたような色で空間を満たしていた。

群青色から開放された視線が何かを捕らえ、安堵の息をつかせる。

お気に入りの可愛いソファに半分足をはみ出させるようにして寝転んでいる。
硬く閉じられた瞳で彼女が熟睡しているわけではないことがわかってしまうのは
何度も一緒に夜を過ごしてきたから。

まどろんでいるのかただ目をつぶっているだけなのか、
頭を肘掛にもたせかけたまま両腕を組んで、動かない。
差し込んでくるまだか弱い光が薄く褪せた青で彼女を包み込む。

ドアノブを握ったまま、彼女には少し褪せた色が似合う、とせつなく心が感じていた。

原色の明るさや華やかさもあることはあるけれど、
そんなところが自分と似ていて好きだけれど。

だけど自分は多分、秋の日差しに透けるようなこの人が好きなのだと、
時々物憂く遠くを眺めるような眼差しを向ける彼女にどうしようもなく惹かれているのだと、
薄い水色にくるまれて横たわる無表情な彼女の青白く整った顔を見ながら思う。

無性に愛しさがこみ上げて気がついたら手で触れていた。
173 名前:群青色の憂鬱 投稿日:2004/12/07(火) 21:47

「・・っと、ヤバい。寝そうだった」
パチリ、と目を開けて覗き込む自分を見上げて彼女はだるそうな声で呟いて笑った。
カラダを起こし、隠すことなく大あくびをする。

「・・・もう、いっちゃたのかと思った」
その傍らに膝をついた。
フローリングがむき出しの膝に冷たかった。

「や、時間まだだし。なんか自然に目ぇ覚めてさ、
あんまり眠くなかったからこのまま起きてたほうがいいかなぁと・・」
思ったんだけどねぇ、と言葉が終わらないうちにもう一度あくび。

「起きたらいないんだもん」
「うん?」
首に腕を回した自分を不思議そうに彼女は見てる。

「ばか」
「なにが」
「出かけるとき起こしてって言ったじゃん」
顎と鎖骨の間に自分の頭を滑り込ませて責めるようにして甘えた。
喉の奥で少し笑う声が薄い皮膚と筋肉を通して耳に伝わる。

「かわいいねぇ、亜弥ちゃんは」
子供を抱っこするように脇から手を入れて抱きしめられる。
薄青色の闇がまた一段と薄くなる。
174 名前:群青色の憂鬱 投稿日:2004/12/07(火) 21:48

「あーヤバい・・ホントに眠くなってきたぁ・・・どーにかしてぇー亜弥ちゃん」
抱きしめたままのカラダをゆさゆさと揺する、声が確かに眠そうだ。

「んふふー目ぇ覚ましてあげよっか?」
「んー、お願いしまーす」
イタズラな瞳で覗き込んだのに肝心の彼女は目を閉じたまま口元だけで笑った。
―――好都合と言えなくもない。

そのまま伸び上がると目の前の薄い唇に自分のソレを押し当てた。

「ふふ」
触れている唇から彼女の唇がゆるく弧を描くのが伝わってくる。

「んふふー」
自分も笑う。唇同士は触れ合ったまま。

「ふはっ、なんかビミョー」
「なんでよ?」
せっかくのドッキリだったのに軽く流されてむくれる。
こういう事に慣れているような言動にちょっとだけ傷つく、あくまでちょっとだけ。

「だって、なんかこーしてるとさぁ・・よけー眠くなる」
亜弥ちゃんがあったかいからだー、と目を閉じたまま呟いて黙ってしまった。
175 名前:群青色の憂鬱 投稿日:2004/12/07(火) 21:49

「みきたん」
「・・んー?」
「なんかあったら言ってね?」
「なんかって?」
「なんでも、・・愚痴でも弱音でもなんでもいいけど。あたしに隠し事しないで」
顔を見ないまま、腕の中に閉じ込められたまま耳元で囁く。

「焼肉た・・」
「それ以外で」

「・・じゃぁ亜弥ちゃん喰べたい」
冗談とも本気とも付かない声で言って開いた目でまっすぐ見つめられる。

「いいよ?」
笑って言い返したら笑いながら抱きしめられた。

と、隣の寝室に置きっぱなしになっていたケータイから電子音が流れる。

「あーりゃりゃ、時間になっちゃった」
体を起こそうとする彼女の上にのったままふくれっつら。

「そんな顔しないでよ」
「だって・・」
「また来るからさ」
そのときね。なんて、そんな約束しなくていい。
期待して、待ちわびて、叶わないとあなたを恨んでしまう。
176 名前:群青色の憂鬱 投稿日:2004/12/07(火) 21:52

「・・・ぃしょ、っと」
乗っかっていたあたしを軽く押しやりながら立ち上がる。
あたしは邪魔にならないようにさっさと上から退いた。

「・・・じゃぁね、また連絡するから」
「うん。またね」
慌しく支度を整えて振り返るのもそこそこにドアを出て行く。
あたしは目を見ないまま手を振り返した。

「いってらっしゃい」
閉まりかけたドアの向こう。
まだ弱々しい日差しの中に溶けていく背中に向って小さく小さく呟いた。

「好きだよ」
出かけたその人に向けて放った言葉は返事を貰えるはずもなく
群青色に閉ざされた暗い玄関に響いて消えた。


                     〜END〜

177 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/07(火) 21:55
ちょっと大人なカンジのあやみきです。
あややが片思いみたいになってますが二人は両思いですよ、多分。

>>メカ沢βさん
レスありがとうございます。
やはり何かしら反応があると張り合いが湧いてきます。
レス大歓迎ですんで誤字脱字の指摘でもなんでも書き込んでください。
調子にのって更新速度が増すかもしれませんので(w

では、また。
178 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/08(水) 22:20
更新お疲れ様です。

色の引用が素晴らしいですね。
私もレスがあったりすると張り合い(やる気)が出てきますね。
無いと『誰も見てないんじゃなかろうか』と思ってしまいますから……。
179 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/12(日) 22:02

>>178メカ沢βさん
いつもレスありがとうございます。
メカ沢さんのレスが活力源になってますw
今後も萌え要素はあまりありませんがよろしければお付き合いください。

今回はなんとなくごまかごで。
180 名前: 公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:03


     手を繋いでこのままずっと。
     どこまでもどこまでもいけたらいいね。


181 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:04


        ▽ 公園からの帰り道 ▽


182 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:05

「そろそろ帰る?」
「もーちょっとー」
久しぶりに休みが合って。久しぶりに遊びに誘ってみたら。
実に久しぶりに二人だけでお出かけ。

ゲーセンで器械を全機種制覇する勢いでプリクラ撮って、
おしゃべりしながら洋服や小物を見て歩いて、
あいぼんの行きつけのお店でお食事をして。

その間ずっと握られていた左手。

柔らかくて暖かいその感触が自分の手と溶けてくっつくくらいずっと握りっぱなし。
だけどもうそろそろお別れの時間。

ああ、でもなんか、なんだろなぁ離したくないなぁ、うん、なんか。
183 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:05

駅の近くの公園に入ろうといったのはあいぼんで、
あたしも別に反対しなかった。

「あ、キンモクセイの匂いがする」
「あっ、ほんとだ!」

広くはない公園の、
まだ少しだけ人気がある中を手を繋いだままたらたらと歩いた。

繋いだ手は照れ隠しのように大きく振られていて、
秋の少し冷たい風を勢いよく切っていた。
184 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:07

「ねーごっちん」
「んー?」

あいぼんの白い顔も灯り始めた街灯のせいではっきり見える。
浮かんだ笑顔にあたしも笑い返した。

「また遊ぼうね?」
「うん」
「へへ」
ぶんぶんと振られた左手の先に力がこもって、
なんとなくそれ以上の力で握り返した。

「・・・そろそろ帰る?」
できれば笑顔を崩したくなかったけど永遠に手を繋いでいるわけにはいかない。

繋いだ手はいつか離さなくちゃいけない。

185 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:08

「うん。でももうちょっと・・・」

あいぼんは家の方向に足を向けてゆっくりと歩く。
あたしもゆっくりゆっくり歩く。

不意にあいぼんが小声で「I WISH 」を歌いだしたのであたしも小さな声で歌った。
あいぼんが、あたしを振り返ってにっこり笑う。

あたしは歌いながら笑顔を返す。

二人きりの「I WISH 」はあたし達の間をさ迷って夕暮れの中に溶けていった。
―――「娘。」で歌っていたものとはなんだか違う歌みたいだった。

小さな声のまま歌いきるとなんとなくしんみりしてしまって
歌い終わった後は二人ともあんまり喋らなかった。
186 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:08

あいぼんの住む家が見えてきてあたし達はさらに歩く速度を緩めた。

「ごっちんさー、一人になって『寂しいー』って思う事あるー?」
「んー?あるよー?」
あいぼんやメンバーがいないとね、結構寂しいね。静か過ぎてね。

「あいぼんはー?」
あたしの質問にあいぼんは答えなかったけど、
否定もしなかったからきっとそういうことなんだろう。

「あいぼんさー、娘。に入って・・・ごっちんと出会えてよかったなー」
あいぼんがそっぽを向いたままそう言ったので
「あたしもあいぼんと会えてよかったなー」
と言い返した。

「ホント?」
「うん」

その後あいぼんは「うひひ」とも「うへへ」とも取れるような変な笑いをして
がばぁっとあたしに抱きついた。
187 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:09

「ごっちん、寂しくなったら言うんだゾ!」
「あはは、あいぼんも寂しくなったらいいなよー」

「・・・ごっちんが寂しいときは私が飛んでいくからね」

首にぶら下がったまま更に力を入れて抱きついてくるあいぼんの背中に手を回して、
ぽんぽん、と背中を叩いた。

「じゃ、あいぼんが寂しくなったらあたし歩いていくー」
「飛んでこいよぉ!」
と突っ込みを入れながらあいぼんは満足げにあたしから離れた。

いつの間にかあいぼんの家のすぐ側まで来ていた。
188 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:10

「ね、今度はカラオケいこうよ!」
「うん、いーよ」
「よし、約束」
差し出された小指に自分の小指を絡ませて指きりげんまん。
「前みたいに一緒に歌おっ!」

あいぼんのいう『前』が前にカラオケに行ったときの事なのか、
あたしやあいぼんが娘。にいた頃の事なのか、わからなかったけれど
わからなくても別によかった。

絡ませた小指は未来への約束だから。
189 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:10

「じゃーね、ごっちん」
「うん、じゃーね、あいぼん」
「ごっちん帰り道気をつけてね」
「あいぼんもね」
「もう家すぐそこじゃんかよぉ!」
「あはは」
ゆびきりげんまんのまま小指だけ繋いであいぼんの家まで来て、
小指同士は繋がったまま先に相手が離すのを待ってる。

「・・・じゃーね、ごっちん」
「あは、さっきも言ったじゃん」
「そーだけど・・・」
「じゃ、離すね・・・」
いつまでたっても埒が明かないからあたしから小指を解いた。
家の前は薄暗くてあいぼんの顔は見えない。

触れるものがなくなっただけなのにあたしの左手は急激に冷えていった。
190 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:12

「・・・またね」
「うん、ばいばい」
あいぼんに手を振り返して踵を返えした。


「ごっちん!」
二三歩家のほうへ向っていたあいぼんがあたしの名前を呼びながら飛びついてきた。
「うわっ」

思わずよろけたあたしに構わず
思いっきり背伸びしたあいぼんはそのままあたしの頬にぶちゅ、とキスをした。

「へへへー。お別れのちゅー」
「あははーいーのー?週刊誌に載るよー?」
「あー!やばーい!・・・ま、いーや。あいぼん、ごっちんLoveだからー」
冗談を言いながら後ずさりしてお互いに手を振る。

あいぼんが門の中に消えたのを確認してあたしも駅に向って歩き出す。

なんだか熱くなってるほっぺたを左手で触ってみる。
ほっぺたは思ってた以上に暖かかった。
191 名前:公園からの帰り道 投稿日:2004/12/12(日) 22:14


――――ごっちんが寂しい時は私が飛んで行くからね


例え手を離しても、また繋いだらいいね。何度でも。

かすかに漂うキンモクセイの香りを嗅ぎながらあたしは少し笑った。



                       〜END〜
192 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 12:52
更新お疲れ様です。
私もこんなマッタリとしたイイ作品を書いてみたいものです。
193 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/18(土) 01:03
あー、この二人かあ。ひさびさに読めた気がする。
ほんわかして嬉しかった。
キンモクセイの香りが伝わるようだった。
194 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/18(土) 22:52
>>192メカ沢さん
ハズカシながら今頃メカ沢さんの作品が同じ板にある事に気付きました(苦
私の好みの文体でぐいぐい引っ張り込まれました
話の展開が上手くて引っ張り所を心得てるなぁと言うカンジで
今後の参考にしたいと思いました。
続き期待してますんでがんばってください!

>>193さん
レスありがとうございます。そうですこの二人ですw
あんまり見かけないですね、大好きな二人なんですが。
なんとなくほんわかおセンチな気分に浸っていただけたならしてやったりですw

今回はなちまりで
195 名前: ロボ・キッス 投稿日:2004/12/18(土) 22:53


         ■ ロボ ・キッス ■


196 名前: ロボ・キッス 投稿日:2004/12/18(土) 22:54
愛が欲しいよ、愛が。

自己完結的で独善的なこんな愛じゃなくて。

キミに向けて放った愛が
ソレこそ何十倍にも膨らんで返ってくるような愛が欲しいよ。

無限に供給し続けるには原料が必要なんだ。

その原料はキミの中にしか埋蔵されてないんだよ。

世界中の人の中にないものがキミの中にあんだよ。

てゆーかオイラの中の製造機はキミのしか受け付けてはくれないんだよ。

――――リョウオモイになりたいんだよ。
197 名前: ロボ・キッス 投稿日:2004/12/18(土) 22:55

「なっちー・・チュウしてー」
「はー?」
雑誌読むからって一人にされたこの30分を耐え切ったオイラにご褒美をくれよ。

そんな怒ったみたいな顔しないでさ、軽くでいいからさ。

コンビニに売ってるケータイの充電器みたいに
その場しのぎでもいいから欲しいんだよ、愛が。

今すぐじゃなきゃ電池切れになるよ、あきらめちゃうよ。

―――この感情の製造はホンとは結構しんどいんだよ。
198 名前: ロボ・キッス 投稿日:2004/12/18(土) 22:56

太陽の光が届かないひまわりが痩せて枯れるみたいに
キミの愛が必要なんだよ、オイラには。

自然に湧いてくるとか思ってんでしょ、ロマンチストだからね、キミは。
でも決してそんな生ぬるいもんじゃないんだよ、愛は。

糧が必要なんだ、注ぎ続けるには。
与え続けるだけじゃきっといつか枯れてしまうよ。

そうしたら傷つくのはそっちなんだから、多分。
―――ていうより傷ついて欲しいよ、そん時は。
199 名前: ロボ・キッス 投稿日:2004/12/18(土) 22:57

ソファーに座った膝をくすぐって払いのけようとした手を掴もうとしたら
ちっちゃく足蹴にされてのけぞった。

もう早くしろよ、こんな駆け引きにのってる余裕ないっての。

燃料切れのランプが灯ってんだよ、
なんでかしんないけど愛の供給がストップしそうなんだよ、今。

早くしてよ、燃料補給してよ、そしたらまた製造できるんだから、
―――そんな不思議そうな顔してないでさぁ。


「早くしろよー」

ほらもう余裕ないんだって、自己生産の愛だけじゃもう維持できないよ。
いつもみたいに無理やり採掘する愛じゃなくて、
純粋に提供される愛が欲しいんだよ。

「やぐち・・」

ああ、ほらヒートアップした製造機が冷却液を出し始めたじゃん。

だから欲しいんだって、愛が。
埋蔵量とか知らなくていいから今すぐわずかばかりでも提供してよ。

―――あきらめたくないんだよ。
200 名前: ロボ・キッス 投稿日:2004/12/18(土) 23:00

軽く触れた唇から凝縮された愛を感じた。

半分無理矢理提供させた愛にちょっとだけ混じってたよ。
そんな眉寄せてないでさ、これでオイラは救われたんだよ。

「何も、泣くことないっしょ・・?」
違うんだよキスして欲しくて泣いたんじゃないんだ。
この感情を生産できなくなるかもしれないのが怖かったんだ。

心の大部分を占めるこの機械が止まったら
この先どうなるかわからなくて怖かったんだ。

「も、っかい」

掠れた声になっちは少しだけ視線を落として、ヤケクソみたいにキスをした。
赤く染まった耳がカワイイね。

ほら、オイラん中でまた、新しい愛が生産され始めてんだよ。
キミに向ける何十分の一の愛でも十分オイラの糧になってんだよ。

だからもっと、もっと愛を頂戴よ。
永遠を維持できるだけの愛をもうちょっと提供してよ。

そうしたらきっとその愛だけ抱いて幸せを追いかけるようにして眠れるから。


                         〜END〜
201 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/19(日) 11:44
更新お疲れ様です。
いやはや、感情描写の下手な私は作者さんの文章でいつも勉強しています。
202 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:43
>>201メカ沢さん
レスありがとうございます。感情描写…できてますかね?(苦笑
なんかもっとこう「萌え〜♪」ってのが書いてみたいんですが
まだまだ無理っぽいですw

今回はアンリアルな田亀いきます。
季節感とか無視りまくりです。
203 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:43


〇 鮮やかに咲く花のように ○

204 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:44

ガンガンにクーラーを効かせた部屋から出ると
重く熱い空気が体中に圧し掛かってくる。
待ってましたとばかりに汗が噴出す。

「絵里ちゃんもう駅に着いたって」
そう告げた母親はもてなしの手料理に腕を振るうために台所に篭った。
イコールあたしに迎えに行って来いってこと。

「待たせたらいけんよ〜」
母親の声に背中を押されて摂氏35℃の世界に踏み出した。
205 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:45

「あっぢ〜」

駅へ向う坂道はもわもわと立ち上る熱気で歪んで見えた。

一つ年上のイトコに会うのは二年ぶり。
だからあたしの中の彼女は小学5年の姿で止まっている。

ちょっと人見知りで、テンポの遅い喋りかた。

二人で近所を歩くと必ずといっていいほどあたしより年下に見られる頼りなさ。

そんな彼女が一人でこんなところに来るなんて大冒険じゃなかろうか。

こめかみを流れる汗を拭う頃ようやく駅に着いた。
206 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:46

あちこちで手土産を抱えた家族連れや
バッグを抱えた若い人がウロウロしてる。

それを迎える人たちの笑顔、歓声、笑い声。

思ってた以上に人が多くてあたりを見回す。
早いとこみつけないと不安がるに決まってる。


「れいな・・・ちゃん?」
ためらいがちにかけられた声に振り返る。
途端に脳を貫く鮮やかなまでの既視感。

「ああ、良かった。駅間違えたのかと思った」
明らかにホッとした顔に微笑を湛えて足元に置いてある荷物を持ち上げた。

―――こんなに綺麗な顔だったっけ?
207 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:47

家へ向う道々ぽつぽつ話しながら彼女を観察する。

背、大分伸びたのかあたしより高いくらい。
顔がちっちゃくて細い。
着ている服は東京で買ったってだけでアカ抜けて見える。

「あ、ココ憶えてる!」
通りに立ってる店や看板を目にしては懐かしそうにそれらを眺める。
笑顔ではしゃぐ絵里にすれ違う人が振り返る。

「ね、前にアイス買いにきたのこのお店でしょ?」
古い馴染みの駄菓子屋を指差して絵里が確認する。

確かにほんの2年前にココに来た時
もらったおこづかいでアイスを買いに走った店だ。

「なつかし〜なぁ」
前来たときには届かなかったカキ氷の暖簾に触れて、軽く揺らした。
ほろ苦いノスタルジー。

あたしと彼女の間に流れた2年という時間が二人を隔てる壁を作っていた。

―――たぶんあたしから彼女への一方的な。
208 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:48

着替えの入った絵里の荷物は適度に重くて、
正午過ぎの太陽がTシャツから出ている腕を焦がす。

絵里の白いスカートだけが涼しげに揺れている。

おかしいな、前はもっと、
話題なんて探さなくても自分の番が待ちきれないくらい話すことがあったのに。

互いの近況と思い出話だけが二人の間を行き来する。

「暑いね」
何度目かの天気の話。
二人の空気が悪いのは多分無口になったあたしのせい。

ほんのちょっと会わなかっただけなのに、花が咲くようにキレイになった。
頼りなさは相変わらずだけど、落ち着いてオトナっぽくなった。

ただの女の子だったのが少女になった。

あたしは素直にその変化を受け入れられない。

ガキなのはやっぱりあたしのほうだ。
209 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:49

「れいな、なんかおとなしいね?」
「そんなことなか」
「そ?」
そんな年上ぶった気遣いもあたしの心を波立たせる。

「あっ!」
急に駆け出した彼女が向う先にはあたしの家の門が見える。
その姿に二年前の後ろ姿が重なる。

タンクトップにホットパンツ、二人で買ったアイスを食べて、
道端に咲いていたひまわりを摘んで走って帰った背中。

家の前まで来た彼女はにっこり笑ってあたしを振り返った。
『れいな、はやくっ!』
あの瞬間、あたしは胸の奥が痺れたようになって、
自分が持っているひまわりの花を全て彼女に捧げたいと思った。
210 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/19(日) 22:50

「れいな、はやくっ!」
手土産の東京銘菓が入った袋をガサガサ言わせて絵里が振り返った。

真夏の青空をバックにその華やかな笑顔が飛び込んできた。
今と重なる鮮やか過ぎる過去の記憶。
あたしは過去のあたしと融合する。

二人を隔てていた壁が一瞬にして消える。
あたしの胸は一度大きく高鳴って、
次に踏み出した一歩で過去の自分の気持ちに追いついた。

「今いく」
駆け出したあたしは確実に笑顔を浮かべていて、
それを見た絵里がさらに微笑むのにますます気分が高揚する。

できるなら今世界中に咲く綺麗な花を彼女に贈りたいと思った。
この、胸の中の想いと一緒に。


-END-
211 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:19
更新お疲れ様です。
十二分に萌えますよ!私には絶対書けない素晴らしい「萌え」です。
212 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:36
>>211メカ沢さん
ありがとうございます。
そう言っていただけるとほんと嬉しいですw

せっかっくのクリスマスネタをと思い
超そっこーで書き上げました。
初こんごまです。
213 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:37


     ☆ アイ・ウィッシュ・ユア・メリークリスマス ☆

214 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:38

視線の向う先は一つだった。

茶色い地面の上をボールが転がる。
少女達の鋭い声が飛ぶ。

点差はとっくに転覆不可能なまでに開いているが誰も手を抜こうとはしなかった。
必死に走り、必死で攻め、必死で守る。

その試合はまるで二つのチームが一丸となって
目には見えない「試合終了時間」という敵と戦っているかのような雰囲気だった。

(あ、来る!)
相手チームにボールが渡った。

紺野あさ美は手に嵌めたグローブが軋むくらいにぎゅっと拳を作る。

学年でもトップクラスを誇る頭脳が相手チームの攻めのシュミレートを素早くはじき出す。

(来る。ぜったい)

腰を落とし両手を大きく開いて構える。
視線は唯一、絶対にシュートを放つであろう人物の動きを追っていた。
215 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:39

「ほい、ごっちんパース」
軽々とディフェンスの裏をかいて吉澤がパスをだす。

紺野はグッと身を乗り出し次の動作に必要なエネルギーを溜める。

(右?違う左だ。マークを外して勝負してくる。後藤さんなら、ぜったい)

ぐんぐんと近づいてくるそのスピード。
紺野は逃げ出したくなるプレッシャーに必死で耐えた。

点差なんてもう関係ない。
これで最後なんだ。

審判役の顧問が時計を確認しているのを視線の隅で捕らえる。
残り時間はもうない。これがラスト・プレイだろう。

(止める・・・ぜったい)

この試合が終わったら、3年生とは会う事すら難しくなる。

受験や試験の合間を縫って設けられたこの練習試合は在校生との力試し。
3年生にとっての最後の試合。

悔いなんて一片たりとも残しちゃいけない。
216 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:41

「いけー!ごっちん!」
「・・・あいよー!」
すでに走るのを止めた吉澤の暢気な声援が響く。

後藤と紺野の間にはもう誰もいない。

(大丈夫・・・落ち着いて)

そう頭では思っていても心臓が縮み上がるようなプレッシャーが紺野の体を軋ませる。

(来る・・・!)

目の前に迫った後藤は下手な小細工はしないつもりらしい。

まるでフリー練習のように大きなストライドでゴールを狙う。

後は紺野の瞬発力と後藤のパワーとの戦いだった。

(今だ!)

後藤のつま先がボールに当たる寸前、紺野は渾身の力で跳んだ。
217 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:42

冬の夕方の冷たい空気を鋭いホイッスルが切り裂いた。


目の前に転がるボールを見つめながら
紺野は倒れた状態のまま起き上がれないでいた。

(終わっ・・・ちゃっ・・た・・)

左手の指先の感覚が戻ってきた。
指の存在を誇示するようにジーンと痺れている。

(ああ、やっぱダメだったか)
紺野の奥歯がぎし、と音を立てる。

後藤の足を離れたボールは紺野の狙い通りの軌道を通って襲ってきた。

止められる自信は少しばかりあった。
が、想像以上のパワーで跳んできたボールは紺野の指を弾き
後ろのゴールネットを大きく揺らして、包まれた。
218 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:43

「ナイスファイト、紺野」
目の前に差し出された手に思わず手を重ねた。

「いやー、一瞬止められるかと思った」
さして焦った風もなく目の前の人物はふにゃり、と笑った。

「でも、よくここまでがんばったね」
立ち上がった紺野の頭をぽん、と撫でると後藤は言った。

「最初は逃げるか、反応しないかのどっちかだったのに・・・。
やっぱ努力した結果だね」

目の前の後藤が不意に滲む。

「ありがとう、ございました」
「んぁ?何が?」
後藤は紺野の肘についた土を払いながら首を傾げる。

この一年間面倒を見てくれて、落ち込んだ時励ましてくれて、
居残り練習に付き合ってくれて、最後に真っ向勝負をしてくれて・・・

数え切れない思い出が溢れ出す。

「ふぇ・・・」
様々な思いがこみ上げてきて自然と涙が出た。

気がつけば在校生のほとんどが泣いている。

大好きなこの人たちと過ごす最後の試合が、今、終わってしまった。
219 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:45

「「「「かんぱーい!!!」」」」
「おつかれー」
「練習さぼんなよー」

様々な声が広くはない部室に広がる。

先程あんなに泣いていたのがウソのように華やかな矯正と
お菓子とジュースが飛び交っていた。

終業式を午前中に終え、明日からは休みという開放感に浸る在校生と
今日くらいはと受験の息抜きを名分に弾ける3年生とで
部室内は異様に盛り上がっていた。

「はい、みんなちゅーもーく!!」
キャプテンでありチームのムードメーカでもある吉澤の声が
雑然とした部室内に響き渡る。

「ちゅーもくしろー!」
二度目の呼びかけでようやく部室内のヴォリュームが下がってくる。

「はい、問題です。今日は何の日でしょーかっ?」
子供向け番組のおねえさんのように
耳に手をあてて吉澤は答えを待っている。

「「終業式」」
「「クリスマス・イヴ」」
「あ、はい!はい!うちのおばあちゃんの誕生日!」

条件反射なのか、哀れに思ってなのかぽつぽつと回答が返ってくる。

「はいそーです。今日は楽しいクリスマス・イヴです。松浦、余計なボケ入れなくていいから」

果たして本当におばあちゃんの誕生日だったらどうするのだろう、
そう思いながらあさ美は
隣の藤本に小突かれてる松浦を睨む吉澤を見た。
220 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:46

「えー気を取り直して。今日はクリスマス・イヴです」

二度繰り返した吉澤に部員達は仕方なく「それで?」といったアクションを返す。

本当は皆この後恒例のプレゼント交換会が始まるであろうことなど重々承知していた。

1、2年生からは各先輩たちへ。
3年生は全員で1、2年生へプレゼントを配るのが慣わしなのだと
一つ上の松浦達から聞いていた。

「んじゃー皆分かってると思うけどプレゼント交換ねー。
まずは、1、2年がうちらにプレゼントを献上すること!」

吉澤の声を合図に後輩がわらわらと先輩達に群がる。

次々と手渡されるプレゼントにすぐに両手がふさがっていく。

人よりトロイといわれることの多いあさ美が先輩達に近づく頃にはすでに
大抵の部員がプレゼントを渡し終えていた。

(何か緊張するな)
改めてプレゼントを手渡しするのはなんとなく照れくさく、緊張する。

あさ美は一人一人にプレゼントを手渡していった。
221 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:47

後藤は、気付いてくれるだろうか。

差し出したプレゼントを後藤は笑顔で受け取る。

その笑顔が自分にだけ特別に向けられている、
と思うのは思い上がりもいいところだろう。

後藤はあさ美の次にプレゼントを渡した部員にも同じように笑いかけている。

一言声をかければよかった、と思いながら見つめているあさ美の視線の先で

あさ美の渡したプレゼントはすぐに他のプレゼントと一緒に腕の中に埋もれてしまった。

―――後藤にだけ向けられたあさ美の儚い想いとともに。
222 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:48

ようやく3年生にプレゼントが行き渡ると
1、2年生たちの期待の篭った視線が吉澤に集まる。

その視線を存分に浴びた後吉澤はもったいぶるようにプレゼントを公開した。

「ふ、ふ、ふっ!喜べYo!
今年はなんとあのごっちんの手作りプチケーキをプレゼントだぁぁぁぁ!!!」

吉澤のテンションのせいか、
はたまた後藤の料理の腕前を皆が知るところのせいか
部室内は一気に歓声に包まれた。

「ちゃんと人数分あるから慌てなくていいよぉ」
隣から次々とラッピングしたケーキを配りながら後藤は笑っていった。
223 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:48

次々と手渡されるプチケーキ。

袋に包まれ緑と赤のモールで飾られたそれを皆嬉しそうに受け取る。

「はい、紺野も。メリークリスマス」

いつの間にか自分の番になっていたらしい。

「あ、ありがとうございます」
差し出された包みを受け取ろうとして、止まった。

「・・・なんで?」
自分用の包みに巻かれたモール。
その色は他の子とは違う、金色だった。

ほんのわずかな期待があさ美の胸を躍らせる。
自分と同じ事を、この人も考えていたのかもしれない。
その答えを確かめるようにあさ美は後藤を見つめた。

後藤はほんの少し戸惑って、思い直したように言った。

「・・・・あー、何か・・・モールが足りなくなっちゃって・・・」

あさ美は落胆の表情が出ないようにぐっと力を入れると後藤に微笑み返した。

「私だけ金色って豪華ですよね。ちょっと得した気分」

あさ美の返事に後藤は曖昧に笑った。
224 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:49

お祭り騒ぎの後の静寂が部室内を覆っている。

片付けは明日の午前中に回してみんな帰ってしまった。

後藤を含めた数人の3年だけが思い出を懐かしむように部室に残り、
たわいもない話をしていた。

「あ、ねーごっちん、見てこれ紺野のプレゼントなんだけど」
プレゼントを吟味していた吉澤がおもしろそうに中身を取り出した。

「スポーツタオルなのは全然いいんだけどさ、値札取り忘れてやんの」
そういって近所の100円ショップの値札を指差した。

「紺野ってしっかりしてるようでけっこう抜けてるよね。あたしのにもついてるかな?」
後藤は笑いながら言うと紺野のくれたプレゼントをカバンの中から探し出した。

「あれーごっちん、それ紺野からもらったやつ?」
「え?うん。そうだけど?」
ほら、と吉澤のタオルが包まれていたのと同じ模様の包みを示して見せた。
225 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:50

「なんかごっちんのだけ星がついてるー」
「え?」

言われて改めて包装紙を見ると金色の星のシールが貼ってあった。

「よしこのにはないの?」
「ないよー。普通のテープ」
確かに自分のものとは違いごく普通の白いテープで止められている。

「ねーみきてぃはー?紺野からもらったプレゼントに星ついてる?」
吉澤が後ろを振り返り喋っているほかのメンバーに声をかける。

「美貴ちゃんなら亜弥ちゃんに連れられて帰ったよ」

代わりに応えた石川に聞くとそんなシールは貼ってなかった、と答えた。
226 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:51

帰ってしまった人は分からないが
少なくとも残った3年生の中に星のシールが貼ってあった人は
後藤を除いて誰もいなかった。

プレゼントを前に後藤は黙りこんだ。

金色のモール。

金色の星。

例えば思考の類似性。

「ごっちんだけトクベツ、だったりして」

吉澤の言葉に弾かれるように後藤はカバンに荷物を詰め込むと部室を後にした。

「あれ?ごっちん帰ったの?」
不思議そうにたずねる石川に吉澤が応える。

「ごっちんてクールなようで抜けてるトコあるよね」

吉澤はどこか嬉しそうにそう言うと
タオルに貼ってあった100円ショップの値札を剥がした。
227 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:54
「あ、後藤さんからメール・・・」
俯きがちに歩いていたあさ美はメールを確認すると踵を返した。

「・・・これで伝わってるかな?」
ディスプレイを覗いていた後藤はとにかく先を急ごうと足を速めた。

二人が出会うのはあと5分後の事である。



メリー・クリスマス。
あなたとあなたの特別な人へ。
228 名前:名無し一作者 投稿日:2004/12/24(金) 23:56
なんとかクリスマスイベント終了w

では、また。
229 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/27(月) 05:13
じれったい二人でしたか
いろいろ先を想像させてくれる控えめな締めくくりがよかった
上品で好き
230 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/31(金) 16:46
こんごまいいなー。
両方にぶちんで萌えw
231 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/01(土) 00:05
>>229さん
レスありがとうございます。
ホントはもっと長くなる予定でしたが
時間もないしと思いばっさりカットしました。
機会があれば続きを書くかもしれませんw

>>230さん
レスありがとうございます。
にぶちんな二人の恋ってみててじれったくていいですね。
初こんごまですが気に入ってもらえたら幸いです。

あ、てゆーか年明けてる。
今年最初の更新は田亀です。
232 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:07


          ♀ 女の友情問題? ♀


233 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:09

なんつーか、『女の子』ってこういうカンジをいうんだろうな。

あたしは控え室の備え付けの鏡の前で
さっきっから何度も何度も髪の毛をいじってる二人を見た。

「こっちで分けるのと・・・こうやって下ろすの、どっちがいい?」
さっきっから前髪を整えたと思ったら崩して分けたと思ったら崩して
もう何をどうしたいのかわかんなくなったさゆが絵里に尋ねる。

「んー、こっちのが、あ、でもこうゆうふうにしたら・・・」
さっきっから前髪が短かすぎるとか、真っ直ぐ過ぎとか
ため息交じりで鏡を覗き込んでた絵里がかいがいしくさゆの前髪を整えてあげる。

「ホラ、いいカンジじゃない?」
「・・・・・・・・・・・あ、また口開いちょった」

でもコレいいかも、とさゆもやっと納得したのか
その前髪をキープするべくまた鏡に釘付けになる。
234 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:10

(なんだかなぁ)

今朝貰ったばかりの台本を眼だけで読みながら
時々確認するように時計を見る。

あたしだって結構オシャレには気を使うし、
仕事柄変なカッコにならないように気をつけてる。

でもあの二人はそれ以上に細かく気を使ってる。つーか細かすぎ。

言われたって違いなんてわかんないくらいなのにやけにこだわっちゃって。

どっちかっていうと本番前に軽くチェックして終わりってカンジのあたしは
あんなにずっと鏡の前にいる二人にちょっと引いちゃう。

けっしてハブられてるとか仲悪いとかそうゆーんじゃないけど
なんとなく置いてかれるときがある。

三人ってバランスが難しい。

女の子らしい二人は気が合うらしくてしょっちゅうベタベタしてる。
あたしはそんなにベタベタするの好きじゃないから
あんまり絡んでこられると時々鬱陶しいって思うこともあるんだけど
こうやって一人でぽつんと二人がじゃれてるのを見るのはなんとなぁく嫌な感じだ。

別にヤキモチとかじゃないけどさ、でも女の友情ってフクザツだから。
235 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:11

二人から目を離してテーブルに乗ってる髪ゴムを手に取る。

「ねー絵里ー、これ結って?」

テーブルに乗っけた鏡の前に座って、さゆと張りあってる絵里を手招きする。

振り返った絵里はいいよぉ、と笑いながらこっちへ来る。

ちょっと年上のせいかもともと世話好きなのか絵里は結構人に気を使う。
いっつもニコニコしてて礼儀正しい。
スタッフさんにも3人の中じゃ一番愛想がいいかもしれない。

あたしはどっちかっていうと愛想笑いとかそーゆーの苦手だし。
さゆはさゆでぽけーっとしてるし。
236 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:12

「どーゆーカンジにする?」

一応リクエストを聞いてくれたけどさゆと違ってそんなにこだわりないから
いつもみたいなカンジで、って言った。

絵里があたしの髪を結ってる間ちょっと沈黙。

さゆがいると三人で盛り上がるけど二人だけだといつもこんなカンジ。

あたし的にはもっとガッと盛り上がりたいんだけど絵里はどっちかつーと大人しいしちょっとナヨってしてるから変にキツイ事言えないし、言葉も結構選んじゃう。
だからかな、まだちょっとぎこちない。
さゆの前では結構大口開けて笑ってるとこ見るんだけどな・・・。

髪を整えるのも忘れて自分の顔に見入ってるさゆをチラッと見た。
まぁヤツは天然っていう武器があるからとっつきやすいし。
それに比べたらやっぱあたしって「コワイ」とかって思われてんのかなぁ。

思わずふぅ、っとため息が漏れた。
237 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:13

「あ、気に入らなかった?」
鏡の中で絵里がちょっと困った顔でこっちを見た。

「え、違う違う!」
慌てて首を振って否定する。
頭の上ではいつも通りキレイに結ってある髪が揺れた。

「あ、ほら、鏡に映りよる自分に見惚れとったと」
鏡の中でにやり、と笑ってみた。

「・・ああ、なんだ」
曖昧な笑顔を残して再びあたしの髪を梳かす絵里。

ちょ、違うから!あたしそーゆーキャラじゃないから。さゆじゃないから!

ここツッコむとこだし、そんなサラッと流されても逆に恥ずかしいから。
つかちょっと引いたでしょ今。
何言ってんだコイツってちょっと引いたでしょ。

こーゆー時はちゃんとズビシッ!と突っ込んでよ。
238 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:17

「あのさ、今突っ込むトコだから・・・」
うわぁあたしサイアク。芸人としてあるまじき事だ、こんなの。

「あ、うん。今ツッコもうかな、って思ったんだけど本気だったらマズイかと思って・・」
えへ、ってカンジで鏡越しに絵里が微笑んだ。

ありえね――。
どうしたらあたしが鏡に映った自分の顔に本気で見惚れてるって思えるんだろう。
さゆじゃないんだから・・・。(つーかさゆ、隣でぶつぶつうるさすぎ)

あたしだって自分の顔が所謂アイドル的なかわいい感じだなんて思ってないし。
(それはまぁ別にいいんだけど。どっちかっつったらお笑い担当でいきたいし)

だからこそこういうときボケたら突っ込んで欲しいし、
ボケられたら突っ込みもいれたい。
そういう、なんつーの、掛け合い?みたいなのって友達同士でも大事だと思う。
ノリっていうか。

絵里とさゆが笑いあうみたいに、
あたしとさゆが笑いあうみたいに(てゆーか一方的に突っ込んでるだけだけど)

あたしと絵里だってそんなふうに笑いあいたい。同期なんだしさ。
そのためにはもうちょっと距離を縮めないと。

距離を縮めて言いたい事言えるように、
遠慮なく突っ込みとかできるくらいまで。
239 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:19

「なんか、今『ありえないから』とか突っ込んで欲しかったな」
あたしの髪を梳かしながら絵里が鏡越しに覗き込んでくる。
ちょっと悪戯っぽい笑顔だ。

「あ、そうなの?てっきり本気で言ったのかと思った」
なんだ、あれって突っ込み待ちだったんだ。
なんだ、意外とあたしのキャラつかんでんじゃん。
意外と計算ボケっぽいことする人なんじゃん。お茶目じゃん。

「・・ていうかあたし的には最初流したところも『流すなよ!』って突っ込んで欲しかった」
「え?」
なんだ、なんだよ、やっぱあたしの突っ込み正しいじゃん。

何?意外と二人って考えること似てんじゃないの?
あとは遠慮なく言えるようになれば最強じゃない?

もうちょっと仲良くなったら
もっと絵里が考えてることわかるようになるかな。

突っ込んで欲しいタイミングとかわかるようになるかな。

そうしたら遠慮なく突っ込んだり突っ込まれたりして
二人でいてもガッと盛り上がれるようになるかな。
―――さゆの前みたく大口開けて笑ってくれるようになるかな。
240 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:22

「どぉ?」
「うん、ありがと」
セットが完了したのか、
ブラシを持ったまま嬉しそうに得意そうに鏡越しに覗き込んでくる絵里に頷いて見せた。

なんていうか、年上なのに全然幼いカンジ。
あたしは結構オトナっぽい・・てゆーかコワそうとか言われるから
さゆとか絵里みたいなカワイイカンジにちょっと憧れてた。

あんなふうに何時間も鏡の前にいることも、
髪の毛の小さな違いに本気で悩むようなこともあたしにはできないから。

そんな自分を嫌いじゃないけど、
無いものを持ってる絵里たちにちょっと憧れてた。

「なんかこうやるとカワイイね」
結った髪の毛先を撫でて絵里が笑う。

「あ、そう?」
「うそ」
ふふ、といつものふわふわした笑顔を残して絵里が去っていく。

―――今なんと?
241 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:24

ボーゼンと後姿を追うと今度はさゆの隣でまた前髪をいじりだした。

「さゆ」
「?」
「ブス!」
「も〜、また言う。どこがブスなの?」
「あはは!」
もう何回も何回も繰り返してるのに相変わらずさゆは真剣に問い詰めるし
絵里はしきりにブスとかキショイとか繰り返してさゆの反応見て笑ってる。

最初は礼儀正しいけどいったん打ち解けると結構からかってくるんだよね、絵里って。

そしてハタ、と気が付いた。

―――「なんかこうやるとカワイイね」
―――「あ、そう?」
―――「うそ」
さっきのも、もしかしたらそうなのかな。

そう思うと自然と顔がニヤケる。
242 名前:女の友情問題? 投稿日:2005/01/01(土) 00:25

あたし、田中れいなの特技は誰とでも仲良くなれること(時間はかかるけど)

当面の目標は亀井絵里ともっと仲良くなること。
大口開けて笑いあえるくらいに。

さゆには負けない。
ふざけあう二人に無言の宣戦布告。

楽屋のドアが開いてスタッフさんがうちらを呼ぶ声が響く。
返事をして立ち上がってドアに向う。
とりあえず、絵里の右手をゲットした。

絵里はちょっと不思議そうにあたしを見て(普段あんまり手握らんもんね)にこっと笑った。
あたしも笑い返す。
うん、ちょっとずつ仲良くなれればいい。

・・・てゆーか、さゆ、絵里が歩きにくそうやけん絵里の左腕に絡みつかんでくれんね。

少しだけ右手に力を込めて、スタジオに向う狭い廊下を三人で幅いっぱい使って移動した。


                              〜END〜
243 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/01(土) 00:28
以上田亀でした。
2005年もヨロシクお願いします。

ではまた。
244 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/01(土) 17:58
更新お疲れ様です。
と、明けましておめでとうございます。
いや〜いい作品でした。今年もよろしくお願いします。
245 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/06(木) 22:38
>>244メカ沢さん
明けましておめでとうございます。いつもレスありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。

今年ももう一週間が過ぎました。早いモンです。
今回は六期三人で(ちょっとモテさゆ?)
246 名前:もてさゆ? 投稿日:2005/01/06(木) 22:39


         * もてさゆ? *

247 名前:もてさゆ? 投稿日:2005/01/06(木) 22:40

「やった、から揚げ弁当だ」
隣で蓋を開けたれいなが嬉しそうに言った。

最初はその鋭い目つきにビビってたけど話してみると結構気さくないい人だった。
人懐っこくて、案外へたれで、かまって欲しがりなささみしがり屋。
のんびりしてる私と違って何でもテキパキしてて、
目上の人にもハキハキしゃべる。
いっつもいいなぁ、って思う。なんか同い年だけど憧れる。

「さるみ、そのから揚げいらんと?」
お昼に出されたお弁当にはから揚げが二つ。
その二つを平らげてれいなは私のまだ二つ残ってるそれに箸を伸ばした。

「だめ。これから食べるの」
「一個いいじゃん。ほら、コレと交換しよ」
そう言ってエビフライを持ち上げた。

「あ、コレもつける」
そういって付け合せのプチトマトも一緒に勝手に弁当の中に放り込んで
から揚げを一つ奪っていった。

二人でお弁当食べるといつもこう。
いっつも私からおかずを巻き上げるんだから。

「れいな、ずるい」
「物々交換じゃん」
「あたしもから揚げ食べたかったのに」
「・・・もう食べちゃった」
あっけらかんと言い切ってしれっと自分のお弁当に向う。

こういうのって気を許してるからなのかな?
それともただたんに食欲に目が眩んでるだけなのかな。
248 名前:もてさゆ? 投稿日:2005/01/06(木) 22:41

「どーしたの?」
お茶を取りに行っていた絵里が何事かとたずねてきた。

「れいなにから揚げとられた」
「ちがっ・・エビフライと物々交換しただけっちゃろっ!」
「でも、エビフライとから揚げは同じ一個でも価値が違うよ、ねー?」
「うん」
絵里はあたしの事いっつもかばってくれるから好き。

時々からかってくるけど、いつもはちょっと頼りないお姉ちゃんみたい。
運動神経も良くて、歌も結構上手い。
あと、雰囲気が柔らかくて可愛いから好き。
顔は私のほうが可愛いけど。
249 名前:もてさゆ? 投稿日:2005/01/06(木) 22:42

「さるみがちゃんと断らんのが悪かやろー」
二対一になったれいなが口を尖らせる。
あたしの返事なんて聞かなかったくせに。

「まぁまぁ。・・・じゃ、絵里のから揚げさゆにあげる」
「いいの?」
「うん。その代わりエビフライちょーだい?」
「いいよ。漬物もいる?」
「うん」
やっぱり絵里は優しいから好き。

絵里のから揚げと私のエビフライとピンクの漬物がトレードされて一件落着。

れいなはむっつりしたままご飯を食べていた。

絵里は嬉しそうにエビフライを頬張って、ピンクの漬物をポリポリ齧る。
アレってそんなに美味しいかな?あたしにはちょっとよくわからない。

れいなは黙ったまま食事を終えると歯を磨きに席を立った。
もしかして、ちょっと怒ってるのかな?

絵里から貰ったから揚げを食べながら出て行くれいなの背中を目で追った。
250 名前:もてさゆ? 投稿日:2005/01/06(木) 22:43

食後の休憩もあと五分で終わる。

午後からは夕方までずっとダンスレッスン。
運動があんまり得意じゃないあたしはちょっと気が重い。
トイレから出て廊下を歩いていたら向こうかられいながやってきた。

「これあげる」
「え?」
差し出したのはスポーツドリンクのペットボトル。

「勝手にから揚げとったけん」
そっけなくそれだけ言うとあたしにペットボトルを押し付ける。

「・・・ありがとう」
れいなのこうゆう素直で生真面目なところ結構好き。

「いくよ、絵里が待ってるから」
あたしの手を掴んで歩き出す。
しっかりしてて、ちょっと強引なところもれいならしくて好き。

向こうで待っててくれた絵里に合流してスタジオに向う。
なんとなくあたしが真ん中。
二人とも全然性格は違うけどあたしの事大事にしてくれる。
だから二人とも大好き。
251 名前:もてさゆ? 投稿日:2005/01/06(木) 22:44

「今度三人で焼肉行きたいね」
絵里の声にれいながうんうんと頷いた。
あたしもうん、って頷いた。

「でもれいなばっかり食べてそう」
「絵里は焼く係りね」
「やだ、れなが焼く係り」
「れな、絶っ対食べる係りだから、もう決定してるから」
ポンポンポン、って二人の会話のキャッチボール。

「じゃぁ焼く係りはさるみってことで」
「うん、さゆが焼く係りね」
「えー?」
勝手に役を押し付けて二人して笑う。
252 名前:もてさゆ? 投稿日:2005/01/06(木) 22:45

「ヨロシク!焼く係り」
「頑張って!焼く係り」
いついくー?なんて二人で勝手に盛り上がってる。
あたしの抗議は完全無視。

普段は優しい二人だけど、時々こうやって団結する。
「あ、じゃぁさ、さゆは野菜食べる係!ね、よくない?」
「あーそれいい!」
こんな意地悪な二人はちょっぴり嫌だけど



「ウソだよ。さゆもお肉食べようねー?」
「うん、食べよう」

―――でもやっぱり好き。


                         〜END〜
253 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/06(木) 22:47
以上、もてさゆでしたw
254 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/06(木) 23:01
なんかほわほわしてて良いですねぇ。
6期好きにはたまりませんw
255 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/11(火) 22:59
>>254さん
レスありがとうございます。
6期3人とも好きなんで書いてて楽しいですw
よろしければ今後ともお付き合いください。

さて、間が空いてしまいましたがようやく更新です。
エロではないけどそれっぽい描写のある田亀です。
苦手な人はご注意ください。
256 名前:誰もいない部屋 投稿日:2005/01/11(火) 23:00


         □ 誰もいない部屋 □


257 名前:誰もいない部屋 投稿日:2005/01/11(火) 23:01

「失敗、したなぁ・・・」
ため息と一緒に吐き出した言葉は誰もない部屋に大きく響いた。

『帰るっ!!』
泣きながらそう叫んで彼女は出て行ってしまった。
まぁ、当然といえば当然の反応。

普通に友達だと思ってた相手にいきなりキスされたんだから。
しかも無理やり、手とか押さえつけられて・・・。
おまけに舌まで入れられて・・・。
あまつさえ胸まで・・・。
―――我ながらヒドイ事をしたもんだ。
258 名前:誰もいない部屋 投稿日:2005/01/11(火) 23:02

「うあ〜、明日っからどーしよ・・・」
ベッドの上で寝転がったまま頭を抱える。
ひっぱたかれた左頬が熱い。

こんなことになっても、明日も仕事あるから顔をあわせなきゃいけないし、
これからだって一緒のグループで仲間として仕事をしなきゃいけないし、
カメラの前では今までどおりにしなきゃいけない。

だけど、もし他の人にこのことを知られたらあたしに居場所なんてない。
絵里だけじゃない、誰だって気持ち悪いって思うに決まってる。
避けられるに決まってる。
259 名前:誰もいない部屋 投稿日:2005/01/11(火) 23:02

『れいな、ひどい』
あたしをひっぱたいた後、絵里は涙を浮かべてそう言った。
ああ、そーだよ、あたしなんてひどいし最低だよ。
無防備な絵里見てたら抑えが利かなくなって、
ケダモノみたく襲い掛かっちゃったんだから。

だけど絵里が、絵里があんな顔するから。
さゆの話しながらあんな顔で笑うから悪いんだ。
260 名前:誰もいない部屋 投稿日:2005/01/11(火) 23:03

暮らし始めてまだ一年ちょっとしか経っていない部屋。
ついさっきまで二人で笑いながら眺めた雑誌。
懐かしがって見ていたビデオテープ。
ひっくり返ったポテチの袋。
ジンジンする左のほっぺた。

好きだった。
ホントに本気で好きだった。
悩んだって誤魔化したってやっぱり抑えておけなかった。
だから、だからあんな事したんだ。
261 名前:誰もいない部屋 投稿日:2005/01/11(火) 23:03

押さえつけたときの手首の細さだとか、探った舌の柔らかさとか、
触れた体の温かさとか、そんなものばかり蘇ってくる。
一瞬の欲望のために全て失った。
バカみたい。本気の恋なんて苦しいだけだ。

「絵里・・・」
もう普通の友達になんて戻れない。
多分、っていうか絶対嫌われた。
きっと明日からは避けられて、警戒されて、軽蔑される。
もう二度とあんなふうに笑ってくれない。
―――イヤだ。
そんなのイヤだよ、絵里。
262 名前:誰もいない部屋 投稿日:2005/01/11(火) 23:04

「・・・うっ、・・くっ・・う〜・・・」
嗚咽がだんだん大きくなる。
まだ熱い左頬を冷たい涙が伝っていく。
明日が来るのが怖い。
どんな顔して会えばいいの。

ついさっきまで幸福な時間が流れていた部屋。

絵里の笑顔と、甘い匂いが溢れていた部屋。

あたしだけを残して、今はもう誰もいない。


                     〜END〜
263 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/12(水) 12:27
更新お疲れ様です。
切ないっていうかなんというか……イイ!
264 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/12(水) 21:31
〜続く〜じゃなくて〜END〜なのかぁ・・・
とりあえず私の脳内では続きを妄想してハッピーエンドにしときますw
265 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 02:30
このスレでこういう味わいのって久々(もしくは初)だったから嬉しい
田中さんは独りでも頑張るというのがよく似合うです
266 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/17(月) 22:39
>>263メカ沢さん
レスありがとうございます。
ちょっといつもより突っ込んだ田亀でした。
お楽しみいただけたら幸いです。

>>264さん
レスありがとうございます。
なんとなく浮かんだシチュを書いただけなんで
続きは脳内ハッピーエンドでw

>>265さん
レスありがとうございます。喜んでいただけて何より。
田中さんは一人黙々とがんばってなんでもないフリしてさらっとこなすとこ
が素敵です。でも内面でグチャグチャ考えてたらより素敵です。

今日のところはレスのみで更新は明日・・・の予定です。
では、また。
267 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/18(火) 22:58
宣言通りなんとか更新。
イメージとしてはさゆえり?のアンリアルもので
268 名前:咲き残る 投稿日:2005/01/18(火) 23:00


         * 咲き残る *


269 名前:咲き残る 投稿日:2005/01/18(火) 23:01
夕暮れの迫った川沿いの道を歩く。

両岸に植えられた桜はほんのわずかな花だけ残して
後ははらはらと音もなく周囲に降り注いでいた。

大好きなピンク色の雨の中、
私は貰ったばかりの新しい教科書の入った重いカバンを提げながら歩いていた。

緩やかなカーブを曲がると目の前の桜の木の下に並んで歩いてる人影。

「あ・・・」

それは二人の少女。
一人はまったく知らない人。
もう一人は・・・・。

私の気配を感じたのか彼女が振り返る。

私はとっさに頭を下げる。
270 名前:咲き残る 投稿日:2005/01/18(火) 23:02

ほんの数週間前まで同じ学校に通っていた先輩。

見慣れた濃紺のブレザーとは違う、オフホワイトのセーラー服姿。

心臓が痛いくらいに音を立てる。

僅かに気まずいような、恥ずかしいよな、照れくさいような感覚。

卒業式に泣きながら花を渡して、
ありがとうと言ってくれた少し幼い笑顔を浮かべる一つ年上の先輩。

―――あたしの初恋の人。


向こうも気付いて軽く微笑む。
それで私の存在に気付いたのか隣にいた少女が声をだした。
「亀井さんの知り合い?」
「知り合いっていうか、中学の後輩」
「へぇ」
そんな会話を左耳で聞きながら二人を追い越す。

心臓の音が二人に聞こえないように祈った。
271 名前:咲き残る 投稿日:2005/01/18(火) 23:03

背中からかすかに聞こえる声は柔らかくてか細くてちっとも変わっていない。

弾けるような笑い声に少しだけ悲しくなって
落ちてくる桜の花びらを睨みつけるように前へ進む。

卒業式の日にはまだつぼみだった桜。

今残ってる花もやがて散っていく。

桜が全て散り終わる頃にはきっと、
先輩の中から私は消えて、
新しく知り合う人たちのことでいっぱいになる。

だって、そんなに話したこともなかったし。

沢山いた取り巻きの、その外側から見てただけだし。

―――だけど私は、私の胸の中には多分一生残る人。
272 名前:咲き残る 投稿日:2005/01/18(火) 23:04


「先輩のこと、好きでした」



その一言が言えないまま、
あの日花開いた小さな恋は今も私の胸の中でひっそりと咲いている。


                        〜END〜
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/18(火) 23:19
切ない・・・
でも心地よい切なさです。
274 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/19(水) 10:50
更新お疲れ様です。
切ないなぁ……4レスでこの切なさは感服いたします。
275 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/22(土) 22:37
>>273さん
レスありがとうございます。
イメージとしては新学期始まってすぐって感じですかね。
春という変化の季節をちょっと切な目に味わっていただけたら幸いです。

>>274メカ沢さん
いつもレスありがとうございます。
切ながっていただけてなによりです。
脳内設定では亀井さんの隣の少女は
高校の入学式で友達になったガキさんのつもりw

なんとなく寒々しいなちまりを。
276 名前:痛み 投稿日:2005/01/22(土) 22:38


           # 痛み #

277 名前:痛み 投稿日:2005/01/22(土) 22:41

「ごめん・・・」

声も立てずに、
涙すら食いしばった歯の奥で噛み潰すように堪える彼女の髪に手を伸ばした。
パシッ!と乾いた音を立ててその手を振り払われて
成す術もなくなって途方にくれたまま目の前の彼女を見つめる。

振り払われた右手はまだ宙に浮いたまま軽く指を閉じてる。

「・・・くっ・・う・・っ・・」
小さく丸く膝を抱えられたらあたしはもう入ってはいけない。

時間かあたしか彼女が動かしてくれるまであたしは丸まった彼女に
痛々しいようなトゲトゲした視線を投げかけることくらいしかできない。

―――無力。

そんなの何べんも味わいすぎてとっくになじんでしまった。

そうだよ、無力だよ、だからこんなんなってんじゃん。
こんな、こんなふうにしなきゃ・・・
278 名前:痛み 投稿日:2005/01/22(土) 22:43

「ごめん、なっち・・」

引きつった呼吸の音を聞きながらそれでも精一杯の労わりのつもりで背中を撫でた。

「・・んで・・そぉ・・・」
体を揺すって拒絶されるのは
何度繰り返したってあたしの一番痛んでるトコロをさらに痛めつける。

うつむいたまま跪いて泣きそうな声でごめんねをいうよ。

届かなくても何度でも言うよ。

でも、ねぇコレだけはわかって欲しい。

好きなんだ。

ただもう、どうしようもなく。

自分の中の正しいもの全てが狂いだしていくくらい。
抑えようもなく溢れて・・・


ねぇ、もう一度だけごめんねを言うよ。

涙で少し掠れていてもこのごめんねを愛してるの意味だと思って。


                         〜END〜
279 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/24(月) 08:55
更新お疲れ様です。
二人に何があったのか……推測で語ろうなどとは無粋ですよね。
280 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/30(日) 20:28
この二人だと明るく可愛くのイメージ強かったけどこういうのもいいと思った
281 名前:名無し一作者 投稿日:2005/01/30(日) 21:09
>>279メカ沢さん
レスありがとうございます。
>何があったのか・・・
多分、安倍さんが楽しみにしていた
冷凍ヨーグルトを矢口さんが食べちゃったとか(大嘘)

>>280さん
レスありがとうございます。
明るくキャッキャしてる二人もいいけどこういう二人も好きなんです。
お気に召していただけたら幸いです。

気付いたら一週間たってた・・・。
ごま→よし、みたいなものを。
282 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:10


それは、だから、例えばの話


例えば目の前にあるその腕を急にいきなり引っ張って、
振り返ったその唇に優しく優しくキスしたら
うちらは一転、恋人同士になるんでしょうか?

283 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:11


         ――― 例えばの話 ―――


284 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:11

目の前にあるよしこの背中を見ながら缶入りのスポーツドリンクを飲む。
冬の乾燥した空気を出し入れした喉にスポーツドリンクは甘く沁みる。
たわいない話、つまらないダジャレ、くだらないゴシップ。

うちらを取り巻く空気はまるで冬の朝の空気のように爽やかで、
こんな感情を持ってることがまるで罪のような気分にさせる。
285 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:12

「あ、ごっちんソレもう飲み終わった?」
振り返ったその顔は赤らんでいるけれどすっかり汗の引いた爽快な表情をしてる。

「もうちょっとだけ残ってる」
手に持った缶を振るとちょぴん、ちゃぴんと音がする。

「ちょっとちょーだい」
「いいよ、全部あげる」
飲みかけの缶をよしこに押し付けて、缶の淵がよしこの唇に触れるのを見守る。

(あ、間接キスだ)

何の躊躇もなくジュースを口にするよしこの色のいい唇を見ながら思った。

友達だもん、意識はしない。
そう思っても心臓は勝手にドキドキを早める。

「サンキューごっちん。これ捨ててくるから」
一気に飲み干した缶を振るよしこに「ありがとー」と一言。
286 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:13


―――触れた缶の淵越しに、あたしはよしことキスをした。


だけど二人は変らない。
さっきと同じ友達のまま。
287 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:14

缶を持ってゴミ箱に向うよしこの背中。

例えば、すらりと長いその腕をぐっと掴んでひっぱり寄せて
振り返ったその唇に直接そっとキスしたら、
そしたら一変、うちらは恋人同士になれるだろうか・・・


「どーしたのごっちんボーっとして、疲れた?」
缶を捨てて戻ってきたよしこが心配そうに覗き込む。

「ううん。別に」
「そ?ならいいけど」
「ねぇ、よしこ」
「何?」
「・・・なんでもない。言ってみただけ」
「なぁ〜んじゃそれ」

話題を変えたよしこに相槌をうって笑った。
288 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:16

缶の淵越しのキスじゃ不満なのだと、よしこに言ったら、
よしこはどんな顔をするだろう。

今もしココでキスしたら、よしこはどんな顔をするだろう。


だけどあたしはよしこにキスをしない。

よしこの事が好きだから。

缶の淵の境界線、それは越せない、越えちゃいけない。

だって二人は友達同士。
289 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:16

「なんかさー、ごっちん娘。卒業したけど頻繁に会ってるから変な感じ」
首にかけたタオルの両端を引っ張りながらよしこは地面を見つめて言った。

「あー確かにね。なんだかんだで会うね」
「ね?なんかあんま変らなくない?」
「そうだね、逆に一緒にいる時間長いかもね」
「おー、うちらの友情は不滅だー!!」
首にかけたタオルを両手で持ち上げてオーバーなリアクション。

「ふめつだぞー!!」
あたしは片手を上げて拳を作って振り上げた。

「お、ごっちん元気でたじゃん」
嬉しそうに笑ったよしこにあたしの胸が軋んだ。
290 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:18

不意に隣を歩くよしこの手を強く握ってひっぱった。
「ん?何?」
隣で笑うよしこに「何言うか忘れた」と言って笑った。

頭の中で言おうと思った事はよしこに言ってはいけない事で、
言いたいけれど言えない事で、だから苦笑いでごまかした。

あたしが言わなきゃ変わらない。
ずっと二人は友達同士。
291 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:19

「あは、じゃ思い出したら言ってよ」
よしこは笑って、あたしの手を離さないでそのまま歩いた。

地面に落ちた二人の影はほぼ限りなく一つに近い。

あたしが言ったら変わっちゃう。
そんな二人は友達同士。
292 名前:例えばの話 投稿日:2005/01/30(日) 21:19


―――もう少しだけこのままで
弱虫なあたしを冬の日差しが貫いた。



あたしがよしこにキスしたら、二人は一転・・・


それは、だから、例えばの話。



                    〜END〜
293 名前:名無し一作者 投稿日:2005/02/06(日) 21:07
更新頻度が極端に低下してます、すいません。

おがたかでリアルっぽいものを。
294 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:08


          ☆ 一番星 ☆


295 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:09

「ねー、愛ちゃんそろそろ帰ろうよー」
「いや」
「暗くなってきたしさー、もうすぐご飯だし・・・」
「麻琴は親友よりご飯とるんだ?」
「や、そーじゃないけど・・・」
「じゃ、もうちょっとココにいよう」

真っ赤に充血した目で睨んで鼻声で宣言するとまた川面に向って体育座り。
一人で放っておくこともできなくてあたしもまた少しだけスペースを空けて隣に座った。
296 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:10

「なんでなんかなぁ?なんで後藤さん・・・」
「んー、わかりかねますなぁ」
「ふざけんっとってって」
睨まれてしゅんと俯く。
いつもならちょっとは笑ってくれるのに。

「そりゃ、女同士っちゅぅのは問題やけど、ちょっとは顔だって可愛いし」
うん。愛ちゃんは可愛い。

「スタイルだってそこそこだし」
うん。細っいのにそれなりに出るトコでてるし、
幼児体型のあたしからすると羨ましい限り。

だけど
「あっしは、ほら結構尽くすタイプだし・・・」
うんぬんかんぬん。

早口になると意味不明になるのはどうかと思う。

さっき告白したときも後半後藤さんは「???」って顔してたし。
それもフラれた原因になるんじゃないかな。怖くて言えないけど。
297 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:12

「なぁ、どー思う?麻琴」

どーと言われましても・・・
正直くっついちゃったらどうしようって思ってたから
あたしとしては嬉しい結果。

でも愛ちゃんは今まで見たこと無いくらい号泣してた。

号泣してヤケ食いとばかりにあたしの分まで肉まん食べて、
こんな川原で二時間以上黄昏てる。

そんなになるほど好きだったんだって、
ホントに愛ちゃんは真剣だったんだって、
そう思ったらちょっと悔しかった。

一生懸命な愛ちゃんは輝いてて、可愛くて。
だから言えなかった。

多分後藤さんには他に好きな人がいるって、
そう思ってたけど言えなかった。

「本当はそんなに魅力ないんかなぁ?」
足元の草をブッチブチ引き抜きながら愛ちゃんが呟く。

「そんなこと・・・」
ないと思いますです。ハイ。
298 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:12

ブチッブチブチブツッ・・・

愛ちゃんの周りだけ草食動物が食い荒らしたみたいに草がなくなっていく。

夕日はもう川の向こうからちょびっとだけ顔を覗かせて
さよならをするみたいにビルの間でぼんやりと揺れていた。

「は〜ぁ、世の中うまくいかんのぉ」
風の流れが変わって愛ちゃんが毟った草の青臭い匂いが強くなった。

「・・・きっと後藤さんより愛ちゃんに相応しい人がみつかるよ」
「そうかな?」
「うん。きっと見つかる」
てゆーか、候補ならば今ここに!

「・・・ありがと。も〜、麻琴は優しいなぁ〜」
そういった愛ちゃんは全然覇気がない。

昨日までの気合が全部抜けて貰って
三日経った遊園地の風船みたいにしぼんでる。

ああ、やだな。そんなふうに無理してる愛ちゃん見たくないよ。
299 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:13

「もしかしたらすぐそばに愛ちゃんのこと好きな人がいるかもよ?」

愛ちゃんのことちゃんと見てて、愛ちゃんの良さをわかってて、
何より愛ちゃんのこと好きになってる人が。

「いるんかのぉ?」
毟った草をペイッっと投げ捨てて愛ちゃんは興味なさげ。

「いるいる、絶対!」
ココに!隣に!前からずっと!

一生懸命なトコも負けず嫌いなトコも、
頑固なトコも全部まとめて好きなっちゃったヤツが!

しょっちゅうキモがられたりぼ〜っとしてたり、
パカーって口あいてたりするけど
愛ちゃんを好きな気持ちは折り紙つきでございMAX!なヤツが。
300 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:14
「・・・知ってるの?」
「へ?」
「あっしの事好きになってくれる人」
「ぅええぇ〜?」
小首を傾げて尋ねる愛ちゃんにあたしはひどくうろたえた。

いいの?いいの?言っちゃっていいの?
新潟出身でダンスが得意で最近急激におばさんキャラを確立して
目立ち始めてる食いしん坊が愛ちゃんの事好きなんじゃないかな?
なんていっちゃっていいの?

「・・・ほら、答えられないじゃん」
いいよ、無理に慰めてくれなくて・・・
そういって再び愛ちゃんは草を毟り始めた。
301 名前:一番星 投稿日:2005/02/06(日) 21:16

いっちゃおっかな・・・。

弱みに付け込むみたいだけど
こんなことでもなきゃ愛ちゃんはきっと気付いてくれない。

どこまでもまっすぐな彼女はすぐ側でこっそり発してるラブラブ光線に
まったく気付かないにぶちんだから。

ここらでびしっと言っとくのもいいかもしれない。

「いや、いるよ。ホントに」

顔をあげた愛ちゃんのまだ少し赤い目を見て頷いた。

いるんだよ。今ここに愛ちゃんのコト、好きになってるヤツが。

お日様はビルの間にすっかり隠れて紺色をした空にチカッと一番星が輝いた。
お星様、小川麻琴はやるでございMAX!

「あのね・・・」






                         〜END〜
302 名前:名無し一作者 投稿日:2005/02/06(日) 21:17
すいません中途半端な終わり方でw
次の更新は多分来週以降になります。
では、また。
303 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/09(水) 16:47
まこと頑張って…
いいとこで終わっちゃう作者さんが憎いですw
304 名前:名無し一作者 投稿日:2005/02/24(木) 22:03
>>303
すいませんコレが限界w
あとは脳内コンプリートで。


だいぶ時間が空いてますがぶっちゃけまだ書ける時間がないので
もう少々お待ちください。申し訳ないです。
305 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/24(木) 22:48
ここで完結その先は、というのが彼女ら二人っぽくてよいと思いました。
頑張れ主人公。
306 名前:名無し一作者 投稿日:2005/03/05(土) 21:33
>>305
レスありがとうございます。
この二人はくっつくまでの右往左往が見所な感じの二人ですねw

さてだ〜いぶ時間が空いてしまいましたがなんとか更新。
田→亀で。
307 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:34



   ―――彼女の唇からこぼれるたった一つの名前にすら嫉妬する。



308 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:35



            dp 片恋 qb



309 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:38

さっきから聴こえる柔らかい声があたしの事だけ語ればいいのに、と思う。


「でね、安倍さんがね・・・」
ここはテレビ局のロビー。
自販機で買ったカップ入りのオレンジジュースをお供に
ソファに座っておしゃべりタイム。

さゆは他のコーナーを収録中で今ここにいるのはあたしと絵里だけ。

なんとなく窓側に向って二人並んで腰を降ろしていた。

「・・そしたら安倍さんが・・・」
さっきから彼女の話に登場しっぱなしの固有名詞。正直、聞きたくない。

さくら組で一緒に過ごしたせいか、
絵里の安倍さん好きはどんどんエスカレートしてきた。

最初は憧れの先輩と打ち解けられて嬉しくて舞い上がってるんだろう、って思ってた。

あたしだってモーニング娘。に入って、今までテレビで見てた安倍さんとか石川さんとか
憧れてた人と話できるようになってすっごい嬉しかったし。


だけど絵里のはそういうんじゃない、それに気付いたのは本当に最近の事。

310 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:40

「もぉ、れな聞いてる?」
弱弱しい声とは逆に問い詰めるような上目遣い。

「うん、ちゃんと聞いてる」
甘えるような拗ねた口調が年上なのにすごく可愛くて思いもよらないほど優しい声で言った。

「で、安倍さんなんて言ったの?」
話の続きを促すと、絵里はふにゃふにゃした笑顔を浮かべた。
あたしの胸はチクチク痛む。

「あのね、『最近、亀井の笑顔すごくいいよ』って言ってくれたの!」
少しだけ頬を紅潮させて、興奮気味に話す絵里。
あたしはそんな絵里を見ながらオレンジジュースを飲み下した。

今日のオレンジジュースはなんだか酸っぱすぎる。
311 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:42

「ねぇ、コレってどうなのかな?」
「どうって・・・」
「なんか意味とかあると思う?」
「うーん・・・」
あたしとしては意味なんかないほうがいいんだけど。

だけど絵里は思いっきり期待した目であたしを見てる。

いつものおどおどしたカンジじゃなくて、
なんだか一生懸命な子供みたいな顔。

多分ここであたしが「意味なんてない」って言い切れば
きっと泣きそうな顔をする。

「意味がある」っていったら嬉しそうにテレながら笑う。

絵里の笑顔は好きだけど、笑顔の理由が苦しすぎる。
312 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:43

「れな、どう思う?」
煮え切らないあたしに絵里が催促する。
あたしの手を軽く掴んだ掌が温かい。

「多分さ・・・」
口を開いたあたしにグッと絵里が身を乗り出す。

「安倍さんのことが好きなの」そう言い切ったときみたいな真剣な顔。
―――あたしが、絵里に恋した表情。

「・・・絵里の事カワイイって思ってるのは確かやけん・・・絵里のがんばり次第やなか?」
心にもないことがすらすらと口をついて出る。
絵里の表情が一変して笑顔に変る。

子供みたいに無防備で、だからこそ感情が素直に表れる。

本当に嬉しそうに笑う絵里の笑顔にぎゅっと胸が締め付けられた。


その笑顔を独り占めしたい。
あたしのためだけに向けて欲しいよ。
313 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:45

「そうかな、だったらいいな・・・」
安心したのか納得したのか
絵里はテーブルに置いてあった自分のジュースを飲む。

「はぁ、片思いって辛いなぁ・・・」
吐き出したため息と、少しだけ膨れた頬と、尖らせた唇。
あたしの中で何かがぎゅぅ、と音を立てた。

絵里は不意にコップから唇を離すとあたしに向き直った。

「ごめんね?いっつもこんな話ばっかりで、迷惑じゃない?」
すまなそうな絵里の声に首を振る。

「べつに・・・。それにあたし、別にたいしたことしとらんし。」
「ううん、いっつもありがと、れな。れなが居てくれるとすっごく心強い。
 すごーくホッとするんだ、れなに話し聞いてもらうと。でももし迷惑だったらいってね?」

そんな絵里の言葉にできるだけ顔を背けたままぶっきらぼうに話を続けた。

「いいよ、話聞くくらい。絵里、一人で悩んでると暗くなるじゃん?
 だったらさっさとあたしに相談してさっぱりすればよかち思うけん」


「・・・あたし絵里の笑ってる顔、好きやけん」


言い終わった後で自分の言葉の意味を考えて一気に顔が熱くなる。

まずい・・・これじゃぁ思いっきり告白じゃないか。
絵里・・・もしかして気付いたかな?

熱いままの顔を必死で逸らしてジュースを一気飲みする。
314 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:47

「ありがとう。れなと友達でホントによかった」
・・・・気づいてない。

ガッカリしたようなホッとしたようなフクザツな気分。

だけど隣の絵里はあくまでマイペース。
「あ、もしかして、れな照れてる?」
嬉しそうに笑って絵里が顔を覗きこんでくる。

揺れる髪から甘い香りがしてくらくらする。

「わ、顔真っ赤だ!」
「ちょっ、絵里・・・っ!」
「ん?」
身を乗り出した絵里を向こうへ押しやる。

どうして自分が押し退けられるのかわからない、といったきょとんとした表情。
どうしたの?といわんばかりの顔。絵里の鈍感さに無性にイライラする。

「別になんでもなかっ!・・・もういくよっ!」
「あ、まってよ!」
後ろからあたふたと追いかけてくる絵里の気配。
315 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:49

「あっ!」

ぱたぱたと走ってきた絵里がそのままあたしを追い越していく。

見れば前方にある楽屋に安倍さんが矢口さんたちと一緒に入っていくところだった。

まっしぐらに走っていく絵里の背中にため息をついた。

彼女に恋して以来ため息つきっぱなし。


「でも、好きやけんなぁ」


ちょっと迷って今来た道を引き返す。
とりあえずは手の中の紙コップを捨てるため。

だけどホントは、楽屋で笑う絵里の顔を見たくないから。

安倍さんの前で嬉しそうに笑う絵里の顔を今は見たくなかった。

316 名前:カタコイ 投稿日:2005/03/05(土) 21:51

彼女が、まっしぐらに走ってくる相手が自分だったらいいのに。


「片思いって、辛いなぁ・・・」


大きな深いため息とともに
手にした空の紙コップがくしゃっと音を立てて潰れた。


                      〜END〜
317 名前:名無し一作者 投稿日:2005/03/05(土) 21:55
なんとか更新完了。
次の更新は未定です。
318 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 20:11
亀井さんが安倍さんを見つめるときのキラキラした表情が浮かんだ
主人公はきつい状態だけどこういうのがはまるからしかたない
いい話だった
319 名前:名無し一作者 投稿日:2005/03/17(木) 22:23
>>318
レスありがとうございます。
田中さんはせつない片思いが似合うとです。
そんな田中さんが愛しくてなりません。


そんな田中さんと道重さんの話
季節は春よりもっと先。たいした意味もカプでもないかもしれません。
320 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:24


          ■ミ 遠雷 ■ミ


321 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:25

「ちょ、もうホント、いい加減ウザいんだけど!」

せっかくのお気に入りの場所だった川原にノコノコやってきたコイツは、
嫌がるあたしの後をへらへらしながらついてくる。

いつの間にか町外れの寂れた商店街まで来ていた。
灰色の街に灰色の空。さっきまで青空が見えていたのに。

「ダメ、絶対逃がすなってコーチに言われたから」
そう言って半歩後ろから監視するようにあたしをじっと見てる。

「だから、ね?練習行こうよ」
「さゆこそ早く行かなくていいの?とっくに始まってるよウォームアップ」
「コーチが『田中連れ戻すまで戻ってこなくていい』って」
だから早く学校戻ろ?首を傾けてあたしに催促する。

もう、コイツってホントバカ。いっつも良いように使われてる。

こんな問題児の面倒を押し付けられて。自分の練習時間削って。
どうせなんかおだてられて上手く乗せられたに決まってる。
だけどコイツを寄越すなんてあのコーチはある意味あたしの事をわかってる。

でも、だからって素直になれるような性格じゃない。
322 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:26

「もうれな、バレー辞めたんだってばっ!」
「でもコーチは退部届けは受け取らないって言ってたよ?」
「はぁ!?辞めたいって言ってるんだから辞めたっていいじゃん、
 部活は強制じゃないんだから」
「そんなのさゆに言われても・・・」
「・・・まぁ、そーだけど」
きょとんとしているオトボケフェイスに毒気を抜かれる。
確かに、さゆには関係のないことだ。

でもあたし一人出てこなくなったところで、誰も困らないハズだ。
ウチには即レギュラーとして使える子が山ほどいるんだから。

「・・・試合のこと気にしてるの?」
おずおずと訊いてくるさゆに鋭い視線を向ける。
「あ、ごめん」
「別に気にしてないから」
ウソだった。

あたしがあんなプレーしてるから試合もボロ負け。
強豪のはずのウチのチームが格下相手にまさかの3連敗。
それもこれも相手のブロック一つ崩せないダメアタッカーのせいだ。
323 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:27

いつの間にか雨が降り始めていた。

傘が必要なほどではないけれど、
制服のブラウス越しに冷たい雫が当たるのを感じた。

あたしは振り向かずに歩き続ける。
さゆも後ろからついてくる。

商店街を抜けて、神社に通じる道を歩く。
このあたりは中途半端な田舎でこんな時間、こんな場所だから人影もなかった。


「・・・いつまでついてくる気?」
「れいなが学校戻るって言うまで」
「だから戻らないってば!」
思いっきり振り返ると、ちょっとビックリした顔できょとん、としてる。

「もう辞めたんだから、コーチにもそう言っといて」
そう言い切って再び歩き始めようと・・・
「ダメ!」 
後ろからガシッと腕を捕まれてかくっとなる。
「れいなに辞められると困るの・・・」
「はぁ?」

振り返って見詰め合うと同時にポツポツ程度だった雨がザンッ、と勢いよく降り出した。
324 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:28

「うわ、降ってきた」
「降ってきたね」

・・・あのさ、そんなのんびり空見上げてる場合じゃないでしょう?

後から後から降ってくる大き目の雨粒は冷たくはなかったけれど、
だからってずっと打たれていたいもんでもない。

「さゆ、雨宿りしない?」
「ん?あ、そうだね。濡れちゃうね」
まぁ今でも結構濡れてますけどね。

周囲に手ごろな建物もなくて50メートル先の神社に目が止まった。

「こっち」
気がついたらさゆの手をとって走り出していた。

顔に当たる生暖かい水滴、
肩や背中のシャツが肌に張りつく感触、右手で掴んだ暖かい掌。

激しさを増した雨の中であたしは少しだけスピードを落とした。
325 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:29

「よかったね、すぐに避難できて」
ハンカチで顔や肩を拭いながらさゆは笑顔を向ける。

「さゆって結構バカ?」
あたしの突然の言葉にきょとん、としてから首をかしげた。

コーチに白羽の矢を立てられて、
自分の練習そっちのけでこんな問題児を捜索して、追跡して、
おまけに雨に降られて・・・なんつーかもうちょっと上手く立ち回ればいいのに。
部活のほかの子たちみたいに。

「でもバカな子ほどかわいいってみんな言うよ?」
「・・・バカなのは否定しないんだ」
呆れていったあたしの言葉も聞かず、
さゆは「水も滴るいい女だ」なんて自分の頬を撫でた。
326 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:30

激しい雨は二人を閉じ込めたまま降り続ける。

「止まないね、雨」
「たぶん通り雨だからすぐ止むよ」
「そうかな」

軒先から滴る雫を受け止める手。
濡れて透けたブラウスにドキリとして視線を逸らす。
なんとなく後ろめたい罪悪感。

「あ、雷!」
「え?」
「今あっちの方が光った」
そう言って指差す山の方向は重い雲が垂れ込めていた。

見ている間にわずかに雲間が光って耳を澄ますと、
かすかに雷鳴が聞こえてきた。

「まだ遠いから大丈夫」
そう言って微笑んださゆに視線が釘付けになる。
327 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:32

最近急に背が伸びてあたしよりかなり高くなったけど全体的に弱そうな印象。

レギュラーとはまったく縁のない万年控えなのに
なぜかウチの部のマスコットと化してる。

ふわふわしてて、のんびりしてて、
何を考えているのかイマイチつかめない。

いっつも素直で従順だから先輩にも可愛がられるし、
おっとりしてて天然入ってるから後輩にも慕われてる。

あたしとはまるで正反対。

人一倍負けず嫌いで、我が強くて、協調性よりも自主性を大事にしすぎて輪を乱した。
練習は嫌いじゃないけど人にがんばってる姿を見られたくなくて
皆の前ではわざと手を抜いてたのが裏目に出た。

自分でも知らないうちに言い方がキツくなってて、
泣いちゃう子も何人かいた。

そんな我侭エースアタッカーの調子が落ちたらどうなるかなんて
少女漫画並みに展開が読める。

女子の妬み、恨み、嘲りほど身に応えるものはそうないと思う。ましてや中学生には。

だけどそんなのに負けたなんて思われるのはあたしのプライドが許さない。
328 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:32

「どうする?これから・・・」
「え?何が」
至極のんきなさゆは手で受け止めた雨だれを
鳥でも逃がすように空に放った。

「身動き取れないじゃん」
「あ、学校帰る気になってくれた?」
「いや、そういうんじゃなくて・・・」
学校にしろ家にしろ、雨が止むまでココから動けない。
さゆの予想じゃ通り雨のハズだけど、どのくらい続くかなんてわからない。

「もう、走ってっちゃおうか、なんかよくない?そういうの」
どこがいいんだかわかりません。

「・・・酸性雨ってハゲるらしいよ」
「じゃぁ止めよう」
あっさりとさゆは引き下がって大変だ、とばかりに
髪についた水滴を拭っている。

きっと可愛い自分のハゲ頭想像図が頭を過ぎったに違いない。
329 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:34

ハムスターの毛づくろいみたいに何度も頭を拭ってるさゆの顔。
口なんか半開きでホントにアホの子っぽい。

小学校の時教室で飼っていたハムスターが頭に浮かぶ。
頭の上に差し出されたひまわりの種をとろうと必死で手を伸ばしていた白いハムスターだ。
両手で頭を拭うさゆの格好はまんまその白いハムスターだった。

「ぷっ、あははは!」
「えっ、なに!?どうしたの?」
何コイツおもしろい。

本気でやってんのか狙ってやってんのかなんか変なヤツだ。
自分が好きで自分が一番可愛いと思ってるって聞いてたけど“ぶってる”だけかと思った。
だけど足元の水溜りを覗き込んで前髪整えたりしてるとこを見るとホントのナルシストらしい。
笑い転げるあたしをおいてきぼりくらった子供みたいな顔して眺めてる。

「バカっぽい」
っていったらまるで漫画みたいにプクーって顔を膨らます。
そんなリアクションにますます笑いがこみ上げてくる。

こいつが先輩達に愛される理由がなんとなくわかってきた。
330 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:35

「れいなって笑うと可愛いんだ」

はっとしてさゆを振り向くと
納得したような顔で神妙にあたしの顔を見ていた。

「いっつもそういう顔してればいいのに」

なんて返したらいいかわからなくて。

じわじわ顔が熱くなっていくのがわかって、
だまったまま正面を向く。

雷の音はさっきより小さくなって、
雨の音だけがあたりを包んでいた。
331 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:36

「ねぇ、雷止んだし帰ろうか」
「いいの?」
酸性雨。

「うん、ちゃんとシャンプーするから大丈夫」
だから、学校帰ろう。

さゆは学校へ帰ろうといった。
あたしはあんなに嫌がってたことも忘れてさゆに向ってこく、と頷いた。

「じゃ、競争ね?よーい・・・」
「えっ、ちょと、そっち荷物ない・・」
「ドン!」
あたしの言葉をまるっきり無視してスタート。
「・・・フライング」
少し呆れて、だけどあたしは先に踏み出した少し背の高い華奢な背中を追いかけた。
332 名前: 遠雷  投稿日:2005/03/17(木) 22:38

小降りになった雨を体で受けて、軽やかとは言いがたいフォームで走る背中を追いかける。

行き着く先は行きたくないと思っていた学校なのに。
絶対に止めてやるって思っていたバレー部なのに。

だけどあたしは前を走るさゆを追いかけた。
優しいけど変わり者の、ちょっとトボケた友人の背中を。


雨粒で濡れた背中の後ろ、ずっと遠くで小さな雷の音が聞こえる。
さゆの背中越しに見える空は明るくなってきていた。



                       〜END〜
333 名前:名無し一作者 投稿日:2005/03/17(木) 22:40
以上特に意味もなくオチもない話でした。
次の更新は相変わらず未定。花粉の飛散状況次第です。
334 名前:名無し一作者 投稿日:2005/03/30(水) 22:07
花粉の季節が終わるまで更新頻度が極端に低下します。申し訳ないです。

気がつけば3月も終わり。久々の更新。とにかく暗いよしかご
痛い系とか苦手、例え小説でもよっすぃ〜が傷つくのはイヤという方はご注意ください。
335 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:08



         △ あと少し・・・ △


336 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:09


「よっすぃ〜はずるい」


それはまるでリプレイされるスローモーション。

だけどほんの一瞬の間に

鈍く輝く銀色の刃は私のお腹にさっくりと大きな切れ目を入れた。

337 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:10

最近やけに沈んでるな、と思った。

励ましなんてエラソーなモンじゃないけど、やっぱ一応可愛い恋人だし。
そう思って部屋を訪ねた。

出されたお菓子は好物のもので、室内も程よく暖まっていた。

穏やかな会話の最中の突然の蛮行。

―――何が起こったのかまったくわからなかった。
338 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:12

―――ああ、なんか熱いな。

そう思ってお腹の辺りを手で探るとぐっしょりと濡れた不快な感じ。

不思議に思ったけれど特に確かめる気もしない。

だるい。つーか眠い。
このままあいぼんの膝枕で眠るのもいい。


「うち、よっすぃ〜の事好きや」
ポツポツと何か降ってくる。
目を開けるとちっちゃい目から涙が零れていた。

「あたしも・・・」
言いかけるけど先が続かない。おかしいな。声がでないぞ?

「でも、よっすぃ〜、うちの事だけみてくれへん」
何言ってんだ?あたしいつでもあいぼんの事見てるよ?

「いっつも、皆に優しい」
そりゃ、皆友達だし。
そうそうつんけんしてるわけにも・・・って、なんか熱くない?

日向でまどろむみたいな気持ちいい浮遊感。
あいぼんの膝枕のせいかな?
339 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:13

「うちにはよっすぃ〜だけなのに・・・」

ああ、眠いな。ホント眠い。ごめんあいぼん、話明日でもいい?
一眠りしたらちゃんと話し聞くから。

「皆の中の一人じゃいやや。うちのことだけ見て、うちにだけ優しくして」

見上げるあいぼんの瞳からポツ、ポツ、と降り始めの雨のように雫が落ちてくる。

「なに、泣いて・・・」
いっつもあいぼんの事見てるよ。
皆に対するのとは全然違う気持ちであいぼんに優しくしてるよ?
340 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:14

「うちだけのもんになって・・・」

握っていたナイフから手を離してあいぼんは涙を拭った。

「顔が・・・」
汚れる、と続けようとして手を伸ばしたら急に何かがせり上がってきて咳き込んだ。

途端に小さな赤い水玉があいぼんの白い肌にバッ、と散った。

なんだぁ、コレ?
なんで全然痛くないのにこんなとこから血ぃ出てんの?

つーか、血って不味い。
341 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:15

「うちのモンになって、よっすぃ〜」
まだ幼い、か弱い小さな声。

なんだよぉ、大人になるんじゃなかったのか?
何そんな甘えた声出してんだ。

あたし、なんかあいぼんを不安にさせることしたっけ?

んー、あたし結構鈍感だからなー。

知らないうちに傷つけちゃったのかな。

「ごめんな、よっすぃ〜・・・」

泣いてるあいぼんの顔が不意に霞んだ。

―――ああ、バカだな、泣くくらいならこんなことするなよ。
342 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:15


「よっすぃ〜のこと、あいしてる」


あいぼんの顔は涙でくちゃくちゃで、
声も鼻声で、だけどなんだか妙に納得できた。

ああ、あいぼんはホントにウチの事好きなんだなー、って。


へへ、やっぱ嬉しいや。

343 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:17

「あいぼんのこと、好きだよ・・・愛してる」
よし、何とか言い切ったぞ。

つかホント眠いから。マジで。だからもう寝かせてよ。起きたら何回でも言うから。

あいぼんはびっくりしたような顔してあたしの目を見てる。


「あいしてる・・・」


息苦しいのを我慢してもう一度言うと、
薄暗い視界の中であいぼんが満面の笑顔を浮かべた。

そうそう、あいぼんにはやっぱ笑顔が似合うね。

あたしは笑って、そしたらまた咳が出て喉が変な音を立てる。

344 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:18

ああ、また顔汚しちゃった。

赤い点々を拭ってあげようと手を伸ばす。

なんか、マジだるい。
自分の腕じゃないみたいに重くて、重くて・・・カゼひいたかな?

半分閉じた目の前には泣き笑いのあいぼん。

その顔を汚してる赤い汚れを取ってあげたい。

あの無垢な白さに戻してあげたい。眠るのはそれからだ。

345 名前:あと少し・・・ 投稿日:2005/03/30(水) 22:22

なんか変だな、手が震える。目が霞む。少しだけ寒くなってきた。
でも相変わらずあいぼんの腿はあったかい。


「よっすぃ〜、愛してるよ」
あいぼんの白い手が優しくあたしの頬に触れる。
あたしも腕を伸ばす。


「あいぼ・・・」


もう少し、あと少しで伸ばした手があいぼんの頬に触れ







                         〜END〜
346 名前:名無し一作者 投稿日:2005/03/30(水) 22:31

今気付いたけどこのスレのよっちゃんはロクな目にあってない・・・
吉澤さんいい子なのにネ・・・いつか良い思いをさせてあげたい。

次の更新は未定です。
347 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/30(水) 23:48
遠雷は天然の道重が可愛いという以上に強いなと思った
中学生二人の雨宿りがすごくみずみずしくて綺麗だった

よしかごが唐突に不幸で悲しかった
吉澤こういう独白はまるなあ
348 名前:名無し一作者 投稿日:2005/05/21(土) 21:42
>>347
レスありがとうございます。
カプ話でもなんでもないような話ばかり書いてます。すみません。
よっさんの独白口調は白身魚のようなあっさり淡白が似合います。
気に入っていただけたら幸いです。

気付けばものすごい勢いで更新ストップしてた。
待っていた方が(もし)いたら大変お待たせ致しました。
亀美貴のアンリアルでちょっくらダークな話です。
349 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 21:43

どれだけ厚い壁かは知らない。

だけど周囲を囲うコンクリート壁が
少なくとも私の力で破られることはないことだけはわかる。

その壁の向こうから何かの音を感じたことはない。ただの一度も。

350 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 21:44



           ● 温もり ●


351 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 21:45

ここに来てから何日たったのだろう。

切れかけた蛍光灯の明かり以外、外から一切光は入らない。
ひんやりと冷たい壁に囲まれたここはいつも肌寒くて、
晩秋のような寂しい涼しさを湛えていた。

昼か夜かも、外の天気も、人の気配も、
ここがどこなのかもわからない。
私はただ「その時」を待って、そして恐れているしかできない。

不意にかすかな物音が聞こえて体が強張る。
それが到着するのを拒むような、待ち望むようなフクザツな気持ち。
待ち望んでる自分を素直に認められるほど私は穢れていないつもりだ。
352 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 21:46

ギィ、と重い音を立てて鉄でできた分厚い壁が開いていく。
外から漏れるのもここと同じ人口の明かり。
もうしばらく太陽の光を見ていない。

「いい子にしてた?」

逆光を背負って私に声をかける。
ここにきてから唯一接することのできる人間。

たった一つ存在する温もり。

例えこれからされることがわかっていても
ひんやりとした石壁に囲まれている私にとってその温もりは何よりも魅力的だった。
―――生きる糧となるくらい。
353 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 21:48

「やっ・・・やめてくださ・・」
弱弱しい抵抗がその人のお気に入りだと、
コレまでの経験で少しずつ学んできた。

その人の手は石とは別の冷たさを私の体に残していく。
裸の背中に当たる冷たいコンクリート、カラダを這い回るこの人の冷たい掌。
だけどやっと感じることのできる生物の温もり。
無機質な孤独に常に囲まれている私には砂漠で見つけたオアシスのような、その温もり。

「あっ、やっ、だめっ・・・はっ・・・ん・・」
掌からは想像できないような熱い唇、舌。そして冷ややかな目の奥に灯る炎。
名前も知らない女の人にこんな部屋でこんな風にされて乱れている私は一体何なんだろう。

ただ道を聞かれただけなのに・・・
背中に感じた熱い痛み、目が覚めてから初めてみたここの景色、いきなり入ってきたこの人に
されたこと、抵抗しても敵わないと思い知った瞬間、存在する温もりがコレ一つしかないという恐怖。この人が来なくなったら私はこんな寒い場所で一人きりで死んでいく。
その不幸から逃れるため、というのはこの現実を受け入れ始めている私自身への言い訳。
まさかこんな酷い事されるとわかっていてもこの人を心待ちにしているなんて、
そんなこと自分でも認めたくない。

素性もまったくわからない。
道でであった少女を誘拐し、監禁し、気が向いたときだけ陵辱するような人間を、
それでも期待して待ってるなんてそんなはしたない自分を認めるわけにはいかない。
354 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 21:49

「・・・なんでこんなことするんですか?」
荒々しい愛撫の跡を見ながら身支度を整えるその人に問う。

とても綺麗な顔立ちをしていて、
無表情のときは冷たく感情の読み取れないその顔は
私が苦痛を訴えるときだけ花がほころぶような笑顔を浮かべる。
闊達な少女のような笑顔で容赦なく私を責め苛む。

「・・・もう、いやです。・・・帰りたい」
恐る恐るそういうとその人はにぃ、と笑った。
悪戯っぽい、意地悪そうな笑顔。
その笑顔にゾクゾクする。

「ダメ。帰さない」
「なんでですか?絶対訴えたり、警察に喋ったりしません」
誰にも言わない。
こんな風に乱されて、はしたなく腰を振った事なんて誰にも言えない。

ただ、日のあたる場所に帰して欲しい。
命の溢れる地上で思い切り深呼吸したい。
355 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 21:53

黙ったまま近づいてくるその人を凝視したまま身を固くする。

目を瞑るとこの人は機嫌が悪くなる。
怖がりながら自分を見つめる私の目が好きだと、
だから決して目を背けるなと私の胎内に指を突き立てながらそう言った。

「あんたのこと気に入っちゃったから」
そう言うと笑ったまま私に口付ける。
ただ触れるだけの優しいキスだった。

「・・・だから永遠にミキのものにする」
もう一度口付けられる。
今度は深く。絡んでくる舌と首筋に触れる冷たい手の感触。

初めて聞いたこの人の名前。
本名であるかどうかもわからない単なる認識記号。

ぐっ、と首に巻かれた手に力が入る。
途端に血の流れが妨げられてボゥ、と耳の奥で鈍い音がした。
じわじわと締める力が強くなる。呼吸ができない。
私は、殺されるんだろうか?
ここ数ヶ月テレビや新聞を賑わしてた連続少女誘拐殺人。
見るともなく見ていた被害者の少女たちのおぼろげな顔が頭をよぎる。

見上げた彼女は不敵に笑っていた。瞳の奥に揺らめく暗い炎。
―――彼女は、狂っている。
356 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 22:00

「やめ・・・くるし・・・」
与えられる圧迫感。間近に感じる死の恐怖。
苦しさのなかにほんの少しだけ混じる快感。
そのわずかな快感に私は反応してしまう。

「ふはっ、やっぱその目最高。」
そう言って手を離すと身につけた服を再び脱いでいく。
次第に広がっていく暖かい面積。
「もう一回してあげる」
そう言って覗き込む瞳は残酷な優しさが浮かんでいる。

「あっ、や、やぁ、・・・・」
熱い舌が触れる、背中のコンクリートとまったく別の生きているものの温もり。
無機質な冷たさと人間の肌の温もりの鮮やかなコントラスト。
私の頭は次第に霞み始めて、何日も(何時間かもしれない)触れることのなかったその温もりを体の隅々まで感じようとする。

「もっと鳴いてよ、いい声だから」
微かに嘲笑とからかいを含んだその声にカッと顔が熱くなる。
それを承知で言ったのだろうその人は小さく笑って再び舌を這わせ始める。

「・・・あったかいね、あんたは」
微かに漏れた、安堵したような小さな声。
彼女が考えているのは私の事じゃない。
そんな些細な事実がなぜか傷ついた肌よりも痛んだ。
357 名前:温もり 投稿日:2005/05/21(土) 22:02

声が枯れるほど叫ばせて、何度も私の顔を苦痛で歪ませて、
思う様嬲ってから彼女は私から離れた。
何の未練もないような、すっきりした顔で。
そして何の約束もなくこの部屋を出て行く。
一人取り残される恐怖。
あんなに尽くしたのに、という落胆。
もう二度と来ないかもしれないという絶望。
次はいつ来てくれるだろうという皮肉な期待。
求めずにはいられない、その、微かな温もり。

私は再び閉ざされた石の壁の中で身を守るように丸くなる。
温もりを逃がさないよう、これ以上傷つかないよう、
小さく体を折りたたむ。

体のあちこちに残る赤い跡。
歯の跡、爪の跡、小さな擦り傷、紫色のアザ。
こんなにされてもまだどこかで彼女の訪れを望んでいる。
冷たい掌のわずかな温もりを望んでいる。

無言で迫ってくるような石の存在感から逃れるために
私は壁にもたれたまま目を閉じた。
微かに残る疼くような体の熱を感じながら。



                         〜END〜
358 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 04:09
うひゃあエロイ怖い
でもendか…よかったっす

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