リアル・サバイバー・ミッション

1 名前:GO 投稿日:2004/10/26(火) 02:18
黄板に書いてたのですが、電話機の故障、パソ壊滅等の事情により
長い間放置状態となり(放置の間、保全していただいた方に感謝)
やっと復活に至りとなりました。
んで、続編を書きます。
知らなくても読めるようにしていますが、もっとわかりたいと思われた方は
黄板、過去ログ倉庫を覗いてやって下さい。
では・・・
2 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:19
ミッション開始十五分前。
地球代表候補モーニング娘。チーム控え室。
「じゃあ、作戦内容を説明します」
ヤグチはホワイトボードを叩くとそう言った。
ホワイトボードの前のテーブルを囲んでいる四人がこちらを向いた。
「今回のステージは病院内。ポジションはこの地図でいえば南の位置B棟。フォーメーションは212。前衛二人。中堅一人。後衛二人。一丸行動を心がける」
そう言いながらヤグチはホワイトボードに書かれた地図に『カゴ』と『ツジ』と書き込んだ。
「あなたたちの配置は先方、前衛」
「理由は?」
「理由はあなたたちの能力は二人なら相乗効果が狙える上に一掃出来る。でも、逆に言えば射程距離が広すぎる上に大味。後方だとサポートの障害になりえるし、下手をすれば自軍の戦力を分散させかねないから」
「了解」
一番前の席に座っているツジとカゴは揃えて返事した。
ヤグチは更に『ナツミ』とホワイトボードに書き込んだ。
「私は中堅・・・」
「そう、中堅。あなたの能力は自軍唯一の回復能力だからサポートしやすい中堅にいてもらいます。何か他に質問は?」
ナツミはホワイトボードを見つめながら何かを考えるようにしていたが、やがて小さく「了解」と呟いた。
ヤグチはそれを受けて、更に説明を付け加えた。
「カゴとツジはナツミを完全護衛。逆にナツミはカゴとツジの体力面のサポート。そして後方は・・・」
ヤグチはホワイトボードに『ヤグチ』と『ヨシザワ』と書き込んだ。
「後方の配置は私とヨシザワ。私は指令と前後の行動を取りやすい位置に、ヨシザワは後方を任せる。理由はヨシザワの能力は応用が利くし、私の能力は攻撃と防御、両面が可能だから。私はナツミの護衛、後方の攻撃を担当します」
ヨシザワは何も言わずただ目を瞑って聞いている。
ヤグチは続けた。
「以上で何か質問、意見は?」
「・・・・・・」
「ないみたいなので作戦内容の説明を終了します」
そう言うとヤグチは控え室から出た。他の四人もそれに続いた。
3 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:19
ミッション開始十秒前。
ステージ無人病院。
誰一人いない病院でフォーメーション212の形に並んだヤグチ達は開始の合図を待っていた。
ヤグチが小声で言った。
「命令、目標が見えた瞬間には能力を使えるようにしておくこと。開始と同時に前衛は百メートル進んで下さい。それを確認して十秒後、中堅、後衛も続きます」
ヤグチは月を見ながら言った。
「現在時刻は夜八時。視界が思ったより悪いので十分注意して下さい。以上」
病院内のスピーカーが入る音がした。
ボッ・・・・
ピーーーーーー!!!!
「作戦開始!!!」
ヤグチの号令と共に、カゴとツジが一気に前に進んだ。
病院内の廊下に規則正しい足音が響いた。廊下には月の光が差し込んでいて、窓側にいたカゴの顔を不気味に照らしている。
ちょうど百メートル進んだ所でカゴとツジは立ち止まって、周りを確認した。
その後、すぐにナツミ、ヤグチ、ヨシザワと続いた。
ヤグチは耳を澄ます。
(足音は・・・ない)
ヤグチは前方、後方と見回した後に前衛の二人に進むように命令を出した。
再び、同じようにカゴとツジは進んだ。そしてそれに続こうとナツミが歩を進めた瞬間・・・
パパパパ・・・・!!!!
激しい閃光と共に窓が一斉に割れた。
(敵襲!?まさか・・・窓から!?)
降り注ぐ窓ガラスを振り払いながらヤグチは周りをすぐさま確認する。
と、ナツミの前に誰かが立っているのが見えた。
ヤグチはそれを一瞥すると地面に手を当てた。
地面が大きく歪んで、そこには大量の砂が現れた。
その砂をヤグチはナツミに向かって跳ばす。
ザザザザザ・・・・!!!
小さな砂嵐が、ナツミを包んだ。
ヤグチはすぐさまヨシザワと自分をナツミと同じように砂のカーテンで包んだ。
4 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:20
男はナツミに向かって拳を振った。
砂のカーテンが大きく弾け飛んだが、拳はナツミまで届かなかった。
(ちっ・・・砂の防御・・・ヤグチか?)
『操砂』。
ゴゴゴゴ・・・・!!!!
男の身体が大きく揺れた。そして地面が揺れている事に気付いた。そして轟音が耳に届いた時には、身体が浮いていた。
(何だ!?)
吹き飛ばされながらも慌てて、辺りを確認した。
(しまった!ツジの能力!)
『走破』。
(砂のカーテンはこのためか!!)
全てを巻き込んで走る破壊の中、砂のカーテンも同じように吹き飛ばされていた。
だが、生身とあのカーテンの中ではダメージが全く違うに違いない。
「くそおおおおおおお!!!!」
破壊の威力はだんだん強くなっていく。とうとう男の右腕が飛んできた大きな窓ガラスの破片によって奪われた。
「あああああああああああああああ!!!!」
男の絶叫も、破壊の轟音に飲み込まれ・・・そして、破壊が止まった。
ドンッ!!!
受身も取れずに着地した男は、「ぐほっ」と呻いた。
(・・・射程距離は短いようだな・・・)
男は素早く立ち上がると、ほとんど荒地と化している廊下を見渡した。
砂のカーテンが三つ、落ちていた。
(味方ごと攻撃するとは・・・)
男は砂のカーテンに素早く近寄った。
(仕留めたと思っているだろうが・・・残念ながら俺も訓練を受けているのでな・・・)
残った左腕を振り上げた。
砂のカーテンの中には誰がいるのだろうか?
(お前は・・・誰だ?)
男は腕を振り下ろした。
5 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:21
ヨシザワはマーキングしていた砂のカーテンを爆発させた。
ヨシザワ達は砂のカーテンから抜け出して、すでにカゴ達と合流していたのだ。
これは『修練』で学んだ戦略の一つだ。
ヤグチの能力を囮にして(砂のカーテンは実際、六つあったのだ)、ツジの能力で片付ける。それで片付かなくても、砂のカーテンをヨシザワの能力で爆弾にしておけば、敵はそれに近付いて、結果・・・
ドドドンッ!!!!
『記爆』。
病院内に爆発音が響いた。
ヨシザワはヤグチに言った。
「終わりました」
病院の外壁から大きな砂の蛇が伸びている。その蛇の上にヨシザワ達は立っている。
「了解」
蛇が、病院の中に向かって伸びた。
窓からヨシザワ達は再び病院内に入った。
6 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:21
カゴとツジが敵の死亡確認に行っているのを確認すると、ヤグチが言った。
「敵は残り四名。今の敵が単独で来たとは思えない。何処かで能力を確認している敵がいる可能性がある」
男の死亡を確認しに行っていたカゴとツジが合流した。
全員そろったのを確認してヤグチが続けた。
「ここから作戦変更します。ナツミ以外は単独行動」
ツジが手を上げた。
「理由は?」
「敵に自軍の能力を細かく分析する時間を与えたくないし、このフォーメーションを維持すると敵にとっては攻め易い。一度確認したフォーメーションは、一応は対策をたてるものだから。だから、この二つの条件で最も適した動きはエリア別単独行動だと考えての作戦」
「理由はあるけど確証がないね」
ヨシザワが言った。そして続ける。
「分析といったって本当に敵が能力確認していた確証がない」
ヤグチが答える。
「確証は敵が単独で来たことから見えた敵背景、それと・・・」
そこまで言って、ヤグチ達は別々の方向へと散っていた。
天井が大きくひび割れて、ヤグチ達がいた所に破片が降り注いだ。
「追撃が早すぎる!!」
そう言ったヤグチ達の目の前には、四人の敵が立っていた。
7 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:22
そもそもツジの能力はこういった建物の中や、限られた空間には向いていない。
『走破』。
文字通り、『破壊』が『走る』能力だ。しかも、距離が伸びるにつれて『破壊』は威力を増す。
射程距離が短い上に広い。つまり、接近戦の場合、味方のサポートに回れないし、能力自体を使用できない。(ヤグチの能力の『砂の防御』もツジの能力の威力の前では意味をなさない)
威力はあるが、使える条件が限られすぎている。
が・・・
その問題を解決できる能力を持っているのがカゴである。
『集中』。
『力』を身体に『集め』る(溜める)事が出来る能力。
この場合の『力』というのは物質エネルギーを含む、全エネルギーの事をいう。
集めたエネルギーはカゴの自由に出来る。但し、制限時間付き。
つまりこの能力でツジの能力のエネルギーを溜めた場合どうなるか?
「ツジ、『一走』だ!!」
カゴはツジに向かって叫んだ。
「はいっ!!」
ツジは返事をしたと同時に、壁に手を着いた。
壁が大きく歪んで、小さな破壊活動が起き始める。
カゴはそこに手を当てた。
8 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:23
「ああああああああああああああ!!!」
ギュウウウウ・・・ン!!!!
小さな円状の波紋が壁に走る。
そしてその波紋はカゴの手に集まっていく。
壁の破壊活動が治まる(納まる)。
応戦中のヤグチ達に向かってカゴは叫んだ。
「ヤグチさんっ!!」
「構わない!!そのまま、撃てッ!!」
「了解!!」
ドウンッ!!!!
カゴの手から『空間の歪み』が放たれる。
それは空間を走りながら、だんだん大きくなる。
『破壊エネルギー』を『空間エネルギー』に。
『破壊エネルギー』は物質を破壊しながらのみ存在できるエネルギー。
つまり物質上でしか移動出来ない。
ツジのはまさにそれである。
しかし、カゴの能力『集中』により、『破壊エネルギー』を『空間エネルギー』に変換する。(集めたエネルギーはカゴの自由に出来るので)
すると、物質上の破壊活動しか出来なかった『走破』は空間上を走る破壊活動になる。
しかもそれは遠隔操作が可能。(くどいようだが、カゴの自由に出来るので)
それはどういうことかと言うと・・・
9 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:23
ドドドッドドドドドンッ!!!!!
「ああああああああああああああああああああああああああああ」
ヤグチの目の前の敵が大きく歪んだ。
と、同時に弾け飛ぶ。
その身に直接『破壊エネルギー』を受けたのだ。
ただで済むわけがない。
全身に返り血を浴びながら、ヤグチは身を伏せた。
同じようにヨシザワ、ナツミと目の前にいた敵の身体が弾け飛んだ。
(残り一人・・・!!)
ヤグチは伏せた状態で霧状に漂っている血の中に敵を探した。
それは意外にあっけなく見つかった。
廊下のその奥。
壁にもたれかかるようにじっとこちらを見ている。
(女か!)
ヤグチは立ち上がると、真っ直ぐその女に向かって走った。
女は身動き一つせず、こちらを見ている。
(なんだ!?なぜ動かない!?・・・罠!?)
ヤグチは足を止めた。
ドクンッ!!!ドクンッ!!!
(・・・!?)
意味不明の動悸。
10 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:23
真っ暗だったのでよく分からなかったが、近付くにつれ、女の顔が次第にはっきり見えてきた。
ヤグチは言った。
「・・・全員、そのまま待機」
「了解」
ヤグチは今度はゆっくりと女に近付く。
足元の廊下が、砂へと変化していく。
ドクンッドクンッドクンッ!!!!
(何だ・・・この動悸の激しさは・・・)
ヤグチは胸を押さえた。
(この女の・・・能力か?)
と、女が近くの病室のドアを開いた。
(・・・?)
女は中に病室の中に姿を消した。
「・・・!!」
ヤグチはすぐに後を追った。
このまま姿を消されたら、もう一度見つけ出すのが面倒だ。
そして、病室に入る際にヨシザワ達に
「全員、警戒態勢のまま後に続け」
と言った。
11 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:24
ヤグチが病室に入ると、女は部屋の中央に立っていた。
窓から差し込む月の光が女を幻想的に照らしていた。
(・・・病室か・・・ベッドもあるし・・・カーテンもある。身を隠す場所もいくつかあるな)
罠があるかもと、ヤグチは病室の入り口から動かず、じっと女を見た。
(能力は未知数だが、戦闘に入ったら十中八九・・・私が有利だろう・・・)
ヤグチはゆっくり女に向かって歩を進めた。
と、病室のドアが閉まった音がした。
(・・・!!)
ヤグチは足を止めて、病室のドアを窓ガラスの反射で確認する。
ここで振り返ることは自殺行為だ。
病室のドアが閉まっているのが見えた。が、それよりもドアに何か光るものが張り付いているのが見えた。
(何だ・・・?氷・・・?)
透明で、淡く白いそれは氷に見えた。
(氷・・・)
ドクンドクンドクンドクン!!!!!
またもや意味不明の動悸。
ヤグチは女に言った。
「私を閉じ込めてどうする気だ?まだ戦うのか?降伏を勧めるぞ?」
12 名前:ミッション0 投稿日:2004/10/26(火) 02:24
女は少し笑った。
ドクドクドクドクドクンッ!!!!
ヤグチは続ける。
「これはまだシュミレーションの段階だ。命を無駄にすることはない」
女は口元を笑みの形にしたまま、ヤグチを見つめている。
吸い込まれそうな瞳。
ドッドッドッドッドッ・・・・!!!!!!
「このまま十秒以内に返答がない場合は・・・」
ドドドドドド・・・・・
「私はお前を殺す」
ドクンッ!!!!!!!!!!!!!!!!
動悸が治まった。
女が口を開いた。
「私・・・」
アニメみたいな声。
(降伏するのか?)
ヤグチは黙って聞いていた。足元で砂が大きく歪んでいる。
「私って・・・・」
(?)
「似合わないよ。『矢口』さん」
ドドッッククンッ!!!!!!

心臓が壊れるほどに、大きく、跳ねた。


ミッション0終了。
13 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:25
作戦終了後。
ヤグチは控え室に戻った。
控え室にはすでに他の四人が揃っていた。
「お疲れ様です」
「・・・うん」
ヤグチは椅子に腰掛けると深くため息をついた。
(・・・いつから?)
「先程のミッションで何か怪我でもしたんですか?」
カゴが聞いてきた。だが、ヤグチは返事をしないでただ何かを呟いている。
「・・・・・・・・・」
(いつから『おいら』はここにいた?)
「大丈夫ですか?治療の必要があれば呼びますが?」
ツジもヤグチに問いかけた。
ヤグチは顔を上げると、ツジの顔を見た。
(・・・誰?この子?おいらの知ってる『辻』じゃない・・・)
(辻はもっと舌足らずで・・・)
記憶が・・・戻ってきた。
「あっ!・・・おいらは・・・」
14 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:25
そうだ。
いつも自分はここで気付いていた。
そして毎回・・・
「・・・くそっ!『加護』!今、何時!?」
カゴは答えた。
「現在、午後十一時五十分ですが・・・」
「くそ!あと、十分しかない!」
「残り十分で何かあるんですか?」
ヨシザワが聞いた。
「精神操作だよ!くそっ!『辻』!『加護』!『なっち』!ほらっ!『吉澤』も!」
「なっ・・ち?」
ナツミは呟く。そして、そこで目が覚めた。
「・・・あっ、ああ・・・」
ヤグチ・・・いや、矢口はツジの肩を揺らしながら叫んだ。
「辻!あんた!しっかりしな!」
「・・・・・・やぐ・・・ち・・・さん?」
ツジの顔が恐怖に変わった。
15 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:26
「また・・・『辻』たち・・・操られてたんれすか?」
「そうだよ!おいら達は・・・また・・・」
そうだ・・・自分達は毎日・・・こうやって・・・
気付いては・・・捕まり・・・
そして操られ・・・闘い・・・
気付いて・・・
「繰り返してたんだ!!」
十二時まで残り五分。
16 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:26
「今日は・・・捕まるわけにはいかない・・・」
矢口は砂で控え室の入り口を塞いだ。
「『吉澤』。この入り口の砂をマーキングしといて」
吉澤は「うん」と言うと、砂に触れた。
キィィ・・・ン!!!
「作戦を説明するよ!みんな、聞いて!」
なつみの声で、部屋の中央にみんな集まった。
なつみはそれを確認すると作戦を説明した。
「今日やった『ミッション』のフォーメーションで一転突破!ここから出て、左にひたすら突き進む。壁があっても、何がきてもおかまいなしで、一気に外まで飛び出して行く・・・これでいい?」
加護が神妙な顔つきで言った。
「せやけどあいつら・・・」
なつみは加護の言わんとする事はわかっていた。
「大丈夫。そんな暇を与えなければいいの」
矢口は指をパキパキ鳴らしながら言った。
「んじゃあ・・・いきますか・・・」
時計の針が十二時を回った。
17 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:26
ドオオオオオ・・・・ンッ!!!!!!
吉澤が砂を爆発させた。
「GO!!!」
矢口の号令で、全員が部屋から飛び出した。
砂埃から飛び出すと、狭い廊下に兵士が並んでいた。
兵士は・・・三十人ほど。すでに囲まれていた。
そして中心には・・・たった一人武装していない黒服の・・・あの男。
「辻!!!」
矢口が叫んだのとほぼ同時に、辻が能力を発動させた。
『破壊』が敵の列に向かって進んでいく。
ゴゴゴゴゴオオオオォォ・・・・・!!!!!
男が呟いた。
「予想通りだな・・・」
そして叫んだ。
「前衛、能力遮断能力発動!!」
前衛の兵士が『破壊』に向かって手をかざした。
キイイイィイィイィ・・・ン!!!!
ゆっくりと『破壊』の威力が落ちていく。
(くそっ!!やっぱりかっ!!!)
矢口は砂の蛇を作り出すと、兵士達の頭上に伸ばした。
18 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:26
能力遮断能力・・・文字通り、能力を遮断、無効化する能力。
矢口達も能力が使えなければ只の女の子だ。
勝ち目などなかった。
だが、しかし・・・
「負けらんないの!!!!」
矢口は兵士達に向かって砂の蛇を振り下ろす。
ブンッ!!!!
「そうくるか・・・」
能力が遮断され、形を失った大量の砂が兵士達に降り注ぐ。
(目潰しのつもりだろうが・・・)
砂を手で振り払いながら男は新たな命令を下す。
「一斉射撃、用意!!!」
兵士達が規則正しく矢口達に向かって銃を構えた。
「吉澤!!お願い!!」
矢口はそう叫ぶと、砂のカーテンでなつみ、加護、辻と最後に矢口と吉澤を包んだ。
(なんのつもりだ?)
男は、一瞬疑問に感じたが、すぐに分かった。
こちらに真っ直ぐ飛んでくる石飛礫。
(吉澤の『』!遮断領域に入る前に爆発させる気か!?)
19 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:27
ドオオオオ・・・・ンッ!!!!
激しい爆音と共に、視界が曇った。
能力遮断能力では、爆発は遮断出来ても、それで発生した爆風は防げない。
(始めの砂の目潰しはフェイント・・・これが本当の目潰しか・・・)
男は口元を押さえながら思った。思わず笑った。
(ははっ・・・チームワークが出来てきたな・・・)
男の前で悲鳴が聞こえた。
「わあああああああああああああ!!!」
兵士が男の横を通り過ぎた。いや、飛んでいった。
よく耳を澄ますと、そこら中で悲鳴が聞こえる。
ドンッ!!!!
ついに男の目の前の兵士が倒れた。
「なるほど・・・」
最前列の兵士の前は能力遮断領域だが、その後ろからは能力遮断領域ではない。
ならば兵士の列に入れば、能力を使うことが出来る。
そのための目暗ましだったのだ。
20 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:27
(予想戦略の最も確率の低いものを選んだな)
男は能力を発動し始めた。
キイイイイイィィ・・・・ンッ!!!!
(上出来だ・・・)
目の前に現れた砂の蛇を男は切り刻んだ。
『断在』。
(これなら明日からシュミレーションではなく実践訓練に移れるな・・・)
男は小さく肩で笑うと、能力を使って矢口達をバラバラに切り刻んだ。

そして、翌日。
精神操作を受けた矢口・・・いや、ヤグチ達は、再び控え室にいた。
21 名前:ミッション1 投稿日:2004/10/26(火) 02:28
「作戦内容を説明します」
ホワイトボードの前のテーブルを囲んでいる四人がこちらを向いた。
「今回のステージは荒野。ポジションはこの地図でいえば東の位置。フォーメーションは212。前衛二人。中堅一人。後衛二人。一丸行動を心がける」
そう言いながらヤグチはホワイトボードに書かれた地図に『カゴ』と『ツジ』と書き込んだ。
「あなたたちの配置は先方、前衛」
「理由は?」
「理由はあなたたちの能力は二人なら相乗効果が狙える上に一掃出来る。でも、逆に言えば射程距離が広すぎる上に大味。後方だとサポートの障害になりえるし、下手をすれば自軍の戦力を分散させかねないから」
「了解」
一番前の席に座っているツジとカゴは揃えて返事した。
ヤグチは更に『ナツミ』とホワイトボードに書き込んだ。
「私は中堅・・・」
「そう、中堅。あなたの能力は自軍唯一の回復能力だからサポートしやすい中堅にいてもらいます。何か他に質問は?」
ナツミはホワイトボードを見つめながら何かを考えるようにしていたが、やがて小さく「了解」と呟いた。
ヤグチはそれを受けて、更に説明を付け加えた。
「カゴとツジはナツミを完全護衛。逆にナツミはカゴとツジの体力面のサポート。そして後方は・・・」
ヤグチはホワイトボードに『ヤグチ』と『ヨシザワ』と書き込んだ。
「後方の配置は私とヨシザワ。私は指令と前後の行動を取りやすい位置に、ヨシザワは後方を任せる。理由はヨシザワの能力は応用が利くし、私の能力は攻撃と防御、両面が可能だから。私はナツミの護衛、後方の攻撃を担当します」
ヨシザワは何も言わずただ目を瞑って聞いている。
ヤグチは続けた。
「以上で何か質問、意見は?」
「・・・・・・」
「ないみたいなので作戦内容の説明を終了します」
そう言うとヤグチは控え室から出た。他の四人もそれに続いた。

ミッション1終了。失敗。
22 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:28
シュミレーション監視室。
男はシュミレーション監視モニターの前で大きくあくびをした。
この男は・・・昨夜、矢口達を切り刻んだ男である。
年齢不詳、国籍不明。
ただ、分かっていることは矢口達を毎日洗脳し、戦わせ、データを取っていること位である。
もちろん・・・目的は不明。
男はもう一度大きくあくびをすると、手元の書類を手に取った。
(・・・昨日の兵士の負傷者は二十人か・・・)
男は少し、笑いながら書類をゴミ箱に捨てた。
(なかなか成長したもんだな・・・一度目の脱走の時は兵士一人も倒せずに捕まったのに・・・)
(チームワークが出来てきたのか?しかし・・・毎日毎日、よくもまあ、懲りずに脱走を企てるもんだな)
(・・・昨日で三百七回目か)
男はモニターを一瞥すると立ち上がった。
「さて・・・そろそろシュミレーションも終わるようだな・・・おい!」
男に声をかけられた見張りの兵士が駆け寄ってきた。
23 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:29
「はい!何でしょう?」
「そろそろB候補の奴等が脱走する時間だ」
「またですか・・・」
兵士はやれやれといった表情をする。
「まあ、奴等にとっては脱走でも、我々にとっては奴等の強化プログラムだ。しっかりこなしとかないと上がうるさいからな」
「そうですね。では今日は警戒態勢2レベルに落としてやってみますか?」
「そうだな・・・たまにはレベルを下げたデータを取った方がいいかもな」
「では、それでいきます」
兵士は部屋から出て行った。
(今日こそは逃げないと・・・石川の苦労が無駄になるぞ?)
男はモニターを見ながら不気味に笑った。
モニターの右下に赤く、『ハッキング・干渉中』という字が点滅していた。
24 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:29
今から一年ほど前。
淡い月明かりが照らす中、男は死体の山の上に立っていた。
男は狂ったように笑う。
「ははあっははははあははははは・・・!!!!」
辺りは一面、血の海が広がっていた。
男の手には足元の死体の中の誰かのものだろう・・・内臓が握られていた。
死体の山から、人影が浮かび上がった。
男はそれを一瞥して笑う。口元から涎が泡だって溢れている。
「ひゃははははははは・・・・・!!!!お前・・・まだ生きてたの?」
人影はゆっくりふらつきながらも叫んだ。
「お前・・・を・・・殺すまで・・・死ねな・・・いのよ!!!!」
ドンッ!!!!!!
人影が伸ばした手元から光が瞬いた。
バスッ!!!!
男の足元の死体が少し揺れた。
25 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:29
「おいおい・・・酷いもんだねえ・・・流れ弾が当たっちゃったよ・・・もう死んでるけど」
「うるさああああああああああああああああいいいいいいいいいい!!!!」
ドンドンドンドンドンドンッッ!!!!!!!!
人影の手元で光が何度も瞬く。
男が人影に向かって手をかざす。
「無駄だよ・・・」
『断在』。
キィィィ・・・・ィイインッ!!!!
「この世に『在』る物を『断』つ」
人影が大きく揺れた。
「うああああああああああああああああああああああああっ!!!!!くそっ!!!!くそっ!!!」
ドシュウウウゥウンッ!!!!!
人影の上半身のシルエットが消えた。
「君は・・・確か・・・『後藤真希』さんだったかな?」
「・・・・・・・・・・」
人影は返事も出来ずに、倒れ、死体の山に加わった。
26 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:29
石川は後藤がやられていく様をただ見ていた。
『あなたは生き残って・・・』
後藤が最後に石川に残した言葉だ。
石川は死体に囲まれたまま、死体を演じていた。
(なんで・・・)
後藤の上半身が『断』たれた。
(なんで・・・こんなことに・・・?)
後藤の下半身が死体の山に加わった。
(私達は・・・こんなことのために生まれてきたわけじゃないのに・・・)
いつだが、誰かが言っていた。
『世界は愛で満ち溢れている』
(この世界に・・・)
男は笑いながら、死体の山を降りた。
石川の顔の前に男の足が降りた。
(この世界のどこに・・・)
石川は、その男の足を見て目の前が真っ赤になるのを感じた。
27 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:30
パキキキキ・・・・ンッ!!!
知らぬ間に能力を発動させていた。
(目の前に元凶があるのに・・・)
パキパッキキキッ!!!!!!
(黙って・・・みて・・・)
キ・・・・ンッッ!!!!!!!
(られるわけないじゃない!!!!)
石川は男に掴み掛かった。
全身を凍りつかせながら・・・
「ああああああああああああああ!!!!!」
能力が暴走している。
石川の足の筋がぶつっ!という音を立てた。
その足を包むように、氷の花が咲いた。
「ああああああああああああああ!!!!!」
男は石川に押し倒された。
が、未だに顔は笑っている。
「ああああああああああああああ!!!!!」
パパパパパッパパパッパパキンッ!!!!!!!
男の身体を氷が包んでいく。
「ああああああああああああああ!!!!!!!あ・・・!?」
石川が慌てて、男から離れた。
28 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:30
と、同時に・・・石川の腹部から何かホースのようなものが飛び出した。
それは・・・腸だった。
「がっ・・・あ・・・!?あっ・・・」
男が笑いながら手をかざす。
石川はその手をめでゆっくりと追っていく。
男の手が素早く、大きく、孤を描いた。
ザックゥゥンッ!!!!
視界が消えた。

時は戻る。
そして、現在。
29 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:30
車椅子がぎしっと音をたてた。
車椅子に座っている石川の身体に、まるでミイラのように痛々しく包帯が巻きついている。
石川は目の前のパソコンの電源を落とした。
そして、一息ついた。
「ふう・・・・」
石川は車椅子を動かして、ドアの前に移動した。
(また、来たか・・・)
ドアの外から殺気が部屋へと入ってくる。
石川は眼を閉じて、ゆっくりと能力を開放していく。
キイイイィイィィィ・・・・
車椅子が不気味な音を立て始めた。
(人数は・・・おそらく三十人くらいか・・・?)
石川を中心に床一面を氷が広がっていく。
(足りないよ。あと千人は連れてこないと・・・)
石川は車椅子を前に進めた。
勢い良く、氷の上を車椅子が滑っていく。
バンッ!!!!
ドアが勢い良く開いて、兵士が雪崩れ込んできた。
30 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:31
先頭の兵士が叫んだ。
「床が凍りついてるぞ!!気を付けろ!!」
「『氷現』か・・・!」
「石川は・・・!?」
ヒュッ!!!
ガガガガガガガガガ・・・・!!!!
「うわああああああああああ!!!!!」
先頭の兵士を氷の飛礫が襲った。
「くそっ!!能力遮断能力発動!!」
兵士が腕をかざすと、氷が消えていった。
「足元の氷も遮断しろ!!」
床の氷も消えて、床が見えるようになった。そうやってドアから、ゆっくりと部屋の中へと進んでいく。
(制圧のプレッシャーを与える気か・・・)
石川は物陰から様子を確認すると、氷の飛礫を兵士達に向かって放つ。
だが、その氷の飛礫も遮断される。
しかし、構わず能力を放ち続ける。
「邪魔くさい奴だ・・・」
兵士は歪んだ笑顔を作ると、拳銃を構えた。
パパパパパパンッ!!!!!
部屋中に銃声が響く。
31 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:31
ガキンッ!!!!!
「!!見つけたぞ!!!」
氷の防御。つまり、そこに石川がいる。
「全員!!三時の方向に能力を展開しながら進め!!」
兵士の命令を聞いて、石川は唇を噛み締めた。
(命を無駄にするなよ・・・!!!)
石川は膝の上に乗せたノートパソコンを開いた。
そのパソコンのモニターには『NS』の文字が浮かんでいる。
石川はエンターキーを押した。
ピーーーーーッ!!!!
パソコンから大きな電子音が鳴った。
「何だ!?」
兵士達はその音を聞いて立ち止まった。電子音がゆっくり小さくなって消えた。
そして続いて石川の声が響いた。
「この室内にいる者に告ぐ!!!これは警告だ!!!」
兵士は怪訝な顔をした。
(警告・・・?)
32 名前:ミッション2 投稿日:2004/10/26(火) 02:31
石川は更に続ける。
「それ以上、私に近付くことを禁ずる!!!今すぐ、この部屋から撤退しろ!!!」
(撤退・・・だあ?)
兵士の顔が怒りで歪む。そして言った。
「自分が何を言っているかわかっているのか・・・?形勢は圧倒的に・・・」
それを遮るように石川の怒声が飛ぶ。
「帰れって言ってるんだ!!!手ぶらでは戻れないというなら、情報をやる!!!明日、午後十時半・・・」
パンッ!!!!ガキンッ!!!!
銃声と共に、石川の車椅子のグリップが弾け飛んだ。
石川は一旦、身を伏せ、そして兵士の方を見た。
「馬鹿にするのもいい加減にしろ!!!!」
兵士はそう叫ぶと、一斉に石川に向かって走り出した。
「・・・ばか・・・」
石川はそう呟くと、『NS』を発動させた。
33 名前:GO 投稿日:2004/10/26(火) 02:34
どうも。
久々という事でミッション0から2まで一斉更新しますた。
なんか・・・文章能力が落ちてるような・・・(^^;
とりあえず感想等がありましたらお願いすます

では
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/10/26(火) 21:49
いきなり凄い展開ですね。
前の黄板もずっと見させて頂きました。
復活、喜ばしいです。
35 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:11
シュミレーションゲーム。
意識、精神のみを別空間(ステージ)に転送し、五人対五人の戦闘を行う。
ステージごとに制限時間が設けられており、これを過ぎると強制的に意識が戻される。
このシュミレーションの特質として、ゲーム内でプレーヤーが怪我をすると
現実世界のプレーヤーが同じところに怪我をするというところがある。
つまり、それによって、本格的で本番により近いシュミレーションが行える・・・
36 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:12
シュミレーションの説明書を投げ捨てると、男は監視モニターの方へと向き直った。
「まさか・・・ハッキング被害をうけるとはなあ・・・」
石川がハッキングしている事は百も承知だが、今のところ大きな問題はない。
一体、石川は毎回、ゲームに干渉して何をしようとしているのか?
「やはり・・・こいつか?」
男は『矢口』のデータを開くと、過去経歴閲覧のマークをクリックした。
石川との関係は、今のところ報告されていないが・・・。
「・・・・・・あやしいんだよな・・・」
男は大きくため息をつくと、椅子にもたれかかった。
「・・・念のため、アプローチをかけてみるか・・・」
そう呟くとタバコを咥えて、火を点けた。
37 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:12
シュミレーション終了後。
『矢口』達は再び、脱走を試みていた。
「どけよっ!!!どけっ!!!」
矢口の放つ砂の蛇は、兵士の目の前でただの砂に戻る。
それでも矢口は能力を放ち続ける。
キィイイイイイ・・・・
ザザザザザザ・・・・ンッ!!
キイイイイイイィィ・・・・
ザザザザザザザ・・・・ンッ!!!!
兵士達の目の前で、勢いを失い、崩れる砂はさながら翼をもがれた鳥に見えた。
「くそっ!くそおおおおお・・・」
矢口の顔がゆっくりと青ざめていく。
砂の蛇も、段々威力が落ちていった。
「くっ・・・もう・・・」
38 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:13
矢口が振り返ると、加護と辻が捕まっているのが見えた。
二人は狂ったように暴れ、もがいている。
「つじ・・・か・・・ご・・・」
気付いた。
吉澤となつみの姿がない。
(もう・・連れ・・・ていかれ・・たのか・・・?)
視界が霞がかってきた。
地面が揺れ始めた。
いや、足に力が入らなくなっているのだ。
(く・・・そ・・・、また・・・・)
そこで完全に矢口の意識は消えた。
39 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:13
矢口が気が付くと、そこはシュミレーションの際に使う、小さな個室だった。
毎回、この個室から意識を『ステージ』に飛ばされていた。
頭は固定され、その時と同じように『意識転送ヘッド』が付けられている。
いつもは身体は自由に動かせるのだが、今回はなぜか身体も固定され、床に貼り付けられる形になっている。
『おはよう、矢口君』
目の前のスピーカーから男の声が流れた。
矢口は頭を動かせないので、目だけを動かしてスピーカーを睨んだ。
『気分はどうだ?心拍数がいきなり上昇したようだが・・・』
矢口はすっと息を吸い込むと、スピーカーに向かって吼えた。
「最悪だよっ!!!クソ野郎!!!」
一気に叫ぶと、少し視界がふらついた。
寝起きで叫ぶもんじゃないな、と矢口は思った。
40 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:14
スピーカーからは、一転、だらけた声が流れた。
『いまので、感情値と血圧も上がったぞ?寝起きから叫ぶもんじゃないぞ』
(くそっ・・・・)
矢口は顔を真っ赤にしながらスピーカーを更に睨んだ。
『さて、今から君にはシュミレーションゲームを受けてもらう・・・が、その前に何かいつもと変わった事に気が付かないか?』
矢口は怪訝な顔をしながら、辺りを見回す。
(変わった事?)
「・・・身体が縛られて、しかも能力が使えない位だよ」
先程から能力を発動させているが、全く反応がない。
おそらく、この個室が『能力遮断空間』なのだろう。
『能力遮断空間』とは文字通り、能力を使用出来ない空間である。
シュミレーション前に入る控え室も、確かそうだった。
あきれたような声が聞こえた。
『・・・君は鈍いなあ・・・他の四人はすぐに気付いたのに』
41 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:14
矢口はしばらく考えて・・・気付いた。
(・・・・・・あっ!今、おいら・・・)
『・・・君の意識が洗脳状態じゃないんだよ。今まで、通常状態でシュミレーションは受けた事がないだろう?』
(なんで・・・)
『今日は通常状態でシュミレーションを受けてもらう。もちろん他の四人も一緒だ』
「ふざけんなっ!!!操られてなかったらゲームなんかしない!!」
『ははっ・・・ところが、やらなくちゃいけないんだ。君達は』
室内の電気が消えた。
『転送開始』
矢口が何かを叫ぶと、ほぼ同時に、意識が飛んだ。
42 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:14
男はマイクを投げ捨てると、モニターの前に座った兵士に手をひらひらさせて、合図を送った。
兵士は小さく「はっ」と言い、目の前のモニターを確認する。
「コード『モーニング娘。チーム』!問題ありません!」
「こちら、コード『M2チーム』も、問題ありません!」
男はそれを聞いて、手を大きく仰いだ。そして、言った。
「よし、ではシュミレーションゲーム、第402ミッションスタート!!!」
43 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:15
矢口が目を開くと、そこは病院だった。
だが、病院らしいものは何も見ていない。
ただ、病院のような・・・そんな気がしただけだ。
「・・・みんなは?」
矢口は辺りを見回した。
いつもは転送後、全員揃っているはずなのだが・・・
辺りは静まりかえっており、人影一つ、なかった。
「なんでだろ・・・」
矢口はそう呟くと、とりあえずみんなを探す為に移動することにした。
が、すぐにその歩を止めた。
(人影!!)
ちょうど、十メートルほど先の曲がり角の奥から、人影が伸びている。
矢口は脇の白い壁に手を当てると、一部分を砂に変えた。
(敵か・・・味方か・・・)
手のひらに砂を掴んで、身構えた。
44 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:16
敵の場合、すぐさま攻撃するには砂の蛇よりこちらの方が良い。
『砂の銃弾』。
曲がり角を曲がって姿を見せたのは、まるでミイラのように全身を包帯で巻いた『彼女』だった。
「な・・・け・・・圭ちゃん!?」
包帯で全身、顔もほとんど隠れていたが、あの猫目・・・すぐにわかる!
そう、現れたのは保田圭だった。
矢口の手から砂が零れ落ちたと同時に、目から涙が溢れ出した。
「うそ・・・なんで・・・」
喜びで身体が震えている。
矢口はゆっくり保田に近付いた。
「無事・・・無事だったの・・・?」
矢口は保田の顔に触れようと手を伸ばして・・・
気付いた。
そして全身に悪寒が走った。
(・・・!!!?誰だ!?こいつ!?)
違う!保田ではない!
矢口はすぐさま能力を発動する。
が、矢口は無防備に近付きすぎた。
保田、のようなミイラ女が、矢口の頭を片手で掴んだ。
「うわあああああああああああああ」
45 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:17
矢口は恐怖で叫び声を上げながら、手の汗を砂に変えた。
(くそっ!量が少ない!でも!目潰し程度なら!)
ミイラ女に向かってその砂を投げつける。
だが、ミイラ女は目を瞑り、それをかわした。
矢口はそれも見て小さく笑った。
(目を瞑れば、潰したのと一緒だよ!)
「おらっ!!」
ガツンッ!!!
矢口は思いっきり、ミイラ女の顔を蹴り上げる。
足にミイラ女の顎が砕ける感触が伝わった。
同時に矢口の頭を掴んでいた手が離れた。
(・・・こいつ・・・圭ちゃんの姿をしてるの?そういう能力?それとも・・・)
考えるのは後だ。
矢口は壁を砂に変えると同時に、それを掴んだ。
砂の密度を最高まで上げる。
46 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:17
手のひらの中に『砂の銃弾』が出来上がった。
(もし・・・圭ちゃんだったら・・・ゴメン!!!)
足元に同時に作っておいた『砂の蛇』に『砂の銃弾』を埋める。
『砂の蛇』がミイラ女に巻きついた。
「かっ・・・かはっ・・・!!」
ミイラ女が小さく喘いだ。
骨が軋む音が鳴る。
『砂の蛇』がミイラ女の顔の前で口を開いた。
「くらえっ!!」
矢口がそう叫ぶと同時に、『砂の蛇』は『銃弾』を『散弾』にして吐き出した。
ガガガガガガガ・・・・・!!!
よけることも出来ず、ミイラ女は全身にそれを浴びる。
「があああああああああああ!!」
ミイラ女が叫ぶと同時に、大きく開いた口から大量の血を吐き出した。
(これ以上、やると死んじゃうかも・・・)
そう判断した矢口はミイラ女に巻き付けていた『砂の蛇』の操作を解く。
ミイラ女は受身も取らずに、地面に落ちた。
47 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:18
くの字に折れて、項垂れているミイラ女からは、戦意が感じられない。
「・・・圭ちゃん?」
矢口は警戒しながら、ミイラ女に近付く。
確かめなければならない。
この『ミイラ女』は『保田圭』なのか・・・
「・・・・・・・・・・・」
ドウンッ!!
「えっ?」
矢口の身体がふいに浮いた。
ミイラ女が呟いた。
「・・・ナンバー・・・19・・・盗影(とうえい)・・・」
(こいつ!!)
矢口は目を疑った。目の前にいるのはミイラ女などではなかった。そして、保田圭でも・・・
それは・・・見たところまだ中学生ほどの女の子だった。
そして、その女の子がおよそ中学生らしくないところといえば、女の子の腕が、矢口の首を締め上げている事くらいだった。
「・・・あっ・・・ぅ・・えっ・・・?」
48 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:18
(・・・オイラは・・・何を見てた・・・!?)
ぎりっ、と首を締め上げる力が強まった。
(こんな・・・女の子が・・・け、圭ちゃ・・・ん?)
矢口の口から血が噴出した。
が、その矢口の口は笑いの形をしていた。
(・・・全然、肌の張りが違えよ!!)
ひゅっ・・・・
ドンッ!!
矢口は蹴りをつきだすと、女の子を突き放した。
「がはっかっ・・・はっ・・・!!!」
精一杯、空気を吸い込んだ。
ようやく、声が絞り出せた。
「・・・あんた・・・『axを使うって事は・・・」
間違いない。
候補生だ。
49 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:19
場面は変わる。
50 名前:ミッション3 投稿日:2004/11/14(日) 03:19
辻は狼狽していた。
目の前の少女は、にやつきながらこちらを見ている。
足元には血まみれの加護の姿。
ここは病室だったが、今は病室の原型を留めておらず、瓦礫と砂埃の舞う、散らかった部屋になっていた。
辻が呟いた。
「・・・こんな・・・」
こんなはずではなかった。
とっとと、このシュミレーションをクリアして、現実世界に戻るはずだったのだ。
しかし・・・
「思ったより強くてびっくり?」
そう言って、目の前の少女が笑った。
少女は一体、いくつなのだろうか?
辻よりも年下に見えるが・・・
「辻たちは・・・ただ、現実世界に戻りたいだけなんれす・・・」
辻がそう呟いた。
少女がそれを聞いて、また少し笑った。
51 名前:GO 投稿日:2004/11/14(日) 03:25
はい、毎度。たらたら更新しております。
続編とはいえ、数年間放置、基、更新できなかった分、ブランクが物凄いです。
でもがんばるます。
感想に対するお返事。黄板から見ていただいていたとは光栄です。
これからもご愛読のほどお願いいたします。
52 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:21
『(ちょっと・・・もう無理かも・・・)』
保田の声に矢口は心の中で頷いた。
(うん・・・もういいよ)
矢口は脱力した。
これが・・・これが自分達の現世なのか・・・?
悲惨などというレベルの話ではない。
53 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:21
保田は《追憶》を止めた。
途端、矢口の視界は真っ暗になった。
そして、更に飯田が《交信》を止めた。
矢口の視界がゆっくりと夜の闇を捉え始めた。
「・・・あ、ああ・・・」
涙が溢れてきた。
54 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:22
ショックで意識が定まらない。
矢口はパニック状態に陥っていた。
保田は矢口の肩が掴むと叫んだ。
「矢口!しっかりしな!」
心配そうに石川が矢口を見ているのが、視界の端に映った。
「今のが・・・」
「そう、現世の記憶。まあ、ダイジェスト版みたいなもんだけど」
後藤が興味がなさそうに言った。
55 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:22
「ここは・・・?」
矢口が口をぱくつかせながら言った。
「病院の屋上。あんたは、圭ちゃんの《追憶》とリーダーの《交信》で、前世の世界に行ってたの・・・って」
後藤はため息をついた。
矢口は放心状態で、空を見続けている。
「こりゃ、聞いてないね。まあ、無理もないけど」
「矢口さん!しっかりして下さい!」
石川は泣そうな顔になりながら矢口に飛びついた。
「矢口さん!?ねえ!?」
「・・・大丈夫」
56 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:22
矢口はかろうじてそう言うと、ふらつきながら保田の前に立った。
「圭ちゃん・・・あれが・・・あんな・・・」
「今、見てきたでしょ?」
そうだ。見てきた。
地球代表として、闘わされて・・・
記憶を操作され、訓練と称して人を殺して・・・
目覚めては脱走を試み、
だが、次の日には記憶を操作され、
何も考えずに闘っている。
そして、それを繰り返し・・・
「結局、死んだ」
57 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:23
「そう、そしてその生まれ変わりが私達」
保田が言った。
矢口は悲鳴のような声で訊いた。
「でも何で、私達がこの世でも能力も持ってるの?」
「そこは私達もわかってないの」
保田が首を振った。
「体験してみてわかったと思うけど・・・」
保田は持っていた煙草に火を点けて一息、吸った。
吐いた。
「この《追憶》と《交信》を混同して使うのはかなり危険なの」
飯田がその後を続けた。
「今の矢口みたいに、パニックに軽くなるくらいならいいけど、もし間違えば精神が壊れちゃうんだよ」
矢口はそれを聞いて、ぞっとした。そんなもの、使うなよと思ったが、黙っていた。
保田が再び引き継いだ。
「だから、思い出せるのはここまでが限界なの。まあ、私自身が能力をここまでの長さしか使えないってのもあるけど」
しかし、これではっきりした。
自分達が何者で、何故、狙われているのか、を。
そして・・・
58 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:23
「なっちを・・・助けられる」
矢口がそう言うと、保田は頷いた。
「・・・?どういう事ですか?」
何の事情も分かっていない石川が尋ねた。
「なっちは自分自身に能力を使ってるだけなんだ」
矢口はそう言うと、ため息をついた。
「そして、それはオイラのせいなんだ」
「矢口さんの・・・せい?」
結局、わからないという顔をして、石川は黙った。
そして、説明を求めるように、保田を見た。
保田は、ゆっくりと話し始めた。
59 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:23
「私達はね、《atというものを皆、脳に埋め込まれているの」
保田はそう言って、石川の頭をつついた。
「そして、どういう理屈なのかは知らないけど、その《atがこの《能力》を発動させる」
キィィィ・・・ン
保田の手のひらが淡い青色の光を帯びた。
「この能力を使って、私達は前世、地球代表として別の宇宙の《侵略者》を倒さなければならなかったの。でなきゃ、地球は《侵略者》の食い物にされる」
石川は信じられないといった顔をした。
侵略者?そう簡単に信じられるわけがない。
「まあ、ここにも理由があるんだけど、今は掻い摘んで話すね。それで、ともかく《atを埋め込まれた。私達は」
石川はそこが重要なんじゃないの?と言おうとしてやめた。
「この《atはそれぞれ番号が振り当てられてて、私の《追憶》は3番。石川の《氷現》は8番。こんな風に名前が分かれば、番号が。番号が分かれば能力が分かるの」
追憶を使えば、もっと簡単なんだけど・・・と保田が付け加えた。続けた。
「そして、その番号は危険度を表すものでもあるの。少なくなっていくにつれて、その《atは危険だという事になる。自分にとっても」
ちょっと待って下さい、と石川が言った。
「という事は、私のひょ・・・えっと・・・」
「氷現」
保田が笑いながら言った。
60 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:23
「その、《氷現》よりも保田さんの《追憶》の方が危険って事になりますよね?でも、戦闘になった時は、保田さんの能力の方が不利じゃないですか?」
「・・・そうだね。でも、精神系統の能力はリスクがすごいの。だから、自分に対するリスク、つまり危険度が高い分、番号が少ないんだと思う」
保田はそう言うと、フィルターまで焦げている煙草を捨てた。また、新しい煙草に火を点けた。そして、言った。
「・・・で、となると、一番危険なのは何かわかる?」
保田が大きく煙草を吸った。
「・・・《bP》。」
「そう、そしてその《bP》を持っているのが・・・なっちなの」
そこまで、言って保田は煙を吐き出した。
救急車の音が何処かで聞こえた。
61 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:24
気が付くと、そこは救急車の中で、辻は目だけを動かして、辺りを見回した。横には医者(のように見える)が辻の顔を覗き込んでいた。
(何が・・・)
辻はゆっくりと目を閉じると、記憶を取り戻そうと静かに息を吐いた。
いつものように加護と学校に行き、
いつものように放課後になり、
そうだ。
見知らぬ人が訪ねて来た。
一人は日本人だが、他は外人だった。
そして?
「あ!」
突然、大声を上げた辻に、医者達が驚いた。
(そうれす!それから戦って・・・で・・・)
音楽室で起きた出来事を思い出した。
「あ・・・ああ・・・」
そして、その後・・・
62 名前:ミッション4 投稿日:2004/11/21(日) 05:27

ミッション4 終了 (本番まで残り一ヶ月)
63 名前:GO 投稿日:2004/11/21(日) 05:33
どうも。
ストーリーは再び、ここから現代に戻ります。
よくわからない方はすみませんが黄板の方で読んで下さい。
(わかるように書くって言っといて・・・)
いまさら、説明も嫌なんですが・・・
この物語は時間軸がすごい勢いで変わります。
それも前世、現世、来世の三つを大きく動くので、わかりやすくしようと
思うものの、どうしてもわかりにくくなるときがあります(文章能力不足)
こんなんでよければ読んでやってください。
長書き&注意書きでした。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/17(金) 19:20
復活おめでとうございます。
書く方にとってもややこしいと思いますけど
頑張ってくださいませ。
65 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:39
「なっちの能力は《覚静》っていうの」
そういうと、保田は矢口を見た。
「この能力は、精神系統の能力なんだけど、私の《追憶》やカオリンの《交信》とはレベルが違う」
あっ、カオリンってのは彼女ね、と保田が飯田を顎で示した。
「私の《追憶》は文字通り《記憶》を《追う》だけのもので、対象者の記憶を読み取るだけ。ぱっと見、役にはたたない能力のようだけど、その読み取れる範囲が一秒前から前世までの広さであるって所が一応、凄いところかな」
そう言って保田は手のひらを突き出した。
石川にとって、その説明はやや予想していた通りだった。
石川の顔を照らすように、保田が突き出した手のひらの上に淡い青色の光が灯った。
「それで」
保田が続けた。青い光が消えた。
「カオリンの能力が《交信》。これは簡単にいうとテレパシー。人と思念だけで会話が出来る。多重電話みたいな複数の会話も可能なの」
飯田を見ると、呆けた顔で空を眺めている。
「・・・で、話が戻るけど、なっちの能力《覚静》は精神の覚醒と静寂を自在に操る能力なの。この意味わかる?」
さっぱりだ、というように石川が首を振った。
66 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:39
「簡略して説明すると、まず人の精神っていうのは必ず四つの部屋で出来ているの。一つは、自分も他人も知っている精神。二つ目は、自分しか知らない精神。三つ目は、自分は知らないけど、他人は認識している精神。最後に自分も他人も知らない精神」
簡略したせいなのか、理解力が足りていないのか、全く理解できない。
石川は指を折りながら呟いた。
「えっと・・・一つ目が自分と、他人が知ってる精神・・・」
「そう、例えば・・・精神というより、心といった方がわかりやすいかな?あなたはよっすぃーが好きでしょ?」
「え?」
突然、突拍子もない質問に、石川は赤面して俯いた。そして呟いた。
「いえ、まあ、あの、好きっていえば、好きですけど・・・その、あの、あれです、あの恋人とかの好きじゃないっていうか、えっと」
しどろもどろになっている石川を眺めて、保田は軽く笑いながら言った。
「まあ、どんな好きでもいいよ。とにかく、あなたがよっすぃーを好きだと思っている心を私も知ってる。つまりこれが一つ目の部屋」
石川はまだ赤面していたが、保田は続けた。
「そして、二つ目の部屋は、あなたしか知らない心。つまり、恋人の好きか、それとも友達として好きなのか、それは私がはたから見ててもわからない。あなたしか知らない心。それが二つ目の部屋」
なるほど。
ここまで説明されれば石川にもわかってきた。
だが、その例は止めて貰えないだろうか?恥ずかしくって仕方が無い。
それに気付いているのか、保田は意地悪な笑顔を見せて、説明を続けた。
67 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:40
「じゃあ、三つ目の部屋は、私しか知らないあなたの心。あなたが、よっすぃーをただの友達だと思っていても、はたから見てれば、よっすぃーをただの友達だと思っていないのが丸分かりになってるみたいな。そういう、あなたが気付いていない心」
保田が煙草を捨てた。
「最後は、私もあなたも知らないあなたの心。もしかしたら、あなたが気付いていないだけで、心には殺人衝動が眠ってるかも知れない。それは私にも分からないし、あなたも分からない。この部屋の心は、結果として出た時に初めて気付くの。・・・と、いう事なんだけど理解できた?」
石川は頷いた。そして言った。
「それで、それがなつみさんの能力とどう結びつくんですか?」
「例えば、今、言った心の部屋を自分で閉じたり、開いたり出来たらどうなると思う?」
逆に質問で返されて、石川は怪訝な顔をしたが、少し考えて答えた。
「それは・・・なりたたないと思います」
保田が「なんで?」と訊ねてきた。
石川は答えた。
「だって、必ず四つの部屋っていう定義が壊れるから。常に自分にとって開いている部屋は、《自分も他人も知っている部屋》と《自分しかしらない部屋》だけですよね?それなのに・・・えっと、なんて言えばいいんだろう?《自分の知らない、他人しか知らない部屋》や《自分も他人も知らない部屋》を開いたとして、それを知ってしまうというのは矛盾が生じますよね?」
保田は最後まで聞いていたが感想は「難しい言葉、知ってるね?」だった。
「そうですか?ともかく・・・」
そんな感想が聞きたいわけじゃない。
保田は、石川の言いたい事がわかったのか、石川の言葉を遮ってようやく話の核心に迫った。
68 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:41
「そういう事なの。なっちは自分の心の開いてはいけない部屋を開いた。結果、心には矛盾が生じて、心が壊れた。心が壊れると、何も出来ない。例えば、物を見るという事は、物を見たいという心があって出来る事。でも心が壊れたなっちにはそれも出来ない。目覚めたくても、目覚めたい心がないから出来ない」
「だから・・・目覚めない」
「その通り。部屋は常に四つじゃなきゃいけないの。でも、なっちの部屋は、二つになってしまった」
「自分と他人が知っている部屋・・・自分しか知らない部屋」
「そこには他人がいない。人は他人を認識する事で自分を維持できる。それならば、他人がいないのなら自分もいない」
「・・・でも、それが、矢口さんと何の関係があるんですか?」
矢口が口を開いた。
「そこからはオイラが説明するよ」
矢口は空を眺めながら、自分に言い聞かせるように話し出した。
69 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:43
「圭ちゃんが《atの数字が少ないほど危険だって言ったよね?」
石川は頷いた。
「はい」
「精神系統はリスクが高い理由の一つに、自分に対して使用できないっていう事があるんだ。例えば、圭ちゃんの《追憶》を圭ちゃん自身が使ったとするよね?すると、圭ちゃんの頭の中には、《過去の自分の記憶》と《その記憶を見ている自分の記憶》が存在することになる。これは大きな矛盾だよね。自分の意識が二人になるんだから」
「確かに・・・」
「更に、カオリンに関しても、それは同じでしょ?つまり、精神系統は自分に使用してはならないっていうルールが出来る。ただでさえ、複雑である精神を操るんだから、それは当然だよね。じゃあ、なっちは二つのルールを破ったことになる。自分に対して能力を使用しないという事と、開けてはいけない精神の部屋を開いたという事。何故、そんなことをしたのか」
「矢口さんの・・・ため?」
「そう、おいらのためにそんな危険をおかしたの。矢口の能力を目覚めさせないために」
「能力を・・・目覚めさせない・・・ため?」
保田が煙草に火を点けながら言った。
「能力が覚醒する条件は、他の能力者に会う事なのよ。いえ、能力者に会って能力を認識すること。そうすれば能力が発動する。たまに、能力を認識していても使えない人がいるけど、それは能力に対する恐怖心のせいだったりするの。よっすぃーの事は、さっき矢口に《追憶》を使ったときに知ったけど、どうやら梨華ちゃんの能力発動を食い止めるために色々やってたみたいだね。結果は残念ながら目覚めてしまったのだけれど・・・」
石川は頭を何かで大きく殴られた気がした。
(え?よっすぃーが・・・私の能力が目覚めるのを食い止めるために?どういう・・・)
混乱している石川に気付いていないのか、矢口が説明を続けた。
「食い止めたいと思った理由はおそらく、よっすぃーと一緒。矢口を巻き込みたくなかったんだと思う。とにかく、能力を認識すれば、そのほとんどは能力が起動していまう。それを食い止めるには、よっすぃーみたいに相手に能力に対しての恐怖心を与えるか、能力を完全に忘れさせるしかないの」
そこで、石川は矢口を見つめた。
70 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:43
「じゃあ、なっちが矢口の能力が起動する事を止めたいと思った場合、どうすると思う?矢口に恐怖心を与える?でも、なっちの能力では恐怖心を与えるようなパフォーマンスが出来ない。じゃあ、能力・・・精神を操れるような自分の能力を使用するしかない。なっちはそう思ったんだ。でも、ここで問題が起きた」
保田がぷかっと煙を吐き出した。辺りに、一瞬、煙が漂って、消えた。
矢口は俯いて言った。
「自分の能力が不安定だってわかってたなっちは、矢口に対して能力を使うことが出来なかった。いや、使うのが恐かったって言った方が正しい。それに、おいらに能力を使用した事で、おいらが能力を認識してしまうかもしれない。とにかく、矢口に対して能力が使えなかった。じゃあ、残る手段というのは・・・」
石川は矢口の肩が震えているのに気が付いた。
(・・・泣いてる?)
矢口の唇が耐え忍ぶように震えていたが、しばらくの沈黙の後、開いた。
絶え絶えに・・・言った。
「・・・なっち・・・自身が・・・能力者で・・・なくなる・・・事」
確かに、なつみが能力者でなくなれば、矢口の能力が目覚めることはなくなる。
そう考えて、ようやく石川の頭の中で答えが見えた。
「なつみさんは・・・自分に能力を使って、自分の能力を封じようとした」
「そう、その結果、心が壊れた」
71 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:44
石川は思った。
なんという残酷な結果だろうか。
結局、矢口の能力は起動し、なつみは心が壊れてしまった。
何一つ、なつみの願いは叶わなかったのだ。
ため息とも、あえぎ声ともとれない声が漏れた。
「あ・・・あ・・・」
石川の頭の中に、吉澤の顔が思い浮かんだ。
吉澤はなつみと同じように(手段こそ違ったが)自分の能力を目覚めさせないように奮闘していたのだ。
それを、自分は、あろうことか、吉澤が最も恐れていた、自分の能力で、傷つけた。
自分はなんという愚かな・・・
「ああ・・・あ・・・」
裏通りの光景が浮かんだ。
72 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:44
(よっすぃーが・・通った道は全てこうなるんだ・・・)
(こうやって・・・よっすぃーは・・・出会ったもの全てを否定して
破壊して・・・)
(孤独になる・・・)
73 名前:ミッション5 投稿日:2005/02/08(火) 01:44
「あああああああああああ」
涙が溢れ出した。
それは、なつみに対しての、または吉澤に対しての、もしかしたら自責の念の涙かもしれなかった。
(私は・・)
吉澤は今まで、出会ったものを全て否定してきたのではない。
肯定し、唯一の道を指そうとしたのだ。
その道は、石川のための道だった。
(なんていう・・・)
吉澤が孤独になったのは、吉澤のせいではない。
(私のせいだ・・・)
自分が情けなかった。
どんな形になろうと、吉澤は自分の親友だったのではないのか?
最後まで、吉澤は自分の事をあんじていたのだ。
なのに、自分は、吉澤は変わってしまっただとか、そんな、下らない理由で、吉澤を裏切った。
「あああああああああああああああああああああああああああ」
石川の声にならない絶叫が、病院の屋上に響いた。
74 名前:ミッション6 投稿日:2005/02/08(火) 01:46
それは偶然だった。
屋上の端に立っていた後藤が、ふいに空に目をやると、《何か》が浮かんでいた。
後藤は《それ》が何なのかを確かめるため、目を凝らした。
(何、あれ?)
空の闇に溶ける様に浮かんでいた《それ》は、どこかで見た事があった。
《それ》は丸く、球体に見えた。
例えるならば、夜空に浮かぶ月のような・・・
だが、《それ》は月よりもはるか近くにあった。
それは・・・
(・・・《散弾》!?)
思い出した。
その瞬間、目を見開いて、後藤は自分でも驚くほどの大声を上げた。
ほぼ同時に、球体が振動した。
「逃げろおおおおおおおお」
球体から、光の弾が五発、飛び出した。
シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!シュッ!
屋上にいた全員が後藤の方を見た。
そして、ようやく自分達に飛来する光の弾を視認した。
が・・・
75 名前:ミッション6 投稿日:2005/02/08(火) 01:47
(間に合わない!)
後藤は身を捻り、光の弾を交わした。
ガガガガ・・・・ン!!!
が、残りの四発は見事に、他の人間を一掃した。
光の弾はそれぞれ、
矢口と石川の後頭部に、
飯田の腹部に、
保田の肩に、
見事に直撃した。
そのまま、四人は倒れた。
だが、その状態は全く違った。
ダメージを受けて苦しそうに跪く飯田と保田。
それとは違い、後頭部に直撃した矢口と石川は意識を失い、受身も取れずに倒れた。
「くそっ!」
後藤はそう吐き捨てると、球体を見上げた。
球体は何事もなかったように、そこにただ浮かんでいる。
保田が肩を押さえながら叫んだ。
「後藤!松浦が来てる!」
「わかってるよ!」
後藤は球体を睨みつけながら、叫んだ。
76 名前:ミッション6 投稿日:2005/02/08(火) 01:48
(なんで、もっと早く気付かなかった!くそっ!)
あの球体は松浦の能力だ。
と、いう事は、近くに松浦が来ているのか?
「松浦あああああああ!!出て来い!!」
叫んだが、声は夜空の闇に飲み込まれ、何の返答もなかった。
ただ、不気味に球体が頭上に浮かんでいる。
保田が叫んだ。
「後藤!逃げるよ!このままじゃ勝ち目がない!」
戦闘の際、保田と飯田の能力は役には、ほとんどたたない。
矢口と石川の能力ならば、充分に役立つのだが、その二人は伸びている。
(なるほど。それが狙いか)
(邪魔な能力を抑えて、甚振ろうって魂胆か)
(松浦の考えそうな事だわ)
(くそっ!)
77 名前:ミッション6 投稿日:2005/02/08(火) 01:48
後藤は唇を噛み締めると、逃げるという最も忌み嫌う行為を受け入れた。
その代わりに、保田に向かって怒鳴った。
「でも、二人は伸びてるし、圭ちゃん達も怪我してんじゃない!!どうするのよ!!」
どう考えても、逃げ切るまで待ってくれる事はないだろう。
球体は監視するように宙に静止している。
(どうする!?)
後藤は辺りを見回した。
松浦の姿は見えない。
「・・・だめだ」
後藤は呟くと、保田に向かって叫んだ。
「逃げ切れないよ!!戦うしかない!!二人はそこに寝てる役立たずを連れて逃げて!!」
ポケットからはみ出すように入れてあった拳銃を取り出した。
それを確認したように、球体が大きく振動する。
そして球体から光の弾が、後藤に向けて、発射される。
シュシュシュシュ・・・!!!!
「なめんなっ!!」
後藤がそう叫んで、光の弾に向けて拳銃を構えた。
そして光の弾の数だけ発砲した。
ドンドンドンドン!!!!
その銃弾は、全て、完璧に、光の弾を打ち抜いてかき消した。
78 名前:ミッション6 投稿日:2005/02/08(火) 01:48
「ひゅう♪」
何処かで口笛の音がした。
後藤はそれで、にやりと唇を歪ませた。
(本当に馬鹿な女・・・)
素早く、口笛の音の方へと身体を向ける。
(その驚いた時に口笛を鳴らす癖・・・)
拳銃を構える。
(直せって言ったでしょ?)
視認してはいない。
だが、何処にいるのかは大体、見当がついた。
(その上、あんたは、そのあとに必ず・・・)
屋上の出入り口の上。
(こう言うんだから・・・)
この病院で一番、高いところ。
声が聞こえた。
「・・・すんげえ、ですね」
(馬鹿か、あんたは)
心の中で吐き捨てるように言うと、後藤は拳銃の引き金を引いた。
ぱーーーーんっ!!
銃声が屋上に響いて、夜空に消えた。
それと同じように、球体も消えた。
79 名前:GO 投稿日:2005/02/08(火) 01:55
またしても長期間の放置。
申し訳ないです。
申し訳ないのですが、言い訳をひとつ、お聞きください。
納得がいくまで書き直しをしていたらこんなにも時間がたっていました。
ミッション4のあの長文を何とか短くまとめたかったのですが、
結果、この有様でございます。(これでも、約半分まで縮めたのよ)
ただ、やはり完結までは持って行きますので、どうかお付き合い下さい。
畏敬。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/16(水) 12:36
気になるところで切れてるなあ…続き待ってまーす

Converted by dat2html.pl v0.2