田中れいな生誕祭

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:37
間近に迫った田中れいなたんの誕生日を祝うスレです。

从 ´ ヮ`)でも从 `,_っ´)でも从 ` ヮ´)でも。
あなたの心の中のれいなたんの形を書いてください。
サイズも期限も無制限。複数投稿も大歓迎です。
日ごろ溜め込んだれいなたんへの愛情を、一つの形にしてみませんか?
よろしくお願いします!
2 名前:life cycle 投稿日:2004/11/01(月) 00:47
「ねぇねぇさゆ」

「ごめん、ちょっと絵里と約束があるの」

「ねぇ藤本さん」

「あ、今日はラジオの日なんだ。ごめんね」

次々と開いては閉められていくドア。

気づけば楽屋には私だけになっていた。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:48
「はぶってるよなぁ」

私は一人呟く。
別にいじめられてるとか、無視されてるとか、そういうのは無いけど。
なんか、線があるっていうか。
なんだろうなぁ。
石川さんには吉澤さんがいて。
加護さんには辻さんがいて。
藤本さんには松浦さんがいて。
さゆには絵里がいて。
なんか、そーゆー人が私にはいない感じ。
そう、たったそれだけ。

「帰ろっか」

もう一回、一人呟いてカバンを持つ。
11月になると、外は寒いから。
実家の福岡と比べて東京は寒い。
でも、それがただ、気温の問題だけじゃないって、2年目にしてわかりつつある。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:48
前を歩くカップル。
短いスカートで友達とショーウインドウを覗いてるお姉さん。
顔を赤らめながら、肩を組んで歩いているおじさん。

そういう人たちは、あったかそうで。
私は、寒くて。
一人で。

ポケットに振動を感じた。
メールだ。
ホッとして携帯を開けるが、届いたのは出会い系サイト。
すぐに削除して。
目に浮かんだ涙を袖で拭いた。

「バカみたい」

私は呟いた。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:49
そのときだった。

「あ、田中じゃん」

急に掛けられた声。
振り返ると石川さん。

「今帰り?」
「はい」
「急いでる?」
「いえ、別に」

そう答えた時、電子音が響く。
石川さんの携帯。
聞いたことのある曲だったけど、曲名はわからなかった。

「よっすぃか。ちょっと待ってね」

そう言って石川さんは話し始める。
吉澤さんということを聞くと、また私の心に風が吹いた。
私と吉澤さんのどちらを選ぶかなんて、決まりきってることだから。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:50
「え、今?ごっちんいるの?うん、うん」

会話の端々を聞き取る。
後藤さんと吉澤さんがご飯に誘っているようだった。

「うん、じゃね。ごっちんによろしく」

切られた電話。
私は次の言葉を聞きたくなかった。

「ご飯食べにいこっか?」

予想とはかけ離れた言葉に、私は答えがすぐに出せなかった。

「用事、ある?」
「いえ、無いですけど……私でいいんですか?」

小声で私は答える。
うれしかったけど、それ以上に不安だった。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:50
「え?どういうこと?」
「だって、吉澤さんからお誘いだったんじゃないんですか?」
「え、あ、さっきの?」

私は頷く。
別に、私はよかった。
わかってるから。

「いいよ。田中を見つけたのが先だし」
「え?でも、吉澤さんの方が大事じゃないですか?」
「なんで?」
「え…いや…」

答えに困る。
本人を前にして、私より吉澤さんの方が好きでしょとは言えるわけも無かった。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:51
「じゃーいいじゃん。そこにさ、おいしいパスタのお店あるんだ」

戸惑う私の手を取り、石川さんは歩き出す。
つないだ手は冷たかったけど、私はもう寒くなかった。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 00:52
おしまい


次、よろしくです
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:01
2番手行きます。
新高に振りまわされる田中という設定です。
各メンバーの方言が適当なのはご容赦下さい。
11 名前:亀井ちゃん獲得大作戦 投稿日:2004/11/01(月) 16:04

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マル秘 亀井ちゃん獲得大作戦
 
1.誕生日パーティでれいなと亀井ちゃんを2人きりにするべし(担当:里沙ちゃん)
2.亀井ちゃんとしげ美を隔離するべし(担当:たかはし)
3.亀井ちゃんに告白するべし(担当:れいな)
4.ちゅーしてめでたしめでたし (担当:れいな)
                                      作成:高橋愛(18)
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12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:05
「れい あっしの話聞いてる?」
「ご、ごめんなさい 今何言うたと?」
「だから里沙ちゃんとあっしが協力したる言うてるやろ?」
「はぁ」
れいなは気のない返事を返した。
「何がはぁや 昨日里沙ちゃんと徹夜で考えたマル秘作戦やで」
「でも絵里にはさゆがおるし」
「れい 愛は奪うものやよ」
「ちゅーしてめでたしめでたしってこんな作戦聞いたこと無かとよ」
「完璧な作戦やで」
「田中ちゃんは亀井ちゃんとチューしたくないの?」
「新垣さんまで変なこといわんといてください。」
「ちゅーは気持ちいいのにね 里沙ちゃん」
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:06


「愛ちゃん達は結局はれいなで遊びたいだけとよ 
そんなに絵里に振られるれいなが見たいと?」
「見たーい」
小声でつぶやきいた愛の足を里沙が思いっきり踏んだ。
「いったーい。信じられへん。この子あっしの足思いっきり踏んだんやよ」
「愛ちゃん少し黙っててくれるかな?」
「れい 今の見たやろ?里沙ちゃんは恋人であるあっしに今暴力ふるったんやで」
「もーめんどくさい。愛ちゃん!少し黙ってて!うちらがここにきたのは田中ちゃんのためだよ。 うちらが喧嘩してどうするの?」
「せやけど...」
愛は納得いかない様子でまだ里沙に文句を言っている。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:07

「くっく くっく ひー わーはっは 愛ちゃんおもしろー」
れいなは2人のやりとりに我慢できずに笑い転げていた。


「新垣さんもいろいろ大変ですね」
「もー馴れたよ。腐れ縁だしね」
「あっしだって大変やよ」

15 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:07
大まじめに作戦を説明する愛とそれを優しく見守り時には通訳をする里沙
いつのまにかれいなはそんな2人が大好きになっていた。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:08
「愛ちゃん 新垣さん 色々ありがとう」
「やっと作戦に乗る気になったんか?」
うれしそうに作戦書をひろげる愛。
首を横に振るれいな。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:09
「れいなはさゆを好きな絵里が大好きやけん。作戦にはやっぱのれんたい。」
「そっか」
がっくりする肩を落とす愛。
「田中ちゃんは大人だね。愛ちゃんと違って」
「あっしだって大人やよ。もう18になったんやし」
漫才のようなやりとりを背中に感じつつれいなはそっと席を立った。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:11

「やっぱり作戦を決行することにしました。相手は絵里じゃないけど」」
そういうと素早く愛と里沙の唇に軽くキスをした。

「うわー里沙ちゃんとれい ちゅーしよった」
「愛ちゃんだってしてるじゃん」
「里沙ちゃんどうしよ どうしよ」
「少し早いけど2人から誕生日プレゼント貰っちゃいました。」

19 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:12

「いつも以上に騒々しいね。あのふたりどうしたの?」
いつの間にか楽屋に戻ってきた真里がれいなに聞いた。
「れいなが大人のキスば教えちゃったたい。」

めでたしめでたし なのかな?
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:14
おしまい

次の人よろしくです。
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:38
3番手いきます
22 名前:sora ai 投稿日:2004/11/01(月) 16:40
どんよりとした秋空が、頭の上に広がってた。
灰色の空。
ゴロンと寝転がった私は、ぼーっとそれを見ていた。

雲が流れるわけでもなく。
太陽の光がまぶしいわけでもなく。
灰色ののぺーっとした空が広がるだけの。
雨が一向に降りそうに無い、ただ灰色なだけの空。

私の毎日みたいな、何の変化も無い空。
100点満点でもなく、50点くらいの、私の毎日みたいな空。
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:40
「どした、田中」

私と空の間に黒いものが入ってきた。
太陽は隠れているけど、逆光になるんだと思えて、口元が緩んでしまった。

「空、見てたんです」

私は足を上げ、降ろす反動で起き上がった。

「汚い空じゃん。見てて、楽しい?」

起き上がった私の代わりに、寝転がって言った。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:40
「まぁ、楽しいですよ。空を見るのは」
「変な趣味」

寝転がった吉澤さんは私と同じようにして起き上がった。

「そーですか?」
「だって、青空とかだと見てて気持ちいいけどさ」
「青空も見ますよ」
「いや、そーじゃなくって…」

吉澤さんはため息をついた。
質問の答え、間違ってたんだろうか?
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:41
「いいや、もうすぐレコーディング、田中の番だよ」
「はーい」

歩き出す吉澤さんについて行く。
そのときふと聞いてみたくなった。

「吉澤さん」
「何?」
「吉澤さんの毎日って、空にたとえるとどうですか?」

吉澤さんは振り返り、空をしばらく見上げた。
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:41
「降水確率30%の青空ってとこかな」
「何ですか、30%って」
「ふふふ、それがポイント。何も起こらなさそうで起こりそうじゃない?」

そういってニヤッと笑う吉澤さんに、私も釣られて笑った。

「じゃーれいなも30%の曇り空だと思ってます」
「曇ってんのかよ!」

間髪入れず突込みが入る。

「じゃーこれから吉澤さんが晴れさしてくださいよー」
「何だよそれ?」
「よろしくおねがいしまーす」

反論にかぶさるように、大きな声で叫んで、頭を下げる。
しばらく沈黙。
目線だけ上にすると、吉澤さんが笑いをこらえていた。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:41
「田中、最高」

親指を立てて震える声で言う吉澤さん。
私も笑い始めると、それが引き金となって、二人で馬鹿笑いが始まった。

たっぷり数分笑っていると、飯田さんが私の名前を呼びながらやってきた。
そして、笑っている私たちを見て、キョトンとした顔で、「な、何やってるの」と言ったから。
私と吉澤さんはもう一度笑った。

私たちの上に広がる空は、相変わらず灰色だったけど、ちょっと雨が降りそうで、ちょっと晴れそうでもあった。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 16:42
おしまい。

次の人よろしくです
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 23:52
4番手いきます。
30 名前:泣いたれいな 投稿日:2004/11/01(月) 23:53
「あたしは、泣いたことがないけんね」
開口一番、そのいかにもナマイキそうな転校生は言いました。

これにはクラス中が度肝を抜かれ、一様に口をアングリと開けて、マヌケな視線を彼女へ向けました。
紹介した担任の先生も例外ではありません。
思ってもなかった展開に、目を白黒とさせました。

彼女はそんな教室の状況を満足気に笑い、もう一度繰り返しました。
「あたしは、泣いたことがないけんね」
31 名前:泣いたれいな 投稿日:2004/11/01(月) 23:53
絵里とさゆみは、どうにかして彼女の泣き顔を見てやろうと考えました。
れいなという名前の彼女が、仲良しな二人の間の席になったからです。
力を合わせれば、それはたやすい御用のように思えました。

授業中、休み時間を問わず、二人はれいなにちょっかいをかけました。
それでは全然効かないようなので、放課後も色々なところへ連れ回し、考え限りのイタズラを仕掛けました。
ただし、無視を除いて。
一度それも試みたのですが、れいなの悲しそうな顔を見て、止めにしました。
爽快感がなさそうだったからです。
気分良く彼女を泣かせようと決めていました。

しかしどんなに悪ふざけをしても、れいなはケロッとしています。
そしてしまいには、憎たらしい調子で、あの口癖を繰り返すのです。
「あたしは、泣いたことがなけんね」
32 名前:泣いたれいな 投稿日:2004/11/01(月) 23:54
最後にその言葉を耳にすることになったのは、数ヵ月後でした。
れいなはまた教壇の上にいました。
来た時と同じように、唐突にいなくなってしまうことが告げられます。

案の定彼女は、顔色一つ変えません。
つまらなそうにいつもの言葉を吐き出します。
「あたしは、泣いたことがないけんね」

二人は泣いたことがありました。
張る意地も、こだわりも強がりも、理性もありません。
涙腺が崩壊したように涙を流し、声を上げました。

教室の中に、二人の嗚咽だけが響きます。
それが壁を伝ってれいなまで届くと、握り締めていたコブシが震え始めました。
冷たい表情がみるみる崩れ、ついに大粒の涙が頬をすべりました。

どうやら、あのシニカルな口癖は絵里とさゆみの元へ置いていってくれるみたいです。
もう二度と、れいながあの言葉を口にすることはないでしょう。
だけど、二人の気持ちはちっとも晴れません。

れいなの泣き顔なんて、やっぱり見たくなかったな、と二人は思いました。
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/01(月) 23:54
おしまい。

次の人よろしくです
34 名前:お粥 投稿日:2004/11/02(火) 01:10
ガッシャンガラガラ・・・

耳をつんざく連続衝撃音の数秒後、甲高い悲鳴。

「きゃあっ!」

途端に、あたしは布団をバッと剥ぎ取り、台所まで駆け寄った。
壁一枚隔てた台所。
気だるく、思い足腰を奮って駆け込んでみれば、
フローリングの上にへたり込む少女一人。

今の今まで作業していたコンロの上は・・・ひどい有様。

「れ、れーなー・・・」

多分・・・ごめん、言葉のアヤ。
これ、誰がどう見ても、弁解不可能なほどの大失敗。

底のこげた鍋からは異臭付きの煙が上がり、
底から飛び散ったんだろうと思う細々した白い物体は、コンロの上だけでは止まらず、
フローリング、四方の壁、更には天井にまで。

んで、その原因を作った少女は涙目であたしを見上げて。
でも、少しするとハッと何かに気づいて、涙をごしごし。
袖で強く拭った後、きりっと表情を引き締めて立ち上がった。

「れーな!」
「な、なん?」

思わぬ強い口調に、一歩後退。
でも、彼女―亀井絵里は逃さないとばかりに、
あたしの両肩を掴んでグアッと詰め寄ってきた。

「れーな、風邪引いて熱もあるんだから寝てなきゃダメでしょう!
 こっちはわたしに任せて、病人は寝てて!」

強い態度と口調に、なにも言い返せずあたしは言われるがまま、
すごすごと、でも内心釈然としないままベッドへと向かった。

「お願いだから、寝かせて・・・」

呟き声は、勿論絵里に聞こえないように。

35 名前:お粥 投稿日:2004/11/02(火) 01:11
――*

寒くなるにつれ、環境の変化に風邪を引く人は珍しくない。
それがあたしにも牙を向いただけのこと。

ダンスのレッスン中に倒れて、
病院に行って、
自宅療養を要求されてからもう5日。
それでも、まだ熱は下がらなくて。

いい加減、しつこい風邪にイライラしてたとき、
オフを利用したえりが邪・・・ゲフンゲフン、お見舞いに来てくれた。

照れくさいから、憎まれ口を叩いたけど、
内心は嬉しくて、それで一人からの開放に安心してた。

数十分前までは。

絵里ってけっこう不器用だなとか日頃思ってたんだけど。
まさか、これほどまでとは・・・。

えりが溜まってた洗濯物を洗ってくれた。
結果→ブラとかをネットに入れなかったから、見事に絡まって色んなのがぶちきれた。

えりがあたしの部屋を掃除してくれた。
結果→掃除前よりむざんに・・・。

えりがお粥を作ると言い、実行してくれた。
結果→化学反応成功。アインシュタインもビックリ。

気持ちはありがたいよ。
すっごくありがたいけど、、、何か、気持ち的に熱が上がった気がする。

36 名前:お粥 投稿日:2004/11/02(火) 01:11
「れーなー、出来たよー!」

頬やおでこ、服やスカートにまで白い物体をつけた絵里が、
フニャリと微笑みながら台所から出てきた。

ピンクのエプロンが似合ってて、
それだけだとお姉さんって感じなんだけど・・・。

「はい、えりりん特性元気満点スペシャルお粥だよ」
「・・・」

絵里が傍にあった椅子に腰掛けると同時に、あたしもベッドから身体を起こす。
で、わだかまる不安感を胸に抱きながら、
鍋つかみをつけた絵里の手に掴まれる鍋を覗き込んでみると。

…!

ごめん、今のノーカン。
…嘘だよね、何これ、食べ物じゃ・・・少なくとも人間の食べ物じゃ、ない。

離した顔を、もう一度ゆっくりと近づけて・・・それを現実として受け取った。

ゴポゴポとあわ立つ鍋の中の液状に近い物体。
立ち上る湯気からは、脳細胞の大半が死んじゃいそうな異臭。
ちなみに言うと、その物体、色が緑。

「・・・」

でも、それを持つ絵里はほがらかな笑顔。
どうしたものか。あたしは固まってしまった。

37 名前:お粥 投稿日:2004/11/02(火) 01:12
「あ、ごめんね。わたしが食べさせてあげるね」

やっぱ、食べなきゃ?

ベッドの脇にある棚に鍋を置くと、絵里は台所までパタパタと小走り。
戻ってくると、わざわざ両手を使って、大事そうにレンゲを持っていた。

で、ふたたび座ると、鍋の中から物体――絵里が言うところのお粥を一すくい。
それを見ながら、あたしはがくっと肩を落としつつ、ため息をはいた。

「―――楽しいね」

フーフーと、お粥(仮)に息を吹きかけつつ、
絵里は嬉しそうに、柔らかく微笑んで、呟いた。

あたしは、いささかげっそりした面持ちで「なん?」と聞く。

「や、こうやってれーなの看病するの。
 何か、わたしのが年上だなぁって、実感できるんだぁ」

ふーふー、ニコニコ。
冷ましながら、笑う。
髪の綺麗な、ちょっと吊り目がちな少女。

でも、そんな絵里とは対照的にあたしはちょっと不機嫌。

「あたしは風邪やけん、楽しくもなんともなか」
「だから、わたしがこうして来てあげてじゃん」

…余計に熱が上がりそうだなんて、口が裂けてもいえない。
思わず口をつぐんでしまうほど、今の絵里の笑顔はいつもの数倍輝いているから。

「早く治してね」
「・・・看病するの、楽しいんやかなと?」
「うん、楽しい。でも、やっぱり何時もみたいにれーなとさゆとわたしで騒いでたほうがもっと楽しい。それに――」

ふー・・・。
立ち上る湯気が少なくなったのを目で確認して、
絵里は優しくレンゲをあたしに差し出し、首をちょこんとかしげた。

38 名前:お粥 投稿日:2004/11/02(火) 01:12
「それに、もうすぐれいなの誕生日だもん。
 主役がいなきゃ、何も出来ないじゃない」

言われてみて、あぁ。
その程度の感想だけど、事実忘れていた自分の誕生日。
壁にかかるカレンダーを、絵里の肩越しに除く。

あれ?
まだ十月・・・あ、剥いでないや。

「そういえば、そうやね」
「わ。反応うすー」
「・・・実際忘れとったし」

でも、今思い出した。
ちょっと前、夏ごろだったかな。

絵里が家に来て、まだ先なのに嬉しそうにあたしの誕生日の話をしていた。
はしゃぎながら、11月11日にホッペに黒いのがあるパンダを書いていた。

「だ・か・ら!早く治してよぉ」

どこかくねくねとしている絵里の声。
あははと笑って、あたしは言う。

「期待しちょるけん」
「まーかせて!」

にひっと笑った絵里に、あたしも笑顔で返して。
パクッと一口に、お粥を口の中へと導いた。




………あ。

サー・・・
         パタ・・・

「れ、れーなー!!??」

絵里の優しさは、不可知な味。


終わり
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/02(火) 01:13
駄文失敬でした。
次の方、どうぞ。
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/02(火) 18:23
4番手いきます
41 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:24

 ガタンガタン・・・・ガタンガタン・・・・。

 強い風ばれいなに浴びせながら、電車はちょこっとずつ遠のいていく。
 仕事に遅刻が確定。やがて視界から消えたそれに溜息ばつくと、思わず呟いたと。
 「・・・こん世には神もいなかの?」
 「いますよ。」
 「は?」
 完全に予想外の返事に思わずガラの悪い声で返す。
 振り向いたそん先に立っとったのは黒く大きなサングラスばかけ、
 黒いスーツばびっしりと着込んだ年齢不詳のおっさん。まさに、
 「た・・・タモ」
 「んなこたぁない。」
 「は、はぁ・・・・。」
 と、とりあえず、胡散臭さが爆発しとる。

42 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:25

 おっさんはまだ人の少なかプラットホームばちょこっとだけ気にしながら口ば開いたとよ。
 「田中れいな、14歳。平成1年11月11日福岡県福岡市にて生まれ・・・」
 「森田さんれいなのマニアと?」
 「違うっての!だから神だっつってんだろうが!!」
 「コンドルコンドル。」
 「やらんわ!!」
 変な人に捕まってしもうたとよ。一刻も早くここから逃げ出して仕事に向かいたいけど
 行かせてくれそうな雰囲気はなか。もう既に間に合わなかのに。
 神様ば名乗るおっさんはれいなに金色の玉が3つ埋め込まれとるブレスレッドば渡してきた。
 「なん?援交?」
 「なぁーんでそうなるんだよ!」
 ああ、こんツッコミ方やっぱりタ○リやけん。

43 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:26

 「その金」「の」
 「玉に願い事を言うとどんな願いでもかなえてくれる。
  ただし今日の間に全部使わなきゃその金」「の」
 「玉は消えちまうから大事に使えよ。」
 胡散臭さば通り越して呆れたとよ。なんで神様が現れてそぎゃんもんいきなり
 くれるってゆうんやけん。
 「いつもがんばってるお前にちょっと早い誕生日プレゼントだよ。」
 「!!」
 正直驚いたとよ。目の前におっさんに心ば完全に読まれた。
 もばってんてほんまに神様?思わずじっと顔ば見たとよ。
 ・・・ダメだ、どう見てもタ○リやけん。
 「だってタ○リだもん。」
 「は?!」
 『一番線の電車の発車です』
 「体借りたんだよ。」
 そう言って笑ったタ○リは走り去っていく電車と体ば重ねると姿ば消した。
 れいなは驚きのあまりなんもできなくて、次の電車が来るまでボーっとそいで立ち尽くしたとよ。
 プシューッ。
 「おい早く仕事行けよ。」
 「ええ?!」
 到着した電車から姿ば現したタ○リにれいなは思わず吹っ飛びそうな衝撃ば受けた。
44 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:28

 れいなは神様に貰ったブレスレッドばじっと睨みつけると、小声で呟いてみたとよ。
 「今日乗るはずやった電車に乗りたい。」
 金の玉はれいなの声に呼応するように眩く光り、あっとゆう間にれいなの体ば包む。
 気がつくとれいなは電車の中でつり革に掴まっとったとよ。

 「・・・・・・。」
 どうやらほんまに神様やったらしい。ブレスレッドにつけられた3つの金の玉は2つに減り、
 重量感ばちょこっとだけ失っとったとよ。あと2つも、なんでも願いがかなう・・・。
 「・・・・・。」
 考えとったら自然と頬が緩んでしまって、慌てて俯いて顔ば隠したとよ。
 「気をつけろ。」
 「!!」
 気づくとタ○リが横で『セカチュウ』ばペラペラとめくっとった。
 電車内でれいな以外は、誰もそん存在に気づいていなか。
 「お前以外には見えないし聞こえもしない。」
 「え・・・。気をつけろって?」
 「誰か他の人が願い事を呟いても反応する。それだけ。」
 タ○リは本ば閉じると刹那、れいなの横には誰もいなくなっとった。
45 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:28
 
46 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:29

 「うわ〜・・・。」
 空から落ちてきた大粒の雨は地面へと叩きつけられて大きな音ば生み出す。土砂降り。
 こぎゃん日に限って天気予報ば見るのば忘れとったとよ。傘がなか。
 でもこん付近にはコンビニもなか。ふとブレスレッドが目に入ったけどれいなは
 首ばブンブンと横に振ると、覚悟ば決めて駅の外へ飛び出したとよ。
 局までの辛抱。走れば10分とかからなかから、我慢するしかいなか。
 こぎゃん所で願い事ば使ってたまるか。

 でもそぎゃんれいなの頑張りは、一人の先輩によってあっさり踏みにじられてしもうた。
 そん先輩はれいなが飛び出したそん時、改札から出て呟いた。

 「あ〜あ〜・・・。傘があればなぁ〜。」

 聞き覚えのありすぎるアニメ声。
 れいなはハッとしてブレスッドに目ばやった。ブレスレッドばつけられた
 金の玉のうちの一つは黄金の光ば放つと、辺り一帯ば包み込んでいく。
47 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:29
 
48 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:30

 「うふふ。新品の傘拾っちゃうなんてラッキーね。」
 「そうですね・・・。」
 同じ傘の下、大雨の道をゆっくりと歩いていく。

 ブレスレッドの金の玉は既にラストワン。でもいざ願いば言え、と言われても
 なかいなか思いつかいなか。なんかよかものなかかいな・・・。
 「ねえ田中。」
 「なんですか?」
 「欲しいものとかない?私は〜」
 「わー!!なんもなかです!なかです!それより石川さん!急ぎましょう!!遅刻します!」
 れいなは無理矢理石川さんの手ば引くと、小走りでテレビ局ば目指したと。

49 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:31

 なんとか一人になれるところ探した結果、れいなはトイレの個室で唸る結果となりよったとよ。
 欲しいもの?なんやろうとよ。別にお金が欲しいとは思わなか。
 欲しい物ば欲しい買うお金くらい充分あるとよ。
 身長?今更欲しいとも思わなかし、絵里が可愛いって言ってくれるから問題なか。
 ってなん考えてるんやけん。

 結局なんも決まらんでん楽屋までの道ば歩いていく。
 早くなんか決めなかと、さっきみたいに誰かに使われてしまうとよ。
 誰かがなんか欲しいみたいな事ば言いそうやったら楽屋から逃げよう。
 れいなは決意してドアに手ばかけた。でもそん時、
 「あ〜あ〜。」
 ドアば開けて入った、そん時、

 「れいな1日でいいから本当の猫みたいにならないかな〜。」

 絵里、一体誰とどぎゃん会話したらそぎゃん願いば・・・。
 気づくと金の玉の1つは光り輝き、れいなの視界ば消し去った。
 そいでいっぺんに、れいなの理性が消えた。

50 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:31
 
51 名前:かみさまとれいにゃ 投稿日:2004/11/02(火) 18:31

 「れいにゃ可愛い〜。」
 「にゃ〜♪」

 嬉しそうに猫じゃらしを操る少女、絵里。
 それにもっと嬉しそうにじゃれ、楽屋の地面を転がる猫耳の少女、れいな。

 二人は傍から見てもとても幸せそうだったという。

52 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/02(火) 18:32
おしまい。
駄文すみません変な博多弁すみませんsage忘れてすみません。
その他諸々、すみません。

では次の方どうぞ
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:24

 「れいなの鳥」

54 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:24
熱帯に住んでいそうな、カラフルでクチバシの大きな鳥だった。
ばたばたと不器用に羽を動かしながら飛んできた。全身は煤けていて、せっかくの
キレイな姿が台無しだった。

秋に入った頃の、涼しい夕刻だった。開けっ放しにした窓からその鳥は入ってきて、
わたしの肩にとまった。その拍子に数本の緑色の羽が抜けて、わたしの前に落ちた。

その時わたしは、自分で作った肉サラダを食べている最中だった。テーブルの上に
舞い落ちる羽と埃の絨毯爆撃から夕食を守ろうと慌てて手を翳したが、ちょっと
遅かったみたいだ。
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:24
わたしは溜息をつくと、肩の鳥を一瞥してから箸を置いた。
それを合図とうけとったのか、鳥はばたばたとテーブルの隅に舞い降りると、わたしが
がんばってこしらえた肉サラダをぱくつき始めた。

見たところ鳥はずいぶんと長旅をしてきたように見える。腹が空いているのも道理だ。
窓が開けっ放しになってきて、いい匂いが漂ってきたらふらふらと入ってきてしまうのも
しょうがない。
止まり木がないから、わたしの肩にとまるのも……つまりは、この場合悪いのはわたし
ってことになってしまう。多分、そんな気がする。
そんなわけで、わたいは鳥を飼い始めた。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:25


 ◇


肩に鳥をとまらせたまま仕事場に行くと、みんなビックリしていた。石川さんは悲鳴を
あげて楽屋の隅に避難していった。
「なにそれ?」
そう訊いてきたのは藤本さんだ。わたしは鳥へ目をやると、
「なんかなりゆきで」
「そうなんだ」
大して興味もなさそうに言うと、また台本を読み始めた。
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:25
「あんまりかわいくなーい」
さゆがじろじろと鳥を検分したあげくに言った。わたしは肩を竦めた。
「汚れてるけんね」
「洗ってあげようよ」
「大丈夫なの?」
「たぶん」

鳥は洗っても思っていたほどキレイにはならなかった。それでも、とりあえず薄汚れた
感じはなくなったのでよかった。
わたしが頭を撫でてあげると、目を細めて頬をスリ寄せてきた。
間近で見るとちょっとグロい顔をしてたけど、仕草は可愛らしかった。

58 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:25


 ◇


鳥は時々ふらふらと飛んでいったり、部屋の隅で眠ったりしてたけど、気付くとわたしの
肩にとまっていた。大きさの割にものすごく軽くて、あまり苦痛にもならないので好きに
させていたら、なんとなく鳥の方もそれを察してしまったみたいだ。

ときどき肩にとまった鳥に食事を分けてあげたりしていたら、餌付けされたというべきか、
鳥の方も賢いもので、わざわざ自分から餌をとりにいったりなんてしなくなった。
鳥も人も、安易な生活に流れやすいってわけだ。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:26


 ◇


「田中ちゃんさあ」
楽屋で、暇つぶしにさゆと絵里が明太子パスタゲームをしているのを眺めてると、
藤本さんが話しかけてきた。
「いつも鳥のっけてて重くない?」
「最近ちょっと重いっす」
わたしはそういうと苦笑した。
始めに来たときはそうとう飢え続けた状態だったんだろう。わたしから食事をかっさらっていく
うちに大分戻っていったようだった。
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:26

「前はそうでもなかったんですけど、けっこうずしっと来ます」
「だろうね……」
藤本さんは呆れたように鳥を一瞥すると、行ってしまった。
わたしはテーブルの上に一個だけ残されていたお弁当を取ると、開いた。すかさず鳥が
クチバシを伸ばして唐揚げをかっさらっていった。

61 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:26


 ◇


「さゆー」
ちょうどトイレから出てくるさゆを見つけたので声をかけると、一瞬ビクッと身体を震わせて
からキョロキョロと怯えたように周囲を見回しながら近付いてきた。
「どしたん?」
「いや別に……」
そうは言ったものの、どこか不安げな様子だった。

「ね、これから食事でも行かんと?」
「えー……」
さゆはなんだかイヤそうな表情を浮かべた。
「なんでよ」
「だってれいなといると鳥くるもん。ごはん盗られるのイヤなの」
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:26

わたしは首を傾げた。
「ホントに? そんなことせんよ、さゆのごはんとか」
「れいなが気付いてないだけだと思うの」
「そう?」
その時さゆの携帯が鳴った。さゆはわたしをチラチラと見ながら廊下の端まで遠ざかって
いってから電話を受けた。

話っぷりから相手は絵里だって分かった。なんだか寂しくなったのでわたしは外に出て行った。
待ちかまえていたように鳥が飛んできて、肩にとまる。ずいぶん重くてわたしは数歩ふらふら
とよろめいて、転びそうになった。

63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:27


 ◇


みんなでテーブルの上に並べられた写真をとりかこんでわいわいとやっている。公式写真の
チェックをしているのだ。
わたしがぼんやりと数枚のあまり代わり映えのしない写真を眺めていると、となりに座って
いた小川さんに話しかけられた。

「田中ちゃん、ちょっと痩せたんじゃない?」
「そうですかね……」
わたしはチラッと小川さんを見ると、溜息をついた。

「ていうかこの写真とかめちゃめちゃ痩せてない? ちゃんと食べないとダメだよー」
「はあ」
いろんな言葉が喉元まで浮かび上がってひしめいていて、わたしはそれをなんとか押し
留めるのに一苦労だった。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:27



 ◇


鳥が来るのが、最近では肩にとまる前に分かるようになった。ばたばたと羽ばたいている
ので、風が吹いてきて、下手したらそのまま吹っ飛ばされそうになるからだ。

石川さんはもうとうにわたしへ寄りつかなくなっていた。いつ何時鳥がやってくるか分から
ないし、始めに見たときより明らかに肥大化して恐ろしい姿になっていると、涙目で
話していた。それももう大分前のことだ。

暇つぶしにパソコンでネットを見てたら、あの変な鳥のせいでいしれなが見れなくなった
今度見たら絶対撃ち殺してやる、なんて書いてる人がいて、なんだか怖くなった。
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:27

 ◇


その日もわたしは一人で肉サラダを作っていた。途中で塩コショウをふるのを忘れて
いたことに気付いたけど、どうでもよかった。どのみち、鳥がやってきてほとんど
食べちゃうんだし、鳥にしてみれば多分薄味の方が好みだろうから。

ふらつきながら大皿をテーブルの上まで運ぶと、開けっ放しの窓から一陣の風とともに
鳥が羽ばたいてきた。緑と赤と青の鮮やかな羽を上下させ、クチバシはつやつやと
太陽の光を浴びて輝いていた。
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:27

立ったままのわたしの肩にとまる。わたしはあまりの重さにそのまま崩れ落ちそうに
なるが、鳥が肩をつかんだまま再び舞い上がったので、転ばずにすんだ。

鳥はそのまま窓から羽ばたき出ていった。風に吹かれて、わたしの身体はひらひらと
洗濯物みたいにゆらめいた。

初めて見たときの危なっかしい様子は微塵もなく、鳥は力強く堂々と羽ばたいている。
このまま鳥の生まれ故郷のある南の島まで飛んでいってしまいそうだ。
わたしは遠ざかっていく街並みを見下ろしながら、そんなことをぼんやりと考えた。

67 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/03(水) 00:28

 オワリ


68 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:25
そこにはさゆは、行きたくなかったのだ。

だから、ふたりだけで。
じつに珍しいことに、あたしはエリと遊びに行くことになった。行き先は映画。
エリの大好きな児童文学が、映画化されたのだ。
情報誌であらすじを読んだところ、寄宿舎で生活をする男の子の成長物語といっ
たストーリーはいかにも地味そうで、本はともかく映画はつまんなさそうだった。

主人公が男の子というところもさゆには気に入らなかったらしい。
断られたエリは、あたしに文字どおり泣きついた。エリのベタベタな泣きまねを
見て、そこにいたみんなはおっかしいおっかしいと笑った。

あたしはさゆの代わりかよ、なんてことを気にする時期はもうとうに過ぎている。
特にこだわりのないあたしはいーよとうなずき、ふたりで行くことになった。

「ふたりだけで行くんだ。あたし置いてくんだ。ふううんへええほおお」

と小学生みたいなことを言うさゆになぜだか後ろめたい気分で手を振って、仕事
帰りのあたしたちは、街へと向かう。
69 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:25

*  *  *
70 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:27
映画は、どうやらつまらなかったらしい。その証拠に寝た。
エンドロールでつつかれて、目を覚ますと怒った顔のエリがこっちを見ていた。
暗いから、なんだか怖い。

あちゃーと思っていると、行くよと腕を引っぱられる。
目をこすりながらあわててついてゆく。

「さいあく」

ゆっくりとあたしの腕を引きながらつぶやくエリに、またあちゃーと思う。
ムカつかれているらしい。まさかイビキまで?
どもりながら何か言おうとするあたしに、エリは先制パンチ。

「なにあの映画。びっくりした。どうやったらあんなつまんなくなるの。脚本、
 エリに書かせてくれたらよかったのに。すっごい大好きなとこ抜けてたし。
 あそこ飛ばしちゃったら、ラストのセリフがつながんないのに。ああもう最悪。
 ありえない。どうしてあんなことするの。見なきゃ良かった」

エリがムカついているのは、寝ていたあたしに対してじゃなくて、映画の出来に
対してだった。ほっとした。
エリは映画の文句を言いつづける。
気の利いたあいづちを打とうと思うけど、開始30分ほどでエンドロールまでワー
プした身としては、ヘタなことも言えない。ふうんとかへえ、という返事ばかり
のあたしにあきれて、エリは話を変えてしまった。
71 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:28

*  *  *
72 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:30
お腹が減ったので、どこか店にと思ったが、エリは肉まんが食べたい
という。
仕方ないのでコンビニでそこにあるすべての「まん」をひとつずつ、
ペットボトルのお茶を二本(れいなは冷たいの、エリはあったかいの)
買い、近くにあるベンチに向かった。

暗い夜、街灯の下でビニール袋をがさがさとのぞきこむのは、なんだ
かどきどきした。
どれにするどれにする、と相談する。あわい湯気、散らばってるカラシ。
73 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:31
すげえ、いっぱいだ、と言うとエリは、

「まんだけに満載だー」

と、とんでもないことを言い、きししっとリスみたいにひとりで笑っている。
ふと、さゆだったらどんな風に切り返すのかな、と思ったりしたけど。

「満タン、だし?」

あたしは思いつきをするっと口にした。エリが嬉しそうな顔になる。

「もう満杯満杯!」
「満員だもんね」
「これだけありゃあ満足だぁ」
「満腹になるよこれ!」
「ていうか満開?」
「や、ちがう。それはちょっとちがうから」

はたから見たらそうとう寒い会話を交わして、かなり盛り上がった。
ベンチをたたいて、ふたりできししと笑う。
74 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:34
マンサイの『まん』をひとつひとつ取りだして、半分こして頬ばっては、感想を
言いあった。

れいなはうまいとおいしいとあったかいばっかり言っていた。
エリはおいしいよぉ、と言う前、オーバーなくらいびっくりした顔で、必ずあた
しを見る。

食べ終わって一息ついていると、エリの携帯が鳴いた。
メールの着信音で、その音はさゆからだった。
さゆからだよ、と言ってエリはメールを読む。
ちょっと待ってね、と言うと素早く返信を打ちだす。

手持ちぶさたになって、あたしは自分の携帯を見てみる。受信メールなし。
誰かに打ってみようかとも思うけど、思いつかない。エリを見る。まだ打ってる。

そうだ、と思ってあたしもメールを打ちだした。

書きあげると、エリはまだ書いている。あたしはタイミングを見計らう。
送信――でなく保存を押す。
75 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:37
よし、とつぶやいて、ぬるくなったお茶を満足げにエリはすする。
あたしも冷たいお茶をがぶりと飲む。

「さゆ、なんて?」と聞いてみると、
「さびしいって」とエリ。嬉しそう。
「いーじゃんたまには」

言葉になぜかトゲが混じってて、自分でびっくりした。
エリはちらっとこっちを見たあと、ゆっくりと笑った。
あたしはなんとなく恥ずかしくなった。

エリの携帯が鳴る。今度は着信だ。
はいはーい、とエリが出る。出たと同時に肩の上の頭は離れている。
あ、と思い、思った自分をごまかすように、ビニール袋を探った。

エリは楽しそうにしゃべっている。れいなに代わるね、との言葉とともに携帯が
つきだされる。もしもーし、と出ると『映画、つまんなかったって?』とめちゃ
くちゃ嬉しそうなさゆの声

「つまらんかったかわからんかった。れいな寝ちょった」
『寝るほどつまんなかったってことでしょ』
「寝ちょった寝ちょった」

横からエリが茶々を入れる。
76 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:38
『あたし行かなくてよかったー』
「あ、でも――」
『んん、なに』
「……なんでもない。さゆなにしとる?」
『あのね今ね、お姉ちゃんとメールしててさ――』

もう一度自分の手もとにかえった電話を切ると、エリは立ち上がった。
さ、帰ろうと言ってあたしの腕をあたりまえみたいに取る。
77 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:39
駅に向かって歩いていると、さっきの映画のポスターが張ってある。
あんなにすぐ寝たということは、やっぱり相当退屈だったんだろうな
と思い、

「つまんなかったか」

思わずつぶやくと――

「楽しかったじゃん!」

思いのほか強い口調で返事がかえってきた。
びっくりして横を見ると、エリがこっちを睨んでいる。

あたしは口ごもった。

「ええと……」
「あ、映画はね」

ポスターに気がついたエリは、勘違いに照れたようにへへへと笑った。

あたしたちはくっついて駅前まで歩き、くっついたままタクシーを拾っ
て別々のうちに帰った。
78 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:40

* * *

79 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:43
部屋にはいると、あたしは携帯を出してみた。
エリといたとき、暇にあかせて打ったメールを呼びだしてみる。


『今、たのしーネ。
 エリ、いっつもさゆとばっか遊んでるけど、たまにはこうやって
 れーなともふたりで遊んで欲しいなあって思ったりした。
 ヘヘ、寒い? またふたりでもどっか行こうね、、、って、さゆ
 に怒られるかなぁ?』


デートの途中メールした、楽しいですね〜、口ずさみ、や、デートじゃなかろうと
ひとりいいわけをして、笑ってしまう。
80 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:44
送信――できるわけがない。読み返して恥ずかしい。

あたしは携帯を持ったまま、ぼんやりとした。と、メールが来た。
開けてみる。エリからだった。


『映画は不満だったけど、メチャ楽しかったね。
 肉まんはおいしかったし、 ていうか、フカヒレまん!
 あれはヒットだったね。
 大満足だったよ〜。まんだけに(まだゆーか)
 でも、さゆ置いてっちゃってちょっとかわいそうだったかな。
 今度は三人で行こうね』

あたしはすこし笑った。
さっきのメールを消去すると、エリに返事を出す。

 すっごい楽しかったね。今度は三人で行こう!!
81 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:45
*  *  *
82 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:46
数ヶ月後の、コンサート前の舞台袖。
モニターに写ってる客席を見て、エリは歓声をあげた。

「すごい今日ヒト多いよ〜」

その声に近くにいたメンバーが、わらわらとモニターにたかってのぞきこむ。
あたしも後ろから背伸びして画面を見る。

「キャパでかいからね」

藤本さんが不敵に笑って答えると、ガッツポーズを作った。

「満員だねー」と、さゆ。
「満杯だ」と言うまこっちゃん。

モニターをのぞきこんでるエリがちらっとこっちを見た。
なんだか期待いっぱいのまなざし。
あたしはあちゃーと思いながらも、期待に応えるべく張りきって言った。

「ていうか満開?」

あたしの言葉に、みんなはハア、という顔をしたけど。
エリはぶはっと吹きだして、親指をつきだした。

あたしたちは顔を見合わせると、きしし、と笑いあった。
83 名前:2in1 投稿日:2004/11/03(水) 17:46
終わり
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:27

『1111』
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:27
「で、どうする? えり」
「ん? 何が?」
「プレゼント。もうすぐだよ、れいなの」
「…しーっ! さゆ、そういうのは本人のいないところで…」
「大丈夫だよ。れいな寝てるもん、ほら」

「……」
「れいなー。おーい、れいなー」
「……」
「れ・い・なー」
「……」
「ほんとだ。寝てる」
「ね。大丈夫だって」
「…そうだね。じゃ、2人で考えよっか」
「おー」
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:28
「……」
「何がいいかな、さゆ」
「なんかこう、かわいいのがいいと思う」
「うーん。でもれいなって、あんまかわいいの興味なさそうじゃない?」
「そうかなあ」
「だって、鬼とかだよ。Tシャツ」
「じゃあ、鬼グッズとか?」
「ふむ……おに、と」
「…えり、何書いてんの?」
「重要秘密会議だから、メモとるの」
「へえ」
「わたしが書記やるから、さゆは議長やってね」
「はーい。じゃあ意見がある人は手を挙げてください」
「あっ。はい、議長」
「はい、亀井さん」
「れいなは焼肉が好きです」
「あ、それいい」
「じゃ……やきにく、と」
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:28
「……」
「…ねえ、やっぱれいな起きてない?」
「そお? 寝てると思うけど」
「れいなー」
「……」
「気のせいかー」
「それにしてもよく寝るね」
「いいんじゃない? 寝る子は育つって言うし」
「……育ってるかなあ」
「え、何それ。どーゆー意味よー?」
「ほら。胸とか、アレじゃん」
「わー、言った。さゆ言っちゃった」
「だってー。れいな、ほっそいもん」
「そりゃあ、さゆはいいよー。出るとこ出てるから」
「ええー。そうかなあ」
「そうだよー」
「ふふふ」
「へへへ」
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:28
「……」
「そうだ。こう、おっきく見える下着とかどう?」
「えー、夢がなくない? なんか、リアル」
「じゃあさ。夢がありそうな、すごそうなやつ」
「どんなのー」
「えーと…NASAが開発しました、みたいな」
「あ、NASAいいかも」
「絶対すごいよね」
「NASAだもんね」
「宇宙だしね」
「宇宙飛行士御用達! みたいなね」
「宇宙にも行ける! みたいなね」
「れいな in 宇宙! みたいなね」
「れいなが宇宙かー……」

「うわー」
「どしたの? えり」
「今、れいな危なかった。地球に帰れなくなるとこだった」
「うわー、それは怖いね」
「ほんと危ない、危ない。宇宙は危ないからやめとこう」
「そだね」
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:29
「……」
「なんかないかなー。なんかないかなー」
「鬼…焼肉……『食べる』、かなあ…」
「えり。何やってんの?」
「あのね、なんかね、パッと思いついた言葉をずらーっと並べて」
「うん」
「並んだ2つの言葉から連想するものを順に書いていくの。そんで、これをどんどん繋げていって」
「ふんふん」
「で、最後に出てきたのが、その人の前世」
「ほお」
「これだったら、鬼と焼肉だから『食べる』かなあ、って。こんな感じで」
「へー、面白そう。やるやる」
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:29
「……」
「よし、最後。『お菓子』と『細い』。…なんだろう」
「うーん。細くて、お菓子…」

「あっ」
「ポッキー!」「プリッツ!」
「ええー、ポッキーだよ」
「そっかなー。なんか、れいなプリッツっぽくない?」
「そう? ポッキーっぽいと思うけどなあ」
「どっちにしろ、はかない命だったんだねー」
「そうだねえ」
「かなしいね」
「ね」

「……」
「あ、れいな起きた」
「ねえ、れいなー。れいなの前世、ポッキーとプリッツどっちがいい?」

「うるさい!」
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 00:30

おわり
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 22:11
『涙を飲んで』
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 22:11
「いいね、これは熟慮を重ねての判断なんだ」
「そう。これはあなたにしかできないことなのよ」
「わかってくれるよね?」

 あまりわかりたくないんですけど。

「ごめんね」
「でもれいなじゃないとできないことだと思うの」

 謝る前に何かしてくれることがあるんじゃないの。
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 22:11
「塾長命令だと思って、がんばってくれたまえ」
「そやそや。先輩のゆーこと聞かなあかんて」
「いいなあ、田中ちゃん」

 薄情な先輩たちばかりでいやになる。

「吉澤さん、私のためにグッドアイデアありがとうございMAX」
「マコトのためっていうか」
「あたしと並ぶと、遠近法が狂って酔っちゃうお客さんがいるからよ」

 私の目の前に、中華からフランス料理、滋養の多い南国料理までもがずらりと、それはもううんざりするほど。
 
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 22:12
「いい? あなたが太らないと、マコトが痩せないのよ」
「よっすぃ〜が太って、かわりに辻が痩せて、次に小川が太って、そしたらよっすぃ〜が痩せたんだから、次は田中が太らないといけないんだよ」
「マコトを元に戻すには、相当食べさせないとね」

 素敵な先輩方の手が伸びて、私の口にそれらが次々と、ちょっと、そんな、無理やりな。
 あぁ、今度入ってくる人がO型でありますように……。
 
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/04(木) 22:12
おわり
97 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/06(土) 00:15


     『〜05』

98 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:16

「ちょっと色々あって、まだプレゼント買ってないんだ」
「はぁ?」

ありえん。いやいや、まじありえんって。

「だからちょっと待ってて? ね?」

お得意の、ちょっと困ったような表情の絵里。

「まじで?」
「まじで。じゃ」

絵里はバッグを抱えると、席を立った。
そのままスタスタと歩いて楽屋を出て行く。
ちょ、ちょっと……絵里?
99 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:16

「れーな」

呆気にとられてしばらくぼーっとしていたらしい。
振り返るとさゆが立っていた。

「お誕生日、おめでとう」

満面の笑みと共に差し出された、可愛らしくラッピングされたプレゼント。
どっかの誰かさんとは大違い。

「ありがと」
「それね、すごくかわいいの。多分れーなにはもったいないの」

さゆは可愛らしく笑いながらそう言った。
……どいつもこいつも。
100 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:17


101 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:17

「そういえば絵里のプレゼント、何だった?」
「……まだ買っとらんって。ほんっとむかつく」

さゆはしばらくきょとんとして、それから笑い出した。

「絵里らしい」
「なにが?」
「一緒に買いに行ったの」

さゆがあたしの手の中のプレゼントを指差す。
102 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:18

「絵里ね、迷って決められなくなっちゃって。
 それからもそのお店に通ってたみたいだよ?」

絵里の優柔普段はいつものこと。
結局そのまま決められなかったってこと、絵里なら多分、あり得る。

「あんアホ」

確かに、絵里らしかけど。
103 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:18


104 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:18

さゆが教えてくれたアクセサリーショップに、絵里はいた。
ショウケースに額がくっつきそうなほど近づいて、中を覗きこんでいる。
毎日来る絵里に呆れているのか、近くには接客する店員もいない。

「絵里」
「ふぇ?」

不意をつかれたのか、絵里が間抜けな声をあげた。
ゆっくり振り返って不機嫌そうに言う。

「……なんでいんの?」
「さゆに聞いた」
「……あのおしゃべり」

絵里がぷぅっと頬を膨らませる。
105 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:19

「決めた?」
「まだ」

絵里はため息をついて、首を振る。
なんか、いくらでも待っていられそうな気がした。

「どれくらい待っとればよかと?」

しばらく宙を見つめた絵里が、自信満々に胸を張る。

「来年の誕生日までには、必ず」
「それは無理」

うん、無理。
106 名前:『〜05』 投稿日:2004/11/06(土) 00:19


   おわり

107 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:33
天気職人
108 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:33

 初春の空は他の季節とは違った空気が流れている。
 フライングしてしまった桜の花を上から優しく包み込むように。
 ・・・なんてあの人なら言うのだろう。

 「今日は笑ってるね・・・。」

 ごろりとその場で寝転がると、ゆっくりと流れていく雲をじーっと眺めていた。
 あの人に逢うまで、みんなおんなじ風にしか見えなかった。

 「やっぱ来ないかな。」

 そりゃそうだけど。それでも信じて待ってしまう自分がいる。
 なんていうか、片想いしてるような気分。

 「・・・バカっぽ。」

 汚いと分かっている地べたを平気で転がると、スッと目を閉じた。

 やっぱ、来ないかな。

109 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:35

  + + +
 とにかく学校がつまらなくて。
 授業も、クラスメイトも、教師も、何もかも。
 なんで転校しなきゃいけなかったんだろう。しかも中高一貫。地獄のようだ。

 私に学校行く意味なんてあるのかな?
 なんて思いながらも私はなんだかんだ学校へ足を運んでいた。
 登校拒否ってのも聞こえ悪いし。
 でも私が授業いたのは教室なんかじゃなくて、屋上だった。

 アリガチな不良だと笑われても気にならなかった。
 笑う奴がいかにつまんない人間か分かってるつもりだったし。
 いつもボーっとしながら変わらない空なんか眺めていた。

110 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:36

 5月になっても、6月になっても、見上げた空はなんも変わらなかった。
 晴れの日はどこまでも青くて、
 曇った日は青空と太陽が隠れて、
 雨の日は暗くて。

 「・・・やっぱりつまんない。」

 口癖のように言っていたあの頃。そんなある日。雨の日のことだった。

 「どうして?」

 石川さんが私の前に現れたのは。
 石川さんは生徒会長で一度だけ見た朝礼で見たことがあったから、
 これには少しだけ驚いた。

 「・・・・なんでいんの?」

 そんな優等生タイプの人間が屋上に現れるなんて、考えられなかった。

 「いいじゃない別に。」

 石川さんは私の横に座ると、手を後ろについて空を見上げた。
 その時私は石川さんの目から顎にかけて流れるように光っているのが目に入ったけど、
 それがなんなのか分からなかった。
111 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:37

  + + +
 その日から時々石川さんが屋上を顔を出すようになって、
 石川さんが私の思っていたような人ではないことが分かった。
 生徒会長という役職は私の考える「つまらない人間」日本代表クラスだったけど、
 全然そんなことはなくて。
 私の持っていた生徒会長に務める様なタイプの人間とは程遠いものだった。
 そしてそれは私にとって本当につまらないものでしかなかった学校生活を
 少しだけ面白くしてくれていた。

 「いつもここにいるの?」
 「まあ、そうですね。」
 「空を見てると飽きないもんね〜。」

 その一言に私は賛同できなかった。

 「そうですか?いつもおんなじで3種類くらいしかないし全然面白くないですよ。」

 石川さんは意外そうな顔をすると、私の目を見てニコッと笑った。

112 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:37

 「空は顔と一緒で、色んな表情があるんだよ?」

 そう言って立ち上がると、体をうんと伸ばしてみせる。
 
 「快晴の日は満面の笑み。
  晴れの日は普通の笑顔。
  曇りの日は少し悲しくて。
  雨の日は涙を流している。
  同じ晴れの日でも細かく見ると・・・ほら。今日ははにかんでる。」

 石川さんの顔は快晴だったけど、私はその違いを見分ける事ができず曇りだった。
113 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:38

  + + +
 少しして分かったこと。
 石川さんは火曜日の5,6時間目、木曜日の3、4時間目に決まって現れる。
 いつの間にか私はその時間が待ち遠しくて、少なくとも火曜日と木曜日は
 退屈せずに時間を過ごすことができた。
 つまらないだらけの学校で、唯一見つけることのできたいい人。
 私はいつの間にか、学校が楽しくなっていた。
 そしておんなじ分だけ、石川さんのことが好きになっていた。

 「夏の晴れた空は春の晴れた空とは全く違うのよ。」
 「そうですか?やっぱ私には分かんないです。」

 石川さんは優しく微笑むと、笑った。

 「夏の空は海に人を連れて行くために春以上に輝くのよ。
  だから同じ晴れの日でも眩しいし、同じ青いでも色が少し違うの。」
 「単に暑いだけじゃないんですか?」
 「違うよ!もう〜。でも田中もじきに分かってくると思うよ。」

 石川さんは笑顔のままに空を見上げ、私も同じ様に空を見た。

114 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:39

 「それにね。」

 こっちを向いた石川さんは言った。

 「空は人の気持ちを表すの。」
 「はい?」

 ここまで来ると言っている意味がよく理解できなかった。
 石川さんは私の気持ちが顔に出ているのを気づいてか、いないのか、
 話を続けた。

 「悲しくて泣きたい人の涙を隠すための雨、なんてロマンティックじゃない?」

 石川さんは笑っていたけど、何故か少しだけ悲しそうにも見えて不思議な顔をしていた。

 「あ、今雨降りそうな曇り。」
 「・・・田中も分かってきたじゃ〜ん。」

 石川さんは嬉しそうに私の頭を撫でた。

115 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:40

  + + +
 11月に入ってすぐ。
 私の誕生日が近いという話になると、石川さんはペラペラと
 スケジュール帳をめくり、

 「11日、木曜日!じゃあお祝いしなきゃね。」
 「なんかくれるんですか?」
 「うん、いいよぉ。何がいい?」
 『焼肉』
 「・・・プッ。」
 『アハハ!』

116 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:41

  + + +
 11月11日。
 その日は私達が初めて会った日と同じで、空は涙を流していた。
 あれから特に誕生日の話をしなかったから、
 一体何を持ってきてくれるのか、とか、
 もしかしたら忘れたんじゃないか、とか、
 僅かながら雨を凌いでくれる屋根の下で色々考えていた。
 
 3時間目になっても石川さんは来なかった。
 風邪でもひいて学校休んだのかな?
 私は残念に思いながらももしそうならと思い6時間目が終わるとすぐに
 教室に戻り、鞄をとって校舎を出た。

117 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:42

 傘を差し、一歩目を踏み出したとき、不意に気配を感じた。
 こんなときに、誰が何してるんだろう?
 興味本位で私は気配の方へと歩き出した。なにやら話し声が聞こえる。
 雨音に消されてあまりよく聞こえないけど、それは確かに校舎の裏から聞こえていた。
 私はこっそりと、水溜りを避けながら少しずつ近づいた。

 ピチャンッ!

 「あ!」

 気をつけていた側から思いきり足を突っ込んだ。
 靴下が水分を吸収してあ始終を冷たくする。
 最悪だ、なんなんだよまったく。来なきゃ良かった。
 そう思って顔を上げると、そこには何故かそこにいるはずがないと思っていた人が立っていた。

118 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:43
 
 「石川・・・さん?」
 「・・・!」

 石川さんともう一人、見たことない人。
 後ろ姿しか見えないけど茶色い髪が雨を弾いている。思わず傘を落とした。

 私は石川さんと目が合ったまましばらく動けなかった。
 私の知らない人と抱きあっている、石川さんと。
 でもなんだかそこにいちゃいけない気がして、

 「・・田中!!」

 私は雨の中走り出した。
 なんだよ、なんなんだよ。なんでこんなにベタな展開なんだよ。
 つまんない、やっぱりつまんない。何もかもがつまんないよ。

 空は号泣していた。私も号泣していた。

119 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:44

  + + +
 風邪で学校を数日休んだ後、いつものように屋上に来ると屋根の上に
 封筒が貼ってあった。
 そこにはいかにも女の子らしい字で『田中へ』と書かれていた。

 「・・・・・。」

 誰からの手紙からは見ないでも分かる。
 私はそれを見る気にはなれなかった。無視して屋上の真ん中まで歩くと、
 そこで私は思いきり大の字になって寝そべった。
 そうすると嫌でも空を見ることになる。
 今日は曇っていて、今にも雨が降りそうな天気だった。

 「今日は・・・・泣きそうだね。」

 なんとなくだけど、空は私の気持ちを代弁しているように思えた。
 自分がそんな空模様を操るほど世界において重要な人物だとは
 これっぽっちも思わないけれど。
 あの日からすっかり乾いた地べたをごろんごろん転がると、
 髪の毛が顔にかかって目を隠してくれた。
 そしてそれは、私の目に溜まったものを流させるには充分すぎる理由だった。

120 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:45

 ―――ポツ、ポツ、ポツ・・・・・。

 私の涙に合わせて、流れるように降る雨。

 やっぱり、そうだ。

 どういう仕組みで、どういう理由でかは分からないけど、
 今、空は確かに私の気持ちを天気に表している。

 まるで夢を見ているみたいな、変な感覚だった。

 「そういえば石川さん、言ってたっけな・・・。」

 雨に打たれながら、独り言を呟く。

 「悲しくて泣きたい人の涙を隠すための雨、なんてロマンティックじゃない?」
 「・・・・なら。」

 なら、私は濡れていなければならない。
 何故だかそんな気がして、私は雨に当たり続けた。

 当然のようにまた風邪を引いて、母親に怒られた。
 風邪で体はだるいし辛いけど、不思議と悪い気はしなかった。
 あの天気を支配したような感覚は、忘れられない。

121 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:46

  + + +
 風邪が治って再び屋上に来ると、私は意を決して封筒へと手を伸ばした。
 身長が低くて届かなかったけど、ジャンプしてなんとか掴む事ができた。
 中の便箋を広げると、ここにも当然ながら女の子らしい字で文章が書かれていた。

 「・・・・・・・・。」

 読み終えると、私はドアを開けて、階段を駆け下りた。
 教室まで急いで降りると、幸いにも休み時間。
 クラスメイトの顔も見ずに鞄を拾い上げると、再び屋上へと戻った。
 いい加減出席してる証拠の鞄もダミー買って置いておこうかな、なんて思う。
 階段を駆け上り屋上に再び戻ってくると、その疲れで一回寝転がった。
 11月中旬でもう寒いけれど、太陽がよく照っていて少しだけ気持ちが良かった。

 「今日は少し慌ててる・・・ね。」

 流れていく雲を見ながら思わず呟くと、私は手紙の裏に文字を夢中で書き込んだ。

122 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:47

  + + +
 肩に優しい振動を感じて、私は重い目を開いた。
 いつの間にか寝てしまっていたらしい。
 肩に乗っかった手を見ると、すぐにそれが誰だか分かった。

 「石川さん・・・。」
 「なんで分かったの?」
 「黒いから。」
 「あ、ひどーい!」

 石川さんは笑うと、緑色の筒をかぽんかぽん蓋を取ったり閉じたりした。

 「おぅっ。卒業証書すか?」
 「ビンゴ。」

 石川さんは満足そうな笑みでかぽんかぽんと繰り返す。
 まるで初めておもちゃをもらった子どものように。

123 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:48

  + + +
 石川さんの手紙にはあの日来れなかった理由、
 自分が屋上に現れた理由が詳しく記されていた。
 それを読んで私はこの間の人を吉澤さんという人だと言うことを知った。
 そして、ここに来る理由を失ったことも。

 『田中が許してくれるか分からないけれど、ちょっと遅れたけれど、
  誕生日おめでとう。欲しものがあったら、この手紙の裏に書いて』

 私はそれを見て、これをこっそりと回収しに来る石川さんの姿を思い浮かべて
 くすりと笑った。

 『卒業式の日、抜け出して屋上に来てください』

124 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:48

 + + +
 「なんで抜け出してきてくれないんですかー?」
 「無理よ!私卒業生代表で読んだんだから。」
 「あー、そうでしたっけ?」
 「いなかったくせに。」

 石川さんが控えめに笑うのに対して、私は大声を出して笑った。
 私達が笑えば空も笑う。なんとなく、そんな気がして。

 「私がいなくなったからって、登校拒否するなよ?」
 「誰が。」

 私が少し冷めた口調で言うと、二人で声を上げて笑った。

 初春の空は他の季節とは違った空気が流れている。
 卒業という別れの悲しみを笑顔で乗り切ることができるように、
 私達を優しく包み込むように。

125 名前:天気職人 投稿日:2004/11/07(日) 01:48
おわり。
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:30
『らぶあふぇあ』


※ エロを含みます。エロが苦手、もしくは嫌いな方は読まないほうが良いかと。
127 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:31
「石川さーん」
タクシーに乗り込む私を、田中ちゃんの声が引き止めた。
見ると、手を振りながら、田中ちゃんが私に向かって走っている。
「はぁ、はぁ、石川さん、今帰りですか?」
「うん、田中ちゃんも?」
「はい、一緒に乗ってもいいですか?」
「いいよ。私先に乗るね」
私がタクシーに乗り込むと、田中ちゃんが後に続いて乗った。
実を言うと、田中ちゃんの家は、私の家の通り道というわけではない。
だから、田中ちゃんを家に寄ると、随分と遠回りをしなくてはならない。
それでも一緒に帰ろうといわれるのは嬉しいものだし、多少の遠回りなど気にはならなかった。
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:31
「えへへ、タクシー代ういちゃった」
「まだ、私が出すって言ってないよ」
「えー、じゃあ、割り勘で…」
「うそうそ、おねーさんに任せなさい」
「はーい」
田中ちゃんは嬉しそうに私に擦り寄ってくる。
間近に見る彼女の耳には、ピンクのハートのイヤリングが付けられていた。
「あ、そのイヤリング付けてくれたんだ。嬉しい」
「もちろんです。石川さんがれいなの誕生日にってくれたもんやけん」
「田中ちゃんだけだよ。そう言ってくれるの。みんな、梨華ちゃん趣味悪ーいって付けてくれないんだから」
「そんなことないです。これ、可愛いけん気にいっとー」
そう言って、イヤリングが見えるよう耳に手を当てる。
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:31
そういう姿を見ると、可愛いなーっと、抱きしめたくなってしまう。
でも、さすがの私もそこまで向こう見ずではない。
タクシーの運転手さんがいる手前、ついつい行動をセーブしてしまう。
かわりに、よしよしと頭を撫でた。
田中ちゃんは、目をつぶって気持ちよさそうに身を任せている。
「よしよし、いーこいーこ」
「もう、子ども扱いせんとってください」
上目使いで、ちょっと膨れて頬を膨らませる。
その表情が、余計に可愛かった。
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:32
それから、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
楽屋では普段から田中ちゃんとはあまり話しをしないからか、田中ちゃんの家に着くまで、ずっと話を続けていた。
初めての撮影の時、緊張してた田中ちゃんにきむちって教えてくれた事が、本当は凄く嬉しかったとか、体育祭の時に勝ちにこだわる姿がとてもかっこよかったとか、話は随分と昔から今に至るまで、多岐にわたって話をした。
1時間ほど話したころ、タクシーは、田中ちゃんの家に到着したのだ。

「石川さん。れいなの家に泊まっていきませんか?」
タクシーを降りる時、田中ちゃんは私に話しかけた。
「まだ話したりんけん、れいなの家で話しませんか?」
「でも、迷惑になるんじゃ」
「なりません、絶対」
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:32
本当言うと、こんな夜更けに約束もなしに泊まるのには抵抗があった。
なにより、何も準備していないし。
だけど、相手は田中ちゃんだし、私も田中ちゃんとはもっと仲良くなりたいと思っていたので、良い機会だと思ったのだ。

「じゃあ、泊まっちゃおうかな」
「是非、れいなもその方が嬉しかけん」

そう言って、私の腕を引っ張る。
私は、タクシーの運転手にお金を渡してタクシーを降りた。
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:32
田中ちゃんは、カバンから鍵を取り出して鍵を開け、ドアを開けて玄関に入る。
廊下は、電気が消えていて真っ暗だったが、スイッチを入れて明かりをつけた。

「どうぞ、上がってください」
「おじゃましまーす」

玄関に上がると、奥の部屋も電気が消えており、誰もいないようであった。

「お家の人は?誰もいないの?」
「はい、弟が熱を出したけん、お母さんは福岡に帰っとります」
「そう、田中ちゃん一人なんだ」
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:33
田中ちゃんは、すたすたと今に入って電気をつける。
その後を、私がついていく。
今には、ラップに包んだ晩御飯のおかずがあり、広告の裏に「温めて食べて下さい 母より」と書かれたメモが置かれていた。
田中ちゃんは、ちらりと見ただけでそのまま今を通り過ぎていった。
そして、ドアの前で立ち止まる。
ドアには、「れいなの部屋」と書かれた掛札がかけれれていた。

「ここがれいなの部屋です」

にっこりと微笑んで、どうぞーっとばかりに手を広げる。
そして、ドアを開くと電気をつけて、中へどうぞとばかりにもう一度手を広げた。
134 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:33
れいなの部屋は、ベッドと勉強机、それに、小さなテーブルと雑多な置物やぬいぐるみが置かれていた。
白い壁には洋服がかけられ、モーニング娘。のポスターが貼られている。
中でも、一メートルはある巨大なポスターが目を引いた。
それは、私のドアップのポスターだった。

「へー、意外と片付いてるんだ」
「石川さんと一緒にせんといてください」
「んもー、梨華の部屋も、結構片付いてるんだよ」

冗談めかして言われ、私も怒った振りをする。
田中ちゃんは、「ほんとですかぁ」と言い、「じゃあ、今度は石川さんの部屋を見せてださいね」と続けた。
ベッドの上を簡単に整えると、とんとん、とその上を叩く。
135 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:33
「ここに座ってください」
初めての部屋に入ると、どうしても言われるまで立ちっぱなしになってしまうもので、ずっと、立っていた私に気を使ってくれたのだろう。
私は指定されるままに田中ちゃんの隣に座った。
田中ちゃんは、いつになく真剣な顔をしていた。
だが、ころっと顔の表情を変える。
「石川さん、誕生日プレゼントありがとうございます」
「あ、いいのよ気にしなくて、そんなに高いものじゃないし」
田中ちゃんは首を振って答える。
「とっても嬉しいです。大切にしますね」
「ありがとう」
プレゼントをした私がお礼を言うのも変な話だが、私がお礼を言うと、田中ちゃんははにかんだ笑顔でうつむいた。
136 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:34
「それで、その、もう一つ欲しいものがあるんですけど」
「なに?」
「あの、言ったら、くれますか?」
「うーん。どうしようかなぁ」
私が言うと、田中ちゃんは、なんだか悲しそうな顔をする。
私は、はっと思った。
プレゼントの催促なんて、よほどの勇気がないとできない。
きっと、田中ちゃんは凄く勇気を振り絞って、言ったに違いないのだ。
私は、ちょっと意地悪だったかな、と反省した。
137 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:34
「いいよ、言って。私にあげれる物ならあげるよ」
「ほんとですか?」
「うん、ほんとだよ」
「うれしいです」
そう言うと、田中ちゃんは私に抱きついてきた。
そして、そのまま勢いでベッドに私を倒す。
「ええぇ!?田中ちゃん?」
私は吃驚した。
当然だ、突然田中ちゃんが私を押し倒したのだから。
「ちょっと、田中ちゃん、どうしたの?」
田中ちゃんは、私に覆いかぶさり、唇を重ねてきた。
「ん、んん、ちょ、ちょっとまって」
私は力ずくで田中ちゃんを引き離す。
138 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:35
「くれるっていったじゃないですか」
「それは言ったけど、えぇ!?そういうことなの?」
「好きです。石川さん」
田中ちゃんは、にっこりと微笑むと、さらに口付けをする。
どこで覚えたのか、舌を絡ませ、歯茎の裏を舐めてくる。
「んぅ…やぁ…だあ…」
私の口から甘い声が漏れ、自然に体の力が抜けた。
田中ちゃんは、私の服に手をかけると、口付けを交わしたまま丁寧に脱がし始めた。
ブラウスの中に手を忍ばせ、指を這わせてゆっくりと胸の方に近付く。
そして、指で器用にブラジャーに隙間を作ると、その中に指を入れて隆起に沿って優しく撫で始める。
唇を離すと下唇を軽く噛み、そして、首筋にキスをし、舌を這わせて、鎖骨をなぞる。
「んん、くぅ……はぁ……」
我慢していただけに、余計に大きな声が出てしまう。
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:35
「石川さんって、そげん可愛いか声出せるんね」
田中ちゃんは、顔を上げると、そのくりっとした目で私を見上げ、満足そうに微笑む。
「もういいですね。両手を上げてください」
私は言われるままに両手を上げた。
田中ちゃんは、ブラウスを引き上げするりと脱がしてしまう。
「田中ちゃん、もう止めようよ」
「駄目です。次は、腰を上げてください」
私が腰を上げると、スカートを脱がしてしまった。
「それと、田中ちゃんっていうの、やめてくれませんか?」
「え?」
「れいなでいいです。れいなも石川さんのこと、梨華さんって呼びますから」
そう言うと、田中ちゃんは自ら服を脱ぎ始める。
そして、下着だけの姿になると、再び、肌を触れ始めた。
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:36
首筋にキスをしながら、両手を背中に回してブラジャーのフックを外す。そして、胸を覆っているブラジャーを引き剥がした。
「ふふっ」
露になった私の胸をまじまじと見つめる。
私が両手で隠そうとすると、両手を捕まえられてしまった。
「駄目やけん。もっとよく見せて」
「やだ、恥ずかしい」
「綺麗、すごく、大きいし、横になっててもツンと上を向いて突き出しとるし、乳首もピンク色で凄く綺麗か」
そう言うと、左手を離すと、乳首を摘み、こね回す。
「はあぁ……」
「やっぱり感じてくれとるんじゃなかですか。こんなに硬くなって」
田中ちゃんは、さらに強く乳首をこね回し、引っ張ったり左右に揺らし始める。
「やぁ、やめて……お願い…」
「本当に、止めて欲しいんですか?」
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:36
田中ちゃんは、真剣な目つきをしていた。
何とはなしに、ここで、止めて欲しいって言えば止めてくれる、そんな気がした。
だけど、自分でも訳が分らないのだけど、その言葉がどうしても出せなかった。
ほんの10秒ほどだろうか、田中ちゃんは、私から視線をそらす。
そして、顔を下のほうにやり、陰部をパンティの上から舐め始めた。
「くうぅ……はぁぁ……」
パンティは徐々に湿り気をおび、薄っすらと陰毛が浮かびあがる。
田中ちゃんの舌が触れるたびに、快楽が広がってゆく。
142 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:37
「……田中ちゃん……」
「れいなって言ってください」
田中ちゃんは顔を上げると、指を股間にはわせながら、割れ目に食い込ませ始めた。
その姿勢のまま、乳房にキスをし、乳首を舌でなめたり吸ったりする。
「……あぁ……やぁ……」
「れ、い、なって、言って」
「れ…いな……れいな」
れいなという名が、波紋とともに私の中で広がってゆく。
私は、心の中で何度もその名を呼んだ。
「やっと、呼んでくれた」
れいなは、嬉しそうに微笑むと、尻を上げてパンティを脱がせ始めた。
「やぁ……そこは……」
「れいなって呼んでくれた、ご褒美っちゃ」
両手で大きく両の太腿を開らくと、れいなは、いきなり、クリトリスと舐め、舌で弄んだ。
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:38
「ひゃんっ」
私は、体をびくんっと大きく振るわせた。
「ああっ……やめっ……はあぁんっ……」
れいなは、徐々に激しく、早くした舌を動かすと、その動きにあわせて、快楽の波が押し寄せる。
れいなは、クリトリスを舌で舐めながら、股の穴に指を少しずつ入れ始める。
「ひゃあっ…あぁん……やめてえっ……あああんっ……」
れいなは、指を第二関節まで入れると、二本目を入れ始める。
れいなの指には溢れる液体が絡みつき、動きにあわせてくちゅ、くちゅと音を立てる。
「梨華さんの中、すごい濡れてる。ぐちゅぐちゅって音、聞こえるね?」
「…いや…」
指を抜いて、私の目の前に持ってくると指に絡みつくねばねばした液体を伸ばして見せる。
「ほら、見んね」
私は、ほやけた頭でれいなの指の動きを見ていた。
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:39
れいなはそれをぺろりと舐めると、私に口付けして、その味を味あわせた。
唇を離し、にっこりと笑う。
「そろそろ、イかせてあげるけん」
そう言うと、指をもう一度つっこむと、ゆっくりかき回し始めた。
そして、2本、3本と指の数を増やし、激しく動かす。
「あううう、……ああっ……いくぅ……いっちゃうよぉ」
「よかけん。イッてください。イッて」
れいなの言葉で、私は、背をのけ反らせてあっけなく達してしまった。
「はぁ……んんっ……くうっ……」
しばらくの間、快楽の余韻が続く。
それから、れいなは私に抱きつくと、軽く口付けを交わす。
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:39
「石川さん……」
れいなは、小さな声でそう言い、下を向いたまま顔を上げようとしない。
「石川さん、れいなのこと、嫌いになりました?」
私は、ついおかしくなり体を振るわせた。
れいなは、それを勘違いしたらしく、びくんと振るわせる。
私は、れいなの顔を上げると優しくキスをした。
「前よりも好きになったよ」
れいなは顔を上げると、ぱぁっと顔を明るくした。
それから体を起こすと、私の顔をまじまじと見つめる。
「なら、次は石川さんの番です」
私はきょとんとする。
「れいなが猫で、石川さんがお姉さんっということで」
そう言うと、私の胸に飛び込んできた。
「にゃーん」
私は堪らなくなり、れいなと位置を入れ替えて口付けをした。
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:39

HAPPY BIRTHDAY れいな

147 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:40
れなりかって、なんだかエロいよね。
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 21:40
気分を害された方、ごめんなさい。
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/07(日) 23:29
気分を害されるなんて、とんでもない!
かなり良かったです(;´Д`)ハァハァ
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 22:10
結局最後まで「梨華さん」と呼ばなかったところに萌え
まあラストが一番(;´Д`)ハァハァだったわけだが
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:48
ケモノハモトメル
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:49
豊満な乳房を握ると、歪んで形が変わる。
掌に、完全に収まりきらないほどの大きさ。
何だか無性に腹が立って、人差し指と親指の腹でツンと硬くなった尖端を抓んでやった。

「いたっ」

予想範囲内の反応。
そりゃあねぇ、痛くするように抓んだんだから。

「ちょっと、れぇな・・・」

非難するようなさゆの声。
声ではあたしを責めていても、顔と身体はあたしを求めている。

潤んだ瞳と、あたしの腕を押さえつける細い腕がその証拠。

だから敢えて聞く。
先にある答えを知りつつも、敢えて。
彼女を虐めることは、あたしへの快感も募らせる。

「痛い?やめよ――」
「やっ!やめないで」

あたしの言葉が終わる前に、
さゆは華奢な腕であたしを包み、引き寄せた。
胸の谷間に、顔が埋まる。

心地よい感触に包まれつつ、
あたしはニヤリと笑い、舌の先でさゆの白い肌を舐めた。

153 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:51
「ひゃ・・・っ」

ビクン・・・

腕の力が弱まる。
胸の尖端を刺激しながら、上方へと舌を這わせていく。

その度にさゆの身体が小刻みに揺れる。
白が羞恥からか、快感からか。
朱色に染まっていくのがとても面白く、同時にあたしにとっても快感だった。

「ぁ・・・んん・・・」

鎖骨、首、耳の穴。
そして唇をあたしの唾液で濡らし、最後に口内への蹂躙をはかる。

チュ、チュプ・・・
舌と舌、唾液と唾液。
異なる人間の同種のそれが絡み合い、卑猥な音を立てる。

その行為があたしを、さゆを更に奮い立たせ、
耳に入ってくる淫らな音も、興奮剤。

角度を変え、唇を責める。
同じころ、下ではさゆの大きな胸が歪に形を変えている。
尖端は、辛そうなほど、硬くいきり立っていた。

154 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:52
「・・・うぁ・・・」

接点が離れ、
それでも涎があたし達を繋ぎとめようと奮闘する。

しかし、そう長くは続かない。
ほら、もう切れちゃった。

「れ・・・な・・・」

熱の篭ったさゆの溜息。
共に紡がれる言葉はとても切なげで。
向けられた瞳も熱く潤んでいて、表情、身体全てが熱を持っていて。

あたしの心は、更に大きく波立った。

「せ・・・つない、の・・・すごく、切ないの・・・
 れぇな、お願い・・・何とか、して・・・」

意識しなければ暴走確実な心身を抑え込み、あたしは笑みを向ける。
軽くおでこにキスを落とし、最後の砦、純白のシルクをゆっくりと捲っていく。

布が擦れる振動でさえ、今のさゆには快感らしい。
ピクピクッと小さく身体を震わせて、唇を噛み締めていた。

ほどなくして、さゆは生まれた。
取り除いた最後の布を丸めて放り投げながらも、視線はその身体に釘付け。

白い肌、絞まったくびれ、豊かな乳房。
茂みは濃すぎず、薄すぎず。
だから微妙に見えたり、見えなかったり。
それが総じて、さらにエロい。

胸の中がむずむずする。何かが蠢き、あたしを誘う。

155 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:53
「やぁ・・・あんまり、見ないでぇ・・・」

恥ずかしげに呟き、顔を両手で覆うさゆ。
連鎖するように両の腿がくっついて、十分に湿った秘部を隠そうとする。

ドクン・・・
もう、無理だ。
もう止まれないし、止まる気も無い。

早くなる鼓動に急かされるよう、あたしは着ていた服を全て取っ払った。
ティーシャツも、スカートも、パンツも、ブラも。

そして、さゆの顔の被さる腕を掴んでベッドへと押し付ける。
蕩けてしまいそうなさゆの顔。
見つめられると頬の筋肉を吊り上げて、沈んだ。

「や・・・ぁ、ぁぁああ!」

缶ジュースを飲むときみたいに、音を立てて。

茂みを鼻の先で感じつつ、
あたしは、
秘壷の入り口に唇をあてがい、
獣のように貪り、食す。

156 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:53
「ぁ、やぁ、あ、ああ・・・っ」

仰け反ったり、捩ったり。
突き抜ける快感に、悶えるさゆ。

あたしの頭を押さえる彼女の手はぶるぶると震えて。
まともに力なんか入りやしない。

「ぅあ、い・・・ぁあぁ・・・!」

ジュルジュル・・・
溢れてくる甘い蜜を吸いだしながら、確認したさゆの呼吸音。
ハァハァ・・・辛そうに、間隔が短い呼吸音。

愛撫を続けながら、今のさゆの表情を想像する。
涙が溢れ、涎も溢れ。
脱力しきった顔は、どことなく妖艶で。

157 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:54
ドクン・・・
イケナイ・・・あたしの中のケモノが、また騒ぎ出した。

ドクン・・・
ソイツは甘い口調であたしを誘う。
自分にも、さゆにも。更なる快楽を与えるため、あたしを誘う。

ドクン・・・
舐めてこれだけ。
じゃあ

顔を上げ、口の周りをぺろりと一舐め。
想像通りのさゆの顔。
ベッドに埋まり、肩で荒く息をしていた。

ケモノが笑う。つられて、あたしも笑う。
凶暴な笑み。
彼女ののぼりつめた表情が見てみたい。

ドクン・・・
気付かれないように、秘部の割れ目に二本、人差し指と中指。
触れるか触れないかの位置で止め、目があったさゆに笑いかけた。

じゃあ、入れてみたら、彼女はドウナル?

158 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:55
「ぁあああああああっ!!」

悲鳴にも近い絶叫が、決して広くも無い部屋に木霊する。
夜中でも、
電気を消していても、確りと見えるさゆの痴態。
お月様に、感謝。

「あ、ああああ、ひぅぅ!」

右、左、下、上。
壷の中を激しい手付きでかき回す。
四方にある壁を、満遍なくなで上げる。

ベッドの上で、躍るさゆ。
目は見開いて、口もぽかりと開いて。
唾液や涙をあたりに散らす。

彼女の両腕が、宙にさ迷う。
あたしは手の動きを止めることなく、開いたほうの手で彼女の両手を強く握った。

「ぁっあ、れ・・・ぇな・・・っ!」
「ここに。ここにおると」

すると、あたしの手に加わる微かな力。
刹那、さゆの表情が緩んだ気がしたけど、それはホントに一瞬。

あたしの手を握る手に力を込めると、
何かに耐えるようにギュッと眼を瞑った。

あたしは確信する。
近いな。

「あっ、れぇな、れーな、れーなぁ!」
「いいよ、さゆ。イっちゃってよ!」

あたしの名を呼びながら、
華奢な身体を激しく痙攣させて、
甲高い嬌声を室内に響かせながら、

「あ、あああああああ!」

さゆは、果てた。

159 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:55
――*

一人用ベッドに並んで眠る、全裸の女の子二人。
差し込む光は天然の照明。
ちょっと明るすぎるきらいがあるけれど、やっぱりどうして心地良い。

「ちょっと、やり過ぎたかな・・・」

ゴロンと、右に一回。
寝返りをうって、彼女の寝顔をジッと観察。

涙を目尻に浮かべたまま、穏やかに夢の中。
立てる寝息は静かで、これも心地よい。

おろした黒髪を一撫でして、
あたしはさゆの唇に自分のそれをくっ付けた。
触れるだけの簡単なキス。
いくらなんでも相手が眠ってるときやったら、ホントにケモノになっちゃうし。

唇を離して、もう一度寝返り。
さゆに背中を向けた姿勢で、あたしは目を閉じた。

ま、誕生日プレゼントの前倒しとね

自然と頬が綻んだ。
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:56
オワリ
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:57
从*` ヮ´)・・・
从*・ 。.・从・・・
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/09(火) 23:57
御免なさい・・・
163 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/10(水) 00:14
さゆれなえがった。。。(;゚∀゚)=3ハァハァ
れなえりのも見てみたい
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/10(水) 17:43
さゆえりハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
作者様、グッジョブ!!
小生もれなえり読みとうございます。
165 名前: 投稿日:2004/11/11(木) 00:11


    『模糊模糊』

166 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:12

「―――」
声が聞こえる。
「―――起きて」
ゆっくりと目を開ける。
薄暗い室内に、白い影が立っていた。
白い影はあたしを見下ろして言う。
「れいなは何が欲しいの?」
それは真っ白いフリフリのワンピースを着たさゆ。
167 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:13

あたしはゆっくりと視線を移動させる。
見慣れた天井、壁、机と椅子―――ここはあたしの部屋。
そに何故かさゆが立っている。
「さゆ……なにしてんの?」
「だから何が欲しいの?」
さゆが焦れたようにぐっと身を乗り出した。
「何が欲しいって」
あぁ、そうか。誕生日のプレゼント。
それを聞くために、わざわざ不法侵入してきたのだろうか。
そもそもさゆはどっから入って来たんだろう。
「そんな事気にしないでいいの。夢なんだから」
「あぁ、夢か」
さゆがさも当然のように言うから、思わず納得してしまう。
168 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:13

「じゃなきゃこんな格好しないから」
さゆはフリフリのワンピースを指先でつまむ。
「羽も生えてるし」
くるっと回って背中を見せるさゆ。
そこには確かに、小さな羽のような物が付いていた。
「それで飛んで来たの?」
「へ?」
「だから、羽で」
「あぁ、それは無理なの」
「なんで?」
「かわいいから付けてるだけだもん」
「……へぇ」
つっこむ気にもならない。
169 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:14

「で、何がいいか決めた?」
どうやらこの夢の本題はそこらしい。
「突然言われても」
「夢だから、なんでもアリだよ?」
「なんでもアリ……」
欲しい物はたくさんあるけど、そう言われると困る。
あたしはさゆを見つめたまま考えた。
真っ白なワンピースとさゆの肌。
すぐに頭に浮かんだ考えを口にした。
「じゃー雪。雪見たい」
「雪?」
「うん」
「ちょっとれいな……ここ東京だよ? まだ11月だよ?」
さゆは大袈裟に肩をすくめてみせる。なんかむかつく。
「なんでもいいって……」
「れいなには常識ってもんがないの?」
常識がないのはお前だ。
「じゃあ―――」
170 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:15

「あ、残念、れいな。時間切れ。タイムオーバー」
「え?」
「あたし、なんか眠くなっちゃったの」
「はぁ?」
「じゃあ、またね」
さゆはそう言って、小さな羽でパタパタと飛んで行った。
さっき飛べないって言ったくせに……。
171 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:15


目を覚ますと、いつもの見慣れた自分の部屋。
なんだかよく寝れなかった気がしてため息をついた。

172 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:16

楽屋に入ると、みんなが集まってきた。
ハッピーバースデーを歌ってろうそくを消してお決まりの。
ほとんど毎月やっているとはいえ、主役があたしなら気分もいい。

「うわー、これかわいー」
絵里がニコニコ笑いながらプレゼントの包装紙を開ける。
「ちょ、それれいなの―――」
「これ新垣さん? センスいいねー」
「おい……」
「あー! これもいいなぁ」
次々とプレゼントを開けていく絵里。
つっこむのも面倒になって、ごろりとその場で横になった。

そういえば、まださゆは来ていない。
なんとなく夢の事を思い出す。
少し重い目蓋は、きっとあの夢のせいだ。
173 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:17

   ―――――

174 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:17

「―――」
声が聞こえる。
「―――起きて」
ゆっくりと目を開ける。
室内の照明を背に、黒い影が立っていた。
黒い影はあたしを見下ろして言う。
「お誕生日、おめでとう」
それは何故かモコモコに着膨れしたさゆ。
175 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:18

「はい」
さゆが差し出したのは、小さな雪だるま。
「……なにこれ?」
「雪。意外と遠かった」
「あ、ありがと……」
「どういたしまして」
さゆは眠そうに小さくアクビをした。
176 名前:『模糊模糊』 投稿日:2004/11/11(木) 00:18


    おわり

177 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/11(木) 00:21

从*・ 。.・) <お誕生日、おめでとう
从 ´ ヮ`) <ありがと

178 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/11(木) 01:36
>>165-176
すげぇ良かったよ。
うpしてくれてありがとう。
179 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:02

『後ろ手にドアを閉めた』
180 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:03
ツアー中、宿泊先のホテルの廊下で愛ちゃんに会った。

何かプリプリ怒ってた。

「あんガキめ、コーラは喉にあんまり良くないから
 飲みすぎるなよって言ったらな」

目的は一緒で自動販売機コーナーまでやって来て、

「そんなの私の勝手じゃん、とかほざきおって!」

怒りに任せて握り拳でミルクティのボタン殴るように押して、
ちょうどのその時自販機がブーン、と鈍い音を出したので、
機械だけど八つ当たりされて何か可哀想になったりする。

「それで、ムカついて出てきたんですか」
「うん」
「…それ飲んだら戻るんですか?」
「………わからん」

ああ、勢い任せに出てきたんですね。
181 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:03
とりあえず自分の欲しかったレモン味のジュース(レモンなら
なんでもよかった)を買って、改めて愛ちゃんの方を見たら、
れなの背後で唇突き出してミルクティの缶を両手に持って
クルクル回してた。

「…れなんとこ来ます?」
「え?」
「部屋、誰も居らんたい」

あんまり自主的に人を誘ったりしない後輩からの誘いに、
愛ちゃんは例のびっくり顔をして

「重さんは?部屋一緒やろ」

と聞いてくる。まあ当然だ。

「絵里んとこ」
「ああ。でも、折角一人なんやからゆっくりしたいんと違う?」

そう言いながら弄んでた缶を今度は自分のほっぺたに
ピタッとくっつけてみたりしている。

確かに自分もそう思っていた。数分前までは。
けど、愛ちゃんに会ったから。
隣にさゆも新垣さんも居ない愛ちゃんが目の前にいるから。

「放っておけんたい」
182 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:04
どうぞ、と部屋のドアを開け愛ちゃんを促して
適当にその辺座ってくださいと言いながられなは自分の
ベッドに腰掛けた。
二人部屋って言っても仕事で来ているから
設備なんてろくなもんじゃなくて簡単に言えばベッドと
クローゼットとテレビと冷蔵庫くらいしかない、そんな部屋。

それでもさっきまでの一人きりよりは全然気分が違って
何でかって言うと愛ちゃんと二人きりだからだ。

二人きり だ。

…れなずっと高橋さんのこと気になってた。
でも誰にも言わないで内緒にしてきたことだ。
何でってれなはさゆみたいに
本当に心の底から好きだって思うものをオープンにするよりは
自分の心の中で大事に大事にしてきていざって時にだけ
一生もんの大仕事を一発決めるつもりの気持ちで打ち明けたいと
思うから。
183 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:04
矢口さんのことをやぐっつぁんって呼べるようになった、あの話、
あれには続きがあって、実は高橋さんも
ほやったらあたしもついでに名前で呼んでもらおうかなあ
なんて何気なく呟いてれなに目配せしてきた。
それまで高橋さんって呼んでた絵里やさゆじゃなくて
その目はれなだけを見てて、自分が一番最初に呼べるんだ、
何て変に意識してしまい震える声で愛ちゃん、って呼んだ。

「オゥ、愛ちゃんやでぇ」

やぐっつぁんはれなの震えた声とその返事がツボだったらしくて
キャハハハって笑ってたけど、愛ちゃんは全く気にならなかったらしく
ん?何かあーし変なこと言いました?なんてやぐっつぁんに尋ねていて
れなは嬉しくて嬉しくてワーッて叫びそうだったのを下唇噛んで我慢してた。
184 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:04
「れい、カーテン開けっぱなしなっとるで」
「あ、閉めます」
「ええよあーしがやっとく」
「…あ、あぁあありがとうございます」

…れなは色々意識した。
今この部屋に居るのは二つのイキモノで
片方は自分でもう片方は自分が好きな人であの人が吸い込む空気には
れなが吐いた二酸化炭素の中にちょっとだけ含まれてる酸素が
混じってるかもしれんくてそれはその逆も言えることで。

そう思ったら何もかもが貴重に思えて誠に勝手ながらこの時間と
これから起こる全ての出来事はれなと愛ちゃん二人だけの
秘密にしたくて同時に不安要素もあって例えば愛ちゃん連れてこの部屋に
入るところを他の誰かに見られたりしたんじゃないかとか。

とんでもない!

れなはベッドから飛び上がるように立ち上がって
愛ちゃんが窓のほう向いててこっちに背中向けてるうちに
十歩くらい歩いたら辿り着くこの部屋のドアまで
ホップステップステップして三歩で辿り着いた。

自動ロックがかかる部屋のドアノブをゆっくり捻って
こっそり開いて顔の半分だけ廊下にはみ出す。

…一応、誰も居ない。
185 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:05
用心して獲物を狙うライオンの如く神経を尖らせたけど
即席野生のセンサーにひっかかる気配も無い。

れなはセンサーを張ったままドアノブに手をかけた状態で
ドアに背中を向けた。



部屋の奥の窓にはまだ愛ちゃんが居る。



遠くに居るせいかはたまたセンサー張ったままのせいか
その気になればあの存在が自分のものになるような気がした。
気分が浮き足立つ。とりあえずまずは抱きついてみようか。
それともゆっくり近付いてすかさずその腕を引き寄せてしまおうか。

気が付くと唇がカサカサに乾いている。緊張してるんだ。
たった今れなの中で一生もんの大仕事を一発決める
覚悟が決まろうとしている。

れなは唇を一舐めしてから、後ろ手にドアを閉めた。
186 名前:  投稿日:2004/11/12(金) 00:06
从 ` ヮ´)<ガルルルル
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/12(金) 00:39
続きキボンヌ
188 名前:夕暮れ三軒茶屋 投稿日:2004/11/13(土) 23:28
夕暮れの土手には錆びた鉄橋。
カラスも、かぁーかぁー鳴いてます。

そこにはお尻にカバンをひき、色取り取りのマフラーをまいた女の子が3人。
右のコは青っぽいマフラー。
真ん中のコはピンクっぽいマフラー。
左のコは白っぽいマフラー。

青のコはどうやら少し怒っている模様。
ピンクのコは足をばたばたさせ、お菓子を食べてる。
白のコは顔を俯かせ、涙目です。

そして何やらお喋りしてます。
189 名前:夕暮れ三軒茶屋 投稿日:2004/11/13(土) 23:28
「…ごめんね、れいな」
白のコが俯きながら言います。
「……知らん」
青のコが顔をそっぽ向いて、ぼそっと言います。
「やっぱり、たけのこの里だよねー」
ピンクのコはお菓子を食べながら、一人何度も頷いています。

「どうしたら許してくれる?」
白のコは顔を上げて言いました。
「……知らん!」
青のコはやっぱり怒ったまんまです。
「でも、フランも捨てがたいよねー」
ピンクのコはコンビニの袋から、新しいお菓子を取り出していました。
190 名前:夕暮れ三軒茶屋 投稿日:2004/11/13(土) 23:29
「……でも私どこに行ったて、さゆとれいなのこと忘れないよ」
白のコの瞳から、涙が一粒零れ落ちました。
「ずるかね! れいな達に内緒にしておいて、いきなりさよなら言って、えりばぁーっか泣いちょる! れいな達はえりに裏切られたんよ!」
青のコは白のコを睨みつけて、大声で怒鳴りました。
「……あぁー。もうお菓子ないやぁ…」
ピンクのコはコンビニの袋をひっくり返しながら嘆いていました。

「ごめんね。本当にごめんなさい。何時言ったらいいのかわからなくて…私もさゆとれいなとお別れなんてしたくなかったから、なかなか言い出せなくて…ごめんね……」
白のコは、涙を拭くこともなく流し続けながら言いました。
「聞きとうなか! えりは裏切ったんや! 裏切り者や!」
青のコも涙をたくさん流しながら言いました。
「……げぇぷ」
ピンクのコはお腹を擦りながら一つゲップをしました。
191 名前:夕暮れ三軒茶屋 投稿日:2004/11/13(土) 23:30

白のコは手で涙を拭いながらずっと「ごめんね」と呟いています。
青のコは唇を震わせながら、涙を流し、白のコを睨みつけています。
ピンクのコは、そんな二人の肩に手を伸ばし、自分の胸に引き寄せて、こう言いました。

「みんなでひとつだよ。泣き虫えりもおこりんぼのれいなも可愛いさゆも、みんなぁでひとつ。どんなに離れたってひとつだよ」

白のコも青のコも一度息を止めて、ピンクのコの顔を見上げました。
ピンクのコは夕陽みたいに、まーるい明るい顔で笑っていました。
それを見た二人は、ピンクのコの背中越しに腕を伸ばして抱き合い、誰に遠慮するでもなく大声で泣きました。
ピンクのコはそんな二人を見ながら「ぅげっぷ」。

やがてカラスも去り、二人は泣き疲れてピンクのコの膝の上で眠ってしまいました。
ピンクのコから流れた涙が、二人の頬の上に降り立った時、夕陽はすっかり沈んでいました。
192 名前:夕暮れ三軒茶屋 投稿日:2004/11/13(土) 23:30
おわり
193 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 05:17

『夜、午前二時、君の手』
194 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:18

真夜中に二人で家を抜け出した。
195 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:19

ただただ二人きりになりたくて。それだけの理由で。
だけどそれ以上の理由はなくて。
今頃家族はみんなスヤスヤと夢の中だろう。

「なんか悪いことしてるみたいだよねー」
「・・・別に悪いことじゃなか。」

れいなはぶっきらぼうにそう言い放つと、手を繋いできた。
思わず笑みがこぼれる。
外の空気に触れ、すっかり冷たくなったれいなの手をぎゅっと握り返した。
言葉遣いは悪いけど態度で優しさを示してくるれいなの不器用さが、
私はとても好きだ。

「どこ行くと?」

私は首を傾げた。別に二人になりたかっただけだったし、
行くとこなんて考えもしなかったから。

行く場所なんてどこでも良かったんだ。

「あ、それ考えてなかった」
「・・・まあとにかくさるくっちゃ」
「さるくって何?」
「歩くって意味っちゃ」
「へえ〜そうなんだ。また一つ博多弁覚えちゃった」

星がまばらに散らばったどこか寂しげな夜空を見上げながら歩く。
ひたすら歩いていく。

というよりもれいなが私を引っ張ってくって感じだけど。
196 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:20

「公園くるけん。よかと?」
「うん」

くるけん=行くって意味だ。
初めて聞いたときはびっくりしたけど今やすっかり聞き慣れてしまった。

中に入ってベンチに腰かける。
白い息がお互いの口から漏れる。
れいなは小刻みに震えながら、息を手のひらにハーハーと吹きかけている。

「れーな寒くない?」

私の巻いているマフラーをれいなにも巻きつけた。

「ほんにおおきに。」

隣にれいながくっついてくる。
なんだか子猫みたいで可愛い。
197 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:20

キョロキョロと辺りを見回す。
誰もいないみたいだし。れいなも何だか今日は特別に可愛いみたいだし。
私と一緒にいるせいかな?
そうに違いない!

等と適当に理由づけて。

顔を寄せていく。
198 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:22

そして、とうとう互いの距離がなくなった。
キスをしている間、目を開けてれいなを盗み見る。

頬がほんのり紅潮していて、どこか背伸びしたような
妙に大人びた表情になる。可愛さも勿論在る。

そんなれいなの顔がとても好きだった。

これは私だけの秘密。

もう少し見ていたいな。角度を変えて何度もキスを繰り返す。
時折苦しそうに息を吸おうとするれいなを阻み、ついばむように唇を何度も奪った。

だけど、とうとう両腕を掴まれて無理矢理押しのけられてしまった。
ゴホゴホとれいなが咳き込む。

「大丈夫?」

トントンと落ち着かせるようにれいなの背中を叩く。
 
「・・・絵里、急過ぎるっちゃ・・・心臓がもたん」

息も絶え絶えにれいなが言う。

だって。仕方ないじゃない。

「絵里だってドキドキしてるもん!・・・でもれーなが悪いんだよ」
「なんねーそれ?」

199 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:23

*      *      *

「だってれーな可愛い過ぎるんだもん!」
「はあ?」

何言ってんだこいつは。ズルッとベンチから転げ落ちそうになった。

それはこっちの・・・おっとっと。思わず口に出しそうになる寸前でかろうじて喉元にひっかかった。

いや。やめとこう。
そんな褒め言葉聞いたらコイツは調子づいてまた何かしてくるに違いない。

いや、そうでなくてもしてくるんだけど。

不意に腕を掴まれ、絵里が顔を寄せてきた。
一体何回したら済むんだ、このキス魔め。

まあ、それでも除けようともしないあたしもあたしだけど。
200 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:23

「れーなばり好いとぅ」

博多弁口調で喋る絵里の表情は柔和に笑ってた。
けれどあたしをからかってるようなものではなく、明らかに好意的で、情愛の籠もったもので。

「そんなん分かっとるとね」

かあっと熱くなった頬を木枯らしがゆっくりと冷ましていく。

コテンと絵里が肩に頭を乗せた。
あたしはこの気恥ずかしいような、何とも言えない消化しきれない感情を
誤魔化す為に何か他の事をしようと思い、とりあえずパーカーのポケットを探った。
いくらか残っていた小銭がチャリンと音を立てる。
入り口付近に有る自販機に向かおうとベンチを立ち上がる。

「何か温かい飲みもん買ってくるけん、絵里はそこで待っといて」
「やだ!絵里も一緒に行く」

絵里がすぐに駆け寄ってきて腕を絡ませてきた。
講義しようかと思ったけど、何も言えなくなってしまった。

くっついてきた絵里の笑顔が屈託なく、
あまりにも天真爛漫で。
201 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:24

ガタンゴトンと缶が落ちて、自販機から取り出す。
絵里の好きな緑茶を一本買って、交互に飲んだ。

「あー暖まる。おいしいね」
「ん」

絵里が飲み干した缶をくずかごに投げ入れる。
缶は綺麗な放物線を描きながら入った。カーンカラカラとかごの中で跳ね返る音がした。

「ベンチ戻ろっか」
「ん」

また絵里が手を繋いで来た。あたしよりちょっと大きくて細長い手。
あたしの指を包まれるように握られた。

「れーなの手ってちっちゃいねー」

指先であたしの指を撫でてくる。本当に心臓がバクバクでやばい。
破裂してしまいそうだ。
202 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:25

「絵里って金魚のフンみたいやね。すーぐくっついてくるっちゃが」
「違うもん。れーなの恋人だもん」

ついついこんな気持ちを悟られまいと憎まれ口を叩いてしまう。
あーもう情けない。なんてバカなんだろう。

怒りを露わにして、絵里がパーカーのフードをぐいっと引っ張る。
引っ張られて、よろけたあたしは後ろから抱きすくめられた。
絵里がほっぺたをあたしのほっぺたにくっつけてくる。
せっかく冷めかけてたほっぺたがジワジワと熱に浮かされていく。

「れーなは?」

何で今更そんな事聞くんだよ。
おかげで顔がますます熱くなってきた。今ほんとにゆで蛸状態。
あたしの気持ち知っててそういう事してくるんじゃなかったんかい。

「ちゃんと言って。」

黙ってたら絵里が急かすようにせがんでくる。
203 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:25

自分の中に恥じらいとか、変なプライドが邪魔をして
素直に気持ちを伝えられない拗ねた自分がいて。
あたしはそんな自分が大嫌いだった。
直球な絵里が羨ましかった。

だけどそんな風に羨んでばかりじゃ何も言えずに終わっちゃうんだ。
そんなのは絶対に嫌だから。だから。
今あたしが持ってる限りの勇気を全部投げ打って、言葉にしてしまおう。

「・・・好いとぅ。絵里ん事ばり好いとぅよ」

頭を撫でられた。

「やっと言ってくれたね」

そっか、あたしやっと言えたんだ・・・
力尽きてふらふらと脱力するあたしを支えようと絵里の腕が腰に回される。

「ごほうびだよ」

パーカーのフードに何かを放り込まれた。
なんね一体?
気になってあたしはパーカーに手を伸ばした。
204 名前:夜、午前二時、君の手 投稿日:2004/11/14(日) 05:26

出てきたのはピアスだった。音符の形で短めのチェーンに繋がってて結構可愛らしい。
だけど片方が無い。

「実は片方は絵里が付けてるんだ。おそろいだよ」

絵里の耳たぶには確かに同じものが付いていた。

いや、だったら同じの2個買えばいいのに、とツッコミを入れようか迷った。
今までこんなプレゼントらしいプレゼントは絵里からは初めてもらったし正直めちゃくちゃ嬉しかった。
それに何より今年の誕生日は絵里と二人きりで迎える事が出来たんだから。
今日ぐらいはツッコミは入れんとこう。

来月の絵里の誕生日には何をあげようか。
とにかく一緒には過ごしたい。てか過ごすだろ。
んで続けざまにイブにクリスマスっていうイベントも有るし。

今年は絵里のおかげで忙しくなりそうだ。
それもこれも全部絵里のせいだ。

「ほんにおーきに。」

そうして、あたしは片方のピアスを耳に付けた。
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 05:28

おしまい
206 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 05:31

从*´ ヮ`)人(^ー^*从
207 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 05:31

从*´ ヮ`)人(^ー^*从
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/14(日) 05:33

从*´ ヮ`)人(^ー^*从
209 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 17:57

 **
 誕生日は何かしらの期待をしながら過ごしてしまうものだ。
 それはあたし、田中れいなも同じことで、誰かプレゼントを持って現れないか、期待しながら家で過ごした。

 今日は生憎仕事がなかった。
 それでももしかしたらさゆか絵里辺りは来てくれるんじゃないか、
 あたしは淡い期待を抱きながらベッドの上をゴロゴロしていた。
 そんな嬉しいことをしてくれるようなヤツらだとは思わないけど。
 CDコンポからはジャケ買いした名前も読めない洋楽のバンドの激しいロックナンバーが流れている。
 あたしはそれを軽く口ずさみながら、携帯のディスプレイを見た。
 誰からのメールも来てない。
 期待すること自体バカらしいかもしれないけど、なんとなく、あたしはその体勢を続けた。
 目を瞑る。

 「れいなちゃん」
210 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 17:58

 どこからともなく声が聞こえた。
 空耳が聞こえるなんて、あたしはそんなに誰かが来てくれることを望んでいるのだろうか。
 そう考えると、軽く凹んだ。

 「れいなちゃん」

 また聞こえた。
 もしかして曲中のシンセを使った音声がそんな感じの音を出しているのかな。
 あたしは欠伸をして目を開けると、ぼやけた視界の中うっすりと何かが映った。
 寂しいあまりに幻覚を見ているのだろうか。だとしたら、悲しい。
 あたしは最近近視になってきた目をよくこすり、前をよく見た。
 幻は消えない。

 「れいなちゃんどうしたの?」
 「・・・さゆ?」
 「うん。」
 「・・・なんでいると!?」
 「来ちゃったの」
 「どーやって!?」
 「れいなちゃんのお母さん、いい人なの」

 よく見るとさゆの手には少しだけ高級感のあるお菓子が大事そうに納められている。
211 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 17:59

 「持ってきてくれたの?」
 「れいなちゃんのお母さんがくれたの」
 「あん野郎、そんなもん隠してたとね!!」
 「れいなちゃん、誕生日おめでとう」
 「あ・・・ありがと」

 この流れからは到底予想ができなかった一言にあたしは少しだけドキッとした。
 なんだかすごく嬉しい。さゆの口元は緩いカーブを描いて、あたしの返答に満足している様子だった。

 「誕生日プレゼント、持って来たの」
 「本当?」
 「れいなちゃんももう15歳だから、色々考えたの」

 さゆは愛用のショルダーバックをごそごそと漁り始めた。
 一体何をくれるんだろう。
 あたしは少しだけ期待しながら、さゆを待った。
212 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:02

 「あった。これ」
 「・・・これ?」
 「美容は大切なの」
 「・・・・生臭っ!常識な!!」

 鞄の中から飛び出したのはヒラメだった。
 あたしは思ったことを全てぶちまけると3歩離れたけど壁に背中と後頭部を強打した。
 目の前を星が飛ぶ。

 「れいなちゃん、誕生日なのに大変だね」
 「誰のせいだ」
 「じゃあさゆも1個れいなに特別にプレゼントしてあげる」
 「いや遠慮しとく」
 「きっと喜ぶよ」

 あたしの言葉は何一つ耳に入ってないみたいに、さゆは再びショルダーバックに手をかける。

 「カツオ、赤貝、ホタテ・・・」
 「魚のオンパレード!?」
 「イクラ、タラ、マス、アナゴ」
 「確実にサザエさん意識しちょる」
213 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:03

 「れいなちゃん」
 「なに?」
 「ワガママ」
 「無茶だから」

 さゆは頬をぷくーっと膨らますと、お寿司屋さんのように並べたそれを次々にバックの中へと詰め込んだ。
 明らかに入りきるような大きなじゃないのに、そのバックは4次元ポケットですか?

 「れいなちゃん、なにが欲しかったの?」
 「え?なんでもいいん?」
 「現実的な範囲で」
 「肉」
 「じゃあね」

 さゆはそう言うと手を振って部屋を出ていった。
 何故かマスオさんだけ残して。嵐は去った。でもなぜか悲しかった。
 あたしはベッドの上に勢いよく乗っかった。
 どすんという音を立ててベッドが少しだけ揺れた。

 「びっくりした〜」
214 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:03

 変な声がした。
 ベッドの下から明らかに。
 あたしは恐る恐る顔をベッドの下へと降ろしたら、ちょうど向こうが顔を出すタイミングと合致し、
 今度は前頭部を激しく打ち付けた。

 『痛!』
 
 これもやっぱり幻聴ではなかった。
 ベッドの下でジタバタと暴れているのは言うまでもない。

 「絵里、なにしとるん」
 「えへへ」
 「えへへじゃなか」
 「れいな」
 「なに?」
 「出られない」
 「ヤなこと普通にぶっちゃけんな」

 自分からベッドの下に入って出られなくなるなんてどんだけうっかりさんなんだ。
 というかうっかりさんで済まされる限度を遥かに越えている。

 「助けて」
 「・・・しょうがなか」
215 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:04

 あたしはベッドから降りると、思い切り持ち上げた。筋肉がなさすぎるせいか、腕がぷるぷると震える。

 「れいな力持ち〜」
 「・・・・・・・。」
 「おおすごいすごい」
 「早くすると!!」
 「はーい」

 絵里は渋々といった風にベッドから這い出てきた。
 もうお前、いつか入れない隙間に無理矢理入って出られなくなってしまえ。

 「はいー」
 「エスパー伊東かよ」
 「絵里もプレゼントもってきましたー」
 「あんま期待しないでおくと」

 絵里はさっきのさゆ同様持って来た鞄を漁り始めた。
 それにしても一体いつのタイミングにこいつは入ってきたんだろう。
216 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:05

 「絵里からは・・・これ!ドン!」
 「いやドン!って」
 「え?ダメ?」
 「さゆと微妙に被った」
 「・・・・マジ?」
 「マジ」

 絵里は困った顔をすると慌てて霜降和牛を鞄の中へとしまいこんだ。
 いや、欲しかったんだけど。
 どうして二人ともナマモノばっかり持ってくるんだ。
 おかげで部屋は少しだけ生臭くなっていた。

 「れいなさ、何欲しかった?」

 突然絵里の表情が真剣なものへと変化する。

 「とりあえず今はこの生臭い匂いを消すものが欲しい」
 「うん。他には?」
 「特に何もないっちゃ。強いていうならみんなの気持ちかな」
 「れいな魚臭い」
 「ツッコミ間違えとるわそれ」
 「他は?」
 「ケーキかな。
  ハッピーバースデーれいなって英語で書いてあったりするようなやつを
  みんなで分けて食べたりしたいかな」
 「なるほどぉ・・・」

 絵里は独り言を呟くように言うとすぐに部屋を出て行った。
 なんだってんだ、さっきから。
217 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:06

 **
 絵里が去ってから暫くしてあたしはお母さんに呼ばれて晩御飯を食べにダイニングに足を運んだ。
 でも机の上にあったのは食事なんかじゃなくて、1枚の画用紙だった。
 机のすぐまで近づいて、紙を持ち上げる。
 そこには台形みたいな図にいびつな長方形が重ねられていて、長方形の中には
 “Happy barthday Reina”と書かれていた。

 「・・・・ばーか」

 画用紙の上に数滴の水が滴り落ちる。
 どこまでもうっかりで、どこまでも不器用な絵里の心遣い。
 それが嬉しかった。
218 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:06

 次の日職場に足を運ぶとみんなであたしの誕生日を祝ってくれた。
 今度は下手くそな絵で描かれた偽物じゃなくて、正真正銘ホンモノのバースデーケーキ。
 絵里は“Happy birthday Reina”の文字を見て目が泳いでいたけど、あたしは何も言わなかった。
 あたしには今日今味わっているケーキよりも、昨日のケーキの方が美味しく、
 おなかを満たされたように感じられたから。
 ケーキをみんなで食べ終えると、あたしは絵里の耳元で囁いた。

 「ありがとう」

 絵里ははにかむような笑顔を見せたけど、答えなかった。
219 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:07
从_´_ヮ`)
220 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:07
ノノ*^ー^)
221 名前:画伯はときに食欲を満たすらしい 投稿日:2004/11/19(金) 18:07
从*・ 。.・从<さゆは?
222 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 20:50
「自由への翼」
223 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:07

夢を見た。

何故かあたしは雲の上にいた。
そう、見渡す限り雲しかなくて、そんな幻想的な世界なのにひどく殺風
景な場所に、あたしは一人佇んでいた。

すう、と息を吸い込み大声で叫んでみた。
けれどもあたしの気管からは弱弱しいブレスしか漏れてこなくて。
発された音がひとしきり一面の雲に吸収されてしまうと、目の前が暗転
したかのように暗くなった。

絶望。
人は多分今のあたしの状態を、そう呼ぶのだろう。

224 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:24

泣きたくなった。
けれどこんな場所で泣くわけにはいかない。
第一、泣く理由すらわからないのにそのわからない理由で涙を流すとい
う事実は、到底受け入れられるようなものではない。

あたしは腹の部分に力を入れ、こみ上げてくるものを必死で抑えた。
膝から下の感覚がなくなって、思わず雲に膝をつく。
ふわり、とした雲の感触にはまるで現実感がなく、そのあまりのつかみ
所のなさに堪えていたものが一気に噴出した。

それでも。
涙などという上等なものは流れて来ず、代わりに湿り気を帯びた嗚咽が
喉の奥から漏れてきた。

泣くことすら、できないのか。
自分の無力さ、存在することの意味のなさが「がらんどう」の体の中を
駆け巡る。
225 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:24

そんな時だった。

彼女があたしの目の前に現れたのは。
226 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:32

「れいな」

聞き覚えのある、懐かしい声。
えりとも、さゆとも違う、でも思い出すことのできない、そんな声。

擬音が飛び出してきそうなほどの笑顔だった。
そして何故か彼女には、翼が生えていた。
そんな信じがたい姿をしている彼女のことを、今のあたしが素直に受け
止められるはずもなく。

「なんね。何しに来とっと?」

あたしが吐き出した台詞は、本人が驚くほど排他的なものだった。
何だ、無意味なりにいっぱしの毒が吐けるじゃないか。

「れいなにさ、あげるものがあるんだ」

彼女はそんなあたしの感情などお構いなしに、にっこりと笑って、そん
なことを言うのだった。
227 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:36

「あげるって、何を?」

身に覚えがないことに対して質問するのは当然の権利だと思う。
だからあたしは、彼女にそう言った。

だけど彼女はあたしの問いに答えることはなく、ただ背中の羽をぱたぱ
たと動かすだけだった。

ふと、思いつきのように答えが浮かんだ。

「まさか、その羽を?」

彼女はゆっくりと、頷いて、さすがにれいなは鋭いね、と言った。
228 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:41

「でもさ」

彼女が急に顔をしかめた。

「これ、羽じゃなくて翼だから」

そんなのものはどっちだっていい。とにかく。
どうしてあたしが彼女にその翼を貰わなければいけないのか。
そのことが今あたしが解かなければいけない疑問だった

「どうして、あたしが、のんちゃんに?」

のんちゃん。
そうだ、それが彼女の名前だった。
229 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:48

のんちゃんは、急に困った顔になって、眉をひそめたり、腕組みをした
り、羽・・・いや翼をぱたぱたさせたりしていた。そのうち彼女自身が納
得できるような答えが見つかったみたいだった。

「この翼がれいなにとって必要で、のんにはもう必要じゃなくなったか
ら。だから、れいなにあげるんだ」

必要がない?
それがあればこの見渡す限り雲だらけのこの世界を飛び越えて、別の世
界へと旅立てるじゃないか。そう言いたかったけれど、言えなかった。

言ってしまったが最後、その言葉さえも弱弱しいものに変わってしまう
ような気がして。
230 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:57

あたしが言いよどんでいると、のんちゃんは背中をもぞもぞさせ始めた。
そして、目の前で翼がぽとりと抜け落ちた。

ように見えただけで、実際は外しただけみたいだった。両翼の付け根に
は二つの輪っかがあって、そこにランドセルみたいに腕を通すような構
造になっていた。

何だ、馬鹿馬鹿しい。
あきれ返るあたしの目の前にはいつの間にかのんちゃんがいて、鼻先に
例の翼を突き出していた。

「ほら。受け取んなよ」

そして彼女は、にぃっと笑った。二つの可愛らしい八重歯が、顔を覗か
せる。あたしの両手が、自然とその翼を受け取った。何故だかはわから
ない。でもそれは渡してくれたのがのんちゃんで、受け取ったのがあた
しだった、そんな感じの曖昧で、けれども力強い理由だったのだろう。

「ハッピーバースデー、れいな」

231 名前:自由への翼 投稿日:2004/11/20(土) 21:57
おしまい
232 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:40
「ママー、セーギの味方ってホントにいるんだねー?」

主婦達がそろそろ夕飯の支度に取り掛かろうかどうしようかとまごつく時刻。
ニュースを流すテレビを前に、少年が母親に語りかけた。

「うーん。まぁ、そうねぇー・・・。」

テロップとなって浮かび上がる「被害者」の文字に、
母親に力強く幼い息子の意見を肯定することはできない。

「でもさー?」
「ん?なぁに?」

「どうして、戦ってるのかなー?」
233 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:40
*****
234 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:40

檻の中。

凡庸という祓えない鎖に縛られた檻の中。

鎖を噛み千切るコトも、罹った錠を砕くコトもできなくて。

ただ、内側でもがき続けるだけ。

ただ、此処での存在意義を感じられず暴れるだけ。


そんな日々が永劫続く筈だったある日、目の前に落とされた鍵。

確かめるまでも無く、この忌々しい戒めを溶く為の鍵。

手元には鍵、眼前には錠。


あなたなら、どうする?
235 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:41
*****
236 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:41

「ふぅ」

溜息を吐きながらテキストファイルを「上書き保存」。
ディスプレイから視線を外し掛けていた眼鏡を外しつつ、
パソコンの終了処理はせずディスプレイの電源だけ落とした。

詩とも何とも分類しずらい文章を書くようになってからどれくらい経つだろう。
特に創作意欲なんてモノがあったわけじゃない。
ただあまりにも暇で退屈な日常が続くもんだから気紛れに書き始めただけ。


控えめな気配がドアの外に現れ、すぐにまた控えめなノックの音が室内に響いた。

「は〜い、入っていいよ」
「失礼します。れいなお嬢様、お食事の用意が整いましたが・・・。」
「ん、すぐ行く」
「はっ、それでは失礼しました」

んなもん携帯にでも電話かけろ、って文句の1つも言いたくなるようなどうでもいい用件だけ伝えて
執事の・・・名前忘れたけどとにかく執事はご苦労にも無駄に長い回廊を歩いて戻って行った。
こりゃ人件費の無駄遣いだ。
後で中澤さんに注意しとこう。
237 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:41

あ、勘違いされると困るけど此処は一応平成の日本。
PCでメールから買い物まで出来る水と平和がタダな国の一箇所だからヨロシク。
まぁこの屋敷の場合執事だのメイドだの時代錯誤な職種の連中を一杯飼ってるから勘違いされやすいんだけど。

なんで贅沢な家の基本は1LDK、エアコン・暖房乾燥機・洗濯機・食器洗機・自動お湯張り機能付き、
オートロックにエレベーターあり、ペット禁止で最寄り駅から徒歩8分、家賃16万、保証金は64万、
解約引きは48万の高級賃貸マンション!ってこの国にそんな屋敷が存在するのか疑問に思われるかもしれない。

理由は簡単。
ココは日本人の生活の何割かを影で牛耳る巨大コングロマリット・UFAグループ総裁の屋敷だから。
そしてあたしは田中れいな、本名不明で自称・つんく♂なその総裁の孫娘にして次期総裁候補。
15歳にして手掛けた事業は数知れず、成果のほども申し分無い。
俗に言う天才ってヤツだろうか。

ま、そんな肩書きや功績には何の感慨も湧かないんだけど。
自分が造られた存在、『合成人間』だと知ってればそれもまた殊更だ。
一般の認識とは食い違うだろうけど、倫理や資金に制約を受けない裏世界での科学力はとっくにそんな所に達してる。
一応パパとママは本物だけど、その遺伝子をイジった上に過去の実験やデータに基づいた最高の教育を施され造られたのがあたし。
実際大きいのは遺伝子よりその教育の影響なんだけど。
238 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:42

とにかくそんな経緯であたしはこの類稀なる突出した能力を持ってる。
でもさっきも言ったけど、そのコトに何かの意味を見出せた事は一度も無い。

・・・何かが、違うんだ。

お金を稼いだ。
トラブルを解決した。
事業を成功させた。
スポーツで記録を出した。
音楽や芸術を扱えるようになった。
武術を身に付けた。
ナイフや銃の扱いを覚えた。
人の殺し方を知った。
人を殺した。

これだけやっても、何かが違う。
どれだけ手に入れようと、一瞬たりとも満たされない。
何処に居ても、何処へ行っても、此処じゃないと感じる。
何をやっても、根源的にやりたい事じゃないと感じる。
他人から見てどうあろうと、あたしは凡庸を抜け出すことができないんだ。
239 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:42
空っぽの人生。
偽者の自分。
いつも伽藍堂の心。

造られた存在だから?
周りにあたしと並べる人間がいないから?

乖離した自分を見つめて考える。
堂々巡りの問いに答えは射さず、光が不在した闇の世界をただもがくだけ。

結局其処に在るのは1つの事実。
あたしは生まれて良かったとか、そういう生の実感を感じた事が無いというだけ。
だからいつも自分の輪郭が、周囲との境界が見えない。
自分が特別だと感じたことがない。
ホントウの自分が、わからない。

わかるのは人生のつまらなさ。
それだけだった。

240 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:43

だけど、見つけた。
何の気無しにつけたテレビ。
その画面上を泳いだ不鮮明な映像に。

『影』は、現れた。

街の監視カメラが偶然捉えた映像だという。
6人はいるだろうか、筋肉隆々の武骨な男達。
束になったそいつらの隙間を縫うかのように、洗練された動きで舞う『影』。
一瞬の通過の後、テレビではカットされた映像には紅い華が咲き乱れていた。

画面の上部を踊るテロップが告げるのは、
『影』が街を騒がす連続殺人の犯人だという事実。
けれど被害者は全員、ヤクザや悪徳政治家、逃亡中の殺人犯。
しかもちょこっと調べてみればどれもこれも救いようのない極悪人ばかりだというコトがわかった。

『正義の味方』

マスコミはいたずらにそう呼んでいる。
ま、悪人倒すのはそういう『セーギの味方』のお仕事だからね。
どんな理由があろうと殺人は殺人だけど、そんな報道のお陰か『影』の支持者も多かった。
241 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:43
「コレだ」

それがあたしの『セーギの味方』に対する感想。
根拠なんか無い。
ただそう感じたってだけ。

何が"コレ"なのか。
直感がそう告げただけなのでよくはわからない。
わかるのは、あたしはコイツに会わなくてはならないという使命感。

リモコンで壁にかかったテレビの大きな画面を操作する。
裏から手を回して手に入れた例の映像の中、『セーギの味方』は闇を泳いでいる。
全身をすっぽり覆った黒いマントに筒型の帽子。
紅い霧に包まれた筒のようなシルエットは、どちらかと言えば死神を連想させた。

不鮮明な映像の向こう。
その表情は色が無いようにも、嗤っているようにも見えた。
242 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:43

「さて、と・・・。」

映像を切り椅子から立ち上がる。
ホテルのスイートに匹敵する広さと設備を備えた部屋を横切り寝室にあるクローゼットを開いた。
現れるのは黒いマント、そして筒のような帽子。


今夜で、7日目。
窓の外から照明を切った室内に射し込む満月の光は、
今夜こそ何かが起こるような気配を感じさせた。
243 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:43
*****
244 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:44
慣れた手つきで振り回されるナイフ。
柄を握った右の手首を掴んで捻る。
身体を相手の懐に潜り込ませ、勢いに任せてその巨体を地面に叩き付けた。

ぐるん、と空中に脚で弧を描いた傭兵あがりらしき巨漢。
コンクリートに背骨を打ちつけ臭い空気と呻きを同時に吐き出したソイツのナイフを奪う。
肋骨の隙間を縫うように心臓を一突きして、唖然としている他の連中に向き直った。

最初に懐に手を伸ばした者に狙いを定め地を滑る。
懐に入れられた腕を封じると同時、鎖骨と肩甲骨の間の溝に逆手に握ったナイフを突き立てた。
鎖骨下動脈とその周りの組織をズタズタに切断して引き抜きながら、男の背中に回り込む。
しぶきを撒き散らす壊れた散水器を残りの連中の方に蹴り、反動を利用して跳んだ。
眩い白の満月を背にする形で、防弾仕様のマントに身を包み夜空を舞う。

サイレンサーの間から申し訳程度に漏れた銃声は空しく響いた。
着地を待たずに投鄭した刃が男達の身体に喰い込む。
動きの鈍った的達に向け、取り出したシグ・ザウエルが火を噴いた。

金属音と炸裂音とが銃口から漏れた閃光に混じり響く。
245 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:44
頭蓋から射入したハローポイント弾は、対象の脳内を掻き混ぜ生命活動を停止させるのに十分な機能を持っていたようだ。
ドサドサと男達は糸の切れた人形のように地面に倒れていく。

撃った感覚を減ずる消音器は使用していない。
それでもれいなが周囲を気にした様子は見えない。
事実はいくらでも歪められるという事実をよく知っているのだ。

きな臭い硝煙の起ち込める路地裏のそのまた裏側にでっち上げられた開けた場所。
無作為に打ち建てられたビル群のお陰でやがて街から忽然と俯瞰したその空間。
その中に置いて現在、呼吸を保っている者はれいなを含め2人だけだった。
影絵のようで周囲との輪郭が掴めぬマントを翻し、恐怖のあまり悲鳴を上げることすらできずにいる男を見る。

完全に腰を抜かし、言語に成り切らない何事かを喚く顔を改めて確認した。
所謂裏組織の頭、小規模ながらも中々にあくどい真似をしていた人間とは思えぬ痴態には溜息しか出ない。
善からぬ取引のお相手は最初にライフル弾をドタマに喰らい地の底へ。

れいなは筒型の帽子を揺らしながら脇に置いてある黒革の鞄に歩み寄り、
中に収められた帽子よりは幾らか細いがやはり筒型の物体を取り出した。
ヂャキッ、とポンプを引いてカートリッジを装弾し、心地良い反動と鉄の重みを味わう。
薄く、黒いルージュを引いた唇を吊り上げ筒の先端を男に翳した。
246 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:46

「っ、ま、待てっ・・・!お、お前は一体・・・!?」
「『セーギの味方』」

ようやく形を成した陳腐な言の葉にあっさり応え、またそれ以上に軽い動作で引き金を絞った。
白い月の下、派手な騒音に包まれ腐ったスイカが弾け飛ぶ。

ほんの一瞬何かに近づく感覚が在るのだが、軽く触れた程度の感覚はすぐに薄れて何処かへ立ち消えてしまう。

『セーギの味方』の真似事を始めて今日で7日目。
未だその『影』に出遭うことは無い。
それどころかここ7日、本物が仕事をした様子も見当たらないのである。

毎夜のように現れていた筈のソレがれいなが捜索を始めた日から動きを潜めている。
衣装を作らせた人間に当たっても情報を口外した様子はなかった。
そもそもマントと帽子はそれぞれ別の人間に作らせたのだかられいなが何をしているか知る由もない筈なのだ。
247 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:46
では、何故?
偶然の一言で片付けるにはあまりにも出来すぎている。
こちらには何の不手際も無い筈なのに。

『セーギの味方』を演じて誘き出すという捜索方法自体は不手際と呼べなくも無いだろうが。
れいな自身何故そんな非効率的な捜し方を選んだのかわかっていない。
とにかくあの映像を見た時から、そうしなければならないと根拠も無く思っていたに過ぎないのだ。

「今夜も無理、か・・・。」

今しがたの行為が嘘のように澱み無い溜息を吐く。
仕方なく持参した得物を取り出した鞄に戻し帰り支度を整えることにした。
248 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:46

だが、ソレは唐突に、あの映像を目にした時のように不意に、カケラの脈絡も無くやって来た。

「こんばんは」
「!?」

凛とした声だった。
慌てて振り返り声のした方に視線を投げる。
其処には、確かな存在感を持って響いた声とは対照的な、曖昧な姿が在った。

白く輝く月を背にした筒のようなシルエットは、ソレが地面から直接生えているような錯覚を与える。
地面に伸びる影との境界が不明で光の中に浮かぶ闇色の輪郭すら鮮明にはわからない。
いつの間に現れたのか、それとも最初から其処に在ったのか。
その判断すら難しいくらい不確定に揺らいだ存在だった。

「あ、あんたは・・・。」
「『セーギの味方』ってゆー名前の『影』・・・って答えればいいのかな?」

顔の見えない影が告げ終わるのを待たず、れいなは鞄の中の散弾銃を握った。
鞄を剥ぎ取るようにして地に投げ銃口を影に向ける。
249 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:47
だが影も照準が合うより早く地を水平に滑っていた。
恐ろしい迅さで間合いを詰めて来て腕を振るう。

視界の端に走ったのは銀の閃き。
れいなは咄嗟に銃を手放し後ろに跳んだ。

ギン、という金属音。
今まで手にしていた筒の銃身が根元から落ちる。
間髪を入れず振るわれる銀の刀身を投鄭用の刃で受けた。
刃を相手の刀身に滑らしつつ重心を落とし懐に潜り込んだ。

突き出した刃に手応えは無い。
身をかわした影はれいなの身体を蹴り逆光の中を逆行して元の位置へと戻った。
250 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:47

「ふーん、やるね。ごとーの剣をかわすなんて」
「ゴトー?それがアンタの名前?」
「そ、後藤真希。それがごとーってゆー存在の名前」

影は興奮を隠し切れない様子のれいなの声に軽い調子で答えた。
チャキリ、と握られた刃・・・日本刀の鍔が鳴る。
月光を照り返す刀身は、曖昧な白と黒のコントラストの中ハッキリと映えていた。

「でも、胃の腑に落ちないな〜。。。」
「何が?」
「キミ、田中れいなだよね?」
「・・・だったら、何?」
「おかしーねー・・・。」

キミハソコニイナイハズダヨ―――――?

どくん・・・!
既にかつてない勢いで収縮を繰り返していた心臓が一際強く脈打った。
真意はわからない。
だが告げられた言葉はれいなの底に長年鬱積していた感情を掻き立てるモノだった。
251 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:48
小刻みに震え始めたれいなを一瞥し、後藤真希と名乗った影は背後の満月を見上げる。
しばらく底の見えぬ瞳に真円を沈め何かを納得した調子の声を出す。

「あー・・・満月ね。視床下部核が反応して具現濃度と霊覚神経の覚醒率が増しちゃったのか、ナルホド」

正常な状態でもれいなの理解を超える単語の羅列。
今の彼女にはそんな声すら届かなかった。

眩暈がする。
込み上げる吐き気と、湧き上がる衝動。
先程までの何かをコワす行為では駄目だ。
その存在を消し去りたいと、コロしたいと身体が欲している。

――――な、何コレ・・・!?
    凄い。ヤバ、抑えきれなっ、、、!!!

視界の中央に映る、筒型のシルエット。
あまりにも隙だらけな、いや隙そのものと呼べるほどに無防備な佇まい。
・・・行動に思考は伴わなかった。
  
252 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:48
  

―――ドスリ。

鈍い音は手元から聞こえた。
視界には闇。
闇に突き立てたナイフから手を放す。

どざっ、とあっけない音を立てて、
闇色のマントを纏った『セーギの味方』は地に背中を着けた。
253 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:48
*****
254 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:49

「・・・ぁ、はぁ、っはぁ、、、」

自分の声で我に返った。
目の前には、あたしが着ているのと同色のマントに帽子。
人型に膨らんだそれは胸の辺りにナイフを生やしピクリとも動かない。

「っは、はは、は、あっはははは・・・!!」

不意に込み上げたのは、嗤い。
ハジメテの感覚。
ハジメテの快感。
生の、実感だった。

今、ハジメテ思える。
生まれて、生きてて良かった、と。

此処だ。
あたしのいるべき場所は此処だ。
此処でならあたしは特別になれる。

コイツを殺して、あたしはコイツになるんだ。
255 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:49
「はははっ、あははははは、アッハハハハハ!!!!!!」

やったやったやった、やった!!
刺した。殺した。消した。邪魔なヤツはもういない。
あたしは成り代わる。
あたしは『セーギの味方』になって戦い続ける。

もう凡庸じゃない。
あたしは、特別。

お腹を抱えても嗤いは止まらない。

「ハはハハハはあははハハはははははアは、ハ、ハハハは・・・は゛っ!?」
256 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:49

―――ドスリ。

鈍い音は胸元から聞こえた。
視界には闇。
自分の纏った闇に突き立てられているのは、鋼。

どざっ、とあっけない音を立てて、
闇色のマントを纏ったあたしは地に背中を着けた。

混濁する思考。
揺らいだ視界の先、輪郭の不鮮明な筒型のシルエットが地面から生えている。
いつの間に起き上がったのか、それとも最初から倒れてなどいなかったのか。
その判断すら難しいくらい平然と、影は其処に佇んでいた。

銃口を向け引き金を絞った。
金属音と炸裂音とが銃口から漏れた閃光に混じり響く。

・・・響くばかりで、今度の影は倒れてもくれなかった。
257 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:50

「ムダだよ」

視界に本物の闇が拡がり始める。

「言ったでしょ、ごとーは『影』だって。キミの、田中れいなのね?」

薄れていく自分の輪郭。
対照的に霞んだ視界にもハッキリと濃くなっていく『影』の存在感。

「でもこれからは逆。キミがごとーの、後藤真希の『影』になる」

それは本来絶望的な宣告だったのかもしれない。
だけどあたしには、それが何より素敵な事に思えて仕方がなかった。
きっとそこがあたしの居場所、さっき此処だと感じた場所なんだ。
258 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:50

鼓動も血の喪失感もない。
もうとっくにそんなモノは流れていないんだから。

サイゴにあたしは一言だけ、何かの手違いで今まで居た場所に告げてやった。

「「ありがとう」」

誰かの声が重なった気がした。
あたしの意識は、そこで途切れる。
259 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:50
*****
260 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:51

「真希お嬢様、お食事の用意が整いましたが・・・。」
「ん、すぐ行く」
「はっ、それでは失礼しました」

恭しく一礼して、名前も知らない執事は元来た長い距離を戻って行った。
携帯にでも電話かけるか内線付けるかすりゃいいのに・・・。

人件費の無駄だね、後でゆーちゃんに言っとこう。

またディスプレイに視線を戻す。
こないだあのコが消した連中の顔写真と、
悪趣味なくらい事細かに綴られた彼らのデータは彼女の執念を物語ってる。

黒く埋め尽くされたページの僅かな余白。
内側からごとーが抑えてたせいで彼女がついに気付かなかったソコにカーソルを合わせる。
261 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:51

カチカチッとリズムよくマウスを叩くと、
隠されたリンクから他のページに飛ぶ為のパスワードが要求された。
カタカタとキーボードを打つと別のページに飛ぶ。
また隠しリンクを選択すると再び要求されるパスワード。
これを5、6回繰り返し、このイントラネットサイトの最奥部へと辿り着いた。

黒い画面に紅で綴られた表じゃ聞かない会社の名前たち。
画面をスクロールして目的の会社をクリックする。
リンク先のページで「表示」→「ソース」を操作し現れたHTML文書のウチ
例の男たちに関する項目部分にいくつか書き込んだ。
文書を保存してページを更新。
闇に並んだ紅い名簿のウチ6人分、名前の後に「DEAD」の文字が追加された。

262 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:51
簡単な精神操作で狂う人間の記憶と違って機械の記憶は勝手に書き換えられたりしないから便利で良い。
何か彼女にいかがわしい趣味でも無かったかとあちこちのファイルをランダムに検めていく。
いくつかあったテキストファイルの中、ある1つに目が留まった。

・・・ふーん。
あのコもごとーと同じような事思ってたんだねぇ。

本来先にこの世界に生まれたごとーの影となる筈で生じた彼女。
手違いで住み着いてしまった世界は、ごとー同様どこまでも味気ないモノだったハズ。
けどお互い、これからは生きてる実感をちゃんと自分のモノとして捉えられるんだ。

少し、キーボードの上の指を走らせた後、
ファイルを閉じて、消去した。
ディスプレイから視線を外し掛けていた眼鏡を外しつつ、
パソコンの終了処理はせずディスプレイの電源だけ落とした。
263 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:52

「ふぁ〜ぁ」

んぁ、なんか眠くなってきたかも。
あたしの中の二重存在が外に出たがってるかもしれないな。
でも、もうちょっと待ってね。
だってごとー、まだゴハン食べてないんだもん。

仕事をしたがる『セーギの味方』をたしなめて、
ごとーはだだっ広い屋敷の食堂を探す旅に出た。
264 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:52
*****
265 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:52


檻の中。

凡庸という祓えない鎖に縛られた檻の中。

鎖を噛み千切るコトも、罹った錠を砕くコトもできなくて。

ただ、内側でもがき続けるだけ。

ただ、此処での存在意義を感じられず暴れるだけ。


そんな日々が永劫続く筈だったある日、目の前に落とされた鍵。

確かめるまでも無く、この忌々しい戒めを溶く為の鍵。

手元には鍵、眼前には錠。


あなたなら、どうする?


           *


・・・ごとーなら当然錠を開けて外に出るね。


あとそれから。

自分の代わりに檻に押し込めて、成り代わってもらうかな?

・・・鍵を落としてくれたそのコに。(笑
266 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:53
*****
267 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:53

地べたに這いつくばるのは元・イノチたち。
10を超える部下の屍の中、その如何わしい組織のトップらしき中年は完全に腰を抜かしている。
口を鯉のように開閉させ、言語に成り切らない何事かを喚いていた。

「っ、ま、待てっ、待ってくれ・・・!お、お前は一体・・・!?」
「『セーギの味方』・・・ってゆー名前の『影』」

男の眼前に立つ地面から直接生えたような筒型のシルエットはようやく形を成した言葉にあっけなく応える。
薄く黒いルージュを引いた唇を楽しげに吊り上げ、
筒型のシルエットは同じく筒型をした物体の先端を男へと向け、引き金を絞った。

影・・・田中れいなの口元と同じ下弦の月の下、腐ったスイカが弾け八方へと飛び散った。
金属音の混じった銃声は虚空へと昇り何者かの注意を呼ぶ。
268 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:53

『正義の味方は宵に嗤う』

そんな文句が報道で告げられるようになって久しい。
比較的人通りの多いこの場所、野次馬が集まるのにそれほどの時間は要らなかった。
集まった野次馬にいつもの微笑を向け、れいなは紅いペンキに塗りなおされた壁へと歩み寄る。

ずるぅ、り。

そんな効果音が聞こえそうな動作で、輪郭の不鮮明な影は建物の影へと溶けて行く。
バサッ、と闇色のマントが翻る音をサイゴに、『セーギの味方』は人々の面前で壁の中へと沈んで行った。

野次馬たちに残されたのはただ、
それが目の前に起こったにもかかわらず幻のようにしか見えないという不思議な感覚だけだった。
269 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:53
*****
270 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:53

「ねーママー、どぉしてだと思う?」
「うーん。まぁ、そうねぇー・・・。」

『トリックか!?超能力か!?VTRを徹底検証!!!』

そんなテロップの踊る画面の前で、少年の母親は先程と全く同じ声調で困っていた。
そんなの本人にでも会って訊かなきゃわかるわけないでしょ・・・。
テレビの中で何の確証があってか自身の見解をベラベラ自信満々に述べる研究者たちに
聞かせてやりたい心の声を表に出すこともできず、母親はひたすら困る。

271 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:54


「そりゃあたしが『セーギの味方』だからだよ」

聞こえた声は母親のモノより明らかに若かった。
少年は慌てて振り返り声のした方に視線を投げる。
其処には、確かな存在感を持って響いた声とは対照的な、曖昧な姿が在った。

母親は気付いていないのだろうか、忽然と家の中に現れた影になんの反応も示さない。

「あたしが『セーギの味方』で、其処に不変のリアルがある。戦う理由なんてそれだけで十分だよ」

目を見開いて硬直する少年には興味など無いのか、
床から生えているような錯覚を与える筒型のシルエットは淡々と注げた。

「てかそんな質問でいちいち呼び出さないで。アンタ霊覚神経やたら鋭敏みたいだから気をつけてよ?
 んじゃもういいね?帰るから」

コクコクと、少年は頷くことしか出来なかった。
次に少年が瞬きをした時にはもう、筒の生えていた場所に何も無い。
いつの間に現れたのか、それとも最初から其処に在ったのか。
はたまた此処にいたなどという事実は無かったのか。
その判断すら難しいくらい不確定に揺らいだ存在だった。
272 名前:セーギの味方が戦う理由 投稿日:2004/12/04(土) 17:54


少年が『セーギの味方』最大の敵になるのは、それから随分と後の事である。

<Fin.>
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/07(火) 23:18
面白かった。
続きないのー?
274 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 01:29
ちょっと落とします。
275 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:30
「7」
276 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:33



「ねえれいな、誕生日プレゼント、何が欲しい?」

誕生日を数週間後に控えたある日。
さゆはあたしに、そう聞いてきた。
普段の自分なら、「何でもいいよ」と言ったのだろう。
けれどもその時のさゆの瞳の光が眩しくて。
思わず、本音を言ってしまった。

「れなは…れなは、友達が欲しい」

お互いを刺激し合い、高めあうのが友達。
あたしは親に、そう教えられた。
だからそう言う意味ではモーニング娘。には友達はいなかった。

自分より劣っている人間と、どうして友達になれようか。
それは目の前のさゆに対しても、同じことだった。
自分より優れている、もしくは同等の人間と友達になりたい。
該当する人物は、少なくともあたしの近くにはいない。
277 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:33
それはたぶん言ってはいけないことだったんだと思う。
この世界で、そんなことを突き詰めてしまえば周りには誰もいなくなってしまう。
事実あたしには深い付き合いのメンバーなんていなかったけれど、それでも何人かのメンバーは気を使
って話しかけてくれたりしていた。

「友達が欲しい」と言うことは、それさえも否定するということ。
否定の先に待っているものは、真の孤独。
あたしはきっと、耐えられないだろう。
さゆに自分の望みを言ってしまったことを、後悔した。

でもさゆは嫌な顔ひとつせず、

「うん、わかった」

と答えた。

あたしは最初、さゆが何かを企んでるんじゃないかと思った。
例えば、特大のぬいぐるみをあたしの家に送りつけるとか。
けれど誕生日を過ぎても、何日経ってもそんな気配はなかった。

そのうちあたしは、さゆに「友達が欲しい」と言ったことすら、忘れていった。
278 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:34


年が明けてすぐに、新メンバーの最終オーディションが行われた。
あたしたちにも、合宿の様子から結果発表までの様子をモニターで見守るという仕事が割り振られた。
新しいメンバーが増える。
その事実が、あたしたちに様々な感情をもたらす。
プレッシャーを感じる子、楽しみにしている子、自分とは関係ないとばかりにのほほんとしてる子。
まこっちゃんなんかは、明らかに不安な顔をしていた。

最終候補に残った、6人の少女たち。
あたし自身も彼女たちに幾ばくかの期待を寄せていたのかもしれない。でも。
彼女たちの合宿生活を見て、何一つ来るものがなかった。
とてもじゃないけれど、彼女たちと切磋琢磨する自分の姿が想像できなかった。
もしかしたら、今回は合格者がでないかもしれない。
ひそかに、そう思った。
279 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:34

案の定、つんくさんから発された言葉は「該当者なし」だった。
テレビ用のリアクションとして驚く振りはしてみたものの、自分としては納得のいく結果だった。
確かに彼女たちは一人一人、どこか輝くものを持っていたのかもしれない。
けれど、彼女たちが持つもの全てをあわせ持つような、そんな人材。それがエースだ。

「みんなそれぞれいいとこ持ってそうなのにね」
隣で絵里がそんなことを呟く。
「でもそれじゃ駄目なんだよ。つんくさんも言ってたじゃん、『エースはどこかにおる』って。あの子
たちが持ってる要素を全て兼ね備えたようなさ。ラッキー7オーディションで6人しか候補者がいなか
ったのは、そんなつんくさんのメッセージだったのかもね」
「な、なんだってー」
「絵里、それMMRやけん」
絵里に茶化されてしまったけれど、あたしは本気でそう思っていた。
エースと呼ばれる存在。
競い合い高めあい、そしていつかはエースの座を奪い取りたかった。
そういう子なら、はじめて友達になれる。そう信じていた。
280 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:35


それから数日が経った。
あたしたちは久々のオフをもらい、その日も自室で何をするともなくただぼーっとしていた。
窓から見える空は硝子に遮られ、晴れているにも関わらずくすんだ色をしていた。
そんな折、玄関の予鈴が鳴る。

「れいな、遊びに来たよ」

さゆだった。

あたしの部屋に上がりこむなり、さゆは左右を見渡す。そんなさゆを他所に、あたしはまず訊かなけれ
ばならないことを訊ねた。
「どうしてうちに?」
するとさゆはにっこり微笑んで、
「れいな、覚えてないの?」
と言った。
「覚えてないって、何を…」
「プレゼント。欲しいって、言ったよね?」
その一言でようやく思い出した。
あたしがさゆに、友達が欲しいと洩らしたことを。

ということは。
さゆは、自分が家に来た=自分が友達、ということが言いたいのだろうか。
自分が大好きな彼女のことだ、ありえない話ではなかった。
ここで無碍に首を振ってしまうのも何だか大人げないような気がして、何か気の利いた言葉でもかけよ
うとしたその時だった。
281 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:35
「あれ? まだ、届いてないの?」
届いてない?
心の中でリフレインさせてみた。
何が? プレゼントが。 プレゼントって。 どういうこと?
「どういう、こと」
疑問はそのまま口をついて出た。
「だから、プ・レ・ゼ・ン・ト」
そこでやっとさゆが何を言っているのかがわかった。
数日前、ひどく怪しげな大きな小包がうちに配達されてきた。差出人不明のその小包を家の人間の誰も
が気味悪がり、結局そのまま郵便局に引き取ってもらおうという結論が出たのが昨日だった。
あたしは急いで玄関前まで走る。ひどく、嫌な予感がした。

玄関前の靴箱の上には、送られた時と同じ大きな小包があった。
段ボールを梱包しているガムテープを引きちぎり、中にあった箱の外装を握り裂いた。そして、あたし
は箱の中身を見て。

吐いた。
282 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:36
吐瀉物が中のものと入り混じり、複雑怪奇な模様を作る。中のものが放つ臭いと胃液の臭いが混じった
空気が鼻から入り、それがまた吐き気を催させた。

後ろから、さゆの声が聞こえる。

「あー、やっぱり届いてたんだぁ。れいな、中身見た? 驚いたでしょ。結構集めるの苦労したんだか
ら。まずねえ、これはみさちゃんの黒髪。つやつやしてて、綺麗だったから。それと、これはみおちゃ
んの目。円らな感じでよかったなあって。それと、あみちゃんの白い肌。これはねえ、作るのに苦労し
たんだよ? あとはこれとこれとこれを繋ぎ合わせてー、おともだちの完成。あっ、組み立てるのはれ
いながやってよね?」
283 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 01:37
「7」 end

全然生誕祭じゃなくて(しかも遅くて)スマソ。
284 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:32
「れいなちゃん、大きくなったねぇ」

1年ぶりに会った親戚は、れいなをそう言った。
自分の母親のお姉さん。
いわゆる伯母という関係に当たる彼女は、モーニング娘。に入ったからと言っても、以前と変わらない態度でれいなを迎えた。

だからこそ、れいなはこうしてオフの時に叔母さんの家へとやってきているのかもしれない。
幼いころ両親が共に働きに出ていたれいなの面倒を見てくれていたのが、ほかならぬ叔母さんだった。
れいなは彼女を「貴子さん」と呼んでいた。
母親と年の離れた伯母さんだったが、れいなに「叔母さん」とは呼ばせなかった。
れいなの世話をしていた彼女には、れいなは今でも懐いていたし、今でも母親の次に心を許せる人だった。

そうして、もう一人。

「あら、れいなちゃん、大きくなったねぇ」

部屋に入ってくるなり同じフレーズを反復した女性。
彼女横には、小さな顔にくりくりとした大きな目が目立つ男の子がいた。
285 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:32
「裕子さん、こんにちは」

れいなは座ったまま会釈する。
伯母の娘である裕子は、姉のいないれいなにとって、姉代わりの人だった。
10代後半の遊びたい盛りに、れいなの面倒を伯母と共に見てくれていた人だった。
れいなは、彼女からたくさんのことを教えてもらった。
ピアノを弾く裕子の隣で、それに合わせて歌を歌ったり。
お化粧の仕方や、オシャレの仕方、髪の結い方から全て教えてもらった。
だから、裕子が5年前に結婚することになったとき、れいなは少なからずショックを受けた。
自分だけのものだと思っていた裕子さんを、他人に横取りされた気分だったからだ。

「あ、令くん、こんにちは」

れいなは裕子の足にしがみつく男の子に手を振る。
今年で5歳になる裕子の子ども。
れいなの記憶にある自分の弟の小さい頃とは、ぜんぜん違って可愛い子だった。
前に会ったときは、まだおぼつかない様子でフラフラと歩き始めた頃だった。
れいなの声に驚いた令は、裕子の足に顔を伏せる。
286 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:32
「ほら、令、れいなちゃんよ。覚えてないの?」

令の頭を揺する裕子だが、令は泣き出しそうな顔で裕子を見上げるだけだった。

「ごめんね、この子、最近急に人見知りするようになっちゃって」
「いえいえ、会ったのずいぶん前だし、覚えてないかもしれませんね」

そう言ってれいなは立ち上がり、裕子に近づく。

「令くーん」

髪の毛わしゃわしゃとなでる。
細いサラサラの髪が指の間に絡みつく。
しかし、彼はれいなをじっと見ると、再び顔を逸らした。

「嫌われちゃったかな?」
「ごめんね、れいなちゃん」
「いえいえ」

それから、れいなの母親と伯母さんは色々話を始める。
少し前に伯母が行ったヨーロッパ旅行の話から、最近の親族の状況。
誰がどこの大学に受かったとか、誰が入院しているとか。
れいなが名前しか聞いたことのない誰某の母親や、お姉ちゃんと言った単語が飛び交う。
裕子もそれとなく相槌を打ちながら会話に参加しているため、れいなは一人、取り残されていた。
287 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:33
だから、しきりに令に手を差し出してみたり、呼びかけてみたりするのだけれども。
令は一向にれいなに馴染もうとしなかった。
れいな自身、割と人懐っこい方でもないが、令も自分と同じかそれ以上だった。
自分と似ている名前だから、そんなところも似ているのかなと、れいなはふと思う。
そう言えば、裕子に自分の名前を意識して、令とつけたのかどうか聞いたことが無かった。
たぶん、偶然に違いない。
だから、勝手に自分と似た名前にしたと思っていた方がいい気がし、れいなはこれからもたぶん聞かないのだろう。

話は次第にれいなのことに及ぶ。
最近のモーニング娘。のことを話題にしながら、昔はこんな子だったのにねぇと、本人の記憶にないような恥ずかしい出来事を次々と話していく3人。
れいなは一人、必死に「そんなことしとらん」と反論するが、如何せん、物心付く前の自分とは反対に、大人だった3人の言っていることはすごく説得力があった。
一人で必死に笑ったり怒ったり拗ねたりしているれいなを、令がじっと見ていたことに、れいなは気づいていなかった。

伯母が出したコーヒーもすっかり飲み干して、話が一段落ついた頃に伯母は買い物に行かないかと提案した。
小さい頃、れいなもよく連れて行ってもらった近くのデパート。
屋上に「子どもの王国」と名づけられた子ども向けの遊び場があって、100円で動くパンダの乗り物がれいなのお気に入りだった。
色あせて、全体的に茶色がかったパンダというよりもアライグマに近いようなものだったが、れいなにとってはそれは図鑑で見ていたパンダだった。
288 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:33
今もあるんだろうかと、ふと行ってみたくなったが、れいなは断った。
一つは、オフくらいのんびりしていたかったこと。
二つ目は、裕子が留守番を申し出たこと。
三つ目は、自分が田中れいなだとバレたら伯母に迷惑が掛かってしまうからである。

「裕子さん、代わりに行って来てください。私、令君見てますから」
「え、そんなの悪いよ」
「いいですって。ね、令君」

ニコッと令に笑いかけるが、彼の反応はれいなの予想とは全く違った。
れいなに釣られてニコリと笑って頷いたのだ。
もちろん、一番驚いたのは他でもないれいなだった。
289 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:33

「令、お姉ちゃんに迷惑掛けちゃダメだよ」
「はい、おかーさん。いってらっしゃい」

初めて聞いた令の声は、自分の弟よりも高く。
れいなの頭にはふと石川梨華の声がよぎった。

いや、それは違うから。

れいなは自分の考えに突っ込みを入れた。
さすがに彼女は高すぎるし、アニメ声過ぎる。
男の子の甲高い声。
それこそ3人組の男性ユニットのボーカルのような声だった。
290 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:34
玄関まで3人を見送り、部屋に戻ると妙にシンとしていた。
弟の面倒を見てきたことがあるから、子どもの扱いには慣れているつもりだった。
それに、れいな自身、裕子にしてきてもらったことだから、今度は自分が裕子の子にそれをしてあげるというのは、何かうれしかった。
部屋をぐるっと見回すと、TVの横にトランプを発見する。

「令君、トランプしよっか?知ってる?トランプ」
「トランプ?」
「うん。ほらほら、このカード。ダイヤとかスペードとか」
「やる」

しばしトランプを眺めて考えていた令は、元気よく答えた。
そうして、二人はババ抜きをすることになる。
れいな自身、ババ抜きと神経衰弱、7並べくらいしか知らなかったから。
神経衰弱は令のことを考えると、可哀想だったし。
7並べは令が知らなかったから。

手早くカードを配るれいな。
テーブルの上にカードを一枚一枚並べて、そろったペアを確認してよけていく令。
持っているカードが丸見えだったけど、二人でやっているから大して意味は無かった。
ただ、カードをそのまま手に持った令だから、どこにジョーカーがあるかわかってしまう。
れいなは途中でそれをわざと引いてあげた。
だが、それが仇となったのか、令はうまくジョ−カーを避けて次々とカードを取っていく。
令が2枚のうち一枚を取ると、れいなの手元にはジョーカーだけが残った。
291 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:34
「わーい、僕の勝ちだ」
「強いなー令君は」
「れなが弱すぎるんよ」

1時間前に人見知りしていた彼とは打って変わって、よくしゃべる。
その辺もれいなに似ているのかもしれなかった。

「今、れなっていったね。れいなお姉ちゃんって言って」
「やだ。れなオバちゃん、れなオバちゃん」

オバちゃんをそれからも連呼する。
オバちゃんと保田に向かって連呼した辻や加護なら、もう保田にはオバちゃんと言わないでおこうとか思ったのかもしれない。
だが、れいなはオバちゃんと言ったことはない。
強いて言えば、「二十歳過ぎるとオバさん」という暴言を吐いたことくらいだ。
もちろん、れいなはそんな一度きりのことを覚えてはいない。
だから、れいなはカチンときた。
でも、相手は子ども。
堪えつつ堪えつつ、カードをもう一度配りなおす。
次はれいなの元にジョーカーが来た。
だが、再び令は上手くそれを避けて先に手持ちのカードを0にする。
292 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:34
「わーまたれなオバちゃんの負け」
「もう一回!」

そこから延々と繰り広げられるババ抜き対決は、二桁へと行く頃には、令の方から違うゲームをやろうよという提案がなされるが、れいなは断固としてババ抜きを続けた。
そして、一度も勝つことはできなかった。

れいなは気づいていない。
自分がジョーカーを絶対他のカードよりも少し上に出すことを。
そして、令はそれに気づいているわけではないが、上に出ているカードを引くことをしないだけだった。

繰り返すこと13回目。
2回目からずっと最初にれいなの方へとやってきたジョーカーが、令の方へといった。
カードを広げてペアを探す令。
れいなはどこにジョーカーがあるかわかっているから、引くことはしない。
もちろん、れいなが勝つ。
293 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:35
「れいな、大人気ないよ」と道重がいたなら絶対に言っていただろう。
だが、れいなにとってはそんなことは考えていなかった。
勝ちたい。
自分より10歳年下の令に、本気でババ抜きで勝ちに行った。

「やった、れいなの勝ち!」

最後のカードを場に出すと、れいなは叫んだ。
令は、やっと終わったといった表情で、れいなを見ていた。

しかし、れいなはそれには気づかない。
令がトランプに飽きてきているということも気づかない。
さっさと次のゲームのためにカードを集めていく。
令も、仕方なくババ抜きに付き合う。

そうして2時間が経った。

294 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:35
「ただいまー、れいなちゃん、ごめんねー」

伯母さんが呼びかけるが返事は無かった。
れいなの母と裕子は顔を見合わせてから、買い物袋を玄関に置いたまま、急いで靴を脱いだ。

「れいな、れいな」
「令」

呼びかけるが返事は無かった。
いくら田舎とはいえ、最近のご時世を考えると、嫌な考えが3人の頭によぎる。

戸をあけてリビングに入ると、その心配は一気に安堵のため息へと変わった。
机に散乱したトランプと、ソファの上でぐっすりと寝ている二人。
まるで本当の兄弟のように体を寄せ合って、二人は寝息を立てていた。
295 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:35
「なんか、全然変わってないね、れいなちゃん」

伯母さんが言った。
れいなの母も頷いた。

「ほんと、TVではあんなに格好いいのにね」

裕子は言った。
だけど、彼女はどこか安心していた。
いくつになっても、どこへいっても何してても。
自分の知っているれいながれいなのままだったから。

裕子は隣の部屋から持ってきた毛布を、そっと二人に掛ける。
れいなはくすぐったそうに、手の甲で顔をなでた。
296 名前:アダルトチルドレン 投稿日:2005/03/28(月) 00:35
おしまい
297 名前: 投稿日:2005/06/29(水) 11:44

298 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/29(水) 17:53
あげんなや

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