君の瞳はサンダーボルト
- 1 名前:ギアマン 投稿日:2004/11/05(金) 01:56
- あの日の夢を見る。
遠い遠い昔、私がまだ神になる前。
世界は混沌として、秩序は崩壊していた。
真っ白い世界に咲いた、一輪の赤い薔薇。そ れが私。
その頃の私は、何も知らない可愛いだけの女の子だった。
- 2 名前:ギアマン 投稿日:2004/11/05(金) 01:57
- 第一話 友情のトライアングルフォーメーション
- 3 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/05(金) 02:13
- もう、どのぐらい走っただろうか。
林道を離れた獣道を、絵里はひたすらふもとの村を目指して駆け下りていた。
達人だけが出しえる、あの、独特の、背筋がゾクリする殺気が背後より迫ってくる。
空は灰色に覆われ、今にも雨が降り出しそうである。
ポツリ ポツリ
絵里は、頬に当たる感触に、ようやく安堵の笑みを浮かべる。
もっと!もっと降って!
空を見上げ、期待を込めて雨雲を見る。
- 4 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/05(金) 02:24
- 「きゅあ!」
突然、世界が90度回転する。
空を見上げた為に足元が散漫となり、不覚にも地表に出た木の根に足を取られたのだ。
咄嗟に受身を取り、二点、三点転がる。
素早く体制を整えるが、既に周囲を囲まれていた。
ひとつ・・・・・・ふたつ・・・・・・
気配を探り、敵の数と位置を把握する。
思ったとおり、敵は三人だ。
逃げ場を塞ぐように、絶妙の距離を保ち囲まれていた。
振り出したばかりの雨を体に受け、もう少し本降りだったら良かったのに、と絵里は思った。
- 5 名前:ギアマン 投稿日:2004/11/05(金) 02:25
- 今日はここまで。
どこまで書けるか分りませんががんばります。
- 6 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/06(土) 00:13
- 「隠れてないで出てきたら」
挑発するように言ってはみたものの、絵里は、それほど期待はしていなかった。
実際問題として、相手が姿を現さない限り、絵里としても対処のしようがなかったのだから。
しかし、予想に反して左右の木陰から男が二人出てきた。
男の年は30代半ばといったところか、あるいはもっと若いかもしれない。
長身で、かなりの鍛錬を積んでいる事が一目でわかった。
一人は両手に金属の篭手を付け、もう一人は、脇差を帯刀している。
そして、二人の後に続くように正面から現れた男は、白髪で、どう見ても60歳以上に見える、高齢の男であった。
老人の目を見た瞬間、言い知れぬ恐怖が湧きあがる。
どっと汗が吹き出て、その老人から視線を逸らすことができなくなる。
――なんなの、この老人。
絵里は、いまさらながらに自分が置かれた状況がかなり危険であることを痛感した。
- 7 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/06(土) 00:35
- 「ひゃっひゃっひゃ、町を騒がす盗賊の正体がこんな小娘とは、久しぶりに心地よい悲鳴が聞けそうじゃわい」
老人は、愉快そうに笑う。
「助さん、格さん、少し懲らしめてあげなさい」
「はっ」
老人、光圀の合図に、まず、篭手をつけた男、格之進が動いた。
瞬時に絵里との間合いを詰めてパンチを放つ。
絵里は、繰り出される右の拳を間一髪かわす。
そして、間髪をいれず回し蹴りを放った。
格之進は、見向きもせずに左手で絵里の足を掴む。
絵里は、体を回転させると、回転の反動を乗せて左足で蹴りを放つ。
だが、これも難なくかわされてしまう。
「つまらんな」
格之進は、無造作に絵里を近くの木に放り投げた。
絵里は、木に叩き付けれて激痛に呻いた。
痛みで遠のきそうになる意識を必死に繋ぎとめる。
すかさず、助三郎は抜刀すると絵里に切りかかる。
絵里は、刀をかわすため立ち上がろうとした。
足に激痛が走る。
先ほど、格之進に投げられた時に足を捻られたのだ。
- 8 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/06(土) 01:06
- 絵里は転がりながら、何とか助三郎の刀を避ける。
先ほどまで絵里が背にしていた木が、真っ二つに切り裂かれて音を立てて倒れる。
地面を這いずりながらも距離を取ると、先ほどの衝撃で止まっていた呼吸が戻るのを待った。
光圀は、地面を杖で叩きながら嬉しそうに笑い声を上げた。
「ひゃっひゃっひゃっ。少しは手加減してあげなさい。直ぐに殺してしまってはつまらん」
「そうですな。逃げられないように足を切り落としましょうか」
助三郎は、絵里の前に立つと、まるで、恐怖に引きつる絵里の姿を楽しむかのように、ゆっくりと刀を振り上げる。
これ以上、時間を稼ぐ事はできなかった。
小降りとはいえ、双方とも十分に体も濡れている。
- 9 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/06(土) 03:26
- 絵里は、眉間に意識を集中させた。
無秩序に広がっていた力の本流が一箇所に収束していく感覚を感じる。
その力に呼応するように、絵里の眼孔に金色の光が宿る。
次の瞬間、絵里から放たれた雷撃が、助三郎の持つ刀に直撃した。
刀を通じて1万ボルトの電流が助三郎に襲い掛かる。
「ぐああああっ」
助三郎は片膝を付き、刀で体を支えて、どうにか倒れるのを堪えた。
助三郎の衣服から立ち上る白い湯気が、雷撃の威力の強さを物語っていた。
『10000ボルトの瞳』
絵里が生まれ持っていた力である。
初めは、小さく弱い電気が走る程度であった。
絵里の瞳に見つめられた男性は良く痺れを感じたものである。
それが、年を重ねる度に強くなり、ついには電撃を発するまでに至ったのだ。
雨が降るのを心待ちにしていたのは、衣服が濡れた方がより全身に電撃が行き渡るからである。
しかし、彼女の必殺の一撃も、助三郎に致命傷を与えるまでには至らなかった。
- 10 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/07(日) 03:21
- 「きさまぁ!」
怒気を孕んだ声で言うと絵里を睨み付けた。
さすがにダメージは深く、斬りかかれるといった状態ではなかったが、絵里も消耗は激しく、直ぐに動き出せそうもなかった。
光圀も笑うのを止め、鋭い視線を絵里に向けた。
「小娘、ネイチャーじゃったか」
「ネイ……ってなに」
どうにか、声を搾り出すように言葉を発する。
「ほう、何も知らずに力を使っておったのか」
光圀は、嘲笑うように口元を緩めた。
「よかろう、教えてやる。ネイチャーとは、自然の力である”ジン”を体内に取り込み、それ力とする能力をもった人間の事じゃ」
「じゃあ、ジンって」
「自然界に存在する力の総称じゃ。ジンは”地”、”水”、”火”、”風”の何れかに属しておる。小娘のジンは、さしずめ雷のジンで、属性は風じゃな。
ジンは、後天的には身につかん、生まれ持った力じゃ。力を持つものが生まれる割合は、数百万に一人じゃと言われておるがの」
話が終えると、絵里は、深呼吸してゆっくりと立ち上がった。
足の痛みは相変わらずだが、歩くことは出来そうだ。
光圀の方を向いて、にっこりと微笑んだ。
「説明ありがとう。おかげで、体力もだいぶ回復したわ」
- 11 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/09(火) 22:03
- 「それはこちらとて同じこと」
背後から、ゾクリとする殺気が放たれる。
完全回復とまではいかないものの、剣を振るうには十分なほど、助三郎は回復していた。
「遊びは終わりだ。正義のために、死ね」
助三郎から放たれる殺気に、絵里は体が竦み身動きできなくなる。
1対1ならば勝てるのではないかと思っていた絵里は、自分の認識の甘さを痛感する。
「ふぉっふぉっふぉ、雷撃は、その瞳から出ておるようじゃ。助さん、まず、目を潰しなさい。殺すのはそれからです」と光圀。
助三郎はにやりと笑い、刀を構える。
絵里は逃げようと踵を返す。
しかし、格之進に呆気なく捕まってしまう。
格之進は、髪を掴み、無理やり絵里を跪かせた。
雷撃で全員を倒すことはできないし、動きを止めるにしても一人が限界だ。
しかも、今は身動きすらできない。
絵里は、覚悟を決めて目をつぶった。
- 12 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/09(火) 22:25
- 「やれ、助さん」と格之進がいう。
助三郎は、絵里の瞳をめがけて刀を一閃した。
しかし、一発の銃声の直後、刀が火花を散らし、後方へ弾かれた。
さすがに、刀は放さなかったものの、腕全体に衝撃が伝わり痺れが生じる。
「なっ、誰だ!」
思わぬ襲撃者に、三人の男は周囲を警戒する。
一方、絵里には射撃手に心当たりがあった。
静寂を切り裂き、更に、銃声が鳴る。
格之進は素早く反応すると、篭手の甲の鋼鉄の部分で飛来する銃弾を弾いた。
「ここは俺に任せろ」
銃弾が飛んできた方向を見たまま、光圀達の壁になるように位置を移動する。
- 13 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/09(火) 22:49
- 「助さんは小娘を始末しなさい。生かしておくと面倒なことになりそうです」と光圀。
「はっ」
助三郎は、絵里の首に狙いを定めて刀を振り下ろす。
しかし、助三郎の渾身の一撃は、突如現れた刀を手にして少女よって、たやすく受け止められた。
刀と刀がぶつかり合った瞬間、激しい金属音と共に生じた衝撃波で、雨が四方に吹き飛ばされる。
刀を受け止めた姿勢のまま、少女は、絵里を見ると微笑を浮かべた。
「ごめんね絵里。遅くなって」
「さゆぅ」
絵里は、今にも泣きそうな声を上げた。
「遅れたのはさゆが悪いっちゃ。茶屋の前でお団子食べ終わるまでちっとも動こかんけん」
絵里の頭上から、別の人物の声がする。
見上げると、伸びた木の枝に、同じ年頃の少女が腰を降ろして足をぶらつかせていた。
おもむろに木から飛び降りると、絵里の隣に着地する。
「お待たせ、絵里」
「れいなぁ」
絵里はれいなに抱きついた。
- 14 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/09(火) 23:11
- 刀を持つ少女、さゆみと、銃を持つ少女、れいなは、絵里の盗賊家業の仲間である。
林を抜けた村の茶屋で落ち合う約束をしていたのだ。
二人がこの場所まで駆けつけたのは、雷撃の光により絵里の危機を察知したからである。
「さぁて」
れいなが光圀に銃口を向ける。
助三郎と格之進は、庇うように、一跳びで光圀の前に立つ。
れいなは、意味深に微笑むと、カチリと音を立て、撃鉄を上げた。
「第二ラウンド、始めるっちゃ」
- 15 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/11(木) 01:11
-
先に動いたのは、格之進である。
一息で跳躍すると、れいなめがけて拳を振り下ろす。
れいなはワンステップで後に跳んでかわす。
格之進は、れいなが先ほどまで立っていた地面を拳で殴りつける。
すると、地面が炸裂し、石飛礫となってれいなを襲った。
「ちっ」
れいなは、両腕を顔の前で交差させると顔面への直撃を防ぐ。
直撃は避けたものの、その何割かは体に受ける。
続けさまに繰り出す格之進の第二撃をかわすと、れいなは後方へと跳躍して距離を取った。
- 16 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/11(木) 01:34
- 格之進は、執拗にれいなを狙っていた。
最も注意すべきは銃を持つれいなだと判断したのだ。
更に、ガンナーが相手ならば、自分が最も適任であることも承知していた。
格之進は、銃を使うのに最適な距離を取るため後方へ下がるれいなの後を追って走り出した。
「れいなっ」
れいなとを格之進を追い、さゆみが走り出そうとする。
しかし、さゆみの行く手を遮るように、振り下ろされた刀に足を止める。
「きさまの相手はこの俺だ」
- 17 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/11(木) 02:11
- 助三郎は、剣技にかなりの自信を持っていた。
その、彼の一撃をさゆみに難なく止められたのだ。
更に、助三郎の怒りに拍車をかけたのは、さゆみが自分と同じ剣士であることである。
助三郎は、怒りを込めた目でさゆみを睨みつける。
さゆみは、涼しい顔をして助三郎の殺気を受け流す。
「いいよ。ついて来て」
さゆみは、刀を鞘に収めると、十分に戦える場所を探してこの場を離れた。
助三郎も同じように刀を収め、さゆみの後を追う。
絵里は、最も危険な怪物、光圀と一対一となり、今にも泣き出したい気持ちで一杯になった。
- 18 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/12(金) 02:09
-
銃声が響いた。
一発の銃弾は、格之進に直撃する刹那、拳に嵌めた篭手によって弾かれ、軌道を逸らした。
格之進はれいなと向き合い、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
「お前の銃は俺には通じない」
「そげんね」
れいなは、銃を構え、同時に数発の銃弾を発射した。
重なり合う銃声。
格之進は、一発目を右の拳で、二発目を左の拳で弾き飛ばす。
しかし、二発の銃弾の死角から飛び出した三発目の銃弾に、反応することができなかった。
銃弾は、格之進の左胸に直撃する。
「なっ」
銃弾を胸に受け、その衝撃で地面に仰むけに倒れる。
「やったっちゃ」
れいなは、確かな手ごたえを感じつつも、生死を確認するために、格之進に近づいた。
- 19 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/15(月) 23:49
- その時、地に伏していた格之進が突然起き上がり、れいな目掛けて殴り掛かって来た。
れいなは、咄嗟に後ろに退いて直撃は免れたが、格之進の拳はれいなの胸をかすめ、服が音を立てて引き裂かれた。
「きゃぁっ」
慌てて両手で胸を隠す。
「乙女の胸に何てことするっちゃ!」
「胸?胸なんてあったか?」
「殺す!絶対ぶっ殺す!」
「殺す?どうやって。お前の銃が俺には聞かないことは既に証明しただろう」
「こうやって!」
れいなは、猫の様に俊敏な動きで間合いを詰めると、回し蹴りを放つ。
絵里とは比較にならない鋭い蹴りに、格之進は、咄嗟に腕で庇うので精一杯だった。
- 20 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/16(火) 01:12
- 骨が砕ける音が響いた。
格之進の右腕を圧し折り、折れた腕ごと顔面に蹴りを入れたのだ。
骨を折られはしたが、れいなは蹴り上げた直後で身動きが取れない体勢となり、絶好のチャンスである。
格之進は、殴られた勢いを左拳に乗せ、レイナに向けてカウンターを放った。
しかし、れいなにより至近距離で放たれた銃弾が、格之進の左拳を砕いて指を数本吹き飛ばした。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
格之進は膝を折り、両腕を抱え込んで蹲る。
ゆっくりと近付くれいなを、おびえる視線でを見上げた。
れいなは、格之進の額に銃口を向ける。
「お、俺はもう戦えない、助けてくれ」
れいなは、銃を向け発砲し、格之進の頭を吹き飛ばした。
- 21 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/16(火) 01:46
- 動かなくなった格之進を蹴り倒すと、そのまま衣服を脱がせにかかる。
先ほどの戦いで引き裂かれた着物の変わりを手に入れるためだ。
頭を吹き飛ばしたのは、少しでも衣服を汚さないよう配慮したのである。
「臭そうだけど、がまんするか」
れいなが上着を剥ぎ取ると、左の懐から黒い物体が転がり落ちた。
印籠である。
れいなは、印籠を拾い上げた。
「なんだこれ」
印籠には、三葉葵の紋所が描かれていた。
かなり頑丈な物のようだ。
れいなが放った弾丸が減り込んでいる。
「なんね。これで助かっただけっちゃ」
大変高価そうな物のようなので、財布と一緒に頂く事にした。
- 22 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/16(火) 23:22
-
さゆみは、木々の間を縫うように走りながら、開けた場所を探していた。
すぐに、剣を振るうには十分で広さのある空地を見つる。
「ここでいい」
さゆみは、空地に足を踏み入れると立ち止まった。
後を追っていた助三郎も立ち止まり、さゆみと向かい合う。
「死に場所を決めたか」
そう言うと、鞘から刀を抜き放った。
「貴様も剣を抜け」
「それは、あたしが決める」
助三郎の表情に怒気がこもる。
「ならば、後悔して死ね」
助三郎は、瞬時に間合いを詰めると刀を振るった。
だが、さゆみは半身を動かすだけで助三郎の初撃を避ける。
返す刀で横に払うが、それも、さゆみの体に触れることはなかった。
- 23 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/16(火) 23:59
- 助三郎は、間髪いれずに次々と攻撃を繰り返す。
時には安直な攻撃をするかと思えば、次の瞬間には驚くほど鋭い斬撃を放つ。
その、全ての攻撃をさゆみはかわし続けていた。
達人ともなれば、一度剣を交えれば、およその力量は分るものである。
助三郎は、初めて剣を交えた時に、単調な攻撃ではさゆみを捕らえられない事は分っていた。
助三郎の攻撃は一見すると雑にもみえるが、避けられることを想定した攻撃なのである。
さゆみは徐々に逃げ場を失い追い詰められて、ついに、巨木を背にする格好となった。
背後に引けない相手に対し、利き手の方向からの一撃は有効である。
「終わりだ」
助三郎は刀を振り抜くと、やすやすと巨木を切り倒した。
さゆみは、ジャンプして刀をかわし、頭上を跳び越えて助三郎の背後に降り立った。
立ち位置を入れ替えて、再び対峙する。
- 24 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/17(水) 00:46
- 「流石だな、だが、避けてばかりでは俺には勝てぬ」
「そうね」
さゆみは、先ほど切り倒された巨木の、倒れた弾みで宙を舞う小枝を一つ掴んだ。
「あなたには、これで十分」
さゆみの虚仮にした態度に、助三郎は怒りを顕にする。
「なめるな」
助三郎は刀を上段に構えると、ジリジリと間合いを詰める。
そして、一足の間合いに達すると、一気に距離を詰めて刀を振り下ろした。
しかし、その渾身の一撃は、さゆみの持つ木の小枝で、やすやすと受け止められる。
「ほら、切れない」
巨木を一刀で切り倒す助三郎の一撃である。
小枝一本切れないわけがない、衝撃を完全に相殺し、斬らせなかったのだ。
助三郎は、隠していた力量の差に気づくと、すぐさま距離を取ろうと後ろに退いた。
「遅い」
さゆみは、すぐさま小枝を突き出す。その小枝は助三郎の胸に吸い込まれていった。
助三郎は小枝を胸に突き刺されて絶命すると、地面に倒れ伏せた。
さゆみは助三郎を冷ややかに見下ろし、直ぐに興味を無くして顔をそらす。
「絵里、大丈夫かな」
そう、呟くと、来た道の方に顔を向けた。
- 25 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/18(木) 00:46
-
光圀は地面に杖を突き、仁王の如き形相で地面を見下ろしていた。
光圀が見下ろす視線の先では、絵里が横倒れ、身動き一つしていない。
「小娘、なんのつもりじゃ」
「てへ、死んだ振り」
絵里はペロリと舌を出しておどける。
光圀は杖をプルプルと震わせ、怒りを漲らせていた。
「直ぐに、振りではなくしてやる」
光圀は、絵里が寝ている場所に杖を突き下ろす。
絵里は、よつんばの姿勢で獣のように飛び退いて杖を避けた。
- 26 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/18(木) 01:36
- 絵里は、避けざまに光圀を見つめる。
その瞳は金色の輝きを放っていた。
「ご遠慮願いまーす」
瞬間、10000ボルトの雷撃が光圀に直撃する。
「フォオオオオオ」
光圀は、雄叫びを上げてその場に硬直した。
電流の余韻で体を震わせると、気持ちよさそうにため息を漏らした。
「ふぅ、ちょうど良い刺激じゃ。おかげで肩こりが治ったわい」
元気に腕を振り回している。
絵里が放った雷撃でダメージを受けるどころか、逆に元気になったようである。
――なんなのこの老人、鈍すぎる。
絵里は思った。
- 27 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/19(金) 23:29
- 「今度はわしの番じゃな」
光圀は、杖の先を絵里に向けて上段より突き出す構えをとる。
ゆっくりと杖を持つ腕を外側に捻り、杖に回転を与える。
「フォォォォォオオ、フォァアッ」
限界まで外側に捻りを入れると、掛け声と共に逆方向に捻りながら突き出した。
絵里は、咄嗟に左足で横に跳んで避ける。
杖が地面に直撃すると、その破壊力により爆発を起す。
「きゃぁ」
その衝撃の爆風で絵里は吹き飛ばされると、頭から茂みに突っ込んだ。
そして、茂みからひょこっと顔を出して光圀をまじまじと見つめ、驚愕の表情を浮かべる。
光圀の一撃により、まるで隕石でも落ちたかのように一尺ほど地面が削られ、その一撃の破壊力を物語っていた。
- 28 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/19(金) 23:51
- しかし、何よりも驚いたのは、絵里の姿が映るほど艶やかな褐色の肌である。
絵里に唯一勝機があるとするならば、それは、若さを生かして戦うことである。
しかし、光圀の艶やかな肌を見る限り、それも絶望的に思えた。
絵里は、とにかく時間を稼いでれいなとさゆみが戻ってくるのを待つ作戦に切り替えた。
「いやー、凄いです。素敵です。お爺さま」
絵里は、両手を揉み手で擦りながら茂みから出てくる。
「絵里なんかが敵うわけありませんでした。本当にごめんなさい」
そう言い、絵里は勢いをつけて頭を下げた。
光圀は、その様子を、微動だにせず見つめている。
「小娘、なんのつもりじゃ」
その聞き覚えのある怒気を含んだ光圀の言葉に、絵里は、作戦が裏目にでていることに気づいた。
- 29 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/26(金) 00:33
- 光圀の全身から発せられる肌を刺すような殺気に、絵里は、息が詰まりそうになる。
その重苦しい雰囲気に、ここは笑いを取るしかないと思った。
「は、はいはーい、モノマネやりまーす」
勢いよく手を上げ、にっこりと微笑む。
「コロスケなりよ」
絵里としては、かなり可愛く決まったつもりである。
しかし、光圀は微かに眉を動かすだけで少しも笑おうとしない。
絵里は、数少ない物まねのレパートリーから、特に自信作を続けざまに行うことにした。
- 30 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/26(金) 01:06
-
「ピッカッチュー。ピカー」
光圀の顔の色が赤黒く変色した。
「モォグゥモォグゥ――」
光圀の戦闘力が一気に跳ね上った。
光圀の持つ杖が地面に減り込み、地面が、ピシッと音を立てて裂けた。
「殺す」
最早、光圀の目には標的である絵里の姿しか映っていなかった。
- 31 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/26(金) 01:56
- 光圀は、杖を構えて肘から外側に捻りを入れて攻撃の態勢を整え、そして、回転を加えた杖の一撃を放った。
杖は空気の層を打ち破り絵里に襲い掛かった。
絵里は、寸でのところで横に飛び退いて攻撃をかわす。
だが、回転により生じた竜巻風に巻き込まれ、くるくると回転しながら吹き飛ばされた。
「ごめんなさーい」
目を回しながらも絵里は謝った。謝るしかなかった。
しかし、謝ったところで回転が止まるわけでもなく、そのままの勢いで木に激突する。
顔面をもろにぶつけ、赤くなった鼻を涙目で擦った。
背後に光圀が迫る。
「トドメじゃ」
繰り出した一撃は、絵里がぶつかった木に激突すると、派手な爆発音を響かせて木を粉砕した。
絵里は、ずるずると腰を滑らせ、頭部すれすれのところを杖が通過し、間一髪で直撃を受けずにすんでいた。
- 32 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/26(金) 02:12
- 光圀を見上げる格好になる。
光圀は突きを繰り出した直後で腕が伸びきっていた。
絵里は、チャンスとばかりに体を起こし、腕を捕まえるとそのまま一本背負いの構えに入った。
「え、えぇっ!?」
すぐさま腕を放して飛び退き、距離を取る。
そして、驚愕の表情を浮かべると自分の手と光圀を交互に見た。
硬く冷たい感触、まるで、刀に触れたような感触を手の平で感じたのだ。
それに加えて、光圀の小柄な体格からは想像もつかない巨大な岩の如き重量に、腰を浮かせることさえできなかった。
- 33 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/26(金) 02:32
- 「気づいた様じゃな」
光圀はせせら笑うように言う。
「なにもお前だけが特別なわけじゃない。わしも、ネイチャーなのじゃよ」
そう言うと、光圀は着物の上半身をはだけさせた。
その体は年老い、痩せて細くなってはいるが、鍛え抜かれた肉体は今も健在であり、ワセリンを塗っているかのようにテカテカと照り輝いていた。
「わしは鋼の”ジン”の使い手じゃ。この通り、肉体を鋼に変えることができる」
全身に力を入れ、ポージングして筋肉を隆起させる。
その肉体は、金属というにはあまりにも流動的であり、金属にみられる美しい光沢を放っていた。
「鋼に雷は効かん。ゆえにお前はわしには勝てん道理じゃ」
光圀は、勝ち誇った笑みを浮かべた。
- 34 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/27(土) 23:52
- れいはな、木の枝から枝へと飛び移りながら絵里のもとへと急いでいた。
そして、上半身を肌蹴させた老人が、絵里に襲いかかろうとしているところを目撃した。
絵里も、着物が乱れているように見える。
「絵里っ」
立て続けに二発銃弾を発射する。
しかし、弾は光圀の背中に当たると跳弾した。
光圀は、後ろを振り向き、銃弾が放たれた方向を注視する。
その隙に、れいなは絵里の傍まで辿り着くと隣に降り立った。
「絵里、大丈夫?」
「れいな! れいな気をつけて、あの人――」
「わかっとる。変態さんたい」
絵里は、黙って頷いた。
- 35 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/28(日) 00:58
- 光圀は、れいなの登場にいささか驚いていた。
それに、格之進の衣服を着ていることに訝しむ表情をする。
「小娘、格さんはどうした。それにその衣服、まさかとは思うが――」
「あぁ、あのスケベ男なら向こうの草むらで寝てるっちゃ」
れいなは、先ほど格之進と戦った方向を指す。
絵里は、この時初めてれいなの服装が変わっていることに気づいた。
「え? ええ? ええええ!?」
驚きの声を上げる。
「うそ、まさか、れいなが? そっかぁ」
れいなの眼孔が鋭く光る。
「絵里、今何を考えた?」
「いいの、気にしないで。絵里、これでも結構理解のある方うだから。そっかぁ、れいなももう」
「ちょっと待て。誤解やけん。着物が破けたけん貰っとっと。ほら、見んね」
れいなは、裂けた着物が見えるように上着を開いた。
着物は、胸の部分すっかり破けてしまっていた。
「見た」
「わしも」
「見るなー」
慌てて胸を隠す。
「さて、くだらん話はそろそろ止めて、戦いを再開するかのう」
と言い、光圀は殺気を放つ。
光圀の殺気に当てられて、再び、周囲にピリピリとした緊張感が戻った。
- 36 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/28(日) 17:09
- 光圀は、危険な笑みを口元に浮かべて間合いを詰める。
絵里は、ふふんと鼻を鳴らし、ぴしゃりと光圀を指差した。
「れいなが来たからには、もう、あなたに勝ち目はないわ。おとなしく降参したほうが身のためよ」
「ふん、大きなお世話だ」
「そう、仕方ないわね。れいな、やっておしまい」
にこやかに微笑む絵里に、れいなは抗議の視線を送る。
が、ため息を吐くと光圀と臨戦態勢に入った。
- 37 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/28(日) 17:34
- 先に仕掛けてきたのは光圀の方であった。
しかし、踏み込んでの一撃は、空気を切り裂いただけで終わる。
だが、かわされることは光圀も予測しており、左足に重心を乗せると素早く方向転換して第二撃を送り込む。
その鋭い攻撃は、れいなを完全に捕らえたかに見えた。
れいなは、真上に飛び、光圀の攻撃をかわすと、頭部にめがけ銃を発砲する。
銃弾は、光圀の頭部に命中するが、跳弾して傷一つついていなかった。
「にゃ?」
頭部への攻撃が効かないとは予想していなかったれいなは、動揺して、一瞬己を見失う。
そこに、わずかな隙ができた。
強烈な頭突きが、飛び上がったれいなに襲い掛かる。
れいなは、完全に不意を突かれた攻撃に、一瞬、対応が遅れた。
- 38 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/11/28(日) 18:18
- 避けられないと判断し、衝撃に備える。
その時である。
光圀の懐に人影が飛び込んできた。
刀身を煌かせ、胴体をなぎ払う。
接触の瞬間、火花を飛び散らせて光圀を後方に吹き飛ばした。
「さゆみ!」
突如現れたさゆみに、れいなは喜びの声を上げる。
さゆみは刀を縦にすると、異様な手応えに刀身を訝しげに眺めた。
僅かな、刃こぼれを見つける。
「あー、あたしのおニューの刀がぁ……」
そして、悲しげな声を上げた。
- 39 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/12/15(水) 23:54
-
かさりと、地面に着地すると同時に、れいはな、絵里がいる方向に顔を向ける。
そして、光圀に向けてぴしゃりと指を差した。
「何ね、あれは。キーンって、弾丸は弾いたとよ。石頭にも程があるたい」
れいなのその声には、若干の怒気が含まれている。
さゆみも、まるで、刀が欠けたのは貴方の性なのよ、とでも言いたげな視線を絵里に向ける。
絵里は、頭を掻きながら、ごめん、と片手で謝った。
「ごめんれいな、言い忘れてたんだけど、その人の体、鉄なんだって」
「はぁ?」
「簡単に言うとね、どあーってすると、体が鉄になっちゃう体質らしいの」
両手を広げて、その『どあー』と言うところを体で表現する。
「簡単すぎ、ていうか、説明になってないけん」
「だぁかぁらぁ、どあーって」
先ほどよりも大きく両腕を広げる。
- 40 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/12/16(木) 00:08
-
絵里は、感性の人である。
直感で行動し、直感で発言して後先のことなどまるで考えない。
れいなは、これまで幾度となく絵里の言動に振り回され、尻拭いをさせられてきた。
絵里との長い付き合いで、そのことは重々承知していた。
どだい、絵里に論理的な説明を期待すること自体が間違いなのである。
「もういいっちゃ」
れいなは、半ば諦めたようにため息をついた。
- 41 名前:第一話 友TF 投稿日:2004/12/16(木) 00:17
-
灰色の空から落ちてくる小雨は、徐々に、勢いを弱めていた。
光圀は、さゆみに吹き飛ばされて、地面に寝転がった体勢のまま、顔に受ける小雨を拭おうともせずに空を見上げていた。
左脇から右肩に受けた斬撃は、鋼鉄の肉体を切り裂くまでには至らなかったものの、その衝撃は、光圀の予測を超えた打撃を与えていた。
光圀の持つ『肉体鋼化』能力――肉体を鋼鉄に変える力。
だが、その力も無限に続くわけではない。
光圀の集中力が途切れた時、その力は急速に衰えてゆく。
いかに、光圀が年齢離れした肉体を持っていても、かなりの高齢である。
長期戦になるほど、光圀にとって戦況は不利になる。
――三十分、いや、十五分持てば良いほうか。
光圀には、絵里一人ならまだしも三人を相手に、短期戦で勝利できる確証は無かった。
脳裏に、撤退の二文字が浮かび上がる。
だが、直ぐにその考えを打ち消した。
「逃げる?わしが?わしが逃げればどうなる。誰が正義を信じると言うのじゃ。わしは、逃げるわけにはいかない。善が悪に折れることはあってはならんのじゃ」
光圀は、ゆっくりと体を起こし、起き上がると、これまで、懐に入れたまま使うことの無かった家宝の懐剣を抜いた。
- 42 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:07
-
「それで、どうするの?」
光圀を真っ直ぐ指差し、さゆみが尋ねた。
「決まっとるやん」
れいなの自信有り気な物言いに、彼女等の視線が集まる。
「れいなが相手を撹乱するけん、さゆがとどめ」
そう言い銃を構えると、任せた、と言わんばかりにさゆみの肩を叩く。
先ほどの戦いで、さゆみの刀が光圀に通じなかったのは見ていた。
しかし、さゆみなら何とかするだろう、とれいなは思っていた。
もちろん、れいなにも、光圀を倒す自信はあった。
だが、拳銃の弾丸を跳ね返すような男だ。
まともに戦えば長期戦になることは免れそうもない。
戦いが長引けは、痺れを切らした絵里が何を始めるか分らない。
れいなには、それが恐ろしかった。
「わかった」
さゆみも、れいなと想い同じらしく頷いて返した。
- 43 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:17
- この作戦に、絵里は不満だった。
何故なら、自分が作戦に組み込まれていないような気がするからだ。
まるで、邪魔者のように扱われることに、もちろん絵里は黙っていない。
「はいはーい」
二人に気づいてもらえるように、元気良く挙手をして声を上げた。
思惑通り、二人の視線が絵里に向けられ、絵里は、満足そうに笑みを浮かべる。
「ねぇ、わたしは何をすればいいの」
絵里は、自分を指差してにこやかに微笑んでいる。
「そうっちゃね」
れいなは、絵里のにこやかな笑顔を見ながら、慎重に言葉を選んでいた。
内心では、見物でもしていて欲しいのだが、そう言うと駄々をこねられそうである。
ここは、当り障りのない攻撃でもさせておくか、当り障りのない攻撃といえば、雷による攻撃だろうか……まてよ。
れいなは、素晴らしい名案が浮かんだ。
考えれば考えるほど、その作戦が素晴らしいものにしか思えない。
れいなは興奮気味にその考えを口にした。
「絵里は、さゆが斬りつけたら雷を落として。さゆがつけた傷口から電撃を流して、直接体内を攻撃するったい」
これなら、致命傷まで行かなくても体に外傷を与えるだけで十分だ。
おまけに、この作戦なら絵里に戦闘を邪魔されることもない。
「まかせて」
絵里は、役割を得たことが嬉しいのか満面の笑みで答えた。
- 44 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:27
-
さゆみは、絵里とれいなが話をしている間、ずっと、光圀の様子を窺っていた。
ゆっくりとした動作で起き上がり、懐剣を抜くと鞘を放り捨てる。
光圀の、先ほどまでとは質の異なる凄まじい迫力に、背筋が凍るような寒気を感じる。
突然、光圀の姿が視界から消えた。
「来た!」
さゆみは、叫ぶと同時に絵里を抱えてその場を数歩離れた。
れいなも、さゆみとは反対方向へと跳び距離を取る。
その刹那、頭上より光圀が現れた。
凄まじい跳躍力により、一瞬にして距離を縮めたのだ。
れいなは、すぐさま、翻弄するように光圀の周りを動き回る。
しかし、三人の中で最も素早いれいなと同等の動きを光圀は見せた。
二人の持つ銃と懐剣が接触して、時折火花を散す。
さゆみは、二人の動きを目で追うのが精一杯だった。
- 45 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:29
-
それは、わずかな差であった。
しかし、二人の達人にとっては勝敗を分ける決定的な差となる。
れいなのスピードが光圀を凌駕し、ほんの一瞬、光圀はれいなに遅れをとった。
その時に苦し紛れに放った大振りをれいなは見逃さなかった。
攻撃を避けて懐に潜り込むと、素早く飛び上がり光圀の両肩に両膝で乗った。
そして、左眼に右手の指を突っ込む。
ぬめりとした感触を指先に感じ、目玉を掴むとそのまま引き抜いた。
引き抜いた目玉と共に、鮮血が飛び散る。
「ぎゃぁぁぁっ!」
光圀は雄叫びを上げる。
肩に乗るれいなを叩き落そうと腕を振り回すが、危なげなくかわして両肩より飛び退いた。
飛び退きざまに、空洞となった光圀の左眼に向けて一発の銃弾を放つ。
弾丸は、左眼の眼孔から体内に侵入し、鋼の肉体の内側で跳弾を繰り返し、内臓をズタズタに破壊した。
口や鼻からドロリとした血液を噴出し、両膝を地面につくと、だらりと腕を下ろして身動きしなくなる。
さゆみは、この時を待っていた。
- 46 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:32
- 「今だ!」
刀を鞘に収めると、動きを止めた光圀に踏み込んだ。
さゆみの六十七の秘技の一つ、居合抜きの構えである。
光圀の体に、薄っすらとではあるが赤い線のような痕が見えた。
さゆみが先ほど斬りつけた時の、剣撃の痕である。
「そこだっ。秘技、はんぶんこ斬り!」
さゆみは、居合抜きで刀を振り抜いた。
その一撃は、赤い剣撃の痕をなぞるように同じ場所を通り、右脇腹から左肩までを一刀両断した。
ズルリと、両断された体が斜めに滑る。
「絵里、今だ!」
れいなとさゆみの声が重なる。
「やぁ」
絵里の電撃が当たった。
光圀は、二つに分かれて地面に倒れた。
- 47 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:32
-
「やったぁ」
さゆみが飛び上がって喜ぶ。
「さすが絵里っちゃ」
れいなが言う。
絵里は脱力して尻餅を付くと、深く、ゆっくりと息を吐いた。
- 48 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:33
-
さゆみは、一振りして刀についた血を振り落とすと、鞘に収めて絵里に振り向いた。
「ねぇ、絵里。なんでこの人達に襲われてたの?」
「あ、えっとね、えへへ」
絵里は懐から数枚の小判を取り出した。
「上手くやれると思ったんだけどね」
照れ笑いを浮かべて頭を掻く。
- 49 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:35
-
今から数時間前。
下山していた道すがら、お金を持っていそうな三人組が前を歩いていた。
二人の男は女の話で盛り上がっており、一人はお爺さんだ。
女が相手なら油断するだろうと思い、絵里は、三人からお金を掏ったのだという。
- 50 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:36
-
「そしたら見つかっちゃった。えへへ」
照れ隠しで笑う絵里に、れいなとさゆみは呆れたように顔を見合わせる。
「あっ」
れいなは、絵里の小判を見て、思い出したように財布を取り出した。
格之進から奪った財布である。
中身を確認すると、予想通り空っぽだった。
れいなは、つまらなそうに財布を投げ捨て、次に、印籠を取り出した。
「ねぇさゆ。これ、なんだか分るね?」
印籠をさゆみに投げ渡した。
- 51 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:40
- 印籠は放物線を描いて、すっぽりと、さゆみの手の中に収まる。
さゆみは受け取った印籠をしげしげと見つめ、印籠の家紋を見つけて驚いた表情をした。
「え、うそ、これどうしたの?」
「なにー。絵里にも見せてー」
「お爺さんの仲間が持っとった」
「うそ、じゃあこの人たち……」
「えーりーにーもーみーせーてー」
絵里は、立ち上がるとさゆみの後から印籠を覗き込む。
印籠に描かれた三葉葵の紋所に、絵里は見覚えがあった。
「あ、新垣家の家紋だ」
絵里の言葉に、さゆみは頷いた。
「そう、新垣家といえば天下の大将軍の家系で、今、日本を支配している偉い人だよ」
新垣家とは縁も所縁も無いれいなは、残念そうにため息をつく。
「なんだ、じゃあれいな達が持ってても役にたたんね」
「そんなことないよ。この印籠は究極のフリーパス券とも言われ、これを見せるだけで宿代はタダになるしご飯もタダ。しかも、役所で見せれば旅の御用金がいくらでも引き出せるんだよ」
「へー、そうなんだ。いいもの拾ったね」
感心したように絵里が言う。
「れいなも値打ちもんだと思っとったと」
れいなは得意げな顔をした。
- 52 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:41
- さゆみは、れいなに近づくと印籠を手渡した。
「はい、これはれいなが持ってて」
「まかせんね」
さゆみから印籠を受け取り、大事に懐にしまう。
「それじゃ、行こっか」
さゆみが言い、れいなが頷く。
「まってぇ」
早くも下山を始めた二人に、絵里は情けない声を上げた。
二人が振り向くと、絵里は、地面に腰を下ろしたまま両手を前に突き出した。
「おんぶして」
「なんで?」
「足首痛いーおんぶー」
さゆみは、ため息をつくと絵里に背中を向けてしゃがんだ。
「わーい」
絵里は、さゆみの両肩に手を乗せて、嬉しそうに背中におぶさる。
こうして、三人は山を降りていった。
何時の間にか雨は止み、雲の合間から覗く夕日が、雨上がりの景色を赤く染めていた。
- 53 名前:第一話 友TF 投稿日:2005/01/05(水) 22:42
-
第一話 友情のトライアングルフォーメーション 終わり
- 54 名前:ギアマン 投稿日:2005/01/05(水) 23:10
- 二ヶ月ほどかかりましたが、これにて第一話終了です。
第二話より、本格的な諸国漫遊の旅が始まります。
でわでわ。
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/06(木) 23:12
- 3人の連携が良いですねぇ。
珍道中の予感・・・?
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 19:50
- スゴイ面白いです。
冒頭の文章にどう至るのか、本当に楽しみにしています。
- 57 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/05(火) 22:38
- 諸国漫遊の旅、楽しみに待ってますよ
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/04(土) 12:13
- 面白そうです。
続き待ってます。
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