Grasp
- 1 名前:ゆん 投稿日:2004/11/18(木) 22:47
- 目標:週1更新
多分、6期主役。他のメンバーもチラホラ…
- 2 名前:ゆん 投稿日:2004/11/18(木) 22:49
- 「何で?私の事、好きだよって言ってくれたじゃん!!」
肩を掴まれ揺すられる。
その力があんまり強くないのは、元々彼女の握力が弱いせいでも
あるんだろうけど、それ以上に私の発した言葉があまりにも
唐突過ぎて、力が抜けてる…そんな感じ。
まぁ、そもそもの原因は私にあるんだし、こんな事を悠長に
考えている暇はない。
「好きだよ。好きだから、もう一緒に居られない…」
さっきと同じ言葉をもう一度繰り返す。
一回目の時はしっかりと彼女の目を見て言えたけど、二回目は
俯いてしまった。私を見つめ返す彼女の目尻に溜まった涙が
つーっと頬を通ってポタ、ポタ、と白いカバーのかかった布団の
上に落ちて、小さなしみを作る。
- 3 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 22:51
- そういうと彼女は私の肩から手を外し、片方を椅子の上に置いて
いたカバンへ、そしてもう片方はドアのノブへと持って行った。
「あ…」
何か言いたい。
けど、今の私が彼女に言ってあげられる言葉なんて、ない。
どの言葉も余計に彼女を傷つけるだけ。
それが分かっているから、私は喉まで出掛かっていた声を
机にあったコップの水を飲み干す事で流し込んだ。
「じゃあ…」
小さな声でそう言って、部屋を出て行く彼女の後ろ姿に
「ごめんね…」
しかしそれは、廊下の雑踏とドアの閉まる音に遮られ、彼女の元
に届く前に消えてしまった。
- 4 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 22:52
- ――ホントに、愛してるんだよ?でも…
私はベッド脇にある備え付けの引き出しから一枚の紙を
取り出した。四つに折られたそれを、丁寧に開いていく。
丁度メモ用紙サイズの紙の真ん中、見慣れた自分の字を見つめた。
『私は、病気が治るまで、れいなに会わない。』
自分で自分と約束したんだ。彼女には十分すぎるほど甘えてきた。ちょっとした問題でも、すぐに彼女に泣きついた。子供だねぇ、何て言いながら私の頭を撫でてくれるのが嬉しくて、彼女に甘えすぎた。でも、れいなはもうすぐ私の側からいなくなってしまう。だから決めたんだ。れいなが居なくても大丈夫だよ、寂しくないよって所を見せるって。
――だから…ごめんね…
「あれで、良かったの?」
ふと聞こえた声に顔を上げると、色とりどりの花束を抱えた
幼馴染が、何とも言えない表情で私を見ていた。
- 5 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 22:54
- 「…うん…」
うん、とは言ったものの、その後に「良かったんだよ」と
繋げる事ができず、私はもう一度コップに手を伸ばす。
が、中身が空っぽだった事を思い出し、水の代わりにごくっと
唾を飲み込んだ。
「そう…」
幼馴染はそれ以上何も言う事はなく、先週、彼女が自分で持って
きた花を花瓶から抜き取り、部屋の中にある水道へと持って
行くと、水を替え、新しいものへと差し替える。
毎度同じ光景。
「じゃあ、帰るね。」
その間、たったの3分程度。それだけの動作を終えると
彼女はそう言って部屋を出て行こうとする。
これも、毎度同じ光景。
- 6 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 22:55
- いつもなら、私も「ありがとう」と言って手を振るのに
今日は何故か
「絵里…」
「ん?」
不思議そうに、それでいて些か驚いたように振り返った彼女に
私は、やっぱ、いい。と呟いて、彼女から視線を外した。
私たちの間に流れる、気まずい沈黙。
下を向いている私には、彼女の表情は分からない。
けどきっと、今にも泣き出しそうな…でも、多少の呆れを混ぜた
ような、そんな顔。
しばらくして、ふっと室内の空気が動く。
かちゃ、という音と靴が床に擦れる音に顔を上げると
そこに絵里の姿はなく、私は数分前にれいなが出て行った時と
同じように
「ごめんね…」
しかしこの声もさっきと同様に、ぱたん、という音にかき消され
自分の耳にさえ届く事はなかった。
- 7 名前:Grasp/Reina side 投稿日:2004/11/18(木) 22:58
- 「れいな。」
病室を出て数歩、聞き慣れた声に呼ばれて振り返る。
「あぁ…センパイ。」
「もぅ、その呼び方やめてって」
花束を抱えた絵里は、照れたような微笑みを浮かべた。
けれど、私がが無表情な事に気が付いたんだろう。
急に真剣な顔になり
「話、したの?さゆと…」
はい。と微かに頷くと、絵里は何か思案気な表情になった後
「ごめんね…」
「…何で、先輩が謝るんですか?」
「何でだろう…?」
- 8 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 23:00
- 絵里は自分では苦笑したつもりだった。
が、自分の頬がぎこちなく引きつっている事に気付き
再び元の表情に戻った。れいなは、羽織っていたジャンパーの
ポケットに手を入れ、ぼんやりとした目で絵里を見ながら
「私、分かんないんですよ、人の気持ちとか…
それが例え好きな人でも…」
こんな性格だから、友達とかできにくいんでしょうね。
と自虐的に笑ったれいなはとても寂しそうで、その姿は、絵里に
出会ってすぐの頃の彼女を思い出させた。
「れいなは……」
「私、帰ります。」
絵里の言葉を途中で遮り、れいなは少し早歩きで出口へ向かって
行く。その、少し丸まった背中を見送りながら、絵里は
一体自分はれいなに何を尋ねたかったのだろうかと思った。
あの言葉の後に、何を繋げればよかったのか…。
だから、背中を向けたれいなを、呼び止める事ができなかった。
- 9 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 23:02
- 最近、こんなんばっかだな。と絵里は先程れいなが見せたのと
同じ笑みを浮かべる。
擦れ違ってばっかりだ、私たち。お互いの気持ちがはっきり
分からないからモヤモヤして、自分の気持ちに説明が付けられ
ないからイライラしている。
「私も、帰ろ…」
誰が聞いているわけでもないのに、勝手に口から零れる言葉。
それは、独り言にしては随分大きかった気がしたけれど
私はれいなが通ったのと同じ道を通って自動ドアの前に立った。
シャーとガコッが混じりあったような音を立てて開く、だいぶ
昔に作られたのであろうこのドア。
一歩外へ出れば、そこには重苦しい空気などなく、ただ時折
心地好い風がさぁっと通り抜けるだけ。
絵里は、暖かく包み込むように自分を照らす太陽を見上げた。
視線を少し下にずらすと、大きな木の枝の先に、小さな
可愛らしいピンク色の花がいくつかまとまって付いていた。
- 10 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 23:03
- 「もう、春なんだ…」
去年の今頃だっただろうか。
絵里の家とさゆみの家の中間にあった空地が建て売り住宅になり
そこにれいなが引っ越して来たのは…
「絵里ちゃん」
突然視界が遮られ、私の前に現れたのはお姉ちゃん。
お姉ちゃんと言ってもホントのお姉ちゃんじゃなくて
小さい頃からお世話になっていて近所に住んでいるお姉ちゃん。
「さっき、れいなちゃんに会ったよ。」
ほとんど反射的に、「そうですか」と答える。
「何か、人事みたいだね。」
「人事、ですから。」
私の言葉に含まれた多少の刺に気付いたのか気付いてないのか
お姉ちゃんは呆れたような表情をして、ふぅっと溜め息を
吐き出した。
- 11 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 23:05
- 「絵里ちゃんは…」
「私、もう帰りますね。」
お姉ちゃんの言葉を最後まで聞かず、絵里はお姉ちゃんの横を通り
抜け、そのまま、ゆるやかな下り坂になっている道を進んだ。
途中、立ち止まって振り返りそうになったけど、そうしなかった
のは、自分の行動にれいなを重ねたからかもしれない。
左には太陽の光が海面に反射してきらきらと輝く海が広がって
いる。けど今の絵里にはその景色を眺めて歩く余裕はなかった。
- 12 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 23:07
- 駅に着くと、絵里は真っ先に電話ボックスに行った。
テレホンカードを差し込みながら絵里は、そういえば番号何番
だっけ。と今更のような事に気が付いた。
普段はケータイのメモリに入っているけど、そのケータイは
自分の部屋の机の上。まぁ、そうじゃなかったら、今時
公衆電話なんて使わないのだが…。
人差し指が、ボタンの上を当てもなく彷徨う。
思い出せ…思い出せ…
しかし、プーーと受話器の奥から聞こえる音が、絵里の思考を
妨げる。絵里はガチャンと乱暴に受話器を戻すと、吐き出された
テレホンカードを再び財布にしまい、代わりに定期を取り出すと
改札口を通り、丁度プラットホームに滑り込んで来た電車へ
乗り込んだ。軽快なメロディーとアナウンスの後、プシューと
ドアが閉まり、車体が一度だけ大きく揺れ、徐々に速度を上げて
走っていった。
- 13 名前:Grasp 投稿日:2004/11/18(木) 23:08
- 絵里は、ぼぅっと周りに目を向ける。
晴れた休日の午後とあってか、込み合った車内はほとんどが
カップルや友達、親子連れで、皆、楽しそうに笑っている。
そんな中で一人暗い表情を浮かべた絵里は、異質と言えば異質な
存在だった。大学生くらいだろうか、絵里の反対側に座った
2人組の少女が、ちらちらと絵里に視線を送りながら、何事か
囁きあっている。彼女達の会話はここまで届かないけれど
見ず知らずの人間にコソコソと自分の話をされると結構不愉快
になるものだ。絵里は二人を視界から外し、そっと瞼を閉じる。
暗い世界。聞こえてくるのは電車が走る音と周りの明るい話し声
だけ。どんなに耳を澄ませても、自分のココロの声は聞こえて
こない。もちろん、れいなの声もさゆみの声もお姉ちゃんの
声も聞こえてこない。
「分かんないよ、バカ…」
- 14 名前:ゆん 投稿日:2004/11/18(木) 23:10
- 本日は以上です。
読み返すと、まぁ読み辛い文章ですが、そこは初心者と
いう事で勘弁してくださいm(..)m
以後、気を付けます。
- 15 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:09
- 「ココアでいい?」
はい、と頷くと美貴は
「ココア、2つ」
アイスとホット、どちらになさいますか?という店員の問いに
美貴がちらっとれいなの方を見る。れいなは店員の顔を見てから
「じゃあ…ホットで」
「あたしもホット」
かしこまりました、と言って店の奥に引っ込んで行く店員の
後ろ姿を見送っていたれいなは、美貴の表情を見て
「何で、絵里みたいな顔してるんですか…」
と苦笑混じりに呟いた。それを聞いた美貴は、ほっとしたように
笑う。そして、何故、今笑ったのだろうと不思議そうに首を
傾げているれいなに
「今、初めて笑った。」
- 16 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:11
- 「え?」
「だって、会った時から一回も笑わないんだもん。」
まぁ、今のは苦笑いだったけどね〜…
美貴はそう言うと、少し身をれいなの方へ乗り出し
「何かあった?」
れいなは、じっと美貴の目を見つめている。
美貴も、逸らす事なくれいなを見つめ返す
チッ・チッ・チッ
店内は随分騒がしいのに、美貴とれいなの周りだけ、動くものは
何もなく、壁にかかった時計の針が時を刻む音が二人の耳に
聞こえて来る。
「さゆが…」
そこから先が続かない。
美貴は尚、れいなを見ているけれど、れいなが何を言おうとして
いるのかは、大体予想が付いていた。
- 17 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:13
- 「お待たせしました。ホットココア2つです。」
先程注文を取りに来たのとは別の店員がやって来る。
先にれいなに、次に美貴の前にココアの乗ったカップを置く。
その時、その店員と美貴の目が合い、美貴はその店員に軽く
頷いてみせた。その様子をれいなはぼんやりと眺めている。
知り合いか…。れいなの認識はそんなものだ。店員が去った後
れいなの視線に気付いた美貴はココアを一口飲むと
「今の、あたしの親友。」
「はぁ…」
だから何だろうと思っていると、それが顔に出ていたのだろう。
「それと、さゆみのイトコでもある。」
「え…」
「やっぱり知らなかったんだね。真希っていうんだけど…
うちの学校の子だよ。」
先輩とかと、あんまり付き合いありませんから。
というれいなに美貴は
「確かに」
- 18 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:15
- さゆみと絵里がいなかったら同級生とも付き合わなかったであろ
うれいなが、年上と関わりを持つ事がないのは当然だ。
「絵里とさゆが私の事、強制的に部活にいれなかったら、藤本
先輩や石川先輩に会う事もなかったですよ。きっと。」
「……まぁ、その話は今はいいよ。」
そうですね、と言って、れいなはカップに口を付ける。
甘い香りと味がれいなの鼻孔や舌に染み渡り、心地良い気分に
させた。しばらく二人とも無言でココアをすする。
美貴は時折れいなの方を見るけれど、彼女の表情からは何も
読み取れず、今、れいなが何を考えているのか、美貴には全く
分からなかった。
- 19 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:17
- カチャ
先にココアを飲み終わったのは美貴だった。
美貴がカップを置くと、れいながそれを待っていたかのように
飲むスピードを上げる。それは、美貴を待たせたら悪いからと
いうよりも、もし、自分が先に飲み終わった場合に手持ちぶたさ
になるのが嫌で、だから美貴が先に終わるのを待っていた
……そんな風。
やられたな…と、手持ちぶたさになっていた美貴は、ぐるっと
店内を見渡してみる。ここから見える範囲でも、カップルか
友達で来ている人が多い。自分たちは、周りからすれば随分と
不思議な関係に見えるんだろうな…と、どうでもいいような
事を思った。やがて、れいながカップを戻す音が聞こえ
美貴の視線は再び、れいなへと戻った。
- 20 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:18
- 「あのー…」
「あ、お金なら気にしなくていいよ。あたしの奢り。」
ありがとうございます、と軽く頭を下げたれいなは顔を上げると
「あの、何で……」
「ん?」
「何で、私の事、ここに連れて来たんですか?」
その言葉に一瞬、美貴がその瞳に過去を映した事を、れいなは
知る由もない。
「何でだろうね」
答えが自分の中ではっきり分かっているから、だから美貴は
いたずらっ子のように笑いながらそう言った。
「出よう。ココア一杯で1時間以上居座るのは、何か悪い…」
美貴がそう言って席を立つと、れいなもガタッと椅子を引いて
先にレジへと向かった美貴の後ろを付いていった。
- 21 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:20
- 先に外で待ってて、と美貴に言われ、れいなは素直に店の外へ
出る。室内にいたから気が付かなかったけど、空は既にオレンジ
色に染っていた。母親に手を引かれた幼稚園児が、スーパーの
袋を両手で抱え、れいなの前を通る。
袋には卵でも入っているのか、母親は口では「頑張れ」と言い
ながらも、目は確実に袋の中身の安否を心配している。
けど、子どもはそんな母親には気付かない。
ただ懸命に地面すれすれの位置で袋を運んでいた。
「お待たせ」
振り向くと、レシートを手にした美貴が立っていた。
れいなはもう一度
「ごちそうさまでした」
と頭を下げる。美貴は、いいんだよ。と言うと空を見上げ
「もう夕方かー…、明日からまた学校だし、今日はこの辺で
さよならにする?」
「あ、はぁ……」
- 22 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:22
- 一体、先輩は何をしたかったのだろうか。
れいなの頭にこれで何度目になるかも分からないフレーズが浮か
ぶ。二人で駅まで歩き、バスのロータリーまでやって来ると
「じゃあ、あたしこっちだからさ。」
美貴は一つのバス停を指差してそう言った。
美貴の家は、バスで20分ほどの所にある。
れいなの家はここから歩いて5分程度だ。
「また明日ね、バイバイ」
「さようなら」
しばらくしてやって来たバスに乗り込んだ美貴を見送った後
れいなは一度、駅の中へ入る。
家に帰るには反対の出口から出なくては行けないからだ。
- 23 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:24
- 「れいな?」
改札の前を通ろうとした時に聞き慣れた声がして
れいなは足を止めた。
右へ左へ流れる人込みの中から、一人の少女がれいなの
前に来て立ち止まる。
「先輩。」
「もうとっくに家に帰ったと思ってた。」
「藤本先輩と喫茶店言ってたんですよ。」
「藤本先輩?ふーん……」
何か意味あり気に呟いた絵里に、れいなは
「先輩は、今までさゆの所にいたんですか?」
「まぁ、そんなとこ。」
何かいい手はないかな…れいなはそう考えながら絵里と
会話を進めていた。
絵里にはある日を境に、よそよそしい態度を取り続けている。
絵里がどう思っているかは知らないけどれいなからしたら
一刻も早くこの場から去りたいと思っていた。
必死に絵里から離れる策を考えても、自分と絵里の家は隣同士。
帰り道は同じだ。
「…私、自転車なんだ。れいな、後ろ乗って行かない?」
…もう、断る術はなかった。
- 24 名前:Grasp 投稿日:2004/11/19(金) 22:25
- 「れいな、ちゃんとつかまっててよ?」
「分かってるよ」
そんな事を言いながら、一気に坂を下る。
風が少し肌寒く感じて、絵里の腰に回していた腕をぎゅっと
締める。前は、毎日学校の行き帰りにこうやって絵里の後ろに
乗っていたんだ。つい2ヵ月ほど前までやっていた事なのに
何だか随分昔の事のように感じる。
「ねぇ、れいなぁ?」
そんな風に話しかけて来る絵里は、2ヵ月前までの絵里と同じ
だった。れいなは耳元をきる風の音に負けないように
「何ー?」
この自分も、2ヵ月前までの自分だ。
「さゆが、何であんな事言ったか、分かってるの?」
途端に、すうっと周りの空気が冷めた。
それと同時に今の自分が戻って来る。
- 25 名前:ゆん 投稿日:2004/11/19(金) 22:26
- 本日はここまでです。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/19(金) 23:23
- おお!何か良さげな作品発見(゚∀゚)!!
6期好きなんで(とくにれいながw
期待してますよ!
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/20(土) 01:28
- 気になる出だしですね 惹かれました
冒頭では人称や視点が混乱して状況を読むのにちょっと戸惑いましたが(ごめんなさい)
それでも読み進めたくなりました
続き楽しみにしてます
- 28 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:18
- 自転車は、坂を下りきった所にある十字路で、キィーーッという
少し錆付いた音を立てて停止した。
れいなは黙ったまま、絵里の頭部を見つめている。絵里は信号が
変わるまでの間、一度もれいなを振り返る事はなかった。
「れいな。」
絵里が次に口を開いたのは、住宅街に入り、もうれいなと絵里の
家が見え始めた頃。
さっきのような甘え声じゃなくて、先輩としての威厳というか
年上という感じを醸し出した、そんな声で。
「何ですか?」
「…さっきは、ごめん。」
- 29 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:20
- もう良いですよ。とれいなは呟くように言う。
また敬語。
れいなが自分に対して敬語を使う度に、絵里のハンドルを握る力
が強くなる。絵里には何故れいながこんな態度を取るのかはよく
分かっていた。分かっているのだけど、それでもやっぱり
寂しくて…そして、悲しかった。
「先輩。」
「え、な…何?」
…絵里、何慌ててるんだろう?
れいなは訝しげな表情を浮かべながら
「あの、家……」
「あ……」
気付けば、もう家の前。
絵里は徐々にスピードを落とし、さっきのようにブレーキは
かけずに、足をアスファルトに着けて、自転車は止まった。
- 30 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:23
- 「はい、鞄…」
絵里はれいなが荷台から降りた事を確認してから、前カゴに
入っていたれいなの鞄を掴んで差し出した。
「ありがとうございました。」
「ううん。じゃあ、また…」
絵里はそう言って自分の家の門を開けて自転車を運び入れる。
…また明日って言えなかったな。
だから何という訳じゃないんだけど、やっぱり…寂しい。
絵里が家に入って行くのを、れいなはじっと見つめていた。
…また明日って言えなかった…
- 31 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:26
- れいなと絵里の考えている事は同じなのに、お互いがそんな
事を考えているなんて知らない。
そんな二人の様子を、少し離れた自宅のベランダから眺めている
少女がいた。絵里がその場にいたら、きっと彼女の事を
お姉ちゃんと呼んでいただろう。お姉ちゃん事、高橋愛は
ケータイを片手に手すりに凭れかかっている。
「あぁあー…」
まったく、世話の焼ける妹たちだ。
「お互い、素直じゃないわけじゃないのにねー…」
誰ともなしに呟くと、愛は手元のケータイに目をやった。
『新着メール 一件』
- 32 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:29
- 愛はメールボックスを開き、来たばかりのメールに目を通す。
読み進める間に、自然と口許が緩み、愛は慌てて室内へ戻った。
夕暮時の住宅街。
ベランダでケータイを見ながら、にやにやする女の子なんて
ただの変なヒトだ。
メールを読み終えると、愛の親指は目にも止まらぬスピードで
ボタンの上を滑る。
「よしっ」
すべての文を打ち終え、送信完了のメッセージを確認すると
愛はパチッとケータイを閉じ、ベッドに放り投げ、自分も
そこへダイブした。スプリングが弾み、ケータイが跳ねる。
「頼むよ」
- 33 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:31
- 先程のメールの送り先である友人に向かってぽつりと
言いながら、ケータイを見る。
『協力してくれるなら返信して欲しい。それがOKの合図。』
メールにはそう書いた。
「あ……」
ぱっとケータイのディスプレイが明るくなり、くまの
キャラクターが、てくてくと画面の中を歩いている。
その手には、手紙のマーク。
『メール受信中』
愛はケータイを手に取り、画面を見つめる。やがて画面が変わり
『メール受信完了』
愛は急いでメールを確認する
『あさ美』
未読メールのマークの横に表示された名前に、愛はにこっと
微笑んだ。
- 34 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:33
- メールにはたった一言
『頑張ろう』
事実上のOKサイン。
愛は、よしっ。と小さくガッツポーズをすると再びメールを作成
する。送信を済ませるとケータイを閉じクローゼットを開け
制服の隣りにかかっていた黒いパーカーを羽織り、そこの
ポケットにケータイと財布を突っ込んで、部屋を出た。
『今から駅前の喫茶店で会おう。みんな来るから。』
- 35 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:35
- 『好きだから、一緒にいられない……』
『嘘じゃないよ……』
『……ごめんね』
はっと目を開けると、そこに映っていたのは見慣れた天井で。
少し横を向くと、片付けてもすぐにぐちゃぐちゃになって
しまう棚と綺麗に貼られた、アイドルのポスター。
ここは紛れもなく、自分の部屋だ。
れいなは重たい頭を持ち上げ、軽く振ってみる。
ふわっと自分が浮いたような感覚に陥り、れいなは再び
横になった。そんな自分が情けなくて、思わず一言
「……私、何してるんだろ」
- 36 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:37
- れいなは、ぼんやりと天井を見上げながら考える。
僅かに開いた窓から風が入り込み、カーテンが揺れる。
もう春だというのに、入って来る風は冷たく、まだまだ冬の
名残を思わせた。れいなは開いた窓の方をチラッと見る。
窓は、絵里の部屋の窓の丁度反対側に位置していて
前はこの窓を開け放ち、絵里と毎日夜中まで喋っていた。
ケータイを使わずに喋れる点では便利だったけど、冬場に
なると必ず二人揃って風邪を引いて寝込む事となった。
親たちはこの夜の語り合いを知っているから、どちらかが
風邪を引けば呑気に「そろそろウチのも熱、出すかしらねぇ」
という言葉を交わしていた。
- 37 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:39
- あの頃は…とれいなは思う。
あの頃は、どうもさゆみが一人になりがちだった。
三人という微妙な数は、上手くいかないようにできているらしく
外したわけでも避けたわけでもないのに、自然とさゆみが絵里と
れいなの後ろを一歩引いて付いて行く感じになってしまった。
絵里もれいなも、夜の会話の内容をさゆみの前で話す事は
しなかったけれど、それでも、さゆみが時折見せる寂しそうな
表情を、れいなは忘れない。
「…雨……?」
耳に入って来た音に、れいなは頭を上げる。
今度はふらふらしない。大丈夫だ。
- 38 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:40
- ゆっくりとした動作で起き上がり、窓まで歩いて行く。
窓を全開にして顔を出すと、思った通り、雨が降っていた。
雨粒は屋根の上を滑り、身を乗り出しているれいなの顔に
当たる。れいなは、この調子だと明日も雨かな、と顔が濡れる
のも構わずに空を見上げた。
「風邪、引くよ?」
突然窓が開き、顔を覗かせた絵里が、遠慮がちに言う。
「あ…うん……」
- 39 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:41
- れいなは、突然の事でどう対応していいのか分からない。
しばしの沈黙。
雨音がやたら耳につく。
先に、別れの言葉を告げたのは絵里だった
「じゃあ…私、明日テストあるから……」
そう言うと絵里は窓を閉めてしまう。
れいなが咄嗟に「絵里…」と呟くも、カーテンまで閉じられた
窓の向こうにいる絵里に、声が届くわけもなかった。
…すれ違ってばっかりだな、私たち。
- 40 名前:Grasp 投稿日:2004/11/20(土) 22:43
- れいなは自嘲的に笑い、窓を閉める。
桟と窓が擦れ、キュルキュルキュルと、引っ掻いたような
不快な音を立てた。カーテンはそのままにして、ボスッとベッド
に倒れ込む。何だか、今日一日で色々な事があった。
一番大きいのは、さゆみの事だ。
いきなりあんな事言われるなんて、思わなかった。
れいなは目を閉じ、これまでの出来事を整理しようと全神経を
記憶を呼び起こすのに使う。
しかし、浮かんで来るのは、さゆみの言った言葉ばかり。
「分かんないよ…」
分かんないよ。さゆみのキモチも絵里のキモチも…
- 41 名前:ゆん 投稿日:2004/11/20(土) 22:49
- 更新終了です♪
>>26 名無飼育さん様
ありがとうございます!
れいな、好きですか?!作者もれいな好きなんですよ!
これからも頑張るんで、よろしくお願いします!!
>>27 名無飼育さん様
ありがとうございます!
やっぱ、読み辛かったですよね(汗
作者自身も非常に読み辛かったんで、気にしないでください!!
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/06(月) 20:38
- 先が気になります
待ってます
- 43 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 13:56
- 「れいな……」
絵里は、部屋の窓から、向かいの部屋でベッドに寝転んでいる
れいなを見ていた。先程カーテンを閉めたものの、れいなが
気になって、また開けてしまったのだ。
その手にはシャーペン。しかし、開いたノートは白紙のままだし
教科書の問題を解いた形跡はない。明日テストだから…
と言ったわりには、一向に勉強は進んでいなかった。それは
れいなの部屋のカーテンが開けっ放しで、しょっちゅう彼女の
方へ視線が行ってしまうというのもあるけど、それ以上に、れいなと
喋った事で、気分が高揚しているせいだった。
- 44 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 13:57
- 夕方も、れいなを家まで自転車に乗せていったけど、その時は
れいなに背中を向けていた。
やっぱり、面と向かって話すのとは違う。
「れいなぁ……」
れいなは天井を見つめながらじっとしている。
もしここでれいなが起き上がれば、確実に自分と目が合う。
絵里には自分がそれを望んでいるのかどうかは、分からない。
「絵里、電話!」
母親の声が聞こえて、急いで下に降りる。
- 45 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 13:57
- 「誰から?」
「さゆちゃん」
絵里はチラッとリビングの時計に目をやる。
時刻はそろそろ10時をまわる。こんな時間に何の用だろう。
何か、急いでるみたいよ?
と言う母親の声を聞きながら受話器を手に取り、耳に当てる。
「もしもし?」
「……絵里……」
どうしたの。と尋ねると、電話の向こうからは、うん…という
消え入りそうな言葉の後は何も聞こえて来ない。
- 46 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 13:59
- 「さゆ……?」
電話というのは、だから苦手なんだ。
相手が見えないから相手がどんな表情をしているのか、分からない。
いや、相手が目の前にいて喋るのも苦手だが…。
ことに、相手は一応病人。黙りこくられてしまうと
何かあったのかと不安になってしまう。
「ちょっとさゆ、黙ってないで、何か言ってよ……」
しかし、さゆみは何も言わない。
絵里の言葉を聞いていたのかソファに座った母親が顔だけ振り返り
不審そうな目で絵里を見ている。
- 47 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 14:00
- 「……絵里ぃ……」
長い沈黙の後、ようやく口を開いたさゆみの声は今にも
泣き出しそうな…もしかしたら既に泣いているのかもしれない
そんな声。
「…どした…?」
返事があった事にほっとした絵里は、優しい口調で話しかける。
「……寂しい、よ…」
「……うん」
理由が抜けたさゆみの言葉。
けど、絵里にはそれが何の事なのか、すぐに分かった。
- 48 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 14:01
- 「……今、どうしてる?」
絵里は、さっきのれいなの様子を思い出す。そして
「勉強、してたよ」
「え……?」
驚いたような、さゆみの声。絵里はもう一度
「れいな、勉強してた。」
そう…。さゆみの呟きに、絵里は良心が痛んだ。
でも、何でこんな嘘をついたのかは、自分でもよく分からない。
「あ……」
- 49 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 14:03
- 「え?」
ツー…ツー…ツー…
…切れちゃった…
絵里は、受話器を元の場所に戻し、履歴番号をチェックする。
発信源は公衆電話。つまり、時間切れだ。しばらく電話の前に
立っていたけど、もう一度かかって来る様子はない。
時刻は10時30分。
「絵里、さゆちゃん、何だったの?」
部屋に戻ろうとした時、母親に声をかけられた。
- 50 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 14:04
- 「いや…何か、急に寂しくなったみたい。」
本日二度目の嘘。
「可哀相にねぇ…絵里、お見舞いとか行ってあげてるんでしょ?」
絵里は、当たり前じゃん、と言って笑う。
これは嘘じゃない。
まだ何か言いたそうな母親の視線を感じつつ、絵里は部屋へ戻った。
向こう側にいるれいなは、先程と変わらぬ体勢で寝転んでいた。
規則正しく肩が上下しているのが、絵里の位置からでも見える。
- 51 名前:Grasp 投稿日:2004/12/08(水) 14:07
- 「寝ちゃったのかな…」
れいなの服は今日のまま。
絵里はゆっくりカーテンを引くと、このまま寝ちゃってもいいかな…
と思い、ベッドに横になり、目を閉じる。
いつもは電気は消すけれど、何だかそれも億劫で絵里は足下にあった
掛け布団を被った。部屋が静かになったせいか、一段と強さを増した
雨が屋根を叩く音が布団越しに聞こえて来る。
「明日も雨、かな……」
……一人の夜が寂しいのは、さゆみだけじゃない。
- 52 名前:ゆん 投稿日:2004/12/08(水) 14:10
- >>42 名無飼育さん様
ありがとうございます!
テスト期間中で、なかなか更新できませんでしたm(..)m
実はまだテストは残っているのですが・・・ww
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/09(木) 00:00
- 6期の小説発見!
これからどうなるのか楽しみです。
- 54 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 15:55
- ツー…ツー…ツー…
「切れちゃった……」
さゆみは、くぐもった音をたてる受話器を、少し背伸びしながら
ガシャッと元の位置に戻す。
ピピー…ピピー…ピピー…
病院のナースコールにも似た電子音と共に、残量の無くなった
テレホンカードが吐き出され、さゆみは、それを引き抜くと
パジャマの上に着たトレーナーのポケットに突っ込んだ。
車椅子動かしてエレベーターへ向かう。
- 55 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 15:57
- タイヤを回す手は心なしか動きが早く、さゆみは一刻も早く
この場を去りたいと思っていた。外来受付の明かりは消え
廊下の照明も落とされている。
それは、中学生のさゆみの恐怖心を掻き立てるには、十分過ぎる
シチュエーションだった。
真っ直ぐな廊下を進んで行くと、やがて、蛍光灯に照らされて
ぼんやりと浮かび上がったエレベーターが見えてきた。
エレベーターは5階…さゆみの入院している階で停止している。
また、誰かが生死の間を彷徨っているのかもしれない。
1週間に1度は夜中に廊下を慌ただしく走る医者や看護婦
そして患者の家族の足音で目が覚める。今日もその類いなのか…
- 56 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 15:58
- 「早くー…」
ゆっくりと降りてくるエレベータのランプを見上げながら
さゆみはそう呟いた。
「夜の散歩?」
突然、背後からかかった声に、さゆみはびくっと肩を震わせる。
「ごめん、びっくりさせちゃった?」
聞き覚えのある声。
さゆみは振り返ると、その人を見て、嬉しそうに微笑んだ。
「愛さん。」
久しぶり。と軽く左手を上げた愛はさゆみの頭に手を伸ばして
優しく撫でながら
「最近、調子どう?」
「まぁまぁ…ですかね…」
ホントは大丈夫じゃないんですけど…とは言えず
さゆみは曖昧に頷いた。
- 57 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:00
- 「上、戻るんでしょ?」
さゆみが首を縦に振る。愛は
「一緒に行くよ」
と言って、さゆみの車椅子のハンドルを握った。
「え…でも……」
「良いって。ホントは怖いんじゃないの?病院。」
愛の言葉に素直に頷く。すると愛は、変わってないなぁ…と
言って目を細めた。さゆみは何か聞きたそうな表情を
浮かべていたけれど、何も言う事ができないまま、到着した
エレベーターに乗り込んだ。
「あの……」
さゆみがやっと口を開いたのは、エレベーターを降り
ナースステーションの所だけ明かりの付いた廊下を進んで
部屋に戻った時だった。
- 58 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:02
- 愛はさゆみがベッドに横になるのを手伝いながら、何?と
さゆみの方を向く。
「今日…何で…」
それしか言っていないのに、愛は、あぁ…と呟くと
「後で話すよ。ほら、早く寝な。よく分かんないけど
車椅子って疲れるんでしょ?」
と、横になったさゆみに布団をかけながら言った。
「私がここに来たのはねー…何だろう…さゆみ、寂しがって
ないかなぁって思って。」
「え?」
驚いた表情のさゆみに、愛は手近にあった椅子を引き寄せて
腰掛けると、優しく笑いかけた。
「夜の病院で1人でいてっていうのもあるんだけど
それ以上に…れいなと絵里の事…でね…」
- 59 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:05
- れいな、という名前に、さゆみの表情が一瞬だけ陰ったように
愛には見えた。けれど、さゆみは愛に笑顔を向け
「あの2人が、どうかしたんですか?」
「……ホントに、別れたんだって?れいなと……」
言ってしまってから、愛は、少しストレート過ぎたかな…と
後悔した。けれど、さゆみはまったく表情を変えずに
「ハイ」
愛は、先ほどと同じようにさゆみの頭を撫でる。
さゆみは無言のまま愛の視線から逃れるように、窓の外へ
目をやった。けれど真っ暗な空が室内の明かりに反射してガラス
越しに愛と目が合い、さゆみはぎゅっと唇を噛んで俯く。
- 60 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:07
- 「……ホントは……ずっと、一緒に…いたかったです…」
随分の沈黙の後、さゆみが固く結んだ唇の隙間から
絞り出すように発した声。愛は、ふと、自分がれいなに引っ越しを
告げられた時の事を思い出した。
『私、来年に、福岡に引っ越すんです。
昔住んでたんですけど、何か戻る事になったみたいで…』
『その話、さゆみにした?』
あの時のれいなの顔は、今でも忘れない。
普段はどちらかというと生意気で、涼しげな笑みを浮かべて
いるれいなが暗い顔で、いえ…と呟いた。
「れいなが黙ってたのは、私のためだったんだって絵里が
言ってたんです……。でも…やっぱり、れいなから直接
言ってもらいたかったなって…」
愛は、あぁ…と呟いて、さゆみの顔を見る。
「叔母さんから、聞いたんだっけ?」
- 61 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:11
- 「お母さん、れいなが黙ってた事、知らなかったみたいで……」
愛は、そっかー…と呟いたまま黙りこくり、カーテンが閉まった
窓の方を見ていた。
『いっしょにいたかった』
さゆみはそう言った。それは、引越しの事を指していたのか
それとも2人の心の事を指していたのか…
ふと、さゆみが目を擦ったのを見て、愛は壁の時計を見る。
時刻は、そろそろ日付が変わるかというところで、愛は
これ以上いてもさゆみが寝不足になるだけだと思い、部屋を
出ようと席を立った。
- 62 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:13
- 「帰るんですか…?」
うん。と、さゆみの方に目をやると、さゆみは潤んだ瞳で
愛を見上げていた。
「……さゆみが寝るまで、一緒にいようか?」
別にさゆみがそうしてくれと言ったわけじゃない。
でも、愛は何となくそう言うと、再び椅子に座り、さゆみの手を
軽く握った。さゆみは安心したように微笑み、その手を握り返す
と、そっと目を閉じた。
しばらくして聞こえてきた規則正しいさゆみの寝息。
愛はそっと繋いだ手を離すと、空いたその手でさゆみの前髪を
優しく梳く。
「じゃあね…」
- 63 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:15
- 愛はそう呟き、部屋のドアをそっと開けて、廊下へ出た。
「暗い……」
同じ色、形をしたドアがずらっと並ぶその前を、愛はなるべく
音を立てないように、それでも足早に進んで行く。
そしてエレベーターのドアが閉まった時、愛は何かから開放
された後のようにぐったりと壁に寄り掛かり、溜め息をついた。
こんなに緊張したのは何時振りだろう。
さっきまでのさゆみといた時間は、あの日、先輩たちに呼ばれて
喫茶店に行った時の緊張に似ていた気がする。
「私、何しに来たんだろう」
いや、来た理由は明らかなのだけど、自分の伝えたかった事を
ちっとも伝えてない。
「…」
ガコッという衝撃に愛ははっと我に返る。
どうやら少しの間に眠ってしまっていたようで、愛は
ホント、何やってんだか…と呟くと、エレベーターを降りた。
- 64 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:17
- すぐに背後でドアの閉まる気配。
愛は俯き加減で廊下を歩き、待合室の前まで来た。
チラッと時計を見る。すでに日付けは変わっていて、今から駅に
行っても終電には間に合わないだろう。
自転車で来て正解だったかもしれない。
しかし、病院を出た時、愛は自転車で来たことを即座に後悔した。
「…うわ……」
雨。しかも土砂降り。
でも、歩いて帰る訳にはいかない。
家までは自転車で30分ちょっと。
愛は、しばらく空を見上げ、やがて覚悟を決めたように
駐輪場まで一気に走り、素早くサドルにまたがると
降りしきる雨の中を猛スピードで走っていった。
幸い、パーカーを着ていたおかげで、水が染み込んでくる事は
なかったけど、手が悴んで、力が入らなくなり、ハンドルが
ふらふらと揺れている。
- 65 名前:Grasp 投稿日:2004/12/10(金) 16:24
- びしょ濡れになりながら、ようやく家に着いた。
時間が時間だけに、家族は全員寝てしまったらしい。
真っ暗になった家の中、愛の足音だけがやたら響く。
部屋に戻った愛は、タンスから黒いジャージの上下を引っ張り
出して着替えると、そのままベッドに倒れ込むようにして
横になった。どっと押し寄せて来る、眠気と疲れ。
それでも、濡れた服を洗濯機に放り込もうかと何とか起き上がり
ドアを開けた愛は、玄関から部屋までの廊下、自分が通って
きた道が水浸しになっている事に気付いた。
思わず、手にした濡れた服と廊下を見比べる。
もう、廊下を拭く体力は残っていない。
愛はそっとドアを閉め、服を机の上に放り投げると、再び
ベッドに横になる。そして、今度は眠気と疲れに逆らう事なく
瞼を閉じた。
- 66 名前:ゆん 投稿日:2004/12/10(金) 16:26
- 更新終了です
>>53 名無飼育さん様
ありがとうございます!
テストも無事に終わったので、どんどん更新していきたいと思います!!
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/10(金) 19:06
- 派手なところのないお話が堅実な印象で好きです。
高橋が落ち着いた雰囲気で珍しいですね。
これからも楽しみにしてます。
- 68 名前:Grasp 投稿日:2004/12/17(金) 23:17
- 「田中ー」
「……」
「田中れいなー」
「……」
返事、なし。
なつみは彼女の座っている席へ視線を移す。窓際の、後ろから3番目。
なつみは彼女が出席している事を確認すると、それ以上何も言わず
次の生徒の名前を呼んだ。ふと、真里の言葉が頭に浮かぶ。
『田中と道重、別れたんだってな。』
その話を真里に聞いたのは、昨日、というより今日の午前2時過ぎ。
期末テストの問題作りのため、パソコンに向かっていた時だった。
「もしもしぃ?どうしたの、こんな時間に…」
突然の電話に少々驚きながらも、視線はパソコンのディスプレイに
注がれたまま。手は右は受話器に、左はキーボードの上に。
「ねぇ、田中れいなと道重さゆみってさ、なっちのクラスだよね?」
- 69 名前:Grasp 投稿日:2004/12/17(金) 23:19
- そうだけど…となつみは訝しげに答える。
真里は、美貴からの情報なんだけど、と前置きして
「……あの2人、別れたんだってな。」
え?っと聞き返すも、そこには以外と驚きを感じていない
自分がいた。もしかしたら、いつかはこうなる事を
心のどこかで予想していたのかもしれない。
なつみは、キーボードから手を放し、傍らに置いてあった
コーヒーを、一口飲む。
カップにはまだ半分以上残っているのに、既に冷めたコーヒー。
表面に薄く張った膜が唇に付いた。
「ふったのは道重から。田中、相当驚いてたらしい。」
- 70 名前:Grasp 投稿日:2004/12/17(金) 23:22
- 「じゃあ、道重は亀井に…」そう言いかけて、やめた。
あれは、もう随分前の事だ。今更、有り得ない。
なつみは唇に付いた膜をペロッと嘗め真里の次の言葉を待った。
「しかもさ…道重、田中に別れる理由を話してないって」
「話してないって…」
「オイラも道重本人から聞いたわけじゃないし、よく分からない
んだよね。」
だから明日田中の様子がおかしくても、そっとしといてやって
くれって事。
そう言う矢口の口調はどこか優しく、きっと、あの時の美貴を
重ね合わせてるんだな…となつみは思った。
そういうなつみも一瞬だけ、色黒で、よくアニメ声だと冷や
かされていた後輩の顔が浮かんだのだが…
- 71 名前:Grasp 投稿日:2004/12/17(金) 23:24
- 「まぁ、そういう事。美貴がさ、自分達はいつもれいなたちの
事見ていられるわけじゃないから、学校にいる間は、先輩たちが
よろしくお願いしますって言ってたよ。」
あいつも変わったよな。という真里は、どことなく嬉しそうで。
なつみは、分かった、と短く返事を返すと
「テスト作んなきゃいけないからまた明日ね」
と言って受話器を置いた。
何だろう、この感じ…
コーヒーをもう一度口に含む。甘ったるさが喉を通る感触。
でも、違和感は流れて行かない。
なつみは、作りかけのテストに目を通す。特に意味はない。
ただ、何かに集中していたかったのだ。
- 72 名前:Grasp 投稿日:2004/12/17(金) 23:26
- 「……」
3回ほど同じ所を見直して、なつみは机の上の時計に目をやる。
『先生、誕生日おめでとうございます!!』
そんな事を言って、彼女たちがこの時計をくれたのは、2年前。
その頃はまだ、れいなはいなくて、付き合っていたのは
絵里とさゆみだった。先輩と後輩という年の差を感じさせない
ほど仲のよい2人は、職寝室でも、かなり有名で、なつみは
そんな2人を微笑ましく感じていた。
れいなが引っ越して来たのは絵里が高等部に上がり、さゆみが
なつみのクラスになった今年の春。
自分のクラスに入ると言う事で、校長とともに彼女に挨拶を
した日が最初の出会いだった。
- 73 名前:Grasp 投稿日:2004/12/17(金) 23:30
- 「いつ引っ越して来たんだっけ?」
校長と母親が話をしている間やや緊張気味にソファに座っていた
れいなに声を掛ける。
「一昨日です」
「じゃあ、まだ荷物の片付けとか大変でしょ?」
「いえ…両隣りに住んでる子たちが手伝ってくれたんで」
どうやられいなの両隣に、自分と同い年の子と1つ年上の子が
住んでいるらしく、それぞれの家に挨拶に行った時に、すっかり
意気投合してしまったみたいだ。
ふと、なつみは机の上に置かれた書類に目をやる。
そこに書かれた彼女の住所には、見慣れた数字の羅列があって
それを見たなつみには、れいなの両隣の子というのが誰なのか
容易に想像ができた。
- 74 名前:Grasp 投稿日:2004/12/17(金) 23:32
- 「亀井と道重…」
「え?」
知っている名前が飛び出た事に、れいなは些か驚いたように
なつみを見る。そんなれいなになつみはにっこり笑いかけ
「その2人、この学校のコだよ。
道重は、同じクラスじゃないかな?」
そうなんですか?と嬉しそうに言うれいなの瞳は、キラキラと
輝いていて。それはなつみに、1つの予感を覚えさせた。
『このコは、あの2人の関係を変える…』
根拠があったわけではないけれど、絵里ともさゆみとも違う
魅力を持ったこの少女が、これから2人と深い繋がりを持つ。
そんな気がしてならなかった。
- 75 名前:ゆん 投稿日:2004/12/17(金) 23:36
- 中途半端な上に短いですが、更新終了です
>>67 名無飼育さん様
ありがとうございます!
作者はどうもテンションの高い話を書くのが苦手なようで…
高橋さんにはこれから色々働いてもらいますww(予定
- 76 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/24(金) 22:01
- 想起される三人の深いつながりか…ぐっときますね
待ってます
- 77 名前:Grasp 投稿日:2004/12/30(木) 14:54
- 「田中!田中!」
はっと我に返ると、教壇の上から真里がテストの答案をひらひらさせ
ながら自分の名前を呼んでいる。れいなは少しあわてて立ち上がり
テストを取りに行った。
「お前、大丈夫か?」
「はぁ…」
真里は、重症だな、と呟いて答案を差し出しれいなの耳元で
「後で屋上来い」
と囁いた。
れいなは軽く頭を下げて席に戻る。そしてそのまま答案は机にしまい
またぼうっと窓の外を眺めた。
真里の話というのは、大体予想が付く。
さゆみの事。これしかない。
あんまり話したくないのになぁ…というれいなの呟きは、誰にも届く事なく
空気に溶けた。
- 78 名前:Grasp 投稿日:2004/12/30(木) 16:01
- 「お前さぁ…別れたんだ?」
「まぁ…」
絶対聞かれると思っていた。
れいなは溜息と一緒に言葉を吐き出す。
「先輩からですか」
「まぁね」
自分とさゆが別れた事が、既に色んな人に知れ渡っているのは
気が付いていた。美貴、愛、真里、なつみ。
この分だと、美貴の親友であるあの人たちにも伝わっているん
だろうなと思う。
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/18(金) 22:33
- 待ってるよ
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/19(土) 18:19
- 続き期待してますよー!
- 81 名前:作者 投稿日:2005/02/19(土) 22:29
- レスありがとうございます。
今、諸事情でPCから離れていて更新する時間が取れません。
3月か4月頃には落ち着くと思うので、それまでお待ちください。
よろしくお願いします。
- 82 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:05
- 「理由とか…何にも知らないんだってな。」
「……はい」
放っておいてくれればいいのに、と思わなかったわけじゃなかった。
どうせ彼女は話の大筋を知ってるのだろうに、なぜ自分に構うのか。
れいなはそんな思いを込めて溜息を漏らす。
そんなれいなを少し苦笑いを浮べて見つめる真里。
「お前、本当にそっくりなのな。」
「はい…?」
美貴たちにだよ、と真里は呟きガシャン、とフェンスに寄りかかる。
れいなは少し驚いて真里の方に首だけ向けた。
「お前らな、昔の美貴たちにそっくりなんだ。」
- 83 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:06
- 「藤本先輩たち…ですか?」
「美貴と、梨華ちゃんと…あと、高橋と紺野。
それから…あぁ、お前は知らないけど道重のイトコの後藤と
吉澤ってやつがな…」
道重の、という言葉でれいなの頭に浮かぶのは
先日、喫茶店にいた人。
あの人たちがどうしたというのだろう。
自分の知っている限りでは、石川先輩と高橋先輩は
今、付き合っている人はいない。
紺野先輩は相手がいることだけは知っているけれど
それが誰だかは分からない。
「藤本先輩たちが、どうかしたんですか?」
- 84 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:07
- 真里は、れいなの口調が少し必死な雰囲気を帯びている事に
気が付いた。
きっと、美貴たちの間に起きた事を聞いて
場合によっては相談したいと思っているのだろう。
そんな考えまで、そっくりだ。
「教えられないな。知りたかったら自分で聞きな。」
教えてくれないかもしれないけど、付け加えるとれいなは
少し落胆したような表情で膝を抱えてその場にしゃがみ込む。
「おい、大丈夫か?」
真里はそんなれいなに驚いて自分もその隣にしゃがむ。
「……」
- 85 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:08
- 顔を伏せたまま肩を震わすれいな。
泣かないように我慢しているのか、彼女から声が漏れてくる
ことはなく。それを見ていた真里は、自分の取った行動が少し
無責任だったかと後悔した。
二人の他は誰もいない屋上は静かで、真里の耳に入ってくるのは
中庭でバレーやバスケットに興じる生徒たちの歓声。
「お前、どうする?しばらくここにいる?」
時計を見ると、そろそろ予鈴が鳴る時刻。
れいなのクラスの授業担当は自分だし
サボったって構わないと真里は思っていた。
「………はい…」
「ん…分かった」
真里は、風邪ひくなよと告げて校舎に入るドアのノブに
手をかける。校舎に入ってドアを閉める寸前、れいなの方を
見ると、れいなは蹲ったままその場から動こうとはしなかった。
- 86 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:09
- 「矢口、田中どうだった?」
職員室に入ってすぐ声をかけてきたのはなつみ。
どこで、真里とれいなが屋上に言った事を知ったのかは
知らないけれど、きっとクラスの生徒から聞いたんだろう。
なんせ、自分のクラスの生徒の事だ。
きっと、心配でしょうがなかったに違いない。
「うーん…相当参ってるな、あれは…」
「そっか…」
コーヒー飲む?と尋ねるなつみに真里は軽く頷いて
自分の席に着く。
あと5分も立たない内に本鈴が鳴るけれど
それでも何か口にしたい気分だった。
- 87 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:10
- 「亀井はどうしてた?」
「分からない。あの子高校だし…」
そうだよなぁ、と真里は座っていた椅子の背に寄りかかる。
長い事油を差していないそれは、ギィッと少し耳障りな
音を出した。真里の机は窓際にあって、振り返ればそこからは
中学と高校を分ける廊下の様子がよく見える。
その廊下に、たった今話題に上った一人の生徒が
足早に中学校舎に入ってきているのが見えた。
「なっち、亀井。こっち来てるよ。」
「授業なんじゃない?」
けれど、彼女の手には何も持っていない。
それを言うと、なつみも不思議そうな表情で
真里の近くに寄ってきた。
- 88 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:11
- 「ホントだ。何してるんだろう?」
しばらくして視界から彼女が消えたのを見届けて
真里となつみは視線を廊下から外しそれぞれ自分たちの
授業の支度をしようと教科書に手をかけた。
コンコン
ドアがノックされる音に、思わず顔を見合わせる。
「失礼します……」
真里となつみの視線は中学校舎では異質な、高校の制服に身を
包んだ絵里に釘付けとなった。
「あの、矢口先生いらっしゃいますか?」
入り口で小さな声でそういう絵里に
真里は手を上げてここと叫んだ。
「先生…あの…れいな、知りませんか?」
ぱたぱたと小走りに真里の近くに近寄る絵里。
- 89 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:12
- 「あー…田中なら屋上に…ってか、お前授業…」
「……失礼しました」
真里の言葉を途中で遮るように絵里は頭を下げると
職員室を後にする。
その後ろ姿をぼんやり見送って
真里は小さく溜息をついた。
「何?田中探してたの?」
「そうみたい。理由は知らないけど…」
なつみは、ふーんと呟いて自分の机に置かれたコーヒーを
一気に飲み干した。
「あ、ほら。授業始まっちゃう…」
時計を見て、真里となつみはそれぞれの教材を持って
職員室を出る。
他の先生は皆、すでにいなくなってしまっていた。
- 90 名前:Grasp 投稿日:2005/03/14(月) 11:13
- 「ねぇ、矢口…あれ…」
丁度、階段に差し掛かったとき、手すり側にいたなつみが
下を見ながら何かを指差す。
真里も覗き込むと、そこには久々に見る顔が3つ。
「お前ら、何しんの?学校は?」
休みです、と言うと、3人は真里たちを見上げながら
「先輩たち、今から授業ですか?」
「あぁ…でも、職員室行けば圭織とか圭ちゃんいるよ」
「あ、じゃあそっち行きます。」
授業頑張ってくださいねという3人の声を背中に聞きながら
真里となつみは本鈴の響く階段を少し足早に昇っていった。
- 91 名前:作者 投稿日:2005/03/14(月) 11:14
- 更新終了です。
作者、ようやく復活しました。
楽しみにしていてくださった読者の皆様、ありがとうございます。
これから頑張ってペースを上げて行きたいと思いますので
どうぞお付き合いください。
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 04:44
- お待ちしてました。復活おめでとうございます。
これからの展開に期待してます。
- 93 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/19(土) 15:07
- 戻ってくれて良かった
先輩達になにがあったのかとか気になる
- 94 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 16:39
- キィ―――
錆付いた蝶番が甲高い音を出す。
その音に少しだけ顔をしかめながら、絵里は屋上に
足を踏み入れた。
「……」
目的の人物はすぐに見つかった。
膝を抱え、蹲りながらじっと動かない。
「れいな……」
そっと呟いてみるも、ここから聞こえるような声ではなかった。
―――何で、私ここに来たんだろう…
不思議だった。昨日の今日だ。
本当なられいなに避けられていたっておかしくない。
それなのに、何で自分はわざわざ職員室でれいなの居場所を
聞いてまでここにやって来たのだろう。
- 95 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 16:40
- しばらくその場に立ち尽くしていると、聞こえてきた予鈴。
次の授業はなんだったっけと思いをめぐらせながら
絵里はれいなの事を見つめたままそこから1歩も動かない。
「れいな……」
もう一度呟いてみるも、やはり聞こえるはずがなく。
絵里はふぅっと息を吐き出すと、れいなの方に歩みを進めた。
「れいな…」
れいなのすぐ隣に立って、彼女を呼ぶ。
すると、ゆっくりと顔を上げたれいなは絵里を見て
少しだけ、驚いたような顔をした。
「れいな、大丈夫…?」
尋ねると、れいなは絵里を見つめたまま小さく唇を動かす。
- 96 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 16:41
- 「えっ……?」
『放っといてくださいよ』
「ごめん……」
けれど、絵里はその場から動かない。
れいなは、そんな絵里を不審に思って口を開いた。
「何しに来たんですか…」
「……分からない」
拍子抜けするような絵里の返事に
心の中で舌打ちをしながられいなは
「邪魔なんですけど…」
「分かってる」
れいなは今度は本当に舌打ちをして絵里から視線を外す。
しかし絵里は特に気にした風もなく、少し離れたところに
腰を下ろした。
- 97 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 16:42
- 微妙な沈黙。
地面を見つめるれいなと、それを見つめる絵里。
やがて、先に沈黙を破ったのはれいなだった。
「……何で、さゆが別れようって言ったのか分からない…」
それは、別に絵里に言ったわけでもないただの独り言。
でも、れいなの言葉を聞いて何も思わないほど
絵里はあの事をふっ切れたわけじゃない。
「あんなにれいなの事好きって言ってくれてたのに…」
れいな自身、自分の独り言になっていない独り言が
絵里にどんな影響を与えるか分かっていた。
それと同時に湧き上がってくるのは形のない罪悪感。
けれど、言葉は止められない。
- 98 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 16:43
- 「……」
絵里は、れいなの気持ちを察してかそうじゃないのか
すっと立ち上がり離れたところに歩いていく。
それは、れいなのためというよりも、れいなの言葉を
聴きたくなくて、という方が合っているように見えた。
「もうすぐ、5時間目終わるね。」
れいなが再び静かになったのを見て、絵里はそう切り出す。
れいなはちらりと絵里を見て、教室帰ればいいじゃんと
呟いたけど絵里には聞こえなかったようで。
「さっきね、先輩たちに会ったよ。
藤本先輩と、石川先輩。あと、知らない人がいた。」
「……」
- 99 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 16:44
- 藤本、という言葉にれいなは僅かに反応する。
絵里はそれに気付かずに話を進めた。
「…藤本先輩と石川先輩って
ずっと前に付き合ってたって知ってた?」
「え………?」
絵里は、れいなの反応を予想していたのか
少しだけ微笑みゆっくりとれいなの方に近付いてくる。
「詳しい事は知らないよ。ただ、そういう事があったんだって。
前に高橋先輩が教えてくれた。大変だったらしいよ、色々と。
でね…れいな、さゆのイトコって人知ってる?」
先ほどの真里の話にも出てきた、あの喫茶店の人。
- 100 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 17:09
- 「でね、藤本先輩と石川先輩は付き合ってたんだけど
石川先輩って藤本先輩と付き合う前に吉澤って人と付き合ってて
藤本先輩はそのさゆのイトコと付き合ってたんだって。
けど、二組とも別れてその中に高橋先輩と紺野先輩も関わってた
みたいだよ。なんか、ごちゃごちゃで分からないよね。
結局今は、さゆのイトコは紺野先輩と。
石川先輩は吉澤って人と。で、高橋先輩と藤本先輩に相手は
いないらしい。っていうか、紺野先輩も石川先輩も
相手いないって言ってたのにね…」
絵里はそれからまだ何か言っていたけれど
もうれいなの耳に入ってきてはいなかった。
思い出すのは昼休みの真里の言葉。
- 101 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 17:10
- 『そっくりなんだよ』
真里は美貴達が中高生のとき、先輩としてこの学校にいた。
美貴達と真里の関係は、そう、ちょうど今のれいなたちと
美貴達の関係に等しい。
「れいな?教室戻るの?」
絵里の声を背中に聞きながら、れいなは校舎に入り階段を
駆け下りる。後ろから絵里が付いてきているのは分かったけれど
振り返ることはしなかった。
そしてそのまま自分の教室の階を通り過ぎ、昇降口へと向かう。
まだ授業の終わっていない廊下は静かで
下駄箱から靴を出し下に落とすとぱしっという
乾いた音が、やたらと響いた。
- 102 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 17:11
- 「ちょっと、れいな?」
絵里の下駄箱は、れいなのところとは違う。
もうこれ以上追ってこないだろうと
れいなは歩くスピードを落とし、中庭を通る。
しかし、校門を出ようとしたところで振り返ると
上履きのままの絵里が泣きそうな顔で立っていて。
れいなは仕方なく足を止めると
「何ですか?」
「どこ、いくの?」
どこだっていいじゃないですか、というと
絵里はますます顔を歪め
「私も行く」
「来なくていいですよ」
それでも、行くと聞かない絵里にれいなは
「……勝手にしてください」
- 103 名前:Grasp 投稿日:2005/03/19(土) 17:12
- 絵里はれいなの言葉に嬉しそうな顔をするわけでもなく
逆に神妙な顔つきになって数メートル後ろを付いていった。
れいなには、絵里の考えている事が理解できなかった。
さすがにれいなが電車に乗ろうとしたときは相当驚いた顔を
見せたけど、それ以外で絵里は一言も喋ろうとしなった。
電車に揺られて数駅。れいなは見慣れた駅で電車を降りる。
そこは、れいなと絵里の地元の駅。
しかしもちろん家に帰るわけじゃない。
れいなは改札を抜け、家とは反対方向の出口から外へ出る。
そして昨日、美貴にココアを奢ってもらったあの喫茶店の
ドアの前に立ち
カランカラン―――
ドアを開けて、中に入って行った。
- 104 名前:作者 投稿日:2005/03/19(土) 17:14
- 更新終了です
>>92 名無飼育さん様
ありがとうございます。
何とか復活できて、これからも頑張ります!
>>93 名無飼育さん様
ありがとうございます。
先輩たちの過去は、これからだんだん明らかに
していきたいと思っています!
- 105 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/21(月) 08:31
- お、なんか話が見えてきそうな予感
- 106 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/21(月) 20:25
- 一気に読まさせて頂きました。 なにやら気になる内容だったので。 最後までお付き合いさせて頂きます。 次回更新待ってます。
- 107 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/25(土) 18:04
- 更新待ってますよ。
- 108 名前:Grasp 投稿日:2005/07/18(月) 22:40
- 時間的なものもあってか、人はまばらだった。
しかし、席に着かず、店内をきょろきょろと見渡すれいな。
「あのー…お客様……あ…」
ドアの前に立ったままのれいなと絵里の側に、一人の店員がやって来た。
「後藤さん、ですね。」
れいなは、その人を見上げながら言う。
絵里は「えっ?」と声を上げて、れいなとその店員を見比べた。
その店員…後藤真希は、れいなの目を見ながら小さく頷く。
れいなはそれを確認すると、一歩前に踏み出し、そして言った。
「教えてください。高校時代、あなたたちに何があったんですか?」
真希は一瞬だけ狼狽したような表情を見せた後
「それを聞いて、どうするの」と落ち着いた声で言った。
- 109 名前:Grasp 投稿日:2005/07/18(月) 22:40
- 「どうこうしようとは思っていません。
ただ、知りたい。それだけです。」
れいなは真希を見つめたまま、しっかりとした口調で言う。
真希もじっとれいなを見返して、数秒後。
「分かった…そこ、座ってて」
ボックス席を指差した。
れいなは頷き、席に着く。
絵里もその隣に腰を下ろした。
「何か、飲む?おごるよ。」
「……ミルクティ…アイスで。」
そっちの子は?という真希の問いに、絵里は
「え、あ…じゃあ、オレンジジュース…」と返した。
- 110 名前:Grasp 投稿日:2005/07/18(月) 22:41
- 「あの人が後藤さんだって、知ってたんだ?」
真希が店の奥に消えたのを見計らって、絵里が小さく尋ねる。
れいなはそれに小さく頷き
「前に、藤本先輩に連れてこられたときに会ったんです。」
と言うと「あの日に…」と呟くように付け加えた。
「お待たせ。」
やって来た真希は、手にお盆を持っているものの
先ほどまで着ていた制服ではなく
明らかに私服だと思われるものに着替えていた。
「で、高校時代の何が聞きたいの?」
れいなと絵里の前にグラスを置きながら、真希が尋ねる。
れいなは、咥えたストローから口を離し
「色々ですけど」と呟いてから
「少し、確認させてください。」と言った。
- 111 名前:Grasp 投稿日:2005/07/18(月) 22:42
- 「後藤さんと、藤本先輩が付き合ってたというのは本当ですか?
あと、石川先輩にも付き合っていた人がいたというのは…」
真希は、じっとれいなの表情を見つめていた。
もし、そこに少しでも好奇心の気があったら
すぐさま追い返そうと思っていた。
けれど、その表情は真剣そのもので。
その雰囲気に、先日れいなを連れてきた親友の姿を重ね
真希は、美貴みたいな子だな、と、心の中で小さく笑い
「本当だよ」とその表情を見つめたまま言った。
- 112 名前:Grasp 投稿日:2005/07/18(月) 22:43
- 「…そうですか…」
何かを考えるように、黙り込むれいな。
真希も黙ったまま、自分のストローに口を付けた。
そんな二人の間で、絵里は多少、居心地の悪さを感じていた。
きっと、自分がいたられいなも話し辛いだろう。
そう思った絵里は、立ち上がり「私、学校戻るね」と告げた。
れいなは特に驚いた様子もなく「そうですか」と返し、真希は
「気を付けて帰ってね」と言って、笑顔を見せた。
二人に軽く会釈をして、外へ出る。
ああは言ったものの、学校に帰る気など、全くなかった。
改札を通り抜け、学校とは反対方向のホームへ上がる。
- 113 名前:Grasp 投稿日:2005/07/18(月) 22:44
- ホームはがらんとしていて、絵里の隣にいたおばさんグループが
ちらちらと絵里の方へ視線を向けている。
こんな時間に、しかも手ぶらで。
不審に思われない方が不思議だと思う。
特にやる事もなく、絵里は静かにホームから望める町の様子を
観察していた。
人のあまり並んでいないバス停に
暇そうに列を作っている色とりどりのタクシー。
歩いているのは、殆どがスーツ姿のサラリーマンと
おばさんたちで、絵里のような制服姿の学生はいない。
視線を少しずらすと、さっきまでいた喫茶店が目に入った。
きっと今頃、れいなと真希は過去の話をしているのだろう。
「間もなく、一番線に……」という聞きなれたアナウンスのあと
電車がゴーッと音を立てて、ホームに滑り込んでくる。
風が、絵里の頬を撫で、髪を乱す。
- 114 名前:Grasp 投稿日:2005/07/18(月) 22:45
- 車内はやはり空いていて、絵里はドアを入って
すぐの席に腰を下ろした。
こんな時間に電車に乗るのは初めてだった。
確かに、学校が休みの日とかに乗る事はあるけれど
そもそも、学校を抜け出してきた事自体、初めてだ。
絵里の心に、急に後悔の念が押し寄せてきた。
結局、何の話も聞けなかったのだ。
れいなに付いて行く意味はなかった気がする。
ガタンゴトンと電車が一定のリズムを刻む。
その波に体を預け、目を閉じると
絵里はすぅっと眠りの世界へと引き込まれていった―――
- 115 名前:ゆん 投稿日:2005/07/18(月) 22:47
- 更新終了です。
4ヶ月……自分、この間になにやっていたんだろうって感じです。
本当にごめんなさい。
そして、待っていてくださった読者の皆さま、ありがとうございます。
夏休みに入るので、もっと時間を作りたいと思うのですが
色々忙しくて……。でも、必ず完結させるので、どうぞ最後まで
お付き合いください。
- 116 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/19(火) 09:28
- 更新お疲れさまです。 待ち侘びてましたよぉ(笑 どんどん深く入っていきますね。 この先は一体どうなるんでしょうか? 次回更新待ってます。
- 117 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:02
- ×手持ちぶたさ
○手持ち無沙汰
(ぶさた)
- 118 名前:初心者 投稿日:2005/10/13(木) 13:09
- おもしろいです
続き期待してます
- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:18
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 14:33
- 待ってます
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/16(金) 18:18
- 一気に読みましたぁ。
更新まってますねぇ。
- 122 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/15(水) 01:40
- 待ってます!
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