亀井絵里聖誕祭2004 〜飼育の冬は読書と聖誕祭です。〜

1 名前:去年も立てた人 投稿日:2004/11/22(月) 10:51
亀井絵里ちゃんお誕生日おめでとう!ということで
今年もやって参りました亀井絵里聖誕祭です
今回はエリザベスキャメイのテーマカラーの白板におじゃましちゃいます

去年は同時に2スレ立てましてえりりんの性格を判断した訳ですが、
(1年経った今、えりりんはナチュラルな小悪魔だと解りました)
今年は参加者の皆さんに必ず同じフレーズを使ってもらって競作(参加)して
もらうという形にしようと思います

参加してくださる皆さんは、
どこかで必ずえりりんに次の台詞を言わせてください

ノノ*^ー^)<「こっちに来たりして」

その他の参加ルール
・長くても25レスにおさめること
・タイトルと「終わり」を明記
・長くても2時間以内に書き終えてください
・えりりんを出してください
・出来れば名無しではなく固定HNで参加願います

残すところあと1ヶ月皆様ふるっってご参加ください
2 名前:去年も立てた人 投稿日:2004/11/22(月) 10:52
2003年の聖誕祭スレッド
亀井絵里聖誕祭@天使 http://mseek.xrea.jp/flower/107209121.html
亀井絵里聖誕祭@悪魔 http://mseek.xrea.jp/moon/107209172.html
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/22(月) 12:41
誰か書いてくれなかなぁ
自分はROM専なんで
4 名前:去年も立てた人 投稿日:2004/11/22(月) 17:04
 
 ある光
 
友達と別れて独りで乗る帰りの電車。私は空いてる席には座らずに
そのまま壁にもたれてしまう。ふぅ、と息をつく。
いつもと同じ景色。いつもと同じ夕焼け。いつもと同じ帰り道。

友達がいないわけじゃない。男の子にもてないわけじゃない。
勉強が苦手なわけじゃない。お父さんお母さんが嫌いなわけじゃない。
ただ、何となくの不満。
5 名前:去年も立てた人 投稿日:2004/11/22(月) 17:04
流れてく窓の外をぼ――っと見てると、「エリ」と声がした。
視線を向ける。でも誰もこっちを見てない。
違うエリさんだったのかな。そう思いながら顔を戻すとまた声。
「エリ」
念のためそちらを見ると、見られてた。女の子。私と変わらないくらいの
歳かな。でもあんな遠くから呼ばれたようには感じなかったけど。

あっ。
ふいにその子が立ち上がった。駅についたわけでもないのに。
もしかして、こっちに来たりして。
6 名前:去年も立てた人 投稿日:2004/11/22(月) 17:05
あたりだった。その子は私に息がかかるほど顔を寄せる。
って寄り過ぎです。周りの人達に変に思われるってば!
しかしお客さんは誰一人こちらを見てなかった。私達が見えないみたいに。

「どちら様ですか」
「サユと申しますの。ねぇエリ、今退屈でしょ」
言葉につまる。私を見つめるのは不思議を詰め込んだ猫のような瞳。
「サユと一緒に行くの」
どこへ?
「違うところへ。いつも通り過ぎる駅で降りるの。それだけで世界は広がるの」
その瞳の中に私が映ってる。吸い込まれそう。その子の顔がもっと近付く。
えっ?
7 名前:去年も立てた人 投稿日:2004/11/22(月) 17:05
うっすらと紅くふっくらしてそうなリップがアップで迫る。ちょ、ちょっと!
避けようと体を動かすと、がくんと衝撃が走った。

「ただいま停止信号を確認しましたため緊急停車を――」
すべてを理解した私は誰にも見られないようにそっと手で唇を拭いた。
よだれは出てなかったようでホッとする。変な夢見ちゃったな。
でも。
サユの顔を、不思議な瞳を思い出す。あの子は私の心に光を射していった。

やがてゆっくりと電車は動き始める。そして着いたのは私が降りる駅じゃない
けれど、私は誘われるように降りて行く。まるでウェンディね。
この線路を降りたら虹を架けるよな誰かが私を待つの?
今そんなことばかり考えてる。なぐさめてしまわずに。
8 名前:去年も立てた人 投稿日:2004/11/22(月) 17:08
改札を抜け、名前しか知らない街に飛び込む。たい焼きを食べ歩き、花屋を
覗いて、本屋で立ち読みし、文房具を買う。私は小さな声でそっとつぶやく。
「サユってば、これを伝えに来てくれたんだよね」

買ったのは履歴書。使い道はモーニング娘。第6期追加オーディションへ送る。
小さい頃から夢だったのに、大きくなったら何もしないうちから諦めていた。
結果じゃない。もっと大きな世界へ向かって、ドアを開くんだ。

内側にしか取っ手のない、自分から開けなくちゃ開かないドア。
ノックしてくれたのはサユ。隙間からは射す光。広がるのは見知らぬ世界。
 
 終わり
 
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/22(月) 22:06
うん。いいですね。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 16:08
おんなじ趣旨のスレを立てようと思ってたらすでにあったのでびっくりw
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/23(火) 16:18
>>2
http://mseek.xrea.jp/flower/1072092121.html
http://mseek.xrea.jp/moon/1072092172.html
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/24(水) 08:14
>>10
ありがとうございます。頑張りました。ちなみに小沢健二の曲をモチーフにしてます。
>>11
ありがとうございます。なんで>>2だとリンク先が表示されないんだろ?
13 名前:名無し書き 投稿日:2004/11/28(日) 22:39
あまり面白くもないでしょうが、暇つぶしにどうぞ。
14 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:41
その日は新曲のPV撮影の日でやっと終わったかと思ったら、
いきなり監督がもう1バージョン撮ろうと突然言い出した。
そして楽屋で休んでいた私達は急きょ撮影に借り出させることに
なった。

でも連続ではさすがに疲れるだろうからと30分程の小休憩を
もらった。
だからみんな外に出掛けたりトイレに行ったりと各自思い思いの
行動をしていて、オイラがソファーから目を覚ますと楽屋には
誰もいなかった。

今日は妙に疲れていて撮影が始まるまで少し横になるつもりが、
いつの間にか眠ってしまったらしい。
欠伸をしながら両手を上に大きく伸ばすしていると、楽屋の外から
微かに足音が聞こえてきた。
そんなとき不意に悪戯心が騒ぎ出して1人笑い声を漏らした。

もしもメンバーの誰かが入ってきたら脅かしてやれと思って、オイラ
は慌てて寝たふりをする。
一瞬スタッフさんとかが通りかかっただけかとも思ったけど、
その足音は徐々に大きくなっていき楽屋の前でピタリと止まった。

オイラは笑いを堪えながら目を瞑ってわざとらしく寝息を立てる。
そしてドアノブが回される音がして足音が中に入ってきた。
それからソファーの前くらいまで来たので驚かそうと思ったら、
頬に熱された金属を当てられた。


15 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:44
「熱っちぃぃぃぃぃ!!」
オイラは突然の熱さに混乱と動揺して絶叫しながら飛び起きる。
それから目の前に立って楽しそうに笑っている亀井ちゃんを見て
思いきり顔を顰めた。

「ひょっとして今のって亀井ちゃん?」
「そうですよ。」
確信はあったけれど決めつけるのも悪いので一応聞いてみた。
すると亀井ちゃんは相変わらずのフニャとした笑みを浮かべて答える。

「少しは言い訳しろよ!っうか普通それって冷たい缶でやるもん
だから。温かいやつだと火傷するって。」
オイラは未だに少しヒリヒリする頬を擦りながらすぐに突っ込みを
入れた。

「そうなんですかぁ?」
亀井ちゃんは微笑みながら小首を軽く傾げて呑気な口調で言った。
その様子を見てこいつは絶対反省してないと思った。

「全く・・・・・アイドルは顔が命なんだぞ。これから撮影がある
っていうのに痕とかできたらどうするんだよ。ただでさえ今日は
疲れてるんだから眠らせろってぇの」
オイラは深い溜め息を吐き出すと文句だか愚痴なのか分からない
ことを独り言のように呟いた。

「そうですよねぇ。はい、これどうぞ。」
「ちょっとは人の話を聞けよ!」
亀井ちゃんは話を聞いているように相槌を打ちながら持っていた
缶をこちらに差し出す、オイラはそれを平然と受け取りながらも
速効で突っ込んだ。


16 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:45
「そういえば亀井ちゃんは1人?珍しいね、いつもは田中とか
重さんとかと一緒にいるのにさ。」
そしてちょっと冷静になってきた頭でふと疑問に思ったことを聞いた。

「それは・・・・・矢口さんと一緒にいたかったからですよ?」
亀井ちゃんはソファーに腰を下ろして横に座ると、少し間をあけてから
穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

「へっ?」
とあまりに予想外の言葉にオイラはつい間抜けな声を出してしまう。

「キスしていいですか?」
それから亀井ちゃんは顔色を伺いながらも大胆なことを聞いてきた。

「あっ、いや。その・・・・・・。」
オイラは展開の早さに頭も心もついていけなくて悩んでいるのに、顔が段々
顔が近づいてきたかと思ったら唇を軽く押し付けられた。

『まだ良いとか言ってないじゃん』と内心は突っ込んだけれど、
口に出せるほど冷静ではいられなかった。
そして短かったのか長かったのかは分からないけれど、亀井ちゃんは
何だか名残惜しそうな感じでゆっくりと唇を離した。


17 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:48
「うん、矢口さんはやっぱり良い唇でした。」
「お前に唇判定されたくないよ!っうかいきなりキスするな!」
「だってファーストキスじゃないですよね?」
「そりゃ・・・・まぁ、そうだけど。ってなんでファーストキス
じゃないって分かるんだよ!」
亀井ちゃんは全く悪びれた様子がなく唇を離しても平然と話してくる、
オイラも頭を切り替えて平然と突っ込みを入れるのでまるで漫才の
ようだった。

「だってファーストはクラスの男子かカ・・・・・・。」
「それ以上言ったら殺す。」
亀井ちゃんが調子に乗って触れてはいけない件について言おうと
したので、オイラは素早く首を手で掴むと軽く締めながら低い声で
言葉を遮った。

「なら言いません。ということでもう一回キスしてもいいですか?」
亀井ちゃんは笑顔であっさりと話から手を引くと意味不明なことを
言ってきた。

『どう考えも接続詞が間違ってるし』
なんて思ってたら亀井ちゃんに優しく手つきで髪を掻きあげられた。
そしてまた人が良いとも言っていないのに柔らかく微笑みながら、
今度は唇をすぼめて小鳥が啄むようなキスを鼻や頬とか耳たぶなど
色んな場所にされる。

それはペットに舐められるみたいにこそばゆくてオイラは首を竦める
と、何だか恥ずかしくなって顔を少し逸らした。
でもそのキスは不思議とあまりされるのが嫌だと思わなかった。

18 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:51
亀井ちゃん一旦唇を離すと両手でオイラの頬を挟んで顔を正面に
向かせる、それから急に不安そうな顔つきになりながらもまっすぐ
目を見つめてくる。

「好き・・です・・・・・つき、付き合ってください。」
そして一回だけ大きく深呼吸をすると上擦った声で噛みながら言った。

「えっ?いや、そんなこと突然言われても・・・・・。」
オイラは告白されたことに気が動転して言葉が出てこなかった、

そうしたら亀井ちゃんに抱き寄せられてまた唇が塞がれた。
でも今度は『人の話を最後まで聞けよ』なんて心の中でも思えなかった。
だってまるで今の言葉が本気だと言うように激しいキスだったから。

亀井ちゃんは顔を交差させて隙間がないくらい唇を密着させると、
酸素を吸い出すかのように激しく吸ってきた。
そして角度を替えながら上唇を甘噛みされたり舌先で唇を舐められた。
それから自然に舌が口腔に入ってきて歯茎を左右に滑らしたかと
思うと、舌を軽く絡ませた後に丸めて包み込むとゆっくり擦る。

それは今までキスしてきた人の中で一番に上手くて、そのせいか
徐々に力が抜けてきて後ろに倒れそうになった瞬間に亀井ちゃんは
唇を離した。
どうやらこれ以上はヤバいと思ったらしい。


19 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:55
「はぁ・・・はぁ・・・くっ・・・うぁ・・・あぁ・・・。」
まるで酸欠状態のように息苦しくてオイラは肩で荒い息を吐き出した。

「ふぅ・・・・ちょっとやり過ぎました?」
亀井ちゃんは軽く息を吐くと気まずそうに言いながら目を細めて
笑っていた。

「バ・カ・・・・やり過ぎ・・だよ。」
オイラはまだ息がちゃんと整っていなかったけれど悔しいので
言い返す。

「ごめんなさい。でも好きっていうのは本当ですよ?自分でも
困っちゃうくらい矢口さんが好きなんです。」
亀井ちゃんは軽く謝ってから唇を少し尖らせて言い訳を言うと、
急に頬を赤く染めながら額に触れるだけのキスをした。

「だ、だから人が良いって言ってないのにキスするな!」
オイラは自分の耳たぶが一気に熱を持つのを感じながら照れ隠しに
デコピンをお見舞いする。

「それは置いといて。矢口さん・・・・・抱いてもいいですか?」
「えっ?ちょ、ちょっと待った!これマジで以上はダメだから!」
「無理です、もう自分を止められません。」
「なら聞くなよ!ってか本当に待って?ちょっと落ち着こうよ?ね?」
亀井は真剣な顔をしながら人の話を全く聞かずに優しくソファーの
上に押し倒す、でもやっていることはかなり優しさがなかった。
オイラは自分自身がかなり焦っていながらとりあえず落ち着かせよう
と宥める。

20 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:57
そんな状態だったからメンバーが帰ってきた騒がしい足音に気が
つかなくて、気がついたらドアが開いて一同の目が点になっていた。
まるでこの楽屋だけ時が止まったようだった、でもできるなら
止まったまま一生動かないでほしかった。


「いや、あの・・・・・はは、あはっ、あはははははははは。」
オイラはこの場を誤魔化せる上手い言葉が出てこなくて、ただ
いつまでも壊れたように笑い声を上げていた。



こうして押し倒されたところをメンバーに見られ、亀井が全く否定
しないのと周りが勝手に囃し立てるので、オイラは結局不本意ながら
付き合うハメになる。


でもそれは今よりもう少し日が経ってからの話。




END
21 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:58



22 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:58



23 名前:kiss・kiss・kiss 投稿日:2004/11/28(日) 22:59
放課後のPVを見たら不意に書きたくなった捏造CPです。
楽しんでもらえたら幸いです。

24 名前:作者 投稿日:2004/11/29(月) 19:45
PV繋がりで一編。
25 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:45
春の包み込むような日差しの中で私はまず紫の日傘を取り、
細心の注意を払ってそれを閉じた。

これの他には桜色など女人のための配慮とされるとても
上品な色彩を放った日傘が数本。どれも手に取って眺めて
みると溜め息が出るほど美しい。しかもそれだけではなく。

私は最初に手に取った落ち着いた紫色の日傘を再び開き、
じっくりと眺める。
周囲に黒い縁取りがされていて、その一角に、白抜き筆文字で
こう書かれていた。



天つ風 雲の通い路 吹き閉じよ
乙女のすがた しばしとどめん



「流石」

私が感嘆の息を漏らした時、背後で水の跳ねる音がした。
傘を開いたまま振り返ると、

「師匠」
「んー?」

路肩の木椅子に座って何故か盥に足を突っ込んでいる師匠が居て、
どこかとぼけた返事をする。
26 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:46
「何してんですか?」
「足洗ってる」
「何で」
「散ったさくらの花びら掃除してたら足に土が入って」

言いながら着物を膝までたくし上げて師匠は撫でるように足を
洗い始めた。
私は少し慌てて、日傘を閉じてそれを持ったまま師匠の下へ駆け寄る。

「ああぁ、私がやりますから」
「ええって」
「弟子なんですから」
「弟子は仕事の時だけ。自分のことは自分でやる」

何故だか少し怒ったように言うので、私は仕方無く師匠の
隣に腰を降ろした。せめて洗い終わったら拭いてあげなきゃ。
拭くのも嫌がられたら盥を片付けよう。とにかく世話を
焼きたかった。

染物職人の師匠は染められるものなら何でも請け負う。
と言っても今まで物凄く珍しいものを染めたという話は
聞かない。手拭、風呂敷、着物といった大抵の布製品、
それからちょっと洒落た恋文をしたためたいと言う乙女の
為に和紙を染めたり。
あの日傘も、そんな色気づいた乙女達からの希望で染め上げたのが
始まりだった。今では大事な仕事の一つになっている。
ちなみにその内の一人は私、亀井絵里。
27 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:46
「掃除だって言ってくれれば私がやったのに…」
「傘」
「え?」
「傘、乾いてた?」
「あ、はい」

…師匠は流石に職人だけあって、凄まじく自分調子だ。
私が隣に座ってからも一度も目を合わせてくれず、黙々と
足を洗っている。
こんな人があんな浪漫溢れる文章を紡ぎ出しているなんて
俄かには信じがたいけれど、実際私の目の前で書いていたので
紛れも無く真実で。
その瞬間私の心が完全に師匠に染め上げられたのも真実で。
単純に日傘の美しさに惚れて弟子入りした私はあの時から
師匠に尽くすことを決意したのだった。

「…ほんっとこれ、素敵です。師匠」

私はまた手にしていた紫の日傘を開く。ためつすがめつしていたら
漸く師匠が顔を上げた。困ったような顔をしている。照れてるらしい。

「その、師匠ってのやめてくれんかな、亀ちゃん」
「どうしてですか?」
「似合わないし、第一あたし亀ちゃんと大して年が違わないし」

師匠は体を起こして私の目をまじまじと見た。こうして真っ直ぐ
相手の目を見るのはこの人の癖だ。
癖なのだとわかっていても自然心臓が跳ね上がり、私は傘を
開いたまま硬直してしまう。目を逸らせない。
28 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:46
…だからと言ってこのまま見詰め合っていたら妙な気を
起こしかねないので、私は思い切って自分から目を逸らして
立ち上がった。どっと背中に汗をかいた。両手もじっとりしている。
折角乾いたばかりの日傘に触れて色を滲ませてしまったら一大事だから、
元の位置に戻して椅子に戻る。師匠は一度離れたというのに、また
私の目をじっと見てくる。私は震える声で問うた。

「…それじゃあ、どう呼んだらいいですか?」

「愛ちゃーん!」

一種緊迫した雰囲気を破壊しかねない呼び声が遠くから聞こえてきた。
ああもうこれ以上心臓を騒がせないで欲しい。今のは一体どこの
どいつだ。声のした方を見やると門の向こうに刺繍職人の紺野さんと
弟子の新垣さんが居て、紺野さんは控え目に、新垣さんはぶんぶんと
手を振っている。声はどうやら新垣さんが発したらしい。

「おー」

師匠こと高橋愛さんは笑顔で手を振ってそれに応えている。
つられて私も手を振った。でも、え、ちょっと待って、
このまま行くとあの二人がこっちに来たりして。

正直邪魔だ、と一瞬焦ったがそれは杞憂に終わり遠くの二人は
ニコニコしながら門の向こうを通り過ぎて行った。

「あれでええよ」
「はい?」

彼女はまた自分調子でそんなことを言った。あれってどれですか。
29 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:47
「里沙ちゃんはあさ美ちゃんのこと紺ちゃんって呼んでるし、
 あたしのこともそんな感じでええから」
「……でも……」

私は戸惑ってしまう。
だってあの二人は昔からご近所同士の仲だからそう
呼び合えるんであって、私が弟子入りしたのは最近の話だ。

「ええって。正直師匠とか言われるとそういう振る舞いしないと
 申し訳ないかなって思って…」
「………」
「かっこつけてまた訳わからん詩とか書きそうで怖いがし」

え?

「…ししょー、もしかして日傘のこれは」
「さっ!終わった終わった、亀ちゃん草履取って」
「あ、はいっ」

その時初めて彼女が私に対して命令したので、慌てて足元に
あった草履を手渡した。
いつのまにかとっくに両足の水滴も拭き取られていて、
手渡したそれを素早く履き終えると

「それっ、片付けよろしくな!」

と言ってこちらの方を一度も見ずに門の外へ出ようとする。
30 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:47
私はその背中を見て初めて自分の質問が無視されていたことに
気付き、ことさら慌ててだけど言われたとおり盥を片付け
なきゃと思いそれを持ち上げようとしたが思った以上に
重量があってびくともしなかった。

「ちょっ、何これ重っ!…ああちょっと待ってくださいってば!
 ねえっ、さっきの質問に答えてくださいよ!」
「質問なんてされた憶えないなー」
「あー、ずるいずるいそんなこと言うんだ!…っしょ、い、良いですよ
 今聞きます、あれ誰にあてて書いたんですかっ?!」

盥を漸く持ち上げよたよたしながらも声を張り上げると、
とうに門を通りすぎていた彼女が少しだけ振り返ってにやりと笑い、
そのまま何も言わず門戸を閉めてしまった。

あっ?!
ちょちょ、ちょっと、それじゃ私出られな……



「……あ、愛ちゃんのばかー!」



31 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:48
終わり
32 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:48
さくら
33 名前:日傘浪漫 投稿日:2004/11/29(月) 19:48
満開
34 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 19:59
流れ星ビバップ
35 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:00
「……星が降ってる」
彼女は真っ暗な空を見つめてそう言った。
「にしし」
と、もう一人の彼女は白い歯を見せて笑った。


──
────
────────
────────────
36 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:01

放課後の帰り道。女の子は何時ものように生きている。

「さゆ。なんでこんなにも冬は寒いのかね」
辺境の都市東京は、温暖化が激しいといわれる地球においても全く容赦の無い寒さを提供してくれる。亀井絵里は15歳の美少女。クラスじゃ一番の人気者。そんな彼女でも冬は冬できちんと寒い。コートに手を潜め、口から漏れた白い息の行方を見守る。
「絵里、そんなことよりも最近出来た喫茶店知ってる? あそこのショートケーキがチョー美味しいんだって! どうする? いく? いっちゃう!」
道重さゆみは14歳の美少女。学校じゃ一番の人気者(本人曰く)。彼女の自信は寒風もなんのやら。抑え切れない若さという衝動は彼女を何処までも突き動かす。何より道重には先輩から貰った自分に似合いすぎるピンクのマフラーさえあれば、寒さも熱さも関係なく───可愛いのだ。可愛いというたった一つの絶対的なアイデンティティーがあれば何もいらないし、全ては関係ない。
37 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:03

そんな彼女と彼女は並んで学校一の変わり者。
いつも二人で学校に行き、いつも二人で遊び、いつも二人で学校から帰り、いつも二人で遊んでる。
こんなにも可愛い二人なのに全然モテやしないのは、彼女達に全面的に非がある。所謂、普通の人々には彼女たちが理解できない。やれ男の子は言う、「あいつらは可愛いけど良くわからないし、キモい」。自分たちがブサイクなのを言い訳にしてひどい話だ。そして女の子も言う、「二人は超キュートだけど意味わかんないし、なんかキモい」。なんか仕方ないみたいだ。

「さゆ。絵里は思う。世界はもうそろそろ終わるんでないかい? この寒さはその兆候だとみた」
「絵里ぃー……わかるよぉーあれ見ちゃったんでしょ? 昨日やってた特番。絵里すぐそういうのに感化されるんだから」

亀井絵里は迷わない。見たままを素直に受け入れ、自分の思うままに行動する。TVを見てドライブする脳が考える。ニュースでは何百年ぶりに大量の流星が夜を通り過ぎると言っている。バライティー番組では、最近良く見る超能力者や古代文明の遺産が言うにはそろそろ世界が滅びると言う。ブレイクした脳が答えを弾き出す、「なら星で地球終わっちゃうじゃん」。そうだ、流星で世界は終わるんだ。コタツに包まってお茶を飲んでる場合じゃない。自分で出した天才的な答えに開いた口が塞がらない亀井。だけど、それはそれで好都合だ。なぜならば亀井絵里には夢があった。それは世界を征服することだ。そして絶世の美女として世界に君臨することだった。しかし、それは叶わぬ夢。彼女もそれくらいは知っている。しかし、諦めきれない思春期のドリーム。亀井は言う。
38 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:05

「さゆ。絵里が王女になった暁には世界の半分をやろう。だから手伝って」
「うわぁーでたぁー絵里の妄想スクランブル!」
「お願いお願い! 絵里世界が欲しいの! 王女になりたいの!」
道重の腕にしがみ付く亀井の瞳には、涙どころか欲望という名の深い闇が沈んでいた。
「えぇーどうしようかなぁー。さゆもお姫様になりたいしなぁー」
「おねがいします! 」

道重は指を顎に指を当てて悩んだ振り。だけど胸の鼓動のテンポが速くなる、「これはきっと面白い!」。道重の予感は外れたことが無い。だって絵里とさゆはすんごい仲いいもん!
39 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:06

「じゃあさ、星が落ちてこなかったらあの喫茶店のショートケーキおごりで」
「ほんとに! ありがとう、やっぱさゆって最高だね!(ふふふ、バカなさゆ。世界を手に入れたらショートケーキなんていくらでも食べれるのに)」
「最高だよ! だって可愛いし!」
「うんうん、さゆ可愛い!(絵里の方が可愛いけどね!)」
「知ってる! でも絵里はキモいしさゆには負けるけどまぁまぁ可愛いよ!」
「ありがとう! さゆも言うほどでもないけど可愛いよ!(バーカ! 絵里の方が可愛いっての)」
「さゆは世界で一番可愛いけど、絵里もほんの少し可愛いからそんなにひがむことないのに」
「さゆは本当にアホだねぇ、絵里の可愛さがわかんないウチは一生絵里には可愛さで勝てないよ(さゆは確かに可愛いけど絵里はチョー可愛いけどね)」
「絵里、心の声と口に出してる声が逆になってる」
「あ」


────────────
────────
────
──
40 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:07

午前二時、踏み切りに彼女たちは自転車で集合した。この集合場所は、お姉ちゃんに薦められた歌に影響を受けた道重のプランだった。「やるからにはドラマチックに」が心情の、道重の自転車の前輪にはテニスボールが挟まっている。これは憧れの先輩から受け継いだテニスボールだ。そのテニスボールがなぜ前輪に挟まっているのか、それを語るには24時間じゃ尺が足らない。27時間こそが真実だ。そんなこと言ってたら朝になっちまう。だから、それはまた今度。

「おっそいなぁ」

しかし、午前2時10分になっても亀井は来ない。20分になってラジオを自転車のカゴに入れて大袈裟な荷物を背負った亀井はやって来た。

「おそいっ!」
「すいまめんご! 望遠鏡探したんだけどなかったわ」
41 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:09
そうさ、亀井だってキチンとロマンチックバカだ。彼女たちはドラマチッカーズなんだから。
そして彼女たちは車輪を転がす、約束のあの高台を目指して。近所の公園のジャングルジムを目指して。最初から、そこを集合場所にすれば良かったなんてナンセンス。それは彼女たちも、頬や耳を切り裂く冷たい風によって気付いていた。「あぁー調子こいちゃった」って。だけどもペダルを漕ぐ足は止まらない、だってドラマチッカーズだから。綺麗な月の下を全力疾走、おばあちゃんっ子の亀井のニット帽が風に揺れる。道重の加えたチュッパチャップスは、口に入って既に30分を経過して棒だけになっている。長い長い坂を上ればそこは、流れ星目当ての観客で埋まった公園球場。★と☆とのキャッチボールを今や遅しと待ち構えている。

「がぁーん……もういっぱいじゃん」
「絵里のバカ! だから直接公園に行こうって言ったのに!」

道重の傍若無人な八つ当たりは亀井の耳に入らない。「がぁーん」というマヌケ過ぎる声には似つかわしくないほど彼女は落ち込んでいた。素直な心を表現できない不器用さだって持ち合わせているチャーミングな女の子なんだ。顔に黒い縦線がいくつも入っているのを心の目で見た道重は改心して声をかける。
42 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:10

「絵里、ついてこい!」

道重は自慢の真っピンクの自転車を急ターンさせて、坂を下る。ILL過ぎる展開に亀井の心の中では色んな声が絡み合う。だけど亀井絵里に残された道は、最高にイカした友達とラジオから流れる最高にゴキゲンなメロディーに合わせて、この一本坂を下ることだけだった。


『長い夜に部屋でひとり ピアノを叩き水をグッと飲んで
 あん時誰か電話をかけてくれりゃ涙だって流してた? WOW・OH・OH
 そんな風に心はシャッフル 張りつめてくるメロディーのハード・ビバップ
 ただ激しい心をとらえる言葉をロックンロールの中に隠した』

43 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:13

辿り着いた30階建てのマンションの屋上。こっから飛び降りてお星様になりたがる人が多いから、錆付いたフェンスは空に挑まんとするばかりに高い。
道重さゆみは根っからのお嬢様。マンションのオーナーのお嬢様。でも道重に言わせれば「パパはパパ、さゆはさゆ。さゆは自分の力でお姫様になるの」。お嬢様からお姫様にジョブチェンジを目指す道重には、自分の家柄以外の場所から生まれる自信で満ち溢れている。そうだ、道重さゆみは可愛いのだ! だから立ち入り禁止の扉だって全然怖くなんてない。

「絵里、あと何分!」
物凄い勢いで自転車を走らせ、物凄い勢いで螺旋階段を登った彼女の息は荒く肩で息を吸う。
「あと、1分! ギリ間に合ったぁー!」
土気色した顔の彼女はひんやりとするコンクリートに体を大の字に寝かせた。
エレベーターなんて使うのは邪道だという道重の心意気により、亀井のガッツは底をついていた。ちなみに大袈裟な荷物は自転車と共に置いてきた。
44 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:16

白い肌にピンクの頬を浮かべる道重は亀井に向かってフライングボディーアタック。

「んぐぉっ」
「絵里ぃーショートケーキはさゆのもんだかんねぇっ!」
「見てろ! 今すぐ地球は崩壊するのだ! AHAHA!!!」
「さよなら人類! さゆは世界の王女様になりますっ!!!」
「おいおいっ───んにゃあっ!!!?」


亀井の左手が道重の右肩を叩いた。パシっと冬の空に乾いた音を鳴らした。それがスタートの合図かのように、一つの星が夜の暗闇と静寂を切り裂いた。そして、その後をマシンガンのように流星が放たれていった。何処までも広がる真っ黒なステージを使った星と星との光速リレー。星を星が追いこそうと必死に空を走る。刹那にしてソレラは消えて行き、また新たな星が生まれて空を翔る。一瞬にして消えてゆく光は永遠とも思えるほどに空を駆けて、真っ黒な世界を照らして見せた。
45 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:17

「……星が降ってる」
彼女は真っ暗な空を見つめてそう言った。
「にしし」
と、もう一人の彼女は白い歯を見せて笑った。


亀井の呼吸と汗は止まった。彼女の時間が停止したのだ。
道重の呼吸と鼓動は止まらない。彼女の時間は倍の倍の倍の倍でビートを刻んだ。


「こっちに来たりして」
真っ黒な瞳には、真っ黒な世界を走る光の線が映し出されていた。

「そりゃいいね」
真っ白な胸の真っ白な世界に、彼女の予感通りまた一つ光の線が刻まれた。




46 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:18
☆ '.・*.・:★'.・*.・:☆'.・*.・:★ ☆'.・*.・:★'.・*.・:☆'.・*.・:★'.・*.・:☆'.・*.・:★'.・*.・:☆'.・*.・:★


翌日。世界は正常に動き出し、太陽は空に登って、サラリーマンは駅に向かい、パン屋は店を開き、学生は学校に向かった。流れ星はやっぱり地球に落ちなかった。そんなことは大人じゃなくても知っている。どんなに手を伸ばしたって星には手が届かない。でもそんなのは21世紀の話であって、先のことなんてしったっこっちゃないぜ。


「さゆ。どうやら世界はバーコードによって支配されてるぞなもし」
「絵里。そんなことよりあそこのパン屋のメロンパンがすんごい美味しいんだって!」




おわり
47 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:19
流れ星静かに消える場所 僕らは思いを凝らす
48 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:19
流れ星静かに消える場所 僕らは思いを凝らす
49 名前:流れ星ビバップ 投稿日:2004/12/12(日) 20:19
目に見える全てが優しさと はるかな君に伝えて
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 12:50
渋谷系だなぁ
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:06
控え室には私達だけで、さゆはお化粧の練習をしている。
れいなはちょっと背伸びした恋愛小説を熟読中。
そう言えばふたりとも、最近なんかきれいになったみたい。

きれいになろうとする努力とか、泣いたり恋をしたりとか
切ない夢を抱いて走ることが大事なのかな、きっと。
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:06
 
= 戦場のガールズ・ライフ =
 
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:06
「絵里、悩んでるでしょ」
唐突にさゆが言った。
「そんなことないよ」
さゆが首を振る。そして私に顔を寄せて瞳を覗きこもうとする。
「絵里のちっちゃな胸の奥に、そっと光るロザリオが見える」

「どれどれ」
いつの間にかれいなもこっちに来たりしてて、さゆの隣から私に
顔を近づけてくる。4つの瞳が眩しくて私は顔を伏せてしまう。
「あっほんとだ。さゆの言う通り」
「でしょでしょ」
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:07
ふたりが離れ、私は襟を正してしまう。乱れた訳じゃないけれど。
「ねぇ絵里。私達は友達?それともライバル?」
ちょっとだけ考える仕種をしてから私は「どっちも、かな」と
答えた。
「その通りです。それが君の悩みの答えにならないかい?」

れいなはもう中指の栞を外して本の世界に旅立っている。
さゆもファンデーションのレフィルを入れ換えたりし始めた。
いつだってさゆはすごくハード。
いつだってれいなはすごくホット。
見つめるだけの私は猛スピードのふたりに置いてかれそうになる。
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:07
部屋に戻るなり、洋服もそのままにベッドに倒れ込む。真っ暗な
部屋の中で天井を見つめてる。
さゆとれいな。
友達でありライバルだから、火花散らすバトルもするし、子供の
ように手を繋いで太陽のあたる場所へも行ける。

「よし!」
声に出して叫んだ。跳ねるように立ち上がり携帯を手に取る。
きっかけがあったわけじゃないよ。でも今したい、そんな気持ち。

―――私って可愛いかな?―――
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:07
両手ですばやくメッセージを打ち込み、ふたりに向けて飛ばすと
まるで示し合わせたように同時に同じリプライが返ってくる。

―――世界で2番目にね―――

「あはっ」
そうだよ砕けたりなんかしない。私達はそんなんじゃない!
今はちょっとつらい時期だけど、暗闇の中挑戦が続くけど、
勝つと信じて頑張らなくちゃ宝物はつかめないのかもね。
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:07
ミネラルウォーターをたっぷり飲んで、湯舟で半身浴すれば
流れる汗が心地よい。流した量だけ磨かれる感じ。持ち込んだ
雑誌をめくったり、ラジオから流れる曲を一緒に口ずさんだり。

勇気を出して歩かなくちゃ、上を向いて胸を張って♪

今その通りにしてみたら、夜空を切り取った小さな天窓の中に
ラッキースターが流れて消えるのが見えた。

= おわり =
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 18:07
あとがき
同じような話しか書けない病気になってしまいました
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 23:26
キーワード探して2回読んじゃった。
60 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:17

 『Einstein-Rosen Bridge』


61 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:18

水の底から空を見上げる。
歪んだ光、目の表面が柔らかく揺れているみたいに、変化していく風景。
重みを失った身体が、ゆっくりと包み込まれていき、そして静かに落ちていく。
細かい波が、水面の光を錯乱させ、煌めく銀色の粒子を振りまく。
その向こうに揺れる誰かの影。ここは鏡の向こうの世界。向こうから見たこっちは
全てが銀色に光って見えるだろう。
あなたは誰? わたしは手を伸ばす。指先がざらついた空気に触れた刹那、
人肌のぬくもりがそこに触れる。

薄い膜一枚を隔てて向かい合う二人。わたしたちは手を握ったまま、再び深い
場所へ落ちていく。どこまでも、光の途切れるまで。──

62 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:18

・・・・


タンスの裏にピアスを落としてしまった。シルバーの地味目ながらけっこう気に入ってる
ピアスだ。
なんとか狭い隙間に身体を押し込んで救出しようと頑張ったのだが、いくら細身のわたし
でもかなりムリがある。
おまけに、積年の埃が舞い上がって、これはちょっとお肌にきっつい状態だ……。
そんなときに突然インターホンが鳴った。家にはわたししかいない。
面倒なので無視していたら、二度またたて続けになって、しまいにはドアをどんどんと
叩きはじめた。

仕方がない。一時休戦して隙間から身体を引きずり出すと、玄関へ向かった。
「はーい」
チェーンを付けたままドアを開けると、友達のいささそうな女の子が立っていた。
よく見たられいなだった。
63 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:18

「絵里おめでとー」
気の抜けた声でそんなことを言うと、ぱぁんとクラッカーを鳴らした。わたしは眉を顰めて、
「えっと、なんのおめでとう?」
「やーだもう、誕生日、ちゃんと忘れないでお祝いしてるっちゃ」
「あのー絵里の誕生日、まだだいぶ先なんですけどぉ」
「あれー、そうやったっけ」

こういう時は笑っておくしかないわけで、意味もなく二人して玄関で笑った。
しばらくすると寒くなってきたので、あてもなく二人して出かけることになった。

「今日って何日だっけ?」
れいなが訊いてきた。
「15日じゃないかな」
「絵里の誕生日っていつ?」
「23日だよ。来週」
「クリスマスだ!」
64 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:19


なにかすごい発見をしたみたいなテンションで、れいなが叫んだ。わたしは哀しそうな
表情で首を振った。
「そうなのー。クリスマス近いからプレゼントとかパーティーとか一緒にされちゃったり
して、ちっちゃいころから」
「れいなもほら、11月11日だから」
「うん」
「一緒にされてメール一件も来なかったり」
なんの日と一緒にされたんだろう。

65 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:19


 ▽


駅前のモールをぶらぶらと歩き回った。カラオケ行ったら、れいなの寒いモノマネショーが
はじまりそうでアレだったし、ボーリングとかゲームとかは二人とも下手だったし、
時間的に食事をしたいような気分でもなかった。

「なーんもないところっちゃね」
れいなが言った。福岡ほどじゃないと思ったけど、言わないでおいた。
「向こうの公園の先に釣り堀があるよ」
なげやりに言ったら、れいなは興味をそそられたネコみたいな表情になった。
「つりぼりぃ?」
「うん」
「東京にそんなんあんだ」
「あったと思う」
東京に釣り堀があるのがずいぶんと驚きだったらしいので、結局釣り堀に行く羽目になって
しまった。
66 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:19
平日の午後なんて、ほとんど誰もいなかった。わたしたちは自動人形みたいにして生け簀の
中程まで進むと、並んで釣り糸を垂らした。生け簀に溜まっている水はなんだか濁っていて、
さざ波一つ立っていなかった。なんだか固まっているみたいだった。

「ねえねえ、絵里」
れいなが言った。わたしは水面に目を落としまま返した。
「なに?」
「ここってサカナおるの?」
「いるんじゃない? 釣り堀だし」
一向に釣り竿は揺れる気配すら見せない。

「ねえねえ」
しばらくしてまたれいなが声をかけてきた。
「なに?」
「うちらこうやって二人並んでたら姉妹みたく見えんと?」
「見えないからっ」
きっぱりと返した。れいなは不満そうに口を尖らせると、正面を示して、
「えー、あの人とかそう思ってるっちゃ、ぜったい」
67 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:20

わたしが顔を上げると、いつの間にか正面に誰かが座って、わたしたちと同じように釣り糸を
垂らしていた。
その人は、両腕がシルバー製の義手であることを除いたら、ごく普通の男の人だった。
いや、よく見ると、影になっていてよく見えなかったけど顔もシルバーっぽかった。
ひょっとしたら、全身がそうなのかもしれない。ということは、人間じゃないのかもしれない。

「ねえれいなぁ、そろそろ帰ろうよ?」
なんだか怖くなったので、わたしは言った。
「ええー、まだ一匹も釣れてないのに」
「釣れないんだよ、それに、寒いし」
「なんもなしで帰るのは悔しかよ」
れいながそう言い終わらないうちに、わたしの釣り竿が揺れた。

「あっ」
「来たーっ!」
しかもかなりの引きだった。わたしは危うく生け簀の中に落ちそうになってしまった。
れいなは大はしゃぎで、わたしの後ろに回り込んで釣り竿を握った。
68 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:20

「すごいすごい」
「落ちそう……」
わたしは両脚でふんばってなんとか支えるだけで精一杯だった。
ふと見ると、目の前にいる男の人もかかっているみたいだった。鈍色の義手に午後の陽光を
反射させながら、無言で獲物と戦い続けていた。

「えり、一気に引こっ」
「う、うん」
ずいぶんと釣り竿もしなっている。すぐにでも折れてしまいそうだ。
「せーの!」
ぐっと力を込めて引き上げた。と、目の前で同じようにふんばっていた男の人がつんのめって、
そのまま生け簀の中に落ちていった。

「あっ」
「絵里あかんて力抜いたらっ」
危うく釣り竿を取り落としそうになって、慌てて掴みなおした。
それにしても。
69 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:20

「れいな、今、あっち……」
「ほらもう、あとちょっとなんだから頑張らんと!」
夢中になりすぎて気付かなかったのだろうかこの子は? 
あんなに派手な音を立ててどぼーんって落ちたのに。

「あの、あんまり釣り上げたくないんだけどぉ」
わたしは泣きそうな声で言った。れいなはイライラしたような声で、
「なんでよ」
「だってぇ」
と、そのときまたぐぐっと大きく竿がしなった。

「うわっ!」
「なにぃ?」
れいなが転んで、わたしも思いっきり背中を押された。そのまま折り重なるようにして
古くなった空気をゼリー化したみたいな生け簀の中へ落ちていった。

70 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:20


・・・・


あとちょっとでピアスに届くはず。見えてるわけじゃないけどそんな確信のもとにさっきから
わたしは孤独な闘いを続けているのだった。
腕がつりそうになって、慌ててひっぱりだした。途端に舞い上がる埃。西日の中で優雅に
踊る。全く綺麗な風景でもなんでもない。

ケータイがピロリンピロリンとなり始めた。わたしは一時休戦してケータイを取り上げた。
「はいはーい」
「絵里! 大変なの! すぐ来て欲しいの!」
さゆだった。そうとう切羽詰まってるようなテンション。
「なに?? どうかしたの?」
「あー! 早く、早く!」
「ち、ちょっと待って、場所言ってすぐ行くから!」

訳の分からないまま、わたしはあたふたと家を飛び出していった。真冬の枯風が肌に
痛かった。
71 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:21


 ▽


「えりー、こっちこっち」
さゆは公園の噴水の側で手を振っていた。セピア色の冬の風景の中で、ピンクのコートを
纏った彼女はとても浮かび上がっていた。
わたしは荒く息を吐きながら、さゆのそばに駆け寄っていった。
「で、どうしたの?」
白い息で出来た霧の向こうで、さゆは微笑みながら噴水を指さした。

「ここにね、落としちゃったの」
「え?」
「だから拾って来て欲しいの?」
「ん?」
パーフェクトな笑みを絶やさずに、いかにも冷たそうな水を湛えている噴水をさゆは
示し続けている。
ああ、この娘はこの笑顔のまま核のスイッチを押せちゃうタイプなんだった。
72 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:21

「えっと……絵里が?」
「うんっ」
「……ていうか、なに落としたの?」
「絵里にね、誕生日のプレゼント買ってきたの。でもうっかり手を滑らせちゃって」

なんか潤んだ上目遣いの視線でそんなことを言われる。とっても悪い妖精だ。
「ああ……」
「お揃いのね、アクセサリーすっごく悩んで、一番かわいいの買ってきたのに」
わたしは泣きそうになりながら、水面近くにかがみこんだ。冷たさが舞い上がって肌を
ちくちくと刺激してくるように錯覚してしまう。

「ね、あるでしょ」
そういえば底の方にHappy Birthday Queen Elizabeth!の文字が……見えない。
なんか意外に深そうだ。ていうか絶対届かないムリ。
「えりー」
……でもやるだけやってみよう。
73 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:21

わたしはコートを脱いで袖をまくると、深呼吸して一気につっこんだ。
「冷たっ」
両腕の感覚が一気に飛び散ったようだった。肘までつっこんでも全然底には届かない。
「さゆー、どのへんに落としたの?」
「今絵里が手入れてるあたりだと思うの」
凍り付いたまま全然両腕の感覚が戻らない。それにどんどん重くなってるような気がする。

ぶるぶる震えながら、わたしは目を細めた。水面にわたしの顔が映っている。
自分で言うのもなんだか幸薄そうな顔だ。それに寒さのせいで肌の色もくすんで、
本当に死人みたいな……。

ていうか、水面にこんなはっきり顔映るだろうか? なんだか磨き上げられた金属みたい。
冷え切った両腕もなんだか金属になったみたいに重たい。あんまり重いので、そのまま
引きずられて落ちてしまいそう。
「さゆ、さゆ!」
「えり、頑張って」
「違うのっ! 落ちちゃう、落ちちゃう!」
74 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:22

ぽかんとした表情でわたしを見ていたさゆだったが、さすがに事態の尋常でなさに
気付いて駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「腕が……」
言っている間にも、どんどん重みが増していっている。
「あ、かわいい」
さゆは水面に映った自分の顔を見て、無意識にうさちゃんピースをしていた。

「おいっ……」
足を滑らせた拍子に、わたしは顔面から噴水の中に落ちた。
「うわっ」
75 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:22


・・・・


「亀井ちゃん、また狭いところ入ってるの?」
藤本さんが話しかけてきた。まったく、ここは狭くて、暗くて、埃だらけのいやな場所だ。
それでもなぜか落ち着くのは、我ながら不思議というか。

「いいじゃないですか別にー」
わたしは顔を上げて藤本さんを見た。暗い中で、彼女の身体は鈍く銀色に光っていた。
「みんな探してるよ?」
「なんか疲れたからちょっとだけ休ませて下さいよぉ」
76 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:22

なんでかは知らないけど、わたしはとても疲れていた。
「しょうがないなあ」
藤本さんは呆れたように肩を竦めると、出ていってしまった。
また、暗い場所に一人きり。

隙間から差し込んできている光が、なにかに遮られた。一瞬だけ本当の暗闇に包まれる。
誰かがわたしを捕まえようとしてる。でもまだ見つけられないみたいで、きょろきょろしてる。
わたしはもうちょっとだけ休みたかったので、掴まらないようにじりじりと後退した。

遠くから水の流れる音が微かに聞こえてくる。
じっとしてるうちにこっちに来たりして。それならそれでしょうがないか。

77 名前: 投稿日:2004/12/15(水) 23:22

オワリ

まとまりなくてごめん
78 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:52
「あ〜〜!!」

とあるテレビ局の楽屋、道重の非日常的な声が響いた。
彼女の仲間、一三人の女達は一斉に道重を見る。
道重は空になったお菓子の袋を摘まむようにして顔の高さまで持ち上げ悲しげな視線を送っている。
ついさっき一緒に楽屋に戻ってきた亀井は道重の隣に座っていたが何が起こったのかわからなかった。

「どしたのさゆ?」
「あたしのお菓子〜」

その、お菓子〜、は道重のお気に入りであったチョコのお菓子だった。

「空っぽじゃん」
「空っぽだけど空っぽじゃなかったの」

空っぽだけど空っぽじゃなかったの。
空っぽだけど空っぽじゃなかったの。
空っぽだけど空っぽじゃなかったの。
亀井は三回心の中で復唱したが意味はわからなかった。

「さゆ意味わかんない」
「だからぁ、食べようと思って残しておいたのに帰ってきたら空っぽになってたの」
「え?」
「絵里食べた?」
「ずっと一緒だったじゃん」
「そうだよねぇ……」
79 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:52
道重は空の袋を抱えるようにして胸の前で抱きしめた。
パリポリポリ、と袋が音をおかしな音を立てたが道重の表情は悲しげだった。

「ホントに全部ないの?」
「うん」

うん、と言いながらも道重は袋の中に入っているゴミくずを机の上に出した。
くしゃくしゃの銀紙が机の上に広がった。

「ホントだね〜」
「あっ!」

道重がゴミの中、何かを見つけた。
くしゃくしゃにはなってはいないものの既にチョコは包んでいないであろうという薄さに折りたたまれた銀紙だった。
銀紙を不思議そうに見る道重、を不思議そうに見る亀井。

「さゆそれチョコ入ってないよ」
「そうじゃないの、あたしこんな風に銀紙折ったりしてない」
「どうしたと?」

亀井と道重の間にひょっこりと田中が顔を出した。

「れいな食べた?」
「れなそんなことせん!」
「だよねぇ……」
80 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:53
尚も折りたたまれた銀紙に疑問を持つ道重。
その隣では田中に一通りの説明をする亀井。

「さゆ、開いてみたら?」
「うん」

道重は不器用に銀紙を開く。
長方形の銀紙はさらに縦長になるように二つに折られていた。
そして、中に隠れるようにして紙が挿まれていた。
田中は見えるままの文字を抑揚なく読む。

「お菓子はもらったハッハッハ」
「何これぇ?」
「さゆ裏は?」

亀井に急かされ道重は紙を裏返す。
また、田中は見えるままの文字を抑揚なく読んだ。

「わたしの名前はこの銀紙である……はぁ? さゆなんなんこれ?」
「知らない」

広い楽屋の中、三人は小さくまとまるようにして顔を見合わせている。

「れいなわかる?」
「わからん」
「絵里は?」
「ん〜……」

もちろん亀井にもわからなかった。
81 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:53
「わかんない」
「わかんないならすぐ答えるっちゃね」
「ウヘヘヘヘ」

亀井はだらしなく笑った。

「でもさぁ、さゆのお菓子が誰かに食べられたって事はわかるよ」
「それぐらいなられいなだってわかっとー」
「でも誰なの?」

道重の問いは三人の問いだった。
田中は白い紙を丹念に見調べてみた。
亀井は他に何かないものかと散らばったゴミを探し始めた。
道重は銀紙を持って立ち上がった。

「あのぉ」

先ほどと同じように楽屋内の仲間達は道重に視線を集めた。

「誰かお菓子食べませんでした?」

道重の問いにそれぞれが顔を見合わせ首を傾げている。
その中で飯田が道重に近寄ってきた。

「どうしたの道重?」

道重は無駄の多い説明を飯田にした。
説明している間にチラホラ楽屋内の仲間が集まってきた。
亀井と田中に助けられながら道重はみんなに状況を説明した。
82 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:53
「え〜意味わかんない」
「やっぱわからんですよねぇ」

藤本と田中は意味がわからないということを確認するように言った。

「ええ、銀紙?」
「銀紙が名前を表わしてるってことでしょう?」
「銀紙銀紙、銀なんてつく人この中にいないし」

石川飯田吉澤は紙に書かれたヒントを元に考え始めた。
みんな口々に自分達のアリバイを言ったが単独犯ではないかもしれないと飯田が指摘したため、今度はワイワイと銀紙の意味を考え出した。
楽屋にいるのはモーニング娘。の一二人とダブルユーの二人。
やはりというか、真っ先にダブルユーの二人が疑われはじめたが、二人は頑なに否定した。
この二人はこんなメンドーなことしない、と吉澤。皆一瞬にして納得した。

「ん?」
「どうした亀ちゃん?」

新垣の手の中で開かれている銀紙に何かを見つけた亀井。
亀井は銀紙の角を指差して言った。

「ここちぎれてる」
「ホントだぁ〜」

亀井の言う通り、銀紙の角が斜めにちぎられている。

「なんでだろ?」
「なんかわかったの?」

飯田が神妙な面持ちで会話に入ってきた。
83 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:54
「いえ、わかったんじゃないくて、ここが破けてるなぁって」
「ホントだ。でも食べようとしたときに破けたんじゃない?」
「あっ、そっか」
「なんだよ亀ちゃんも〜」

同い年の先輩に肩を叩かれる亀井。
そんな先輩をよそに亀井は飯田の答えに納得してはいなかった。

みんな一様に頭を捻る中、道重がカバンから鏡を取り出した。
手鏡としては大きめだと有名な鏡である。

「こんな時に鏡かよ」
「あっ、すいません矢口さん」

口ではすいませんと言いながらも道重は鏡で前髪をチェックしている。
道重の行動に見兼ねた訳ではないが、みんな緊張感が解けてしまいそれぞれ元いた場所にもどっていってしまった。
結局、最初にいた三人だけが残った。

「さゆ、れいなのお菓子あげるけん元気だしぃ」
「うん、ありがと」

道重は鏡のカバーを畳もうとした、その刹那

「あっ!」

亀井の短い叫びが再び楽屋に響いた。
84 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:54
「わかったぁ!」
「絵里マジで!」

亀井と田中の声に仲間達はまた寄ってきた。

「わかったって亀井ちゃん?」
「はいぃ!」

亀井らしいだらしのない返事。
声にだらしがないのはいつものことだが、藤本がそれにツッコんだ。

「ホントにわかったの?」
「はい、さゆの鏡を見て」
「鏡ぃ?」

亀井の言葉に一番大きく反応したのは道重だった。
道重はみんなの視線に促されて再び鏡を取り出した。

「鏡がなんか関係してるわけ?」
「そーなんですよ」
「どういう意味?」
「まあまあ焦らないで下さい」

亀井以外全員が、お前は少し焦れよ、と心の中でツッコんだ。
85 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:54
亀井はちぎられている銀紙を手に取った。

「この銀紙はぁ鏡なんです」
「銀紙が鏡?」
「でぇ、銀紙が名前なんです」

亀井の言葉を誰一人として理解していなかった。
それでも亀井は続けた。

「この銀紙、縦に折られてるじゃないですか。これが重要なんです」
「で、誰なの犯人は」

藤本が急かすが亀井には効果がない。

「鏡で縦に折るって事はぁ、苗字名前が左右対称って事なんです」
「苗字名前が左右対称?」
「そしたら犯人は……田中! 田中だ!」
「なっ! れいなは犯人じゃなか! 絵里! 何言うとね!」
「犯人はれいなじゃないですよ」
「でも左右対称って……」

石川の言外はみんなの意見だった。
亀井は全てを見透かしているかのような笑みで言った。

「れいなって左右対称なのは苗字の田中だけじゃないですか」
「確かに……」
「でぇ、これまた重要になってくるのがこのちぎれた角なんですよ」

よ、にアクセントのくる亀井らしい独特の言い方だった。
86 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:55
「このちぎれた角を左上に持ってくると、左上だけは左右対称じゃないって意味なんです」
「左上だけ?」
「それ以外は左右対称の名前、だから犯人は……」

亀井が視線を犯人に向けた。
皆つられるようにして視線を向けた。

「矢口さん、あなたです」
「矢口がぁ?」

飯田は手の平に、矢口真里、と書くと叫んだ。

「あぁ! ホントだ! 矢口真里って矢の左上以外全部左右対称だ」
「矢口さん……」

吉澤が呟いた。
矢口は俯いていた顔を上げた、笑顔だった。

「バレちゃった? キャハハ、ごめんね」
「矢口さんが食べたんですか?」
「オイラ〜……だけじゃないけどね」

矢口の言葉を亀井と道重は理解できなかった。
すると、二人の後ろから次々と謝罪の言葉が降ってきた。
87 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:55
「ごめん」
「ごめんね」
「道重、スマンな」
「ごめんなさ〜い」
「えっ? えっ? ちょっと皆さん?」
「こういう事だ道重。つまり、みんなで食べたってこと」
「「えー!!」」

亀井と道重のユニゾンが一番大きく響いた。

真相はというと、田中が一番最初に食べ始めたところ楽屋にいたみんな(亀井と道重以外)まで食べ出してしまい、全部なくなってしまった。
そこで一番最後に食べた矢口が犯人となるも、ちょっと遊んでみようという吉澤の提案で今回の暗号事件となったのだった。

「オイラきちんと謝ろうと思ったんだけど、よっしーとミキティが……」

吉澤と藤本はイタズラな笑顔を浮かべていた。

「オイラが今度特大サイズを買って返すから、許してくれ!」
「ホントですか! なら許しちゃいます」
「さ〜すが道重!」

こうして事件は幕を閉じた。
88 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/22(水) 17:56
「亀井の挑戦」、終わりです。

なんだかなぁ〜……って感じですね。
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:40
 
永遠に三人
 
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:42
「私たちって永遠に三人だよね」
安倍なつみがこう言うたびに、松浦亜弥と後藤真希は苦笑を浮かべる。
親友なわけじゃない。休みの日には連絡も取らない。だた、今。
そう今だけ「後浦なつみ」として一緒に仕事してるに過ぎないのに。
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:42
「後浦なつみ様」
そう書かれた楽屋では、亜弥はずっと鏡を見つめている。
真希はクッションを枕にうとうとごろごろとしている。
なつみはいつも楽しそうに笑ってて、なんてことない話をふたりに
語りかけて来る。それはとても愛くるしいけれど、たまにちょっと
うっとうしくて、亜弥と真希はやんわり注意をする。
なつみはそして落ち込んで腕時計のない腕を唇に寄せて話しだす。
「もしもしなつみです。亜弥ちゃんに怒られちゃったよぉ」
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:43
他愛なくありふれた、三人の見慣れた日常。
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:43
「後浦なつみ」はいきなりスターダムに登ったわけじゃなく、しっかり
じっくりと長く緩やかな階段を踏み外さなかったから。じわじわと
ファンを大切に上がった人気だから、そう崩れ落ちるはずなんてない。
はずだった。
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:44
飛行機の墜落。まさかと思うような事故で、階段は足元から崩れた。
落下する機体の中で他の乗客達は、そして「後浦なつみ」の三人は
どうしていただろう?
泣き叫んだかも知れない。悪態をつきまくったかも知れない。
いつものようになつみが「それでも私たちって永遠に三人だよね」と
言って、亜弥と真希が苦笑を浮かべていたかも知れない。
何があったかは解らない。なつみの言葉じゃないけれど、それこそ永遠に。
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:44
そしてそれから三十年が過ぎて、
「モーニング娘。第六期メンバー募集のお知らせ」
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:45
音楽雑誌の中の小さな広告を道重さゆみは穴が空くほど眺めている。
「私ならきっとなれる。だって私、可愛いもん」
持ち歩くにはちょっと大きい鏡をわざわざ専用のバッグを買ってまで。
97 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:46
ソファの肘掛けを枕に田中れいなはうとうとしている。
ソファの前のテーブルには書きかけの履歴書。自己アピールの下書き途中。
98 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:49
亀井絵里は自分を変えようと必死で何かを探していた。
迷いぶつかり泣いて落ち込み、あっちに行ったりこっちに来たりして掴んだのは
合格の文字。絵里はこの喜びを伝えようと腕時計のしてない腕を唇に近付ける。
「もしもし亀井絵里です。オーディションの一次予選に受かっちゃいました!」
発信。いつかきっと出会う、まだ見ぬ仲間に向けて。
99 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:50
「私たちって永遠に三人だよね」
100 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 10:50
Get市井

そしてHappy Birthday
101 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:08
Sony Ericsson
102 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:10
テレビカメラの前で指が振られる。5、4、3、2…。
「はいはぁ〜い」
真っ白なドレスに着飾った亀井が颯爽とポーズ。
「可愛過ぎて神社じゃなくて私にお賽銭を投げちゃう
 人が多くって大変な、エリザベス・キャメイです」
右下の小さなワイプでは鬼の中澤が、アホか、って顔。
紺野は相変わらずぼーっとしてる。
「トレビのキャメイ、って呼んでくださぁい」
「それはお賽銭やないやろ。っつか神社はどこいったねん」
「今日のゲストはぁ超格好良いあの方です」
「聞けやコラァ!」
ここでCM。
103 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:10
そしてCM明け。
広がったスカートとつばの大きなハットを抑えながら
駆けて行く亀井の先には、裸にエプロンの女。
「ソニンさぁん」
呼ばれて振り返ったソニンは、明らかに驚きを隠せない。
「こんにちは。歩くお賽銭箱こと」
ここでカメラ目線。
「エリザベス・キャメイです」
「…こんにちは。すごい格好ですね」
「それはお互い様ですよぉ」
引き気味のソニンに合わせてカメラも引くと、エプロンから
覗く真っ白いソニンの美脚。慌てておたまを持った手で隠す。
104 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:11
「後ろはどぉなってますぅ?」
周り込んで亀井、絶句。
「おしり丸出しですね…ぷりっとしてます」
「エプロンめくったらその瞬間に放送事故だから」
声は笑ってるソニンの、瞳は笑ってない。
しかし亀井は短いような長いような芸能人生活から、
それが振りだと確信する。
「えいっ?」
「あっ!」
亀井の手が風のような速さでエプロンをめくろうとして、
ソニンの手も風のような速さでエプロンの裾を抑えようとして、
画面には「しばらくそのままでお待ち下さい」の文字。
にわとりが3匹のひよこと歩いてるほのぼの画像。
右下のワイプの中で中澤の目は点。
紺野は口を開けて、村田の眼鏡は半分ずり落ちかけていた。
105 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:12
ぴょこぴょことにわとりの親子が画面を歩くこと30秒。
再び映った画面の中では、やけに髪がぼさぼさのソニンと
涙目で頭をさすってる亀井。
「…それでは恒例の変顔対決ぅ〜ドンドンドンパフパフ」
それでも司会は忘れない。
「いや、それよりソニンの持ってるおたまが気になるんやけど」
「何かへこんでますよねぇ」
「ソニンさんが勝ったら新曲のプロモーションして良いですよ」
「よっしゃ。…って負けたら?」
「エリザベス・キャメイのプロモーションになります」
「なんでぇ!?」
聞こえてるはずなのにマイペースの亀井。中澤キレ気味。
紺野だけ目の前のアイスティーが2杯目に突入しました。
106 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:12
「それではよぉ〜い、ドン!」
ぷっくらとほっぺを膨らませる亀井。
唇を尖らせて耳を引っ張ってるソニン。顔を寄せてにらみ合い。
「むむむぅ…」
なかなか勝負がつかない。距離が縮まる。
「…あらら?」
「これ、やばいんとちゃう?」
「編成さん、もう1回さっきの用意しといて!」
右下が大忙し。その間もソニンと亀井の距離は縮まって行って。
ちゅっ。
「しばらくそのままでお待ち下さい」
107 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:13
にわとりが去った後、顔を真っ赤にした亀井がアップになる。
「そ、れでは、あの、何だっけ。ソニンさんの新曲でカレーの
 じゃなくてカレーライスの女です、どぞ!」
ソニンは何だかうずくまっていて中澤達の居るワイプが
なかったら、おしりが全国放送されていそうな感じ。
たっぷり10秒のプロモーションビデオが流れた後でまとめ。
「以上、エリザベス・キャメイがお送りしましたぁ」
これで終わりかと思ったら、左下には放送終了後のテロップ。
つまりカメラはまだ回ってる。
108 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:14
そろそろと逃げようとする亀井。
後ろから猫なで声で呼び止めるソニン。
「亀井ちゃん?」
「はい!」
なのに飛び上がって驚く亀井。
「ちょっとお話しましょ」
その言葉が合図。亀井が弾かれたように走り出す。
その後ろをソニンが追う。手にはもちろん曲がったおたま。
さらに後ろから追うのはカメラ。
「待ちなさい、ちょっと!」
「ソニンさんが止まったら私も止まりますよぉ」
「亀井ちゃんが止まったら私も止まるわよ!」
109 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:14
「アホや、あいつら」
スタジオでは中澤が大笑い。
「おしりを映さないのはカメラさん、さすがプロ」
村田はやけに感心している。
ドレスの割に速い亀井にソニンはなかなか追いつけない。
「…あれ?」
とうとう3杯目のアイスティーの突入した紺野が気付いた。
逃げる亀井の映ってる画面の端、見覚えのある道具がちらほら。
「もしかして、こっちに来たりして」
中澤ついに爆笑。いすから転げ落ち、そしてぐだぐだの内にエンディング。
110 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:15
Sony Ericsson

おわり
111 名前:去年も立てた人 投稿日:2005/01/02(日) 18:22
勝手ながらこれを持ちまして
亀井絵里聖誕祭2004 〜飼育の冬は読書と聖誕祭です。〜
を終了させていただきます。
実際の誕生日も過ぎまして、まぁたぶんこれ以上増えることは
ないかと思われますし。

聖誕祭はだいたい他の企画に比べて盛り上がらないで終わるんですけど、
「これはこれでええやん」って思います。
コンペじゃないから優劣もつけないし、リレーじゃないから途中参加も簡単。
条件があっても1つ、その気軽さでこれからも行く方が個人的には好きです。

最後に、
参加してくださった作者、読者の皆様。どうもありがとうございました。

Converted by dat2html.pl v0.2