修学旅行の思い出

1 名前:ツースリー 投稿日:2004/11/26(金) 01:54
よししばを中心に書かせていただきたいと思います。

お付き合いいただければうれしいです。

以前書かせていただいていたのは、こちらのスレになります。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/green/1076943172/
2 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 01:55


「ねーよしこぉ。まだやるのぉ?それさぁ、もう取れないんじゃないかなぁ?」
「いや、ごっちん!うちはあきらめないぞぉ!えぇい!」
「…んあ。じゃーごとう、外のベンチに座ってるからねー。がんばって。」

…悪いね、ごっちん。
また、つきあわせちゃってさ。

今さらこのミッキーのぬいぐるみを、GETしたところで。
もう、渡すこともできないけれど。

だけど、このまま。
ここにとらわれていては、いけないと思うから。

このUFOキャッチャーに、さよならをしに。

あのころの楽しくて、辛かった、思い出に。

もう、いいかげん、さよならを。

「…あぁっ!!と、とれたぁ!!!とったどっ〜〜!!!」




3 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 01:56




―――修学旅行の思い出―――





4 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 01:59


「…あぁ、よしこーこっちこっち。」


京都に着いて、まず始めにうちらがむかったのは、ホテルでも、お寺でもなく、遊園地。
あのころ、修学旅行で、訪れた…遊園地。


ゲーセンの外に出て、意外に多いベンチの周りを探していると、
いつのまにかポップコーンを買ったらしい、ごっちんが。
うちを見つけて、声をかけてくれた。

「何食ってんだよぉー。あ、見てごっちん!ほらぁ!!」
「…んあぁ。ちっちゃ。」
「ひでぇ!!やっと、やっと取ったのに!!」
「あはっ。うそうそ。かわいいじゃん。よかったねぇ、よしこ。」
「…うん。」


2年ごしの、目標達成だから、ね。

まぁ、意味なんて、もうないんだけど。


「…いてっ!!」
「んあ?どうしたの?」
「いや、座ろうとしたら、なんか硬いモノが…ケータイ?」

ごっちんの隣に座って、一息つこうとしてたところ、
うちのおしりに、何やら、かったーいものが。

「え?これごっちんのじゃない、よね?なに?」
「…さぁ。忘れ物?」
「え?!ていうか、ごっちん、座るとき、隣にあんの気づかなかったのかよ!」
「うん、全く。」
「…そんなアホな…」




5 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 02:00


見ると、うちのでも、ごっちんのでもない、
ピンクの、ケータイ。
…偶然にも、さっきイヤと言うほど見つめ続けた、あのかわいいミッキーのお顔の
ストラップ付き。

「…忘れ物、かなぁ。どうしよう、届けた方がいい?でもどこに届ければいいんだろ…」
「んー…迷子センターとか?」
「いや、それは違う気が…ひゃぁっ?!」

パカパカいじっていたら、突然鳴り出す、ケータイ。

「わっ、わ!ごっちん、どうしよう、着信だ!!」
「…出ちゃえ。」
「えぇ?!」
「だって、落とし主かも。」
「で、でも…『みき』って表示されてるけど…」
「…いいから。」


なんだよそれ?!
さてはごっちん、おもしろがってんだろ?!


うー…こわいなぁ…



6 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 02:01


「も、もしもし…」
『あ、出たっ…もしもし?』
「はい、あの…みき、さんですか?いや、実はうちは、このケータイの持ち主さん
ではなくてですね、あの…」
『…え?…あ、はい、知ってます。私が、持ち主なんですけど…』
「えぇ?!み、みきさんが?」
『いや、美貴は私の友達で…今、その子のケータイを借りて、私がかけてるんですけど…
あの、どこにありますか、私のケータイ。』
「え、あ、ああ。あの、ゲーセンの前のですね、ベンチに置いてあったんですけども…」
『そうだったんだ…あ、ひろってもらってありがとうございます。』
「え、いやぁ、そんな。」


「よしこ?どうしたの?誰だった?」
「あ、ちょっとすいません…ごっちん!やっぱ持ち主さんだった!!ひろってくれて
ありがとうだって!」
「おぉ、よかったねぇ。」



7 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 02:02


ほんと。怒られたりしなくてよかった。
だってもし、持ち主が男の人でさ、そんで『みき』さんが彼女で、
彼氏のケータイにかけたはずが知らない女(この場合、うち)が出たなんつって、
ちょっとあんたヒロシ(仮名)のなんなのよ?!なーんて怒鳴られたりなんか
した日にゃあ…ってピンクのミッキー付きのケータイだし。
男ってことはないか。

『…もしもし?』
「あ、はい!…えー…ね、ごっちん。どうやって、これ渡せばいいと思う?」
「んー…じゃあよしこ、取りにきてもらったら?下手に動くより、そのほうがよくない?」
「あ、だね。…あの、まだ遊園地の中にいられますか?」
『あ、はい。います。』
「じゃあ、うちら、ここで待ってるんで。取りにこられますか?」
『あ、でも悪いんで…そこに置いておいてもらっても…』
「いや、盗まれ…ないとも思いますけど、でも盗まれたら大変だし。どうせ、
うちら時間あるんで。いいですよ。待ってます。」
『…すいません。じゃあすぐ行きます。』
「あ、はい。」


「持ち主さん、なんだってー?」
「うん、すぐ来るって。」
「そっか。いいことしたね、よしこ。はい、ごほうびのポップコーン。」
「ありがとー…って食いかけじゃん…」



8 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 02:03


ふぅ。
びっくりしたけど、まぁよかった。

…ミッキーのぬいぐるみも取れたし。
今日で、うちは
思い出を引きずるの、やめるんだ。

新しい、一日の、新しい、第一歩だから。

こんなハプニングも、おもしろいじゃん。

ここから、また新しい楽しい思い出を作ろう。


そんな風に。
これからの、未来を描きはじめていたのに。

――結局君に。
どうして、今ごろになって。


やっぱり、あのころを乗り越えられずに、その先になんか進めないってことなのかな。



「…お。ごっちん、着信。…『みき』さんだ。着いたのかな?…もしもし?」
『あ、…もしもし。もう近くにいると思うんですけど…』
「え、どこかな、えーっと…」



9 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 02:04


だって、そんな。
信じられないよ、こんなことって。

「んあ!よしこ、もったいないよー」

うちの足元に散らばったポップコーンを、集めてかたづけているごっちんごしに、
もう一度見た、その人は。

やっぱり、やっぱり君で。


「…おっ?!ね、あの人、もしかして吉澤さんじゃないの?ねぇ、あゆみ。」
「………」



10 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 02:05


うちと、同じように、
いや、もしかしたらそれ以上に。


驚いた、彼女は。
『みき』さんの、…藤本さんのだと思われるケータイを、強く握り締めたまま。


あのころと同じ、強い、強すぎる、真っ直ぐな瞳で。


じっと、

うちを、見ていたんだ。





11 名前:ツースリー 投稿日:2004/11/26(金) 02:08
以上、第1話です。

まだ始まったばかりですが、がんばりますので、どうぞよろしくお願いします!
12 名前:名無し飼育 投稿日:2004/11/26(金) 07:54
お待ちしておりました!!!!!
またここに張り付かせていただきます〜
13 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 18:04



初めて彼女を見たのは、うちが奇跡的に合格してしまった、名門高校の入学式。



長〜い来賓の方々のご挨拶の後、新入生代表として、ステージに上がった、彼女。


ということはこの子が、一番の成績で、この学校に合格した子なんだろう。
…誰の目にも明らかだった。


そんな風に、いっせいに興味の目を向けられるなんて、
うちだったら絶対耐えられない。


それは必ずしも、好意的なものばかりではないから。



14 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 18:05


失敗が許されない、状況。
なのに他人からは、失敗が望まれる、状況。


そんな中で、カンペも読まず、堂々と新入生のあいさつを、新入生らしくなくこなす
彼女に。


一瞬で目を。
心を、奪われた。



…でも、柴っちゃんが平気そうにしてるときってさ、いっつも平気なときってわけじゃ
なかったんだよね。

けどそれに気づけるほど。

うちは、大人じゃなかったし。




15 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 18:06


「…んあ〜?もしかして藤本さん?」
「あ!やっぱり後藤、さん?!それに吉澤さんだよね?何してんのぉ〜二人とも!
超グーゼンじゃん!なんで京都にいんの?!」
「あはっ!うちらは旅行だよ、りょこー。藤本さんと…柴田さんは。
こっちの大学なんだっけ?」
「あぁ、うん。今日学校休みだからさー。まぁヒマだし、二人で遊園地でも行くかってね。」
「ほぉっ。女二人で遊園地とはさみしいねぇ〜二人とも。」
「あぁん?!後藤さんたちこそ、女二人で旅行とはさみしいんじゃないの?!」
「んあぁ?!!」

そ、そっちの二人はいいなぁ…話しはずんで。


しかし、まさか落としモノのケータイの持ち主があの、…柴っちゃんだなんて。

こんなことって…うわぁ…近づいてくる…!
やばいやばいやばい…

どうしよう、どうしよう、な、なんて言えば…



16 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 18:07


「…あの。」
「は、はい?!あ…柴っちゃん…久しぶり。あの、う、うち…」
「…ケータイ。」
「え?!」
「私の、ケータイ。」
「あ、はい!…どうぞ。」
「…どうも。」

うちからケータイをとった柴っちゃんは、うちがここにいることを、特に気にする様子も
なく。
着信やメールを調べているのか、せわしなく指を動かしていた。


…な、なんか言うことないのかな…
久しぶりに会ったのに…
…まいったな、もう。


ひょうしぬけしたのと同時に、ちょっと緊張も解けて。
チラッとあらためて彼女を見ると、最初に彼女を見つけたときと同じく、
再び自分の目を疑った。



17 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 18:08


え?!
茶、茶パツ?!!!
柴っちゃんが?!あの、柴っちゃんが?!!!!!

…そんな。


それだけじゃなくて、ゆるくパーマのかかった、肩まであるその茶色い髪と。
ヒールの高いブーツに、…ミニスカートに。

しっかりメイクした顔は、もともと目鼻立ちがはっきりしてる、彼女を。
よりいっそう引き立たせていて。



…高校卒業してから、まだ一年もたってないじゃんかよぉ…
よしこママは悲しいよ…いや、そりゃ、めちゃめちゃ、めちゃめちゃかわいいけど…


「…ねぇ、吉澤さんってば!!」
「へぇ?!あ、はい…藤本さん、久しぶり。」



18 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 18:10


「久しぶり〜ってあのさ!今ごっちんと話してたんだけど、せっかく会ったんだし、
これから飲みに行かない?プチ同窓会しようよ〜!クラス違うけど。」
「あ、はぁ…ってごっちんって…もう仲良くなってるのね…」
「あゆみもいいでしょ?」
「…別に、私は。」

い、いいんかい?!
いいの、柴っちゃん、だって、うちら…


…あぁ、またあの顔だ。

そうやって少し下を向いて、目を伏せる。


結構ホリが深くて、まるでお人形さんみたいな彼女の顔は。
うちをときめかせるくらいキレイで、そう、すっごくキレイなんだけど。


ときどき、ひどく冷たく見える、コトもあって。


それがあの頃ずっと。
うちを苦しめていたんだ。




19 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/26(金) 18:11


「じゃー行くかぁ!!飲むぞぉぉぉ〜〜!!!」
「おぉぉ!!!」
「ご、ごっちん…藤本さんも…お願いだから、ちょっと静かに…」
「………」



この再会を偶然だとするなら、あの頃、あの学校で。
うちらが出会ったことも偶然だったってことだし。


あの出会いを運命だと言うのなら、今、今日、この再会も。
また運命、ってことなのかな。



悲しい運命ならば、二人とも。
きっともうこりごりだけど。





20 名前:ツースリー 投稿日:2004/11/26(金) 18:13
以上、第2話です。

>>12 名無し飼育 さま
いらっしゃいませw早速のレス、ありがとうございます!
まだまだ始まったばかりですが、どうぞこれからもよろしくお願いします♪
21 名前:プリン 投稿日:2004/11/26(金) 20:38
更新お疲れ様です♪
新スレですねっ!ついてきちゃいましたw
二人にどんな過去があったのかな…。かなり気になりますね(w
次回の更新待ってまーす。頑張ってください!
22 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 20:52



…あれやっぱり…柴田さん、だよね…?


入学して一ヶ月がたって、段々と学校にも、通学路にも慣れ始めたころ。

バスやチャリ通の多い中、電車で学校に通ってる子は、うちを含めごく少数で。
…しかもうちと同じ駅から、なんて。
ごくごく少数なはず、なんだけど。


それがよりにもよって柴田さんとは…うれしいような…気が引けるような…




23 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 20:54


偶然だかなんだか、入学式の後、自分の名前のあるクラスに向かうと、
驚くことに。

さっきステージで堂々と挨拶を、した。
あの新入生代表が、いた。


お、同じクラスかぁ〜…なんかすげぇな…


とりあえず最初のホームルームで。
彼女のお名前が、柴田あゆみさんだということと。
案の定、彼女が委員長に選ばれたということが、分かった。


それから近くの席の子とは、いろいろ話しもしたし。
友達もできてきたんだけど。


この一ヶ月、柴田さんと。
うちが話しをするなんてことは、一度もないわけで。


なのにときどき目が合ったりするのは。
うちが無意識に、彼女を見つめているからなんだろう。



24 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 20:54


…やっぱ柴田さんだよなぁ〜…住んでるの、もしかして近所なのかな?


朝は通学する時間が違うのか、一度も彼女を見ることはなかったけど。
帰りはこうして電車の中で。
何度か、一緒になることがあった。

向こうは気づいてるんだろうか…顔ぐらい…いや、顔と名前ぐらいは知ってるよね?!
同じクラスなんだし…一応、うち。


誰も座っていないお年寄り優先席の前で、律儀に立っている彼女を見ながら、
そんなことを考えていると。

「お出口は左〜足元に気をつけて…」
「あ、着いた…」



25 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 20:56


アナウンスを聞いて、慌てて、でも彼女の視線に入らないように、後ろを歩きながら。
電車を降り、改札に向かう。


…やっぱ定期だし。
このへんなんだ、住んでるの。


「…うおっ?!!」

こそこそ彼女を見ながら歩いていたせいで。
思いっきり、すれ違う人とぶつかってしまった。


「あた…すいません…」


ギャルっぽいお姉さんににらまれて、謝りながら、ぶちまけたカバンの中身を拾う。
…なにもそんなさ、怖い顔しなくたって…ぐすっ。



26 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 20:57


教科書を集めているうちに、あ、明日も古典あんのに持ちかえっちゃった、とか思っているうちに、
…自分以外の手が、ノートをとんとんってしてるのに気づき、顔を上げる。


「あ、ありがとうございま…え?!」


し、…柴田…さん…?!!

とっくに先に行ってしまったはずの彼女が。
なぜかうちの荷物を拾ってくれていた。


「…はい。」
「え?!あ、…ありがとう……待って!!」

もうさ、脳みそより体が先に動いちゃうんだよね。
うち、体育会系だから…あ、一応バレー部に入りました。

「あのっ!!…ク、クレープ食べませんか?!」
「…え?」



27 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 20:58


バカかうちは?!!
お茶しませんかの方が自然だろ?!!
いや、どっちにしてもそれじゃナンパ…あぁぁっもう!!


「…クレープ?」
「え?!いや、それは…例えっていうか…その…」
「…食べる。」
「へ?!」

た、食べんの…?
あ、はぁ…マジっすか…


「…どこ?」
「え?」
「クレープ。」
「あ…こ、こっちに、ある…よ?お店。」

いや、まぁあることはあるんだ、クレープ屋。
高校生になって、このお店見つけて。

それ以来、寄り道してくのが習慣になっちゃったからさ。
さっきもつい、クレープって言葉が出ちゃったんだけど…。



28 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 20:59


何も言わず、ていうかしゃべることがないんだけど、
ついてくる彼女を連れて。


裏側の、なじみのクレープ屋に行った…はずなんだけど。


「あれっ?!ちょ…裕ちゃん?!な、なにこれ?!」
「お〜よっさんやん。まいど。タコ焼きいかが?」
「た、タコ焼きって…クレープはどうしたのさ?!」
「え〜だってさっぱり売れんねんもん。クレープ。せやから、タコ焼き屋にしてん。
こっちが本場やし、私。あら、お友達や〜ん、いらっしゃい♪」
「…こんにちは。」

ん、んなアホな…!!?


寄り道してるうちに仲良くなった、クレープ屋のお姉さんだったはずの裕ちゃんだけど。
今日突然、タコ焼き屋のおっちゃんになっていた。



29 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 21:00


だ、台無しだ!!これじゃあ!!!

せっかく…柴田さんと。
仲良くなるチャンスだった…かもしれないっていうのに。


「ご、ごめん、柴田さん…クレープ、だめみたい…」
「…別に。」

あぁぁ…お、怒ってんのかな…うぅどうしよう…

「…好きだし。タコ焼き。」
「へ?!」


「おぉ〜そおかぁ♪ええ子やなぁ〜あんた。名前は?」
「柴田です。柴田、あゆみ。」
「柴田…柴っちゃんでええな!ほら、そこ座り〜おっきいタコ入れて作ったるからな♪」
「わぁ…ありがとうございます。」



30 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 21:01


あ…た、タコ焼きでも…よかったのか…?

ていうか、な、なんか柴田さんて…


「ほら、よっさん!あんたもつったってへんと!ほぉらできたで〜♪はい、召し上がれ♪」
「え…あぁ、うん。」
「あの、おいくらですか?」
「あぁ、ええよええよ。今日はごちそうするわ。ていうか味見してくれる?
試作品、第一号やねん。」
「えぇ?!ちょ、裕ちゃん作ったことないの?!」
「あたりまえやん。私昨日までクレープ焼いててんから。」
「どこが本場だどこが!!素人じゃんか!!」
「なんやとぉぉ〜〜!!」
「…おいひい。」
「「へ?」」



31 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 21:03


裕ちゃんにお店を持つ人としての責任ってものを問い詰めようとしていると、
もう先に食べてるらしい、柴田さんが。


「おいひい…です。あふい、けど…」
「お、おお。そうかそうか♪ほらよっさん見てみぃ!!うまくできてるやんけ!!!」
「そうなんだ…ってそういう問題じゃないっしょ?!だいたい裕ちゃんは…」
「ん。おいひいよ。食べてみれば?…吉澤さんも。」
「え、あ、…うん。」
「よっさんに食わせるタコ焼きなんかないわぁ〜ボケぇぇぇ!!」
「なんだとぉぉ〜〜!!」


このっ…バカ裕ちゃんめ…!
せっかく柴田さんに話かけられ…あれ?
よ、吉澤さんって…

知ってて、くれたんだ。
うちのこと。



32 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 21:03


「ほぉら、よっさんのもできたで♪試作品第二号!タコ抜きタコ焼きや!!」
「わぁ♪って、んなもん食えるかぁ〜〜!!」
「…あはは。」


わ、笑った…!笑った、柴田さんが!!



女子高生らしくクレープでおしゃべり♪てわけじゃなくなったけど。
…これはこれで、よかった…のか?!


あふいあふい、と言いながら。
にこにこタコ焼きを食べる、彼女を見て。



33 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 21:05


なんかなんか…
柴田さんって。

不思議な子だな…

思ってたのと、ちょっと違うけど。


でも、…なんか。


いいな、なんか。



うちらのきっかけは、こんなんだったけど。



34 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/11/27(土) 21:06


でも今でもうちは。

あの日、初めて君と食べたタコ焼きが。


味は確かにまぁうまかったけど、形はボロボロで。

とても売り物にはならない、あのタコ焼きが。


忘れられないんだ。もうずっと。



また食べたいよ。


君と、二人で。





35 名前:ツースリー 投稿日:2004/11/27(土) 21:09
以上、第3話です。

>>21 プリン さま
おぉ!wついてきてくださったなんて、ありがとうございます♪
二人の過去はまだまだ続きますが…これからもどうぞよろしくお願いします!
36 名前:プリン 投稿日:2004/11/28(日) 12:15
更新お疲れ様です♪
ついてきちゃいましたよwこちらこそよろしくです!
…なんかタコ焼き食べたくなっちゃったな…w
これからどんな展開が…。めっちゃ楽しみです。
次回の更新も待ってます!頑張ってくだせえ。
37 名前:前スレの458 投稿日:2004/11/29(月) 23:10
更新お疲れ様です。
そして新スレおめでとうございます。
こちらのスレでもまた楽しませていただきます。
作者様のペースでがんばってください。期待しております。
38 名前:もも 投稿日:2004/12/01(水) 01:46
新作更新お疲れ様です。

先週急にPCがお釈迦になっちゃって汗・・・・・
初期化して、やっと巡り回って来ました。

作者さんの吉柴をまた読めて幸せです。
これからも、楽しみのにしています。
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/01(水) 02:14
新携帯から新スレオメ。そして更新乙です。
作者さんのよししばワールドがまた読めるとは嬉しい限りです。
こんな時間なのにムショーにたこ焼きが食べたくなりましたw
続きが楽しみです
40 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:39


「ぷはぁ〜〜。うまい!お〜い、お姉さん〜おかわり〜」
「あはっ。ミキティおやじみたーい。」
「なんだとぉこのごっちんめぇ〜ほりゃぁ〜♪」
「いや〜ん社長♪セクハラ〜♪」


…だからさぁ、二人とも。
これじゃ同窓会っていうか、ただのおっさんの宴会だって…




41 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:40


あの後、
どこで飲むか相談した結果。

うちらの帰りが楽だろうということで、今日、うちとごっちんが泊まる予定だった
ホテルの一階にある、レストラン兼バーみたいなお店で、飲むことになった。


移動はなんと、柴っちゃんの車で。
藤本さんと、車で遊園地に来ていたらしく。

運転する彼女の姿にちょっと見惚れたけど、でもなんか、どっか寂しかったり。



そんなこんなで始まったプチ同窓会だけど。
ごっちんと藤本さん…ことミキティ(本人がそう呼べと言った)は。
さっきっからそれはもう、飲むわ騒ぐわで。


…うちとごっちんはミキティとクラス一緒になったことないからさ、
ちゃんと話したことはなかった…はずなんだけど。

同じ高校出身だという安心感がそうさせるのか、
…それとも元々こういう人なのか。


親しげにグラスをぶつけてくる姿には、ちょっとびっくりさせられつつも。



42 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:41


でも、このミキティのはっちゃけぶりのおかげで、
自分の中の緊張が取れてきていることに、感謝して。


もっと飲めと、うちにワインを注ごうとするミキティの腕を抑えながら。

向かいに座っている柴っちゃんをちらっと見ると。



キレイなネイルをした手で、キレイなグラスを持っていて。
そこにつける唇が、グロスで濡れていることに。


なんだかすごく、違和感を覚えてしまう。


だって、あのころ初めて触れた、君の唇は。

少し、乾いてさえいたのに。





43 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:42



「うおぉぉぉ〜!!!」
「だから。突然叫ばないでって言ってるでしょ。なんなの、もう。」
「ははっ。よっさん、尻にひかれとるなぁ〜」


うぅ。裕ちゃん、言うこときついよぉ…



44 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:43


あの日、以来。
ちょっとづつ時間を重ねるごとに、うちと柴っちゃんは段々仲良く?なっていった。


初めのうちは、クラスのみんなが、ありえない二人のありえない急接近に。
びっくりしてるようだったけど。

でも、そのうち、夏が始まるころには。

すっかり、公認の中になっていた。


「今日も一緒帰るの?相変わらず仲いいね〜二人。」
「でしょでしょ?!もうラブラブで〜」
「…別に。家が方向同じだけだから。」


あ、もうこの「別に」っていうのは柴っちゃんの口癖なだけで。
否定してるわけじゃないんだよ!
…たぶん。



45 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:44


これまでの調査の結果、この、柴っちゃんという人は。

やっぱり最初の予想通り、成績優秀で。
普段はちょっとクールで、口数も少なくて。

でも言うべきことはずばっと言うわよ!って感じで。
…うちに対しても、いつも厳しいし。


あんまり感情的にならないタイプだけど、怒らせたら怖い。

夏休みに、うちが柴っちゃんのお家(実はすごく近所だった)に遊びに行ったときなんか。


「おっじゃましまーす!…あれ?ここ、誰の部屋?」
「え?…私の部屋だけど?」
「えぇぇ?!!だ、だってカーテン!ミッキーだよ?!それにぬいぐるみが!」
「………」
「あはは!!すげー意外!!柴っちゃんミッキー好きなんだぁ〜。女の子じゃーん。
なになに、このでかいミッキー抱いて寝ちゃったりしてんの?
会話とかしちゃうの?ねぇねぇ♪」
「………」
「かっわいい〜…って待って待って!!ごめんなさい!許して!い、いったぁ!!」



46 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:44


ちょっとからかっただけなのに…
怒ってしまった彼女は、ミッキーのぬいぐるみを除く、部屋中のありとあらゆるものを。
うちに投げつけてきた。

「ダメだって!!広辞苑はやばいって!!誰か〜、た、助けて〜!!」



それ以来、うちは二度と柴っちゃんのお部屋に上がらせてもらえないわけで。

…な、仲いいのかな?これは…



「うわぁぁぁーー!!!」
「だから!なんで叫ぶのよ!!みんな見てるでしょ!」
「ご、ごめんなさい…」



47 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:46


今はもう10月の半ばで。
少し肌寒くなったせいか、裕ちゃんの腕が上がったせいか、
このタコ焼き屋も中々の客入りで。


お店の中が前みたく、柴っちゃんとうち、二人だけってことはなくなった。

だから叫んだりしたら、周りに迷惑かかっちゃうってわかってんだけど…
でもさ。


我慢、できなくなりそうなんだもん。
…キス、したくなっちゃうんだもん。



いつからか、これは恋心なんだと気づいていた。


クールでつれない君が。
たまにつぼに入ったりして、うちのギャグで大笑いすると。


もう、世界を制したような気分になれた。



48 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:47


君が怒ってうちを叩くとき、電車が込んでたとき。
体が少し触れるだけで、すっごくドキドキして。


君がお弁当を食べたり、タコ焼きを口に入れる瞬間。
つい、そこに目がいってしまって。


キスしたくなって、どうしようもない、っもう頭ん中がうわぁってなったときは。
うちは叫ぶことにしてた。


なんか、こう、ありあまるエネルギーを吐き出す、みたいな意味で。

若いなぁって、自分で思う。
つらいなぁって、思う。



49 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:47


だから、叫ぶななんて言わないで。
じゃなきゃ、うち、君に。
キスなんて、しちゃいそうなんだよ。



「…ねぇ、聞いてる?」
「え?!な、なに?」
「…だから。文化祭。よっすぃ〜たちどうするの?何やるの?」
「あぁ…」

び、びっくりした…つい…トラップしてた…


「なんや、もうそんなシーズンかいなぁ〜えぇなぁ、うちも行きたいなぁ。」


客足が落ち着いたのか、裕ちゃんが。
うちらの会話にいつのまにか混ざっていて、これまたびっくり。



50 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:48


「あ、ぜひ、中澤さんも来てください。うちの高校、文化祭は3年に一回らしくて、
私たちも今回が最初で最後なんですよ。」
「えぇ〜そうなん?でもお店があるからなぁ〜残念やけどなぁ。なんか出し物するん?」
「えっと、私たちの班は、みんなでクッキー作って売ろうかって。よっすぃ〜たちは?」
「あれ?二人同じクラスなのに、違うことするんかいな?」
「あ、はい。出席番号順に、分けたんです、二つに。あんまり人数多くてもまとまらない
から。」
「ほぉ〜さすが委員長、しっかりしとるなぁ〜」
「うちは分かれたくなかったのに…柴っちゃんが…別れようって…捨てられた…」
「昼メロじゃないんだから。さっさと何するか決めてよね。よっすぃ〜、班長なんだから。」
「よっさんが班長?!このこのぉ〜出世したやーん♪」
「誰もやりたがらなくて、班長…押し付けられた…どっかの委員長に…」
「私、自分の班のことで忙しくて、そっちの面倒までみれないからね。
ちゃんとやってよね。」
「…てか、クッキーって。文化祭っぽくないし。それに柴っちゃん、できんの?料理とか」
「…どういう意味?」
「だって勉強してるとこ以外想像つかないし〜…いえ、ごめんなさい…怒らないで…」


また失言しちゃった…
あぁ、今日も帰り道にビシビシ叩かれそう…



うちの予想とは逆に、文化祭当日、なぜかクッキー売り場は大盛況で。
実はどうもうちのクラスにケーキ屋さんの娘さんがいたらしく、
材料なんかを提供してくれたので、結構な絶品に仕上がってたらしい。



51 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:49


らしい、っていうのは、うちはそのクッキーを食べられなかったから。

違うクッキーの味なら、今でもよく覚えているけれど。




「…柴っちゃん、ここならバレないって。誰もいないよ。」
「ちょっ、よっすぃ〜。ダメだって。さぼったりしたら。」
「平気平気♪こんなにドタバタしてたら、わかんないって。二人くらいいなくても。」


忙しかった文化祭も、あっという間に終わってしまって。

今はその後片付けで、また大忙しなんだけど。


ていうかやってられないし、そんなこと!
こっちは文化祭の間、全然柴っちゃんといられなくて、めちゃ寂しかったんだから。



52 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:50


生真面目な委員長の彼女を、一緒にさぼらせるため、空いてる教室に連れ込んだ。
…よりにもよって、そこは気味悪い、理科の実験準備室だったけど。

久しぶりに、二人でしゃべれる喜びが、そんな気味悪さ、どこかに消してくれていた。

こっそり移動して、すみっこのほうに、二人で、並んでしゃがみこむ。

「ふぅ〜♪疲れた。」
「よっすぃ〜たち、疲れるようなことしてないじゃない。」
「ぐふぅっ!!」


…そう。
結局ギリギリまで何も思いつかなくて。

仕方なく、当日、家にあったプレステを持ってきて、教室のテレビにつないで。
ゲームコーナーとして、なんとかその場をもたせた。


あ、ちなみにご希望であれば、うちと対戦することも可能ですよ♪

…まぁ遊んでたの、うちの班の子たちばっかりだったけど…



53 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:51


「プ、プレステが重くってさぁ〜いやぁ、家から運ぶの、疲れたなぁ〜」
「…もう。」
「そ、それより!!盛況だったじゃん、クッキー。」
「あぁ、まぁね。」
「いいなぁ〜食べたかったなぁ!いやぁ〜残念。」

うちの班がプレステで遊んでる間に、すっかりクッキーは売れきれてしまっていて。
残念ながら、うちらはひとつも食べることができなかった。


「…食べたかったの?」
「うん、そりゃあもう!!」
「はい。」
「…え?」
「あげる。」


そう言って、彼女は自分の上着のポケットから、クッキーらしき袋を取り出した。


「え?なに?取っててくれたの?」
「…別に。あまってたから。」

いやいや、売り切れてたじゃん。



54 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:52


口ではそんなこと言いながら、わざわざうちのためにとっててくれたんだ〜なんて思うと、
うれしくて。

喜んで袋を空けるとさらにラッピングがしてあって………あれ、おかしいな。


たしか、うちのクラスの売り物だったクッキーには。
材料を提供してくれたケーキ屋さんの、包み紙が使われてたはず。


朝、作ってるとき調理室をのぞきに行ったから間違いない。
ちゃっかり宣伝かよーって思ったもん。



…こんなかわいい、ミッキーのラッピングじゃなかったんだけどな。



まいったな。
うちが、料理できなさそうだとか言ったからかな。


それとも…もしかして
うちのために、作ってくれたのかな。



55 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:53


お家で、柴っちゃんが苦戦しながらクッキーを作ってる姿が目に浮かんで。
つい、笑っちゃいそうになったけど、こらえて。

知らないふりをして、それを口に運ぶ。


「………んぐ。」
「…どう?」
「ん。おいすぃ〜よ?」


ちょっとボソボソしてて、たぶん、ホンモノの文化祭のクッキーよりは、
味が落ちるのかもしれないけど。


うちにとっては、最高おいしいクッキーだったから。


素直に彼女にそう言うと、くるっとうちのほうを向いて、「ふ〜ん。」なんて。


だけどその顔が、なんか、いつものキリっとした顔つきからは想像できないくらい。
なんていうか…ふわってやわらかくて、うれしそうで。


…あぁ、やばい。
マジやばい。



56 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:55


「あ、ちょ!!叫ばないでよ?さぼってんのバレたら怒られちゃうよ。」

あぁ、
もうやばいのに。

でも人に見つかるから、いつものように叫べなくて。


あぁ、もうだめだ。


抑えられなくて。
これから先のこととか、気にする余裕もなくて。


必死に、隣にあった彼女の小さい手を見つけて、握り締めて。
そのままそっと――キスをした。




57 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:56



…唇を離して。
怒られることも覚悟で、その顔をのぞきこむと。


あらら。
真っ赤っかだぁ…


ボーっとしてたんだと思う、うちも。
なんも考えられないくらい。


だからつい、バカなことに。
もうその、見たまんまの感想を、ただ言っちゃったんだ。


「…すげー…トマトみたい………」



58 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:56


瞬間、赤かった顔をさらに赤くして。
飛び起きた彼女は、ドアに向かってダッシュしてて。


しまった!!
なに言ってんだよ、うちは!!


足腰を鍛えててよかったと、この日ほど思ったことはない、
彼女がドアを開けて出て行こうとする、ギリギリのところで、間に合うことができた。

「ご、ごめん!!柴っちゃん、うち…」


前にも言ったとおり、
彼女はあんまり感情を見せる人じゃない。


いつも冷静だし、落ち着いてて、しっかりしてて。


だからそんなふうに。
泣くと思わなかったんだよ、ごめん。



59 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:58


声も出さずに。
柴っちゃんは、
ただぎゅっと目をつぶったまま、ポロポロと涙をこぼしていた。


…赤くなるってことは、恥ずかしいってことで。
恥ずかしいから、赤くなっていたのに、それを、うちに指摘されて。


どれだけ、傷ついたんだろう。
傷つけてしまったんだろう。




鉄人、みたいに思ってたんだ。

それまで、君のことを。


だって、入学式でも緊張しないし、委員長だし、成績優秀で。

人とは違う、うちとは違うって。


でも、こんなふうに。
キスされたら、泣きだしてしまうくらいに。


君も、
普通の、女の子だったんだって。



60 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 04:59


「ごめんね…柴っちゃん…ごめん…」


抱きしめたりしたら、嫌がられるかなって思いながら。
おそるおそる、そっと腕を回すと。

一瞬びくっとして、でもそのまま、おとなしくうちの腕の中に収まってくれた。


「…好きなんだ…柴っちゃん…ごめん…」
「………」


普段のうちらの関係だったら、絶対、言えなかったと思う。


でも、このときの彼女は、なんだかすごくちっちゃくて。


うちが、守ってあげなきゃなんて、ガラにもなく、立場もわきまえず。
思ってしまったから。



61 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/04(土) 05:00


「…つきあってください、柴っちゃん。…うちと。」
「…いい、よ…?別に…」


泣きながら言う、「別に」には。
いつもの迫力なんて、全くなくて。




君を泣かせてしまったのは、このときと。
あの、修学旅行の夜だけだったね。


でも、二度目の涙はもう。

とりかえしがつかない、ものだったから。





62 名前:ツースリー 投稿日:2004/12/04(土) 05:17
以上、第4話です。

>>36 プリン さま
タコ焼きお買い上げ&レスありがとうございますw
これからも、どうぞよろしくお願いします♪頑張りますぜぇ!

>>37 前スレの458 さま
レスありがとうございます!またお会いできて、本当にうれしいです。
これからもがんばりますので、またよろしくお願いします♪

>>38 もも さま
こちらこそまたお会いできて幸せです♪パソコン、調子はいかがですか?
大変な中、早速レスをいただき、ありがとうございます。これからもよろしくです!

>>39 名無飼育さん さま
ケータイからのレスということで、ありがとうございます!
夜中のタコ焼きっておいしいですよねwこれからも、どうぞよろしくお願いします♪
63 名前:プリン 投稿日:2004/12/04(土) 14:56
更新お疲れ様です♪
柴ちゃんかわええーwトマトデターw
クッキー食べたくなってきちゃったな…w
2度目の涙はなんなんだああああー。めっちゃ気になりますね。
次回の更新待ってます!
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/05(日) 16:53
遅くなりましたが、新スレおめでとうございます。

また作者さんの吉柴が読めて幸せです(*´Д`)

今回の二人には過去に何があったのか気になるところですね。またーり続きを待たせてもらいます。
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/07(火) 21:26
うーん、切ない。二度目の涙が気になるところ。
次回も楽しみにお待ちしております。
66 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:47



原因は、君じゃなかった。

あの頃、変わってしまったのは。

二人の関係を壊し始めたのは。



うちだった。




「うっひゃっひゃ〜♪あぁいい気分だなぁ〜♪」
「ごとぉーもぉ〜♪」
「あわわ…言わんこっちゃない…ふ、二人とも、ちゃんと歩いてよぉ〜あぁ!!
ミキティ!そこフロントだから!座っちゃだめ!!すいません、チェックインを…」



67 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:47


ラストオーダーになってお店から追い出されるまで飲み続けていた二人は、
もう見るも無残な千鳥足で。


うちもなんだかんだミキティに結構飲まされたから、普段よりも酔ってたりしたり。
でもこの状態ではとてもじゃないけど恐ろしくて、自分までつぶれることはできない。

「ほらぁ〜もうミキティ、ごっちん〜頼むよぉ〜」

ふらふらと行ったり来たりしている二人を捕まえながら振り返ると。


柴っちゃんって…結構お酒強い?
ご迷惑をおかけして…なんて謝りながら。
彼女がお店のお会計をしてくれていた。

「あ、ごめん柴っちゃん。待って今お金…」
「ぅおえ。…吐く…」
「ご、とぉ…も…」



68 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:48


「えぇぇ!!ちょ、だめだって!!ま、待って、今部屋行くから!
柴っちゃん頼む!手伝ってぇ〜」


こんなところでリバースはまずいから!!
怒られるから!
さっきのから揚げが出てくるとことか見たくないから!!


慌てて二人を引きずり、エレベータにのせ、今日泊まる予定の部屋に運ぶ。

「ぶぉえ…と、トイレ…」
「…ごとぉもぉ…」

酔っ払い同士の二人は息もぴったりと。
一つしかないトイレを奪い合い、せっかくさっき食べたばかりのものを吐き出していた。


ふ〜…とりあえず一安心…


「…なんでひとつしかないの?」
「へ?」


部屋に入った柴っちゃんに突然話かけられ、驚いて振り向く。



69 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:50


「え…トイレ?普通ひとつじゃない?」
「…ベッド。」
「え?あれ…ほんとだ。」

今日、うちとごっちんが泊まる予定だったのは二人部屋のはずなのに。
渡されたカギの部屋は、ベッドひとつの、一人部屋のようだった。

「…手違いかな?ちょっとフロントに電話してみる。あ、すいません、
あの〜部屋がですね、二人部屋のはずが一人部屋になってて。
ベッドがひとつしかないんですけど…あぁ、はぁ…」
「…なんて?」
「やっぱ間違いだったみたい…今日は二人部屋いっぱいだから、もうひとつ、
一人部屋用意するか、ここだけでいいなら、料金安くしてくれるって。」
「…ふぅん。どうするの?」
「う〜ん、うちは別にごっちんと一緒寝てもいいけど。お金安くなるんだったら。
そのういたお金でなんか京都の名産でも買って…」

そうそう、家族にお土産も買ってかなきゃいけないし…なにがいいかな…八橋とか?



「…でも、もう寝てるけど。二人。」
「えぇ?!ありゃりゃ…あ、もしもし?すいませんやっぱりもう一部屋追加で…」


ベッドを見るとごっちんと一緒にミキティが、
もうすやすやと眠りについていた。

さすがに三人は寝れないもんな…

まいっか。



70 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:51


「ははっ。ミキティに先越されちゃったかぁ〜」

別に深い意味なんてなく。
ただ仲良く眠る二人を見て、ほのぼのと、そう言っただけなんだけど。


「…そんなに後藤さんと一緒に寝たかったの?」
「へ?!」

…なぜか彼女は違うふうにとったみたいで。


「い、いやそんなつもりじゃ…そういう意味じゃないよ?!」
「…ごめん、変なこと言って。」



…あれ…

おかしい。
彼女がなんていうか…そういうビミョーな質問を。


するはずなんてないのに。



71 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:52


いやでも、うちが知ってるのは高校時代の彼女で。

…それさえも、どこまで、わかっていたのか。



だから、今目の前にいるこの人を、知ってるような気になっちゃいけない。

…たとえ昔、恋人同士だったからって。


いや、なによりもそのことを。

今は、忘れなきゃいけない。


そんな気がしていた。





72 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:52



「だぁ〜!!く、クラスがぁ……」
「…そりゃあ違うでしょ。9クラスもあるのに、また一緒なんて。めったにないよ。」

いやまぁそうだろうけど…
そんな冷静に言わなくたって…。


高校2年のクラス替え発表。

柴っちゃんとうちは、それぞれ違うクラスに、バラバラになってしまった。


「もう一緒にお弁当食べれないんだね…」
「よっすぃ〜いっつも早弁してて、一緒になんか食べなかったじゃない。」
「あぁ、授業も一緒に受けれないなんて…」
「…寝てて授業なんか聞いてなかったくせに。」


あ、あのさぁ…柴っちゃん…
…ちょっとは寂しいとかないの?!



73 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:54


だって確実にさぁ、一緒にいる時間減るんだよ?!
離れ離れなんだよ?!!おぉロミオ〜ジュリエットぉ〜

「別に。同じ校舎の中だし。」
「はぁぁ…そんなぁ……」


あの文化祭の日から、付き合いだしたものの。

これといって、うちらの関係が変わるようなことはなくて。


お互いに、愛の言葉をささやくわけでもなく。
相変わらずいつもどおりのやり取り。


君はちょっと冷たくて、うちはとことんおバカで。



74 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:54


でも、それはそれでよかったんだ。
そのままでいられたなら、それはそれで。



あのとき君は、クラスが違うくらい、なんてことないって、別にって言ったけど。


今、振り返ると。
うちらにとって、なによりも大きな、大切なことだったと思わない?


きっとこれが。
まず一つ目の、引き金になったんだから。




75 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:55



「すぅ…すぅ………」

い、いつまで寝てるんだ?この人は…

いや、うちだって授業中寝るときあるけど、こんな堂々とは寝ないぞ?!



新しいクラスの、自分の席に座ってから、もう一時間。

隣の席の栗色の髪をした女の子は、全く動こうとしない。

まさか死んでるんじゃ?!って思ったけど、寝息は聞こえるし。

「…んははっ…むにゃ………」

た、たまに笑ったりするし…


怖いよぉ…


こんな子が隣なんて…うちってなんてついてないんだ…柴っちゃんとも離れちゃうし…
柴っちゃぁ〜ん!!ハニぃ〜〜!!



76 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:56


結局その子がそのままの状態で、ホームルームが終わって。
周りのみんなが帰りだしても、女の子は寝たまんま。


ど、どうしよう…学校終わったし…起こしたほうがいいのかな…?

「あ、あのぉ…も、もしもし?学校終わりました…よ?」
「………」
「も、もしも…」
「んあぁ!!!」
「うわぁぁ!!!?」

突然パチっと音がするくらいの勢いで目を明けられて、びっくりしてざざざと後ずさり。



「…んぁ。よく寝たぁ〜…あれ、誰?」
「あ、あの…隣の席の…ものですが…」
「んあ?隣って…じゃなんでそんな離れて座ってんのぉ〜?」



77 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:57


驚きすぎて、うちは教室の隅っこまで移動してたみたいで。
慌ててもとの自分の席、彼女の隣に舞い戻る。

「あ、どうも隣の…吉澤です。えぇっと…」
「どうもどうも。ごとぉは後藤ですぅ〜…あ、もしかしてよっすぃ〜?」
「はいはいよっすぃ〜で…えっ?!なんで知ってるの、うちのこと…」
「だって有名じゃ〜ん。バレー部のよっすぃ〜でしょ。あはっ。人気者の隣かぁ〜
いやんごとぉうらまれちゃーう。」
「いやいやそんな人気者だなんてぇ〜そう?やっぱり?まいったなぁ〜」


そんなに強くない、うちのバレー部では、去年1年だったうちでも充分通用しちゃって。
すでにエースをまかされ、いわばバレー界期待の星、なわけですよ〜。


でも知らない人にまで噂が広がってるなんてぇ〜
やばいなぁ〜おっかけとかでてきちゃったらどうしよぉ〜


「…あれ、想像と違うな…ちょっとバカ?」
「そうそうちょっとね♪ってば、バカ?!」
「あはっ。ウソウソ。」



78 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:58


「…後藤さん…ほめるかけなすかどっちかにしてよ…リアクションしずらいじゃん…」
「ははっごめんごめん。あ、後藤サンなんてやめてよ〜ごっちんとかごっちゃんとか、
ごちゃまぜとかでいいよ〜私もよっすぃ〜って呼ぶしー。」
「ご、ごちゃまぜ?!…じゃあごっちんで。」
「ok〜♪起こしてくれてありがとね。いや、前のクラスなら誰かしら起こしてくれた
からさ、つい安心して寝ちゃってて。
 よっすぃ〜起こしてくれなかったら明日になってたかも知れないよぉ。
助かった助かった。これからはよっすぃ〜が後藤の目覚ましだね♪」
「なんじゃそりゃ?!まぁいいや、わかったよ…じゃあうち部活行くから。
ごっちんも寝ないで帰るんだよ…」
「おぉ〜これからもよろしくね、目覚まし兼新しいお友達のよっすぃ〜♪」
「兼ってなに?!てか目覚ましのが先なの?重要なの?!」


…むしろ想像と違ったのはごっちんのほうで。
堂々と寝てた姿と、キレイに染まった髪の毛から、ちょっと怖い人かなーなんて思った
けど。


どっちかというと、ちょっととぼけた感じの人らしくって。



あのときはまだ、こんなに親しくなるとは思ってなかったけど。

でももしこのとき、ごっちんと出会えていなかったら。
うちは残りの高校生活、きっと過ごすことはできなかった。



79 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:59


だって柴っちゃんのいない毎日は。
辛くて苦しくて、きっと耐えられなかったから。




「…んでさーずっと爆睡してんの!!だからこううちがびしっと注意したわけよ、
君、学校で寝てちゃダメじゃないか!ってね。」
「…へー。」
「そしたらごっちんも…あ、その寝てた子ね。ごっちんも、ごめんなさい吉澤さん!
私吉澤さんについてきます!なーんて言って…」
「ふぅん。」


その日の二人の帰り道。
今日の出来事を、早速柴っちゃんに報告して。
…多少、大げさにしてますが。



80 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 04:59


いつも部活が終わると、うちは図書室まで猛ダッシュして。
居残って勉強している柴っちゃんを迎えにいって、一緒に帰ることにしてた。


ほんっとに彼女は勉強家で。
うちの部活がどんなに遅くなっても、彼女が勉強を切り上げて先に帰ってること
なんてなくて。
うちが迎えにいかなきゃさ、ほんといつまでも勉強してんじゃないの?なんて。


バカで子供だったうちは、いつも思っていたもんだ。


「今日もタコ焼きおいしかったね。」
「そぉ?裕ちゃん最近ぜってータコの量減らしたよ。いや、もしかしたらうちにだけ
ちっちゃいタコ入れてるとか?!」
「いつもおまけしてもらってるじゃない。そんなことで文句言わないの。」
「いてっ。」


隣を歩いてる柴っちゃんの、遠いほうの手で、おでこを叩かれる。
…だって近いほうの手はうちとつないでるからさ♪



81 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 05:00


普段、学校とかじゃ、ふざけてもうちとくっついたりはしない彼女だけど。
もしそんなことしたら、絶対ぶたれるけど。

駅を降りて、彼女の家まで歩く道のりは。
そっと手をつないでも、怒られたりすることはなくて。


これがいつもプチゲンカしてるみたいな、あまりいちゃいちゃしないうちらの関係の。
唯一の、カップルらしい一面だったりして。


…あ、あともうひとつ…


「じゃあ…」
「うん。送ってくれてありがと。」
「いえいえ。…柴っちゃん………」
「……ん。」


いつもどおり帰り際にキスをすると。
唇を離したあとの彼女は、これまたいつもどおりムスっとした、不機嫌な顔で。



82 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 05:01


最初のうちは、その顔を見て、え、嫌だったのかな、しちゃだめなのかな、
なんて思ったけど。


でもじゃあそのまま何もせずに帰ろうとすると、もっともっとムスっとした、
ほんとに不機嫌な顔になるから。


…あぁ、照れ隠しなのかなぁと、いう結論になり。自分の中で。


直接確かめたことはないけど、イヤだってわけじゃないのかなって。


だから、最後に、うちがお別れのキスを彼女にすることは。
もちろんしたかったからだし、ちょっとした習慣になってたからもあったけど。

それを確かめるための、ものでもあったのかもしれない。



いや、でも、ほんとうに幸せだったんだ。
毎日の、君との、バイバイのキスは。



83 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/13(月) 05:02



ただ、もし君が。

こんなとき、「キスしてほしい」って言える子だったら。



もしうちが、
たとえそう言われなくても、それを分かってあげられるくらい、大人だったなら。



二人とも不安を隠すために、こんなふうに。
毎日、確認のキスをする必要なんて、なかったのに。


そして、きっとあのとき。

別れる必要も、なかったはずなのに。





84 名前:ツースリー 投稿日:2004/12/13(月) 05:10
以上、第5話です。

>>63 プリン さま
いつもありがとうございます!!トマト…ダシチャッターw
クッキーもぜひ食べちゃってくださいwまたよろしくお願いします♪

>>64 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!こちらこそ、また読んでいただけるなんて、
幸せです(*´Д`)これからもどうぞよろしくお願いします♪

>>65 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!二度目はもう何回か先…の予定ですw
どうぞこれからもよろしくお願いします♪頑張ります!
85 名前:プリン 投稿日:2004/12/14(火) 18:06
更新お疲れ様ですw
し、柴ちゃんが可愛いんですけど(*´Д`)
これからもどんどん可愛くしてくださいw(爆
次回の更新も待ってますー。
86 名前:プリン 投稿日:2004/12/14(火) 18:06
更新お疲れ様ですw
し、柴ちゃんが可愛いんですけど(*´Д`)
これからもどんどん可愛くしてくださいw(爆
次回の更新も待ってますー。
87 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:04



君に、相談しなかったんじゃない、できなかったんだ。

しなきゃ、いけなかったのに。



「こらぁ!!おまえ、なにをモタモタしてるんだ!さっさと走れ!!」
「す、すいません…」
「周りの足をひっぱってることがわからんのか!!おまえみたいなヤツは、
さっさとやめちまえ!!」


2年になってから、バレー部のコーチが変わった。

新しく来た先生は、結構年のいった、体格のいい、熊みたいな先生で。
…どうも、前の学校を、何か問題を起こして、やめさせられたらしいんだけど。


それを反省してる様子もなくて。

うちらに対しても、体罰すれすれの、行き過ぎた指導をすることがたびたびあった。



でも最近は特に、うちと同じころに一緒に入部した、隣のクラスの補欠の子ひとりに。
ターゲットをしぼっているようだった。



88 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:05


「おまえ、居残ってそうじだ!他のものは帰っていいぞ!帰れ!!」

みんな、その子をちらちら気にしつつも、自分までとばっちりを受けるのはやっぱり怖い
のか。
重い足取りでその場を去っていく。


「おい吉澤、おまえはなんで帰らないんだ?」
「あ、いや…もうちょっと、サーブの練習をしてから…帰ります。」
「…ふんっ!!」


おもしろくないというのを、明らかに顔に出しながら。
どすどすっと下品な足音を立てて。
その先生は去っていった。


「…ごめんね、よっすぃ〜…ありがとう。」
「ううん。あ、早くそうじしちゃおうよ、てきとーに♪」


たしかにその子は。
うまいほうじゃない、技術的には、みんなより劣るかもしれない。



89 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:06


だけどもともと、うちのバレー部だって、そんな強いわけじゃないし。
学校だって、スポーツに力なんて入れていない。
どちらかといえば、勉強のほうが。
受験のほうが大事だって学校だし。

それにうちらはプロじゃない、まだ成長途中の、高校生なんだ。

だから下手だなんて理由で、この子が辛くあたられる必要も、
部活をやめる理由も、ないじゃないか。



でも、じゃあなんで。
それをうちは、堂々と言えないんだ。


なんで、一緒にそうじするために残りますって。
はっきり言えないんだよ。


…サイテーだ。




「…具合でも悪いの?」
「………え?なんで?」
「ん、なんか元気ないし。」
「あぁ…んと…」



90 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:08


普通にしてるつもりだったけど、できてなかったらしい。

帰り道、隣を歩く柴っちゃんに、指摘されてしまって。


相談、するべきだろうか。
するべきかもしれない、だって彼女はうちの変化に気づいて、心配してくれていて。


それに

一応…恋人、なんだし。


でも。

「んと…なんでもない…あぁ、タコ焼き食べ過ぎて、ちょっと気持ち悪くなったのかも!」
「…もう。ならいいけど。」


なんでだろうな…言えないんだ。


ほんとは、この気持ち悪さは、さっき食べた裕ちゃんのタコ焼きのせいなんかじゃないって。

すげー悩んでるんだって、困ってるんだ、助けてほしいんだって。


きっと、彼女なら、冷静な答えをくれるのに。


でも、うちは今。

冷静な答えなんて、全然望んでなくて。



91 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:09


前までは、こんなことなかったのに。
いや、気づいてなかっただけだったのかな。


クラスが替わり、以前とは違い、遠くから君を見るようになって。

その差を、改めて思い知ったんだ。


知ってるかな。
テストの結果が張り出されれば、君と話したこともない人みんなが、君の名前を口にする。
すごいとか、また一番だとか。



思い出すんだ、入学式のとき。

君は壇上で、りりしく、堂々としていて。
うちはその下で、輝く君をボーっと見上げてる。

それが、わかりやすくいえば、うちらの差だった。


ごっちんは、うちが人気者だなんて、バレー部で有名だなんて言ってくれたけど。


とても、そんなのとはわけが違う、君の注目度は。


そんな君が、そばにいるときは。
なんていうかちょっと自慢で。
どうだ、すごいだろうなんて、なぜかうちまで胸をはれていたけれど。



92 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:10


離れてしまったら、ダメなんだ。

すごく、うちには遠すぎる人に思えて。


いや、ほんとは、そんなんじゃない。

そんなもんじゃ、ない。



…劣等感を感じてるんだ、君に。
もう随分前から。


ただ、嫉妬してる。
同じ、一人の高校生として。
人間として。


恋人である、大好きな、大切な、君という存在に。



93 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:11


だから、弱みをみせられなくて。
恋人として、カッコつけたいってのも、あったけど。

それ以上に、なんだか負けたくなかった。



子供なら、子供のままでいればよかったのに。

変なプライドを、覚えてしまったんだ。
君と、離れてる間に。




「…んあ?やめるって…バレーを?」
「…うん。」



94 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:12


ごっちんになら言えてしまうのは。
今や、ごっちんがうちの一番大切な友達だってことはもちろんだけど。

…劣等感を感じないせい。
変なプライドがジャマをしないせいでもあった。


それは、ごっちんが特別頭がいいわけじゃないからとか、そういうんじゃなくて。


…そもそも、柴っちゃんに対する劣等感だって。
うちが勝手に思ってるだけだ。
誰かに比べられたわけでもないのに。


君がうちを、そんなくだらない目で見ていないことも分かってるのに。


「でもよしこ…エースじゃん。やめちゃっていいの?」
「んっと…だからこそ、っていうか。」
「むぅ?」


うちの中で出た答えは。
先生がやめろと簡単に言うのは、あの子が補欠だからで。



95 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:13


もし、うちが辞めるといえば、先生はきっと引き止める。
一応、エースだし。

そんで、じゃあ彼女にきつくあたるのはやめてくださいって言えば。
今回のこと、解決するんじゃないかって。


…浅はか、かな。
根本的な解決にはならないし。
ギクシャクした雰囲気は、もっとひどくなるかもしれない。


でも、このまま。
卑怯なままで、いたくないんだ、うち。


「…よしこがそう思うなら。それでいいんじゃない?きっと、その子のためになるよ。
がんばれぇ〜。」
「ありがとう、ごっちん。」


やっぱり思っていた通り。
ごっちんは、うちの望む言葉をくれた。



96 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:14


そこでまた考える。
もし、彼女に言っていたら。
どうなっていたのかな。


きっと他の先生に言うべきだとか、PTAに相談しようとか。
おそらく理想的な、正しい意見を言ってくれただろうな。


でも、今、うちは。
正しくない自分の意見を、押し通したくて。

だけどその勇気がないから、背中を押してほしかったんだ。


それはほんとうは、誰より、君に押して欲しいけれど。


なのに、もううちは
心から君を、信じていられなくなっていて。



やっかいだ、このプライドってヤツは。



97 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:15


「…やめる?部活を、おまえがか?」
「…はい。」


その日の部活で、うちは先生に直接、部活を辞めるといった。

辞める気なんて、ほんとはなかったけど。


「…おまえ、まさか俺に対してなにか不満があるのか?それが理由か?どうなんだ。」
「………」

おそらくこの先生は、うちの意図を読み取っていた。
そして、笑って言われたんだ。


「まぁいい。おまえの代わりなんていくらでもいる。辞めていいぞ、お疲れさん。」


頭の中で。
悲鳴が聞こえた。



98 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:17


うぬぼれてたんだ。
弱いうちのバレー部には、うちはきっと大きな存在だって。
…その弱いバレー部からも、必要とされていなかったのに。


恥ずかしさと悔しさで。
その場を走り去ることだけが、残された方法だった。



乾かさなきゃ。
泣いて濡れた顔で、図書室に彼女を迎えになんていけない。


そんなの、この壊れたプライドが許さない。



99 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:18


「ごめーん柴っちゃん、遅くなって。」
「別に。って…なんでジャージなの?」
「え?あ…」

走って体育館を出てきて、そのまま来たから。
部室のロッカーに、制服は脱いだままで。



しまった、もう。

なんでもない、いつもどおりだよでは、すまない。


「…やめてきたんだ、部活。」
「…え?」


この先、いつまでも隠しておくわけにはいかないし。
言うしかなかった。
しかたなかった。



100 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/17(金) 05:19


なんで、どうしてって
絶対、聞かれると思ってたのに。


「…そう。」


彼女はそういっただけで、うちの制服を取りに行ってくると、図書室を出て行った。



なんでわかったんだろう。
もう、うちが部室に行きたくないってこと。


なんでバレてるんだろう。
今、何も聞かれたくないってこと。



このとき、彼女という人の、本当の優しさに気づいていれば。

そしてそれを、素直に受け止められていたら。


君を傷つけずに、済んだかもしれないのに。





101 名前:ツースリー 投稿日:2004/12/17(金) 05:23
以上、第6話です。

>>プリン さま
いつもありがとうございます♪柴ちゃん…可愛くなぁれ、可愛くなぁれ…w
次回もがんばりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします!!
102 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:02


はぁ。

…することがない。

なんも、することない。

うちって、こんな空っぽな人間だったんだ。


「よしこぉ〜。まだ帰らないの?」
「あ…うん。ちょっと用事あるからさ。また明日ね、ごっちん。」
「…んあ〜。じゃあねぇ〜。」


バレーをやめてから、毎日こんな生活。

長くてつまらない授業を、ただ、ぼやっと受けて。

君との帰りの待ち合わせの時間まで、だらだらと、無駄に時間が過ぎるのを待つ。



103 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:03


バレーをやってたころから、授業なんて毎日何時間もあったけど。
なんでいきなり、こんなつまんなく感じるようになったんだろう。

バレーをやってたころは、君と会うのが待ち遠しかったはずだけど。
なんで最近、ちょっと気が重いんだろう。



そんなに重要じゃないと思ってた。
プロを目指してるわけじゃないし、第一、身長も足りないし。
高校生活の部活動なんて、暇と若さをもてあましている、この身をひとまず置くための。

それだけのものだと。

思っていたのに。



あぁ、リストラされたサラリーマンって、こんな気持ちなのかなぁ。
やるせないよなぁ。

その上、うちみたいに、奥さんが出来過ぎた人だったりしたらさぁ。
まじ、余計つらいって…


…奥さん…かぁ。…いいなぁ、それ。


「お。そろそろいいかな。」

バカな想像をしていたら、ありがたいことに時間は過ぎてくれて。


「奥さん、帰ろう。」
「…はぁ?」

図書室に迎えにいくと、やはり職を失った亭主は、冷たくあしらわれるのであった…



104 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:04


…って。
んなこたぁない。

「ごめん、うそです。柴っちゃん、帰りましょう。」
「…ん。」


口調は相変わらずだけど、柴っちゃんは、そこいらの鬼嫁さんとは違って。
なんの取り柄もなくなったバカ旦那のうちにも、変わらず接してくれる。
それよか、前よりも、少し優しくなった気もして。

でもそれって。
いや、うれしいんだけど。

やっぱ気ぃ使われてんだなって。
思っちゃうし。
ちょっと、苦しかったり。



「…よっすぃ〜…今まで何してたの?」
「え?あー…教室でボーっと…い、いや!勉強してた、勉強!!」
「…うそばっか。」
「はい、すいません…。」



105 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:05


「…ねぇ。よっすぃ〜早く帰れるようになったんだし、これからは早めに帰ろうか。」
「え?いいよ、いいよ。そんな、柴っちゃん、うちに時間合わせることないよ。」
「でも…これじゃよっすぃ〜が私に合わせてるでしょ?」
「だ、だけど…」

ほら。
こういうのが。
こういう、気ぃ使わせてるって感じが。

つらいんだ。


何も言えない、うちに。柴っちゃんは、さらに気を使ってくれた。

「…別に…無理に待ってなくてもいいよ?よっすぃ〜…先帰っててもいいよ?」
「…そう…。わかった、じゃ、…そうする。」



106 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:05


なんでもないみたいに言ったけど。
ほんとは、すごくショックを受けた。
先に帰っていいというのは。
つまり、君はもう、うちと一緒に帰らないということで。

そんなのいやだ、無理なんかじゃないって、言いたかったけど。
うそは、つけなかった。


することもないのに、放課後の教室に残ってると。
あー今ごろみんな部活やってんのかなーなんて、結局思ってしまって。

正直、無理してないとは言い切れない。


…待ってることだけじゃなくて。

ほんとは、君と、こうして一緒にいることも。



107 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:06


劣等感は、部活をやめてから、もっとひどくなって。

君を好きだと思えば思うほど、自分に対する歯がゆさがつのって。



でも、
それでも、一緒にいるべきだった。

君がなんて言っても、たとえ、嫌がったとしても。

やっぱり、一緒に帰っているべきだったんだ。


「…んあ、じゃあね〜よしこ。」
「あ、待ってごっちん!…うちも一緒帰るわ。」
「んえ?いいの?帰っちゃって。」
「…うん。もう…いいんだ。早く帰ろうよ。あ、それともどっか寄ってく?」
「おぉ〜じゃあカラオケでもいこぉ〜♪」
「うん!」



108 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:07


頭の中の。
バレーと、柴っちゃんで埋まっていた部分を、
他のもので紛らわすように。


それから段々ごっちんや、他の友達と遊ぶようになって。
つらいことや、思い出したくないことは、考えないように。
穏やかなフリをしただけの生活が、しばらく過ぎて。



「…よっさぁ〜ん。最近、なんで柴田と一緒におらんの?」
「え?…なんでって…言われても。別に。」

久しぶりに、タコ焼きを食べに行ったら。
裕ちゃんに、いきなりそんなことを聞かれて。


「あんた部活やめてから、うちにもあんま来てくれへんし。冷たいなぁ〜。
柴田はいつも来てくれてるんやで?そやけど、一人でさみしそうでなぁ。
どうしたん、あんたら。ケンカでもしたんか?」
「ケンカなんて…してないよ。…するわけないっしょ。」



109 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:07


あれ以来、君とろくに会話もしていないんだから。
ケンカなんて、できるはずもなくて。


「あんた浮気ばっかしてへんと、ちゃんと相手しぃや〜」
「う、浮気なんかしてないよ!!それに…別々に帰るって言い出したの…柴っちゃんで…」
「ほえ?あ、違う違う!よその店で浮気してないで、うちのタコ焼き食いに来いって
意味やで?」
「え?!あ…」
「…ムフフ。そぉかぁ…よっさんと柴田…いや前からそうかなぁなんてな…ムフフ。」
「う、うるさいな!もう帰る!!」
「帰るん?ほなさいなら〜たまにはお二人さんでおいでや〜♪」

あぁ、しまったぁ〜…裕ちゃんに…
余計なことがバレてしまった…


でも、それにしても。
柴っちゃんが…さみしそうだったって。
…ほんとかな。



110 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:08


あれから。
一緒に帰らなくなったら。
クラスも違うし、めったに会うこともなくなって。


休みの日とか、誘おうかとも思ったけど。
考えてみたら、それまでいつも、うちは部活だったから。

土日、二人でデートなんて、したことなくって。
どうやって切り出せばいいのか、わからないし。
…恥ずかしいし。


それに、ごっちんといると楽しくて、リラックスできて。
…つい、楽なほう、楽なほうへと逃げてしまっていたのもあった。



こんなんで、うちら。
まだ、つきあってるとか言えるのかな?

君はまだ、
うちを好きでいてくれてるの?



「んあ、よしこぉ〜」
「あ、ごっちん、ごめん。今日はちょっと残ってく。先帰っててくれる?」
「おぉ?そっかぁ。んじゃ、明日ね♪ばいばいーん。」
「うん、バイバイ。」



111 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:09


ちょっと浮かれてたんだ。
だって君が、さみしそうなんて、裕ちゃんが。

だから、久しぶりに迎えにいってみようかな、なんて。
喜んでくれるかな。
それとも、また別に、なんて言われるのかな。


遠足に行くみたいにわくわくしながら、図書室に向かった。



やっぱり、そこに、君はいたけど。

でも、いたのは、君だけじゃなかった。


「あ…」
「…?!よっすぃ〜?どうしたの?」
「え、いや…その…」


君がいつも座っていた場所に、君と、もう一人。



112 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:10


知らない子が座っていた。

「よっすぃ〜…?あぁ、よっすぃ〜か!そっかそっか〜♪あ、あゆみ、そういえば美貴
ちょこっと用事あったんだよね〜。てことで、じゃ、また明日ね〜」
「え、あ、美貴?」


うちと、柴っちゃんに、交互に手を振って。
その子は笑顔で去っていった。

顔がとても小さくて、モデルさんみたいにキレイな女の子だった。


その子がいなくなって、
改めて、二人になったところで、君にもう一度聞かれた。

「よっすぃ〜…どう、したの?」
「いや、あの…ちょっと今日遅くなって…柴っちゃん、まだいるかなぁと思って…」
「…そうなんだ。」



113 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:11


どうしよう…やっぱり来ないほうがよかったかな。


突然で、驚いたのか、それとも…さっきの子のことが気になるのか。
君はあいまいな、複雑な表情で。

さっき…あの子。

…あゆみって
呼んでた、な。


「じゃ…一緒に帰ろうか?」
「え、あぁ…うん。」

あぁやっぱり来なきゃよかった。
だって、ほら、結局また。
君に、気を使わせてしまって。



114 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:11


久しぶりの帰り道は、なんだか気まずい空気のまま。
君は、タコ焼き寄ってく?って言ったけど。

…そんな気分じゃなくて。

お腹いっぱいだからいいやって言うと、そうだねって。

てことは、ほんとは君も。
タコ焼き食べれるような気分じゃなかったんだね。


「…じゃあ。」

ろくに話もしないまま、君の家まで着いて。

そのまま、帰ろうとすると。



115 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:12


「え?…あ…うん。」
「…?」

なぜか君は、戸惑った表情で。

なんでだろうって考えると…思い出した。


そうだ、それまで、こうやって彼女を送ったときには、最後にいつも。
お別れのキスを、していたんだった。

「な、なんでもない。じゃあね!また、ね。」


うちがそれを思い出したことに、君も気づいて。

珍しく慌てたように、必死に、なかったことにするように、その場を取り繕うとする
彼女が悲しかった。

こんな大切なことを、忘れていた
自分が悲しかった。



116 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:12


…たまらなくなって。

彼女の手を強く引っ張って、道の間の、影になっている狭い隙間に連れ込んで。

「よっすぃ……んぅ!!」


初めて彼女に
深く口付けた。


「…んぅぅっ…んんっ…んぅ」

こんな乱暴なことして、申し訳ない、彼女がかわいそうだって、思うのに。

「……ふっ…ぅ…うぅ…」

動かし方を知らない、不器用な彼女の甘い舌に。
思いやりよりも、性的な興奮を刺激されてしまって。



117 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:13


右に、左に、何度もイヤがるように首を振って離れようとするのを、執拗に追い詰めて。

とうとう、腕を押さえていた手で、彼女の両頬をつかんで。


逃げられないんだって、君はうちのモノなんだって、
思い知らせるように。確かめるように。

ただただずっと、口付けていた。



君に劣等感を感じ始めてから。
おそらく、これが初めてだったと思う。
精神的に、優位に立った気がしたのは。

でもちっとも気持ちのいいもんじゃない。



118 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2004/12/23(木) 05:15


唇を離したあと、君は、それまでと同じように。

あの頃、毎日一緒に帰っていた頃にしていた、甘いキスの後と同じように。


ムスっと不機嫌に、うちをにらもうとしてくれたけど。

おびえた目の色を、隠しきれていなくて。



そんな姿を、うちは見たくなくて。


強く抱きしめると、珍しく君も、ぎゅって抱きついてきたから。

ひょっとして君も、うちの顔を見たくなかったのかな。



ねぇ、もしそうだったなら、柴っちゃん。



このときうちは。

どんな顔をしていたの?






119 名前:ツースリー 投稿日:2004/12/23(木) 05:16
以上、第7話です。
120 名前:プリン 投稿日:2004/12/23(木) 12:14
更新お疲れ様でやんすw
ぬおおおおおおおおーw
どーなるんだろ…うーん楽しみw
次回の更新も待ってます。
121 名前:37 投稿日:2004/12/23(木) 17:51
更新お疲れ様です。
・・・・・悲しいっす。痛いっす。
願うは二人の幸せです。
次回更新も楽しみにしています。
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 18:35
切なくて胸が痛くなりました
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/28(火) 11:37
作者さんの描くよししばにハマりまくりです
124 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:07


対等でいたかった。


友達だったなら、そうじゃなくてもよかったんだ。

たとえ、ごっちんがうちより勉強ができても、スポーツができても。
すげーって素直に思えたろうし、そのがんばりを一緒に喜ぶこともできたかもしれない。


だけど、好きな人には。

自分が、すごいって思われたくて。
自分のがんばりを、見せたくて、喜ばせたくて。


でもうちには、人より特別に優れているものなんて、これといって。


怖かったんだ。
うちばかりが、君のことを好きになっていくと思った。



―――ほんとは、対等でいたかったんじゃないんだ。
君に、うちよりちょっと下にいてもらえたら―――


そしたらきっと、

うちは君を幸せにできたのに。



125 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:08


「高校…卒業してから。よっすぃ〜は、どうしてたの?」
「え、う、うち?」


ミキティが眠ってしまったから。
柴っちゃんも、一人で帰るわけにはいかないのか、部屋に残っていて。

さっき、ホテルの人が、うち用に隣の部屋を用意してくれたんだけど。
一人でそっちに行くのも、これまたビミョーかなと思って。


ずっと続いていた長い沈黙は、朝まで終わらないのかと覚悟していたけど、とりあえず、
それはなかったみたいで。


「うちは…まぁバイトとか…してて…いわゆるフリーター…みたいな。」
「…そう。なんか…したいこととか、ないの?」
「ん、どうだろう…ないってことも…」

『ぐお〜…グワワァ〜〜!!!』



126 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:09


「んげ?!」

ちょ…ミキティ?!ごっちん?!
イビキうるさすぎなんですけど!!!?

まいったなぁ…まったく…

「…あ、それでね、えぇと、一応、バイトしながらコツコツお金も…」

『…ガァ!!ぐぁぁ〜…』

「だぁ!!うるさいっ!!!」

この…飲んだくれ二人組がぁ!!これじゃ、…真面目な話とかさぁできないじゃん!!!

せっかく柴っちゃんと何年ぶりかの会話でさ、
いや、もうこの先二度とあるかどうかもわかんないっていうのに…



127 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:10


「あ、あのさ、柴っちゃん。ここじゃ二人マジうるさすぎだからさ。隣行かない?
さっきカギもらったし。」
「…うん。」

二人に布団をかけていた柴っちゃんもうなずいてくれたので、
荷物を持って、隣の部屋に移動した。



さっきと同じ間取りの部屋なんだけど。

さっきとはまるで違う静けさのせいで、
なんだか、ここは現実じゃないような気がしてくる。


だってもう二度と。
君と二人になることなんて、ないと思っていたし。



128 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:12


――――――――――――――――――――――――――――――


あれから、うちはもう図書館には行かなかった。
…行けなかった。


あの頃いつも、ずるくて弱い誘惑に悩まされていた。

大切なモノを、人を。
失う悲しみは大きいだろうけど。
でもそれを失うかもしれない、なくすかもしれないって思う不安の方が。

うちにはずっと。
怖いものだったから。


なら、もう、いっそのこと。
自分からその手を離してしまいたい、遠くに行きたいって、何度も思った。

だけど、そんな勇気、やっぱりうちにはなくて。
本当に君を失いたいわけ、なかったし。


これじゃいつまでたっても、あいまいな。
苦いキスをするだけの関係が続くだけで。

このままでいいはずがない。
そう、思ってた。うちも、君も。


だから、君があの修学旅行の夜、答えを出してくれてよかったんだ。

うちじゃ、いつまでたっても逃げてばかりだったろうから。


だって。
そう思うしか、ないじゃないか。



129 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:13


「んあ〜。よしこはどこ行きたい?次の自由行動。」
「えー?そうだなぁ…あ、ここは?新撰組のお墓だって!カッケ〜!!」
「…やだ。呪われそう。」
「んなアホな!…じゃーごっちんはどこ行きたいのさ。」
「んーっと…あ、近くにマックあるって。ごとーハッピーセットにしよう♪」
「…いや、京都まで来た意味ないし。却下で。」


高校生活の中で、おそらく一二を争うイベント、修学旅行が始まった頃。
うちらはもう、高校2年の秋を迎えていた。


うやむやなままの、君との関係の出口は。
まだ、見つからないままだったけど。


それでも整列する列の中、君の姿を目で追うことができるだけ。
いつもの、壁で区切られてる学校の教室の中より、
ずっと、君との距離が近い気がして、なんだか少し、ホッとしてた。


それでも、隣を歩いていた昔に比べたら。
随分、遠くなってしまったんだけど、それには気づかないフリで。



130 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:14


「んあ、じゃあここは?」
「え?!…あぁ。どこ?」

3泊4日の京都への修学旅行、2日目。


2日目は、主に自由行動の日だから。
おそらく、明日まで柴っちゃんを見かけることもないだろう。


とりあえず、この後の行き先を決めるため、泊まっている旅館のロビーで、
ごっちんとパンフレットを見ながら、打ち合わせをする。

そのごっちんがさした指の先にあったのは、遊園地。


「…ってこれも京都っぽくないじゃん?」
「じゃあ寺でも行く?よしこ正座して、ビシ〜とか叩いてもらう?和尚さんに。」
「…マ、マックよりはいっか。行くか?行っちゃうか、遊園地!!」
「そうこなくちゃ〜♪さすがよしこ〜悪ノリ得意だねぇ♪」
「ちょっとごっちん…」



131 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:15


…ま、いっか。
確かにうちもごっちんも、歴史的建造ブツとか、真面目に調べるようなタイプじゃないしね。


深く腰掛けていたソファーから起きあがって、重いリュックを背負い、
出かけようとしていると。

「…よっすぃ。」
…え…?


思いもかけず、なぜか、いつのまにか近くに君がいて。


「あ、あれ?柴っちゃん?…どうしたの?」
「ん。よっすぃ〜のクラスの子に聞いたら…ここで見たって言ってた、から。」



132 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:16


話しかけられて、ビックリしちゃって。

今日はもう会わないと思ってたし、
君から来てくれるなんて、まさか思わなかったし。

うれしかったのに、動揺してて、笑ってあげることもできなくて、ごめん。


固まったまま、じっと見つめていると、
君もそのまま困ったように、うつむいたまま、話し出した。

「…どこか行くの?」
「え…あ、うん。友達と、これから遊園地に。」
「遊園地?」
「そう。あ、ここ、この遊園地ね。」


パンフレットを見せようと、彼女に近づくと。
なぜか緊張して手が震えてしまって。

すぐにパンフレットをたたんで、手を後ろにまわした。


それはどことなく、君を避けるようなしぐさだったかもしれないって、後で後悔したけど。



133 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:17


「じゃ…夜、夜は…よっすぃ〜時間ある?」
「よ、夜?えぇと…ご飯が7時で、お風呂が9時で…たぶん遅くなっちゃうよ?
それに柴っちゃんたちのクラスの部屋って、隣棟でしょ?結構離れてるし、
出歩いてると先生に見つかるかもしれないし…」

いやうちは別に、今更。
多少先生に怒られるくらいは、どってことないけど。


優等生である君がそんなことしたら、ちょっとした事件になるんじゃない?


「ん〜っと明日の…金閣寺の見学とかはさ、うちも柴っちゃんも、みんな一緒じゃん?
そんときとか、待ち合わせすれば一緒に見て周れるかもしれないし…」
「…ううん、今日。できたら、今日…会いたい、んだけど…」
「え?」


わざわざ規則をやぶって夜抜け出すよりは、
明日の昼間の方が、君の負担にならないかなって思ったんだけど。


突然の言葉に、ひどく戸惑った。



134 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:18


だって君がこんな風に、…会いたいとか。
言うはずなんてないと思ってたから。


息を呑んだまま、何も言えないうちに、慌てて彼女は言葉を続けた。

「あ、その、…話したいことも。あるし…」
「え…あぁ、うん。」


あぁ。
それはきっと重要な内容なんだって、すぐにわかった。

もう、うちらが話さなきゃいけないことなんて、他になかったから。


ならきっと、明日の人がいるときより、二人きりの方がいいってことなんだろう。


「じゃあ…うちが。柴っちゃんの部屋まで行くからさ、それまで待ってて?」

やっぱり君が抜け出したりするのは、なんか心配だし。


一瞬考えたみたいな表情だったけど、そのまま軽くうなずいて。

「…わかった。」



135 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:19


少し離れてうちらを見ていたごっちんに軽く頭を下げて。
それじゃ、と、彼女は走っていた。

「おやぁ〜礼儀正しい子だねぇ〜なんだって?」
「…ん?いや、なんでもないよ。さて、いこっか遊園地。」



きっと、どちらか、ひとつ。

このままじゃいけないから、この先。
どうしようかという話し合いの提案か、

…別れようという、一言か。


どっちにしても、
君が出す答えを、受けとめなきゃいけない。

うちからはたぶん、答えなんて出せないから。



136 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:20


頭の中のもやもやを忘れるように、忘れるために。
着いたその遊園地で、日が暮れるまで、いっぱい遊んで、いっぱいはしゃいだ。


ごっちんは、うちの様子の変化に気づいていたみたいだったけど、
あえて何も言わず、それにつきあってくれていた。


「んあ〜!よしこ、もう集合時間過ぎてるよ〜。帰んなきゃ。」
「…ほんとだ…う〜ん、そうだよねぇ…でも…あ!ゲーセンあるよ!せっかくだから
プリクラとってから帰ろうよ!」
「えぇ〜?…もう、しょうがないな〜じゃあ急いでとろうね?」


帰ったら、君が待っている。
そしたら…きっと、君との恋が終わる。


そう思ったら、どうしても帰りたくなくて。

帰らなきゃいけないんだけど、やっぱイヤで。



137 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:21


時間稼ぎに入ったゲーセンで、そのUFOキャッチャーを見つけた。

「あはっ!よしこ、このプリクラ変な顔〜…ん?どうしたのぉ?」
「…ごっちん!ちょっと…やっていい?!これ!」
「え?あ、お〜いよしこぉ〜でも時間は?…ありゃ行っちゃった。」


その中に入っていたのは、彼女の大好きなミッキーのぬいぐるみ。
それを見た瞬間…なんか、取らなきゃ!って強く思った。

そして今夜、それを君に渡さなきゃって。


どういうつもりなんだか、そんときはわからなかった。
引きとめるつもりなのかな、それとも、別れ話をごまかそうとしてるのかな。

でも、ただ、どうしても、それを手に入れなきゃ。
終わることも、始まることもできない気がして。


「だぁぁっ!!!なんだよこれ!アームの力がよえぇよ!!!」
「う〜ん…よしこ、たぶん才能ないよ…」



138 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:22


もう5千円以上つぎこんでいたけれど、ミッキーは他の馬鹿でかいぬいぐるみにジャマ
されて、動こうともしない。

「あぁ!くっそ〜…や、やばい、お金が…ない。」

修学旅行のために持ってきていたおこづかいが、もうあと百円玉一枚。
…あぁ、これでもうお土産も買えないや。
でも…でもこのミッキーさえ、取れれば…それで…


「…いけ〜!!」

最後の百円を投入して動かしたアーム。
それは…無常にも何も運ばず、元の場所へと戻ってきた。


「う、うぅ…ダメだった………え?」



139 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:23


消えたはずの、UFOキャッチャーの電気と音楽が、また聞こえ出して。

振りかえるとごっちんが、財布を開けてニッって笑っていた。

「なんかここまでやったのにさぁ〜取れなくちゃごとぉも悔しいよ。
ほら、よしこ、がんばって取って?」
「…ご、ごっちん…」


ありがとう…ごっちん!
やっぱ持つべきものは友達だね!!


「よぉし!やるぞぉ〜!!!」
「あは。…まぁ、買ったほうが安いと思うけどねぇ…」


ここでそのごっちんの気持ちに応えられたらさ、かっこよかったのにね。
いや、もうすでにいくら使ってるかわかんないくらい負けつづけてるし、
どっちにしてもかっこよくはなかったか。



140 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:24


もしかしたらさ。
うちは、そのミッキーを、彼女に、自分だと思ってほしかったのかもしれない。

よくありがちな、『これをうちだと思って大事にして』ってヤツ。


いや、大事にしてくれなくてもいい。
ただそばにいさせてもらえれば。
…今夜で君の中からきっといなくなる、うちの代わりに。


そしてたまにそのミッキーを見て思い出してほしいんだ。

うちのこと、うちとつきあってたってこと。



あぁ、やっぱり別れたくないんじゃんって。
必死にUFOキャッチャーをする自分を見ながら、もう一人の自分がボソっとつぶやいた。



141 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:24


せっかくのごっちんからの資金援助もむなしく。

結局うちは一つも取れないまま。
もう遊園地を閉めるからって、ごっちんと二人、整備のおじさんにそこから追い出されてしまった。


「………」
「…残念だったねぇ。よしこ。あれさぁ、きっと取れないようにできてるんだよ!
仕方ない仕方ない。さ、もう帰ろ?あ、お風呂の時間も過ぎちゃったよ〜」
「…え?!もう、そんな時間?!大変だ、バス乗らなきゃ…あ、うち、お金ないんだった。」
「よしよし、後藤がよしこの分も出してあげ…あ」
「…どうしたの?」
「あちゃー。残り200円しかないやぁ。」
「えぇ?!ごめんごっちん、うちが…」
「い、いいよいいよ!ごとぉはよしこのがんばってる姿見ておもしろか…か、感動した
んだもん!そんな遠い距離じゃないだろうからさ、歩いて帰ろう♪」
「ごめんよぉ…ごっちん…って今、おもしろいって…」
「言ってない言ってない♪さ、行くぞ〜」



142 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:25


ごっちんは気にしてないって言ってくれたけど、
自分のふがいなさに、うちはすっかり落ち込んじゃって。

トボトボと歩きながら、今夜のことを考える。

どうしよう。
…思いきって。
言ってみようかな、ちゃんと、やり直したいって。

こんなに、時間も、お金も、忘れちゃうくらい。
君を思う気持ちだけは、確かだってわかったんだし。


そうだよ、もう。
気にしなきゃいいんだ、二人の差なんか。

君がどんなに優秀でも関係ない。
うちがどんなに釣り合わなくても関係ない。

ただ、伝えよう。
やっぱり、君が好きなんだって。



「…ちょっとちょっと。君達、その制服ここらへんの学校じゃないよね?修学旅行生かな?
どうしてこんなところ歩いてるの?」
「え?」



143 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:26


暗い道を歩いていると、急に懐中電灯を当てられて、
振り向くとおまわりさんが立っていた。

「東京の学校の生徒さんが、まだ二人帰ってきてないって先生から連絡があったんだよ。
どこの生徒さんかな?歩いてたら危ないし、交番まで一緒に来なさい。」


…あちゃー。

それたぶん、うちらのことだ。


集合時間なんかとっくに過ぎて、気づけばもう10時過ぎ。
うちとごっちんがいつまでも帰ってこないから、先生達が、慌てて警察に届けたんだろう。

…まいったなぁ。
なんで、こんなにうまくいかないことばっか。



144 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:27


その後、迎えにきた先生達にこっぴどく叱られて、
警察署にも連れてかれて、いろんなおまわりさんにいっぱい頭下げさせられて、
あんまり心配掛けちゃダメだぞ〜なんて言われてさ。

やっと旅館に着いたころには、二人ともぐったりしちゃってて。


具合が悪いわけじゃなかったけど、
今日は医務室で寝なさいって、先生に言われたら、そうするしかなくて。

プチ監禁だよ…とほほ。


「…ごめんね、柴っちゃん。」

今夜、君に会いにいけなくて。



145 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:27


はぁ。
怒ってるかなぁ…よなぁ…


最後の最後まで、うちは。
ダメなうちのままだったね。




「…よっすぃ〜…よっすぃ〜…」

…ん?

「よっすぃ〜…大丈夫?」

あれ…柴っちゃん?



146 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:28


「んぅ…柴…ちゃん?…どうして?」
「よっすぃ〜達が…医務室にいるって聞いたから。大丈夫だった?昨日。
お財布なくして帰れなくて、ずっと歩いてたんでしょ?」
「えぇ…?…あぁ…うん。何時、今?」

腕の時計を見ると、7時。
もう、次の日の朝になっていたらしい。


お財布をなくしたっていうのは、うちとごっちんが昨日先生達に咄嗟についたウソで。
だってじゃなきゃ余計怒られるでしょ?だから。


「んー…いや、なくしたんじゃなくて…実はゲーセンでね、すっちゃった。
UFOキャッチャーでね…それが全然取れなくて…うー…」
「…え?」


寝ぼけてて、まだ頭も視界もハッキリしなくて。



147 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:29


変化する君の表情に全く気づかなかった。

「…あー。ごめんね?柴っちゃん、…昨日。」
「………」
「せっかく、約束してたのに…話しも…できなくて。」
「………」
「ごっちんにも、迷惑かけちゃってさ…うちがね、悪いんだ。ごっちん、巻き込んじゃって…」
「…よっすぃ〜。」
「…え?うん、なに?」
「…別れよう。」
「え…」


ボーっとしていた頭に、冷水をかけられたみたいに、一気に目が覚めた。


血の気が引く、っていうのは。
こういう感じなんだろうか。



148 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:30


「…じゃ…」
「え?!ちょ…ま、待って柴っちゃん!!…うちは、まだ!」

まだ、やっぱり
君のことが。


堅いベッドから飛び起きて、
立ち去ろうとする彼女の腕をつかんで、振り向かせると。


―――泣いていた。

「…え…?な、な、なんで?柴っちゃん…」
「ごめん…」
「え?」
「…ごめん。もう、ムリ…」

…ムリ?
何、が?
何がムリなの?

なんで…泣いてるの?



149 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:31


「…嫌いになりたくないの…」

だから、お願いだから、別れて。


いなくなった彼女の残像が、そう言った。



仕方ない。
わかってたことじゃん。

昨日、話があるって言われた次点で、覚悟はしてたじゃん。

彼女の話は、やっぱり別れたいって内容だったのか。


いや、これは。
まいったな、やっぱ。



150 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:31


初めてキスしたときも。

同じ風に、君は泣いていたけど。

あのときと同じように、君を追いかけて抱きしめることは、もうできなかった。




「うわぁ〜!!よしこ、よしこ!金閣寺ってほんとに金だよ〜あはっ!
ねぇ早く見に行こうよ〜…あれ?」
「…ごっちん…行って来ていいよ…」

残りの修学旅行って、うちは何してたんだろう。
ただ辛くて辛くて。

君との思い出ばかり、ただ思い出してたような気がするな。



151 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:32


「…ごっちーん、よっすぃ〜!二人とも行かないの〜」
「んあー。うちら昨日遅かったからさぁ。もう眠くて眠くて。
バスん中で待ってるわー。みなさん行って来て〜♪」

あぁ、そっかー。じゃーねー。

クラスの子たちの、明るい、楽しそうな声が、段々遠くなる。


「ごっちん…行かなくていいの?…」
「んー?泣いてるよしこ、ほっとけないもん♪ さ、もう誰もいないから。
たーんとお泣き♪」
「…ごっちんがいるじゃんか…」
「んあ!!ごとーはいいの!居て!」
「ふは。なんじゃそりゃ。はははは……うぅぅ…うわぁ〜ん!!ご、ごっちーん!!」
「ぬおぉ〜!!はいはい、よしよし、よしこ♪」



152 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/07(金) 02:33


なんにも言わずに、自分の気持ちをわかってくれる友達って、
中々いないよね。

いっぱい迷惑かけて、ごめんね。ありがとう。
ほんとに、感謝してるよ、ごっちん。
昔も今も、これからもね。




このとき、自分の気持ちを整理するので、精一杯で。

君がほんとはどんな気持ちだったかとか。
どんな気持ちで別れようっていったか、とか。


本当に君が。
昨夜、言おうとしてたことがなんだったかとか。

考える余裕なんてなかった。



そう、うちは知らなかったんだ。
君が、ほんとはもうずっと。
たくさん泣いていたんだってことも。





153 名前:ツースリー 投稿日:2005/01/07(金) 02:40
以上、第8話です。

>>120 プリン さま
明けましておめでとうございます!いつもありがとうございます♪
今年も頑張りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします〜。

>>121 37 さま
いつもレスありがとうございます!ほんとに励みになります。
今年もどうぞよろしくお願いします♪

>>122 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!今回もまたこんな感じなんです…

>>123 名無飼育さん さま
はまっていただけたなんて、うれしい限りです♪
これからもどうぞよろしくお願いします!
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/07(金) 02:52
遅くなりましたが、作者さんあけましておめでとうございます。
そして更新お疲れさまです。

作者さんの吉柴はすれ違いがもどかしくてやきもきさせられるのですが、今ではすっかりその感覚にはまってしまってます。
今後も作者さんの吉柴でおいらをやきもきさせてください(w

次回も楽しみにしています。
155 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:52


うるさいのも、困るけど。
…あんまり、静かなのも困る。

隣ではきっと、相変わらず。
ごっちんとミキティが、大いびきかいて寝てんだろうけど。


柴っちゃんと、二人っきりになった、この部屋は。
シーン…って音がしそうなくらい、静かでして。

ぎゃ、逆になんか…居心地が…


「あ…す、座って?柴っちゃん!!ささ、どうぞ…」
「…はぁ。どうも…」



156 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:53


とりあえず柴っちゃんには、ベッドに座ってもらって。
うちは壁沿いに、シャキっと背筋を伸ばして立つ。

…だって座りずらいじゃん?!隣とか…


うぅ…どうしよう…
きょろきょろと、挙動不審に周りを見渡すと、ちっちゃい冷蔵庫を見つけて。

お、こ、これだ!これで会話が…


「し、柴っちゃん!!…なんか飲む?!」
「…いい。」

…続か…ないのね。

「…よっすぃ〜…飲めば?」
「え?!あ、はい、じゃあ…の、飲みます…」



157 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:54


空けると、ジュースとかお茶とか。
いろいろ入ってたんだけど…もうなんか景気づけっていうか、これはちょっと気合い
入れなきゃ!って思って。

すでに吐きそうなくらい飲んでたけど、またチューハイに手を出してしまった。


そして、再びぼんやりし始めた頭の中で、今日の出来事を思い起こす。

ていうか…なんで、今日、こんなことになっちゃってんだろう。

もう、柴っちゃんに会うことなんてさ、きっとないと思ってたのに。

あぁ…そういえば拾ったケータイがたまたま柴っちゃんので…


ん?そうか…この話題は…当たり障りないかも…


「い、いやぁでもさ!びっくりしたよ〜まさかあんなところで再会するなんてさ!」
「………」



158 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:55


お酒のせいで、声が妙にハイテンションになっちゃって自分でもちょっとひいたけど。

ええい!ひるむなよしこ!ここで止まったら負けだ!また沈黙だぞ?!

「落し物のケータイ取りに来たのが柴っちゃんだったんだもんなぁ!あ、あんな偶然
あるんだねー!いやぁほんとうちびっくりしたよ〜
柴っちゃんも…びっくりしたっしょ?」


まさかそこにいた拾い主がさ、…うちだった、なんてねぇ!

いや〜さすがの柴っちゃんもびっくりだよねぇ〜はははっ。

そうして、びっくりしたね〜偶然だねぇ〜って盛り上がるはずだったのに…


「…別に。」



159 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:56


えぇ?!
「び、びっくりしなかった…の?」

柴っちゃんはうちの期待を裏切る答えを、いつもどおり、クールに言った。


…いやいや、絶対、別に、ってことはないっしょ?!

だって、東京にいるはずのうちがさ、京都に来てて…
しかも、柴っちゃんのケータイ拾って、その場にいたりしたら…さぁ。


「…別に。」
「いや、でもね、普通はね、あんな、突然さ、知り合いにあったりしたら…」
「…わかったもん。」
「は?」


な、なに…?
なにが?



160 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:57


言ってることがよくわからなくて、
うちがきょとんとしてると、うつむいていた顔をあげて、
じっとこっちを見て、こう言った。


「電話…かけたら。出た声が…よっすぃ〜だってわかった。」
「…え?…え?」


電話って…あ、最初に…ミキティのケータイからかけたとき?

「え、なんでわかったの?」
「………」


うちそんとき、名前も言わなかったのに…

す、すごくない?
結構声だけって…わかんないもんだよね?
うち、わかんなかったし…

すると、あげていた顔を、またうつむかせて。



161 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:58


小さく、小さく、つぶやいた。

「……忘れて…なかった…から…。」




…何を?なんて、聞けなかった。

気づいてしまったんだ。


君が今
『覚えていたから』、じゃなくて。
『忘れてなかった』、と答えた、その言葉の。


大きな、わずかな、意味の違いに。



162 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:59


そして、
久しぶりにうちの中に戻ってきた感覚は。
あの頃と同じ、気持ちだったはずだけど。

適量以上に飲んでいたお酒のせいで、
それはうちの体を突き破って、君の体に突き刺さった。



組み敷いたとき、とんでもないことをしでかすところだったって、
やっと気づいて。


「ご、ごめん!」

…引き返すなら、ここしかなかったんだ。

慌てて起き上がろうとしたのに。


「…待って!」



163 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 05:59


呼び止めたのは、君で。

そのまま、その目に捕まってしまったのはうちだった。



「…いいよ。…好きにして…」


あぁ、君はあの、入学式の日も。
…今とおんなじ、強い目をしていたね。



言われた瞬間、狂ったように、また君を押し戻していた。



164 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 06:01


きつく抱きしめながら、首筋に吸い付くと、甘い香水の匂いがして。
耳をついばむと、そこにピアスの穴を見つけて。


うちが知らない間に…こんなに。
君は、大人になってしまった。

それがなぜかひどく、勝手なことに思えて、カッと、頭にきて。
その耳を少し強めに噛むと、びくっと大きく体が揺れた。


「…痛い…?」
「………っつ!」

わざと意地悪く、口を耳に押し付けながら尋ねて。

何も言わない唇に、深く口付けると。


…不器用な舌の動きは、あの頃のままで。


それはすごく、愛しかったけど。



165 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 06:02


「…ん、んっ!………あっ!」

初めて、背骨がしびれるような、君の甘い声を聞いて。

余計な感情が沸いてくる。


…もしかして、うち以外の誰かも、君の体に触れたりした?

誰かに、こんなふうに、抱かれることを教わったの?



…たとえそうだったとしても。

うちが文句を言える権利なんてないのに。


こんな風に自分勝手に嫉妬してしまうのは、やっぱり。
変わらない、君への想いのせいだから。



166 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 06:03



もう――何もなくて。


あの頃、うちらの間にあった、…レベルの差とか。

学校の中にいたら、君は委員長だったし、優等生だったけど。



…こうして、二人きりで、抱き合うと。

完璧だと思っていた君には、たくさん弱点があって。

…そしてそれを、「好きにしていい」という、言葉どおり。

弱いまま、全部。
うちに、差し出してしまっていて。



あぁ。

二人でいたら、他のものなんて、何もない。

何も気にならない。

…何もいらない。



167 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/01/23(日) 06:04



それにうちは、もっと早く。
気づくべきだったんだ。



最後の瞬間。
うちが顔を見ようとするのを、君はすごく嫌がって。

強くうちの背中にしがみついてきて、顔を肩に埋めてしまったから。

表情なんかは、わかんなかったけど。


ただ唯一少し見えた耳とほっぺたは。

やっぱり、思ったとおり。
トマト色をしていた。






168 名前:ツースリー 投稿日:2005/01/23(日) 06:07
以上、第9話です。

>>154 名無飼育さん さま
温かいレスありがとうございます…!やきもきしていただけてうれしいですw
今年もがんばりたいと思いますので、またぜひよろしくお願いします♪
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 06:43
待ってました〜♪すっごくいいです!作者さんありがとうございます♪
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 16:23
おおおおお
どうなってしまうんでしょうか
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/24(月) 02:24
はじめまして
すーごく胸がドキドキします!がんばってください!
172 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:40


泥のように眠くて。

君が起きあがる気配を感じても、体が動かなくて、どうすることもできなかった。

「…ごめんね…よっすぃ〜…」

もしかしてうち、謝られてるのかな?どうして?

「…やっぱり…でも…」

何かを言われてるような気がしたけど

「…好き…だから。」

それが何か、理解できなくて。




173 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:41


♪〜〜♪〜〜♪〜〜

うぅ…うるさいなぁ…

「…もしもし?」
「あ、よしこ?やっと出た〜もぉいつまで寝てんのぉ?部屋カギかかってて開かないし、
ピンポン鳴らしても全然反応ないし〜。」
「んえ?ごっちん?…何だよぉ〜朝っぱらから…」
「ブッブー!もうお昼ですぅ〜残念!!よしこ寝ぼけててワケわかりません…斬り!!」
「へぇ?」
「いいから、早く。カギ開けて?」
「カギ…あー。そっか、ここホテル…」
「正解♪ごとぉドアの前にいるの〜早く〜」
「あ、わかった、わかった…」

たたんである服の中から適当にシャツを羽織り、ドアに向かう。

「おっは〜♪」
「…おはよ、ごっちん。二日酔いは…?」
「全然っ♪してませーん。おじゃましまーす!」
「…ふわぁ…そっか。どぉぞ〜…待たせてごめんね。」
「いいえ〜。」



174 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:42


とりあえずごっちんに部屋の中に入ってもらって。
眠い目をこすって時計を見ると、ほんとにもうお昼過ぎ。
うちがごっちんより遅く起きるなんて…びっくりだわ。…ねむ。

「あはっ。よしこ寝癖チョーすごいよ♪シャワーあびてきちゃったら?」
「…うー…うん。わかったぁ…じゃあちょっと待っててね…」
「はいはい。…ってここで脱がないでよ!!寝ぼけてる?寝ぼけてるでしょ、よしこ!」
「えー…?」
「あぁもういいから。ほら早く眠気覚ましてきな…わお。」

あぁ、そうだ服はお風呂場で脱がなきゃね…って脱いだシャツを拾ってると、
後ろからごっちんの変な声。

「…んえ?なんで驚いてんの?ごっちん…」
「いや、その…よ、よしこの背中がさ、あまりにもセクシーで!!どぉもすいません!」
「え?」

何言ってんだぁ〜?ごっちん…



175 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:42


「何?何がぁ?」
「いやん、そんな。んもぉごとぉの口からは言えないってばぁ〜♪ほら、早くシャワー♪」
「?うん…」

変なごっちん…

今度はちゃんと、お風呂場の中に入って、服を脱いで。
温度を調節してシャワーを出す。

「…はぁ。生き返るぅ〜…っつ!!」

背中にお湯をかけると、しみるような痛みを感じて。
不思議に思って鏡で見ると…ひっかき傷。

ちょうど、5本の線が。
左右、それぞれについていた。

それはまるで、誰かにしがみつかれたような…

すると、ふいに、一気に記憶がさかのぼって。

…あぁ!!そ、そうだ、昨夜うち…し、柴っちゃんと…!!!


「ご、ごっちん!!」
「ん?早かったね…ってあらあら。また裸?」
「し、し、柴っちゃんは?!」



176 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:43


「…柴田さん?帰ったよ?ミキティ連れて。今朝すごい早く。ミキティってば起こされて
チョー不機嫌なの。あはっ。」
「帰ったぁ?!そ、そんな…うちに、…何も言わずに?!」
「何も言わずにって…寝てたんじゃん?よしこ。それに…仲直りしたんじゃないの?」
「…え?」
「…だって、背中。」
「あ、い、いや…これはその…」


たしかに、昨夜、柴っちゃんは。
うちの、腕の中で。

…けど。

「よかったじゃん、よしこ。京都に来たかいあったね♪」
「…そう、なのかな…」


昨夜のこと…あれで、仲直りって、思っていいのかな…?

もし、そうなら、うれしい…けど。



177 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:44


立ち尽くしたうちの背中に、君が残していったアトが。

ズキズキ痛んで、いやな予感がしたんだ。


◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「はぁ。…うちもとうとう、窓ぎわ族かぁ〜…18にして。」

陽射しがポカポカ差し込む、小春日和。
外を眺めると、新入生が。
校門のところで、写真撮影を繰り返していた。

んん〜…なつかしいなぁ〜…

「んあ〜?窓ぎわゾク、ってなぁに?」

隣で寝ていたはずのごっちんが、不思議そうに聞いてきた。



178 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:44


「あぁ。あのね、窓ぎわ族っていうのはね、会社とかで、仕事のできないサラリーマン
がさ、窓ぎわに追いやられるじゃん?そういうことをいうんだよ。」
「…むぅ?なんで仕事ができないと、窓ぎわの席になるの?」
「なんでって…なんでだろ。ジャマだから、じゃん?」
「へ〜。ごとぉは窓ぎわに行けって言われたらうれしいけどなぁ。超気持ちいじゃん。
ということで…席代わってよ、よしこ。」
「やだ。」
「ちぇ。ケチんぼ。」

そういうと、また。
ごっちんは眠りに入ってしまった。


まぁ、たしかに。
気持ちーよね、窓ぎわ。



179 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:45


座ったまま、んーっと伸びをすると、古いイスがギシギシした。
大きく息を吸い込むと
木の匂いに包まれる。

転校したってわけでもないのに。
去年までとは、全く違う学校に来ているみたいだった。


それもそのはず。

うちの高校の人数は、一学年、ほんとはぴったり9クラスに分けられるはずなんだけど。

3年になると、そのクラスは。
進路によって決められようになり。

通常はみんな大学進学を希望するはずだからいいんだけど、ごくごくたまに。
そうじゃない生徒が、出てきたりしちゃって。
…まぁ…うちらなんだけど。


今年はそんな生徒が、なぜか30人もいて。
本来ならあるはずのない、10組を作ることになったため、
教室のないうちらは、使われていなかった、木造の古い旧校舎に押し込められたのであった。



180 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:46


「…よしざわっ!聞いてんの?!人の話!!後藤も寝てんじゃないわよ!」
「え…ってぇ!」
「…んあぁぁ!!」

3年10組の担任になったのは、圭ちゃんこと保田先生。

美術の教師で、絵が専門らしいんだけど…
その才能は…芸術的すぎて、うちには理解できない。

「はぁ。ひどいよ圭ちゃん…」

ホームルーム中によそ見をしてたうちも悪かったけどさぁ。
そんな本気で叩かなくても。

「何言ってんのよ!厳しくいくわよ!えぇ〜人という字うわぁ〜」

…金八好きなのね…。



181 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:46


圭ちゃんに気づかれないように、また、窓から。
今度は違う方角に目をやると。

新しい方の校舎…去年まで、うちらもいた校舎。
そして…

別れてしまった、君が。今もいる校舎が見えた。


あの修学旅行の後は。

廊下ですれ違っても、お互い、目を合わせようともしなくて。

気まずいままだったから、いっそ。
校舎が離れてよかったのかもしれない。

偶然会ってしまう確立が、またグンと減るだろうから。



182 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:47


でも、自分がいたときには感じなかったけど。
コンクリートでできた校舎は、木で造られたココに比べて、なんだかとても冷たくて。

ふいになぜか、すごく君が心配になった。

同じように、君の心まで、冷えてしまわないかって。


心配なんて。
…うちがする、立場じゃないのに。



新しいクラスメート達は。
茶パツだし、スカートも短くて、パンツ見えるわっ!って子ばっかだったけど。
根は真面目で、優しい子達ばかりで。


それまでより、ずっと、仲間って感じがしたんだ。



183 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:48


そのころぐらいから、段々と。
うちの中から、あの劣等感が消えて行った。

それは、自分のクラスの子が、成績優秀な人達じゃなくなったからとかじゃなくて。

自然に、思ったんだ。


例えば、斜め前の席の子は、ネイルに夢中で。
雑誌を見ながら、真剣に技を磨いてる。

…そのファッション雑誌を見る目と、受験生が、参考書を眺める目と。
何が違うんだろうって。


自分のために、自分がする努力なら。
そんなの、どっちが上とか、えらいとか。
ないんじゃないかって。

思えるように、なってきたんだ。



184 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:49


でも、
それに気づいたころには。

それを伝えたい相手は、もううちのそばにはいなかった。



「はぁ〜い今日の絵のテーマは…『思い出の場所』!!」
「「「えぇ〜〜〜?」」」

美術の時間。
圭ちゃんに押し付けられたテーマは、高校生活の、思い出の場所だそうで。

「え〜じゃない!どっかしらあんでしょうが!描き終わるまで帰さないわよ!ちゅっ♪」
「「「おえぇ〜〜〜!!」」」
「ごらぁー!!」



185 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:49


「…むぅ…思い出の場所かぁ…よしこぉ〜どっかある?」
「え〜なんだろう…やっぱ無難なところで…教室とか?」
「う〜ん。定番だなぁ。でもごとぉ…教室はなぁ〜。寝てた思い出しかないなぁ。」
「あはは。確かに〜」

でも…うちも、思い出の場所っ!って感じじゃないかもなぁ…教室。
どこだろ…どっか…思い出の…

隣ではごっちんが、鳥小屋の鳥蔵を描くと言い出した。
二人の間に、どんな思い出があったんだろう…


うちは…うちの高校生活の、思い出の場所は。
ふと目を閉じたとき、まぶたの裏っかわに浮かんできたのは。


あの、図書館。
そして、そこに座っている、君だった。



186 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:50


あぁ。
毎日、迎えに行くのが楽しみだった。
待ち遠しくて、待ち遠しくて、たまらなかった。

いつもそっけない、愛想のない君と。
帰り道で繋ぐ手が、とても温かかった。


お別れのキスは…いつも少しせつなくて、でもすごく柔らかくて。



忘れていた感覚が、よみがえってきて。

一気に、キャンバスを塗りつぶした。



187 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/03(木) 01:51


途中、見まわりにきた圭ちゃんが、すごくいい絵だって、褒めてくれて。


それはなんだか、うちらの思い出を。
褒めてもらったような、認めてもらえたような気がしてうれしかった。


君と過ごしたあの日々を。





188 名前:ツースリー 投稿日:2005/02/03(木) 01:55
以上、第10話です。

>>169 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!こちらこそ読んでいただいてありがとうございます。

>>170 名無飼育さん さま
おおおおおwまだもう少し続きますので、よろしくお願いします♪

>>171 名無飼育さん さま
はじめまして!ドキドキしていただけてうれしいです。がんばりますー。
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/03(木) 03:34
うあー
あのまますんなりいくようにと願っていたのに、やっぱりまだそうはいきませんか・・・

次の更新もやきもきしながら待ってます。
190 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:23


「いい!!絶対優勝よ!底力を見せてやりなさい!あんたたちぃぃぃ!!!」
「えぇぇ〜〜…」


な、何だぁ…?朝っぱらから…


教室に入るなり、出席も取らずにいきなり叫び出した、圭ちゃん。


「何って、体育祭よ体育祭!!いい?うちのクラスは勉強じゃぁビリだけど、
スポーツなら勝ち目があるはずよ!見返してやんなさい!!あんたたちぃぃぃ〜!!!」

…う〜ん。
圭ちゃん、なんかイヤなことでもあったのかな?



191 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:24


まぁ、確かにうちのクラスは成績ビリだから。
そこんとこ、担任である圭ちゃんは、肩身が狭い思いしてるんだろうし。
…おおかたこないだの全国統一模試かなんかで、うちのクラスが足引っ張ってるって、
嫌味でもいわれたのかな。


「はい!早速種目決めるわよ!あ、あんたバスケ得意そうな顔してるわね!!
はい、バスケに決定!あんたは足速そうだからリレーね!
…あんたは福原愛ちゃんに似てるから卓球!!…それから…」

…そんなオーボーな。


圭ちゃんは、かなりの偏見で、選手を決めていった。

まぁ、うちはなんでもいいけどぉ〜。
勉強はできないけど、スポーツなら得意だしぃ〜

「んあ。圭ちゃーん。ここに元バレーの星が。エースアタッカーがいるよ〜」
「んげぇ!?ご、ごっちん!!それは言っちゃダメ…」
「あらまぁ!!そうなの?じゃあ吉澤はバレーに決定ね♪はい、他は?」


い、いや…うち、もうバレーは…



192 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:25


「ご、ごっちん!!なんであんなこと言うんだよぉ…。うち、もうバレーは…
やりたくないのに…」
「んえぇ?なんでさ。よしこ、ほんとにエースアタッカーだったじゃん。」
「…そんなのもう二年も昔の話だよ…それに…別に、エースって、わけじゃ…」

…自分で、そう思ってただけで。
ほんとは、バレー部から。
必要となんか、されていなかったんだし。


「…このままで終わっちゃったらダメだよ、よしこ。圭ちゃんも見返してやれって
言ってたじゃん?ごとーもバレーやるし。一緒にがんばろ?」
「ごっちん…」


確かに、このまま卒業してしまったら。
うちは、バレーを二度としないだろう。
そして、うちにとってのバレーの思い出は、きっと苦いまま。

それはあまりにも悲しすぎるかもしれない。
一応、中学、高校と。
青春をかけた、スポーツだったんだし。



193 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:26


「…わかった。やるよ、バレー。…優勝できるかどうかはわかんないけどね。」
「あはっ。よしこがいるんだから、大丈夫だよぉ〜。じゃあ今日から特訓ね♪コーチ♪」
「よぉし!!行くぞぉ〜〜」
「おぉ〜!!」


それから、体育祭の日まで。
うちらは、他のクラスの子達が勉強している間も、特訓を重ね。
ちょっと、かなりマジで。
本気で、上達していった。



「で?!どうだったの?!バスケは?!卓球は?!!」
「…ニ回戦で2年生に負けました…」
「きぃぃ!!どうしてなの?!どうしてこうなるのぉ〜〜!!!」

「…だって保田先生。勝手に選手決めるから…」
「私、愛ちゃんに似てるって言われるけど、卓球やったことないし…」



194 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:27


「お、おほほ!ご、ごくろうだったわね!あとうちのクラスで残ってるのは…
…バレーだけね!みんな、応援に行くわよぉ〜〜!!!」
「…はぁ〜い。」


バシッ

「ゲームセット!!」

「…やったね、よしこ♪決勝進出だよ♪」
「ふふん。まぁうちが本気になればねぇ〜」
「…調子いいんだから。あ、決勝の相手決まったかな?トーナメント表見に行こうよ。」
「うん!」


メキメキと力をつけた、うちらのクラスは。
着実に勝ち進んで行った。



195 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:27


…うちも。
なにかに打ちこめる幸せを、久しぶりに感じていて。

もしかしたら、このまま…優勝だって、できちゃうんじゃないかって。


あのころなくしてしまったはずの、自信を。
取り戻しかけていた。


「あ、あった!…相手、3−1かぁ。やっぱ3年生残ってきたね。よしこ、
最後もがんばろうね!」
「おぉよ!ごっちん!」

その勢いのまま、体育館のコートに戻ると、周りには圭ちゃんを始め、たくさんの応援が
来てくれていた。



196 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:28


念のため…というか、一応。

その中に、柴っちゃんの姿を探してみたけど、…いなかった。やっぱり。

そりゃー…そうだよね。
でも。
見て欲しかったな…うちの、最後のバレー。


「選手の方は〜整列してください〜」
「お、よしこ出番だよぉ。行こう!」
「おっし!!」

えぇい、気を取りなおしてがんばるぞ!
さぁて相手はどんな…え?

「ご、ごっちん…相手…何組だっけ?」
「へ?1組でしょ?」
「1組、かぁ…あ、あはは…」

…柴っちゃんのクラスじゃん。
ていうか、選手かよ…柴っちゃん。



197 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:29


コートごしに並んでいる相手チームのなかに、君がいた。

ば、バレーに出てたんだ…どうしよ、まさか、よりによって柴っちゃんと当たるなんて…
うぅ…

「…こらぁ!吉澤!ふらふらしてないでさっさと並べ!…たく。トロイ奴だ。」


ふいに、意地の悪い、耳に障る声が聞こえて、振り向くと。

アイツだ…

バレー部の顧問の。
あの教師が、立っていた。


「なんだ?オレが審判で文句があるのか?ん?」
「…いえ。」

…最悪だ。なんで、こうなんだよ…



198 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:30


イヤでも思い出してしまう。
あのころの、みじめな気持ち。

お前なんか必要ないといわれても、何も言い返せなかった、弱い自分。


ふいにごっちんが、うちの手を握った。

「よしこ…大丈夫…?」
「…ん。大丈夫だよ、ごっちん。」

そうだ。
もううちは、あのころのうちじゃない。
見返してやるって、決めたんだ。


アイツを、そして。
昔の自分を。

「がんばっていきまー…っしょい!!」
「おぉぉ!!!」



199 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:30


試合はずっと、点の取り合いで。
特に柴っちゃんのあのお友達の、藤本さんが。
経験者らしくて、なかなか、鋭いアタックを打ってくる。


どちらも一歩も引かないまま、最終セット。

デュースの後、相手がサーブミスをして。


…あと、一点。
あと一点で、うちらの勝ちだ。


「よしこ…がんばって。落ち着いて。」
「うん…」

そして、サーブはうちに周ってきた。



200 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:31


…きっと決める。
自分で、決めてみせる。

そして、証明したいんだ。
うちは、…うちだって。
必要ないヤツなんかじゃ、ないって。


バシッ!!!


…集中して打った、ジャンピングサーブは。
ちょうど相手のライン上、ギリギリのところに落ちた。

「「「やったぁぁ〜〜!!!!」」」
「よしこ!やったよぉ!!」
「…勝った…」

勝ったんだ、うち。
勝てたんだ…あのころの自分に…


「…アウトっ!デュース!」

「「「え?!!」」」



201 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:32


決まったと思って、抱き合っていたみんなが固まる。

…アウト…だって?


審判の教師のその判定に、圭ちゃんが食い付く。

「そ、そんなはず!!い、今吉澤のサーブ、ラインの上でしたよ?!入ってたでしょう?!」
「…保田先生。コートの外にいたあなたに、勝手な判断されても困りますねぇ。」


くそっ…
アイツ…どうしてもうちらのこと…勝たせないつもりなんだ…

うちのこと…絶対認めない気なんだ…


「で、でも!!」
「だからですねぇ!コートの外にいた人間には…」
「…あの。」

激しくやり取りをする審判と圭ちゃんの中に、割って入ってきたのは。



202 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:32


…柴っちゃんだった。

「な、なんだ?柴田…。」
「あの。…入ってたと思います、さっきの…吉澤さんのサーブ。」
「なっ?!」

…柴っちゃん…?


「私は、コートの中にいました。…ラインの上だったので…入ってたと、思いますけど。」
「ほ、ほら!選手もそう言ってるじゃないですか!!」
「し、しかし…」
「…あ、はいはい!!美貴も美貴も!!見てました!入ってました!ていうか美貴
後衛だったから…たぶん一番近くで見てたと思うけど。」
「…くっ。」


いつのまにか藤本さんも、審判の元に駆け寄ってきていた。

…変なの。

なんで、うちらじゃなくて…そっちのチームが苦情言うんだよ。



203 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:33


「…わかったよ。…優勝…10組!!」
「「「やったぁぁ〜〜!!!」」」

…なんで。
かばうの、うちのこと。


柴っちゃん…


「よしこぉぉ〜〜!!!よかったねぇ〜〜!!!」
「う、うん…」


ホントは、ありがとうって、言いたかった。

うちと、あの先生の間のことを。
君は、知っていたはずだったから。



204 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:34


でも君は、一度も振りかえらずに、藤本さんと、さっさと歩いて行ってしまったから。

…言えないままだった。


ねぇ、柴っちゃん。

確かに藤本さんは、後衛だったけど。

君はうちのサーブが落ちたところの、対角線上の前衛にいて。

見えなかったんじゃないかと思うんだ。
ボールの落ちたところ。



205 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:34


ねぇ、なのに、どうして。
かばってくれたの?信じてくれたの?うちのこと…

どうして…



◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇


「どうして聞かなかったのぉ?柴田さんのケータイ。」
「ど、どうしてって…なんか、そんなタイミング、なかったし…」

ご、ごっちんたちは酔いつぶれて寝ちゃうし…
そ、その後は…



206 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:35


ホテルの部屋の中。
昨日のことを相談していると、ごっちんから厳しい指摘。

「…そこからどうしてHするってことになるわけ〜?」
「うわわ、ご、ごっちん!!」

どどどどどーしてといわれましても!
いやもう、うちにもさっぱり!!


「それってさぁ。仲直りしたってことにはならないんじゃないの?」
「や、やっぱそうかな…」

やっぱ…そうだよね?
あんなことがあったのに…何も言わずに帰るって…ちょっとおかしいよね?



207 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:36


「気になるなら、電話してみなよぉ〜」
「いや、だから知らないんだって…」
「あ、そっか。んじゃ、ごとーがミキティに電話したげるから。ミキティに聞けば?」
「お〜ほんと?…ってそこの二人はいつのまに番号交換したワケ?」
「いいからいいから〜。…あ、もしもしミキティ?昨日はどうも〜。柴田さんいる?
あ、ちょっと待ってね。よしこ〜柴田さんいるってぇ〜」
「えぇ?!そ、そんないきなり?!!」
「はい、どうぞ〜」


どどどどうしよう。

こ、心の準備が…
な、なんて話せば…


「も、もしもし…柴っちゃん?あの…吉澤ですけど…」
『あぁ…うん。なに?』
「え?な、なにって…」

そのとき、すごく戸惑った。
だって君は、まるで。
なにもなかったように、話すから。



208 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:37


「いや…昨日のことなんだけどさ。ごめんね?うち…柴っちゃんに、あんなこと…」
『…あぁ。そのこと。…別に、いいよ。…もう、忘れて?』
「…はっ?」

…忘れて?

な、なに?
なにを?
なんで?


『私も…よく覚えてないっていうか。昨日、なんであんなこと…しちゃったのか。
全然わかんなくて。たぶん…私、すごい酔ってたから。だから。』
「………」
『…よっすぃ〜だって。酔ってたんでしょ?…そういうことも、あるよ。
だから、謝らないで?気にしないで、ほんとに…』
「あぁ…そうだね…。」


…ニセモノだった?
昨夜、抱きしめた君は。

腕の中で震えてた君は…ニセモノだったんだろうか。



209 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:38


あぁ、確かに、君の言うとおり。
酔ってたよ。
うちだって、ワケわかんなかった。

なんでこんなことになったのか。
どうしてニ年前に別れたはずの君が、今、うちにしがみついているのか。

…全然、わかんなかった。

だけど。
わかったことも、あったんだ。


「そう…うちも酔ってたけど。…でもうちは。
…それだけじゃなかったよ。そんな、いくら酔ってたからって。
それだけであんなこと、しないよ。そんなふうに、思わないでよ。」
『…よっすぃ〜。』
「…いいよ、もう。わかった。…ごめんね、電話なんかして。忘れるよ、忘れる。
なかったことにして、いいよ。
…うちも、明日東京帰るし。もう京都にも来ない。
なかったことに、しようよ。
…うちらのことなんて。もう全部。」
『…よっすぃ〜…待って…』
「…もういい。さよなら。あの日…卒業式の日…言えなかったから。…さよなら。」



210 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:39


切った後の電話を、床に叩き付けそうになったけど。
これは、ごっちんのケータイだって、思い出してやめた。

「…はい。ありがとね、ごっちん。」
「…よしこぉ…」
「…いいんだ、もう。やっぱ、ダメなんだよ、うちらは。それに…京都に来たのだってさ。
あのぬいぐるみとって…すっきりするために、来たんだもん。
柴っちゃんと、やり直そうと思ってたわけじゃ、なかったし。
…ごめんね…ごっちん。いつも、迷惑ばっかかけてるね…」
「いいよ…そんなの。…友達だもん。」
「…ありがとう。」


頭の中は、グルグル、メチャクチャ。



211 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/13(日) 17:40


…君が、お酒の勢いとか、そんな軽い気持ちで。
あんなことを、するような子じゃないと、思うんだけど。
そう、信じたいんだけど。


でも、離れてた時期が、とてもとても重すぎて。
それを、させてはくれなかった。



だけど、不思議と後悔はしなかったな。

たった、一度だけでも。


君を抱きしめたこと、誇りに思うから。





212 名前:ツースリー 投稿日:2005/02/13(日) 17:43
以上、第11話です。

>>189 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!ほんと、もっとすんなりいけばいいんですけど…w
もう少し続きますが、これからもどうぞよろしくお願いします♪
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 21:58
ちょっと涙してしました。よしこがむばれ。・゚・(ノД`)・゚・。
214 名前:213 投稿日:2005/02/13(日) 21:59
してしましたってなんだよ…orz
涙でディスプレイが見にくかったのです…すみません。
よしこだけじゃなく作者さんも頑張ってください。
215 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 00:46
気が付いたら握りこぶしをつくってた
くっ、今は耐え忍ぶ時期なのだ、そうなんだ、、、
二人を信じてますよ、きっと・・・
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/14(月) 05:39
あーやばい、どうしてこうなっちゃうんだ・゚・(ノД`)・゚・
二人が素直になれることを願っています。
続きが待ちきれません・・・
217 名前:GC 投稿日:2005/02/16(水) 04:33
前にスレした名無しです。
すっごいもどかしいですねー・・
でもここの2人、すごく好きです!
切ない感じがなんともいえない。
がんばってください!
218 名前:名無し§ 投稿日:2005/02/16(水) 21:31
よっすぃ…
何でそんな事言うんだ…
早く素直になって欲しいです

P.S.前スレの最初のころからずっとROMってましたw
219 名前:名無し§ 投稿日:2005/02/16(水) 21:34
ageちゃいました…ごめんなさい…
またROMに戻ります…
作者さんこれからも頑張ってくださいね!^^
220 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:01


「…なんで…」


卒業式の日。
久しぶりに入った、新しいほうの校舎。

うちらのクラスの下駄箱はないから、来賓用の入り口から入場させられて。

すると、真正面に、嫌でも目に入ってくる、でっかい掲示板がある。

ほんとの来賓の方々が来たときに、目に付くように、目立つようにと、
そこに書かれていたのは、有名な大学名と、その合格者一覧。


まぁ、優秀な受験生のみなさんの、勝利の記録ってヤツ?



221 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:09


うちには全く関係のないそれらを、何の気なしに、ただ上からずら〜っと見ていくと。
…当然の如く、君の名前を見つけた。


でも、そこにあったのは。

ここら辺の大学名じゃなくて。
遠く…京都にある大学名だった。


なんで…どうして?
なんで、京都なの?

うちにとって、あの場所は。
ううん、おそらく、君にとっても。

悲しい思い出の残るところ…じゃん…?

それなのにどうして…



222 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:09


ただ、志望していた大学が、たまたま京都だったってことなのかな。
それか、柴っちゃんも大学生になるんだし…一人暮らしがしたくて、とか…?
いや、でも、それなら、…なにも京都じゃなくても。


…もしかして。
君にとって、あそこはもう、悲しい場所ではなくなっているんだろうか。

うちのことなんか、すっかり忘れてしまっていて。
あの場所でも、修学旅行の思い出を、引きずることなく生きていけるっていう…


考え出すと、もう止まらない。
ショックで、なんかイライラして。
せっかく朝セットしてきた髪を、グシャグシャにしてしまった。



「よしこぉ〜。卒業式はじまぁるよぉ〜。急げ〜」
「…あ、ごっちん…今、行く〜…」


結局最後まで君を想ってモヤモヤする気持ちは。
うちの高校生活の締めくくりに、とてもふさわしいのかもしれない。



223 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:10


全国共通お決まりの、校長先生の長いお話と。
来賓の方々のあいさつ、送辞が終わって。


いよいよ…卒業生からの、答辞。

もちろん、代表は彼女だった。


「…3年1組。柴田あゆみ。」
「…はい。」

静かに立ち上がり、
ステージに向かって歩く彼女は、それまでで一番きれいに見えた。


…思い出すなぁ、入学式ん時。


あの日も君はそうやって、背筋を伸ばして。
大勢の人の前で、堂々とあいさつをした。

…もちろん、今日も。
眠そうにしていたごっちんが、目を覚ますくらい。
すばらしい、答辞だったよ。



224 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:12


あぁ…結局、入学式に、逆戻りしちゃったんだな、うちらの関係は。


君はステージの上で、キラキラ輝いていて。
…うちはその下で、ただ憧れて、君を見上げてる。


でもうちには…確かに、ほんのひと時、わずかなときだけでも。
そんな君と、ともに過ごした時間が、…例えば一緒にタコ焼きを食べたりしてた日々が。
あった…気がしてたんだけど。

それはうちの…勘違いだったのかも。

そう思わずにはいられないくらい、今日の君は。
本当に、キレイだったんだ。


「…卒業生代表。柴田あゆみ。」

あぁ、もう、君の姿をちゃんと見れるのは、これが最後かもしれない。
そう思って、
目に焼け付けておくように、君を見つめ続けた。


それは一方的な視線だったはずなのに。



225 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:12


礼をして、頭を下げていた彼女が顔を上げたその瞬間。

ふいに…突然、目があったんだ。

なにが起こってるのかわからなかった、それぐらい一瞬。
1秒、ううん、もっと短いかも。


だけど、確かに。
――――……君は、うちを見てくれた。――――



これだけ、何百人って人がいるわけだし。
目が合ったなんて、それこそただの勘違いかもしれないのに。

でも、このときのうちは、そうは思わなかったんだ。

君はきっと、どんなに大勢人が居ても。
うちを見つけてくれるような、そんな気がしたから。



226 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:13


そしてその君の視線が。

うちらの関係が、
入学式と同じまま終わったわけじゃないって、教えてくれたような…気がしたから。


だから、きっとここから旅立てる。

うちも、君も。

そう、思った。



3つ持ってきていた使い捨てカメラも。
残すはあと5枚。

せっかくだからまだ撮ってないものを撮ろうと思って。
校舎の中、最後の探検をしていると。

…自然と足が向かっていたのは。
君とよく待ち合わせた、あの図書室だった。



227 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:14


…久しぶり。変わらないなぁ…ってまぁそりゃそうか。

いつも君が座っていたのは…
奥の端っこの席。

端っこでも、窓際じゃなくて壁際なのが、やっぱりどっか君らしかった。

せっかくだから、君がいつも座っていた場所から。
君があの日見ていた風景を撮ろうと思って、カメラを向けて。

ぐるっと一周見回して、ちょうどその終点の図書室の入り口のドアをレンズでのぞくと。


…まぼろしかと思った。
でも、まぼろしにしてしまうのは、まだ早すぎるだろうと思って、慌ててカメラを下ろすと。


ちょうど、そのドアのところに。
君が、立っていた。



228 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:15


驚いているのは、うちよりも、むしろ彼女のようだった。
うちが、ここにくるなんてことは。
もう、ないと思っていたんだろうか。


さっきステージに立っても、全く表情を変えなかった君が。
今、ひどく動揺しているのがわかって、少し悲しかったけど。

…これはきっとチャンスなんだと思った。
春から京都へ行ってしまう君と話す、最後の。


…だったら。

「…柴っちゃん…あの…」

意を決して話しかけると、
びくっと、大きく君の体が揺れて。


…だからもう、うちは何も言えなくなってしまった。



229 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:15


「………あゆみぃ〜ねぇ美貴卒業証書どこに入れたっけ〜カバンにないんだけどっ…
っと…」

沈黙が続いてたとき、
後ろから藤本さんの声が聞こえて。
複雑だった…残念なような…ちょっとホッとしたような。


「あ、きょ、教室かな?!そうだ教室だ!!美貴とって来るっ…!!!」
「…探すよ、私も。」

うちを見て、その場から離れようとした藤本さんを、柴っちゃんが止めた。

「や、で、でも…あゆみ…」
「……………」

「んあ〜よしこぉ〜ごとぉのカバン知らない〜?…おや?」

ごっちんもかよっ、ていうかカバンかよってうちがガクっと崩れてる間に。


「……行こう…」
「え?あ、あゆみ!…え〜っと…じゃ、じゃあ…ね!」

柴っちゃんは、逃げるように去っていってしまった。



230 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:16


…はぁっ。

「よ、よしこぉ〜…ごめん、なんかごとぉ…空気読めてなかった?」
「…ううん。ごっちんは悪くないよ。…探すか、カバン。…うちらもさ。」



そう、これで、よかったのかもしれない。
きっと、これ以上、触れあってはいけないんだ。


…ただやっぱり。
一緒に写真、一枚くらいとりたかったなぁっていうのと。

…さよならって。
言わなきゃいけなかったのになって、思ってさ。


まぁいいか。
もうちょっと、…取っておくね。
この、さよならは。



231 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:17


うちがもっと大人になって、君ももちろんそうなって。
いつか、昔あんなことがあったねって、笑って話せる日まで。
修学旅行で別れ話なんてしちゃったよね、あはは…なんてさ。


それって…同窓会、とかってこと…かな?

「んあ。普通ドーソーカイって三年生んときのクラスでやるんじゃないの〜?」
「はぁっ!!しまった!!」


「誰よ、大きい声出して…あら、あんたたち。まだ教室に残ってたの?」
「あ、圭ちゃん。いや、ごっちんがカバンがないって言うからさぁ。」
「んぁ、あった〜」
「あったんかい!」

見つかったんなら、み〜っけ〜とか言ってくれないと…


もうみんなが卒業パーティーの会場に向かった後の、人気のない教室に残っていたのは。
うちらと、圭ちゃんだけだった。



232 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:18


「それはそうと…吉澤。結局、あんただけね。進路決まんなかったのは。」
「うぅ…ご、ごめんね…圭ちゃん…」


ごっちんは春から、お母さんのやっている小料理屋さんを手伝うことになって。
他のクラスメートたちも、専門学校や就職、みんなそれぞれの道を見つけ、
巣立っていったけど…うちだけは。


すごい、考えたんだけどさ。
でも、どうしても決めらんなかったんだ。

何かやりたいこと、っていうのもないし。
…かといって取り合えず大学に進学する…ような頭もないし。

結局、学校のお荷物だったクラスの、さらにお荷物になっちゃって。
担任だった圭ちゃんには、ほんとに迷惑をかけてしまった。


申し訳なくて、頭を下げていると、ごつんっ!とこぶしが落ちてきた。



233 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:18


「いってぇ!」
「あほ!なに謝ってんのよ。いいじゃない、すぐに決められないんなら、決めなくたって。」
「で、でも…みんなはもう…」

「…あんた意外に周りのこと気にするわよね。いい?
そりゃあ他の、進路をもう決めた子に比べたら、あんたは出遅れたのかもしれないけど。
それでもいいじゃない、誰と競争してんのよ。
…人と自分を。図れるものさしなんてないのよ?
だから気にせず、自分のペースで、自分の道を、探せばいいの。
人は人、自分は自分!うちはうち、よそはよそよ!!」

「んあ、圭ちゃん最後のは違う〜」
「うるさいわね!」



234 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:19


圭ちゃんの言葉は。
おそらく、うちの3年分の悩みの、答えだった。


…どうしてもうちは。
周りと自分を比べて…人より勝ってるか、負けてるかばかり、気にしてたんだ。

…大切な恋も、それで失ってしまった。

だけど、圭ちゃんの言うとおり。

うちは、うち。
よそはよそ、だから。

ゴールの違うレースで、勝敗なんかつくはずもない。

人の目を、気にしてたってしょうがないんだ。


「…胸張って生きてきなさいよ。そんでたまに、お土産に芋焼酎でも持って、また遊びにきなさい。待っててあげるから。」



235 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:20


「…ありがとう、圭ちゃん。
うち、探してみるよ。…自分の道。うちにも、なにか見つかるかもしれないから…」
「うーん…あんたが気づいてないだけで、もう芽は出てるのかもしれないけどねぇ…」
「え?なに?」
「…いや、いいのよ。まぁあせることないわ。この続きはまた芋焼酎でも飲みながらね。
さ、パーティーに行くわよー!!」
「「おー!」」



一人で歩く道は、とても心細いけど。
それでも、前を見て、一歩一歩進んでいこう。


…その道が。
例え君との未来に繋がっていなくても



236 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:21


◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



…やっぱりうちは…京都に呪われているのかな?

ごっちんは、あの後、ひどく心配してたみたいだったけど。
でも、一人になりたいという、まるで身勝手なうちの願いを聞いてくれて。
そのまま、隣の部屋に戻っていった。


だけど、一人、部屋でベッドに寝転んでいると、全く逆効果で。
…昨夜は、君もこのベッドの上にいたのに、とか。

ちっとも、気を紛らわせることも、きれいさっぱり忘れることもできなくて。

いっそもう眠ってしまおうと、目を閉じたとき。
うちのケータイがなった。



237 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:22


「…もしもし?」
『あ、もしもし…よっちゃんさん?美貴だけど…』
「あ、あぁ。ミキティ。…なに?どうしたの?」

見慣れない番号だったけど、なぜか少し予感がしたから出た。
ただ、なんとなく、だったけど。

『うん、ごっちんにね、よっちゃんのケータイ教えてもらって…あ、これ美貴の番号
だから。登録よろしく。ってそうじゃなくて…
あのさ…美貴が…ていうか部外者がね、首つっこむ問題じゃないと思うんだけど…
でもさっき…美貴も電話聞いてたから、さ。』
「…うん、なに?」

ミキティがさっきそばにいたというのは、わかっていたことだったから。
今さら驚いたりはしなかったけど。


『よっちゃん…絶対あゆみのこと、誤解してると思うんだ!』
「…え?」


でも次のミキティの言葉には、ほんとにびっくりした。



238 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:22


…誤解…ってなにが…?

『あ、ううん、もしかしたら、よっちゃんの前でのあゆみは、そうだったのかも
しれないけど…』
「い、いや、ごめん、ちょっといきなりすぎて…」
『え、あ、あぁ。ごめんごめん。』
「…例えば…何が?なにが誤解だっていうの?」


昨夜のことと、それを忘れろなんて言われたことで。
もうすでに、うちの中での柴っちゃんは、ずいぶん変わってしまっているのに。

今さら、なにを誤解しろっていうんだろ。


『…うー…すごい、なんか友達の秘密バラすみたいでヤなんだけど…
でも、よっちゃんと、このままで終わって欲しくもないし…
あのさ…美貴ね、いろいろ知ってるんだよね、実は。
高校時代んときのさ、よっちゃんとあゆみのこと。』


少し、それは意外だった。
柴っちゃんがこういう話を、周りにするとは思ってなかったから。



239 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:23


「…つきあってたって知ってたんだ?」
『…うん、そんで、別れたってことも、別れた理由も、…場所も。』
「へぇ…」

あの夜が、また、頭によみがえる。


『…あのさ…あのときさ…修学旅行のときね?あゆみ…
よっちゃんと別れる気なんて、ほんとは全然なかったんだと思うんだ。
始めは全然。ただ…勢いで…そんなことになっちゃったんだろうけど』
「はっ?…なに、どういうこと?」

だって…あの夜、確かに、話があるからって。
だから、時間をつくってくれと、彼女が言ってきたのに。

『それ…別れ話、しようと思って、…よっちゃんを呼んだんじゃないんだよ。
ほんとに、ただ、会いたかっただけだったんだと思う…あの子。』
「会いたかったって…なんで?」



こんなの、間違ってると思った。
あの日の彼女の気持ちを、今、ミキティに聞くのも、それをミキティが話すのも。

だけど、もう間違ったことをするしかなかったんだ。



240 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:24


『…よっちゃんは、覚えてなかったんだね。やっぱり。』
「…なにを?」
『あの日…なんの日だったか。…って、美貴が言うのも、変だけど…』
「言ってよ、頼むから。…なに?」

修学旅行、二日目の夜。
ただ、それだけだった、はずなのに。

他に、意味があったなんて。



『…つきあって、ちょうど、あの日で一年。…記念日、だったんだよ、
よっちゃんと…あゆみの。』



ケータイを握っていないほうの手で。
自分の頭を叩いた。



241 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:25


くそっ…なんで気づかなかったんだ…あの時。


…今から二年前の修学旅行の、さらに一年前。
それはたしかに、高校最初で最後の文化祭の日。

その日うちらは付き合いだして…
そしてあの、理科準備室の中で。
初めて、キスを。


…正直なところ、思い出せなかったなんて、いうよりも。
始めから、日にちなんて、別に気にしてなかったというのが本音。

だって…特に、あのころのうちらは。
つきあっているのか、どうか。
ひどく、あいまいな時期で。

それどころじゃ。



242 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:25


『…そう。あいまい、だったからこそさ、…会ってね、確かめたかったんじゃないかな?…二人がまだ、つきあってるのか。今日が…一年目の記念日でいいのかどうか。
ほんとに…すごい、勇気がいったと思うんだ…あゆみ。
あの日…よっちゃんに…会いたいって、言うの。』


会いたい…そうだ、確かに言われた。
君がそんなことを言うなんてって、とても驚いたのを覚えてる。


それは、君が初めて。
うちにした…お願いごとだったのに。

――うちはあの夜帰らなかった。

破ったんだ、約束を。


どんな想いで。
君がうちを待ってたかなんて、想像できないけれど。

その罪の重さはわかる。



243 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:26


だけど…ならどうして言ってくれなかったの。

とりかえしのつかない、大切な日なんだということ。
…その日じゃなきゃダメなんだと。

言ってくれていたら…うちだって。

そしたら…うちらの関係だって。


『…言えないよ…言えないんだよ、あの子。ねぇ、よっちゃん。
あの子はさ、して欲しいこととか、思ってることとかさ。
そういうの、全然。言えない子なの。
…わかってなかったの?』


わかっていない、はずがなかった。

別に、なんて口癖や。
…キスをした後の、ぶすっとした表情。

うちはずっと、見てきてたんだから。


それは全部。
彼女の弱さを、隠すための強がりのようなもので。



244 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:26


でも、あの夜。
君は、うちに、それを見せる決心をしてたのに。


…会いたい。
きっと、一生懸命。
そう言ったのに。




『…素直じゃない子だけどさ。あの子は…あの子なりに。がんばってたんだよ、
…よっちゃんと一緒にいるために。
よっちゃんには、わかりづらいことばっかだったかもしれないけど。
帰り、いつも図書室に残ってたのも、そうだし。』
「帰り…残ってたって…なに?」

それは混乱するうちの頭の中を、さらに混乱させる一言だった。



245 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:27


『だっていつも待ち合わせしてたんでしょ?よっちゃんが部活終わったあと』
「それは…そうだったけど。」

でもそれは、彼女はいつも放課後図書室で残って勉強してて。
ちょうど時間が合うからで。


『そんなのあるわけないじゃん、あゆみ、部活もしてないのに。わざわざ残る理由ないで
しょ?』
「いや、うちが部活辞めたあとも、柴っちゃんは残ってたし…」
『いきなり残らなくなったらさ、よっちゃんが不思議に思うからだよ。
…もう言っちゃうけどさ、あの子、成績とかよかったじゃん?
だからやっぱ目立っちゃって…陰口とか、結構言われたりしてたのね?
 まぁいじめとか、そういうんじゃないけど。でもさ、妬む人はいるわけで。
図書室で勉強とかしてるとさ、わざとらしいとか、イヤミだとか言われて。
…ほんとはつらかったと思うよ、そんな中で残ってるの。
でもさ、よっちゃんと帰りたいから、それでも我慢してたんだよ?』
「な、なにそれ?!う、うち聞いてないよ!」

だっていつも彼女は凛としてて、まぶしいくらいで。
そんな影、見たことなんてなかった。



246 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:28


『だから…誤解してるって言いたいの。
よっちゃんが見てたあゆみはさ、あゆみが見せてた部分だけじゃん。
もっと、見せてないところとか、普通の人には見えないところを、見てあげてよ。
…恋人だったんだから。』


うちが見ていたのは。
君じゃなくて、君が着ていた鎧だったのだろうか。


知らなかったんだ。
君が、周りの冷たい目から、一人で戦っていたなんて。

うちは、それに気づかなきゃ、守らなきゃいけないはずだったのに。


なのに自分まで、君をうらやんで。
君から、離れていったなんて。



247 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/22(火) 00:29


戻れるものなら、戻りたい。
やり直せるなら、やり直したい。

…だけど。

『あの子も…よくなかったと思うよ?よっちゃんからしたら、不安に思うこととか、
いっぱいあったろうし。でもさ…なんだろ、そういう愛情表現みたいなの…
どうしたらいいか、わかんなかったせい…だと思うんだ。』


それでも、君がうちに言った言葉は消えない。


『…初恋、だったんだって。あゆみ。…よっちゃんがさ。』

―――忘れて?酔ってたの…―――



…戻れないよ、もう。






248 名前:ツースリー 投稿日:2005/02/22(火) 00:40
以上、第12話です。
そして柴ちゃんおたおめ。

>>213、214 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!泣かないでください〜…・゚・(ノД`)・゚・。
よしこも作者もがんばります!またよろしくお願いします。

>>215 名無飼育さん さま
耐え忍ばせてしまいすみません…・゚・(ノД`)・゚・。
これからもどうか見守ってやってください。よろしくお願いします!

>>216 名無飼育さん さま
ほんとなんでこーなっちゃうんだか・゚・(ノД`)・゚・
続き遅くなりましたが、また読んでいただけたらうれしいです!

>>217 GC さま
いつもありがとうございます!好きになっていただけてほんとにうれしいです〜。
またもどかしくがんばりたいと思いますw

>>218、219 名無し§ さま
なんと始めのころから読んでいただいていたなんて、
ほんとにうれしいです、ありがとうございます。
これからもがんばって続けていきたいと思いますので、またよろしくお願いします!
249 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/22(火) 01:15
泣かないでと言われてもこれが泣かずにいられようか。・゚・(ノД`)・゚・。
ミキティにごっちんに圭ちゃん、みんないい人たちだ。
よしこ頑張れ!柴ちゃんも頑張れ!作者さんももちろん頑張れ!
250 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/22(火) 04:17
胸が痛い・゚・(ノД`)・゚・
切なすぎますってば作者さん・・・。

きっと二人は戻れるはず。戻れなくても新たに始められるはずだと信じて、続きを待ってます。
251 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/22(火) 11:44
くあー。もどかしいっ。
でもミキティありがとう。

二人ともがんばれ。
252 名前:名無し? 投稿日:2005/02/22(火) 17:33
始めから読ませて頂きました。
これからどぅなるんだ!?って思わず叫んじゃいました(^^;)
このあと展開がどうなるか楽しみにしてます!
253 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:24


卒業パーティーが終わった後。

一人、電車に乗り、通いなれた駅で降りて。

「…あれ。裕ちゃん…なにしてんの?」
「おぉ〜よっさーん。ちょっと手伝ってやぁ〜」

家に帰ろうとしていたら、たこ焼き屋の前で、裕ちゃんがダンボールまみれになっていた。



「…これで最後?」
「おぉ。さんきゅーなぁ〜。いや、裕ちゃんか弱いからよっさん来てくれて助かったわ〜」
「…よく言うよ。で、急に片付けなんてしてどうしたの?」

よいしょっと。
背伸びをして、裕ちゃんが、たこ焼き屋の暖簾をはずす。



254 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:25


「実はな、やめんねん。たこ焼き屋。」
「へぇ。そうなんだ。…で、今度はなに?お好み焼き屋?それともまたクレープ屋に
戻んの?」
「あぁ。そうやないねん。たたむねん、このお店。」
「…えっ?!!」


た、たたむって…やめちゃうの?!ほんとに、このお店を?!!

「な、なんで!どうして!!」
「うーん。私ももうええ歳やし。そろそろ結婚でも…」
「…相手いないくせに。」
「うるさいわ!どあほ!!…っと、つっこんだところで…実家にな、帰ろうと思うねん。」
「…実家?」
「おう。まぁもうあんま親に心配かけたくないしな。地元でちゃんとした職についてな、
安心させたらんと。」
「そう…なんだ。裕ちゃんの実家って…大阪?」
「んにゃ、京都。花の都やで〜♪」
「…また京都か…」



255 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:25


「?なんやて?」
「いや、こっちの話…」


そっか…そういう理由なら、仕方ないけど…
でも寂しいな。

なんだかんだ言って、裕ちゃんのたこ焼き、おいしかったし。

それに…ここは、君と通った。
思い出の、お店だったのに。


「そやから、柴田にもよろしく言っといてな?ごひいきにしてもらって、ありがとうって。」
「え…。いや、うちはもう…会わないと思うし、たぶん。」
「そんなこというたって…うちよりは会う可能性高いやろ?同級生なんやから。」
「…もしかしたら、裕ちゃんのほうが会うかもよ?京都で…」
「ほぇ?」

冗談で言ったつもりが。
実際、そのほうが確立高いかもしれないな、なんて思って。
ちょっと苦笑い。


「…あぁ、卒業式、今日やったんか。」
「え?…うん。」



256 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:26


ふいに、裕ちゃんが、うちの持っていた丸い筒を見つけた。

「…早いもんやなぁ。よっさんがうちに初めてきたのは、入学したばっかのころ
やったのになぁ。」
「…そう、だね。」

最初は、ここ。
クレープ屋だったっけね。


「いつも一人で来てたのに、突然お友達連れてきてなぁ。びっくりしたわ〜」
「…こっちこそ突然たこ焼き屋になってて。びっくりしたよ。」
「最初は離れて座ってたのに、段々近くに座るようになってなぁ。
帰りに、初めて二人が手ぇつないで帰ったん見たときは、裕ちゃんガッツポーズやった
わぁ。」
「…見てたんかい!!」


…仕事しろよ!仕事を!!


「…そやのになぁ。…なんでこうなってしもうたんかなぁ。…悲しいなぁ、よっさん。」
「………」


うちらがまだ、ただのクラスメートだったころから。
ずっと、裕ちゃんは見守ってくれていたから。
きっと、ヒトゴトになんかできなくて。心配…させちゃってたんだな。



257 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:27


「…でもな。自分責めたらあかんで?人間、どうにもならないときってな、あんねん。
…どんなに好きでも、大切でも。
間違ってるってわかってても、間違うしかないときっていうのが、あるんや。
せやから仕方ない。
ただ…そのまま逃げたらあかん。例え時間がかかっても、なにが正しいか、
気づいたときは。それに気づけたときは…素直になり。わかったか?」

「…わかんないけど…わかった。」

裕ちゃんが、うちを。
うちらを、想ってくれてるってことは。


「なーんや、はっきりせえへんなぁ。よし、ほな裕ちゃん行くわ。つき合わせて
悪かったな。」
「…いいよ、別に。」
「んじゃ、元気でな。」
「…うん。」


ダンボールを山のように積んだリヤカーを押しながら去っていく裕ちゃんを見て。
うちも自分の道を歩き出した。

すると。


「…よっさーん!!!」



258 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:28


「へ?…うわぁぁぁ!!!」

なんと裕ちゃんは。
パックに入ったたこ焼きを。

そのままうちに投げつけてきた。


「ちょ!なにすんの?!!」
「それ、うちが作った最後のたこ焼きや。ありがたく食べや♪」
「だったら直接渡せばいいでしょ?!ぼろぼろになるじゃんか!!」
「大丈夫大丈夫♪輪ゴムしてんもん♪」
「だからって…うわっ!ソース出てる!!うわぁ!!!」
「いちいちうるさいヤツやなぁ。んじゃ、バイバイ、な♪」
「…たくっ。バイバイ!!」

あぁ…ソースで手がベタベタ…

「あぁぁ!!よっさん!!!」
「今度はなに?!!」

何度も何度も…これじゃコントだよ!!



259 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:29


半ばいらつきながら振り返ると。

「…卒業。おめでとな!」
「…裕ちゃん…」


お世辞にもそれは、上品な奥様のような、笑顔ではなかったけれど。
だけどその分、とても温かくて。

そして、それから。
裕ちゃんは一度も振り返ることなく、去っていった。

うちはその後姿に。
一度、深く礼をした。



こうして、今日。
うちは、3年間の高校生活を、無事に終えた。

つらかったことも、悲しかったことも。
傷つけたことも、悲しませたこともあったけれど。


無事に、卒業したんだ。



260 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:29


まぶしい空を見上げると。
なんとも見事に…かわいいけど、ちょっとマヌケに。

雲がみっつ、重なって。
それがまるで、ミッキーみたいに見えて、思ったんだ。


…いつか、お金を貯めて。
京都に行こう。
そして、あの日とれなかった、ミッキーのぬいぐるみをとってこよう。


君に渡すためでは、もうない。

止まってしまった時間を。
動かすために。



261 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:31


◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「…よしこ。このまま…帰っていいの?」
「え?」

帰りの新幹線は連休の帰省ラッシュのために、大混雑で。
やっと席を見つけて、荷物を棚に上げてるとき、ごっちんが言った。

「そんな…こと。言われても…なぁ。もう、どうしようもないし。」
「…ほんとに。どうしようもないの?」
「うん…」

うおっ。
ごっちんのバッグ結構重いな…腰にくる。



262 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:31


「…ふぅ。よし、荷物OK。さて…えっと…昨日、ミキティにも…電話もらってさ。
心配してもらったんだけど。」
「あぁ、そうだったんだ。ミキティ、なんだって?」
「うん…なんか。覚えてるかなぁ、ごっちん。修学旅行の夜さ、うちらゲーセンでお金
使っちゃって、帰れなかったときあったじゃん?」
「そりゃー覚えてるよ?」
「…でさ。あの夜、…柴っちゃんと。会う約束してたのね?だけどうちは帰らなくて…
うちは、なんでもない日だと思ってたんだけど…その日って。
記念日だったらしいんだわ。うちと…柴っちゃんの。つきあって、一年目の。」
「…大変じゃん…それ。」
「うん…」
「で、でも…さ。よしこはさ、ミッキー、柴田さんにあげるために、がんばったんでしょ?
それ、むこうは知ってるの?」
「…知らないだろうねぇ…」
「だめだよ!そこ、ちゃんと伝えなきゃ!!」
「…いいんだ、もう。」
「どうして?」



263 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:32



ごっちんにまで、心配させてごめんね?
でも…もう…

「こないだの…夜のこと。あれさ…酔った勢いだったんだ…」
「…そんな…」


…そう。
さすがに、ごっちんもショックっしょ?
うちも相当きたからね…


「さいてー!!よしこ!!!!」
「はぁっ?!!」



264 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:32


ちょ…なんで?なに?


「な、なんでうちが最低なのさ!!」
「なんでって!酔った勢いであんなことするなんて!!」
「い、いや違う違う!!たしかにうちも酔ってたけど…そう言ったのは。
柴っちゃんのほうなんだ。」
「…え?柴田さんが?…酔った勢いだって…そう言ったの?」


そうだよ…
たく。
なんでうちだと思うんだよ。

ごっちん、もうちょっと友達のこと信用して…



「でも…お酒飲んでないのに?なのに酔ってたの?」
「…へっ?」



265 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:33


ちょっと待って…それってどういう、こと?


「だって。飲んでなかったじゃん、柴田さん。お酒。」
「いや、なんか、カクテルっぽいの…飲んでたじゃん。」
「あぁ。あれでしょ、あの、アルコール入ってないヤツ。
だってあんとき、柴田さん、車だったじゃん?
ミキティが寝ちゃったから結局泊まることになったけど、最初は運転して帰るつもり
だったみたいだし。飲んでないはずだけど…」
「…うそだろ…」


じゃあ…あの夜。

君は…自分の意思で。

…うちに抱かれたの?



266 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:34


でも、じゃ、なんで…
…飲んでもいないのに、酔った勢いだなんて言うんだよ…


まさか…また。
あれは彼女の得意な…
…強がり?


「なんか…よしこ。鈍感すぎなんだけど。」
「い、いや…でも…あの…」

えー…っと。
ていうことは…?
つまり…どういうこと?
…あぁっ!!わっかんねー!!!

「やっぱり、よしこ。このまま帰っちゃだめだよ。」
「…いや。でも、なんかわかんないし。…余計わかんなくなったし。
やっぱ一度帰って、そんでまたゆっくり考えてから…」
「…そう。」


うーん…と考え続けているうちに。ごっちんは、うちのトートバッグを手渡した。



267 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:34


「…え?」
「お弁当。買ってきて?お腹すいた。」
「えぇ!!」

い、今から?!

「でも、もう新幹線、発車するんじゃない?」
「ううん…15分発だから…あと10分以上あるよ。いけるいける。急いでね。」
「…なんでうちが…」
「誰のせいでせっかくの京都旅行、観光もせずに終わったと思って…」
「い、いってきます!!」

たく。せっかく座ったのに。
でも、確かにごっちんには迷惑をかけたから…逆らえず。

「えーっと。すいません、このお弁当二つ…あ、あとお茶ください。」

言われたとおり、駅の売店でお弁当を二つ買って、ホームにもど…でぇぇぇっ!!!


「ちょ…あ、あの!!東京行きの新幹線は…」
「あぁ、今出ましたよ。」

駅員さんは、さも当然といった感じで答える。



268 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:35


…ちょっとどういうこと?!!

おろおろしていると、トートバッグが震える。
ケータイ、なってんじゃん。

誰…ご、ごっちん?!


「ちょっとごっちん!!どういうことだよ!!!」
「ごめーん。15分じゃなくて、5分発車だった、あはっ。」
「あ、あはっ…じゃないっつーの!!どうすんだよ!!うちの旅行バッグは!?」
「あぁ、それならごとーがちゃんと預かっておくから。安心して?あと、そっちは…
…財布とケータイさえありゃ、なんとかなんでしょ?あと、お弁当という食料も♪」
「んな…ひでぇよ、ごっちん!!」

うち…たった一人でこんなとこに残されて…うぅ…

「大丈夫だよぉ〜…たぶん、すぐに迎えがくるって♪んじゃ、またいつか東京でね〜」
「あぁ!!ご、ごっちん!!!」

切れたよ…マジで、切りやがったよ…



269 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:36


まさかだらけの京都旅行。
最後まで、こんなハプニング続きとはね…とほほ。

しかたなく、駅の改札のところに戻って、次の東京行きの新幹線の時間を調べる。

…あ、どうせ混むだろうから。
指定席、とっておいたほうがいいかな。


そう思って、窓口に行くと。

「…すいませーん。あの、これ、指定席にしたいんですけど…」
「ん?何時のにするん?…あらまぁ。」
「え?…あぁ!!ゆ、裕ちゃん?!な、なにしてんのこんなとこで!!!」
「なにしてんのって、見りゃーわかるやろ?うち、今この窓口で働いてるんよ。
…よっさんこそなに?旅行?一人かいな?」
「いや、さっきまでは違ったんだけど、それがいきなり一人にされちゃって…」
「…ん?」

ダンッ!!

うちと裕ちゃんが話しをしていると、隣を誰かが風を切ってすり抜けてきた。


「……す、すいません!!あの、東京まで!!!」



270 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:37


「あぁ、ちょっと待ってな、この子いきなり一人にされたとかなに言っとるかわからん
くて。って…柴田?」
「え?…な、中澤さん?!!…よっすぃ〜!!!」
「し、柴っちゃん!!!ど、どうして…」

ものすごい勢いで窓口に飛び込んできた、その人は。
この旅行のハプニングの最大の責任者。
…柴っちゃんだった。


「…柴っちゃん。東京までって…帰るの東京に?帰省すんの?」
「え?…だ、だってよっすぃ〜が…よっすぃ〜こそ、どうしてここにいるの?
さっきの新幹線で…帰ったんじゃないの?」
「いや、うちは…」

「…読めん。全く読めん。話が読めんわぁ〜」

いや、それは裕ちゃんだけじゃないから。



271 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:37


って…これって…ど、どうなってんの…?

「あ…あの。…さっき後藤さんから電話があって…私…」
「ご、ごっちんから?」

あぁ、そうだったんだ…
ごっちん…一体なに言ったんだ…?


「ご、ごめんなさい…私、知らなくて…よっすぃ〜が…私…」
「え?え?な、なんのこと?」
「…ごめっ…」

走ってきたせいか、息も荒くて。
慌てて来たせいか、ひどく動揺していて。

そんな彼女を前に、どうしたらいいかわからないうちに、裕ちゃんが叫ぶ。


「…ふぅん。よぉわからんけど…あ、よっさーん!次の新幹線席取れるで!どうするー?」
「え?あ、あぁ…」
「…!!ま、待って!!」

すると突然、柴っちゃんに。
大きな声で引き止められる。



272 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:38


…え?
な、なに…

「あ、あの…その…」

「…柴田!!もう今しかないで!!よっさん、帰ってしまうんやで!!ええんか
それで!!」

…わわっ!
裕ちゃんがでっかい声出すから…柴っちゃん、こわがってうつむいちゃったじゃん。
たくっ。


「もー裕ちゃんは黙っててよ………え?」

かすかな感触を感じて。
振り返ると。
…君が。
うちの手を、…というか、指を、指先を。



273 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:39


わずかに、ほんのわずかに、つかんでいて。

…そして。
小さい、声で。


「…行かないで…」


さっきとは全然違う、消えそうな、とても小さな声。

うつむいたまま、ほんとに。
それだけ言うのが、やっとって感じで。



…それは、必死に彼女が言葉にした、心の中の想い。



274 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:40


ねぇ、どうして。
いつも、大勢の前では、あんなに堂々としている、君が。

…うちの前では。
うちに、そんな些細なお願いをするときには。

どうして、そんな、子供のように。
…泣いちゃうの?


「…よっさん!!柴田がこんだけがんばったんやで!!あんたも答えてあげや!!」
「え?…あ、あぁ…」


…どうしよう。
よく、わからないけれど。


ただ、もう二度と。
いつも、素直になれない君が。
一生懸命、うちに言ったお願いを、見逃したくない、見失いたくないから。


…とりあえず。



275 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:40


「…これ。お弁当でも…食べませんか?」


君に初めて話しかけたときも、たしかこんなこと言ってたような。

そして、その後、少し驚いた後。
きっと君は言うんだ。

「…食べる。」


あぁ。

ほっぺたは、涙で濡れているけれど。

でも、君の笑顔を見たの。
どれぐらいぶりかな?


きっと、今日は。
うちは、間違わなかったんだよね?



276 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/02/25(金) 17:41


「よぉっしゃー!!!もうこんな切符はいらんな!!えぇい!!」
「だぁっ!!やぶくなー!!!」

裕ちゃん…払い戻し、してよ。



そして、久しぶりに君と手をつなぐと。
初めてのときみたいに、とても照れくさくて。
…あったかくて。


…また裕ちゃん、見てんだろーな。


仕事、しろっつーの。





277 名前:ツースリー 投稿日:2005/02/25(金) 17:48
以上、第13話です。
次回、最終回の予定です。

>>249 名無飼育さん さま
泣かないで〜泣かないで〜・゚・(ノД`)・゚・。レスありがとうございます!
やっと次回終われそうです。最後までどうぞよろしくお願いします!

>>250 名無飼育さん さま
温かいレスありがとうございます!切なすぎとは…うれしいですw
次回最後も見守っていただけたらうれしいです!

>>251 名無飼育さん さま
ほんともどかしいもどかしい…こちらこそレスありがとうございます!
作者も最後までがんばりたいと思います!

>>252 名無し? さま
はじめから読んでいただきありがとうございます〜。大変じゃありませんでしたか?
最後も読んでいただけたらうれしい限りです。よろしくお願いします!
278 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 19:56
くぅぅぅ〜!裕ちゃんいい味だしてるぜ裕ちゃん。
柴ちゃんかわいいなぁ(*´∀`)ポワワ
鈍いよしこがもどかしいけどそんなところもまた(・∀・)イイ!
279 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 23:16
裕ちゃんの言葉にぐっときた。
そして柴ちゃん、かわい過ぎ。

次回が最後ですか。やっとここまで来たと言うか、まだ終わって欲しくないと言うか。
楽しみに待ってます。
280 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 01:16
うあぁーきましたね!!
次回最終回はさみしいですが、やっと二人が素直になれそうでドキドキです。

柴ちゃん視点も読みたいなぁ・・・とか言ってみたり(w
281 名前:GC 投稿日:2005/02/26(土) 02:34
はぁ・・最高。最高ですねぇー。
ほんとドキドキしっぱなしだったんですけど次回で終わりですかー。
もっと見てたいんだけど、いっこくも早く続きが見たい!

282 名前:名無し? 投稿日:2005/02/26(土) 07:56
最初から読むの全然大変じゃありませんでしたよ。先が気になってどんどん進んじゃいました(^□^)
今も最後が気になってます。大変だと思いますが、最後まで頑張ってください!!
283 名前:名無し§ 投稿日:2005/02/26(土) 12:01
2人の周りは強引やけど善い人ばっかりですね^^
やっと素直になれそうですね!
次回最終回ですか…
まだ終わって欲しくないけど頑張ってください!^^
>>280自分も同意w
284 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/04(金) 23:57


「…ごっちんに。…なんて、言われたの?電話で…。」
「え?…うん…」


ホームの前のベンチに二人、座って。
ごっちんのために買ったはずのお弁当を、食べ終わって。

そう聞くと、やっぱり彼女はうつむいてしまった。


「…ごめんね…」
「や、…なにが?」
「…よっすぃ〜のこと…あの、夜のこと。私…ずっと…」
「………。」



285 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/04(金) 23:58


本当はもう、なんとなく。
勘付いていた。
…ごっちんが、彼女に、何を教えたのか。

…でも。
やっぱりそれは、君の口から、ちゃんと聞かないと。
君が、言わなきゃ。
いけないことなんだと、思う。


「あの夜?」
「…修学旅行の…夜。ずっと…よっすぃ〜は…よっすぃ〜…帰ってきて、くれなくて…
どうでも、いいんだって…私のことなんか、って…」
「んなわけ…ないじゃん…」
「…だって…約束、…したのに…」
「…ごめん。」



286 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/04(金) 23:59


あの夜、君は。
一度も、うちを責めなかった。


「待ってたのに…よっすぃ…ずっと…待ってたのに…」
「うん、ごめん…」


だからね。
今、君が怒ってくれるの。
うれしいんだよ、すごく。


「でも…先生に聞いたら…よっすぃ〜お財布落としたって…それなら仕方ないって、
思った…けど、ホントは、遊んでたって…よっすぃ〜…」
「あぁ、言ったね…うち。」
「…だから、ずっと…誤解してた…よっすぃ…後藤さんと…遊ぶのが、楽しくて。
それで…帰ってきてくれなかったって、思ってたの…」
「そっか…」
「わ、私と…いるより、…よっすぃ…後藤さんと、いるほうが…」
「そんなんじゃ、ないよ…」

確かに、あの頃。
君といるより、ごっちんといるほうが楽だったけど。

それは、ごっちんは、うちにとって、大切な友達で。
君は、うちにとって。
…大切な、人だったせいだから。



287 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:00


「でも、ほんとはよっすぃ〜…ミッキーのぬいぐるみ、取ろうとしてくれたんだって。
後藤さんが…電話で…。だから、だからだったのに、私…」
「いや、…柴っちゃんが悪いわけじゃ…ないよ、約束破った…うちが、悪い。」
「でも…」
「ううん。…ごめんね…帰れなくて。あの夜…記念日だったのに。」


ずっとうつむいていた、彼女が、驚いたように顔を上げた。


「よっすぃ…お、覚えてた…の?」
「…ううん。ごめん。全然、覚えてなかった。昨日…ミキティから。
教えて、もらったんだ。」
「美貴…から…?」
「うん。…柴ちゃんは…そういうの、全然。自分から、言えない子だからって。
…ごめんね。初めて、だったのにね。柴っちゃんがうちに、お願い事したの。
初めてだったのに。会いに行かなくて…ごめんね。」



288 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:01


潤んでくる瞳を見ていらんなくて。
ぎゅっと抱きしめた。


「…だけどさ…言い訳、するんじゃないけど。うち、鈍感だし。気づかないんだって。
だからさ頼むから…そういう、大事なことは、ちゃんと言ってよ。いや、マジで。」
「…無理だ、よぉ…」
「なーんでさ!!…それ、柴っちゃんの。悪いクセだよ、素直じゃないの。」
「…わかってるもん…」

あ、わかってはいるんだ?
自分が、素直じゃないの。

「…わかってるもん。でも、そういう…かわいい子みたいに…言えない、私。」
「いや、かわいい子みたいにって…別に普通に…」
「…できないんだもん…」
「…だから?飲んでもないのに、酔った勢いだとか言っちゃうの?」
「!!き、気づいてたの…?!」
「もちろん!って…ウソ。ごっちんに聞くまで…わかんなかった…」
「…鈍感…」
「ひでぇ!!」



289 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:01


言う?そういうこと、言う?!
そっちが、言っちゃう?!

「あのねぇ。…うちだって…ちょっと、傷ついたんだよ?お酒の勢いとか、
言われたらさぁ。…本気じゃ、なかったのかって、思うしさぁ。」
「…ごめん…」
「いや、気づかない、うちも悪かったんだけどさ。…なんで。あんなこと、言ったの?
なかったことに…したかったの?」
「!!ちがっ!…違う…」
「…じゃ、なんでさ…」


…あのままだったら。
ごっちんに言われて、君の強がりに、気づかないままだったら。
本当に、うちら。
終わってしまうところだった。



290 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:02


ううん、むしろ。
一度君は、終わらせようと、した。

『忘れてくれ』って言ったよね…?
…どうして?


「…だって。絶対、うまくいかないって…思った。…私達。
また、たとえ…つきあっても。悲しい思いして、二人とも傷つくなんて…やだった。
だから…もう、終わりにしたほうが、いいのかなって…」
「柴っちゃん…」

でも…それならさ。

わからないことが…もう一つあるんだ。
そうやって…終わらせるつもりだったんなら。

なんでうちに…抱かれたりしたの?

酔ってたって理由は、もうありえない。
けど、うちと…もう一度、やり直そうと、思ったわけでもない。

なんで…?
抱かれる必要なんて…なかったはずなのに。



291 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:03


「本当に…最後だと思った…。これが…最後だって。だったら…素直になろうかなって、
思ったの。自分の気持ちに。」
「自分の…気持ち…?」
「…やり直せなくても、よかったの。
よっすぃ〜…酔ってたし。忘れられちゃうかもって…思ったけど、それでもよかった。
私が、忘れないから…」
「柴っちゃん…?」
「一回だけでも…いいなって。よっすぃ〜に…抱きしめられたいなって…思っちゃった。」



ただ、それだけだよって。
そう言った後、彼女は、うちから体を離した。

だから…あぁ、また強がる気なんだなって、すぐにわかった。


「ね、だから…よっすぃ〜。無理、すること…ないよ。私が…してって言ったの。
よっすぃ〜に、責任ないの。ひきとめちゃって…ごめんね?
でも、謝りたくて…誤解、してたこと。後藤さんに、教えてもらえて、よかった。
じゃなきゃずっと…」
「…柴っちゃんはさ。」
「え?」
「もう、やり直したく…ないの?うちとは。」
「そうじゃ…ない…けど…」
「でもさ…」



292 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:04


さっきから。
もう、いいよ、とか。
昨日だって、
忘れてくれ、とか。

そっちばっかりじゃん。

なんで、そんなこと言うの?

本当の君の気持ちは、どっち?


「…だって…よっすぃ…また、元気なくなる…私と、いたら…。
高校生のとき。…つきあってたとき…よっすぃ〜ずっと、苦しそうで。
後藤さんといるときは…よっすぃ〜、元気なのに。
私といると…よっすぃ〜…つらそうで…段々、笑わなくなって…。」
「柴っちゃん…それは…」
「私といると…私の…せいで…よっすぃ〜…」
「違うんだって…」



293 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:05


ずっと…悩ませてたの?
自分のせいで…うちが。
笑わなくなったって?

ごめんね…

でも、君が思ってるのとは、違うよ。

君のせいじゃ、ないんだ。

うちが、元気なくなったのとか。
笑わなくなったのとか。


君といるのが…つらかったのは。

君のせいじゃない。
それは…うちの自分勝手なプライドのせいで。


「ずっと…劣等感…感じてた。柴っちゃんに。柴っちゃん、頭いいし…優等生だし。
それに比べて…うちなんか、うちなんか。…ずっと、そう思ってた。
それにさ…柴っちゃん。
好きとか…言ってくれないし。不安だった、すげぇ。だから…だから…」

だから、逃げ出した。
君から。

見たくなくて、見せたくなくて。
情けない、自分を。


でも…



294 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:06


「もう…そんなこと、気にしててもさ、しょうがないってわかった。だから、しない。
いいんだ、周りに、なんて言われたって。人の目なんて、気にしない。
ただ…好きだからさ。柴っちゃんのこと。だから…そばに、いたい。それだけ。」
「よっすぃ〜…」


誰かと、競争なんてしてもしかたない。
…それが、たとえ、君であっても。

君は、君。うちは、うちだから。


…昔、圭ちゃんに言われた言葉を、思い出していた。

胸を張って、生きていくって、約束したんだ。

だから…一緒に生きていきませんか?



295 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:07


「わ、私といても…つまんないよ…」
「…なんで?」
「おもしろい、こととか…言えない。あんまり、しゃべんないし…」
「…だから。それは、柴っちゃんのせいじゃないんだって。」
「よっすぃ〜のこと。笑わせてあげる、自信ない…」
「いいよ。芸人じゃないんだから…」


ていうか…それをいうなら、うちだって。

「今…ただのフリーターだし。前よりもっと…ふさわしくないかも。柴っちゃんに。」
「…ど、どうでもいい…そんなこと…」

どうでもいい…は言いすぎじゃん?!


でも…ほら。

案外、たいしたことじゃ、ないのかもよ?
うちらが昔、気にしてたことなんて。



296 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:08


それよりもっと、もっと。
大切なことが、あるじゃん?


「柴っちゃん…柴っちゃんのさ、気持ちは、どうなのさ?」
「…気持ち?」
「そう、気持ち。」

そこが…お互い、通じ合っていたら。
それだけで、もう、いいんじゃない?

それを、聞けたら…
うちは、堂々と、君の隣にいられるのに。


「そういえば一回も聞いたことないんだよな〜そういうの。柴っちゃんから。」
「…言ったもん…」
「はぁ?いつ?!」



297 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:09


全然、記憶にないんですけど?
またウソつこうなんて…

「ち、違う…ほんとに…言ったもん。よっすぃ〜…寝てるとき。」
「へ?あー…こないだ?」
「………」


言ったのかな…でも、こんなに赤くなってるってことは、言ったのか。
だけどそれってさぁ…

「うちが。覚えてないんだから、意味ないじゃん。」
「…そんなのひどい…!」
「ほらほら。さぁさぁ。早く。」
「…な、なんて…言えばいいの…?」
「え?…それは…そのまま。」


そのまま。
君が思うように。

心の中に、ある気持ちを。
教えてよ、うちに。


…もう、強がんないでさ。



298 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:10


「絶対…わかってる…くせに…」
「…いいから。ほら。…言ってみ?」
「うー……」
「ほら、言え、言いなさい。」
「もうやだ……好き…よっすぃ〜…よっすぃ〜…好き…」
「…言えんじゃん。ちゃんと。」

そういって頭をなでたら、またボロボロ涙をこぼし始めた。



…世間では。
簡単なことかも、しれない。

好き、なんて、言うの。


もしかしたら、別に、好きじゃない人にでも、たやすく言えてしまう人もいるんだろう。



299 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:11


…だけど。

彼女は。

どんなに、そう思っていても。
本当に、好きだったとしても。

言えないんだ、なかなか。


彼女にとって、素直になることは。
テストで100点をとるより、難しい。

…うちだったら、絶対逆だけど…


…だから。
君が、泣きながら言ってくれた気持ち。

何年もかかって、やっと言葉にできた気持ち。

絶対、ムダにしないから。
もう二度と、見失ったりしないから。



300 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:12


「やなの…もう…前みたいに…修学旅行の、ときみたいに。別れるの…もうやだぁ…」
「…わかった。わかったよ。」
「あんなふうに…なるんだったら…つきあわない、ほうが…」
「なんないよ。なんないから…つきあおうよ。」
「…うー…うー」
「柴ちゃん…」


泣いてる彼女を抱きしめて、キスしようとすると…


「ま、待って…」
「?なに…?」
「人、いるよ…見てる…よ…」
「…だから。うちはもう、人の目は気にしないんだって。」

意味が違う…って抗議する彼女を無視して。



301 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:13


口付けて、唇を離すと…出た。

「その…顔。なんとか、なんないの?」
「え…?」
「昔から。ぶすっとした顔すんじゃん、キスした後。」
「だ、だって…」

結構、それ。
へこむんだよ?

そんな、嫌そうな顔されたらさぁ。
せっかくチューしたんだから、もっとうれしそうな…


「…だって…トラウマ…なんだもん…」
「はっ?トラウマ?なにそれ。」
「だって…」


トラウマって…あれでしょ?なんか心理的な傷みたいな…
え?!な、なに?なんか隠された過去とかがあんの?
柴っちゃん。



302 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:14


「だって…よっすぃ〜…昔。…トマトって、言った…初めて、キスしたとき…」
「…はぁっ?」

…トマト?
あー…言ったっけ、そういえば。


「え?なに?ずっとそれ気にしてたの?」
「………」
「マジで?!」


うっわー…だからいっつも下むいて、ぶすっとしてたの?

…まいったなぁ。


「でもさぁ。…ほんとに、真っ赤で、トマトみたいだったんだよ?」
「…!!ふ、普通は!!思っても、言わないよ!なのに…よっすぃ〜は…」
「…今も。トマトみたいだよ?」
「…ひどいひどいひどい!!!いっつも、よっすぃ〜は…うー…」
「わわっ!!ウソウソごめん!!あー泣くなって〜…」


優等生から…ただのだだっ子になってしまった柴っちゃんを、抱きしめながら。



303 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:16


…はぁ。
なんだ、そんな理由だったんだ。
うちも、結構悩んでたのに。


きっと、君が言葉にできていたら。
うちが、わかってあげられていたら。

たいしたことじゃ、なかったのに。

ずいぶん、遠回りしちゃったね。



ねぇ、これから。
また、いっぱいあるかもしれない。

すれ違うことも、ケンカすることも。



304 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:17

だけど、もうニ度と、離れるのはやめよう?


だってもう、離れたくないんだ。
…君と。

「だからさ…柴っちゃん、これからはもうちょっと素直になってね?」
「…よっすぃ〜は。鈍感なおして…」
「ぐっ!…わかりました…」


なおるのか…?鈍感って。



でもね、柴っちゃん。
…無理は、しなくていいよ。

あんまり、強がりなのは、困るけどさ。
でも。


君の…素直じゃないところも、実は結構好きだから。



305 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:18


これからは、うちが。
君のほんとの気持ちを、見つけていけるように、がんばるからさ。

…鈍感なりにね。



「…へー。それでバイト増やしたのかぁ〜。」
「そうそう…まぁ夜行バスは、新幹線よりは安いけどね。それでも毎週だとさ〜」

バイト先で、店長に見つからないようにしながら、
遊びに来たごっちんに報告をする。



306 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:18


そう…あれから。

うちは毎週、京都に通ってるんだ。

金曜の夜に、夜行バスで行って。
そんで、日曜の夜に戻ってくる。

そんな生活を続けているわけで…
つまり…遠距離恋愛に必要なのは、たっぷりの愛情と、たくさんのお金。


うちの愛情はもちろん問題無いよ?
でも…お金は足りなくて。

だから週3日だったバイトを週5日に増やしたんだけど…
ほとんど移動費に消えるから…うちが使えるお小遣いは減る一方…
とほほ。



307 名前:修学旅行の思い出 投稿日:2005/03/05(土) 00:19


「あはっ。がんばれ〜働くパパ♪」
「パパじゃないから!…でもがんばるぞぉ〜」



どうせ会いに行っても。
素直に、うれしいなんて。

なかなか。
あの子は、言ってくれないんだけどね…



よし、今週は、あと3日。

もうすぐ、あの。
ぶすっとした顔が見られるぞ、っと。





308 名前:ツースリー 投稿日:2005/03/05(土) 00:32
以上、修学旅行の思い出、完結です。

>>278 名無飼育さん さま
278さんありがとう278さんwポワワしていただけてうれしいです!
無事に終われました〜また読んでいただけたらうれしいです♪

>>279 名無飼育さん さま
ぐっときていただけたなんて、うれしいです!ほんとにやっと終われました〜
待っていただきありがとうございます。またどうぞよろしくお願いします!

>>280 名無飼育さん さま
柴っちゃん視点…書こうと思っていましたので、レスを見てびっくりしましたw
ありがとうございます、またどうぞよろしくお願いします!

>>281 GC さま
ドキドキしてもらえてうれしいです!一応本編は終わりなんですが、
またちょこっと続きますので、どうぞよろしくお願いします〜

>>282 名無し? さま
私もためしに読み返してみたんですが、自分で疲れてしまいました…w
無事に終われました〜ありがとうございました♪

>>283 名無し§ さま
レスありがとうございます!周りにまで着目していただけて、うれしいです!
柴っちゃん視点、始めたいと思いますので、よろしくお願いします〜


次回、続編の短編を書かせていただいてから、柴っちゃん視点を始めたいと
思います。
どうぞまたよろしくお願いします。
309 名前:名無しーく 投稿日:2005/03/05(土) 00:44
リアルタイムで読んでしまった!!うれしい
完結お疲れ様です。トマトの思い出からずっとROMってて初レスです。
作者さんのおかげで吉柴の良さに気づきました。
とくに柴ちゃんがかわいすぎです!
続編と柴ちゃん視点も楽しみにしております。
310 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/05(土) 03:38
完結お疲れさまです。
いやーもう柴ちゃんが可愛すぎて(*´Д`)

続編も柴ちゃん視点も楽しみにしています。

でも、結末がわかっているのに柴ちゃん視点ではまたやきもきさせられそうだなぁ…(w
311 名前:名無し? 投稿日:2005/03/05(土) 08:59
完結お疲れさまです!
いやぁ〜、すごいっ。

やっと2人の気持ちが通じあいましたね。
もぅ柴っちゃん可愛すぎです(*´`)

続編があるんですか?
その後の2人とか柴ちゃん視点、楽しみにしてます!!
312 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 00:44
なんかね・・・泣けた(゜ーÅ)
313 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:52


「………」
「いや、自分からかけてきといて…しゃべんないって。どういうこと?!」

この無言電話は、いたずらじゃない。
犯人は、柴っちゃん。


話しは、さかのぼること、約30分前…



「ちわ〜っす。」
「んあ?よしこぉ?どうしたの。」

ここはごっちんと、ごっちんのお母さんの営む小料理屋。
ちょくちょく遊びにきてるから、ごっちんが驚いているのは、うちが来たことじゃない。


問題なのは、その曜日。



314 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:52


「今日、金曜じゃん。行かなくていいの?京都。」
「あー、いいのいいの。あんまり甘やかすとね…」
「んあ?」

そう、今回は、悪いのは彼女。



一週間前の週末。
もちろん、うちは。京都の彼女の部屋に居た。

「…おいしくないなら食べなくていい!!」
「いやだから!おいしくないなんて誰も言ってないでしょ?!ただ、ちょっと味が薄い
かなーって…」
「…言ってるじゃない!!」
「ち、ちがうって!!…ていうかごまかさないで感想言ってくれって言ったの
そっちだろ?!」
「…もういい!!二度と作らない!!」
「はぁっ?ちょっとなんでそーなんの?…たく。かんべんしてよ…」



315 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:53


すねた彼女を。
始めは、一生懸命なぐさめたけど。
…よくよく考えたら、うち、何も悪いことしてないじゃん?


帰り際に
「来週も、期待してるね」
って言ったら
「もう…来なくていい!!」
って言われたわけよ…


ね?悪いの、彼女でしょ?

「あはっ。かわいいねー柴田さん。よしこもさぁ。おいしいって言ってあげたら
よかったのに。せっかく作ったのに、かわいそうに。」
「…だってさぁ。うち、ごっちんの料理で舌がこえちゃっててさぁ。
だいたい…はっきり感想言ってくれって、向こうが…」
「はいはい。んじゃ、そのこえた舌は何が食べたいの?」
「へへ。肉じゃが…味のするやつね!」
「あいよ〜」



316 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:54


…そりゃーごっちんの言うとおり。

確かに、料理が得意じゃない彼女が、一生懸命作ったんだし。
褒めてあげればよかったかなーっていうのもあるよ?

そういえば高校んときも、ぼそぼそしたクッキー…作ってくれたっけ。

でもまぁ、それにしてもさ。
「来なくていい!!」は暴言でしょ?


そんなこと言うんだったら、行きませんよ?うちだって。


それに…実はちょっと楽しみなんだ。
一週間連絡とってなくて、今日もうちが会いにいかなかったら…彼女がどう出てくるか。


ちゃんと、素直に謝れるのかなーなんて。



317 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:56


「そんな余裕ぶっこいてていいのぉー」
「いいのいいの。…まぁ、もう。別れること…ないと思うんだ、うちら。…何があっても。」
「んがっ!!のろけかぁーー!!」
「うへへ。…ん?」

そうこうしていると…ケータイがぶるって。
表示を見ると…彼女だ。


「お、きた、電話。さぁ、なんて言ってくるかなぁー」
「…悪趣味。よしこ。」


いいじゃん、たまには、ちょっといじわるしたって。
だいたいいつもが、甘やかしすぎちゃってるんだよ。


「…もしもし?」
「………」
「…柴っちゃん?聞こえてる?」
「………」
「あのー…」
「………」



318 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:57


ちょっと。
そりゃーないんじゃないの?

自分からかけてきといてさぁ。


…無言の抗議?

「…なんでしゃべんないのさぁ。」
「………」
「たくっ。…かんべんしてよ。」
「………」

はぁ。
そういう作戦ってあり?
全く…


「あのねぇ、柴っちゃ…」
「…ぐすっ…」
「えっ?!!」


ま、待って…まさか…


「な、泣いてんの?!!」
「………ぅー…」


わわわっ!!
だ、だぁっー!!!
こ、こんなはずじゃ…



319 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:58


やばいやばいやばい…
まずいまずいまずい…!!!

「んあぁ。よしこ。今からなら、最終間に合うよ?」
「…ご、ごめん、ごっちん!!また食べにくるから!!」
「あはっ。またのご来店〜お待ちしてます〜♪」


慌ててごっちんのお店を飛び出して。
夜行バスじゃ時間がかかるから、お金高いけどしかたなく、新幹線に乗って。
それでも京都までは、たっぷり2時間はかかってしまうから。

落ち着かなくて、新幹線の中を何度もダッシュしていたら、優しそうな車掌さんに、
とっても怖い顔で怒られた。


「…はぁっ…はぁっ…し、柴っちゃん…」
「…よっ…すぃ…」


やっとついた彼女の部屋では。
煮込まれ過ぎた肉じゃがと、泣いたままの彼女が待っていた。



320 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 02:59


「はぁ…たくっ。電話で…無言で、泣くのとか…反則だろ…マジ。…超焦ったし…」
「…うー…」
「怒鳴ってくれるほうが、まだいいよ…やめてよ、ほんと…」
「…だ、だってぇ!…よっすぃ〜…金曜なのに…来てくれないぃ…」
「来なくていいんじゃ、なかったの?」
「…うぅ…うー…」
「料理。…もう、しないんじゃなかったっけ。」
「うぅぅ…ぐすっ。」


まったく。
こんなに、何時間も泣くくらいなら。
ひとこと、ごめんって、言ってくれればいいじゃんか。


「…会ったら、言おうと思ってた…もん。なのに、よっすぃ…来ない…」
「いや、…来たじゃん。もう、来たろ?…ほら。」
「うー…」


はぁ。もう、怒れなくなっちゃうんですけど。
そんな、ぎゅって、抱きつかれると。

…甘やかしてるなぁ、うち。



321 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:00


「また、作ったんでしょ?肉じゃが。どれどれ…」
「だ、だめ!!」
「え?なんで?」
「…ぐちゃぐちゃんなった…よっすぃ〜が…来るの遅いから…」
「…うちのせいかよ…」


なべのフタを開けて、中身を見ると。
確かに、じゃがいもは少し、くだけてるけど…


「…いいにおい…すんじゃん」
「………」


うちが食べようとするのを、無言でジャマする彼女を抑えて。



322 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:01


…ひとくち。

「…お。うまいよ、全然。」
「うそばっかり…」
「ほんとだって!この間のより、味がしみて…あぁ。もしかして、時間置いたのが
よかったのかな、逆に。」
「うそ…」
「ほんとだってば。うまいよ。って…それより。」
「…?」


いけない、いけない。
うっかり、忘れるトコだった。

「柴っちゃん。なんか…言うこと。あるんじゃないの?うちに。」
「…え…?」
「…会ったら。言おうと思ってたんでしょ?」
「あ…」



323 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:02


…そう。

もとはと言えば。
本来の目的は、柴っちゃんに、素直に謝らせること、だったわけで。
だから、今日も、来ないつもりだったんだし。
いや、結局来ちゃったけどさ…だって、あんな風に、泣かれたらそりゃ…
うちだって、ほんとは会いたいし…

って。
そうじゃ、なくて。


「ほら。ごめんなさいは?」
「………」
「うわ。ここまできて、まだ言わない気?!…うっわー…」
「………」
「ごめんなさいって。言わないんだったら、そんな意地はるんだったら…キス、するよ?」
「………」



324 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:03


んじゃ、しちゃうか。


顔を近づけると、柴っちゃんはぎゅっと目をつむって…
…待てよ…

これって、結局。
また、甘やかしてるんじゃない?


…いかんいかん…


「…やっぱ、やめた。」
「…?」
「逆にする。ごめんなさいって。言わないと、キスしてあげないことにする。」
「…!!!」


さぁさぁ!!
どうする?どうでる?



325 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:04


ニヤニヤしてるうちに気づいたのか、柴っちゃんは、ぶすっと顔をそむけて。


「あれ、言わないの?ごめんなさいって。」
「…別に。」

別に…してほしくないし、ってこと?

くぅ〜〜〜!!な、なんちゅー強情な!!


そうくるんだったら、こっちだって!!
今日は絶対に、うちからは折れてやらないかんな!!



そして…冷戦、開始。


まず、柴っちゃんの作った肉じゃがで、遅めの夕食をとる。
…ほんとに、ちょっと、うまくなってるし…

時間遅くなって、ほんとよかったんだなぁ〜



326 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:05


「こういうの、なんて言うんだっけ…間違いが、逆に良かったみたいな…」
「…ケガの巧妙?」
「あ、そう、それだ!!いや〜さすが柴っちゃん。頭いいね。」
「…別に。常識だし。」

…カッチーン。

仕返し?ねぇ、これ、仕返し?


その後も、普通にテレビを見たり、お風呂に入ったり、もちろん…別々でだけど。

どんなに時間が過ぎても、彼女が謝ってくる気配はなくて。


そのうち、うちも段々、自分の言ったこと、忘れそうになっちゃって…

「あぁ!!あ、あぶないあぶない…」
「………」


もう寝ようと入ったベッドの中で。
危うく、キス、しそうになった。

…だって…習慣なんだもん…おやすみ前の。


ていうか、柴っちゃんも。
なにそのまま受け入れようとしてるの?
ずるいっしょ、それ。



327 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:06


「ふぅ。焦った。…じゃあおやすみ〜…」
「………」

そう、しないって、決めたんだもん。
君が、素直に謝るまでは。


…でも。
これってむしろ、うちへの拷問なんじゃ…


せっかく飛んで来たのに…キスもおあずけって。

もう、頼むから早く謝ってよ〜
…明日は、キスできるかな…


素直じゃない彼女を持つと、苦労するなぁ、なんて。
思いながら、うとうとしていると…


「…よっすぃ〜…」
「…んぅ?…んー…」
「…よっすぃ〜…」


うちの背中を、誰かがさすってきた。



328 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:07


あぁ…柴っちゃんか…

ん?
なに?どうしたの?


「…ごめんなさい…」
「…え?」


…あれ。

うち、今、びみょーに寝ぼけてたけど…もしかして。
…謝ったの?


「し、柴っちゃん!今!謝った?うちに!!」
「………」
「やったー♪あ、…それってさぁ…もしかして…キス、してほしいってこと?」
「………」

ま、またシカト?



329 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:08


「…違うの?」
「………」
「なんだ…違うのか…がっかり。んじゃ、おやすみ〜」
「…!!!」
バシッ

「いてぇ!!」


寝なおそうと思って、横になったら。
背中を、バシっと叩かれた。


…なんで叩くんだよ!!

むっとして振りかえると…
君は…また、泣いていて。



330 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:09


「ちょ…今度は、なに?」
「………」
「黙ってちゃ、わかんないって…鈍いんだから…うち。なんで、また泣いてんの?」
「…言ったのに…」
「え?」
「ごめんなさいって…言ったのに…言ったら…してくれるって…なのにぃ…」
「だって…してほしくなさそうだったから…」
「…してよぉ…!!」


真っ赤な顔で、泣きながら。
好きな子に、キスねだられたら。

…どうしますか…ちょっと。


「…んぅ!…ん…ん…」


…口付けると。
おかしを取り上げられていた、子供のように。
夢中で、吸い付いてきて。



331 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:10


はぁ。マジで。
もう、マジで。

やばいっしょ?


せっかく、夜中まで強がったんだから。
どうせなら明日、起きてから謝ればよかったのに。
…朝まで。
我慢できなかったの…?


「…はぁ。かわいい…」
「ばかっ…よっすぃ…の…ばか…」



332 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:11


あれ?
ちゃんと、言われた通り、キスしたのに。
…バカ?


「…なんで…キス、してないのに…寝ようとするのぉ…ひどい…」
「えぇ?!だって、柴っちゃんが、謝んないから…」
「…あんな言い方…されたら。…謝れない…よっすぃ〜が、よっすぃ〜が…」
「…また、うちのせいかよ…」
「…うー…」
「あぁ、ご、ごめんって!わかった、わかったから…」


結局、また、こうやって。
甘やかしちゃうのね。


…まぁ、でも。
今回は、上出来かな。

ちゃんと、謝ってくれたし…
それに…



333 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:12


「…初めてじゃない?柴っちゃんが…キスしてって、言ったの。」
「…よっすぃ…は…ひどい…いつも…」
「えぇ?!!」

ちょっと待ってよ。
うち、東京から、かけつけてきたんですけど?!
新幹線飛び乗って、車掌さんに怒られながら…なのになんでさ!!


「…いっつも…いじわる…ばっか…ひどい…ひどい…」
「うそ!してないっしょ?いじわるなんか。…むしろ、甘やかしすぎかなぁって、
思ってるくらいなのに。」
「…!!ぜ、全然!!甘やかしてくれてなんか…ない!!」
「ちょっと…」


全然、ってことはないんじゃないの?
こんだけ強く、抱きしめてるのに?



334 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:13


確かに、ちょっと、今日は。
君からしたら。いじわるだったかも…しれないけど…
でもさ…

「…柴っちゃんが…素直にしてくれたら。うちだって、こんなことしないよ?
素直になってほしいからだよ…わかった?」
「…うー…ひっく…」
「わかった…?」
「…ぐすっ…うー…うん…」


よろしい。
ごほうびに、もうひとつキスをしてから、優しく寝かしつける。

とろんとしてきた彼女に、結構柴っちゃんって泣き虫だよねって、言ったら。
よっすぃ〜のせいなのに、よっすぃ〜のせいなのにって…
寝言だかなんだかわかんない感じで、抗議されました。



335 名前:ごめんなさい…は? 投稿日:2005/03/06(日) 03:14


…ねぇ、柴っちゃん。

うちの鈍感がなおって、君が素直になれるまで。
まだまだ、時間はかかると思うけど。


でも、焦らず、のんびりやっていこう。
…こんなふうに。

遠回り、遠回りだっていいよ。


だってもう。
うちらに、終わりはないんだから、さ。



じゃ、…おやすみ。





336 名前:ツースリー 投稿日:2005/03/06(日) 03:21
以上、続編の『ごめんなさい…は?』でした。

>>309 名無しーく さま
なんとなんとリアルタイムとは!!偶然ですね〜運命ですねw
前スレから読んでいただいてありがとうございます!これからもよろしくです!!

>>310 名無飼育さん さま
続編はこんな感じで…w柴ちゃん視点でも、やきもきしていただけるよう、
がんばりますwまたよろしくまたよろしくお願いします〜♪

>>311 名無し? さま
続編、短編でちょっと書かせていただきました!柴ちゃん視点も
書かせていただきますので、またどうぞよろしくお願いします〜♪

>>312 名無飼育さん さま
ありがとうございます!また泣いていただけるよう、がんばります〜

では、次回から柴ちゃん視点を始めさせていただこうと思います。
どうぞよろしくお願いします。
337 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 03:53
あ、あまーい!!甘すぎます(*´Д`)
イジワルよっすぃにコドモな柴ちゃん・・・もう可愛すぎです。
ケンカしてるのに二人のラブラブっぷりを見せ付けられた気がします(w
338 名前:名無し? 投稿日:2005/03/06(日) 10:48
んもぅ…ヤッバい。
ヤバすぎです。柴ちゃん可愛すぎです。(*´Д`)

ほんとに、何でこんなに可愛く書けちゃうんですか?

凄すぎです!

柴ちゃん視点のほうもきっと可愛すぎなんでしょうね。
期待して待ってます!
339 名前:名無しーく 投稿日:2005/03/07(月) 00:02
うわー更新キテター!!
甘い甘い!!今食べてたキットカットより甘い!
強がりつつも甘えん坊な柴ちゃんがかわいすぎですね。
柴ちゃん視点もものすごく楽しみです。
作者さんがんばってください☆
340 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/07(月) 00:18
柴ちゃんがかわいすぎて新幹線ダッシュ並にダッシュしたくなります(意味不明
あわわわわ。なんじゃこりゃー!!よししば最高!作者さん最高!
素直じゃない柴ちゃんと鈍感よっすぃ(*´∀`)ポワワ
341 名前:§ 投稿日:2005/03/08(火) 16:35
柴ちゃんの駄々っ子&ますます磨かれたよっすぃの鈍感さw
イイ!!流石です!
柴ちゃん視点も楽しみに待ってますね!^^
342 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:43


金曜日の夜は、好き。

よっすぃ〜が、会いに来てくれるから。


「……あっ!……んぅ……も、…やだぁ!!」
「もうちょっと…我慢、してよ。うちだって…一週間。我慢したんだから。」


よっすぃ〜は私を。
いっつもいっつも甘やかしてるって、言うけど。

全然、そんなことない。

だって…こんなに、いじわるされて。

もう、おかしく、なりそうなのに。



343 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:44


「ふぁ……あぁん!!やだっ…やだぁぁ……」
「…気持ちいい?………柴っちゃん…気持ちいい?」
「……………」
「…ねぇってば……ほら…」
「…あっあ!……んん………きもち…ぃ…」
「気持ちいい…の?」
「あぁん………きもち…よぉ……きもちいぃ…よぉ…」
「…よろしい。」

いつもそうやって、素直だったらいいのに、なんて。

またいじわるなよっすぃ〜の声。


だけど、もう。
ほとんど、私の耳には届かない。



344 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:45


気づくと私は、いつのまにか眠ってしまっていて。
たいてい、そのまま朝になるんだけど。


…ごく、たまに。

夜中に、目が覚めることがあって。

何度目かに、その理由がわかった。


…寝相の悪い、よっすぃ〜。
何度も、寝返りをうったりしてる間に。
段々遠くに行ってしまって、狭いベッドなのに、指先も触れ合わないくらい、
離れてしまうと。

きっと、私の体がSOSを出して。
よっすぃ〜を探すように、目を覚ます。


つまり…よっすぃ〜が。
一晩中、抱きしめててくれた日は。
朝まで、ぐっすり寝られるんだけど…な。



345 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:46


そして…残念なことに。
今日も、目が覚めてしまった。


いつもね…よっすぃ〜。
途中で、目が覚めちゃったとき、思うの。

…夢じゃ、ないかって。


真っ暗な部屋の中は、私だけの夢の世界で。
隣で寝ているのは、私が作り出したよっすぃ〜。

…ほんとうは、そこにいないんじゃないかって。


そう思ったら、怖くて。
眠ったら、目を覚ましてしまいそうで。

…夢が、終わりそうで。


だんだん、眠るのが怖いのか、起きるのが怖いのか、わからなくなるの。


ねぇ…よっすぃ〜。
夢じゃ、ないんだよね?
私が眠っても、目を覚ましても。
よっすぃ〜はそこに、いるよね?


だって、不安だよ。

あの頃は、もう二度と。
あなたには会えないって、そう思って、京都に来たんだもん。



346 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:48



◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「…あれ、ケータイ…ない。」
「はっ?」

おかしいな…さっきまで…

「もしかして、家においてきた?」
「ううん、さっきまでは…写メとか。とってたし…」


久しぶりの、天気のいい休日。
美貴と二人で、遊園地に出かけた。

ここに、来るのは…初めてだった。
…私は。


「えぇ〜?落とした?それともどっかに置き忘れ?心当たりないの?」
「えっと…ううん、わかんない。」



347 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:51


困っちゃうな…どうしよう。

もしかして盗まれ…いや、ケータイなんて今時誰でも持ってるし。
…でも、おさいふケータイ、とか宣伝してるくらいだから…お金になるのかも…

「あゆみ?ほら、かけてみればいいじゃん。美貴のケータイ貸すから。」
「え?あ、そっか。ありがと。」

そっか。
だれか拾ってくれてたら、繋がるもしれないもんね。

「とかいって、実はバッグの底とかに隠れてたりして〜」
「…見たもん、全部。」

でも、やだな。
これで、もしほんとにバッグの中からケータイの音とかしたら、美貴に大笑いされる。


…プルルッ…プルル…

身の回りから、音が鳴らなかったことに、ひとまず安心して。
…いや、身の回りにあってくれた方が、助かったんだけど。



348 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:52


だけどかけっぱなしの電話には、誰も出る気配がなくて。
あきらめて、切ろうとしたときだった。

『…もしもし?』

あ…

「出た…もしもし?」

実際、繋がるなんて思わなかったから、びっくりして。

『あの〜実はですね、うちはこのケータイの、持ち主さんではなくてですね…』

「…え……」


だけどその声を、よく聞いて。
もっと、もっと。
息ができなくなるくらい、驚いた。


…よっ…すぃ〜…?


待って、まさか。
そんなはずない。

だけど…私が、よっすぃ〜の声を聞き間違うなんて。
そんなはず、もっとない。



349 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:53


どうしてどうして。
どうして私のケータイに。
…あなたが出るの?

「…あゆみ?どうしたの?」
「え…あ…ううん、…もしもし?あの、私が…持ち主なんですけど…」

…どうして。
たまたまかけた、電話が。
あなたに、繋がってしまうの?

…どうして…



拾い主は、待ってるから取りにきたらと言ってくれた。
だけど、顔を見る勇気がなくて、私はそこに置いておいてほしいと言った。
…でも、親切なその人は、またなくなったら大変だからと、
結局直接受け取ることに、なってしまった。


「よかったじゃ〜ん、見つかって。親切な人で、よかったね〜」
「…ん。」



350 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:53


美貴には、言わなかった。
拾ってくれたのが、もしかしたら…よっすぃ〜かもしれないってこと。

もし、違っていたら。
私はいつまでも、よっすぃ〜に縛られたままなんだって、思われてしまうし。

…本当に、よっすぃ〜だったなら。
電話の声だけで、わかってしまうなんて。
…それも、結局、よっすぃ〜に縛られている、証明になってしまうから。


違ってて欲しい、別人であってほしい。
…だけど、ほんとはもう、わかっていた。



351 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:54


久しぶりに見た、あなたのそばには。
やっぱり、後藤さんがいて。



そのときのことを、よっすぃ〜は後で、
私ににらまれてると思った、なんて言ってたけど。


…そう見えたなら、よかった。
泣き出しそうだって、ばれなくて、よかった。


…強がり。得意でよかった。



352 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:55



◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



先に、恋をしたのは。
どっちだったんだろうね?



最初は、偶然だった。

先生に用事を頼まれて、たまたま帰りが少し、遅くなったとき。
帰りの電車の中で、初めてあなたを見つけたの。


…吉澤…さんだ。

同じクラスの、席も遠い、話したこともない、あなた。
なのになんだか気になって、教室の中、気づかれないように、そっと見ていると。

…ときどき、なぜか目があって。
そんなとき、いつも心臓がドキドキした。



353 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:56


時間が止まってしまったような、この感覚。
はじめはわからなかった、でも、段々わかってきた。
たぶん、これって。
―――恋、なんだと。



…部活、してるのかな。
あぁ、バッグ…バレー部か。

観察が終わらないまま、私の降りる駅についてしまって。
仕方なく、電車を降りようとしたとき…驚いた。

吉澤さんも、降りたから。

…同じ駅?!

うそ、知らなかった…そっか、吉澤さん、部活してるから、私より帰りが遅いんだ…


次の日から。
私は帰り、残って勉強をするようになった。



その日も、いつも通り。
吉澤さんの部活が終わる、少し前に学校を出て。
彼女が来るのを、ホームで待って。
同じ電車に乗った。



354 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:57


…なんか…最近、もしかして、向こうも気づいてる…?

教室の中だけでなく、電車の中でも彼女の視線を感じることが、増えてきていた。

どうしよう、いつも待ってるって、ばれちゃってるかな。
迷惑かな…もう、やめたほうがいいのかな。
こんな、ストーカーみたいなこと。


落ち込んで、ついた駅の改札を出ると、後ろから大きな音がした。

「いてぇ!…すいません…」

もしかしてって思って振り向くと。
吉澤さんが転んでて、そのバッグの中身がバラバラに飛び出してしまっていた。

慌てて戻って、拾うのを手伝う。
あなたからの…刺さる視線。…どうしよう…



355 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:58


拾った荷物を全て彼女に渡して、すぐに帰ろうとしたんだけど。
「…ま、待って!!」
引きとめられて、何、言われるんだろうって、ビクビクしていると。
「…あの、クレープでも…食べませんか?」

いきなり。
そんなことを、言われて。


なんでだろう…どうして。
私なんて、誘うんだろう…

驚いて。
わけ、わかんなくて。

「…食べる。」

それしか、言うことができなかった。



結局、食べたのはクレープじゃなくて、たこ焼きだったけど。
そんなの、どっちでもよかった。



356 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:59


家に帰ってから、今日のことを思い出すと。
教室で目があったときよりも、ずっとずっとドキドキして。

何時になっても、全然、眠ることができなかった。


やっぱり。
…私、吉澤さんが…好きなんだ…



それからは、一緒に帰るようになって。
よっすぃ〜は私にたくさん話しかけてくれて、仲良くなろうとしてくれたけど。

私はドキドキして、まともに話すこともできなくて。
いっつも愛想のないこと、ばっかり言って。

家に帰ると、いつも後悔して、どうしよう、嫌われたかも、呆れられちゃったかもって。
悲しくなって、また眠れないんだけど。
次の日も、その次の日も。
変わらず、よっすぃ〜は私のそばにいてくれた。



ずっとね、私は、恋なんか知らなくて。
たぶん、一生、自分には縁がないと思っていたの。
…好きな人との…キス、なんて。



357 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 18:59


文化祭の前の日の夜。
家族が寝た後、家でこっそり、クッキーを作った。

…料理、できなさそうって言われて。
悔しかったのと、たしかにしたことないかもって…思って。

初めて作るクッキーはとても難しかったけれど。

それでも。
好きな人のために、することって。
なんだかすっごく、楽しかった。


そして、文化祭が終わった後、よっすぃ〜に渡すタイミングをうかがっていたら、
突然よっすぃ〜に、実験準備室に連れて行かれた。

「…怒られちゃうよ…」
「大丈夫だって!!」

よっすぃ〜、掃除、さぼりたいだけじゃない。

…でも、ちょうど、よかったかも。



358 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 19:00


文化祭で作ったクッキーだとウソをついて、ドキドキしながら、制服のポケットに
しまっていたクッキーをよっすぃ〜に渡すと。

ひとくちで食べたよっすぃ〜は、おいしいと言ってくれた。
…よかった。

ほっとして、よっすぃ〜を見ると。
う〜とか、うわぁ〜とか言っていて。


「あぁ!叫ばないでよ?先生に見つかったら、怒られちゃうよ…」

最近、よっすぃ〜すぐ叫ぶんだもん。
せっかく、二人でいられるのに…見つかっちゃったらやだよ。


そう思っていたら、よっすぃ〜は。
突然、私の手を、握り締めて。



359 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 19:01


―――何が起こったか、全然わからなかった。


だって私は。
…初めて、だったから。



唇が離れた瞬間、体の中の血が、沸騰するみたいに、逆流して。
頭に上ってくのがわかった。

「すげぇ…トマトみたい…」

その言葉を聞き終わってすぐ、私は走り出していた。


…わかってるもん。
そんなこと、自分が一番、わかってる。



360 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 19:01


顔中、絶対、真っ赤になってる。
だって…初めてのキス。

しかも…よっすぃ〜と、なんて。


うれしさなんか、そのときはわきあがってこなかった。
ただ、もう、恥ずかしいだけで。

恥ずかしいよ…恥ずかしくて、死んじゃいそう…

だけど、そのままの顔で、外に出ていたら、きっともっと恥ずかしかったから。
だから、よっすぃ〜が引き止めてくれて、よかった。


「ごめん…柴っちゃん…ごめん…」
「……ぅー…」

泣き出した私を、よっすぃ〜はぎゅっと抱きしめてくれた。
だから、もっともっと、恥ずかしくなって、涙が止まらなかった。



361 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 19:02


「好きなんだ…ごめん…」

ねぇ、そんなこと言われたら。
…全然、止まんなくなっちゃうよ、どうしよう…


つきあってって、言われて。

信じられなくて、でもうれしくて。

なのに、素直じゃない私は、別にいいよ、なんて。

そんなふうに、答えるしかできなくて。


もっと素直になればよかった、そしたらきっと。
よっすぃ〜を不安にさせることも、なかったのに。



362 名前:初恋 投稿日:2005/03/10(木) 19:03


その後、帰りのチャイムが鳴るまで。

…よっすぃ〜は、ずっと私にキスをした。

わたしが、立てなくなっても、ずっと。


やっぱり、すごく恥ずかしかった。

慣れてないって、きっともうよっすぃ〜にわかっちゃてるって思ったし。
何度も、途中で、もうやめてって言ったけど、よっすぃ〜はやめてはくれなかった。


…どうしたらいいのか、私はわからなくて。

ただ、よっすぃ〜にされるまま、ぎゅっと目をつぶっていた。


柔らかく、ふさがれる、唇。
何度も…何度も…



…初めて。

風邪でもないのに、熱をもっていく、自分の体を。


…感じていた。






363 名前:ツースリー 投稿日:2005/03/10(木) 19:13
以上柴ちゃん視点の『初恋』第1話です。

>>337 名無飼育さん さま
見せ付けてしまいましたw今までちょっとせつなかったので、これからは二人に
甘くなってほしいなぁとwまたぜひよろしくお願いします♪

>>338 名無し? さま
そんなに褒めていただいたの小学校の運動会以来です〜w
柴ちゃん視点こんな感じですが、どうぞよろしくお願いします!

>>339 名無しーく さま
キットカットより甘い…w最高の褒め言葉です〜ありがとうございます。
柴ちゃん視点も、またぜひよろしくお願いします♪

>>340 名無飼育さん さま
新幹線ダッシュ!新幹線ダッシュ!wポワワしてもらえてうれしいです〜
またどうぞよろしくお願いします!

>>341 § さま
なかなか鈍感、治りませんw喜んでいただけて、幸せです・゚・(ノД`)・゚・。
またぜひよろしくお願いします〜
364 名前:名無し? 投稿日:2005/03/10(木) 21:27
柴ちゃん視点がはじまってる♪

ぅゎぉ。

やっぱりコチラの柴ちゃんは相変わらずカワィィですね(*´ー`)

素直になれない女の子が1番似合うのは、きっと柴ちゃんなんですね。ぅんぅん。

こんなカワィィ柴ちゃんがまた見れるなんて嬉しいかぎりです!!

よっすぃ〜の活躍にも期待です。
365 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/10(木) 21:35
柴ちゃんがかわいすぎてどうにかなりそうです。・゚・(ノ∀`)・゚・。
もうね、どっひゃーですよwなんじゃこりゃ〜ですよw
素直じゃない柴ちゃんはとにかくこれに尽きます→(*´∀`)ポワワ
個人的>>351のラストの行に激萌え。ヤバすぎ。作者さんありがとうw
366 名前:§ 投稿日:2005/03/11(金) 01:22
二人が人目ぼれしたのほぼ同時期だったんですね!
これからドーなっていくんでしょう?
全く見当付きません(笑
367 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/11(金) 01:39
すごいドキドキするよぅ〜よししばイイよぅ〜(*´∀`)ポワワ
作者さんの作品は読んでいてとても幸せな気分になります。
大好きです作者さん!

368 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:04



クラスが変わったの。
ほんとはすごく、不安だった。


よっすぃ〜には、なんでもないみたいに言ったけど。
そう、あってほしいって、思っただけ。


クラスが離れても、私達は離れたりしないって。
…思っていたかっただけなの。



「げっ!中間終わったばっかなのに、もう居残り勉強してんの?!」
「…え?」


美貴と初めて話したのは。
2年生になって、数ヶ月がたったころ。

いつもの、放課後の図書室でだった。



369 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:05


「はぁ〜。さすが。優等生は大変だねぇ。」

他の人にも。
そんなふうに、言われたことはあったけれど。

でも、美貴の言葉には。
トゲがないって、それ以上の意味はないんだっていうのが、すぐにわかったから。
だから。


「別に…勉強しようと、思って。残ってるんじゃ…ないんだ。」
「へっ?なにそれ。どーゆーこと?」


たぶん、ほんとのことが、話せたんだと思うんだ。



370 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:05


…突然、話しかけられたのには、驚いたけど。
クラスが同じことも知っていたし、美貴はすごくいい子だったし。

私達は、すぐに仲良くなった。


「…なんか、意外。」
「え?」
「いや、そーゆーさぁ…恋愛とか。あんまり興味なさそうだからさ、柴田さん。」
「…うん。」


…付き合っている人が、いて。
その人が来るのを、待っているんだと言ったら。

美貴は、思った通りに、そう口にした。


「…そうだよね。変、だよね。…私みたいな子が。恋とか、するの。」
「はぁ?いや、別に、そういうことじゃないと思うけど。…誰でも。するじゃん、恋は。
変とか、ないんだよ。意外だって、言っただけ。勉強ばっかしてそうだったからさー。」

あ、これは偏見か、なんて。
美貴は笑った。



371 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:06


…変じゃないって。
美貴は、言ってくれたけど。
…私は。


恋ってずっと、かわいい女の子がするものだと思ってた。
かわいい女の子の、特権だって。
…かわいいっていうのは、見た目とか、そんなんじゃなくて。

雰囲気とか、中身とか。
…笑顔、とか。

そういうのが、かわいい子。



だから…ずっと、不安で。
私には、そういうの、ないのに。

…素直じゃなくて、強がりで。
あんまり、ニコニコ笑ったりも、できなくて。



372 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:08


変じゃないかなって、おかしくないかなって。
…私が、恋なんかして。


だって、したことなかったんだもん。
…ずっと
…ずっと。



美貴に、初恋なんだと打ち明けたら。
遅すぎる!と大笑いされて。

だけどその後。
…大切にしなよ、って。
美貴は言ってくれた。



「そんでさぁ〜ごっちんがさぁ〜」

ごっちん…ごっちん…後藤、さん。

よっすぃ〜はいつも、楽しそうに。
後藤さんのことを話す。



373 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:09


きっと、本当に気が合って、こころの許せる友達なんだと、思う。

けど。


…私は?
よっすぃ〜にとって、私は?


同じく、そうあるんだろうか。



ねぇ、よっすぃ〜。



374 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:10


私達、恋をしたから。
近づいて行ったけど、一緒にいるようになったけど。


もし、お互いに、恋愛という感情がなかったら。
…なくなったら。

それでも、そばにいたいと思う?


…私は、きっと。
よっすぃ〜の友達には、なれないんじゃないかな。


偶然に、奇跡的に。
恋人になれたから、あなたと一緒にいられるけど。

それがなくなったら、私は。
必要、ないんじゃないかな。



375 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:11


…友達と、恋人。
どっちが上かなんて、そんなの。
考える方がおかしいし、答えなんてないと思う。


ただ、私はずっと。

あなたの恋人にはなれたけど、友達にはなれないんじゃないかって。
手を繋ぐことはできても、握手はできないんじゃないかって。


ずっとずっと。
そんなことを、考えていたの。



たぶん、それを、証明してしまったのが。
よっすぃ〜が、部活を。
やめてしまった、あのときだった。



376 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:12


いつも通りのはずの、放課後。
よっすぃ〜は少し早く、図書室に迎えに来てくれた。
…ジャージ姿で。

イヤな予感がして。
聞いたら、やめてきたって…部活を。

あれだけがんばってたのに、どうして?とか。
じゃあなんで、ジャージのまま、飛び出してきたのとか。

聞きたいことは、たくさんあったけれど。

よっすぃ〜は、私には、聞かれたくないんじゃないかって、思った。
…後藤さんになら、話せたのかも、しれないけど。


だから、何も言わなかった。
ううん、…言うのが、怖かった。



その日から、段々。
よっすぃ〜は、私の前で笑わなくなった。



377 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:12


いつも、疲れたような、苦しそうな顔をして。

…無理させちゃってるのかな。
私といても、きっとよっすぃ〜は安らげない。


だから、帰り。
もう迎えに来なくてもいいよ?って、言ったの。

そんなよっすぃ〜見てるの、辛かったから。


ほんとはそのときに、別れているべきだったのかもしれないけど。
…好きな人に、別れを言うなんてできなくて。


あいまいなままの関係が、続いたのが、いけなかった。
…きっと。



378 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:13


一緒に帰らなくなって、もう随分過ぎたころ。


「…よっすぃ〜?」
「え?」

その日も、放課後、美貴と一緒に図書室にいたら。
突然、よっすぃ〜が来て。


「あぁ!よっすぃ〜、か!!じゃ、美貴用事あるから〜」

よっすぃ〜とあまりうまくいっていないことを、美貴も知っていたから。
よっすぃ〜が来たこと、喜んでくれて。
気をきかせた風な感じで、先に帰っていってしまった。


「じゃ、帰ろう、か…」
「うん…」


…会いに来てくれたの。
ほんとはすごく、うれしかったのに。

素直に、そう言ってあげられなくて。



379 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:14


久しぶりの帰り道は、たこ焼き屋さんにも寄らずに。
ただ、静かなまま、過ぎて行って。


「じゃあ…」
「え?」

…言ってから。
しまった、と思った。

さよならのときに、キスをすること。
よっすぃ〜はもう、忘れてしまっていたのに。

引きとめてしまった、みたいになって。


恥ずかしさと、悲しさとで。
わけわかんなく、なって。



380 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:14


「な、なんでもない!!じゃあ、ね…」

慌てて取り付くろって、そう言ったら。

…いきなり。
よっすぃ〜に強く、引き寄せられて。

「よっ…すぃ〜?」
「………」

そのまま、深く。
キスを、された。

「んっ!…んぅ…んん…んぅ…」

初めてだった。
よっすぃ〜に、深く、乱暴に、キスをされたの。



381 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:16


苦しかった。
苦しくって、逃げ出したくなった

…でも。

この息苦しさは。

よっすぃ〜が、私といるとき、いつも感じているものかもしれない。
…いつもきっと。


よっすぃ〜は、こんなに苦しいんだ。


だから、私も。
逃げちゃ、いけないような気がして。


「ごめん…柴っちゃん…ごめん…」



382 名前:初恋 投稿日:2005/03/13(日) 18:16


ひどいことを、したと。
よっすぃ〜は私に謝ったけれど。

きっと、ひどいことをしてるのは、私も一緒だよ?


ごめんね、よっすぃ〜、苦しいのに。
解放してあげれなくて、ごめんね?

好きだから、なんて理由で。
引きとめていて…ごめんね?


苦しそうな、よっすぃ〜の顔を。
これ以上、見る勇気がなくて。


そのとき、私は初めて。
自分から、よっすぃ〜に抱きついた。





383 名前:ツースリー 投稿日:2005/03/13(日) 18:27
以上、第2話です。

>>364 名無し? さま
こちらこそまた読んでいただけるなんてうれしい限りでございやす〜・゚・(ノД`)・゚・
よっすぃ〜にがんばってもらいたいと、作者も思いますw

>>365 名無飼育さん さま
どっひゃーキターw私もみなさんのレスを読ませていただくとき、(*´∀`)ポワワ してますw
365さんこそありがとうwまたよろしくお願いします〜

>>366 § さま
そうなんです、お互い知り合う前からというのが、ポイントだったりします♪
これからもがんばりますので、どうぞよろしくお願いします〜

>>367 名無飼育さん さま
告白…(*´∀`)ポワワ こちらこそレスをいただいて、幸せな気持ちになります〜
これからもどうぞよろしくお願いします♪
384 名前:名無し? 投稿日:2005/03/14(月) 05:11
更新お疲れさまです。
切なすぎます…(T∧T)柴ちゃんにとってはごっちんの存在が辛かったんですね。

そしてミキティ、いい奴ですね!友達のことで喜んでくれるなんて最高です。
よっすぃ〜頑張れっ!!
385 名前:YUN 投稿日:2005/03/25(金) 00:49
はじめまして!いつも陰ながら応援しています(^▽^)
ツースリーさんの小説、超〜スキ☆なのでマジ頑張ってください!!
続き期待です!!
386 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:34


もう、きっとダメだ。
ううん、でも、もしかしたら。


たぶん、もうダメだと思う私の方が、冷静な私。
それがきっと、いつもの私。

ただ…もしかしたらって、思ってしまう私は。
まだあなたを想ってしまう、
恋をしている、私で。




387 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:34


どちらにしても、一緒にいたいと思った。
その日だけは。

初めての記念日だった。
つきあい出した日…キスを、した日。


一年前の今日、私は初めて。

ずっと一緒にいたいと、思う人に、思う瞬間に、出会ったから。


恋を…知ったから。




388 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:35


よっすぃ〜の姿を、旅館のロビーでやっと見つけた。
話しかけるのは、すごく緊張した。
…だってもう、随分話していない。会ってもいなくて。


それに…私から、会いにきたことなんて、今まできっとなかった。

「…よっすぃ〜…」
「…え?し、柴っちゃん?!!ど、どうした…の?」


よっすぃ〜も、驚いて。
ぎくしゃくした空気は、京都中に届いたかもしれない。
だけど、ここでまたいつも通り、私が黙ってしまったら、ダメだから。

「ちょっと…話…したくて。」

勇気を出して話しかけた。
そのとき、よっすぃ〜が手に、ガイドブックを持っているのに気がついて。

「…どっか。行くの?」
「え?あ、あぁ、うん。ごっちんと、遊園地に…」
「…遊園地?」
「そう、そう。ほら、ここの。」



389 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:36


差し出されたよっすぃ〜の手の中をのぞきこむと、
よっすぃ〜は慌てたように、その手をひっこめて。


…意識、したわけじゃない、よっすぃ〜は。
意識して、意図的に私を避けたわけじゃ、ない。

よっすぃ〜は、ヤな人にでも、きっとそんなことはしない。


ただ、もう。
…無意識に。
私と距離を取ることに、よっすぃ〜は慣れてしまっただけ。


…泣き出しそうになることに、私も慣れちゃっていたのかな。

涙は、出なかった。


「じゃあ…夜。夜は?…よっすぃ〜、時間、ある?」
「え?よ、夜?でも、夜は…出歩いちゃダメじゃん…?」



390 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:38


なんか、おかしい。
逆、だったのにね。

どうしようもないこと、言い出すのはよっすぃ〜で。
それを止めるのが、私だったのに。


…少なくとも、一年前の今日。

先生の目を盗んで、私を連れ出したのは、よっすぃ〜だったのに。


…そして。
――あの日、好きだと言ってくれたのも、よっすぃ〜だったもんね。


だから今日は。
私が、言わなきゃ。



391 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:41


結局、夜、よっすぃ〜が部屋に会いに来てくれることになった。

…言える気がしてた。

よっすぃ〜が、会いに来てくれたなら。

きっと、言えていた。


だけど、夜になって、とっくに消灯になっても。
よっすぃ〜は、来てくれなかった。


「…あゆみ、あゆみ。」
「え…あ、ごめん、起こした?」
「いや、いいけど…まだ寝ないの?」
「ん、もうちょっと…ごめんね、美貴、寝てて?」



392 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:42


あきらめるなんて、できなかった。

もうちょっと、もうちょっと。
…もうちょっと、もうちょっと。

だって、まだ。
終わらせたくないよ、この恋を。

私まだ。

…あなたに、好きだって。
言ってないよ?


もう寝ちゃってるかもしれない。
でも、目を覚まして、思い出して、来てくれるかもしれない。

今日が…記念日だって。
もしかしたら、もしかしたら。



393 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:43


結局――そのまま――次の日の朝。
こんなに悲しい朝を、迎えたことはなかった。


朝になって、どうしようもなくて、結局よっすぃ〜の部屋に行こうと思った。

その途中で、よっすぃ〜のクラスの先生に会って。

そのとき、初めて。
よっすぃ〜に昨夜、起こったことを知った。


帰ってこれなかったんだ、お財布なくして…

じゃあ、まだ。
私達、終わったわけじゃ。


医務室のよっすぃ〜に、そのまま会いに行った。
よっすぃ〜は、まだ眠ってた。



394 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:43


「…よっすぃ〜…よっすぃ〜…」
「んぅ…」

寝ぼけてるよっすぃ〜。
そんなよっすぃ〜でも、こんなにドキドキする。

あぁ、やっぱり。
私、好きだよ?よっすぃ〜が。


「あぁ柴っちゃん…ごめんね?昨日…」
「いいよ、お財布なくして、帰って来れなかったんでしょ?」

よっすぃ〜、大変だったじゃない。
無事だったなら、もうそれでいいよ。

…けど。


「ん〜いや、そうじゃなくて…ゲーセンで…遊んでたら…すっちゃって、お金」
「………え?」
「ごっちんにも…迷惑かけてさぁ…」



395 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:44


だめだ。
――終わりにしなきゃ。
じゃなきゃ…私。

「よっすぃ〜…」
「え?なに?」
「…別れよう。」


もう、耐えられない。

考えないように、してたけど。

よっすぃ〜は。
私といるより、後藤さんといるほうがいいんだ、なんて。

私との約束より、後藤さんと遊ぶ方がきっと、大切だなんて。



396 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:45


…嫉妬してしまう、よっすぃ〜の大切な友達に。

嫌いになりたくないの、嫌いになりたくないの。

そんなこと、考えちゃう、自分のこと。

これ以上、嫌いになりたくないの…



慣れたと思っていたのは、やっぱり勘違いで。

涙は、こぼれた。




397 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:46


その場所から逃げ出したくて。
必死に走って、自分の部屋に、戻った瞬間、フラって、して。

次に、目が覚めたときには。
私は医務室に逆戻りしていた。


「…あゆみ?大丈夫?」
「美貴?…私、なんで…?」
「なんでじゃないよ…!あんた部屋に戻ってきた途端、ぶったおれたんだよ!
…寝不足と、貧血だって。結局朝まで起きてたわけ?!この…バカっ!何考えて…」
「…このベッド…」
「はっ?」
「…このベッド。さっきまで…よっすぃ〜が寝てたの…」
「…あゆみ…」



398 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:47


布団を頭までかぶって、息を吸い込むと。
まだ、よっすぃ〜のにおいが、残ってる気がして。

…よっすぃ〜に抱きしめられた日のこと、思い出して。

また涙が溢れ出した。



「…別れようって…」
「…言われたの?」
「ううん…言っちゃった…」
「はぁっ!?あんたっ…ほんとにバカ?!なんで…好きなのに。そんなこと、言うわけ?
しかも…記念日、だったんでしょ?だからあゆみ待ってたんじゃん。なのにさぁ!」
「…だって。生きてけないよ。自分のこと…これ以上嫌いになったら私…生きていけない。」
「………」



399 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:47


「やきもち。やいてたの、ずっと。後藤さんに、よっすぃ〜の周りの人に。
きっと私よりよっすぃ〜の笑顔見てる。私よりずっと…よっすぃ〜のこと支えてる。」
「…あゆみ…」
「好きってだけで。そばにいられないよ。私、よっすぃ〜になにもしてあげられない。
…笑わせてあげられない。だから、もう。」

つらそうなよっすぃ〜の顔、見たくないから。
よっすぃ〜の笑顔も。
あきらめるしかないの。


「…ほんとに。バカだね、あんた。」
「バカすぎて…面倒、見きれないよね。」
「…バカすぎて…ほっとけないよ、バカ。」


そんなふうに、美貴はバカバカ言いながら。
でも、優しく。そっと、私の頭をなでてくれた。



400 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:49


「…初恋って、さ。普通、実んないんだよね。それって…なんでかって思ってたんだけど。
たぶん…その方が、いいからなんだよ。
知らない街を、地図も見ないで歩くようなもんじゃん?…絶対迷うしさ、疲れるし。
だから、実んないの。実んないほうが、いいの。
でも、あゆみはさ、実っちゃったじゃん、初恋。つーか遅すぎだけど、初恋。
…よく、がんばったよ。ゴールはしなかったかもしんないけどさ。
よく、がんばって歩いたよ。尊敬する、美貴は。」


えらい、えらい、金閣寺造った坊さんよりえらい。
そういって、褒めてくれたから。

金閣寺建てたの、お坊さんじゃないよ、なんてことは。
このさい、黙っておこうと思った。



…そういえば。



401 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:50


「みんなは…もう行ったの?金閣寺。」
「え?あぁ。とっくに、出たよ、バス。」
「そっか…ごめんね?」
「いいよ、別に。ていうか、さぼれてラッキーだったし。」


…よっすぃ〜は。
行けたかな?

きっと、よっすぃ〜、ああいう建物とかみたら、すげぇ〜とか言って、
すごいはしゃぎそう。


…はしゃげてるかな。



402 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:51


私のせいで、よっすぃ〜の修学旅行は。
イヤなものに、なっちゃったんじゃないかな。

イヤな思い出を、作っちゃったんじゃないかな。


…結局、私。

最後まで、よっすぃ〜のこと、困らせてばっかりだったね。

なにも、してあげられなかったね。


…ごめんね。



403 名前:初恋 投稿日:2005/03/25(金) 18:52



謝っても、もう届かない。
…好きだって。
どんなに想っても、もう届かない。


私の初恋は。

…終わったんだ。



今日、この場所で。





404 名前:ツースリー 投稿日:2005/03/25(金) 18:57
以上、第3話です。

>>384 名無し? さま
いつもありがとうございます!柴ちゃんの視点からも読んでいただけてうれしいです♪
励みになります!またどうぞよろしくお願いします〜

>>385 YUN さま
初めまして!いつも読んでいただいていたなんて、すごくうれしいです♪
ありがとうございます〜これからもよろしくお願いします!
405 名前:§ 投稿日:2005/03/25(金) 19:01
リアルで読めました〜♪
んがぁぁ〜柴ちゃんそ〜じゃないんだぁ〜〜〜〜〜(壊
藤本さんは優しいなぁ
これからの展開にも期待してます!
406 名前:名無し? 投稿日:2005/03/25(金) 19:41
更新お疲れさまです。待ってました(^▽^)

修学旅行の夜に柴っちゃんにはこんなことが起きてたんですね…。
すれちがって行く2人が切ないです(T∧T)

毎回「切ない」しか言えてないんですけど、ほんと読んでて切なくなります(T_T)

続き楽しみにしてます!
407 名前:YUN 投稿日:2005/03/25(金) 23:26
更新お疲れさまです。
読んでると、いつもうるAきちゃいます。(T_T)
悲しいよぉ・・・。
続き期待です。頑張ってください。
408 名前:YUN 投稿日:2005/04/01(金) 00:09
連続投稿スイマセン・・・。
ツースリーさまに質問ですが、ここ以外に他の作品もあるのですか?
ぜひ教えてください!(>∧<)
もちろん、この小説も期待です(^▽^)
409 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:10


遊園地での、突然の再会の後。

美貴がみんなで飲みに行こうって、言い出して。


ほんとは、そんなことしたら…気まずくなっちゃうのなんて、わかってた。
私と、よっすぃ〜は。


けど。
それでも、そう思っても、私はそれを断らなかった。

だって美貴と後藤さんは、すっかり意気投合して楽しそうにしてたし。


…それに。

もう少し、一緒にいても。
一緒にいたいと思っても、バチはあたらないかなって、思ったから。

…あなたと。



「ちょ…柴っちゃん!!頼む!手伝ってぇ〜!!」


酔いつぶれた美貴と後藤さんを、よっすぃ〜一人で担ぐのは、さすがに無理だったようで。
その叫び声を聞いて、慌てて助けに向かう。

…よっすぃ〜も。
結構飲んでたし、かなり酔ってるんじゃないかと思ってたけど。
それでも、なんとかこらえているみたいだった。



410 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:10


「ハァ…疲れたぁ〜。」

やっとの思いで二人をホテルの部屋に連れて行って。

入ったその部屋の中を、ふと見渡すと…なぜか、ひとつしかなくて…ベッドが。


…シングルルーム?
後藤さんとよっすぃ〜…二人で、泊まるんじゃないの…?


よっすぃ〜にそのことを伝えると、慌ててフロントに電話で確認していて。
ホテル側からされた提案は、ふたつ。

二人用の部屋がいっぱいだから、もう一部屋、一人用の部屋を用意するか。
…この部屋だけでいいなら、値段を安くしてくれる、というもの。


どう考えても、二人で眠るには狭い、シングルベッドなのに。



411 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:11


…くっついて寝なきゃ。
どちらかが落ちてしまうような、狭さなのに。

よっすぃ〜は、そんなの全然気にしていないようで。
安くしてもらう方がいいって、そうフロントに言おうとしてた。


…だから。
慌てて、でももう、美貴と後藤さんが寝てるよって、だから無理だよなんて、
よっすぃ〜に言ったの。

…ほんとは。
眠ったままでも、美貴を車に乗せて、私が家に連れて帰れば。
一部屋でも、大丈夫だったかもしれなかったのに。


だって。
…嫌だったの。
後藤さんとよっすぃ〜が、一緒に寝るの。


それを知って、一人でまたモヤモヤして、ヤキモチやくの。
…嫌だったから。



412 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:12


美貴に、先こされたなぁ〜って言うよっすぃ〜の声が。
後藤さんと一緒に寝たかったって、言ってるような気が、勝手にしちゃって。

そう言うと、そんなつもりじゃないよって。
…またよっすぃ〜を困らせた。



美貴と後藤さんが眠る部屋の中は。
座るところもないし…二人のいびきもうるさいし。

話す声も聞きづらくて、気まずい雰囲気。


それを察したのか、
さっき隣の部屋を用意してもらったから、そっちに行こうって。
よっすぃ〜が言ってくれて。

二人でそっちに移ったけど…今度は部屋の中が途端に静かになってしまって。
…なんだか、もっと気まずくなって。



413 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:14


よっすぃ〜に、何か飲む?って言われたとき。
すぐにいらないって、突き放すみたいに言ってしまったこと、すごく反省した。
せっかくよっすぃ〜が気を使ってくれてるんだから。
うんって…言えばよかったなって。
たとえ、別にのどが乾いていなくても。


きっと普通の子は、そうするのに。


ただ笑って、うんって、ありがとうって言えばいいだけのことなのに。
なんで、私には、そんな簡単なことが。
…できないんだろう。


気まずい空気が耐えがたいのか、よっすぃ〜は冷蔵庫から取り出したお酒を、
一気に飲み干していた。


さっきも、かなり飲んでいたのに。

そうして更にお酒を飲んだせいか、そうとう、酔いがまわったみたいで。
急に、よっすぃ〜はおしゃべりになって。


「い、いやぁ!びっくりしたよね〜今日は。まさかいきなり、あんなところで、
再会するなんてさぁ。…柴っちゃんも。びっくりしたっしょ?
電話取りにきたとき、いたのがうちでさぁ〜」



414 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:15


そのとき、
たぶん、ほんのちょっと。
むっとしてしまったの。


…よっすぃ〜は。
やっぱり、電話の声だけで、私だとは。
気づいてくれなかったんだな、って。


…よく考えたら、それがきっと普通なのにね。


でも、なのに、なんだか悔しくなって。
…寂しくなって。
私は、びっくりしなかったよって、だって電話の声で、よっすぃ〜だって。
すぐ、わかってたもんって。


よっすぃ〜の声も、…よっすぃ〜の、ことも。
私はすっと…忘れてなんか、なかったんだよって。



415 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:15


…こんなこと、言うつもりなんてなかったのに。


そう言った瞬間、
よっすぃ〜に、強く抱きしめられて。

気づくと、体を、ベッドに沈められていた。


そのすぐ後。
たぶん、押し倒されたときより、もっと速いスピードで。
よっすぃ〜は起き上がって、ごめんって、私から離れようとした…のに。


「…待って!!」


離れたくなくて。
もう、離れたくなくなって。

呼びとめてしまったのは、私だった。



416 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:16


…いけないことかも、しれないけど。

つきあってもいないのに。
もう、ニ年も前に、別れてしまっているのに。


今さら、こんな、こと。


…でも。


一度だけで、いいの。
この先、ずっと一緒にいたいなんて、言わない。

やり直せなくて、いい。
…今だけ。



417 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:17


私は、初恋も、美貴に笑われるくらい遅かったし。
初めてのキスのときだって、よっすぃ〜にトマトって言われるくらい、赤くなっちゃうし。

たぶん、そういうの、人並み以下。
全然、なんにもわかんないし、なんにもできない。
周りのみんなよりもずっと、子供だったかもしれないけど。


…それでも。
よっすぃ〜の腕の中に、憧れたことはあるんだよ?


もう、一生かなわないと、思っていたけど。


それでも。
よっすぃ〜の中で眠るの、どんなかなって。


…ずっと、夢見てたから。



418 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:18


また、困らせちゃうけど。
お願い、よっすぃ〜。


…それでも素直に、抱いてなんて言えない私が。
妙に私らしくて、自分で自分に。
呆れてしまった。



初めて、キスをしたときの。
体の熱さと比べると、どのくらいだろう?


…たぶん、比べられないな。

比べ物に、ならないくらい。


とにかく、
あのときより、もっと熱くて。
もっともっと、恥ずかしくて、逃げ出したいくらいで。


…だけど。
信じられないくらい、幸せだった。



419 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:19


最後に、顔を見られそうになって。
慌ててよっすぃ〜の肩に、顔をうずめて、隠れた。


だって、絶対また。
トマトって言われるから。



よっすぃ〜に抱きしめられて眠るの、ずっと憧れてたけど。
現実には、眠ったりなんてできなかった。
…もったいなくって。


眠ったりしたら、あっという間に時間が過ぎちゃう。
ううん、もしかしたら、これは夢で。
眠って、目を覚ましたら、そこによっすぃ〜はいなくて。


…そんなことを考えていたら、怖くて。
ずっと、よっすぃ〜の顔を見ていたら、いつのまにか朝になって。

差し込んできた陽射しに、これは夢じゃなかったんだって証明してもらったみたいで。
…うれしかった。



420 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:20


だけど、よっすぃ〜は、どう思うんだろう。
…よっすぃ〜が目を覚ましたとき、私が隣にいたら。


私はお酒を飲んでいなかったけど、よっすぃ〜は酔っ払っていたし。

私は、たった一度だったとしても、後悔なんてしないけど。
よっすぃ〜はその一度を。
ずっと、後悔してしまうのかもしれない。


…そう、なる前に。


よっすぃ〜が目を覚ます前に帰ろうと思って、起き上がろうとしたとき。
眠っているはずのよっすぃ〜に、それが分かるわけないのに。



421 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:21


…ふいに。
強く、腕の中に、引き寄せられて。

起こしちゃったのかと思って、驚いてよっすぃ〜を見たけど、
よっすぃ〜は眠ったままだった。


その姿を見て、ホッとして。
そして、ちょっと泣きそうになっちゃった。


眠ったまま、抱きしめられるのって。
起きてるときにされるよりも、ずっとずっとうれしいかもしれない。


…うれしいよ。
本当はずっと。
この中にいたいよ。


「…ごめんね。よっすぃ〜…」

だけど、その腕をほどいて、起き上がる。



422 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:22


「ほんとに…ごめん。」

わがまま…言ってごめんね…?
…こんな風になるの。
よっすぃ〜は、望んでなかったはずなのに。


…だけど。

「…好き…よっすぃ〜…好きだから…」

好きだから、したかったの。


例え一度だけでも。
意味なんて、なくても。



423 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:23


「…さよなら…」

でもね、好きだから。
一緒には、いられない。


私は、また。
一緒にいたら、これから、もっと。

あなたを、困らせちゃうから。



「…美貴…美貴。起きて?…帰ろう?」
「むぅぅ〜〜〜…んぅ〜…ん?あれ…あゆみ…?」
「え?なに?」

「…んあぁ。よく寝たぁ〜。あれ、ミキティに柴田さん。帰っちゃうの?もう。」


まだ寝たままだった美貴を起こしていると、隣で眠っていた後藤さんまで、
起こしてしまったみたいで。



424 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:24


「あ、起こしちゃった?ごめんね、結局泊まっちゃって。」
「ううん大丈夫〜むしろもっとゆっくりしてけばいいのに〜…あれ?よしこは?」
「…あ…まだ、寝てると…思う。隣の部屋。」
「あ〜そうなんだぁ〜」

例えるなら、こっそりしたいたずらを、お母さんに隠してる、子供のような気分。
なんとなく、気まずくって。
まだ目をこすってボーっとしている美貴をせかして。
逃げるようにその場を去った。


「ほら美貴、早く。…じゃあ、帰るね、私達…じゃあね、後藤さん。」
「ふあぁ〜…ごっちーん、バイバーイ♪」
「んあ。バイバーイ♪」


笑顔で私と美貴を送ってくれる、後藤さんを見て。
なんだか、急に現実に戻ったような、複雑な気持ちになって。


大変なこと、しちゃったんだって。
そのとき、やっと気づいたの。



425 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:24


「さ、帰ろっか。あ、美貴シートベルトして。」
「はいはい…ね、あゆみ。髪…耳にかけんの?…やめた方がいいんじゃない?」
「え?なんで?」

昨日とめておいたままだった車に乗り込んで、いざ帰ろうとすると、
いきなり美貴にそんなことを言われて。

だって、髪ちょっとクセついてはねちゃったし。
それに、耳にかけるくらい。
いつもしてるじゃない。
どうして、急に?


「似合ってない?でも今更そんなこと言われてもなぁ。」
「いや…そうじゃなくてさ。丸見えだよ、首。」
「首?」
「首。」
「…首?」
「…キスマーク。」



426 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:25


しまった…!!
慌てて手で首を押さえると、美貴はニヤニヤ含み笑いで。


「!!…き、気づいてたんだったら!早く言ってよ!!」
「えー言ってよかったの?ごっちんの前でさぁ〜おや、あゆみちゃんキスマーク
ついてますよ、キスマー…」
「わ、わかったから!やめてってば、もう!!」


すぐに髪を下ろして隠す。

そんな風に慌ててる私を、おもしろそうに見てた美貴が、急に真面目になって。


「…でもさ。よかったじゃん?」
「なにが。」
「…仲直り。できたんでしょ?よかった、ほんと。」


そういって、優しく笑うから。

あぁ、美貴はきっと。



427 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:26


私とよっすぃ〜のために。
昨日、みんなで飲みに行こうなんて、言い出したのかな。


…心配させて。
気、つかわせて、ごめんね?

たぶん、後藤さんもだよね。
…ごめんね。


だけど…

「…そんなんじゃ…ないよ。」
「え?」
「仲直りとかじゃなくて…これが。…最後だから。」

きっと、よっすぃ〜に会うのも。
ううん、ほんとはあの卒業式が、最後のはずだったの。


だけど、心の中でずっと、モヤモヤしてた。
あの日、あの図書室で、さよならって言えなかったこと。
ほんとはずっとずっと、後悔してて。


だから。
もう一度、会えてよかった。
さよならって、言えてよかった。



428 名前:初恋 投稿日:2005/04/01(金) 16:27


…最後に。
抱きしめてもらえて、よかった。


「…それで、あゆみはさ。思い残すことは…ないの?いいの?それで。」
「…うん。いいの。」


欲を出したら、キリがないよ。

もう、いいの。

だって、やっぱり。
初恋は、いつまでたっても初恋だから。

実ることは、ないんだよ。



そう、あきらめようと思って。
忘れようと、思って。
抱かれたのに。


こんなアト残すなんて、ひどいよ、よっすぃ〜。

これが消えなきゃ、忘れられないよ、思い出しちゃうよ。



だから、お願い。
ずっとこのまま。

…消えないで。





429 名前:ツースリー 投稿日:2005/04/01(金) 16:37
以上、第4話です。

>>405 § さま
リアルタイムとは!偶然ですね〜♪ありがたいです!
期待にお答えできるよう、がんばりたいと思いますのでどうぞよろしくお願いします〜

>>406 名無し? さま
いつもありがとうございます♪切なくなってもらえたら、ホントにうれしいです〜
また切なくなってもらえるよう、がんばりますw

>>407、408 YUN さま
レスありがとうございます!今はこのスレだけなのですが、
以前書かせていただいていたのが倉庫の方にありまして、
トマトの思い出です、こちらになります。
http://mseek.xrea.jp/green/1076943172.html

これからもどうぞよろしくお願いします!
430 名前:名無し? 投稿日:2005/04/01(金) 16:59
柴っちゃぁぁぁん!!(;T□T)

…ちょっと泣きそうになっちゃいました。

よっすぃ―視点ではわからなかった柴っちゃんの行動の意味がわかると,感情移入しちゃってヤバいです。
431 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/01(金) 17:39
>>428の柴ちゃんの気持ち、切ないけどわかるなあ
苦しいだろうなあ…
432 名前:YUN 投稿日:2005/04/01(金) 23:03
更新お疲れさまです。
『トマトの思い出』が初小説なんですか!?
・・・すごすぎるっス。
毎日更新チェックしてるくらい応援してますから(^▽^;)
頑張ってください!!
433 名前:YUN 投稿日:2005/04/10(日) 23:14
更新待ってます・・・。
434 名前:初恋 投稿日:2005/04/12(火) 23:57


あの修学旅行から一週間後。
私は初めて…一人で。
中澤さんのお店に向かった。


窓の外から、お店によっすぃ〜の姿がないことを確認していると、
中で私に気づいた中澤さんが、手招きをして誘い入れてくれた。


「なぁんや柴田〜。なにしてんのぉそんなとこで。はよ入り〜」
「あ、はい…」


私は、もう随分通いなれたタコ焼き屋さんの店内の中で。
座りなれないカウンターのイスをひっぱって、席についた。



435 名前:初恋 投稿日:2005/04/12(火) 23:58


「今ちょうど焼き始めたとこやってん。できたて食べさせたるからちょっと待っときや〜」
「…はい。」
「ふんふ〜ん♪た〜こぉ〜や〜きぃ〜♪おいしい裕ちゃんのたこや〜きぃ〜♪」


今日はいつもより、少し元気過ぎる中澤さん。
それはきっと、なんとなく、重い気配を感じて。
私の分の元気も。
無理に出そうと、してくれたからかもしれない。


焼けてきたタコ焼きが、くるくるテンポ良くまわされるのをボーっと見つめていると。
気まずさを隠そうとした、でも隠しきれない声で、中澤さんが聞いてきた。


「その…今日…よっさんは…一緒ちゃうの?」
「…はい。」
「…そうなんや…あの…あれかいな?もしかして、その…世間一般で言う…
ケンカ…とか…してもうたん?」
「ケンカ…じゃ、もう。…ないんです…。」


3番目の列のタコ焼きをかえしてる途中で、中澤さんの手がピタって止まって。
驚かせるようなことを、言ってしまったんだと感じた。



436 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:04


「…中澤さん、こげちゃう…タコ焼き。」
「え?あ、あぁ。って、ええねん、タコ焼きなんか!…ケンカじゃないのに…
一緒に来んってことは…その…そのぉ…」
「…別れちゃったんです。私達。」
「そういうことになるわな…ってな、なんで?!なんでなん?!…なんで…その…」
「なんで…なんでだろ。」


…なんでかな。
なんで、別れちゃったのかな?

こんなこと、よっすぃ〜が聞いたら怒っちゃうよね。
…だって。
私だもんね、言い出したの。


だけど、どちらかが悪かったとか、何かが悪かったとか。
そんなことじゃなかったから。


…ただ、私が弱かっただけ。



437 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:05


「…で、でも!別れたっていってもやな、すぐに寄り戻すカップルなんて山ほどおるし!
じ、自分らもそうなんちゃ〜う?痴話喧嘩なんやろ?どうせ〜」
「ううん、もう。…ここに、二人で来ることは…もう、きっと…絶対に。」
「んな…うそやん…」
「…わ、私も…もう…ここには…来れないかもって…思って…それで…今日…」
「…え?」


そう、だから。
さよならの挨拶に来たの。

中澤さんに。
…このお店に。


泣き出した私を見て、慌てた中澤さんは、厨房から飛び出してきてくれた。


「な、なにがあったんよ?!そんな、やり直しもきかへんような…重大なことなん?
あれか?よっさん鈍いからか?乙女心わかってへんもんなぁ。またどうせなんか
やらかしたんやろ〜。よし、裕ちゃんが今度ガツンと注意したるからな、
…それで…それでいいやろ?」
「ううん…ちが…よっすぃ…のせいじゃ…」
「…え?」
「私…私…よっすぃ〜の…そばに、いたいんです…」



438 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:06


ほんとは、ずっと。
よっすぃ〜とこのお店に来たい。

…ずっと、一緒に。


「そ、そやったら!別れることあらへんやん!今からでも、よっさんに言うて…」
「…でも…私と一緒にいると…笑わないんです…よっすぃ〜…笑わない…」
「…笑わない…?」
「ずっと…苦しそうで…たぶん、いっぱい、いろいろ我慢して…他の子と、いるほうが。
よっすぃ〜、ずっと楽しそう。…その方がいいんです。私じゃない方が…」
「…柴田…」
「だから…もう…」


でもね、あれから一週間の間。
ほんとは、ずっと考えてたんだ。

よっすぃ〜の、そばにいる方法。
これからも、どうにかして。
ずっとここに二人で通えないかって。


だけど、頭の中で、私達の関係をまた繰り返しても。

…よっすぃ〜の笑顔は浮かばなかった。


結局、別れる以外の答えは、見つからなかったの。



439 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:07


「…でも。柴田、ここに来れないって、なんでよ?よっさんと一緒やなくったって、
うちは大歓迎やで?柴田一人だって…」
「ありがとう…ございます。でも…やっぱり…ちょっと辛いから。」
「え?」
「…一人で…二人のときの思い出。受けとめられなくて…」
「………」


今も、よく二人で座ってたテーブルのほう。
見れないんです、苦しくて。


そして、立ちあがれない。
よっすぃ〜と手を繋がないで、キスをしないで。
これから帰る道のりが、怖くって。



440 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:07


「…いつか…もっと大人になったら。きっと、一人でも、ここに来れるように…
…あっちのテーブルに座れるように。だから…それまで…ごめんなさい…」
「…わかった。じゃあ、最後に食べてってや?ちょっと待ってな…ほぉら焼きたてやで!
…うちはなぁ。いちいち、『もう来れません!』って断りに来る。律儀な柴田の性格、
好きやで?ていうかアホやんなぁ〜そんなん、いちいち言いにこんでええののに。」
「…ごめんなさい…」
「ほんま、アホやわ。…なぁ、柴田。あんた、よっさんが笑わんとか言うてたけど。
そんなん、あんたのせい違うと思うで?あんた自分が思っとるより、
ずっとおもろい子やで?結構アホやしなぁ〜♪」
「………」
「ほら!泣くか食うかどっちかにせい!あぁ、おもろ〜♪」


わざと大げさに笑う中澤さんの気持ちが、やさしくて、痛くて。


そのとき食べたタコ焼きは、いつもよりしょっぱかったけど。
それはきっと、ほっぺたを伝う、涙のせいだったのかな。



「…よっさんが、ちっとも顔見せんのも。柴田と同じ理由なんかもしれんなぁ〜」




441 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:08


さよなら、大好きだったタコ焼き屋さん。
さよなら、初恋の思い出。


それから、私はもう二度と。
中澤さんのタコ焼きを食べることはなかった。


あのころ、あのお店を避けてしまった、本当の理由。

今思うとそれは、それまでの二人のことを思い出しちゃうのが辛かったからだけじゃなくて。


ただ、よっすぃ〜との思い出しかないあの場所で。
…新しい思い出を。
作りたくなかったのかもしれないな。




442 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:09



3年生になって。
よっすぃ〜と校舎が離れたのは、幸運だったと思う。


だって、私はまだ。
よっすぃ〜のことを、ちっとも忘れられていなかったから。


偶然に、よっすぃ〜とすれ違うことすらない、校舎の中では。
必要以上に、勉強に打ちこめた。

上がって行く成績と比例するように増えていく、周りの人からの、
けして好意ではない視線は。
少し、辛かったりもしたけれど。


受験シーズンが、いよいよ本番になったころ。
そんな時期の体育祭なんて、どこのクラスもやる気がなかった。
それより、勉強、進路。
高校三年生の私達には、今という一瞬より、この先の長い人生の方が大切だったから。


青春する暇なんて、ない。


だけど、あのクラスだけは違った。
よっすぃ〜の、いるクラス。



443 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:10


旧校舎側の中庭で、大きな声を掛け合いながら、必死にバレーボールを追う、
よっすぃ〜の姿を見つけたとき。

すっごくびっくりした。
だって、よっすぃ〜はもう。
バレー、しないんじゃないかって。


その輪の中に、後藤さんを見つけて。

あぁ、きっと。
バレーも、あの笑顔も。
後藤さんが、よっすぃ〜に取り返させてくれたんだって、思った。

…よかったね、よっすぃ〜。


その後、教室に帰った私は、クラスのバレーの代表に立候補した。
突然なんでって、聞いてきた美貴に。
理由を説明すると、あんたはおっかけかなんて、あきれられてしまった。



444 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:11


そんな、体育祭当日。
バレー経験者だった、美貴の活躍もあって。
私達のクラスも、やる気のないながらに、順調に勝ち進んでいた。


とうとう、決勝になると。
同じく勝ち進んでいた、よっすぃ〜のクラスとあたって。

よっすぃ〜と顔を合わすのは、久しぶりで緊張するけど。
でも、よっすぃ〜がバレーをしている姿を見れると思うと、うれしくて。
そして、今さらなんだか、ドキドキして。


だけど、コートに整列したとき。
そのよっすぃ〜の様子が少しおかしいことに気づいた。
私がいるからかなって…思ったりもしたけど。
でも、原因は、そうじゃないみたいだった。


威圧的によっすぃ〜を見下ろす…審判の先生。
すぐにわかった、あぁ、この人がよっすぃ〜から。
バレーを奪った人。自信を奪った人。


あの日、ジャージのまま、うなだれて。
部活をやめたんだと、悲しそうに言ったよっすぃ〜が頭に浮かんで。


今日の私の敵は、10組じゃなくて、この先生だって思った。



そして、案の定。
キレイに決まったはずの、よっすぃ〜の最後のサーブを。
アウトだなんて、そんなウソの判定を。



445 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:13


私は頭に来て、審判の先生に詰め寄った。
その先生は、なんでよっすぃ〜と同じチームじゃない私が文句を言うのか不思議そうに
してたけど、そんなの簡単なこと。
あなたはよっすぃ〜の敵で、そして私はよっすぃ〜の味方だから。


審判の先生に、よっすぃ〜の担任の保田先生と、そしてなぜか相手チームの私が。
抗議をしていると、後ろから、美貴が来て。
自分も見ていた、サーブは入っていたと証言してくれた。


そして、審判はしぶしぶ、嫌々といった感じだったけれど。
よっすぃ〜達が優勝だと、認めた。


負けてしまった自分たちのチームの反応が気になったけど。
うちのクラスは、元々、特別やる気があったわけではないし。
みんなあんまり気にしていないようで、助かった。

「…こらっ!いきなり変なことすんな!!」
「いたっ!…美貴。」



446 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:13


ホッとしていたら、突然美貴に頭を叩かれて。

「あーんた何考えてんの!?なんで相手のために抗議してんの?!マジみんなきょとんと
してたよ、引いてたよ!うちのチームもあっちのチームも!」
「え?そう?」
「そうだっつーの!…だいたいあんた前衛じゃん、後ろ見えないじゃん、
なのに入ってたとか言っちゃってさぁ。見えてないだろって言われたらどうするつもり
だったの?…まぁ、審判がバカな先生でよかったよ、ほんと…」
「だって…入ってたもん…」
「いや、だから。後ろだった美貴でさえ見えてないのにさぁ。見えるわけないじゃん、
あゆみが。」
「…え?美貴見えてなかったの?」
「あったりまえだよ!誰かさんのためにしかたなく話しあわせたんだっつーの!」
「…そっか…ありがとう…」
「…たくっ。あきれるよ、あんたには。…ほら、喜んでるよ?あっちのチーム。
…よかったね。」
「…うん」


見ると、よっすぃ〜達のクラスのみんなが抱き合って、大喜びしていた。
ハっと、一瞬、よっすぃ〜と目があったけど。
さっきの自分の行動が急に恥ずかしくなって。
さっと目をそらしてしまった。



447 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:15


「…でも。絶対、あれは入ってた。」
「はぁ…まぁそうかもしんないけど…ていうかなんであんたそんな自信あんの?」
「だって。…よっすぃ〜、すっごくバレー上手なんだよ?よっすぃ〜が絶対、はずすわけ
ないんだもん。」
「…はいはい。」


別れた相手に、のろけんなよって。
美貴はあきれたように、笑って言った。


よかった、よっすぃ〜。
おめでとう。

よっすぃ〜の笑顔が見れて、私もうれしかったよ。
たとえ、こんなに遠くからでも。




◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



「あゆみ…ごっちんからさぁ…電話なんだけど…」
「…え?」



448 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:16


あの後そのままうちに来て寝転がっていた美貴のケータイが、突然鳴って。
その相手は後藤さんで、だけど話したいのはよっすぃ〜なんだそうで、
そしてよっすぃ〜が…用があるのは私、らしくて。


「…もしもし?」
「あ、柴田さん?今よしこに代わるね〜」

どうしよう。

やっぱり、あのまま逃がしてはくれないのかな。
かっこいい別れ方なんて、する自信がなくて。
あの頃のような別れを繰り返すのが怖くて、逃げてきたのに。
…あなたが目を覚ます前に。


「…もしもし。」
「あ、も、もしもし?!柴っちゃん?…あの、うち…吉澤ですけど…」
「あぁ。…うん、なに?」


どんなに動揺してても、つんとした声が出せる自分にまいっちゃうな。

ほんと、おっかしい。
顔はすぐ、赤くなるのに。



449 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:16


「な、なにって…その…昨夜の…ことなんだけど…」
「………」


どうしようどうしよう。

どうすれば、なんて答えるのが、一番いい?

これ以上、傷つかないために。
…お互いに。

「いや、そのぉ…ごめんね?うち、あんなことして…」
「あ、あぁ。そのこと…なんだけど。」
「………?」



450 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:17


どうしようどうしようどうしよう。

説明なんてできない、昨日の、自分の気持ち。
最後でいいから、とか。
こうなること、ずっと夢見てたから、とか。


…まだ、好きだから、とか。


全部、自分勝手なことばっかり。


言えない、そんなこと。

…だから。


「…忘れて?…昨日のこと…」
「え?」


言い訳なんて、なんにも思い浮かばなくて。

ごまかすしか、なかったの。



451 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:18


「昨日は…酔ってたし、私。わけ、わかんなくて…あんなこと。…よっすぃ〜だって…」

そう、よっすぃ〜は。
酔ってただけ。

酔ってて、ボーっとしてて…流されちゃっただけ、でしょ?

悪くないよ、謝らないで。


きっと、どうしようもなかったんだよ。

たとえ、昨日あなたに迫ったのが…他の子だったとしても。


「よっすぃ〜も…酔ってた…でしょ?だから、気にしないで?ほんと、忘れて?」
「…あぁ、そうだね…」



452 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:18


…え?

今まで、聞いたこともないような、よっすぃ〜の低い声。
まるで、怒っているような。


…どうして?
こうすることが、一番。

あんな、よっすぃ〜にとっては、はずみの出来事。
忘れてもらうことが、一番あなたを傷つけない方法なはずなのに。


「うち…うちも酔ってたけど。…でもうちは。
…それだけじゃなかったよ。そんな、いくら酔ってたからって。
それだけであんなこと、しないよ。そんなふうに、思わないでよ。」


…よっすぃ〜…

なんで、それって、どういう…こと?



453 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:19


酔ってただけじゃ、ないって?
じゃあ、なんで、昨日。
…私のこと。


ねぇ、よっすぃ〜。
昨日、よっすぃ〜がしてくれたこと、全てを。
夢だって、思わなくてもいいの?


…忘れなくても、いいの?


「…もうわかった。…ごめんね、電話なんかして。忘れるよ、忘れる。
なかったことにして、いいよ。
…うちも、明日東京帰るし。もう京都にも来ない。 なかったことに、しようよ。
うちらのことなんて。もう全部。」
「よっすぃ〜…待って…」



454 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:20


待って、違う、違う。

私、忘れたいんじゃないよ。


…そんなの、ほんとは。
嫌われるより、つらいよ。
忘れられるほうが、つらいんだよ。


だけど、だって、私達。


混乱する頭の中で、必死によっすぃ〜に伝わる言葉を探したけど、見つからなくて。
でも、きっと難しい言葉はいらなかったね。


…ただ
好きだって、言えていれば。


「…さよなら。あの日…卒業式の日…言えなかったから。…さよなら。」



455 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:21


よっすぃ〜がプツっと切ってしまったのは、電話だけじゃなくて。
私が知らない間にいつのまにか張り詰めていた、糸も。
…プツっと。

「…あゆみ…どうした?大丈夫…って、な、泣いてんの?!なに?どうしたの?!」


さよならと。

言ったのは、私だった。
…修学旅行の、時。


あのときも、つらかった。
大好きな人に、さよならって言うの。


…だけど。
言われるのって、こんなにつらかったんだね。


ごめんね、よっすぃ〜。



456 名前:初恋 投稿日:2005/04/13(水) 00:21


…私達。
何回、さよならって、繰り返すのかな。


ううん、もう。
きっと、これで終わる。

私が、もう。
このまま、何もしなければ。

…終わりにしよう。

こんな風に、悲しい気持ち。

これ以上続けたら、きっと。
息ができなくなるから。


昨日の、夜で。
最後で、いいと。
思っていた、はずなのに。

なのに、どうしてこんなに。
胸が苦しくなるのかな。



初めての恋は。
まだこんなにも、私の心を締めつける。





457 名前:ツースリー 投稿日:2005/04/13(水) 00:26
以上、第5話です。
そしてよっすぃ〜一日遅れですがおたおめ!

>>430 名無し? さま
レスありがとうございます!よっすぃ〜視点と比べて読んでいただけて、うれしいです♪
また感情移入していただけるようがんばります〜

>>431 名無飼育さん さま
わかってもらえてすごくうれしいです〜またよろしくお願いします!

>>432、433 YUN さま
いつもありがとうございます!そんなにチェックしていただけてうれしいです〜
またぜひよろしくお願いします♪ 
458 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 00:55
またしても涙でディスプレイが見づらいわけですが…
ウワーン!柴ちゃん切ないよ。・゚・(ノД`)・゚・。
うまくいったってわかってるのに泣かずにはいられない。
柴ちゃんの内面をこんなに可愛く表現できる作者さんすごいっす。
459 名前:YUN 投稿日:2005/04/13(水) 22:52
更新お疲れさまです!
ツースリーさまの小説を読むと
何故かすごいホッとするんですよ(^▽^)
続き期待です、頑張ってください!!
460 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/18(月) 13:13
いつも楽しみに読ませていただいてます。
リアルでの柴田さんはあまり知りませんが
素直じゃない柴ちゃんが可愛くて大好きです。
次の更新も楽しみにしてます。
461 名前:YUN 投稿日:2005/04/25(月) 22:18
いつまでも待っていますよぉ(^▽^)
462 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:09


「はっ?…京都の…?」
「うん…」


初めて、私の志望校を聞いたとき。
美貴は、思いっきり怪訝そうな顔をした。


「…なんでまた?あんた、本気で言ってんの?」

それは、あの修学旅行で何があったか。
そしてあの頃、あの場所で。
どれだけ私が落ち込んだのかを知っている美貴にとっては、当たり前の感想だった。



463 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:09


「…先生にね、受けてみたらどうかって、薦められて…」
「いや、まあそりゃー。成績的には、問題ないんじゃない?って、そうじゃなくてさぁ。
…なんていうか。…平気なの?あゆみ、その…」
「…ん?」
「えーっと…ほら、あれだよ。美貴もさ、ちっちゃいころね?
家の近くに、すっごい急な坂道があったんだけど。美貴そこチャリで駆け下りてたら、
つまずいて、コケちゃったんだよね。一回転したんだよ?すごくない?
もう超痛くて怖くて泣いてさ。二度とそこ、チャリで通らなかったもん。
…ね?だからその…」

平気なの?あゆみは。
ちゃんと、通れるの?暮らせるの?
痛かった…あの場所で。


美貴は、最後まで言わなかったけど。
心配そうな表情で、言いたいことは、伝わってきた。



嫌な思い出の、残る場所を。
避けようとしてしまうのは、きっと人として自然なこと。



464 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:10


もちろん、私だって始めはそう思った。

京都に行くのが、怖い。
あの場所に行けば、絶対にあの日のことを思い出す。
…怖い。
そんな日々に、私が耐えられるのかどうか、わからない。


…だけど。

「…悲しかったこと、忘れるより。楽しかったことを、忘れたいの。
この街に、いたら。私、きっとずっとよっすぃ〜のこと、好きなままだと思う。
…いっぱい、あるんだ。幸せだったこと。うれしかったこと。この街には。
だから、そういうの、…全部。」


初めてよっすぃ〜と話した、駅のホームとか。
毎日キスをした、帰り道とか。

そんな場所に囲まれたままじゃ。


絶対に、あなたを忘れることなんて、できない。
忘れたいなんて、思えない。



465 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:12


「でも、さ。…だからってさ…なにも、京都じゃなくっても…。」
「…その方が。ずっと、リアルでいられると思うんだ。あの日の…修学旅行の、思い出が。」

そう、きっと。
その方が、ずっと、あの日の別れを忘れずにいられる。
…痛みを、なくさずにいられる。


ねぇ、よっすぃ〜。
京都に行くことは、すっごく不安で怖いけれど。
だけどそれより、あの悲しみが。
いずれ時間と共に、薄れてしまうことのほうが怖いの。


だって、あの痛みが消えてしまったら。
また私は、あなたを求めてしまいそうで。



466 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:13


「…んじゃ、美貴も受けよっかな〜」
「へ?」
「いや、どうせ美貴はそこ、受かんないとは思うけど。記念受験?観光ついでにさ〜。
今度こそ、金閣寺見に行こうよ。うちら行ってないじゃん、修学旅行んとき。」
「…美貴……ありがとう。」
「べっつにー。ほら、受験だって言えば親もお金出してくれるだろうしさ!
あとどこ行く?じゃなくて、どこ受ける?あははっ。」


せめて、大切な試験のときは。
私を、あの場所で一人にしないようにって、美貴は気を使ってくれたんだろうけど。

結局、美貴も一緒に合格して。
私達は、同じ大学に入学できることになった。



467 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:13


あの頃。

楽しかったことを、忘れるため。
よっすぃ〜への想いを断ち切るために、
私は、京都に行こうと決めた。


…だけど、本当は。

よっすぃ〜との、思い出の中で。
一番思い出したくないことを、忘れないことが。


離れてしまうあなたと、唯一繋がりつづける手段だと。
――私は、知っていたのかもしれない。




468 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:14



「卒業生代表…柴田あゆみ」
「…はい。」

高校生、最後の日。
高校生、最初の日と同じように。

名前を呼ばれた私は、会場の体育館の一番前にある、ステージに上がった。



そこから見る景色。

それは、あの入学式とは、全然違った。

ピカピカだったみんなの制服が、随分着古されたものになったとか。
ずらっと並んでいた黒髪が、今ではほとんどいないとか。


そういうことも、もちろんあるんだろうけれど。



469 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:15


でも、それよりも。
変わったのは周りの景色よりも、それを見る、私自身だったのかもしれない。


だって、あの日の私は。
こんなにいる、人の群れから。
簡単にあなたを見つけ出すことなんて、到底できなかったから。



三年間という日々は。

見知らぬ他人だった私達を、一気に、世界中の誰より近づけて。
そしてどんな赤の他人よりも、ずっと遠くに追いやった。


ただ、今。
ここから、私が見つけ出したあなたと、一瞬絡み合った、視線だけが。
終わってしまった、私達の恋を。
知っていてくれているような、気がした。



470 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:16


卒業式の、後。

もうきっと、こんなふうに歩くことのない、校舎の中。
最後に、記念撮影もかねて、いろんなところに行ってみようと。
美貴と二人、歩き回っていたら。

…いつのまにか、自然に。
あの、図書室の前に来ていた。

「藤本せんぱ〜い!」
「おぉ〜亜弥ちゃん。なに、どうしたの〜」

走り寄って来た後輩の子に、美貴がつかまっている間に。


…私は一人、その中に入る決心をした。


だって…きっと今日が最後だもん。

そしてゆっくり、扉を開いた。



ねぇ、そこはね、ずっと。
私が、よっすぃ〜を待っている場所だったの。

よっすぃ〜が来てくれるのを、ずっと、ずっと一人で。


…なのに、どうして。

―――ここに、よっすぃ〜が、いるの?―――私が来るよりも、早く…



471 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:17


あの頃、よく私が座っていた机の前。
カメラを構えたよっすぃ〜が、そこには立っていた。


「…柴っちゃん…」


どれくらいぶりか、わからないぐらい。
久しぶりに聞く、よっすぃ〜の声。

胸が、体が震えていることを、気づかれないように。
うつむいていると。


「あの、さ…その…」


言わないで。
お願い、言わないで。

ここは、私があなたを待っている場所なの。
…待っていたいの。
思い出の中では、これからもずっと、あなたを。



472 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:18


だから、お願い。
―――さよならなんて。

今、この場所では、言わないで。


「ねぇーあゆみぃ。美貴卒業証書どこに入れたっけ〜カバンにないんだけどっ…と…」

後ろから聞こえた、美貴の声にハッとして。
逃げ道を、見つけたと思った。


美貴と図書室から出ようとしたとき、ちょうどタイミングよく。
後藤さんが、入ってきてくれたから。


だから私は、振りかえらずに。
そこを、離れることができたのかもしれない。




ごめんね、よっすぃ〜。
さよならなんて、言えないよ。



473 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:21


もう、あなたに会わないために、京都に行くのに。
でもいつかまた会えると、本当は心のどこかで、信じているから。


だから、私はさよならを言わず。
この街を離れ、京都に旅立った。



◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



長い一日だった。
今日の何時に、よっすぃ〜は東京へ帰るんだろう。

きっと、こうして一分一秒、過ぎて行く間に。
あなたはどんどん、遠くなって行くんだ。


部屋の中で、ボ〜っと座りこんでいると。
カバンに入れっぱなしだったケータイが、ブルブルと音を立てた。



474 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:21


「…もしもし…?」
「あ、柴田さん?!ごっとー!後藤です!今大丈夫?」
「え?…後藤さん?…うん、大丈夫だけど…どうしたの?」
「あのさ、今新幹線の中なんだけどね。なんか…このままでいいのかなって、思って。
よしこ、言ってないみたいだったから。」
「…え?…なに…?」
「柴田さん、ミッキー好きなんでしょ?!」
「へ?」


…どうしたんだろう、突然。

新幹線に乗っているらしい後藤さんのケータイからは、ときどき、ガタン、ガタンと
騒音が聞こえる。


…聞き間違い?



475 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:22


「あの…ごめん、今、なんて?」
「だから、ミッキー!ミッキーマウス!あの、ねずみの!」


…やっぱり聞き間違ってはいないみたい。

でも、いきなりなんで、そんな。
それに、どうして後藤さんが知ってるの?そんなこと…


「うん、まぁ…好きは、好きなんだけど…でもどうして…?」
「でしょ?!だからよしこはあんなにミッキーにこだわってたんだねー。ていうか、
買えばよかったのにね。実は結構ぶきっちょなんだからさ、よしこ。」
「…なんのことか。わからないんだけど…」
「あぁ、ごめんごめん。…あのね?覚えてる…よね、修学旅行の。
ごとーと、よしこがさ。夜、帰って来なかった日、あったじゃん?」
「…うん。」



476 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:23


もちろん…覚えてるよ。
あの日はちょうど、付き合いだした、記念日で。


私は一晩中、よっすぃ〜が帰ってくるのを、待っていた。


「あのさ、あんときね?ほんとはお財布、なくしたんじゃなくってさ。
お金全部、使っちゃったんだよね。先生には怒られるから、落としたって言ったけど。」
「…知ってる。遊んでて、使っちゃったんだよね……ふたり、で。」


約束をしていた夜。
よっすぃ〜は、お金がなくなるくらいまでずっと、後藤さんと二人で…遊んでいた。

それは私に。
別れを決意させるくらい、大きな出来事だった。


だけど…



477 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:24


「うん、でも遊んでたっていうか…よしこは、真剣だったんだよ?
そりゃー、ゲームには違いないけど。でもよしこは真剣に、ミッキー取るために、
がんばったんだよ?UFOキャッチャー。自分の全財産、ついでに後藤の全財産も
つぎこんで。
ダメだね、よしこ。ギャンブルは、やらない方がいいね。熱くなると、周りなんも。
見えなくなっちゃうんだもん。困ったよ、ごとーは。」
「…え?」


あの夜、よっすぃ〜は。
楽しくって。
後藤さんと二人で遊ぶのが、楽しくって。


…私のことなんか、忘れちゃったんだって。

私との約束なんかより、そっちの方がきっと大切だったんだって。


――私より、後藤さんがって。


ずっと…そう思って。



478 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:24


「あんとき、よしこ。柴田さんのことしか、考えてなかったんだと思うよ?
先生に怒られるとかさ、お金なくなるとか。いっさい計算してないんだもん。
まいっちゃうよ。しかも結局一個も取れなくてさぁ。」
「…うそ…そんな…」
「…ホント。今回もね、京都に来たの。それが目的だったらしいんだよね。
あのときの、ミッキー。どうしても、取りに行きたいって。
…ねぇ、柴田さん。あの日、約束破ったよしこは悪いと思う。
絶対守らなきゃいけない約束って、あるもんね。でも、だけどさ、ごとーは。
よしこがすっごくがんばったの知ってるからさ。どうしても、ほっとけないんだ。
…許して、あげてくれないかな?あのときのこと。約束守らなかった、よしこのこと。」



相手のことを。
本当に考えていなかったのは、私だったのかもしれない。

よっすぃ〜が、私のために一生懸命になっている姿を。
あのとき全然、想像できなかったんだから。



479 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:25


…でも、だったら、余計に。

「部外者のごとーが言うのもなんだからさ。できたら、直接。
よしこの話、聞いてあげて?たぶん言ってないこと。言わなきゃいけないこと、
まだあるはずだから。」
「…ううん。やっぱり…もう。会えないよ。」
「え?!な、なんで!!どうして?」
「…だって。私、よっすぃ〜のこと、なんにもわかってあげられてない。
いっぱい悩ませて…傷つけて。私が一緒にいても、よっすぃ〜には何もいいことないよ。
私じゃ、ない方が…」


きっと、そばにいるのは、後藤さんみたいな人の方が。
よっすぃ〜のこと、理解できて、笑わせてあげられて。

私なんかじゃ、ダメなんだよ。

私以外の人の方が、いいんだよ、きっと。



480 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:26


そう言うと、走る新幹線の騒音に負けないくらいの大きな声で、後藤さんは話し出した。

「いやいや!そういうのは、柴田さんが決めることじゃないでしょ!?
よしこがイイって言ってればさ、それでいいんだよ?周りがなんて言おうとさ、
自分がどう思おうと。柴田さんが気にしなきゃいけないのは、
よしこの気持ちだけだから!!」
「…でも、やっぱり私じゃ、よっすぃ〜は…」
「んあぁ!もう、柴田さんは!好きじゃないの?!よしこのこと!!なんでそうやって
逃げちゃうの?!ぶつかんないの?!!」
「…え…?」


…もしかしたら、私はずっと、こんなふうに。
よっすぃ〜を思いやるフリをして、実は逃げていたのかな?

相手を喜ばせる自信がない、弱い自分を。
よっすぃ〜に見つけられて、嫌われるのが怖くって。



481 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:26


あなたから離れようとしたのは。

あなたではなくて、…ホントは、自分を守りたかったから?



「…これはさ。柴田さんだけの、恋じゃないんだよ?…よしこにとっても。
…大切な、一個だけの恋なんだよ。だから、一人で。考えて結論出しちゃうのは、
違うと思う。
…会ってあげて?ちゃんと、向き合ってあげて?よしこと。」


あの日、修学旅行の日。
最後まで、よっすぃ〜の話をちゃんと聞けばよかったと思った。
そうしたら、もしかしたら違う修学旅行の思い出ができたかもしれないのに。


だけど、全然成長していない私は。
このときも、後藤さんの話を最後まで聞かず、家を飛び出してしまっていた。


「…もしもーし?柴田さん?それでね、実はよしこはまだ新幹線乗ってなくて、京都に…
…って、切れてる、電話。」



482 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:27


どんな、結論になろうと。
二人で、話し合って決めようと思った。

どっちかが、一方的に告げる別れなんて、もういやだ。

…そして。

あの夜、私のために、がんばってくれたよっすぃ〜に。
ごめんねとありがとうを。
…言わなきゃ。



「…す、すいません!あの、東京まで!!」
「あぁ、ちょっと待ってな、この子、なに言っとるかわからんくて。って…柴田?」
「え?…な、中澤さん?!!…よっすぃ〜!!!」
「し、柴っちゃん!!!ど、どうして…」

慌てて飛びこんだ駅の窓口には。
なぜか駅員の制服を着た、中澤さんと。
…私が、今、追いかけている…よっすぃ〜が。
勢ぞろい、していて。


「し、柴っちゃん…どうしたの?帰るの?帰省すんの?東京に。」
「え?私は…よっすぃ〜は、どうしたの?帰ったんじゃ…」
「い、いや、うちは…」


お互いにおろおろしていると、後ろで中澤さんも、話が読めへん〜っておろおろしていた。



483 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:29


「あ…あの。…さっき後藤さんから電話があって…私…」
「え?ご、ごっちんから?」
「ご、ごめんなさい…私、知らなくて…よっすぃ〜が…私…」
「え?え?な、なんのこと?」
「…ごめっ…」


うまく、言えない。
私は、なんでいつも。
伝えたいこと、ちゃんと言えないの?

どうして…素直になれないの?


「…ふぅ〜ん。ようわからんけど…よっさん!次の新幹線取れるで!どうする!!」
「へ?あ、あぁ…」
「…!!ま、待って!!」

つい、いきなり、大声で。
引きとめてしまって、驚いたよっすぃ〜はびっくり顔。


どうしよう。
言わなきゃ…誤解しててごめんって。いっぱい傷つけて、ごめんって。
こないだの…夜も。あんなことして、それなのに忘れてくれなんて言って…
あ、でも本当は忘れてなんか欲しくないって、それから…それから…


「…柴田!!もう今しかないで!!よっさん、帰ってしまうんやで!!ええんか
それで!!」



484 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:30


また、どんどん勇気を失っていく私の背中を。
中澤さんが、強く強く、押してくれた。


…そうだ。
今しか…ないんだ。


今言わなかったら…よっすぃ〜は私の前からいなくなる。
次に、いつ会えるかわからない。
…会えないかもしれない。

やだ、そんなの。



正直言えばまだ少し、悩んでいるけれど。
あなたの隣が、私でいいのか、ほんとはまだ全然、不安なんだけど。


だけど。
私の隣には、あなた以外の人はありえないから。


…だから。



485 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:31


「……行かないで……」


私は、無意識のうちに、よっすぃ〜の手を、指先をつかんでいた。
それは、意地っ張りな私の、小さすぎる精一杯。


ねぇ…よっすぃ〜。
ほんとは、ずっとずっと。
一緒にいたいの、側にいたいの。

私にしてあげられることがなくっても、あなたを困らせてしまったとしても。

私は、あなたの隣にいたい。


…だって、大好きなんだもん、よっすぃ〜。…よっすぃ〜。



486 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:31


行かないで、とか。
してほしいと思うことを言ったりしたら、わがままだって、嫌われそうで怖くて、
ずっと言えなかったけど。

実際に言ってしまうと、よっすぃ〜の反応はとても優しくて。


ビックリしていたけど、そのうち、涙が流れる私のほっぺたを、
よっすぃ〜はそっとぬぐってくれて。

そして、初めてのときと同じように、私に話しかけた。


「…これ。お弁当…食べませんか?」

…一緒に。



487 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:32


あぁ、あの日もそうだった。
突然の誘いに、私はびっくりして。


でも、だけど、心の奥が。
ギュっとしめつけられて、そして温かくなるのを。

感じたときに、思ったんだ。



――あぁ、私。この人のことが、好きなんだ――



久しぶりに。
強く私の手を握る、よっすぃ〜の手は。
あの頃よりももっと温かくて、そしてずっとたのもしかった。



488 名前:初恋 投稿日:2005/04/26(火) 17:33



あぁ、私。
勝手に一人で考え込んで、悩んで、バカだったな。


だって、あのときからずっと、よっすぃ〜は。
私を、求めてくれていたのに。






489 名前:ツースリー 投稿日:2005/04/26(火) 17:40
以上、第6話です。次回、最終話になります。

>>458 名無飼育さん さま
温かいお言葉ありがとうございます〜・゚・(ノД`)・゚・。
結末の分かっている話で、喜んでいただけるかわからなかったので、
そう言っていただけるととてもうれしいです!またよろしくお願いします〜

>>459、461 YUN さま
いつもレスありがとうございます!お待たせしてすみません〜・゚・(ノД`)・゚・。
ホッとしてもらえるなんてうれしいですw励みになります♪
次回最終話ですが、また読んでいただけたらうれしいです!

>>460 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!いつも読んでいただいているなんて、幸せです〜
ありがとうございます!次回が最後ですが、どうぞまたよろしくお願いします♪
490 名前:YUN 投稿日:2005/04/26(火) 23:20
待ってました!!(^▽^)
って、次回最終話ですか・・・。
なんか寂しいですね(−_−)
続き期待です!頑張ってくださいね。d(^▽^)
491 名前:460 投稿日:2005/04/29(金) 22:22
更新お疲れ様です。
やっぱり柴ちゃん視点いいですね。
次回が最終話なんて残念です。
でもお待ちしてます。
492 名前:名無し? 投稿日:2005/05/04(水) 21:01
感想遅くなりました!

後藤さんが電話してる場面になんか感動しちゃいました(;Д;)
2人がまた会えたのも後藤さんのおかげですね。話とは関係なくなっちゃいますが,この場面読んで後藤さんにも幸せになってほしいと思ってしまいました。
493 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:33


「…ごっちんに。なんて、言われたの?」


ベンチに座って、お弁当を食べ終わったとき。

よっすぃ〜は真面目な顔をして、そう聞いてきた。


「…うん。ごめんね、よっすぃ〜。あの、あの夜のこと、私、ずっと…」
「…ん?」


なんとなく。
もしかしたら、よっすぃ〜は気づいているのかなって思った。

話の内容が、あの修学旅行の…夜のことだって。


そしてきっと。
試してるのかもしれない。

私が、ちゃんと変われるか。
…私の、本当の気持ちを。


「あの夜…修学旅行の、夜。よっすぃ〜は、帰ってきてくれなくて。だから、ずっと。
…どうでもいいんだって。私のことなんか…よっすぃ〜はって。ずっと…」
「そんなわけ…ないじゃん。」
「だって、…約束したのに。よっすぃ〜、約束したのに。」
「…ごめん。」


あの夜に言うべきだったこと。
私はずっと、言えなくて。
勇気がなくて、嫌われるのが怖くて。

だけど、何も言わないままじゃ。
すれ違うばっかりだって、傷つけあうばっかりなんだって、やっとわかったから。



494 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:34


だから一生懸命、伝えようと思う。
上手に、すらすらと話すことはできないけれど。


「よっすぃ〜は…私より。後藤さんといる方が…その方が楽しくて。だから、帰ってきて
くれなかったんだって。ずっと…ずっと…」
「違うよ…違う…」
「だ、だけど。さっき後藤さんが…電話で…ほんとはよっすぃ〜…ミッキーのぬいぐるみ、
取ろうとしてくれてたんだって…だから、だからだったのに…私…」
「…いや、…柴っちゃんが悪いわけじゃ…ないよ、約束破った…うちが、悪い。」
「でも、でも…」
「ううん。…ごめんね…帰れなくて。あの夜…記念日だったのに。」


突然聞こえた言葉に、耳を疑った。

…え?

よっすぃ〜…覚えてた…の?


「…ううん。ごめん。全然、覚えてなかった。昨日…ミキティから。
教えて、もらったんだ。」
「美貴…から…?」

美貴がよっすぃ〜に、そんなことを言ってたなんて、私は全然知らなくて、ビックリした。



495 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:35


「…ごめんね。初めて、だったのにね。柴っちゃんがうちに、お願い事したの。
初めてだったのに。会いに行かなくて…ごめんね。」


その言葉を聞いて。
私が泣き出してしまう前に。
よっすぃ〜は私を抱きしめてくれた。


「…だけどさ…言い訳、するんじゃないけど。うち、鈍感だし。気づかないんだって。
だからさ頼むから…そういう、大事なことは、ちゃんと言ってよ。いや、マジで。」
「…無理だ、よぉ…」
「なーんでさ!!…それ、柴っちゃんの。悪いクセだよ、素直じゃないの。」
「…わかってるもん…」

…わかってる。

素直じゃない、私。

そのせいで、きっとよっすぃ〜をたくさん悩ませて、傷つけた。


だけど…できないんだもん。

他の子みたいに、かわいく甘えたり。
…私にはできない。



496 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:35


素直さと、わがままの境界線が。
私には見えなくて。


ずっとずっと不安だったの。


こんなこと言ったら、よっすぃ〜はどう思うんだろうって。
…わがままだって。
嫌われるんじゃないかって。


だから、いつも私の答えは。
「別に」なんて、かわいくないセリフ。


言えないよ…素直になんて。
…できないんだもん。


「…だから?飲んでもないのに、酔った勢いだとか言っちゃうの?」
「!!き、気づいてたの…?!」

一気に、恥ずかしさがこみ上げる。



497 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:37


あれが、ウソだって。
ただの、強がりだって。

…見透かされてたの?

「もちろん!って…ウソ。ごっちんに聞くまで…わかんなかった…」
「…鈍感…」
「ひでぇ!!」

やっぱり相変わらずよっすぃ〜は鈍くて、ガッカリしたけど…でもちょっとホッとした。


だって本当に、思い出すだけでも恥ずかしいから。
自分に、あんな行動力があったなんて、今でも信じられない。


だからできればこのまま。
その話題は終わらせたいんだけど。

中途半端になったままの、あの夜のことを。
そのままでは、よっすぃ〜は許してくれなくて。



498 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:38


「ねぇ。…なんで、あんなこと、言ったの?酔ってただけだなんて…
なかったことに…したかったの?」
「!!ちがっ!…違う…」

本当は、そうじゃないの。
私は、忘れたくなんてなかった。


「…じゃ、なんでさ…」


だって…だって。


…別れたく、なかったんだもん。
もう、よっすぃ〜と。



499 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:38


つきあえば、必ず。
また終わりがあるって、思ったの。

実際に、私達は。
一度、別れてしまっていたし。


あのときみたいに、よっすぃ〜をまた失うの。
本当に、怖かったから。


…でも、だったら。
私は、よっすぃ〜を求めちゃいけなかったのに。

そのために、大学だって京都に来たのに。



500 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:39


でも、あんなありえない偶然で、私はまたよっすぃ〜に出会ってしまって。


…あのとき。
二人きりになった部屋の中で、よっすぃ〜に、ぎゅって抱きしめられたら。

飛んでっちゃったの。
不安とか、怖いとか、今まで思ってた、そういうの全部。


ただ、そのまま。
よっすぃ〜に抱きしめられてたいって、それしか思い浮かばなくて。


だから、自分の責任だって、思ってる。
…あのとき、やめようとしたよっすぃ〜を、引きとめたのは私だったから。


これで、よっすぃ〜が帰ってしまっても。
私を、忘れてしまっても。

仕方ないって。



501 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:40


そう言ったら、よっすぃ〜は悔しそうな、怒ったような顔になって。
さっきよりも少し大きな声で、私に言った。

「…さっきから、もういいとか、忘れてくれとか。それ、なんなの?
なんで、そんなこというの?…柴っちゃんは。もう、やり直したくないの?…うちとは…」
「そうじゃ…ない…けど…」
「じゃ、なに?」


そのとき、ふいに、さっき後藤さんが私に言った言葉を思い出した。

…一人で、結論出すなって。
ちゃんと、よっすぃ〜と向き合えって。


…だってこれは。

――私の恋なんじゃなくて、二人の恋なんだから。



502 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:42


それを思い出した瞬間、緊張してたのが、解けて。
強がって押さえてた気持ちが、どんどん溢れ出した。


「…だって…よっすぃ…また、元気なくなる…私と、いたら…。
高校生のとき。…つきあってたとき…よっすぃ〜ずっと、苦しそうで。
後藤さんといるときは…よっすぃ〜、元気なのに。
私といると…よっすぃ〜…つらそうで…段々、笑わなくなって…。」
「柴っちゃん…それは…」
「私といると…私の…せいで…よっすぃ〜…」


自信なかったの。
あなたが、他の子に、笑いかける度に。

悔しくって悲しくって、押しつぶされそうだった。


よっすぃ〜はなんで、私とつきあってるんだろうって。
私なんかと。

おもしろくもないし、愛想もないし。

そんなふうに不安になればなるほど、また素直になれなくなって、意地張っちゃって。



503 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:43


きっと、こんな私じゃ、ダメだって思った。
よっすぃ〜の隣は。
もっと明るくて元気で、そう、例えば後藤さんみたいな。


ずっとそう思って不安だったことを伝えると、よっすぃ〜は。

笑わなくなったのは、私のせいじゃないって。
…よっすぃ〜も。
自分なんか、自分なんかって。
私と同じように悩んでたんだって、教えてくれた。


「でももう…そんなこと、気にしててもさ、しょうがないってわかった。だから、しない。
いいんだ、周りに、なんて言われたって。人の目なんて、気にしない。
ただ…好きだからさ。柴っちゃんのこと。だから…そばに、いたい。それだけ。」


だから、一緒にいようって。
はっきり、よっすぃ〜はそう言ってくれたけど。

…私はまだ不安で。

だって、私、つまんないし。
素直じゃないし、かわいくないし。

…よっすぃ〜にしてあげられることなんて、なんにもなくて。



504 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:43


だけどよっすぃ〜は、そんなことは、どうでもいいなんて。
私の不安を、簡単にはねのけて。

…ただ。
私の気持ちを、ちゃんと言えって。

おそらく一番。
私にとって、難しい注文をした。


この間、よっすぃ〜が寝てる間に言ったとか、なんとかごまかそうとしても。
ダメだダメだって、納得してくれなくて。


そういうこと言うの、私が苦手だって知ってるはずなのに。

…私の気持ちなんて。
わかりやすすぎて、いくら鈍感なよっすぃ〜でも、わかるはずなのに。


…もういやだ。



505 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:45


「……好き…よっすぃ〜…よっすぃ〜…好き…」
「…言えんじゃん。ちゃんと。」


優しく頭にのせられた手の体温を感じたら。
もう、我慢できなくなって、また涙が溢れてきた。


本当に、イヤなの。

もう、絶対に別れたくない、別れるくらいなら、始めからつきあわない方がいいって、
私が言ったら。

絶対に別れない、だからつきあおうって。
そう言うよっすぃ〜の顔がだんだん近づいてきて。

「ま、待って…」
「?なに…?」
「人、いるよ…見てる…よ…」
「…だから。うちはもう、人の目は気にしないんだって。」

…意味が違う!!



506 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:46


だけどそんな抗議、よっすぃ〜が聞いてくれるわけなんてなくて。

必死に恥ずかしさに耐えていると、よっすぃ〜から予想もしない一言が。


「その…顔。なんとか、なんないの?」
「え…?」
「昔から。ぶすっとした顔すんじゃん、キスした後。」
「だ、だって…」

やめてよ、結構へこむんだよ?なんて、よっすぃ〜は言うけど。


…もとはといえば。
よっすぃ〜のせいじゃない。



507 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:47


初めての、キスの後。

トマトだなんて言われて、からかわれて、私がどんなに傷ついたか。
それ以来、トラウマになったんだということを伝えたら。


悪びれるわけでもなく、よっすぃ〜は。
少し、ニヤニヤしながら言った。

「でもさぁ。…ほんとに、真っ赤で、トマトみたいだったんだよ?」
「…!!ふ、普通は!!思っても、言わないよ!なのに…よっすぃ〜は…」
「…今も。トマトみたいだよ?」
「…ひどいひどいひどい!!!いっつも、よっすぃ〜は…うー…」
「わわっ!!ウソウソごめん!!あー泣くなって〜…」


そして私は…また、よっすぃ〜に泣かされた。



508 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:48


なんだか、結局。
私達、あんまり変わってないみたい。


相変わらず私は、すぐ真っ赤になっちゃうし。
それを見たよっすぃ〜は、トマトだなんてからかうし。


だけど、ひとつ、大きく、変わったことがある。


…もう。
初恋じゃ、ないよね?



509 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:49


私の初恋は。
あの、修学旅行の夜、終わったんだもん。


だから、これは。
私の、二回目の恋。

相手は、偶然にも。

また、同じ人だけど。



初恋じゃないから。
きっと、今度こそ実るよね?


…私達の、恋。





510 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:50




◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




511 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:51


「…柴ちゃん…柴ちゃんってば。起きて?もうすぐ、バスの時間だからさ…」

起きてるよ。
…むしろ、最初から寝てないもん。

「あのぉ…離してくれないと…うち、帰れないんだけど…」

…じゃあ、帰らなければいいのに。



日曜の夜は、大嫌い。
だって、よっすぃ〜が東京に帰ってしまう夜だから。


…嫌だなぁ。
一緒にいられる時間は、こんなに、あっという間に過ぎ去るのに。


次に会える日までは、季節が変わりそうなくらい、きっとまた果てしなく長いんだ。



あぁ、嫌だなぁ。



512 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:52


帰って欲しくなくて。
でも、帰らないでなんてコト、私には言えなくて。


だからこんな風に、寝てるフリをしてる。
隣で座るよっすぃ〜に抱きついたまま、寝てるフリをして。
帰ろうとする、よっすぃ〜を離さない。


「…バス、出ちゃうよぉ〜乗り遅れちゃうよぉ〜」

出ちゃえ出ちゃえ。

「帰れなくなるってば〜〜〜」

いいもん…帰らなくて。


でも本当は、そんなことになったら、よっすぃ〜困っちゃうって、分かってるから。
仕方なく、そろそろ起きなきゃなと思ったとき。

よっすぃ〜が、つぶやくように言った。


「…うち。引っ越そうかなぁ〜…京都に。」
「えぇぇぇ!!」


あ、…しまった。



513 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:53


つい、びっくりして、寝起きのフリをするのを忘れて飛び起きちゃって。
呆れた顔をしたよっすぃ〜と、目が合った。


「やっぱり、起きてたんじゃん。柴っちゃん。」
「…い、今。…今起きた…」

慌ててそう言っても、信じてくれるわけはなくて。

でも、ウソついてたことを、よっすぃ〜は怒るわけでもなくて。
笑いながらポンポンっと、私の頭を叩いた。


「…寝たフリして引きとめてたの〜?」
「ち、違うもん。本当に、寝てて、びっくりして、今起きて、」
「うはっ。強がり〜〜」


そんなふうに、ケラケラ笑ってるよっすぃ〜にムっとして、つい、
うっかり忘れそうになっちゃったけど。


そういえば…今、よっすぃ〜…なんて言った?



514 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:54


「ね、ねぇ。よっすぃ〜…あの、引っ越すって…」
「え?あぁ。うん、引っ越そうかなぁ〜と思って。…ここに。」

…ここにって…この家に?!!

「ほ、本当に?で、でもよっすぃ〜バイトだって東京でしてるし…
あ、お父さんとか、お母さんとかは?いいって言ってるの?それから、それから…」
「いや、柴っちゃん落ち着いて?はいはい。どぉどぉ。
…もちろん今すぐってわけにはいかないよ。そうだなぁ〜…できたら、来年の春、かな。」


ニっと笑うよっすぃ〜には、何か考えがあるみたい。

まだ、そわそわと落ち着かない私をさとしながら。
それを、静かに話してくれた。


「…あのさ。うちもね、いろいろ…将来のこととかさ。考えて…
このまま、いつまでもフリーター続けて行くわけにはいかないし。
それで、圭ちゃんに相談してみたんたんだ。あ、圭ちゃんわかる?うちの高3のときの
担任の先生なんだけど。」
「うん、分かるよ。」

保田先生…でしょ?バレーの試合のとき、私もお世話になったもん。



515 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:54


「うん、それで。こないだ久しぶりに学校行って、会ってきたんだけど。
…圭ちゃんね、あぁ見えて美術の先生で。で、前から、うちの絵とか褒めてくれててさ。
そっちの道に進んでみたらどうかとか…言ってくれて。
でもうちは、画家とかそんなたいそうなモンにはなれないって思ったし、考えてなかったんだけど。
でも、絵って。画家とか、そういうの以外にも、いろんな仕事があるんだって。
本の、挿絵描いたりとか、キャラクター描いたりとかさ。
イラストレーター、っていうのかな?
なんか、そういうのなら楽しそうだし、うちも、やってみたいなって思って…」
「…そっか…そうなんだ。…よかった…。」


よっすぃ〜が、ずっと、
将来のこと悩んでるのは、うすうす感じてたし。
やりたいこと探してたの、わかってたから。

それが見つかって。
よかった、本当に。



516 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:55


だけど…それと、引越しと。
どう、関係あるの?

「…うん。んで、うちそういう仕事についてさ、なんにも知らないから。
学校行って、勉強しようと思うんだ。専門学校に。
…だから…どうせなら、京都の専門学校に通おうかなと思って。来年の春からね。」
「…どうして…?」
「え?ん〜…だって。そりゃー、やっぱ。」


…一緒に、いたいじゃん?もっと…



―――日曜の夜が嫌いなのは。
毎日会えなくて寂しいのは、私だけじゃないんだ。


ぎゅっと抱きしめてくれるよっすぃ〜の腕から、それが伝わってきて。
うれしくって涙がこぼれた。



517 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:55


本当は、ずっと。
よっすぃ〜とまた、つきあえることになってから。

後悔してた、京都に来たこと。


もし、私が東京に残っていれば。
きっと、今でも毎日よっすぃ〜に会えたのに。

わざわざ、遠くに行くなんて。
自分から、よっすぃ〜と会える時間を減らしてしまうなんて。


どうして、そんなことしちゃったんだろうって、ずっと。



518 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:57


「…だけど。柴っちゃんが、東京に残ってたら。うちら、やり直せてないかもしれないよ?
…離れてみて。よかったってことも、あるんじゃないかな?
うちは、本当にそう思ってる。…それに、すぐだよ、来年なんて。
もうすぐ、ずっと一緒にいられるから…おっと、そろそろ本気で帰らないと。
乗り遅れちゃうっす。…んじゃ、また、来週、ね。」


またよっすぃ〜はポンポンっと私の頭を叩いて、そして私のほっぺたの涙をふいて。
それから立ちあがって玄関に向かって。いよいよ靴をはき始めた。


その背中を見て、思う。


…そうだよね。

昔のこと、後悔しても、しょうがないよね。



519 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:57


それより、今。
こうして一緒にいられることを。
よっすぃ〜が、私と一緒にいるためにがんばってくれてることを。
…素直に喜ばなきゃ。


「んじゃ、柴っちゃん。また来週ね〜」
「…よっすぃ〜。」
「ん?」


立ち上がって、ドアに手をかけたよっすぃ〜を引きとめる。



まだ、私はうまく。
たくさんの想いを、あなたに伝えることはできないけれど。



520 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:58


「…うれしい。…ありがとう。」

…そんなふうに。
言葉を覚えたての、子供みたいにしか、言うことができないけれど。



それでもよっすぃ〜はにっこり笑って、喜んでくれて。


ドアにかけていたその手を離して私のほっぺたをなでて、そっとキスをしてくれた。


「…いってきます。」
「…いってらっしゃい。」

もう、さよならは言わないって、二人で決めたから。
バイバイじゃなくて、いってきますといってらっしゃいを。



日曜の夜は、いつもいつも寂しいけれど。
だけどその夜は、なんだか少し温かかった。



521 名前:初恋 投稿日:2005/05/11(水) 14:59


きっと次の春になれば。
寂しい日曜の夜も、一人で起きる月曜の朝もなくなって。

全部、大好きな毎日になるから。

だからあとちょっと、がんばろう。
とりあえず、次の金曜の夜まで。



明日目が覚めたら。
なにかの間違いで、来年の春になってたらいいなぁって。


そんなことを思っていたら、いつのまにか寝ちゃってた。






522 名前:ツースリー 投稿日:2005/05/11(水) 15:07
以上、『初恋』完結です。
読んでいただいたみなさん、本当にありがとうございました。

>>490 YUN さま
またまたお待たせしてしまい…すみません・゚・(ノД`)・゚・。
無事に終わることができました〜いつもレスありがとうございました!

>>491 460 さま
柴ちゃん視点も無事に終わりました〜ずっと読んでいただいて、
本当にありがとうございました!

>>492 名無し? さま
よっすぃ〜視点ではミキティ、柴ちゃん視点ではごっちんが重要人物でありますw
感想をいただいてうれしかったです。ありがとうございました〜


そしてまた次回から、新しい話を始めたいと思っています。
読んでいただけたらうれしいです。
523 名前:名無し? 投稿日:2005/05/11(水) 17:36
完結おめでとうこざいます!!

スゴい…感動の一言しかでてきません。
すいません,こんなことしか言えなくて(--;)
この話の2人大好きだったんで完結はちょっと寂しいですが,次回の作品も期待してます!!

524 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/11(水) 19:53
完結お疲れ様でした。柴ちゃんよかったね。・゚・(ノД`)・゚・。
作者さんのよししばにすっかりどっぷりハマっております。
525 名前:YUN 投稿日:2005/05/17(火) 18:13
お疲れ様です、無事完結おめでとうございます(^▽^)
感想遅れてすみません・・・。
二週間ほどネットが繋がらなかったので
更新されてるかソワAしちゃってました。
とにかく、幸せになって良かったです!
番外編が読みたいです・・・。
ぜひお願いします!!
526 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:43


―――あの子と、出会ったのは。
去年の夏、超猛暑のクソ暑い夏。

それは、たった一ヶ月だけのアルバイト。


「ちょっとぉ〜!!サボるなって何度も言ってんでしょ?!どこ行ってたのよ、どこ!!」
「い、いやぁ〜…ちょっとそこまで…あ〜…そう、そう、お豆腐を買いに〜…」
「へ〜そっかぁ…ってそんなわけないでしょ!知ってんだからね?!
さっきのお客のお姉さんとビーチバレーしに行ってたでしょ!…もぉ、遊んでばっか!!」
「げっ?!…だ、だってさぁ〜…うちバレー得意だしぃ〜…お姉さん…水着姿だしぃ〜…
いや、ごめんごめん。女の子のお誘いは断れなくってさぁ〜冷たくできないっていうかぁ〜」
「…水着…じゃ、ないけど………女の子なら、ここにだっているのに…」
「え、どこに?どこに?ここにはごっちんにまいちゃんに〜…柴ちゃんでしょ?
いないじゃん、女の子、全然いないじゃん!あははっ〜〜!!」
「〜〜〜〜!!!!」

ガンッ!!

「いっでぇ!!!!なんだよ、殴んなよ!!ほら、女っぽくなんかないじゃん!!」

「……最低っ!!最悪!!…大っ嫌い!!」



なんでか知らないけど、そんなことで大ゲンカ。



527 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:44


…その日のケンカから、バイトの最終日まで。
反省したうちがどんなに話しかけても、謝っても、彼女はツンっと顔をそむけるばっかりで。
口をきいてはくれなかった。


なんだよ、すねちゃってさ。
別にいいよ?そっちがそのつもりなら。



結局このままうちらは、仲直りせずに終わると思ってた。

…けど。

「…よっすぃ〜…」
「え?」


バイト最終日の、別れの瞬間、最後の瞬間。
バイト代ももらって、やっと帰れる〜ってときに。



528 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:45


「…その…そのピアス…ちょうだい…?」
「…はぁ?」


今までず〜っと無視してたくせに、急に話しかけてきて。
しかも…なんだって?
ピアスって…うちがしてる…これのこと?


「だぁめだよ!!これ、結構高いんだから!クロムだよ?クロム!絶対ダメ〜〜」
「…いいじゃん!ピアスの一つや二つ!!」
「ダメったらダメ!!…ていうか柴ちゃん。ピアスあけてたっけ…?ちょっと見して」
「え!!!……っ」


ショートカットの彼女の髪をかきわけて、なんだか赤くなっている耳をのぞきこむと…
…空いてないじゃん、穴。


「あのね、柴ちゃん。ピアスっていうのは耳にね?穴を空けてだね…」
「し、知ってるもん!でも、持ってるだけだっていいでしょ?!別に!」
「ダメ。それじゃピアスの意味がない。」
「…っ…じゃ、じゃあこれから空ける!それならいいでしょ?!」
「だからダメだって!!…そんなに欲しいなら、同じの売ってるお店、教えてあげるよ。
ほぉらせっかくバイト代も入ったんだし〜自分で買えば〜?」
「………も、いい!!バイバイ!さよなら!」
「はいはい、さよぉならぁ〜〜元気でね〜〜」



529 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:46



…わかんなかったんだよね、そんときは。
全く。


なんで、そんなに人のピアスが欲しいんだか。
変なヤツ。

すぐにプリプリ怒って、うちのこと目の敵にして。
…さぼってたのは、そりゃー悪かったけどさぁ〜…

でもさぁ、そんなカッカしてたら、男にだって相手にされないよ?
お嫁に行けないぞぉ?


…ま、ちょっと女らしくなって、出なおして来い!!



―――そして終わった、去年の夏。




530 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:47


「うぅ〜…あちぃ…ごっちん…あちぃよぉ〜…」
「そんなのごとぉだって…あ、ほら、あそこだよね?やっと着いたぁ〜一年ぶりだぁ〜
おーい!おばちゃーんいる〜?」


そしていよいよ始まった、今年の夏。

高校三年になったうちらは、今年もまた、あのバイトをすることに決めていた。

夏だけの、限定のアルバイト。
それは、海の家の、お手伝いのバイトなのだ。


ここの海の近くの旅館が経営している、海の家。
そこは毎年一ヶ月、つまり、夏が終わるまで、泊まりこみの学生アルバイトを募集している。

仕事はかき氷やヤキソバ作りなどの調理から、
ジュースやお菓子の入ったダンボールを運んだり、ゴミだし、掃除をしたりの
肉体労働まで。

決してラクな仕事ではないけど、おかみのおばちゃんがおもしろいし、給料も結構高いし、
大部屋だけど旅館に泊めてもらえるし、それに…楽しいし。



531 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:48


だから、高三の夏休みという、うちらにとって大切な時期だってことはわかっていたけれど。
うちらは今年もこのバイトをしようと決めた。


そして…あの子のこと。
あの子、柴ちゃん、柴田あゆみちゃん。
うちらより二個上の、大学生…らしい。
あんま、年上っぽくなかったけどね。


去年ここのバイトで出会った彼女と、彼女の友達のまいちゃんと、うちとごっちんは。
偶然、お店のひとつの売り場をまかされる、同じグループになって。
そしたらうちらは、みんな結構ノリが合うのか、すぐにうちとけて。仲良くなったんだ。

…んだけど、女の子らしくない柴ちゃんのせいで、なんかケンカになって。
そんで最後もなんか変な別れ方しちゃって。


…その後、何度か彼女からメールは来たけど。
あけましておめでとう、とかね。



532 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:50


だけど結局、あれ以来、一度も会っていない。
…今年も、バイトに来るらしいけど…
はぁ。また、ケンカになるんだろうなぁ…


「んぁ。よしこぉ〜まいちゃん達、もう着いて旅館の方に行ってるってさぁ〜
うちらも荷物置きに行ってこよぉ〜」
「お、おぉ。…んじゃいこっかぁ〜…」


さぁ…今年もバトルの始まりだ!!
うちは負けないぞぉ〜〜〜!!!

…っと、思っていたんだけれど。



まさか。
いきなり、先制パンチをくらうことになるなんて。




533 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:50


「あぁ、ごっちーん!よしこ〜こっちぃ〜」
「んあ、まいちゃーん♪」

ドサッ!!

「んあぁぁ!!痛っ!痛っ!よしこ、荷物落としてる!足にあたったよぉ〜」
「…え?あ…ご、ごめん…」

ていうか。
それより…そんなことより。

だ、誰…デスカ?誰ナンデスカ?あの子は…


意気込んで早速やってきた、旅館のロビー。
そこに座ってうちらを待っていたのは…まいちゃんと…柴…ちゃん…?で、いいの?
…あってるの?



534 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:52


えええぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!

うっそだぁぁ〜〜〜〜!!!


「よしこ?よしこ?…何固まってんの?」
「あわわ…ひゃ、ひゃぁ〜……」
「…よっすぃ〜…久しぶり♪」

久しぶり…ってあ、あなた!!
な、なんちゅー…えぇ?!ま、魔法?!



…一年ぶりに見る彼女は。
もう、間違いなく女子大生っ!って感じのいでたち。

髪とかなんか巻いちゃってるし、つーかすげぇ伸びてるし、
まつげもなんかくりんくりんになってて、化粧とかもバッチリ……あっ。


…ピアス。
空けたんだ…。




535 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:52


なんにせよ…驚いた。
この人…高校生より高校生らしかったのに…去年は。


…まぁ、つまり。
はっきりいって。

…キレイに、なってます。
はい。


ボォーっと目の前の驚くべき光景に見入っていると、
その大変身した彼女がポンポンっと、うちの肩を叩いて、言った。

「今年もがんばろうね!バイト!」



536 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/20(金) 03:53


大変身は、見た目だけじゃないらしい。
彼女はこの一年間の間に、ちょっとまともに見れないくらいの。
…そんな柔らかい笑顔まで覚えてしまって。



全く、口は災いの元とは、よくいったもんだ。

『女らしくなって出なおして来い!』



…で、出なおして来ちゃったの?本当に…






537 名前:ツースリー 投稿日:2005/05/20(金) 04:05
以上、『二年目の夏』第1話です。

>>523 名無し? さま
ありがとうございました〜。もう何よりうれしいお言葉でありますw
新しい話の二人も、どうぞよろしくお願いします♪

>>524 名無飼育さん
ありがとうございます〜・゚・(ノД`)・゚・。はまってもらえたなんて…(*´∀`)
またがんばりたいと思いますので、ぜひよろしくお願いします!

>>525 YUN さま
いつもありがとうございます〜番外編、そのうち書けたらいいなと思います。
新しい話も始めましたので、またぜひよろしくお願いします♪
538 名前:YUN 投稿日:2005/05/20(金) 18:51
うわぁ〜〜、新しいお話しも良いですねぇ〜♪
また毎日が楽しみになっちゃいましたよ!!
・・・いまテストが近づいてマジでつらかったんですけど
このお話しを読んだら吹っ飛んじゃいましたよ(^^)
次回も頑張ってくださいね!!
539 名前:§ 投稿日:2005/05/20(金) 19:05
よっすぃ、今回もしょっぱなから鈍感全開ですねw
今回の面白そう…っていうか面白いですね!
540 名前:名無し野郎 投稿日:2005/05/20(金) 21:08
新作キター!!今回もすごい た の し みw
541 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/20(金) 22:05
ひゃぁー、キタキタ新作!
待ってました!むしろ舞ってました(w
これは期待しまくりっす!
542 名前:名無し読者 投稿日:2005/05/21(土) 01:24
新作すごいっす!かっこいいです!
面白いです!すげぇです!
543 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/22(日) 16:38
うわ〜!新作だ〜!
いいですね。すでに虜です。
前作が終ってしまってガッカリでしたけど
また楽しみが増えました。
次回の更新をマッタリとお待ちしてます。
544 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:41



――――これって…夢?…現実なの?…

本当に本当に…これがあの…柴ちゃんなのぉぉ?!!!






545 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:42


「…なんか…あれだよね…柴ちゃん…あの…」
「え?」
「いや、あー…か、髪!…伸びたよね、髪!」
「あーうん。だって、あれから一年もたつんだよ?伸びるよそりゃー。」
「うん…いやまぁ…そうなんですけども…その…Tシャツ…Tシャツとかもさ、なんか…」
「…Tシャツ?」
「い、いや…なんでも…ない…っす。」
「…なんか変、よっすぃ〜。あ、いらっしゃいませ〜!お飲み物いかがですか〜!」

変…なのはあなたでしょ?!


マジ、なんなの?!何があったの?!


そんな…ぴったりしたTシャツ着ちゃってさ…

そんな…Tシャツじゃさー…



546 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:43


いまだに目の前の光景が信じられないうちを尻目に。
彼女は、バイト初日だというのに、もう元気全快。

ニコニコ笑顔を振り撒いて、接客してる。


例えて言うなら…10年ぶりに親戚の子どもに会った、おばちゃんの心境?
まぁー大きくなったわねぇーすっかり娘さんになっちゃってぇ〜
…みたいな。

でもでもさ、そりゃー10年たちゃー変わるだろうけどさ?
こちとら一年だよ?ふつう、想定外でしょ?こんなの。
実際、うちやごっちんやまいちゃんは。
別に変わっちゃいないし。


「はぁ…いきなり…娘さんになっちゃって…」
「なにが?」



547 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:44


「うおっ!?び、びっくりしたぁ〜まいちゃん急に背後に立たないでよぉ。」
「あ、めんごめんご。ていうかよしこ久しぶりじゃーん♪元気にしてた?まいがいなくて
寂しかったでしょ?かわいそーに。おーよしよし。」
「あーはいはい。…ほんと、まいちゃんは変わってないのにねぇ。」
「え?何の話?」
「あ、いや…その…し、柴ちゃん!…変わった…よね?」
「うん?あーそっか。よしこたちは一年ぶりだもんね、あゆみん見るの。いきなり
見たらびっくりするかー。まいはさ、いつも一緒にいたからあんまわかんないけど。」
「…そっか…」


そうだよね…髪だって昨日今日でいきなり伸びたってわけじゃないんだろうし。
一年かけて、日に日に少しずつ彼女は変わって…


「…ていうか改造したのまいだからさー」
「えぇぇ!!!か、改造?!改造しちゃったの?!…ライダー?仮面ライダーに
なったの?!柴ちゃん!!」



548 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:45


ど、通りであの変身っぷり…
い、いや、本当の変身はきっとこれからなんだ…そのうちシュワーチ!って叫び声と
ともに…あ、それウルトラマンだっけ?


「うわーよしこ相変わらずアホだねー♪つーかどうやって改造すんの?仮面ライダーに。
こっちが教えてほしいわ。ってそうじゃなくってね?服とか、髪型とか。
あれあるじゃん、亭主改造計画!あれと一緒で、このカリスマヘアメイクアーティストの
まいちゃんが、プロデュースしてあげたの!」
「あ、あぁ…その改造、ね…。へぇー…そうだったんだ…でもなんでそんなこと?」
「さぁー。あの子がいきなり超真剣な顔で『…変わりたい!!』とか言うからさー。
…男関係かもね♪もしかして。」
「…えぇ〜…ないっしょ、それは。」
「なんでよー?」
「だってまさか柴ちゃんに限って男の影なんて…あるわけな…」
「…でもあゆみん今まさにナンパされてるみたいだけど。」
「はぁっ?!…げっ!!」



549 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:46


…まいちゃんの指摘通り。

さっき来た男2人組の客が、彼女をしつこく誘っているようだった。


ナンパ…?柴ちゃん…が?

…これも、去年にはなかった光景だ…。


もう、声も出ません…


びっくりして、うちは、ただつったってるしかできなくて。

「あら、なんか困ってるみたいだわ。ちょっとよしこ、私あゆみん助けてくるからさぁ、
これ、よろしくね!…ラッキー♪じゃーねー。」


そして、まいちゃんに便所ブラシとバケツを渡されてしまい。
すごすごと、うちはトイレに向かった。



550 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:46


…女の子が。
キレイになるってことはさ。
いいこと…なんだよね?きっと。
男の人にも、あんなにチヤホヤされてさ。


けど…


「あれ?よしこ。トイレ掃除?今日はまいちゃんじゃないの?」
「…なんか…なりゆきでうちに…」
「あれま。んもーまいちゃんってば。おしつけちゃって。かわいそうに、よしこ。」
「じゃ、ごっちん代わって…」
「後でごとぉがまいちゃん怒っといてあげるからね?全くしょうがないなー」
「……くれないんじゃん。」


…Tシャツがさ。
柴ちゃんの着てる、そのTシャツが。



551 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:48


なんか今年は、ピタってなってて。
ピッタリ、体にフィットする感じの、大人っぽいデザインで。

去年の、ダボダボのヤツと違ってさ。
…エリが、ひらかなそうなんだよね。


うちは、彼女のTシャツの首元をひっぱって。
こっそり背中に氷を入れるのが、毎日の楽しみだったから。
…去年は。


ビックリした彼女がキャーとか言って、超怒って。
追いかけっこするの、マジ楽しかったからさ。



…今年は。
そんな風に、からかえる相手では、なくなってしまったってことかな。



552 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:48


今の君にとても似合う、その長い髪と大人っぽいTシャツが。
…実は、去年の幼い君も、あれはあれで。
ほんとはすごく、魅力的だったのかもしれないって。
今ごろになって、教えてくれていた。




「もぉ〜よしこおそーい!」
「おそーい!」

「…あんたら…人にトイレ掃除させといて…」


ようやく5個もある、トイレの掃除を終えて、旅館に帰ると。

ごっちんとまいちゃんは、すっかり部屋でくつろいでいた。

「先に晩御飯食べちゃったー。今日はね、焼き魚だよぉ〜ごとぉお腹いっぱーい。」
「…共食いか…」
「…なに?なんだって?」



553 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:49


「え?い、いえ、別に…」
「よしこも食べてきちゃったら?食堂に残ってると思うから〜」
「あぁー…どうしよう、先にお風呂入ろっかなー…って、柴ちゃんは?」
「「あぁ、お風呂入ってるよ〜」」
「…ご飯いただいてきます!!!」
ピシャッ!!


まずい…それはまずい。

…いくら、大浴場とはいえ。
いくら、女同士とはいえ、今の彼女と、一緒にお風呂に入る勇気は…ありません。


仕方なく、先にご飯を食べてしまおうと、食堂に向かう。

「…すいませ〜ん。あの、バイトの吉澤なんっすけど〜」
「あぁ、吉澤さんね、お疲れ様。ごはんそこに置いてあるわよー」
「あ、はい。ありがとうございま…ん?」

そこには、用意されてるご飯と。
デザートのプリンが…なぜか3つも、そして手紙が置いてあった。



554 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:50


「なになに…『よしこトイレ掃除ごくろうさま…まいとごとぉーの分のプリンも食べてね』
…まいちゃん…ごっちん…」

なんだよ、みんな。
やっぱり優しいなぁ〜いいやつだなぁ〜

二人の思いやりに感動してひたりながら、手紙をひっくりかえすと…


「…『明日もよろしくね♪』だぁ?!ふざけんなー!!!」


もう、なんやねん!あいつらぁ!!

頭にきてごはんをガッツリ高速で食べ、3つもあるプリンを食べ終えると


…く、苦しい…お腹パンクしそう…



555 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:51


「あら、吉澤さんもう食べ終わったの?お腹すいてたのね〜」
「…ごちそうさまでした…ゲップ!ちょっと…散歩してきます…」


重い胃をひきずって、外の空気を吸いに、旅館を出る。


少し歩くと、もう誰もいなくなった、一面の砂浜にたどり着く。
夜の海は、うちのお気に入りの場所なんだ、去年からね。

昼間のあわただしさなんて、まるで嘘のように。
そこには、波の音しか聞こえなくて…


あぁ〜ここは変わらないなぁ…
…なんかホッとするよ…


はぁ…今日は疲れたな。
遅くまで…トイレ掃除させられるし…
…柴ちゃんは。
あんなふうに、なっちゃうし…



556 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:52


初対面の人よりも。
大変身した彼女の方が、よっぽど知らない人みたいで。

なんか、気まずいんだよな。
よく、わかんないけど…。


防波堤に腰掛けて、しばらく、ぼーっとしていると…

「…えい。」
「うわぁぁ!!!ひゃー!!!!」
「キャッ!」

な、ななに?!なに今の!!!



557 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:53


いきなり、ほっぺたに、なにかひんやりしたものが触れて、
びっくりして飛び起きると…


…し、柴ちゃん…?!


なぜかそこには、目をパチパチさせて、でも小さく笑いながら…
…彼女が立っていた。


「ごめん…そんなに、ビックリすると思わなくて。」
「い、いや…うちのほうこそ…って、なに?…アイス?」
「うん。はい、あげる。…へへ、お返し。」
「ありがと…お返し?」
「うん。だって、前によく。よっすぃ〜私の背中に氷入れてきたでしょ?だからそのお返し。」
「あ、あぁ…そう…」
「…座って平気?隣り。」
「え?うん、どうぞ…」


二つ持っていたスイカバーを一つ、うちに渡して。
ちょこんと、彼女が隣に座ってきた。



558 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:54


そのときに、ふわっとふいた風が。
なんか…甘い香りがして。


「…柴ちゃんなんか…つけてる?香水?」
「え?ううん。だってお風呂入ったばっかだよ。あ、まいちゃんとごっちんもね?
今お風呂入ってるよ。」
「あ、そう…それでか…」
「?なにが?」
「いや…」


だから、なんとなく、ほっぺたがピンクくて。
いいにおいがするのかな。


お化粧を落とした顔は、今朝見たときに比べると、ずっと幼くなっていて。
ちょっとホッとしたんだけど。



559 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:55


…でもまだその。
柔らかい笑顔には、慣れなくって。

「…ん?」
「え?いや…」


まともに、見れないなんて。
うちは、どうしちゃったんだろう。


なんか恥ずかしくて、直接顔を見ないまま。
話を変える。


「そ、そういえば。よくわかったねー…うちが、ここにいるって。」
「あぁ、さっきね?よっすぃ〜にアイス渡そうと思って食堂に行ったら、おばちゃんが。
外に出て行ったみたいよ〜って言うから。探しにきたの。」
「そっか…ごめんね?わざわざ…」
「ううん。よっすぃ〜…なにか、考え事してた?」
「え?!な、なんで?!」
「だって…難しい顔、してたよ?う〜んって。ここ、眉間にしわよってた。」



560 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:56


ほら、ここ。
そういって、うちの顔に手を伸ばして。
そっと、優しくそこに触れた。


…こういうこと…
こんなふうに…できちゃう子、だったっけ?


柴ちゃんの、女の子らしい、柔らかい動きに。
うちはなんか、胸がかゆいような、照れくさいような気持ちになって。

無意識に、また難しい顔をしちゃってたのかな。
心配そうに、彼女が聞いた。


「…悩みでも…あるの?よっすぃ〜。」
「え?い、いや…別に…ない……ある…かも…」
「どっち!?もー…」


いや…悩みっていうか…なんていうの?
こういう…モヤモヤしたような…あーわかんねー!!



561 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:57


ワシワシと頭をかいたうちを見て、柴ちゃんあははっ!っと声に出して笑って。

そしてちょっと真面目に…お姉さんぽく、言ってきた。


「…私に…できることとか、あれば。いつでも言ってね?」
「え?!」

し、柴ちゃんにしてほしいこと?!…な、なんだろう…
…あ、あんま大人っぽくならないで、とか?
いや、それ全然意味わかんねーし…

「よっすぃ〜高三だもんね。いろいろ悩むよね、進路とか。受験のこととか、
相談があればのるよ?」
「あ、あー…そういうことか…」
「え?」
「い、いえ!何でもアリマセン!!」


やっぱりよっすぃ〜変ー なんて言われて。
確かに、うちちょっと変かも…うーん…なんて思っていると。



562 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:57


静かな海から、少し涼しい潮風が吹いた。

「…クシュンっ!」
「あれ、…柴ちゃん寒い?」
「え、ううん。大丈夫だよ。」
「でもくしゃみ。アイス食べたから冷えたんじゃない?いくら夏とはいってもさ、
湯冷めしちゃうよ、お風呂上りなんだから。もう戻ったら?」
「ぜ、全然!…まだ大丈夫…」
「ダメだよ、風邪ひくよ?バイトまだこの先長いんだし、体調崩したら大変だよ。」
「でも…わかった。」


そして彼女はなんだか名残惜しいみたいに、ゆっくり立ちあがって。
旅館の方へと歩いて行った。


その姿を見送って。
ホッと、胸をなでおろす。



563 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:58


…はぁ、なんかちょっと助かったかも…

まだ、あんまりさ。
柴ちゃんと、二人っきりで、どう接していいのかわかんなかったし。


でも…自分で言ったとおり。
バイト、まだまだ長いんだし。
ちょっとずつ、慣れていかなきゃなぁ。


…おとなっぽい、女らしい、柴ちゃんにも。


「…よっすぃ〜…」
「うわぁ!な、なに?!」

…って、帰ったんじゃなかったの?!
ふいうちかよ?!


てっきりもう歩いて行ったと思ったのに。
再び、彼女はうちのそばに立っていた。



564 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 17:59


し、心臓に悪いよ…今年の柴ちゃんは。

「ど、どうしたの?柴ちゃん…」
「…うーん…」

そういうと、彼女は手を、座っているうちの前にはいっ!て出して。


「…やっぱり。一緒にもどろ?」


あ…やべぇ。

…なんか…ろっ骨と鎖骨の間ぐらいが…胸のあたりがいてぇ。


もう、なんか、断れなくて。
仕方なく、その手を取って立ちあがる。

…あれ…
柴ちゃんの手って…こんな柔らかくて…フニャフニャしてたっけ…



565 名前:二年目の夏 投稿日:2005/05/25(水) 18:00


なんとなく、気持ち良くて。
そのつかんだ手を、ぐにゃぐにゃ握っていると。

「な、なに?」
「んーいや。…つーか柴ちゃん暑い?手、ちょー熱持ってるけど。」
「…お、お風呂上りだから!」
「あぁ、そうかぁ。あれ、でもさっきくしゃみ…」
「は、早く帰ろ!」
「へ?うん。はいはい。」


ってことは、人間はアイスを食べても、手は湯冷めしないってことか?
うーん、こりゃまたひとつ、よしこおりこうになったぞ。


そんなふうに、彼女の手のひらの熱を心地よく感じながら。
夏の夜の風を受けて、旅館へと歩いた。




「あ、そういえば、今年あの部屋、私達4人だけで使っていいんだって。」
「へー…え?!そうなの?!」



それ…びみょー…






566 名前:ツースリー 投稿日:2005/05/25(水) 18:09
以上、第2話です。

>>538 YUN さま
テスト中ですか!忙しい中読んでくださってありがとうございます〜
がんばりますのでまたぜひよろしくお願いします♪

>>539 § さま
よっすぃ〜全開ですwまた読んでいただけてうれしいです〜
これからも鈍感全開にさせていきたいと思いますw

>>540 名無し野郎 さま
ありがとうございます〜またがんばりますのでよろしくお願いします!

>>541 名無飼育さん さま
レスがうれしくて私も舞っておりますwありがとうございます〜
今回もよろしくお願いします♪

>>542 名無し読者 さま
レスありがとうございます!また読んでいただけたらうれしいです〜

>>543 名無飼育さん さま
今回も読んでいただいてありがとうございます!
夏先取りでがんばりたいと思います〜w
567 名前:名無し? 投稿日:2005/05/25(水) 19:42
更新お疲れ様です。

今回はよっすぃ―がちょっと天然ぽくて面白いですね!!(^〜^*)

1年の間に柴っちゃんに何が起きたのかが気になります。
568 名前:YUN 投稿日:2005/05/25(水) 21:10
テスト中なのにバカみたいに読んでます・・・。
今回もやっぱりドキAして読んでます!!
作者様の文章力が欲しいですぅ・・・。
次回も期待しています!頑張ってくださいね。
569 名前:ぱっち 投稿日:2005/05/25(水) 23:33
更新乙です
やー、やっぱいいっすねー
あ、「舞ってます」って言ってた名無飼育です
自分も文章力ほしいなぁ
570 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/26(木) 01:46
新作キタワァ*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。..。.:*・゜゚・* !!!!!
これまた先がめちゃくちゃ面白そうな感じで
あー物語の中に入っていろいろ口出したいw
571 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 18:30
この小説のおかけでよししばに目覚めましたw
マジ楽しいです!更新待ってます…
572 名前:YUN 投稿日:2005/06/02(木) 23:58
お待ちしておりますよ・・・。
作者様。。。←なんかキモイですね、スイマセン(>_<;)
気を悪くさせたらゴメンなさい(笑;)
更新お待ちしております。
573 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 22:54


夏の暑さは、人をボーっとさせる。


特にココは、この海岸で、一番太陽に近い場所。

もうお日様が、うちを集中的に狙ってるんじゃないかって感じ。うん、きっとそうだ。
だから、ただ座ってるだけといっても、けしてラクじゃない。



人がごったがえす砂浜を、海を。
一応注意深く、でもほとんど暑さにくらくらやられながらぼんやりと。
ココで見張っている。
これが、今日のうちの仕事。



574 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 22:55


海は楽しいけれど、ときに危険な場所でもある。
溺れる人が出る可能性もあるし、ケガ人、具合が悪くなる人もいたりする。


そんなわけで、ここらでお店をやっている地域の人達は。
交代で、見張りを立てることにしているんだ。
んで、それが今日はうちらのお店の番で、もちろんその役目を押し付けられたのは、うち。

……くっそぉ〜!!まいちゃんめ…ごっちんめぇぇ〜〜〜!!!


…まぁ見張りって言っても、目に見えておかしなことがない限りは、
ただ座って見てるだけなんだけどね。


それにいざ溺れた人が出たらライフセーバーのマッチョなお兄さんが助けに行くし、
ケガ人が出たら救急車ヘイカモン!だし。
うちはまぁ些細なマナー違反を注意するくらい。あ、そこゴミ捨てないでね、ピッピー!

とまぁ、そんなに大変な仕事じゃあないんだけど…
…暑いのよ、ココ。



575 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 22:56


うちが座っているのは、砂浜のど真ん中にそびえ立つ、高さ3mほどの監視用のイス。
ほら、よくプールとか海にあるやつ。そう、あれ。


ココ屋根もないし、高い分太陽も近くて超暑いんだよねぇ〜〜…はぁ。


…早く終わんないかなぁ〜仕事。
なんて、思っていると…


グラグラっ


「うわっ!!危ねぇ!!なんだよ!!」

急にイスがグラッと揺れて、慌てて下を見ると、3、4才くらいのちびっこが。
キャッキャっとイスの足を揺らして遊んでいた。


「ごるぁっ!!クソガキ!!揺らしてんじゃねぇー!!あ、やめて、ほんとにやめて。
うわぁぁ、結構怖いんだよぉ〜〜!!」

ひぃ〜たぁすけてぇ〜!!



576 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 22:57


「あら、ダメよあいぼん。お兄さんのお仕事のジャマでしょ?」
「えぇ〜でもなぁかおりん。コイツさっきからボーっとして全然仕事なんかしてへん
でぇ〜?座ってるだけやーん」
「いや、お兄さんじゃなくて…お姉さんなんっすけど…」


いたずらっ子に困っていると、水着姿のお母さんらしき女性がやってきて。
その子を押さえてやめさせてくれた。

って…わ、わぁお。それにしても…セクスィ〜なお母様ですね…


その『かおりん』ママさんは、スラッと長身の美人で、なかなかグラマーで…
つい、くぎ付けになっていると、ちびっこが騒ぎ出した。

「ごるぁっ!人のおかん、やらしい目で見んといてや!!」
「みみみ、見てないよ!!だんじて見てませんよぉぉ〜〜!!!」
「キャーいやん♪お兄さんったら♪ほら、もう行くよーあいぼん。アイス買うんでしょ?」
「おぉ、そやったわぁ♪んじゃ、兄ちゃんボーっとしとらんとちゃんと働くんやでぇ〜」
「うるせぇよ!ていうか姉ちゃんだって言ってるだろうがぁ!」



577 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 22:58


…ったく!
最近のガキは生意気だなぁ〜!

もっとお母さんのナイスバディっぷりを見習わないといかんよ、全く。


おだんご頭のちびと、セクスィ〜ママの後姿を見送って。
さて、お仕事再開っと。

あぁ〜それにしてもあぢぃ、あぢぃぃ〜〜なぁ………



それから、30分後くらいかな?
更に強くなった日差しと強烈な暑さで、
掛け算も3の段ぐらいまでしか思い出せなくなったころ…


「あ、いた。よっすぃ〜!」
「うぇぇぇ〜ん…うぇーん…」

ん?
遠くから呼ばれた名前と泣き声に振り向くと…


お、柴ちゃん…とぉ…げっ!さっきのガキ?!!



578 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 22:58


柴ちゃんに手を引かれて泣きながらこっちに向かった来たのは。
さっきの小生意気なガキだった。


「…なに?柴ちゃん。どうしたのその子?」
「うん、なんかね、お母さんとはぐれちゃったーって泣きながらお店に入ってきてね?
それで、どこかお母さんの思い当たる場所ないって聞いたら…」
「げ、…ココだって?」
「うん…なんでかわかんないんだけど、ここにいるかもって…」
「はぁ?!なんだよそれぇ〜…おい、あいぼん…だっけ?ママいないぞ、ここには。」
「よっすぃ〜知ってる子なの?」
「いや、違うけど、さっきさぁ…」
「うわぁ〜ん!!この兄ちゃんが…この兄ちゃんが食べたんやぁ〜!!かおりんのこと、
食べてもうたんやぁ〜〜〜」
「あぁ?!」
「えぇ?」


ちょっ…な、何言い出すの?!
食べた?!うちが?!!!
この…『あいぼん』!!!バカなこと言うなよ!!!



579 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 22:59


わけのわからないことを言って、更にわんわん泣き出したあいぼんを、
柴ちゃんは、なだめるように優しく話かける。


「えーっと…あいぼん?このお兄ちゃん、人を食べたりしないから大丈夫よ?
どうしてそんなこと言うのかな?」
「…柴ちゃんまで…お兄ちゃんって…もういいけど…どっちでも…」
「だ、だってぇ…だってぇ…この兄ちゃん、さっきいやらしい目で、かおりんのこと
舐めるように見まわしてたもぉん…きっとかおりんのこと狙ってたんやぁ…」
「は、はぁぁ?!!!そ、そんなことしてねぇだろぉが!!あ、柴ちゃん…?」


げ…や、やばい?怒る?柴ちゃん、怒る?大人っぽくなったけど、やっぱり怒る?


去年のように、『仕事中になにしてんのよぉぉ!!!』って、怒られるかもしれないと、
かまえていたけど。

…やっぱり、今年の彼女は。


「…よっすぃ〜。あいぼん見てて?管理の人に、アナウンスしてもらえるように言いに
行ってくるね。この人ごみだから…聞こえるかどうかわからないけど。」
「え?あ、あぁ…」


あいぼんにいい子いい子して、うちにも笑顔で声をかけて。
急いでかけ出していく彼女は。
やっぱり、冷静な、大人なお姉さんだった。



580 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:00


…調子くるうなぁ…なんか。

…ったく、それにしても。


「おい、あいぼん。失礼なこと言うなよな。うちの真面目で誠実なイメージが崩れる
だろうが。」
「そ、そんな、イメージ、…さ、最初っから、…絶対あるわけない、わ…」
「ぐっ!泣いてても失礼なやつだな、全く…ほら、おいで?上ってきなよ。」
「…え?」
「ここの方が、高いから周りよく見えるぞ?放送聞こえないかもしんないし、
自分で探した方が早いと思うよ。」
「…えぇの?…仕事の…ジャマやない?」
「はは。仕事してないって、お前がさっき言ってたんだろうがぁ〜…いいよ、おいで。」


ただでさえ暑い上に、あいぼんを抱っこして、更に暑くなった中。
双眼鏡で『かおりん』探しをはじめる。


あぁ、なんで子供ってこんな体温高いんだぁ〜

本人は高い高い〜って喜んですっかり泣き止んじゃってさ。
戻ってきた柴ちゃんもあいぼんいいなぁ〜なんて、すっかりなごんじゃって。



581 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:01


…とほほ。
うちだけ必死かよ…ん?

「なぁ、あいぼん。あそこでうろうろ、つーかおろおろしてんの、『かおりん』じゃない?」
「え?!どこ、どこ?見して?」
「ほら、あ、落とすなよ双眼鏡…あれ、あれ。」


おそらく間違いない…あの長身と、水着から伸びたスラッとした足…セクスィ〜なお姿は…

双眼鏡でそれを見つけたあいぼんが、うれしそうに声をあげた。


「あ!ほんまや!!かおりんや、かおりーん!!かおりーん!!」
「叫んだって聞こえないだろ、アナウンスも聞こえないんだから。柴ちゃん、
うちちょっと走っていって…って、え?!!!」


もう一度かおりんの場所を確認しようとうちが双眼鏡をのぞきこむと。
こちらに向かって、猛突進してくるかおりんママの姿が映った。


…えぇ?!!!
き、聞こえたの??!!
なんでっ?!!



582 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:02


「あいぼーん……あいぼぉぉぉーん!!!!」
「かおりーん♪」

「す、すごい…よく聞こえたね…」
「ありえない…ありえないって…」


抱き合って感動の再会をはたす二人を横目に、
うちと柴ちゃんは冷や汗タラタラ。

なんで?なんで聞こえちゃったわけ?


「あんなー♪かおりんは交信できるからなぁー、宇宙人の声も聞こえるねんで♪」
「…聞こえる…カオには聞こえるの…」
「「へ、へぇ〜…」」


な、なんか、やばい親子に関わってしまったような…



583 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:03


でも交信が終わったカオリンさんは、すっかりママの顔に戻って。

「本当にすいませんでした。うちのあいぼんがご迷惑おかけして。ごめんなさいね、本当に。」
「あぁ、いえいえ。カオリンさんスタイルいいから、一目で見つけちゃいましたよ、うち♪あっはっは〜」
「やっぱり変態や…」
「こらっ、あいぼん。さ、あいぼんも、お兄さんとお姉さんにお礼言って?」
「…いや…だからお姉さん二人…」


何度言ったら伝わるんだろうかと、頭を悩ませていると。
あいぼんに、つんつんっと、つっつかれて。

「ん?」
「…ありがと、な。よっすぃ〜兄ちゃん。」

恥ずかしそうに、耳を赤くして。
あいぼんは、お礼を言ってきた。



584 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:04


…なんだ…結構…かわいいヤツじゃん。
でも、あのね、だからお兄ちゃんじゃ(ry


「あんな…また…海に来たらな?…ここ、座らせてくれる?」
「え?あぁ、ここ?でも高いし暑いだろぉー。…気に入ったの?」
「うん…」
「…変わったやつ。いいよ、じゃあ、またおいで?」
「うん!!あ、お姉ちゃんもありがとな!また遊ぼうな!!」
「はいはい♪でもあいぼん、もうお母さんとはぐれないように、気をつけてね?」
「おう!よし、じゃあかおりん帰るで!!ちゃんとついてきぃやぁ〜!!」
「待ってぇーあいぼーん。」


そしてかおりんママといたずらっ子あいぼんは、はぐれないように、ぎゅっと手を繋いで。
夏の海を、笑顔で去って行った。



585 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:04


「…人騒がせな親子だったなー。まったく。」
「ふふっ、でもかわいかったね、あいぼん。よっすぃ〜になついてたし。」
「え〜あれなついてたって言うのぉ〜じゃれてただけだろぉ〜」
「…かおりんさんも。キレイな人だったしね。」
「えっ?!あ、いや…そう、だったっけ?!」
「…スタイルがよくて、すぐ見つけられたんだっけ?よかったねー。」
「いや、それは、その…あ!もう時間だ時間!!よぉしバイト終わり〜はい見張り終わり〜
さ、帰ろう柴ちゃん♪あー暑かった〜」



夕日はきれいに傾き出していたけど、こっちの雲行きは怪しかったので。


早くここからずらからないと…



586 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:05


そう思い、こそこそと歩き出したうちに、柴ちゃんもぴったりついてきて。

後ろでぼそっと…突然、おかしなことを言い出した。


「…私も…見張りしたいなぁ…」
「えぇ?あーいやでも。結構キツイよ?あそこ。暑いし、座ってると、腰も痛いし〜」
「…よっすぃ〜の。」
「…えっ?!!!」

…はっ?!!


う…うちの見張り?!!


そ、それって…ど、どういう…


びっくりして、慌てて振りかえって彼女を見ると。

また柴ちゃんは、柔らかく、ふわって笑って。



587 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/06(月) 23:06


「…でも。海の見張りより大変そうね♪ケガ人はめったにいないけど、
キレイな人はたくさんいるもんね。」
「い、いや、あの、ていうか、それってあの…」
「さ、早く帰ろ。お腹すいたね。」


動揺して立ち止まるうちを、さらりと追い越して。


夕日の沈む方、うちらのお店の方へと歩いていく彼女の後ろ姿は。

やっぱり、去年よりも、ずっと大人っぽくて。
…なんかキレーで。



暑さと、なんか違うものとですっかりやられてしまったうちの頭の中は。


相変わらず、くらくらくらくらするのだった。





588 名前:ツースリー 投稿日:2005/06/06(月) 23:21
以上、第3話です。

>>567 名無し? さま
レスありがとうございます!天然よっすぃ〜にはがんばってもらいたいと思いますw
またぜひよろしくお願いします〜

>>568、572 YUN さま
お待たせしてすみません・゚・(ノД`)・゚・。最近忙しくて、なかなか定期的に更新できないんですが、
こりずにまた読んでいただけたらうれしいです〜
いつもレスありがとうございます!

>>569 ぱっち さま
ぱっちさんでしたか!ぱっちさんの作品、いつも読ませていただいてます。
これからもどうぞよろしくお願いします♪

>>570 名無飼育さん さま
あいぼん、出しちゃったわぁw570さんに話の中でアドバイスしてもらえたら
もっとスムーズに話が進んで助かりますwまたよろしくお願いします〜

>>571 名無飼育さん さま
レスありがとうございます!はまっていただけたなんてうれしいです〜
これからもどうぞよろしくお願いします!
589 名前:YUN 投稿日:2005/06/07(火) 00:03
更新お疲れ様です。
忙しくて大変なのに、かなり催促してしまってすいません・・・。
次回も頑張ってください!!←うざいですね・・・。
590 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/07(火) 00:28
更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!
いいですね〜夏ですね〜。親子ワラタw
591 名前: 投稿日:2005/06/07(火) 10:28
更新来てた〜!油断してたら。w
まだ夏じゃないのに、これを読む時は真夏ですよ。
あ〜、楽しかった〜
592 名前:ぱっち 投稿日:2005/06/08(水) 22:22
更新キター!
って、えぇえー!あ、あんな駄文読んでいただいてるんですかっ!?
うわぁ、感激です・・・・

親子がいい味でてますね(w
今まではよっちゃんが余裕でしばっちゃんが好きになるっていうのが多かった気がするんですけど
これは逆っぽいですね。あ、大嫌い大嫌い大好きがこんな感じでしたっけ?
593 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 22:31
交信キタ――――(゚∀゚)―――――!!!
かおりん!!w
まさか出てくるとは!嬉しいですv
いやぁーよっちゃんつД`)アウトですね(謎
次回も待ってますー


594 名前:茶龍 投稿日:2005/06/16(木) 17:34
全て読ませていただきました。修学旅行の思い出感動しました…(;_;)いいですねよししばvv一発で惚れました!更新まってます☆
しばっちゃん可愛い(*´Д`)=з
595 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:35


「…肝試しぃ〜?」
「そうそう♪やろうよ〜よしこ!こんな夏の夜にはさ…出そうじゃん♪あれが。」


夜、バイトが終わった後、みんなで部屋でくつろいでいると。


いきなりごっちんが
手にマニキュアを塗りながら、おかしな提案をし始めた。



「あれって…あれ?おばけ?」
「もちろん♪」
「え〜出ないっしょ〜だってここいら別に墓地とか病院とかがあるわけじゃないしさ〜
やりがいないよーそんなの。つーかめんどくさ…」
「…あ、でも噂あるよこの旅館。」
「え?!ま、まじでぇ?!!!」



596 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:36


そしたら隣でドキュメンタリーのTV(タイトルは『驚愕!詐欺の手口』)を見ていた
まいちゃんまで話に参加してきて。
ふと思い出したように、そのお化けの噂について話し始めた。


「なんかねー。30年ぐらい前に、オレオレ詐欺にひっかかった老夫婦がね?
090金融に追い詰められて、この旅館の屋上で自殺したらしいよ〜」
「いや、それ今TV見て思いついたでしょ?30年前にオレオレ詐欺ないから。
ケータイもないから。」
「でもでも、確かにこの旅館古いしさぁ。なんかしらあるんじゃない?
不倫の上の心中旅行とか…キャーごとぉ怖い〜」


ごっちん…明らかに怖がってないじゃん…
まったくもう…


「うちは行かないよ。一日バイトしてくたくただし。ていうか二人には疲れってもんが
ないの?!行くんだったら勝手にどうぞー」
「…とかなんとか言って。ほんとはよしこ、怖いんじゃないの?」



597 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:37


「…えぇ?!!んな、なことねーよ!!」
「あーよしこ、意外に女の子だもんねー。お化けなんかみたら泣いちゃうよねぇー
おーよちよち。」
「だから別に怖いんじゃねぇって!!お、お化けなんて平気だよ!
…めんどくさいから行きたくないだけだっつーの!」
「「そうだよねぇ〜。怖いもんねー行きたくないよねぇ〜」」
「ちょっ…い、行けばいいんでしょ!?わかったよ、もう…」


人を意気地なしみたいに…
別にお化けなんて怖くないんだからなぁ!!
…ちょっとだけしか…


「じゃあいってらっしゃーい♪」
「はい…いってきま…って、え?二人は行かないの?」



598 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:39


立ち上がるうちをなぜか見送る二人。
ちょっと!なんで言いだしっぺが行かないの?!


「だって、まいTV見てるし。」
「ごとー、爪乾かしてるし。」

「…じゃ、うち一人で行くわけ…?」


…なんだよそれぇ…そんなのってあり?
でも、ま、いっか…じゃあ行くふりして食堂にでも行って時間つぶして…

「あ、ちゃんと屋上まで行って老夫婦のお化けがいないか見てきてよ?
そうだなー…あゆみん、一緒に行ってちょっと監視してきてー。」
「え?」
「は、はぁ?!」


そういって、まいちゃんは座って雑誌を読んでいた柴ちゃんに声をかけた。



599 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:42


「ちょ、な、なんでさー」
「いいじゃんよしこ。一人で行くより怖くないでしょ?」
「…だから怖くなんかないって!最初っから!」
「よしこ一人だとズルするかもしんないしさー。よろしくあゆみん。」


いや、ズルなんて…たぶんするけど…
で、でも…柴ちゃんと…ふ、二人はちょっとぉ…

それってなんか…お化けとは違う意味で緊張するっていうか…

「し、柴ちゃんも疲れてるだろうしぃ…やっぱ今日はやめ…」
「「怖いんだぁ〜よしこ♪」」
「だから違うって言ってんだろがぁぁぁぁ!!!」


怖くないったら怖くないんだぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!


すると、そのやり取りを後ろで聞いていた柴ちゃんが、やれやれって感じで立ち上がって。
吠えてるうちの肩をぽんぽんと軽く叩きながら、言った。


「…じゃ、行こっか?よっすぃ〜。」
「えぇ?うぅ〜…うん…」

「「うふふ♪いってらっしゃぁ〜い♪」」


結局ごっちんとまいちゃんに言われるがまま、のせられるがまま。
うちと柴ちゃんは、旅館のおばけ探索に出かけた。



600 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:44



まいちゃんの言っていた30年前の噂なんてでたらめだろうけど。
でも、この旅館結構古いしなぁ…ていうか夜は廊下も暗いし…
こういうのって…なんか意識すると、なにもかも不気味に見えてきて…


「…よっすぃ〜…」
「うわぁぁ!あ、あぁ…柴ちゃん…」

心配そうに声をかけてきた柴ちゃんにまで、ビクビクしちゃって。
やばい…かっこわりー…でもこえぇー

いつもの歩きなれた、部屋から階段につづく廊下を、そろりそろり、
昼間の倍以上の時間をかけて歩いて。

嫌々屋上へと向かう。



そんな超ビビリのうちの様子を見て、そっと手をつかんできた柴ちゃんが、
優しく話しかける。

「…大丈夫?」
「ぜ、全然!!大丈夫〜超よゆー…」
「手…すごい汗かいてるよ?」
「そ、そう?!」
「…よっすぃ〜…お化け苦手なんだ。」
「い、いやそんなこと…あったりなかったりだけど?!」



601 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:44


もうろくに受け答えもできずに、そわそわキョロキョロするうちを、おかしそうに
笑って。


「…屋上、行くのやめよっか?」
「え?い、いいの?!」
「うん、まいちゃんとごっちんには、黙っててあげる。行ったってことにしよう?」
「ほ、ほんと?!よかったー…」
「…そのかわり…」
「え?」


…暗闇の中だと。
柴ちゃんが浮かべる、大人な、優しい微笑みも。
…なんだか妖しげにうつって。


それを見たら、なんかくらくらっていうか…動揺してきちゃって。
あわててうちが目をそらした瞬間。



彼女は、手をつかんでいるのと反対の手で、そっとうちの肩に触れてきて。
…耳元で、小さくささやいた。



602 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:45


「ちょっと…抜け出さない?」
「え?!!!」


もともと、わりと声の低い柴ちゃんが、そんなふうにささやくと。
すこしかすれた…甘い…ハスキーな声になって。
それがなんか…色っぽくて……耳の奥に響いて……ちょっとやばい…


もうそんとき、うちの頭ん中にお化けのことなんて、1ミリもなくなっていて。
バクバクいう心臓も、手から、体から噴出す汗も。
さっきとは、比べ物にならないほどで。

そんなふうにドキドキしているうちを尻目に、全く落ち着いたまま、彼女は言う。


「…だって、すぐ戻ったら、二人ともあやしむでしょ?」
「そ、それは…そうだけど…」
「だったら…ね?」


ね…ねって、で、でも!!

抜け出すって…ど、ど、どこに?!
ていうかなんで?!



603 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:46


一向に落ち着かず、おろおろするうちに。
今度は…耳元じゃなくて。


まっすぐ、正面から。
その、大きな、甘くて…強い瞳で。
うちを見上げて、目をじっとのぞきこんで、両手をそっとつかんで。

…彼女は言った。




「よっすぃ〜と。…行きたいところがあるの…」




い、行きたいところ…うちと…二人で…?二人っきりで?



…こ、こんな…夜に?



604 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:47



えぇぇぇぇぇぇ!!!い、いやそれは、そんな!!!

まだ早い!!いや、早いっていうか、そんな、いきなり!!

だ、だって、うちら、別にそういうんじゃないし!


…こ、こ、心の準備が!



「…行こう?」
「あ、はいっ!!」


は、はいじゃないだろぉぉぉ〜〜〜ひとみぃぃぃ〜〜〜

ど、どうするんだ、どこに行くんだ?!



605 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:48



う、うちは、うちらは…


…………どうなっちゃうんだぁぁぁぁぁ〜〜〜〜!!!!




「あぁぁ〜〜!!…って、………ラーメン…?」
「うん!」



と、怖さ半分、期待半分で来てみると。
…いや、正直、半分以上は期待してたのに…


こんな夜に、二人っきりで、彼女に連れてこられたのは。
ちょっとしなびた、近所のラーメン屋さんだった。



606 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:48


「…なんで、ラーメン…なの?」
「あのね!ここ、すごい煮たまごがおいしくってね?地元の人しか知らない、結構
穴場なお店なんだって!!それ、おかみさんに聞いてから、ずっとよっすぃ〜連れて
行きたいなぁ〜って思ってたの!」
「あ、そう…」


そりゃー…どうも。

って、そんなことだったのかよ!?
…だったらそう、言ってくれればさー…うちも変な期待しないですんだのにさー…

と、そういえば。


「柴ちゃん…よく、覚えてたね?うちが、タマゴ好きだって。」

たぶんそんな話…去年の夏に、ちょっとしただけのような気がするけど。

「え?!あ、うん!だ、だって…中々いないもん!ゆでたまごが大好物って人!
だ、だから、なんか印象深いっていうか…」
「あぁ、そう〜」


そっかーそういうことね〜。



607 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:49


中に入ると、そのラーメン屋さんは、お店の外の雰囲気とは違い、古いけど結構キレイで、
お客さんもいっぱいで活気付いていて。

…おぉ、これはなかなか期待できるかも。


カウンターに座って、注文して、待っている間も。
彼女はずっとうれしそうに、ニコニコしながら、話続けていた。


「それでね、麺とかも手打ちなんだって!細めんかなぁ〜太めんかなぁ〜
よっすぃ〜は、どっちが好き?」
「あー…ていうか柴ちゃん。ラーメン大好きなんだねー。」
「…え?…どうして?」
「だって、さっきから超楽しそうなんだもん。幸せそうな顔してるし。
よほど好きなんだなーと思って。ラーメンが。」
「…あ…うん。ラーメン…も。…好きだけど…」
「まぁ、日本人はラーメン好きだからね〜TV業界じゃ、『数字が欲しけりゃラーメン特集
をやれ!』っていうくらいだしね〜」
「………うん。」
「お、きたきた〜♪ほら、柴ちゃん。大好きなラーメンがきたよ。」
「………ありがとう。」



608 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:50


と、せっかく彼女の好きなラーメンがきたはずなのに、なんだか急に、元気がなくなって。

どうしたのって、のぞきこむと…

「…バカ。」
「え?」

そういって、彼女はいきなり。
うちのラーメンの中にある、煮たまごに手をだした。


「あぁ!!く、食うなよ!!ひでぇ!なんだよ、うちに食べさせようと思って
連れてきてくれたんじゃないの?!」
「あーおいしー♪」
「くっそ…!!返せ!煮たまご返せ!ついでにチャーシューもよこせぇ!!」
「きゃあ!!ちょっ…やめてよ…よっすぃ〜のバカ!!!」


…その夜だけは、まるで去年の夏に、去年のうちらに戻ったみたいで。

バカバカ言われても、…なんだかちょっとうれしかった。



609 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:51


そうだよ、やっぱり、柴ちゃんは、こういう子だったんだよ。
見た目が、急にすごく大人っぽくなったからさ。
うちが、勝手に中身までそうなったって勘違いしちゃってたんだ。


そうだよ、そう。

…そう、思いたかったんだけど。



「…あ。」
「なに?どうしたの?」


ラーメンを食べ終わって、旅館に帰りついたころ。

ケータイのメールをチェックしていた柴ちゃんが、困ったような顔をした。



610 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:52


「誰?なんかメール?」
「うん…まいちゃんとごっちんが。屋上に、ある物が待ってるから、
それを持って帰ってこないとゴールだと認めないって。」
「…げぇ。」

くそぉ…ズルしようとしてんのがバレたのかな…
これじゃ、絶対屋上行かないとダメじゃん…


やだなぁ〜まいったなぁ〜行きたくないなぁ〜って、足を止めて、考えこんでいると。


「…私、行ってくるから。よっすぃ〜は部屋の前で待ってて?」
「は?…え、一人で?だ、ダメだよそんなの!」

柴ちゃんがいきなり、自分が一人で行ってくると言い出した。


「大丈夫だよ。私、おばけ怖くないもん。」
「いや、べ、別にうちだって怖くなんてないさぁ〜」
「…いいよ、無理しなくて。それに、おばけなんて、そうそう出ないと思うし。」
「そりゃ、おばけは出なくてもさぁ。…変な人とか。いるかもしれないじゃん。」
「…変な人?」
「そうだよ、変質者とか、痴漢とか。」
「…大丈夫だよ。」
「ダメだって!!」


そりゃー…うちのために。
うちが、怖がると思って、一人で行こうとしてくれてるのはわかるよ?

…だけどさ…



611 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:53


「…危ないよ…柴ちゃん。女の子なんだから…」



あ、うちもですけどね。


だから、一人は絶対ダメ!!


…そう言うと。


君は、なぜかうつむいてしまって。
でも、小さく、コクンって、うなずいてくれた。

よし、じゃあ行くかぁ〜…嫌だけど。


手を出すと、うつむいたまま、ぎゅっと握りしめてきて。
そして、なんでか、柴ちゃんはうちに
「ありがとう…」
って言った。

ありがとうって…なにが?
…よく、わかんないなぁ。



612 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:54


それから、二人手を繋いで、階段をず〜っと上がって、やっと屋上について。
よし、いざ行くぞ!待ってろお化け!!
…っと、その前に…


屋上の扉を開けるその前に、しゃがみこんで、スニーカーの靴ひもを結びなおす。


「…よっすぃ〜?どうしたの?」
「いや…だっておばけがいたら。ダッシュで逃げないといけないじゃん?
だから、あわてて転ばないように、しっかりヒモを結んでるの。」


そう言うと、上のほうで、あははっ!って笑い声が聞こえた。


…なんだよ!笑うなよ!大切なことなんだぞ!!
備えあれば憂いなしなんだからな!



613 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:55


その笑いに抗議しようと、しゃがみこんだまま、むすっと柴ちゃんを見上げると。


…彼女は、またあの柔らかな笑顔を浮かべて。
優しい、温かい手で…そっとうちの頭をなでた。


「…大丈夫。おばけが出ても…私が、守ってあげる。」
「………え?」
「守ってあげる、絶対。…よっすぃ〜のこと。」


君がうちに触れているその手も、その体も。
うちよりずっと小さくて、女の子で、たくましくなんかないのに。

なのに、うちは、彼女に全部。
全身、まるごと、包まれてるんじゃないかって。

…そんな気がして。


恥ずかしさで、顔が見れなくなった。
そして、うちがまた下を向くと、彼女は何度も何度も、うちの頭を優しくなでてくれた。



614 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:56


…やっぱり彼女が変わったのは見た目だけなんかじゃない。
中身だって、こんなに大人に…


…いや。
変わったのは、やっぱり見た目だけなのかも。

もしかしたら。
彼女は去年から、もっとずっと前から。
変わらず、こんなふうに大人で…優しい人だったのかもしれない。


本当の彼女の内面に。
うちが…気づいていなかっただけで。


「…行こっか…」
「…うん…」


顔を見ないまま起き上がって、離れていた手を繋ぎなおして。
思い切って、扉を開ける。


もう、怖くなんてなかった。



「…えぇぇ〜〜〜い!!」



615 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:56


そして見た屋上には…やっぱり、おばけなんかいるはずもなく。

そうだよね、そんなものいるわけないよねぇ〜…って、安心したのもつかの間。


変わりに出てきたのは…おばけより恐ろしい、あの二人。


「おっそーい!!!もう、何やってたのぉ〜よしこも柴ちゃんもぉ〜」
「賞品のコーラ、もうぬるくなっちゃったよー」

「あんたら…」



616 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:57



うちらを待ってるある物って…本人かい!!



「でも、よしこよくがんばったね〜ビビリマン返上だね!」
「あの…いつからうちはビビリマンって呼ばれてたんでしょうか…?」


「あゆみんもお疲れ〜はい、コーラ♪ぬるいけど♪」
「…ありがと。」
「よしこも飲みなー。ぬるいけど♪」
「ぬるいのかよ…」


でも、さっきラーメン食べたせいか、
…誰かさんに…いろいろドキドキ…させられたせいか。

喉、かわいたし。
飲むかな、ぬるいコーラ。



617 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:58


そして、まいちゃんから渡された缶のフタを、プシュッっとあけると…

シュワァァァァッッッ!!!


「ぎゃぁ!!!!うわ、ぺっぺ!…」
「あっはー!ひっかかった〜やーい、よしこのおばかぁ〜」
「あぁ、あゆみんのは振ってないからあけても大丈夫よ♪飲みな♪」
「う、うん…」

…いきなり、缶の中身が全部、噴き出してきた。


こ、こいつら…ベタなマネを…



618 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:58


「うわ、ねぇよしこ、見て?あれあれ!」
「…ごっちん…むしろこっちを見て、うちを見て。コーラまみれになって
かわいそうじゃない…?全身ベタベタするんですけど…」
「うわぁお♪星キレー!超キレー♪田舎だから空気きれいだもんねー
満天の星空ってやつだわー」
「…ほんとだぁ…きれい…」


みんな、こんなにうちが体張ってギャグかましてるのに、興味はすっかりお空のお星様。

トホホ…こんな役目ばっかり…


でもまぁ、みんなの言うとおり、確かにキレイだわー…


4人、並んで見上げた空には。
東京やそこいらじゃ、ちょっとお目にかかれないほどの、空一面のお星様。


…星って、こんなにあるんだなぁ…
すげぇ…なんでこんなに…キラキラしてるんだろう…



619 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 01:59


そんなふうに、感動にふけっていると。

「…老夫婦も。この星空を見たのかねぇ…よしこ。」
「だ、だから!もういいって、それは!!」

あーもう!ごっちん!
ぶちこわすようなことを言うんじゃないよ!


まったく、おかげで急に気分がさめてしまって。
空を見るのをやめて、ふと隣を見ると。


…子供みたいに。
手に持ったコーラの缶を握り締めて、必死に体を後ろにそらせて。

星に負けないくらいきらきらと、大きな瞳を輝かせて。

空を見上げる、柴ちゃんがいた。



620 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 02:00


…去年なら、こんなとき。
そんな君のかっこを、いたずらにからかったりできたのに。

…今年は、できそうもないな。


だって、はしゃぐ君を見ても、前みたいに、ガキくさいとか、幼いとか思えないんだ。


………かわいいって、思っちゃうから…。



「…ん?」
「や、…別に。」

うちの視線に気づいた柴ちゃんが、不思議そうに微笑んだ。



621 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 02:00


「あ、飲む?コーラ。ほんとにぬるいけど。」
「え?!い、いらないよ!…その…ぬるいコーラなんて…」
「あぁそっかー、だよねー。」


いや、ほんとは同じとこに口つけるのが恥ずかしくて、飲めないんだけど。
…今年は。つーかたぶん、これからは。



…こんなふうに。

意識しなかったことを、意識し始めて。
気づかなかったことに、気づき始めてる。


これが、恋の始まりってやつなのかどうかは、わからない。
夏の夜の力は強力だから、その魔法にかかってるってことも、ありえない話じゃないし。



622 名前:二年目の夏 投稿日:2005/06/17(金) 02:01


ただ、さっき君が言ってくれた言葉を。
うちも、きっと君に想うんじゃないかな………近いうちに。



………守って、あげたいって………




そう、思えたら
そう、伝えられたら。


…きっと、その瞬間が。



でもまだ、そのときは。
知らなかったんだ、わかっていなかった。


思っていた以上に
今年のうちらの夏が、短いなんてこと。





623 名前:ツースリー 投稿日:2005/06/17(金) 02:12
以上、第4話です。

>>589 YUN さま
いえ、こっちこそ私用で更新が遅くなってしまい申し訳ありません・゚・(ノД`)・゚・
次回も遅いかもしれませんが、どうぞまたよろしくお願いします〜。

>>590 名無飼育さん さま
夏をさきどりしちゃってます〜wまたよろしくお願いします♪

>>591 Y さま
私も書くときは心は夏ですw楽しんでもらえてうれしいです!
これからもよろしくお願いします〜

>>592 ぱっち さま
駄文は私のほうですよ!
一年も昔の話まで覚えててくださってありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・
これからもよろしくお願いします♪

>>593 名無飼育さん さま
かおりん、ママで登場してもらっちゃいましたw
本当にお待たせしてしまいました…・゚・(ノД`)・゚・すみません…
またぜひよろしくお願いします!

>>594 茶龍 さま
全部読んでいただいたなんてありがとうございます!!うれしいです〜
これからもどうぞよろしくお願いします♪
624 名前:名無し? 投稿日:2005/06/17(金) 05:01
更新お疲れ様です。
よっすぃーは柴ちゃんに惹かれていってるみたいですね(*´Д`)
柴ちゃんやっぱり可愛い!!なんか,この柴ちゃんは完璧な女の子って感じですね。
次回の展開が楽しみです!
625 名前:ぱっち 投稿日:2005/06/17(金) 07:23
更新乙です
あぁー、よっちゃん鈍いよぉ(笑)
読めば読むほど深みにはまってます

『大嫌い大嫌い大好き』はもうめちゃめちゃ好きなんですよ
626 名前:YUN 投稿日:2005/06/17(金) 08:22
☆更新お疲れ様です☆
くぅぅ・・・、やっぱり作者様の小説は良いですねぇ〜
はっ!こんな時間なので学校行って来ます!!
次回も頑張ってください。
627 名前:茶龍 投稿日:2005/06/17(金) 12:51
更新お疲れ様ですっ
いやぁ素晴らしいですvvこちらこそよろしくお願いしますね☆
それにしても作者様のかくよししばはよいですっ(*^-^)
頑張ってください!
628 名前:TETRA 投稿日:2005/06/17(金) 22:07
途中までよっすぃやっぱり、鈍感w
って思ったんですが鈍感返上なるか!?
最後4行がめっちゃ気になります。
うぅ〜ん、どーなっていくんだ〜

p.s.今まで何度か別の名前で感想書かさせて頂いてました。
まぁ一目瞭然ですがw
629 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/17(金) 23:13
593です(ばきゅ
待ってましたー(´∀`)
おばけ…いなかったねぇ、よっちゃん(爆)早くラーメンの煮たまごが食べられますように…w

次回も待ってます♪頑張ってください!
630 名前: 投稿日:2005/06/18(土) 22:25
いい感じですね〜!こっちがドキドキしちゃいますよ。w
ただ最後は意味深な事を言ってますが・・・
次回の更新を楽しみにお待ちしてます。
631 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/21(火) 04:39
いやー、かなり良い、です。吉柴ってというか、柴ちゃんの小説ってあんまり読んだことなかったんですが、うん、かなり良いです!
あ、もちろん、全作品読ませていただきました。でも二年目の夏が一番好きかもです。
もっと読みたい!というか続きが早く読みたいっす!と急かしてみる。
期待しとります。
632 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/24(金) 23:30
待ってます待ってます。
マジで本当に読みたいっす。
633 名前:YUN 投稿日:2005/06/26(日) 23:51
毎日めちゃAチェックしてます!!
更新お待ちしていますよ(^▽^)
634 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/29(水) 05:43
もう待てないっす……
作者さん早く…
635 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/29(水) 13:53
↑楽しみに待つ気持ちはよくわかりますが、せかすのは良くないと思います。
まだ2週間もたってないですし。
作者さんのペースにおまかせして待ちましょう。
636 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:29


「よしこ〜コーラ二つ〜」
「はいはい!ただいま〜」


ごっちんからお客さんの注文を聞いて、大急ぎで飲み物を冷やしている氷水の中に
手を突っ込み、コーラのビンを2本取り出す。

今日はまた一段と暑いから、飲み物の売上は上々だ。
まだ午前中なのに、横にはカラになったプラスチックケースが積み上げられている。


こんなふうにうちは、バイトで毎日何本ものビンのフタを空けているので。
…そのうち栓抜きなしでも空けられるようになりそうだな…歯とかで。シュポンって。

「はいよ〜お待たせ〜」
「はーい」

「よしこ〜こっちもコーラ!」
「まいちゃんの方もか!はいはい!」

休む間もなく、今度はまいちゃんから注文が入る。



637 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:30


よし、歯で空けられるか試すチャンス到来だ。
…やってみよう…えいっ!…


「よっすぃ〜…なにしてんの?」
「あ、柴ちゃん…あのねこれをこう歯でね…」

ふがふがコーラのビンを口にくわえているうちを、不思議そうに見ている柴ちゃんに、
事情を説明すると。
柴ちゃんはあきれた感じでうちの手から、ていうか口から、
コーラのビンを取り上げて。


栓抜きでシュポン!ってフタを空けて、はいってまいちゃんに渡してしまった。


「あ〜!!今空けられそうだったのに〜!!」
「遊んでる暇ないでしょ。ちゃんと仕事しなさい。」


ちぇ〜なぁんだよ〜
…だってさぁーこう毎日仕事仕事じゃ大変だしさぁ〜ちょっとした遊び心も必要だよ〜


…まぁ、バイトに来てんだから、働くのはあたりまえだけど…

でもこんなに天気が良くて海がキレイな日はさ〜うちだって遊びたくなっちゃうよ〜



638 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:31


そんなふうに『遊ばせてくれ〜!』っと
お空の太陽に祈りをささげていると。

「みんなどう?がんばってる?」
「あ、おかみさん!はい、約一名を除いては!」
「…ちょっとまいちゃん…それってうちのこと?…」

この海の家の経営者、旅館のおかみさんがやってきた。


「そう、ごくろうさま。そろそろね、バイトのチームそれぞれ交代で
お休み取らせようと思って、それを言いにきたの。4人とも今日は午前中までに上がって、
午後はお休みにしていいわよ。」
「「「「え?!!いいんですか???やったぁ〜〜〜〜!!!」」」」


やったぁ!!!
太陽よありがとう!!おかみさんありがとう!!

突然舞いこんできた半日のお休みに、みんなのテンションはうなぎ上り。

よぉし、今日は久しぶりにめいいっぱい遊ぶぞ〜〜〜
うっひゃぁー!!


そのまま午前中はしっかり働いて、お昼になると、早速みんなで部屋に戻って、
水着に着替えて。


全員いっせいに、一目散と海にかけだした。
…と、思ったら。



639 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:32


「…ねぇまいちゃんごっちん、柴ちゃんは?」
「え?いないの?じゃあビーチかな?あ、ごっちんあっちにごっちんがいる!
じゃなくて魚がいる!あっはっは〜」
「むぁ〜!!!まいちゃん、つかまえに行こうよ〜」
「行こう行こう♪行くぞ〜」
「あ、ちょ、二人とも…」

…素手で捕まえる気?
って、そうじゃなくて…
…どうしたんだろ柴ちゃん…


心配になって、うちは一人浜辺へと引き返す。
周りを見まわすと、パラソルの下で、ヒザを抱えて座っている彼女を見つけた。


「…柴ちゃん?どうしたの?泳がないの?」
「え?…うん…」


そういって、気まずそうに下を向く。
…なんでだろ…せっかくのお休みなんだから、泳げばいいのに。



640 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:32


「どっか具合悪いの?」
「ううん、そんなことないけど…」
「なんだ、じゃあ泳ごうよ。」
「…やだ…」
「えぇ?なんでさ〜」
「…だ、だって…」


小さくなっている体をさらにぎゅっと小さくして。
むすっと、口をとがらせながら。
ぼそぼそっと、彼女は言った。


「…ごっちんと…まいちゃんと。…一緒に水着になりたくない…」
「え?…あぁ…」


なんだ…そういうこと。



641 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:33


まぁ、確かにあの二人、無駄にスタイルだけはいいしね。
それと比べちゃうと…柴ちゃんなぁ…うう〜ん…難しいとこだな…


「あぁってなに?!!今納得したでしょ!!ひどいひどいひどい!!!」
「はっ!ち、ちがうちがう!!ごめん、ごめんって!
…ていうかそっちもひどくないか?!『ごっちんとまいちゃんと』って、うちが抜けてる
じゃん!どういうこと?!」
「…よっすぃ〜には別に…負けてないし…」
「なぁんだとぉ〜〜〜!!!」

おのれ見えてないのか?!このうちのナイスボデーが!!!


頭に来て、無理やりにでも海に連れてって泳がせてやろうかとも思ったけど。


…不安そうに。
恥ずかしいみたいに、ぎゅってヒザを抱えて、そこに顔をうずめている、今の柴ちゃんには。
…最近の大人っぽさとか、まるでなくて。
それよか、なんか、去年よりもずっと幼いようにも見えて。



642 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:34


…しょーがないなぁ〜…

別に…気にすることなんてないのに…そんなこと…


「…じゃあ、一緒に待ってよっか。ここで。」
「…え?」

そういって隣に座ると、柴ちゃんはやっと顔を上げてくれた。


「いや、実はまいちゃんとごっちん。魚捕まえるってどっか行っちゃったんだよね〜
どこいったんだろ〜ていうかさ、捕まえてどうするんだろうね?」
「よっすぃ〜…」
「ん?」
「…いいの?泳ぎに行かなくて…」
「別にいいよ。ていうかうち、魚苦手なんだよね〜。食べるのは好きだけど。
素手では触れないな〜…まぁ、あの二人なら全然平気だろうけどね。」
「うん…ありがと…」
「だからいいって別に。」


…ふふん、なかなかいいもんだなーこういうのも。



643 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:35


だって今年の柴ちゃんはいつもやけに大人で、お姉さんで。
うちはずっとそれに驚かされて、動揺させられまくりだったから。
こんなふうに、上の目線に立つことなんてなかったし。

ちょっと得意な気分だな〜。


それが表情に表れてしまっていたのか、ついニヤニヤしてしまっていたみたいで。
そんなうちの顔を見た柴ちゃんは「…むかつく…」なんてつぶやいていた。



「…結構遅いね、二人とも…」
「うん…」

柴ちゃんと話しながら二人を待っていると、あっという間に時間は過ぎて。
気づいたら、太陽もだいぶ西に傾き始めていた。


…一体、いつまで遊んでんの?あの二人は…



644 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:40


「…魚。大漁だったのかなぁ〜…」
「いやぁ、ていうかよく考えたらこんな浅いところで魚なんて取れるわけないんじゃん?
しかも素手で…」
「獲ったどぉぉぉぉ〜〜〜〜!!!」
「「えぇ〜〜?!!!」


叫び声に驚いて振りかえると。
そこには、両手にでっかい魚を持ったまいちゃんが、仁王立ちしていた。


「いやぁ〜釣れた釣れた♪」
「…ちょ…ま、マジで?!すげぇんだけど!なにこれ!!」


まいちゃんにごっちん…どんだけ野生児なの?!!
つーかこえぇ!!



645 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:41


「んあぁ〜ウソウソ。うちらが釣ったんじゃないよ〜それ。あのね、たまたま近くに
とまってた船の漁師のおじさんと仲良くなってね、おじさんがいっぱい分けてくれたの〜」
「あぁ…なんだそういうこと…」


そうだよね…いくらこの二人でもそれはないよねぇ〜…あーびっくりした。
それもまいちゃんが釣れた釣れたなんて、まぎらわしいこと言うからさぁ〜


「ううん、まいはね、おじさんを釣ったわけよ。この体でね♪まいのナイスバディに
釣られたおじさんが釣った魚をもらってきたってぇわけなのよ!っと!」
「んあ…まいちゃんおじさんと焼酎の話で盛り上がって仲良くなったの…」
「そういえばこの人もおっさんだもんね…そりゃー気が合うわな。」
「ええいそこ!やかましい!さぁて今日はバーベキューにするわよ〜♪
ほら、あゆみんも参加する!蟹もあるからね〜♪」
「「「うおぉぉ〜〜!おいしそぉ〜〜♪」」」


…まぁ、なんだかんだでごちそうGETできちゃったみたいだし。
待ってたかいがありますよ、ほんと。あざーす。



その後、みんなで海の家から鉄板を借りてきて、浜辺まで運んで。
ちょっとしたキャンプ気分で、夕食の準備にとりかかる。



646 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:42


「よぉ〜し!今日のメニューは焼きそばよ♪」
「はぁ?!ちょっとまいちゃん!せっかくこんなに新鮮な海鮮があるんだからさ〜
それを生かしたメニューにしようよ〜」
「あ、そうね!よしこイイこと言う〜…じゃあ海鮮焼きそばに変更ね♪」
「だからなんで焼きそばなの?!バカ?!」


海といえば焼きそばだと言って聞かないまいちゃんのせいで。
せっかくの新鮮な魚介類たちは、おたふくソースの海に溺れていった…漁師さんごめん…


「あぁ、蟹は一人2本ずつね。ちゃんと平等にね〜」
「もったいねぇ…蟹をおたふくソースで食べるなんて…」
「よしこうるさい。ごっちんどう?できた?」
「んあ。できたよぉ〜柴ちゃん分けてくれる?」
「うん。わぁおいしそう〜さすがごっちん〜」



647 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:43


柴ちゃんの感動のとおり。
ごっちんが作った焼きそばは、うちの不満も吹っ飛ぶくらいの。
最高の出来ばえだった。

「んあ。これで一人前たった300円くらいだからね〜魚介類はもらい物だし。」
「すごーい!一万円生活みたい!」
「ごっちんとまいちゃんならあの番組出れるんじゃない?…ってまいちゃん?どうしたの?」


イスがないのでみんなで砂浜の上に適当に座って、出来立ての海鮮焼きそばを食べていると。
一人まいちゃんが自分のお皿の上の焼きそばを、キョロキョロとかきまわしていた。


「いや…まいの焼きそば、蟹が1本しか入ってないんだけど…」
「えぇ〜ウソ〜そんなこと言って、もう食べちゃったんじゃないの?」
「そんなことないって!ちょっとみんなちゃんと2本ずつ?確認して!大至急ぅぅ!!」



648 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:43


んもーまったく。
ただの思い過ごしだって。
だいたいそんなに蟹が好きなら、焼きそばに入れずにそのまま食べた方が
絶対おいしいって、うちは何度も何度もアドバイスを…

「んあ、後藤は2本だよ〜」
「私も。」
「もちろんうちだって…ん?」

…おいおい。
3本だよ、蟹。入っちゃってるよ、まいちゃんの分まで。


で、でもちょっと待って!!
お皿に取り分けたの、うちじゃないし!うちがわざとやったわけじゃないって!!


そ、そう、取り分けたのは確か…



649 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:44


慌てて隣の柴ちゃんを見ると。
柴ちゃんはニコっと笑って、軽くうちに、パチンっとウインクをしてみせた。


え?…なんだよ…柴ちゃんがやったの?
でもどうして…うちに…
…まいったなぁ…どうしよう…

でもうちは結局、その柴ちゃんの食べちゃえ!っていう目の合図にしたがって。
3本目の蟹を食べた。


とほほ…これで共犯ですか…

…しらばっくれるしかないな…

「う、うちも…2本だったよ?」
「うそだぁ〜!!!絶対誰かまいの分も食べた!!見せてみろぉぉ〜〜!!!」
「ぎゃぁぁ〜〜!!」



650 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:45


もう、その後のまいちゃんの怖いこと怖いこと。

うちのお皿から蟹の殻を3つ見つけたもんだから、ドロボードロボー蟹ドロボー!!って
うっさいのなんので。

…ちょっとそれ見てそこで楽しそうに笑ってる人。柴ちゃん。
あんたのせいだっつーの、まったく。


「んあ〜ねぇそういえば海の家の冷蔵庫にスイカ冷やしてあるよ〜デザートに食べようよ〜」
「あ!じゃ、じゃあうちが取ってきます!!」
「こぉら蟹ドロボー!!逃げるなぁ!!」

ふぅ〜やっと抜け出すチャンスがきた〜。
ていうかまいちゃん本気でキレすぎだよ!なんかいろんなとこひっかかれて痛ぇし!
食べ物のうらみは恐ろしいなぁ…


「よっすぃ〜!」
「え?…あぁ柴ちゃん。」

まいちゃんにやられた傷跡を悲しく見ながら歩いていると、ふいにうちを呼ぶ声がして。
振り向くと…柴ちゃんが。
うちの後を追いかけてきていた。



651 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:46


「私も一緒行くよ。スイカ取りに。」
「そう?んじゃ…っていうかさ!びっくりするじゃん!なんでうちに蟹3つも入れたの?
んもーまいちゃんに殺されるかと思ったよ…」
「あはは!ごめんごめん。おまけだよおまけ。」
「おまけってねぇ…」


ほんとに困ったんだからなー。
あーゆーときは、ちゃんと事前に連絡しといてくれないと…
大体、なんのおまけなの?

「んー…だって、今日、よっすぃ〜ずっと私につきあってくれたから、そのおまけ…かな?」
「…意味わかんねー」
「でも、ホントにうれしかったの。ありがとう、一緒にいてくれて。」


そういって、君はまたふわっと、優しく笑う。



652 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:47


だから、そういう。
そういうの…やめてほしいんだって。


君が素直になればなるほど、うちは素直になれなくなって。

つい、悪いクセで。
また君に、意地悪なこと言って、つっかかっちゃうんだから。


「…だからってさ〜…あーゆーお礼はやめてよね。マジびっくりするし…困るし…」


本当は、二人だけのイタズラとか、目の合図とか。
ドキドキして…楽しかったし、うれしかったのに。
…また、そんなふうに。



653 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:48


でも今年の君は、そんなうちの言葉になんか負けたりしない。
柔らかかった表情を、一瞬で真剣に作り変えて。


息もできなくなるようなセリフを、甘い声で言うんだ。


「…じゃあ…どんなお礼ならいいの…?」


わざと意味ありげに、耳元でささやかれて。


恥ずかしさと動揺で、音がしそうなくらいの勢いで、頭にカーっと血が上る。
そのせいで、おそらく真っ赤になったうちの顔。

それを見て、君はやった!って感じで。
いたずらっ子みたいに、ニーって笑った。



654 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:48


ちくしょぉ…柴ちゃんにからかわれるなんて…
まるっきり、去年と立場が逆じゃないか。

ニヤニヤしている柴ちゃんの顔に。
今度はうちが、むかつく、を返した。



「…あ〜これかな?スイカ。一個まるごとだぁ〜スイカ割りとかできそうだね♪」
「うわ、それ絶対まいちゃんが言い出しそう…」

冷蔵庫を開けると、ごっちんが言った通り。
大きなスイカが、うまそうにギンギンに冷やされていた。


結構な重さだから、一緒に持とうと提案した彼女にしたがって、
スイカにくくりつけてあるヒモに、左手の指を通すと。

同じように右手を通してきた彼女の指先と、やっぱり多少触れ合うわけで。

それがなんか照れくさくて…だってさっきのセリフがまだ耳に残ってるし…。



655 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:49


また悪態をつくことで、その気持ちを、君にバレないようにするしかなくて。


「…なんかさぁ〜持ちづらいんだけど〜柴ちゃん腕短いんじゃねぇ〜?」
「ひどい!身長の差でしょ?…もう、そんなこと言うなら持ってあげないよ?」
「いいよ別に〜こんなスイカくらい、一人でも。片手で持てらぁ〜」
「………ふ〜ん。」

すると彼女はほんとにちょっと怒ったのか、うちとスイカを持っていた手をいきなり離してしまった。

そのせいで急に腕が重くなったからびっくりしたけど、
…でもこうやって一人で持つ方がラクかも。

だってなんかこう…落ち着かないんだもん…二人で持つと…指とかくっついて…

だからこのまま一人で運んでしまおう、そのほうがいい。
そう思って、スイカを両手でつかもうとすると。


…彼女がいきなり、さっきと反対がわに周りこんできて。

「…片手で持てるんでしょ♪」
「え?!」


そういって、うちの右手をつかんだ。



656 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:50


「ちょ、ちょっと待って!!」
「だぁめ。」

結局、右手はしっかりと彼女につながれてしまって。
左手しか、自由が利かなくなった。


…ていうか、そうじゃないんだって!

手が、指がくっつくのがイヤで、恥ずかしくて一人で持つって言ったのに。
…反対側の手、つながれたんじゃ…
意味ねぇ〜…つーかさっきよりくっついてるし…


「は、離してって!…片手じゃ重いんだって!」
「自分が片手で持てるって言ったんでしょ〜?ほら、がんばって?」
「ていうか持たないんなら柴ちゃん来た意味ないじゃん!なにげにジャマしてるし!!」
「あ〜ひどーい。…絶対離してあげない。」

げっ!!
ず、ずるい…そんなのずるいって…



657 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:51


その後も、帰り道の間、
君はうちと繋いでいる手をおおげさに揺らしたり、ときどき指をからめてきたり…
うちの神経を、わざと刺激するようなことばっかして。

だけどそんなことをされても、うちは『うざい!』とか、『ジャマ!』とか、
そんな言葉しか返せない。


…だって…恥ずかしいからやめてなんて。
私はあなたを意識してます!…って言うようなもんじゃん?
だから本当のコトなんて…言えなくて…


でもそんなうちの悪態にすっかり慣れてしまった今年の柴ちゃんは、
そんなんじゃちっとも手を繋ぐ力をゆるめてくれなくて。むしろ仕返しとばかりに、
どんどん強く握ってきて。

だから、うちがどんなに平常心を保とうとしても、そんなのムダで。


やっと元の場所にたどりついたときには。
重いスイカを持っていた左手より、
柴ちゃんと繋いでいた右手の方ばかりに、汗をかいていたことを知った。



658 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:52


「んあ〜スイカきた〜。ほら、まいちゃん、スイカきたから機嫌なおして?」
「…むす。」
「あ、そうだ!まいちゃんお返しにうちの分のスイカ食べてもいいよ?」
「ふざけるなぁ〜!!蟹の代わりがスイカごときにできるかぁ〜〜〜!!」
「わぁぁ!!ま、また暴れ出した〜!!!」


うちがあんなに苦労?してスイカを運んできたのに。
まいちゃんの怒りは収まらず。

うちにおわびに素手でスイカを割れとか、種は出さずに飲みこめとか、
わけわかんない注文を繰り返す。


「もぉ〜まいちゃん。そのへんにしなよぉ〜よしこかわいそうでしょ〜」
「そ、そうだよ…うちがかわいそうでしょ?…」
「…ち。まぁいいよ、じゃあまいもう部屋に帰って寝るから。よしことあゆみん
後片付けしといてね。行こう、ごっちん。」
「え?!」



659 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:52


ちょっと待って。
…なんでまたうちと柴ちゃんなの?!

今、その組み合わせは困る!まことに困る!!
そう思って必死にまいちゃんに抗議するけど。


「だって二人、魚釣ってないじゃん。よしこは蟹もドロボーしたし…」
「いや、まいちゃんだって自分で釣ったわけじゃないでしょ?!ごっちんだって!
ていうか柴ちゃんは蟹には関係ない…」
「…ねぇあゆみん。まい思いだしたんだけど、焼きソバよそったの
あゆみんじゃなかったっけ?
間違えたんだとしてもわざとだったとしても、あゆみんも同罪よね…蟹罪よね…」
「ご、ごめんなさい…」

やばい…新しい法律が生まれてる…蟹罪…罪重そう…



じゃ、そんなわけだから、って。

結局まいちゃんはごっちんを連れて、さっさと部屋へと引き上げてしまった…。



660 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:53


そして、また二人で残されたうちら。

「…じゃあ片付けしよっか、よっすぃ〜。」
「う、うん…」


しょうがない…こうなったらさっさと片付けて、早く部屋に戻ろう。
だって柴ちゃんと二人っきりは絶対まずいもん、なんか今日は特に。

急いでゴミやら食べ残しやらをまとめて、鉄板の焦げ目を洗って。
それを海の家に戻して、よし終了、さぁ帰ろう、すぐ帰ろう。


もううちは必死で柴ちゃんにそううながしてるのに。
柴ちゃんはうちの気持ちなんて全然理解してくれず。
あろうことか、帰り道とは反対の、海のほうにかけだしていってしまった。

「…んも〜柴ちゃんさぁ〜…帰ろうよ〜」
「え〜でも思ったより片付け早く終わったし。もうちょっといても大丈夫だよ〜」

しまった…逆効果だったか?!
もっと時間かけて片付けたほうがよかったのかな…
…あぁもうなんでこう空回りばっかりなの、うち…



661 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:54


仕方なく海に足を入れている柴ちゃんのもとに駆け寄る。

ね、早く帰ろうって…

そう言うと、ちょっとさみしそうに、柴ちゃんはつぶやいた。


「海…」
「へ?」
「海。入りたかったなぁ…やっぱり。」

…って。
自分が入らないって言ったんでしょ?
うちは今日、何度も入ろうって誘ったじゃん。
それなのにさー


そんなふうに言うと、また柴ちゃんは子供みたいなぶすっとふくれた顔になって。



662 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:55


「だって…見比べられるのやなんだもん…水着…まいちゃんとごっちんと…」
「また『まいちゃんとごっちんと』って言ったな?!…ていうか誰もそんなことしないよ。
誰がすんの、そんなこと。」


まぁ男性陣の目線が気になるっていうのならわかるけど、あいにくうちらは
仲良し女の子4人組じゃん?

そんなことする人いない…


「………」

…ちょっと待って。そこ、そこの柴田さん。
なんでうちを指さすの。


………えぇぇぇ?!!!う、うち?!!!


「し、しないよそんなこと!断じてしない!!」
「だって…よっすぃ〜。スタイルいい人好きじゃない。」
「す、好きじゃないって!なにいってんの?!!」
「…いつも見てるじゃない、水着のお姉さん。…こないだも…かおりんママさんとか…」
「あ、あれはだって…モデルさんみたいでキレイだったから、その、つい…」
「…ほら。」



663 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:56


いや、だってそれはその…
で、でもさ!
まいちゃんやごっちんと柴ちゃんを比べたりしないよ!
ていうかみんなのことそんな目でみてないし…

「…ほんと?」
「ホントホント!!ないない絶対ない!」
「…じゃ、泳ぐ…」


そ、そう、わかってもらえたならよかった…
ていうか人をエロエロ星人みたいに…まぁ、違うとも言いきれないけど…
って、そうじゃなくて。


じゃあまたお休みもらえたら、今度は柴ちゃんも、みんなで泳ごうね…って…
…浜辺に引き返そうとすると。


「な?!な、なにしてんの?!ちょ、ちょっと待って!!柴ちゃん?!!」


…柴ちゃんは。
なぜか自分のTシャツに、手をかけていた。



664 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:56


「わわわっ!!ま、待った!!な、な、な、何脱いでんの!?だ、ダメだって!
いくら他に人がいないからって…裸は!!」
「…え?…よっすぃ〜…何言ってるの?…水着着てるもん、中に。」
「え?!あ、そうなの?…」

なんだがっかり…って、違う違う。ごめんなさい。


で、でもだからって!
今泳がなくても…

「だってもう。お休みないかもしれないもん。帰るまでに…」
「いや、あるよ絶対、まだ一ヶ月近く残ってるじゃん、バイト。」
「…ううん、私…」
「え?」
「…なんでもない。よっすぃ〜だって水着着てるでしょ?泳ごうよ、一緒に。」


そういって、うちが止めるのも聞かずに。
柴ちゃんはTシャツと短パンを脱ぎ捨て、水着姿になってしまった。



665 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:57


…やばい。

なんかすごい…やばい。


もうあたりはすっかり暗くなっていて。
今ある照明といえば、月の光くらいなんだけど。

なのにやけにくっきり、水着姿になった彼女の体が、うちの目には見える。


…どうしよう…

比べたりしないと、言ったけど。
やっぱり比べてしまう、まいちゃんやごっちん、他の人達と。

でも、比べているのはスタイルじゃなくて。
…気持ちなんだ。


…なんでかわかんないけど。

君にだけだ、君にだけなんだ、こんなにドキドキするの。



666 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:58


体を見るだけで、息がつまる。
自分の中で暴れる、心臓の音が聞こえる。

どこがどう、魅力的だとか、言えないけど。
…言葉になんかならないけど。


ただ背中とか、首とか、なんでもないところを見て。
こんなドロドロした気持ちが生まれてくるなんて。


…どうしちゃったんだ…うち…


「あ〜!!今かおりんさんの水着姿思い出してたでしょ?!比べ物になんねーとか
思ってたでしょ?!!!」
「お、思ってないって!!そんなこと言うなら見ないから!」


慌てて見ないようにしたけど、一度見た君の体は頭の中に鮮明に焼きついていて。


…柴ちゃんの体って…去年も、あんなんだったっけ?
去年もうちは…こんなにドキドキしたっけ?



昼間よりもずっと涼しいはずの夜の海で。

こんなに汗をかくはめになるとは、思わなかった。



667 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 01:59


「…ちょっと、なんでこの二人…固まって寝てんの?」
「あらら…爆睡だね。」

海からようやく柴ちゃんが上がってくれて、やっと部屋に帰って落ち着けると思ったのに。

…4つ並べて敷いてある布団の。
左二つに、もうすでにまいちゃんとごっちんが寝ていた。


いつもの順番は、柴ちゃん、まいちゃん、ごっちん、うち。
柴ちゃんと離れて眠れていたのが、唯一のうちの安らぎだったのに…

「ちょっと…まいちゃん、ごっちん。起きて。移動してよ。」


…頼むから…お願い…ほんとに今日はまずいんだって…

さっきから、もうまともにうちは。
柴ちゃんの顔、見ることもできないんだから。


だって、見たらなんか…どうしても…

なのに。



668 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:00


「起こすのかわいそうだよ。いいじゃん、私達もこっちで寝よう?」
「や、でも…」
「ていうかたぶん起きないよ〜この二人。ね?」

…なんか柴ちゃんは、どことなく楽しそうで。
それをかたくなに断るのも、逆におかしく思われそうだったから。

…仕方なく。
柴ちゃんの隣で、寝るしかなくて。


「ね〜初めてだね?よっすぃ〜と隣。去年も、今年も、ずっと端と端だったもんねー。」


だけど、全然、眠気なんかおこらなくて。
それどころか、柴ちゃんがしゃべるたび、…柴ちゃんの気配を感じるたび。

どんどん…自分の神経が。
鋭い、ナイフみたいに。
君を狙って、研ぎ澄まされていくのがわかって。



669 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:01


…やばい、やばい。

何考えてんの?うち…


どうしてこんなに興奮してしまうのかわからない。

ただ、明かにそれまでの自分とは違った。

今までに感じたことのない感情と、押さえられない昂ぶりに…
パンクしそうになる、頭の中。


「たまにはいいよね?いつもね、私まいちゃんに蹴られてたんだよー寝ながら。」

必死に反対側を向いて、君を意識しないよう、意識しないよう、がんばったけど。


そんなうちの努力を、あざわらうように耳につきささる…声。
…寝ている二人を起こさないように、小さく、吐息まじりで話す…その声。



670 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:02


「よっすぃ〜寝相いい方だっけ?んーでもあんまよくなさそうだなぁ…」


頭に浮かぶのは、さっきの柴ちゃんの水着姿。
…月の光に照らされて、目に焼き付いて離れない体。


「…ね…どうしてよっすぃ〜そっち向いてるの?…」


それが、今、うちの隣にまるで無防備に横たえていて。


「…こっち向いて…?なんか話してよ…」


――――振り向いて、無理やり押さえつければ。
――――その体を………君を…全部手に入れられる――――





671 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:03


「…うちさ!!!………ちょっと…出てくる…」
「え?よ、よっすぃ〜…?」


慌てて飛び起きて、部屋の玄関へと走った。
だって…朝までなにもせずに隣になんていられない。そう、わかったから。


「ま、待って!よっすぃ〜!!」

だけど、もちろん柴ちゃんも、そんなわけのわからないまま、うちを逃がしてくれるはずもなくて。


突然出て行くと言い出したから、うちがなにかに怒ったと思ったのか。
おどおどしながら、スニーカーを履こうとしているうちを止めようと、そっと腕をつかんできた。



672 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:04


「あの…ご、ごめんなさい…私…はしゃいで…うるさくして……」
「…や。別に…そういうんじゃないから。うち…隣の部屋の子達と、遊ぶ約束してたの、
忘れてたんだ。だから、行かないと…」
「…うそ…そんなの…」

うん、うそだよ。
うそだけど…わかってよ。


「よっすぃ〜…疲れてたのに…一人でしゃべって、うるさくして…ごめんなさい…
…もうしないから。もうしゃべんないから、静かにしてるから…お願い…行かないで…」
「だから…そういうんじゃないって言ってるじゃん…」
「でも…」


そんなことが理由じゃないんだ。怒っているわけでもない。

だけど…ダメなんだって。
このままじゃ…うちは…

…君を…



673 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:05


「…お願い…もうジャマしないから…もう…」
「…だから!!そういう問題じゃないって言ってるだろ!!!…ほっといてよ!!!」


自分のおかしな欲望から、君を守るためには。
その手を振りほどいてでも、君を突き放すしかなかったんだ。
ごめんね…



乱暴にドアを閉めた後、もう動く力がなくなって、うちはその場にしゃがみこんだ。

なんでこうなるんだ、どうして…


…君のせいだ。

君がうちの手を握ったりしたから、君が水着になったりしたから。

君が勝手に…うちの知らない間に…キレイになったりするから…


…うちは、自分が抑えられなくなったんだ。



674 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:06


ねぇ…君はもしかして。
わかってやってるの?あんなふうに、うちの心をかき乱すようなこと。

うちの気持ちを知ってて…わざと…


そうなんだとしたら、危ないよ?
だって、うちは。
ほしいものを、どうぞと差し出されるまで我慢できるほど、まだできちゃいないんだから。



…みんな、同じなのかな?
同じように、思うのかな?

あの肌に、触れてみたいとか。
言葉にならない、声が聞きたいとか。

無理やりでもいい、泣かせたとしても…自分のものに…手にいれたいって…



こんなふうに、乱暴なこと思うの、この世界中で、自分一人だけなんじゃないかって。

後から後から沸いてくる罪悪感で、もう押しつぶされそうだった。



675 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/01(金) 02:07


…傷つけたくないのに。
傷つけてでも、手に入れたいと思ったのも、事実で。


だから、やっぱり君のいる部屋に引き返すことはできないから。
うちは仕方なく、隣の部屋のインターホンをならした。

隣の部屋の子達は、突然だったのに、温かく迎え入れてくれたけど。


結局朝まで、うちは一睡もできなかった。


…だって、今夜はきっと。
君も寝られないだろうと思ったから。





676 名前:ツースリー 投稿日:2005/07/01(金) 02:20
以上、第5話です。
今回は長々とちょっと多めに更新してみました。読みにくかったらすみません…
あと残り2回の予定です。

>>624 名無し? さま
よっすぃ〜…こんなことになってしまいましたw大変だぁ〜w
あと残り少しですが、また読んでいただけたらうれしいです!

>>625 ぱっち さま
『大嫌い大嫌い大好き』もこの話も夏っぽいので、自分的に書いていて楽しいですw
はまっていただけたなんてうれしいです〜またぜひよろしくお願いします!

>>626、633 YUN さま
更新遅くなってすいません…まだちょっと忙しいので、次回も遅くなるかもしれないんです…
こりずにまた読んでいただけたらうれしいです。よろしくお願いします。
677 名前:ツースリー 投稿日:2005/07/01(金) 02:32
>>627 茶龍 さま
ありがとうございます〜よししば気にいっていただけてうれしいです。
がんばりますので、どうぞよろしくお願いします。

>>628 TETRA さま
いつもありがとうございます!鈍感返上…どうなんでしょうかw
よっすぃ〜にはがんばってもらわないと。またよろしくお願いします!

>>629 名無飼育さん さま
たまごを食べに行ったはずだったんですけど、食べられませんでしたw
いつもありがとうございます!がんばります♪

>>630 Y さま
意味深ですよね…wドキドキしてもらえて私もドキドキですw
またどうぞよろしくお願いします〜

>>631 名無飼育さん さま
ありがとうございます!そんなふうに言っていただけて感動です。
またがんばりますので、よろしくお願いします。

>>632 名無飼育さん さま
遅くなってすみません…レスありがとうございます。

>>634 名無飼育さん さま
遅くなってすみません…次回もまた遅くなるかもしれないんです…
すみません…

>>635 名無飼育さん さま
温かいお言葉ありがとうございました。とても励まされました。
これからもがんばりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
678 名前:YUN 投稿日:2005/07/01(金) 11:21
☆更新お疲れ様です☆
うわぁ〜、なんだかすごい胸が締めつけられるような展開ですね!!
残り2回ですか・・・。続き期待です!!
次回も頑張ってください。応援しています!!
679 名前:茶龍 投稿日:2005/07/01(金) 11:52
更新お疲れ様です☆よっすぃー押し倒しちゃえっ(ヲイ
あぁもうかなりイイですよ…
トマトの思い出読みました☆
あのスレ好きです(*^-^)
大嫌い大嫌い大好きが一番好きですっ
よっちぃ…に萌ちゃってます…
頑張ってください!
680 名前:TETRA 投稿日:2005/07/01(金) 14:21
学食で携帯で読まさせていただきました!
携帯見ながらニヤニヤしてたからへんな目で見られたじゃないっすか!
あなたのせいですよ!w

っていうか柴っちゃん強っ!
あ、よっすぃ〜弱っ!て言う方が合ってるかw
よっすぃ〜我慢せんでいいのに(殴

途中で柴っちゃんの言ってた言葉の続きが気になりますなぁ

681 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/01(金) 22:58
>629でしたw

んぁぁぁーーーーー!!!!w
夏だ!サマーだ!どこいくんだー(* ̄m ̄*)
すごーく良いところまできてますね(・∀・)
次回も楽しみにしてます♪
上手くいきますよーに…
682 名前:ぱっち 投稿日:2005/07/02(土) 23:40
更新乙です
あぁあ、イイです!やっぱかなり大好きです!
よっちゃんファイツ!

もう毎日見てますから
むしろ前の作品も最初から呼んでます(w
683 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/04(月) 03:20
作者さん、大好きです。
作者さんのペースで更新頑張ってください!
楽しみにしてますんで
684 名前:よししばヲタ 投稿日:2005/07/18(月) 07:51
ずっと待ってます。・゚・(ノД`)・゚・。
685 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/18(月) 16:54
待ってんのは同意だが、ageんなよ。
更新きたかと思ってちょっとウハッ!(・∀・)アヒャ!ってしただろ!
686 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/18(月) 20:38
>>684
sageないとねw
でも、わざとじゃないと思うし。

交信待ってます…(>人<)
687 名前:よししばヲタ 投稿日:2005/07/18(月) 22:22
sageなきゃいけないなんて知らなかったんです。どうもすみません(;⊃д`)ひたすら待ちます…
688 名前:YUN 投稿日:2005/07/18(月) 23:08
自分も待ってますよ(^▽^)
作者様、頑張ってくださいね。
689 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 18:56


…気まずい…

「焼きそば2人前とコーラ、大至急ね〜」
「はーい!」

あぁ、気まずい…

「はいお待ち〜…って、よしこ。ちゃんと働いてよね〜なにボーっとつったってんの!」
「いてっ!…なんだまいちゃんか……はい…どうもすいません…」


あれからずっと…
柴ちゃんとは、気まずいまま。


おかげでちっともバイトに身が入らなくて…まいちゃんには蹴られる始末。



690 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 18:57


一応、あの夜の、次の日の朝。
昨日はごめんね、みたいなことを、それとなーく言って…
そしたら君も、ううん、私の方こそ…みたいな。

だけど、そんなことくらいで、簡単に。
あの夜の気まずさは消えなくて。
…あのときの…あんなことを、君に思った…うちの気持ちは。
全然…消えなくて。


あ〜もう…どうすればいいんだぁぁ……



だから、さっきから、何もできないんだ。

…気づいているのに…君の視線に。



691 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 18:58


今日も柴ちゃんは。
どうやら、ちゃらっぽい男二人組にナンパされている…みたいで。

困ったように、助けを求めるように…こっちを。
…うちを…見てるんだけど。


…何もできなくて…

「こらよしこ!さっきから働けって何度も何度も言ってるでしょうが!」
「あ、あの…まいちゃん…あの…」
「?なに?どうした?」
「あ、あの…あれ…」
「…あぁ。また?もぉ〜迷惑なヤツらね!全く。はいはい〜ナンパ禁止ですよ〜!」


まいちゃんが助けに向かった後も。
柴ちゃんは…ずっとこっちを見てたけど。
…うちは。


結局…どうすることも…できなかった。



692 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 18:59


ナンパを追っ払うのなんか、簡単だよ?
あんなやつら、怖くもなんともないよ。
かっこよく、「柴ちゃんに近づくな!」なんて…言ってあげられたらよかったんだけど。


…それ以前に。
うちが、君に近づいていいのか…わかんなくて。


まだまだ、全然。
追いつかないんだ。
この気持ちに、心が。


君みたいに簡単に。
…うちは。
…大人になんか、なれなくて…



「〜だぁぁぁぁ!!ない!ない〜!!」
「うっさいうっさい。なんだよ、もう。」



693 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:00


人が寝つこうとしてるのに…このおっさんは。


ごっちんと柴ちゃんがお風呂に入っている間に。
ささっと、眠ってしまおうと思っていたのに…まいちゃんが。
いきなり、なにかがないと言って、騒ぎ出した。

「…なにがないって?」
「ピアス!あぁんどこいったんだろ〜さっきまであったのに〜」
「…へぇ。そりゃ残念だね。…じゃ、おやす…」
「貸して!よしこの!」
「えぇ?!な、なんでさ!」

そうこう言っている間に、まいちゃんはうちの耳からピアスを奪い取ろうと、ガバっと勢い良くつかみかかってきた。


「いててて、いてっ!ちょ、やめてよ!なんてことすんのさ!」
「だって予備のピアスないんだもーん〜…」
「うちだってないよ!いいじゃん別に、ないならしなくたって…」
「ダメ!こないだ開けたばっかりなの〜こっち側。なんか指しておかないと穴閉じちゃう〜」
「…じゃあつまようじでも指しておけば?」
「…よしこ…蟹…まいの蟹…あれれ?見あたらないなぁ…どこいったっけ…?」
「げっ!ま、まだ根に持ってんの?!!!」


…まじしつけぇよ!
何度も謝ったじゃんか!!



694 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:01


無視して寝ようとするうちの隣でまいちゃんはずっとブツブツ蟹カニカニカニ………
ね、寝れないよ…このままじゃ…

「あぁもう!わかったよ!!…貸せばいいんでしょ?貸せば…」
「ラッキー♪」
「くそっ…絶対、絶対なくさないでよ?!これ超高いヤツなんだからね?」
「わかってるって。ていうか、すぐに返すよ。あとちょっとの間だから。」


あと、ちょっとの間だから。

そのときうちは、そのまいちゃんの言葉を、全然気に留めもしなかったんだ。
またそんなこといって、どうせずっと返してくれないくせに、なんて思っただけで。


そして、希望通りうちからピアスを奪い取ったまいちゃんは、髪を軽くかき上げて。
耳に開けたばかりの穴に、そっと通していた。


そんなさりげない大人っぽいしぐさは、うちに柴ちゃんを思い出させる。

「…ねぇ、まいちゃんが…したんだよね?その…柴ちゃんの、改造…」
「へ?あぁ、まぁそうね。でも、もともと素材はよかったからねー軽く磨いてあげたって感じ?」
「ふぅん…すげぇ…なんかいいよね、うらやましい。化粧とかで簡単に、キレイに…
…大人になれてさ…」


ちょっと化粧して、髪をのばして、染めて。
たったそれくらいで、簡単に。
あんなふうに、変われるんだから。


…うちは。
いつまでたっても、変われないっていうのに。



695 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:02


「えぇ?簡単じゃないよー。結構、苦労したんだよ?女の子だから、それくらい
できて当然って、思われたりするけどさ。でも生まれながらにメイクのしかたとか、
知ってる子なんて誰もいないじゃん?みんないろいろ研究して、試して。
失敗しながら覚えていくわけよー。」
「え?…化粧に…失敗とか…あるんだ…」
「あるよー。あゆみんなんかひどかったよ?それまで全然、そういうの興味ない子
だったからさー。ビューラーひっぱりすぎてまつげ全部引っこ抜いたり、グロスの上から
口紅塗ったりさー。髪の毛だって、ゆるく巻けって言ってんのに、超ぐるんぐるんに
巻いてきちゃって。お前はベルサイユの薔薇か!オスカルか!って感じ。
あー思い出しても笑えるわー♪」
「べ、…ベルバラ…」


うちが知っているのは、去年の夏の柴ちゃんと、今年の夏の柴ちゃん。
君はその間の一年を、うちがのろのろ歩いている間に、軽くひとっ飛びして、飛び越えて。
そう、例えば、何か魔法みたいなものでも使って。
…簡単に、突然キレイに。
急に大人っぽく、変身したんだと思ってた。


だから君が、この夏を、去年とは違う、キレイなお姉さんになって迎えるために。


どれだけ、がんばったのかなんて。
どれだけ、苦労したのかなんて、全然考えてもみなかったんだ。



696 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:03


君をキレイに変えたのは。
魔法なんかじゃない、ただ、ひたむきな努力。


けど…

「…なんで…そんなこと。したのかな…」
「え?」
「いや、柴ちゃん。…なんで…突然、変身しようと思ったんだろう…」

まいちゃんが言うとおり。
去年の夏の君は、あまり、そういうのに、興味なさげだったのに。


だから…うちは平気で、今みたいに意識することもなくて。
ただ…君の隣にいられたのに。


「んーさぁ。でもまぁ、女の子ならさ、やっぱみんな思うじゃん?キレイになりたい、
かわいくなりたいってさー。」
「…そうかな……面倒じゃん…今日みたいに…柴ちゃん、ナンパされたりとかさ…」


それとも…そういうのが、目的だったりするのかな?
キレイになって…いろんな男の人に、注目されたい、とか。



697 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:03


「え〜?まぁ、モテたいっていうのは、誰でもあるだろうけど。
でも、それだけじゃないよー絶対。
…なんていうんだろ…んー…そうだな…たぶん…自信とかが…欲しかったのかな?
生まれ変わりたい、みたいな。」
「自信…?」
「うん。やっぱさ、人間には、見た目って大事なんだよ。変な意味じゃなくて。
ほら、新しい服着た日とかって、ちょっとなんかいいことありそうだなーとか、
元気になるじゃん。つまりはそういうこと。
あの子に、どんな目標があったのか知らないけど…でも、まぁ。がんばるのはいいことだよ。
それがなんであってもね。」
「…うん…」



698 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:04


そう。
頭では、わかっているんだ。
まいちゃんが言うとおり、キレイになることも、がんばることも、いいことなんだって。

でも…
だけど…うちは…


「………」
「?なに?」
「いや、そんなに聞くってことは…よしこも…もしかして。…まいに改造されたいの?」
「えぇ?!ち、違うよぉ!!うちはいいって!!そんなの!」
「もー照れないの♪よしこだって、元はいいんだから。まいちゃんがんばっちゃうぞー♪」
「だぁぁぁー!!!やめれ!!」


こいつ…絶対まだ蟹のこと、根に持っていやがる………!!!

えぇい、はなせぇぇぇぇーーーー!!!!うわぁぁーーー!!



「んあ、何騒いでんのー?廊下まで声響いてたよー」



699 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:05


そんなこんなでまいちゃんともみ合っていると、突然ふすまが開いて。
ごっちんと柴ちゃんが帰ってきた。


「あ、おかえりなさーい。今からよしこをギャルに改造しようと思って♪」
「だからしなくていいってば!…ん?」

ふと柴ちゃんを見ると。
うちとまいちゃんを、なぜか凍りついたような、悲しそうな目で見ていて…


どうしたのかなって、思ったんだ、思ったんだけど。
でもそれは一瞬で、またすぐいつもの…優しい、お姉さんな柴ちゃんの顔に戻ったから。
あえて、聞くことなんてしなかった。


「いいね〜♪ごとぉーもやってあげる〜よしこギャル化計画♪」
「だぁ!やめろってだから!!」



700 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:05


その夜は、久しぶりにぐっすり眠れた。

…まいちゃんの、話を聞いて。
君が、がんばって、努力して変わったんだって、わかったから。

だから…うちも。
今からでも、がんばって、変わろうって思ったんだ。
このまま、君と気まずいままなんかじゃ、イヤだから。


だってほんとは…去年より、もっと。
君と…仲良く、なりたいんだから…




「よしこぉ〜ちょっと〜!」
「えぇ?なんだよごっちん。こっちも忙しいのに〜」


次の日、またバイトをしていると。
接客していたはずのごっちんからいきなり呼び出されて。

しぶしぶそちらへ向かう。



701 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:06


「…なんだよ…ごっちん…」
「あのね、あの人達、ごとぉーのことナンパしてきてしつこいの。助けてよーよしこ。」
「はぁ?…何かの間違いじゃないの?」
「………」
「いって!あ、足!踏んでるよ!!いてて…」
「ほらはやくー」
「…なんでうちが…わかったよ、もう…」


あぁ、めんどくせー。
ごっちんにナンパって、ほんとかよ。

しかたなく、そのごっちんのいう男のところまで乗りこんで、大きく息を吸いこんで。
…叫ぶ。

「…ちょっと!お客さん、困ります、ナンパは!」
「えぇ〜なんでだよ〜なんでダメなんだよ〜」
「な、なんでって…」



702 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:07


悪びれるでもなく、そんなふうに返されて。

なんで…なんでダメなんだろうな、ナンパって…
…な、なんかいい説明の仕方、あったかなー…

えぇっと…

「ほらほら、なんでダメなんだよーえぇ?」
「そ、それは…ですね…その…ナンパ自体がダメっていうか、この子にナンパするのは
ダメってことで…」
「えぇー?じゃあ、誰ならいいんだよ?」
「誰なら?」


まいったな…
ごっちん…はダメでしょ?…まいちゃん…は、別にうちはいいけど。まぁ本人イヤがるし。
…柴ちゃん…ダメだ、そんなの絶対許せない、
だいたいうちでさえ最近しゃべってないのに、ナンパごときが柴ちゃんに声かけようなんざ、
百億万年早いんだっつーの



703 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:08


「なぁ誰ならいいの〜?」
「えぇっと…そ、その…う、うちなら!!」


そう言った瞬間、後ろでごっちんのすさまじい笑い声が聞こえた。


「あ…いや…君は…いいです、すいませんでした…」
「へ?いいんですか?どうして!!」

「あっは!!よしこ超うけるよ〜さいこー♪」
「ごっちん!ナンパさん帰っちゃったんだけど!!どういうこと?!!」


うちの…うちのどこが不満なんだぁぁ〜〜〜!!!


相変わらず笑いが止まらないごっちんの隣で、地味に傷ついていると。
…また、君の視線を背中に感じて。


振りかえると、やっぱり、また悲しそうな目で。
柴ちゃんまで、傷ついたみたいに、こっちを見ていた。


…え?
な、なに?どうして?


わからなかったけど、それがどうしても気になって。



704 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:09


だから、その日の夜。
バイトが終わって部屋に帰ってから、思いきって、勇気を出して。
久しぶりに、君に話しかけた。


「…あのさ!柴ちゃん、また、あのラーメン屋行かない?」
「…え?」
「ほ、ほら!うちこの間煮卵食べれなかったしぃ〜ラーメンも、うまかったじゃん、あそこ。」
「あぁ…うん…」


なんとなく、まいちゃんやごっちんがいると、聞きづらいことだから。
…それに…もう一度、二人っきりで。
話…したかったから。


だから、あのラーメン屋に行こうって。
あの日、君が連れて行ってくれた場所に行こうって言ったんだ。

そしたら、もしかしたらあの夜みたいに、また君とはしゃげるんじゃないかって。
…なのに君は。



705 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:09


「…じゃあ。みんなで…行こうか…?」
「え?」
「せっかく、おいしかったし…まいちゃんとごっちんも、連れていってあげたいもんね。」
「え?いや、その…でも…」

「ね。ごっちん、まいちゃん〜ラーメン食べに行かない?」
「ラーメン?お〜行く行く〜♪」

うちが、返事をする前に。
君は、簡単にみんなを誘ってしまった。


…どうして…?
あきらかに、今までとは違う態度。

なんで、どうして、そんなこと言うの?

うちと二人じゃ…イヤなの?



「…んまぁ〜い♪もぉあゆみんこんないいとこ知ってるんなら早く教えてよ〜」
「ごめんごめん。でも今日はちゃんと誘ったじゃない。」
「まぁそうだけど…お、ごっちん卵食べたの?どう?」
「んあ〜おいすぃ〜よ?」
「そう、よかったわね〜あ、ついでによしこの卵も食べちゃいなさい♪」
「えぇ?!ちょ、まいちゃん、なんの権限があってそんな!」
「…ごっちん、蟹ドロボーの言うことなんか気にしなくていいからね♪」
「んあー♪いただきまぁす〜」
「だぁぁぁ〜〜!!!やめてぇぇぇ〜〜〜!!」



706 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:10


…楽しかったことは、楽しかったんだ。
卵は、また食べれなかったけど。

でも、この仲間で、みんなで来れて、うちだって、楽しかったんだよ。
…だけど…



この、ちょっとさびれた、よその人は中々知らない、おいしいラーメン屋さんは。
君と、うちの。

…二人だけの。


秘密の場所だって、思ってたのに。
…思っていたかったのに。


君にとって、こんな秘密。
大切でも、なんでもなかったのかなって。


それが…少しさみしかったんだ。



707 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:11



人生っていうのは、思い通りにいかないモノってことになってるんだろう。
追えば逃げる、逃げれば追う。


君がうちに近づいてきたころは、動揺して、なにもできなくて。
決意して君を追い始めたときには、君はもううちのそばからいない。


あぁ…どうして、そうなっちゃうんだろう…



あれから、うちは、うちなりに。
一生懸命、君に歩み寄ろうと。

ラーメンがダメなら屋上に!そう思って、誘ってみても。
君の答えはいつも…『みんなで行こう』…でもそれは、うちの望んでいない答えで…

なんで…?
うち、なにかしたのかなぁ…



708 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:12


そんなことが、続く間に。

だんだん…考えるようになってきちゃったんだ。


去年の、君なら。
去年のうちなら、こんなとき、どうしていただろうって。

ううん、去年のうちらは、じゃれあいのようなケンカは多かったけど。
こんなに、深刻じゃなかった。辛くなかった。

去年はもっと…ラクだった。
もしかしたらもっと…楽しかったんじゃないかって…


そんなこと思っても仕方ないのに。
だけど…


…わからないよ…君が、何を考えているかわからない…



709 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:13


どうして、あんな悲しい目をしていたの?
どうして、うちを避けるの?

君は…
…どう、したいの?


「…痛っ!」
「え?」

振りかえると、今日も、うちから離れて荷物を運んでいた君が、なにかにつまづいて。
転んでしまっていた。


一瞬ためらったけど、でもすぐあわてて駆け寄る。


「柴ちゃん、大丈夫?」
「…ん、平気…ごめん、気にしないで…」


手を貸そうとしても、まるでこっちを見ないから。
仕方なく、彼女が運んでいたダンボールを持ち上げると。



710 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:14


「あ…いいよ、大丈夫。持てるから…」
「別にいいよ、これぐらい。倉庫に持ってくんでしょ?」
「…本当に…大丈夫だから…よっすぃ〜は、自分の仕事に戻って…」
「たいした仕事ないんだって。重いでしょ?持つよ…」
「いいの、ほんとに…」
「持つって。」
「あの、ほんとに…」


――――君がうちからダンボールを受け取ろうと、手をのばしたそのとき。
軽く、指先が触れた。

…前は。
一緒に、スイカを運んだあの時は、君から手を握ってきたのに。


――――慌てて手を引っ込めた君のしぐさが、悲しくて………


つもりつもったイライラは、もう最高潮だった。

それに、怒りと、悲しみが、ドロドロにまざりあってしまうと。


…もう、我慢できなかった。



711 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:15


「…なんなんだよ!なんで避けるんだよ!うちのこと!!」
「……避けてなんか…」
「避けてるだろ?!!なに?なんかした?うち。なんかしたなら謝るよ、はっきり言ってよ!」
「そんなこと…」
「文句があるなら言えばいいだろ!!…なんなんだよそれ。それじゃ
うちだってどうしていいかわかんないよ!!」
「………」



勝手だ。
君は、勝手だよ。


この夏の始まりは、君だよ。

君が、うちに笑いかけたのに。
君が、うちの手をつかんだのに。


どうして突然離れようとするの。

どうして…



712 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:15


「去年の…柴ちゃんなら。はっきり言ってたよ、うちに。言ってくれてたよ…」


それは、ダメだ。
その言葉は、言っちゃいけない。

ダメなんだ、だって、それは。


一年間、君ががんばってつかんだ、わずかな自信を…


うちくだいてしまう、言葉だから…



「…去年の。去年の柴ちゃんのほうがよかったよ………」





713 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:16


君の目から涙が溢れ出す様子を。
まるでスローモーションのように、やけに冷静に眺めていた。


「…あゆみん?!な、なに?!!どうしたの?!!」

異変に気づいたまいちゃんが駆けつけてきて。
泣きつづける柴ちゃんを抱えて、部屋へと戻っていった。



「…こらっ!!」
「いてっ!…ごっちん…」

気づくと、うちのそばにはごっちんがいて。

うちは、ごっちんに頭をチョップされてしまった。



714 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:17


「…よしこ。よしこの気持ちも、わかるよ?カーッとなるとき、誰にだってあるよ、
ごとーにだってある。思い余っちゃったんだろうけど…だけど…」


さっきのうちのセリフを聞いていたらしいごっちんは、少しむっとしたように、怒っていて。
だけどうちを責めたてないよう、気をつかいながら、怒ってくれた。


「…思い余ってもね。絶対に、言っちゃいけない言葉っていうのが、あるの。
よしこだってわかるでしょ?女の子なんだから。
…がんばった女の子に。あれは、絶対に言っちゃいけない言葉だよ。」


悔しかった。
わかっていたのに。
抑えられなかった、弱い自分が。


…だけど…



715 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:18


「…ごっちん…」
「ん?」
「気づいちゃった…うち…」
「?なにに?」
「…好きだわ…うち。…柴ちゃんが…」


そういうと、全くもうって感じで。
だけどごっちんは、優しくうちの頭をなでてくれた。



そう、気づいたんだ。
君の、涙を見たときに。


うち、君を守ってあげたいと思った。
…自分で泣かせておいて、なにいってんだって感じだけど。

でも、あのやけに冷静だった瞬間。
あの日の君と、同じコトを思った、守ってあげたいって…



716 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:19


あの、夜。

君を、力ずくでも手に入れたいと思ったのは本当だし。
ずっと、こんな乱暴な気持ちが、恋なんだろうかと、考えこんでいたけど。



傷つけたくないのに、傷つけたくなったりとか。
そばにいたいのに、突き放してしまったりとか。
…守ってあげたいのに、泣かせてしまったりとか。


こんな、矛盾する気持ちのことを、人は。

恋、って呼ぶんだろう。



恋だ。
うちは…君に。
恋してるよ。




717 名前:二年目の夏 投稿日:2005/07/19(火) 19:20


本当はその場ですぐ、君のもとに駆け寄って行って。
この気持ちを伝えたかった、せめて、泣かせたことを、謝りたかったけど。


そんな勇気なくて、なんかそんな雰囲気でもなくて。



仕方なくその夜も、うちは隣の部屋で寝た。
蒸し暑い夏の夜に、矛盾でいっぱいの心を抱えて。


そして、次の日。
意を決して、うちらの部屋に、戻ったときには。


…もう、君は。

この夏を、終わらせてしまっていたんだ。






718 名前:ツースリー 投稿日:2005/07/19(火) 19:34
以上、第7話です。更新が滞ってしまい、ほんとうにすみません…
次回、最終回です。

>>678、688 YUN さま
遅くなって申し訳ありません・゚・(ノД`)・゚・。夏は楽しいけど切ないって感じですかね〜w
次回最後ですが、また読んでいただけたらうれしいです!

>>679 茶龍 さま
萌えていただけたなんてうれしいですw前スレまで全部読んでいただいた
みたいで、ありがとうございます!これからもよろしくお願いします〜

>>680 TETRA さま
こんなの読みながら食べたんじゃご飯がまずくなったんじゃないかと心配ですw
そこらへんは最終回で…またよろしくお願いします〜♪

>>681 名無飼育さん さま
サマードリーム〜♪サマー、夏はいいですよね〜w
よい夏になりますように…

>>682 ぱっち さま
いつもありがとうございます!ずっと読んでいただいてありがとうございます〜
最後までどうぞよろしくお願いします♪

>>683 名無飼育さん  さま
ありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・かなりローペースですが、
なんとかがんばりたいと思います。温かい言葉、ありがとうございました。

>>684〜687
お待たせしてすみません・゚・(ノД`)・゚・フォローしてくださった685さま、
686さまありがとうございました。
懲りずにまた読んでいただけたらうれしいです…
719 名前:TETRA 投稿日:2005/07/19(火) 21:14
今更気付くなんて…
やっぱりよっすぃ〜ド・ン・カ・ry w

ちょびっと目から水が(涙腺弱

もっと早く決心してればなぁ(マテ

次回も楽しみに待ってます!
720 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 22:54
トマトの頃からファンで、ずっと読んでます
吉ヲタなんですが、ツースリーさんのおかげで柴ちゃん好きになりました
最終回、とても楽しみです
721 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 23:19
681でした!
交信ありがとうございますorz
とっても楽しみにしてたので、夏休みいいスタート切ったで!!って感じですw
よっすぃ〜、やっと気づきましたね…(・∀・)
そして、卵にはまたありつけず(爆)
このまま、いい感じに言ってほしいです。早く仲直りして!ワラ
722 名前:茶龍 投稿日:2005/07/20(水) 01:46
大量更新お疲れ様ですっ

よっすぃー…
涙がバーッとでましたよ…

どこまでもついて行きます!

次回で最終回!頑張ってくださいっ
723 名前:YUN 投稿日:2005/07/20(水) 02:00
更新お疲れ様です!!
超いいですね・・・。
胸が苦しいです。
最終回かぁ・・・、寂しいです。
次回も頑張ってくださいね!!
724 名前:よししばヲタ 投稿日:2005/07/23(土) 23:17
作者様、更新お疲れ様でした。・゚・(ノД`)・゚・。
ヤバイっすね(泣)すごくもどかしい…よっすぃがもうちょい素直だったら…。次最終回ですかぁ。寂しい気もしますがどんな結末になるか楽しみです^^頑張ってください!
725 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 23:00
今日見つけてとりあえず2話まで読みました!
すっっごいおもしろい雰囲気をかもし出してるな〜って思ったんですけど、
今テスト中なんで我慢します(泣)めっちゃ読みたい(さらに泣)
テスト終わったらすぐ見にきまっす!!
726 名前:YUN 投稿日:2005/07/28(木) 00:07
すいません、毎回2回は書き込んでます・・・。
最終回を想像すると、マジな話し胸がドキAしてます!
作者様、応援しています。頑張ってください!
727 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 00:51
YUN様へ
気持ちは分かるし
別に悪気があってやってるんじゃないと思いますが
出来るだけせかす事は避けた方がいいと思います
作者様の更新に合わせて読者が楽しんで読むのが
ここのスタイルだと思うので
そんな急かさずに作者さんのペースに任せて楽しみに待ちましょう
作者様偉そうにすいませんでした。
YUN様気を悪くされたら申し訳ありませんでした
別に言い争いをしようとしてるわけではないので…
728 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 09:26
>>726
マターリ待っていきましょう♪
729 名前:YUN 投稿日:2005/07/28(木) 18:26
いやぁ〜、やっぱり皆様の気を悪くさせちゃいましたね・・・。
すいませんでした、おとなしく待っています。
本当にゴメンなさい。
730 名前:725 投稿日:2005/07/29(金) 13:30
テスト終わって見に来ました!と思ったらもう次が最終回!?
続きは気になるけどまだ終わってほしくないような・・・
出来ればハッピーエンドがいいな、なんて野暮なリクはせずにマターリ待ってます。
731 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:27



夏が一瞬で、はかないものだなんて、わかっていたけれど。

だけど、それにしても短すぎるよ、このままじゃ。

…今年の夏は。



一晩寝て、少し、冷静になった頭で。
君に謝ろうと思って、うちらの部屋に戻ったんだ、ようやく。

…なのに。


「…んあ?あーさっきちょうど出てったとこだよ?二人とも。」
「え?出てったって…なんで?もうバイト行っちゃったの?」
「ううん、まさか。だって今日、二人帰る日だよ?」
「………えぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!!???!!」

か、か、かっ!!
帰る日って!!!

ど、どういうこと?!か、帰っちゃったの?!!
まいちゃんも…柴ちゃんも?!



732 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:28


「…あれ?言ってなかったっけ?」
「き、聞いてないよ?!なにそれ、どういうこと?!!」
「んあー…誰かよしこにも言ったのかと思ってたよ。なんかね、まいちゃんと柴ちゃん。
大学の…ゼミ?とかいうのの合宿があるんだって。だから、もともとバイトは今日までの
予定だったんだよー。」
「そ…そんな………」

…うそだろ…帰ったなんて…
じゃあ、もう。


…会えないの?謝れないの?
あんなふうに、傷つけたまま。

…お別れなんて…


「あぁ、そうそう。よしこにバイバイできなかったからって、手紙預かったんだよ〜
えぇっと…これが柴ちゃんからで…こっちが…」
「か、かして!!」

慌ててごっちんからその手紙を奪い取る。


…柴ちゃんから…手紙…

息をのんで、その紙を開くと…それは…

「…『よしこピアスありがとね♪お礼にはい、ちゅー♪』ごっちん、これって…」
「あ、それまいちゃんからだった。」

べっとりと紙についた口紅のキスマークと、うちのクロムのピアスが入った、
まいちゃんからの手紙だった。



733 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:29


「ごっちん!頼むよ!ボケてる場合じゃないんだから!!」
「ごめんごめん。はい、こっちがよしこの愛しの柴ちゃんからよ〜♪」

う、うるさいな、もう!
からかうない!


…今度こそ…柴ちゃんからだ…

早く読みたいけど…少し怖い。
だって…昨日のことで。
もう君に、嫌われてしまっているかもしれないと思ったし。


だけど、勇気を出して開いた手紙には。
まるで、予想外の答えが待っていた。








734 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:30



       よっすぃ〜へ


よっすぃ〜に、最後に会えないのは残念だけど、もう帰らないといけないから…
だから、手紙を書きます。

よっすぃ〜、ごめんね。

あなたが昨日、言ったとおり。
私、よっすぃ〜のこと避けちゃってたかもしれない。


…去年の夏。
初めて、よっすぃ〜と出会ってから。
私はずっと、よっすぃ〜のこと見てたの。

よっすぃ〜がイタズラして楽しそうに笑う顔とか
よっすぃ〜の耳で、キラキラ光るピアス。

そういうの見るたびに、ドキドキした。
胸が締め付けられて、痛いのに、なのになんかうれしくて。


…だけどよっすぃ〜は、いつも他の人のこと見てばっかり。
水着のお姉さんとか、ちょっとキレイな人が通ると、すぐついていっちゃって。

そんなよっすぃ〜にムカムカするのと、自分の気持ち、知られたくないのとで。
去年はずっと、どうしていいかわかんなくて…全然、素直になれなくて。
だから私は、わざとよっすぃ〜に冷たくしたり、怒ったり。


本当に、後悔したの。
夏が終わりに近づけば近づくほど、私の気持ちは大きくなっていったのに。
それを、誰にも伝えられなくて、誰も受け止めてくれなくて、苦しかった。



735 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:32


だけど、あのまま終わりになんてできなくて。

…だから、去年のバイトの、最後の日。
私は、勇気を出して、よっすぃ〜に言ったんだ。
よっすぃ〜がいつもつけてるあのピアス。
あれを、私が持っていられたら、ずっとよっすぃ〜と繋がっていられるような気がした。

…この夏が。
まだ、終わらないような、そんな気がしたの。


けど、よっすぃ〜は!!
高いからダメだって!…欲しいならピアスの穴を開けて、もうちょっと女の子らしくなって、
出直して来いって。

もうそんときは悔しくて、よっすぃ〜にバカ!って叫んでかけだしちゃったけど。
よっすぃ〜と離れて…家に帰って、冷静になって、考えたの。


…本当に、私が女の子らしくなったら。
よっすぃ〜はあのピアス、私にくれるのかなって。


もしかしたら、私が、お姉さんぽくなって、…少しでも、キレイになれたら。
よっすぃ〜は…私のこと、ちょっとは見てくれるの?


私を…好きになってくれる?



その可能性に、かけてみようと思った。

どのみち、このまま私が変わらなかったら、いつまでたっても。
私は、よっすぃ〜にとって特別にはなれないって、そう思ったから。



736 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:33


…一年間。
結構大変だった、まいちゃんは厳しいし。

…だけど。
全然、つらくなんてなかった、どっちかっていうと、楽しかったくらい。

…好きな人のことを
想って、する努力って。

大変でも、それだけでなんか幸せだったの。



本当は、今年の夏はね?
ゼミの合宿とか、宿題とかも多くて、正直、バイトまでする余裕はなかったの。

だけど…私。
一年間、せっかくがんばったの、無駄にしたくなくて。
…変わった自分を、よっすぃ〜に見てもらいたくて。

まいちゃんにも無理いって、せめて半月だけでもって。
そういう約束で、このバイトにきたの。



737 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:34


…久しぶりに会った、よっすぃ〜は。
初めのうちは、ちょっとだけよそよそしかったけど。

だけど、去年の関係とは、また違う風だったけど。
また、仲良くなれたよね、私たち。


…よっすぃ〜がね?
屋上で、私に「女の子なんだから危ない」って、言ってくれたとき。
うれしくて、でもちょっぴり恥ずかしくて、泣きそうになった。


だって、きっと初めてだったよ?
よっすぃ〜が、私のこと女の子だ!って、言ってくれたの。


あぁ、一年間、無駄じゃなかったなぁって。
本当に、そう思った。

…でも、私、調子に乗りすぎちゃったのかな。



あの夜も、よっすぃ〜と一緒に眠れるのがうれしくて。
ついはしゃいで、うるさくして、よっすぃ〜のこと怒らせちゃったし。

…昨日も。
よっすぃ〜にイヤな思い、させちゃったんだよね。



738 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:35


…よっすぃ〜と、一緒にいたくなくて、避けてたんじゃないの。
ラーメン屋さんに、また誘ってくれたのも、ホントはすごく、うれしかった。


…だけど。

あの、ピアスを。
よっすぃ〜が、まいちゃんに貸してあげてるの見て。

…ごっちんに、ナンパしてきた男の人を。
追い払ってあげてるの見て。


どうして、どうしてって。

やっぱり、よっすぃ〜、私にはしてくれないこと、他の人にはしてあげるんだ。


メイクして髪型も、服装だって変えたつもりだったけど。
結局今年も、私はよっすぃ〜の特別な女の子になれないまま。

帰らなきゃいけない日だけが、どんどん近づいてきて。


そしたらまた、どうしていいか、わかんなくなっちゃったの。

よっすぃ〜に、どう接したらいいのか、どうしたら…
…振り向いてもらえるのか、もうわかんなくて。


だけどそんなの、よっすぃ〜を避ける理由になんかならないよね。
本当にごめんね、イヤな思いさせて…。



739 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:36


…もし、よっすぃ〜が許してくれるなら。


もう一回、チャンスをください。


今度は、もっとがんばる、見た目だけじゃなくて、中身も、全部。
ちょっとくらいですねたり、ヤキモチ焼いたりしない。
よっすぃ〜が気に入るような、大人の女の人になれるように、がんばるから!


…好きに…なってもらえるように。
よっすぃ〜に、振り向いてもらえるように、また一年間がんばるから。


だから…来年の、夏まで。

また、ここで会う日まで、待っていて…ください。



                     柴田 あゆみ





740 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:37



「マジかよ…」


ずっと…人のピアスを、なんであんなに欲しがるんだろうって思ってた。
…そんな理由…だったなんて…


ただ、軽い気持ちで…君へのいつものいじわるで。
言っただけだったのに、「女らしくなれ!」なんて…


…なのに君は一年間、うちのその言葉のためだけに…

――――うちのために、キレイになったの………?



あぁ、マジで。
なんでこんなバカなんだ、うちは。

もっと早く気持ちを伝えればよかった。
うちのせいで、また君は。
誤解したまま、この夏から去っていってしまったなんて。



741 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:37


…違うのに…

まいちゃんや、ごっちんや、ほかの人たちと。
同じように接することができないのは、君を女の子だと思ってないからじゃないよ。
…その逆だ。


君を…特別に、特別な女の子だって想うから。
だからかえって意識して、自然にそばにいられなかった。


…もっと、うちのために大人になる、なんて。
やめてよ、もう、今でさえいっぱいいっぱいだっていうのに。

…来年。
またもっとキレイになられたら、大人っぽくなられたら…


うちのほうこそ、どうしていいかわかんなくなっちゃうよ。



…ていうか。

来年まで、また会えないなんて。
そんなのイヤだよ、柴ちゃん。



742 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:38


…だけど。
君も、去年から、一年間。
がんばったんだから。がんばって、成長したんだから。

…今度はうちが。
がんばらなきゃ、いけない番なのかな?


がんばって、来年。
またきっともっと大人っぽくなってくるだろう君に、負けないように。

…うちも、成長して…次の夏まで…


「んあ!まいちゃんったら忘れ物してるーまったくもう。あ、よしこ。
ごとーちょっとこれ届けてくるね。」
「…へ?届けてくるって、だって…もう出て行っちゃったんでしょ…?」
「うん、出てはいったけど、このあたり一時間に一本しかバスないじゃん?
だからたぶんまだ二人ともバス停で待ってると…」
「…そういうことは先に言ってよ!!!」



743 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:39


なぁーんでごっちんはそういう大切なこと早く言ってくれないの?!!


間に合う…間に合うかもしれない…!!!

まだ君に…この夏に。
まだ、追いつけるかも………!!


「んあ!よしこパス!!」
「え?うおっ!」

慌てて部屋を飛び出そうとするうちに、ごっちんが。
まいちゃんの忘れ物だというポーチと、…うちの、クロムのピアスを。
投げて渡してくれた。

「がんばって〜♪急げよしこ!飛べよしこぉぉ!!!」
「…ありがとう!飛ばないけど行ってくる!!」



744 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:40


そして、うちは走った。
まだ朝ごはんも食べていない、ヘロヘロの体で。

早朝だというのに、差し込む強い日差しのせいで、ジュウジュウにこげついたアスファルトの坂道を駆け下りて。


…そして見えてきたバス停には。
君が、いた、いてくれた。


…間にあったぁ…


それを見てほっとしたのもつかの間、ブゥン〜と音をたてて、うちの隣を一台の車が通り過ぎる。

…バスだっ!!


「だ、ダメだぁぁぁ〜!!!ま、待って、待ってくれぇぇぇ〜〜!!」
「…え?」



745 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:40


もうずっと走ってきて体力なんか残っていなかったけど。
それでも、叫ぶ、必死で叫ぶ。


待って、待って!

そのバスに乗らないで。

行かないで、柴ちゃん!


「…来年の夏までなんて!!待てないよ、もう!待てないんだぁぁ〜〜!!」



全速力で叫びながら走ってくるうちに驚いたのか、バスの運転手さんも、まいちゃんも、
柴ちゃんも。


あっけにとられた顔で、でもうちがそこに着くまで待っていてくれた。



746 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:41


「…よっすぃ〜…」
「ビックリしたぁ〜よしこ、どうしたの?」
「うん…あ、まいちゃんこれ。忘れ物。はい。」
「あーありがと〜え、わざわざこれ届けるためにあんな爆走してきてくれたの?」
「ば、爆走…ううん、うちも。…忘れ物があったから…」
「へ?」

そういって、隣でボー然としている、柴ちゃんの手をつかむ。

「…まいちゃん。ちょっと、柴ちゃん借りていい?」
「え?!よ、…よっすぃ…」
「?うん?でも、バスもう出ちゃうよ?」
「次のバスには乗せるから…1時間だけでも、お願いします。」


もう迷わない、もう待たない。
だって、やっと気づいたんだ。
君の気持ちに…自分の気持ちに。


「…んじゃ、まい先行ってるわぁ〜あゆみん、後でね。」
「え…!ま、まいちゃん…」
「ありがとう、まいちゃん。」


そういって一人、バスに乗り込んだまいちゃんは、くるりと振り返って。


「あ、そうそう。よしこ、あゆみん貸してくれって、私のじゃないんだから。
私に返されても困るから、ちゃんともらってね♪」

じゃあね〜♪…って。


な、なんか…もしかして…バレバレ?


まいったな…



747 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:42


そして、無言でうつむいたままの柴ちゃんを連れて。
うちらは、いつもの砂浜を歩いた。


「…もう…暑いね……」
「…そうだね…」


まだ朝だから、誰も泳いでいなくて、いつもよりずっと静かな海だけど。
照りつける日差しと、高まる緊張で。
うちの額には、いつもよりずっと汗がわいてくる。

「あ、あのさ!」
「…うん。」
「…て、手紙…読んだよ…」
「…うん…」


立ち止まらずに、歩きながら話し出すと。
君も、うちに手を引かれながら。
そのまま、少し後ろをついてきた。



748 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:43


よし…ちゃんと…言わなきゃ…

「でも…なんか…柴ちゃん。…誤解、してるっていうか…」
「…え?」
「…うち。そんな見た目だけで…人を、判断するわけじゃないよ。
そういうふうに…思われたく、ないんだけど…」
「…ごめんなさい…」

前を向いているから、君の表情はわからないけど。
聞こえてきたのは落ち込んだような、沈んだ声。


あぁ、違う!なに言ってんだ、うちは!!
これじゃまたなんか気まずくなっちゃってるし!

どうしよう、なんとかしなきゃって、慌てて、考えずに話し出したせいで。



気づいたら…いつのまにか…とんでもない、
………告白になっていた…



749 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:44


「…あ、怒ってるわけじゃないよ!ただ…思われたくないだけなんだ…そんな。
…柴ちゃんが、今年…き、キレイになったから…だ、だからその…好きになったとか。
そんな、そ、そこしか見てないヤツだって、思われるの、イヤだから…」
「え…」
「い、いやでもそれは確かに…き、きっかけ?にはなったっていうか…
その、うちがお姉さんタイプが好きっていうのも、はずれてはないんだけど…
や、でも…よ、よくよく考えると、去年から柴ちゃんのこと…気にはなってたと思うし…
だから、その見た目しか見てなかったわけでは…」
「あの…よっすぃ…ほんと…?」
「へ?なにが?」
「…好きって…」



し、し………しまったぁ!!!


な、なに…なんて言った?うち!?
なに言っちゃってんだよぉ!!


あぁ、もっとちゃんとキメようと思ってたのにぃぃぃ〜

しっかり、柴ちゃんの目を見つめてさ、肩に手なんか置いちゃって。
青春ドラマみたいに、かっこよく言うはずだったのに!!


なんか、歩きながらで、目を見るどころかほとんど…独り言?!
話の流れの中で告白しちゃったみたいになっちゃってるし…



750 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:45


だめだ、だめだこりゃ!!

「…よっすぃ〜…」
「あ、あぁ、違う、違うんだ…こんなこと言いたいわけじゃなくて…」
「…へ?」

柴ちゃんも何を言われているのか、わからないって感じで。
不思議そうに首を傾けた。


あぁもう、もう一度、ちゃんと最初から…できることなら去年の夏から、
君に出会ったときからやり直させて。


ほんとダメじゃん、うち、全然ダメじゃん。

きっとこれは…この暑さのせいだ、夏のせいだ。


こんなにうちが、グダグダに…メロメロになったのはきっと。

このバカみたいに暑い夏の太陽の日差しと、君の視線に。
頭の中をすっかりカラッポにされてしまったから。


「よ、要するに…お、女らしくなれとか!言ったっちゃー言ったんだけど…
…そんなのあんまり重要じゃないっていうか…い、いやなんていうか…
…そこだけ。そこだけ…好きになったわけじゃないから。柴ちゃんの…キレイなとこも…
な、中身も?それ以外も…つ、つまりその…きょ、去年の柴ちゃんも今年の柴ちゃんも…
…あの…あぁ、もう全部!全部好きだから!

柴ちゃん、…………好きだぁぁぁ〜〜〜〜!!!」



751 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:45


そして、気づいたらまた走り出していて。
うちが大声で思いを叫ぶ、その瞬間目の前にあったのは。
青く広く…どこまでも広がるただ一面の海だった。


…って海に告白してどうすんだよぉぉ〜〜!!


あぁ、ダメ!!これもダメだ!やっぱやり直させて〜〜!!


「ごめん柴ちゃん!これもなし…おわぁっ!!!!」

そして、遠くに取り残されているであろう、柴ちゃんに。
声をかけようと振り返ったら。


…いきなり。
いつのまにかうちのそばに、柴ちゃんも走ってきていて。
そのままその勢いのまま、抱きつかれた…っていうか、ほとんどタックル?!
…されてしまって。



752 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:46


そのあまりにも強烈な攻撃に耐えきれず。
強い日差しで熱を持った、焼け付くような砂浜の上に、二人同時に倒れこんだ。


「…いってぇ…なんだよ柴ちゃん!いきなり……柴ちゃん…?」
「うぅ……」
「え?だ、大丈夫?!」

するとなぜか君は泣き出してしまっていて。
慌てて体を起こし、顔をのぞき込む。

ど、どこかぶつけたの?痛い?
…でもぶつかってきたのはそっちなんだけど…

こ、困ったな…


「…うぅ…よっすぃ…」
「は、はい?」
「…うぇぇん〜…」
「だ、ちょ、えぇ?な、なんで泣くんだよ〜もう…」

なんとかあやそうと、必死に頭をなでたり涙をぬぐってあげたりしても。
わぁ…出てくる出てくる。
君のあふれ出す涙は、一向に止まらなくって。



753 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:47


そして、後から後から流れ出す、その涙は。
君がしていた、キレイなお化粧も。
無理して、本当の自分より少し背伸びしていた心も。

…全部洗い流してしまったみたい。


「…ふはっ。子供みてぇ…」

涙でぐちゃぐちゃになった顔を見て、
耐え切れずに笑い出したうちを、ぬれた瞳で、むすっと見上げて。


「…だってぇ…ずっと、がまぁんしてたんだもぉん〜…うわぁん…」
「ん?…がまぁん…あ、我慢?我慢ってこと?…なにを?」


またわんわん声を上げて泣き続ける柴ちゃんの背中をさすりながら、
しゃくりあげられて聞きづらい言葉を必死に解読する。



754 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:47


…昨日、泣いてたときは。
もっと静かに…声もなく、泣き崩れる…みたいな感じで。
大人っぽかったのに。

あぁもう、なんじゃこの違いは。


「だっ、てぇ…だってぇ〜…」
「はいはい、だって?」
「だって…よっすぃ…お、女らしいぃ…大人の人が好きだからぁ…らからぁ〜…」
「…だから違うって…」


いや、そりゃーもちろん嫌いじゃないよ?どっちかっていうと好き…イヤイヤ。
でも、だからって。
キレイで、大人っぽけりゃー誰でもいい、ってわけじゃないんだからね?


君だから…好きになったんだよ。


そこ、大事だから。よろしく。

あ、で?だから、なに?



755 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:48


「ら、らからぁ…ずっと、お、お姉さんでいなきゃって…大人っぽくしてなきゃって…」
「え?そうだったの?」

…なぁんだ。
やっぱり、今年の君は。
ちょっと、がんばっちゃってたってことか。


「…ご、ごめぇんなさい……」
「え?なんで?」
「だって…わ、私。ほんとは全然…お姉さんじゃないのに…女らしくないのにぃ…うぅ…」
「えぇ?いいよ…そんなの。」


どっちかっていうと、うれしいよ?
うちのために、苦労して、努力して、こんなにキレイになってくれたんでしょ?

それを、作り物だなんて、ウソだなんて思ったりしないよ。


…ていうか、正直。
ほんとはちょっとホッとしてる…



756 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:49


だって、今年の君は。

なんだか大人っぽくなりすぎちゃって、うちからずっと…
遠くにいっちゃったような、別人になっちゃったような、そんな気がしてたから。

だから…よかった。


やっぱり柴ちゃんは、ずっと、柴ちゃんのままでいて?

無理したり…背伸びしたりせずに。

「そのままで…いいよ。怒っても泣いても、子供っぽくてもいいから。
そのまんま…そのまんまで。いてよ…うちのそばに。」
「うわぁぁん…よっすぃ〜〜〜〜!!…」
「おわっ!」


…だから、そのタックルはやめてって。いてて。



757 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:50


しかし…

「…女っぽくないこと…ないと思うけど…」
「…ふぇ?」
「いや…」

抱きついてきたその体の柔らかさとか。
さらさらの髪とか、甘いにおいとか…

君のすべてに、うちはこんなにドキドキさせられる。


やっぱり君はもう、そのままで十分大人の女の人だよ。
…泣き方はすごく、子供みたいで幼いけど。

…あぁ、っていうかそういうギャップがまたイイよな……っていかんいかん。
おやじかうちは。


「あ、そうだ…忘れてた。…はい、柴ちゃん。これ…」
「え?…あ……」

そして、彼女の手をとって。
うちは、あのピアスを。
君が、ずっと欲しがってたピアスを、そっと渡した。



758 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:50


「よ…っすぃ…でもこれ……高いんでしょ?…」
「高いよ、すっげぇ。だから、あげないよ。」
「え?…」

そう言われて、柴ちゃんはどうしていいのかわかんないって感じで、困ったふうに。
ピアスをのせられた手のひらを、握り締めることもできずに、ただじっと見つめていた。


だからうちはその手を自分の手ごと、ギュっとつかんだ。

…そう。
あげないよ、ほんとに高いんだから。


「あげない…けど、貸す。貸してあげる。それ。そのピアス。」
「…か……す?」
「うん。貸すんだから、ちゃんと返してね?できれば…この、夏中に。
柴ちゃんの…合宿だっけ?その用事が終わったら。その、柴ちゃんが…暇なときに。
…そんとき、返してよ……返しに来てよ…ね?」
「…よっすぃ………」


素直に、会いたいって言えないうちは、やっぱり君よりずっとガキくさいね。
だけど、こんなうちの言葉でも、君はうれしそうに。
…幸せそうに笑って、そのピアスを受け取ってくれた。



759 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:51


「…なくすなよ。」
「うん……はい。」
「え?」

と、一度受け取ったはずなのに。
なぜか君は、またピアスをうちの手の中に戻して。


え…なに?

「なに…どうしたの?…いらないの?」
「ううん、欲しい。」
「…じゃあ、はい。」
「ううん、はい。」
「え?」


何度渡そうとしても、君はうちの手を押し返してきて。

意味がわからなくて、困っていると。



760 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:52


…君は、恥ずかしそうに。

だけど、しっかりうちの目を見つめて。
いつもより、少し真剣な顔で、言った。


「よっすぃ〜…つけて………?」
「……え?!」


……う、うちが?!…つけんの?!柴ちゃんに?!!
な、なんで…?


すると、今度はうつむいてつぶやく。


「…だって…そのために、開けたんだもん………」
「柴…ちゃん…」


それを言った君の顔も赤かったけど。
だけど、それを聞いたうちの顔は、もっと真っ赤だったかも。



761 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:53


そして…ピアスを受けとって。
指でそっと、彼女のやわらかい耳に触れる。

瞬間、ビクッと君の体がはねたけど、耳を傷つけないように、慎重に。
そっと、ピアスをつけた。
…そのために、うちのためだけに、開けられた場所に。


「…似合う?」
「………」


君は、わざとおどけたように、そう聞いてきたけど。
うちはもう、言葉が出てこなくて。
声にならなくて、でもそのかわりに、この想いが伝わるように。


砂だらけの服ごと、彼女の体を抱きしめて。


そして…そっと。
その柔らかい唇をふさいだ。





762 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:54


ザラザラして、抱き心地は悪かったし。
涙の後で、ちょっとしょっぱいキスだったけど。


…だけどきっとずっと。
うちは、この瞬間を忘れない。



君から伝わってくる胸の振動が、あまりにもすさまじいから。
不覚にも、うちはまた少し笑ってしまって。
それにまた彼女は怒っていたけど、でもギュッと抱きついてきて。

小さい声で、ささやいた。


「…大切にするね…ピアス。」
「…うん、うちも。」
「…え?」

…大切にするよ。
君のこと。
…今の、この気持ち。


きっと、もうずっと。
…離さないから。




763 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:55



時間がたつにつれ、照りつける日差しもさらに強くなって。
そんな中、砂浜のど真ん中に転がっているうちらの体からは、汗がふき出して。

だけど、そんなベタつく体と体を。
かまわず、バスの時間まで、互いに、ずっと抱きしめあっていた。



海の波と。
君の耳に光るピアスが輝いて。

すごくすごく、キレイだった。



そんな、夏の日だった。





764 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:56



「んあぁぁぁぁぁ〜〜!!暑い〜〜〜!!」

毎年毎年、気温が上がり続ける地球。

おととし、去年の猛暑に続いて。


…三年目の夏も。

また、ものすごい暑さだ。


「…あぁ!ごっちーん!!こっちこっちぃ〜〜!」
「んあ、まいちゃん!久しぶり〜」

大量の荷物を持ったまま、ごっちんはまいちゃんのいる海の家へと走り出す。

「あぁ〜疲れた〜超暑かったよぉ〜。まいちゃんいつ来たの?」
「私もさっきついたとこだよー。たっく!なんなのこの暑さ!毎年毎年
ひどくなってくじゃない!…おまけに今年はあの二人来ないし!」
「んあ〜旅行だっけ?いいねぇ〜青春だねぇ〜」
「まったく!すっかり色気づきやがって!」

「…すいませ〜ん!コーラ二つ〜」


765 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:56


「え?あぁ、はいはーい。まいちゃんまいちゃん、着いた早々お客様だぁ。
ごとぉ招き猫みたい♪」
「…はいはい。今お持ちします〜…あぁ、フタあけるの去年はよしこの仕事だったのに〜」

ぶつぶつ文句を言いながら、氷水の中に手をつっこみ。
まいちゃんは二つ取り出したコーラを、お客さんの前に差し出す。


「はい、おまちどうさま……って、あ、あ、あんたたち!」
「「どぉも〜〜〜♪」」


そして…そこに立っていたお客様とは。
そう……うちと…柴ちゃんなのです♪


「ちょ、な、なにしてんのよ!!旅行は旅行?!」
「うん、だから来たじゃん、ここに♪」
「はぁ?!」
「いや、うちはどっかもっと…海外とか?他のとこ行きたかったんだけど…
あゆみがさぁ〜ここにしたいって言うから…ねぇ〜〜♪」
「うん!だってぇ、よっすぃ〜との思い出の場所なんだもぉん♪えへへ。」
「このっ…バカップルがぁ!!!」



766 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:57


うちらの騒ぎを聞きつけ、後ろにいたごっちんも駆け寄ってくる。

「んぁ。なんだよしこも柴ちゃんも来てたの〜?他にご注文は〜?」
「おぉごっちん。え〜っとね、それじゃ…」
「…いいのごっちん、…こいつらは客じゃないんだから。」
「「………え?…」


なに…どういうこと?
柴ちゃんと二人、顔を見合わせていると。


「…どうせ来たんなら。…おまえらも働きやがれぇぇ〜〜!!!」

「「はぁ?!」」


まいちゃんは、そう叫んで。
柴ちゃんにエプロンを、そしてうちに栓抜きを渡した。



767 名前:二年目の夏 投稿日:2005/08/05(金) 15:58


「ちょ…待ってよ!うちら今年は旅行で来たんだよ?!バイトしに来たんじゃないんだから!
ねぇ柴ちゃん!」
「んー…でも私はどっちでもいいよぉ?よっすぃ〜と一緒なら♪」
「…うちもぉ♪」

「えぇい暑苦しい!!離れろ…離れろぉぉぉ〜〜〜!!」


いやいや、それは無理。
…だってうちらはもう離れられませんから♪



そんなわけで、結局。

三年目の夏も。

ごっちんとまいちゃんと。
そして…大切な君と。


ここで、バイトするはめになりそうです。






768 名前:ツースリー 投稿日:2005/08/05(金) 16:17
以上で「二年目の夏」完結です。
読んでいただいたみなさん、ありがとうございました。

>>719 TETRA さま
困りますよね〜鈍感はwずっと読んでいただいてありがとうございました!
最後も楽しんでいただけたらうれしいです。

>>720 名無し飼育さん さま
前スレから読んでいただいてるなんて、うれしいです〜
柴ちゃん好きになってもらえて作戦成功ですwありがとうございます!

>>721 名無し飼育さん さま
結局よっすぃ〜だけ卵を食べていないというw
この話は終わりましたが夏はまだこれからですから、よい夏休みを♪

>>722 茶龍 さま
ドバーと涙をだしてもらえたなんて感激です・゚・(ノД`)・゚・
最後もまた読んでいただけたらうれしいです〜

>>723 YUN さま
お待たせして本当にすみませんでした…・゚・(ノД`)・゚・
無事今回の話も終われました〜楽しんでいただけたらうれしいです。

>>724 よししばヲタ さま
こんな結末になりました〜♪よっすぃ〜が期待に応えられているといいんですがw
どうもありがとうございました〜
769 名前:ツースリー 投稿日:2005/08/05(金) 16:17

>>725 名無飼育さん さま
テストごくろうさまでした〜お忙しい中レスありがとうございます!
最後も楽しんでいただけたらうれしいです〜

>>727、728 さま
暖かいお言葉とお気遣い、本当にありがとうございます・゚・(ノД`)・゚・。
本当に励まされ、そのおかげで無事終わることができました。
どうもありがとうございました。


そして、次回からまた新しいスレを立てさせていただきたいと思います。
そのさい、またこちらにもご連絡させていただきますので、
またみなさんに読んでいただけたらうれしいです。
本当にありがとうございました。
770 名前:名無し? 投稿日:2005/08/05(金) 17:29
最終回、更新お疲れさまです!!!
お久しぶりに失礼します。
いやぁ・・・一時はもしかして今回は上手くいかない!?とか思っちゃったりしたんですけど、やっぱりラブラブな2人のようで安心しましたw
不覚にも、柴ちゃんの手紙のところでは少し泣きそうになってしまいました。
よっすぃーが海に叫んでるシーンが目に浮かんで1人で笑っちゃったりもしましたw
とにかく、ツースリーさんの作品すべて大好きです!!
最近も、トマトのほうを読み返して目ウルウルさせてましたw
次スレにも着いていきますよ!!w
本当にすばらしい作品をありがとうございました。
771 名前:名無し野郎 投稿日:2005/08/05(金) 21:00
完結おつかれさまです!!
いやぁ〜今回の話もおもしろかったな〜素晴らしい!

作者さんのお話ってよししばだけじゃなくって、脇役陣も光りますよね
修学旅行の思い出の中澤さんだったり、ごっちんやまいちゃんだったり

新作、超超超楽しみにしてます!!
772 名前:茶龍 投稿日:2005/08/05(金) 22:54
完結お疲れ様ですっ!よししばヤバいっすわ…てか作者様ネ申!
もちろん読みましたともっ!次回作も必ずついていきます!てかめちゃくちゃ期待してます☆
頑張ってくださいっ!
773 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 00:13
夏ですね〜青春ですね〜(*´∀`)
次スレも期待してます。
774 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 00:47
ずっと読んではいたのですが、完結の文字を見て久々に書き込ませていただきます。
このお話は最初読んだときに海の家のバイトという設定のせいか頭の中では

川σ_σ||<あーしたはきねーんびだよー♪

と「告白記念日」が流れだしまして(w
それから更新分を読むたびに頭の中で告白記念日がリピートされてました(w

今回も吉柴は幸せになってくれて嬉しいです。読んでるこちらが幸せになりました(*´Д`)

次スレにもついていきたいと思います。
また作者さんの吉柴で幸せな気分にさせてください(w
775 名前:よししばヲタ 投稿日:2005/08/06(土) 00:48
更新お疲れ様です!ハッピーエンドな最終回でニヤニヤしながら読んでしまいましたw
ツースリーさんの作品はいつ読んでも幸せになれますね(〃д〃)ここを読み始めてよしヲタからよししばヲタになってしまいました…次回も素敵なお話を期待しております!
776 名前:725 投稿日:2005/08/06(土) 02:27
完結お疲れ様です!
てかごっちん!!吉の気持ちに気付いてるなら早くバスのこと言ったれよ!
って画面に向かって叫んでしまいましたw
今までは、後藤メインな感じの話が好きやったんですけど吉の横でふにゃっとしてるごっちんもかわいいですね。
とりあえずよっすぃー最高!!さらによししば最高!!
ツースリーさんの話を読んでから柴っチャンにハマってしまいました。
新スレも楽しみにしています!
777 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 17:04
721でしたー!
おぉ〜〜〜〜〜〜(*´Д`*)
完結お疲れ様でした☆何と言うか…最後は感動ですねw
さいこーです!!うん。上手くハッピーエンドになりましたね♪
凄く羨ましいですww
2人に負けないくらい、素敵な夏休みを送りたいな〜
とりあえず、宿題が終わりませんが・・・(´・ω・`)
新スレのほうも楽しみに待ってます!!
また一味違ったものが見られると思いますし。期待して待ってまつ(≧∀≦)
778 名前:ツースリー 投稿日:2005/08/08(月) 22:15
レスありがとうございます。

>>770 名無し? さま
お久しぶりです〜泣いたり笑ったりしてもらえたなんて最高うれしいですw
次スレでもどうぞよろしくお願いします!

>>771 名無し野郎 さま
うわぁそんなふうに言っていただけるなんてうれしいです!丁寧に読んでいただいて
ありがとうございます!これからもぜひよろしくお願いします〜

>>772 茶龍 さま
最後までお付き合いいただいてありがとうございました〜!
次回もよししばがんばりますので、どうぞよろしくお願いします♪

>>773 名無飼育さん さま
夏なんですよねぇ〜w次スレでもぜひよろしくお願いします!

>>774 名無飼育さん さま
川σ_σ||<夏限定の〜♪
確かにまさに告白記念日状態ですねw幸せになってもらえてよかったです〜(*´Д`)
次スレもぜひよろしくお願いします!

>>775 よししばヲタ さま
私もニヤニヤしながらレスを読ませていただいていますw
よししばヲタになってもらえてとても幸せです♪
次回もぜひ、よろしくお願いします〜

>>776 725 さま
ふにゃっとしてるごっちん私も大好きですw柴ちゃんにハマってもらえて(*´Д`)
また次回もがんばります!よろしくお願いします〜

>>777 名無飼育さん さま
無事に終われました〜ありがとうございました!
宿題大変ですねー…私は友達のを写させてもらうタイプですw
次スレでもまたどうぞよろしくお願いします♪
779 名前:ツースリー 投稿日:2005/08/08(月) 22:16
それでは、以前書かせていただいていた「修学旅行の思い出」の続編の続編です。

また読んでいただけたらうれしいです。
780 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:20


ふわぁ〜…疲れたぁ〜立ちっぱなしだったからなぁ〜


だけど、バイト先から帰るうちの足取りは、そんな疲れなんかふっとばすように、軽い。


…だって。
待ってるからさ、あの子が。


「たっだいま〜♪」
「…おかえり。」

玄関を開けると、すぐ目の前に君が立っていた。
いや、君に言わせると、「ただちょうど通りかかっただけ」らしいんだけど…


…待ってたでしょ、確実に。


だって、そう毎日毎日タイミングよく。
うちが帰ってくる時間に合わせて、ちょうど玄関を通りかかるかぁ?


…まぁ、そういう素直じゃないところも。
慣れてくると、結構かわいいもんだけど。



781 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:21


「…ただいま。」
「…おかえり。」
「寂しかった?」
「……ちょっとだけ…」


靴を履いたまま腕を伸ばし、抱きしめてそう聞くと…
返ってきたのは、そんな答え。

だけど、これでも随分マシになったほうだよね。
高校時代の君から考えたら、ありえなかったもん。


ちょっとだけでも寂しかったって言えるようになったってことは。
君がだいぶ、素直になってくれたってことかな。



…って今朝会ったばっかりでしょうが。
一緒に住んでるんだから。
……なんでもう寂しいの〜〜まったく…かわいいヤツめ…むふっ。



782 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:22



東京と、京都で。
遠距離恋愛をしていたあのころから、もう一年。

うちは、あれからずっと、今でもずっと、こつこつアルバイトをして。
今年の春から、なんとか京都の美術系の専門学校に通えるようになった。


…そして。
あの約束通り、柴ちゃんとこの部屋で一緒に暮らしている。


こんなふうに一緒に暮らし始めてから。
柴ちゃんは、思ってることとか、気持ちとか。
ちょっとずつだけど、だいぶ言ってくれるようになってきた。


ほら、さっきみたいに、「寂しい」とかね?

寂しいって、遠距離だったときの方がずっと寂しかったろぉ〜って思うけど。


…あのころは。
会えないのに、寂しいって言っちゃうと。
うちを困らせると思って、中々言えなかったのかな、たぶん。


っと、まぁこんなふうに。
うちもちょっとはわかってあげられるようになってきたわけですよ、柴ちゃんのこと。


ふふん。



783 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:23


「ね…ご飯、食べよ?」
「え〜…うん、わかった。」

そのまま、ずっと抱き合っていたかったんだけど。
柴ちゃんがそう言うので仕方なく、靴を脱いで台所へと向かう。


あぁ、彼女結構料理の方も。
あれから随分研究したみたいで、だいぶおいしくなったんだよ?

そして、手を洗って座って。
上達した彼女の料理をごちそうになる。


「…おいし?」
「ん?あぁ、おいしいよ。よくできました〜パチパチ。」
「…もう。子供じゃないんだから。」


そうは言いながらも、柴ちゃんはちょっと照れたような、うれしそうな顔。


う〜ん。いいなぁ同棲って〜〜〜♪



784 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:23


そして食べ終わった後、ご飯のお礼にうちが後片付けをしていると。
…柴ちゃんは、用もないのに台所を…っていうかうちのそばを、うろうろうろうろ。

…どんだけ寂しがりやなの、まったく。


「…柴ちゃん。お風呂、先に入ってきちゃったら?」
「え?…でも…よっすぃ…食器洗ってるから、お湯出なくなっちゃうし…」
「食器洗いもう終わったよ。ほら、残りの後片付けはうちやっとくから。」
「…でも………」
「…じゃ、一緒入る?お風呂。」
「………!!!!…は、入ってくるもん!一人で!!」
「はいはい。いってらっしゃ〜い。」


いやぁこうでもしないと最近中々離れてくれなくてさぁ〜まいっちゃうよぉ〜〜うへへ。

って、なのになんでお風呂一緒は嫌がるの?!
むしろうちとしてはそここそ一緒に…今日もダメか。ちぇ。



785 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:24


そして、片付けが終わって、TVを見ながらくつろいでいると。
お風呂からあがった彼女が、ほっぺたを赤くして、パジャマ姿で出てきた。


…か、かわいい……


何度見ても、やっぱ風呂上りはいいわぁ〜たまんね〜♪

すかさず抱きしめて、チュー…
…しようとしたそのとき。


「…よっすぃ〜も。お風呂入ってくれば?」
「ぐぅっ!!…はい…いってきます…」


冷たく、あしらわれてしまいました…
くそぉ!さっきの仕返しかぁ!
ちくしょー太陽のばっきゃろ〜うわぁ〜ん〜


そして、うちはお風呂場へと向かったのだった。



786 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:26



◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



…自分が、こんなに甘えただと思わなかった。


さっきの仕返しに、よっすぃ〜を冷たくあしらっちゃったけど、もう後悔。


…よっすぃ〜…早く戻ってこないかな…


できれば、一日中だって。
あなたに、くっついていたいのに。


…たぶん、私がこんなふうになったのは、あの遠距離恋愛のせい。


遠距離は、会えない時間が多いから。
会えるときは、いっぱい抱きしめてもらって、いっぱいキスしてもらわなきゃって。
そんなふうに、甘えることを。
体が、覚えてしまったから。

それが、こうして一緒に暮らし始めても、全然抜けなくて。
…むしろ、ひどくなっていくぐらい。


私が逆の立場だったら、そういうのうざいだろうなって思うけど。
ううん、よっすぃ〜がそうしてくれるなら、すごくうれしいんだけど。


…よく、わかんない。



787 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:27


そんなふうに考えながら、よっすぃ〜がお風呂から戻ってくるのを待っていると。
玄関から、チャイムの音が聞こえた。


誰だろう…こんな時間に。

玄関から外をのぞくと…そこに立っていたのは、見たことのない女の子。


「…はい。」
「…あれ?!…ここってぇ〜よっすぃ〜の家…じゃぁ…ないの?」


ちょっとギャルっぽいその子は、どうやらよっすぃ〜の知り合いらしい。
外から部屋の中を覗き込むように、体をあちこちに傾ける。


「…そう、ですけど…」
「え?…よっすぃ〜は?」
「今…お風呂で…」
「…ふぅん。」


そう言うと、その女の子は。
少し不満げに、ジロっと私を見上げた。



788 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:28


頭から、つま先まで…まるで観察するように。


「…じゃ、いいや。あ、これ、返しといてくれる?CD。」
「…え?…はい。」


そう言って、その子は私にCDを一枚渡して。
…足早に、立ち去っていった。





◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




789 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:29



「あ〜気持ちかったぁ〜……あれ?」

お風呂から上がってくると、部屋の電気が全部消えていた。
あれ…おっかしぃなぁ〜…

いつもなら、柴ちゃん。
うちが「寝ててもいいよ」って言っても、絶対待ってるのに。
しっぽふって。いや、しっぽはないけどさ。

…どうしたんだろう…


暗い部屋の中を、そろりそろりと歩き。
ベッドまでつくと、君が。
頭まで布団をかぶって、寝ていた。


「…柴ちゃん?寝てるの?」
「………寝てる。」

…起きてるじゃん…


ってことは、ふて寝か?
でも…今日はうち、なにもしてない…と、思うんだけど。



790 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:31


前にも、うちがここに引っ越してきたばっかりだったとき、君が、今日みたいに。
すねて、ふて寝してしまったことがあった。

あのときは確か…ベッドが原因で。


一応、これから一緒に住むんだから、棚とか、足りないものを買いに行こうって、
近くの家具屋さんに行ったとき。

うちは、ダブルベッドを見つけて、「これに替えようか!!」と言った。
だって、二人暮らしの定番、って感じじゃん?
だから、いいと思ってそう言ったのに…


すねてしまった君を。
大変だった、あの後、なだめるの。



791 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:32


どうも、ベッドが大きくなることが…イヤだったらしくて。
「よっすぃ〜は離れて寝たいんでしょ?」とか言って、
枕と毛布をかかえて起き上がり、一人でソファーで寝ようとしたり…


いや、うちはさぁ、あんまり狭いと疲れが取れないんじゃないかなぁって、思っただけだったんだけど…まいったなぁ。


でも、まぁ、結局。
ダブルベッドにしても…どうせ、くっついてくるだろうからさ、君。
だったら、ムダに新しいの買うこともないかなぁって、ご機嫌損ねてまでね。


…そんなわけで、今でもシングルベッドなんだから。

「…柴ちゃん…もうちょっと、つめてくれないと…うち、寝れないよ〜。」
「………」


…困ったなぁ〜
ど真ん中にうずくまっている柴ちゃんのおかげで、ベッドにうちが横たわるスペースはゼロ。


「ねぇ…柴ちゃん…」
「………」



792 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:32


うわぁ…こりゃそうとうキテるな。

少し前の…そう、一緒に暮らし始める前のうちなら。
こんなとき、「なんで無視すんだよ?!」とか言って、声を荒げたけど。


今なら分かる、それは、全くの逆効果。


意地っ張りな彼女をさらに刺激して、状況を悪化させてしまうんだ。

だから…こんなときは。


「…よいしょっと。」
「…?!ちょっ!!…よっすぃ…」
「…なに?」
「…重い!!」
「だって、柴ちゃんがつめてくれないから。」
「………」

ベッドによじ登って、君の体の上に覆いかぶさる。
さすがに、これは無視できなかったみたい。


「…柴ちゃん、どうした?具合悪い?」
「………」
「…心配だよ。」
「………」


怒るんじゃなくて、優しくしてあげること。
これが大切なんだ。



793 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:33


そう、うちはもうこんなふうに。
君の扱い方は、ほとんどマスターしちゃったんだから。
無駄だよ、すねたって…。


そんなふうに、優しく頭をなでてあげていると。
…ほら、さっきまで反対側を向いて布団にくるまっていたのに。
君はそっと顔にかかっていた布団を下げて…じっとこちらをのぞきだした。


「…ん?」
「…これ。」
「へ?なに…CD?」


そして、むすっとした表情のまま、君が差し出したのは…
CD?



794 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:35


「…柴ちゃん、なんでCD持って寝てんの?割れちゃうよ?危なくない?」
「…よっすぃ〜に。返しておいてくれって…」
「え?…あぁ、これそういえば。同じバイトの子に貸したヤツだ。…え?
なんで柴ちゃんが持ってるの?」


言われてみたら。
そのCDは、うちと一緒にコンビニでバイトしてる女の子に頼まれて、こないだ貸してあげたヤツ。

…なんでここにあるの?


「…さっき。よっすぃ〜がお風呂入ってる間に…その女の子が来て。渡された…」
「あぁ、そうだったんだぁーへぇ〜。今日バイトんときに返し忘れたのかなぁ。」


それにしても家にまで来るなんて。
律儀な子なんだなぁ〜ふぅん。

そして渡されたCDを、腕を伸ばし、テーブルの上に置くと。
起き上がった君は、まだ不機嫌な表情でうちをにらんでいる。


え、なに?このCDがどうかしたの?


「…わかんないの?」
「?なにが?」
「なんでその子が…わざわざ家に。返しにきたのか…」
「…え?」



795 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:35


さぁ…そんなこと、うちに聞かれても…

「…もう聞き終わった…から?」
「そんなわけないでしょ?!…CDなんてただの口実なの!…家に来たかっただけなの!!」
「家?!…なんで?」
「…狙ってるからでしょ!…よっすぃ〜の…こと……。」
「えぇぇ?!!」

…そうなの?!
いや、まぁ、割と親しげにしてくる子だなぁと思ってはいたけど…


でも、だからってさぁ〜
そうとは限んないんじゃない?

「絶対絶対!!そうだもん…」
「いや、でも…まぁ、そうだとしても。それでなんで柴ちゃんはさっきから不機嫌なの?」


さっぱり、つながりがわかんない。
なんの関係があるの?


そう聞くと、君はがっかりしたような、あきれたような顔をして、うなだれて。



796 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:36


「…なんで…よっすぃ〜は。…そんなに鈍感なの…?」
「失礼な。これでも結構、マシになったと思うけど?」
「全然、なってない…」
「えぇ?そうかな…」

困っちゃったなぁ…そんなこと言われちゃうと。


顔をふせたまま、少し唇を尖らせている君を、そっと抱き寄せて。
どうしてって聞くと、ポツリポツリと。
その理由を教えてくれた。


「だって…よっすぃ〜を好きな人が、…私以外に。そばにいるってことなんだよ…?」
「んー?うん。それが?どうしたの?」
「……とられちゃうもん…よっすぃ……」
「…えぇ?!なに?なんで?!なんでそうなるの?!why?!」


話が飛躍しすぎじゃない?!
どうして、そんなふうに思っちゃうの?



797 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:37


「だって…その子、よっすぃ〜のこと好きだもん…」
「いや、まぁそうだとしてもね?うちが、その子を好きにならなきゃ、
なにも起こらないでしょ?なんの問題もないじゃん。」
「………」


…あれれれれ、もしかして。
柴田さん…疑ってるの?うちのこと…


「そう、じゃ…ないけど…でも…」
「…でも?なに?」
「…一緒に、いないときは。…よっすぃ〜が何してるのか、わかんないんだもん…」
「…疑ってんじゃん…それ。」


…ひどい話だよ。
あのねぇ、こんだけ毎日寄り道ひとつせず家に帰ってくるダンナ、他にはいないよ?!
…まぁダンナじゃないけど…


でも、こんなに大切にしてるのに。
そこんとこ、わかってくれてないの?



798 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:37


「…うちは。柴ちゃん以外の子と、どうこうとか…浮気とか。しないよ、絶対。
誓ってしない。…第一、一緒にいないときって、学校とバイトとお風呂んときだけじゃん?
浮気しようがないだろ…一緒に住んでんだから。」
「そう…だけど。でもバイト中とか…」
「バイト中は仕事してますって。怒られるもん、遊んでたら。店長に。」
「…バイトの、後とか…」
「…バイトの後は、飛んで帰ってきてますよ?誰かさんが玄関で待ってるから。
…それに、もし、その子に誘われたって。うちは、断って絶対家に帰るよ。
そんなことしてる時間があるなら。早く柴ちゃんに会いたいよ。」


カッコつけてるって、思われるかもしれないけど。
本当なんだ。
…毎日会ってても。一緒に住んでいても。


一日で、離れている時間は、わずかだけど。
でもそのわずかなときも、うちはずっと、君に会いたいなって。
君のことばかり、考えてる。

…君だけだよ、そんなこと思うの。


おそらく、これは。
あの、修学旅行の後。
君と別れていた、あの時期の空白を。
早く埋めてしまいたくて、そしてもう二度と…離したくないから。



799 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:38


「…どんなことがあっても。絶対、もう。大丈夫だから。だから…不安になんなくて、いいよ?
うちはずっと…柴ちゃんと。一緒にいるよ、…柴ちゃんだけだよ…」
「…うん。」
「わかった?」
「…はい…」


ようやく、ご機嫌も治って。

君はぎゅっと。
強く、うちに抱きついてきた。


ふぅ〜…さてさて。

今回も。
悪いのは…彼女だよね?


「柴ちゃん…ごめんなさいは?」
「…え?」
「疑って、不安になって、ごめんなさい、は?」
「…ごめんなさい…」

おぉ、すっかりちゃんと言えるようになったね。
関心関心。


だけど…あの頃からもう、一緒に住んで随分たつんだから。
…いつまでもそれだけでは…済ましてあげられないなぁ〜。



800 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:39


「じゃあ、おわびに。ちゅーして?うちに。」
「…え?!!」
「ちゅー♪だってさぁ〜そういえば。柴ちゃんから、してくれたことないよね?キス。」


そう言うと、一瞬で彼女の顔はサーっと青くなり。
その後、それ以上のスピードで、また一気にボッ!と赤くなった。

血流も、忙しいねぇ〜大変だねぇ〜。


よいしょっと。

そして、さっきと体勢を逆にして。
うちはあお向けに寝転んで、その上になるように、彼女の体を持ち上げた。


「ほら、柴ちゃん。早く。」
「…で、できない…そんなこと…」
「はぁ?!」

ちょっとちょっと。
ひどくない?それって。

「うちとしたくないの?ひどぉ〜い〜よしこ傷つくぅ〜」
「だ、だって…そんなの。…できない…」
「…そぉ。んじゃ、今日はうちソファーで別々に寝ようかな〜あの子から返してもらった
CDでも聞きながら♪」
「!!!………」
「イヤなら、ほら。してよ、キス。」



801 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:40


すると柴ちゃんは、覚悟を決めたのか。

真っ赤な顔のまま、ぐっと唇をかみしめて。
…ゆっくり、ゆっくり…そっとうちに近づいて。


でも、君が位置を確認してくれなきゃいけないのに、うちより先に目を閉じてしまうから。
しかたなく、うちが顔を動かして。


そして…軽く、震えながら唇に触れて。
一瞬で、離れていった。


「…なんで、震えんの?」
「…だって…し、したことない…んだもん…」
「え〜?いつもしてるじゃん、キス。」
「!!さ、されるのと…するのは。…全然、違うぅ…」
「ふぅん、そぉ?…どっちが好き?するのと…されるの。」
「……されるの…」


初めてのキスのときと、同じように。
トマトのように真っ赤になりながら、君はそう答えた。


ありゃりゃ…まぁ、慣れてるしね、されるほうが。
でも、うちもたまにはされたいよ〜



802 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:41


寝そべったまま、手をのばして。
そんなふうに笑いながら、まだ真っ赤な君の頬をなでる。


「ほんっとに甘えただなぁ…」
「…甘えた、だもん…」
「お、素直。」
「………」


珍しく素直な君に驚いていると。
君はそっと、頬にあるうちの手に、自分の手を重ねて。

瞳をうるませて、こう言った。



「…よっすぃ〜が。…そう、したんだよ…?…」



…一緒に暮らし始めて。
時間がたつにつれ、相手の扱い方が、わかってきたのは。

…もしかして、うちだけじゃないのかな?


困ったな…そんなこと言われたら。

甘やかさないわけには…キス、しないわけには。
いかなくなっちゃうな。



803 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:42


気づいたら、うちはまた君を下にして。
その柔らかい唇に、何度も何度も、口付けていた。


あーあ、結局。
うちは全部、君の思い通りになっちゃうのか。

…でもそれは全然、イヤなことじゃなくて。
むしろ、うれしいくらいだけど。


よし、もうしょうがない。
どうせなら。


一生、君の思い通りになってあげる。

世界で一番、甘やかしてあげるよ。



「…まぁでも。今でも充分甘やかしてるけどね?」
「…ううん。まだ…我慢、してるもん。……ほんとはもっと…」
「えぇ?!こ、これでも我慢してんの?!マジで?!」


まいったなぁ〜。
本当はもっと甘えたい、ってか?

こりゃー先が思いやられるぞ。



804 名前:ずっと、これからも 投稿日:2005/08/08(月) 22:43


でも、まぁ。

いいよ、がんばるよ、これからも。
君のために。

君とずっと、一緒にいるためなら。

うちは、何でもできちゃいそうな…気がするからさ。



だから、君も。
不安にならないで、遠慮したりしないで。
もっと甘えていいから、ずっとうちのそばにいて?


…そして。
たまには、君からも。
キス、してよね。





805 名前:ツースリー 投稿日:2005/08/08(月) 22:45
以上、続編でした。

そして、新しい話を新スレで始めさせていただきました。
こちらになります。
お隣さんの思い出
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/green/1123494185/

それでは、また次スレで、どうぞよろしくお願いします。
ありがとうございました。
806 名前:名無し? 投稿日:2005/08/08(月) 23:37
更新お疲れさまです。
修学旅行のほうの続きとは懐かしいですねぇ。
柴っちゃんの可愛さが変わってないのが嬉しいです。
本当に,甘えた柴ちゃん可愛すぎです(*´Д`)
よっすぃーが羨ましいですねw

新スレもう立てられたようで,これからいってきます!
807 名前:725 投稿日:2005/08/09(火) 05:47
今、バイトから帰ってきて何気に覗いたら新スレだけでなく続編まで!?
眠いはずなのに思わず読んでしまいましたw甘えた柴ちゃんかわいい!
続編のおかげで眠気も吹っ飛んだのでさっそく新スレの方にも行ってみたいと思います!
808 名前:TETRA 投稿日:2005/08/09(火) 20:35
お疲れ様でした〜

いや〜、ド〜なるかと思ったけど
最後はやっぱりコ〜じゃないとw

「ずっと、これからも」
柴っちゃんの方は治ってもヨッスィ〜の方は一向に治らずw

新スレの方にも只今いかさしてもらいます!
809 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 09:24
777でした〜。まさにラッキー(謎)
続編、凄くいい話でした〜。柴ちゃんの甘えたな所も可愛いですねw
バイト終わって真っ先に帰ってくるよっすぃ〜も最高ww
続スレ、また遊びに行かせて下さい♪
ますます宿題が終わらない予感((( ;゚Д゚))ガクガクブルブル
810 名前:ツースリー 投稿日:2005/08/14(日) 03:10
レスありがとうございます!

>>806 名無し? さま
ほんと、懐かしいですよねぇw自分でも懐かしくなって、続編書いてしまいました。
新スレにもレスいただき、ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!

>>807 725 さま
遅くまでバイトお疲れ様です。眠い中読んでいただいてありがとうございます〜
新スレでも、どうぞよろしくお願いします♪

>>808 TETRA さま
やっぱコ〜じゃないとですよねwよっすぃ〜ダメダメですw
またこれからもどうぞよろしくお願いします♪

>>809 名無飼育さん さま
続編気に入っていただけて本当にうれしいです〜
宿題がんばってくださいね♪これからもよろしくお願いします!
811 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:48
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。


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