終わりのない迷宮
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/27(土) 17:29
- 読み苦しい点もあると思いますが、
よろしくお願いします。
- 2 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:30
-
2メートルほどの舟が海に浮かんでいた。
エンジンもなければ帆もない。もちろん、櫂もない。
波に進路を任せるだけ。
闇の中を音もなく進む。
- 3 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:31
-
2メートルほどの舟が海に浮かんでいた。
エンジンもなければ帆もない。もちろん、櫂もない。
波に進路を任せるだけ。
闇の中を音もなく進む。
- 4 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:31
-
- 5 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:32
-
舟の上には2つの人影があった。
「ママ、今度はどこに行くと?」
「わからん!それより“ママ”って言うな!“裕ちゃん”って言え!」
「だって、“お母さん”代わりになるって言ったやんか!」
「言ったけど、しょうがないやんか!あのまま一人にしたら、死ぬだけやで」
「れいなが頼んだわけじゃない」
「もう、黙っとき!」
「はいはい、裕子さん」
2人の会話はそこで終わった。
裕子は手にした酒に口をつける。
れいなは頬杖をついた。
- 6 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:32
-
裕子。30過ぎ。その容姿と肌のつやからは20代でも通用する。
細身ながら、その体から発散するオーラは威圧感を与えていた。
胸元には紫の勾玉が輝いていた。
れいな。15、16ぐらいだろうか、顔つきからは幼くも見える。
顔に似合わない鋭い目つきから意志の強さを感じさせる。
左腕には赤の勾玉が輝いていた。
- 7 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:33
-
潮風にれいなの髪がたなびく。
ぼんやりと波を見つめる。
特に変わったこともない。
睡魔に襲われるたびに首が上下に動く。
「はぁーー」
眠気を飛ばすように大きく背伸びをする。
かすかな灯りの下に裕子の姿が映る。
裕子はいつものように酒を飲んでいた。
- 8 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:34
-
裕子の酒の肴を見て、顔色が変わる。
「あっ、それ!れいながとっとったのに!」
「知るか!だったら、わかるようにしとかんかい!」
「ばりむか!腹かいた」
裕子がするめをかじる様子にれいなは頬を膨らませる。
機嫌をとるように裕子がれいなの頭を撫でるが、れいなは顔を背ける
ため息を一つつくと裕子は再び酒を口にする。
れいなは再び睡魔との闘いに入る。
いつものことだ。
- 9 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:34
-
静かな時間が流れていく。
- 10 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:35
-
そして、いつもの光景が広がっていく。
青紫赤橙黄金銀と七色に輝く海。
普通なら誰もがロマンティックだと心を躍らせるだろう。
れいなにとっては憂鬱な時間の始まりだった。
裕子にとっても同じである。
- 11 名前:零の章 プロローグ 投稿日:2004/11/27(土) 17:36
-
ひとすじの光が天から注ぎ込んできた。
「準備はええか?」
「はい」
裕子の言葉にれいなは表情を引き締める。
光が舟を包み込むと舟はその場から消えた。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/27(土) 17:38
-
下のほうでマイペースで更新していきます。
次回更新は未定です。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/11/29(月) 20:04
- 面白そうだと思った
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 07:59
- いきなり廃棄ってことはないよね?
面白そうだと思ったので頑張れ!
- 15 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:43
-
ザパーーーン
舟は青い海の上を進んでいた。
空には太陽が輝いていた。
潮の香りがほどよくリラックスさせてくれる。
目の前に見える砂浜。
砂と緑が広がるだけで建物らしい建物は見えない。
また、空を見上げれば白い雲だけでたまに鳥が飛ぶ姿が見える。
- 16 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:44
-
「なーーんもなか」
れいなは退屈そうに頬杖をつく。
「当たり前や、こんな時代に最新のものなんかあるか」
裕子は呆れたように呟く。
当たり前のことを言われては次の言葉がでない。
仕事以外めったなことを口にしない裕子である。
いろいろと話しかけようとはするが、そのオーラに圧倒されてなかなか話し出せない。
口をつくのは仕事のことばかり。
「それにしても・・」
れいなは裕子の行動にふと首を捻る。
そろそろ仕事の話が出てもいい頃だ。
仕事を始めた当初はもっと早くから聞かされていたが、最近はこの時間である。
あれこれ先入観を持たないようにするのが目的であるが、それにしても遅い。
だんだんとじれったくなる。
- 17 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:44
-
「裕子さん、今回はどんな仕事?」
れいなは聞いてみた。ただ、忘れているかもしれない。
「・・・・」
裕子からの返事はなかった。
「ねぇ、答えて!」
度重なる質問にも裕子は口を閉ざしたまま。
「また、れいなには手が負えん事件ってこと」
舌打ちをすると頬を膨らませる。
裕子が何も言わないときは決まっていた。
まだ一人前とみてもらえないもどかしさに苛々は募るばかり。
しかし、文句は言えなかった。
自分勝手な行動して死にかけたところを裕子に助けてもらったこともあるからだ。
- 18 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:45
-
砂浜が間近に迫っていた。
どことなく裕子の顔が暗い。
何かを隠しているのは間違いなかった。
「裕子さん、何か隠してませんか?」
れいなは思いを言葉にする。
「しょうがないな・・」
裕子は胸元から一枚の写真を取り出すとれいなに向かって投げつけた。
「さて・・・これは!!」
れいなの顔色が変わる。
その写真には見覚えのある顔があった。
「今回のターゲットや」
裕子の冷たい声が響く。
れいなは動揺が隠せない。
まさか自分の知ってる人間だとは・・
この仕事をやるときに覚悟はしていたはずだった。
初めてのことに首を振って、自分を落ち着かせようとする。
「ここで待ってるんや」
裕子の冷静な声が耳に届く。
- 19 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:45
-
裕子は舟から降りると一人歩き出した。
ポツポツと延びていく足跡。
一番緊張する瞬間でもある。
舟を降りれば、そこからは自分の力だけで自分の身を守らなければならない。
裕子はイヤホンを耳にセットし、胸元のマイクのスイッチを入れる。
手には伸長自在の鞭が握られていた。
これが裕子の唯一の武器である。
- 20 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:46
-
ドンドン、ピーヒャラ、ドンドン、ピーヒャラ
にぎやかな音が聞こえてくる。
祭りでもやっているのであろう。
目の前に広がるのは多くの木々。
コンクリートのような無機質な建物はまったく見当たらない。
そのかわりに木やススキ、萱でできた建物が目に入る。
「こんな時代に来たいという奴の気がわからん」
最新の技術に慣れた裕子は考えられなかった。
確かに自然を楽しむ分には申し分ないが何もない。
だが、楽しむには娯楽がなさ過ぎる。
いや、文明の発達に慣れすぎただけかもしれない。
- 21 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:47
-
裕子はゴーグルを目にはめると村の中の様子を見る。
木綿の服を着た人々が中央の広場に集まっていた。
「呑気なものや」
何事にもスピードが求められる時代と違って、すべてがゆっくり動いているように見えた。
「行くか!」
裕子の目的地は別のところにあった。
もっと多くの人々が集まる場所。
屈強な兵士たちがもっとも多くいる場所。
裕子はひときわ大きな建物へと向かう。
厳重な柵の中には大きな宮殿らしき建物があった。
また、物見櫓には複数の兵士が周囲を監視している。
裕子は目立ちように進んでいく。
「卑弥呼の召使いとってもこの時代やからな」
裕子は余裕の笑みを浮かべる。
この時代の武器はたかが知れている。
「裕子さん。私も行く」
後ろからの声に裕子は振り返りもしない。
ついてきた人間は一人しかいない。
「いいんやな?」
「道重さゆみは私が逮捕します」
れいなは力強く言い切った。
- 22 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:47
-
異質な侵入者の発見に宮殿は大騒ぎとなっていた。
剣や槍を手にれいなたちに迫ってくる。
しかし、れいなたちは動じることなく進む。
20〜30Mほど近づいたときだった。
れいなは小さなボールを迫ってくる兵士の頭上に投げる。
ボールは兵士たちの頭上で大きな音ともに真っ赤な光を放つ。
見たこともない武器に兵士たちの足も止まる。
さらに、れいなはボールを投げ続ける。
れいなが投げたのは発光球。もちろん、殺傷能力はない。
この時代であるからこそ、脅威の武器に変わる。
宮殿の奥では慌しく人が動いていた。
白い髪の老婆が男性に囲まれながら出てきた。
その容姿から卑弥呼だとわかった。
その隣にはピンクの服を着た少女がいた。
この時代にはありえない服だった。
その少女は卑弥呼に一言二言声をかけられて出てきた。
- 23 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:48
-
「さゆ・・」
「れいながどうして?ここに」
お互いに名前を呼び合う。
それ以上、言葉はない。
すっと刀の柄を手にするれいな。
柄からは青い光のビームサーベルが伸びる。
「時代干渉罪により逮捕する」
れいなの右腕のTSGのマークが黄金に輝く。
さらに、左腕には赤の勾玉が光っていた。
「そっか、れいなは時空警備隊か」
さゆみはすべてを悟った。
- 24 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:48
-
周りにいたものはじっとして動かない。
見たこともない武器に恐れをなしていた。
火でもつけない限り、発光する刀なんて見たことない。
触らぬ神に祟りなし、そこだけは別世界だった。
- 25 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:48
-
れいなは言葉を続けた。
「さゆ、どうして?」
「旅行だったけど・・・実際に人が困っているのを黙ってみてられなかったの・・」
「でも・・」
「わかってたよ・・だけど、私にはできなかったの」
「そんな・・法律わかってるでしょう」
「ふん!!いい子ぶらないでよ・・
私の気持ちなんか知らないくせに!
人が死のうとしてたんだよ!助けてもいいじゃない!
黙って見てるなんてできないよ!
助けてあげたら、そのうち、この人たちと仲良くなってさ・・
お姫様でいられるならいいかなって思って・・」
さゆみはゆっくりと銃をれいなに向ける。
「もう帰ろう?」
「嫌だ!れいなを傷つけたくないの・・・黙って帰ってくれない」
「ううん、できない」
れいなは首を横に振る。
友達ならこのまま見過ごしてしまうところであろう。
だが、今は時空警備隊の一員である。
れいなに向けた銃がブルブルと震える。
「銃渡して」
れいなは落ち着いた口調で話しかける。
「嫌だ・・・来ないで!」
さゆみは人差し指を引き金にかけた。
あまりにも緊迫した空気に耐えられずに周囲が騒ぎ出す。
卑弥呼の周りにいた男たちが大声を上げた。
- 26 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:49
-
パーン
銃声が大空に響く。
「ごめんね」
さゆみはゆっくりと目をあけた。
「れいなは・・・」
いるはず場所にれいなの人影はなかった。
次の瞬間、全身に電気が走った。
だんだん薄れゆく意識。
ぐっと唇を噛むれいなの顔が見えた。
「ごめん・・」
れいなはそっと刀をしまう。
気を失ったさゆみがゆっくりと地面に崩れていく。
「どうして、こんなことに・・」
れいなはゆっくりとさゆみの手を握る。
頭が良くて、常識も持っていたはずである。
歴史を変えることがどんなことになるかはわかっているはず。
歴史を変えれば自分自身がなくなってしまうかもしれない。
そんな危ない橋をどうして渡ろうとするのか・・
心優しいといえばそれまでだったかもしれない。
- 27 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:49
-
ザワザワ、ザワザワ・・・
周囲が慌しくなってきた。
卑弥呼が何やら指示を与えている。
真っ赤に燃え盛る火の前で天を仰ぐ。
鬼道により天罰でも与えるつもりか・・
兵士たちもれいなたちを囲むために移動していた。
裕子はとっさに長さ10センチほどの缶を手にする。
「さて、ここにいるものは今までのこと忘れてもらうか!
手荒なことはできんし・・準備はえぇな」
「はい」
裕子の声にれいなはマスクをつける。
特別に開発された記憶喪失ガス。
そのガスを吸ったものは一定期間の記憶を失う。
未来との関わりはなくさなければならない。
それが時空警備隊の役目。
この作業ほど楽なものはない。
- 28 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:50
-
チャパ、ジャパ
波しぶきが顔にかかる。
潮風に髪がなびく。
自分たちがいる時代とは違って、潮の香りが強かった。
海面を見れば、かなり奥まで海中の様子が見えた。
本来の自然の海とはこういうものかもしれない。
任務を終えたれいなたちはあるものを待っていた。
「そろそろやな」
裕子は遠い海面を見つめていた。
- 29 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:51
-
ザパーーーーン
れいなの前には全長100Mほどの船が現れた。
衝突すれば、自分たちの舟が真っ二つになるのは間違いなかった
ウィーーーン
現れた船の側面の扉が開く。
「任務完了ご苦労様です」
裕子たちに敬礼する女性の姿が一人。
「こちらこそ・・」
現れた女性の指示により、さゆみの大きな船に運ばれる。
さゆみが運ばれるのを心配そうに見つめるれいな。
「付き添いたいなら、かまわんで・・」
裕子の言葉に、黙って首を振る。
「そうか・・人はわからん生き物や・・いくら親友や恋人といってもな」
禅問答のような言葉にれいなは黙って頷く。
さゆみの運び込みも終わり、あとは出航を待つだけだった。
「後は頼んだで」
「はい!そちらも気をつけて」
「あぁ・・」
さゆみを乗せた船は闇へと消えていった。
- 30 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:52
-
舟はゆっくりと青い海の上を進む。
そして、大きく渦を巻く闇の中へと進んだ。
- 31 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:52
-
「ふぅーーーー」
裕子は大きくため息をつく。
今回の件でれいなも少し成長したようだ。
しかし、これぐらいのことでゴタゴタしていては仕事はできない。
残酷なようだが、それが現実。
舟の縁に頬を寄せて眠る姿は何もしらない少女のようだった。
「いつまで続くか・・」
いつしか子供は親元を離れていく。
そのときまで教えられることはすべて教える。
それが生き抜く術になる。
ときより浮かぶ幸せそうな寝顔を見ては目を細める。
穏やかな寝顔は裕子自身の気持ちも穏やかにさせる。
- 32 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:53
-
れいなは束の間の休息を楽しんでいた。
遊園地になどに行って騒げるようなことはできない。
しかし、唯一この時間だけが自由になる時間。
このときだけが嫌なことを忘れることのできる時間だった。
しかし、そのほっとできるときもわずかしかない。
闇がだんだんと明るくなっていく。
青紫赤橙黄金銀と七色に輝く海。
れいなたちにとっては憂鬱な時間の始まりだった。
- 33 名前:壱の章 女王 投稿日:2004/12/12(日) 22:53
-
ひとすじの光が天から注ぎ込んできた。
「大丈夫やな?」
「はい」
裕子の言葉にれいなは大きく深呼吸をする。
光が舟を包み込むと舟はその場から消えた。
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 22:56
- >>13,14 名無飼育さん
感想ありがとうございます。
更新は1ヶ月に1回ぐらいになると思います。
更新までマターリと待っていただければと思います。
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 22:56
-
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 22:56
-
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 22:56
-
- 38 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:55
-
ザパーーーン
舟は青い海の上を進んでいた。
空には太陽が輝いていた。
しかし、晴れ上がった空に対し海は荒れ狂っていた。
舟は悪天候ももろともせずに進んでいく。
これが科学の進歩というものだろう。
- 39 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:56
-
「はぁ〜」
何も代わり映えしない景色に睡魔が襲ってくる。
昔の海はれいなにとって刺激が足りなすぎた。
頭がコクリコクリと上下に揺れる。
すべてにスピードが求められる時代と違って、呑気なものだった
- 40 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:56
-
「こら、起きろ」
「は、はい」
裕子の声が響く。
れいなは腫れたまぶたをこすりながら、投げ出された資料に目を通す。
「藤本美貴ですか」
「あぁ、神になり変わろうとする奴や」
「そうですか・・・」
れいなは裕子の言葉に頷きながら、ページをめくっていく。
神なんて自分には遠い存在だと思っていた。
一度もなろうなんて考えてなかった。
目の前に見える砂浜。
その奥は砂漠が広がるだけで何もない。
また、空を見上げれば白い雲だけでたまに鳥が飛ぶ姿が見える。
退屈な景色にあくびが出る。
自然だけ見ていても面白くない。
- 41 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:57
-
「今回は見学でええな?」
「嫌です」
裕子の申し出に首を振る。
「神を目指す奴や・・無理や」
「大丈夫です」
れいなはまっすぐに裕子を見つめていた。
「死んでもしらんからな」
裕子はぶっきらぼうに答えるとれいなに小さな箱を投げ渡す。
「これは・・」
「新しい装備や」
れいなは箱を開けると指輪が入っていた。
「どんな装備ですか?」
「説明書に書いてある」
裕子の声に渋々と説明書に目を通す。
- 42 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:57
-
ジャパ、ジャパ
裕子とれいなは舟を降りると川沿いを歩いていく。
ところどころに緑があるだけで後は砂漠が続く。
こんなところに人が住んでるとは思えなかった。
しばらく歩くと悪臭が鼻をつく。
死体がところどころ転がっていた。
折れた剣や矢が散らばっていた。
戦が頻繁に起こっているというのは嘘ではなかった。
- 43 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:58
-
こめかみから汗が流れる。
砂漠とあって陽射しがきつい。
また、地面からの熱波が体力を奪っていく。
いくら最新の服とはいえ暑さを簡単には防げない。
できることなら、服を脱いでしまいたい気分だがそこまではできない。
1時間ほど歩くと街が見えてきた。
見張りの兵士の姿も見える。
れいなたちは隠れるそぶりも見せることなく歩いていく。
「めんどくさ・・」
れいなはブツブツと言いながら、ゴーグルとイヤホンをセットする。
昔の外国語さえも変換する翻訳装置。
学校で英語を習っていたのが馬鹿らしく思えた。
- 44 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:59
-
見慣れぬ姿のれいなたちに容赦なく襲ってくる兵士。
しかし、れいなたちは動じることなく対応する。
残ったのは気絶した無数の兵士。
裕子の横顔はどこか不機嫌な感じだった。
れいなたちは街の中を歩く。
そこは石で作られた建物が並んでいた。
そして、道路の横にはこの世にあるはずがない女性の像が立っていた。
肩ほどまで伸びた髪にアーモンドのような瞳。
少しつりあがった目じりにきりっとしまった口元が気の強さを示しているようだった。
- 45 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 20:59
-
「あれ?ライオンの像は?」
れいなは何かを探すかのように背伸びをする。
しかし、目的のものは見当たらない。
「ロンドンで見たものが実際に見れると思ったんだけど」
れいなは複雑な思いだった。
「それが、あいつのなりたかったものや」
裕子は淡々した口調だった。
れいなの探していた像とはセクメト女神の像だった。
一度行ったロンドンの大英博物館で見たライオンの頭を持つ女性の像が印象に残っていた。
セクメト女神は紀元前の古代エジプトの新王国時代にルクソールで信仰を集めていた。
セクメト女神は太陽の神ラーが自分を信仰しない人間を抹殺するために生み出したもので
ある。ただ、予想を超えた力強さに作ったラー自身も手を焼き、神々は酒を飲ませて酔わ
せた上で一部の力を封印したほどの実力だった。また、病から救う神として敬われた。
この新王国時代にセクメト女神の像ではなくかわりに見知らぬ女性の像が立っていた。
つまりその女性、藤本美貴はセクメト女神と同様の力強いというのである。
- 46 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:00
-
「ぜんぜん合ってなか・・」
れいなは美貴の像を破壊しながら進む。
当然、住民や兵士の猛反対を受けるが関係ない。
歴史を変えるわけにいかない。
最新の機器を使えば、この世界なら一人で支配も可能だ。
未来人が古代人の神になるなんてあってはならない。
れいなたちは街の中心にある神殿へと向かう。
最新技術ならいきなり神殿に行くことはたやすい。
しかし、歴史のほころびは一つ一つ直さなくてはいけない。
何がどう影響するかは誰もわかっていない。
一つ間違えば、自分の存在さえなくなってしまうかもしれない。
そして、そのほころびが直ったかを確認するのは自分自身。
確認を怠れば、未来に影響するのは必定。
- 47 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:01
-
神殿までは簡単に行くことができた。
この時代の武器はたかが知れている。
古代人にやすやす最新の武器を与える馬鹿はいない。
神殿の中を進むれいなたち。
猛烈な抵抗も一瞬のうちにおさまる。
いくら屈強な男でもれいなたちの相手にならなかった。
神殿の奥に王と思われる男の姿と女性の姿があった。
女性は白い衣装を着ていた。金の杯を右手に酒を飲んでいるようであった。
- 48 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:02
-
れいなは一人で美貴に歩み寄った。
「藤本美貴、時代干渉罪により逮捕する」
れいなの右腕のTSGのマークが黄金に輝く。
さらに、左腕には赤の勾玉が光っていた。
「ふっ・・やっぱり来たのね」
美貴の目元が釣り上がっていく。
予測していたのだろう、腰には武器らしきものをつけていた。
「全員、引いて」
美貴の言葉に戦闘体制に入って兵士たちは壁沿いに並ぶ。
王と思われる男もその場を離れる。
「そこじゃ、危ないよ」
美貴の声に兵士たちは少し離れた広場まで下がった。
- 49 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:03
-
「ふん、捕まるところを見られたくなかか・・」
れいなは美貴を逮捕するために近づこうとした。
「違うわ・・巻き添えにならないようにするため」
美貴は50cmほどの棒を右手に持っていた。
グーーン
棒は2Mほどに延びて、片側には光る刃が現れた。
俗にいう薙刀だった。
この時代のエジプトには存在しない武器。
「オォーーーー」
美貴の勇姿に盛り上がる兵士たち。
美貴を応援する声が天高く響き渡る。
破滅の女神が現れた瞬間だった。
「ならば、その姿をぼろぼろにするけんね」
れいなはビームサーベルを手にする。
「おぉ・・」
れいなのビームサーベルの輝きに思わず兵士から驚きの漏れる。
美貴以外に光る武器を手にしたものを見たことがない。
- 50 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:03
-
「あんたの手下もたいしたことなかね」
「減らず口はそれくらいにしな」
れいなと美貴はだんだんと距離を狭めていく。
れいなは左足を前に、サベールを中段に構える。
美貴の動きを冷静に見つめる。
一気に美貴の懐に飛び込んで決める以外にない。
しかし、肝心の隙がどこにもない。
美貴の薙刀が届くか届かないかギリギリのところでれいなの足は止まっていた。
「ふーーん、さすがTSGのことだけあるわね」
美貴はにやりと笑ってみせる。
れいなは怪しげな様子に半歩後ろに下がる。
- 51 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:04
-
「いくらTSGといってもそこまで・・
美貴に勝てるわけがない」
美貴は地を斬るように薙刀を一閃する。
薙刀の刃からは数閃の光が放たれた。
「うっ」
れいなは光を避けるように右に跳ぶ。
パラパラ・・・
数本の髪の毛が風に舞う。
肝を冷やした瞬間だった。
- 52 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:05
-
「まあまあね、次はどうかしら」
薙刀から次々と光が放たれる。
れいなは避けるだけで精一杯な感じだった。
美貴は遊んでいるような感じだった。
兵士たちは美貴の実力を改めて思い知った。
破滅の女神の意味が蘇ってくる。
「くそっ」
れいなは思い通りに苛立ちを感じていた。
また美貴の実力に焦り始めていた。
「そろそろ、終わりにしましょう・・
本当に厄介なのは後ろの方のようですから」
美貴の目が一段と鋭く変わる。
- 53 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:06
-
「甘くみんな!」
れいなは下段に構える。
誰がいるか見なくてもわかる。
ここで裕子の手を借りては意味がない。
「はぁーーーーーーー」
れいなは一気に美貴のもとに駆ける。
「頭に血が昇ったようね」
美貴は薙刀を振るう。
ガシッ
ビームサーベルと薙刀がぶつかり合う。
光が四方八方に散らばる。
周りにいたものは一瞬視力を奪われる。
「やるね・・」
「こんなところで負けるわけいかん」
互いに見つめあう。
「美貴を本気にさせたようね・・・はぁぁぁーーー」
「きゃっーーー」
美貴の押す力にれいなは倒れこむ。
体力勝負では明らかに美貴が勝っていた。
- 54 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:07
-
「さよなら、子猫ちゃん」
美貴は力一杯薙刀を振り下ろす。
「シールド!!」
れいなは左手首につけられたブレスレットをかざす。
キーーン
甲高い金属音とともにブレスレットが地面に落ちた。
「そんなもの持ってたの・・でも、それも最後ね・・」
美貴の言葉にれいなはぐっと睨む。
「死ね」
再び薙刀が振り下ろされる。
ガツン
鈍い音が響く。
「ふぅーー、往生際が悪い」
床から刃を引き抜くと再びれいなに狙いをつける。
何とか美貴の攻撃を避けたれいなは肩で大きく息をしていた。
最後かもとれいなは覚悟を決めた。
美貴から視線を一瞬外すと裕子に視線を移す。
裕子は表情を変えずに成り行きを見ているだけだった。
- 55 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:07
-
左手で額の汗を拭う。
数分しか戦っていないのに1時間ほど運動したぐらいに汗をかいている。
死にかけたときのことが脳裏にフラッシュバックする。
それらの思いを消し去るように頭を振る。
冷たい感覚が額に走る。
れいなは左の中指にはめた指輪のことを思い出した
- 56 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:08
-
「いい加減にしなさい!」
薙刀が大きく弧を描く。
「スターダスト・シールド!」
れいなは指輪をかざす。
無数の光球の壁がれいなの前に現れる。
ガッ、ガッ、ガッーー、ピカッ
薙刀と光球の壁が激しくぶつかり合う。
バキッバキッ
美貴の薙刀が粉々に崩れ去る。
「目が・・目が・・」
薙刀と光球の壁がぶつかったときの強い光で美貴の目は一時的に視力を失った。
「ここだ!」
ビームサーベルが美貴の体を一閃する。
ドサッ
美貴はそのまま地面に崩れ落ちる。
- 57 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:08
-
「はぁ〜、はぁ〜」
れいなもそのまま肩膝をついた。
息は乱れたままだ。
最後の力を振り絞って、美貴に手錠をかけた。
バタン
思わず仰向けに寝転がる。
これほど疲れた仕事は初めてだった。
10分足らずの仕事が何時間にも感じた。
- 58 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:09
-
「わぁーーーーーー」
戦いを見ていた兵士は美貴を助けに動き出した。
れいなには動く力は残ってない。
終わりだと一瞬思った。
バシッ、ガガガガァーーーー
ザーーーーーン
激しく床が崩れ去る音に兵士の動きが止まる。
裕子の鞭だった。
何度も宙を舞う鞭に動こうにも動けない。
この時代では考えられないほどのスピードと破壊力。
美貴以上の迫力に兵士たちはより現実的な破滅を悟る。
- 59 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:10
-
動けなくなった兵士を見て、裕子はとっさに長さ10センチほどの缶を手にする。
「さて、ここにいるものは今までのこと忘れてもらうか・・
手荒なことはできんし・・世話の焼ける奴や」
裕子は倒れているれいなにマスクをつける。
栓を抜くとガスがあたり一面に充満する。
次々と倒れていく兵士たち。
特別に開発された記憶喪失ガス。
そのガスを吸ったものは一定期間の記憶を失う。
未来との関わりはなくさなければならない。
それが時空警備隊の役目。
この作業ほど楽なものはない。
- 60 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:11
-
チャパ、ジャパ
波しぶきが顔にかかる。
舟の縁に体を預けたまま動こうとしない。
全身を覆う疲労感にぼんやりと海面を眺めるだけ。
知らぬうちに再び眠りにつく。
舟はその場でぷかぷかと浮かんでいた。
任務を終えたれいなたちはあるものを待っていた。
- 61 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:12
-
「やっと来たか」
裕子は遠い海面を見つめていた。
ザパーーーーン
全長100Mほどの船が現れた。
ウィーーーン
現れた船の側面の扉が開く。
「任務完了ご苦労様です」
裕子たちに敬礼する女性の姿が一人。
「こちらこそ・・」
現れた女性の指示により、美貴は運ばれる。
美貴の運び込みも終わり、すぐさまに出航する。
「後は頼んだ」
「はい!気をつけて」
「あぁ・・」
美貴を乗せた船は闇へと消えていった。
- 62 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:13
-
舟はゆっくりと青い海の上を進む。
そして、大きく渦を巻く闇の中へと進んだ。
- 63 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:13
-
「ふぅーーーー」
裕子は大きくため息をつく。
れいなはずっと眠ったまま。
相当疲れたのだろう。
この場所が唯一何かもを忘れることをできる場所。
今回も一つの階段にしかすぎない。
いずれ眠りたくても眠れない場面もくる。
かつて体験したように。
今まで以上の悲惨な場面が待っているのは確実だ。
美貴が破滅の女神になろうとしたことは逆にかわいいことかもしれない。
コクリコクリとれいなの頭が上下する。
ときより浮かぶ幸せそうな寝顔を見ては、裕子は目を細める。
人の嫌な部分を見続けるだけに、無邪気な顔は心を落ち着かせる。
- 64 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:14
-
「ふはぁ〜」
れいなは目を覚ました。
全身が筋肉痛でちょっと動いただけでも痛みが走る。
しかし、のんびりと痛みを感じている暇はない。
闇がだんだんと明るくなっていく。
青紫赤橙黄金銀と七色に輝く海。
れいなたちにとっては憂鬱な時間の始まりだった。
- 65 名前:弐の章 抹殺の女神 投稿日:2005/01/03(月) 21:14
-
ひとすじの光が天から注ぎ込んできた。
「大丈夫やな?」
「はい」
裕子の言葉にれいなは大きく頷く。
光が舟を包み込むと舟はその場から消えた。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/03(月) 21:16
- 新年おめでとうございます。
駄作でありますが、
今年もお付き合いください。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/03(月) 21:16
-
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/03(月) 21:16
-
- 69 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/03(月) 21:17
-
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/11(月) 09:40
-
- 71 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:34
-
ザパーーーン
舟は黒い海の上を進んでいた。
空は黒い雲に覆われていた。
それに呼応するかのように海は荒れ狂っていた。
舟は悪天候ももろともせずに進んでいく。
一昔前なら絶対に航行できないほどの嵐にかかわらず。
- 72 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:34
-
「はぁ〜」
れいなは海を見ながら退屈そうにため息をつく。
頭がコクリコクリと上下に揺れる。
たまに振り返れば、目を閉じて何かを考えていそうな裕子がいる。
その裕子のオーラのせいか、れいなはなかなか言葉をかけられない。
出てくるのは仕事のことばかり。
今度の仕事が終われば、1週間の休みになる。
この仕事に週休などという概念はない。
元々時代を行き来する仕事だけにそんなものは関係なかった。
死と隣り合わせの仕事だけに気分転換ができる休みは重要である。
れいなは休みを楽しみに次の仕事の準備をしていた。
- 73 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:35
-
「中澤さん・・」
れいなが今度の仕事のことを聞こうとしたときだった。
警報音が激しく鳴り響く。
「緊急事態・・至急XXXX年XX月XX日 場所YYYY」
パネルには赤の文字が浮かび上がる。
「なんや・・・」
裕子の眉間にしわがよる。
「何があったんだろう」
れいなは首を傾げる。
だが、現実に戻ると憂鬱な気分だった。
休みが先に伸びてしまうのだった。
緊急性が求められる仕事だけにしょうがないことである。
だが、2ヶ月間も働き通しでは参ってしまう。
れいなは切れそうな気持ちを抑えながら、気持ちを切り替えていた。
- 74 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:35
-
「着いたで」
「はい」
れいなはゆっくりと目を開ける。
そこは見慣れた世界だった。
時代はれいながいるはずの時代から20年ほど古いときだった。
「田中、今回は手を出すな!」
「ど・・」
れいなはそれ以上言葉がなかった。
今までにないぐらい怖い目をしていた。
普段から怖いのは当然だが、それ以上に殺気みたいなものが体中を駆け巡る。
TSGの中でもっとも恐れられる女、それを実感した瞬間だった。
- 75 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:36
-
TSGはもちろん時間を超えて旅行するものは一つの決まりがあった。
過去の歴史を変えてはならないということだ。
そのため、一般旅行者は少なくとも300年以上前の過去にしか行くことができなかった。
これは、過去の影響が旅行者自身に直接及ばないようにするためである。
科学技術の進歩とともに平均寿命も一段と延びた。
それとともに過去へのかかわりを避けるようにその年数も伸びっていった。
TSGについても同じである。
それぞれの仕事はなるべく関係の薄いものがあたっていた。
科学の進歩がもたらした皮肉ともいえる。
- 76 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:37
-
「ふぅ・・・」
裕子はパネルに映し出された名前を見てため息をついた。
そして、一瞬見せた裕子の寂しげな表情。
れいなはその瞬間を見逃さなかった。
- 77 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:37
-
裕子はゆっくりとゴーグルをつけ、左手に鞭を持った。
「中澤さん、相手は最新式の武器を持ってるんですよ!
その旧式じゃ、捕まえられませんよ」
「えぇんや・・
これがこの時代に適した武器なんや」
裕子は淡々と準備を進めていた。
れいなはそんな裕子の姿が不安でしょうがない。
かつての悪夢が脳裏をよぎる。
決して忘れることのできないこと。
「中澤さん・・・」
「心配は無用や」
裕子は笑ってれいなの頭をポンポンと叩いた。
- 78 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:38
-
れいなは裕子の後をついていく。
何か嫌な予感がして、気が気でない。
相手は最新鋭の武器である異次元銃を持っている。
強烈な磁場を作り出して、そこに異次元の入り口を作る。
相手をその異次元へと追いやるのである。
この銃の目的は強力な武器を持つ犯罪者に対するものであった。
犯罪者の武器は細菌、核など多様化していた。
下手をすれば、すべての歴史を変えかねない。
それをさせないための武器だった。
- 79 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:38
-
「中澤さん・・」
れいなは不安を口にせずにはいられない。
「・・・・」
裕子は無口なまま。
「保田さんがどうして?」
「わからん」
裕子の表情は変わらない。
保田こと保田圭。TSGの武器等の技術開発者である。
その技術は誰もが認めていた。
ただ不器用な面もあり、そのせいで他の同期に比べると昇進は遅かった。
また、他にもいろいろと不遇され続けた面もあった。
今回の緊急事態はそんな圭の不満が爆発したものだった。
今までの不遇を避けるべく、行動を起こしたのだった。
最高の技術を持つものの反抗はTSG内に衝撃をもたらした。
- 80 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:39
-
れいなと裕子はあるビルへと近づく。
「ちょっと、ここにいてな」
裕子は2,3歩前に出ると鞭を振る。
鞭の動きとともに激しい爆音が鳴り響く。
裕子は爆発がおさまると再び歩き出した。
「圭ちゃん、姿現したらどうや」
「さすがだね」
裕子の前に圭が現れた。
「もう1回考え直したらどうや?」
圭は首を横に振る。
「そうか・・今なら間に合う」
裕子の言葉に圭はびくともしない。
- 81 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:40
-
「こんなことしても、圭ちゃんには特にもならんで」
「もういいの!もう嫌になったの!
いくらいいものを開発しても何も報われない!
他の人ばかり、昇進して・・・
私はそのまま・・・」
「でも、圭ちゃんの力は誰もが知ってる」
「いい加減にして・・こんな扱いは耐え切れない!
他にも言いたいことはたくさんあるけど、誰も聞いてくれないだろうしね!
ここにいても、これ以上私は・・」
圭はぐっと唇を噛み締めた。
- 82 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:41
-
「そうか・・」
裕子は首を横に振る。
圭との付き合いは長い。
せめて自分の手で逮捕するのが救いにもなると考えていた。
裕子は右手をぐっと握り締める。
「圭ちゃん、悪いけど逮捕するで」
「しょうがないわ・・でも、私は捕まる気はないから
裕ちゃんでも容赦しない」
圭の視線は裕子に向けられていた。
裕子は圭の瞳にその確固たる意志を読み取った。
れいなには二人の間に割り込む隙間もなかった。
- 83 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:42
-
「裕ちゃん、ありがとうね
私が開発した鞭を使ってくれて
でも、これには勝てないよ」
圭は異次元銃を取り出す。
「圭ちゃん、残念や・・
でも、大事なこと忘れてるで」
「私は完璧!
誰も私を止められない!」
裕子は圭のほうへ走り出した。
圭は裕子に照準を合わせる。
「ごめん、裕ちゃん!」
圭は引き金を引いた。
黄金の光が裕子を包む。
「中澤さーーーーん」
れいなの悲鳴にも近い叫びが響き渡る。
がっくりと膝をつくれいな。
光の輪は裕子を包んだまま輝きを増していく。
裕子の姿はまったく見えない。
その光の輝きは最高潮を迎えようとしていた。
異次元銃の威力はすでに知っている。
- 84 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:43
-
圭の猫のような目がれいなへと向く。
「悪いけど、あんたにも消えてもらうよ」
圭はゆっくりとれいなへと近づく。
「くそっ!」
れいなはビームサーベルを取り出す。
銃は剣よりも強しと言われている。
能力の差は歴然としていた。
だが、このままあっさり殺されるのはごめんだ。
せめて一矢報いなければ、TSGの面子が立たない。
「さよなら、駆け出しのひよこちゃん」
圭が引き金に指をかけた瞬間だった。
- 85 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:43
-
バタン・・
力が抜けたように崩れ去る圭。
スローモーションを見ているようだった。
- 86 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:44
-
「裕ちゃん・・」
圭は薄れゆく意識の中で光の中にいる裕子の姿を見た。
れいなは信じられない表情でその様子を見ていた。
光の輪はだんだんとその輝きを失っていく。
異次元に飛ばされたと思った裕子がその場にいた。
- 87 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:44
-
「圭ちゃん、甘いで・・」
裕子はボロボロになった袖を破りながら、そっと圭に近づく。
「中澤さん、大丈夫ですか?」
れいなは裕子のもとに駆け寄る。
「あぁ、この通りや・・」
裕子は厳しい目で圭を見つめていた。
「しょうがないな・・・でも、成長しとったんやな」
裕子は悟ったかのように呟く。
れいなはその様子を黙って見ているしかなかった。
- 88 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:45
-
「お疲れ様です」
圭は後から来たTSGの部隊に引き渡された。
「さすがだね・・裕ちゃん」
裕子とすれ違う際、圭はほっとしたような表情で言った。
「圭ちゃんが完璧だったおかげや・・
まぁ、そのおかげで私は異次元に飛ばされずにすんだけどな」
「えっ・・・」
「気づいてなかたんか・・・この時代のことを・・・
いろんな規制が変わったのはこの年やで」
「あっ・・・」
裕子の言葉に天を仰ぐ圭。
「どこか抜けてるよな・・圭ちゃんは・・そこがいいんやけど
罪を償ったらは私の武器の開発を頼むな」
「・・・」
「最高の技術を持つ圭ちゃんにしか頼めんからな・・
不器用なところが唯一の欠点だけど・・
また、飲みに行こうな」
「うん・・・」
圭の頬には涙が伝わっていた。
- 89 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:46
-
「中澤さん、よく無事でいられましたね」
れいなは恐る恐る尋ねた。
「圭ちゃんがすごい技術者やったからや」
「保田さんがですか?」
「あぁ、あまりにも完璧なものを作りすぎたんや・・
この時代じゃなければ、完全に別世界に飛ばされとったけどな」
「そうなんですか?」
れいなには信じられなかった。
「まぁ、無理もないか・・不器用なのは皆知ってるからな・・
努力でその技術を獲得してきたからな・・
ただ、この時代にその武器が合わんかっただけや
この時代を境にがらりと環境が変わり始めたからな
この年じゃなければ、さよならやった」
裕子は昔話のように話してみせる。
れいなは裕子の様子に感心していた。
それが、裕子の裕子たる所以だろう。
- 90 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:47
-
「でも、人は何考えてるかわからんな・・
圭ちゃんがやるとは思ってもみなかったわ」
裕子はしんみりと呟く。
れいなはその言葉に黙って頷いた。
ふと裕子の顔を見ると、頬にうっすらと涙の跡が残っていた。
- 91 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:47
-
れいなは束の間の休息を楽しんでいた。
たった1日だけの休み。
だが、休みとはいっても頭から圭のことが離れなかった。
最新技術にとらわれることの危険性。
人々が隠している本音。
自分の立場だったらどうなるのか、答えを求めようににも答えがあるはずがない。
できることをやる。
れいなにはそれしかなかった。
- 92 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:48
-
れいなは再び仕事に戻った。
何も変わらない舟。
ゆっくりと進んでいく。
闇がだんだんと明るくなっていく。
青紫赤橙黄金銀と七色に輝く海。
れいなたちにとっては再び憂鬱な時間の始まりだった。
- 93 名前:参の章 運命の輪 投稿日:2005/04/17(日) 22:48
-
ひとすじの光が天から注ぎ込んできた。
「いいな!」
「はい」
裕子の言葉にれいなは大きく深呼吸をする。
光が舟を包み込むと舟はその場から消えた。
- 94 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 22:50
- 仕事が忙しくて、更新できませんでした。
普通なら、合間合間にネタが浮かぶんですが
そのネタさえも浮かばない状況でしたので
これからは、もう少しだけ早く更新できるようにしたいと思います。
- 95 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 22:50
-
- 96 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 22:51
-
- 97 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 22:51
-
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