放浪者達の序曲
- 1 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/11/30(火) 05:57
- 皆様だらだらとお付き合いください・・・
このスレを読むときの注意
・基本はなちごま
・場面によって主人公が変わりますので紛らわしいですが御容赦ください
(一応主人公の二人は一人称・その他は三人称で語られます)
・変則的ですが男が出ます
(黒板に立てようかと迷いましたが、恐らくこちらで規則に抵触することは無いかと)
・繰り返しですが基本はなちごま
- 2 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/11/30(火) 05:58
-
「カオリ・・・圭ちゃん・・・」
彼の地は辺境の街ではあったが、女神の祝福を受け、古くから信仰の篤い門前町としての歴史があった
「騎士団もやられたのか・・・なんで・・・なんでこんなことに・・・」
しかし、街は焦土と化し、付近一帯には人の気配がない
「みんな・・・みんな何処に行っちゃったんだよぉ・・・」
無残に崩れ落ちた家屋、惨たらしく焼け焦げた死体、目を覆いたくなるような光景が街の外れまで広がっている
「・・・・!これは」
この地は国境近くの為に、隣国の来襲も考えられた。山賊・野党の類の線も在りうるだろう
- 3 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/11/30(火) 05:59
- 「これは・・・牙?」
しかしながら、比較的無事な家屋の中を探ってみたところ金品・食料の類は奪われた形跡はなく、そのまま残っていた。
隣国の侵略だとしても何名かの兵士を駐留させておくのが定石だろう
「まさか人じゃないのか・・・でも・・・」
そして何より不可解なのが、幾つかの死体は犬歯が牙の様になっており、耳も上部が大きく尖っていた。
そしてそれらの死体には頭部をはじめ至る所に穴が穿たれており、それが致命傷となったと考えられる
「この人は・・・確かに裁縫屋の・・・」
槍や弓矢による貫通の痕ではない、何体かの傷の周囲には少し皮膚が焼け焦げたような形跡が見られる。
「くっ、もう何がなんだか・・・」
何にせよ数日で一つの街の住人が死に絶えたというのは考えにくい、まだ煙がくすぶっている。
惨事が起こってからまだ数時間しかたっていないだろう。私は付近一帯の生存者の捜索を続ける事にする。
その際、私に何かがあったときのことを考え、こうして手記を残しておくことにする――
廃墟となった街のはずれの壁に貼り付けてあった辺境の神殿騎士・矢口真里の手記
- 4 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/11/30(火) 06:02
- あなたは何をやらせてもダメね・・・
私だってなりたくてこうなったんじゃないッ!
んぁ〜・・・喧嘩はやめなよぉ〜
- 5 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:03
-
第一夜 黄昏前奏曲
- 6 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:04
- 矢口が帰還する4日前――安倍なつみ
人里離れた雪深い山奥の、それでいてこの場所には不釣合いな位大きな修道院。
そこにある庭園の木陰に私は人目を避けるようにして一人ぽつん、と座り込んでいた。
「今日もまたやっちゃったなぁ・・・」
思わず声に出る。
「同期の子達はみんなどんどん出世して、隊長クラスにまでなっているのに・・・」
右手で近くに生えている草をぶちっとむしり、パラパラと放る。
「これじゃ、親の七光りと言われても無理ないね・・・」
自嘲的な笑みが浮かぶ、口元は笑っているのに・・・目からは涙が溢れてきた。
昼下がりの庭園、私の憂鬱な気分など知ったことではないと言う風に、真っ白な鳩が空を行き交っていた。
- 7 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:05
- 私の名前は安倍なつみ、みんなからは「なっち」って呼ばれている。
安倍家は代々騎士の家柄で、私には男兄弟がいなかった為に、長女の私が男子禁制の『神殿騎士団』に入隊することになった。
我が家のしきたりとして1代に一人は騎士を輩出しなければいけないらしい。
神殿騎士団の主な役目は、この修道院にいる『託宣の巫女』を護る事、それに門前町となっているこの町の警護かな。
『託宣の巫女』ってのは神に“直接”仕える女性のことで、神様からのお告げを受けるえらーい方。
大昔に神様から先見の能力を受け継いだといわれる血筋の方なんだって。
修道院の奥の間にいつも居てお目に掛かることが出来ない。取次ぎが出来るのは神官長様だけ。
季節の変わり目に王都から大臣がそのお告げを伺いに来る。
春先の今回もお告げがあって、その使者になっちが選ばれた・・・んだけど・・・・。
- 8 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:05
- 「はぁ〜・・・道間違えて帰ってきたなんて・・・」
がっくりと頭を垂れる。春の訪れを予感させる暖かい風が髪の毛を揺らす。
こんなに空は晴れ渡っているのに、私の心は曇り空だった。
- 9 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:06
- 「へへへ、お嬢さん。そんなところでナニしてるのかなぁ〜♪」
不意に背後から掛けられたおっさん臭い言葉。
無論男子禁制の修道院にオッサンなんて居る訳がない。
「ヒマだったらお茶しよ〜よ、ね。なっちぃ♪」
「ごっちん・・・・」
「ごとぉ〜も今勤務終わって帰る所だから、ね、ね。」
顔をあげると神殿騎士団の隊長クラスの者にしかその着用を許されない白い鎧に包まれた姿が眼に映る。
「カオリンが探してたけど、また何かやらかしたんでしょ?怒られる前に作戦会議しよ〜よ」
にへらっと無邪気に笑うと、セミロングの茶色い髪の毛が風に揺れた。
- 10 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:10
- 「へぇ〜、それじゃなっちは方向間違えて戻ってきちゃったんだぁ〜」
「うん・・・・」
昼下がりの門前町の小さなカフェ、仕事を早めに終えた職人たちが集まるにはまだ早い時間らしい。
私とごっちん以外は客の姿はなかった、主人がヒマそうにグラスを磨いている。
「でもさ、なっちが出て行った後にやぐっつぁんも同じような文書持って王都に向かったよ?」
そう言ってごっちんはカップを持っていない手で机の脇に置いた未開封の文書をつんつんつつく。
「ああ・・・やっぱり・・・」
私はがっくりとカップを下ろし、小さく溜息をつく。
「信用されてないんだなぁ・・・カオリにも」
「あったりまえじゃん!カオリンとなっちの仲が悪いのなんてみんな知ってるよ」
ごっちん・・・言い過ぎでないかい?
「だいたいなっちはぁ・・・イデ」
こっちの気も知らずにあっけらかんと続けるごっちんの脛を軽く蹴飛ばしてやった
- 11 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:11
- 『カオリ』というのはこの町に配属された神殿騎士団長を勤める同い年の女性。
私と2日しか生まれた日が違わないのに、ずっとずっと大人っぽくてしっかりしてる。
強力なリーダーシップとその凛とした佇まいから騎士団内部での信望も厚く、街の人々からの人気も高い
- 12 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:12
- 「まあまぁ、カオリンも悪気があってした事じゃないし」
ごっちんはそう言ってフォローしてくれるが、「同い年の騎士団長に叱られる」というのはかなりキツイ。
「も〜!き〜てる?なっち!」
「ふぅん・・・・」
項垂れたままさらに溜息を一つ。
- 13 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:13
- 「だからこうやって作戦会議してるんでしょ?どうやって言い訳したらいいか、って」
「ああ・・・そうだったねぇ・・・」
「ごとぉ〜は別になっちとイチャイチャしたかっただけじゃ無いんだから!」
「ちょっ・・・ちょっとごっちん!声が大きいよ・・・」
ごっちんの声が大きくなったので小声で諌める。
・・・そう、私とごっちんは恋人同士、女しかいない修道院では珍しいことじゃなかった。
王都から離れた田舎町の修道院、二重に隔離された環境では全ての価値が異なっていた。
素敵な異性との接触を禁じられた代償は道ならぬ恋。
神様の下で公然と行われる不道徳。
- 14 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:14
- 男前で剣術の腕も若手ではトップのごっちんも相当人気があるらしく、私も周囲の羨み・妬みの視線をよく浴びる。
他の人が私の陰口を言っているのをたまに聞く事がある。
やっぱりあれこれ言われるのは辛いけど、ごっちんが心の支えになって今までやってこれた。
性別は一緒だけど、私はごっちんが本当に好きでごっちんも私のことを愛してくれている。
でも・・・やっぱり支えられっぱなしじゃいけない、とは思う・・。もっと強くならなくちゃ・・・。
- 15 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:14
- 周りに何も言われなくなる力を・・・
愛する人を守ってあげられる力を・・・
神様、道に背いた私にはムシのいいお願いだとは解っています!
それでも、私に力をお与え下さい。
- 16 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:15
- 結局ごっちんとはたいした対策も立てずに、お喋りをして過ごしてしまった。
だってごっちんの立てる対策といえば・・・
「とにかくぺこぺこ謝ってさ、許してもらっちゃいなよ。カオリンだって解ってくれるって♪」
だけだし・・・。
はぁ・・・他人事だと思って、気楽に言ってくれちゃうよ。
カオリにぺこぺこ謝るのなんて日常茶飯事、頭を下げた回数の方が剣を振るった回数より確実に多いね。
- 17 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:16
- 「でねぇ、なっちぃ!この前街で聞いた噂なんだけど・・・・」
「うん・・・うん・・やれやれだべさ・・・」
思わず訛りが出てしまうくらいごっちんはマイペース、今噂の町外れにある幽霊小屋の話を始めてる。
「その廃屋、昔は腕のいい鍛冶師が住んでたらしいけど、流行り病で亡くなって・・・」
「・・・・(ごくり)・・・」
ついつい聞き入ってしまう。
楽しそうに目を輝かせて話すごっちんを見てると、カオリの青筋の浮いた顔なんてどっか行っちゃうよ。
- 18 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:17
- 「・・・・生涯最高の剣を打ち上げる為に夜な夜な幽霊がトンテンカンテン・・・」
ごっちんはそう言って鉄鎚を振り下ろす真似事をする。
(ああ〜やっぱ可愛いなぁ・・・こんな妹が欲しかったよぉ)
その仕草が可愛らしくて、怖い話のはずなのに思わず顔がほころんじゃう。
まあ・・・妹って言うより・・・恋人なんだけどね・・・
- 19 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:17
- 「ええ〜うっそだぁ!そんなわけないって〜」
「あはっ♪なっちやっと笑ったねぇ。そうそう、なっちは笑顔が一番!」
ごっちんも私につられたのか笑顔に。
気を利かせてわざと明るくなるような(?)話をしてくれたんだねぇ。やっぱごっちんは優しいべ。
- 20 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:18
- そんな私の心を察したのか
「ん〜。でもこの話マジっぽいよ」
「へ?」
「だって、裁縫屋のみちよさんも言ってたもん。『あそこの廃屋で火の玉を見た』って」
ごっちんは急に真面目な顔に戻って話を続ける。
「え〜、でもそんなのねぇ〜。王都にいた頃に一杯その手の話聞いたけど全部ウソだったよ?」
「んふ♪なっち怖いんだぁ〜!」
随分とぬるくなってしまったハーブティーを口にしながらごっちんに答える。
こっちの表情を伺いながらごっちんは上目遣いに『にやり』として大声を上げた。
- 21 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:19
- 「じょ、冗談を言ってはいけないべさ!なっちはこう見えても神殿騎士だべ!幽霊なんぞにビビっていては騎士失格だべさ!」
強がってみたものの、正直その話が本当なら怖いに決まってる、だって相手は幽霊だよ?死んだ人なんだよ?
怖くないわけないじゃん!声が上ずった私にごっちんはすかさず笑顔で提案した。
「じゃあさ・・・今晩そこにデートしよ♪」
「ええっ!何でそういう流れに・・・」
「ん〜ホラ、町の人の安全のためにもさ、パトロールついでになっちとイチャイチャ計画ぅ〜」
「・・・・・」
はぁ、結局ごっちんはイチャイチャしたかっただけなのかい?
落ち込んでるところを慰めてくれたんじゃなかったんかい?
- 22 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:21
- 「いけないよごっちん、なっちはやらなくてはいけない事が山積みっしょ」
「そうそう、よくわかってるわね」
「ん?」
「ふぇ?」
どっかで聞いた声を後ろに聞きカウンターの方へ視線を向ける。
そこには・・・・
「げ・・・・」
「んはぁ〜・・・」
「あんた達の声は大きすぎね、表を歩いてて丸聞こえだったわ」
顔に微笑を湛えた(目は笑ってない)我らが騎士団長様の姿があった。
「ああ、ご主人ワインを頂戴。不祥の部下をこっぴどく叱るからのどが渇くと思うの」
日暮れていく町並み、店内のランプに照らされたカオリのシルエットには角が見えていた・・・
- 23 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:22
- (●´ー`)<第一夜 終了
- 24 名前:第一夜 黄昏前奏曲 投稿日:2004/11/30(火) 06:27
- と言うわけで自スレを立てるのは初めてでかなり緊張しました
見てくれる人はいるのかかなり不安ですが、潜在読者500人を信じて頑張ります
読者様、管理人様、お世話になります。
小心者につき落としましたが、レス(つくかは不明(;´Д`))はage・sage拘りませぬ。
それと最初に書き忘れたお約束事を
「なちかおは殺伐」
以上です
- 25 名前:名無し 投稿日:2004/12/02(木) 21:43
- 見てますよ。
なにやら面白くなりそうな予感
- 26 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/03(金) 00:56
- 毎日更新する予定でしたが最近のアレでショックを受けしばしボーゼンとしてました
作者はゴマヲタですが・・・なっち・・・待ってるよ(´Д⊂ヽ
>>25様
期待を裏切らないようにがんばります(;´Д`)
- 27 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/03(金) 00:57
-
騎士の名は伊達じゃない!
何のために今までつらい訓練をしてきたんだと思ってるのさ!
- 28 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/03(金) 00:57
-
第二夜 朧月夜想曲
- 29 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 00:59
- 「ねぇ〜・・・安倍さぁ〜ん・・・もういいでしょぉ〜帰りましょうよぉ〜」
「・・・・」
夜風がまだ身体にしみる、耳を澄ませば梟の鳴き声がそれに乗って木々にこだまする。
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・
「聞こえてますぅ〜?まだ寒いですしぃ。夜更かしはお肌の大敵ですよぉ」
「・・・・・(うるさいなぁ・・・全く)」
・・・・はずだが、横にいる人の甲高い声にかき消され、私の耳には入ってこない。
後ろからの声に応え、吐き出したため息が白い。
森に入る前は空に月が出ていたはずだが、常緑の針葉樹に邪魔されて、明かりは手元のランタンのみだ。
- 30 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:01
- (帰りたいけど・・・適当な報告なんてしたら今度はなに言われるか・・・)
騎士団長様に恋人との甘いひと時を邪魔された私は罰として、
その足でごっちんの言ってた廃屋の調査を命じられた。
肝心の託宣のほうはやっぱり矢口が王都に向かっていた為、事なきを得た。
ま・・・悲しいけど、信頼されてないのね・・・
はぁ・・・散々迷ってやっと町に帰ってきたのに・・・もうくたくただよ。
履きなれたとはいえブーツのかかとが擦れて痛い、ふくらはぎもパンパンだよ。
- 31 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:01
- ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・
「ああ、なんて不幸な私。うら若き乙女が夜更けにこんな町外れの丘に登らなきゃいけないなんて・・・」
「・・・・」
もくもくと枯れ草を掻き分けて進む。
一人じゃ怖いけど・・・こんなのと一緒なら一人のほうがよかったかも。
「ねぇ〜安倍さぁん。どうせ何もいませんよぉ。とっとと帰りましょ、ね?」
- 32 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:02
-
ぶっち〜〜〜ん!
- 33 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:03
- 「うるさぁーい!そういうことはオニの騎士団長様の前で言ってみやがれだべ!」
「・・・・逆ギレしたよ・・・」
「何か言った?」
「ええ、言・い・ま・し・た!」
「な・・・なんだべさ・・・急に」
「大体私がこんなことやらされるのも安倍さんがお使い一つ出来ずに帰ってきたからでしょう?」
「う・・・・」
「そもそも安倍さんは(以下略」
「・・・・・」
思い切って大声を出してみたものの、思わぬ反撃に会い黙り込んでしまう。
あーあー、そうですよ、私が悪ぅござんしたよ。
でも恨むならお目付け役にあなたを選んだカオリを恨んでくださいね、石川さん。
- 34 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:04
-
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・
何を言っても敵いそうもないので黙々と歩く、目的の廃屋はもうすぐのはずだ。
残雪が靴の溝にこびり付いて足元が滑る、疲れた足にも優しくない重量だ。
「大体安倍さんはぁ(以下略」
「・・・・・」
オマケにこの精神的ダメージ・・・
- 35 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:05
-
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・
- 36 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:06
- 「って聞いてますぅ?」
「梨華ちゃん・・・少し黙って!」
「もう!また逆ギレですか?」
「違うの・・・なんか聴こえない?それに・・・アレ・・・」
「え?」
梨華ちゃんは文句100連発を一時中断し、おとなしく私の指差す方向を見た。
ま、顔は膨れっ面でプンスカ怒ってたけどね。
そこには・・・・。
薄明かりの漏れる古びた山小屋が・・・あった。
- 37 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:07
- 「いいかい、梨華ちゃん。明かりが漏れるって事は・・・」
「はい・・・少なくとも仲に誰かが・・・」
私も梨華ちゃんも今までとは打って変わって真剣な表情。流石は騎士、と言った所かな。
「山賊・・・ですかね?」
「うん、考えられるね。他は旅人か・・・いや・・・」
- 38 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:07
-
カン・・・カン・・・カン・・・カン・・・
- 39 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:08
- 耳を澄ませば聴こえてくる金属がぶつかり合う音・・・。
「もしかしたら・・・本物かも・・・」
梨華ちゃんの喉が『ごくり』と唾を飲み込んだ・・・
- 40 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:10
- 二人ともランタンを消し、無言で剣を抜く。
小屋は開けた場所に在るため、雲の隙間から姿をみせた月明りに刀身がほのかに輝いた。
幻想的な光景、って感じだけど・・・今はそれどころじゃない。
もし山賊だったら、町に下りてきて略奪を働く前にここで始末しなきゃいけない。
無論返り討ちに遭う可能性もあるけど・・・。
(ああ、ここにいるのがごっちんなら・・・心強いのになぁ。)
梨華ちゃんには悪いけど・・・そう思ってしまった。
- 41 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:11
- 「いいかい・・・ゆっくり、静かに近づいて・・・」
ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・ザザザ
カン・・・カン・・カン・カンカン
「はい、中の様子を・・・」
カン・・・・
急に金音が止む、張り詰めた空気が肌に沁みる。これは寒さの所為じゃない。
肌が粟立ち、脳に危険だと知らせる・・・
(気取られた!?)
- 42 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:12
- でもこっちも解ったことがある。
3mほどの距離になってわかったことだが、この小屋には一人の気配しかない。
こっちは二人、たとえ怪力の大男がいても私たち騎士ならむざむざ返り討ちには逢わないだろう。
ま、私一人じゃ怪しいけど・・・。
- 43 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:13
-
「人?・・・まずったか」
- 44 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:14
- 確かに聴こえた!人間の言葉だ!低い男の声・・・
これで幽霊の線も消えた。そして・・・・
『まずったか』って言うことは、何かよくないことをしていた、という事だ。
剣の柄を握る手に力が籠もる。
かわいい顔しててもなっちは騎士だべさ、剣術だってしっかり習ってきたっしょ。
誰にも勝った事無いけど・・・・。
- 45 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:14
- あれこれ考えていたら、不意に「ジュウ」という音と共に廃屋の明りが消える。
水をかけて強引に火を消したのだろう、風下のこちらに朦々と煙が押し寄せ視界が遮られる。
風上には確か・・・梨華ちゃんが・・・。
一人で大丈夫だろうか、とは思うがあえて小屋を回り込むようなことはしない。
煙に紛れて逃げる可能性もあるし・・・それに・・・。
梨華ちゃんは私より強い!4番隊にその人あり、と云われる位なんだから!
空位になっている隊長の座につくのは時間の問題、と噂されている。
恐らく冬が終ったら正式に就任するんだろうなぁ・・・。
- 46 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:16
- 依然煙が辺りを覆いつくしている。
春先とはいえまだ朝には霜が降り、近くの山は冠雪を抱いている。
足元のぬかるみも、夜が更けるに従い凍りつくだろう。
だけど指先にはじっとりと嫌な汗が滲む。
煙と夜の闇で視界は悪い、背後から切りかかられるかも、という不安で神経が張り詰める。
高ぶった意識の所為で頭がぼうっとしてきた。
- 47 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:17
- 「痛ッ・・・!」
急に右手に痛みが走る。
神経を尖らせ過ぎたのだろうか、右手の甲に「抓られた様な」熱い痛みが走る。
敵の攻撃による痛みではない、左手でさすってみるが右手のグローブは異常がない。
「戦闘じゃ焦ったほうが死ぬ」
いっつもカオリが新人の団員にそう言ってたっけ。
(へへ・・・カオリの教え、守らなくちゃね)
怖いオニ団長の言葉と顔を思い出すと不思議と冷静になれた。
- 48 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:18
- 落ち着いた心でじりじりと小屋に近づく、煙も少し晴れてきた。
月明かりで小屋の様子がおぼろげに見える、こちら側は裏手らしい。
飾り気の無い小窓と、ちんまりと積み上げられた薪が見える。
これ以上接近するのはマズイ、相手が弓矢を持っていたら射抜かれる状況だ。
じっと息を殺して茂みに潜む、梨華ちゃんとうまく連携が取れるだろうか・・・。
そしていつまでこの緊張が続くのか・・・そう思ったときに・・・。
「きゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
絶叫が闇を切り裂いた。
この声は・・・・
- 49 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:18
-
「梨華ちゃん!」
思うよりも先に小屋に背を向けて身体が風上の方へと駆け出していた。
- 50 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:25
- 今日の更新はここまでです。
石川さんのイメージがうまく浮かばなかったのでこういうキャラになってしまいました
石川さんのファンの方怒らないでくださいね〜。・゚・(ノД`)・゚・。
うまくすれば明日も連夜更新できそうです。
繰り返しになりますが、安倍さん頑張ってください!
ごっちんを幸せにするのは安倍さんしかいない!
- 51 名前:第二夜 朧月夜想曲 投稿日:2004/12/03(金) 01:30
- (●´ー`)<第二夜 終了
- 52 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/04(土) 23:06
- はい、舌の根も乾かぬうちに嘘をついてしまいました。
日付の上では毎日更新ですが・・・実質一日開いてますな。
このままノンストップで・・・と行きたいところです・・・。
- 53 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/04(土) 23:07
- 安倍さん・・・
怖いものは見ちゃいけないから・・・
見えないんでしょうか・・・
- 54 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:08
-
第三夜 恐闇狂詩曲
- 55 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:09
- はっ・・・はっ・・・はっ・・・
暗い林道を走りつづけてどれぐらいになるのだろう・・・。
心臓が、足の関節が悲鳴を上げる。
長旅の疲れもあったのだろう、最早体力の限界を向かえ足がもつれそうだよ。
前を走る人物に呼びかける訳にもいかない、どこかに山賊が潜んでいるかもしれないからだ。
もっともガチャガチャと鉄靴がぶつかり合う音が辺りには響き渡っているわけなんだけど・・・。
- 56 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:09
- いつまで走らせるんだ・・・いっそ石を投げてぶつけて止めてやろうか(まあ当たるかどうかは不明)そう思ったときに・・・
唯一の目印〜月明かりに仄かに輝く銀と赤の鎖帷子が「きゃあ」という声とともにがしゃりと崩れ落ちた。
よく見ると大きな木の根っこに躓いたようだ、ナイス大木!なっちは嬉しいべさ。
よろよろと膝を突いて肩で荒い息をしているのを確認し、私も滑り込むように横に転がる。
梨華ちゃんは警備用の立派な胴鎧、私は旅支度そのままの胸当てのみ。
運動神経ゼロの私が梨華ちゃんに置いて行かれなかったのはこの装備の差だろう。
- 57 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:10
- 夜風がひんやりと気持ちいい。
旅支度のままの鞄から水入りの皮袋を取り出し喉に流し込む。
・・・残念だけど梨華ちゃん、貴女にあげる分は残ってないや。
抜き身の剣を放り投げ、とうとう仰向けに倒れ込んだ4番隊のエースを一瞥する。
後ろで纏められた髪の毛は髪飾りが吹き飛び、前髪はおでこに張り付いてる。
それだけでも見れたものじゃないけど・・・。
鞄から火打石を取り出し、ランタンに火をともす。
照らし出された彼女の表情は・・・疲労と恐怖で今にも泣きそうだった。
- 58 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:11
-
「ハアッ・・・ハ・・・ヒック・・・うえ・・・」
ていうか泣いてた。
- 59 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:12
- 「んで、梨華ちゃん?」
幾分呼吸が静まってきたのを確認し、今回の捜索の相方に尋ねる。
「なして・・・急に逃げ出したのさ?あんな大声上げて」
「・・・・・」
ランタンと木々の合間から漏れる月明かりに照らされた梨華ちゃんの顔面はまだ青白い、いや青黒い。
そんでもって、まだ気持ちの整理がついてないのか何も答えない。だめだこりゃ?
- 60 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:13
- 「なんか怖いものでも見たのかい?毛むくじゃらの大男とか?」
ふぅ・・と一息ついて言葉を続ける。緊張をほぐす為に少しおどけた言葉を掛けてあげる。
成績は悪いけどこれでも先輩だからね。
「見たんじゃない・・・見えなかったの・・・」
「ふぇ?」
ようやくその口から紡ぎ出された一言に口をあんぐりとあけてしまう。
大丈夫、この季節なら口を開けても虫は入ってこない。
だって見えなかったらそんなビックリして逃げること無いんでない?
- 61 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:14
- 「私・・・ドアに近づいて行ったんです・・・そしたらドアが開いて・・・」
「ふむふむ?」
「普通なら開けた人がそこにいるでしょ!?でも・・・いなかった!」
「あ・・・それって・・・」
建物に追い詰められた人間が自ら門を開けるという行為はありえない話じゃない。
追い詰める側としては中に入らなきゃいけないわけだから、じっとしている訳には行かない。
焦れて中を覗いた瞬間に隠れていた人間が剣を振り下ろして頭と胴がさようなら・・・。
まあ一種のワナみたいなものかな、中に誘い込む為の。
だからそういう時は焦らずに応援を待つのが鉄則!ってカオリが言ってたっけ。
- 62 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:15
- 今回みたいに追っ手が少人数なら効果的といえる、何てったって梨華ちゃんさえ片付ければ残ったのは騎士団で最弱の
このなっち様なんだからね。と、自分で考えて悲しくなってきた・・・がっくし。
「違うんです!私だって相手のそういう行動は頭に入ってました!」
「ふむふむ」
「息を殺して中を窺っていたんです。もう少し待っても動きがなかったら安倍さんを呼びに行こうと思った時に・・・」
「ときに?」
そのときのことを思い出したのか、梨華ちゃんは自分の肩を抱いてまた俯いてしまった。
大丈夫、なっちがついているよ。何でもお姉さんに話して御覧なさい。ね?
「急に何もない空間が『ボゥ』って明るく燃えたんです!丁度こんくらいの高さで!」
急に立ち上がって自分のおでこの辺りに手をやって熱く話しだす。
- 63 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:16
- 「え〜。そんなことあるわけ・・・んん?」
言いかけて止まる。今日そんな話を聞いたような気が?
確か・・・裁縫屋のみっちゃんが火の玉をあそこで見たってごっちんが言ってたような?
笑い飛ばして否定しようとしたが言葉が続かない。考えれば考えるほどリアリティーが・・・・。
――え、なに?マジ?マジなの?
本当にあそこには鍛冶屋のお化けが住み着いてるの?
火を消したのも、なんか喋ったのも・・・お化けの仕業なの?
そう思うと背筋が凍る、梨華ちゃんの表情からはとても嘘を言っているようには感じられない。
- 64 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:17
- 「安倍さん・・・」
梨華ちゃんがおびえてこっちを見る、ランタンに下から照らされた表情ははっきり言って怖い。
「梨華ちゃん・・・」
私もそれ以上は言葉を出さずに無言で荷物を纏める。
恐らく私も怖い顔してるんだろうなぁ・・・。
「帰ろう・・・とりあえず・・・」
カオリになんと言われてもいい・・・。
もうあそこに近づくのは勘弁して欲しい。
そう思い、遠くにちらほらと明りの見える町の方角へと二人で足早に駆け出した――
- 65 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:18
- 4日後――矢口真里
――私が留守にしていた10日程の間に何があったのか・・・
残念ながら今現在の情報量ではまったく予測もつかない
「ふぅぃ〜ここは無事みたいだね」
しかし、街の中心部に進むにつれて比較的無事な家屋が残っているということ。
そして死体の数も少なくなってきているということ。
「悪いけど勝手にやらしてもらうよ、セルフサービスって事で、ね」
町の中心に潜むは敵か・・・生存者か・・・。
とりあえず私はこの酒場で一息ついた後に神殿を目指すことにする――
追伸:この店の店主へ、生きているなら紅茶一杯の代金を神殿騎士団:2番隊副隊長の矢口真里まで請求しに来てほしい。
その時まで私の身に何か無かったならば、快く代金を支払う
なつみと真希が飯田圭織に叱られた酒場のテーブルに紅茶のカップとともに置かれていたメモ
- 66 名前:第三夜 恐闇狂詩曲 投稿日:2004/12/04(土) 23:19
- (●´ー`)<第三夜 終了
- 67 名前:―――――― 投稿日:2004/12/05(日) 20:32
-
ついに見つけたぞ・・・
お前は俺、俺はお前・・・
さあ・・・一つになろう
- 68 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:33
-
第4夜 邂逅協奏曲
- 69 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:36
- 鬼より怖いと評判の騎士団長は、私と梨華ちゃんの鬼気迫る報告(表情)に圧倒され、
「わ・・・判った!この件については後日ちゃんとした調査団を派遣しましょう!」
ということで納得してくれた。
梨華ちゃんは重たい胴鎧もそのままに夜勤の騎士団の子や、夜更かししたシスター達に恐怖体験を振りまいてる。
怖い話をしているはずなのに、楽しげに蝋燭の明かりに揺れるポニーテール。
こりゃ、明日には町中に広まるねぇ・・・。
- 70 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:38
- 尤も、騎士団には明日カオリから緘口令が敷かれるはず。
町を守る騎士がお化けに驚いて逃げ帰ったなんて不名誉なことだからねぇ。
明日の朝礼で鬼のような顔で指示を下すカオリと小さく縮こまってる梨華ちゃんを想像し、
「くわばらくわばら」とばかりに大浴場へ向かった。
- 71 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:42
- 旅支度をそのまま部屋に投げ込んでとりあえずお風呂!
なんせ三日間森をうろうろした上に、先程町外れから走って帰ってきたんだからねぇ。
この季節じゃ川の水もまだ冷たいし、三日分のアカと疲れをゆっくり落として・・・。
まあ・・・彷徨ったのは私の所為だけどさ、ふん!
脱衣所のカゴに旅服のチュニックとズボンを投げ捨てて、騎士団と修道女共同の大浴場に入る。
騎士の宿舎は修道女達と同じ物だから非常に質素、だから個人向けのバスタブなんて夢のまた夢。
ここもそんなに悪くないんだけどね、まあ温泉だし。
ちょっと宿舎から遠いのが難点と言えば難点だった。
- 72 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:43
- 大浴場には思ったとおり誰もいない。この時間は朝が早いシスターはみんな寝ているし、騎士団は寝ているか夜勤中。
まあ来る可能性があるのは激務に追われて入るタイミングを逃したカオリか、一緒に調査に向かった梨華ちゃんくらいか。
温かいお湯に肩まで浸かって「ふぅ」と一息。
それにしてもあれは何だったんだろう・・・。
確かに聞こえたあの声、明かに人が立てたと思われる物音・・・。
そして梨華ちゃんが見た火の玉と無人の玄関。
噂どおり幽霊だと考えれば全て納得がいく。
未練を残した鍛冶師の魂が夜な夜な槌を振るい名刀を鍛える。
でもそんなことが・・・・。
「ある訳無いよねぇ」
そう一人ごちて鼻先までお湯に浸る、久々のお風呂は身体に沁みる。このまま眠っちゃいそうだよ。
- 73 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:43
-
ギィィィ・・・ばたん・・・・
- 74 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:44
- うとうとし掛けたその時に脱衣所のドアが開く気配。あちゃ、カオリかな?
- 75 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:47
- 「あは♪やっぱりここにいた〜!なっちぃ〜。」
「ごっちん・・・」
こんな所まで説教をされてはかなわないと出ようとしたら、脱衣所から元気な声が・・・。
こりゃのぼせるのも覚悟しなきゃねぇ。
にこりとしてまた湯船につかる。
それを見たごっちんはもっと笑顔を輝かせて髪の毛を結わいながらパタパタと足音を響かせて走って来た。
(滑ったら危ないし・・・それに前くらい隠しなさいっての・・・)
- 76 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:48
- 「ねえねえ、どうだった?やっぱり梨華ちゃんの言ってた通り本当に出たの?」
ろくに身体を洗いもしないでごっちんはそのままダイレクトに浴槽へ。
天然の岩屋を改装して仕上げた浴場は声が良く響く。
ここのお湯は近くから湧き出る温泉を引き込んでいる為、王都のやんごとなき姫君達もたまーに湯治に来る。
効能ウンヌンよりも娘を送った先が修道院であれば、旅先で変な虫がつくこともないしね。
まあ・・・女に目覚めるお姫様も・・・いるかもしれないけど・・・。
「う〜ん・・・まあ梨華ちゃんが何を行ったのかは判らないけど・・・それっぽいのは・・・出た」
少し長めの茶髪をツインテールにしたごっちんは興味津々と言った目でこっちを見ている。
やっぱり梨華ちゃんはみんなに言いまわってるらしい、明日カオリの雷が落ちるねコリャ。
「ごとぉ〜も見てみたいなぁ・・・なんてね♪」
ってかこんだけ広いんだからのびのび入ればいいのにごっちんは私のすぐ隣へ。
- 77 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:50
- 「ねね、なっち!やっぱ今度非番の日になったらデートしよ!そこで!」
「へ?」
「それで本当に幽霊が出たら『きゃー』ってしがみついてイイヨ♪ごとぉがなっちを守ってあげる!騎士らしく」
「あの〜?」
「それで勇ましく幽霊を退治したあと二人は廃屋で・・・ムフフ♪」
「お〜い・・・・」
完全に妄想モードかなぁ、後藤さん。
そんなことより・・・近いんですけど・・・その・・・肩がって言うか、全身が・・・。
「あの・・・ごっちん・・・もうちょっと離れたほうが・・・」
「んふ〜♪照れてるんだぁ〜カワイイ♪もう我慢できない!今ここで頂いちゃいますぞぉ〜」
「ちょ!や、やめ・・・」
「だぁ〜め!逃がさない!」
- 78 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:54
- (げげっ!この顔はマジだ・・・)
ちょっと後藤さん?まだカオリが来るかもしれないんだよ?
この前警備中に目の前の茶色い髪の毛のケダモノに襲われているところをカオリに見つかって
そのまま夜勤を命じられたいやな思い出が・・・・。
まあ・・・そのまま夜勤中にされちゃったけど・・・。
「せっ・・・せめてなっちの部屋でぇ・・・」
「ダメ〜!もうとまらなぁ〜い!」
本気で襲い掛かってくるごっちんから逃げようとしたその時・・・
- 79 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:55
- 「痛ッ!」
「ん〜?観念したぁ〜?・・・ってなっちダイジョブ?」
急に右手が疼いた、じっと壁の松明に照らしてみるけど血も出てないし打ち身の痕もない。
この感覚・・・どこかで・・・。
不意にさっきの廃屋での出来事がフラッシュバックしてくる。
(この痛み・・・あの時の!)
思うと同時に聞こえた声そして・・・右手が・・・光った!?
昔、洞窟で見かけたヒカリゴケのような・・・淡い緑色・・・。
- 80 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:55
-
「やはりお前が・・・ついに見つけたぞ!わが半身!」
- 81 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:56
-
(この声・・・廃屋の・・・幽霊!?)
- 82 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:56
- 戦慄を覚え、声のしたほうに振り返るとそこには・・・
黒い影が・・・松明の揺らめきに哂っていた。
- 83 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:57
- 「あれ?ねぇなっちぃ〜?どうしちゃったのぉ〜?」
「あ・・・あ・・・・」
口を開けて呆然と壁を見つめる私をごっちんは激しく揺さぶる。
「ねえ?怒ったの?怒っちゃや〜よ?」
って・・・ごっちん・・・この状況が・・・
さっきの幽霊が・・・ごっちんが『見たい!』って言ってた幽霊がそこにいるんだよ!
じっと壁を睨む、そこに映る影はフードを被っており表情が見えない。
だけどこの低い声・・・そのいかついシルエットから・・・
- 84 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:59
- 「ごっちん・・・男が・・・いるの・・・」
この状況はマズイ、今の私たちは武器どころか文字通り一糸纏わぬ姿な訳だし。
それにこんなとこまで進入を許したってことは騎士団にも被害が出ている可能性が・・・
何とか二人でこの男(幽霊?)をどうにかしなきゃ・・・
松明の揺らめきに深い影を作っているフードの下を「キッ」と睨み、身構えた。
- 85 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 20:59
- 「えええええ!なっちぃ!そんな・・・そんなのイヤだよぉ!捨てないでぇ!」
「ふぇ?」
頼りにしていた3番隊長からの口から情けない悲鳴が聞こえる。
どーしたってのさ?ごっちん?
「男が出来たなんてヤだよぉ!ごとぉのどこが嫌いになったの?なっちと別れるなんてイヤだーー!」
「ちがっ・・・その・・・」
「どこがどーちがうってゆーのさー!うわぁぁぁん!なっちの浮気ものぉ!」
だめだこりゃ・・・なしてこの状況で痴話ゲンカになるのさ?
・・・ってかごっちんこのフードの・・・
- 86 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:00
- 「無駄だ。そこのお嬢さんには俺のことは見えない・・・」
言いかけて口をつぐむ、やっぱりそうだ!
さっきから聞こえるこの声、そしてその姿、ごっちんの感覚には一切感知出来ないらしい。
この岩屋でぜんぜん声が反響しない、まるで・・・
直接心に響くような・・・・。
「・・・俺の姿は人間には見えないらしい。お前を除いてだが」
「・・・っ!」
「面倒な説明はナシだ。結構探し回ったんだ、とっとと終わらせてもらうぞ」
そう言い放つと男はゆっくりとこちらへ近づいてくる。
ねえごっちん・・・キライじゃないから・・・愛してるから・・・助けて!
すがるように傍らを見ると・・・。
- 87 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:01
- 「ガボ・・っちのガボボボかぁ!もう!ガボボボブブらないぃ!」
(・・・・ぉーぃ・・・・・)
私の思いも空しくごっちんは湯船に顔を突っ込んで泣きじゃくっている・・・・だめだこりゃ。
男の左手がゆっくり私の右手に伸びる
その左手は私の右手のように赤色の淡い光を放っていて・・・
がしっ!
右手をつかまれた瞬間に目の前に火花が散った・・・!
まるで・・・雷に打たれたような・・・
圧倒的な・・・力の流入・・・
- 88 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:02
- 「きゃああ!」
「ん!ぐはぁぁぁ!」
「ゴブグボ・・・んぁ?・・・・なっち?」
そしてそのまま・・・意識が・・・遠く・・・
・・・でも・・・確かに・・・見たんだ!
フードの中に光る・・・赤い目を・・・
- 89 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:03
- ――日付は変わり、矢口が帰還する三日前。安倍なつみの自室にて・・・
「う・・・ん・・・」
目蓋を開けて最初に飛び込んできたのは見慣れた天井。
ここは私の部屋みたい、旅から帰ってきてそのまま寝ちゃったのかな?
色々あったけど・・・あれは一体なんだったんだろう・・・?
「へへ、夢・・・かな?」
そう苦笑いをして二度寝をしようと思ったその瞬間・・・
- 90 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:04
- 「残念だが夢じゃない」
・・・・この声は!
あの悪夢(?)が頭に鮮やかに甦る!
声のしたテーブルのほうを見ると・・・・オイ!
- 91 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:05
- 「気絶したお前をあの娘が運んでくれたんだ。いい娘じゃあないか」
「・・・・・・・」
「置手紙も置いて行ったぞ、ほれ」
指差す方向には確かにごっちんの書いた置手紙が・・・
警戒態勢をとったまま手を伸ばし、ランプの明かりに透かして読んでみる。
- 92 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:06
- 『取り乱してごめんね、でも大事なことだから今度ゆっくり話そう。今はゆっくり休んで』
確かにごっちんの字だ、その字体、内容、そしてこの黒フードからあの浴場のことが現実だと認識させられる。
- 93 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:06
- 「ん?信じられないのも無理はない、これから何があったのかを説明してやるからこっちへ来い」
「その前に・・・何アンタ勝手に寛いでるんだべさ。お茶まで淹れて」
悪魔の黒フードが呑気にテーブルで紅茶を飲んでた。
丁寧にお茶菓子まで勝手に出して・・・。
- 94 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:07
- ふん・・・気にするな、お前の分もある。そんなことより何が起きたのか・・・知りたくはないのか?」
フードから半笑いの口が覗く、その表情にぞくっとして気が付く。
(そうだ・・・今もしかして・・・とってもマズイ状況のままなんじゃ・・・)
たぶんごっちんが着せてくれたガウンは着ているものの、当然腰に剣は無く、頼りのごっちんもいない。
(どうしよう・・・この男・・・今すぐ襲い掛かってくる気配は無いけど・・・)
とりあえず言われるままにテーブルに着く、男は私に「毒なんぞ入ってない、安心して飲め」と紅茶を勧めてくれた。
あの〜それ私の茶葉なんだけど・・・・。
- 95 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:08
- 「とりあえず何から話そうか・・・」
右手に紅茶のカップを持ったまま男は尋ねる、ってかそのカップ私のお気に入りなんですけど。
「フード・・・・」
「ん?」
「フード位取って」
私の憮然とした表情に
「ああ、そうだな・・・その方が説得力があるか・・・」
とブツブツ呟いてフードに左手をかけた。
あれ・・・よく見ると左手が光ってないや。
「はっ」となってまじまじと自分の右手も見てみる、光ってないし痛みもない。
こりゃ一体・・・まあ、痛いのが治って良かったかな。
- 96 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:09
- 「おい・・・これでいいのか?」
頭上から男の声。あ、そうだった、この男の顔を拝んでやろうと頭を上げた。
どんな不細工だべさ、まったく!
でも・・・私の目に飛び込んできたのは・・・
「うそ・・・でしょ?」
「何度も言わせるな、これが現実だ」
「そんなことって・・・これは・・・」
赤い目をした私自身だった!
- 97 名前:第4夜 邂逅協奏曲 投稿日:2004/12/05(日) 21:10
- (●´ー`)<第四夜 終了
- 98 名前:スペード 投稿日:2004/12/06(月) 13:50
- 更新お疲れさまです。
おもしろそう!!続き期待してます。
- 99 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/06(月) 22:20
- 今日も何とか更新できそうです
ついに変則的ですが男が登場しました・・・石投げられないように頑張ります
>>98スペード様
そう言ってくださると励みになります!
期待を裏切らないように頑張ります
( ´ Д `)<そんじゃ今晩もヨロシクね〜♪
- 100 名前:―――――― 投稿日:2004/12/06(月) 22:22
- 不思議な気分だな・・・
俺は男・・・お前は女・・・
なのに目の前の顔は瓜二つだ・・・
- 101 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:23
-
第五夜 記憶組曲
- 102 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:26
- 「つまりお前は俺の半身、なんか知らんが二つに分けられた体のうちの片割れらしい」
「へぇ〜・・・・」
「この世界に俺がやって来たのは3ヶ月ほど前、隣国との国境あたりにだな・・・」
「ふぅ〜ん・・・」
さっきからぼそぼそと喋るこの男の話を聴くともなしに聞く。
私は話の内容よりもこの男の顔に釘付けだった。
似すぎだよねぇ・・・こりゃ「半身」って言われても信じちゃうかも・・・
- 103 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:27
- この男(名前はまだ知らない)の顔をよく見るとやっぱり私とはちょっと違う。
そりゃ、男と女では全然違うけどさぁ。なんていうか・・・
私って結構丸顔で童顔だけど、この男はきりっとシャープだし・・・。
猫目なのは似てるけれど・・・涙袋も少し大きいかなぁ。髪型も似てるけれどちょっと向こうはクセっ毛みたいだし。
う〜ん・・・ちょっとカッコいいかも。
このなっちさんを男にしたらこんな感じなのかぁ。
女の子にモテモテの自分を想像しちゃって思わず顔がにやける
- 104 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:29
- 「というわけで、ようやくお前を探し当てたというわけだ・・・っておい、何をニヤニヤしている」
「ハッ!なななんでもないべさ!続けて続けて」
いかんいかん・・・少し自分の世界に入り込んでしまったべさ。
この男はこのなっちの分身みたいなもので、他の世界からやって来たのは合体して一つになる為で、3ヶ月ほど放浪して・・・。
って・・・何処まで聞いたんだっけか?
もう一度すまなそうに話を聴くことにした。まあ、こいつ気持ちよさそうに喋ってたからいいんだけど・・・。
- 105 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:30
- 「ちなみに俺の好きな食べ物はだな・・・」
「まった!」
「む?」
「アンタがこのなっち様の分身みたいな物だってことはよーくわかったけど」
「けど?」
「何でアンタと合体しなきゃいけないのさ?」
「むぅ・・・成程・・・」
だんだん話がどうでもいい方向に流れていくのを切り替える。
誰もアンタの好きな食べ物なんぞ聞いてないべさ、もっと肝心なことを言いなさいっての!
- 106 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:30
- 「とりあえず・・・俺がこの世界に来たのは3ヶ月ほど前の話で、だな」
「それは聞いたべさ」
「ええと・・・隣国との境目くらいに気がついたら立っていて・・・」
「それも」
「くっ・・・好きな食べ物は・・・」
「いーからちゃんと質問に答えろぉ!この馬鹿!」
おかしい・・・明らかに焦ってる、大の大人の男が・・・。
目の前でふわふわと赤い瞳が泳ぐ、カオリに怒られてる時ってこんな感じなのかなぁ・・・。
- 107 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:31
- 「むぅ・・・それでは聞くが、お前・・・」
「ん?」
「正直、人間的に何かがおかしい位の問題児じゃあないか?例えば・・・」
「む!」
「やたら腕っ節が弱かったりとか・・・物覚えが悪かったりとか・・・」
「そ・・・そんなこと・・・ある・・・」
今度は対照的にこっちがモジモジ。
その様子を見て泳いでた赤目が細まる。
「ふふふ・・・はっはははっ・・・やはりそうか!そうなんだな?」
「くっ!」
「お前は何をやらせても人並み以下!そうだろう?」
何でこんな奴にそこまで言われなきゃならないのさ!
目の前で腹を抱えて笑う同じ顔を「きぃっ」と睨みつける。
- 108 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:31
- 「まあそう怖い顔をするな、お前が出来ない君なのは不完全だからだ」
「ん?不完全?」
「そう、不完全!元は俺とお前で一人だったのだから、お前が人並み以下なのは当然だ!」
「おお?そうなんかい?」
たしかに・・・私くらい何をやらせてもだめなのは少ないってよく言われた・・・
よく学校で『お前のできなさっぷりは世界七不思議のひとつだ!』って言われたっけ。
その理由が分離による能力の分割、そう考えると確かに辻褄は合う。
- 109 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:32
-
でもさ、でもだよ?
- 110 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:33
- 「なんで二つに分けられてしまったのさ?」
「う〜む・・・それなんだが」
「だが?」
「考えてもわからん、とにかく融合すれば何かわかるかも知れん」
「あらら・・・あんたも知らないんだべか・・」
むぅ・・・拍子抜けだべさ。折角世界七不思議のひとつが解ける時が来たと思ったのに。
- 111 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:33
- そんな私の表情を見た分身はわざと明るい声で話を切り替えた。
「取り合えずだ!融合してみれば何かわかるかもしれない。最悪わからなくても、お前はもう落ちこぼれじゃなくなるわけだ!」
「ああ、それはそうかも・・・」
「そうだそうだ!正にいいこと尽くめ!もうこれは一つになるしかない!『この機会をお見逃し無く』って感じだ!」
「むむむ・・・いいかも・・・」
そりゃいいかも、そしたらカオリに怒られることもなくなるし、周囲の私を見る目も変わるだろう。
・・・・でもね?
なんかおかしくないかい?
なんでそんなに合体したがるのさ?
露店で怪しいツボを売りつけるオッサンみたいな口調だよ?アンタ。
ふと冷静になって聞いてみる、こういうときに乗せられてしまうのは危険だべさ。
- 112 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:34
- 「完全になるのはいいけど・・・アンタはどうなっちゃうのさ?」
「ぐ・・・・」
言葉に詰まる、さっきお茶を濁そうとしていたのはそういうことだったのかい。
「もしかしてなっち・・・アンタに乗っ取られちゃったりとか?」
「いや・・・けしてそんなことは無い・・・とは言い切れない・・・」
やっぱり!いくらパーフェクトなっちになるって言ってもそんなのお断りっしょ!
大体この身体を男に乗っ取られるなんて!イヤらしい!
ってかアンタごまかすの下手すぎ、さすがこのなっちの分身だねぇ・・・。
- 113 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:34
- 「と・・・取りあえずだな、俺がこの世界に来たときには、半身を探して一つになる。という意識しかなかったんだ」
「ふーん」
「だから合体したらどうなるか、とかそこまでのことは知らん!いいか、俺が言えるのはここまでだ!それ以上の詮索は却下だ!」
「逆ギレだ・・・」
「暫くはあの廃屋にいる。合体する決心がついたら尋ねて来い」
「・・・・」
「返事は!?」
「はいはい・・・」
「『はい』は一回!いいな!?」
「はい・・・」
「ふん・・・それでは俺はあの廃屋に戻る、他に聞きたいことは?」
山ほどあるんだけど・・・
まず、あの山小屋で何してたのか、とか、光る手のこととか・・・。
何で他の人にあんたのことが見えないの、とか。
好きな食べ物のこととかはどうでもいいけど。
ん〜でも何言っても答えてくれなそうだし・・・今はいいや・・・
- 114 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:35
- 正直まだ寝たいし・・・。
表もまだ暗いよ、8時間は寝なきゃいけないんだぁ、このなっち様は。
だから帰ってくれるのは正直ありがたい、問い詰めるなら暇を見つけてあのボロ小屋に行けばいいし。
今緊急に聞かなきゃいけないことは・・・取りあえず無いかな。
ん、いやまった。一個だけ、ある。
「ねえ・・・」
「ん?」
「アンタのことなんて呼べばいいのさ・・・?」
「む、俺か・・・俺の名は・・・」
そこまで言いかけて言葉を詰まらせる。たかが名前くらい素直に言えばいいのに。
- 115 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:35
- 「無い!」
「は?」
「いや・・・思い出せないんだ・・・取りあえずこの世界に来た時・・・」
立ち上がりかけたその腰を再び椅子に戻して話し始める。
「さっきも言った『合体しなくては』という意識と『別の世界にやってきた』という感覚はあったのだが・・・」
「ふむふむ?」
「それ以上の記憶は思い出せない・・・これは本当の話だ」
「な〜してそういう大事なことを言わないのさぁ!」
「いや・・・まあ、その・・・聞かれなかったし・・・」
「へぇ〜」
じろり・・・と冷たい視線。
向こうは完全にモジモジ、はぁ〜やっぱりアンタこの私の半身だよ。間違いない、もう今なら完全に信じられる。
- 116 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:36
- 「でも・・・たまに色々判るときがあるんだ、例えば・・・手が光ったときとか・・・」
そう言って左手をかざす、
「この左手が光ったとき・・・お前の存在を感じた。この手が導いてくれる、と。だから山を降りて町に出てきたんだ」
『もう光らなくなったし、痛みもなくなったがな』と付け加えてにやりと笑う。
「ッて訳で好きなように呼んでくれ、まあ酷いのは却下だがな」
「う〜ん・・・じゃあ、適当に呼ぶ」
私がそう言うと名も無き男はフードを被り、
「取りあえずもう寝ろ、置手紙にも書いてあるだろう?」
机の端っこにおいてあった紙切れをひらひらさせてにやりと笑った。
(ああそうだ・・・明日ごっちんの誤解を解かなくちゃ・・・)
全裸で取り乱した恋人のことを思い出して表情が曇る。
- 117 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:37
- その表情が目に留まったのか名無しマンはフードの中の赤目をらんらんと輝かせて・・・
「む、そういえばあの娘・・・お前の恋人か何かなのか?」
「・・・・そうだけど・・・・悪い?」
そうだよね・・・同性愛って気持ち悪いよね、人の道に反してるよね。
でも人じゃない奴にそんなこと思われたくないんですけど!
ニヤニヤしちゃってなんだべさ!フン!
しかし以外にも次の言葉は・・・
「いや、悪くない。むしろ『ありがとう』を言いたいくらいだ!」
「は?」
「いや、正直思っていたんだ・・・『俺の半身がムサイ男と結婚なんてしてたら面倒だな』と」
「へ?」
「いやその・・・何だ?さすがわが半身・・・好みもよく似てるな・・・と・・・」
「はあ!?」
「フフフ・・・これで一つになる楽しみが増えたと言うもの」
「げ〜〜〜〜〜!!!!」
- 118 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:37
- そんな!そんなとこまで一緒じゃなくていいのに!
ってかアンタ!さっき風呂場でごっちんのオールヌード見まくったってことかい?あの乙女の柔肌を!
許さない!絶対に合体なんて許さない!ごっちんが!あの可憐なごっちんが!
ってか隣の部屋で物音が、起こしちゃったかなぁ。うるさいんだよなぁ・・・隣の・・・
「フン・・・お前が大声を出したから隣の部屋の奴が起きたようだ」
「ちょ・・・ちょっと許さないよ!ごっちんに変なことをしたら!」
「フン、安心しろ。俺は物は触れても人は触れない。お前以外はな」
そういうとフードをさらに目深に被りくるりと背を向ける。
「それではさらばだ、いつでも訪ねてくるがいい・・・」
と言い残すと、怒鳴り込んできた隣部屋の2番隊長・圭ちゃんをするりと通過して廊下に消えて行った。
- 119 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:38
- ホントに触れないんだ・・・
と思ったのもつかの間、疲れ果てた私に圭ちゃんのお説教攻撃が襲い掛かってきた。
ゴメンね圭ちゃん・・・今は無視するわ・・・
聴こえない振りをして布団にもぐりこむ、圭ちゃんも寝言だと思ってくれるだろう。
起きてから恋人に掛ける言い訳の言葉を考えているうちに私は深い眠りに落ちて行った・・・。
- 120 名前:第五夜 記憶組曲 投稿日:2004/12/06(月) 22:39
- ( ´ Д `)<第五夜 終了
- 121 名前:―――――― 投稿日:2004/12/07(火) 22:57
-
なっち・・・?
信じられないよ・・・こんなことって・・・
- 122 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 22:58
-
第六夜 侵攻行進曲
- 123 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 22:59
- その日の正午過ぎ・昨日石川と駆け抜けた森――安倍なつみ
「そんなの絶っっ対に信じない!ねえなっち、本当の事話して!」
「い〜から!黙ってついてくればいいっしょぉ!」
激動の夜から一夜、私とごっちんは山道を黙々と・・・いや、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら歩いていた。
「変なウソつかないでよ!愛して無いなら愛してないって言って!そのほうがきっぱり諦められるからぁ!」
「愛してるって!それを証明する為にこんな所まで来てるんだから!」
はぁ・・・どうしてこんなことになってるのかと言えば・・・
- 124 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:00
- 『おはよう、ごっちん・・・実はね・・・』
最初に、ごっちんの部屋を尋ねたとき全て話すつもりだった。
やっぱ恋人同士隠し事はいけないよね、そう思ってた。
でも・・・
- 125 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:00
- 『ウソ!そんなの絶対にウソ!なっちの浮気者ぉ!』
起きたばっかりで寝ぼけ眼のごっちんはまたもや布団にもぐりこんで聞く耳を持たない。
そして嫌がるごっちんを無理やり引っ張ってここまで来たって訳・・・。
街中でもこんな感じだったから恥ずかしかったよ、トホホ。
- 126 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:01
- そんなこんなでようやくたどり着いた例のあばら家。
昼間だってのにやっぱり不気味、中に何が住んでいるのか判っていてもそう感じてしまう。
それでも勇気を振り絞ってドアを開けようと思ったそのとき・・・。
「来たか、ずいぶん早かったな・・・」
「!」
「・・・・なっち!ドアが・・・」
いきなりドアがちょびっと開いて例の赤い目が覗く、いきなり出てこないでよ、びっくりするじゃないのさ。
「融合する決心がついたか・・・いい心がけだ」
満足そうに笑う赤目。
お生憎様、そんなんで来たんじゃないことを告げる。
- 127 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:02
- 「なっち・・・」
ごっちんもすっかり大人しくなって事の成り行きを見守ってる。ようやく判ってくれたっぽい。
「フン・・・いいだろう、入れ」
面倒くさそうにドアが大きく開かれる。中は・・・案の定散らかってる。
「なっちぃ・・・なんか、こわいよぅ・・・」
さっきまで大暴れだったごっちんもしおらしく私の袖をぎゅって掴んで小さくなってる。
そりゃそうだろうねぇ・・・
- 128 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:05
- って・・・おい、そこの変態、何してんだべさ!
「う〜ん・・・やっぱカワイイ、触れないのが残念で仕方がない・・・」
ごっちんをじろじろ見るんじゃないべさ!汚らわしい!
見えないのを良いことにありとあらゆる角度からごっちんを嘗め回すように見つめてる。
自分と同じ顔がニヤニヤと変態的な表情で女の子を嘗め回しているのは最悪にキモイ。
嫌悪感から赤目の頭をゲシゲシと叩くが・・・ダメだ、効いてない。
「んぁ?なっちどーしたのさ?」
目の前で手をばたばたと振り回す私をごっちんは不思議そうな目で見る。
おそらく何も知らない人から見れば、幻覚症状があるアブない人だと思われるだろう。
ああ、ごっちん・・・そんな目で見ないで。
- 129 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:05
- 「とりあえずごっちんの誤解を解くために何とかしてよ」
赤目をキッと睨んで当然の要求をする。
このままじゃ浮気者の上にキXXイ扱いっしょ、そうなったらもう恋人・騎士以前に人として失格になってしまうべさ。
「むぅ・・・俺の存在をアピールする方法か・・・そうだ!」
赤目は少しつぶやいた後にそばに落ちてたハンマーを手に取り
「そのカワイコちゃんに質問をさせてみろ、Yesなら一回、Noなら二回この金床を叩く、ハンマーの音なら聞こえるはずだ」
おお、ナイス提案だべさ。さすが我が半身だべさ。
早速その旨をごっちんに伝えて質問を促してみる。
- 130 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:06
- 「あ・・・あの・・・あなたはなっちのハンシンさんですか?」
おどおどしながらごっちんは質問する、大丈夫、びびる事はないよ。
なっちが守ってあげるからね、ムフフフ。
いつもとは違う立場で少し優越感に浸っていたらこのぼろ小屋に
- 131 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:06
-
カン・・・
金床を叩く音が一つ響いた。
- 132 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:07
- 「ヒィ・・・!ほ・・・ホントにいるんだぁ・・・」
ごっちん・・・顔真っ青だよ・・・無理もないよね。
『幽霊さん、いたら返事してくださいな』
って言ったら
『はーい』
って返事があったのと同じだもんね・・・。
そんなこんなでおっかなびっくりの質疑応答は続いていった・・・。
- 133 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:07
- 「・・・・・で、なっちからも一個聞くことがあるのさ」
粗方ごっちんの質問も終わり、日も少し傾きかけてきたところで切り出した。
「アンタ、こんなところでナニ作ってたわけさ?」
どーでもいいけどアンタだれすぎ、いくら質問が長引いたからって寝っ転がるなよ。
- 134 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:08
-
カンカン・・・
大あくびをしてハンマーを二回叩いた赤目。
間髪いれず背中を蹴っ飛ばしてやる。
- 135 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:08
- 「くっ・・・痛いじゃないか、これだから知能レベルの低い奴は・・・」
「なっちと話すときはハンマー叩かなくていいの!それに質問にはちゃんと答えなさい!」
赤目は『むぅ』と一つ唸って
「知らないものは答えようがないな、また左手が光って・・・」
「あらら、またかい・・・」
「ああ・・・頭に浮かんだものを作っていた・・・それがアレさ」
そういってテーブルの上を顎で示す、そこには・・・
- 136 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:09
- 「なんなんだいコレ?」
「ん〜、ごとぉなんも見えないよ」
湾曲した剣の柄の先に二本の筒がくっついたようなものが転がっていた。
どうやらコレもごっちんは見えないらしく、しきりにテーブルの上をきょろきょろ見回している。
「あ・・・そうそう、一個伝えることがあった」
「む?」
すっかり納得した(それでもまだどっかでは納得してないだろうなぁ)ごっちんとこのぼろ小屋を後にするときに
一つ大事なことを思い出して振り返る。
- 137 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:10
- 「近いうちに騎士団の調査隊が来るかもしれないけど、うまくやり過ごせる?」
「む!そりゃあ面倒なことだな・・・」
「無理っぽいなら、なっちがうまく言っておこうか?『子供のいたずらでした〜』とか」
さすがに調査隊がぞろぞろ来るのは困るのか・・・そりゃそうだよね。
「ん〜、話がどういう風になってるのかわからないけど、ごとぉもうまく言っておくよ」
だいぶ恐怖心は薄れてきたみたい、ごっちんもいつもの調子で協力を申し出てくれた。
「まあなっちが言うよりカオリは信じてくれるだろうし」
んま!なんて事言うんだいこの子ったら!
ここに来たときにがくがく震えてなっちにしがみついてた女の子と言葉とは思えないよまったく!
そんなぷりぷり怒る私に構わずごっちんは笑顔でぼろ小屋に手を振る
- 138 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:10
- 「じゃあね〜『ナツキ』く〜ん」とか言って
ん?ナツキ?ナツキってあいつのことかい?
「そだよぉ、なつみの男バージョンだから『ナツキ』でよくない?」
う〜ん・・・あいつの呼び名昨日少し考えたんだけど・・・まあ呼びやすいからいいか。
「でっしょ?あだ名は『ナッキ』でぇ、あは♪」
・・・・いいんだろうか。
- 139 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:11
- 「おい!ちょっと待て」
なにさ、呼びやすくていいじゃない。
不意に後ろから呼び止められ、振り返って「なに?」と言う。
「呼び名はそれでいい、今問題なのはさっきの話だ」
「ん〜、心配しなくていいよ、うまく言っておくからさ」
「いや、もう遅いかもしれない・・・アレを見てみろ・・・」
ん?どれどれ・・・
って・・・あれは・・・
「ずいぶん迅速な行動だな、オマエんとこの騎士団は、しかも凄い数だ・・・」
「アレはうちの騎士団じゃないよ・・・」
「なっち!すぐ戻らなきゃ!」
遠くに見える砂埃、おそらく200から300程だろうか・・・。
近隣の豪族の旗を翻しながら女神の街に迫る行軍が目に入った。
- 140 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:13
- 夕刻・神殿騎士団詰め所――
私とごっちんが急いで神殿に戻り行軍の様子を伝えると、カオリは色めき立つ騎士達を抑えてすぐさま軍議を開いた。
それから斥候を派遣し敵の様子を報告させることも忘れない。
こう言う所で凄いなぁ、と感心してしまう。
私だったら絶対パニックになってまともに対処できないだろう。
とりあえず第一発見の報告と見た感じの敵軍の情報を伝え、私は端っこで話を聞いている。
カオリや圭ちゃん、それにごっちんまでが攻めるか守るか・物資の残り状況、逃げるなら何処にするかなど話し合っている。
- 141 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:14
- 騎士にはなったものの・・・。
これが初めての戦・・・。
生き延びれる保証はない、緊張のあまり頭がぼうっとして来る。
そこへ斥候の一人が帰ってきた。
どうやら・・・・
向こうはやる気らしい、街外れの丘に陣を設営中らしい。
しかも・・・追い討ちをかけるように新情報が・・・。
- 142 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:15
- 「行軍路の付近住民は皆殺しにあった模様!奴らの残虐性、攻撃性は異常です!」
とたんにみんながざわつき出す、カオリも両手を頭にやって考え込んでいる。
でも私の心は・・・それどころじゃなかった。
自分の目がある一点を凝視して動かない、決して皆とは視線が触れ合わない場所・・・
斥候が慌てて閉め忘れていた扉から覗く、赤い眼をしたもう一人の私。
- 143 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:16
- 「いやぁ・・・なんか騒がしくなりそうだったんでな・・・」
(何であんたがここにいるのさ・・・)
どんだけ騒がしくなってもアンタ見えないんだからいいじゃん。
「いや・・・万一これを見つけられては困る」
そういって懐からチラリとあの筒を覗かせた。
(そんなもの・・・なんに使うか解らないのに・・・)
- 144 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:16
- 周囲の喧々諤々とした議論に紛れて小声でつぶやく、おりしもカオリと圭ちゃんが先制か専守防衛かでもめていた。
やはり敵軍の狙いは『託宣の巫女』未来を知ることが出来る力を手中に収めんが為だと思う。
巫女の影響力は『未来を知ることが出来る』という目に見える利益と『人々の心の支え』という眼に見えないもの、その二つがある。
だから巫女が無事でも、この街が破壊されるということは王都の民衆にも大きな動揺が走るだろう。
だからカオリは絶対に手を出さず、巫女を危険に晒すことなく王都からの援軍を待つべきだと言い。
圭ちゃんはジリ貧になるのを嫌って先手を打つべきだと主張している。
確かにカオリの言うとおり篭城は無難かもしれない。
でも城壁の低いこの門前町じゃ守るのには向いてないし、何より冬が終ったばっかりで食糧の備蓄も乏しい。
そのため軍議は真っ二つ、みんな熱くなってあ〜でもない、こ〜でもないと言い合っている。
- 145 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:17
- 「ところで・・・」
ん?なんか用かい?ナツキ君。
今なっちは大事な会議の最中だべさ、アンタのような根無し草に構ってる暇なんぞ無いのだべさ。
「お前らが大変なのはわかった、でもオマエはそんなに悩むことは無いんじゃないか?」
へ?なしてさ?なっちだって騎士っしょ、戦いに出るべさ、死ぬかもしれないべ。
「オマエはとっとと俺と一つになって其処のカワイコちゃんを連れてトンズラすればいいじゃないか」
- 146 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:17
-
このアホが・・・・死ね。
- 147 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:18
- (そんなことできるわけ無いっしょ!なっちもごっちんも騎士なんだから!)
「むぅ・・・それは困ったな・・・ならば良い案は・・・」
このバカ・・・アンタがいくら考えてもろくなもんじゃないべさ!
それなのに頭を抱えて・・・ん?アンタ?
(左手が・・・光って・・・!)
そう思った瞬間、ナツキは左手を押さえてうずくまる、私の右手は反応が無い。
(くっ・・・そうか・・・コレは・・・)
なにやらぶつぶつ言っている、それが・・・左手の記憶?
- 148 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:19
- 周囲の議論はどうやら先制攻撃に傾いている。狂戦士軍団に脅威に加え、やはり物資の不足は深刻な問題らしい。
従騎士の私は、会議の発言権を持っていないためにこの流れをただ見ていることしか出来なかった。
「おい・・・オマエ」
ナツキが左手を抱え込みながらつぶやく。
「確かここの風呂は温泉だったな?」
はぁ?この場でする話じゃないっしょや!
アンタのそのバカさと左手の痛みはどんな温泉でも治せないっての!
「良いから答えろ、場合によっては・・・俺が敵軍を何とかしてやれないことも無い」
にやりとしながらそう言う。
ってかアンタ相当今回のは痛そうだね、おでこに脂汗が浮かんでいるよ。
そう、確かにそうだよ、温泉。遠くに見えるあの山が火山なんだって。
「そうか、ならば先制攻撃の部隊に参加を志願しろ。手柄を立てさせてやる」
無茶な注文をさらりと言ってのけたナツキの表情はいつに無く真面目なものだった。
- 149 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:19
- (無茶!そんなの参加しても犬死するだけ!)
小声ながら必死で抗議する、私なんかが参加しても役に立つわけが無い。
おとなしく怪我人の介護など、私に出来ることをしていた方が良いに決まってる。
いやまてよ?こいつ人間には見えないんだっけか・・・。
(ああそうか・・・アンタ見えないんだから怖いもの無しじゃん!)
なっち頭良い!こいつが敵兵に見えないことを利用して敵将をブスっと・・・。
それならば勝算はある、深刻な軍議の最中なのに一人でニヤニヤ・・・。
「いや、それは無理だ・・・」
は?
「どうやら俺は人間には危害を加えられないらしい」
なんなのさ?アンタ一体?
「一回あの小屋に迷い込んだ山賊を始末しようと思ったところ、俺の振りかざしたハンマーはすり抜けてしまったんだ」
な・・・!なんて不都合な体質(?)なんだべか・・・。
(まあ、すり抜けてぶっ叩いた椅子が壊れてやつら大慌てで逃げていったんだがな)
誰も聞こえないけど大声で笑い出した赤い目の自分に冷ややかな視線を浴びせる。
もう少し空気読んでほしいよ・・・まったく。
- 150 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:20
- (じゃあなして手柄を立てさせてやるとかいったのさ)
「いや・・・今こいつの使い方の記憶が戻った、こいつなら・・・いける可能性がある・・・」
ナツキはそう言って懐の筒を指差す。
(可能性かい!もし外れたらだめじゃん!却下!)
「そうか・・・もったいないなぁ・・・」
(いいの!なっちはなっちに出来ることをやるんだから!)
どうやら先制攻撃を主張し続けていた圭ちゃんの二番隊が先鋒になるらしい。
勇猛果敢で知られた二番隊はこの街の騎士団としては唯一実践豊富な隊で、圭ちゃんを始め年長者(失礼)で構成されている。
ちなみになっち・カオリの一番隊は名門の出の者で構成され、実力は・・・カオリ以外はあまり・・・。
- 151 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:20
- 「フン!二番手はいらないよ!アタシの部隊で追い返してあげる!」
鼻息荒くまくし立てる圭ちゃんと、それに追従して士気も高まる二番隊、三番隊・・・。
ごっちんの三番隊は後詰として圭ちゃん達のサポートをすることになった。
戦いは避けられそうもない・・・。
神様・・・どうかごっちんを・・・みんなをお守りください。
- 152 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:21
- 3日後――矢口真里
「ねえ!アンタこの街で何があったのか知ってる!?」
――幸いにも酒場を出たすぐ後に私は生きている人間に出会うことが出来た。
しかし、初老の彼は旅の行商人で、戦火に見舞われたこの地の様子を見に来ただけだと言う。
「どこが!?ここを襲ったのは何処の奴らなんだッ!」
私は彼にこの惨劇が誰の手による物なのかを尋ねた、彼の答えはこうだ。
「騎士様、私は嘘は申しません、これから言う事は私がこの目で見てきたことなのです」
彼の表情はいたって真面目だ、商人にありがちな狡賢さは感じられない。
- 153 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:22
- 「数日前、私は近隣の城塞都市を訪れました、その際『搾取者』の通り名を持つ近隣の伯爵が女神の街に攻め入ったと言う噂を耳にしたのです」
「確かにあの伯爵は王政に不満が有ったらしいね・・・最近世の中がきな臭いし・・・」
「ええ・・・ですから色々入用だと思いまして・・・申し訳ありません騎士様・・・これが商人の性という奴でして・・・」
そこで彼は伯爵の領土が戦争の特需に沸いているだろうと思い、商売をしようと彼の地に出稼ぎに行ったのだという。
「ですが・・・そこで私が見たのは・・・無人のゴーストタウンでした」
どうも要領を得ない、確かに彼は伯爵でありながら王都に対し叛意を持っていたと言う噂はあった。
しかし、彼がここを征服し、焦土と化したのなら彼の領土が無人になっていたのは明らかに変だ。
それから私は近隣の様子を尋ねたが、ここ数日に同じような事件が数件あったという。
今この地に何が起きているのだろうか・・・。
私は彼に礼を言い、数日分の食糧を買い求め、彼の見てきたと言う戦場に向かうことにした――
市街中心部に程近い噴水のある公園の東屋にあったメモ
- 154 名前:第六夜 侵攻行進曲 投稿日:2004/12/07(火) 23:23
- ( ´ Д `)<第六夜 終了
- 155 名前:名無しです 投稿日:2004/12/08(水) 00:51
- 更新が早いですね。
毎日楽しみにしています。
ナツキのカンカンにワラタw
- 156 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/08(水) 18:23
- さあ、いい感じで毎日更新が進められてきました。
今週中にEndマークをつけられるでしょう。
今夜は激しく長くなる為、二回に分けて更新します
>>155様
毎日読んでくださり感激です。
一番人の少ない(と思われる)この板の一番下に沈んでる話なんぞ読んでくださる方はいないと思っていたのですが・・・
ちなみに更新が早いのは完結させてからスレ立てているのですよ。
なにぶん放置が怖い小心者ですので・・・(;´Д`)
( ´ Д `)<それじゃ今夜も付き合ってね〜♪
- 157 名前:―――――― 投稿日:2004/12/08(水) 18:24
-
な・・・何をやっている!
貴様らあの男を殺せぇ!
コロスンダァァァァァァ!
- 158 名前: 第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:25
-
第七夜 魔弾奏鳴曲
- 159 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:28
- 矢口が帰還する前日――安倍なつみ
二日後の早朝、圭ちゃん率いる二番隊とごっちんの三番隊は意気揚々と戦場に赴いた。
街の門から1キロほど離れた草原で敵軍を迎え撃つらしい。
伯爵の謀反と戦火の接近に、街の人々の不安は高まっていた。
私も門まで皆の見送りをした際に人々から
「騎士様!勝てるんですよね?」
「女神の加護がありますように!」
とかのすがるような声を聞いた。
- 160 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:29
- それと同時に・・・
「ああ、騎士様!私の娘が夜更けに『空飛ぶ袋を見た』と騒いでおりました・・・コレも何か不吉な予兆なのでしょうか・・・?」
とか・・・
「昨夜、トイレの床下で不振な物音が・・・敵軍は既にこの街に潜入しているのですか!」
ナツキだ・・・あいつめ・・・
そいえば昨日シスターが浴場の近くで何かをゴリゴリ削り取るような音を聞いたとか騒いでたような・・・。
とりあえずあいつのことはどうでも良い・・・今は部隊の無事を祈ろう。
- 161 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:33
- 皆を見送った後私は急いでシスター達と怪我人を収容する陣幕を立てる。
戦闘が不得意な私にできることと言ったらコレくらいだ、怪我しても良いから・・・皆戻ってきてほしい。
私の周りでいそいそと準備を続ける皆も同じ気持ちらしく祈りをささげる者、物思いにふける者・・・
残された非戦闘員に出来る精一杯のことをやっていた。
しかしその思いも空しく、前線の苦戦は想像以上だった・・・
- 162 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:34
- 戦場後方――後藤真希
「元気なのは前進!怪我人と同行している者はすぐに後退してっ!」
信じられない・・・あの圭ちゃんが苦戦しているなんて・・・。
前線から帰ってくるのは顔を真っ青にした圭ちゃんのとこの兵隊ばかり・・・。
「だれかっ!ここに倒れているコを後方まで連れて行ってあげて!」
圭ちゃんは最前に取り残されて孤軍奮闘しているらしい。
もうコリャ退却⇒篭城のコースだね、昨日なんとしてでも圭ちゃんを止めておけばよかったかなぁ。
一応あたしも篭城派だったんだよね・・・。
- 163 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:34
- 「騎馬隊!後藤に続いてぇっ!前線で孤立してる味方を助けるよっ!」
周りにいる何人かに檄を飛ばし、敵に向かって突っ込む。
「どいてっ!てぇいっ!」
血走った眼をして切りかかる敵さんの頭を思いっきり蹴っ飛ばす。
悪いんだけど手綱から手を離したらスピード落ちちゃうんだ、後で相手してあげる。
前線に行くにしたがって周りの光景はヒサンになっていく、倒れている味方・・・味方・・・みかた?
「こんなに・・・こんなに強いの!一方的じゃない!」
周囲を見渡すと味方の死体が圧倒的に多い、そこにちらほらと伯爵家の紋章をつけた茶色い鎧が見え隠れする程度。
「圭ちゃん!圭ちゃん何処!?」
敵兵に囲まれないように前線を駆け回る、不思議と敵軍は弓矢を使ってこない、何故かなぁ?
こっちとしては都合が良いんだけど・・・。
「あっ!あれは・・・」
敵のど真ん中で、あたしと同じ白い鎧が・・・隊長の鎧が・・・
大きな槍に串刺しにされていた・・・。
- 164 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:35
- 本陣近くの救護班の陣幕――安倍なつみ
女だけで構成された騎士団だと言う事実に加え、敵軍の異常な攻撃性により二番隊はあっという間に敗走。
生き残った騎士と三番隊により、ずるずると戦線を下げ、退却戦を繰り広げているらしい。
街に・・・戦火が押し寄せてくる、カオリをはじめ、城壁の守備に当たっている梨華ちゃんたちにも動揺が走った。
怪我人の手当てに追われているシスター達も、絶望的な表情を浮かべながらも必死で看病を続けている。
「大丈夫、ね?絶対皆生き残れるから・・・」
私も左腕が切り落とされ、うわごとのように何かをつぶやく若い騎士を必死で励ましながら手当てを続けていた。
「ほ、報告します!二番隊長:保田圭様・・・討ち死に!」
私達が居る衛生班の陣幕にもその訃報は聞こえた、そんな・・・圭ちゃんが・・・!
剣の腕ならカオリやごっちんにも引けをとらないはずだ、その圭ちゃんがこんなあっさり。
私はすぐに陣幕を飛び出て、カオリ達の居る本陣に駆けつけた。
- 165 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:36
- 「なっち!あなたはここに居るべき人じゃないでしょ!今すぐ戻って!」
本陣に飛び込んだ私を待っていたのはカオリの厳しい言葉だった。
「でも・・・圭ちゃんが・・・!」
「死んでしまった人は生き返らないわ!あなたは死に掛けている人を殺さないようにするのが仕事でしょ?」
「カオリ・・・・」
「これ以上の死者は・・・出したくないの・・・わかったなら戻って・・・」
キッと私を睨む瞳、それで居て強く握り締めた拳・・・。
隊長として・・・騎士団長として背負うもの、それがあるんだね。
「ふぅ」とこっちが肩の力を抜いた瞬間にカオリの眼が悲しげに伏せられる。
カオリ・・・あなたも辛いんだね・・・。
圭ちゃんのことは悲しいけど・・・私は今自分に出来ることをやるよ!
そう思って踵を返し、本陣を後にしようと思ったそのとき・・・。
- 166 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:37
- 「石川に伝令!今すぐ門を閉ざして篭城の構えを!」
・・・・・・!
そんな、まだ門の外にはごっちん達が!
「カオリ!」
「なっち!まだ居たの!早く持ち場に戻りなさい!」
カオリはそう怒鳴ると私に背を向け
「あなたが辛いのは痛いほど良く解る・・・私だって後藤のことは辛いの・・・」
「カオリ・・・」
「でも今後藤たちを待っていたら敵の侵入を許してしまう!そうすればもっと・・・もっと被害が・・・」
がっくりと項垂れ、ポツリポツリとつぶやいた。
- 167 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:37
- そんな・・・そんなことって!」
でも私は納得できない、するわけには行かなかった。
「行くなら勝手にしなさい!でもあなたのために兵力は割けないわ、別にあなた一人が戦死しても痛くも痒くもないの!」
「カオリ!」
「それが解ったら、とっとと持ち場に戻って!話はここまでよ!」
カオリはイラついて大きな円卓を殴りつけると出口を指差し出て行くように促した。
悲しいけど・・・カオリは正論だよ・・・この街を守護する騎士団の長として当たり前の決断をしたと思う・・・。
- 168 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:40
- でも・・・
私にできることって・・・何も無いのかな・・・
私にできることって言ったら・・・ごっちんの無事を祈るくらいしか・・・
ごっちんのふにゃりとした笑顔・・・夏の日差しのように温かい笑顔・・・それももう見ることが・・
ごっちんの居ない世界なんて・・・冷たくて・・・悲しいよ・・・
そう思うと急に目の前がぼやける、私泣いているんだ・・・。
- 169 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:41
- ふらつきながら本陣を後にした私の背中に
「なっち・・・ごめんね・・・」
そうつぶやくカオリの声が聞こえた・・・。
- 170 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:42
- 本陣はずれの木陰――安倍なつみ
「三番隊も生存は絶望的だそうだな・・・」
本陣から衛生班の陣幕に戻る最中に耳慣れた低い声が聞こえた
「このままでは・・・いいのか?」
「そんなこと解ってる!」
無神経な声に人目もはばからずに大声で答えてしまう。
それでも、地獄のようなこの陣屋の前では誰も気に咎めない。
- 171 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:43
- 「俺とオマエならば出来る、たった二人であいつ等を殲滅する事がな」
「何も出来ない・・・・人を殴れない奴が何言ってるのさ!山賊とは違うんだよ!いきなり椅子が壊れたくらいじゃ逃げてくれないよ!」
そう叫んで陣屋に入ろうとする、今の私は一縷の望みをかけて皆が戻ってくることを待つだけだ。
「フン・・・何も出来ないかもしれない。だがな、何もしないよりはマシだ、そうだろう?」
「・・・っ!」
そう言うと私の肩をぐいと掴んで向き直らせた。
「いいか?あの娘が戻ってこなかったらお前は一生後悔するぞ」
「くっ・・・そんなこと・・・っ!」
「何もせず奇跡を待つより・・・何かやって奇跡を起こそうとは考えなかったか?」
「・・・」
- 172 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/08(水) 18:44
- 私の中で何かがはじけた気がした。
何か・・・胸の支えが取れたような・・・。
今まで思っていたこと、考えていたことを今こいつが代弁してくれた。
踏みとどまっていた私の背中を、もう一人の私が力強く押してくれた、そんな気がした。
「それが解ったなら・・・お前が向かうのは・・・あそこだ」
そういって指差した方向を見る、其処にはカオリの愛馬の白馬がつながれていた。
「あんた・・・なにも・・・カオリの馬じゃなくても・・・」
もう私は迷わない、悪態をつきながらも足は陣屋とは違う方向へ向かっていた。
「フフ、ヒーローは必ず白馬に乗って現れる、そう言うもんじゃないか」
横目でチラリと見た、フードの中の私と同じ顔の赤い眼が笑いながらそう答えた。
- 173 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/08(水) 18:46
- (●´ー`)ノ<とりあえず一旦ここまで、今夜は長くなるべさ
- 174 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:41
- 戦場〜後藤真希〜
もう何人やられたか解らない。
でもあたしが倒した数はわかる、3人だ。
たった3人、こっちは何十人ってやられたのに。
あたしの馬も首を噛み千切られて死んだ。
数え切れないほどの敵を斬りつけた。
数え切れないほどの敵を貫いた。
それでも腕を失っても、心臓を貫いても、足を切り落としても這いずって向かってくる。
圭ちゃんもなすすべも無く殺された、あたしの目の前で・・・。
あたしも死ぬのかな・・・
- 175 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:42
- そんなことを考えていると右から槍が3本くらい刺さった敵兵に袈裟切りで切りつけられる。
左手のカイトシールドでそれを受けるが、あまりの衝撃にバランスを崩してしまう。
でも第二撃は来ない、相手は力任せに叩きつけただけらしく、のろのろとまた剣を振りかぶっている。
その振り上げた右腕をすばやく払い切りで落とす、それでもそいつは足元に手首ごと落ちた剣を左手で拾い向かってくる。
左手、右足、そして頭を切り落としたらようやく動きが止まった。
みんな、生きてる?絶対に死なせないから!
皆をなっちんとこにつれて帰るよ、そして治してもらおう!
それまで・・・それまで何とか・・・死なないで!
- 176 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:43
- 城門前〜安倍なつみ
城門目指して白馬は疾走する、横には栗毛の馬、普通の人から見たらただの袋をぶら下げた馬だろう。
しかしその鞍上には人が居る、私の半身が。
4番隊の梨華ちゃんのところに向かった伝令より早く門につかなければならない。
はやる気持ちを抑えつつも馬の腹を蹴り速度を上げる、一旦門が閉じられるともう開くことは無いだろう。
次に開くときは敵軍の手にかかって破られるときぐらいだ。
白馬は速度を上げ、私の視界が三角形に狭まり、撤退してきた負傷兵や、街の人々が驚いて道を開ける。
高ぶった意識に水を掛けるようにナツキから指示が飛ぶ。
「いいか!門を抜けてから俺達の最初にやることは最前線に出ること!できるな!」
あえて返事はせず無言で頷く、最前は危険だけどやるしかない。
「そしてオマエは愛しの『ごっちん』を見つけ出して助けるんだ!この馬はくれてやる!」
冷やかし交じりの言葉にも力強く頷く、それだけは・・・それだけは絶対にやらなきゃならない。
最後に俺のことは心配するな、と言い放ち、ナツキも正面を見据えて馬を加速させる。
まずは門を抜けること、それが出来なきゃ始まらない。
この通りを抜けたら・・・城門はすぐ其処だ・・・。
- 177 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:44
- 「見えた、一気に抜けるよ!」
カオリの馬の方が幾分か速い、私は後ろのナツキに檄を飛ばし、腰から剣を引き抜いた。
門がぐんぐん接近する、城壁の上に立つ梨華ちゃんが私に気づき何か大声で叫んでいる。
梨華ちゃん・・・ゴメンね・・・
そう心の中で謝り、私は門を駆け抜ける。
少し後ろを振り返るとナツキも無事抜けたみたいだ。
少し安堵して視線を前方に移す。
戦線は確実に城壁に近づいており、もう戦の土ぼこりが目に見える。もう1キロも無い。
道の傍らには力尽きた騎士のなきがらが目に付く。
背中に刺さった大きな槍、切り傷だらけで真っ赤に染まった鎧・・・
待ちに逃げ帰る最中に息絶えたのだろう、両手がしっかりと胸の上で組まれていた。
仲間がやってくれたのかな?この人は死ぬ間際に何を思ったのだろう・・・。
- 178 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:45
- 「これが・・・戦い・・・」
改めて戦争の恐ろしさを実感する。
そこにいる以上、常に付きまとう死の確立・・・
普段の私なら、恐怖で引き返そうとしたのだろうか・・・。
でも今は違う、逃げるわけには行かない。
愛する人のため、いや、この街のみんなのため・・・
私は馬を奔らせた・・・。
- 179 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:46
- 最前線〜後藤真希
もうみんな大体逃げたかな・・・
そう・・・だよね・・・そう考えなきゃ・・・
あたしの周りに敵しか居ないのはおかしいよね・・・
よかったぁ・・・後藤真希は隊長らしい事が出来たのかな?
あたしも逃げなきゃって思うけど・・・
もう足が一歩も動かないや・・・
敵兵さん・・・殺すんならきれいに殺してね・・・
あ〜あ・・・最後になっちに会って・・・ギュッて抱き締めたかったなぁ・・・
なっち・・・もう目が霞んで・・・
最後に見るのが斧を振りかざしたこんな奴だなんて・・・
- 180 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:47
- 最前線近く〜安倍なつみ
戦場に突入してからずいぶん走った。
私は戦争は初めてだけど、この戦場は明らかにおかしい。
体の半分を失ってもまだ武器を手に襲い掛かってくる敵兵。
死んだ兵士や馬にかぶりつき、死肉をあさる敵兵。
点々と屍を晒す騎士団のみんな・・・。
これが「地獄」と言う奴なんだろうか・・・。
私は我武者羅に剣を振り回し、そしてただひたすらごっちんの茶色い髪と白い鎧を捜し求めた。
倒れてうずくまっている3番隊の騎士に襲い掛かる敵兵の頭に上から剣を振り下ろし、砕く。
そいつはそのままよろよろと数歩進んでばたりと倒れる。
- 181 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:48
- 初めての・・・ヒトゴロシ・・・
でもなぜだろう・・・心は平穏だ
きっとそれどころじゃないんだよね、それとも戦ってこういうものなのかな・・・。
よろよろと立ち上がった3番隊の騎士にごっちんのことを聞く
「隊長は・・・私達を逃がすために、最前に留まっておられる・・・はずです・・・」
そう言って指差した方向には砂埃と多数の敵兵が・・・。
ごっちん・・・ごっちんももしかしてこの中に・・・
そう思った時に・・・私の耳に聞こえたのは・・・
- 182 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:50
-
「ぱん!」と言う、雷にも似た・・・乾いた破裂音だった・・・。
- 183 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:50
- 敵軍の真っ只中〜後藤真希
雷が落ちるような大きな音を聞いて、閉じかけた目を開ける。
敵兵の頭から「パッ」と赤い花が咲いて、ゆっくり崩れ落ちる。
倒れた敵兵はぴくりともしない、完全に・・・死んだ?
あたし・・・助かったの?
辺りを見回すとそこには・・・
長い筒を構えたなっちが・・・
なっち、助けてくれたんだぁ!
愛の力だね、凄いよ
でも、どうして・・・?
どうしてあなたの目はそんな赤いの?
それを考えるまもなくまた目の前が真っ暗になっていった・・・
次に目が覚めたときは・・・なっちの腕の中が良いな・・・
- 184 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:52
- 最前線から少し後退した場所〜安倍なつみ
「ごっちん!しっかりしてごっちん!」
ナツキが抱えてきたごっちんはぐったりして、まるで死んでいるみたいだった。
でもプレートメイルの胸の部分がかすかに上下している、死んではいないみたい。
血まみれの体でも殆どが返り血か味方の血・・・。
ごっちん自体の負傷はたいしたことはなさそうだ。
気を失っているのは恐らく疲労と異常なまでの精神の消耗によるものだろう。
愛する人の力量に改めて感服する。
「馬は捨ててきてしまった・・・」
コートの下の黒い服の胸ポケットから煙管を取り出しながらナツキが言う。
「後はオマエが落とさないように抱きかかえていくんだ、いいな?」
タバコの葉っぱを詰め込むナツキを見つめ力強く頷く。
「うん、ごっちんは・・・絶対に死なせない!」
- 185 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:52
- 「よし・・・後は・・・好きにさせてもらう」
さらに胸から取り出した四角い銀色の金属らしきものを「ピン」とはじく。
その直後、その銀色の先端に炎が灯る。
梨華ちゃんが見た火の玉はこれのことだったのかもしれない・・・。
その炎を煙管に近づけ、「ふう」と一息、戦場に似つかわしくない紫煙が一筋立ち昇る。
ナツキの後ろ、50メートルほどに敵群が迫る、もう行かなくては・・・。
「ねえ・・・」
「ん?」
馬にごっちんを乗せナツキに背を向けながら呼びかける。
「死んじゃ・・・ダメだよ?」
言葉が口をついて出る、これが私の本心なのだろう。
ナツキは背中に背負った袋をごそごそやりながらいつものペースでこう答えた。
「死ぬつもりはない・・・な」
私はその言葉を背中で聴いて、馬の腹を蹴り城門へ向かって駆け出した。
- 186 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:54
- 最前線から少し後退した場所――ナツキ
自分でも不思議に思う、何故こんな人助けをするのか?と。
今まで姿が見えないのをいいことに食べるものには困らなかった。
目の前で困っている人間がいても見捨てて来た・・・。
自分には記憶が無い、だから自分がどんな人間であるのかもわからない。
しかし、善と悪で二分化するならば、確実に自分は悪人であろう。
そう言う確信が彼にはあった。
徐々に戦線から離脱していく白馬を見ながら安堵していく自分を客観的に見つめ、違和感を覚える。
そして、後ろから迫り来る集団にそれ以上の憎悪をぶつける。
「カス共が!調子に乗るなよ!」
こいつの使い方は思い出した、狙いを定めて「ヒキガネ」を引くだけだ。
さっき斧を振りかざした敵兵の頭を貫いた、効果は実証済みだ。
しかし鉛弾の前に・・・
こいつをくれてやる・・・
彼は煙管を咥え大きく息を吸い込むと、右手の玉の先に付いた「ドウカセン」を近づけ・・・
「ゴミ共が!ショウタイムだッ!」
自分を通り抜けてなつみを追いかけていった一団にそれを投げつけた。
- 187 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:56
- 敵軍最後方〜伯爵の陣
まだ夕方なのに完全に日の光の当たらぬ陣屋に戦場の轟音が響き渡った。
「な・・・何だ今の爆発は!」
自軍最前線で起きた謎の事態に伯爵は大きく動揺する。
「まさか・・・火薬・・・聞いたことがある・・・イレギュラーか」
伯爵の横でグラスに注がれた真っ赤な液体を味わっていた男がぼそりとつぶやく。
年の頃は50〜60位だろうか、わずかながら白髪をたくわえ、顔のあちこちに深い年輪が刻まれている。
戦場には不釣合いな黒い長衣を身にまとっている。
「カヤク?何だそれは!聞いてないぞ!」
狼狽する伯爵
「知らなくて当たり前だ、この世界には存在するわけが無いものなのだからな」
それとは対照的な黒衣の男。
「我が主に聞いたことがある・・・イレギュラーを発見したならすぐさま報告しろ、とな」
「ほう?貴殿も見たことが無いのか?それだけ長く生きているというのに・・・」
冷やかす様な伯爵の合いの手、しかし男は冷静に伯爵を見据えるだけだった。
- 188 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 01:56
- 「まあな、私が主の洗礼を受けたのは100年ほど前、その間にイレギュラーを見たことはない」
黒衣の男はグラスの中の液体を一気に飲み干し、口をぬぐいながら淡々と言い放った。
「そんなことより、あいつは危険だ、なんせ、我が主が『軽々しく手を出すな』と仰っていた位だからな」
「ほう、貴殿らでも臆病風に吹かれることがあるのかな?」
伯爵の明らかな嘲笑にも男は動じない。
「撤退するかね?」
「バカを言うな!あと一押しで託宣の巫女が我が手に落ちるのだぞ!」
「ならば、火薬使い共々一気に攻め落としてしまうように部下に言うのだな」
そこまで言うと男は赤いものがこびり付いた歯を剥き出し、にやりと笑った。
「フン、あいつらは私の言うことなど聞きはせん!貴殿は私をからかっているのか!」
そう言うと伯爵は苛立たしげに男のワイングラスを奪い取り投げ捨てた。
- 189 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:00
- 「フフフ、心配しなくても火薬使いを優先的に始末するよう命令しておこう」
「フン・・・」
「さっきから爆発音が凄い、抛っておくと被害が大きくなりそうだからな」
「迅速に対応してくれると有難い、自在に爆発を起こせる『カヤク』か・・・確かに厄介だ」
伯爵は本陣となっている洞窟から少し出たところで戦場を眺めていた。
「さすがにアレでは不死身の我が兵も使い物にならんな、素材はある、今晩また『作って』くれないか?」
「いや、主にイレギュラーの出現を伝えねばならない。まだ火薬使いを処理したら十分にあの街を落とせる兵力はあるはずだ。」
そう言って黒衣の男はマントを肩に掛け
「そうそう、はしたないようだがもう一齧りさせてもらうよ、お嬢さん」
と、本陣の柱に縛り付けられていた年端も行かぬ少女の首に齧りついた。
その少女は既に事切れていたが、噛み切られた首からは血が滝のように流れ、伯爵の本陣を赤く染めた。
「それにメインディッシュに相応しい食材を見つけた、やはり15年物の生娘の肉は最高だ・・」
『食事』を終え、満足そうに立ち去っていく黒衣の男を苦々しく見つめた伯爵は
「化け物め!」
とはき捨て、すっかり飲む気のうせたワインを地面に叩きつけたのだった。
少女の鮮血と、破裂したワインボトルによって本陣の陣幕が赤く染まっていく
普段は緑と残雪の残る丘が、夕日と鮮血に染められていくように・・・。
- 190 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:01
- 敵陣深く〜ナツキ
「ふう・・・これだけやれば・・・後はいいか・・・」
長銃に弾丸を装填しながら呟く。
彼は敵陣の真っ只中で座り込み、そして腰に巻いたガンベルトの予備の弾薬を確認しつつ立ち上がる。
半数近く撃ってしまった、残りは10発有るか無いか・・・。
ここまで来る途中に袋の中の爆弾はすべて使ってしまった。
「荷物が軽くなったのは良いが・・・そろそろ仕上げにかからんとな」
持ち物が軽くなったと共に、少なく見積もっても敵兵の数を100は減らした。
騎士団の被害も拡大はしてないだろう、なつみと真希も恐らく無事だ。
敵陣深く潜入した彼の目的はただ一つ
『敵将の暗殺』
方法は簡単だ、本陣の中に居る偉そうな奴の頭を狙って「ズドン」ただそれだけ。
- 191 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:02
- 敵兵には自分の姿は見えていない、無言で隊形を揃えたままの敵兵を通り過ぎる。
敵の本陣は小高い丘の洞窟、夜に備えて煌々と篝火が灯されている。
「敵将は・・・あそこか・・・」
一言も会話の無い敵兵をまじまじと見つめながら敵陣を進む。
前線では異常な殺気を放ち、普通の人間ならば戦闘不能な傷を負っても戦いをやめようとしなかった。
そして、死肉を、あるいは生きたままの人間に齧り付いていた。
「こいつら・・・まさか・・・」
陣の片隅に積み上げられた死体の山を見ながら呟く。
『ゾンビ軍団』
そう考えれば今までの辻褄が合う、既にこいつらは・・・
「人じゃないってわけか・・・・」
2メートルほど離れた所に立っている敵兵に一瞥をくれ、そう呟きにやりとした直後、顔が急な痛みに歪む。
左手が赤く、そして淡く夜の夕闇の中に光っていた。
- 192 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:03
- 戦場後方〜安倍なつみ
大きな爆発音を後ろに聞きながら、私はごっちんを抱え城門を目指した。
敵兵の姿は見えない、どうやら進攻がストップしているらしい。
ぱらぱらと生き残った兵隊が、何とか隊列を整えて街に帰還してくる。
「みんな!もうすぐ門だよ!がんばって!」
明るい大声で激励しつつも腕の中のごっちんを見ると表情が曇ってしまう。
さっきからうわ言の様に私の名前を呼んで、荒い息をしている。
ごっちん、アナタもがんばって!
なっちはここに居るから!
生き延びたらイチャイチャしてあげるから・・・好きなだけ
私はごっちんの頬を軽く撫でてあげると、ようやく見えてきた城門を見据えて馬を奔らせた。
- 193 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:04
- 敵本陣〜伯爵
苛立ちながらグラスのワインを煽る
カヤク、忌々しい化け物、いまだに陥落しない街・・・
すべてが彼には不愉快だった。
彼の予定では今頃は街に伯爵家の旗が翻り、女だらけの騎士団から数名彼好みの者を選び陵辱しているはずだった。
完全に酔っ払った彼は、目の前の机を蹴り飛ばし、千鳥足で外へ向かう。
不意に出口の幕が翻る、風は感じられない。
次の瞬間に眉間に衝撃を感じ、視界が赤く染まる。
目の前が真っ赤に染まりきる前に、篝火に照らされたフード、そして赤い目が目に入った・・・。
- 194 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:05
- 敵本陣〜ナツキ
まだ煙の立ち上る長銃を下ろし、目の前に転がったモノを睨みつける。
「カスめ!」
そう吐き捨てて敵本陣を後にする。
伯爵は仕留めた、いくら不死身の軍隊だとしても指揮官が居なくてはまともに機能しないだろう。
「これで・・・終ったな」
後は街に帰るだけだ、「歩いて帰るのは少し面倒くさい」そう思いながらも街に向かって歩き出したときに・・・
「イレギュラー・・・こんな所までやって来たのか」
- 195 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:07
- 「伯爵がやられるとはな・・・」
明らかに自分に向けて発せられた言葉、驚いて振り返る。
黒い長衣の男が驚きの表情を浮かべながらこちらを見ていた。
後ろには年若い少女を積んだ馬車が見える。
少女は力無く俯いていた。長い黒髪で、その表情はうかがい知れない・・・。
もし彼の姿が見えていたなら泣き叫んで救いを求めたであろうか。
「しかもどういう訳だ・・・兵共に襲われないとは・・・」
ナツキ自身、自分の姿を見ることが出来る人間が居たのには驚きだった。
なつみ以外の者は彼の姿を見ることが出来ないはずだ。
荷馬車の少女をどうにかすることよりも、そちらの方で頭がいっぱいになる。
(クッ・・・またこの痛みか!)
急に左手の光が強くなる。左手に痛みが走るが、自分の姿を見ることが出来る人間の前で隙を見せて蹲る訳にはいかない。
しかもこいつは明らかに敵だ、勘などではない、なぜか確信があった。
- 196 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:08
- (・・・・左手の記憶!コイツを・・・滅ぼすのか!)
彼の頭に言葉ではない、感覚のようなものが語りかける。
目の前のそいつを「撃て」と。
「まあいい、君は危険だ。消えてもらおう、イレギュラー!」
さっ、と右手をかざすと周囲の兵士が武器を構えてこちらを向く。
(何!俺が見えるのか・・・こいつらも)
しかし兵達は戦闘体制を取るものの、動こうとはしない。
(やはりこいつらには・・・俺が見えていないのか)
暫く考えた後、長銃を黒衣の男に向ける。
(左手よ・・・俺にも解る、コイツは滅ぶべき邪悪だ)
ナツキ、彼は確かに悪であった。
しかし目の前の男は悪の次元が違う。
彼は悪「人」であったが、目の前の男は存在そのものが悪、邪悪であった。
それを光る左手が感覚として語りかけて来ているのであった。
- 197 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:08
- 「くっ!何をしている!かかれ!殺すん・・・アギャ!」
男が杖を振りかざしてそう叫んだと同時に陣に、乾いた破裂音が響き渡り大きくのけぞる。
銃口を向けられていたのを知っていただけに少し頭をずらして直撃は免れたが、こめかみの辺りから赤黒い血が流れ落ちる。
男はよろよろとおぼつかない足取りで馬車の方へ向かう。
「何故こいつらは襲い掛からない・・・」
「さあな?俺が聞きたいくらいだ」
にやりとして言う。
顔の造りはなつみと同じであるが、彼女には無い残虐性が姿を覗かせていた。
「まさか!そうかあいつは命が・・・!」
転げまわりつつも馬車にたどり着き、薬で麻痺させておいた少女の黒髪を掴み後ろに回る。
たっぷりと痺れ薬をかがせた、丸一日は何も抵抗は出来ないだろう。
恐怖におののく無抵抗の少女を文字通り『料理』するつもりだった。
それを今この場で踊り食いしてしまうのは気が引けたが、この際眼を瞑ることにした。
「人質か・・・無駄なことを・・・」
長銃を構えつつゆっくりと近づく、相手は丸腰だ、数メートルまで近寄っても大丈夫だろう。
この銃の装弾数は2発、次を外すわけにはいかない。
- 198 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:11
- 「それ以上近寄ると、この娘の首を噛み切るぞ!」
牙をむき出し、首筋に突き立てるポーズをとる。
少女は何が起こってるのかわからない様子だが、自分の首筋に食人鬼の牙が迫っているのは確かだ。
思うように動かない体を必死に動かそうとし、顔は青ざめている。
「フン・・・」
しかし彼はそんなことを気にも留めず、じりじりと歩を進める。
彼には確信があった。
『次に引鉄を引いたらこいつは死ぬ』と。
「この左手は・・・」
ぴたりと足を止め、照準を絞り引鉄に力を入れる。
「滅ぶべきモノを知っている・・・・」
「ぱん」と乾いた破裂音の後に、少女の少し長めの黒髪が赤黒い鮮血に染まった。
- 199 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:16
- 「魔弾を射る者・・・それは人間では・・・ないのか・・・」
「テメエには言われたくねえ言葉だな・・・」
銃身から昇り立つ煙を振り払うかのように、左手を水平に振りかぶった。
赤い光が満月の元に綺麗な残像を描き・・・この戦いの終わりを告げた。
- 200 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:17
- 城門前〜安倍なつみ
「よかった・・・開いてる」
数時間前に突破した城門は大きく開いて、負傷兵を迎え入れていた。
すっかり日が落ちて、城壁には篝火が盛大に焚かれている。
「安倍さぁん!よかった、ごっちんも!」
城門前で警備と負傷兵の誘導をしていた梨華ちゃんがこっちに気づき笑顔で手を振る。
敵兵の接近をぎりぎりまで確認してから閉門しようと思っていたところ、一向に敵が来ないために
結局門は開けたままにしておいたのだという。
「とりあえず治療の方は一杯一杯らしいです、ごっちんはウチの隊の救護班に任せてください」
そう言って門の脇に設けられた、簡素な治療用スペースを指差す。
本陣まで行けそうも無い者や本陣で治療する程の怪我でないものが利用するらしい。
ありがとう、と一言礼を言って梨華ちゃんの部下にごっちんを委ねる。
慎重に担架に載せられて、運ばれていく。
- 201 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:17
- 「安倍さんはこれからどうするんですか?」
「う〜ん・・・」
と、手を腰にやって考える・・・振りをする。
その答えはもう決まっていた。
「とりあえず命令違反しちゃったからカオリに怒られて来る、本陣だよね?」
「あ・・・はい。でも安倍さんが出撃してから生還者も増えました。今回はお手柄ですよぉ!
保田さんは・・・残念でしたけど・・・。」
「うん・・・圭ちゃんは助けられなかった・・・」
「安倍さんのせいじゃないですよ・・・それに安倍さん凄いんですね!普段はダメな振りしてたんですかぁ?」
少し暗くなった私に気を使って梨華ちゃんがわざと明るく言ってくれた。
本当は泣きたいんだろうなぁ、圭ちゃんには色々お世話になってただろうし・・・。
「それじゃ行って来るね・・・ごっちんをよろしく!」
「はい!絶対に死なせません!」
くるりと梨華ちゃんに踵を返し白馬に飛び乗る。
あ、この馬カオリのだっけ、怒られる材料が一個増えたねコリャ。
- 202 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:18
- だが怒られるのはどうでもいい、私もカオリに聞きたいことがあった。
戦場を駆け回った私にはある一つの違和感があった
先制攻撃をするとはいえ、明らかに戦場に投入された兵士の数が多い。
この街には1番隊から4番隊まで各50人あまり、200人ちょっとの兵がいたがその大半を攻め手に割いた。
守るはずの巫女の神殿があまりに手薄になっているはずだ。
冷静なカオリが防御のことを忘れていたなんて考えられない。
色々な考えをめぐらせながら、ゆっくりと白馬を神殿前の本陣に向かわせた。
- 203 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:18
- いまだ敵陣の真っ只中――ナツキ
「さて・・・これをどうしたものか・・・」
指先で気絶している少女の顔をつんつん突付く、指先は空しく少女をすり抜け宙を舞う。
「こいつは動かせたのになぁ・・・ふむ、やっぱり触れる」
つま先で先ほど撃ち殺した黒衣の男を軽く蹴ってみる、靴の裏に軽い衝撃が感じられた。
フードから頭を出し、空を仰ぐ。
外気が心地よい、星とともに満月が煌々と光っていた。
周囲の敵兵は黒衣の男を撃ち殺した瞬間にばたばたと倒れてしまった。
死人使いが倒れたために、死人に戻ったのだろうか。
少なくともこの敵陣には自分と死肉を漁りにきたカラス以外動くものはなさそうだ。
「まあ、これで大丈夫・・・かな?」
馬車のホロを取り外して少女にかけてやる、春先とはいえまだ寒い。
自分は馬車につながれていた馬に跨り、街に帰ることにした。
皮肉にも純白の馬、陰気な死人使いには似つかわしくない馬だ。
- 204 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:21
- 「へっ・・・お前さんはヒーロの器じゃなかったってことだ」
誰に言うでもなくチラリと死人使いを見たあと手綱を引き絞る。
「悪りぃな、食事中に」
馬を回した瞬間にカラスが飛び立つ、月の光と篝火に照らされた黒い翼は一種幻想的な雰囲気をかもし出した。
「その娘は齧っちゃダメだぜ」
また死体に群がり始めたカラスに一瞥をくれ、ナツキは街へ向かって馬を走らせた。
「それにしても・・・今日はコイツが光りっぱなしだ・・・」
手綱を握っている左手をまじまじと見つめ、一人ごちる。
今はもう痛みはない、ただ・・・。
徐々にであるが記憶が逆流しているのを感じる。
「光と影・・・陰と陽・・・」
自分が何者であるのか・・・。
「アイツは太陽・・・俺は月・・・」
そしてこの世界に来る前の記憶も・・・。
「『滅ぶべきものを知っている』か・・・」
そうつぶやいたあと城を目指し馬を奔らせた。
反対の方向へ飛び去った一羽のカラスには気づかずに・・・。
- 205 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:22
- 古城にて
「そうか・・・死人使いが消されたか・・・」
その男は打ち捨てられた古城の玉座に腰掛け、カラスからの報告を聞いていた。
格好こそ貴族の纏う服装であったが、気品よりも厳格、といった感じで・・・。
そして何より禍々しい妖気が感じられた。
「有能な部下が消えたのは惜しいが、奴はイレギュラーを舐めすぎた。当然の結果よ・・・」
傍らにいる従者の女に語りかけるその口調は威厳に満ち、どこか儚げであった。
「イレギュラーは神にその存在を許されなかった者・・・奴らも死人同然よ・・・死人は死人を襲わぬ・・・」
そう言うと黒いマントを翻し、月光に照らされたテラスへの扉を開ける。
- 206 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:22
- 「それに伯爵の軍も全滅か、調子に乗って皆死人兵にするからよ・・・」
「仰せの通りで、伯爵も所詮は人間、欲に目が眩んだ者など御主(マスター)が使うに足りませんわ」
「ふふ・・・厳しいな・・・」
「御気に障られたなら御容赦を、でもわたくしはあの伯爵のことが気に入りませんでしたの」
マスターと呼ばれた男は「ふっ」と笑って手すりに身を乗り出し、夜風を気持ちよさ気に浴びていた。
時たま月を眺め、目を細める。
「お出になられるので?」
「ああ・・・少し挨拶をしてくる・・・託宣の巫女とやらにな」
従者の女性はおずおずと立ち上がり、深紅のドレスを引きずりながら彼女もテラスの窓際に出てきた。
「何も自ら行かなくてもよろしいのでは?代わりのものを御用意しますわ」
「いや、見てみろ・・・今日は月が美しい。見事な満月だろう、たまには月の光を浴びて出かけてみたくなるものよ」
「仰せの通りに、ならば帰りをお待ちしておりますわ・・・」
女はそう言ってテラスの扉を閉める。
視線の先には月影に踊る巨大な蝙蝠の姿があった・・・。
- 207 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:24
- 日付が変わる頃・騎士団本陣――安倍なつみ
「カオリ!カオリはいる?」
「なっち・・・!」
「あ・・・安倍さんっ!生きていたんですか!」
本陣に駆け込むと数人の騎士と会議中だったカオリが驚いた表情で立ち上がる。
「丁度良かったわ・・前線の報告と・・・命令違反の理由を言いなさい・・」
「隊長!安倍さんは・・・!」
あくまでも隊長としての態度を崩さないカオリに部下が抗議の声を上げる。
「いいの、それより・・・ちょっと二人きりで話せるかな?」
それを手を上げて制し、まっすぐカオリの眼を見て尋ねる。
引き下がるわけには行かない、これは大事なことなんだから。
- 208 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:26
- 「・・・・いいわ。高橋、新垣・・・下がってて・・・話が終ったら呼ぶから・・・」
神経質そうに顔を伏せ、目の前で組んだ両手に額を押し当てる。
騎士が少し板についてきた二人はこちらを申し訳なさそうに本陣を後にした。
こめんね、本当なら「心配かけてゴメンネ」って言って頭をなでてあげたいけれど・・・。
「カオリ・・・まずは命令違反してごめんなさい」
「・・・・」
「でも、やっぱり味方を・・・見殺しになんて出来ないよ・・・」
「・・・・」
カオリは黙って私の言い訳を聞いていた、普段なら鉄のような笑顔で淡々と言葉尻を捕まえに来るのだけれど・・・。
- 209 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:26
- 「やっぱり私は・・・」
「・・・・心配かけたと思ってるの?」
「へ・・・?」
「どれだけ私が!カオがなっちのこと心配したと思ってるの!」
「カオリ・・・」
- 210 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:27
- カオリが・・・
泣いていた・・・・。
- 211 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:27
- 「っく・・・なっち・・・生きてて良かったぁ・・・!」
カオリはそう言って抱きついてくる。
私の小さい体はカオリの両手にすっぽり収まってしまった。
「ちょ・・・ちょっと、カオリ?」
「圭ちゃんが死んで・・・ごっちんも絶望的で・・・なっちまで死なれたらって思ったら・・・」
そこまで言うと膝から崩れ落ちた、私も一緒にしゃがみこむ。
周りに人がいないからカオリはワンワン泣いてる。
今までずーっと団長としての重荷があったから辛かったんだろうね、カオリ。
なっちがもうちょっとしっかりしてたら一緒に支えてあげられたのにね・・・。
久しぶりに感じた友情に思わず目頭が熱くなる、気が付いたら一緒に涙がぽろぽろ零れてきた。
- 212 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:28
- 「カオリ・・・圭ちゃんは助けられなかったけど、ごっちんは生きてるよ。梨華ちゃんに任せてきた・・・」
「本当!?よかった・・・よかった・・・」
カオリの声がふわっと明るくなった、ごっちんのことはまだ聞いてなかったみたい。
「それに思ったより死傷者は少なそう、三番隊が退却に徹したのと・・・」
「圭ちゃんが犠牲に・・・なったからだね・・・」
私の説明にカオリの声がまた暗くなる。
圭ちゃん・・・アナタは立派な隊長だった。
今なら心からそう言えるよ。
- 213 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:29
- 圭ちゃんの亡骸は今頃敵兵の様子を見ながら部下が葬っているだろう・・・。
2番隊の部下達の信頼も厚かったからなぁ・・・。
神殿の墓地に葬られるのかなぁ・・・。
神殿・・・巫女・・・?
あ・・・・
ふと、今は亡き友人の事を考えていたら大事な疑問がよみがえる。
この場で凄く聞きにくいけれど・・・
聞くしかないよね・・・・。
- 214 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:30
- 「それと・・・カオリ・・・巫女様は?」
「えっ!・・・だ・・・大丈夫だよ!敵は侵入してないし・・・」
「ちがうの・・・巫女様から今回の侵略について何か託宣はあったの?」
「そ・・・それは・・・」
急に話しが切り替わって口ごもる。
しんみりとしたいい雰囲気だったけれど、今聞かなければいけないことなの。
「答えて!なっちが持っていった託宣の中にはそんなこと書いてなかったんでしょ?」
「なっち!」
「もし書いてあったなら今ごろ矢口が大軍を率いて王都から戻ってきてもいいはず!」
「・・・・・・・」
あの日・・・ごっちんとバーで説教されたとき、託宣は未開封のままカオリに没収された。
それを無造作に暖炉の中に投げ入れたんだ、カオリは・・・。
真剣な表情のまま涙目のカオリを見据える。絶対に目は逸らさない。
- 215 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:31
- 「なっち・・・託宣の巫女は・・・」
カオリが何か口を開きかけたそのとき・・・・
「隊長!安倍さん!神殿がぁ!神官長様がぁ!」
高橋が血相を変えて飛び込んできた・・・・。
- 216 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:31
- 半日後〜矢口真里
――旅の商人に言われた戦場は見るも無残なものであった。
「うっ・・・これは・・・」
あたりには死臭が立ちこめ、先頭のあとが生々しく残っていた。
「この剣!圭ちゃんの・・・」
そして、ところどころ焼け焦げたような地表と掘り返されたような跡・・・
「圭ちゃん・・・圭ちゃんがこの下に・・・うわああああぁぁぁ」
一番戦闘が激しかったと思われる場所で二番隊長保田圭のものと思われる剣が供えられた土塚を発見した。
生き残った部下がしたことだと推測される。
- 217 名前:第七夜 魔弾奏鳴曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:33
- 「圭ちゃん・・・これは借りていくよ、これからもオイラに力を貸してね・・・」
そのまま歩を進めると、程なくして敵陣と思われる場所に到達した。
「な・・・なんだこりゃ!」
敵陣は敵兵が無傷のまま『死んで』いた。
普通では考えられない、老若男女問わずすべての敵兵が装備もそのままに屍を晒していた。
「や・・・矢口・・さん?」
不可解だらけの一連の騒動であったが、私はここで初めて一筋の光明を見る。
敵陣をのろのろと這い進む黒髪の少女を発見したのだ。
「亀井!亀井ちゃん生きてたのか!」
「矢口さん!うわぁぁぁん!」
2番隊の新米騎士亀井絵里の生存を確認、これよりペアを組んで街の捜索にかかる。
〜なつみが通過した城門に貼り付けられていた矢口のメモ〜
- 218 名前:追憶の挿入曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:34
- その男は世紀末の日本に生まれた
過疎化が進む故郷を捨て、流れ着いた大都会
成功を夢見たものの・・・・結果は街を闊歩するゴロツキに成り下がった・・・・
ネオンに照らし出される街の澱みに屯する害虫
まさにそんな存在だった・・・
そんなあるとき、男は恋をした
相手は企業の重役の一人娘、高嶺の花だった
世間知らずのお嬢様にとって、彼の存在はテレビドラマや映画のヒーローだった
箱入り娘とチンピラやくざ、叶わぬ恋だと解っていながらも二人は急速に恋に落ちていった
- 219 名前:追憶の挿入曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:35
- 当然の如く生じる軋轢、周囲からの妨害・・・
二人は逃げるように各地を点々とした
男はまともな仕事をしたことがなかった
彼女も世間知らずのお嬢様、まともに働けるわけがない
何より彼は彼女に苦労をさせたくなかった、つまらないプライドが邪魔をしたのだ
しかし、彼に斡旋されるものといったら違法な「シノギ」ばかり
特に人を殺める依頼は高額な報酬、彼の銃の扱いは裏世界でも相当なものだった
彼自身人を殺すことには抵抗はなかった、「殺されて当然」そう言う意識が彼にはあった
彼女の前では「ヒーロー」でいたい、くだらないヒロイズムと紙切れの束が彼の殺人の動機だった
だが、彼の気持ちとは裏腹に「仕事」を終えて大金を抱えて彼女の元に返るたび、彼を迎えたのは悲しそうな笑顔だった
- 220 名前:追憶の挿入曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:35
- 『お帰り』
そう言う彼女の表情は悲哀に満ちていた
『いつか・・・青空の下で・・・誰にも気兼ねなく暮らせる日が来るといいね』
『ああ・・・そうだな・・・』
それが・・・彼が死ぬ前の晩に交わした最後の約束だった
・・・次の日、彼は「仕事」でミスをして、その命を散らした
- 221 名前:追憶の挿入曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:36
- 「くっ・・・何故こんなものが・・・これが俺の・・・記憶・・・」
城門はもう近い、左手からは前世の記憶と・・・漠然と不吉な感覚が頭に流れ込んでくる。
「滅ぶべきもの・・・神の計画・・・そう言うことか・・・」
満月と篝火に煌々と照らされた城壁が視界に広がった・・・。
- 222 名前:追憶の挿入曲 投稿日:2004/12/09(木) 02:38
- ( ´ Д `)<第七夜+α 終了
- 223 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/09(木) 20:44
- さあ、今回も長いですぞ。
先に管理人様には謝っておきます、『鯖に負担かけてすいません』
色々口惜しい事がありますが、更新後の後書きにすべてを書くとしましょう
( ´ Д `)それでは最終夜いってみよ〜♪
- 224 名前:―――――― 投稿日:2004/12/09(木) 20:45
-
秩序を乱すもの・・・貴様はこの世界には不要だッ!
残るのは俺かお前のどちらか、共存は出来ない・・・決着をつけようか
負けられない!それが宿命だとしても!
- 225 名前:第八夜 月光交響曲〜ヴァンパイア・ナイト〜 投稿日:2004/12/09(木) 20:46
-
第八夜 月光交響曲〜ヴァンパイア・ナイト〜
- 226 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:46
- 神殿・大聖堂〜安倍なつみ
「隊長っ!」
「酷い・・・何があったの・・・一体・・・」
私たち4人が神殿に飛び込むとそこは・・・
地獄絵図だった・・・。
床を埋め尽くす夥しい数の死体。
生気を失い、牙をむき出して襲い掛かってくるシスターや騎士。
皆異様に耳が尖り、鋭い爪や牙を持っていることから既に人間じゃなくなっているのは一目瞭然だ。
「高橋、新垣っ!あなたたちは生き残りを纏めて部隊を再編成しなさいっ!出来るわね?」
「はっ・・・はいっ!」
「なっち!アンタは私と一緒に巫女の部屋に急ぐわよっ!」
「うん・・・行こう!」
隊長らしく指示を飛ばすカオリ、偉そうなことはいえないが私もカオリの選択は最善の物であると思った。
- 227 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:47
- 「それと、あなた!石川に伝令っ!直ちにこのことを王都に伝えて至急援軍を!」
目の前で繰り広げられる戦闘を放心状態で見守っていたシスターに指示を飛ばす。
「正門前で陣を敷いているはず、そのまま王都に向かうように言って!」
カオリの厳しい口調に「びくっ」となったシスターは急いで出口に向かう。
今更王都に援軍を頼んだところでどうにかなるとは思えなかったが、これも妥当な判断だと思う。
「急ぐわよ!なっちっ!」
「・・・おうっ!」
遠くなっていく怒号、剣激を尻目に二つの鉄靴の音が神殿奥に向かっていった。
- 228 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:47
- ――城門付近〜後藤真希
「ごっちん!気が付いたの?」
「んぁ・・・梨華ちゃん・・・」
「気分は?どこか痛くない?」
「ん〜・・・頭・・・痛い・・・かも」
後頭部のあたりがずきずきするなぁ・・・それに起きたときになっちが居なくてちょっとがっかり。
周りは負傷した部下や2番隊の隊士が一緒に寝かされてた。
ふと目があった部下が笑顔になる。
よかった・・・ここに居る皆は生き残れたんだね・・・。
「ごと〜も生き残れたんだね・・・。」
「うん・・・よかったぁ・・・」
梨華ちゃんの目にうっすらと浮かんだ涙が陣幕の松明に反射して光る。
- 229 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:48
- ・・・・ん、待てよ?
でもどうやってここまで来たんだっけ?
戦場の真っ只中で独りぼっちになって・・・
目の前にはでっかい斧を振りかぶった敵さんが・・・。
そして赤い目のなっちが・・・。
- 230 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:49
- 「そうだ!なっち、なっちは?」
「安倍さん?そう安倍さん!安倍さんがごっちんをここまで運んでくれたんだよ!」
やっぱり!なっちだ!
なっちがアタシを助けてくれたんだぁ!
嬉しくって涙が溢れてくる。神様・・・生きててよかった。
- 231 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:49
- 「ぐすっ・・・それでなっちは?」
「安倍さんはカオたんに怒られて来るって」
「へへっ、命令違反かぁ。カオリらしいね」
「それに安倍さん、カオたんの馬を勝手に持ち出してごっちんを助けに行っちゃったからね」
「んぇ?なんでさ?」
「ん〜なんでも『ヒーローは白馬に乗って現れるものだべさ』だってさ」
「へぇ〜」
ウリウリと梨華ちゃんにわき腹を突付かれる。
くすぐったいけれど、それよりも嬉しくって堪らない。
やっぱりあの時助けてくれたのは幻なんかじゃないんだよね。
と、しみじみと感慨にふける間も無く陣幕が勢いよく捲られた。
- 232 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:50
- 「石川隊長!1番隊長飯田様から伝令!」
伝令を聞いてから梨華ちゃんは負傷者と住民の避難を行う部隊と神殿への応援部隊の二つに分けることにした。
自分はすぐさま王都に向かうらしい、今まともに動けるものの中で王都まで敵に遭遇しても一番生存率が高いのは梨華ちゃんだろうなぁ。
さすがにカオリだよ。
そう思いながら自分もベッドから這い起きる。
寝ているわけには行かない、神殿にはまだ戦っている人が居る。
何よりなっちが・・・今度はアタシが助ける番だよ。
隊長用の白鎧を体の状態を確かめながら装着していく。
うん、動ける。剣も振れそうだ。
「ごっちん!大丈夫?」
「うん、こんなときにのんびりと寝てられないよ!」
梨華ちゃんとアタシは勢いよく馬に飛び乗った。
- 233 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:51
- ――託宣の間〜安倍なつみ
「神官長様っ!」
老年の神官長様に覆いかぶさる黒いシルエット。
あれは・・・
「そんな・・・ヴァンパイア・・・御伽噺の中だけだと思っていたのに・・・」
「ほう?その鎧は団長の『サーコート』・・・それに・・・」
振り返った初老の男がにやりと哂う。
口元は恐らく神官長様のものと思われる血で真っ赤に染まっていた。
「くっ!・・・右手が!」
熱く光る・・・薄緑の光が刀身をほのかに照らし出した。
痛みで剣を手放さないように両手で強く握りこむ。
「イレギュラー・・・か」
「見えるの!?この光が!」
既に事切れている神官長様の亡骸を片手で高々と持ち上げて後ろに放り投げる。
月明かりに照らし出された黒いローブが弧を描いて「ぐしゃり」と後ろの床に落下した。
- 234 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:53
- 「貴様っ!」
「カオリっ!ダメッ!」
感情に任せて切りかかろうとするカオリを止める。
悪いけど・・・あいつに勝てるとは思えないよ・・・二人掛かりでも。
この右手が・・・そう言ってる。
「フフフ・・・あの年に至るまで貞操を守るとは修道女の鑑だな、まあ古ぼけた味ではあったが・・・」
「貴様も巫女様が狙いかっ!」
「巫女?ククク・・・貴様は知っているはずだ・・・そんなものいやしないと言うことをな!」
「えっ!・・・カオリ・・・やっぱり・・・」
今までおぼろげにあった疑問が確信に変わる。
こいつは敵だけれど・・・嘘は言っていない、勘や右手の記憶なんかじゃない。
ここに敵が居ると言うのに周辺には巫女どころか人っ子一人いやしないことがそれを物語っていた。
無人の薄汚れた部屋・・・
全く人の生活感のしない空間。
何よりあのカオリが否定もせずに黙りこくって目の前の男を睨みつけているだけという状況が
巫女が存在しないと言う証明になっていた・・・
- 235 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:53
- 「神の声など・・・とっくの昔に貴様ら人間には届かぬ」
「なっ・・・」
「私が何故ここに存在するのか・・・貴様ならわかるはずだ!イレギュラー」
黒いマントが芝居がかった振りとともに私を見つめ言い放つ。
緊迫感のないことを言わせて貰うと・・・・
全く解らないんですけど・・・
「ほう・・・その顔はまだ理解していないようだな・・・まだ半身と合一は果たしていないか・・・」
両手を大きく広げくるりと後ろを向く、隙だらけなのに私もカオリも一歩たりとも動けなかった。
「まだまだ夜は長い・・・少し語るとしようか・・・」
格子窓から降り注ぐ銀色の月明かりが翻ったマントの裏地の深紅を照らし出した。
- 236 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:53
- 太古に神は自分の姿を真似た生き物を作り出した・・・。
神の姿をした人の子、死すべき宿命を背負った完璧な知的生命。
この世の生物すべてを管理させる為に。
自分は手を下さずにこの世の秩序を作り上げるために・・・。
しかし、人類は力を求めた、その身には過ぎた力を。
自らの手でこの世界を滅ぼしてしまうほどの力を・・・。
それを知った神は歴史を分けることを選択した。
『科学』を信望する歴史と・・・神の描いた計画通りの楽園としてのこの歴史と・・・。
託宣の巫女は神からの指示を人々に伝え、秩序を守るように与えられた力。
歴史が完璧に分けられてからその力は不要なものになり、神からの啓示もなくなった・・・。
その結果不要の存在となってしまった巫女の一族は人知れず処分された。
- 237 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:54
- 「貴様らイレギュラーはこの歴史に於いて誕生するはずのなかった存在だ!」
「そんな、じゃあアンタはどうなのさ?」
- 238 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:54
- 神の代わりに秩序を作り出す人間の生活を脅かす知恵・・・
時々その歴史軸を飛び越えて生まれてしまう文明のイマジネーションを持って生まれてしまう因子。
それが・・・イレギュラー・・・
破壊と衰退に満ち溢れた歴史からの突然の来訪者・・・。
それが・・・ナツキ・・・そして私。
大概は生まれる前にその存在を神に許されず、危険因子は別人格として異世界に送られる。
- 239 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:56
- 「何故イレギュラーがこの世界に半身を求めて現れるのかは解らぬ・・・だが貴様らは度々この世界に出現し秩序を乱す・・・
その都度我々と戦いを繰り広げてきたのだ・・・存在を認められぬ貴様らは人間には見えぬからな・・・」
「前にも私達『イレギュラー』と戦ったことがあるの!?」
「ふふふ、この手で数多くの混沌を消し去ってきた・・・貴様らの血の味は格別だったぞ・・・」
- 240 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:57
- 絶対的捕食者としての闇の眷属
神が手を下さぬ世界において・・・歴史を強引に捻じ曲げてしまった結果として現れた人外の存在・・・
神への信仰を確実なものにするための人々への脅威
混沌と・・・恐怖・・・神が選んだのは恐怖による秩序の維持・・・
- 241 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:58
- 「まあ、神にとってはその方が都合がいいだろうな・・・貴様らが脅えれば脅えるほど自分に縋り、服従を誓うのだから・・・
ついでにイレギュラーの始末もつけてくれる、まさに私も神のいいコマというわけだ」
「そんな・・・そんなことって・・・」
「この世界の存在そのものを危うくする文明よりも我々の方が選ばれたのだよ」
「私は・・・なんだったの・・・巫女を守る騎士は・・・」
「からん・・・」とカオリの手から騎士隊長の装飾が施された剣が滑り落ちる。
「巫女様は赴任する前に流行病で亡くなったって聞いたのに・・・」
「フン、それも貴様ら人間の支配者が己の権勢の為に利用していたに過ぎぬ、託宣とあればホイホイ税を差し出していたではないか」
「私の神への・・・王政への忠誠は・・・今まで失ってきたものは・・・」
「カオリ・・・・」
がっくりと膝を折り床を殴りつける、空しく鉄の篭手と大理石の床がぶつかり合う音が響いた。
吸血鬼は満足そうに顎を「くいっ」ともち上げて、ふわりと宙に浮かぶ。
大きく広げた体に月の光が降り注ぐ、その光景が王都で見た歌劇のクライマックスを思い起こさせた。
私は剣を両手にぎゅっと握ったまま呆然とそれを見ているしか出来なかった。
右手の痛みと光が唯一の「リアル」を感じさせる感覚だった。
それ以外は・・・今まで生きてきた世界とは違いすぎていた・・・。
「さて・・・長話ももう終わりだ、月が傾く前に君達の血を御馳走になるとしよう」
シルエットが不敵に月光に哂った・・・。
- 242 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 20:59
- ――神殿前〜後藤真希
「離して!この中になっちがっ!カオリンがいるんでしょッ?」
「止めてください!行っても死ぬだけですッ!」
神殿から溢れてくる異形の騎士団、生き血をすすり死肉を食らうシスター達。
「里沙ちゃん!また出てくるよっ!」
「解ってるッ!矢をもっと・・・」
高橋と新垣の編成した部隊は弓矢による遠隔攻撃で何とかその進行を食い止めようとしていた。
なんでも「咬まれると化け物になってしまう」らしい・・・。
言っていることはわかる、でも・・・この中になっちが・・・。
「このぉー!」
じりじりと近づいて来るハリネズミになったシスターの首を両手持ちの長剣で吹っ飛ばす。
- 243 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:00
- 「ジリ貧です!このままでは矢が尽きるのも時間の問題です」
少しずつだけれど・・・確実に後退していく防衛網、昼間の戦場の光景が脳裏に浮かび背筋が凍る。
「後藤さん!下がってくださいっっ!」
「くっ・・・!」
目に入るだけで異形の兵は30人ほど・・・新垣の話だと神殿内にはもっと多くの犠牲者=化け物が・・・。
最早人の姿をしていない毛むくじゃらの鎧騎士を蹴り飛ばすとくるりと背を向ける。
「うわっ!何だこの馬!」
「暴れ馬・・・?本陣は一体何をやってるの!」
- 244 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:01
- 急に味方の隊列を切り裂いて馬が飛び込んできた。
真っ白な馬・・・馬上には誰も乗っていない。
あたしの前まで来ると急にゆっくりとした足取りになる。
もしかして・・・ついて来いってこと・・・?
「後藤さんっ!前!」
「っ!」
高橋の怒声が飛ぶ、馬に気を取られているうちに異形兵の接近を許しちゃったみたい。
あわてて振りかぶられた鋭い爪を両手剣でガードしようとする。
「パァン」
その瞬間に耳まで裂けた毛むくじゃらの頭が破裂する。
この感じ・・・昼間の戦場の・・・
なっちはこの中だよね・・・姿が見えないってことは・・・
「もしかして・・・ナツキ・・・くん?」
つぶやくようなアタシの問いに鉄製の鐙が一回「かちゃり」と鳴った。
- 245 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:01
- 託宣の間〜安倍なつみ
くるしい・・・喉に爪が食い込む。
ヴァンパイアは左腕で軽々と私を持ち上げると、その牙をむき出しにして哂った。
「ふはははははっ!どうしたイレギュラーッ!半身のみではその程度か?」
「なっちっ!このぉ!」
「くっ・・・・きゃああ!」
突進してくるカオリをチラリと見ると私を部屋の隅に放り投げる。
がしゃーんと大きな音を立てて壁に叩きつけられた。
背中に大きな衝撃を受けて息が出来なくなる。
カオリが剣を構えてヴァンパイアに斬撃を繰り出す、鋭い太刀筋に黒いマントが翻って距離をとる。
確かに騎士団長の腕は半端じゃない、王都でもこれだけの使い手は少ないだろう。
- 246 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:02
- でも・・・
この人外の相手に・・・人間の剣術が通用するとは思えなかった。
「フン・・・うるさい奴よ。貴様に興味はない」
「くはっ!」
カオリの剣を軽々とマントで受けると逆の足で回し蹴りを繰り出した。
鳩尾に蹴りが命中したカオリの体がくの字に曲がり、床に突っ伏す。
「貴様の相手は・・・そうだな、こいつにしてもらうか・・・」
「そんな・・・神官長様っ!」
「ぱちん」と尖った爪を鳴らすと、月明かりにゆらりと黒いローブが立ち上がった。
生気のうせた顔が毛に覆われて行く・・・。
尖った耳とその耳まで裂けた牙持つ大きな口・・・
神経質そうな神官長様の年老いた顔が見る見る間に蝙蝠の顔に変わって行った。
- 247 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:02
- 「し・・神官長様・・・来ないで・・・来ないでぇッ!いやぁぁぁぁぁ!」
ゆらりゆらりと・・・しかし確実にカオリに近づいていく『元』神官長様。
気難しかったけれど、どこか優しかったお母さんのような女性。
シスター達のみでなく、騎士たちの悩みにも神の教えを説いて優しく導いてくださった方・・・。
今その人が獣のような姿でカオリに牙をつきたてようとしている。
「そこで仲間が死ぬのを見ているがいい、その後じっくり貴様の血をすすらせてもらう・・・」
「くっ・・・カオリ!カオリーッ!」
「いやぁぁぁぁぁぁ」
カオリは半狂乱で剣を振り回すが吸血鬼と成った神官長様には全く歯が立たない。
長い爪で巧みに剣を捌き、鎧の上からカオリの柔肌を切り刻んでいく。
助けに行きたいが私の前には不敵な笑みを浮かべたマスターが居る。
コイツをどうにかしないとカオリを助けに行くことは不可能だ。
- 248 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:03
- 「そこをどいてっ!」
力任せに剣を振り下ろす、当たり前のように避けられるだろう。
でもそれでいい、受け止められなければ私の経路は確保できる。
振り下ろした剣の遠心力のままに肩から前転をしてカオリの方に駆け出した・・・つもりだった。
「考えたようだが・・・甘いな」
「っ・・・!」
急に目の前に闇が蠢く、無数の蝙蝠が私に纏わりついた。
次の瞬間に蝙蝠が大きなマントに姿を変えて私の前に立ちふさがり、またさっきと同じように胸倉を掴まれて高々と持ち上げられる。
そんな・・・完全に振り切ったと思ったのに・・・。
「なっちっ!キャアァァ」
「カオリッ!」
私に気をとられたカオリが異形の神官長様のタックルを食らって床に叩きつけられた。
そのまま首を両手で押さえ込まれて、牙が首に近づいてゆく。
何とかカオリは両手を突っ張って耐えている状態だ。
- 249 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:03
- 「いやっ!イヤァァァァァッ!」
ばさばさと漆黒の長髪が宙に踊る、カオリ・・・カオリッ!圭ちゃんだけじゃなくってカオリまで失うのなんていやだよっ!
「やめてっ!カオリを離してっ!」
「やかましいな・・・耳元で騒ぐなっ!」
「キャッ!ぐはっ・・・」
何とか首吊り状態から逃げ出そうともがくが、またカオリとは反対側の壁に叩きつけられる。
カオリとの距離は約15メートル・・・無駄に広いこの部屋が恨めしい・・・。
「くっ・・・やらせない・・・」
「往生際の悪いやつめ・・・」
何とか這ってでもカオリに近づこうとするが、背中を踏んづけられて動けなくされてしまった。
空しく光る右手が床を引っ掻く。
「さあ・・・手始めにそいつを血祭りに上げてやれ」
「グァァァァァッ!」
「やめてぇぇっ!」
私の絶叫が空しく部屋に響き渡る、カオリは眼を瞑って覚悟を・・・決めていた。
蝙蝠人間の牙が勢いよくカオリの首筋に振り下ろされる・・・。
- 250 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:03
- 「ギャァァァァッ!」
もうダメだと思った時、蝙蝠の頭が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
神様・・・やっぱり貴方は私達を見捨てたわけではないんですね・・・。
でもアンタ・・・遅いじゃないのさ・・・。
喜びと恨みがましい表情で入り口を睨みつける。涙で滲んだ視界には赤い目の自分と最愛の恋人が・・・。
「なっち!カオリン!大丈夫?」
「ふ・・・何だその顔は?ヒーローは遅れてやってくるもの、そう言う決まりだ・・・」
にやりと自分と同じ顔が笑う、その横をごっちんが駆け抜けてカオリを助け起こす。
もう大丈夫そうだね・・・よかった。
「今度のイレギュラーは長銃か・・・面白い!」
私の背中から足をどかしナツキにヴァンパイアが向き直った。
「貴様のような悪役にも見せ場を作ってやるのさ、それが魅せ方を心得たヒーローというものだ」
だらりと銃をおろしたナツキの左腕が怪しく紅い光を放った。
- 251 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:05
- ――城門外
「・・・・街の様子はどうだ?」
「何やら騒がしいようです・・・伯爵家の残党がゲリラ戦を展開しているのかも・・・」
焚き火を囲んでいる数人の影、見た目は旅人のようだがその身のこなしには隙がない。
「そうか・・・もうじき夜が明ける・・・明日改めて様子を見に行くとするか・・・」
「了解・・・アジトに帰還し・・・む、蹄の音だ!」
「騎士団の伝令か!生け捕るぞ!道に縄を張れ」
影が焚き火の明かりに躍る、このままだと間も無く馬がこの道を通るだろう。
「焚き火を消んだッ!気取られるなッ!」
数十秒後、馬のいななきと甲高い女性の悲鳴が夜の闇にこだました・・・。
- 252 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:06
- 託宣の間――安倍なつみ
状況は逆転した、こっちは四人で相手は一人。
オマケにナツキの銃もある・・・勝てない相手ではなくなった。
「フン・・・その様子を見ると・・・左手とは完全に同調しているようだな・・・」
「ああ、おかげさんでな」
あくまで余裕の姿勢を崩さないマスターヴァンパイアに左手をかざすナツキ。
「ならば今度は長話はいらぬな・・・決着をつけるとしよう」
「ああ、少し眠くなってきたんでな。とっとと消えてもらうぜ・・・だがその前に・・・」
くるりと横を向いて私に向き直る。
「おい・・・あいつらに言うんだ。『ここは任せて街に溢れる化け物共を始末しろ』ってな」
「なっ、アンタ何言うのさぁ!」
「いいか、あいつは・・・あいつを倒せるのは俺たちだけだ、何人居ても返り討ちにあって操られるだけだ」
そうか・・・あいつ神官長様を・・・。
視界の隅でもう動かなくなった神官長様を確認する。
- 253 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:06
- この手でごっちんやカオリを斬らなきゃいけないのかと思うとぞっとする。
ここはおとなしくあいつの言うことを聞いておいた方がいいね。
私が頷いたのを確認すると左手に銃を構えてマスターに狙いをつけた。
「カオリ!ごっちん!ここはなっち『達』に任せて街のほうをお願いッ!」
「え!?そんな・・・」
「いいの?なっち?」
無言で頷く、普段は見せない私の真面目な表情にカオリは納得してくれたみたい。
でもこのコは・・・。
「死んじゃイヤだよなっち?・・・ねえ、ホントにごとー居なくて大丈夫?」
「ごっちん・・・わかって、そしてなっちを・・・なっち達を信じて!」
月明かりの元、無言で見詰めあう。
恋愛物語のワンシーンになりそうな幻想的なシーンだね、こんな状況じゃなきゃ・・・。
- 254 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:07
- 「何処へ行くのだ、貴様らは私の糧となるのだっ!」
余所見をしている暇はないとばかりに黒い影が入り口に迫る。
しまった、狙いはカオリとごっちんだっ!
「バカがッ!貴様の相手は俺達だッ!」
その直後、間髪居れずに「ぱぱん」と銃声が二つ、肩を抑えてマスターがよろめいた。
銃声にごっちんも「はっ」となってカオリを追う。
ごっちん・・・まっててね・・・すぐに終らせるから・・・。
「さぁ!やろうじゃないのさぁ!」
「ふ・・・その意気だ。一気にカタをつけるぞ」
私は剣を、ナツキは銃を構える。
今なら・・・この二人ならやれそうな気がした。
こいつに銃は効く、現に今肩を抑えて呼吸が乱れている。
「下等生物共が・・・少しくらい知恵をつけたくらいで思い上がるなよ!」
最後の戦いが・・・今始まろうとしていた。
- 255 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:08
- 託宣の間〜ナツキ
馬に揺られて待ちに帰る途中、すべての記憶が自分の頭に流れ込んだ。
自分が居た世界・・・文明に呪われた世界・・・神の祝福のない世界・・・。
(俺はギャング・スターだった・・・街の不良共の憧れ・・・裏世界の狂犬・・・)
自分がこの世界に呼ばれた理由・・・そして・・・
(何不自由ない暮らし、といえば嘘になるが・・・少なくとも彼女との暮らし・・・幸せだった)
呼ばれた瞬間・・・いや、この世に生を受けた瞬間に背負った宿命まで。
(『滅ぶべきもの』か・・・)
視線を逸らさずにまっすぐ黒衣のマントを見据える。
荒い息遣いでこちらを睨む男は、どこか向こうの世界の自分とリンクしているような気がした。
血走った目を見詰めると自分の最後の情景がありありと『思い出され』てくる。
(俺もお前も同じだ・・・だが・・・)
改めて狙いを眉間に定める、次は外さない。
戦場から駆けつけたために残りの弾薬は僅かだ。
(滅ぶのは貴様、左手がそう言っている・・・)
- 256 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:09
- 託宣の間〜安倍なつみ
闘いは膠着状態に陥っていた。
ナツキが狙いをつけて銃を発射するも、マスターはもう当ってはくれない。
肩の傷も驚異的な再生能力で治ってしまったようだ。
「くっ!頼んだ」
ナツキが弾を装填する間に私が剣でマスターの相手をする。
・・・といっても防戦一方で時間稼ぎをするのが精一杯。
目の前に迫る爪を剣でひたすらガードする。
「死ねいっ!」
「うわっ・・・」
重い一撃、体勢が大きく崩される。
そこを狙って反対側の腕から爪が伸びる・・・。
- 257 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:10
- 「させるかっ!」
「くっ・・・ええいっ!うっとおしい・・・」
大きく広がったマントを貫いてナツキの銃弾がマスターのわき腹を捕らえた。
しかしこれも致命傷にはならない、あわててマスターが距離をとる。
今度は攻守交替になるだけで、暫くしたらマスターの傷がふさがってしまう。
「クックッ・・・だがもう弾はいくらも残ってはいまい、そのお嬢さんの未熟な剣の腕では私に勝つことは出来んよ」
「手前ェ・・・」
ナツキの表情は明らかに焦っていた。
私がよくする表情だ、自分のことくらい良く解る。
「200年前のイレギュラーはもう少し歯応えがあったぞ、長き時を経ても神の計画は完璧な様だ」
「まだ・・・まだ負けたわけじゃないっ!」
べこべこに凹んだ肩当を投げ捨てると、勢いよくマスターに斬りかかる。
切っ先をマントに受け止められるが、そのまま前蹴りで突き放して距離をとる。
マスターは少し体制を崩したが、マントが無数の蝙蝠に化けて壁を作り、銃の狙いをつけさせない。
くっ・・これさえなければ・・・。
- 258 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:10
-
「このぉ!ばたばたとッ!」
「よせっ!後ろだッ!」
- 259 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:11
- 焦っていたかといわれれば、明らかに焦っていた・・・
昼過ぎから戦場に出向いてから約半日、私達は戦い尽くめだった。
その疲労もピークに達して冷静な判断が出来なかったのだろう・・・
剣を振り回して蝙蝠を切り払おうとした、その直後・・・
「迂闊だったな・・・まずは貴様からだ・・・」
剣が蝙蝠を一匹貫いた瞬間に・・・後ろからマントを脱ぎ捨てたマスターに首を掴まれた。
ナツキからは丁度正面で死角になっている、援護射撃は期待できない。
ごっちん・・・ごめんね・・・
なっちが化け物になっちゃったらせめてアナタの手で楽にしてね、それなら悔いは無いよ・・・
「さぁ・・・死ねぃ!」
- 260 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:11
- 神殿・大聖堂〜後藤真希
「なっちっ!」
「どうしたの?後藤?」
「なっちが・・・なっちが危ない・・・そんな予感がする!」
手に持った大剣を握り締める、目の前には異形のヴァンパイア兵。
それを挟んで高橋、新垣の編成した騎士団が入り口付近から弓矢で応戦している。
あたしたち二人は裏門からあふれ出たヴァンパイアが街になだれ込むのを何とか防ごうとしていた。
なっちのことはずーっと心配だった、本人がいくら言っても・・・あたしを戦場で助けてくれたナツキ君がいても・・・。
でも今ここを離れるわけには行かない、街の人を守るために・・・そしてカオリンに負担をかけるわけには・・・。
「後藤・・・行きなさい」
不意に背中合わせのカオリンからの命令。
えっ・・・いいの?大丈夫?
- 261 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:13
- 「もうこの街はお終いよ・・・高橋達と合流して動ける者を連れて避難します」
「・・・・わかった・・・」
確かにあたしたちが来る前からここからヴァンパイアが溢れていた。
正門の防衛ラインもそろそろ限界だ、高橋達を死なせるわけには行かない。
「せめて・・・ボスだけは・・・仕留めて来るのよ!」
「うん、それとなっち達を連れて戻ってくるっ!」
その言葉を合図にカオリンは裏門から駆け出した、正門に回るつもりだろう。
「ごめんね!許してッ!」
あたしは目の前の元シスターの首を二体同時にふっ飛ばすと託宣の間へ通じる階段を駆け上がり・・・。
「このぉぉぉぉぉぉッ!」
体ごとドアにぶつかり、黒い物体目掛けて思いっきり剣を突き刺した・・・。
- 262 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:14
- 託宣の間〜ナツキ
自分でも何故こんなことをしたのかわからない
腕利きのヒットマンとして、昔の自分なら100%有り得ない行動だった
左手がそう命じたのか・・・嘗て自分のアイデンティティーであった安っぽいヒロイズムによるものか・・・
気が付くとなつみ目掛けて突き出される鋭利な爪をその身に受けるべく突進していた。
(これで・・・いい・・・これが・・・彼女の望んだ・・・ヒーローの姿・・・)
「なっ!貴様・・・」
「なんで・・・なんであんたが・・・」
(誰かの為に戦う・・・それが・・・俺のなりたかったヒーローの姿・・・)
「フフ・・・ヒーローは・・・か弱き女性の為に・・・犠牲になるもの・・・だ・・・ぜ・・・」
彼の右肩から胸にかけて、数多のイレギュラーを屠って来たマスター・ヴァンパイアの鋭利な爪が抉っていた。
- 263 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:14
- 託宣の間〜安倍なつみ
どうして・・・
どうして私の為に・・・
あんた・・・そんなキャラじゃなかったっしょ・・・
自分の背中越しに感じた衝撃
何かを貫くような音
そして・・・
自分の半身の共鳴が弱くなっていくのが右手から感じられる・・・。
- 264 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:15
- 「このぉぉぉぉぉッ!」
「ばたん」と半開きのドアが勢いよく壁に叩きつけられる音
そして・・・そのまままた何かが貫かれるような音・・・
「なっちっ!」
私を拘束していた生気の無い冷たい掌が開かれる
同時に「どさり」と後ろで爪から開放されたナツキの気配がした。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
そして荒い呼吸も整えずに振り向きざまに突きを繰り出す。
「グォォォォッッ!」
狙い違わずにマスターの胸板を貫いた。
- 265 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:16
- 「バ・・・馬鹿なッ!世界の秩序はッ!イレギュラーに私が負けるというのかッ!」
「なっちは・・・傷つけさせないッ!ごとーは・・・ごとーはなっちのナイトなんだからッ」
「私にはごっちんとアイツ、強い味方がずっと居てくれたんだッ!」
- 266 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:16
- 前と後ろ、互いに剣でマスターを貫きながら叫ぶ、完璧にマスターに刃が食い込んで身動きが取れない。
そして・・・ナツキは・・・。
血まみれの右手をだらりと下げ、左手で長銃をマスターのこめかみに突きつけてにやりと笑っていた。
「クソカス共がッ!この私が・・・絶対的捕食者、世界の王がッ!」
「王か・・・ならばこれで・・・」
「貴様ァァッ!」
- 267 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:19
- 「チェックメイトだッ!」
「パン」と何度も耳にした破裂音の後にマスターの頭から黒い闇が流れ出す。
マスターの全身にひびが入り・・・飴細工のように床に倒れた瞬間砕けて散った・・・
この世の恐怖の象徴、絶対の捕食者・・・。
その男が、体の内のすべての闇を吐き出して・・・消えた・・・。
それは低いうなり声のような断末魔とともに宙を彷徨い、地平線を照らし出した朝日に溶けた。
- 268 名前:第八夜 月光交響曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:20
- 私は・・・
私達は・・・
勝ったんだ・・・・!
- 269 名前:―――――― 投稿日:2004/12/09(木) 21:22
-
さよならは言わないよ
明日からも・・・よろしくね・・・
- 270 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:24
-
エピローグ 暁光凱旋曲
- 271 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:24
- 「終った・・・の?」
ごっちんが大剣を杖代わりにしてのろのろと立ち上がる。
「終った・・・てか終ってほしい・・・」
私はもうダメ、下衣の上に着ている鎖帷子の重みに耐えかねてがくりとへたり込む。
マスターは頭を砕かれて塵になって消えた、もう気配は感じられない。
彼の支配が及ばぬことを示すかのように簡素な格子窓からは朝日が差し込んできた。
- 272 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:25
- 「まだだ・・・まだ終っていない・・・」
朦朧とする意識の中、いつもの低い声が耳に入る。
視線を何とか向かわせると紅に染まった自分の顔が、息も絶え絶えにこちらを見ていた・・・。
「そうだ・・・アンタ!大丈夫!?」
「んぁ・・・?ナツキ君?」
かっこいい台詞で止めを刺したからすっかり忘れていた!
ナツキは私を庇って・・・重症を・・・。
すぐさま駆け寄って手当てをしようとする
- 273 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:25
- けど・・・
「無用だ・・・もう助からん・・・」
「そんな!諦めちゃダメだよぉ!」
「なに・・・!?ナツキ君ヤバいの?」
私の切羽詰った表情に気づいたごっちんも駆け寄ってくる。
耳を澄ませば外の怒号が聞こえてくる、幾分かは遠ざかっているが・・・。
「俺を救いたいなら・・・解るな・・・」
「・・・・うん・・・」
短くそうつぶやくと血で染まった左手を差し出してくる。
- 274 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:26
-
わかるよ・・・
やるんだね・・・とうとう・・・
- 275 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:26
- 「なっち・・・」
ごっちんはそこまで言いかけると口をギュッってつぐんだ。
「この左手は・・・滅びるべきものを知っている・・・」
「・・・・・」
差し出された手に自分の右手をそっと添えた。
一番最初のときのような強い反発は感じられない。
あいつの・・・力が・・・弱まっているんだ・・・。
「最後に滅びるのは・・・この俺だ・・・」
「・・・・」
- 276 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:28
- 弱々しい手を右手で強く握ってあげる。
「お前は光・・・俺は影・・・お前が主で俺が従・・・自分が死人だと気が付いたときに悟った・・・」
腕が・・・緑と赤の光に包まれて・・・ナツキの記憶が逆流してきた。
これが・・・アンタの生きてきた世界なんだね・・・。
「これが神の計画なのか・・・イレギュラーは・・・滅び・・・闇の者も滅びる・・・」
「・・・違うよ・・・」
涙を堪えて無理に作り笑いをする。
その表情に一瞬ナツキは戸惑ったけど、すぐに笑顔になった。
- 277 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:28
- 「よろしく・・・ね」
「ああ・・・よろしく」
掌からの光が強くなり・・・アイツは朝日の中に消えた。
ヴァンパイア・マスターのときとは違う、どこか神々しくて・・・懐かしい感じ・・・。
- 278 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:29
- 「これで・・・いいんだよな・・・あの世で喜んでくれるよな・・・亜弥」
ぼやけて見えるのは・・・光のせいか・・・涙のせいか・・・。
別離じゃない、私達は・・・。
一つになったんだ・・・。
そこからはボーっとしてて覚えていない、ごっちんにせかされて街の外に逃げた。
気が付いたら・・・ごっちんと一緒に街の外の草原に寝っ転がっていたんだ。
- 279 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:29
- 託宣の間〜後藤真希
なっち・・・
良く解らないけど、ナツキ君は消えちゃったの?
あたしはナツキ君と一緒にいた時間は短かったけれど・・・。
戦場と神殿の前・・・確かに感じた・・・なっちと同じ感覚。
心配そうになっちのそばに行くと・・・
「大丈夫、なっちは・・・なっちだし、あいつもいつも一緒だよっ!」
いつも一緒だって言うのは少し妬けちゃうけど、そんなに落ち込んでない様で良かったぁ。
でもねなっち、もう一個問題があるんだよ?
ここからどうやって・・・カオリンとかと合流するのかってこと・・・。
街は――恐らくカオリンがやったんだと思う――火に包まれていた。
- 280 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:30
- 女神の街から離れた森にて〜飯田圭織
「生き残ったのは・・・これだけか・・・」
飯田圭織はヴァンパイアの増加を防ぐために街に火を放ちながら生存者を引き連れてここまで逃げてきた。
もともと人口は多くなかったが・・・今ここにいる数は100名に満たなかった・・・。
「はい・・・みんな・・・」
疲れきった表情で高橋が語尾を濁して答える、傍らでは負傷した新垣が担架に蹲って脂汗を流していた。
「みんなに聞いて欲しいことがあるの・・・」
真面目な口調で騎士、住民達に語りかける。
その双眸にはこの事態に対応し切れなかった面目なさと・・・ある決意の光が見えていた。
- 281 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:30
- 「隊長・・・」
「団長様・・・」
ただならぬ雰囲気の飯田に皆も息を呑み、続く言葉を待つ。
「巫女様は・・・死んだわ・・・」
深刻な表情の飯田の口から漏れた嘘に一同は落胆のため息をつく。
思ったより落ち着いた反応なのは、みなうすうす気が付いていたのだ。
逃げる最中にそれっぽい人物がいなかったこと位解る、今ここにいない人間の生存は絶望的であった。
「私は騎士失格です・・・かといってもう王都への忠誠もありません・・・」
さすがにこれには一同に動揺が走る、決して失意から来る迂闊な発言ではないことは
飯田の表情を見ればすぐわかることだ。
すべて偽りだった王国・・・
果てしなく無意味な自分の存在・・・
すべてを投げ捨てて・・・今ここにある命を守るために剣を振るいたい、そう思ったのだ。
- 282 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:31
- 「そんなっ!」
「隊長!滅多な事を口にしないでください!」
「団長様の責任じゃありません・・・私は見ました・・・アレは化け物です!」
皆口々に不安を口にする、この先飯田の力なくして安全は考えられなかった。
「だから・・・私はこのまま身分を捨てて貴方達と暮らします、それが騎士として・・・最後の勤めだと思っています」
そう言い放った後に、あたりを静寂が包み込んだ。
さわさわと春を告げる風が木の葉を揺らす音が聞こえる、先ほどの地獄が嘘のようだ。
「今ここで決めてください、私と共に行くか・・・ここから去るかを・・・。次の街はそこの街道を下ればすぐです・・・」
新垣の手を握った高橋が無言で頷く、他の者も思いは一緒だった。
誰一人として・・・背を見せて立ち上がる者はいなかった。
- 283 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:33
- 地下牢〜石川梨華
コツ・・・コツ・・・と言う足音に石川梨華は夢の世界から引き戻された。
夢の中では暢気に昼下がりのお茶をシスター達と楽しんでいたところであった。
「お目覚めですか?」
「今すぐ自由にしなさい!あなた方がしていることは・・・」
「反逆行為なのは承知してます、騎士様・・・」
女性と少女の中間くらいの年頃の女が申し訳なさそうに頭を下げる。
頭の頂点で結わいた髪型なのが良く解る。
「だったら!・・・だったらおとなしく・・・」
「それは出来ないんです、だってここは・・・」
「王国に反旗を翻すレジスタンスのアジトだからだよ!」
少し背の高い、皮鎧に身を包んだ女性が入り口から姿を見せ言い放った。
「さぁ・・・アンタにゃ聞きたいことが一杯ある・・・洗いざらい吐いて貰うよ」
- 284 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:35
- 神殿跡地〜矢口真里
いまだにくすぶり続ける街を捜索して数十分後、我々は街のシンボルである神殿に到着した。
「矢口さぁん!これ・・・!」
美しい神殿は無残に焼け焦げ、すぐ近くの騎士団と聖職者の住まう宿舎はまだ燃え続けていた。
「これは・・・酷いな・・・」
恐らく交戦したのだと思われる痕跡がそこかしこに残されていた。
焼け焦げた死体、入り口付近で目にした異形の者・・・ここいら一帯が激戦区となっていたのであろう。
「矢口さぁん・・・これからどうするんですかぁ?」
本来ならば王都にこの事態を報告するべきであるが、何度も記述した様に事件発生から大して時間は経過していない。
幸いにも数日分の食料は先ほどの商人から購入してある。
「ちょ・・・ちょっとぉ!置いていかないでくださいよぉ!こんなところに絵里一人ぼっちはイヤですぅ!」
捜索範囲を王国領土全域に広げてもこの事件の真相、生存者の情報を掴んでみせる。
「ついてくるのか・・・亀井ちゃん・・・覚悟はいい?」
なおこのメモを発見した者は速やかにこの惨状を王都に知らせて欲しい。
追伸:只今をもって矢口真里・亀井絵里の両名は騎士の爵位を放棄したものと見てもらって構わない。
辛うじて焼け残った神殿外壁にあったメモ
- 285 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:36
- 町外れに差し掛かった辺り〜後藤真希
なっちの手を引いて無我夢中で駆けた。
途中ヴァンパイアを見かけたけど相手をしている暇は無いっての。
漠然とだけど・・・いやな予感がした。
『多分・・・この街にいる生きた人間はあたしとなっちだけだ』
ぞろぞろと群れを成して街を徘徊するヴァンパイアを見るとそんな気がする。
その証拠に辺りに聞こえるのは、人のものとは思えないうめき声と何かが燃えて崩れる音だけ。
昨日の戦場に今のこの街・・・この地獄から一刻も早く逃げ出したかった。
横にいるのが・・・この掴んだ手がなっちのじゃなかったら気が狂いそうだよ。
- 286 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:36
- 「あ・・・もうすぐだよ、なっち!」
「うん・・・ふぅ、もう走れないよぉ〜」
町外れの裏門が見えた瞬間に少し足を緩めた。
ここまでくれば・・・もう大丈夫・・・かな?
自然と顔がほころぶ、一杯悲しいことがあったけど・・・今はなっちと生きている喜びを感じたい。
そしてこれからも・・・。
- 287 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:37
- 「なっち・・・?ごっちん・・・?」
不意に背後から声を掛けられた。
この声は・・・みちよさん?
「なっち・・・助け・・・て・・・」
「みっちゃん!無事だったの?」
ふらふらとみちよさんがなっちに歩み寄ってばたりと倒れる。
むぅ・・・膝枕・・・いいなぁ・・・。
- 288 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:37
- そう思ったのもつかの間、あたしの表情は凍りついた。
首筋に見える・・・二つの傷痕・・・。
「なっちっ・・・離れてぇッ!」
「ふぇ?」
「なっち・・・血が・・・血が欲しいの・・・助けてェ・・・ダズゲデェェェ」
- 289 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:38
- みちよさんは見る見る間にヴァンパイアに変貌してなっちに襲い掛かった。
予期せぬ襲撃になっちはまともに張り倒されて地面に昏倒する。
「くっ・・・なっちぃ!」
「ヂィィィヲォォォォ・・・・ヨゴゼェェェェ」
大剣は逃げる最中に捨ててきちゃった。
腰に挿した帯剣で何とか応戦しようとするが・・・あの驚異的なパワーとスピードに対抗できるかは疑問だよ・・・。
何とかなっちを守ろうと目の前に立ちふさがり、帯剣で動きを威嚇する。
- 290 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:39
- 「ねえ、痛いんだけど!」
「ウオ゙?」
「んぁ?」
耳慣れない声・・・鼻が詰まったようなハスキーボイス?っていうのかな?
振り向くとそこには・・・
「あんた・・・乙女の柔肌が傷物になったらどうするのさ!」
長い筒みたいな者を構えたなっちが・・・。
- 291 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:39
- でもなっちじゃない・・・なっちがほっそりした感じ・・・顔も・・・あと胸も・・・。
そして瞳の色が・・・燃える炎のように真っ赤だった。
「死んで償いな!」
そう言うと雷鳴のような破裂音が・・・この音、あの音だ!
次の瞬間、みちよさんのコウモリ頭からどばっと血が噴出し、みちよさんは動かなくなった。
この人が・・・まさか・・・
- 292 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:40
- 「ナツキ・・・君?」
「ん〜半分正解、でも不正解。あたし女だし」
「じゃあ・・・なっち?」
「それも外れ・・・あたしは・・・こいつらの本当の姿」
意味も解らず首を傾げる。
じゃあなっちは・・・なっちはどうしたのさ!
- 293 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:41
- 「今は寝てる、代わりにあたしが出てきたの」
「アンタは・・・?」
「う〜んと・・・そうだなぁ・・・あ、そうだ!」
そうこうしてる間にヴァンパイアが数匹、物音を聞きつけてよってきた。
なっちもどきは筒を、あたしは剣を構えて迎え撃つ。
- 294 名前:終夜 暁光凱旋曲 投稿日:2004/12/09(木) 21:41
-
「なつ『み』とナツ『キ』で・・・・」
- 295 名前:―――――― 投稿日:2004/12/09(木) 21:43
- ――かくして放浪者達の物語は始まった・・・
あるものは真実を掴むため、またあるものは囚われ、そして己の信じる物を守るために・・・
そして彼女達『3人』も喜びを分かち合う仲間と共に・・・・
雛鳥は殻を破り、大空へと羽ばたく。
運命の鎖を解き放ち、自分の手で予定外の未来を掴み取るために・・・。
- 296 名前:―――――― 投稿日:2004/12/09(木) 21:45
- 从VvV)<終
(●´ー`)<幕
( ´ Д `)<御愛読に感謝〜♪
- 297 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/09(木) 21:54
- それでは、後書きなんぞを・・・
当初この話はアフォなラブコメになる予定でした、その名も
「暗闇にドッキリ!〜ヴァンパいや〜ん娘。」
・・・・・OTL
まあ、話を書いている途中に路線変更があるのは・・・よくある話ということで・・・
しかし後から読み直してみると1レスに各文字数の少ないこと少ないこと・・・
後は表現が激しく陳腐ですなぁ・・・初めての中篇と言うことでお目こぼしを・・・(´Д⊂ヽ
このあと、短編を少し書いたのでチョボチョボあげていきます。
待ってくださる方がいるならば・・・年明けに続編などを・・・
続きは一番中途半端な終り方をしたアニメ声のあの人が主役です。
それでは皆様また次の機会に・・・
- 298 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/09(木) 21:55
- (●´ー`)<あげるべさ
- 299 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/09(木) 21:55
- ( ´ Д `)<一応隠しておくよ〜
- 300 名前:ウンモ星人 投稿日:2004/12/09(木) 21:56
- 从VvV)<イヤン、イヤン、ヴァンパいや〜ん♪
- 301 名前:名無しです 投稿日:2004/12/10(金) 02:48
- 正直更新量見てハッ?て思いましたw
続編お待ちしてます。
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/18(火) 00:16
- 続編期待保全
- 303 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/05(土) 22:29
- 更に続編を期待してみるテスト
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/11(水) 00:00
- あなた天才です。
久々に良質な小説を読めてラッキーです。
ファンタジー物を書く作者さんが少ないので期待しております。
頑張って下さい。
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/01(金) 15:11
- ====================終了=====================
- 306 名前:―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:14
- 修道院の修道女達がよくこの詩を謡いながら洗濯物を干していたものだ。
私はよくその歌詞を知らなかったが、鉄格子の嵌った窓から見える外の景色につい口ずさみたくなってしまった。
歌詞は途中で記憶の不鮮明な部分をハミングに変えつつも簡素な部屋に響く・・・。
鄙びた農村を荷馬車が行き来する様を窓際で眺めつつ、何度も繰り返し口ずさむ。
- 307 名前:―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:14
- 「やあ、今日はご機嫌みたいだね・・・」
不意に背後の木製の扉が開け放たれて、聴きなれた声がこちらに向けられる。
特に驚きはしない、なぜなら「それ」はいつもの事だったからである。
『彼女』はさして気にも留めず、そのまま歌い続ける。
よっこらせ、とでも言うように簡素なベッドに腰掛けて歌い終わるのを待つ。
・・・尤も、何度も繰り返し歌っているので、彼女の気が済むまで待つと言った方が正しいだろう。
手にもったちいさな籠をサイドテーブルに音を立てないように起き、歌姫の視線の先に自分も焦点を合わせた。
歌っている彼女の方も待たせては悪いと思ったのか、サビの1フレーズを歌い終えると呼吸を整え、来客に向き直る。
- 308 名前:―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:15
- 改めてこんにちは、もういいの?」
「ええ、いいお天気だからついつい歌いたくなっちゃったの、迷惑だった?」
来客者は「そんなことないよ」と、笑顔で答え
「ま、今日もここに来たのはいつものアレなんだけど・・・」
と言った後に、脇に置いた籠から焼き菓子を取り出してテーブルに置いた。
「わかってるわ、それじゃお茶の支度をするわ、今日は何のお話をしましょうか」
歌姫はにこりと笑顔を浮かべ、最低限の調度品が置かれたキッチンに向かっていった。
- 309 名前:―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:15
-
――放浪者達・第二幕〜月光〜――
- 310 名前:―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:16
- 私がここに囚われてから2日が過ぎた、あの惨劇が遥か昔のことに感じられる。
あの人・・・名前は忘れてしまったけど、怖そうなあの女の人・・・。
彼女が言うには私は幸運らしい、街にはもう誰も生存者はいないらしい。
カオたん、安倍さん、ごっちん・・・皆死んじゃったんだろうか・・・。
私は生かされるらしい、今回の事件の生存者として聞きたいことが一杯あるらしい。
話せることはすべて話してもいい・・・・。
が、門番で戦場には出てないし、神殿に化け物が出た直後に私は王都への使者となった。
正直私ですら何もわからない、一昼夜そういった押し問答が続いた。
私がかび臭い取調室から開放されたのは、女神の街に向かった斥候が一枚の紙切れを手に戻ってきた時だ。
矢口さん・・・あと、亀井ちゃんという子が他に生き残ったらしい。
この日記は検閲を受けるだろう、でも本当に私は何も知らないのだ。
とりあえず、今の私にできることは眠ることだけだ、あの落馬して気を失って以来一睡もしていない・・・。
女神の街郊外・飯田圭織が決意をした山――を降りた廃村の道端に転がっていた女の腐乱死体が持っていた日記帳の1ページ目
- 311 名前:第一話――アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:16
-
第一話――アフタヌーンティを君と――
- 312 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:17
- 「ははは、あたしには絶対無理だなぁ、そんな厳しい規則のある生活は」
「慣れればそう大変なものじゃないわ、それにシスター達の方がもっと厳しい決まりがあったもの」
贅沢を言ったら神官長様にお説教されちゃう、と付け足して差し入れの焼き菓子を抓む。
ほんのり甘く、少し出すぎてしまった紅茶に麻痺した舌には心地良い。
「住めば都かぁ、ま、あたしは絶対住む前に一日で逃げ出しちゃうけどね」
「あらそう?何とかなるものよ、現に私だってここの生活に慣れたしね」
しれっ、とそう言い放って質素な須恵器のカップを口に運ぶ。
目の前の話し相手は両手を大きく開いて『一本取られた』とばかりに苦笑い。
「梨華ちゃんはきついなぁ、こんな所でもあたしの生まれた街なんだからさぁ・・・」
「あ、ごめんなさい。そう言う意味じゃないの・・・ただ・・・」
慌てて相手の言葉をさえぎってフォローを入れたが、どうしても語尾が濁ってしまう
- 313 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:18
- 「たまには・・・外に出てお日様の光に当ってみたいかな・・・なんて」
「梨華ちゃん・・・ごめん!」
「うん、解ってる、私捕虜だもの。自由に出歩いたりしたらダメよね」
「そんなことしたら・・・まいちゃんに殺されるよ・・・」
ぞっとした表情で舌を出して首を掻っ切られるポーズ。
その仕草がおかしくて噴出してしまう、まああの人本当に怖そうだからね、と、納得。
「梨華ちゃん、きっとここから出られる日が来るから、そん時は色々案内してあげるよ!」
「うん・・・そうだと・・・いいな」
くるりと背を向け、鉄格子から表を眺めつつ願望とも肯定ともつかないあいまいな返事を返す。
- 314 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:18
- ねえ、そうなった時・・・王都は火の海なんじゃない?
アナタのその両手はたくさんの人の血で真っ赤に染まってるんじゃないの?
何とかして・・・戦いは避けられないの・・・?
・・・・。
- 315 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:19
- ――話は数週間前に遡る・・・・
「放して!私が行かないとッ!・・・・」
「もう無駄よ」
「ッ!」
地肌が剥き出しの地下牢に残酷な一言が短く響く。
椅子の背もたれの裏側で拘束された両手首にビクッとなった反動で縄が食い込み、顔を顰める。
「アンタ、どんだけ寝てたんだと思う?ここが地下だから解らないと思うけど」
「・・・・・」
「アンタがとっ捕まってここに運び込まれたのが夜明け前、今はもうすっかり日が昇ってるわ、そうね、お昼過ぎってとこかしら」
「じゃあ・・・」
「ええ、多分街は全滅、まだ斥候が戻ってきて無いからなんとも言えないけどね」
ガックリと力なく項垂れる、落馬したときに髪留めは落ちたらしく髪の毛が表情を隠した。
- 316 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:20
- (飯田さん、安倍さん、ごっちん・・・四番隊の皆・・・)
『私だけ・・・生き残った・・・』
囚われの現状よりも、一人だけ生き延びたと言う事実が心を苛む。
「ねえアンタ、あそこで何が起こったの?」
「・・・・」
「伯爵が兵を起こしたのは知ってる、異常な強さと侵攻速度であの街に押し寄せたってとこまでね」
皮鎧に帯剣、と言ったいでたちの女が顔を覗き込むようにして尋問する。
初めてまじまじと顔を見ると、相手が結構整った顔立ちをしていることがわかった。
- 317 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:20
- (ウチの騎士団に来たらシスターや新人騎士たちに人気が出そう)
「ただ、今回はいきなり街中で火の手が上がったって言うじゃない、何があったの?」
まじまじと相手の顔を見詰めていると、視線から逃れるように立ち上がって尋問の続きを開始した。
「知らない・・・んです」
「そんな訳ないでしょう?だって、アンタ街から出てきたって言うじゃない・・・」
そう言われても返答に困る。
自分は門を守り、神殿に異変があった時はそのまま門をくぐって王都へ向かったのだから。
「『化け物が出た』・・・ってとこまでしか・・・」
「・・・・知らないって訳ね・・・」
やれやれと肩を竦め、自分の手元に椅子を引き寄せる。
「まったく・・・なんでこんな奴をとっ捕まえて来たんだか・・・」
目の前の女兵士――里田まいは背凭れに顎を乗せて両手で顔を覆い、本日何度も思ったことを口に出したのだった。
- 318 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:21
- 『化け物』という表現は得てして便利だ。
クマの様な猛獣や時折滝つぼに潜む大魚にもそう言う名前が付けられるし、怪力の大男や恐ろしく体の柔らかい
旅芸人の軽業師にも人々は感嘆と賞賛、時に畏敬の念をこめて呼ぶ事もある。
彼女――里田まい自身も男に引けを取らぬ腕力の持ち主であった為に、良く其の不名誉な枕詞をつけられたことがあった。
しかし、いくら城塞都市ではないとは言え、騎士団の駐留する街が一夜にして廃墟と化す程の『化け物』とは一体何なのか。
それが全く掴めずにこうして目の前の騎士と数時間も押し問答を続けている。
それに何より・・・今、自分がやっている事が果てしなく無意味に思えて仕方がないのだ。
「だいたいこんなの捕まえたところでどうにかなるもんじゃないし・・・」
- 319 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:22
- 彼女達――王政に対する反乱軍は規模100人足らずの微々たる物であった・・・。
4代前の王が征服事業を展開するまでは、その山間の小さな盆地は人が住まぬ処であった。
が、雷帝の二つ名を持つその王が各地の豪族を退け、一大版図を築き上げた頃になると、
この地に各地から落人が集まり、一つの共同体を作り上げていった。
それがこの村の成り立ちである。
この地に集結された当初は臥薪嘗胆の思いで王政の転覆を図っていたが、戦力の格差はどうしようもなく、
あるものは行商を生業とし、またあるものは剣を棄て、鍬をその手に取った。
永き平和により人々の心は復讐よりも平安を望むようになっていったのだった。
威勢良く登場した彼女も一応は反乱『軍』に所属する身であったが、普段は街道の宿屋の看板娘といった体である。
「どーしてこんなの捕まえてきちゃったのよぉ・・・」
首を傾げる神殿騎士の前で大きく肩を落とし、本日何度目かわからない溜め息を吐いた。
今となっては深夜に戦いの風を運んできた自分のボスに文句の一つでも言ってやりたいところである。
- 320 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:22
- 暗くかび臭い部屋で年頃の若い娘が無言のまま向かい合って何時間が過ぎただろうか。
意味もなく互いを意識しながら過ごす、そんな泥沼の精神的な消耗戦に終止符を打ったのは斥候の帰還だった。
「そのコが例の捕虜ね?みんな大騒ぎしてたわよ?」
つかれきった目を入り口のほうへ向けると、半開きのドアからひょっこり顔だけを出して見知らぬ女がこっちを見ていた。
「アヤカ・・・そう、帰ってきたのね、どうだった?」
アヤカと呼ばれたその女は、年は梨華より少し上だろうか。
すらりとした容姿に程よく巻いたロングヘアーが里田と同じ皮鎧に良く映えていた。
「う〜ん、ナンセンスね、町には人間の死体と・・・」
大げさに肩をすくめて答え
「死体と?」
「化け物の死体しかなかったわ」
いつになく真剣な表情だったのであろう、アヤカの簡単すぎる報告を受け里田はガシガシと頭をかいた。
彼女にはアヤカの報告は嘘ではないと思ったのである。
- 321 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:23
- 「また化け物か・・・」
そう呟くとチラリと目の前の騎士を見る。
(このコの言ってたことは本当みたいね・・・でも化け物って・・・)
「あのぅ・・・」
考え事をしている里田をよそに囚われの騎士が申し訳無さそうに話に割って入る。
「街に・・・街に生存者は本当にいなかったんですか?巫女様はッ!」
「さあね?あの様子だと『街に』は人っ子一人いない感じだったわよ?
巫女様はどうなったか知らないけど神殿付近はまだ建物が燃えてて近寄れなかったし・・・」
「そう・・・ですか・・・」
あっけらかんと言い放ったアヤカの答えに大きく落胆する。
今まで抱いてきた朧気な不安が確信に変わったのだ、街は壊滅、住人はほぼ死亡・・・
伯爵の軍から街を守ったはいいが結果として人々の安全を守りきれなかった
(私・・・騎士として失格だ・・・)
- 322 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:24
- 「まあ、こんなメモがあったから全員が全員亡くなったワケじゃ無さそうだけど?」
「ちょ・・・それを早く見せなさいよ!」
いつの間に取ったのか、アヤカの手には一枚の紙切れがひらひらと泳いでいた。
里田もそれに手を伸ばし、しげしげと眺める。
長い時間地下に居たため、薄暗い証明も相俟って目が辛そうだ。
「アンタ、矢口って騎士知ってる?それに亀井ってのも」
「矢口さん・・・そうか・・・矢口さんはちょっと前に伝令で王都に向かったんです・・・亀井って子は知りません・・・。」
「成程ね、そんで今朝帰ってきたってワケか・・・まあ、この亀井って子も新米って書いてあるし?」
「ええ、そりゃ知らない子だっているわヨ、あんだけ大きな街なんですもの」
当然の生存者と顔を知らぬ新米騎士の無事を知って、少し安堵の表情を浮かべた。
- 323 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:24
- しかしほっとしたのもつかの間、自分は囚われの身であるのだ。
「んま、街のことも心配だろうけど、アナタ自身のことも心配した方がいいわよ?ここから生きて帰す訳にいかないんだし」
顔を大きく臥せった捕虜に向かってアヤカが言い放つ、明るいトーンとは裏腹に内容は至極シビアだ。
「とりあえず今日のところはゆっくり休むといい、明日になったらアンタの処遇も決まってるだろうさ」
疲労困憊といった体で里田もそれに倣い、ぐったりとした石川から縄を外してやった。
反抗して暴れるという事はないと踏んだのだろう、後ろに回って一見不用意なくらいあっさりとロープをナイフで切断した。
それを見ていたアヤカが壁に掛かっていた燭台をテーブルにコトリと置く、この部屋の唯一の明かりだった。
- 324 名前:アフタヌーンティを君と―― 投稿日:2005/08/23(火) 05:25
- 明かりの位置が低くなった為に、鎖帷子の胸の刻印が照らし出される。
神殿騎士団のそれはこの状況では酷く滑稽に映った。
自由になった両拳はきちんと行儀よく膝頭に乗せられ、小刻みに震えていた。
「気にするなよ、あんたが生き残ったのはあくまで『結果』だ・・・」
後ろ手で独房の扉を閉めながら里田が言う、廊下から漏れる光が細く斜めに差し込んでいた。
「うちの死んだ爺さんも同じ事を気にしてたからね・・・」
『ばたん』とドアが閉められたあと、薄暗い地下牢にはたださめざめと噛み殺した様な泣き声がこだましていたが、
暫くの静寂のあと安らかな寝息に変わって行った。
- 325 名前:ウンモ星人(ユミット) 投稿日:2005/08/23(火) 05:28
- ええと・・・スレ整理と聞いてすっ飛んできました・・・。ええ、落としたのは自責の念にかられてです
読んでくれてる人は多分少ないと思いますけど、これからのんびり更新していきたいです、はい
ら・・・来月の半ばくらいには・・・更新したいなぁ・・・
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/16(水) 19:54
- 初めて読みました。
続き楽しみにしています。
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:36
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
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