もしもきみに逢えるのなら

1 名前:長井 投稿日:2004/12/02(木) 23:59
学園もの書きます。
主役は紺野ですが、CP色は薄めに。
メジャーな組み合わせではないので、期待してる人は読まな(ry

それでは、いきます。
2 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:04




「ふわぁ〜〜」
カーテンから漏れた朝の光が私を現実へと戻した。
朝の目覚め特有の気だるさが私を包み込む。
伸びをしようと思ったがなんだか首が痛い。
寝違えたのかと思ったが、どうもその痛みとは違うような気がした。
3 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:04


そうだ、きっとこれはあの時の…
私は夢の内容を思い返していた。


4 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:05


右も左もよくわからない、全体が白で塗りつぶされた部屋。
私はそこに何時間も、何日も、何週間もいて。
退屈だなあ、って思うんだけど、どうすれば、何をしたらここから
抜け出せるのかすらわからない。じゃあ、このままでいいや。何て
考えていたら。
現れたのだ。
白馬の王子様、じゃない。その子は背も私より小さくて、その上女
の子だった。
5 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:06
「一緒に、行こう!」

元気な声だった。もやもやしてた気持ちが吹き飛ぶような。ここか
ら抜け出そう、って気持ちが湧き上がってくるような。
彼女が私の手を引く。連れて行かれた先は白い部屋と外を遮る、白
い壁。
でも、そこにいつの間にか小さな穴が開いていた。
彼女は素早い身のこなしで穴を潜り抜けると、あっと言う間に壁の
向こう側まで行ってしまった。
6 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:06
「こんこんも、おいで」

いつもなら、そんな無茶なことはしないはずなのに、気がつくと私
も穴の中に身を突っ込んでいた。その先にある、外の世界を求めて

と、思いきや私の体は壁から顔を出したところで止まってしまう。
あまり大きな声じゃ言えないけど、胸がつっかえてしまったのだ。
7 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:07

「あの…出られないんだけど」
「じゃあ引っ張り出してあげるから」

そう言うと、彼女は私のほっぺを両手で掴んでぐいぐいと引っ張り
始めた。

「ちょ、痛いから痛いから! ああ、首が! ちょっとやめて、ね
えやめて…」
8 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:08


そこで夢は終わった。
首が痛いのはきっと、その名残。
馬鹿げたことなのかもしれないけど、窓から入り込む朝日が残って
いる間はそんな夢物語を信じたかった。いつか私をこの退屈から救
ってくれるような、そんな人が現れることを。
9 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:09

そう思っていられたのは自分の部屋にいる時だけで、制服に身を通
しダイニングテーブルにつく頃にはすっかりいつもの私に戻ってい
た。制服が、あの場所の空気を纏ってるからなのかもしれない。

「あさ美、そんなにゆっくり食べてたら遅刻するわよ?」
「はぁい」

生返事をしつつ、パンのトーストを齧る。
食欲は旺盛なほうだと自負してるけれど、あの場所に行かなきゃい
けないのかと思うと気が重くなって、あまり食が進まないのだ。ま
あ、元から食べるのが遅い、ってのもあるけど。
10 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:09

「行ってきます」

あまり元気な行ってきます、じゃないのはわかってる。
それが時々、お母さんを心配させてしまうのも、わかってる。
けれど、あんな学校じゃいつも笑顔でいろってほうが無理な話だと
も思う。

そう。私の通う学校は、夢で見た白い部屋そのものなのだから。
11 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:11


家の前の道をまっすぐ歩いて大通りにぶつかった所で、まこっちゃ
んに会う。

「おはよう、あさ美ちゃん」
「うん。おはようまこっちゃん」

彼女の名前は小川麻琴。あの高校で唯一って言っていいくらいの、
私の友達。
彼女がいなければ、私はとっくの昔にあそこを辞めて大検でも何で
も受けてたに違いない。
12 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:11
「昨日さ、ヘロモニ見た?」
「うん、見た見た」
「紙芝居のおじさん、最高だったよね」
「えーっ、まこっちゃんあんなの好きなんだ」
「何となく気品があって、いい感じじゃない?」
「その感覚、やばいよ」

他愛もない話をしながら、交通量の多い大通りを二人で歩く。
徐々に私たちと同じ制服の子たちが、増えてゆく。
気持ちが段々沈むのを感じながら、隣の彼女の横顔を見た。
13 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:13
今朝の夢の子って、まこっちゃんなのかなあ。
そんなことを考えてみたりする。
でも、夢の中のあの子はもうちょっと幼い感じがした。それにまこ
っちゃんはあんな狭い穴の中…とここまで考えてすごく失礼なこと
を思ってるのに気がついた。ごめん、と心の中で軽く手を合わせて
みる。

でも。
やっぱりあの子はまこっちゃんじゃない。
その証拠に、制服の子たちが増えるにつれて彼女の顔がみるみるう
ちに曇ってゆく。
彼女は同士だけれども、解放者じゃない。
それはきっと、本当のことだ。私とまこっちゃんは、よく似ている。
だから、あの環境に順応した顔をしつつもどこかで拒否反応を示し
てる。でも、私がまこっちゃんに救いの手を差し伸べられないのと
同様に、まこっちゃんもまた私を解放することはできないんだ。
14 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:14
そんな憂鬱な私の気持ちを察したのか、

「あさ美ちゃん、朝ごはん食べてきてないんじゃない? 今日の昼
休みさあ、久しぶりに外で食べようよ」

なんてことを提案してきた。
うちの高校は繁華街の近くにあって、抜け出そうと思えばいつでも
抜け出して外のお店でお昼を食べたりすることが出来る。校門の前
には教育指導の先生が四六時中立っていて、監視に目を光らせてる
んだけど。
でもこの前、まこっちゃんが旧校舎の女子トイレの窓から焼却炉の
低い壁の前へと出られる抜け道を発見したのだった。頻繁に使うと
先生に見つかったり他の生徒に告げ口されるから、たまにしか使っ
てないけれど。
15 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:14

「うん、いいね」
「おっけー。じゃあ4時間目が終わったら下駄箱の前ね」

まこっちゃんは私の気分がよくなったと思ったのか、満面の笑みを
浮かべてそう言った。本当はそうでもなかったんだけど、ただ、目
の前にいる友達の気遣いがうれしかった。
16 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:39

それでも、学校に近づくにつれて生徒の黒い人だかりは増えていっ
て。
私の沈んでゆく気持ちのクライマックスを飾るのが、校門から聞こ
えてくるあの声だった。

「きさま、またチャラチャラしたアクセサリーなど付けてるな!」

そう言って、一人の生徒を叱り飛ばしているのは生活指導顧問の山
崎先生。
彼は私のクラスでの数学の授業を受け持っているので面識はあるの
だけれども、何度見ても彼が持つ独特の嫌な雰囲気には慣れること
が出来ないでいた。
17 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:40
「アクセサリーくらい、いいじゃないですか!!」

そう言って反抗するのは、どこかで見たような顔の女の子。
確か、隣のクラスの加護さん。結構派手目の子たちとつるんでるか
ら、クラスは違ってても知名度は抜群だ。

「ほう、面白いことを言うな。ここは学校だ、勉強するのにこんな
ものは要らないだろう」
「そんな横暴な…」
「俺に歯向かう気か。確か加護。お前この前数学のテスト、赤点じ
ゃなかったか? そんな態度でいたらどうなるのかわかってるなら、
いくらでも飾り立てるがいい」
「くっ…!」
「じゃあこれは、俺が没収しておくからな」

加護さんが、顔を真っ赤にして山崎先生の横を通り過ぎてゆく。も
しかしたら、大事なアクセサリーだったのかもしれない。
18 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:43

そうこうしている間に、私たちも校門、つまり山崎先生の前を通り
過ぎる。
何事もないようにと祈っていたけれど、そんなことは土台無理な話
で。

「紺野」
「はっはい!」

背中に電流を押し当てられたみたいに、酷く大げさに反応してしま
う。
それとは逆に、先生と目が合わないように私は顔を俯かせる。
何故か周りの視線が、こちらに集まり始めている。
見えなくても、わかる。皮膚がぴりぴりと痛みを訴えているから。
わかってる。いつものことだ。この居心地の悪さも、最早恒例にな
ってすらいた。
19 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:44
「この前のテスト、どうしたんだ。お前らしくないじゃないか」

山崎先生は私の肩に手を置き、そう言った。
他の生徒と話しかける時と同じような、無表情で、抑揚のない声。
それでも、砂が強風で口に入ってしまった時のような不快感は確実
に感じていた。

「すいません…体調が悪くて」
「お前はわが校期待の星なんだ。常にトップを取るくらいの気持ち
でいろ。わかったな」
「はい…」
20 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:45

深く俯いたまま、私はその場を離れる。
どこからか、生徒たちが何やら囁きあってる声が聞こえたような気
がした。
いつも先生に抑圧されてる彼女たちからしたら、私はただの疎まし
い存在でしかないのかもしれない。
複雑な、気持ち。
自分で言うのも何だけど、勉強にはかなり力を入れてるつもりだ。
だから、その努力が結果に反映することに対して私は誇らしくすら
思う。でも。
そのせいで、こうやって山崎先生に逆の意味で目をつけられてしま
ったり、周りの人間に変に距離を置かれてしまう。
21 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/03(金) 00:46

「あさ美ちゃん、気にすることないよ」
「うん、わかってる」

わかってる。
わかってるのだけど。
私と一緒にいてくれる、そして私を励ましてくれる親友。
でも、まこっちゃんじゃ私をここから連れ出すことはできない。
そう言ったら、彼女はどんな顔をするだろう。
怒るだろうか。それとも、必死に否定するだろうか。
しばらく下に向けていた顔を上げると、校舎の最上階に取り付けら
れた時計盤から反射された光が目に入る。

私は、上げかけていた顔を再び、伏せた。
22 名前:長井 投稿日:2004/12/03(金) 00:46
更新終了。
次回更新は近日中に。
23 名前:七誌さん 投稿日:2004/12/04(土) 01:06
イイトコ発見しますた。
次回更新・・・っても更新したばっかですが待ってます。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/04(土) 15:25
いいですねー!面白いですよー
これからも頑張ってください!
25 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:19


廊下の窓から降り注ぐ光が、目にまぶしい。
床に交互に作られた光と影の模様が、ピアノの鍵盤を思わせる。
そんな中を、私とまこっちゃんは歩いていた。

「もう、ここでいいよ」
教室の前で、わたしはまこっちゃんに言った。
ここから先は私たちは一緒にいてはいけない。彼女まで、巻き込んでしまうこ
とになるから。最初にこのことを提案した時は彼女もなかなか首を縦に振って
くれなかったけど、今では渋々だけどちゃんと実行してくれる。

「あたし、いつでもあさ美ちゃんの味方だから…」
「うん、わかってる」

まこっちゃんは私の手をぎゅっと握ってから、先に教室に入っていった。
その後姿を見送る心にちくりと痛みが走るのは、多分気のせいだ。
26 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:21

ふう、と息を吐いてから遅れて教室に入った。
出迎えてくれるのは、白く研ぎ澄まされた、空気。

自分の席に座る。もちろん、声をかけてくれる子なんて、誰もいな
くて。
だからと言ってあからさまな敵意をぶつけてくるわけでもなく。
誰かが英語か何かを書き綴る滑らかな音が教室に響き渡るくらいに、
静かで。
それでも確実に、この空間は私の酸素を奪い続けているように思え
た。

まこっちゃんの席のほうを、横目で見る。
彼女は持ってきたMDウォークマンに耳を傾けながら、ぱらぱらと
1時間目の物理の教科書をめくっていた。これが彼女なりの過ごし
方なのだろう。
私はと言うと。ただ、酸素が欲しくて水面の際で金魚のように口を
ぱくぱくさせるだけ。つまり、何も術を持っていないということ。
27 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:22

ホームルームの予鈴が鳴る。
入って来たのは、担任の寺田先生。関西弁が特徴的だけど、それだ
けと言ってしまえばそれだけの先生。その寺田先生が、今日の連絡
事項を淡々と生徒に伝えてゆく。私はそれを上の空で聞きながら、
窓の外に広がる空を見ていた。
青い空に浮かんだ雲。ふわふわと漂い風に流されるその姿に、私は
自分の姿を重ねてみる。例え雲のように自由な姿を得たとしても、
所詮自由に動けるのは地球の大気圏の中でだけ。まかり間違っても
その外へ飛び出すことなんてできない。私が求めてるものって、無
理なものなのかなあ、そう思った矢先のことだった。
28 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:23
「…の、…んの」
「……」
「おい紺野、聞いてんのかいな」
「え? あ、はっはい!」

いつの間にか目の前には、寺田先生の顔。
私は思わず席を立って直立不動になってしまう。

「4時間目終わったら、俺んとこ来い」
「えっと、私何か…」

先生の意図がわからず質問を続けようとする私を、寺田先生が呆れ
た顔をしながら遮った。

「俺の話全然聞いてへんかったやろ。うちのクラスに転入生が入
ることになったんやけど、まず学級委員のお前と面通しするから職
員室来いやって話や。わかったか?」
「あ…はい」
29 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:24

何だか話がよく飲み込めないまま、結局ホームルームの時間は終わ
ってしまった。
私は4時間目が終わったら、寺田先生に職員室へと呼び出される。
どうしてかと言うと、転校生がやってくるから。で、私は学級委員
なんてやらされてるから、その子と会わなければならない…そんな
とこだろうか。

ようやく意識がまとまりかけたところで、1時間目の物理先生が教
室に入ってきた。私はもうすぐ会うことになる転校生の姿をおぼろ
げに想像しながら、鞄の中から教科書とノートを取り出した。
30 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:25


そんなこんなであっという間に4時間目も終了してしまい。
私は寺田先生が待つ職員室へと向かっていた。
まこっちゃんは一緒に行こうか? なんて言ってくれたけどそれは
断った。周りの目、というのもあったし、それに、転校生の面通し
くらい一人でできる。学級委員だし。
なんて誇りにもならないような役職まで出して、私は自分自身を納
得させていた。

教室のある棟と職員室のある棟をつなぐ渡り廊下。
大きく息を吸ってから、歩き始める。
それは、肺に溜まった淀んだ空気と外の新鮮な空気を交換するため
の作業でもあり。
もしかしたら職員室にいるかもしれない山崎先生に対する警戒のよ
うなものなのかもしれなかった。
空を見上げると、教室では見かけていた雲があらかた流れていって
しまったのか、抜けるような青がそこに横たわっているだけだった。
31 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:26

「えっ?」
私は思わず聞き返した。
「だから、転校生、いなくなってしもた」
「あの、おっしゃる意味がよくわからないんですけど」
すると寺田先生は、かけていた眼鏡を外して、目の付け根を押さえ
ながらこう言った。
「そいつがな、どうせ5時間目にはみんなと一緒になるんだからい
いでしょ、って俺の制止も聞かんと外に飛び出してもうて。はあ…
こらとんでもない問題児を引き受けたかもしれへんわ…」
32 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:27

ここは職員室。
他の先生たちがお弁当を食べたりしている中、寺田先生一人が重い
ため息をついていた。
私としては山崎先生がいないことをただ祈るだけだったから、いな
いだけでもラッキー、なんて思っていて。
正直転校生がいなかろうと寺田先生が頭を抱えていようと、結構ど
うでもよかったりしたのだった。何て言ったら寺田先生に悪いかも
しれないけど。

「ま、とにかくそういうこっちゃ。正式な自己紹介は放課後前のホ
ームルームでするから、紺野、お前は転校生らしいやつ見かけたら
仲良うしたってや」
「は、はい…」
33 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:28


そそくさと職員室を出て、ダッシュで廊下を駆け抜ける。
まったくの無駄足に終わったことで、急に待たせてるまこっちゃん
に申し訳なく思えてきてしまったからだ。

周りをよく確認してから、トイレの窓によじ登る。
一瞬夢のことを思い出したけど、ここの窓は広めに取ってあって私
がつっかえるようなことはない。それに私がつっかえるんだったら、
まこっちゃんが先に…友達を悪く言うのはやめよう。うん。

「あさ美ちゃん!」

窓の下の地面に着地すると、そこには自転車を携えたまこっちゃん
が待っていた。ちなみにこの自転車は学校抜け出しように二人で貯
金をはたいて買ったものだ。ママチャリだけど。
34 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:29
「意外に早かったね。面通しって言うからもっと時間かかると思っ
てた」
「それが、実はね…」

私は職員室で寺田先生に言われたことをそっくりそのまま、まこっ
ちゃんに話す。すると彼女は、大声で笑い始めた。

「何そいつ、おもしろくない?」
「笑い事じゃないよー、どっちにしろ私、その子の面倒みてあげな
いといけないんだから」

自分で言ってて、再認識。
私はその寺田先生の言う「問題児」に学校の授業のことを教えたり、
もしかしたら校舎案内とかもしなければならないのだ。先生の言う
ことも聞かずに職員室を飛び出してしまう生徒…ちょっとだけ憂鬱
になった。
35 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2004/12/15(水) 03:30
「なーに暗い顔してんの、先生に見つからないうちに早く学校出よ。
この前おいしいラーメン屋見つけたんだ」
「え、ほんと!?」

でも食べ物の話をされてしまうとすぐにテンションがあがってしま
う。こればっかりは性分だから仕方が無いんだけど。まこっちゃん
も同じらしく、言わば私たちは「食べ物同盟」でもあるわけだ。あ
んまり格好いい同盟じゃないけど。
とにかく食べ物のおかげで、不安材料のことを忘れたまま自転車に
乗ることができたのは感謝してもいいことなのかもしれない。
36 名前:長井 投稿日:2004/12/15(水) 03:32
更新終了。
>>25-35

中途半端な形で終わってしまいました。
まだ転校生は出ません。引っ張るようなものでもありませんが。
37 名前:長井 投稿日:2004/12/15(水) 03:36
>>七誌さん
新スレなのに間が空いてしまいました。
なるべく定期的に更新できるように努力します。

>>名無飼育さん
どうもありがとうございます。
面白いという言葉が何よりの励みになります。
38 名前:七誌さん 投稿日:2004/12/15(水) 18:37
更新キターーーー!
問題児兼転校生?はだれなんでしょう・・・?
続き待ってます♪
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/16(木) 23:41
おおっ、面白いのを見つけたぞ!
自分を誉めたやろう、違う違う、作者さんに感謝っ
続き、期待してます
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/06(木) 18:35
おもしろーい!!いい場所見っけました☆
これからも頑張って下さい!
41 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:21


まこっちゃんの漕ぐ自転車に二人乗りして数分後。まこっちゃんの言うラーメ
ン屋はすぐにわかった。店の入り口にでかでかと「本日・ジャンボラーメン祭
り開催!!」というのぼりが立っていたからだ。

「ねえ、本当にここでいいの?」
「え?」

口をぽかんと開けたまま、とぼけた返事をするまこっちゃん。
彼女は気がつくといつも口が開きっぱなしだ。
42 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:23
「何か、ジャンボラーメンとか言ってるけど」
「大丈夫だって。あれは毎週やってるただのお店のイベントだから。
食べてる途中からでも追加してジャンボラーメンにできるらしいけ
ど、あさ美ちゃんも参加する?」

私はふるふると首を振る。確かに私だって食べるのは好きだけれど、
制限時間が設けられるのはちょっと苦手だ。ゆっくり遅く大量に、
という私のモットーに「制限時間つきの食事」は著しく抵触してい
た。

お店の脇に自転車を停め、私たちはラーメン屋に入る。店の中はお
客さんもまばらで、とてもまこっちゃんの言う「おいしいラーメン」
を出してくれるような店には思えなかったけれど、外見で物事を判
断するのはよくないな、と思い直した。
43 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:24
「あいよっ! 何にする?」

テーブル席に座るとほぼ同時に厨房から出てきたのは、ちょっと
強面のおじさん。でも、こういう感じの人がおいしいラーメン作っ
たりするんだよね。
私の小腹は、早くもきゅるると鳴き始めていた。

「みそラーメンとしょうゆラーメンお願いします」
「みそとしょうゆね! みそ一丁しょうゆ一丁!!」

おじさんは頭がくらくらしそうな大声で、厨房に向かってそう叫ん
だ。
44 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:27

まこっちゃんと二人、わくわくしながらテーブル席で待つ。
厨房から立ち上る白い湯気が、徒に食欲を刺激する。この待ってい
る時の感情は、言葉に表すことができない。しかし敢えて一言で言
うなら、「は、はやく〜」なのは隣の同士も異論はないに違いない。
スープが煮える音、湯気の立ち上る音、ちゃっ、ちゃっ、という水
切りをする音。聴覚がフルに研ぎ澄まされ、食べたいゲージが振り
切れる寸前、ってところでカウンターに二つのどんぶりが並ぶ。
45 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:28
どんぶりを押さえる手のひらが熱い。けれど、そんなものは目の前
のラーメンが放つ魅力の前には何の障害にもならない。私はすでに
用意していた箸とれんげを、スープの中に沈ませた。
味のほうは、なかなか。しょっちゅうだと体重的に気になってしま
うから(目の前のまこっちゃんを含めて)、週に1回はここで食べ
てもいいかな。そう思った。

まこっちゃんに比べると、私の食べるスピードはやたら遅いんだと
思う。今日も案の定、彼女のほうが先に食べ終わってしまった。

「ふうー、ごっそさん」

そう言って満足そうにお腹をさする、まこっちゃん。でも、何を思
ったのか急に挙動不審な顔つきになって鞄やらポケットやらを探り
出した。
46 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:29
「どうしたの…?」
「あのさ、ちょっとお財布忘れちゃったみたいでさ。あさ美ちゃん、
明日返すからお金貸してっ!」

まこっちゃんは結構物忘れの多いほうだ。だから、こういうことを
まったく想定してなかったわけじゃない。しょうがないなあ、そん
なことを呟きながら私はポケットの財布を…あれ。手応えがない。
左かな…ない。じゃあ鞄も…やっぱり、ない。ああ、私も財布忘れ
ちゃったのかー…



って、えええええええ?!!!!!!
47 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:30
「ん? どうしちゃったのあさ美ちゃん」
「お財布、私もない…」
「マジ! あさ美ちゃんもお財布な…もががっ!?」

大声でとんでもないことを叫ぼうとするまこっちゃんの口を、咄嗟
に両手で塞ぐ。お店の人が怪訝な顔をしてこっちを見ているのを愛
想笑いでやり過ごし、それからできるだけ小声で、
「とにかく、何とかしないと」
と言った。
48 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:31
「でも、何とかって言ってもさあ。あさ美ちゃんいい考え、ある?」
「うーん…」

私の中に浮かんだ最善の方法、それはお店の人に正直に財布を忘れ
てしまったことを話して私かまこっちゃんのどちらかが家に財布を
取りに行くというものだった。

「うん。しょうがないよね。でもあのおじさん、怖そうだし声かけ
づらいなあ」
「じゃあ私が話しかけるから」
そう言った私の視界に飛び込んできたもの。それは。
49 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:32


本日・ジャンボラーメン祭り開催!! 制限時間内に完食された方
は無料にさせていただきます!
詳しくは店主まで。

50 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:32
というお店の宣伝文句。
もしかしたら念のために学校に電話される可能性があるかもしれな
いし、ただで食べることのできる方法があればそちらのほうを選ぶ
べきだ。私の考えは一気にそちらのほうに傾いた。

「ねえまこっちゃん。あのジャンボラーメン、ってやつに挑戦しよ
うよ」
「ええええええ!」
「驚き過ぎだって。でも完食すればタダになるし、それによく見た
らこれ、食べられない量じゃじゃないかも」
「そうかなあ…でも文句言ってられる立場じゃないもんね」

何とかまこっちゃんを説得して、ジャンボラーメンに挑戦すること
になった。あとはおじさんにその旨を伝えるだけ。

「あの、おじさ…」
そう言おうとした私の言葉を止めたのは、派手に麺を啜る音だった。
51 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:33
ずるるるる…ずばっ、ずばっ、ずるるるるる…

音の主は、カウンターに座っていた。
私たちより、ちょっと年下かと思われる女の子。もともと小柄なの
だろうけど、丸まった背中がさらに彼女を小さく見せていた。着て
いる制服からして私たちと同じ高校の子のようだ。
その子がポニーテールを揺らして食べているのは、件のジャンボラ
ーメンだった。彼女が小柄だということもあるけれど、それにして
も大きなどんぶりだ。思わず挑戦しようという気持ちが萎えかけて
しまう。
52 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:34
でもここで諦めるわけにはいかない。
彼女に続け、そう思うことによって自らを鼓舞し、そして、
「おじさん、私たちもジャンボラーメンお願いします!」
と告げた。するとおじさんは苦い顔をして、
「悪いね、そこのお嬢ちゃんがジャンボラーメン二人前頼んだので
おしまいなんだよ」
と言った。二人前? と思わず聞き返しそれからその偉業を成し遂
げようとしてる彼女の姿を見た。
53 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:35
驚いたことに、彼女は既にあの大きなジャンボラーメン(しかも二
杯目)を食べ終えていた。かなりご機嫌なのか、ふうー食った食っ
たなんて言いながら、箸でどんぶりをチンチン鳴らしている。
でも、こちらからすれば迷惑この上ない。私たちが唯一この場から
脱出できる方法を、いともあっさりと無効にしてしまったのだから。

「おっちゃん、ごちそうさまー。時間内に食べたから、ただでいい
んだよね?」
「あ、ああもちろん…」
「やったあ!」

おじさんのやや気落ちした言葉を聞いてから、女の子はぴょん、と
音が出るようなステップでカウンターを降りた。その時、それまで
後姿しか見ることのできなかった、彼女の姿が露わになる。
54 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:37
女の子はカウンターから降りてもなお、小さかった。
でもその横顔は「端正」という言葉が相応しいくらいに凛々しいも
のだった。と思ったのはほんの一瞬で。

「おっちゃんおいしかったよ! また来るからねー!!」

にぱっと八重歯を覗かせて笑う彼女は、着ている制服が合わないほ
ど幼かった。
そして、足早に立ち去る彼女の後ろ姿を呆然と見ているだけの私。
途方に暮れるとはこのことだ、そう思った。
55 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:38

「ねえどうしよう、あさ美ちゃん」
「もうこうなったら仕方ないよ。事情を説明して、学校には連絡し
ないようにお願いするしか…」

目の前の友人は不安からか、いくらか顔色が悪いように見えた。そ
もそも自分が財布さえ忘れていなかったら、まこっちゃんをこんな
目に遭わさずに済んだはず。いや、それ以前にあの子さえいなかっ
たら。大体どう見ても通常の二倍はあろうかというラーメンを二杯
も食べるなんて、まったくどうかしている。
56 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:43
お店のおじさんに今の状況を説明した後のことを想像した。
もちろん学校では禁止されている「外での食事」をしてしまったの
だから、何らかの処分が下されるのは確かだ。それならまだいい。
例によって例のごとく、山崎先生が、
「紺野は我が校の優秀な人材。きっとこれは小川に唆されただけに
違いありません」
なんて言い出したらどうしよう。
それだけは、絶対に避けたいことだった。
でも、そのマイナスの想像は確実にダメージとなって体に返ってき
た。背中をつう、と冷や汗が流れた。
57 名前:もしもきみに逢えるのなら 投稿日:2005/01/12(水) 03:43

そんな時だ。
私たちにとって救世主とも言うべき人が現れたのは。

「あれえ、小川に紺野じゃん」

私たちのテーブルに近づいてきた、眠たげな声の女の人。
栗色の髪が、軽く私の頬に触れた。
58 名前:長井 投稿日:2005/01/12(水) 03:46
更新終了。
>>41-57

あけましておめでとうございます。
前回更新から一ヶ月空いてしまったので、次はもう少し短い間隔を目指して。
59 名前:長井 投稿日:2005/01/12(水) 03:49
>>七誌さん
転校生はもう少しだけ秘密ですね。
と言うかもうばれてる可能性も。
作者の筆が悪いせいです。見逃してください。

>>39 名無飼育さん
はじめまして。
期待に答えられるように頑張ります。
60 名前:長井 投稿日:2005/01/12(水) 03:52
>>40 名無飼育さん
まだまだ序盤なので、そう言っていただけると嬉しい反面、
読者さんを逃がさないように頑張らなければ、と気合が入ります。
これからもどうかよろしくお願いします。

次回更新は1ヶ月より短い期間を目指して。
61 名前:七誌さん 投稿日:2005/01/12(水) 17:04
紺野さんと小川さんの前に現われた人は一体・・・・?
62 名前:七誌さん 投稿日:2005/03/30(水) 21:21
もう・・・3ヶ月も経ってるのに・・・
作者さま・・・更新カモン・・・。

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