メモ帳
- 1 名前:ハルヒ 投稿日:2004/12/04(土) 22:58
- ゴロッキーズ中心で、モテ高だったり道田だったり。
でもメモ帳なので思いつきで他メン絡みやCPもの以外も充分有り得ます。
よろしくお願いします。
前スレっぽいもの
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1077072978/
- 2 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 22:59
- 浮き輪
- 3 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 22:59
- 「終わった終わっ たぁ〜」
疲労の溜まった体をベッドに投げ出し、仰向けで
そのまましばらくじっとしていた。
ハワイツアーも終盤に差し掛かったある夜の話。
一日のハードスケジュールをこなした後で溜まった疲れは重力を
二倍くらいに感じさせる。おまけに、ホテルのベッドはふかふか
なのでまるで自分の体がベッドに半分くらいめり込んでいるんじゃ
ないかって感覚だった。
天井をボーっと眺めていたら右耳がガサゴソ言う音を捉えた。
顔だけそちらに向けると隣のベッドに腰掛けた愛ちゃんが
さっき買ったばかりのお土産が入った袋から赤いモノを取り出して
いるところだった。
そのままボーっと眺め続けていたら、愛ちゃんが私の視線に気付く。
ん、これ?
そう、それ。
と目だけで会話できちゃったりしている三年目の二人。
- 4 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:00
- 「浮き輪だよ」
「浮き輪ぁ?そんなの買ったの?」
「…だってさぁ」
愛ちゃんは私のリアクションが少し気に障ったらしく眉間に
皺寄せながら胸の前で赤い浮き輪を広げて見せた。
顔だけ横を向いているとその浮き輪はきちんと視界に収まって
くれないので、体ごと横を向いて改めて見る。
まだ起き上がる気にはなれなかった。
浮き輪は愛ちゃんの顔がすっぽり入るくらいの大きさで
明らかにディスプレイ用というかもしかしたら赤ちゃん用かも。
どっちにしても実用性まるでゼロ。
「…愛ちゃんさ、思いっきり旅目になってんね」
「……里沙ちゃんもそう思う?
あたしも今ほんのちょっとそう思っちまった」
「あーあ、勿体なーい。あーあー」
「あーあー」
- 5 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:00
-
- 6 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:01
-
ぷしゅー、ぷしゅー
いつのまにか真っ暗だった意識の遠くの方から
あんまり馴染みの無い音が聞こえてきて、私は自分が
転寝していたらしい事に気付いた。
疲れのせいか重たい瞼をゆっくり持ち上げると、
愛ちゃん今度は例の浮き輪を膨らませている。
空気はもうだいぶ入っていてあと二回くらい息を吹き込めば
パンパンになりそう。
「なぁに、お風呂で泳ぐのかい」
「あ、起きてた。……そんなわけあるかアホ」
「アホって言うな。じゃあなんで膨らましてんの?」
「何となく」
その適当な返事の後パンパンに膨らまされた浮き輪は、
写真集の撮影で使った浮き輪そっくりだった。
ほらほらさっきの、と言いながら愛ちゃんは顔の前に
浮き輪を翳して奥の方から満面の笑みで私を見る。
「あぁ、なるほどね、旅目のせいだけじゃないんじゃん」
「うんまあ、記念やね。そっくりやったからつい買ってもた」
- 7 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:01
- 転寝のおかげか少し疲れが取れて、やっと身を起こす気になった。
上半身を気合入れて持ち上げるとベッドについていた両肘がぐっと
沈み込んで息が詰まりそうになる。
腹筋に力を入れたら起き上がることが出来た。
愛ちゃんはまだ浮き輪の向こう側から顔を覗かせていて、
起き上がった私と目が合うとへへへぇ、と顔を
くしゃくしゃにしてまた笑う。
あ、浮き輪のせいでだんだん子供モードになってきてるな。
「楽しいのー?」
「たのしーのー」
訂正。
だんだんじゃなくてほとんど子供返りしてました。
「里沙ちゃーん、ちゅ〜」
「はぁ?何言ってんのヘンタイ」
更に訂正。
輪っかの向こうでたこちゅーしてるのでヘンタイモードが正解でした。
うっわー、この顔結構、ぶっさいく。
- 8 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:02
- 「ええやないかええやないか、だーれも見とらんでぇ」
「いやそういう問題じゃないんですけど。
あのねえ、
どうせそういうことをするんならもっと色気出そうぜ」
私がそう突っ込むと突き出してた唇が微妙に歪んで不満を
表す形になった。色気なんてわからん、その唇は生意気にも
そう口答えした。
哀しいかな彼女は自分が放出している色気のことをぜんっぜん
自覚しちゃいないのである。無自覚なんである。
だから、出せ、と言われてもわからなくて、妙なことを
してしまうんだな。
さっきのたこちゅーみたいに。
いや、面白いから好きなんですけどね。かなり。
「よーしわかった、じゃあそのまましばらくこっち見てな」
「なんで?」
「…三十秒くらいしたらわかるよ」
- 9 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:02
-
- 10 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:03
- 実際には三十秒なんてかからなくて、
お互いの唇が触れたのは多分、十二、三秒後くらい
だったと思う。
全く疲れているってのに愛ちゃんの目力は強力すぎる。
体が勝手に吸い寄せられるかのように動いた。
キスの間ふと我に返って
この状況ってちょっと離れて見たらかなりヘンテコだなって思った。
だってさ、間に浮き輪があるんですよ?
私が実際これを見ちゃったら爆笑してる、絶対。
まあ、別に、いっか。
そーだよね。
だーれも見とらんでぇ、だもんね。
- 11 名前:ハルヒ 投稿日:2004/12/04(土) 23:03
- >>2-10 浮き輪
- 12 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:05
-
- 13 名前: 投稿日:2004/12/04(土) 23:05
-
- 14 名前:名無読者 投稿日:2004/12/05(日) 17:06
- 新スレお目出度うございます〜
新高、イイッス!この二人のオトナな部分とコドモな部分のアンバンス加減がたまりません…
- 15 名前: 投稿日:2004/12/12(日) 23:14
- 嘆くなり我が夜のFANTASY
- 16 名前: 投稿日:2004/12/12(日) 23:14
- 「さゆみはねおっきな国のお姫様で何不自由なく暮らしてるの」
「………」
「でもなーんにも無さ過ぎていい加減ウンザリ」
「………」
「絵里は隣の国のお姫様なんだけどたまにしか会えないし
最近好きな人が出来たって言ってあんまりわたしのこと構ってくれない」
「………」
「退屈でたいくつで」
「…それとこんな真夜中に電話してくんのと何の関係が」
さゆはケータイの向こう側で、はあ、と溜め息を付いた。
「哀しくなって」
「…は?」
「だって、れいな出てこなかったんだよ」
「夢に?」
「せっかくさゆみがお姫様なのに」
「…意味わからん」
ただでさえ寝てたとこ叩き起こされたので、
ムカついて髪の毛をクシャクシャかきあげた。
「さゆがお姫様なられいなは王子様じゃないと!」
「勝手に配役決めんな!」
ムカつきはとうとう怒鳴り声になってれなの口から出た。
そしたら
- 17 名前: 投稿日:2004/12/12(日) 23:15
- 「…れいなぁ… っう」
うわ、こいつ泣きやがった。
「あーもう何泣いとぉ…
もういいわかった、怒ったの悪かった。だから泣くなって」
「って泣いたら、自分のこと好きな人だったらすぐ優しくなるって
絵里が言ってたんだぁ」
…だっ
「騙したんか!」
「れいなはやっぱりさゆみを好いちょる。さゆみもれいなのこと
てげ好いちょるからね?」
ああもうなんてこった。言葉出てこん。
れなはケータイを耳から離して枕に顔を埋めた。それだけじゃ
悔しさ抜けなくて枕にグイグイ顔を押し付けた。
「騙してないよ」
耳から離しててもさゆのねちっこい声は耳に届く。
どこまで人の神経逆撫でれば気ぃ済むんだ。
「騙したやろが!」
「騙してないよぉ。だってわたしね」
- 18 名前: 投稿日:2004/12/12(日) 23:15
- 夢の中で王子様のれいなに会いに行ったら
れいな戦争に行ってもう会えないってれいなのお母さん役の
石川さんが言ってさゆみのこと追い出したの。
もう会えないなんて言われて
哀しくて哀しくて
「泣きながら目が醒めたんだもん」
「………夢やろが」
「夢だよね。だってれいなこんな夜中なのにちゃんと電話出てくれたもん」
「いやそれは夢やないって」
「ほんと?…あれ、今のこれ夢じゃない?」
さゆはどうも寝ぼけていたらしい。
ていうか、電話でしっかり喋ってるくせに今の今まで寝ぼけてたって、
こいつある意味超人だ。
れなは真実を知ってすっかり気抜けしてしまい、また枕に突っ伏した。
なんて言うかどっと疲れた。
「…現実や現実。只今の時刻、午前一時じゅーきゅーふん」
「あ〜ほんとだあ」
「わかったらもう寝とけ」
「うーん、そうだねそうしようかな…ねえれいな」
「なん」
「さゆみは今日も一日れいなをてげ好いちょったよ」
「…寝言は寝て言え」
- 19 名前: 投稿日:2004/12/12(日) 23:16
- >>15-18 嘆くなり我が夜のFANTASY
- 20 名前:ハルヒ 投稿日:2004/12/12(日) 23:20
- >>14 名無読者さま
ありがとうございます〜
ガキさん高さん二人の精神年齢は足して二で割ってちょうどよさげなバランス、
そんなつもりで書いてます。駆け引きが楽しい二人。
- 21 名前:ハルヒ 投稿日:2004/12/12(日) 23:20
- 隠し
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 22:03
- 普通におもしろい!サイコーです!
もっと書いてー
- 23 名前:22 投稿日:2004/12/14(火) 22:05
- スミマセン、ageちゃいました…
- 24 名前: 投稿日:2004/12/16(木) 00:04
- 笑うな
- 25 名前: 投稿日:2004/12/16(木) 00:04
- あんまりにもニヤニヤ顔で近付いてきたから、
その首筋に噛み付いてやった。
そしたら、もぉ〜、なんてママが言うみたいに
不満の声を漏らしたけど、さゆは相変わらず
ニヤニヤ顔のまんまだった。
「噛み付かれて笑ってんの。頭おっかしいっちゃ」
「え〜」
ニヤついたまま抱きつかれ両手はしっかり腰周り。
「おかしいはないよぉ」
さゆの湿っぽい声が背筋を這い上がり、後頭部を通る
頃にはそれは電気に似た身を震わせる妙な感覚の
ものに変わる。『くすぐったい』と『痛い』の間だ。
- 26 名前: 投稿日:2004/12/16(木) 00:05
- 「い〜やおかしいね」
「れいなの方がおかしい」
「何でれなが」
「おかしいよ、赤ちゃんみたい。
赤ちゃんはね〜気に入ったものすぐ口に入れようと」
「何言おうとや!」
だいたい噛んどるんやからそんなんと違う。ぜっ たい違う。
「いいよぉ。ほんとのことを知ってるのはさゆみ一人だけで」
「うっさい放せばか」
懲りずに笑い続けるものだから
ムカついてれなはまた噛み付きたくなったけど、
精一杯それを我慢してやたら広く感じる背中に爪を立てた。
- 27 名前: 投稿日:2004/12/16(木) 00:05
- >>24-26 笑うな
- 28 名前: 投稿日:2004/12/16(木) 00:06
-
- 29 名前:ハルヒ 投稿日:2004/12/16(木) 00:08
- >>22-23 名無飼育さま
ありがとうございます。私も短くても沢山書けたらいいなと思いつつ…
age、sageは私自身も気まぐれに変えてるんであんまり気にしないで下さいね。
- 30 名前:ハルヒ 投稿日:2004/12/19(日) 19:50
- 今回更新分は男×娘です。
苦手な方はご遠慮ください…
- 31 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:51
- メローイエロー
- 32 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:51
- その時僕と紺野の姿が重なった。
学年混合リレーでアンカーだった紺野は他チームの後輩に
五メートル程の大差をつけられた状態でゴールテープを切られ、
二着で白線を跨いだ。周囲は思わぬ結果に歓喜とどよめきの混じった
拍手喝采を一着の選手に浴びせ、チームメイトが群がっている。
紺野や後続の選手達は各々が一人で息を整えていた。
これにより僕らのチームは優勝を逃した。リレーは逆転優勝の
ラストチャンスだった。
僕はクラスメイトであり同チームの紺野には素直に、残念だったな、
としか思わなかったが、色々思い出してみると息苦しさを感じるように
なった。彼女は、今年受験勉強を理由に退部するまで陸上部長距離の
ホープだったという。だから、今の今まで紺野に対する期待は
かなり大きかった。そう、紺野以外の誰かがゴールテープを切るまでは。
- 33 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:52
- そこまで思い出して紺野から外していた目線を再び戻した時、
僕にとって信じられない光景が目に飛び込んできた。
腰に両手をあてて肩で息をしていた彼女が、突然、右足で地面を
蹴ったのだ。
全く信じられなかった。信じられなくて、僕はつい眼鏡を外してまた
かけ直すなどという意味の無いことをしてしまった。
僕は彼女とクラスメイトという以外にほとんど接点が無かったので、
普段の彼女は大人しくて小声で話す女子、と言う印象しか持って
いなかったせいもあるかもしれない。
陸上部員に知り合いも居なかったから教室の中の『紺野あさ美』しか
知らないのだ。だから僕はこの時初めて紺野の激しい感情を
目の当たりにしたことになる。
そして、その姿と自分が重なったのだ。負けた、悔しい、という思いが、
今の僕とシンクロしたのだ。
- 34 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:52
-
- 35 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:53
- 「みんなよくやった!これは俺からのご褒美ってことで一人一本ずつな!」
体育祭が終了しゾロゾロと生徒が引き返していく中で僕のクラスだけは
グラウンドに残され、担任がダンボール箱をどっかりと地面に置いた。
貪欲な一部のクラスメイトが真っ先にそれに群がる中で僕は紺野の姿を
探した。居た。たった一人引き上げる他クラスの生徒に混じって
教室に戻ろうとしている。
多分、ショックが大きくてここに残れと言う担任の声が
耳に届かなかったんだろう。
「お前ジュース取ったか?」
心優しい友人が僕のためにダンボールから取り出してきたものを
目の前に翳した。僕はそれを受け取ってしばらく遠ざかっていく
紺野の後姿を見ながら、その缶を何度か縦に振っていた。
- 36 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:53
- いよいよ彼女の姿が校舎の影に消えたので、僕はどうしても
その後を追いたくなった。そこで、先ほどの友人を捕まえて
「これ好きだったろ。おれ、要らないからやるよ」
と彼にその缶ジュースを渡す。友人はパッと目を輝かせて
サンキュー、とそれを受け取って早速自分の分であった
缶のプルタブを開け、僕はその音を聞きながら担任の元へ
駆け寄り、
「先生、おれまだジュース貰ってません」
と言って250mlの缶ジュースを受け取った。
- 37 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:53
-
- 38 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:54
- 缶ジュースを片手に小走りで(まるで競歩のように)紺野が消えた
校舎の角を曲がり生徒用玄関を横切る。何故だか彼女は教室に
戻っていないだろうと言う直感が働いたからだ。玄関の窓枠の上部には、
横長の垂れ幕がかかっている。昭和五十八年度 第二十八回 体育祭。
玄関の次は職員及び来客用駐車場。白、茶、灰色の自家用車が目立つ。
数台分通り越したところで右手に業者のトラックやなんかが荷物を
校内に運び込むための大きい搬送口があって、今はシャッターが
降りていた。そして、シャッター手前の階段に腰掛けている
紺野を見つける。僕の勘はすんなり当たった。
彼女は両膝に顔を埋めていた。
「……こ」
紺野、と呼びかけようとした僕はハッとして口を噤んだ。
- 39 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:54
- そういえば僕は彼女とはただのクラスメイトでしかない間柄で、
思い返せば二言三言しか話したことも無ければ名前を呼んだことすら
無かったのだ。
どうしたものかと迷い咄嗟に車の陰に隠れてみたがそういえば僕は
この缶を彼女に渡しに来たのだ、そのために追いかけてきたのだから
引き返すのはおかしいと自分に言い聞かせて勇気を振り絞って
彼女の元へゆっくり近付こうとする。そうした時に、足元の砂利が
音を立てた。それに紺野の方が気付いた。
パッと顔を上げた彼女と目が合い情けないことに僕はその場に
凍り付いてしまった。何となくだが泣いているのではと思っていた
その予想に反して彼女の目や頬に涙らしきものは確認できなかった。
ただ、恐ろしいほどに無表情ではあった。
- 40 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:55
- 「…あ、の、これ」
僕は目が合っただけですっかり足が竦んでしまいぎこちない動作と
たどたどしい言葉で持っていた缶を少しだけ翳して見せた。
それを見た相手は訝るような目でこちらを窺ったが先程までの
無表情よりは大分ましに思えて、僕はわずかにではあるが自分を
取り戻すことができた。
「先生から、差し入れ」
言いながらこちらの心情を悟られない様に普段どおりの僕で
あろうとするが、果たしてただのクラスメイト以外のなにものでもない
僕の『普段どおり』を紺野が知っているだろうか。
傍へ寄るまでに彼女がどういう表情をしていたのかはわからない。
僕は紺野から視線を逸らし、泥のついた陸上用の運動靴ばかり見ていたからだ。
「…あ、ありがとう」
近付きすぎて靴ばかり見ていたら流石に不自然なので思い切って
顔を上げたが、とうとう顔を見ることはできず肩の辺りを見ながら
缶を差し出すと相手がそれを受け取った感触が伝わる。すぐに手を離した。
- 41 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:55
-
- 42 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:56
- 「……惜しかったな」
缶を受け取ってくれたことで、拒絶されなかった、と安心した僕は
間に二人分ほどの隙間を置いて同じ段に腰を降ろした。目線は
ずっと向こう側の白い乗用車の後輪タイヤに固定することにした。
今の僕には彼女と目を合わせて会話することは五時間目の
現社の時間に睡魔と闘うことより困難を極める。
「あんなに大差つけられたから途中で諦めかけてたよ。
まあ陸上辞めて大分経つし…あの子が早いのは知ってたから」
「でも悔しそうにしてた」
「………」
「…おれさっき紺野が地面蹴ってたの見た」
「……そっか」
見られてたんだねえ、どこか他人事の様に感じる抑揚の無い声の後、
カシュッ、という小気味いい音が聞こえてきた。缶を開けたらしい。
- 43 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:57
- 「…っ、これ、炭酸だぁ」
「炭酸駄目なのか?」
「駄目じゃないけど、すっごい温いよ。甘ったる〜い…」
「ダンボールに入ってたからな。ってか運動した後にそんなん飲ませるなんて
信じらんね。あいつ絶対自分が好きだからそれにしたんだな」
僕はこれまでのやり取りで極自然に紺野と言えたこと、そして紺野本人が
そんな僕に対して特に態度を変えなかったことですっかり気持ちが落ち着いて
きていた。やっと言いたいことが言えそうだった。
「紺野おれのことどう思う?」
「…え?」
「誤解するなよ!そういうんじゃない」
「…ちょっと、意味が」
「………あー、あのさおれさ、えっと、
自分のことガリ勉っぽいって思うんだけど」
「うん」
「紺野もそう思うかって聞いてんの」
- 44 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:57
- 僕はついさっき落ち着いたばかりのはずなのにもう手に汗をかいていた。
それとも落ち着いたと思ったこと自体が錯覚だったのか。
紺野は答えるのに大分時間をかけた。僕がここに来たことを後悔させるのに
充分すぎるほどの時間を。
「…ガリ勉っていうか実際勉強はできるよね。いつも試験で一番」
「できるんじゃないできたんだ」
思えばこれは紺野なりに気を利かせてくれた一言だと言うのに、
僕はそれに気付くことができずその答えを早口で否定し、ずっと
胸にしまい込んでいた思いをぶちまけた。
早く全て吐き出して楽になりたかったんだ。
- 45 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:58
- 「こないだの試験まではできたんだ。あいつが一番になるまでは」
「あいつって?」
「………」
「言いたくないなら別にいいけど」
案外冷たい。かといってあいつの名前を出されるのも腹が立つ。
僕は苛立ちともやもやを抱えながらタイヤの凹凸を時計回りに目で
追っていき、それが一回りしてしまったので続きを話すことにする。
「あいつさ、今まで全然勉強とかしてなかったのにさ、受験だからって
本気出したらしくてさ」
「うん」
「たったそれだけの決意でおれがずっとキープしてた一番取りやがった」
「それは悔しいね」
「だからさっきの紺野の気持ちが痛いほどわかる」
- 46 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:58
-
- 47 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:59
- …僕は勘違いしてしまったのだろうか?
紺野は僕の一言に相槌を打つことなく、かといって否定も肯定も
せずに居て、ひょっとして今のを聞いていなかった振りをしているのか、
それとも本当に聞いていなかったのか、いずれにしても黙りこくって
しまって僕としては非常にバツが悪い。
顔を見ていないから表情の変化で何かを悟ることも出来ない。
見てしまおうか、とても辛いこの状況から脱出するには
それしかないだろうか。
………それしかないか。
「なァ」
「え」
体育祭の後だった上に感情を曝け出して血が昇っているせいか
すっかり喉が渇いていたので、語尾が裏返りがちだった僕の
呼びかけを受けた紺野は、何をしていたのかと言うと缶のプルタブを
自分の左手の小指に嵌めて遊んでいた。
- 48 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:59
- 僕はすっかり肩透かしを食らって、クラスメイト紺野あさ美の
ちょっとした側面を知る。…とぼけてる女子だ。
声をかけたはいいもののそんな予想外の様を目の当たりにしてしまい
僕は尚更どうしていいかわからなくなってしまった。
混乱は視線を彷徨わせやがて目立った配色の缶ジュースに辿り着く。
とっくに飲み終えたのか一段下の僕の足元にそれはあった。
黄色地に緑の「mello」、赤の「yello」のロゴ。
アルファベットが一文字ずつ足りない。
「mello」は「mellow」か。確か、熟した、とかいう意味だった気がする。
そんなことを考えていたら
「次はやり返せたらいいね。わたしにはもうチャンスが無いけど」
紺野は独り言のように呟いて足元の缶を取り階段から立ち上がった。
僕も慌てて立ち上がる。
「…紺野!」
「教室戻らなきゃ」
「大丈夫だ、当分全員戻ってこない」
「なんで?」
「グラウンドに戻ればわかる」
- 49 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 19:59
-
- 50 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 20:00
- ちょっと前に通った道のりをまた引き返す。僕より数歩遅れて
紺野がついてきていた。僕らはまだ肩を並べて歩くような関係じゃない。
あの角を曲がればグラウンドに辿り着くと言うところで
足を止めた。何となくワクワクしながら校舎の壁に張り付く。
上手くいっているだろうか。
「行かないの?」
「こっそり覗いて見るんだ」
僕は目配せしてそう言いながらゆっくりと壁の向こう側に
顔だけ持って行った。果たして、僕の作戦は成功していた。
心優しくも先の試験で僕に苦渋を味わわせた友人が叫んでいる。
体操着にはさっき僕が譲り渡した缶ジュースから吹き出たと思われる
液体の染みが確認できた。周囲のクラスメイト達が、
お前何やってんだよ、と彼を野次っている声が聞こえる。
- 51 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 20:00
- 「やった!」
僕は小さく叫んでガッツポーズを作った。紺野はそれを見て
何事かと壁の向こう側を覗き込んで、あ、と声を漏らす。
僕は声を上げて笑いそうになるのを必死に堪えながら
「おれは仕返ししてやったぜ、紺野。
お前もいつか絶対やり返してやれよな」
そう誇らしげに言うと、紺野は、
「わたしはもっと堂々とやるよ」
と何となく嬉しそうに返してきたのだった。
- 52 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 20:01
- >>31-51 メローイエロー
- 53 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 20:02
- 男×娘(紺野)
- 54 名前: 投稿日:2004/12/19(日) 20:02
-
- 55 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 20:12
- すごくよかった
同級生の子の意外な側面だのもぞもぞした距離感だの人のいい友人だの
学生生活だなーと思った
気の抜けたヘタレ感がよいです
- 56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/19(日) 22:06
- 紺野さんってこんな感じなんだろうなぁって
思いながらよませてもらいました。
おもしろかったです。
- 57 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:38
- 赤ライン
- 58 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:38
- 今年に入ってから、上履きの赤ラインの持つ意味が変化した。
去年までこれは、一年生の証。
今年からは、二年生の証。
放課後の廊下ですれ違った誰かの真新しい上履きのラインは、青。
新一年生。
別の誰かのくたびれた上履きのラインは、緑。
新三年生。
わたしの名前は、紺野あさ美。
2−Eの生徒です。
- 59 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:38
- 音楽室に入ったら愛ちゃんと新入部員の亀井絵里ちゃんが既に来ていた。
「…あさ美ちゃん、残念賞」
わたしの姿を認めた愛ちゃんは渋柿でも食べたみたいなしかめっ面。
「え?」
「アレ見てみ」
長くて綺麗な人差し指の先は奥にあるホワイトボードを示してた。
『今日の部活は中止です』
わたしの名前は、紺野あさ美。
合唱部員です。
- 60 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:39
- 楽しみにしていた部活が中止になって、わたし達三人は
和菓子屋さんに寄り道してお茶を楽しもうという運びになった。
ところが音楽室を出たところで運悪くわたしは担任の先生に
捕まってしまい、クラス委員であることを理由に仕事を
半分押し付けられてしまった。
「コピーくらい全部自分でやってよ、もう」
大急ぎで音楽室へ戻る。
放課後だからちょっとくらい走ってもいいだろう。
「ごめーんお待たせ!……って、何してるの」
ドアを開けたら真正面でとても不思議なものを見た。
窓際の黒いカーテンの中に
愛ちゃんと亀井絵里ちゃんが包まっていたのだ。
『密会ごっこ』をしてたらしい。
- 61 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:39
-
「いちご大福一つ!」
「みたらし団子お願いします」
「えーっと、…愛ちゃん前わたし何食べたっけ?」
「饅頭はいちご以外全制覇したやろぉ」
ああ、そうだ、そうだった。
えーっとじゃあ…何にしよう。
ガラスケースの向こう側はどれもわたしを誘惑してる。
財布の中身を気にしなくていいなら、この列の端から
端まで!って言えるんだけどなあ。
…バイトしようかな、お菓子のために。
けどそうしたら、部活に出られなくなっちゃうしなあ。
片道一時間の通学時間が恨めしい。
「あさ美ちゃん、先に席取っとくで、一杯悩んでええよ」
「ごめん。そうする」
愛ちゃんとはもう一年以上の付き合いになるので、
こういうわたしの扱い方を承知してくれていてとても楽です。
「亀ちゃんも先に行ってていいよ。ほんとわたし時間かかっちゃうんだ」
「…じゃあ、お先に」
まだあまり話したことが無いからか、ちょっとぎこちない
返事をしながら彼女も愛ちゃんの後を付いていった。
- 62 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:40
- 「あー、次は餅シリーズにしたんやね」
「お団子と迷ったんだけどね」
春だし、桜餅がとても美味しそうだったから。
席に座ろうとした時、わたしはふといつもと違う感覚に気付いて
少し戸惑った。
今日は三人いるんだ。
いつも愛ちゃんと二人でここに来ていたから、当然のように
向かいの席に座ろうとしたら亀ちゃんが既に居て。
…隣に座るってなんか照れくさいなー…なんて。
「あさ美ちゃん?あ、狭いかの?」
突っ立っていたわたしに愛ちゃんが気遣って、座っていた椅子を
少し奥にずらしてくれた。
「ありがとぉ」
- 63 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:42
- 「あのぉ、お二人って、学年違いますよね?」
お茶を啜りながら上目遣いで亀ちゃんが尋ねた。
わー、この子湯呑みがすっごい似合う。
「ほやで、あたし三年であさ美ちゃん二年」
「それがどうかした?」
「いや…同学年っぽい話し方だったから」
「あー」
「愛ちゃん先輩に見えなかったから、一番最初に
話した時の延長でこうなっちゃったんだよ」
「上履き見なかったんですか?」
「座ってたから見えなかったんだよな」
「うん。だからてっきり」
わたしと愛ちゃんが初めて会ったのもやっぱり音楽室だった。
去年の春。ちょうど今頃。
その時愛ちゃんは転入してきたばかりで、だから初対面の時は
お互いに合唱部の見学に来ていたんだ。
「すごい早口で訛っててびっくりしたー」
「………イタイ過去や」
「もう慣れたし大丈夫だよぉ」
っていうか、訛ってない愛ちゃんなんて愛ちゃんじゃないもん。
- 64 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:42
- 「ええー、それあんまフォローになってないで」
「なんでさー。らしくって良いってば」
「…ほやったらそういうことにしとく」
「うんそうしといて」
「仲良いですねぇ」
亀ちゃんはまだ湯呑みを持ったままで、どことなく微笑んでいた。
もともとこういう顔つきなんだって気付いたのは大分後になってから
だったけれど。
「何だかんだで一緒に居る時間多いよな」
「うん、わたし結構ぼーっとしてるとこあるから、愛ちゃんと
いると引っ張ってくれて助かってるよ」
「そうなのぉー?」
あはは、びっくりしてるー。
「私が言うのもなんですけど、バランスいいと思います」
「亀井ちゃん結構言い切るタイプやね。なんか、ええなあ」
「ね、変に遠慮されるよりずっといい」
わたしが合唱部に入りたての頃はおどおどしてて
結構他の先輩方を苛立たせていたから。
そして、その時色々助けてくれたのも愛ちゃんだった。
練習に付き合ってくれたり
うまくいかなくて落ち込んでいた時にヤケ食いに行こうって
誘ってくれたのも
部活に行くのが楽しみになったのも
全部愛ちゃんのおかげ。
- 65 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:43
-
和菓子屋さんで小一時間ほどおしゃべりをして、店先で
亀ちゃんと別れたわたし達は
『いつもどおり』に駅裏の公園に辿り着いた。
18:45発の電車が来るまでここで時間を潰すのが恒例になっていて、
愛ちゃんはチャリ通なのに、いつもわたしに付き合って
くれていた。
座るベンチもちゃんと決まっていて、公園全体が見渡せる
黄色のそれは運良く今日も空いている。けど。
「あー、誰やこんなとこに空き缶挟んだの」
このベンチは細い板が隙間を空けて並べられてるだけのタイプで、
その隙間に空き缶がねじ込まれていた。
「マナーがなってないねえ、すぐそこにゴミ箱が」
とか言ってる間に愛ちゃんがそれを引っこ抜いて
ゴミ箱に捨てに行っていた。
ああそっか愚痴を言う前にまず行動…こういうところが
わたしの良くないところだなあ。
- 66 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:43
- 「ほや、亀井ちゃんのメモリ登録しとこ」
ベンチに座ってしばらくした時、愛ちゃんは携帯を取り出して
操作し始めた。
さっき、和菓子屋さんで新しい連絡網を作るためにって
亀ちゃんに携帯と自宅の番号を聞いていたから。
「あ、わたしも登録させて」
申し遅れました、わたし、
合唱部副部長の紺野あさ美と申します。
「ちょい待ち。…おし、ほいコレ」
登録を終えた愛ちゃんが携帯をこっちに向けてくれたんだけど、
ちょっと角度的にディスプレイが見にくくて少し覗き込もうと
したら、ディスプレイの照明が消えてしまった。
「あー」
「あ、ごめ」
その直後に鈍い衝突音。
…消えたディスプレイを元に戻そうとした愛ちゃんが
俯いたのと、わたしが顔を上げたタイミングが一緒で、
おでことおでこがぶつかりました。
- 67 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:43
- 「いってぇ〜」
「った〜」
思わずおでこを手で抑えたら、間抜けなわたしは携帯を
持っていた手で抑えようとして、離してしまった携帯は
ベンチの隙間を抜けて地面に落ちた。
「あ」
「あー」
そんな声を出しながら同時に手を伸ばした二人が
二度目の
ごつん。
「…つ〜、またぁ〜?」
「ごめぇん〜」
ヒリヒリだったおでこがズキズキになってしまいました…
「あー、デコ同士まで仲良くてどうすんの」
「ほんとにねー」
- 68 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:44
- ぶつかった瞬間目の奥まで響いた衝撃はまだ少し眩暈を
残していて、わたしはおでこに手を添えて少し目を閉じた。
夕暮れ時で赤みがかった視界は瞼の裏でも赤い残像を見せる。
赤は新二年生のわたしの色だ。
来年は三年生の色になる。
…何だか信じられないなあ。
「わたしねえ」
「うん?」
「進級したら上履きの色が変わると思ってたさ」
「おー、それあーしも思っとったぁ。何か先輩の靴の色が
そのまま学年のイメージになってもてな、三年で緑って何か
変な感じする」
ちなみに去年の三年生は今の一年生と同じ青ラインだった。
「ね。だから結構ショックだった」
「ショックなん?」
「だって、赤って何かいいイメージが無いしょ」
わたしの言葉を受けた愛ちゃんは斜め上の方を見て何かを
考える風の姿勢になった。
- 69 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:44
- 「赤信号、くらいしか出てこん…」
「赤点、救急車パトカー消防車、何かの機械でエラー出たりすると
赤いの点いたりするよね」
それでいくと緑は安全だよって意味で使われたりする。
…緑になりたかった。
「なるほどなあ、確かにあさ美ちゃん赤より緑って感じ」
「わたしは愛ちゃん赤って感じ」
何それぇ、愛ちゃんはさっきの話の繋がりで悪い方に捉えたみたい。
「悪い意味じゃなくてね、似合うってこと」
わたしのフォローの言葉にそうなんかなあと頭を捻っている。
かと思ったら、留年したらあーし赤くなれんのかな、と
変な想像をし出した。どうだろうね、やっぱり靴は買い直しじゃない?
「でもそれじゃ一人だけ新品の靴で返って浮いてまうやん。
やっぱあたしは今のまんまでいいや」
「そうだね。わたしも三年かけて慣れようっと」
たかだか上履きラインの色ごときでこうして十分以上も会話の続く
自分達の関係をなんだかいいなあと思ったりした。
そういえば和菓子屋さんで感じた妙な照れくささをここでは感じない。
きっと夕焼けの公園がそうさせてるんだね、と何となく納得する。
- 70 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:45
- 「そろそろ時間だよ」
愛ちゃんが腕時計を示す。気付いたら帰りの電車がやって来る
時間になってた。
もうちょっと他愛の無い話をしていたかった気もするけど、
また明日でいいや。
じゃあね、と手を振って別れた。
ホームで電車を待つ。今日は定刻より早めに電車が来た。
減速しながら目の前を通り過ぎたその車体を見てわたしは気付いた。
そういえばこの車両にも赤いラインがあったんだ。
窓のちょっと下にあったそのラインに今まで気付かなかったわけじゃない。
だってわたしは驚いていないから。ずっと前からあったんだって
知ってたんだ。毎日の様に乗ってていつのまにか意識していなかっただけ。
「……案外慣れるのは早いかもしれないなあ」
停車する寸前に、そんな独り言が漏れた。
- 71 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:46
- >>57-70 赤ライン
- 72 名前: 投稿日:2005/01/10(月) 09:46
- 参考
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1077072978/491-495 頬擦り
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/mirage/1077072978/676-683 頬擦りU
- 73 名前:ハルヒ 投稿日:2005/01/10(月) 09:50
- >>55 名無飼育さま
ありがとうございます。作者がヘタレなのでヘタレ話は得意ですよ!
(威張れません)
>>56 名無飼育さま
ありがとうございます。先日のスポフェスで紺野さんは何気に負けず嫌いなんだな、
と思ったので書きました。
- 74 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:08
- 禁断の果実
- 75 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:09
- 収穫し終えたばかりの作物を入れた籠を抱えながら
広大な草原を真っ二つに二分している土の地面を
慎重に歩いていたアイは、向こう側から小走りに駆けて来る
人影を認めた。
「おねーちゃーん!」
それは妹のサユミだった。サユミは肘から下を扇形に
振りながらこちらへと向かって来て、やがてその右腕を
天へ向けて掲げた。
そしてまた今度は右腕全部を大きく振ってアピールしてくる。
アイは自分も手を振ってそれに答えてやりたかったが、
あいにく両手で籠を持っていたため無理だったので、
代わりに高い声でなーにー?と返事をしてあげた。
二人はやがて路上で合流し、立ち止まったサユミが肩で
息をしながらアイに問うた。
「おねーちゃん”ぴーち”って食べたことある?!」
- 76 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:09
- 「”ぴーち”は『可愛い色をしててまあるくってとっても甘くて
おいしい果物』なんだよ〜 いいでしょ〜サユ〜 フフン」
サユミは、ちょっと前にご近所に住むイシカワさんがそう
教えてくれた、とやたらオーバーな物真似つきで説明をし、
期待の篭った眼差しでアイを見た。
そのしなを作った物真似がやたらとそっくりで、まるでイシカワ本人が
乗り移ったかのような我が妹に虚を突かれてしまったアイは、
数秒後にようやっと一言だけ、
「食べたことないで」
とだけ返すことができた。
「えーなぁんだぁ〜」
サユミは明らかにショックだと言いたげな声色で肩を落とす。
身に覚えはないが何となく悪いことをしてしまったような
気がしたアイは慌てて話を繋げた。
「ほやってここいらじゃ”ぴーち”を栽培できる環境やないし、
食べたことある人だってしんどい思いして遠くの街とか国へ
行って来た人だけやろ」
「そうなの?」
「そうそう」
「いいなあ〜、サユミも”ぴーち”が食べられるところに行きたい」
- 77 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:10
- ちょっと前まで項垂れていたサユミが、今度は果てしない草原の
向こうへと視線を飛ばしてそんなことを言う。
それは食欲のためなのかそれとも好奇心なのか、アイは心の中で疑問が
浮かんだが、サユミのことだからそのうち素直に理由を言って
くれそうな気がしたので黙っていた。
「可愛い色ってどんな色なのかなあ?」
アイの持っていた籠を交代で持つことになり、
今はサユミが籠を抱えていた。両手を回して左右の手の指先が
つくかつかないかの外周を持った籠の中身は赤や緑の野菜が
わんさと入っている。サユミはその一つ一つの色を確認しながら、
きっとこの中には無い色だ、と呟いた。
「そんな見たいんか?」
「見たい食べたい触りたい〜」
「真ん中あたりに本音が見えるなぁ…」
- 78 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:10
- サユミが三回目に籠を持って歩き出して少し経った時、
アイは思い出したように宮殿へ寄って行こうと提案した。
宮殿には占い師のイーダが住んでおり、彼女ならきっと
”ぴーち”のことについて詳しく知っているだろうと思った。
それを聞いたサユミはたいそう喜んで、籠を持ったままほんの少しだけ
スキップした。そのせいで林檎が一個ぽろっと零れ落ちて
アイに怒られてしまった。
宮殿に辿り着いて二人は早速イーダの居る部屋を訪ねた。
入口の布をこっそり捲くって中を窺うと彼女は敷物を
敷いた床に座り込んで慣れた手つきで髪飾りを編んでいた。
イーダは各地を飛び回って占いで生計を立てていた人物で、
現在は専属の占い師としてこの宮殿に住んでいる。
数え切れないほどの街や村を渡り歩いてきたため知識も豊富だ。
宮殿内の占い師としての仕事は朝と夜にしか無く、
空いている時間は趣味の手芸をして過ごしたり、
今回のアイとサユミのように個人的に訪れた人々の話相手や
悩み事の相談にのったりといった生活を送っていた。
ちなみに、宮殿に住んでいない人間は占ってはいけないという
決まりがあるらしく、アイとサユミは占ってもらったことが無い。
- 79 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:11
- 「”ぴーち”ね、うん、知ってるよ」
「食べたことありますか?!」
アイの予想通りイーダは何でもないことのようにそう答え、
これまたアイの予想通りサユミが目を輝かせて座っていた敷物の
上で身を乗り出した。
こらこら落ち着いて、とサユミを制してアイはイーダに話の先を促す。
「見たことも食べたことも触ったこともある」
「え〜いいな〜いいな〜」
「イーダさん、可愛い色ってどんなんですかね?イシカワさんが
可愛い色だって言ってたらしいんです」
「”ぴーち”は『可愛い色をしててまあるくってとっても甘くて
おいしい果物』なんだよ〜 いいでしょ〜サユ〜 フフン」
アイの言葉に続けてサユミはまたイシカワの物真似をして見せた。
するとイーダはその仕種にツボを突かれたらしくプッと噴き出して
ひとしきり笑い終えた後、目に涙を溜めながらアイの顔を指差す。
- 80 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:11
- 「そうねえちょうど、この子の唇の色に似てるわ」
「あたしの?」
「おねーちゃんの?」
アイは目を丸くして驚いたが、自分の唇の色など確認する術を
持たないのでさっぱり見当が付かず首を捻った。その横から
サユミが興味津々と言った様子で自分を、正しくは自分の唇を覗き
込んでくる。一瞬目を合わせた時、サユミの両目は
ミステリアスな輝きを放っていた。
なんだか耐えられなくなってアイはそっぽを向いてしまった。
「あー、見てたのに」
「…見んな。見ないで下さい」
「見せてよー」
「ヤダ」
今まで全く意識していなかったが、自分で自分の顔を見たことがないのに
人からまじまじと見られると言うのはなんて恥ずかしいことなのだろう。
- 81 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:12
- 「あんたたち、面白いわ〜」
「イーダさん、見てないで助けて…」
「もーこっち向いてってば〜」
サユミはとうとう痺れを切らして強行手段に出た。
嫌がるアイの顔に両手をあてて無理矢理自分の方を向かせた。
突然目の前に妹の顔が現れたことに驚いたアイが、ひぇ、と
変な声を出す。だが妹が手を離す気配は無い。
「……………」
「どう?」
「……うん、可愛い」
「食べてみたら?もしかして甘いかもよ」
「イーダさんっ!」
「冗談だよジョーダン」
「あーそっか甘くないか〜」
「甘いわけないやろぉ!!」
アイの怒鳴り声と同時に起こったイーダの爆笑が宮殿内に木霊し、
宮殿外の石畳で羽根を休めていた鳩が驚いてその場から飛び立った。
- 82 名前:ハルヒ 投稿日:2005/01/22(土) 23:13
- >>74-81 禁断の果実
- 83 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:13
-
- 84 名前: 投稿日:2005/01/22(土) 23:13
-
- 85 名前:名無読者 投稿日:2005/01/23(日) 00:11
- 新作お待ちしておりました…確かに桃はなかったですな
さゆは結局“ぴーち”を食べられたんでしょうか…(笑)
- 86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 23:55
- この三人でファンタジーっぽい舞台設定は画になるなあ
姉の妹に対する「ヤダ」というマジ拒絶が動画を思い出して笑った
- 87 名前: 投稿日:2005/02/13(日) 09:21
- さんちゃん
- 88 名前: 投稿日:2005/02/13(日) 09:21
- 「そういえばさあ」
「うん」
「愛ちゃん何か一年位前からいきなり垣さんって呼ぶようになったじゃん。
あれなんで?里沙ちゃんだったのに」
「十六歳じゃないですか」
「十六?ああ、そうだね十六になったね去年」
「だったら”ちゃん”じゃなくて”さん”じゃないですか」
「……は?」
「十六って言ったら大人の仲間入りやろ」
「えーうーん、そうなんだ?」
「そうやって。織田信長の時代にはもう大人の女性やって」
「まーた信長かい!」
「嘘じゃないよぉ!」
「いや嘘とかじゃなくてね?愛ちゃん今平成よ?平成」
「平成ですね」
「織田信長って何時代?何百年前の話?」
「えーと」
「いや、いいよ別に出さなくて。今平成だっつーことよ。
そんでうちら平成の人間やん」
「でも生まれたのは昭」
「ストップ」
「………」
「そんな目で見ないの。なーんで昔の常識で私見てんのかってことでさ」
「あー嫌やったらそう言ってくれれば」
「嫌じゃないって別に。まあ理由はわかったからさ」
「里沙さん、って変やろ」
「あーうん変だね変だよ。ってことでこの話は終わりね、終わりでーす」
「終わりでーす」
- 89 名前: 投稿日:2005/02/13(日) 09:21
- >>87 さんちゃん
- 90 名前: 投稿日:2005/02/13(日) 09:22
- orz
>>87-88 さんちゃん
- 91 名前:ハルヒ 投稿日:2005/02/13(日) 09:26
- >>85 名無読者さま
ありがとうございます。あれは禁断の果実なのでアイさんが死守しました。
本物は多分一生食べられなかったんじゃないでしょうか。
>>86 名無飼育さま
ありがとうございます。「マンパワー」PVの三人は美しすぎでした。
あのセリフはモロにあの動画を意識して書いたんで通じたみたいで嬉しい限り。
- 92 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:38
- 嘆きのリーダー
- 93 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:39
- 「はぁ〜とうとう二十歳になっちゃったわぁ〜」
我らがリーダー石川さんが、楽屋のテーブルに突っ伏して大袈裟に
溜息をついた。彼女は絵梨香の向かいに座っていて、突っ伏した時耳元の
ピアスがテーブルに当たってカシャンと音を立てる。
「そんなに残念ですか」
「十代卒業したんやもんねぇ」
隣に居た唯ちゃんが、最年少なのに何故か上から物を言うみたいな感じで
うんうんと頷いた。
「そうだけどそうじゃないの!」
ガバッと起き上がった石川さんが、物凄いシリアスな顔で自分を指差してくる。
指先のスカルプチャーが今にもこっち目掛けて発射されそうで、思わず身構えた。
そういう雰囲気。
- 94 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:39
- 「三好ちゃん、ちょっと言ってごらん?”ハタチのアイドル”」
「……”ハタチのアイドル”」
「ああっ!」
言われた通りにすると突然絶叫した石川さん。
「”ハタチのアイドル”?」
ちょっと遅れて唯ちゃんも復唱した。疑問系で。
「ああぁっ!!」
石川さん更に大絶叫。今度は両手で頭を抱えるリアクション付きだ。
全く意味がわからず隣の唯ちゃんと顔を見合わせた。
こっちの表情には明らかにわけわかんないっていう色が出ていたと
思うけど、彼女の表情は全く変わっていない。ていうか、特に
気にしてないのかも……
- 95 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:40
- 「切ない。切な過ぎるわ!アイドルなのに二十歳、二十歳なのにアイドル。
時代が昭和なら許されない立場になっちゃったのよー!」
「……か、考えすぎですよ!」
「あぁ〜なんかわかるわぁ、確かにそうかもしれん」
これが噂のネガティブか、なんて思って慌ててフォローの言葉を
かけたら、唯ちゃんは絵梨香とまるっきり正反対のことを
さらりと言ってしまった。
ああぁどうしようどうしよう、リーダーがリーダーの癖に臍曲げちゃうよ。
何とかしなきゃ、何とか……
「岡やん!岡やんもそう思うよね!」
ところが予想に反して石川さんは笑顔になり、身を乗り出して
唯ちゃんの肩をバシバシと叩いた。痛い痛いと言う彼女の表情も
やっぱりあんまり変化が無かった。
もしかして怒っててもこんな調子かもしれない。
「はぁ〜ほんっと哀しいわ〜」
「哀し〜なぁ」
- 96 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:40
- やがて二人は揃って哀しみ合いシクシクと嘘泣きを始めた。
絵梨香はすっかり除け者だ。ていうか唯ちゃん、唯ちゃんはまだ
二十歳まで何年もあるじゃん……
「気にしすぎですって。ほら二人とも顔上げてくださいよ」
「……三好ちゃんつまらない」
「は?」
「ノッてくれなきゃこういう時は!美勇伝なんだから!」
……お願い、誰かこの人の言ってることを説明して。
「一人が哀しい時はみんなで哀しまんとあかん」
「そう!三人で一緒に!」
「はあ……」
無理です。
私はそこまで熱くなれません……とは言えなかった。圧倒されて。
- 97 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:40
- 何て言っていいかわからず押し黙っていると、石川さんは
唯ちゃんから離れて、こっちに正面から向き合い腕を組んだ。
「駄目だなあ、君はまだまだだなあ」
カチン。
「そんなこと言ったって、三人居るうち二人が突っ走ったら
誰が止めるんですか」
「止める必要ないわよ」
「バランス悪いじゃないですか」
「バランスより今はチームワークです!」
「後五分で出番やなあ」
「ていうかリーダーほんとは大して二十歳のアイドルって気にして
ないんじゃ」
「あら今頃気付いたの?」
「……」
「せやね。今昭和やないねんもん」
やられた。
- 98 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:41
- 呆れ返って今度は私がテーブルに突っ伏しそうになったその時、
コンコン、絶妙のタイミングでドアがノックされる。
三人で一斉にドアの方を見ると猫一匹がやっと通れそうな
隙間の向こう側にスタッフさんが居た。
「皆さんそろそろ出番ですんで〜」
「あっ、はーい!さー気合入れて行くわよー」
「……リーダー、私なんか物凄い疲れたんですけど」
「何言ってるの!ほらさっさと立って」
石川さんは今までより更に高いテンションでそう言いながら、
ぐいと腕を掴んで無理矢理立たせようとする。
すっかりされるがままの絵梨香の隣で、唯ちゃんが
「絵梨香ちゃんはほんとに気にしぃやなあ」
と独り言のように呟いていた。
……何だか色んなことが心配になったある日の出来事でした。
- 99 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:43
- >>92-98 嘆きのリーダー
- 100 名前:ハルヒ 投稿日:2005/03/09(水) 22:44
- 呼称間違ってたらすいません。
- 101 名前: 投稿日:2005/03/09(水) 22:44
-
- 102 名前: 投稿日:2005/03/20(日) 23:53
- ザ☆ピ〜ス!
- 103 名前: 投稿日:2005/03/20(日) 23:53
- 「うーん、これとか」
「………」
「それともこっちかなあ」
「………」
「あーこっちも……でも……」
「さゆみん」
はい?
さゆみんはニコニコしたのまま私の呼びかけに答えた。
右手には一個、左手には今にも落っことしてしまいそうなたくさんの
髪飾りを持っている。
「合うの無いなら無理しなくってもいいからさ」
「えーでも、絶対似合うのありますよ!新垣さん」
楽屋で髪をいじってたら彼女がふらりとやってきて、
髪結ぶんですか?だったらわたしのコレクションの中から
好きなの選んで使ってください!と色とりどりの髪飾りが
わんさか入っているポーチを差し出してきた。
- 104 名前: 投稿日:2005/03/20(日) 23:53
- 予想外の申し出ではあったけどせっかくの好意だし、
ありがたくお借りしようとそのポーチを受け取ろうと
したけれど、受け取るより早く向こうが目の前のテーブルの
上にポーチの中身をいきなりざらーっとぶちまけて、いくつか
取って唖然とする私の頭にそれをあてがって色々考え始めてしまった。
一見楽しげだけど、だけどなんだか、どことなく必死っぽい。
「絵里も石川さんもお姉ちゃんにぴったりのだってあったんだもん、絶対」
「さゆみん、あのねぇ」
「……怒ってますか?しつこいですか?」
「や、そんなんじゃないって!」
私は正面で急に体をちっちゃくさせたさゆみんに、慌てて
右手をブンブン振って否定した。
一年以上経ってだいたい彼女のことは掴んでいた。
好かれ慣れているのか、拒否とか否定とかをこっちが思っている以上に
大げさに受け取る子だ。
「さっきも言ったけど無理して選ばなくていいからさ。
私自分で使うのは持ってきてるし」
「でも」
「あーっと、あんまり悪い方に受け取らないで聞いて。
なんとなーくだけどさ、さゆみんが持ってるものを私が
付けないからって、イコール嫌い、じゃないからね?」
- 105 名前: 投稿日:2005/03/20(日) 23:54
- あ、
さゆみんがこっち見たまま固まった……
前置きをしたものの、私は簡単に彼女の地雷を踏んでしまったらしい。
ううぅ、まずいですよこれはかなり。
「いやだからその、それはさ、さゆみんが自分に似合うと思って
集めたやつでしょ、だから」
「………」
「ほらこれとかやっぱ私よりさゆみんの方が似合うと思うし!
似合うじゃん、ね!」
テンパッた私は、彼女が右手に持っていた苺の飾りが付いた赤いヘアゴムを、
手首を掴んでそのまま本人の頭の上に持っていった。
髪の毛の上にコロンと乗っかった苺。お世辞でもなんでもなく、
間違いなくさゆみんの方が似合っていたので、
「ほらほら鏡見てみなって」
そう言ってテーブルの上のスタンド付き鏡を示そうとしたら、
- 106 名前: 投稿日:2005/03/20(日) 23:54
- 「うさちゃんピース!」
さゆみんは苺付きヘアゴム持ったまま器用に人差し指と中指を
ピョコンと立てて、歯を見せて私に眩しい笑顔を見せた。
「……ぴ、ぴーす」
その笑顔があんまりにも嬉しそうだったので、つられてしまうテンパッたままの私。
はっ、
いつのまにか空いてる手が頭の上に!
「えへへ」
「……は、ははは」
「新垣さん」
「は、ハイ」
「それじゃ今度、新垣さんに似合う髪飾り探してきますね」
「……はあ、どうも」
……性格掴んでいたつもりだったけど、そうでもないみたい。
さっき一瞬落ち込んだように見えたのも、実は演技だったんだろうか……
もしかして、他のメンバーもこうやってさゆみんペースに
嵌っていくのかな。
なんてことを。
二人片手でうさちゃんピースしたままの状態で、ふと思ったのでした。
- 107 名前:ハルヒ 投稿日:2005/03/20(日) 23:55
- >>102-106 ザ☆ピ〜ス!
- 108 名前: 投稿日:2005/03/20(日) 23:55
-
- 109 名前: 投稿日:2005/03/20(日) 23:55
-
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/21(月) 08:13
- 毎度ほんとよく見てるんだなーと思いました
これだよこれと納得した
- 111 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/02(土) 23:12
- シャボン玉ホリデー
- 112 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:12
- テレビの向こうで昔のガキさんが歌ってた。
悪気は無いけど何だかとても可笑しくて声を出して
笑ってしまう。
「何か可笑しいか?」
愛ちゃんはベッドに寝そべって本を読んでいて私の笑い声に
気付いたらしくそう聞いてきた。
「や、ガキさんすっごいね。今と全然違う」
「そりゃ二年以上前やもん。あーしやって髪黒くて…五期の皆は
かなり変わっとるな」
「そうだねえ見た目は今とかなり違う」
画面は変わり皆の衣装が変わる。赤を基調にして…なんだろラテン系?
かっこいい。
「いいなあ絵里もこの衣装着てみたかったな」
「どっち?黒と赤の」
よっこいしょ、愛ちゃんが身を起こして聞いてきた。
ちなみに私亀井絵里、愛ちゃんの寝そべってたベッドの脇に腰掛けて
ちょっと離れたところにあるテレビで『Do it!Now』のPVを
観せてもらっています。
- 113 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:12
- 「どっちも着てみたいけど……どっちが似合うと思います?」
「えー、……赤?」
愛ちゃん、
「髪の色だけ見て決めたでしょ、今」
「……ありゃ、バレたわ」
アッハ、いつもの笑い声を出して愛ちゃんは私から目を逸らしPVを観る。
色々な思いがあって色を変えばっさりと切った私の髪。
割と細かいことを気にする方だから理由を聞かれると思ったのに、
この人はちっとも理由を聞いてこなかった。
「後藤さんかっけー」
「安倍さん小さい」
PVは再生二回目。画面ではもうとっくに卒業した後藤さんと安倍さんが、
黒い衣装に身を包んでコンクリートの部屋の中でセンターポジション。
「絵里着るなら後藤さんの衣装がいいな。スカートよりパンツが」
「……んー」
歌ってる後藤さんを指差した私のことを、隣に来て同じように腰掛けた
愛ちゃんが、今度は顔だけこっち向いて下から覗き込むように見てきた。
何か言いたそう。さて何を言われるのでしょう。
- 114 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:13
- 「やっぱ見た目的に、安倍さんの衣装のがハマッとる気がする」
「絵里は安倍さんじゃないですぅ。髪の長さで決めないでください」
「わーかっとるって。でもあたしが衣装さんなら安倍さん系の
衣装にする」
「じゃあ愛ちゃんは後藤さんで」
私がそう言うと愛ちゃんはいやいやとんでもねえとブンブン首を
振りながら否定した。あーしが後藤さんなんてとんでもねえ。
「だったら絵里だって安倍さんと一緒にされるのは色んな意味で
とんでもねえ」
「うわっ」
「……今のはシーッ、ですよ?」
「お、おう」
二人しばらく無言でPVを観る。
「アイラビュー、いやっ照れるアイラビューって指差されちゃった」
「あほか誰が絵里に言うとんじゃ」
「目の前でちゃんと言われてみたいものですねえ」
「無理です。諦めてください」
- 115 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:13
- 飽きもせず何度も同じPVを観続けた。
「よく飽きないなあ。あーしもやけど」
そりゃだってダンス上手くなりたいし、一応自分だってこの曲を
歌って踊ってってやってきたけれど、これが元祖な訳でしょう?
できるなら近づきたい。と言うか。
「一緒に踊りたかったな。今の絵里で」
「そんなに気に入った?あの衣装」
「だって愛ちゃんが一番好きな曲でしょ」
おお、よく知ってるねぇ!なんて大袈裟に感心されてしまった。
もしかしてこの人忘れてる?ねえ忘れてる?
私達はラブラブじゃなかったんですか?
もう一年経ってるんですよ?別れ話なんて一度も無かったよね?
友達として今日家に招いたんだ、
なんてほざいたらはったおしますよ、先輩。
「……」
「うん、大好きこの曲」
……このやろー。
- 116 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:13
- 大好きなんて滅多に言わないくせに。
言わせようとしたら最低十五分はゴネるくせに。
すんなり言いやがって。
だいたい最近放置しすぎ。
仕事以外で私が自分のこと絵里って言ったらいちいち怒ってたくせに、
今はそれすらもしてくれない。結構怒られるたびに気にして
くれてるんだって嬉しかったのに……
そりゃ四六時中ベタベタしてほしいとも怒られたいとも思わないけれど、
仕事以外で会った記憶がもう何ヶ月も前だ。
一応メールや電話だってやりとりしてるけど段々数も時間も減ってきた。
ひどい時にはメールで「おはよう」と「おやすみ」だけで一日終わった
こともある。
その時はまあ年末年始だったりして仕事でしょっちゅう顔を合わせて
いたから特別だったんだけど、『二人きり』っていうのは
ほとんどなくて、絶対傍に誰かが居て邪魔で、そう思ったら
- 117 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:14
- 「ちょっぷ」
「イテ」
頭にきたので、覗き込むように見られていたせいで
視界に入っていた彼女の髪の毛の分け目に沿って、
チョップを食らわせてやった。
「何でぇ、何でチョップ?!」
「教えない。目で解れ」
「うへぇ……何やの、全く」
文句たれながらも彼女は私の目を見た。
しばらくじっと見られた。
もうキスでもしたろかな、とちょっと邪なことを思ったら、
読まれたらしくふっと目を逸らされてしまい
「……えーと……とりあえずごめんなさい」
謝られた。
「とりあえずぅ?」
「あ、や、あの」
- 118 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:14
- 確かに最近さゆとよく一緒に居るし手を繋いじゃったりすると
絵里一人にさせることもあってああ悪いなあとか思うんやけど
だからって振りほどくわけにもいかんって!
一応そういう時って絵里どこに居るんかなって探したり
するんやけど大抵垣さんのとこ行って二人で楽しそうに
しとるから大丈夫かなーとかその時はとりあえず安心して
でも後になってなんかものすご悪いことしたかなあって、
謝った方がええかなあと思うこともあってメール出そうかって
携帯持ってみたりしたらいいタイミングで垣さんからメール着て
遊びに行こう何て言うからついついええよどこ行くなんて
返事出してもて結局出せんかったんやって。
髪だって初めて見た時はひって驚いてでも
何か悪い予感して聞いたらあかんかなって思たし
今日、今日やっと何ていうか一緒に居られる時間持てて、
嬉しいってか、ほっとしてこうくつろいでもて、ほんでな、ほんで
「ストップ」
「んぐ」
どんな言葉が飛び出すのやらって黙って聞いていたら、
私が溜め込んでいる以上に色々思っていたらしく早口でテッテケテー。
途中から聞き取るのに時間がかかるようになったので
とりあえず落ち着いてもらおうと手の平で口を塞いでやりました。
- 119 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:15
- 「で? っていう」
「っんー?!」
「人から言われたらムカつくでしょこの台詞ー」
いつか言ってみたかったんですよねえ。
「百のいいわけより一の行動ですよ?た・か・ぁ・し・さん」
「ぷはっ」
手の平を離してみると見事に顔中真っ赤にした彼女がそこに居た。
もうなんだか、こういうやり取りとか休日に愛ちゃん家に
招待してくれたこととか、
ものすごく色々久しぶりすぎて逆に感動してしまいます。
「〜〜〜っ……」
「……なんてね」
止めよう。
この人がこうなった時、当分口がきけないのだってわかってる。
あんまり苛めすぎるのも可哀想だし、そもそも喧嘩しに来たんじゃ
ないんだから。
そう思って、そろそろPVもメイキングが終わりそうだったので、
別のやつを観ようと視線を彼女から外した。
- 120 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:15
- 「え、絵里っ」
呼ばれて視線を戻すと愛ちゃんが私に向かって指差ししている。
もしかして、まだ何か屁理屈捏ねられるのか。その真っ赤な顔は
今度は怒りで更に色を濃くしますか?それならそれで受けて立ちましょう。
何だかんだ言って、好きな人と話が出来るならそれが口論でも
実はほんの少し嬉しいかなって思う。
そのくらい、二人きりになるのが久しぶりだったんだ。
「……何ですか?」
「あ、あのなあ……」
はいはいだから何ですか。早く言ってくださいよ。
「あ、ああ、あ」
あいらびゅー。
「………」
「うっひゃあ〜〜!!」
その間約三秒。呆気にとられている隙に愛ちゃんはベッドの毛布
ひっくり返して中に潜り込んでしまった。
- 121 名前: 投稿日:2005/04/02(土) 23:15
- 我に返ると、
膨らんだ布団の向こう側から何度も何度もヒャーヒャー
叫び声が聞こえる。
私は思わず、今起きた出来事が夢ではありませんようにと願いを
込めながら、身を乗り出して布団の膨らみに向けて呟いていた。
「……わ、わんもあぷりーず」
「やだっ!」
「お願いプリーズ」
「NO!ぜーったいNO!」
「……ちぇ、ケチ」
だけどよかった、愛ちゃん布団の中で。
私も実は
ここまで顔が熱くなるのを感じたのは
物凄く久しぶりです。
倦怠期なんてシャボン玉。
- 122 名前:ハルヒ 投稿日:2005/04/02(土) 23:16
- >>111-121 シャボン玉ホリデー
- 123 名前:ハルヒ 投稿日:2005/04/02(土) 23:16
- 一応まだ亀高現役ですって言ってもいいですか… orz
- 124 名前:ハルヒ 投稿日:2005/04/02(土) 23:20
- >>110 名無飼育さま
ありがとうございます。よく見てる…うーん自覚無いですが、
何回か観直してるからかなあ。好きだとじっくり観てしまいますよね。
- 125 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/04(月) 01:51
- ハルヒさんの亀高が一番好きです……
- 126 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/04(月) 05:33
- 自分も同じく……
- 127 名前: 投稿日:2005/04/24(日) 00:17
- 煎餅と牛乳と炬燵と味噌汁について
- 128 名前: 投稿日:2005/04/24(日) 00:17
- 朝起きて炬燵に入り温みながら煎餅を食べる。
そればっかりだといつか喉が詰まったり乾いたりするので
一緒に牛乳を飲む。
愛さんが朝っぱらからそういう勝手なことをしていると折角朝食を
用意したのだからと愛さんのお母さんが炬燵の空いている
スペースにお盆ごとガタンと怒りの朝食を置いた。
お茶碗一杯のご飯
ベーコンエッグとサラダの載ったお皿
お椀一杯のお味噌汁。
煎餅と牛乳があるから要らんとお盆ごと奥へ遠ざけたら
お母さんはいつの間にそんなに煎餅が好きになったのかと
呆れ半分独り言半分で呟いた。
煎餅だって元は米やし最初から味がついとるし牛乳は勿論
健康にいいしお母さん楽できるし一石二鳥なのになんであんな
ブツクサ文句言うとんのかね。更年期か?
愛さんは煎餅と牛乳に夢中だった上にこんなことを言ったら
色々面倒なことになるのは目に見えているので声に出して
答えなかった。炬燵のせいで布団の延長で優しく暖かい気持ちを
維持していたしぶっちゃけまだ脳味噌が半分寝ちゃってたのかもしれない。
溜息ついたお母さんもさっさと諦めたらしくじゃあこれお母さんが
食べるからと向かいに腰を下ろした。
牛乳を飲みながらうんと返事した愛さんに向かって
一度は納得したはずのお母さんが言う。
「でもお味噌汁だけは飲んどきな」
小っちゃい頃からの聞き慣れた台詞。
友達からも聞いた事がある。ダイエットのために朝食抜きで家を
出ようとしたらお母さんが味噌汁だけは飲んでけってうるさくて。
朝から超ムカツクー
愛さんはひょっとして日本全国のお母さんがそうなんやろかとふと思った。
どうしてそんなに味噌汁にこだわるのかが気になったけれど
それを聞いてる内に冷めちゃったら勿体ねえしと思い直して素直に
お母さんの手から湯気の立つお椀を受け取った。
- 129 名前: 投稿日:2005/04/24(日) 00:19
- >>127-128 煎餅と牛乳と炬燵と味噌汁について
- 130 名前:ハルヒ 投稿日:2005/04/24(日) 00:24
- >>125 名無飼育さま
ありがとうございます……あ、すいませんちょっと嬉し涙が……
>>126 名無し読者さま
ありがとうございます……あ、すいません今度は嬉し鼻水が……
- 131 名前:ハルヒ 投稿日:2005/04/24(日) 00:25
- 嬉し泣きながら隠し
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/07(火) 00:01
- 生真面目でマヌケな愛さんが好きです
- 133 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/07(火) 15:04
- まったりしてて好きです
- 134 名前: 投稿日:2005/06/09(木) 00:29
- 新しい朝が来た。愛との朝だ。(略して愛ガキ)
- 135 名前: 投稿日:2005/06/09(木) 00:29
- ハッと目を醒ました。彼女は先に起きてた。
朝七時にいきなりの訪問。びっくり顔に寝起きの枯れた声で
どうしたの〜あんたぁなんて。
いやあ、一応携帯鳴らしたんだけど流石に寝てたみたい。
「来ちゃった」
玄関で顔から火が出てうおーとか叫んじゃいそうな台詞を
言ってたことに、だいぶ後になってから気付いた。
……愛ちゃん寝ぼけてて良かった。
促されるまま部屋まで付いていったら二度寝するつもり
だったらしく、つられてうっかりベッドに入っちゃったもんで、
朝が早く寝足りなかった私は、そのままやわらかい感触と人の
ぬくもりにすっかり安心してぐっすり眠っちゃったらしい。
- 136 名前: 投稿日:2005/06/09(木) 00:30
- 「…………」
もぞっと動いたので、隣でうつ伏せになり本を
読んでいた彼女は私が起きたことに気付いたようだ。
「おー、朝ぁ、煎餅食うか?」
ハードカバーから目を逸らさないで聞かれた。
「愛ちゃんまだ食べてんの……?てか今何時?」
「午前九時をまわったところです」
『クぅジぃラ〜』
「っていう駄洒落は無しね、って言おうとしたらそれかよ!」
「……このハモリはなんか嬉しくねえ種類のもんだな」
「ハモリじゃないから。突っ込みとボケだから。
シベリアとハワイくらい違うから!」
あんたぁ朝から元気やね、誰のせいだよ全く。
- 137 名前: 投稿日:2005/06/09(木) 00:30
- 「ん、っああぁ〜、いやあしっかしよく寝たわ」
「ええ天気やよ」
「ああ知ってる」
「おお!」
突然愛ちゃんがパン!と手を叩く。
ほんとに突然だったので寝起きの心臓に悪いったらありゃしない。
ちょっとして興奮気味の愛ちゃんは早口でこう言った。
「陽気な天気に誘われチャリンコぶっ飛ばしに行くか!」
そりゃもうあいかわらずこっち向かないまま横顔だけの癖に、
どんな顔してるのかがすぐにわかるくらい声に表情が出ていた。
超嬉しそう。
今あーし超名案でしかもかなり上手い事言いよった!
ねえスゴくない?あーしスゴくない?
これ面白くないですか?なんつって、アッハ!
とか何とか今にもベラベラ言い出しそうな感じ。
いつもなら軽くあしらうところだけど、これは珍しく確かに
上手い事言ってたので、
- 138 名前: 投稿日:2005/06/09(木) 00:30
- 「ちょ、愛ちゃんそれまんまじゃん!
いいじゃんNATURE IS GOOD!
歌詞のまんまやろうぜー行こっせ行こっせ!」
そう乗ってやったってのに。
「……あ、あかんわうちチャリ一台しか無い」
って急速冷凍するなよ!
「二人乗りでいいじゃん」
「ポリスメンに捕ま」
「らないから!確かに違反だけど」
「二人乗りの自信が」
「あのねぇ私そんな太ってないから!失礼な」
「や、あーしが後ろでバランス保てる自信が……」
「後ろなのかよ!なに、最初から決まってんのそれ。
もうすでに決定なの。私に権利は無いの、無いんですか?」
「あんたぁほんっと朝からよう喋るねぇ……」
やっとこっち向いたと思ったらそれか。
「だから誰のせいだよ!」
- 139 名前: 投稿日:2005/06/09(木) 00:31
-
とか何とか言いつつも結局二人で歌の通りに、自転車で
遊びに行きました。
ただし交代で。
帰りに、私が漕いでる後ろで立ち乗りしてた愛ちゃんが
言ったんです。
「二人乗り買ったら遊びに行こうねえ〜」
「え〜?別にまたこれでもいいじゃーん。
そりゃちょっと疲れるけどさぁ」
「お前、あかんやろ。
うちらが今ポリスメンに捕まったら」
「まーだ言ってんの!てかなんでそんなこだわんの、
意味わかんない」
無言でスルーされたかと思った頃、頭の上から拗ねた答えが
返ってきた。
「……ほやってあーし婦警の役なんやもん」
「コントかよ!」
- 140 名前: 投稿日:2005/06/09(木) 00:32
- >>134-139 新しい朝が来た。愛との朝だ。(略して愛ガキ)
- 141 名前:ハルヒ 投稿日:2005/06/09(木) 00:33
- 「大阪 恋の歌」のカップリング曲。
>>132 名無飼育さま
ありがとうございます。まさしくそんな感じで書いてます。
>>133 名無飼育さま
ありがとうございます。そうですよね、それ以外言えませんよね。
もうちょっと頑張りたい……
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/10(金) 00:47
- よかったものすごく待ってた
この二人はほんと相性いいな
年上で天然甘えっこと振り回されるしっかり者は最高
- 143 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:48
- 祭後
- 144 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:49
- 最後の花火が散って、それが「最後」だと気付いた人たちが、
帰宅のためか続々と土手を登って行く。
私達は、この混雑に混ざって帰りたくない、と土手に腰を
下ろしたまま暗闇の中でも流れ続ける川を見ていた。
もし土手の下の方に居たら、帰ろうとする人たちの流れに従って
何となく帰っていたかもしれない。
そうして今日と言う日は何となく終わっていたかもしれない。
祭りの後の余韻もそこそこに。
花火を見に来た人たちがたくさん居たはずなのに、それが
捌けてしまうのは本当にあっという間だった。
「なんか」
「なんですか?」
「力が抜ける」
「上向きっぱなしで疲れたとか」
「そういうんとまた違うんやって」
「えー、なんですか、もしかして、切ない、とか」
「うん、切ねーなぁ」
- 145 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:50
- 愛ちゃんが淋しがった声は、語尾に何か絞り出した
ような濁り掠れたもので、その直後彼女は一つ咳をした。
「体冷えた?」
「あー……ほうかもしれん」
いくら真夏とは言っても、薄着で川風に当たったまま二時間くらい
経過しているから、喉に来たのかもしれない。
虫に刺されるのが嫌で羽織っていたジャージを脱いで、取り合えず
彼女の肩にかける。
「うおっ、びっくりした!」
「だーいじょうぶですよ、うちの犬が粗相をしたのはこれ
じゃないですから」
「いや、でなくて」
「仮にもしそうだったとしても絵里だってそんなの
ちゃんと洗ってから着ますよ」
「いやいや」
夜の闇に慣れた目が愛ちゃんの茶髪が左右に振られるのを
しっかりと捉えた。
- 146 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:50
- 「逆に暑いとか」
「違う違う。瞬間移動したかと思た」
「はい?」
「あー、そのー」
言いにくそうだ。
フォローしてあげたいけど、瞬間移動ってさっぱりわかりません。
「……」
黙っていると、
なんと彼女は、肩にかけられた私のジャージに袖を通したのだ。
こいつはたまげた、着てくれるんですか。
うわ、うわあ。
何かこう、今までで一番震えちゃった瞬間が、ジーンと……
と感激の意を表そうとしたんだけど。
- 147 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:51
-
袖のにおい嗅がないでくださいよ……
「……うちの犬みたいですね」
「やー、確認っていうか……なんと申しましょうか……」
「えっ、に、臭いませんよね?ちゃんと洗ってるし」
必死にジャージの記憶を辿ってみる。うん、これを
着るのはえーっと、洗濯してから今日が初めてのはず。
初めてじゃなくても二回目のはず。焼肉とか食べに行ったままじゃ
ないはず。それなのにこの人ときたら。
右隣に居た愛ちゃんは左の二の腕をぐいっとあげて鼻先に
持ってきて、彼女の言う『確認』の姿勢のまま、腕より上にある
二つの目で例の如く私に何かを訴えてきた。
それがこう、泣きそうな目をしていて。
ど、どうしよう、これはちょっとわからない。
亀井絵里、うろたえてます。
「うぁ〜……どうしよ」
みなさん、これ絵里じゃないですよ。この台詞。
今度は目を伏せてこんなこと言ってる。
- 148 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:51
- どうしようって言われてこっちがどうしようだよ、
意味わかんないしこっちの身にもなってくれよ、
ってガキさんっぽく反応しそうになりました。
何か喜びそうだから絶対やりませんけど。
「ええ、どうしたんですかぁ……」
大弱りです。
何かほんと内心おろおろしちゃって土手の草ブチブチ
千切ってました。いつのまにか。
「嫌やなぁ」
「え」
「これ、……絵里の部屋の匂いする」
!!
「く、臭いですか絵里の部屋」
「のうて」
「だって嫌って」
「うん思い出した。帰んの嫌になった」
「帰るのが……帰るのが嫌なんですか?」
「……しばらく行って無いから」
- 149 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:52
- 確かに……
どっちかというと、私の方が愛ちゃんの家に押しかけて
いたような。
だって油断するとすぐにガキさん呼んじゃうから、この人。
「油断するとすぐにさゆ呼んじゃうから、何か邪魔できんなって
自分から行くって言えなかったし。そしたら全然誘ってくれん……」
「え?」
あれ?
「あー、でもちゃんと匂い憶えてんだなあ。くっそー」
「あ、あの……」
これは。
この流れはわかる。
「……絵里の部屋、模様替えしたんですよ……ベッドを変えたんです」
「……知ってる。さゆに聞いた」
聞いちゃいましたか。
ああ、何か様子が想像できます。
相手がさゆだから怒るに怒れなかったんだろうな……
ていうか怒れないですよね……
- 150 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:52
- 「あのだから、前と比べると……結構色々違うと思うんですけど」
「あーしだって色々違うと思うんですけど」
「何がですか」
スレスレのところで話変えるなよ……関係あるの?
「いや、苺とか」
「ああ、そういえば」
「今なだいたい80%くらい」
「100じゃないんですか」
「そうなんよー」
「で、えーと……」
「……行く」
私が最後まで言うのを渋っていたら愛ちゃんが答えを出して、
一人すっくと土手から腰をあげた。
デニムスカートについた草の切れ端やなんかをパンパンと払って、
行くぞっ、とか言って、土手を昇って歩道に出ようと歩き出した。
苺は関係なかったようです。
返事からこの行動に出るまでがあっという間で、私は
座ったまま取り残されかけて慌てて後を追った。
- 151 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:53
- 「待ってくださいよ、絵里部屋の主なのに!」
「おお、では連れてけ」
追いついたと思ったら、ずいっと右腕差し出されたので、
「態度悪いなあ。亀井家へ連行します」
お望みどおり、
と付け加えて、今日は手首を掴んで連れて行くことにした。
街頭に照らされた耳とかふてぶてしい顔とかが赤かったのは
無視してあげましょう。
多分手も熱いんだろうしね。
……ああ、それじゃあ苺云々も微妙に照れてて言ったんだろうか。
言いにくいこと言わせちゃったかな。
すいません、おいで、とか言えなくて。
こういう時は何となく受身になっちゃってすいません。
寧ろ亀ですいません。
「絵里痛い、血が止まる」
「そんな強く掴んでませんよ。
手がぽっぽしちゃってるからじゃないですか」
「ええ、きついってギュッとしとるって。カメ子止めるなー」
「だからそんな強く握ってません。カメ子止めませんー」
- 152 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:54
- >>143-151 祭後
- 153 名前:ハルヒ 投稿日:2005/06/25(土) 20:56
- >>142 名無飼育さま
お待たせして申し訳。……朝七時に押しかけて一緒に寝ちゃう辺り
ガキさんも結構甘えっこのような……
そして普通に受け入れてる高橋さんも割とお姉さんっぽいような……
素敵なバランスの二人ですね。
- 154 名前: 投稿日:2005/06/25(土) 20:57
-
- 155 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/26(日) 10:51
- 高橋さんが犬ころみたいで自由でよかった
亀井さんが困っててよかった
いいネタ出してくるなー
- 156 名前: 投稿日:2005/07/27(水) 23:08
- 今日の愛ちゃんガキさん
- 157 名前: 投稿日:2005/07/27(水) 23:09
- 無意識に起こしていた行動について急に訊ねられると、
頭の中が真っ白になってしまうもので。
「垣さんはよぉ、よくあたしの肩に手置くよな」
「カタニテオク?」
ちょっと前にこんなやり取りをした憶えがあるなあ、
なんてことが脳裏を掠めつつ。
「肩に、手、置くやろ?」
ああこういう返しも食らったような憶えがあるなあ、
なんて、
「あ、ああー、そうね置くねよくね、うん」
たった今気付かされた事実です。
「な」
「いやなんてかさ、あのさこう、並んでいたいのよ」
別に理由を聞かれたわけでもないのに私は必死になっていた。
嘘はついていない。
- 158 名前: 投稿日:2005/07/27(水) 23:09
- 「ふうん」
「同期だしさずっと一緒にいるしさ、あーなんていうのかなあ」
多分こういうので一番近い言葉がこれなんだろうけど、
『絆』とかいう古臭い言葉は使いにくいね。
友情っていうのとも、何か違うしさ。
「別に嫌がっとるわけやないで」
「あ、ああそうなのそうなんだ。良かっ」
「でも歩いてる時には止めてな」
「いやー流石にそこまではしませんって。
って……したことあったっけ?」
焦る。本気で憶えてない。もしかしたらやってたかもしれない。
「無ぇよ。さけ嫌がっとるわけやねぇっての」
「ならいいんだけどさ」
ほっとする。心臓少し落ち着いた。忙しい。
「でも」
「な、なに」
「逆にな?あたし手繋ぐのが嫌やないんかなあと思うことはある」
「嫌じゃないから、大丈夫だから」
「ほんとかぁ〜?」
- 159 名前: 投稿日:2005/07/27(水) 23:10
- 愛ちゃんが窺うような上目遣いで私を見た。ニヤついているけど
試すようなこの聞き方は本音を探ってる。
新垣にはお見通しですから!ざんねーん!
「ほんとだって。信じろよぉ」
「でもこないだ真夏なのに手ぇ繋いできて〜とか言うとったやん」
「嫌だなんて言ってないやん」
「嫌そうに言うとったもん」
「ありゃわざとだもん」
「そうなのぉ?」
「そうなのぉ〜」
ちょっとテンポが良かったのでオウム返しっぽくしてたら、
なんだか可笑しくなって噴出した。同時に愛ちゃんも噴出してた。
タイミング合って、しかもお互いの笑い声が尚更おかしくて、
結局一緒に大爆笑してしまいましたとさ。
何かとぶつかることも多い私達ですが、
大抵こうして最後には笑い飛ばして終わってるんですよ。
それでスッキリしちゃって、後に残らないんです、全然。
今日の愛ちゃんガキさん。
そんな二人でした。
- 160 名前: 投稿日:2005/07/27(水) 23:11
- >>156-159 今日の愛ちゃんガキさん
- 161 名前:ハルヒ 投稿日:2005/07/27(水) 23:12
- >>155 名無飼育さま
高橋さんは猫のイメージなんですけどあの話では犬っぽいですね。
ていうかまんま犬でしたね。そういえば。高橋ラブリー。
- 162 名前: 投稿日:2005/07/27(水) 23:13
-
- 163 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/04(木) 12:09
- かわええなあ
- 164 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:23
- 愛犬
- 165 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:23
- 「梨華殿、梨華どのぉ〜」
「……はい?」
ここはどこかしら、そして私とあのコは誰かしら。
……ああ、ここ、私の家の私の部屋の私のベッドの中ね。
よくわからないけど暗いからまだ夜じゃないの?
この時の私はいつもとは全く違ってとても寝醒めが良くて、
すぐにベッドから上半身を起こすことができた。閉めきった
カーテンの隙間から漏れる光も無くて、まだやっぱり朝じゃない。
「梨華殿」
……で、このコは……?
ベッド脇のフローリングの上で正座してる白い動物の着ぐるみを着た
女の子、それはパッと見でわかる。
それでこう目が合った時からすんごい真剣な眼差しで私のことを見ている。
その眼差しはテレパシーみたいに寝起きの脳味噌を突き刺して、
彼女が誰なのかということについてピンときた。
彼女は人間の姿をしているけど間違いなくうちの飼い犬の
「ラブリー……なの?」
「そうだワン!」
ラブリーは大袈裟に頷いた。
- 166 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:23
- 「そうなんだ。どうしたの人間になんかなっちゃって。着ぐるみ白くなかったら
多分私気付くのもっと遅かった」
「まんま人間だとそれはそれで信じてくれそうに無かったからだワン」
「あー、そうかもねえ」
「きょうは」
ラブリーがここで一度溜めを作った。何となく演技派なのは飼い主のせいかしら。
「石川さんに、遺言があって、来たイヌ」
「遺言?!」
夜分遅くに大声を出してしまった私は咄嗟に両手で口許を覆った。
それに対し彼女はううっと泣き声でも鳴き声でもない不自然な呻き声を出す。
……何か、ラブリーが演技派くさい理由って……やっぱり私に原因が
ある気がしてきました……
「ワタクシこの世に生を受けて十余年……血統書付きのれっきとした紀州犬として
ある北陸のお宅へ貰われて行ったはいいが、そこは典型的ブランド志向の
チャラついた成金一家の家で、狭いのに室内で飼われ常に運動不足。
餌は特売もんしか出てこないは、嫌や嫌や吠えとんのに無理矢理そこの
馬鹿息子の古着のTシャツ着せられるは、
……紀州犬が飼い主に吠えるなんてよっぽどのことなんやで」
- 167 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:24
- ラブリーはかなり不満が溜まっていたらしく早口で捲くし立てた。
最初の語尾のワンとイヌはわざと言っていたみたいね……
ていうか、大げさな身振り手振りについ目が行って、その上モールス信号みたいな
喋り方だから時々聞き取れないんだけど、表情見たら全部愚痴ですって顔してるから
多分そうなのよね?
「そんなこんなで気高き大和魂がオノレを突き動かし、
とうとう脱走した私を拾ってくれたのが梨華殿だったワン」
あ、戻った。
「ほんとのほんとに心から感謝してるワン。でも私は行かなくちゃいけなイヌ」
「ど、どこに行くの……?」
テレビか何かで、ペットは死期が近いと飼い主のもとを離れる、
って聞いたことあるけど……
「……」
「ねえ、遺言って冗談でしょ?だってあんたまだ若いじゃないの」
「……名前」
「え?」
「私には前の飼い主がつけてくれた名前があるワン。脱走した時つけてた
首輪に飼い主が書いてくれたワン。でもいつの間にか首輪無くしてもて、
私も自分の本当の名前、忘れてもた」
確かにボロ雑巾みたいだったこのコを拾った時首輪はつけていなかった。
ラブリーって名前は勿論私がつけてあげたんだけど……
- 168 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:24
- 「首輪を探しに行くのね?」
「……ワン」
正座でピンと張っていた背中がいつの間にか猫背になって、付け耳が
カクンと下がる。見た目は人間のままで、けど私には間違いなく
本物のラブリーが見えた。
「そんなに気に入らなかった?ラブリーって」
「えっと……正直……紀州犬なもんで……」
「そうなんだ……だから時々呼んでも無視したのね……
いいわよいいわよ、じゃあ勝手に行きなさいよ」
無意識にコントくらいでしか観ないようないじける動作と台本喋りをしてる私は、
やっぱりラブリーの飼い主だ。
「あ、ぅ、や、やっぱ止め……」
「こらっ!」
私は可愛い愛犬のためにゲンコツを作って振り上げた。
勿論殴るつもりなんて無いけれど、これも愛!このコのためよためなのよ梨華!
そりゃ確かに気高き紀州犬とか言っといて人の意見に流されやすいところが
ちょっと頭にきたけどね!
「い、行きます!絶対探し出して戻ってきますけ!殴らんといてっ」
「よーしよく言った!それでこそこの石川梨華の育てた番犬よ!」
だから……だから遺言なんて言うんじゃないわよ、全く。
- 169 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:25
- ゲンコツを降ろしたらぱたりと音がして、お気に入りのピンクのパジャマが
一箇所だけ色を変えた。
「梨華殿……」
俯いた私の頭をラブリーが撫でてくれる。
「着ぐるみの前足、って、結構重たいのね……」
「…………意地っ張り」
「誰の、せいよ」
「……スイマセン」
「いつ行くの……?」
「……夜明け前。陽に当たったら元の犬ん姿に戻っちまうんやよ」
「朝ごはんは?」
「食ったら寝てまう」
あんたってコは……
「あの……もし、見つからなくても、……帰ってきてもええやろか……」
「弱気なこと言わない!私の飼い犬なら、ポ、ポジティ……ブに……」
- 170 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:25
- 「……わかったワン」
ラブリーがすっくと立ち上がり私に背中を見せた。
すぐに声をかけようにも喉が詰まって。
「梨華殿、今までかたじけない。……さらばだワン」
なんてことを振り向きもせず言ったの、この子は。
「……ねえ、」
「止めても無駄だワン」
「あんたその手でドアノブ捻れるの?丸いの」
「 」
- 171 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:26
- 「で、出来ぃ るっ」
ガチャガチャガチャ
「んなぁ〜すーべーる〜! まわらねえ!」
「あ〜あぁ、やっぱりね……」
「……梨花どのぉ〜……」
「甘えんじゃないわよ。このへたれ紀州犬!」
まあ、
所詮は元・室内犬だったって事だよね。
またの機会にしなさいよ。ね。
それまでにビシバシ鍛えてあげるからさ。
せめて犬のまんまでもドアノブまわせるようになるまでは、
石川家の番犬でいてね、
私のラブリー。
- 172 名前: 投稿日:2005/08/10(水) 21:26
- >>164-171 愛犬
- 173 名前:ハルヒ 投稿日:2005/08/10(水) 21:30
- ハロモニ 石川梨華卒業スペシャル HPN
- 174 名前:ハルヒ 投稿日:2005/08/10(水) 21:32
- >>163 名無飼育さま
かわいいですよねえ…
…今回更新してから突っ込みどころを発見してしまいました…
- 175 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/28(日) 14:13
- もんのすごくラブリーでした
この組み合わせ意外に少ないところにお話の雰囲気がツボでした
二人のキャラいいなあ
- 176 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:19
- ロングピアスきっかけにだらだらと
- 177 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:20
- §
「こら」
「はーい?」
「人のピアスで遊ばない」
「えーいーじゃないですか。
だってこんな長くてプラプラしてたら触りたくなりませう」
「せう……?」
「古文」
「何か違う……いや絶対かなり違う……」
「触りたくなるでござろう?」
「いや普通に言えば」
「触りたくなるでごザベス」
「ってうわぁ〜それ超懐かしい!何か感動した!」
「それはどうもかたじけない」
- 178 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:20
- §
「だからぁ、あんまりいじられてたら怖いんやけど」
「引っ張ってブチって?あはは」
「ぎゃー!!やめてやめてホントやめて勘弁してー!!」
「自分で言ったくせに……」
「力!今力入れたやろ?!やだってやめてって!」
「何か夜の営みとかで言いそうな台詞ですよね、それ」
「言うか!!」
「聞いたことありますけど?」
「えっ……?」
「勝った」
- 179 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:20
- §
「でもいーなー欲しいなあこれ。どこに売ってるの?」
「……どこにでも」
「あっ教えない気なんだ。意地悪いなあ。このこのぉ」
「だーやめれ揺するな」
「やーです。うりうり」
「しーつーこーいー!!」
「やぁ、面白いなあ。言ってる割に手で払いのけたりしないんですね」
「下手に触ったら逆に怖いわ!」
「なるほどなるほど。おっ、指が耳朶に到着」
「〜〜!!」
「声にならないほどに喜んでいただけたようで」
「……憶えてろよ……」
「忘れます」
- 180 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:21
- §
「のうてほんとに最近どこにでも売っとるやん」
「のうて愛ちゃんと同じの欲しいって意味やん」
「真似すんなあほぉ」
「まねじゃないよばかぁ」
「……残念でした。これ一点ものだからあげられません」
「片方くれたっていいじゃないですかあ」
「駄目です」
「けちけちケーチ!」
「小学生かお前は」
「いつでも心は少女のままです」
「処女じゃないくせに」
「……憶えてろよ責任者……」
「忘れるわ」
- 181 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:21
- §
「まあぶっちゃけ結構、高校生やるのに疲れましたもので」
「ほお」
「ついでにアイドルにも疲れました」
「……」
「も〜ほんと毎日毎日しんどいです。
最近エリックと自分の区別が付かなくなって」
「えー……それは……」
「……冗談ですよ冗談。
あー今泣きそうな顔しましたね?見たよ見ちゃったよ〜。
絵里のこと心配してくれたんだ、も〜照れちゃうなあ〜うへへ」
「……いっぺんくたばってしまえ」
「だから、やーです って!」
「なるほど確かに区別付かなくなっとる」
- 182 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:21
- §
「いやこれは素ですよ!素!」
「……ほんと〜?」
「ほんと〜です」
「っとにおかしな後輩。前よりもっと」
「もっと?惚れちゃった?」
「ばーか」
「おっ、かしこまりぃ」
「何かしこまりって。間違っとる」
「間違ってません。承りました」
「何を」
「言葉の裏にひんまがった愛情表現をね」
「……死んだら治るかなあ、この前向きばか」
- 183 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:24
- >>176-182 ロングピアスきっかけにだらだらと
- 184 名前:ハルヒ 投稿日:2005/09/11(日) 02:25
- >>175 名無飼育さま
ありがとうございます。ぶっちゃけチャミラブって殺伐なイメージなんですが。
この話は元ネタがあるので(ハロプロニュース)雰囲気とかはそこから……
いい感じに伝わっていたようで嬉しいです。
- 185 名前: 投稿日:2005/09/11(日) 02:25
-
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/12(月) 09:40
- 亀高 M O E た よ 。・゚・(ノ∀`)・゚・。
- 187 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:05
- 忠犬さゆみんは長いものがお好き
- 188 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:05
- 「愛ちゃん、さゆみんどこ行ったか知らない?」
「知らんよぉ。ガキさん探してんの?」
「小春ちゃんも居ないし、二人でどっか行っちゃったみたいなんだよ」
「あらぁ、どこ行ったんやろね」
「いやっちょっともう時間無いじゃん。まさか楽屋わかんなくなって
迷ったりしてんじゃないの?」
「あ〜あるかも」
「ねえちょ、愛ちゃんささゆみんが行きそうなとこわかんない?
おねーちゃーんとか言われて、よく手繋いでフラフラ歩いてたり
してんだから」
「フラフラとは失礼な。立派なお散歩ですぅ」
「何でも良いから、ね、ちょっとほんとに時間無いから!」
「……仕方無い。嫌やけど、戻ってこさせるか」
「なんだよそれ、私の頼みが嫌って意味かよ」
「のうて、……ま、見てりゃわかるわ」
- 189 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:06
- 楽屋のパイプ椅子に座って読書中だった愛ちゃんが、
ゆっくりと本を閉じてゆっくりと席を立つ。
そのまま座っていた椅子をガリガリ音立てながら引き摺って、
「ガキさんドア開けて」
と私に言ってきた。
「は?何すんの」
「いいから」
声とか表情とかにふざけた様子は見られなかったので、
何考えてんのかわかんなかったけど、とりあえずそれに
従っておくことにした。
楽屋の出入口になってるドア(ちなみに内開きです)を開けてやる。
「ほれ開けたぞー」
「そんままめいっぱい開けてて」
「お?おう」
「椅子で押さえとくから」
- 190 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:06
- ……足元にドアストッパーらしきものがあったけど、
めんどくさいから言わないでおこう。
てか、時間無いんですって、ほんとに。
「みなさーん、危ないですから下がってー」
「は?」
「ガキさんもどっか離れてて」
「なんで?」
「危ないから」
「意味わかんない」
眉毛を八の字に変形させてると後ろから手を引かれた。
「ガキさんこっちこっち、ほんとに危ないから」
「亀?」
「もうすぐさゆが突っ込んでくるから危ないよ」
「……突っ込んでくる……?」
尚更意味不明。
「おーし、行くぞこらー」
3メートルくらい離れた場所に亀と並んで見ていると、
ちょっと土井たか子になった愛ちゃんは、
開けっ放しのドアの前で廊下に向かって仁王立ちになり、
ロングスカートの裾を右手に持って、
その手を腰より少し高い位置に持ってきて、
ひらひらと左右に動かした。
- 191 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:07
- 掴んでいたスカートの布地が、ゆらゆらと波打つ。
………………
「……で? っていう」
つい決め台詞吐いてしまった。
だってほんとわっけわかんないんですもん。
そうしたら、私の横で亀が呟いた。
「あ、来た」
「?」
来た?何が?
「だんだん近づいてくるよ、どどどーって」
近づいてくる……?
私は耳を澄ます。
微かに、かすかーに、太鼓叩いているみたいな低い音が。
- 192 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:07
- 「吹っ飛ばされんようにせんと……」
ちょ、もしかして。
ねえ愛ちゃん?
この……音ってのは。
どどどどどどどどどどどっどおっどどどど
「お姉ちゃーーーーんっ?!」
さゆみんキターーーー!!
っていうか
召喚されたーーーーー?!
「っごわぁ!!」
そしてドーン!愛ちゃんにドーン!体当たり!!
ってうわスゴッ、1メートルくらい後ろぶっ飛んでない?!
- 193 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:08
- でも何で?!何でこうなんの?!
「さゆは遊びで愛ちゃんのスカートにじゃれついてから、
においを憶えたみたいなんだよねぇ」
ぽかーんとしている私の横で、
亀が当たり前のようにさらっと言いのけてくれる。
においってそんな、犬じゃないんだから。犬じゃ……
でもたまに動物っぽい……
- 194 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:08
- 「はいおかえりー……」
「ただいま……」
ふと我に返ると、
さゆみんの突撃を食らって尻餅をついた愛ちゃんの台詞と、
スカート両手に握り締めて床に座ってるさゆみん。
あ、危ない危ないあの隙間は危ない。
苺ぱんつ見えちゃうよ。え?何で柄を知ってるのかって?
……いやあ、五期って仲良しですよねえ!ほんっとに!
「どこ行ってたの?」
「トイレ行ったら掃除中だったから下の階に行ったら、
この階と造りが違ってて、迷って……」
「みんな心配してたよ。時間も無かった」
「ごめんなさい。気をつけます」
「うん」
何あいつらあの体勢で普通に先輩後輩の会話してんだ……
でもさゆみんは喋ってる途中で流石に恥ずかしくなったらしく、
どんどん小声に、そして顔はどんどん赤く熟れていった。
もう少しで愛ちゃんの大好きな苺色になっちゃいそうだ。
「さゆ、そういえば小春ちゃんは?」
「え?居ないんですか?トイレ行く前楽屋に……」
「一緒に出て行ったんじゃないの?」
「出たのはわたしだけですけど……」
- 195 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:09
- 「ここです〜」
楽屋に居たメンバー全員が、いっせいにその声の
した方を向くと、そこには窓があり、両サイドに床まで
届きそうな長さのカーテンがあり。
片方のカーテンの裾から、ニ本の足が生えていた。
……小春ちゃんだった。
さゆみんがトイレに行ったので、隠れてちょっとばかり
困らせようと思った、らしい。
楽屋に居た私たちにも気付かれないように、こっそりカーテンの
中に隠れて。
それを知ったさゆみんは、彼女に
「駄目だよ、みんなを困らせたら」
なんて言って叱ってたけど、隠れて困らせるのと、遠くから突進して
きて風圧でみんな驚かせるのとどっちが迷惑かって言ったらまあ、
……ですよね〜?
「いやあ、みんな揃ってよかったねえ」
「……呑気だね愛ちゃん」
「小春ちゃんはカーテンのにおいが好きなんかな」
「いやそういう理由じゃないでしょ。ていうか話聞いてた?」
「居なくなったらカーテン揺らしてみたら来るかもな」
「……無い。絶対無い」
- 196 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:09
- ちなみに、小春ちゃんが抜けたあとのカーテンには、
亀が包まって一人でニヤニヤしていました。
時々頬擦りとかしながら。
- 197 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:10
- >>187-196 忠犬さゆみんは長いものがお好き
- 198 名前:ハルヒ 投稿日:2005/10/06(木) 22:18
- >>186 名無飼育さま
レスありがとうございます。
萌えじゃなくて M O E なところに萌え。
- 199 名前: 投稿日:2005/10/06(木) 22:18
-
- 200 名前: 投稿日:2005/11/17(木) 23:50
- 失敗から学びましょう
- 201 名前: 投稿日:2005/11/17(木) 23:51
- みなさんお気付きでしたか?
さゆみよりも前に、小春ちゃんが愛ちゃんに縋っていたこと。
- 202 名前: 投稿日:2005/11/17(木) 23:51
- 「……」
「さゆ?」
「……はい」
「だからね、別にあたし怒ってるわけじゃないから」
ただ、あの時小春ちゃんを宥めるのはさゆみの役目だったはずなんだから、って。
愛ちゃんに怒られた。
怒ってないって言ってたけど。
怒られた気分になった。
正直自分も訳がわからなくなってた。
ドアの隙間からどんどん煙が漏れているし、非常ベルはうるさいし。
隣には小春ちゃんがいて。
さゆみ以上に混乱してて、一人だけ立ち上がってあっちを見たりこっちを見たりして、
もうちょっとでスタジオから飛び出してしまいそうだった。
飛び出したら飛び出したでミラクルだねーなんて今なら言えるかもしれないけど、
あの時は相当怖かったに違いなくて。
さゆみはまだ全然起こったことが理解できていないなくて、逃げた方がいいのかな、
としか思っていなかった。
その間に愛ちゃんが立ち上がった小春ちゃんの腕を掴んで座らせていて、小春ちゃんは
しばらく愛ちゃんに寄り添っていた。
その時ふと、あ、取られちゃった、って思ったんだ。
- 203 名前: 投稿日:2005/11/17(木) 23:52
- ……収録の後の楽屋で、たまたま二人きりになれたから思わずそう告白したら、
愛ちゃんに怒られた。
怒ってないって言ってたけど。
怒られた気分になった。
「もう何回も言われとるやろうけど、小春ちゃんの教育係は
さゆなんだからね?」
「はい……ごめんなさい。自分勝手でした」
「ていうか、あの子だって本当はあたしじゃなくて、
さゆの方に行きたかったんやと思うで」
「それは違うと思います」
「ええ、そんなことないよ。あたしは頼り無いから」
「あります」
「無いって」
あるのに……
そうじゃなかったら小春ちゃんだって縋ったりしない。
ダンスの練習とか根気よく付き合ってくれた愛ちゃんだからこそ、のはずだ。
「それはほら、あの後吉澤さんとこ行ったしね?やっぱ頼り無かったんだよ」
「でもさゆみに頼られたら一緒に逃げてたかも」
「……おーい、きょーいくがかりー」
困ったように笑った愛ちゃんが、さゆみの肩を小突いた。
大して力が入っていなかったけど、押された振りをして肩を後ろに反らせる。
- 204 名前: 投稿日:2005/11/17(木) 23:52
- 「最終的には、愛ちゃんが逃げなかったからさゆみも」
「人のせいにしない」
「見習ったんです」
宙に浮いた愛ちゃんの右手が、スウッと肩から下へ降りていく。
もう何度も手を繋いでいるから、さゆみは無意識のうちに繋ぎやすい位置を知っていて、
丁度いいところでその手を掬い上げるように取っていた。
愛ちゃんは特に驚かず、慣れた感じで優しく握り返してくれた。
「見習うとかくすぐったいわ」
「……ふふ」
「あ、なーに笑ってぇ。馬鹿にして」
「今のはそういう笑いじゃないです」
怒ってないって言われたけど怒られた気になっていたさゆみには、
それでもいつものように手を繋いでくれたことがとても嬉しいの。
でも言ったらきっとこの手、解かれちゃうから、言ってあげないんだ。
- 205 名前: 投稿日:2005/11/17(木) 23:53
- >>200-204 失敗から学びましょう
- 206 名前:ハルヒ 投稿日:2005/11/17(木) 23:54
- うたばん
- 207 名前:ハルヒ 投稿日:2005/11/17(木) 23:54
- ありがとう
- 208 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/24(木) 19:57
- なるほどこういうことだったのかと思ったよ
教育係!教育係!教育係!とか思い出しました
- 209 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/25(金) 21:45
- 更新乙です
うたばん見返して思わずニヤっとしちゃいました
- 210 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:22
- 高橋ジャージ
- 211 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:23
- 「ようっ」
「……」
何しに来たんですか?いきなり。
「予め行くって連絡はしたやろ」
「そうですけど……」
それだって三十分くらい前で、急にうちに来るって電話してきて。
ほんと急すぎですから。
時間無さ過ぎて部屋片付ける気も起きなかった。
「そう言ってどんどん片付けられない女になっても知らんぞぉ」
「余計なお世話です」
とりあえず立ち話もなんですから、どうぞ。
- 212 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:23
- 私が促すとすぐに愛ちゃんは背中を向け、靴を脱ぐために少しだけ腰を屈めた。
今日は特に髪をいじってなくて、不自然にストレートすぎるそれは、多分最近
ストパか縮毛矯正をしたんだと思う。
ブーツなので脱ぐのに少し時間がかかる。今日は丈の短いジャケットに
ジーンズ。私に背を向けているので背中を中心に、色んなところが無防備だ。
チラ見しちゃってるうなじとか、あと、
「見えてます」
「へ」
間抜けな声を出した後、彼女は腰の辺りを左手でさっと隠す仕草を見せた
けど、すぐにその手はだらりと降ろされた。
「別に見られても構わん相手やった」
「そう言ってどんどん恥じらいが無くなって、倦怠期に突入して
いくんですよ?」
「倦怠期ぃ?」
「倦怠期ですよ」
「新婚生活はどこ行った」
「そこはまあ、アイドルだから」
「意味わからん」
- 213 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:24
-
- 214 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:24
- 部屋に着いたはいいものの、室内はぐちゃぐちゃのままなので、まずはドアの
前に愛ちゃんを待たせて、マッハで床の上だけ何とか片付けた。
まあ、片付けたって言っても置きっぱなしの雑誌とかを足で蹴って押し……
どうでもいいじゃないですかそんなこと。
「中入っても絶対文句言わないでくださいよ!」
「言わんから」
ドアを五センチくらい開けて念を押してから招き入れる。
とりあえず二組の座布団を敷いて、私は目で、何も言うなよ、と念を飛ばし
ながら片方のに座るよう彼女を促した。
愛ちゃんは何も言わなかった。よしよし。
いったん部屋を出て二人分の紅茶を淹れて戻ってきたら、閉めてあったドアの
前に飼い犬のアルが尻尾を振ってお座りしていた。
「こら、だーめ、どきなさいアル」
私がそう言うとほんの少しだけ後ずさりしてドアの前から離れたけど、尻尾は
相変わらず元気に左右に振られていた。
- 215 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:25
-
- 216 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:25
- 「で、どうしたんですか急に」
「これ」
二人とも座布団に座り紅茶も少し飲んで落ち着いた頃、正座していた
愛ちゃんは某ショップの紙袋(大)を私に差し出した。
紙袋は真ん中くらいのところで半分に折りたたんであって、持ち手の部分が
下を向いて蓋をしているみたいになっていた。
だからぱっと見だと中身はわからないけど、この紙袋自体はある服屋さんの
ものだ。
「何ですかこれ」
「返しに来た」
てことは、もともと私の持ち物らしい。
ええっと、何か貸したっけ……?
全然記憶にない。
とりあえず中身を見てみよう。
「あ」
開けてみて思わず声が漏れた。
と言っても、中身がわかったからって訳ではなくて。
開けた瞬間に、きたんですよ。
何って、
『高橋家』の匂いです。
- 217 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:26
- そこからは本当に一瞬だった。
中身をきちんと見るまでもなく、一気に全てのことを思い出すことが出来た。
『瞬間移動したかと思た』
……夏に二人で花火大会見に行って、その時に貸したままだった私の
ジャージと、それを羽織った時の愛ちゃんの台詞。
あの時はさっぱり意味不明だったけど、なるほどそうとしか言いようのない
感覚になるんですね。こういう時って。
ここ絵里の部屋なのに。
紙袋から顔を上げたら、愛ちゃんの家のどこかの景色が拝めそう。
「どーしたぁ?」
「いやいや、そういえば貸したままにしてたなあって」
「ごめんねえ」
「だって脱ごうとしなかっ……」
そうそう、そうだったよね。
あれからうちに来てもずうっと着たまんまで。
結局そのまま寝ちゃったりとかして。
「……あっ、こら、思い出し笑いすんな」
「いやあ、だって、ねえ」
「……ったく」
そんなムッとされても全然平気ですもんね。
もうねえこの人ったらね、憎たらしいですよね。
今度は自分の匂いつけて返してくるなんて。
「勿論洗濯はしてきたんやけど、やっぱクリーニングのが
良かったかなあ」
ほらしかもこんなこと言ってる。
策士め。
- 218 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:26
- 「丁度良いや。久しぶりに着ちゃおうっと」
「へぇっ?!」
やられたらやり返すのが亀井流ってことで。
私は紙袋から紫のジャージを取り出し、
「タラララララーン♪」
マジックショーでよく聴くBGM(そういえばマジックレストランでこの曲
使われたことあったっけ?)を口ずさみながら袖を通した。
ただ一人の観客、愛ちゃんは微妙な顔をしている。
そうして上半身がすっかり他人の生活空間の匂いに支配されてみると、
何故だかどうしてかやたらとテンションが高くなってしまい、私は笑いが
止まらなくなってしまった。
「うわ超笑ってる、ヤバイキモイ」
「えへぇ、だってぇ、ヘヘヘッ」
『だって』、何なんでしょうねぇほんとに。
嬉しい、だけじゃないんですよぉ。
でもこの気持ち何ていうのかよくわかんないんですよぉ。
「抱っきっしめってェ〜ん♪」
ついにはジャージごと自分抱きしめたりなんかしたりして。
人の歌を取るなとかなんとか文句言われました。
知るかぁー!
- 219 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:27
- 「のぉ……絵里」
「はぁい?」
「寂しかったのはわかったから、いい加減本人目の前にしてそういう
ことは止めてください」
「何でですかあ、絵里の勝手です!」
「恥ずかしくてたまらんよ……」
「そっちこそ勝手にいきなり来るとか行って来たじゃないですか。
こんなに散らかった部屋通すの絵里だって恥ずかしくて嫌だったんです
からね!この気まぐれアンポンタン!」
「しょうがないやろぉ忙しかったんやから。ていうか連絡したやん!」
「ジャージだって返す気になれば仕事で会う時に返せたじゃんかあ!」
「ああっ、もう!」
…………
まったく。
パニクって言葉出なくなるとすぐ抱きついて来るんだから。
喧嘩してる犬や猫じゃあるまいし。掃除してないから埃舞っちゃう。
口を塞ぐ手段だって、キス以外にあるはずなのにさ。
- 220 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:27
- 「……そうやったら黙ると思ったら大間違いですからね」
「……の割にだいぶ大人しくなったな?」
「それはジャージのせいです」
「意味わからんし。もっかい黙れ」
「ん」
ひどいや。
匂いだけじゃなくて、いきなり一気に五感全部『高橋愛』で満たされて。
高橋満点です。違う満タンです。身動きが取れません。
黙れって命令している割には優しく頭撫でてくれたりして……どれだけこう
されるのを待っていたか。
「……ほんと寂しかったんですよ?」
「うん」
しがみついて離してくれんから痛いほどわかるわ、だって。
元はそっちの方から抱きついてきたくせに。
「もっと撫でてくれよぉ」
「それは中澤さんに言ったからもう駄目」
「……撫でる、って英語で何ていうんですか?」
「知らん」
英語勉強してるんじゃなかったんですか。
使えない人だなもう。
- 221 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:28
- けれど座ったままでずっと抱きつかれままでいるのは流石に辛くなってきて、
つい身じろぎする。
愛ちゃんも辛かったらしい。同じ方向に体重移動した二人は、仲良く真横に
倒れてしまった。
だからといって、どちらも拘束を解く気はなく、微妙に痺れていた足を軽く
蹴り合ってお互い悶絶して遊んでいた。
うぎゃーとかおわーとか変な声を出しては笑い合って、うん、愛ちゃんごめん、
倦怠期なんて言うだけ無駄でした。
言ったら怒られるから言わないけど、多分発情期はあっても倦怠期は来ない
気がする。
あるのはきっと『倦怠期ごっこ』。
- 222 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:28
-
- 223 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:28
- 「Please pat it.」
「え?」
ひとしきりじゃれ合って疲れたので仰向けに寝転がっていると、
隣で愛ちゃんが呟いた。
「撫でてください。Please pat it.」
「ぷりーず……?」
「pat it.」
「ぺっと?」
「ノーノー、pat!」
「ペァット?」
「違うっての。へたっぴやな〜」
「あーもーいいよっ」
その時、
ドアの向こうで、何を勘違いしたのかアルが吠えた。
「まだ居たんだ」
「アルも絵里へたっぴやゆうて吠えたに違いない」
「ペットに反応したんですよ!」
「ええー、違うと思うー」
「飼い主だからわかるもん」
「でもpetではないやろ」
……そうですね、それは撤回します。
きっとね、うちのアルはこう言ったんですよ。
お前ら犬か、ってね。
- 224 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:29
- >>210-223 高橋ジャージ
- 225 名前:ハルヒ 投稿日:2005/11/28(月) 22:30
- >>208 名無飼育様
ありがとうございます。でも作者は多分「教育係!×3」ってのを
知りません。観た記憶がない……
>>209 名無飼育様
ありがとうございます。これからもニヤッとしてくれたらこれ幸い。
- 226 名前: 投稿日:2005/11/28(月) 22:30
-
- 227 名前:ここでは名無しです… 投稿日:2005/11/29(火) 23:31
- こないだの続きー!やはりハルヒさんの亀高が一番好きです…
教育係×3は娘ドキュです。バリバリのリハのときの…そちらは放送されてない地域でしたか
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/05(月) 04:47
- 短編集だけど長い時間の中を呼吸してるような世界ですね
これまでのスレからずっと続いてる感じがして読んでて落ち着く
彼女らが幸せでありますように
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/10(土) 18:14
- 今日、初めて読ませて頂きました。
なんかドキドキとあったかい気持ちがいっぺんに訪れた不思議な気持ちです。
これぞ、高橋愛。
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:21
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 231 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:01
- ラブマ(とラブピ)の法則
- 232 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:01
- 久住さんは道重さんに尋ねました。
「小春も誰かとチューしなきゃ駄目ですか?」
「え?え?」
斜め45度からの質問に道重さんの頭の中は?マークでいっぱい。
久住さんは続けました。
「こないだのライブのDVD観たんです。小春もいつか
メンバーの誰かとチューしなきゃ駄目ですか?」
『ライブのDVD』
道重さんはそこでやっと気付きました。
そして精一杯首を横に振りました。
「ないないないそんなことないよ!小春ちゃんは
しなくてもいいんだよ!!」
「そうなんだあ」
安心しているのか残念がっているのか。
久住さんは常時ニコニコ(ところによりヘラヘラ)しているので、
彼女の心理は教育係の道重さんでもたまによくわからない時があります。
- 233 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:02
- 「あ、あれもね、事故っていうか……前に藤本さんとも、結構強く
口ぶつかっちゃったことあったりして、結構危ないからね?」
「危ないんだあ」
「うんそう危ないんだよお」
「危ないのに止めないんですね。どうしてですか?」
「……あー、えっとね」
はてさて、困ったことになりました。
久住さんが『観た』と言っているのは、9月の武道館ライブを
収録したDVDのことです。
『LOVEマシーン』の曲中に隣にいた高橋さんの唇にけしかけたキスが、
うっかり本当のキスになってしまったシーンが映っていたのです。
道重さんにはこれまでも前科(古くはおとめ組時代の辻さん、今年も
別のライブ中に藤本さんとうっかり本当のキスを以下略とか、田中さんにも
けしかけています。亀井さんとは別にライブ中じゃなくてもしょっちゅう
やっているようです)があるのですが、幸い現場が映像に残っていなかった
ので、彼女は今の今まですっかりそのことを忘れていました。
- 234 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:02
- しかし。
今、自分は『教育係』という重い責任を背負っている立場です。
久住さんはまだまだわからないことだらけですし、質問があったら
遠慮なく聞いてくれと言ってあります。
そして遠慮なく聞かれて言葉に詰まっているわけですが。
答えは簡単です。道重さんはキス魔だったのです。
かといってそれをそのまま答えてしまうわけにもいきません。
せっかく馴染んできた久住さんと距離が開くどころか、下手したら
関係に亀裂が入ってしまうかもしれません。
けれど、趣味と実益を兼ねたメンバーへの過剰なスキンシップを、
DVDにばっちり収められてしまったのですから。
一体どう誤魔化したらいいのやら。
- 235 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:03
- 絶体絶命の道重さんの頭の中で、
突然軽快な電子音が、
ピコーン♪
「……それはねっ、曲のタイトルにLOVEって入ってるから、
ラブラブなんだよってみんなに見せるためにやってるの!」
…………
嘘はついていません。今回の、DVDに関して言えば。
高橋さんの時は「LOVEマシーン」、
田中さんの時は「ラヴ&ピィ〜ス!HEROがやって来たっ。」
という曲でした。
でも、こんなのはっきり言って子供の屁理屈です。
実は『Go Girl』でも高橋さんにキスを迫った記憶が
ありますし。
- 236 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:03
- でもでも、久住さんははっきり言ってまだ子供なのです。
道重さんよりは。
なので、彼女が咄嗟に閃いた屁理屈に
「なるほどぉ!」
と大きく頷いた久住さんは、どうやら心の底からこの
屁理屈に納得したようで、何度もなるほどと言いながら
頷いていました。
すっかりだまされた久住さんが、『教育係』の道重さんに
倣って自ら誰かにキスを迫るのも、時間の問題かもしれません。
- 237 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:04
-
- 238 名前: 投稿日:2005/12/14(水) 00:05
- >>231-236 ラブマ(とラブピ)の法則
- 239 名前:ハルヒ 投稿日:2005/12/14(水) 00:08
- >>227 ここでは名無しです…様
ありがとうございます。以前もレスをしていただいた方のようで……
DOKYUなんですか。そこだけ観ていないようなので探そうと思います。
>>228 名無飼育様
ありがとうございます。初代スレから読んでいただいているのでしょうか。
何だか自分には勿体ない褒め言葉の気がしてなりませんが、素直に嬉しいです。
>>229 名無飼育様
ありがとうございます。とても嬉しいです。また暖まってもらえるような
話が書けたらなあと思います。これから、寒くなりますし。
バリバリ教室DVDばんざーい。
- 240 名前:初心者 投稿日:2005/12/14(水) 19:01
- 読ませていただきました
とても楽しいです
最新のバリバリ教室の話しまであって早いですね
噂には聞いていましたが読んでいると、まだ自分買って無いので
ちょっと買ってみようかなと思ってしまいました
次回作も待ってます
- 241 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:41
- エレジーズ牧場
- 242 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:42
- ある所に、羊を飼育しているのどかな牧場があった。
その日はとてもいい天気で、見渡す限り青空が頭上に広がっている。
天変地異などとても起こりそうもないそんな日に、事件は起きた。
「どわぁっ!!」
三人姉妹の末っ子、愛の叫び声が一帯に木霊す。
ドサッ、と何か大きなものが地面に落ちたような音も聞こえた。
長女のあゆみ、次女のまいはそれぞれ羊達の毛刈りに精を出しており、
三女の愛も、二人の姉が作業している場所からそう遠くない所で一頭の
羊の毛刈りをしているはずだった。
「何だ、でっかい声出して!」
薄汚れたオーバーオールに大きめサイズのTシャツを着て、足元には赤い
長靴を履いたまいが、地面の小石を蹴っ飛ばしながら、こちらに背中を向けて
地面に座り込んでいた愛の傍へ近寄った。
「あっ、来たらあかん!」
「あ?」
派手な足音に気付いた愛は、慌てて体をこちらに向けて両手を広げ、
必死に背後にある何かを隠している。
そんなことをされたら、尚更隠された『何か』が気になるに決まっているのに。
- 243 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:44
- 「何隠してんの」
まいが覗き込もうとする前に、いつの間にか隣に来ていたあゆみが首を前に
突き出した。
愛はあゆみの動きに合わせて体を動かしたが、そうすると当然まいの方は
ノーガードである。
「こっちガラ空きだぞっ」
「あーっ!」
防御を華麗にクリアして覗き込もうとした時、『何か』はくしゃみをした。
それに振り返った愛が、慌てて地面に放置していた刈ったばかりの羊毛を
『何か』に被せてやる。するとそれは雪だるまのように羊毛にすっぽり包まって、
愛に向かって「どうも」と言った。
「……あら〜、これは面白い」
「人間だ。女の子」
姉二人は思わず説明的な台詞を吐いてしまった。
末っ子は地面に跪いて、不安そうに黒髪の少女の様子を伺っていた。
- 244 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:47
- 「よーよー愛ちゃんよ、産んだ?」
「なわけあるかあっ!」
その少女は羊毛以外に身に纏っている衣服はなく、足元も素足のままだった。
放って置くとひょっとしたら自分達は誘拐犯になってしまうかも、という
あゆみの物騒な一言によって、とりあえず自宅に連れ帰ることにした。
素足のまま歩かせるのも何なので、と、三人の中では一番体格のいい次女が
自ら名乗りを上げた。
少女の体格は愛とほぼ同じ位だったが、力自慢のまいが抱き上げてみると、
想像していたよりずっと軽い。勢いがつきすぎて一瞬少女の体は宙に浮き、
突然のことに驚いたのか白くて細すぎる腕をまいの首にまわしてしがみつこうと
したせいで、二人揃ってバランスを崩して真後ろに倒れそうになる。
「ふぬっ!」
まいは額に青筋を浮かべながら、必死に両足を踏ん張ってそれを堪えた。
……危機を脱してほっとしたものの、あゆみと愛の二人はとっとと自分達を
追い抜かして先に行ってしまっていた。
一人くらい心配してくれても、と思わず文句が口から出そうになった時、
「あの、大丈夫すか」
「あ?ああ、おうよ、どうってことないって!」
気持ちを悟られたのか、少女が遠慮がちに自分を気遣ってくれて、まいは
そのたった一言であっさり機嫌をなおした。
どこの誰だか知らないし、ほとんど素っ裸だが、礼儀は心得ているようだ。
- 245 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:47
- 玄関に辿り着くまでの間にあゆみが愛から聞きだした話によると、
『一頭の羊の毛を刈り終わって何となく上を見たら、真上からあの子が落ちてきた』
らしい。
あゆみは思わず氷のような声で
「真面目に答えろ」
と言ってしまった。
「あれか、ドロンか。ドロンしちゃったのか」
追いついてきたまいがそんなことを言い、まい姉ちゃんオヤジ臭い、と愛が
突っ込みを入れている。
そんな妹達のやりとりを無視して、あゆみは大きな溜息をつく。
今日はもう仕事を続行できそうにないな、と思った。
- 246 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:48
-
- 247 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:49
- リビングの中央には年季の入った三人掛けのソファが一つと、
少し離れたところに食卓、椅子が三脚。
三人姉妹はとりあえずリビングでの定位置である食卓の椅子にそれぞれ腰掛け、
少女はソファに一人で座った。
衣服は愛のものを借りた。サイズはちょうど良かった。
「ご迷惑おかけしてすんません」
あゆみから差し出されたホットミルクを飲み終えた少女が、ぴったりと足を
揃えてカップを持ったままふかぶかと頭を下げる。
しかしいざ落ち着いてみると、何から聞き出していいものかわからない。
さて、自己紹介の時はまず何を言うのだったか。
父親が他界してから長らく三人だけで暮らしてきたこの牧場の主達は、
必死に記憶を探った。
一番に思い出すことが出来たのは、愛だった。
「あ、あたしは愛って言うんやけど、お名前は?」
「れいなです」
- 248 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:52
- 即答されて三人は、へえ、とかほお、とか気の抜けた声を漏らして相槌を
打ったが、またしても後に続ける話題に困ってしまい、押し黙る。
その戸惑いを悟ったのか、れいなの方から率先して話し始めた。
「あの、多分信じられんと思いますけど聞いてもらえますか?」
「あいっ」
「どーぞっ」
「なるべく信じられる話にしてほしいんですが」
長女あゆみだけは毒を含んだ余計な一言を言い、二人の妹は肝を冷やす。
しかし、れいなはそれに動じることなく、
「ぶっちゃけれいなも本気で信じられんもん」
そう言って、初めて歯を見せて笑ったのだった。
- 249 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:53
- 「れいなは何年か前にここで飼われとった羊です」
「牧場から脱走して、でっかい川に落っこちて流されたと」
「途中で溺れて死んだっちゃけど、天国で早死に判定出されたたい」
「やけどもとの体で、もう一度羊として生きるのは無理やった」
「神様がこのまま召されてもいいならそうするけど、未練があるなら羊以外で
甦らせてやれるって教えてくれて」
「ってな訳で人間になったとです」
そう一気に話し終えたれいなは、着ていたシャツの胸元から紐のようなものを
引き出した。
三人はそれまで気付かなかったが、ずっと首に下がっていたらしいその紫色の
紐に、古ぼけた木製の小さな札が通してある。
その札には「017」と、手書きの番号が記されていた。
- 250 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:56
- 札を目にした三人は、思わず顔を見合わせた。
彼女の言う通り、「017」の札をつけた羊は、数年前に脱走したまま戻って
来ていない。
あゆみが恐る恐るその札を確認すると、間違いなくその数字は今は亡き父親の
筆跡で書かれていることがわかった。
まいが眉間に皺を寄せながらいくつかこの牧場に関する質問を投げかけると、
自分が牧場の掃除の手を抜いていたり餌をやり忘れたりしていたことまでも
暴かれてしまい、あゆみに睨まれてしゅんとしてしまった。
愛は何も言わなかった。言えなかった、と表現した方が正しい。
れいなから事情を説明された辺りからどんどん顔色が悪くなり、唇は乾ききって
カサカサになっていた。
「……やっぱなかなか信じられんですよね」
番号札を弄びながられいなが自嘲気味に呟く。当人がこれだと、残りの三人は
そうだそうだ全くその通りと責めることも憚られた。
重苦しい沈黙が続き、柱時計のカチコチという音だけが室内に響く。
息をするのも辛くなってきたところで、ぐぅ、と奇妙な音が鳴った。
長女と三女が揃って音のする方を見やる。
二人の目線の先に居た次女まいは、豪快に笑いながら「腹減った」と胃の辺りを
二、三度叩いた。
れいなはぽかんとしていた。
- 251 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:57
- 改めて柱時計を確かめると、時刻はすでに夕刻。
それを知ったあゆみは心なしか安堵したような表情で、
「とりあえず夕食作ろうか」
と言い、椅子から立ち上がりキッチンへ向かった。まいがその後に続く。
愛は体調が悪いので部屋で少し休む、と言い残してリビングを出て行った。
一人残されたれいなはしばし考え事をしてから、ここを出て行った愛の後を追った。
リビングと廊下を繋ぐドアを開ける。
れいなは先程愛の衣服を借りる際に彼女の部屋に通されたので、迷うことなく
目的の部屋に辿り着くことが出来た。
「あ、えー……と」
ドアの前で一瞬、躊躇してしまう。
一応、名前は知っているが直接呼んだ事がないから、声をかけるのに何と
呼ぶのが正しいのかわからない。
神様は、自分が羊の時に死んでしまった年齢と同じ位だとされる年齢の人体
(人間にして十五歳程度)と、ある程度の知識を与えてくれていたが、
他人に対する呼び方の区別の仕方は、その知識の中に入っていないようだった。
ただ、呼び捨ては無礼だ、ということだけは知っていた。
- 252 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 22:58
- ふと、外にいた時にまいが「愛ちゃん」と呼んでいたのを思い出して、
思い切ってそれで呼んでみた。
すると、ドアの向こうでゴン、と何かがぶつかるような音が聞こえた。
間違いなくこの中に彼女が居る。
「……お邪魔してもいいっすか」
「っど、どうぞ……」
ゆっくりとドアを開ける。
愛は中腰になりながら頭を擦っていた。
「や、ベッドの端に頭ぶっけて、ハハ」
聞いてもいないのに、引きつった笑いを見せながら二段ベッドの上の段を
示している。
れいなは無言で中に入り、回れ右して丁寧にドアを閉めた。
振り返ると、愛はどこからか拾い上げたクッションを両手に抱きかかえて
こちらを見ている。今にも泣き出しそうな表情で。
- 253 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:00
- 「そんなビビらんで下さい。れいなは何も」
「ま、待って」
「……あん時のこと恨んだりしとらんけん。安心してください」
直後、彼女は硬直してしまった。
れいなはそれを見てみぬ振りで、ゆっくりと立ち尽くしている愛に近付く。
何のためか、自然口元には笑みが浮かんだ。
怯えきったその表情には見覚えがあって、れいなにとってはその記憶が昨日の
ことのように思い出せるのだが、生まれ変わってみると大分時間が経過していた。
『この前』見た愛は、もっと幼くて声も高かった。
「成長したんですね。最初見た時びっくりしたっちゃけど、
よく見たら顔はあんま変わっとらん」
「…………」
「折角追っかけて来てくれたのに、逃げまくって結局死んじゃって、
……ごめんなさい」
すると、
愛の両腕から力が抜け、クッションがぽとりと落ちる。
れいなは、愛がこの後何か言うだろうか、と黙して待った。
怒鳴られてもそれは仕方の無いことだ。どんな罵詈雑言でも、大人しく
聞こうと思っていた。
- 254 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:01
- ある日、といってもれいなにとっては昨日のことのようだが、現実には
今から数年前。
放牧されていた羊達のうちの一頭が、壊れかけの柵を潜り抜けて脱走した。
脱走に気付いた牧場の少女が一人、その小柄な羊の後を追いかけた。
森の中に飛び込み、木の枝に体当たりしながらも脱走を続ける羊の後を、
少女は必死に追いかけた。
牧場で飼い慣らされた羊であるが故に、森の向こうに急流の川が存在する
ことなどわかるはずもない。
川にぶつかり追い詰められた羊は、にじり寄る少女の手から逃れる一心で、
水の中に飛び込んだ。
が、少女は何と羊を救うために自らも川に飛び込んだ。
一度は羊の足を掴むこともできた。
しかし、底に足のつかない状態では、急な流れに逆らうことは敵わず、
それぞれはまた引き剥がされ、羊はどんどん下流へと。
少女の方は、幸運にも岩場にしがみつくことが出来、命拾いしたのである。
- 255 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:05
- 「……あ、謝んな。あたしだって助けられんかったのずっと後悔しとる」
「ずっと……?」
「……ずっとや」
「ああ、ほんとごめんなさい。何回言っても足りん」
「だから謝んな」
「れいな謝るために人間になったとよ」
「はっ?」
「未練ってのはそれのことです。愛ちゃんは助かったって神様に聞いて、
どうしても謝りたくて」
「えええ、そんな、そんなことで」
「れいなは飼われとった方なのに、れいなのせいで飼い主に死なれたらって」
「生きとる! 生きとるってほら!」
「……だから、安心しました……」
そう言うと、れいなは胸のつかえが取れたのか、脱力して愛に寄りかかった。
思わずその体を受け止める。
人間の体なのに羊毛の濃い匂いがした。
もとは羊だからか。ただ単に会ったばかりの時、羊毛が身を包んでいた時の名残か。
「許してくれとは言わんです。
ただ……れいな後何年生きれるかわからんっちゃけど、
死ぬまであん時のことを償いたか。言ってくれたら、何でもします」
「…………でもさ、折角人間になったんだしもっと別の」
「決めたけんもう変わらんもん」
「そ、そっか……ってそんな強引なっ! 死ぬまでって、大袈裟すぎや……」
「何とでも言ってください」
「……はあ、お前は相当頑固やね。……羊の時はわからんかったよ」
- 256 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:06
-
- 257 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:07
- 夕食の準備が整い、れいなに手を引かれた愛がリビングに入ってくると、
あゆみとまいは目を丸くして二人を見た。
心なしかれいなの態度は堂々としていて、対照的に後ろの妹は萎縮して見えた。
「あ、椅子、死んじゃった父さんが使ってたボロいのだけど出しといたから」
「ありがとうございます」
まいが食卓の傍にあった木製のくすんだ色をした椅子を示すと、会釈した
れいなはそれを引き摺って、当たり前のように愛の席の隣に置いた。
うわあ、と小さく叫んだ愛に構わずれいなは着席する。
二人の姉は絶句していた。
- 258 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:08
- 「……えーと、うちらなりに色々考えたんだけど」
奇妙な雰囲気で開始された今宵の夕食に取り掛かって数分経過した頃、
あゆみが口火を切った。
愛がビクリと反応する。まいは気にせず食べている。れいなはスープを
飲んでいた手を止めた。
「あんたが前にうちで飼ってた『017』の羊なら、あんたのせいでこの子が
死にそうになったんだよね」
あゆみは目線で愛を示す。
「わかってます。れいなはそれを謝るために人間になったと」
「……そうなの?謝られた?」
「うん、さっき……」
そうか、あゆみは一人頷く。
「うちらにも謝るべきじゃないの」
まいが横槍を入れるとすかさずれいなが謝罪した。あまりにも早かったので、
咀嚼していたものを喉に詰まらせそうになり、慌てて水を飲む。
- 259 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:10
- 「それで? 謝ったから、これで終わりじゃないの。あんたの目的」
「あ、あのねあゆみ姉」
「愛ちゃんは許してくれんそうなので、許してくれるまで一生償います」
「ちょっ」
言葉を遮られた愛が慌ててれいなの肩をどついた。
まいは外野気分で、すげー超かっこいー! などと笑っている。
「一生ね。どうすんの?」
「やあ、あの、仕事を手伝ってくれるなら、あたしは別にいいかなーなんて……
っで、でも姉ちゃん達が嫌って言うかもしれんやろ?」
「どうですか、まい先生」
「本人が償いたいって言ってるなら、愛ちゃんの言う通りでいいんじゃないっすか。
とりあえずどっからどう見ても今はヒトの形してんだしさ。
昔がどうとか、無駄じゃんそんなの。
まあ何かヤバイことあったらアタシがボコボコにするし」
ところで先生って何かいい響きだね、まいがまた愉快そうに笑っているが、
あゆみはそれを無視して、今度は愛とれいなの二人を交互に見た。
「そういうわけで、前がどうだったかっていうのはうちらは結構どうでもいい。
正直言って三人だけで牧場やってくのは厳しいんで、いるなら手伝ってもらうから」
「いいんですかっ」
れいなはパッと表情を輝かせた。即座に愛の方を見る。
愛はあまりにも嬉しそうなれいなを見て、複雑ではあったが、悪い気は
しなかった。
心の底から喜んでいるのがわかったからだ。
- 260 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:11
- 「ところでさ、れいなは面白い喋り方するね。それどこの方言?」
「方言って何すか」
まいの質問にれいなは首を傾げる。
あゆみが言葉はどこで覚えたのか、と助け舟を出すと、
「さあ……神様が全部用意してくれたけん、知らん」
「それなら服も用意してくれたらええのに……」
隣で愛がぼそりと呟く。まいはそれに過剰に反応する。
「そうだ全部見ちゃったんじゃん!産まれたままのす痛っ!」
そんな悪ノリした妹の頭を平手で叩き、食事中にそんな話をするな、
と長女が目を吊り上げて怒った。
「直前に羊の毛をたくさん刈っといて良かったわ……」
「あんたまで続けなくていいから」
- 261 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:12
- 「……そういや今日は仕事が全然進まなかったな。
中途半端に刈った奴とかそのまま……」
次女の放ったその一言で、食卓が溜息に包まれてしまう。
ただ一人元凶であるれいなだけは、「明日から頑張ります!」と息巻いている。
それだけならいいのだが、その後「愛ちゃんのために」などと付け加えられて
しまったために、折角逸れたと思った問題がまたしても愛を悩ませた。
羊を飼うのは仕事だからそれなりにこなすことが出来るが、昔羊だった人間が
自分の言いなりになるなんて全く予想外のことで、これからどうしたらいいものか。
しかもれいなは相当やんちゃな元羊だったようだし、人間になってみたら
押しも強いようだし、いくら相手が償うために一生自分に添うと言っていても、
いつ立場が逆転するかわかったものではない。
愛はバターロールを千切りながらそんなことを考え、
とりあえず自分が飼われる立場になることだけは絶対に避けなければならない、
と、固く心に誓うのだった。
- 262 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:13
- >>241-261 エレジーズ牧場
- 263 名前: 投稿日:2006/02/19(日) 23:15
-
- 264 名前:ハルヒ 投稿日:2006/02/19(日) 23:16
- ……今更ハロモニのあのネタですが。
>>240 初心者様
ありがとうございます。って、ああ、もうかなり前の話……
DVDは購入されたのでしょうか。現メンヲタ的には全体的に満足度の高い
内容ですので、まだでしたら買う価値は充分にあると思います。
- 265 名前:ハルヒ 投稿日:2006/02/20(月) 00:46
- 念のため。田中さんの前世は羊じゃなくて「羊飼いの犬」です……
- 266 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/23(木) 00:51
- この四人組が好きなこともあり嬉しくて嬉しくて
考えすぎとか元気とかガサツとかみんなキャラがよく出てるけど特にドSな長女がはまってますね
シリーズ化されたらいいなと思いましたよ
- 267 名前:たま 投稿日:2006/02/23(木) 19:01
- ヤバイ…かなり笑いました☆
特にまいがかなり面白いです♪
エレジーズ大好きなたまにはかなり最高な作品でした☆
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/27(月) 06:21
- 笑いあり、切なさありで凄く良かったです。
- 269 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:29
- 言えなかった理由と言えない理由
- 270 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:29
- 「あ、いや、分かるよ、うん。ちゃんと分かってるから……」
「嘘だぁ……」
「嘘じゃないって。
やぐっつぁんがおんなしこと言ってたの聞いたことある。
いつも悩みなさそうで羨ましいって言ってた。憧れてるって」
努めて冷静にそう言ったけど、絵里の唇は通常の五割り増しくらい
突き出たまんまだ。
と思ったら、急にその唇を歪めて、とうとう泣き出してしまった。
一緒に座ってたソファが水分を含む。
晴れて一人暮らしとなった我が家に招いたせいか、あたしはそれ
までやたらとテンションが高かった。お気に入りの黄色い掃除機を
テレビショッピングばりに紹介して冷ややかな視線をもらっても
全然ノーダメージ。あいたたた。
置いといて、そんな浮かれモードで絵里から、今更だけど、
と前置きされた上で髪を切った理由を聞いたもんだから、ちょっと、
その、ツボを突かれてしまって。
ギャルに憧れて切った、というのが。
絵里からすれば、ネガティブな自分とは正反対の存在に見えた、
らしい。
毎日好きなことをして暮らしていて、明るく楽しくストレスが
無さそうで、何かあってものらりくらりとかわせそうなイメージ。
ああいうのになりたい、と思ったんだそうだ。
実際ギャル全員そんなわけないだろうけど、そういうイメージを
持つのは分かる。納得してもうたし。
- 271 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:31
- 「ほら、泣かない」
「…………」
頭撫でてあやそうとしたらその手をパシッとやられてしまって、
かなり傷つけてしまったんだってことに気付いたけど、あたしは
あたしで勢いよく払いのけられた手のことでハートにグサリときた。
今もうどっちも被害者気分。
「……撫でさしてくれるくらいええやん」
「…………」
「なあ、えりー」
「…………」
「撫でられたくなかった?」
「……なわけないじゃん」
ボソッと本音言ってくれたのは嬉しいけどさ、これはもうあれやね。
お願いしないとあかんね。
あたしこういう時って、相手の思い通りに自分が動かされるのが
本当は嫌なんやけど、絵里の髪の色が柴犬みたいで可愛くて、
髪の毛が可愛いなんてちょっとおかしいかもしれんけど、ほんと
可愛いんやって。あー腹立つ。触りたい。触りたい。
「じゃあ撫でたいから撫でさしてよ、な?」
「何それぇ偉そうにー」
「ええ、うう……」
「しょうがないなあ」
なんやとっ
あーこいつ! あたし困ってんの見て機嫌直しやがった。
ニヤニヤして、性格悪ぅ!
「撫でないんですか?」
「…………」
「あ、ちょっと強い強いってばぁ。ハゲちゃう」
「…………」
「……で、ご感想は」
「ハゲてまえ」
- 272 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:32
- あたしは絵里に上半身タックルをかました。
一応、ソファから落ちて床に頭打っても大丈夫なように、後頭部に
片手は添えたまま。
どたん、いったーい。
嘘付け、ちゃんともう片っぽは腕ごと背中に回しといたし、第一、
先に落ちたのは突っ込んでいったあたしの方や。
落ちたらさっと身を翻して、馬乗りになってやったけどな。
「亀井絵里、かくごぉ!」
「っあは、はははは!」
「笑うなっ」
「ちょっ、喋んないで! 髪が首に、うひゃっは」
どういうことかって言うと、あたしの髪の毛先が真下に居る絵里の
首をくすぐっているらしい。
「短くしたからそんなんなるの!」
「それは違、やちょっとほんとマジやめ、っふくく」
かなり辛いらしく、顔を両手で覆いつつ必死になって笑いを
堪えている。
顔が見えないから、こっちも言いたいことが言いやすくなった。
「……あたしはなあ、初めて短くなったあんたの髪撫でた時、
ちょっと悲しかったんやぞぉ」
「ええ、なんでですかあ」
「なんか軽くて手に馴染まんかった」
「だよねえ、絵里自分でも髪洗う時そう思ったもん」
「しばらくしたら性格まで髪の色に似てきて」
「似る……?」
「……明るくて軽い子に」
- 273 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:33
- なあ、
何でそんなにあっさり自分を変えられんの?
羨ましくてしょうがない。
二年前隙間から離れられなかったあの子やよね?
「そうですよぉ」
「……今はもう平気なんやろ」
「隙間はぁ、そうだけど……」
今は、愛ちゃんから離れられない絵里です。
- 274 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:34
- それは欲しかった台詞のはずなのに。
何故だか悲しくあたしの心に届いた。
「気を遣ったんじゃないからね」
その台詞も。
頬を包んでくれた両手も。
「……でも一言も相談しないで切っちゃってごめんなさい」
「遅い……」
「そうだね……」
……色々悪いことばかり考えた。
突然長い髪を短くするって、切り離してしまうって、あたしには
すごく悪い意味でしか捉えられなかった。
尋ねたらそれが本当のことになりそうで、怖くて聞くこともできず。
だから、絵里本人が髪を切った理由を話してくれた時、笑って
しまったのは、心底ホッとしたからだっていうのが本当の理由。
- 275 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:35
- 「急に思い出しても、明るく笑い飛ばせるように
なりたかったから」
それを言ったら全力で止めるだろうってことも考えて、黙って
いたんだって。
あたしのためでもあったんだ。
「でもまだまだだなあ。さっきちょっと言われただけで
泣いちゃったし。これじゃ愛ちゃん不安になるよね」
……ここまでされて、あたしが絵里にしてあげられることって
何なん?
「絵里はこれでおあいこだと思ってるよ」
「……どういうこと」
最初に助けてくれたのは愛ちゃんなんだよ、と絵里は笑ってくれた。
これ以上文句言ったら最終手段に出る、とまで。
そんなことこっちがさせないと言いたくなったけど、それを言って、
この話を続けたら、きっとあたしは絵里のしたことを否定して
しまう。あたしなんかのために、って。
そうしたら、喧嘩になってしまうかもしれない。
嫌だ。
- 276 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:36
- ……あたしは二年前より少しずるくなったかもしれん。
それともこれも、大人になったっていうんかな。
のう、絵里はどう思う?
絵里は、どう思う……?
衝突を恐れて言いたいことが言えなくなったあたしのことも、
この子は好きと言ってくれるだろうか。
……今のあたしは、そんな疑問すら口に出すことができない。
答えは当然、出ることは無かった。
- 277 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:37
- >>269-276 言えなかった理由と言えない理由
- 278 名前: 投稿日:2006/05/24(水) 23:38
- 続きません。
- 279 名前:ハルヒ 投稿日:2006/05/24(水) 23:38
- >>266 名無飼育様
シリーズ化するには、私があさみさんよろしく牧場に就職
しなければいけません……牧羊犬の存在をすっかり忘れて
書いてしまいましたから。
>>267 たま様
里田さんはオヤジキャラなので潜在的オヤジキャラの私には
書きやすかったです……癒された……(笑)
エレジーズは一度きりユニットにするには惜しいですよね。
>>268 名無飼育様
切なさはともかく笑いには自信がなかったんで嬉しいです。
ありがとうございます。
- 280 名前:ハルヒ 投稿日:2006/05/28(日) 11:23
- ※以下は以前某所の企画に投稿した話ですが、閉鎖してしまったので、
加筆訂正してこちらに載せました。了承済みです。
- 281 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:23
- WHITE CARPET
- 282 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:24
- 遅刻常習犯、亀井絵里が呆然と教室のドアの前に佇んでいる。
いつものように朝寝坊をして、
いつものように朝食を抜いて、
いつものように母親に学校まで車で送り届けてもらい、
いつものように駆け足で職員玄関から学校に入った。
八時四十五分を過ぎると、生徒用玄関に鍵がかけられてしまうからだ。
「あんたねえもうとっくに夏終わってるんだよ。真冬なんだよ今。
いい加減、寝坊する癖治しなさいよ」
「うるさいなあ」
送迎中、猛吹雪で視界はほぼゼロ。最初は絵里に小言を言い続けていた
母親も、次第に運転に集中し始め、車内を体験したことも無い緊迫感が
支配していた。今思えばそれほどの異常気象だったのだ。
大急ぎで職員玄関から校内に入り、少し離れにある生徒用玄関で
上履きに履き替えて、踵を返す。
担任が教室に入り朝の連絡を始める時間帯の廊下は、授業中よりも
静かだ。さっきもそんな雰囲気の廊下を、なるべく足音を立てずに
早歩きで通ってきた。
ただいつもと少し違っていたのは、廊下がやけに寒かったこと。
しかし、そんな違和感も一瞬浮かんですぐ消えた。
絵里は僅かな希望に縋って必死に教室を目指し、
ドアを開けたらもぬけの殻だった。
- 283 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:24
- 「……今日って何か行事あったっけ?」
思わず自分に問うようにそう呟いた時、体調の悪い時には吐き気を
催すほどだった、教室内の暖房による熱気が襲ってこないことに気付いた。
おかしい、これはおかしいぞ。
今日は平日のはずで祝日は明日のはず。しかも数学で当てられる日
だったから、昨夜は遅くまで予習したんだ。
……まさか、
昨夜眠りに就いて実は一日中寝てました。今日は祝日です。
とか、年末十大ニュースにランクインしそうなヘマをかまして
しまったんだろうか。
「いっやぁ、いくらなんでもそれは無いだろー」
答えが出なくて勝手な憶測ばかり頭に浮かんだ絵里は、
いやまさかそんな、ねえ、マジありえないっす、などとヘラヘラ
しながらゆっくりと教室内に足を踏み入れた。実は壁際に
クラスメイトたちが張り付いているんじゃ、というドッキリオチを
期待しながら。
……壁は壁でしか無かった。
期待はあっさり裏切られ、いよいよ絵里はたった一人であることを自覚する。
露骨にオロオロと首を左右に振って見ても、生命反応は得られない。
- 284 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:25
- 「なーんでぇ〜?」
やたらオーバーに目の前の机に突っ伏してみても、そんな自分の様子を
笑う声も聞こえない。
「…………ムカつく」
ずっと突っ伏していても虚しいので顔を上げてみると、向こう側に
真っ白な世界を持った窓が目に入った。車の中ので見た時と同じように、
奥の景色は完全に雪のカーテンで遮られている。
生まれて初めてこんな大量の雪を見たなぁ、思わずその見慣れない
光景を傍観してしまった。
降っている雪というのは白くなくて、どちらかと言えば灰色に近かった。
ふと、肩にかけていたサブバッグからの震動が絵里に伝わった。
外側の小さいポケットから携帯電話を取り出す。母親からだ。
いつもなら律儀に、校内だから、とその着信を無視するところだが
(絵里は、一部の親しい友人達以外には優等生キャラで通している。
大して口も利かない相手には馬鹿にされたく無いが、本当に親しい
相手には甘えたいという厄介な性格の持ち主だった)、矢継ぎ早に
起こった異常事態のせいか、はたまた教室内にたった一人で居たことに
そろそろ心細さを感じていたせいか、いずれにしても彼女は、少しの
迷いも無く通話ボタンを押した。
「……は? 大雪で臨時休校!?」
- 285 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:25
- なるほど確かに生まれて初めて体験する降りっぷりだし、ここは
北国ではないから除雪の設備は整っていない。
もし家の車が親の趣味で購入決定されたオフロード車ではなく、
一般家庭に見合う軽自動車や乗用車であれば、事の重大さにあっさりと
気付くことができたかもしれなかった。
よくよく母親の話を聞いてみると、連絡網が回ってくるのが遅かったのは、
運悪く送り迎えをしてもらっていて留守の間に、自宅の固定電話に
電話がかかってきていたかららしい。
こういう時こそ、校則違反を承知で持ち歩いている携帯電話の出番なのだが……
自宅に電話をかけてきたのは、クラスメイトの母親だったという。
せっかくの文明の利器が台無しだ。
絵里は真相を知り、今度こそガックリと教室の床に尻餅を付いたその瞬間、
一センチほど飛び上がった。暖房も点いておらずクラスメイトも居ない
教室内で、最も冷たい仕打ちを受けたのだ。コンクリートの床に。
今日は厄日だ、と本気で泣きそうになった。
- 286 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:26
- 座り慣れた自分の席の椅子は、コンクリートの床よりは温かい。
すっかり脱力してしまった彼女は、さっきから溜め息ばかり吐いて
机の木目をぼんやりと見詰めていた。
そのうち溜め息が白くなりそうな気がしてきて、努めて息を殺す。
…十一、十二、じゅうさ、苦しい、やめた。
「ふひゅーっ」
絵里は再び窓の方を見る。相変わらずノンストップで雪の降る様が
窓枠の中で上映されている。
枠の上部を見て、試しに雪と同じスピードで視線を降ろしてみた。
雪は、例えるなら砂時計の砂と同じくらいの速度で落ちていることが判明した。
視線はやがて窓枠の途中で捉えた(恐らくは転落防止のためと思われるが、
雑巾を干すくらいでしか活用されていない)手摺にぶつかった。
今度はその手摺に沿って視線を奥へ、黒板の方へと移動させる。
「……あー!」
見つけた。ヒーターの装置。
- 287 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:26
- 絵里は嬉々として、窓の下の装置まで小走りに向かう。
床の色と同じだが、使い込まれてくすんだクリーム色のヒーターの
前に辿り着いて、ためつすがめつする。
大抵はこの埃を被った上部に、電源スイッチがあるはずだ。
しかしそこには満遍なく埃が積もっているだけで、スイッチらしきものは
見当たらない。側面にも目を凝らしてみたが、やはり無い。
「なんでだよっ!」
教室のヒーターはボイラー室で一斉に管理されているのだが、
そんなことなど露ほども知らない絵里は、有り得ない事態がまた一つ
起こったことに憤慨し、勢いヒーターに蹴りを入れた。
ガィン、と上履きのラバーとヒーターの金属部分が衝突したその音は、
鈍く低いもので、絵里を更に苛立たせるだけだった。
- 288 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:27
-
「そんなんしたら壊れてまうよ」
ビクリ、背後から声がかかり絵里の肩が上がる。
臨時休校で恐らく自分以外に(間抜けな)生徒は居ないはずなのに、
その声は明らかに高校生の、……いや、他でもないこの独特の
イントネーションは、間違いなく彼女のものだ。
「……きょ、今日は臨時休校ですよ?」
「知っとるわい」
どうしても必要になって、参考書を取りに来た。
振り向いて視界に入った相手は続けてそう言った。
信じられなかった。ヒーターを蹴っているところを見られたことよりも、
彼女がこの場に居ることの方に驚いた。
- 289 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:28
- 廊下側から、身を乗り出すようにして教室の中を覗き込んでいた
その生徒は、とうとう一歩踏み出して絵里のクラスの中に入ってきた。
絵里にはそれが何だかとても特別な行為に思えた。自分の教室と言えば、
この学校という大きな『一時的収容施設』の中にあって、唯一
『この場所に存在していい』というアイデンティティを与えられる場所。
そこに全く意に介さぬ素振りで入室してきたのは、一学年上の先輩であり、
先の文化祭で実行委員として共に仕事をこなした、高橋愛だった。
「そっちこそ何でここに居るん?」
愛は、彼女の言う通り右手に参考書らしきものを抱えながら、
こちらに近付いてくる。
徐々にその姿かたちが明確になるにつれて、絵里の心臓が露骨に音を
大きくする。
耳の後ろにもう一つの心臓ができたような、身に憶えのある錯覚が起きた。
「ふ、普段の行いが悪かったらしくて、知らずに来ちゃいました」
辛うじて作った照れ笑いも、何となく泣き笑い。
何しろ、こうして会って話をしたのは数ヶ月ぶりなのだ。
しかもこんな誰も居ない校舎で、会うことがあろうとは。
文化祭を終えて、会う機会が全くと言っていいほど無くなって
しまったから、このまま別々に卒業と進級を迎え、全てが思い出に
なるだろうと思っていたのに。
- 290 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:28
- 「……また遅刻したんか」
半径五メートル以内までやって来た愛は、呆れたようにそんなことを言う。
よくよく見ると、鼻の頭や頬がほんのりと赤い。
大雪の中、どうやら無理矢理徒歩でここまでやって来たようで、
黒いコートの肩の部分に水滴がいくつか光っていた。
溶けた雪の名残だ。
「相変わらずやね」
その一言が、
彼女の中で、自分の存在が忘れられていなかったことの証のようで。
安堵した絵里の心が、とうに懐かしさを憶える数ヶ月前の夏に還る。
毎日毎晩、土日も返上して、文化祭準備のため愛と二人で仕事に精を
出したあの夏の日の自分と、二人の間に流れていた空気を思い出す。
「遅刻じゃないですよっ、だって休みだもんね!」
「屁理屈や」
「いーの! いーんですよー っだ!」
「はいはい」
冷たくあしらわれても、それが彼女らしい態度なのだということも、
しっかりと憶えていた。
- 291 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:29
- 二人で誰も居ない廊下を並んで歩く。
不揃いに響く足音が、今と同じように並んで歩いた夏の日の記憶を
絵里の中に甦らせる。
今コートの中にある冷え切った体は、当時うっすらと汗をかいていた。
- 292 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:29
- ▽
十月の開催に向け、各クラスから二名ずつ選出された実行委員達は、
七月から準備に入った。放課後になると、空き教室を利用した準備室で
各々仕事に取り掛かる。
不本意ながらあみだクジで実行委員に決定してしまった絵里は、
とにかく最初の頃はやる気が無かった。しかし、いざ自分に仕事が
分担されると、途端に気持ちに火が点いた。
自分に『与えられた』仕事や役割は、是が非でもやり遂げなくては
気が済まなかった。
絵里に割り当てられたのは印刷物関係全般の仕事で、他に五人の仲間が居た。
全部で六人。愛もその中の一人だった。
「それじゃあ、適当に机くっつけて班作ってミーティングを始めてください」
委員長の呼びかけで、実行委員達はダラダラと動き出す。
放課後だったし、大半は自分と同じように、すすんで立候補して
委員になったわけではないのだろう、と思いつつ、それならそれで、
早く行動して早く話し合いを進めて早く帰ろうと絵里は思った。
率先して、まず自分の座っていた席の机を動かして真横にする。
続いて無人だった後ろの机も動かして、自分の席の横にピッタリとくっつけた。
- 293 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:30
- 六人分の席で班を作らなくてはならなかったので、残り四つ。
絵里は全てを自分ひとりでやるつもりで、三つ目の机を移動し終えて
四つ目の机まで移動しようとした、その時。
「あ、こっち側はあたしがやるよ」
その机を先に動かそうとしていた生徒が居た。
それが、愛とのファーストコンタクトだった。
委員会に来て初めて声をかけられたということもあり、その時から
絵里はよく愛と話をするようになる。愛は三年生で、去年この学校に
福井から転校してきた生徒だった。なるほど色々話していると、
自分より小柄なこの先輩の口からは、方言や訛りが要所要所で出てくる。
他の国の言葉のように感じることもあったが、聞き返せばちゃんと
意味を教えてくれるし、少なくとも、授業として強制的に覚えさせられる
教育英語よりは興味を惹かれた。
ミーティングの結果絵里に任された仕事は、文書入力及び校正、
そして告知ポスターの選考という内容だ。
「って、絵里一人じゃないですよね?」
「うん二人やよ。あと一人決めないかん」
「じゃあ先輩、よろしくお願いします」
「あぁうん。……アレ?」
「班長次の話は何ですか〜? さっさと決めちゃってこの中で
一番に帰っちゃいましょう!」
- 294 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:31
- 夏休みの間に美術部員から作品を募り、その中から告知ポスターを
選ぶのだが、これがなかなか力作揃いで、委員の間だけでこれという
デザインを選ぶことができず、夏休み明け最初の土曜日、放課後に
いくつか絞った作品を掲示板に貼って、週明けから校内投票を行おうとした。
ところがその日の夜、愛に委員会の顧問から、ポスターが全て破り
捨てられたと連絡が入り、そしてそれが愛から絵里に伝えられた。
二人は翌朝すぐに様子を見に行き、ズタズタに引き裂かれたポスターの
残骸を前に、呆然とその場に立ちすくんだ。
明らかに生徒の悪戯だとわかったが、誰の仕業かと腹を立てるより、
ただただ『裏切られた』という思いが募るばかり。
そしてそれと同時に、準備に追われ本物のポスターを掲示することの
危険性に気付かなかった自分達の浅はかさ、夏休みの貴重な時間を
費やして、作品を提供してくれた美術部員達への申し訳無さ、
二度と同じ作品を目にすることはできないという虚しさは、二人から
言葉を奪った。
やっと行動を起こせるようになったのは、五分ほど経ってから
だっただろうか。
お互い無言のまま、どちらからともなく後片付けを始め、ただの
紙くずに成り果てたそれを詰めたビニール袋を一つずつ持って、
廊下を歩いた。
憶えているのは、やたらと耳につくビニール袋特有のカサコソというあの音。
そして学校の外で命を懸け鳴き続けていた蝉、蝉、蝉。
- 295 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:32
- 体育館に辿り着いても、あいかわらず蝉の声がうるさかった。
破られたポスターのショックを引き摺ったままの絵里が、壇上に
あがった愛に問いかける。
「……なんでこんなとこ来たんですか」
「…………」
「高橋さん……?」
「っだあぁああああー!!」
彼女は突然叫びながら、手に持っていたビニール袋を真上に放り投げた。
中に入っていた色のついた紙くずが宙を舞う。
ああ、
あの赤いのは多分、高橋さんが一番好きだった絵の一部だ。
絵里は驚くよりも先に何故だかそう思った。
するとこっちには、
自分が好きだった方の紙片が入っているのだろうか。
- 296 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:33
- 弾かれたように走る。
脇にかけられた小階段を駆け上がるのももどかしく、壇上の床に
手をついて飛び上がる。
そして辿り着く。
隣にはまだ舞っている紙片を仰ぐ愛が居る。全てが舞い落ちてしまう前に
「とぁーっ!!」
絵里も同じ行動をとった。
思った通りだ。大きな紙片にあったあのロゴの欠片は、
絵里が一番好きだった絵のものだ。
- 297 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:34
- ポスターは結局、二人で協力して描き直した。
愛が下描きをして絵里が彩色をしたのだが(ポスターカラーで
ベタ塗りするだけだったので、美術の成績が悪い絵里でも何とか
なった)、できた作品を悉く他の実行委員達や顧問に駄目出しされ続け、
睡眠時間を削りながら二人は黙々と描き続けた。途中で投げ出すことが
無かったのは、やはり例の事件に対する罪悪感の深さによるところが大きい。
三枚目の作品で漸くOKが出た。その頃には溜め込んでいた仕事が
準備室の机の上で一山築いており、文句を言う気力も無いまま二人は
一つずつ確実に仕事を片付けていった。
- 298 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:35
- ある日の放課後、疲労と睡眠不足が蓄積して少しおかしくなった絵里が、
仕事中突然机の下に潜り込んで、ケタケタ笑い出したことがあった。
まわりの生徒達はその豹変振りに驚き一斉に引いてしまったので、
愛が無理矢理彼女を机の下から引っ張り出すと、出てきた途端に、
今度は泣きながら愚痴りだした。
「もぉやだあ! 帰りたい!」
「わかったわかった、今日はもうお帰り」
「………………やっぱり帰らない」
「は? なんじゃそら」
「高橋さんが甘やかすからいけないの!
絵里帰ったら困るくせにホイホイ帰れとか言うな!」
「って何であーしのせいなんよ! ぶっ倒れる前に帰れ!」
「やだやだ! やりかけ放り投げるの何かムカつくじゃん!」
- 299 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:35
- 「だったら責任持って最後までやらんかい!」
「やりますよやってやりますよ! 命懸けでやってやるー!」
「おーおー言ったな、骨は拾ってやるから安心せぇ」
「しますよしますよ、安心して殉職してやります。
葬式は高橋さんに任せますから」
「じゃあ早速これ、赤入れたとこ打ち直しな」
「っう、こんちくしょう……」
突きつけられたテストプリントを絵里はギュッと握り締め、愛は
さっさと自分の仕事に戻ってしまった。
ややあって絵里もその隣だった自分の席に座り、何事もなかったかの
ように仕事を再開したという。
この漫才のようなやり取りが、まわりで見ていた委員達にささやかな
癒しを施したということを、二人は知らない。
- 300 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:36
- 飛んでしまいそうな意識を繋ぎとめながら、なんとか仕事を片付けると、
愛が、
「これご褒美」
と飴玉をくれた。
受け取るために顔をあげる。
絵里はそれまで全く気付かなかったが、教室には、自分と愛しか
残っていなかった。
「え、うそ、もうみんな帰っちゃったの?」
「うん、とっくに」
「何それっ、超ムカつく!」
一気に腹が立って、半ば自棄になりながら飴玉を口に放り込む。
疲れきっていた絵里にとって、その味は甘すぎるほどだった。
こんなに美味しい飴玉は、生まれて初めてだ。
「かみさまっ! この世界一美味しい飴は、どこで買ったんですか?」
「……神? いや、そこのコンビニ。どこにでも売っとるやろ」
「ええ、あ、ほんとだ」
持ったままだった包みを改めて見ると、確かに見覚えがある。
それも、ずっと小さい頃から知っているものだ。
「皆にも分けたけど、そういや皆もうめーうめー言うとったな。
……疲れてるんだねえ」
「先輩は疲れてないの?」
「ん? うん、まだ何とか」
- 301 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:37
- 嘘だ。
愛は隣の席で、一言も文句を言わずに何かのプリントを手際よく
仕分けしているように見えたが、よくよく観察してみると、たまに
手先が空を切っている。
「……高橋さん、飴、食べた?」
「……それがさあ」
「?」
「さっきさあ、男子連中が大声でエロ話はじめて、まいっちった」
「うわ、ウザいねぇ」
「でもさほら、ちゃんと仕事はしてたの。だから注意できなくて。
食べるタイミングも逃してもて」
「……何の話してたんですか?」
この時の自分は本当に疲れきって、どうかしていたのかもしれない。
普段なら、こんな話題に嫌悪こそすれ、興味を抱くなんて有り得ない。
生真面目な愛がこの話を打ち切ってくれることを望んだが、彼女も
きっとどうかしていたのだろう。笑いながら答えた。
「口移しとかマジ難しくね? とか言っとったわ。ガキめ」
また愛の手から、紙片がはらりと音を立てて落ちた。
……もう、思うように力が入らないのだ。
だから、元気になって欲しくて、絵里はそのまま口の中の飴玉を
愛に与えた。
試しにやってみた口移しの味は、成功した途端にお互いにケタケタ
笑い出してしまったから、記憶に無い。
憶えているのは、飴の包み紙が、破り捨てられたポスターの紙片と
同じように赤かったことだけ。
- 302 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:37
-
- 303 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:38
- 絵里にとっての高二の夏は、文化祭が開催された十月までだ。
おかしなことに、文化祭自体の記憶はほとんど脳裏から消えていた。
後夜祭が終わった後、実行委員達だけで居残り、準備室で打ち上げをした。
祭の成功を祝して、紙コップのジュースで乾杯をする。
中にはテンションが変な方向に向かい、酔った振りをして周囲に
煽られている生徒も居た。
そんな様子を窓際で見ていた絵里が、
「あは、何あれ超ウケる」
ね、と隣に居た愛を見た。愛も笑っていた。
紙コップの中身が空になったので、二杯目を注いで元居た窓際に
戻ってきた絵里だったが、その間に、そこに居たはずの愛が居なく
なっていた。
ぐるりと室内を見渡してみたが、見慣れた茶髪も背中も見当たらない。
トイレにでも行ったのかもしれない、と二杯目のジュースに口をつけた。
ところが、十分以上経っても彼女が戻ってこない。
とうとう顧問からお開きの声がかかってしまった。
準備が始まってからの習慣で、帰宅する時は、夜遅いこともあり
必ず愛と一緒に下校していたので、絵里は慌てて愛の姿を探したが、
どこにも彼女の姿は無い。
- 304 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:38
-
置いていかれてしまった?
- 305 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:42
- そう思った途端、目の前が真っ暗になった。
もう、
もう会えないかも知れない。
居なくなった他の理由も、戻ってくることも、考えられなかった。
何故なら、一つの確信があったからだ。
『祭』が終わってしまった、ということ。
この数ヶ月間、家に居るより長い時間を一緒に過ごしてきて、顔を
合わせない日など数えるほどしか無かった。
疲れ果てて授業中は可能な限り寝ていたから、ここ最近学校に居た
間の記憶は放課後のものばかりで、そこには必ず愛の姿があったのに。
- 306 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:43
- 本当に、本当にこうして、今日限りで、
強制的に終わってしまうのだろうか。
ありがとうの一言も言うことができないまま疎遠になって、もし校内で
偶然すれ違っても、その時にはもうただの先輩と後輩のような態度で
接することしかできなくて、ギクシャクして……
そう思うと、たった一つの学年の差は想像以上に大きかった。
「……っ!」
絵里は耐え切れず準備室を飛び出した。
生徒用玄関でローファーを乱暴に靴箱から取って、上履きを脱ぎ捨てて
それを乱暴に投げ入れる。靴箱は上下二段に分かれていて、うっかり
外靴用スペースの下段に戻してしまったが、そんな細かいことを
気にしている余裕はまるで無かった。
生徒用玄関はとうに施錠されているので、職員玄関から表へ出る。
玄関ドアの手前には用務員室があって、ちょうど駅の改札のように
ガラス窓で覆われている。出入りする人間を確認するためだ。
絵里はガラス窓の向こう側に人影を認めると
「さよーならっ!」
と裏声になりながら叫んで、引き戸になっている玄関ドアを、
これまた乱暴に開け放ち外へ飛び出した。
- 307 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:44
- 昨日まで必ず愛と二人で下校していた道を、今日はたった一人で。
十月の空気は、隣に人の気配が無いことを切なく思わせるには、充分すぎた。
鼻先にツンとしたものを感じる間もなく、大粒の涙が頬を伝う。
「……っひ、う」
居なくなって大切な存在だったことに気付く、そんなとんでもなく
ありがちな感情を、自分が体験するなんて嘘みたいだった。
やがて、またこれも嘘みたいに、全く歩けなくなくなった。
悲しいのか悔しいのか、目頭から何から熱くて熱くて、訳が分からない。
それでも馬鹿みたいに泣き続ける自分を認めたくなくて、絵里は
この気持ちを秋のせいにした。
夏が終わって秋が来たら切なくなるのは仕方ないんだ、と思い込んだ。
早く、一刻も早く、冬が来ないだろうか。
- 308 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:44
-
突然、
「……絵里?」
背後から呼ばれて、時間が止まった。
「えーり」
また呼ばれて、時間が再び動き出した。
……けれど、こんなひどい泣き顔で振り向けない。
「もしかして、探しに来てくれたん?」
ごめん、と続けたその声は、ややトーンが落ちている。
心配しているようだ。
また泣かれているところを見られたから?
「……〜〜ムカつくっ!」
咄嗟に、涙で発散しきれなかった絵里の複雑な気持ちは、
多用しがちな文句として出た。
そのまま顔も見ずに、見せずに、勢いよく、自分より背の低い
先輩の胸元めがけて飛び込むと、
「どえっ! 何っ?」
「ばかちんー!」
頭上からは驚きとともに、意味分からん、という声が聞こえたが、
絵里自身も、今の台詞を説明しろと言われても、即座に返すことは
できないだろう。
- 309 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:45
- 一度は驚いた愛だったが、すぐに冷静になったらしく、淡々と
突然いなくなってしまった理由を話した。
「親から電話あってさ、携帯に。でもあそこで出られんかったから」
「……絵里も連れてってよ」
「え、なんでよ。ってかどうしたの、泣いて」
「もう……、なんか何でも一緒じゃないと嫌だ」
「……?」
「なんかやだ」
「……あのさあ、人がジロジロ見とるんやけど……」
言われて、鼻を啜りながらそっと周りを見るより先に、街灯の下で
心底困ったような顔をしている愛の顔が目に入る。
次に何を言われるかと思うと絵里は急に怖くなり、慌ててごめんなさい、
と謝った。
『離れろ』より前に、離れる。
右手だけが、名残惜しそうに最後の最後まで愛の手首を掴んでいた。
少しの勇気を持って手の力を抜く。
「……帰ろっか」
「……うん……」
- 310 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:46
-
……以来、絵里の予想通り、その後二人が何かのきっかけで出会う
ことは無くなってしまった。
いや、たった一度だけ、廊下で擦れ違いそうになったことがあった。
向こうから歩いてくる愛の姿を認めた途端、絵里はすぐ傍のトイレに
隠れて、息を殺して彼女が通り過ぎるのを待った。
呼吸の音ですら彼女に気付かれるかもしれないという、大袈裟な
自意識のもとに。
会っても何を話していいのかわからない。何を話しかけられるのかも
わからない。話し方も忘れた。無視されるかもしれない。
ただただ、対峙するのが恐ろしかったのだ。
それでも、トイレの前を通り過ぎて行った愛の背中を、なびく長い髪を見て
しまったら、その後姿が一日中脳裏に焼きついて離れなかったけど……
- 311 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:47
-
……そうして、冬に戻る。
- 312 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:47
- ▽
靴を履き替えるために生徒用玄関へ向かう途中、体育館へ続く
渡り廊下の前を通る。
何気なくその廊下の向こう側を見た愛が、あ、と漏らしながら歩みを止めた。
半歩ほど先に進んだ絵里は振り返り、愛と同じように廊下の奥を窺う。
体育館入口の引き戸が、三十センチほど開いていた。
「…………開いてるな」
「私達の他にも誰か居るんですかね。先生かな?」
「……行ってみよっか」
- 313 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:48
- 冬の体育館はしんと静まり返り、寒さもあって耳が痛くなった。
入口の引き戸は僅かに開いていたが中は無人で、それを知った二人は、
互いにしてやったりと笑みを漏らしながら堂々と中に入り、どちらが
提案したわけでもないのに壇上へと向かう。
今度はちゃんと端にかけられている古ぼけた小階段を使って上がり、
そこから中央にデンと存在する校章の入った教壇までやって来た。
教壇の裏側というのは滅多に見られるものではないので、愛は思わず
屈みこんでそれを覗いたが、正面から見た重厚さとは裏腹に、中身は
板が剥き出しになっていて拍子抜けしてしまう。
「なんか蹴ったらぶち抜けちまいそうやな……」
「……っていうかいい感じの空間ですよね……」
「机の下よりは広いからな……って、うわっ」
「先輩ここ空いてますよぉ〜」
すかさず教壇の中に潜り込んで腰を降ろした絵里が、そう言いながら
左手でペタペタと空いていたスペースの床を叩く。
- 314 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:49
- 「いやそんな空いてるとか言われても」
「遠慮しないでどうぞどうぞ」
「遠慮なんてしておりませんが」
「ていうかクソ寒いからさっさと左隣埋めてください」
「あらぁ、クソ寒いとかはしたない後輩だこと」
「も〜、いいからこっち来いってば!」
とうとう愛は、我侭な後輩に腕を掴まれてその場に膝をついた。
絵里は懲りずに愛の腕を自分の方に引き寄せる。上半身が傾く。
「わーったわーった! もう引っ張んな!」
「はいじゃあ、こちらへどうぞ」
「ったくもう……」
うへへ、と笑う絵里を軽く睨んでから、愛は渋々教壇の中へ
潜り込んだ。
- 315 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:50
-
教壇の側面から四本の足がはみ出している。
そのうち二本がくいと曲げられ、両膝に手が添えられた。
「どっちみち寒いや」
それは、手先が冷えて膝で暖を取ろうとした絵里だった。
結局余り温もらなかったので、その両手を擦り合せて摩擦で暖を
取ろうとする。絶えず擦り合せていないとあっという間に熱が
逃げていくので、只管擦り続けた。
それでいて、絵里の左半身は確実に熱を持ち出している。
教壇下の空間は女子高生二人分より僅かに狭かったので、絵里の左肩と
愛の右肩が折り重なった状態になっていたからだ。
しばらくして愛の肩が動く。
左肩がふっと軽くなり、絵里は愛の方を見た。
彼女は上半身をこちら側に捻っている。そのせいで肩が離れたのだ。
「………………」
その愛が何も言わずに絵里の左手を取る。
彼女の手も負けず劣らず冷え冷えとしていた。
- 316 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:50
- 左手を取られたまま黙っていると、愛の手はしばらくその形状を
確かめるかのように軽く握ったり少し擦り合わせたりした後、
左手全体をきゅっと持ち自分の方へ引き寄せた。
引き寄せられた絵里の手は、
愛の髪を梳きながらうなじの辺りで止まった。
「髪の毛って、意外と温いんやで」
「……た、確かに」
しかし、しかしだ。
とんでもないことをしてくれる。
左手は確実に冷たさから解放されつつあったが、全身はすっかり硬直し、
放って置かれた右手の方は、完全に感覚を失ってしまう。
震えた声で、絵里は尋ねた。
「……ねえ高橋さん、……どうなんですか?」
「うん?」
- 317 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:51
- 「ひょっとしてもしかして、絵里のこと好きなんですか?」
「うん」
「……い、いつから」
「いつからかなあ。いつからだった?」
「絵里は……絵里もわかんない」
「アッハ、何、やっぱ好きやったんか」
「!」
その瞬間、絵里は強引に左手を引き抜く。
「ひ、ひ、引っ掛けたなー!」
「引っ掛かったなー!」
愛が大声で笑い、絵里は真っ赤になりながら絶句する。
これで、
汗をかくほどに二人の冷え切った体は温まったのだった。
- 318 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:51
- 「……何だかなぁ、ずっと一緒に居たし」
「うん」
「ポスター破かれて壊れた高橋さん見たし、絵里も壊れて隙間
入り込んだとこ見られたし、泣かされたし。二回も」
「いやあれは勝手に泣いたんやろ。……まあでも、それでも
投げ出さなかったからすごいなって思ったよ。そういうとこ、好きやな」
さらっと嬉しくなることを言ってくれると思ったら、愛は絵里の頭を
撫でながら、あとは? と尋ねた。
言わせてばかりで、なかなか卑怯な先輩だ。
それでも、絵里には言いたいことがたくさんあった。
促されなくても、次々と想いが溢れてくる。正直、いちいち言葉に
変換するのももどかしく感じるくらいだ。
「あとっ、ちゅーとかっ、したしぃ」
だから微妙に片言。
「……ああ、あれやっぱそういうことになる?」
「やっぱって……遊びだったんだ! ひどーい!」
「遊びって、どんな台詞や……
だってあん時二人とも変なテンションだったからさあ」
「あれのせいで、あの後絵里大変だったんだからね!」
「やったのはそっちやろ!
…………ま、あたしも大変でしたけどね」
最後にぼそりと呟いた愛の台詞に、絵里は思わず目を見開いて彼女を見た。
愛はさっと目を逸らす。そして、何も言わずにず一人だけとっとと
教壇の下から抜け出してしまった。
- 319 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:52
- 「あ、ズルイ!」
「置いてかんから」
「そうじゃなくて!」
「ほやっていつまでもここ居たら風邪引くし」
「そうだけどそうじゃないってばぁ!」
遅れて身を起こしながら、なおも抗議を続けようとする絵里だったが、
愛は自分の口許に人差し指を立てるジェスチャーをして、彼女を黙らせた。
「見っかんないうちに、帰ろうな」
そう、誰にも見つからないうちに。
夏とは違う関係になったことは、
ここだけの秘密に。
- 320 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:52
-
- 321 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:53
- 生徒用玄関で上靴を脱いで、片手にブーツを持って、靴下だけで
廊下を歩く変な感覚に慣れる前に職員玄関へ辿り着く。
玄関ドアの向こう側で、スコップを持った用務員がせっせと雪を
かいている。
運良く空は晴れていた。
「あんたら何で学校に居るんだ!」
ドアを開けた音に振り返った、鼻の頭を真っ赤にしたおじさん用務員とは、
文化祭準備の折に親しくなった間柄だ。
夜遅く下校する二人によく、気をつけて帰れと声をかけてくれた。
「参考書取りに来ましたー。この子は間違って来ましたー」
「違いますー先輩を迎えに来たんですー」
「ああもうどうでもいいから早く帰りなよ。親御さん心配させんじゃない」
はーい、二人は調子を合わせて返事をして、たった今できたばかりの、
小さなスコップで除雪された細い通路を通ろうとする。
通路といっても校内の敷地と歩道とを結ぶ短い距離のもので、
そこを抜けると相変わらず歩道には十センチ以上の雪が積もっている。
歩道の向こう側も延々と同じ高さの雪が積もったまま残っており、
足跡一つ無い雪の絨毯はどこまでもどこまでも続いているようだ。
- 322 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:53
- 「人類初の着陸です!」
絵里はおどけながら、何かのテレビ番組で観た月面着陸の真似事をして、
ゆっくりとその絨毯に一歩足を踏み入れた。
ブーツは、ずず、と面白いくらい雪の底へ深く沈んだ。
そこからまた一歩踏み出そうとしたが、沈み込んだ片足が自由を奪い、
バランスを崩した。空いていた足が宙に浮いてしまう。
後ろに居た愛が、そのまま倒れそうになった絵里の肩を支えた。
「これはどうやら一人目の着陸は危なっかしいので、
二人目の介助が必要なようですね? 解説の亀井さん」
「ええどうやらそのようですね。いっやあ〜今のは危なかった」
用務員は慣れない雪掻きに眩暈を起こしながらスコップに雪を載せ、
渾身の力を込めてそれを背後に放り投げる。
ふざけあっていた愛と絵里にその雪の塊が落ちてくるのは、最早
時間の問題だった。
- 323 名前: 投稿日:2006/05/28(日) 11:54
- >>280-322 WHITE CARPET
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/29(月) 00:32
- おもしろかった!
- 325 名前: 投稿日:2006/06/02(金) 12:52
- ごはん食え
- 326 名前: 投稿日:2006/06/02(金) 12:54
- 「ガキさん、今日は美貴の奢りだからじゃんじゃんいっちゃっていいから」
「ええ、ほんとにいいのお? てか、何でですか? 何かありましたっけ」
「何かって言うか、あんた痩せすぎで見てて超心配だったんだよ」
「ああー、あのそれは写真集で」
「わかってるって! だからもう、終ったからどんどん……
あーこれ、焼けたっぽいから、ほら」
「おーありがとう!
うおーい、ちょ、ヤバイねこの肉! こっりゃおいしそうだわあ」
「あと、ごはん食え」
||c| ・e・)| ?(VvV从
「なんだよ」
「『ごはん』なんだ。『食え』なのにごはん」
「ごはんはごはんだろ。ってか他に有り得ないんですけど」
「ううんそこはメシ、メシじゃないのお?」
「だってうちでメシなんて言ったら親にはたかれたもん。ご・は・ん・です!」
「あーそうなのぉ。う〜んわかったOKOK、『ごはん食う』ね。
もっちろんごはんも食いますよー」
「遠慮すんなよ」
「しないしない! いただきまくりまくりすてぃー♪」
「いや普通に言えよ」
仕事後の焼肉屋にて。
- 327 名前: 投稿日:2006/06/02(金) 12:55
- >>325-326 ごはん食え
- 328 名前:ハルヒ 投稿日:2006/06/02(金) 12:56
- >>324 名無飼育様
シンプルで嬉しくなるレスありがとう!
- 329 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/06/02(金) 13:18
- ___
/ ___ヽ ごはん食え
レ〆ノノハ) ∬
.川VvV) ,;'"゙;,
Q_ ノ/{l y'/}ヽ、 ./てフ
,___("ァx'´(`ー'´,、 y'^'フ´
、,.ヘ|:======:|'ヾ、_ノ> ヽ_,,ノ´
─.、//|======|─‐./´ 人)──
<,/ |_r---t_,| (_、_/_ン〉
- 330 名前:ハルヒ 投稿日:2006/06/02(金) 14:05
- もう無理っ
ノ_,ハ,_ ≡ _,ハ,_ヽ
l|(・e・;≡;・e・)|l
/ ⌒ヽ プックリ
(人___つ_つ
- 331 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/02(金) 15:37
- 笑った!笑った!
この二人が揃うと一気に漫才になりますねーw
- 332 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:43
- RED CANDY
- 333 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:44
- 両親の不仲は今に始まった事ではなかったが、まさか離婚はするまいと思っていた。
それが、あたしの窺い知れないところで、状況は少しずつ悪化していたようだ。
『進学させてあげられないかもしれない。
それでもできる限り努力するつもりだから……とりあえずあんたの意見を聞きたい』
予め苦労すると分かっていながら進学を強行するほど意志は強くないし、
神経もそんなに図太くない。
まあ、とりたてて目標も無いし……
だったら少しでも早く自立した方がな、うん。
まだ妹もおるし。
就職する事に決めた。
でもやっぱり……色々ショックだったみたいだ。
- 334 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:46
- 夏休みのある日、ガキさんと久しぶりに顔を合わせた。
メール出したら泊まりにおいでと言ってくれたので、お言葉に甘えて彼女の家を訪ねた。
去年福井から一家で越してきて、この地で唯一母と親しくしていたのが、三軒隣の
新垣さんちの奥さん、ガキさんのお母さんなのである。
母親同士の交流もあり、今回我が家に起こった一連の出来事に関しては、すでに
知れている。
直接聞くのはさすがに躊躇われたので、あたしはガキさんに聞いた。
母が苦しんでいた事を、知っていたのかと。
やはり、愚痴はこぼしていたらしい。
父はここに越してきてからすっかり仕事人間になってしまい、ろくに家に帰って
来なくなってしまったのだ。
栄転だから、これは逆に喜ばしい事、のはずだった。
慣れるまでは我慢するつもりだったのだろうが、母は一年で限界を突破したようだ。
一度でもあたしの前で弱音を吐いてくれれば、今と違う結果になっていたかもしれない。
でも、もう決まってしまった事だ……
- 335 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:47
- 聞く事も聞いてしまったので、ガキさんの部屋でクッション抱きしめゴロゴロしていた
あたしに、彼女はいつもと変わらず軽い口調で最近の事について色々聞いてくる。
それぞれの学校で文化祭準備の時期になって、去年やった実行委員を今年もやる事に
なったのだと話した。
「今年も実行委員するんだ」
「おう、遊びに来なよ」
「前は何だっけ、何で実行委員やったんだっけ?」
「……忘れたけど、嫌々やった」
ガラステーブルに置いてあった二人分のコーラは、ほんのちょっとの間にガキさんの
分だけやたらと量が減っている。
何か一言話すたびに口をつけているみたいだった。
暑いから当たり前のはずだけど、あたしは身も心も湿っているようでさほど喉を
潤そうという気にならない。
「今年も?」
「今年は」
自分から進んで立候補したよ、と言うと、てっきり「何でまた」とか「物好きだね」
とかなんとか言われると思っていたのに、彼女は「ふうん」とそれだけ。
そしてまたコップに口をつけた。
- 336 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:48
- 「ガキさんコーラ好きやよね〜」
「ウン好きだよーすっごい好き」
- 337 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:49
-
- 338 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:50
- >>294-297
- 339 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:50
-
- 340 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:51
- 離婚の話を切り出されて以来、両親とはまともに会話しない日々が続いた。
親は親で、特に母は、切り札を出す機会を日々伺っているようである、と妹から
聞いている。
父も何となく不穏な空気を感じ取っているらしく、泊り込みの仕事だとかなんやかんや
理由をつけては、うちに帰って来ない日が増えた。
……あたしは父親似らしい。
文化祭準備の仕事は確かに忙しい。それは嘘ではない。
でも去年もやった仕事がほとんどで、要領は心得ているから、やろうと思えばもっと
楽に仕事をこなす事ができる。
わざと他の仕事を引き受けたりしていなければ。
ポスターの選考だって、去年は準備委員会だけで決めていたのだ。
あたしがちょっと無理を言ってしまったために、絵里にはかなり迷惑をかけた。
それでもあの子は、描き直しになった時も、一言も文句を言わなかったのだ。
自分のせいでもあるから、と。
「それは違う」と言えなかった自分の狡賢さに嫌悪するよりも、絵里の優しさが
心に沁みた。
- 341 名前: 投稿日:2006/09/14(木) 23:52
- 朝食も摂らずに家を出たあたしは、学校の傍にあるコンビニに立ち寄った。
パンか何かでも買って、始業前に教室で軽く食べようと思ったのだ。
雲ひとつ無い青空の下、太陽の光は容赦なく全身を攻めたてる。
熱にやられてだんだん頭はぼんやりとするが、おかげで苛立ちとは無縁。
それに、こんな風に毎日毎日強制的に大量の汗をかかされているせいか、感極まって
泣き出すようなことはなかった。
これは救いだ。
コンビニに入店するとクーラーの快適さからなかなか逃れられずに、しばらく店内を
うろつく。
頭の中では、努めていつも仕事の事を考えるようにしていた。
今日もきっと夜遅くまで実行委員の仕事がある。
空腹と疲れを癒すための、何か甘いもの……飴でも買っておこうか。
班の子達の分も。
菓子コーナーの奥の方へ行き、フックに吊るされている袋入りの飴たちを眺めた。
どういうわけか、のど飴の種類だけ充実している。カリン、梅、フルーツ、あとは
ビタミン入りの、レモン。
自分だけのために買うなら、迷わずはじっこの苺味の飴にするんやけど。
- 342 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:45
-
『絵里はあ、梅が大っ好きなんです!』
『お弁当に必ず入れてもらってるんです』
……ならわざわざ梅味のなんか、じゃなくてもいいかなあ。
本もんには敵わんしねえ。
頭の中の絵里にそう言うと、後輩は目を細めながら「ええ〜でも梅味でも嬉しい」
と答えた。
「う〜ん……」
でもなあ、他の子達の中に苦手な子が居るかもしれんし。
……ごめんやっぱ、フルーツにするよ。
三種類の味が楽しめる、という文句のついた袋を手に取って、レジへ。
何となく陳列棚を眺めながら歩いた。すると、ある一箇所が目に留まった。小さな
チョコや駄菓子が、なんとなく肩身狭そうに並んでいる。
- 343 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:46
- これはもしや、そう思って手を伸ばしてみる。
筒状になった透明なプラスチックケースの中に、右手を突っ込んで、取り出した。
思惑とは違い、小さな赤い包みに収まったその飴ちゃんは、梅味じゃなくてガキさんの
好きなコーラ味の方だった。
でもどうしてかその赤い包みが気になって、一度握り締めてみる。
その感触は、小さい頃駄菓子屋さんで同じように握り締めた時の感触……よりは勿論
こじんまりとしたものだったけれど、普通の飴よりは大きい、という事はわかった。
袋入りの飴と違い一個ずつばら売りしてるから、他よりちょっと大きいのだ。
「………………ひいき」
結局あたしは、その飴も一緒に買った。
店を一歩出れば、またうだるような暑さの中を生きる。
スカートのポケットにころんと入れたたった一つの飴が、絵里の手に渡るその時まで
溶けませんように、と願った。
- 344 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:46
-
- 345 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:48
-
>>298-301
- 346 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:48
-
- 347 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:49
- ……なあ絵里よ、亀井さんよ。
あんたと今いい感じの『高橋さん』はな、割と毎日必死で余裕が無い。
嫌な事から目を逸らそうと毎日毎日せっせこ仕事に精を出しとるだけやから、あんまり
こう……真面目で頼りになる人みたいに見とったらあかんよ。
実際、絵里のおかげで出来た事の方が多いはずや。
ポスターとか色々。
……でも何かあれ以来、赤見ると笑いが止まらんのは間違いなくお前のせいや!
戻るのにかなり時間かかるんやぞ。
このあほぉ
- 348 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:49
-
- 349 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:50
-
>>303-304
- 350 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:51
-
- 351 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:52
- 全くたまたま偶然に、バッグの隙間から漏れる緑色の光に気付いた。
携帯が鳴ってる。それに気付いたあたしの心臓も跳ね上がる。
両親がこれからの事について話し合う日だという事は知っていた。
多忙を理由に逃げ回っていた父がとうとう、観念して話し合いに応じたのだ。
家を出る寸前まで妹がしつこく早く帰れと言ってきたが、無視して出てきた。
それでも、やっぱり心のどこかでずっと話し合いの事を気にしている自分がいて……
だから着信の相手が誰なのかという事をきちんと確かめる事もせずに、思わず教室を
飛び出してしまった。
かといって廊下で電話に出るわけにもいかないので、はやる気持ちを抑えて生徒用
玄関へ向かい、施錠されているドアに気付いてちょっとうろたえて、思い至って
職員玄関へ。
ここではなるべく普通に外へ出る努力をした。
- 352 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:54
- 「……う、やべえ」
外に出た途端、あっという間に不安で泣きそうになっている。
今までずっと我慢してきたのに、これだ。
こんな姿、誰にも見られたくない。
学校の敷地を出てからも誰かに気付かれないような場所を探しながら歩いたが、結局
一つ目の曲がり角を曲がってすぐに携帯を開いた。
電話はやっぱりうちからだ。
「…………ふーっ……」
深呼吸をして、なんでもない風を装ってリダイアル。
- 353 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:55
-
母からの言葉はまわりくどかったが、
妹が食い下がったおかげか、離婚は無しになったそうだ。
だから進学もしていいなんて、
そこだけははっきり言うんだな。
……体裁を気にするくらいなら、最初から離婚なんて考えなきゃ良かったじゃないか。
妹に泣かれたからとか何とか、それがあたしだったら同じように考え直したんだろうか?
でもそれは考えたって無駄だし、もう決まった事だ。
ただ、
居らんでもハッピーエンドなら、
あたしって、あの家族にとって何なんやろね?
一度閉じた携帯をまた開く。
ガキさんに電話をかけた。
- 354 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:56
- 離婚が無くなったよと報告すると、ガキさんはまるで自分の事のように喜んだ。
「良かったねえ、いやあほんっと良かった」
当事者であるこっちが他人事のようにそれを聞いていて、滑稽だ。
ガキさんもあたしも。
「進学もしていいってさ。駄目って言ったくせにこれだよ。ひどくない?」
「愛ちゃん日本史好きなんでしょ? 大学行って思う存分勉強したらいいじゃん」
「でもなんか、今更……」
「何言ってんの逆だよ逆! やるなら今しかないんだよ」
「いやいや、一回諦めたあたしの気にもなって?」
「ならない。だーいじょーぶだって! 好きなら続くよ」
「……また離婚って事になったら?」
「だから、人の話ちゃんと聞きなさいって!
好きなら続くって。バイトで学費なんとかなるくらいは、頑張れるでしょ?」
「……お前強いなあ」
「愛ちゃんが余計な心配しすぎなんだよ。
あのね、悪い事を考えないのも前向きって事なんだよ」
あまりにも自信満々にそう言うので、反論する気も削がれてしまった。
- 355 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:56
- 電話を切って携帯を畳みながら顔を上げると、
交差点を駆け抜けていくうちの生徒がいた。
- 356 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:57
-
- 357 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:57
-
>>307-309
- 358 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:57
-
- 359 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:58
- 無理だと言われると意地になるのも父親譲りなのか、この志望校では今から取り
掛かっても遅いと担任に小馬鹿にされたあたしは、必死になって受験勉強に励んだ。
後夜祭の後、絵里に言われた一言が心に引っかかってはいたものの、文化祭も終って
会う機会が無くなってしまった今となっては、確かめようもない。
何だかんだ言って、準備期間中はとても楽しかったし、絵里はあたしにとって、
これ以上ないくらい良き相棒だった。
頑張る変な子って、あーし好きやなあ。
たまに勉強の手を休めては美化された思い出に浸っている事に気付き、いかんいかんと
首をブンブン振ってまた参考書に向かい、赤いものを見てはそれと同じくらい顔が
赤くなり、おかげさまで大好きだった苺までしばらく封印する羽目になったりしたけれど。
- 360 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 06:59
- もうすぐ本格的な冬が来る。
今シーズンは降雪量が多いらしくて、あんまり晴れの日がない。
福井はそれなりに降るところだったから、あたしに耐性はあるけれど、ここらへんは
本来そんなに降らないし積もらない地域だ。去年一冬越したから、知ってる。
……でももしかして、今年の冬は。
大雪で学校が臨時休校になったりする日も、来るんだろうか?
授業中、窓の外で降る雪を見ながら、そんな事を思った。
- 361 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 07:00
-
>>332-360 RED CANDY
- 362 名前: 投稿日:2006/09/15(金) 07:01
- ノノ;^ー^)<お、おたおめー(また遅刻しちゃった)
- 363 名前:ハルヒ 投稿日:2006/09/15(金) 07:02
- >>331 名無飼育様
ガキミキは面白いですよねー
一輪車みたいなエピソードをまだ隠し持っている気がしてなりません。
藤本さんの爆笑してる顔が好きです。ほんとに楽しそうで。
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/16(土) 18:23
- めちゃくちゃよかったです。
うわー、まさかサイドストーリーを目にできるだなんて。
特に切り上げ方がドキワクものでした。読めて嬉しかったです。
- 365 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:07
- 例えばこんな緊急事態
- 366 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:08
- スタッフに呼び止められた高橋愛が、話を終えて遅れて楽屋に戻ると、室内には
久住小春が居た。
他のメンバーは居なかった。荷物も見当たらない所を見ると、みな既に帰ってしまった
ようだ。
久住は項垂れたような姿勢で椅子に座っていた。高橋の位置から見えるのは、その後姿だ。
彼女の肩越しに、テーブルに置いた鏡が見える。自分も数時間前はその場所でメイクを
していた。
結構大きい音を立ててドアを開けたにもかかわらず、後輩はこちらを振り返ることも
無くじっとしている。
「久住?」
「はい!」
声をかけると元気な返事が返ってきたが、それでも姿勢は変わらない。
高橋は少し首を傾げながら、室内に足を踏み入れた。
- 367 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:09
- 「あっ、ちょっと、ちょっと待ってー! 止まって!」
「?」
こちらの気配を察したらしい久住が、まるで幼稚園児が阿波踊りを踊っているかの
ようなコミカルな腕の動きで待ったをかけた。それも動いているのは左腕だけで、
ますます奇妙なのだ。
高橋は思わずぎょっとして、その場に固まってしまう。
「な、なしたの」
「コンタクト片方落としちゃって、探してるとこなんです!」
語尾が間延びしていてあまり慌てていないように聞こえるが、動作は大きい。
今は鏡をスタンドごと頭上に持ち上げて、首をぐっと前に突き出したりしている。
「落としたの、そこで?」
「多分。ここ座ってメイク落とそうとした時、ハッ、て」
「じゃああたし動いても大丈夫じゃないの? そっから大分遠いよ」
「……あー、そっか」
それでも万が一のことがあったらと思うと、結局そろそろ歩きしてしまう高橋なのだった。
- 368 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:10
- そして歩きながら、目線は自然と床に這わせていた。
高橋はコンタクトを使ったことが無いので、落とした『それ』のイメージはいまいち
湧かなかったが、後輩が困っているのにぼうっと突っ立っている訳にもいかない。
「片方だけなん?」
「そうです〜……うー何か気持ち悪い」
「もう片方も外した方がいいんじゃない」
「でも、眼鏡無くて……」
「あたし探してあげるからさ」
名乗り出ると、相変わらずこちらを振り向かないままの久住が、鏡を持ったまま急に
顔を上げる。
やはりそれだけでも動きが派手で、後ろ髪がバサッと宙に舞っていた。
「ううん、いいです! どうせ使い捨てだし」
そうあっさり割り切られると、探索を名乗り出た自分の方が間抜けのような気がしてくる
高橋なのだった。
- 369 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:11
- ☆
さて二人は今、某テレビ局の廊下を、壁伝いに歩いている。
家まで送り届けてくれるはずのマネージャーが楽屋に戻ってくる前に、トイレに行って
おこうとしているのだ。
高橋が一人で楽屋を出ようとすると、久住も一緒に行くと言い出した。
だが、裸眼視力が0.1だという久住が普段どおりに歩けるはずも無く、その上もう
とっぷりと日も暮れていて昼間と様子が変わってしまった廊下を、スムーズに歩ける
はずも無い。
そんな訳で自然と久住は壁の方に寄って行き、高橋はその反対側で付き添う形になった。
「こわい〜こわいよ〜」
「大丈夫だって。ゆっくり歩くんだよ」
「床が、床が壁と混ざって見える」
「?」
「床も壁も同じ色だから、もうどこから床で壁なのか全然わかんないんですよ〜」
「……目が悪いって、大変なんだね……」
コンタクトも眼鏡も必要としない程度の視力を保っている高橋には、久住の気持ちが
理解できない。
ただこんな調子でノロノロ歩きを続けていたら、廊下の果てにあるトイレに辿り着くまで、
かなり時間がかかりそうだ。
数十メートル奥にある、白地に赤のプレートが遠い……
- 370 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:12
- それでも根気よく久住のペースに合わせて歩いていくと、途中で小さなホールのような
場所に出た。
廊下にも一定の間隔で小さな窓があったのだが、ホールにはその何倍もの大きさの
窓があり、そこから夜の街並が見える。ちなみに、二人がいるのは四階だ。
恐る恐る足元を見ながら歩いていた久住が、窓に気付いて驚きの声をあげた。
「すごい外がキラキラしてる!」
高橋が何事かと振り返ると、彼女は体ごと窓の方を向いていて、今にもガラスにへばり
付きそうな雰囲気を滲ませていた。
慌てて咄嗟に久住の腕を掴む。
「ちょっと、どしたの急に」
「電気が一杯あるように見えるよ!」
「……街灯のことか?」
「とか、お店の看板とか、ビルの明かりとか光ってるの全部、五倍くらい」
……目が悪いと物が何重にも見えるというが、今久住が見ている世界は正にそれらしい。
あまりにも嬉しそうに言うので、しばらくそこに佇んで一緒に窓の外を見ていたが、
高橋にとってはどこにでもあるような夜の街並であったので、途中で付き合うのにも
飽きてしまい
「ほら久住、もう行くよ」
そう言って腕を引くと、久住は名残惜しそうに窓から目を離した。
- 371 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:14
- ☆
楽屋に戻って少し待つと、いいタイミングで久住のマネージャーが現れた。
メイクを落とすのは家に帰ってからやるように言い、帰り支度を手伝って上着を渡して
やったり、鞄を持たせたりといった一連の作業を、頼まれたわけでもないのに高橋は
無意識にこなし、久住も当たり前のように従っていた。
楽屋のドアを開けてやりながら、別れ際に声をかける。
「気ぃつけて帰んなよ」
「はーい、お疲れ様でしたぁ」
「あと眼鏡はちゃんと持ってきな」
「うん、でもちょっと面白かった」
「あたしはハラハラしたよ……」
高橋がわざとらしく溜息をつきながらぼやくと、突然久住は真顔になって、
「大丈夫、約束します。どうぞご安心ください、サファイア高橋王子」
と、『大臣の息子』風の返事をした。
「……わかった。じゃあ今晩は安心して、どんぶり鉢で飯食おう」
「ぜひそうしてください王子ー」
マネージャーに付き添われ、また壁伝いに廊下を歩き出した久住の後姿をしばらく
見送ってから、高橋はドアを閉めた。
改めてふうっと息を吐く。
「あー、乗せられてもたわ。何か負けた気分」
苦笑いしながら、ぽつりとそう呟いた高橋なのだった。
- 372 名前: 投稿日:2006/10/18(水) 22:14
- >>365-371 例えばこんな緊急事態
- 373 名前:ハルヒ 投稿日:2006/10/18(水) 22:15
- 川*’ー’)<久住 に萌え。
>>364 名無飼育様
ありがとうございます。「読めて嬉しい」なんて、ホロリとくるお言葉……
隙間を埋めるように書くのは楽しかったです。何だかスッキリしました(笑)
- 374 名前:名無し読書中 投稿日:2006/10/18(水) 23:07
- あいこは!あいこは!
乙カレー様です。
高橋さんの、小春を『子供扱い』というよりか『後輩扱い』な接し方が好きです。
- 375 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/22(日) 23:19
- めざましの歌披露でも、小春に押されてる風の絡みがありましたね
癖になりそうです
おかわり希望〜
- 376 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:38
- 落ち亀拾い
- 377 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:39
- 「おっ、公園だ!」
「……公園ですね」
愛ちゃん家に遊びに行った日の、午後三時。
『家にいるばかりだと、何だか体が固まってしまう気がする』
そんな愛ちゃんのヘンテコな理由で、二人で散歩に出た。
「絵里」
通りがかった公園は都下にしては広いところで、遊歩道がある。
歩道に沿って木が植えてある、つまり並木道ってやつです。
愛ちゃんはその歩道の奥を指差しながら、瞳をキラキラさせて私を見てくる。
ほんとこの人の場合……目は口ほどに物を言い過ぎです。
「いいですよ、寄ってっても」
「やったっ」
腕じゃなくて肘の辺りをがっしと掴まれて、おっとっと、躓きそうになりながら
並木道の中に入った。
- 378 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:39
- 道はお世辞にも綺麗とは言い難い様子で、両サイドにたくさん枯れ葉が落ちていた。
ところどころで、それらが一箇所にかき集められて小さな山を築いている。
「地元でなあ、ああいうので焼きいもつくって食べたりした」
「あー、美味しそうですねぇ」
「美味しかったよー」
そんな他愛も無い話をしている間にも、頭上の木々からは、はらはらと枯れ葉が
舞い落ちてくる。
地面に落ちた途端ゴミになってしまうんだということを思うと、お気の毒だなあ、と
思ったりしたけど
「きれーやなー」
斜め前の人は、そんなことちっとも気付いてないみたいです。
うん、でも、確かに綺麗なんだ。凄く綺麗なんだよ。
時々予想もしない方向に、地面から逃げるように舞っているあの葉っぱなんか、
まるで人間みたいで……人間……
- 379 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:40
- 「あ、ははっ」
「え、何や」
「いえ、あの、」
それがもう愛ちゃんの肩に吸い付くように落ちてきたので、可笑しくて。
しかも全然気付いてないんだから。余計に笑えてきた。
「ちょっとぉ、何笑ってんだよ、おいー」
「っごめ、あのねほら、ふふっ」
なかなかうまく喋れないので、私は愛ちゃんの肩を指差して示した。
「うおっ!? ちょー! なんコレなんコレ虫か虫むしっ!?」
「あひゃはははは!」
はしゃぎ一転絶叫に変わった愛ちゃんの声もまた、私のツボでしかない。
ああ、このままじゃ笑い過ぎて死んでしまう〜なんてことを、頭の中で別の
自分が呑気にコメントしていた。
- 380 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:41
- 「え、何、ただの落ち葉じゃんか……あーびっくりしたー」
「も〜超ウケる。全然気付かないんだもん」
「こんなん気付くかあっ」
「どんなんなら気付いたんですか。ねえ、にぶちんさん」
「鈍くないって!」
「え〜鈍いですよぅ」
「なにがよー」
「ん〜でもぉ、そのままの愛ちゃんでいてください」
なんかちょっとこの台詞、ガキさんっぽいけど……
きっと愛ちゃんはそれにだって気付かない。
……別にいいんですよ?
絵里が嫉妬深いだけ。それだけなんだから。
- 381 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:42
- ガキさんが一足先に十八歳になって、誕生日はたった二ヶ月差なのに、絵里はまだ
九時までしか仕事が出来ないから先に帰ることになる。
この前初めてその状況に遭遇して、愛ちゃんとガキさんに二人揃って『お疲れ様』って
手を振られた時、悔しいような寂しいような色んな気持ちが一気に湧き起こってきて、
泣きそうになった。
ガキさんまだ仕事残ってるんだよね。お疲れ様。
でもなんでそんなに笑顔なの?
愛ちゃんもどことなく安心してるような、そんな風に見える。
そうですよね、今日からはガキさんが最後まで居てくれるんだもんね。
年上の二人よりは、同期の方が断然心強いでしょう。
ずるいなあ。
- 382 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:43
- その時の記憶が呼び戻されたせいで、鼻の奥がツンとした。
反射的に顔を上げる。
ツンときたらポロッと出てきちゃうもん。
涙はまだ格好つくけど、鼻水だけはご勘弁願いたいって感じです。
視界に入ってきたのは、絶え間なく落ちているたくさんの葉っぱ。
色んな動きをしながら、ゆっくりと、時には早く。
「おっとっ」
「!」
すっかり顔を上げたまま立ち止まってしまっていた私の耳の近くで、ぱしん、と
乾いた音がした。
驚いて顔の位置を元に戻すと、いつのまにか目の前に愛ちゃんがいて、得意気な笑みで
こっちを見ている。
え、今のなに? なんなんですか?
突然のことで固まっていると、音のした方には愛ちゃんの腕が伸びていて、彼女はそれを
引いて、手にしたものを自分の顔の横に翳して見せた。
それは、どこからか舞ってきた落ち葉だった。
- 383 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:44
- 「ほ〜ら、鈍くなーい」
「…………」
そういう意味じゃなーい。
……んだけど、どうしてこんなに、嬉しいって思っちゃったんだろう?
「……あら? 鼻赤いよ。風邪か?」
すん、と鼻を鳴らした私に気付いて、愛ちゃんが心配そうに覗き込んできた。
平気ですよと取り繕い、落ち葉を持っていた彼女の手を包み込むようにそっと握る。
その冷たい感触にびっくりした。
「愛ちゃん、手、すごい冷たいですよ」
「そうかな。えりの手が熱いんじゃなくて?」
「平熱です。手袋とかした方が良いよ、冬なんて目の前だし」
「あー、そうだねえ、もう冬が来るんだなあ……」
- 384 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:44
- 溜息交じりにそう言って、愛ちゃんは天を仰ぐ。
何を思っているのかはわからないけど、私の言葉を受けて何かを考えてくれている、
そんなことがまた嬉しい。
「……これ、もらってもいいですか?」
「これ? 葉っぱ?」
「うん」
「別にいいけどさ、なんで?」
「なんでだろ? ……なんとなく」
私は落ち葉を受け取りながら、今年ばかりは早く冬が来て欲しい、と思った。
具体的には勿論、十二月二十三日。
十八回目の、誕生日です。
- 385 名前: 投稿日:2006/11/05(日) 20:45
- >>376-384 落ち亀拾い
- 386 名前:ハルヒ 投稿日:2006/11/05(日) 20:46
- >>374 名無し読書中様
ありがとうございます。
高橋→久住は基本『先輩後輩』なんでかなり新鮮です。でも、たまにボロが出て
いつも通り情けなくなっちゃう高橋さんも大好物です(笑)
>>375 名無飼育様
ありがとうございます。
「歩いてる」は愛こは絡み目立ちまくりで妄想が膨らみます。
実はプリ尻2TOPなのも尻フェチにはたまら(ry
機会があったらまた書きたいです。
- 387 名前:名無し読書中 投稿日:2006/11/05(日) 22:26
- 更新乙カレー様です。
「きっと愛ちゃんはそれにだって気付かない」というのに何かギュッときました…
亀…がんばれ亀…
- 388 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:09
- ひるいちご
- 389 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:10
- 起きる。目を開ける。隣に彼女の姿は無かった。
両手をついて上半身を起こす。
産まれたての仔馬が初めて地に足をついて起き上がるこのイメージは、
きっと何かの夢の続きだ。
そのままベッドから降りる気になれず、シーツに手をついたままぼうっとしていたら、
隣室で物音がした。
彼女は先に起きていたようだ。午後一時のおはようを言いに行こう。
ドアの前に来て後頭部の違和感に気付いた。この感じは恐らく寝癖だろう。
わしゃわしゃと適当に手櫛を入れながらドアを開けた。
- 390 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:11
- 「……おはよ〜」
「おー、早くないけど」
まだ寝惚けた状態なので、小言を言われても全く現実感が無い。
そのままフラフラとテーブルまで歩き、気付いた時には椅子に座っていた。
「今軽く食べるもんつくっとるから、先に顔洗ってきな」
「……はあい」
テーブルの斜め向かいにキッチンがある。彼女は自分に背を向けて、手先をちゃっちゃと
せわしなく動かしていた。
「おかーさんだ」
「違います」
ちゃんと後ろに“みたい”と付け足せば、もう少し異なった返事がもらえただろうか。
うだうだしていたら今度こそお母さんのように怒られてしまいそうだったので、
重い足を引き摺るようにして洗面所へ向かった。
- 391 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:11
- 顔を洗ってやっと頭が冴えてきた絵里は、ふう、と一息ついてから、今度はしっかりした
足取りでリビングへと戻る。
「やっぱりおかーさんみたいですよ」
「まだまだー!」
カシャン、金属同士がかち合う音を聞いた。
愛は何と戦っているんだろうか。
- 392 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:12
- 「野菜が足んなくてサラダじゃないけど、オニオンスープミックスベジタボー入り」
「ベジタボー」
「……ベジタブルね?」
「わかってますよお」
先輩のジャパニーズイングリッシュかぶれは依然進行中のようだ。
再び椅子に座っていた絵里の前に、次々と皿が置かれる。
二人分のスープとベーコンエッグが揃い、今パンを焼いているからもう少し待ってくれ、
と一言添えられた。
「でね、塗るのがマーガリンと苺ジャム。ただ……」
言葉を濁しながら冷蔵庫から二つ容器を取り出し、そのうちの一つを絵里に向けて見せた。
手の平サイズの瓶だ。まだらに赤い。
- 393 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:13
- 「ジャムこれしか無ぇんだわ」
「あー、一人分くらいしか無いんだ」
そう言うと、そうなのよー、と相槌を打って様子を窺っている。
選択権はこちらにあるようだ。
「じゃあマーガリンで」
「あ、ジャムはあたし毎日食べてるから、こっちでも」
「んん、遠慮じゃなくてほんとにそっちでいいですよぉ〜」
そう言って絵里は、本日初めての伸びをした。
- 394 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:14
- しばらくしてトーストが焼きあがり、二人は昼食にしても遅めの食事に取り掛かった。
バターナイフは一つしかないというので、客人の絵里に使用権が与えられた。
愛はティースプーンを代用し、カチャカチャと少し耳障りな音を立てながら残りの
ジャムを瓶の底にかき集めている。ある程度集まってスプーンで一気に掬い上げると、
うひゃ、と嬉しそうな声を漏らした。その時覗いた歯並びは今日も綺麗だった。
スープに口をつけたりベーコンエッグの黄身にフォークを突き刺したりしながら、
正面の人の様子を伺う。
「お、意外と足りるわ」
「良かったね。それが一番好きなんですか?」
「うん。これが一番つぶつぶが大きいの」
「……じゃ、今度のお土産、それ買ってきましょうか?」
「まじでぇ?」
すると愛は、あのねそしたら、とやや興奮気味に売っている場所を教えてくれた。
てっきり近所のスーパーで買ったものだと思っていたので、某デパ地下の名前が
出てきた時は流石に驚いた。が、辛うじて表情には出さずに済んだ。
けれど、ここを出るまでにその名を憶えている自信が、ちょっと無い。
- 395 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:15
- そしてそれを聞いた途端、ブランドイメージがついてしまった苺のジャムは、
途端に絵里の中で魅力を増した。
彼女が必死にかき集めて掬い出していたことにも、あっさり納得がいった。
絵里はよっぽどじいっと瓶を見つめていたのだろう。視線に気付いた愛が上目遣いで
「食べてみるけ?」
と福井弁で問うて来た。
願ったり叶ったりとはまさにこの事。二つ返事で受け入れると、すぐさま
ティースプーンひとさじ分の苺ジャムが顔の前に翳され、絵里は気持ち急いで
それに食らいついた。
過度に甘くなく、明らかに苺そのものらしい味がする。すぐに飲み込むのが勿体無いので
しばらく味わってみると、なるほどなるほど、噛むと新たに味が出るのがわかるほど
大きめのつぶが、その中に混ざっていた。
「おっきいつぶが入ってたー」
「えっうそぉ! ずるいやん!」
うふふと誇らしげに笑う絵里を見て、愛は本気で悔しがっている。
この反応。相当お気に入りなのだ。
- 396 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:16
- 「ふっふ〜、絵里まだ飲み込んでないよ? お〜いし〜いね〜」
「……どーせ毎朝食べとるし。さっさと飲み込みなよ」
「いーんですかあ? じゃあ」
お言葉に甘えて、大袈裟に喉を鳴らしてみた。
さらに、唇に少しでも残っていないかと上唇を舐める。
その間に愛はまた瓶の中身に取り掛かって、やっとトーストの表面にうっすらと
ジャムが塗られた。
すっかりその味の虜になってしまい、今度はトーストをまじまじと見つめる絵里。
また視線に気付いて、食べにくい、と文句を言う愛。
絵里が再びそのジャムを味わうことになるのは、意外なことにそれからたった
数分後のことだった。
- 397 名前: 投稿日:2006/11/25(土) 05:16
- >>388-396 ひるいちご
- 398 名前:ハルヒ 投稿日:2006/11/25(土) 05:22
- 元ネタはメロディーズじゃなくて、キッザニアと世界バレーのリップ貸し借りです。
あんな大胆に絡んでるの観たのはいつ以来だろうか……!
>>387 名無し読書中様
それでも高橋さんはたまにこういう細かいとこには気付いてるみたいなんで、
これはこれでいいんじゃないでしょうか(笑)
- 399 名前: 投稿日:2007/02/01(木) 23:03
- 写真を撮ろう
- 400 名前: 投稿日:2007/02/01(木) 23:04
- 「見てみこれ、こんなちっこいの」
愛ちゃんが言う。
その手には、手の中にすっぽり収まってしまうくらい小さい箱型の何か。
「それ何?」
「カメラだよカメラ。かめカメラ」
「……かめ?」
「そういう商品名なんやって! ほらここにカメおるよ」
愛ちゃんがまた言う。そして正面のレンズらしきところ、の上を指差した。
絵里でも書けそうな落書き風のカメが、確かにそこに居た。笑顔で。
改めてそれを見せてもらうと、玩具のカメラにチェーンがついてるようなものだった。
でもちゃんと写真撮れるんだって。現像にだって出せるって。
- 401 名前: 投稿日:2007/02/01(木) 23:05
- 「だからさ、試しにいろいろ撮ってみようぜ!」
そう言っていきなり小走りにどこへ行くのかと思ったら、愛ちゃんの目的地はなぜかトイレ。
照明をつけて天井に向けてパチリ。白熱灯を激写。理由は不明。
それを見て絵里も合点承知。とことん自分がいいと思ったものを撮ろうと決めました。
『どうでもいい』の『いい』でも撮ろう! そうしよう!
- 402 名前: 投稿日:2007/02/01(木) 23:07
- かくして私たちは、高橋家の中にあるものを片っ端から交互に撮り始める。
五枚目に絵里の脱ぎ捨てたままだった靴下を激写されたから、
六枚目に宝塚DVDのパッケージを、中見抜いてケースの内側だけ激写。
十一枚目に裾をめくられてこっそり愛用してた腹巻を激写されたから、
十二枚目に玄関行って愛ちゃんのブーツを転がして、片方だけドアノブにぶら下げて激写。
十七枚目に鞄の中身をぶちまけられて、そのど真ん中に携帯少し開いて脚立みたいに
立てて置いたものを激写されたから、あんまりにも意味不明で怒る気も失せた。
けどちょっと一言言おうとしたその時の顔も激写された。次の瞬間に愛ちゃんのほっぺたを
ぎゅっとつねった。十九枚目にその赤い痕だけを激写。
「何すんのぉっ」って自業自得ですよ。
「そっち二回撮ったから、次撮るのも絵里だからね」
「あいあい、わかっとりますがな」
さてと。
チェーンのわっかに指を通して、クルクル回しながら考える。
途中で気付いたけど、何だかんだ言って、『お互いの何か』を撮ってばっかりだ。
好きだから当たり前にそうしてる。
でも面と向かって好きなんて、実はあんまり言わないから。
だから撮ってる。
- 403 名前: 投稿日:2007/02/01(木) 23:09
- 「まーだーかー」
もう退屈し出したのか、愛ちゃんが絵里を急かした。
顔を見ると、さっきつねったところにまだ少し赤みが残ってる。
ごめんね、とそこを撫でたところを撮った。
そしたらカメラを無言で奪われて、絵里は頭を撫でられた。でそこを撮られた。
嬉しくてうぅ〜んとか鳴いてるとこを撮られた。恥。
そうして最後の二十四枚目。
華奢で長くて白い指と、それに比べたらがっちりな感じで浅黒い指とが交差している。
その向こうに、
ピンボケした愛ちゃんの肩の辺りが、いい感じに背景として写り込んでいたら、いいな。
- 404 名前: 投稿日:2007/02/01(木) 23:10
- ところが。
二十四枚全て撮り終えたところで、私たちは衝撃の事実を知る。
『かめカメラは屋外で使ってください』という注意書きがあったんです。
これ現像しても、屋内だから暗くて何がなにやらなものが出来上がってくるだろう、
ってことです。
ただでさえ何がなにやらコレクションだっていうのにね。も〜。
でもその失敗作を見ても、きっと私たちはそれが何だったのか、をしっかり
思い出すことができるはずだから。
それじゃ現像の必要もないかもね、なんて二人で頷きあって、かめカメラは大切に
保管されることとなりました。
……現像しないならいっそのこと、もうちょっときわどいのも撮っちゃえばよかった
かなーなんて思っちゃったのは、絵里だけの秘密ですよ?
- 405 名前: 投稿日:2007/02/01(木) 23:11
- >>399-404 写真を撮ろう
- 406 名前:ハルヒ 投稿日:2007/02/01(木) 23:11
- かめカメラをググると、得した気持ちになれるかも。
- 407 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/02(金) 18:09
- きわどいのハァ━━━━━ ;´Д` ━━━━━ン!!!!
高橋さん宅で亀井さんの脱いだ靴下があるってことはハァ━━━━━ ;´Д` ━━━━━ン!!!!
今日このスレをいっきに読んだんですけど、高橋と亀井のカップリングが大好きになりそうです
- 408 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/16(金) 18:42
- ふたりとも愛らしいなあw
- 409 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:27
- 着陸失敗
- 410 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:28
- タイ、プーケット。
高橋と亀井は、ソロ写真集とDVDの仕事の為、二人揃ってこの国を訪れた。
撮影場所もカメラマンも一緒にされ、いよいよ自分たちの置かれた立場に、
危機感の一つも憶えるところではあるが。
現地に着いてみれば、嗅いだ事の無い不思議な空気のにおい、鮮やかな
エメラルドグリーンの海、原色の街並み、東京とは真逆の気候、と、新鮮で
刺激的な体験や光景を目の当たりにしているうちに、出発前の悪い想像も
すっかり吹き飛んでしまった。
更なる経費削減のもと、当然のようにホテルの部屋は相部屋にされたが、
これは望むところ。
何やかんやで、「付き合い」の長い二人だ。
例え別室にされたとしても、ごく自然に、どちらかがどちらかの部屋に
入り浸る事になるだろう。
- 411 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:29
- 「おー、天井たっか」
初日の撮影を終えた夜。高橋が部屋のベッドの上で仰向けになり、真っ白な
天井に向かい右腕を伸ばした。大きくその開かれた手のひらは、天井とほぼ
水平と思われる。
そうして日本にある自分の部屋との違いを確認したところ、
「わかる! 外国のって高いよね」
その縁に腰掛けていた亀井からは、即座に同意の声があがった。
「あたしが三人くらい肩車したら届くかな?」
「ん〜、もっとあると思いますよぉ」
仕事以外でも敬語の抜け切れない亀井が立ち上がって、同じようにぐっと
右腕を真上に伸ばす。高橋には、背を向けていた。
伸ばした腕につられてか、反対側の左肩はややいかり肩になってしまう。
「っとぉ〜……、これだと絵里が中国雑技団になって二人分くらいかなあ」
「……足で肩に乗んのか?」
「そう両足でこう、絶妙なバランスで、二人分」
亀井は雑技団の土台役になりきっているようで、両耳の横辺りに手を持ってきて、
見えない足首を支えている。と、ややその両膝が沈んだ。重いのか。
- 412 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:30
- 「っふ、……アッハッハハハ!」
はてな一体どのあたりでツボに嵌ったのかわからないが、彼女はこちらに背を
向けたままで、突然高らかに笑い出した。
高橋はといえば、最近は昔ほど世の中の出来事が愉快に感じる事は少なくなって
きていて、亀井につられて笑い出す事も無く、どちらかといえば呆れた気持ちで
その様を傍観している。
あいも変わらず面白い奴だな、とは思うのだが、だいぶ客観的な目線で見られる
ようになっていた。
「あー、超ウケる」
「楽しそうやねえ」
「そりゃもうっ」
ばんざーい、と能天気な声を出しながら、今度は両手を勢いよく天に向かって
広げる亀井。
そして一呼吸置いて……その体が、ぐらりと傾いた。
「え? ちょお……」
「……どーん!」
「うがっ!?」
- 413 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:31
- 後輩が背中からベッドの、正しくはベッドの上に寝転がっている高橋の真上に
倒れ込んできたのだ。
またしても愉快そうに笑う亀井の様子から、明らかに今の行為がわざとだと
解かったものの、衝撃でしばし身動きが取れなり、肺が圧迫されて二、三度
咳き込んだ。
「ぇほっ、……おっまえ、この、っ馬鹿」
「ひゃは、愛ちゃんまくらー」
「広いからって、縦横逆やろが!」
「あ、面白い。愛ちゃん喋ったら絵里の頭が動く」
当たり前だ。亀井の頭部は今、高橋のみぞおちに載っている。
「これっ、いい加減にしないと、その消えかかってる眉毛剃るよ!」
「それは駄目ぇ〜、全部無くなっちゃうじゃないですか」
「だったらデコに“オープンカー”って書く」
「それ“コップ クン カー”でしょ」
「書くぞぉ?」
「もーわかったわかりましたよ、けちんぼ」
思い通りにならなかっただけでケチ呼ばわりされてしまった。
- 414 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:31
- しぶしぶ高橋の腹から起き上がった亀井だが、なかなかじっとしていない。
今度は両足をバタバタと上下に動かし始めた。
駅のホームで電車を待っている子供のようだ。
「何なん絵里、さっきから落ち着き無いな」
「えぇー、だってぇ、ねえ? こんな……状況」
「こんな? ……どんな」
すると亀井は、ちらとこちらを向いてうふふと笑う。
その含み笑いと視線は、高橋の滅多に働かない直感を衝いた。
いわゆる、ピンときた、というやつだ。
「……ま、リゾートって感じで浮かれちゃうか、嫌でも」
「そうなんですよぉっ。ほらもうコレあれ、じ、じ、……自由だーっ!!」
だからと言って限度ってもんがある。明日も早いし、そもそもここには仕事で
来ているのだし、しかも写真集やらDVDやらの撮影だ。衣装は水着ばかりで、
肌の露出はかなりのもの。日焼けにだっていつも以上に気を遣わなければ
いけないし、外気に晒された肌をどこかにぶつけて怪我なんてもってのほかだ。
吸われて痕を付けられるなんてとんでもない!
- 415 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:32
- 「……吸うなよ!」
あれよあれよという間にゆるく肩を押さえつけられ、下から睨み付けながら
高橋は更に、仕事が、と念を押す。
「しませんよう。ちゃんとその辺はわきまえてますって」
「あと痛いの禁止」
「そんなのいつもしてない」
「いやなんか今日の絵里は何かちょっと色々心配で」
「失礼だなあ〜」
「だってなあ……」
もごもごと口ごもっている間に、真上と真下で十数センチあった距離が、
ゼロになった。
数分前の亀井なら再び勢いよく自分の上に落ちてきたのだろうが、今は
違うらしい。
すうと柔らかい風を起こしながら降りてきた。
変わり身の早い事だ。
- 416 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:33
- すっかりおなじみの重みを感じつつも高橋は思う。いつもと違って、シーツが
滑らか過ぎてスルスルと滑る気がする。背中が擦り切れなくていいだろうか?
せっかく二人きりでバケーション気分なのは自分だって同じだが、今回は
もう少し落ち着いてのんびりとした時間を過ごしたい。そういう気分だった。
亀井は自分と真逆の気持ちであるらしい。
ゆっくりしたい気持ちが強くなるのは、二十歳を超えた弊害の一つなんだろうか?
色んな思いや言葉が喉元にせり上がってくる頃には、タイミングよく出口を
塞がれている。
最初に釘を刺したせいか、痕の付かない唇が集中的に狙われている気がする。
されてばかりも堪えられなくなって、何度か導いた。
素直に従われるとそれなりに嬉しい。
亀井の事だから、こっちから痕跡を残しにかかれば、喜んで身を寄せて
来るんだろう。
「あかんて」
「う?」
急に我に返った高橋は、指を咥えられたままで、亀井の顎をぐいと押しやって
上半身を起こし、距離を取った。
そしてそこから手を離す。後輩はきょとんとしている。
- 417 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:34
- 「これ以上はあかん」
「えぇ、こんなとこで止める〜?」
「あのね絵里さん、せっかくですけど仕事でここ来とるのよ」
「それさっきも聞いたよ。だから気をつけるって」
「また今度にしよ」
「今度っていつですかぁ」
……こういう時はすんなり身を引いて欲しいものだ。
今度と言われても、そんな事こっちが聞きたい。
仕事ではなくまたこの地を訪れる、そんな日がまた来るのか?
二人きりで海外なんて、新婚旅行でもあるまいし。
「あ」
その時脳裏で突如呼び起こされた記憶に、高橋は思わず声を漏らした。
そして咄嗟に呟いていたのだ。
「そうだ、結婚すっか」
- 418 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:34
-
- 419 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:35
- いつだったか、『離陸する日』の事を話した。
二人が自然と一緒にいられる土地へ、そうする事が『認められる』場所へ行く、
と高橋は言った。
辿り着いたら、きちんと祝福されて、末永く一緒に暮らすのだ。
- 420 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:35
-
- 421 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:36
- 「タイって大丈夫そうやない? 法律」
……毎度高橋の言動に踊らされている亀井だが、此度の爆弾発言には、
打ち上げられて一瞬で成層圏まで行ってしまった。
道理で呼吸も止まるはずだ。
「な? 悪くないな」
「……っちょ、待ってください! 何ですか今の本気ですか!?」
「……」
只事ではないと察知した亀井はベッドの上でガッチリと正座し、胡坐をかいた
高橋の目を真剣な眼差しで見詰める。
ところがその視線に気付かれた途端、さっと顔を背けられてしまった。
そして思い出した。彼女は昔にも似たような事を言って、自分から目を
逸らした事がある。
その時はいい返事が思い浮かばなくて、代わりに手を握ってあげたのだった。
今また同じこの状況。
亀井は一度深呼吸してから、はっきりとこう言い放った。
- 422 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:37
- 「……愛ちゃん、絵里は日本が良いです」
聞いた高橋が向き直る。やや目を見開いていた。
「あ、そう?」
「うん」
「それでもいい?」
それでいいのだ。
誰かからの祝福なんてものは必要ない。
好きな者同士がずっと一緒に居続ける事に対して、他者から許可を取る事、
認められる事、あってもなくてもどうでもいい。
だが高橋はそれを「なくてはならない」事だと思い込んでいるようだ。
人としてややずれた立場である自分たちが堂々と生きる為に、自分の意志だけでは
弱いからと、外側から認めてもらいたがっている。
ふさわしい場所がここだと踏んだ、故の爆弾発言。
- 423 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:37
- 正直馬鹿らしい、と亀井は思う。
何の為にもう一人ここに居ると思っているのだ。
弱いなら、先に自信が無いというのなら、遠慮なく添えばいいのに。
「許可なんかなくたって、絵里たちは一緒に居てもいいんですって」
「……大丈夫なのかな」
「大丈夫ですよ? 駄目な事なんてひとっつもない」
「でも隠していかなあかんやろ?」
「知られても気にしなきゃいいんです」
「あたしは気にするってぇ」
全くこの先輩は腹を決めたら呆れるほど真っ直ぐな癖に、迷いだすとそこから
抜け出すのがとことん下手糞だ。気にするなと言っているのに。
ここはもう、宥めるより強引に押し切ってしまおう。そう考えた亀井は、
気持ち若大将な気分で胸を張り、愛ちゃん聞いて、と語気を強めた。
いざ。
- 424 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:41
- 「いいから黙って、絵里についてこ、っいぃぃいいぃ……〜〜……」
……ハズした。
大いにハズした。
俄然前のめりになったところで足の痺れが突然亀井を襲い、語尾は下手糞な
バイオリンの如く乱れ、やがて遠ざかる蚊のように弱弱しく消えていった……
「………………どうした」
「あしっ、……足が、痺れたぁ」
「……きっとあんたにはまだ早い台詞だったんだよ」
標準語で冷たい言葉が降って来たが、今は全く反論できない。
それより何より痺れて痺れて。いっそこの世から消えてしまいたいとすら思った。
肝心なところで神懸り的に間抜け過ぎる。
「おーい……」
一方で、目の前で懸命に堪えている亀井に冷ややかな眼差しを投げかけて
いた高橋だったが、だんだんと、まさしく亀のようにじっとしている後輩の事が、
気の毒になってきた。
シーツの上に投げ出されていた左手にそっと触れてみるが、反応は無い。
- 425 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:42
- 「えりー、大丈夫?」
同情を込めて声をかけると一瞬だけ顔をあげたものの、泣きそうな表情で
首を横ってまたかくんと項垂れた。なんとも情けない姿だ。
「困ったねえ」
こういう時はしばらく待つしかない。何も出来ない高橋の脳裏で、先程の
やりとりが自動再生された。
咄嗟に口をついたようでも、あれは一世一代の告白だったというのに、
しなくてもいいだろうと言われた事は結構なショックだった。
不安定な自分たちには確たる証が必要だと、ずっと思い続けてきただけに。
まだまだ相互理解には時間が足りない、という事か。
亀井はまだ痺れが取れていないようで、時々小さく呻いている。
何か言っても聞く耳を持ってくれそうにない。この不満、どうしてくれようか。
しばし考え込んだ高橋は、放置されてつまらないからという言い訳を思いついて、
空いていた方の手を、亀井の硬直したふくらはぎにそっと伸ばした。
- 426 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:43
- >>409-425 着陸失敗
- 427 名前: 投稿日:2007/03/17(土) 04:44
- 元ネタかもしれない
ttp://mseek.xrea.jp/flower/1077072978.html#r184
三年も前でびっくりしました。
- 428 名前:ハルヒ 投稿日:2007/03/17(土) 04:45
- >>407 名無飼育様
靴下はしましまで穴が開いてるイメージで。お約束全開ですよ!
テンション高いレス川*’ー’)<オープンカー(←タイ語の「ありがとう」を
憶えやすくしたものだそうです@ラブハロ)
>>408 名無飼育様
ありがとうございます。
でも「愛らしさとアホらしさ」は「天才と馬鹿」と同じくらい紙一重かも
しれませんね……
ノノ;^ー^)<じゃあかわいいあほって二倍? 二倍!?
- 429 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/19(月) 12:50
- 初めまして、いつも読ませていただいております。
ハルヒさんの作品は、かゆいトコロに手が届く孫の手のような作品ですねえ。
これをネタに書いてくれるんだ!!っていう感じです。
かっこよく締められない亀井さんの姿がありありと浮かんで、笑ってしまいました。
- 430 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:12
- ウサギーノ
- 431 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:13
- さゆみは、ちょっと遠いところに住んでいるバンビさんに憧れています。
ご近所のヒョウさんもかっこいいんですけど、大きくて食べられちゃいそうで怖いんです。
バンビさんはある日から毎朝のように、ウサギのさゆみが辿り着くのに何時間もかかる
場所から、颯爽とやってきます。
どこに向かっているのかはわからないけど、草むらにいる私の目の前を通り過ぎてゆきます。
その時起きる風が私の心を虜にしました。
傍にいるものだけがわかる程度のそれに、私のおひげが一瞬、連れて行かれる。
それだけ。
その優しい風が、さゆみはとてもお気に入りだったのです。
- 432 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:15
- 今日も、数時間前にバンビさんがさあっと通り過ぎてゆきました。
陽が暮れる頃には、またさあっと来た道を通って帰ってゆきます。
でもなぜだか、その日は朝から胸騒ぎがしていました。
さゆみは王国の動物で、赤チン国王の飼いウサギですから野生じゃないんですけど、
野性っぽい勘です。
嘘です。
持ってた携帯の電波が一日中入りにくいので、変だなーって思ってただけです。
と、その調子悪い携帯から、着信音が聞こえました。
出てみるとリスさんが、ちょちょちょ、とか訳わかんない声を出して慌ててます。
さゆみは、落ち着いてください、と窘めました。
「ウサちゃ、あのあのね、今ね森の中なんだけどさ、愛ちゃんが」
「どなたですか?」
「リスだよ! ああじゃなくてね愛ちゃんバンビちゃんよ、愛ちゃんてゆーの」
「初耳です」
ていうか、なぜか突然憧れのバンビさんの名前を知れて超ラッキー! なんですけど。
違う種類の動物の本名? なんて、めったに知る機会が無いんです。
よっぽど親密にならなければ、教えあいっこなんてしないんです。
だから、リスさんもほんとは違う名前があるけど、ウサギのさゆみにとっては
『リスさん』なんです。
- 433 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:16
- 種類以外の名前を呼びたがるのは、人間くらいのもの。
見かけただけの動物にデタラメの名前を付けて喜んでるのは、ぶっちゃけおかしいな、
ってさゆみは思いますけどね。
通りすがりの知らない人間に、ちょっと白くて丸いからって『鏡餅』って呼ばれたことは、
さゆみ一生忘れません! う〜ら〜み〜
……けどリスさん、それで電話してきたわけじゃないよね、いくらなんでも。
「ちょっと落ち着いてください。何なんですか?」
「ええ!? なになに良く聞こえないんだけど! 電波悪い」
「お・ち・つ・け、って言いました。簡潔に言うと」
「落ち? ああそうそうなんだよ、落ちたんだよ愛ちゃんに!」
何かズレてるけど理由っぽいこと話してるし、まーいっか。
「落ちたって」
「木がね、根元腐ってたみたいで愛ちゃんの後ろ足に落っこちて抜けなくなっちゃった!」
「倒れてきたんですか?」
「そうそうそうなの! わた、私に会いに来たせいで……っ」
リスさん、ちょっと涙声。
バンビさんは、毎日リスさんに会いに森へ行ってたんだ……
- 434 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:17
- 「あんたのせいじゃないってぇ」
あ、この声はもしやバンビさん!?
リスさんのすぐ傍にいるみたいで、声が聞こえた。
それを聞いた途端さゆみは頭の中がカッとなって、早口でリスさんに事情説明を求めました。
バンビさんの後ろ足が、地面と倒れた木の隙間に挟まって抜けない。
助け出したいけど、自分では小さすぎて木をどかすことができないから、町に一番近い所に
住んでいるさゆみに助けを求めた、と。
気が付くとさゆみは、リスさんに話を聞きながら全速力で駆け出していました。
生まれてから約十八年、初めてこんなに必死で走ったな、というくらいがんばりました。
後から冷静になって考えてみると、さゆみもまんまとリスさんのテンパりに影響
されていたんです。
携帯あるなら、国王に電話して人を呼んでもらえばよかったんです。
(支給品で、最初から番号入ってます)
でも、そんなことちっとも思いつかなかった。
とにかく助けなきゃ、って。
- 435 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:18
- 町に着いてお医者さんに事情を話すと、担架を貸してくれました。
それから力持ちの人を三人くらい呼んでくれて、その人達は森へ。
さゆみもついていきたかったけど、役に立たないだろうなって思い直してお医者さんの
家で待機することにしました。
バンビさんの足、大したこと無いといいけど……
- 436 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:19
- リスさんの携帯にかけてみたけど、繋がらない。
心細くなって、タヌキの絵里を呼ぶことにしました。
絵里の携帯にはちゃんと繋がったんです。
寝ていたみたいだけど、すぐに駆けつけてくれました。
「バンビさん? ああ、知ってる知ってる」
「え、ほんと?」
「前にねー、絵里が野生の熊に襲われそうになってタヌキ寝入りしてた時に、
ほんとに死んだのか? ってつっつかれたことあるよ」
うくく、と絵里は思い出し笑いをしているようでした。
身の危険を感じたタヌキは、死んだ振りをして危険が去るのを待つ習性があります。
これがタヌキ寝入り。
熊が離れてからもしばらくそのままでいたら、バンビさんがどこからか現れて
(多分彼女も熊から逃げていたんでしょう)絵里の脇腹をツンツンしたそうです。
「くすぐったくて思わず動いたら、どわぁ! って叫んで一メートルくらいジャンプしてさ」
絵里は、とうとう声を上げて笑い出してしまいました。
- 437 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:21
- どのくらい待ったかわかんないですけど、絵里のおかげでそんなに長い時間待ってた
感じはしなかったです。
担架に乗せられて運ばれてきたバンビさんは、しょんぼりしていました。
時々周りの人に向かってスイマセンスイマセンと謝ると、バンビさんの背に乗っていた
リスさんがチョロチョロ走り回りながら、愛ちゃんのせいじゃないんです私のせいです、
とフォローしていました。
そこに居た全員が現場を見ていないので、反応しようがありません。
唯一お医者さんだけが、事故だよ、と慰めていました。
さゆみもお医者さんの言葉を借りて……思えばこの時、初めてバンビさんに声をかけました。
少し上擦っていたと思います。
私と目が合ったバンビさんは、見知らぬ動物が話しかけてきたことに、ちょっとビックリ顔で
固まっていましたが、横からひょっこりリスさんが
「電話して助けを呼んでもらったんだよ」
と一言添えると
「わ、それは……スイマセン。どうもありがとうございます」
すっごく申し訳なさそうに、そんな事を言うんです。
いたたまれない、って、こういう気持ちなのかな……
- 438 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:22
- ベッドに寝かせたバンビさんをお医者さんに診てもらった結果、骨は折れたりしてないけど、
痛みがあるので、痛みが無くなるまでうちに居るように、とのことでした。
それを聞いて、一番落ち込んでいたのはリスさんだと思います。
思います、っていうのは、見た感じちっともそういう素振りを見せていなかったんですけど、
急に口数が減ってしまったんです。
リスさんは結構お喋りさんなので、さゆみはその異変に気付いたのでした。
「まあ、たまには休むのもアリじゃないですかね。絵里はいつもグータラしてますけど」
「あ、タヌちゃんや」
「うへ、今気付いたんですか。どうもどうもその節は」
「あいや、うん、ごめん。お久しぶりです」
リスさんに気を取られている間に、いつの間にか絵里とバンビさんがこの前襲われた
野生の熊の話題で盛り上がっていました。
すると、
「愛ちゃん」
と、リスさんが急に割って入ります。
- 439 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:23
- 「しばらくゆっくりしててね、私のことは気にしなくていいから」
「……足りる?」
「足りる足りる、そのための保存食だったんだから!」
「けども、ガキさんも早いとこ別の森に引越しした方がええよ」
「……それは、わかってるんだけどさあ」
これは後から聞いた話ですが、リスさん(どうやらガキさんって名前のようです)
のおうちがある森は今、植物がどんどん腐っていく謎の伝染病が流行していて、なかなか
食べられる木の実が見つからないんだそうです。
なのでリスさんは、バンビさんに頼んで背中に乗せてもらい、少し遠くにある別の森まで
食料を探しに出かけていたそうです。
そう、バンビさんが怪我をしたのも、この伝染病で木が腐っていたことが原因でした。
帰り際、リスさんは、お医者さんからも何か言われていました。
なかなか離れられないんですよね、と苦笑いしていたのを憶えています。
- 440 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:24
- 「熊が出る!」
リスさんが帰ったと思ったら、今度は絵里が突然そう言い出しました。
「どうしたのいきなり」
「夜になったらまたウロウロするかもしんないから、絵里帰るね!」
「あ、もうそんな時間か……」
言われてみれば、窓の外は夕焼け空が広がっていました。
「タヌちゃん気をつけてな」
「暇になったらまた明日も来ますよぉ。絵里は死にましぇ〜ん! なんつってウヘヘ」
…………
ちょっと肌寒い空気を残しながら、絵里も帰ってしまいました。
- 441 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:26
- 「……面白い子やね。お友達なんだって?」
「あ、ハイ」
気がつくと、室内にはバンビさんとさゆみだけ。
担架で運んでくれた人間の皆さんだって、とっくに自分の家に帰ってます。
お医者さんは、回診に出かけると言ってさっきリスさんと一緒に出て行きました。
「ウサちゃんも、もうお帰り。今日はほんと、どうもありがとのー」
「いえ、そんな……あ、あの、お腹とかすいてませんか?」
「ん、あ〜……まあ平気やよ」
「ほんとですか? なんか嘘っぽいです」
「アッハ、直球やなあ! 一晩くらいは我慢できるよ」
「一晩じゃ治りません」
「まあお医者さんが帰ってきてから言ってみるわ」
「じゃあ、帰ってくるまでここに居ます」
「でもさ、暗くなってまうよ」
「心配ですから」
食い下がる私に、バンビさんは困ったように笑います。
多分、気まずいな、って思ってるんだと思います。
でも……
「私、バンビさんと毎日会ってたんですよ」
「あらっ、ほんとにぃ?」
「本当も本当です。リスさんの森に行く途中の草むらに私のおうちがあって」
「通ってんの見とったんか」
「はい。で、バンビさんの走ってるとこを傍で見るのが、すっごい好きでした!」
だんだん興奮してきちゃいました。
だって、ずっと見てたんだもの。
- 442 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:28
- 「はあ、あそう。なら、当分走れんで、ごめんな」
「だから、せっかくなんで走れるようになるまで面倒見ます」
我ながら何がどう『せっかく』なんだろうって感じですけど。
明日から当分、バンビさんが起こすあの風を受けられない。
それを想像するとすごく寂しい。早く治って欲しいんです。
ところが、さゆみの宣言を聞いたバンビさんは、絶句してしまいました。
ちょっと深入りしすぎたかな、最初から飛ばしすぎたかな?
慌てて言い訳しようとした時、
「お名前は?」
って。
一瞬何を言われたのかわからなかった私に、もう一度、言いました。
「ウサちゃんのお名前、教えてくれるかな」
今のままじゃ、お水持ってきてもらうことも遠慮しちゃうから。
そう言って、笑ったのです。
- 443 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:30
- >>430-442 ウサギーノ
- 444 名前: 投稿日:2007/06/10(日) 21:31
- (ヽ(\
\ヽ\
( ・ 。.・) <バンビサンニトツギーノ
最近、愛チンの隣に来ると必ず乳母車に手をかけて支えてあげているウサみん萌え。
- 445 名前:ハルヒ 投稿日:2007/06/10(日) 21:31
- >>429 名無飼育様
初めまして。
孫の手! って以前どなたかにも言われたような……嬉しいです。
ありがとうございます。
- 446 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/11(月) 18:03
- かっ……可愛い!うさぎキャワ!
この設定でお話を作るって、全然思いつきもしなかったんですけど
いいですねぇ
読んでてすごく楽しかったです
- 447 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:10
- タヌキーノ
- 448 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:11
- 太陽が天辺に昇りきった頃、水際でゴロゴロするのにも飽きたんで、この間足を挫いて
町医者の所に入院? している、バンビさんの顔でも見に行こうかと思ったんだ。
どういう顔だったか忘れちゃったからじゃないぞ、決して。
不慮の事故に遭ってしまった仲間を叱咤激励するために、いざゆかんボロっちい診療所へ!
でも参ったねー。
着いたはいいけど、ドアノブ丸いから、絵里開けられないんですよ。
ほらタヌキだから。人間みたいに腕と足じゃなくて前足と後ろ足だから、コレ。
いや開けられないこともないよ? ジャンプして前足引っ掛ければいけるもん。
でもー、疲れちゃうからさあ。
出来れば無駄な体力は使いたくないわけよ、うん。
っと!
扉の奥から誰かがこっちに来る気配!
イイヨイイヨー そのままドア開けちゃって〜!
- 449 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:12
- ガチャ、って開いた!
すぐさまその隙間に入り込んで、潜入作戦大成功!
やったじゃん絵里超ツイてる!
ラッキークッキータヌキー
ウヘ 今のはぁ、ちょぉっと寒かったかなあ?
部屋の中は、こないだ来た時とちっとも変わってなくてボロっちい。
人間の気配は無いけど……さっき出て行った人はお医者さんかな?
足元しか見てなかった。
なんかわかんないけど、鼻がツンとする。
この空気、目に見えたらきっとトゲトゲありますよ。
「っじゃぁしゃーす……」
毎度ー奥さんご入用ですかぁ……
あらいらっしゃいMIKAWA屋さん。ワタシずっと待ってたのン
え、なんスか奥さん、ふ、服はどうしたんスか!
ウフフ赤くなっちゃって、か・わ・い・い・
あ、居た。
- 450 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:12
- 奥さんじゃないよ、勿論MIKAWA屋でもない。
居たら絵里がびっくりだよ、ただの妄想だから。
ちょっとした隙に入っちゃうんだよね妄想。困ったもんだー。
それはさておき、バンビさん。
の、体が、奥の部屋で横たわってるのが見えた。
寝てるかもしんないね。
そろそろと、泥棒になったつもりで……
抜き足、差し足、引き摺り尾。ずるずるー。でも気にしない。
妄想でなりきるのって楽しいよね。
奥の部屋に入ると、絵里の予想は大当たり。
バンビさんはこっちに背を向けて眠ってた。
のっかってるこれは、人間が大好きなベッドというやつですか、ほうほう。
白くて長くて四角ですね。
けどなんで床より高いところにあるんだろ?
登るの大変じゃない?
寝心地いいのかなあ?
てか、せっかく来たんだからやっぱ起きてもらいたいよね。
そうだ!
目が醒めて傍に絵里が寝てたら、超ビックリすると思うんですけど!
よし寝よう。そうしよう!
- 451 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:13
- 飛び乗るには高すぎたんで、先に飛び移れそうな物を探すと、
これまた人間がよく使ってるっていう、椅子ってぇのを見つけたんですよ。
で飛び乗ったらギャチャン! って、超大きな音たてて!
びっくりして息が止まっちゃっ……
「何やぁ……?」
あーはいはい起きた起きた。お目覚めですかレレレのレー
ちぇ、つまんなーい。
「ごめんなさーい。こいつがでかい音たてて」
「むむ」
ああそうだねそうだよね。
こっちに背中見せてるから、首思いっきり捻って後ろ向いてもこいつが見えませんもんね。
「あそんな、無理してこっち見なくてもいいですよぅ。
お見舞いに来ました。手土産はないですけど」
「あ、タヌちゃんか?」
「そうでーすタヌキでーす絵里でーす」
「……えと、どっちがええの?」
「じゃあ絵里で」
どんな呪いにかかってるのか知らないけど、タヌ「キ」がどうしても言えない
みたいだからねー。
- 452 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:14
- 「絵里ね……ああ……さっき痛み止め飲んだばっかで……ちょっとぼうっとしとって」
「もしかしてかなり寝てました? 邪魔してごめんなさい」
絵里は睡眠が趣味なので、こういう時は本気で悪いことしたなあと思いますよ。
無理矢理起こされた時なんか、ここは地獄かと思うくらいどん底の気分になる。
そういうのって、ありません?
とにかく長居しない方がいいよね。
と、どうやって切り上げようか考えている時、バンビさんがもぞもぞと動いて……
ん? 違うぞ。
後ろ足とお腹の辺りだけが勝手に動いて、る……?
と、その時。
「ぷきゃっ」
そこから何かが。
何か言いながら何かが出てきた。
茶色いひょろ長いのが出てきた。
その黒い目が絵里を見た。
「…………」
「…………」
「あら、ガキさんも起きてもたの」
- 453 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:15
- もう。
もう一生分くらいの大爆笑、ですよ。
あんなとこからリスが出てくるなんて思わないじゃないですか! 普通。
しかも、しか、ぷきゃって、どっからそんな声出せんの!? マジウケル。
あんなん出せるの他に幼児用のサンダルくらいじゃん!
ほら歩いたらプキャプキャいうやつ!
あーもー駄目だ! ポンポコ痛い。
「ううう、うるさーい!!」
「あっひゃガキさんが赤毛になっとるわ!」
「愛ちゃんも黙んなさい!」
「この娘ね、何か知らんけどあーしと一緒に寝たら安心するんやって」
「ぶ、も、もう止めてくださ、ぅひ、く苦し」
「ちょちょちょ、ああああんたね言っとくけどいつもあんな変な声出してるとか無いから!
だぁかぁら! 愛ちゃんが動いたせいで苦しくなっ、もーちょっと聞いてるのー!?」
ハイ全く聞いておりません。
その後も続くリスことガキさんのいいわけはLONELY君も孤独なのかい。
つまり。
寂しかったんだって。
- 454 名前: 投稿日:2007/08/08(水) 00:16
- >>447-453 タヌキーノ
- 455 名前:ハルヒ 投稿日:2007/08/08(水) 00:17
- >>446 名無飼育様
番組自体この設定を忘れてるんじゃないかと思ってましたが、最近、
「耳をたためるけど飛べないウサギ」とかいうオイシイ設定を道重さん
自らが作ってくれて、まだまだいけるんじゃないかな、っと……
アライグマとトイプードルも増えましたしね。
- 456 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/08(水) 02:12
- いやー笑った笑った笑いました
タヌキ最高ですね
そして最後の赤毛リスさんはツンデレで超かわいいですね
変な声でえろいこと想像しちゃってごめんなさいw
ごちそうさまでした
- 457 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/08/09(木) 08:22
- 最後の元ネタがわかる者としては大感激です!
どうもありがとうございます。
タヌちゃんワールド全開でポンポコ痛いっすw
- 458 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/16(木) 02:26
- きゃわいいっすね、アニマルシリーズ。
ぜひ、ぜひ続けて欲しいっス。
- 459 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:02
- ORANGE CURTAIN
- 460 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:03
- 予想に反して、カーテンはオレンジ色だった。
青とか緑とかだと思ってたんだけど。
高橋さんちは二階建ての一軒家で、壁はクリーム色で、まあ普通の家だよね。
そこは違和感なかったけど、どうもこのカーテンだけちょっと変だなあって。
「どこが変なん?」
「よくわかんないけどお、高橋愛、じゃない感じだなあ〜」
絵里は勉強もそこそこに、シャーペンくるくる回しながらずっとカーテンのことばかり
気にしている。
二階の左側が高橋さんの部屋。
それはきっと初めてここに招かれたせいでもあって、心躍るってこういう感じのことを
言うのか、落ち着かない。
絵里ときどきニヤニヤ。愛ところによりニヤニヤ。
「も〜、あんたね、」
「ごめんなさい」
「まだなんも言ってない」
「んも〜わかりますよ? 勉強しろってんでしょ?
絵里だってカーテンがあの色じゃなきゃ超集中しまくりでぇ」
「責任転嫁すんなっ」
いや、だって、ほんとのホントにあれ変なんだもん……
「高橋さんが選んだの?」
って聞いたら、ガラステーブルの向こうで口元を触りながら答えた。
「いや……親が」
- 461 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:05
- あの大雪の日からあっという間に時は過ぎ、今はーもう夏ー。
彼女は市内の大学に。絵里は三年に進級。
去年やった文化祭実行委員の誘いが来たけど、断った。
高橋さんが居なきゃ意味ないもん。
だから、受験勉強以外ならほんのちょっとだけ遊べる夏休み。
なんだけど、うちで勉強しなさいとかこの人……
家に行けるからってOKしちゃった絵里も絵里だけど……
半年の間、電話で会いたいって泣きついたことが一回。中間の時だったかな。
くだらない喧嘩(絵里が遅刻した)は三回くらい。
学校終わったらソッコー家帰って着替えて、チャリ乗って大学まで立ち漕ぎして迎えに
行って、会って、イチャイチャしたのが……
ぅへっへ、憶えてないっス。スンマッセーン。
あでも、でもね、ずっとくっついてただけですよ?
大学の講義室ってぇ、結構〜空いてるとこあるんだなぁ、
って変な予備知識が増えました。
「くっついて……あっ」
ぽんっと思い出した。
鞄の中にあるあれのこと。
「ねーねー、休憩しましょうよー。お菓子食べよー」
「休憩ぇー?」
小言を言われる前にと、すかさず鞄からそれを取り出して見せた。
赤い包みを人差し指と親指で摘まんで、高橋さんの目の前に。
- 462 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:05
- 「ほらほら」
「……ぅおっ!」
叫ぶにはちょっとの間があって、絵里はさっさとそのコーラ飴を口の中に入れる。
かろかろ、とあちこちの歯に当たる大きな飴玉。甘い。じわっと甘い。
「おいしーです神様っ」
「……また言うか」
冷たい反応の割に、高橋さんの顔はどんどん紅色に染まっていった。
ちゃんと憶えててくれたみたい。
そりゃーそうだ、かなりのディープインパクトだったもんね。
絵里だって、自分でやった癖に超びっくりしたもん。
びっくりしすぎて一周まわっちゃって、出たのは大爆笑だったけど。
そのうち高橋さん、そっぽ向いてううう、って犬みたいに唸り出した。
可愛い。
「もうちょっと小さくなるまで待ってね」
で、駄目押し。
したら今度は絶句なされました。
でもって、目だけぎょろっと絵里の方を見たんで、親指立てて極上の笑顔で
答えてあげました。
「ファーストキス、イズ……、コゥーラ・テェイスト!」
おぉっとと、
飴舐めながらにやけちゃって、ヨダレ出ちゃうとこだった。
- 463 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:06
- 「……欧米かっ!」
「遅ほいっ!」
ところで、大きい飴玉って溶けてくると喋りにくい。
新しい日本語になっちまうぜぃ!
「いやいや、いろいろ思い出して……あーそうやったな、みたいな」
「もう一年前だよほ。早いよねえ」
「ほんっと、なあ……」
おっ、ちょっと落ち着いてきたみたいです。
それとも、観念しました、ってことかな?
あー……でも嫌々やったら、嫌われちゃうかも……
「あ、えと、こほいうの本気で嫌なら、ゆって」
「うん? や、びっくりしただけ」
「ほんとに? ほんとれふか?」
「どうしたぁ、急に弱気になって」
「……」
「よいしょ」
なんか、なんかテンション下がってきて飴舐めるのも忘れてたら、
いつの間にか高橋さんが絵里の隣に来ていた。
でも振り向いたら顔がなくて、
「こっちこっち」
上向いたら顔があって、あ、良かった笑ってる。
肩借りるよ、ってそこに手を置かれた。
- 464 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:07
- キスをした。
うん、まあ、それなりに何度かしてるし。
飴あったって、どうしたら受け渡せるのか、そんなのももうドキドキしなくても
大丈夫。
……なんだけどっ!
絵里はいつの間にか押し倒され、口の中では飴ごと高橋さんの舌が暴れまくり、
甘い唾液が絶えず喉を通って、油断したら窒息しちゃうんじゃないかってくらい
苦しいような、いや苦しくないような、わ、なんかこの人どっか触り始めたんですけど!
Wait! 待て!
「ぷぁ、っ」
まるで水泳の息継ぎだ。
鼻呼吸忘れるとか、どこまでシチュエーション遡ってんだろ。
最悪。マジ最悪。
…………目、開けられない。
とりあえずは離れたみたい……だけど。
とにかく口の中の水分がえらいことになってて、喋ったらダラダラ〜ってなっちゃうので、
思い切って一気に飲み干した。
それからそろ〜っと目を開けてみた。
あ、良かった……顔あげて目逸らしてる。
「った、タイム」
「あごめん、苦ひかったか?」
「……まあまあ、です……」
「まあまあ……?」
ちょっと前まで向こうが真っ赤だったのに、今は絵里の方が凄いよ……
「あのぉ、飴とかどうでも良くなってません……?」
そしたらこの人。
初めて気付いたようにひゃっひゃと大袈裟に笑って、もうどうでも良くね? とか
しれっと言いやがりました。
なんだこのやろー
……先にカーテン閉めろ、ばか。
- 465 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:09
- 体がふっと軽くなった。
なんとなく今更だけど、両手で顔を覆ってしまう。
床に近い真っ赤な耳は、足音の次に、しゃっ、と勢いよくカーテン閉める音を聞いた。
「閉めたよ」
「……なんかまだ超明るくないですかぁ、オレンジだからー?」
「それのせいやないて、まだ三時やから」
そう、お昼です。
お昼の三時なんです。
おやつの時間のはずが食べられちゃう。
いや同性同士だから食べちゃうのか?
……ヤバイ、分かんない! だってもっとなんかまだ先の話だよなあって!
絵里正直イチャイチャで満足しまくりだった! ぬかった!
高橋さんは、そうじゃなかったんだ……
指の隙間から様子を窺うと、横たわった絵里の傍らに座り込んで窓の方を見てる高橋さん。
カーテンのオレンジ色が横顔を染めている。
「言われてみれば明るいし、この色……」
なんて言って目を細めて。
あー……なんか……
知ってる人の知らなかった表情見た感じ。
「……ねー、そこ暑くないですか?」
「暑いし、眩しいわぁ」
「じ、じゃあ、避難避難」
ところで絵里はなんでこんな必死になって、高橋さんの腕掴んでるんだろう?
「いいの?」
「い、……いいです」
でも、この部屋で日陰の場所って……
- 466 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:09
- ……結局、角にあったベッドの上しかなくて。
二人して上に乗っかって腰を下ろして。
なんとなくまた高橋さんの腕掴んで。
そしたら、指を手繰り寄せて絡めてくれた。
「飴」
「ん?」
「まだ残ってんの?」
「もうとっくに無いです」
「アッハ、そらそうやろ、あたしさっき貰ったもん」
「あれっ? いつの間に……」
「だいぶ小さくなってた」
「……舐め過ぎなんだよ」
ていうか、わざと聞いたなこの人。
「甘ぇ〜、懐かしい味」
「……ふーん」
「あんたさ、あれのためだけにこれ持ってきたんか?」
「たまたま見つけたから買ったんですけどぉ、
もう一回、あれがやりたかったのはー……本当だったりして」
「……引っ掛けたな?」
「引っ掛かったなー?」
ほんと二人とも、よく憶えてるもんですよね。
- 467 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:10
- 「……あのさー」
「なんでしょう」
「ちっちぇー頃にさ、福井で、遊園地行ったのね」
いきなりなんだ、とも思ったけど、私は驚いた。
高橋さんが、昔話をしようとしている。
福井に住んでいた頃の話を。
ずっと前に聞いたことがあったんだけど、あまりいい思い出がないって言われて、
それっきりだったから。
だから、黙って聞いた。
- 468 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:10
-
- 469 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:11
- 昔はそこしか遊園地なかったから毎年行ってたんやけど、
でっかい、なんやったっけ、猫かな?
なんか動物の形したビニール製の遊具があってさ。
ほんとでっけーの、メリーゴーランドくらい? 大きくて高さもあって、
全体的にオレンジ色でさ、ぺろってめくれる入口がついてて、
中に入るとドーム型のトランポリンだったの。
浮き輪みたいな素材の床の下に空気が入ってるから、
そこでポンポン飛び跳ねて遊ぶんよ。
エアートランポリンっつーの。そんまんまやよね。
妹がそれすんごい好きやって、でも一人じゃ寂しいさけ、
ねーちゃん一緒に入ろうっていっつも付き合って中入って。
やけど、ねーちゃん実はそれが嫌いやったんやわ。
妹も他の子も喜んでポンポン跳ねっから、絶対じっとしとれんが。
あとな、こう壁になっとるとこに何個か透明なビニールが貼ってあるとこあって、
そこから、誰の親か知らんけど外にいる誰かが中を覗いとって。
絶対一人はいるんよ、で、ずーっとニヤニヤしとる。
それも気持ち悪かった。
「子供が楽しそうなの見て、喜んでる親じゃないですか?」
「うん、そう、今ならわかるよ」
- 470 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:12
- 一番あかんかったのは、見えるもんほとんどがオレンジがかってたとこで。
外側の色が太陽の光で透けとったから。ほれ、あのカーテンみてえにさ。
髪の毛はそれほどでもないんやけど、顔とか腕とかが〜。
あれはねえ、なんつーか、みんな宇宙人みたいや! と思たわ。
ひたすら飛び跳ねとるし。
キャーキャー騒いどるし。
あとたまに、その……オエッてやっちゃう子供もいたりして。
んでえ、入口開いてなきゃ密室、空気も籠もっとるやろ?
そのうち具合悪くなって先に出るんやけど、したら妹泣くんよ。
で親が、一人だけ先に出んなって怒るんよ。
具合悪くて泣きそうなんあたしの方やのに、結局また中に入って妹連れ戻して……
「……あのー、若干、長いですね」
「もうちょいやから」
「あ、そうですか、どうぞ」
- 471 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:12
- 福井からこっちに越してきて、足りないもん買ってくるっつって出てった親が
買ってきたのが、あれ。
あのカーテン。
あんたも妹もオレンジ好きやったやろって、遊園地のこと話しながら渡してきたの。
何もわかってなかったんやな。
あたしも我慢しとったけ、悪いんやけどさ。
それに今は、昼じゃなきゃカーテン締め切っても気分悪くなったりせんから。
それでずっと、このままなんやよね。
- 472 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:13
-
- 473 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:13
- ……なんとも、リアクションしにくい話でした。
話したくない、って言ってた理由がよくわかりました。
最初に絵里が、カーテン変だって言ったから……だよなあ……
うわ、なんか責任感じちゃうじゃないですか。
てか今気づいたけど、これってつまり、やっぱり昼間からはやめようって
遠まわしに言ってるっぽい?
「あの、もしかして、今実は結構気分悪くなってません?」
「……あー、ちょいとだけ……もう治ったと思っとったんやけどなあ」
うお、ビンゴじゃないかぁ!
なんだ、それならもっと早く言っ
「あとひって緊張しとるさけ、そのせいかの」
たああああ!?
ハハ、その気はその気だったんですかのー……
ヤバイ、言葉伝染った。
「うあ〜ぁ」
なんて叫びながら、体勢変えて体育座りになっちゃった高橋さんに
危険を感じて、絵里は急いでベッドから飛び降りてカーテンを開けた。
この窓から見えるのは、お隣さんちの庭とお隣さんちの壁、
あと午後三時の太陽。思いっきり西向きの部屋。
雲なんてひとっつもない真夏日。
来る時もこんな天気だった、そういえば。
汗だくでタオル借りたんだ、そういえば。
洗いたてでいいにおいだったなあ……
- 474 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:15
- 「……えり〜?」
後で気づいたけど、この時の高橋さん、物凄い甘えたな声だった。
「あ、うん」
ハッとして、またベッドまで引き返す。
今度は上じゃなくて床に膝をついて、高橋さんと向かい合った。
体育座りで曲げていた足に手をかけて、
「縮こまってたらだめー」
って言いながらその足を引っ張って、伸ばした。
伸びきった両足は絵里を間に挟んでV字に広がった。
そしたら、
「ほりゃっ」
「ぅお」
ぼん、って感じの衝撃とともに、高橋さんの両足による蟹ばさみを食らって、
ちょっと胸のサイズがこう、トップが前に押し出されて、おっきくなっちゃった!
っていう。
まあ一瞬でしたけどね。
「うひゃひゃひゃひゃ」
「もー子供みたいなことするー。具合悪いって嘘ついた?」
「ううん、嘘やないよ。カーテン開けてくれたけ、もう平気やざ」
「すんごい訛ってる」
「思い出話すっと昔に戻んのよ」
「よっくわかりました」
- 475 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:16
- とそんなやり取りの間にちょっとした違和感を感じて、
背中に手をまわしてみたら、……あ、やっぱりだ。
ホックがひとつ外れてる。
「外れたぁ、今ので!」
「ナニが」
「ブラのホック」
「……」
え、ちょ、ちょいと。
そこで黙んないでほしかった。
「いやいやマジマジ、ほんと超真面目に現実にリアルに、は外れたんです! って」
「お、おう、わかった了解」
了解とか言って、顔真っ赤にして目を逸らされるとちょっと。
絵里もあっという間に汗噴き出てきましたけども! ハイ!
かなりヤバイ空気になりつつも、何とかかんとかホックをかけ直すことができた。
すっかり慌ててしまって、いつもの倍くらい時間かかった気がする。
- 476 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:17
- 「はー、やっとなおったー」
「お疲れー」
だらりと両腕を垂らし、ふう、と一息入れる。
では、気を取り直しましてぇ。
「今日はもう、勉強だけにします」
「ほやほや、それが一番」
「先に仕掛けてきたのはそっちだけどね」
「あれは挑発されたって言うの」
「知らなーい。
あ、そうだ。もうすぐ誕生日だから、絵里がカーテン買ってあげるよ」
「へっ」
「レースはいいよね、そのオレンジのを買い替えちゃおう」
さっきの話がいい思い出じゃないのは、聞いててわかったもん。
また今度思い出しちゃうかもしれないし、そしたらそれを上書きするように、
絵里のプレゼントのことを思い出せば、も、超完璧!
- 477 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:18
- 「とか思ったんですけど、ちょっくら重いですか?」
「あーどうやろ、このレールどんくらいまで重さ耐えられんのやろね」
「いやいやいやははは、それ違う。その重いじゃないですよ」
「はぇ、あ、ああ!」
「絵里の気持ちはぁ、カーテンくらいだと重い感じ、します?」
「……まっさかぁ」
あ、良かったイヒッて顔した。
ぅへへっ、嬉しいです。
なんか早速想像しちゃいましたよ。二人で一緒にカーテン選んでるとこ。
あーだこーだ言っちゃったりして。
高橋さん、悩みだすと長いから、たぶん軽く三十分はかかる。
途中でレースの方も選び出しちゃって、そこは絵里が止める。
あるでしょ、って。
汚れてるなら洗って真っ白にしようよ、って。
最終的には「もー絵里決めて!」ってなるよ!
これは自信がある!
その時には、ソッコーで赤いの選んじゃう予定。
もちろん、真っ赤じゃなくて落ち着いた感じの、うるさくない色に。
理由を聞かれたら、こう答える予定。
なんかもう、白くて赤いんです。
絵里たちは。
- 478 名前: 投稿日:2007/09/14(金) 00:18
- >>459-477 ORANGE CURTAIN
- 479 名前:ハルヒ 投稿日:2007/09/14(金) 00:19
- 愛誕更新ということで、去年の誕生日に書いたものの続きを書いてみました。
前の話は、
>>280-322 WHITE CARPET
>>332-360 RED CANDY
の二つです。
>>456 名無飼育様
動物の変な声でえろい想像は、さすがにできません!
一枚上手ですね。負けました……
>>457 名無し飼育様
「最後の元ネタ」はシャ乱Qのことかなって一瞬思ったけど、
おそらく愛ガキの添い寝のことですよね。子供なガキさんキャワ
タヌちゃんはブラックな役が良く似合います。
>>458 名無飼育様
書いてて楽しいので、機会があればまた挑戦してみたいと
思っています。
そんで数時間前に知ったのですが、
ノノ*^ー^)<カーテンの色はMAPLEもいいなあ
川;’ー’)<今の色と変わらんやん!
- 480 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/24(月) 00:20
- 昨日・今日のコンサートで高橋さんと亀井さんが
肩組んだり目あわせたりしてるのに盛り上がって
ひさしぶりにハルヒさんちを覗いてみたら
ものすごくうれしい更新がされていました。
萌えすぎて吐き気がします、ありがとうございました。
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