恋するために生まれてきたの

1 名前:桜折 投稿日:2004/12/05(日) 23:18
痛いタイトルですが、恋愛モノってことで。
いしよしで短編、時に中編です。
某グループさんのお歌とか某マンガとかはカンケーありません。
森板で書いていたものの続編が時々出てくるかもしれません。
興味を持って下さった方はコチラをどうぞ。

http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/wood/1088430360/l50

感想とかリクとか頂けると嬉しいです。
更新はマイペースを信条に(w

2 名前:桜折 投稿日:2004/12/05(日) 23:20



『抱きしめたい』




3 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:21

それは、撮影の途中だった。
急に降りだした雨。
南国のスコールみたいにどんどん勢いを増して降りしきるそれに
メンバーたちはきゃーきゃー言って、三々五々逃げ出して行く。
矢口さんはまっさきに悲鳴を上げて、ロケバスに向かってまっしぐら。
高橋はうぁぁぁってあらぬ声を上げて矢口さんに続こうとして、
途中でガキさんにこっち!!って腕を引っ張られて
近くの木の下へ逃げ込んだ。
みんな蜘蛛の子を散らすように、混乱しながらも
思い思いの方向へ逃げていく。
あたしは。
手近にある倉庫みたいな建物の軒下に逃げ込もうとして…
逃げてくみんなをぼんやりと見て立ち尽くす、石川を見つけた。
「おい」
あたしの声に、はっとして顔を上げる石川。
その手を引いて、軒下へ逃げ込んだ。
ざあざあと音を立てて、雨が降りしきる。
あたしたちが駆け込んだ建物はしっかりしてて。
軒下には十分なスペースがあって。
だけど、そこには誰も逃げ込んでは来なくって。
雨で作った即席の密室に、あたしたちは閉じ込められてしまった。

4 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:22

「何、ぼーっとしてんの。風邪ひくよ」
手持ち無沙汰に言ったあたしに、石川はあたしを見上げて。
笑う。
花が綻ぶように。
見慣れていた筈のそれが、急に懐かしく思えて。
そういえば最近のあたしたちにはこんな近くで微笑みあうなんてこと
なかったな、と思い返す。
別に関係が険悪とかじゃなくって。
普通に隣りで笑いあうけど、それはメンバーたちの中にいてで。
こうやって。
静かな場所で、二人きりなんて。
もう、ずっとなかったことだった。
石川の着るシャツはびしょびしょに濡れて、かつてよくあたしがからかった
地黒い肌や濃いピンクの水着みたいなキャミソールを透かせて。
でも、石川はそんなことを全く気にせずに
「えへへ」
ってシャツをつまんで、屈託なく笑った。
その笑顔が、可愛い、と思った。
ずっと、ずっと、見てたいと思った。

5 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:23

こんなこと思うのは初めてのような、だけど、意識して隠していただけで。
それはずっと、あたしの中にあったような。
不思議な感覚。
それを振り払うように、あたしは自分の着ていたジーンズ地のジャケットを
脱ぐと石川に羽織らせる。
「ほら、喉とか痛め易いんだろ。温かくしてな」
けれど石川に着せ掛けたところで、そのジャケットもまたずぶ濡れで
濃く鮮やかな青に染め上がっていることに気付いて。
彼女の肩に手をに置いたまま、動きが止まってしまう。


強く抱きしめたい。


急に、そんな感情があたしの胸に溢れ出す。
雨に濡れた布から滲む、石川の体温が熱くて。
その華奢な肩が、儚げで。
雨粒を散らして、黒髪がきらきら光って。
あたしは無言で石川を見つめた。

6 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:25

沈黙に、雨が降りしきる。
その向こうからは、きゃーきゃー騒ぐメンバーたちの声や
機材を運ぶ焦ったスタッフたちの声が漏れ聞こえて。
だけど、完全に、その世界からここは分断されていて。
今、ここはあたしたちだけしか存在しない世界で。
あたしの腕が、震えてる。
寒さじゃなくって。
きっと、勇気を奮い起こすための武者震い。
あとちょっと。
あとちょっとで…というところで。
その腕に、石川の手がそっと触れて。
あたしははっとして手を離す。
「ありがと、よっちゃん」
石川は、変わらず笑顔で。
それが悔しくて、あたしはそっぽを向く。
「美勇伝とかさ、色々あるじゃん。そっちはさ」
そんな言い訳みたいなことを口にして、空を見上げる。
だけど思いは石川の健康なんて微塵も孕んでなくて。
雨よ、どうか降り続いて。
そう願ってた。
石川と、ずっと、こうしていたいから…。



7 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:26



「さゆ、ちゃんと逃げられたかな」
石川の声で、あたしの思考が舞い戻る。
「ほら、あの子ぼんやりしてるから」
自分のことを棚にあげてそんなことを言う。
「ぼんやりって言えば、亀ちゃんもよね。濡れてないかな」
雨の向こうを凝視して、そんなことも言う。
「真琴は大丈夫よね。ぼんやりしてるよーに見えて、案外しっかりしてるもん」
そんな彼女を横目で盗み見て。
あたしたちは、たった4年間でなんて遠いところまで来てしまったんだろう。
そう思った。
加入したばっかりの頃の石川は、本当に何も出来ない奴で。
空回りしてはぴーぴー泣いてた。
そんなコイツを……あたしは、疎ましく思うようなそぶりで…
気にしてた。
気付くと、いつも隣りにいて。
彼女の涙を拭くのも、励ますのも、手を引くのも、あたしの役目だった。
そんな石川が、今は後輩の心配をするお姉さん。
それはちょっぴり嬉しくもあり…いや、正直にいえば全然嬉しいことなんて
なくて……寂しくて、腹立たしいことだった。

8 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:28

一人前の振りなんてしちゃって。
だけど、さっきだってあたしが手を引いてやってなければ
まだこの雨の中、立ち尽くしてたかもしれない石川は
あたしの中ではまだまだ手の焼ける女の子で。
ちょっと眉を顰めて、困った顔をしてあたしを見上げる
あの頃の石川梨華ちゃんのまま。
だけど
「美貴ちゃんも、ああ見えて抜けてるとこあるから。大丈夫かしら」
そんなあたしの気も知らないで、石川はまだお姉さん面で
そんなことを口にする。
あたしの方なんて全然見ようともしないで、雨の向こうばかり見つめてる。
……ちょっとは、こっち見てよ。
その横顔はやはり、あの頃とは比べものにならないくらいに大人びていて。
あたしたちが遠くまで来てしまったことを、実感させた。

9 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:29

綺麗だな、とその横顔を見つめて思う。


傍にずっといたい。


今更にそんなことを思っても、石川の卒業まで半年しかなくて。
そんな自分に笑ってしまう。
なんで今になってこんなことに気付いてしまうんだろう。
嫌になっちゃうな。


君の傍にずっといたい。明日も明後日も。


それはごく当たり前の感情として鈍感なあたしは受け入れてきたけど。
今になって、終わりが見えた今になって、やっとそれが特別な思いで
あることに気付く。
4年も一緒にいたのにさ。
なんで、今頃になって……。
こうして石川とずっといたいから。
雨よ、どうか降り続いて……なんて。
そんなことを祈っちゃってる自分に、ほとほと愛想を尽かしてしまう。
10 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:31

いっそ抱きしめてしまおうか。
ずっと傍にいたいと言ってしまおうか。
今、ここで。

石川が、こっちを向いて、また笑う。
「ね、止まないねぇ、雨」

石川。
止まない雨なんてないんだよ。
終わらない一日が、暮れない年が、やってこない春がないようにね。
……だから。
お願い。
雨よ、どうか降り続いて。
あたしの決心がつくまでは。
それまでは………。


あたしは、空を見上げる石川の横顔を見つめ、そう願った。

11 名前:抱きしめたい 投稿日:2004/12/05(日) 23:31



〜Fin



12 名前:プリン 投稿日:2004/12/06(月) 20:06
更新お疲れ様です♪
ついてきちゃいましたw(ジャマ
今回もいしよしという事でw
すんげー期待っす。
次回の更新待ってまーす!マイペースに頑張ってくださいw
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/06(月) 21:49
新スレおめ&更新乙です。森より追っかけて参りました。
超亀レスですが『寝ても覚めても』と『Baby you're mine』の
よっすぃのキャラのギャップにやられました。あの連投はズルイw
今後も作者さんのいしよしに期待しまくりです。雨よ降り続けー
14 名前:桜折 投稿日:2004/12/11(土) 23:13
>プリン様

ついてきてくれて嬉しいれすよ〜。
邪魔だなんてそんな(w
いしよしです。
しつこいくらいいしよしです。


>13様

追っかけてきてくれて嬉しいやよ〜。
お褒めの言葉、恐れ入ります(照
ズルイですか?
これからもズルくあざとくを目標に(…)
頑張ってみたいです。


今回はオチはすごく悩んだんですが、こーゆー形に…。
次の更新はこれを振りきるくらい甘々にしたいと希望的観測。

15 名前:桜折 投稿日:2004/12/11(土) 23:13



『世界の果てのような、教室の片隅で。』



16 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:14

「よっちゃん、まだ帰らなくていいの?」
「石川こそ、帰らないのかよ」
「…まいちゃんたち、待ってるんじゃないの?」
「…柴ちゃんはどーなんだよ」


私たちはさっきからずっとこんな会話を繰り返してる。
教室。
すでに茜色に染まって。
そこはどこか頼りなげで悲しい印象。
床には二つの花束と、二つの鞄と、二つの卒業証書。
私たちは今日、ここを旅立つ。


「私は、もうちょっとここにいたいの」
「…あたしも、ここにいたいだけだから」
「ふうん」
「なんだよ」
「なんでもないよ」
「…」

17 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:15

式とか、全部終わって。
三々五々学校から出て行く卒業生の波から外れて教室に戻ってきたら
少し遅れて、よっちゃんがやってきた。
何も言わず、床に座って窓の外を見上げる私の隣りに座るのが
とても自然な仕草だったので、私たちはそのまま無言のままで
1時間以上ただ空を見上げていた。
空はゆっくりと、青から茜に、そして紫紺へと移ろいで行く。


「石川さぁ…」
「なあに?」
「…」
「なによぉ」
「…なんでもない」
「なぁに、おかしなよっちゃん」


中高一貫のこの女子校で、私とよっちゃんは中3から4年間
同じクラスだった。
クラスが違った時は全然接点のない子で、タイプも友達も違ったから
きっと仲良くなることなんてないと思ってた。
だけど、何がきっかけだったか覚えてないけど
私たちは中3で同じクラスになって、すごく仲良くなった。

18 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:16

「ねえねえ」
「…ん?」
「私たちってさ、なんで仲良くなったんだっけ?」
「あたしたちって仲良かったっけ?」
「あー、またそんな意地悪言う〜」
「はは」


本当に、すごく、仲が良かった。
あの頃。
何をするにも一緒だった。
まあ、よっちゃんに言わせると石川が自分にくっついてまわってた
だけだってことだけど。


「ねー、なんでだっけ?」
「覚えてないの?」
「うん。よっちゃん、覚えてる?」
「…ほんとに覚えてない?」
「……うん」
「………教えてあげない」

19 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:17

だけど、高2くらいから、段々離れていった。
もともとタイプが全然違うから。
自然に別のグループの子たちと仲良くなっていって…。


「意地悪。バカ」
「どっちがだよ」
「え?」
「…なんでもねーよ」


こんな軽口も、きかなくなってどれくらいになるだろう。
ふと、私たちがぎくしゃくし始めた頃のことを思い出す。





20 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:17

きっかけは、本当に些細なこと。
でも、今でも鮮明に覚えてる。
よっちゃんが、ふざけてキスしたんだ。
私に。
その頃、クラスでふざけてキスし合うのが流行ってて
私も他の子にしたりしたし、よっちゃんも色んな子としてた。
本当に、軽くちゅって。
smack!ってカンジの。
だけど。
私は、意識的によっちゃんとのキスは避けてた。
なんか、嫌だった。
嫌じゃないんだけど……なんとなく、避けてた。
だけどその日、よっちゃんはがしって私の顔を押さえて。
もがく私にキスをした。
本当に、触れたか触れないかのカンジで。
そこまでは、普通の光景だったんだけど。

21 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:18

唇を離して、至近距離で見たよっちゃんの顔はなんだかいつもと
違って見えて。
私の知らない、大人の顔で。
どきどきしたんだ。
どーしよう。
目線を逸らして。顔が上気してくる。止められない。
ここで、何か軽口の一つも叩かなきゃ…何か、戻れない気がする。
もう、戻れなくなる気がする。
私の本能みたいなものが、そう語りかけてきて。
私は慌てて何かを言おうと息を吸い…。
だけど。
何も言えなくて。
頭が真っ白で。
もう一度、戻した視線はまだ息のかかる程の距離から微動だにしない
よっちゃんとぶつかって。
その、大きな目にじっと見止められて。
動けなくなって。
そして。

22 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:19

暫くの沈黙の後。
気づくと、私はそこから逃げ出してた。
どきどきが止まらなくて。
怖かった。
心臓の音をよっちゃんに聞かれたら、生きてけないと思った。
よっちゃんが、好き。
本当は、ずっと解かってた自分の思い。
でも、解からない振りをしてた。
ずっと。
だけど解かってしまった後は。
怖くて。
よっちゃんに、この思いを知られるのが、怖くて。
少しだけ距離を置いた。
あの日から。
それはどんどん深い溝になっていき……私たちは以前のような関係では
いられなくなった。



23 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:20


あの時、もっと素直になっていれば。
何か変わっていたのかな。
そう思うけど。
もう、それは戻れない過去の話で。
今はもう、切なくも美しい青春の1ページになっている。
よっちゃん。
きっと、卒業しても、大人になっても、ずっと好きだよ。
絶対、忘れない。
この想い。
永遠に。



24 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:21

校門前。
もう、在校生もいない閑散とした学校。
右と左に分かれていく私たち。
最後くらい、素直になろうと思った。


「よっちゃん!!」


歩きだしたよっちゃんの背に、私は精一杯の声で叫ぶ。


「好き!!!」


薄暗い向こう側へ、この声が届くように。

25 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:22

「……あたしも」


闇に紛れて見えない、よっちゃんの表情。


「あたしも、石川が好き」


だけど、その闇を薙ぐようにして。
よっちゃんの強い声が私の元に届く。


「ずっと、ずっと好きだった!!」


なんだ。
よっちゃん、私たちって両思いだったんだね。
なーんだ。
バカだったね、私たち。
損しちゃったよ。悩んだり、くよくよしたり。

26 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:23

だけど。
過ぎてしまった時間は取り戻すことは出来なくて。
もう、進む道は別たれていて。
どうすることも出来ない。
ただ、離れる瞬間のこの時。
一瞬だけ繋がった、この想い。
それを胸に。
私たちは、このまま別々の道を進んでいく。
きっともう、並ぶことは出来ないの。


「ありがと、よっちゃん」


涙をこらえて、言う。
うん……。
掠れたよっちゃんの声が切れ切れに届く。


「ありがと、よっちゃん」

27 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:25

そして、私たちは別々の道を進み始めた。
バイバイ、よっちゃん。
きっと、いつまでもいつまでも、ずっと好きだよ。
絶対、忘れない。
この想い。
永遠に。




28 名前:『世界の果てのような、教室の片隅で。』 投稿日:2004/12/11(土) 23:26




〜Fin




29 名前:プリン 投稿日:2004/12/12(日) 11:59
更新お疲れ様です♪

…えーん・゚・(ノД`)・゚・。
なんだか泣けたよぅ・゚・(ノД`)・゚・。
オチが素晴らしくよかったですよぅw
次回作はかなりの甘々希望って感じっすw
次回の更新待ってまーす。
30 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2004/12/12(日) 12:24
森版からひっついてまいりました。
もう、なんていうか、ため息の連続です。
次回更新楽しみにまってます。
31 名前:桜折 投稿日:2004/12/18(土) 18:05

>プリン様

そー言って貰えると嬉しいですよぅ・゚・(ノД`)・゚・
コレはタイトルとオチから出来上がったんですが
書いてる途中に脱線して、実は没にしたオチverがあったりしまして(w
そっちかこっちか悩んだ挙句、タイトル的にこっちの方かな、と。
こっちにして良かった…(ほ


>孤独なカウボーイ様

孤独なんですか?(w
一緒にお引越しありあとーです。
今回のはため息よりもほんわかで満たされて頂けると嬉しいです。



甘々いしいよし。
読んでくれた方がほんわかしてくれると嬉しいな、と。
32 名前:桜折 投稿日:2004/12/18(土) 18:06




『でーと日和』




33 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:07

こてん、と肩に圧し掛かる重みを感じて横を見ると……
そこには、案の定、熟睡中の梨華ちゃんの顔があった。
本当は怒るべきところなのに、なんだか温かい気分になってしまうのは
なんでだろう。
暗闇の中。
スクリーンに変化がある度にそれにあわせて変動する微かな光。
それに照らされた梨華ちゃんの寝顔は、もう見慣れた筈なのに、可愛くて。
目が離せなかった。


本当に久しぶりのデートだった。
「どこに行きたい?」
と聞いたあたしに、梨華ちゃんは
「どこでもいいよ」
と笑った。
だからあたしは遊園地とか海とか山とか色々と、本当に色々と考えた。
梨華ちゃんの為に。
梨華ちゃんの喜ぶ顔を見て幸せになる自分の為に。

34 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:08

その無防備な表情を見ながら、起きてしまわないようにそっとその手から
キャラメル・ポップコーンのカップを取り上げる。
右の腕に当たって窮屈そうにしているので
座席に付いてるコップ置きから、コーラの入った紙コップも取ってやる。



その寝顔を見ているうちに、もしかしたら梨華ちゃんはこの映画なんて
全然興味なかったんじゃないかと思い始めた。
もしかしたら。
続編のこの映画、最初の話を見てもいないのかもしれない。


「この映画、好きだったんだよねー。続編やるんだ。見たいなー」


もしかしたら。
あたしのその一言の為に、あたしの喜ぶ顔を見たいが為に
興味もない映画に、連れてきてくれたのかな?
そう思うと、笑みが零れるのを止められなかった。

35 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:08

色々悩んで、一日分のプランをまとめて、昨日の楽屋で報告したら
だけど梨華ちゃんは困ったように微笑んで。


「ね、もしよっすぃーが駄目じゃなかったら、映画に行かない?」


その一言で、あたしは昨日徹夜でデートプランを練り直した。
深夜に携帯で指定席を予約しておいて、朝一コンビニで引き換えて。
そのまま梨華ちゃんちに迎えに行って、叩き起こした。
近くのカフェでまだ眠たげな梨華ちゃんにラテを飲ませて目覚めさせ。
場内が暗くなるのを見計らって、目立たないよーに映画館に入った。
すっかり暗転した場内を、手を繋いで歩くのがなんだか嬉しくて。
席についても手を離さなかったら
「よっすぃー、座れない」って笑いながら言われちゃった。
この後の予定だって、お買い物で梨華ちゃんが行きたそーなトコも
ピックアップしてあるし。
夕飯は個室のある洒落たレストランを予約してある。
我ながら、一夜漬けとは思えない完璧さ。
だけど。

36 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:09

梨華ちゃんは、あたしの肩に頭を乗せてスースーと眠ってる。
その無防備な様に、あたしの興味はとっくに映画からそっちに向けられていて。
顔に掛かった髪をどけてやると、んー…と微かな声を出して頬を
あたしの肩に押し付けた。


きっと、疲れてるんだよね。
私よりずっとずっと忙しい、今の梨華ちゃん。
やっと巡ってきた1日きりの休みを、あたしの為に使ってくれてる。
そう思うだけで、胸が一杯で。
満ち足りた気分になる。
レストランは、キャンセルかな。
あーあ。
昨日、寝ずに考えたのに、またプラン変更か。
だけど、それはちっとも苦にならない。
だって、プランを練っている間もすごく楽しいから。
映画が終わったら。
タクシーを捕まえて、梨華ちゃんちへ帰ろう。
それで、ゆっくり休ませてあげよう。
あたしがなんか夕飯を作るのなんてどーかな?
……まあ、十中八九オチは見えてますが。
だけど、ほら、愛があればlove is…じゃなかった、
It’s all light!!
なんとかなるんじゃないかな。

37 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:10

それで駄目ならピザでも取ればいいし。
そうやって、ゆっくりまったりするデートも、いいかもしんない。
だって、ほら。
こんな可愛い梨華ちゃんの寝顔だって鑑賞できたし。
あと1時間は多分、見放題だし。
そしてまた、笑みが零れる。
ああ、プランを練るのも楽しいな。
梨華ちゃんが笑顔になるのを思い浮かべる。


「うわー、よっちゃん、おいしそうなの作ったね」


まあ、妄想でしかないけど。
それを思い浮かべて幸せになれるんだから自分も安いもんだ。
外は晴れてたのになあ。


「今日は、デート日和だねっ」

38 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:11

朝。
外に出てすぐ、空を見上げて微笑んだ梨華ちゃんの言葉。
そう、今日はでーと日和だよ。
でもね。
でーと日和はこの先いくらだってあるんだから。
今日は、あたしと大人しく帰って、今日しか出来ないデートをしよう?
薄暗い映画館の中。
周りの人はみんな一心に画面を見上げてる。
だからあたしはこっそりと、隣りで眠る恋人の唇に自分の唇を重ねた。




39 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:12

今日はでーと日和。
だけど、梨華ちゃんとならば、いつでもそれはでーと日和。






40 名前:でーと日和 投稿日:2004/12/18(土) 18:12



〜Fin




41 名前:プリン 投稿日:2004/12/19(日) 18:44
更新お疲れ様です♪
ほんわかしましたよぉ(*´Д`)
やっぱ甘々だw(何
次回の更新も待ってまーすっ。
42 名前:桜折 投稿日:2004/12/19(日) 20:19

>プリン様

ほんわかして頂けましたかぁ。良かったです。

 ^▽^)< ハッピー ♪


昨日のが短かったので。
本日も更新。
こないだ見た映画の雰囲気が気に入って、いしよしをそんな風に書きました。
なんだか内容あるんだかないんだかになっちゃいましたが。
そしてやぐっつぁん視点なのにやぐっつぁんが全く活躍しないといふ…。


43 名前:桜折 投稿日:2004/12/19(日) 20:20




『微笑む君』




44 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:21

ある秋晴れの日。
矢口の隣りの部屋に、よっすぃーが越してきた。
爽やかな笑顔の綺麗な子だったけど。
そんなことに気づいたのはもっとずっと後のことで。
その時はただ変わった子だな、とだけ思ってた。
アンドロイドを連れて、引越しの挨拶になんてやってきたから。
「ほら、梨華ちゃんも」
一通りの挨拶を終えるとそう言って、斜め後ろに控えていた
アンドロイドの手を引いた。
「一緒に住んでるんです。ちょっとネガ入ってて大人しいんですけど
仲良くしてやってください」
梨華ちゃん、と呼ばれたアンドロイドは、にっこりと器用に微笑み
ぎこちない仕草でお辞儀をした。
別に今の時代、アンドロイドなんて全然珍しくないし。
むしろそのアンドロイドは旧式で。
矢口の実家にいるNA―0001Mの方が数段イケてたし。
その点では目を引いた、と言ってもいい。
あと、容姿。
ぎこちなく歩くそれは機械的でも。
花が咲き溢れるように笑みを溢すその顔は美しかった。
よっすぃーが感情移入してしまうのも仕方ないことなのかもしれない、
と思った。

45 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:21

しかし。
「じゃあ、これで。…梨華ちゃん」
その手を引いて、幸せそうにアンドロイドに微笑む様は
どう見ても生身の人間…それも恋人に向けるまなざしのようで。
そればかりが、よっすぃーの第一印象として矢口の中に残った。




しかし、だからと言って。
よっすぃーがおかしな奴という訳ではなく。
道で会えばきちんと挨拶をしたし。
近所付き合いも悪くないよーで、他の階のうるさがたと
愛想良く立ち話をしているのを見掛けることもあった。
しかし、だからこそ。
あのアンドロイドといる時のよっすぃーの様子は際立って
矢口の目を引いた。

46 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:22

朝。
ごみ捨てから戻ってくると、隣りの部屋のドアが開いて。
出てきたアンドロイドが矢口を感知して、いつかのようににっこりと微笑んだ。
つられて、矢口もへらへらと笑ってしまう。
アンドロイドの笑みは、そんな不思議な力があった。
「いいよ、梨華ちゃん。あたしが…」
ぎこちなく歩くその背を見送っていると、よっすぃーがそう言って
ドアを開けた。
「朝からお熱いね」
「そ、そんなことないですよ…」
冗談で言ったのに、頬を染めて返すよっすぃーを矢口はしばし見つめた。
「やだなぁ。からかわないで下さいよ」
ますます顔を赤くして言うよっすぃー。
「あ、すみません。朝から。うるさくないですか?」
多分、彼女は部屋から漏れ聞こえてくる音楽のことを言っているのだろう。
よっすぃーの部屋からはよくオペラが聞こえた。
「いいよ、別に。嫌いじゃないし。マリア・カラス?」
よく知りもしないで適当に口にした言葉に、しかしよっすぃーは
苦笑しながら答える。

47 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:23

「さあ…知らないんですよ。あたしの趣味じゃないし。
梨華ちゃんが掛けろ掛けろってせがむもので」
矢口は最初、意味がよくわからなかった。
アンドロイドが音楽を嗜む?
オペラを?
しかもそれを持ち主に要求する…?
有り得ない。
だけど、それだけで終わる筈もなく。




「梨華ちゃんが、この服が似合うって言うんですけど。
正直趣味じゃないんですよね。矢口さんどー思います?」


「あ、矢口さん。梨華ちゃん見ませんでした?
散歩に出るって言ってもう1時間なんですよ〜。どこほっつき歩いてるんだか」


「ありがとーございます。おいしそうな林檎ですね。
梨華ちゃん、好きなんですよ。さっそく帰って二人で食べます」

48 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:23

狂っている。
それが、矢口が最終的に出した答えだった。
よっすぃーは本気でアンドロイドに恋しているのか。
もしくはアンドロイドを人間と思いこんでいるのか。
いずれにしても尋常ではなかった。
夕暮れの公園で。
ベンチに座ってアンドロイドを抱き寄せるよっすぃー。
その耳元に口を寄せて。
何かを囁き、笑みを溢す。
けれどアンドロイドは、いつもと変わらぬ美しい笑みを浮かべ。
どこか虚ろな表情のまま静止していた。
狂っている。
儚くも美しく、そして壊れかけた風景。
それが、矢口を悲しい気分にさせた。



49 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:24

雨だった。
朝からしとしとと降りやまず。
それは初冬の寒さに拍車を掛けて。
矢口はその日予定を変更して、ずっと部屋にいた。
隣りの部屋からは途切れ途切れに聞こえてくるオペラ。
その合間から、何か怒声のようなものが聞こえて。
矢口はだらしなく、ヒーターの前、床に寝そべっていた身を起こす。
それは、しばらく聞いているうちによっすぃーのものであることが解かった。
「…え……ちょ………聞いて……」
美しいソプラノの間から聞こえるそれは、低く。
「ね………りか………っ…」
ガタンっ
大きな音がして。
安普請の壁がぐらっと揺れた。
さすがに心配になって、矢口は立ち上がると廊下に出た。
「……うぅ………うっ…」
それは、外でも確かに聞き取れて。
「梨華……梨華……」
嗚咽の合間に、よっすぃーの声が虚しく呼んでいた。
「梨華……梨華……どこへ行ったの?」
悲痛な声に、矢口はよっすぃーの部屋の前、動けずにいた。
「行かないで。離さないよ。梨華!!」
そのまま、結局矢口は自分の部屋に引き返した。

50 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:24

多分。
よっすぃーは失った恋人をアンドロイドに重ねているんだ。
矢口は床に身を横たえて、耳をふさいでも聞こえてくるその泣き声に
切なくなりながらそう考えた。





51 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:25

それから、しばらくして。
近所の数人からよっすぃーを最近見掛けない、と言われて。
そういえばあの日から一度もよっすぃーを見ていないことに気づいて。
矢口が彼女の部屋へ行くと、鍵の掛かっていないドアから見える床の上に
よっすぃーは倒れていた。
慌てて呼んだ救急車で運び込まれた病院。
よっすぃーは過労と診断された。
何日も寝ていない、ノイローゼのような症状。
思い当たる矢口は、けれどあの日のことは口外しなかった。
そのまま眠り続けるよっすぃーを入院させて、矢口は部屋へ戻ったが
気になってよっすぃーの部屋へもう一度入った。
夜の闇に沈んだ、暗い室内。
アンドロイドの姿はない。
不思議に思った矢口が部屋のドアというドアを開けていると
クローゼットから、ぐったりと目を瞑ったアンドロイドが見つかった。
あの日、よっすぃーがしたのだろうか。
アンドロイドには胸元にばっさりと大きく深い傷が入っていて。
多分その性で回路がショートしていて、矢口が揺さぶっても
何をしても起動しなかった。


52 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:26

それでもなんとか出来ないかと、矢口はアンドロイドを部屋に連れて帰った。
翌日にはメカニックに持って行こう。
きっと、よっすぃーにはこのアンドロイドが必要で。
目覚めた時、このアンドロイドがいなければならない。
そう思ったから。
矢口は、部屋の空いているクローゼットにタオルケットを敷いて
アンドロイドを横たわらせた。
よっすぃーがそのアンドロイドを散々人扱いしているのを見てきたせいか
そこら辺に転がしておくのは躊躇された。
横たわるそのボディに上から毛布を掛けてやると、胸の辺りの傷が隠れて。
精巧に作られたその花顔が、月明かりに照らされて。
まるで本当に生きている女の子が、美しい少女が、ただ眠っているだけの
ように見えて。
矢口の胸をどきりとさせた。
慌てて、やや乱雑にクローゼットを閉めると、矢口もまたベッドに横になった。

53 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:26


それから数時間が過ぎて。
何かの音に、矢口の目が覚めた。
何かが……泣く声。
いつかのよっすぃーのような嗚咽ではなく、すすり泣くようなささやかな音。
もしやと思って矢口がクローゼットを開けると、アンドロイドが閉じた目から
涙を流していた。
固く結ばれた唇。
その奥から漏れ聞こえる音声はすすり泣く声と共によっすぃーの名を呼んでいた。
「よっすぃー…離れないで…よっすぃー…よっすぃー……」
きっと、その機能の部分だけは辛うじて生きていたのだろう。
アンドロイドはしばらくの間、高めの甘い声で泣いていた。
夜中になると、自分の名を呼んで泣くように。
そんな機能を、どんな気持ちでよっすぃーは設定したのだろうか。
アンドロイドが泣き止むと、矢口はその頬を拭って、自分の頬もまた拭った。


54 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:27


やがて、よっすぃーの親と名乗る人たちがやってきた。
転地療養をさせると言って、眠るよっすぃーを連れて行ってしまった。
雪の降る日だった。
その人たちは矢口に尋ねる。
梨華という名の女の子は知らないか、と。
予感がして、矢口が首を横に振るとその人たちはふっと笑いとため息と
安堵の表情を浮かべた。
そして、口汚く梨華という人を罵った。
やっぱりね。
だから言ったのよ。
ひとみはあの子に騙されたんです。
駆け落ちとか言って。
女の子相手に。
のぼせ上がってたのはあの子ばかり。
金の切れ目が縁の切れ目。
よくある話ですよ。
結局捨てられて。
こんな目にあって。
だからあんなに言ったのに……。

55 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:28

結局、病院に運ばれてから連れて行かれてしまうまで、よっすぃーは目を開けず。
まるであのアンドロイドと電源を共有しているかのように
頑なに目を閉じたままだった。
あのアンドロイドもまた、メカニックに持ち込んだものの
復旧には大層な時間が掛かるらしく預けたままになってしまった。
ただ、素人目には解からなかったけれど
あの優雅に微笑む仕草など部分的には最先端の技術が駆使された
逸品であったらしく、その研究をさせてくれるのであれば
無償で修理をしようと言ってくれたので、矢口は安心してそのままにした。
よっすぃーはいないし、矢口には優しさだけでそこまでしてやれる程の
財力はなかった。
だけど、きっと。
よっすぃーが目覚めたら、まず最初にあのアンドロイドを探しに来る。
それだけは確実な気がして。
矢口はアンドロイドを放置することだけは出来なかった。


56 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:28



それから、また随分と時間が過ぎて。
春。
桜の花が咲き溢れる頃。
矢口が買い物から帰ってくると、部屋の前にアンドロイドが一人で立っていた。
驚いて、矢口は駆け寄った。
「お、お前……なんでこんなとこ…」
治ったなら治ったで、連絡のひとつもよこせばいいのに。
修理が終わったメカニックが持って来て、不在で放置したのだろうか。
矢口がその勝手さに怒っていると。
「よっすぃーは?」
アンドロイドが言った。
いつかのように甘く高い声で。
けれどそれはきちんと唇を押し開いて流された音声で、あの時よりもずっと
リアルに響いた。
「よっすぃーは?」
そんなことを考える矢口に、アンドロイドはなおも聞き募る。
小首を傾げて訊ねるソレに。
矢口はあれ程よっすぃーの姿に違和を感じていたというのに
アンドロイドに返事をする。

57 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:29

まるで、人に対するように。
「よっすぃーなら、連れてかれちゃったよ。病気なんだ。
矢口と一緒に、迎えにくるのをここで待とう?」
ドアを開けて。
アンドロイドの肩に手を置く。
柔らかく、暖かなソレ。
矢口の中で疑問が浮かぶ。
と同時に、アンドロイドは柔らかな動作で矢口の腕を避け
「いいの」
矢口から離れた。
「いいの」
そう言って、後ろ歩きに遠ざかる。
「おい、どこ行くんだよ」
矢口の声に、いつものように花のように微笑んで。
「今度は、私がよっすぃーを迎えに行く番だから…」
そのまま、軽やかな足取りでどこかへ行ってしまった。




58 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:29



あれが、よっすぃーの『梨華』だったのか。
矢口には解からなかったけれど。
その日、まだ修理の終わっていない、動く筈の決してないアンドロイドが
メカニックからいなくなった。
それなら、あれはアンドロイドの梨華ちゃんだったのか。
矢口には解からなかったけれど。
それから一度もよっすぃーから連絡がないこと。
最近になって、あのよっすぃーの親と名乗る人たちから
よっすぃーのことをその後知らないか、と問い合わせがあったこと。
それが、矢口を安堵させた。
どこかで。
どこか遠い所で。
よっすぃーはまた微笑みながら、あの花のような梨華をその腕に抱いて
幸せに暮らしている。
そんな気がしたから。
それが『梨華』であっても。
もしくは梨華ちゃんであったとしても。
よっすぃーが幸福に微笑んでいますように、と。
矢口は一人、夏の夜空に祈った。


59 名前:微笑む君 投稿日:2004/12/19(日) 20:30



〜Fin




60 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2004/12/20(月) 00:20
デート日和、微笑む君と連続で見させていただきました。
甘く優しい気持ちになった後で、ジーンと切ない気持ちにさせて頂きました。

あぁっ、それと…特に孤独なわけではないです(w
61 名前:桜折 投稿日:2004/12/24(金) 23:31

>孤独なカウボーイ様

孤独じゃないですか。良かったです(w
駄文ですが今後ともお付き合いくださいませ。



今回は時事ネタで。
滑り込みセーフでタイムリー更新。
ただ、Mステが23時までとは…1時間くらい計算ミスです(;つД`)

62 名前:桜折 投稿日:2004/12/24(金) 23:32




『A christmas short story』




63 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:34

クリスマスは毎年、バラバラに過ごした。
彼女は今年もまいちゃんやアヤカちゃんと過ごすらしい。
私も、相も変わらず柴ちゃんと過ごす。
それが、毎年の自然なスタイルだから。
別に、クリスマスは恋人たちが一緒にいなきゃいけない日って決まってる訳でもないし。
お互いキリスト教徒って訳でもない。
それに、どこか綺麗なところにデートに行ける訳もなく。
だったら別に、どこで過ごしてても同じだから。
そう言い訳して。
自分を無理矢理納得させる。
そんな季節が、今年もやってきた。



64 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:35

「きれーい」
この季節には、毎年どこもかしこもライトアップされて。
夜の街を彩っている。
「ほら、ぐずぐずしないの」
お姉ちゃんみたいな柴ちゃんは、光の道のようになった並木道を前に
立ち止まった私にあきれたような声を出す。
「だって、綺麗なんだもん。ねえねえ、すごいね〜」
ほら、って柴ちゃんに手をひかれて光の中を歩いていく。
まったく、ただでさえ人が多いんだからさ。
ちゃんと付いてきてくれないとはぐれちゃうよ。
そんな小言を言う柴ちゃんが、私は好き。
なんだかんだ言いつつ、こうして手を引いてくれる柴ちゃんは本当に私の保護者のようで。
安心して余所見をしながら歩くことが出来る。全て任せることが出来る。
そんな信頼感。
だけど。
柴ちゃんには悪いけど。
私は、考えずにはいられない。
この手を引いて進むのが、彼女だったら、と。
目をつぶり、想像する。
光で溢れたこの道を、私の手を引き進むあの人。
私たちは光に埋もれて、微笑み合い、身を寄せ合う。
寒いねって言葉さえ、喜びに変えて……。

65 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:37

「ちょっと、なに目をつぶって歩いてんのよぉ」
私の行動に気づいた柴ちゃんが抗議の声を上げて。
目を開ける瞬間、そこに光に彩られて微笑む彼女を想像するけど…
そこにはやっぱり、少しだけ眉を上げてこっちを見つめる柴ちゃんの姿。
ごめんね、柴ちゃん。
私、今日はもうずっとこんな調子。
「んー…ちょっと眠い」
「なに子供みたいなこと言ってんの」
「だってー…」
「いいから、ちゃんと歩い……」
言い終わる前に、柴ちゃんは私の被っていた帽子を力いっぱい引き下げる。
「痛ーい。柴ちゃん乱暴……」
私の言葉は二回も遮られた。
今度は手を強く引っ張られて、早足に歩き出したから。
それでやっと、人波の中で立ち止まっていた私たちに周りの注目が集まり
その中の数人に私たちの正体がバレていることが解かった。
少しづつ少しづつ柴ちゃんは歩く速度を速め、私もそれについていく。
そのまま何度か方角を変え適当に歩き続け、そろそろ十分だろうと思った位に
私のマンションへと軌道修正して再び歩きだした。
とても寒い夜で。
少し息が上がって浅く息を吐くと、前を行く柴ちゃんの背が白く曇った。
マフラーに顔を埋め、見上げた月が青白く。
ただそれだけで、私はまた彼女を連想した。




66 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:38

「まったく、梨華ちゃんがぼーっと立ってるから」
「ごめんってば〜」
私は謝りながらお風呂の用意をする。
柴ちゃんはTVを付けて、買ってきたばかりのファーストフードを並べてる。
私も柴ちゃんも仕事が遅くて、結局落ち合ったのが11時前。
その頃に手に入る食事といえばコンビニかファーストフードが精々。
疲れて手料理なんて考えもしない私たちはこたつに入って、TVを見ながらそれを頂く。
「はぁー。クリスマスってロクな番組やってないねぇ」
「そりゃ、大概の人はTVなんて見てないだろうからね」
「明石家サンタは?」
「まだだよ。……あ、今日が最終回でしょ、美勇伝の」
「そーだった!!」
「そーだったって…。でもまだ始まるのに1時間はあるね」
そんなことを言いながら、私たちはイヴの晩餐を滞りなく終える。
コタツに突っ伏して、見るでもなく窓の方を向き……
でも、都会のクリスマスに雪なんて降る筈もなく。
ただ暗い闇が広がるばかり。
「梨華ちゃん、寝るんならお風呂入ってからにしなよ〜」
その声を遠く聞きながら。
ああ、愛しいあの人。
お夕飯、何食べたんだろう?
なんてまた考えてる私を、許してね、柴ちゃん。


67 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:39


秘密の恋だったから。
メンバーにも親友にも話せない、道ならぬ恋だったから。
私たちは本当に細心の注意を払って付き合っていた。
付き合いだしてからは、なるべく現場でも楽屋でも距離を取っていた。
これが私たちの恋を終わらせない方法だと、本能的に知っていたから。
もし万が一、事務所にバレて。
そんなことを考えない訳ではなかった。
甘い砂糖菓子で包むように。
童話か少女マンガのように。
私はそれを夢見るように幾度となく描き出した。
事務所の反対を押し切って、彼女が私の手を取って逃げる。
行き先なんて、決まってない。
ただ、彼女は私を、私は彼女を。
選んだだけ。
何よりも第一に選んだだけ…。
だけど同時に。
もうとっくに夢見る頃を卒業した私には、現実がそんな甘いものじゃないことも
解かっていて。
私たち小娘二人なんて、大人たちにどうとでもいいようにされてしまうのが解かっているから。
バレないように必死だった。
二人きりで会うのは、私の部屋。
それも平安時代の恋愛みたいに、彼女が夜陰に紛れてやってくるのが
私たちの逢瀬の決まりごとで。
夜になると、私は一人、見るともなしに窓の外を眺めるのが常になっていた。
甘いことなんて全然ない。
ただ、悲しく辛い恋だった。
それでも、私は彼女を、彼女は私を。
もう何年も選び続けていた。


68 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:40


「柴ちゃん、好きな人いないの?」
TVを片手間に見ながら手元の雑誌をめくる柴ちゃん。
「ん、起きてたの?」
顔を上げずに返事する。
この気安い距離。
「ねえねえ、クリスマス一緒に過ごす人いないの?」
街を歩くのも、夜を過ごすのも、隠さなくていい。
そんな都合のいい所にいる。
「そんなの、そっちも一緒でしょ〜。私だけいないみたいに言わないでよ。失礼ねぇ」
だけど決して、彼女にその位置に立って欲しいとは思わない。
もっと近くにいて欲しい。
ずっと一緒にいて欲しい。
そう願うけど。
でも、彼女と柴ちゃんを置き換えることは出来ない。
「私はね、柴ちゃん好きだよ。だから安心して」
二人とも好きだけど。
好きの意味が全然違う。
だってこうして柴ちゃんと話してる時だって、どこかで彼女のことを考えてる。
今頃、何してるかな?
楽しいクリスマスを過ごしてる?
69 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:41

「はいはい」
私の頭をちょいちょい、と撫でて。
柴ちゃんはまた視線をTVに移す。
TVの向こうにはクリスマスの街の光景。
幸せそうなカップルたち。
私とは縁遠い世界、と思ったらなんだかすごく切なくなって。
慌てて目を閉じた。
「眠いなぁ…」
寝るフリをした。
私たちには、あの恋人たちがなんでもなくしていることを
望んでも一生出来ない気がして。
悲しくて。
切なくて。
本当の眠りに落ちる瞬間、私は胸の中で恋人の名を呼んだ。




70 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:43



よっすぃー。
寂しいよ。
会いたい。




71 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:44

* * * * * *


どれくらい寝ていたのか。
気が付くと、TVはつけっぱなしで。
でも柴ちゃんの姿はない。
お風呂でも入ってるのかなぁ?
と思って体を起こすと、こたつの向こう側に柴ちゃんが横になっていた。
そうだよね。
柴ちゃんだってお仕事だったんだし。
疲れてるよね。
と、そこで。
やっと私は、自分が起きた理由を知る。
机の上で、私の携帯が控えめに振動していた。
……よっすぃー。
私は慌ててそれを掴むと、ベランダへと飛び出した。
72 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:45

「もしもし?」
「梨華ちゃん、今大丈夫?」
「うん」


寝る前に胸の中でつぶやいた声。
ちょっとだけだけど、神様に届いたのかな?
青い月を見上げ、嬉しくなる。
声だけでもいい。
よっすぃーと繋がっていられれば。


「柴ちゃんは?」
「あー…寝てる。コタツで丸くなって」
「ふーん」
「まいちゃんたちは?」
「あの二人、あたしが来る前からなんかシャンパンとかワイン開けてたらしくてさ
もう、今ぐてんぐてんだよ」
「そっか」

73 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:46

ベランダは、部屋着では寒くて。
12月の冷たい風が容赦なく私を襲うけど。
それでも、私は耐えた。
暖かい部屋で、ソファやカーペットの上に横たわるまいちゃんとアヤカちゃんと
それを傍らに見るよっすぃー。
そんな図を想像しながら。


「今日、何してた?」
「お仕事が終わってからね、柴ちゃんと待ち合わせたの」


私は、仕事場でよっすぃーと別れてからのことを話した。
出来るだけ長く、出来るだけ細かく。
少しでも長く、よっすぃーと繋がっていたいから。
光の道の話もした。


「すっごく綺麗だったんだよ」
「雑誌で見たかも。今年のライトアップの中だと一番オススメって」
「やっぱり。カップルで一杯だったもん」

74 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:47

言った後、はっとした。
もしかして、マズかったかな?
沈黙が続く。
私とよっすぃーには、この時期『カップル』って言葉は禁句に近い。
きっとよっすぃーも、私とでは叶えられない様々なことを思っているに違いなく。
そのまましばらく、黙ったままだった。
澄んだ夜の空気に、静けさが浸透していく。


「あれ、梨華ちゃん?」
部屋から声がして。
私は急いでベランダから顔を出す。
「こっち」
「何してんの?」
「あの、電話……その、ママから」
「そ。私、お風呂入ってくるから。ここで話しなよ」
そう言って、TVをぷちっと切ると。
柴ちゃんはまだ眠そうに目元をこすりながらリビングを出て行く。
でも、私は細心の注意を払って、またベランダへ引き返した。

75 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:48

「ママなんだ」
もしもし?ごめんね、柴ちゃんが…。
言いかけて、よっすぃーの声が返ってくる。
条件反射みたいなもので。
よっすぃーから電話、なんて言えない。
別によっすぃーからの一回の電話くらいで何も怪しまれることなんてないと解かってても。
なんとなく言えないのは。
隠してしまうのが日常になってしまったから。
そんな、私たちの悲しい関係のせい。
だけど、そんなことは言えなくて。
言ったところで、よっすぃーを困らせるだけと解かっているから。
黙ってしまう。
苦しくて。
また、月を見上げる。
青白いそれは、さっきよりも一層冴えて冷たく見えた。

76 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:50


「くしゅっ」


突然、電話の向こうから可愛いくしゃみ。
え?
「よっすぃー、もしかして外?」
「ん。一応、さ」
「ごめんね、長話しちゃって。もう切るね?」
「いや、その…」
慌てて言う私に、よっすぃーは口ごもる。
「もうちょっと、いい?」
もう、ほんと、すぐだから。

77 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:51

だけどそう言ったまま、よっすぃーは黙ってしまって。
そのまま、また沈黙に戻る。
無理矢理に私が話しかけても、一向に話は弾まない。
「よっすぃー…?」
私の声に、はぁ、とため息をついて。
よっすぃーはやっと話し出す。
「梨華ちゃんと、話してたかったから。クリスマスになる瞬間」
一緒にはいられなくても。
電話でだけでも。
繋がってたいから。
それは、さっき私が月を見上げて思ったことと全く同じで。
冷えた体に、心だけがぽわっと温まるのを感じた。
よっすぃー…。
私もだよ。
言おうとして。
よっすぃーの向こうから、ガランゴロンと鐘の鳴る音。
なに?
「近くの教会がさ、イヴからクリスマスになる0時に鐘鳴らすんだ」
振り返って部屋を見ると、時計が0時を指していた。
「メリー・クリスマス。梨華ちゃん」
78 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:52

よっすぃー。
呼ぼうとして。
「うぅっ…」
私の口から出たのは嗚咽。
「り、梨華ちゃん!?」
ぽろぽろとこぼれる涙を拭って、応える。
「ありがと、よっすぃー。嬉しい」
ぐずぐずと鼻をすすりながら言う。
電話の向こうのよっすぃーが照れくさそうに、うん、と答える。
「私、今日ずっと、よっすぃーのこと考えてた。
さっきのね、光の道もね、よっすぃーと一緒だったらってずっと考えてた。
柴ちゃんと一緒にいてもね、よっすぃーのことばっかり考えちゃうの。
何食べたかな、とか。何してるかな、とか。
よっすぃー。寂しかったよぉ。会いたい……」
涙と共に堰を切った何かが、私の口からどんどんどんどん流れ出していく。
私の中の弱いモノ。
それが一杯一杯溢れ出す。
私、なんて弱いんだろう。
よっすぃーはよく、梨華ちゃんは強くなったねって言うけど。
そんなの表面だけのつくろいで。
この恋を貫いていくための、あなたから離れないための見せ掛けだけの努力。
よっすぃーに置いて行かれたくないから。
重荷にはなりたくないから。

79 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:53

「会おっか」
「え…?」
「今から行くよ。その、光の道」
「よっ…」
「一緒に歩こう」
「だって…」
「で、何か今からでも食べられるおいしいもの食べて」
「でも…」
「一晩中、一緒にいよう」
「よっすぃー…バカぁ……」
「バカじゃないよ。今から行こう?クリスマスデートしよう」

80 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:56

今まで、一生懸命隠してたのに。
どうして急に、そんなこと言うの?
見上げた凍える月が、涙と白い息で煙り淡く輝いている。
それは、さっきとは見違える程の、優しい月。
「ホントは、ずっとそうしたかった」
電話越しのよっすぃーの声も優しく暖かく。
「いいよ。もう。どうなっても。だから、今日は一緒にいよう」
そんな、たった一時の衝動で。
もしかしたら全てを失うかもしれない。
危険な選択。
だけど。
私は彼女の衝動に抗うことは出来ない。
だってそれは私の欲望でもあるから。
彼女の選択を、本当は心の奥で何よりも待っていたのだから。
「今から、行く。待ってて」
よっすぃーの言葉に、気づいたらうん、うんって応えていた。



81 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/24(金) 23:57

涙を拭って、部屋に戻る。
カバンを開けると、中には青いリボンのかかった小さなプレゼント。
いつもは、26とか7とか。
随分日にちが過ぎてから渡す、恋人への贈り物。
いつも待ちきれなくて12月に入ってすぐに買っちゃうから、もっと早く渡せばいいんだけど。
どうしても、淡い期待を抱いてクリスマスを過ぎないと渡せないソレ。
だけど。
今年はどうやら、渡せそう。
それを握りしめて。
コートをひっつかみ、マフラーと手袋を探す。
思えば、このマフラーは何年か前によっすぃーに貰ったもの。
それに顔をうずめて。
暖かさを噛み締める。
「梨華ちゃん、どこ行くの…?」
お風呂場から出てきた柴ちゃんが、怪訝そうな顔でこっちを見た。
「えー…っと、ママが………」
言い掛けて。
慌てて言い直す。

82 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/25(土) 00:00

「違う。よっすぃー…よっすぃーが、近くに来てて。ちょっと、ちょっと会いに行って来る!!」
私はそれだけ言うと、ブーツのファスナーを乱暴に引き上げて駆け出した。
思えば、よっすぃーにメリー・クリスマスって返してなかったっけ。
つい1時間前に来た道を走りながら思う。
会ったら。
人目もはばからず、よっすぃーに抱きつこう。
普通の、街に溢れる恋人たちみたいに。
そしてよっすぃーに笑顔で伝えよう。
「メリー・クリスマス、よっすぃー。大好きだよ」
そしたらよっすぃーは、まばゆい光の中で優しく私に微笑んでくれることだろう。
白い息を吐き、坂道を駆け下りる。
見上げた月はやはり青白かったけれど。
暖かく優しく、私を照らしてくれた。



83 名前:A christmas short story 投稿日:2004/12/25(土) 00:01



〜Fin



84 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/25(土) 00:49
くわっ!いい!作者さんからの贈り物たしかにいただきました。
85 名前:プリン 投稿日:2004/12/25(土) 13:12
更新お疲れ様です♪
最高のクリスマスプレゼントでした…w
…つーかホントイイよぉ・゚・(ノД`)・゚・。
次回の更新も待ってます。マターリマターリとw
86 名前:桜折 投稿日:2004/12/31(金) 00:08
>84様

受け取って頂けましたか?
喜んで貰えて嬉しいです。


>プリン様

プレゼント、届いて良かったです(w
そんな褒められると照れます……。
あ、でも励みになります(どっちなんだよ)


結構毎回、展開が似通ってるなと反省しつつ。
今回はかなり短編。
本当は『青い鳥症候群』てそういうコトじゃないんですが。

87 名前:桜折 投稿日:2004/12/31(金) 00:09




『ブルーバード・シンドローム』





88 名前:ブルーバード・シンドローム 投稿日:2004/12/31(金) 00:09

人は、幸せを追い続ける生き物だと思う。
チルチルとミチルがそーであったように。
あたしたちは今でも、青い鳥を探して果てしない旅を続けている。
勿論、欲望の強弱や方向性とか個人差の幅はあるが。
究極まで突き詰めれば不幸になりたい人間なんてこの世にいる筈もなく。
あたしたちは貪欲に生という糧を頼りに幸せを求め続ける生き物なのだ。



石川梨華はあたしにそーいう思いを抱かせる、そんな女の子だった。




89 名前:ブルーバード・シンドローム 投稿日:2004/12/31(金) 00:10

TVを見るあたしの隣りでカーペットの上に寝そべり
うとうととしていた梨華の携帯が鳴った。
ピンクのボディに更に濃いピンクでペイントを施したそれが
机の上で激しく振動してる。
「はぁーい」
やる気なく手だけ伸ばしてそれを掴むと、寝転がったまま話し始める。
「うん。…うん。そう……今から?」
気だるげに目元を擦り、目を何度も瞬かせて天井を見上げる。
あたしは、その長い睫が幾度となく揺れる様を見ながら
間違いなく15分以内には梨華がこの部屋からいなくなることを察していた。
「わかったぁ。うん……ううん。一度帰ってぇ…うん、よっすぃーんち」
梨華はいつもそうだ。
あたしとの約束を優先した試しがない。
いや、どんな約束だって彼女は優先なんかしない。
彼女は常に新しいことにしか興味がない。
約束なんて過去のことは、すぐに放り出してしまう。
「じゃあ、あとでね」
そう言って電話を切ると、まだ寝そべったままでひとつ伸びをする。
猫のように、しなやかに。
「……また、合コン?」
声が冷たくなってしまうのも、仕方ない。
「んー。まあ、そんなトコ。よっすぃーも来る?」
そんなことにはお構いなしに、梨華は答える。
よいしょ、と口にしながら起き上がって。

90 名前:ブルーバード・シンドローム 投稿日:2004/12/31(金) 00:11

「やめとく」
短いあたしの言葉に、梨華はふふっと笑う。
「もー、よっすぃーの考えてるよーなんじゃないよぉー?
ちょっと大人数でカラオケ大会する程度」
何がする程度、だよ。
そう思って膨らむ頬を抑えて。
「それでもやめとく」
TVから目を逸らさずに答えた。
「そ。じゃあ、私行くね。4時に渋谷なんだ」
「ふぅん」
あくまでもTVをじっと見つめて、あたしは答える。
立ち上がって。
とことこと歩き始めた梨華だったけど、すっとあたしの背後で止まると
いきなり抱きついてきた。
「うゎ、なに、いきなり」
首の辺りにぎゅっと腕を巻きつけて。
梨華があたしの背に覆いかぶさる。
「ね、よっすぃー、なんで髪切っちゃったの?勿体ないじゃん」
そう言って、片手であたしの髪をさらさらと弄ぶ。
「んなの、結構前の話じゃん」
首筋に当たる彼女の息遣いから気を逸らそうと、あたしはまた
TVに集中する…振りをする。
「くるくるに巻いたり、二つに結んだりして可愛かったのになぁ」
あたしの短い髪を無理矢理結わくように、彼女は手であたしの髪を
かき集める。
子供っぽい仕草。

91 名前:ブルーバード・シンドローム 投稿日:2004/12/31(金) 00:12

梨華からは、何か甘い香りがした。
「絶対、あーゆーカンジってモテると思うんだよねぇ。
よっすぃー、こんな男の子みたいな格好してないで
女の子っぽい服着たらめちゃくちゃ可愛いのに」
多分、感じてるのはあたしだけなんだろーけど。
休日の午後の暖かな日差しの中、柔らかな空気が漂っていたそこは
また少し前までの固い空気に戻ってしまう。
「別にモテなくてもいーし。梨華ちゃんは、そればっかだね」
なおもTVに気を取られる振りをしながら、あたしは言う。
そうでもしないと、なんだか泣き出しそうな気分だったから。
「もお、よっすぃーってば。違うよっ」
そう言うと、梨華はあたしの前に回りこんで、伸ばした膝の上に座りこんだ。
「よっすぃーは誤解してる」
まっすぐな目であたしを見つめるので。
あたしは梨華の存在によってTVから遮られてしまった視線を
彼女に向ける以外方法がなくなってしまった。
「私はね、別にそういう……男好きってゆーの?そーゆーのとは違うんだよ」
「じゃあ、なんでそんなにいっつもいっつも合コンだのグループデート
だの行きまくってんのさ。特定の人、絶対作らないくせに」
作られたら作られたで嫌なくせに、あたしはそれがさも不服であるように口走る。
「だって、いろんなトコに行って、いろんな新しいコトに出会えば
そこに見たこともない幸せがあるかもしれないじゃん」
梨華ちゃんは、目を輝かせて言う。
「だから、私、何でもしたいの。何でもやってみたいし、
何処でも行ってみたい。そこで、幸せに出会えるかもしれないから」

92 名前:ブルーバード・シンドローム 投稿日:2004/12/31(金) 00:13

対して、あたしはため息。
「あんたを幸せにしてくれる王子様、とか?」
「それもあるけどぉ。でも、それだけじゃないよ。
世の中、恋だけじゃないもん。もっと何か、私を夢中にさせることが
この世界のどこかに隠れてるかもしれないじゃん」
あたしの膝の上で。
好奇心の塊のようなお姫様…いや、不思議の国のアリスちゃんか?
は、幸せそうにそう語る。
その笑顔が、もう既に一人の人間にこの上ない幸せを与えているとも気づかずに。
「って、大変。私、一度家に戻って着がえてから行くんだった。急がなきゃ」
振り返って、TVの上の卓上時計を睨んで、彼女は言う。
「じゃ、また学校でね、よっすぃー」
ぎゅっと抱きつくように体を寄せて。
あたしの頬に一つキスをして。
甘い香りと共に、彼女はこの部屋を出て行った。
彼女の去った部屋は、春から一変して冬になったような。
そんな寂しい空気をまとった。
あたしは、さっきまで梨華が寝ていた場所に寝そべり
少しでも彼女の温もりを、存在を確かめようと目を閉じた。


93 名前:ブルーバード・シンドローム 投稿日:2004/12/31(金) 00:14

彼女は一体、何を求め探しているというのだろーか。
それは、梨華自身にだって解かっていないに違いない。
だけど。
彼女はひとひらの幸せを掴んだところで満足はしないだろう。
貪欲に。
粘り強く。
欲求を満たすため、次の幸せを求めて旅を続けるだろう。
青い羽を手にしたら、次は青い鳥を。
青い鳥を手にしたら、次はその命までも…。
だけどね、梨華。
チルチルとミチルが出てくる『青い鳥』の最後はね
二人が探した、幸福をもたらす青い鳥は
実は自分たちの家にいたってオチなんだよ。
いつの日か。
梨華があたしの中に青い鳥を見つけて。
いつの日か。
そこを彼女の旅の最終地と出来れば。
あたしは願わずにはいられない。
ねえ、梨華。
早く気づいて?
青い鳥は、案外近くにいるものなんだよ?


94 名前:ブルーバード・シンドローム 投稿日:2004/12/31(金) 00:16



〜Fin




95 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/31(金) 02:25
あぁぁぁぁ。ホント、早く気づいてほしい…罪なお人ですね。
こういう短編も切なくていいです。作者さん良いお年を。
96 名前:桜折 投稿日:2005/01/04(火) 05:39
けましておめでとーございます。

今年もいしよしが一杯ありますよーに(#´▽`)´〜`0)


>95様

95様の今年一年が良い年でありますよーに。
早く気づいて欲しいんですが、青い鳥は捕まえると
黒い鳥になっちゃったりするんで結構ジレンマ(w
なんだか、最近はこう切ないカンジにまとめちゃう癖が…。


ということで新春一本目はおバカなカンジで…。
お休みの間にちょこちょこ更新して2〜3日で終わらせられれば、と。

97 名前:桜折 投稿日:2005/01/04(火) 05:42


从 ^▽^)ノ『あ』< 抜けてるよ〜


…新年早々縁起が………orz


98 名前:桜折 投稿日:2005/01/04(火) 05:42



『よっすぃーの病気』




99 名前:桜折 投稿日:2005/01/04(火) 05:44

「保田さん…よっすぃーがおかしいんです」
あたしのところに石川から電話があったのは、ある冬の夜。
それも0時を回ろうという遅い時間だった。
「あの、とにかくおかしいんです。今日、ずっと…。
保田さん、こっちに来て貰うこと出来ませんか?」
今から!?
そう思ったけど
「お願いします、保田さん」
石川のすがるよーな声に、二つ返事でおっけーを出した。
「わかったから。今からすぐ行く」
教育係の性って奴だろーか。
石川に頼られると放って置けない。
あたしって案外、母性本能が強いのかも。
それに、吉澤が絡んでるらしーし。
プッチの契りは永遠だ。

100 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/04(火) 05:45

大通りに出て、タクシーを捕まえる。
何度か行ったことのある石川のマンションの住所を告げ
あたしは後部座席に身を任せた。
都会は眠りを知らない。
夜中というのにぴかぴかと輝きを失わない街を見るとはなしに眺めた。
石川のマンションで二人はもう長いこと半同棲のようなことをしている。
女同士のソレは決して堂々と出来ることじゃないけど。
あたしはそれを微笑ましくこそ思え、反対することはなかった。
むしろ妹のように思う石川がつまらない男に引っかかるくらいなら
こちらの方が何倍も安心だった。
吉澤になら安心して任せられる。
それに事務所もメンバーも今のところはそれを見守る姿勢で
吉澤の携帯が繋がらないと石川のところに電話することもよくあるという。
しかし…。

『保田さん、こっちに来て貰うこと出来ませんか?』

すがるよーな石川の声。

『よっすぃーがおかしいんです』

一体なにがあったのだろうか。
あたしは不安に携帯を握り締めた。


101 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/04(火) 05:46

***********


「保田さんじゃないですかぁ〜。こんな時間にどーしたんですか?」
石川の部屋のドアをそう言って開けたのは、吉澤だった。
「え、いや、その…」
アンタがおかしいから来てくれって石川に言われたのよ…とも言えず。
あたしは口ごもる。
あれ?
吉澤、いつもと変わんなくない?
相変わらずのジャージ姿で。また髪の色が変わってない?
「まあ、どーぞどーぞ」
まるで家主のようにそう言って、吉澤はあたしを招き入れる。
いやいや、ホントの家主に呼ばれてここまで来た訳ですから。
アンタが何言おーと入るけどね。うん。
そんなことを思いながら吉澤の後に続きリビングへ入ると、そこには

「あ、保田さん…」

「石川……?」

石川はリビングのソファの上に足を伸ばして座り、その上からは
ブランケットが掛けられていた。

102 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/04(火) 06:49

「石川、アンタ大丈夫なの?」

あたしは咄嗟に『おかしい』のは吉澤ではなく石川の聞き違いであったと
判断する。
体調不良だろーか。

「ち、違うんです、私…」

石川が慌てて立ち上がろうとすると、しかし吉澤が駆け寄ってそれを留める。

「駄目だよ、梨華ちゃん。安静にしてないと」

何かよっぽどのことなのだろーか。
吉澤が石川の足元のめくれてしまったブランケットを直して
労わるように腹の辺りを撫でた。
腹が痛いのか?

「よっすぃー…」

困った、というよーに石川の眉が歪む。

103 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/04(火) 06:50

「今が大切な時期なんだからね?絶対無理しちゃ駄目だよ?」

時期…?
一体、石川の身に何が起きたというのだろーか?

「ちょっと、石川、何があったのよ!?吉澤、説明しなさい!!」

最悪の事態を色々と想定して、あたしは叫ぶ。
これでも結構心配性なのだ。
石川…。
不治の病とかじゃないでしょーね?
どーしよう。
石川が死んじゃったら!!

「病院には行ったの?現在の医療では無理な訳!?
石川、稼いでんだからアメリカでもスイスでも最先端の技術を受けに行きなさいよ!!」

一人先走って青くなるあたしに、しかし吉澤は振り向いて微笑んだ。
何よ、笑ってる場合!?

「安心してください。梨華ちゃんは病気じゃありません」

104 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/04(火) 06:50

え、病気じゃない…?
あ、あら、ヤダ。
一人で盛り上がっちゃったじゃないの。

「じゃ、じゃあ、なんなのよ」

見れば机の上には不器用に切られた果物の山。
石川に添えられた吉澤の手元がバンドエイドだらけなのを見ても
それを吉澤がやったことに間違いはなさそーだ。
さっきからの扱いといい、この対応といい、しかし病気ではないって…。
一体、石川はどーしちゃったというのだろーか。
固唾を飲んで返事を待つあたしに、しかし吉澤は笑みを深くして応えた。

「梨華ちゃんは、妊娠してるんです」

105 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/04(火) 06:51

…。
…。
…はい?

石川の悲しそうな瞳と目が合う。

「い、い、石川っ!?」

ぷるぷると、震えるよーに頭を振る石川。
その前で、幸せそーに微笑む吉澤。

「春には生まれるんです。あたしたちの赤ちゃんが」

…。
…。
…え?

もう今にも涙がこぼれそーに濡れた石川の瞳と更に目が合う。

「石川…?」

ぷるぷると、震えるよーに頭振る石川。
その前で、幸せそーに微笑む吉澤。

106 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/04(火) 06:53


ご、ごめん、石川、吉澤。
意味が解かんない。
なに?
妊娠?
『あたしたち』の赤ちゃん?
一体、何が起きたってゆーのよーーーーーー!!!




107 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/04(火) 12:19
な、なんだこれ!すんげ〜おもしろそ〜
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/04(火) 16:09
ぶはははっ!ホントだ、なんだこれw
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/04(火) 16:19
よっすぃ〜どうしちゃったの?w
110 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/04(火) 22:03
続ききになるー
111 名前:プリン 投稿日:2005/01/05(水) 14:40
更新お疲れ様ですw
こりゃー…よっちゃんどーしたんだよって言うしか…w
なんかかなり面白いっすw
次回の更新も頑張ってくださいー。
『あ』が抜けてても大丈夫大丈夫(w
112 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:07

*************


「保田さん、助けてください。
よっすぃー、朝からずっとこんな調子なんです」

すがるよーな目で、石川は呆然と立ち尽くすあたしを見ていた。
吉澤は『よーし、パパが保田さんにお茶を入れてあげるぞー』などと
石川の腹に向かって宣言すると鼻歌を歌いながらキッチンへと消えていった。
お茶ひとついれるだけの筈なのに、何かがぶつかったり壊れたりする
盛大な音がひっきりなしにすることや、『お茶どこだっけ、梨華ちゃーん』
と叫ぶ吉澤の声はこの際無視することにした。

「やっぱり妊娠検査薬とか使って見せた方がいいんでしょーか?
あぁ、でもきっと検査薬の方が壊れてるとかって言いそーだし…」

「あの、石川……に、妊娠てのは…?」

「そんなことある訳ないじゃないですか。女同士でどーやって妊娠するんですか?」

さっぱりとシンプルに石川が言う。
あ…そ、そーだよね……うん。
あたし、ちょっとだけコイツらなら、とか思っちゃったよ、あはは。
って、何考えてんだ、あたしは!!!(照)
つーか、石川、検査薬って……。

113 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:09

「あ、保田さん、私が浮気したとかそーゆーこと思ったんですかぁ?しつれーですよ〜!!」

まあ、そっちの可能性の方を先に考えたんだけどね。
あの吉澤の浮かれ方からしてそれはないかと。うん。

「よっすぃー、夕べなんか変な夢を見ちゃったらしくって」

きゅっと眉根を顰めて。
石川が話したのは今朝から今までの彼女の受難の一日だった。
なんでも吉澤は夕べ、石川が自分の子を妊娠する夢を見たらしい。
そして何故かそれを現実のものと信じ込み…。

「目が覚めたら、よっすぃーが私のお腹に耳を当てて」

『梨華ちゃん、今、お腹蹴られなかった?』
いきなりそー言われた石川の驚きや如何に。
とにかく、寝起きの判断もつかない頭でなんとか話を聞きだし
『石川は自分の子を妊娠している』と吉澤が信じ込んでいることを知る。

「それからはもー、何を言っても無駄でした…」

114 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:12

その災難を思い出してか、石川は潤ませた視線を遠くした。
なだめてもすかしても。
吉澤は石川の妊娠を信じきって疑いもしない。

『よっすぃー、私、妊娠なんて…』
『またまた、梨華ちゃんはぁ』
『よっすぃーってば!!』
『あ、梨華ちゃん、ここ段差だから気をつけてね。はい、手』
『よっすぃー!!』
『ちゃんとあったかい格好した?冷やしたら駄目だからね?』
『…よっすぃー』

この調子で石川の言うことに耳を貸さないらしい。

「今日のレッスンがまた散々で…」

新曲の振り付けが激しすぎると文句をつけ、衣装がヘソ出し足出しなのに対して
今が大切な時期なんだから冷やしたら駄目だと怒り出し…。

「もう、みんな唖然としてましたよ」

「みんなはアンタが妊娠してるって…」

「よっすぃーには口止めしといたんですけど、さすがに行動が不審すぎて
メンバーにはバレちゃって。でも…」

115 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:15

『カオリ、思うの。若いっていいなぁって』
『キャハハハハ。よっすぃー、おもしろいっおもしろすぎっ』
『よっちゃんさんもさー、大概おめでたいよね〜』

メンバーたちは得てしてそんな反応だったらしい。

「誰も止めてくれないんですよ!?
笑っちゃって、パパもママも頑張って!!とか言ってよっすぃー焚きつけて…」

吉澤はいい気になってメンバーたちを集めて生まれてくる子の名前の相談会まで
始めたという。しかも男・女2通り…。

「帰ってからもこの調子だし。そんなだからメンバーの誰にも助けて貰えないし。
保田さん、助けてください!!どーしたらいいんですか!?
このままだと、私、頭がおかしくなりそーです!!」

ソファの横まで寄ったあたしにがばぁっと文字通りすがりつく石川。
目から涙を一滴。
うわ、な、な、泣くなよー…。
それにしても、どーしたらって言われても……。
なんて言ったらいいのか。
大体、吉澤はホントに石川が妊娠したなんて思ってるんだろーか。
だってさ、妊娠だよ、妊娠……。ねぇ?
案外、いつもみたいに石川をからかって遊んでるとか…。
泣く石川の背を擦りながら途方に暮れていると、やっとお茶の用意をした吉澤が
キッチンから戻ってきた。

116 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:22

「お待たせしました〜…って、梨華ちゃんどしたの!?」

あたしにすがって涙している石川に、吉澤がまた駆け寄った。

「いや、あたしが泣かしたって訳じゃ…」

「どーした?つわり?気持ち悪い!?」

あたしの腹の辺りに顔を埋めたまま、石川は首を振る。

「ちょっと、吉澤」

「洗面器持ってくる!?」

ぶんぶん、と首を振る石川。

「あたしの話聞けって」

「…ずっと、朝からこんななんですよ」

困った、という顔で、吉澤はあたしを見上げた。
無視すんなよ…いや、つーか、どーしよう。
困った。
あたしの方が100倍困ってるよ、吉澤。
だって、どーやら……吉澤は真剣だ。
目がさ、マジなんだよ。石川からかって遊んでるよーには見えない。
えー…。
どーしたら孕ませたなんて思い込めるんだ、吉澤!?
小学校から保健体育やりなおしよ!!?

117 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:24

「マタニティー・ブルーって奴ですかね?
ご機嫌斜めで、仕舞には『妊娠してない!!』とか言い出して。
…ママがこんなじゃ、困っちゃいまちゅよね〜」

吉澤は、あたしの身体に密着した石川の身体に無理矢理手を差し込んで
腹の辺りを撫で回す。

「あのさ、吉澤…」

なんと言ったものか。
あたしが仕方なく口を開いた瞬間

「だから言ってるでしょ、私、妊娠なんてしてないもん!!!」

ついにキレた、といった体で、石川が顔をがばっと上げると叫んだ。
ついでに腹から吉澤の手を掴んで引き剥がす。

「もー、どーしちゃったのさ、梨華ちゃんはぁ」

吉澤はまるでそれを相手にしていないように余裕の笑みで応えている。

「してないものはしてないんだもん!!」

「なに言ってんのさ、も〜」

「する筈ないじゃん、妊娠なんて。よっすぃーのバカぁ!!!」

118 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:27

平行線のケンカに、石川は興奮して涙を流している。
どーしろってゆーんだ、この状況…

「あ、あのね、アンタたち…」

「もう、いいもん。帰る。家に帰る。よっすぃーが頭冷やすまで
一緒に居たくない。こっちの頭がおかしくなりそーだよ」

「お、落ち着いて、石川」

「お母さんとこなら安心だけどさ、夜は寒いから駄目だよ。
身体に悪いから明日にしなよ。ね?
一緒に行ってあげるからさ」

「吉澤、アンタもそんな冷静に…」

「うぁーん。もー、よっすぃー全然解かってない!!」

「解かったから、梨華ちゃんちょっと落ち着いて。
そんなに興奮するとお腹の赤ちゃんが」

「うぁーーーーん」

あの、あたしはひょっとして放置ってヤツな訳…?

119 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 09:28

ぴんぽーん


玄関チャイムの音。
それが今のあたしには天の鐘の音のよーにすら聞こえた。
ああ、神様。
すこし冷静に考える時間を、あたしに下さい。
ああ、あたしの頭がおかしくなりそーだよ、石川…。




120 名前:桜折 投稿日:2005/01/06(木) 09:33

>107,8,9,10,プリン様

新年早々おバカな内容でお恥ずかしい(照
今日、明日のうちにはまとまると思うのでそれまで
お付き合いください。
よっすぃーはホントにどーしちゃったんでしょう(w
『あ』が抜けててもがんがります!!

121 名前:よす 投稿日:2005/01/06(木) 14:44
新年早々にはこう言うお気楽なお話しがとても良いです。
よっちゃんはホントにこんな事言い出しそうですな。
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/06(木) 14:44
がはは。やべえ面白いんですが。
けいちゃんの受難、もとい石川さんの受難ですなこりゃw
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/06(木) 14:45
うおっ!↑同時だ。びびった〜。しかも1444じゃんか(嬉
124 名前:桜折 投稿日:2005/01/06(木) 16:53



 いしよしの神が降臨してるYO >Σ(^〜^0

喜びついでに本日二回目の更新です。



125 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 16:54

*************


しかし、わずかな休戦タイムも神様は、そしてこの二人はあたしに与えてくれなかった。

「こんな時間になんだろ?」

立ち上がる吉澤に

「ピザだよ。私、頼んだ」

涙を拭いながら応える石川。

「はぁー!?」

今度は吉澤が興奮したよーに大声を上げた。

「ちょっと梨華ちゃん、駄目だよ、ファーストフードなんて!!
身体に良くない!!!」

「ま、まあまあ、吉澤…」

「妊娠してる時はね、身体に良いものを食べて栄養付けてあげるんだよ」

ぴんぽーん

126 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 16:56

「だって、よっすぃーがキッチンは冷えるから立っちゃ駄目って。
コンビニも行っちゃ駄目って言うし、夕飯食べれないじゃん」

「ふ、二人とも、夕飯まだなんだ?」

「私、お腹空いたんだもん!!」

ぴんぽーん
ぴんぽーん

「だからって…梨華ちゃん、ママになるんだからさ、
少しはお腹の赤ちゃんのこと気ぃ使ってよ!!
今日だってあたしが見てないと危なっかしいことばっかして」

「私、ママになんてなんないもん。よっすぃーのバカ!!」

ぴんぽーん
ぴんぽーん
ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん

「とりあえず、あたしが貰ってくるから…」

あたしは仕方なく鞄を持つと玄関へ出た。
二人はリビングで睨み合ったまま。
返事すらしない。
あたしってば何してんだろ…。なんか、すっごく疲れてきた…。

「お、おまたせしました」

鞄から眼鏡を取り出して、俯き加減にドアを開ける。
一応、芸能人だからね。
しかし…
127 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 16:57

「もー、なんで解かってくれないのよぉ」
「それはこっちの台詞だっての!!」

リビングからは声高な言い合いが聞こえて。
配達のお兄さんは目を丸くしていた。
恥ずかしいなぁ、もう。

「とにかく、ピザは駄目だよ。あたしが今からなんか作るから」

「嫌。そんなの待ってらんない。もう来ちゃったし」

「貸して下さい、保田さん。ソレ、捨てますから」

「よっすぃー!!」

「落ち着きなって、アンタたち!!!」

キレた…ってよりも呆れきったあたしの怒鳴り声に、二人は一瞬動きを止める。
しかし次の瞬間、はぁ、とため息をつくと石川はおもむろに携帯を取り出した。

「石川、なにしてんの」

「24時間診療してる産婦人科探すんです」

「り、梨華ちゃん、お腹痛いの!?」

「吉澤、黙ってな」

128 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 17:00

途端に顔を青くした吉澤をひと睨みして、あたしは石川に向かう。

「もう、駄目です。私、ホントに頭がおかしくなりそー。お医者さんに
はっきり違うって言ってもらえば、よっすぃーだって…」

石川の表情は、もう、ネガティブ全開ってカンジで。
本当に目がちょっと追い詰められちゃってるよ…。
ここまでさせちゃう吉澤も吉澤だけど、そこまで根つめて考えるなよ、石川…。

「でも、石川…」

「だって、保田さんだって見たでしょ!?
よっすぃー、もう、おかしいんですよ。何言ったって聞かないんだから。
ついでによっすぃーも診てもらいます。絶対おかしいもん。
よっすぃー、病気なんじゃあ…」

「石川、でもね、あたしたちが産婦人科行ったトコとか人に見られたら…。
大体、病院で吉澤のことどー説明するのよ。
私たち付き合ってるんですけど、彼女が私が妊娠したって思い込んじゃって
困ってるんです、って言う訳!?」

白衣を着てぽかーんと佇む3番目の受難の人があたしの頭に浮かぶ。
夜中にいきなりアイドル3人(勿論、あたし含む)押しかけて
にんしんだのどーせーあいだのさわがれた日には、例え医者でもさぞ驚くことだろう。

「それじゃあ、どーしろって言うんですか!!」

手にした携帯をがたん、と机の上に乱暴に置いて。
石川があたしを睨む。
目からはまた涙がこぼれ落ちそーで。
あたしは石川を抱き締める。

129 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 17:01

「いいから、ちょっと落ち着きなって。ね?」

くすんくすん、とあたしの胸で石川のすすり上げる音がする。

「や、保田さん…」

横であわあわする吉澤に

「ちょっと、混乱してるみたいだから。寝かすよ」

そう言って、石川の肩を抱いて歩かせる。

「あたしがっ…」

そう言って、吉澤が手を出そうとするので

「いいよ。あんたもこっちでちょっと冷静になりな」

それを押し戻して、石川を隣りの寝室へ連れて行った。


130 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 17:02

*************


すっかり力を抜いてぐったりした石川の身体を、ベッドに座らせる。

「ちょっと休みな。あんたも少しノイローゼっぽくなってるよ」

石川は顔を上げ、力なく微笑んだ。
それがとても弱々しくて。
少しでも安心させよーと、あたしは石川の髪をゆっくりと何度も何度も撫でた。

「…保田さん、よっすぃー、どーしちゃったんでしょーか」

少しして。石川が口を開く。

「病気、ですか?」

不安そうに、あたしの手に自分の手を載せて聞いてきた。

「そうじゃないよ。多分。ただ…」

131 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 17:03

あたしは、さっきの吉澤の様子を思い返す。
『梨華ちゃんは、妊娠してるんです』
吉澤の幸せそーな笑顔。
吉澤のあんな顔、あたしは見たことがなかった。
『春には生まれるんです。あたしたちの赤ちゃんが』
春……。
引っ掛かりを感じる。
春、か。

「大丈夫だよ。きっと、吉澤もちょっと疲れてるだけだって」

「そんな、疲れてる程度であんな…」

反論する石川の口を、あたしはやんわりと閉じさせる。

「吉澤と、話してみるよ。いいから石川は寝てな。
朝からあんなで疲れてるんでしょ?」

ベッドの中に入るよーに促す。
石川は本当に疲れていたよーで、抵抗なくあたしの捲った布団の中にもぐりこんだ。

「保田さん、すみません」

布団の中から、石川は申し訳なさそーに言った。

132 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/06(木) 17:04

「何を今更」

石川の頭をぽんぽん、と撫でた。

「癖とかってさ、治すの難しいけどさ。世話焼きも、案外治んないもんだね」

「保田さん…」

「仕方ないよ、あたしはあんたの教育係だからさ。
いつまでたっても、あたしの中ではあんたはあの加入した時の石川で。
どーしても、世話を焼きたくなっちゃうんだよ。
…頼りない妹、みたいな感覚かな」

布団を首まで掛けてやって。
あたしはもう一度石川の頭を撫でて。
部屋を出た。
もう、石川も二十歳になろーてのにね。
何、でしゃばってんだか。
そう自嘲しつつ、そして吉澤のことを考える。
『春』
それが、キーワードのよーな気がした。


133 名前:桜折 投稿日:2005/01/06(木) 17:15

次回更新で最後です。
よっすぃーの病気の行方や如何に。
やすいし師弟の受難の行方や如何に(w

> やす様

おバカ話で失笑程度でも笑って頂ければ、春から縁起が良いかな〜、と。
笑ってやって下さい。


>122&123様

ホントに、いしよし万歳なカキコをですね ヽ(^▽^
すごいすごい。
『よっすぃーの病気もとい石川さんの受難あらため保田さんの受難』
(何故か圭ちゃんメインに改題w)
最後までおつきあいくださいませ。

134 名前:桜折 投稿日:2005/01/06(木) 17:19

またやっちゃった…(ノ▽^)アチャーミー
新年迎えてからカキコミスが多くて困ります。
一文字違えば大違い。
失礼しました

> やす様 → よす様

135 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/06(木) 17:42
更新してるぅー!!しかもなんかちょっともしかして切な(ry系?
いしよしの神に感謝。万歳三唱しちゃいます。
ちゃっかりメインになった師匠の活躍に期待なり。
アイドル3人ウケました。圭ちゃん頑張れ!
136 名前:よす 投稿日:2005/01/07(金) 08:44
全然気がつかずにカキコしてました。
今年は良いこと有りそうです。

しっかし圭ちゃん、こう言う役割ホントに似合いますね。
事のついでに仲人と名付け親もやって貰いましょ。
137 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:34

***********


「保田さん、どーでしたか?」

ソファに腰掛け、雑誌を手にした吉澤がこちらを見た。

「ん、ちょっと眠らせる」

「すみません、なんだか…」

近寄ってみると、吉澤の手にしているのは育児用品の通販のカタログのよーで。
開いたページにはいくつものベビーカーの写真が載っていた。

「かわいいでしょ」

あたしの目線を見て、吉澤が嬉しそーにそれをあたしの前に広げた。

「梨華ちゃん、力そんなないから、性能良い奴にしよーと思って。
やっぱりピンクの欲しがるんだろーなぁ」

目を細めて、吉澤はそれを眺める。

よく見ると机の上の果物は、グレープフルーツやオレンジといった柑橘系ばかり。
その横にもう一冊雑誌が置いてあり、それは育児雑誌のよーだった。
…やっぱり、これは真剣にアレだな。

138 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:35

「ちょっと早いんですけど、コレ、買っちゃったんです」

そう言うと、吉澤は床から自分の鞄を拾い上げて包みを取り出す。
中からは、黄色い可愛いよだれかけが出てきた。

「梨華ちゃんには内緒ですよ。無駄遣いって怒られちゃうから」

はぁ。
ずっとこの調子だったら、石川もノイローゼになるかもしれない。
あたしはもひとつ息を吐く。ふぅ。
やっぱりここは、なんとかしないと。

「吉澤…」

「名前、保田さんも一緒に考えてくださいね?」

「ねえ、吉澤」

「みんな、真剣に考えてくれないんすよ?失礼ですよね〜」

「吉澤ってば」

「あー、男の子かな、女の子かな〜」

「吉澤!!」

139 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:36










「…言わないでください」

140 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:37

吉澤の横顔が急に曇った。
やっぱり…。

「吉澤、あんた…」

「保田さん、もう帰ってください。ほら、明日の仕事に障りますよ?」

「解かってるんでしょ?」

「保田さん!!」

「吉澤、ホントは石川が妊娠してないって解かってるんでしょ?」

「…」

「吉澤…」

「…なに、言うんですか。そんな……」

吉澤の声が途切れがちになる。

「そ、んな……こと…」

俯いて。
目を閉じる。

141 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:37

「梨華ちゃんは…あたしの子を……」

悲しげに顔を歪めて。
そっと、手で覆った。

「違い、ます…あたし……」

「吉澤」

あたしは、吉澤の横に腰掛けて。
そっとその肩を抱き寄せた。
吉澤の身体は小刻みに震えていた。

「うそ、嘘。違う。
梨華ちゃん、ちょっと疲れててあんなこと言ってるけど。
違うんです。ホントなんです。やだなぁ。
やっぱり、梨華ちゃんにはもうお仕事休ませた方がいいんです。
明日にでも事務所に言って……」

つぶやくように、小さな声でそう言う吉澤の背を撫でてやる。
声はどんどんか細くなり、そして途絶えた。

「吉澤、寂しかったんだよね?」

142 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:39

はぁ、と。
息を吐いて、前のめりに崩れるように吉澤は脱力した。
あたしはその背をただ撫でた。

「…保田さん、どーして放っといてくれないんですか」

程なくして。
吉澤が言った。
さっきのよーにか細い声ではなく、いつもの吉澤の声。
あたしはちょっとだけ安心した。

「放っておけないでしょ。石川が泣きそーな声で
『よっすぃーが変なんです』って電話してきたんだから」

「ホント、保田さんは梨華ちゃん大好きですね〜」

「アンタ程じゃないわよ。大体、アンタのことも心配したんだからね?」

はいはい、と吉澤は相手にしないよーに返事して。
ふぅ、ともう一度息を吐いて顔を上げた。
石川と違って、泣いてはいなかった。

「別に、あたしが妊娠しても良かったんですけど」

143 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:42

淡々と、吉澤が話し出す。
大きな瞳はどこを見るでもなく、視線は虚空を泳いでいた。
顔は酷く真剣だったけど。
その言葉が妙におかしくて、あたしはこみ上げた笑いをかみ殺すのに必死になった。

「やっぱ、どっちかって言ったら梨華ちゃんの方かなぁーって」

そんなあたしをちらっと横目で見て。
ぶすっと、照れ隠しのよーに不機嫌な顔をして。
吉澤は言う。
やっぱり、子供とかいると違うかなって思ったんです。
ほら、結婚とかって無理じゃないですか、あたしたち。
まあ、子供だって無理ですけど。
でもよくふざけてね、結婚しよーね、とか言ったり。
去年の誕生日とかはかなり真剣に婚約指輪とか贈ったりしたんですよ。
でも、それだけじゃ不安で。
どーしても、絶対離れない約束が欲しくて。
だから…。

「だから、子供が欲しかったの?」

「まさか、ホントにどーにかなるなんて思ってないですけど。
ただ、束の間でもいいから、二人の間に確かな証しがあるって
思ってみたかったんです」

144 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:44

もうちょっと浸ってたかったのに。
保田さん、邪魔するんだもん。
そう言って、吉澤はちょっとだけ頬を赤らめて。あたしを睨んだ。
梨華ちゃんも全然乗ってくれないし。
やんなっちゃうなぁ、もう。

「石川の卒業が、不安なの?」

あたしよりも全然大きな身体なのに、それが今日はとんでもなく小さく感じて。
あたしはさっき石川にしたよーに吉澤の髪を撫でた。
身体の大きさ如何だけでなく。
吉澤は加入時から精神的に大人で。
手が掛からない子だった。
こんな、頭を撫でる、なんてことをしたことはなかった。
だけど、今、目の前にいる吉澤は私にとって石川と同等に守ってやるべき
女の子だった。

「そう……なのかもしれません。よくわかんないけど。
でも、梨華ちゃんがメンバーじゃなくなるとかそーゆーことだけじゃなくて
もっと純粋に、あたしたちのこれからが不安てゆーか。
あたしたち、忙しくて。
どんどん時間が過ぎてって。
あたしも梨華ちゃんも、どんどん大人になってく。
大人になった梨華ちゃんが、変わらずあたしの傍にいてくれるのか。
やっぱり、約束する手段がなくて。絶対がなくて。…不安。
ただでさえ、春からは別の道を進んで行く訳だし。
そこで、もしかしたら別の生き方とか…そーゆーの見つけたら、とか。
ああ、やっぱり、メンバーじゃなくなるのが不安、なのかな」

145 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:45

「そっか」

「すみません、なんか、こんなのにつき合わせちゃって」

駄目だな。
梨華ちゃんは新しい環境でもっと大変だろーに。
あたしがもっとしっかりしなくちゃ。
そう言って、あたしの方に顔を向けた吉澤は、もう、いつもどーりの吉澤で。

「梨華ちゃんには、あたしがちゃんと話すんで」

そう言って、吉澤はあたしを見て、ぎこちなく笑った。

「そう。そうね。ちゃんと、石川と話しなさい」

これ以上、干渉すべきではない。
あたしはそう思って、席を立った。
ここから先は二人の問題だ。

「さっき言ったこと、ちゃんと石川に言うのよ?」

はいはいはいはい、と吉澤はまた相手にしないよーに返事をしてソファに深く座りなおした。
あたしはその肩をぽんぽん、と叩いて、席を立つ。
鞄を拾い、部屋を出ようと振り返り

146 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:46

「…っ」

寝室のドアの前。
石川が立っていた。
あたしは何も言わずにそのまま玄関へ向かった。
石川に目配せだけをして。
それに石川は無言で、でも目を細めて微笑んであたしを見返した。
玄関のドアを開ける時。
微かにリビングの声が聞こえた。


「…よっすぃー」
「梨華ちゃん」
「よっすぃー、ペットでも、飼おうか」
「ペットぉ?梨華ちゃん、世話出来んの?」
「失礼ねぇ。ちゃんと世話します。でも、よっすぃーも協力してね」
「…いいよぉ」
「でね、よっすぃーがパパで私がママって呼ばせるの」
「一体、何飼う気だよ。パパとママって呼ぶって」
「えーっとねぇ。なんだろ、あはは」
「……ねぇ」
「なぁに?」
「よだれかけの付けられる大きさの動物にしてね?」
「なんで?」
「いや……有効利用?」

147 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:47

なにそれー。あはははは。
そんな、笑い声を背に。
あたしはドアをそっと閉めた。
夜の街は寒くて。
独り身には身に染みる寒さだぜ…なんて文句をふっと浮かべて、
そんな自分にちくしょー、とかムカついたけど。
でも、不思議と心はあったかくて。
なんだか、嬉しかった。


148 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:48


それから、暫くして。
『子供が生まれました(はあと)』
という文面付きで子犬の写真のポストカードがあたしの家のポストに届けられた。
勿論、黄色いよだれかけを付けていた。
たまに楽屋で見掛ける二人はあの日なんてまるで忘れたかのよーに
仲睦まじく騒いでいて。
あたしもまた、あの日の出来事を忘れよーとしていた。
しかし…。


149 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:49

***********


「保田さん…よっすぃーがおかしいんです」
あたしのところに石川から電話があったのは、石川の卒業も迫ったある夜。
それも0時を回ろうという遅い時間だった。
「あの、とにかくおかしいんです。今日、ずっと…。
保田さん、こっちに来て貰うこと出来ませんか?」
またぁ!?
そう思ったけど
「お願いします、保田さん」
石川のすがるよーな声に、二つ返事でおっけーを出した。
「わかったから。今からすぐ行く」
あたしはいつかのよーに慌てて家を出ると、大通りでタクシーを捕まえた。


***********

150 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:50

「保田さん……」

ドアを開けたのは吉澤ではなく石川だった。

「どーしたの、こんな時間に」

なんてゆーか。
そんなに事務所はこの子を酷使してるんだろーかってくらい悲壮感の漂う疲れた顔をして
いつかのよーに眉を顰めてあたしを見ている石川。

「それが…」

とにかく、といった様子であたしは部屋の中へと勧められる。

「私とよっすぃー、ここのとこ全然お仕事被らなくて。
ここ数日は私、家にも帰れないくらい忙しくて、事務所の近くのホテルに
泊まったりしてて」

一昨日やっと、家に帰ってきて。
数日ぶりによっすぃーに会ったら、こんなことになってて…。
石川はそう言いながら、リビングのガラス戸を押し開けた。
憂鬱そーに、俯きながら。
一体、どーしたってゆーのかしら?
石川に導かれてリビングへ入ると、そこには

151 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:51

「保田さんじゃないですかぁ〜」

「吉澤……?」

リビングのソファの上に足を伸ばして座り、その上からブランケットを掛けた吉澤の姿。
…ちょっと待て、なんか見覚えある光景だぞ?

「吉澤、あんたまさか……?」

「その、まさかです…」

吉澤ではなく、隣りで俯く石川が応える。
吉澤はまったりとテーブルの上の柑橘類を食べながら雑誌なんか読んでいる。
あれはまさしく、あの時の育児雑誌だ。
まだ取ってあったのか!?

「帰って来たら、妊娠した、妊娠したって…」

今にも泣きそーな声で石川は言う。
心なしかただでさえ高い声が更に上擦っている。
み、耳が痛ひ…。

152 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:52

「もう、三日間耐えたんです。
今回はちゃんとよっすぃーのお芝居に乗ってあげたんです。
二人で育児雑誌読んだり、教育番組見て子育てとは、とかゆーTVを
見まくったりもしたんです!!
ちゃんと一生懸命、一緒に家族ごっこしたのに…。
そしたらずるずるずるずる、いつまで経っても終わりゃしないんですよ!!
この調子だとそのうちよっすぃー、ラマーズ法の教室とか
通いだしちゃいますよ!?
もー、限界です。
私の頭、おかしくなっちゃいます。
保田さん、助けて下さい!!私、どーしたらいいんですか!?
もしかして、こんなことが断続的に続いちゃったりするんですか!!?
保田さん、よっすぃーはやっぱり病気なんじゃないですかぁ!!!!?」

梨華ちゃーん、あんまり大きな声出さないでね。胎教に悪いからぁ。
ソファの上からは吉澤の間伸びした声。
傍らからは石川の半ベソキイキイ声。
これって…これって……

153 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:54





「あたしに一体どーしろってゆーのよーーー!!?」






154 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:55



保田さんの受難は、まだ始まったばかり。




155 名前:『よっすぃーの病気』 投稿日:2005/01/07(金) 23:55




〜『よっすぃーの病気』完治せず。Fin

156 名前:桜折 投稿日:2005/01/08(土) 00:03


数日間続いたおバカ話、治らないまま終わってしまいました(w
いいのかこれで。


>135様

なんだかんだで、結局師匠でおとしました。
でも、きっと圭ちゃんなら頑張ってくれる筈!!(ヲイ)


>よす様

きっといいことありますよ〜。
自分はこの話書いて良かった、ここにスレたてて良かったぁって思いました(w
圭ちゃん、まだまだ残務がありますがきっと全部引き受けてくれることでしょう。
イイ奴だぁ。

157 名前:プリン 投稿日:2005/01/08(土) 13:36
更新お疲れ様です。
かなり面白かったです(w
治らないで終わっちゃうのかよっ!w
保田さんた、大変だなあ。
158 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/10(月) 17:58
ふははは。ヤッスーに幸あれw
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/10(月) 23:57
ただのバカ話かと思いきや(失礼)切なくさせて最後のオチにニヤリw
160 名前:桜折 投稿日:2005/01/15(土) 03:14

>プリン様

面白かったですか?嬉しいです。
ま、病気は保田さんに治してもらうってコトで(他人任せ)


>158様

ヤッスーに幸あれ〜w
ヤッスー視点、実は結構書きづらかったです。はい。


>159様

ただのバカ話を目標に書いたんで(w
そう言って頂けると嬉しいです。
オチてるんだかどーだか微妙なトコにもっと精進が必要だな、と。



微妙に終わっていった某番組をいしよし補完してみました。
前・後編2回の更新で。

161 名前:桜折 投稿日:2005/01/15(土) 03:15




『恋人は魔女』




162 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:16

「よっすぃー、よっすぃー」

あたしの服を引っ張って、彼女は聞く。

「あれはなーに?」

透けるよーな薄いピンクに花びらを散らせた綺麗なネイルで
指差したのは、骨董屋の店頭に飾られた年代モノと思しき草履。
鼻緒の部分が鮮やかな朱で、繊細な刺繍や彫りが巡らされる美しい芸術品。
あたしはそれをしばし眺めた後。
さも当然、といった表情で説明を始める。

「これはね、昔の人が使ったものでね。天気を占うためのものなんだよ」

後ろを通った女子高生二人組みが、ぷっと吹き出すのが視界の端に映った。

「どーやって?どーやって??」

だけど、目を輝かせて講釈に聞き入る彼女にはソレは解からなかったらしく。
ひと安心。
だからあたしは、声を上げて、人目も気にせず…人耳も気にせず、胸を張って話を続ける。

163 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:17

「これを履いてね…あ、こう、足の指に挟むカンジにね。
で、蹴るよーに飛ばす訳。
そんで転がったのが表だったら明日は晴れ。裏っかえしだったら、雨」
「じゃあ、もし、こう…横になっちゃったら?」
「そりゃ、曇りだよ。こう、上向きになっちゃうよーな場合は雪」
「すごーい」

彼女はソンケーの眼差しであたしを見ている。

「これ、あたしたちが今履いてる靴でも出来んだよ。ほら、見ててみ」

あたしは言うが早いか、勢いよく履いていたスニーカーを蹴り上げる。
ぽーん、と飛んで。
スニーカーは裏っかえしにアスファルトの上に落下した。

「雨だ!!」

嬉しそうな声。

「すごいすごい」

その声に、ちょっぴり罪悪感を感じつつ。

「これって、大和撫子?」

しかし、間髪いれずに出たお決まりの台詞に

「…そーだよ」

あたしはムっとしながらも、堂々と応えた。

164 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:18

「昔っから、大和撫子はこの占いをこよなく愛したんだよ」

「すごーい」

またワントーン上がった、彼女の声。

「これでまた、私、大和撫子への道を一歩進んだのねっ」

ぽん、と。
履いていたパンプスを不器用に飛ばして。
嬉しげに宣言する彼女を見て、あたしは決意を新たにする。
愛する彼女の為に、嘘をつき続ける決意を。
ぐっと手に力を込めて立つあたしの横で、彼女は

「大和撫子大和撫子!!」

と連呼して、ぴょんぴょんはねている。
往来を行く人は皆、あたしたちを微妙に避けて歩いていった。
……ま、負けないんだから。うん。




165 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:18

******


出会いはかなり唐突だった。

「あの、この…す、すあ…ま?って、どんなものなんですか?」

カウンターごしにあたしを見上げる瞳にノックアウト。
そんなカンジ。

「それと、この豆…大福?お豆が入ってるんですか?おいしいの?」

うちの和菓子屋に彼女が入ってきた時はぎょっとした。
ショッキングピンクのワンピース?(しかもかなり短い)に
頭にはヘンテコな帽子。
手にはステッキまで持ってる。
しかもステッキの先の方はなんかぴかぴか光っちゃってる。
『なんとかちゃんの魔法変身セット』なーんて、子供のおもちゃみたいなソレ。
明らかに不審者。
そんな人が手には所謂おばさんの買い物籠を下げて、手には紙きれ。
きょろきょろしながらやってきたのだ。


166 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:19

「羊羹…ああ、コレ知ってる!!前に三好ちゃんたちが持ってきたわ!!」

かなり警戒しながら、カウンター前で物色している彼女を凝視。
ぶつぶつと『なでしこになるには…なでしこになるには…』などと意味不明なことを
口走ってる彼女を見守ること数秒。
顔を上げて、質問してきた彼女のキラキラした瞳に…不審者っつーことも忘れて、
すみません、ギブしてしまいました。

「あー…えっと、すあまは甘い、お餅みたいなので…
ま、豆大福も美味しいっすよ?た、食べてみます!?」

かなり噛みながら言うと、あたしはガラっとガラス戸を開けて無造作に豆大福を
掴むとそのピンクのヘンテコな可愛い子に差し出した。

「いいの〜?ありがとぉ」

そう言って、彼女は受け取り…しげしげとそれを観察した後、口に持って行った。
その観察する様がまた可愛くて、見とれてしまう。

「ん、おいしい〜」

口の端に粉を付けながら微笑む彼女。

「中に餡子が入ってるんですね〜」

167 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:20

あたしは思わずカウンターから手を伸ばして、彼女の唇に付く粉を拭う。
彼女と目が合って……赤面。

「あ、ごめん。口に粉付いてたから…」
「あ、ありがとー…ございます」

拭った粉のついた手を、無意識に自分の口に持って行ってしまい…。

「あっ」

更に赤くなった彼女を見て、あたしも更に赤くなる。
な、なにやってんだ…あたし……。
これじゃあたしが不審者だっての。

「この、豆大福って、日本に昔からある食べ物なんですか?」
「うぇ…あ、ああ、多分」

いきなりそんなことを聞かれてぎょっとして、しどろもどろ。
けれど彼女はその返答に満足したようにひとつ頷くと

「じゃあ、これ3つください…あ、今日もお客さん来るかもしれないから
あと3つ…6つにしてもらえますか?」

にっこりと微笑む彼女にまた一瞬見とれて…

168 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:20

「は、はい。6つね…はい、今包みます」

慌てて、大福を包み始める。

「そ、そーだ。もしかしてピンク好き?」

全身ピンクの彼女。

「うん。大好き。なんで?」
「苺大福、おまけで入れておくよ。ピンク色の大福だから」
「ほんと?嬉しい!!」

彼女の笑顔に満足して、苺大福を3つ入れる。
どーせもう夕方だ。
売れ残る可能性を考えれば、親も大して怒らないだろう。

「はい、コレ…」
「おいくらですか?」

ピンクの財布を出す彼女から代金を受け取って、おつりを返す。

「あの、この辺りに魚屋さんってありますか?」
「ああ、この商店街の端っこの方だけど」
「じゃあ、八百屋さんは?」
「魚屋さんの斜向かい」
「お花屋さんは?」
「……待って、その格好で全部行くの?」

169 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/15(土) 03:21

彼女は『?』ってカンジで小首を傾げて。

「これも修行の一環ですから」

そんなことを口走って、またにっこり。
しゅ、修行って……?
いや、その前に、そんな格好で行ったら魚屋のおじちゃんも八百屋のおばちゃんも
びっくりしちゃうよ!!

「修行…なの?」
「そう。私、大和撫子になるんです!!」

や、大和撫子ですか…。
今時、なんちゅー修行だよ。
つーか、まず格好から入った方がいいと思うんだけど。

「と、とにかくちょっとこっちおいで」

あたしはそー言うとカウンターの仕切りを上げて、彼女を中に引っ張り込む。
お店からうちへ上がる戸を開けて、彼女のヘンテコなブーツを脱がせて上へあげる。
居間まで連れてくると

「ちょっと待ってて」

あたしは慌てて2階に上がった。

170 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:06

今日は家中誰もいない。
だから、家を出て一人暮らしをしてるあたしが呼びつけられて店番なんてしてるんだ。
あたしは自分の部屋のクローゼットを開けて、しばし躊躇。
…うーん、体格的に難しいかなぁ。
部屋を出て、断りなしに隣の部屋のドアをばーん、と開く。
妹の真琴の部屋だ。
また断りなしに、クローゼットのドアをばーんと開く。
うーん。
やっぱり体格的にどーかと思う。
うちの姉妹はこう、体格が良いんだ。
遺伝子の問題に違いない。
そーいうことにしておこう。
でも、とにかく身長的にはあたしのよりこっちの方がいいに決まってる。
てきとーにジーンズとシャツを選び出して、あたしはバタバタと階段を駆け下りる。

「はい」

もの珍しそーにうちの居間を眺めていたその子に、手にした衣類を渡す。

「え?」
「コレ、着てって。そんな格好でうろついてたら変な目で見られちゃうよ。
つーか、変な目で見られなかった?」
「そーいえば、さっき行った乾物屋さんでじろじろ見られてた気が…」
「でしょ!?いいから、コレに着替えて。あたし、お店戻ってるから」

171 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:07

それだけ言うと、あたしはそそくさとお店に戻った。
これでも店番だ。
お店をそー長くは空けておけない。
…つーのは建前で。
廊下とかにいたら、着替えを覗きたい、なーんて下心に勝てなくなりそーだったから。
でもさ。
コレで、洋服を返しにもう一度彼女はここに来ることになる訳で。
そしたらさ。
また会える訳で。
これを縁に、なんとか…。

「あの…」

もやもやと都合のいい妄想を膨らませていると、戸が開いて、彼女が入って来た。
あー、やっぱりダブダブってカンジだけど。
まあ、さっきのショッキングピンクで商店街うろつくよりはマシでしょ。

「このお洋服…」
「ああ、妹のだからさ。いつか返してくれればいいから」

真琴のことだ。
一ヶ月くらいは気づくまい。

172 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:07

「ありがとーございます」

深々とお辞儀をして、だけど彼女は自分の着た服の端をつまんで眉を顰めて
凝視してる。
…なんだ、あのショッキングピンクの方がいいのか?

「ごめんね、ピンク色があったら良かったんだけど
生憎あたしも真琴もピンクはちょっと…」

すると彼女は顔を上げて。

「あ、大丈夫です。自分でなんとかしますから」

笑顔をこちらに向けたかと思うと。

「えいっ」

一回、手をスウィングさせると服はみるみる彼女の身体にフィットして。

「…っ!?」

「えいっ」

もう一回スウィングさせると、シャツはみるみるピンク色に染まった。
救いだったのは、それがショッキングピンクじゃなくて
薄い、苺大福みたいな甘いピンクだったこと。

173 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:08

「……」

呆然とそれを見守るあたしに、彼女は悠然と

「あ、お返しする時、元に戻しますから」

そう言った。

「あ、アンタ…」

「申し遅れました。石川梨華と言います。大和撫子になる修行の為に
魔界から来た魔法使いなんです」



174 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:09

********


それからというもの。
毎日和菓子を買いに来る梨華ちゃんに会う為に、あたしは親にいぶかしがられ
ながらも毎日夕方には家に戻って店番をした。
一人暮らししてると言っても1駅離れたアパートで、歩いて15分掛からない。
夕飯代が浮くと思えば、まあ、安いもんだ。

「お姉ちゃん、そんなに金欠なら帰ってきなよ〜」
「いやぁ、彼女に金が掛かってねぇ」
「フケツ〜〜〜」

真琴の憎まれ口も軽く流して。
そしてなんとかかんとか、彼女を『お寺』とか『神社』とか日本の伝統ある建物へと
連れて行ってあげるって口実でデートに誘いだし……。


********
175 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:10

「よっすぃー、生け花って何処行けば教えて貰えるの〜?」

あたしの部屋。
ソファに座った梨華ちゃんが、雑誌をめくりながら言う。

「んー…。あたしが教えてやろーか?」

梨華ちゃんから雑誌を奪って言う。
雑誌の特集は『女の子の知っておくべきマナー特集』
……あとで捨てておこう。うん。

「ホント!?よっすぃー出来るの?すごーい」
「だいじょーぶだいじょーぶ。このよしざーさんに任せない」

勿論、生け花なんてやったことない。

「じゃあ、もしかしてお茶も出来たりする?」
「おっけーおっけー、このひーちゃんが全て教えてさしあげましょー」

言うまでもなく、お茶だって知らない。

「きゃー、ひーちゃんかっこいぃー」

ぎゅって抱きついてくる梨華ちゃんの額にちゅってキスをしながら。
頭の中でしめしめ、と思う。
これでまた、大和撫子からは一歩遠のいたな。

176 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:11

「私、最近すっごく成長したと思うの。
よっすぃーのお陰で和菓子の種類もわかるよーになったし。
縫い物ももう、完璧だよ?」

ちなみに、和菓子の種類の半分はあべこべに教えたし
縫い物に至ってはあたしが何かするまでもなく、針を持っては指に刺し
糸を通すのも一苦労な状況だ。

「大和撫子まで、あと一息ってカンジよねっ」
「ふぅーん」

出会って一ヶ月。
修行の合間を縫って、梨華ちゃんはあたしに会いに来る。
そんなカンケーにまでなんとかかんとか発展した訳で。
そしてあたしから、梨華ちゃんはどんどん間違った情報を吸収していってる。

「これも、よっすぃーのお陰だよ?ありがとー、よっすぃー」

そう言って、すり寄ってくる梨華ちゃんを抱き締めて。
ちょっとだけ罪悪感。だけど。

177 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:12

「よっすぃー、大好き。
だけど、私は所詮、魔女。人間界にはいられない。
よっすぃーとずっと一緒にはいられない。
でも、魔界に帰っても、よっすぃーのことは忘れないよ」

そんなことを言う梨華ちゃんに、ムっとする。
何回かデートと思しきものを重ねて、あたしが告った時。

「嬉しい、よっすぃー」

梨華ちゃんが涙ぐんだ瞳で幸せそーに笑ったのを見て
あたしは踊りだしそーになった。
だけど。

「でもね、よっすぃー…」

私、魔女でしょ?
大和撫子になる修行が終わったらね、魔界に帰らないといけないの。
私も、よっすぃーのことすごく好き。
だけど……だから…。

梨華ちゃんはそう言うと、悲しそうに顔を歪めた。

178 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:14

どーしても?
帰んなきゃダメなの?
あたしとは付き合えないの?
魔女だって人間だってカンケーないじゃん!!

それから何回も聞いたけど。
梨華ちゃんは首を振るばかり。

「よっすぃー、大好き…」

魔女ってなんなのさ。人間てなんなのさ。
何回か見たけど梨華ちゃんだって、あたしと変わんない身体してんじゃん。
食べて、お風呂入って、寝る。
あたしと変わんないじゃん。
どーしてそー、魔界に帰ろーとすんの?

「嬉しーよ、梨華ちゃん」

だけど、あたしはそんなこと欠片も口に出さずに梨華ちゃんを抱き締める。

「あたしも、梨華ちゃんのこと忘れないからね」
「よっすぃー…」

これは本当。
あたしは梨華ちゃんを忘れる気なんてこれっぽっちもない。
ついでに言うと、手放す気も。
だって、やっと手に入ったあたしの宝物だもんね。
だから、決めたんだ。
梨華ちゃんの修行を妨害しよーって。

179 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:16

「あ、そろそろ帰らないと。よっすぃーも応援してくれてることだし
修行、頑張らなくっちゃ!!」

そう言ってファイティングポーズを決める梨華ちゃんを抱き寄せて

「いいじゃん。今日は泊まってきなよ」

耳元にささやく。

「で、でもぉ…修行の続きがぁ……」
「だーから、あたしが教えてあげるから」
「よっすぃー、着物の着付け出来る?」
「おっけー」
「浴衣も留袖も振袖もぉ?」
「任せとけ」
「……ホントにぃ?」

疑わしい視線を投げかける彼女をきつく抱き締めて、ロックオン。
どーせ、そんなことする暇なんて与えないからどーとでもなるさ。

「全部、あたしに任せて」

180 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:17

ささやいて、ベッドまで導いて押し倒す。

「うん……」

恥ずかしそーに俯いて。
だけど嬉しそうに微笑んで。
梨華ちゃんは目をつぶる。
いつか、彼女があたしの嘘に気づく日が来るだろーか。
彼女に恋する故に、嘘をつき続けるあたし。
だけど。
梨華ちゃんが怒ろうと、泣き叫ぼうと、手放す気なんて毛頭ない。
魔界になんて返してやるものか。
大和撫子になんて断じてさせない。
深くキスをすると、部屋の照明がどんどん暗くなっていくカンジがした。
きっと、梨華ちゃんの魔法だ。
こーゆー時は、魔女の彼女も悪くない、なんて思うけど。
いや、やっぱりダメ。
魔法なんてダメ。魔界なんてダメ。
絶対、梨華ちゃんは魔界に帰さないんだから!!

181 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:18

******


「よっすぃー、お琴教えて?」
「うん、いいよ」
「……よっすぃー、ホントにこんな弾き方するの?」
「そーだよ」
「ホントに?」
「…梨華ちゃん、あたしのこと疑ってる?」
「ううん、違うよ。ごめん」


吉澤ひとみ、この恋のために頑張ります。



182 名前:『恋人は魔女』 投稿日:2005/01/16(日) 02:19



〜Fin





183 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2005/01/16(日) 10:44
魔女の梨華ちゃん可愛すぎ!
コミカルタッチですがシリアスでもグッとくる設定ですね〜
続編・新作も期待しちゃいます
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/16(日) 14:33
いいキャラしてんな〜よっすぃw
なんかこの話好きです。同じく続編期待!
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/16(日) 16:17
終わりかよ!ww
まぁ魔界での修行も似たようなもんですしねぇ
頑張れよっすぃ
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 00:27
よっすぃどんな琴のひきかた教えてんだよよっすぃw
この恋の行方がもうちょっと見たいなーと言ってみたり。
187 名前:桜折 投稿日:2005/01/18(火) 23:41




『teens』




188 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:42



寒いと思って見上げた空から、雪が降ってきた。

だから私は、私の誕生日が近いことを思い出した。

あの日も、雪が降っていたから。



189 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:43


雪がふわりふわりと舞い降りて、あの頃の色々な出来事が

私の中に浮かんでは消えていく。

あの頃。

私たちは傷つきながら

ぼろぼろになりながら

手探りで愛し合っていた。

あなたを一杯傷つけたし

あなたに一杯傷つけられた。

だけどそれは、心に刻む愛のシルシ。

苦しみにも、悲しみにも、寄り添い耐える。

それだけの愛を、私もあなたも持っていた。


190 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:43


それは私たちの年には不釣合いすぎて

不恰好すぎて

均衡を失わせ

それがまた、私たちを互いに傷つけさせた。

傷つき果てて。

疲れ果てたあなたを見て。

私は、あなたを守るためだけに別れを決めた。

あの日、繋がれたあなたの手を、私から離した。




191 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:44




『出会わなければ良かった』と言った、あの日の言葉。

今でも覚えてるよ。

きっと、一生忘れない。

ねえ、よっすぃー。

あの言葉はもう、撤回してくれるよね?

私は、良かった。

例えこんな終わりになってしまっても。

出会えて良かったと、思ってる。



192 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:44



よっすぃー。

大好きだったこと、忘れないよ。

あなたを好きになったこと、決して後悔しない。

あなたに出会えて、良かった。

心からそう思える。

あなたを愛したあの日々は本当に大切な、宝石のような日々。

だけど。

もし、戻れるのだとしても

戻らない。

もう二度と、あの日には戻らない。


193 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:45



あの日は遠く。

だからこそ、美しく。

私たちだけの秘め事。

ずっとずっと、二人だけの美しい秘密にして

守っていこう?

まだ誰も踏み入っていない雪原のように。

そっと、そっと

お互いの心の奥深くに

ひっそりと隠してしまおう?



194 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:46


都会に降る雪は儚くて。

束の間留まって、消えてゆく幻。

手のひらにそっとその欠片を閉じ込めて。

目を閉じる。

もうすぐ、私の誕生日。

さようなら、よっすぃー。

さようなら。

私の10代は、あなたのものでした。

あなただけの、ものでした。




195 名前:teens 投稿日:2005/01/18(火) 23:46




〜Fin







196 名前:桜折 投稿日:2005/01/18(火) 23:59

何故おたおめなのにこんな暗いの書いたのかと自問中(w
リアルの石川さんはハッピーなお誕生日を迎えますよーに。


レス、ありがとーございます♪
『恋人〜』続編、近日公開の方向で。

197 名前:桜折 投稿日:2005/01/19(水) 00:00

 >ラヴ梨〜様

そういったレスが多いので、続編、頑張ってみよーと思います。
ちなみにここではないどこかで飼育初書きしたときの初レスは
ラヴ梨〜様でした。
その節はありがとーございました(w

 >184様

よっすぃーのキャラと頑張りに掛かってる話なんで(w
続編でも頑張って貰いましょ。

 >185様

自分も結構中途半端な終わり方だなー…と思ったんですよね。はは。
もうちょっとよっすぃーには頑張ってみてもらいます。

 >186様

とても自分の文章力ではあらわせない弾き方です。きっと。
恋の行方、近日公開です。

198 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/19(水) 22:49
誕生日なのにセツネェ〜。でもこういうのも好きだな。
199 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2005/01/20(木) 01:21
お礼言われるなんて滅相もない(笑)
素敵な作品に巡り会わせてくれる作者さんにこそ感謝です!
「teens」の雰囲気は明るい話のあとだけに対照的でいいですね
200 名前:桜折 投稿日:2005/01/31(月) 00:26

次は魔女の話の続編を…と思っていたんですが、先に出来た別モノを上げてみます。
カオたん卒業に寄せてとか、前のスレで完結してないのとか書きたいものが一杯ありすぎて
正直あっぷあっぷです。


>198様

気に入ってくれる方がいて嬉しいです。今回のも気に入って頂ければさらに嬉しいのですが…。


>ラヴ梨〜様

ありがとーございます。
そう言って貰えると、作者冥利に尽きるってーもんです(^▽^*


今回は3〜4回程度の更新で。
201 名前:桜折 投稿日:2005/01/31(月) 00:27





『スクーターに乗った王子様』






202 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:27



おばあちゃまは昔、叶わぬ恋をした。
仲を引き裂かれ、泣く泣く親の決めた人…つまりそれが私のおじいちゃまなんだけど
…と結婚する時。
おばあちゃまは、その人と約束した。
いつか自分の子供たちを結婚させよう、と。



203 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:30

「うぉーい」

大声と共に背後からスクーターが突進してきて、私を少し通り越して止まった。

「これからがっこ?いいねぇ、学生さんは能天気で」

スクーターの後ろに積んだ荷物がガチャガチャ揺れて。
その子はそれを気にも留めずに、乱雑にスクーターから降りた。
これが私の王子様…になる筈だった人。
吉澤ひとみちゃんことよっちゃん、19才。
ちなみに女性。
ちょっとヨレてるジャージなんて着て、ぱっと見どっちだか解かんないんだけどね…。

「あったしなんてさ、これから配達だよ」

去年高校を卒業して、よっちゃんは家業の酒屋さんを手伝ってる。

「酒屋さんが配達なんていつものことでしょ?」
「いやー、ビールとポン酒合わせて10ダース、隣町の寺までさー。お清めってーの?
あっちの贔屓の酒屋が先月潰れてやんの。お陰であたし、何往復もさせられてんだよ」

あはは、って豪快に笑うよっちゃんを見て。
どっちが能天気なのよ…って思っちゃうのは、私が素直じゃないからとかじゃなくて。
ひねくれてるからじゃなくて。
ただ、嫌なことがあった後だから。

204 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:37

「じゃあ、授業遅れるから」

そう言って隣りをすり抜け、先を急ごうとすると。

「今夜、青年会の会合だからな?忘れんなよー!!」

大きな声で呼びかけられる。
振り返って見たよっちゃんの笑顔は、やっぱり能天気で。
楽しそうで。
私は、思わず悪態のひとつもつきたくなって…。

「よっちゃんが、男の子だったら良かったのにね」

そんな言葉を零していた。




205 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:38



***



206 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:38

近所の区民会館の会議室を借りてする、商店街の青年会の会合。
会長がよっちゃんになって、一つ大きな部屋に移った。
理由は簡単。
よっちゃんが人気者だから。
騒々しい部屋の片隅に座り、若者で一杯の室内を眺める。

「随分変わったよね〜」
「うん」

地元の高校でも人気のあったよっちゃん目当てに、この地域に住む
若い女の子たちの参加率が凄いことになっている。

「ねえ、美貴ちゃん」

隣りに座る花屋の美貴ちゃんは、同い年で仲良しさん。

「なーに?」
「美貴ちゃん、男の子にならない?」
「なに、ソレ。梨華ちゃん欲求不満なの?」
「だめーーーー!!!」

大きな声と共に、美貴ちゃんの背後から何かが圧し掛かってくる。

「美貴たんはあたしのです。石川さん、駄目ですよ!?」

207 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:40

別に美貴、モノじゃないし…。
ってつぶやく美貴ちゃんを無視して、その首にかじりつくのは
美貴ちゃんの従姉妹の亜弥ちゃん。
現在浪人中で、東京の予備校に通うためにこっちに出てきて
美貴ちゃんちに居候してるんだけど。
今では予備校そっちのけで美貴ちゃんにべったり。
ちなみに美貴ちゃんはスルーで大学に入ってたりで。
私と違って、結構頭イイんだよね。
私なんてなんとか付属の短大に潜り込んだってカンジ。
よっちゃんと美貴ちゃんと私は同じ商店街の幼馴染だけど、幼稚園が同じだっただけで
その後はバラバラ。
私は小学校から私立に入れられちゃったし。
よっちゃんと美貴ちゃんは小学校は一緒だったけど、同じクラスには結局一回もならなくて。
中学からは学区の関係で別々になっちゃった。
今でもこうして仲良くしてるけど。
でも、いつか、私たちも大人になって。
こうやって集まれるのも少なくなっていっちゃうのかな…。
そんなことを、じゃれ付く美貴ちゃんと亜弥ちゃんを眺めながら考えてたら
お店を閉めてやってきたよっちゃんが登場。
青年会の会合が始まった。
私は、よっちゃんの任命で副会長兼書記をしているから
すかさずノートとペンを取り出すけど。
結局上の空で。
殆ど何も書き留めないまま、会合は過ぎて行った。
いいや。
あとで美貴ちゃんにでも聞いて、適当にまとめて書いとこっと。

208 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:41




「ファミレス行くっしょ?」

よっちゃん、美貴ちゃん、私。
それに最近では亜弥ちゃんと。
時々、うちの妹のさゆみ。
会合が終わると、駅前のファミレスのドリンクバーでうだうだ過ごすのが定型のパターン。
いつもはその時間が、すごく楽しみなんだけど。

「ごめん、私、今日は帰る」

区民会館を出た所で、私は足を止めた。

「そっかー」
「じゃーねー」

美貴ちゃんと亜弥ちゃんがさらっと流す中。

「どした?腹痛い?」

よっちゃんが聞いてくる。

「なんか、元気なくない?」

いつもへらへらしてる癖に、こんな時ばっかり鋭いんだから。

209 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:41

なんでもないよ、と返そうとして。
靴屋のれいなちゃんと話し込んでた筈のさゆがいつのまにかやってきて、余計な口を挟む。

「実はね、お姉ちゃん…」
「さゆ!!」

強い口調に、私たちだけじゃなく三々五々帰ろうとしてた人みんなが振り返る。

「あ、なんでもないよ。ちょっとお店のことで頼まれてて。ほら、さゆも帰るよっ」

私は慌ててさゆの手を引き歩き出した。

「おーい、ちょっと待てよ、イシカワー」

よっちゃんの声に背を向けて。



210 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:43



***




211 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:44

それは、解かっていたことだった。
うちはもう何代も続いた、ママ曰く『伝統ある』仕出し屋だから。
パパが早世してから一人でお店を切り盛りしてきたママの口癖。

「梨華ちゃんは大きくなったらお婿さんを貰っておうち継いで、ママを楽させてね」

子供の頃は、ぼんやりとした将来のお話だったけど。
それは日ごとに現実味を帯びて。

「梨華ちゃん、悪いお話じゃないと思うの」

ママが差し出したお見合い写真を、その朝、私は拒絶することが出来なかった。
ママは今まで、私たちのために頑張ってくれたから。
なんだかんだ言っても、世の中にはまだ『男社会』ってゆーのが存在する。
幾人もいる職人さんを束ねたり、仕入れをしたり、お客さんとの顔を繋いだり。
女のママ一人では、限界がある。
これまでは今までの義理っていうのでなんとか済ませていた部分もあったけど。
やっぱり、それにも限界がある。
それは十分解かってたから。
これからは、私が頑張る番。
そう思った。

212 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:44

「あぁ、ひとみちゃんが男の子だったら良かったのにねぇ」

こんなときに、ママの口から出た言葉。
それは私の肩を震わせる。

「よっちゃんなら、お婿さんに来てくれるんじゃない?いっつも男の子みたいな
カッコーしてるしさ。パン屋のこんちゃんにこないだまたセクハラしてたよ〜」

いつから居たのか、制服姿のさゆが私の飲みかけのジュースを横から取って飲み干した。

「あ、あなたいつからいたの?もう、ひとみちゃんに失礼でしょ!!」

ママはそう言って、だけど顔は全然怒ってなくってさゆの髪を手櫛で整えたりしてる。
全く、さゆには甘いんだから。

「それより、今の話聞いてたんだったら、絶対人に言っちゃダメだからね?」

「えぇー、なんでー?」

その顔は、今にも言いたそうだったので。

「お見合いなんだから、ダメになるってこともあるでしょ?」

私はママの後ろでうんうん頷く。

213 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 00:45

「だーいじょーぶだって。お姉ちゃんだって十分可愛いんだからさ。
まあ、さゆには敵わないけどねっ」

にこっと笑って、さらっと言うさゆ。

まあ、いつもこんな調子だから慣れてるんだけど。

「じゃ、行ってきまーす」

そう言って玄関へ向かうさゆの後を追って、部屋を出て行こうとしたママは一度振り返って

「じゃあ、梨華ちゃん。そのお話、お願いね?」

少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。
そんな顔されたら、やっぱり嫌なんて言えなくて。
途端に静まり返った部屋の中で、よっちゃんの笑顔がふと浮かんだけれど。
それは朝が来て、目覚めると忘れてしまう夢のように。
淡々と、儚く消えていった。



214 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:52




***




215 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:53


私は、よっちゃんのことが好きだった。
ずっと、ずっと。
いつからかなんてわからないくらいに。
ずっと、よっちゃんが好きだった。
よっちゃんが、私の王子様になるはずの人だったなんて知る前から。
ずっと、ずっと……。


216 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:53

おばあちゃまが恋をした相手、それがよっちゃんのおじいちゃんだった。
二人はやがて生まれる子供たちを結婚させようと思ったんだけど…
生まれてきたのは女の子ばかりだった。
両家は仕方なく、それぞれに婿を取らせて。
やがて生まれてくる孫たちこそは絶対に結婚させよう、って約束し直したんだけど。
吉澤家に生まれてきたのはよっちゃん一人。
対して石川家には私とさゆの二人。
つまり、また女の子しか生まれなかった訳。
吉澤家のおじいちゃんは私たちが生まれる前に亡くなっていて。
うちのおばあちゃまも、私たちが小さい頃に亡くなった。
私とよっちゃんは、おばあちゃまからその話を聞いたんだけど。
やっぱり、私たちの子供にその約束は引き継がれるのかな?
もうおばあちゃまはその先の話はしなかったけど…。
小さい頃のよっちゃんは、私をすごく大切にしてくれた。
どこに行くにも手を引いて一緒に連れて行ってくれたし。
泣き虫だった私の面倒を嫌な顔しないでいつもみてくれた。
それって、子供にしたらすごいことだなって思う。
「梨華ちゃんのことは、あたしが守ってやるから。だから泣くな」
幼いよっちゃんはよくそう言って、泣く私をなぐさめてくれた。
パパが死んじゃった時も。
よっちゃんはうちに泊まってくれて、さゆと私の手を握って一緒に寝てくれた。
さゆの寝息が聞こえ始めても泣き止まない私の頭を、眠るまで撫でていてくれた。
窓から差し込む月明かりに照らされたよっちゃんの顔を見ていたら、
とても安心したことを、今でもはっきりと覚えてる。
よっちゃんは、私の王子様だった。
いつでも優しくて。守ってくれた。

217 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:54

だけど、時が過ぎて。
私たちはどんどん大きくなって。
いつからか、よっちゃんは私をイシカワと呼び。
全然優しくないやり方で、私をからかってやり込めるようになった。
私の知らないよっちゃんがどんどん増えていって。
寂しかったけど。
だけど、それでも。
どんなことされても。
どんなこと言われても。
よっちゃんはずっと私の王子様だった。
でも、それももう、終わりだね。
楽しかった子供の時間は過ぎて。
私たちは大人になる。
よっちゃんへの憧れも、想いも、もう断ち切らなきゃいけない。
やっと解かったよ。
おばあちゃんたちの想い。
ねえ、よっちゃん。
もしも。
いつか私の生む子と、よっちゃんが生む子が結婚したら、素敵だね。
そうして、おばあちゃんたちの想いと、私の想いが成就する日が来たら。
私はきっと、もう、思い残すことなんてないな……。

218 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:55




***




219 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:55

「ねえ、お姉ちゃんホントにお見合いするの〜?」

あの場に残したら、絶対言いふらすに決まってるさゆの手を無理矢理に引いて
家路を急ぐ。

「さゆ、ホントみんなに言っちゃ駄目だからね」

振り返らずに、歩きながら言う。

「絶対に、誰にも言っちゃ駄目だよ」
「でもさぁ、今時お見合いなんて…」

さゆの声に。

「なんでもいいから、お願い。絶対みんなに言わないで」

足を止めて。
振り向き、見つめて言う。

「絶対だよ」

月が青白く輝き、私たち姉妹を包んで。
さゆは、私の剣幕に驚いたように微かに震え、そしてそのまま
目を見開いたまま曖昧に頷いた。

220 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:56




***




221 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:57

お見合いは、早速週末に決まった。

「相手の方があなたの写真見てすごく気に入って、早く会いたいって」

家に着くなり、ママはニコニコとそう言った。

「そう…」
「ねえねえ、私も行っていいでしょ?」

横から出てきたさゆの声に、私の憂鬱な声はママには届かなかったみたいで。
一安心。

「ダメよ、あなたは」
「えぇー。さゆも行きたい!!おいしいもの食べるんでしょ!?」
「おいしいもの食べるために行くんじゃありません」
「ずるーいずるーい」

二人がリビングに入っていくのを見届けて、私は一人、部屋に戻った。
電気をつけない部屋は微かな月明かりに支配されて。
私は窓に寄り、夜空を見上げた。
月が綺麗で。
私はよっちゃんと並んで寝た、あのパパのお葬式の夜を思い出していた。
よっちゃん。
私たち、あれから随分遠いところまで来てしまったね。
よっちゃん。
あの夜のこと、すっかり忘れちゃった?
月を見上げて、そんなことを思っていたら。

222 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:58

目の前に石が飛んできた。
カツン、と窓に当たって落ちていくそれを驚いて目で追うと、家の前によっちゃんが立っていた。

「よっちゃん!?」

慌てて窓を開けると、よっちゃんはおう、と手を上げた。

「何してんの?美貴ちゃんたちは?」

「なんかさ、イシカワ、様子おかしかったから」

そんな返事になってないようなことを言って。
よっちゃんはこちらを見上げてる。
一言発するごとによっちゃんの前に白い煙が浮かんだ。

「寒いでしょ?上がって」

玄関へ行こうと振り返ると

「いいよ」

よっちゃんの声に、また窓辺に引き戻される。
もう帰るのかな?
そう思ってまた窓から顔を出した私を見てニヤっとすると。
よっちゃんは路上の電柱を登り始めた。

223 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:58

「よ、よっちゃん…なにしてんの!?」

よっちゃんはみるみるうちにそれをよじ登り。
うちのお店の屋根に飛び移り。
そこから今度はうちの庭の木の枝に登って。
私の部屋の窓の前までみるみるうちにやってきた。

「なに、やってんの。よっちゃん……」

えへへ、と私の目の前で笑うよっちゃん。
そのはにかんだような、いたずらっぽい笑い方。
子供の頃と変わってない。

「前からさ、一回やってみたかったんだよね、コレ。絶対、ここまで来れると思って」
「だからって…。よっちゃん、忘れてるみたいだから言うけど、よっちゃんも女の子なんだからね?
あんまり無茶とかしちゃダメだよ!?」

忘れてねーよ。
そう言って。
よっちゃんはちょっとだけ俯いた。

「イシカワがさ。その、昼間、変なコト言うから。気になって」
「……ありがと」

224 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/01/31(月) 23:59

ちらっと私を横目に見て。

「あのさ、なんかあった?」

言うよっちゃんが愛しくて。

「ん?なにもないよ?」

平然を装って、答えた。
だって…。
だって、言ったところで、何もなんないじゃん?

「ふうん」

よっちゃんは納得しない風にそう言って。
また私の顔をちらっと見て、俯いた。

「なによお」
「なんでもねーよ」

月明かりに照らされたよっちゃんの横顔が綺麗で。
私は思わずその頬に手を伸ばした。
柔らかいそれは、冷たくて。
なんだか、切なかった。

225 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/01(火) 00:00

「ただ、さ。…その、なにかあったら言って欲しいっつーか」
「……うん、ありがと」

まるで、ロミオとジュリエットみたいね。
窓から身を乗り出して、よっちゃんに触れる私と。
木をよじ登って、私に会いに来てくれたよっちゃん。
そう思って。
だけど、口をつぐんだ。
よっちゃんは、ずっと私の王子様だったけど。
それはもう、終わりだから。
だから、言わない。
なにも、言わない。
月明かりに透けるような白い頬に、身を更に乗り出してキスをした。
顔を離すと、よっちゃんの顔がどんどん赤く染まっていった。
だけど、よっちゃんは無言で俯いたままで。
私も、それを無言で見つめてた。
このまま、時が止まってしまえばいいのに、なんて思いながら。
よっちゃんが、愛おしくてたまらなかった。
大好きだよ。
大好きだよ、よっちゃん……。

226 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 01:25
更新 お疲れ様です。
ずっと拝見してます。作者さまのお話 大好きですよ〜♪
甘くもあり、切なくもあり・・
これからも いしよし・楽しみにしてますね。
227 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2005/02/01(火) 16:23
更新お疲れ様です。

なんだろう…苦しいです。
一気に読んだのですが今左胸の奥がぎゅんぎゅんしています。

切ないなぁ…

228 名前:桜折 投稿日:2005/02/04(金) 01:02
>226様

ありがとーございます。
これからも頑張ります!!


>孤独なカウボーイ様

切ないですか?
意図してやってるので(w
そう言って貰えるとやった!!ってカンジです。
自分にもっと力があればもっともっと切ないカンジにしたかったんですが…うーん。
精進します。


ちょっこす更新。
ここからは、『王子様』の登場、というコトで。

229 名前:桜折 投稿日:2005/02/04(金) 01:03


それから数日。
お見合いの日はすぐに来てしまった。
あれから、よっちゃんには会っていない。
メールが数回、着信も数回あったけど…無視した。
ごめんね、よっちゃん。
だけど、今はまだ無理。
もっと心の整理がついて。
私が割り切れるようになったら。
きっと結婚の報告も兼ねて、会いに行くね……?



***

230 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/04(金) 01:04

席が設けられたのは都内の有名ホテルの中にある料亭。
お見合いは午後からだというのに、私は午前中からホテルに連れて行かれて
髪をセットしたり、慣れない振袖を着せられたり。
支度が出来上がったのは、お見合いの約束の30分前。
はぁ…。
もう正直、ぐったりってカンジ。
まだお見合いなんだよ?
結婚式とかじゃないんだから。
帯がキツくて、ママや介添えの叔母様と入った喫茶室のお茶も喉を通らない。
ちょっと、と中座してお手洗いで帯をこっそり緩めたりして。
ほんの少しだけ息をつく。
だけど格式あると有名なそのホテルはお化粧室まで金ぴかで、すぐにまた目が回りそうになる。
もう、どこにも私の休まる場所なんてないんだわ…。
そうよ。
解かってたことじゃない。
今日の私はまな板の上の鯉よ!!
観念してお化粧室から出たら、駆けてきた人にぶつかって転んでしまった。
いつもはこんなにどん臭くないんだけど
不必要に大きく結ばれた帯のせいでバランスが取れないんだもん。
もう、と自分に腹を立てながら顔を上げると、そこには私にぶつかった人が倒れていた。
よっぽど急いでいたんだろうか、仰向けにひっくり返っちゃってる。
大丈夫ですか…?と声を掛けようとして、息を飲む。

「よ、よっ……」

だってそれは

「よっちゃん!!!」

今頃お店の配達してる筈のよっちゃんだったから。

231 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/04(金) 01:05

「梨華ちゃんっ、大丈夫!?何もされてない!!?」

そこには、いつもみたいに破れたジーンズにダウンを羽織りニット帽を被るという
極めてラフな場違いな姿のよっちゃん。

「えぇ?」

よっちゃんはがばっと起き上がると、まだ半分横になったままの私の身体を抱え起こす。
何もされてないって……今、よっちゃんにぶつかって弾き飛ばされたけど…?

「お、お見合い、もうしちゃったの?結婚するの!?決まったの!!?」

な、何言ってるの、よっちゃん…?
そんな犬や猫を貰うんじゃないんだからそんなに早く話がまとまる筈ないじゃない。
…大体、なんでよっちゃんはここにいるの?
…てゆーか、よっちゃん、なんで私のお見合いの話知ってる訳!?

「よ、よ、よ…」

混乱しちゃって、何ひとつ言葉にならない私。
目の前には必死の形相のよっちゃん。
えーと、えーと。
頭が真っ白になってしまった、そんな私に追い討ちをかけるように

「梨華ーー?」

背後からママの呼ぶ声がした。

232 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/04(金) 01:06

「い、行こう!!」

よっちゃんは立ち上がると、私に手を差し出した。

「早く!!!」

頭が真っ白な私に、正常な判断なんて出来る筈もなく。

「え…あ、うん」

あやふやなままに、私はよっちゃんに手を引かれて駆け出していた。



233 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/04(金) 01:07


廊下の途中の非常扉を重そうにこじ開けて。
連れ出されたのは、ホテルの裏の搬入口みたいなところ。
そしてしばらくよっちゃんに手を引かれてアスファルトを走ると、建物の隅に沿うようにして
よっちゃんのスクーターがちょこんと待ち構えていた。

「これで来たの!?」

「あ、焦ってて、電車とか考える余裕なくてっ」

よっちゃんはそう言うとエンジンをかける。
えーと、えーと、私、着物なんだよね。振袖なんだよね。
そんなことを考えて戸惑っていると、よっちゃんにぐいっと腕を掴まれて
スクーターの後ろに無理矢理に乗せられた。

「しっかり捕まってろよっ」

スクーターでそんな危ないくらい飛ばすの…?
そんな言葉は、なんだかこの場にふさわしくない気がして飲み込んだら。

「ほらっ」

朝から美容院でセットしてもらった髪にがばっとヘルメットを被された。
あぁ……。

「行くぞっ」

234 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/04(金) 01:07


振袖姿のあたしを後ろに乗せて、よっちゃんのスクーターが発進する。
都会の車道を行くその異様な光景に、道行く人がみんなもの珍しげに見るので。
私は恥ずかしくて、気を抜くとゆらゆらとたなびいてしまう長い袖を握り締め
よっちゃんにぎゅっと捕まった。
よっちゃんの背に顔を押し当てて隠して。
よっちゃんの背は子供の頃から嗅ぎなれた、だけど最近は全然感じる機会のなかった
よっちゃんの匂いがする、と思った。



235 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/04(金) 09:50
うわぁーー!きたーー!(興奮

取り乱しましたが、更新お疲れ様です。
続きがかなり気になりますね。
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/04(金) 20:30
更新お疲れ様です。続きがまた気になりますな〜w

王子様がんばってーーー!!(興奮


237 名前:桜折 投稿日:2005/02/13(日) 03:31
少し間が開いてしまいましたが、一気にラストまでいきます。


>235様

ありがとーございます。
ちょっと間が開いてしまいましたが、ラストまで突っ走ります(w


>236様

ありがとーございます。
王子様、ちょっとヘタレですが頑張ります!!

238 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:32


スクーターは、都内の道路を右往左往して。
小さな公園の前でやっと停車した。
ビルの間から東京タワーの切れ端が見えるから、多分、まだ東京。
私たちの育った町から遠いことは確実だった。

「ここまで来りゃ大丈夫だろ…」

よっちゃんはスクーターを降りると、へたりこむように公園の入り口近いベンチに座った。
私もよろよろとその隣りに座りこむ。
なんせ、かれこれ2時間近くスクーターであっちを曲がってこっちを曲がってを繰り返してたから。
私もよっちゃんも大分お疲れ状態。

「よっちゃん……なんで…」

しばらく息をついて、それから。
まだ背もたれに身を任せてぐったりするよっちゃんに疑問を投げかけた。
聞きたいことは一杯あった。
よっちゃん、何しに来たの?
なんで私を連れ出したの?
混乱して真っ白になった頭では、どれもこれも謎ばかり。

「あのさ」

よっちゃんは、だらんとした姿勢で。
空を見上げたままに言った。

239 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:32

「あのさ、あたし、梨――――――――――」

ギュィーーーーーーーーーーっと音がして。
公園のすぐ横を銀色に緑の線の入った電車が通過した。
よっちゃんの言葉をかき消して。
えぇっ!?
電車が過ぎて沈黙の戻った公園には、そんなオドロキ顔の私とよっちゃん。
ちょっと、ありえなくない?
なんなの、このタイミング……。

「……」

二人の間を沈黙が支配する。
な、なんなの?
よっちゃんの言い掛けた続き、すっごく気になるんだけど…。


ガタン


急によっちゃんが立ち上がって。

「ちょっと、そこの自販でジュース買ってくる」

あ、私も…。
言う暇もなく。
よっちゃんはこちらを見ずに入ってきたのとは逆方向の入り口にある
自動販売機に突進して行ってしまった。

240 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:33

ふぅ…。
私は、なんとはなしに空を見上げて。
今日は天気がいいな。
空、青いな。
そんなコトを思って、さっきのよっちゃんみたいに背もたれに寄りかかろうとして
何かがボコっと当たる感触で、自分が振袖を着ていたことを思い出す。
そう、私、お見合いすっぽかして来ちゃったんだ……。
途端に真っ白だった私の頭に現実が蘇る。
ママ、今頃どーしてるだろ。
お見合い、どーなっちゃってるんだろ。
そして。
よっちゃん、なんでこんなことしたんだろ…。
意識を取り戻して考えてみると。
思考は、自分に都合のいいコトの方へいいコトの方へと流れていく。
よっちゃん、もしかして…。
でもでも、ちょっと待って。
あり得ない。
そりゃ、昔のよっちゃんだったらあり得ないことじゃなかったけど。

241 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:33

「イシカワはキショいなぁ」

笑いながら私をからかうよっちゃん。

「キショいキショい〜」

美貴ちゃんと一緒になって、私の言うことや仕草にいちいち絡んでくる。
それはもう、何かの約束事みたいで。
私を見掛けると絶対、何か言わずにはいられないみたい。

「もー、なんでそんなこと言うのよぉ」

美貴ちゃんとか亜弥ちゃんに言われるならいいの。
だけど、よっちゃんには言われたくなかったから必死に食い下がったけど。

「よっちゃんのバカぁ。そんなコト言わないの!!」
「だぁかぁら、そーゆーのがキショいんだって」

そう言って嬉しそうに笑うよっちゃん。
そんなに私のコト、からかって楽しいの?いじめて楽しいの?
私のコトがキショくて嫌ならこっちに来なきゃいいのに。
だけどよっちゃんは嬉しそうにヘラヘラしながらやってきて、いつも私をからかう。

242 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:34

いつからかな。
よっちゃんは遠い存在になってしまった。
ううん。
遠くへ行ってしまった。
今でも手を伸ばせば届くところにいるんだけど。
でも、なんて言うのかな。
心の場所、みたいなモノ。
昔はよっちゃんの考えてることは手に取るように解かったし、何も言わなくても
よっちゃんは私のこと、なんでも解かってくれた。
だけど、今は。
よっちゃんの考えてること、全然解かんない。
私のこと、少しは好きでいてくれてるのか。
それとも近寄りたくないくらいにキショいとか思ってるのか。
今日ホテルから私を連れ出したのは、何故?
いじわるしたの?
それとも……その、私に結婚とかさせたくないから?
空に向けていた視線を落とすと。
よっちゃんが行ったときとは全く違う足取りで、こちらに戻ってくるとこだった。
ねえ、よっちゃん。
よっちゃんのこと、全然わかんないよ……?

243 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:34

「ほら」

そう言って、よっちゃんはミルクティの缶を私に渡して。
自分はストレートティの缶を開けて口に運ぶ。

「よっちゃん、あの…」
「待って」

よっちゃんは手にした紅茶をぐいっといっきに飲み干して。
はぁ、と息をつく。

「その、さあ……あー、なんてったらいいんだろ」

よっちゃんはそう言って、険しい顔で私を見た。

「あのさ、その……大体、なんでいきなりお見合いなんだよ」
「えぇ?」

よっちゃんは険しい顔のまま、どんどん語気を荒げていく。

「いきなりキスしといて、次の日からメールしても電話しても全然出なくなって
それで会いに行ったら、いきなりさゆに『お姉ちゃんはお見合いに行ったよ』なんて言われて。
一体、人がどれだけ悩んだと思って……」

「ちょ、ちょっと待ってよ。なに、それ。そんなことが言いたくてここに連れて来たの!?」

244 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:35

どんどん怪しくなる雲行きに、私は慌てて言葉を返す。
なになに?
よっちゃん、そんな文句が言いたくてこんなことしたの?
やっぱりただのいたずらなの?
それにしても、やっぱりさゆがしゃべったのか…。
あー、もう。そうじゃなくって!!
するとよっちゃんは、いきなり自分の頭ががしがしかいて。

「違う。違うんだよ。そーじゃなくって。あー、もう。
だから、なんでいきなりお見合いなんだよ!?」

なおも髪をいじりながら言うよっちゃん。
だから今度は私がひとつため息をついて、事情を説明した。
おうちのこと。
よっちゃんだったら、大体解かるよね?

「……なんで、もっと早く言わないんだよ」
「…うん」
「見合いの話になった時、なんで言わなかったんだよ。あの、こないだの会合の時には
もう解かってたんだろ?」
「……うん」

でもね。
話したところで、どーにもならないことでしょ?
だから…。

245 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:36

そう言って俯いたら。
よっちゃんも一緒になって俯いたみたいで。
視界の端によっちゃんのうな垂れた肩が見えた。
ああ、もう。
だから言いたくなかったのに。
よっちゃんに心配とか掛けたくなかったから。
悲しい思いとかさせたくなかったから。
だから、黙ってお見合いしようと思ってたのに。

「ね、よっちゃん。いいんだよ、私。解かってたことなんだから」

よっちゃんを見る。
ごめんね、よっちゃん。
心配させちゃって。

「気にしないで…」
「解かった。あ、あたしがやる。イシカワんちの仕出し屋、あたしがやる」

がばっと顔を上げると。
よっちゃんはいきなりそんなことを言い出して。
私はその予想外の言葉に息を飲んだ。

「よっちゃん…?」
「あたしがやる。だから心配するな」

246 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:40

「よっちゃん、気を使ってくれるのは嬉しいけど自分ちどーするの?よっちゃん一人っ子でしょ?」
「えっ……えーっと…、その、やるよ。両方。
仕出し屋も酒屋も、ちゃんと仕切って盛り立ててやるよ。
だから……だから、イシカワは結婚すんな。
あたしが面倒見てやるから、だから結婚とかすんな。
気を使ってるとかじゃないから。だから、もう何も心配すんな」

『梨華ちゃんことはあたしが守ってやるから、だから泣くな』

あの日の幼いよっちゃんが、思い出されて。
涙が零れた。
よっちゃん、あの夜のこと、覚えてる?
あの頃から、もしかして私たち、何も変わってないのかな?
よっちゃんも、私のこと…。
そう思って、いいのかな?

「イシカワのばーちゃんと約束したんだよ。
あたしが、イシカワを守るって。あたしが、イシカワを幸せにしてやるって。
ばーちゃんたちの約束、あたしたちが叶えてやるって。
そしたら、ばーちゃん、思い残すことないって笑ってたよ。
だから、イシカワは何も心配とかすんな」
「よっちゃん……」
「イシカワ、あたし、ずっと言えなかったけど。イシカワの前だと素直になれなかったけど。
でも、でも――――」

247 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:42

ぴろりんぴろりん、と間延びしただけどおっきな着信音がして。
またよっちゃんの声が遮られた。
な、なによ、なによ、この感動の場面に一体なんなのよ!?
よっちゃんが携帯をおもむろに取り出して、ピッ

「よっちゃん、どーよーーー?」

って美貴ちゃんの声が私にまで聞こえる。

「おー、ばっちりだよ!!」

よっちゃんはそう言って、見えない美貴ちゃんに得意げに親指を突き出す。

「んー、おっけーおっけー。これから戦利品持って帰るから〜」

そう言って携帯を切る。
せ、戦利品って……。

「んじゃ、みんな待ってるし、帰るか」

ええー、ちょっと待ってよ。
今の話の続きは?
なに?
今までのムードは?
ねえ、どこに行ったのよー!!


248 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:43


帰る道すがら聞いたところによると、どうやらさゆの話を聞いて動揺してた
よっちゃんの背を押してくれたのが美貴ちゃんと亜弥ちゃんだったらしい。
その点にはすごく感謝だけど。
でも、やっぱりさっきの電話ってちょっとムカついたんですけど。
それでも帰ったらお礼とか言わなきゃダメなのかな?
よっすぃーの背で風を受けながらそんなことを考えていたら、いつの間にか
私たちの育った町に辿り着いていた。
これからもずっとずっと。
よっちゃんと私が暮らしていく町に。
二人で、出来ればずっと二人で、見守っていきたい私たちの商店街に。




249 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:43



***




250 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:44


それから大変だった。
家は当然、大騒ぎで。
美貴ちゃんとこにもよっちゃんとこにも私の行方を探す電話が入ってて。

「どーするのよぉ…」
「な、なんとかするよ、あたしが」

ご両親にバレないように上がりこんだよっちゃんの部屋で。
よっちゃんは虚勢を張るけど、声が震えてて。
もう、ヘタレなんだから…。
結局、その日は帰るに帰れず、でもよっちゃんちに泊まるのもなんだかアレなんで
共犯者の美貴ちゃんちにこっそり泊めて貰った。


251 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:45

翌朝にはどこからバレたのか、ママとさゆが迎えに来て。
ママは私に謝って、何も言わないから家に帰って欲しいと頭を下げた。
私に強引に押し付けすぎたと反省してるママを見ると胸が痛んで、
私も何も言わずに、ママとさゆの手を取って帰った。
それからはしばらく『お見合い』の言葉はうちでは禁句になった。
だけど。
どうやら私たちの逃げてく後ろ姿をママはちゃんと見ていたらしく。
私を連れて逃げたよっちゃんの後ろ姿を男の子だと思ったらしく。
あれからすごく私の行動を監視してる気がする。
放っておいたら、駆け落ちとかしちゃうとか思ってるのかな?
こういうことに鋭いさゆは、訳知り顔でニヤニヤしながら

「最近、よっちゃんとどう〜?」

なんて聞いてくるけど。
完全無視。
なんとか今のところ、ママにはバレていない。
ほとぼりが冷めた頃から、よっちゃんはちょくちょくうちに来ては
何かとお店の面倒をみてくれるようになった。

252 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:46

「あ、これ運んでおきましょーか?」
「そうしてくれる?悪いわね〜」
「いや、これくらい。あ、なんかトラック来たみたいですよ?」


なんて、私の顔も見ないうちからお店でママにまとわりついてる。
……そりゃ、嬉しいけど、ね。
でも、あの後もずっと、あの公園で言い掛けたコトの続き、話してくれてないんだよね。
それなのに、私が短大行ってる間に来てお店の手伝いして帰ってっちゃったとか聞かされると
……ちょっと、妬いちゃうかも。お店に。



253 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:46



***




254 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:47

「んじゃあ、今度の祭りのコトだけど。青年会で見回りする順番は…」

会議室の前に立ち、よっちゃんは司会に徹してる。
よっちゃんは今日もジャージ姿だけど、かっこいい。
思わずみとれてたら、みんなが多数決をとってごたごたしてる間にそっとこっちに寄ってきて

「イシカワ、ちゃんと書いてるか?」

そんなことを言って、頭をこづかれた。
そういえばあの時、ホテルで一瞬梨華ちゃんって呼んでくれたけど。
それっきり一度も呼んでくれない。
そんなことを思い出して返事もせずによっちゃんを見つめてると、
よっちゃんは意味深に微笑みながら、私の机の上に紙切れを置いて戻って行ってしまった。
女子高生みたいに、レポート用紙の切れ端をキレイに畳んだそれを開くと


『このあと、二人でどっかいこっか』


そ知らぬ顔で戻っていくよっちゃんを見ると、その頬にちょっぴり朱が差していて。
よっちゃん。
私、ちょっと、期待しちゃってもいいのかな?
私の王子様は、やっぱりよっちゃんなんだって。
ジャージ姿で、ヘタレで、スクーターに乗った王子様だけど。
私には、よっちゃん以外、王子様はいないんだよね?
ママたちにバレても。
また無理矢理お見合いさせられそうになっても。
王子様なんだから、颯爽と現れて守ってくれるんだよね?
そう、私は信じてるよ……?


255 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:48


おばあちゃま、天国のおばあちゃま。
私たちの恋は、私の代でなんとか解決しそうです。




256 名前:スクーターに乗った王子様 投稿日:2005/02/13(日) 03:49



〜Fin




257 名前:桜折 投稿日:2005/02/13(日) 03:51
オチは最初からみえみえとは思いますが(w
完結ってことで、一応隠し。


258 名前:桜折 投稿日:2005/02/13(日) 03:52
次はすぐにバレンタインものを。


259 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/13(日) 21:35
ホンワカした気分になりました。
やっぱこの二人は最高にいいですね!w
260 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2005/02/13(日) 22:28
おぉー!期待通りやってくれましたねよっすぃ!!

ヘタレなんだけどやるときゃやってくれる吉澤さんが大好きですw
261 名前:桜折 投稿日:2005/02/15(火) 01:19

>259様
いしよしは神です!!(・▽・)b


>孤独なカウボーイ様
ヘタレててもやるときゃやる吉澤さん、かっけーです!!
自分もそんなよっちゃん書くのが好きなんです(w



では、バレンタインの短編を。

262 名前:桜折 投稿日:2005/02/15(火) 01:20




『ハッピー?バレンタイン!!』




263 名前:桜折 投稿日:2005/02/15(火) 01:20


「よっすぃー、はいっ」


梨華ちゃんが手を差し出す。


「……はい」


バレンタイン・デーの夜。
梨華ちゃんの部屋。
あたしは靴も脱がずに、玄関先に立たされたまま。
手を差し出してにっこり微笑む梨華ちゃんのその笑顔が、ちょっとだけ怖い。
なーんて言ったらきっと回れ右させられるから言わない。
若かった、おバカだった吉澤は何度ここでミステイクしたことか。
だけどあたしももうすぐ二十歳。
いつまでもおバカなまんまじゃありません。
口を引き結んだまま、あたしは紙袋にずっしりと入ったブツを梨華ちゃんに渡す。
ちぇ。
それでも漏れてしまった一言に、耳ざとく梨華ちゃんが聞き返してくる。


「なぁに、よっすぃー!?」

264 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:21

ひえー。


「な、なんでもない」


「あっそぉ」


梨華ちゃんはおもむろに紙袋を開くと、中をごそごそと漁り始めた。




265 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:22


***



「コレは?」


「矢口さんの」


「へー。今年も凝ってるねぇ。…じゃ、コレは?」


「ごっちん」


「今年も手作りなのかな?包装がちょっとヨレちゃってるのが如何にもってカンジだよねっ」


「う、うん…」


「こっちのは?」


「小川の」

266 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:22

「マコトかぁ。私には『くださいください』って言った癖によっすぃーには
ちゃんとあげてるのね……あ、美貴ちゃんのはどれ?」


「その、でっかいヤツ」


「へー。今、話題のお店だよ、ココ。すごーい。しかもこんなおっきいのくれるなんて」


「ふ、ふぅん」


「あ、同じお店のがもいっこあるよ?」


「それは、松浦」


「一緒に買いにいったのかな?みんな毎年マメだね〜」


***
267 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:23

ひととおり検分が終わって。
ふぅ、と一息つく梨華ちゃん。
それからまたにっこり微笑むと、後ろから小さなピンクの包みを取り出す。


「ハッピーバレンタイン、よっすぃー♪」


あたしの頬にちゅっとキスを降らせて。
その贈り物をくれた。


「ありがと、梨華ちゃん」


その唇にお返しのちゅーをして。
あたしもにっこり微笑み返す。
ばりばりと包装紙を解こうとすると、キレイに開けてよー、とお怒り声。
すまんすまん、と平謝りで箱を開けると中には3つお行儀よく鎮座したチョコレート。
いびつな形はご愛嬌。
愛の込もった手作りの証拠だもんね。
1つ口に放り込むと、甘くて苦いビターな味がした。


「私たちももう二十歳で大人だから、今年はビターにしてみたの」

268 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:25

嬉しそうに言って、あたしの首にかじりつく梨華ちゃん。
玄関先ってコトも忘れてラヴラヴモード。
だけど。
あたしは横目でこっそりとチェックするけど、例の紙袋はもうどこへなりとも消えていた。
はぁ……今年もコレだけかぁ。
毎年大漁なのになぁ……。


「なぁに、よっすぃー」


ふっと気づくと、斜め下から鋭い視線。
うわっ。


「私のだけじゃ、不満なの?」


いえいえ、滅相もありません。
ぶんぶんと首を振るあたしの手から小さな箱をとりあげて、梨華ちゃんは言う。


「コレと、紙袋一杯のチョコ、どっちが欲しいの?」
269 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:25

靴箱の陰から例の紙袋を引きずり出して、箱と袋を両手に持って言う。
つーか、そんなトコに隠してたのか…。


「どっちなの?」


うぅ…そ、そりゃあねぇ……。


「勿論、恋人のチョコに決まってます…」


「ならいいけど」


まだ不満そーな梨華ちゃん。


「当たり前でしょ、梨華ちゃんのチョコがあればこの先チョコなんていりません!!
あたしには一生、梨華ちゃんのチョコだけで十分です!!!」


大げさに、選手宣誓ってカンジに手をあげて誓ってみせる。
すると、やっと梨華ちゃんは笑顔を戻して再び抱きついてくる。

270 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:27

「じゃあ、もうこのチョコいらないよね?」


「う、うん……でも、その、みんなが折角…」


「あのね」


梨華ちゃんはすっごく真面目そーな顔を作ってあたしを見つめる。


「私は、嫉妬してこんなこと言ってるんじゃないのよ?」


嘘だー!!
とか思いつつ。
でも口にはしない。
こー見えても吉澤にだって学習能力、あります。
ここで反論したら回れ右。
そんなのは嫌だ。
271 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:28

「よっすぃー、すごく頑張って痩せたでしょ?最近、すっごくキレイになって
私、すっごく嬉しいの。ここで油断して甘いモノ一杯食べちゃって元に戻っちゃったら
大変でしょ?」


小首を傾げて言うその仕草が可愛くて、思わずつられて頷いてしまう。


「だからね、私、よっすぃーのためを思ってやってるのよ?」


うんうん、そーだね。そーだね。
石川さんの上目遣いはいつでも可愛いよ。


「私はよっすぃーが好きだから、愛してるから、心を鬼にしてチョコを取り上げるの。
よっすぃーのことどーでもいいって思ってたら、チョコでもなんでも
食べればいいって思うでしょ?だからね、コレは愛なのよ?」


そっかぁ。コレって梨華ちゃんの愛なのかぁ………って。
騙されるか、ボケー!!
それじゃあ、去年や一昨年チョコを取り上げたのはなんだったんだよ!!!
絶対絶対、梨華ちゃんの嫉妬だろ!!
と、思うけど。
272 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:30

「ね、よっすぃー?」


にっこり笑ってあたしを見上げるその顔に………うーん。
降参。
その可愛さに免じて騙されてやるか、と思ってしまうあたしってやっぱりおバカなのかな?
毎年、こーやってチョコを全部取り上げられちゃうのはやっぱり学習能力がないからなのかな?
だけど。

「ありがと、梨華ちゃん」


あたしの一言に、嬉しそうに顔をほころばせて


「ううん、いいの。よっすぃーが私の愛を知っててくれれば」


あたしの胸元にうっとりを頬をすり寄せる彼女を見ると、まあ、それも満更悪くない
かなって思っちゃう。
あたしをいいよーに操ってるつもりのお姉さんぶりたがる彼女と、その可愛さに騙されて
操られてるフリをしてしまうあたし。
あたしたちってお似合いのカップルじゃん?
って、あー、やっぱりあたしっておバカなのかも。
でも、いっか。
あたしがおバカなら梨華ちゃんもおバカ。
バカップルも満更じゃないかもね。
273 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:33

「よっすぃー、大好きぃ」


「あたしも梨華ちゃんが大好きだよ〜」


くしゅっ

くしゅっ


「…部屋、上あがろっか」


「うん」



梨華ちゃん。
さっき言ったこと、嘘じゃないよ?
あたしは一生、梨華ちゃんのチョコだけでいいから。
だから来年も再来年も、ずっとずっと、チョコ、ちょうだいね?
あと……出来れば来年からは、もうちょっと嵩増しでお願いします。
他のチョコに気を取られないためにも、ね?
それと来年は、もう少しお手柔らかにお願いします。


274 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:34



ハッピーバレンタイン、梨華ちゃん。




275 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:34



〜Fin




276 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:36


「あ、もしもし、のの?
うん、そうそう。今年も大量だから、明日うちでチョコフォンデュしよ?
今年は結構高級チョコが混ざってるから絶対おいしいんだから!!
うん、じゃあ、明日18時にあいぼん連れてうち来てね?
よっちゃん?明日は仕事入ってた筈だから大丈夫!!
じゃあ、明日ね〜」


277 名前:ハッピー?バレンタイン!! 投稿日:2005/02/15(火) 01:37



〜真実のFin





278 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2005/02/15(火) 06:16
更新お疲れ様です☆

だぁー、ほんとにありそうな話だ…
ってか石川さんなら絶対しそうw

最後のオチに違う意味での石川さんの黒さをカンジましたw

279 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:22
すっげー笑ったwよっちゃんがむばれ!
石川さんが策士すぎてガクブルしてたのですが
よっちゃんに甘えてる梨華ちゃんはかわええ(*´∀`)
袋いっぱいのチョコの行方は…と思っていたら
オチでさらに大爆笑。やっぱりよっちゃん。・゚・(ノД`)・゚・。
280 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 01:22
やっぱり4期の絆は強い!!…って可哀相なよっすぃw
いやいや、梨華ちゃんのチョコ貰えるんだから幸せですよねー
バカップル最高でした〜
281 名前:桜折 投稿日:2005/02/25(金) 01:11

レスありがとーです。

>孤独なカウボーイ様
自分の中では結構、オチがメインだったり(w


>279様
よっちゃんごめんよ、よっちゃんがむばれ!!(w


>280様
チョコはきちんとおいしく娘たちの胃袋に流れ込むと思います。
それでこそバレンタインの父のあるべき姿だ、よっちゃん!!(何


エr(ry なりそこないです。
もっとがんばろーと思ったんですが。ダメでした(w
底が浅いなぁ、自分。
精進します。
是非いつか逆転でリベンジを…!!


282 名前:桜折 投稿日:2005/02/25(金) 01:11




『黒毛和牛上塩タン焼』




283 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:12



だぁいすきよ あなたとひとつになれるのなら

こんな幸せはないわ・・・お味はいかが?




284 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:12




***




285 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:13

「もしかしてさ、誘ってる?」


リビングから唐突に掛けられた言葉に、だけど私は咄嗟に対応出来ない。
なに言ってんの?よっちゃん……?


私のマンション。
仕事が終わってから、一緒にこの部屋に帰ってくるのはよくあること。
帰りにご飯は食べてきたから、私はお湯を沸かして食後のお茶を淹れてるとこ。
その間、よっちゃんは大人しくリビングのソファの上で携帯をいじってたんだけど…。


「ねえねえ、誘ってんの?」


そう言いながら、私のいるキッチンまでやってきて背後から抱き着いたよっちゃん。
私の腰にまわされた腕がきゅっと引き寄せて、私とよっちゃんの身体がぴったり密着する。


「え?なに?」


意味がわからなくって、やっとの思いで聞き返した私に

286 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:13

「その歌」


とだけ言って、よっちゃんは私の首筋に顔を埋める。


「だから、なにが……よぉ…」


くすぐったさに身をよじりながら、聞き返す。
その反応に満足したのか、よっちゃんは嬉しそうにふふっと笑いながら
私の鎖骨に優しくキスを落とす。
触れるだけの、甘いキス。


「今、歌ってたじゃん。鼻歌」


ああ。
確かに。
最近売り出されたばかりの、女性ボーカルの歌。
こないだCDを美貴ちゃんに借りたばかりのお気に入りの一曲。
よく無意識に口ずさんじゃう。

287 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:14

「それがどーかしたの?」

「だからぁ、それが誘ってるってゆーの」


顔を上げて。
よっちゃんは私の顎を取って左斜め後方に顔を向けさせ、視線を合わす。


「ええー?焼肉の歌でしょ?」

「はぁ?」

「だってだって、タイトルだって焼肉の名前だし、歌詞に網とかレモンとかって」


なにより、美貴ちゃんに借りたCDだし。


「じゃあさ、歌ってみてよ」


へぇ、って意地悪く言って。
勝ち誇ったようにふふん、と笑って。
よっちゃんは言った。

288 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:14

な、なによなによ。
私が、歌詞の意味もわからないお子様だっていうの?
それともこの歌、歌えないとでも?
そりゃ、ソロパートは歌より台詞が多いですけどっ。
私だって、これ位歌えるもん。


「なによ、ソレ。いいわよ。歌うわよ」


ムっとして答える私に、よっちゃんは一層可笑しそうに笑って
はいはい、と言って背後から前にまわった。
私を再度抱き寄せて。
顔は目前。
話せば息でよっちゃんの長い前髪が揺れる程。


「…この体勢で歌うの?」

「そ。ほら、早く」


仕方なく、私はよっちゃんの肩に手を掛けて歌いだす。

289 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:15




だぁいすきよ もっともっとあたしを愛して

だぁいすきよ あなたとひとつになれるのなら

こんな幸せはないわ・・・お味はいかが?



290 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:15

キッチンで。
アカペラで。
よっちゃんの目の前で。
私は歌う。
途切れがちに、擦れがちに。
だって…。
歌ってみて解かったんだけど、この歌、やっぱりちょっと、その……恥ずかしいかも。
だってさ、ほてらされて、とか。
濡れて熟されてく、とか。
あなたとひとつになれるのなら……とか。
これって、その……ただの焼肉の歌じゃ、ないよね。
そ、そりゃ、私だってただ焼肉を歌っただけの歌って思ってた訳じゃないけど。
その、こんなに、恥ずかしい歌とまでは思ってもいなかったから……。


歌い終わって。
途中から恥ずかしくて伏せていた視線を上げると、よっちゃんにちゅっとキスされた。
さっきの鎖骨へのキスとは違って、よっちゃんの僅かに湿った唇がちゅって
私の唇に吸い付く。
余韻のある、キス。


「解かった?」

291 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:15

無言でうなずく私。
だって、他に仕様がないじゃない?


「で、だ」


よっちゃんが私の頬を優しく撫でる。
その心地に不覚にもうっとりして、私は目を細めてしまう。
きっと、耳の裏を撫でられた猫とかってこんなカンジなんだろうな。


「お味、確かめさせてくれんだよね?」


そう言って、よっちゃんは撫でた手をスライドさせて私の首を掴み。
唇を耳に寄せる。


「ふぁ……んん」


味見をするように。
よっちゃんは私の耳を口にした。
軟骨を甘噛みして、耳たぶを舐める。

292 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:16

「うぁぁ……」


耳元でするえっちな音に、背筋をぞくぞくっと何かが上ってきて。
こらえても、声を漏れてしまう。
それを防ごうと口元に手を伸ばすけれど。


「あっ…」


それを察知したよっちゃんの手にすぐに絡め取られてしまう。
唇を離して。
頬に1つキスを残して。
よっちゃんは私を見つめる。


「返事はぁ?」


はぁ、と乱れ掛けた息を直しながらよっちゃんを見上げる。
ちょっとだけ抗議を含めた睨みを込めると。


「んんっ」

293 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:16

取られた手を口まで引っ張られ、しゃぶられる。
またぞくっとする感覚が私の全身を包んだ。
逃げられない。
指を一本一本、ゆっくりと、いやらしく舐めるよっちゃんのそぶりに。
私の欲望がどんどん溶け出して滲み出していく。
あぁ。
なんとなく。
あの歌詞がわかる気がする。
うん。
さっきよっちゃんの前で歌って、解かったけど。
今、本当に解かった。
こういうことなのね。
そう、きっと…


「……食べて」


それでも、恥ずかしさは完全に拭いきれなくて。
小さな、擦れた声で伝える。


「お願い、食べて」

294 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:17

私の指を口に含んだまま、よっちゃんは視線だけを私に戻して。
ニヤっと笑う。
そう。
よっちゃんは最初っから解かってたんだよね。
この歌の意味。


「うん、いいよ」


よっちゃんはそう言って、私をそのまま、優しく押し倒した。
寝かされたのは熱い網の上じゃなくって、冷たいキッチンの床の上だったけど。
私はそこで、色か変わるくらいにほてらされて、濡れて、熟されていった。


295 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:17




***




296 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:18

背中が痛い、という私の苦情で、終わったあとはすぐリビングのソファに移動。
二人でまったりと横になってると、よっちゃんが


「石川は1200円かな」


いきなりそんなことを言った。


「なにがよぉ」

「んー?値段。680円ってよりさ、1200円」

「はぁー!?」


訳わっかんない。
そう言って、背を向けた私によっちゃんは


「これってタン塩だと上級クラスよ?叙々園とかって確か1200円でしょ?」

297 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:18

とかまた訳解かんないコトを言ってきた。


「まったくもう、バカなんだからぁ」


そんなことを言いながら。
でも、私にまわされたその腕をしっかり掴んで。
私はとろとろと心地よい眠りの世界に落ちていく。



バカだなって思うけど。
よっちゃんの口車に乗っちゃったかなって思うけど。
なんだか、その、悪くない気分だった。



298 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:19


よっちゃん、だぁいすきよ。


もっともっとあたしを愛して?


よっちゃん、だぁいすきよ。


あなたとひとつになれるのなら、こんな幸せはないわ。


お味はいかが?



299 名前:『黒毛和牛上塩タン焼』 投稿日:2005/02/25(金) 01:19



〜Fin





300 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 04:55
甘いですねぇ(*´∀`)ポワワ
いしよしにはやっぱり甘いのが似合うなと思いました
これはもういしよしソングとしか聞けませんね
301 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 09:06
激甘っぷりにとろけそうでした・・。
こんなのもいいですね・・・。
さすがとしか・・。
302 名前:プリン 投稿日:2005/02/26(土) 14:49
更新お疲れさまです。
んもー。甘い甘いw
甘々万歳ヽ( ´▽`)ノ
これからこの曲を聴くたびいしよしを思い出しそうです(w
303 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2005/02/26(土) 22:58
いや〜甘いっ☆

ほんと、この曲聴くたびにこのやりとりを思い出しそうですね。

エ(ry ですが最後まで書かれてなくて逆によかったなぁと思いました。個人的に。

304 名前:桜折 投稿日:2005/03/05(土) 01:32

レスありがとーございます。


>300様
甘々いしよし、いいですよね〜。
砂を吐くくらいゲロ甘なのにも一度挑戦してみたいですね。


>301様
気に入って頂けましたか?
褒めて貰えると単純なんですごく励みになります(w


>プリン様
甘々万歳ヽ( ´▽`)ノ
この曲を聴くたびに(*´Д`)ポワワしちゃって下さい!!


>孤独なカウボーイ様
え、そーですかぁ?
そう言われると、なんか、コレで良かったよーな気になってきます(w
日々精進日々修行、日々発見也。


今回は超短編。
前スレから残して来てるお題とかここに来てから続き書く宣言したものとか
手は付けているんですが、短編ばかりが追い越して書きあがっていってる現状。
もし待ってくれてる方がいたら、もう少しだけ待っててください…。

305 名前:桜折 投稿日:2005/03/05(土) 01:32




『悲しい予感』




306 名前:悲しい予感 投稿日:2005/03/05(土) 01:33



ずっと、アナタが出していた筈のサイン。
気付くことすら出来なかった。
遠ざかっていくその背を見つめ。
アタシは、なんてバカなんだろう。
アタシは、なんて無力なちっぽけな人間なんだろう。
そう思った。


307 名前:悲しい予感 投稿日:2005/03/05(土) 01:34



***



308 名前:悲しい予感 投稿日:2005/03/05(土) 01:34

いつもほったらかしにしてた。
試すような言葉に冷笑で返してた。
それでも離れていかないと、信じていたあの自信は一体どこから来ていたのか。
失ってみてその大切さに気付く、なんて。
何世代も前の説教くさい小説じゃないんだから。
覆水盆にかえらず?
そんなコトバ、知らないな。
だけど。

「よっちゃん、一度壊れてしまったら、二度と戻らないものってあるんだよ」

石川の悲しげな笑みが見上げた夜空に浮かぶ。
それは、月のように。
そう。
満月なんかじゃなくって、丁度今日の月みたいな、眉月。
消えかけた儚い身で、密やかに光ってる。
そんなもの悲しくも美しい笑みだった。
ぶるっと身体に震えが走る。
寒空の下、自分がもう何時間もそこに立ち尽くしているという現実に思い当たる。
去っていく石川の背を、ただ呆然と見送ったのは一体どれだけ前だっただろうか。
街中でも深夜ともなれば明かりも少なくなり、多少なりとも星も見える。
見上げたそこに、柄杓の形のそれを見つけ……

309 名前:悲しい予感 投稿日:2005/03/05(土) 01:35



「よっちゃん、あれがカシオペヤだよ」

「どれが?」

「ほら、あれだよ」

「んー、わかんね」

「もー。学校で習ったでしょ?で、あの柄杓の形したのが北斗七星で〜」

「…もう、寒いから帰ろーよ」

「えー」

「ほら、夜は毎日やってくんだからさ」

「冬じゃなきゃ見れないのだってあるんだよ」

「じゃあ、また来年教えてよ。冬は毎年来るんだし」

「……うん。そだね。
 来年教えてあげる。それで解からなかったら、またその来年ね」



310 名前:悲しい予感 投稿日:2005/03/05(土) 01:36




冷えて感覚のなくなった手に、あの日掴んだ石川の指先の感触が蘇る。
来年なんて、ないじゃん。
北斗七星を見つけたところで、指差して告げる人は、もういない。


「バイバイ、よっちゃん」


石川の言葉が、浮かんでは消える。
その決意に引き締められた横顔が、アタシをかき乱す。
もう、彼女は戻って来ない。
そんな予感がアタシを押し潰しそうで。
それを受け止めたくなくて。
アタシは、どうずることも出来ぬまま。
夜空を見上げたまま、ただ、立ち尽くしていた。

311 名前:悲しい予感 投稿日:2005/03/05(土) 01:36



〜Fin





312 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/05(土) 14:16
前レスから一気に読まさせていただきました。 いしよし良いです^^切ないのや甘甘、そして面白!もう言うことないです! ネタが尽きるまで付いていきます! 次回更新待ってます。
313 名前:桜折 投稿日:2005/03/06(日) 02:59

>通りすがりの者様

ありがとーございます。
ホント単純なんで、褒められるとすごく嬉しいです(w
今後も期待に添えれば、と思います。



またまた超短編。
またの名をストック整理中(…)

314 名前:桜折 投稿日:2005/03/06(日) 03:00




『刹那的って、イケナイコトですか?』




315 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:02

例えば、寒い日に。
手や頬を真っ赤にして「寒い寒い」って言いながら
私の部屋に駆け込んで来て。
慌てて、ありあわせの野菜やベーコンを入れて作ったコンソメスープを
「美味しい美味しい」って言いながら目の前で啜っているのを見ている時とか。



例えば、ツアー中のホテルで。
お互いに疲れているハズなのに、私の部屋まで来てくれて
何もしないでぼんやりとソファに並んで座ってただ無言で時間を共有して
うとうとと眠りかける私に、優しい声で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる時とか。



この恋に喜びを感じる。
こういうのを、人はささいな幸せっていうのかもしれないけど。
そんな、ささいな幸せを沢山重ねて、私は生きていきたいと思う。
だけど、よっすぃーは違ってて。
アバウトそうに見えて、実は繊細な彼女は
これからの自分のポジションとか色んなことを悩んで太っちゃったり
これからの自分の役目とか複雑に悩んで痩せちゃったり
一瞬一瞬の小さな幸せよりも、先々の幸せの方向を見据えようとして
今をもがいちゃったりする訳で。
不器用な私より、更に不器用な彼女。
そんな彼女が愛しくももどかしく感じたりする。

316 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:03

「今が良ければそれでいいじゃない?」

という私の囁きは、きっと、彼女の耳にはとても愚かに響くのだろう。

「それよりも、これからのことをちゃんと考えようよ」

きっとこんな答えが返ってくるんだろうから。
そう解かっているから、あえて言わないけど。
でも、享楽主義って訳じゃ全然ないけど。
今って瞬間は今しかない訳で。
今の楽しいことを考えて、今を生きていきたいって、私は思うの。



「でね…」

スープを飲み干して。
彼女は走ってきた用件をさっさと切り出す。
あーあ。
もうちょっとだけ、あの一生懸命にスープを口に運ぶ幼い顔を見つめてたかったのに。
私は、途端に興ざめしてしまう。
こういう時の彼女は、大体においてあまり楽しい話はしない。
彼女にとって、走って伝えに来るほどの重要事項は大概が未来に関係していて。
今現在の喜びに繋がることは少ない。
彼女のカバンから出てきた書類を見て、やはり、と思う。

317 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:04

「これなんかいいと思うんだよね」

彼女がここのところ奔走しているのは、私たちの住む部屋について。
春からどうしてもすれ違いの多くなる私たち。
彼女が出した結論は、同じ部屋に住むこと。

「こっちだとさ、これがね…」

まあ、これはこれで楽しいんだけど。
でも、この先のことを考えると憂鬱になる。
なんで今更よっすぃーと二人暮らしをするのか。
親にも事務所にもメンバーにも。
もっともらしく説明するのが面倒。
特に事務所から根掘り葉掘り聞かれるかと思うとうんざりしてしまう。
ねえ、今が良いんだから。
今のままじゃ駄目?
思わず聞きたくなってしまう。
一緒にいたいんだったら、今まで通り合鍵を使って相手の部屋に入って。
いたいだけいて。
それで、帰りたくなったら自分の部屋に帰る。
それでいいんじゃない?
だけど、一生懸命に私に何かの説明を続けるよっすぃーを見ると何も言えなくなってしまう。
ねえ、よっすぃー。
あなたはそんなに頑張って一体、何処へ行こうというの?
私を何処へ連れて行こうというの?
私は、ここにいたいのに。
あなたと、ここにずっといれればいいのに。
だから。

318 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:04

「よっすぃー…」

傍らに寄って、その体に抱きついた。

「ん?」

首に腕をまわして。
キスをする。
何度も何度も。
小鳥がついばむように。
何度も何度も。

「ちょ、梨華ちゃ…」

抗議の声もキスで覆って。
真面目なよっすぃーを、快楽で覆い尽くす。

「り……」

「いいじゃん、後でで」

そう言って、彼女の前に置かれた書類を床に投げ出して
そこに自分の身を投げる。

319 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:05

「ね、よっすぃー?」

誘惑する。
蛇のように。
だって、今は今しかない。
今の快楽が、きっと、今の私には一番必要なこと。
そう。
きっと、遠い未来の約束よりも。
ふっ……と軽く息を吐いて。
よっすぃーは切なそうな、悲しそうな表情で、私の誘惑に乗った。




320 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:07


ねえ、よっすぃー。
指輪も、約束も、いらないの。
どんなに固い誓いだって。
いつか破られる日は来るかもしれない。
そんなものだもの。人生なんて。
だから、ね。
今を埋め尽くして欲しいの。
よっすぃーで。
心一杯、身体一杯。
よっすぃーで一杯にして欲しい。
いつか終わりの日が来たとしても、寂しくないように。後悔しないように。
今を精一杯生きていたい。
今を精一杯愛していたい。
だから、抱いて?
愛して?
「好き」って言って?
それだけでいいの。
よっすぃー。
そう言ったら、真面目なあなたはため息をつくかもしれないけど。


321 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:07


ねえ、よっすぃー。
刹那的って、イケナイコトですか?




322 名前:『刹那的って、イケナイコトですか?』 投稿日:2005/03/06(日) 03:08



〜Fin






323 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/07(月) 12:32
更新お疲れさまです。 石川さんあともう少しで卒業ですね。 次回更新待ってます。
324 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/07(月) 13:40
更新お疲れ様です!
いしかーさん・゚・(ノД`)・゚・。
甘いのもちょっこす切ないのもいいですね
桜折さんのお書きになるいしよし大好きです!
325 名前:桜折 投稿日:2005/03/17(木) 04:08




 『あたたかな部屋』




326 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:09



 その夜も、いつも通りのひとつの夜として、過ぎようとしていた。




327 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:10

「ね、眠いんだったらベッド行ったら?」

気がつくと眠たげな瞳でTVをぼーっと見つめてる彼女。
床にあぐらをかいて、頭を軽くソファにもたげて。
だから私はそっと、そのとても短くなってしまった髪を撫でて言う。
よっすぃーは一瞬だけ気持ちよさそうに目を細めて。
だけどまた眠そうな瞳を開いて

「んー…」

と生返事をした。
そしてそのまま一向に動こうとはせずに。
今まで見てる姿を見たことのない連ドラを、ぼーっと見つめていた。





いつも通り仕事を終えて。
いつも通り買い物をして。
いつも通りたどりついた私の部屋。
私たち二人の日常。

328 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:10

「…よっすぃー」
とうとううつらうつらと始めたその背に声を掛けて。
だけどよっすぃーは頑なに動こうとしない。
私は仕方なく、本当は今日はよっすぃーの番の筈だった夕御飯の後片付けを始めた。




329 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:10



***



330 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:11

リビングに戻ると、さっきの姿勢のままのよっすぃーがいた。
TVはすでに雑然としたバラエティーのそれに変わっていて。
これは結構好きな番組のはずなのに、よっすぃーの目はきっとTVなんて写してない。

「ね、よっすぃー。お風呂沸いたけどどーする?」

隣りに座って優しく聞くと

「ん、入る」

子供のように目元を手でこすって顔を上げた。
その仕草が本当に子供のようで笑ってしまう。

「なんだよー」

そう言って少しだけ不機嫌に膨らんだ白い頬にキスをひとつ落として。

「眠いんだったら、お風呂、明日の朝にしたら?」
「…いいよ、汗かいたからキモチワルイし」
「シャワー浴びてきたでしょ?」
「だけどそれとこれとは違うし」

依然眠そうな目でそう言うと、私に軽くキスをして

「先、入ってもいい?」

331 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:11

うん、と頷くと、んんー…とひとつ伸びをして。
じゃ、いっちょ入ってきますか。
訳の解からない掛け声をかけて。
のそのそと、やはり眠たげな足取りでバスルームに消えて行った。




私はお茶を淹れなおして、よっすぃーの座っていた位置に座ってTVに目をやる。
いつも通りの夜。
だけど、なんだか少しだけ違和感があった。
熱いお茶を飲みながら。
やっぱり、アレが原因かな?
よっすぃーのことを考える。
それも、いつも通りの夜。

332 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:12


今日はフットサルの試合の日だった。
よっすぃーはホントにもう、フットサルに夢中で。
時々、
『私とフットサルとどっちが大事なの?』
なんてつまらない質問をしてしまいそうなほど夢中で。
だけど。
どんなに練習をしたって、コンディションを整えたって、試合って生モノで。
コートの上じゃ何があるかわからなくって。
結果に結びつかないことだって、当然多くある訳で。
それがよっすぃーをいらだたせ、もどかしがらせる。



お茶をもう一杯注ぎ足して。
TVの上の時計を見て、よっすぃーお風呂で寝てないかな?と
少しだけ心配する。
だけど思考はまたゆるゆるとフットサルに励むよっすぃーに戻っていって。
あのもどかしげな表情は、懐かしい、と思う。
私たちが付き合い始めた頃。
時々、あんな表情を見せたよっすぃー。
女の子同士で。アイドルで。
そんな状況下に出会ってしまった二人。

「まるでロミオとジュリエットの恋みたいだねっ」
333 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:12

私は、それを見たばかりの映画に置き換えて茶化すくらいの余裕があったけど。
私よりずっと大人びていて、決まって私を年下扱いするよっすぃーは
だけどこの場合だけは例外で。
どこか余裕がなく、追い詰められた感があった。
出会ってしまって、恋してしまって。
だけどその相手は女の子だった。自分と同じアイドルだった。
その偶然の理不尽さに抵抗するように、よっすぃーは時々、いらだたしげな
もどかしげな表情を誰にともなく見せた。
多分、それは神様とか運命とかそういうモノに向けられていたのだろうけど。
私はそれがいつか私に向けられるのを密かに恐れていた。
別れは怖くなかったけれど、よっすぃーに嫌われることだけが怖かった。
よっすぃーの為を思って何度か別れを試みたけれど、どれも失敗に終わって。
それが余計によっすぃーを傷つけたり、私を傷つけたりした。
だけどそうやって繰り返し繰り返して。
私たちは何かを学び、何かを身につけ、成長していった。
よっすぃー、きっとそうやって、今度も乗り切っていけるよ?
きっと面と向かってはなんとなく言えないそんなことを思いながら、私はティーポットと
カップをキッチンの流しに置いた。
片付けは、明日しよう。
寝室の暖房をつけに行って思いつき、よっすぃーがこないだの休みに
自分で洗っていた部屋着を出してそっと洗面所に置いておいた。

334 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:13



***



335 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:13

「出た」

やっぱり眠そうな目で、そう言ってリビングに入ってきたよっすぃーに

「ちゃんと髪、乾かさないとダメだよ?眠かったら、先に寝てていいからね?」

念を押して入れ替わりにお風呂に入った。




よっすぃーの使った後のあたたかいバスルーム。
私は、よっすぃーと私の馴れ初めや幾つもの思い出やそういった甘いコトを
いくつも思い出してあたたかな気持ちでシャワーを浴びた。

336 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:14


お風呂からあがると、案の定TVの前でよっすぃーが舟を漕いでいた。

「よっすぃー…」

極彩色のCMが俯いたよっすぃーの白い肌をぴかぴかと照らして。
赤に青に染まるよっすぃーの顔が綺麗だった。
それにしばらく見とれていたけど、
よっすぃーの肩に掛けられたままのタオルを取って髪を拭いてあげる。

「ダメじゃん、よっすぃー。風邪ひくよ?」

子供のように頭をつきだして私に頭を委ねて、よっすぃーはやはり

「んー…」

と生返事をするばかり。

「先に寝てて良かったのに……疲れてるんでしょ?」

「ん」

よっすぃーの短い髪からはすぐに水分がなくなって。
満足した私はTVを消して、よっすぃーの手をひいて寝室に入る。

337 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:14

部屋はすでに暖房が効いていて。
冷え性な私に合わせた設定はよっすぃーに言わせると、ちょっと寝苦しいくらいあたたかい。
だけど、決して温度を下げることはしない、よっすぃーの優しさ。
部屋にはピンクのベッドがひとつ。
こんなときでもよっすぃーは先に入って、おいでと腕を広げてくれる。
電気を消して、暖房のタイマーをセットして。
その腕の中にもぐる。
いつも通りの夜。
ゆっくりと闇に慣れていく目で、よっすぃーの輪郭を探る。
自分が眠い筈なのに、寝かしつけるように私の髪を撫でる手。
前髪に掛かる甘い吐息。
無意識のようにごく自然に、私の額に何度もキスをする。
その全てがいつも通りの夜。
だけど。
ずっと感じていた違和感に、いい加減、よっすぃー、どーしたの?
と聞こうとしたその時。

「梨華ちゃん……次は、勝つからね」

視線を上げると、閉ざされたよっすぃーの瞼。
もう、眠りに足を踏み入れる一歩手前みたいな規則正しい呼吸。
ぎゅっと、私を抱き締めなおして。
338 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:15

「だからぁ……泣くな…よぉ……」

ふぅっと息を吐いて。
そして。
すぐにすーすーと柔らかな寝息をたて始める唇。
私はそれを見守り。
そして、そっと上体を起こす。
カーテン越しの微かな月明かり。
闇の中のよっすぃーの寝顔。
優しく触れて、優しくキスをした。
きっとよっすぃーはずっとそれが言いたくて、眠らずに私を待っていたんだと思うと。
愛しくて、また涙が出そうだった。



ぶっきらぼうだけどそっけないけど、でもしっかりと愛情を伝えてくれる女の子の恋人。
私を守ろうと、包み込もうとしてくれる年下の彼女。
だけどね。
よっすぃー、そんなに頑張らないで?
今日の、よっすぃーの悔しげな横顔を思い出す。
涙に淀んだ世界の中、よっすぃーの悲しげなつらそうな表情だけが私の目にはっきりと
映っていた。
339 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:15

ね、よっすぃー?
あなたはいつも私を守ろうとするけど。
本当は私の方がお姉さんなんだから。
きっと多分、あなたより、お姉さんなんだから。
だから、ね?
頼っていいんだよ。
泣いていいんだよ。
よっすぃー、私が守ってあげるよ?
また元の定位置に戻って、ぎゅっとよっすぃーに抱きついて。

「おやすみ、よっすぃー」

瞳を閉じてまどろみに思う。


340 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:16


私が、よっすぃーを守ってあげる。



あたたかな部屋。
そんなことを思って眠る。
いつも通りの夜。




341 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:16



〜Fin




342 名前:あたたかな部屋 投稿日:2005/03/17(木) 04:20
がんばれガッタス!がんばれいしよし!!
てコトで。


>323通りすがりの者様

そうですね。正直、とても寂しい気分です。待っててくださってありがとーございます。


>324様

今回のも気に入って貰えましたでしょうか?大好きとか言われると照れますケド嬉しいです(w

343 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 10:02
思わずうるうるしてしまいました・・・。
なんてお互い優しいんだろう・・・。
いろんなことを乗り越えて今に辿り着いた二人ですね。
眠たげな吉の様子も可愛くて可愛くて・・・。
きっと、あの日、こんな夜を迎えたんだろうなって思うと
心まで温かくなりました。
ステキなお話をありがとうございます。
344 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 00:14
あ〜いしよしってやっぱいいですわ。・゚・(ノД`)・゚・。
いしよしの良さってやつを作者さんはよくわかってて
それを言葉にするのがすごく上手で優しいなといつも思います。
押しつけじゃなくやんわりと、でも真っ直ぐな文体が好きです。
これからも頑張ってください。
345 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 00:57
お互いを大切に思い合ういしよしが健気でたまらなくいとおしい
こんな可愛い二人をただただ応援したいしずっと見守ってあげたい
346 名前:ひすい 投稿日:2005/03/18(金) 08:29
うぉー(つДT)いいですね!大好きないしよしで。
寒い日々も、心があったかくなりますね(*´∀`*)
ガッタスと共に、いしよしも熱く頑張れ!!(謎
347 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/18(金) 18:58
二人は何処かしら思考が似てて、優しくしたりされたり、いいですよねー(^.^)bガッタスも頑張ってほしいと願いつつ。 次回更新待ってます。
348 名前:桜折 投稿日:2005/04/07(木) 22:06




『チェリー・ブロッサム』




349 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:06

ずっと、ずっと、好きだった。
ずっと、ずっと、見つめてた。
校庭の片隅で。
体育館の入り口で。
廊下ですれ違うたび。
ただ、ずっと、あなたを見ていたの。
それは、悲しくも美しい感情で。
ただ、ずっと、あなたを思っていられればそれでいいと思ってた。



だから。
目が覚めて。
隣りに眠るあなたを見つけた時。
私は本当に心臓が止るかと思った。

350 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:07



***



351 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:08

「ほんとに何も覚えてないの!?」

おかしそうにあなたは言う。

「う、うん……」

私は、ためらいながらも頷く。

「うっそぉ、マジ?」

屈託なく笑うあなたは、昔のままで。
あの頃の愛しいあなたのままで。
でも、なんだか距離がぐんと縮んでいて。
動揺する。

「そんなんなるまで、飲んじゃ駄目じゃん」

そう言いながら、コーヒーを差し出してくれて。
私は、そんな飲んでないもん…と小声で反論しながらそれを口にする。
ここは、彼女…吉澤さんの部屋。
高校の時、すごくすごく好きで。
でも、結局告白も出来ないままだった、ほとんど言葉を交わしたこともないまま
別れてしまった1つ年下の後輩の部屋。
そしてそのまま、私は東京の大学へ。
故郷から、彼女から遠く離れたこの地に来てしまった。
私たちを繋ぐものはもう、欠片もないはずだった。
なのに。
目が覚めたら、ここにいた。

352 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:08

昨日は……そう、サークルの飲みで。
先輩に勧められるままに飲んで、飲んで、飲んで…。
ああ、そこから記憶がない。
どうやってここまで流れ着いたんだろう。

「駅前のビデオ屋のトコでさ、ふらふらしてるのをアタシが保護したの」

彼女は、胸を張って言う。

「梨華ちゃん、ふらふらでどこ住んでんだか言ってくれないし。
だから、うちに連れてきたんだ」

全く、アタシがいなかったらどーなってたことだか。
そう言う彼女に、私はただひたすら

「ありがとぉ…」

と言うしかなかった。


353 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:09



結局。
永遠の片思い。


コーヒーカップの中。
ティースプーンで出来た小さな渦を見つめながら、そんな歌を思い出す。


いつか、私もあなたもずっと大人になって。
恋をして。
結婚をして。
でも、きっと、この気持ちは忘れない。
絶対、ずっと、あなたのことが好き。
そんな思いを抱き続けられるだけで。
それだけでいいと、思ってた。
卒業の日。
桜の花舞う校庭で。
沢山の在校生の中で一人だけ、彼女だけを迷わず見つけ出して。
その凛とした横顔を見つめて。
誓った。
恋心をそっと仕舞って。
この恋も卒業だと。
そう、決めたのに…。

354 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:09

「お風呂、使ってよ。アタシ、ちょっとコンビニ行って朝ご飯調達してくるし」

そう言って彼女が部屋を出た途端、私は一気に脱力した。
正直、自分の上に起こっていることを現実として受け止められなかった。
好きだった、でももう二度と会えないかもしれない、と
偶然に会えたとしても言葉を交わすことはないだろう、と
諦めてた恋に再会した。
しかも、酔ってへろへろだったとはいえ一応私の心配をして
部屋に連れて帰ってくれる程度の好意は持ってくれているらしい。
しかし、私は彼女に醜態を晒してしまった…。
頬が熱くなる。
一生懸命、思い出そうと思考をめぐらす。
私、何かした?
私、何か言った?
記憶の断片。
公園の、深緑の下。
私、彼女に背負われてそれを見上げてた。
ぎゅっと抱きついて言った。

「好き」

あれ…?
あれは、夢?
ううん。
確かに、そう口にした。
確かに、この口でそう言った。

「ずっと、好きだったの」

そっと、ゆっくりと優しく下ろされて。
私は、私の顔を窺うように見る彼女に、くちづけた……。

355 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:10


気付くと、私は彼女のアパートを飛び出していた。
あれ、夢じゃない。
紛れもなく夕べの出来事。
私、私、どさくさに紛れて告白とかしてた。
キスとかしてた…!!
恥ずかしいんだか恥ずかしくないんだかもよくわかんないけど
とにかく慌てて駆け出した。
よく知らない街で。
とにかく走り回ってるうちにふと見慣れた風景にぶつかって。
私は、とにかく逃げ込むべき自分の部屋を目指した。



356 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:11

ここは、故郷から遠く離れた地・東京。
会う筈のない吉澤さんが現れて。

『梨華ちゃん』

私の名を呼んだ。
大人びた顔立ち。
大人びた声。
大人びた雰囲気。
…悔しいかな、私よりも、ずっと。
あの頃と全然変わってない。
あの頃のまま、むしろあの頃の夢を見ているような。
…ううん。
まだ酔っていて、幻を見ているのかもしれない。
ねえ、どうしてここにいるの?
ねえ、どうして私の前に現れたの?


早春の、蕾もまだつかない桜の木の下を私は訳も解からずただ走り抜けた。


357 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:11



***



358 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:12


あれから、一ヶ月が過ぎた。






何も言わずに部屋を出てきたことを、深く後悔してる。
合わす顔がないけど、せめてごめんなさいと手紙でも残して来たかったけど
二日酔いの頭で逃げるように帰って来たせいで
一度訪れた彼女の部屋は西にあるのか東にあるのかすらわからない。
もう今度こそ、二度と会うこともないだろう。
そうして、以前と同じ生活に戻る。
……筈だった。

359 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:13

新学期の学科の飲み会の帰り。
私はまたほろ酔いでふらふらと終電で帰って来た。
駅前の24時間営業のビデオ屋さんの煌々とした明かりに引き寄せられて
お店に入って行く。
明日はお休みだし、何か借りてこうかな?
CDのコーナーで、例のシングルを見つけて手を伸ばす。



結局。
永遠の片思い。


そう、結局は。
永遠に片思い。
一瞬、手を伸ばせば届きそうに近くまで来て。
だけど、儚く消えてしまった夢。幻。
桜の花がはらはらと舞い散るように。
ホントは、あの夢の続き、気になるけど。
でも、勇気のない私にはそれ以上知る術がない。
だから、思ってるだけ。
それで、いい。
二度と会わないかもしれないけど。
この街の何処かで眠る、愛しいあなた。
吉澤さん、あなたのコト、ずっと忘れない。
あなたをずっと好きです。

360 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:13


突然。
がしっと腕を掴まれて。
ぐいっと力一杯、引っ張られて。
見上げると、そこに、吉澤さんがいた。


361 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:14


「やっと見つけた…」


私はまた、酔っているのだろうか。
ぼんやりと思う。
目の前の蒸気した頬が綺麗なピンクで、桜の花を思わせる、なんて。


「ずっと、ずっと、探してたんだから」


そう言って、吉澤さんはぎゅっと力を込めて引き寄せて。
私をその腕の中に閉じ込めた。


「やっと捕まえたと思ったら、いなくなるんだから」


舞い落ちる桜の花びらを掴もうと手のひらをひろげて。
ぎゅっと握り締めて。
だけど開いた手のひらには、花びらがなかったような、そんな喪失感だったんだよ。


彼女のそんな詩的な言葉を、私はただ、ぼーっと聞いていた。

「また酔ってる?もうお酒はやめなよ」
362 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:14

手を引かれて店内から出る。
そのまま二人で無言で歩いた。
私はまた、夢を見ているのだろうか。
それとも吉澤さんが言うように酔ってるの?
酔って見ている幻に『もうお酒はやめなよ』って言われたんだとしたら
私って大概終わってる…。
道路のところどころに植わった桜が綻んではらはらと花びらを舞わせて。
私の手を引く吉澤さんの上に降り注ぎ。
あの卒業の日を思い出させた。
今、私は本当にあの吉澤さんといるの?
公園に入って。
ひと際大きな桜の下で、彼女は止まった。
風に揺れ、公園中の桜が舞い。
世界が一瞬、ピンクに染まる。
私の大好きなピンク色の世界。
そこに吉澤さんと二人。
これはやっぱり、夢なんじゃないかな?
そんなことを思っていると

「まだ酔ってるの?」

介抱してあげる。
そう言って彼女の唇が降ってきた。
桜の木の下の二度目のキス。
私は今度こそ、くらくらとした酔いの感覚に見舞われる。
363 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:15

「目、覚めた?」

いたづらっぽい目でそう言って。
私の手をぎゅっと握る。

「ね、アタシのコト、好きなんでしょ?」

彼女の言葉すら遠く聞こえてうっとりとしたままでいると

「え、もしかしてこないだの告白って酔った弾み?間違い?」

途端、顔を曇らせるので慌てて頭を振った。

「じゃ、いなくなるなよ」

そう言って。
安心したようにひとつ息をついて。
三度目のキスは優しく私の頬に降りてきた。

「とりあえず、うちでコーヒー飲んで酔い覚まししよ」

彼女はまた私の手を引き歩き出し…

「あ」

また立ち止まり。

364 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:16

「今更だけど。アタシも梨華ちゃ……あ、の、石川せんぱ………いいよね、梨華ちゃんで。
その、梨華ちゃんのコト、ずっと好きだったんだからね」

ずっと、片思いだと思ってた。
永遠の片思い、って。
でもずっと、梨華ちゃんのコト見てたよ。
ずっと、心ん中で梨華ちゃんって呼んでた。
とうとうあてもなく東京まで追っかけて来ちゃった。
そう言って。
乱暴に髪をかきあげて。
はにかんだ顔を隠すようにまた前を向いて歩き出す。
だからまた、私は酔いの回ったようなくらくらとする感覚に囚われる。
恋に酔う。
言葉にすればそんなカンジ。
お酒よりももっとぽわっとしたカンジで。
なんかしびれるようなちょっとだけくすぐったいような。
で、すっごくドキドキして。
ふらふらしちゃう。
だから、私はしっかりと吉澤さんの手を握って。
そして、祈る。
コーヒーを飲んでも。
明日の朝になっても。
いつまでもいつまでも。
どうか、この夢は、この恋は覚めないで、と。

365 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:16


「ね、吉澤さん」

「いいよ、名前で」

「えーっと…」

「………もしかして、アタシの下の名前知らない?」

「ええっとぉ」

「あ、ちょっとマジ、今、傷ついたかも」

「嘘だよ。……ひとみちゃん?」

「………よっすぃーとかよっちゃんとかにしない?」

「なんで?」

「恥ずい」

「いいの、ひとみちゃんで」

「…うん」

「ひとみちゃん、好きよ」

「…………うん」

366 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:18


私たちの上に桜の花が降りしきる。
それはまるで、神様に祝福されているかのようで。
嬉しくなる。
後ろから微かに見える吉澤さんの赤らんだ頬を見ながら、私は私の中が
頭の先から足の先まで桜のような淡いピンク色に染まっていくのを感じていた。



桜の花の満開の下。
私たちはしっかりと手を繋いで、歩き出す。
ふたりで。
ふたりだけの道を。

367 名前:『チェリー・ブロッサム』 投稿日:2005/04/07(木) 22:18


〜Fin





368 名前:桜折 投稿日:2005/04/07(木) 22:38

少し更新が滞ってる間にとうとう春になってしまいました。
ということでテーマは春(そのまんまだ)
桜、作中では咲き乱れてますが(w
現実の石川さんはもう見れたのでしょうか?


>343様
こちらこそ、レスをありがとうございます。
心温まるいしよし。これからも精進したいと思います。

>344様
そんない褒めて頂くと照れてしまいます(w
自分の思ういしよしの魅力を拙い文章ですが伝えていけたらと思います。

>345様
そうですね。
そう思ってもらえるいしよしを書くことが出来ればと思っています。

>ひすい様
ガッタスもいしよしもこれから暖かくなるにつれもっともっと熱く
頑張って欲しいものです(w
自分も頑張ります(w

>通りすがりの者様
正反対な二人だけど、実は結構似ている二人。と思います。
今回も似たもの同士ないしよしです。いかがでしたでしょうか?
369 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/07(木) 23:38
またまたステキな作品を読ませていただいてありがとうございます。
更新を知って飛んできました。
車窓から満開の桜をながめながら、幸福感に満たされた今日だったのですが、
桜折さんの作品を読ませていだたいて、なお一層この季節が大好きになりそうです。
いしよし、最高です。
370 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/08(金) 01:18
とても綺麗な文章で情景が目に浮かぶようでした。
結末とは裏腹になぜか物悲しい印象を受けたのは
桜や春や片思いというキーワードのせいでしょうか。
わけのわからないレスですみません。要するにこの話が好きってことですw
371 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/08(金) 20:35
なんかね・・・わかんないけど泣けた(゜ーÅ)
372 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/09(土) 00:18
更新お疲れさまです。 今度の作品も凄くよかったです。 今の季節にぴったりだと思いました。 次回更新待ってます。
373 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/09(土) 12:30
甘い〜甘い〜甘いいしよし最高!
374 名前:っっひ! 投稿日:2005/04/11(月) 05:23
|ノハヽ。∈
|^▽^)
|⊂ノ  ちらっ
|ノハヽ
|^〜^)
|⊂ノ


森板から一気に読ませていただきました!
泣きすぎて目がシパシパします(痛
色々ないしよしに泣かされてますw
更新楽しみに待ってます!!
375 名前:桜折 投稿日:2005/04/12(火) 23:40




『祭りのアト始末』




376 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:41

最悪……。


布団を頭から被ってつぶやく。
そうすると、布団の中の自分が嫌でも目に入って。


最悪だぁ……。


目をぎゅっと閉じて、自分を呪う。


あたし、吉澤ひとみ。
昨日でついに20歳になりました。
めでたいめでたい。
……ここで話が終われば、だけど。
めでたくないのがここからで。
何故かというと。
20歳の記念、とゆーコトで初めて本格的に飲酒を試みた。
…んだと思う。
多分。
だって、頭がズキズキするし。
ちょっと胸の辺りがムカムカするし。
何よりなんにも覚えてない。

377 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:42

そう、あたしは昨日の夜のコトを全くなんにも覚えてない。
綺麗さっぱり。
だから、なんで自分がここに寝てるのかも解からない。
辛うじて解かるのは、ここが自分の部屋でないことと
自分が取り返しのつかないことをしてしまったこと。
だってだって…。





なんで裸で寝てるんだよぉ、あたし!!



378 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:43

布団の中の自分は、所謂、生まれたままの姿ってヤツ。
全ての現実を受け入れたくなくて、布団の中で丸くなると
余計に自分の状態が解かる。


ああ、これはやっぱり。
やっぱり、夕べ……。


そっと、布団から顔を出す。
目覚めた時、すでに部屋の中に誰の気配もなかった。
パステルカラーの室内。
なんか…やけにピンクの家具が多い気が……。
あれ、なんか見覚えあるかも。
ぼんやりと、何かが私の中に浮かぶけどまるでそれを
阻むように頭痛が襲う。


痛い……。


上げかけた頭をがくっと落とすと、視界もがくんと下にズレて
目に映ったのは

379 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:44


ひえーーーーー。


見紛うことなき、あたしの下着。
浮かんでくる涙で潤む目をこすりながら、翳む視界に手を伸ばしたその時


バタン


部屋の外で音がして。


ぎゃー。
誰かいるっっ!!


どーしようどーしよう、とパニくっていると部屋のドアがパタン、と開いて。
タオルで髪をごしごししながら入ってきた人と目が合った。


「り、り、り……」

380 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:45

い、息が上手く出来ない。
頭がまっしろで全然働かない。
だけど、とりあえずこれだけは解かった。
入って来たのは、私のよく知る人物。
石川梨華だった。





381 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:45


「あ…おはよ……」


梨華ちゃんは私と目が合うと一瞬ビクっと身体を揺らして。
消え入りそうな小さな声でと気まずそうに挨拶すると、ゆっくりと視線を地に逸らした。
ええっと。ええっと。
お、おちつけ、自分。


「おっ、おはよぅ……」


声をちょっとだけ裏返らせたりしながら返事をして。
深呼吸。
梨華ちゃんはドアのとこに立ち尽くして俯いちゃってる。
えーと。えーと。
コレって……喜ぶべき?
だって、梨華ちゃんだもんね。
あたし、てっきり酔っ払って男についてきて、その、ねえ。
一夜の過ちってヤツ?
をしてしまったんじゃないかって思ってたんだけど。
梨華ちゃんを見て思い出したんだけど。
よく考えたら、ここって何度か来たことのある梨華ちゃんの部屋だし。
きっと、酔っ払ったあたしのコトを連れて帰ってきてくれたとかなんじゃないかな?
382 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:46

「あの、ね。よっちゃん寝てたから、先にシャワー浴びたんだけど」


シャワー…。
って、ええっ!?
……ううん、違う違う。
梨華ちゃんは朝シャンしただけだよ。
そう、きっと夕べは酔っ払っててお風呂とか入れなくて
今朝入った……だけ…。


「よ、よっちゃんも、入って来たら?」


そう、だから夕べ入らなかった私にも勧めてくれてるだけ。
きっと、そうだよ…ね?
でもさ。
ちょっと、一瞬、忘れてたんだけど。
だとしたら、なんであたし、梨華ちゃんののベッドに裸でいるの?


「う、うん……」


そう思うと、こころなし身体がべとついてる気もして。
ええっ。
いや。
まさか。
でも。
………。
383 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:47


「…」


「…」


そう思うと、梨華ちゃんの態度までおかしな気がしてきて。
ううん、それは気のせいじゃない。
絶対おかしいよ。
自分の部屋なのに、入ってきてからずっとドアの前に立ち尽くして
髪からぽたぽた水がこぼれても拭わずに明後日の方向見てる。
ええー。
だって。
ねえ。
うそーーーーー!!


「梨華ちゃん!!」

「は、はいぃぃ」


私の突然の叫びに、梨華ちゃんはまた小さく震えてこっちを見る。
ああ、二日酔い(と思しき)の頭にくらくらくるよ。
384 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:48

「あ、あの、ね。夕べのことなんだけど…」

「う、うん」


これは、もう、直接聞くしかない。


「あの………なにか…あった?」

「………へ?」

「ごめん。あたし、全然なんにも覚えてないんだけど」

「…」

「夕べ、なにかあった?」

「えぇーーーーーーーっ」


意を決して聞いたあたしに。
梨華ちゃんは超音波みたいな悲鳴を上げて目を見開いて。
そしてぱたぱたと私の方へ寄ってくると肩を掴まれがしがし揺さぶられた。

385 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:49


「お、覚えてないって、なんにもっ?」

「……なんにも。全然。どーして覚えてないのかも、わかんない。
あたし、お酒とか飲んだの?」

「ホントに、ホントに、なんにも?全然?」

「ごめん。全然。なんで、あたし、服着てないの?」


恐る恐る、一番怖いコトを聞いてみる。
だけど、梨華ちゃんはそれに応えずに力なくがくっと頭を下げて。


「梨華ちゃん……?」

「わ、私も…」

「え?」

「私もなの、実は」

「えぇっ!?」

386 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:50

「さっき目が覚めたら、横に、その、裸のよっちゃんが寝てて。
昨日のコトなんて、全くなんにも覚えてなくて」


顔を上げた梨華ちゃんは涙目で。
って……ええーーーっ。


「どーしよ、よっちゃん」

「ど、どーしよって!!」

「ゆうべ、なにがあったと思う?」

「し、知らないよっ」

「私もしらない…」


う、嘘でしょ!?
二人とも覚えてないって…。
あたしたちの昨日の夜の記憶は、一体ドコへ行ってしまったの!!?



387 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/04/12(火) 23:51




つづく。




388 名前:桜折 投稿日:2005/04/13(水) 00:09

よっちゃんおたおめ〜。
どうしても12日中に書き込みたくて、出来たトコまで。
あと1〜2回の更新で終わらせます。


>369様
自分の書いたモノを読んで『いしよし最高』言って貰えるのが一番嬉しいです。
これからもそう思って貰えるようなお話を書いていきたいと思います。

>370様
好きと言って頂けて嬉しいです(照
ちょっと桜が『散る』って表現が多くてそれがまたそんな雰囲気に拍車掛けてたのかな、と
自分的には思うのですがどーでしょう?w

>371様
 T▽T)< ナカナイデ…
切ない雰囲気ですが、このいしよしはここからハッピーを沢山育てていくのです。

>通りすがりの者様
ありがとーございます。
今回のも気に入って頂ければ幸いです。

>373様
ドルチェ・ヴィータないしよしが信条のスレなんで。
これからも甘いいしよしでいきますよ〜。

>374様
いしよしに見つかっちゃった!!(w
ありがとーございます。頑張りますね。

389 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 00:58
続くのかよっ!と思わず突っ込んでしまったのは
続きが見たくてたまらないからです。すみませんw
ウズウズウズウズしながら次回をお待ちしております。
それにしても酒は飲んでも飲まれるなですね(・∀・)ニヤニヤ
390 名前:っっひ! 投稿日:2005/04/13(水) 10:28
あぁ・・・ニヤニヤが止まりません!!
続きが気になるところです・・・。
ということで1日遅れですが、
よっちゃんお誕生日おめでとう!!
391 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 15:00
やっべ・・・パソコンの前で笑ってた・・・
次回待ってます。
392 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 20:24
オタオメ小説きたー!!
嬉しいなあwありがとうございます〜!
しかもどきどきの展開・・・
ひたすらひたすらお待ちしてます。
393 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/13(水) 22:48
更新お疲れさまです。 うぁっΣ( ̄□ ̄;)!! 二人は一体何をやらかしたんですか!? 気になります!! 次回更新待ってます。
394 名前:パンナコッタ 投稿日:2005/04/30(土) 11:06
最初から読みました。とても楽しかったです。
今のお話の続きも楽しみです。次の更新待ってます。
395 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:01



***



396 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:02

どんよりとした沈黙に沈む室内。
あたしは混乱するばかり。
ちょっと待て。
ホント落ち着け、自分!!
そしてよく考えろ!!!


………。
………。



ダメだ。
解かんない。


397 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:03

でも、梨華ちゃん相手なら、悪くない、かも。
よく考えてたら、そんなコトが出てきちゃったあたしの脳みそ。
でも。
ホントに。
それはそれで、かも。
あたしは梨華ちゃんが好きだ。
この5年間、何があった訳じゃないケド。
何かあっても別に自分の中ではおかしくなかったっつーか。
まあ、はっきり言ってしまえば自分に意気地がなかっただけで
出来ればその……告白なんぞしてみたかったりしたりして。
もしかして。
コレは、チャンスなんだろーか。
いや、そもそももうチャンスは訪れた後なのか?
てゆーか、ちょっと待て。
隣りで梨華ちゃんも…その…裸で寝てたってコト……?
ちょっと、なんで先に起きないんだよ、自分!!
ってか、そしたらあたしの裸とかさ、梨華ちゃんに見られたかもしれないってコト!?
うあーーーー…。
ダメダメ。
そんな、梨華ちゃんにお見せできるよーなモンじゃないっすよ。



「……とりあえず、コレ着て」
398 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:04

すんごい自分の世界に入ってたあたしに、梨華ちゃんはベッドの横にあったTシャツを
押し付けるように渡してきた。
そっぽを向いた頬が微かに赤いのを見て、考えるのに夢中になって
上半身が布団から出てしまってるのに気づいて慌ててそれを羽織る。
……いや、女同士なんだしさ。
そんな恥ずかしがるコトないんだけどさ。
それに、ほら。
もう、昨日、それ以上のコトがあったかもしれないんだしさぁ。


「シャワー浴びてきなよ。なにか朝ご飯用意するから」


そう言って、そのまま目を合わさないまま立ち上がって
部屋から出て行こうとする梨華ちゃん。


「ちょ、ちょっと待……」

いや、だって。
なんにも問題解決してないし。
慌ててあたしも立ち上がろうとして……その…下も履いてないコトに
気づいて布団を引き摺り上げる。
し、下着、下着……。
手を伸ばして床からそれを拾い上げてる間に、梨華ちゃんはいなくなっていた。

399 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:05



***



400 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:07

梨華ちゃんの家のお風呂は、梨華ちゃんの匂いがした。
当たり前って言えば当たり前なんだけど。
その匂いのもとのシャンプーを手に取って。
あたしも梨華ちゃんとおんなじ匂いになる。
いい匂い。
甘い、花の香り。
だけど、それはあたしにはちょっとだけ違和感があって。
不思議な感覚。


はぁ……。


こぼれるのはため息ばかり。
どーしよ、これから。
梨華ちゃんも覚えてないんじゃ、どーしようもないんだけど。
梨華ちゃんとなら、アリなんだけど。
それにしたって、怖いじゃん。
だって裸で寝てたんだよ?
……自分で脱いだ、とかあるのかなぁ。
1杯2杯程度なら、酒くらい飲んだこともあるけど。
本格的に飲んだことってないからな。
ヤバイ。
あたしってもしかして酒乱とか?
えー。
それって困る。
これからのあたしの成人ライフ、お先真っ暗じゃん。

401 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:09

だけど。
お酒を飲んだってのもそもそも憶測で。
実際何をどーしたのかなんて全然解かんないし。
うーん。
…でも、さ。
やっぱりどー考えても。
夕べ、梨華ちゃんとは……なるようになっちゃったんだよ…ね?
それ以外、有り得ないシチュエーションだよね。
なんか、それはそれで、覚えてないのは残念だよな……。
などと、そんなことをうだうだ考えてたら随分時間が経ってたみたいで


「よっちゃん……大丈夫?」


脱衣所から恐る恐るといったカンジに梨華ちゃんの声がして。
あたしは慌ててシャワーを止めた。

402 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:12



***



403 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:14

梨華ちゃんの用意してくれた朝ご飯はトーストとスクランブルエッグと紅茶。
あたしの分のトーストはベーグルだったりして。
ちょっと梨華ちゃんの愛をカンジちゃたりして。
なーんか、ちょっと、いいんじゃない?
20初めての朝を梨華ちゃんのベッドで迎えて。
気だるくシャワーを浴びて、梨華ちゃんの用意した朝ご飯を頂いてる自分。
モーニングコーヒーじゃないけど、おいしい紅茶にほんわりした気分。
これで夕べの記憶でもあればばっちりなんだけどね。
……って、和んでる場合じゃないって、吉澤ひとみ!!


俯いたままの梨華ちゃんになんて話しかけていいか考えて、
結局、TVのスイッチに手を伸ばす。
ああ、自分の意気地なし。
チャンネルをカチャカチャしてると、いいともがやっていた。
梨華ちゃんの誕生日にはコレに出てたんだよね〜。
今日はお仕事休みで良かったよ。
頭痛いとかもあるけど、なによりこんな状態で仕事行ったって
気になっちゃって集中できないもんね。


「よっちゃん……」


声に顔を向けると、梨華ちゃんは俯きながらフォークでスクランブルエッグを弄んでた。


「ホントに昨日のコト、全然覚えてない?てゆーか、どこまで覚えてる?」
404 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:17

「えーと……あたしは昨日オフだったんだよね」

「うん」

「梨華ちゃんは仕事で」

「うん」

「……確か、あたしはまいちんとアヤカと会う約束してて」

「うん」

「あれ、梨華ちゃんといつ一緒になったんだっけ…?」

「…」


うーん。
思い出せない。
沈黙。
TVから流れるざわめきと梨華ちゃんの鎮痛なため息が混ざって、その間を埋めた。


「梨華ちゃんは?」

405 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:19

聞くと、梨華ちゃんはいじくりまわしていた卵を口に運んで


「おんなじ」


辛うじて解かる程度にそう発音した。






406 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:19

はあ。
梨華ちゃんのため息が降り積もる。
……あのさ。
なんでそんなにユウウツそーなのかな、梨華ちゃんは。
そりゃさ、あたしだってユウウツさ。不安さ。
だけど、その。
もしなんかあったとしても、梨華ちゃんとなら、まあ、アリかなっつーか。
イヤじゃないんですケド。
てゆーか、コレに乗じてなんとかなんないかな、とか都合よく考えてるあたしがいるんだけど。
なんか、梨華ちゃんは、ものすんごくネガティブオーラ全開で。
その……そんな、イヤ?あたしじゃ。
そんな風に思えてくる。
ああ、やっぱ無理なのかな。
あたしと梨華ちゃんの間には色んな絆がある。
友達。
同期。
戦友。
だけど、その一番端っこに。
ピンク色の、あたしたちだけにしか解かんない、甘いカンジの繋がりがあるって。
あたしはずっと思ってた。
それをなんて表現していいんだか、わかんないケド。
それが、その、恋ってゆーか…うん、むしろ愛に近いもので。
いつかそれはちゃんとした形になって、あたしたちのコトを結びつける一番の絆になるって
………思っていたのは、あたしだけ、なのかな。
考えたら、どんどん凹んでっちゃって。
その後、食事が終わるまで結局一言も話さず終わってしまった。
407 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:20

その後も、何も話すこともなく。
やることもなく。
あたしは仕方なく支度をして。
帰ることにする。
部屋を出る時、梨華ちゃんが念を押すように

「ホント、全然覚えてない?」

と聞いてきたケド。
その時のあたしはホント凹んでたから、その梨華ちゃんの必死さに気付かなくて

「覚えてない…」

零すようにつぶやいて。

「そ」

そっけない返事に、また凹んで。
ろくに挨拶もせずに部屋を去った。



408 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:21



***



409 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:23

とぼとぼ歩く、帰り道。
梨華ちゃんとは上手くいかなかったけど。
だけど、やっぱり気になる昨日のコト。
習慣で、歩きながら携帯を開いて……まいちんとアヤカのことを思い出す。
そうだ。
昨日は二人に祝ってもらってた……はず。
うん。
なんか、二人に酒飲まされたよーな……。
慌てて携帯を操作して、とりあえずアヤカに掛けてみる。


「どしたの、よっちゃん?」


いつも通りのアヤカの声に、なんて反応していいか解かんなくって
ああ、うん…とか曖昧に応えてみる。
どーしよう?
昨日、あたしアヤカと会ってたっけ?
なーんて聞いたらびっくりされるんだろーなぁ。


「昨日、あれからどーしたの?」


しかし、アヤカの方が先にその話題に触れてくれて。


「ん?」

「昨日、夜中に飛び出してって。びっくりしちゃったんだから」

「うぇぇ」


思わず変な声を出してしまう。
飛び出してったって?
あたし?
410 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:25

「なに、変な声だして」

「い、いや、うん。そーだね」

「メールがメールがとか言って、ごめん行くとか言って。ホント、訳わかんないよ〜」

「ああ、ごめん。埋め合わせは今度するよ」

「まあ、お誕生日のお祝いだったんだしいいケドね、埋め合わせとかは〜」


そう言って笑うアヤカ。
メール、メールかぁ…。
ダメだ、全然覚えてねー。


「で、メールの相手、誰だったのよぉ」


……それはこっちが聞きたいくらいだよ。


「うん……いや、ま、今度ね。じゃ、ホント昨日はすまんてコトで」

「あ、ちょっと待ちなさいよ〜!!」


これ以上アヤカから引き出せる情報はないと悟り、電話を切る。
ごめん、アヤカ。
ホントに今度埋め合わせとかするし。
だから、今日はちょっとごめん。
あたしは早速、メールを開く。
ここに、謎を解き明かす鍵が………?
411 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:26



メールは、昨日の夜中に20件以上届いていた。


コ、コレじゃわかんねー!!!


412 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:27

まあ、とはいえ、1件気になるのがあるにはある。
……石川梨華。
0時を過ぎてすぐ位の着信。
ドキドキしながら開くと……しかし、二十歳おめでとー、みたいなありきたりな内容。
なんだよなんだよ。
全然手がかりになんねーじゃん。
その後一応、夕べ届いたメールは全部チェックしたけど、怪しいものは何もなかった。



しょんぼりと肩を落としてまた家路につく。
一体、何してんだろあたし。
二十歳になったその日から…。
思えば、梨華ちゃんに『お誕生日おめでとう』って言ってもらわなかった。
まあ、あんまりめでたい雰囲気じゃなかったし。
でもな。
言って欲しかったな。
それだけは、せめて。
もしかして、嫌われちゃったかな?
警戒してるカンジもあったし。
あー…。
平日昼下がり。
あたしは強い午前の日差しを浴びながらブルーになって歩いていた。
413 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:27



もすこし、つづく。



414 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/05/05(木) 04:46

更新遅くなってすみません。
あと一回で終わる…かな?

>389様
お待たせしてすみません。
ここのよっちゃん、飲まれまくりですw
注意しないといけませんねぇ(・∀・)ニヤニヤ

>っっひ!様
おたおめ小説なのに、こんな時間掛かっちゃってすみませんw
よっちゃん、お誕生日おめでとー!!(今更)

>391様
笑っていただけてなによりです。
待たせすぎて笑いがさめてないといいんですが。

>392様
待たせすぎちゃってすみません。
どきどきの展開…かな?wまだまだ謎は解けません。

>通りすがりの者様
待たせすぎちゃってすみません。
2人が何をやらかしたかは…まだ判明しませんw
次回をお楽しみに。

>パンナコッタ様
楽しんで貰えて嬉しい限りです。
今回の更新も楽しんで頂けてるといいんですが…。
415 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/05(木) 13:48
ぐはっ!き、気になりまくり…。大人しく続きを待つのれす。
416 名前:っっひ! 投稿日:2005/05/05(木) 14:19
なるほど!なるほどですね!!w
ぁあ…気になります
417 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/05(木) 17:24
最初から最後までどきどきしっぱなしです。
甘いカンジの繋がりって言葉、これだあ〜!って思いました。
418 名前:ひすい 投稿日:2005/05/06(金) 07:51
|д゚)
よっちゃん元気出して!!梨華ちゃんはきっと・・・きっと。・゚・(ノД`)・゚・。
419 名前:茅ヶ崎のマヤヤ☆ 投稿日:2005/05/20(金) 15:47
続き楽しみです!
期待してます☆
420 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:00




***




421 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:00


駅前の大通りを抜けて。
もうすぐで家に着くって時に、あたしの携帯が鳴った。
一瞬、期待して。
だけど、その着信音で梨華ちゃんからの電話ではないコトに気づいて。
ああ、バカだな、あたし。
梨華ちゃんから掛かってくる筈なんてないのに。
……もしかしたら、もう一生掛かってこないかも。
そんな考えにサーーーーっと血の気が引いて寒気がしてくる。
うわ、最悪だ……。




422 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:01

っと。
着信着信。
携帯を取り出すと、ディスプレイに『後藤真希』と表示されていた。


「やぁ」


今、だいじょーぶ?
ごっちんの明るい声に、ちょっと救われた気分になる。


「うん。大丈夫。どーした?」

「夕べのメールなんだけどさ」


メールって単語にドキっとする。
夕べのメール。
なんだろ。
ごっちんからはなんかガンバレとか当たって砕けろとかバースデーメールにしては
意味のわかんねー内容がきてたんだけど……まあ、ごっちんだしって。
あんま気にも留めなかったんだけど。


「よしこのメール、呂律が回ってなかったからさぁ」

423 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:02

そう言われて。
そういえば、自分が送信した分のメールをチェックしてないことに気づく。
梨華ちゃんに変なメール送ってたら嫌だなぁ……。


「んで、どーよ?」

「なにが?」

「あれ?あれって梨華ちゃんのコトじゃなかったの?」

「……へ?」

「いや、てっきりあれって梨華ちゃんのコトかと…」


ごっちんは、親友だし。
具体的な話をしたことはないケド。
なんとなく、あたしと梨華ちゃんのコトを応援してくれてるみたいな。
そんなカンジを匂わせるコトがよくあった。
多分、あたしの気持ち、バレてるんだろーなぁ。
って。
だから、梨華ちゃんがなんなんだよ!?
424 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:05

「ごっちん、何さ、あれって」

「んえ?あー…だからさ、昨日のぉ………あ、はい〜。今行きます〜。
ごめん、よしこ、呼ばれちゃった。今、撮影のとちゅーなんだぁ。また掛けるね」


プツン、ツーツー。
かくして親友からの電話は一方的に切られてしまった。
なんだよ。
なんか、悲しいじゃん。
なんか……今日ってつくづく厄日かもしんない。


はぁぁ。


ため息をつきつつ、それでもメールの送信部分を開く。
ごっちん、ごっちん……あった。



425 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:06




『ありかと。ごちんもはっちったらいざかやとかいこーせ!!
んじやあこから、一発がんはつて来るよ!!!』







暗号か、コレは……?


426 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:06


慌てて梨華ちゃんに送ったメールを探す。
フツーに一回、返信してる。ありがとーって。だけど、その後すぐにもう一回




『ちょと、電話してもいい?』




惜しい。
小さいつさえ入ってれば完璧だったのに!!
ちくしょー。
でも、まだごっちんのよりいいよね……なんつーか、ごめんね、ごっちん。
なんだよ、あのメール…。

427 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:07

続いて携帯の履歴を見ると…あった。
時間にして、梨華ちゃんに『ちょと』メールしたのとごっちんに『がんはつて』メール
したのの間。
『石川梨華』に掛けてるよ、あたし。
掛けてた時間は5分。
……微妙な時間だな。
何、話してたんだろ。
でも、これで間違いない。
あたしは多分、梨華ちゃんからのおたおめメールに反応して電話、そこで会う約束が
決まって、ごっちんにメールしながら梨華ちゃんのトコへ…。
どこか外で会ったのか。
梨華ちゃん以外の人がいたのか。
それはわからない。
だけど、とにかくその電話で、あたしは梨華ちゃんに会って。
それで……。

428 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:08

やっぱり、もう一度梨華ちゃんと話そう。
今思えば、梨華ちゃんは挙動不審だった。
もしかしたら、何か知ってるのかも。
私に遠慮して、とか。
恥ずかしいから、とか。
何かの事情で言わなかったコトがあるかもだし。
そう思ったら、居てもたってもいられなくなって。
駅まで走るのももどかしくて。
あたしは大通りに戻る、とタクシーを拾った。
梨華ちゃんちまでの簡単な説明をして。
後部座席に落ち着いて。
一応、とチェックに開いた財布から落ちた一枚のレシート。


○×タクシー。


昨日の深夜に切られたソレ。


時間は…ごっちんにメールした15分後くらい。


……間違いない。
昨日、梨華ちゃんに会う為に使ったんだ。
自分の中で、点々としていた事実が一本の線として繋がった気がした。
……推理小説みたい。
かっけー。
429 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:09



***




430 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:10

「どーしたの、よっちゃん!?」


梨華ちゃんは最初うっすらとしか開けなかったドアを、めいっぱい開けた。


「………梨華ちゃんに、聞きたいコトがあって」

「いいから、上がって」

「うん………あのさ、梨華ちゃん、ホントになんにも…覚えてない?」

「ねえ、いいから、ちょっと座ってよ」

「梨華……ちゃん、さ………ゆうべの…さ」

「お水持ってこよっか?ねえ、よっちゃん?」

「いっか…ら……ね、話して…」

「解かったから。ね?ちょっと、横になろ?ね?」

「梨………うぅっ」

「よっちゃん?だいじょーぶ?よっちゃん!?」

431 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:11

あたしは、梨華ちゃんを押しのけて走り出す。


………その、お手洗いへ。

…………り、リバース……。


二日酔いでタクシーなんて乗るもんじゃない。
梨華ちゃんちに着くまで我慢したコトだけでも褒めて欲しい。
当の家主の梨華ちゃんは、鍵を掛け損なったドアを開けて入ってきて。
あたしの手にタオルを握らせてくれて。
ずっと背をさすってくれてた。
こんなの。
こんな恥ずかしい姿、梨華ちゃんにだけは見せたくなかったなぁ。
ああ。
もう、こんなの見たら幻滅だよなぁ。
はぁ。
終わった。
吉澤の恋は終わった…。
なんだよ。
二十歳になって、いっこもイイコトないじゃん。
全然めでたくねーよ。
なんだよ、二十歳。
二十歳。
二十歳になんて、なるんじゃなかった………。


432 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/06/02(木) 23:12




433 名前:桜折 投稿日:2005/06/02(木) 23:18

次こそラスト。おたおめ話なのにこんなに引っ張ってすみません…。


>415様
お待たせしてすみません。もう少しだけこのままお待ちくださいw

>っっひ!様
納得して貰えてるみたいで良かったですwもう少しお付き合い下さい。

>417様
ありがとーございます。まだドキドキ続行してて貰えてるでしょーか?

>ひすい様
よっちゃん凹みまくりです。次回に向けてファイっ!!w

>茅ヶ崎のマヤヤ☆ 様
ありがとーございます。マヤヤさんも頑張ってください。
434 名前:桜折 投稿日:2005/06/02(木) 23:18



435 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/03(金) 00:16
更新キターッ!!本当にお疲れ様です!
吉の文字、可愛い・・・w
次の更新、心からお待ちしております。
436 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/03(金) 02:03
酒はコワイヨーコワイヨーw
記憶がない恐怖は何かと身にしみてますが
よっちゃん、キミ一体なにしたんだよw
メールかわええ(*´∀`)ポワワ
437 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/03(金) 22:25
 更新お疲れさまです。 ははぁ、よっすぃーの言いたかった事がなんとなく分かった気も・・・それにしてもなんちゅうメールでしょう、唐突過ぎますよ。 次回更新待ってます。
438 名前:っっひ! 投稿日:2005/06/04(土) 11:06
お酒って怖いですね(意味深
とにかくよっちゃんがんがれ!w
更新マターリと待ってます。
439 名前:ひすい 投稿日:2005/06/05(日) 15:28
くあーw梨華ちゃんいいなぁ。甲斐甲斐しくてw
さすが、トメ(ry

頑張れ、よっちゃん!いつものポジティブさで過去をつきとめろぉ!
ってことで、ごっちんに応援してもらいます。
( ´ Д `)<大丈夫きっと大丈夫♪
440 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 01:04
よっちゃんの気持ちよ〜くわかるよ(^〜^0)自分も経験が…
441 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/12(火) 23:11
作者様、続きお待ちしております。
442 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/15(金) 10:20
自分もまってますっ
443 名前:くろ 投稿日:2005/08/02(火) 23:23
あのー、作者さんはあの方でよろしいんですよね?うれしいなぁ。
森板の頃からそーとーハマっております。
これからもマイペースで頑張ってください。
444 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 13:18
気になる〜・・・。
445 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:23


***


446 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:24

半べそでそんなコトを考えてたら。
背後から。


「もう、よっちゃんのバカぁ。二日続けておんなじコトするなんて…
ホントにバカなんだから」


背をさすりながら、梨華ちゃんの言った言葉。
二日続けて……?


「大丈夫?もう平気?お口濯ぐ?」


その梨華ちゃんの言葉。
キッチンから持ってきてくれたコップに入った冷たい水。


「くちゅくちゅってして?」


ぼーっとするあたしの口元を新しいタオルで拭ってくれる、手。

447 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:25

なんだか。
なんだか。



遅れ馳せながら。




…………思い出してきたぞ。

448 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:26

すこし休んでからにしなよ、って梨華ちゃんの言葉を押し返して。
シャワー浴びさせてって、またお風呂を借りる。
少し、1人で整理したい。
頭から熱いシャワーを浴びて。
だけど、頭が冷えて…はっきりしてく気分。
リバースして空っぽになったのはお腹の筈なのに、頭がすっきりして。
そう、今なら何もかも思い出せそう。


夕べも。


梨華ちゃんちに来て……お手洗い借りて。
それからこうやって、シャワー借りたんだ。
うん。
汚しちゃったあたしの服は、その間に梨華ちゃんが洗濯してくれてて。
だけど。
あたし、恥ずかしくって。情けなくって。
お風呂場から出られなくなっちゃって。
だってさ。
あたし、夕べ……。

449 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:26


「もしもし、梨華ひゃん……?」

「どうしたの?こんな時間に」

「め、迷惑らった?」

「ううん。大丈夫だけど」

「その…これから、会えりゅ?」

「えぇ?」

「梨華ひゃんのまんひょん行く」

「いいけど……よっちゃん、なんか呂律が…」

「いい?すぐ行ふひゃら」

「いいけど…よっちゃん、大丈夫?」



酔った勢いってのは怖いもんで。
450 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:28


「どーしたの、よっちゃん!?」

「梨あひゃん…」

「いいから、上がって。顔真っ青だよ?」

「うん………あの、梨あひゃ…いいらいころがあって…」

「ねえ、いいから、ちょっと座ってよ」

「梨ひゃ……しゅ、しゅき……らよ」

「お水持ってこよっか?ねえ、よっちゃん?」

「いっか…りゃ……ね、梨……しゅ」

「解かったから。ね?ちょっと、横になろ?ね?」

「梨………うぅっ」

「よっちゃん?だいじょーぶ?よっちゃん!?」



告白しに来たんだ。
思いつきだけで。
梨華ちゃんからのバースデーメールを見て。
ぱぁっと舞いあがって。
なんだか、今しかないって思って。
451 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:28

で。
案の定、タクシーで車酔いして。
梨華ちゃんちで………屈辱のリバース。
挙句、お風呂場に立てこもり。



「よっちゃん……大丈夫?」

「……うぅ」

「よっちゃん、どーしたの?泣いてるの?」


白い湯気の立ち込める浴室に、梨華ちゃんが入ってきて。
裸のまま、床にへたり込んで泣くあたしに気付いて。
バスタオルで包んでくれた。

452 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:29


「き、きら……嫌いにならないで…」

「ならないよ、嫌いになんて」

「ホント?」

「うん。よっちゃんのコト、好きだよ?」

「ホントに?好き?あたしのコト、好き?」

「好き。よっちゃんのコト、大好きだよ」

「あたし、梨華ちゃんが一番好きだよ?梨華ちゃんだけが好きだよ?」

「私も、よっちゃんだけが好き」



泣きじゃくって。
子供のように。
恥ずかしげもなく。
あたしは、所謂……泣き落としってヤツをしたんだ…。

453 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:30


「じゃあ、り、梨華ちゃん、あたしだけのものになって」

「え?」

「今年の誕生日プレゼント、梨華ちゃんがいい」

「えっと…プレゼント、他に用意してるんだけどぉ」

「いらない。梨華ちゃんじゃなきゃ嫌だ」

「……」

「梨華ちゃんしか、いらない」



その時には、確か。
梨華ちゃんに支えられるよーにして、部屋に移動してて。
あれ?
でも、服………着てたっけ?



「梨華ちゃん!!」

「よ、よっちゃ……」

454 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:31

ベッドの上で。
戸惑った顔の梨華ちゃん。
あたしは、強引に顔を近づけて。


近づけて。



そこで。




記憶に……また、霞が掛かって………って、オイ!!
こっからが肝心だろ!?
あたし、そっから何したんだ!!?
梨華ちゃんの返事は?
ねえ?
ちょっと!!!
455 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:31


***


456 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:32

お風呂から上がると、梨華ちゃんのジャージが脱衣所に置いてあって。
それを着て部屋に戻ると、お茶を淹れて梨華ちゃんが待っていてくれた。


「………すみませんでした」

「もう、ホント、バカ」


はぁ、とまた梨華ちゃんのため息。
……そーだよね。
二日続けて押しかけて、二日続けてリバースとか…ホント……。


「あきれて―――」「あきれてるに決まってるでしょ!!」


そっこー返って来た梨華ちゃんの言葉にぐったりと頭を垂れる。
だよねぇ。
1回ならず2回もだもんねぇ。


「もー、どーしてよっちゃんはこんなにおバカさんなのかなぁ」
457 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:33

はい、バカです。
もう一生バカ呼ばわりでも構いません。
バカと呼んで下さい…。


「二日続けて同じことするし、その上それを覚えてないし」


あ、少しだけ思い出したんですけど…とは、なんか言えない雰囲気で。
黙って梨華ちゃんのお説教に聞き入ってると。


「昨日、私にあんなことして……」


あんなこと……?


「酔った上でのことって言ったって、酷いよ。酷すぎる」


梨華ちゃんの声色が変わって。
視線を上げると。
向かいに立つ梨華ちゃんは……涙ぐんでいた。
458 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:34

「えぇっ、ちょ、梨っ」

「うるさい、バカよっちゃん!!昨日、私になにしたか覚えてないんでしょ!!?」


そ、その通り、なんですけど。
なんで梨華ちゃん、泣くの?
一体、あたしってば何をやらかしたの!?


「あの……あたし、夕べ一体なにを…」

「教えない」


ぷい、とそっぽを向く梨華ちゃん。
そんな、今にも泣きそうな顔で。


「そこを、なんとか…」

「だって……言ったら、きっとよっちゃんが気にするもん」


な、何!?
459 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:35

「よっちゃん、私にそんなことしちゃったって。申し訳ないって。
それで…それで、今までみたいに仲良くしてくれなくなったら嫌だもん」


ぽろっと、梨華ちゃんの目から涙が零れた。


「い、嫌だからぁ…言わないぃ……」


あたしはびっくりして。
梨華ちゃんに近寄ったけど。
梨華ちゃんの身体がびくっと震えて遠のいたから。
ティッシュケースを引き寄せて、そっと手を伸ばしてティッシュで頬を拭ってあげた。
やっぱあたし……梨華ちゃんに警戒されてんのかな?
仲良くしてくれなくなるとか言ってるけど。
結局それって、梨華ちゃんがもうあたしと仲良くしたくないってことなんじゃあ…。


「……よっちゃ…だんで泣いでるのよぉ」


ティッシュの向こうから、梨華ちゃんの声。
それであたしも泣いてるって気づく。
あ、あたし、泣いてたんだ。
460 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:36

「あはは、ホントだぁ」


梨華ちゃんの頬を拭いたティッシュで、自分の頬も拭う。
また、泣いちゃった。
もう情けないったらないなぁ。
でも、もうどう転んだって幻滅されてるだろーし。
それなら、いっか、なんて。
落ちるとこまで落ちてやる、なんて。
段々、変に腹が据わってきて。


「だってさ、梨華ちゃんが好きだから。梨華ちゃんが悲しいとあたしも悲しいんだもん」


するっと、言葉が出た。
この5年間、どーしても出なかった言葉が。
するっと。
涙と一緒に、零れ落ちた。
もー、いいや。
梨華ちゃんがあたしのこと好きでも嫌いでも。
ただ、あたしは好き。
それを伝えたいとかじゃなくて。
口にしてみたくて。
461 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:37

夕べ、結局梨華ちゃんには伝わらなかったらしい想いを。
つぶやいてみたいだけ。


「うそぉ…」


だけど、向かいの彼女はそれを否定する。


「嘘じゃないっつの。ずっとずっと、好きだったよ。梨華ちゃんのこと。
梨華ちゃんがどう思ってよーと。あたしは、梨華ちゃんが好き」


梨華ちゃんの目から、また涙が溢れ出す。
えええ。
もしかして、そんなに嫌?

462 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:38

すると。
梨華ちゃんからこんな言葉が出てきた。


「じゃあ、夕べの告白って……本気だったの?」


ええっ


「本気も本気って……梨華ちゃん、アレ、冗談だと思ってたの?」

「だって、よっちゃんすごく酔ってたしぃ」


うっそー。
一世一代の泣き落としまでしたのに。
相手にされてなかったなんて。
吉澤さん、ちょっとマジ立ち直れないんですけど。


「………じゃあさ、もしかして梨華ちゃんの言った…
その、あたしのこと好きってゆーのも…あれも、冗談?」

「あれは……」


梨華ちゃんが、涙に濡れた頬をぽっと赤らめる。
463 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:39

えっえっえっ。
期待しちゃうんですけど。
は、はしゃいじゃってよいのかな?


「って、よっちゃん、覚えてるんじゃない昨日のこと!!」


はっと目を見開いて、梨華ちゃんが言う。


「そ、それがその…」


肝心なとこだけ、覚えてないんですよ…。


「あの、告白したとこまでしか……てゆーか、告白したのも
あんまりちゃんとは覚えてないんだけど。
あ、で、でも。気持ちは真剣だから。ホント、マジ」


数分、沈黙が続いて。


「よっちゃんの、バカぁ」


梨華ちゃんが口を開く。
464 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:39


「私、酔っ払いにからかわれたのかと思ったじゃん」

「ごめん」

「ホント、バカ」

「うん」


梨華ちゃんが俯いて、濡れた頬を手のひら拭うので。
手を伸ばして。
そっと、目元を指先で拭ってあげる。
い、いいよね?
今度は、びくってしなかったし。
その……あたし、梨華ちゃんに触れてもいいって…コトだよね?

465 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:40

くすん、と1回すすり上げて。
視線を上げる梨華ちゃんの仕草が色っぽくて。
濡れた睫毛がゆっくりと瞬くのにどきっとして。
あたしは梨華ちゃんに触れたまま、動けなくなる。


「あのね、冗談じゃないよ?」


……。
あっ。


「うん。あたしも、酔っ払いの悪ふざけじゃ、ない」


恥ずかしそうに笑って。
また俯くその表情も、とてつもなく愛しくて。

466 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:41

「好きだよ」


梨華ちゃんだけが、好き。ずっとずっと。今までも、これからも。
梨華ちゃんの額に、ちゅっとキスをして。
瞼、鼻、頬とキスを降らす。
そして。
くすぐったそうに笑みを零す唇に。


「んんっ……」


梨華ちゃんから零れる声は、決して否定的なものではなくて。
あたしを受け入れ、誘うようで。
うっとりしてしまう。
何度も何度もキスを繰り返し。
はあ…。
なんか、幸せ。
梨華ちゃんが、あたしにぎゅっと抱きついてきて。
それをまたぎゅっと抱き締めて。
あー、もう。
このまま死んじゃってもいいかもしんない。
時間も止まっちゃえ!!なんて。


……でも。
467 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:41

そう。
気になることがまだ残ってる。


「それでさ、その……夕べのことなんだけど」

「覚えてないかもしれないけど、よっちゃん、私にすごく酷いことしたんだから」

「うん……ごめん」

「いきなり、私のこと押し倒して」

「うん……」

「乱暴に服脱がせて」

「ぅん……」

「私に覆いかぶさって」

「………」

「寝ちゃったんだから」

「…………ぇ?」
468 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:42

「だからぁ、寝ちゃったの。私を襲った癖に。全く、失礼しちゃう」


えーと。
えーと。
これって……喜んだ方がいい、のかな?


「それでその上、朝になったら自分が何しでかしたかとか覚えてないし」

「面目ない」

「それじゃ、酔ったはずみの出来事で、私のこと好きとかっていうんじゃなくてって。
思うでしょ、フツー。私の気も知らないでって。
だから、嘘ついたの。私も覚えてないって。だって、癪だったんだもん」

「返す言葉もないです」


梨華ちゃんは、思い出したようにあたしの腕の中でぷんすか怒ってるけど。
でもさ、その。
良かった…よね?
あたしたちの、その、初めてをさ。
覚えてないなんて、もっと癪じゃん。
そう思ってニヤニヤするあたしの頭を、もー、ってペシンと叩いて。
469 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:43


「……ちゃんと、誕生日プレゼント貰ってね?」


え、えーと。えーと。
それって、その。あの。
あたし、こんなに幸せでいいのかな?



470 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:43


***



471 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:44

こうして、あたしの二十歳は混乱と愛しい恋人と共に始まった。


もちろん、この壮大な愛の物語はごっちんやアヤカたちにそっこー聞き出されて。
そしてそこから広くハロプロメンバーに伝わり。
しばらくはあらゆる意味で冷やかしの対象にされちゃったけど。


まあ、悪くないんじゃないかな?


ひとつ、悪いことには。


しばらくの間はお酒は飲まないって、梨華ちゃんに約束させられたことと。
それに反して、みんなから一緒に飲もうと誘われること。

まあ、みんなあたしの酒乱ぶりってのを見たいってよりも
ぷんすか怒って付いてくる梨華ちゃんを見て面白がってるっぽいんだけどね。
ウーロンハイ一杯でなんとか誤魔化してても、梨華ちゃんはすっごく怒って。
そういう日は、ご機嫌取るのも大変。
だけどさ。
お酒のおかげで、梨華ちゃんとこうなれた訳だし。
そんな目くじらたてることないんじゃないかなー。
なんて。
あたしの言うことじゃないかもしれないけど。
472 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:45

ね?
梨華ちゃん。
愛してるよ?


それから。

前言撤回。

改めまして。




二十歳、万歳!!


473 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:45



〜Fin





474 名前:祭りのアト始末 投稿日:2005/08/22(月) 01:53





475 名前:桜折 投稿日:2005/08/22(月) 01:57

大変お待たせしてしまってすみませんでした。
ぐだぐだ続いてしまった感のあるお話になってしまいましたが
とにかく倉庫送り前にオチまで持っていけて良かったですw
これからは以前のペースで短編中編ちょこちょこと更新していきたいと思います。
よろしければお付き合い下さい。



>>435-444 の皆様、レスありがとうございました。
これからも色々ないしよしを書き続けますので
よろしくお願いします。
476 名前:くろ 投稿日:2005/08/22(月) 04:42
更新お疲れ様でした。
待ってた甲斐がありました。
よっちゃんと同じくらいドキドキしながら読んだオチにも大満足。
これからもどんないしよしが出てくるか、非常に楽しみです。
477 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/22(月) 07:39
更新お疲れ様でした。
いやあ、極上の結末でした。ポワワ・・
石川さんもよっちゃんも最高に可愛い・・・。
これからもいしよし新作、まったりとお待ちしておりますw
478 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/22(月) 10:10
キャ―――(*゚Д゚*)―――!!!
最高(*´Д`),Oポワワ。。。
最後(・∀・)イイ!
いしよし万歳〜∩(´∀`)∩
479 名前:プリン 投稿日:2005/08/22(月) 13:52
更新お疲れ様です!
待っててよかったっす(*´∀`)
次回の更新も期待してますねw
480 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/22(月) 14:13
続きキタ━━(゚∀゚)━━!!!!
甘くて最高です(*´∀`*)ポワワ
481 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/22(月) 16:12
いいですね〜。
かわいいです二人共!
482 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/22(月) 23:46
ずっと待ってました〜♪
続き読めて、すっごく嬉しいです。
作者さま、やっぱりお上手ですね〜
いしよし・新作待ってまぁ〜す。
483 名前:桜折 投稿日:2005/09/13(火) 23:29



『Early Autumn』



484 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:30

いつもはよく待たせるのに、今日はなんだかすごく早く着いて。
スタバでラテとか飲みながらぼーっとしていると


「よぉ」


そう言って、よっちゃんが現れた。
時計を見ると、待ち合わせのきっかり5分前。
相変わらず時間に正確。
だけど…


「…なにさ?」


「なんでもない」


ふぅ、とため息をついて、窓の外に視線を戻す私に、よっちゃんは
なんだよ、と言って不思議そうな顔をする。
だってさ。
別に久しぶりに会うって訳じゃないけど。
毎日会ってるって訳でもないし。
ちゃんと待ち合わせして、遊ぶんだからさ。


Tシャツにジャージってどーなのよ!?

485 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:31

窓の外を見つめたままの私に、んんー?って訳解かんないって顔で隣りに座った彼女。
そりゃ、よっちゃんのジャージなんて見慣れてる。
遊びに行くときだって、私の家に泊まりに来るときだって、いつもジャージだった。


だけど。


最近、ちょっと洒落っけが出てきたとか。
スカートはいてたとか、ミュールはいてたとか。
そんな目撃情報が友達間からちらほら聞こえてきてたから。
ちょっとだけ期待しちゃってたんだけどな、今日は。


「今日もあっちぃーなぁ」


横で、窓の外を覗き込むようにして。
よっちゃんは街に降る陽の光りを見つめてる。
最近ちょっとトーンが落ち着いて、シックになった髪の毛。
その間から覗く白い首筋や頬のラインを、整った顔立ちを、そっと盗み見た。
あいかわらず、キレイ。
初めて会ったそのときから、私はその美しさから輝きから、目を離せないでいる。
……悔しいけど、例え、ジャージでも。
486 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:31

よっちゃんの髪が揺れて。目が合いそうになって。
私は慌てて視線をよっちゃん越しの窓の外に向けた。
まだまだ暑い日は続くけど、街に貼られたポスターや行く人の服装は
少しだけ変化を遂げていて。





季節は少しづつ、秋へと移行しつつあった。

487 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:32


今年の3月、私たちは高校を卒業した。
私は付属の大学に進んだけど、よっちゃんは今、専門学校へ通っている。



大学は、それはそれで楽しいけど。
でも、よっちゃんのいない学校は少しだけ寂しい。


488 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:33


* * *


489 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:34

スタバを出て、本日の目的のケーキ屋さんに向かう。
私たちの通っていた学校の近くにあるそれは、高校生だった私たちの行きつけのお店。
季節が変わるたびに同様に変化するケーキのメニューを、私たちは欠かさずチェックしていた。
そしてそれは、変わっていない。
夏が来ても、秋が来ようとする今も。
私たちはいち早くお店へ向かい、チェックを入れる。
2人で。


よっちゃんの注文したクラシックショコラは、去年より少しだけ苦味が増して。
私の注文したアップルパイは、去年口にしたそれより数段酸味が増していた。
クラシックショコラのお皿に添えられた生クリームを勝手にすくって口にしたら、
よっちゃんも無言でアップルパイの上に乗っているアイスを奪って行って。
よっちゃんが取った。梨華ちゃんの方が先じゃん。
って、しばらくはしゃいで騒いで。
じゃれ合ったあと、顔を見合わせて微笑み合う。


「なによぅ」


「なんだよぉ」
490 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:34


これも、いつものお約束。



日がゆっくりと傾いていく、午後のひととき。
テラス席で、私たちはいつもの2人だけの時間を過ごす。

491 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:35


* * *



492 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:35

付属に進まなかったよっちゃんと、だけど今でも、私は週1くらいで会っている。
こうやって、ケーキ屋さんやアイス屋さんに行ったり。
映画を見たり、ショッピングしたり。
ときにはお互いの部屋でぐだぐだするだけだったり。
私はコレを、密かにデートと呼んでるんだけど…よっちゃんはどう思ってるのかな?



中・高と一貫の女子大付属の学校で。
私たちはすごく仲が良かった訳じゃないけど。
全然タイプが違うのに、気づくと隣りにいた。
何度もクラスが違ってしまっても。
普段一緒にいるグループが違っても。
週に何回かは一緒に登下校したり。
月に何回かは、2人でどこかに遊びに行った。



私は、知っている。
よっちゃんがその頃から、自分の手帳にこっそりと私と遊ぶその日に
ハートのシールを貼ってるコトを。
そして。
おそらくは、その意味するところも。
493 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:36

カラン、とダージリンに浮かぶ氷が音を立てて、私を物思いから引き戻す。
見ると向かいに座るよっちゃんも、通りを挟んだ向こうの公園を遠い目で見て
何か考え事をしているみたいだった。



ふっと通った風は涼しくて。
今までの照りつけるような日差しではなく、茜色の優しい陽の光りが私たちを包み込む。
その紅に染まるよっちゃんの横顔を見つめて。



ふと。


好き、と今言ったら。


私たち、どうなるのかな?


そんなことを思った。

494 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:36

多分、叶わないことはないと思う。
ちょっと買い被りかもしれないけど。
きっと、よっちゃんは私のことが好きで。
私もよっちゃんのことが好きで。
ずっと前から。
多分、会って間もない頃から。
お互いに気づいていた気持ち。


だけどなんとなく、それを言葉にしないでいるのは。

495 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:37

言葉にした途端、この気持ちが何か別のものになってしまいそうで。
今、ちゃんと私たち2人の世界は出来上がっているのに。
解かりあっていられるのに。
それを壊してしまうんじゃないかって、そんな不安もあるけど。


この不安定な恋人までの距離が、この微妙な関係が、実は妙に心地よくて。
手放すのはなんとなく勿体無く思ってたりとか。


それに、今、私たちは。
お互いを恋人という名前で縛るのではなく、もっと違う、はっきりしない
信頼のようなものだけで独占し得ているのだという充実感があったりして。


この片想いの時間をもう少しだけ大切にしたくて。
だけど勿論、恋人になりたくないなんて訳でもなくて。
そんな微妙な関係が、ちょっと焦れったくて、やっぱり心地よくて…。
496 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:38

そっと、テーブルの下でよっちゃんの手に手を重ねると。
よっちゃんは、そっぽを向いたまま私の手をぎゅっと握り返してくれた。
私たちはそのまま無言で、2人だけの時間を過ごす。



初秋の夕暮れ。
小さなケーキ屋さんのオープンテラス。
私たちを包んで。
世界はゆっくりと暮れていく。

497 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:38

まだ、もう少しだけ。
このままでいられたらいい、かな。
ジャージのよっちゃんのままで。
このままの私のままで。
きっといつか、時が来たら。
全部なるようになるんだから。
だから、もう少しだけ、このまま。



そして、何があっても。


冬が来ても、また春が来ても。


ずっと、このまま。


2人でいれたら。


それだけで、いいのにな。

498 名前:Early Autumn  投稿日:2005/09/13(火) 23:39



〜Fin





499 名前:桜折 投稿日:2005/09/13(火) 23:40

長くもない短編一本書いてる間に、季節が夏を通り越して秋になってしまいましたw
ということで、秋っぽい短編でした。
まったりいしよし。




>くろ様
ドキドキして貰えてよかったよかったw
これからもよろしければお付き合い下さい。

>477様
ポワワして貰えてよかったよかったw
これからもまったりお付き合い下さい。

>478様
最後よかったですか?ありがとーです。
いしよし万歳 (0^〜^)人(^▽^ )

500 名前:桜折 投稿日:2005/09/13(火) 23:41


>プリン様
お待たせしちゃってすみません。
これからもまったり期待してて下さいw

>480様
甘いいしよしはやっぱりいいですよね〜。
ポワワして貰えたみたいで良かったです。

>481様
ありがとーございます。
なんだかんだ書いてても、結局かわいいいしよしが好きなんです。

>482様
待っててくれてありがとーです。
お上手とか言われると照れてしまいますw
これからもまったり待ってて貰えると嬉しいです。

501 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/09/14(水) 00:56
読みながら私の脳内でドリカムの
「a little waltz」が流れてきましたw
いいな〜好きだな〜
502 名前:くろ 投稿日:2005/09/14(水) 02:30
こういう秋のまったりとした空間っていいですねー。
次回も期待しています。
503 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/14(水) 11:25
更新キテターッ!!

微妙な距離感がたまらなくいいですねえ。
秋らしくて。
504 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/14(水) 18:25
キタ―――――(゚∀゚≡(゚∀゚)≡゚∀゚)―――――!!!
こういういしよし、大好きですww
よっちゃんのジャージ姿。そして、手帳(・∀・)ニヤニヤ
次回の交信も期待しちゃいます♪
505 名前:桜折 投稿日:2005/10/09(日) 22:17



『お姉ちゃんの恋人』



506 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:18


「ねえねえ、これ頂戴!!」


それは、パールピンクに金で細工が入った可愛いケースに入っていて。


「ダーメ」


蓋を開けてひねり出すと、ちょっとだけ濃い目のピンク色。


「えー。欲しい欲しい〜」


だけど、すごく上品なカンジの綺麗な色。


「ダメってば。まだアンタには早いのっ」


手の甲にそっと塗りつけてみたら、すごーく可愛いくて。
だから……

507 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:19


「ちょっと、ダメだって。さゆにはまだ早いの」


鏡に向かって唇に塗りつけようとしたら、お姉ちゃんに横から手を掴まれて
取り上げられてしまった。


「なんでよぉ。お姉ちゃんのけーちぃ」


お姉ちゃんはふふん、て笑って。
あたしから取り上げた口紅を鏡に向かって自分の唇に塗りつけた。


「オコチャマにはまだ早いの」


口紅を塗ったお姉ちゃんは、いつもの1割増くらいに大人びて見えて。
なんだかすごく悔しくて。


すごく悔しくて。

508 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:19


今、思うと。


もしかしたら。


そのとき、お姉ちゃんに何か仕返しをしてやんなくちゃって思ったのかもしれない。



509 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:20



***



510 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:20


土曜日の夜。
あたしはうちから30分も掛からないトコにあるお姉ちゃんのアパートに来ていた。
あたしのお姉ちゃん、梨華お姉ちゃんは今年短大に進学したんだけど
それを期に一人暮らしを始めた。
理由は学校まで家から遠いから。
だけど、結局お姉ちゃんが住むことになったアパートはうちから30分足らずの
トコにあるんだから、正直、あんまり変わりはないよーに思う。
まあ、あたしは知ってるんだけどね。
別の理由を。


「あれ、しげさん来てたんだ」


ガチャ、と鍵を開けて入って来た女の人があたしを見て言った。
お姉ちゃんでもお母さんでもない。
吉澤ひとみ。
うちの学校の先輩で、お姉ちゃんの恋人。


「はい。お邪魔してます〜」


あははぁ、そんなお邪魔だなんてぇ。
髪をぐしゃぐしゃ掻きながらデレデレと照れ笑いなんか浮かべちゃって。
ホント、学校で見るのと全く違うんだから。

511 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:21

「で、梨華ちゃんは?」

「スーパーに買い物に行ってますよ。ものぐさだから、一週間分とか
まとめ買いしてくると思うんで時間掛かるんじゃないですかぁ?」


あ、じゃあ、あたし迎えに行ってくっかな。
荷物多いと大変だろーし。
そう言って、吉澤さんは持っていた荷物を床に置いて
もう一度スニーカーを履きなおす。


「ごゆっくりどーぞぉ」

「ごゆっくりだなんて、そんなぁ」


何を想像したのか、ニヤニヤ笑っちゃって。
じゃ、なんて颯爽と手を上げると出て行った吉澤さん。
あーあ。
学校じゃあ王子様(はぁと)なんて呼ばれてるのに。
あんなニヤニヤ笑いしちゃ美貌が台無しだよ〜。

512 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:21

「はぁぁ」


実は最近、英語の授業が難しくってついてけてなくて。
お姉ちゃんにちょこっと教えて貰おうと思ってきたのに。
吉澤さんが来たんじゃ、英語どころじゃないよね、お姉ちゃんは。
フローリングの床に寝転んで、あたしは幼馴染の絵里に聞きに行けば
良かったと、ちょっとだけ後悔した。



513 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:22



***



514 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:22

つまり、お姉ちゃんの一人暮らしの理由はさっきの恋人。
学校では爽やかな王子様で通ってる吉澤さん。
だけど、お姉ちゃんの前じゃデレデレしちゃってまるでダメ。
みんな、王子様って呼ぶの止めてくれないかなぁ。
さゆの中の王子様のイメージが壊れちゃう。


今は女子大と女子高で離れ離れの2人だけど、去年までは
あたしと同じ学校の高等部では誰もが知ってるラブラブバカップルだった2人。
学年が違う癖にいっつもベタベタ一緒にいて。
その噂は中等部のあたしのトコまで聞こえてきていた。
もう、お姉ちゃんの恥知らず。
授業さぼって体育準備室に2人でいるトコを先生に見つかってお説教とか
お昼休みに屋上でながーいちゅーしてたのを色んな生徒に目撃されたとか
全体朝礼で吉澤さんがお姉ちゃんのクラスの列に潜り込んでるのがバレて
みんなの目の前で担任の保田先生につまみ出されたとか
全部全部知ってるんだからねっ。
…まあ、そんな2人も。
今年からは目出度く離れ離れ。
吉澤さんはあのニヤけ顔を学内で晒すことなく、事情を知らない新入生とかに
キャーキャー言われて暮らしてる。
だけど。
あたしは知ってるんだから。
吉澤さんが、この部屋にほとんど入り浸ってるのを。

515 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:23

「おっまえさぁー、なんだよそれぇ」

「な、なによぉ。よっすぃーだってそんなじゃんっ」


只今、お買い物から帰って来たバカップルはキッチンでお夕飯の準備中。
メニューはハンバーグらしいんだけど…。


「そんなってなんだよ〜。梨華ちゃんなんてこんないびつじゃん。
真ん中がそんなに厚いと火が通んないよ」

「よっすぃーのなんて、なに?なんなのその形。
食べ物で遊んじゃいけないんだからねぇ」


ハンバーグの具をこねてはイチャイチャ。丸めてはイチャイチャ。


「ねぇ、さゆ。このよっすぃーのハンバーグおかしいよねっ」

「あ、それゆーなら、しげさん。梨華ちゃんのこの固まり見てよ!!」

516 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:23

お願いだから、さゆに振らないで欲しい。
例えて言うなら、新婚家庭に一人で遊びに来ちゃったってカンジ。
今までも家に3人とかってコトはあったけど、アパートに越してきてからは
初めてだったから、ちょっと誤算。
だって、アパートは狭くてキッチンとリビングと寝室しかないから。
あたしの逃げ場がないんだもん。


「もう、いいから早くご飯にしてよぉ。さゆ、お腹空いちゃったんだから!!」



517 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:24



***



518 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:24

それからもうひとつ。
大きな誤算があった。


「んっ……はぁ…あっ…」

「り、梨華ちゃんっ……梨華ぁ」


ご飯が終わって、しばらく3人でTVを見ると先にお風呂に入るように勧められて。
上がってみると、リビングにお布団が一組敷いてあった。


「じゃ、おやすみぃ」


もう寝ろってコトぉ?
今時、中学生が土曜の夜に10時とかに寝ないよっ!?
まだまだ、恋からとかブログタイプとか見なきゃいけなんだから〜。
…でも、まあ。
お姉ちゃんちなんだし。
仕方ないっかぁ。
って、大人しく布団に入って。
絵里とか、クラスメイトのれいなにメールしてた。
吉澤さんとお姉ちゃんは交代にお風呂に入って。

519 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:25

「さゆ、寝てた?」

「うん。寝てた寝てた」


後に入った吉澤さんが、リビングをそっと通って寝室に入って行ったときも
あたしは布団にもぐって絵里とメールをしてて、ちゃんと起きてた。
だからこんな2人の会話が聞こえたとき、びくっとしちゃった。
吉澤さんてば、ロクに確認もしないで…。
てゆーか、このアパート壁薄すぎぃ。
隣りの部屋の声が筒ぬ……


「ぁん………」


そう思ったそのとき。
お姉ちゃんの声がして。
あたしはもう1度びくっとした。

520 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:25

「梨華ぁ…」


吉澤さんの甘い声と


「ふぅ……んっ」


お姉ちゃんの声……ってゆーか、息。
これってこれって……


「あぁん…よっ……すぃー…」

「梨華ちゃ……」


あたしは布団を被ると、携帯を閉じて目をつぶった。
もうもう。
お姉ちゃんたちのバカぁ!!


521 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:26



***



522 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:26

翌朝。
あたしはなんだか香ばしい匂いで目が覚めた。
目覚めはサイアク。
だって、寝つきが悪かったんだもん。
全く、中学生にあんな音声聞かせるなんて、
なんて教育に悪いトコロなのかしらココは。
布団から這い出ると


「あ、おはよ。しげさん」


爽やかな笑みの吉澤さん。
……なんか、ムカツクなぁ。


「しげさんも飲む?」


吉澤さんの隣りではコーヒーメーカーが音と匂いを流している。
きっと、吉澤さんがこの部屋に持ち込んだものに違いない。
お姉ちゃんは紅茶党だし。
それに、ピンクや白やパステルカラーで埋められた部屋なのに
それだけは唯一真っ黒だったから。
黒いTシャツを着て微笑んでる吉澤さんを見ると、吉澤さんの趣味にしか思えない。

523 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:27

「お姉ちゃんは?」

「あー、まだ寝てる」

「ゆうべ、激しかったみたいですもんねっ」


嫌味を込めて言うけれど。
吉澤さんはああーー……と声を上げた後、エヘヘ、なんて照れくさそうに笑って
髪の毛をまたクシャクシャっと掻きあげたりしてて。
聞こえちゃってたぁ?ヤダなぁ。
なーんて、悪びれることなく言っちゃったりしちゃって。
全く、もう。


「しげさんにはまだ刺激が強すぎたかなぁ?」


とか赤い顔で言ったりするから。
あたしは戸棚からコップを取り出して


「さゆにも下さい。コーヒー!!」


普段は飲まないコーヒーを要求してしまった。

524 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:27

「あ、紅茶淹れよっか?梨華ちゃん起きてきたらどっちにしても淹れるんだし」

「いいんです。コーヒーください!!」


なんか、すごく子供扱いされた気がして。
コップを吉澤さんに突きつけた。
そりゃ、あたしはまだ中学生だし。
知識としては知ってても、そんな、夕べのお姉ちゃんたちみたいなコトなんて
勿論したコトないけど。
でも、子供扱いされるのはすごく嫌だった。
こないだ、お姉ちゃんに口紅を譲って貰えなかったときの屈辱が蘇る。


「そ、そう?」


戸惑いながら、吉澤さんはコポコポとあたしのコップにコーヒーを注ぐ。
ミルク入れよーね、ミルク。
そう言って、あたしが止める間もなく冷蔵庫からミルクを出して足してしまう。
あーあ。
大人を気取って、ブラックで飲んでやろうと思ってたのにぃ。
……今まで、ブラックで飲んだことなんて一度もないんだけど。


「お砂糖いくつ?ふたつ?みっつ?」

525 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:28

「いらないですよぉ!!」


答える前に入れられてしまわないよーに、あたしは吉澤さんの手から
コップを奪い取ると口に運び……


「あつっ…にがっ……」


なに、コレ。
ミルク入れたのに苦い!!
ヤダーーー!!


「ほらほら、貸して」


吉澤さんは手を伸ばしてあたしのカップを取ると。
調味料の並んでる棚からハチミツの入った容器を取ってコップに
たっぷりとそれを入れて。
それからまたミルクを注ぐ。


「ほら、もう大丈夫だと思うから」

526 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:28

そう言って差し出されて。
コップに恐る恐る口をつける。
甘い甘いハチミツの味と、柔らかなミルクの味が口に広がって。
ふぅ、と一息つくと、吉澤さんがははって笑って。
髪をすっと掻きあげた。


それが。


なんか、すごく大人びてて。綺麗で。


なんか。


なんか。


ドキドキした。

527 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:29

寝起きのセットしてないボサボサ頭なんだけど。
それを無造作にかき上げた仕草が、なんだか、そう、色っぽくて。
大人っぽくって。
いつもの吉澤さんじゃないみたいで。
じっと見つめてたら。
気づいちゃった。
Tシャツの襟口からのぞく白い肌に、赤いアト。
それって……あの、いわゆるキスマークってヤツだよね?
お姉ちゃんがゆうべ付けた……。


「ん、なに?」


なんて言って、吉澤さんは全然気づかずに笑いながらミルクを仕舞ったり
布巾で机を拭いたりしてる。
ハチミツの蓋を閉める白い指が、綺麗で。
でも、この指も何もかも全部お姉ちゃんのものなんだなって。
そんなことを思ったら。
急に。


「吉澤さん、お姉ちゃんやめてさゆにしない?」

528 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:29

口をついて出た言葉。
吉澤さんが綺麗だからとかカッコイイからとか。
勿論、それもあるけど。
多分、それだけじゃなくって。
あたしは、頭のどっかで思ってた。
吉澤さんをお姉ちゃんから奪ったら、お姉ちゃんはどんな顔するのかなって。
……その、少しは、あたしが欲しかった口紅を手に入れられなかったときの
気持ちを、解からせることが出来るかな?って。


「へ……?」


間抜けな顔して、吉澤さんは瞬きを繰り返す。
もー、鈍いなぁ。


「だからっお姉ちゃんと別れてさゆと付き合いましょって言ってるのっ」


それでも吉澤さんは要領を得ないってカンジでポカーンとしてる。


「だって、さゆの方が断然可愛いし。吉澤さんもその方がいいでしょ?」

529 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:30

女の子は可愛い方がいいに決まってるもん。
吉澤さんだって、どーせお姉ちゃんを顔で選んだんでしょ?
確かに、お姉ちゃんはあたしのお姉ちゃんだけあって可愛いけど。
でも、さゆの方がもっともっと可愛いもん。


「………あは」


沈黙を破って。


「あはははは」


吉澤さんは急に笑い出した。
な、なになに?


「あは、あはは。しげさん、すっごい自信だねぇ」

「当たり前です〜。さゆはいっちばん可愛い女の子だもん」

530 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:31

当たり前のことだもん。
自信があるの、当然じゃない?


「まあ、じゃあ、考えとくよ」


そう言って、吉澤さんは目尻の涙を拭って言った。


「な、なんなんですかぁ、それ〜!!」


あたしは抗議の声を上げる。
だって。
何度も言うけど、さゆはいっちばん可愛い女の子なんだからっ。


「いやあ、いくらなんでも中学生はねぇ」


ははって笑って。
吉澤さんはまた零れ落ちた髪を掻きあげる。
カッコイイ……なんて思ってあげないんだから!!

531 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:32

「よし、じゃあ、しげさんが高校生になったらそのとき決めるよ〜」

「そんなの待ってられませんっ」


あたしはそう言って、席を立つ。
全く、失礼しちゃうわ。
こんなに可愛い子を袖にするなんて。
高校生になったら?
そんなの待ってたら、さゆはもう……口紅のことなんて忘れちゃう。


「あ、勿論、梨華ちゃんより綺麗になってるってのが最低条件だかんね〜」


怒って帰る支度をしてたあたしの背に、のん気な吉澤さんの声が聞こえる。


「そんなの今だって……」


振り返ったあたしに


「顔も、身体も、ね?」

532 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:32

ニヤニヤした顔で返す吉澤さん。
ムっ……。
そ、そりゃ、身体もお姉ちゃんに勝ってる……とは、さすがに言えない。
だけどだけど、それはやっぱり、年の差ってヤツで。
お姉ちゃんの年になる頃にはあたしなんてきっとお姉ちゃん以上に
ナイスバディーの美人になってるんだからぁ!!


「だから、高校生になったら、ね?」


あたしの考えを読むように、吉澤さんが追い討ちを掛ける。
もう。もう。
あたしは脱ぎかけていたパジャマの胸元をぎゅっと押さえると
吉澤さんをキっと睨んで、それからまた帰り支度を始めた。
吉澤さんが鼻歌を歌いながら朝ご飯を作る音を背に聞きながら。

533 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:33



***



534 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:33

「んんー……おはよぉ」


それからしばらくして。
伸びをしながらお姉ちゃんが姿を現した。
フライパンを持つ吉澤さんに抱きついて、おはようのちゅー…とか言って
完全にあたしの存在忘れてるでしょ、お姉ちゃん!!
吉澤さんだって、さっきまであたしをからかってニヤニヤしてた癖に
お姉ちゃんが起きてくるなりデレデレした顔しちゃって。


「もっかい〜」


とか言って、ちゅーを繰り返したりしちゃって。
もう、さゆみの存在を一体なんだと……!!


「あれ、さゆはもう帰るの〜?」


やっと吉澤さんから顔を離したお姉ちゃんが何食わぬ顔であたしを見て言う。
覚えてたんなら、さゆのこと無視しないでくれますぅ〜?

535 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:34

「朝ご飯、食べてけばいいのにね〜」


横からぬけぬけと言う吉澤さん。
それに


「よっすぃー、朝ご飯作ってくれたの〜?優しいぃー」

「でっしょ〜。ほら、紅茶も準備万端だよ」

「すごーい」

「褒めて褒めて」

「よっすぃー、エライっ」

「もっともっと」

「よっすぃー、大好きっ」


バカップルは放っといて。
あたしは玄関で靴を履く。


「じゃあ、あたしれいなんち行く約束してるからもう帰る」

536 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:35

そして、ドアを開ける。
さっきから考えてた、ひとつの報復計画を胸に。


「吉澤さん、さっきの約束忘れないで下さいね?
さゆ、吉澤さんの彼女になる日を楽しみに待ってますから〜」


捨て台詞を吐くと、ドアを勢いよく締めた。
ガチャンっ。
それを追って、お姉ちゃんのつんざくような悲鳴が聞こえる。


「よっすぃーーーーーーー!!?」


ふふん。
可愛い可愛いさゆを袖にした罪は、コレで許してあげるね、吉澤さん。
きっとヤキモチ焼きのお姉ちゃんがあたしの代わりにキッツーイ罰を
与えてくれるだろーし。
ふふ。
アパートを出て、駅まで続く坂道を歩く。
並木道はもう、緑からうっすら黄色に衣替えしてる。

537 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:35

結局、お姉ちゃんには仕返し出来なかったから
今度こそ何かしなくっちゃ。
そんなことを考えながら。
あたしは家へと続く電車に乗った。



538 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:36



***



539 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:36

「ちょっと、よっすぃー、どーゆーコトよっ」

「いや、冗談だよ、じょーだん…」

「今の何のドコが冗談なのっ」

「その、しげさんがぁ、お姉ちゃんやめてさゆに乗り換えない?って
言うからぁ。高校生になって梨華ちゃんより綺麗になってたらねって」

「それのドコが冗談なのよっ」

「いや、だからその、冗談のつもりで言ったんだけどぉ」

「冗談になってないじゃん、そんなの!!」

「だから、その、まだ付き合うって言った訳じゃあ…」

「でも、あたしより綺麗になったら付き合うんでしょ!?」

「違うって、そう言ってからかって…って、梨華ちゃんそれあたしのバック!!
何、外にほっぽってんの!?」

「よっすぃーも出てって!!」

540 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:37

「ちょ、梨華ちゃん!!違うって!!梨華ちゃんが一番可愛いって!!」

「知りませんっ」

「梨華ちゃんっあたしパジャマっ……梨華ちゃんが一番可愛いよぉ。
ずっと、あたしの一番は梨華ちゃんだからぁ!!!」


541 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:38

その日、結局お姉ちゃんはパジャマ姿で玄関先で泣く吉澤さんを2時間も
放置したらしい。
……警察に通報されなくて良かったね。
ちょっと罰が過ぎちゃったかな?
エヘッ。




542 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:39



おしまい。




543 名前:お姉ちゃんの恋人 投稿日:2005/10/09(日) 22:49



544 名前:桜折 投稿日:2005/10/09(日) 22:50

予想外にさゆ視点は難しかったです。


>501様
その曲、聴いたことないかもですw
今度探して聞いてみます〜。
好きと言って貰えて嬉しいです。

>くろ様
秋のまったりいしよし、気に入って貰えて良かったですw
今回のも気に入って貰えればいいのですが。

>503様
この微妙な距離感を書きたくて考えたお話なので
そう言って貰えると嬉しいです〜。

>504様
飾らないジャージよっちゃんも手帳つけてる乙女よっちゃんも
(・∀・)ニヤニヤ ってコトでw
今回のデレデレよっちゃんにも(・∀・)ニヤニヤして貰えましたか?

545 名前:まほ 投稿日:2005/10/09(日) 22:55
程よいエロさと、犬も食わない痴話ゲンカをする甘いいしよし、
こーゆーのすごく好きです!
546 名前:プリン 投稿日:2005/10/10(月) 17:31
更新お疲れ様ですw
さゆ視点かなり良かったです。
…2時間後よっちゃんが入った後はどーなったのかな?w

次回の更新も待ってまーす。
547 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 19:16
おもしろかったです。
三人の喋り方とかリアルに書かれていて、スゴいと思います!
548 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 17:38
504でした。
ハァ―――――(*´Д`*)――――――ン!!の一言です(爆)
もっと来い!!wwすごく(・∀・)ニヤニヤしてますよ、俺_| ̄|○
さゆ視点、すらーっと読めました!上手いです、作者さん。
次回も待ってます!
549 名前:くろ 投稿日:2005/10/11(火) 20:25
毎回毎回会話が生きててすごい引き込まれます
さゆ視点おもしろかったですよー
他メンから見た甘甘ないしよし、もっと見てみたいです
550 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 21:52
待ってます^^
551 名前:桜折 投稿日:2005/11/13(日) 04:16



『だって、好きなんだもん。』




552 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:16



私の方がお姉さんだけど。


たまには甘えたいときだって、ある。



553 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:17



***




554 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:17

最近、コンサートとか新曲とかスケジュールが合わなくて。
すれ違いなコトが多くて。


それでも無理してでも私のマンションに来てくれるのは
よっすぃーの優しさなんだって。
贅沢言っちゃいけないって、解かってる。
でも、少しはお話だってしたいし。
イチャイチャしたい。


「よっすぃー、あのねあのね…」


よっすぃーが帰って来るなり、待ってましたとばかりに話し掛けるけど。
当の彼女はすっかりお疲れモードで。
ジャージに着替えてソファにどっかと座ると


「んーんー」


って、相槌打つばかり。
もう。

555 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:18

「ねー、ちゃんと聞いてるぅー?」

「聞いてるって」

「じゃあ、今、私、何て言った?」

「んーと…三好が…なんだっけ?」

「それはもっと前の話!!三好ちゃんのその話を聞いてね、それで岡田ちゃんがぁ…」

「んー…」


だから、ちょっとだけ困らせたくて。
拗ねたフリをしたけど。


「もう、なによ。よっすぃーのバカぁ」

「はいはい」


そう言って聞き流して。
あーもー、面倒だなーって顔をする。
なによう。

556 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:20

こんなの、ちょっと拗ねたフリしてて、構って欲しいだけだって
あなただって解かってるでしょ!?
ちょっと相手にしてくれたっていいじゃない。
そしたら、私だって納得して…


「ごめん、もう寝るわ」


って、ちょっと待ちなさいよコラ!!


「よっすぃー、お風呂は!?」

「朝入る。ダルい」


なによなによぉ。
最近、お話する時間も甘える時間もないからさ。
……今日は、一緒にお風呂入ろっかなって。
思って待ってたのに。のに。

557 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:20

よっすぃーが入って行った寝室のドアをしばらくじっと睨んでたけど。
そんなことしててもなにも始まんないし。
はぁ、ってひとつため息をついて。
1人でお風呂に入ることにした。
いつも1人で入ってるのに。
いつも一緒に入ろうよぉーって誘うのはよっすぃーの方で。
イヤイヤってするのは私の方で。
で、仕方なく一緒に入ってあげるのも私なのに。なのに。
今日は少しだけ、お風呂が広く感じて。
なんだかすごく寂しくて。
悲しかった。

558 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:21



***



559 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:22

シャワーを浴びながら。
前にゆっくりお話したのはいつだっけ、とか。
イチャイチャしたのはいつだったっけ……なんて、くだらないコト考えて。
またため息が出ちゃう。
そういえば、最近、あんまりないかも。
その……イロイロと。
前はさ、お風呂のコトだけじゃなく、よっすぃーがもっと甘えてきて。
忙しいんだろうけどさ。
考えることだって、前より一杯あるだろーし。
でもでも。
もっと、私のことも大切にして欲しいよぉ。
ううん、大切にはしてくれてるんだけど。
もっともっと大切にされたい。
愛されたい。
……わがままなのかなぁ。


そんなコトを考えながらお風呂につかってたら、すぐに逆上せちゃって。
私のこんなモヤモヤとした気持ちが洗い流される間もなく
お風呂から上がってしまった。

560 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:23



***




561 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:23

ベッドに横たわるよっすぃーは、ベッドの片隅に身を寄せて
私の方に背を向けて、明らかに熟睡の体勢。
なによなによなによ、もう。
ピシっと、一発その背を叩いて。
だけど、微動だにしないそれに、そっと寄り添う。
叩かれたコトに気づきもせずに、よっすぃーはくうくう寝ちゃってる。

「よっすぃー……」

背中にへばりついて呼ぶけど、返ってくるのは安らかな寝息ばかり。
もうもう。

「よぉっすぃー」

髪を払って、現れた白い首筋にちゅっちゅってキスをする。

「ねーえー」

んんん…。
低い声を上げて、だけどよっすぃーは起きようとしない。

「ねーってばぁ」

身体を摺り寄せて。
耳元で甘く囁いても。

562 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:26

「………ぐぅ」

寝てばかり。
もぉーーーーって。
よっすぃーの首に吸血鬼みたいにカプって噛み付くけど。

「んん」

眉を顰めて、よっすぃーは布団を被りなおすとうつ伏せに寝返ってしまった。
もう。
なによなによ。
よっすぃーのバカぁ。
もう一度、ピシっとよっすぃーの背を叩いて。
せめて対抗して、よっすぃーに背を向けて、私も寝ることにした。
布団の中に目一杯潜って。



だって、好きなんだもん。
解かって欲しい。
こんな私、ウザいかな?
付き合ってもう何年も経つけど。
一緒にいたい。
離れてると不安になっちゃう。
イチャイチャしたい。
私って我が侭なのかな?

563 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:27



***



564 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:27

ふわっと、温かい感触。
私はゆっくりと目を覚ます。
よっすぃーが、私を後ろから抱き締めていた。


「ん……」

「ごめん」


よっすぃーのアルトの優しい声が耳元でして。
私はうっとりとまた目を閉じて、まどろみによっすぃーを感じる。


「夕べはキツい言い方して、ごめんね」


私の胸の辺りで緩く組まれたその腕を撫でて。
サイドテーブルと見ると、明け方だった。


「色々、忙しくて。上手くいかないこともあって。でも梨華ちゃんがいなくて」


イライラしてた。

565 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:28

そう言って、頬を寄せたよっすぃーの息遣いがくすぐったくて。
私は身をよじる。


「いいよ、もう」


そう言って、よっすぃーの頭を撫でてあげると。
よっすぃーは安心したようにふぅ、と息をついて、ぎゅっと私を抱き締めた。
そうだよね。
よっすぃーはモーニング娘。のリーダーで、ガッタスのキャプテンで。
きっと色々、大変なんだよね。
拗ねたりして、悪かったかな?


「私こそ、解かってあげられなくてごめんね」


組まれた腕を外して、手と手をぎゅっと繋ぐ。


「んなことないよ」


梨華ちゃんがいてくれるから、頑張れるんだもん。

566 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:29

恥ずかしそうに、そう甘く囁いてくれた言葉が嬉しくて。嬉しくて。
私は熱い息をふふっと笑って吐き出した。
しっかりと、よっすぃーの愛を感じて。


私たちはきっと、これからも。
こんな些細なケンカを繰り返していくんだろう。
でも、その度にこうやってお互いの存在を再確認して。
その大切さを見つめあって。
愛し合って、生きていくんだ。
そう思うと、なんだか嬉しくて。楽しくて。
夕べのことなんてすっかり忘れて、私も今日もお仕事頑張ろう!!
なーんて思っちゃったり。



ねえ、よっすぃー。
大好きだよ。
ずっとずっと、こうやって傍にいてね?


「あ、よっすぃー夕べお風呂入んなかったでしょー」


あぁ、ごめん。
そう言って、慌てて離れるよっすぃー。
別にいいんだけど。
567 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:29

「これから入るんでしょ?」

「うん。入ってこよっかな」


起き上がり掛けたその首にすばやく腕を回して


「私も一緒に入ろっかなぁ」

「えっ……朝から?」


声を裏返らせるよっすぃーに、何考えてるのぉ?ってほっぺたをつねったら
薄暗い部屋でも解かるくらいに真っ赤になって口ごもる。
もう、可愛いんだから。

568 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:31

「仕方ないなぁ。よっすぃーがどーしてもっていうならいいよぉ?」

「いや、言ってないし」

「しょうがないよっすぃーだなぁ、もう」

「だから言ってないって」

「じゃあ、しない?」

「………するけど」




きっと私たちはこうやって、毎日を生きていくんだ。
一緒に。
何年も何年も。
何十年先も。

569 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:32



〜Fin



570 名前:『だって、好きなんだもん。』 投稿日:2005/11/13(日) 04:32




571 名前:桜折 投稿日:2005/11/13(日) 04:47

甘々いしよしがすごく書きたい気分でしたw



>まほ様

ありがとーございます。
痴話ゲンカするいしよしって可愛いですよねw

>プリン様

さゆ視点、良かったですか?
安心しましたw
2時間後のいしよしは…ご想像にお任せしますね。

>547様

リアルと言って貰えてすごく嬉しいです〜。
さゆが難しかったので、特に。

>548様

また(・∀・)ニヤニヤして貰えて良かったです〜。
これからも(・∀・)ニヤニヤして貰えるよーに精進します。

>くろ様

会話とか気を使って頑張ってるつもりなんで
そー言って貰えると嬉しいです♪
他メンを絡めて書くのは好きなので
マターリ待ってみたりしてくださいw

>550様

お待たせしました^^

572 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 09:02
更新をうずうずしながらお待ちしておりました。
一体さを様はどこから二人をお覗きに・・・??
梨華ちゃんの甘えっぷりと拗ねっぷりが超リアルで
萌えまくりですぅ。
朝からお腹いっぱぁい!!


573 名前:くろ 投稿日:2005/11/13(日) 10:07
更新お疲れ様です
これからの季節に、こたつと甘々ないしよしは必需品!
もっともっと甘くしちゃってください
574 名前:そーせき 投稿日:2005/11/13(日) 12:24
568の会話が超ツボです。
これは実話ですよ、絶対!
575 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/14(月) 01:56
やっぱ作者さんのいしよし最高だ(*´д`*)
576 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/14(月) 12:23
職場でこっそり読むんじゃなかった

作者さんは、もしかして紺野?
577 名前:ひすい 投稿日:2005/11/14(月) 15:39
内心キャーキャーだわ!!

甘い甘いあまぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い♪
スピードワゴンを越えた甘さ、ありがとうございます。
578 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/14(月) 17:39
548でした。

…………(・∀・)ニヤニヤ(爆)

本当、よかったですwもぉ〜〜〜。甘すぎです(/д\*)
次回の交信もまってます!
579 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:21
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
580 名前:桜折 投稿日:2005/12/31(土) 06:49
>572様

リアルに書けてましたか?よかったよかった。
可愛い梨華ちゃんを書く、が目標だったので。
ウザがられなくてホントよかったw

>くろ様

こたつと甘々ないしよし…確かに冬には最強w
これからも精進します。

>そーせきさん

リアル認定ありがとーございます♪
そーせきさんのいしよしもツボ満載ですよ?

>575様

そう言って頂けるよーにこれからも精進します〜。

>576様

いやいや、クローゼットの中から覗き見とかしてませんからw

>577様

甘いいしよし。
甘すぎてごめんなさいw

>578様

甘すぎてごめんなさいww
更新遅くてすみませんねぇ…。

>579様

ご苦労様でっす。
581 名前:桜折 投稿日:2005/12/31(土) 06:52

宿題間に合わなかった子供みたいだなぁ、と思いつつ。
今更ながらクリスマスネタを。
出遅れすぎて恥ずかしいのでsage進行で…w



582 名前:桜折 投稿日:2005/12/31(土) 06:52




『やどり木の下で』




583 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:53


あのね、クリスマスにね、やどり木の下ではね


誰とキスしてもいいんだって


だから、ね




………

………


584 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:54


ピリリリリ ピリリリリ



目覚まし時計が朝を告げ。
そして私は、また平凡な1日の始まりを迎えた。

585 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:54

うーん、とひとつ伸びをして。
だけど、布団をまたひきずりあげて逆戻り。
だって私はぐうたら大学生。
今日は授業のない日だもん。
瞳を閉じて。
布団の温もりの中。
波のように流れ去っていった夢のほんのわずかな欠片でも
取り戻そうと、余韻に浸る。


また、あの夢を見ちゃった。


クリスマスが近くなると、必ず見る夢。
私は、またうとうととまどろんで。
幼い日の私に戻る。
遠い出来事なのに、今でも鮮明に蘇るあの日。
あの……。
586 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:55


ドンドンドン



「梨華ちゃーん、いつまで寝てんの?入るよっ!!」


夢の裳裾を僅かに掴みかけたそのとき。
デリカシーのない柴ちゃんが私の部屋に乱入して
無残にそれは蹴散らされてしまった。

587 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:56



***




588 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:56

私や柴ちゃんの住む街の中心にそびえるおっきなビル。
お洋服屋さんやレストランが入ったその商業ビルの中庭には
毎年、おっきなクリスマスツリーが飾られる。
いつもはそれだけがクリスマスのイベントなんだけど
今年はそのビルの何周年かの記念でビルを挙げての一大イベントにするらしく。
デコレーションだけじゃなく、いろんな催し物とかを予定していて
そういった企画や運営を、イベント会社に頼んだ。
それが、何を隠そう柴ちゃんの勤めるメロン企画。
柴ちゃんが高校時代に入ってた文化祭運営委員会のOG4人で作ったという
果てしなく危なっかしくも楽しそうな会社。
その名の通り、イベントの企画運営をする会社なんだけど。
そもそも、4人でイベント会社って運営できるものなの…?


「まあ、人手は派遣とかバイトで足りますからねぇ」


私が行くといつもPCに向かってる村田さんが、
眼鏡に手を添えながら質問に律儀に答えるてくれた。
589 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:57

そんなコトはいいのっと、柴ちゃんは強引に話を自分に戻す。
ここはうちの、はたまた柴ちゃんの、そしてメロン企画の面々のご近所にある
メロン企画オフィス。
つまり、みんなご近所さんだったりする訳。
2丁目の村田さんのトコの娘さんに、5丁目の大谷工務店のお孫さんに
駅前のハイツ・ハローの斉藤さんのお嬢さん、ってカンジで。


「どーせ梨華ちゃん、クリスマス、ヒマでしょ?来ない王子様待ってるんだもんね〜」


ちなみに1丁目の公園を挟んで向かいの家に住んでる柴田さんと石川さんの娘さんは
幼馴染で親友だったりする。
馴染みすぎて、なんでも知りすぎてるっていうのは
ちょっとやりづらいんだけどねぇ。
失礼な言葉を浴びせて、柴ちゃんは今回のクリスマスイベント運営の仕事を
手伝うように私に言った。半ば強制。
てゆーか、王子様って…。
590 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:57

「そ、そんな、違うもんっ」

「違わないでしょ。さゆみちゃんと一緒よ、一緒」



『さゆの王子様、待ってるの(はぁと)』



うちのお隣の中学生、道重さゆみが私の中でぽわわんと浮かび上がる。


「ちっがうー!!」

591 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:58

ま、それは置いといてさ。
キッチンでコーヒーを淹れて来た大谷さんが、カップを並べながら言う。
あ、ありがとうございます……って、ちがーう。
さらっと流さないで下さいっ。
まあまあ、とかニヤニヤ笑いながら宥めないでください、斉藤さん〜。


「梨華ちゃんにはさ、運営の方の手伝いして欲しいんだよね。案内係とか」


まあ、確かに小さい頃から行ってるから、あのビルのことなら詳しいし。
今までのクリスマスは小規模であんまり慣れないお客さんはいなかったけど
今回は規模が違うから、遠方から来たお客さんを誘導する係とかが必要なんだよ
とか言われると。
なんか、私、適任かな〜、とか思っちゃったり。
結局のトコロ、クリスマスは予定もないし。
だいたい、ぐうたら大学生で暇人だし。
斉藤さんが提示したバイト代に心奪われ。
今年のクリスマスはメロンさんたちと過ごすことに決めてしまった。
いいんだもん。
バイト代で、ジル・スチュアートのコート買うんだから。
これで今年の冬は1人でも寒くなくなるんだから!!!
592 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 06:59



***




593 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:00

「こんちは、吉澤でっす」

ビルの中庭。
設営前の最終打ち合わせの日。
ホントは私は来なくても良かったんだけど、夕方からで時間も空いてたし
色々と企画運営に携わる人が来るというので顔を出した。
なんだかんだと裏方で忙しいメロンの面々に、結局私はイベントの現場での
チーフを任命されてしまった。
ああ、なんか嵌められた気分…。


「あー、吉澤さんどうも〜」

「待ってましたよ」


勢いのいい声に振り返ると。
目深に被ったキャップにスカジャン、ダルダルなジーパン。
キャップを持ち上げると零れる、明るく染められた髪に…予想外の整った顔立ち。
明らかに不審なカンジの……女の子。多分。
でも、柴ちゃんたちはにこにこ笑顔で彼女を迎えてて。
なんだろ……このビルの関係者?にしては若いし。
なにより社会人ぽくない。
594 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:00

「ね、柴ちゃん、アレ誰?」


柴ちゃんの服の裾を掴んで引っ張ると、やめい、と払われた。
今日は柴ちゃんもメロンの面々も一張羅のスーツ武装。
色んな関係者が来るからねぇ。


「アレとか言わないの」


指差した私の手を引っ張って。
柴ちゃんは少し端に寄って、私に説明を始める。
なんでも、このビル自体の運営・管理をしている会社から紹介された人で
今までこのビルのイベントを手伝ってきた人らしい。
ボランティアでずっとここのツリーの飾りつけとかをしてくれてた人だから
そこの会社の人たちもとても彼女のことを気に入って信頼してて
今回もデコレーションは彼女の指揮を条件に挙げているらしい。
柴ちゃんたちも会ったのは今日が初めてで
話を聞いたときは、もっと歳のいったおじさんもしくはおじいさんを
想像してたらしいんだけど。


「よろしくお願いしやーす」

595 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:01

明らかに軽いカンジで。
男の子っぽくて。
あんまり、合いそうにない…かな?
だけど、すごくキレイな顔立ち。
普段は目深にキャップ被っちゃってるんだけど、それを取ってふっと見せる笑顔は
なんだかすごく魅力的。
不思議な人。


それが彼女の第一印象だった。

596 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:01



***




597 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:02

だけど、第一印象なんて当てにならないもので。


「今まで、吉澤さんがずっと1人だけでここのツリーをデコレーションしてたんだって〜」

「えぇっすごーい」


実際、作業が始まると、吉澤さんはバイトのお兄さんたちにテキパキと
指示出ししてとても素人とは思えなかった。
更に意外だったのは、吉澤さんが私より年下で同じ現役の大学生だってこと。


「卒業したら、このビルの運営会社に入りたいんだって〜」


柴ちゃんは仕入れてきた吉澤ネタをすぐに飛んで来ては得意げに披露する。
もう、すっかりメロンのみんなにも溶け込んでて。
不思議な人。


「そこの会社もさ、ほら、馴染みだし信頼されてるし。内定出てるみたいなもんらしいけど」
598 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:03

ふぅん。
一生懸命、機材を運ぶ横顔はなんだかすごく楽しそうで。
いいなぁ、って思った。


……いいなぁってなんだろ?


「あーあ。うちに来てくれないかなぁ」


柴ちゃんはそう言ってひとつ伸びをすると。
私が飲んでた紅茶の紙コップを取り上げた。


「えぇっ?」

「はい、休憩終わりっ。お仕事お仕事」


そう言って、手渡されたチラシの束。
私は会期まではビルの中でイベントのチラシ配りをされられていた。
これがまた、寒いし足は痛くなるし辛いんだよねぇ…。
599 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:03



***




600 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:04

「疲れたっしょ。変わるよ」


1時間弱。
ビルの入り口で冷たい世間の波に揉まれていた私に掛けられた言葉。
吉澤さん、いい人だね〜。
その温かさ、柴ちゃんにも分けて欲しいよぉ。


「ううん。私の仕事だし。吉澤さんこそ」

「今日のデコレーションはもう終わったから」


そう言うと、私の手からチラシを取り上げるから。
私は慌てて、その手から半分を取り返す。
吉澤さんはそれから何も言わずに、もくもくとチラシを配ってくれた。
すごくいい人で、笑顔が魅力的で。
軽そうって思ったけど、全然。
寡黙な人。
この数日で、私はそう吉澤さんのイメージを変えていた。
601 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:06

2人で配ると、あっという間に片付いて。
中庭の片隅に作った設営本部の仮設テントに戻ると、だけど誰もいなかった。
柴ちゃんが毎日事務所から持って来るコーヒーポットから2人分を取って
吉澤さんに渡すと、あんがと…って小さい声で返して、それを手にテントを出て行ってしまった。
つられて出ると、吉澤さんはテントの向かい、完成間近のツリーを見上げてた。
むき出しのモミの木の下。
目を細めてそれを見上げる吉澤さんの横顔が綺麗だった。


なんか、すごく。


綺麗だった。


「あのさ、吉澤さんじゃなくていいよ」


呼びづらいじゃん?
そう言って、コーヒーをすする吉澤さん。


「じゃあ、なんて呼べばいい?」


現場で飛び交ってた声。
よっちゃん、よっすぃー、ヨシオ…。
仕事の間に耳に挟んだ、吉澤さんのあだ名。
602 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:07

「じゃあ、よっすぃーって呼んでいい?」


こくっと頷く吉澤さん…改め、よっすぃーの頬がちょっとだけ赤く染まった気がした。


「私のことは梨華って呼んで?」


えぇっ?
そう言って。
吉澤さんは戸惑ったように、だけど、またコーヒーを口に運びながら
俯きがちにこくこくと頷いてくれた。


「よっすぃー…は、ここのツリー、毎年作ってきたんだってね?」

「うん。ここのビルの中にさ、今はもうないんだけど、昔、
親の会社が取り引きしてる店が入っててさ。
子供の頃からくっついてきては入り浸ってたんだ」


遠くを見るように。
うっとりとツリーを見つめて。
603 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:09

「思い出あんだよね、ここのツリーには、さ」


よっすぃーは、アルトの優しい声で言う。


「だから、あたしが飾りたい。…守りたいんだ」


優しい、人だなぁ。
そう、思った。


「私も好きよ、このツリー」


隣りに並んで、ツリーを見上げる。
そして、ツリーじゃなくて。
そっと、ずっと、よっすぃーを盗み見ていた。

604 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:09

無造作に束ねた金に近い髪。
塗料や木屑で汚れた、けれど白く透き通った肌。
Tシャツにジーンズ、フリースを羽織っただけのそっけない姿。


だけど、ツリーを愛しそうに見上げるその姿は、
最高に綺麗だった。


そんな彼女の姿に。
そして。
私にとっても大切な、思い出のツリーを、私だけじゃなく
大切に思ってくれる人がいたことがすごく嬉しくて。
見とれていた。

605 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:10



私はもうこのとき既に、恋に落ちていたのかもしれない。




606 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2005/12/31(土) 07:10



****




607 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/01(日) 13:10
続き期待age
608 名前:そーせき 投稿日:2006/01/01(日) 14:46
桜折さんの新作だぁ(^o^) 今作もイイ雰囲気っすねー♪
あと、本筋に関係ないんすけど、村田さんと柴ちゃんの名が出てくることが、
個人的にとてもとぉっても! 幸せれすぅ(^^)
609 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/02(月) 11:07
更新お疲れさまです。
さすがハイクオリティーいしよしw
年の最後に読めたのがこの作品で、ほんとに幸せでしたw
続きをまったりお待ちしています。
610 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:36



****





611 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:37

わずかな設営期間はあっという間に過ぎ。
いよいよイベントが始まった。
来場者数は予想を上回り、メロン企画はてんてこ舞い。
私も、裏方協力だけだった筈のよっすぃーも、
毎日会場整備に借り出されて大忙し。
お陰で、一緒にいる時間が増えた私とよっすぃーは、どんどん仲良く…


「エビもーらいっ」

「あぁー、よっすぃーがエビフライ取ったぁ。柴ちゃん、よっすぃーが私の
お弁当のエビフライ取ったぁ!!!」

「……忙しいんだから、騒いでないでさっさと食べちゃいなさい。
よっすぃーも、小学生じゃないんだからさっさと返すの」

「ふぁーい」

「………尻尾がなくなってる」

「いいでしょ、どーせ尻尾なんて食べないんだから」

「えっへっへっ」

「…………私の尻尾…」

612 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:37

「よっすぃー、尻尾も返してやんなさいっ」

「もう無理。尻尾ごと食べちゃったし」

「尻尾ぉ!!」

「諦めなさい、梨華ちゃん。よっすぃーも笑ってないで謝んなさい!!
もー、ココは幼稚園じゃないんだからねぇ!!!」


段々と馴れ馴れしく……もとい馴染んできたよっすぃーはよく
こうやってくだらないイジワルをするようになった。
まったくもう、アタマきちゃう。
あの日の寡黙で優しいよっすぃーはドコへ?


「アタマくるのは私の方よ。保母さんじゃないんだからねぇ!!」


柴ちゃんもそう言って、怒ってるけど。
むしろ怒りの原因は…
613 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:38


「そんなコト言っちゃってー。自分より下っ端がいて嬉しいんじゃないのぉ?」

「そーそー、今までは末っ子だったからねぇ。良かったね、下っ端が出来て」

「せいぜいお姉さん気分を味わいなさいな。下っ端相手に」


そんな風にからかうメロン企画のお姉様たちみたいなんだけど。
てゆーか


「「下っ端下っ端言わないで下さい!!」」


更に日にちが進んでイヴが近くなると。
よっすぃーが指揮して作り上げたツリーの評判で、雑誌やTVの取材がちらほらと
来るようになり、2倍3倍と日に日にお客さんは増えていった。

614 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:39



***





615 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:40


あのね、クリスマスにね、やどり木の下ではね


誰とキスしてもいいんだって


だから、ね




………

………



616 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:41

王子様、なんかじゃない。
もうきっと、会えないって解かってる。
だけど、だけど…。


夢の中の幼い私は、そっと目を閉じる。
次に起こることを、もう、知っているから。
ちゅ、って。
唇に触れると柔らかい感触。
私のファースト・キス。



目を開けると、朝だった。
ベッドの中。
私は寝返りを打つ。


ねえ、初恋のアナタ。
今はどこで、どうしていますか?


私はアナタとの思い出の木の下で、今年のクリスマスを迎えようとしています。
617 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:41



***




618 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:42

そしてやってきた、クリスマス・イヴ。
広場では正午から子供にお菓子を配る。


「じゃーん」


よっすぃーはサンタさんの格好で登場。


「どう?かっけー?かっけー??」


た、確かに、カッコイイかも…。
私も着るように勧められたけど、丁重にお断りをした。


「なんでぇー」

「「「「なんでなんで?」」」」


だって…。

619 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:43

「だって、なんでよっすぃーはズボンで私のはこんなミニスカートなのよ!!」

「いや、持ってるもんはね。生かさないと。ゆーこーりよーってね」


メロン企画が私に用意したのはミニスカのサンタ風?ワンピース。
しかも、なんでメロンに混じってゆーこーりよーとか言ってるのよ、よっすぃー!!
なにニヤニヤしてるのよ、メロンの4人!!
結局、私はイベント中着ていたスーツのまま、アタマにトナカイの角の
ヘアバンドをすることで許してもらった。
こ、コレも結構恥ずいんだけどね…。

620 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:45



***




621 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:46

「とりあえず、かんぱーい」

「「「「かんぱーい」」」」


夜のツリーは、恋人たちの時間。
青くなったりピンクになったり。
よっすぃーが演出した今年のツリーは夜に映える。
ツリーの近くに遠くに、恋人たちが大勢集まっていた。
私たちはそのすぐ横のテントの中で、一足早い祝杯を上げた。
今日までの、そして明日で終わるイベントの成功を祝して。
って、みんなの手には缶チューハイなんだけど。
…クリスマスなのに、缶チューハイで乾杯かぁ。


「やぁ、明日で終わりだねえ」


感慨深げに言う斉藤さん。
うんうん、良くやった良くやった。
とか言って1人でうんうんうなづいて。
もしかしてもう、酔ってます?
622 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:47


「あって間だったねぇ」


隣りに立つよっすぃーも、嬉しそうに言ってぐいぐい缶チューハイを飲み干す。
そう、明日のお昼にまた子供たちにお菓子を配ったら
このイベントは終了となる。
ちなみに今日のお昼のイベントも好評だったから、きっと明日はもっと
一杯の子供が来るんじゃないかな?
よっすぃーサンタは子供が大好きみたいで、お菓子を配り終わったあとも
ツリーの下で子供たちと遊んで人気者だった。
調子に乗ったよっすぃーは、明日はイベント前からサンタさんの格好で
ビルの中を練り歩こうかなどと、とんでもないコトを言ってたり。


「あ、よっすぃーにはまだまだ手伝って貰うかんね」

「よろ〜」


設営から手伝ってるよっすぃーは、勿論、撤収作業も手伝うけど。


「あ、梨華ちゃんはもういいから」
623 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:47

私はもうビラ配りとかする必要もないのでお役御免。
柴ちゃんがあっち行けと言わんばかりに手をヒラヒラする。
ちょっとちょっと、態度悪くない!?


「オマエ、言い方冷たいんだよ〜」


柴ちゃんをたしなめて


「や、今回はエライ助かったよ〜。梨華ちゃん、大学出たらウチこない?」


大谷さんが絡んでくる。
てゆーか、ちょっと、メロンさんたちってこんな酒癖悪かった?
まだ1本目だよね…?


「実質5本目ですから」


あたしに絡むのをやめた大谷さんに抱きつかれ、柴ちゃんにバシバシ叩かれながら
村田さんが言う。
2人の攻撃に負けず、構わず、クピクピと缶チューハイを煽りながら淡々と。
村田さん、慣れてますね?
……てゆーか

624 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:49

「「は!?」」


私とよっすぃーの声がハモる。
なんでも、私とよっすぃーが子供たちにお菓子を配ったり
抽選会をしたりしている間に、裏でメロンのみなさんは飲み始めていたらしく。


「まあ、クリスマスですからねぇ」


そう言って、微笑む村田さん。
って、謝罪はなしですか。そーですか。
てゆーか、アナタも5本飲んでる訳ですよね…?


「…しょーもないなぁ」


そう言って。
よっすぃーは残りの缶チューハイをぐいっと飲み干して。
メロンの皆さんを見て大ウケしてたんだけど。

625 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:50

「よっすぃー、もうお酒ないよ、お酒っ」

「えぇっ、柴ちゃんもうやめなってぇ」

「「おーさーけっおーさーけっ」」

「大谷さんもぉ、斉藤さんまでっ」

「いいっすよ、行ってきまっす」


メロンの皆さんの声援に、笑って立ち上がった。


「ちょぉっ、ダメだよ、この人たちにこれ以上飲ませちゃぁ」

「ん。ウーロン茶とか買ってくる」

「賢明な選択ですね」


村田さん……。
一応、よっすぃーは部外者なんですよ?

626 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:51

「待って、私も一緒に行く」


コートとお財布を掴んで、私も立った。
全く、人使いの荒い会社だなぁ、もう。


「メロン企画で領収書切って貰いますからねぇっ」


さっさと行ってこぉーい…という酔っ払いたちの声を背に。
私とよっすぃーは近所のコンビニまで出発した。
テントを一歩出ると、そこは恋人たちの広場。


「……なんか、テントの外と中じゃ異次元だね」


寒さに縮こまりながら、よっすぃーを見上げて言うと
よっすぃーは、ふふっと笑って。
私の手を掴んで。
歩き出した…けど。


え…。
627 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:51

え、ちょ……。


なんか、その、手とか握ってる……?


よっすぃー、酔っ払ってるのかな?
私も酔っ払ってるの、かな?
なんか、ドキドキして。
すごくドキドキして。
息苦しかった。


628 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:52



***




629 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:52

コンビニからの帰り道。
よっすぃーの手にはコンビニのビニール袋があって、さすがにもう手を繋いだり
しなかったけど。
ドキドキはおさまらないまま。
なんとなく、無言で、2人夜道を歩く。
最近のよっすぃーだったら、もっとからかってきたりとか何かする筈なのに。
ただ前を見て歩いてる。
やっぱ、酔っ払ってるの……かな?
広場に入って、テントが見えてくる。
だけど、よっすぃーはその前までくると急にくるっと方向を変え。


「え、ちょ、よっすぃー!?」


どんどんツリーの方に進んでいく。
周りのカップルたちはさっきより大分減っていた。
そうだよね、寒いもんねぇ。


「どーしたの?」

630 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:53

ツリーの真下。
よっすぃーは、ツリーを見上げていた。
いつかみたいに。
目を細めて。


「ねえ、よっすぃーってば」

「ね、コレさ。なんだか知ってる?」


あっ……。
私は、びっくりして、何も返せなかった。
いつの間に付けられてたんだろう?
ツリーの枝に、隠されるようにつるされた、やどり木。



デジャヴュ。



そう思ったとき。
631 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:54

よっすぃーの伸ばした手の中のそれを、私は見つめたまま。


「この下だとね、誰とキスしても、許されるんだよ…」


ちゅっ、と。
よっすぃーにキスされた。
何が起こったのか、全然わからなくて。
よっすぃーの顔を見た。
よっすぃーは、とても真剣な、穏やかな顔で私を見つめ返して。


私は。


私は……。


次の瞬間。
私は走っていた。
思わず、逃げ出していた。


632 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:55


その場から。
よっすぃーから。
その全てから。


633 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/05(日) 23:56



****





634 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/02/06(月) 00:01

更新がまったりすぎてすみません(ノ▽^)ノ〜^0)
あと1回続きます。


>607様
sage進行でお願いします〜。


>そーせき様
ありがとーございます。メロンさんたちを使うのは
楽しいけど、難しいですねぇ。


>609様
ありがとーございます。今年もひとつ、ご贔屓の程を…w


635 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/06(月) 07:57
更新お疲れさまですw
続き、キター!!
低年齢化してく二人に萌え〜w
最後、まったりとお待ちしております。
636 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/07(火) 01:54
更新お待ちしておりました!!
良いところでおあずけを食らってパソコンの前で悶えてしまいました。
本当に甘くて優しい空気と丁寧な文章が大好きです。
エビの尻尾が可愛すぎです!メロン陣との絡みも凄く可愛らしくてぽわぽわしました〜。
次回更新楽しみに待たせていただきますです。
637 名前:前607 投稿日:2006/02/07(火) 23:01
前回は上げてごめんなさいm(_ _)m

今回も楽しませてもらいました。
しかし本当にいいとこで切りますねぇ。
最後もワクテカお待ちしております。
638 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/08(水) 23:02
更新お疲れ様です。すっごいいいです……
続きをまったりお待ちしています。
639 名前:そーせき 投稿日:2006/02/09(木) 16:45
こりゃまた、いいトコで・・・くぅ!
尻尾は大事です! あっしも好きです!
640 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2006/03/22(水) 19:40
更新お待ちしております!
641 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:23



****




642 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:24


あのね、クリスマスにね、やどり木の下ではね


誰とキスしてもいいんだって


だから、ね




………

………




643 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:26

まだ、私が子供だった頃。
ママに連れられて、クリスマスにあのビルへ買い物に行ったことがあった。
ママが用事を済ます間、私はツリーのある広場でママを待つように言われた。
心細かった私に、声を掛けてくれた男の子。
やどり木の下で。
彼は、私にキスをした。


「あのね、クリスマスにね、やどり木の下ではね、誰とキスしてもいいんだって」


だから、ね……。



目を開けると、その男の子が微笑んで。
だけど、それは次第に姿を変え。


「梨華ちゃん……」


あっという間に、ゆうべのよっすぃーに変わって…

644 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:26


ピリリリリ ピリリリリ


私は飛び起きた。




645 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:27



***





646 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:28

その日は1日、よっすぃーを避けてしまった。
よっすぃーが広場で子供たちと遊んでるときは出入り口の方へ。
ひと段落して休憩に戻ってきたら、会場整理のフリをして広場の中を
うろうろしたり。



なんで逃げてしまったんだろう?
昨日、やどり木の下から。
よっすぃーから。



怖かった、んだと思う。
よっすぃーを、初恋の男の子にダブらせてるんじゃないかって。
好きになりかけてたから、だからこそ、怖かった。
よっすぃーを好きなのか、それともあの男の子を思い出してどきどきしてるだけなのか。



この木の下で、もう一度、恋するなんて。


1人、ツリーを見上げる。
風に青々と葉をなびかせて、ツリーは微笑むように揺れている。
木々の間に隠れるように付けられたやどり木もまた、こっそりと揺れていた。
647 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:30

休憩が終わり、テントから出てきたサンタのよっすぃーを見つめる。
途端、子供たちに囲まれて照れたような笑みを浮かべるよっすぃー。
まぶしい笑顔。
綺麗な横顔。
……やどり木の下の、キス。



きっと、ゆうべのよっすぃーは、酔ってなかった。
真剣な、穏やかな瞳で、私を見つめてた。



……私は。


私は、どうしたいんだろう。

648 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:30



***






649 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:32

そして、全てのイベントが終了した。
中庭の一部、ツリーの周りは閉鎖され、あとは明日からの撤収を待つばかり。
今度こそ本打ち上げ、と言って、テントじゃなくビルの上階の居酒屋さんで
その夜も私たちはまた飲むことになった。
クリスマスに2夜連続で何やってんのかなぁ、私たち。
てゆーか、前祝も盛り上がってた癖に、今日もまたばっちり飲んでるメロンの面々。
全くもう、って呆れちゃうけど。
それは今日に限っては私だけみたいで。
今日はよっすぃーもなんだか最初っからぐいぐいいっちゃってて。
ちょっとちょっと、私以外みんな明日も朝から作業あるんでしょ!?
大丈夫なのかなー?


「らいじょーぶらいじょーぶ♪」

「斉藤さん……もうやめた方が…」


昨日飲みすぎて今日は二日酔い、とか言ってフラフラしてた癖にまた飲む気ですか!!


「「向かい酒じゃー!!」」


あーあー、柴ちゃんまでー。


「よしっ、今日は朝まで飲むっぞー!!」


大谷さんも…。村田さんもビールに口付けながら手だけ上げて応援しないでくださいっ。

650 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:33

「飲むぞぉー!!うぁー!!」


よっすぃーの白いほっぺは瞬く間に赤く染まって。
だけど、勢いは留まることなく勧められるままに杯をあおり。


「ぷはーーー」


「よっすぃー、いい飲みっぷりー!!」


褒められるままにまた、杯を進めた。
……大丈夫なのかな…?



そして、そんな不安は的中して。


「もういっけーん!!」


意気揚々と前を行くメロンさんたちの後ろを


「……」


ふらふらと歩くよっすぃー。
これって…ヤバいよねぇ。

651 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:34

「………大丈夫?」


「…………ぅん」


大丈夫じゃないよなぁ。


「じゃ、ココで!!」


急に振り返り、柴ちゃんが言った。


「え、もう、お開き?」


こんな路上で?


「いや、もう一軒行くけどさぁ。よっすぃーダウンみたいだし。
梨華ちゃんはよっすぃー送ってって?」


「え……えぇ!?」


思わずひっくり返った声が夜道に響く。

652 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:35

「じゃ、そゆコトで」

「まったねー」

「おやすみなさい」


口々に語られる別れの言葉。
え、え、ちょっと、ちょっとぉ…。
と、異議を申し立てる間もなく、あっと言う間に夜道にはよっすぃーと私の2人っきり。
え、えーと。えーと。
今日、散々避けてきただけに、気まずいなぁ。


「…」

「…」


沈黙の中、とぼとぼと歩き出すよっすぃー。
えっと。
自分で帰れるって、コト?
でも、やっぱりちょっとふたふらしてるし。
……心配だから。
仕方なく、その後ろをついて行く私。
あーあ。
なにしてんだろ。
全然、わかんない。
私、なにしてんだろう。
どうしたいんだろう。


……なに、を?
653 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:36

「……ちょっと、いい?」


よっすぃーに言われて。
気付くと、庭園の入り口に来ていた。
中に入ってくよっすぃーのあとについて行く。


……どうするの?
どうしたいの、私?


月明かりの下。
閉鎖された庭園の中に、よっすぃーはスペアキーでずんずん入って行く。
ツリーはもうライトアップされていない。
それどころかもう半分は飾りも外された状態で。



ああ、終わったんだ。



そう思った。
終わっちゃったんだなぁ。
私と、メロンのみんなと、そしてよっすぃーで作り上げたクリスマス。
それが今、終わろうとしている。
隣りに立つよっすぃーを見上げる。
その横顔は、真っ赤に染まっていたけれど。
だけど、やっぱり綺麗だった。
いつかみたいに。
綺麗だなって。
ずっと見てたいなって。
そう思った。

654 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:37

その途端。


ああ、私、この人のこと、好きなんだって。
そう思った。
多分、子供の頃のこととかそんなの関係なく。
私、きっともう、この人に恋してる。
自分でも気付くの遅いよって。
呆れちゃうくらい、確実な自信を持って。
ああ、私、この人のこと、絶対好きって。
そう思った。
よっすぃーは、私の視線に気付いたのか、私の方を向いてふっと笑うと。
ぽつりぽつりと話し始めた。


「昔、さ。このツリーの下でキスしたんだ」


私を見つめ。だけど、どこか遠くを見るような瞳で。


「まだ5〜6才の頃。あたし、マセガキでさぁ」


……あれ?

655 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:38

「よっす……」


「お願い、最後まで聴いて!!」


「は、はい…」


今まで聞いたことのないよっすぃーの強い声に、おどろいて頷いてしまう。
だけど、だけど…なんか……。


「昔っからこんなだったんだよ、あたし。笑っちゃう」


それって……もしかして、柴ちゃんに聞いた?
ううん、だけど、そんな……。


「可愛い子。だけど、その日初めて会った子なんだよ。
りーちゃんて呼ばれてた。迷子で泣いてた。
可愛くて、笑って欲しくて。キスしちゃった」


そんな、嘘ついてなにになるっていうの?
嘘じゃ、ないよね…?


「でも、ずっとそんなことなかったのに。梨華ちゃん見てたら我慢出来なくて。
その子のときもそうだったんだけど。まだ子供だったんだけどさ」


「よっ…」


「いいから、最後まで聞けってば!!」


「は、はいぃ」

656 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:39

だけど。だけど。
お願い、私の話も聞いて!!


「嫌な思いさせたらごめん。でも、好き……。こんなに好きだって思ったの、きっと
りーちゃん以来なんだ。好きなんだ、梨華ちゃん」


「ひーちゃん!!」


たまらずに、力一杯、抱きついた。


「え、え、うぇ?」


状況のまるで解かってないよっすぃーに。


「よっすぃーが、ひーちゃんだったのね!!」


沈黙。
そして。

657 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:40

「うえええええ」


よっすぃーの絶叫が辺りに響く。
あまりの声に、私は慌ててよっすぃーの口をふさいだ。
だって、警備員さん来ちゃうよぉ!!


「り、りーちゃん!?」


こくん、とひとつ頷くと。


「王子様!?」


自分を指差して言うその大きい目が更に更に大きくなって。
その表情が可愛くて。
あの、ずっと男の子だと思ってた、かわいいひーちゃんを思い出して。
そっと手を頬に寄せて。
唇を重ねた。
離れると、更に更に大きくなったよっすぃーの目。

658 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:42


「やどり木の下は、誰とキスしても、いいんでしょ?」


まだ外されていない、やどり木を指差して。
赤く染まったよっすぃーは、けれどこくんとひとつ頷いて。
キスを返してくれた。
外なのに。
往来なのに。
私たちは憚らずに唇を交わす。
やどり木の下で。


「ずっと、このツリーの下で待っててくれたの?」


とろん、とした目でよっすぃーは頷く。
きっと、私もこんなうっとりとした表情でよっすぃーを見上げてる。


「毎年、やどり木を下げて待ってた」

「ごめんね、遅くなって」

「ううん。いいよ」


来てくれたんだもん。

659 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:45

見つめ合い。
またゆっくりと顔が近づいて。
唇が触れそうに。
そっと目を閉じた、そのとき。


鐘の音がした。


2人揃って、顔を上げる。
ビルのおおきな時計が0時を伝えていた。
クリスマスは終わってしまった。
だけど。


「メリークリスマス」


よっすぃーがささやく。


「メリークリスマス」


クリスマスは去り。
だけど、プレゼントが残った。
サンタさんからの、15年越しのプレゼント。


もう一度、見つめ合い。
キスをした。
もう、やどり木の下だからって言い訳がなくても、構わない。
恋人同士の、キスを交わした。

660 名前:『やどり木の下で』 投稿日:2006/04/11(火) 21:47



〜Fin




661 名前:桜折 投稿日:2006/04/11(火) 21:59


これでやっと年越し出来た気分です(遅すぎ
吉誕までに書ききれてホントよかったというのが素直な感想です。
このベタで王道なオチをクリスマスに書きたかった…。



>>635-640 の皆様、レスありがとうございました。

いつもいつもお待たせしてすみません。
これに懲りずにまた読みに来て下さいNE

662 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/11(火) 23:03
更新お待ちしておりましたっっ!!
生誕を迎えるときに読めるとは〜!!!

二人の姿に涙が・・・
ウルウルウル・・・・
663 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/11(火) 23:22
きゃわわわわ……(*´∀`)ポワワ
二人のやりとりが甘くって満腹です。更新お疲れ様でした〜
664 名前:桜折 投稿日:2006/04/14(金) 00:46



『知識と応用』




665 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:47


それは、変わることないいつもの楽屋。
いつものよーに、騒がしくとも和やかに時間は過ぎていく
……筈だった。


666 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:48



* * *




667 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:48

今日は雑誌の撮影で、さっきからメンバーが1人づつ順番に呼ばれては
戻ってを繰り返してる。
リーダーのあたしは、一番で撮影完了。
今は、次の出番の全員での撮影を待って休憩中。
それにしても、今日は長い。
何かトラブルでもあったのか、途中から全然次の子が呼ばれなくなった。
携帯をいじるのにも飽きて、あたしは楽屋を見回す。
ミキティはあたしのすぐ横で雑誌を熟読中。
ときどき「それはない」とかダメ出ししてる。
高橋も机に広げた雑誌を食い入るよーに見ている。
……ありゃ、宝塚だな。必死さから言って。
その横でガキさんが興味なさげにそれを見てる。
真琴とこんこんはさっきからお互いが最近食べたお菓子について熱い討論を交わしてる。
まあ、一年中芋栗の菓子のある昨今、ある意味一年中がアイツらの季節だから仕方ない。
そんな熱い2人の横で、亀井ちゃんとしげさんはメイク用のでっかい鏡に向かって
かわいい顔対決をしている。
……研究熱心なのはイイコトだ。うん。
田中ちゃん、呆れた顔してないで付き合ってやれよ。
同期だろ?

668 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:49

そんなこんなで。
どうやら、ココにはあたしのオモチャになりそーなヤツはいないらしい。
ちぇ。
つまんねーの。
珍しく、誰かからかって遊ぼーと思ったのになぁ。
仕方なく机の上に積まれてる雑誌や本の山に手を伸ばす。
雑誌はいいとして、このマンガ本はどーしたんだ?
メンバーの誰かが持って来たんかな?
なんの気なしに、手にした一冊。
本屋でしてくれるカバーがそのまんまで、表紙は見えない。
パラパラとめくって…………んん?
あたしは目を疑って、もう一度よく見て………。



「ちょ、ちょぉっ…何コレ!!!!」



669 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:49



* * *




670 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:49

「てな訳」

「ふぅーん」


梨華ちゃんの部屋。
あたしはその夜、今日のその出来事を梨華ちゃんに語っていた。
だってさだってさ


「有り得なくない!?」

「みんなはなんて?美貴ちゃんとか」

「そっれがさぁ、ミキティとか『そんな怒るコトなくない?』とかゆーんだよ!!」


口々に飛び出した否定の声を思い出し、あたしの中にまた
フツフツと怒りが込み上げる。


「まこととかもさぁ、『いまどきアタリマエですよ〜』とか言っちゃってさぁ。
アッタマきたから一発はたいといてやったけどぉ」


いたいですよぉーなんであたしだけぶつんですかぁぁー…
まことの言葉を思い出す。
そんなん、オマエが一番叩きやすいからに決まってんじゃん。
ミキティ叩いたら、後が怖そーで嫌だもんね。

671 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:50

「で、誰が持ってきたの、コレ?」


机の上に積まれたソレを一冊手に取り、ペラペラめくる梨華ちゃん。


「あっ、それは…」


偶然手に取ったのは、中でも一番激しいヤツで…


「だいじょうーぶ。コレ、柴ちゃんちで見たことあるから」


あ、そ、そっか。ふーん。
見たことあるんだぁ……って、柴田さん、うちの梨華ちゃんに何見せてんですか!!


「…それがさぁ、6期らしいんだよね。それぞれ何冊かづつ。
あんま詳しく聞かずに没収してきちゃったんだけど」


梨華ちゃんが開いたページを横からちらっと見て。
はぁ、とため息とかついてしまう。
だってさぁ……なんつーか、コレ、少女マンガらしいんだけど。
カテゴライズ的には。
だけどさ、どー見ても内容、エロ本なんだもん。


「それじゃあ、小さい子もいるんだからって怒れないもんねぇ」


ふふって笑ってページをめくる石川さん。

672 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:51

そ、そんな読まなくていいよ……。
だって、エロ本だよ?
『小さい子たち』の6期には「「「少女マンガですっ」」」って声を揃えて
抗議されたけど。


「最近の少女マンガって過激だよねぇ」


そう言って、もっかいページを捲る。
そ、そ、そんな真剣な眼差しで見るなよ、んなもん。


またページを捲る。


その指が。


唇が。


なんか……。

その瞳が見つめる先にあんなことやこんなことが描かれてると思うと。


……。



……。


あー、もう!!
なにドキドキしてんだよ、自分!!!
全部このマンガのせいだよ!!!!

673 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:51

「………でもさぁ、やっぱよくないと思うんだよ。風紀的にってーの?
あたしが言うとおかしいかもしんないけど、やっぱリーダーだしさ。
そーゆーのもね、ちゃんとしなきゃとか思うんだよ」


視線を逸らし、俯き加減で言ったあたしに
梨華ちゃんはまたふふふ、って笑って。


「私からもさゆとか、会ったら言っておくよ。楽屋なんかは自粛しなさいねって」


うん……。
そう言って。
あたしは力なく、梨華ちゃんの肩に頭を乗せる。
こんなことくらいさ。
ホントはばばんって解決しちゃいたいけど。
リーダーだから。
だけど、リーダーだから。
こうゆう微妙な問題ってムズカシイ。
そう思う。
あー、なかざーさんとかいいださんとかやぐちさんとか。
苦労してたんだろーなぁ。
むしろあたしも苦労掛けてた側だったし。
今にして頭が下がる思いだよ。
もっとちゃんと言うこと聞いてあげればよかった。
今更だけど。

674 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:52

「メロンはみんな柴ちゃんより年上だし、結構このテのマンガが
回ってたりするんだって〜」


顔を上げると、梨華ちゃんはなおも読書中。
覗き込んだマンガの中身は……えっちの真っ最中。


「まあ、このくらいは今時フツーなんじゃないかなぁ」


り、梨華ちゃんまでそんな…。
そんな……そんなもん、なのかなぁ。
手近な一冊を恐る恐る手に取って、ペラペラめくってみる。
う、うーん。
やっぱりなんてゆーか、抵抗あるな。
てゆーかさ、ぶっちゃけこんなの見るより梨華ちゃん見てた方が
コーフンするんですけど…。


「まあ、お勉強みたいなもんだよねぇ」


勉強、ですか。


「知識ってゆーの?」


ふぅーん。


「ね?」


はい?


「ちょっとおねーさんとお勉強しない?」



……はい?

675 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:52

「オーヨウだよ、知識の応用」


そう言って。
梨華ちゃんは手にしていたマンガを床に置くと、ゆっくりと顔を近づけてきた。
えええええ、ちょ、ちょっとちょっと。


「梨華ちゃ……」

「いいからいいからぁ」


そう言って、梨華ちゃんはそのままあたしの着てるニットに手を掛けて。


「はい、万歳して♪」


有無を言わさずニットを捲り上げると、脱がしてしまった。
だけど……。


「……い、いしかーさん?」


全部脱がせる訳じゃなく。
脱がせたニットを手首の辺りに留め、そして…それを巻きつけて
あたしの手首を縛りつけた。

676 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:53

「ふふふ」


梨華ちゃんは不敵に笑うと、いきなり抱きついてきて。
あたしの身体はいきなりのそれにバランスを崩し、床にコロンと転がってしまう。
起き上がった梨華ちゃんは、あたしの腰のあたりに座りなおす。
所謂、マウントポジションてヤツ。


…ええっと。



えええええええええっと。




コレは、吉澤、ピンチってヤツですか?


677 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:54

あたしの上で満足そーに不穏な笑みを浮かべる梨華ちゃんを見ながら
あたしは必死で考える。


えええ、何コレ。


なになに。
何が起こってんの?


梨華ちゃんがあたしの上にいて。
あたしは手を縛られてて。
それは梨華ちゃんの仕業で。
しかも梨華ちゃんは嬉しそうに笑ってて。


えっとえっと。


視界に入った、床に転がるマンガ本。
昼間ペラペラと見た断片的な記憶から、思い出す。
そーだ、梨華ちゃんの見てた巻には、その、縛りってゆーの?
そーゆーぷれいがあった筈で。
そう、今まさにあたしたちはその体勢なんじゃないか…?


「あ、あっあのっななな、なにすんのっ」


思わず、素っ頓狂な声が出ちゃう。
だってだって、そんな。
あたしたち、そんなコトなんて1度もしたことないもん。
なんとかぷれいなんて、1度も!!

678 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:55

「ふふっよっすぃーってば、可愛い」


そう言って、梨華ちゃんはうっとりとした目であたしをぎゅっと抱き締めて。
そして。
下着に手を掛ける。


「ちょぉ、ちょっとタンマ。待って、待て、梨華!!りっ……あっ…」


梨華ちゃんによって次々と剥がされていく衣類。
そりゃ、さ。
裸で抱き合うなんて何度もしたけど。
シチュエーションがシチュエーションなだけに、あたしは焦ってしまう。
そんな間にも、梨華ちゃんはむき出しになったあたしの身体に
キスを繰り返す。
首に、鎖骨に、胸に…


「梨華ちゃぁ…」

「よっすぃー、ココ弱いんだよねぇ」


そう言って、あろうことかその……胸の先端に唇を寄せた。

679 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:55

「あん……」


自分で出した声に、かっと顔が熱くなる。
ヤダヤダ。
こんな声、出したくない。
聞かれたくない。
恥ずかしい。
だけど。


「や……ぁん、梨っ……ぅぁっ…」


否応なく、引き出されていく声。
混乱してく思考。
身体をひねって否定しても、梨華ちゃんはやめてくれない。
梨華ちゃんの甘い吐息を肌に感じる。くらくらする。
仰ぎ上げた部屋の照明が眩しくて。
うっとりと目を閉じた。

680 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:55

こんなことしたいなんて……全く思ってないとは言わないまでも。
その、そーゆーコトを考えたとき。
勿論、そんなことはほとんど考えたことなんてないけど。
ほんの少し、とっきどき考えたりしたとき。
上になるのはあたしで。
イヤイヤする梨華ちゃんをなだめすかして、でもちょっとだけ乱暴に
あたしが主導権を握って……って、考えただけでも火が出そうに恥ずいのに。


「梨……やぁっ…」


現実にイヤイヤしてるのはあたしの方で。


「よっすぃー、いい子だからじっとしてて…」


主導権を握ってるのは梨華ちゃんの方で。
なんか。
予想もつかなかった展開に混乱して。
なんかなんか。
気づいたら…


「うう……っ」

「よっすぃー?」


泣いていた。

681 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:57

だってだって。
梨華ちゃんてば待ってって言っても全然待ってくんないし。乱暴だし。
……まあ、想像の中ではあたしもおんなじよーなコトしてたケド。
でも、だから、余計に混乱しちゃって。


「うぅぅ……」


すると梨華ちゃんはぴったりと寄せていた身体を離し


「よ、よっすぃー、どうしたの?そんなに嫌だったの?」


あたふたとしてあたしの顔を覗き込んでくる。
うん、というのも癪で。
あたしは梨華ちゃんから顔を逸らして泣き続けた。
泣き始めちゃうと、なんだか止まんなくて。


「うっうぅっ…うぁーん」

「ごめんね、よっすぃー、ごめんごめん」


そんな自分が情けなくて。
引っ込みもつかなくて。
あたしは泣き続けてしまった。
梨華ちゃんはすぐに縛っていたニットを外してくれて、泣き止むまで
抱き締めて背をさすり、繰り返し謝ってくれた。

682 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:58

それから。
すぐに涙は止まったけど。
お互いになんとなく気まずくて。
梨華ちゃんに抱っこされたまま、しばらくぼーっとしてた。
そのうち、それにも飽きてきて。
あたしはその体勢のまま手を伸ばして床のマンガを拾ってパラパラと読み始めた。
そのうち、梨華ちゃんも他の一冊を手に取って読み始め。
またしばらく沈黙が続いた。


「……ねぇ」

「なぁに?」


梨華ちゃんはマンガから顔を向けずに、あたしの髪を優しく撫でて応えた。


「梨華ちゃん、こーゆーのしたいの?」

「えー?」

「いや、あたしのとはさ、こーゆーのに比べると刺激が足りないかなって」


梨華ちゃんの胸に顔を埋めて問う。
梨華ちゃんはお母さんみたいに、あたしの髪や背をゆっくり優しく撫でる。

683 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:58

「うーん。絶対したいって訳じゃないんだけどぉ。
まあ、1回はやってみたいかなってゆー、知的好奇心?」


えー?ってあたしが言うと、わかんないかなぁ?って梨華ちゃんが応える。
わっかんないよ、そんなの〜…とか言いつつも。
実は反対だったら全然おっけー、なんてさっき泣いちゃった手前、言えなくて。
無言で梨華ちゃんの胸にぐりぐりと顔を押し付けたりとかしてみる。


「もう、よっすぃーってば」


お子様だなぁ、って。
ふふって笑う。
だからあたしは、抗議するように梨華ちゃんのカットソーの下に手を入れる。


「んん……」


甘い声を出して。
なおもあたしの髪を撫でつける優しい手。
ほら、やっぱりこっちの方がイイ。
ブラに指を伸ばして、直接肌に触れて。
うっとりと目を閉じる梨華ちゃんをそっとソファに押し倒す。
さっき梨華ちゃんにされたみたいではなく、ゆっくりと、優しく
着ているものを剥いでいく。
現れた肌に幾度もキスを降らせて。


「よっすぃー…」

684 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 00:59

切ない声を上げる唇にもキス。


「……もうしばらくは、このままで、いいかもね」


言って、微笑む梨華ちゃんが可愛くて愛しくて。
すぐにでもあたしが縛りつけたくなっちゃう。
どこにも行けないよーに。
誰にも見えないよーに。
ねえ、梨華ちゃん。
知ってた?
もうずっと前から、あなたはあたしの愛ってゆー紐で
縛りつけられてるんだよ?


「ね、もっとちゅーして?」

「ん…」


恥ずいから、んなコト直接言えないけど。
もしあたしが現実に梨華ちゃんとそーゆーコトをするときが来たらきっと
こんな甘い言葉でそそのかしてぎゅうぎゅう縛りつけちゃうんだろーな。
そんなコトを考えながら。
あたしと梨華ちゃんはゆっくりと甘い優しい快楽に浸っていく。


「よっすぃ……んっ……」


そう、もうちょっとはお子様なふりのままで。
応用編は、もうちょっとおあずけ。

685 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 01:00



〜Fin




686 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/14(金) 01:02
ブラボー!ブラボー!
良い夢見られそうです(´∀`)
687 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 01:08

たまには続けざまに更新とか。
ぷちエロ?w


>662様

お待たせしました(汗
前回も今回も生誕とカンケーないですけど、気に入って貰えれば嬉しいです。


>663様

ありがとーございます。
今回もお腹一杯楽しんで貰えるといいのですが。


688 名前:『知識と応用』 投稿日:2006/04/14(金) 01:09

>686様

レスはやっwありがとーございます。
( ^▽^)<はっぴー♪
ないしよしの夢が見れるといいですNE

689 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/14(金) 02:34
ハッピー!です!!(;▽;)

逆に眠れなくなった気がしないでもない…
690 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/14(金) 22:50
最高!!

どんどん実践していきましょw
691 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/15(土) 20:47
ここのいしよしウォッチャーになりたいですw
692 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/04/15(土) 21:34
お、応用編はどうなちゃうんだろう… (;*´Д`)ハァハァ
693 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/16(日) 01:49
応用編をきたいしてしま……w
いやーすっごくいい(*´▽`)´〜`*)をありがとうございます
694 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2006/06/11(日) 09:46
ひっそりとお待ちしております
695 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/30(金) 00:12
オイラもまってます
696 名前:桜折 投稿日:2006/07/10(月) 00:00



『梨華ちゃんの恋』



697 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:02

私が梨華ちゃんと知り合ったのは、中学に入学してからだった。
1−3の教室で、あいうえお順に端から座らされて。
『石川』の梨華ちゃんは窓際の列の前から三番目。
『柴田』の私は次の列の前から三番目。
中高一貫の女子校で、みんな殆ど知り合いのいない中
席の近い子同士仲良くなっていって。
勿論、私も梨華ちゃんと一番に仲良くなった。


「柴ちゃん♪」


少し高めの声で、彼女はそう私を呼んだ。
しっかり者の彼女はよくなにかの委員や係りを頼まれて、教師たちには
頼りにされていたけれど。
ときに私の名を柔らかく呼んでは、甘えてきた。
頼りにされて、悪い気はしなかった。

698 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:03



***



699 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:05

梨華ちゃんは、恋愛体質だった。
というのは周りの見解で。
私は密かに、ただ飽きっぽいだけなんじゃないのかと思っていた。
それ程に、高校に上がった頃から梨華ちゃんはとっかえひっかえ
男の子と付き合っていた。
容姿は抜群だったから引く手数多で、チェンジを繰り返していても
途切れるようなことはなかった。
そればかりか、クラスメイトの兄や酷いときはクラスメイトの恋人が
梨華ちゃんに乗り換える…なんてこともあり
また、それをぽんぽんとすぐに捨てるものだから
男ばかりかクラスの女子を敵にすることも多かった。


「梨華ちゃん、こんなことばっかしてるとそのうち刺されるよ?」


そのときは確か…。
先輩の片想いしていた他校生に言い寄られて
2、3度デートしたもののそのままフェイドアウトに持ち込もうとして揉めて
その上、嫉妬した先輩が彼女につらくあたり、そればかりかその先輩に同情した
上級生たちがまた彼女につらくあたるという少しいじめの様相を呈した
所謂、修羅場のような状態だった。
700 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:07

「そーかなぁ?」


梨華ちゃんはそんな、間延びした声で返事をして。
空を見上げてた。
放課後の教室。
柴ちゃん。
ね、時間ある?
悪いんだけど、一緒にダンスシューズ探してくれない?
なくなっちゃったの。
明日の体育、創作ダンスでしょ。
今日中に見つけなくっちゃ。
歌うようにそう言う、どこか真剣みのない彼女と共に、放課後の学校をウロウロしていた。
夕方、空は青と茜と紺の入り混じった微妙な色合いで。
つられて見上げた私も、思わず見入ってしまった。


「そーだよ」


「そっかぁ…」


恋愛体質、というような積極性はまるでなかった。
乞われれば気まぐれに応える、というような。
何かの気晴らしのように。
何かの代償のように。
彼女は恋をした。
ううん。
彼女は恋をしていたのだろうか?
701 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:08

「そっかぁ……」


それでも彼女はそれを続け。
高校も2年になる頃には裏では評判の問題児になっていた。
一方で、愛想のいい彼女は教師側にはいい評価を受け続け。
それがまた、彼女の裏での評判を落としていった。



702 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:08



***



703 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:09

それは、2年に進んですぐの連休の頃。
近所の私立高との合コンがあった。
うちの学校は偏差値はそれ程でもなく、才媛を育てるというよりは
良妻賢母を育てることを掲げるような学校で。
良くも悪くもお嬢様学校だった。
だから、熱心に勉強に取り組む人も少なく高校に上がった頃から
そういった話は毎月どこからともなく湧いていた。
私も別に固い方じゃないし、その頃は丁度彼氏もいなかったし
誘われるまま、梨華ちゃんと一緒に参加した。
カラオケボックスで、いつの間にか相手のメンバーの先輩たちも加わっていて
お酒がテーブルに並んでいた。


「梨華ちゃん、やめときなって」


まるでジュースのようにかぱかぱと飲む梨華ちゃんに、男の子たちは
面白がって次々と勧め。
夜も深い時間になる頃にはいいように出来上がってしまっていた。


「しーばーちゃぁーん♪」


「全くもう」


合コンで、こんなんなって。
お持ち帰りしてくださいって、言ってるようなもんじゃない。
放っておけない。
バカな男の子たちがほろ酔いにいい気になって、肩を組んで歌に夢中になってる隙に
梨華ちゃんを引っ張って、外に出た。
5月だというのに、外はひんやり冷えていて。
704 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:10

「梨華ちゃん、ほら、上着着てっ。カバンも自分で持ってよー!!」


赤く頬を染め、うつろな瞳の梨華ちゃんの手を引いて、夜道を歩き出す。
風に、街路樹が大きく揺れて。
月明かりに葉がきらきらと光っていた。
月は、限りなく無に近い三十日月で。
細く細く、だけど紺色の夜空を確かに輝いていて。


そして。


その月を背に。


彼女は立っていた。


「……よっすぃー」


705 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:11

目深に被った帽子。
けれど、そこからわずかに見える顔立ちと雰囲気だけで
その人が美しいことが、すぐに解かった。
何も言わずに、その人は手にした自転車を押し傍に寄せると
梨華ちゃんの腕を引いて、自転車の後ろに乗せた。
梨華ちゃんは、あいかわらずとろんとした瞳のまま、誘導されるままにそこに座ると
その人の身体に身を委ね、そして目を閉じた。
ただ見つめていたままの私に、その人は無言で一礼すると
自転車にまたがり、梨華ちゃんを乗せ、走り去って行った。
静かに、一陣の風が通りすぎるように。
2人は、夜に消えて行ってしまった。


706 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:11



***



707 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:13

翌日。
私は梨華ちゃんが登校するとすぐに質問攻めにした。
昨日の人は誰?
恋人?
一瞬、梨華ちゃんはきょとん、として。
そして


「ただの幼馴染」


そう答えた。
わざわざ、夜中、迎えに来たのに?ただの幼馴染?
梨華ちゃんを見る瞳が。
大切そうに扱う仕草が。
とてもそうは思えなかったから、なおもしつこく聞くと。
予想外の答えが返ってきた。


「大体、よっちゃんは女の子だもん」


「……ぇ?」


「女の子だよ。うちの学校のひとつ下にいるよ?」


全然、知らなかった。
うちの学校に梨華ちゃんの幼馴染が入学していたこと自体。


「まったく、男の子みたいな格好ばっかしてるからこういうこと言われちゃうんだよ」


困った子、というようにため息と共に梨華ちゃんは言った。
708 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:14


よく見てみると、1年下に確かに彼女はいた。
吉澤ひとみ。
綺麗な子だから沢山の人の中にいてもよく解かった。
バレー部のエースで、とても人気があるらしいけど
梨華ちゃんは校内では知らんぷりだった。
それでも、ときどき。
遠くから梨華ちゃんを見つめる吉澤さんの視線。
窓の外を見る梨華ちゃんの先の吉澤さんの姿。
私はその頃から、2人の間の、ただの幼馴染なんかじゃない何かを感じていた。


709 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:16



***



710 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:16

高校2年の文化祭。
ちょっとした事件が起きた。


「来いよ」


うちのクラスの出し物はクレープ屋さんで。
家庭科の時間に作った思い思いのエプロンを掛けて接客をしていた。
梨華ちゃんも、その7割を私が作ったピンクのズルエプロンを掛け、お店に立っていた。
お客さんもまばらになった、4時過ぎ。
ブレザー姿の男の子が1人、ふらっと入ってくると梨華ちゃんの手を取り
外へ連れ出した。
あっと言う間の出来事で、私もただ呆然と見つめることしか出来なくて。
周りのざわつきにようやく我にかえって、2人を追いかけた。
クラスメイトのざわつきの中の単語から、なんとなく、その彼の用件は解かった。
1、2度デートした隣りのクラスの子の従兄弟と揉めている。
そんなことは梨華ちゃんにはよくある話だったけど。
それがちょっとエスカレートして、ストーカーっぽくなってる。
梨華ちゃんからつい昨日、クレープ屋さんの看板を作りながら相談されたばかりだった。
711 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:17

「ねえ、ちょっと、梨華ちゃん見なかった?」


男の子に連れて行かれる梨華ちゃんの姿はやはり生徒たちの好奇の目についたらしく。
すぐに2人を見つけることが出来た。
一番南側の特別教室のある棟。
人の出入りのない昇降口。
2人の口論は、リノリウムの廊下に響いていた。
普段は大人しそうな顔をしている梨華ちゃんも、負けずに言い返していて。


「嫌って言ってんでしょ。日本語解かんない?」


ピリピリとした空気が漂っていた。
どうしよう。
ここまで追って来たものの、私は迷っていた。
今、ここで私が出て行って、どうにかなるものか。
だけど、男の子のその赤く憤った横顔から、梨華ちゃん1人をこの場に残し
先生を呼びに行くのも躊躇われた。


「やっ」


男の子に肩を掴まれ、梨華ちゃんが悲鳴を上げた。
そのときだった。
712 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:18


「やめてよ」


知らない間に、私の後ろに、吉澤さんがいた。


「梨華ちゃん嫌がってんじゃん。やめてよ」


低い声で、吉澤さんは続けた。
ゆっくりと、2人に歩み寄る。


「梨華ちゃん触んの、やめてってば!!」


男の子が、吉澤さんをギっと睨む。
女子校の中では、吉澤さんは頭1つ抜けるくらいに背が高かったけれど
やっぱり男の子からは見下ろされるくらいしかなく。
だけど、吉澤さんは、怯むことなく、その男の子に向かって行った。


「せ、せんせ…」


もしもここで、なにか起こったら。
だけどやっぱり、3人がかりでも、男の子には勝てないかもしれない。


「先生、呼んで来る、私!!」
713 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:19

私は外へ出て、職員室のある一般棟へ走った。
だけど、その直後。
背後からバタバタと大きな音がして。
振り返ると、さっきの男の子が逃げるように去っていく姿が見えた。
従姉妹の通う学校で、問題を起こしてはやはりまずいと思ったのだろうか。
ほっとして来た道を戻ると


「……っ」


昇降口のところで、抱き合う梨華ちゃんと吉澤さんの姿があった。
吉澤さんにしがみつく梨華ちゃん。
その背を、吉澤さんは優しく撫で。
そして。
2人はゆっくりと、顔を寄せあい。
キスを、した。

714 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:20


2人の秘め事を見てしまった私は、1人、居たたまれなくなって
その場をあとにした。
大まかな事情を、待っていた野次馬なクラスメイトたちに説明すると
その中に混じっていた、例の男の子の従姉妹は俯いて、泣き出してしまった。



その後、梨華ちゃんは教室に戻らなかった。



715 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:20



***



716 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:21

文化祭後の休み明け。
あの後、なんとなくメールも出来ないでいた私はそれでも
梨華ちゃんにあの日、あれからどうしたのか聞けなかった。


「……よっちゃんと、寝たんだ」


だけど唐突に。
放課後、梨華ちゃんは掃除当番を終えて教室に戻った私に告げた。
遠く、窓の外を見つめ、梨華ちゃんはそう言った。
グラウンドには、しかし吉澤さんの姿はなかった。


「よっちゃん、初めてだったんだって」


ふふっと、笑って。
何でもないみたいに。
軽く。


「私も、初めてだったんだ」


カバンを手に、並んで廊下を歩く。


「意外?」
717 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:22

正直、あの梨華ちゃんがって。
意外だったけど。
私は首を横に振った。
とても梨華ちゃんらしいって思ったから。
玄関を出ると、校門のトコに吉澤さんが待っていた。
梨華ちゃんは何も言わなかったけど。
吉澤さんも何も言わなかったけど。
2人はそのまま、並んで帰って行った。
きっと、そうやって。
2人はそのまま付き合っていくんだと。
私はそう思った。
2人はすごくお似合いだったし。
何より、お互いを思いやって、好きあってるのがよく解かったから。
きっとこうやって少しづつ、女の子同士だからとか、幼馴染だからとか
そういう壁を越えていくんだって
私はそのとき、そう思ってた。
だけど。


718 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:24


それから半月後。
梨華ちゃんは生徒指導室へ呼ばれた。
理由は……不純異性交遊。
どっかのラブホから出てきたのを見たと、誰かが教育指導の先生に
告げ口したらしかった。
勿論、それは多分、真っ赤な嘘で。
だって、その、今までなんだかんだと男の子をとっかえひっかえしていながら
その……そういった行為はこないだの、吉澤さんが初めてだという梨華ちゃんが
そんな簡単に男の人とそういうトコへ行くとは考えられなかった。
多分、人気者の吉澤さんのファンの誰かの意地悪に違いなかった。
だけど、梨華ちゃんは否定しなかった。


719 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:25

「3日間の謹慎だってー」


夕暮れの教室に戻ってきた梨華ちゃんは、こともなげにそう言って笑った。


「梨華ちゃん、なんで否定しないの?」


机の上のカバンを手に取り、じゃ、帰ろっか、柴ちゃん、って。
いつもどおりの言葉を取り出す。


「だって、ホントだもん」


私の席と梨華ちゃんの席は、今では1列と4席分の離れが生じ。


「嘘でしょ」


振り向いた梨華ちゃんは逆光で、表情がはっきりとは解からなかった。
だけど。


だけど…。

720 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:26

「ホント」


「嘘」


「…嘘じゃないもん」


ガタン、と音がして。
教室の入り口に、吉澤さんが立っていた。
校門から、知らせを聞いて走ってきたのか。
いつも白い吉澤さんの頬も首筋も、赤く染まっていた。
沈黙が、教室を埋める。
その中に、息を切らせた吉澤さんの浅い息遣いが、微かに響く。


「………」


カバンを手に、梨華ちゃんは歩き出し。
いつものように何も言わずに通り過ぎる。


「……梨華っ」


吉澤さんは、今にも泣きそうな顔で。


「そういうコト」


だけど、梨華ちゃんは突き放した。
721 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:27

「そういうコト、だから」


ふわっと笑って。
梨華ちゃんは彼女を置いて、その場を後にした。



722 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:27



***



723 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:28

「はい、食べてー」


翌日の放課後、謹慎初日の梨華ちゃんの家を訪ねると
ごくごくフツーに、梨華ちゃんは家で課題をやっていて。
大きさがすんごくバラバラにカットされたリンゴを出してくれた。
梨華ちゃんちは共働きらしく、遊びに行っても両親を見たことがなかった。
たまに、お姉さんや妹さんには会ったけれど。


「まったく、3日じゃ終わんないよーな量の課題出すんだよー?
これじゃ遊ぶドコロか、寝る間も惜しむってカンジ」


はあ、とため息をついて。
梨華ちゃんはリビングに広げたノートと教科書、参考書の山の中に埋もれた。


「だから、言えばいいじゃん。やってませんって」


梨華ちゃんの甘い声のため息を真似て、リンゴをかじる。
見た目はともあれ、甘い、蜜入りのリンゴだった。

724 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:29

「いいの」


ノートの上に突っ伏したまま、梨華ちゃんは言った。


「いい訳ないでしょ。濡れ衣なんだよ?それどころか、このままじゃ内申とか
イロイロ問題だよ。ねえ、親には言ったの?」


「…いいの」


梨華ちゃんはもう1度、静かにそう言って。
顔を上げ、手を伸ばし、私の前の器からリンゴを取って口にした。


「これでよかったんだって、思う」


「梨華ちゃん?」


「私とよっすぃーにとっては、これでよかったんだって」


ひと口、ふた口。
梨華ちゃんはまたリンゴを器に戻し。
遠くを見るような表情で、続けた。
725 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:32

「だって……だって、よっすぃーのコト、好きなんだもん」


そして梨華ちゃんは。
その瞳から、涙を零した。
ひと粒、ふた粒。
私は初めて見る梨華ちゃんの涙に戸惑ってしまい、それでもう
何も言えなくなってしまった。


「好きなの。何よりも。誰よりも。ずっと、ずっと昔から。他の誰と付き合っても
一緒にいても、こんな感情持てなかった。よっすぃーだけ…」


梨華ちゃんの涙は、透き通るようにキレイで。


「でも、私と一緒じゃ幸せにはなれないもん。一緒に、落ちてくコトしか出来ない」


私はただ、見入ることしか出来なかった。

726 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:33

「恋愛は、いつか終わっちゃう。落ちるだけ落ちて。私たちの恋は報われない。
それに私、よっすぃーにさよならなんて言いたくない。
この恋が終わるのが怖いの。よっすぃーには、いつも幸せに微笑んでいてほしいの。
悲しい思いなんてさせたくない」


「…梨華ちゃんは、それでいいの?」


「いいの。それが、私の恋だから。ずっと片想いで、かまわない」


727 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:34




3日間の謹慎はあっという間に過ぎ。
また変わらない日常がやってきた。
だけど、吉澤さんはもう校門で梨華ちゃんを待つこともなく。
それから二度と梨華ちゃんの話から吉澤さんのことは出なくなった。
だけど。
変わらず。
遠くから梨華ちゃんを見つめる吉澤さんの視線。
窓の外を見る梨華ちゃんの先の吉澤さんの姿。
けれどそのまま、時間だけが過ぎていった。


728 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:34



***



729 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:35


時は瞬く間に過ぎ。
私と梨華ちゃんは付属の短大に進学した。
ろくに勉強もしない2人だったので、他への受験など考えもしなかった。
梨華ちゃんは例の謹慎の件で推薦が厳しかったのだけれど
いつの間にかそれは告発した生徒の嘘であったことが判明していて
なかったことになっていた
多分、私が思うに。
吉澤さんが、その子を見つけて、謝らせたんじゃないかと思う。
きっと、梨華ちゃんもそれに気付いてたんだろうけど。
結局、何も言わないまま。
私たちは高校を卒業をした。
最後の最後に、吉澤さんは何か……例えば、梨華ちゃんのボタンを貰いに来るとか
何かするかと思っていたけど。
それもなかった。
ただ、吉澤さんが、ずっと、式の間中ずっと、梨華ちゃんを見つめているのだけ、解かった。


730 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:36



***



731 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:38

そしてまた、時は過ぎ。
梨華ちゃんは相変わらずだったし。
私と梨華ちゃんのぬるまゆい友情も変わらなかった。
短大1年の冬も終わり。
もうすぐ、また、卒業シーズンが巡ってくる。
そんな頃だった。


「石川っ」


短大の廊下。
お昼休みの人通りの多いそこに、大きな声が響いた。
振り返るとそこに、制服姿の少女が1人いた。
吉澤さんだった。


「あたし、進路、決めたからっ」


私の横で、梨華ちゃんは目を見開いて、立ち尽くしてた。
私はそのとき、あれから吉澤さんが梨華ちゃんを『石川』と呼んでいたコトを知った。


「留学すんの。アメリカ。お金貯めたし、自力で全部手配した。住むトコも、留学先も。
親には何も言ってない。面倒も掛けてない。だから……一緒に行こう?
……あたしはオマエとなら落ちてってもいいっつってんだ、バカヤロー!!」
732 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:39

梨華ちゃんは、泣いていた。
もしここで、躊躇するようなコトがあったら。
いい加減素直になりなよ、って背中を押すつもりだったけど。
そんな必要はなく。
梨華ちゃんは涙を拭いながら、のろのろと、吉澤さんに歩み寄り、抱き付いた。


「よっすぃーの、バカぁ」


「オメーの方がバカだっつーの。ここまでしなきゃわかんねーんだから」


733 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:39



***



734 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:40

こうして。
梨華ちゃんは学校も家族も、何もかも捨て。
吉澤さんが高校を卒業すると、その足で。
2人はアメリカへと旅立った。
勿論、吉澤さんも梨華ちゃんも家族には何も言わなかったので大騒ぎになったけど
私もアメリカのドコへ行くのか聞かされてなかったし、答えようがなかったので
だんまりを決め込んだ。
たまに、ナイアガラや自由の女神をバックに2人がにっこり寄り添った写真が
送られて来るけれど。
手紙の内容は、元気です、程度のコトだったし。
私に迷惑が掛かるからと、やはり住所や詳しいことは一切書かれてはいなかった。
しかし、途切れずにこの手紙が来ているトコを見ると、2人は変わらず幸せに
アメリカのどこかで暮らしてるんだろう。



そして。



梨華ちゃんが終わることを恐れた、長い長いその恋は今もどこかで続いているのだ。
この世界の、どこかで。

735 名前:『梨華ちゃんの恋』 投稿日:2006/07/10(月) 00:41




〜Fin





736 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 00:48
更新待ってました!
リアルタイムでドキドキしながら読みました
737 名前:桜折 投稿日:2006/07/10(月) 00:53

いしよし+しば。
梅雨の時期には次の中編をと思っていたのですが
まだ目処がつかないのでw
先に短編を。



>689様

その後、眠れましたか?w
今回のいしよしも大分紆余曲折ですがwハッピーです。


>690様

実践あるのみ!!w


>691様

光栄ですw
いしよしウォッチャー。なりたいなぁ。


>692様

そりゃーもう、あんなコトやこんなコト(ry
まあ、その辺りは各自脳内補完とゆーことで。
738 名前:桜折 投稿日:2006/07/10(月) 00:54

>693様

コレ以上は作者の腕的にアレなんでw
各自の妄想力でひとつww


>孤独なカウボーイ様

ありがとーございます。
これからもマイペースだと思いますが、お付き合い下さい。


>695様

ありがとーございます。
ホントにマイペース更新ですみませんね。
次は出来るだけ早くがんがりますw

739 名前:桜折 投稿日:2006/07/10(月) 00:56

>736様

早いですねーw
ありがとーございます。
ドキドキして貰えて光栄です。

740 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 06:25
更新おつかれさまです。
本泣きしてしまいました・・やばい・・w
741 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 21:45
すばらしかったです
ありがとうございました
742 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 22:56
ドキドキしらがら読ませていただきました。
柴ちゃん視点がまた二人の気持ちを想像できて良かったです。
743 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/10(月) 23:56
よっすぃー思い切ったなぁ。
二人の幸せを祈ります。
そして桜折さん、とても素敵な話をありがとう。
新作を楽しみに待っています。
744 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/11(火) 00:08
石川さんの瞳、吉澤さんの視線、柴田さんの気持ち
リアルに想像できました
桜折さんの表現力に脱帽(*´Д`)
745 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/11(火) 23:42
感動しました。泣きました。
746 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/22(火) 20:53
柴ちゃん視点っていうのがまたいいですね。
胸が暖かくなる心地良い読後感に包まれました。
また次の作品を楽しみにしています。ありがとうございました。
747 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/29(金) 00:46
そろそろ次が読みたいなぁ
748 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/15(金) 23:44
お待ちしています
749 名前:りみ 投稿日:2006/12/22(金) 15:14
大好きです。いつまでも待ちます。
750 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/22(金) 19:17
>>749
待ってる人多いんだから無闇にageない様にね。
751 名前:りみ 投稿日:2006/12/23(土) 13:18
sage でお願いします。

上げてしまいすみませんでした。
752 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/12/23(土) 21:26
>>751
メール欄にsage
他のスレでも同じ事してるね…。
753 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/08(木) 14:12
作者さまは ホームぺージとかはありますか?
なければ是非作って欲しいです。そして今まで書いた作品を全部
のせて欲しい。何度も読み返したくなる そんな素晴らしい小説
ばかりなので。我が儘言ってごめんなさい。
754 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 21:26
次の作品楽しみにしていますよ♪^^
755 名前:いしよしファン 投稿日:2007/04/19(木) 18:39
本当に作者さんの書くいしよし小説は良いですね。
以前に某企画で書かれた「World ends」が大好きで、毎回
読み返しては泣いています。 ほんとに切ない物語で私の中では
一番大好きないしよし小説です。出来れば続編を書いて欲しいです。
どうしても石川さんに幸せになって欲しいんで。
長文すみません。
756 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/27(水) 20:45

桜折様
   多忙な毎日だと思いますが、せめて、どうか、『なにゆえ、』w
   生存報告をばおたのもうしやす。
                    いちこより。
757 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/22(日) 12:26
>>756さんに便乗して…
作者様
生存報告だけでもお願いします(>д<)
758 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 08:25

作者様
お元気ですか?心から作者様のお帰りをお待ちしております。
759 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/12(月) 08:46
もう新しいのは読めないのかな。
素晴らしい作品達でしたありがとう
760 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/11/13(火) 05:52
桜折様
わたくしも桜折さまのお帰りお待ちしております

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