たかが恋や愛

1 名前:ロテ 投稿日:2004/12/07(火) 00:35
吉絡みカプものです。
拙い話ですがよろしくお願いします。
レスは常時歓迎します。
2 名前:1 投稿日:2004/12/07(火) 00:36

「行かないで」

白いシーツに褐色のきめ細やかな肌がよく映えている。
吉澤ひとみはなだめるようにその素肌にいくつも唇を落とした。肩に指に瞼に髪に。
一番欲しがっているであろう場所をあえて避けたのは自らの本能を抑えるため。
歯止めを利かせなければ約束の時間に間に合わなくなることが目に見えていたからだ。

「すぐ戻るよ」

石川梨華はイヤイヤと首を振りベッドの脇に腰掛けていたひとみのシャツの袖口を引っ張った。
強引に自分のほうに引き寄せ手を胸に誘う。そのまま両腕をひとみの首にまわして唇を突き出した。

3 名前:1 投稿日:2004/12/07(火) 00:36

「ん〜」

ちゅばっちゅっちゅぅ

「ほら、もういいでしょ」

ぶっきらぼうにそう言うと、ひとみは手の甲で口元を拭いベッドサイドの時計を見た。
約束の時間まではもうすぐ。そろそろ出なければ本当に間に合わなくなってしまう。
未だ不満気な表情の梨華は赤い舌を覗かせて上唇と下唇を交互に舐めていた。

「もういいなんて言わないで」

おもむろに立ち上がったかと思うと梨華は真っ直ぐベランダに向かった。
カーテンが勢いよく揺れる。
眩しい光が差し込むことを予想してひとみは目を細めた。

4 名前:1 投稿日:2004/12/07(火) 00:37

「よっすぃのバカ」

鉛色の空はどんよりした厚い雲に覆われていた。光が射す隙間は微塵もない。
昨夜から降り出した雨はいつのまにか霧状になり梨華の褐色の裸体を優しく包んでいた。

「ったくバカはどっちだよ。そんな格好で」

追いかけてひとみは腕を掴んだ。ベランダのコンクリートから冷えた感触が素足に伝わる。
灰色の景色に溶け込んだ梨華の裸体がやけに艶めかしくて思わず息を飲んだ。
そんな相手の変化を敏感に察知した梨華はまた赤い舌を覗かせて潤んだ瞳を逸らさない。
まるで勝ち誇ったかのように。

「ねぇ、来て?」
「雨に濡れた欲情、か…」

湿り気を帯びた体を通してひとみの手にひんやりとした心地よさが伝わっていた。




5 名前:1 投稿日:2004/12/07(火) 00:38

「最初からこうしてればいいのに」
「……」
「結局よっすぃは誘惑に勝てないのよねぇ」
「うっさい。いいから寝てろ」

ベッドの中で憎らしいほど妖艶な笑みを浮かべる梨華の目の前でひとみは手早く服を着た。
完全に遅刻だ。満足そうな表情の彼女に恨みがましい視線を送った。

「ね〜もっとぉ」
「何回もしたじゃん」
「全然足りないもん」
「セックスバカ」
「よっすぃに言われたくありません」
「はいはい」
「私だけだよね?」
「は?何が?」

ひとみは電源が切れっぱなしの携帯をジーンズのポケットに乱暴に突っ込んだ。
靴下の片方が見つからず舌打ちをしながら辺りを見まわしたものの結局諦めて素足になった。

6 名前:1 投稿日:2004/12/07(火) 00:39

「すぐ戻るから」

さっきと同じ台詞を吐いて梨華に背を向けた。
誘惑に勝てないのなら見なければいい。
始めからそうしていればよかったとひとみは少し悔やんだ。
約束の時間はとっくに過ぎている。待ち人の怒った顔が簡単に思い浮かんだ。

「ね、お願い…」

懇願する梨華を置いてひとみは買ったばかりのバイクのキーを握り外に出た。
ドアを閉めるときに背中に聞こえてきた「よっすぃのバカ」は無視して。



7 名前:ロテ 投稿日:2004/12/07(火) 00:41
短いですが更新終了。
この二人以外にもいろんな人が登場予定。
マターリやっていきますのでどうぞよろしく。

8 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/07(火) 11:42
新作おめでとうございます
これからはこちらの作品もチェックしなければ
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/07(火) 21:32
ロテさんの新作だ♪
楽しみにしてますね。
10 名前:ニャァー。 投稿日:2004/12/07(火) 21:48

更新お疲れ様です!!
そして新スレキタ ━━━(゚∨゚)━━━ !!!おめでとうございますw
お話が少し痛めっポイ感じでしたが
すごく内容が興味深くおもしろいですw

>いろんな人が登場予定。
と、の事で…いまからワクワクですv
こちらの方も大変でしょうが頑張って下さいね!!
11 名前:130@緑 投稿日:2004/12/07(火) 22:24
新作始まりましたか。こちらもお疲れ様です。
いきなりのテンポの良さと会話の妙、してやられました。
存在自体が反則な方がいきなり登場して、続きがワクワクでございます。
またひとつ、楽しみな作品が出来て嬉しいです。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/08(水) 15:28
新作だあ〜!
いろんな人が出てくるみたいなので
楽しみに待ってます。
13 名前:たーたん 投稿日:2004/12/11(土) 10:53
更新お疲れ様です。
これまた魅力的なお話で、また私を中毒にしたいんでしょうか・・・
ロテさん最高!吉絡み最高!!ラジオのせいでテンションの高い私です。
次回の更新をまったりお待ちしてます。
14 名前:2 投稿日:2004/12/12(日) 01:02

ひとみが濡れた服を軽く払いながら店内に入ると待ち人は怒った表情を隠さずそこにいた。
灰皿に山ほど溜まった吸殻が時間の経過を物語る。最近また一段と量が増えたようだ。

「ごめん」
「………」
「ごめんって」
「よっちゃんさぁ」

睨みを利かす藤本美貴の視線をひとみは真正面から受けとめた。

意思を持った強烈な視線。
射るような鋭い眼差し。
氷のように冷たい空気を纏った長い沈黙。

ひとみの顔に向かってわざと煙を吐いた美貴はたっぷり間を置いてから口を開いた。

15 名前:2 投稿日:2004/12/12(日) 01:03

「美貴を怒らせたいわけ?」
「いや…」
「連絡もなしに遅れるかな、普通。しかもよりによってこんな日に」

煙草の灰を落としながら眉間に深い皺を寄せた美貴は窓の外に目をやった。
彼女のこういう気の強い部分に惹かれていた時期があったことをひとみは思い出す。
今はもう自分の心からは消え失せてしまった感情がたしかに存在していたあの頃を。

「しかも携帯繋がらないし」
「本当に悪かった」
「本当だよ」
「今までのことも含めて全部、申し訳ないと思っている」
「………」

16 名前:2 投稿日:2004/12/12(日) 01:03

灰皿に煙草を押しつける美貴の指が若干震えていたのをひとみは見ない振りをした。
気の強い半面必要以上に自分を強く見せる彼女の心情を思うと見ることができなかった。
かつてのような想いは消えていても好きであることに変わりはない。
自信のある口調や態度が好きだった。たまに漏らす弱さもまた同様に。

「別れよう。あたしはもう、美貴の傍にはいられない」

翳りを帯びた美貴の瞳が自分を映していないことがひとみは少し寂しかった。
ただ彼女の伏せた睫毛が微かに揺らめいているのがわかっただけ。
感情のわからないその様子に居心地の悪さを感じていた。

「勝手なこと言ってごめんな。今までバカばっかでごめんな」
「勝手だよ……よっちゃん…バカすぎ……」

顔を上げ今度はひとみを真っ直ぐに見据えた美貴の瞳に涙はなかった。
声は掠れ肩を小刻みに上下させてはいたが自分を映す瞳から涙がこぼれていないことにひとみは少なからず驚いた。驚きながらどこかで納得している部分もあった。
美貴は滅多なことでは人前で涙を見せない。泣くことは弱さの象徴だと思っている。
ただこの場合、泣かないことが彼女のプライドなのかそれとも呆れ果てた故なのかはひとみにはわからなかった。

17 名前:2 投稿日:2004/12/12(日) 01:04

「美貴より好きな人なの?」
「………」
「答えてよ。美貴よりもその人のことが好きなの?」
「………」
「美貴には聞く権利、あると思うけどなぁ」

何と返せばいいものかひとみが答えあぐねていると美貴は再び煙草に火を点けた。
軽く手を上げウェイターを呼ぶ。そして水をお替りしてごくごくと飲んだ。
液体が流れ込んでいく細い首に何度もキスをしたことがひとみの脳裏に蘇った。

18 名前:2 投稿日:2004/12/12(日) 01:05

「もう寝た?」
「…寝たよ」

グラスを持ったままチラっとひとみを窺う美貴の視線にはっきりと軽蔑の色が浮かんでいる。
その視線を振り払うようにひとみは彼女の手から煙草を奪い取った。
口に咥え煙をたっぷりと肺に送り込む。そしてやんわりとした口調で話し出した。

「寝たとか寝ないとかさぁ、そんなこと聞いてどうすんの?意味ないじゃん」
「なによ、その言い方。なんでよっちゃんが先にキレるのよ」
「キレてねえよ」
「キレてるじゃん」
「キレてないって!」
「よっちゃんがムキになるときはキレてる証拠だよ」
「美貴がどうでもいいこと聞くからだろっ」

思わず語気を強めた自分の声にひとみははっとした。
その拍子に煙草の灰がテーブルの上に白く舞う。

19 名前:2 投稿日:2004/12/12(日) 01:05

「どうでもいいわけないでしょっ」

ひとみの手から煙草を奪い返した美貴はテーブルの上に拳を投げ出し声を荒げた
勢いよく舞った白い灰が水の入ったグラスに降りかかった。
そして感情が沸点に達する直前に彼女は堪えるように下唇を噛んだ。

「どうでもいいわけ…ないじゃん…バカ…バカ…」
「……ごめん」

ひとみはどうしようもなく居た堪れない気持ちでいた。
早く帰りたい。別れ話なんて楽しいものじゃない。
早く終わらせたい。この時間も美貴とのことも。

20 名前:2 投稿日:2004/12/12(日) 01:06

「とにかく、あたしが悪かったんだから友達に戻ろうなんて言わないよ」
「美貴だってまっぴら」
「そりゃそうだよな」
「勘違いしないで」
「えっ?」

席を立ち伝票を掴んだ美貴はひとみを見下ろしながらはっきりとした口調で言った。

「別れるなんて、美貴は納得してないから」
「美貴?」
「……さない」
「え?」
「許さないから」

皮肉なことに、そう言い放った美貴の顔はひとみが今まで見た中で一番綺麗だった。
クシャクシャに丸めた伝票を投げつけて去り行く姿に見惚れていることに気づいてひとみは軽く咳払いをした。そしてゆらゆらと煙草の灰が揺らめくグラスを強く握りしめる。

残していった捨て台詞と、決して涙を見せなかった美貴の顔が心にいつまでも残っていた。





21 名前:ロテ 投稿日:2004/12/12(日) 01:07
更新終了
ちょっと短かったなぁ
次回は早めに
22 名前:ロテ 投稿日:2004/12/12(日) 01:07
レス返しを。

8>名無飼育さん
レスありがとうございます。
他板も読んでいただいているようで重ねてありがとう。
今後もよろしくです。

9>名無飼育さん
レスありがとうございます。
新作も旧作(?)も同様に頑張りますのでよろしくです。
期待を裏切らないようにしたいな〜(ニガワラ

10>ニャァー。さん
こちらまで出向いていただいて感謝しまくり。
本当にいつもレスありがとうございます。
読む人によっては痛く感じるかもしれませんが
それでも読んでいただければ嬉しいです。
ちなみに作者は痛めもけっこう好きだったりしますw

23 名前:ロテ 投稿日:2004/12/12(日) 01:08
11>130@緑さん
あっちもこっちもいつも温かいレスをいただいて
感謝の極みです。本当に嬉しいです。
ある意味ルール違反なあの人の登場の次はこれまた(ry
なにげ三人称が崩壊気味のこの小説ですがお付き合いくださいw

12>名無飼育さん
レスありがとうございます。
作者の中では温めすぎて新作という感じがしないのですが(ニガワラ
そしていろんな人といっても作者の中では定番なあの人たち(ニガワラ
期待に応えられるよう頑張ります。

13>たーたんさん
いえいえ中毒性があるのはきっと吉絡みだからでしょうw
とはいえ嬉しいレスに励まされテンションも高まります。
ちゃみよしは自分も萌え死ぬかと思いました。
あのラジオがもう少し早い時期だったらこの話の展開に
かなり影響を与えたことは間違いないでしょう。
というか普通にいしよしが書きたくなりましたw
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 02:55
おっ美貴様登場だ〜ww
この3人での三角関係モノはありそうであんまないので
楽しみです、ドロドロな3人がみたry
25 名前:名無し読者 投稿日:2004/12/12(日) 09:50
ス、スゲー!!!おもろそう!!
更新楽しみにしてやす!!
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/12(日) 13:16
ひょえーこれからどうなるやら
怖いけど読みたい
どんな風に話しが展開していくのか楽しみ
27 名前:ニャァー。 投稿日:2004/12/12(日) 18:41

更新お疲れ様です!!
きましたね〜あのお方様がぁ!w
も〜ロテさんが書く美貴様にもメロメロですw
私も痛めのお話も好きですよv吉が絡むととくにですがw
次回も更新頑張って下さい!!
28 名前:たーたん 投稿日:2004/12/13(月) 11:20
ウワッ!こういうの大好きです。どうなるんでしょうか〜?
ますます先が楽しみですよ!
ロテさんの普通のいしよし読みたいです。
是非、次はお願いしたいです。

あっちもこっちも私のハートを鷲づかみ!
次回の更新もまったり楽しみにお待ちしてます。
29 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:13

携帯の充電器を取りにひとみが自宅に帰るやいなや同居人は怒った表情で出迎えた。
何日かぶりに会う松浦亜弥はその感情とは裏腹にいつもと変わらない愛らしい顔をしている。

両親の離婚により姓が違ってもひとみと亜弥はれっきとした姉妹である。
幼い頃から互いの性格はよく熟知している。
そんな亜弥が相手だからこそひとみは思っていた。
今日だけは軽くあしらうことはできなそうだと。

「今までどこに居たの?」
「大学の近くの喫茶店」

玄関先で仁王立ちになっている亜弥の脇を通り抜けて、ひとみはしばらくぶりの自室に向かった。

30 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:14

「そうじゃなくて。この1週間どこに居たのかって聞いてんの」
「オマエの先輩のとこだよ」
「先輩?…って、まさか石川先輩じゃないよね?」
「その石川先輩だよ」

雑誌や洋服――ほとんどが亜弥のものである――で溢れ返ったゴミゴミした部屋を見てひとみはがっくりと肩を落とした。首をぐりんと回し後を追いかけてきた亜弥を見やる。

「オマエなぁ、何で人の部屋をこんなに散らかすんだよ。掃除くらいしろ」
「い、いつから石川先輩とそんなことになったの?!みきたんは?」
「梨華には美貴とのこと言ってないから…わかるよな?」
「それって口止め?」

相手の問いには答えずひとみはいつもベッドサイドに置いている充電器を探した。
しかしあるはずの場所にそれはない。
枕をひっくり返したりシーツをひっぺがしたりしたがどこにもない。
念のため毛布の中も探したが見当たらなかった。

31 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:14

「なぁ、携帯の充電器どこやった?」
「私の部屋。それよりまさかみきたんと別れたの?お姉ちゃん」
「なんでオマエの部屋なんだよ。別れたよ。向こうは納得してないみたいだったけど」
「だって私のやつ壊れちゃったんだもん。そんな、納得なんてできるはずないじゃん」
「オマっ、オマエな〜壊れたなら買えよ。ヒトのもん勝手に使うな」
「お姉ちゃんのケチ」

溜息をついたひとみは自室を出てキッチンに向かった。
冷蔵庫を開け、喉の渇きを潤してから少し空腹なことに気づいた。
目についたクッキーの袋に手を延ばすと横から小さな手に奪われる。

「一体どういうことなのかちゃんと説明して」
「なぁ、亜弥」
「なあに?」
「いい加減さ、姉離れしろって」

32 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:15

クッキーの袋を取り返すとひとみはこげ茶色の小さな固体を口に放り込んだ。
甘ったるい匂いが鼻腔をくすぐりあっという間に口の中の水分が全部吸い取られた。

「あっまぁ〜」
「嫌なら食べなきゃいいでしょ。それに姉離れなんてとっくにできてるもんっ」
「姉離れしてる奴が姉の部屋に入り浸るかよ。おまけに汚すし」
「むぅ〜、お姉ちゃんのアホ」

舌を出して拗ねた表情をする妹を見て再びひとみは溜息をついた。
そしてソファーに座りかけて本来の目的である充電器のことを思い出す。

「いっけね。忘れてた」
「ねぇ〜。お姉ちゃ〜ん。ちゃんと聞かせてよ〜」

リビングを出たひとみは亜弥の部屋に向かった。

33 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:16

「うっさい。ついてくんな」
「ひどぉー。ここあたしの部屋だもん。ついてくもん」
「充電器返せよ」
「あっ、ダメダメダメェ!それなかったら私困る」

困ってるのはこっちだと言おうとしてひとみはあることを思いついた。
冷静に考えればそれは非常に浅はかな、自分本位な思いつきだった。

「亜弥」
「うん?」
「オマエ、美貴の親友だよな?」
「そうだよぉ」
「あのさ、ちょっとアイツ頭に血が昇ってるみたいだからフォローよろしく頼むわ」
「なっ…なにそれ、む、無理無理無理無理」

連呼した後に亜弥はベッドに腰掛け、目の前に立つ姉を見ながらクッキーを頬張った。
食べかすが膝の上や絨毯、ベッドの上にぽろぽろと落ちる。

34 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:16

「あーあ。ちゃんと食えよ。オマエはいつまでたってもそんな食い方だな」
「うるさいなぁ。ていうか無理だから。みきたんが本気になったら止められないもん」
「こえーこと言うなよ」
「本気で怒らせたの?」
「さあ」
「とにかく本気だったら無理。私にも…たぶんごっちんにも」
「本気にもいろいろあるだろ」

絨毯に零れたクッキーの食べかすを丁寧にひとつひとつ拾いながらひとみは亜弥の顔をちらと見た。

「どういう意味?」
「テキトーに言っただけ。それよかついてる」

怪訝な顔をしながらも亜弥はクッキーを食べる手を止めない。
ひとみはティッシュを一枚取り亜弥の口許に押しつけた。

35 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:17

「でもみきたんの気持ち考えると怒られたって仕方ないよ、お姉ちゃん。…みきたん、あんなだけどみきたんなりにお姉ちゃんのこと愛してたと思う。私にははっきり言ったことないけどお姉ちゃんといるときのみきたんはすごく幸せそうな顔してたもん。なのに…ひどいよ、お姉ちゃん」
「………」
「どうして?お姉ちゃんだってみきたんのこと好きだったんでしょ?なのにどうして?」
「………」
「そんなに石川先輩がいいの?なんでそう簡単に好きじゃなくなるの?」

言われるほど簡単ではなかった。
簡単に想いを断ち切れていたらいくらかは楽だっただろうとひとみは思う。
自分なりに悩んで出した結論だ。悔いはない。
ただ亜弥の言葉のひとつひとつがやけに心に突き刺さる。
責める妹の顔を正面から見ることができない。

36 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:18

「…無理でもなんでもフォローしてくれよ。充電器あげるから」

コンセントから抜いてすでにくるくる丸めてしまった充電器をポンッと亜弥の膝の上に投げてひとみは部屋を出た。
後ろから「あー」とか「うー」とか唸ってる声が聞こえる。

「やるだけやって、それでも無理だったらいいから」

やっぱり後をついてきた亜弥の頭に手を置いてひとみは軽くその柔らかい髪を梳いた。

「お姉ちゃんのバカ」

なんとなく俯いた亜弥は憎まれ口を叩くと立ち尽くし、しばらくの間されるがままになっていた。



37 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:18

今度こそソファーに深く沈んでメールをしようと思い立ったひとみはポケットの携帯を取り出した。
キーをカチャカチャいじってから電源が切れていたことを思い出して自分のバカさ加減に苦笑する。
何のためにここに来たんだか。立ち尽くしたままの亜弥に目を向けた。
その手の中から充電器を奪い返しソファーの横のコンセントに乱暴に突っ込んだ。
梨華に遅れる旨だけメールして少し迷った挙句また電源を切った。

ひとみがコーヒーを淹れてソファーに戻るとすかさず亜弥が隣に座ってきた。
これで姉離れしていると声高に宣言するのだから呆れてしまう。
と同時にひとみは姉として心配にもなっていた。
いつも自分にべったりと纏わりつき甘えてくる亜弥。
大学進学と同時に誰の了解も得ず、姉の住むマンションにこの春転がり込んできた。

そんな妹が鬱陶しく思うときもあるが無邪気に慕ってくる顔を見ると可愛くもある。
ひとみは隣に座って腕を絡めてくる妹の顔を覗き込んだ。

38 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:19

「亜弥」
「うん?」
「オマエって処女?」
「…っっ!!」
「やっぱ処女か」
「サイッッッッッテー!!お姉ちゃんのバカ!エッチ!アホ!それからえっと、えっとぉ」
「初めてのときはちゃんと言えよ?お姉ちゃんがアドバイスしてやるから」
「むぅ〜この変態ヒーチャン!!バカバカっ!だーいっきらい!!!」

顔を真っ赤にして慌てふためく亜弥を見ながらひとみは薄く笑った。
妹をからかうという姉の特権を存分に楽しんでいるとお返しとばかりに亜弥が先ほどの話を蒸し返した。

「お・ね・え・ちゃ・ん?石川先輩とどうしてそうなったの?まだ聞いてないよ」
「なんでオマエにそんなこと言わなきゃならないんだよ」
「だって状況を正確に把握しておかないとフォローなんてできないし」

39 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:19

この調子で芸能記者よろしく根掘り葉掘り聞かれたら洗いざらい喋ってしまいそうになる。
そうしたらたぶんきっと自分は妹に幻滅されるだろう。
そう思いながらひとみは自嘲気味に唇の端を歪めコーヒーを啜った。

「バーカ。べつにそんな深く考えなくてもいいんだよ。ただちょっと美貴を…」
「みきたんを?」
「ん、いや…いい」

言いかけてひとみはふと考える。
自分は一体何をどうフォローしてほしいのだろうか。
別れてもいい顔していたいなんて思っていない。ましてや恨むなとも言えない。
ただ先ほどの捨て台詞がやたらと耳についてひとみの胸のあたりにざわざわした気持ち悪さを残しているのは事実だ。それほどにインパクトのある言葉だった。

40 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:20

「許さないから」
「へっ?」
「美貴に言われた。許さないって」
「……ふーん」
「ま、べつに許してほしいとは思ってないけどな」

脱力したようにずるずるとソファーから落ちた亜弥が大げさに頭を振り溜息をついた。
フローリングの床にペタンと座り込みひとみの右足にもたれかかる。

「あんだよ」
「お姉ちゃん、しばらく誰とも付き合わないほうがいいんじゃない?」
「はぁぁ?オマエ、何言ってんの?」
「頭冷やしたほうがいいよ。やっぱりどうかしてる」
「オマエにそんなこと言われるようじゃ、あたしもオシマイだぁ」

茶化された亜弥は真面目に聞けとばかりに顎をのせていたひとみの膝を噛んだ。

41 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:21

「イテッ。凶暴女」
「お姉ちゃんの妹だもん。…みきたんと別れる前から石川先輩と、その、そういう関係だったの?」
「…ま、少しかぶったのは反省してる」
「みきたんの気持ち、わからなくもないなぁ」

そのときの亜弥がどういう顔をしていたのかひとみにはわからなかった。
ただ膝に小さな頭を預けてくる妹の体温を感じながらなんとなく想像を巡らしていた。
ひとみの頭の中に浮かんだ亜弥はなんとも言えない寂しげな表情だった。

「結局どういうフォローをしてほしいの?」

右足にしがみつくような格好のまま亜弥はひとみに尋ねた。

「もういいや。その話は」

無理やり話を打ち切ったひとみに亜弥は何も言わず、姉の色褪せたジーンズの裾を弄ぶ。
折ったり引っ張ったり、丸めて伸びしてみたり。
そんな亜弥の様子が言いたいことがわからずに迷っているように見えて、ひとみはくすぐったくて堪らなかったがそのままにさせておいた。

42 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:21

「要するに私は親友としてやるべきことをすればいいんだよね」
「やるべきこと?」
「うーん…だから励ましたり、一緒に悲しみに浸ったり、諦めるなって応援したり?」
「最後のはやめてくれ」
「冗談だよ」

コーヒーを飲み終えたひとみは時計を一瞥して充電器から携帯を引き抜いた。
無造作に尻のポケットに突っ込み、くしゃくしゃにされたジーンズの裾を伸ばす。

「私、もちろんみきたんの親友だけどお姉ちゃんのことも好きだから」
「わかってる」
「だから…えっと、だからね、二人とも大好きで…あの、その、それで私」
「……」
「私どうしたら…」

43 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:22

ひとみには亜弥の言いたいことはなんとなく察しがついていた。
立ち上がったひとみの腕を掴んだ亜弥の手に力がこもる。
そのまま数秒間ひとみは亜弥のいつになく真剣な目つきに囚われていた。
責められているような気がして視線を逸らしたくてたまらない。でもできない。
心の内を覗かれているような気分になり、ひとみは思わず目を瞑った。

だがそれはひとみの中にある罪悪感が見せる幻だったのかもしれない。

「みきたんとは本当に、もうダメなの?」

突然の亜弥の問いかけにひとみは即答できずただ無言で頷いた。
強張っていた顔をなんとか造り変えひとみは亜弥に嘘くさい笑顔を向ける。

44 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:23

『美貴とはもう終わった』とあらためて声に出すことにひとみは抵抗を感じてはいなかった。
しかし自分たちの経緯をずっと見てきた亜弥に対してそれをすることにひとみは躊躇いを感じる。
美貴に対して心が残っているわけではない。ただ申し訳ない気持ちと、『やっぱり』という焦燥感があるだけだ。美貴とも『やっぱり』長くは続かなかった。本気ではなかったのかもしれない。

そういうひとみの心中を亜弥が知ればやはり悲しむだろう。
妹のそんな顔を見たくないという姉心がひとみを躊躇わせていた。

ひとみの笑顔に一瞬怪訝な顔をした亜弥も何かを悟ったのか笑顔を返した。
そして玄関に向かう姉の後を無言で追いかけた。

45 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:23

「お姉ちゃん、ちゃんと帰ってきてよ?私すごく寂しいんだから」
「ん、悪い。今度からちゃんと帰るようにする」

靴を履きながらひとみは答えた。

「石川先輩のところ?」
「ん」
「そう…」
「なぁ、亜弥」

ひとみは小さい頃からよくやるように亜弥の頭をクシャと撫でた。
そして先ほど亜弥が本当に言いたかっただろうことの答えを投げかけた。

46 名前:3 投稿日:2004/12/17(金) 01:24

「オマエは美貴の味方をしてやれ。親友なんだろ?」
「お姉ちゃん……」
「大丈夫。あたしには梨華がいるし。それに美貴のことだって全然わかってないわけじゃないんだから。友達としては長い付き合いだしな」

俯いたままの亜弥をその場に残しひとみはドアを開けて半身を外に出した。
そして頭だけ振り返り少し大きめの声で妹の名前を呼んだ。

「あたしの部屋、あれ以上汚すなよ?」

弾かれたように顔を上げた亜弥にそう言うとひとみはドアを閉めた。
美貴が残していったあの言葉に比べたらなんとも情けない捨て台詞だと思いながら。
亜弥にしがみつかれていた右足が少しだけだるかった。





47 名前:ロテ 投稿日:2004/12/17(金) 01:25
更新終了
48 名前:ロテ 投稿日:2004/12/17(金) 01:25
レス返しを。

24>名無飼育さん
レスありがとうございます。美貴様の次はあの人が登場w
正三角形ではなくいびつな形になりそうですが…
ドロドロのさじ加減を調節できる力量が欲しいところです(切実

25>名無し読者さん
レスありがとうございます。
あまり期待しないほうが良いかと思われ(ry
褒められると次の更新分を何度も直しては
結局元に戻すような作者ですからw(自虐

26>名無飼育さん
レスありがとうございます。
一応ラストは薄っすらぼんやりとそれとなく頭の中に
あるのですが修正しまくる予感特大w
広げた展開をうまく消化する技量が欲しいところです(本気

27>ニャァー。さん
レスありがとうございます。
やはり美貴様は出さずにはいられませんw
今後痛くなるのは展開に詰まった作者であることは
間違いないような気がしてます(弱気

28>たーたんさん
レスありがとうございます。ホントどうなるんでしょうか(ニヤニヤ
いしよしは諸先輩方のを読んで満足してしまった自分がいたりw
やっぱり皆さんが書くいしよしのが自分のより断然萌え〜ですね。
緑のほうで書けたらいいなとちょこっと思ってます。
49 名前:ロテ 投稿日:2004/12/17(金) 01:27
諸事情により今回で年内の更新はラストとさせていただきます。
少し早いですが皆さんよいお年を。そして来年もよろ。
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/17(金) 01:49
おもしろい。
期待してます
51 名前:たーたん 投稿日:2004/12/17(金) 09:14
更新お疲れ様です。
あの人も出ちゃいましたか。
全員、好きなんで更に期待しちゃいますよ。
今年最後になっちゃうんですか・・・
残念ですが待ちます。
こちらこそ、来年もよろ。
52 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2004/12/17(金) 10:35
続きが気になりますね
先が読みたいけど、来年までガマンガマン
53 名前:ニャァー。 投稿日:2004/12/17(金) 17:12

更新お疲れ様です!!
あぁーー!!w出てきましたねっ!あの人もw
あの人も大好きなんでwナイスな役柄で
ニヤニヤしてしまいます…w

今年色々と大量の更新お疲れ様でした!!!
それではロテさん〜よぃお年を〜v
来年もヨロシクお願いします!!
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/17(金) 20:22
良いお年を、作者様。
と言ってもおそかりしw
お〜、ついにこの方が出てきましたね。
楽しみにしてますよ。
55 名前:130@緑 投稿日:2004/12/18(土) 12:39
年内ラストの更新、お疲れ様です。
これはまた意外なところで意外な人が登場ですね。(緑の短編最高です)
相変わらずのキレとテンポの良さが心地良いです。
人物相関図がすごいことになりそうですが、この人が主役だと何か憎めない
と言うか何と言うか・・・
しばらくごゆっくりお休み下さいませ。また次回更新でドキドキするのを楽しみにしています。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/18(土) 16:46
来年まで待ちきれん
57 名前:ドラ焼き 投稿日:2004/12/21(火) 17:58
自分は一気読み(?)が好きなので今まで耐えてたのですか我慢できずに
来てしまいました・・・いいじゃないですか・・・いいじゃないですかぁ!!
すっかりはまってしまいました(>_<)
かの友(勝手に略しました)とは全然違って、でもそこがまたいいですね。
作者さんとこの登場人物は自分の好きな人ばかりなので入り込んでしまいます。
何かようわからん事ダラダラ書いてしまいましたが、
来年も楽しませてください☆
58 名前:wool 投稿日:2005/01/05(水) 01:54
あけおめー、そしてこちらでは初めましてー。
今年も憑いて逝かせて下さい(w

密かにあやよし姉妹設定がグッジョブ!!と思いましたー(w
登場人物も大好きな人ばかりなので、これからも注目しています。頑張って下さいー。
59 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/10(月) 15:52
すごく面白い!!
一気に読まさせて頂きました。
続きが気になります、更新待ってます。
60 名前:名無し@成人 投稿日:2005/01/11(火) 22:44
更新まだかなー。
すごく楽しみです!
61 名前:4 投稿日:2005/01/12(水) 23:41

ひとみが戻ると不機嫌面の梨華が亜弥と同様に玄関で仁王立ちをしていた。

「まさかずっとここにいたの?」
「鍵を開ける音が聞こえて、ベッドから走ってきたの」

答える梨華の肩がやや上下している。
よっぽど慌てたのだろうとひとみはおかしくなった。

「だからってさぁ、ちょっとはなんか着ろよ」

靴を脱ぐ間も与えず梨華がひとみに唇を押しつけた。
ひとみもそれに応え梨華の素肌の背中を両手で撫でる。
互いに口腔内を味わいピチャピチャと音をさせながら唇を舐めまわす。
ひとみの中の熱が高まってきたところでふいに梨華の唇が離れた。白い糸が一瞬で消える。

「梨華?」
「………」
「コラコラ。その気にさせといてお預けはないでしょう?」
「…女の匂いがする」
「そりゃそうだろ。あたし女だし」
「よっすぃとは違う匂い」

62 名前:4 投稿日:2005/01/12(水) 23:41

梨華にそう言われひとみは思わず腕の辺りの匂いをクンクン嗅いだ。
微かに甘い香りがした気がするがそれが何かと問われてもわからない。
美貴か?亜弥か?それともクッキーか?
どんなに鼻の利く犬だってこの匂いの原因を突きとめるのは難しい気がする。
と、そこまで考えてひとみは梨華の本当の思惑について頭を巡らせた。

「誰と会ってたの?」
「亜弥だよ。金せびられた」

カマをかけたのだろうかと思いひとみは半分嘘をついた。
もっとも始めから正直に言う気はさらさらなかったが。

亜弥を介して梨華と知り合った頃、まだ普通の友人だった頃にはひとみは思ってもみなかったが梨華はかなり嫉妬深い。ちょっとしたことですぐにひとみを疑い、束縛したがる。そして疑り深いわりに考えは浅い。

ひとみの影にある美貴の存在を結局は見抜けなかったのだから。

「亜弥ちゃんならここに呼べばよかったのに。私も会いたかったなー」

63 名前:4 投稿日:2005/01/12(水) 23:42

そういう梨華のどこか抜けているところを思い出して先ほどの可能性を否定する。
きっととくに考えもなしに言ってみただけなのだろうとひとみはゆるゆると目の前の胸を撫でる。

「あんっ」
「どっか行くとこがあるって言うからさ。まったく姉遣いが荒いよな、アイツ」

すぐに固くなる乳首を親指と人差し指で抓みながらひとみは梨華の反応を楽しむ。

「ひゃんっ。あ、亜弥ちゃんって…もしかして、やぁんっ、私たちのこと、賛成してないの?」
「まさか」

深く考えてないわりに口に出す言葉が時々妙に鋭いところを突いているから梨華は侮れない。
ひとみは自分の口から出る真実ではない言葉たちがやけにもっともらしく聞こえ、嘘をついているという意識が薄れる。自分に都合のいいことが真実なのだと思えるほどに。

それに、本当のことなんて言えるわけがない。
ひとみが知る限り亜弥と梨華の関係は良好だ。良好なはずだった。
妹のこと、もちろん梨華のことも考えればやはり嘘をつくべきだと判断した。

「亜弥はそんなこと思ってないよ」
「そ、う?」

きっと亜弥はもう以前と同じように梨華に接することはしないだろう。
あからさまに避けるようなことはしないが積極的に関わることを拒絶するだろう。
そうして姉と梨華との関係をさもなかったことのようにして振舞う。きっとそうする。

64 名前:4 投稿日:2005/01/12(水) 23:43

なかったことにしてしまう現実逃避のようなその亜弥のやり方はひとみとよく似ていた。
過去の恋人たちとのことをなかったことにしてしまうひとみのやり方に。
変なところで姉妹なのだと実感させられる。

亜弥の硬化した態度は梨華を不審に思わせるかもしれない。
その理由を巡らせていずれは美貴のことに辿りつくかもしれない。
梨華が気づかなければいいと思う反面ひとみはそれならそれで構わないとも思っていた。

ただ自分の口からは言いたくなかった。

いたずらに梨華を不安にさせたくないというよりは面倒なことにしたくないという思いのが強い。
ただでさえ美貴とすんなり別れたとは言えないのにこれ以上の揉め事は御免だった。
何も考えずに体を重ねあっていられれば、それでよかった。

ひとみは梨華の胸をゆるゆると揉んでいた腕を下降させ腰のくびれをゆっくりと撫でた。

「そっか。よかった」

ひとみの首に手をまわして、梨華はタンクトップから覗く白い鎖骨に唇を寄せた。
鼻先をくすぐる梨華の髪がうっとりとした甘い香りを放つ。

65 名前:4 投稿日:2005/01/12(水) 23:44

「寒くないの?」
「よっすぃにあっためてほしい」

ひとみは裸のままの梨華を強く抱きしめた。
冷えきった柔らかい肌の感触。それでいて声とともに漏れる熱っぽい吐息。
むせかえるような甘い匂いに眩暈がしそうになる。
くらくらとした頭でふと視線を上げると壁にかかった鏡の中の自分と目が合った。
こちらをじっと見ている自分がひどく小さく感じてひとみは慌てて目を固く瞑った。

ひとみが再び目を開けるとエロチックな微笑みを浮かべて誘うように首を傾げる梨華がいた。
堪らなくなり唾液で濡れてつやつやした唇にしゃぶりつく。舐める。吸う。唾液を流し込む。
梨華の後ろ髪を軽く引っ張り上を向かせ、ひとみは突き出される首筋に歯をたてた。

「あぁぁ…はぁんっっ」

二人が体を重ねるようになってからまだ日は浅かったが、どこをどう攻めれば梨華が反応するかひとみはすでに手に取るようにわかっていた。梨華の感度の良さも絶頂に到達するタイミングもすべて。

ここ、というタイミングをわざとずらして懇願する梨華を見るのがひとみは好きだ。焦らして焦らしてこれ以上はもう限界というところまで梨華を追い詰める。そうしてイッたときの顔が好きだから。梨華もまたそうしてほしいと心のうちで願っていることがわかるから。

ひとみはどうしようもなく梨華に溺れ、そして嵌っていることを自覚している。
心の入る隙間など許さず、ただ体を欲しているだけなのかもしれないということも。

66 名前:4 投稿日:2005/01/12(水) 23:44

「もっと咬んでほしいでしょ?梨華」
「あぁんっ、うん、イイよ…すごくっ、ひゃんっ」

ひとみが褐色の肌に幾つもの咬み痕を作った。深く、浅く。
薄っすらと血が滲む首筋から徐々にスライドさせ胸の先端に行き着く。
ひと舐め、ふた舐めしてそしてまた強めに歯をたてた。

「あぁぁぁぁぁぁぁーっ」

咬みながら柔らかい、それでいて張りのある乳房を揉みしだき両手でこねくりまわす。
膝をガクガク震わせて立っているのがやっとの梨華の尻を片手で撫でまわし、後ろからじりじりと股の間に滑り込ませた。

すっかり濡れきっているであろうそこには、でもまだ触れない。

「んっ…よ…よっすぃ…早くぅ。もうダメ…立って、られな…」

梨華の目尻に溜まった液体を舐めながらひとみは自分がまだ靴も脱いでないことに気づいた。
このまま玄関先でするのも興奮するが梨華を支える腕もだるい。
数秒考えた後に梨華から片手を離した。
そしてフラリとよろめく梨華の耳元で囁く。



「ここで、四つん這いになって」





67 名前:ロテ 投稿日:2005/01/12(水) 23:46
更新終了。以下自粛。今回はサゲたまま。
次回は場面変わりますのであしからず。
68 名前:ロテ 投稿日:2005/01/12(水) 23:49
レス返しを。(簡単ですみません)

遅ればせながらあけおめ。ことよろ。なかなかエンジンのかかりが悪いのですがマイペースに頑張ります。

50>名無飼育さん
ありがとうございます。マターリやっていきます。

51>たーたんさん
あっちもこっちもありがとうございます。ええ、出しちゃいました。自分もけっこう好きなんで。

52>名無し募集中。。。さん
ありがとうございます。続きは…けっこう迷ってます。

53>ニャァー。さん
いつもありがとうございます。ええ、出てきました。この配役は自分でも気に入ってます。

54>名無飼育さん
ありがとうございます。今後も楽しみしてもらえるよう頑張ります。
69 名前:ロテ 投稿日:2005/01/12(水) 23:49
続きー。

55>130@緑さん
いつもありがとうございます。自分にしては意外な配役かもしれません。書きやすいことも意外でした。

56>名無飼育さん
レスありがとうございます。お待たせしてしまいました。

57>ドラ焼きさん
あっちもこっちもありがとうございます。自分も一気読みを好みます。略いいですね。もらいました。カノトモ。

58>woolさん
あっちもこっちもありがとうございます。憑いてきてもらえるよう頑張ります。

59>通りすがりの者さん
ありがとうございます。お待たせしました。

60>名無し@成人さん
ありがとうございます。お待たせしました。成人オメです。
70 名前:たーたん 投稿日:2005/01/13(木) 15:43
ウワ・・・アワワ・・・
なんて事でしょう・・・
ロテエロワールド炸裂ですね・・・
ふぅ・・・
お子様の私には刺激が強過ぎです・・・w
またの更新楽しみにお待ちしてますね〜
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/14(金) 00:54
いしよしには独特のエロさがある。
ミキティがどう絡んでくるのか
楽しみです。
72 名前:ラヴ梨〜 投稿日:2005/01/14(金) 12:33
久々の魅惑ないしよしに出会えてハッピーです。
作者さんが本気をだしたらきっとすごいんだろうなと…最後のセリフでドキドキしたので。
ついつい期待しつつ見守らせてください。
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/14(金) 21:53
ミキティ待ち
74 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/16(日) 16:33
すごいことに・・・
この中にミキティが入るとなるとまたすごいことに・・
更新待ってます。
75 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/16(日) 21:32

更新お疲れ様です!!
ドキドキしますねw
少しエロテックな石川さんや〜v
あやしくかっこいい吉澤さんが素敵すぎて!!!w
こちらも大変でしょうが頑張って下さいねv
次回も更新待ってます!v
76 名前:四ん這いになったその後…(゚∀゚)ハァン 投稿日:2005/01/21(金) 15:41
先の展開が読めず、気になって気になって気になって…
待ちどほしひ…

早く、早く、もっともっとオイラに梨華たんの激エロ妄想をさせてください…!!
よっちゃん、キミはそこいらの男よりカッケーぞ!!!
77 名前:ドラ焼き 投稿日:2005/01/22(土) 13:54
カノトモ使っちゃってください(笑)
こっちはまたすごい展開になってますねえ。
もうドロドロまっしぐらでお願いします(笑)
78 名前:5 投稿日:2005/01/22(土) 22:17

後藤真希がその後ろ姿を見かけたとき友人だとはすぐに気づけなかった。


学食のおばさんと他愛のない雑談をしているときに目に入ってきた人物。
自分のいる位置から少し離れた場所で所在無さ気にウロウロしている。
どこか寂しげな横顔。そのくせ着ている物は派手でやけに気合が入っている。
ミニスカートから伸びたすらっとした長い足は相変わらず綺麗だったが足取りが覚束ない。
酔っているのだろうかと一瞬考えた真希は即座にその考えを否定した。
真っ昼間の大学に酒を飲んで来るはずがない。ましてや彼女は下戸だ。

フラフラと学食内を彷徨っている友人を見ながら真希は携帯を取り出した。

「もしもーし。ミキティ?何やってんのそんなとこで」
「ごっちんか。そんなとこって美貴がどこにいるのかわかるの?」
「うん、だって見えてるもん。あたし今定食のとこに並んでるの。お昼食べた?」
「あ、ホントだ」

こちらを振り返った美貴に真希は軽く手招きした。
体調が悪いのだろうかと思うほど美貴の顔色は悪く目つきはそれ以上に悪かった。
あれじゃ誰も近づかないなと真希は苦笑する。

「ごっちん、亜弥ちゃん見なかった?」
「まっつー?今日はまだ見てないよ。待ち合わせ?」
「お昼に学食で会う約束してるんだけど…」
「携帯は?」
「留守電だった」

真希の並んでいる列に向かって歩きながら美貴は辺りを見まわしていた。
心なしかその表情が怒っているときのものに見え真希は眉をひそめた。

79 名前:5 投稿日:2005/01/22(土) 22:17

「ミキティもなんか食べる?」
「ううん、いらない」
「じゃ中庭の席取っといてよ。今あたし焼魚待ってるからさ」
「…あー、うん」
「じゃあよろしくー」

歯切れの悪い返事を無視して真希は至って普通に電話を切った。
友人の機嫌の悪さはどうやら相当のものだ。長い付き合いなので少し話せばそれくらいわかる。
その理由については知る由もなかったが、自分が原因ではなさそうなので少し安心した。

順番を待ちながら誰が(或いは何が)美貴の機嫌を損ねたのか真希は考えていた。
おそらくは美貴にとって一番近しい人物であるひとみだろう。
しかし先ほどの電話の口調では亜弥に対して何かを含んでいるようにも感じられ、一概にひとみだと決めつけるわけにはいかないようだ。

ただ単に鬱陶しいナンパに遭ったとか、夏休みが明けて間もないこの時期特有の苛立ちだとか、本当に体調が悪いとかいう可能性も捨てきれないが。

あれこれ考えていても始まらない。聞けば済むことだと思い直し真希はそこで思考をストップさせた。
美貴が何に対して怒っているにせよ自分に火の粉がかかることはないだろう。
このときの真希はまだそう思っていた。

80 名前:5 投稿日:2005/01/22(土) 22:18

美貴のことを一時棚上げにして目の前に迫った昼食に思いを馳せていると真希の携帯が震えた。
着信画面上の名前を見て「おっ」と声をあげた。

「もしもし」
「ごっちん、そこにみきたんいる?あ、いま大学?」
「そう。学食。ミキティなら中庭でまっつーのこと待ってるよ」
「そっか。ありがと」
「携帯にかけなかったの?」
「繋がらなくて」
「あっれー?ま、いいや。まっつー今どこ?」
「駅。そっちに向かってるとこ」
「そっか、じゃ後でね」
「うん。後で」

亜弥と話している間に真希が並んでいる列はだいぶ先に進んでいた。
焼魚のいい匂いが漂ってきて真希はくんくんと鼻を動かした。
匂いに刺激されて空腹感がよりいっそう高まり、真希の腹がぐぅと鈍い音を鳴らした。



81 名前:5 投稿日:2005/01/22(土) 22:19

「それでね、現地の人が言うにはそのちっこい棒が人類の祖先だっていうわけよ」

大学の夏休みを利用して世界中を貧乏旅行した真希は、一番エキサイティングだったアフリカでの冒険譚を美貴に聞かせていた。長時間待ってやっとありつけた焼魚をむしゃむしゃと頬張りながら。
真希なりに元気のない美貴の気分転換になればと思い話し始めたものの、相手はちっとも乗ってこなかった。時々面倒臭そうに曖昧に頷くだけで心ここにあらずの状態が続いていた。

真希が長い話を終えて昼食も食べ終わりひと息ついているとふいに美貴が口を開いた。

「よっちゃんと会った?」
「ふぇ?よしこ?そういえば休み明けてまだ一度も会ってないけど」
「そう」
「なんかあったの?」
「聞いてないんだ」
「気になる言い方だね〜」

ようやく美貴と会話らしい会話ができると真希は身を乗り出した。
綺麗に平らげた皿や器などをテーブルの端に寄せてお茶を飲む。

「あ、新しいバイク買ったって話でしょ。夏休みにバイトしまくったらしいね、よしこ」
「………」
「はは〜ん、さては夏休みに全然遊んでもらえなかったとか。それで拗ねてるんでしょ」
「拗ねる?美貴が?」
「なんていうかさ、今日機嫌悪いよね」
「拗ねてなんかないよ。そんなわけないじゃん。シスコンの亜弥ちゃんじゃないんだから。」
「ミキティ?」
「亜弥ちゃんと一緒にしないでよ」
「………」

82 名前:5 投稿日:2005/01/22(土) 22:20

美貴らしくないと真希は思った。
美貴と亜弥とは高校時代からの付き合いだ。遊びに勉強にいつも3人一緒だった。
中でも美貴と亜弥は時に真希が呆れるほどベッタリくっついて離れなかった。

極度のシスコンである亜弥が唯一姉の恋人として正式に認めたのは美貴だけである。
「みきたんにならお姉ちゃんを貸してもいいよ」と二人の仲を取り持ったのは内輪では有名な話だ。
発言の中身はともかくとしてあの姉命のような亜弥が親友とはいえ美貴をひとみの恋人として認めたことは真希にとってかなり衝撃だった。

ひとみの相手が自分であったとしても亜弥に祝福されただろうかと考えたことがある。
べつにひとみに対して恋愛感情があるわけではない。これから先もきっと持つことはない。
ただ亜弥が美貴を認めたようには自分のことを姉の恋人として許しはしないのではないかと思う。

亜弥と美貴の二人の間にはある種恋人以上の繋がりがある気がしてならなかった。
親友を公言して憚らない二人だがそんな言葉さえも陳腐に思えてしまうような何かが。

だからこそ今の美貴の発言は『らしくない』と真希は思う。
今までに亜弥のことをその愛らしい容姿を妬んで敵視する連中は山ほどいた。
その多くは彼女の極度のシスコンぶりを嘲笑して時に口汚く罵った。
そんな雑音が本人の耳に入らないようにと、高校が別であったひとみに代わって亜弥を守ってきたのは親友である自分や美貴だ。

83 名前:5 投稿日:2005/01/22(土) 22:21

とくに美貴はその見た目とは裏腹に正義感の強い性格である。
亜弥を面白おかしく揶揄する連中から守ってきた筆頭は美貴だ。
そんな彼女が亜弥のシスコンを、亜弥自身を馬鹿にするような口調をとったことに真希は驚き、そして裏切られたような気分にさせられた。


冗談でもそんなことを言ったことのない美貴が。
冗談でもそんな台詞を許さない美貴が。


美貴は押し黙ったまますっかり秋色に変化した中庭の木々を見つめている。
口を開くのが躊躇われるような雰囲気の中、真希は美貴の横顔を盗み見ていた。


『亜弥ちゃんと一緒にしないでよ』


ぼそっと口にしたその言葉に悪意を感じたことなど自分の気のせいであってほしいと思いながらも、何も尋ねることができないまま、真希は美貴の真意を測りかねていた。





84 名前:ロテ 投稿日:2005/01/22(土) 22:22
更新終了。マターリしてて申し訳。短くて申し訳。
85 名前:ロテ 投稿日:2005/01/22(土) 22:26
レス返しを。

70>たーたんさん
ちょっとエロテを出してみました。いやでもこれが限界です。そもそもエロい話を書くつもりはなかったのですが…やはり石川さんの無駄にエロい雰囲気がそうさせるのでしょうかw

71>名無飼育さん
いしよしにはいしよしにしか出せない雰囲気というかエロさが漂っております。いしよしならではのシーンや緊張感のあるみきよしが書けたらな、と思います。

72>ラヴ梨〜さん
おお!ラヴ梨〜さんだ!あちこちのスレでお名前拝見しております。作者の本気なんてたかがしれてますのであまり期待なさらずに…(ニガワラ

73>名無飼育さん
ミキティどうぞ

74>通りすがりの者さん
そんなにすごいことにはならないかもしれません…と弱気発言。でもまあミキティの動き次第でしょうか。

75>ニャァー。さん
ドキドキしましたか〜。やはり石川さんはエロティックです。吉澤さんもなかなかスケベです。作者はそれほどでもないですが(キッパリw

76>四ん這いになったその後…(゚∀゚)ハァンさん
素敵なハンドルに思わず口許が緩みました。よっちゃんかっこいいですかね?ちょっと性格的に問題アリですが外見は間違いなくかっこいいです。激エロ妄想はハァンさんの脳内でどうかよろしく(ニヤニヤ

77>ドラ焼きさん
カノトモ使ってます。と言っても作者だけですがw
自分にドロドロがかけるのかと今さら自問しておりますが答えは出ません(汗


皆さんレスありがとうございます。ストックはあるのですがものすげー勢いで書き直してるので更新が滞っております。が、頑張りますのでこれからもどうぞよろしくです。
86 名前:たーたん 投稿日:2005/01/23(日) 13:49
更新お疲れ様です。
あのエロ語のおかげで思考が飛んじゃってましたけど
そう言えば色々あったんでしたね・・・
危うく忘れるところでした。
あっちもこっちも気になります。責任取ってね・・・
次回の更新楽しみにお待ちしてます。
87 名前:wool 投稿日:2005/01/24(月) 18:35
更新待ってましたよー。
あやみきやらごまっとうやら、思わず嬉しくなってしまう関係性ばかりですw
やっと、ごちん登場かーって感じですねっ
続きも楽しみにさせてもらいますー。
88 名前:JR大正 投稿日:2005/01/24(月) 19:59
よっすぃ〜憎い
89 名前:マカロニ 投稿日:2005/01/25(火) 00:07
上ん人あげんといて(T_T)

ロテさんへ
はじめまして(^O^)
いつも読んでました!読みやすいし話が深いので好きです。
特にみきよしは今まで苦手だったけど、ロテさんのを読んでから、かなりはまりましたW紫板の方も読んでますんで頑張ってください!!
90 名前:John 投稿日:2005/01/25(火) 01:49
乙です。

深夜になにやってんだ自分のバカンとか思いながらもよんじゃう自分にGJ。w

ああああせりふの裏読(ry

ほぼ関係ないと思われる さ か な を待つ後(ryに何故か反応する自分が不思議です
91 名前:ドラ焼き 投稿日:2005/01/25(火) 02:38
ぬぁ〜んと!!あの人も登場しちゃいましたか!!!
この作品では出ないのかな?って前々から思ってたんで
今日この名前を見たとき思わず叫んでしまいました(汗)
ますます目が離せません☆☆
ドロドロさめっちゃでてますよ。
92 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/26(水) 01:48

更新お疲れ様です!!
あー出てきましたね!あのお方までw
ロテさんが書くあのお方も好きなんですよw
ひと味違う何かの!!キャラにメロメロですよっw
次回も更新がんばってくだこい!!
93 名前:ニャァー。 投稿日:2005/01/26(水) 01:51

最後のこいってなんだ…。
こいって…すみませんw
94 名前:130@緑 投稿日:2005/01/26(水) 16:05
更新、お疲れ様です。
う〜む、ひとクセもふたクセもありそうな展開にすっかり引き込まれております。
今までにない「エロス」を感じますねぇ。
この複雑な人物相関図がこれからどう動き出すのか・・・楽しみにしております。
95 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/29(土) 15:11
これはなにやらグニャっとした感じで、複雑です。
更新待ってます。
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 23:22
ミキティキタァ.*・゜゚・*:.。.(n‘∀‘)☆ が不機嫌ヽ(*`Д´)ノ
97 名前:6 投稿日:2005/02/05(土) 20:22

「はぁっ、遅れてごめ〜ん。はぁっはぁっ…途中で、事故があったらしくて、電車遅れちゃって」
「亜弥ちゃんに教えてもらいたいことがあるんだ」
「いきなり、ですねぇ、みきたん。私、お腹空いちゃってるから、なんか買ってくる」
「いいから座って。すぐ済むから」

亜弥が来るなりそう切り出した美貴の声は至って普段と変わらないものだった。
だがその口調に真希は嫌なものを感じ取った。
あんなことを言った美貴が普段と変わらないということに身の毛がよだつ思いだった。

よほど急いできたのか、亜弥は途切れ途切れに言葉を発してぐったりとイスに座り込んだ。
美貴と真希を交互に見て笑顔を見せる。亜弥もなんら普段と変わらないように真希には見えた。

「みきたん携帯繋がらないんだもん」
「あ、そういえばそうだった。あたしとはさっき話したのに」

言ってから真希は余計なことだったかと慌てて美貴の顔を見た。
もし美貴が何かの理由で亜弥からの連絡を拒んでのことだったとしたら自分の発言はマズイ。
考えすぎだとは思ったが今日の美貴は今までのようには亜弥に接しない気がして、真希は緊張の面持ちを隠せずにいた。

亜弥は事情がわからないといった顔できょとんとしている。

「さっき充電切れたから」

美貴の素っ気無い言葉を聞いて真希はいつのまにか握りしめていた拳をゆっくりと開いた。
そうしてから学食では美貴のほうが亜弥を探していたことを思い出した。
そういえば約束をしているとも言っていたような気がする。
考えすぎにもほどがあると真希はこっそり胸を撫で下ろした。

亜弥はきょとんとしたまま美貴を見つめ、美貴は相変わらず視線を木々に彷徨わせている。
さっきから感情のメーターが忙しなく動いている真希の様子には二人とも気づいていなかった。

98 名前:6 投稿日:2005/02/05(土) 20:22

「亜弥ちゃんこそさっき留守電だったよね」
「電車だったから。みきたんいつも言ってるでしょ?電車では電源入れちゃダメって」

電車に乗るときには携帯の電源を切るという行為を実践している亜弥に真希は素直に感心した。
美貴の言いつけを忠実に守っている亜弥と違い、ルールやマナーという言葉とは無縁の彼女の姉の姿を思い浮かべた。美貴のほうがよっぽど姉らしい。

「ごっちん、講義ないの?」

突然、美貴が真希に尋ねてきた。
真希は一瞬何を聞かれたのかわからず数秒考えてから答えた。

「次の次にあるけど…。あたし邪魔?それならどっか行くよ」
「べつにそんなことないからいてくれていいよ」

美貴の抑揚のない声が真希の勘に触った。
明らかにいてほしくないという口調の美貴に真希は何かを言い返そうとしたが、不安そうな亜弥を見て口をつぐんだ。

「でね、亜弥ちゃんに教えてもらいたいことがあるんだ」
「う、うん」
「よっちゃんの相手は誰なの?」
「みきたん……?!」

99 名前:6 投稿日:2005/02/05(土) 20:23

『よっちゃんの相手』と言った美貴と、その言葉を聞いて心底辛そうな顔をした亜弥を代わる代わる見て真希はただならぬ気配を感じた。知らず知らずのうちにまた拳を固く握った。

嫌な想像が真希の心の中を覆う。
ただそれはまだ美貴が亜弥までをも敵視する理由には至っていない。


『敵視』


自分で思っておきながら真希はその言葉の意味を考えて愕然とした。
美貴が亜弥を『敵視』している。
そんなありえないことが目の前で起きている。まさか、という思い。
これが夢であったらどんなにいいだろう。
たとえ悪夢であっても、夢であればいずれ覚めることができるのだから。

しばらく伏せていた顔をそろそろと上げた亜弥は下唇をきつく噛んでいた。
その仕草が彼女の姉によく似ていると真希は思った。

「みきたん、ごめんね。お姉ちゃんがバカすぎて…」
「そんなこと」

美貴の言葉を無視して亜弥は続ける。

「私はお姉ちゃんのことが好きだけど、だけどみきたんを…傷つけたお姉ちゃんは……そんなお姉ちゃんは好きじゃないよ…。だって、私はみきた」
「そんなこと聞いてないから」

100 名前:6 投稿日:2005/02/05(土) 20:24

美貴が心底どうでもいいといった口調で話し続ける亜弥を遮った。
二人のやり取りを眺めながら真希は身動きが取れないでいた。
亜弥の言葉を遮った美貴の目はどこか空ろで口調は相変わらずきつい。
そんな美貴の様子を見ても亜弥はそれほど動揺した様子ではない。
もしかしたら亜弥はある程度予想してここに来たのではないかと真希は考えた。

「美貴が知りたいのはよっちゃんの相手。亜弥ちゃんがどう思ってるとかどうでもいいから」
「そんな…。み、みきたんはそれを知ってどうするの?」
「やっぱり知ってるんだ」
「知らないっ。私は知らないもん。でもみきたんの知らない人らしいよ…」
「ふーん」

美貴がジュースを口に含み真希をちらりと見た。
真希は美貴の視線を頬のあたりで受けたことを感じたが黙ったまま。
亜弥はテーブルの下で膝に両手を置き、スカートを握り締めていた。

「ごっちんの知ってる人?」
「ごっちんも知らない。みきたん、なんでそんなこと…」
「知りたいから。どんな女によっちゃんを寝取られたのか」

美貴の口許にははっきりと嘲笑が浮かんでいた。
それがひとみに対してなのかひとみの相手に対してなのか真希には判らなかった。
亜弥である可能性も美貴自身に向けてのものであることも否定できない。

もしかしたら真希も含めた全員に対して美貴は敵意を向けているのかもしれない。
ここに至るまでのすべての事象に、やり場のない怒りをぶつけるかのように。

101 名前:6 投稿日:2005/02/05(土) 20:24

そこまで考えて真希はこの場に自分がいることがひどく滑稽に思えてならなかった。

美貴とひとみの間に何があったのか真希は一切知らされていない。
亜弥との会話である程度推し量ることはできてもそれは想像であって確証はない。
とりあえず今は二人のやり取りを黙って見ているしかないのだと真希は悟っていた。
余計な口を挟まず、戦況を見守り、祈ることしか。

「ねぇ教えてよ亜弥ちゃん」

子供を相手にするような口調で美貴はにっこりと、でも嫌な笑いを浮かべた。

「亜弥ちゃんはお姉ちゃんのことなんでも知ってるんでしょ?知らないことなんてないんでしょ?だってお姉ちゃんに隠し事なんてされたら泣いちゃうもんねー?」
「…そういう言い方はやめて。みきたんらしくないよ」
「ふっ…あははっ。美貴らしいって何?美貴はただ聞いてるだけじゃん」
「おかしいよ!今のみきたんは私たちが知ってるみきたんじゃないみたい!!」
「どうでもいいからさ、早く教えてよ。亜弥ちゃんは知ってるんでしょ?その女のこと」
「なんでそう思うの?さっきから知らないって言ってるじゃない。私は知らないっ」
「何年亜弥ちゃんと一緒にいると思ってるのさ。嘘かどうかくらい顔見ればわかるよ」

はっきりとした根拠はないが亜弥が何かを隠していることは真希にも判る。
それが何なのかというのは考えるまでもない。ひとみの相手。

ただ美貴がなぜそこまで執拗に知りたがるのか、気持ちは理解できても釈然としない思いが真希にはあった。亜弥に対してなぜこれほど冷たい口調でつっかかるのか。亜弥が言うように自分たちの知らない美貴がそこにいた。

102 名前:6 投稿日:2005/02/05(土) 20:25

美貴の強い視線に耐え切れないのか俯いた亜弥の肩が揺れている。

「教えてくれるの?くれないの?はっきりしてよねー。美貴これでも忙しいんだから」
「…言わないよ。でもそれはお姉ちゃんのためじゃない。みきたんのため」
「やっぱり知ってんじゃん」
「みきたんが知ったってもうどうにもならないよ。それにみきたんのためにならないと思う」
「はいはい。どうでもいいよそんなこと。どうせ亜弥ちゃんはお姉ちゃんさえいればいいんでしょ」

ぎょっとして真希は美貴を見た。
美貴は何でもないことのようにバッグから煙草を取り出して火を点けている。
亜弥の反応が気になった真希だがどうしてもそちらに顔を向けることができないでいた。

「……たん…」

泣き出しそうな亜弥の声に真希はやっと体を動かすことができた。
顔を美貴から亜弥に向けてその瞳に大粒の涙が溜まっているのを確認した。

「亜弥ちゃんはさぁ、美貴がよっちゃんと付き合うときにすごい喜んでたけどさぁ」

涙の粒がテーブルに落ちるのを横目で見ながら美貴は何食わぬ顔で煙草をふかす。

「本当は心の中で美貴に嫉妬してたでしょ」

テーブルの下で足を組みかえて美貴は続ける。

103 名前:6 投稿日:2005/02/05(土) 20:26

「美貴がよっちゃんとキスしたり抱き合ったりしてるの見てどう思った?邪魔とか思ってたんじゃないの?お姉ちゃん大好きっ子の亜弥ちゃんはさぁ。ひょっとして美貴が羨ましかった?どう頑張ったってお姉ちゃんの恋人にはなれない自分が悔しかったりして」

急に立ち上がった美貴は別のテーブルから灰皿を持ってきてそっと灰を落とした。

「笑わせるよねー。まったく」

亜弥は下を向いたままぴくりとも動かない。それは真希も同様だった。

「結局亜弥ちゃんの目にはお姉ちゃんしか映ってないんだよ。昔から。今も、これからもね。よっちゃんさえいれば美貴やごっちんのことやほかのことなんてどうでもいいんだよ。お姉ちゃんさえいればね」
「ミキティ…」
「ねぇ亜弥ちゃん、そうでしょ?」
「ミキティ、もうやめなよ」
「いい子ぶってさ、一番汚いよね」
「ミキティやめなって」
「ごっちんも内心はそう思ってるんじゃないの?」

久しぶりに言葉を発した真希の声は掠れて弱々しかった。
美貴にはそれがうんざりしたような苦しいようなどうでもいいような声に聞こえた。

「あははっ。そんな顔しないでよ。ったく、やんなっちゃうなぁ…」

そう呟いてから講義があるのだろうか、美貴はその場を後にした。
火がついたままの煙草を灰皿に残して。





104 名前:ロテ 投稿日:2005/02/05(土) 20:26
更新終了
105 名前:ロテ 投稿日:2005/02/05(土) 20:26
レス返しを。

86>たーたんさん
色々あったんですよーwエロで話が吹っ飛びましたか。いやいやそういうたーたんさんのがよっぽどエロ(ry

87>woolさん
お待たせしましたー。というか待たせっぱなしですね。すみません。なかなかに複雑な関係性をお楽しみください。

88>JR大正さん
工エエェェ(o゚〜゚o)ェェエエ工

89>マカロニさん
初めまして。ロテと申します。みきよしを気に入っていただけて嬉しいです。これからもよろしくお願いします。もちろん頑張りますよ〜。

90>Johnさん
いくらなんでも裏読みしすぎかとwええ、まさかそんな共食(ryだなんて…ニヤリ。

91>ドラ焼きさん
登場しましたよー。やはりなにかにつけて85年組み大好きなものですから。いつのまにやらドロドロがテーマとなってしまったこの話。どこに向かうのでしょう…(ニガワラ

92>ニャァー。さん
出てきましたよー。出さずにはいられませんからねwそれにしてもあっちこっちありがとうございます。「くだこい」ワラタw

94>130@緑さん
そうですねぇ。今までになくエロスを出していてちょっと恥ずかしい気もしています。今さらですが。うまく収集がつけばいいのですが…(汗

95>通りすがりの者さん
グニャってますか。擬音で表すとしたらグニャですね、たしかに。複雑さが増して自分で自分の首を絞めています。(クルシイ

96>名無飼育さん
イライラモードを通り越しているようです。
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 22:34
藤本さん、辛いね…
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/06(日) 01:37
うぎゃー、でもこれは作戦と思いたい、思わせて下さい・・・
辛いなだれもかれも
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/06(日) 07:49
うほっ
この小説面白っ
109 名前:wool 投稿日:2005/02/06(日) 14:02
更新お疲れ様ですー。
その場の雰囲気が伝わってくるようで(汗 交錯するそれぞれの気持ちが上手く表れていて、やっぱロテさんスゲーと思いました!!
続きが気になりすぎますっ
110 名前:たーたん 投稿日:2005/02/06(日) 17:46
更新お疲れ様です。
ミキティー・・・
うそだよね?ロテさん・・・(T_T)
あっちもこっちも気になる展開。
責任とって・・・
次回の更新マッタリと待てるかな・・・
111 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/06(日) 22:29
ミキティ相当きてますねヽ(*`Д´)ノ
112 名前:ドラ焼き 投稿日:2005/02/07(月) 00:42
いやはや。どこに行くのか方向が定まってないのがまた魅力的なのです。
ロテさんはしんどいかもしれませんが(汗)
わたくしも85年組大好きでございますw
しかし今回もいいところで終わちゃって・・・
じっくり待たさせていただきます☆
113 名前:名無しSa 投稿日:2005/02/07(月) 21:13
う〜ん・・・複雑な人間模様だ・・・・。
こんなに深い作品を作れるロテさんは
ただ者ではないとおもいます。
114 名前:ニャァー。 投稿日:2005/02/10(木) 10:12

更新お疲れ様です〜!!
>あっちこっち
いぇいぇそんなっw
>「くだこい」ワラタw
実はその時…半分氏にかけてましたw(寝かけてた…v)

やはり帝様ですなぁ〜w
痛いんですがそこがマタ…v
でも、そんな帝様にビビリながら読んでましたw
次回の更新も楽しみにしています!!
115 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/10(木) 19:52
更新お疲れさまです。 ミキティ相当いってますね、人間、悪い事があると豹変すると言いますし、この先救いの手はあるのでしょうか・・。 更新待ってます。
116 名前:130@緑 投稿日:2005/02/11(金) 13:30
更新、お疲れ様です。
何だか心臓鷲掴みにされたような心境です。ガクプルです。
この作品は話の端々に「女」の部分を感じ取れて、それがゾクっと怖くもあり
楽しみでもあります。やっぱりすごい・・・
このまま見守らせていただきます。
117 名前:John 投稿日:2005/02/15(火) 12:15
やっぱりこっちも仕(ry

…藤本さんイター!!キター!!って言うかイターでキツー!!
黒美貴っていうか壊美貴。

引き込まれながら更新待ちます…
118 名前:7 投稿日:2005/02/19(土) 03:50

建物内に入った美貴はエレベーターで最上階まで行き、廊下の奥の階段を上った。
先ほどの亜弥の様子を思い返してはなんとも言えない複雑な心境だった。

亜弥を傷つける言葉がどんどん口から溢れ出て美貴は自身で止めることができなかった。
止めるつもりがなかったというのが正確だが、亜弥を目の前にしてなんの躊躇いもなくそうできたことに少なからず戸惑ってもいた。

亜弥とは長い付き合いであるしずっと手のかかる妹のように親友としてそばにいた。
そんな彼女に向かって自分がああいうことを言えたということに美貴自身驚いていた。
少しでも自分の中に残っていると思っていた良心がとっくに消え失せていたことに美貴は何よりも驚き、そしてそのことがたまらなくおかしかった。

そう、とにかく自分の言動がおかしくて仕方なかった。
亜弥に対してしたことが子供じみた八つ当たりであることを美貴は十分に承知していた。

人気のない冷たい階段を上りながら美貴は待ち人について考えた。
自分が亜弥に言ったことを知ったら彼女はどう反応するだろう。
そのときの顔を思い浮かべて美貴は唇の端を上げた。

屋上へと繋がる階段を上りきり美貴は錆びた鉄の扉を押した。
年月を感じさせる重々しい音をたてて扉は開く。
すかさず差し込んでくる太陽の光に美貴は目の前に手をかざした。

119 名前:7 投稿日:2005/02/19(土) 03:50

「すっげー待った」

逆光で顔はよく見えなかったがその人物が誰であるのか美貴には判っていた。
間延びした少し滑舌の悪い声。ふてぶてしいその口調。胸に響く低音。

美貴は約束の時間よりもわざと遅れて屋上に来た。
わざとひとみを待たせた。
それはこれから美貴がしようとすることに比べれば些細な仕返しだった。

「そう?」

屋上の周囲に張り巡らされた緑色のフェンスにもたれかかって、ひとみは表情を歪める。

「そうだよ。何分待ったと思ってんだよ」
「さあ?」
「携帯は繋がらないしさー」

学食で真希との会話を終えて美貴は自ら携帯の電源を切っていた。
それも待たされたひとみが自分のところに連絡しようとするのを見越して。
ほんのちょっとした仕返しだったがひとみの苛立ちようを見て美貴は嬉しくなった。

「さっき亜弥ちゃんに会ったよ」

ひとみの綺麗に整えられた眉がぴくっと上がる。
続きを促すように両腕を組んだひとみに向かって美貴はゆっくり歩を進める。

「どんな話をしたか知りたい?」
「あぁ」

自分より10センチほど背の高いひとみに合わせて美貴は背伸びをする。
鼻先が触れ合うくらいまで顔を近づけて片手をフェンスにかけた。
人差し指でひとみのサラサラした髪を梳き露わにした耳元でそっと囁く。

「教えない」

ムッとした顔を隠さずひとみは美貴から離れた。
ひとみには美貴の目的が判らなかった。呼び出された理由も。

120 名前:7 投稿日:2005/02/19(土) 03:51

美貴のあの日の捨て台詞をなるべく考えないようにはしていたが、こうして誰もいない屋上に呼び出されどこか様子のおかしい美貴に会って、やはり来るべきではなかったとひとみは思う。

「許さないから」

ひとみの心臓が大きく跳ねる。知らず唇を噛んだ。
美貴に距離を詰められてひとみは一歩後ずさりをする。

「って美貴が言ったこと、覚えてる?」
「いや…美貴そんなこと言ったっけ?」

惚けるひとみが美貴は可愛くて仕方なかった。
怯えたように目を背けるひとみが憎くて仕方なかった。

「言ったよぉ。覚えてるくせにー」
「お、覚えてないっつの」

あくまで白を切るひとみを美貴は睨む。一方でひとみに近づきたくてまた距離を詰めた。
可愛いと思う反面憎くて仕方ない。複雑な思いを抱えながら美貴は睨み続けた。

「わかった。降参。覚えてるよ、覚えてる。忘れられるわけないでしょーが」

ひとみの言葉ににっこりと笑った美貴の顔は誰もが認める彼女らしい彼女だった。
ここに来てから初めてひとみは恋人だった頃の美貴の面影をその笑顔に垣間見た気がした。
そして考える。美貴は一体何がしたいのだろうと。

「そっか。よかった」

『忘れられるわけがない』という言葉が自分を指しているのではないことを美貴は百も承知していたが、それでもひとみの口から聞くと胸は自然に熱くなった。まだひとみを想っていることを再確認できて、素直に頬が緩む。

121 名前:7 投稿日:2005/02/19(土) 03:52

「前はさ、よくここに来たよね〜」

それまでの調子とは一転して美貴は昔を懐かしむように遠くに見えるビル群を仰ぎ見た。

「冬なんて凍えそうになりながらよくやったよ」
「美貴っ」

ひとみは美貴の言葉を遮ると景色を眺めている相手の体を自分に向かせた。
そしてきちんと真正面から美貴を見据えて目を逸らさずに尋ねた。

「美貴は一体何がしたいの?」

美貴の向こう、遥か下方に豆粒ほどの人の群れがちまちまと動いているのを目の端で捕らえながら、ひとみは過去の情景を思い出していた。



ノースリーブから真っ直ぐ伸びる細い腕が緑色のフェンスを掴む。
夏の太陽の下、するするとキャミソールの中に潜り込んだ自分の手が自由気ままに美貴の体を這う。
ギラギラと照りつく日差しと耳に飛び込んでくる悩ましげな声。そして音を立てるフェンス。
眼下に広がる何人もの人間と、目の前で体を揺らすほとんど裸の美貴という光景のギャップに、ひとみは興奮を抑えきれなかった。
夏だけではない。春も秋も冬も。ほぼ同じような光景をひとみは見てきた。
変わるのは季節ごとに色づく植物たちやちっぽけな人間たちの衣服。
変わらないのはいつも美貴を求めていた自分の手と、ひとみを見つめる美貴の眼差し。


122 名前:7 投稿日:2005/02/19(土) 03:52

キャンパスを一望できるこの場所を発見したとき迷わず美貴を連れてきた。
そんな数々の思い出を共有したこの場所。

しかしひとみは美貴と同じようには昔を懐かしむことはできなかった。

「美貴はなにがしたいんだよ」

ひとみの問いに美貴はにっこりと笑って答えた。

「セックス」
「え?」

瞬間、ひとみの脳裏に再び美貴との行為がフラッシュバックした。
熱を帯びた体。汗ばむ額。美貴の小さな手が掴むその先は緑色のフェンス。
すっかり古びたそのフェンスがぎしぎしと音を立てる。美貴を突くたびにぎしぎしと。
過去の記憶がまざまざと思い出され、ひとみは言葉を発することができない。

「よっちゃんとセックスがしたいの」

過去と現在がめまぐるしく交錯する中で、ひとみはぽつんと放り出されたような気分だった。





123 名前:ロテ 投稿日:2005/02/19(土) 03:53
更新終了。次回こそは早めに。少量で申し訳。
124 名前:ロテ 投稿日:2005/02/19(土) 03:53
レス返しを。

106>名無飼育さん
作者も辛いところです…

107>名無飼育さん
みなさん大変なようです…(作者含む)

108>名無飼育さん
ありがとうございます。

109>woolさん
ありがとうございます。これからも頑張ります。

110>たーたんさん
ありがとうございます。ウソじゃねっすw

111>名無飼育さん
キテるみたいだぽ

112>ドラ焼きさん
ありがとうございます。みなさんしんどいようです…(登場人物含む)

113>名無しSaさん
ありがとうございます。ただ者ですからw

114>ニャァー。さん
ありがとうございます。作者も帝にはビビってます。

115>通りすがりの者さん
ありがとうございます。この先…模索中です。

116>130@緑さん
ありがとうございます。本当はもっと明るくしたかったのですが…作者もガクプルです。

117>Johnさん
藤本さんごめんね(ここで言うな)…すみません。
125 名前:名無しのSa 投稿日:2005/02/19(土) 07:38
うはっ・・・・。
でも帝の気持ちも判る・・・。よく判る・・・。
ロテさんの心理描写に敬意を抱きつつ。
次回をドキドキしながらまったりお待ちしてます。
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/19(土) 09:16
うぅ…痛い
次回も正座して待ってます
127 名前:たーたん 投稿日:2005/02/19(土) 09:18
更新お疲れ様です。
最後の一言にドキドキしちゃったのは私だけ?
朝からあっちでもこっちでもドキドキですわ!
ミキティーにも頑張って欲しいな・・・
いしよし好きの私にこう言わせてしまうロテさんってステキ・・・w
次回の更新もまったりとお待ちしてます。
128 名前:John 投稿日:2005/02/19(土) 09:56
あわをくうって誰かが言ってた。



あわくいました。
巧いなぁ…ドラクエの主人公にミキティとかつけながら待ちます。
129 名前:ニャァー。 投稿日:2005/02/20(日) 15:40

更新お疲れ様です!!
痛いですな〜…でも帝様怖キャワw
自分はあいかわらずドキドキしっぱなしですw
次回も更新頑張って下さい〜!
130 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/20(日) 15:59
かなりミキティ怖いです 冷汗
立場が逆転という奴ですかな?
更新待ってます。
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/24(木) 18:06
ミキティ(・∀・)イイヨイイヨー
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/24(木) 21:45
帝がんばれ!
133 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/27(日) 14:05
いつまでも待ってますよー。
134 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 18:00

美貴の吸いさしの煙草をぐりぐりと灰皿に押しつけて真希は再び亜弥を見た。どれくらいの時間が経ったのか、はっきりとは判らなかったが随分と長い間亜弥を見ていたような気がする。無言で俯いたままの亜弥を。

「ごっちん…ごめんね」
「なんでまっつーが謝るの」

亜弥は姉に対して『許さない』と言った美貴が心配で仕方なかった。

美貴はいつも堂々としていて自分に自信を持って生きている。そんな美貴が一方的に振られて自分の姉のせいで傷ついた思いをしていることが亜弥にとっては自分のことのように苦しかった。姉に話を聞いてからというもの、親友として美貴に何をしてあげられるのだろうと純粋に考えていた。

「謝らなきゃいけないのは、むしろミキティじゃん」

亜弥は真希の言葉に素直には頷けなかった。姉の次、ひょっとしたら姉と同じくらいに心を許していた相手にひどいことを言われ、言葉も出ないほどショックを受けた。怖かった。裏切られたという思いがあった。

美貴はいつから自分のことをそういう目で見ていたのだろうかという疑問。
美貴の言葉を即座に否定できなかった自分への猜疑心。

「みきたんの言ったことはもしかしたら正しいのかもしれない……」
「なにバカなこと」
「あ、ごっちんのことは違うって信じてるけど…」
「当たり前だよ」

真希の言葉に少し安堵したものの、亜弥はまた涙が零れそうになり鼻をすすった。

135 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 18:00

「私、みきたんに嫉妬していたのかな…」

幼い頃から亜弥は姉の後をついて歩くのが習慣だった。いつでも姉について家中を歩き回った。トイレや風呂や姉の部屋。どんなときも後を追った。ひとみは鬱陶しい素振りをしながらもそんな妹の行動を内心では許していた。両親が呆れるほどに姉妹は常に一緒に行動していた。

離婚した両親によって引き離されるまでは。

「自覚してないだけで、お姉ちゃんの恋人になったみきたんを……」

真希は喉まで出掛かった否定の言葉を寸前で飲み込んだ。「そんなことないよ」と言うのは簡単だが、亜弥を納得させるにはその台詞は白々しすぎてふさわしくないように思えてならなかったからだ。

「まっつーはよしこの恋人になりたいの?」
「えっ…?」
「そういう気持ちでよしこを見てそばにいたいって思ってるの?」
「ううん。違う。私はただお姉ちゃんのことが…」

美貴が言うように亜弥は嫉妬していたのかもしれないと真希は思う。

まだ中学生だった亜弥にとって姉との別れは想像を絶するほど辛かったのだろう。両親の離婚によりひとつ屋根の下に一緒に住めなくなっても姉妹は頻繁に会っていた。特にひとみは姉としての責任感からか亜弥をしょっちゅう訪ねては様子を見に来ていたらしい。

それでも亜弥はどこか物足りなさを感じていたのだろう。大学に進学してひとみと暮らすようになってからの亜弥は、年を重ねるのに比例してますます姉にベッタリになってしまっていた。そしてそのことに亜弥自身はおそらく気づいていない。

136 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 18:01

「よしこのことが?」

でも、と真希は思う。

それは純粋に家族としての愛情なのだと。

姉と離れたことはもちろんだが亜弥にとって両親の離婚は本人が思う以上に大きなダメージではなかったのだろうか。亜弥は家族の愛情に飢えていたのではないだろうか。その反動がすべてひとみに向けられているのだと真希は真希なりに分析していた。

だから美貴の言うように亜弥が『嫉妬していた』というのはある意味では正しく、そして間違っている。おそらくは美貴もそれを判っていてあんなことを言ったのだろう。単に亜弥を傷つけることができればそれでよかったのだ。

その事実にまた真希の心は傷んだ。

「まっつー、ちゃんと考えなよ。よしこのことどう思っているか」

亜弥は姉の後姿を思い浮かべていた。
幼い頃の記憶の多くを占めているのはいつもついてまわった姉の背中だ。
そして常にいろんなことから自分を守ってくれた姉の凛々しい顔。

4歳のとき、自宅の階段から落ちそうになった亜弥をかばって代わりに転げ落ちた。
7歳の七五三のときには近所中に写真を見せて自慢の妹だと嬉しそうに笑っていた。
12歳のとき、喧嘩が絶えない両親の言い争う声が聞こえないようにと耳を塞いで抱きしめてくれた。

14歳の別れのとき、いつかまた一緒に暮らそうと指きりをしてくれた。

137 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 18:02

「ぐすっ…お姉ちゃんっ……」

嗚咽を漏らした亜弥の頭を真希はそっと撫でた。
ひとみがよくそうするのを真似て亜弥が落ち着くのを待った。

「私はお姉ちゃんの…恋人になりたいわけじゃない」
「うん」
「お姉ちゃんの妹ですっごく幸せだもん」
「うん」
「ごっちん、ありがと」

ふにゃっと笑う亜弥を見て真希は胸を撫で下ろした。
無邪気に笑う顔もひとみによく似ていると思った。

「まっつーが嫉妬していたって言ってもそれはあれだよ」
「あれ?」
「小さいときにさ、お正月とかお盆とかに親戚中で集まったじゃん?」
「今もたまに集まるけど…ごっちん何言い出すの?」
「いいから聞いて」

目を丸くしてきょとんとする亜弥を真希は軽く制して話を続ける。

「でさ、親が従兄弟とか他の子供に優しくしたり世話したりするのを見てなんか子供心に悔しかったりしなかった?なんていうか盗られた、みたいな気がして」
「あ〜、したかも。そういえばお姉ちゃんなんて無言で従兄弟を殴ったことあったもん」
「あはは。よしこらしい。つまりね、そういうことなの」
「つまりちっちゃいコと同じレベルということですか…」
「まあ、そうゆうことだね」

あまり上手い例えではなかったが納得したような亜弥を見て真希は安心した。むしろ亜弥とひとみとの関係を嫉妬していたのは美貴のほうだということを、亜弥が気づいたかどうかは判らなかったが、それは知らないままでいいと真希は思っていた。

138 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 18:02

「でもみきたんは…」
「よしこがミキティを振ったの?」
「うん…」
「新しい彼女ができたって?」
「うん」
「いつ?」
「夏休みの終わりくらいかな」
「そっか。よしこのやつ…」
「ごっちん、みきたんは私のことすごく怒っていたよね」
「嫉妬云々はさっき説明したじゃん。ミキティの誤解だよ」

美貴が本当に誤解していたなんて真希はさらさら思っていない。どういう意図があって亜弥を傷つけるようなことをしたのか、真希には八つ当たり以外に思いつかなかったが美貴も相当ダメージを受けているらしいことは確かだと思っていた。

「そうじゃなくて」
「うん?」
「みきたんね、お姉ちゃんに『許さない』って言ったんだって」
「許さない…?」
「そう。だからみきたんは私のことも許さないんじゃないかなぁって」
「なにそれ」
「だって姉妹だし」

亜弥の言うことはめちゃくちゃな論理だったがあながち間違ってもなさそうな気が真希はしていた。美貴は今すべての人間が敵に見えているのかもしれない。恋人に裏切られたショックがそうさせているとはいえ、ひとみのとばっちりを受けた亜弥に責任はないはずだ。美貴が亜弥に嫉妬していたとしても、やはりそれは亜弥の責任ではない。ひとみのいい加減さにすべてが起因している。

しかし姉に迷惑を被ったからといってそれを妹に当たるのはやはり筋違いだ。
憤りながらも真希はそれほどまで追い詰められている美貴が心配になってきた。

139 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 18:03

「ミキティどうしちゃったんだろう」

徐々に人が減っていく中庭で二人は途方に暮れた。

「そういえばよしこの新しい相手は誰なの?」
「あのね、石川梨華さんっていう人」
「誰それ」
「中学のときの先輩」
「よしこの?」
「ううん。私の」

そう言って逃げるように目を逸らした亜弥を見て真希は首を傾げた。まだ何かを隠していると真希は敏感に察知したがこれ以上詮索する気にはなれなかった。この後きっと会えるだろう姉のほうに詳しい事情を聞けばいい、そう思った。

ふいに亜弥の携帯が甲高い音を鳴らした。
携帯を取り出す亜弥を横目で見ながら真希は自分の携帯で時間を確認した。
次の講義が迫っていた。

「あ、どうも。この前はありがとうございました。いえ…あの、やっぱりあんな高級なもの返します。ホントに、あの気持ちだけで。私こそすみません。先輩のことそういうふうには…いえ、あの、だから何度も…先輩がどうとかってそういうんじゃなくて……そんな……はい、それじゃ失礼します」

会話の内容もさることながら亜弥の表情がみるみるうちに暗くなっていき、真希は不安になった。

140 名前:8 投稿日:2005/02/27(日) 18:04

「なに?また誰かに告白でもされた?」
「うーん。石川先輩の友達で、やっぱり中学のときの先輩なんだけど…」
「やな奴なの?」
「ううん。いい人だよ。ちょっと強引なところがあるけど…」

困ったように笑う亜弥の目はいつもの輝きがなく疲れた色をしていた。
その様子から相当しつこくされているだろうことを真希は感じ取った。

「よしこはそのこと知ってるの?」
「まだ。だってお姉ちゃん、ほとんど家に帰ってこないんだもん」

全然話す機会がないと膨れる亜弥がおかしくて真希は声を上げて笑った。

「もぅー。ごっちん、笑わないでよぉ」
「あはは。だってその顔」
「人の顔見て笑うなー!」
「サルみたいで…。あっはははー」
「なんだとぉ、ごっちんだって、ごっちんだって魚みたいな顔のくせにぃ」
「ひっど〜。あ、あたし講義だからもう行くわ。んじゃ」
「あ!私ももう行かなきゃっ。じゃあねー」

笑顔で真希を見送った亜弥はふっと表情を変えてから手にしていた携帯に目を向けた。
着信履歴を表示して映し出された『柴田あゆみ』という文字を見つめる。

深い溜息をついて片手で携帯を折り畳んだ亜弥の目は、真希が見たその何倍も暗く、翳りを帯びていた。





141 名前:ロテ 投稿日:2005/02/27(日) 18:04
更新終了
142 名前:ロテ 投稿日:2005/02/27(日) 18:05
レス返しを。

125>名無しのSaさん
よく判りますかそうですか。あの〜よかったら教えてくださいw

126>名無飼育さん
いやいや正座してるほうが痛いですからwたぶん。

127>たーたんさん
いしよし好きさんなのにミキティを応援するたーたんさんのがステキですw

128>Johnさん
くっちゃいましたか。それはそれは。作者も勇者はよっすぃです。

129>ニャァー。さん
怖キャワとういうのもなかなか器用というか複雑なw今回は帝お休みです。

130>通りすがりの者さん
ミキティはさて今後どうでるか…。関係ないですが冷汗が冷奴に見えてしまいました。

131>名無飼育さん
川VvV)<ありがと

132>名無飼育さん
川VvV)<おう

133>通りすがりの者さん
お待たせしました。放置はしませんのでどうかご心配なさらずに。
143 名前:ニャァー。 投稿日:2005/02/27(日) 22:51

更新お疲れ様です!!
何かもう……っw!!
やばぃですよ!キュンキュン胸鳴りっぱなしww
…お姉ちゃんも好きなんだけど…v
あ―――!!妹さん好きだーw何か気になりますね〜w
次回の更新も頑張って下さい!
144 名前:たーたん 投稿日:2005/02/28(月) 10:35
更新お疲れ様です。
そっかそっか・・・
う・・・あやや・・・(T_T)
そしてあの人が・・・
訳が分からないレスで、失礼しました。
次回の更新楽しみにお待ちしてます。
145 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/03(木) 16:27
更新お疲れ様です。
なるほど、子供なら誰しもあったことがそこまで深いものになっていたとは。
しかしミキティもかなりすごいですよね(ある意味で 汗

はい、安心して待たせていただきます。
それはあれですよ、きっと画面を見すぎての錯覚かと。
あまり無理はしないでくださいね。

次回更新待ってます。
146 名前:John 投稿日:2005/03/05(土) 08:53
美貴さん。。。(AA略)
てかごとーさんいいひとだなぁ…

恥ずかしくてリアル226がかえないまま待ちます。
147 名前:ロテ 投稿日:2005/03/10(木) 22:13
本編の途中ですが思いっきりぶった切っていきなり短編を。
本編、待たせてすみません。更新したかと思ったら短編ですみません。
148 名前:愛しさの境界線 投稿日:2005/03/10(木) 22:13

コンサートのリハーサルもいよいよ大詰め。今日はハードだなぁ〜とか思いつつ、休憩の合間に鼻をかんでいたら突然後ろから誰かに抱きつかれた。誰かって言っても相手はわかってるしいつものことなので美貴はかまわず鼻をかみつづけた。

「美貴ちゃんさ〜ん」
「よっひゃん、ひょっと待っへ。鼻はんでるはら」
「うん、待つ」

美貴のお腹に腕をまわして、よっちゃんが肩の上にちょこんとあごを乗せている。目の前の鏡に映るその仕草がかわいくて、鼻をかむのを一瞬忘れそうになった。鏡越しによっちゃんを見ていたら、お腹のあたりに置かれた手がもぞもぞと怪しい動きを始めたから慌てて鼻をかんだ。

「こらっ」
「くぅ〜ん」
「そんな犬みたいな声出してもダメだから」
「わんわん!」
「ひゃっ」

鳴いたついでによっちゃんが美貴の耳たぶを甘咬みした。コイツ…犬って言われて調子に乗ってるよ。こんな休憩中に、しかも誰が入ってくるかわからないような場所で何やってんのさ。

「ん〜ぺろぺろ」
「ひゃんっ。こらっ!よっちゃん今はダメだって」
「ワタシニンゲンノコトバワカラナイアルヨ」
「いや思いっきり喋ってるし」

大体なに人だよって突っ込もうと思ったらあっという間にキスされた。そういえば鼻かみ終わるの待ってたんだっけ。キスがしたかったの?美貴の唇を食べちゃうような、こんなキスをしたかったの?いつも唐突だよね、キミは。こんなことされたら妙な気分になるじゃん。責任取ってくれるわけ?

149 名前:愛しさの境界線 投稿日:2005/03/10(木) 22:14

「いやいや、その、ほら、あれだ、責任?ナニソレ」
「そっちの責任じゃないから。動揺しすぎ。っていうかなに?遊んでるわけ?」
「やだなぁ〜ミキチィ〜。遊びとか責任とかなに言っちゃったりしちゃってんの」
「美貴が娘。に入った途端すぐに手ぇ出したよね」
「そっちの責任はまあとりあえず置いといて。さっきの責任は取りますよ〜ん」
「さっきってなんだっけ」
「ガーン!キスでその気になったのあたしだけ?」
「みたいだね」
「さらにガーン!」

『とりあえず置いておかれた』責任の行方をないがしろにするわけじゃない。それでも本気と遊びの境界線くらい美貴にだってわかる。自分がどこにいて、どこにいるべきなのかも。

それにしてもよっちゃんの手はよっちゃん本人とは別人格なのだろうか。こんな話しをしながら人の体をよくもまあ自由に触ってくれるもんだ。

「イチチチ。おーイテ。なにもつねらなくても…」
「美貴の胸を触わるからでしょーが」
「いいでしょーが。愛に溢れた行為でしょーが」
「真似すんな」

軽口を叩きながら美貴と体を入れ替えて、ドッコイショなんてババくさいこと言いながら美貴を膝の上に乗せるよっちゃん。そのあまりに手慣れた動作がなんとなくムカツクけど、「美貴ちゃんさんのにおひ〜」なんて絶対汗くさいはずなのに嬉しそうに鼻をこすりつけてくるコイツは、正直愛しいような気もしている。ただの気のせいだと思うけど。

「で、初日どうする?」
「どうするって?」
「ピースだよピース。青春の1ページってぇ〜だよ」
「キモッ。梨華ちゃんの真似しないでよ」
「似てない?」
「ちっとも」
「面白くない?」
「全然」
「あれ〜亀ちゃんには好評だったのにな。あとこんこんやマコトや矢口さんや…」
「あーわかったわかった。キミそれ絶対見せる相手選んでるでしょ」

最初から狙ってるのバレバレじゃん。飯田さんいたら絶対見せてるよね。

「それに本人にも」

首にまわした腕に力が入った。美貴はそんなつもりは全然ないのに。もしかして美貴の手も美貴とは別人格なわけ?勝手に反応なんてするな。よっちゃんが誰にモノマネを見せたって美貴の手が勝手に動く理由にはならない。

150 名前:愛しさの境界線 投稿日:2005/03/10(木) 22:14

「やっぱさ〜。初日だからガツンとロボキスでいくか」
「なんの話だっけ」

切ったばかりのコイツの短すぎる髪に指を絡めた。軽く波打っている金とも茶とも言えない色を見つつ、ピースの本来の振りを思い出そうとしたけど無理だった。

「あー愛しい美貴ちゃんさん、お昼ごはんなに食べたんだろう〜」
「うどんだよ。ていうか一緒に食べたじゃん」
「いやマジレスはいらないから」
「だって本当のことじゃ……よっちゃん?」

時々見せるこの顔は美貴になにかを求めている。わからなくて、もどかしくて、頭にくる。見つめられているとわかりたくなんてなくなる。そんなマジ顔こそいらない。テンション変わりすぎでついていけないよ、よっちゃん。

「んん…」

それにそんなマジチュウだっていらないから。教えてよ。

「イマイチわかってないんだよなー」
「ぷはぁっ…はぁ、くるし…」
「美貴ちゃんさんは、わかってない」
「まっ…んんっ」
「わかってない」

喋ることも、呼吸することさえも許さないようなよっちゃんのキス。一方的に攻められるのは好きじゃない。美貴の唇を奪いながら平然と喋るようなコイツは、もっと好きじゃない。なにも考えずにエッチするほうがよっぽど胸が苦しくない。だからやっぱり教えないで。なんでそんな顔するのかなんて、知りたくない。

151 名前:愛しさの境界線 投稿日:2005/03/10(木) 22:15

「好きだよ」
「はぁ?いきなりなに言ってんの」
「ちゃんと美貴のこと好きだよ」
「それがよっちゃんの口説き文句?そうやって突然真面目な顔して突然キスして、『好き』って言えば誰でもついてくると思ってるんでしょ」
「美貴はそうやってあたしを悪者にしたがるけどさ」
「………」
「そう仕向けてるのは美貴じゃん?」
「…意味わかんない」
「あたしはそんなにわかりにくい?まあバカばっかやってきたからな」

仕方ないか。

そんな言葉を吐きながらよっちゃんは美貴を膝から下ろした。その動作がコイツにしては珍しく頼りなく、ぎこちなかった。

「さてと、じゃあピースどうしよっか?」

向かい合って座ることにけっこうな違和感があった。いつもとちょっと違うだけでモヤモヤムカムカした気持ちが湧き上がる。よっちゃんのなんでもなかったような顔がやっぱりムカついた。美貴はそんな顔、きっとできてないのに。

相変わらずピースの振りが全然思い出せない。べつに今となってはどうでもいいことだけど、妙に気になる。何十回も、それこそ3桁いっちゃうくらい踊ってきたはずなのに思い出せないのはなんで?梨華ちゃんの台詞のとき、美貴はなにをするべきなの?本当はなにをしてるはずなの?誰といるはずなの?

「なんかムカツク」
「あたしが?」
「わかんないけどたぶんそう」
「美貴ちゃんさんの愛情表現だと思えば、それも嬉しいもんだ」
「勝手なこと言ってるよ」
「じゃあロボキスね」
「本当に勝手だよ」
「そうじゃなきゃやっていけないだろ」

テーブルに投げ出した両手の爪がやけにカラフルなことにたった今気づいた。

「いろいろとね」

呟きながらあからさまに目をそらされてまたムカついたけど、むしろ美貴のほうが勝手なことをやってるような気がしてきて、下を向いてる顔を両手で抱きしめてあげたくなった。だからってこの状況から逃げるためだけのキスやうやむやなエッチはもうできない。美貴はそんなつもりなかったのに、たぶんよっちゃんは境界線を越えようとしているから。越えようとしたから。

戻れなくなるのはイヤだよ。

152 名前:愛しさの境界線 投稿日:2005/03/10(木) 22:16

「もしかして本気なの?」
「なんだよ今さら。ロボキス嫌だった?」
「バカ。そっちじゃなくて」

バカ。こっち見ろ。ふらふらしないで今だけはこっち見てよ。でもずっとは見ないで。そらせなくなるほどには。

「ああ、こっちの話か。本気かって?だったらどうすんの?美貴は困る?あたしがラインを越えたらペース崩れる?……なんてね。なんでもない、なんでもないよ。あははっ。だってさ、本気になって今となにが変わる?」
「さあ……なにも変わらないかも」
「だろ?」

ウソとホントの見分け方なんて美貴は知らない。言われたことをそうなのかと受け止めるだけ。それがラクでいいし面倒もない。でも最後の台詞は、美貴の耳に言葉どおりの意味には聞こえなかった。

『美貴はそのほうがいいんだろ?』

そう聞こえたから、こっちを見たよっちゃんの顔がどうであれよっちゃんがふらふらして美貴がふらふらして、ちょうどいい具合に収まるのがきっと一番いい。どっちかがふらふらをやめたら途端にバランスは崩れる。どうなるかなんて、わからないから。

「変わらないよ」

変わることは山ほどある。ウザイくらいにある。

堂々と独占することができる。このあやふやな関係に名前をつけることができる。なにも理由がなくてもきっと抱きしめることができる。少なくとも、お互いにこんな顔してウソをつくこともきっとなくなる。

153 名前:愛しさの境界線 投稿日:2005/03/10(木) 22:17

「よっちゃんはそれでいいんでしょ?」
「美貴がいいならいいよ」
「そう言うと思った。それならもう」
「わかってる。言わない。チュウしてもエッチしてもさっきみたいなことは言わない」
「………」
「あっちも決まりでいい?」
「あっち?」
「ロボキス」
「うん、いいよ。ピースでロボキスね。忘れないでよ〜?美貴ひとりでやったらバカみたいじゃん」
「ぶはは。それも面白いな〜。美貴ちゃんさんがひとりでロボキスやってる間にあたしはマコトにカンチョーでもしよっかな〜。それか石川に後ろから膝カックンとか」
「梨華ちゃんいじるのやめなよ。台詞に命かけてんだから。後で怒られても美貴は知らないよ〜」

ていうかホントにロボキスでひとりにしないでよね。

「しないよ。一人になんてしないから」
「うん。ありがと」

身を乗り出してよっちゃんの髪にキスをした。ふわふわの髪が唇に気持ちよかった。



154 名前:愛しさの境界線 投稿日:2005/03/10(木) 22:17
<了>
155 名前:ロテ 投稿日:2005/03/10(木) 22:18
戸田初日に参戦し、ピースを見て妄想が膨らんで書いたもののなんだかよくわからない話になってしまいました。それならばともう一編書いてみたのが次のやつです。やっぱりみきよし。
156 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:19

ここはどこだろう。ポワポワとしていてなんだかキモチいい。宙に浮いてるみたい。

「……キティ…ミキティ」

誰かが美貴を呼んでいる声がする。用事があるならそっちから来てよね。美貴だって暇じゃないんだから。さっきコンサートの昼の部が終わったばかりで、あと何時間かしたらまたステージに上がって歌って踊って、美貴に会いに来てくれた人たちに笑顔をプレゼントしなきゃいけないんだから。

「ミキティ…ミキティ…」

あー、もう!うっさいなぁ。だからそっちが来いっつーの。今回はソロだってあって気合い入りまくりで疲れてるんだから。

「ミキティ…美貴ちゃんさん?」

ん?この声は!!!

「よっちゃんさ〜ん」

やだ、よっちゃんじゃん。美貴なんで気がつかなかったんだろう。よっちゃんが呼んでるなら早く行かなきゃ。そういえばさっきからよっちゃんがいない。いつもなら美貴の隣りで美貴のことを見ててくれるのに。美貴を置いてどこ行ってたのさ。あれ?それにしてもここってどこなの?楽屋…じゃないよねぇ。

「美貴ちゃんさんごめんね」
「ううん。いいよ」

なにがごめんなのかわからないけどよっちゃんがいるからいいの。よっちゃんが来てくれたから。美貴の顔に触ってじっと見つめてくれるから。もしかしてさっきいなかったことを謝ってるのかな?そんなこと気にするなんて、よっちゃんってば優しいんだから〜。でも美貴以外の人にあんまり優しくしちゃダメだよ?とくに亀ちゃんには。最近一番の要注意人物だからね。美貴が目を光らせてないと、よっちゃんなにされるかわからないし。

157 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:20

「美貴ちゃんさん、本当にごめんなさい」

もう〜だからいいってのに。そんなに深々と頭下げちゃって。まるで美貴が怒ってるみたいじゃん。それ以上謝ったらホントに怒るからね!

「よっちゃんさん謝らないでよ。美貴が怒ってるみたいじゃん」
「怒ってないの?」
「怒るわけないじゃーん。そりゃよっちゃんさんがいなくて正直寂しかったし、美貴のことほっといてどこに行ってんの?って感じだけどでも今はこうして美貴のこと抱きしめてくれるし。………抱きしめてくれるし…………抱きしめてくれないの?」

美貴の目がギラリと光るとよっちゃんはあわてて抱きしめてくれた。

「み、美貴ちゃんさん。本当にごめんね。こんなことになっちゃって。なんて言ったらいいか…」
「もっと抱きしめてくれたら許してあげる。って、美貴怒ってないから〜」

ん?待てよ。今こんなことって言った?

「よっちゃんさん、こんなことってなに?」
「だからさっきから謝ってるけど…もう美貴ちゃんさんとは付き合えないんだ」

そっかそっか、美貴とはもう付き合えないのね。なーんだ、そんなことか……。

「はあ?!よっちゃん頭大丈夫?なにバカなこと言ってんの?美貴を騙して驚かそうと思ったってダメダメ。よっちゃんさんのことはなんでもお見通しですよーだ」

まったく、イタズラ好きのよっちゃんなんだから!そんなところも美貴は大好きだけどね、エヘ。

「美貴ちゃんさん、ウソじゃないんだ。ごめん。美貴ちゃんさんより好きな人ができちゃって。実はもうとっくに付き合ってて、さっきもずっと一緒にいたんだよね」

え?……ちょっと、待って。どういうこと?よっちゃんやめてよ、笑えないよそのジョーク。ねぇ、なんでそんな真剣な顔してるの?美貴に告白してくれたときみたいな、そんな真剣な顔……。

158 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:20

「う、うそ!うそでしょ?よっちゃん、うそって言ってよ!!」
「うそじゃない。だから美貴ちゃんさん、別れよう」
「やだ!やだよ!!よっちゃんと別れるなんて絶対いやだよー!!美貴、そんなの絶対ムリ。なんで?なんでなの?ていうか相手誰なの?美貴からよっちゃんを奪うのは誰なのーーーー?!」
「美貴ちゃんさん……」
「誰なのよ!もしかして梨華ちゃんとよりが戻ったの?それとも今さらごっちん?卒業で盛り上がっちゃって飯田さんとか?まさか安倍さんじゃないよね?慰めているうちにそうなったの?あ!亀ちゃんでしょ?!若い方がいいんだ!え?違うの?じゃあ誰だよ。矢口さん?高橋、なんて微妙なとこじゃないでしょうね。こんちゃんって可能性もなきにしもあらずだし…」
「違うんだ美貴ちゃんさん。その人たちじゃないよ」
「えっ…ちょっと待って。じゃあもしかして…ま、まさかそんな。そんなわけないよね?よっちゃんお願いだから違うって言って」
「その人はね……」

やめて!マコトの名前なんて聞きたくない!!

「ののれすよ」

やだっ聞きたくないんだってば。ののれすよ、なんて……って、ええぇぇぇぇ!!!

「つ、じちゃん?」
「よっちゃんはののがもらうのれす」
「ごめんね美貴ちゃんさん」
「ミキティ、残念れすね」

くるっと美貴に背中を向けて、よっちゃんとつじちゃんがありえないくらい片寄せあって去ってゆく。は?なにこれ?つじちゃんいつのまに現れたの?ははーん、わかった。夢でしょ。これ夢だ。だって美貴が振られるなんて。ううん、振られたどころじゃない。美貴からなんでつじちゃんにいくの?!意味わかんない。夢じゃなきゃ納得いかないよ!

159 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:21

「よっちゃん、ののはシアワセれす」
「のの、あたしもシアワセだよ。ようやくミキティに解放されてののと一緒にいられるんだから」
「ののはミキティよりいい女なのれす」
「さあ、行こう」
「一緒に行くのれす」

くぉらぁぁぁぁぁぁーーーー!!!オマエら、ちょっと待て!夢にしたっていくらなんでも言いすぎだろ。美貴の夢の中で勝手なことするな!コラ!大体美貴がなにしたって言うのよ〜。なんでつじちゃんなのよ〜。マコトよりなんかちょっと微妙にヤダよ〜。ムカツクよ〜。ってオイ、聞けってバカ!行くな!止まれ!

「ね、起こしてあげたほうがいいんじゃない?」
「怖くて近寄れないの」
「うわっ!白目むいてるったい」

むぅ〜。うるさいなぁ。人の耳もとでなにゴチャゴチャ喋ってんのよ。誰?言いたいことあるならはっきり言ってよね。いま美貴は二人を追いかけてるん…イッデェェェ!!!

「あ、踏んじゃった」
「起きたみたいなの」
「逃げるったい」

イダイイダイイダイよ〜。よっちゃーん。誰かが美貴の足を踏んだよ〜。よっちゃん?よっちゃんどこ?なんでいないの?よっちゃーん…あ、なんだろなんか体が……



160 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:21

「やっぱ夢じゃん」

なんだったんだろあの夢。すんごくムカツク。すんごく夢見が悪い。それに足も痛い。なんで?美貴どっかぶつけたっけ。昼間のライブでなんかしたかなぁ…ってそうだ!今日は初日だったんだ。あれ?美貴なんで寝てたんだろ。あ、そっか休憩してるうちに寝ちゃったんだ。それにしても嫌な夢だったなぁ。よっちゃんどこ〜?早く来てぎゅってしてよ〜。

「いやだからさ、オイラもいっぱいいっぱいなわけよ、モーコー」
「んなこと言ったって梨華ちゃんがああなのは昔からじゃないですかぁ」

よっちゃん?よっちゃんの声だ!ヤッタ!早く早く、そのドア開けて美貴のところに来てよ〜。両手広げて待っちゃうよ?目もつぶって万全の体勢だからね!ほら!

「そうだけどさぁ。なんでよりによってモーコーで…」
「ですよねぇ。あんなハモリを梨華ちゃ…」

…まだ?よっちゃんはまだ美貴の胸に飛び込んでこない。ドアが開いた音はしたからもうとっくに美貴の目の前にいてもおかしくないのに。うん?バタンって、もしかしてドア閉めたの?出たわけじゃないよね?そこにいるよね?薄目でそーっと見ちゃおう。

「っていないし」

なんでいないわけ?今入ってきたじゃん。なんで出るのさ。

「いやーびっくりした。マジでびっくりした。思わず閉めちゃったよ」
「…なんかすみません」
「いやいやびっくりした。とにかくびっくりした」
「そんな連呼しないでくださいよ」
「だってミキティがこう、両手広げて待ってるなんて思わないでしょ。しかも目つぶってさ。口尖らしてたし。ちょっとキモかったよね。あれ絶対間違いなくよっすぃ待ちだよ」
「そうですね…」

めちゃめちゃ聞こえてるんですけど。矢口さんがびっくりしたからってよっちゃんまで出ることないでしょ!キモとか言うな。よっちゃんはいつも「かわいいよ美貴ちゃんさん。ホントにかわいい」って言ってくれるんだからね!そっちが来ないならこっちから行くよ?

161 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:22

「とりあえずよっすぃ入りなよ」
「はあ。矢口さんは?」
「なんか怖いからいい」

バーンって勢いよくドアを開けたら…あれ?よっちゃんしかいない。矢口さんどうしたんだろ。ま、いなくていいんだけど。よっちゃんもなにそんなびっくりしてんのさ。美貴がかわいいからって今さらびっくりしないでよね。もぅ、よっちゃんったら〜。

「よっちゃんさ〜ん」
「や、矢口さん大丈夫ですか?」
「よっちゃんさん?」
「うわっ(コワッ)な、なに?美貴ちゃんさん」
「よっちゃんさん、美貴のことほっといてなんで矢口さんのこと気にするの?」
「なんでって(コワすぎだよ)だって、矢口さん今ドアに吹っ飛ばされ…」
「よっちゃんのバカー!!美貴のこと大事にするって言ったくせにー!!」
「え、な、なに美貴ちゃんさん。大事にするよ。っていうかしてるよ?」
「美貴、さっき怖い夢見たのによっちゃんいないんだもん…」
「(うわっ急にかわいい)ご、ごめんね美貴ちゃんさん。怖い夢見たの?よしよし。怖かったねー」
「うん、怖かった。でもよっちゃんがいるからもう平気」

頭をナデナデしてもらったから平気。ぎゅってしてもらったから全然平気になっちゃった。やっぱりよっちゃんはすごい。美貴を一瞬で元気にしちゃう。だからさっきいなかったことは許してあげる。

「そっかー。そんなに怖かったんだー。どんな夢?」
「あのね、よっちゃんがね…」

ムカッ。思い出したらまたムカムカしてきた。口にするのも腹立たしい。こんな話したって楽しくないからやっぱり言わないでおこう。今はダブルとかユーとかツーとかジーとかいう単語は聞きたくない。ついでにカーとかゴーも。

162 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:22

「やっぱいいや。よっちゃんが来てくれたから美貴嬉しいし」
「えへへ。そう?美貴ちゃんさん」
「うん?」
「チュッ」
「やだよっちゃんこんなところで〜」
「だって美貴ちゃんさんがかわいいんだもん」
「よっちゃんもかわいいよ〜。ね、中入ってまったりしようよ」
「そだね。次のリハまでまだ時間あるしね」

よっちゃんの腰に腕をまわすと同じように美貴の腰に腕がまわってきた。よしよし。ようやく恋人っぽいことができるぞ。

「あの〜オイラの心配は…ってもういねえよ!なんだよあのバカップル!」
「よっちゃんさ〜ん」
「美貴ちゃんさ〜ん」
「よっちゃんさ〜ん」
「美貴ちゃんさ〜ん」
「…ライブ前なんだからエッチとかしないでね、キミたち」
「よっちゃんさ〜ん」
「美貴ちゃんさ〜ん」
「よっちゃんさ〜ん」
「美貴ちゃんさ〜ん」
「はいはい。無視ってわけかそうですか。勝手にやってろー!」

ちっちゃい人がドアの外でなんか言ってるけど気にしない。だって美貴の目にはよっちゃんしか映ってないんだもん。よっちゃんの目にも美貴しか映ってないよね?だれも映しちゃいやだよ?

163 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:23

「美貴ちゃんさんひとりにしてごめんね。ちょっと矢口さんと打ち合わせがあったんだ」
「ううん。もういいの。よっちゃんが来てくれたから。エヘヘ」
「そっかぁ、よかった。それにしても昼は盛り上がったねー。でもやっぱ初日って緊張するわ」
「そうだねー。夜はもっと激しくいこうよ!ね?」
「う、うん(激しくって…ライブのことだよね?)」

よっちゃんをソファに座らせてその上に美貴がヨッコイショとまたがる。ほら、こうするとすごく近くに感じるでしょ?感じるっていうか近いんだけどね。ぴったりくっついていられるから美貴はいつもこうしてるの。

「(お、重っ…)と、ところで美貴ちゃんさん」
「ん〜?」

首に両手をまわしてよっちゃんの顔を引き寄せた。だってよっちゃんの顔しか見ていたくないんだもん。こうすれば視界によっちゃんしか入らない。我ながらグッドアイディアでしょ。

「(近いなぁ…)ピースなんだけどさ、昼と同じようにロボキスでいいよね」
「絶対いや」
「ええ?なんで?美貴ちゃんさんあれ好きでしょ?いつも楽しい楽しいって喜んでやってるじゃん」
「いやなものはいやなの!」

ロボキス。ふんっ。考えたくもない。考えるとあの夢の中の二人が出てきて、美貴のことを笑いながら指差して置いてっちゃう。

『残念れすね残念れすね残念れすね残念れすね残念れすね』

イヤァァァァーーーー!!うるさーい!!れすれす言うなー!うるさいうるさい消えろー!頭の中でムカツク声が鳴り響く。美貴を置いてよっちゃんがどこかに行っちゃう…。あ、なんか泣きそう。

「美貴ちゃんさーん、どした?ほら顔上げて」
「ぐすっ…よっちゃんさん…」
「チュッチュッチュッ」
「くすぐったいよ〜」
「美貴ちゃんさんが笑ってくれたらやめてあげるよ。チュッ」

え…やめちゃうの?それもなんかやだ。やめないで。よっちゃんずっとチュッてしてよ。さっきの夢なんか忘れさせて。ずっとずっと、美貴のよっちゃんでいてよ。

164 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:23

「美貴ちゃんさんが嫌ならロボキスはやめるからさ、ね、だから笑って」
「笑ったらよっちゃんチュッてするのやめちゃうんでしょ…?」
「バカだなぁ。やめるわけないじゃん(うぉーすげぇかわいい)」
「ホント?」
「ホントホント。笑ってくれたらもっとチュッてするよ〜」
「じゃあ笑う!美貴もいっぱいチュッてするよ〜。チュッ」
「美貴ちゃんさ〜ん、チュッ」
「よっちゃんさ〜ん、チュッ」
「美貴ちゃんさ〜ん、チュッ」
「よっちゃんさ〜ん、チュッ」
「美貴ちゃんさ〜ん、チュッ」
「よっちゃんさ〜ん、チュッ」
「美貴ちゃんさ〜ん…チュッ」
「よっちゃんさ〜ん、チュッ」
「み、美貴ちゃんさ〜ん…チュ(ハァハァ…いつまでやるんだ…?)」
「よっちゃんさ〜んよっちゃんさ〜んよっちゃんさ〜んよっちゃんさ〜ん、ブチュゥゥッゥ」

ふう。ようやく充電完了。よっちゃんがいなかった時間のラブラブを取り戻せたかな?ホント言うとまだまだ足りないけどそれは夜のお楽しみだもんね、フフフ。あれ?よっちゃんなんかゲッソリしてるけどなんで?ライブで体力使いすぎだよ〜。美貴のためにちゃんとエネルギー残しておいてよね!フフフ。

「えっと、それじゃさ、ロボキスのかわりになにする?」
「うーん…そうだなぁ。あっ!!」

すごくイイコト思いついちゃった!よっちゃんとやるっていったらこれっきゃないでしょう。これ以外に思いつかないもん。やってほしいもん。うん、美貴って天才かも。

165 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:24

「抱っこ」
「は?」
「抱っこして〜?よっちゃん」
「えっと今ってピースの間奏のときになにやるかって話ですよねぇ?」
「やっだーよっちゃん当たり前じゃん。自分から話といてなに言ってんの〜?」

ホント、よっちゃんって面白いんだから。そういうところも好きなんだよね。あ、間違えた。そういうところが大好き!面白くてかっこよくてかわいいよっちゃんが大好き〜!

「抱っこ!抱っこ!抱っこ!」
「抱っこするの?あたしが?美貴ちゃんさんを?」
「決まってるでしょっ。マコトが梨華ちゃん抱っこしたらおかしいじゃん」
「いやうちらが抱っこするのも十分おかしいかと…(はっ!ま、まずい)」
「……よっちゃん、美貴のこと抱っこしたくないの?」
「ま、まさかぁ〜そんなわけないじゃん。滅相もない。美貴ちゃんさんを抱っこしたいなぁ…」
「ヤッター!決まりっ!抱っこ!抱っこ!抱っこ!抱っこ!」
「わかった、わかったから美貴ちゃんさんあんまり暴れないで(く、くるしい…)」

抱っこ抱っこ抱っこ抱っこ。よっちゃんさんに抱っこしてもらえるー!やっほー!歌のときはいつもよっちゃんといられるわけじゃないからって我慢してたけど、抱っこしてもらえるんだー!!

「そんなに喜ぶならいつでも抱っこくらいしてあげるよ〜?」
「ホント?」
「ホントホント」
「でもピースでもしてね」
「(え゛…)う、うん。もちろん」

あー美貴すんごく幸せかも。さっきの夢がウソみたい。あれのおかげでよっちゃんに抱っこしてもらえることになったんだから、むしろ感謝しないと。ってしないけどね。まだムカついてるから。でも今度つじちゃんにガムでもあげよっかな〜。

166 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:24

「ねぇ、よっちゃん」
「(ギクッ。今度はなんだろ…)なんですか〜美貴ちゃんさん」
「あのね、美貴ね」
「うんうん…」
「抱っこしたらグルグルしてほしいな」
「ぐ、るぐる?(ぐるぐるって言った?)」
「そうグルグルして?抱っこしてグルグルってまわるの」
「あたしたちが?」
「そう」
「あたしが美貴ちゃんさんを抱っこしてお客さんの前でグルグルまわるの?」
「そのとおり!」
「(はぁ〜美貴ちゃんさんは一度言ったら止まらないからなぁ…)りょ、了解」
「ヤッターーーー!!」

美貴の言うことをなんでも聞いてくれるよっちゃんはやっぱり優しい。優しくて大好き。これからも美貴のお願い聞いてくれる?よっちゃんさん。美貴のこと大好きでチュッてしてくれるかな。怖い夢見たらナデナデしてくれるかな。美貴はするよ!よっちゃんが怖かったり辛かったりすることがあったら絶対、何度でもチュッてして抱きしめるからね!だからいつもそばにいてね、よっちゃんさん。




167 名前:美貴ちゃんさんの幸せ 投稿日:2005/03/10(木) 22:24
<了>
168 名前:ロテ 投稿日:2005/03/10(木) 22:26
やっぱりショボくてすみません。ていうか『たかが〜』の大量更新だと思って開いたら短編でガッカリ、みたいな人がいたらすみません。本当に申し訳ないです。
169 名前:ロテ 投稿日:2005/03/10(木) 22:27
なにごともなかったかのようにレス返しを。

143>ニャァー。さん
胸のほうは大丈夫でしょうか。鳴りっぱなしは体によくないかとw
この姉妹を気に入ってくれてありがとうです。今回は短編ですみません。

144>たーたんさん
どうか涙をふいてください。ってもう乾いてますかそうですかw
HN変わったようですが心境の変化?ネタバレ考慮サンクスです。

145>通りすがりの者
深くなんてないですからwサラっと読んで頂けるとありがたいです。サラッと。
錯覚ですかそうですか。自分でもちょっとヤバイなと思います(意味不明

146>Johnさん
川VvV)<買え
作者はもちろん買ってま(ry


しつこいですが今回の更新分は本編とはまったく関係ありません。ただの短編です。興味のない方はスルーしてください。話の途中でぶった切ってしまって申し訳ないです。
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/10(木) 22:28
ほんとがっかり
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/10(木) 22:48
みきよし好きなんで、こんな感じの短編もいいっす!!
本編の更新も待ってます。
172 名前:名無しのY(たーたん) 投稿日:2005/03/10(木) 23:22
更新お疲れ様です。
飛んで来ましたよっ!(どこから?って突っ込みはなしで)
いや〜、いいです。2本ともいいですよ〜!
でも、単純おバカな私は2本目が特に好きです。
やっぱりたまにはバカップルも読みたいですからね。w
おかげで楽しい気分で眠れそうですよ。
本編の更新も楽しみにお待ちしてますね。
173 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/10(木) 23:45
ほんとしやわせ。
大量更新お疲れ様です。
ライブのおかげでこんなにみきよし見れるなら、関東のライブに誘いたいくらいです。
174 名前:名無しのS 投稿日:2005/03/11(金) 06:58
すごい!!2本もキターッッ!!
コンサ裏ネタ、すっごく読みたかったので
嬉しい限りです。
朝から読めて、いい一日になりそうです。
これ読んだら次回のコンサも期待しちゃいますよ。
名前しか出てこない、あのヒトも、やっぱスキです!
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/11(金) 16:12
浮かれ過ぎなミキティが面白いです
本編の方も楽しみにしていますね
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/11(金) 21:31
コンサを実際に見て、妄想して、それを形に出来る作者さんが羨ましいです。
2本ともほんとに面白かった。読んでて楽しかった。
次も期待してます。
177 名前:130@緑 投稿日:2005/03/11(金) 22:14
素敵な2作品、乙です。
うぉ〜、こう来たか〜。ふむ、完敗です。
(さすがリアリティが違いますw)
2本目の新鮮さにヤラレました。ついにこの領域にまで!?って感じで。
でもロテさんの書くこの二人も面白いです。
本編もまったりお待ちしてます。
178 名前:ロテ 投稿日:2005/03/12(土) 01:04
懲りずに短編です。いしよしです。
本編は近日中に必ず更新します。
今しばらくお待ちください。本当にすみません。
179 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:05
「あたしI WISHが嫌いになりそうだよ」

コンサートの初日を無事に終えて、心地よい疲労感を連れてよっすぃとともに帰宅した。ご飯を食べて、お風呂に入って、ぼぅっとテレビを眺めつつマッタリしていたらふいによっすぃがそんなことを呟いた。

「どうして?」
「だって、身が持たないよ」

そう言ってよっすぃは私の肩に頭を預けてきた。彼女にしては珍しく甘えモードみたい。普段は私がお姉さんぶるのを許さずにああしろこうしろなんて、命令口調でふんぞり返って満足してるけど、今日はちょっと違う。甘えたいのかな。

「れいななんてもうすでに半ベソでさ、そんなん見たら…」
「よっすぃも泣いちゃう?まだ初日だよー?」

弱々しい声が耳もとで響く。表情は見えないけどどんな顔してるかなんてお見通し。普段は強がっちゃってなかなか涙を見せないあなただけど、今日はやっぱりちょっと違う。泣きたいのかな。

「かっこ悪いね…あたし」
「うん、かっこ悪い」
「ひっでー。そこはかっこ悪くなんてないよとか、かっこ悪いよっすぃも好きだよとか言うところだろー」

よっすぃが体を揺らして笑うからその振動が肩をとおして体中に伝わってくる。長年の経験から、そのリズムがネガティブなものではないとわかって私はホッとした。

「でも本当はI WISH大好きでしょ?」
「まあね。辻加護のこととかあの頃のこととか、いろいろ…思い出すからね」
「いろいろあったわよねぇ」
「いろいろあったねぇ」

本当にいろいろあったな。言葉でなんて表せない。いろんなことが起こっては通り過ぎて、ときに置き去りにして今がある。かっこつけたがりで意地っ張りで、でも昔から私のことを一番大切にしてきてくれたよっすぃが、今こうして私の横で私に体を預け、甘えている。この瞬間のために今までいろんなことがあったのかもしれない。

180 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:06

「大体あの演出がよくないんだよな」
「なによ突然」
「だってあれじゃ泣いてくださいって言わんばかりだよ!」

思い出したように大きな声を出すよっすぃがちょっと面白かった。泣きそうになった自分がよっぽど許せないんだ。言い訳しようとしてるのが手に取るようにわかる。かっこいいとか悪いとかどうでもいいのに。本当に子供なんだから。「かっこ悪くなんてないし、どんなよっすぃだって私は好きなんだよ」なんて言わなくてもわかってるくせに。

「私は嬉しいな。思い出の曲で、みんなに見送られて」
「それは…まあそうだろうけど…」

ゆっくりと階段を降りきったそこには新リーダーとサブリーダー。二人とも昔から変わらない笑顔で私を迎えてくれる。よっすぃわかってる?あなたよりも誰よりも、一番泣きそうなのは私だってことを。

「だからI WISHのときはちゃんと私の顔見てね」
「見てるよー」
「うそ。目が合ったときさりげなくそらしたでしょ。泣きそうになったんだなってすぐにわかったよ」
「うぐぐっ…」
「泣くのはかっこ悪いことじゃないよ?」
「そうかぁ?やっぱかっこ悪いよ…ま、でもぼちぼちね。頑張る」

私の肩に乗っていた頭がするすると下降していつものポジションに収まった。ゴロンと横になったよっすぃは、目をつぶって「うーん」と気持ち良さそうに伸びをする。私のお腹に鼻をこすりつけて、頭を乗せた太ももを咬むそぶりをして悪戯っ子のように笑う。私はその様子を眺めながらよっすぃの髪をいつものように撫でて、彼女の悪戯が過ぎるときは時々ほっぺをつねったりわき腹をくすぐったりして報復する。それはとてもゆったりとした時間で、ふいに涙が出てきてしまいそうなほど当たり前な私たちの日常。

181 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:06

「ちゃんと私のこと見ていてね」

そう漏らした私をよっすぃはちょっとの間じっと見つめて、それから体を起こしてやさしくキスをした。唇から伝わってくるのは口下手なあなたの愛情。それは言葉にするよりもよほど私の胸をいっぱいにして、愛が溢れてくる。

「強いね、梨華ちゃんは」
「そんなことないよ」
「I WISH歌いきるんだもん、やっぱ強いよ」
「だってまだ初日じゃない。よっすぃってばおっかし〜」
「初日とか関係ないっつの」

そういうことじゃないもん、なんて言いながら私の腰に両手をまわして、ぐりぐりとお腹に顔をこすりつけるよっすぃ。もしかして泣いてるの?なんて言ったら余計に泣いちゃうかな。めったに見れない泣き顔を見たい気もしたけど、今だけはそっと泣かせてあげよう。こうして背中を撫でながら。あなたの泣き顔がかわいいことを思い出しながら。



182 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:07

「それにしても美勇伝はなんつーか、えーっと、あれだよな」

ひとしきり泣いてからなにごともなかったかのようにまた仰向けになったよっすぃは、泣いたことに私があえて触れないのが決まりが悪いのか、唐突に話を変えた。普段は美勇伝のことなんかほとんど話さないのに。バツが悪そうに鼻の頭なんかをポリポリとかいて、あーとかえーとか話題を探すのに必死みたい。

「なんつーかえーっとなんなのよ」
「うん、あの〜ほら、あ!そうそうあの胸はすごいよな」

ピクリ。こめかみのあたりの血管が反応した。『あの』っていうことはもちろん私の胸のことじゃないわよね。話題の選択を誤ったことにバカなよっすぃは気づいてない。

「だってさ、振りがこう胸を強調するようにこれでもかって…」

たまに美勇伝の話をしてくれると思ったらこれだもの。さっきまでの甘い空間はどこに行っちゃったの?私が無言でいることにまだ気づかないの?

「いや〜。あれで17?17だっけ?マジですごいわ。うん」

バカ。胸ばっかり見てないで私のことを見なさいよ。頑張ってるんだから。頑張ってるねってよっすぃに言ってもらいたいのに。このバカでエッチな恋人はそういうところが鈍感っていうか素直っていうか…。でもそういうところも含めて全部好きって思っちゃう自分のほうに、むしろ呆れちゃう。

「あとあれ、なんつーんだっけああいうの。チェッ。言葉が出てこないや」
「舌打ちしないの」
「だって思い出せないんだもん。ここまで出掛かってるのに」
「今度は誰の胸よ〜」
「いや胸じゃなくて…」

183 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:08

天井を見ながら両手を宙にさまよわせて、身振り手振りで私に伝えようとするけどさっぱりわからない。そろそろ足がしびれてきたから頭の位置変えてほしいなぁ。それか左側に移動してくれないかな。さりげなくよっすぃの頭をぐいっと押してそろそろと座り直してみたけど、喉もとまで出掛かった言葉を探すのに必死なよっすぃは全然気づかない。相変わらず両手をバタバタさせたり自分のこめかみをぐりぐり押したりして、思い出そうとしている。

「よっすぃ〜。足しびれちゃったからこっち、移動して」
「はいはい」

クソー思い出せねーとかなんとかぼやきながら体を起こして、ハイハイしながら私の両足を乗り越えるよっすぃ。難しい表情が貼りついたキレイな顔が目の前を通り過ぎようとしたその時、「あ、思い出した」と言ってよっすぃはくるっとこちらを向いた。

「凛としてるよね、梨華ちゃん。まさに美勇伝って感じ?それが言いたかった」

…バカ。誉めるならちゃんと誉めるって言ってからにしてよ。突然そんなふうに言われたら嬉しいっていうか恥ずかしいよ、よっすぃ。私をこんなにドキドキさせてることに気づかないで、左側でまたゴロンとして私の太ももをナデナデなんてしちゃってるんだから…よっすぃってホントにバカ。バカで鈍感でエッチ。

「でもそこが好きなのよねぇ…」
「ん〜?」

目をこすりこすり私の顔を見るよっすぃ。垂れ気味な大きな瞳がいつも以上に垂れて、眠たいのを我慢している顔。いつもはいろんな話をしてるうちに私の膝枕でスヤスヤと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っちゃうけど、今日はやけに頑張っている。今日という日を終わらせたくないみたいに、よっすぃは寝るのを拒んでいる。

184 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:09

「ふわぁぁぁ〜。マコト大丈夫かなぁ」

口もとをむにゅむにゅさせながらあくびをして、インフルエンザの後輩を心配してるけど眠かったら寝ていいんだよ?私はなぜだか目が冴えちゃって全然眠くないけど、一緒にベッドに入ったら眠くなるかもしれないし。

「もうちょっと、こうしていたい…」

立ち上がりかけた私を手で制して、よっすぃは珍しく懇願するような殊勝な口調で私のお腹にまた顔を埋めた。それならと、私はやっぱりよっすぃの髪を手で梳きながら、露わになった耳をいじってみたりする。

「今さらだけど髪切りすぎじゃない?」
「ん〜?だって梨華ちゃんが切れっつったんじゃん」
「そんなこと言ってないでしょー。自分がフットサルのときに邪魔だからって切ったくせに」
「あれ?そうだっけ。たしか言われたような気がしたんだけどな…」
「それ誰と間違えてるの?」

私のお腹のあたりを犬のようにくんくん嗅いでいたよっすぃの動きが止まる。なにげなく言った言葉なのにどうやら彼女には思い当たる節があったらしい。よっすぃにそんなこと言うのは一人しかいないじゃない。考えるまでもない。もう、本当にやんなっちゃう。

「美貴ちゃんでしょ」
「ギクッ」
「ギク、なんて口に出さないでよ」
「いや出さなきゃわからないかなって」
「よっすぃにとってはわからないほうがいいでしょう?この場合は。ホントにバカなんだからぁ」
「どうせバカだよっ」

フンッなんてそっぽ向いちゃってるけど立場が逆でしょ?この場合は私が怒るところなんだから。まったく、本当に、バカ。それともこれって作戦なの?うやむやにして私に怒る気を失くさせる作戦だったとしたら…危うく引っかかるところだった。

185 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:09

「そっかそっか。髪切れって言ったのはミキティだったかぁ」

やっぱりこの人はとんでもなくバカ。作戦なんて考えているわけがない。思っていることを言っただけ。そんなところが素直でもあんまり嬉しくないんだけどな。むしろそういうところは隠してほしいのに。でも裏を返せば後ろめたいことがないから言えるのかな。なんて都合よく考えちゃうのは甘すぎかも。

「あー!美貴ちゃんで思い出した!」
「うおっ。なんだよ急に大声出して」

そうだ思い出した。すっかり忘れてたけど思い出した。不思議そうな顔でこっちを見てるけど、怒られる覚悟をしといたほうがいいよ、よっすぃ。さっきまで忘れてたけど本当に怒ってるんだから。

「よっすぃ、ちょっと起きて」
「えぇぇ〜なんで〜?」
「いいから起きなさい」
「……ふぁい」

さっきまでよっすぃが触れていた場所から温もりが消えて少し寂しかったけど、ちゃんと言わなきゃこの鈍感な恋人はわからないから仕方ない。私だって毎回毎回こんなこと言いたくはないんだけど。

「よっすぃ、ピースのとき何してましたか?」
「ん…?ピース?えーっとえーっと…その〜」
「私の台詞のとき美貴ちゃんと抱き合ってたでしょ」
「う、うん…いやそれは…」
「バカ」
「ごもっとも」

私が青春の1ページって〜なんて言ってるとき、恋人は他の人とイチャイチャイチャイチャ。その姿をちゃんと横目で確認しちゃう私がなんだかバカみたいじゃない。遊びだってわかってても本当はすごく苦しいんだから。そこのところわかってるの?よっすぃ。

「悪ふざけがすぎました。ごめんなさい」

正座をして深々と頭を下げるから結局は許しちゃう。でもまだもうちょっと反省させないと。だって本当にイヤなんだからね。美貴ちゃんとベタベタベタベタするの。しかも楽しそうなのが余計にイヤ。だからまだ許したそぶりなんて見せてあげない。

186 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:10

「ごめんね、梨華ちゃん」

よっすぃもちょっとはマズイと思っていたのか、おそるおそる私の顔を覗き込んで心配そうな表情。その目の端が赤々と染まっていて、さっきの涙の名残だとわかった途端に怒ってるポーズは終了。やっぱり私って甘いのかな。

「もう怒ってないよ。だから…」
「わかってる。おいで」

こういうとき絶妙なタイミングで優しく抱きとめてくれるよっすぃは、もしかしたら鈍感なんかじゃないのかもしれない。私のしてほしいことをちゃんと察知して、そのとおりにしてくれる。よっすぃの腕の中でそんなことを思っているとふいに額にキスをされた。唇が触れた場所が徐々に温かくなるのがわかる。

「梨華ちゃんの『愛しいあの人』はあたしだよね?」
「悔しいけどそうだよ〜」
「悔しいとか言うな。そっかそっか。ならいいんだ」
「なによ〜」
「んにゃ、なんでもな〜い」

お昼ごはんなに食べた?なんて笑い合って抱き合いながら、私たちは静かな夜の闇に溶けていった。夢の中で私はピースを歌っていて、台詞のときによっすぃを確認すると相変わらず美貴ちゃんと遊んでいて、それは夢の中でも寂しく感じたけど私のほうもちゃんと見てくれていたからやっぱり許してあげた。

『愛しいあの人、お昼ごはんなに食べたんだろ〜』

よっすぃが自分を指差してるのが見えて、私は大きく頷いていた。





187 名前:I WISH 投稿日:2005/03/12(土) 01:10
<了>
188 名前:ロテ 投稿日:2005/03/12(土) 01:11
本編とはなんら関係のない短編です。
興味のない方はスルーしてください。申し訳ない。
189 名前:ロテ 投稿日:2005/03/12(土) 01:12
レス返しを。

170>名無飼育さん
正直スマンかった。

171>名無飼育さん
いいっすか。ありがとう。本編は近いうちに必ず。

172>名無しのY(たーたん)さん
やはり2本目ですか。サンクス。ていうかどこから?w

173>名無し飼育さん
しやわせですか。なにより。ライブのたびに書いてたら身が持ちませんw

174>名無しのS
楽しんでもらえてよかったです。ありがとう。名前のみだったあのヒト出しましたw

175>名無飼育さん
ミキティ暴走?させてみました。お褒めの言葉サンクス。本編は近いうちに必ず。

176>名無飼育さん
羨ましがられるようなものじゃありませんです。はい。読んでくれてありがとう。

177>130@緑さん
こう来ました。2本目はちょっと挑戦してみました。本編は近いうちに必ず。


本編ほっぽって短編をいくつも更新してしまい申し訳ないです。えー、次からはまた本編に戻ります。これからも頑張りますのでどうぞよろしく。
190 名前:名無しのS 投稿日:2005/03/12(土) 06:21
うわあん。ロテさん、最高のいしよしをありがとうございます。
起床して一番に見にきました。
それで、もったいなくてもったいなくて
一文ずつゆっくり時間をかけて読みました。
不覚にもちょっと涙が・・・。
この膝枕の距離感がものすごくいいです。
191 名前:名無しのY(たーたん) 投稿日:2005/03/12(土) 07:29
更新お疲れ様です。
書きたい事は山ほどあるのですが
本編を超える長さになってしまいそうなので
また別の機会にさせていただきます。
朝から良い物読ませてもらいました。
本編の方はまったりお待ちしてます。
192 名前:ニャァー。 投稿日:2005/03/13(日) 03:34

更新お疲れ様でした!!
パソ調子悪かったので少しの間出来なくて凹みましたwべコベコにw

短編めっちゃよかったですvv
前の短編もよかったですし!二本目かなりワラタ ですw
鳴りっぱなし復活ですww
次回も更新頑張って下さいねっ!
193 名前:John 投稿日:2005/03/13(日) 06:43
じゃぁ恋ヴィクうたえませんねとか161あたりに間違ったレスしてみる。
鼻から赤いものが止まらないのですがティッシュはどこでしょうか?

美貴さんに近づきたいがためにとち狂って応募したオーディションが一次を突破したことに驚きつつ今日はこまめに覗きます。
194 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/16(水) 00:49
短編2個ともよかったです。 本編のほうも気になっていますが、こんな息抜きも有りかと。 本編&短編次回更新待ってます。
195 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:43

定刻に少し遅れて大講義室に入った真希は中段の右隅、いつもの定位置で突っ伏しているヒヨコのような金髪頭を見つけてちょっとした悪戯心が芽生えた。幸いなことに講師はまだ来ていない。階段を降りながら湧き出る笑みを必死で堪えた。

ピクリとも動かない背中に近づきそっと屈みこんだ真希はひとみの耳元に唇を寄せた。

「許さない」
「うわぁっっっ」

素っ頓狂な奇声をあげて仰け反ったひとみはそのまま椅子から転げ落ちた。大きな物音に学生たちが何事かと一斉に振り向く。まさかこれほど派手にひとみが驚くとは予想もしていなかった真希は、急に気恥ずかしくなりさっと立ち上がって他人の振りを決め込みひとみの横を何食わぬ顔で素通りした。

「オイコラてめーちょっと待ちやがれ」

怒ったような低い声が背中に降りかかったが、真希は聞こえない振りをして階段を少し降りると素知らぬ顔でちょうど空いていた席についた。

「真っ希ちゃ〜ん!そこの他人の振りしてるやつ!コラバカこっち向けアホエロ魚ハゲ…」
「あー、もう!うっさい。わかったから大きい声で呼ばないでよ」
「タチの悪い悪戯をするほうが悪い」

床に転げ落ちたままのひとみに手を貸した真希はちらりと周囲の反応を窺った。もうすでに興味を失ったのかこちらを見ている学生はいないようだった。

「あ、ていうか今よしこ魚とかエロとかって…」
「ほらほら詰めて。あたしが座れないじゃん」
「あぁ、はいはい」

先ほどひとみが転げ落ちた席の横にちょこんと座った真希は魚の件をつっこもうとしたがそれより重要なつっこみ所が山ほどあることを思い出して真剣な顔でひとみを見た。

真希が言うよりも早くひとみはうんざりしたような顔で真希を見つめる。
その顔にははっきりと「何も聞いてくれるな」と書いてあった。

196 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:44

「そんな顔したって『許さない』から。あ、また言っちゃった」

ぺロっと舌を出した真希にひとみはムッとした表情を隠さず言い返す。

「絶対わざとだろ、今の」
「もちろん」

髪をかきあげながらひとみはどうしたものかと考えた。真希のこの様子ではもうほとんどのことを知っているのだろう。隠したって仕方ないし特別隠すような間柄ではない。全てを話してしまっても構わないがそれはひどく面倒だった。

「で、何が聞きたいの?」
「えーとねぇ、大体は聞いたんだよ」
「じゃあ面倒だからさ、ごっちんが聞きたいことにあたしが答える、でいい?」
「いいよ。それにしても先生遅いね」
「なんか事故で渋滞してるらしいよ。3時までに来なかったら休講だって」
「マジで?!」
「うん。さっき研究室の人が説明してた」
「あと20分か」

携帯で時間を確認する真希の横でひとみは首をさすった。
学生たちはふいに訪れた空き時間を思い思いに過ごしている。

「石川さんってどんな人?」
「げ」
「なによ」
「そこなんだ、聞きたいとこは。つーか亜弥のやつ…」
「よしこがミキティから乗り換えるなんてどういう人なのかなーって」
「嫌な言い方だねぇ」

真希はおそらくそんなつもりはないのだろうが、実際に身も心も『乗り換えた』ひとみにとって今の言葉は多少なりとも耳が痛かった。自業自得であるのはもちろん自覚している。

「まっつーは悪くないでしょー」と言いながら頭を叩こうとする真希の手を一瞬遮ろうとしたが、ひとみは素直に叩かれることにした。たしかに亜弥は悪くない。真希のチョップを受けてもひとみはなんでもないことのように首を掻いた。

「美人だよ。スタイルもいいし」

感度もいい、と言いそうになってひとみは慌てて口をつぐんだ。聞いておきながら真希はさほど興味がないという素振りで爪をいじる。ひとみの答えを聞き流しながら本当に聞きたいことを口に出すタイミングを真希は計っていた。

197 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:44

「ミキティさぁ、なんかヤバくない?」

美貴の名前が出た途端ひとみは首を竦めた。その隣で真希は怪訝な顔をする。

『ヤバイ』という言葉が何を指しているのかひとみには判らなかったが、屋上での美貴の言動を思い出してたしかに『ヤバイ』という言葉がぴったりだと思っていた。

「機嫌が悪いとかそういうレベルじゃないよ、あれは」

首を竦めたまま何も答えないひとみを無視して真希は喋り続ける。

「ミキティってもっとあっさりした人だと思ってた」
「あたしも」
「長く付き合っててもわからないことってあるんだねぇ」
「まったくだ」

二人はそれぞれ先ほどの美貴とのやり取りを思い出しながら深い溜息をついた。

「そんなにあたしのこと好きだったのかなぁ」

欠伸をして指先でボールペンを器用に回しながらひとみは呟いた。

「バッカじゃないの、よしこ」
「んだとぉ」
「ミキティは意地になってるだけだよ。あんなの恋じゃない」

真希は少し強めの口調で吐き捨てるように言った。
ひとみは再び欠伸をしながら真希にしてはきつい物言いだと口には出さずに思っていた。

「美貴、なんて言ってた?」

真希は少々のことでは怒らない。ムッとすることがあってもすぐに忘れてしまうタイプだ。感情をあまり表に出すことがないとも言える。そういう真希の気質はまわりの友人たちはもちろん真希自身も承知している。その真希がここまで感情を露わにしていることにひとみは驚いていた。と同時に、真希にそこまで思わせた美貴が一体何をしたのか気になっていた。

「べつによしこのことだけだったら、ただの愚痴として聞けたんだけど…」
「どういうこと?」

真希は少し躊躇ったものの中庭での一部始終をひとみに教えた。
美貴が梨華の名前を執拗に知りたがっていたこと。
亜弥に対して八つ当たりともとれる暴言。

ひとみは口を挟まずに神妙な顔つきで真希の話を聞いていた。

198 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:45

「だからその石川さん…だっけ?気をつけてあげたほうがいいんじゃない?」
「………」
「ミキティがなんかするってことはないと思うけど…一応、ね」

梨華の身を案じるように言われひとみはそうしなければと思ってはいたが、このとき実際に心の中を大きく占めていたのは傷ついて涙を流す亜弥のことだった。美貴を責める気持ちにはなれなかった。むしろそこまで美貴を駆り立ててしまった自分に激しい嫌悪を抱く。結果として妹を傷つけたのは自分だ。美貴をイヤな奴にしてしまったのも。亜弥と美貴のことを想いひとみは唇を噛んだ。

「はい、そこまで」

突然真希は手を叩いてひとみの思考をストップさせた。
きょとんとするひとみの頬を両側から引っ張りながらニヤニヤと笑う。

「あにすんだよ〜」
「そりゃあよしこのやったことは最低だよ?ミキティはすごく傷ついた」
「うん…」
「でも仕方ないことだとも思う。恋愛って押しつけじゃないし」
「………」
「でも、だからってミキティがまっつーを傷つけていいことにはならない」
「………」
「八つ当たりにもほどがあるよ」
「ごっひん…」

そうでしょ?と同意を求めるように真希は首を傾げた。
両頬を引っ張ったままひとみの顔を下から覗き込む。

「わかったから手ぇはにゃせ」
「あ、忘れてた」

真っ赤になった頬をさすりながらひとみは真希に感謝した。亜弥の傍にいてくれたこと、美貴や梨華の心配をしてくれたこと。そしてこんな自分を励ましてくれたこと。

199 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:46

「ねぇ、ごっちん」
「うん?」
「美貴はあたしが憎くて堪らないらしい」
「そりゃそうだろうねぇ」
「あたしどうしたらいいのかな…」
「そんなこと自分で考えなよー」
「えーそんなこと言うなよー。いいじゃん、教えてよ。頼む」
「や、そういう経験ないからあたしだってわかんないし」
「ひっでー。修羅場になったらどうしてくれんだよー」

零れそうな涙を隠すようにひとみはわざと明るい口調で真希にからんだ。
真希もそれに気づかない振りをしながらひとみとじゃれ合う。

二人が話しこんでいるうちに時計の針は3時を過ぎていた。学生で溢れ返っていた大講義室にはひとみと真希の二人だけ。なんとなく立ち上がるのが億劫になっていた二人はそのまま話を続けた。

「そういえばまっつーさ、また言い寄られてるみたいよ」
「なにっ!マジかよっ」
「マジマジ。電話しながら困ってた」
「どこのどいつだよ、亜弥に近づくのはっ」
「…まっつーのこと言えないくらいよしこもシスコンだよね〜」
「はぁ?!どこが!」

広い室内にひとみの声が大きく響いた。心底意外そうなひとみの様子に真希は呆れる。

「なんだかんだ言ってもまっつーに激甘じゃん。妹離れしなよ〜」
「バッカ、そんなんじゃねーよ。心配なだけだっつの。あんな可愛いから」

だからそれが姉バカなんだよ、と真希は心の中で叫ぶ。
亜弥に好きな人でもできたら大変な騒ぎになるなと身震いした。

200 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:46

「まっつーだっていつかは恋人できるんだからさ」
「ずぇったいに認めない。そんなやつぶん殴ってやる!」

誰だかわからない亜弥の未来の恋人に同情する真希だった。

「で、誰なんだよ。亜弥に言い寄ってるのは」
「さあ?まっつーの先輩だって」
「誰だよそれ」
「だから知らないよー。あ、石川さんの友達とか言ってたような」
「梨華の?マジかよ…」

ひとみがこれほど亜弥を心配していることを、当の亜弥は全く知らないのだから面白いというか馬鹿馬鹿しいというか、呆れたものだと真希は思う。ひとみはなかなか亜弥の前では素直な感情を出さない。姉らしく大人ぶって本当はそうしてほしくないくせに姉離れしろと言う。わざと邪険に扱って亜弥の怒りを誘い、怒った顔を見ては可愛いなぁとか思っている。素直にひとみを慕う亜弥にとってはこれほど迷惑な話はない。

亜弥がいるときといないときのひとみのギャップについて美貴とよく笑いながら話した。そのときの美貴の顔はどんなだったろう。嫉妬しているようには見えなかったが、特別注視していたわけでもないので今の真希には判断がつかなかった。

「ミキティは」
「ごっちん」

真希の言葉を遮りひとみは急に真剣な声で真希の名を呼んだ。
おもむろにシャツの首元をぐいっと引っ張り白い首を真希に晒す。

「はぁ〜お盛んですねぇ」

ひとみの首についた無数のキスマークや噛み痕。
見ようによってはひどく痛々しい傷のようだと真希は思った。

「バッカ。そんなじゃないよ」
「えっ?」
「美貴が」

それきりひとみは何も言わなかった。爪を噛みどこか一点を見つめている。どう話すべきか考えているように見えて真希は辛抱強く待った。

201 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:47

「殺すって言うんだよ」
「……」
「抱いてくれなきゃここから突き落とすって」

真希が予想していたよりもずっと早くひとみは先ほどの続きを話し出した。どこか一点を見つめたまま、まるで他人事のような口調で。

「ここって?」
「屋上」
「抱いたの?」

真希の問いにひとみは首についた印を指差した。見ればわかるだろうと言わんばかりに。

「あたしどうしたらよかったのかな」

真希は何も言えなかった。それでよかったとも悪かったとも。抱いてくれなければ殺すと言われたら真希もきっと抱くだろう。相手の要求を呑まざるを得ない。だからといってそれが正解かというとそうではないような気もしていた。素直に従うことが正しいかというとそれは誰のためにもならないと真希は思う。

ひとみもまた真希と同様のことを考えていた。美貴が本気かそうでないかはこの際どうでもよかった。ただあの場面で美貴を抱かないのはひどく失礼な気がした。プライドの高い美貴が脅迫するように自分を求めてきたこと。殺す、殺さないよりもそちらのほうがひとみにとっては遥かに衝撃だった。

だから結局は抱くしかない。
でもそれは美貴のためにはならない。

「ミキティは…なんて言ってた?」
「なにも」

屋上でひとみに抱かれながら美貴はただ泣いていた。
ひとみの腕の中で絶頂を迎えてもなお涙を流し続けた。

『許さないから』

屋上にひとみを残し美貴はまた捨て台詞を残して去った。
ひとみは緑色のフェンスにもたれてしばらく空を眺めていた。

202 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:47

「石川さんのことホントに好きなの?」

真希の不意の質問にひとみは回想を中断した。

「え?好きだよ?なんだよ急に」
「べつに。なんとなく聞いてみただけ」
「ふうん」

冷静に答えてはいたがひとみは内心では真希の勘の良さに驚いていた。もちろん梨華のことは好きだ。これは間違いない。ただひとみはどこかでこの関係が長くは続かないような気がしている。梨華に溺れる一方でもう一人の自分が冷めた口調で囁いていた。

どうせダメになるに決まっている、と。

相手の体に溺れていても、心から恋だの愛だのには身を浸していない。相手にすべてを預けきれない。そんな表面的な付き合いしかしてこなかったひとみは、屋上で美貴を抱いたときにこれっぽっちも梨華に悪いとは思わなかった自分の感情を当然のように受けとめていた。それは自分の心に問うまでもなく『どうせ』と諦めきった態度の表れでもあった。

ひとみはこんなことを考える自分がまるで不良品の機械のように思えてならなかった。人として大事な部分が少し足りないのではないかと昔から思っていた。真希とは違う意味で感情が希薄な自分。亜弥を別として人に執着がない。そんな自分を変えようともせずに嫌悪感ばかりが募る。

この調子ではそのうちどこかが壊れて、回収されたのちにスクラップになってしまう。
持ち主に見放されて、どこかに置き去りにされた機械のように。

だからこそ亜弥にはちゃんとした恋愛をして、好きな相手に胸を張って好きと言えるような人間になってほしいとひとみは願う。まかり間違っても自分のようにはならないでほしいと。こんな自分を見て軽蔑するなり悪い手本にするなりして学んでほしいと。

ただできればもう少しだけ、もう少しだけなにもわからない顔で『お姉ちゃん』と慕ってきてほしい、後をついてきてほしいとひとみはそう思っていた。思いながらも勝手な言い分だと自分に唾を吐いていた。

203 名前:9 投稿日:2005/03/17(木) 21:47

「っと、もうこんな時間だ」

俯いていたひとみははっとして窓の外を見た。もうすっかり陽は傾き空が薄暗くなっている。

「帰るか」
「うん。今日バイク?」
「なに?送ってほしいとか?」
「まさか。ミキティに殺される」
「うっわー。それちょっと、笑えないわ」

立ち尽くすひとみを置いて真希は先を歩いた。真希なりに美貴のことで考えていることはあったがひとみには話さなかった。話せばきっと「楽観的すぎ」と鼻で笑われるか或いは「他人事だと思って」と怒られる。

「待てよー、ごっちん」
「早く来ないと置いてくよー」

美貴はきっと立ち直る。自分の力で。根拠などない。ただなんとなく真希はそう思っていた。そう信じてもいい気がしていた。時間はかかるかもしれないが時間が解決してくれる部分もきっとあるだろう。どっちにしても美貴が立ち直るのを黙って見てるしかないのだから、それなら信じたほうがいい。美貴が立ち直るのを待つしかない。

ひとみと美貴。どちらも真希にとっては大切な友人だ。そのどちらもが同じくらい追い詰められている。一見すると美貴のが『ヤバイ』感じだがひとみが抱えている問題も根っこが深い。

「ったく、ちょっとは待てよなー」
「待たないよー」

本気の恋愛ができないひとみのほうがむしろよっぽど重症ではないかと、真希は後ろを振り返りながら胸の内で密かに思っていた。





204 名前:ロテ 投稿日:2005/03/17(木) 21:48
更新終了。なぜかこのスレはアゲ忘れることが多いなぁ。
205 名前:ロテ 投稿日:2005/03/17(木) 21:49
レス返しを。

190>名無しのSさん
そこまで喜んでいただけるなんて。・゚・(ノ∀`)・゚・。
読んでくれてこっちこそありがとうです。

191>名無しのY(たーたん)さん
いつもありがとうございます。喜んでいただけてよかったです。
本編お待たせしました。まだまだマターリ更新ですがこれからもよろ。

192>ニャァー。さん
パソ復活オメ!です。またまた鳴りっぱなしですか(ノ∀`)アチャー
本編そっちのけで短編ばかりあげてしまいましたが楽しんでいただけたようで嬉しいです。これからも頑張ります。

193>Johnさん
あ、ホントだ。恋ヴィク歌えないや(ノ∀`)アチャー
ていうかウィアラとかもダメですね。あと探せばいろいろありそうだ。ティッシュなんてねえよとキレ気味に返レスしてみる。ていうか携帯から乙です。読んでくれてありがとう。こまめになんちゃらはスルーでw

194>通りすがりの者さん
おっしゃるとおり。息抜きです。気分転換しました。短編はしばらく封印して(苦笑)本編のほうにいっそう力を入れて頑張ります。読んでくれてありがとうです。


ようやく本編の更新です。が、今後も本気でマターリになりそうです。すみません。
206 名前:名無しのS 投稿日:2005/03/17(木) 22:12
最近自分のカンのよさをほめてやりたい気分です。
更新お疲れ様です。
一気に来ましたね・・・・。
待ってたかいがあったという内容に
読み終わった後、はあっっと声が出てしまいました。
なんか、すごいです・・・。
ごっちん、ほんとに重要な役ですね!!
207 名前:John 投稿日:2005/03/17(木) 23:27
ぅあスルーされたよw


更新乙っす。
なんかこっちはグっとくる場面が多い…
美貴さんの覚悟、結果の姿…なんかドキドキしましたとかたまにはマジレスしてみる。

キールとか片手に更新町ます。
208 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 23:52
更新お疲れ様です!
やはり本編はまた凄いですタイトルが浮き上がり重みを増す
あの方を救えるか変えられるのは誰なのか・・・
マターリ更新たのしみにしてますw
209 名前:ニャァー。 投稿日:2005/03/18(金) 02:43

ロテさん更新お疲れ様です!!
後藤さんも乙デスw…だーー!!コワ帝様〜w(゚∀゚)
いや〜本当に素敵すぎて読むたび鳴りっパですw
ん〜やっぱり皆複雑ですね…。。。
これからがますます楽しみです!!
次回も更新頑張って下さいねっ!!v
210 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/18(金) 03:24
更新お疲れさまです。 ごっちんは天秤の真ん中をイメージさせますね。 いや、それかゲームの重要登場人物? 何はともわれ、ミキティとよっすぃーの因縁はまだまだ続くという訳ですね。 次回更新待ってます。
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 18:14
うーん…なかなか上手く行かないもんですねw
よっすぃーの決断を待ってます
212 名前:名無しのY 投稿日:2005/03/18(金) 20:25
更新お疲れ様です。
さすがですねっ!思わず話しに引き込まれましたよ。
朝気付いてたんですけど読まなくて正解でした。w
これからどうなるんだろう?と、かなり楽しみ度がアップしてます。
次回の更新も楽しみにまったりとお待ちしてます。
213 名前:10 投稿日:2005/04/05(火) 22:16

梨華にとって恋愛は常に気持ちのいいものだ。ふわふわしてとろとろして美味しいもの。生きるために補給するエネルギーの源だ。「それじゃ食べものだよ」と友人に笑われたことがあるが梨華にとって恋愛はまさに食べものだった。栄養を取らなければ死んでしまう。どうせ食べるならより美味しいものを。

それがたとえどんなカタチを為していても美味しければいい。ふわふわでとろとろで気持ちよければ。そうやって梨華は今まで恋愛という名の栄養を取って生きてきた。いつも楽しくてふわふわでとろとろで美味しく。欲求は常に満たされ、自分のペースで恋愛の手綱を握ってきた。恋愛とはそういうものだと思っていた。

ひとみと出会うまではそれが恋愛のカタチだと信じて疑わなかった。


「はぁひっ…あぁぁっ」

ひとみが梨華の中を縦横無尽に駆けまわり、ここというポイントを激しく責めて掻きだすと梨華はあっけなく達した。一週間ぶりにことに及んで体が敏感になっていたのかもしれない。シーツに残る自分の痕跡を指でなぞりながら、梨華は柄にもなく頬を染めて横で天井を見つめているひとみの手をそっと握った。

「イクときの梨華はかわいいね」

ひとみは梨華の頬や鼻、瞼や首筋、鎖骨や耳たぶ、手の甲など余すところなくキスをした。ついでにすべすべした褐色の肌を舐めたり咬んだり、時折吸いついて自分のシルシを付けたりして遊んでいた。いつものひとみは終われば淡白だ。心地よい疲労を連れたまま眠りにつくことを望み、誰と付き合っていてもピロートークなんて滅多にしなかった。後ろめたいことがあるときを除けば。

「イクときだけ?」
「イク前もイッた後も全部かわいいよ」
「それってつまりいつもってこと?」
「そうそう。梨華はいつもかわいい。あたしを夢中にさせる」

顔を上げ満面の笑みでそう返したひとみはまたチュパチュパと音を立てた。赤ん坊のようなその仕草に梨華の頬は自然と緩む。自分の体をひとみの好きにさせて、求められることに喜びを感じていた。

214 名前:10 投稿日:2005/04/05(火) 22:16

ひとみは特別に優しかったり思いやりがあったりするほうではない。どちらかと言えば気まぐれで、ぶっきらぼうな物言いや態度が多いと梨華は思う。そうかと思えばうっとりと甘い時間を作り出して目を逸らせなくするからタチが悪い。

淡白かと思えば情熱的。
大雑把なようで繊細。

何度体を重ねてもまだまだひとみの本質を掴めない。感情があやふやで何を考えているのか判らない。自分のことを本当に好きなのかも。だからこそひとみに惹かれたのかもしれない。

先の見えない恋は梨華にとって初めてのものだった。

「今日はやけに機嫌がいいのね」
「ん〜?そうかな」
「それにすごく優しい」
「イヤなの?」
「ううん。嬉しい。でも珍しいから」
「そうかなぁ」
「そうよ。よっすぃはいっつも終わるとすぐ寝ちゃうじゃん」
「梨華といると安心するからだよ」

梨華の頭の下に左腕を通しながらひとみは苦笑した。次から次に零れるウソなのかホントなのかわからない自分の言葉に。意識していないつもりでもどこかで梨華に罪悪感を抱いているのだろうか。たしかに今日の自分は梨華が普段望んでいることを実践している。甘い言葉に甘いセックス。そしてこの腕枕もしかり。

「そういえばお土産は?」
「ん〜?」
「仙台のお土産。ささかま買ってきてって言ったじゃん」
「あ、ごめ…忘れた」
「もうっ、一週間も仙台にいてなんでささかま買ってこないのよ〜」
「いや、だって遊びに行ったわけじゃないし。ばあちゃんの見舞いだし」

この一週間ひとみは祖母の見舞いで仙台に行っていた、ということになっていた。

215 名前:10 投稿日:2005/04/05(火) 22:16

一週間前、美貴につけられた決定的な浮気の証拠にひとみは頭を抱えていた。梨華に見られないようにするにはどうすればいいのか、しばらく考えた挙句に出した答えは身を隠すことだった。身を隠すといっても大げさなものではない。ただほんの少しの間だけでも梨華に会わずにすめばそれでよかった。梨華に会えば必ずせがまれて彼女を抱いてしまう。それで浮気がバレないわけがない。

理由は言わず(言えず)亜弥に口裏を合わせてもらい少しの着替えを持ってひとみは家を出た。家に籠もることも考えたが梨華に見られたくない以上に亜弥にも見られたくはなかった。なにがきっかけでバレるとも限らない。家の中でマフラーをしているわけにもいかない。

面倒なことになったと途方に暮れ、誰の家に世話になろうかと携帯を眺めているときに美貴から連絡が入った。いろんな意味で絶妙なタイミングだった。

『彼女を抱くように抱いて』

半ば強制的に美貴の家に引き込まれ希望通りに抱いた。ひとみは終始言いなりだった。抵抗も拒絶も面倒だった。もとはといえば美貴に痕をつけられたことが原因で今の状況になったというのに、美貴を抱いている自分をおかしいと思うことすらひとみは面倒だった。それでも今度は痕を残さないと念を押すことだけは忘れなかった。そんな自分の要求を、美貴があっさりと受け入れたことは意外だった。

「感謝してよ」と言う美貴に、「誰のせいだと思ってんだよ」と軽口を叩いた。
昔に戻ったようで少しだけ楽しかった。


「よっすぃ?」
「…ん、あ、なに?」
「ぼぅっとしてた」
「あ、悪い。一瞬寝てたわ」
「人が喋ってるときに寝ないでよー」
「悪い悪い」

たまに、ごくたまにひとみは今のようにどこを見ているのか判らない目をする。なにを考えているのか判らない顔をして、自分の存在がまるで無視されたような気がして梨華は悲しくなる。自分といても何か別のことに心を奪われているひとみが、梨華は嫌だった。

もっとこっちを見て欲しい。
もっとこっちに来て欲しい。

体を求められているときが梨華は一番幸せだった。ひとみの目に自分しか映っていないのが、このときだけははっきりと判るから。

216 名前:10 投稿日:2005/04/05(火) 22:17

「ねぇ、私のこと好き?」
「好きだよ」
「私のことだけ?」
「好きだよ」

『好き?』と聞くと『好き』と答える。そう言われてもいつのまにか素直に喜べないようになっていた。なぜだか心に響いてこないその言葉をそれでも梨華は聞きたかった。ひとみに想われていることを確認したかった。今ある体の距離をそのまま心のそれだと信じたかった。

「浮気したらヤダよ」
「ばーか」

実際にひとみが浮気しているかどうかなんて、梨華は考えたことがないし考えたくなんてなかった。ただ自分に向けられる目や体を撫でる手、サラサラして気持ちのいい唇を独占したい。心の底から自分を求めて欲しいという想いにいつも囚われていた。

だからいつだって聞いてしまう。

『私のこと好き?』
『浮気してない?』

こんな台詞が自分の口から日常的に出るようになるなんて。ちっとも楽しくない。美味しくなんてない。こんなの恋じゃない。自分が知ってる恋ではない。いつもの恋愛と全然違う。

ふわふわしてとろとろして気持ちいいのは抱かれているときだけ。だから何度も求めてしまう。何度も何度も。果てるまで。本当に求めているのは体ではなく、心なのに。

「携帯鳴ってる」
「取って〜」
「ほい」

ひとみはベッドからごそごそと抜け出して携帯電話を梨華に放り投げた。その足でバスルームに向かうひとみの姿を横目で見ながら、ため息とともに梨華は通話ボタンを押した。



217 名前:10 投稿日:2005/04/05(火) 22:18

「そういえばさぁ」

梨華が電話を終えた直後、タオルで髪をガシガシと掻きまわしながらひとみは戻ってきた。その手からタオルを奪った梨華は、ベッドに腰掛けたひとみの後ろにまわり甲斐甲斐しく水滴を拭う。

「そういえばなに?」
「ちょっと小耳に挟んだんだけど」
「うん」

梨華の優しい手つきにひとみは目を瞑って身を任せる。

「亜弥に言い寄ってる奴がいるって」

一瞬、梨華の手が止まった。

「そっちの知り合い?らしいじゃん」

ひとみは目を瞑ったまま。

「さっきの電話ね、その人」
「あん?」
「さっき、よっすぃがシャワー行く前に携帯鳴ったでしょ」
「あぁ」
「柴ちゃんっていう人。中学のときからの友達」
「フルネームは?」
「柴田あゆみ」
「ふうん」
「亜弥ちゃんが心配?」
「べつに」

後ろ髪の水滴を丹念に拭った梨華は、鏡に映るひとみを見た。自分にもたれかかりながら正面にある鏡を見つめるひとみと目が合った。梨華の手が再び動き出し、ひとみの前髪を丁寧に拭きだした。

「いいコだよ、柴ちゃん」
「ふん。どうだか」

思いのほか拗ねた口調のひとみに梨華は少しだけ眉をひそめた。鏡の中のひとみと目が合ったがさりげなく逸らされ、梨華の手がまた一瞬止まった。なにかを言おうとしたが自分の言いたいことがよくわからず、当たり障りのない話題を振った。

218 名前:10 投稿日:2005/04/05(火) 22:18

「よっすぃの髪いい匂いがする」
「そりゃそうだろ。シャンプーしたばっかなんだから」
「うちのシャンプーこんなにいい匂いだったかなぁ」

ひとみの髪に顔を埋めた梨華は先ほどのあゆみとの会話を思い出していた。


『梨華ちゃんだけじゃないんじゃない?』
『そんなこと…』
『けっこう遊んでたって噂聞いたことあるし』
『噂でしょ?そんなの関係ないよ』
『梨華ちゃんだって本当は疑ってるんでしょ?』
『…柴ちゃんどうしたの?何かあった?』
『………』
『今日の柴ちゃんおかしいよ』
『なんでもない。ごめん』


梨華が再び顔を上げると鏡の中のひとみがじっとこちらを見ていた。何かを言いたそうで、でも言いたくなさそうな顔。嫌な予感がしてひとみの髪にまた顔を埋めた。理由はわからないが聞きたくない、そう思っていた。シャンプーの甘い匂いがした。

「亜弥は恋愛に免疫がないからさ」
「かわいい妹には誰も近づかせたくない?意外に心配性だね、よっすぃは。でも亜弥ちゃんに関しては意外でもないか」
「あんだよそれー」
「自分はいっぱい遊んでるくせに妹がするのは許せない?」
「は?」
「そうじゃないか。単にシスコンなだけだもんねー」

ひとみの頭にタオルをかぶせて、梨華は足早にバスルームに向かった。剥き出しの細い足首がタオルの隙間からちらちらと見え隠れし、ひとみは無性に梨華を抱きたくなった。喘ぐ声や苦痛と快楽に溺れる表情、涙をいっぱいに溜めた梨華の目が見たくて堪らなかった。

タオルをベッドに投げ捨て、ひとみは再びバスルームに向かった。





219 名前:ロテ 投稿日:2005/04/05(火) 22:20
更新終了。本気でマターリで申し訳ないです。
申し訳ないついでに次回はよっすぃオタオメ小説です。
またしても本編ぶったぎって重ね重ね申し訳ない。
220 名前:ロテ 投稿日:2005/04/05(火) 22:20
206>名無しのSさん
本気でマターリで申し訳ないです。これからも頑張りますのでよろしくお願いします。待たせてマジですみません。

207>Johnさん
かなりお待たせしてしまい申し訳ないです。ドキドキしてもらったからにはまだまだ頑張ります。今後ともよろしくです。

208>名無し飼育さん
お待たせしまして本当に申し訳ないです。なるべくマターリ更新にならないように頑張りますのでこれからもどうぞよろしくです。

209>ニャァー。さん
お待たせしてしまって申し訳ないです。楽しみしていただいてありがとうです。これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

210>通りすがりの者さん
お待たせしてしまい本当に申し訳ないです。これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。

211>名無飼育さん
よっすぃーの決断どころか更新自体がマターリで申し訳ないです。あまりお待たせしないようにまだまだ頑張りますので今後もよろしくお願いします。

212>名無しのYさん
大変お待たせしまして申し訳ありません。まったりすぎる更新ですがなるべくスピードアップしていけるように頑張ります。これからもよろしくです。
221 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/06(水) 03:39
更新お疲れさまです。 ついによっすぃーに明らかにしましたね。 ある意味有名人(;^_^なんですね。 次回更新楽しみに待たさせて頂きます。
222 名前:名無しのS 投稿日:2005/04/06(水) 08:02
そんな、お待たせなんて言わないでください・・。
ほんとに読み応えがありますし、なにより久々にあの方がでてきてくれましたのでw
もうそれだけで幸せです!
次はオタオメですか!!これもすごく楽しみです。
本編2つにオタオメ、お忙しい中大変だと思いますが、
待っている間にあれこれ考えてみるのも楽しいひとときですので、
ムリはなさらないよう、まったりロテさんのペースでお進みくださいねw
223 名前:忍の者Y 投稿日:2005/04/06(水) 09:37
お忙しい中、更新お疲れ様です。
毎回色んな角度で楽しませてもらって本当にありがとうございます。
次回はオタオメ小説なんですねっ!これまた楽しみですね〜
本編の方も楽しみですが、無理をされませんように。
きっと神が降りてきますから、それまではまったりまったりと。w
224 名前:名無しのA 投稿日:2005/04/06(水) 11:04
初めまして、更新お疲れ様です。
登場人物の心境などが丁寧に描かれていて、すごくひき込まれました。
まったりロテさんのペースで頑張ってくださいね。w
225 名前:130@緑 投稿日:2005/04/09(土) 00:41
更新、お疲れ様です。
う〜む、つくづく恋愛って厄介なモンだなぁ、なんて思ってしまいました。
みんな懸命に進んでるだけに難しい・・・
ロテさんの書く後藤さんが大好きなんですけど、ここでは特に
バランサーになっているようで、密かに頼もしいですw
次回の聖誕記念も楽しみにしております。
226 名前:ニャァー。 投稿日:2005/04/10(日) 01:34

更新お疲れ様です!!
可愛い石川さんにメロメロv
ひじょーにキョワイ帝様にドキドキw
無理せずにロテさんのペースでいいので
頑張ってくださいねっv
227 名前:ロテ 投稿日:2005/04/10(日) 21:36
本編の途中ですがよっすぃオタオメ小説をば。みきよし2編です。最初のはあんまり誕生日関係ないっす。もう少し時間的に余裕があれば他カプも更新したかったのですが無理でした。よしごまとかよしごまとかよしごまとかいしよしとか書きたかったんですがねぇ…。とりあえずちょっと早いですがよっすぃお誕生日オメ!ということで。
228 名前:世界が滅亡してもなお 投稿日:2005/04/10(日) 21:37

道が空いていたとかでいつもより少しだけ早く帰ってきたよっちゃんは化粧を落とし、服を着替えて、冷蔵庫から取り出したビールをグビグビと飲んだ。

「ぷっは〜。うんめー」

つまみというか夕飯というか、こまごましたものをいくつか作ってコイツに食べさせるのは美貴の日課だ。

「美貴ちゃんさんこれイカ?」

ヨーグルト以外に花粉症に効くのはナントカ茶だとか、曲がる直前までウインカーを出さないドライバーを懲らしめるにはどうしたらいいかとか、どうでもいいことをグダグダと話すのは美貴たちの日課。

「布巾とって」

なんでもない日になんでもないことをなんでもない口調で話す。それはひどくつまらないようにも思えるし、やっぱりなんでもないようなことのようにも思える。意識しなくても出るため息は、きっと淡々と積まれていく日常が重いから。なんでもないことでも背負いっ放しはしんどい。

「ビールもう一本飲もうかな」

不満があるわけでも物足りないわけでもない。むしろ平穏平和なこの日々を過ごせることはラッキーだと思う。ニュースでは毎日のように凄惨な事件や不幸な事故が世界のいろんなところで起きていて、美貴たちにいつどんな災難が降りかかってもおかしくないですよ、と警告している。そんなこと考えさせるなよと、よっちゃんは渋い顔をするけれど美貴は違う。
229 名前:世界が滅亡してもなお 投稿日:2005/04/10(日) 21:37

「今日は暖かかったなぁ」

幸せは意識しないほうが幸せなのかもしれない。よっちゃんがビールを飲みながらイカだと信じてタコを食べる日々がいつまで続く?違法駐車の車に悪態を吐きながら運転しても、帰ってきて美貴を抱きしめてキスすることは忘れないコイツといつまでいられる?そんなことを考えながら出るため息は不安そのもの。美貴の体から決して無くならない不安の塊に、ときどき押し潰されそうになる。

「ビール飲む?」
「いらない。ちょっと出てくるね」
「あ、じゃあ帰りにアイス買ってきて」
「いいよ。ストロベリー?」
「あとラムレーズンもね」

コンビニ帰りに思い出した。まだ付き合いだして最初の頃は二人でよく買い物に行った。夜中に震えながらおでんを食べたり、熱帯夜の合間を狙って吹くほんの一瞬の風に体を涼めたり。熱気を攫っていく風がシャツを膨らませて二人を笑わせた。喉が火傷するほど熱い大根に泣かされたことも、今では笑い話だ。

懐かしいけどあの頃に戻りたいとは思わない。今だって今なりの幸せがあって、美貴たちはあの頃憧れていたなにも言わなくても分かり合える二人になれた。それに比例して増殖する不安は幸せの副作用みたいなもの。性格の違いからか、たまたま美貴のがちょっと強く出ているだけでよっちゃんにだって思うところはあるのだろう。運転中にやたら悪態を吐くようになったのは、そういう見えない不安のせいなのかもしれないと思った。

230 名前:世界が滅亡してもなお 投稿日:2005/04/10(日) 21:38

「ただいま」

ビールをすっかり飲み干してコタツに入ったまま寝息を立てている。最近忙しいらしい仕事のことはあえて聞かない。話したかったり聞いてほしかったりするときはなんとなくわかるから。よっちゃんの言いたいことやしたいことはなんとなく、本当になんとなくだけどわかるようになってきた。逆の立場でもそれは同じ。十分すぎるほど重ねてきた年月は裏切らない。

「風邪ひくっていつも言ってるのに…」
「う、う〜ん」

出掛ける前にやっていたものまね番組はNHKのニュースになっていた。

「よっちゃんものまね見てなかった?」
「うるさかった…」

目をこすりこすりしながら美貴の足に手をのばして、ジーンズを引っ張った。その弱々しい力はまだ完全に目が覚めていない証拠だ。ジーンズにかかる手を無視して冷凍庫にアイスを入れた。がっくりと脱力したよっちゃんの頭を抱えて膝の上に乗せる。

「うるさかったなら消せばいいのに」
「…寂しかったから」

231 名前:世界が滅亡してもなお 投稿日:2005/04/10(日) 21:38

人生なんてあっという間だ。どう過ごしたって必ず最後に終わりが来る。誰といたってなにをしたってやがて来る終わりのために生きているようなもの。最後は決まっているけど途中経過は自分が決められる。幸せに越したことはないけれど、少しくらいの不安があったってそれはやっぱりラッキーなんだろう。よっちゃんがいて、毎日が平穏で、美貴の膝を求めてくるコイツがいるなら美貴はやっぱりラッキーだ。

「寂しかったの?」
「ニュースくらいの音が寝るのにちょうどいいのかも」
「なんだそれ」
「でも嫌なニュースは寝覚めが悪いや」
「だろうね」
「地球はなにかと大変みたいだよ」
「地球規模なんだ」
「世界が滅亡しても美貴ちゃんさんが好きだよ」
「よっちゃんのそういうところが美貴は好きなの」

世界が滅亡してもなお、一緒にいたいと思える人に出会えた美貴はやっぱり幸せで。なんとなく感じる不安もその副産物なら丸ごと全部幸せなんだと思おう。世界が滅亡したその日に幸せだったと思えるように。


232 名前:世界が滅亡してもなお 投稿日:2005/04/10(日) 21:39
 
<了>
 
233 名前:セイフクインバースデー 投稿日:2005/04/10(日) 21:39

もうすぐよっちゃんさんの誕生日だ。しかもハタチ。記念すべきハタチ。

「よっちゃんさ〜ん。お誕生日プレゼントなにが欲しい?」
「うーん。それは当日まで秘密」

ウインクなんてしちゃってるけどさ、オイ。
秘密って、それはどっちかっていうと美貴のセリフでしょ。もらう本人が秘密にしてどうするのよ。まったくアフォなんだから。でもそんなよっちゃんさんがとっても可愛いから美貴はいつもメロメロ。

「秘密じゃ困るよー!よっちゃんさん、教えて?」

よっちゃんさんの目の前に立って腰に手をまわす。ガッチリとホールドして離さない美貴の得意技。よそ見をしないように目を見つめてよっちゃんさんの視界を美貴だけにする。語尾に合わせて小首を傾げれば…ほら、もうよっちゃんさんも美貴にメロメロ。でしょ?

「へっへっへー。教えないよー」
「なーんでよー。よっちゃんさーん、お・し・え・て?」
「うわっ!美貴ちゃんさん…その上目遣いは反則…」
「あーん。よっちゃんさんこっち向いて〜」

意外に照れ屋なよっちゃんさんは、真っ赤になった顔を見られないように美貴の首もとに顔を埋めた。ヨシヨシと頭を撫でてから少し背伸びをして、髪にキスをした。

234 名前:セイフクインバースデー 投稿日:2005/04/10(日) 21:40

「ほーらっ顔見せて?あと誕生日プレゼント、結局なにがいいの?」
「……ちゃんさん」
「ん?」
「美貴ちゃんさん」

もう〜よっちゃんさんってば。美貴だったらいつもあげてるじゃん。

「とりあえず、美貴ちゃんさん」
「ビールかよっ」

とりあえずってことはメインもあるんだよね?もちろん。とりあえずって言い方がちょっと気になるけど美貴をあげるのは異存なし。毎日あげてるけど誕生日にはとくにスペシャルな美貴をあげちゃうんだから。

「とりあえず美貴ね」
「そう。とりあえず美貴ちゃんさん」
「で、それから?」
「それから?」
「他にもあるんでしょ?」
「むふふ。どうでしょ」
「教えてよー!」
「どうしよっかな〜。美貴ちゃんさん知りたい?」
「知りたいよ〜。さっきから言ってるでしょ!」

おでこをピタッとくっつけながらよっちゃんさんの欲しいものを追求する。時々チュウするのも忘れずに。ホントは言いたいくせにわざと焦らすようなことをするよっちゃんさんはすごく可愛い。他のヤツだったら頭突きのひとつでもお見舞いするところだけど。

235 名前:セイフクインバースデー 投稿日:2005/04/10(日) 21:40

「よーし!じゃあ教えてあげましょう!」
「うんうん。なにが欲しいの?」
「欲しいっていうかですね、ちょっと協力してほしいことがあるんですよ」
「協力?」

なんだろ。ピアスとかカメラとかよっちゃんさんが欲しそうなものを想像していたのに見事に裏切られた。協力って。一体美貴になにをしてほしいの?

「世界をね、セイフクしようと思いまして」


は?


えーと、いまセイフクって言ったよね?

セイフクっていうとなんだ、制服のことか?ははーん、美貴に制服を着てほしいとかそういうこと?やだもう〜よっちゃんさんってばエロいんだから〜そんなことなら誕生日じゃなくても美貴はいつでもオッケーだし制服ってどんなのがいいんだろいろいろ取り揃えたほうが…

「…ちゃんさん、美貴ちゃんさん」
「あ、はいはい」
「聞いてた?」
「聞いてたよ。美貴どんな制服でも着るからね!」
「いや、そのセイフクじゃなくてね。あ、でも着てくれるならナースとかがいいな…って違う違う!違うから」
「えー!違うの?美貴ナース服着ちゃうよ?よっちゃんさんはドクターだね」

よっちゃんさんニヤニヤして嬉しそう。そんな顔見せられたら美貴はりきっちゃうよ。ナース服ってどこに売ってるんだろ。矢口さんとか持ってそうだな。あとで聞いてみよう。

236 名前:セイフクインバースデー 投稿日:2005/04/10(日) 21:41

「ドクターとナースかぁ。ベタだけどイイなぁ〜」
「ベタだけどイイよねぇ〜」

二人でイイイイイイイイ言ってたらマコトが変な顔したからとりあえず蹴っといた。

「あっ!違うよ美貴ちゃんさん」
「うん?なにが違うの?」
「あたしが言ってたセイフクは制服じゃなくて征服だよ」
「よっちゃんさん漢字で会話しないでよ。まあわかるからいいけどさ」

なるほど征服ね、なーんだ。っていうかなんの話だっけ?

「だからね。世界征服したいのよ、あたし」
「セカイセイフクセカイセイフクセカイセイフク…」
「美貴ちゃんさんに手伝ってもらいたいの」
「セカイセイフクセカイセイフクセカイセイフク…」
「おーい、美貴ちゃんさーん?」



世界征服ってなんだ。



237 名前:セイフクインバースデー 投稿日:2005/04/10(日) 21:41

「えーと。とりあえず頑張ってね」
「うぇぇ!美貴ちゃんさん協力してくれないの?」
「あのね、美貴はよっちゃんさんが世界征服できるように心の底から祈ってるから。美貴のかわりにマコトを好きに使っていいよ」
「そっかー。美貴ちゃんさんが祈っててくれるならできそうな気がするよ!ヨッシャー!!マコトー!行くぞー!!」

ガッツポーズをしながらジャンプしたよっちゃんさんはやっぱり可愛い。
よっちゃんさんがなにを征服したってどんな制服が好きだって構わない。
美貴はよっちゃんさんが好きだから。世界征服頑張ってね。

「矢口さーん、ちょっとナース服のこと聞きたいんですけどー」








「美貴ちゃんさん…世界征服なんかできないってマコトに言われちゃったよ…」
「はやっ!」
「うわーん!」
「ヨシヨシ。よっちゃんさんは悪くないよー。また頑張ればいいじゃん。美貴はずっと応援してるからね」

よっちゃんさんの誕生日には、やっぱりナース服を着た美貴をプレゼントしようと思った。




238 名前:セイフクインバースデー 投稿日:2005/04/10(日) 21:42

<了>
239 名前:ロテ 投稿日:2005/04/10(日) 21:43
くどいようですが本編ぶった切って本気で申し訳ないです。本編はもちろんこれからも頑張りますのでどうぞよろしく。それではレス返しを。

221>通りすがりの者さん
いつもありがとうございます。少し迷走気味な作者ですが今後ともよろしく。もうちょっとペースアップできるように頑張ります。

222>名無しのSさん
温かいお言葉ありがとうございます。あの方、登場させたもののあんな役回りでいやはや(汗)。せっかくのバースデーですから多少の無理もなんのその、です。本編も頑張ります。

223>忍の者Yさん
いつも励ましのお言葉ありがとうございます。神が降りてきたのかどうなのか…(苦笑)。無理するのは今だけですのでとことん無理してやろうかとw頑張ります。

224>名無しのAさん
レスありがとうございます。引き込みに成功してガッツポーズの作者を今後ともよろしくお願いします。これからも頑張ります。

225>130@緑さん
いつも本当にありがとうございます。厄介ですがあくまで『たかが』と割り切って書いています。ある意味そういう割り切りでバランスを取っている作者です。後藤さんにはいろいろと助けてもらってますw

226>ニャァー。さん
ニャァー。さんもいつも本当にありがとう。レスをいただけるのがなによりの励みになります。これからもガシガシ書き続けますのでよろしくです!



よっすぃ誕生日オメデトウ
240 名前:忍の者Y 投稿日:2005/04/10(日) 22:27
更新お疲れ様です。
お忙しい中、あっちもこっちも更新されるなんて・・・頭が下がります。
今の時期だけの無理だと言われますが、くれぐれもお体に気をつけて。
更新ラッシュありがとうございました。
241 名前:忍の者Saku 投稿日:2005/04/11(月) 01:16
2編も読むことができて、幸せです。あっちもこっちも乙です。
他のヤツだったら・・・とか大笑いでした。
この二人の会話のやりとりって、すっごくいいですよねw
よっちゃん、お誕生日おめでとう!
これからもたくさんの幸がありますようにw
242 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/11(月) 09:34
更新お疲れさまです。 また短編が見れて嬉しいです。 本編も続きが気になりますが、作者様のペースで頑張ってください。 次回更新待ってます。
243 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/11(月) 15:18
短編、あまーいw
本編は複雑な雰囲気が流れてますね。
次回どうなるか期待してます。
244 名前:ニャァー。 投稿日:2005/04/11(月) 22:32

王子吉澤さん一日早いですがオタオメw
いつまでも帝様とラブラブで皆からの人気者の王子で
いて下さいねww

更新お疲れ様です!!
本編もとても好きですけど
ロテさんが書く短編も好きですw
2作ともとてもよかったですw
あ〜とくに最後はカナリツボ話でしたv
245 名前:名無しのA 投稿日:2005/04/13(水) 16:49
2人のやり取りに涙が出ました(笑い過ぎてw)
お忙しい中の更新お疲れ様でした。体調には気をつけてくださいね。
246 名前:130@緑 投稿日:2005/04/14(木) 00:28
短編更新、お疲れ様です。
どちらのテイストも好きです、うむ。
流れる心地良さがたまりませんです。
(まったく関係ないですが、何故か娘。のとあるシングル曲のジャケットを
ふと思い出しました・・)
本編もまったりとお待ちしております。
247 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:25

ひとみのベッドの上で亜弥は横になっていた。
日付は2時間も前にとっくに変わっており、亜弥もまた2時間前からずっとそうしていた。

美貴のことを考えていた。
美貴と、そしてひとみのことを。

初めて美貴に会ったとき、視線の強さよりもはにかんだ笑顔が印象的だった。
きびきびとした動作やはっきりした口調の影に何かが揺らめいているような気がした。
自身をガードするように固い殻をかぶった何かが。

それが何なのか、そのときの亜弥には判らなかった。
ただどこかでそれと似たものに会ったことがある。
似た印象を抱いたことがあるとなんとなく思ったまま時を重ねてきた。

ひとみのことを許せないと言い、自分に対する態度を硬化させた美貴。

美貴のことを知ったつもりでいたけれど本当は何も判っていなかった。
一体、美貴はどういう人間なのだろう。


『美貴はああ見えてけっこう脆いのかもしれない』

いつだったかひとみがそう言ったことがある。

『ミキティは実は芯がしっかりしてると思う』

ひとみとまるで反対のことを言ったのは真希だ。

248 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:26

亜弥にはどちらが正しくてどちらが間違っているのか判らなかった。
ひとみの言うことはなんとなくだが表面的な部分でしかないような気がしたし、かといって今回のことを踏まえると真希の言葉にも素直には頷けない自分がいた。

『ああ見えて』というのはあくまでひとみの印象だ。
ひとみの言葉は美貴が強い人間だというのが前提だ。
そしていつかその強さが音を立てて崩れ落ちることを危惧している。
まるで今回のことを現していたかのように。

一方の真希は美貴の弱さをベースにして『実は』と言っている。
単純に強い弱いと言うものの、亜弥にはそれが何を表しているのか具体的なことは思い浮かばなかったが、美貴の心の奥底に潜む何かを指すのだろうと理解していた。

昔、亜弥が見た揺らめく何か。
今回のことは殻を破った何かが引き起こしたのではないだろうか。
それならば美貴はこれから一体どうなってしまうのだろう。
亜弥には到底考えも及ばなかった。

ただ真希の言葉を信じたい。
真希はもう言ったことを覚えてないかもしれないけれど信じたい。
根拠も何もなさそうな真希の言葉を信じるしか、今の亜弥にできることはなかった。



249 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:26

亜弥の携帯がメールを知らせた。
頭の下で組んでいた両手を解き待ち受け画面を覗く。
予想していた人物とは違う名前を見て亜弥はあからさまにホッとした。

『20分でつく。あったかい格好して待ってろ』

文面を読んで亜弥は飛び起きた。一目散に自分の部屋に駆け込む。
考えられる限り『あったかい』服を着てまたひとみの部屋に戻った。
床に散乱したコートやバッグの山の中から目当てのマフラーを見つけしっかりと首に巻く。
お気に入りのアニメキャラクターの手袋を持ってリビングのソファーに座った。

待つこと10分。

再び鳴った携帯を見て玄関へと向かった。



250 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:26

夜中だというのにエンジンをかけっ放しのバイクがうるさい音を立てている。
亜弥が近づくとその鉄の馬に跨ったひとみは何も言わず亜弥専用のヘルメットを投げた。
慣れた動作でひとみの後ろに跨り亜弥はヘルメットをかぶった。
そして両手を固くひとみの腰にまわす。

ぽんぽんっと亜弥の手を2回ほど叩いてひとみはバイクをスタートさせた。
10月に入り夜はぐっと気温が下がった。吐く息も薄っすらと白い。
誰もいない夜の国道をややスピードを出して駆け抜ける。

通り抜ける風が確実に体温を奪っていく。
亜弥は寒さと心細さからひとみの腰にまわしている手に力を込めた。
密着させた部分を通してひとみの体温が伝わってくる。
だがそれもすぐに風に奪われる。次から次へと。
まるで自分ごと風に攫われるような気がして堪らなく不安になった。
そしてその度に亜弥は力を込める。涙が出そうになりながらも力を込める。

容赦なく吹きつける風が自分ではなくひとみを攫っていきそうで怖かった。

「お姉ちゃん…」

どこにも行かないで。置いて行かないで。

よりいっそう力を込めて亜弥はひとみにしがみついていた。


251 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:27

時々、ひとみは今夜のように突然亜弥を連れ出すことがある。
それは夏だったり冬だったり、朝だったり夜だったりで、予定も聞かず理由も言わずひとみは亜弥をバイクに乗せる。

よほどのことがない限り、亜弥はひとみに付き合ってバイクの後ろに跨る。
行き先は荒れ狂う海だったり満天の星が見える小高い丘だったりで、大抵どこか開放された、あまり人のいない場所だ。

何も言わないひとみに気を遣って亜弥は何も尋ねない。
どうしたのかとか何があったのかとかどういう気分なのかとか。
ひとみのほうも何も聞かない亜弥を不審がるでもなく他愛のない世間話をしたりする。

姉妹とはいえ何を考えているかなんて口にしなければ判らない。
ただこうしてどこか知らない運動場の芝生の上に座っているだけで、ひとみと心が通い合っているような気がして、亜弥は昔からこの時間をとても大切にしていた。

「そっち、ちょっと湿ってるだろ」
「そうでもないよ」
「そっか」

月明かりだけが頼りのこの場所で亜弥とひとみは膝を抱えて座り込んでいた。
目の前に広がる芝はこの季節でもまだ青々としている。
いつのまに買ったのか、ひとみに手渡されたコーヒーの缶はまだ十分に熱を持っていた。

「飲まないの?」
「開けたらあったかくなくなっちゃうから」
「したらあたしが暖めてやるよ」
「お姉ちゃん、エロ〜イ」
「バカなこと言ってないでほら、こっち来い」

自分よりも一回り大きいひとみの体に亜弥はすっぽりと収まった。
後ろから抱え込まれて妙に気恥ずかしい。

252 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:27

「痩せた?」
「ううん。むしろ太った」
「お菓子ばっか食ってっからな、オマエは」
「最近のお姉ちゃんはちょっと痩せすぎ」
「なにかと苦労が絶えないのよ、おねーちゃんは」

亜弥の頭頂部に顎を乗せてひとみは淡々と喋っていた。
ひとみが声を発する度に亜弥の頭に直接振動が伝わる。
口調は悪いが昔から変わらないその柔らかい声が亜弥の耳に心地よく響いていた。

「ババくさぁ」
「お、おまえっ、ひとつしか違わないお姉さまに向かってなんてこと言うんだっ」
「いつまでも若くないんだから」
「ほぅ〜亜弥ちゃんはいつからそんな生意気な口を利くようになったんだぁ?」

言いながらひとみは顎をぐりぐりと動かした。

「イタイイタイ」
「うりゃうりゃ」
「やーん、もうっお姉ちゃんのバカ!タレ目!」
「うおっ」

勢いよく立ち上がった亜弥の頭が見事にひとみの顎にヒットした。
あまりの衝撃にひとみは目が眩み芝の上に倒れこんだ。

「やだっお姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫…じゃ、ない…」
「えー!お姉ちゃんしっかりして!やだやだ、死んじゃやだー」
「勝手に…殺すな…」
「エーンエーン。ヒーチャンが死んじゃう〜」
「だから…死んでないっつの」

芝の上で大の字になったままのひとみの傍らで亜弥はグズグズと鼻をすする。
その様子を下から眺めながらひとみは自分の顎をさすった。

253 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:28

「あーびっくりした」
「お姉ちゃん、大丈夫…なの?」
「ん、なんとか」

ふぅと胸を撫で下ろした亜弥はそのままひとみの横に寝転がった。
芝が少し湿っていたけれど気にはならなかった。

「ごめんね、お姉ちゃん」
「バーカ」

まだ少し涙声の亜弥に腕枕をしてひとみはポケットからティッシュを出した。

「ほれ」
「ん」

派手な音をさせて鼻を噛む亜弥を見てひとみは美貴のことを思い出した。
美貴のことを思い出すと連鎖的に梨華の顔が浮かぶ。
ひとみは二人の顔を追い出すように頭を振った。

「へへ、こうやるの久しぶりだね」
「あたしの腕枕は高いぞ」
「私の鼻水のが高いもん」
「げっ!コラバカ、鼻をこすりつけんな」

亜弥はなんとなくひとみに連れ出された理由が判ったような気がした。
今まではひとみに付き合ってこうしているという意識だった。
嫌なことがあったのか落ち込んだのか、何かしら心境に変化のあった姉をある種癒すような役割。
亜弥は自分をそういう存在なのだと位置付けていた。

254 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:28

でも実は付き合ってもらっていたのは自分のほうだったのだろう。
本当に癒されていたのは自分だったのだ。
何かから逃げたいと思ったとき、ひとみはいつもバイクの後ろに乗せてくれる。
ひとみがどうしてそれに気づくのかは判らないがタイミングはいつも絶妙だ。

妹の気持ちにいつも敏感にアンテナを張り巡らしていてくれる姉に亜弥は素直に感謝した。

ひとみと一緒にいるだけで亜弥は安らいだ気持ちになる。
姉にどれだけ大切に思われているかがわかるから。
昔から変わらない匂いと感触。
心細い夜はいつもこうして腕枕をして抱きしめてくれていた。
そしてそれは今も変わらない。

「お姉ちゃん」

ありがとう。

「ん?」
「なんでもない」
「なんでもないのかよっ」
「うん」
「そっか。まあなんかあったら呼べよ?」
「うん」
「いつでもいいからな」
「うん」

255 名前:11 投稿日:2005/04/18(月) 23:29

ひとみを心配させたくない。そんな想いが亜弥を支配していた。
自室に置いてきた携帯のことを考える。
きっと今夜も数え切れないほどのメールが入っているのだろう。
開く気にもなれない、同じ人物からのいくつものメール。

溜息をつきそうになり亜弥は慌てて飲み込んだ。
自分を抱くひとみの横顔を見て、瞬間何かがダブった。
それはいつか見た、美貴の中の揺らめく何かに似ていた。

ひとみもまた、固い殻で自らをガードしているのだろうか。
自分の前でもそれを崩さず本当の気持ちを隠しているのだろうか。

亜弥は胸に湧いた小さな疑念を口にすることができなかった。
この静寂に包まれた夜がそれを阻むように亜弥の口を閉ざす。

夜露に濡れた芝で亜弥の服は徐々に湿り気を帯びてきた。
それでもひとみと密着している部分だけはいつまでも温かかった。





256 名前:ロテ 投稿日:2005/04/18(月) 23:29
更新終了。本気でマターリやっていきます…。
257 名前:ロテ 投稿日:2005/04/18(月) 23:30
レス返しを。

240>忍の者Yさん
どうもどうも。いつもお気遣いサンクス。なにかと気温の変化が激しい毎日です。Yさんもお体お気をつけてください。

241>忍の者Sakuさん
いえいえ。こちらこそ読んでいただいでいつも幸せです。笑っていただけたようで尚嬉しいです。よっちゃんへのメッセージもありがとうw

242>通りすがりの者さん
いやいや。本編ほっぽりだして短編ばかりで申し訳ないです。こんなぶつ切り状態のものを待っていていただいていつもすみませんです。

243>名無飼育さん
ニヤニヤ。甘いっすか。甘くてよかったっす。本編は相変わらずマターリですがこれからもよろしくです。

244>ニャァー。さん
やっぱり王子が玉子に見える作者は寝たほうがいいみたいです。いやはや。短編気に入っていただけたようでホッとしました。いつもありがとう。

245>名無しのAさん
こんなところまで来ていただいた上にレスまでありがとう。笑っていただけたのなら安心です。これからも頑張りますのでよろしくです。

246>130@緑さん
いつもいつも嬉しい感想ありがとうです。違ったテイストの2編ですがどちらもお好みに合ったようで嬉しい限りです。(とあるジャケット今度教えてくださいw)
258 名前:名無しアンパン 投稿日:2005/04/19(火) 01:03
ロテさん、こちらでは初めまして。

更新来てたー!
一日一度は飼育を覗くんですが、お目当ての小説が更新されてて軽く小踊りしています。

マターリでもいいので、どんどん更新しちゃってくださーい(o^〜^o)
259 名前:名無しのSaku 投稿日:2005/04/19(火) 01:05
油断してたらまたまた更新が・・。
嵐の前の・・といいますか、なんといいますか・・・。
これから先の雲の行方が激しく気になります。
あれこれ想像しながらのんびりと待っておりますので。
いやあ・・・こんな姉、いいですねw
260 名前:忍の者Y 投稿日:2005/04/19(火) 20:55
更新お疲れ様です。
この二人に萌えちゃう私って、変態ですね・・・
でもいいな〜、と。w
あの人も恐いですね・・・
次回の更新もまったりとお待ちしてます。
261 名前:ニャァー。 投稿日:2005/04/19(火) 20:57

ロテさんちゃんと寝て下さいっw
更新お疲れ様です!!
この人達はやはりいいですねっ!!w
読んでてキュンキュンしますよw
次回も楽しみに待ってま〜す!
262 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/24(日) 18:19
…まったりとしたこの二人、姉妹愛を感じます。
次の更新、同じくまったりとお待ちしてますね。
263 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/28(木) 06:58
更新お疲れさまです。 うぁー、よっすぃーお姉さんいいです。 自分にもこんな兄弟が居たら・・・。 いよいよ誰かが動き出すんでしょうか? 次回更新待ってます。
264 名前:12 投稿日:2005/05/08(日) 17:05

誰もいない屋上でひとみは身震いしていた。
ここのところ天気の悪い日が続いている。
空を見上げると灰色の雲が太陽の光を阻んでいた。
天気予報は見てないが雨が来るのも時間の問題だと、傘を持たずに出てきたことを悔やんだ。

「待ったぁ?」

空とは対照的な明るい声にひとみは振り返った。
もう何度目だろう。ここでこうして彼女を待つのは。
その度にひとみはいつも錯覚する。
普通に付き合っていたあの頃と今現在がダブる。

両手を広げて彼女が飛び込んでくるのを待ってしまう。
もはや条件反射だ。ひとみは何も考えてはいない。
記憶の中にあるあの頃の自分の行動をただ反芻して実践している。それだけだった。

「さすがにもうそろそろキツイねぇ」

何を指してそう言うのかひとみには判らなかった。
この状況は今に始まったことではない。
それにキツイと言うならばそれはこっちの台詞だと言ってやりたかった。

「寒くて堪らない」
「ああ」

そのことか、とひとみは納得してまた空を見た。
昼間だというのにもうすでに夜がすぐそこまで迫っているような暗さだった。
時折吹く冷たい風が頬に突き刺さる。

265 名前:12 投稿日:2005/05/08(日) 17:05

「場所、考えなきゃね」

ひとみの腕の中で美貴はくぐもった声を出した。

「ん?今なんつったの?」
「場所、考えなきゃって言ったの」

顔を上げた美貴は笑っていた。
その笑顔をひとみは可愛いと思った。
あの頃の自分がそう思わせているのか今の自分の本心なのかは判らず。

「寒いから?」
「そ、寒いから」

なんとはなしに話してはいたがこの奇妙な関係がいつまで続くのか、
美貴が何をしたいのか、また自分はどうしたいのかなどひとみには全く見えていなかった。
先のことはもちろん現在のことも判らずにだらだらと美貴との関係が続いている。

「なに笑ってんの〜?」
「いや、なんだろ。あはは。無性に笑いが込み上げてきて」

訝しげな美貴を尻目にひとみは笑いが止まらなかった。
美貴を腕に抱いたまま堪えきれない笑いが次から次へと零れ落ちる。
何がおかしくてこんなに笑っているのか。

自分はなんで今ここにいるのか。
こんなことをしているのか。
美貴を抱きしめているのか。

ひとみには何も判らなかった。判ろうという気すら起きなかった。

266 名前:12 投稿日:2005/05/08(日) 17:06

「よっちゃん…?」
「ん…あははっ…なんでもない…」

美貴を力いっぱい抱きしめてひとみは声を殺した。
込み上げてくるものを抑えるために。

「たしかに寒いね」
「………」
「寒くてたまんねー」

美貴を抱きしめたままひとみはフェンスの緑色をじっと見ていた。
首にまわった手に力が入り、美貴がそっと顔を寄せる。
唇が触れ合い、ひとみは半ば美貴を抱えるようにフェンスに押しつけた。

ガシャン

フェンスの軋む音がひとみの耳の中に響いた。

「んっ、あぁんっ」

喉の渇きを潤すようにひとみは美貴の口腔内を貪り、唾液を啜った。
唇に咬みつかれ微かに鉄の味がした。
ひとみは素早く黒いセーターを強引に捲くりあげて下着をずらした。
美貴の小ぶりの胸を両手で掴んで首筋に舌を這わす。

267 名前:12 投稿日:2005/05/08(日) 17:06

「やぁんっ…はんっ…あぁぁん」

ガシャンガシャン

ひとみの指と舌に反応した美貴が体を反らすたびにフェンスが軋む。
目の前で揺れる緑と美貴の乱れた顔がひとみの視界をいっぱいにした。
左手で腰を支えて唇を舐めあげる。
右手でスカートの中に侵入し同時に蠢く舌を捕まえる。

「んっんっ…はぁぁ…はぁ」

息もつかせぬままひとみは美貴を攻める。
強引に、乱暴に、欲望のままに。
指を突き立てるたびに美貴が奇声をあげる。
辛そうな表情をしながらも自ら腰を動かし「もっと欲しい」と叫ぶ美貴。

ガシャンガシャンガシャンガシャン

中を掻きまわすたびに肩に食い込む爪。
不思議と痛みは感じず、ひとみはただ揺れる緑を見つめていた。





268 名前:12 投稿日:2005/05/08(日) 17:07

いつのまにか雨が降っていた。
ひとみは足元でグッタリしている美貴を億劫そうに抱え上げ屋上の入口に向かった。
重い鉄の扉を開けて階段の踊り場、畳にして一畳分ほどのスペースに座り込む。
もうすでにグッショリと濡れた髪をかき上げて震える美貴をすっぽりと包み込んだ。

「寒い?」

何も言わず美貴は頷いた。
先ほどまでの熱を帯びた体はそこにはなかった。
水分をたっぷり含んだ美貴のセーターやスカートから水滴が滴る。

ひとみはシャツを脱ぎ階段の下に向けてぎゅっと絞った。
しんと静まり返った階段に水が零れる音がした。
そしてシャツをバサバサと振り回し手すりに引っ掛けた。

ひとみは苦心して美貴のセーターとスカートを脱がせた。
絞り、手すりや乾いた場所に放り投げた。
下着姿になった美貴をひとみは優しく包み込む。

「寒い?」
「わかんない」

ようやく美貴が声を発してひとみは安堵した。
雨が降り出してもなおひとみは美貴を攻め続け、
何度目かの絶頂の後に美貴はふいに意識を失った。
力の抜けた美貴をそれでもひとみは攻め続け、
ふと気づいたときには緑の中に赤があった。

フェンスに擦れた美貴の首筋から流れる血を見てひとみは我に返った。
我に返ったときにはすでに雨はどしゃぶりだった。
美貴の血を洗い流してくれる雨に、ひとみはしばし打たれていた。

269 名前:12 投稿日:2005/05/08(日) 17:07

「びしょ濡れじゃん」
「ああ」
「よっちゃんオールバックだし」
「ああ」

冷えた体にお互いの体温がしみわたる。
美貴は腹のあたりで組まれたひとみの両手に自身の手を重ねた。

「下半身がなんか変な感じ」
「…ごめん」
「自分の体じゃないみたい」
「…ごめんな」
「しばらくこうしていて?」

美貴の問いに答える代わりにひとみは重ねられた手に指を絡めた。
濡れた髪にキスを落として心から謝った。

「ホント、ごめんな」
「謝ってばっか」
「だって、痛かっただろ?ごめん」
「ん〜イタ気持ちいいっていうの?そんな感じ」

美貴の肩が軽く揺れた。表情は見えなくとも笑っているのがわかる。

「でもごめん」
「だからそんなに謝らないでよ。どっちかっていうと…少し嬉しかったんだから」
「どうして?」
「そんなこと……言わせないで」

その囁くような小さな声は扉に叩きつける激しい雨音の中に消えていった。

ごめん

美貴に聞こえないよう、ひとみは口の中でもう一度だけ呟いていた。





270 名前:ロテ 投稿日:2005/05/08(日) 17:08
更新終了
271 名前:ロテ 投稿日:2005/05/08(日) 17:08
レス返しを。

258>名無しアンパンさん
アンパンさん、こちらでは初めまして。レスありがとうございます。また小躍りしてもらえるようにどんどん更新して…と言えればいいのですが(ニガワラ マターリ頑張ります。

259>名無しのSakuさん
油断していていいですよ〜。レスありがとうございます。天候はあまり芳しくない様子です…。姉としての愛情はたっぷりなよっちゃんをこれからもよろw

260>忍の者Yさん
毎度毎度レスありがとうございます。同じくこの二人に萌えている作者もでは変態ということで…。狙って書いてますから萌えてもらってよかったですw

261>ニャァー。さん
レスありがとうございます。久方振りの更新ですが相変わらずあんまり寝ていません…。まだまだキュンキュン(?)してもらえるように頑張ります。

262>名無飼育さんさん
まったり待っていただいてありがとうございます。意外とこのお話は姉妹愛がテーマかもしれませんと適当なことを言ってみたりw

263>通りすがりの者さん
いつも待っていただいてありがとうございます。ここのよっすぃーはシスコンが過ぎますがいいお姉さんなんでしょう。誰かが動くのか…作者もよくわかってませんw
272 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/08(日) 18:05
\(゜ロ\){ワーワー
すみません、ほんっと人間が造られてないもので。
よっすぃーは少し困惑気味なのでしょうか?
次回更新待ってます。
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/09(月) 00:48
更新待ってました
やっぱりロテさんの作品は面白い
274 名前:D 投稿日:2005/05/10(火) 01:17
なんか。切ないですね。
275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/10(火) 15:16
…んー、切ないですね。
雨の情景が頭に浮かんで来るようです。
次回どうなるのか期待。
276 名前:名無しのSaku 投稿日:2005/05/10(火) 22:18
まさかの日に更新きてましたw
お疲れさまです・・・。

オールバックのよっちゃんとか、雨に濡れる二人の姿が
切なくも美しくもあります。
うう〜、ほんとにどうなっていくのか・・・
まったりとお待ちしております。
277 名前:忍の者Y 投稿日:2005/05/11(水) 08:44
いつの間にかwの更新お疲れ様です。(油断大敵)
心も体も色んな意味で痛いですね。
なんと言ったらいいのか・・・
気になる事がありまくりで、今後の展開がどうなるのか楽しみです。
次回の更新も楽しみにお待ちしております。
278 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:52

キャンパス内を颯爽と歩く可愛いらしい人物に美貴は目を留めた。
向こうはこちらに気づいていない。ジュースを飲みながらしばらく観察した。

大勢の人間に紛れていても隠しきれないオーラのようなものが存在を強く主張している。
姉とはまた違った意味でひと際輝くその容姿は良くも悪くも目立っていた。

知り合いと会うたびにいろいろな表情をころころと覗かせている。
目を丸くしたり頬を膨らませたり。
屈託のない笑顔を見ているうちに美貴は自分の頬が緩んでいることに気づいた。
はっとして口許を引き締める。
まだ半分以上残っているジュースをゴミ箱に放り投げた。

亜弥に視線を戻すと先ほどまでいた場所に姿が見えない。
あたりを見まわすと男たちの影に隠れちらちらと見慣れたバッグが目に入った。
しばらく様子を窺っていると亜弥の困った表情が目に飛び込んできた。

軽く舌打ちをして、美貴は壁にもたれていた身を起こした。
亜弥がいる場所に向かって歩を進める。
男たちに囲まれて元々小柄な亜弥がさらに小さくなっている。
身長は美貴とたいして変わらないが、イメージ的に亜弥が小さく見えるのはいつも隣に背の高い人物がいるからだろうか。常に亜弥を守るようにして立つ彼女が。

その場にいるはずのないひとみの残像を美貴は振り払った。
振り払っても振り払っても亜弥を見るひとみの優しい視線は消えなかった。
そんなひとみをずっと見てきた自分の存在も、またそこにあった。

279 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:52

「ちょっと」

美貴が強く睨むと男たちはそそくさと逃げるようにその場を後にした。
言葉少なにただ睨むだけで大抵の場合敵意が伝わる。それで十分だった。

「たん…」

か細い声が聞こえた。
美貴の戦意を喪失させるには十分すぎるほどの声。

「亜弥ちゃんさぁ、いつまでも守ってくれる人はいないんだよ?」
「たん…」
「よっちゃんだっていつも傍にいるとは限らないんだし」
「………」
「ごっちんだって、来年は留学するって言ってたし」
「………」
「いいかげんしっかりしなよ、まったく」
「…たんは?」

俯いていた亜弥がふいに顔を上げた。
また泣いているのではと考えていた美貴の予想は裏切られた。
しっかりと美貴を見据える強い視線。姉ゆずりの大きな瞳に美貴は釘付けになった。
この姉妹に惹かれたのはこの綺麗な瞳のせいだったことを思い出す。

280 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:52

姉を慕う亜弥とさりげなく妹を守るひとみ。この関係が理想的で羨ましくてならなかった。
親友として今まで亜弥を守ってきたつもりだった。けれどもしかしたら、と美貴は思う。
本当に守りたかったのはこの姉妹の関係だったのかもしれない、と。

「…てくれないの?」
「え?」

目の前にいる亜弥の後ろにひとみがいるような気がした。

「みきたんは、もう一緒にいてくれないの?」

美貴は大きく息を吐いた。

「いるよ。だって親友じゃん。今のとこ留学する予定もないしね」

亜弥の顔がみるみるうちに明るくなった。
嬉しそうに目を細め、両手を胸の前で組んでいる。

やっぱりこの笑顔には敵わない。
美貴は素直にそう思った。



281 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:53

嫉妬していた。

ひとみに別れを切り出されたとき、真っ先に美貴の頭に浮かんだのは亜弥の笑顔だった。
あの屈託のない、無邪気な、その場をいっぺんに明るくしてしまう魔法のような笑顔。
その笑顔が向けられる先はひとみ。ひとみもまた亜弥に微笑みかけていた。

悔しかった。

自分とひとみが恋人という関係を解消しても亜弥はずっとひとみの傍にいられる。
妹という特権的な立場が無くなることはない。
優しく守られて、ひとみに傷つけられることは決してない。

自分はもう、ひとみに笑顔を向けられることはないというのに。

そんな亜弥が、美貴は羨ましかった。そして同時に憎かった。
誰だかわからぬひとみの新しい相手よりも。


282 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:53

「お姉ちゃんのこと、まだ許せない?」

自動販売機でコーヒーを買い、手近なベンチに腰を掛けた。
恐る恐る切り出した亜弥の言葉に美貴は飲みかけたコーヒーを噴出しそうになる。

「なにその苦笑い」
「えっと…」

本当に許せなかったのは亜弥だということを美貴は今さら言うつもりはない。
もちろんひとみに対しても負の感情が芽生えたことは事実だ。
ただの浮気だったなら怒りはしても憎みはしなかった。
浮気が本気になったと知って美貴はどん底に叩き落された。

「許せないっていうか…」

それでも時間が経ち徐々に冷静さを取り戻すにつれ、だいぶ落ち着いた。
ひとみは強引に要求すれば抱いてくれたし優しくもなった。
皮肉なことに恋人だったときよりもずっと自分のことを見てくれる。
たとえ偽りの愛情だったとしてもそれはそれで満足だった。今はまだ。

「まあ、そんなこともうどうでもいいじゃん」
「ど、どうでもいいって…」

許すとか許さないとかそういう段階はとっくに超えた。
誰だかわからないひとみの新しい相手に興味はない。
ひとみが自分を抱いている時点でその女の負けだと美貴は思う。
だから相手が誰だろうと関係ない。こちらに分があると信じている。
惰性のセックスだとしても、最終的に流れつく先がひとみと一緒ならば構わなかった。

283 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:54

「なんでこんなに好きなのかなぁ」

塗料が剥げて鉄の肌があちこちに見えているベンチに腰掛けたまま、美貴は足をぶらぶらと揺らした。
それを真似て亜弥も組んでいた足を投げ出した。

「なんでそんなにお姉ちゃんがいいの?」
「…お姉ちゃん大好きっ子の亜弥ちゃんの台詞とは思えないんだけど」
「だって」

心底不思議だという面持ちで亜弥は美貴の顔を覗き込んだ。

「だって?」

その亜弥の仕草が可愛らしかったので美貴も真似て亜弥の顔を覗き込む。
馬鹿にされたと思った亜弥は頬を膨らませた。
可愛いから真似したのになぁと思いつつ美貴は肩を竦めた。

「だってお姉ちゃんはお姉ちゃんとしては最高だけど恋人としては最低でしょ?」
「それ、よっちゃんが聞いたら泣くよ」
「お姉ちゃんが泣いたとこなんて子供のときに木から落ちて以来見たことない」
「へ〜」

ひとみらしい、と美貴は思った。
心配させまいという気遣いと姉のプライドから亜弥には涙を見せたくないのだろう。
そういえば自分もひとみが泣いたところは見たことがない。
やはり基本的にプライドが高いのかもしれない、と自分のことを棚に上げて美貴は思っていた。

284 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:54

「元はといえば亜弥ちゃんでしょ、美貴とよっちゃんの仲を取り持ったのは」
「あの頃は単純に、自分の好きな人同士がくっつけばいいって思ってたんだもん」

口を尖らす亜弥の表情はどこか寂しげだ。
まだ世間のことをよく判っていない、何も考えないで済んだあの頃を懐古しているのだろう。

「誰かが傷つくなんて、思ってもみなかったんだもん」

素直な物言いに毒気を抜かれた美貴はふっと笑った。
そして前々から疑問だったことを思い出した。

「ねぇ、ごっちんっていう選択肢はなかったの?美貴よりもごっちんのがよっちゃんに似合うって思ったことなかった?あの二人ってなにかと気が合うし」
「それはない」
「どうして?」
「お姉ちゃんはみきたんのことずっと好きだったんだよ。みきたんが思ってるよりちゃんと。もしかしたらお姉ちゃん自身も気づいてないかもしれないけど、私にはわかるの。だって妹だもん」
「はあ。そうですか」
「そうですよ」
「亜弥ちゃんに言われてもねぇ、しかも過去形だし」

肩を落とす美貴に亜弥はさらに追い討ちをかける。

「それにごっちんはお姉ちゃんをそういう目で見てなかったしね。みきたんと違って」
「そういう目って?」
「ん〜獲物を狩るような?」
「そりゃごっちんは魚だもん。そんな目しないよ」
「そっか。みきたんはハンターだもんね」
「いや、それも違うし」

亜弥と話しながら美貴は脱力した。
隣でぷらぷらと揺れている亜弥の足を横目で見ながら溜息をつく。

285 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:55

「あれ?みきたん、それどうしたの…?」
「それって?」

美貴の首の後ろを覗き込むように亜弥は身を乗り出した。
心配そうに眉をひそめておそるおそるといった感じで指をさす。
美貴は少し考えてから亜弥の視線の先に思い至った。

「ちょっとしたかすり傷。たいしたことないよ」
「でもなんでこんな場所…」
「ちょっとね…」

美貴の言いたくなさそうな気配を察して亜弥はそれ以上追求するのをやめた。

「で、なんの話だったっけ」
「みきたんがお姉ちゃんにベタ惚れって話」

そんな話だっただろうか。
美貴は首を傾げながらも亜弥に続きを促した。

「まだ好きなの?」
「好き」

そっかと呟いて亜弥はまた寂しそうな顔をした。

「ごめんね」
「やめてよ」

謝られると惨めな気分になる。同情なんてされたくない。
ましてやひとみの傍にいつもいられる亜弥にだけはされたくないと美貴は思った。

286 名前:13 投稿日:2005/05/15(日) 22:56

「そうじゃなくて、私の責任なの。私が…」
「亜弥ちゃん?」

数秒の沈黙の後、亜弥は意を決したように口を開いた。

「お姉ちゃんに…今の新しい彼女を引き合わせたのは、私なの」
「…どういうこと?」
「その女の人がお姉ちゃんに…好意を持ってるって知ってたの。知ってて私なにもしなかった。お姉ちゃんに釘を刺すようなこともしなかった。ただ見ていただけ。どこかで高を括ってたのかもしれない。ううん、お姉ちゃんがみきたんを裏切るわけないって…信じたかったんだと思う」
「勝手だね」

亜弥の告白に美貴は憤りを隠さなかった。

「勝手だよ」
「たん…」
「そんなの、勝手すぎる」

美貴には亜弥のせいでひとみに振られたとは思えなかった。
どんな状況だったにしろひとみの心を繋ぎとめておけなかったのは自分の責任だ。
亜弥が手をこまねいていたって、相手の女がどんなに誘惑したって結果的にひとみがそちらに行ってしまったのは自分の責任に他ならない。
その時点で自分の負けだったのだ。亜弥のせいではない。

「なに勝手に責任感じてるわけ?冗談じゃないよ。そんなの美貴が余計に惨めだよ」
「そ、そんなつもりじゃ…」
「もうこれ以上、惨めなのはごめんだよ…」

ひとつ咳払いをして美貴は空を仰いだ。
気を抜くと零れ落ちてきそうな涙の粒を目尻に溜めたまま、空を見ていた。

そんな美貴にかける言葉が見つからず、亜弥は黙って足をぷらぷらさせるだけだった。





287 名前:ロテ 投稿日:2005/05/15(日) 22:56
更新終了
288 名前:ロテ 投稿日:2005/05/15(日) 22:57
レス返しを。

272>通りすがりの者さん
いつもレスありがとうございます。困惑…どうですかねぇ。ていうか落ち着いてくださいw

273>名無飼育さん
お待たせしました。面白いと言ってもらえて嬉しいです。

274>Dさん
そうですね…切ない、のかもしれません。

275>名無飼育さん
やはり切ないですか…これからも頑張ります。

276>名無しのSakuさん
意表をついてみました。雨がいいエッセンスになったようでよかったです。オールバックは浪漫のあたりを想像してください。

277>忍の者Yさん
痛いですかね…書いてるとマヒってきてるのですがやはり痛いのかも。油断しまくってていいですよw
289 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/16(月) 07:19
更新お疲れさまです。 なんだかミキティがよくなってる。 救いの手が現われたからでしょうか? 次回更新待ってます。
290 名前:名無しのSaku 投稿日:2005/05/17(火) 21:10
更新お疲れ様です。
私も少し美貴さんがよくなってる気がするのは気のせいでしょうか・・?
今後の展開を固唾を飲んで見守らせていただきますw

蛇足ですが、ロテさん描写の妹亜弥さん、可愛いです!!
こんな妹だったら吉の気持もわかるなあ・・・。
291 名前:名無しのA 投稿日:2005/05/19(木) 22:06
更新お疲れ様です。
なんて表して良いのか分からないですが、素晴らしいほどの
丁寧な描写に溜息が出ます・・・
どんどん惹きこまれて何度も読み返しちゃいました。
今後の展開もまたーりっと見守っていきたいと思いますw
292 名前:忍の者Y 投稿日:2005/05/21(土) 11:21
また油断してましたYO!w
今後の展開に期待しつつまったりお待ちします。
293 名前:14 投稿日:2005/05/29(日) 20:13

あの雨の日、ずぶ濡れになったひとみと美貴は屋上に繋がる階段の踊り場で抱き合いながら服が乾くのを待った。寒さに震えながらひたすらお互いを温め合った。だが水気をたっぷり含んだ服がそう簡単に乾くはずもなく、耐えかねた二人は結局真希に助けを求めた。

ありえない場所でありえない格好をしている二人を見て真希は言いたいことが山ほどあったが、虚ろな目をしたひとみと首から薄っすらと血を流して青ざめた表情の美貴が痛々しく、ただ無言で持ってきたタオルと服を投げつけるだけだった。

医務室に行くのを美貴が嫌がったため、真希は仕方なく自宅に連れ帰った。その間ひとみは一言も喋らず何を考えているのかただフラフラとした足取りで帰って行った。かける言葉が見つからず、真希は無言でひとみを見送った。あれだけ激しく降っていた雨はとっくに止んでいた。

美貴の首の傷は見た目ほど深いものではなかった。出血はとっくに止まっていたので、消毒をして大きめの絆創膏を貼っただけで済んだ。力ない笑顔で礼を言う美貴に何をどうしたらこんな場所を怪我するのかと真希は聞いた。

「よっちゃんが激しくて」

真希は一瞬、二人はそっちの趣味があるのだろうかと考え自分でも頬が赤くなるのがわかった。

「いや、うちらは至ってノーマルだから」

真希の表情から考えを読み取った美貴は即座に否定する。

「ノーマルでこんなところ怪我しないよ〜」
「ちょっと勢い余っただけ。事故みたいなもん」
「大体女同士でノーマルって言うのかなぁ」
「さぁ」

294 名前:14 投稿日:2005/05/29(日) 20:13

真希の部屋のコタツで温かいコーヒーを飲みながらそんな話をしていると、美貴の顔色は徐々に生気を取り戻していた。目をこすりこすりし、大きな欠伸をした美貴に真希は少し眠るようにすすめた。コタツにもぐり、横になった美貴の後頭部を見ながら真希はテレビの音量を下げる。2杯目のコーヒーを入れに台所に立つと後ろから声がした。

「ごっちーん、お腹すいた」
「眠いんじゃないの?」
「寝る前になんか食べたい」

前日の残りの味噌汁を温めている間に真希はおにぎりを作った。手についたご飯粒を食べながらどうして美貴のためにこんなことをしているのだろうと首を捻る。この場にひとみがいないことがよかったのか悪かったのか。美貴のあまりにも『普通』な様子が少しだけ不気味だった。

「あ、梅だ。昆布がよかったなぁ」
「あのね〜」
「はいはい、ごめんなさい。贅沢は言いません」

数週間前、亜弥とひと悶着あったときとは別人のように美貴は明るかった。豪快におにぎりを頬張り遠慮なく味噌汁をお替りする。真希が呆れるほどに、いつもの美貴だった。ただ、首の傷とひとみとの情事を目の当たりにした真希は、そのことと美貴の明るさとのギャップに不気味さを感じていた。

「肉とかないの?」

誰もが知っている美貴だった。



295 名前:14 投稿日:2005/05/29(日) 20:14

食べるだけ食べてお茶を飲み、満足したのか美貴は再び横になった。真希に背中を向けて、首の絆創膏を指で押したり伸ばしたりしてしきりに気にしている。コタツの中で真希の足と美貴の足がぶつかり、反射的に真希は足を引っ込めた。

「ミキティ」
「んー?」
「あたし来年留学するんだ」
「そっか」
「そう」

言いながら真希も同じようにコタツにもぐった。狭いコタツの中を美貴の足が占領しているため、わずかな隙間に膝を曲げて滑り込んだ。身を抱えるようにして入り込み、暖かさを逃さないようにする。美貴も自分と同じような体勢で膝を丸めているのかと想像したらおかしかった。

「まっつーのことよろしくね」
「う、ん…」

歯切れの悪い返事は睡魔のせいだと思うことにした。



296 名前:14 投稿日:2005/05/29(日) 20:14

真希が目を覚ますとそこにいたはずの美貴の姿がなかった。携帯で時間を確認する。どうやら2時間近く眠っていたらしい。まだ少し覚醒しない頭でぼんやりとしていると水音が聞こえた。そういえば、と雨が降っていたことを思い出す。同時に下着姿で抱き合うひとみと美貴のことを思い返した。あんな場面を見るくらいなら、ことの最中に出くわしたほうがマシだったな、と真希は思う。まだ幸せだった頃の2人のその最中のほうが。

「あ、起きた?」

台所から湯気の立った器を持って美貴が顔を出した。コタツの上に器を置き「箸忘れた」と言いながらまた立ち上がる。箸と水の入ったグラスを両手に持って戻ってきた美貴は、パシンと小気味の良い音をさせて手を合わせ、「いただきます」とはっきりした声で言った。

「なんで?」

美貴がフーフー言いながら麺を口に入れようとしたそのとき、ようやく真希が言葉を発した。

「なんでラーメンなんて…えっ?作ったの?」
「お腹すいたから」
「さっき食べたじゃん」
「だってお腹すいたんだもん」

297 名前:14 投稿日:2005/05/29(日) 20:15

真希を尻目に、髪をひとつに束ねた美貴は豪快に食べ始めた。猫舌の真希には信じられないほどのスピードで。美味しそうに食べる美貴を見ているうちに真希は少し口寂しくなった。

「ミキティ、一口ちょうだい」
「やだ」

あっさり却下されて、誰のラーメンだと思ってんのさと文句を言いつつ真希は台所に立った。途中で一度伸びをして体をほぐす。冷蔵庫の中をしばらく眺めてチョコを取り出すと口に放り込んだ。結露で濡れた窓を手で拭い、なにげなく外を眺めた。

「あれ?」

てっきり雨が降っていると思い込んでいた真希は外の様子を見て思わず大きな声を上げた。

「どしたー?」
「雨、降ってると思ったら降ってなかった」

チョコの箱を左右に振りながら真希はコタツに戻った。

「とっくに止んだじゃん」
「いつ?」
「よっちゃんが帰ったとき」

最後のスープを啜ってから美貴は満足気に鼻をかんだ。先ほどの水音はラーメンのせいかと真希は納得してまたチョコを食べた。ホントに一口ももらえなかったことにがっくりと肩を落とす。

298 名前:14 投稿日:2005/05/29(日) 20:16

「それにしてもミキティよく食べるね」
「お昼食べてなかったし、それに…」
「やりすぎてお腹減った?」
「そうそう」

真希の持ってきたチョコに手を伸ばしながら美貴は笑った。まだ食べるのかと半ば呆れ気味に真希はチョコを譲る。次々と美貴の口に消えていくチョコを見つつ、また肩を落とした。

「ミキティさぁ、一体何がしたいの?セックスだけじゃないでしょ?」

できるだけ明るい口調で、真希は一番聞きたかったことを口にした。美貴が亜弥を傷つけ、ひとみと話したあの日以来ずっと気になっていたこと。美貴の真意。

「ごっちんってうちらの中で一番大人だよね」
「はあ?」

しかし真希の問いかけには答えず美貴はテレビに目をやった。美貴に大人だと言われても真希にはぴんとこなかった。ひょっとして美貴は自分のことを子供だと言いたかったのだろうか。何をしたらいいのか判らない子供。何がしたいのかさえも見えていない、子供。だがそれも真希の想像に過ぎない。

「よっちゃんの相手ってどんな人?」
「………」
「見たことある?綺麗?」
「さあ。よくわかんないけどミキティも綺麗だと思うよ」
「ミキティ、も、ねぇ…」
「あ、いや見てはないんだよホントに」
「よっちゃんが面食いなのは今に始まったことじゃないから」

口の中で溶けるチョコは甘ったるく、でもほんのりと苦味があった。ずっと遠い昔に味わった初恋がたしかこんな感じだったと真希は思い出していた。

「ミキティさ、よしこの相手が誰なのか気にしてたじゃん?」
「そうだっけ?」
「……もしかして、あれってフリだったの?」
「………」
「ホントはただまっつーを」
「ごっちん」

美貴はチョコの包み紙を指で弄くりまわしながら楽しそうに話し出した。

299 名前:14 投稿日:2005/05/29(日) 20:16

「よっちゃんとやりまくってるとね、何もかも忘れられて気持ちいいんだー」
「爽やかな顔ですごいこと言うね」
「体ももちろんだけど頭もね、なんかパーっとスパークする感じで」
「なにそれ」
「女同士のセックスなんてなんの生産性もないのにどうしてあんなに気持ちいいんだろう」
「それは相手がよしこだからじゃないの?」
「そ。だからまだまだ美貴はよっちゃんを離さないよ」
「あはっ。よしこも大変だ」

美貴の調子に合わせて真希はわざと明るく振舞った。何もかも忘れたって何も解決しないことは判っているだろうに。それとも今だけ忘れられればいずれは良い方向に向くのだろうか。もしかして解決しなければならない問題なんて、もうとっくにどこかに消え去っているのだろうか。そんな都合のいいこと、あるはずがないか。

頬を赤らめながらひとみとのことを話し続ける美貴を見ながら真希は思う。しばらく美貴のやりたいようにさせておくべきなのかもしれないと。美貴の心の中でふつふつと溜まった感情が今は性欲に向いているのなら、それが美貴を表向き正常に保たせているのならばやるだけやって発散すればいい。ひとみには悪いが今の美貴を止める気にはならなかった。

これは美貴の復讐のようなもの。自覚があるのかないのかわからないが美貴はひとみを精神的に、肉体的に追い詰めようとしているのかもしれない。それでもひとみが好きという気持ちに変わりはなさそうだ。これが真希にとっては不思議でならなかったし理解しがたいことだった。

感情の行き場を持て余した美貴とその報いを受けなければならないひとみ。

二人のことを心配しながらも、自分には結局何もできることがないのだと真希は再びコタツにもぐりこみ、テレビを見ながら高笑いをする美貴の声を聞きながら眠りについた。





300 名前:ロテ 投稿日:2005/05/29(日) 20:17
更新終了
301 名前:ロテ 投稿日:2005/05/29(日) 20:17
レス返しを。

289>通りすがりの者さん
いつもレスありがとうございます。励みになります。むしろ作者に救いの手がほしい今日この頃。頑張ります。

290>名無しのSakuさん
作者ですらいまだ先行きが見えない展開となっています。もうしばらくお付き合いください。実はこの話の中で書いてて楽しいのはよしあや姉妹だったりします。

291>名無しのAさん
お褒めの言葉ありがとうございます。手探り状態の亀進行ですがまた読み返していただけるように頑張ります。

292>忍の者Yさん
作者も油断しまくってます。更新スピードをもうちょっとあげたいところです…。
302 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/29(日) 20:46
 更新お疲れさまです。 ミキティの意図がなんとなく分かる気が・・・。 よっすぃーもこの先どうするきなんでしょうねぇ? 次回更新待ってます。
303 名前: 投稿日:2005/05/29(日) 21:44
更新お疲れ様です。
全然、先が見えないっす。w
どうなっちゃうんだよー!
次回の更新楽しみに待ってます。
304 名前:名無しのSaku 投稿日:2005/05/29(日) 23:57
更新お疲れ様です・・・。ごく日常の、こういうシーンを見ていると、
自分が0の位置に戻されたような気分になってきます。
この人のポジションがすごいっす・・・。
次の更新をまったりとお待ちしています。

305 名前:ロテ 投稿日:2005/05/30(月) 22:26
本編とは関係ない短編をひとつ。ただのエ○です。
興味のない方や苦手な方は回避してください。
前半いしよし、後半みきよしの構成です。
どちらかしか受け入れられないという方はそれなりに読み飛ばしてください。

毎度毎度短編挟みすぎて申し訳です。
306 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:27

フジテレビ739カップはガッタスの優勝で幕を閉じた。
キャプテンとしてチームを優勝に導いた吉澤ひとみは、試合後の控え室でチームメイトの異変に気づいた。
それはひょっとしたら見逃してしまいそうなほどの小さな異変だった。
自分の身を抱くようにして控え室から続くシャワー室に消えていくその背中を吉澤は追った。

「…んっ…くっ」

一番奥の個室から押し殺したように泣く声が吉澤の耳に聴こえてきた。
それは控え室で優勝の余韻に盛り上がる他のチームメイトたちとは対照的なものだった。

「な、なんでっ…あのとき外しちゃったんだろ…」

嗚咽とともに吐き出されたその言葉に吉澤は思い当たる。
優勝が決まる大事なPK戦。
惜しくもゴールを外した彼女は優勝の喜びに浸れないほど悔しい思いをしていた。

「バカ…あたしのバカ…」

ノズルを捻る音がした直後、勢いよく流れ出したシャワーの音が彼女の声を掻き消した。
同時に吉澤は動き出す。身に着けていたユニフォームがパサリパサリと床に落ちる。
すべてを脱ぎ捨てた吉澤は彼女がいる個室のドアをそっと開けた。

307 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:28

そこには吉澤と同じように裸で頭からシャワーを浴びる彼女がいた。
長い髪をすべて後ろに流し、目を閉じて水流に身を委ねる石川梨華。
大きく膨らんだ胸や、くびれたウエスト、丸みを帯びたヒップを水流がなぞる。

吉澤は後ろ手でシャワー室のドアを閉めるとそっと石川の肩に手をかけた。

「きゃっ」
「泣いてるの?」
「よ、よっすぃ…何して…」

目を丸くして驚く石川の口を吉澤は素早く塞いだ。
有無を言わせず上唇と下唇の隙間に舌を突っ込みこじ開ける。
もがく石川の両腕をがっちりと掴んだ吉澤は同時に石川の舌をも捕まえた。

「んっ…はぁっ」

吉澤の舌が石川の口腔内を激しく動きまわると息苦しさから石川は吐息を漏らした。
石川の両手首を片手で掴んだ吉澤は万歳をさせるように頭の上に持っていく。
空いた片手を石川の頬に添えて激しい舌遣いから一転、
石川の舌や唇をくちゅくちゅと吸ったり甘咬みしたりして愛撫した。

「はぁん…」

石川の吐息が甘いものへと変化した。

308 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:28

吉澤は掴んでいた両手首を離し自分の首を巻くように誘導する。
まるでそれが自然の成り行きのように石川は従い、吉澤の頭を引き寄せた。
ディープキスをしながら吉澤はシャワーの栓を閉める。
水音が消え、代わりに舌を絡める音があたりに響いていた。

吉澤は片手で石川のヒップをゆるゆると撫でるともう片方の手を石川の胸に伸ばした。
弾力のある大きな胸は吉澤の片手に余るほどだ。
ぐにゃりぐにゃりと乱暴に揉みあげると石川の甘い声がキスの合間に零れた。
すでにピンと立った部分を親指と人差し指でグリグリと挟み強い刺激を与える。

「やぁぁぁ…」
「ふふ。すごい固いね、ここ」
「んーん。そんなっ、言わないでぇ…」

言葉とは裏腹に石川の声は懇願するように甘かった。
もっともっと、とねだっているかのように。
それを敏感に察知した吉澤は耳たぶを甘咬みしながら両胸を愛撫した。

「はぁん…うふぅ…」
「ほら、すごいよ。両方ともすごく固い」
「だってぇ…あぁんっ」

ピンと尖ったそこを爪で弾くと再び石川の舌を舌で絡めとった。
石川も甘く熱い舌をいつのまにか一心不乱に吸い上げている。
そして吉澤の両手が胸から下腹部へとゆっくりスライドした。

309 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:29

「あぁぁぁっ…ダメ、ダメーーッ」

石川のそこは絡めあう舌よりも、シャワーの湯よりも熱くとろけていた。
薄っすらとした茂みをかきわけて吉澤の指が上に、下にと撫で上げる。
とろとろした液を絡ませぷっくりと膨らんだ先端を指の腹で刺激する。

「あ、あ、あ…いやぁぁぁーっ」
「梨華ちゃん…すごい濡れてるね…」
「あんっ、あんっ、ダメッ…そんなに触っちゃ…あぁぁんっ」
「梨華ちゃんがグチョグチョだからあたしの指まで溶けそうだよ」

耳もとで囁かれてよりいっそう刺激を感じた石川は吉澤の背中に爪を立てた。
すでに膝がガクガクして立っているのもやっとという状態で吉澤にしがみつく。
互いの乳首が擦れあうたびに刺激が高まり声が漏れる。
そしてゆっくりと吉澤の指が二本同時に石川の中に侵入した。

「くぅぅ…」

ずぶずぶと指を沈めた吉澤は同時に石川の胸に舌を這わせた。
固く尖った先端をコロコロと転がして時折歯を立てる。
石川の中で指を折り曲げたり内側を撫で上げるように動かしたりして
外側と内側から息つく暇もなく石川を攻め立てた。

310 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:29

「はぁっ…はぁっ…はぁっ…もう、ダメ…」
「もう?なにがダメなの?」
「ダメ…もう我慢できない…イッちゃう、イッちゃうよぉ」
「仕方ないなぁ。いいよ、イッちゃえ」

イク、イクとうわ言のように繰り返す石川の口を吉澤が塞いだ。
強引に舌を絡めとり中をこれでもかとかきまわす。
そして石川の中に入れた指も激しく動かして突いて突いてつきまくった。


「あぁぁぁぁぁぁーーっ」


その瞬間吉澤の背中に痛みが走り、石川はがっくりと首を落とした。
吉澤が石川の顎をクイッと掴み顔を上げると、
石川は焦点の合わないうつろな目つきで唇の端からいやらしく舌を出していた。

「いい顔してるよ…梨華ちゃん」

言いながら吉澤は石川の鎖骨に唇を落として吸い上げた。
全身性感帯となった石川はたまらずまた奇声をあげる。
挿入したままだった指をすっぽりと抜いて吉澤はその場にしゃがみ込んだ。

「ちゃんと立ってなきゃダメだよ?梨華ちゃん」
「え…よっすぃ…?あぁぁっ…ひゃんっ」

311 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:30

吉澤は石川の股間に顔を埋めた。
イッた名残りでどろどろのそこを丁寧に舐めてじゅるじゅると吸う。
相変わらずぷっくりと膨らんで真っ赤に潤った果実のようなそれを、
舌先を尖らして舐めて押して、咬んで刺激した。

「ひゃ、ひゃんっ…ダメ、ダメ、ホントにあぁあんっ…いやぁぁんっ」
「梨華ちゃんのここ、すごく美味しいよ…」
「いやぁっ…すご…激し…よっすぃ…」
「舐めても舐めても溢れてくる」
「言わ…言わないでぇぇ…ぁんっ…」

石川のそれを余すところなく舐め尽くして、吉澤は舌を挿入した。
吉澤の鼻先を薄い茂みがくすぐる。
両手で石川のそこをグイと開き奥へ奥へと突き進む。

もはや立っているのが限界に近かった石川は必死でシャワーを掴むと
力の入らない膝を震わせて今にも崩れ落ちてしまいそうになるのをなんとか堪えていた。
しかし吉澤の巧みな舌遣いの前ではそれも無に等しかった。
我慢ができず腰が落ちてその結果吉澤の舌がより奥へと入り込む。

312 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:30

「いやあぁぁんっ…」

どうしようもなく感じてはまた力が抜けて喘ぐということを繰り返す。

「イッちゃう…またイッちゃうよっ…」

吉澤の顔を太ももで挟み込んだまま石川が叫んだ。
いつのまにか自ら腰を振り吉澤の髪を掴んで揺らしている。
舌を挿入したままの吉澤もそれにこたえて石川の胸を揉みしだいた。



石川が二度目の絶頂を迎えた瞬間、吉澤の顔面が石川の液にまみれた。



「よっちゃーん?」
「なにー」
「まだシャワー浴びてるの?」
「もう行くよー」
「わかったー」

肩で息をする石川を胸に抱きながら吉澤はチームメイトの声に答えた。
汗とグチョグチョした液で全身を濡らした二人は揃ってシャワーを浴びる。

お互いに背中や腰、胸や腹を優しく洗い流してからキスを交わした。

「元気になった?梨華ちゃん」
「うん。よっすぃのおかげでね」
「そっか。ならよかった。元気な梨華ちゃんが好きだよ」
「ふふ…ありがと」

石川は両手を伸ばして吉澤に抱きついた。
そして吉澤の頬にひとつキスを落としてからシャワールームを後にした。




313 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:31

祝勝会を終え、帰路につくタクシーの中で吉澤は隣に座るチームメイトをちらりと見た。
キャプテンとしての勘が吉澤にある異変を知らせていた。
それはやはり吉澤にしか気づくことができない小さな小さな異変だった。

「悔し…」

スカートから覗く小さな膝の上に固く握った拳を乗せて藤本美貴は呟いた。
吉澤は運転手に行き先の変更を告げ、不思議そうな顔をした藤本に軽く目配せした。
タクシーが目的地につくと吉澤は訝しげな目つきの藤本を一人暮らしの自宅へと誘った。

「へぇ〜。よっちゃんいいとこに住んでるね〜」
「美貴、悔しいの?」
「えっ?」
「勝ったのに悔しいのはPK外したから?」
「……よっちゃんにはわかっちゃうか。うん、美貴悔しい」

一瞬驚いたような顔をした藤本は視線を下げて声を震わせた。
吉澤はそんな藤本を下から覗き込みそっと唇を重ねる。

314 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:31

「ちょっ…なっ、よっちゃ…」

藤本が喋る隙をついて吉澤が素早く舌を差し込んだ。
必死で抵抗したものの、吉澤の舌はすでに藤本の舌を捕えていた。
吉澤はくちゅくちゅと舌を絡ませ歯列を舐めまわす。
次第に力が抜けておとなしくなった藤本をその場に横たえた。

「あぁんっ…はぁ…んふぅ…」

しつこく舌を求める吉澤の首に藤本の両手がまわされた。
吉澤が唇を甘咬みするともっと欲しいとばかりに藤本が舌を伸ばしてくる。
藤本は犬のようにペロペロと吉澤の唇を舐めまわした。

「ぅん…よっちゃ…ゃあんっ…」
「美貴は欲しがりだね」

濃厚なキスを交わしながら、吉澤は藤本の服を一枚一枚剥いでいく。
あっという間に下着姿になった藤本の首筋に舌を這わせながら自らも服を脱いだ。
足を絡ませ心なしか腰を振る藤本を見て吉澤はサディスティックに笑う。

315 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:32

「よっちゃん…早く…」
「エッチな子だなぁ」

唇を離してから吉澤は藤本の体を抱え上げてうつ伏せにした。
自然と四つん這いの体勢になった藤本のショーツを一気に引き下ろし歯をたてる。

「いやぁぁぁーーーっ」

藤本のヒップをがっちりと掴んだ吉澤は秘部に顔を埋めて丹念に舐めだした。
屈辱的な格好で後ろに舌を突っ込まれた藤本は堪らず身をよじる。
しかし吉澤がそれを許さない。
太もものつけ根を吸ったり咬んだり、前を指で愛撫したりと攻撃の手をさらに増す。

「んん…はぁんっ…いゃん…」
「嫌なの?」
「いや…こんな…の、やだ…」
「ウソだね。こんなに濡らしといてよく言うよ」

藤本のそこはすっかり濡れきっていた。
フローリングの床に吉澤が吸いきれなかったものがポタポタと零れる。
割れ目に沿って生えた濃い茂みはすでにぐしょぐしょだった。

316 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:32

「だって…そんな、よっちゃ…あぁぁんっ…だめぇ…」
「気持ちいいんでしょ?こんなに突き出して。もっと舐めてほしい?」

吉澤は高々と突き出された藤本のヒップを叩いて音を鳴らした。
その振動さえも刺激となり藤本はフローリングの床に顔をこすりつける。
いやいやと首を振るもののそれ以上に腰を振っていた。

「前のほうもこんなに入るよ」

大きく膨らんだ藤本のそれをこねくりまわしつつ吉澤は次々と指を挿入した。
襲いくる快感に悲鳴とも奇声ともとれない声を発した藤本はあっけなく絶頂に達した。

「ちょっと入れただけなのに…美貴はエッチだなぁ」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
「次はイッていいって言うまでイッちゃダメだよ」
「え……」

指を挿入したままの状態で吉澤は藤本の下に体を滑り込ませた。
断続的に指を動かしながら耳の中に舌をねじ込み愛撫する。
イッたばかりで体中が過敏になっている藤本はさらに声をあげた。

「うるさいよ」

片手で藤本の頭を引き寄せて吉澤は深いキスをした。
暴れる舌を捕まえて絡ませ、吸っては咬んで呼吸をさせない。
口腔内と下半身を荒々しく動きまわられて藤本はすぐにイキそうになった。
指が締めつけられるような感覚を覚え吉澤はすぐさま引き抜く。

317 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:33

「あぁんっ…」

残念そうな声を漏らす藤本の唇を吉澤はペロリと舐めた。

「まだまだ。イカせないよ」
「そんな…よっちゃん、おねが…あぁぁんっ」

吉澤は目の前でプラプラと揺れていた小ぶりの胸に咬みついた。
ブラジャーをずらしてすでに固くなっているそこを舌で転がす。
両手でこねくりまわして赤々と膨らんだそこをちゅうちゅうと吸った。
藤本は吉澤の太ももに股間をこすりつけては恥ずかしげもなく前後に動かした。

流れ出た大量の液が吉澤の太ももを艶かしく濡らし汚していく。
吉澤は膝を軽く曲げて藤本の動きに合わせた。
藤本は自らの股間をさらにこすりつけて恍惚とした表情を浮かべる。

318 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:33

「あんっ…あんっ…はぁんっ」
「ダメダメ。イっちゃダメだからね」
「そ、そんなっ…イッちゃう、イッちゃうよぉ…」

藤本の乳首に歯を立てながら吉澤は命令した。
目の端に涙を浮かべながら藤本は懇願する。

「よっちゃ…おねがっ…」
「ダーメ」
「もう、おかし、くなりそ…」
「ダメだってば」
「おねが…よっちゃん…美貴もう…あぁふんっ」
「どうしてほしいの?」

お願いお願いと呟く藤本に、吉澤は乳首を舐めながら聞いた。
その表情にはいやらしい笑みが浮かんでいる。

「美貴の…あそこを…」
「あそこってここ?」
「ああぁぁーっ」

美貴の股間に手を伸ばした吉澤はぷっくりとしたそこをぐりぐりと押してから
再び手を引っ込めて乳首をしゃぶった。

「よっちゃあん…おねが、おねがい…」
「で、どうしてほしいって?」
「…めて」
「ん?聞こえない」
「な、めて…」
「はいよくできました」

体勢を少し下にずらした吉澤は自分の顔を藤本に跨らせた。
固く尖った吉澤の舌がすんなりと藤本の中に入り込んだ。

319 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:34

「あんっあぁんっ…はぁんっ…い、いいっいいっ…」

侵入してきた蠢く舌に藤本は思わず身を仰け反らせたが
またすぐに腰を落として吉澤の舌を奥へ奥へと誘い込む。
藤本の中で吉澤の舌は休むことなく暴れまわった。
くちゅくちゅという卑猥な音と激しい息づかいが部屋の中に充満する。

「あんっあんっあぁんっ…イクっ、イクーーーーっ」

舐め尽くせないほど大量の液が溢れて吉澤のこめかみを伝った。
ぐったりとした藤本は床に仰向けになり息を切らしている。
起き上がり顔についた液を指でぬぐった吉澤はそのままペロリと舐めて
藤本の股をぐいっと両手で開いた。

「あんっ」
「まだまだ」
「そ…そんな…イッたばかり…あぁぁぁぁっ」

独立した生き物のようにひくひくといやらしい動きをしている藤本のそこに
吉澤は一気に指を突き刺してめちゃくちゃに掻きまわした。

320 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:34

「だめっだめっ…壊れ…壊れるっ壊れちゃぅぅーっ」
「いいよ。壊れちゃいなよ、ほら」

指を挿入したまま吉澤は藤本を再び四つん這いにした。
後ろからこれでもかと突き刺しては中を掻きだすように攻め続ける。

「ほらっほらっほらっ」
「あんっあんっあんっ…はぁぁ…や、壊れ…やぁぁぁぁんーーっ」

高々と上げた腰を振るたびに中途半端に装着されたブラジャーが揺れる。
ヒップから背中にかけてを舐めまわした吉澤はブラジャーのホックを歯で引っ掛けた。
パチンと音をさせてそれを外し、ブラジャーから零れ落ちた胸を激しくもみしだく。
膣の中を暴れまわる指は激しさを増し、フローリングの床の上には
藤本から流れ出た液の水たまりが出来ていた。



赤い舌を出して叫び続けた藤本は何度目かの絶頂の後に意識を失った。



321 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:35

「美貴、美貴」
「ん…あ、よっちゃぁん」
「起きた?」
「うん…美貴どうしちゃったの…?」

ベッドに横になった藤本は隣で同じく横になっている吉澤に尋ねた。
吉澤は藤本の質問には答えずその唇にキスをした。
軽く触れるだけのキスを何回かしているうちに藤本は段々と瞼が重くなるのを感じた。

「美貴、眠くなってきちゃった…」
「いいよ。寝て」
「うん。よっちゃんオヤスミ…」
「オヤスミ」

藤本の唇に最後に一度キスをすると吉澤も目を閉じた。

「今日は疲れたなー」

呟き、そして眠りに落ちた。






322 名前:ダブルヘッダー 投稿日:2005/05/30(月) 22:35
 
  <了>
 
323 名前:ロテ 投稿日:2005/05/30(月) 22:37
本編とは無関係のエ○短編でした。ほんっとにすみません。
324 名前:ロテ 投稿日:2005/05/30(月) 22:39
>>313あたりからみきよし描写でそれより前がいしよしです。
どっちかしか見たくないという方はそのへんを境にスルーよろ。
325 名前:ロテ 投稿日:2005/05/30(月) 22:40
あ、しまった。レス返し忘れてた。

302>通りすがりの者さん
ミキティもよっすぃも石川さんもこの先どうなるのか…まだ作者の中で固まってなかったりします。

303>Yさん
どうもどうも。いつも焦らしてすみません。てかハンドル変わってるw

304>名無しのSakuさん
せめてごっちんはフラットで他はふり幅大きく頑張ります。
326 名前: 投稿日:2005/05/30(月) 23:11
更新おつです。
こういう話の時に一番にレスするっていうのもね。w
今回はタイミングが良かっただけって事で。
それにしても、あんた凄いYO!
327 名前:S 投稿日:2005/05/30(月) 23:45
Yさん降臨のあとなので安心してw

すごいよ、すごすぎるよ・・・ロテさん・・・。
あ、でもそれ以上にすごいのは吉澤さん、あなたです!ってことでw
328 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 05:18
吉澤、あんたナニモンだよ!!
329 名前:名無しJ 投稿日:2005/05/31(火) 07:51
( ̄□ ̄;
エロてさん降臨…!!
朝から読んじゃったよ…w
すげぇよイロイロ…
330 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 07:03
吉澤さん、タフですねぇw
331 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 22:42
短編は短編で別スレを立てたらいかがでしょうか・・・
332 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/02(木) 05:43
果たして藤本さんは吉澤さんの背中の傷に気づいてたんでしょうか?
それとも展開が速かったので自分がつけたと勘違い?


>>331
そのスレをどう使うかは立てた人の自由です
遵守しなくてはならないのは「立てたスレは基本使い切ること」
それが全て
333 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/03(金) 21:45
 更新お疲れさまです。 うぁっ( ̄□ ̄;)!! か、かなりヤバめな短編ですね。 \゜Д\{ワ-!! というかかなり自分には強めなものでした。 本編もお待ちしております。
334 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/04(土) 11:29
さすがよっちゃんw
本編&短編、供に楽しみにしてます!
335 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:42

待ち合わせの場所に向かう途中、真希は思いついて駅前の本屋に入った。
時間に余裕はなかったが提出期限が迫っているレポートの参考資料があればと、ふらっと立ち寄った。
書架の間を縫うように歩き目的のコーナーに到着する。
良さそうなタイトルの本を手に取りぱらぱらとページを捲った。

ある章が目に留まり注意深く読んだ。
10分ほど立ち読みをしてあまり役に立ちそうにないと判断しまた棚に戻す。
携帯を見て完全に遅刻だと思いながらも焦らずに雑誌コーナーに足を向けた。
少しくらい遅れてもどうってことはないと店内を歩いていた。

そこにひとみがいた。

男たちの集団の中にぽつんと。やけにバタ臭い顔の、古着で固めた女がバイクの雑誌を読んでいる。
真希は呆気に取られて無言で近づくと熱心に読みふけっているひとみの後頭部を叩いた。

336 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:43

「イテッ」
「なんでこんなとこにいるのさー!」
「あ、ごっちん。いきなり何すんだよ。ひでーなー」

雑誌を片手に後頭部を押さえたひとみは口を尖らして文句を言った。

「つーか約束の時間過ぎてるでしょ。こんなとこで暢気に雑誌読んでないでよ」
「え…あ、ホントだ。いつのまにかこんな時間か。やー時が経つのは早いですねー」
「まったくもう」
「あれ?そういうごっちんこそ、こんなとこで何やってんだよ」
「あ…気づいた?」
「なんだよ!最初から本屋で待ち合わせればよかったんじゃん」
「それはちょっと違うような…」

話しながら真希とひとみは本来の待ち合わせ場所であるオープンカフェに向かう。
天気が良く、秋風が気持ちのいい午後だった。

337 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:43

ひとみがミルクティーを注文すると真希は少し迷って同じものを頼んだ。
大学から程近い、駅前通りからひとつ外れた道沿いにあるその店は平日でも多くの学生で賑わう。
自家製のモンブランが女性客を惹きつけ、それに群がるように男性客が集まる。

「こんなに混んでるのになんでこの席空いてたんだろうね」
「あんまり可愛い子いないからだろ」

ミルクティーを飲みながら失礼なことを言うひとみを真希は軽く睨んだ。
睨みつつも店内を見まわしてオープンカフェの席が空いていたことに納得した。

「ほらな」
「やっぱりこういうところって人を選ぶのかなぁ」
「そりゃそうだろ」
「さすが男前。ていうか基本的に美人だもんね、よしこ」
「いやいや、あたしなんてほら、今日のジーンズ破れてるし。全然女っぽくないから。ごっちんのその美味しいそうな美脚のおかげでしょう」

スカートから伸びた足を見ながらひとみはニヤニヤした。
破れたジーンズからちらほら見え隠れする白い素肌もなかなかのものだと真希は思う。

338 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:44

「あたしに欲情してる暇なんてないでしょ?」
「どういう意味だよ」
「そのまんまの意味だよ」

真希がひとみと会うのはあの雨の日以来だった。
あの日に借りた服を返すとひとみからメールがあり約束をして今ここにいる。

「ほい。これサンキュ」

洗濯をしてきちんと畳まれた真希の服が紙袋に入っていた。
その中に小さな袋があり、取り出してみると甘い匂いがした。

「亜弥が、いっぱい作ったからごっちんにって」
「やったー。まっつーのクッキー美味しいんだよね」
「そうかぁ?甘いだけじゃん」
「よしこは甘いの苦手だもんね〜」

ミルクティーを飲みながらひとみは軽く頷いた。
ぼうっと通りを眺めるひとみを見ながら真希は美貴の台詞を思い出す。

『まだまだよっちゃんを離さないよ』

美貴とひとみの関係はあれから少しは改善したのだろうか。
この場合何を持って改善したと言えるのか真希自身もよくわかっていなかったが、とにかく何かが良い方向に向かっていればと祈るような気持ちでいた。
元はといえばひとみの自業自得ではあるのだが、何もできなくとも話しくらいは聞いてやろうと真希は椅子に座り直した。

339 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:45

「最近どう?」
「ん〜疲れやすい。やたら眠いし」
「やりすぎなんじゃないの」
「たぶんそう」
「ミキティ激しそうだもんね」
「あっちも負けてなくて」

あっちとはひとみの新しい恋人のほうだと真希は理解した。

「溺れてるんだ」
「もうどっぷり」

穏やかな昼下がりにする話じゃないなとまわりを気にしつつ真希は話を進める。
しれっと答えるひとみもひとみだと思った。

「石川さん…だっけ?バレてないの?」
「どうだろう?イマイチ何考えてるのかよくわからないんだよな、美貴もだったけど」

わからないのではなくてわかろうとしないからではないかと真希は思った。
ひとみの脳内を占めているのは妹のこととバイクだけだと以前美貴が言っていた。
そこまで単純じゃないにしても、仮にも付き合ってる相手のことにひとみがあまり執心でないのは事実であるような気がした。
会ったこともない『石川さん』に真希は同情する。

340 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:45

「ミキティとはセックスだけ?デートとかは…」
「するわけないじゃん」
「だよねぇ」

それこそ二股だ。しかも片方(美貴)が公認している。
笑えない冗談みたいな話だと真希は思った。

「なんか不憫だよねぇ」
「どっちが?」
「全員」

ひとみも含めた全員が気の毒に思えてならなかった。
真希からすれば不健全で不合理で不愉快極まりないこの関係を、3人中2人はだらだらと続けているのだから心底おかしな話だと思う。
なぜ出口が見つからないのだろう。見つけようとしないのだろう。

「よしこさぁ」

言いかけた言葉を真希は寸前で飲み込んだ。
それを言うのは今のこの疲れきったひとみにはあまりに酷なような気がしたからだ。
だがその真希の気遣いもひとみの一言であっさりとなかったことになった。

341 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:46

「あたしあんま本気になったことないんだよねぇ」
「それ今言おうとしたんだけど傷つくかと思って言わなかったのに」
「あん?なんで?言えばいいじゃん」
「さすがに酷いかと思って」
「なんだよ他人行儀だな。変なごっちん」

変なのはオマエだろ、という言葉を今度は飲み込まなかった。
きょとんした顔でこちらを窺うひとみが亜弥とダブって笑えた。

「最初はちゃんと好きなんだよ」
「うん」
「でもなんかそのうち…」
「好きじゃなくなるの?」
「つーかなんで一緒にいるんだろうって思うときが…」
「………」
「なんか急に、ふとした瞬間に、醒めるときが…あったりする…」

真希はひとみの恋愛遍歴をいちいち熟知しているわけではない。
でも亜弥や美貴、ひとみ自身から語られるそのエピソードの数々にあまり幸せなものはない。
憎まれたり恨まれたりロクな別れ方をしてこなかったひとみ。
歴代の恋人たちはさぞ苦労したことだろう、と真希は他人事のように聞いていた。
美貴がひとみと付き合いだす前までは。

342 名前:15 投稿日:2005/06/12(日) 23:46

「自覚してたんだねぇ、よしこ」
「ん、薄々は」
「ミキティは別格だよね?」
「え?」
「それでもまだよしこは」

なぜか懇願するような口調で真希は続けた。念を押すように。

「ミキティのこと好きなんだよね?」

首に絆創膏を貼って美味しそうにラーメンを食べる美貴の姿が思い出されたから。

しばらくの沈黙の後、ひとみはゆっくりと口を開いた。

「わかんねぇ」
「は?」
「わかんないよ。もう、何がなんだか」

なんとなく肩透かしを食った真希だったが最悪の答えだけは回避できたことに安堵した。
第三者の立場でいようと、何ができるわけでもないと真希はこれまで静観する構えでいた。

「わかんないじゃないだろ、考えろバカ」

だが絆創膏を気にして首をかく美貴がやけに瞼の裏に焼きついて離れない。
亜弥のクッキーの匂いがいつまでも鼻腔をくすぐる。
ひとみの破れたジーンズから覗く素肌があの雨の日を思い起こさせる。

そのすべてが自分の背中を後押ししているような気がした。

「ちゃんと考えて、はっきりさせろ!」

美貴もひとみも救いを求めているのだと感じた。





343 名前:ロテ 投稿日:2005/06/12(日) 23:47
更新終了。マターリマターリ…。
344 名前:ロテ 投稿日:2005/06/12(日) 23:47
レス返しを。

326>Yさん
どうもですヽ(*´∀`)ノ

327>Sさん
(*^〜^)<頑張ったYO

328>名無飼育さん
(*^〜^)<キャプテンだYO

329>名無しJさん
エロテでした(ノ∀`)

330>名無飼育さん
(*^〜^)<モリモリだYO

331>名無飼育さん
今さらなので…(ノ∀`)アチャー

332>名無飼育さん
(0`〜´)<キャ、キャプテンはバックを取らせないんだYO

333>通りすがりの者さん
強かったですか(ノ∀`)

334>名無飼育さん
ありがとーですヽ(*´∀`)ノ
345 名前: 投稿日:2005/06/13(月) 10:05
う・・・ん、どうなるんだYO!
急がず騒がず続きを待ってます・・・
346 名前:名無しJ 投稿日:2005/06/14(火) 04:34
あっちこっち行ってきましたYO。こっちレスするのは久しぶりです…そうか、だからか…。
マターリ待ってます。
347 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/15(水) 21:10
ううーん、よっちゃんどうするんだYO!
348 名前:S 投稿日:2005/06/16(木) 12:15
そうなんですよね・・陰にはもう一人いるんですもんね。(すっかり忘れてた・・・w)
続きをまったりお待ちしております。
349 名前:16 投稿日:2005/07/03(日) 00:22

薄気味悪い路地を柴田あゆみは足早に歩いていた。手には携帯を持ち、視線を片時も離すことはしない。スクロールさせた受信メールを見ては返信を押し、ためらうフリをしながら携帯を閉じる。ビルとビルの隙間の、誰にも知られていないような通りを躊躇無く進みながらそれを繰り返していた。あゆみの指はあるひとつの目的に向かって忠実に動いている。それをするのはたやすいが、自らを焦らして目的を遂行するまでの道程を楽しんでいた。


『もうメールも電話もやめてください』


ジグザグに交差した迷路のようなビル群を抜け出して大通りに出た。視界が開けたと同時に何かに反射した光があゆみの目に差し込んできた。眉をひそめて空を仰ぐと雲がグングン流されて遠ざかるのが見えた。沈みかけた太陽があゆみを見ていた。

「メールも電話も、か…」

自身にさえ聴こえないほどの声量で呟くと、再びあゆみは携帯に視線を戻した。アドレス帳をスクロールさせて亜弥の名前を見つめる。しつこくすればするほど嫌われるのはわかっていた。あゆみ自身にもそういう経験はある。高校のとき部活の先輩にストーカーまがいのことをされたのを思い出した。

見つめる先の携帯に影が落ちた。顔を上げると梨華がいた。

「柴ちゃん遅いよー」
「ごめんごめん。これでも急いで来たんだから」
「ゼミ長引いた?」
「そ。毎週のことだからもう諦めてるけどね」

あゆみと梨華は同じ大学の同じ学部に在籍していた。

350 名前:16 投稿日:2005/07/03(日) 00:22

「梨華ちゃんは?レポート、大変でしょ?」
「そう!聞いてよ柴ちゃーん。もうね、信じられないんだよ?あの先生ってばね…」

あゆみと梨華は中学の頃からの付き合いだ。梨華の愚痴やイマイチ面白さが伝わらない話を聞くのはあゆみにとって習慣のようになっていた。慣れ、というのは恐ろしいものでそんな誰が聞いても辟易するような梨華の話をあゆみは苦もなく聞くことができる。ベストのタイミングで相槌を打ち、時には突っ込み、オチのない話にも腹を立てることはない。

「そうしたらね、ふふっ。CDのケースだけで中身がなかったのー!!」
「へ〜。意味ないじゃんね」
「意味ないよねー。先輩おっかしいの。慌てて曲の説明とかしだしちゃって…」

梨華の話は終わりがない。次から次へと派生しいていく話には脈絡もない。今だってゼミの不満をぶちまけていたかと思えば、いつのまにか最近始めたバイト先の先輩の話になっている。ひとつひとつの話に関連性は薄いのでとくに真剣に聞く必要はないが、さっさと梨華の求めている質問をしなければあっという間に朝が来てしまう。

「梨華ちゃん、その先輩のことちょっと気に入ってるでしょ?」
「えぇ〜。そんなことないよぉ」

ビンゴ。あゆみは漏れそうになるため息を寸前で飲み込みさらに聞く。

「カッコイイ?」
「う〜ん。まあカッコイイといえばカッコイイかな?」

こういうときの梨華は口よりも表情のが素直だ。思っていることが大抵顔に出る。惚れっぽい梨華の性格を十分に把握しているあゆみは、それでもいつもとは微妙に違うトーンの梨華に気づいていた。

351 名前:16 投稿日:2005/07/03(日) 00:23

「こんなところで立ち話もなんだからどっか入らない?」
「あ、そうだよ!柴ちゃんが行きたい店ってどこ〜?」
「この通りのもう少し先」

梨華がバイト先の誰がカッコイイだの、大学のどの人が素敵だの言うのはいつものことだ。ただひとみと付き合いだしてからの梨華からそういう話を聞いたことがなかったあゆみは、梨華の微妙な変化についてどのタイミングで聞くべきか少し迷っていた。できれば店につく前に聞いておきたい。

「梨華ちゃんさぁ、吉澤…さんとはどうなの?」
「先輩と、もうひとりの人と今度ゴハン食べに行こうって…」
「あんなによっすぃ、よっすぃ言ってたのにどうしたの?」
「…でね、その先輩とバイトのときに」
「梨華ちゃん!!」
「柴ちゃん…」

梨華の足が止まった。あゆみはそっと肩に手を回して顔を覗き込んだ。

「うまくいってないの?」

梨華が首を横に振った。

「じゃあ、どうしたの?」
「柴ちゃん言ってたよね」
「なに?」
「私、だけじゃないんじゃないかって…」
「あ、うん。言ったね」
「もうっ!なんでそんなこと言うのよ!ひどいよ、柴ちゃん」
「だってそう思ったんだもん。むしろあたし親切じゃない?」
「思ってても、もうちょっと言い方ってものがあるでしょ?!」
「そんなにムキになるってことはやっぱりいたの?他に」

あゆみの遠慮のない物言いに梨華は泣き笑いのような、困惑した顔を見せた。

「わかんない」
「え…?」
「私のほかにいるかどうかなんて、わかんないよ!わかりたくもないし…」
「でも疑ってるんだ?」
「………」

あゆみはひとみと面識はない。だがひとみと同じ大学に通っている友人から聞く限り、ひとみは誠実とは言い難い性格のようだった。ふらふらしていてかなり派手に遊んでいると聞いている。

352 名前:16 投稿日:2005/07/03(日) 00:24

「だからやめなって言ったじゃん」
「だって〜」
「梨華ちゃんもなんでそんな人がいいのよ」
「さあ。なんでだろう」
「って、オイ!」
「う〜ん、たぶんよっすぃがよっすぃだから、かなぁ…」
「はぁ?!梨華ちゃんもたいがい頭悪いよね」
「ちょっと、それどういう意味よ〜」
「梨華ちゃん以外と付き合ってる…とは限らないか。遊んでいるかもしれない人がその人だからいいって、」

一端言葉を切って、ひと呼吸置いてからあゆみは続けた。

「バカでしょ」
「ひどっ」
「もうやめたら?」
「それは無理」

梨華のきっぱりとした口調にあゆみは少なからず驚いた。

「そんなに好きなの?」
「好きっていうか…」

一瞬あゆみから目をそらした梨華は少し考えてから言った。

「ほしいの。よっすぃが」
「そんな倒置法使って言わなくても」
「トウチホーってなあに?」

あゆみには梨華の気持ちが痛いほどわかると同時に、わからなかった。

誰かを、理由はわからないし説明もできないけど求める気持ちはあゆみも一緒だった。好かれてないのは、いやむしろ嫌われているのはわかっている。自分が追い求めれば求めるほど相手が離れていくことも。この先にハッピーエンドなんて待っていないことも。

それでもあゆみは、立場は違っても根底に流れるものはあゆみと同じなのかもしれない梨華は、諦めることなんてできない。愛とか恋とかキレイごとでは片付かない欲求が自分たちをどうしようもなく泥沼に引き擦り込んでいるということを、あゆみは頭の片隅で理解していた。

353 名前:16 投稿日:2005/07/03(日) 00:24

「じゃあ、吉澤…さんに誰か他の人がいても」
「うん。別れたくない」
「………」

しかしこの一点、この考え方の違いがあゆみと梨華を決定的に分け隔てていた。

「今のままでもいいからよっすぃと一緒にいたい」
「ウソだよ」
「ウソ?」
「そんなの、そんなことなんで言えるの?梨華ちゃんだって嫉妬してるんでしょ?!」
「その言い方…。ねぇ、柴ちゃんもしてるの?嫉妬」

あゆみは絶句した。

自分は嫉妬しているのだろうか…?

何かというと姉を優先させる亜弥。
親友を苦しめている亜弥の姉。

亜弥に応えてもらえない苛立ちがひとみに向かう。

「また倒置法なんて使っちゃって…」

自分のしていることになんの意味があるのだろう。リダイヤルに並ぶ亜弥の名前。送信メールには亜弥に愛を囁いている言葉が並べられている。どのメールも返信されることを考えない一方的なメールだ。どこかで捻じ曲がったアプローチは亜弥だけでなく、あゆみ自身にも暗い影を落としていた。

「ムカツク」
「柴ちゃん?」
「ムカツク」

あゆみが目的の店に向かってずんずんと歩き出した。呆気にとられた梨華が半歩遅れてその後を追う。夜が近づいた繁華街は大勢の人間でごった返していた。先を行くあゆみを見失わないように梨華は歩くスピードを速めた。

354 名前:16 投稿日:2005/07/03(日) 00:25

「柴ちゃん、待ってよ〜」

そんな梨華の呼びかけを気にもせず、あゆみはひたすら歩き続けた。

「もう〜。急になんなのよ〜」

文句を言いつつもあゆみの後を追う梨華。ふと気づくとあゆみが煌々とライトアップされた店の前に立ち尽くしているのが見えた。立ったまま、あゆみは店内を凝視していた。中に入る様子もなく真剣な表情で何かを、或いは誰かを見つめている。

ようやく追いついた梨華はあゆみの横に立ち、同じように店内を覗き込んだ。女性客で賑わいを見せているそこはなんの変哲もない喫茶店だった。ショーウィンドウには色とりどりのケーキが数種類並べられ、梨華の顔は自然と綻んだ。ふと、溢れる客の中で忙しなく動いている店員が目についた。そこで梨華はようやく理解した。あゆみがこの店に来たがった理由を。

「亜弥ちゃん…」

テキパキと働く亜弥とその姿を切羽詰った表情で見つめるあゆみ。
二人の姿を交互に見る梨華の心には、言いようのない不安感が渦巻き出していた。







355 名前:ロテ 投稿日:2005/07/03(日) 00:26
わりといっぱいいっぱいな更新終了
356 名前:ロテ 投稿日:2005/07/03(日) 00:27
レス返しー。

345>Yさん
いやあホントどうなるんだろコレw

346>名無しJ
>そうか、だからか…。
な、何に気づいたんだーっ!(AA略

347>名無飼育さん
そこが悩みの種でして(ノ∀`)アチャー

348>Sさん
久々にもう一人の方の登場です。てか更新自体が(ry
がんばります…。
357 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 14:33
更新お疲れさまです。
登場人物ひとりひとりが、それぞれ少しずつ傷ついていて、
読んでいて切なくなることがあります。
続きが気になってしかたないのですが、どうぞ、作者さんのペースで…。
358 名前:S 投稿日:2005/07/03(日) 16:40
更新お疲れ様です。
この方の心の内がわかってちょっと嬉しかったり・・・。
うう〜ん・・・・みんなどうして
こんなにせつない思いをしなくてはいけないんでしょうかねえ・・・。
次回の更新を楽しみにまったりお待ちしております。
359 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 22:23
更新乙です。
あぁ・・・切ないYO・・・
みんな各々何処へたどり着くのだろう・・・?
何処へ向かえば良いのだろう・・・?
う〜む・・・

次回もマタ〜リ待ってます。
360 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/04(月) 09:30
更新お疲れさまです。 柴田サンまだダメなようですね、石川サンもいつ気付いてしまうか・・・ハラハラものです。 次回更新待ってます。
361 名前: 投稿日:2005/07/04(月) 19:49
ホントにどうなるんだ?
なぞナゾ謎・・・
362 名前:nanashiJ 投稿日:2005/07/10(日) 09:23
更新乙です
少し変化が出てきましたね・・・
ネタバレしそうなんで控えますw
363 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/05(金) 00:35
この小説大好きです
364 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 19:15
更新されるのが待ちどおしいです!
365 名前:17 投稿日:2005/08/07(日) 21:39
色とりどりのケーキを眺めるのは亜弥にとって至福のときだ。それは単純に食欲という欲求に起因するだけではなく、小さい頃よく母親が作ってくれたキャロットケーキを思い出すからだ。あの頃は、なんて口調で話すのは寂しいような気がして姉にはあまり言ったことはないけれど、亜弥はあの頃両親と姉と4人で、休日に母親が焼くキャロットケーキの香りに包まれるのが大好きだった。

バイト先をこのケーキ店に決めたのもそんな至って単純な理由からだった。家や大学から近いとか、時給がいいとか、制服が可愛いからとか挙げればキリがないポイントの数々は亜弥にとってはどうでもいいことだった。ただ一点、母親が焼いてくれたキャロットケーキの香りに近いものがあったことが、このケーキ店にした理由だ。

だからあゆみの通う大学や、あゆみの自宅から遠い場所にあるというのは偶然に過ぎない。亜弥にとっては、あまりにもいいこと尽くしのバイト先だった。

「亜弥ちゃん、そろそろ閉める準備しようか」
「はい」

女店主に言われ、亜弥は店の外に出た。ドアにかかっていたオープンの札をひっくり返す。そしてふとガラスに映った顔を見て、漏れそうになったため息を寸でのところで飲み込んだ。

366 名前:17 投稿日:2005/08/07(日) 21:40

「こんなところまで何の用ですか?」

普段の声とはまるで違う、ましてやバイトの営業用の声ともかけ離れた亜弥の低い声。すっかり薄暗くなったあたりの雰囲気に、やけにぴったりだとあゆみは他人事のように思っていた。

この場所で梨華と別れてからけっこうな時間が過ぎていた。外から亜弥の姿を見とめた途端、あゆみは一人にしてほしいと梨華に告げた。それからしばらく働く亜弥の姿を目立たない場所から眺めていた。眺めながら先ほどの梨華との会話を思い出していた。

「柴田先輩、いつからいたんですか?」

夜が近づき気温は下がっていた。最近は吐く息もすっかり白い。あゆみの顔やスカートから覗く両足は雪のように真っ白だった。その白は自然と姉の姿を思い起こさせた。

「…ここじゃなんですから、入ってください。私もう少ししたら上がれるんで」
「………」
「寒いじゃないですか、ここ」

亜弥はため息混じりにあゆみを店内へと促した。亜弥に言われ、あゆみはおずおずと店の中に入りながら冷えた両手をこすり合わせた。亜弥の言う「ここ」が自分の胸の内を指しているような気がした。

367 名前:17 投稿日:2005/08/07(日) 21:41

「店長に断ってきたんで、どうぞ」
「ありがと」

コーヒーの湯気を目の前にして、あゆみは少しだけ笑顔を見せた。先ほどまで外から見ていたのと、中に入ってこうしてコーヒーを飲むのとでは店内の印象が違うなと思った。そして隣でもなく目の前でもない、斜め向かいの席に腰を下ろした亜弥の顔を見て、安心した。たとえ自分を避けるようにそっぽを向いたその表情が明るいものではなかったとしても。

「亜弥ちゃんのお友達?」

カウンターの向こうから声を掛けられた。あゆみが口を開くよりも先に亜弥が答えた。

「中学時代の先輩なんです」
「あら、そうなの。亜弥ちゃんといいあなたといい可愛いわね〜」
「あ、いえ」
「あなたみたいな可愛い子に働いてもらえたらウレシイんだけどなぁ〜」
「店長〜。いきなりなに言ってんですか」
「だってほら、先週一人辞めちゃったでしょ。勧誘よ、か・ん・ゆ・う」
「そんなこといきなり言われたって、先輩だって困っちゃいますよ、ねえ?」

亜弥の口調は明るく、口許はにっこりと笑っていた。ただ目は違った。言いながらあゆみを見る亜弥の目は深くどこまでも暗い色をしていた。そんな目をされるたびにあゆみはやるせなくなる。哀しみと怒りと申し訳なさで、唇を噛んでしまう。屈託なく笑う亜弥の姿を最後に見たのはいつのことだったろうと、心の底からやるせなくなるのだ。

「すみません。私ほかのバイトでいっぱいいっぱいなんですよ」
「あら。残念ねぇ」
「店長はいっつも唐突なんだから〜」
「女はね、思ったら即行動に移さなきゃダメよ?それじゃ、ごゆっくり〜」

奥の部屋へと入っていく女店主の後姿を見ながら、亜弥はあゆみの予想外の答えに驚いていた。自分と接する機会が増えるこのチャンスをあゆみがみすみす逃すはずがないと思っていたのだ。だからなんとかしてバイト話をうやむやにする方法を考えていたというのに、あゆみのほうからあっさり断ってきたことに驚き、そして安堵するとともに「なぜ?」という思いがあった。

368 名前:17 投稿日:2005/08/07(日) 21:41

「そんなにバイト、してましたっけ…?」
「してないよ」
「え…じゃあ、なんで」
「思ったら即行動か。でもなかなかできることじゃないよね」

亜弥の言葉を遮ってあゆみは喋り続けた。

「相手に迷惑かけちゃうかもって思ったら躊躇するよね、どうしても」
「………」
「あたしがしてたことは間違ってたんだろうけど…でも仕方ないよね。好きなんだもん」
「好きならなにしてもいいってわけじゃ、ないですよ…」
「あはは。たしかに」
「迷惑だったんですから」
「これでも抑えたつもりだったんだけどね、なんか変なこといろいろ考えちゃって…」

あゆみを避けるように体ごと横を向いた亜弥は自分の足元を見るともなく見ていたが、あゆみの視線をずっと感じていた。横目でチラっとあゆみを見ると、『変なこと』と言った瞬間にだけ目を伏せたのがわかった。なんとなく気になってあゆみを見つめた。

「やっぱり梨華ちゃんみたいにはなれないな」
「石川先輩?」
「亜弥ちゃんはあたしだからダメなの?あたし以外に誰かいるからダメなの?」
「前にも言いましたけど柴田先輩だからどうっていうことじゃなくて」
「そんなにお姉ちゃんがいい?」

さっきからいろんな方向に飛ぶ会話に亜弥はうんざりしていた。あゆみは人の話を、少なくとも亜弥の言葉を聞いていない。聞いてはいるかもしれないがそれを無視して自分の言いたいことだけぽんぽんと投げかけている。そんなところが亜弥は苦手だと感じていた。以前はもっと、話していて楽しい人だったのにと。

369 名前:17 投稿日:2005/08/07(日) 21:42

もちろん振ったり振られたりした関係だから、ただ楽しかっただけの頃のような会話を期待するのは無理なことなのかもしれない。それでも亜弥はあゆみの優しさとか誠意のようなものを期待していた。たとえ振ってもあゆみは自分よりも大人だから潔く引いてくれると思っていた。今思えばそれは自分に都合よく解釈していただけで、大人だとか子供だとかそんな勝手な決めつけは意味のないことだった。そういう意味では亜弥も自省していた。

可愛さあまって憎さ百倍。今のあゆみは自分のことなど好きでもなんでもなく、ただやり場のない怒りをぶつけたいと、それをやるためにここまで来たのだと亜弥は予想していた。

「どういう、意味ですか?」
「お姉ちゃんのどんなところが好きなの?顔?」

あゆみは梨華にむりやり見せられたひとみの写真を思い浮かべた。それは梨華がひとみの頬にキスをする瞬間を携帯のカメラで撮影したもので、いらないと断ったにもかかわらず写メールで送られてきた。横顔でもはっきりとわかるほど梨華はうっとりとした顔つきをしていて、対するひとみはというとかっこつけたのかやたらと真剣な表情をしていた。なるほど、梨華が夢中になるのも無理はないなと、あゆみはそのメールを削除しながら思った。

「お姉ちゃんのことは関係ないじゃないですか」
「だって亜弥ちゃんことあるごとに『お姉ちゃんが、お姉ちゃんが』って言うでしょ?」
「だからって」
「お姉ちゃん以上に人を好きになったことあるのかなって。今までに」
「変なこと言わないでください」

亜弥は自分の言葉にはっとした。同時に先ほどのあゆみの真意を理解した。

「変な想像、しないでください…」

亜弥は自分がシスコンであることを十分にわかっている。それもちょっとやそっとの姉好きではない。もしかしたら「好き」というレベルではないのかもしれない。だがそれは恋人同士の愛や恋なんかではもちろんなく、亜弥にとって姉は亜弥が亜弥であるための、この世に存在するために必要なもう一人の自分。生きていくために必要な存在。それが姉だった。誰かと比べることなんて、できはしないのだ。

370 名前:17 投稿日:2005/08/07(日) 21:43

「……吉澤さんって梨華ちゃんと真剣に付き合ってるのかな」
「当然ですよ」
「そう?吉澤さんモテるでしょー。梨華ちゃんもなにかと気にしてたから」
「そんな、お姉ちゃんはそりゃいろんな人と付き合ってきましたけど」
「心配なんだよね、梨華ちゃんが」
「今は石川先輩がいるんですから。ちゃんと付き合ってますよ。そのために」

余計なことまで言いそうになり、亜弥は慌てて口をつぐんだ。再び自分の足元に視線を彷徨わせると、やはりあゆみの視線を感じた。もっと突っ込まれて聞かれたら面倒になる。美貴のことだけは絶対に言うわけにはいかない。

「そのために?」
「………」
「誰かが犠牲になったってことなのかな…?」

あゆみの言葉はまさに確信をついていた。しかしそれは亜弥に投げかけたというわけではなく、ひとり言のような小さな声だった。しばらく沈黙が続き、あゆみはわずかに残ったコーヒーを飲み干した。

「さっきの質問」
「え?」
「お姉ちゃんのどこが好きって」
「ああ…」

沈黙を破ったのは亜弥だった。

「お姉ちゃん、ああ見えてすごく優しいんです。柴田先輩はいいかげんな噂しか耳にしてないかもしれないけど…。お姉ちゃんはいつも私をさりげなく守ってくれて、困ったことがあると助けてくれて…。安心するんです。お姉ちゃんといると。だから」
「うん。もういいよ」
「………」
「なんかノロケにしか聞こえないし」

亜弥が反論する前にあゆみは立ち上がった。そして「これは亜弥ちゃんの奢りね」と目でコーヒーを指しながらバッグを手に取り背中を向けた。亜弥も慌てて立ち上がりその背中に向けてさっきから疑問に思っていたことを口にした。

371 名前:17 投稿日:2005/08/07(日) 21:43

「お姉ちゃんと石川先輩、うまくいってないんですか?」
「そういう話しないの?吉澤さんと」
「いえ…最近ちょっと会う機会が少なくて」
「ふうん」
「でも会うといつも『うまくやってる』って言うから…」
「うまく、か」
「石川先輩こそちゃんとお姉ちゃんのこと好きなんですよね?だから付き合ってるんですよね?」
「そんなのあたしに聞かないで直接梨華ちゃんに聞きなよ」
「そう、ですよね…すみません」

そのままあゆみはドアを開けて店を出ようとしたが振り返って亜弥の名前を呼んだ。

「梨華ちゃんは吉澤さんのことすごく好きだと思うよ」
「……そうですか」
「あたしが亜弥ちゃんを好きなように」

あたしが亜弥ちゃんに執着するように。

亜弥の返答を待たずにあゆみは外に出た。すっかり暗くなった空とは対照的な街の灯りやネオンに目を細めながら、最後の言葉を飲み込んだことをあゆみは少しだけ後悔していた。





372 名前:ロテ 投稿日:2005/08/07(日) 21:44
言い忘れた。終わりに向けて一直線です。
373 名前:18 投稿日:2005/08/07(日) 21:45

あゆみが去った後、バイトを終えた亜弥は電車に揺られながら姉のことを考えていた。自分にとっては優しくて頼りがいのある姉。恋人としてどうなのかなんて真剣に考えたこともなかったが、あゆみに言われた台詞が亜弥の頭の中に微かに引っかかっていた。


『お姉ちゃん以上に人を好きになったことあるのかな』


その答えはノーでありイエスだった。

姉以上に好きな人は過去も現在も一人もいない。あゆみの言う『好き』とは違う意味で亜弥には姉以上に好きな人などいなかった。だが一方で亜弥は思う。姉に対する気持ちと他の人に対するそれは全然種類が違う。比較対照になんてならないものだと。姉は姉。どうあがいてもあゆみの言う『好き』な人にはなり得ない。例えば真希や美貴ならどうだろう。ある意味では姉と同じくらい特別な二人。あゆみの言う『好き』に、もしかしたら当てはまるのかもしれないなと亜弥はぼんやりとした頭で考えていた。


電車が自宅の最寄り駅に滑り込むと、亜弥は携帯の電源を入れた。メールが一通届いており、不在着信も二件あった。そのすべてが美貴からだった。とりあえず電話をしようと考えているとタイミングよく美貴から着信があった。

「もしもしぃ」
『亜弥ちゃんもしかして電車だった?』
「うん。今日バイトがちょっと長引いちゃって」
『ふうん。大変だね。お疲れ』

美貴の言葉でどっと疲れを実感した。たしかに、大変だった。いろんな意味で疲れていた。

374 名前:18 投稿日:2005/08/07(日) 21:45

「んで、どうしたの?」
『美貴さー、急にどうしても焼肉が食べたくなったんだよね』
「また焼肉?!」
『よっちゃん捕まらないしさー、ごっちんも全然携帯繋がらなくて。ねぇ、亜弥ちゃん行こうよー』
「う、うーん」

ダイエット中の亜弥に対してそれは悪魔の囁きだった。焼肉は食べたい。今日みたいな日はとくに、美味しいものを食べてパーッと騒いでイヤなことを忘れたい。焼肉焼肉と子供みたいに騒ぐ美貴を大人しくさせるのも難しそうだ。今日くらいは、と亜弥は焼肉の誘惑に負けた。

『じゃあ30分後にいつものところで』

嬉々として電話を切る美貴の顔がたやすく想像できた。亜弥は来た道を引き返して、人で溢れかえった駅のホームから満員電車の中へと駆け込んだ。ぎゅうぎゅうの車両にはうんざりしたが、焼肉のことを考えると自然に笑みが零れた。そして美貴の明るい声にも。

つい先日、大学のキャンパスで美貴と話したときはまだ少しギクシャクしたものが残っていた。美貴と元の関係に戻りたいと願っていた亜弥だったが、自分が何か言うことでまた美貴にイヤな思いをさせるのではと、どう接していいのか手をこまねいていた。そんなところへ美貴からの食事の誘いだ。電話での会話もいつもとなんら変わらない自然なものだった。

屈託ない美貴の声を聞いて、亜弥は姉と一緒にいるときのような安心感を抱いていた。



375 名前:18 投稿日:2005/08/07(日) 21:46

「ふぅ〜。食った食った」
「………」
「やっぱ何はなくても焼肉、だね」
「………」
「美貴から肉を取ったら何が残るの?って感じ」
「あ゛〜あ゛〜」
「もう諦めなよ。食べちゃったもんはしょうがないでしょ」
「だって、だって、ダイエット中だから少しにしておこうと思ったのに」
「亜弥ちゃんも、よく食べたよねぇ…」
「うぅ…たんにつられた」
「はぁ?!美貴のせいなわけ?」

焼け焦げた網。タレで汚れた皿。おしぼりやティッシュが散乱しているテーブルに向かい合わせで座った亜弥と美貴はそんな会話をしながら食後のデザートが来るのを待っていた。甘いものは別腹、というのはどんな場合でも例外ではない。

「往生際が悪いな〜。デザートまで頼んだくせに」
「たんがアイス食べるのを黙って見てろって言うのー?!」
「べつに黙らなくてもいいけど見てればいいじゃん」
「ぜっっったいムリ!!」
「だろうね」
「もうっ!たんのバカ!」
「はいはい。バカでけっこう。口のとこ、ついてるよ」
「ん?」

きょとんとする亜弥の口許に美貴が手を伸ばした。おしぼりの汚れていない部分でさっと拭いて、ニコっと笑う。その自然な仕草が姉を思い起こさせて、亜弥は少しだけ胸が痛んだ。美貴の、姉に対する気持ちがきっと変わっていないだろうことを予想して。

まだ、お姉ちゃんのこと好きなの?

言いかけた言葉はバニラアイスと一緒に口の中で溶けた。目の前で抹茶のアイスを美味しそうに口に運ぶ美貴を見ながら亜弥もまた、一口、二口とアイスの味を確かめながらその一時の甘さに浸っていた。

376 名前:18 投稿日:2005/08/07(日) 21:46

「よっちゃんが捕まればここおごらせるんだけどなぁ」
「お姉ちゃんどうしてるんだろうね」

店に来る途中、亜弥自身も姉の携帯に何度か電話をしていた。ひとみはひょっとしたら、イヤな考えだとは思ったが美貴からの電話やメールには積極的に出るつもりがないのではと考えたからだ。一瞬でもよぎったその考えに、亜弥はたまらなく嫌悪感を抱いたが全面的に否定できるような確証も持ってはいなかった。

「亜弥ちゃんからの電話にも出ないってことは…」
「出ないってことは…?」
「お取り込み中なんでしょ」
「お取り込み?」
「エッチ」
「なっ…やだ、もうっ!みきたんのバカっ」
「ぷっ、あはっ、あははは。亜弥ちゃん真っ赤」

腹を抱えてゲラゲラと笑う美貴。最初は怒っていた亜弥も真っ赤な顔のまま一緒に笑った。これって笑えるジョークなの?と思いながらおずおずと。美貴の様子を気にしながら。もう笑えるような話になったの?そんな視線を美貴に送りながら。

「美貴は平気だから二人のことを聞かせて?」
「二人?」
「よっちゃんと新しい彼女のこと。どんな人なのか、どんな二人なのか」
「それ聞いてどうするの…?」
「どうもしないよ。ただどんなかなーって。好奇心?そんなところ」
「んー、二人のことって言われても…。えっとねぇ…」

複雑な英文法を思い出すときのように難しい顔で考え込む亜弥を見て、美貴は少しだけ申し訳ない気持ちになった。亜弥にはきっといろんな気を遣わせている。心配をかけている。無邪気な笑顔がこれ以上曇るのを見たくはないのに。

377 名前:18 投稿日:2005/08/07(日) 21:48

「あのね」
「うん」
「変な誤解をしないでほしいんだけど…」
「うん?」
「二人のこと、二人がどんな付き合いをしてるのかよく知らないんだよね」
「………」
「お姉ちゃんあんまり詳しい話、してくれないんだ」

気を遣って、のことではなさそうだった。亜弥は本当によく知らないのだろう。ことの経緯を考えればひとみが亜弥に話さない(というか話せない)のも頷ける。ましてやひとみと自分が歪な形で続いているなんてこと、想像すらしていないだろう。美貴は勝手な言い分だとは自覚しつつも亜弥にはひとみとの関係を知られたくないと、そう思っていた。

「ホントにね、言いたくないわけじゃなくて、あの」
「わかってるって。じゃあさ、相手の女ってどんななの?亜弥ちゃんの知り合いなんでしょ?」
「どんなって言われても…」
「キレイなのは想像つくから中身ね、どんな人間なのか知りたい」
「たん、それってホントに好奇心、なの?」

ホントに知りたいの?

美貴にはそう聞こえた。知りたい。知りたくない。知りたい…。
何が、知りたいんだろう。自分は一体、何を。

「好奇心だよ。決まってるじゃん。でも」
「でも?」
「んー、でもやっぱいいや。なんか亜弥ちゃんに聞くなって感じだよね」
「それは、べつに…いいんだけど」
「よっちゃんに聞いてもちゃんとした答えが返ってくるとは思えなくて。亜弥ちゃんに甘えちゃった」
「みきたん、それを知りたがるのって自分と比べたいからなの?どこが…例えば、悪かったのか、とかを。たんが悪いっていうんじゃなくて例えばね、例えば。だからもしかして、自分とお姉ちゃんの恋人との差を見つけたいとか…そういうことなの?もしかしてまだ」
「亜弥ちゃん、やめてよ。美貴はそんな諦め悪くないよ」

378 名前:18 投稿日:2005/08/07(日) 21:48

美貴は亜弥の言葉を嘘で遮った。自分ほど諦めの悪い人間がいるだろうか。亜弥に見られないように下を向いて自嘲気味に笑った。ひとみと別れてから、別れた後も寝るようになってから、寝れば寝るほどひとみが遠ざかっていくような気がしていた。所詮自分の独り相撲なんだということに気づきつつも、肌を合わせていればなんとかなると半ば自棄になって誘い続けた。ひとみが応えてくれなくなるまで、自分はもしかしたら諦めることなんてできないのかもしれない。

「お姉ちゃんの今の彼女はね、すごく自分に正直な人だと思う。みきたんと一緒で」
「そう」
「うん…。それにお姉ちゃんのことが大好きな人。それもみきたんと一緒だね」
「亜弥ちゃん、けっこう言うようになったよね〜。なにげにグサっとくるんだけど」
「あ、ごめん。なんか、もういいのかなって」

エヘヘなんて舌を出されて笑顔を向けられたら、美貴は怒るに怒れない。そもそも怒る筋合いもないのだけれど、毒気を抜かれて亜弥の柔らかい空気に包み込まれて、自分が悩んでいるのが途端にバカバカしくなる。亜弥の持つそんな天性の素質には美貴だけじゃない、真希も、もちろんひとみもやられっぱなしだ。

「まあ…もういいといえば、いいんだけどね」

ひとみのことを好きな彼女は自分の存在を知っても尚、ひとみと付き合い続けるだろうか。ふとそんな疑問が美貴の頭に浮かんだ。もし立場が逆だったとしたら…。いろんな事情をとりあえず放っておいても別れられないだろう。ひとみからは離れられない。恋や愛なんて、そんなものが理由ではなく、きっと意地になって。彼女がそうだとは限らないがどんな理由にせよやはりきっと、ひとみからは離れないし離れられないと思った。

すべては美貴の想像に過ぎないが彼女に自分と同じ匂いを感じ、会ったことも見たこともないのに奇妙な親近感がわいていた。そして美貴の心に初めて罪悪感というものが芽生えていた。





379 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:49

梨華がそこを通りかかったのはまったくの偶然だった。あゆみと別れ、湧き出てきた不安感とともに夕暮れ時の街並みを歩いていた。だから家とは反対方向のその場所で恋人にばったり出くわすことを運命と思えるほど、明るく声をかけられるほどの余裕は今の梨華にはなかった。

「よっすぃ?」

二人の女が自分を見た。一人はよく知っている。体の隅々まで知り尽くし、知り尽くされた相手。いつも一緒にいて寄り添って肌を重ねて、楽しいことがあれば笑い、笑われ、さまざまな喜怒哀楽をともにしている、相手。梨華の頭の中にあやふやに存在しているひとみ。

もう一人は梨華の見たことのない綺麗な女。自分の恋人と差し向かいでお茶かなんかを飲んでいる。こちらを不思議そうな顔で凝視して、そしてなぜか厳しい顔で眉間に皺を寄せていた。

「梨華!」
「えっ」

ひとみの声でその女は弾かれたように目を見開いた。品定めするような目ではなかったがじろじろとした不躾な視線。自分のことをもしかして知っているのだろうか。どこかで会ったことが…?いや、こんな綺麗な人なら忘れるわけがない。相手はじっと自分を見ている。

困惑した梨華は下を向いた。自分の靴を見てそれから思い切って顔を上げた。

「友達?」
「あ、そうそう。ごっちん。後藤真希ちゃん」
「ごとーです」
「それからこっちはあたしの彼女。石川梨華」
「石川です」
「ごっちんは亜弥の親友で、梨華は亜弥の中学時代の先輩なんだよ」

380 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:49

真希と梨華を交互に指差しながら説明するひとみの表情は明るく口調も軽い。だが腋の下には嫌な汗を掻いていた。なぜこんなところに梨華が?いや、問題はそのタイミングだった。ひとみにとって考えられる限り二番目に最悪の時と場所で梨華に出くわした。一番はもちろん美貴といるときだ。もしここにいるのが美貴だったら…そう考えてひとみはぞっとした。今一緒にいるのがなんの後ろめたいことのない真希でよかったが、さっきまでしていた会話の内容を考えると居心地の悪さは計り知れないものがあった。

「何してるの?」
「見てのとおり。茶ぁ飲みながらくだらないおしゃべりだよ」
「ふうん」
「………」

不自然な沈黙。
重苦しい空気が澱む。

「そっち、お邪魔していいかな?」

先に動いたのは梨華だった。

二人がその問いに答える間もなくスタスタと店に入り、出迎える店員を制して自らオープンカフェの、ひとみの隣に座った。バッグを置き、足を組み、肩まで伸びたストレートの黒髪を右手で軽く後ろに流した。呆然としているひとみと真希を尻目に片手を上げて店員を呼ぶ。

「カフェオレ」

梨華は二人があっけに取られているうちに注文をして澄ました顔で足を組み直した。そしてまた自分の髪を触り、満面の笑みで真希に向かって言い放った。

381 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:50

「よっすぃは渡さないから」

にっこりと微笑を浮かべる梨華に真希は唖然とし、ひとみは相変わらず腋の下で汗を掻いていた。一人涼しげな顔でカフェオレを飲む梨華に対し二人は黙りこくったまま。言いたいことは山ほどあるのに口を開くことができない。真希とひとみはなぜか勝ち誇ったような梨華に圧倒されていた。

「やっだ〜。二人とも何か言ってよ〜」

真希は知らず鳥肌が立っていた。なんなのだろう、この人は。この雰囲気は。なぜこんなに上機嫌なの?幼い子供のように無邪気に笑ったかと思えば上品な佇まいで微笑んでみせる。こんな状況でなければもしかしたらこの人に惹かれていたかもしれない。ひとみが溺れているのもわかる気がした。一緒にいる人間を狂わせるような、そんなオーラを梨華から感じていた。

「あのな〜」
「よしことはそんなんじゃないですから」

誤解してるようですけどただの友達ですから、と真希は弁明した。梨華の顔を直接見るのは躊躇われ、代わりにカフェオレに視線を向けていた。そして美貴の顔を思い浮かべて、あながち誤解でもないなと、ひとみをちらりと見た。

「昔も今もこれからも正真正銘友達。恋とか愛とか、絶対にありえないですから」
「たしかに」

慌てて言い切る真希を見つつひとみは他人事のように苦笑した。真希に睨まれ首を竦める。

382 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:50

「大体オマエはいきなりすぎなんだよ」

梨華を小突くひとみ。「なによ〜」と口を尖らす梨華。なんとなくお似合いのような気がして真希は胸が痛んだ。コタツにもぐる親友の後ろ姿を思い出して。

「だって、よっすぃがこんなとこでかわいい子とお茶してるからぁ」
「あたしが誰とどこで茶ぁ飲もうが勝手だろーが。どういう発想してんだよ」
「もうっ。そんな言い方しないでよー。冷たいんだからぁ」
「うるさいなー。さっさと帰れよ」
「イヤ。もうちょっと傍にいさせて」

ひとみに冷たくあしらわれることに慣れているのか梨華はめげない。真希にとって意外だったのは主導権をひとみが握っているらしいことだった。会話と表情、お互いに対する仕草から読み取れる二人の関係は圧倒的にひとみが有利だ。梨華の目にはひとみしか映っていない。さっきまで存在を認めていた真希のことはもう眼中にないらしい。

「ラブラブだね」

真希はことさら抑揚のない声で言った。その意味するところをひとみが理解するかどうかは疑問だったが、精一杯の皮肉を込めて真希はそう言った。

ひとみの顔が曇り、梨華の顔は明るくなった。

「そうなのー。ラブラブで毎日大変だよねー」
「ごっちん、あの…」
「ラブラブなお二人の邪魔しちゃ悪いからお先。ここはよしこの奢りね」

店を出て二人の目の前を通り過ぎた真希は振り返って手をあげた。応えて梨華が軽く手を振る。ひとみは顎をくいっと上げるだけだった。

帰り際、目に入った梨華の顔に自分に対する敵意が見てとれ真希は思わず足を速めた。店からだいぶ離れ曲がり角をいくつも曲がって何も見えなくなっても、梨華の恐ろしい表情がずっと背中についてきているような気がして何度も振り返った。

振り返ってもそこには何もなく、ただミルクティーの残り香が口の中にあるだけだった。



383 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:51

「こんなに汗掻いて、どうしたの?」

梨華に言われてひとみは自分の額に手を伸ばした。生温かいじとっとした液体が指に触れる。真っ直ぐにこちらを見てくる梨華から目を逸らすことができなかった。額に指をあてたまましばらくそうしていると梨華がハンカチを取り出して、ひとみの額を押さえた。行き場のないひとみの指が数秒、宙をさまよった。

「お医者さんと看護婦さんみたい」

クスリと笑う梨華の目元は決して笑っていなかった。貼りつけたような笑顔にひとみはぞっとした。額に触れているハンカチを通して自分の怯えが伝わってしまいそうだった。

「もういい。サンキュ」
「そんなに暑いならアイスティーにすればよかったのに」

ひとみの空になったカップを見て梨華は額からようやく手を下ろした。真希が座っていた椅子を一瞥してまた先ほどの台詞を口にした。今度はひとみを真っ直ぐに見ながら、一字一句ゆっくりと。

「よっすぃは渡さないから」

ひとみは心臓を鷲掴みにされたような思いだった。梨華の小さな手がずぶずぶと胸の中に入り込みドクドクと脈打つ心臓を捕える。少しでも力が込められればあっという間に握りつぶされてしまう。爪が食い込み、血が溢れ出て梨華の手を濡らすだろう。囚われの身のひとみは梨華に抗うことができずそっと目を伏せた。

384 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:51

「誰にも」

震える睫毛に梨華の声が圧し掛かる。
息が苦しくなりひとみの肩が上下した。

「絶対に」
「あ…」

ひとみの長い睫毛が震えた。
その震えは全身を伝わり指先にまで及んだ。

「渡したくない」

梨華の声もまた、震えていた。

「あぁ…」

ようやく口を開いたひとみの声は掠れていて音を為していなかった。全身に汗を掻き喉は渇き切っていた。唾を飲み込み、意を決したように梨華の細い手首を捕まえた。思わず力が入り、梨華が少しだけ表情を歪めたがひとみはそれには気づかず自身の下唇を舐めるとまた掠れた声で言った。

「それでいいよ」

それでいいとしかひとみは言えなかった。
どこにもいかない。ずっと傍にいる。安心して。梨華だけだよ。愛してる。
いつもならば軽々しく口をついて出てくる言葉が今日に限って出なかった。
それでいいと言うのがやっとだった。

「痛い」
「あ、ごめん」

ひとみは慌てて掴んでいた梨華の手首を離した。予想以上に力が入っていたのか真っ赤な痕が残っていた。それは激しいセックスの名残のようにも見え、ひとみの中の黒い欲望を刺激した。

385 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:52

梨華は片方の手で手首を擦りながらひとみを見て言った。

「胸が痛いの」
「胸が?」
「治してくれる?」
「どうかな。あたしにできるかわからないや」
「よっすぃじゃなきゃダメなの」
「そんなこと…」
「わからないの?よっすぃじゃなきゃダメなんだよ?」
「わかってる。わかってるよ」
「わかってない」
「わかってないかもしんないあたしがいいの?」

ひとみは静かに終わりの時を感じていた。ふうっとひと息吐いて水を飲み、通りを見た。真希が去った光景と梨華の驚いた顔が見えた。ほんの数十分前のことなのに遠い昔のように色あせていた。さっきまでのざわざわとした気分はどこかに消え失せ、妙に冷静な自分がいた。掴まれていた心臓もそれはそれで動いているだけマシだと思えた。すべてが面倒になり梨華の言葉を待たずに席を立った。

「よっすぃじゃなきゃ…ダメなんだもん!」

ひとみを追うようにして梨華が勢いよく立ち上がり、その拍子にミルクティーの入っていたカップが派手な音をさせながら床に落ちた。ひとみが飲んでいたものか真希が飲んでいたものか判別できぬほど粉々になっていた。

音に気づいた店員が慌てて駆け寄ってきた。怪我はないか、大丈夫かとしきりに梨華の様子を窺う。しゃがみこんでカップの残骸を確かめ、また立ち上がり梨華に話しかける。しかし梨華は答えない。数メートル離れた場所に立ち尽くすひとみを見つめ、両手を胸の前で組み、祈っていた。

「ったく、なにやってんだよ」

踵を返し、呆れたような声でひとみは梨華の元に戻った。どこからか持ってきた箒で粉々になったカップを片付ける店員の横を通り過ぎる寸前に、梨華はひとみに抱きついた。普段からは考えられないような力強さでひとみの背中に腕をまわして顔をぐりぐりと胸に押し当てる。呆然とする店員を無視して二人は固く抱き合っていた。

386 名前:19 投稿日:2005/08/07(日) 21:52

「梨華、苦しい」
「私のほうが苦しいんだから」
「それに恥ずかしいよ」
「私は恥ずかしくなんてない」
「みっともねー」
「みっともなくったっていいんだもん!」

梨華に抱きつかれたままひとみは店員に頭を下げた。壊れたカップの代金を弁償しようとしたが断られ、店の好意に甘えることにした。結局ミルクティー2杯とカフェオレ1杯分の料金だけを払い、ひとみと梨華は店を出た。その間、梨華はずっとひとみにしがみついたままだった。

「もうあの店には行けねーなぁ」

呟きながらひとみはそのほうがいいのかもしれないと思っていた。あの店は美貴との思い出がありすぎる。危うく同じ店で梨華にも別れを告げるところだった。ほっと胸を撫で下ろしたひとみだったが梨華と別れなかったことに安堵したのか、同じ店で別れを告げずにすんだことに安堵したのかは自分自身でもよく判らなかった。ただ考えて考えて、考え抜けば、答えが見えそうな気がしていた。


『ちゃんと考えて、はっきりさせろ!』


真希に言われた言葉が頭の中にずっと引っかかっていた。





387 名前:20 投稿日:2005/08/07(日) 21:53

やるだけやってことが済むと美貴はひとみの下から這い出た。セミダブルのベッドに二人、くっつくでもなく離れるでもなく体を伸ばしていた。カーテンが引かれた窓の外は何色をしているのだろうか。天井を凝視しながらひとみは取り留めのないことを考えていた。

美貴の部屋は青い。青で統一された部屋だ。青いモノだらけというわけではないがポイントポイントに青を効果的に使っているため、部屋を訪れた誰もが青いと感じる。青だけが印象に残る。

一口に青といってもその種類はさまざまだ。人によって印象も変わる。雲ひとつない澄んだ青空を想像する者もいれば色鮮やかな濃いブルーをそこに見出す者もいる。ひとみが美貴の部屋を初めて訪れた日、初めて美貴を抱いた夜。浅いまどろみの中で薄っすらと目を開けたひとみが抱いた印象は深海だった。青というにはあまりにも深く、暗い。目を凝らしてようやく青だとわかる、海の底のようだった。

ベッドの上で乱れたシーツとともに美貴と折り重なる自分はまるで深海生物だった。音のないその場所で身動きひとつせずじっと時が過ぎるのを横目で見る。ふわふわと波間を漂うのとはまた一味違った心地よさ。夜がそうさせるのか朝になれば消えてしまうその泡沫の刹那をひとみはいつも惜しんでいた。眠らずにただじっくりと、見えない時の流れに目を凝らしていた。

「この部屋」

美貴が突然話し出したのでもうとっくに寝ていると思い込んでいたひとみは少し驚いた。

388 名前:20 投稿日:2005/08/07(日) 21:53

「引っ越そうかと思って」
「マジで?」
「マジで」
「なんで?」
「なんとなく」

ひとみはあらためて部屋を見まわした。床に無造作に置かれた青いクッション。寝転んだときに頭の座りがちょうどよくなる固さでひとみは気に入っていた。美貴の膝枕の次に。キッチンとの境にあるガラス戸のガラスは限りなく透明に近かったが光の加減で赤やオレンジ、黄色や黄緑色に見えることもあった。初めて美貴に殴られ、その拍子によろめいてぶつかったときにできたヒビが光線を上手い具合に折り畳んで、摩訶不思議な色合いを醸し出していた。

そのガラス戸の木枠は青で塗り込められている。なんでも前の住人が美術系の大学だか予備校に通っていたらしく、勝手にアレンジして満足して出て行ったらしい。どういう配合をしたのかその青はもう二度と作れないような、幾重にも重ねられた趣のある色をしていた。その貴重な青をぼうっと眺めるのも好きだった。

「引っ越すのかぁ」
「寂しい?」
「うん。そうだね」
「美貴と別れるときも寂しいって思った?」
「いや、思わなかった。早く帰りたいって思ってた」
「やっぱり」

バカ正直に答えるひとみに美貴は呆れたような、諦めたような、それでいて嬉しそうな笑いを返した。寂しいだなんて言われたら美貴はひとみを殴ってやろうと思っていた。その言葉が真実かそうでないかは別として、ひとみに余計な気遣いなんかを見せられたら殴りつけてやろう、と。美貴の予想は的中し、密かに握りしめていた拳をゆっくりと解いた。

389 名前:20 投稿日:2005/08/07(日) 21:54

ひとみは嘘でも寂しいだなんて言わないだろう。強がりや反発ではない。寂しいと思っていなければ絶対に口にすることはない。もしかすると仮に寂しいと思っていても言わないのかもしれない。ひとみはそういう人間だ。

相手の真意を測るでもなく、ましてや同情するでもなく美貴の一番聞きたくなかった言葉を予想どおり言わないでいてくれたひとみが、やはり好きだと思った。随分と捻じ曲がった好意ではあったが。

「裏のない優しさって罪だよね」
「は?意味わかんねー」

自分を突き放すときに少しでも寂しいだなんて思っていられたら、虫唾が走る。きっぱりとあっさりと振ろうとしたこと、そちらのほうが潔い。自分に少しでも縋りつく間を与えなかったひとみには感謝していた。みっともなく泣いて、頼って甘えて元の鞘に納まろうとした自分を拒絶しなかったひとみには、感謝とは反対の感情を持っていたが。

「コンダクターは美貴だよ」
「よくわかんないけどかっけー」
「なんでこんなにバカなんだろ…」
「あぁ?バカって言ったのか人のことバカって」

億劫そうに寝返りを打ったひとみは美貴の顔を覗き込んだがその眼光の鋭さに恐れをなす。しぶしぶ元の位置に戻り掛け布団を跳ね除けた。暖房が効きすぎた部屋は裸のままでちょうど良い温度だった。

バカなのは自分だと、美貴は独り言つ。

「よっちゃん…」

掠れて弱々しい、誘うようなその声に反応しひとみは美貴の上に覆い被さった。もう何度となく聞いたその声はいわば合図だった。始まりの合図。ひとみはすでに義務でも強制でもなくなっているその行為にただ嵌り、浸り、美貴の肌に自身を重ねた。



390 名前:20 投稿日:2005/08/07(日) 21:55

青い夜が過ぎて、朝があったのかなかったのか、ひとみが目を覚ますとカーテンが揺れていた。隣にいたはずの美貴の姿はなく、無意識に伸ばした腕が所在なさげにシーツを撫でた。深呼吸をして起き上がり、窓際に立って外の色を確かめる。晩秋の太陽はとっくに空高い位置にあった。

「外から丸見えだよ」
「大丈夫。あたし白いから」
「大丈夫って、意味わかんない」
「光が反射したりなんかして同化してそうじゃね?まわりと」
「なにその理屈。とにかく服着れば?」

脱ぎ散らかしてあった服を掻き集めてひとみはひとつひとつ身につける。下着を身につけ、カーキ色のシャツに袖を通してあらためて外を見た。何を期待してたわけではないが、あまり代わり映えのしない見慣れた風景に少しだけ落胆した。

「今日あったかいなぁ」

ひとみの呟きもドライヤーを使っている美貴の耳には届かない。「あったかいあったかい」と言いながらひとみは冷蔵庫から野菜ジュースを取り出して飲んだ。ふと携帯を見ると着信とメールがあった。その場で確かめることはせず無造作に尻のポケットに突っ込んだ。どうせ梨華か亜弥だろうと思った。

髪を整えて洋服を選ぶ美貴の後ろからひとみは声をかけた。

「引っ越し、手伝おうか」
「覚えてたんだ」
「そこまでバカじゃないよ」

391 名前:20 投稿日:2005/08/07(日) 21:55

野菜ジュースの入ったグラスを片手にひとみは美貴の後ろ頭を軽く小突いた。ベッドに腰掛けてストッキングにするすると長い足を通す美貴を見ながらさらに声をかける。

「今日あったかいよなぁ」
「そう?ここのとこずっとこんなもんじゃない?」
「そうかなぁ」

ひとみはスカートから覗く美貴の綺麗な足に見とれていた。美貴に気づかれぬようにごくっと喉を鳴らして野菜ジュースの残りを飲み干す。バッグの中身を確認する美貴を見つめながら、昨夜の不在を梨華になんと言い訳しようかと考えていた。

「よっちゃん」

すっかり出かける準備万端の美貴がひとみの肩を叩いた。

「講義あるから美貴もう出るけど、よっちゃんは?」
「あたしは…今日はサボる」
「そう」
「送ろうか?」
「いい。せっかくセットしたのにメットかぶりたくないもん」
「今日もばっちり決まってますねぇ。惚れ惚れするくらい」
「当然」

392 名前:20 投稿日:2005/08/07(日) 21:56

ひとみと美貴は軽口を叩きながらアパートの階段をトントンと音を鳴らしながら降りた。停めておいたバイクに跨るとひとみは美貴に「じゃあ」と言いエンジンをかけた。美貴は口を開きかけたがひとみの肩に手を置き、そっと唇を寄せた。ひとみの右手が美貴の腰にまわり、美貴は両手でひとみの頭を掻き抱いた。唇を離すとひとみは再び「じゃあ」と言ったが、それには応えず美貴は駅の方角に足を向けた。

バイクに跨ったままひとみはこの不思議な関係についてぼんやりと考えていた。半ば習慣と化した美貴との行為、日常。当たり前の日々。最初の頃こそぐちゃぐちゃといろんな言い訳やこじつけをして行為に及んでいた。真希に言ったようにデートこそしていないが梨華と会わない日は美貴の部屋でまったりと時を過ごす。何をするわけでもなく(セックスはするが)ぼうっとその青い部屋にいる。

この美貴との時間が満更でもないように思えてきてひとみは戸惑いを感じる。だがそんな自分の変化を認めつつもどこか諦めたような納得したような感覚もあった。そして同時に、頭の片隅の醒めた部分で何かが警告するようにチクチクと疼いてもいた。

梨華への思いと美貴へのそれはまったく違うものだと理解してはいたが、やってることには大差がない。会って抱き合って眠る。そのパターンを繰り返しているうちに、どちらがどちらなのかわからなくなるのが怖かった。どちらの自分が本当の自分なのか、わからなくなるのが怖かった。

きびきびと歩く美貴の後ろ姿をしばらく見てから携帯をチェックした。予想どおり、着信は梨華でメールは亜弥からだった。両方に簡単なメールをして、ひとみはようやくバイクをスタートさせた。目的地は決めていなかった。

ひとみが去った後には、一部始終を目にしていたあゆみがその場で立ち尽くしていた。





393 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 21:56

大学のキャンパス内をとぼとぼと歩く亜弥の足が止まる。片手に持った携帯を泣きそうな顔で覗き込んだ。着信相手の名前を確認して表情が固まる。手に力が入り、うんざりとした様子でかぶりを振った。そしてその場で大きく深呼吸をしてから亜弥は通話ボタンを押した。

「もう電話とかメールはしないでください」
『そんな悲しいこと言わないでよ、亜弥ちゃん』

相手の物腰は柔らかく、穏やかで諭すような口調だ。昔と、そして先日となんら変わっていない。亜弥は表情を引き締め、携帯を強く握り直した。あゆみのどこか余裕のある雰囲気が亜弥を苛立たせた。

「私は柴田先輩とお付き合いする気はありませんから」
『はっきり言うねー。ちょっと傷つくなぁ』
「もう何度も言ってることです。今さら、何の意味があるんですか?」
『意味?意味なんてないよ。どんな意味があれば亜弥ちゃんは納得する?』

あゆみの声のトーンが明らかに変化したことに亜弥は気づいた。普段とはかけ離れたほど低く、暗く、重い。不気味なその様子に寒気を覚えた亜弥は、足早に学食の中に駆け込んだ。今すぐにでも電話を切ってしまいたい衝動に駆られたが、堪えて、息が切れているのを悟られないように平静を装った。

「意味なんて求めてません。柴田先輩が諦めてくれればそれで納得しますから」
『あたしだって求めていたのは亜弥ちゃんで、あるんだかないんだかわからない意味なんかじゃ、ないよ」

求めていた、とあゆみは言った。求めている、ではなく求めていた。その言い回しを亜弥は怪訝に思った。

394 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 21:57

「過去形、なんですね」
『あたし、亜弥ちゃんのこと好きだったよ』
「もう好きじゃないってことですか。それならなんでこんな…」
『なんでわかってくれなかったのかな』

それはこっちの台詞だと亜弥は喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。中学時代に世話になった先輩であるし、姉の恋人の親友ということで今までどこか遠慮をしていた。なるべくやんわりと拒み続けてきてはいたがもうそれも限界に近かった。好きの気持ちがもう過去のものであるなら、こんな電話や時間は無益だ。なんの意味もない。なぜあゆみはこんなことを続けるのだろう。亜弥の口調にはっきりと嫌悪の色が表れた。

「そんなこともうどうでもいいじゃないですか」
『………』
「うんざりしてるんです。やめてください」

重苦しい沈黙が続いた。これでわかってもらえないようならば仕方ない、姉に相談しようと亜弥は決めていた。姉を通じて梨華にも口添えをしてもらえれば、このしつこい電話やメールをやめてもらえるだろう。着メロが鳴るたびにびくびくすることも、きっとなくなる。沈黙を先に打ち破ったのはあゆみだった。それも亜弥が予想もしていなかったような明るい声で。

『亜弥ちゃん』
「………」
『聞いてるよね?』
「………」
『おーい、亜弥ちゃーん?』
「…聞いてます」
『あぁ、よかった。ねぇ亜弥ちゃん』
「なんですか」
『そんなにお姉ちゃんがいい?』

395 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 21:58

亜弥は冷水を浴びせかけられたような思いだった。なんでこの人は今さらそんなことを言うのだろう。しつこさとかそういう次元の話ではない。どこかおかしい。この人は、どこかがおかしい。亜弥はあゆみとは根本的に分かりあうことはできないのだと痛烈に感じた。

『亜弥ちゃんはお姉ちゃんのことが大好きだもんね〜』

バカにしたような口調と声。心底意地悪そうなその様子に亜弥は不機嫌を隠さない。

「やめてください」

シスコンなのは自覚している。今までだって何人もの人間にそのことを嘲笑されてきた。この歳になって今さら腹の立つことはそうそうないが、このあゆみの物言いは自分の中のなにかに触れた。穏やかな亜弥にしては珍しく感情が際立っていた。

「柴田先輩と付き合えないこととそのことは関係ありませんから」

自分の言葉に偽りはなかった。実際にひとみとはなんの関係もない。何度も言った台詞だ。あゆみに誘われるたびに、断るたびに何度も口にしてきた理由。単にあゆみに対して恋愛感情が持てないというはっきりとした理由なのに、何回も、それこそ何十回となく伝えているというのに決して解ろうとは、認めようとはせずにしつこくいつまでも言い寄ってくるあゆみ。そんな日々に亜弥は神経を磨り減らしていた。

『ふーん。そういうこと言うんだ。じゃあさ、亜弥ちゃん知ってる?』
「………」
『お姉ちゃんが何をしてるか、知らないでしょ』
「……何の、ことですか」

あゆみの言わんとしていることがわからず亜弥は眉をひそめた。ただその口調からは自分を好きだと言う気持ちはもはや微塵も感じられず、むしろ悪意や敵意が満ち満ちていた。

その負の感情が向けられた先が自分よりもむしろ姉に対してのものだったとは、このときの亜弥は気づいていなかった。

396 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 21:58

『亜弥ちゃんの大好きなお姉ちゃんが二股かけてるってこと』
「え…?」
『あたしの親友の梨華ちゃんって人がありながらさー、やってくれるよねぇ』
「そ、そんな」
『可哀相な梨華ちゃん。吉澤さんに傷つけられて』
「う、うそです!そんなこと…そんなのうそに決まってる」
『あたしも亜弥ちゃんに傷つけられたし。ほんっと最悪の姉妹だよ』

吐き捨てたあゆみの言葉が亜弥の胸に突き刺さった。鼻の奥がつんとして溢れてきた涙が視界を遮る。

『あんたたちサイテー』

堪らず亜弥はその場にしゃがみこんだ。悲しくて悔しくて仕方なかった。こんなときに何も言い返せない自分が嫌で仕方なかった。あゆみの言葉を否定したいのにできない。涙と嗚咽で声が出せない。心で訴える。言い返す。あゆみを拒絶する。認めたくない。あゆみの言葉を信じたくない。

お姉ちゃんのことを悪く言わないで。私たちを侮辱しないで。

頭の中で声になれない言葉だけがぐるぐると当てもなくまわり続けた。声にしたいのに声が出ない。声にしなければ言葉たちは消えてしまう。消えてしまった言葉は意味を持たない。真実にはなれない。発散されない感情や行き場のない怒りに支配されて、亜弥は身動きが取れなかった。

「亜弥ちゃん?」
「まっつー!」

突然、聞き慣れた声が亜弥の耳に飛び込んできた。涙で見えないはずの二人の顔がはっきりと見えた。張りつめていた糸がぷつんと音を立てて切れ、亜弥はその場で意識を失った。



397 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 21:59

まどろみの中で姉の匂いを感じていた。昔、亜弥がまだ小学生にも満たない頃ひとみの後を文字通りついて歩いて、自分の身長よりも遥かに高いブロック塀によじ登り、何も考えずに姉の背中を追いかけていたあの日。姉の背中だけを見てよろよろと幅の狭いブロック塀を歩いた。


おねーたん、まってよ
あやをおいていかないで


ふいに驚いたような顔でひとみが振り返った。まさかついてきているとは思わなかったのだろう。今にも落ちそうな亜弥を見てひとみは見る見るうちに青ざめた。姉の顔を見て気が抜けた亜弥はあっけなく下に落ちた。足からずり落ちて膝の皮がペロンと捲れた。幸いにも怪我は膝だけで済んだが、生々しく流れる自分の血と感じたことのない熱い痛みを前にして亜弥は泣き叫んだ。

泣き叫んでいる亜弥をひとみはおぶって両親の元へと連れ帰った。事情を聞いた両親にひとみはこっぴどく怒られたが、そんなことよりも亜弥が心配でならなかった。母に手当てをされて泣き疲れて眠る亜弥の手を、ひとみは一晩中離さなかった。亜弥の小さな手も、ひとみの手を決して離さなかった。



398 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 21:59

「あれ…?」

目を覚ました亜弥は自分がひとみのベッドで寝ていることに首を捻った。すべてが夢かと思ったが、生々しく耳の残るあゆみの言葉や、自分の服装を確認して現実のものだと理解した。しかし学食であゆみにひどいことを言われてから後の記憶がない。落ち着いてようやく手繰り寄せた記憶の先に、二人の大切な友人の顔があった。ベッドから飛び起きて亜弥はリビングに向かった。

「まっつーおはー」
「亜弥ちゃんも食べる?鍋」

鍋を囲む真希と美貴の姿を見止めて亜弥はへなへなとその場に崩れ落ちた。

「なんで…なんで鍋なんてやってんのぉ〜?」

しかも人の家で。暢気に美味しそうな匂いを漂わせて、友人が鍋を囲んでいる。脱力した亜弥は四つん這いのまま友人たちの傍に近寄った。鍋のあたたかい熱気が亜弥を包みだした。

「ミキティがお腹空いたって言うからさー」
「そしたらごっちんが寒いから鍋にしようって」
「鍋はどうでもいいんだけど…」
「やっぱり焼肉のが良かった?」
「ミキティそればっか」
「だからそうじゃなくて…」

亜弥と話しながらも二人の手は忙しなく動いていた。もくもくと立ち上る湯気に顔を赤くさせながらほくほくと美味しそうに鍋をつつく。それを呆然と眺めていた亜弥の腹が反応した。

399 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 22:00

「ほら、まっつーも食べなよ」
「そうそう、早くしないとなくなるよ。話は食べてからでいいじゃん」

あれもこれもと次から次へと亜弥の器に鍋の具がのる。空腹感と二人の勢いに押され、亜弥はそれらをどんどん胃の中に収めていった。真希の作るものはなぜいつもこんなに美味しいのだろう。いつも眠そうな顔をしているのに料理をするときは別人のように顔つきが変わる。そんな真希の顔を思い出しながら亜弥は次々と鍋の中身を食していた。

「うん、やっぱりごっちんの鍋は最高だね」
「美貴が作ったかもしれないとか、ちょっとでも思わないわけ?」
「思わない」
「あはっ。言うねーまっつー」
「だから焼肉にしようって言ったのに…」

こうして3人で談笑するのはいつ以来だろうと亜弥は鍋に舌鼓を打ちながら考えていた。随分と久しぶりのような気がするが、そうでもないような気もする。当たり前のようなこの時間が今はただ嬉しかった。ただひとつ不満があるとすれば、姉の不在だった。こんなときこそいてほしかった。ぽかりと空いたスペースに目をやり亜弥は溜息をついた。

「言っとくけどここにまっつーを運んだのはよしこだよ」
「えっ?」
「いくら亜弥ちゃんが軽いっていっても美貴やごっちんの細腕じゃ運べないし」
「ま、それはちょっと言いすぎだけどよしこはまっつーのことになると目の色が変わるからね」
「えっえっ?」
「そうそう。うちらが交代しようかって言っても聞かなかったからね」
「お姉ちゃん…」
「あ、でも医務室まではミキティと交代でおんぶしたよ」
「亜弥ちゃんちょっと太ったよね。お菓子食べすぎなんじゃない?」
「うん、それお姉ちゃんにもよく言われる。…って、ひどいよみきたん」

喋りながらも鍋をつつく手だけは休めない真希と美貴。亜弥は状況を整理するのに手一杯になり自然と箸が止まった。姉がどれだけ自分のことを心配したのか想像すると胸が切り裂かれたかのように痛んだ。

400 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 22:01

「あれ?私って倒れたの?」
「なにを今さら」
「あれ?なんでお姉ちゃんいないの?」

鍋のまわりを縦横無尽に動き回っていた二人の手が同時に止まった。ゆっくりとこちらを向く二人の顔はなぜか険しく、まるで自分が悪いことをして責められているかのように感じた。

「まっつーさ、シバタナントカさんだっけ?そんなに困ってるなら言ってくれればよかったのに」
「なんでそれ…」
「亜弥ちゃんが携帯で誰かと喋ってるのをうちら見てたんだよ。終わったら話しかけようと思って」
「そしたらまっつーの様子がおかしくなって、急に倒れるんだもん」
「びっくりしたよね。とりあえず医務室に運んで、よっちゃんを呼んだの」

亜弥が倒れたと連絡をするとひとみはすぐに駆けつけた。固い表情で真希の説明を聞きながら亜弥の前髪をそっと撫でたひとみ。その様子を傍で眺めていた美貴は、やっぱり亜弥には勝てないと思わずにはいられなかった。勝ち負けなんて考えるのは不毛なことだとわかっていたが。

「で、まっつーをここに運んで寝かせたの。よしこが自分の部屋に運んだのはなんでか知らないけど」
「それはたぶん…私が、お姉ちゃんのベッドだと…昔から、その、安心して眠れるから…」
「はぁ〜、そうですかぁ。シスコンですかぁ」

呆れたように笑う真希を見ても亜弥は腹が立たなかった。やはり言う人間の感情によって受け止め方が左右される、と当たり前のことながら亜弥は実感していた。あゆみのときとは違う真希の温かい声には救われる思いだった。

401 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 22:02

「よっちゃんね、亜弥ちゃんの携帯の着信履歴見て…なんか凄い顔で出てった。シバタナントカさんって誰なの?よっちゃんの知り合い?ただ亜弥ちゃんにしつこくしたってだけじゃないでしょ」

畳み掛けるような美貴の問いかけに、亜弥はどう答えればいいかわからず真希を見た。真希に救いを求めた。卑怯だとは思ったが、自分の口からその話を持ち出す勇気はこの後のもうひとつのことのために取っておこうと思った。

「よしこの新しい彼女の…もう面倒だから言っていいよね?石川さんっていう人らしいんだけど。石川さんとシバタナントカさんは亜弥ちゃんの中学時代の先輩なんだよね。で、石川さんのどうやら友達らしいんだわ、シバタナントカさん。」
「親友」
「ああ、そうなの?どっちでもいいじゃん。要するに石川さんの親友の柴田ナントカさんに、亜弥ちゃんはひどいことされたのか、言われたのか、その両方か知らないけど泣かされたってことか」
「ごっちん顔怖いよ。すっごい怒ってるでしょ」
「ごっちん…」
「ふん。怒るに決まってるじゃんか」

珍しく感情を露わにし、怒った口調の真希を見て美貴は反対に怒るタイミングを失った。

402 名前:21 投稿日:2005/08/07(日) 22:02

「でも泣かされたっていうか…」
「泣いてたじゃん」
「泣いてたけど」

真希と亜弥のやりとりを聞きつつも、美貴は初めて聞く名前で頭が一杯になっていた。気にしていないつもりだったが、やはり聞くと考えずにはいられない。もう半ば吹っ切れているというのに恋人を奪った女の名前を気にしている自分がいる。でもそれも仕方のないことだと、美貴はあくまでも前向きに受け止めて、そんな自分に諦めにも似た感情を抱いていた。

「お姉ちゃんなんで出てったんだろう」
「そりゃシバタナントカさんとガチンコでやり合うためじゃない?」
「えぇぇーっ!!!そそそそんな、な、なんで?ダメだよ〜」
「よしこ大丈夫かなぁ。やっぱりあたしが行けばよかった」
「たしかに…。よっちゃんってああ見えて喧嘩めっちゃ弱いもんね」
「たぶん返り討ちだね」
「たぶんね」
「エーンエーン。おねーちゃんが死んじゃうー。エーン」

泣き喚く亜弥を無視して真希と美貴は再び鍋に手をのばした。「そろそろ雑炊いく?」とか「卵といて」とか暢気に会話する二人を見て亜弥はさらに泣いた。雑炊が食べ頃になり、亜弥もひときしり泣いてすっきりしたのかまた箸をとった。いつものことだと、とくに突っ込みもせず二人は亜弥と雑炊を食べた。





403 名前:22 投稿日:2005/08/07(日) 22:03

雑炊を食べながらも亜弥はひとみのことが心配だった。冷静に考えてみればひとみの行き先は梨華のところだろう。ひとみがあゆみの自宅を知っているとは思えない。自分ですら知らないのだから。おそらくそれを知る梨華のところにまずは向かうはずだと推測した。

ひとみのことももちろん気にはなっていたが、倒れる前にあゆみに言われたことを思い出すと心がざわざわして落ち着かない気分になり、亜弥は居た堪れなかった。

「みきたん…」
「うん?」

あゆみはひとみが二股をかけていると言った。どうしてそれを知ったのか、知る術があったのか亜弥にはわからなかったがその二股の相手だけは容易に想像がついた。目の前にいる美貴。姉を許さないと言った美貴。梨華と付き合いながら姉は美貴とも続いていたのだろうか。或いは美貴がそう仕向けたのだろうか。考えながら亜弥はどうしようもなく悲しい気分になっていた。

「どうしたー?まっつー」

真希に顔を覗き込まれ、自分が知らず知らずのうちに俯いていたことに亜弥は気づいた。心配そうな真希に笑顔を返そうとしたがうまくいかない。今日はまわりに迷惑をかけてばかりだと亜弥は自己嫌悪に陥った。いや、今日だけではない。昔からそうだった。いつも助けられて守られてばかりだと、そんな自分が情けなかった。

404 名前:22 投稿日:2005/08/07(日) 22:04

「亜弥ちゃん」

顔を上げると美貴が笑っていた。両手に持っていた箸と茶碗を置き、そして真っ直ぐに亜弥を見て頭を下げた。ひと呼吸置いてから美貴ははっきりと通る声で亜弥に告げた。

「ごめん」
「たん…?」

そう言うと美貴は頭を上げて再び箸をとった。言い訳などない短い謝罪だった。何に対しての謝罪なのか美貴の説明はなかったが、亜弥はなんとなく空気を読み取り素直にそれを受け取った。真希の優しく見守る視線も、何かを納得しているように窺えた。

「うん」

亜弥は頷き、先ほどまで考えていた疑問を美貴に投げかけた。

「みきたんはお姉ちゃんとまだ付き合ってるの?」
「付き合って…はないよ」
「お姉ちゃんには石川先輩がいるのに?」
「だから付き合ってないって」
「許せないって言ったのはこういう意味だったの?」
「欲しかったの」

真希が固唾を呑んで見守る中、亜弥は意外なほど落ち着いていた。

「よっちゃんがね、欲しかったの。ただそれだけだよ」
「たん」
「亜弥ちゃんからも、その石川さんって人からも奪って美貴だけのものにしたかった」
「………」
「美貴だけのよっちゃんにできたらって……軽蔑した?」
「まさか!そんな…みきたんのことそんなふうに思わないよ」

それは亜弥の本音だった。美貴の気持ちは痛いほどわかる。少し前まで自分は美貴だった。美貴と同じ気持ちを抱いていた。それは姉を独り占めしたいという子供じみた考え。結局それは独占欲という名の醜い感情にほかならなかった。

405 名前:22 投稿日:2005/08/07(日) 22:04

「そっか。よっちゃんは?お姉ちゃんのことは軽蔑しない?」
「しないよ」

考えるまでもなかった。あゆみに言われたことが真実だとわかっても軽蔑などしない。亜弥の心にはただ悲しいという想いがあるだけだった。美貴の、梨華の、ひとみの心情を思うと軽蔑などという言葉は浮かびもしなかった。皆それぞれ亜弥にとっては大切な人間で、いろんな理由からそれぞれが心を痛めている。そのことが亜弥にとっては何より重要で、何よりも悲しかったから。

「そっか。よかった。ホントに…よかった」

美貴は安心したように優しく微笑んでいた。その笑みを見て亜弥はなんの根拠もないが美貴は大丈夫なのだと感じた。姉とのこと、これからのことを聞きたい気持ちはあったがそうはしなかった。

「まっつーさぁ、シバタナントカさんになんて言われたの?」
「うーん…忘れちゃった」
「そっか」

真希には大体察しがついていた。亜弥がひとみと美貴のことを知るに至った経緯。それが今回の騒動の発端なのだろう。心情的に美貴寄りであった真希だが、結局は梨華とひとみが付き合っていて、美貴は邪魔者でしかないのだとあのオープンカフェで梨華を見たときに悟っていた。

そして、ひとみがどんな答えを出したとしても亜弥はひとみの味方であり、美貴や梨華にも心を配ることができる。こんな状況で不謹慎かもしれないが、少しだけ成長した亜弥の姿に、真希は嬉しさを隠せなかった。

406 名前:22 投稿日:2005/08/07(日) 22:05

「とりあえずは丸く収まった感じ?」
「そんな感じだねぇ。よく考えたらそうでもないんだけど」
「あはっ。よく考えちゃダメなんだよ〜。ま、一番悪いのはよしこってことで」
「そうだね、よっちゃんだね」
「あっ!お姉ちゃん、大丈夫かなぁ」

また泣きそうになる亜弥に二人は腹を抱える。

「ヘタレだからなぁ」
「喧嘩弱いしねぇ」
「エッチは強いけどね」
「ミキティ…それは反則」
「ウワーン!おねぇーちゃーん!」

それぞれがひとみのことを考えていた。

ある者は冷静に心配をしながら。
ある者は複雑な胸中を抱えながら。
そしてある者は純粋な涙を流しながら。

そうしてすっかり空になった鍋を残し、夜が更けていった。





407 名前:23 投稿日:2005/08/07(日) 22:05

真希たちの想像とは裏腹に、ひとみは至って落ち着いた様子で梨華の部屋にいた。いきり立って家を飛び出したものの、肝心の相手の居所が判らない上に詳しい事情も知らないということに気づきとりあえず梨華の部屋にやってきた。部屋に来てまず梨華を問い質すつもりだった。

あゆみの居場所。
あゆみが亜弥に何を言ったのか。

だが梨華はいなかった。ひとみの知っている梨華は、そこにいなかった。

「別れよう、よっすぃ」

こんな穏やかな表情ができる人だったのか。ひとみは出会ってから今まで見てきた梨華の様々な面を思い出す。だがそのどれにも当て嵌まらない。それは、穏やかな表情だった。

「梨華?」
「ちっとも楽しくないんだもの」

ベッドの端に腰掛けて軽く両手を握り合わせたまま梨華は目を伏せた。梨華の向こうに体を重ね合わせる二人の幻を見たような気がした。だがそれも一瞬のことで、ひとみの眼前から音もなく消える。

「ね、よっすぃだって、そうでしょ?」

ゆっくりと一語一語区切って話す梨華の口調は控えめだった。控えめな中にも微かに感じられる憤りめいたものにひとみは納得し、頭を垂れた。なんの躊躇いもないその言葉を聞きながら、ひとみは梨華が本気なのだと悟った。

408 名前:23 投稿日:2005/08/07(日) 22:06

「よっすぃだって、楽しくなんてないでしょ?」

楽しいか楽しくないかなどひとみは考えたことがなかった。楽しもうという気も早い段階でなかったのかもしれない。立ったまま腕を組み、眉間に深い皺を寄せて首を傾げた。

「考えるんじゃなくて心で感じるんだよ」

梨華が体を揺すりながらひとみに言った。それは諦めたような口ぶりだった。表情は相変わらず穏やかで、時折薄っすらと笑みを浮かべる梨華。だがその視線は強く、ひとみを責めるように射抜いていた。その瞳には同情するような翳りも見え隠れし、ひとみはますます混乱した。

「梨華はあたしを…体だけじゃなく、心で感じてた?」
「少なくともよっすぃよりはね…。ううん、ホントはいっぱい感じてたよ」

そう言って梨華は笑った。立ち尽くしていたひとみはその場にへなへなと座り込んだ。フローリングの床の上で胡坐をかき、頬杖をついて梨華を見る。こんなことになった原因をあらためて考えた。

「あたしはどっかおかしいんだと思う」
「……」
「どっか感情のネジが一本、ヘタしたら何本も足りなくてうまく機能しないんだ。考えようとかわかろうとかしない自分がいる。実際、今もわからない。別れようって言われて自分がどう思ってるのか」
「よっすぃは自分が何も考えてないって思ってる?」
「うん。人にも言われたよ。もっと考えろって」

ふっと笑って梨華は目を細めた。仕方ないなぁという視線だった。

409 名前:23 投稿日:2005/08/07(日) 22:06

「逆だよ、よっすぃ」
「逆?」
「考えすぎ」
「なんだよ偉そうに」

ひとみは一瞬言われたことの意味が理解できなかった。梨華の言葉を口の中で反芻し、意味を咀嚼したものの素直には頷けなかった。ただ目の前にいる梨華が普段より数倍大人びて見えていることは確かだった。

「もっと心で感じていいんだよ?素直に」
「あたしひねくれてるからな」
「ほらまたそういうこと言う。私がなんでこんなこと言うのかわかる?」
「わからない」
「そこは考えなよ」

苦笑して梨華は立ち上がった。すっかり闇に覆われた窓の向こうに目をやりカーテンを引く。

「ギブ。考えたけどわからない。梨華があたしに何かを教えようとしてるのはわかるけど、理由がわからない。もう知ってるんだろ?あたしが二股かけてたこと」
「知ってる」
「なんでわかったの?」

ルール違反にもほどがある。図々しいのは承知の上で、ひとみは疑問に思ったことを聞いた。梨華にはもう包み隠さず話すしかない。諦め、というよりもようやく解放されて肩の荷が下りたような気がしていた。だがすっきりするにはまだ早い。それくらいはひとみも十分理解していた。

「柴ちゃんが教えてくれたの」
「何を?」
「よっすぃが女の人とキスしてたって。アパートから出てくるのを偶然見たんだって」
「………」

いつのことだろう。ひとみには心当たりがありすぎた。

「そのアパート、柴ちゃんの家の近所なんだよ。私、思わず笑っちゃったよ」
「すげー偶然だな……」
「そのキスの相手と付き合ってるの?」
「付き合ってないよ。…でもたしかに笑える。いや、やっぱ笑えないや」

410 名前:23 投稿日:2005/08/07(日) 22:07

バレたことに動揺はしていなかった。ただ梨華の冷静さが不気味で仕方なかった。いつもより落ち着いたトーン。静かな口調。こんな日がいつか来ることをどこかで予想していたひとみは、目の前にいる恋人が自分の想像とまるで違う態度で、淡々と話していることに驚いていた。

「前の、彼女だった。梨華と付き合うことになって別れようとしたんだけど、できなかった」
「どうして?」
「別れないって言われて面倒になっちゃったんだろうな。ずるずると関係が続いて」
「もういい。わかったからそれ以上は聞きたくない」
「ごめん」
「………」
「殴ったり罵ったりしないの?そうされたってあたしは文句言えないのに」
「なんか疲れちゃって」

それは梨華の本音だった。あゆみから聞いたとき、梨華はこめかみのあたりに脈々と波打つ熱いものを感じた。いまだかつて湧き出たことのない大きな嫉妬を。だがそれも一瞬のことですぐに静寂が訪れた。自分以上に冷静さを欠いているあゆみを、逆にいさめたほどだった。激昂するあゆみを冷静に見つめ、そして自身を見つめ直した。

梨華はカーテンの隙間から外を覗いた。窓に映る自分の輪郭を指でなぞる。

「最後くらい分かり合いたいじゃない?」
「………」
「必死に恋にしがみついていればいいってもんじゃないんだね。必死だった…、私こんなに必死になったの初めてだった。だからそのうち絶対楽しくなるって思い込んでいた。こんなにみっともないくらいしがみついているんだからそのうち、絶対って…。でもダメだった。そういうことじゃないんだって気づくのが少し遅かったね。気づいたらすっと気持ちがラクになった。そうしたらね、なんだかよっすぃが可哀相に思えてきたの。哀れだよ、よっすぃは。私よりもそのもう一人の彼女よりも」
「あたしが?なんで?」

自分を見下ろす梨華にひとみは座ったまま尋ねた。可哀相だなんて、梨華に言われるとは思ってもみなかった。それならむしろ二股をかけられていた梨華のほうがよほど可哀相じゃないかと、自分のしでかしたことを棚に上げて思っていたがそれを口にするほどひとみは無神経ではなかった。

411 名前:23 投稿日:2005/08/07(日) 22:08

「私ね、意地になってたの」
「………」
「恋することに。うまくいかないことに。イライラして意地でもしがみついてやろうって」
「意地、か…」
「でもよっすぃは意地も張れない。幸せになろうとか思ってもないんだもん」
「そんな…」
「それってすごく可哀相じゃない?」

梨華の言葉にひとみは曖昧に首を振る。自分がしてきたこと、美貴のこと、梨華のことを考えた。誰ひとりとして幸せになれなかった。梨華はもがき、美貴もまたあがき、自分は何もしなかった。幸せを掴み損ねた3人だけれど、何もしようとしなかった自分がもしかしすると一番幸せから遠かったのではないだろうか。そんなことを考え、ひとみはまた首を振った。否定とも肯定とも取れるその動作に梨華は諦観の笑みを浮かべた。

「どうせわからないんだから考えなくていいよ」
「考えろって言ったり考えるなって言ったり、どっちだよ」
「どっちもだよ」

笑いながら梨華はカーテンの隙間から目を離した。僅かに零れてくる闇をシャットアウトするように勢いよくカーテンを引く。とっくに見切りをつけたはずの感情を振り払うように。カーテンは音を立てて揺れた。

「ねぇ、今どう思ってる?」
「…帰りたいなぁって思ってる」
「よっすぃらしい。でも仕方ないよね。それでいいんだよ。それでいいんだと思う」
「何がいいんだか」
「さあ。何だろうね」

梨華はひとみの軽口に合わせた。油断すると溢れ出そうな嗚咽を喉の奥に飲み込み、これでよかったのだと自分に言い聞かせていた。梨華の様子に気づかぬフリをして、思いつめた表情を隠しながらひとみは立ち上がった。軽く伸びをしてから腰に手をやり、しばらく考えて梨華に尋ねた。

412 名前:23 投稿日:2005/08/07(日) 22:08

「あたしって恋人としてどうだった?」
「どうって?」
「最低とか、最高とか」
「最低に決まってるじゃない」
「やっぱり」
「最低だけど好きだったよ」

ひとみは急に気恥ずかしくなった。今まで何度となく梨華に愛を囁かれ耳にタコができるほど、飽きるほど好きだと繰り返し聞かされてきた。その中でも今の告白は、特別にひとみの心を大きく揺さぶった。今さら、と思いつつも嬉しいという感情が素直に湧いてきて、そんな自分に戸惑い、呆れ果てた。

「ありがとう。こんなあたしが言うなって感じだけど、でもありがとう」
「最後にキスしていい?」
「いいよ」

ひとみがその場で目を閉じると間髪入れずに梨華の張り手が飛んできた。派手な音と頭が眩みそうな痛みにひとみは思わずしゃがみ込む。口の中で鉄の味がして、唾をごくりと飲み込んだ。

「体重の乗ったいいビンタだ…」
「もしかして予想してた?」
「まあね。歯ぁくいしばってたけど意味なかったな…」
「なんでわかったの?」
「キスするときの顔じゃなかったし、前にも同じ手でやられたことあるから」

あのときはパンチだったな、と数日間頬の腫れが引かなかったことをひとみは思い出す。

413 名前:23 投稿日:2005/08/07(日) 22:09

「当分この失恋の痛手から立ち直れそうにないよ、私」
「うん」
「そのことだけは覚えていて」
「わかった」
「私を傷つけたこと、忘れないで」


私を、忘れないで。ううん、忘れて。


最後の言葉を声にはしなかった。

「…わかった」

その場に合鍵を置いてひとみは梨華の部屋を出た。

この数ヶ月間梨華の体に溺れ、何度も足を踏み入れたこの部屋。ドアを開けるといつも出迎えてくれた梨華の顔や薄いベージュの壁紙は忘れても、梨華に言われたことだけは忘れずにいようと心に決めて。



バイクのキーをチャラチャラと回しながら携帯を見るとメールが一通入っていた。

『おねぇーちゃーん、死なないでぇぇ〜』

妹からのそのメールにひとみは思わず噴き出した。そうして自分がここに来た目的を思い出したがもうすでにどうでもよかった。メールに添付された泣き顔の妹とその後ろでピースをしている二人の友人の写真をしばらく見つめ、バイクのエンジンをかけた。

一度も振り返ることなく、梨華の元を後にした。





414 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:10

亜弥は姉の帰りを待ちわびていた。数時間前にバカなメールを送ったもののひとみからの返答はない。一体どこにいて、何をしているのか。普段からひとみはマメに連絡をするほうではないが、今日くらいは心配している者の身にもなってほしいと亜弥は所在無く部屋の中をうろついていた。

「お姉ちゃんのバカちん」

クッキーを食べながら亜弥は独りごちた。サクサクという食感が耳を通ってやけに響く。

「お姉ちゃんのあほぅ」

亜弥は空になったクッキーの袋をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に放り込んだ。姉に言われた『甘いもの食べすぎ』という言葉を思い出して少し後悔する。真希の作った鍋があまりにも美味しくてついつい食べすぎてしまったというのに、またクッキーの誘惑に勝てなかった。おまけに歩き回りながら食べていたからあちこちにクッキーの残骸が落ちている。帰ってきた姉に呆れられないように亜弥はひとつひとつ手に取って集めてゴミ箱に捨てた。夜中じゃなければ掃除機をかけたいところだった。

真希と美貴が帰った後の部屋はがらんとして寒々しい。留守がちな姉のせいで一人には慣れているはずなのに、今夜は心細かった。

「お姉ちゃんのとんちんかん」

掃除を終えると自然にひとみの部屋に足が向き、冷えたベッドにもぐりこんだ。クンクンとふとんの匂いを嗅いで姉を思い出す。

「お姉ちゃんの…」

幼い頃から慣れ親しんだ匂いに安心したのか亜弥はいつのまにか眠りに落ちていた。



415 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:10

携帯が震えている。呼んでいる。亜弥は頭の片隅でその音を聴いて状況を理解していたが脳の指令が体にうまく伝わらない。ブーンという低く重苦しい音が亜弥を急かすように鳴り響く。もぞもぞとベッドの中から這い出し鉛のように重い体をなんとか動かしてようやく覚醒する。

携帯は床でうるさく震えていた。まだきちんと開いていない瞼をこすりこすり亜弥は通話ボタンを押した。

「おっせーよ!!」

出た途端耳をつんざくような大声が亜弥の脳を揺らした。数秒その痛みに耐え、声の主が誰なのか理解した。

「おねーちゃん…声、おっきぃ」
「ばっかやろう。何回鳴らしたと思ってんだ。さっさと降りて来い」
「えっ、な…なに?今?下にいるの?」
「そうだよ。いいから来いって」
「ていうかおねーちゃんが来ればいいじゃない。外、寒いんだし」
「!!」
「自分の家なんだから下で待ってないで入ればいいのに」
「あ、亜弥?」

明らかにいつもと違う態度の亜弥にひとみは戸惑いを隠せない。話しているうちにすっかり目が覚めた亜弥は姉の動揺に気づいたが畳み掛けるように言い放つ。

「お姉ちゃん、私怒ってるんだよ?」
「………」
「さっさと上がってきなさい」
「…はい」

携帯を切ると亜弥は洗面所に向かった。さすがにあれだけ泣いたので目が腫れているだろうと思ったが予想していたよりはまだマシな顔だった。顔を洗い軽く髪を整えた。鏡の中の自分に渇を入れる。もう泣き言は、言っちゃダメだ。

ふと気になって時計を見ると見事に真夜中を指していた。姉の常識外れな行動に慣れているとはいえ、少しは普通の人間と同じサイクルで寝起きしてほしいと思った。こんな時間に電話に出ろというほうがどうかしている。

416 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:11

チャイムが鳴り亜弥は玄関に向かった。

「開けてくれ〜」

やけに能天気なひとみの声がした。亜弥が鍵を開けると悪びれた様子もなく至って普通に、ひとみは片手をひょい上げた。そしておどけたように頭を掻いた。

「よっ!お姉ちゃんです!鍵忘れちゃってさ。マイッタマイッタ」
「お姉ちゃん…夜中になんなのそのテンション」
「ん?」
「高すぎ」

ひとみが淹れたコーヒーを飲みながら(亜弥はココアだが)二人はリビングで向かい合わせに座っていた。亜弥は姉の顔をじっと見つめて上から下まで隅々と視線を這わせた。

「オネーサマの顔がそんなに珍しいか」

ソファーに浅く座っていた亜弥はもぞもぞと腰を動かしゆっくりと背中を背もたれに預けた。そして大袈裟に溜息をつき両手を組んで足を組み替えた。ひとみを見据えるその強い視線は、昨日、いや、先ほどまでの亜弥のものではなかった。

「みきたんも石川先輩も外見だけでお姉ちゃんを選んだのかなぁ」

亜弥の言葉にひとみは持っていたコーヒーカップを落としそうになった。唖然として妹を見つめる。動揺を隠せず組んでいた足を投げ出し、大きな瞳をさらに大きくさせて亜弥を見た。

「二股かけるなんて、お姉ちゃんってばサイテー」

脳天に激しい衝撃を受けたような顔のひとみに亜弥は攻撃の手を緩めない。

417 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:11

「私、ここ出るから」

亜弥の言葉はひとみにとってまさに晴天の霹靂だった。

あの、亜弥が。
あの、妹が。
あの、シスコンが。

今、この妹は何て言った?ここを出るだって?エイプリルフールにはまだ早すぎる。

「で、出るってどこに?いや、なんで」
「ごっちんが留学したら。今の部屋そのまま使ってもいいって」

ひとみは真希に初めて殺意のようなものを覚えた。

「もういい加減、姉離れしないとね」

亜弥にとっては今までの人生の中で一番の決心だった。正直辛い選択でもある。べつに姉に愛想が尽きたわけではない。たしかに呆れた部分もあるにはあったし美貴や梨華の心情を慮れば少なからず怒りも覚える。姉のだらしない恋愛観念というか行動にも情けない気持ちでいっぱいだった。

だが、それとこれとは別問題だ。

守られてばかりじゃいけない。一人で立たなければいけないのだと実感していた。

418 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:12

「じょ、冗談…」
「冗談じゃありません」
「あたしのこと…」
「キライになんてなってないよ。最低だけどお姉ちゃんはお姉ちゃんだもん。私の大好きな、大切なお姉ちゃんだもん。もうそろそろ私はお姉ちゃんがいなくてもちゃんとしなきゃね。お姉ちゃんだけじゃない、みきたんやごっちんにいっつも守られてばかりで…こんなのダメなんだって判ったの」

姿勢を正して亜弥は言い切った。澱みないその口調にひとみは圧倒される。

「そっか…」

ようやくそれだけを呟くことができたひとみを、亜弥は複雑な思いで見つめていた。

「柴田先輩に会った?」
「え?」
「それで出かけたんじゃないの?」
「あ…そうだった。なんか途中で目的がすりかわって…」
「どういうこと?」
「梨華と別れたよ」

亜弥はひとみの様子が少しおかしいことに気づいていた。始めに電話をしてきたときとは明らかに違うテンション。玄関先で見せた暢気な表情が自分の独り立ち宣言でみるみるうちに暗いものに変わったのはある程度予想していた。だが今の姉の顔はどこか変だ。どこがとはうまく言葉にすることができないが、姉のその表情を亜弥は以前にもどこかで見たような気がしていた。

419 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:13

「ちゃんと、殴られてきた」
「………」
「ちゃんと殴ってくれたよ、アイツ」

亜弥は動かなかった。正確には動けなかったと言うのが正しい。いつ以来だろう、何年かぶりに姉のその姿を見た。物心ついてから今まで、自分の前では頑なに見せなかったその姿を。



ひとみが泣いていた。



「考えろって、考えるなって…アイツ。あたし、あんなひどいことしたのに…なのに、教え、て…教えようとしてくれて、でもあたし…わかんなくて、わかろうとしたけど、わかんなくて…」

堰を切ったように泣きながら、心の底から絞り出すようなひとみの断片的な言葉を亜弥は理解することができなかった。けれど感情は伝わってきた。痛いほどに。ひとみが心の中で叫んでいる言葉が聴こえた気がした。助けを、赦しを求めていると感じた。

「もう無我夢中で、バイク飛ばしてたら、なんか急に…。あたし、ホントに急に思ったんだ。梨華が、梨華のこと、好きだったんだって…。あたしは、ちゃんと梨華のことが好きだった。もう、伝えられないけど。好きだって言っちゃいけないんだけど…伝えたい。今さら、ホントにバカだよ」
「お姉ちゃん!」

姉の独白を聞いていられず、涙で濡れる顔を見ていられず、たまらず亜弥は立ち上がった。そして姉の元に駆け寄ろうとした。駆け寄って抱きつきたかった。抱きしめたかった。だがひとみは右の手のひらを亜弥に向けてそれを制した。溢れ出る涙を拭おうともせずに。

420 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:13

「なさけね…」
「お姉ちゃん…」
「なさけねーなぁ」

泣きながら鼻をすする姉を亜弥はただ黙って見下ろしていた。かける言葉がわからず、小刻みに震える肩を見ながら、姉はずっと泣きたかったのではないだろうかとぼんやり考えていた。泣きたくても泣けなかったのかもしれない。自分の前では。

どれくらいそうしていただろう。亜弥の感覚では短いとも長いともわからない時間が経っていた。ひとみはいつのまにか泣き止み、すっかり冷め切っただろうコーヒーを啜っていた。目も鼻も真っ赤にして。白い肌にそれは見事に映えていた。バツが悪そうに首を竦める姉の横に亜弥はそっと座った。

「そういえばシバタナントカに何されたんだよ」

姉たちの間では『シバタナントカ』で定着しているのだろうかと首を捻りつつ亜弥は答えた。

「お姉ちゃんが二股かけてるって言われた。ついでに姉妹揃って最低とかなんとか」
「なんで亜弥まで最低になるんだよ」
「さあ?わかんない。単に罵りたかっただけなんじゃない?八つ当たりとか」
「八つ当たりかよ」
「柴田先輩はたぶん、すごくお姉ちゃんに嫉妬してたんだと思う」
「あたしに?なんで」
「私がシスコンだから。おまけに親友の石川さんはひどい目に遭わされるし。怒るのもムリないよね」
「それに関しては耳が痛い」
「自業自得だよ、お姉ちゃん」
「…オマエやけにあっさりしてるな。大丈夫なのか?」
「うん。ごっちんやみきたんとお鍋したから」
「そっか。ならよかった」

残りのコーヒーを飲み干して、そう呟く姉の肩に頭を預けた亜弥はひとみが梨華と別れたということの意味を考えていた。梨華には悪いと思うが亜弥の頭に真っ先に浮かんだのは美貴の顔だった。わずかな期待を込めつつ姉に聞く。

「みきたんとはどうするの?」

少し間をおいてからひとみは自分の膝の上に置かれた妹の手をそっと握った。

421 名前:24 投稿日:2005/08/07(日) 22:14

「情けないねーちゃんでごめんな」
「そんなことないよ」
「守ってるつもりが…本当は守られてたのかもなぁ」
「え?」

言葉の意味がわからず亜弥は繋いだ手に力を込めた。何も言わないひとみの手のひらを抓ったり、引っ張ったりして続きを促すが、ひとみは曖昧に微笑むだけだった。

この際、せめて美貴とはうまくいってほしいと亜弥は純粋に願っていた。だが高校生の頃のように何も考えずに好きな二人をくっつければいいというわけではないことを、亜弥は十分に理解し、思い知っていた。そして本当は二人のことに自分が口を出すべきではないということも。

「美貴とのことはちゃんと考えてるよ」
「やり直すの?」

ひとみは無言で首を横に振った。

どういう結果になるにせよ一番は姉の思うとおりになることだ。今度こそちゃんと考えて好きなようにすればいいし、してほしいと思った。肩を震わせて泣く姿を見るのは辛すぎる。泣いている本人だけじゃなくまわりの人間をも否応なく悲しみに巻き込むのだと、姉の姿を見て亜弥はこのとき初めて知った。今までの自分を省みてあらためて姉に、真希に、美貴に頼りきっていたのだと気づいた。

「私にもっと頼っていいんだよ?お姉ちゃん!」

姉の肩に腕をまわし、亜弥はひとみの顔を覗き込んだ。偉そうな妹の物言いに苦笑しつつも、ひとみは亜弥の体に身を委ねた。小さな体で自分の肩に手をまわす亜弥がおかしくてたまらなかったが、同時に嬉しくもあった。心地のよい体温に包まれて、徐々に眠気が襲ってくる。

自分の腕の中で安心したように目を閉じる姉の顔を見て、亜弥もまた眠りに落ちていった。





422 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:15

「これで全部だね」
「うん」

冬が押し迫ったある日、美貴は兼ねてから準備を進めていた引越しを決行した。それまでの荷物を大胆に整理し、身を軽くした美貴は晴れ晴れとした顔でそれまで住んでいたアパートを後にしようとしていた。

「手伝ってくれてありがとね、亜弥ちゃん」
「ううん。あんまり手伝うことなくてびっくりしちゃったよ。荷物全然ないんだもん」
「思い切っていろいろと捨てたからね」

美貴は約2年住んだ部屋を振り返った。がらんとした部屋の中には何も残ってはいない。青を基調としていた美貴の部屋は、もうそこには存在していなかった。いろんな思い出がつまった部屋を感慨深く見つめる美貴を前にして、亜弥もまた寂しそうな表情を浮かべていた。

「忘れないよ。美貴はこの2年を。忘れない」

誰に言うともなく放たれた美貴の言葉を聞き、亜弥は無言で頷いた。

「うぉーい!なーにやってんだよ」
「お姉ちゃんには関係ないよーだ」
「なんだとー!!」
「あはは。…ホント、亜弥ちゃんありがと」
「みきたん、どうしたの?」
「よっちゃんに言うのは癪だから亜弥ちゃんに言ったの」

舌を出してウインクする美貴を亜弥はきょとんとした顔で見つめた。それから二人は大声で笑いだした。借りてきた軽トラの運転席にいたひとみは、ふいに上から降ってきた笑い声に驚き、口を尖らせた。クラクションを2回、軽く鳴らして美貴たちを急かす。

423 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:15

「もうっ。お姉ちゃんってばちょっとも待てないわけ?!」
「おまえらがいつまでもグダグダしてるからだろー。早くしないと日が暮れるっつの」

軽口を叩き合う姉妹に挟まれて美貴はまた笑った。

「もういいから行こうよ。しゅっぱーつ!」
「そうそう。よっちゃん、早く出してよ」
「ったく、生意気になりやがって。へいへい、行きますか」

ひとみが車をスタートさせると亜弥は今日来ることが出来なかった真希の話を始めた。留学の準備が忙しいらしいことや、真希が旅立った後に自分が住むことになる部屋をどう改装するかなど。もちろんそれは真希には内緒らしく、留学を終えて帰国した真希を驚かせるという壮大なストーリーをひとみと美貴は微笑みながら聞いていた。

亜弥の他愛のない話を聞きながら、ひとみは遠ざかる美貴のアパートをバックミラー越しにいつまでも眺めていた。


424 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:15

しばらく運転に集中していたひとみを他所に、何が楽しいのか美貴と亜弥はきゃあきゃあわあわあ、最近あった出来事をおもしろおかしく話し出した。ひとみの「うるさい」という声も二人の嬌声にかき消され、空しくハンドルを切る。信号待ちのときでも甲高い声は止まず、ため息とともにひとみは美貴をちらりと見た。そして美貴越しに、亜弥の表情を確認した。

「なーに?お姉ちゃん」
「べ、べつに」
「人の顔じろじろ見ちゃって」
「よっちゃん心配なんだよねー」
「ば、ばか美貴黙れ」
「なになに?お姉ちゃんどうしたの?」
「あのねー、最近亜弥ちゃんがすっごく綺麗になったから…」
「わぁー!美貴黙れって言ってんだろ!!」
「お姉ちゃんこそ黙って!たん、何なの?」

亜弥が興味津々といった表情で身を乗り出した。そんな亜弥と慌てるひとみを交互に見て、美貴は笑いが堪えきれない。一方、黙れと言われて素直に黙るひとみではない。ましてや妹に命令されるなんて、姉の沽券に関わる。両手で美貴の口を塞ごうとしたそのとき、無情にも信号が青へと変わった。

「余計なこと言うなよ!」

ひとみの要求をあっさりと無視して美貴は笑いながら言った。

「亜弥ちゃんが恋してるんじゃないかって。泣きそうになってんの」





425 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:16

美貴の新しい新居に姉と家主を残し、亜弥は一人、駅に向かっていた。うるさく詮索する姉を華麗に交わして(実際は美貴が取り押さえてくれた)約束の時間を気にしつつ、電車に乗った。ガタゴトと揺れる車両に身を預け、暮れゆく街並みをぼんやりと眺めた。

目的の駅に到着すると我先にと改札に向かう人の波を避けて、しばらくホームに佇んでいた。電車が出発したばかりのそこはがらんとして、先ほどまでの喧騒が嘘のようだった。亜弥はこれから会う人物のことを考えて少し気が重くなった。だがすぐに顔を上げて、口を真一文字に結び、心の中で気合を入れた。

約束の時間を過ぎても待ち人が現れる気配はなかった。少し疲れてきた亜弥は、駅のホームの申し訳程度に設置されたベンチに腰を掛けた。亜弥の目の前を電車が何本か通り過ぎていった。そのたびに車両から吐き出された大勢の人々が亜弥を素通りし、階段を降りて改札に向かう。亜弥が目で追う先に待ち人はいなかった。

ふいに携帯の電源を入れていないことに気づいた。亜弥は電車に乗るときはいつも電源を落とし、改札を出てから再度入れ直すというのが習慣だったため忘れていたのだ。もしかして、という思いで電源を入れたj携帯が、すぐにメールを受信した。

件名:ラストメール

亜弥の予想どおり、待ち人からメールが一通届いていた。それは短くも長くもない簡単なメールだったが、亜弥は何度も何度も読み返した。何度も読み返す亜弥の目の前を、また何本かの電車が通り過ぎて行った。



426 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:17



   今度こそ最後のメールです。
   もう本当に電話もメールもしません。
   謝るのも、これが最後です。ごめんね、亜弥ちゃん。
   いろいろと嫌な思いをさせてごめんなさい。
   もしあたしみたいな人間がまた亜弥ちゃんの前に現れたら、
   そのときはこっぴどく振ってやってください。
   少しでも希望を持たせるような笑顔は絶対に見せないで。
   もし好きな人ができたら、その人だけに見せてあげてね。
   あ、それから梨華ちゃんのことなんだけど…
   意外に元気でやってるからもう心配しなくていいよ。
   あたしたちは次の恋に向けて気持ち切り替えたから。

   亜弥ちゃんが好きになるのはどんな人だろう?好きな人できた?
   それがちょっと気になるっていうか唯一の心残りかな。
   さよなら、亜弥ちゃん。本当にさよなら。

   会う勇気がなくて結局メールにしました。それも重ねてごめんなさい。

   柴田あゆみ



427 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:18

携帯の電源を落とすと、到着した電車のドアがタイミング良く開いた。降りてくる人並みが切れたのを見計らい、亜弥はわりと空いたそこに乗り込んだ。流れていく景色を近くで見たかったので、席には座らず立ったままでいた。いくつかの駅を通り過ぎるのをしばらく横目で見ながらあゆみからのメールを思い出していた。


『好きな人できた?』


できましたよ、柴田先輩。私、好きな人ができました。





428 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:18

運んできた荷物を解きつつも、亜弥のことが気になるのか落ち着きのないひとみはさっきからいろんなところに頭をぶつけたり、指をドアに挟んだりと、美貴の笑いを誘っていた。美貴に笑われるたびにひとみはむすっとし、何事もなかったかのように作業を進めるがまたすぐに亜弥のことが頭をよぎり、手元がおろそかになる。そんなひとみを見兼ねて、美貴は食事に行くことを提案した。

「後は住みながら徐々にやっていくから」
「ま、これだけ片付ければ十分って感じだよな」
「今日は美貴がおごるよ。手伝ってもらったお礼」

ひとみと二人、勘を頼りに歩きながら駅前に出た。何を食べようかと新しい街に立ち並ぶいくつもの飲食店を外から眺めては、ここがいい、あそこがいいと言い合い、ぶらぶらと日暮れの中を歩いていた。様々な店舗が並ぶ中から、美貴は目ざとく焼肉屋を見つけるとひとみの腕を引っ張った。

「慌てるなよー。肉は逃げないって」
「当ったり前でしょ。肉は逃がさないよ。席の心配をしてるの!」

笑いながら隣に並ぶひとみを見上げても、美貴はもう何とも思わなかった。あれほど自分の中を駆け巡っていた欲情が消えてしまったことにも驚かなかった。あの、狂おしいほどにひとみが欲しかった秋のはじめ。そして自分を見失いかけた秋のおわり。ひとつの季節を経て冬を迎えた今、美貴は悟った。

429 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:19

「あたしは焼肉よりラーメンって気分なんだけどなぁ…」
「やっぱりよっちゃんのおごりね」
「げ」
「美貴の引越し祝いってことで」
「なんだよー。でもまあ、いっか」

恋にしがみついても、愛に縋りついてもその自己満足は一時のこと。長い人生から見たらほんの一瞬の出来事にすぎない。身を焦がすほどの恋愛は、ちゃんと相手と向き合ってこそのものだ。

「ごっちんまだ忙しいかな。呼んでみる?」
「あたしはどっちかっつーと亜弥を呼び戻したい。あいつ誰とどこで何してんだよ…」
「またそんなこと言って。泣かないの!カッコ悪いなぁー」
「泣いてねぇっつの!そんなことで泣くかよ!」

涙目で強がる、このまだまだ妹離れができない友達を、いつかきっと振り向かせてみせる。今度は他の人になんか目がいかないように。自分がいなければみっともなく泣き叫んでしまうくらいに好きにさせてみせよう。そしていい加減、シスコンも卒業させなきゃ。

「ほら、行くぞ!」

少し鼻声で、本当に今にも泣き出しそうな顔の情けないひとみが目指す焼肉屋へと早足に歩いて行った。よほど涙を見られたくないのだろう。自分でもカッコ悪さを十分に理解しているようだ。美貴がその背中を追って横顔を覗き見ると、さりげなく指で拭った目許が薄っすらと赤みを帯びていた。





430 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:19

「危ない!前見て歩きなよー」
「あ、ごめんごめん。ありがと」

人ごみの中で携帯をいじりながら歩いていたあゆみに梨華が声をかけた。もう少しで自転車とぶつかりそうだったあゆみはそれでも先ほどから動かしている指を止めない。時折考え込むような仕草をしては、また忙しなく指を動かしていた。

「柴ちゃんさっきから何やってるのよ」
「見ればわかるでしょ。メール打ってるの」
「そんなの後にしなよ。ちゃんと歩かなきゃ危ないって」
「梨華ちゃんには言われたくないかも…」
「ひどーい。それどういう意味よ〜」

そのまんまの意味だよ、と悪びれることなくあゆみは歩き出す。携帯をバッグにしまって、これ以上梨華に怒られないようにちゃんと前を向いた。その様子を見て安心した梨華はあゆみのメールの相手を聞きだすことにした。

431 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:20

「珍しく真剣な顔してたけど誰なのよ〜、相手」
「梨華ちゃんが期待してるような人じゃないよ。それより珍しくって失礼じゃない?」
「だって柴ちゃんのそんな顔見るの久しぶりだよ。大切な人なんでしょ!」
「うーん…。大切といえば大切かな」
「やっぱり〜!!誰?ねぇ、教えてよ!誰なの?!」
「だから〜、梨華ちゃんが考えてるようなそういう甘いものじゃないから」

突然テンションの上がった梨華をいつものことだとあゆみは軽く受け流した。梨華がただ単に好奇心で問い質そうとしているのではないとわかってはいたが、このことは自分の胸にだけ秘めておきたかった。自分のこと以上に心配をしてくれる梨華への感謝もやはり密かに仕舞っておく。

「なーんだ、つまんないの」
「面白がらないでよねー」

前言撤回。この人は単純に興味本位だけなのかも。
あゆみは白い息を吐いてから、つまらなそうな顔の梨華を想像しながら振り向いた。

「梨華ちゃんどうしたの?」

梨華の足がいつのまにか止まっていた。どこか一点を見つめて動かない。梨華の視線の先を追うが、帰宅ラッシュの駅前には溢れんばかりの人が家路に急いでいて、何が梨華の目に留まったのかわからなかった。梨華が人ごみの中で誰を見ているのか。

432 名前:25 投稿日:2005/08/07(日) 22:20

「知り合いでもいた?」
「…ううん。似てる人だった」
「そう」

あゆみの心配そうな声に梨華は我に返った。もうすっかり区切りをつけたはずなのに、久しぶりに見るひとみの顔に梨華は懐かしさと寂しさを感じて思わず足を止めてしまった。友達なのか、腕を引っ張られて楽しそうに喧騒の中に消えていく姿から目を離すことができなかった。


本当はあのときキスしたかったんだよ、よっすぃ。


「梨華ちゃん今なんか言った?」
「なーんにも!さあ、早く行こうよ」
「まだ約束まで時間あるから、そんなに急がなくても大丈夫だよ」
「いいから早く行くの!」

突然元気よく歩き出した梨華に驚きながら、あゆみもその後を追った。楽しそうに笑いながら「柴ちゃん早く〜」と離れたところから恥ずかしげもなく叫んでいる。あゆみは呆れながらも笑顔を返して手招きする梨華の元へと歩み寄った。

「今日も合コン頑張るぞー!」
「おー!!」





433 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:21

年が明けてすぐ、真希が旅立つが日がやってきた。亜弥は数日前に引越しをすませ、真希の部屋に移り住んだ。亜弥の引越しに最後まで文句を言っていたひとみも、晴れやかな顔で出て行く妹を見て少しだけ誇らしげな気分だった。それまでひとみの愚痴や泣き言をたっぷりと聞かされていた美貴は、ひとみが必死で涙を堪えているのを見て、突っ込むのも面倒になり呆れて何も言わなかった。

スーツケースを引いた真希に寄り添うように歩く亜弥を見ながらひとみはため息をついた。後ろから二人の背中を見てトボトボと歩く。空港内は混雑していて人の波に飲まれそうだった。

「おねーちゃん、こっちだよー!!」

はぐれてしまいそうになるひとみに亜弥は大声で叫んだ。慌てたように駆け寄ってくるその姿を見ながら、真希が亜弥にからかい口調で話しかける。

「よしこ一人にして大丈夫かなぁ。まっつー、戻ってあげれば?」
「お姉ちゃんにはいい加減独り立ちしてもらわないと。妹として困ったもんです」
「あははっ。まっつー、成長したねぇ」
「とーぜん!ごっちんが帰ってくる頃にはもっともっと成長してるからね!」
「それは楽しみです」

笑う亜弥を見て真希は心の底から安心していた。留学が決まったときはひとみも美貴も、亜弥もそれぞれに大きな問題を抱えて、悩み、苦しんでいた。そんな友人たちを見るにつけて、このまま自分だけ旅立っていいのだろうかと考えた。友人たちを置いて去ることが裏切りのようにも思えていたのだ。

だがこうして亜弥は笑っている。笑うことができている。それも今までに見たことのない頼りがいのある笑顔で。いろんな経験を経て、ひと回りもふた回りも成長した亜弥。それにひとみも。今は情けない顔をしているが梨華や美貴との関係を清算し、自分を見つめ直したひとみの顔も、真希が知るそれまでとは明らかに違っていた。そして美貴も。



434 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:21

美貴の引越しの前日、真希は学食で偶然ひとみと出くわした。

「最近忙しくて全然話してないんだけどミキティ元気?」
「おう。明日引越しなんだよ。あたしと亜弥が手伝いに行く」
「明日だったんだー。ごめん、あたし行けないや」
「うん。ごっちんは忙しいから仕方ないべ。美貴もそのへんはちゃんとわかってるよ」

焼魚定食を食べながらひとみの亜弥に対する愚痴をしばらく聞いていた。真希はひとみと亜弥の立場が完全に逆転したことがおかしくてならなかった。もうすっかり姉離れをした亜弥に対して、ひとみのシスコン具合はますます激しくなっていた。亜弥の話になるたびに情けない顔になるひとみをからかいながら、話題を美貴とのことへと移した。

「美貴がごっちんに感謝してた」
「あたしに?なんでまた」
「さあ。なんか知らないけどおにぎりが美味かったからとかなんとか」
「おにぎりぃ?!」
「あとなんだっけな…そうだ、嬉しかったって言ってた」
「なにが?」
「放っておいてくれたことが嬉しかったって」

真希は思いがけず美貴の心情を知り、複雑な表情をした。美貴がそんなことを思っていたとは。しばらく好きにさせようと突き放した態度で美貴を見守りつつも、不毛な恋の復讐なんてやめさせるべきだったかもしれないと少しばかり後悔していた真希としては、その言葉にむしろこちらから感謝したいくらいだった。

435 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:22

「よしこはミキティとちゃんと話し合ったの?」

同じく焼魚をムシャムシャと食べながら神妙な面持ちだったひとみは、少し迷ってから真希には報告するべきだと考え箸を置いた。

「ごっちんにもいろいろと迷惑かけてごめん」
「いいよ、そんなことで謝らなくて。友達じゃん」
「友達だからだよ」

ふわりと笑い、ひとみは続けた。

「美貴さ、あたしを許すって言ってくれたんだ」
「許す…」
「それからあたしに自分のことも許してくれって…」
「………」
「美貴は何も悪いことしてないよってあたし言ったんだけど、許してほしいって…」
「ミキティ……」
「あたしに対してもう恋とか愛とかそんな感情持ってないらしくて、さっぱりした顔してた」
「ホントに?それってミキティの精一杯の強がりなんじゃない?」

真希は半ば冗談のつもりで言ったが、ひとみの真剣な顔を見て口をつぐんだ。そして、これまでのひとみに対する美貴の態度や言葉を振り返り、自分が口にした言葉はひょっとしたら真実なのかもしれないと思っていた。

「どうだろ。人の気持ちなんて推し量ることはできても結局わからないからな」
「そだね。だから面白いんだけどね、恋愛って」

真希の言葉にひとみは目を丸くして驚いた。

「なんでそんなびっくりしてんのよ」
「だってごっちんが恋してる人みたいなこと言うから。あのごっちんが」
「あのってどのだよ。失礼だなぁ」
「ごっちんもしかして…」
「んあ、まあね」
「うえぇ!マジで?付き合ってんの?誰だよ、その相手」
「だからそんなびっくりしなくても…。ちょっと気になる人がいるだけだよ」
「ふうん。ごっちんがねぇ」
「ホントに失礼だよね、さっきから」
「あはは。ごめんごめん」



436 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:22

真希が学食でのひとみとのやり取りを思い出していると、すっかり疲れた表情のひとみがようやく追いついてきた。亜弥は両手を腰に当て、情けない姉の姿を母親のような顔で見つめている。亜弥が家を出たことがよほどショックだったのだろう。ひとみは時折、真希を恨めしげな目で見ていた。

「まったく。ボヤボヤしてると迷子になるよ?お姉ちゃん」
「すんません…」
「うわー。まっつーカッコイイねぇ」
「ホント?ごっちん、それホント?」

亜弥が嬉しそうに真希の顔を覗き込んだ。それを見てひとみは少々ムッとする。

「ホントホント。まるでミキティみたい」
「え゛っ…。みきたんみたいなんだ、それちょっと微妙かも…」
「ぶははっ!おま、それ美貴が聞いたら怒るぞ」
「ミキティ今頃くしゃみしてるよ、きっと」

笑いながら、真希は今日見送りに来ることができなかった友人の顔を思い浮かべた。前日にもらった簡単なメールには美貴らしい簡潔で明瞭なエールが書かれていた。変に湿っぽくならないようにと気遣った美貴に、真希もまた「いってきます」というあっさりとしたメールを返した。

「バイトなんて、一日くらい休んじゃえばいいのに。たんってば…」
「いいのいいの。一生会えなくなるわけじゃないんだからって、ミキティも言ってたし」
「美貴らしいな」

それを聞いても亜弥はまだ少し不満げな様子だったが、真希の飛行機の時間が近づくにつれ妙なテンションで取り留めのないことを喋りだした。ひとみはそんな亜弥のおかしな言動を寂しさから来る緊張のせいだと思い、とくに突っ込むことはしなかった。真希は亜弥の話のひとつひとつに丁寧に相槌を打ち、笑い、聞いていた。

437 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:23

「じゃあ、そろそろ行くね」
「あ、もうそんな時間か」

真希が立ち上がり、ひとみも続いた。頭の上で交わされている会話を聞きながら、亜弥は拳を握り締めて、座ったまま大きく深呼吸をした。心の中でヨシと気合を入れて勢いよく立ち上がる。

「うおっ!びっくりした。急に立ち上がるなよ」

姉の言葉を無視して亜弥は黙って真希を見つめた。亜弥の思いのほか真剣な表情にひとみも真希も少し驚いたものの、只ならぬ雰囲気を察知して亜弥の言葉を待った。

「ごっちん、あのね、私…」

亜弥は真っ直ぐに真希を見据えていた。言葉を探りながらゆっくりと、慎重に話し出す。だがその声に迷いは一切なかった。妹の普段とは違うしっかりとした口調に、隣に立っていたひとみも目を見張る。

「私ね、今よりももっともっと成長して大人になる」
「うん」
「皆に頼ってばかりの私だったけど、今度は皆に頼られるようになる」
「偉いね、まっつー」
「だからごっちん、待っててね。私がちゃんとするまで絶対待っててね」
「まっつーはもうとっくにちゃんとしてるよ。大人になったね」
「ごっちん…」
「当分会えないけど…あたしのこと、待っててね?」
「ごっちん!」

亜弥の頭を撫でた真希は後ろを振り向き歩き出した。そして数メートル進んでから何かを思い出したように慌ててまた振り向いた。

「忘れてた!よしこもまたねー!!」
「忘れんなよ〜」
「あははは。まっつーのことよろしく!ていうかしっかりしなよー?」
「おう!体に気をつけろよ〜」

438 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:23

ひらひらと手を振るひとみの横で、亜弥はずっと真希を見つめていた。そして弾かれたように駆け出した。真希に向かって一直線。驚く姉の声も耳には入らなかった。飛び込んできた亜弥を真希はしっかりと抱きとめた。そして亜弥は真希の唇に自分の唇を押しつけた。

「あ゛ーーーー!!」

空港内にひとみの絶叫がこだました。

「私のセカンドキスだよ。帰ってきたらまたしようね、ごっちん」
「大胆だねぇ。ファーストの相手は誰?」

亜弥は呆然と立ち尽くして声にならない声をあげている姉を振り返った。

「もちろんお姉ちゃん。子供の頃にね」
「そっかそっか。あーあ、よしこってばみっともない。殺されないうちに行くね」
「あははは。情けないお姉ちゃんとみきたんのことは任せてね!」

そう言って真希を見送った亜弥の顔には満面の笑みが溢れていた。



439 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:24

真希と亜弥のキスシーンを目撃し、茫然自失となったひとみを連れて亜弥は電車に乗り込んだ。「恥ずかしい」とか「みっともない」とか姉を責め立てるとひとみもひとみで黙ってはいなかった。

「恥ずかしいのはどっちだよ。空港であんなことしやがって」
「いい大人が大声で泣き叫ぶほうが恥ずかしいでしょ!」

中途半端な時間帯の電車内はそれほどの混雑もなく、二人は難なく席に座ることができた。

「亜弥さぁ、オマエごっちんのこと好きなの?もしかして」
「うん。好き」
「うあぁぁぁぁ〜。ごっちんかぁ…ごっちんなのかぁ…」
「なによ。お姉ちゃん文句あるの?」
「うぅ…。亜弥がごっちんのことを…あぁ…とうとう亜弥が…」
「大体今頃気づくなんて遅すぎ。みきたんなんてすぐに気づいたよ」
「マジかよ…。美貴のやつ、知ってたなら言えよなぁ」

揺れる電車に身を預け、姉妹は互いの顔を見ながら静かに笑った。やがて亜弥の降りる駅に到着すると、ひとみは亜弥を見送るために立ち上がった。相変わらず寂しげに肩を落とす姉を見て、亜弥は気の毒になり、その頬にキスをした。

440 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:25

「ばぁーか、さっさと行け」

シッシと亜弥を追い払うような仕草を見せたひとみも、嬉しそうな表情は隠せない。

「お姉ちゃん、頑張ってね」
「こっちの台詞だ」
「頑張ってよねー!!お姉ちゃん大好きーー!!!」

電車のドアが閉まる寸前、亜弥はひとみに向かって大声で叫んでピースをした。まわりの乗客たちが何事かとひとみを見ているうちに電車は動き出す。顔を真っ赤にしたひとみは立ったまま俯き、でもやはり嬉しい表情は隠せないでいた。







441 名前:26 投稿日:2005/08/07(日) 22:26
 
 
<たかが恋や愛 了>
 
 
442 名前:ロテ 投稿日:2005/08/07(日) 22:27

これにて「たかが恋や愛」完結です。長らくのお付き合いありがとうございました。
途中途中で幾度も短編を挟んだことをあらためてお詫びします。すみません。
たかが娘。小説のスタンスで書くことを忘れないためのこのタイトル、でした。
されど、と繋がるかどうかはその人次第。なんだそりゃ。

とにかくここまでお付き合いくださった方々には深く感謝します。
スレの残りは短編や中編などで埋めるつもりです。
いしよし、みきよし、(書ければ)よしごま等々の予定です。

それではまた。
443 名前:ロテ 投稿日:2005/08/07(日) 22:27
レス返しを。

357>名無飼育さん
レスありがとうございます。
登場人物ひとりひとりの切なさをちゃんと昇華できていたか、
少々不安ではありますが終わらせることができました。
最後はペース配分むちゃくちゃでしたw

358>Sさん
レスありがとうございます。
うまくいかないもどかしさが伝わったようでこちらも嬉しかったですw
いつも待っていただいたこともありがとうです。

359>名無飼育さん
レスありがとうございます。
やはり切なさがポイントのようでw
たどりついた先の結果に納得していただければ嬉しいです。

360>通りすがりの者さん
レスありがとうございます。ハラハラの結末はいかがでしたでしょうか。
柴田さん、石川さんもそれぞれ答えを出すことができました。
終わりにたどり着くことができてとりあえず作者はホッとしていますw

361>Yさん
レスありがとうございます。謎ですかw
こうなりました。いかがなものでしょう?w

362>nanashiJさん
レスありがとうございます。
今回のを携帯から読むのはちょっと大変ですよね。でもガンガレw
そしてネタバレ感想はサイトのほうにでも是非w

363>名無飼育さん
レスありがとうございます。そう言っていただけると書いた甲斐がありました。

364>名無飼育さん
レスありがとうございます。大量更新での締めくくりです。お楽しみください。
444 名前: 投稿日:2005/08/08(月) 00:02
完結おつかれさまです!!

それぞれの感情っていうものに、ちょっと怖く感じたり、逆に共感できたり。
最終的にどうなるのかとドキドキでしたが、爽やかなラストで良かったです。
私にとっては「されど」以上の、とっても素晴らしい作品でした。

今後の作品も楽しみに待ってます!!
445 名前:こい 投稿日:2005/08/08(月) 00:20
完結お疲れ様でした。
まさか最後はこうなるとは…!ロテさんはすごいお人だなぁと改めて脱帽。
色々ネタバレしそうなので、この辺で。
次回も楽しみにしております!
446 名前:名無しのS 投稿日:2005/08/08(月) 00:31
大量更新、本当にお疲れ様です。
この量、このスピード。
物語にどっぷり浸りながらそれぞれの心情を読むことができて本当に良かった。心地良い満足感に包まれています。
登場人物ひとりひとりの精神的成長を丁寧に書き切っる作者さまはやっぱりすごいと思いました。
本当にお疲れ様でしたm(__)m
しばらくゆっくり休んでくださいね!
447 名前: 投稿日:2005/08/08(月) 00:36
脱稿お疲れさまでした。
いま心臓ドキドキいってます
素敵な作品ありがとうございました
その言葉でだけしかこの気持ちをうまく表現でしない自分が
もどかしくて仕方ありません。

ロテさんの作品に触れられる幸せを胸に‥
今後も楽しみにしています。
448 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 08:38
良かった。本当に良いお話でした。
悲しくないのに涙が出ますロテさん。ありがとうございました。
449 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 21:36
完結お疲れ様でした!

それぞれ皆、成長したなぁという思いです。この姉妹、好き過ぎ。てか、この4人最高。

一息ついて、またサイトやどこかで書かれることを心待ちにしています。
もう一度。お疲れ様でした。
450 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/09(火) 16:48
完結、おめでとうございます。

それぞれが前向きに生きていくのを見届けることが出来て感極まりないです。
すごくよかったです。
また短編などを載せられましたら喜んで拝見させていただきます。

本当にお疲れ様でした。
451 名前: 投稿日:2005/08/09(火) 23:34
大量更新&完結お疲れ様でした。(何もここまで一気に上げなくても。w)

最後はニヤニヤしちゃいましたよ。
良かった良かった!って思わせてくれてありがとう。

いしよし、みきよし、よしごま(書ければとか言わない!)楽しみにお待ちしてますので
これからも執筆活動を続けてくださいね。

ステキなお話どうもありがとうございました。
452 名前:ドラ焼き 投稿日:2005/08/14(日) 22:18
お久しぶりです。大学の課題、部活、そしてバイト三昧でチェックが
なかなかできなかったのですが、今日久しぶりに読んで、しかも完結していたので、
今とてもすがすがしい気分です。
これからまたいそがしくなるのでなかなかチェックできないのが残念ですが新作
たのしみにしています。
453 名前:ロテ 投稿日:2005/08/16(火) 17:44

よしごま

454 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:45

こんな時間に呼び出されるなんてどうせロクな理由じゃない。

「うぃー。ご苦労ご苦労」
「げげ。やっぱり」

吐きかけられる息からはぷんぷんとアルコールの匂いが漂ってくる。
こんな風のない蒸し暑い夜に一緒にいたくないランク1位の酔っ払い。
さっさと送り届けて一発か二発殴って寝かしつけよう。そうしよう。

「むにゅー。むにゅむにゅ」
「ばっ、ちょ、よしこどこ触ってん…あんっ」
「えへへ。やーらかーい」
「運転ちゅ、マジやめ、こらっ…」

酔っ払いに翻弄されて夜道を蛇行する車。
危険極まりない。一番危険なのは隣のこのオンナだけど。

「ごっちんはぁ、どうしてこんな酔っ払いの相手なんかしてくれるの〜?」
「はぁ?アンタが呼び出すからでしょうが」
「ん〜。なんで来てくれるのかなぁ。いつも」
「なんでって…」

なんでだろう。考えていたら信号を見落とした。

「あ、信号無視」
「うわぁ」
「タイホされちゃうぞ!」
「うっさい。アンタのせいなんだからね!」
「ほー、人のせいにするわけか」

455 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:46

相変わらず酒臭い酔っ払いがニヤっと笑って窓を全開にした。
まさか吐くつもりなんじゃ・・・と嫌な予感が頭をよぎる。
でもこの酔っ払いはあたしの予想をはるかに上回ることをやってのけた。

「世界で一番ごっちんが好きだーーーーっ!!!」
「な、なに?!」
「ごっちんが好きだーーっ!愛してるんだーーっ!!」
「ばっ!いっぺん死ね!!」
「ぐあはぁっ」

箱乗り状態でがら空きだった脇腹に一発お見舞いした。
一発じゃガマンならなくて二発、三発と頭を殴る。
片手運転のハンドルが右に左にぶれたって構ってられない。
窓全開で闇夜を疾走する車にはそれなりの理由があるんだから。

「もぅぅぅ〜ほんっとバカ!バカバカバカバカ!!この酔っ払い!」
「ごっひん…」
「ありえない。なんなの?なんなのアンタ。バカじゃない?てかバカ」
「キモ…ち、わる、い…」
「げげ」

酔っ払いはかくあるべきという見本を今ここで見せてくれるわけだ。
殴った拍子に吐き出されたらたまらない。
とりあえずぶんぶん振り回していた手を止めて、それから車も止めた。

「オウエエェェェェ」

ドアを開けて転がるように落ちた酔っ払いの早速の姿を
運転席からしばらくぼうっと眺めていた。
あつらえた様にちょうどそこにあった電柱に片手をついて、
ゲロゲロしてる酔っ払いの背中を見てあたしは何を思う?

456 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:46

「どうせ吐くなら最初から飲まなきゃいいのに」

ドアは開いてるけどあっちとこっちじゃ世界が全然違っていて
空間は繋がっていてもあたしと酔っ払いのいる世界は、違う。

「ご…っん…」

後ろ手に助けを求められてあたしはなぜだか少し、ホッとした。
運転席のドアを開け、車の後方をまわってその手を掴む。
固く握り返され、気持ちを見透かされたようでなんだか悔しかった。

「さっさと全部出しちゃいな」
「ううぅ…」
「ほらほら」
「ぶほっ…うぇ…」

どこからどう見ても『酔っ払いの介抱をしている人』の図、なあたし。
背中さすって、必要以上にうんざりした顔をして、でも手は握ったまま。
黒いタンクトップから伸びている白い首や腕に無性に腹が立つ。

「はぁっ…ふぅ〜」

あらかた吐き出して酔っ払いの呼吸が段々正常になる。
背中をさすっていた手を止めて、ブラのホックを思いきり引っ張ってやった。
バチンといういい音に耳をすませる。

457 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:47

「んだよぉ」
「べつに」
「口ん中、チョー気持ち悪い」
「だろうね」
「チューしよっか」
「殺すよ?」
「死なばもろとも。ゲロもろとも。なんつって」

瞬間掠め取られた唇。ゲロや酒臭い息を感じる暇もなかった。

「最悪」
「うぐっ、またきた…」

第二陣が襲ってきたらしい。背中なんてもうさすってやるもんか。
丸まった背中にどかっと腰かけてばしっと頭を叩いて…。
何やってんだか、あたし。こんな夜中にこんな道の端っこで。

こんな酔っ払いの背中の上で。

「ぐぇ…ごっひん、重い…」
「っさい。早く全部吐いちゃえ」
「言わ、言われなくても。うぇぇえ…」
「最低」

下から聞こえてくる呻き声が誰もいない道路に頼りなげに響いている。
目の前の愛車に向かって腕を伸ばしたら中指の先が微かに届いた。
汚れた指を見ながら前に洗車したのっていつだっけ、と頭を巡らせる。

ああ、たしかあのときも酔っ払いがいた。あたしの隣に。この下のオンナが。



458 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:48

例によって突然呼び出されて迎えに行った先にはヘラヘラと笑う酔っ払いがいた。
友達なのか、恋人なのかわからないけど数人の男女に囲まれて笑っていた。
その様子を信号待ちの車内からじっと眺めていた。
ハグしたり頬にキスしたりして去っていく奴らに「ガイジンかよっ」とツッコミながら。

「飲みすぎた」
「さっさと乗れ、バカ」

飲みすぎて眠いのか酔っ払いは珍しく無口だった。
あたしもとくに喋ることなく淡々と車を走らせていた。
酔っ払いの住処まであともう少しというところだった。

「信じられない…」

何の前触れもなく酔っ払いが吐いた。
助手席で前かがみになったかと思ったら嫌な水音が聞こえた。
停車して外に出て助手席のドアを勢いよく開けて腕を引っ張った。
吐きながら崩れ落ちた酔っ払いはあたしの靴にまで被害を及ぼした。

無言で頭を殴り、吐き終わるまで蹴り続けた。
あたしの足に泣きながら縋りつく酔っ払いを、それでも置いていくことはできなかった。

459 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:48

「真希ちゃ〜ん」
「名前呼ばないで」
「なんで、なんであたしに…オェッ、名前呼ばせてくれないの…?」
「酔っ払いがあたしの名前呼ぶなんて百万年早い」
「じゃあ、じゃあひゃくまんえん経ったら…いいの?」

百万円じゃなくて百万年だよ、まったく。
呂律のまわらない酔っ払いはどうしてムリにでも喋ろうとするかね。
百万円もらったって、名前なんか呼ばせてやるもんか。

「酔っぱらってあたしを呼び出すのやめてくれたら、百万年待たなくてもいいよ」
「………」
「よしこ?」
「……ん…」
「このバカ、寝ちゃったよ」

翌日、徹底的に洗車をした。中も外もピカピカに磨き上げた。
酔っ払いの胃から流れ出たものが酒だけだったのは幸いだった。
いつもすきっ腹で酒を飲むのだろうか。それなら酔うのも当然だ。
酔っていないアイツを最後に見たのは、そういえばいつのことだったろう。
そんなどうでもいいことを考えながらワックスを塗った。



460 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:49

そう、あのとき以来だ。
洗車をしてからこっち、酔っ払いを送るのは随分と久しぶりだったんだ。
車も汚れるはずだ。こんなに真っ黒になっちゃって、ごめんよ。
汚れた指先を吐き続けている酔っ払いのタンクトップで拭った。

「真希ちゃ…重いよ…」
「………」
「苦しいんだけどなぁ。真希ちゃん、下りて」
「…いや」
「あたしの知らない間にもしかして百万年経ったの?」
「は?」
「だって、名前。呼んでも怒らないから」
「覚えてたんだ」
「酔っても記憶はちゃんとあるんだ、あたし」
「ゲロったことも?」
「ごめんごめん。あのときはホント悪かったよ」
「あのときだけじゃない。いつも、でしょ」

お尻の下の背中が揺れた。左右にぶれて、それからまたおとなしくなった。

「いつもいつも迷惑かけて悪いねぇ」
「ホントだよ。もういい加減にしてよね」
「でもだからなんで迎えに来るのさ」

知らないよ。そんなこと知るもんか。

461 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:49

「真希ちゃんは優しいからな…」
「そうでもないと思うけど。酔っぱらってるからほっとけないんだと思う。たぶん」

うん、きっとそうだ。きっと…そうなんだと思うけど、自信はない。

「んじゃあたしは飲み続ける!真希ちゃんに来てもらうために毎日飲むぞー!」
「バカなこと言ってないでほら、行くよ」
「あ〜、やっと軽くなった」

さんざん吐いてすっきり顔の酔っ払いが立ち上がって腰を伸ばす。
その背中に一発蹴りを入れてから運転席のドアを開けた。
酔っ払いの背中には思いのほかくっきりと黒い足跡が残り、
それがまるでシルシのようで気分がよかった。あたしのシルシのようで。

「あたしのとこ泊まってく?」
「バーカ。さっさと寝ろ」

ニヤニヤしてる酔っ払いを乗せた闇の中。あたしは再び車を走らせた。



462 名前:酔っ払いの背中 投稿日:2005/08/16(火) 17:49

<了>
463 名前:ロテ 投稿日:2005/08/16(火) 17:50
このよしごまを書きながら似たようなものをどこかで読んだ気がするなぁと思ったら自分のHDDの中にありました。次回の更新は今回のよしごまと似たようないしよしです。似てると言っても「迎えに行く」という共通キーワードがあるだけなのですが。
464 名前:ロテ 投稿日:2005/08/16(火) 17:51
レス返しを。

>>444-452

皆さんあたたかいレスをどうもありがとうございました。
大量更新で読むのも大変だったかと思いますが読んでくれたことにも感謝です。
ラストは悩んで迷った挙句にこの形になったのですが、
おおむね、皆さんに受け入れられたようで安心しました。
これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いします。
465 名前:ロテ 投稿日:2005/08/16(火) 17:55
げげ。訂正。
>>461 黒い足跡→白い足跡
脳内変換よろしくです。
466 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/16(火) 19:33
よしごMAX!作者たん(゚∀゚)bだね
467 名前: 投稿日:2005/08/16(火) 20:55
よしごまキター!って思ったら・・・
読んでる私も酔っ払ったよ。w
素直になれよ、二人とも。
468 名前:S 投稿日:2005/08/16(火) 22:22
ここまでリアルな酔っぱらいシーンもめずらしいw
さては・・・・w
よしごまのこの距離、かっけえです。
469 名前:ロテ 投稿日:2005/08/21(日) 12:37
予定変更。みきよしです。
470 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:38

『口づけてあげるよ』


コンサートの初日。ステージ上で言われたその言葉に心臓を打ち抜かれた。

「吉澤さーん、いきなりあんなこと言うなんてびっくりしましたよー」
「ホント、私も目がテンになっちゃいました」
「なはははは」

公演終了後の楽屋で交わされるそんな会話に耳をすませる。
やけに余裕綽々で何でもないことのように笑うよっちゃんに少しだけイラっとした。
美貴はあんなに…ドキドキが止まらなかったのに。

「藤本さんも一瞬絶句してましたよね」
「そうそう。素で照れてたし…ってイデッ」
「マコトうるさい黙れ」
「ふ、ふえぇーん。美貴ちゃんがグーで殴ったあぁ」

お客さんたちやメンバーもいるあんなところでまさかあんなことを言われるなんて。
予想できるわけがないし、ましてやツッコミなんてできっこない。
よっちゃんはいつも予想不可能な行動で美貴のことを惑わせる。
471 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:38

『口づけてあげるよ』


美貴の頭の中でグルグルと永遠にまわり続ける言葉。

ねえ、冗談だよね?
いつものよっちゃん流のジョークなんだよね?

ほのかに抱いている期待を見透かされないように、美貴は下を向いた。

本気じゃないならそんなこと、言わないでほしい。
美貴をこれ以上溺れさせないで。
苦しくて苦しくて、呼吸困難になっちゃうよ。
よっちゃんのせいで胸がズキズキと痛いよ。
472 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:39

「ほら、マコトもう帰りな」
「あれ?皆いつのまに…」
「ボサっとしてると置いてかれるよ」
「は、はい。えっと吉澤さんに美貴ちゃん、お疲れ様でした」
「お疲れ」
「明日もがんばりまっしょー!…あさ美ちゃーん、待ってよぉー」

モヤモヤした気持ちをなんとか追い出そうと頭を振ったり
指の関節をポキポキ鳴らしたりしていたら…いつのまにかよっちゃんと二人きり。

どどどどうしようー。ななななんで二人きりなのー。
こらマコト、美貴の許可なく帰るな。勝手なことをするな。戻ってこーい!

…すみません。あの、その、戻ってきてください。この際誰でもいいからお願い…。

「こっえー。誰にケンカ売ってんのさ、ミキティは」
「ケンカ?」
「指パキパキパキパキ鳴らしてんだもん」
「あー、これはちょっと。べつに…なんでもない」
「ふーん」

よっちゃんはまだ帰らないのかな。二人きりのこの空間が苦しくてたまらないん。
穏やかな、だけどちょっとエロ親父が入ったようなニヤニヤ顔さえもたまらない。
コンサートの余韻が覚めやらないのか、熱を含んだ視線に絡みとられ、
ちょっと手を伸ばせば触れることができる距離にいるという状況の中で
美貴は思わずにはいられない。


『口づけてほしい…』


美貴はよっちゃんが好きだから。
473 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:39

「美貴?」
「な、なに?」
「どうしたの?ぼうっとして」
「そ、そんなことないよ」

話しかけられてもマトモに顔を見ることができない。
たぶん真っ赤になってる自分の顔を見られたくもなくて、そっぽを向いてしまう。
早くこの場から去ってほしいから口調もそっけない。
本当はこんな冷たい態度を取りたくないんだけど
よっちゃんがいなくなってもらわなきゃ美貴の息が止まってしまう。
よっちゃんのことが好きという気持ちに押しつぶされて死んじゃうかもしれない。

でも美貴は自分からは動けない。動かない。
苦しい反面少しでも長くよっちゃんと一緒にいたいと思っている。
だからよっちゃん…お願い。お願いだから早く行って。
美貴の視界から消えて、このドキドキを止めてほしい。

「美貴、こっち向いて」

少しだけ真剣みを増した声に思わず顔を上げた。
正面から目が合ってしまい途端に恥ずかしくなる。
徐々に頬が熱くなるのを感じて逸らそうとするけど逸らせない。
474 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:40

「あたしが言ったこと気にしてるの?」

言いながらよっちゃんは美貴の右手を優しく握った。
いつのまにこんなに近くに来たんだろう。
よっちゃんの瞳に映る自分の姿が少しだけ大きくなったような気がしていた。

「突然あんなこと言ってごめんね」

何を謝られたのか一瞬理解ができなかった。
視線を下げるとよっちゃんの唇がまた動いた。

「でも気にしないでなんて言わないよ」
「え…?」
「むしろ気にしてほしい。とことんまで気にしろ!」
「命令かよ!」
「ぶはははっ。やっといつもの美貴だー」

一応つっこんでみたもののよっちゃんの唇から視線を離すことができない。
美貴の心と体で欲しているその唇がまた動き出す。
475 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:40

「あたしのこと気にしてて?あたしの言うこと、やることすべてを気にしててほしい」
「………」

ゆっくりと近づいてくる唇。目を閉じると柔らかい感触がした。

「よっちゃぁん…」

そっと触れるだけの口づけ。
それだけで締めつけられていた気持ちが解放される。
さっきまでの苦しさが消えて心があったかくなる。

唇が離れても感触は残り、むしろいっそう熱を帯びてジンジンと痺れる。
頭の中、体じゅうまでもがジンジンと。

「ごめん…」
「謝らないでよぉ…」

美貴はとっても嬉しいんだから、謝るなんていくらよっちゃんでも許さない。
今のキスをなかったことになんてしないで…。
476 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:41

「ううん。そうじゃなくて、そういう意味じゃなくて」
「どういうこと?」
「美貴が好きすぎて『そっと』じゃ済まなくなりそうだから。…だから最初に謝っておく」
「なっ…」

強く抱き寄せられて再び降りてきた唇。

よっちゃんの言う『そっとじゃ済まない口づけ』にさっきとは違う意味で苦しくなった。
けれど、同時に身も心もとろけそうなほど気持ちよくなったことは美貴だけの秘密。
この気持ちよさは誰にも教えてなんてあげない。

「ちょっ、よっちゃ…いくらなんでもこんなところ…あぁんっ」
「へへへ。美貴ちゃんおいっすぃー」
「ば、ばかぁ…」

口づけだけで終わらなかったことも、もちろん秘密。


『口づけてあげるよ』


今度は美貴からよっちゃんに。
そっと口づけてぎゅっと抱きしめてあげるからね。




477 名前:口づけてあげるよ 投稿日:2005/08/21(日) 12:41

<了>
478 名前:ロテ 投稿日:2005/08/21(日) 12:42
松戸初日夜のみきよしのノックアウです。
レス返しー。

466>名無飼育さん
グッジョブ頂戴しました。

467>Yさん
素直じゃないのは困ったものですw

468>Sさん
ええ、もちろん実体験です<電柱ゲロ吐き


次回はおそらくいしよし
479 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/21(日) 14:38
時事ネタを食い込ませるとは…やりますね。
そとギュ聞きたくなりました。
480 名前:名無しのS 投稿日:2005/08/22(月) 07:42
速いですよ、ロテさんw
題を見て、まさか・・・ってつぶやいちゃいました。
こういう美貴さんも可愛いですねw


481 名前: 投稿日:2005/08/22(月) 11:55
見てきてすぐに妄想しちゃうなんて、このー!
舞台裏はこんなんだったのか、ちくしょー!
美貴様、かわいいよ。美貴様
482 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/22(月) 12:46
更新お疲れさまです。 うぁっ( ̄□ ̄*)おっ恥ずかしいですねぇ てかそんなことを言ってたんですか・・・よっすぃー恐ろるべし(汗 次回更新待ってます。
483 名前:ロテ 投稿日:2005/08/23(火) 01:46
やっぱりみきよし。
484 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:47

『口づけてあげるよ』



冗談で言ったら美貴が素で照れていた。なぜか皆にヒューヒュー言われた。
気づいたら慌しいステージ裏の、妙に一箇所だけ暗いその場所でキスされていた。

「…もっ…し…よ」

ステージから聞こえてくるマコトの台詞と美貴の声がかぶった。

「なに?聞こえなかった」
「もっとしていいよ」

いやいや、していいよじゃないよ。
今はコンサート中でしょ。てかさっきの冗談だし。
そりゃ「口づけてあげるよ」とは言ったけどさぁ。

「なんだなんだこの腕は」
「美貴の」
「見りゃわかる。なんであたしの首にまわってるのかと」
「よっちゃん汗かいてもいい匂いだよねー」

無視かよ!なんて突っ込めるわけがない。
いい匂いって前にもそんなこと言われたな、たしか。
フットサルのときかな。たぶんそうだ。
485 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:48

「美貴もいい匂いだよ」

お返しってわけじゃないけど一応ね。
それに言ってから気づいたけど、ホントにいい匂いがする。
美貴の匂い。あたしのタオルみたいな匂いがする。

「だってさっき使ったから」
「はぁ?いつ?!」
「ソロの前にちょこちょこっとね。そこにあったから」

あー、どうりで。やけにしっとりしてると思った。

「ね、キスしてよ」
「さっきしたじゃん」
「あれは美貴からだったでしょ。よっちゃんからしてほしいの」
「えー」
「ほら、口づけてくれるんでしょ?」

目の前に美貴の顔がある。距離にして約10センチ。
ちょっとこうして首を傾げれば鼻ちゅー。…くすぐったい。
ゆっくりと美貴の瞼が下りる様をじっと眺める。
たしかに可愛いし綺麗だ。唇はぷるぷるしていて美味しそう。
昔よく食べた甘ったるいグミみたいな色とカタチ。
さっき触れるだけのキスをされたとき柔らかいと思った。

しばらく眺めていたかった。無防備な藤本美貴を。
486 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:48

「…もうすぐ終わるね」
「なにが?」
「マコトの見せ場」

長い台詞が終わってマコトがサビパートに入ったらしい。
リハで尋常じゃないはしゃぎ方をしていたマコトの姿を思い出す。
一人だけ衣装の色が違うって喜んでいたなぁ。

「美貴たちも終わる?」
「んー」
「それとも始まるの?」
「んー」
「んー、じゃなくて」
「んー?」
「いや疑問形にされても」

オイシイ状況なのはわかっていた。わかっている。
でもあたしたちってどんな関係なんだよ。
口づけてあげるよって言って口づけちゃう関係?なんだそりゃ。
意外に純情だってたまに言われるけど理由を欲しがるのはおかしくないよね?
487 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:49

「美貴はどうしたいの」
「口づけてほしいの」
「なんで?」
「よっちゃんが好きだから」

直球ズドン。
それでも迷うあたしは心配性なのか臆病者なのかバカなのか…。


迷う?あたし迷ってんの?


「よっちゃんも美貴のこと好きでしょ」
「好きは好きだけどぉ」
「美貴が欲しくてたまらない…でしょ?」
「そう、なのかな?」
「そうだよ」

そっと押しつけられた唇からはグミに似た匂いがした。
あたしはグミを食べるみたいにして美貴の唇を含んだ。
柔らかくて熱くてサラサラしていた。

こうなったら止められない。美味しくて止まれない。
やみつきなりそうなグミ…じゃなかった美貴の唇。
488 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:49

「んふぅ…はぁっ…んん…」

美貴ってこんなにエロい声出すんだ。
ちょっと、いいじゃん。なんか、いい。すごく。

「好きかも。マジで」
「よっちゃん激しすぎぃ…美貴マジで息できなかったんですけどぉ」
「やばい。すごく好き」
「だから言ってるでしょ。よっちゃんは美貴のことが好きなんだって」
「うんうん。美貴スキー。美貴の唇スキスキー」

いつのまにか美貴の腰に腕をまわしていた。
そしていつのまにか、また唇を重ねていた。
あぁ…なんだろこれ。このフワフワ感。このヤワヤワ感。あ、胸か。

「やぁんっ…えっち…」
「これホンモノ?詰めてない?」
「確かめてみる?」

斜め20度の角度から誘う美貴の上目遣い。誰だって逸らせっこない。
489 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:50

「確かめて…いいの?」
「どうしよっかなぁ」
「えぇ…美貴ちゃーん。確かめたいよぉ」

お願いモードが入ってしまったあたしに美貴は笑いかける。
迷うような素振りでもったいつけられて泣きそうになった。
なぜか美貴はそんなあたしを見て嬉しそうにさらに笑った。
これまたなぜかあたしも、美貴に笑われて変な興奮がムクムクと…。


あーあ、ハマっちゃったよ。どっぷりと。美貴に。


「今夜うち来る?」
「うん!い、行く。じぇ、じぇったい行く」
「かみまくりじゃん。よっちゃん落ち着いて」
「うぅ…だって、だって」
「美貴のこと好き?」
「スキー!!」

元気いっぱいに叫ぶ自分にオイオイ、キャラ違うだろあたしと突っ込む。
こんな自分が信じられなくてちょっとヘコみもするけど

でも悪くないなとも思う。

誰かに見られてたら恥ずかしいけどさ、でも好きになっちゃったんだもん。
手のひらで転がされてるような気がするけどそれもやっぱり悪くない。
490 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:51

「じゃあ今夜ゆっくり…ね?」

うーん、美貴は魔性の女かもしれない。
まんまと罠にかかったあたしは生贄としてこの身をすべて捧げます。なんつって。

「ほら。そろそろ次の曲だよ」
「…っかい」
「なあに?よっちゃん」
「もう一回、キス…」

ふふっと笑ってあたしの前髪を撫でる美貴はやっぱり…

「エロいよ、美貴ちゃん」
「よっちゃんがそうさせるんだよ」

口を開きかけたあたしの舌を、美貴がそっと絡み取って次第にくちゃくちゃと音を立てる。
もうダメだ。あたし夜までガマンできるのかな。コンサートが終わるまで持つのかあたし。

この際マコトに最後まで歌ってもらって…なんてことを思ってしまった恋に落ちた日。



『口づけてあげるよ』



そんな、冗談から始まる恋もあるんだと学んだコンサートの初日。
始まったばかりの恋とコンサートに気合は十分。リーダーがんばっちゃうよ。

だから口づけて。あたしにいっぱい口づけてほしい。
美貴のグミみたいな唇をもっともっと味わいたいから。



491 名前:口づけてほしい 投稿日:2005/08/23(火) 01:51

<了>
492 名前:ロテ 投稿日:2005/08/23(火) 01:58
「口づけてあげるよ」がイマイチな気がしたので
書き直したらこんなんになってしまった。うーんなんでだ。

レス返しー。

479>名無飼育さん
やりました。やりたかったんですw

480>名無しのSさん
可愛いミキティが大好きなもので早くできました。
内容はイマイチですが可愛いと思ってもらえてよかったです。

481>Yさん
舞台裏はこんな話よりもっと可愛いはずですw
見てきてすぐじゃないと忘れちゃうんですよ(苦笑

482>通りすがりの者さん
ええ、よっちゃんは言ってのけましたよ。
妄想も膨らむってものです。


次こそは…たぶんおそらくいしよ(ry
493 名前: 投稿日:2005/08/23(火) 09:58
また更新されてたよ〜 ありがとうだよ〜!
私も美貴様にはまったよ。
(つめてるの?つめてないの?w)
494 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/27(土) 00:03
ミキティ エロい!(笑
495 名前:じぇぃ 投稿日:2005/09/02(金) 21:54
携帯からがんばりました。

ごまさんいい人すぎ
亜弥ちゃんなにげに好き

美貴さんかわいすぎ
よっちゃん一言じゃ表せないよよっちゃん

つーわけでお疲れ様でした!!
496 名前:ロテ 投稿日:2005/09/03(土) 19:02
薄い感じのいしよし
497 名前:ロテ 投稿日:2005/09/03(土) 19:03


   高速道路ランデブー

498 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:04

「とりあえず出して」

それだけ言うと身震いするように腕組みをしたまま窓の外を見つめた彼女。
白いキャミソールから滴り落ちる雫が眩しくて目を伏せた。
スカートから伸びる素足を組んで先を促す彼女に従い、ギアをドライブに入れる。
そして、点滅させていたハザードを消してからウインカーを出した。

視界の端では赤い傘が車道を転がっていた。
途切れ途切れの車の波をよけてあたしは動き出す。
彼女を乗せて、どことも知れない闇の中へ。

「それで、今日はどうした?」

何事もなかったかのようにお決まりの台詞で尋ねても返答はない。
実際のところ何かあったとしても、それはそれで困る。
あたしにはきっと対処しきれないことだから。

長短の時間にかかわらずハンドルを握っている両手が汗ばむのはいつものことだ。
でも普段はこんなことないのに、彼女といるとどうしてだろう。どうしてこうも。
色あせたジーンズの腿の部分で汗を拭い、また軽くハンドルを握った。
それでもまたすぐに手は汗ばみ、あたしはジーンズとハンドルの間で交互に手を動かす。

日付が変わったばかりの道は空いていた。
ドライブというには重苦しい雰囲気だったけどそれでも車は快調で。
目的地なんてなかったし、そもそもどうして彼女を乗せているのかわからなかった。
淡々と適当に車を走らせるあたしに彼女は何も指示をくれなかったけど、でも快調だった。

いつも気まぐれに呼び出されては何を話すというわけでもなく車を走らせる。
むしゃくしゃしていたのか、単に暇を持て余していただけなのか。
もしかしたら全く違うところにその答えはあるのかもしれない。
わからないまま、あたしは彼女の望みどおりに車を走らせる。
一応、カタチばかりは。
499 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:04

「ねぇ、よっすぃ」

久しぶりに聞いた彼女の声は思いのほか明るかった。
さっきのことをもう忘れてしまったかのような不自然さに、彼女の顔を覗き見た。
でもやっぱり、彼女は拒絶するように窓の外を向いていた。
そこにはあたし自身の運転する姿がぼんやりと浮かび上がっているだけ。
彼女の視線の先にいる自分と目が合っても、とくに思うことはなかった。

「よっすぃってば」
「あ、なに?」
「海が見たい」
「へ?」
「海が見たいの」
「ドラマみたいなこと言うなよ」

少し笑いながらあたしはハンドルを切り返した。
誰もいないのをいいことに道の真ん中で派手にUターンをする。
文句、というか呆れた言葉を吐きながらも頭の中で道筋を思い描きながら海へと向かう。
彼女が見たいというなら見せてあげたいし、自分でもなんとなく見たいような気がしてきた。

「あたしもつくづく梨華ちゃんに甘いよな〜」
「そんなことない」
「あるある」
「ない」
「あるって」

たしかに「ない」のかもしれない。
自分で言いながらもよくわからなかった。
でもあたしが否定したら彼女はきっと肯定するのだろう。
あたしが肯定すれば彼女は否定する。そんな気がしていた。
500 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:05

インターから料金所を通過して高速道路へと流れ込む。
路面はさっきまでの雨でわずかに濡れていた。
真夜中の高速道路は時折、走ることにしか生きがいを感じられないような奴らと、長距離輸送のトラックが黙々と交互に現れるだけでどこか寂しげだった。

スピードを目いっぱい上げるのは簡単だったけど、あえてそうはしなかった。
走行車線を一定のペースで走り続ける。
いつもよりもゆっくりと。時間を惜しむように。

音楽もかかってない車内は低いエンジン音だけが静かに鳴り響いていた。

「よっすぃがいつも迎えに来てくれるのはどうして?」
「梨華ちゃんが呼ぶから」

あたしはどこにだって彼女を迎えに行った。彼女の呼ぶ声がすれば、どこにでも。
それこそ車で行ける範囲ならためらわずに駆けつけた。
どうして、なんて考えたこともなかった。
しいて言うなら、ただ呼ばれたから。彼女があたしを呼ぶから。
そこに理由なんてないと思っていた。

「だったらなんで…」
「ん?」
「………」
「梨華ちゃん?」
「べつに来てくれなくても、いい」

その口調はあたしが迎えに行くことを本当に拒んでいるのだろうか。

さっきのあたしの行動について暗に非難しているようにも聞こえた。
結果的に嘘をつくような形になってしまったけど、彼女を迎えに行きたくなかったわけではない。
でも、積極的に迎えに行こうとも思ってはいなかった。
501 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:06

「嫌なら来る必要なんてない」

どうして彼女はそんなことを言うのだろう。
何を、どんな言葉を、彼女は望んでいるのだろう。
あたしが彼女のところに行こうとして、なかなか行けなかったことを暗に責めているのか。
でもきっと、来なくていいなんていう言葉は彼女の本心ではないはずだ。

そう思うのは傲慢だろうか。

「あたしはしたいことをしてるだけだよ」

結局そんなことしか言えなかった。





502 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:06

スピードメーターが100を境に右に左に行ったり来たりしている。
理由もなく疾走する車に乗った二人もどこかとどこかを行ったり来たり。
つかめそうでつかめない。はっきりしそうで靄がかかっている。
どちらかが踏み出したら相手は受け入れてくれるだろうか。
あたしが踏み出したら彼女はどんな顔をするだろう。
踏み出す先はどこに?

「他の人でも同じように迎えに行くの?私以外でも」

シートに深く沈んだ彼女の声は消え入りそうだった。
閉め切った車内の中にいてもびゅうびゅうと通り過ぎる風が攫っていきそうなほど。

「どうだろう。行かないかもしれない」
「………」
「でも今日みたいに迷った挙句、行くかもしれない」
「私が行かないでって言ったら?」
「どうだろう…。そっちのがわかんないや」
「そう…」

あたしの答えに腑に落ちないといった様子で、彼女はまた腕を組み窓の外に目を向けた。
駆け引きなんてしてるつもりはないけど、正直な気持ちをぶつけるほどあたしは素直ではない。
というよりも、自分の正直な気持ちがわからない。
人に言われたそれを自身の気持ちだと受け止めるほどには、やっぱり素直ではなかった。

ただ、今もし、あたしが「行かない」と即答していたら…。

彼女はここで降りると言いかねないような気がした。
この、何もない高速道路の真ん中で、彼女はきっと「降ろして」と言ったことだろう。
彼女の望みはいつも、複雑で矛盾だらけで理解しがたくて説明のつかないものだ。
けれど要するにそれは、全て何かの裏返しで、彼女もまた素直ではないということ。
503 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:07

「あたしにいつでもついてきてくれる?」
「そんなこと言うよっすぃは、らしくない。だからわかんない」
「そりゃそうだ」

束縛されたくないし、したくもない。
でも迎えに行くことは厭わない。
彼女の中にある少しの罪悪感は誤解の上にある。
あたしはそんな関係でも満足しているのに。
そのことを彼女は知らないし伝えるつもりもない。
もう少し、彼女と夜の闇を駆けていたいから。

次のサービスエリアまで1キロを切った。彼女に尋ねることはせず減速する。
運転に疲れたわけではなかったけど車内の澱んだ空気を入れ替えたかった。
いつのまにか満ちてきた彼女との濃い時間を。

「コーヒーでも飲もうか」

パーキングに車を停めて自販機でコーヒーを買った。迷って、温かいのにする。
踵を返して車の外で伸びをしている彼女を離れたところからじっと見つめた。
傘の隙間から見えたあのときの表情が頭をよぎる。
あの、縋るような頼りない瞳はあたしの心をどこか知らない場所へと連れていった。

片手にコーヒーを二つ持ち、もう片方の手で彼女のシルエットをつかもうとした。
つかみ損ねたあたしの手は虚しく宙をさまよう。

それでも手を伸ばしたらすぐに届くこの距離が、ふいにあたしの背中を押す。
504 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:08

「梨華ちゃん」

あたしたち以外は誰もいないこの場所で、少し大きめに彼女の名を呼んだ。
夜の色をしている車とその隣に佇む彼女。
キャミソールの白が、あたしにはやっぱり眩しかった。

「大丈夫だよ。あたしはいつでも迎えに行く」

あたしをじっと見返す彼女。立ち姿のラインが美しい。

「何を差し置いても梨華ちゃんを」
「そんなこと思ってないくせに」
「思ってるよ」
「迷ってたくせに」
「うん。迷ってた。でもホントは行きたかったんだよ」
「…そんなの、聞きたくなかった」
「だと思ったよ。急に言いたくなった」
「バカよっすぃ。帰る」

助手席に乗り込んでくれた彼女に少しだけ安堵した。
ひねくれ者の彼女が歩いて帰るとか言い出す可能性もあるにはあったから。

「早く出して」
「へいへい。仰せの通りに」
「バカよっすぃ」
「だから照れるなって」

そしてまた車を走らせた。海へと。

コーヒーを飲みながら隣の彼女をチラ見する。
窓の外を見つめる彼女は、缶をしっかりと両手で握り締めていた。
それからふいに指を伸ばして窓の表面をゆっくりとなぞりだす。

「ちゃんと前見て運転して」

窓に映るあたしの輪郭をずっとなぞる彼女の指は、白くてとても細かった。






505 名前:高速道路ランデブー 投稿日:2005/09/03(土) 19:08

 <了>
506 名前:ロテ 投稿日:2005/09/03(土) 19:09
わかりにくい感じであと2回くらい続きます
507 名前:ロテ 投稿日:2005/09/03(土) 19:13
レス返しー。

493>Yさん
こちらこそ読んでくれてありがとうだよー。
グミ食べたら美貴様を思い出してくださいw
そりゃもちろんツメ(ry

494>名無飼育さん
ちょっこすエロティ入ってましたw

495>じょんさん
携帯から頑張るじょんさんが大好きですw
大変だっただろうなぁ。読んでくれてありがとー。
まだまだ頑張りますよー。
508 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/03(土) 21:36
更新お疲れさまです。
なんだか珍しい無い二人の絡み具合ですね。

次回更新待ってます。
509 名前:S 投稿日:2005/09/04(日) 07:41
更新お疲れさまです。
いしよし、キマシタね〜。
この二人の関係がなんとも・・・w
次回をまったりお待ちしておりますです。
510 名前: 投稿日:2005/09/04(日) 23:50
更新お疲れ様です。
気になる事があるのですが全く関係ない事かもしれないので
今後の更新をお待ちして勝手に解決しようかと。w
まったりお待ちしてますので、よろ〜
511 名前:な な し J 投稿日:2005/09/06(火) 21:12
ほぅほぅ。
なんかみきよしのイメージがあるので新鮮です
512 名前:baka 投稿日:2005/09/07(水) 01:16
二人の何とも言えない空気感がいいです。
513 名前:ロテ 投稿日:2005/09/10(土) 01:12
 高速道路ランデブー
514 名前: 投稿日:2005/09/10(土) 01:13

ワイパーをひっきりなしに動かしてもこの雨には勝てっこない。
この前からネジが緩んでいるメガネをぐいっと押し上げたその指で唇を触った。

「ったく…」

車体を叩きつけるうるさい音になんとなくだけど身が竦んでしまう。
感じる痛みなどあるはずがないのに、思わず顔を歪めていた。
バチバチという音がうるさく、痛かった。

広い通りを過ぎてから、うっかりすると見過ごしてしまいそうな細い路地に進入した。
地元の人間くらいしか使わないだろうその抜け道は、彼女の家に行く最短経路だ。
でもきっと彼女はこの道の存在を知らない。
教えても、妙な意地を張って通ることはしないだろう。
少し笑った後、また雨の音を意識してしまいハンドルを握る手に力が入った。

対向車が来たら面倒だなと思いつつも狭い住宅街を縫うように車を走らせる。
この激しい雨の中、好んで外出するような人間はいない。
通行人はもちろん鬱陶しい自転車やバイクも一台も姿はなかった。
曲がり角でタクシーと鉢合わせになったが、こちらが行動を起こす前に向こうがバックした。
片手を少し上げながら遠慮なく通り過ぎる。
この視界の悪さであたしの気遣いが向こうに通じたかどうかは疑問だった。

515 名前: 投稿日:2005/09/10(土) 01:13

携帯が鳴った。

視線を前方に固定させたまま助手席に手を伸ばして着信ボタンを押す。
一瞬だけ目を向けたときにハンドルが左にぶれた。
慌てて体勢を立て直し、携帯を耳につける。

「よっすぃ?」
「梨華ちゃん」

彼女の声から多少の苛立ちを感じとって、あたしはまた笑った。
べつに面白いわけではなかったが5分おきにかかってくる電話にはもう笑うしかない。

「今どこ?」
「えーっと…」
「まだ?」
「もうすぐ、かな」
「早くね」
「うん。わかった」

さっきから何度となく繰り返される同じ会話を、彼女はどういう気持ちで続けているのだろう。
あたしがいくら「もうすぐ」と言っても辛抱できなくなってまたかけてきてしまう彼女。
同じ所をグルグル回りながらその電話に律儀に出ては、安請け合いをしてしまうあたし。

実際、彼女の家まではもうすぐそこで。
あたしの言葉はあながち嘘ではなかった。
でもほら。あぁ、また彼女の家を通り過ぎた。

通り過ぎてしまった。

これで何回目だろう。どうしてもブレーキを踏むことができない。
大きな水たまりに突っ込んで派手な飛沫をあげて去り行く車。

あたしの意思はどこに向かっているのか、自分でもよくわからなかった。





516 名前: 投稿日:2005/09/10(土) 01:14



『バカよっすぃ』
『なんだよ、バカ梨華』
『私が呼べばいつでも来るって言ったのに』
『言ったよ?』
『それなら私が帰りたいときもいつでも送りなさいよ』
『それとこれとは別』

振り上がった彼女の右手首を左手で強く掴んだ。
同時に、彼女の左手があたしの目の下を掠める。
真っ赤な爪が見えて、その手首も逃がさないようにがっちりと握る。
お互い両手を高くあげて万歳をするような間抜けな格好だった。
でも彼女の顔は少しも笑ってなんていなかった。

『誰のこと考えてるの?』
『よっすぃのことなんかじゃ、絶対ない』

衝動的にキスをした。

手首を固定したまま唇を長く押しつけていたら鋭い痛みと液体が滲む感触がした。
彼女のつけている香水があたしの鼻腔をくすぐってその痛みを緩和する。
軽く口を開き、触れるか触れないかの距離を保ったまま動かない。

お互いの舌が、入りそうで入らない。
タイミングを計りかねているわけでも、逡巡しているわけでもなかった。
ゆっくりとした動きで唇が唇をなぞり、吐息がかかるたびに頭の後ろがじんじんと痺れた。
これで終わりだと言わんばかりに、ふいに彼女が最後のひと咬みをしてさっと身を翻した。

517 名前: 投稿日:2005/09/10(土) 01:15

『血だ』
『バカよっすぃ』
『いつだって迎えに行くし、いつだって送るよ?』
『バカよっすぃ』
『照れるなよ』

そんなに時間が経ったようには感じなかった。
彼女といるとなぜか、時間を意識する感覚が薄れる。
抗いようがないその瞳に見つめられ、すべてを見透かされているような気がした。
その瞳がいつも、あたしを気恥ずかしくさせたり苛立たせたりする。

彼女が時間を忘れさせてくれるのか、あたしが忘れたい時間を抱えているのか。
とにかく彼女はあたしの時間を掠め取るのが上手い。
そしてそれは時間だけに限ったことではなかった。

『どうしてキスしたの?したかったからなんて、言わないで』
『梨華ちゃんこそなんで咬むんだよ』
『そんなことはどうでもいいくせに。バカよっすぃ』
『広い意味ではどうでもいいかも』
『私だって、どうでもいいんだから……』



結局、彼女とのキスはその一回だけだった。
甘いものとは程遠いそれはあたしの中でかなり後を引いている。
あたしの手からするりと抜け出した彼女は子供のように舌を出して笑っていた。





518 名前: 投稿日:2005/09/10(土) 01:15

雨は降り続いていた。

空が夜を連れてきて見慣れた景色にダークブルーのフィルターがかかる。
車のライトを灯すと、そこらじゅう水びたしの道路に反射した淡い光がやけに幻想的で、現実感がなかった。
静かになった携帯を、知らず知らずのうちに左手で玩んでいたことに気づき助手席に放り投げた。

もう何十週目だろう。
この一画をのろのろと走り続けるのにもいいかげん飽きがきていた。
スピードを上げて勢いよく水を切っても何も変わらない。
ものの数分もしないうちにまた同じ場所、同じ風景が見えてきて安心すると同時に少しの疲労感。
鳴らない携帯をチラ見してため息を飲み込んだ。

いつでも迎えに行くと言ったのはあたしなのに。
彼女のもとへ行く気なんて、なかったはずなのに。

彼女はいつまであたしの迎えを必要としてくれるのだろう。

久しぶりの対向車。鬱陶しいライトが目に入った。
ブレーキを踏んで減速し、道の端に寄る。
顔をしかめながらやり過ごしたら目の前に彼女がいた。
いくら拭ってもなくなることのない雨を、懸命に振り落とそうとしているワイパーの向こう側。
フロントガラス越しに見える彼女は赤い傘をさして佇んでいた。
傘を持っていないほうの手が動いて、顔のあたりを撫でるように触っていた。
風が吹いているらしく、彼女の髪は狂ったように踊っている。
その瞬間、思い出したかのように助手席の携帯が鳴った。

519 名前: 投稿日:2005/09/10(土) 01:16

「よっすぃ」
「梨華ちゃん」
「バカよっすぃ」
「…バカ梨華」
「ウソツキ」
「………」
「ウソツキ」

高く舞い上がった赤い傘が、あたしと彼女との間でゆらゆらと揺れながらボンネットの上に落ちた。
スカートが捲りあがり、ギリギリのラインまでが見えても傘で阻まれた彼女の顔は見えない。
真っ直ぐに伸びた足とコンクリの上の素足がこちらを向いていることだけを示していた。

「ウソツキはお互いさまだよ」

ほんの数メートル先にいる彼女と、外界から遮断された車内にいるあたし。
その体の距離は心の距離とイコールなのかもしれない。

随分と濡れて、体にぴったり張りついたキャミソールとスカートを身に纏った彼女。
ほんの少しの肌寒さしか感じていないあたし。

彼女とあたしとの、距離。

いずれボンネットから転がり落ちるこの傘は、彼女のどんな表情を見せてくれるのだろう。
理由のわからない心細さと少しの期待、そして彼女に咬まれた唇の感触を思い出しながら、そのときが来るのを静かに待っていた。





520 名前:ロテ 投稿日:2005/09/10(土) 01:17
次回で「高速道路ランデブー」は終わりです
521 名前:ロテ 投稿日:2005/09/10(土) 01:22
あ、雨のとこ<了>入れるの忘れた
まあいいやレス返しー

508>通りすがりの者さん
レスどうもです。いつも励みになります。

509>Sさん
ええ、きました。自分でもなんとも言えない感じです。

510>Yさん
いろいろと気にしてくれてどうもです。
自己解決も乙です。

511>な な し J さん
いしよしもたまに書いているのですよ。あとよしごまもね。

512>bakaさん
空気とか雰囲気でなんとなくいしよしを感じてもらえばウレシイです。
522 名前:S 投稿日:2005/09/12(月) 08:11
ううむ・・謎が多いっっっ!!
点と点が繋がっていくのを、
次回までひっそりとお待ちしてます。
523 名前:名無しのA 投稿日:2005/09/12(月) 12:46
更新お疲れ様です。
なんだか情景描写が巧みで惹きこまれました。
最終話をひっそりとお待ちしています。w
524 名前:ロテ 投稿日:2005/09/17(土) 20:28
 
 高速道路ランデブー
 
525 名前:不在の存在 投稿日:2005/09/17(土) 20:29

簡単なものだ。あっさりと落ちた。実にあっさりと。



「まさか吉澤先輩が誘ってくれるなんて思いませんでしたよー」

あたしが寝てる間に朝はとっくに過ぎ去っていた。
気だるさと焦燥感のみが支配する午後は、頭の後ろが鉛のように重かった。
なんの変哲もないワンルームマンションの一室。その中にいるあたし、と後輩。
ベッドの中でいつまでもゴロゴロしながらの休日が容赦なく通り過ぎていく。

「ライター取って」
「どこですか」
「そこ。その右のとこに」
「ああ、これですか。あれ?吉澤先輩って煙草吸いましたっけ」
「たまにね。車の中じゃ吸わないけど」

車内はあたしの世界であって、あたしだけの世界じゃない。
そこに有害物質を持ち込むことは彼女が許さない。
彼女に許してもらう必要はないけれど、あたしは徹底して車で煙草は吸わない。
もちろん同乗者にも吸わせない。
そうしているうちに自然と煙草の量が減っていた。
怪我の功名、とはちょっと違うけどニコチンから離れることができたのは良かったと思う。

「一日一本」

煙草を口にくわえると横からさっと火のついたライターが差し出された。
そういえばこの後輩はやたらと気が利くと仲間うちでは評判らしい。
遠慮なく顔を向ける。

526 名前:不在の存在 投稿日:2005/09/17(土) 20:29

「先輩だからするんですよ?」
「あ?なにが?」
「こういうこと」

差し出したライターのことなのか、昨晩の行為のことなのかはわからなかった。
ただ、どうやら自分が特別に思われているらしいことは察しがついた。
以前からそれらしいことを本人やまわりから聞いている。
白い煙から何を見出そうとしているのか、その後輩は黙ってあたしの吐き出す先を見つめていた。





527 名前:不在の存在 投稿日:2005/09/17(土) 20:30

彼女と初めて会ったときもあたしは煙草を吸っていた。
露骨に嫌そうな顔をされて、それに向けてわざと煙を吐いたのを覚えている。
彼女はにっこりと笑ってあたしの口から煙草を奪うと、何も言わずにヒールで踏みつけた。

思えばあのときからあたしは彼女の半ば言いなりだった。
命令というわけではないけれど、彼女のしたいことやされたくないことを敏感に感じ取り、それに従うようになった。
決して無理をしていたわけではなかったが、最近はそれに少し疲れを感じていた。

脱ぎ散らかした服の下から携帯が存在を主張する。

「出ないんですか?先輩」
「ん」
「週末は天気悪いみたいですよー」
「ふうん」
「もうっ。素っ気ないなんだからー。でもそういうとこが先輩らしいですよね」
「そうでもないよ」

同じ台詞を彼女からも言われたことがあった。


『よっすぃは素っ気ない』


そのときなんて答えたかは忘れてしまった。
否定したのか肯定したのか、無視したのかも定かではない。
また同じことを言われたらあたしはなんて答えるだろう。しばし考えてみる。

「素っ気ないっていうか寝起きは頭まわらないから」
「寝起きだけに限ったことじゃないですよ」

この後輩に対する答えとは、きっと違う答えを彼女に向けることは確かだろう。
素っ気ないのはきっと事実だし、はっきりと否定する気もない。
そもそもわかってやっているのだから。

でも彼女に対してのそれとは少し、というかかなり違う。
あたしは心で喋りすぎる。
それはきっと彼女も同じで、それに慣れてしまっている。
だからお互いに噛み合っているようで噛み合っていない。わかっているようで…。

528 名前:不在の存在 投稿日:2005/09/17(土) 20:31

「先輩!…せーんぱいっ!」
「ん?」
「いまどっかいってましたよ」
「そお?」
「そうです。絵里を置いて、ひとりでどっかいっちゃってました」

この後輩、絵里はあたしの何がよくてここにいるんだろう。
いや、違う。

「あたしそろそろ帰るよ」

いるのはあたしだ。
好む、好まないにかかわらず足を踏み入れたのはあたしだった。
興味や好奇心とも言えない、ましてや好意では決してない。

どうしてあたしはここにいる?

人恋しかったのか、単にぬくもりが欲しかったのか。
誰でもよかったのか、いつでも笑いかけてくる絵里がよかったのか。

……彼女が、よかったのか。

「えー。もう帰っちゃうんですかぁ」
「うん。ごちそうさま」
「やだ先輩」
「なにが?」
「ごちそうさまって。何もごちそうなんてしてないですよぉ」
「あ、いやなんとなく」
「ふうん…絵里を食べちゃったことかと思ったけどそうじゃないみたいですね」

いつもの癖で出てきた言葉と絵里の勘の良さに、あたしは笑いを噛み殺した。

「先輩はいつもそんな風にどこかから帰るんですか?」

絵里の髪が頬をくすぐったから、あたしは首をひねって結果的に否定する格好になった。
その言葉は確信をついていたけど、でも正しいわけでもない。
絵里がおそらく想像しているだろう甘いものなんかでは、決してない。

携帯がまた鳴っていた。





529 名前:不在の存在 投稿日:2005/09/17(土) 20:31

『ごちそうさま』
『嫌味?』
『まさか。十分ごちそうになったから』
『車の人にはアルコールを飲ませないの。わかるでしょ?』
『わかるよ。要するに雰囲気だから。梨華ちゃんが飲んで、あたしも飲んだ気になるだけ』
『やっぱり嫌味にしか聞こえない』
『…かもね』

彼女の部屋ではあたしは一滴も飲まない。
彼女の言うように車だからというのもあるけどそれだけが理由ではない。
どこかから送り届けたついでにお邪魔する彼女の部屋で、一人で飲む彼女を見るのは楽しい。
彼女はワインを飲み続け、あたしは彼女を見続ける。
なんとなく飲んだ気になるからあたしはいつも言ってしまう。



『ごちそうさま』





530 名前:不在の存在 投稿日:2005/09/17(土) 20:31

「先輩?」
「ごめん。帰るわ」
「どこに帰るんですか?」
「帰るっていうか行く。彼女のとこに」
「全然悪びれないんですね」
「誰に?」
「彼女さんに。……あと、絵里にも」

意外に謙虚なこの後輩を、いつかきっとあたしは好きになるかもしれない。
こうして時を重ねていくうちに。

「絵里はかわいいからあたしにはもったいないよ」
「心にもないこと言わないでください。今ちょっと嫌いになりました」
「ふはは。やっぱあたしにはもったいないわ」
「絵里、それでも諦めませんから」

ベッドで寄り添っているのに。
素肌を通してあたたかな体温が伝わっているのに。
それでもあたしが求めるのは。それでも。
ぽっかりと空いた心を埋めるのが誰かなんて最初からわかっていたんだ。

「あたしは往生際が悪いのかもな」

絵里の部屋を後にして車に乗り込むとタイミング良くまた携帯が鳴った。

「バカよっすぃ」
「なんだよ、バカ梨華」
「早く来なさいよ」

あたしは今日も、心にぽっかりと開いた穴を埋めに彼女を迎えに行く。
たとえそこに理由なんて存在しなくとも。





531 名前:不在の存在 投稿日:2005/09/17(土) 20:32
 
 
 
532 名前:ロテ 投稿日:2005/09/17(土) 20:32

<高速道路ランデブー 了>
 
533 名前:ロテ 投稿日:2005/09/17(土) 20:40
レス返しー。

522>Sさん
どもども。いつもレスありがとうです。
わかりにくいと思いますが点が線になってたらいいなと思います。

523>名無しのAさん
レスありがとうございます。
雰囲気でごまかした感がありますがそう言ってもらえてウレシイです。


※高速道路ランデブーのどうでもいい補足
「高速道路ランデブー」「雨」「不在の存在」
この3つの話は時系列が逆さまです。が、書いた順に更新しました。

※次回の更新について
ごっちんの誕生日が迫ってますね。書けたらいいな。
534 名前:名無しのA 投稿日:2005/09/17(土) 21:45
更新&完結お疲れ様です。さかさ(ry……だったのですか(驚
なるほど、読み終わってまた最初から読み返して……
二人は深い部分で繋がっているように感じました。

535 名前: 投稿日:2005/09/17(土) 22:15
更新・完結お疲れ様です。
実は前回も勝手に妄想してドキドキしてました。
どうもここに来ると自分勝手に踊らされるようです。w
ごっちんの誕生日を気にしてるという事は、次はよしごまですよね?
楽しみに待ってます。
536 名前:. 投稿日:2005/09/18(日) 02:10
逆さまにする意味があったのだろうか
わかりにくい話だった
537 名前:S 投稿日:2005/09/20(火) 06:36
完結お疲れさまでした。何度も読み返したくなる作品ですね。
これからこの二人は一体どこに向かって走って行くのだろう・・。
じりじりとした関係がなんだか余韻を残します。
538 名前:ロテ 投稿日:2005/10/30(日) 21:21
みきよし
539 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:21


あたしは美貴を抱きしめる。
抱きしめて決して離さない。
暴れられたって、鬱陶しがられたって、たとえ泣かれたって。

この腕の中から逃したくない。美貴の体を、心を。
永遠に、閉じ込めたい。

540 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:22

「よっちゃんどしたー?」
「だってミキティさぁ」

耳もとで囁かれる甘い声にかすかな眩暈を覚える。
美貴にそんなつもりはなくても、その声に反応してしまう自分の体が恨めしい。
持て余し気味の体を捻って、より深く彼女を腕の中に閉じ込めた。より、強く。

「苦しいよぅ」
「だってミキティ、どっか行っちゃいそうなんだもん」

頬を膨らましながらあたしを上目遣いで見つめる美貴はまるで子供のよう。
抱きしめながら背中を撫でると気持ち良さそうに目を細めて笑う。
あたし以外の誰にもこの笑顔を見せたくはない。

ステージの上で歌い、踊る美貴の姿を見ているとなぜかいつも苦しくなる。
いつかあたしのそばからいなくなって、あたしの知らないどこかに飛んでいって
全然違う場所で笑い、泣き、あたし以外の誰かに抱きしめられるんじゃないかと不安になる。

今こうして抱きしめていても片時も安心することなんてできない。
愛されてる余裕なんて、あっても一瞬のことだ。先のことなんてわからない。
恋を諦めることに慣れてしまったあたしには、美貴を繋ぎとめておく自信なんてないから。

だからあたしの一方的な想いに応えてくれたことも素直には喜べなかった。
付き合いだしてもデートをしてもキスをしても肌を合わせ、溶けてしまっていても。
あたしが想えば想うほど、美貴との距離が遠ざかるようで怖かった。
ふいに手にした幸せが、やはり同じようにふいに消えてしまいそうで怖かったのかもしれない。

抱きしめることが許されるなんて、思ってもいなかったから。
541 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:22

「あたしが離したらたぶんミキティどっか行っちゃう…」
「美貴はどこにもいかないよー。本当にどうしたの?よっちゃんなんか変だよ」
「…なんだかナーバスになってる」
「だからどうして?」
「あたしがミキティを好きすぎるからかな」

あたしが想うように美貴はあたしのことを想ってくれている?
何度も口にしかけた言葉を今日も寸でのところで飲み込んだ。

「重いよね、ごめん」
「ばーか」

小突かれた額にかかる前髪が揺れて、美貴の顔が見えなくなる。
ウザったい。邪魔な髪を切りたい。早く美貴を見たい。

「どうしてそんな風に考えるのかなぁ」
「そんなの自分でもわかんないよ」
「美貴はよっちゃんが好き。よっちゃんは美貴が好き。それじゃダメなの?」
「………」
「美貴はよっちゃんに抱きしめてほしくて、いまこうしてる。それじゃダメ?」

単純明快な美貴の言葉もひねくれ者のあたしには届かない。
それよりも言葉が紡ぎだされるその唇に、あたしを見つめるその瞳に思考が乗っ取られて。

「っん…ちょ、まっ…よっちゃ…あぁん」
「美貴、美貴、美貴」

あたしの口から溢れだした不安感が愛しい人の名前を呼ばせる。
唇を貪り、体中を弄って、全身で美貴を求める。
心の底から、欲しいと思った。
542 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:23

「時々…よっちゃんが、怖くなるよ…」
「怖い?あたしが?」
「うん……あ、あんっよっちゃぁん」
「…もっとこっちに来て、美貴。あたしから離れないようにもっと」
「やぁ…そんなところ…あんっだめぇ。いやぁんっ」
「…どうして、あたしが怖いの?」

涙目で、息を切らしながら快楽の波に襲われている美貴にそっと問いかける。
怖いのはあたしのほうだ。不安に思ってるのもあたし。なぜ、美貴が?

「だって、いつもいつも怯えてて…うぅ、はぁっはぁっ」

美貴の肩口に唇を押しつけ、そのまま鎖骨までスライドさせる。
くぼみに舌を這わせ唾液でぬるぬるしたそこを吸ったり咬んだり。
全身あますところなくあたしのシルシをつけて、美貴をあたしのものにする。

「別れるときのことを、いつも考えてる…そんなのヤダよぉ…」

美貴の涙があたしの頬を伝った。
それはまるで、あたしが流した涙のようで。
543 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:24

「美貴、ごめん……」
「そんな哀しいこと考えないで…おねがいだから。美貴から、離れないで」

あたしの不安は美貴の不安。
あたしが流す涙も、痛む胸も、声にならない声もすべて美貴の。

不安、恐れ、戸惑い、悩み、迷い、疑心。
あたしの中にあった負の感情が美貴の涙で洗い流されていく。
臆病でひねくれ者の弱いあたしの中に美貴がすっと入り込んで、心が凪いでいく。
その瞬間、ホントに自然に、無意識にあたしは思った。

愛しい。美貴がとても愛しいと。

「愛していい?」
「ばぁか。そんなこといちいち聞くな」

みぞおちにパンチしてきた美貴の手首を掴んであたしは再度、同じことを聞いた。

「愛してもいいの?」
「いいよ」

涙目の美貴が笑いながら、あたしの顔をまっすぐに見てそう言った。
目の端を親指で拭いながらあたしも顔を見た。そして聞いた。

「あたしのこと愛してる?」
「愛してるよ」

それが答えだった。ずっと求めてた答え。ずっと目の前にあった答え。
最初からそこにあったというのに、あたしが見ようとしなかっただけの答えがそこにあった。
そして、カチコチに固まっていたあたしの心がゆるやかに溶け出す。
544 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:24

「美貴の愛は無限だよ?よっちゃん、覚悟してね」
「あたしの愛は不器用かも…ミキティ、フォローよろしく」
「なんだそれ」
「さあ、なんだろ」
「不安になったらさ」
「うん?」
「こうして。いつでもいいから美貴のところに来てこうしてよ」

あたしの背中に美貴の腕がまわり、きつく抱きしめられた。
ぎゅっときつく抱きしめられているけど不思議と心地がいい。

「不安なときだけじゃなくてさ、いつも抱きしめてよ」
「うん」
「理由なんていらないから」
「うん」
「美貴も抱きしめるから」
「うん」
「よっちゃんの匂いが恋しくなったら抱きしめるから」
「うん、うん」
「だからよっちゃんも抱きしめて?美貴をずっとずっと抱きしめてて?」
「うん」
「うんしか言えないのかよー」
「ごめん。嬉しくて言葉にならない…」

かわりにきつく抱きしめた。ありったけの、想いを込めて。
545 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:25


あたしは美貴を抱きしめる。
抱きしめて離さない。美貴を決して離さない。
ごちゃごちゃと余計なことを考えるのはもうやめた。
答えは常に目の前になる。ゆえにあたしは美貴を抱きしめる。

美貴を、抱きしめる。

546 名前:抱きしめるよ 投稿日:2005/10/30(日) 21:25

<了>
547 名前:ロテ 投稿日:2005/10/30(日) 21:34
レス返しを。

534>名無しのAさん
レスありがとうございます。
読み返してもらったことも重ねてありがとうです。
微妙な繋がりを表現するには自分はまだまだだと思いました。
Aさんのスレも楽しみにしておりますのでがんばってくださいw

535>Yさん
レスありがとうございます。
無駄にドキドキさせてしまいましたねw
ごっちんの誕生日はとっくに過ぎてますが予定外に長くなってしまい
いまだ書いてる途中という体たらくぶりです。
しばしお待ちいただけたらと思います。

536>.さん
わかりにくいながらも読んでもらえたことは嬉しいです。
精進します。

537>Sさん
レスありがとうございます。
じりじりとした関係を書きたかったのでそう言ってもらえて嬉しいです。
自分の中でも余韻の残る話でした。

※以下宣伝
自サイト移転に伴いURLのご案内です。
ttp://jbbs.livedoor.jp/music/14066/
暇つぶしにどうぞ。
548 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/30(日) 22:15
もうこういうの堪んないです。お互いが大好きっていう気持ちを
大事にしてるのが何よりだなーとか心が温かくなりました。
更新お疲れ様です。
549 名前:S 投稿日:2005/11/01(火) 22:04
うむむ・・こういう関係ですか、そうですか、みきよしw
なるほどなあ。いや、固いですわ、これは。
愛されてますね、ミキティw
550 名前:ロテ 投稿日:2005/11/03(木) 02:57
みきよし
551 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 02:58

買ってもらったばかりの慣れないスーツに身を固め、いろんな人や物に溢れていた入学式からの帰り道。まだよくわからない地下鉄の複雑な乗り継ぎに泣きそうになりながらようやく引っ越したばかりのアパートの、その最寄り駅のちょっと閑散としたほうの出口で、艶やかな毛並みと鋭い視線、しなやかな体躯を持った猫を見た。

なぜか一瞬にして目が奪われた。あちらを向いていたその後姿をじっと見つめていたら、唐突に猫が動きだした。こちらを振り向いた猫に、またぼうっと釘付けになった。綺麗な顔をしていた。ゆっくりとこちらに向かってくる猫はどこか一点を見つめ、自分を少しも見なかったが、すれ違いざま、ちらりと視線が交わったような気がした。去り行く猫の後姿はどこか寂しげだった。

田舎という田舎でもなく、都会という都会でもない故郷を出て、進学のために上京したのは2週間前のことだ。とくに行きたい大学でもなく、とくに行きたくない大学でもなかった。受験したら受かった。親や教師の勧めもあった。自分自身は何も考えずにそこに決めた。人生なんてそんなもんだろと思っている。

552 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 02:58

『上京する』ということに対してもとくに実感は湧かなかった。新しい地での生活に心躍る期待も、慣れ親しんだ故郷を離れる感慨も何も。都会で暮らすということを単純に羨ましがる友人もいた。「遊びに行くね」などと口々に言われた。そんな友人たちと、この見知らぬ地で遊んでいる自分が想像できなかった。実際に『上京』してみて、やはりこんなもんかと思った。

6月に入り季節はいつのまにか鬱陶しい梅雨の時期を迎えていた。こちらの梅雨は故郷でのそれよりも暑く、じめじめとした不快なもので、クーラーなんてない狭い一人暮らしの部屋で日々扇風機にかじりついていた。大学生活で人並みにできた友人たちも、皆一様に都会の始まりつつある夏に不満を漏らしていた。クーラーのある家に入り浸り、暑さを理由に講義を休む。バイトも行く気がせず、時々逃げ込むファミレスで飲み放題のジュースを飲んでは暑さを凌いだ。

夜の散歩を始めたのはこの頃からだ。クーラーを持つ友人に恋人ができたことでそれまでの居場所が無くなった。連日ファミレス通いをするような金はなく、もちろんバイトをする気にもなれなかった。自分の部屋にいても暑さで汗ばむ体にTシャツが張りつき、本格的な夏を前にして訪れた熱帯夜に眠ることも許されず、下がらない気温に閉口して本能的に外に出た。ムッとした室内とは違い、さすがに外は幾分涼しかった。

風がない都会の夜の空気はどこまでもぬるかったが、それでもTシャツと肌の間に汗以外の隙間を作ってくれた。快適とは言い難いが部屋の中で一人、汗を垂れ流しているよりはマシだった。近所を歩きまわり、ほどよく疲れて睡魔が迎えに来た頃部屋に戻る。そんなサイクルで過ごしていた6月だった。

553 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 02:58

7月に入って夜の散歩の回数は増えていた。予想通りの猛暑が到来していたからだ。扇風機は熱い空気を掻き回すだけで、すでになんの役にも立っていなかった。夜の散歩は暑さとともにその範囲を拡大し、近所をひとまわりして終えるだけではなくなっていた。探検のようなその散歩は暑さから逃れるという目的だけでなく、すっかり夜型生活に移行してやることがなくなってしまった暇つぶしも兼ねていた。

ふらふらと熱夜の中をさまよい、見慣れない店の前を通り過ぎる。夜の街でいろいろな発見をするたびに少なからず興奮した。なんとなく行っている大学の講義でもそれなりに面白いことはあったが、どこかでこんなもんかと思う自分がいた。対してこの街には歩くたびに新たな発見があった。蒸し暑い駅の構内には夜中だというのに肌を大胆に露出させてたむろしている高校生風の男女や、そこを住処としている輩が数人いた。そして自分も含めたその場にいる全員が大粒の汗を流していた。涼を求めてさらに歩いた。

普段は訪れることのない、駅の南側出口のすぐ目の前にある公園に小さな噴水があった。公園と呼ぶには少々心もとない広さだったがお情け程度にあるツツジやベンチや看板が、そこを公園とたらしめていた。誰もいない公園の中心にある小さな噴水からの放水はストップしていたが、円形のすり鉢状をしたそこにはゆらゆらと揺れる水面が見えた。そっと手を忍ばせてみた。予想通り水温は高かった。だが不快感はなく、むしろ気持ちがよかった。

554 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 02:59

そしてそこに猫がいることに気づいた。

4月に一度だけ見かけたあの猫が、自分と同じように噴水の溜り水に手を差し伸べていた。水の中で動く手は白く、闇の中でぽっかりと浮かんで見えた。白い手から生み出される小波が音も無くこちらに寄せてきては、手首の少し上を濡らしてまた猫へと返っていく。しばらくそのままにして、水と遊ぶように戯れる白い手と猫を見つめていた。

辺りに人の気配はなく、街に存在する特有の雑音も、さっきまで騒がしくサイレンを鳴らしていたパトカーや救急車の類もどこかに消え失せてしまったかのように無音だった。この場所だけが世界から見落とされたように静かだった。頭上からそっと一枚の葉が舞い落ちてきて水の上を滑った。不規則な動きをして猫の手元に向かう緑色の葉。

ふいに、猫がこちらを見た。

揺れる水面を手刀で切りながらじっとこちらを見る猫。手の動きは徐々に速さを増し、水が飛び跳ねる音がはっきりと聴こえた。距離にして数メートル。闇に紛れた猫は笑っているような気がした。そしてクイっと顎を横に向けたその顔には、まるでこっちへ来いと言わんばかりの、抗うことが不可能な表情が浮かんでいた。


その瞬間から始まった。あたしと猫の始まりを、水面だけが知っていた。





<了>

555 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 02:59
 
 
 
556 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:00

「なにこれ」
「どうよ。二作目。あたしと美貴ちゃんの出会いを小説にしてみました。えへへ」

そう言いながらジャージを着た女は照れ臭そうに自身の金髪頭をぽりぽりとかいた。

「これ吉澤さんが書いたんですか?すごいですねぇ」
「恋人になる前の二人の運命的な出会い編でした。えへへ」
「へぇ〜。藤本さんって前はニャンちゃんだったんですか?」
「いや、違うから」

きゃあきゃあと騒ぐ制服姿の女子高生の言葉を呆れた顔で否定するエプロン姿の女。無地の黒いエプロンのポケットに両手を突っ込んだまま、顎で目の前の金髪頭を指しながらさらに否定する。

「アンタも。とにかく、いろんなところが違うから」

ここは『藤もん』という看板を掲げた老舗の餃子専門店だ。

原稿用紙の束を前に得意気な顔で、ニコニコと笑みを絶やさないのは吉澤ひとみ。その原稿用紙を突きつけられて興味津々に読んでいたのはひとみの高校時代の後輩で、藤もんの常連客でもある亀井絵里。そしてそんな二人を呆れた顔で見ながら、それぞれにツッコミを入れたのは『藤もん』の若き店主、藤本美貴だ。

557 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:00

「え!藤本さんたちって恋人じゃないんですか?」

絵里が目を輝かせながら嬉しそうに尋ねた。

「いや、そこは辛うじて正しい」

美貴がすかさず鋭い眼光とともに返すと絵里はがっくりと肩を落とした。二人のやり取りそっちのけで自作の小説を満足気に読み返していたひとみは、原稿用紙の端を綺麗に整えながら深いため息をついた。

「はぁ〜。この二人、つまりあたしと美貴ちゃんはこれからどうなっていくんだろう…」
「気になりますよねぇ〜。ニャンちゃんは野良なのかなぁ?」
「ほんっとにいろんなところが違うっていうか、全部違うから。間違ってるから、アンタたち」

昼の慌しい時間帯が終わり、ひと息ついた準備中の店内には美貴とひとみ、そして試験休み中の絵里が暇を持て余していた。正確に言えば、実際に暇なのは美貴だけだ。ひとみと絵里はそれぞれ勉学に励むべき立場にいる。それでもテーブル席で美貴が作ったあんこ餃子をつまんでいるのは、何も珍しい光景ではない。

558 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:00

「大体ねぇ…よっちゃん、アンタ浪人中でしょ。こんなもの書いてる暇あるわけ?それに地下鉄なんてちっちゃい頃から乗ってんだから目ぇ瞑ってたって乗り継げるでしょーが。『複雑な乗り継ぎに泣きそうになりながら』ってなにこれ。実家暮らしのくせに」
「目ぇ瞑ってはさすがに無理かと…」
「あん?!何か言った?!」
「ふぇいっ。何でもないっす!」
「それにね、一番おかしいのはここ。根本的に間違ってる。美貴は猫じゃないの。大体出会ったのって幼稚園のときによっちゃんが美貴をナンパしたのが最初じゃん」
「えー!そうだったんですかぁ?!」
「あれ?キャメちゃん知らなかったっけ?」
「幼馴染っていうのは聞いてましたけど幼稚園のナンパ話は初耳ですよ」
「ナンパとは人聞きが悪いなぁ。あれは美貴ちゃんが誘ってきたから…」
「幼稚園生が誘うか!バカ!」

ひとみから原稿用紙の束を奪った美貴はそのまま恋人の頭上に振り下ろす。
ぽすっという乾いた音に首を竦めるひとみ。

559 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:01

「ひ、ひどいよ〜。美貴ちゃんがいじめるよ〜」
「あー!藤本さんが吉澤さんを泣かしたぁ」
「う、うぇーん、キャメちゃーん」
「よしよし、まったくひどいですねぇ〜。絵里なら吉澤さんを泣かしたりしませんよ?」
「キャメちゃんは優しいなぁ。あたしちょっとクラっときそうだよ…」
「吉澤さん…」
「絵里…」

目を潤ませたひとみが絵里の手を握った。そして絵里もしっかりと握り返す。

「茶番はそこまでだ」

地獄の底から響いてくるようなその声に、コントのような芝居をしていた二人はあっという間にお互いの手を離し、それだけでは足りないとみたのか体も突き飛ばした。それはもう、ものすごい速さで。

「ただいまー」

腕組みをした美貴がそんな2人を満足気に見下ろしていると、ガラガラという渋い音とともに店の戸が開き、制服を着た少女が入ってきた。

「おー、亀ちゃん来てたんだー。いらっしゃい」

その少女は、美貴のいとこであり『藤もん』の金庫番こと新垣里沙だった。里沙は高校進学を期に家を離れ、美貴の家に下宿をしていた。そして職人気質で数字にまるで弱い美貴に代わり、店の帳簿から家計簿まで、金銭関係の管理を一手に引き受けている。

560 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:02

「お邪魔してまーす」
「ガキさんお帰りー」
「吉澤さん、さっきそこで吉澤さんのお母さんが探してましたよ」
「マジで?!なんだろう。ちょっと行ってくる」
「はいはい。行ってきな。予備校サボったのがバレたんじゃない?」
「げげ。だとしたら会うわけにはいかないな。美貴ちゃん今夜も泊めて?」
「いーやーだ」
「ひどい!それが愛しい恋人に対する仕打ちな」
「あ、ガキさん。新しい仕入先からさっき連絡があってね…」

ひとみの言葉を遮り、美貴は里沙と仕入れの相談を始めた。不満そうに唇を尖らすひとみの頭を絵里がよしよしと撫でる。

「んじゃ、あたしそろそろ帰るわ…」

ひとみは美貴の表情をちらちらと盗み見しながら、丸めた原稿用紙を無造作にバッグに詰め込んだ。美貴と里沙の会話はいつのまにかこの秋の新作メニューについてのものに変化している。自分のほうをチラリとも見ない美貴の様子に肩を落としつつ、ひとみは立ち上がった。

「じゃあね、キャメちゃんまた…」
「吉澤さん、そんなしょぼくれた顔してちゃダメですよー。ふぁいとふぁいと」

絵里に背中を叩かれ、ひとみは思わずムセた。

「ごほっごほっ。キャメちゃん力つえー」
「やだっ、ごめんなさーい」

561 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:02

トボトボと歩き、背中を丸めながら店の戸を引いたひとみの背中に声がかかる。

「よっちゃん」

恋人の声にピクっと反応したひとみは、おそるおそる振り向いた。

「夜、ちゃんと勉強してから来なよ」
「えっ…いいの?」
「明日は予備校サボんなよ」
「う、うん。えっと、じゃあ美貴ちゃん、夜にね」
「うん。あとでね」

晴れやかな表情に様変わりしたひとみの姿を見て、美貴は照れ臭そうに笑った。
里沙と絵里はそんな2人の様子を眺めながら、からかうような視線を美貴に向ける。

「なによー」
「なんでもないですよー。ねー、ガキさん」
「そうそう、なんでもないよ」
「なんかムカツクなぁ。まあ、いいや」

くるっと背中を向けて厨房に消えていく美貴を指差しながら、里沙と絵里はこっそりと声を立てずに笑っていた。

「さてと、開店準備だー」

あと1時間もすれば夕飯時だ。藤もんは今夜も、餃子を食べに来た多くの客で席が埋まるだろう。美貴は美味そうに餃子を食す客たちの顔を思い浮かべながら腕まくりをした。そして、閉店後に訪れる恋人に試食させるための新メニューについて頭を巡らせる。

562 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:03



ひとみが泣きながらその杏仁餃子を食べさせられるまで、あと6時間を切っていた。


563 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:03
 

<了>
564 名前:猫を見た 投稿日:2005/11/03(木) 03:07
レス返しー。

548>名無飼育さん
堪んないですかー。ありがとうございます。
みきよしは甘いんだけどどこか張り詰めた感がある気がしてます。
これからもがんばります。

549>Sさん
ここのミキティはめちゃくちゃ愛されちゃってます。
読んでくれてどうもありがとうです。
565 名前:ロテ 投稿日:2005/11/03(木) 03:07
↑名前欄orz
566 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/03(木) 08:38
最後で思わず声出して笑っちゃいました。やべぇ
みきよしはこういうの似合うなぁ
567 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/03(木) 12:12
美貴さんの作ったものならなんでも食べますよ、ええ。
今回は前回とギャップがあって笑えました。
568 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/03(木) 17:27
次回更新お疲れ様です。
また凄い料理が出てきましたね、はたしてお味のほうは・・・(笑
色んな感じのがありますから楽しく読ませて頂いてます。
次回更新待ってます。

>>567
メール欄にsageとお書きください。
更新されていると誤解されるので。
それに基本はsageということを覚えておいて下さい。
569 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/03(木) 20:50
こういうみきよしも、大好きですww
色んなみきよしを見れるので…もう嬉しいです(爆)
570 名前: 投稿日:2005/11/04(金) 15:09
第二弾きたー!(*゚∀゚)=3
前回同様再び騙された私・・・
そう言えば泣いたっけ・・・
今回も文句なしに面白かったです!
第三弾も忘れた頃に書いてくれると嬉しいな〜w
(本音はすぐにでもお願いしたいところですけどね)
571 名前:ロテ 投稿日:2005/11/14(月) 04:55
こんな時間に何やってんだろうと自分でも思います。
みきよし。
572 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:55

 ジュリオとロミエット
573 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:56

白い浴槽の中にゆっくりと身を沈めた美貴はふうと息を吐いた。
膝を抱え、その上に顎を置き、やたらチカチカする壁のタイルを見つめた。
足を伸ばしかけて舌打ちをする。ホテルの浴槽は狭くて好きではなかった。

「学校がちがうふーたーりーはー」

そっと歌った声が思いのほか反響した。

「ロミオとジュリエットー」

歌いながら片手を湯の上に滑らせて意味なく音を立ててみる。
ちゃぽんちゃぽんとリズミカルな音とともに湯が跳ねる。
面白くなり両手に力を込めて下からすくい上げた。
一段と大きな音がして、美貴は笑った。
その動作をしばらく繰り返しているとふいに浴室のドアが開いた。

「なみだぁとまらないぃわー」
「なに遊んでんのさ」
「ふふ〜。見てこれ、楽しくない?」

浴室のドアから抜け出した湯気がひとみの足もとを通り抜けていく。
じゃぼじゃぼと湯の中で遊ぶ美貴を見て、ひとみは呆れたように腕を組んだ。
574 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:57

「風邪ひかないようにちゃんとあったまりなよ」
「よっちゃんも入ろうよ〜」
「あたしはさっき入ったの」
「いいじゃん、もう一回入ったって」
「メンドクサイもん」
「いいから〜」

ひとみは組んでいた腕をほどき頭の後ろにまわした。
少し迷う素振りをして、美貴の機嫌を損ねない言い訳を考える。

「よっちゃ〜ん」
「ん〜」

考えたが何も思いつかない。
疲れてるから、なんて言ったら殺されそうだ。
美貴を見ると両手を広げて早く来いと手招きしている。
ちらちらと見える胸がひとみの背中を押したものの、理性が踏み止まる。

「ゆっくりあったまらないと風邪ひくから、これでガマンして」

浴室の床に膝をつくと右手を伸ばし、美貴の頭を引き寄せた。
湿った唇に口づけると美貴の両手がひとみの髪に絡まる。
そのまましばらくお互いの舌を味わってから唇を離した。
美貴が名残惜しそうに舌を出していた。
575 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:57

「おしまい」
「あぁん。よっちゃん、もっと〜」
「だーめ」
「けち」
「けち?」
「はいはい。体洗うから出てって」
「拗ねちゃって。可愛い」
「美貴は可愛いよ。当たり前じゃん。よっちゃんってホントけち」
「けちけち言うなよ〜」
「もう知らない」

じゃぼん、と大きな音を立てて美貴は立ち上がった。
ひとみに背を向けてシャワーを手に取ると振り返り、軽く睨んだ。
湯が跳ね、ひとみの服を濡らす。

「美貴ちゃーん」

ひとみを無視して美貴はシャワーを浴びた。
長い髪がたちまちのうちに肌に張りつく。
ライトの光が美貴の艶かしい背中を照らし出す。
髪、背中、腰、そしてすっと伸びた長い足をシャワーの湯が伝う。
ひとみは少しだけ後悔しながら浴室を出た。

「ばか…」

美貴の声はシャワーの水流にかき消され、ひとみの耳には届かなかった。


576 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:58

濡れた髪をタオルで拭きながら浴室から出るとひとみの話し声が聞こえた。
備え付けのテーブルに片肘をつきながらノートパソコンの画面を覗き込んでいる。
片手に持った携帯をパタンと折り畳むと横に置き、振り返った。

「まいちんだった」
「まだ聞いてないんだけど」
「どうせ聞くでしょ?先まわりしてみた」

そう言いながらひとみは無邪気に笑った。
自分の行動を読まれてることに、美貴は嬉しいような悔しいような複雑な気持ちになる。

「なに話してたの?」

バスタオルを体に巻きつけたまま美貴は化粧水を手に取った。
鏡を見たが自分の顔よりもひとみに目を向けてしまう。
ひとみはパソコンを見ながら美貴の問いに答える。

「ディナーショーのことでいろいろ。あと練習のこととか」
「こっち見ろ。ばか」

化粧水を持ったまま美貴は小さく毒づいた。

「ん?なんか言った?」
「なんでもない」

相変わらずパソコンを凝視してるひとみを美貴は鏡越しに見つめる。
ふぅと息を吐くと同時にひとみから視線を逸らし、自分を見つめた。
鏡の中の自分としばし見つめ合い、腰に手をあてる。
なんとなく腹が立ち、上から下までじっくりと眺めてから強めに睨んでみた。
577 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:58

「ぶははっ」

美貴が振り向くとひとみがこちらを見ながら笑っていた。

「なん、なんで自分に、ケンカ売ってんの…わははっ。美貴、こえー」
「うっさいなぁ。笑わないでよ」
「だって、美貴。腰に手あてて、超睨んでるし、うはっ何やってんのさ」
「あー、もう!」

美貴は笑い続けるひとみの背中を軽く蹴った。
それでも涙を流しながら、美貴を指差して笑うひとみ。
あまりにも笑われて美貴は少し恥ずかしくなった。
赤い顔を見られないようにひとみの背中にのしかかる。

「そんな笑うことないじゃーん」
「いやぁ、ツボにきたわ。うんうん、美貴ちゃんやっぱ最高」
「なんだそれ」
「マジで最高」

いまだ揺れる背中の上で美貴も笑った。
ひとみの髪に顔を埋めてぐりぐりと鼻をこする。

「うあっ、美貴くすぐったいって」
「うりゃうりゃ〜」
「ばっ、やめ、ちょっと待っ」
「よっちゃんのにほひ〜」
「うはははっ、くすぐって〜」

ひとみが普段よりも高い声を出して身をよじったが美貴はやめない。
ベッドでのときのようなその声をもっと聴きたくて、ひとみの肌に唇をおしつけた。
邪魔なシャツをめくりあげてブラの紐に沿って唇を這わす。
578 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:59

「あ!美貴だめ!!キスマーク絶対やめろよ!!」
「なんで?」

美貴の唇はすでにひとみの肩甲骨あたりを捕らえていた。
軽く吸ったり、歯を立てたりして濡らしていく。

「ここなら大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないって。ディナーショーの衣装で丸見え。背中ばっくりなんだから」
「むぅ〜」

美貴はしぶしぶ唇を離すとシャツを元に戻した。
ひとみの表情は見えなかったが明らかにホッとしているのがわかる。

「衣装って赤だっけ?」
「そ。まいちんは白」
「背中ばっくり?」
「けっこうね」
「鎖骨も?」
「そりゃあね」
「むかつく」
「は?!…ってイッテェェエ」

美貴がひとみの肩にがぶりと噛みついた。
唾液がシャツを濡らす。
579 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 04:59

「美貴!!」

ひとみは素早く振り返ると美貴の腰を両手で抱え、持ち上げた。
肩から引き離された美貴の唇から糸状の唾液が伸びて消える。
美貴は正面から向かい合うような形でひとみの腿に座った。
バスタオルが落ちかけ、谷間が覗く。

「噛むなよ〜」
「だって、むかついたんだもん」
「何に?ていうかけっこう前から機嫌悪かったよね、最近」
「そんなこと…」
「あるでしょ」
「気づいてたんだ」
「なんとなくだけどね。なんで?あたしなんかした?」
「したっていうかしないっていうか…」
「はあ?」

ちらちらと視界に入る谷間を気にしつつ、ひとみは肩を撫でた。
ずり落ちてきたバスタオルを心持ち少し上げてから美貴は答えた。

「よっちゃんが背中ばっくりドレスとかさー、なんで着るかな」
「なんでって衣装じゃん」
「美貴がしたいときにキスできないなんてありえない。キスマークつけたいのに」
「あのね〜」
「それに相手まいちゃんだし。なんで美貴じゃないわけ?ありえない」
「美貴ちゃ〜ん」
「むかつく」

ひとみの両手が美貴の背中を撫でる。
困ったような表情で、でも嬉しさを堪えきれないそんな顔に美貴はまた腹を立てる。
580 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:00

「なんで笑ってるわけ?人が真剣に話してるときに」
「えぇー?笑ってないよぉ」
「口もと、めっちゃ笑ってるんですけど」
「いやいや、だってねぇ。美貴ちゃんがめっちゃ可愛いんだもん」

再び「むかつく」と呟いて美貴は唇を尖らした。
そこにそっとキスを落とすひとみ。
口づけて、そしてまた笑った。

「あと他にもあるんだけど」
「まだあるのか〜なになに?」

言いながらひとみは美貴の顔を興味津々に覗きこんだ。
美貴の唇が動き、ひとみの唇に重なる。
両手をひとみの首にまわして引き寄せると音を立ててキスをした。

「キス、さけるんだもん」
「へ?あたし?」

コクリと頷く美貴。
ひとみが不思議そうに首を捻った。

「いつ〜?」
「ライブんとき」
「ライブ?」
「ピース」

数秒、考えてからひとみは納得したように「あぁ」と声を出した。
美貴はそんなひとみを上目遣いで見つめ、無意識にキスをねだっている。
581 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:00

「そんな顔されたら堪らないね」
「じゃあしてよ」
「もちろん」

二人の手がお互いを引き寄せ、そして顔を近づける。
首を傾げ、舌を覗かせ、たどり着いた先で渇きを潤すようにお互いを貪った。
美貴の手がだいぶ伸びてきたひとみの髪を掴み、ひとみの指が美貴の首もとを這い鎖骨を撫でる。
存分に舌を絡ませ、唾液を飲み込むと美貴は満足そうに目を開けた。

「こういうのしろとは言わないけどさ、ちゅってしたってよくない?」
「………」
「よっちゃん直前でさけるんだもん。けち」
「…ふぇ?なんだっけ」
「だからピースのとき!」
「あぁ、忘れてた。美貴ちゃんのキスすっげーんだもん」
「もう…」

そう言われては悪い気のしない美貴。
目をきらきらさせながら唇を近づけてくるひとみに軽いキスをして話を戻す。

「だからね、美貴は…えっと、なんだっけ?」
「ピースじゃなかった?」
「そそ。ピースだった。もうっ、よっちゃんのせいで話が進まないじゃん」
「うぇー、あたしのせい?」
「美貴のせいじゃないでしょ」
「そうかぁ?そうかなぁ?うーん」
「そういうことにしておこうよ」
「うーん、わかった」
「よっちゃんって本当にバカ…」
「バカって言う人がバカなんでっす」

にやにやと笑うひとみ。
バカだと思いつつもこんなバカが好きな自分も相当なバカだ、と美貴は思う。
582 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:01

「二人ともバカだね」
「おそろいだね」
「ハタチこえたうちらがたぶん一番バカだよね、メンバーの中で」
「美貴ちゃんと一緒ならそれもまたヨシ」

ひとみは嬉しそうに美貴の剥き出しの肩に口づけた。

「ピースのときにさぁ」
「あ、戻るんだ」
「戻るよ。もちろん」

当たり前のように話しを戻す美貴に、ひとみは苦笑する。
せっかく甘いムードなのにと、目の前の長い髪を弄びながら思った。

「よっちゃんなんでさけるわけ?美貴のキス」
「あんね〜美貴ちゃん。うちら一応ハタチこえてるんだよ?バカだけど」
「いいじゃんバカならしたって」

顎に手をあててひとみは考え込む。
大体にしてライブ中にキスをするという発想自体がおかしい。
だがそれを否定したり常識的に考えろと言ってもおそらく美貴には通じないだろう。
このモーニング娘。という特殊な間柄ではライブ中にキスという行為もありえないことではないから。
仕方なく、ひとみは本音を吐くことにした。
583 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:01

「あのね、美貴ちゃん」
「なーに?よっちゃん」

わざと小首を傾げて可愛い素振りをする美貴。
わかってやってるからタチが悪いとひとみはいつも思う。

「美貴ちゃんにちゅってされたらあたしの理性ね、飛んじゃうの」
「うんうん、それで?」
「まずいでしょ。仮にもリーダーが。いやリーダーじゃなくてもまずいけど」
「飛ぶとどうなるの?」
「それは…美貴ちゃんが一番よく知ってるでしょー」
「うん、知ってる」
「だからね、ちゅってできないの。したいけどね、必死にガマンしてるの」
「ガマンしてるんだ」
「そ、ガマンガマン。美貴ちゃんあんまあたしを誘惑しないでよ。ライブのとき以外はいいけど」

ひとみの切実な声に美貴は思わず噴き出した。
目に涙を浮べ、ひとみの肩をばしばしと叩きながら爆笑する。

「んな笑うなよぉ」
「よ、よっちゃんが面白くて、可愛いんだもん…あぁ、苦しい。おなかイタイ」
「ちぇっ」

ひとしきり笑ったあと美貴は指で涙を拭った。

「もうねー、よっちゃんが可愛すぎて持って帰りたいよ。連れ去りたい」
「持って帰りたいって…一緒にいるじゃん」
「ううん。今だけじゃなくていつも家にいてほしい。一家に一台ヨシザワヒトミ」
「台かよっ」
「あははは」

また笑い出した美貴に呆れつつもそれも悪くないなとひとみは思っていた。
一家に一台。藤本家にヨシザワヒトミ。うん、悪くない。
584 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:02

「そういやこないだ言ってたね『連れ去りたい』って」
「ああ、大阪だっけ?MCのときだったかな」
「ロミオとジュリエットみたいだって思わず言っちゃったけどあれよく考えたら…」
「二人って死んじゃうんだよね。よっちゃん縁起わるいよー」
「やっぱり?」
「相変わらずロマンチックだけどね」
「えへへへ」
「でも美貴がロミオってちょっと納得いかないんですけどー。ちゃっかりジュリエットとっちゃって」
「だって美貴が『連れ去りたい』なんて言うから。それにあたしのが女の子っぽいじゃん」
「あーたしかに。よっちゃん女の子女の子してるときあるもんね」
「ま、美貴ちゃんも女の子だけどね。女の子っつかセクシーな女性だけど」
「背中ばっくりドレス着てる人に言われたくなーい」
「それまだ言うか。けっこしつこいね美貴ちゃん」
「とーぜん!」

向き合いながら二人は同時に噴きだした。
時計の針はとっくに深夜を指している。
ホテルの部屋でぴったりとくっつきながら大笑いをするハタチを過ぎた二人。
他のメンバーはすっかり寝静まっているだろう時間帯にくだらないことを話しながら笑い続ける。
585 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:02

「あたしたちバカだなー。こんな時間に大爆笑しちゃってるよ」
「バカだねー。ありえないよこんなバカ」
「ジュリエットっつーかジュリオだよ」
「ぶっ!ぶあっははっはは!!ロミエット!!いい!それいい!」
「美貴ちゃんはロミエットね」
「ロミエット〜!!美貴ロミエットなんだ?!なんだそれー。バカ丸出し!あははは」
「おぉ〜ロミエット!」
「ジュリオ〜愛してる〜」

真夜中にこだまする笑い声。
美貴の心にあった少しの寂しさや少しの不満、少しの嫉妬はもう消えていた。
ひとみが笑い、美貴が笑う。
そうしてヘタクソな、コントのような芝居を夜が更けるまで続けていた。

「伸びた髪がセクシーだよ、ジュリオ〜」
「キスが上手いのね、ロミエット〜」
「ジュリオのほくろを数えるよ〜」
「ロミエットのパットの数よりは少ないわよ〜」
「………」
「あ、いや冗談です。じょうだ…ぐあっ」
「ジュリオどうしたの〜」
「な、なんでもないわロミエット…あなたが恋しくて頬が、じゃなかった胸が痛いの〜」



586 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:03

翌日。

案の定、集合時間にそろって遅刻したハタチを過ぎた二人をメンバーたちが呆れたように迎えていた。




587 名前:ジュリオとロミエット 投稿日:2005/11/14(月) 05:03

 <了>
588 名前:ロテ 投稿日:2005/11/14(月) 05:04
んんー、なんか書きたかったものと微妙にズレましたが仕方ない。
いろんなところには目をつぶってください。
589 名前:ロテ 投稿日:2005/11/14(月) 05:05
レス返しー。

566>名無し飼育さん
笑っちゃいましたか(・∀・)ニヤニヤ
最後はなんも考えずに書きましたがよかったよかったw

567>名無飼育さん
な、なんでも食べるって(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
すみません。書いてる人はちょと無理かもです。
そういえばギャップありますね〜気づかなかったw

568>通りすがりの者さん
お味のほうは想像したくもないですねw
楽しく読んでいただいてなによりです。

569>名無飼育さん
大好きイワレタ!!ヽ(゚∀゚)ノ
色んなみきよしを書きたいのでそう言って貰えてこちらも嬉しいです。

570>Yさん
前回(と言ってもかなり前ですが)で味をしめてやっちゃいましたw
藤もんは忘れた頃にまた書きますのでまた騙されてください(・∀・)アヒャ
590 名前:ロテ 投稿日:2005/11/14(月) 05:15
げげ。訂正。

>>585
○「ぶっ!ぶあっははっはは!!ジュリオ!!いい!それいい!」
×「ぶっ!ぶあっははっはは!!ロミエット!!いい!それいい!」

ごっちゃですみませんorz
591 名前:S 投稿日:2005/11/15(火) 11:21
>>585あたりの会話が大好きですw
ちょっとヤキモチやきのミキティ、可愛いw
うちにも一台希望・・。いや、切望。
592 名前: 投稿日:2005/11/17(木) 23:52
更新おつかれさまです。
私はみきよしをセットで欲しいです。
バカップルに乾杯!
593 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/18(金) 14:06
更新お疲れさまです。
なんだか本当にしてそうですね、逆にsry
次回更新待ってます。
594 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 05:42
更新お疲れ様です。
「ことの〜」から「たかが〜」までのスレを全部読み返し
気づいた事が・・・

自分はロテさんの世界観が好きです!!
次回の更新待ってます。
595 名前:J 投稿日:2005/11/22(火) 02:54
更新お疲れ様です。そういえば最近読むだけ読んでレスつけてなかったです。
今回も面白かったです。亀レスですが餃子シリーズ、俺も好きです。次は何を入れるんですかね。
596 名前:ロテ 投稿日:2005/12/11(日) 22:45
みきよし
597 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:46

 ちょっと曇り空のある日の午後
598 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:47

それはちょっと曇り空のある日の午後のこと。
よっちゃんと背中合わせに座って窓の外を眺めていたらふと思いついた。

「ねー、出かけようよー」
「へいへい」
「たまにはさー、買物とかしたいじゃん」
「そうだねー」
「なんかさ、お茶とかしたくない?」
「ほいほい」

コイツ美貴の話なんて聞いてないな、絶対。

「…よっちゃんって超巨乳だよね〜」
「まあねー」
「美貴には負けるけどね〜」
「それはない」
「なんでそこだけきっぱり返事するんだよバカ」
「イテっ」

サッカーのDVDに夢中で生返事ばかりのよっちゃんの後頭部に自分の頭をコツンとぶつけた。
頭を擦りながら背中合わせの体を剥がして、美貴の体をすっぽりと包み込むよっちゃん。
美貴の肩にあごをのっけて、意味もなく耳たぶを噛もうとする。

「くすぐったいって」
「えへへ〜」

お腹のところで組まれている手に手を重ねるとよっちゃんの指がリズミカルに動き出す。
指をトントンするこのよっちゃんの癖はいつもくすぐったい。
599 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:48

「昨日あたしがでかけようって言ったらさ、めんどくさーいっつったじゃん」
「だって昨日は雨降ってたじゃん。傘さすのめんどくさいんだもん」
「よく言うよ。いっつも人に持たせるくせに」
「だって〜よっちゃんが相合傘したいと思って〜」
「はぁ〜?」
「でしょ?」
「ん〜じゃあ、まあ、そういうことでいいや」
「やっぱり〜」

ぴったりと密着して。
耳の近くで声が聴こえて。
包まれた感触があったかくて。
なんとなくいい雰囲気で。

重ねた手の指が絡みだしたから、始まるのかな、なんて思ったけど。

「…そういえば、あたしも実はちょっと買いたいものあるんだ」

よっちゃんのこの一言で「行こっか」とあっさりお出かけモードになった。
涼しくなった背中に少しだけ残念な気持ちが残るけど自分が言い出したことだもんね。
それによっちゃんの「買いたいもの」も気になるし。
600 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:48

両手を差し出してよっちゃんにエイッと引っ張ってもらった。
立ち上がるとよっちゃんの顔がなぜかニヤニヤしている。
なんだろう?と首を捻ると目線で足もとを差したのでそのまま下を向いた。

「あたしたちの爪おそろいー」

舌足らずなよっちゃんの声はとても嬉しそう。
素足に映えた赤いペディキュアは見事に同じ色をしていて、すごく綺麗。
よっちゃんの足が、美貴の足をぺちぺちと叩く。
子供みたいにはしゃぐよっちゃんが可愛くて、美貴は思った。


やっぱり出かけるのやめない?


でも次第にぺちぺちがバシバシへと変化して。

「ちょ、ちょっと、いた、痛いんですけど!」
「ぬははは〜」
「オイ!絶対わざとだろ!!」
「うわぁ!んなことねーって。ジョークジョーク」
「どこがジョークなんだよ」
「いいから。ほら、出かけるよ〜」
「もう〜。よっちゃん待ってよ〜」

玄関のドアを開けて手招きしてるよっちゃんを追いかけた。



601 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:49

曇ってはいたけど暑くもなく寒くもなくちょうどいい気温。
空の色はグレーでも二人で手を繋いで歩いていると景色が明るく見える。
付き合いはじめの(バ)カップルみたいに浮かれてるわけじゃないけど、よっちゃんと他愛のない会話をしながら街を歩くだけでなぜか景色が違う。
何度も来たお店も、代わり映えのしない抜け道もそのときどきで色が違う。

そう、色が違うんだ。
よっちゃんと一緒の世界はカラフルで飽きるなんてことがない。

「ここ寄ろうよ」
「よっちゃん、あそこに新しいお店できてるよ!!」

よっちゃんが美貴の手を引いて。
美貴がよっちゃんの手を引いて。
どっちも譲らないから引っ張り合い。

「………」
「………」

目と目を見つめながら無言で、微笑みあいながら引っ張る。
通行人の邪魔だろうな、と頭の片隅では思ってるけど負けず嫌いな二人はやめられない。
602 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:50

「まずここ寄ってからあっちの新しいほう行けばいいじゃん」
「ここなんていつも来てるんだから後でもいいじゃん」
「はぁ?なに勝手なこと言っちゃってんのさ」
「こっちこそ、はぁ?だよ。どう考えたって美貴のが正論じゃない?」
「どこがだよ」
「全部だよ」

言い合ってはいるけれど、実はお互いこの状況を楽しんじゃったりしている。
刺激?エッセンス?そんなものとは少し違うかもしれないけどこういう遊びはいつものこと。
機嫌が悪くなったふりなんてしてるけど内心いつものパターンに笑いがこらえきれない。

「もー!なんでそんなワガママなんだよ。あたしよりおねーさんのくせに」

だって、大抵の場合よっちゃんが折れてくれるから。
仕方ないなぁ、なんて言いながら引っ張り合ってた手を解いて優しく握り直してくれるから。

「よっちゃんやっさすぃー」
「…で、どこ行きたいの?」

頭にぽんっと手を置いて、照れながら尋ねてくるこの瞬間がいつも好き。
そして見上げると決まってよっちゃんは言う。
603 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:50

「その顔ほんっと反則…」
「へぇ?なにがぁ?」
「わかっててやってんでしょ。その上目遣いは」
「んふふー」
「腕とか絡めて胸おしつけるなよ、ないくせに。だぁー!耳に息を吹きかけるなって」
「そんなこと言って、よっちゃん嬉しそうだよ。顔やばいよ」
「くそおー。惚れた弱みだ。くそおー」
「美貴がこーんなに可愛くて、よっちゃんすっごく幸せものだねぇ〜」
「あー、幸せ幸せ。ほら、行くよ」

また、力強く引っ張られる。
でもさっきとは全然違う。

髪に隠れた耳が真っ赤なことを振り払うようによっちゃんはずんずんと歩く。

「そっちじゃないよ〜」
「知ってるよ!!」

知らないくせに、得意気な顔をしちゃって。
首をぶんぶんまわしてきょろきょろしてるくせに。
可愛かったからしばらく眺めていたけれど、黙っていたら全く違う方向に連れられそうだったから目当ての店を教えてあげた。
「知ってたもん」なんてバレバレのウソを言うよっちゃんの手を、今度は美貴が引っ張った。



604 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:51

「やーん、これカワイイ〜」
「でたよ、ロリ声…」
「超かわいくない?ヤバイよね?マジかわいいよね?」
「あー?どれどれ?」
「よし、買おう。レジどこ〜?」
「ちょっと待ったああ!!」

ひと目見て気に入ったネックレスを買おうとしたらよっちゃんにもの凄い勢いで止められた。

ダメだよ、美貴が先に見つけたんだから。
欲しいって言ってもあげないよ。
たまに貸すくらいならいいけどね。

「それネックレスだよね」
「ハチマキにでも見える?」
「いや見えないし。つまらないし」
「………」
「と、とにかく、それ買うの?」
「買うよ。すっごく気に入っちゃったんだもん」
「それはどうかなぁ」
「は?」
「美貴ちゃんにはもっと似合うネックレスがあると思うよ。勘だけど」
「そりゃそうかもしれないけど…とりあえず気に入ったんだからいいじゃん、買ったって」
「いやいや、ダメだって。美貴ちゃんを待ってるネックレスがどこかにいるから」

いきなり何を言い出すかと思ったら。
よっちゃんってたまーに変なこと言うんだよね。
あ、たまにじゃないか。いつもか。
605 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:51

「どこかって。きっとこのネックレスだよ、美貴を待っていたのは」
「いーや!違う違う。それは美貴ちゃんを待ってないよ。たぶんもっと他にいい人に買われる運命なんだよ。美貴ちゃんが買ったらそのネックレスは運命の人に会えないんだよ?あーあ、かわいそうに。」

カッチーン。なんだそれ。なんの話だ。
美貴が買おうとしてるネックレスに同情の視線を送るよっちゃん。

「そんなこと言ったって欲しいものは欲しいの」

ネックレスに運命も何もないでしょうが。知らないよ、そんなこと。

「かわいそーだよ。美貴ちゃん買うのやめなって」

まだ言うか。
でも心なしかネックレスが可哀相に見えてきた…。
って、そんなわけない。あるわけないじゃん!
騙されるな、美貴。

「わけわかんないから。とりあえずどいて」

目の前に立ちふさがるよっちゃんをどかしてレジに向かった。
けど、それでもなぜかしつこく食い下がってくる。
606 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:52

「だぁーっ!!行くならあたしを倒してから行け!」
「はぁ?じゃあ遠慮なく」
「や、待って待って!そこは違うでしょ!倒しちゃダメじゃん」
「もう〜うるさいなぁ。いい加減に買わせてよ」
「あ、いま彩の国からお告げがあって美貴ちゃんを待ってるネックレスが某所で見つかったって」
「サイ?アフリカ?」
「ちげーよ!埼玉だよ!」
「某所ってどこだよ」
「それはトップシークレット」
「よっちゃぁん、意味わかんないんだけど」
「いーから行くよ!」

こういう意味のわからないよっちゃんも好きだけど時々ついていけなくなる。
呆気に取られていたらあっという間にネックレスを奪われた。
そしてあれよあれよと背中を押され、いつのまにか店の外。
そのまま腕を組まれて来た道を引き返す。
その勢いに圧倒されてか、横顔がいつになく真剣に見えたからかはわからないけど無言で従った。

なんかもう、何を言っても無駄な気がしたし某所で待ってるというネックレスも気になった。
歩きながらチラチラとこっちを見るよっちゃんも何も言わない。
まるで美貴がちゃんとついてくるのを確かめているみたい。
でも手を繋いでるんだからそんなに振り向かなくてもいるのわかるでしょ。

なんだろう。
どこに行くんだろう。

よっちゃんのわけのわからない行動にドキドキしてきた。



607 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:53

「え?ここ?」
「うん」
「さっきよっちゃんが入りたがってたとこじゃん」
「そうだよ。とりあえず入ろ」
「え?ここって、でもいつも来てるよね?」
「うん。こんちわー」

迎えてくれたのは馴染みの店員さん。
常連の美貴たちを見てにっこりと笑った。

「さっきよっちゃん負けたよね?」
「ああ、引っ張り合い?いつものことだけどね」
「美貴の買物を邪魔してまでここに先に来たかったの?」
「うわ。美貴ちゃん怖いよー。声が低いよー。やだなぁもう」
「こ・た・え・な・さ・い」

店の真ん中で仁王立ちをしながらグッと目に力を入れてよっちゃんを見る。
おろおろしだしたよっちゃんを見て、馴染みの店員さんが噴出していた。
他に客がいないのをいいことに、美貴は腕組をしてさらによっちゃんを睨んだ。
608 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:53

「お、おちつけって」
「落ち着いてるもん」
「そ、そう?ならよかった」
「あのね、よっちゃんのわけわからない言動はいつものことだし好きだし楽しいよ?」
「わーい。好きって言われたー」
「………」
「つ、続けてください」
「美貴、さっきのネックレス本当に欲しかったのに」

すまなさそうな表情のよっちゃんを見て、言うほど欲しかったわけじゃないなと気がついた。
どっちかっていうと理由も言わずにここに連れてきたよっちゃんに少し腹が立ってたのかも。
どこに行くんだろうってワクワクしてたのに、結局いつもの店なんて。
この店は嫌いじゃないけどさ、むしろ好きだけど…。

ホントはさっきのネックレスをよっちゃんが買ってくれるかもって期待していた。
そんな勝手な期待をしていた自分がバカみたいに思えて急に情けなくなった。

いろんな感情が入り混じってグチャグチャになってその結果が仁王立ち。
何やってんだろう、自分。
要するによっちゃんの気持ちがわからないことが寂しいだけなんだよね。
美貴をこんな気持ちにさせるのは、よっちゃんだけだよ。
609 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:54

「ごめん。さっきのやつ買いに行こうか」
「…もういい。もう欲しくなんてないもん」

つい強がってしまう自分。
そっぽを向いて、でもかまってほしくてチラ見する。
そんな美貴のことはよっちゃんには全てお見通しらしい。
いつもならこんな子供っぽいことを言ったら絶対からかってくるのに、今日は違った。

「そっか…」
「………」

沈黙が重苦しい。
何か言わなきゃ、何かしなきゃと思うけど声が出ない。体が動かない。
視線が下がる。見慣れた床の色がなんだかいつもより暗く感じる。

なんでこんな雰囲気になっちゃったんだろう。
さっきまでは普通に部屋でマッタリ寛いでいて、何も言葉はなくても安心してた。
静かに、穏やかに流れる午後をよっちゃんと二人寄り添って過ごしていたのに。
610 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:54

空は曇り空でもよっちゃんと一緒ならワクワクして自然にテンションも上がった。
見慣れた街並みがいろんな色に見えてすごく新鮮だった。
繋いで手からあったかさと力強さが伝わって、負けないように握りしめた。

それなのに今は。

さっきまでそこにあった温もりはない。右手が寒い。
言葉を交わさなくても笑いが零れていたのに。顔が見れない。

ほんのちょっとしたことでどうしようもなく寂しくなるなんて。
脆いなぁ。美貴ってけっこう脆いんだ。
好きとか愛してるって言っても些細なことですれ違っちゃうよ、よっちゃん。

ダメなほうダメなほうへ流れていく思考をストップさせようと目を瞑って首を振った。
でもぎゅっと瞑った瞼がすぐそこまで押し寄せていた涙腺を刺激して涙が出た。

バカ、涙でるなバカ。
こんなことで泣いたらよっちゃんに呆れられちゃうよ。
611 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:55

「美貴……」

必死に涙を堪えていたら耳もとで声がした。
いつのまにか後ろに立っていたよっちゃんが心配そうに覗き込む。

「ご、ごめん。ちがうの」

涙を否定して、涙を拭おうとしたときに気づいた。
目の前の鏡に映る自分の首に光るものの存在に。
そしてよっちゃんが鏡の中の美貴をじっと見ていることにも。

「これって…」
「美貴のことを待っていたネックレスでっす!」
「………」
「あ、やっぱさっきのネックレスのがよかった?」
「や、ちがっ…」
「なんかもっと普通にサラっと渡したかったんだけどなぁ」
「ふぇ?」
「まさか美貴があっちの店でネックレス欲しがるなんて思わなかったから、テンパっちゃった」
「よっちゃん…」
「もっとさりげなくこっちに誘導したかったんだけどね、うあーカッコわりぃ」
「ぷっ」
「笑うな」
「ぷっ、くっくっく…あっははははは」
「なんだよもう。そんな笑うなよ〜」
612 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:55

鏡の中の情けない顔したよっちゃんを見て大笑い。
拗ねて唇を尖らせる姿がおかしくてまた涙が出た。
ずっと笑ってたら怒ったよっちゃんが「ガオー」とか言いながら襲ってきた。
キャーキャー叫びながら店内を逃げ回る。
両手をあげて追いかけて、美貴の耳にかぶりつこうとするよっちゃん。
くすぐったくて、おかしくて笑いが止まらない。
店員さんも隠れたつもりでクスクス笑ってるけど普通に見えてますよ。

「はぁはぁ。疲れた…」
「美貴も、笑い疲れた…」

ゼーゼーと肩で息をするほど狭い店内を走り回った。
ああ、ごめんね店員さん。ドタドタうるさかったでしょ。
でも美貴たちを見ながら笑ってたからまあいっか。
613 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:56

「なんの記念でもなんでもないからさ」
「え?なに?」
「さっきのネックレスより全然安いけど…美貴に似合うと思って。それ」

反射的に首に手をやって感触を確かめた。
手近なところにあった鏡を覗き込む。
そういえばびっくりしたのとよっちゃんが面白かったのとで忘れててちゃんと見てなかった。

「この前ここに来たとき見つけて、ソッコーで予約したんだ」
「………」
「びっくりさせようと思って…。気に入ってくれると、嬉しいんだけど…」

語尾がちょっと弱々しい。
こんな自信なさそうなよっちゃんは珍しい。

「やっぱさっきのネックレスのがいいよね?だよね?よし、買いに行こう。買ってあげるよ」

そう言うとよっちゃんは美貴の答えも聞かずにさっさと外に出ようとした。
ちょっとちょっと、なんで一人で勝手に納得してるのよ!そうはいかないんだから!

「バカよっちゃん!!」
「ぐ、ぐえぇっ!!」

慌てて追いかけたらスピードがつきすぎたのかしょんぼり気味の背中に思いっきりぶつかった。
美貴とドアに挟まれて苦しそうな声をあげるよっちゃん。

「あ、ごめんごめん。つい勢いが」
「く、苦しい…」

振り返ったよっちゃんは鼻が真っ赤でおまけに半ベソだった。
それが今のタックルのせいなのか、ネックレスのせいなのかはわからない。
でもたぶん、真っ赤な鼻はタックルのせいだと思うけど。
614 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:56

「バカよっちゃん。もう、このバカバカバカバカバカ」
「な、なんだよ〜」
「よっちゃんが選んでくれたものが嬉しくないわけないじゃない…」
「み、美貴ちゃ…」
「すごく、感動して、声もでないくらい、うれ、うれし…」
「美貴!」

視界が滲んだと思った次の瞬間にはよっちゃんの腕の中だった。
ぎゅうぎゅう抱きしめられて動けない。けど気持ちいい。
泣いたのが恥ずかしくてよっちゃんのシャツで涙をぐいぐい拭いてやった。

「よかった。美貴が喜んでくれて」
「当たり前じゃん。嬉しいに決まってるもん」
「そっか。ホントよかった。あたしも嬉しい」

抱き合ったまま「ありがとう」と言うと「どういたしまして」と返ってきた。
よっちゃんの肩越しに外の景色が見える。
店の名前が刻印されたドアの向こうにグレーの曇り空。
見慣れた街並みに、変わり映えのしない裏道。
休日はやっぱりカップルが多くて、夕方には買物帰りの家族連れが楽しそうに歩く。

いつもと変わらない風景。だけどいつもと違って見える風景。
615 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:57

「今日の夕飯は美貴が愛情込めて作るからね」
「ホントにー?どうせ焼肉だろう?」
「うん!」
「焼くだけじゃん」
「愛情込めて焼いてあげるよ?」
「はいはい。ありがとねー。じゃあカフェでお茶してから肉屋さん寄って帰ろっか」
「うん!のど渇いちゃったねー」

ちょっと曇り空のある日の午後。
空はグレーでもいろんな色に見える街並みをよっちゃんと手を繋いで帰る。
ネックレスと焼肉と、それから今日見たよっちゃんに似合いそうなジャージを思い浮かべる。

「よっちゃん、また次の休みも買物に来ようね」
「そうだねー」

ちょっと曇り空のある日の午後。
そして最高に幸せな、ある日の午後。

好きな人と歩く帰路は夕焼け色に染まっていてとても綺麗だった。



616 名前:ちょっと曇り空のある日の午後 投稿日:2005/12/11(日) 22:57

 <了>
617 名前:ロテ 投稿日:2005/12/11(日) 22:58
ラブラブは難しいっす。
レス返しー。

591>Sさん
ミキティ可愛かったですかそうですかw
楽しんでもらえてよかったです。
切に望まないでください(苦笑

592>Y
どうもどうも。いつもありがとうございます。
じゃあ同じく乾杯!そして完敗!w
セットは贅沢です。贅沢は敵です(謎

593>通りすがりの者さん
レスありがとうございます。
いつも待ってもらってありがたいです。
本当にしてそうで妄想が負けそうですw

594>名無飼育さん
スレを全部読み返したなんてこちらこそお疲れ様ですw
いやはや、なんだか少し恥ずかしいですが嬉しくもあります。
まだまだこれからも頑張りますのでよろしくお願いします。

595>Jさん
レスありがとうございます。
楽しんでいただけてホッとしてますw
餃子の中身は何がいいですかねぇ…アイディア募集中とか言ってみたり。
618 名前:ロテ 投稿日:2005/12/11(日) 23:07
年内にあと一回くらいは更新したいものです。ではノシ
619 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:58
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
620 名前:S 投稿日:2005/12/12(月) 15:30
日常のぽわわってしたみきよしも
可愛いですねえw
>>606あたり、噴きましたw
年内更新をまったりお待ちしています。
621 名前:ロテ 投稿日:2005/12/14(水) 03:01
みきよし
622 名前:洞窟かあるいは鍾乳洞の中で 投稿日:2005/12/14(水) 03:02

 洞窟かあるいは鍾乳洞の中で

623 名前:洞窟かあるいは鍾乳洞の中で 投稿日:2005/12/14(水) 03:03

ゆらゆら揺れていた。
目の前がゆらゆらと揺れていてやがてそれはぐらぐらに変わってやばいなと思ったときにはふらふらしていて気づいたときにはふわふわしていた。

「ばっかじゃないの」

洞窟の中にいるみたいな気分だった。聴こえてくる声はたしかに聞き覚えのある声であたしの耳に届く前なのか届いてからなのか知らないけどやたらと響きまくっていた。まるで素敵なアイテムを探しに入った洞窟の中のように。あるいは鍾乳洞の中をカメラ片手に歩いてるみたいに。どっちにも入ったことはないけどたぶんこんな感じなんだろう。

「美貴、入ったことあるよ鍾乳洞。沖縄で」

得意気に言われてもべつに羨ましくはなかった。それよりなぜあたしの思ってることがわかったのだろう。きっと美貴はあたしの心が読めるんだ。考えてることがわかるんだ。そこに愛があるからとか愛ゆえにわかるとかそういうレベルの問題ではなくきっと美貴はエスパーで超能力者で(両者の違いがわからない)ひょっとしたら地球外生命体で特殊能力を持っているからあたしの考えてることがわかるんだ。だから例え相手があたしじゃなくても見抜けるし先回りして答えられるし言い当てられるし察してくれるし希望を叶えてくれるんだ。

「さすがに希望は叶えられないよ」

それはよかった。あたし以外の人間の希望なんて叶えなくていいし見抜かなくても察しなくてもそもそも見たり喋ったり相手にしなくてもいい。地球外生命体の友達だったり組織から一緒に逃げ出したエスパー仲間だったら仕方ないからいいけど。そう「思う」と美貴は笑った。

「エスパーでもないし超能力者でも地球外生命体でも、あとなんだっけ?とにかく違うよ」

違うらしい。あたしは相変わらず洞窟かあるいは鍾乳洞の中にいる。アイテムは見つからないしかと言ってモンスターにも会わないしシャッターチャンスもこれといってない。
624 名前:洞窟かあるいは鍾乳洞の中で 投稿日:2005/12/14(水) 03:03

「よっちゃん気づいてないの?全部声に出てるよ」


ゼンブコエニデテルヨ


暗号のような呪文のような言霊のような美貴が唱える言葉がやはり響いていた。

「のぼせてるんだか酔っ払ってるんだかわかんないね、まったく」

洞窟かあるいは鍾乳洞の中にいるあたしは奥へ奥へと手探りに進んでは暗闇と光が交互に訪れる不愉快な反射に目を傷められてたぶん眉間にしわを寄せていてそれはきっと気分的にはなんとか海溝ほどに深くて底知れない。せっかくだからゆらゆらと揺れながらなんとか海溝に落ちてやろうじゃないか。洞窟かあるいは鍾乳洞の中を後にした。

「長風呂もいいけどほどほどにしてよね」

なんとか海溝では美貴の声が反響して何重にもダブって聴こえた。まるで美貴が何人もいるよう。美貴と美貴と美貴と美貴と美貴と美貴がいてあたしがいる。膝枕してくれる美貴と爪を切ってくれる美貴とミカンを剥いてくれる美貴と迎えに来てくれる美貴とシーツを替えてくれる美貴とずっとあたしを抱いている美貴がいてずっと抱かれているあたしがいる。美貴の太ももを撫でるあたしがいる。ん?太もも?
625 名前:洞窟かあるいは鍾乳洞の中で 投稿日:2005/12/14(水) 03:04

「よっちゃーん。これ何本かわかるー?」

ゆらゆらと揺れる美貴の指。頭の下に美貴の太もも。思考の先にはやがて訪れるかもしれないなんとか海溝の底の底。沈没船にでも遭遇したら美貴のために宝物を探そう。頬や額を交互に行き来する冷たい感触はちらと見えた白さから行っておそらくタオル。タオルを握る美貴の細い指とその先の腕を辿るとちょっと目を細めた美貴の顔があって反対側の肩から伸びる腕の先にある手と指がゆらゆらと揺れている。

「ダメだこりゃ」

ゆらゆらと揺れているのは美貴の指だけじゃなくてあたしの頭と地球。

「おやすみ、よっちゃん」

目を閉じて太ももを撫でたらゆらゆらが消えた。


626 名前:洞窟かあるいは鍾乳洞の中で 投稿日:2005/12/14(水) 03:04

 <了>

627 名前:ロテ 投稿日:2005/12/14(水) 03:08
15分で書いたって言ったら納得されそうな更新終了。
レス返しー。

620>Sさん
ありがとうございます!!
ちょっとでもポワワってなったり笑ってもらえたらハッピーです。
これからも頑張りすぎて空回らないように頑張ります。
628 名前:ロテ 投稿日:2005/12/14(水) 03:09
実際15分で書きました。
629 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/17(土) 22:39
え、執筆時間15分て。マジですか。
実は物凄い時間がかかったってオチではないんですね(w

しかしよっちゃん可愛いなぁ。まったくもう。
630 名前:ロテ 投稿日:2006/02/26(日) 00:02
ミキティ21歳の誕生日おめでとう。
てことで久々の更新。みきよし。
631 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:03

愛ゆるく

632 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:03

いつ、と聞かれればそれはよっちゃんが美貴の手を強く握って、握ったかと思ったらふいに離して小指のつけねあたりをすっと撫でたその瞬間だったと思う。

美貴のことなんてこれっぽっちも見てなくて、皆がよってたかって小春にダンスを教えてるのを見てるのか見てないのかとにかくそっちのほうを向いていて、美貴ではない誰かを見ていたくせにいかにもリーダーです、というようなしたり顔を作ったまま右手は意味もなく自分の前髪を触り、左手は意味ありげに美貴の小指を撫でていたそのとき。

まるで興味がなさそうにまるでこっちを見なかったよっちゃんは、そのくせ視線を強く欲しがっていた。欲しがられていることに気づいてしまった美貴の、ある意味負けだったのかもしれない。よっちゃんが視線以上を欲しがるようになったのはそれからすぐだった。

だからいつ、と聞かれればきっとそのときなんだろう。よっちゃんが初めて美貴の小指を撫でて、美貴が初めてよっちゃんの求めるものに気づいてしまったそのときから、二人のこの説明のつかない曖昧で何を基に繋がっているのかわからない関係がゆるく続いてる。

この関係を「付き合い」とか「恋人」とか「カノジョ」とか、そういうわかりやすい言葉では表現できなかった。小指を撫でられ、横顔を見つめれば二人はいつでも成立した。言葉はなく、確かめることもせず、一方は見つめてほしがり、もう一方は見つめ、ときに冷たいシーツやときに温かい湯にともに身を沈める関係……つまりどんな関係だよ、と自分でも思う。
633 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:04

「それって完全に付き合ってるでしょ」
「そうかな」

ほんのりとした酔いにまかせて喋る美貴に横からツッコミが入った。
手に持ったグラスはすでに生ぬるく、真ん丸だったはずの氷は見る影もない。

「よっすぃが見てほしがるのって、他の誰かにじゃなくてみきたんにってこと?」
「うん」
「みきたん限定?なんでわかるの?」
「美貴の小指撫でるから」
「……で、みきたんは見てあげると」
「そう」
「なんで」
「よっちゃんが見てほしがってるから」
「ラブラブじゃん。勝手にしてなよ」
「勝手にするけどべつにラブラブってわけじゃないよ」
「そういうの世間じゃラブラブって言うんだよ。みきたんの定義とは違うかもしれないけど」
「百歩ゆずってラブラブだったとしても付き合ってるわけじゃないよ」
「ゆずらないでよ…いや、ゆずっていいのかな?この場合。ああ!よくわかんない」

たしかによくわからないと思う。でも当人たちがわかってないんだから亜弥ちゃんにわかられてはたまらない。不服そうに唇を曲げて腕を組む亜弥ちゃんは、わからないことが悔しいという振りをしながら実のところ、美貴のことを心配してくれている。そういうことはわかっちゃうんだよなぁ。

「よっすぃのこと…好きなの?」
「もちろん好きに決まってんじゃん」
「エッチするほど好きってこと?そういう意味で好きなの?」
「実際エッチしてるんだから…そりゃ好きってことじゃないの?」
「みきたん、自分のことなんだからもっと主体的に話しなよ」
「だって美貴にもよくわかんないんだもん」
「はぁ〜。じゃあよっすぃはみきたんのこと好きなの?」
「だからぁ、好きじゃなきゃ…」
「ハイハイ。エッチしないって言いたいのね」

そうは言ったものの実際のところはわからない。好きだよとか好きですとか好きかもとかとにかく好きなんて単語をよっちゃんの口からは聞いたことがない。温野菜がすきとか汗をかくのがすきとかは聞いても「美貴」を「好き」という言葉は聞いたことがない。同じように、美貴も口にしたことはないけれど。
634 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:04

「それでよく成り立ってるよね。なーんか変なの」
「やっぱ変かな。美貴はそれで満足なんだけど」
「そう?ホントは好きって言いたいし、言われたいんじゃない…?」
「まさか、そんなこと」

反射的に口をついて出たその否定の言葉に少しの引っ掛かりを感じたけれど、所詮少しくらいのことと気づかぬ振りをして流してみたら意外にもその少しの引っ掛かりが喉の奥に詰まって、変にむせて亜弥ちゃんに哀れむような顔をされてしまった。いや、違うんだって。これはそういうんじゃなくて。肝心の言葉が出ず、そう目で訴えた。

「みきたん」
「……ちょっと待っ………ああ、なんかいきなりむせちゃった。梅が変なとこ入った」
「ね、みきたん。いつからよっすぃとそういう関係になったの?」
「どしたの突然」
「なんとなく」
「えーとね、初めて小指を撫でられたときかな。ダンスレッスンで小春が…」

わからないことだらけの曖昧な関係の中で唯一はっきりしてるその瞬間のことを美貴は亜弥ちゃんに話して聞かせた。とくに面白みのない、やっぱり亜弥ちゃんにとってはわけのわからない話だったと思うけど彼女はじっと耳を傾けて聞いていた。美貴の話を聞き終わってもやっぱり納得のいかないような顔をしていたけれど、もう言うことはなかったのか香港のお土産期待してるよなんてまったく関係のない言葉で締めくくって帰っていった。エッチの前に撫でられる小指がエッチの後にはキスされるなんて果てしなくロマンチックなことはもちろん知らずに。

さんざんエッチした後でも小指にキスをされるとまた気持ちよくなる美貴はおかしいのかな、なんてことはさすがに親友相手と言えども聞けず、でも聞いたときの反応も見てみたかったなという気持ちがしなくもないのは美貴がエロいせいか。自分の小指を焼酎の名残りに浸してペロっとひと舐めし、そんなとりとめのないことを考えていた。焼酎の味はあまりしなかった。
635 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:05

◇ ◇ ◇
636 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:06

「こんこんインッほんこーん!」
「よっちゃんつまんないから」
「いーじゃん。面白いじゃん」
「べつに面白くないよ。ほら、こんちゃんビミョーな顔してんじゃん」
「いやあの顔はきっと食ってる肉まんがイマイチだからだよ。ほら、皆も言えって。インッは強めな、インッは。はい!せーの!!」
「こっ」
「おまえら言うなよ。絶対言うなよ」
「………」
「ミキティひでぇ〜。せっかくこんこんがほんこんに上陸したまたとない機会なのに」
「あっつー。香港暑すぎ。焼けそ」
「シカトかよ!ちょっと皆さん見ました?シカトですよシカト。小春はこんな大人になっちゃダメだぞ」
「あ〜い」

鬱陶しい暑さだった。
バカみたいな会話が余計に温度を上げている気がする。

「よし、じゃあ皆ちっちゃい声でこっそりひっそり言うぞ。バカれいな声でけーよ!シーッ!ミキティに聞かれちゃうだろ」

普通に聞こえてるんですけど。
真横で内緒話って絶対聞かせようとしてるよね。
ていうかよっちゃん、あんたの声が一番おっきいから。

「いくぞ。せーの!」

掛け声とともに撫でられた小指。
後ろ手に、器用なヤツ。

「こんこんインッ!!!ほんこーん!イェーイ!!」
「いぇーい!!」

反射的に見たよっちゃんの顔は、やっぱり美貴のほうなんて見ちゃいなかった。
637 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:06

◇ ◇ ◇
638 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:07

ガンガンにエアコンを効かせた室内は少し肌寒いくらいだった。
昼も夜も鬱陶しい暑さが続く外とはまるで別世界。
ひんやりしたシーツに滑り込むと素肌に触れる部分が気持ちいい。

ベッドが揺れてシーツとシーツの間に冷えた空気が流れ込む。
後ろから抱きしめられて顔だけ振り向くとキスをされた。
そしてシャツの中に入ってきた手がブラのホックを外した。

「よくわかったね」
「ん?」
「フロントホックだって」
「勘かな」
「さすがよっちゃ…んっ…あぁん……」

よっちゃんの指先が難なく美貴の先端を探り当て、抓むと同時に耳たぶを咬まれた。
すぐに固く尖った先端を乱暴な爪が強く弾き、その痛みが快感へと変わる。
かと思えば手のひらにほんの少し触る程度でゆるゆると撫でられ、たまらなさから自分の唇を咬んだ。

「咬んじゃダメ」

顎を捕まれて無理やり後ろを振り向かされる。
ちょっと体勢的に首が痛いんですけど、なんて文句を言う暇もなく唇を塞がれた。
美貴が自分でつけた咬み痕をよっちゃんの生温かい舌が丹念に舐めまわす。
まるで傷を癒すかのようにしつこいくらいに舐められた。
傷になんて、なってないのに。

「んぁ……やっ…はんっ…」

舐めながらよっちゃんは美貴の服を一枚一枚剥いでいく。
その動きはとくに早くはなく手際がいいわけでもない。
かといってモタモタ手間取ることもファスナーがどこかに引っかかるということもない。
ごくごく自然に、適度なスピードで彼女は美貴を剥いていく。

りんごを食べるために皮を剥くように、よっちゃんは美貴を剥いていく。
剥かれるていく過程で触れられた箇所はじんわりと熱を帯びていた。
何が楽しいのか相変わらず唇を舐めまわしている舌を捕まえて反撃に出る。
639 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:07

「ふぁ……やんっ……ん……」
「んはっ…はぁっ……あぁぁ……」

向き合い、抱きしめてわざと唇を離そうとするとすぐに追いかけてくる。
息がつまるような激しいキスと体が折れるような抱擁が痛い。
でもその痛みは同時に快感をも連れてくる。
もしなかったらと考えると、ひどく寂しかった。

髪に両手をうずめて後頭部を抱えられた。
深く、より奥まで侵入してきた舌が口の中をかきまわす。
二人の舌は絡み合ってもつれあってひとつの生きものになっていた。
お互いの唾液を飲み込み、満足したように息を吐く。

口の中も美貴の中もぐちゃぐちゃだった。
美貴を見つめたままよっちゃんの手がゆっくりと下りていく。
へそを通り過ぎる手がそこを触れることを想像したらさらに濡れた。

触られやすいようにと開いた足はとても素直だった。
640 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:08

「ぐっしょぐしょに濡れてちゃってるね、美貴のここ。溢れてるよ」
「はぁんっ…いい……よっちゃ…あぁんっ……」

へそやわき腹を舐めながら美貴のそこを這う指は、でも中には入らない。
反対の手で尖ったままの乳首をいじくられておかしくなりそうだった。

「入れてほしい?ほしいよね?もうたまんないでしょ。こんな」
「あぅ……」
「ぱっくり開いちゃって。すげー真っ赤」

膝の裏を押し上げられてよっちゃんの眼前にすべてをさらけ出す格好になった。
胸が膝に圧迫されて少し苦しい。
両手を真横に滑らせてそのときを待つ。
恥ずかしいとかそんな羞恥心なんてとっくになくなってて、とにかく欲しかった。
ううん、ひょっとしたら最初から恥ずかしいなんて思ってなかったのかもしれない。
美貴もよっちゃんに見られたかった。
すべてを、見て欲しかった。

「たまんないね…ヒクヒク動いてこんなにあたしを欲しがってる」
「よっちゃん……おねが…い」
「うん。ほら、簡単に飲み込んだ」
「あぁぁっ……はぁん…んあっ…もぅ…やぁ…あんっ………」

よっちゃんの長い指が美貴の中にずぶずぶ入ってきた。
進む先に迷いはなく、動くたびに刺激が降ってくる。
美貴のそこがよっちゃんの指を受け入れてもっと奥までと誘い込んでさらに飲み込む。
繋がってる部分の熱さと手に触れたシーツの端の冷たさがアンバランスだった。
641 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:08

「すごい締めつける…美貴の中すごいよ。あたしの指食われそう」
「ばかっ……よっちゃん…あぁん…よっちゃん…よっちゃん…」
「ほら、抜こうとするとすごい絡みつく…入れると締めつけるし…」
「んぁ…やああ…おねが…よっちゃ…おねがい…」
「さっきから溢れっぱなしだよ…いつもよりすごいんじゃない?」
「もぅ…ほんと…に……だめ……んぁあっ…よっちゃぁ…」

目の前を霞がかかったようにはっきりとしない色が広がった。
透明に近い白の向こう側によっちゃんの姿がかすかに見えた。
涙が滲み、その姿が徐々に見えなくなる。
無意識に伸ばした手の先が届く前にとてつもない快感に襲われ、そのまま果てた。

「見ていてあげるから、いっていいよ」

小指に柔らかい感触がした。





642 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:09

「美貴もしかして寝ちゃってた?」
「だいぶね」

唇を離したよっちゃんは優しい顔をしていた。

「やっぱり普段と違うところだと新鮮だね」
「日本じゃないってだけでなんか気分違うもん。それに夜景はすごいしベッドは広いし」
「なんか無駄に豪華だよな、このホテル」
「香港っていいとこだな〜」
「昼間はあんなに暑い暑いって文句言ってたくせに」

よっちゃんが笑って剥き出しの胸が揺れた。エロいなぁ。

「だって暑いのは暑いじゃん」

首に抱きつくとすっと腰に手がまわされた。
なんの躊躇もないいつもの自然な流れ。
このまま腕枕をしてもらってまた寝たら気持ちいいだろうな。

「ねぇ、美貴ちゃん」
「ん……?」

よっちゃんは美貴のことをちゃん付けで呼ぶときがたまにある。
それがどういう法則なのか、どういう心理状態からなのかはまだわからない。
でもなんとなくよっちゃんが何かを話したそうにしてるはわかったから寝かけた頭を起こした。
643 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:10

「なんかさぁ」
「うん」
「うちらよく考えたらすごいことしてるよね」
「はぁ?」
「だってさ、あんなとこ舐めあったり穴に指突っ込んだり恥ずかしい姿勢だってなんの躊躇いもなくするじゃん」
「よっちゃんいきなりどうしたの?穴とか突っ込むとか真顔で言わないでよ」

あまりにも真面目な顔と声で何を言い出すのかと思ったら。
話の内容とのギャップが激しくて笑いが堪えきれなかった。
剥き出しの自分の胸が揺れたかどうかは確認しなくてもわかる。

「なんかすごいなぁと思ってさ。不思議だよね、エッチって」
「しみじみしないでよ〜おっかしいから」
「笑うなよ〜。あたし今すごく感動に浸ってるんだから」
「はぁ?なにそれ?」
「土地が変わったからかな、普段は考えないようなことを考えちゃうのは」
「感動って何に?」
「愛ある行為だなって。愛撫っていい言葉だね」
「………」

それからよっちゃんは美貴の肩を抱いて、髪に瞼にそしてまた小指にキスをした。
美貴が不思議なのはよっちゃんの唇がなぜこんなに気持ちいいのかということ。
サラサラしてるとかプニプニしてるからとかそういう表面的なことだけじゃなくもっと何か別の、それこそよっちゃんの言う愛ある行為だから気持ちよく感じるのか。
そんなことを考えながら唇の動きをじっと見ていたら当のよっちゃんは「ああ」というような何かに気づいた顔をして、美貴の唇に迫ってきた。

軽く触れるだけのキスをして「どう?」という上目遣い。
「ん?」と目だけで答えるとふっと笑ってもう一度キス。
そして窺うような目線。
何かいろんなことを勝手に解釈してるみたいだけど、べつに唇に欲しかったわけじゃないんだよ。
美貴は考えていたんだから。
よっちゃんと同じくこの香港という土地をきっかけに、今まで避けていたことを。
644 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:10

なんてことを説明しようかしまいか迷っていると今度は「仕方ないなぁ」という大げさな表情で、でも目の端が笑ってるからそれがポーズだってのはバレバレなんだけど、また唇が寄せられた。

舌が軽い吐息とともに上唇と下唇を割って侵入してくる。
とろけるようなとはまさにこういうことを言うんだろう。
熱くて甘くて何も考えられなくなるような情熱的なキス。
時間をかけてたっぷりとキスを交わした美貴たちは、エッチの後にまどろんでいたはずなのに徐々に手の動きが怪しくなり、伸びていたはずの足が絡み合って、お互いに湿り気を意識しながらまたキスを続けた。
そしていつのまにかそれぞれの股に顔を埋めていた。

よっちゃんは美貴がちゃんとしたキスを欲しがってると思ったんだろうな。
ひょっとして美貴は知らずもの欲しそうな顔や目つきをしていたんだろうか。
自覚がないだけで。
それともやっぱりよっちゃんが先走って勘違いした結果、こうして2回目が始まることになったのか。
うーん、よくわからないや。
645 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:11

「んあっ……はぁっ…みき、みき…あぁん……」
「やぁん……もう…あぁ…よっちゃ……あんっ…」
「すごい……みきの……舐めても舐めても…んぁんっ……」
「はぁんっ…あぁ…あっあっ…だめ、そんな…やあぁ……」

舌に加えて指まで。
刺激の相乗効果に襲われて、美貴は考えるのをやめた。
正確には何も考えられなくなった、だけど。

このままこの気持ちよさに浸っていたい。
よっちゃんにも同じ気持ちになってほしい。
美貴が味わう快感と同じかそれ以上を与えてあげたい。

舐めすぎて顎がだるくなっても、二人あわせて何度か果てた後も美貴は舐めるのをやめなかった。
ずっとずっと朝まで、よっちゃんを愛撫していた。

愛ある行為を、続けた。
646 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:11

◇ ◇ ◇
647 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:11

翌日もやっぱり香港は暑かった。
ロケの合間の自由行動。
そのへんの店で亜弥ちゃんへのお土産でも買おうかとキョロキョロしてたら突然目の前が真っ暗になった。
外国にまで来てこんな子供みたいなことするヤツは…心当たりがありすぎて選べない。
とりあえず美貴の両目を塞いでる手に触れてみたらすぐに犯人がわかった。

「よっちゃーん」
「ぴんぽーん」
「膝曲げて身長ごまかしたってすぐわかるよ。よっちゃんの指長いんだから」
「指の長さか…どうやったら変えられるかな?」
「どうやっても変わらないから」
「うっそ。マジ?」
「マジマジ」

遠くからシゲさんと亀の楽しそうな声が聞こえる。
ちょっと覗いた店ではマコトとこんちゃんがスタッフさんと一緒に値引き交渉をしていた。
他のメンツは見当たらないけど、たぶんそれぞれ買い物に夢中なんだろうな。
美貴も亜弥ちゃんに何か買わなきゃ。

「ほら見て見て。これ可愛いよねー?」
「うん、可愛いね」
「まいちんとアヤカへのお土産」
「よっちゃん、暇なら亜弥ちゃんへのお土産一緒に選んでよ」
「おっけぃ!」

高そうなお店は避けて、人の良さそうなおじさんがぽつんと座ってるこじんまりとした店内に入った。
よっちゃんがアクセサリーを物色しだしたので、香港らしい茶器や手作りっぽい陶器の食器なんかが並んでる棚を見ながら亜弥ちゃんの顔を思い浮かべる。
あんまり適当には選べないよね、やっぱり。
648 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:12

「すりー?のーのー。でぃすかうんぷりーず。だうんだうんもっとだうん」

どうしようかと悩んでるとよっちゃんのアホみたいな声が聞こえてきた。
どうやら値引きをしている様子。
何を買うんだろうと見ていたら交渉が成立したようでホクホク顔のよっちゃんが近づいてきた。

「いぇーい。でぃすかうんと成功」
「すごいね、よっちゃん。どれくらい値引きしてもらったの?」
「それはわからん」
「……だと思った。で、何を買ったの?」
「ふへへ。美貴ちゃん左手プリーズ。あ、右でもどっちでもいいよ」
「はぁ?」
「いいから、ほら。かして」

じゃあ、と右手を出したらいつものように小指を撫でられた。
いつもと違ったのは撫でられたあとの感触。

「プレゼント」
「ピンキーリング?」
「うん、可愛いでしょ?」
「可愛い…え?美貴に?」
「そだよ」
「なんで?くれるの?」
「なんとなく。可愛いの見つけたからさ…気に入らない?」
「ううん。そうじゃなくて、だってなんかこんなの恋人同士みたいじゃん」
「恋人同士みたいじゃダメなの?」
「………」

ダメなの?という口調はホントになんでもない会話をしてるときのように自然で、おそるおそるでも怒ったようでも茶化してるようでもなく純粋に質問している感じだった。
649 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:12

よっちゃんの口調には裏とか駆け引きとかそんなものはまったくなかった。
だからこそ、答えに窮してしまった。
真剣に答えなければいけないと思ったから。
でもよっちゃんは美貴の返答を待たなかった。

「愛ある行為」
「え?」
「これも愛ある行為だよね、ある意味」

うんとかそうだねとか、言葉はいくらでもあるのに声が出せなかった。
狭くてちょっと暗い店内で、おじさんは眠そうにあくびなんてしててお客は二人以外に誰もいないし、スタッフやメンバーも離れたところにいる。
それなのに声が出せなかった。
愛ある行為への返答はどうしたらいい?

黙ってよっちゃんを見つめた。
美貴の小指を撫でるよっちゃんを見つめるときのようにじっと。
美貴の視線を同じように黙って受け止めていたよっちゃんは、はめてくれたピンキーリングをちらっと見てから少し笑って言った。

「愛なんてよう言わんわ」
「なんで急に関西弁なんだよ!」
「いや、香港だし」
「関係なさすぎ」
「だってホンコン語わかんなかったんだもん」

けらけらと笑うよっちゃんにいつのまにかつられていた。
650 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:13

「あ!あそこにあややに似合いそうなデカいサングラスが!」
「えー、それってお土産としてちょっとどうなの…って、よっちゃん待ってよー」

突然店の外に飛び出して走っていくよっちゃんを追いかけた。
こっちを指差して驚いているメンバを無視して走る背中を追いかける。
つーかよっちゃん足早すぎだしサングラスとか絶対嘘でしょ。

ただでさえ暑いのに香港の街を快走してる美貴たちはどう見ても暑苦しい。
ちょっと走っただけなのにほらもう汗が出てきた。
細い路地に曲がった背中を確認してややキレそうになりながら後に続いたら、待ち構えていたよっちゃんに思いっきり抱きしめられた。

息があがって苦しいのに、汗をかいて汚いのによっちゃんは美貴をぎゅうっと抱きしめて離さない。
それどころかくんくんと鼻先を首筋に押しつけてより密着しようとする。
651 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:14

「ちょ、よっちゃ…?」
「愛してる」

香港の路地裏で抱き合ったまま愛を囁かれることなんて、もう一生ないだろうな。

「恋人同士みたいなことしちゃった」
「ていうか、映画みたいだよ」
「ロマンチック?」
「うーん、汗かいちゃって気持ち悪いけどまあそうだね」
「あたしは気持ちいいよ。美貴を抱きしめてるから」
「愛があるから気持ちいいのかな」
「きっと、そうだね」


香港ではいっぱい遊んでいっぱい買い物をして、よっちゃんといっぱい愛ある行為をした。
日本にいたときは考えられなかったけど恋人同士みたいなこともいっぱいした。
ほとんど仕事だったけどカフェでお茶をするだけでもそこにはある意味、愛があったと思う。
ゆるい愛だけどねと言うと、よっちゃんは笑っていた。
652 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:14

◇ ◇ ◇
653 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:15

「それで、香港はどうだった?」
「暑かった。けど楽しかったよ」
「いいなー。私も行きたーい!」
「そのうち行けるんじゃない?」

結局、適当にというか亀とシゲさんに選んでもらったネックレスを亜弥ちゃんへのお土産にした。
よっちゃんは『10分でマスター!エッチな香港語が喋れる本』がいいなんて言ってたけどあれは絶対自分が欲しかったんだと思う。
恥ずかしくて買えなかったんだろうな。いや、買わなくてよかったけど。

「お土産ありがとねー」
「いえいえ。たいしたものじゃありませんが」
「それで、愛ある行為はどうなったの?その後」

身を乗り出して話の続きを聞いてくる亜弥ちゃん。
渡したネックレスが早速テーブルの端に追いやられていてちょっと哀しい。
654 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:20

「その後?」
「付き合うことになったんでしょ?」
「ううん。付き合ってないよ」
「はいー?なんで?なんで?」

大きい目をさらに大きくさせて亜弥ちゃんが迫ってくる。
ちょっと怖いと思ったことは言わないでおく。

「なんでって、なんで?」
「だって愛ある行為いっぱいしたんでしょ?恋人同士みたいなんでしょ?」
「うん、まあね」
「付き合おうとか好きとか言われなかったの?」
「そういうことは言われなかったかな…」
「もぅー!みきたんたちわっけわかんないよー!いいの?それで」
「いいのいいの。べつにそういう言葉はなくても」
「ほんとに?」
「愛はあるから」
「どこに?
「ここ」

きょとんとする亜弥ちゃんの目の前で美貴は自分の小指にキスをした。




655 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:21

656 名前:愛ゆるく 投稿日:2006/02/26(日) 00:21


657 名前:ロテ 投稿日:2006/02/26(日) 00:23
なんかわっけわからなくてすみません。
とりあえずレス返し。

>>629 名無飼育さん
亀レスですがマジです。
ええ、よっちゃん可愛いですよ〜w

それから宣伝も。ブログです。
ttp://endhyper.jugem.jp/

ではまた。
658 名前:通りすがりの者 投稿日:2006/02/26(日) 01:23
ミキティお誕生日おめでとうございます。

そして更新お疲れ様です。
なんだか良いですねぇ、こういうのも。
次回更新待ってます。
659 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/26(日) 01:50
ミキティ誕生日おめでとう!そして更新お疲れ様です。
曖昧でいて通じ合ってるみきよし最高です。
この空気感がいいですね。
660 名前:真央 15歳 投稿日:2006/02/27(月) 20:57
今日はどの真央?(何)

いや なんかよかったです。ごちでした。えろよちぃ。萌。
661 名前: 投稿日:2006/03/03(金) 10:41
更新お疲れ様です。
何か忘れてると思ったらここだった!w
美貴誕に更新するなんてさすがです。しかもエ○満載。w
久々にロテさんらしい作品を読ませていただいた気が。
そろそろラッシュが来るのかな?w
662 名前:S 投稿日:2006/03/06(月) 07:58
更新お疲れさまです。
美貴さま、おめ〜!!
これ読むと激しく香港DVDが見てみたくなってしまうのですが・・w
(ガマン ガマン
ここから波に乗っちゃってくださいw
663 名前:ろて 投稿日:2006/03/21(火) 23:23
更新します。容量ギリかな。
664 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:24

「どうしたものかね」
「どうもこうもないんじゃない?」


あまりお目にかかったことのない異国の料理が並ぶ席上。
パクパクと目の前の食べ物を口に運ぶ美貴の隣であたしは薄ら笑いを浮かべていた。
信じたくない現実をむりやり実感させられて、笑うしかなかったのだ。

たしかにどうもうこうもないけどさ。どうにかしたかったわけよ、あたしは。

「おめでとう〜。まさか亜弥が国際結婚するなんてね〜」
「旦那さん日本語ペラペラなんだ、すごーい」
「学者さんだっけ。なんかよくわからないけど偉い賞とったんだって?」

けっ!なーにが学者だ。あたしだって日本語ペラペラだっつの。

「結婚したらインドネシアに住むの?え?アメリカ?すごーい。いいなぁ〜」
「ふーん。大学の先生かぁ。亜弥の英語力でダイジョウブ〜?あはは、ウソウソごめん」
「でも急だったよね。出会って3ヶ月?それで決めたの?すごーい」

すごいしか言うことないのかよ、おまえら。
あたしだって出会って3秒で恋に落ちたんだぞ。どうだ!すごいだろ!!
665 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:27

「よっちゃん」
「………」
「よっちゃんってば」
「あんだよっ」
「目、怖いよ」
「だって」
「せっかく会費払ってんだから食べなよ。見た目フシギだけどけっこうイケるよ」
「んなもん食える気分じゃない」
「もう負けは決定なんだから。相手を"食べる"つもりで、ほら」

差し出された皿にはなんだかわけのわからない色の食べ物が乗っていた。
これホントに食べ物なのか?あたしたち騙されてない?

「ほら」
「うぅ…」
「女ならいけって。食べて忘れなって」

肉が得意ではないあたしのために美貴がサラダらしきものを選り分けてくれた。
皿の上に乗った野菜たちはあたしに食べられる準備が万端で、よく見ると綺麗な色をしている。

「食べて、忘れな」

やけに滑舌のいい美貴の言葉に後押しされて、おそるおそる口に入れる。
噛んで、舌で味わって、飲み込むまで美貴はあたしを見ていた。
あたしの短くも儚い恋をずっと見てきたその目で。

「うぅ…くそ」

野菜に罪はない。インドネシア料理にも。
悔しいことにサラダはあたし好みで美味しかった。
666 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:28

「好きな人が幸せならそれでいいじゃん」
「あたしはそんなこと思えるほど度量のデカイ女でも大人でもない」
「今はそうかもしれないけどさ、いつかそう思える日が来るって」
「来るんですかねぇ…そんなカッコイイこと思える日が」
「来ると思いますよ?」
「ホントですか?」
「ホントですよ」
「なんで丁寧語なの」
「よっちゃんこそ」

ケラケラと笑って見たことのない銘柄のビールで喉を潤した。
美貴がいて良かった。こういう席で笑わせてくれる相手がいて。
メデタイ日にたとえ乾いた笑いでも笑顔を見せないのは申し訳ないから。

「あんなヤツに亜弥を幸せにできるのかよ」

祝福してる風な笑顔を装いながら、それでもやっぱり悔しいあたし。
ビールで滑らかになった舌に乗せて負け犬の遠吠えを吐く。わんわん。

「優しそうだし経済力もあるみたいだし、よほどのことがない限り大丈夫でしょ」

それにハンサムだしね、なんて余計な太鼓判を押す美貴。
優しさならあたしだって負けないのに。
それに同じ日本人だ!インドネシア人よりよっぽど話が合うのに。
経済力はちょっとアレだけど…でも、顔は絶対に勝ってるはずだ!
667 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:28

「べつに亜弥ちゃんは顔や経済力や国籍で選んだわけじゃないから」
「女もオッケーみたいだったからチャンスあると思ったのにな…」
「縁がなかったんだよ。それだけのこと」
「美貴って」
「なによ」
「なんつーか、こんなときでも正直っていうかわざとらしく慰めたりしないのな」
「………」
「そゆとこ、ちょっとラクで好きかも」
「………」
「褒めてんだからなんか言えよ」
「なんか」
「うわぁ…素直じゃねぇなぁ」

亜弥の相手を"食べる"つもりでムシャムシャとサラダを食べ続けた。
ここまできたら毒を食らわば、だ。
他の皿にも手をのばし、くんくん匂いを嗅いでから一口、さらに二口食べてみた。
ふむふむ。なかなかクセのある味だけど不味くはない。

「これ、なんか面白い味」
「面白いってなんだよ。どれ…ホントだ、面白い」
「見た目より辛くないね」
「こっちのやつ見た目とか関係なく甘いわ」

そこそこ腹にたまってきた頃、ちょっと強い酒でも飲もうかなと席を立った。
美貴の「ビール持ってきて」という声を背中で聞いて後ろ手に振る。
668 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:29

古いカウンターの中には(というか店全体が古い)外国人と思しきおねーさんがいた。
ちょっと躊躇いつつもアイツに負けてたまるかという意味のない対抗心から思い切って声をかける。

「あー、えーと、ジャパニーズスピーク、OK?」
「ふふ。大丈夫ですよ。日本人ですから」
「ふぇ?マジ?あ、すみません」
「いいですよー。よく間違われますから」
「やっぱり。だっててっきりあちらの方かと思いましたもん」

亜弥の隣で白い歯を見せて笑うアイツをちらりと見ておねーさんの方に向き直る。
それにしてもよく焼けてるなぁこの人。まさか店の雰囲気に合わせて焼いてるとか?

「地黒なんですけどね…この仕事始めてからなんだか余計に黒くなったような気がします」
「いや、それは関係ないでしょ」
「あ、やっぱり?」

思わずタメ口になったけどそんなありえない話つっこまずにいられようか。
美貴ならもう二言三言ひょっとしたら畳み掛けてるかもしれない。
案外ノリのいいおねーさんはシェーカーを振りながら笑ってくれた。
店のことや料理の感想なんかを少し話してたらちょっと楽しかった。
それにしても地黒だったのか…すごいな。
669 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:30

「何か飲みます?」
「あ、そうだった。えーとビールと…それからなんでもいいんだけど強い酒を」
「アルコール度数が高ければなんでもいいのかな?」

客とバーテンというよりは友達みたいに喋っていたのでそのノリが続く。
くるっと振り向いて亜弥を見た。可愛い。くそっ。
やっぱり"ここ"を飲むしかないな。

「インドネシアのお酒で強いやつをください」
「強いやつ」
「そう、強いやつを」
「うーん…どうしようかな」
「えぇ!いや、迷ってないで出そうよ」
「あはは。ごめんごめん、なんか顔が必死なんだもんキミ」
「ひでー。おねーさんにからかわれたぁ」

おねーさんはごめんごめんと言いつつも顔はしっかり笑っている。
そして後ろのずらっと並んだ棚の中から一本を選び出して栓を抜いた。
トクトクといい音がして茶色の液体がグラスに注がれる。
670 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:30

「これ強いの?」
「キミの言う強いがどれくらいを指してるのかわからないけど、まあまあ」
「もうこの際なんでもいいや。意地悪なバーテンから戴けるだけでありがたいですね」
「イヤミねぇ〜。はい、どーぞ」
「どーも。これなんて酒?」
「アラックよ。バリ産でけっこう貴重なの。意地悪しちゃったから特別サービス」
「そりゃどーも。あたしらっきー」
「ちょっとすごい棒読みじゃない?ホントに特別なんだからね」
「ふーん」
「それより早く戻らなくていいの?彼女、見てるよ」
「彼女?」

おねーさんの言葉に振り向くとこちらをじっと見つめる美貴と目が合った。
と思ったら途端に逸らされた。えー。
そして止まっていた右手が動いて美貴はまたパクパクと食べだしていた。

「彼女っつーか友達だから」
「ふーん。強いお酒が飲みたくなった原因は…じゃあ、あっちの彼女?」
「彼っていう選択肢はないわけ?」

おねーさんの目線の先にはたぶん亜弥がいるんだろう。その隣にはアイツが。
図星すぎて癪だったから振り向かなかった。
671 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:31

「たぶん彼女かなって。バーテンの勘!」
「こえー。いろんなこと喋らされる前にさっさと戻ろ」
「失礼しちゃう」

ビールとアラック、だったかな?を両手に持って席に帰った。
ドンっとテーブルの上にグラスと瓶を置くと思いのほか大きな音がした。
あたしの心にメラメラと湧きだした闘志が体にまで伝わったのか。

美貴は無言でビールをグビグビと飲みぷはぁ〜と息を吐いた。
その姿を横目で見て自分の顔の前にグラスを掲げる。

見てろよ!インドネシア!


672 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:31
 
 
 
673 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:32

「ったく、ビール持ってくるのにどんだけ時間かかってんのよ」
「バーテンのおねーさんがけっこう面白い人でさぁ」

ものすごい勢いでビールを飲み干した美貴にまたビールを取りに行かされた。
それによりあたしの決意はあっさりと出鼻をくじかれた。
面倒だから5杯くらい一気に持っていこうとしておねーさんにまた笑われた。
なぜかあたしより酒が進んでる美貴の様子が気になってアラックはあまり減っていない。

「よっちゃんはいっつもそう。人なつっこすぎ」
「なんだそれ。犬みたいに言うな」
「初対面には強いくせにさぁ、友達付き合いは苦手っておかしいよね」
「苦手ってわけじゃないじゃん。そんなに得意じゃないって言ってよ」
「美貴はさぁ、社交的だし可愛いから友達いっぱいいるじゃん?」
「う、羨ましくなんてないからな」
「…あ、美貴のことは否定しないんだ」
「だって実際そうじゃん?美貴は社交的だし友達いっぱいいるし…それに可愛いし」
「可愛い、か…」
「美貴?」
「………」
「おーい」
「………」
「美貴ちゃーん」
「きぼぢわるい゛」
「へ?」
「はきそ…」
「うえぇぇぇ?!」

美貴が前のめりに倒れこんでテーブルの上に突っ伏した。
長くてクルクルの髪がまだ少し残っていた料理を隠すように皿の上に落ちる。
674 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:32

「あぁ〜髪が…ビールこぼれてるし!ちょ、美貴おきて!!」
「にゅ〜無理」
「にゅ〜じゃなくて!!」
「にょ〜」
「おまっフザケん」



「みきたん、大丈夫?」



2秒か3秒くらいだったかな、あたしが固まっていたのは。
美貴の両肩を掴んでテーブルから起こし、そしてティッシュで髪についたソースを拭いた。
うん、あたし意外に落ち着いてるかも。

「あたしが大丈夫じゃないよ〜。亜弥助けて〜」
「あはは。よっすぃがんばって」
「ちぇっ。コイツこんなんだからうちらそろそろ帰るね」
「えっもう?」
「うん。今日は本当におめでとう」
「ありがとう」
「アイツが嫌になったらいつでもあたしの胸に帰っておいで〜」
「ふふ。じゃあそのときはよろしくね、よっすぃ」
「おう」

あたし最高にカッコイイんじゃない?もしかして。
ソースまみれのティッシュの残骸を美貴の頭にぶつけてみたけど反応はない。
親友ならこの勇姿をちゃんと見届けろよな。肝心なときに潰れやがって。
675 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:33

「また大学でね」
「おう」
「来週ゼミで会えるよね」
「おう」
「今日はありがとう」
「おう」

早く行ってくれ。早く、あたしの傍から離れてアイツのところに。
あたしの勇姿はきっとウルトラマンの活躍時間ほども持たないよ。
ヤバイなぁ、ちょっと視界が滲んできたぞ。どうしよ、美貴。

「くっ…くっく…おう、しか言ってないよ……」
「笑ってないで。起きたならなんとかしてくれ」
「ここ出るくらいまでは頑張りなよ。それが済んだら本当に終わるから」
「……うん」

自分と美貴のバッグを左手に持ち右手は美貴の腰を支えて立ち上がる。
亜弥はニコニコしながらその様子を見守っていて、立ち去ってはくれなさそうだ。
頑張れ自分。グッと両手に力を入れたら美貴がピクっと体を震わせた。

「ここでいいから」
「外まで送るよ」
「いいよ。おまえ主役なんだからここにいろって」
「でも…」
「ホントにここで」
「そーお?」
「じゃ…」
「じゃあね〜。よっすぃありがとう〜。みきたんにも、起きたら言っといて〜」
「おう」
676 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:33

起きているはずなのに美貴はまだ酔いがまわっているのかあたしに体重を預けてきている。
腰にまわした手にさらに力を込めてフラフラする美貴を支えるように歩きだした。
一歩、二歩、確実に亜弥から遠ざかる。美貴と寄り添いながら出口に向かった。
亜弥はきっとまだあたしたちの背中を見ているんだろう。
ちゃんと出口まで見届けてからまたアイツのもとへ戻るんだろうな。

「がんばって…」

美貴が耳もとで囁いた。掠れた小さな声だったけどしっかりと聴こえた。
あたしは軽く頷き、バッグを持った手をドアに伸ばしかけて止まる。



言おうか。いや、無理だ。
どうしよう。どうもできない。
振り向いて、言えば。でもどんな顔で?




数秒迷って出したあたしの答えはドアを押して外に出ることだった。
暑くも寒くもなく、風もなかった。穏やかな夜。

いつのまにか支えられていたのはあたしのほうだった。
店を出て、途端に涙が溢れてきたあたしを美貴がずっと抱きしめてくれていた。
677 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:34
 
 
 
678 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:34

誰もいない公園のブランコに座ってゆらゆら揺れながらビールを飲んでいた。
美貴が買ってきたそれを受け取ってプルトップのプシュという音を聴いたのは約30分前。
あたしが泣き出して美貴が抱きしめてくれたのはたぶん1時間くらい前。
約30分、あたしは泣いていたわけだ。そして抱きしめられていたわけだ。

「お疲れ」と言いながら缶をぶつけあって飲むビールはいつもどおり苦かった。
さっきまで飲んでいた異国のものとは違う、馴染みのある味。

「やっぱ国産だよな」
「だね」
「日本って最高だよな」
「だね」
「日本人にしとけよなー。てかあたしにしとけよなー」
「………」
「まあいいや。泣いて恋にバイバイしたらすっきりしたから」
「ホントにすっきりしたの?」
「や…嘘です。まだすっきり爽快とまではいってません」
「強がるなって」
「はい…」

かっこつけるわけじゃないけどさ、最後に言いたかったんだ。
"幸せに"って笑って言えてたら今頃すっきり爽快になってたのかな。
679 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:35

「よっちゃんにしては上出来だったんじゃない?」
「そうかな?」
「頑張ったと思うよ。ちゃんと最後まで笑顔だったし」
「うん…って見てたのかよ。なんだよ、酔っ払ってたんじゃないのかよ」
「酔っ払ってたけどよっちゃんの一大事だもん、起きるよ。見るよ」
「うえぇぇーん!美貴ちゃーん!!だいすきー」
「ちょっと、冗談でも抱きつかないで!」
「なんでよ。さっき抱きしめてくれてたじゃん、ずっと」
「それとこれとは話が別」
「わかんねー」
「わかんなくていいの」
「へい」
「うん、素直でよろしい」
「やっほーい」
「ばーか」

最後の言葉が言えなかったのはちょっと心残りだけど美貴と話してるうちに気分が晴れてきた。
また亜弥に会ったときいつかきっと言えるようになるかも、なんてことが思えるほどに。

すごいな、美貴は。いつもあたしを元気にしてくれる。
美貴がいなかったらあたしは今日どうにかなっていたかもしれない。

先に酔ってくれたからヤケ酒なんてみっともないこともしなくて済んだ。
頑張れって支えてくれたからみじめな気持ちにならずに笑って別れることができた。
あたしより小さいのに守るように抱きしめてくれたから寂しくなかった。

やっぱすごいよ、美貴。
680 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:35

「今日はとことん飲もうか」
「よっちゃんの失恋記念に?」
「そうそう、あたしの失恋を記念してカンパーイ…ってうぉい!ひでーな!」
「そこまで言ってないじゃん」
「いや、今そんな雰囲気だったろ。絶対」
「乾杯するなら亜弥ちゃんの結婚を祝してでしょー」
「それはまだ勘弁してください…」
「もうなんでもいいよ。飲もう飲もう」
「なんでもいいのかよ!ひっでなぁ〜美貴ちゃんは〜」
「美貴ヒドイ?」
「いえ、最高です」
「とーぜんっ!」

バシッと缶をぶつけあって夜の公園で乾杯するあたしたち。
無駄に高いテンションとアルコールの相乗効果で酔いが加速する。
バカ話やエロ話、ちょっとまだ切ない亜弥との思い出なんかを話しながら飲み続けた。
酔っ払い二人が広い広い日本のちっぽけな公園から遠い異国の地に思いを馳せる。

「あたし前々から思ってたんだけどさ、インドとインドネシアってどう違うの?」
「名前が違う」
「そーだけどぉ…場所とか、なんかあるだろ」
「美貴だって知らないもん。ていうか亜弥ちゃんが行くのはアメリカだから」
「そうだっけ?んー、どっちでもいいや。インドでもインドネシアでも…」
「だからアメリカだっつの」
「うーん、美貴ちゃん大変」
「なにがぁ?」
「ねむくなってきた…ふぁーあぁ」
「美貴もねむい〜」
「帰ろっか」
「ん」

ブランコから立ち上がって大あくびをひとつ。
ジャラっという鎖の音がして重い瞼を上げると美貴がフラついているのが見えた。
反射的に抱きとめる。髪からはソースの匂いがして案外美味しかった料理を思い出した。
681 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:36

「よっちゃん」
「んー」
「美貴ね」
「うん」
「今まで言えなかったけど」
「ん、なんだい?」
「よっちゃんが好きだよ」
「あたしも美貴が好きだよ」
「バカ。そういうんじゃなくて」
「え?マジで?」
「マジで」
「えーと………マジで?」
「マジでっつってんだろ!」
「いてぇ」

ソース臭い髪で頭突きとか威力ありすぎなんですけど…いてぇ。てかくせぇ。


「よっちゃん好きだよ」


ぎゅうぅと抱きしめられて息が詰まるようだった。
実際はそんなに力が入ってるとは思えないんだけど胸が、なんだか、ぎゅうぅと…
締めつけられたみたいで。苦しかった。
682 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:40

酔っ払ってるくせに真剣な目つきであたしを見る美貴。
上目遣いなのは仕方ない。身長差の産物だ。
さっき抱きしめられたときとは違うこの体温はアルコールのせい?
美貴に見つめられて心臓がバクバクしてるのは…なんでだ?

「バイバイしたばっかなのに……」

およそ2時間ほど前に別れを告げたばかりの恋心にこんにちは。
予想のつかない方向から表れたそれにまだ戸惑い気味のあたしだけれど。

「よっちゃぁ…」
「美貴?」
「す…き…」
「うわ。寝るか?普通」
「………」
「ソースくせー」
「………」
「おきろー!」
「ん…にゃ…ねむ…」
「ったく、しょーがねーな」

急にこみあげきたこのワクワク感に笑いがこらえきれない。
ずり落ちそうになる美貴をよいしょとおんぶしてしょーがねーなぁとまた言ってみる。
帰って、ソース臭い髪を洗い流してやるかな。

それから二人で亜弥に電話をしよう。夜中だけどきっと起きてるよな。
"幸せに"って今度は言える気がする。
特大のびっくりマークつきで、心からの祝福を送ってあげよう。

カッコイイあたしを美貴に見てもらうためにも。




683 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:45





  亜弥、幸せになれよ!
  あたしも今まさに幸せをつかみかけてるから!!






684 名前:酔いどれIndonesia 投稿日:2006/03/21(火) 23:45
 
 

 
685 名前:ロテ 投稿日:2006/03/21(火) 23:52
レス返しー。皆さん本当にありがとうございます。

>>658 通りすがりの者さん
いつもありがとうございます。良いですかぁ、それは良かったです。

>>659 名無し飼育さん
曖昧な話ですがいいと言ってもらえるのは本当に励みになります。

>>660 Johnさん
別所で詳細な感想をいただき嬉しかったです。真央とかもういいから(苦笑

>>661 Yさん
自分らしい=エロだったらちょっと複雑です。いやいや嘘です。いつも蟻。

>>662 Sさん
生粋の石ヲタさんにここまで楽しんでいただければこんなに嬉しいことはないです。
(我慢せずにDVD見てくださいw)
686 名前:通りすがりの者 投稿日:2006/03/22(水) 14:16
更新お疲れ様です。

春ですねぇ。
いや、感服致しました。
次回更新待ってます。
687 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/22(水) 22:27
おぉーいいっすねー^^
688 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/23(木) 00:54
ミキティ可愛いです、しかも凄くいいヤツですね。
よっすぃ鈍感だなぁ、、。

ちなみに先週、男友達の結婚式に行ってきましたw。
689 名前:S 投稿日:2006/03/23(木) 07:26
甘すぎず辛すぎず苦すぎず・・
よっすぃ、美貴さまとその他二人との距離感が
ものごっつ好みですww
かなり好きな作品!!配役が絶妙れす。




690 名前:ロテ 投稿日:2006/04/12(水) 00:00

皆さんありがとうございました。レス返しー。

>>686 通りすがりの者さん
毎回のように感想をつけていただきありがとうございました。
かなり励みになり本当に感謝しています。
>>687 名無飼育さん
いいっすかー。ありがとうございます。
>>688 名無飼育さん
おお、結婚式!!
自分は"いいヤツ"のミキティを描くのがどうやら好きみたいです。
もちろん鈍感よっすぃもw
>>689 Sさん
いつも本当にありがとうございました。
自分にとってもかなり好きな作品です。
配役にハマっていただけたようでかなり嬉しいです。感謝。

さて、いい感じに容量が埋まったのでこのスレはこれにて終わります。
スレタイの話が飛び飛びになってしまったことは本当に申し訳なかったです。

>>2-140  たかが恋や愛1〜8
>>195-218 たかが恋や愛9〜10
>>247-299 たかが恋や愛11〜14
>>335-441 たかが恋や愛15〜26

下記ブログの小説保管庫に整形版がありますのでよかったらどうぞ。
ttp://endhyper.jugem.jp/

次からは長い話の途中にやたらと短編を挟まないことを誓います。たぶんきっと。
読んでくださった皆さん本当にありがとうございました。

よっすぃ21歳の誕生日おめでとう。

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