神玉 〜4つの物語〜
- 1 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:21
- 石川、後藤、藤本、吉澤が主人公のバトルもの。
更新は遅めになりそうです。
よろしくお願いいたします。
- 2 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:22
-
―――強くなりたい!
―――許さない! 絶対!
―――何故わたしは生まれてきたの?
―――みんなの平和のために……
- 3 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:22
-
神玉 〜4つの物語〜
- 4 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:23
- この物語はマルチシナリオを採用しています。
好きな主人公を選んでください。
吉澤ひとみ
>>5-8
石川梨華
>>9-11
後藤真希
>>12
藤本美貴
>>13-15
一つのストーリーに四人の主人公です。選択肢によってはエンディング等が変わります。
- 5 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:23
- 「ひとみー! 朝ご飯!」
「おう!」
クリーム色の壁の家、吉澤ひとみの家である。
長方形の窓からその声は聞こえ、吉澤は庭で大きく返事をした。
―――これでこの庭ともお別れだな
毎朝修行の場としていた少し大きめの庭。
全面芝生を敷いているものの、吉澤の立っている場所だけ薄茶色の地面がクッキリと見える。修行の跡だ。
木にかけてある赤いタオルで汗を拭き、裏口から家に入った。
食卓にはいつも通りの朝食、ベーグルにゆで卵。
両親に弟、そしてひとみの四人がテーブルを囲む。
「ひとみ、無茶するなよ」
「でーじょぶだって、それより今度帰ってきたオレを見てオヤジ腰抜かすなよ」
ひとみは乱暴にゆで卵の殻を剥き、一気に口に放りこんだ。
家族は顔を見合わせ、やれやれといった表情を浮かべている。
「ひとみ、そんな急がなくて―――」
「うっしゃ! ごちそーさん!」
母の声もどこへやら、吉澤は席を立つと走って自室に入っていった。
- 6 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:24
- 吉澤ひとみの家、玄関先。
真っ黒な武道着に着替えた吉澤が玄関のドアを開ける。
「それじゃ行ってくるぜー」
「アンタ、荷物は?」
「そんなもんいらねーよ、オレは体一つでのしあがってくんだ」
吉澤は右手で拳を作ると胸をドンと叩いた。
「オヤジにお袋、身体に気をつけろよ。おめーが二人守んだぞ」
弟の頭をくしゃくしゃ撫でると、それじゃ、とドアを大きく開いた。
「死ぬなよ―!」
父親の声を背中で受け、右手を上げてそれに答えた。
- 7 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:24
- 生まれ故郷を離れ緩やかな山道を歩く。
「わくわくすんなー、これからどんなやつがいんだろ?」
そう言って飛び上がり後ろ回し蹴りで空を切る。
あまりに鮮やかなその蹴りを見る者はいない。
いや、いた。
突如草むらから大きなイノシシが現れた。
体長一メートル、顔つきからして明らかにモンスターだ。
「おっ、早速」
そう言って口角を吊り上げる。
イノシシは後ろ足を蹴り上げ、突進してきた。
当たる直前で右に飛び、そのまま蹴りをイノシシの脇腹に入れる。
軽く吹っ飛んだイノシシはグルグル転がると、終着した位置で体勢を立て直そうとしている。
吉澤は走ってイノシシに近づくと右足を後ろに引いた。
そして、左足一本で飛んだ。
「影蹴!」
- 8 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:24
- イノシシの上を半回転しながら飛んで後ろにまわる、着地する前に右足で蹴りを繰り出した。
腰の辺りを蹴られ前方に吹っ飛ぶイノシシ。
地面に叩きつけられながら転がり、止まるとイノシシの身体は白い煙と共に消えた。
イノシシのいた場所には数枚のルグが落ちており、歩いて吉澤はそれを回収する。
「昼飯代ぐらいにはなるかな?」
そう言ってルグと上に放り、キャッチした。
少し歩くと道が二手に分かれている。
どちらの道にも行ったことがない吉澤、わずかに鼓動が早くなる。
「さ〜て、どっちに行くかな」
右に行く>>16-17
左に行く>>18-19
- 9 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:25
- 「それじゃあねおばあちゃん」
「気をつけるんじゃよ」
涙目の石川は保田おばあちゃんと手を取り、俯いた。
保田おばあちゃんはにこやかな笑顔を浮かべている。
「これこれ、こんな所で泣いてどうする。これから長いんじゃよ」
「……うん」
石川は顔を上げ、保田おばあちゃんの顔を見た。
「その涙はご両親に会った時に流しなさい、それまで取っておくんじゃ」
「はい、おばあちゃん」
石川の顔には笑顔が戻り、二人はひしと抱き合った。
「今までありがとうございました」
「なになに、こちらこそ」
二人は身体を離すと共に頷き、石川は家を出た。
- 10 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:25
- 家を出て育った町を出ようとした時、呼び止められた。
町で一番仲良くしていた友人だった。
悲しそうな顔をして石川を見ている。
「梨華ちゃん、行っちゃうの?」
「うん」
わずかな沈黙が流れた。
「これ」
友人は小さな巾着袋を差し出した。
「餞別、っていうには少ないけどもらって」
「いいよ、悪いよ」
「いいから、みんなから少しずつ集めたんだ」
二人は少しの間見詰め合い、石川は頷いた。
巾着袋の中には10ルグほど入っていた。
「じゃあね梨華ちゃん、帰ってきてね」
「うん、ありがと」
二人は笑顔で別れた。
- 11 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:25
- 広い草原の一本道、石川は前を向いて歩いている。
風が草を揺らし、波立たせている。
「とりあえず、真っ直ぐ行けば隣町に着くわね」
風が返事をするように、少し強く吹いた。
しかし、これは風からの警告だったのかもしれない。
しばらく歩くとそれはもう見事なT字路に突き当たった。
「……おばあちゃんの嘘つき」
呟いてももう遅い。
右に行く>>20
左に行く>>21-22
- 12 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:25
- 木陰で佇む少女が一人。
昨日得たルグを一枚取り出し、手の内で外で弄ぶ。
ルグを右手で包み、開くと無くなっていた。
伸ばしていた膝の上に置かれた左手を開くとルグが一枚。
「さて」
左手に現れたルグをまた包み、後藤真希は立ち上がった。
「しっかしまぁこんな所で道が分かれてるなんてねぇ……」
後藤は道に出ると別れた道を交互に見る。
どちらも坂道で先は見えない。
「どっちが街に出るのかな〜」
左手を開き右手でルグをつまむ。
それを右手の親指の上に乗せ、真上へはじいた。
急速な回転を見せるルグははじかれた高さまで落ちてくると、左手の甲と右手のひらに挟まれた。
表が出た>>16-17
裏が出た>>21-22
- 13 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:26
- 「それでは出発!」
「オー!」
ヒゲを生やしたガタイのいい兵士が右手を上げると、それに順じて多くの兵士が拳を振り上げた。
先頭の列にいた藤本美貴も高らかに拳を突き上げている。
皆それぞれ拳を下げると、後列の兵士から城を出ていく。
藤本も拳を下げ、隣を見た。
「亜弥ちゃんはどこに行くんだっけ?」
隣にいた少々サル顔の女の子が眉と目を上げ、ん? という表情で藤本を見ている。
「あたしはねぇ〜北の方かな?」
「それじゃ美貴とは逆の方角か……」
「なんだ〜じゃあみきたんとはしばらく会えないんだ」
残念そうな顔をする松浦。
藤本は松浦の頭を撫で、言った。
「まぁこれも世界の平和のためでしょ」
「そうだけど……」
「帰ってきたら、また遊ぼ」
「……うん!」
- 14 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:26
- 城門を抜けて松浦と別れを告げた。
使いなれた四尺の棒を右手に持ち、歩く。
前を歩いていた仲間の兵士達も分かれ道に出会う毎に減っていき、気がつけば前にも後ろにも誰もいなくなっていた。
「せ〜かいは〜みんなの〜ために〜」
いつ作ったわからない自作の鼻歌を軽い足取りと共に歌う。
歌に自信があるとはいえ、こんな歌を人前で歌ったことは無い。
いや、たった今丸っこい白い玉の前で歌ってしまった。
白い玉には同色の手足が生えていて、いかにも悪そうな目つきをしている。
「ゼノ?」
その玉はキーキー鳴いている。
人間の顔ほどの大きさの玉に20cmぐらいの手足。
風貌はかわいらしいが、やっぱり目つきが悪い。
「ゼノなんか相手にしても―――」
藤本の言葉を無視してモンスターは走ってきた。
- 15 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:26
- 「おーおーおー」
藤本は棒を両手で持つと構え、モンスターとの距離を目測する。
モンスターは考えもなしにツッコんでくる。
モンスターまで約三メートル、藤本の右足が出た。
「ハッ!」
地面から僅かに浮いている玉を下から棒の先で持ち上げる。
ゼノが宙に浮くと棒を少し引き、腰ほどに浮いてきた時今度は上から叩きつけた。
地面に叩き付けられバウンドし、ゼノは白い煙と化した。
「ま、これも世界平和か」
息一つ切らさず、藤本はたった一枚のルグを拾う。
少し歩くと脇道が見えた。
決められた方向とは大して違わないので、藤本はどちらに行くか迷った。
真っ直ぐ行く>>18-19
脇道に行く>>20
- 16 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:26
- 一面野原の中を三本の道が一点から伸びている。
丈の短い草花は風に体をなすがままにされ、揺れている。
とある道の向こうから一人の少女がやってきた。
「なかなか町に出ねぇなぁ」
吉澤である。
先の分かれ道から右を選び、ひたすら歩いてきた。
別の道の向こうから一人の少女がやってきた。
「……」
後藤である。
旅慣れているせいか、無駄な独り言が無い。
二人は三本の道の一点で、出会った。
- 17 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:27
- 後藤は軽く会釈したのち、どちらの道に行くか悩んでいる。
吉澤は後藤を見て、口角を上げた。
「オイ!」
後藤は少し驚いた様子で吉澤を見る。
吉澤は左手を腰に当てて、右手の人差し指で後藤を指差している。
「んぁ?」
「アンタ、強ぇだろ」
吉澤は不敵な笑みを浮かべている。
後藤は薄くハテナな表情を浮かべ、吉澤を見ている。
「オレにはわかる、アンタ強ぇだろ」
「えぇ、まぁ」
「じゃあ勝負しろよ」
「はぁ?」
>>23へ
- 18 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:27
- 互いに遠目からでも誰か向こうから来ていることはわかっていた。
ただ、互いにこんな奴だとは思ってもいなかった。
「アンタ、兵士だろ」
「はぁ? まぁ、そうだけど」
吉澤と藤本、道の真ん中で対峙している。
「ってことは強ぇよな」
「強ぇって、まぁそれなりに」
「じゃあ勝負しろ!」
吉澤は両手で拳を作り、構えた。
藤本は今だ状況は飲み込めていない様子。
「えっ? ちょっちょっとなに?」
「いいからオメーも構えろよ」
「ま、待ってよ。美貴は今から魔王退治に行く所なんだから」
「魔王?」
吉澤は構えを解いた。
- 19 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:27
- 「そう、ま・お・う。モンスターの元締めってとこね」
吉澤が構えを解いたことに安堵の表情を浮かべる藤本。
「そのぉ、魔王って奴は強ぇのか?」
一方吉澤は魔王のことに興味がいっている。
「当たり前でしょ、モンスターの頂点だよ」
「マジか!?」
吉澤は驚きと喜びの混ざった表情になった。
藤本はコロコロ態度の変わる目の前の少女に困惑していた。
「オメーに着いて行けば会えるのか?」
「わかんないけど……多分」
「わかった」
藤本にはわからなかった。
「オレ、オメーに着いてくわ」
「はぁ?」
一回目のはぁ? より強く大きなはぁ? が出た。
>>23へ
- 20 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:28
- 道の途中、お茶屋のような店で足を止める石川。
注文した団子とお茶を持ってきた女性に頭を下げ、お盆を受け取る。
石川の横には空の巾着袋。
「みんなありがとね」
友達がくれた10ルグは団子とお茶に消えた。
石川がお茶をすすっていると、道の向こうから誰か来た。
軽装とはいえ兵士の格好をした少女は店の前で立ち止まり、石川の団子を見ると店に近づいてきた。
「オバちゃん、団子とお茶」
ハイよ、という声が聞こえ、藤本は石川の隣に腰を下ろした。
石川と藤本は共に、どうも、と頭を簡単に下げた。
団子を頬張ろうとした石川を見る藤本、視線に気付き二人の視線が合った。
また二人は軽く頭を下げた。
藤本が口を開いた。
「どこか行かれるんですか?」
団子一玉を食べ終えた石川が頷きながら言った。
「えぇ」
「どちらの方に?」
「とりあえずあっちに」
石川は藤本が来たほうを指差した。
>>23へ
- 21 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:28
- 石川はとある町に着いた。
来たことはないが、街の雰囲気からのどかだということはわかる。
なにはなくとも腹ごしらえをするため、出入り口で食を終えた客とすれ違い店に入った。
昼時ということもあり店は混んでいた。
カウンター席が一つ空いている。
石川がその席に座ると、隣の少女と目が合った。
互いに軽い会釈を頭を下げるだけで行なう。
石川の視線は少女から少女の食べているものに移る。
後藤の食べているものが、石川には美味しそうに見えた。
「あの〜この人と同じやつを」
ハイよ〜、と目の前のオヤジさんが威勢良く声を上げた。
- 22 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:28
- 「スイマセン、つい美味しそうだったので」
「いやいや、いいですよ。実際に美味いし」
「ここに来るのは初めてなので」
「あたしも」
二人は簡単に笑った。
「旅してるの?」
「えっ、まぁ、今日からですけど」
「ふ〜ん、頑張ってね」
「あ、ハイ、ありがとうございます」
石川は後藤に軽く頭を下げると、お冷を持ってきたオバさんにも連続して頭を下げた。
後藤は横目でそれを見ながら、野菜炒めを頬張った。
>>23へ
- 23 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/07(火) 09:29
- 今日はここまで。
まだそれぞれ短いですが、マルチシナリオに私が慣れていないだけですのでお許し下さい。
それでは用語説明を。
ルグ:この世界のお金の単位。モンスターを倒すと手に入る。貨幣紙幣両方ある。
影蹴(えいしゅう):敵の上空を体を半回転させながら飛び越え背後にまわり蹴る。
引いた足を内側にしてまわると威力が半減。ってか蹴れない。
モンスター:貴方が知ってるそのままの意味です。
次回、彼女等のことが色々わかると思います。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/10(金) 01:16
- おーっ!すごーい!すごーい!
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/11(土) 00:38
- 面白そうだ
- 26 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:44
- 前回、
吉澤と後藤が遭遇した>>27-34へ
吉澤と藤本が遭遇した>>35-38へ
石川と藤本が遭遇した>>39-43へ
石川と後藤が遭遇した>>44-49へ
- 27 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:44
- 「勝負だよ勝負、わかんだろ」
「勝負の意味ぐらいわかるけど……なぜに?」
吉澤の口元がニヤッと笑った。
「オメーが強ぇからだ」
「だからなんで?」
吉澤は一旦構えを解いた。
めんどくさそうに頭を掻きながら吉澤は言った。
「わっかんねぇ奴だな。強い奴と強い奴、出会ったらそこで勝負だろ」
「なにその理屈、ってか理由。わけわかんないんですけど」
「もーごちゃごちゃ言うなよ」
「言ってんのはそっちでしょって」
後藤は長袖のシャツの腕を捲くった。
その様子を見て吉澤は構えにはいる。
両手首をブラブラさせ、首を一回まわしながら後藤は口を開いた。
「最近人とやってなかったからなぁ」
「ヘヘッ、やっとやる気になったか」
「手加減は?」
「ハッ、調子にのんなよ。全力で来い!」
吉澤はゆっくりと息を吐いた。
吉澤の威勢に後藤は右眉と左口角を上げ、腕を組んだ。
「あたしから行くのあんま好きじゃないから、来てくんない?」
- 28 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:44
- 吉澤は言葉を返さず代わりに後藤に向かって走り出した。
後藤はいまだ腕を組んでいる。
吉澤が右足で上段蹴りを繰り出す。
思ったよりも鋭い吉澤の蹴りに腕を解き、ヒラリと右へ避ける後藤。
素早く右足を戻し落ちるより速くしゃがむと左足で回し蹴りを後藤の足元へ繰り出す。
おぉっ、と声を漏らし後方に飛ぶ後藤。両手の指の隙間には六枚のトランプ。
着地と同時にトランプを吉澤に飛ばす。
急速に回転しながらトランプは弧線の弾道で吉澤を襲う。
バック転でトランプを避ける、吉澤が避けた道筋通りにトランプが地面に刺さる。
くるぶし程度の草むらに着地しすぐに構えをとる吉澤。
「人間……じゃないね、神玉?」
「オメーもだろ?」
「まぁね」
「ヘヘッ、おもしれー」
「そうかな?」
吉澤は軽い笑みを浮かべながら左手で右手の拳を包み指をポキポキ鳴らした。
後藤は何することなく吉澤は見ている。
- 29 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:45
- 吉澤は再び後藤に向かって走り始めた、先よりも速い。
後藤は一瞬目を見開き両手から扇状にトランプを出した。
「オメーにはそれしかねぇのか」
「いやまさか」
「じゃあ他にも出してみろよ!」
吉澤は軽く飛ぶと左足をジャブのように出し、引くと同時に右足を蹴り出す。
上半身を後ろに引くことで後藤は蹴りを避けた、はずだった。
吉澤の足が当たっていないにも関わらず後藤の顎に激痛が走り、後方に少し吹っ飛んだ。
なんとか着地し体勢を整えた後藤は前を見ると、吉澤がいない。
吉澤は後藤の上空を飛んでいた。刹那、後藤はそれに気付いた。
「影蹴!」
「ビッグクローバー!」
吉澤の背後からの蹴りに後藤は半身をひねり、両手で大きなトランプを出した。
蹴りは巨大なトランプの盾に当たり、吉澤はトランプを踏み場にしてバック宙して着地した。
吉澤が着地後すぐに襲ってこないとみるや後藤は顎をさする。
「いてててて」
「オメートランプ以外っつってでかいトランプ出しても同じだろ」
「だからトランプ以外も出せるけどさぁ、それより」
顎から手を離し再び左手から扇状にトランプを出す後藤。
吉澤は、またトランプかよ、と口の中で呟いた。
- 30 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:45
- 「あんたの能力ってなんなの?」
「へっ、避けたつもりが、って言いてぇのか?」
「烈蹴拳の類いだとは思うんだけど」
「ま、そんなもんだな」
吉澤は右手の親指で鼻を弾く。
「オメーこそさっきからトランプばっか出しやがって」
「だってこれが能力なんだもん」
「トランプマン、女だからトランプウーマンか」
「ブー、はずれ」
「なんだっていいけどな!」
吉澤が一足飛びで後藤に向かった。
後藤は左手に持った十枚のトランプを払うように投げた、先と違い回転せずにトランプは縦のまま直線的な弾道で吉澤へと向かう。
素早く右足を地に付け左へ飛ぶ吉澤、トランプは吉澤の右をそのまま飛んでいく。
吉澤が再び後藤に襲いかかろうとした時、後藤の右手には白いロープが握られていた。
「デザインロープ・槍!」
後藤が叫ぶとロープは勝手に動き出し、槍の輪郭を象り固まった。
ロープを順手に持ち、槍を突き出す後藤。
吉澤は突っ込む体勢を変えることができず、なんとか体を捻ったもののロープが右肩に突き当たった。
左手を地面に付き横に転がる吉澤、後藤は右手を上げている。
- 31 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:45
- 「デザインロープ・棒!」
後藤の叫びにロープはまた姿を勝手に変え、今度は一直線の棒となった。
後藤はそれをそのまま振り下ろす。
寝っ転がっている吉澤は急いでまた横に転がる。
間一髪でロープを避けた吉澤は転がる勢いを使って立ち上がった。
ロープは僅かに地面にめり込んでいる。
右肩を回す吉澤、どうやら動くようだ。
「なんだぁそのロープ」
「まぁロープってかこれがあたしの能力ってやつ?」
「なかなかやんじゃねぇか」
「あんたもね」
後藤がロープを引くとロープらしくしゅるしゅるとロープは後藤の元に戻る。
ロープをどこかにしまい、両手を腰に当てる後藤。
「もうそろそろ教えてくんない? あんたの能力」
「じゃあオメーのも教えろよ」
「いいけど」
- 32 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:45
- 吉澤と後藤は互いの能力を教えあった。
「おもしれー能力だな」
「そうかな? そっちこそおもしろいっちゃーおもしろいじゃん」
「オメーはこれからどこ行くんだ?」
「その前にオメーって言うのやめてくんない? あたしにも名前は一応あるんだから」
吉澤は構えを解いた。
「一応?」
「後藤真希という名前があるわけ」
後藤は両手をパーからグーに変えて再び腰に当てた。
「ごとうまき?」
「そう、後藤真希。で、そっちは?」
「オレか? 吉澤ひとみ」
「じゃあよっしーだね」
「よっ、よっしー?」
怪訝な表情になる吉澤。
一方後藤は眉を上げて目を少し開き、口角を上げ三日月の口をしている。
- 33 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:46
- 「吉澤だからよっしー」
「よっしーなんて柄じゃねぇんだけどな」
「いいじゃんいいじゃん」
「勝手にしろ」
「じゃあ勝手にします、よっし〜」
両手をメガホンにして後藤がかわいらしく呼びかけると、吉澤は恥ずかしそうに頭を掻いた。
そんな吉澤がかわいく見えて、後藤は柔らかく笑った。
後頭部を掻いていた手を下ろし、吉澤が口を開いた。
「で、……後藤はこれからどこ行くんだ?」
「ん〜決めてない」
「は?」
「いやだから、決めてない」
後藤の返答に吉澤ははてなを浮かべ、吉澤のリアクションに後藤ははてなを浮かべた。
「まぁ目的はあるんだけどさ」
「目的はオレにもあるぞ、俺は世界一強い神玉になるんだ」
「ほ〜。……おっ!」
突然奇天烈な声を発し後藤は手を叩いた。
- 34 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:46
- 「じゃあさ、仲間になってよ」
「は?」
「だから、仲間になってよ。世界一強い神玉になるんでしょ?」
「世界一強い神玉にはなるけど、それと仲間になるのとどう関係してんだ?」
吉澤の問いに後藤は腕を組み、視線を左上に向けながら吉澤に近づく。
五秒ほど見上げた後、吉澤の正面に止まり視線を向け言った。
「関係はぁ……特になし」
「ねぇのかよ」
「まぁでもいいじゃん、たまにお互い戦って強くなればいいんだし」
「ん〜それもいいかもな」
「じゃあ決定!」
「なっ、ちょっと―――」
「よろしくねよっしー」
屈託のない笑顔で右手を差し出す後藤。
なんかもうどうしていいのかわからなくなった吉澤はとりあえず後藤と握手をした。
後藤は一層笑みを深めた後、握手を解き周りをキョロキョロ見回す。
「じゃあよっしーはそっちから来てあたしはこっちから来たから、あっち行こう」
二人の足跡の付いていない唯一の道を指差した。
「なんか戦ったら腹減っちまったな」
「多分歩いてったら町とかあるよ」
「オレ大してルグ持ってないぞ」
「あれっ? あたしもないや。ま、なんとかなるでしょ」
>>60-68へ
- 35 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:46
- 藤本と吉澤は藤本が来た道を戻っていた。
歩き始めてから吉澤は藤本に質問攻めしている。
「魔王ってどんな姿なんだ?」
「知らないよ」
「知らないのに強ぇってわかんのか?」
「姿はどんなんか知らないけどモンスターの一番上にいるんだから強いに決まってるでしょ!」
「まぁまぁ怒んなって」
こんなやり取りをしながら歩くことしばらく、藤本が吉澤に会う前の分かれ道まで来た。
「美貴はこっちから来たから、こっちね」
「あっちには何があんだ?」
「美貴が務めてるお城」
田舎者丸出しの吉澤は感嘆の声を漏らしながら見えもしない道の向こうの城を見ようとしている。
藤本はそんな吉澤の手を引いて歩き出す。
引っ張られながらもまだ城を見ようとしている吉澤。
いつまで見てんの、と吉澤の頭を軽くはたく藤本。
- 36 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:46
- 「そーいや名前聞いてなかったな」
「そういう時は自分から言うもんだよ」
「オレ吉澤ひとみ」
「あたしは藤本美貴、ミキティって呼んで」
「ミ、ミキティ?」
「みんなそうやって呼んでるから、ってまぁ美貴が呼ばせてんだけど」
自慢げな表情をする藤本、いまだ納得できてない吉澤。
藤本が目を座らせて吉澤を見ても、まだ納得できていない。
「いいからそうやって呼ぶ!」
「はっハイ!」
吉澤の返事に、ヘヘッ、と満足そうに笑う藤本。
やっぱり納得できない吉澤。
すると、草むらから何か現れた。
- 37 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:47
- 大きなイノシシだった。
鼻息荒く二人を睨んでいる。
「デカイノシシか」
「な〜んだ、さっきのやつか」
「なに? さっき戦ったの?」
「あぁ」
「じゃあよっちゃんやってよ」
「よっちゃんって……それよりミキティの戦うところ見てーんだけど」
「え〜美貴はよっちゃんの戦ってるとこが見たいなぁ」
「だってオレさっきやったもん、それにこいつ弱ぇし」
「美貴さっきとか知らないし」
「いいからミキティやってくれよ」
「え〜美貴見たい〜」
「だからなん、おぉ!」
二人が話している間にイノシシは突進してきていた。
間一髪で二人は左右に飛び難を逃れる。
イノシシが通り過ぎると二人はまた道に戻った。
- 38 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:47
- 「よっちゃんがやらないから〜」
「なに! それを言うならミキティが―――」
「ホラまた!」
イノシシは向きを変え、再び突っ込んできた。
「よっちゃん頼んだ!」
そういうと藤本は道の外へ飛んだ。
「ったく」
不満そうな顔をしながらも構える吉澤。
突進してくるイノシシを睨み、吉澤はイノシシが間合いに入ってくるのを待つ。
吉澤は軽く飛ぶと左足をジャブのように出し、引くと同時に右足を蹴り出す。
右足が見事にヒットしたイノシシはものの見事に吹っ飛び、地面を跳ねるように転がり白い煙と化した。
「おぉ〜」
手を叩きながら藤本が吉澤に歩み寄る。
こんなもんでしょ、と吉澤。
「もしかしてよっちゃんって神玉?」
「あたぼーよ」
「へぇ」
藤本がルグを拾いに行き、二人は再び歩き始めた。
>>50-59へ
- 39 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:47
- 「リルドベルグ城になにか用が?」
「えっ?」
「いやあのあたし、リルドベルグから来たもんで」
「あっ、そうなんですか」
「まぁこう見えてもリルドベルグの兵士で―――」
「あっ!」
石川が正面を向いて目を見開いている。
藤本が石川の視線の先を見てみると、大きなイノシシが二頭。
藤本は傍らに置いておいた棒を持ち立ち上がった。
「デカイノシシ! しかも二頭、めんでー」
藤本は二歩前に出ると棒を両手で持ち、構えた。
右にいたイノシシが後ろ足を蹴り上げ、突進してきた。
藤本は右足を前に踏み込んで、突進してきたイノシシの顎を叩き上げた。
- 40 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:47
- イノシシの前足が上がり、そして藤本に腹を見せる形で宙に浮いた。
藤本はイノシシの腹に焦点を定め、棒の先端で思い切り突き飛ばした。
イノシシは吹っ飛んで転がり白い煙と化した。
決まった、と思っていた藤本の横をもう一匹のイノシシが通り過ぎた。
「あっ」
藤本が気付いて振りかえった刹那、石川が叫んだ。
「ファイヤーボール!」
石川は両手を開いて前に突き出すとソフトボール大の火の玉が四つ、イノシシめがけて飛んでいった。
火の玉が全てイノシシの顔面に当たると、イノシシは藤本の方へ吹っ飛んだ。
「おぉ!」
飛んできたイノシシを右に跳ぶことで避けた藤本は石川の方を見た。
石川はどこか満足そうな顔をしている。
- 41 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:48
- 「すごいねぇ!」
「あなたこそ棒使ってかっこよかったよ」
そう言って石川は藤本に近づいていく。
藤本は握手かと思い右手を差し出すと、その横を平然と石川は通り越した。
「へ?」
藤本が振りかえると、イノシシの残したルグを拾う石川が見えた。
藤本が見ていることに気付いた石川は照れくさそうに笑い、言った。
「向こうのルグはあなたのだよ」
「あっ、あぁ……」
「要らないの?」
「えっ? いやぁもらうもらう」
藤本がルグを拾いに行くと、石川は残念そうな顔をした。
- 42 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:48
- 藤本と石川が元いた位置に座ると、店の中から団子屋のオバさんが団子とお茶を持って現れた。
店を守ってくれたお礼らしい。
藤本が礼儀上一旦断る横、笑顔で受け取る石川。
結局藤本も受け取ることにした。
「あの〜さっきの火の玉……」
「ファイヤーボールですか?」
「なっ!」
藤本は両手を広げ即席の盾を作った。
しかしなにも起こらず、藤本は指の隙間から石川を見ると石川はクスクスと笑っていた。
「フフフ、大丈夫ですよ。呪文をキチンと唱えるにはそれなりに時間がいるんです。ただ喋っただけじゃ出てきませんよ」
「あっ、よかったぁ」
石川はまた上品に笑った。
「もしかして神玉ですか?」
「えぇ、まぁ」
「一体どんな旅を?」
笑っていた石川の表情が一瞬にして曇り、俯いた。
「あっ、いや、言いたくないなら―――」
「実は……」
石川は旅の理由を話し始めた。
- 43 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:48
- 「……そんな、そんな悲しいことがあっただなんて……」
「いやぁ、あのぉそんなに泣かれても……」
石川の話を聞いて涙が溢れる藤本。
石川自身も悲しい話だとは思うが、しかし藤本はよく泣くもので、石川は困ってしまった。
「強いね、強いよあんた……名前なんて言うの?」
「あっ、石川梨華です」
「うんうん、あたし藤本美貴ね」
「あっ、はい」
「わかった!」
藤本は団子の串と棒をもって勢いよく立ち上がった。
「あたし! 梨華ちゃんの旅助けるわ!」
「り、梨華ちゃん? 助ける?」
うんうん、と頷きながら団子にパクつく藤本。
明らかな温度差を感じている石川。
「そうと決まれば梨華ちゃん! 行こうか!」
「あちょっちょっとぉ!」
藤本に引っ張られ石川は最後の一本を食べ損ねてしまった。
店のオバさんが出てきて二人に手を振る、藤本は笑顔で、石川は苦笑いで手を振り返した。
藤本が来た道を戻ると、石川と出会う前の分かれ道で止まり、行ってない方の道を進んで行った。
>>60-68へ
- 44 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:48
- 石川の元に野菜炒め定食が出てきたのと同時に、後藤は立ち上がった。
ごちそーさま、とカウンターに食べ終わった食器とルグを置いた。
「それじゃあ頑張ってね」
石川の肩を軽く叩いて後藤は出ていった。
石川は後ろ姿に頭を下げて応えた。
向き直し、割り箸を割る。
「いっただっきま〜す」
餞別のルグとはここで別れた。
- 45 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:49
- 石川は満足して店を出た。
「え〜とあっちから来たから、こっちか」
独り言に贅沢にも指差しまで付けて、石川は進む道を決めた。
- 46 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:49
- 後藤の前に道はあり、後ろにも道はある。
後藤の前に人は無く、後ろにも人は無い。
道幅だけは広い砂利道を寂しげもなく歩くのは、旅慣れているからであろう。
と、また二手に分かれる道に出会った。
ただ、一方は前方へ進む道、もう一方はやや歩いてきた方向へ戻るような道だった。
これは真っ直ぐだな、と声には出さず心で呟く。
すると思いがけない声がした。
「あっ」
選択肢から捨てた方の道を見ると、前に見た顔がいた。
「あ〜さっきの」
「はい」
「あの定食美味しかったでしょ?」
「あっ、はい」
後から店を出たはずの石川だった。
「あれ? あたしのほうが先に出たよね?」
「えぇ」
「な〜んだ、遠回りしちゃったや」
後藤は自分の来た道と石川が来た道を交互に見やった。
- 47 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:49
- 「あっ」
後藤が石川の後方に何かを見つけた。
額に平手を水平に当て、遠くを見る仕草をしてさらに見つめた。
「なんか来てるよ」
「えっ?」
石川が振り返る。
遠くの方で砂煙を上げ黒い物体が迫って来る。
「なん、ですかね?」
「ん〜……イノシシっぽいね」
石川は後藤に歩み寄り、自分の来た道を見る。
米粒ほどに見えていた黒い物体はもうイノシシを確認できるくらいにまで近づいてきていた。
後藤の右手には既にトランプが扇状に開かれていた。
後藤のトランプを見て顔を上げた石川に、後藤が言った。
「危ないから下がった方がいいよ」
「いえ、じゃあわたしも」
すると石川は何やらブツブツ言い始めた。
後藤は石川から視線を前方に戻す、イノシシは十メートルぐらいにまで来ていた。
- 48 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:49
- 後藤が右手のトランプを払うように飛ばすと、トランプは回転することなく縦のまま直線的に飛んでいく。
イノシシは臆することなくツッコんで来る。
トランプがイノシシの刺さる直前、石川が叫んだ。
「ファイヤーボール!」
両手を開いて前に突き出すと、ソフトボール大の火の玉が三つ出現し、イノシシの飛んでいった。
イノシシのトランプがサクサク刺さり、続いて三つの火の玉がぶつかる。
ひっくり返る様に宙に浮いたイノシシはそのまま白い煙と化した。
「お〜」
後藤は手を反り返らせ淡白に拍手をした。
イノシシのいた位置から後藤に視線を移した石川は恥ずかしそうに笑った。
手を合わせることで拍手をやめ、後藤が訊いた。
「もしかして神玉?」
「えぇまぁ」
後藤が手を下ろすと、今度は石川が訊いた。
「あのぉ」
「ん?」
「……ルグ、どうしますか?」
「えっ?」
- 49 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:50
- 石川が指差す先にはイノシシの残した数枚のルグ。
「あぁ、ほしいならいいよ、あげる」
「ホントですか! やった!」
石川は急いでルグの元に駆け寄り拾うと、笑顔で戻ってきた。
後藤は二人の足跡がついていない道を遠い目で見てながら、言った。
「これからこっち行くんだよねぇ?」
「あぁはい」
「色々聞かせてくんない?」
首を傾けながら振り向く後藤。
「何で旅してるのとかさ」
「え?」
「ホラ、ルグあげたんだし」
「そういう事だったんですか」
「いやそうじゃないけどさ、どうせ一緒にこっちに行くわけだから」
「……いいですよ」
石川の返事に後藤は口角を上げた。
「よしじゃあ行きますか」
>>50-59へ
- 50 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:50
- 日が暮れる前に町を見つけ、吉澤と藤本は一軒のレストランに入った。
夕食時、店は活気付いている。
小柄なウエイトレスに人数を告げると相席の承諾を求められた。
二つ返事で承諾した二人は六人掛けのイスに通された。
そこには若い女の子が二人座っていた。
「相席すいません」
「あっ、いいですよぉ」
色黒の女の子が笑顔で応えた。
先にいた二人と同様に対面で座る吉澤と藤本。
吉澤と藤本はテキトーにものを頼むと、同時にお冷に手を伸ばした。
藤本は背もたれによしかかると一度脱力し、再び体を起こして言った。
「さ〜て、これからどうしようか?」
すると吉澤は身を乗り出してくる。
何事かと体を引く藤本だが、ちょいちょいと吉澤が手招きをするので身を寄せた。
「何?」
「横の二人、結構強ぇ気がする」
「はぁ?」
- 51 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:50
- 「だから先にいた横の女二人、アレ絶対神玉だって」
「だからなんなのさ」
「オレ強ぇ奴とは戦ってみたいんだけど」
「ダ〜メだって」
藤本は浮かせていた腰を下ろした。
吉澤は寄り身をのりだし、藤本に訊いてくる。
「何でダメなんだよ」
「そんな無益に戦ってどうすんのさ」
「全然無益じゃねぇよ、オレは世界一の神玉になるんだ!」
握りこぶしを作りやや興奮した声量の吉澤。
周りの数人の客達が見てきたので、藤本は頭を下げで謝りながら吉澤の握りこぶしを抑えた。
「恥ずかしいでしょ!」
「恥ずかしくねぇよ」
先客の二人が吉澤を見ていた。
吉澤はその視線に気付き、色の黒くない方に言った。
「今の話聞いてただろ」
「えっ? 全然」
後藤はかぶりを横に振った。
- 52 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:50
- 「聞いてねぇのかよ」
「あっごめんなさいね、よっちゃんもうやめてよぉ」
藤本は何度も頭を下げて後藤と石川に謝るが、吉澤は二人を交互に見やるだけだった。
「アンタら神玉だろ?」
「ちょっとよっちゃん」
「オレにはわかる、アンタ等は強い」
「ちょっ、何言ってんの」
「勝負しろよ」
「やめんかーい!」
藤本が吉澤の頭を強く叩いた。
「イテテ、何すんだよ」
「ホントごめんなさい、こいつ強い弱いにしか興味がなくて」
「いやぁ別にいいですよ」
再度頭を下げる藤本に両手を振りながら許す石川。
不本意そうな吉澤を見て後藤は笑っている。
「でも神玉っていうのは間違ってねぇと思うんだけどな」
「もうやめなさいって」
「あたし達新玉ですよ」
後藤が答えた。
- 53 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:50
- 「今梨華ちゃんが追ってる奴がいるっていうので一緒に探してるんです」
後藤が、ついでにこの人が梨華ちゃんです、と石川の肩に手を乗せると、石川は恥ずかしそうに軽く頭を下げた。
藤本と吉澤はほぼ同じタイミングで頭を下げた。
「ってまぁあたしも今日梨華ちゃんに会ったばっかりなんですけどね」
「追ってる奴っていうのは……」
藤本が語尾を濁して質問すると、石川は俯いた。
藤本はすぐにそれを察知したが、吉澤にはわからなかった。
「あっ、いえっ、すいませんでした」
「いえ、いいんです」
石川は顔を上げ、弱々しく笑顔を作った。
「それに、これも何かの縁だと思いますし」
石川は旅の理由を語り始めた。
- 54 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:51
- 「……そんな、そんな悲しいことがあっただなんて……」
「いやぁ、あのぉそんなに泣かれても……」
「そんな事件あったか?」
「あったあった、城の資料室で見たことあるもん。まさかあの事件の裏にこんな物語があったなんて……」
藤本はテーブルの端にあった紙ナプキンを三枚取り出し、涙を吹いて鼻をかんだ。
「簡単に言えば、町をぶっ壊したヤローに復讐するって事だろ」
「よっちゃんもそんな簡単に言わないの」
藤本はもう三枚取り出し鼻をかむ。
「よっちゃん、美貴達も協力しよう」
「えぇ!」
「石川さんだっけ? あたし達も手伝うよ」
「あっ、はい」
突然の藤本の言動についてこれない三人。
藤本がまた紙ナプキンに手を伸ばそうとすると、後藤が素早く三枚取り出し藤本に渡した。
「あっ、ありがとう」
「いえいえ」
「ところでお二人も旅なされているんですか?」
石川が吉澤と藤本に訊いた。
- 55 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:51
- 藤本がまだ鼻をかんでいるようなので吉澤が口を開いた。
「オレは世界一強い神玉になるために旅してる。こいつ―――あいやミキティは城の兵士で魔王って奴を倒すんだとよ」
「魔王?」
「あぁ、モンスターの中で一番強いんだと。それで俺はその魔王って奴と戦いてぇからこい―――ミキティと旅してるってわけ」
こいつ、の所で藤本からの睨みが入り焦って訂正しながら話す吉澤。
藤本も満足にかみ終わり、話に加わった。
「まぁほら、これからは石川さんの旅にあたし達も加わるわけだし、ここでキチンと自己紹介しません?」
「おっいいねぇ」
藤本の提案にすぐさま後藤が食いついた。
「じゃあ美貴から、え〜藤本美貴一八歳、リルドベルグ城の傭兵やってます。一応神玉です」
「ん? 能力名は?」
後藤が訊くと残りの二人も頷いた。
「えっ、能力名とか特に決めてないんだけど」
「でもミキティ棒で戦うじゃん」
「戦うけどさぁ」
吉澤が藤本の棒を持ち上げ、石川と後藤に見せた。
- 56 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:51
- 「じゃあ、ぼっこ、でいいんじゃない?」
突如、後藤が口を開いた。
「ぼっこ?」
「あん。どっかの方言で棒のことぼっこっていうらしいから」
「いいね〜ぼっこ、じゃあミキティの能力はぼっこに決定」
吉澤が棒を高らかに上げると、素早く藤本が棒を奪った。
「ぼっこ? なんかカッコ悪い気がするんですけど」
「カッコイイカッコイイ」
「そう、ならぼっこでいいや」
吉澤一人のおだてに藤本はニンマリしながら自身の能力名を決めた。
石川は藤本に見えないようにクスッと笑い、後藤はアシメトリーな笑顔を作った。
「じゃあミキティ最初っから」
「藤本美貴一八歳、リルドベルグ城の傭兵やってます。神玉で能力はぼっこです。ミキティって呼んでください」
「よっ! ミキティ!」
「よっちゃんはもういいから」
三人から簡単な拍手が送られた。
- 57 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:51
- 「じゃあ次よっちゃん」
「ん? オレか? 俺の名前は吉澤ひとみ、一八歳、能力は妖脚。よろしく!」
男気溢れる自己紹介に酔いしれる吉澤。
後藤がお冷に軽く口をつけ水を飲むと、グラスを口の前で止めて言った。
「妖脚ってどんな能力?」
「美貴も聞いたことないんだけど」
「そりゃそうだろうな、オレが勝手に名付けたんだから」
石川は、なんだぁ、と言い、藤本は、なんだ、と言い、後藤は、な〜んだ、と言った。
「本来の能力はハイドビハインド、それに俺の烈蹴拳を組み合わせてできたのが妖脚ってわけ」
「へぇ〜ハイドビハインドなんだ」
「ハイドビハインドって何?」
後藤の質問に藤本が答えた。
「ハイドビハインドっていうのは気を使って自分の攻撃を飛ばす、っていうか攻撃範囲を広げるっていう能力なんだけど、
よっちゃんの場合はどれくらい気を飛ばせるわけ?」
「ん〜大体オレの足の二倍分ぐらいかな」
「じゃあよっちゃんの場合大体二メートル近く先まで足が届かなくても蹴れるっていう感じかな」
「ほぉ〜」
後藤が息を吐いたせいで口の前のグラスの側面が曇った。
石川は無言で頷いている。
- 58 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:52
- 後藤がグラスを置いて言った。
「後で見せてね」
「いいぞ」
「え〜と吉澤だから、よっしーね」
「よ、よっしー?」
「うん、よっしー」
勝手についたあだ名に疑問を持つ吉澤だが、まんざらでもない顔をしている。
石川が水を飲んでいるので、後藤が口を開いた。
「じゃあ次あたしね、え〜後藤真希、一八歳。あたしも神玉で能力はマジシャンね」
「マジシャン? マジシャンってあのマジシャン?」
「そう」
あの、の意味も聞かず後藤は頷いた。
「まぁトランプとかリングとかロープとかで戦うってだけの話なんだけどね」
「ほぉスゲースゲー、今なんか出来る?」
「できるけどぉ、よっしーの能力見せてもらった後でね」
「えー」
「よっちゃんもわがまま言わないの、後で見せてもらえるんだからいいじゃん」
藤本に宥められ渋々納得する吉澤。
そういえば、と藤本が訊く。
- 59 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:52
- 「後藤だからごっちんでいい?」
「ん〜いいよ」
「じゃあごっちんね」
次々とあだ名が決まるテーブルにようやく料理が運ばれてきた。
それぞれの前にそれぞれが頼んだ料理が置かれていく。
吉澤が誰よりも早く手を付け始めた所で、石川が口を開いた。
「じゃあ最後わたしいいですか? 石川梨華、一八歳。能力名はシャーマンです」
牛タンの鉄板焼きを口に頬張りながら藤本が言った。
「シャーマンって火とか水とか自在に操るってやつ?」
「そうです」
「へ〜梨華ちゃんの能力ってシャーマンっていうんだぁ」
「ふふぇ〜ふぉぉふぉくふぁな」
「よっちゃん口の中のもの飲みこんでから喋ってよ」
吉澤はうんうん頷きながらまた唐揚げを口の放り込んだ。
牛タンを飲み込み、藤本が言った。
「よし、これで四人分かり合ったところで乾杯でもしますか」
それぞれが頼んだ飲み物を高く持ち上げ、四人はグラスをぶつけた。
>>69へ
- 60 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:52
- 「やっと着いたぁ〜」
暮れなずむ町の入り口で藤本が思わず漏らした言葉を石川は心の中で同じように呟いた。
石川が藤本に引っ張られてからしばらく歩き、ようやく町を見つけたのだ。
どこにでもあるような平凡な町で、人々は平和そうに闊歩している。
「とりあえずご飯食べよ梨華ちゃん」
「うん」
二人は食事の出来そうな所をテキトーに探しながら歩いた。
途中、黒山の人だかりを見つけた。
藤本は歩みを止め、言った。
「何あれ?」
「さぁ」
「なんかやってんのかな?」
「さぁ」
「行ってみよっか?」
「あちょっ、ちょっとミキティ」
石川の返事も聞かずに群集の元へ駆け出した藤本、その後ろには遅れまいと追いかける石川。
たまたまではあろうが、群集はチラホラと綻び始めていた。
- 61 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:52
- 石川が着いた時には初めの半分ほどの人しか残っておらず、なおも人々は少しずついなくなっていく。
目の前には噴水があり、その前では一人の少女が人々に手を振り、時に頭を下げていた。
町人はその少女の前に置かれた丸い缶の中にルグを入れて去っていく。
藤本は近くの子供に何をしていたのか訊いていたようで、子供に笑顔でお礼を言うと石川の元へ戻ってきた。
「なんかね〜手品やってたらしいよ」
「手品?」
「うん」
最後の待ち人が缶にルグを入れると、少女は頭を下げた。
顔を上げたタイミングを見計らって、藤本が声をかけた。
「あのぉ」
「はい」
「もしかして、今終わっちゃいました?」
「はい……あっ!」
少女は藤本を通り越した位置に視線を移した。
藤本と石川は振り向くと、一人の少女が両手に何かを持って走ってくる。
- 62 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:53
- 吉澤は二人の間をすり抜けて、後藤の前で止まった。
「ホイごっちん、これでいかったか?」
「うん、ありがと。今ちょうど終わったよ」
吉澤は持っていた紙コップを後藤に渡すと、自分の持っている紙コップの中身を一気に飲み干した。
吉澤は地面に置かれた缶を持ち上げると、少し驚いた表情を浮かべた。
「スゲッ! こんなに稼いだのかよ」
「いつもより少し多いけどね〜」
藤本と石川は吉澤と後藤のやり取りを見ていた。
吉澤がそんな二人に気付き、後藤に言った。
「ごっちんまだなんかいるぞ」
その言葉で藤本は我に帰り、言った。
「あっ、すいません。梨華ちゃん行こ」
「う、うん」
藤本に肩を叩かれ、石川も我に帰った。
二人は振り返り立ち去ろうとすると、背後から声がした。
- 63 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:53
- 「オイ!」
藤本と石川は驚いて後ろを振り向くと、左手を腰に当て右手で二人を指差す吉澤がいた。
吉澤の顔は夕日の残り火に照らされ真っ赤だった。
「アンタら神玉だろう」
藤本は自分達の後ろを見たが誰もいない。
その様子を見た吉澤が追うように声をかける。
「だからアンタらだって」
「あたしら?」
「そう! そしてアンタら、結構強いだろ」
藤本と石川は顔を見合わせ、首を傾げた。
吉澤は不敵に笑うと、構えた。
「どっちでもいいから勝負しろ!」
理解できていない藤本と石川を尻目に、後藤が吉澤の止めに入る。
「よっしーやめなよ、行っていいよお二人さん」
「ちょっとごっちん、邪魔すんなよ」
「あっ、ホントに行っていいですよ」
- 64 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:53
- 吉澤に抱きつくようにして動きを静止する後藤。
藤本は一歩二人に近づき、尋ねた。
「どうしたんですか?」
「いやぁねぇ、なんでもよっしーは世界一の神玉になるのが夢で、こうやって強そうな人見かけると誰これ構わず勝負をふっかけちゃうんだよね」
あたしもそうだった、と付け加えるように後藤は言った。
話を聞いて、藤本が何か閃いた所為を見せた。
「あたし達は今魔王を倒すために旅してるんです」
「へぇ〜」
感心する後藤の腕の中で吉澤は、まおう、と小さく呟いた。
吉澤は顔を上げ、言った。
「魔王ってやつは強ぇのか?」
「強いよ〜、なんてったってモンスターの頂点に君臨してるんだから」
「マジか!」
吉澤は後藤の束縛を解くと、藤本に歩み寄った。
夕日のせいではない吉澤の瞳の中の輝きを、藤本は感じた。
「オメーについてけば会えるのか? その魔王ってやつに」
「多分」
- 65 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:53
- 吉澤は振り返り後藤に言った。
「ごっちん、こいつ等についてこーぜ」
「なぜに?」
「だって魔王と戦えるかもしんねーんだぜ」
「いやそんなわくわくされても困るんだけど」
藤本の注意に耳も貸さず、吉澤は藤本の手をとった。
「よし! これからオレらとお前らは仲間な!」
「な、仲間って」
藤本が予想していた展開とやや違ったが、内容は思った通りだった。
後藤はアシメトリーな表情を浮かべているが、吉澤を否定するような表情には見えない。
藤本は石川を見ると少し怪訝な顔つきをしている。
「梨華ちゃん、いいよね?」
「わたしはいいけど」
「じゃあいいよ」
藤本は吉澤に向かって言うと、吉澤は簡単に雄叫びを上げて喜んだ。
後藤は藤本に近づき、よろしく、と握手を求めた。
藤本は握手に応じながら、言った。
「じゃあせっかく仲間になったわけだし、自己紹介でも」
いいねぇ、と言って後藤は握手を解いた。
- 66 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:54
- 「じゃああたしからいい? 後藤真希、一八歳、神玉で能力はマジシャン」
です、と遅れて後藤は言った。
石川が話に入ってきた。
「マジシャンって?」
「まぁトランプとかリングとかロープとかで戦うってだけの話なんだけどね。ついでに、ここでやってたのはただのマジック」
ほぉ〜、と頷く石川。
隣で藤本が口を開く。
「美貴達もごっちんって呼んでもいい?」
「いーよ、好きに呼んどくれ」
「じゃあよろしくね、ごっちん」
「よろしく」
「じゃあ次美貴ね。藤本美貴、一八歳、能力はぼっこ。ミキティって呼んでね」
「ぼっこ?」
「ミキティの能力ぼっこっていうの?」
「あれっ? 梨華ちゃんに言ってなかったっけ?」
石川はかぶりを縦に振った。
「まぁ一般にいう棒術ってやつね」
藤本は右手に持った棒を見せた。
後藤は唇を僅かに突き出して、ふ〜ん、と頷いている。
- 67 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:54
- 「ほら、よっしーも自己紹介しなよ」
「あっ、オレ? 俺の名前は吉澤ひとみ、一八歳。妖脚っていう能力持ってます」
藤本の顔にはてなが塗られた。
「妖脚って? 聞いたことないんだけど」
「だってオレが名付けたんだもん」
「あ、そう」
「元々の能力はハイドビハインドなんだけど、それをオレが得意としてる烈蹴拳と組み合わせたのが妖脚ってわけ」
「ミキティ、ハイドビハインドって何?」
藤本の肩に手を置き、石川が訊いた。
「ハイドビハインドっていうのは気を使って自分の攻撃を飛ばす、っていうか攻撃範囲を広げるっていう能力なんだけど、
……よっしーでいい?」
「あぁ」
「じゃあよっしーの場合はどれくらい気を飛ばせるわけ?」
「ん〜大体オレの足の二倍分ぐらいかな」
「じゃあよっちゃんの場合大体二メートル近く先まで足が届かなくても蹴れるっていう感じかな、わかった?」
「ん〜なんとなく」
「なら実際に見せてやろうか?」
そういうと吉澤は噴水の方を向き、構えた。
呼吸を静めると、ハッ、と叫んで飛び上がった。
噴水は中央から一筋の水流が湧き上がる様に噴いていて、吉澤はその筋目掛けて空中で前蹴りを放った。
足は全く届いていないのだが、水流は吉澤の足の延長上の部分が切れ、細かい水沫が飛び散った。
着地した吉澤は自慢げに振り返った。
- 68 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:54
- 「ま、こんな感じ」
「スゴーイ!」
石川は激しく拍手を吉澤に送った。
照れくさそうに頭を掻く吉澤。
「拍手より梨華ちゃん、自己紹介」
自己紹介を促され半強制的に拍手を中断させられる石川。
「石川梨華、一八歳、能力はシャーマンです」
「あっ、梨華ちゃんシャーマンだったんだ」
何やら納得した顔の藤本。
何やら納得していない顔の吉澤。
納得したんだかしてないんだがわからない顔の後藤。
吉澤が訊いた。
「シャーマンってどんな能力なんだ?」
「シャーマンっていうのは火や水といった自然の力を利用する能力のことだよ」
「へぇ〜スゲーな」
「よし!」
後藤が、パン、と手を叩いた。
「自己紹介も終わったことだし、どっか食べ行こう。お腹減ったし」
その意見は三人によりすぐに可決されたのだった。
>>69へ
- 69 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:55
- 今日はここまで。
次回は四人一緒にスタートです。
>>24名無飼育さん、ありがとうございます。
まだまだ未熟ですが、よろしくお願いいたします。
>>25名無飼育さん、ありがとうございます。
期待を裏切らぬよう努力していきます。頑張ります!
では以下、用語説明を。
- 70 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/13(月) 10:55
- 神玉:非常に戦闘能力が高い人種のこと。今のところ説明できるのはここまで。ついでに「しんぎょく」と読みます。
ビッグクローバー:縦横共に十倍の大きさのトランプ(クローバー)の盾を出す技。
投げられるトランプ同様、後藤の気により硬質化しています。
トランプゲーム向きではないようです。というより、クローバーしかないので多分出来ません。
デザインロープ:自分の好きな形にロープを固められる。ロープの長さは場合によって様々だが、上限は五メートル。
後藤がイメージした形に変形するので大抵の形にはなることが出来る。
なお、刃の付いた物に変形してもあくまでロープなので切ることは出来ない。
リルドベルグ城:藤本が使えるお城。城下町もある。周辺の村や町を管理下とし、モンスター討伐も行なっている。
ファイヤーボール:ソフトボール大の火の玉が三〜五個出現し、敵に向かって飛んでいく。
定番中の定番な名前で、イメージが湧き易いかもしれない。
ぼっこ:北海道弁で「棒」の意。抱き枕を指すこともある。(それは我が家だけかもしれないが)
ハロモニで紺野がぼっこ発言をし安倍にそれは北海道弁だと指摘され驚く姿を見た人もいることだろう。
関係ないが北海道では「押すことが出来ない」ことを「押ささらない」と言う。
読んでいて、わかんねぇ、という言葉があったら言って下さい。
北海道弁ではなく標準語で解説いたします。
- 71 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 17:04
- 試みが面白いですね。
吉澤のキャラが悟空みたいだw
- 72 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/13(月) 21:39
- 作者さんすごーい。大変そうだけど頑張れー。
- 73 名前:娘。よっすぃー好き 投稿日:2004/12/14(火) 23:51
- 凄い!こんな物語を見たのは初めて。続き期待してます。
秋田でも棒=ぼっこということはあります。最初読んだときは、スキーの「ボッコ」かと思ってしまいました。
- 74 名前:めかり 投稿日:2004/12/18(土) 13:54
- ごぶさたで〜す。
アクション物ついに始めたんですね。
ストーリーの進み方が新鮮でオモロイですね。
これからも期待してま〜す。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/20(月) 16:24
- この読み方はまるでN900iに内蔵されてるゲームの
小説のようで面白いです!!あれ凄く好きだったんで、
ちょっと感動。内容もぐっとです(生意気。
- 76 名前:聖なる竜騎士 投稿日:2004/12/21(火) 04:23
- どうも初めまして。同じく空板で小説を書いています「聖なる竜騎士」と言う者です。
いや〜〜、最初この小説のシステム(マルチシナリオ)を読んだ時、正直凄いと
思いました。
ストーリーも、馴染み易いバトル物で読みやすい。
良い所で終わっちゃったんで、早く続きが読みたいと思います。
- 77 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:09
- 前回、
吉澤、後藤、石川、藤本が遭遇、仲間になった>>78-87
- 78 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:10
- 仲間となり、夕食を食べ始め、一時間が経った頃には四人の間にあった壁もなくなっていた。
全員同い年だからなのか、同じ神玉だからなのだろうか、単に気が合っただけなのだろうか、いずれにしても
まるで今まで生きてきた時を共に過ごしてきたかのような親睦の深まりようであった。
藤本が手を上げ店員を呼ぶ。
「すいませ〜ん、ぶどう酒一つぅ」
「ハ〜イ」
「あっ、みんなはいる?」
藤本が三人に訊く、後藤はすぐに首を横に振った。
一方吉澤はというと興味深げに藤本を見ている。
「ミキティそれうめぇのか?」
「あれっ? もしかしてよっしー飲んだことないの?」
吉澤は実直に首を縦に振った。
「じゃあ飲んでみなよ。梨華ちゃんは?」
「わたしは……」
石川は手の平を振ることで語尾を表わすと藤本はすぐさま先の店員を呼び出す為に手を上げた。
「すいませ〜んもういっぱ〜い」
「ハ〜イ」
間もなく運ばれてきた紫の液体を藤本は慣れた感じで、吉澤は恐る恐るといった感じで飲み出したのだった。
- 79 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:10
- 「よっしー飲み過ぎだよぉ」
「んん〜へっへぇ〜」
「もぉ」
もう何杯ほど頼んだのだろうか。
吉澤がだらしのない笑顔でよしかかってくるのを眉間に皺をよせながら受け止める石川。
頬を赤らめた吉澤は普段の男勝りが姿を隠し、ある意味退行よろしく、ベロベロに酔っぱらっていた。
吉澤を誘った藤本は早々に机に突っ伏して眠っている。
後藤は藤本が残したぶどう酒のグラスを手に取り、顔の高さまで持ってくると中のぶどう酒をユラユラ回している。
「梨っ華ちゃぁ〜ん、プイップイッ」
「ちょっよっしーやめてよぉ、ちょっとごっちん」
「ん?」
グラスを口に当て、後藤の唇に液体が音もなく当たった。
またもや音もなく吸い込まれていくぶどう酒。
石川は後藤が飲み終わるまで待っていたが、その間も吉澤が人差し指で石川の鼻を押してくる。
「もう出ようよぉ」
後藤の口から空のグラスが離れた。
「そだね、出よっか。ちょっとミキティ起きて〜」
後藤は隣で寝ている藤本を揺さぶるが起きる気配はない。
- 80 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:10
- 「梨華ちゃん、ごとーはミキティ背負ってくからよっしーよろしくね」
「うん。ほらよっしーもう行くよ」
少し眠たげな眼差しを石川に向ける吉澤。
「にゃんもぉ行くにょ? ん〜ん〜……」
「もお、ほらよっしー立って立って」
石川が吉澤を立たせようと奮起している間に後藤はカウンターに行って会計を済ませていた。
吉澤は石川と肩を組むことで何とか立ち上がる。
後藤は席に戻ると藤本の横にしゃがみ込み、藤本の両手を持つとテーブルと藤本の間に体を滑り込ませ藤本の両手を肩に乗せ立ち上がった。
藤本が僅かにまぶたを上げ、無意識で確認したのか後藤の首に腕を回した。
後藤は藤本を太ももの裏から持ち上げ、吉澤の足取りに翻弄されている石川と一緒に店を出た。
とっくに日が落ちた空には月が借り物の光で存在を誇示していたが、街路灯の方が足元を照らすだけの光を放っている。
「とりあえず宿屋探さないと」
「あっ、ごっちん向こうに宿屋あるよ」
「にゃにやがあったってぇ?」
石川と後藤のおかげで無事、四人は宿屋に泊まることが出来たのだった。
- 81 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:10
- 翌朝。
人生初の二日酔いに苦しんでいる吉澤。
そんな吉澤とは対照的にいたって元気な藤本。
昨夜の夕食で思っていた以上にルグが減ってしまったことを嘆く石川。
空を見上げ今日の天気を予測している後藤。
宿屋を出た。
街の真ん中にある広場の噴水の前、四人は顔を見合わせる。
後藤が口火を切る。
「さ〜てこっからどうしよっか?」
「とりあえずさぁ、この辺から出ない?」
藤本が言った。
「この辺りは美貴のお城の管轄下っていうの? まぁ大した範囲ではないんだけどわりと知ってるといえば知ってる地域なんだよね。
この辺何もないし、とにかく遠くに行こうよ」
「いいねそれ、そうしよう。それがいいよねよっしー?」
「……」
具合悪そうに俯く吉澤からの返答はないが、三人は異論はないのだろうと捉えた。
もちろん二日酔いであることも考慮に入れて。
「じゃあそうしよっか」
「美貴達はあっちから来たから、あっちだね」
藤本が指差す方向、山が見える。
四人は山を越えるため歩き始めた。
- 82 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:11
- 道中で出会うモンスターは石川、吉澤、藤本、後藤の順でローテーションし退治して行った。
もっとも吉澤が二日酔いだった初日は藤本がその責任を負わされ、吉澤の分まで戦うことになったのだが。
一日では山を越えられず野宿。
食事当番もローテーションで行うことになる。トップバッターは後藤。
結局山を越えるのに四日かかり、その間に石川、藤本が食事当番となった。
三日目の夜、満場一致で食事当番は後藤に決まった。
夕刻ちょっと前、山を越えると麓に町があった。
酒場や宿屋、民家を含め二十軒ほどの家々があり、町としては中程度の規模である。
四人は久々に宿の泊まろうと宿屋を探していると町の異変に気付いた。
一番最初に気付いたのは後藤だった。
「修復してる家多くない?」
「ん〜たしかに」
「どうしたんだろうね?」
「さぁ」
玄関の戸や窓など壊れている箇所に違いはあるものの、ほとんどの建物は必ずどこか壊れているようである。
「台風かなんかじゃねぇの?」
「美貴達が山越えしてる時台風なんてなかったじゃん」
「そっか、そうだよな。したらなんなんだろうな」
「あっ、宿屋あったよ」
石川の指差す先には傾いた看板が掲げられている宿屋があった。
- 83 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:11
- 宿屋の戸も半分壊れていた。
四人が中に入っても誰もいないようだった。
先頭の藤本が叫ぶ。
「すいませーん、誰かいますかぁ」
するとカウンターの奥から人の良さそうなおじさんが現れた。
「はいはいはい」
「あのぉ今から四人泊めてもらえますか?」
「あ〜……」
おじさんは頭をポリポリ掻き、申し訳なさそうな顔をして言った。
「いいけども、見てわかる通り色んな所壊れちゃってるからねぇ」
「大丈夫ですよ、野宿よりマシですし」
「そうかい? なら四名様ね」
そう言っておじさんはまた奥へと消えていった。
おじさんの言った通り壁やカウンターにもいくつか大きな傷がある。
後藤がカウンターにある傷の一つを指で摩っている。
「どうしたごっちん?」
「ん? いやぁ……」
吉澤の問いを後藤は雰囲気で打ち消した。
おじさんが奥から戻ってきた。
「ではどうぞ二階へ」
- 84 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:11
- 四人部屋なので四方にベッドが一つずつ置かれていて、並べて置かれているベッドの間に小さな棚がある以外は何もない簡素な部屋。
窓は割れたのだろうかガラスがない。
「この部屋しか泊まれる部屋がないんです、これで勘弁して頂けないでしょうか」
「ダイジョブダイジョブ、野宿よりマシだっての」
吉澤は右奥のベッドに飛び乗った。
「食事は大した物がないのですか、この部屋まで持ってきますから―――」
「あの」
藤本がおじさんの言葉を遮った。
「なんかあったんですか?」
「いえいえ、旅人の方には関係ないことです」
「いや、あの、一応リルドベルグ城の兵士なんで」
「あっ!」
おじさんは驚いた表情を見せた。
「ホントですか!」
「えぇまあ」
「お願いです! 我々を助けてください!」
おじさんが藤本に必死に懇願する様子にベッドに寝っ転がっていた吉澤も体を起こした。
- 85 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:12
- 「山賊?」
「えぇ、ここ最近なんですが……」
吉澤のベッドに藤本、石川も座り、後藤は腕を組み窓辺によしかかっている。
吉澤の隣のベッドにおじさんは腰をかけ、深刻そうに話した。
「突然町に現れては物を壊したり食料を奪ったり、実は昨日も現れまして……」
「だから町中の家が修復作業してたんですね」
石川の言葉に吉澤がウンウン頷く。
後藤は腕を解きながら口を開いた。
「カウンターの傷に古いのや新しいのがあったのもそのせいか……」
「ごっちんそれをさっき」
「ん〜まぁね」
後藤は三人が座るベッドの向かいのベッドに座った。
「このままでは町が破壊されてしまいます。だからお願いです、山賊を退治しては頂けないでしょうか」
「任せて下さい!」
藤本が胸を張って即答した。
それに石川が少し慌てて言った。
- 86 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:12
- 「ちょっとミキティ、何をいきなり―――」
「いきなりも何も、困ってる人がいたら助けないでどうすんの? ねぇよっしー」
「山賊ってぇと強そうだしな、オレがいっちょ退治してやっか」
「そうそうそうこなくっちゃ」
「そうそうってよっしーはちょっと意味が違うような……」
石川の突っ込みも聞こえないのか、藤本と吉澤は腕相撲する時のように手を組んでいる。
「ごっちんはいいの?」
「ごとーは賛成だよ。梨華ちゃんこそいいの?」
「わたしもいいけど」
「よし!」
藤本が立ち上がった。
「そうと決まればおじさん、美貴達に任せて下さい!」
「本当ですか! ありがとうございます!」
四人は順番におじさんと固い握手を交わした。
- 87 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:12
- おじさんが退室後、藤本はおじさんが座っていた位置に座り、言った。
「じゃあこれから夜までに情報収集と行きますか?」
「情報収集ってなんだ?」
屈託もなく吉澤が訊く。
「情報収集っていうのは町の人達の話を聞いて山賊のことを少しでも知ろう、ってこと」
「ほぉほぉ」
「四人で動くとアレだから、二人ずつに分かれて情報収集しよう」
藤本の意見に三人はすぐに賛成した。
組み合わせは後藤がトランプを四枚出現させ一枚ずつ引かせた。
スペードを引いたのは石川と吉澤、ハートを引いたのは後藤と藤本。
ペアも決まり、四人は宿屋を出た。
「梨華ちゃん達はそっち側ね、美貴達はこっち側を聞いてまわるから」
「うんわかった」
石川・吉澤ペア>>88へ
後藤・藤本ペア>>89へ
- 88 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:12
- 藤本、後藤と別れて二人はほんの少し歩いた。
「どこ行こうか?」
酒場へ行く>>90へ
民家Aを尋ねる>>91へ
民家Bを尋ねる>>92へ
- 89 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:13
- 石川、吉澤と別れて二人はほんの少し歩いた。
「どこ行こうか?」
教会へ行く>>93へ
広場へ行く>>94へ
民家Cを尋ねる>>95へ
- 90 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:13
- 酒場は日も落ち始めているというのに営業しているようには見えなかった。
中の灯りが壊れた玄関の戸から漏れているが、人々の活気は漏れてこなかったからだ。
二人は壊れた戸に触れないようにして中に入った。
「すいませ〜ん」
「今日はやってないよ」
カウンターの下からヒゲをたくわえた男が現れた。
「んっ? 見ねぇ顔だな。とにかくこの有り様見てわかるだろ、今日は店やってないよ」
「そのことなんですが……」
石川が話を切り出した。
事情を理解した男は話し始めた。
「奴等は二十人ぐらいで町にやってきたんだ、好き勝手暴れやがってこの店もどの家もめちゃくちゃにしてくんだ」
「そん中で強そうな奴はいたか?」
「ちょっとよっしー」
「あ〜一人体のデカイ奴がいたな、きっとアイツがボスだろう」
男の話を聞いて吉澤の目が輝き出した。
「俺がわかるのはそれぐらいだな」
「あっはい、ありがとうございます」
「おう、お嬢ちゃん達も頑張れよ!」
「ありがとうございます。ほらよっしー行こう」
石川は吉澤の腕の引いて店を出た。
民家Aを尋ねる>>91へ
民家Bを尋ねる>>92へ
三つとも廻った>>96へ
- 91 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:13
- 二人はすぐそばの民家を尋ねた。
この家も例に漏れず窓が割れている。
「すいませ〜ん」
「ハ〜イ」
家の中からエプロン姿のおばさんが出てきた。
「どなた様?」
「あっ、旅の者で実は……」
石川は事情を話すとおばさんは何度も頷いて理解してくれた。
「ん〜でも山の方から来るって事ぐらいしかわからないわぁ」
「山の方から?」
「う〜ん、ちょっとそれぐらいしか―――」
「お母さぁ〜ん」
家の中から子供の声が聞こえた。
「はーい、すいませんねぇ」
「いえいえ、ありがとうございました」
おばさんは家の中に入っていった。
他の所へ行こうとした石川だが、吉澤が戸の前から動こうとしない。
「よっしーどうしたの?」
「この家今日カレーだ」
「もぉ! そんなこといいから行こうよ」
吉澤は手を引かれその家を離れた。
酒場へ行く>>90へ
民家Bへ行く>>92へ
三つとも廻った>>96へ
- 92 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:13
- 石川と吉澤は少し歩くと、窓を直している老人を見かけた。
手つきが慣れている、ということが少し皮肉だった。
「すいませ〜ん」
「はいはい」
窓枠を釘で固定していた老人の手が止まった。
石川は事情を話した。
「あ〜でもちょっとわからんなぁ」
「何でもいいんです、何か知りませんか?」
「わしゃ怖くて家の中で閉じこもってるからなぁ、何もわからんわぁ。すまんなぁ役に立てんで」
「いえいえ、ありがとうございました。よっしー行こ」
「じいさん、ちょっと釘と金槌貸してくれ」
老人から釘を金槌を渡してもらうと、吉澤は窓枠を素早く直した。
「どうだじいさん、こんなもんで」
「おぉ、ありがとうよ」
「気にすんなじいさん。じゃあ行くか」
二人が歩き出すと背後から、気をつけろよぉ、と声がした。
二人は振り向いて手を振ると老人は大きく手を振り返したのだった。
酒場へ行く>>90へ
民家Aを尋ねる>>91へ
三つとも廻った>>96へ
- 93 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:14
- 二人は町で唯一の教会へ向かった。
教会の分厚い扉には幾つかの傷が見られ、中へ入ると整列された机もいくつか壊されていた。
一人の若いシスターが現れた。
「どうなされましたか?」
藤本はシスターに事情を話した。
シスターは、そうですか、と言った後、話し始めた。
「なんでも、この町から少し離れたナルガミラ山から来てる山賊なのだそうです」
「ナルガミラ山?」
「えぇ、この町から少し東へ行った所にあります」
三人は教会を出た。
シスターがおおよそ東の方向を指差す。
「あの山です」
「あれがナルガミラ山」
「ふ〜ん」
後藤はさして興味の無さそうな声を漏らしたが、視線はしっかりと山に向かっている。
「わたしがわかることといったらこれくらいしかないのですが……」
「あっいや、ありがとうございます」
「あのぉ、頑張ってくださいね」
「はい、絶対退治してみせますんで!」
藤本は右手の拳を見せつけるかのように強く握った。
広場へ行く>>94へ
民家Cを尋ねる>>95へ
三つとも廻った>>96へ
- 94 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:14
- 「ごっちん、ここって広場っぽいとこあったっけ?」
「ん〜宿屋に行く途中に見たような、見ないような……」
「どっちさ! まぁ多分町の中心にありそうな感じがするから、行ってみよ? 人もいるだろうし」
「そだね」
二人は町の中心へ歩き出した。
しばらく歩くと町の中に大きな広がりが現れた。
たしかに広場はあったものの、人がいない。
「人、いないね」
「うん」
「夕食時だからかなぁ?」
「じゃない?」
「ごっちんおなか減った?」
「うん、ミキティは?」
「めっちゃ減った」
「やっぱり」
教会へ行く>>93へ
民家Cを尋ねる>>95へ
三つとも廻った>>96へ
- 95 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:14
- 二人は煙突から煙の昇る民家を尋ねた。
この家も例に漏れず窓が割れている。
「すいませ〜ん」
「ハ〜イ」
家から出てきたのは小さなおばあさんだった。
藤本は事情を話すとおばあさんはゆっくり頷き、言った。
「そやつらには神玉の親分がいるそうな」
「その神玉の能力ってわかりますか?」
「いやぁちょっとそこまではわからんなぁ」
「あっ、そうですか。教えていただきありがとうございます」
おばあさんは柔らかい笑みを浮かべ、言った。
「どうだい? シチューがあるけど食べていかないかい?」
「あっいえ、まだ行かないといけない所があるので」
「そうかい、それじゃ頑張ってくれよ」
「ありがとうございます!」
二人はキチンとお辞儀をした。
玄関の戸が締まり、二人が家を離れると後藤が口を開いた。
「シチューかぁ……食べたかったなぁ」
「何言ってんのぉ、宿屋でおじさんが夕食作ってくれてるじゃん」
「シチューかな?」
「あのね、ここはシチュー村じゃないんだから」
「シチュー村なんてあるの?」
「ない! いいから行くよ」
教会へ行く>>93へ
広場へ行く>>94へ
三つとも廻った>>96へ
- 96 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:14
- その後も数軒家を尋ね情報を集めた二人。
日もほとんど落ちている。
「宿屋に戻ろっか?」
>>97-98へ
- 97 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:15
- 今日はここまで。
用語解説を先に。
ぶどう酒:この世界では一八歳でもお酒が飲めるらしいです。ワインではなくぶどう酒という辺りが微妙に絶妙な感じ。
山賊:山にいるから山賊、海にいると海賊。どっちも盗賊。
ナルガミラ山:山賊の棲む山。ナルガミラに特に意味はないです。
- 98 名前:メカ沢β 投稿日:2004/12/21(火) 22:15
- >>71名無飼育さん、ありがとうございます。
確かに似てるかもしれないですね、どちらも強い者が好きですし。
ただ、吉澤のイメージは水をかぶると変身してしまう漫画の主人公なんです。
>>72名無飼育さん、ありがとうございます。
ご想像されている通り、大変です。
ですが自ら始めたものなので途中で投げず頑張りたいと思います。
>>73娘。よっすぃー好きさん、ありがとうございます。
私は生まれてから今まで北海道に住んでいるのですが、秋田でも棒=ぼっこと言うとは知りませんでした。
スキーの「ボッコ」とはこぶのことでしょうか?
>>74めかりさん、ありがとうございます。
始めてしまいました、めかりさんの影響であることは言うまでもなく……。
アクション物について何か指導する所があればぜひとも教えてください。
>>75名無飼育さん、ありがとうございます。
私の携帯はauなのでわかりませんが、携帯にもマルチシナリオのゲームってあるんですね。
末永くよろしくお願いいたします。
>>76聖なる竜騎士さん、ありがとうございます。
聖なる竜騎士さんの「私立朝日ヶ丘大付属学園高校殺人事件」もぜひ読ませていただきます。
推理物はあまり読んだことがないので楽しみです。
- 99 名前:スペード 投稿日:2004/12/21(火) 22:36
- ファンタジーで分岐ありってめずらしいですね。
続き期待してます。
- 100 名前:めかり 投稿日:2005/01/01(土) 20:52
-
あけましておめでとです。
更新おつかれさまです。
自分もまだまだ未熟者ですから〜、
これからも一緒にがんばって行きましょう。
- 101 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:55
- 前回、
四人は山賊討伐をすることにした>>102-107へ
- 102 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:55
- 四人が宿に戻った。
いつの間にやら部屋の中心には丸いテーブルがあって囲むようにして椅子も四つ置かれている。
宿屋の主人が部屋に夕食を持ってきてくれた。
「おっ、シチューだ」
「ごっちんシチュー好きなの?」
皿を並べる手伝いをしながら石川が後藤に訊く。
後藤は下唇を僅かに押し上げ目をパチリと開いた。
「まぁ好きは好きだけどそういうことじゃなくて、さっきミキティと町の人に話聞いてる時にね、ねぇミキティ?」
布で棒を磨いていた藤本に聞こえるように最後を大きく言った。
後藤の意図した部分だけ聞こえたらしく、藤本は石川と後藤を見てはてなを浮かべている。
棒を立て掛け藤本がテーブルに近づいてきた。
「なに? なんか美貴呼んでなかった?」
「シチュー」
「あっホントだ、だけどここはシチュー村じゃないよ」
「わかってまぁすぅ」
「なにシチュー村って?」
「梨華ちゃんはいいの、それより―――」
「おーメシメシ! いいねぇシチューじゃんかぁ」
吉澤の威勢に三人は顔を見合わせ、笑った。
- 103 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:56
- シチューを食べ終え食器も主人にさげてもらった。
おかわりを二杯した吉澤はベッドに仰向けに寝っ転がりお腹をさすっている。
そんな吉澤の横に座り、三杯分のシチューと多少のパンが入った胃を刺激するように吉澤のお腹をポンポン叩く藤本。
窓を開け放ち月光を確認すると夕食時に話し合った山賊の情報を書いた紙を顔の高さまで持ってきて遠目にそれを見る後藤。
トイレから戻ってきた石川。
「ごっちんなんかわかったの?」
「ん?」
石川の顔を確認するようにして見た後藤は嘯いた口から息を吐き出し石川が近寄ってくるのを待った。
石川が後藤の横に来ると、藤本もベッドから立ち上がり二人の元へ寄っていった。
後藤を真ん中にして三人が並び紙を見ている。
石川がその中の一項目を指差し、言った。
「ナルガミラ山って遠いの?」
「いや、見た感じそんなんでもなかったけど」
「じゃあ私達が行って退治するってことに……」
「ん〜どうだろうね」
後藤が首を傾げると藤本の頭に軽く当たり、おっごめん、と後藤は軽く謝る。
「あの山にはごとー達は行っちゃいけない、と思う」
「は?」
藤本の反応は凄まじく早かった。
- 104 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:56
- 「どういう意味?」
「ん〜とね、ごとーが見た感じでいうとあの山、ナルガミラ山だっけ? ナルガミラ山って多分人が
入る山じゃないと思うんだ。きっと山賊は獣道使ってるんだと思うんだけどさ」
「何でそんなことがわかるわけ?」
「なんとなく? 勘っていうよりか経験かな?」
「ほぉ〜ん」
藤本は何か納得したのか頭を小刻みに上下させる。
石川はまだわかっていないようだった、後藤に質問をした。
「でも獣道だって道なんだったらわかるんじゃないの?」
「そうなんだけど……なんつーかな、あの山は山賊の住処なわけよ。となると侵入者に対して何があるかというと、ミキティ」
「えっ何、続き言えって? だからぁ、山賊が用心して罠をはるってことが考えられるでしょ」
「あぁそっか」
口をポカーンと開けて理解した石川。
わかった?、と藤本が問うと石川はウンウン頭を上下させる。
その二人の間で紙をまた目を細めて見ている。
後藤が呟く。
「二十人ぐらいかぁ……」
「一人で五人相手だよ」
「でもボス一人が神玉なんでしょ?」
「そうらしいね」
「じゃあオレがそいつとやる」
跳ね上がるようにして上体を起こし、吉澤が言った。
- 105 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:56
- 「一番強ぇんだろ? ならオレがやるのが道理ってもんじゃんか」
「全っ然道理になってないんですけど」
吉澤のベッドに乱暴に座る藤本。
座った拍子に吉澤の膝を叩き、言葉より少し遅いツッコミをした。
吉澤はツッコミに動じず、口を開いた。
「で、待つのか?」
「そっちのほうがいいとごとーは思う」
後藤は紙を小さく折りたたむとポケットにしまった。
石川が、でも、と口をはさむ。
「それじゃいつやってくるかわからないよ」
「そこなんだよね〜問題は」
藤本は吉澤の膝にいまだ手を置きながら、言った。
「じゃあそれまで町の復興の手助けをするっていうのはどう?」
「いいねそれ」
「えー」
賛成と反対が一度に起こった。
- 106 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:56
- 賛成派は後藤と石川だった。
「町の人達をを助けるって意味じゃあおんなじだもんね、ごっちん」
「ん〜まぁね」
反対派は吉澤。
「そんなんより修行しよーや。オレは世界一の―――」
「世界一の神玉になるんでしょ、もう何回も聞いた」
藤本が割って入った。
「んじゃあ手助けした後に修行でいいじゃん」
どう?、といった表情で三人を見る藤本。
「ごとーはそれでいいよ」
「私も賛成」
声の聞かれない吉澤の膝を揺らす藤本。
「ま、修行前の準備運動ってことで」
返事を催促された吉澤はそう言ってまた天井を仰ぐように寝っ転がった。
- 107 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:57
- こうして午前と午後の前半は町の復興を支援し、それから修行することになった。
山賊が現れるまで毎日修行は行なわれた。
場所は町を出てすぐの原っぱ。
吉澤vs後藤>>108-113 後藤vs吉澤>>108-113 石川vs吉澤>>114-117 藤本vs吉澤>>118-121
吉澤vs石川>>114-117 後藤vs石川>>122-126 石川vs後藤>>122-126 藤本vs石川>>128-130
吉澤vs藤本>>118-121 後藤vs藤本>>127 石川vs藤本>>128-130 藤本vs後藤>>127
全部見た>>131-132
- 108 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:57
- 草原と呼ぶには丈の短い草の上、対峙する吉澤と後藤。
二人とも手首やら足首やらをブラブラさせ準備運動をしている。
「よっしーと戦うってわくわくするなぁ」
「まぁごっちんがどの程度の強さなのかわからんけど、オレが勝つ!」
「お〜お〜気合入ってるねぇ」
目を少し見開き口を嘯かせ、後藤は吉澤の意気込みに感心をみせる。
一方意気込んだ方は首を乱暴に回しさらに気合を体現させている。
軽い風が後藤の長い髪を揺らす。
肩の後ろにあった髪が後藤の顔にかかり、自身の髪のくせに迷惑そうな所為を見せる。
そして気付く。
「髪縛ってなかったや」
「頼むぜごっちん。真剣勝負だぞ」
「ごめんごめん」
どこからあったのか黒い輪ゴムを取り出し、後ろに髪を束ねる。
「ってか勝負じゃなくて修行なんだけどね」
吉澤は紫の武道着を意味無く払い両手を拳にして、構えた。
髪を束ね終えた後藤は右上を眺めるようにして見た後、言った。
「手加減は?」
「何でそんなこと聞くんだよ」
「人相手……まぁ神玉相手には一応言うことにはしてるんだよね」
「じゃあ本気で来い!」
後藤は口角を上げた。
深く息を吸い一瞬止めると、言った。
「ごとーから行くの好きじゃないんけど……それじゃあ遠慮無く!」
- 109 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:57
- 左手には扇状に開いたトランプを、右手にはまだだらしない形体の白いロープを持って後藤は走り出した。
吉澤は自身の攻撃が当たる範囲外にいる後藤をキッと睨み、腰を落とす。
「よっしーなんだかカッコイイよ」
「うっせー」
左手を思い切り横に振るとトランプが回転せず直線の軌道を描き飛んでいく。
吉澤は前蹴りを二発繰り出し自身よりかなり前方でトランプを蹴り落とした。
吉澤の左足が元の位置に戻ったのと同時に後藤は右手を振りかざす。
「デザインロープ・斧!」
叫び声に反応するように白いロープは素早く動き出すと斧の形状をあらわした。
吉澤は下段蹴りを行なうと後藤は前方二メートルの位置にいるに関わらず両足を揃えて飛び、振り上げていた右手を勢いよく振り下ろした。
斧の輪郭をしたロープが吉澤の頭頂部に当たる寸前、蹴り出していた右足に体重を移動させながら体を反転させ避けた。
避けた勢いそのままに左足で後ろ回し蹴りを後藤の背中に繰り出す。
地面と接点の無い後藤は後ろ回し蹴りが当たると濁音を漏らして吹っ飛んでいった。
地面を三回転して止まった後藤の顔は苦痛に歪んでいる。
一方吉澤は後藤に飛びかかると右足を前に飛び蹴りを放った。
まともな体勢の取れていない後藤はその蹴りを見事顔にくらい、再び後方へ吹っ飛ぶ。
吉澤は着地したその場に立ち、腰に手を当てる。
後転して止まった後藤は追撃が来ないとみるや片膝のまま口角から流れる血を手の甲で拭き取る。
- 110 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:58
- 「いいね〜よっしーのそのキレーな身のこなし」
そう言って口内の血を乱暴に吐き捨てる。
吉澤は指をポキポキ鳴らせながら口を開く。
「さっきの技は何度も見たから、何か新しいの見せてくれよ」
「何それ」
「マジシャンなんだろ、色々見せてくんねーと飽きんだけど」
あらららら、と言いながら後藤は立ち上がった。
吉澤も構えに入る。
「飽きちゃった? まだ飽きるほどやってないと思うんだけど」
「飽きたっていうか見切った」
思惑外の言葉に右眉を上げながら何か思慮する後藤。
風が二人の服をはためかせるが、どちらも動じない。
対峙する相手を見ながら深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す吉澤。
上げた眉を下げてから、後藤が口を開いた。
「マジシャンに向かって見切ったとかわかったとかなるほどとか言っちゃいけないんだよ」
「言ったらどうなるってぇんだよ」
「ん? そうだなぁ、痛い目に遭うって感じ?」
後藤は両手を下げたままその中で扇状にトランプを開かせた。
- 111 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:58
- 「もう見切ったってーの」
独り言に近い言葉を無視して後藤は肘と手首だけを使いトランプを縦に上空に放り投げると、トランプは回転しながら宙を舞った。
無数のトランプが前方上空で回転する様を瞬目見届けた吉澤が視線を戻した時、後藤の両手には二本ずつロープが握られていた。
両腕を広げた後藤はそのまま突進しながら叫ぶ。
「デザインロープ・大鍬形!」
片手二本のロープが一本は弧を描き、もう一本はそれを外側にしてギザギザに変形し、頂点が合体した。
両方が完全に鍬形を表わした時、放物線の頂点を通り越したトランプが吉澤に向かって降り注ごうとしている。
トランプに一瞬目配せをし吉澤は後方へ飛ぼうとした。
刹那、異変に気付いた。
背中を誰かに押されているような感覚。
思うように後ろに下がれない、足が重い。
その間もトランプは吉澤目掛けて飛んできている。
大鍬も吉澤を捕らえられる位置まで近づいている。
それでも違和感は消えず、結局後藤の間合いから逃げ切れなかった。
トランプは武道着を切り裂き体に数本の赤い線を刻む。
後藤は両手を交差させると鍬の形をしたロープが吉澤をガッチリ挟み、両脇腹へ衝撃を与えた。
- 112 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:58
- 両脇腹に走る激痛に身を僅かに屈めた吉澤に再び違和感が襲いかかるものの、そんなものを気にしていられる間は無かった。
後藤が両腕を広げると、また素早くクロスさせた。
今度は右腕側が脇腹を、左腕側が膝を狙っていた。
攻撃が当たった吉澤の足は浮き、横向きに体全体が回転すると激しく地面に叩きつけられた。
後藤は振り切った両腕を下ろすとロープも元のだらしない形に戻った。
「痛っ!」
「見切ったんじゃなかったの? よっしー」
地面に這いつくばっている吉澤が発した声に後藤は上から言葉を刺した。
後藤は今何もしていないなずなのに、吉澤は上から圧迫される感覚を覚えていた。
「よっしーが新しいの見たいって言うから」
「ちくしょっ!」
立ち上がろうとするが明らかに上から不可解な重力がかかっていて立ち上がることが出来ないでいた。
それに見かねたのか後藤は吉澤の背中、の上の何かを両手で掴むとクロスさせるように腕を動かした。
後藤がそれを持ち上げると吉澤の違和感は姿を消した。
だからといって吉澤は立ち上がろうとはせず地面に横たわったままだった。
「ほっ」
後藤が気合を入れて持ち上げたもの、それは直径一メートルほどの大きなコインだった。
恨めしそうにコインを見上げる吉澤。
- 113 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:59
- 「これ、ギミックコイン。相手の体に貼るとどんどん大きくなって重くなってくっていうコインなんだよね」
後藤はコインを自身の横に落とした。
コインの衝撃が地面を伝わり、吉澤はその重さを痛感した。
「いつそんなもん貼ったんだよ」
「ん〜とね、よっしーにまわし蹴り食らった時。まぁ正確に言えばその直前ってとこかな?」
「マジかよ。全っ然気付かなかった」
後藤は口角を上げた。
「そりゃぁね、だってごとーマジシャンだもん」
「マジシャンねぇ……」
「マジシャンに向かって簡単に見切ったとか言っちゃいけないんだぞ、まったく」
吉澤が、ヘヘッ、と乾いた笑いを発した。
後藤は何らかの作用を用いてコインを瞬時に小さくするとポケットにしまった。
頼りなく立ち上がると、吐き捨てるように吉澤は言った。
「今日の所は……オレの負けだ」
「マジ? やった!」
無邪気に喜ぼうとする後藤に、今日の所はだぞ、と妙な念を押す吉澤であった。
>>107へ
- 114 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:59
- 草原と呼ぶには丈の短い草の上、対峙する吉澤と石川。
吉澤は三発蹴りで空を切るとゆっくりと構えた。
石川はというと呑気に屈伸運動をいている。
「まだかよ」
「ういしょっ、準備運動はね、ういしょっ、ちゃんとやらないと、ういしょっ、怪我しちゃうでしょ、ういしょっ」
「なんだそれ」
構えを解いた。
「まさか怪我もしねーで勝つ気じゃねぇだろうなぁ?」
「そんなないよっと、よいしょっと」
屈伸から前屈を終えた石川が上体を起こす。
薄い笑みを浮かべる石川からは、これから修行とはいえ戦わなければならない、ということが感じられない。
少し調子の狂った吉澤は指をポキポキ鳴らしながら口を開いた。
「随分余裕そうだな」
「……」
ブツブツ何か言っているようだったが吉澤には聞こえなかった。
なんなんだよ、と口の中で呟き構えた。
「もういいのか? さっさとやろうぜ」
「うんいいよ」
先ほどとはうってかわって普通に返答した石川。
そんな彼女の上空には火の玉が五つ浮かんでいた。
「ちょっとずるくねぇか?」
「もう始まってるんでしょ? ファイヤーボール!」
- 115 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 22:59
- 五つの火の玉が一斉に吉澤に飛んでいく。
間合いを見計らい、吉澤は火の玉に向かって右足で上段蹴りを放ちそのまま左足で後ろ回し蹴りを放った。
吉澤の足、より少し先で火の玉は急激に形を崩し、消えた。ただし四つ。
最後尾にいた火の玉が消えることなく向かってくる、視界の端でその存在を確認した吉澤。
「チッ」
石川の方を向いて着地したと同時に上体を思い切り反らせた、先まで上半身のあった場所を火の玉は飛び去っていった。
武道着の焦げる匂いを感じながら上体を戻す。
石川はまた何かを念じるようにブツブツ言うと、右手の人差し指と中指を合わせ吉澤を指しながら叫んだ。
「ファイヤーボール!」
今度は指先から三つ続けて火の玉が出現し、吉澤に向かって飛んでいく。
「またそれかよ!」
「いいじゃない、簡単なんだし」
火の玉は二人の会話に関係なく純情に吉澤へと向かっていく。
吉澤は火の玉、の奥の石川に向かって駆け出した。
火の玉と石川が重なる。
「だぁーめんどくせー!」
両腕を顔の前で交差させ火の玉へ突っ込む。
火の玉は右肘と下腹部にヒットしたが勢い止めず走る、思わず叫ぶ。
「こんなもん熱くねーぞぉ!」
しかし顔は明らかに苦痛の色を浮かべていた。
- 116 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:00
- 思わぬ急接近にバックステップで距離を取る。
その間も近くでさえ聞き取れないように呪文を呟いていた。
吉澤は腕の防御を解き地面と平行になるように一足飛びをすると、間合いに石川が入る。
直線的な動きを察知した石川は素早く右に避けるが、吉澤は瞬時に右足を地に付けると彼女を追尾する。
その瞬間、石川の表情が開けた。
「バンブーロック!」
吉澤を突き放すかのように右手を突き出し叫ぶ。
すると石川の前方の地面が盛り上がり、地中から人ほどもある円錐型の岩が数本轟音を立てて突き出してきた。
確実な硬質感を醸し出す灰色の岩が吉澤を突き上げる、ことはなかった。
「えっ?」
吉澤は石川の上空を飛び越え、既に石川の視界の外にいた。
体を反時計回りに回転させ、その勢いを乗せて右足の前蹴りを背中に放った。
「影蹴!」
叫び声が石川の鼓膜を震わせると同時に蹴りが背中に激衝を走らせる。
足が地面を離れ、石川は体を仰け反らせ吹っ飛んだ。
自身の呪文で出現させた岩に激突し一瞬貼り付けにされた蝶のようになると、血の線をひきながらずり落ちていった。
吉澤は深く息を吐くと、あぶねぇあぶねぇ、と口の中で呟いた。
- 117 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:00
- 吉澤は石川に近づくとうつ伏せの体を起こさせた。
両鼻から鼻血を出し気絶している石川の頬を軽く叩く。
五回叩いたところでまぶたが僅かに開いた。
石川の顔に付いた血を服の袖で拭きながら吉澤が言った。
「オレの勝ちだな」
石川の口がゆっくり開く。
「よっしーは強いね」
「当たり前だろ、なんてったってオレは世界一の神玉になるんだからな」
聞き飽きているはずなのに石川は、フフッ、と笑った。
もらい笑いをして吉澤も口角を上げた。
「でもねよっしー」
「なんだよ」
「最後まで油断しちゃダメだよ」
「えっ?」
「ドロック」
今までと違い呪文を囁くと、二人の上にサッカーボール大の岩が現れた。
岩は重力に従順に引っ張られると、吉澤の後頭部に直撃した。
白目を剥き石川の上に倒れる吉澤。
石川の、重いよぉ、という言葉を吉澤が認識することはなかった。
>>107へ
- 118 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:00
- 草原と呼ぶには丈の短い草の上、対峙する吉澤と藤本。
手首足首を入念に回し準備運動をする吉澤。
圧縮木材の棒をブンブン振り回し空を切る藤本。
「ミキティとやんのは初めてだな」
「だね〜、よっしーちょっと気合入り過ぎじゃない?」
「何言ってやがる、戦う時は修行も本番も本気だ!」
左手で右手の拳を受け止める動作をする。
拍手に似た衝突音は草原に響かなかった。
藤本は四尺ほどの棒を右手に持ち、地面に刺すように突き立てて、言った。
「よっしーは本気で世界一の神玉になりたいんだね」
「だから何度も言ってんだろぉ」
「じゃあ美貴も本気でやんないとね」
「あたりめーだ」
二人はほぼ同時に構えた。
左半身を前に出して腰を落とす吉澤。
対照的に全体的に右半身を前に出す藤本。
風が吹いた。
つむじ風が二人の間にあった木の葉を巻き上げ、姿を消した。
木の葉は少し速めではあるが軽やかに舞い下りてくる。
地面についた瞬間、二人は動き出した。
- 119 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:00
- 二人の距離が急速に縮まる。
藤本は一段と速度を上げて右足を踏み出すと、棒も一緒に突き出す。
「ハッ!」
インパクトの一点は吉澤に当たらず空を突いた。
吉澤は紙一重で左に避けながら回転し、右足で後ろ回し蹴りを放った。
瞬目それを確認した藤本は右手を棒に這わせて前に出した。
棒の両端を持ち上半身を捻ると、棒で蹴りを受け止めた。
蹴りを止められた吉澤はそのまま前へ飛び、前転してすぐに立ち上がり構える。
右手の位置を元に戻し、藤本は彼女の方を向いて構えをとった。
「今の突き、避けられたの初めてだよ」
「ヘヘッ、その辺の奴とはちげーからなオレは」
「そんな一発避けたぐらいで威張られても……」
棒の四割目ぐらいを持っていた右手を離し鼻を掻く藤本。
かわいらしい鼻が三回形を変えた後、右手を元の位置に戻し、言った。
「よっしーの蹴り当たったら痛そう」
「痛そうじゃねぇよ痛いんだよ、もっとも痛いってぐらいじゃ済まねぇだろうけどな」
「え〜こわーい」
「こわいとか言ってきっちり蹴り止めてんじゃねぇか」
「まぁね」
藤本から浮かべていた薄い笑みが消えた。
二人と取り巻く空気が変わる。
遊びでは済まされない、真剣でなければいられないような、戦いの空気。
藤本が一足先に飛び出した。
- 120 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:01
- 吉澤はその場を動かず彼女の猛進を待っている。
互いの間合いが重なる瞬間、棒の先が地面を指した。
「ハッ!」
振り上げられた棒先が鼻先を掠める。
上半身を反らせ紙一重で攻撃をかわすとそのまま倒れるようにして上体を反らせる。
手首を返し流れるように棒を振り下ろす、同時に吉澤が左足を地面から離した。
「ハッ!」
藤本の気合が響く。しかし、足元で何が起こっているか知らないようだ。
吉澤は地面から離した左足より速く右足を浮かせると、藤本の顎をめがけて蹴りを放つ。
棒撃が当たる直前、妖脚から放たれた蹴りが藤本の顎に直撃した。
勢いにのって左足も振り切れとばかりに蹴りだし、腹部を蹴り上げる。
地面から浮き上がった藤本の体は吉澤を通り越して吹っ飛んでいった。
後転し、すぐさま立ち上がり藤本を確認する吉澤。
藤本は草の上で一度バウンドした後止まった。
棒は右手に弱く握られている。
「棒は手離さねーってか……」
左前腕を摩る。
藤本の一撃が当たっていたからだ。
「これはオレの勝ちだな」
吉澤の声に反応するように、棒を持つ手が瞬時に締まった。
- 121 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:01
- 場に似合わない穏やかな風が吹いた。
立っている彼女の頬を撫でる風からは次に何が起こるのか予想もしえなかった。
うつ伏せに倒れていた藤本が跳ね上がるようにして立ち上がった。
向き直した藤本の口元からは一筋の血が流れている。
ほんの少し目を見開いた吉澤が口を開く。
「タフだな〜」
「まぁ城でも丈夫さは一番だったからね、美貴は」
色の付いた唾を吐き捨てる。
「しかし正確に牙顎と丹田を蹴ってくるとは、流石よっしー」
「何言ってんだ?」
「きっちり人体急所狙ってくるってスゴイねって言ってんの」
「あっ……そりゃあなぁオレだかんなぁ」
「また変に威張るし」
仁王立ちする吉澤にツッコむ藤本。
藤本は肩で口角から流れた血を拭き何かを確認するように首を回すと、構えた。
吉澤も腰から手を離し、構えた。
「次、決めてやるよ」
「あれっ? 美貴もそのつもりなんだけどな」
二人の足が地から離れた。
>>107へ
- 122 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:01
- 草原と呼ぶには丈の短い草の上、対峙する後藤と石川。
後藤は腹斜筋を、石川はアキレス腱を伸ばしている。
「なんか梨華ちゃんはやっつけられそうな気がする」
「やっつけられそう? どっちの意味のやっつけられそう?」
後藤もアキレス腱を伸ばし始める。
「どっちって……もちろんごとーが勝つほうの」
「私をやっつけるってこと? でもごっちんだったら負けちゃうかも」
「じゃあもう梨華ちゃん負けってことで今日終わる?」
「それじゃあよっしーに怒られるよぉ」
確かに、と二人は笑う。
「じゃあ怒られないように始めちゃおうか」
「……」
突然、会話が一方通行になった。石川が俯き黙っているからだ。
正確には黙っていたわけではないのだけれど。
「梨華ちゃん? どした?」
後藤の問いかけに顔を上げる石川、いつも通りの表情だ。
「じゃあ始めよっか、ごっちん」
「あっ」
石川の頭の上でソフトボール大の火の玉が四つ、ユラユラと浮かんでいる。
石川が叫ぶ。
「ファイヤーボール!」
- 123 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:01
- 紅炎の玉が四つ、ずさんな列をなして後藤に飛び向かう。
標的は横に走り着実に四つをかわす。
走っている彼女とは対照的に立ちすくみ、ブツブツ何かを唱えている石川。
その隙に後藤は何も持たず石川へ走り寄る。
二人の距離は五メートル、石川が顔を上げ両手を突き出した。
「リトルウインド!」
二人の目の前に突如つむじ風にしては強力な旋風が姿を現した。
後藤は止まって腰を落とし、巨大なトランプをかざす。
「ビッグクローバー!」
全身を隠すには少し小さいトランプになんとか隠れようとする後藤。
石川は後退しその様子を見ている。
つむじ風の中の少女が声を漏らす。
「ぬぁっ、くっ」
ほどなくして竜巻は姿を消した。
大きなトランプカードを下ろした後藤の服は何箇所も切り裂かれ、頬にも赤い線が走っている。
二人の時が止まる。
- 124 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:02
- 「何でごっちん攻撃してこないの?」
「だって……」
どこからか出したトランプをどこかへしまう。
「梨華ちゃんずるいんだもん」
「ずるくないぃ」
「いいやずるい」
唇を尖らせる後藤。
うっすら困惑した表情の石川。
「だからごとーも一切攻撃しない」
「それじゃごっちんが不利なだけじゃん」
「いや、それでもごとーが勝つよ」
わけわからん顔の石川。
後藤は腕を組む。心なしか胸を張っているように見える。
「いいよ、攻撃してきてよ」
「それじゃ勝負になんないよ」
「いいからいいから」
最終的には余裕さえうかがえる後藤。
その態度の多少の苛立ちを持ったことはいうまでもなく。
「どうなっても知らないよ」
- 125 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:02
- またブツブツ唱え出した石川。
後藤は腕を解き、両手を広げて石川に近寄る。
警戒する石川に、何も持ってないじゃん、と後藤。
石川が唱え終える前に、後藤は手の届く所にまで寄ってきていた。
「どんな呪文なのかなぁ」
呑気な後藤を片目で見る石川。
マジシャンってこういうものなのか、石川は思った。
「ホントにどうなっても知らないよ、ドロック」
前置きをした後石川は両手を広げて呪文を唱えた。
すると、後藤の上空にサッカーボール大の岩が出現した。
岩は重力に従順に運動を始めた。
刹那、後藤の両手が動いた。
右手に赤いハンカチ、左手に青いハンカチ。
いつのまにか握られていたその布の意味を石川は知らない。
落下する岩に赤いハンカチをかざす、同時に青いそれを石川の頭上へかざす。
岩が赤いハンカチに触れる。
そして、次の瞬間には岩は消えていた。
現実を直視する石川の頭に激痛が走った。
今起こった出来事を整理する前に、倒れた。
- 126 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:02
- 「ね?」
顔を見なくても後藤が悪戯な表情をしていることがわかる声だった。
石川は朦朧とする意識をなんとか繋ぎとめようと必死だった。
勝敗は決まっていた。
「ごとーは一切攻撃してないよ、ただ物の位置をちょっと動かしただけ」
返事が出来ない石川だが、意識をこっち側に持ってくることには成功していた。
しゃがみ込む後藤。
「これ、フラットスイッチっていうんだよね。ダイジョブ?」
「ダイジョブじゃないよぉ」
「梨華ちゃん油断し過ぎなんだよ。誰が黙ってあんな岩に当たると思う?」
顔を上げた石川。
後藤がトランプを取り出し、なにかしようとしているようだった。
「あっ、動かないで」
後藤がトランプを石川の頭部に貼りつけた。
すると、みるみるうちに痛みがひいていく。
石川の意識もよりハッキリしてきた。
「やっぱりごとーの勝ちだったね」
出血も止まっていた。
>>107へ
- 127 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:02
- 草原と呼ぶには丈の短い草の上、対峙する後藤と藤本。
後藤は圧縮木材で出来た棒をよく見て、よく触って、よくまわしてみたりている。
前屈を終えた持ち主が口を開く。
「もうそろそろ返してくんない?」
「おっ、そりゃスマンね」
返そうとした後藤が何かに気付き、棒を引っ込めた。
先端を掴もうとしていた藤本は空気と握手し、事態に気付く。
「そういう悪戯はいいから、返してよ」
「まあまあ」
「まあまあとかじゃなくてさ」
後藤が手で藤本を静止する。
「ごとーは今日、ミキティを瞬殺するよ」
「なに、美貴今日殺されちゃうわけ?」
「いやいや、ホントの殺しちゃうわけじゃなくて、一瞬で勝っちゃうよってこと」
「一瞬でどうやって勝つのさ?」
後藤は返事の変わりに両手で棒の両端を持つと、藤本に差し出した。
イタズラチックな笑顔を浮かべ、後藤は言った。
「こうすんの!」
棒を上に放り投げるような動作をすると、一瞬にして棒が消えた。
「これでミキティは戦えないから、ごとーの不戦勝ってことで」
「なっ!」
後藤はケタケタ笑いながら駆け出した。
全く納得いっていない藤本はしばらく鬼ごっこする羽目となった。
>>107へ
- 128 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:03
- 草原と呼ぶには丈の短い草の上、対峙する石川と藤本。
二人とも準備運動に余念がない。
「梨華ちゃん三人の中で一番めんどくさそう」
「ちょっとぉどういう意味?」
「やりにくいってこと。美貴のいた城でも魔法使いの人いたけど、戦いにくいったらありゃしない」
「そうなんだ」
「あっ、ちょっと勝てそうかもって顔したっしょ今」
失礼にも棒で石川を指す。
石川は手を使ってオーバーに否定のリアクションをした。
棒を引っ込めて、地面に刺す。
「ま、いいけどさ」
「いいけどさじゃなくて本当にそんなこと思ってないから」
「わかったわかったって」
棒を持たない左手で前髪の生え際を掻く藤本。
緊張感のない蝶が二人の間を飛び去っていった。
「じゃあ早速始めますか」
両手で圧縮木材の棒を持ち、構えに入った。
一方石川は首の後ろを伸ばすようにして下を向いている。
先に構えた方がなんだか馬鹿馬鹿しくなった。
「あの〜梨華ちゃん……いいかな〜?」
藤本の言葉に反応したのか、石川が急に顔を上げた。
- 129 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:03
- 「いいよ、始めよっか」
よっか、の辺りで石川の上空に火の玉が五つ出現した。
ソフトボール大のそれは持ち場なさげにウヨウヨ浮いている。
「ファイヤーボール!」
「なっ! ちょっ!」
石川が両手を開いて突き出すと下僕の紅玉達は勢いよく藤本へ向かっていく。
ツッコむ隙も与えられなかった藤本は軽く舌打ちをすると火の玉に、もとい石川に向かって突進していく。
藤本は火の玉が目前に迫ると前方下に棒を突き刺し、そこを支点に半円の軌跡を描き火の玉をかわした。
運動エネルギーそのままに二人の距離が縮まる。
「ハッ!」
腹部への突きを左へ大まかに避ける石川。
回避のアクションを見たはずなのにすれ違う藤本。
互いに相手が右後ろの位置になる。
棒の先へ右手を這わせると先端を掴み、体を左に捻ると同時に思い切り引く。
ついさっきまで藤本の体側にあった棒の先端は石川の腰を突いた。
石川の体がグニャリと曲がる。
藤本は体位を変え棒を首元へ振り下ろす。
「ハッ!」
- 130 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:03
- 棒は首の後ろに垂直に当たると、石川は反射的に顎を上げるように顔を上げ、倒れた。
抵抗無く重力に引き寄せられた物体が草むらに衝突する音が藤本の鼓膜を震わせる。
戦い始める前と同じポーズをして、独り言。
「精促に対白、ほぼ完璧」
倒れている彼女に近寄る。
死なない程度に打ち込んだはずだが、やはり不安が過ぎる。
「おーい、梨っ華ちゃ〜ん」
体を揺らすも反応はない。
ただ、首の傷を見る限りだと大事には至っていないようで単に気を失っているだけだとわかった。
「おーい」
反応無し。
「美貴の勝ちでいいのかなぁ?」
反応無し。
「あっ、ルグ発見」
「えっ!」
怪我しているはずの首を上げ、石川が意識を取り戻した。
>>107へ
- 131 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:03
- 今日はここまで。
>>99スペードさん、ありがとうございます。
軽い気持ちで始めたつもりは無いのですが、やはりマルチシナリオは大変です。
ただ、アップした後きちんとできているかどうか確かめている時は自分で作ったくせに楽しいです。
投げ出さずに頑張りたいと思っている所存でございます。
>>100めかりさん、ありがとうございます。
あけましておめでとうございます。
一緒に頑張っていきましょうなんてありがたいお言葉……めっちゃ頑張ります!
では用語解説を。
技の解説で一番最後に出る名前は技の使用者です。
- 132 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:04
- ギミックコイン:金属製のコインで貼りつけると徐々に大きく重くなっていく。半回転させるととれる。後藤。
フラットスイッチ:赤いハンカチで物を包み、青いハンカチから出す。ただし、包める大きさの物に限る。後藤。
バンブーロック:(手の指のような形をした)岩が地面から数本突き出てくる。大きさは約人一人分。石川。
ドロック:相手の上空に岩を出現させる。岩の大きさは術者の能力次第で大きくなる。石川。
リトルウインド:小さな旋風を起こし相手を切り裂く。石川。
牙顎:人体急所の一つ、顎先。
丹田:人体急所の一つ、ヘソの辺り。
精捉:人体急所の一つ、背中側腰の少し上。
対白:人体急所の一つ、首の後ろの付け根辺り。
- 133 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/08(土) 23:04
- 遅ればせながら、皆様明けましておめでとうございます。
- 134 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/11(火) 12:16
- ゲームしてるみたいで面白いです。続き楽しみにしてます!
- 135 名前:名無し読者 投稿日:2005/01/11(火) 12:43
- 4人の中で考えると自分はマジシャンがいいですね。
それぞれのキャラに合った対戦内容で面白かったです。
- 136 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 01:58
- 続きが楽しみでしょーがない
- 137 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:49
- 前回、
午前と午後の前半は町の復興を支援しその後修行した>>138-158
- 138 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:49
- 毎日の修行で傷ついても後藤のヒールハートで毎晩治癒を行なうことで翌日の修行、さらにはいつになるかわからない山賊との
戦闘に万全を期していた。
ただ、吉澤だけは後藤の治療を断っていた。
「ダメだよよっしー怪我してんだからぁ」
「メシ食って寝れば治る!」
そう言って誰よりも早く床に就くのである。
翌朝にはピンピンしている吉澤、ドヤ顔で自身の自然治癒力を自慢するのだがこれには裏話がある。
吉澤が寝静まった後起きないように後藤がヒールハートを行なっていたのだ。
三人は吉澤のプライドを考慮し、このことは秘密にした。
町の復興の手助けは大いに感謝された。
吉澤は自慢の足腰の鍛錬を廃材やら煉瓦などの運搬を兼ねて行なっていた。
後藤は手品で人々の疲弊を癒した。
藤本は得意の棒を金槌に変え、鳶よろしく、トンカントンカンやっていた。
石川は宿で調理場を借りると労働者への賄い作りに精を出していた。
もっとも、石川の賄い作りは初日だけで次の日にはみんなにこにこしながら子供の世話を依頼したのだが。
午前と午後の前半は町の復興を手伝いその後修行の日々を繰り返すこと十数日。
町はほぼ修理を終え、四人の戦闘能力も伸びを見せていた。
そして、その日はやってきた。
- 139 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:49
- 「よっしー! ごっちん! ミキティ! 昼ご飯の準備できたよー!」
一旦子供達を各家庭に帰し、宿の昼食が準備できたことを広場にいる三人に伝え走る石川。
呼ばれた三人はというと後藤は藤本相手にトランプでマジックを見せ、藤本は後藤がアクションを起こす度にしつこく質問を浴びせ、
吉澤は二人から少し離れた位置で熱心に太ももを伸ばすストレッチをしている。
「昼ご飯できたよー」
「昼食できたって、行こ」
「えーちょっとごっちぃん」
湧き上がる疑問を打ち切られ不満そうな藤本だが後藤はそそくさとトランプをしまう。
顔を上げたから聞いているはずなのだが尚ストレッチを続ける吉澤に小走りで近づく石川。
キリのいい所でストレッチを切り上げ吉澤が立ち上がると石川が言う。
「今日はよっしーの好きなペペロンチーノだって」
「マジで! よっしゃ!」
「また動けなくなるまでお代わりしないでよ」
「今日梨華ちゃん手伝った?」
「ちょっとそれ関係あるのぉ」
「あるから、作った?」
「うん」
「じゃあ今日はお代わりしないわ」
なんでよぉ、と言って肩を叩く石川。
既にトランプもしまい常套な漫才をしている二人を待つ後藤とブツブツとマジックの順序をなぞり
謎を解こうとしている藤本。
四人は広場の中心に集まった。
「おーい! 来たぞー!」
突然町の入り口から叫び声がした。
- 140 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:50
- 「来た?」
「なんだよ〜」
石川の疑問に吉澤の不満。
藤本も一旦思考を止める。
「これから昼メシだってぇのに」
「そっちかよ!」
お門違いな不満の方向に素早く突っ込む藤本。
どんな時でもツッコミ早いねぇ、と後藤。
入り口から一人の男が慌てた血相で走ってくる。
「山賊が来ました!」
「わかりました、ありがとうございます。じゃああなたは家の中に非難してください」
「はい! お願いします!」
返事も聞かずに男は走り去っていった。
「やっと来たか、山賊の野郎どもめ」
「よっしーが親玉とやるんだっけ?」
「あったり前よ!」
指をポキポキ鳴らし早くも上気している吉澤。
藤本と石川は民家に向かって叫んでいる。
「みなさーん! 家の中に非難してくださーい!」
「わたし達が退治しますから! 安心してくださーい!」
「でも非難だけはしていてくださーい!」
次々と家の戸や窓が閉まっていく。
木々に止まっていた小鳥達も足早に山の方へ飛び去っていった。
四人は入り口に向かって歩き始めた。
- 141 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:50
- 木で出来た門の下まで来ると平野の向こうに異様な固まりが見えた。
額に手を垂直にかざし一団を確認する石川。
「あれ、だね」
「結構人数多くない?」
藤本はそう言って棒を背中に回しその両端を握るとストレッチを始めた。
山賊を順々に指差しながらブツブツと数を数えている後藤。
「……いち、にじゅうに、二十二人だね」
「二十二人だと四人で割れば一人辺り五人と半分、誰か二人が六人相手になるよ」
「じゃあオレやる」
藤本の提案に即答の吉澤。
石川が制する。
「でもよっしー向こうのボスと戦うんでしょ? なら五人相手のほうが―――」
「いいやオレは六人相手がいい! ボスともやりたい!」
吉澤のわがままに困った顔をする石川は後藤の顔を窺うようにして見ると、後藤は右眉を上げてそれに答える。
藤本は吉澤のわがままにツッコんでいる間に後藤は、おっ、と小声を発すると石川に耳打ちをした。
大丈夫?、と石川、大丈夫、と後藤。
吉澤は藤本に説得されたようだが腑に落ちない表情である。
そんなことをしている間に山賊は目前に迫ってきていた。
- 142 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:50
- 獣色の服を纏い棍棒やら鎖やらを担いだ厳つい男達は四人を前に歩みを止めた。
先頭の小柄な男が下品な声で話しかける。
「テメーら邪魔だよ」
「なんだとこのヤ―――」
「よっしー焦り過ぎ焦り過ぎ」
前に出た吉澤の口を抑えて藤本も前に出る。
山賊からイッヒッヒ、と笑い声がすると吉澤は鋭くそちらを睨んだ。
睨まれた男は表情を変え怒鳴る。
「テメーらなにもんだ!」
「オレはテメーをやっつけるためにここにいんだ! ボスはど―――」
「焦り過ぎだから落ち着きなって」
藤本に制される。
山賊からはただならぬ雰囲気が漂ってくる。
一番後ろにいた身長二メートルほどの大男が集団から出てきた。
手には大きな棍棒、他の山賊が道を開けている。
ボスである。
「テメーらまさか神玉か?」
「そうだよ!」
「アンタ達がこの町を荒らしてるっていう山賊?」
「あぁ……」
男は小さな声で答えると同時に右手の棍棒を振り上げた。
「そうだよ!」
怒号と共に振り下ろされた棍棒。
四人は左右に散るように飛び避けた。
- 143 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:51
- 吉澤と揃って避けた藤本が叫ぶ。
「ちょっ、卑怯じゃない!」
「卑怯もくそもあるかよ」
男は低い声でそう答えた。
棍棒は四人のいた地面に穴をあけている。
後藤が何事もなかったかのように普通の声で言う。
「卑怯とかいいんだ」
男の睨みに怯むことなく後藤は石川の肩を叩き、言った。
「いいんだって梨華ちゃん」
両手を胸の前で組んでいる石川は無言で頷いた。
そして両手を前に突き出し、叫んだ。
「バンブーロック!」
大男の後ろにいた山賊達の足元が突如盛り上がる。
僅かな地震と体の中にまで響く轟音。
地面を割って出てきた何本もの荒い円錐型の岩が山賊を次々と宙に突き上げた。
辛くも難を逃れた山賊の横では倒れている山賊が多数。
大男も仲間のやられように驚いている。
後藤はまたも石川の肩を叩き、言った。
「梨華ちゃんやったじゃん」
「うん!」
倒れた山賊は一七人。
大男を含め残ったのは五人だが大男を残して他の四人は恐れをなし逃げ去っていった。
- 144 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:51
- 「で、ボスはよっちゃんが相手すんだっけ?」
藤本の一言に大男は反射のように反応した。
吉澤は一応構えるも、不満そうに言葉を漏らす。
「オレはやっるたぁ言ったけど、こいつは―――」
吉澤の言葉も無視して大男は両手で棍棒を振り上げた。
やけくそとも取れる形相である。
吉澤は瞬時に腰を落とし大男に向かって飛んだ。
がら空きの大男の体に二発、上腹部と顎に前蹴りを打ち込む。
大男は白目を剥き大きな音をたてて倒れた。
着地し簡単に息を吐く吉澤。
離れていた後藤と石川が近寄ってくる。
「梨華ちゃんずりーよあんなの」
「だってごっちんがやれってさっき……」
後藤を指差し身を小さくする石川。
石川の指を見たのち否定する後藤だが、あまりに子細さしい否定に後藤の入れ知恵であることは誰もが気付いていた。
それはそうと、と藤本。
「よっしーなんか言ってなかった? ボス倒す前に」
「そうなの?」
「あぁ」
吉澤が大男に目配せし、言った。
「こいつ神玉じゃない」
- 145 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:51
- 「えっ? だって町の人が神玉だって言ってなかった?」
「多分体もでけーし人間にしちゃ強ぇから勝手にそう思ったんだろ」
全く期待して損したぜ、と腰に手を当てる吉澤。
石川が笑顔で言う。
「いいじゃない、これで町も平和になったんだし」
「そうそう、無事終わってよかったじゃん」
藤本が肩を抱くと、良くねぇよ、と吉澤がぼやく。
よっしーは戦いたかったんだもんねぇ、と体を揺らして後藤が言う。
すると入り口の中から叫び声がした。
「やったー!」
先程山賊の登場を叫んでいた男の声だった。
柱の陰から見ていたのだろう。
四人は入り口付近に視線を集めた後、藤本が吉澤の肩を強く引き寄せながら言う。
「ほらー喜んでくれてんだしさ、いいじゃんいいじゃん」
「まぁ悪かねぇけども―――」
吉澤のお腹が、派手に、鳴った。
「お腹はグーって言ってるよ」
「ごっちんもなに上手いこと言ってんだか」
後藤の軽妙なボケに藤本が絶妙にツッコむ。
吉澤がお腹を押さえ、しょうがないという顔で言った。
「ま、とりあえず戻ってメシでも食うか」
三人はすぐに賛成し、人々が興奮に湧き上がっている町へ歩み始めた。
- 146 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:53
- 歓声上がる町とは対照的に、四人の背後から単音の拍手が聞こえた。
一斉に振り返る四人の先には一人の女性が立っていた。
細身の長身で長い黒髪、やや丸顔に大きな瞳。
目も口も三日月にして笑っている。
十数日滞在した町の住人ではなさそうだ。
藤本がその女性に聞こえないように言う。
「誰? 誰かの知り合い?」
「オレ知らねぇよあんな奴」
石川が、わたしも、と小さくつぶやく。
後藤は三人と目を合わし、口を軽く尖らせ頭を横に振った。
女性は拍手をやめ四人に近づいてくる。
「スゴーイ! 強いんだねぇ!」
四人はまた顔を見合わせた。
その所為に気付いた女性は照れ笑いにも似た表情で言った。
「あっごめんごめん、偶然通りかかったら見かけたもんだから」
女性は四人の目の前で止まった。
- 147 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:53
- 「すごいねぇ、おめでとう」
そういって女性は藤本の手を無理矢理とって握手をしてきた。
雰囲気からして敵ではないことはわかるのだがこうも突然で強引だとさすがに藤本の顔もひきつる。
「ど、どうも」
「あっ、そっちの子だっけ? 岩ドドドドッて出したの」
女性はすぐさま石川の手を取り、両手で包むように握手してくる。
明らかにペースはその女性に握られていた。
「あなただよね? あのでっかい男を蹴り倒したの。カッコよかったよ〜」
飛び移るようにして吉澤とも握手をする。
どうすることもできずなすがままに握手をし、細かく頭を下げる吉澤。
女性が手を話した瞬間、吉澤は何かを感じた。
なんかあの子に指示でも出してたの?、と後藤とも握手する女性。
四人からの奇異の目にも気付かないのか熱く握手を交わしている。
いえいえ、と軽く謙遜する後藤から手を離した女性は何かに気付き、一瞬恥ずかしそうな仕草を見せ、言った。
「あっ、ごめんね名前も名乗らなくて。あたし、飯田圭織」
名乗られたからといって別にどうということがないので四人は意味もなく頭を下げてみる。
飯田はナハハハハ、と恥ずかしさを笑い飛ばそうとしているようだった。
- 148 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:54
- 「これから町に戻ろうとしてたんだよね、ごめんねぇ邪魔しちゃって。それじゃ」
台風を思わせるように颯爽を帰ろうとする飯田。
みんなあっけにとられていたが、吉澤だけは違った。
四人に背を向け去ろうとした飯田に向かって、叫ぶ。
「おい!」
軽快に走り出そうとしていた飯田は何かにぶつかったかのように急停止して振り向いた。
吉澤の突然の行動に三人も驚いている。
「何? なんか圭織にご用でも?」
「アンタ神玉だろ」
飯田はわずかに瞳を開いた。
吉澤が不敵な笑みを浮かべている。
小さく、あらららら、と後藤。
「よっしーいきなり何言って―――」
「しかも結構強えぇとみた」
キョトンとしている飯田。
藤本のツッコみを無視してでも言った言葉の後は三人には容易に予想できた。
吉澤は得意気に息を吸って叫んだ。
「よっしゃ! オレと勝負しろ!」
三人は、やっぱり、と顔を見合わせた。
- 149 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:54
- 怪訝な表情の飯田。
一方吉澤はまだ飯田が承諾していないに関わらず嬉しそうな顔をしている。
吉澤の斜め前にいた石川が言う。
「よっしーやめなよ、迷惑だよ」
「そうそう。あっ、なんでもないんで、スイマセン」
すぐに藤本も同意し、飯田に謝る。
吉澤はそんな二人交互に見て不満そうな表情に変わる。
後藤は吉澤の背後に回ると羽交い絞めにしてなだめに入った。
「なっ、ちょっ、ごっちん!」
「よっしーももういいから、早く昼ご飯食べに行こ」
「ペペロンチーノだよペペロンチーノ」
「だぁペペロンチーノは食べるけど、その前にあいつと―――」
「はいはいはいわかったわかった」
三人が吉澤をなだめる光景に飯田が噴き出した。
「プァッハッハッハッハッハ……なにぃ? いっつもそんな感じなわけ?」
言い終わってまだ飯田が笑い出す。
その姿に3人は見とれ、その隙を縫って吉澤が前に飛び出た。
「で、勝負すんのか? しねーのか?」
「ちょっとよっ―――」
「いいよ、やろうやろう」
飯田の予想外の返事に三人は驚き、吉澤は不敵に笑った。
- 150 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:54
- 草原と呼ぶには丈の短い草の上、対峙する吉澤と飯田。
石川、後藤、藤本は少し離れた場所から二人を見ている。
吉澤は首を乱暴に回し、未知の相手との戦闘にそわそわしている。
飯田は腕を前にクロスさせて入念にストレッチしている。
「言っとくけど圭織そんなに強くないよ」
「嘘付け。オレにはわかる、オメーは強えぇ」
並んで体育座りをしている三人。
口を尖らせ藤本が愚痴をこぼす。
「早く昼ご飯食べたいんだけど」
「ミキティそんなこと言ったってよっしーが今から戦うんだよ」
「え〜そんなこと言われたって、ねぇごっちん」
「ん?」
聞いてなかったのかよ、と藤本にツッコまれ謝る後藤。
後藤はすぐに対峙する二人に視線を戻した。
その二人はというと既にどちらも構えに入っている。
「圭織はいつでもいいよ」
「それじゃ―――」
語尾を発さずに右足を出し、吉澤は駆け出した。
- 151 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:54
- 急速に間合いを縮め前蹴りを繰り出す。
ヒラリと横に避けた飯田に後ろ回し蹴り。
瞬時にしゃがみ横の転がる飯田、吉澤も後ろ向きに飛んで距離をとった。
乱れた長い髪を顔を振ることで整える。
それがなんだか余裕そうに見えて吉澤は腹が立った。
地面を蹴りだし二発の前蹴りを放つ。
飯田は大幅なバックステップで十分に距離をとりそれを避けた。
着地した吉澤、距離が縮まっていない。
「逃げてないでなんかやれよ」
「逃げてるわけじゃないんだけどね」
はぁ?、と吉澤。
鼻に指を当てて飯田が言う。
「チャンスを狙ってる、とでもいうのかな?」
「テメーにチャンスなんかやらねぇよ!」
吉澤が駆け出すとほぼ同時に飯田も駆け出した。
一気に間合いが詰まる。
- 152 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:55
- 吉澤は何十発も蹴りを繰り出すもノラリクラリと全て避ける飯田。
苛立ちは募っていく。
しかし飯田は知らん顔で避ける。
「あの人も何やってんだかねぇ」
藤本がつまらなさそうな顔で言った。
指で草を摘み取りプチプチとちぎっている。
石川が言う。
「避けるのが精一杯なんじゃない?」
「どうでもいいけどお腹減ったぁ」
牛タンたべたぁい、と言いながら仰向けに寝転ぶ藤本。
ペペロンチーノだってばぁ、と藤本のお腹をポンポン叩く石川。
後藤はそんな二人に目もくれず、高速で動く二人を見続けている。
ちぎった草を後藤に投げながら藤本が言う。
「ごっちん何そんな熱心に見てんの?」
「ん? いやぁ……」
「あの人避けてばっかじゃん」
「ん〜でもねぇ多分……」
多分?、と聞き返す石川。
それでも視線を外さずに後藤は答える。
「よっしーは勝てないよ」
- 153 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:55
- 「ハァ、ハァ、ハァ……」
息が上がっている吉澤。
無理もない、連続して様々な蹴りを繰り出していたのだ。
しかしそれらは一発も当たることはなかった。
深く息を吸い吐き出す飯田、息は切れていない。
「なんなんだ、テメー……」
「ん? 飯田圭織だよ」
おどけた返事を、ハッ、と短い笑い声でいなす。
「いい加減、決めてやるよ」
「じゃあ圭織も」
二人は腰を落とした。
吉澤が駆け出す。
両手を万歳させると上半身を思い切り倒すようにして前に投げ出し、飛んだ。
吉澤の頭は地面を向く、前宙。
飯田の身長ほどの高さで体を丸める。
そろえた両足を曲げると、飯田を踏むようにして一気に伸ばした。
「熊掌蹴!」
威力を持った両足が胸元めがけて繰り出される。
飯田は軽く曲げた左手を吉澤の両足に受け止めるようにして当てた。
「亡撃」
つぶやくように飯田が言うと、勢いのついていた吉澤の体が宙で止まった。
- 154 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:55
- 「なっ」
有り得ない静の感触に声が漏れる。
飯田は吉澤の横に回りこむと、右手を振り上げまたつぶやいた。
「返衝」
広げられた右手は吉澤の上腹部に突き落とす。
吉澤の体はくの字に曲がるとものすごい勢いで地面に叩きつけられた。
轟音に体を起こす藤本。
地面に手をかざしている飯田と横たわっている吉澤が見えた。
すぐさま後藤を見ると後藤は口をあけその光景を見ていた。
「よっしー!」
石川が飛び上がるように立ち上がって吉澤に駆け寄ってゆく。
我に帰った藤本は後藤を引っ張り上げて吉澤に駆け寄っていった。
- 155 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:55
- 吉澤は目を閉じて地面に力なく横たわっている。
呼吸はしているようなので単なる気絶であろう。
吉澤は心配する三人に飯田は明るい声で話しかける。
「もういいかな? 圭織ちょっと急ぎの用があるからこの辺で」
その子にごめんって謝っといて、と言い残し飯田はその場を離れていった。
石川と藤本は吉澤の肩を持って町へ運ぼうとし、後藤は去っていく飯田を目で追った。
三人は吉澤を町へ運ぶと事情を話し、宿で休ませてもらうことにした。
夕方と夜が入れ替わる頃、吉澤が目を覚ました。
「んっ……」
「あっ、やっと起きた」
藤本が吉澤の横に座る。
石川は吉澤の分の夕食を取りに部屋を出て行った。
「あれっ? 宿屋?」
「よっしー気ぃ失ってたんだよ、まったく」
藤本が吉澤の頭を優しく撫でる。
まだ状況が把握できてない様子の吉澤。
- 156 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:56
- 窓の外を見ていた後藤が二人を見て、言った。
「よっしーは負けたんだよ、あの飯田って人に」
「オレが? 負けた? まさか」
「思いっきり気ぃ失っといて何言ってんだか」
藤本のツッコミにもまだ納得していない吉澤。
石川がトレイに夕食を乗せて戻ってきた。
吉澤はトレイを受け取る、ペペロンチーノだ。
石川は吉澤の隣のベッドに腰を下ろし、言った。
「でもごっちんが言った通りになっちゃったね」
「なんだよそれごっちん」
「ん、あぁ」
窓枠にスッと座り、月光を背に受けて後藤が言う。
「あの人そーとー強いよ」
「そりゃわかったけど、どうしてよっしーがやられる前に勝てないって」
「よっしーの蹴り……一発も当たらなかったでしょ?」
事実なのに語尾を上げるのは確認を含めているから。
吉澤が渋々といった感じで頷く。
- 157 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:56
- 「よっしーの攻撃ってよっしーの能力を知らなかったら必ず当たるはずなんだよね。なんだっけ? ハイドビハインドだっけ?
一種の遠当て能力であるハイドビハインドが当たらないって絶対おかしいじゃん」
藤本が食い下がるように言う。
「でも蹴りの軌道の直線上にいなきゃいいだけの話でしょ? 前蹴りなら横の避けるとかしてたら当たらないよ」
「そうなんだけど、よっしーはそれこそ何十発も蹴ってたのに一発も当たらなかった」
吉澤のペペロンチーノを食べる手が止まった。
フォークと皿がカチッと音を立てる。
「それはどうでもいいんだけどよ」
「どうでもよくないじゃん」
「いやっ、それよりも不思議なことがあった」
「最後の蹴りのやつ?」
後藤の問いに、あぁ、と小さく答える吉澤。
それを見ていない藤本は、何それ?、と問う。
「よっしーのドロップキックが片手で受け止められて、しかもその後の攻撃が異常に強かったっていう」
「ドロップキックじゃなくて熊掌蹴な」
どっちでもいいけど、という藤本の言葉に、よくない、と吉澤。
- 158 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:56
- 「全然蹴った感触がないっていうか、蹴りの威力が一瞬にして無くなったっていうか」
「何かよっしー空中で止まってたもんね」
石川の言葉に吉澤がうんうん頷く。
藤本が、あっ、と発した。
「それってメビウスかもしんない」
「メビウス? なんだそれ」
後藤は藤本を見ながら座り直す。
「相手の攻撃の威力を吸い取ってそのままその威力を攻撃として返すっていう能力だよ」
「あっ、もうゼッテーそれだわ」
「じゃああの飯田って人はメビウスっていう能力を持ってるってこと?」
それしかないじゃん、と藤本。
石川が恥ずかしそうに身を縮める。
後藤が口を開く。
「でもメビウスってだけじゃ―――」
「よっしゃ! 次はゼッテー倒す!」
吉澤が握りこぶしを作って叫び後藤の言葉を打ち消した。
「今回は昼飯食ってなかったから負けたけど次は勝つ!」
「多分昼ご飯は関係なかったと思うんですけどぉ」
「いいやあった」
あるないで言い争う吉澤と藤本、それを見て笑う石川。
後藤はかき消された言葉を飲み込んで月を仰いだ。
>>159-160へ
- 159 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:57
- 今日はここまで。
>>134名無飼育さん、ありがとうございます。
ゲーム感覚で見て頂けるというのは本当に嬉しいです。
マルチシナリオで出来そうなことは何でもやっていこうと思っています。
>>135名無し読者さん、ありがとうございます。
私もマジシャン大好きです。というよりも最近のマジックブームよりももっと前からマジックが大好きなんです。
マジックブームで見られる機会が増えたことは嬉しいのですが、私も大人になってしまったからなのかテレビで見るマジックの
7割ぐらいはタネが見抜けるようになってしまいました。
いいことなのかわるいことなのか以前に、素直に楽しめなくなった悲しさがあります……。
>>136名無飼育さん、ありがとうございます。
待たせてしまって申し訳ありません。
別板で書いていた小説がしめきり(梨華ちゃんの誕生日)だったもんでそっちを優先していたものですから……。
では用語解説を。
- 160 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:57
- ヒールハート
怪我をしている所にハートのトランプを貼って治療する。
投げているトランプの中にもハートはあるがそれとは別物。後藤。
熊掌蹴(ゆうしょうしゅう)
約二メートルほどの高さからの前宙から曲げた両足を揃えて相手を踏むように突き出す。吉澤。
メビウス
飯田が保有する能力。
亡撃(ぼうげき)
物理的衝撃を吸収する。飯田。
返衝(へんしょう)
亡撃で吸収した物理的衝撃を放出する。飯田。
- 161 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/26(水) 17:57
- ヤゴヤゴのテーマ誰か振ってくださぁい
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 21:36
- はじめて読まさせて頂きましたが、おもしろいです。
次の更新、お待ちしています。
- 163 名前:メカ沢β 投稿日:2005/01/29(土) 17:37
- 本当にごめんなさい。
諸事情により入院することになってしまいました。
もしかしたらずっと帰ってこられないこともありうるので作品を放棄します。
作品を読んでくださった皆様方、管理人さん、M-seekに関わる全ての皆さん。
本当にありがとうございました。
そして、ごめんなさい。
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 23:40
- マジデカ
戻ってきてスレが立つの待ってるよ
いのちだいじに
- 165 名前:メカ沢β 投稿日:2005/03/31(木) 20:30
- 近々更新します。
迷惑かけてすいませんでした。
- 166 名前:名無しの読者 投稿日:2005/04/01(金) 01:25
- 更新期待してます!
諦めずにしつこく待ってて良かった〜
- 167 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:29
- 前回、
山賊を退治した>>168-192へ
- 168 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:29
- 平和を取り戻したリーリン村は夜が明けるまで盛大に宴が行なわれ、
四人は村人に大いに感謝された。
翌日、藤本が伝書鳩でリルドベルグ城から呼んだ応援が到着し山賊は連れてかれていった。
「村に守衛を置いてもらえるようにも言っておいたからこれからはこの村も安泰だね」
「すごいねミキティ」
「まぁね」
「まったく、無い胸張りやがって」
「胸がないって言ったのはこの口かぁ?」
吉澤の頬を引っ張る藤本。
言葉になっていない言葉で許しをこう吉澤。
よっしー怪我してるんだからぁ、と止めに入る石川。
その様を紅茶を飲みながら笑い見る後藤。
数日して吉澤の傷も完治し村人に惜しまれながら村を出た。
- 169 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:30
- 山越えの最中。
「この先何あるかわかる?」
「オレは知らねーよ」
藤本の質問に頭の後ろで手を組みながら答える吉澤。
吉澤が隣の後藤を見る。
「この先はね〜、なんかお城があった気がする」
「ごっちん知ってんのか?」
「んまぁ行ったことあるようなぁ、ないようなぁ、って感じ」
なんだよそれ、と吉澤がカラッと笑う。
藤本は石川にも訊いていたが石川も知らないようである。
城があるかもしれねぇんだって、と吉澤が藤本に伝える。
「まっ、何かあるまで行けばいいだけだから問題ないよね」
ミキティから訊いていたんだろ、と吉澤がカラッと笑う。
- 170 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:30
- 「ごっちんって色んな所行ってるんだね」
並んで歩く左端の石川が右端の後藤に言う。
まぁね、と答えながら足元の石ころを蹴飛ばす。
「ごっちんいつから放浪してるの?」
「ホーロー?」
「旅してるってこと」
藤本の問いに吉澤が無駄な問いを挟む。
ホイコーローじゃないんだよ、という石川のしょうもないギャグに三人とも
暗黙の了解よろしく、見事な無反応をみせる。
「ん〜わかんない、物心ついた時からかな?」
「えっ、あっ……なんか、その……ごめん」
俯く藤本。
風が草木を使って囃したてる。
「ん? いいよいいよそんな気ぃ使わなくても」
手を振る後藤の表情に他意はなく、場が妙に緊張することはなかった。
といってもその後の会話が続かない。
- 171 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:31
- 僅かに下る山の砂利道。
後藤が三人より五歩ほど前に出て振り返った。
「どこに気兼ねすることなく旅するって気持ちぃもんだよ」
後ろ歩きで続ける。
「それにほら、こうやってみんなに出会ったわけだしさ」
藤本が軽く吹き出す。
それを見て後藤が柔らかく微笑んだ。
「ごっちんなんかかっこよかったよ」
「そお?」
後藤と目を合わせた藤本は崩した笑顔になった。
吉澤が少し遠くに何かを「ごっちんって色んな所行ってるんだね」
並んで歩く左端の石川が右端の後藤に言う。
まぁね、と答えながら足元の石ころを蹴飛ばす。
「ごっちんいつから放浪してるの?」
「ホーロー?」
「旅してるってこと」
藤本の問いに吉澤が無駄な問いを挟む。
ホイコーローじゃないんだよ、という石川のしょうもないギャグに三人とも
暗黙の了解よろしく、見事な無反応をみせる。
「ん〜わかんない、物心ついた時からかな?」
「えっ、あっ……なんか、その……ごめん」
俯く藤本。
風が草木を使って囃したてる。
「ん? いいよいいよそんな気ぃ使わなくても」
手を振る後藤の表情に他意はなく、場が妙に緊張することはなかった。
といってもその後の会話が続かない。
見つけた。
「まぁとにかく、オレが世界一の神玉になるように―――」
そう言って吉澤が駆け出した。
後藤の横を素早く走り抜ける。
- 172 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:31
- 吉澤の向かった先には白い玉のようなものがあった。
サッカーボール大のそれには短い手足が生えていて、風貌に似合わない
厳しい目つきを吉澤に向けている。
「ゼノ?」
藤本が呼んだそのモンスターに吉澤を思い切り蹴り上げた。
「がんばろー!!」
まさしくサッカーボールのように木々の中へ消えていった。
ふぅ、と一息ついて吉澤が振り返る。
タイミングよく藤本がツッコむ。
「あの〜、よっちゃんのために旅してるわけじゃないんですけどぉ」
「なんでだよ! 俺が強くなるのに協力してくれてんだろ?」
「いやいやいやいや、あたしは魔王を倒して梨華ちゃんは敵討ちして、それから
よっちゃんの野望って順だよ」
なんだよそれぇ、と唇を尖らせる吉澤の肩を、
いいじゃんいいじゃん、と抱く後藤。
「あぁ一ルグが飛んでっちゃったぁ」
「まったく梨華ちゃんはケッチぃねぇ」
ケチじゃなくて堅実なの、と反論する石川に三人は一斉に
「ケチだって」
とツッコんだのだった。
- 173 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:32
- 三つ目の山の頂上に登りついた。
何日も移動を、それも山ばかり歩いていると流石に滅入る。
しかし、三度目はそうでもなかった。
「あー!」
叫んだの吉澤だった。
遠くを指差し、休憩している三人を手招きする。
やっとのことで座れる状態になった藤本が少し迷惑そうな表情で言う。
「何々?」
「でっけー城が見えんだよ!」
「嘘ぉ!」
三人は駆け寄った。
吉澤が指差す先にはやや遠方であるものの城は大きく、
城下町が占める範囲も大きい。
「次はあそこかな?」
「だろうね。だったらこの山降りて……」
後藤と藤本が城までの順路を見える範囲で検討している。
- 174 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:32
- 吉澤と石川はさっき休んでいた所まで戻ると腰を下ろす。
前方には何やら話し合っている藤本と後藤が見えた。
「やっと野宿生活とおさらばだ」
「ホントよかった」
「あの城行ったらウメーもん腹一杯食ってやるぜ!」
石川が上品に笑う。
「じゃあわたしも頑張ってお料理しちゃおっかな?」
「えっ!?」
思いっきり怪訝な顔で石川を見る吉澤。
その表情の意味を察した。
「ちょっとよっしー、わたしの料理食べたくないわけ?」
「ったりめーだろ」
「もぉ!」
吉澤の肩をペシペシ叩く。
そんな抗議にも屈せず、食えないものは食えない、と断固として主張を曲げない吉澤。
後藤と藤本が戻ってきた。
- 175 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:32
- 何してんだか、と藤本が言うとその経緯を必死に訴える石川。
事情を知った二人は吉澤の顔を見た後さもありなんとした顔をして、
料理はあたしがやるから心配ないって、と後藤がフォローになってないフォローを石川に投げかけた。
それはそうと、と藤本。
「まぁ大体ここから歩いて明日には着くんじゃないかな?」
「マジで?」
「何もなければ、の話だけどね」
後藤が補足した。
それならグズグズしてらんねぇ、と勢いよくと立ち上がる吉澤。
道筋も知らないくせに第一歩を踏み出した吉澤の後ろから藤本が言う。
「あのー、美貴達休んでないんですけどぉ……」
「ここで休んでて明日本当に着くんだろうな?」
「大丈夫だって、余裕もった計算で明日って言ってんだから」
吉澤が踵を返す。
「ならまだ休んでいくか」
「大丈夫大丈夫、何もなければだけどね」
結局何もなく、次の日の正午目的の城に着いたのだった。
- 176 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:33
- 三メートルはある城壁に囲まれた空間はやたらと広く、
城下町も活気に溢れた様子である。
「美貴の城より大きいわ」
「スゲーいっぱい店あるな」
「まず昼ご飯食べる?」
賛成、と三票。
「なんかテキトーでいいよね?」
「おぉ。あっ、美味そうな匂い」
あそこだ、と吉澤が指差す。
その先には壁から突き出た通気口から湯気の上がる飲食店だった。
あそこでいいよね?、と後藤。
賛成、と三票。
- 177 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:33
- 「それにしても人多いねぇ」
「なんかあるんじゃないのかな?」
「梨華ちゃんもそう思う?」
久々の外食に胸躍らせる吉澤と藤本、の少し後ろを歩く二人。
道も広場も人の往来が激しく、それでいて城か町全体が瑞気に満ち溢れている。
待ちきれないのがまるわかりの吉澤と藤本は駆けだし店の中に入っていった。
「元気いいね〜あの二人」
「きっとミキティ、肉下さい、とか言ってるんじゃない?」
「あー言ってそう」
簡単に笑う後藤と石川。
甘いもの食べたいなぁ、と乙女チック全開に石川が言った直後、
吉澤の叫び声が店の中から聞こえた。
石川と後藤は顔を見合わせ、店の中に飛び入った。
- 178 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:34
- 「マジかよー!」
「だから夜まで待ってくれって」
「ホントにダメなの?」
「だから何回も言ってるだろ、ダメなんだよ」
心配した二人が思っていた感じとは程遠い光景。
事情はわからないが明らかにダダをこねている吉澤藤本と二人をなだめる店主。
店の奥では忙しな
「どしたの?」
「ここで飯食えねぇんだってよ」
そんなことで、という言葉を飲み込むく料理の下準備をしている女性がチラホラ見える。
後藤。
まだ詰め寄っている藤本を宥めながら、後藤に助けを求めた視線を送る店主。
石川が藤本を羽交い締めにすることで騒動は一応おさまった。
店主の話によると今夜、他の城の王を迎えパーティがあるらしく
町人同士もそれに合わせパーティを開くとのことで今はその仕込みをしているのだそうだ。
飲食店はどこもその準備をしているせいで昼食の営業はやってないため、四人は
店主の案内で宿屋に連れてきてもらったのだった。
- 179 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:34
- 宿にチェックインも済ませ昼食を食べる。
大したものが出せないと宿屋の店主が申し訳無さそうにしていたが
四人は気にも止めず、特に吉澤と藤本は実に美味しそうに食事を平らげた。
「これからどうしようか?」
石川の問いに皿を舐め回していた吉澤が顔から皿を離した。
お代わりを待つ藤本や水を飲んでいた後藤も石川を見る。
「どうしようってまぁ、少し休んで―――」
「オレは寝るぞ」
美貴が話してんじゃん、と藤本。お代わり来たぞ、と逸らす吉澤。
「美貴も寝るわ」
「ごっちんは?」
「ん〜……梨華ちゃんは何かすんの?」
逆に後藤に訊き返されて戸惑う石川だが何か隠し事のある所為は見せない。
「お城見てこよ〜かなぁって思ってるんだけど」
ごっちんも行く?、と石川。あたしはいいわ、と後藤。
「あたしはぽやぽやと町でも散歩してるよ」
「わかった―――」
「あー! そのエビフライ最後に食べようと思ってたのに!」
「えっ? ミキティ食わねぇのかと思った」
藤本と吉澤のドタバタが終わった後、四人は夕方までそれぞれの時間を過ごしたのだった。
- 180 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:35
-
- 181 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:35
- 煌びやかな光を放つシャンデリア。
毛が短いが柔らかく、赤地に上品な模様の絨毯。
高い天井と十分過ぎるほど広い空間。
点在する丸テーブルは淡く光りだしそうな白いテーブルクロスで覆われ、
その上には絢爛豪華な料理の数々が並んでいる。
テーブルの間を埋める色とりどりのドレスや宝飾。
皆一様にグラスを持ち一人の男を見つめている。
優雅にヒゲを蓄えたその男が人々を見回し微笑む。
「今日という日に我が城、オーガファン城に集まっていただきまことにありがたい。
堅苦しい挨拶は無しにして早速楽しもうではないか。
準備はよろしいかな? それでは、乾杯!」
オーガファン城の王様が掛け声と共にグラスをかかげると
同じくグラスを持った各国の王族も高らかにグラスを持ち上げた。
- 182 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:35
- アルコール0%のオレンジジュースを持った色白の王女が
キョロキョロと視線を撒き散らして忙しくテーブルの間を歩きまわっている。
オーガファン城の王女、小川麻琴である。
視線が二人の女の子を捕らえた瞬間、華やかに表情が開けた。
「あさ美ちゃーん! 愛ちゃーん!」
周りの大人達の視線もお構いなく小川は二人に駆け寄った。
呼ばれた二人、コンノラル城の王女紺野あさ美と
ハイブリッジ城の王女高橋愛がやんわりとした笑顔で彼女を迎える。
「まこっちゃ〜ん、かわいいねぇそのドレス」
「愛ちゃんこそぉかわいいじゃ〜ん」
真っ赤なシルクのドレスに真珠のネックレスの高橋。
ツルツルリーン、とふざけたメロディでドレスを撫でる小川。
コック自慢の料理を食べて満足そうに微笑む紺野。
- 183 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:36
- 体の芯を打つような音が聞こえる。
打ち上げ花火である。
「この音花火じゃない?」
「ん……ホントだ!」
「見に行こうか?」
小川と高橋が盛り上がる中、二人の会話に入ることもなく
モグモグ口を動かす紺野。
これが特に珍しい光景でもない辺り、三人の中の良さがうかがえる。
「あさ美ちゃんも行こ」
「あっ、うん。けどこれ食べてからでいい?」
「もぉ、あさ美ちゃんは食いしん坊なんだから」
楽しそうに笑う三人。
少し離れた所では三人の父親も楽しそうに談笑している。
招かれざる客はこんな時にやってくる。
- 184 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:36
- 三人が外へ出る扉に近づいていった時、空間中央で轟音が響いた。
クリスタルの破片が派手に飛び散る。
王族には似つかわしくない叫喚が上がる。
シャンデリアが落ちたのだ。
幸い真下に誰もいなかったため怪我人はいなかったものの
一瞬にして場の空気が凍りついた。
そんな状況において派手な音と光が部屋に飛び込んでくる。
「あっ……」
小川の声が漏れる。
シャンデリアのあった天井に大きな穴が開いていて、外に出ずして
刹那の黄色い笑顔を望めたのだった。
あまりにきれいに開いた天井の穴。
誰一人として状況を飲み込めず空気とは対称に誰も動けずにいた。
円形の空が紅く染まる。
キレーな花火だ、と三人は思った。
しかし、その花火は消えることなく室内に入り込んできた。
- 185 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:36
- 真っ赤なそれは花ではあったが火ではなかった。
直径六メートルほどの花が回転しながらゆっくりと降下してくる。
誰もが呆然とそれを見つめている。
妙な気使いともとれるくらい音もなく花は着地した。
誰の宝飾にも負けないほど美しく輝く花から少女が四人現れた。
「おーおー結構人いるもんだねぇ」
背が小さいのに真っ黒のコートを着た少女が飄々と言った。
ピンクのドレスを着た少女が後に続く。
「ん〜やっぱりわたしが一番かわいい」
「でもドレスはこの中じゃわりと地味だよ」
「でもさゆみが一番かわいいの!」
藍色と灰色を混ぜたような色の着流しを来た少女が、さゆみ、と称する
少女にツッコむと、さゆみ、と称する少女が頬を膨らませる。
着流しの少女の右目には黒い眼帯がなされている。
「あっ、肉発見!」
真青のつなぎを着、頭に猫耳を生やした少女がパアァっと笑顔になる。
コートの少女は何かを探すように視線を散らす。
そして目標物を見つけたのか、視線が一点で止まった。
- 186 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:37
- 「れいな、肉よりまずあの三人」
コートの少女が指をさした先には花火を見に行こうとしていた王女。
猫耳の少女が視線で目標を捕らえる。
「怪我させちゃダメだよ」
「わかったニャ」
猫耳の少女が返事をし、消えた。
正確には人の目に消えたと写るほどの速さで三人に向かっていたのだ。
人の間を縫い、誰の視神経を刺激することなく三人も元に辿り着く。
「痛くしないからこっちにくるニャ」
返事も聞かず猫耳の少女は三人を抱え、素早く花に戻った。
何が起こったのかわからない三人を足元において満足そうな猫耳の少女。
口には何枚かローストビーフが咥えられている。
「全くちゃっかりしてるんだから、田中ちゃんは」
「ほにょにくおいしゅうぃニャ」
「食べながらしゃべんないの。次、重さんおねが―――」
人が通るだけにしては大き過ぎる扉が勢いよく開き言葉を遮った。
たくさんの兵士が完全武装をしている。
- 187 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:37
- 先頭にいる兵士が叫ぶ。
「王女様を傷つけるな! あの四人をひっ捕らえろ!」
怒号と共に兵士達が駆け攻め入ってくる。
王族の人々は叫びながら道を開ける。
しかし、四人の訪問者はいたって冷静。
コートの少女が指示を出す。
「重さん王女の方お願いね、亀ちゃんと田中ちゃんはもう花に入ってて」
少女達は指示通りに動き出した。
一方指示を出した少女は兵士の方を向いている。
コートの少女は兵士の上空を指差す。
するとその空間に惚け色の膜が一瞬にして広がった。
なおも突進してくる兵士達。
膜が全ての兵士の上空にまで広がると、少女は人差し指を地面に向けた。
すると膜が一気に兵士達の覆い被さる。
兵士達は瞬時にしてその場に這いつくばるようにして崩れ去った。
- 188 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:38
- 「新垣さん、準備できました。乗ってください」
着流しの少女が花びらの間から顔を出し、コートの少女を呼んだ。
兵士達の姿に満足そうな新垣は紙を一枚その場に落として素早く花に乗り込んだ。
「麻琴! 大丈夫か麻琴!」
「お父さん助けて! おかあさーん!」
後ろ手に縛られた王女が叫ぶ。
その声も虚しく花は上昇を始めた。
「パパー! ママァ!」
声も少し遠くなっていく。
兵士が体勢を整えた頃には花は天井の穴から出ていっていた。
花火の光が呆然としている兵士と泣き叫ぶ王の顔を
色鮮やかに照らしていた。
- 189 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:38
-
- 190 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:39
- 暮れなずむ城下町。
たくさんの人々が広場を行き交い、パーティ用の豪勢な食事を食べ、酒を飲み、
町中いたる所で笑い声が響き渡っている。
店に並ぶ酒や食事は全て城が買い取っており、全てタダで食べることが出来る。
城と城下町民の関係が良好な証拠であろう。
「スゴイねぇ」
「ね〜スゴイよね! あれもあれも全部タダだよ! タダ!」
「あんね〜梨華ちゃん、ごっちんはそのことをスゴイって言ってるんじゃないと思うよ」
先の情報を聞き入れ、心地良く眠っていた藤本と吉澤を叩き起こした石川。
町に溢れる食べ物に目を輝かせている。
初めは文句を言っていた藤本もなんだかんだ言って肉を食べている内に
怒りもおさまってしまったようだ。
寝惚け眼の吉澤をグイグイ引っ張って食べ物を物色する石川。
はしゃぐ石川を後ろから見る藤本と後藤。
焼き鳥を頬張りながら藤本が言う。
「しかしまぁタイミングの良い時に来たよねぇ」
「ホントホント」
「いつまでいる?」
「それはまぁ―――」
- 191 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:39
- 後藤の回答を遮るように遠くで爆発音がなった。
町人のほとんどと一緒にその方向を見る。
その空に白く大きな花が咲き、遅れて乾いた音がなった。
「あっ、花火」
「おースゴイスゴイ!」
スゴイスゴイ、と騒ぎながらも最後の一口の焼き鳥を頬張る藤本。
花火は続いて緑、黄色、赤と咲いている。
「スゴイねー花火」
石川が片手にクレープ、片手に吉澤を連れて戻ってきた。
まだ寝惚けている吉澤の顔が一瞬黄色く染められる。
藤本が焼き鳥を飲み込んで言う。
- 192 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:39
- 「梨華ちゃんまだここいるの?」
「うん、まだ食べてないものもあるし」
「ごっちんは?」
「あたしはもう宿屋に戻ろうかな」
「じゃあごっちんと美貴は宿屋に戻るから」
「うんわかった、行こうよっしー」
「ん……」
まだ見ていない店をすぐに見つけ吉澤を引っ張っていく石川、それに
ヨタヨタとした足取りでついて行く吉澤。
「よっちゃん大丈夫かな?」
「まぁ……なんとかなるでしょ」
二人は宿屋に戻っていった。
>>193へ
- 193 名前:メカ沢β 投稿日:2005/04/10(日) 18:40
- 今日はここまでです。
>>162名無飼育さん、ありがとうございます
随分待たせてしまったことをお詫び申し上げます
>>164名無飼育さん、ありがとうございます
心配かけて申し訳ございませんでした
本人にきつく言っておきます
>>166名無しの読者さん、ありがとうございます
本当にスイマセンでした
本人治療のため更新がとても遅くなると思います
- 194 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/13(水) 00:28
- 作者さんが何かと大変な最中なのに気の効いたことは書けませんが、四人の織り成すテンポ良いノリが好きです
マターリ更新待ってますので、無理せず頑張ってください
- 195 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:31
- 前回、
三人の王女が連れ去られた>>196-209へ
- 196 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:32
- 「たっだいまぁ〜」
タダツアーを満喫しご機嫌な石川とその後ろ、お腹をさすりながら
爪楊枝をくわえ満足そうな吉澤。
石川の手から下がる袋には数種類の果物が顔を覗かせている。
「おっ帰りぃぃいぃ、あっリンゴ発見! おっかえりんごだにゃはははは……」
そう言って藤本は手元の葡萄酒を飲んだ。
「ちょっとミキティ酔ってんのぉ?」
「酔ってない酔ってにゃい」
「もぉちょっ、あ〜こぼしてぇ」
「ゴメンゴメン。帰ってくる途中で見つけちゃったもんだからさぁ」
さっきまでベッドの上で本を読んでいた後藤がそう言って
床に広がる葡萄酒を拭いている。
石川は空瓶二本を避け机の上を拭いている。
袋の中から赤々としたリンゴを取り出し、噛り付こうとした瞬間
「よっしーも手伝ってよぉ」
と、石川に言われリンゴを元に戻す吉澤。
デロンデロンの藤本をベッドまで担ぎ、コップに残った残り一口の葡萄酒を見て、
やっぱいいや、と後藤に差し出す。
よっしーはあれ以来苦手だもんねぇ、と少しからかう様にして赤紫を飲み干す後藤。
- 197 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:32
- 突然、ドアが乱暴に開いた。
ドアの方を見る三人、枕に頬ずりする一人。
体の各所に金属を纏った男達が廊下から溢れ二、三人部屋に入り込んでいている。
誰もが血気に満ちた顔をしている。
おそらくドアを開けたであろう先頭の兵士が叫ぶ。
「奴等を捕らえろ! 抵抗するようなら傷つけても構わん!」
音が響き終わる前に大勢の兵士が部屋になだれ込んできた。
わけがわからない三人。
「なっ! なんなんだよ!」
「キャッ!」
「イテッ! テメーこのヤロ!」
擾乱する部屋の中。
ドロ〜っとした意識でそれを見守る藤本。
「テメーらこのヤロ! ざけんじゃねーぞ!」
「ダメだよよっしー! 手ぇ出しちゃ!」
反撃しようとする吉澤を宥める後藤。
なんでだよ、とイラついた表情で吉澤が言った直後、兵士の
一人が叫んだ。
- 198 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:32
- 「隊長! こいつ等は犯人ではありません!」
「何!?」
隊長と呼ばれた男が不可解を叫ぶと兵士の動きが一斉に止まった。
掴まれた腕を振り払う。
隊長が吉澤の顔をジロジロ見つめ、哀歓の表情を浮かべた。
「本当……だな。人違いだ」
その言葉に多くの男達が溜息を漏らした。
未だに事情が飲み込めない石川が吉澤に近寄り、藤本は眠気の
占領する眼を左右に動かし三人を探している。
「これは一体……なんなわけ?」
首を傾け後藤が誰となしに訊く。
四人に視線を向けた後、他の兵士に撤退を命じる隊長。
宙に浮いた疑問に眉をひそめる後藤、よりももっと怒りを露わにする吉澤。
「だからなんなんだよおめーら!」
「すまない」
「すまないじゃねーよ! 説明しろよ!」
「説明はする、ただ他の兵が出ていくまで待ってくれ」
まだ何か叫ぼうとする吉澤を石川が止め、
立ち上がろうとする藤本の元へ後藤が駆け寄る。
そして、部屋には四人と隊長だけが残った。
- 199 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:33
- 城での一件を聞き終えた四人。
それとなしに事情は飲み込めたらしい。
「で、なんでオレ達の所に来たんだよ?」
「宿屋に見かけぬ女が四人いるという情報が入ってな。
もしやと思ってきてみたんだが、人違いだったと言うわけだ」
視線を落とす隊長。
吉澤は、ったりめーだ、の後の言葉を飲み込むことにした。
目線をそのままに立ち上がる隊長。
「すまなかったな、騒がせてしまって」
「いやいや、そんなん大丈夫ですよ」
「それじゃ私はこれにて帰らせてもら―――」
「ちょっと待ったぁぁ!!」
今まで据わった目で話を聞いていた藤本が月に突き刺さる勢いで立ち上がった。
酒の力を借りているのか目がギラギラしている。
皆呆気にとられベッドの上に仁王立ちする彼女を見ていた。
「美貴達がたしゅけます!」
「なっ!」
驚く隊長とは対称的にリアクションの薄い三人。
三人の私意も大体それに一致していたからだ。
- 200 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:33
- 「君達に何ができるというんだ!」
「美貴達ねぇ神玉なんですよぉ」
いささか怒気を含んだ隊長の言葉にふざけ半分で答える藤本。
「結構強ぉいよねぇ美貴達」
「けっこーじゃねぇだろ。そーとーだそーとー」
不敵な笑みで腕を組む吉澤。
隊長はキョロキョロを四人を見回す。
「それにその四人はけっこー強ぇんだろ? ならこのオレが
ぶっ飛ばしてやっるてんだ!」
「ヨッ! さすがよっちゃん!」
だろ?、と少し調子に乗る吉澤に追い討ちのように煽てる藤本。
隊長の顔つきが怪訝に変わる。
「それにもしそのお姫様達を助けたら謝礼っていっぱいもらえるんですよね?」
隊長が振り向くと早くも妄想を膨らませる石川が捕らえてもいない狸の
皮の計算をしている。
「まっ、乗りかかった船ってことで、ね」
後藤の、ね、と場の雰囲気に返事の選択を失った隊長は
あまりに情けなく選ばされた返答をするしかなかった。
- 201 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:33
-
- 202 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:34
- 闇の森。
柔らかい光を閉じ込める小屋が一軒。
後ろ手に縛られた純正装の少女達は椅子に座らされ、その眼前で道重が
三人の顔を順番に見つめている。
「やっぱりさゆみの方がかわいいの」
「こんなことしてどうするつもり!」
「早く帰してよ!」
「怒った顔もさゆみの方がかわいいの」
他意のない自惚れを挑発と受け取るのは当然で、三人の王女は椅子を揺らし抵抗する。
無秩序なパーカッションに自慢の眉をひそめる新垣。
「うるさいうるさいうるさーい!」
「帰せー! あたし達を城に帰せー!」
「帰せー!」
「帰せー!」
「あーもぉ、帰す! 帰すから!」
不満の乱打が止んだ。
驚きと喜びが混ざった表情で三人はマメっぽい少女を熱視する。
新垣は視線に少したじろぎ、言った。
「でもあれね、身代金が手に入ったらね」
「明日の夜には持ってくる筈だから心配しないでいいよ」
亀井の言葉に三人は顔を見合わせ、安堵を浮かべた。
- 203 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:34
- 「ちゃんと帰れるから静かにしてね。わかった?」
新垣が小さな子を諭すような言い方でいうと、三人は素直に頷いた。
よしっ、と腰に手を当てて微笑む。
「じゃあ重さん、縛ってるの外しちゃって」
「えっ?」
驚いたのは三人の方だった。
そんな三人をさておき道重は縛っていたロープをすぐに消し去る。
手が自由になったことに不思議を感じる三人。
「縛りっぱなしじゃ痛いでしょ? それにご飯も食べづらいしさ。
まぁ逃げ出そうと思っても真っ暗な森の中じゃ迷うだけだしね」
得意げに話す新垣の横、道重の表情が少し険しい。
「どーでもいいけど少し焦げ臭いの」
「焦げ臭い? ……ぬわぁーー!!」
新垣は慌ててキッチンに走っていった。
キッチンで再び奇声が上がり、その場の全員が事態を察したのだった。
咳き込みながら現れた新垣が哀願の眼差しで人質の三人に言った。
「料理できる人……いる?」
- 204 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:34
-
- 205 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:34
- 「一億ルグ!?」
四人は一斉に声をあげた。
宿で救出の手助けを特認してもらった四人は城に連れて行かれ
新垣の落としていった手紙の内容を教えてもらっていたところだ。
「正確には三人だから三億ルグか……」
「かぁ〜三億ルグったぁスゲーもんだな」
「すごいどころじゃないよぉ! とんでもない大金だよ!」
「梨華ちゃん興奮し過ぎだから」
藤本に宥められても、だってだって、と三億ルグのスゴさに
熱弁を奮おうと上気する石川。
後藤は手紙を思慮深げに読んでいる。
「三億ルグなんてあんのか?」
「それがな……」
床に視線を置き、言葉を濁す隊長。
吉澤にはまた別の問いが浮かんでいた。
- 206 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:35
- 「それにしてもなんで受け取り場所が四ヶ所なんだ?」
「そりゃぁ相手が四人だからなんじゃない?」
石川は答えたつもりだったがイマイチ自身でも自信がないようだ。
後藤が手紙から視線を逸らさずに言う。
「兵力の分散……ってのも一つ」
「兵力の分散?」
「だからぁ、120人兵士がいたとして三箇所なら40人だけど、四ヶ所なら30人じゃん。
つまり、一つの軍の戦力を小さくしようっていう魂胆なわけ」
ほぉ〜、と吉澤と石川が大いに納得。
感心はするものの後藤の言葉に何かしらの引っ掛かりを感じた藤本。
「兵力の分散ってのも一つ、ってことは他にまだ理由があるわけ?」
藤本の問いに手紙から視線を外し、藤本の顔を見て頷く後藤。
まぁ推測でしかないんだけど、と前置き。
「一億ルグってかなりの大金じゃん。どこに城にもあるような金額じゃないんだよね。
それに一人一億だから全部で三億ルグだって言ってたけど、実際は四億ルグ必要
なわけ。四ヶ所のうち三箇所に人質がいるんだけど、その三箇所があたし達には
わからないわけだから四ヶ所全部に一億ルグ持ってく必要があるんだよね」
- 207 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:35
- 「しかも他の城から王様が来てるからって言ったって億単位でルグを
持ってきてるわけじゃないし。ってことはだよ、ルグだけじゃ四億は到底
払えないんじゃないかって思うわけ」
隊長の顔が少し強張った。
構わず続ける後藤。
「じゃあどうするか? 一億ルグ相当の、例えば宝飾品なり何なりを
取り引きに持っていくっていう考えにならない普通?」
「たしかに……」
「元々それが狙いなんじゃないかなって思うんだけど……」
まぁあくまで推測だから気にしないで、と笑う後藤。
隊長の表情は怪訝に変わり、いささか脅威さえ感じているような顔をして後藤を睨んでいる。
後藤は視線に気付き、目を合わせながら首を傾げて言葉を待った。
搾り出すようにして言葉を発する隊長。
「どうしてお前が我が城に宝があることを知ってるんだ……」
「知ってるっていやいや、単なる推測なんだけどさ」
当たっちゃった?、とおどけても隊長は笑わない。
- 208 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:35
- 「お前の言う通り、そんな大金はこのオーガファン城にはない。コンノラル城、ハイブリッジ城と
合計でなんとか一億ルグは揃ったがあと三億ルグ分どうしても足りない。
だから我が城の秘宝と言われている金銀の薔薇、フレーグジェンリング、
秘色の碑(ひそくのえりいし)の三つで取り引きするつもりだ」
「三つともこの城から出すわけ?」
「当たり前だ。コンノラル城やハイブリッジ城の王女様がさらわれたのは
オーガファン城の責任だからな。もっとも、我々兵士がもっときちんとしていれば……」
唇を噛み締める隊長。
悔やんでもしょうがないですよ、と藤本が慰める。
後藤が手紙を折りたたみ会話を切り出す。
「で、東西南北。誰がどこに行く?」
「オレは北だな」
「じゃあ美貴は南」
「じゃあわたしは西にいく」
「ってことはあたしは東、と」
手紙を隊長に手渡す。
四人は部屋から出ようとした所で呼び止められた。
- 209 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:35
- 「どこに行くつもりだ!」
「どこって……宿屋に決まってるでしょって。指定場所はここから遠くないんだし、
期限は明日の夜までだし……あたし達だって眠たいし、ねぇ?」
三人が同時に頷く。
ついでに腹も減ったな、と吉澤。
「明日の朝出発する時に宿屋に呼びに来てくれればいつでも出発できるように
準備はしときますから、今日はとりあえずこれで」
後藤が言い終わる前に三人は既に歩き出していた。
待ってよ、と小走りしながら呟く。
「秘色の碑がこんな所にあったなんて……」
四人は宿屋に戻っていった。
>>210へ
- 210 名前:メカ沢β 投稿日:2005/05/07(土) 13:36
- 今日はここまでです。
>>194名無飼育さん、ありがとうございます。
レスを下さる事自体ものすごく嬉しいことだとメカ沢も言っております。
更新が遅くなって申し訳ございません。
- 211 名前:名無し読者 投稿日:2005/06/13(月) 10:31
- 入院中の更新大変だと思いますが頑張ってください
楽しく読んでます
- 212 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:25
- 前回、
四人は王女救出を手伝うことになり、四手にわかれた
北へ行く→吉澤ひとみ>>213へ
西へ行く→石川梨華>>214へ
東へ行く→後藤真希>>215へ
南へ行く→藤本美貴>>216へ
- 213 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:25
- 北へ向かう吉澤。
三五人の兵士とフレーグジェンリングを持ってひたすら歩く。
平地、丘、森の中。
「ホントにこっちであってのか?」
「地図によればこの方向に洞窟があるはずなんだが……」
歩いてばかりでいい加減退屈している吉澤。
出発当初の未知の敵への好奇心とワクワク、ある種の期待感も
薄れてしまっているようである。
時々出現する敵も文字通りの一蹴で済んでしまうためイライラが積もっているのだ。
そんなときだった。
「洞窟を発見しました!」
「マジか! よっしゃ!」
先頭の兵士の情報に三つ同時に投げたサイコロの目がゾロ目だった時のような
はしゃぎっぷりを見せ、洞窟へと駆けていった。
洞窟の前に一人の少女が立っており、その傍らには手足を縛られた少女が一人横たわっている。
>>217-225へ
- 214 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:26
- 西へ向かう石川。
三五人の兵士と一億ルグを持ってひたすら歩く。
平地、丘、森の中。
「本当のこっちであってるんですか?」
「地図によればこの方向に洞窟があるはずなんだが……」
歩いてばかりでいい加減退屈している石川。
しかし、これを見れば一発でそんな問題は解決してしまう。
「はぁ〜、それにしてもこの一億ルグってすごいなぁ」
「初めてこんな大金見たぁ」
「これが一億ルグの重みなんだぁ」
そんなときだった。
「洞窟を発見しました!」
「ホントに?」
先頭の兵士の情報に自分のものでもない一億ルグへの別れを察し
自身の置かれた状況をまったく考えず残念そうな顔をした。
洞窟の前に一人の少女が立っており、その傍らには手足を縛られた少女が一人横たわっている。
>>226-232へ
- 215 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:26
- 東へ向かう後藤。
三五人の兵士と秘色の碑を持ってひたすら歩く。
平地、丘、森の中。
「ホントにこっちであってるの?」
「地図によればこの方向に洞窟があるはずなんだが……」
歩いてばかりでいい加減退屈している後藤。
自身も出発前に何度も確認はしているから方向が間違っているということは
まず間違いないはずなのだが、こうも長い距離を歩くとさすがに飽きてくる。
旅慣れているとはいえつまらない。
そんなときだった。
「洞窟を発見しました!」
「ん?」
先頭の兵士の情報に、聞いてねえのかよ、と突っ込みが入りそうなリアクション。
洞窟の前に一人の少女が立っており、その傍らには手足を縛られた少女が一人横たわっている。
>>233-239へ
- 216 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:26
- 南へ向かう藤本。
三五人の兵士と金銀の薔薇を持ってひたすら歩く。
平地、丘、森の中。
「あってるんですよねぇこっちで?」
「地図によればこの方向に洞窟があるはずなんだが……」
歩いてばかりでいい加減退屈している藤本。
棒をクルクル回して後ろの兵士に当たり、スイマセン。
クルクル。
スイマセン。
クルクル。
スイマセン。
そんなときだった。
「洞窟を発見しました!」
「スイマ――おっ、着いたぁ」
先頭の兵士の情報に八回目のスイマセンを途中で止めて安堵を示す。
洞窟の前に一人の少女が立っていた。
>>240-245へ
- 217 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:27
- 対峙する二人。
吉澤と黄色いつなぎを着た女の子。
「アンタ誰?」
「オメーこそ誰だよ」
「なんそれ? フツー訊かれた方が先に名乗るっちゃろ」
「は? 訊いた方だろ普通は」
少しの間押問答した後、吉澤が折れた。
「オレは吉澤ひとみってんだ」
「ふ〜ん……まぁ訊いたところでなんてことなかとね」
「……バカにしてんのかコラァ!」
一足に直進すると飛び蹴りを放った。
しかし蹴りは当たることはなく吉澤は誰もいない空間を通り抜けた。
吉澤が立っていた位置につなぎの女の子が立っている。
「なっ!」
「随分トロいっちゃね」
余裕を見せびらかすかのように腕組みをするつなぎの女の子。
頭には服装よりやや淡い色の猫耳が生えている。
- 218 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:27
- 「王女はどこだ!」
「王女……ポンちゃんの事?」
ポンちゃんならあそこ、と一本の木の上を指した。
はるか高い木の枝に紺野が吊るされている。
「アンタがあまりにトロいから木にくくりつけてきたっちゃ」
「テメーさっきからオレのことトロいトロい言いやがって」
「ホントのことやけん別に言ったってもよかと」
「チョーシにのってんじゃ――」
吉澤の目の前から少女が消えた。
刹那、脇腹に鋭い痛みが走る。
脇腹に三本の赤い線。
薄緑の武道着に血が滲む。
「チッ」
「ほ〜ら、れいなのこと見えてないニャ」
「テメー」
- 219 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:27
- 傷口に当てていた手を離し戦闘体勢を整える吉澤。
つなぎの少女から猫耳と同じ色の尻尾が生えている。
「あたしの名前は田中れいな。れいなに一発でも入れられたら――」
「フッ!」
田中の話も聞かずまたもや一足飛び、前蹴り。
避けようとしていた田中だが足が当たってもいないのに顎に衝撃が走る。
後ろ回し蹴りはバック転することで避けられたものの口の中は血の味がしている。
「なっ! 今のはなんなんニャ!」
「へへっ、れいなに一発でも入れられたらなんだってんだ?」
「れいなに一発でも入れられたら能力名教えてあげようと思ったけどやめるニャ。
不意打ちするような卑怯な奴には教えてやらないニャ」
「不意打ちしてんのはどっちだってんだよ。そうやって王女さらってったんだろうが」
グゥの音も出ない田中。
- 220 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:27
- 「いいから教えろよ」
「わかったニャ」
そう言って吉澤と同じように戦闘体勢に入った。
違いといえば手首を前に曲げ、鋭い爪を鈍く光らせていること。
サルバトーレ キャット
「れいなの能力は 『神の足元で戯れる猫』 だニャ」
「サル? キャット? どっちだよ!」
「サルじゃないニャ! サルバトーレだニャ!
それにれいなは猫だニャ!」
「ま、どっちでもいいけどよ」
吉澤が腰を落とす。
周りの木々がざわめく。
「さっさとやろうぜ」
- 221 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:28
- 間合いを詰め中段蹴り。
空を切る蹴りの上、回転しながら爪による斬撃が吉澤の左肩をかする。
体を反転させ回し蹴りを放つもそこに田中の姿はない。
足元から吉澤の軸足となっている左の太ももを引っ掻く。
「くっ!!」
「遅いニャ!」
そのまま足元を抜け背中に川の字を刻む。
前に数歩出て振り返る吉澤。
またしても田中の姿はない。
背中や太ももから流れ出る鮮血。
「どこだ!」
視線を左右前後に散らすも見当たらない。
吉澤の上空、木を蹴ることでより高く飛び上がった田中。
体を高速に回転させながら吉澤を狙う。
- 222 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:28
- 空気の避ける音に気付き空を見上げるとすでに目前まで田中が迫ってきている。
田中は吉澤の影を両手で抱きしめるようにして引っ掻いた。
すぐさまバック転で回避。
地面には触れてもいないのに立派な爪痕がついている。
「アンタやっぱりトロいニャ」
「テメー言わせておけば……」
武道着は既に半分以上紅くに染まっている。
「その傷じゃあもうれいなの勝ちは決まったようなもんだニャ」
「ハッ! マジでチョーシのんなよ」
「アンタの能力も見抜いたニャ。多分ハイドビハインドの一種だニャ」
「……見抜いたからって勝てるとは限らねぇぜ」
眉毛を引き上げることで目を見開く田中。
薄レモン色の尻尾がゆっくり縦に揺れる。
誘われた風が吉澤の前髪で遊ぶ。
- 223 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:28
- 「テキトーに言ったら当たったニャ」
「……なんだよそれ」
「まぁそんなことどうでもいいニャ」
「テメーさっきも同じようなこと言ってやがったな」
「ホントのことだニャ」
全く自然に四つん這いになる田中。
尻尾がゆるやかなS字を保っている。
「眠くなってきたからもう終わりにするニャ」
「眠くなってきただぁ?」
挑発半分の言葉に奮起する吉澤。
右足をひいて半身になり腰を落とす。
ゆっくりと深く息を吸うと拳を固く握った。
「眠気ごとぶっ飛ばしてやるよ。来な!」
「言われなくても真正面から行ってやるニャ」
田中は体を小石一つ分後ろにひくと消え入るような速さで飛び出した。
吉澤は右の口角を吊り上げ瞑目すると、右足を浮かせた。
「ルァ!!!」
- 224 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:29
- 右足が上へ下へ、右から左下、左上右上正面に次々と蹴りを繰り出す。
線香花火を思わせるほど無鉄砲で激しく、前方へ蹴り放つ。
「ニャ!」
突っ込もうとしていた田中の右顎に無数の蹴りの一つが当たる。
尚も激しく散る妖脚線香花火。
体勢の崩れた田中の全身に後続の蹴りが入っていく。
吉澤は目を開け標的を捉えた。
「そこか!」
何発も蹴りを食らった田中をめがけ、今度は確実に当てていく。
しかしその弾道に法則はなく田中の全身を打ちつける。
すくい上げるような蹴りが田中の体を浮かせた瞬間、叫ぶ。
「ハッ!!」
かかと落としが背中に無駄なく入ると、ごく僅かにテンポ遅れて
田中は地面に叩きつけられた。
舞いにしては激し過ぎるそれが終わり貼りついた前髪をかき上げる。
うつ伏せに倒れた田中を軽く蹴って空に向かせた。
- 225 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:29
- 左目は腫れ鼻血を出し、ぐったりと横たわる田中。
その横、腰に手を当て見下している吉澤。
「グッ、ゴホッ! ゴホ!」
血が気管に入り咳き込むと力ない体が不器用に波打つ。
吉澤は後ろを向くと戦闘を一部始終見ていた兵士達に視線を合わせ、
次にそれを吊るされた王女に向けると顔の動きだけで救出の令を出した。
呆気に取られていた兵士達は一斉に木に向かっていった。
「テメーの負けでいいよな?」
「なんやね今の? ……ガハッ」
数人の兵士が装備を脱ぎ木に登っている。
「叢蛇蹴(そうじゃしゅう)っつー技だ。避けらんねぇだろ」
吉澤が笑うと田中はそっぽを向いた。
「くやしか! こんなんに負けたんがくやしか!」
「なっ! 誰がこんなんだバカヤロウ。もっかい蹴るぞコラァ」
>>246-248へ
- 226 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:29
- 対峙する二人。
石川と薄ピンクのブリブリお姫様ドレスを着た少女。
「待ちくたびれたの」
「あなたが……誘拐犯?」
「誘拐犯って響きがかわいくないの」
「でも誘拐犯なんでしょ?」
だからそれじゃかわいくないの、と腰に手を当て怒った所為を見せる少女。
かわいいかわいくないの話をしにきたわけではない石川は静かに混乱していた。
「……とにかく! 王女様を返しなさいよ」
「それには一億ルグと交換なの」
「一億ルグなんて何に使うつもり?」
「さゆみの大好きなチョコレートをいっぱい食べるの」
チョコレートの種類を上げながら指を折っていく道重。
シルクの手袋をした指が波打つかのように屈伸運動を繰り返している辺り
相当な量のチョコレートが道重の頭の中にあるに違いない。
一億ルグを差し出そうとする兵士を抑え、石川が叫ぶ。
- 227 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:29
- 「あなたみたいにふざけた理由の持ち主には一億ルグは渡せないわ!」
「……ふざけてないの。とっても真剣なの」
真剣と言い放った道重の横で手足を縛られ猿轡にされている高橋がもがいている。
衣装や顔に傷が見当たらないあたり粗末な扱いは受けていないのだろう。
「いいから王女を返しなさい!」
「それなら渡すの」
「それはダメ」
「じゃあ無理なの」
「無理じゃないの。渡すの」
「じゃあ交換なの」
「だからそれは無理なの」
「どうでもいいけど口調が移ってるの」
あっ、と口を押さえる石川。
道重はクスッと笑うと突然自身の後ろを指差した。
「インカローズジニア」
すると城を襲撃した時と同じ花が音も無く現れた。
王女を押し込めるとキラキラ光る紅華はゆっくりと上昇していく。
「あっ、ちょっと何してるのよ!」
「危ないからちょっと上がってもらってるの」
- 228 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:30
- 声にはなっていないが口の動きから、我ながら優しいの、と言っている道重。
言葉の意味を理解した石川。
「あなたが普通に渡していればこんなことにはならなかったの」
「その前に王女をさらってなければこんなことにはなってないわよ」
「それもそうなの。でももう遅いの」
左手の手相を地面に見せるように突き出す。
「アイビークリソプレーズ」
すると地面からまばゆく光る緑色のツルが生えてきた。
硬そうな表面からは考えられないほどのウネウネ動き、先端が石川を向く。
「ちょっ! もう始まってるわけ!?」
「あれを倒すの」
石川を指差し言うとツルが石川に向かって伸びていった。
あれとは何よあれとは、と心の中でつぶやきながら口では別に呪文と唱えていた。
「ファイヤーボール!」
- 229 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:30
- 四つの火の玉がツルを襲う。
緑色が瞬時にしてオレンジ色になると続いて真っ赤に燃えた。
しかし、ツルの表面に焦げがついた程度で直進する速度は落ちていない。
「なっ、何で?」
迫り来るツルに考える間を与えられず左に避けるしかできない。
道重は指先でツルの進行方向を操っている。
「そんな攻撃じゃさゆみの呪文は破れないの」
すぐさま進路を変え襲ってくるツルに石川が叫ぶ。
「ウインドアロー!」
石川の上空で風が鏃の形になり、ツルに向かって尾をひきながら飛んでいった。
胴体部分を裂かれ力なく横たわるツル。
「どうよ?」
「まぁこんなこともあるの」
「それにしてもこんな能力見たこと無い……」
道重が微笑む。
- 230 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:30
- 「さゆみの能力は華宝姫(かほうき)。花と宝石を融合させられる
世界一かわいいさゆみのためにあるような能力なの」
キャハ、とわざとらしく笑って見せる道重。
上空では巨大な花がゆっくりと回転している。
「でも技の名前が長くなるのが欠点なの。でもそのぶん
さゆみの声が聞けると思ったら帳消しなの」
「どこも帳消しじゃないわよ」
唇を尖らせ、石川の言葉に素直な反応を見せる道重。
「今度はこっちからいくわよ! ファイブドロック!」
空に手をかざすとサッカーボール大の岩が五つ現れた。
道重を囲むようにして落ちてくる岩を身なりのわりには素早く避ける道重。
しかし最後の岩と右肩が接触し鈍い音が響く。
自我自賛する顔を歪めながら右肩を抑える道重。
追い討ちをばかりに石川が叫ぶ。
「リトルウインド!」
道重の周りの空気が回りだしつむじ風が起こった。
ドレスや手袋、頬や腕を切り裂く風。
「キャッ!」
顔の前で腕をクロスさせようとも右手が動かない。
- 231 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:31
- 風がおさまった時には体中に無数の血の筋ができていた。
なおも右肩が痛むのかおさえる道重。
「どう? 私の魔法だっていけてるでしょ?」
「でもかわいくないの! もう怒ったの!」
白肌をやや朱に染め、おさえていた左手を地面にかざす。
「後悔するといいの! ムスカリソーダライト!」
地面が揺れた。
轟音をとどろかせ地面から出てきたのは青紫の物体。
ブドウととうもろこしを足して二で割ったような風貌。
天に突き刺さらんばかりに伸びた体長は六メートルほど。
「なっ!」
すると直径30cmほどの球状の果実が一斉に弾け飛んだ。
無差別な大砲よろしく、木々や草、石川はもちろん陰から見ていた兵士達にまで
青紫の果実が飛んでいく。
数は石川のファイブドロックの比になく一目で避け切るのは不可能だと思わされる数。
とはいえ真正面から受けるバカなことはせず必死で避ける石川。
- 232 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:31
- 果実が脇腹をかする。
意識がそちらに向いた刹那、左足に直撃。
体勢が崩れた次は顔面側部と腰を強打。
倒れた石川の背中にも二発の果実が降り注いだ。
全ての果実がふるい落ちたそれは再び轟音を響かせ地面に戻っていった。
周りの木々の枝はほとんど折れていて、皮も無残に剥けている。
「あんな岩ぐらいで自慢しないで欲しいの」
青紫の果実、もとい宝石の塊は何時の間にか消えていて、残ったのは気を失った石川と
右手の感覚を一時的に失った道重だけだった。
「さゆみを傷つけた罪は重いの。だから罰を与えるの。でもその前に――」
道重は半分ほど残った兵士達をゆっくりと見回した。
「あそこにいる醜いのをやっつける方が先なの」
士気を失っている兵士達に向かって左手を突き出す。
「アイビークリソプレーズ」
>>246-248へ
- 233 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:31
- 対峙する二人。
後藤と紺の着流しに眼帯の少女。
「おっ!? いたいた。あんたが誘拐したわけ?」
「そんなぁ、絵里だけじゃないですぅ」
格好のわりにシャキッとしていない喋り方。
さらには常に重心をずらすかのようにクネクネと動いている。
「さっさと王女を返してよ」
「それなら一億ルグ持って……来てないようです、ね」
「ん、まぁね」
「それならオーガファン城にある宝物でも手を打ちますよ?
例えばぁ……秘色の碑だとか」
後藤が僅かに口角を上げ、笑った。
「その例えばっていうのは、コレ、のこと?」
兵士が持っていたはずの秘色の碑をポケットから取り出す。
亀井の黒目がちな目が一瞬見開かれた。
お手玉のように簡単に放りながら後藤は言った。
「コレはね〜あげられないな」
「そんなこと言っていいんですかぁ? 小川さんの命が無くなりますよ?」
- 234 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:31
- 亀井はさしていた刀を抜き小川の首につきつけた。
刀を見て泣きそうな顔の小川。
何が面白いのか亀井は笑顔である。
「それも困る」
「じゃあ早くそれ下さいよ」
「でもコレをあんた達にあげちゃうのも困る」
小川が懸命に首を左右に振る。
刀は動かない。
「だってさぁ、そもそもあんた達の狙いってコレだったんでしょ?」
放っていた手を止め顔の横にそれを持ってきた後藤。
亀井の笑顔は変わらない。
「そ〜ですよ」
「あれ? 案外素直なんだねぇ」
「絵里は正直者ですよ」
刀は動かない。
「よくそれが狙いだってわかりましたね」
「いやいやいや、さっきのあんたの言動でバレバレだから」
- 235 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:31
- 「なら話は早いじゃないですか。早く渡してくださいよ」
「そんなに欲しいわけ?」
「当たり前ですよぉ」
少しはしゃいでいるようにも見える亀井だが刀はしっかりと小川の喉を狙っている。
後藤は秘色の碑を見た後亀井の顔を見て、微笑んだ。
「ならあ〜げない!」
後藤がそれを上空へ思い切り放り投げる仕草を見せた途端、秘色の碑は姿を消した。
両手を広げ何も持っていないことをアピールする。
「ごとーを倒したらあげる」
亀井は笑顔を崩さず刀を下ろした。
そのままスルスルと刀をしまう。
「よかった。小川さんのこと傷つけたくなかったんですよ」
刹那、抜刀した流れで小川の周りを刀が踊った。
手足を縛っていた縄が切れ、猿轡していた布が裂けた。
再び帯刀する。
「小川さん、逃げていいですよ。怪我しますから」
呆気に取られていた小川だがすぐさま立ち上がり後藤、の横を通り抜け
兵士達の元へ駆けて行った。
- 236 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:32
- 「人質逃がしちゃうなんて……そんなに欲しいの? 秘色の碑」
「当たり前ですよぉ」
気の抜けた喋り方だが腰を落とし、鞘を左手で握り右手を柄に添えた。
後藤に対して半身に構えるその様にスキは無い。
「手加減は?」
「いらな……じゃあちょっとだけお願いします」
「正直で結構」
広げていた両手を振ると扇に揃ったトランプが現れた。
ほんのわずか再び腰を落とすと亀井が駆け出す。
左、右の順でトランプを放り再び手を振ると手の平ほどの銀のリングが指の間に挟まれている。
「クロールリング!」
ボーリングの要領で放たれたリングは地面を削りながら亀井へと向かう。
亀井は抜刀すると曲線の弾道で向かってくるトランプを次々と斬り落としていく。
数枚切った時点で飛びリングを回避。
なおも無駄なくトランプを斬っていく。
- 237 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:32
- 「デザインロープ・槍!」
いつの間にか握られていたロープが槍の輪郭を描く。
亀井が一足飛びで間合いに入ってきた。
槍での突きは紙一重で交わし斬撃を繰り出す。
槍形のロープは手元から斬られたものの、後藤はバックステップで回避。
同時にトランプを投げつける。
「ホッ!」
亀井がトランプの相手をしている間に十分な距離をとる。
トランプの枚数を増やした亀井は追わずにその場で立ち止まった。
「あぶなかったぁ。バッサリ斬られちゃう所だった」
「危なかったって言葉はこういう時に使う言葉じゃないですよ」
刀で後藤の右腕を指した。
「あれっ?」
右前腕に刀傷。
服に血が滲んでいる。
先ほどロープを持っていた方の腕だった。
- 238 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:32
- 「きちんと避けたはずなのに……」
「絵里はむしろきちんと斬ったつもりだったんですけどねぇ」
気持ち悪くクネクネ動く亀井。
まぁいいか、とハートのトランプを患部に貼る後藤。
「もしかしてハイドビハインドとか?」
「そんなんじゃないですぅ」
と、言いながら前に体を傾ける亀井。
倒れそうになる直前で足を出しそのまま後藤に向かっていく。
空気を切りながら刀を振り上げる。
「ビッグクローバー!」
巨大なトランプの盾を出しながら後退する。
刀はそのまま振り下ろされトランプは真っ二つ。
見事分割されたトランプを持ったまま再び十分な距離をとる。
やはり亀井は追ってこない。
二つの破片を交互に見て、後藤が口を開く。
- 239 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:32
- 「あんたの能力なんなわけ?」
亀井は刀を空振りさせて答える。
「絵里の能力? ……異視の刃人、ってとこですかね」
「異視の刃人?」
「異視って言ってもストーンのほうじゃないですよ」
ボケてもいないのに何故だか滑った空気が流れた。
後藤は再び双子の破片を見る。
「トランプなんかじゃ絵里の刀は受け止められないですよ」
「そりゃぁね、紙と鋼じゃ勝負は見えてるよね」
亀井の言葉に答えてはいるものの心は破片に向いている。
勝負の最中だというのにそれはあまりに無防備すぎる。
しかし亀井が攻め入ってくる様子の気配もない事を後藤は悟っていた。
そして、双子にしては似てない破片を見て、気付いた。
「わかった、何でごとーがさっき斬られたのか」
「ちゃんと避けてなかったからじゃないですか?」
「そう。その通り。でもそれが何故なのかもわかった」
出血は止まっていた。
「あんたの能力、異視の刃人っていうのは――」
>>246-248へ
- 240 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:33
- 対峙する二人。
藤本と小さな体に大きな黒いコートを羽織った少女。
「ちょっとお嬢ちゃん、こんな所で遊んでたら危ないからお家に帰りなさい」
「お嬢ちゃんじゃなーい!」
右手で前方の空気をかく少女。
藤本はキョロキョロと誘拐犯を探している。
「あんねー、これから美貴達ここで大事なことしなくちゃなんないわけ。
早くお家に……まさかあの子が王女じゃないですよね?」
途中で後ろを向き兵士に少女の正体を訊く。
怒気と血気を顔に表わし兵士が叫ぶ。
「あいつが誘拐犯だ! 俺に続け!」
「あっ、ちょっ、ちょっとぉ」
三五人の怒号が轟く。
男達は猪突猛進に駆け出した。
- 241 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:33
- 「もぉ〜学習能力が無いわけ?」
少女が空を指差す。
瞬時にして清澄な空に赤紫に膜が広がる。
兵士の勢いはもう止まらない。
少女が指を鳴らす。
「グワッ!」
膜をかぶせられた兵士達が地面にひれ伏す。
転ぶにしてはあまりに不自然に、強制的に、全身を叩きつけられた。
立ち上がる者は、いない。
「へっ? ……何これ?」
「ヘヘン」
得意気な少女。
奇怪な光景を未だ理解できない藤本。
ただあることには気付いた。
「……あんたが誘拐犯なわけ?」
「だぁかぁらぁ、そうだってさっきから言ってるじゃないですか」
- 242 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:33
- 鼻高々で声高らかに主張する少女。
兵士は誰一人として動かない。
「あんた誰?」
「私の名前は新垣里沙。革命少女隊のリーダー」
「革命少……あっ! 革命少女隊ってあんた達なの!」
「いかにも!」
革命少女隊。
世界各地で美術品や宝飾品の窃盗を繰り返すものの、
犯罪を起こした神玉に制裁を加え、それが時として小さな村や町を救う場合もあり
稀に彼女等の活動を支援している村もある。
「さぁ一億ルグを渡してもらおうか!」
「えっ? ……いや〜あのぉ、人質がいないんじゃ渡す意味が無いと思うんですけど」
「んっ? ……そーだったぁ! なんてこった〜!」
大げさに頭を抱え叫ぶ新垣。
仔細らしさが見られない辺り素のリアクションなのだろう。
- 243 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:33
- 「あんた達には兵力の分散だとかっていう計略があったんじゃないの?」
「兵力の分散? 何それ?」
またもや演技らしさが無いのでこれも素のリアクション。
「はぁ? ちょっと間抜け過ぎないかい」
「ん〜まぁよく言われるけどねぇ……っておい! 間抜けとはなんだ間抜けとは!」
「あんたホントに革命少女隊のリーダー?」
「だからそうだって言ってるでしょぉが!」
「どうでもいいけど、さっきのは何?」
「あぁこれ」
藤本の上空を指差し、先程と同じように赤紫のピザのようなものを出現させた。
兵士の様子を見ているので指を鳴らそうとした瞬間横に避ける藤本。
膜はそのまま地面まで落ちていくと足元から風を作って、消えた。
「いきなりなに!」
「なにって、食らったら一発でわかると思ったのに」
「この人達の様子見てたら危ないってことぐらいはわかるよ!」
「そう? 味わってみたほうがいいと思うんだけどなぁ」
そういって自身の目の前に赤紫の小さな膜を作り出した。
- 244 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:34
- 「美貴にはそう簡単に当たらないよ、きっと」
「そうかなぁ」
すると藤本に異変が起きた。
突然体が重くなったのだ。
何かをおぶっているような、否、地面に強く引っ張られているような。
藤本の足元だけが青紫色をしている。
一目見てそれが原因だとわかった。
だからといって足が動くわけではない。
「エイッ」
新垣が悪戯チックな言い方で膜を放った。
それを見てさらに必死に足を持ち上げようとするがやはり動かない。
目前まで迫る赤紫の膜。
今度はそれに押されている感覚を覚えた。
刹那、超強制的にブッ倒された藤本。
「ウワッ!」
全身を地面に打ち付けられる衝撃は単なる打撃の比ではない。
それでいてさらに地面にひきつけられる気がするのは恐らくあの青紫のせい。
- 245 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:34
- 新垣が近づいてくる。
鼻歌らしきメロディーが藤本の鼓膜を震わせる。
「どう? わかった?」
「わかるわけないじゃん」
「……まぁ、そりゃそーか」
指を鳴らして敷布団になっていた青紫の膜を消した。
「私の能力はING(アイエヌジー)。重力と斥力の使い手、って感じだね」
「感じだね、じゃないっての!」
足を持ち上げバネのように立ち上がるとずっと離さないでいた棒で
新垣の腹部を突いた。
起き上がった反動も含め強烈な打撃となったはずなのに、イテテテテ、と
腹部を押さえるだけで大したダメージを与えているようには見えない。
距離をとって身構える藤本。
あ〜痛かった、とそこまで痛がってはいない新垣。
「このコート、私の斥力シートで作ってるんだよね。だから打撃はそんなに効かないよ」
「ふ〜ん、そういうことね。美貴もねぇ結構丈夫だからさっきのはそんなに効いてない」
ごくわずかに嘲笑を含んで微笑む二人。
藤本は腰を落として棒の先を新垣に向け、新垣は腕を上げずに両手を開き
右手に赤紫の、左手に青紫の玉を出現させた。
>>246-248へ
- 246 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:34
- 今日はここまで。
>>211名無し読者さん、ありがとうございます。
もう相当元気ですよ。ただ退院はもう少し後になりそうです。
用語解説は次レスで。
- 247 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:34
- サルバトーレキャット(神の足元で戯れる猫)
田中の保有する能力。
半人半猫化する。
人間離れした運動能力と鋭いツメで攻撃する。
叢蛇蹴(そうじゃしゅう)
様々な弾道の蹴りをぶち込む。吉澤。
華宝姫
道重の保有する能力。
花と宝石を融合させて攻撃する。
インカローズジニア
赤い花の乗り物。外側の花びらが回転することで飛び、内側の花びらに乗る。道重。
アイビークリソプレーズ
緑色のツル。人の腕ほどの太さ。道重。
ウインドアロー
風の矢を数本敵に向かって飛ばす。石川。
ムスカリソーダライト
本体の体長5メートルほど、直径30cmほどの青紫の果実(とうもろこしとぶどうを足して二で割った感じの実のつき方)が
本体から弾け落ちてくる。道重。
- 248 名前:メカ沢β 投稿日:2005/06/19(日) 15:34
- クロールリング
金属環が地を削るようにして相手に向かって転がっていく。後藤。
異視の刃人
亀井の保有する能力。
刀を扱う。侍。
まだ特徴はあるけど今はここまで。
ING(アイエヌジー)
新垣が保有する能力。
引力、斥力を操る。
Gシート
重力を持った青紫色のシートを作り出す。
大きさ、形は自由に変えられる。
シートは基本片面にのみ効果を持つ。新垣。
Iシート
斥力を持った赤紫色のシートを作り出す。
大きさ、形は自由に変えられる。
シートは基本片面のみに効果を持つ。新垣。
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/19(日) 23:04
- この設定でゲームが作れそうだ…おもしろいです
メカ沢さんの体調はどうでしょうか?続きはマターリ(でも首を長くして)待ってますので
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/17(日) 13:53
- 待ってますよー
- 251 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:29
- 前回、
吉澤と田中が戦った>>252へ
石川と道重が戦った>>253-255へ
後藤と亀井が戦った>>256-257へ
藤本と新垣が戦った>>258-259へ
- 252 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:29
- 兵士の持ってきた縄で田中を縛り上げ、一段落。
紺野も縛られた後吊るされたせいで縄の痕が残っているものの無傷だった。
「なんでこんなことしたんだよ」
縛られたまま放置されていた田中の横に腰を下ろし問う吉澤。
縄を解こうと身をよじるもののきつく縛られているため逆に苦痛で顔を歪ませる田中。
「あんたには関係なか!」
「カンケーねーんだったらこんなとこにいねぇよ」
束縛への抵抗を諦めぐったりと地に身を任せる田中。
「知らん」
「何が知らねぇんだ?」
「いつもならこんなことせんとルグや宝だけ奪っとー。誘拐なんて初めてタイ」
「なんでいきなり誘拐したのか知らねぇってのか?」
「絵里がいきなりやろーって言い出したん」
「誰だよ絵――」
「なんだあれはっ!」
兵士の一人が叫んだ。
指差す先には逆光でシルエットだけ見える謎の飛行物体。
徐々に吉澤へと近づいていく。
「なんだありゃ!」
仰天する吉澤の横で田中は不敵に笑った。
>>260-263へ
- 253 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:30
- 綺麗過ぎる緑のツタに縛られる兵士達。
半数は気絶したままである。
青紫の宝石の塊の攻撃を受けてから依然として倒れたままの石川。
道重は兵士全員を拘束したことを確認し、石川の元へ戻ってきた。
「こんなにかわいいさゆみを傷つけた罪は重いの」
石川の横のしゃがむと何かを呟く。
石川の足を持ってゴソゴソと何かしている。
「でもあなたも少しかわいいからこれぐらいにしておいてあげるの。
かわいいさゆみは優しいさゆみでもあるの」
満足に独り言を終え立ち上がる。
すると石川が意識を取り戻した。
しかしそれは非常に朦朧としたもので、白と黒を行ったり来たりしている状態であった。
「まち……なさいよ……」
歩き出そうとした道重の足を掴もうとしたが手に力が入らない。
その手の先で道重が空を仰いでいる。
上空でゆったりと回転していた真っ赤な花が降下を始めた。
- 254 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:30
- ふわっと地面に降り立った紅華の中から顔を覗かせる高橋。
地上で起こった事を確認し、眉を思いっきりしかめた。
猿轡を解く道重。
「なんこれ!!」
「さゆみがやっつけたの」
高橋を一度下ろして兵士の持ってきた一億ルグを積み込む。
ふと道重が何かに気付く。
胸の辺りにつけられていた三つのバッチだった。
「あっ、これはたしかれいなの……」
そういって鮮やかな紅光を放つバッチを見つめる。
他の二つのうち一つは深海を閉じ込めたような藍色、もう一つは高い青空を写したような青色である。
「一体いつから……」
「ついさっきから」
道重の後ろから声が聞こえた。
石川でも高橋でもない、やや少年がかった声。
新垣だった。
- 255 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:30
- 「新垣さん!」
「れいながやられちゃったようだから迎えに行ってあげて。私は亀ちゃんのほうに行くから」
「一億ルグはどうするんですか?」
「あ〜もうそんなのいいからいいから、早くれいなを迎えに行ってあげて」
「わかったの」
道重は持っていたルグを放り投げると真っ赤な花へ歩き出した。
突然浮き上がり東の方角へと飛び去っていく新垣。
今だ眉間の皺がとれない高橋に言う。
「れいなが大変なことになっちゃったらしいから今から向かうの。一緒に行くの」
そう言って花の中へ入ると再び音もなく上昇を始めた。
心配そうに石川を見つめる高橋。
その姿も北の彼方へと消えていった。
「うっ……くっ……」
血まみれになりながらも懸命に立ち上がろうとする石川。
出血と共にまるで力も抜けてしまったようで立ち上がってもフラフラしていたが
直に平行感覚を取り戻すと道重と高橋の消えていった空を見上げた。
「なんなの一体……」
立ち尽くすだけで精一杯の石川は立ち尽くすしかなかった。
>>260-263へ
- 256 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:31
- 「異視の刃人っていうのはズバリ、錯視のことでしょ」
亀井は笑顔を崩さなかった。
「常にクネクネと動くことで錯視状態を作り、実際の斬撃と相手に見せる斬撃とにズレを起こして
相手の回避や防御を無効化にしようっていう能力なんだ、きっと。どう?」
「正解ですよ」
敵に向かって拍手を送る亀井。
真っ二つになったトランプを消し、構える後藤。
「だから紙一重で避けたと思っても斬られたし、トランプの真ん中を斬らせたと思っても微妙にズレてたんだ」
「スゴイですねぇ! そんなことで見破れるなんて!」
「まぁごとーも人の目を欺くって意味では同じようなもんだからね」
両手には扇に開いたトランプ。
亀井もユラユラと構えに入る。
トランプを真横に放ると同時に亀井が駆け出した。
開いた右手にロープを二本、左手にまたしてもトランプ。
左手を亀井に突き出すようにしてトランプを投げるとほぼ直線の軌道で飛んでいった。
飛んでくるそれをなぎ払い、切り返す。
すると真横の放ったトランプが後藤と亀井の間に、まるで壁のようになって飛び込んできた。
亀井は直進で向かってくるトランプを空を縦に切ることで同時に飛んできた紙の壁を切り裂く。
隙間から互いの姿が見える。
亀井はもう一度刀を振り上げるとトランプではなく後藤めがけて振り下ろした。
刹那、後藤は前に飛び出した。
- 257 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:31
- 刀が後藤の真横を過ぎ去った。
驚く亀井に低姿勢のまま駆け進む後藤。
「デザインロープ・大鎌!」
一本が刃を、もう一本が柄を表わして合体し大鎌の形体をとる。
二人がすれ違う瞬間、鎌は亀井の脇腹を捕らえていた。
そのまま二人が行き交うと後藤はすぐに振り返り、亀井は転がるように倒れた。
しかしすぐさま起き上がり後藤を見据える。
「今度は当たらなくてビックリしたでしょ」
「……そうですね」
「ホントにビックリしてる?」
疑う後藤と苦痛に顔を歪める亀井。
「トランプで壁を作ることで錯視に惑わされずに本物の斬撃を見抜く……大成功のようだね」
「その為のトランプをあんな風に投げて……スゴイ頭良いんですね」
また屈託のない笑顔を浮かべる。
「でももう通用しませんよ」
「だろうね。だから一発狙ったのにさぁ、なんかあんまり効いてないみたいだし」
「そんなことなんですよぉ、すっごく痛いですよ今」
「だって笑ってんじゃん」
「こういう顔なんです」
二人は自然な流れで構えた。
すると、後藤は亀井の後ろに何かを見つけた。
>>264-266へ
- 258 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:31
- 轟音が鳴り響き、大地は震える。
勝負は互角だった。
というよりも、着かないでいた。
新垣の攻撃に何度も地面に人型の穴を空けさせられるものの丈夫な藤本には
あまり効かず、また藤本の攻撃もたまに当てることができるがそれもあまり効いていないでいた。
「あ〜腹立つ!」
「それはこっちのセリフですよ〜」
「いい加減やられろ!」
「ヤですよ〜」
藤本の放った一撃も新垣が瞬時に作り出した赤紫の膜に方向を変えられ空を切る。
互いに距離をとって一旦構えを解く。
「ほんっとに丈夫だね〜あんた」
「だから美貴は丈夫だって言ってんでしょ」
「なら攻撃パターンを変えていかなきゃ――」
服に付いた草などを払いながら喋っていた新垣の目に飛び込んできたもの。
それは紫色から段々と赤へと色が変わっていく丸いバッチだった。
- 259 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:32
- 「ありゃりゃりゃりゃ」
息つく暇なくバッチの色はみるみる変わっていき、バッチを服から外した頃には
赤一色へと変わっていた。
「これは……れいな、か」
ボソッと呟くとバッチをポケットにしまい藤本を睨んだ。
何事かと再び構えたものの新垣の口から意外な言葉が出た。
「今日は終わり。そんじゃまたね」
友達同士の別れの挨拶かのような軽さが藤本の理解を妨げていた。
「何言ってんの! 勝負の途中でしょ!」
「そ〜なんですけど仲間がやられちゃったもんですから」
そういって自身を薄い赤紫の膜で包むと地面から足が離れた。
藤本の慎重の二倍近くまで浮き上がるとポケットから真っ赤になったバッチを取り出し、言った。
「これ、アゲートコインインジケーターって言って対象人物の体力を色で表わすものなんですけどね。
青が正常で赤がやられたっていう色の変化をするんです。重さんの能力なんですよ」
「し、重さん?」
重さんに関する情報を教えることなく飛んでいってしまった。
いきなりの展開に唖然とする藤本と兵士達。
そして気付く。
「追っかけなきゃ!」
>>264-266へ
- 260 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:32
- 「おいおいおい! なんだよこれ!」
満天に咲き誇る深紅の花。
花にしては桁違いな大きさではあるのだが。
煌びやかな姿が確認できる高さで漂う花から
小さな種子が顔を覗かせた。
覗かせたのは種子ではなく、道重だった。
「れいな!」
「さゆ〜! ここ〜! ここにいるタイ!」
手足を縛られているため地面に寝っ転がりながらジタバタとわめく田中。
田中と道重を交互に見て状況を確認した吉澤。
騒ぎ立てる田中を押さえ付け空に向かって叫ぶ。
「こいつを返して欲しかったらまず降りてこい!」
「それはヤなの」
兵士達は紺野を守る隊形を組んでいる。
「今助けるから少し待つの」
そう言って道重は顔を引っ込めた。
変わりに花から姿を現したのは無数の緑色のツルだった。
- 261 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:32
- 「なっ!」
先の尖ったツルは迷うことなく田中めがけて伸びてくる。
田中を押さえつけている吉澤は自分に向かってきているものだと思い、
立ち上がると向かってくる順に蹴散らし始めた。
「なんなんだよコリャ!」
感触は普通の植物では有り得ない硬さ。
しかし見るからに柔軟な動きを見せながら伸びてくる。
吉澤一人で十数本のツルを相手にするのはあまりに酷なことで
蹴り逃してしまった数本が田中に巻きついた。
「このやろ! 逃がさねぇぞ!」
田中に絡みついたツルと剥がそうと手をかける。
まるで宝石のような輝きと硬さ。
蹴り飛ばしたツルが再び動き始めると吉澤の足に絡みつき、
田中から引き剥がすと近くの木に向かって放り投げた。
田中はツルが収容されていくと同時に花に引き上げられていった。
- 262 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:32
- 思い切り木に叩きつけられた背中をさする吉澤。
気が付けば田中の姿はなく、ツルもほとんどが引っ込んでいた。
「コラ! 卑怯だぞ! 降りて勝負しろ!」
「何か言ってるの」
「いいからこの縄ほどいて欲しいっちゃ」
地上で叫ぶ吉澤とは対照的に優雅に縄を解く道重。
花の中で田中と高橋の目があった。
「さゆ、こいつはどげんすると?」
「もう帰してもいいって新垣さんが言ってたの」
「ふ〜ん」
縄を解き終えた道重は高橋に撒きつけていたツルを消し、言った。
「さよならなの」
そう言うと乗っている花よりも二周りほど小さな真紅の花を出現させ高橋をそれに乗せた。
ゆっくり下降していく小さな花と遠くの空を目指す大きな花。
- 263 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:33
- 「やっと降りてきやがったな! よっしゃ勝負だ!」
意気込んだ吉澤だったが下りてきた花の中から出てきたのは明らかに戦意のない女の子。
服装はやや汚れてしまって入るものの高価なドレス。
何よりも目を晴らして泣いている辺り、敵ではないことをすぐに悟った。
「姫様!」
兵士達が駆け寄っていく。
なんで〜王女かよ、と聞こえないように愚痴をこぼし田中につけられた傷を確認する。
やや粗めの切り口。
人工的な刃物ではなく自然界の動物が持つ爪によってのみつけられる傷跡だった。
だから治りも少し遅くなる。
三人の内二人の王女の救出が確認されてなおイライラする吉澤。
左手で右手のコブシを受け止めた。
「やっぱりしっくりこねぇ、次会ったらぜって〜ぶちのめしてやる!」
>>267-273へ
- 264 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:33
- 亀井は後藤の視線が自身の後方に流れていることを察し、構えを崩さないよう首だけ後ろに回した。
亀井の視線もある人を捕らえる。
「新垣さん!」
「ん〜やってるね〜」
「誰?」
緊張感が切れた後藤は構えを解いて亀井に尋ねた。
「新垣さんですよ」
「ですよって言われても初めて会ったし」
「そ〜ですよね〜」
初対面の後藤と新垣は亀井の言動に対して同意見。
まぁいいじゃないですか、とヘラヘラ笑う亀井。
「それはいいとして亀ちゃん、れいながやられたから撤退するよ」
「えっ? ホントですか?」
「ちょっともぉ、これ確認してないの?」
これ、と言って亀井の胸元についているバッチをつまんで上下させる。
おおよそ着流しには似合わない藍色のバッチが二つと赤色のバッチが一つ。
新垣は赤色のバッチをつまんでいる。
- 265 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:33
- 「れいなの所には重さんが向かったから、ホラあたしたちももう行くよ」
「あっ、はいぃ」
新垣の言う事を素直に聞いて刀を鞘にしまう亀井。
イマイチ状況のつかめない後藤。
「勝負はどうするわけ?」
「えっ、あ〜じゃあ引き分けってことで」
「引き分けだとよっしーに怒られちゃうからごとーの勝ちってことにしてくんない?」
「別にいいですよ」
エヘヘヘ、と笑い承諾する亀井と、いいから行くよ、と亀井の周りに赤紫の膜を張る新垣。
新垣、僅かに遅れて亀井の順で浮き上がる。
後藤の身長の三倍ほどの高さまで浮き上がった時に亀井が気付く。
「まだ秘色の碑奪ってないんですけど」
「えぇ! ホントに?」
「はいぃ」
「……ん〜でももう退却しよう」
「えー」
「えーって亀ちゃんのせいでしょ」
短い間ホバリングしてすぐに飛んで行った二人、を黙って見つめていた後藤。
腕の貼っていたトランプを剥がし一段落。
と、思ったら木々の奥から声が聞こえた。
- 266 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:33
- 「どこだー!」
「ん? ミキティ?」
現われたのは頬を上気させ息を切らせた藤本だった。
服はただ走ってきてそうなったとは思えないほどボロボロだったが
藤本自身は大した傷を負っているようには見えなかった。
「あれっ? ごっちんじゃん」
「ごっちんだけど、何やってるの?」
「こっちにさぁ女の子飛んでこなかった?」
すぐに息を整え意味不明な質問をする藤本だったが
後藤にはその意味不明な質問に返答できるだけの出来事があった。
「見たよ」
「マジで! どこどこ?」
「もう向こうのほうに飛んでっちゃった。ごとーの相手だった女の子も一緒に連れてっちゃったけどね。
何かれいながやられたうんぬんかんぬんって言ってたよ」
ならもういいや、と地面に座り込む藤本。
「あ〜疲れたぁ」
「疲れるのもいいけど、ホラ」
藤本の胸の上に向かって手を差し出す後藤。
「帰ろうよ」
>>267-273へ
- 267 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:34
- 城に帰還した四人は王女救出を大いに讃えられた。
城側の医療や宿泊の提供を断り四人は宿屋に向かった。
「なんで城に泊まらないんだよ?」
「狙いが美貴達になったかもしれないからね。そしたら危ないじゃん」
「そん時はオレがぶちのめしてやるんだけど」
「よっちゃんはいいけど他の人が危ないから」
夕食は店主が腕によりをかけて作った料理。
吉澤のおかわりの回数がいつもの二倍だった。
部屋に戻る。
頭の包帯を巻き直す石川。手伝う藤本。
ベッドにねっころがる吉澤。話し出す後藤。
- 268 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:34
- 「よっしーの相手どうだった?」
「弱ぇ弱ぇ。すぐぶっ倒したぞ」
「嘘ぉ? 服ボロボロだったじゃん」
藤本のつっこみに、うるせー、とだけ答える吉澤。
余所見をしたため包帯がずれてしまい不意に目隠しされてしまった石川。
「ミキティずれてるよぉ」
「あっ、ごめんごめん」
「よっしーの相手はどんな能力だったの?」
「やたら速ぇだけだった。サル猫だってよ」
「サル猫って何?」
「能力名だよ」
包帯が巻き終わって反射的に軽く頭をはたいた藤本に眉をしかめて非難する石川。
吉澤は上体を起こした。
「わかんねぇけどたしかサル猫だった気がする」
「サル猫? ん〜そんな能力美貴知らないな〜」
「サルなの? 猫なの?」
「見た目は猫だったぞ。耳も尻尾も生えてきてたし。ま〜ただ速ぇだけが取り柄って感じだったな」
「それはさっき聞いた」
吉澤のベッドに移り座る藤本。
後藤はその隣の石川のベッドに腰を下ろした。
- 269 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:34
- 「梨華ちゃんは?」
「何かよくわかんないけど、宝石と花を融合する能力、って言ってたよ」
「なんだそれ? どうやって戦うんだよ?」
石川の怪我を見る限りその能力は戦闘できるらしい。
しかも石川を倒すということはそれなりに強いということだ。
「宝石の固まりぶつけてきたり、硬いツルで攻撃してきたり」
「あ〜! あいつか!」
「よっちゃん知ってるわけ?」
あぁ、と答えた吉澤に視線が集まる。
「俺が倒したサル猫を助けに飛んできたぞ」
「飛んできた?」
「そう。デッケー花に乗ってな」
随分メルヘンな話だね、と藤本が茶化すと、マジだよマジ、とムキになる吉澤。
後藤が話を促す。
「名前は?」
「華宝姫(かほうき)、だったと思う」
「あ〜それも美貴知らないわ」
何にも知らないんじゃねぇか、と吉澤が茶化すと、たまたまだって、とムキになる藤本。
- 270 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:34
- 「そいつは強ぇのか?」
「強い、んじゃないかなぁ」
「じゃあ次はそいつだな」
「よっちゃん焦り過ぎだから」
「ミキティのは?」
話をふられて何か思い出した仕草を見せる藤本。
「そうそう、美貴達の相手って革命少女隊だったんだよ」
「なんだよ、革命少女隊って?」
「知らないの?」
「知らねーよ」
座り直す藤本。
石川と後藤は知っているらしい。
「簡単に言えば正義の盗賊」
「なんだよそれ」
「正義っていっても向こうの勝手な解釈なんだけどね。世界で暗躍する盗賊団みたいなもん」
「ふ〜ん」
- 271 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:34
- 「美貴が戦ったのはそのリーダーだったよ」
「マジか! 強かったかそいつ?」
元の位置に座り直す藤本。
「わかんない。少なくとも美貴は負けないと思うけど」
「じゃあ弱ぇじゃねーか」
「ちょっとぉ、美貴が弱いっていうの?」
後藤の治療を拒んだ傷口を叩く藤本。
ここは卑怯だぞ、と吉澤。
「能力名はING(アイエヌジー)だってさ。重力と斥力の使い手だって。
もう相手にすんのメンドーだから今度戦うんだったら美貴こいつとは戦いたくないんだけど」
「オレがやる」
「じゃあ美貴はサル猫でも相手にするわ」
「サル猫vs樽デコってとこか」
誰が樽デコだ、と今度が傷口を強く叩く藤本。
自業自得の吉澤。ケラケラ笑う後藤。傷を気遣って静かに笑う石川。
- 272 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:35
- 「ごとーが戦った相手はなかなかだったよ」
「どんな奴だ?」
「異視の刃人だってさ」
「ミキティ知ってる?」
「いや」
やっぱり知らねぇんじゃねーか、と藤本の頬をつねる吉澤。
ふぃふぁふぁいふぉんふぁふぃふぁふぁいふぉん。
知らないもんは知らないもん。
石川が問う。
「どんな能力なの?」
「どんなって……言っていいのかな?」
「敵に気ぃ使ってどーすんだよ」
「それもそーだよね。錯視ってわかる?」
「まっすぐなものがふにゃふにゃに見えたりするやつ?」
「そうそれ」
後藤は突然ステッキを出現させた。
- 273 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:35
- 「例えばこのステッキの真ん中を持って両端を交互に上下させるように振るじゃん。
これをさらにステッキごと上下させると……」
説明しながらステッキを振る。
三人は興味深々にステッキを眺める。
「のぉ!」
「スゲー! マジでふにゃふにゃしてるぜ」
「こういうことを体全体でやってきたのがごとーの相手だったわけ」
「全身って全身をこんなふにゃふにゃさせてたのか?」
後藤はパッとステッキを消し、笑いながら言う。
「ふにゃふにゃっていうかくねくねって感じだったよ。刀で攻撃してくるんだけど
見えてる斬撃と実際の斬撃にズレが生じるから避けたと思っても当たっちゃうっていう能力なわけ」
「ややこしいけど大した能力じゃねーな」
「ん〜まだ全力って感じじゃなかったから他にもなんかあるかもしれないし」
藤本が大きなあくびをした。
涙目になった瞳を見て後藤が今日をしめた。
「今日は疲れたし、もう寝よっか?」
>>274へ
- 274 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/20(水) 17:35
- 今日はここまで。
>>249名無飼育さん、ありがとうございます。
ゲーム作れるでしょうかね?
一応ゲームを意識してはいます。技の名前なんかはかっこよいものにしよう、と。
>>250名無飼育さん、ありがとうございます。
できるだけ待たせ過ぎさせないように頑張ります。(日本語おかしいかな?)
- 275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 19:47
- 更新待ってました!頻繁にチェックしてたのが功を奏しましたw
若い衆の能力がリアルの性格をよく反映していて面白いですね
- 276 名前:名無し読者 投稿日:2005/07/21(木) 22:59
- テンポ良く話が進みますね。早くも続きが楽しみです
- 277 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:36
- 前回、
王女達を救出した>>278-287へ
- 278 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:36
- 翌日オーガファン城に呼び出された四人。
赤絨毯の先、二段上の大きなイスにオーガファン城の王が満面の笑みを浮かべで座っている。
「よくぞ王女達を救出してくれた!」
王の前に並ぶ四人を囲むように兵士達が立っていて、王の一言の後洪水のような拍手を送ってきた。
照れくさそうな表情の藤本に石川。
誇らしげに自慢げに胸を張る吉澤。
「いくら感謝してもし足りないくらいだ! 褒美は何が欲しい? なんでもよいぞ」
「おぉ! マジかよ!」
よっちゃんはしたない、と藤本に小突かれる吉澤。
瞳を金銭の額で輝かせる石川。
そんな三人を横目に後藤が口を開いた。
「船が欲しい、です」
「船ぇ?」
驚いたのは三人のほうだった。
「船なんて要るのかよ」
「これからの旅にはいずれ必要になってくるじゃん」
「そりゃそうだけど、ルグ出せば乗れるよ」
「ん〜でも行きたいところにいつでも行けるほうがいいじゃん」
- 279 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:36
- 「船なら私が贈与しよう」
コンノラル城の王だった。
「私の国は造船を行っているし、王女も無事助けてもらったからな。
コンノラル城に来たらいつでも船を与えようぞ」
「ありがとうございます」
後藤が頭を下げるとコンノラル城の王は豪快に笑った。
オーガファン城の王が他の三人に聞く。
「他には何がよいのかな?」
「あの〜」
石川がおずおずと手を上げる。
「私は一万ルグほどもらえれば……」
「ズバリ、金かよ!」
藤本のつっこみに笑ったのかどうかは定かではないが王が笑いながら頷く。
「よしわかった、早速用意しよう。そなたは?」
「美貴?」
自身の指差して左右を確認すると後藤が頷いた。
- 280 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:36
- 「えーと美、私は是非ともリルドベルグ城との国交を深めていただきたい、と」
「リルドベルグ城というとここからおおよそ北にある……」
「そうです。美、私はその城の兵士で世界平和のため出兵しています。
互いに国交を深めていけば世界平和に近づけるものと」
「あいわかった。そなたのような兵士がいる国とあらばさぞかし優秀な国であろう」
今度は照れる藤本を小突く吉澤。
最後よっしーだよ、と石川に小突かれる。
「オレは……特に何もいらない」
「ほうほう、これはまた欲のない……」
「その代わり、どっかに強い奴がいるって情報が欲しい」
何それ、と藤本。
いいだろ別に、と吉澤。
よっしーらしいねぇ、と後藤。
ほんとほんと、と石川。
「それならぜひ私の国へ来てくれ」
ハイブリッジ城の王だった。
- 281 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:37
- 「近々武道大会を開くことになっていてな。参加者を募っておる」
「マジかよ!」
「そなたたちほどの強豪がいるかは知らないが、来てみて損はないはずじゃ」
「よっしゃ! じゃあ次はそこだな」
一人はしゃぐ吉澤をなだめる藤本。
四人を満足そうな表情で見つめる王。
「これからどうするつもりじゃ? もう出発するのか?」
「いえ。二、三日静養してからにしようと思っています」
「そうかそうか。それでは出発する時は一言言ってくれ」
「はい、わかりました」
後藤がその場を対処して、四人は城を出た。
- 282 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:37
- 三日後、一万ルグをもらい城をあとにした。
「まずはハイブリッジ城だな」
「そんなよっちゃん焦りすぎだから」
「でもまぁコンノラル城に行く途中にあるから問題ないけどね」
武道大会がそんなに嬉しいのか現れるモンスターを全て一蹴する吉澤。
モンスターと戦うのは順番性であったが吉澤が自らかってでて戦っていて、
他の三人も楽であるということもあり任せっぱなしにしていた。
数日歩けど一向に目的地にはたどり着かない。
その間、石川に変化が起こった。
「大丈夫梨華ちゃん? フラフラしてるけど」
「う……うん、大丈夫……」
「明らかに大丈夫じゃないだろ」
日に日に石川の容態が悪化していく。
藤本がおぶらなければならなくなった頃、村を見つけた。
「あそこで休もう」
石川は返事ができないほど弱っていた。
- 283 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:37
- 平凡な村にたどり着くと急いで宿屋へ行き、石川を休ませた。
医者を呼んで診察。
三人に取り囲まれたベッド。
「どうですか? 何かわかりましたか?」
藤本の問いに聴診器をはずし診察を終えた医者。
表情は見るからに深刻そうである。
「う〜ん、ワシの診断が正しければ……」
「正しければ?」
藤本が話を促すと眉間の皴をより深め、医者は言った。
「これは、毒、じゃな」
「毒!?」
驚く三人にさらに追い討ちをかける。
「しかもこの毒は近年絶滅したといわれる植物の毒じゃ」
「なんでそんな植物の毒が?」
「それはわからん。というよりもそれがわからん」
医者は腕を組んで考え込んでしまった。
後藤は石川の額に濡れタオルを置くと布団をかけた。
- 284 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:37
- 「本当のその診断であってんのかよ?」
「ほぼ間違いないだろう。ここを見てくれ」
そういって医者は石川のひじを指差した。
関節部が熟れたりんごのように真っ赤に腫れている。
「なんだよこれ」
「手足の関節がこのように腫れてくるのが特徴なんじゃ」
石川は苦しそうに唸っている。
「何らかの症状が出始めたのはいつじゃ?」
「大体……六日前ぐらいかな」
「この毒の潜伏期間は三日から五日じゃ。つまりおおよそ十日前に原因がある」
「十日前って言ったら……あっ!」
三人は互いに指をさした。
- 285 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:38
- 「あいつらと戦った時じゃねーか!」
「そうだよ! 何かあったっていったらそれぐらいしかないよ!」
「でも何であの時の戦いで毒なんか……」
「いずれにしても」
医者が少し大きめの声で言った。
「この毒の治療は非常に困難じゃ」
「どういうこと? 治せないってことじゃ……」
「いや、治せることは治せる」
じゃあどうしろってぇんだよ、と吉澤。
「特効薬となる水があるんじゃ」
「じゃあそれをさっさと飲ませてくれよ」
「いや、実はな、植物自体が絶滅したこともあってその水も必要なくなってしまったんじゃ。
だから今手元にその水はない」
「おいじゃあどうすんだよ!」
「よっちゃんちょっと落ち着きなよ」
少し血の気の多くなってきた吉澤をなだめる藤本。
どうしたらいいんですか、とあらためて聞き直す後藤。
- 286 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:38
- 「この近くの洞窟にその水が湧き出ている洞窟があるんじゃ。しかし、
モンスターが住み着くようになってからは危険で誰も近づこうとせん」
「そこに行けばあるんですね?」
「それはわからん。もう枯れてしまったかもしれん」
吉澤はいきなり立ち上がるとドアの方へ歩いていく。
「ちょっとよっちゃん、どこに行くの!」
「どこってその洞窟に決まってんじゃねーか」
急いで藤本が吉澤を捕まえる。
「ちょっとは落ち着いてよ。洞窟の場所さえ聞いてないじゃんか」
「洞窟はどこにあるんだよ?」
強い視線を医者のにらむ吉澤。
「ここから東に行った崖下にある。でも危険で――」
「わかった」
吉澤は藤本の制止を振り切ろうと腕を振ったが藤本は離さない。
行くから待って、と藤本が叫ぶ。
- 287 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:38
- 「早くしねぇと梨華ちゃんがかわいそうだろ!」
「そうだけど! ……準備ってもんがあるでしょ」
いいから一回落ち着いて、と吉澤を部屋の中心まで引っ張る。
後藤も立ち上がって吉澤を落ち着かせる。
「洞窟に行くならランプとかの準備も必要だし、まだ話を全部聞いたわけじゃないんだからさ」
わかったよ、といささか不機嫌に納得する吉澤。
他に何かありませんか、と医者に尋ねる。
「コップ一杯ほどの量が必要じゃ。これを持っていきなさい」
医者は質素な入れ物を差し出すと後藤が受け取る。
他に教えられることはない、と医者。
「よっしゃ行くか!」
宿屋の主人のランプを借りて三人は洞窟を目指し出発した。
>>288-289へ
- 288 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:39
- 三人が洞窟に着いた頃には夕日が山に頬をつけ就寝準備をしていた。
聳え立つ崖の足元にぽっかりと開いた穴。
「よっしゃ! 行くか!」
闇のすむ洞窟に心もとないランプ一つで進んで行く三人。
こうもり型のモンスターを簡単に蹴散らす吉澤を先頭に慎重に辺りを見回す藤本、
後ろに現れたモンスターをトランプで撃退する後藤。
突然吉澤が叫んだ。
「のわぁ!」
「どうしたの?」
「蛇! 蛇だよ蛇!」
前方には舌を出し入れする大きな蛇が道を塞いでいる。
吉澤は藤本を盾にするようにして蛇を見ている。
「オレ蛇だけはダメなんだよ」
「へぇ〜意外だね」
「意外だねじゃねーよ。ミキティかごっちん頼むよやっつけてくれよ」
言われるが早いか後藤がトランプを数枚投げて大蛇をぶつ切りにした。
薄い煙とルグが落ちている。
- 289 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:39
- 「なんでー大したことねーじゃねぇか」
「なーに今頃強がってんだか」
「ホラ行くぞ」
また先頭を歩き出す吉澤。
藤本が首に腕を回して、蛇だぞぉ、とふざけると飛び上がって驚く。
「勘弁してくれよぉ」
「わかったわかった」
一本道をさらに進んでいく。
「ありゃ?」
「どしたの?」
「分かれ道だ」
>>291へ
- 290 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:39
- 「……って、あれ?」
「思いっきり外じゃん」
「もと来た道を戻ってきちゃったわけ?」
三日月が三人を笑っている。
「早く戻らねーと!」
「だね」
>>291へ
- 291 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:39
-
左に行く>>336へ
真っ直ぐ行く>>311へ
右へ行く>>341へ
- 292 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:40
-
左へ行く>>316へ
真っ直ぐ行く>>359へ
- 293 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:40
-
左に行く>>326へ
真っ直ぐ行く>>302へ
右へ行く>>304へ
- 294 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:40
-
>>308、
>>332、
>>355、
>>356から来た→>>357へ
――――――――――――――――――
>>318、
>>337、
>>345、
>>357から来た→>>355へ
- 295 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:40
-
左へ行く>>309へ
右へ行く>>344へ
- 296 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:40
-
左へ行く>>335へ
真っ直ぐ行く>>305へ
- 297 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:41
-
真っ直ぐ行く>>312へ
右へ行く>>316へ
- 298 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:41
-
>>313、
>>322、
>>338から来た→>>340へ
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>>330、
>>340から来た→>>322へ
- 299 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:41
-
>>307、
>>321、
>>324から来た→>>306へ
――――――――――――――――――
>>306、
>>331から来た→>>324へ
- 300 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:41
- 「おっ! 一本道だぜ」
「やっと抜けた〜」
「ってことはきっともうすぐだね」
三人は歩みを進める。
特に敵の種類も変わることなく、吉澤はこうもり達を蹴散らしては大蛇が出ると
最後尾にまわり、藤本がそのたび吉澤を茶化し、後藤が大蛇を退治する。
「あっ!」
「どしたの?」
「光が見える」
「やっと見つけたかぁ」
薄暗く見える光に向かって三人は走っていった。
>>290へ
- 301 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:41
-
左へ行く>>341へ
真っ直ぐ行く>>300へ
右へ行く>>336へ
- 302 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:42
-
>>293、
>>319、
>>329、
>>348から来た→>>337へ
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>>318、
>>337、
>>345、
>>357から来た→>>319へ
- 303 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:42
- 「おっ! 一本道だぜ」
「やっと抜けた〜」
「ってことはきっとだね」
三人は歩みを進める。
特に敵の種類も変わることなく、吉澤はこうもり達を蹴散らしては大蛇が出ると
最後尾にまわり、藤本がそのたび吉澤を茶化し、後藤が大蛇を退治する。
「あっ!」
「どしたの?」
「光が見える」
「やっと見つけたかぁ」
薄暗く見える光に向かって三人は走っていった。
>>366へ
- 304 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:42
-
>>314、
>>339、
>>347、
>>350から来た→>>329へ
――――――――――――――――――
>>293、
>>319、
>>329、
>>348から来た→>>350へ
- 305 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:42
-
>>296、
>>342、
>>353から来た→>>317へ
――――――――――――――――――
>>317、
>>323、
>>354から来た→>>342へ
- 306 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:43
-
左へ行く>>312へ
- 307 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:43
-
左へ行く>>299へ
右へ行く>>341へ
- 308 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:43
-
左へ行く>>346へ
真っ直ぐ行く>>360へ
右へ行く>>294へ
- 309 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:43
-
>>327、
>>352から来た→>>334へ
――――――――――――――――――
>>295、
>>334、
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- 345 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:49
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>>308、
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>>355、
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- 351 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:50
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- 352 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:51
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- 353 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:51
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- 354 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:51
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- 355 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:51
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- 356 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:51
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- 357 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:51
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- 358 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:51
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- 359 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:52
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>>313、
>>322、
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>>292、
>>297、
>>358から来た→>>313へ
- 360 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:52
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>>314、
>>339、
>>347、
>>350から来た→>>332へ
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>>308、
>>332、
>>355、
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- 361 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:52
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>>317、
>>323、
>>354から来た→>>310へ
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>>310、
>>328から来た→>>323へ
- 362 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:52
-
>>315、
>>325、
>>349から来た→>>293へ
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>>293、
>>319、
>>329、
>>348から来た→>>315へ
- 363 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:52
-
>>295、
>>334、
>>351から来た→>>314へ
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>>314、
>>339、
>>347、
>>350から来た→>>295へ
- 364 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:52
-
>>327、
>>352から来た→>>296へ
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>>296、
>>342、
>>353から来た→>>327へ
- 365 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:53
-
>>315、
>>325、
>>349から来た→>>330へ
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>>330、
>>340から来た→>>325へ
- 366 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:53
- そこは一軒家が丸ごと二棟入るほどの空間だった。
ドーム上に開けた空間の壁にはたいまつが力強く灯っている。
「こりゃスゲーや」
「おかしい」
「なんだごっちん? どうかしたか?」
隅々まで見渡しさらに眉間のしわを深める後藤。
ランプの明かりを消す藤本。
「なんでたいまつが点いてるんだろう?」
「何でってずっと点いてたんじゃねーか?」
「だってそれなら空気不足で自然と消えるはずだよ」
空気口もないみたいだし、と肩をすくめる後藤。
まぁとにかく、と藤本。
「水探そうよ」
「だな」
空間の奥のほうにある複数の岩に駆け寄る吉澤。
蹴り壊してやろうとした瞬間に、気付いた。
「あっ!」
>>367へ
- 367 名前:メカ沢β 投稿日:2005/07/31(日) 21:53
- 今日はここまで。
>>275名無飼育さん、ありがとうございます。
頻繁にチェックしていただいてるなんて……なんだか申し訳ないです。
できるだけ早めに更新できるように頑張ります。
>>276名無し読者さん、ありがとうございます。
テンポも大事にしたいという気持ちが半分、もう半分はめんどく……いえ、なんでもないです。
- 368 名前:名無し読者 投稿日:2005/08/01(月) 20:14
- 大量更新キター!!と思ったらこれまたなかなか進めずw
昔某ドラ○エのゲームブックで遊んだことを思い出しました。続きもマターリ待ってます
- 369 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 21:01
- メカ沢…故障はもう直ったのだろうか?無理せずでも更新がんばってください
- 370 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/03(土) 21:31
- 復活しました。
こんなに早い復活になるとは医者もビックリ。
今まで代わりに書き込んでくれていた友人に感謝しています。
友人もタイピングが速くなったと言っており一石二鳥。鶏肉より豚肉が好きだけど。
とにかく、復活しました。
>>368名無し読者さん、ありがとうございます。
いやはや迷わせてしまいましたか。こりゃこりゃ。
まさしく名無し読者さんの言うゲームブックを参考にしています。
ただ今回の洞窟のやつはもっと複雑にしてみました。
>>369名無飼育さん、ありがとうございます。
直りました。つい五日前です。
多少更新速度が上がる程度ですがよろしくお願いいたします。
ttp://jbbs.livedoor.jp/music/14315/
自分のホームページ?(掲示板です)を作りました。
まだ何にもないですが遊びに来てください。
ただ、これから何かあるわけではありませんが……。
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/04(日) 10:31
- 復活おめでとう!
自分のペースでマターリ頑張ってくらさい
- 372 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:08
- 前回、
吉澤、後藤、藤本が洞窟に入った>>373-397へ
- 373 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:09
- 「なんだよこれ……」
「なんかあったのよっちゃん?」
「これ見てくれよ」
吉澤の指さす先、無数の岩が転がっているが特になんら目立ったところはない。
いや、一つだけ他の岩と違う形をした岩があった。
「これは……蛇?」
「やっぱ蛇かよ!」
そう言ってそそくさと藤本の後ろにまわる吉澤。
後藤も二人の元へやってくると岩を見て、ほぉ、と感嘆の声を漏らした。
藤本が口を開く。
「岩蛇なんだろうけど……こんなデカイの初めて見た」
「ん〜ここにある岩が全部胴体としたら……ゆうに十メートルは超えるね」
「マジかよ! よかったぁもう死んでて」
「蛇は蛇だけど岩なんだから、よっちゃんも情けない」
「岩は岩だけど蛇なんだよ!」
また藤本は吉澤をからかい始める。
後藤はバラバラになった胴体を眺めていると足元に粉々になった岩の破片が目に付いた。
- 374 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:09
- 「よっしー! ミキティ! ちょっと見てよ!」
「どうしたんだよ?」
「これ見てよ、これ」
後藤はこぶしほどの大きさに砕かれた岩の破片を拾い、二人に見せた。
「これがどうかしたのか?」
「これ多分この岩蛇の胴体の一部だと思うんだ。ってことはどういうことだと思う?」
「どういうことって……」
考え込む吉澤の横で藤本が何かに気付いた所為を見せ、言う。
「誰かが岩蛇を倒すときに胴体を粉々にしたってこと?」
「そうなんだよね。ってことはこの岩蛇を倒した人物は一発でこんなデッカイ胴体を
粉々にできるだけの怪力を有してるってことなんだけどさ」
「マジかよ! なんだよそれ!」
「よっちゃんできる?」
「ん? ……いや〜頑張ればこれくらいは」
「強がんなくていいから」
強がってねぇよ、と吉澤。できないって、と藤本。
後藤は岩の破片を放り投げて二人の間に入る。
入ってきた出入り口とは別の出入り口を親指でさして後藤は言った。
「いずれにしてもこの岩蛇を倒した人物は強いってことだよね」
「ってことは強ぇ奴がこの先にいるってことか?」
「もういないかもしれないし、いるかもしれない」
「よっしゃ行こうぜ!」
吉澤は後藤の指した出入り口へと駆け出し、後藤と藤本はやれやれといった表情で後を追った。
- 375 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:09
- 何故か灯っていたたいまつの光もすぐになくなり真っ暗になったかと思えばすぐに
新たな空間の広がりが見えた。これもまた火の明かり。
飛んでくるこうもりを腕で弾き飛ばしながら走る吉澤。
吉澤の後に続く藤本、後藤。
そして、聖なる水のある空間に三人は到着した。
- 376 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:09
- ぽっかりと浮かぶ三日月は洞窟に入ったときよりも黄色く、粗く削られた
天然の大きな丸窓から三人の足元を心無く照らす。
三人の目前には水のせせらぎが聞こえている。
しかし、三人の意識は水になかった。
「おっ! 誰やアンタら?」
「誰やアンタらって誰もいない……おぉー!」
「なっちうるさい!」
金髪の少女が丸顔の女に一喝するが丸顔の女は三人を指さして金髪の少女に
見るように叫んでいる。
二人の間にいる女は気にせず何かをあおっているようだ。
「ホラホラホラ! ホントに人がいるんだって!」
「まさかこんなところまでわざわざ、ってオイ! マジかよ!」
「うるせぇなお前ら!」
吉澤が恫喝すると金髪の少女と丸顔の女は素直に黙った。
真ん中の女は意にも介さず同じ質問をしてくる。
「誰やアンタら?」
「俺は吉澤ひとみってぇんだ! まさかテメーらが岩蛇を――」
「あの〜藤本っていいます。友人の病気を治すための水を汲みに来たのですが……」
吉澤の口を両手で押さえ自己紹介を奪う藤本。
やめろよ、という吉澤の叫びも、モモモモ、としか響かない。
- 377 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:10
- 「水ってこれ?」
明らかに酔っている真ん中の女が湧き出る泉に手を入れ水をかきあげる。
透明であるが清らかな色のついた水が女の指から滴り落ちる。
「そうです! それです!」
「ほ〜そうか。ならはよ持ってったりぃ」
「はい、ありがとうございます」
別にその女のものではないのであろうが、後藤は礼を言うと入れ物を持って三人の元、もとい
聖なる泉の元へと駆けていった。
その様を見て吉澤が藤本の制止を振り切り、叫んだ。
「オイ! あのでっけぇ岩蛇を倒したのは誰だ! オレと勝負しろ!」
「ちょっとよっちゃん、あのなんでもないんで、ほんとスイマセン!」
制止する藤本から逃げ三人の元へと近寄っていく。
後藤は水を掬いながら三人に、スイマセン、と謝った。
「お前か! そこのちっちぇの!」
「誰がちっちぇだコノヤロー!」
「矢口もう認めちゃってるんじゃん」
「なっちはうるさい!」
「お前か! 勝負だ!」
喧嘩を売る者、それを追いかける者、喧嘩を買う者、それを煽る者、酒を飲む者、水を汲む者。
空間はまさしく取り乱していた。
- 378 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:10
- 「あの岩のでっかいのを倒したのはオイラじゃない!」
「あ〜そうか、じゃあ残りのどっちだ! 勝負しろ!」
「あ〜そうか、じゃなくてその前にちっちゃいって言ったことを謝れ!」
矢口が一歩前に出て吉澤と距離なく対峙する。
見上げるようにして睨む様はまさに子供である。
「そりゃ悪かった悪かった……で、どっちだ!」
「全っ然気持ちがこもってないじゃん!」
残りの二人を見回す吉澤と眼中に入っていない矢口。
藤本が追いつき、本当にスイマセン、と吉澤の代わりの謝った。
その様子に笑い出すのは酒を飲んでいる女。
「あの岩蛇を倒したんはあたしやあたし」
「おぅお前か! 勝負しろよ!」
「水汲み終わったよ〜」
あえて状況を見ない発言をする後藤だったが吉澤の耳には届いていないようで
岩蛇を倒したという酒飲みの女に近づこうとしている。
「あたしと勝負したかったらなぁ、そこのちっちゃいのに勝ってみぃ」
「あっ! 裕ちゃんまでちっちゃいとか言うし」
「いいから勝負しろって!」
「ちっちゃいのに勝ってからや」
- 379 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:10
- 吉澤が視線を下げると矢口の後頭部を見えた。
中澤に抗議している矢口だが安倍はまた囃し立てている。
「ちょっと裕ちゃ〜ん、何でオイラが――」
「ええやんけちょっとくらい。ちょうど酒の肴もほしかったところやしな」
「なんだよそれぇ」
「ええから行ってき。裕ちゃんが見守っといたるから」
説得とも強要とも取れる中澤の言葉に渋々振り返る矢口。
二人のやり取りを少しイライラしながら見ていた吉澤。
「で、どっちがオレとやるんだよ?」
「オイラオイラ」
「こんなガキとできるかっての」
「これでも大人! あ〜もうムカつく! 絶対倒してやる!」
「チェッ、ったくしゃーねぇなぁ」
吉澤と矢口は泉から離れ、互いに距離をとって再び対峙した。
藤本も泉に近寄って二人から離れると、本当にスイマセン、と安倍と中澤に謝った。
こんなことしてる場合じゃないんじゃないの?、と安倍。そうなんですけどねぇ、と後藤。
- 380 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:10
- 指をポキポキ鳴らす吉澤
全身を包む黒いマントをととのえる矢口。
「そーいやなんでお前らはこんな所にいるんだよ?」
「何でってまぁ、裕ちゃんが美味しいお酒を飲みたいって言うから……」
矢口が中澤に視線を送ると中澤は、頑張りやー、と声援で返す。
「裕ちゃんがね、おいしー水割り飲むんなら水も美味しくなかったらイカンのや、とか言ってさぁ」
「あ……そうなんですかぁ……」
安倍から説明されて返答に困る後藤。
どや?、と中澤が藤本を誘うが、飲めないもので、と適切な嘘をつく藤本。
「お前あいつより強ぇのか?」
「あいつって裕ちゃんのこと? さぁね、わかんない」
「なんだよそれ」
吉澤が腰を落とすと空気が変わる。
「まぁオメーの方がちっちぇから多分弱いんだろうけどな」
「また! こんのぉ! ホントムカつく!」
「ならオレのこと倒してみな!」
- 381 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:10
- 吉澤が一足で飛び出す。
マントの隙間から両手を出し、来ないで、と言わんばかりに突き出す矢口。
指先だけ出ている黒革の手袋の先、吉澤の動きが急激に変わる。
「グワッ!」
矢口へ向かっていた吉澤が突然叫ぶと勢いを失い、そのまま後ろ向きに倒れてしまった。
目を見開く藤本と後藤、口角を上げる中澤と安倍。
矢口が両手をマントの中にしまうのと同時に藤本が駆け出した。
「よっちゃん!」
「あ〜スッキリした」
矢口と藤本がすれ違う。
倒れている吉澤を抱きかかえるも意識を失っているようで力が入っていない。
眉間と首筋から血が滲み出てきている。
「……なにあれ」
「アレが矢口の能力や」
後藤がつぶやくと中澤は得意げに、ちっちゃいいうてなめとったらアカンでぇ、と付け加えた。
- 382 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:11
- 「よっちゃん! よっちゃん!」
「……ん、んぅ」
頬を叩いて意識を呼び覚まそうとする藤本。
紅液が滲み流れる眉間にしわを寄せ反応する吉澤。
「ん……ぁ、ミキティ……」
「よっちゃ――」
「なぁっ! うぉりゃ!」
文字通り飛び起きてこぶしを握ると腰を落とした。
口を開けて見上げる藤本をよそに泉へ戻っている矢口を見つけ、叫ぶ。
「逃げるつもりか!」
「……あの〜よっちゃん、ちょっといいかい」
藤本が吉澤の服の端を引っ張りながら立ち上がると首筋の浮かび上がった青紫を押した。
「いてっ!」
「よっちゃんはねぇ、あの小さい人に負けたの」
「はぁ?」
「つっこんでったらいきなりバタッて倒れたじゃん」
矢口は中澤から勝利の祝杯を無理矢理飲まされている。
藤本を指さし確認のように順を追って状況を説明している。
- 383 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:11
- 「……そういえばそんな気がする」
「気がするじゃなくてそうなの」
「残念やったなぁ」
中澤が言った。
「勝負はまた今度やな」
「ちょっと待――」
「それより早く帰らないかんのとちゃうん?」
なぁ?、と隣の後藤に酒臭い息を吹きかける。
ちょっと飲みすぎだよぉ、と言って安倍が後藤に謝った。
藤本が吉澤の手をとって言った。
「そうだよ、梨華ちゃんに聖水飲ませないと」
「でも――」
「でもも何もないの。ごっちんもほら早く」
「あ、うん」
泉のそばを離れようとする後藤が矢口に話しかける。
- 384 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:11
- 「あの」
「ん?」
「どうやったんですか? あれ」
後藤が先に矢口がやったように両手を突き出す。
右手に持った水筒がチャポっと音を立てた。
「それは教えらんないな〜」
「そりゃそうですよね」
後藤は簡単に笑った後吉澤と藤本に駆け寄っていった。
矢口との勝負にまだ納得のいっていない吉澤を二人で鎮め、空間を後にした。
- 385 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:11
- 三人は急いで村へ戻り、寝ていた石川を叩き起こした。
「聖水持ってきたぞ! ホラ起きた起きた!」
「病人なんだからもうちょっと優しく起こしてあげなよ、よっちゃん」
「……んっ、あ、みんな」
石川に聖水を飲ませる。
その間に医者の所へ行っていた後藤が帰ってきた。
「なんて言ってた?」
「飲んで一晩寝たら治るって。梨華ちゃん大丈夫?」
帰ってすぐに容態を心配する後藤に水を飲みながら頷く石川。
聖水を飲み終え笑みを浮かべる。
「ありがとう、みんな」
「気にすんなって。それより早く寝ろよ」
「うん……あっ!」
石川が吉澤の顔を見て短く叫んだ。
なんだよ、と驚く吉澤。
「よっしー額のところ怪我してる」
「あぁ、まーこれくらいどーってことねぇよ」
- 386 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:12
- 「こんな怪我までして……」
そう言って涙を浮かべる石川。
それを見て慌てる吉澤。
「だっ、そんなんいいから早く寝ろっての」
「ホントに、ホントにありがとね」
藤本が石川の隣に座ると背中に手を当てていった。
「よっちゃんは大丈夫だから、梨華ちゃんは寝なよ。ね」
「早く治してさっさと武道大会に行かなきゃならねぇからな」
「うん」
そう言って石川はベッドに体を預けた。
「美貴たちももう寝よっか?」
「んだね、疲れたし」
「だな」
「よっしー傷の手当てはいいの?」
「こんなん寝たら治る」
「はいはい」
この夜も吉澤が寝たあと後藤が秘密で治療を行ったことはいうまでもない。
- 387 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:12
- 翌日石川の体調は嘘のようによくなり医者からも完治を通告された。
一応大事をとってその日は村に泊まり、次の日村から旅立った。
「よっしゃ! あとは武道大会だな!」
「それだけじゃないでしょって、船をもらいに行かないといけないんだしさ」
「ハイブリッジ城ってこっちでいいんだっけ?」
「うん。村の人がそう言ってたよ」
山越え谷越え、歩き続ける四人。
現れるモンスターも徐々に強くなっていくが大会に向けて張り切る吉澤が
最初に決めた順番も守らずに蹴散らしていく。
数回の野宿の末、山の頂から城が見えた。
「おぉ! あれか!」
「だろうね。ここからだとあと大体一日くらいかな」
「よっし! こっから突っ走って今日中に――」
「よっちゃん一人で行きなよ」
「いいのか?」
「よっしーも本気にしないの」
そこから四人はおおよそ一日歩いてハイブリッジ城にたどり着いた。
- 388 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:12
- 「……デッッッケー!!!」
吉澤が見上げる城門はゆうに五メートルを超え、分厚い木の門扉の
横には二人の兵士が四人を見ている。
門をくぐればすぐに噴水を中心とした広場があり、大会が近いせいか
様々な人々が往来している。
視線を散らしまくっている三人に後藤が言う。
「とりあえずお城に行こうよ」
そのまままっずぐ行くと大きな城があるが、それにしても広い。
城下町の広さや城の大きさに高揚を煽られ大会への意気込みを高める吉澤。
通りに並ぶ店の多様さに驚き、その店々に並ぶ食材や珍品奇品に目を見張る藤本。
大会を前に装飾された木々や彫刻に色めき立つ石川。
特に何にも興味を示さず淡々と歩く後藤。
「それにしても広いよね」
「うん。美貴のお城の何倍あるんだろ?」
四人は城に向かってしばらく歩いた。
- 389 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:12
- 城の周囲の堀には元気よく泳ぐ魚が見えて、子供が水をかけあって遊んでいる。
城の目の前に来ると城が空を巣食っているかのような錯覚を覚えた。
つまりそれぐらい大きいということである。
橋を越えそのままに城に入ろうとしたとき二人の門番に止められた。
「なんの用だ」
「武道大か――」
「王様に会いに来たんですけど」
藤本はなれた手つきで吉澤の口を塞ぎ用件を話す。
門番は怪訝そうな目つきで4人を見回した。
「お前らが王になんの用だ」
「何の用だも何もここの王様に呼ばれてきたんですけど」
「はぁ? お前らみたいな……ん?」
やたらとイチャモンをつけてくる門番にもう一人の門番がなにやら耳打ちをしている。
「まさかお前らが王女を助けてくれたという四人組か?」
「そうだよ」
少しイライラしだした吉澤が突っかかるように答えると門番は急に態度を変えた。
イチャモンをつけた門番は地面に刺さったかのように直立しもう一人は扉を開けた。
「これは失礼いたしました!」
「ん、まぁ許してやろう」
「よっちゃんも調子に乗らないの」
藤本に小突かれ、四人は城に入っていった。
- 390 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:12
- その広さに対比するように細かな装飾の施された城内。
真っ直ぐ進んで階段を登ると大きなイスに座る王の姿が見える。
四人の姿を見るや否や立ち上がり興奮しだす王様。
「おー! よく来てくれた!」
「お前じゃなくて武道――」
「あっいやいや、ありがとうございます」
藤本が冷や汗をかきながら挨拶すると笑いながらイスに座る王様。
対応を後藤に任せ口を塞ぎながら吉澤と藤本は後列にまわった。
「武道大会には是非とも参加してほしいんだが、どうだろう」
「はい。是非とも参加させていただきます」
「そなたたちなら優勝もできるだろう」
「いえいえそんな」
「まぁ謙遜するな。自分で言うのもなんだが賞品も豪華に取り揃えたぞ。是非とも獲得していってほしい」
「はい」
「選手登録は城内で行なっているから寄っていくように」
「はい」
四人は礼をして王の元を離れると階段を下り、選手登録を済ませて城を出た。
- 391 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:13
- 「豪華賞品って何だろうね?」
「なんか美味しいモンだったらいいんだけどなぁ」
「ま、優勝するのはオレだからわけてやってもいいぜミキティ」
「この前すぐに倒されたくせに」
うるせー、と吉澤。何その話、と石川。実はねぇ、と藤本。うるせー、と吉澤。
とにかく、と後藤。
「大会までまだ五日もあるわけだし、これからどうしようか?」
「う〜ん……」
「特訓しようぜ! 特訓!」
町を歩く人々の視線が吉澤に集まるが気にせず特訓特訓と繰り返す吉澤。
わかったから静かにしてよ、と藤本が抑えるが時すでに遅くすれ違う人々とどことなく距離ができている。
吉澤が静かになったのを見計らって石川が口を開く。
「特訓するのもいいけど町を歩いてみたいなぁ」
「じゃあ基本的に自由ってことで、OK?」
後藤の言葉に、オッケー、と藤本。うん、と石川。じゃあ特訓だな、と吉澤。
「ヨシッ、じゃあ決まり!」
- 392 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:13
- 大会四日前。
晴天の下、立ち並ぶ店を物色しながら歩く石川と藤本。
「ごっちんもかわいそうにねぇ、朝からよっちゃんに連れてかれて」
「明日はミキティでしょ?」
「うん。でもよっちゃんしつこいからやりたくないんだよね」
「わかる〜。勝っても負けても、もう一回もう一回、って」
「ま、よっちゃんの目的は世界一の新玉になるんだからそれぐらいじゃないとね」
「そうだよね」
クレープを買って広場に出る。
噴水の近くのベンチに座り城を眺める。
「私そんなに出たくなかったんだけどなぁ」
「そもそも出たがってたのよっちゃんしかいなかったじゃん」
「ミキティは?」
「まー興味はあるけどね、見るだけでもよかったかなぁって」
「私すぐに負けちゃおっかな」
「そしたらよっちゃんが怒るよ絶対」
「ん〜」
「オレが鍛えなおしてやる、とか言いそう」
「あ〜言いそう言いそう」
「とか言ってよっちゃんが一回戦で負けちゃったらどうしよう」
「多分ねぇ……次の大会が開かれるまでここにいよう、とか言うと思う」
「間違いなく言うね、それ」
二人の遥か上空を丸く白い雲が通り過ぎていった。
- 393 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:13
- 大会三日前。
フカフカの赤い絨毯の上を歩く石川と後藤。
「やっぱこの城大っきぃよね」
「一日で見てまわれるかなぁ?」
「ん〜田舎モン丸出しだよ梨華ちゃん」
「そんなことないよぉ」
何人用だと問いただしたくなる位大きなベッド。
美しく気品漂う女性の肖像画。
部屋はもとより長い廊下にまで備えられた眩いシャンデリア。
「あれっ? あの人……」
「どしたの梨華ちゃん?」
「あの人見て」
石川の指差す先には大会にエントリーするために寄った部屋があった。
しかし、石川のさしていたのはそこから出てきた一人の女性だった。
「どっかで見たことあるような……」
「あ〜、あの時の人じゃん。いきなり握手してきてよっしーブッ飛ばした――」
「あ〜あ〜あ〜あ〜!」
石川の声は毛足の長い絨毯も好きではないようで、音を吸い込むこともせず
そのまま響かせるものだから目の前の女性が二人に気付いたのだった。
しかし、目が合い軽く微笑むと城を出る方の廊下を行ってしまった。
「あの人も出るのかなぁ?」
「だろうね」
二人は再び歩き出すと王女の部屋へと向かった。
- 394 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:13
- 大会二日前。
宿屋のベッドで仰向けに寝っ転がる藤本と隣のベッドに座り本を読む後藤。
「あ〜疲れた。よっちゃん今日もやってんでしょ」
「梨華ちゃん大丈夫かねぇ」
「よっちゃんもよくやるよね」
「大会が待ち遠しくて仕方ないんじゃない?」
後藤は本を閉じると部屋の中央にあるテーブルで紅茶を入れる。
ミキティの分のレモンティを持ってミキティのベッドに座った。
上体を起こしてレモンティを受け取る。
「何かねぇこの大会前までここの兵士だけでやってたらしいよ」
「ふ〜ん」
「今年からなんだって、外から参加者集うの」
「なんでだろ? 飽きたのかな?」
「さぁ」
連日の晴天は雰囲気をさらに盛り上げているようで部屋にいても
人々の雑踏と話し声が聞こえてくる。
「ごっちんは優勝狙うの?」
「んまぁできるんだったらしたいけどね。ミキティは?」
「賞品によるね」
「何だったら頑張るの?」
「えー……おいしそうな肉」
「……ミキティらしいねぇ」
そのあと藤本の今までの人生で美味しかった肉ベスト5を聞かされるはめになってしまったのだった。
- 395 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:14
- 大会前夜。
人々に注文が飛び交う中四人で一つのテーブルを囲む。
テーブルの上にはたくさんの料理が並び四人の食欲をかきたてている。
「今日も特訓したかったのによぉ」
「前日は休むもんだよ普通」
「オレはいいんだよオレは」
ふてくされている吉澤を慰める後藤。
別の理由で藤本も頬を膨らませている。
「食べないの?」
「ミキティもう食べてるじゃんかぁ」
隣のテーブルでジョッキを鳴らす甲高い音が聞こえ藤本が呟く。
「お酒飲みたかったなぁ」
「ダ〜メだって。二日酔いじゃ試合になんないよ」
「美貴は二日酔いにならない自信あるんだけど」
「でも一応ね」
羨望の眼差しを隣のテーブルに向けた藤本。
吉澤と後藤もようやく食事に手をつけた、その瞬間。
「あっ!」
「ミキティどうしたの?」
石川の問いに答えず藤本は隣のテーブルを見ている。
藤本の声に反応したのか隣のテーブルの人達が四人の方を向いた。
- 396 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:14
- 「あんた達この前の!」
「お〜アンタらもおったんか」
「どうしたんだよミキテ……なぁぁぁ! テメーら!」
「酒の席でうるさいでアンタ」
立ち上がる吉澤を軽くあしらう中澤。
安倍は出来事を意に介さずジョッキのお酒を飲んでおり、矢口は吉澤と同様にオーバーリアクションをとっていた。
「おー! あんた達も武道大会出るわけ?」
「ったりめーだ」
「キャハハ、この前オイラ負けたくせに」
「なんだとコラァ!」
矢口に向かおうとする吉澤。
それを止める後藤に何のことだかさっぱりわからない石川。
店の賑わいは彼女達を異質なものとしない。
「ちっちぇーの! 勝負だ! 表に出やがれ!」
「よっしーやめなって」
「そやで、どっちにしたって明日大会あるんやし戦うかもしれへんやんか」
「裕ちゃんこいつすぐ負けるって」
「なっ! テメー言わせておけば!」
「だからよっしー座ってって」
今にも暴れだしそうな吉澤を抑える後藤。
藤本は石川に中澤たちの説明をしている。
- 397 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:14
- 「テメーら三人ぜって〜ブッ飛ばしてやっからな!」
「やってみろってーの、ベロベロバァ」
「アハハハハ、ちょっと矢口子供ぉ」
「笑っとるアンタもガキやで、なっち」
中澤の鋭いつっこみも決まり三人が笑っている中吉澤は顔を赤くして怒りを撒き散らしている。
後藤は藤本に応援を呼ぶ視線を送っているが見て見ぬフリで石川の説明を続けている。
「とにかく明日や。抽選で矢口と近い所に当たるとええなぁ、そこの怒っとるネェちゃん」
「どこになったってちっちぇーのはぜってーぶっ倒す!」
「わかったからもう座ってよよっしー」
「とりあえず今日は飲もうや、な」
「そうそう。戦うのは明日明日」
そう言って中澤と矢口は自分達のテーブルに向き直った。
少しの間吉澤が怒鳴り、座った。
「ぜってー倒してやる」
「わかったから、ホラ食べよ」
後藤が言うより早く乱暴に食事を始める吉澤。
やれやれ、と後藤。よっしー頑張れ、と石川。何を応援してんの、と藤本。
騒がしい夕食ではあったが、翌日の騒々しさとは比にならなかった。
夜は明けて……
>>398へ
- 398 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/04(日) 20:14
- 今日はここまで。
>>371名無飼育さん、ありがとうございます。
今まで更新が遅かったので何とか早めに仕上げていこうと思っています。
次回は(私のとって最も過酷な)マルチシナリオになるかと。
だから少し遅くなるかも。(言い訳ですよ、ええそうですよ)
- 399 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:02
- 前回、
大会前夜だった>>400-403へ
- 400 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:02
- 澄み渡る青空に観客は太陽一人。
城の右隣、人々は朝早くから並び闘技場に長い尾を作っている。
「スゲー人だなオイ」
「他の国からも来てるらしいからね」
並ぶ人々とは別に裏口から闘技場に入る四人。
中央に円状の石盤、少し距離が開いてそれを取り囲む観客席。
空は切り取られることなく広がっている。
「結構出場する人多いんだね」
石盤のリング状にはトーナメントの抽選を待つ選手が多数。
観客を入れる前に抽選が行なわれることになっている。
「十六人のトーナメントが四つだから単純計算で六十四人か」
「オレは総当りのほうがいいんだけどな」
「ハイハイ勝手にやってなさいって」
藤本に軽くあしらわれ拗ねる吉澤。
四人もリングに上がり抽選の時を待つ。
各選手はストレッチをしたり談笑したり、瞑想している者もいる。
吉澤の背後から近づいてくる人影。
「あれ〜あなた達も出るんだ」
「あっ」
「飯田圭織だよ、覚えてる?」
四人は当然覚えていた。
- 401 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:03
- 「あっ! テメーも出んのか! 今度はゼッテーぶっと――」
「よっちゃんうるさい!」
口を押さえられる吉澤。押さえる藤本。
周りの選手たちの視線を集め少し恥ずかしそうな石川。
いいね〜元気だね〜、と吉澤の言動を意に介さず笑う飯田。
そんな飯田の一挙手一投足をつぶさに観察する後藤。
「あなたと当たることを祈ってるわ」
抑止を解こうともせず騒ぐ吉澤にそう言うと飯田は四人の元を去っていった。
吉澤の高揚もおさまり藤本も口から手を離した。
「握手しなかった」
「ん? なにごっちん?」
「いやぁなんでも」
観客席の下の扉からこの城の大臣が現れた。
話し声は自然に治まり妙な緊張感が走る。
大臣と数人の兵士がリングに上がった。
- 402 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:03
- 「これで全員かね?」
「おそらく」
「では始めよう」
大臣と兵士とのやりとりが終わると、大臣は選手達のほうを向いた。
「これから抽選会を始める。この兵士が持っている箱から紙を一枚取り出しこっちの兵士に名前を言って渡してくれ」
最初に右隣、次に左隣の兵士を指す大臣。
指された順番に兵士が一歩前に出る。
「全員が引き終わって一時間後に開会式を行なうので忘れないように。以上」
そう言って大臣は踵を返し入ってきた扉から出て行ってしまった。
残された兵士の前には既に列が作られている。
「あまり強い人と当たらないといいんだけどなぁ」
「あんねー梨華ちゃん、そんなこと言ってどうすんの? 戦って戦って戦い抜かないと世界一の新玉にはなれないんだよ」
「それはよっちゃんしか目指してないから」
「いいから早く並ぼうよ」
- 403 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:03
- 吉澤が主人公→>>404へ
石川が主人公→>>405へ
後藤が主人公→>>406へ
藤本が主人公→>>407へ
- 404 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:03
- 次々と他の選手が抽選くじを引いていき、やっと自分の番になった。
最初に触れたこのクジだ→>>408
一番奥の取りづらいこれにしよう→>>409
これにしようかと思ったけどやっぱりその隣→>>410
もういいやこれで→>>411
- 405 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:03
- 次々と他の選手が抽選くじを引いていき、やっと自分の番になった。
最初に触れたこのクジだ→>>412
一番奥の取りづらいこれにしよう→>>413
これにしようかと思ったけどやっぱりその隣→>>414
もういいやこれで→>>415
- 406 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:04
- 次々と他の選手が抽選くじを引いていき、やっと自分の番になった。
最初に触れたこのクジだ→>>416
一番奥の取りづらいこれにしよう→>>417
これにしようかと思ったけどやっぱりその隣→>>418
もういいやこれで→>>419
- 407 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:04
- 次々と他の選手が抽選くじを引いていき、やっと自分の番になった。
最初に触れたこのクジだ→>>420
一番奥の取りづらいこれにしよう→>>421
これにしようかと思ったけどやっぱりその隣→>>422
もういいやこれで→>>423
- 408 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:04
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「A-3か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「吉澤ひとみ」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>424へ
- 409 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:04
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「B-15か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「吉澤ひとみ」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>425へ
- 410 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:04
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「C-15か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「吉澤ひとみ」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>426へ
- 411 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:05
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「D-4か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「吉澤ひとみ」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>427へ
- 412 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:05
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「B-15か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「石川梨華」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>424へ
- 413 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:05
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「C-8か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「石川梨華」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>425へ
- 414 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:05
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「D-1か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「石川梨華」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>426へ
- 415 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:05
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「D-3か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「石川梨華」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>427へ
- 416 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:06
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「C-4か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「後藤真希」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>424へ
- 417 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:06
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「D-9か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「後藤真希」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>425へ
- 418 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:06
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「A-7か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「後藤真希」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>426へ
- 419 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:06
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「D-2か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「後藤真希」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>427へ
- 420 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:06
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「D-13か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「藤本美貴」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>424へ
- 421 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:07
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「A-1か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「藤本美貴」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>425へ
- 422 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:07
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「B-15か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「藤本美貴」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>426へ
- 423 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:07
- すぐに抽選箱から離れクジを開く。
見間違えようったってそうはいかないとばかりにデカデカとハッキリ書かれた抽選番号が飛び込んでくる。
「D-9か……」
紙を開いたままボードを持った兵士の所へ。
兵士に見えるようにクジを提示し名前を言う。
「藤本美貴」
その兵士とは何のやりとりもないままリングを降り、控え室へ向かった。
>>427へ
- 424 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:07
- 藤本が控え室に戻ってきて再び四人が集まる。
「なんかあの酒飲みの三人と革命少女隊も来てるみたいだよ」
「マジかよ! よっしゃブッ飛ばしてやる!」
「それはそうと……」
後藤が選手のために配られている飲み物を藤本に渡し、言った。
「みんな何番だった?」
「オレはA-3」
「私はB-15だったよ」
「美貴はD-13」
「あたしはC-4だから、全員バラバラじゃん」
「ホントだぁ」
その後、クジを引き終わった矢口達や新垣達も控え室に入ってきた。
吉澤が無駄に闘志を燃やし、藤本がなだめる。
石川が緊張しているが後藤は至って平常心のようだ。
三十分後、トーナメント表が張り出されたということで四人は見に行くことにした。
>>428-432へ
- 425 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:07
- 藤本が控え室に戻ってきて再び四人が集まる。
「なんかあの酒飲みの三人と革命少女隊も来てるみたいだよ」
「マジかよ! よっしゃブッ飛ばしてやる!」
「それはそうと……」
後藤が選手のために配られている飲み物を藤本に渡し、言った。
「みんな何番だった?」
「オレはB-15」
「私はC-8だったよ」
「美貴はA-1」
「あたしはD-9だから、全員バラバラじゃん」
「ホントだぁ」
その後、クジを引き終わった矢口達や新垣達も控え室に入ってきた。
吉澤が無駄に闘志を燃やし、藤本がなだめる。
石川が緊張しているが後藤は至って平常心のようだ。
三十分後、トーナメント表が張り出されたということで四人は見に行くことにした。
>>433-437へ
- 426 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:08
- 藤本が控え室に戻ってきて再び四人が集まる。
「なんかあの酒飲みの三人と革命少女隊も来てるみたいだよ」
「マジかよ! よっしゃブッ飛ばしてやる!」
「それはそうと……」
後藤が選手のために配られている飲み物を藤本に渡し、言った。
「みんな何番だった?」
「オレはC-15」
「私はD-1だったよ」
「美貴はB-15」
「あたしはA-7だから、全員バラバラじゃん」
「ホントだぁ」
その後、クジを引き終わった矢口達や新垣達も控え室に入ってきた。
吉澤が無駄に闘志を燃やし、藤本がなだめる。
石川が緊張しているが後藤は至って平常心のようだ。
三十分後、トーナメント表が張り出されたということで四人は見に行くことにした。
>>438-442へ
- 427 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:08
- 藤本が控え室に戻ってきて再び四人が集まる。
「なんかあの酒飲みの三人と革命少女隊も来てるみたいだよ」
「マジかよ! よっしゃブッ飛ばしてやる!」
「それはそうと……」
後藤が選手のために配られている飲み物を藤本に渡し、言った。
「みんな何番だった?」
「オレはD-4」
「私はD-3だったよ」
「美貴はD-9」
「あたしはD-2だから、全員一緒じゃん」
「ホントだぁ」
その後、クジを引き終わった矢口達や新垣達も控え室に入ってきた。
吉澤が無駄に闘志を燃やし、藤本がなだめる。
石川が緊張しているが後藤は至って平常心のようだ。
三十分後、トーナメント表が張り出されたということで四人は見に行くことにした。
>>443-447へ
- 428 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:08
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川 里 吉 斉 魚 山 新 安 近 九 西 沖 江 上 高 矢
本 田 澤 藤 住 根 垣 藤 江 条 野 藤 野 柳 口
- 429 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:08
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林 流 笠 杉 亀 宮 桜 木 赤 鳥 東 石 菅 飯 石 み
川 原 山 井 本 木 村 木 羽 山 橋 井 田 川 う
な
- 430 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:09
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あ. .木 柴 後 中 太 新 柳 難 牧 熊 道 野 北 袴 篠
さ.. .梨 田 藤 居 田 垣 沢 波 野 木 重 村 川 田 岡
み
- 431 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:09
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佐 五 香 三 森 中 稲 松 安 町 伊 柿 藤 大 田 山
久 十 取 浦 田 澤 垣 本 倍 田 集 崎 本 谷 中 下
間 嵐 院
- 432 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:09
- 「よっしー良かったじゃん、矢口ってあのちっちゃい人と同じブロックだよ」と後藤。
「その前にミキティが戦った新垣とかいう奴がいるからな。ますはそっちをブッ飛ばしてからだ」と吉澤。
「梨華ちゃん飯田って人とすぐじゃん」と藤本。
「代わりにやってやろうか?」と吉澤。
「いいよぉ、自分で何とかするよ」と石川。
「ごっちんは大したのいねぇな」と吉澤。
「わかんないよ」と後藤。
「この道重って人梨華ちゃんが前に戦った人じゃないの?」と藤本。
「そうそう」と石川。
「ミキティのブロックは結構いっぱいいるんじゃないの?」と後藤。
「田中、安倍、中澤ってところかな」と藤本。
「なんかワクワクしてきた」と吉澤。
「決勝行けるかなぁ」と後藤。
「まずは一勝ね」と石川。
「賞品なんだろ?」と藤本。
しばらくして開会式が始まった。
>>448へ
- 433 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:09
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藤 道 鳥 斉 赤 木 亀 桜 宮 杉 山 高 上 江 安 み
本 重 羽 藤 木 村 井 木 本 山 下 柳 野 藤 倍 う
な
- 434 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:09
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九 近 村 安 山 魚 笠 流 林 川 木 石 飯 東 吉 あ
条 江 田 藤 根 住 原 川 本 梨 橋 田 山 澤 さ
み
- 435 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:10
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沖 田 熊 牧 里 西 柴 石 難 柳 太 中 菅 森 三 香
野 中 木 野 田 田 川 波 沢 田 居 井 田 浦 取
- 436 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:10
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五 篠 袴 佐 北 野 中 伊 後 矢 大 町 柿 新 松 稲
十 岡 田 久 川 村 澤 集 藤 口 谷 田 崎 垣 本 垣
嵐 間 院
- 437 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:10
- 「ミキティ初戦から道重って人じゃん」と後藤。
「梨華ちゃんが前に戦った人だよね?」と藤本。
「うんそう。亀井って人も同じブロックだよ。ごっちんが戦ったって人」と石川。
「よっしーもすぐに飯田って人だよ」と後藤。
「今回は絶対ブッ倒す!」と吉澤。
「梨華ちゃんのブロックは田中って人しか知らない」とミキティ。
「ん〜でも他にも強い人いるかも」と石川。
「ごっちんのブロックは楽しそうだな」と吉澤。
「そお?」と後藤。
「すぐにあのちっちぇのだし、酒飲みババアもいるし」と吉澤。
「アハ、酒飲みババアだって」と後藤。
「言い過ぎだよぉ」と石川。
「とか言って梨華ちゃんも笑ってんじゃん」と藤本。
「なんかワクワクしてきた」と吉澤。
「決勝行けるかなぁ」と後藤。
「まずは一勝ね」と石川。
「賞品なんだろ?」と藤本。
しばらくして開会式が始まった。
>>448へ
- 438 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:10
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み 稲 森 石 斉 西 後 里 熊 田 牧 難 菅 柳 太 中
う 垣 田 橋 藤 藤 田 木 中 野 波 井 沢 田 居
な
- 439 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:11
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木 九 近 安 中 魚 笠 流 林 新 川 沖 柴 山 藤 あ
梨 条 江 藤 澤 住 原 川 垣 本 野 田 根 本 さ
み
- 440 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:11
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上 高 安 山 杉 宮 桜 木 亀 赤 鳥 東 村 江 吉 大
野 柳 倍 下 山 本 木 村 井 木 羽 山 田 藤 澤 谷
- 441 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:11
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石 矢 北 佐 袴 篠 五 香 三 飯 野 道 柿 伊 町 松
川 口 川 久 田 岡 十 取 浦 田 村 重 崎 集 田 本
間 嵐 院
- 442 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:11
- 「ごっちんのブロックつまんなさそ〜」と吉澤。
「ま、楽できるってことでいいんじゃない?」と後藤。
「油断してるとやられちゃうよ」と藤本。
「ミキティのブロックの新垣って人前に戦った人じゃないの?」と石川。
「そうそう、前は勝負着かなかったんだよね」と藤本。
「オレのブロックもつまんなそ〜なんだよなぁ」と吉澤。
「そお? 亀井って人は結構いい感じだと思うんだけどね」と後藤。
「梨華ちゃんは初戦から矢口って人かぁ、ご愁傷様」と藤本。
「えっ? 矢口って人そんなに強いの? どうしよう……」と石川。
「あんなちっちぇの大した奴じゃねーよ」と吉澤。
「瞬殺されたくせに」と藤本。
「うるせー」と吉澤。
「まぁまぁ」と後藤。
「なんかワクワクしてきた」と吉澤。
「決勝行けるかなぁ」と後藤。
「まずは一勝ね」と石川。
「賞品なんだろ?」と藤本。
しばらくして開会式が始まった。
>>448へ
- 443 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:11
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熊 近 山 佐 矢 田 柿 牧 安 杉 柴 袴 伊 難 山 み
木 江 下 久 口 中 崎 野 藤 山 田 田 集 波 根 う
間 院 な
- 444 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:12
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宮 篠 町 安 大 柳 魚 桜 松 太 笠 木 香 新 中 稲
本 岡 田 倍 谷 沢 住 木 本 田 原 村 取 垣 居 垣
- 445 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:12
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道 五 流 赤 三 村 森 菅 林 鳥 東 石 木 川 田 あ
重 十 川 木 浦 田 田 井 羽 山 橋 梨 本 中 さ
嵐 み
- 446 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:12
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上 後 石 吉 江 沖 亀 西 藤 里 九 中 高 北 飯 野
野 藤 川 澤 藤 野 井 本 田 条 澤 柳 川 田 村
- 447 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:12
- 「最初からよっしーなんてヤだよぉ」と石川。
「手加減しねーからな」と吉澤。
「二人の内の勝った方がごっちんとか……」と藤本。
「ん〜どーだろ」と後藤。
「ミキティの方もなかなか面白そうだな」と吉澤。
「とりあえず中澤って人と飯田って人は注意しなきゃね」と藤本。
「他のブロックの方がどうなんだろう?」と石川。
「知ってる名前もチラホラいるけど、わかんない」と後藤。
「とりあえず勝てばいいんだろ、勝てば」と吉澤。
「よっちゃんは単純だねぇ」と藤本。
「よっしーらしいじゃない」と石川。
「一応褒め言葉だよね? 梨華ちゃん」と後藤。
「なんかワクワクしてきた」と吉澤。
「決勝行けるかなぁ」と後藤。
「よっしー手加減してよ」と石川。
「賞品なんだろ?」と藤本。
しばらくして開会式が始まった。
>>448へ
- 448 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:12
- リングに集められた六十四人の選手たち。
皆観客席の一節に設けられた特別観覧席を見上げている。
ハイブリッジ城の王は数千の観客、そして選手たちを見て、口を開いた。
「今日という日をどれほど待ち望んだことだろう。
強き者のみが価値を持つこの日この場所はまさしく全世界の中で最も熱き場所となるはずだ。
是非とも私の目を楽しませてくれたまえ」
歓声が沸く。
リングの上だけが異様な緊張感を持っていることはリングの上の者しか知らない。
王は歓声が静まったのを見計らって、言った。
「リングの外に出て10カウント取られれば自動的に負けとなる。
それ以外での勝ち負けの判定は全てこの私が行なうこととする。
贔屓は絶対にしない。これは神に誓って約束しよう。
フェアな試合を、そして死人が出ない事を願う。
それではここに、開会を宣言する」
再び歓声が上がった。
王は席に戻ろうと振り返り二、三歩歩いた所で突然止まった。
静寂が問いかける。
すると王は選手に向かって振り返った。
叫んだわけでもないのに、やたらと貫禄のある声はそこにいる全ての者に響いたのだった。
「勝ちたまえ、強き者達よ」
>>449へ
- 449 名前:メカ沢β 投稿日:2005/09/17(土) 21:13
- 今日はここまで。
次回は始まりから分岐しているので注意して下さい。
- 450 名前:名無し読者 投稿日:2005/09/20(火) 11:02
- 更新乙です〜
賞品にしか興味ないミキティ好きだ
- 451 名前:メカ沢β 投稿日:2005/12/02(金) 21:13
- この作品を放棄します。
今まで読んでくださった皆様方、大変申し訳ございません。
以下を理由(言い訳)とさせて下さい。
・最初の勢いだけでスレを立ててしまった為全く計画性がなかった
・他の作品や次に何書こうかと考えている内に作品に対する意欲を失った
・現在の状況においてもマルチシナリオ形式を十分に活用できていない
もうこのようなことは絶対しません。
今回は本当にスイマセンでした。
- 452 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/02(金) 21:57
- あらまあ残念
- 453 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 00:47
- 書くつもりないなら最後どうなるか教えて欲しい
考えてないならいいけど
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:20
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 455 名前:メカ沢β 投稿日:2005/12/16(金) 19:27
- >>452
本当にゴメンナサイ
>>453
以下の通りです
エンディングは三通りありました。
途中で起こるイベントの条件を満たすか満たさないかで分岐します。
@後藤が占い師に手相を見てもらう
A後藤の持っている秘色の碑をなくす
どちらも後藤絡みですね。
・ラスボスつんくエンディング(@を満たさずAを満たした場合。手相を見てもらわず秘色の碑をなくす)
モンスター界のラスボスであるつんくを倒すことで平和が訪れる。
・ラスボス飯田エンディング(@もAもを満たした場合。手相を見てもらい秘色の碑をなくす)
神玉界を統治したいと願っていた飯田は後藤が最強の神玉であることを見抜き世界征服を持ちかけるも
後藤がそれを拒否したため後藤を倒し自分が頂点に立とうと戦闘になる。
なおモンスターを作り出した張本人は飯田という設定。
四人で飯田を倒し平和が訪れる。
・ラスボス後藤エンディング(@を満たしてAを満たさない場合。手相を見てもらい秘色の碑をなくさない)
ラスボスと思われていた飯田と戦う直前、秘色の碑の効果を飯田が引き出し後藤の能力を全開放させる。
その後飯田は後藤に瞬殺され世界征服しようとする悪の後藤に三人が立ち向かうもあえなく殺される。
後藤によって世界が破壊しつくされる救いようのない終わり。
- 456 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/16(金) 22:11
- どうもです
4人の中でも吉澤主役かと思ってたんだけど違ったんですね
他スレや次回作期待してます
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