作者フリー 短編用スレ 5集目
- 1 名前:名無し 投稿日:2004/12/14(火) 03:18
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どなたが書かれてもかまいませんが、以下の注意事項を守ってください。
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なお、レス数の下限はありません。
・できるだけ、名前欄には『タイトル』または『ハンドルネーム』を入れるようにしてください。
・話が終わった場合、最後に『終わり』『END』などの言葉をつけて、
次の人に終了したことを明示してください。
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前スレ 作者フリー 短編用スレ 4集目
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- 2 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:20
- 申し訳ありません・・スレがいっぱいになってしまったようで
別れてしまいました。4集目に前半部分をのせさせていただきました。
本当に初心者で、申し訳ありません・・・。
では続きです。
- 3 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:21
- 忘れたころに一緒のチームになることはあっても。
ほとんどが別々のユニットやチームにいれられていたし。
そのうち、よっすぃもサッカー選手と付きあっていると
誰かから人づてで聞いて。
私も軽く食事に行ったりする男性は、いなくもなかった。
多分いつも彼女が一人でいるときと私が一人でいるときが
微妙にずれてて・・・。
面と向かって二人で彼氏の話を口にしたことはなかった。
自分はなんて独占欲が強い人間なんだろうって、嫌になったことも・・有る。
別に私のものじゃないのに、彼女が真琴やミキティと絡んでいるのを見ると
本番中にもかかわらず、顔に出てしまうこともあったり。
もし、もしもあの時事務所に止められていなければ、
わたしがその位置にいたんだよって。
唯一私が擬似的に心を許したもの、
公然と感情を寄り添わすことができたもの、
それがコントの「夫婦役」で。
その時間だけは、「夫」である彼女に
少しだけ愛のこもった視線を送ることができる
私の中ではちょっとだけ開放された時間だったかもしれない。
- 4 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:22
-
「写真集、見たよ。すっげーじゃん。水着ばっか。
なんかさ、照れるよね。あれ。」
いろんなこと、回顧していた私に急遽ふってきた言葉。
「そうかなー。よっすぃも今度のは水着、増えるんじゃない?」
「えー、いらんよー、そんなの。いくらなんでもビキニ多すぎだって。
梨華ちゃんのパパもよく照れくさくないよなー。娘の写真だよねー。
ちょっと複雑だったりしねえのかなー。」
私だってちょっと恥ずかしかったり。出来上がった写真をみたときに
きれいに撮ってもらったことは素直にうれしかったけど、
ページを開いてもう一回見ようって思えるのは
白玉と浮き輪のページだけだもん。
「ま、あと1ヶ月ちょっとで20歳ってことだし。
あとちょっとで卒業ってわけだし。」
最後のカルボナーラを、器用にフォークで巻き取っていく、白い指。
ちょっとだけ伏せられた、私とは違う、茶色の長い睫毛を
じっと眺めていたら、今、伝えなきゃって、自然と思った。
- 5 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:23
- 「ひとみちゃんと、同期で、ほんとによかった・・・。
なんかさ、すっごい楽しかったの、今日。
カオリンや矢口さんといるときとも違うし、
下の子たちといるときとも違う。
あいぼんやののは子供みたいなもんだし。
唯一対等に甘えられるって言うのかな。
苦楽を共にした仲間っていうかさ。
なんか、こんなのってさ、こんな空気ってさ、
すっごくいいなって思ったんだ。
なんかさ、ほんとに・・・ありがとね・・。」
「なんだよ、急に。改まってさ〜」
「うん。柴っちゃんとは親友だし、いろいろ相談のってもらってるけど、
それとは別の・・・なんて言うんだろ。歴史を乗り越えてきた戦友って
かんじ??これだけはさ、何があっても崩れないじゃん。」
「ん〜。」
「そんな相手が、よっすぃでよかったなんて、今日改めて思ったんだー」
- 6 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:24
- 二人とも、しばらく言葉を繋げなかった。
合宿のこと、そしてダンスレッスンのこと・・・
うまく歌えなくって、ホテルで泣いた日のこと・・・
走馬灯のようにぐるぐると駆け巡る。
つらかったこと、楽しかったこと、どんなときにも
側にひとみちゃんがいなかった思い出なんて、なかったんだね。
すっかり氷が溶けて薄くなったレモンティーをストローでかきまわしながら
ちょっと目頭が熱くなっていく。
ひとみちゃんがいてくれて、ほんとに、ほんとによかった・・・。
- 7 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:24
- 「また〜。なんで涙ぐんでんだよー。
卒業までにはもうちょっとあるぜい!」
そういいながらちょっとはにかんだ笑顔で。
私よりもひとまわり大きくて、真っ白い手を、
そっと私の頭の上にのせてくれた。
「泣くなよ〜。なんか照れくさいじゃん。
それにさ、お互い様でしょ?
私もさ、梨華・・ちゃんがいてくれたからここまでこれたんだし。」
ちょっと顔をかたむけ、私の目をのぞきこむ、大きな瞳を
見ていたら、それまで我慢していた涙が堰を切って頬にあふれだす。
「泣くなよ〜。距離はあったけどさ、私はいつも梨華ちゃんのこと、
みてたよ。卒業してからもさ、ずっとこの先も見てくから。
乗り越えられないようなことがあったらさ、いつでもあたしんとこに
もどってきてくれたらいい。メンバーだって、梨華ちゃんが羽ばたいて
いく姿を心から応援してるし、見守ってるよ。
あたしは・・・いつでも梨華ちゃんの心の一番近いところで
見守ってるつもりだから。」
- 8 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:25
- 低いアルトの声が、私の心の中に、心地よく響く。
乾いた大地に水がしみこんでいくように。
私の欲しかった言葉はここにあったんだと、心からそう思った。
「ありがとう・・・。ひとみちゃん・・・。」
やっとのことで口にして。
あとは流れる涙を止めることはできなかった。
私が泣き止むまでのしばらくの間、
優しく頭をなでつづけてくれる彼女の体温が
温かくて。
明日目が腫れててみんなになんて言われるだろうなんてことが
ちらっと頭に浮かんだけど。
無我夢中で走り続けてきた私たちの5年間を
お疲れさま、よくがんばってきたねって誉められているようで。
ひとみちゃんの手をずっと感じていたかった。
- 9 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:26
-
「さみーなー。やっぱ。夜になると冷えますねー。」
お店を出た私たちは来たときよりももっともっと
ゆっくりのテンポで寄り添って歩く。
ポケットのない黒いジャケットを羽織るひとみちゃんの手は
寒そうで。
私はそっとひとみちゃんの手を握る。
「なんか女の子女の子してて、恥ずいよー!」
なんていいながら、ちょっとだけ力を入れて握り返してくれる。
タクシーは道沿いに何台も止まっていたけど、
お互いにこの時間を終わりにしたくなくて。
どこに行くって決めてたわけじゃないけど、
手をつないだままゆっくり歩き続けた。
- 10 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:26
- 「またゲスト、きてね。」
そう言うと「どっかなー。事務所的には出したいメンバー、
いっぱいいるだろうしね。もしあるとしたら、辻、加護と
一緒とかかなー。頑固一家そろって、とかね。
誕生日スペシャルってのはどう?それか、やっぱ
卒業前とかじゃない?」
そう答える彼女。1月か5月か・・・春だったら
なんか遠いし、その時はなんか寂しいだろうし。
複雑だなって、またちょっとうつむいてしまったら。
つないでいた手を、指を絡ませて握りなおしてくれた。
- 11 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:27
- 「でーじょーぶだって。またさ、二人で食事とか行こうよ。
なんか距離あったけどさ。もう、いいっしょ?卒業すんだし。
娘。の枠じゃなくなるんだしさ。
20歳になるんだから、自分たちのことは自分で決めていいはず・・
だよね。あの時は子供だったけど・・・もう人に左右されないで
自分のやりたいこと、選べるよ、あたしは。」
まっすぐ前を見つめたまま、彼女の唇はそう告げる。
それが私がずっとずっと探していた言葉・・・。
忘れ去ろうとして無邪気にはしゃぎまわっていた時期。
お互いに大事な人ができてすれ違っていた時期。
長い長い遠回りをして、やっとめぐりあえた、私の心の
奥底にあった、深い想い。
- 12 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:28
- 私が求め続けてきた答えは、ここにある。
「なんか・・・長かったね・・・。」
「ん・・・。でももう見つけたから。」
かすれそうなあなたの声。
私は精一杯の笑顔で彼女を見つめる。
「なんだよーまったく・・・」
車のヘッドライトに照らされた白い頬が
赤く染まっているのに気付いて、なんだかうれしくなった。
「今、だったんだよね、きっと。」
もしかしたらずっと
すれ違ってきたかもしれない私達の想い。
いつでも私をつつんでくれる、あなたの温かい、声。
眼差し。
この人に出会えて、本当に良かった・・・
今夜の奇跡と私の運命に心からありがとうって思って。
そしてあなたにもありがとうって小さな声でつぶやいて。
私は強く彼女の手を握った。
side-R
fin
- 13 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 03:29
- 大変失礼いたしました。
以上、更新終了です。
side Hについてはまだ未定ですが、
叱咤激励などいただけると、励みになります。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 12:11
- …ラジオ聴き直さなきゃ。
そっかそっか、そーゆーことか、いしよしって素晴らしい。
side H 期待してます。
- 15 名前:器用 不器用 投稿日:2004/12/14(火) 18:35
-
時々不安になるって言えたら、どんなに楽なんだろうね
- 16 名前:器用 不器用 投稿日:2004/12/14(火) 18:35
- キュッキュッと規則正しいバッシュの音が体育館に鳴り響く
数人がまとまってボールを回したり、シュート練習をしたり
今年の県大では準優勝となってしまった結果、練習に余韻がない
なんせ女子高、女の子達に厳しいメニューを与えればそれなりの反抗はする
だがコーチの中澤は文句の一つも言わせないのだ
「こら、さぼるな」
「休憩ですって、休憩」
「アンタの休憩は20分もあるんか。はよ行き」
「はぁい」
ぺしりと尻を叩かれ、舞台からぶらんと出した足を引っ込めた
パスを受けると、シュッと綺麗にボールはネットをくぐった
朝早い練習時間の中で、一際輝くのがこの部長
吉澤ひとみだ
- 17 名前:器用 不器用 投稿日:2004/12/14(火) 18:36
- 「おーいマネージャー、タオル」
「あたしの名前はそんなのじゃないんですけど」
「うわキショッ」
「何よもうっ!」
少しだけかわいこぶって、吉澤の冷ややかな視線を受けるのは、女バスのマネージャー、石川梨華だ
本人ではキモいだとかキショいという自覚はないらしいが周りからの目線は厳しい
「ちょっと、美貴ちゃんも何か言ってよ!」
ふいに言葉をふられた、美貴こと藤本美貴は驚いてぱっと振り向く
不機嫌そうな梨華の後ろで、ニシシと得意気に笑う吉澤の顔が視界に入ってきた
- 18 名前:器用 不器用 投稿日:2004/12/14(火) 18:36
-
どくん
「あれ?美貴ちゃん今来たばっか?」
「あ、ああうん」
ぼぉっとするのは何故だろう。言わずと知れた症状にもかかわらず梨華の言葉に相づちをうつ
コーチのホイッスルに気付いた他のメンバー達は休憩を始めた
梨華もそれに気付き、持っていた名簿のリストを置いてくると舞台側に戻って行った
梨華がいなくなり、小さな距離ができる、美貴と吉澤
吉澤はふふっと微笑むとおもむろに片手を美貴の頭にぽんと置く
「まーた寝坊だろぉ」
「…う、うるさいな」
「髪の毛、ぼさぼさだよ」
「えっ?」
吉澤が指を指して笑うと、美貴は慌てて髪に手をあてる
違う。騙された
- 19 名前:器用 不器用 投稿日:2004/12/14(火) 18:37
-
「今日はちゃんとしてきたんだよ!」
「あっはっは、騙されてやんのー」
「…むかつくっ…」
「寝坊、もしかしてあたしのせいだったりする?」
ニヤッと笑った吉澤の顔に、厭らしい目つきが浮かぶ
昨夜の事を思い出すと、カッと急に体温が上がるのが分る
乱れる体と心、淫らな声、疲れと幸せに満ちた行為
全て見通しているのだ
- 20 名前:器用 不器用 投稿日:2004/12/14(火) 18:37
-
「ち、違…」
「図星っ。そりゃあそうだよね、あんなに激しく求められちゃこっちだってつかれ…」
「違うって言ってんじゃん!!このっ…」
「エロって?」
くっと美貴の手首を引き、そのまま胸に導かれる
何か言葉を言おうとしても、飲み込むように美貴はされるがままになる
「十分分かってるんで。あたしがエロい事ぐらい」
「なんっ…」
「でも、そういう瞳であたしを誘う美貴の方が何倍もエロいんだけど」
ドキドキするよ、美貴といると
どくんと胸打った鼓動は嘘ではなかった
秘めた想いを打ち明けられたその日、吉澤は美貴に心音をくれた
- 21 名前:器用 不器用 投稿日:2004/12/14(火) 18:37
- 「さ、練習もどろ」
「ちょっとよっちゃ…」
「んー?」
ぐい、と吉澤の腕を掴んで引き戻すと、ふっと美貴の顔が吉澤に近付く
いちばん伝えたかった事 あまりにも幼稚で、わかりにくいかもしれない
くいと引っ張った手を握って、美貴は吉澤の唇にちょんと口付けた
ただ触れるだけのキスが、吉澤の目つきを変えて、ますます美貴に夢中にさせる
「…不器用ー…」
タタッと駆け出した美貴を見送って、シュッとボールを投げ入れた
- 22 名前:さくしゃ 投稿日:2004/12/14(火) 18:38
- 以上、終わりです。
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/14(火) 19:28
- >>1スレ立て乙
しかし緑に6集目があるのでこのスレは「7集目」とするべきだったと思われマッスル
ちなみに5集目は青の倉庫にあったりする
・「6集目」
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1086191650/
・「5集目」
http://mseek.xrea.jp/blue/1059546339.html
- 24 名前:siro 投稿日:2004/12/14(火) 20:11
- >>14
ご感想、本当にありがとうございます。
コメントいただき、本当に励みになりました。
こんな文、のせるなって言われる前に、
書き上げたside H
一気に更新しようと想います。
では・・。
- 25 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:12
- 『運命とよべるもの』
side H
- 26 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:14
- 「久々に石川をいじれる。」
そのときはそう思った。
はじまってみれば突っ込みどころ満載の内容だったし。
ラジオのあて先をナレーションチックにすまして読む石川の顔を
にやにやしながら眺めてしまう。
「携帯のばわいは・・」
って。ばあい だろっ?
どちらかといえば冷静なほう。
誰かさんのように大暴走するわけでもなく。
そんな私が紹介もされていないのに口を突っ込むなんて、
やっぱりどこか興奮していたってことなのかもな。
- 27 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:15
- 最初におどろいたのはスタジオ入りしてすぐ。
渡された台本に、思わず目が釘付けになる。
「ひとみです」だって。
よっすぃもやるんだよって聞いちゃーいたけど。
自慢じゃないが、自虐ネタは石川の得意分野である。
私が普通に読んだって、全然、幸薄そうじゃない。
それにしても
「ひとみです・・・石川といるこの空間が、
たまらなく恥ずいとです・・・」なんて・・・。
石川がいつもの打ち合わせをしている間
ぱらぱらと台本をめくっていた私は
努めて冷静に、努めてさりげなく。
何でもないことのように読み上げることをまず心に決めた。
- 28 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:16
- それにしても。
梨華ちゃんって、呼べだの。
ケンカしたことがあるか、だの。
直したところがいいところ、だの。
極めつけはシナリオまで。
まるでカップルの扱いっぽくね?
- 29 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:17
- 本当はみんな、私が男役、石川が女役ってのを期待して
送ってきたんだろうなあっ。
そうは問屋がおろさんぞーなんて、
ちょっと期待を裏切るってのがワクワクしたり。
正直、こんなに女性リスナーからの
メールが多いなんて、驚いた。
開始前、スタッフからも
「びっくりするほど反響は多くて・・・」
と聞かせれたし。
反対されるに違いないって思ってきたから。
ちょっとでも肯定してくれてるこんなメールが
すごくうれしくかったりもして。
自分でもキショくなるほどのぶりっこの声を出してみたり。
- 30 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:18
- やっぱり興奮してたんだと思う。
そして・・・
いつもにも増してテンションが高い石川を目の前にして、
不覚にもなんか可愛いなって思ってしまった。
きっと「ハロモニ」だったら「キショ!」
で終わらせてしまうとこ。
それを私はあろうことか「可愛い」
って言っちゃってる。公共の電波で・・・。
- 31 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:19
-
初めてこの話を聞いたときには、なんとなくどきどきしてしまった。
あれほどまでに頑なに自分たちを遠ざけようとしていた事務所なのに。
今この時期に一体何を考えてる?
録音なら、取り直しもできる。
まずい発言を口走ったところで、訂正も効く。
それがよりによって生なんて・・・。
いいのか?本当にいいのか・・?
事務所の意図をあやしんで。
それでも。
本当は楽しみでしょうがなかった。
久々の空間。
二人で作り上げる仕事。
最初で最後かもしれない仕事。
失敗したら、 後はないってか・・・。
でもーーーわくわくせずにはいられなかった。
日にちを間違えて、笑われたりもしたし。
あと、何日・・・
私にとってあんまりありえないことなんだけど、
ベットに入る前に
指折りその日を数え・・・・。
ひとりでにニヤけてしまう顔を押さえきれず・・・。
- 32 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:20
-
「『よっすぃがくるから梨華ちゃんはおめかししてきたんだよ 、このやろう!
よっすぃ、憎いよ! すみにおけないよ』 ほっ・・・」
「へっ?」
正直びっくりした。もしかして、ここのスタッフさん、わざとやってる・・?
だって、ありえないっしょ。こんなの。
思わずガラスの外の人たちをを見てしまう。
いいの?事務所の許可とらなくても?
できるだけ離れた関係っぽく見せなきゃいけないうちらだよ?
あおっちゃっていいの?
顔がみるみる赤くなって、妙な空白があく、
目の前の彼女に代わって。
「すみにおけないよ〜!」なんて鸚鵡返しにして、
冗談でかわした。
- 33 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:20
- エンディングも終わり、二人でそろえる
「おつかれさまでした」の挨拶。
スタッフがチェックしてるのか、今日の放送が流れている。
ぱっと見、石川の声のほうが上ずってテンション高め。
でも、落ち着いているような自分の声が、
たるったるに甘く・・・・。
常にあごがしまってないような声っつうの?
すっげえ、恥ずかしい。こんな声出してたんだ、あたし・・・。
- 34 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:21
- 「フットサルやってるときのよっすぃはめちゃくちゃかっこいいじゃない?」
って言われて
「ん〜〜」なんて。
ちゃんと否定するかちゃかすかしろよ、自分。
嫌でも耳に入ってしまう、自分のその声が恥ずかしくって、
とりあえず手元の似顔絵に集中。
「ひっどーい!その顔・・・。
一週間もさらされるんだよ!
よっすぃがはずかしいだけじゃなくて、
私も恥ずかしいんだからね!」
なんて、放送そのままのハイテンション
高音で話しまくる彼女を適当にあしらいながら。
- 35 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:21
-
「めしってもこんな時間じゃなあ・・・」
タクシーの中でもハイな彼女と
ひとしきり漫才のような会話を交わした後。
任された店をあれこれ考えているうちに。
なんか余分なことまで思考が働いてしまって
自分でストップをかける。
タクシーの車窓にうつる、彼女の横顔。
私がさんざんバカにした前髪のゴムをはずして、
クセになった部分を気にしながら、右手でかきあげている。
この前、二人で食べにいったの、いつだったけな?
そんなことをたずねてみようかなと思いつつ、
二人っきりでのこんな沈黙もいいなって
言葉を飲み込んでシートにゆっくりと座りなおした。
- 36 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:22
- 保田さんに教わった店に、並んで歩く。
本当はサバよんでアルコールなんてのもいいんだけどな。
だって、世間の大学生なんて入学と同時に飲んでるじゃん。
19なんて余裕だよ??
でも変なところ、妙にまじめな彼女は。
「20歳をこえてからじゃないとだめよ」って
何もいわないうちから、釘を刺されてしまう。
- 37 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:23
- 「はっやいなー、一時間って。あっという間じゃない?」
あたたかいおしぼりで手をふきとりながら、
ようやく二人きりになった部屋で話し掛けた。
「うん、すっごいはやかったあ。」
「なあんか、いいよねー、生って。反応がダイレクトに返ってくる
感じ?やっぱ、翌週よむメールとさ、勢いが違うよねー。」
「そうっしょ〜?あとでふりかえるとさ、恥ずかしくなっちゃうような
失言だって多いんだけどね・・」
そりゃあそうでしょ。突っ込みどころ満載だったもん。
届いた辻からのメール。
今度はさ、ほんとに4期みんなで出れるといいねという私の言葉に、
満面の笑みで「うん」
とうなずく彼女に。
なんだかこの共有した時間がちょとくすぐったくって、
たまらなくいとおしかった。
- 38 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:24
- 私がさ、想う気持ちの方が大きかったと思うよ。たぶん。
比べてみれるもんでもないってこともわかってるけど。
初めてのコンサート。プレッシャー。
誰にも言えなくて。
不安を抱えて、眠れなくって。
ホテルに帰って一緒に朝まで話して。
辻、加護には妙にお姉さんぶる人だから・・・。
私の前でだけ涙をみせたり
その日限りで消えてしまうようなささいな愚痴をこぼしてみたり。
そんな姿を見たとき、自分だけが彼女を支えているっていう
自負があった。
華奢な肩を、愛しいとおもった。
- 39 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:25
-
「ひとみちゃんがいてくれてよかった!」
そんな言葉と、泣きはらした後の笑顔をもらって幸せを感じて
そんな日々がいつまでも続くと思っていた。
だから・・・
あのときに言われた言葉は、
育ててきた大切なーー
なんだろう・・・
照れくさいのを承知で言えば
生まれたてほやほやの
真っ白な気持ち、みたいなの??
そんなのを陵辱されたような気分だったんだ。
別に大人が思ってるような怪しい関係なんかじゃない、
人を大切だって思う気持ちの
どこがいけないの??
- 40 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:25
- でも、その後に言われた言葉。
「石川にとって今が一番ふんばりどころやろ?」
って。
だから私はーーー
距離をおかなきゃって、自分の気持ちに蓋をした。
何度かあふれかえりそうになったことはあったけど。
自分のためではなく、
彼女のためだから、
この距離を保っていこうっておもったんだ。
- 41 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:26
- それからいくつかの季節がやってきて、
ちょっとだけやけになって
すすめられるままに紹介された彼と
付き合ったこともある。
とても優しくて、スポーツマンで。
話はとても合った。
でも今考えても信じられないくらいの
スケジュールをこなして走っていたから。
寝る間を惜しんで会いたいっていうほどの情熱までは
もてなくて。
どちらからともなく離れていった。
- 42 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:26
- その頃からかな。
なんとなくコントにはまりだしたの。
石川と真剣に向き合える唯一の場所だったから。
それは悪魔だったり、一徹だったり。
ピリリとした本番の緊張感のなかで、視線を強くからませながら、
一気にテンションを上げていく。
いいものを作り上げたいという共同作業。
リハでは出なかった台詞がぽんぽん生まれてきて。
自分の集中力が一点に凝縮される瞬間。
そのうちに石川という存在も超えて、
自分が本当にやりたいこととして昇華し
才能が開花したなんていわれたけど。
それは多分気持ちの入れ込み方がなす力。
しばらくたってそこは自分の強みとなっていった。
- 43 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:27
- たまーに真琴とかとじゃれあってると、
あからさまに黒い影を背負って。
おいおい、石川さん、収録中だよなんて
心の中で突っ込みをいれながら。
そんな彼女の表情をちらっと盗み見るのが
楽しくて。
直接かかわりあうことは少なくなったけど、
悲壮感とかそんなんではなく。
それはそれで楽しみながら心の中で大切にしたい
そんな感情に頬をゆるませたり。
- 44 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:27
- 確かに。
柴ちゃんといつもつるんでメシとか行ってるのを見ると
ちぇっなんて思うことはあったけど。
いろんなこと話せる友達が側にいるってことは
素直に良かったなーなんて。
私にも大事な友達がいるしさ。
お互い、幅が広がってよかったんだよ、きっと。
それでも。
ゲームで責任を感じて泣いた彼女を後ろから抱きしめるとか。
あいつらの卒業のときに手を握り締めるとか。
本当に本当に大切なときに側にいるのは自分でありたい。
そんなときに彼女が走ってくるのは
自分だろうって、
勝手かもしれないけど、そんな自負はあった。
- 45 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:28
-
さすがに全部は食べ切れなくて、残ったクラブハウス
サンドをじっと見つめて。
ね、もしかしてさ。
今おんなじようなこと、考えてた?
まさかサンドイッチのこと、考えてたんじゃないでしょ?
一足先に覚醒した私は、なんとなく照れくさくなって、
この場をおちゃらけさせる話題に
考えを巡らせた。
- 46 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:29
-
「写真集、見たよ。すっげーじゃん。水着ばっか。
なんかさ、照れるよね。あれ。」
「そうかなー。よっすぃも今度のは水着、増えるんじゃない?」
思わぬ切り返しにぐっと息が詰まる。
「えー、いらんよー、そんなの。いくらなんでもビキニ多すぎだって。
梨華ちゃんのパパもよく照れくさくないよなー。娘の写真だよねー。
ちょっと複雑だったりしねえのかなー。」
- 47 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:30
- だってさ。あれは梨華ちゃんだからできることでしょ?
あんなん。女性の私から見たって、なんか妙にはずかしいよ。
今までももちろん彼女の写真集は見てきたけど、
今回のはなんだか照れてしまう。
こんなんを世の男性がみたらどう思うんだろうなって、
ちょっと嫉妬なんかもしてみたり。
今年でこんなんなら、
来年はどんな写真集になるんでしょうかねー、
石川さん。
「ま、あと1ヶ月ちょっとで20歳ってことだし。
あとちょっとで卒業ってわけだし。」
仕方ないところなんだろうけどね、
そう続けようとした私の言葉に
一瞬唇を真一文字に結んで。
卒業って言葉が彼女の中にもあたしの中にも
思いがけず深く刻み込まれていくのが
お互いにわかった瞬間。
- 48 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:30
- ふーっとひと息ついて
彼女は口にした。
「ひとみちゃんと、同期で、ほんとによかった・・・。
なんかさ、すっごい楽しかったの、今日。
カオリンや矢口さんといるときとも違うし、
下の子たちといるときとも違う。
あいぼんやののは子供みたいなもんだし。
唯一対等に甘えられるって言うのかな。
苦楽を共にした仲間っていうかさ。
なんか、こんなのってさ、こんな空気ってさ、
すっごくいいなって思ったんだ。
なんかさ、ほんとに・・・ありがとね・・。」
- 49 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:31
- 戦友という言葉を使った彼女。
モーニング娘。のセンターを張り続ける。
自分で望んだことにしても、
彼女の中でどれほどのプレッシャーがあったことか・・・。
私は良かった。そんな彼女を後ろから目を細めて
見ている自分で良かったから。
悲しいとき、つらいとき、
泣いて泣いて、それでもがんばって
乗り越えてきた。
強くなった眼差しが
そこにある。
- 50 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:31
- 私は。
正直さ。
やめようと思ったときもあったんだよ、娘。を。
- 51 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:32
- 自分が何をしていったらいいのかわからなくて。
なんのために娘。を続けているのか。
どこに自分の居場所があるのか わからなくて。
手を抜いていたわけではないけれど、
心がいいかげんになってた時期があった。
気付いてたよね?
梨華ちゃん。
でも何も言わないで。
ただステージの上で、
「がんばろ??よっすぃ。」
って、アイコンタクトしてくれてたよね。
- 52 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:32
- いつかはそんな日が来るのは当たり前だけど。
市井と保田さんを送り出したときの
矢口さんの気持ちがわかったから。
この人を残して娘。から先にいなくなるのだけは
やめようって思った。
あっ。違うな・・・。そうじゃない。
きっと・・・。
『離れてしまうのに』
耐えられなかったんだよ。私は。
- 53 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:33
-
「ひとみちゃんがいてくれて本当によかった・・・」
そう言って黒く彩られた睫毛がほのかにうるおう。
「また〜。なんで涙ぐんでんだよー。
卒業までにはもうちょっとあるぜい!」
なんて。
なんとなくあの頃していたように
彼女の頭の上にそっと手をのせて。
「泣くなよ〜。なんか照れくさいじゃん。
それにさ、お互い様でしょ?
私もさ、梨華・・ちゃんがいてくれたからここまでこれたんだし。」
- 54 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:33
- これは正直な私の言葉。
本当に、強くなった。
そしてきれいになったよ。
ここまでは照れくさくって
口にはできないけどね。
- 55 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:34
- 「泣くなよ〜。距離はあったけどさ、私はいつも梨華ちゃんのこと、
みてたよ。卒業してからもさ、ずっとこの先も見てくから。
乗り越えられないようなことがあったらさ、いつでもあたしんとこに
もどってきてくれたらいい。メンバーだって、梨華ちゃんが羽ばたいて
いく姿を心から応援してるし、見守ってるよ。
あたしは・・・いつでも梨華ちゃんの心の一番近いところで
見守ってるつもりだから。」
- 56 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:34
- 天才的とか何とか言われちゃって。
あぐらをかいていたわけではないけれど。
歌だってなんだって、多分
私のほうが先をいってたんだと思う。
でもいつのまにか、
すべてを自分の力で乗り越えていって。
私はいつでも守ってきたつもりで
うぬぼれていたけど、
でもほんとはそんな強い梨華ちゃんに惹かれて
引っ張っていってもらってたんだよ。
よっすぃといると安心するって
言ってくれたけど、
私はそんな梨華ちゃんを
目を細めて眺めているのが
大好きだったんだ。
- 57 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:35
- 安心して。
春がきて、卒業していっても、
私はここでがんばっていくから。
梨華ちゃんが一生懸命愛した娘。は
私にとっても大切な場所。
努力し続ける、
そんな気合だって
今は充分持っているよ。
言葉にはしなかったけど、伝えたかった気持ちを
手のひらに載せて。
泣きじゃくる梨華ちゃんの頭を
心をこめてなで続けた。
がんばったね、梨華ちゃん。
がんばるよ、私も。
- 58 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:36
-
「さみーなー。やっぱ。夜になると冷えますねー。」
日中との温度差が身にしみる。
私はいいけどさ、
風邪ひきやすいし、あなたは。
そんなことを考えながら歩いていたら、
むこうからそっと手をつないできた。
無性に恥ずかしくなって。
足はジタバタさせながら
「なんか女の子女の子してて、恥ずいよー!」
なんてさわいでみせたけど。
握り返す手にはそっと力を込めてみる。
- 59 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:36
- ずっと、このまま一緒にいたいな。
心からそう、願う。
ゲストにきてねという彼女に、
次は4期そろってかなーなんて答えたら。
ちょっとうつむいてしまったから。
私より小さい華奢な指に、
自分の指を絡ませてつなぎなおす。
- 60 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:37
- 「でーじょーぶだって。またさ、二人で食事とか行こうよ。
なんか距離あったけどさ。もう、いいっしょ?卒業すんだし。
娘。の枠じゃなくなるんだしさ。
20歳になるんだから、自分たちのことは自分で決めていいはず・・
だよね。あの時は子供だったけど・・・もう人に左右されないで
自分のやりたいこと、選べるよ、あたしは。」
そう、私は。
もうこの手を離さないよ、誰になんと言われたって。
私が求め続けてきた答えは、ここにあったから。
- 61 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:38
- 「なんか・・・長かったね・・・。」
「ん・・・。でももう見つけたから。」
かすれそうになりながら、
はっきりと言葉にする。
向けられた笑顔がまぶしくて。
自分でも耳まで赤く染まっているのがよくわかる。
- 62 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:38
- 「今、だったんだよね、きっと。」
もしかしたらずっと
すれ違ってきたかもしれない私達の想い。
ひとみちゃんって言われるのはなんかちょっと照れくさいけど。
「よっすぃ〜」
ってちょっと尻上がりな、
その甘く高い声が
私のことを呼んでくれるなら、
どこまでもついていくよ、きっと。
- 63 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:39
- ねぇ、梨華・・・ちゃん。
恋人同士ってさ。
抱きしめあってるときも、瞳は別の方向、
向いちゃってるでしょ?
でもさ、うちらは。
しっかり同じ方向を見て、
手をつないで歩いていこうよ。
- 64 名前:運命とよべるもの 投稿日:2004/12/14(火) 20:40
- すごい確立で出会って選ばれた
そんな私たちだからさ。
つながったこの気持ちを
大事に歩いていこうよ。
私は彼女を握る手に心からの想いを込めて。
今度は私が少しだけ先を歩いて
彼女を引っぱった。
side-H
- 65 名前:siro 投稿日:2004/12/14(火) 20:40
- 以上です。
お目汚し、
本当に申し訳ありません・・・。
スレを貸していただきまして、ほんとにありがとうございました。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/15(水) 18:35
- しゃぼん玉
- 67 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:35
-
(なんなんだっちゃ?この場所は?)
私はどこかの河原にいた。どこの河原であるのかまではわからない。ただそこが異常な場所であることには間違いなかった。
そこらの石ころにはこびり付いた流血のあと。丸め込まれ散り散りになって捨てられている黒いビニール袋。散乱する割れた一升瓶。
私が行き着いた世界は真っ黒な闇の世界だった。
れいなはその場で頭を抱えて考えてみた。
いつのまにか記憶が飛んでいた。確か今日は午後からオフだった気がする。仕事が終わって三々五々家路につく者もいれば、買い物に行く者もいた。そこまでは覚えている。そこまでは。
ただそれから何がどうあって、今この場所にいるのかがわからない。危機感だけがそこにあった。
(――― とにかく誰かに助けを求めなくちゃ・・・)
まわりを見渡すがもちろん誰もいない。河原は熊笹のようなものが生い茂っていて道なんてものはなかった。・・・・・・道がなければ作ればいい。だが、どの方向へ?上流?下流?
遥か上流の方を見ると黒い山影が見えた。おそらくあの山がこの川の水源なんだろう。となるとこれ以上上流に行くよりも、下流に下って行く方が得策だ。下流なら街がある可能性が高い。れいなは道なき河原をまだ見ぬ下流を目指して歩き始めた。
- 68 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:36
-
――― 歩き始めて1時間あまり。相変わらず人影はなかった。額の汗を拭きながら、もう一度まわりを見渡す。歩き始めたときから思っていたのだが、この川には防波堤がない。日本ならばある程度の川に防波堤があってもいいのだがここにはない。見渡す限り真っ平ら。最初に見えた黒い山影以外に高台さえ存在しなかった。
(一体何なんと?なんでれいなばっかこうなるん?)
愚痴をこぼしたところでどうなるわけでもない。行くしかないのだ。歩いた分、そこが道になる。
(にしても、暑いっちゃ。喉も渇いてきたし・・・。)
れいなは、体力はない方ではない。そりゃ、徒競争や持久走などの走るのは苦手だが、スタミナには自信があった。持ち前の負けず嫌いがそうさせているのかもしれない。なのにここに来てからずっと体が重い。水分を補給してないせいもあると思うが、何かがおかしい。・・・・・・何かがおかしいといっても、元々この世界自体がおかしいのだが・・・。
(――― っ!? )
ふと、れいなは何かを感じて顔をあげた。この世界に来て初めて感じた感覚だった。向こう側に何かある。
目を細めて見てみると100メートルほど先に小屋が建っていた。れいなは思わず走りだした。小屋があるということは人がいるということだ。
どんどん近づいてくる小屋は古ぼけていたが、造りはしっかりとしていた。
(人が住んでるのかな?)
小屋の周りには何かが干してあった。とうもろこしのような、キビのようなものが。
そして、そこには・・・・・・人がいた。とにかく近くまで行って声をかけてみることにした。
「あの・・・・・・。」
その人は驚いてこちらを見た。振り向いた顔はきちんと見覚えがあった。
「・・・・・・矢口さん?」
- 69 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:36
-
見かけは確かに矢口だった。だが、矢口と呼ばれたその少女は『?』を浮かべている。
「矢口さん!れいなですよ!れいな!」
矢口のもとにかけ寄って肩を揺すってみてもイマイチ反応が薄い。むしろ、迷惑そうな顔をしている。
「矢口さん!」
「・・・・お前、誰?」
ようやく矢口の発した最初の言葉に愕然とした。それでも尚、話しかける。
「矢口さん、れいなですよ!れいな!今日だって、一緒に仕事したじゃないですか?」
「れいな・・・?知らねぇな。」
「・・・・そんな。」
「矢口って誰?」
れいなは思わず膝をついた。確かに姿形は矢口なのだ。だが、矢口ではなかった。こんなことがあっていいのだろうか?
「てか、お前ここがどこだか知らねぇのか?」
れいなは首を横に振った。なぜ、ここにいるのかの記憶がないのだ。
矢口似の少女はため息を一つついたあとこうしゃべり始めた。
「ほら、そこに川が流れてんだろ。赤い川が。」
「赤い川?」
――― 赤い川。
よく見るとれいなが下ってきた川は赤い色をしていた。川であることはわかっていたが、赤い色をしていたなんてことは今更になって気が付いた。
「そいつは三途の川だ。」
「三途の川?」
「そう、三途の川だ。」
三途の川。
あまり教養が豊かとはいえないれいなでも三途の川ぐらいは知っている。
死者が渡る川のこと・・・・・・
「・・・・・っ!!??」
ここでれいなは気付きたくなかったことに気付いてしまった。
「あの・・・私、死んでると?」
矢口似の少女はこくりと首を縦に振った。
死んでる・・・・・・。『あはは・・・。』と笑いにならない笑い声をあげたあと全身の力が抜けていった。
「・・・・・おい・・・おい!大丈夫か!・・・」
そんな声を聞いた気がした。が、その時にはれいなは前のめりになって倒れていた。
- 70 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:37
-
・・・・・・・遠くでお湯が沸く音がしている。れいなはゆっくりと目を開けた。
(ここは・・・・・・?)
コンクリートで固められた壁が見える。壁には黒い染みがあちこちに散らばっているようだ。なんの染みだかわからないが気味が悪い。
薄汚れたシーツにれいなは包まれていた。どうやら、このコンクリートの壁からいって、小屋の中でベッドのようなものに寝かされているということは辛うじて理解できた。
「起きたか?」
背中の方から声がしたので振り向いてみる。
「矢口さん・・・・・・。」
「だから、おいら、矢口じゃないんだけど・・・・。まぁ、いいか。好きに呼んでいいよ。」
「あの・・・・本当の名前はなんて言うんですか?」
「おいらの名前?・・・・・もう、忘れたよ。なんたって、ここにはおいらしか住んでいないから、名前なんてどうでもいいんだ。」
矢口は寂しそうに笑った。
「ほい、紅茶。」
「あ、ありがとうございます・・・・・。」
れいなは矢口からカップを受け取る。思えばこの世界に来て初めて何かを口にする気がする。温かい紅茶はほんのりと林檎の香りがしてすぐにアップルティーだとわかった。
「あの・・・・。」
「ん?」
「あの、私は本当に死んでるんでしょうか?」
れいなの質問に矢口は首を軽く捻る。
「そいつはわからねぇな。ただ、この世界にいる限りあの川を渡らないと話にならねぇ。なんたって、三途の川だからな。」
「はい・・・・・・。」
「早いとこ渡っちまわないと酷いことになるぜ。」
矢口は真面目な顔をして言った。何が酷いことになるのかはれいなにはわからない。
「で、でも私、まだやりのこしたことが・・・・。」
「だろうな。まだ若いし。」
「・・・・・・」
「だが、これがお前の『定め』ってやつなんだよ。」
矢口はふーと息をついた。また林檎の香りが部屋中に広がった。
- 71 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:37
-
「あの・・・・・渡ったら、私どうなるんですか?」
「知ったこっちゃねぇ。だいたい、おいらはずっとここにいるんだ。向こう側に行ったことはないよ。」
「・・・・・・じゃあ、なんで矢口さんはここにいるんですか?」
このれいなの質問に矢口は答えなかった。ただ、ふふっと笑っただけでれいなの髪をなでた。その優しい温もりはやっぱり現実の世界の矢口に似ているとれいなは思った。
「お前も明日、渡っちまいな。」
「ヤダ!・・・・・だって・・・・・だって、渡ったらもう矢口さんと二度と逢えないんでしょ?」
れいなは矢口に抱きついた。
そして、泣いた。ただ、ひたすら泣いた。やがてれいなの涙は綺麗な水晶玉のように床に落ちていった。
しばらくすると部屋は静かになった。れいなは矢口の胸の中で泣き疲れて眠ってしまったようだった。矢口はれいなを起こさないようにすっと立ちあがると、再びれいなを寝顔を見た。
「こいつ・・・・まだ生き足りてねぇな。」
そう呟いて、矢口は少し考えた後、覚悟を決めた。
これから自分がやることはれいなのためにはなるかもしれないが、自分の命を犠牲にするということは十分にわかっていた。だが、今日初めてれいなを見たときからすでに矢口はこの覚悟をしていた。
矢口はここに住んでから数多くの死者を見てきた。だが、どいつもこいつも頭を下げながら口元はにやりと笑っているような奴らばっかだった。そういう奴を見ると矢口の腸は煮え繰り返った。時には血を吹かせるまで殴ったこともあった。
でも・・・・・れいなは違った。
何が違うのかは矢口もわからない。ただ、『こいつは生き足りていない』そう思っただけだった。生きたりない奴を無理に連れて行くわけにはいかない。矢口は酒を一気に飲み干すとパンをかじった。
「もっと、強く生きろよ・・・。死ぬまで強く生きるんだ・・・。」
それだけ寝ているれいなに向かって言うと矢口は小屋を出ていった。もう二度と帰ってこない小屋を。
- 72 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:38
-
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- 73 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:38
-
目に映ったのはあのコンクリートの壁ではなくて白すぎて少し気味の悪い天井だった。
横を見ると点滴がぶら下がっていた。
(ここは・・・・・?矢口さんの小屋じゃない・・・・。)
「れいな・・・・・・?」
突然、自分の名前を呼ばれて向こう側を見た。矢口ではないが、こちらも見覚えのある2人だった。
「飯田さん、石川さん・・・・・・。」
「れいなぁ!!」
「!???」
飯田はれいなに抱きついてきた。とっさのことでれいなは意味がわからない。ただ、飯田さんは泣いていることだけはわかった。
「れいな・・・・・。」
「あの・・・・・?」
「れいなも死んじゃうかと思った・・・・。」
「???」
「3日も意識がなかったんだよぉ・・・・。」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ・・・。」
まだ、れいなには状況が飲みこめなかった。
ただめったに泣くことのない飯田が泣いているということと、石川も目に涙を浮かべながらも嬉しそうな顔をしているようだった。
「私、看護婦さん呼んでくるね。」
「はい。」
飯田は泣き顔のまま部屋を出ていった。・・・・・・どうやら、ここは病院らしい。ということは・・・・
『生きている』
まぎれもなく、れいなは生きている。
息をしている。心臓が動いている。命が命として存在していた。
だがそれと同時にれいなはここである不安に襲われた。
「石川さん・・・・・・。」
「ん、何?」
「あの・・・・・・矢口さんは・・・・・?」
『矢口』という名前を聞いた瞬間、石川の顔が変わったことをれいなは見逃さなかった。
「石川さん・・・・・・。」
「ん・・・・・。」
「石川さん!」
「・・・・・・れいなは覚えてないの?」
「・・・・・・・はい。覚えてません。」
「そうか・・・・・。覚えてないのか・・・・。」
石川は病室の窓を見た。
窓の外には白すぎる雲が流れていた。
- 74 名前:しゃぼん玉 投稿日:2004/12/15(水) 18:39
-
(3ヶ月後)
―――― 東京が今日も慌しく動いている。
れいなはビルの屋上でしゃぼん玉を飛ばしていた。しゃぼん玉なんて何年ぶりだろうか?スタジオにあったいらなくなった備品から貰ってきたものであった。撮影は今、休憩に入っている。まだ、大分時間があった。
結局、れいなは矢口にもう二度と逢うことはなかった。
あの日、れいなは矢口に買い物に誘われ原宿を歩いていた。交差点に差し掛かり大通りを渡ろうとした。れいなたちの信号は青だったが、トラックは信号を無視して突っ込んできた。矢口はれいなを助けようとしてそのままトラックに跳ねられたらしい。れいなも地面に強く頭を打って意識不明の重体だったそうだ。
「れいな〜」
「さゆ」
さゆみが屋上のドアから走ってこっちにやってくる。
「もう、どこ行っちゃったのかと思った。探しちゃったよ。」
「ごめん、ごめん。しゃぼん玉飛ばしていたとっ。」
「綺麗だね。」
「うん、綺麗だよ。」
「そろそろ戻ろっか?」
「うん。」
れいなは最後にもう一つしゃぼん玉を飛ばしてみた。汚れた都会の空に綺麗なしゃぼん玉が青に向かって飛んでいく。
そのしゃぼん玉はなんだか矢口さんみたいに儚く綺麗で、そしてやがて弾けた。
今、風の音に混じって、矢口さんの笑い声が聞こえた気がした。
〜 終わり 〜
- 75 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:34
- 〜〜梨華のマンションにて〜〜
お風呂は2人とも交互に入った。ひとみはTVをずっと見ている。
梨華はひとみに話し掛けてもシカトされるので、
ソファーに座って、面白くもないTVをジッと睨みつけていた。
- 76 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:34
- 「ねぇりかちゃあ〜んD」
座椅子に座りながら甘えてひとみが言った。
「なに!」
さっきからTVばっかり見ていたひとみにムカついて
いたらしく不機嫌そうに梨華は返事した。
- 77 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:35
-
「コーンスープ飲みたいなぁ〜。」
「勝手に飲んで」
「そんな冷たいことゆ〜なよぉ。入れてくれない??」
「自分ですればいいじゃない!場所わかるでしょ?!」
「梨華ちゃんが入れたコーンスープが飲みたい。」
「あたし、もう寝るから。」
梨華は立ち上がって、ベッドに入った。
ひとみも立ち上がってベッドに入った。
- 78 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:35
- ひとみが腕の肘あたりを軽く梨華の頭に当てると、
梨華はいつものクセで、頭を上げる。
するとその頭の下にひとみの腕が入ってくる。
簡単に言うとこの形は腕枕の形だ。
梨華は、ひとみに背中を向けた。
「何怒ってるんだよ。」
- 79 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:35
- ひとみが後ろから抱きつきながら言った。
「よっすぃ〜がずっとTVばっか見てるからでしょ。」
梨華の機嫌は相変わらず不機嫌そうに言った。
「っハハ。」
ひとみが軽く笑った。
- 80 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:36
- 「なんで、笑うのよ?」
「ウチら今、喧嘩してんだよ。ウケねぇ〜?」
「なんにも面白くないんですけど。」
「面白いっていうよりも、嬉しいに近いかな。」
「もういい!」
梨華は、ひとみの腕出ようとする。
でも、そう簡単に抜け出せるわけはない。
梨華は、腕の中で、ジタバタしている。
- 81 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:37
- 「だってさ、」
ひとみは急に真面目になって言った。
そして梨華もひとみのさっきの質の違う声に気づいて、
動きを止めた。
- 82 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:37
-
「お互いに喧嘩しても、必ず仲直りすること知ってるぢゃん。
だから、『愛し合ってる』って感じがする。思わない?」
「・・・」
「痴話喧嘩って感じ。お互い大好きだから喧嘩するんだよねぇ〜。」
ひとみは腕に力を入れる。
- 83 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:38
-
「バッカみたい。」
梨華は不機嫌そうに言ったが照れ隠しっていうのがバレバレだった。
「なんで、そんなにいいことバッカリ言うの。」
「惚れ直した?」
梨華はひとみのほうを向いた。
そして、ひとみの胸のなかで、
「大好き。」
「ウチも。」
- 84 名前:痴話喧嘩 投稿日:2004/12/19(日) 09:38
- 「ほぉらね。もう仲直りしちゃたでしょ?」
「そうだね。」
〜〜『痴話喧嘩』END〜〜
- 85 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:55
-
☆☆☆☆
鐘の音が日付の移り変わりを告げる。
窓の外ではほんの少しだけ粉雪が降っていた。
そろそろ行くときが来たらしい。
男は部屋の中で赤く袖の先が白い服に着替えを済ませると、大きな袋を持って部屋を出た。
- 86 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:55
- サイレント・イヴ
- 87 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:55
-
男は孤児院の院長だった。
ここではお父さんやパパと呼ばれている。女子しかいないため時々居づらいこともある。
設立当初たった5人だったのも今では懐かしい思い出だ。
現在はたくさんの少女がここに暮らしている。
来年の春までに二人がここを“卒業”することが決定していて、
寂しい思いもした。
しかし、孤児院なんて無い方がみんな幸せの証なんだろうな、
男はふとそんな事を考えた。
ゆっくり、ゆっくりと歩く。
なるべく音を立てないことが必要とされるこの夜だけの特別な“仕事”は、
もうこれで何回目だろう。
- 88 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:56
-
☆☆☆☆
卒業後従業員として戻ってきてくれたなつみが精力的に働いてくれている。
昔はあんなに我がままだった女の子がこんなに立派になったかと思うと感慨深かった。
彼女は今説明をしてくれていた。
この孤児院における伝説を。
12月24日、この日は必ず12時までに床に就く。
そして枕元に欲しいものを書いて紙に置いておく。
そうすると次の日、それが枕元に置かれている。
伝説なんて言えるほど立派なものではないが、
いつの間にか生徒達の中ではそう浸透していた。
種が分からない、どうやってるんだ。
そんな声が毎年25日以降しばらく賑し、やがて止んでいく。
例年の流れだった。
しかし本人達は卒業してもずっとそのトリックに気がつくことはないのだろう。
なつみもきっと、未だに気づいていないのだから。
- 89 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:56
-
☆☆☆☆
まだ年齢の幼い子供達の部屋は順調に終わった。
残るはもう数人。
男は絵里とれいなとさゆみの部屋のドアを、そっと開いた。
部屋は当たり前ながら真っ暗で、文字を読み取るだけでも一苦労する事がある。
電気をつけるわけにはいかない。
だから男はあらかじめ、明るい場所にいるときは常に片目を瞑って行動する。
そうすることで文字をすぐに読み上げることが出来るようにするためだ。
男は紙を拾い上げると、うんうんと頷いて袋の中から書かれた品物を取り出した。
枕元に優しく降ろす。
少女達の寝息を確認すると、男は静かに部屋をあとにした。
- 90 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:57
-
次は年長組に入る美貴の1人部屋。
彼女は確か・・・。
予め予測を立てながら、そっとドアノブをまわす。
音を立てないようにドアを前へと押し出すと、忍び込んだ。
言いつけを守ってぐっすり眠っていることに内心ホッとしながら、
男は枕もとのカードを広げた。
覗き込むようにその文字を見ると、自然と男の瞳からは涙が流れ落ちた。
予想通りなだけに悲しい。
男はパットを枕元に置くと、涙を拭きながら部屋を出た。
次は麻琴とあさ美の部屋か。
- 91 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:58
-
☆☆☆☆
娘達が食堂で座りながらあれやこれやと話している。
学校の好きな先輩から始まり、テストの話、面白い話、嫌いな人の話、
そして、欲しいものの話。
彼女達は気づいていない、当然無意識にそれを話しているのだから。
男はここで話を一緒にしながら脳内でメモを取っていたのだ。
大概年末に欲しい欲しいと何度も繰り返している娘はそれを紙に書く。
サンタの正体を知ってか知らないかは分からないが、
彼女達は見事に毎年男の予想通りの回答を紙に残していた。
しかし、唯一困ったのが今年北海道から入ってきたあさ美だった。
彼女はこれが欲しいアレが欲しいなんてことは一切話さない。
全く望まないのだ。
だから普段の行動から予測を立てて一応準備はしたものの・・・どうなるかは分からない。
- 92 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:59
-
☆☆☆☆
音を立てないように静かにドアを開けると、
最大限に精神を研ぎ澄まして足を踏み入れる。
まずは麻琴。彼女は・・・やっぱり。
男は袋の中で最もウェイトを占めていたそれを取り出した。
朝起きたら喜びよりも生臭さに襲われるのではないか、心配しながら男はあさ美の枕元に寄った。
彼女は一体何を書いたのだろう。
一応食べ物類を適当に考えて持って来たが・・・。
男は静かに紙を開くと、思わず紙を落しそうになった。
お父さんとお母さんに会いたいです。無理なお願いを書いてごめんなさい。
男はその場で静かに涙を流した。
何も望まない、何も欲しいと言わなかったあさ美の願い。
叶えてやれない自分が、辛かった。
目に溜まった涙に揺れる視界の中で、男はまだ一文書いてあることに気がついた。
- 93 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:59
-
だから、私は何もいらないよ。いつもありがとう、パパ。 あさ美
- 94 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/24(金) 23:59
-
この娘は・・・。
その一文は、溜まり溜まった涙を流させるには充分だった。
こんなにいい娘に、自分はなにもしてやれないのか。
なにかしてやれることは・・・。
男は必死に考えた。
しかしそのときあさ美が寝返りを打って、うっすらと目を開いてしまった。
まずい。
彼女は口を動かして何かを言おうとしていたが、声にはならなかった。
言い終えると彼女は目を閉じて眠りに落ちていった。
お母さん
あさ美は確かにそう言った。
男は頭を抱えると、何もせずに部屋をあとにした。
- 95 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/25(土) 00:00
-
☆☆☆☆
ことを終えた男は食堂に座ると一人晩酌をしていた。
いつものような充実感はない。
あさ美のことを思うと、何もしてやれなかった自分が不甲斐無かった。
白雪を一気に飲み干すと、音を立てて机に落とした。酔いたい気分だった。
一人ぼっちの食堂は広すぎる。寂しい夜だった。
もう一杯コップに注いで飲みながら、ふと窓の外に視線を移す。
窓は冷たく水滴がかかっていた。それに触れてみる。
指を真っ直ぐと伸ばすと、そこだけ窓がくっきりとして、外の景色が見えるようになった。
掌でぐちゃぐちゃと窓を拭くと、男は顔を寄せた。
粋な計らいって奴か。
男は頬に三日月を浮かべると、すぐに食堂を出た。
- 96 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/25(土) 00:01
-
☆☆☆☆
娘達はおおはしゃぎで銀世界へと飛び出していった。
男はそれをただ食堂で、窓越しに微笑みながら見ていた。
外へ出た全員が全員、思い思いの楽しみ方をしている。
絵里、さゆみ、れいなは早速雪合戦をしている。
真里は年甲斐性もなく梨華やひとみ、美貴を追い掛け回している。
愛と里沙と麻琴はかまくらを作ろうと試行錯誤している。
圭織は何故雪が突然こんなに降ったのかと頭を悩ませている。
「なあなつみ」
「なにお父さん」
「サンタってホンマにおるのかもな・・・」
- 97 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/25(土) 00:01
-
男の視線の先には、あさ美がいた。
そしてあさ美は、2つの大きさが異なった大きな雪だるまの間に、
小さな雪だるまがちょこんと置かれているのを発見して、嬉しそうに微笑んでいた。
- 98 名前:サイレント・イヴ 投稿日:2004/12/25(土) 00:01
- Merry Chirstmas
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 00:48
- いい話だった。
実写にして深夜のドラマで静かになんとなく見たいと思った。
けどやっぱ小説で読めて良かった。
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/30(木) 01:10
- 素敵なお話ですね。
無性に泣きそうになりました。
- 101 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:50
- うそつき・・・」
小高い丘の木陰にごろりと大の字になって呟いてみた。
かれこれもう数ヶ月になる、晴れた日は毎日ここに昼飯を取ったり、読書をしたり・・・
雨の日もなるべくこの菩提樹が見える道を散歩コースにするように心がけていた
- 102 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:51
-
〜〜〜菩提樹の下の恋〜〜〜
- 103 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:51
- 敗戦を受け入れて数ヶ月、遠くに見える街並みには復興の狼煙が上がっていた
待ち人は今日も来ない。
思想犯を収監した収容所には殆ど囚人は居ないという。
彼女がいつ戻ってきてもおかしくはないのだが・・・。
(帰ってくる・・・今日こそ帰ってくる)
そう思っていつもここに来るのだが、日暮れと共にとぼとぼ帰る毎日だった。
- 104 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:52
- 「うそつき・・・」
木漏れ日が目に入って眩しい、腕で目を覆うともう一度呟いてみた。
そばには誰も彼女の呟きを耳にする者が居ないのに・・・。
明るく、それでいて悲しみを隠し切れずに微笑んだ彼女。
目の前で翻る白いワンピースに伸ばしかけた手を力なく下ろした自分・・・
どうしてあの時抱きしめておかなかったのか
どうしてあの時「行かないで!」と泣き喚いたりしなかったのか・・・
彼女を見るのが最後になるのではないか・・・
- 105 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:52
- そう考えると目の上においた腕に生温かいものが滲む。
「また一緒に・・・一緒に歌おうって約束したじゃん・・・!」
仰向けのまま顔から腕をどかして空を睨む。
春にはまだ早いが、暖かい木漏れ日は天使のような彼女の眼差しに似ている。
重なり合う葉の隙間から覗く晴れ渡った青空が涙でゆがむ。
あたかも自分が水中に居るかのごとく・・・
(空を飛ぶ鳥に憧れる金魚の気持ちって・・・こういうのかな・・・)
滲んだ空と同調する様に意識が混濁する――眠気に襲われた。
- 106 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:53
-
そもそも彼女とはここで会う約束はしていない
彼女の名前すら知らない、ここに居れば会えるという可能性に賭けたのだ。
- 107 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:54
- ――ある晴れた天気のいい日、ここで授業をサボって寝ていたら歌声が聞こえた。
『ねえ、それ何の歌?』
『ん〜?この歌はね・・・・』
天使のような歌声、仕草、羽毛のようなふわりとした笑顔・・・
彼女に惹かれていくのは当然の成り行きだった。
彼女と共に昼下がりの歌を口ずさむようになってから数ヶ月
昼食のサンドイッチを食べ終えた彼女を迎えに軍服を着た男達がやってきた。
『ちょっと遠くに行って来るね』
その言葉と微笑みを残して彼女は行ってしまった。
- 108 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:54
- 後で解ったのだが、彼女の歌っていた歌は反戦歌だったらしい
彼女が連れて行かれた数週間後に戦争は本土にまで及び、そして降伏を受け入れた。
父親は南方の島で、母親と自分を除く姉弟は敵軍の本土爆撃でその命を散らした。
平和の代償は余りにも大きかった・・・。
- 109 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:55
- 涙で濡れたまぶたを閉じれば鳥のさえずり、風の音に混じって彼女の歌声が聞こえてくる。
ねえ、こんなにもアナタの事を感じられるよ
アナタの歌声、ぬくもりはこんなに近くにあるのにアナタはどこに行ってしまったの?
もう、このまま目が覚めなくてもいいのに・・・
涙でゆがんだ視界が一層ゆがむ、地上に居ながら溺れるような感覚だ。
彼女の思い出に包まれながら深い眠りに落ちていった・・・。
- 110 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:55
- 寒気を覚えて目を覚ます、丘から見える地平線が朱に染まっていた。
(寝ちゃってたか・・・)
日が暮れるのは寂しい。
太陽が沈むのが彼女と別れる合図だった。
『また明日ね』
『うん、待ってるよ』
手を振ると負けじと笑顔でてを振り返してくれる。
が、その微笑みは今はない・・・
- 111 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:56
- 「待ってるよ、か・・・」
目の周りにたまった涙をぬぐい、鼻を啜りながら呟く。
「うそつき・・・」
今日何度目かの呟きを零すと枕代わりの辞書を鞄に詰め込んだ。
「待ってるのは・・・あたしじゃん!」
苛立ってその鞄を地面にたたきつけると膝を抱え込んで蹲る。
自分しかいない、この世界に一人ぼっち
この場所に一人で体育座りをしているとそんな間隔に囚われる。
- 112 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:56
-
「さみしいよう・・・一人ぼっちはいやだよぅ・・・」
- 113 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:57
-
「泣き虫さんだね・・・君は」
- 114 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 03:57
- 自分の嗚咽に紛れて澄んだ声が夜の帳に響いた。
「待ってたんだぞ?起きるの」
幻聴ではない、幻覚でもない。
菩提樹の太い木の枝に白いワンピースが揺れた。
「おかえり」
見上げると同時に溜まっていた涙が一気に零れ落ちる、先ほどとは全く逆の感情で。
「ただいま」
菩提樹の下から見上げる月よりも、彼女の笑顔は輝いていた。
- 115 名前:菩提樹の下の恋 投稿日:2005/02/01(火) 04:00
- 『菩提樹の下の恋〜Dragostea Din Tei〜』
END
- 116 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:29
-
友人とも他人とも言えない微妙な間柄である彼女の部屋にお邪魔したのはほんの些細な事からだった。
彼女は相変わらずの無表情で感情を出さずにただ淡々と喋り、招き入れて席を勧めた。
彼女の部屋には何もなかった。見かけ通りの予想通りだった。
いや、物はあるにはある。ただ、それらからはあまりにも生活感とういものを感じなかった。冷たかった。冷めていた。
一つだけ、古びたアコースティックギターが無造作に壁に立てかけられてあり、唯一それだけから温もりを感じた。
私に背を向けて紅茶を淹れてくれている彼女に、ギターを弾くのかと聞くと、金をくれるなら弾いてやるとこちらを振り向いて唇を歪めた。
私は彼女の事を何も知らない。そして彼女もきっと私の事など知らない。
教えてあげようと言っても別にいいよと断るのだろう。そして教えてくれと言っても教えてくれないのだろう。
他人を知ろうともしないし知りたいとも思わないのだろう。彼女はそんな人だ。ろうと思う。
目の前に座る彼女はカップを両手で包み、窓の方に顔を向けてどこか遠くを見つめている。
私は彼女が淹れてくれた紅茶を飲みながらそんな彼女を見つめていた。
- 117 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:30
-
私たちは喋らない。
共通の話題がないからだ。喋る事はくだらない事だからだ。
喋る事はめんどくさいし、喋ったら喋ったで余計な事まで口にしてしまい自己嫌悪に陥ってしまう。
むやみやたらにベラベラと喋る奴は馬鹿だ。と彼女が呟いていたのを聞いた事がある。
私もそうだと思った。五月蠅いのは嫌いだ。
彼女は静かだ。女性にしては少し低めな声で淡々と喋る。
その声に感情がこもったりだとかは全くない。今まで私が聞いてきた中では。
どんな時でも決して大声になったり声が震えたりなんて事はなく、
まるで音声ロボットのように決められた音量、音質で喋っているかのようだった。
それでも、それはしかたなく話さなければならない時だけであって、だから普段は全く喋らなかった。
今もそうだ。
彼女は外を眺め私は彼女を見つめ。
とてもくだらない、どうでもいい時間だ。
- 118 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:30
-
不意に彼女が立ち上がった。
立ち上がって何をするのかと思えば先程私が指摘したギターを手に取った。
一連の行動を黙ったまま見つめていた私に彼女は言った。
「今日は何だか気分がいいよ」
そう言うとギターを抱え床に胡坐をかいて、ぽろぽろと弦を爪弾いた。
それはまるでデタラメで、てんで曲なんかになっていなくて、そもそもチューニングからして合っていなかったのだけれど、
彼女は気分が良いと、大きな瞳を細めながら、そして珍しい事に少しだけ笑いながらギターを弄っていたので、
私は黙ってその音を聞いていた。
20分ほどギターを掻き鳴らし、そして突然にその音は止んだ。
目を閉じてその音を聞いていた私は瞼を上げた。彼女はギターを手放していた。ギターを手放し壁にもたれ足を投げ出して。
先程の微笑は何処へやら、またいつものアンドロイドのような造り物の顔になっていた。
まるでガラス玉のような瞳はじっと一点を見据え、ただその口元にはまだ人間らしい感情をほんの少し残して。
不満。か、怒り、か。
突き出された唇はマニュアル通りなのか綺麗なへの字を描いていた。
どうしたのだろうかと思い、やっぱり私は黙ったまま彼女を見ていた。
すると彼女は徐に立ち上がって奥へと消えてしまった。きっと寝室なのだろう。
バフっと、ベッドに倒れこむ音が聞こえてきた。
私はどうしたら良いのか分からずに、ただ彼女が勧めてくれた椅子に座り彼女が淹れてくれた紅茶を手にじっとしていた。
暖かかった紅茶は既にもう冷めている。
窓から差す夕陽が古びたギターに優しくオレンジを落としていた。
- 119 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:31
-
少ししたら戻ってくるかな、なんて思ってた自分が甘かった。
彼女はまだ出てこない。
外はもう暗い。窓から差し込むオレンジはもうとっくのとうに消え去り濃い群青が空一面を塗っている。
流石に寒くてじっとしているのも辛くなって億劫だったけれど彼女の様子を覗いてみる事にした。
彼女は寝ていた。
ベッドに倒れこみ、そのままの姿勢で寝ていた。
瞳を閉じた横顔が綺麗で、それでも人間味が全くなくて、窓から入ってくる青白い光は彼女をまるで蝋人形のように仕立て上げていた。
睫毛長いな。肌がすべすべしてるな。髪の毛サラサラだな。
そんな下らない事ばかりが頭の中を駆け巡っている。と彼女が動いた。
そして目を覚ます。
ベッドの上に起き上がり暫くボーっとしてそしてブルブルと頭を振った。
その仕草が雨に濡れた犬がよくやっているそれによく似ていて、少しだけおかしくて私は彼女に見られないように下を向いてそっと笑った。
- 120 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:32
-
彼女はベッドから降りると脇に立っていた私に怪訝そうな視線を寄越し、
それでも何も言わずにペタペタと足音を鳴らすとコップに一杯、水を飲んだ。
私はまた何も言わず、黙ったまま突っ立ていた。すると彼女がこちらを見やり口を開いた。
「駅まで送るよ」
彼女がこんなに喋るのも珍しいけれど、それよりもその発言の中身が今までの彼女からはまるで想像もつかない様なものだったので、
私はビックリして、だから聞き返した。
すると彼女は少し不満そうに顔を歪め、それでもやっぱり、駅まで送る、と確かに言った。
それが普段の彼女とは全く違っていて、そう、まるで別人のようで、
何だか自分の頭ではきちんとそのギャップが処理しきれなくてむず痒くて少し変な感じがして、
だから私は彼女からの提案を拒否した。
- 121 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:32
-
一人で帰れるから、とそう言うと彼女はあ、そう。と短く放ち、またコップに水を注いで白い喉を動かした。
その対応はいつもの彼女だった。
さっきのは自分の思い違いなんじゃないかなと思ったけれどそれはやっぱり違っていた。
空になったコップをシンクに置いた俯き加減の彼女の顔は何故か凄く寂しそうだった。
暗かったし、影のせいかもしれないし、よく見えなかったからきちんとは分からなかったけれど、私は彼女のそんな顔を初めて見た。
なのでやっぱり今日の彼女は少しおかしいと感じた。
じゃあと言って部屋を出る時彼女は下を向いたまま軽く右手を上げた。
あれは周りの、普通の人間が言葉にするならば「おはよう」「ひさしぶり」「げんき?」「またね」「ばいばい」とか、そんな感じの意味だ。
だから私も右手を上げて返した。残念ながら彼女は下を向いていて私の右手は届かなかったのだけれど。
ドアがゆっくりと閉まっていくその細い隙間から見える彼女は何だかとても小さく見えた。
アパートの階段を下りて空を見上げると濃い群青の空に白い点が疎らに散っていた。
- 122 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:32
-
それからしばらくしてまた彼女に会った。
普段と変わらず世の中を見つめるその瞳はとても冷めていて、
周りの人間が近寄りがたい、何か、まるでオーラのようなものを発していた。
出会ったのは図書館だった。
そういえば彼女はよく本を読んでいる。いつも何かしらの資料なのか読み物なのか分厚い書籍を片手に抱えている。
私が課題研究のため資料になりそうな本を物色しているとスイと、まるで滑り込んでくるように音もなく隣に並んできた。
久しぶり。私の言葉に彼女はなぜココにいるのかと聞いてきた。
相変わらずその声は冷たくてでもそれが何故か心地よくて、彼女の変わらないその態度に少しだけ嬉しさを感じた。
課題研究のための資料が必要なのだと要点だけを述べると、そう。と短く呟いて右手を上げて去っていった。
そんな彼女の後姿を見ていた。
その後姿はなぜかとても大きな壁のように、鉄で出来た分厚い壁のように思えて、
いつだったか目にした寂しそうな小さな彼女とはやっぱり別人なんじゃないかと思ってしまった。
- 123 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:33
-
今日は何か起こるのだろうか。
彼女と顔を合わすのは一週間に2、3回ほどだ。それなのに今日は。
昼になり食堂へ向かうと窓際の席に一人陣取り何か調べているのだろうか、
右手を忙しなく動かしながら左手では器用にオムライスを口に運んでいた。
今日は彼女によく会う。
でも会うからといって彼女と私には何の関係もないわけであって、だから私は彼女の隣や近くに行くなんて事はせずに、
ただ彼女と同じように一人で一つのスペースを陣取り食事を済ませた。
彼女はまだ何か調べ物でもしているのだろう。空になった食器を脇に追いやりペラペラと分厚い書籍を捲っていた。
私は彼女に声をかけることもなく食堂を後にした。
- 124 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:33
-
昼に頭のどこか隅っこの方でふと思ったことが今、現実になった。なっている。
私はまた彼女のところへ来ていた。
誘われたわけではなく、だからといって自分から押しかけたわけでもなく、ごく自然な形でこうなっていた。
私はまたこの前と同じように椅子に座り彼女もまたこの前と同じように私に背を向けて紅茶を入れている。
何も変わっていなかった。この部屋の冷たさも、私たちの今のこの状況も、前回訪れた時と全く何もかもが一緒だった。
そう、あのギターも。
彼女の手から放り出されたアコースティックギターはあの日、彼女が放り出したままの、その形のままそこにあった。
そのギターを見て彼女が弾けもしないギターを爪弾いていた事を思いだす。
ギター弾けないのに持っているんだねと言うと持ってなんかいない、そこにあるんだと、すこしぶっきらぼうに返された。
どういう意味なのだろうか。
疑問に思ったけれど質問するのはやめておいた。
彼女は馬鹿な人間が嫌いだ。物分りの悪い人間も嫌いだ。いつか愚痴るように言っていた。
彼女はやっぱりあの日と同じように私の目の前に座りカップを両手で包み外を見た。
ああ、この前と違うものがあった。
あの日はとてもよく晴れていた。けれど今日は違った。空は暗く、厚い鼠色の雲がかかっていた。
遠くを見る彼女の瞳はとても綺麗だった。吸い込まれそうなほどに。
けれどその綺麗さの中に少しだけ違和感を感じた。
彼女はカップを包み、遠い目で何かを見ている。そしてその彼女の目の前で私は彼女の瞳を見つめていた。
- 125 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:34
-
彼女が不意に立ち上がった。
ギターを弾くのかと思ったら違った。奥へ引っ込み何やらガサガサと音を立て、戻ってきた時には片手に何か紙切れを握っていた。
そしてそれを机の上に置いた。それは紙ではなかった。写真だった。
いつ頃撮られたものなのだろうか、そこにはまだ若い彼女と背の高い、髪の長い、モデルのような女性が写っていた。
その写真を見て私は驚いた。
彼女は笑っていたのだ。とても無邪気に。まるで子供のように。草原に咲く向日葵のように。晴れた日のお日様のように。
彼女は本当に、とても楽しそうに心の底から笑っていた。
それは私が初めてみる顔で、驚くと共に彼女もこのような顔で笑えるのかと思うと、
どこか安心するような、少し寂しいような変な感情を覚えた。
彼女は黙ったまま立っていた。
一通り眺めて私が写真から顔を離すと奪うようにそれを取り、また奥へ引っ込み、今度は何も持たずに出てきた。
そしてギターを抱えた。
ぽろん、ぽろんと弾く弦はやっぱり音がおかしくて、でもその音が何故かとても寂しくて、悲しくて、
外はやっぱり灰色で、彼女は無表情のまま黙って一点を見つめてギターをいじるものだから私は酷く悲しくて机に突っ伏した。
そして彼女は喋った。
いつもと変わらない少し低めの声で感情を表さずただ淡々と、誰に聞かせるわけでもなく、
もしかしたら彼女自身に聞かせていたのかもしれないけど、自分の事を、初めて喋った。
- 126 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:34
-
彼女の話を要訳するとこうだ。
自分は二年前ある女性と共にここに住んでいた。女性は年上で頭がよくて自分は全てにおいて若くて馬鹿だった。
彼女との生活はとても楽しかった。自分が楽しかったからその女性も楽しんでいるものだと思っていた。
しかし実際はそうではなく、彼女は突然姿を消した。全ての荷物をまとめ、朝起きたらいなくなっていた。
このギターだけが残されていた。
捨てようと思っても捨てられないでいる。
忘れようと思っても忘れられないでいる。
彼女が何故消えてしまったのか分からない。分からなかった。
その女性は自分にとっての全てであったのだけれどその女性にとっての自分はとても小さな存在であった。
自分は若くてそしてとても馬鹿だった。
今でも時々その女性を夢に見る。どこにいるのだろうかと、無性に会いたくなる。
と、そう語った。
- 127 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:35
-
はっきり言ってどうでもよかった。
どうでもよかったし、聞きたくなかった。
私の中での彼女はこんな弱い人間じゃなかったはずだ。
彼女の周りを構成する人間だとか、そんなのは私にとっては全くの無関係だったし、
何より必死で感情を抑えながらもやはりどこかで寂しさが現れるそんな彼女の喋り方がどうしても気に入らなかった。
寂しいなら寂しい、悲しいなら悲しい。はっきりしていてほしかったのだ。
彼女はもっと、とても強い鉄で出来たロボットのような人間なのだと思っていた。
けれど、それでやっぱり彼女も生の人間なのだと、そう感じた。
- 128 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:35
-
私は机に突っ伏したまま彼女の話を聞き、彼女は床に凭れてギターを抱えて時折ポロンと爪弾きながら過去を話した。
聞きたくはなかったけれど、それでもやっぱり彼女が自分の事を話す、いや、普通に喋る事も珍しいのだけれど、だから少しだけ嬉しかった。
一通り話すと彼女はギターを掻き鳴らして歌った。
何の歌かは分からないし、そもそも音もあっていなくてそれはとてもひどいものだったのだけれど、何故かそれは心に響いた。
今まで私が見てきた彼女という人間が一番生きているような、そんな印象を受けた。
ギターを掻き鳴らしてそれも次第にフェードアウトしていってやがて静寂が訪れた。
灰色だった外はもうその色を濃くしていた。
暗闇に私と彼女は口も聞かずにただ存在していた。
- 129 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:35
-
そしてそのその夜何がどうなってこうなったのか、本当に分からないのだけれど、気が付けば私は彼女と共にベッドの中にいて、
気が付けば私の上には彼女がいて、気が付けば私は何度も何度も彼女を求めていた。
何故こうなったのか説明しろと言われてもそれは難しい。きっと彼女も、そして私も説明する事など出来ない。
なるべくしてなったのだ。なってしまったのだからしかたがない。
そもそも私は別に女性が好きな人間ではない。今まで生きてきた中、恋心を抱いたのはすべて異性に対してだった。
そんな自分が今彼女と一つになり溶けあっている。
自分でもよく分からなかった。何故自分はこんな事をしているのだろう。
もしかしたら同情なのかも知れないと思った。
そしてそう思ったと同時にそこで同情と言う言葉を引き出してくる自分はとても醜い人間だと思った。
私の上に覆いかぶさる彼女の瞳に写る自分を見ていられなくて瞳を閉じた。
瞳を閉じて理性を手放す。自分を手放す。
そして私は彼女に操られるまま快楽の海へ溺れていった。
- 130 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:35
-
彼女はとても暖かかった。白い肌は滑らかで柔らかくて温度があって、生きていた。
普段全く表情の変わることがない彼女の頬にうっすらと赤みがさしていてそれがまた更に人間味を醸し出していた。
彼女は時折何かを思い出すように全ての動きを止めどこか遠くを見る。きっと昔の女性でも思い出しているのだろう。
悲しそうに、寂しそうに、今にも泣き出しそうな顔をして遠くを見る。
そんな彼女に少しばかりの驚きを感じると共に、愛しさ、そして何故か嫉妬を覚えその白い首に手をかけて引き寄せる。
体は熱いくせして顔だけはやけに冷たくて、両手で弄り回してはもっと頂戴と耳元で囁く。
彼女はすぐに行為を再開し、そして私を見つめる。
その顔はとても綺麗で、本当に美しいのだけれどやっぱりどこか影が差していて、とても寂しそうに見えた。
せっかくなので名前を呼んでよと言うと少しだけ困った顔をして一度だけ、とても小さな声で私の名前を呼んでくれた。
名前を呼んでくれたことも嬉しかったけれどその前に私の名前をちゃんと覚えていてくれたのがとても嬉しかった。
だから結局名前を呼んでくれたのはその一度きりだったけれど私はそのことがとても嬉しくて、
彼女が私の名前を呼ぶなんて事はきっともうあり得ないことだったので私は満足感でいっぱいだった。
ただ、私が彼女の名前を呼ぶと悲しそうに眉をしかめた。だから私はなるべく名前を呼ばないよう、
彼女に悲しい顔をさせないようにと、わずかに残っていた理性で自分をコントロールした。
今日見た彼女はどれも生きた人間だった。感情のないアンドロイドなんかじゃなく、彼女は人間だった。
- 131 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:36
-
翌朝目を覚ますと隣で寝ていたはずの彼女の姿がなかった。
何故か妙な胸騒ぎがしてベッドから抜け出し散らかった服を身に着け寝室を出る。
彼女はいなかった。
何もなかった。
古びたアコースティックギターがぽつんと、床の上に残されていた。
不思議と私は落ち着いていた。
悲しいだとか寂しいだとか何故だとかそんなことはこれっぽっちも思わなかった。
逆に、古びたギターの上に紙切れが一枚置いてあって、それがとても彼女らしくなくて、だから私はその紙切れに対して怒っていた。
紙切れにはさよならとそういった感じの言葉が書いてあった。
ほらやっぱり。これは全く彼女らしくない。
何だか腹が立って私はその紙切れをグシャっと潰して丸めてゴミ箱に投げ入れた。
- 132 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:37
-
とてもよく晴れていた。
昨日のあの鼠色の空は何処にも残っていなかった。
お湯を沸かして紅茶を淹れた。
ギターを手にとってぽろんぽろんと弾いてみた。
やっぱり変な音がして、でもその音はとても暖かくて悲しくて彼女を思い出して
今すぐ会いたくなってでもどうしようも出来なくて私はギターを抱えて静かに泣いた。
彼女今何してるだろう。どこにいるのだろう。
私は彼女のいなくなった彼女の部屋で静かに涙を流していた。
窓から差し込む光が眩しくて顔を伏せて彼女を思って泣いた。
それからしばらくして人伝に彼女が退学したとの旨を聞いた。
私はそのとき図書館にいてその場所がちょうど彼女と話した最後の場所だったのでなんだか胸がジンと痛んだ。
- 133 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:37
-
講義を終えて家に帰る。
何もない部屋。壁には無造作に立てかけられた一本のアコースティックギター。
捨てようと思っても捨てられないでいる。形在る物として彼女が残した唯一のものだからだ。
今でも時々夕暮れ、窓からオレンジが差し込むと彼女を思い出し弦を弾く。
合っていなかったチューニングはとっくのとうに直し、錆付いていた弦は張り替えて、そして彼女を思い出して爪弾く。
彼女がいなくなってもう二年ちょっとが経つ。
私は今でも彼女を思い出すし、忘れられないでいる。
あの日の事をまだ夢で見る。
- 134 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:38
-
そう言って美貴ちゃんはギターを鳴らした。
懐かしむように慈しむようにどこか寂しそうな目で遠くを見つめながら歌った。
私は何も言えずに黙ったままその悲しい歌を聴いていた。
- 135 名前:夕焼けGコード 投稿日:2005/02/03(木) 17:39
- END
- 136 名前:あいらびゅーべいべー 投稿日:2005/02/22(火) 03:11
- 今から私は大魔道士になる。いくぞいくぞ、手を叩けばもう私は大魔道士だ。
よしコラいくからな、いちにのさんのパチン。はい私は大魔道士です。
大魔道士吉澤ひとみちゃんです。コスチュームは艶やかにピンク色をチョイス。
鏡に姿を映してルンルン気分。私って結構イケるんちゃうのとフリフリブリブリしてみる。
ピンク色の衣装に身を包んだミニスカートの大魔道士、吉澤ひとみちゃんです。
プリップリッとお尻を振って振り向くと、梨華ちゃんがぼんやりと私を見つめていた。
なんだよなんか文句あるのかよ、と詰め寄って暴力を行使するフリをしつつ、
梨華ちゃんのおっぱいを揉みしだくと、情感たっぷりに「あはぁんうふぅん」と吐息を漏らした。
なんか萎えたので大魔道士の魔力で梨華ちゃんを性奴隷にしてみることにする。
「梨華ちゃん梨華ちゃん、性奴隷にな〜れ」
梨華ちゃんは狂ったように身を悶えさせて、ココっ!ココに来て!と腰をスペシャルにグラインドさせる。
やっぱり私はどうしても萎えてしまうので、くたばっちまえと言ったら、本当にくたばってしまった。
梨華ちゃんはくたばってしまったのだった。意志を持たずにプラーンとしとるスラッと浅黒い生足は、
言うなればケンタッキーフライドチキン。よだれがジュルジュルッと出る。食べたいな食べたいな。
- 137 名前:あいらびゅーべいべー 投稿日:2005/02/22(火) 03:12
- しかしそれはちびっこい脳内天使に阻止される。矢口さんは私の脳内で必死に私の良心に働きかける。
やぐたんは天使などとは全くもって思わない私であったが、矢口さんがそう必死になるからには、
なんとなくその願いを聞いてあげないということも不憫で出来ない。私は優しいのだ。
そういうわけで私は梨華ちゃんを食べちゃいたいのを我慢する。しかしその食欲は留まらないので、
その食的欲求を発散するために「マンパワー!」と叫んだ。するとどうしたことか、
モリモリと力が湧きあがってくる。こう、なんというか身体の底から湧きあがるような、
悶々とした衝動が湧きあがってくる。これは食欲は突き詰めると性的衝動に繋がるということの証明であり、
私が飛び切りダンディズムな乙女であるということの証左でもある。ギンギン。もっこり。ギンギラギン。
私は股間にたぎるような生命の息吹というものを感じ、尚且つそれは熟練した職人の闘魂を感じさせた。
未だくたばったまんまの梨華ちゃんことケンタッキーフライドチキンの皮をベリベリと剥ぐ。
それはつまり具体的に言うと、服をヌギヌギと脱がせるということだ。比喩なんて嫌い。
なぜならばマンパワーだからだ。で、そうすると浅黒い肌に似合わずピンク色の乳頭が、
ポツンチョコンという感じで、そのたっぷりとした二つの乳房の上に鎮座ましましている。
ハッハッと吐く息も荒く、私はますますギンギンになる。
- 138 名前:あいらびゅーべいべー 投稿日:2005/02/22(火) 03:13
- 君を好きになった君を好きになったと梨華ちゃんに喋りかけながらその身体を抱く。
君を好きになったというのは口から出任せ、雰囲気作りのためにポロっとこぼれたフレーズであったのだが、
不思議なことに、梨華ちゃんが愛しくて愛しくて仕方が無くなってくる。
しまった、自分に恋の魔法かけちまった。と思って、舌をペロリと出して頭を掻いた。
目を梨華ちゃんに移すと、梨華ちゃんも舌をペロリと出して頭を掻いていた。
猛烈にかわいいと思った。それだけ。君を好きになった。結局それだけ。
梨華ちゃんと私はキラキラと少女漫画のように輝く目と目でもって、互いの愛を確認する。
キラキラと輝く瞳で梨華ちゃんは私の耳に口をそっと寄せて「KUSOがしたい」と言った。
勝手にしろと言って、そこで私の魔法は途切れた。大魔道士吉澤ひとみは敗北した。
石川梨華に敗北した。奴ほどうざくてキショくて、手のつけられない奴は居ない。そう思った。
けど、やっぱり悲しいのか涙を溜めている梨華ちゃんを見るとまたこう言わずにはいられなかった。
「君を好きになった」
梨華ちゃんはまた私の目をしっかりと見据えて、今度はちゃんと「KISSがしたい」と言った。
私と梨華ちゃんはキスをした。全てがとろけた。とろーんととろけた先にイデアがあり、
そしてまたユートピアがあった。私と梨華ちゃんはそこでアダムとイブになり、禁断の果実をもぎとって、
又再びウザさとかわいさの攻めぎあいを続けるのだろうと思うと涙が出た。嬉しくて涙がでた。
- 139 名前:あいらびゅーべいべー 投稿日:2005/02/22(火) 03:14
- ぐにょーんとろーんと溶けて行く時間と存在の中で、私は君を好きになったと呟き続けた。
大魔道士吉澤ひとみは永遠に魔法をかけ続けた。ずっとずっと梨華ちゃんを好きでいられますように。
一方で梨華ちゃんも何か呟いていた。良く聞こえなかったから、何か言ったと訊くと、ううんなんでも、
と応えた。ムカツイタから首を締め上げて、吐けと命令すると、すこぶるうれしそうに梨華ちゃんは応えた。
「このまま死んじゃいたい」
私はそれを許さない。梨華ちゃんが死ぬことを許さない。私は泣きながら訴える。
「梨華ちゃん、死んじゃいや」
そう言って妙に女の子っぽく泣きつづける私を見て梨華ちゃんは不思議そうな顔をする。
「私はただこのまま死んじゃ痛いなって、そう思っただけなんだけど」
そんなダジャレは嫌いだ。と思いつつ私の顔は喜びの涙で濡れていた。
グッチョリグッショリと濡れていた。喜びの余り、私は自分が大魔道士であることも忘れて、
「そんなダジャレを言う梨華ちゃんなんて死んじゃえばいいのに」と言った。
梨華ちゃんは死んだ。美しく死んだ。私は今度は悲しみの涙をこぼした。
「梨華ちゃん生き返って」
そう言うといともあっさり梨華ちゃんは生き返ってしまった。ちっともドラマチックじゃない展開に、
私はかなり腹を立てた。「永遠に死んどけ」とつい口走った。梨華ちゃんは永遠に死んだ。
私はまたわざとらしく泣きながら、生き返ってって言ったら生き返るんだろう?と思ったけれど、
しばらくこのナルシスティックな感慨に耽っていたくて、ずーっと泣き続けた。
- 140 名前:あいらびゅーべいべー 投稿日:2005/02/22(火) 03:14
- いい加減泣き続けるのも飽きてきたので、そろそろ生き返らせていじってやるけんねと思って、
「梨華ちゃん生き返って」と言ってみた。するとどうしたことか梨華ちゃんは生き返らなかった。
何度も叫んだ。「梨華ちゃん生き返って」しかしどうしてもダメだった。梨華ちゃんは生き返らない。
じゃあせめて、と思って私は言った。「かわいい梨華ちゃん生き返って」
見事に梨華ちゃんはかわいく生まれ変わって生き返った。ウザさが掻き消えた。
そして私は寂しいなと思った。君を好きになったと言ってみても、それ白々しく響いたし、
ちっとも梨華ちゃんが愛しいと思えなかった。大魔道士吉澤ひとみ二度目の敗北だった。
そしてこの決定的な敗北を迎えて初めて気付いた事実に、私は後悔と、吐き気を覚えつつも、
その事実をここに宣言しなければならない。
私が好きなのはウザったくてウザったくて仕方が無い梨華ちゃんだったのだ。
君を好きになった。そう言って今は亡き梨華ちゃんを思い浮かべた。空はスカッと晴れ渡って、
私のその言葉を、ミドルオブノーウェアへ運んで行ってくれるかのようだった。
今日もまたウザくない梨華ちゃんがよっすぃーと私に向かって手を振りながらかわいく駈け寄ってくる。
お前なんか嫌いだ。どっかいっちまえ。そう言ってみても、もはやどうにもならなかった。
私はもう大魔道士ではないのだ。大魔道士吉澤ひとみちゃんはあの梨華ちゃんと一緒に消えたのだ。
- 141 名前:あいらびゅーべいべー 投稿日:2005/02/22(火) 03:15
- そうして自嘲的な笑みをこぼしつつ、私は走り寄る梨華ちゃんに向かって手を広げて、
「あいらびゅーべいべー」と言った。梨華ちゃんは私の胸に飛び込んで、私の顔を見上げる。
私の瞳の中にキラキラと輝くものを見つけて、梨華ちゃんは不思議そうな顔をした。
そしてそのキラキラと輝くものが私の瞳からポロリとこぼれ落ちると、梨華ちゃんは悲しい顔をして、
静かに「ごめんね」と言った。私も「ごめん」と言うと、梨華ちゃんに背を向けて、そこから走り出した。
ミドルオブノーウェアにはどうやって行けばいいんだ?
−了−
- 142 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/23(水) 20:50
- ウヘヘってなってキューンってなってズゴーンとしました。
最終的には好きです。
- 143 名前:シガレット・ゼリー 投稿日:2005/02/27(日) 16:41
- 『…と、このように、煙草に含まれるニコチンの害は
相当なものです。赤ちゃんが飲み込んだ際には、水を
飲ませて吐き出させるようなことは絶対にしてはいけません。
ニコチンは水に溶けることで更に有害になります。
最悪、死に至ります』
- 144 名前:シガレット・ゼリー 投稿日:2005/02/27(日) 16:41
- 事務所でのお茶汲みを終えて家に帰るととりあえず真っ先に
テレビをつける。今まで仕事仕事で夕方の時間帯に帰ってこれる
ことってあんまり無かったから、この時間帯のテレビ番組って
何やってんだろって思って。
観てみると健康関係の番組を一杯放送してた。
特にダイエット関係のテーマはほんと一杯あった。
ちょっと前の自分ならかなり真剣に観ちゃって、ノートに書きとめて
いつの間にかどれがどの事に効果的な方法なのかってことが
わかんなくなって、書いてることがごっちゃになっちゃって
間違ったことをまたやらかして…
だからもうノートになんか書くのは止めるべ。
一個だけ大事なことをしっかり憶えておけばいいんだ。
- 145 名前:シガレット・ゼリー 投稿日:2005/02/27(日) 16:41
- 事務所の喫煙室をたまに覗くと、天井で換気扇がガーガー言ってる
せまっこいお風呂場みたいなスペースに大の大人がいつも二、三人居て、
銀色の煙突みたいな灰皿の周りに置かれた椅子に座って笑ったり
怒ったりしながら煙草を吸ってる。廊下とそことの間には衝立が
あるだけで、中に居る人が誰なのは衝立の下の隙間から見える足の
部分と話し声でしか判断できない。
なっちは煙草吸った事あるし煙の匂いとか慣れてるから
何となくいいなあと思いながら喫煙室の前を通って給湯室に
行ってお茶を汲んでっていうのを一日に何回か繰り返す。
ある日また同じようにお茶汲むためにそこの前を通ったら、
珍しく誰も居なかった。隙間から足も見えないし声も聞こえない。
なっちいい加減お茶汲みに飽きてきてたしもしかしたら人生にも
飽きちゃってたのかな、わかんないけど、ちょっと一服しようかなって
思ったんだ。で、中に入ったの。
- 146 名前:シガレット・ゼリー 投稿日:2005/02/27(日) 16:42
- 黒いテカテカ光る椅子の上に、青いマイルドセブンが
ライターと一緒に置いてあった。
「…マイセンって青かったっけ?」
なっちの知ってるマイルドセブンは白かったよなあなんて思いながら
その青い箱を手にとってみると、ソフトケースだったからクシャッて
半分に折れちゃった。
あ、一本ちょっとはみ出た。よく見たら三本残ってるよ。
…ここ来て吸わないで出るのって何かおかしいべ。
一本吸いきって灰皿にトンと落としたら、中の水に付いてジュッって
音が聞こえた。
- 147 名前:シガレット・ゼリー 投稿日:2005/02/27(日) 16:42
- 家に帰ってテレビを付けると今日はどのチャンネルでも健康の番組を
やってなかった。音楽番組は観る気にならなくて、とりあえず何か
落ち着くもんがいいなと思って温泉番組を映しておくことにした。
そしたら登別のことをやってる。あ〜、北海道懐かしいねえ。
やっばいなあ、何かなっち死にたくなったよ。
「あっ、そうだ」
温泉の煙観てたら思い出して、鞄から真空保存できるパックを
取り出した。給湯室にあったやつ。中には茶色い濁った水が入ってる。
それからさっき帰りがけにスーパーで買ったゼリー作るための材料。
ゼラチンとか、ついでに砂糖も買っておいたよ。やっぱ甘いのがいいっしょ。
「じょーすにじょーずにでっきるっかな〜」
ゼリーなんて作るの小学校以来だべ。
- 148 名前:シガレット・ゼリー 投稿日:2005/02/27(日) 16:43
- 次の日なっちは何となくとぼとぼしながら家に帰ってきた。
復帰の日を延期するって言われて。
家に帰ってテレビを付ける。今日は何やってるんだろう。
あ、血液をサラサラにする最強の方法だってさ。あんまりなっちには
関係無さげ。
「…喉渇いた」
とりあえずテレビ付けっぱなしにして、キッチンの冷蔵庫を開けた。
ドアの裏側にある飲み物用の棚にはスポーツドリンクと作り置きしてた
麦茶がある。
食べ物置くとこの棚にはカレー用の豚肉一パックと、三個パックで
売ってたプリンの空容器に昨日作ったゼリー流し込んで固めたやつ。
しっかりラップかけて。
- 149 名前:シガレット・ゼリー 投稿日:2005/02/27(日) 16:43
- 改めて見ると麦茶と色がそっくりだなって思った。
あ、よく見ると黒いツブツブが浮いてるよ。ちゃんと濾したんだけどなあ?
そのまんま液体で保存しておいたら間違って飲んじゃいそうだなって、
ゼリーにしといてよかったよ。絶対マズイだろうから砂糖も入れておいたし、
やっぱ女の子は甘いものが好きっしょ。
「やーどんな味がするのかねえ」
ほんのちょっと興味が湧いたけど、今はただ喉渇いただけだから我慢して
スポーツドリンクを手に取った。
でも何となく、
これ食べる時が来ないといいなあなんて、なっち
ちょいとだけ思ったんだよね。
<END>
- 150 名前:前へ進め 投稿日:2005/02/27(日) 22:33
-
うまく言えないな、きっと・・・。
- 151 名前:前へ進め 投稿日:2005/02/27(日) 22:34
- 私がモーニング娘。に加入したのはもう5年も前のこと。
同期がちびっ子2人に垢抜けない下がり眉の子。
勝ったも同然な気持ちになった。
同期の中で、一番戦力になりうるのは自分だと自負していた。
でも、いざ蓋を開けてみたら、自分にとってなんとも想像外の結果だった。
必死にがんばる三人に気が引いてしてしまい、何もできなくなった。
わかってる、それは他の三人のせいにして言い逃れしているって。
がんばるのが怖かった。
がんばっても結果出なくて、自分の才能の限界が示されるのが。
この業界はがんばってもどうにもならない部分があるんだと自分に言い聞かせて、
ただただ目の前にある仕事を最低限にこなしていけば、満足だった。
いや、満足でもないか。
心の底ではいつだって目立ちたかったし、センターだってもっとやりたかった。
- 152 名前:前へ進め 投稿日:2005/02/27(日) 22:35
- 辻はその天性のおもしろさと無邪気さで、加護は愛くるしさと癒し系ぶりでそれぞれ活躍して、二人で卒業して今ではWとしてTVやイベント、ミュージカルに大忙し。
石川は初めこそ出遅れた感があったが、それは今となっては推しも推されぬハロプロトップクラス。
娘。の顔としてあり、被写体としての美しさはハロプロ一なんじゃないかと思うくらいに成長していて・・・。
そして、卒業も決まった。
いつのまにか私は取り残されてしまった気がしていた。
私はトークもダンスも後ろのポジションが定位置で、歌のパートもあまり無くなってしまい、一時期本当に辞めてしまいたかった。
- 153 名前:前へ進め 投稿日:2005/02/27(日) 22:37
- こんなに苦しい思いをするぐらいなら、いっそ辞めてしまうほうが楽であった。
そこで引き止めたのが、綺麗になったとはいえどもあの下がり眉だけは相変わらずなあの子だった。
「よっすぃ〜は、わかってない。自分の力わかってない。本気出してみなさいよ!」
卑屈になっていた私にイライラした石川が私に言った一言だった。
「お前に何が分かる?」なんて言って、石川を泣かせてしまったけど、私の胸に火を着けるには十分な発火剤だった。
とにかく綺麗になろう、とにかく歌えるようにしよう、とにかく今できることを・・・。
辞めるならそれからでも遅くない、そう思えた。
- 154 名前:前へ進め 投稿日:2005/02/27(日) 22:38
- それからというもの、食事制限をしたり歌の練習をしたり、自分なりにがんばっている。
丁度始まったフットサルに私の居場所を見つけられた気がしたのも気のせいではない。
気が短い私にはぴったりの企画で、スポーツは努力の成果がはっきりと目に見える形で、結果に残り、やりがいを感じられた。
私、行けるかもしれない。
娘。のサブリーダーになった今、先のことを考えながら仕事をしている。
あくまで娘。の先のことだ。
私に出来ることなんて上部の人間からしたらたかがなものかもしれないが、私なりに娘。を良くしていきたい。
下がり眉のあの子の努力している姿を娘。の中に残しておかなきゃって思うし。
- 155 名前:前へ進め 投稿日:2005/02/27(日) 22:39
- 自分ばかり見ていた頃と違って、段々と周りを見渡せるようになって、私は一回り成長したのかもしれない。
だから、今なら言えるかもしれない。
今なら・・・。
「石川、あのさ・・・ありがとうね。」
「え?何?何か言った?」
「・・・・いや、なんでもない。」
「教えてよ〜、なんか意味有り気な感じだったよ〜。」
「いいよ、めんどいし!もう言わねぇよ〜!」
「いいじゃん、教えてよ〜〜〜!」
「うるへぇ〜〜〜!」
<END>
- 156 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/03/02(水) 00:48
- なんだかなあ・・・
- 157 名前:ほら、愛してる? 投稿日:2005/03/16(水) 00:13
-
ぺらり、ぺらり、乾いた音を立てて、雑誌のページが捲られて行く。
「………。」
「………。」
ぺらり、ぺらり、一定の間隔で。
「………。」
「……ねぇ。」
ぴたり、止まった指先。
「?」
「重いっちゃよ。」
「うそぉ。」
「ずーっと、乗っかられてたら、重いっちゃ。」
「えーっ。」
「えーっやなかぁ。」
くてぇと、れいなの背中に張り付いたまま、離れようとしない絵里。
「だって、れいな雑誌読んでるしー。」
ぎゅっと抱きしめる。
「邪魔しちゃ悪いかなーって思ったから、一緒に雑誌読もうと思ったんだもん。」
「って、乗っかられていたら、邪魔だって思わんと?」
「んー?れいな温かい。」
「………。」
ぺらり、ぺらり、いつの間にか、背中からは寝息。
そんな休日もいっかぁって、思ってしまう。
愛ってやつ、感じるし?
End
- 158 名前:さようならにさようなら 投稿日:2005/03/20(日) 20:22
- おもしろくねー
そう言って逃げ出したのは、自分だったけど
一度で良いからこのカラダを誰かさんととっかえて
自由に走り回りたい
そんな願望は神様に聞いてもらえる事もなくただの夢として終る
わかってるのにね
追い求める
- 159 名前:さようならにさようなら 投稿日:2005/03/20(日) 20:22
-
充電しっぱなしだった携帯から漏れる着信音に気が付いて目覚めた
何故か病院臭い自分の部屋を見渡すとカーテンから薄い光が零れている
何でココまできてしまうのだろう
こんな事考えているのは自分だけなんだろうか
馬鹿っぽさが妙に目立ってほとほと疲れる
喉を奮わせかけてやっとこさ思い出した
あー、もういないんだっけ
音として出されそうになった恋人の名前をそのまま飲み込んだ
気分が悪い
それだけがあたしとこの部屋を満たしていた
捲り忘れたカレンダーの存在さえもあたしを罵っているように見える
フラれた事なんて星の数ほどある
どれもこれも旨く無い遊び半分の恋愛だったことは今でも自覚はしていた
今どうしてるかな
あの子やこの子、あ、あんな子までいた
みんなみんなあたしを、あたしだけを見ていたんだと思う
- 160 名前:さようならにさようなら 投稿日:2005/03/20(日) 20:23
-
受けつけられなかった自分は酷く残酷だったんだろうな
どんなに熱く抱きしめられても、どんなキスをもらおうと
ただ笑顔で相手をあやすだけの自分
最低クラスにいたと思う
どうしても上級に上がりたくて辿り着いたのがこの部屋だった
全ての思いでが詰まってる、格好良く言えばメモリールーム
そのまんまか
- 161 名前:さようならにさようなら 投稿日:2005/03/20(日) 20:23
-
「―――――」
「――――――!!」
「――」
「――〜、―?」
「…―――!」
「―!?」
彼女となら、どんな言葉でも受け入れられた
会話の内容は残念ながら一切記憶に残っていない
ただ曖昧ではない証拠はある
あたしは彼女の事が、大事だった
好きだったっていう事は本当だ
行かないで、傍にいて
だから
どこにも行かないで夜中抱きしめ合った
好き
だから
深い所まで触れて愛した
バイバイ
だから
彼女がいう通りにした
- 162 名前:さようならにさようなら 投稿日:2005/03/20(日) 20:24
-
全てがあたしから消える事はないと思う
そう簡単に忘れられる事じゃないからだ
約束、って小指を絡ませたヒミツも
寒くて凍えた夜は二人で温めあった事でさえも
忘れられなくなってるんだから
- 163 名前:さようならとまたあした 投稿日:2005/03/20(日) 20:25
-
『へー、よっちゃんらしいね』
「ありがとう。褒め言葉としてとっておくよ」
『勘違いも程程にね。あ、今からそっち行って良い?』
「いいけど、皮肉るなよ」
『何が?』
「やっぱりミキの方が良かったんだー、って。今のあたしには通用しないからな」
今、だけじゃないか
多分しばらくはこんな状態が続くだろう
そして無空間になった部屋は見事に物で埋め尽くされた
それもこれもあたしの努力の賜物だと思う
嫌味っぽく電話口で大笑いした親友は、『どうだろうね』と言って電話を切った
まあ、大体想像はついていたけど
- 164 名前:さようならとまたあした 投稿日:2005/03/20(日) 20:26
-
「……あー……ツラ…」
彼女が居なくなって
あたしは変わった
全て何もかも
泣く事も覚えた
諦めた?
違うでしょ
ちょっと、ひと休みだよ
ああしょっぱい
しょっぱいな
だけどもうすぐ
甘くなるのかな
- 165 名前:作者 投稿日:2005/03/20(日) 20:27
- 途中でタイトルが変わったのは意図なので気にせずに。
- 166 名前:作者 投稿日:2005/03/20(日) 20:28
- ああごめんなさい、一応いしよしみきです。
先程書き忘れましたすいません。
- 167 名前:暇人 投稿日:2005/03/22(火) 18:03
- 自然とイメージできる3人…
良い作品をありがとうございました
- 168 名前:魅せられて 投稿日:2005/04/17(日) 03:12
- 神様から授かった才能というのは、間違いなくあるのだと、この人を見るたびに思い知ります。
ステージの中央に背筋を伸ばして立ち、眩しいライトを全身で浴びて気持ちよさそうに目を細める後藤さん。
イントロのリズムに合わせて、あなたのしなやかな手足が空間を大きく切り取っていくのです。
いつもは眠たそうな目がパワフルなエネルギーを秘めて燃えるように輝くのをみると、
嫌でも鼓動が高鳴ります。
そこに歌声が加わると、もう、後藤さんしか目に入らなくなっちゃいます。
伸びやかで、カッコイイ歌声。
ロック調の曲を歌いこなすのは、私にとってひどく難しいことなのに、あなたは気持ちよさそうに
空気を自分の色に染め上げていくのです。
- 169 名前:魅せられて 投稿日:2005/04/17(日) 03:13
- ぞくぞくと興奮が背筋を走る。鳥肌が立つ。あなたに酔う。
挑戦的な眼差しに煽られ、唇に浮かべられた微かな笑みにひれ伏したくなる。
曲の合間に溢れんばかりの歓声を受けながら、軽く両手を広げて上を仰ぐ後藤さんが、
このまま空に昇っていきそうな錯覚に襲われました。
近くで見るから、感じるから、余計に伝わってくるその抗い難い魅力。
自分も歌を歌うから、ダンスを踊るから、余計に分かってしまうその圧倒的な実力。
後藤さんが練習を積み重ねてきた人だということは知っています。
だけど、こんなふうに、水を得た魚みたいに生き生きとオーラを放って人目を呪縛してゆくのは、
天賦の才としか思えません。
- 170 名前:魅せられて 投稿日:2005/04/17(日) 03:13
- 「…すごい…華やか……」
曲が終わっても心地よい余韻が全身を包んでいます。
半ば放心状態でうっとりと呟くと、後ろから私を抱き締める腕が伸びてきました。
「――見惚れてくれるのは嬉しいんだけど、本人が傍にいるって分かってる?」
テレビに流れるスタッフロールから視線を外して後ろを振り返ると、ブラウン管に映っていた顔が
私を見つめていました。
「だって…! 本当に後藤さんはすごいんです! ものすごく綺麗で、かっこよくて、歌が最高で…っ」
言い募る私の目の前で、後藤さんの唇が微かな笑みを刻みました。
少し意地悪な、甘い微笑。
ドキン、と胸が大きく鳴ります。
- 171 名前:魅せられて 投稿日:2005/04/17(日) 03:14
- 「紺野はステージの上の後藤が好きだねー」
「そ…それ、は……」
「好きなのは、ステージの上の後藤だけ?」
本当に意地が悪いです、この人は。
からかうように私を見つめる、少し茶色を帯びた綺麗な綺麗な瞳。
そこに映る私は、ドギマギと頬を染めながら視線を揺らしていました。
「ねぇ、紺野…?」
すぅっと顔が近付いてきました。
ドアップ。
こんなに近くから見ても耐えられるくらい、後藤さんの顔は整っています。
同時に、同じ距離から見られている事実に気付き、私はわたわたと俯きました。
「せっかく二人っきりでデートなのにさぁ、紺野、後藤のDVDばっかり見てるし」
何か妬ける。
拗ねたように唇を尖らせる後藤さん。
- 172 名前:魅せられて 投稿日:2005/04/17(日) 03:15
- 「や、妬けるって…、両方、後藤さんじゃないですか…」
俯いて後藤さんの胸元を見詰めながら反論すると、頭上から少しだけ笑う気配が伝わってきました。
同時に、耳元に柔らかな唇が当たるのが分かります。
「ホンモノがいるのに、DVDばっかり見ることないじゃん。それとも、紺野が好きなのは、
ステージの上の後藤だけ?」
吐息が鼓膜を擽って、私は少し首を竦めてしまいます。
「ち、違います」
「ん? 何が違うの?」
本当にこの人は意地悪です。
「後藤さんが好きです。全部、好き……」
ああ、もう、自分がどれだけ真っ赤になってるか、鏡を見なくても分かります。
ほっぺたが熱い。
- 173 名前:魅せられて 投稿日:2005/04/17(日) 03:15
- 「後藤も、紺野が、好き」
クイっと顎に指がかかり、顔を上げたその先、吐息が絡む距離に後藤さんの笑顔がありました。
恥ずかしさも忘れて、思わず見惚れてしまいそうな笑顔。
柔らかくて優しくて温かくて。
「――…この笑顔は、紺野専用にしてくださいね?」
カメラの前では、他の人の前では見せないでください。
ぽろりと零れ落ちる私の願い。
後藤さんは、きょとんと瞬いて、くしゃりと笑みを深めました。
「殺し文句だね」
後藤さんの優しいキスが私の額に落ちました。
「どれだけ後藤が、紺野の天然に振り回されてるか、知ってる…?」
「――ごと…さん」
天然、にちょっと引っかかりましたけど、甘い甘い囁きにぼーっとしてきます。
「どれだけ、アナタに魅せられているか、教えてあげる」
教えてください、後藤さん。
いっぱい、いっぱい、教えてください。
紺野も貴女に伝えます。
後藤真希という一人の人間に、どれだけ私が夢中にさせられていることか。
そして、そんな貴女が私の一番近くにいてくれる幸せに、どれほど感謝していることか。
「…あいしてます」
ゆっくりと唇と唇の距離がゼロになりました。
<END>
- 174 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/17(日) 23:17
- いい。
- 175 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:39
- バッテリー
仙台といえば、やぐっつぁんの大好きな牛タン!
それから、眼帯したおサムライさん!
球場に向かうバスの中でガイドブックを見ながら、新垣、ちょっと勉強したんですよ。
愛ちゃんに宝塚の音楽でジャマされましたけど。
なんで仙台にやって来たのかというと、わたしたちモーニング娘。が新しくできた
野球チームの応援をですね、させていただくことになりまして、今日は試合の前に
球場に来たお客さんと選手の前で、応援歌の「THE マンパワー!」を歌うことに
なっているんです!
衣装は白とえんじのレプリカユニフォーム。
羽根をイメージしたEAGLESの文字が胸に入っちゃってるんです!
チョーかっこよくて、かなりワクワクするんですけど。
- 176 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:41
-
ちなみにまだセレモニーまで時間があるんで、控え室で待ってます。
みんなそれぞれお喋りとか、吉澤さんは読書ですね。
当たり前のように肩にもっさんが雪崩れて洟かんでます。
やぐっつぁんは携帯のゲーム機に夢中になってて。
石川さんは亀ちゃんとしげさんの間に割って入って会話してます。
田中ちゃんはひとりで窓の外見て何か喋ってて。
まこっちゃんとあさ美ちゃんは差し入れの「萩の月」をおいしそうにパクついてます。
まぁ、いつもの光景です。
アレ?
愛ちゃんがいない。
たった今までおとなしくイヤフォンで宝塚のMD聴いてたのに。
- 177 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:42
-
「のぅのぅガキさんガキさん」
「なに愛ちゃん」
いた、と思ったら。
どっから探してきたのか野球のグローブをわたしの胸に押しつけてきました。
「はぁ!?」
「キャッチボールしよっせ」
「えぇ〜今ぁ?」
「そうやよ」
「はぁ!?ここグラウンドじゃなくて控え室なんだけど!」
「ほやで廊下でやればええって」
- 178 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:45
-
(廊下でやればいいって問題じゃなーい!)
愛ちゃんにとっては場所とかそんなことはどうでもよくて、わたしが愛ちゃんの
意向に賛同するかしないかが大事なことなのだ。うんと言わないと――。
「ガキさんあーしのこと嫌いなんや…」
「なんでそういう話になるかなあ!」
ええ、諦めて高橋愛に腕を引っ張られて、廊下に出ましたよ。
愛ちゃんは今暗い顔をしてたのが嘘みたいに明るくなりましたよ。
「どんなもんか自分でやってみんとわからんし」
「愛ちゃん…」
そこで愛ちゃんの呟くような一言が、胸にズバッと来て。
わたしはみんなの前で自分達の歌を心を込めて歌うことだけに気を取られてて、
だけど愛ちゃんは違ってたんですよ。実際にキャッチボールをやってみて、選手
達の気持ちをちょっとでも分かろうとするって、大事なことなんですよね。
――愛ちゃんのこういう熱心なとこ、ほんと感心する。
お豆も見習わなきゃいけないですよ。
- 179 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:47
-
で。
タタタッとわたしから遠ざかった愛ちゃんは、さっきグラウンドで選手たちの投球
練習を見ていたとおりに、振りかぶって、バレエ仕込みの足をスッと高くあげると、
どうだ、とばかりに、わたし目がけてボールを投げ付けてきました。
「わわっ」
(いきなり手加減なしかよ!オイ!)
目を白黒させてなんとかキャッチしたわたしの顔を見て、鼻の根にくしゃっと
しわを寄せて愉快そうにキャッキャと笑ってる。はいはい、ったくもぉ〜。
「愛ちゃんナイスボール!」
なんだかんだ言ってこっちも応えてあげちゃってるんですよ。
(……ああもう手のかかる)とか思いながら。
- 180 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:50
-
愛ちゃんには、眠いバスの中で宝塚の音楽を聴かせられたり、読書の邪魔を
されたり、「愛ちゃーん!」って怒りたくなる時もあるけど、不思議と憎め
ない子なんですよ。愛ちゃんて。歌だって、ダンスだってすごい上手で、黙
ってればクールでかっこいいのに、中身はそうとう自分勝手で天然なヒトで
すよ。付き合うとわかりますけど。でもあの鼻の根にしわを寄せたあられも
ない笑顔を見ると、怒る気が失せちゃう。
だって愛ちゃんが作り笑顔のできない人だって知ってるから。
いつもまっすぐで正直で、ただ純粋なのだ、だなんて、愛ちゃんより2コ下
のわたしが言うのもオカシイですけど、だってほんとに子供ですから!
わたしはそんな愛ちゃんにいつも振り回されている。
でもこれも運命だと思ってますから。
だって愛ちゃんは――
- 181 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:52
-
「ガキさーんボール返して」
訛りの抜けきらない早口な声で、ぶんぶんと両手を振る愛ちゃん。
愛ちゃん。愛ちゃんはわたしの大好きなモーニング娘。をひっぱってってくれる人
だと思ってるんだからね。そのためだったらお豆は……新垣里沙はどんな球だって
受ける覚悟があるんだよ?
「愛ちゃんの豪速球を受け止められるのは、わたしだけだからね!」
チョー恥ずかしいけど、ふたりだけだから、言っちゃったよ。愛ちゃん。うわぁ〜。
- 182 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:54
-
「ガキさーん…」
- 183 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:55
-
「はよしねまー」
………。
- 184 名前:バッテリー 投稿日:2005/04/25(月) 10:57
-
おーい!(怒)
照れ隠しなのか、気づいてないのか。気づいちゃいないんだろうなぁ、あの顔じゃ。
お豆としたことが、なんで愛ちゃんに返事を期待しちゃったんだろう。
でも、でもですよ、キャッチボールの相手にわたしを選んでくれたってことは、
愛ちゃんの中に新垣里沙は、ちょっとはあるってことじゃないですか。
宝塚の何百分の一かもしれないけれど。
こんな愛ちゃんの暴投を受け止められるのも、わたしだけだから。
心のひろ〜いわたしは「はぁ」と肩でため息をついて、力の抜けたボールを、わたし
以上にせっかちで鈍感な愛ちゃんに向かって投げ返したのでした。
川*’ー’)<めでたしめでたしやよー。
||c| ・e・)|<…じゃなーい!
- 185 名前:SISTER 投稿日:2005/04/25(月) 10:59
-
SISTER
お姉ちゃんはさゆのあこがれ
お姉ちゃんはさゆのお姉ちゃん
さゆより全然歌がうまくて、ダンスだってキレイ(かわいいの1番はさゆなの)
今日もじっと見つめていたら、エリにからかわれたの
だって大好きなんです
歌を歌ってる時はオトナっぽく見えるのに、ふだんはおっちょこちょいで
さゆがやってあげないとなぁんにもできないとことか
- 186 名前:SISTER 投稿日:2005/04/25(月) 11:00
-
「吉澤さ〜ん、ジュース買ってきましたよ〜」
あ、新垣さんだ
さゆ、新垣さんは恐くてちょっと苦手なの
「ガキさん! 」
ああ、お姉ちゃんが行っちゃった
ずっとさゆのそばにいてほしいのに
新垣さんと楽しそうにしゃべらないで欲しいの
「あのふたりぃ、仲良いよねぇ」
いつのまにかエリがさゆのとなりにいて
細い目をもっと細くして「うへへへへっ」て笑うの
こんな時のエリはいつもイジワル
もう知らないの、お姉ちゃんなんか
「お姉ちゃんの、ばか」
- 187 名前:SISTER 投稿日:2005/04/25(月) 11:02
-
「ガキさ〜ん、悪いんだけど、美貴にもジュース買ってきて」
新垣さん、今度は美貴ちゃんに用事を頼まれて外に出ていったの
それでお姉ちゃんがさゆのとこに戻ってきたの
「ガキさんに宝塚のビデオ観るよって言ったら今はダメやて断られてもたわ。
シゲさんと亀ちゃんは観るやろ? 一緒に観るがし」
お姉ちゃんは黒いバックからビデオを出して、楽屋のビデオデッキにセットした
スミレのなんとかっていうお歌を歌ってとってもうれしそうなの
エリは「すぃません。絵里ぃ、おトイレ行ってきますっ」って言って
いなくなって帰って来なかったの
ジャジャジャーンって大きな音が流れると、鏡の前にいた矢口さんと石川さんが
眉をひそめてこっちを見たの。でもお姉ちゃんは平気なの
お姉ちゃんは大好きな宝塚をさゆに一生懸命説明してくれるけど、
さゆ、正直、興味ないの
宝塚は濃いアイメイクが恐くてかわいくないの
さゆ、かわいくないものは嫌いなの
- 188 名前:SISTER 投稿日:2005/04/25(月) 11:04
-
今、さゆが興味があるのはさゆと、お姉ちゃん
一生懸命なお姉ちゃんってかわいいナ
「んなぁ〜シゲさん聞いてんざ」
「だってお姉ちゃん見てるほうが楽しいんです」
「あかんて。宝塚のビデオ見るでの」
耳を真っ赤にして、あわててる
さゆは首を傾けて瞬きもしないでもっと見ちゃう
お姉ちゃんは「なぁ〜もぉ〜」って言いながらもっともっと困った顔して
傾いたさゆのうさちゃんしばりのかたっぽを
薬玉を引くみたいに強くひっぱったの
「お姉ちゃん痛いの」
「あらごめん」
パッと手を放して、キョトンとしてるお姉ちゃん
お姉ちゃんっていきなり何するかわかんない
でもそんなところもさゆにはミラクル
从*・ 。.・)<エンドマークなの
- 189 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 18:11
- バッテリー SISTER
どっちもどえらくよい
- 190 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/26(火) 07:00
- 面白い!
さゆ愛凄すぎ
- 191 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/26(火) 17:13
- キャラがらしくていい。高橋視点もみてみたいとか思った。
- 192 名前: 投稿日:2005/04/30(土) 13:35
- 朋友と姉妹を一度に読めるとは思ってませんでした。
作者さんありがとうありがとう。
- 193 名前:私の生徒達 投稿日:2005/05/15(日) 17:59
- 私は、夏。
2005年5月7日、武道館。
今日、私は教え子の晴れ舞台を見に来ている。
- 194 名前:私の生徒達 投稿日:2005/05/15(日) 17:59
-
この連中とも随分と長い付き合いになった。
最初に出会った事は今でも鮮明に覚えている。
「御願いします、どうしても踊りたいんです!!」
「先生の力が我々には必要なんです!!」
- 195 名前:私の生徒達 投稿日:2005/05/15(日) 17:59
- 目を瞑ると、思い出が走馬灯のようによみがえる。
.........
「練習をはじめるぞ!!」
.........
「はい
声出して行こう!!」
.........
「どうした?!
そんな事じゃ、モーニング娘。には遠く及ばないぞ!!」
.........
「違う、そこのターンは..」
.........
「やる気のないやつは帰れ」
.........
「そうだ!!
やればできるじゃないか!!」
- 196 名前:私の生徒達 投稿日:2005/05/15(日) 17:59
- 公演がはじまる。
みんな一生懸命踊っている。
誰一人欠ける事なく、
あの運動オンチ、リズムオンチの連中が、よくぞここまでになったものだ。
そうだ、自分に自信を持て。
今のお前達は、あの時とは違う。
- 197 名前:私の生徒達 投稿日:2005/05/15(日) 18:00
- .................
.................
.................
公演終了後、私は卒業証書を渡した。
「もう私に教える事は何もない。」
一言、そう発するとその場を去る。
背中に私を追う声が聞こえてきたが、私は振り返らない。
振り返れば泣き顔を見られてしまう。
「..整列!! 夏先生に礼!!」
「「「「「「「「「ありがとうございました!!」」」」」」」」」
角を曲がると、私は泣き崩れてしまった。
ありがとう。お前達の事、私は忘れないから。
- 198 名前:私の生徒達 投稿日:2005/05/15(日) 18:00
- こいつらは、これからも、踊りつづけるのであろう。
そう、ハロープロジェクトがライブをし続ける限り。
- 199 名前:私の生徒達 投稿日:2005/05/15(日) 18:01
-
....................
....................
....................
....................
「おい、見たかよ? あの連中?」
「ああ、何者なんだ あいつら? 振り完璧だったよな」
「それに初公開のフリもあったのに。なんでそれをあいつら踊れるんだ?」
「さぞかし名のあるオドリストグループに違いないな」
−END−
- 200 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:08
-
トイレのしげさん
さゆは今、のっぴきならない事情で自分からおトイレの中にいるの
のっぴきならない事情っていうのはおなかをこわしたわけではないの
ライブの途中でいつもは遠のいていく筈の美貴ちゃんの唇が
すぅーって近づいてきてあっという間にさゆの唇と重なってしまったんです
誤解がないように言っておくと、本当はフリをするだけの振り付けなの
ライブが終わると楽屋はそのことで盛り上がってて
お姉ちゃんがどう思ったんだろうって思うとさゆは恐くて
お姉ちゃんに会わないように、そのまま楽屋の近くにあるトイレに
こもるしかなかったの
- 201 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:10
-
「さゆは今日もカワイイぞ! だから出ておいで!」
「……亀ちゃん? あのね、その誘い出し方はどうなんだろ…?」
「石川さん、絵里ぃ、変でしたか?」
「そんなに嫌がられても美貴だって困るんだけど」
ダメなの16才の多感な乙女には切実な問題なの
石川さんはそのへんがよくわかってるの
「ちょっと美貴ちゃん!
さゆの気持ち考えてあげなよ、初めてだったんだよ?」
「知るか!」
「もぉ〜そ〜ゆうこと言うから…」
「ははっ、ミキティしてやったりって顔してたもんなぁ」
「もぉよっちゃんもそういう事言わないの!」
- 202 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:11
-
初めてのキスは大好きな人とって決めてたのに
さゆはもうよごれちゃったのお姉ちゃん
- 203 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:13
-
「廊下までうっせーよ!」
(道重が立てこもった個室の外にはメンバーみんなが集まり、矢口まで…)
「矢口さん。『さゆ〜』って呼んでも、出て来ないんですぅ」
「なんだよ〜みんな疲れてんのにめんどうなこと起こすなよ〜」
「ほらしげさんカボチャのプリンだよ〜出ておいで〜食べちゃうぞ〜アハハ〜」
「音もしません。プリンじゃダメでしたか……後でわたし達がおいしくいただきます」
「汚いなぁ、トイレに食べ物持ち込むなよ!」
「よっちゃんさんの潔癖性…」
「エリ、もうさゆ意地になるけん、放っとけばいいっちゃ」
- 204 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:14
-
「つかもぉさ〜しげさんの姉貴分ってタカハシだろ?
タカハシに任せればいーじゃん。どこいったんだよ一人だけ」
(今日は一段と荒れてるなぁ、矢口さん、と思いつつサッとトイレを出て
バタバタと廊下へ走っていく新垣、呑気に楽屋で携帯をかけている高橋を見つける)
「愛ちゃん何してんの!」
「おかーさんがペイチャンの録画の仕方わからんって」
「後でいいから。しげさんが大変なんだって!」
「いちから説明しとるのにわからんって。バウホール公演やのに困ってもた」
「今は(矢口さんが怒ってて)それどころじゃないから!」
(とにかく理由を話しながら高橋の腕を引っ張ってトイレへ走る新垣)
- 205 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:16
-
ドンドン!
「さゆ? さーゆぅ、ドア開けま」
ドキーン
お姉ちゃん!
優しい声、あったかい響きがせつなくて
さゆの中で大好きな歌の『声』が流れ出す
「そぎゃん気にすることなかー」
れいなはジャマしないで欲しいの
いろんなことを気にしなさすぎるのも問題だと思うの
「そうやよー、あーしも全然気にしとらんし」
「待て待て。しげさんが気にしてるのが問題なんで愛ちゃんが気にするとか
関係ないから」
新垣さんのツッコミがさゆとしてはいらないものだけど
全然気にされないのもショックなの
ちょっとは嫉妬して欲しいの
お姉ちゃん…
- 206 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:17
-
「おい、あんましこもってっと石川みたいにトイレ臭くなるぞ」
「ちょっとぉよっちゃん、昔の話出さなくったっていいじゃん!」
「とにかくさ、そんな狭いところに亀ちゃんじゃあるまいし」
「はい? 絵里ぃ、狭いところは大好きです」
「そうっちゃ。さゆ、エリみたいに幸薄くなるっちゃ」
「レイナニゴスンクギツイカ」
「?」
「なんだろう、絵里ぃ、何も聞こえなかったけどぉ?」
「あのーしげさん、早くトイレから出てくれないと…みんなが使えません!」
「紺ちゃんの言う通りだぞ!
美貴のウンコが出そうになったらどうしてくれるんだよー!」
「だいたいもっさんが唇突き出すからこんなことになったんじゃないですか〜」
「あのねぇガキさん人をセクハラおやじみたいに言わないでくれる?」
「あーしもキスしたことある」
- 207 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:19
-
え?
ええーーーーー!!!!!!!!
「誰と!?」
「まさかガキさんと!?」
「ぬぁあに言ってんですかぁ!違いますよぉ!ハァ!?
なんでわたしと愛ちゃんなの。ないないないない!」
「うへへ。ムキになって否定するところがあやしいぃ〜」
「なんなのよぉ。もうキスとか私たちアイドルなんだよ?
高橋もね、そういうことはね軽々しくしちゃいけないと思うの。
そういう話聞く度寿命が縮まる…」
「フン、バッカバカしー。たかがキスじゃん、ねぇやぐっつぁん」
「お?え?うん」
「カッチーン」
「石川さんから今何か音が聞こえたような…?」
「あさ美ちゃん、シッ、もっさんがこっちにらんでるから!」
「ほぁー、ガキさんたちそうだったんだぁ〜」
「だから違うって! マコっちゃん、納得してもらったら困るから!」
- 208 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:20
-
お、お姉ちゃんがキスしたことあるって初耳なの
トイレの壁に耳をつけるのは抵抗あるけど非常事態にそんなこと言ってられないの
相手は誰なの見つけ次第下関名物フグのテトロドトキシンで抹殺するの
そしてさゆは息を殺してお姉ちゃんに聞いたの
「……お、お姉ちゃんの相手は誰?」
「んふ。赤ちゃん! キャハッ!」
ビュオオオオオオオオオオオオオオオ
(氷点下のブリザードをお楽しみ下さい)
お姉ちゃんが経験済みだなんて、さゆどうしようかと思ったの
まだいたいけな赤ちゃんなら許してあげるの
そんなことより「キャハッ!」がとってもカワイクて胸キュンなの
- 209 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:22
-
「あら? みなさーん、盛り上がって?」
ビュオオオオオオオオオオオオオオオ
(再び氷点下のブリザードをお楽しみ下さい)
「あーあやらかしちゃったよ、愛ちゃん」
「……おいらこれから東京まで戻るから後はヨロシク」
「矢口さぁん、さゆまだ出てきてませんよ!?」
「あとはエコモニの石川に任せたから〜」
「矢口さん!」
「紺ちゃん、ここ狭いしうちらも外出よっか」
「そうだね、マコっちゃん。かぼちゃプリンの賞味期限は待ってくれませんから」
「あんたたちちょっと待ちなさい! 先輩が後輩を見捨ててどうするのー!」
「てゆーか別に見捨ててないし。もう美貴お腹すいたんだけど」
「美貴ちゃん! も〜よっちゃんからもなんとか言ってよ!」
「え? や〜ありえねーとは思ってたけど高橋がガキさんとって言ったら
どうしようかと思ったよ。サブリーダーとしてさあ、はっはっはっ」
「吉澤さぁん、だから違うって言ってるじゃないですかぁ!」
「いや〜そうは言ってもさあ」
「勘弁してくださいよ〜。愛ちゃんには普段から十分振り回されてますから!」
「さっきからみんなさゆのことなんてどうでもいいっちゃ」
「ちょっと、れいな何言ってんの! そ、そんなことないに決まってるでしょ!
さゆ〜いい加減出てらっしゃ〜い!」
「出てきませんねぇ」
「も〜愛殿! 責任とりなさい!」
- 210 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:24
- (と
石川がキンキン声でヒステリックに叫ぶや否や
後列にいた高橋は急に真顔でスタスタ歩いて閉ざされたトイレの戸の前に立ち)
「さゆ。いつかわからんけど、好きな人とするキスが初めてのキスやって。
それを胸の中で大切にしてけばいいと思う」
(「ああ良かった、高橋にしてはマトモな答えで…」と石川は胸を撫で下ろし
誰かから「真顔で訛りナシで喋る時の愛ちゃんてカッコイイよね」なんて囁きが漏れ)
(肝心のトイレの中のしげさんは、つきたての餅のような白い頬を紅に染めていた)
- 211 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:26
-
好きな人とするキスが初めてのキス……。
いつかステキな人が白馬に乗って現れて、眠ってるさゆにくちづけをしてくれるの
さゆが涙をこらえてトイレのドアを開けると
お姉ちゃんがさゆをぎゅーってしてくれた
「よしよし」
下から見上げるようにしてさゆの頭をなでてくれるお姉ちゃん
さゆは何も変わってないよって、慰めてくれるお姉ちゃん
こんなにも綺麗な瞳で
やっぱりお姉ちゃんはさゆの永遠の憧れなの
- 212 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:27
-
「さゆ。心配してくれたみんなに謝りなさい」
「ハイ、石川さん」
「……みんなごめんなさいなの(ペコリ)」
「美貴ちゃんも」
「だからあれはハプニングなんだって!」
「ミキティ、あやまっとけって…」
「よっちゃんさん。……悪かったよ。でも嫌いなヤツにはしないから。
またやっちゃってもトイレにこもんないでよ」
突然のハプニングでビックリしたけど、さゆは美貴ちゃんと仲直りできたの
それもこれもお姉ちゃんのおかげなの
- 213 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:29
-
(そしてめでたく一件落着して楽屋に戻り……)
「矢口さん、ホントに帰った!? んもぅ打ち上げどうするんですかぁ〜」
「まーいいんじゃね? 打ち上げ焼き肉だって」
「あー腹減った! レバ刺し死ぬほど食ってやる!」
「れいなはカルビがいいっちゃ」
「あのー、お芋アイスは出ますか?」
「紺ちゃん、かぼちゃアイスのほうがおいしいよお」
「あさ美ちゃん早く! マコっちゃん荷物持った!?
愛ちゃん電話早く終わって! 置いてくぞー!」
(道重も支度に追われているところに近づく影がひとつ)
「エリ、さゆたちも急がないと遅れるの」
「ねぇねぇさゆ〜、耳貸して」
「なぁに?」
「絵里ぃ、見ちゃったんだけど、この間お泊まり会した時に新垣さんが寝てる高橋さんにぃ〜」
- 214 名前:トイレのしげさん 投稿日:2005/05/28(土) 14:30
-
ノノ*^ー^)<……終わりですよ?
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/29(日) 13:54
- 面白いです
- 216 名前:ナナシックス 投稿日:2005/06/01(水) 00:54
- ほんとおに最高だと思うの
- 217 名前:名無しの桜 投稿日:2005/06/05(日) 00:02
-
『雨が降ると君を思い出すから』
- 218 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:03
-
雨の日は憂鬱だ。
しとどに濡れる窓の外を見つめ、梨華は思った。
特に梅雨は、嫌。
だから、睡眠薬の量が増えてしまう。
サイドテーブルに置かれた小瓶とミネラルウォーターのペットボトルを
そっと横目で睨む。
止めた方がいい。
止めなきゃいけない。
量が増すばかりなのだから。
だけど、止められない。
特に雨の増える梅雨は。
飲まずにはいられない。
いっそ手元から遠ざけて欲しかったが、主治医も夫も梨華には睡眠薬が
必要だと信じきって疑わない。
- 219 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:04
-
自分にとってそれが危険なものだと解かっているのであれば、問題はありませんよ。
医者はそう言って、訪れるたびに気前よく処方箋を書く。
解かっていないのだ。
それがどんなに危険な行為か。
隣室からの嬌声に、はっと伸びかけていた手を止める。
雨のせいで外で遊べない娘が、家に友達を連れてきていた。
おやつやなんやかやとした世話は全部、お手伝いさんがしてくれるので心配ない。
まだ小学校へ通う前の娘も、母が天気の悪い日は体調が優れないことを解かっていて
こんな日は母をなるべく煩わせないようにしているようだった。
自分は何故、結婚したのか。
娘を産んだのか。
不思議に思うことが間々ある。
夫は梨華を愛し、梨華のしたいようになんでもさせてくれる。
娘の柔らかな身体を抱き締めると漂う、子供独特の甘やかな匂いは
梨華を一時落ち着かせてくれる。
けれど。
それだけだった。
それだけ。
ただ、それだけのこと。
- 220 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:04
-
雨が勢いを増し、バシャバシャと音を立てて降り始めた。
雨。
水。
その全てが梨華を憂鬱にさせる。
瓶から取り出した錠剤を口にして、水で流し込む。
唇に触れたミネラルウォーターの瓶は冷たくて。
瞬間。
いつかのキスを梨華に思い出させた。
- 221 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:05
-
ひとみと最後に電話したのも、こんな雨の日だった。
- 222 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:06
-
「なんで?」
言い募るひとみに、梨華はただ
「仕方がないことなのよ」
と、冷たく返すことしか出来なかった。
まだ郷里で高校生のひとみと、東京の大学に進学した梨華。
2人の間には、たった一年の、しかし大きく深い溝があった。
決して乗り越えることの出来ない、境界線。
それが子供の頃からずっと一緒で、そして恋人同士になった今も二人を分つ
決定的な事実だった。
「うそつき。迎えに来てくれるって、言ったじゃん」
ひとみの言葉に、梨華はため息をついて窓辺に寄った。
今と全く同じように。
梨華は窓の外の雨を眺めながら、ひとみに返す言葉を探していた。
- 223 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:06
-
「ひとみちゃん…」
「じゃあ、あたしが迎えに行く。ね、いいでしょ?」
窓の外。
雨は地に打ち付けるように降っていた。
「………なんで、なんでだよぉ」
ひとみの声もまた、濡れていた。
窓におぼろげに映る自分の姿に、ひとみの姿を見出す。
そして、そのひとみに涙を付け加えるが……ピンとこなかった。
ひとみが泣いているのを、ものごころつくより前から一緒にいる幼馴染の梨華でさえ
殆ど見たことがない。
人前では泣かない。
ひとみはそんな、子供だった。
そして、今も。
電話越しに泣いてはいても。
ひとみがまだ子供であることに変わりはない、と梨華は思う。
- 224 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:07
-
「ひとみちゃん、大人になって。そしたら、きっと、解かると思う」
東京に来て、一年。
ひとみと離れて暮らして、一年。
それが梨華を変えた。
いや、変わらなければいけないと、解からせた。
「もう、あたしのこと好きじゃないの?」
沈黙に、雨の音が響く。
郷里でも、雨は降っているのだろうか。
「愛してるって、ひとみちゃんだけが一番だって。言ったじゃん」
「好きよ。愛してる。ひとみちゃんだけよ。
だけど……好きだけじゃどうしようもないことだってあるの」
- 225 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:07
-
いつでも、ひと足先に成長する梨華。
それに追いつこうと、いつも背伸びをするひとみ。
2人は境界を挟んで、しかし常に平等であろうとした。
だから、今、大人の世界を、社会を垣間見てひとつ大人になった梨華は
ひとみを導いてやらなければいけない。
子供のままのひとみを、自分から諦めなければいけない。
「私たち、このままずっとなんて無理なのよ。私もひとみちゃんもじきに
学校を卒業して社会に出る。それでもずっと一緒にいるの?」
「あたしが東京行く。梨華ちゃんと同じ学校行って、同じ会社に入る」
また、ため息が零れる。
それに呼応して、ひとみの電話口でしゃくりあげる声がした。
「そんなに甘いものじゃないのよ。私たちは2人っきりで生きてる訳じゃない。
ひとみちゃんだって、いつか結婚して、子供を……」
「いらない。梨華ちゃんだけだよ。梨華ちゃんがいればいい」
- 226 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:09
-
「じゃあ、おじさんやおばさんになんて言うの?
2人はきっと、ひとみちゃんの幸せな結婚を望んでる」
雨で湿気た窓ガラスに触れる。
そっと、映る自分の輪郭をひとみに見立てて優しくなぞる。
慰めるように。あやすように。
「ひとみちゃんだって、きっといつかそう思う日が来ると思う」
幸せだった子供の頃は去り。
現実だけが、梨華たちの前に重く横たわる。
「………梨華ちゃん、どっか行こう。2人っきりになれるところ。
あたしたちを誰も知らないところ。そこで、2人で生きていこう。
あたし、梨華ちゃんがいればそれで…」
「ふざけないで。2人きりで遠飛行?冒険の旅に出るの?
ひとみちゃん……私たち、もう10歳の子供じゃない。
そんな、夢みたいなこと言わないで」
- 227 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:10
-
出来ることなら、そうしたい。
そう願う梨華がいた。
けれど。
そう出来ない。
冷静に考え、その子供じみた考えを嘲笑する梨華もまたいた。
「なんで?出来るよ、2人なら。ね、梨華ちゃん」
「それで?2人は幸せに暮らしました、めでたしめでたし?
そんなに都合よく行く筈ないじゃない。お金は?住むところは?」
「あ、あたしが…」
「ひとみちゃんが?どうするの?
……ねえ、もしそれで仮に暮らして行けたとしても。
一年先は?十年先は?
そんな先の見えない生活、私には出来ない」
「梨華……」
- 228 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:11
-
雨粒のように。
冷たい言葉が次々と梨華の口から零れていく。
好きなのに。
まだ、こんなに好きなのに。
こんなことしか言えない。
そんな現実が、もどかしかった。
「いつかきっと、ひとみちゃんも解かると思う」
「梨華」
「今、解かってとは言わないから」
「梨華、待って」
「じゃあね、ひとみちゃん。元気で」
「待って、切らないで。死んじゃう。梨華がいなきゃ死んじゃうよ」
- 229 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:12
-
「ひとみちゃんの幸せを、祈ってるから」
「嫌だ。あたし、待ってるから………」
一方的に電話を切って。
それまで堪えていた涙が、ひとつふたつと頬を伝い。
「………っ」
床に泣き崩れた。
その日は一日、泣いて暮らした。
- 230 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:13
-
- 231 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:13
-
あたし、待ってるから……。
- 232 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:13
-
今でも、ひとみの言葉は梨華の耳に鮮明に残っている。
まるでついさっき電話を切ったばかりのように。
あたし、待ってるから……待ってるから……
- 233 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:14
-
はっとして目を開ける。
いつのまにかソファに座り、眠っていたようだった。
浅い眠りに身体は気だるく、意識は朦朧とする。
もうすぐ、先程飲んだ薬がまわってくるだろう。
それまでにベッドへ行こう。
そう思って顔を上げると、ドアのところに娘が立ってこちらを見つめていた。
なんでだろう。
娘をときどき、自分とひとみの間に出来た子供ではないかと思うことがある。
ふとした瞬間。
丁度、今のような時。
娘を見てそう思うことがある。
そんなことは絶対に有り得ないのに。
「どうしたの?」
沈黙に耐えられずに、梨華は声を掛ける。
しかし、娘は頑なに口も身体も動かさずに、じっとこちらを見つめているだけ。
子供にしては、恐ろしい程に寡黙な子なのだ。
きっとさっきの嬌声も、連れて来た子供たちのものに違いない。
大人しくて、色白で、色素の薄い猫っ毛。
どこも梨華には似ていない。
そして、大きな瞳。
娘の中で、唯一生き生きと何かを物語ろうとしているのはその大きな目だけだった。
そしてその全てが、ひとみに瓜ふたつだった。
- 234 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:16
-
「こっち来ないの?」
梨華の問いかけに、ふるふると軽く首を振って。
娘はやはり、ドアに隠れるようにして立ったまま動こうとしない。
「そう」
梨華はソファから立ち上がり、娘に近づく。
不安げに揺れる大きな瞳。
それがどうしても、ひとみを連想させてならない。
「ママ、これから少しお昼寝するから。あなたは向こうに行ってなさい」
頭を撫でて、抱き寄せて、キスをする。
娘の唇は思っていたより冷たくて。
ドキっとする。
それはまるで……。
- 235 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:17
-
「おやすみなさい、ママ」
「おやすみ、ヒトミ……」
- 236 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:17
-
ベッドに横たわり。
考えてみる。
考えたところで、それはバカバカしいことだった。
第一に、ひとみは女の子で、勿論、梨華も女の子で。
まさか子供なんて出来よう筈もない。
それだけではない。
娘のヒトミは、ひとみが死んで何年もしてから生まれた子だ。
どう考えても、バカバカしい。
だけど。
どうしても、梨華はヒトミの中にひとみを見てしまう。
深呼吸をして、目を閉じる。
夫が生まれた娘にヒトミと名づけようと言った時、梨華は本当に死ぬ程驚いた。
勿論、夫はひとみの存在なんて欠片も知らないし。
ヒトミの成長に従って不安を感じた梨華が調べつくした限り、夫はひとみの
縁者ではない。
だけど。
理屈ではない。
梨華はどうしても、ヒトミにひとみを見出してしまう。
目を閉じた闇に、水音は一層増して響いた。
まるで、自分が水の中にいるような。
そんな感覚。
水底に深く沈んで、外界とは断絶されたような。
ひとみも死ぬ瞬間、こんな感覚だったのだろうか。
いつまでも訪れない眠りに、梨華は薄く瞼を開け、窓からの光が反射して
天井にゆらゆら揺れる影を見つめた。
- 237 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:18
-
ひとみは、死んでしまった。
それは事故だと誰もが信じて疑わなかったけれど。
じゃあ、何故あの日ひとみは海にいたのか。
梨華にはそれが、自殺にしか思えなかった。
ひとみは繰り返し言っていた。
海は嫌い、と。
海辺の町に育った2人なのに。
ひとみは学校でも1,2を争うほどに水泳が上手かったのに。
海を嫌っていた。
海では決して泳ごうとしなかった。
たまに体育の授業で遠泳があると、ひとみは決まって女の子の日だからと
嘘をついてまで休んでいた。
「どうしてそんなに嫌いなの?」
「基本的に、濡れるのは嫌いなんだけどね…」
ひとみは、そもそもプールもそんなに好きな訳ではなかったし、
お風呂もカラスの行水で梨華の長風呂を信じられないと言っていた。
雨の日はだるそうにしていることも多かった。
- 238 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:19
-
「海は嫌い。絶対、嫌。なんでだろ。理由なんてないんだけど」
ひとみの部屋の窓からも海は見えて。
ひとみはよく、苦々しげにそれを見ていた。
「あたし、思うんだけど」
「うん」
「前世でさ、あたし、溺死とかしたんじゃないかな。海で」
「何それ」
「だから、こんなに海を見ると嫌な気分になるんだよ」
- 239 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:20
-
今思えば、それは予言のようなものだったのかもしれない。
ひとみはその日、誘われるままにクラスメイトと海へ行き……帰らなかった。
クラスメイトの一人の家の船で沖まで行き、何がしかの事故で船が沈んでしまったのだ。
その理由は最後まで解からなかった。
機械の故障か、小さな船だったから急に荒くなった波に飲まれてひっくり返って
しまったのかもしれない。
操縦していたそのクラスメイトの父も帰らぬ人になってしまったので
その辺りのことは不明なままだった。
運良く助かった同乗の二人の友人たちも、混乱していてそのときのことははっきりと
覚えてはいないと言った。
ただ、その子たちよりも泳ぎの断然得意なひとみが溺死したことだけを
周りの人間は不思議がっていた。
その事件が起きたのは、梨華が別れの電話をした翌日だった。
- 240 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:20
-
薄く開けた瞼の間から、涙が一粒、転がり落ちた。
その知らせを聞いたとき。
梨華の耳に電話の声が蘇った。
- 241 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:21
-
『待って、切らないで。死んじゃう。梨華がいなきゃ死んじゃうよ』
- 242 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:21
-
捨てられたから自殺した?
そんな短絡的な人間だっただろうか、ひとみは。
だけど。
人一倍寂しがりやだった。
ボーイッシュななりで、いつも梨華を庇うようにその手を引いて前を歩いてはいたけれど。
その実、とても繊細で梨華よりもよっぽど女の子な部分を沢山持っていた。
周りは梨華がひとみに守られていると思っていたみたいだが、
実際、ひとみが梨華に寄りかかっているところがあった。
それを知っていたのに。
何故、自分はあんなに簡単に別れを口にしてしまったのか。
通夜の席でも葬式の席でも、梨華は泣き通した。
両方の親たちは生まれたときからの仲の良かった幼馴染の死を悼んでいると解釈し
事情を知る友人たちは恋人を亡くした悲痛を思い、痛ましげに梨華を見ていた。
けれど誰一人、梨華の胸中を解かりはしなかった。
梨華は、後悔していた。
何故あんな一方的な別れを押し付けたのか。
いつか、ひとみが大人になれば解かってくれると思っていた。
だったら、そのとき話せば良かったのではないか。
ひとみが理解したときに、双方納得した上で別れ話をすれば。
自分は何故そんなに焦っていたのだろうか。
焦って……間違った札を切ってしまった。
だけど、それはもう、後の祭りだ。
もう、ひとみはいない。
そして………梨華は一生、ひとみの死を背負って生きていかねばならない。
ひとみは自殺した。
梨華にはそうとしか思えないから。
その死を自分の責任としか思えないから。
- 243 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:22
-
- 244 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:22
-
睡眠薬を飲んで眠ると、ひとみの夢をよく見る。
あの頃のまま、ひとみはセーラー服を風に靡かせて。
微笑んで。
梨華を待っている。
いつも梨華を待っていた。
登校時も、下校時も。
いつも先に来て、待っているのはひとみで
「おーそーいぃーー」
だけど
「ごめんねごめんね」
梨華の謝罪に
「仕方ねーなぁ」
- 245 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:23
-
無条件に許してくれた。
梨華よりも背の高いひとみの腕に捕まって、見上げるひとみの微笑みが梨華は
何よりも好きだった。
「いつもごめんね、待たせて」
「いいよ。待っててあげるよ、梨華のためなら」
いつまででも。
いつまででも、梨華のことを、待ってるよ……。
- 246 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:23
-
- 247 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:24
-
そっと、梨華は自分の唇に触れる。
それは乾いて、カサカサしていた。
ひとみの葬式のあと。
遺体を送り出すまでのほんの少しの間。
梨華はひとみの遺体と2人きりになった。
そっと、忍び寄り。
棺桶の窓を開ける。
ひとみはただ眠っているだけのように見えた。
「ひとみちゃん…」
呼びかけたら、起きそうで。
だけど、解かっている。
ひとみはもう二度と目を開けはしない。
その大きな腕で、梨華を掻き抱くことはない。
「ひとみちゃん、愛してる。愛してるよ、ずっと…」
ずっとずっと、いつか死ぬまで。
ひとみちゃんのこと、愛してるから。
背伸びして。
唇を寄せる。
- 248 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:24
-
最後のキスは、冷たかった。
- 249 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:25
-
ただ、ただ、冷たかった。
- 250 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:25
-
あのキスから。
梨華の心は凍りついてしまった。
何をしても楽しくないし、何をしてもドキドキもワクワクもしない。
冷たいひとみの唇を通して、梨華の中にも死という冷たい得体の知れないものが
流れ込み、梨華の心をも死なせてしまった。
梨華はそう思った。
そして、それならそれで構わない、と。
周囲の勧めに従い、夫と結婚して、ヒトミを生んで。
けれど、梨華の心は動かなかった。
それを夫や主治医は心の病だと言うけれど。
梨華にとって心はとうに死んでしまったものだったから、今更、病だの回復だの
言われてもそれこそバカバカしいとしか思えなかった。
- 251 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:26
-
いっこうに効かない薬に業を煮やして、梨華はハンドバックを探して
つい先日処方してもらったばかりの薬を取り出して水なして飲み込んだ。
なんだか、霧消にひとみに会いたかった。
薬を飲んで眠れば、ひとみが会いに来てくれる。
何錠も何錠も飲み込んで。
梨華はまたベッドに横たわる。
深呼吸して。
最初に飲んだ薬がやっと効いてきたのか、そろそろと世界が淀み始める。
梨華はうっとりと目を閉じる。
ひとみちゃん…。
- 252 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:27
-
夢の中では、梨華もまたあの頃に戻る。
セーラー服を着て。
懐かしい、海辺の町を駆け抜ける梨華。
夢の中では、雨は降らない。
常に聞こえていた筈の潮騒も、ここにはない。
走る梨華。
街を抜け、学校を抜け。
ひとみはいない。
だけど、梨華には解かっている。
ただ、そこを目指して走る。
公園を抜け、寺を抜け、その裏の山道に入って行く。
そこは、2人のひみつの場所。
子供の頃、秘密基地にしていた廃屋。
そして、それはいつしか2人の逢瀬の場所になっていた。
見えてきた廃屋に、息せき切って入る。
ガラスの入っていない窓から外を見つめていたひとみが、振り返る。
「梨華ちゃん」
微笑む。
梨華の愛した、その笑顔。
廃屋は昼の光に満たされ。
ただひたすらに暖かく。
幸せだ。
- 253 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:27
-
「ひとみちゃん、ごめんね。待った?」
両腕を広げて。
ひとみは梨華を待っている。
そこに、梨華は飛び込む。
「いいよ。待っててあげるよ、梨華のためなら。いつまでも」
そして、梨華の髪を優しく撫でる。
「待ってたよ、梨華。ずっとずっと」
- 254 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:28
-
その感触に、梨華はまた閉じた瞼を少しだけ持ち上げる。
薄暗い室内。
ヒトミが梨華の髪を撫でていた。
「おやすみ、梨華ちゃん……」
- 255 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:28
-
遠のいていく意識の中。
梨華は微笑んで。
ヒトミのくちづけを受け入れ。
そして、うっとりと。
眠りについた。
- 256 名前:雨が降ると君を思い出すから 投稿日:2005/06/05(日) 00:29
-
Fin
- 257 名前:名無し飼育 投稿日:2005/06/05(日) 01:00
- すっごく切なかったです・゚・(ノД`)・゚・
雨の思い出とかさらにグッときました!
こういう感じ好きです。
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/05(日) 01:56
- ヤバイです。マジ泣きしました。
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/06(月) 02:22
- ヒトミはひとみ…
- 260 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:35
-
年上の後輩
あーあ
全員揃ってやるダンスレッスンなんかかったるい
テンション上がんなくて、床に寝そべってたら
「りしゃちゃんじゅうなんたいしょー」
「うわ! 愛ちゃん何!?」
オメーどっから声出してんだよ!
って幼稚な声で、愛ちゃんがガキさんの背中にのっかかったりして
フン、バカじゃねーの
じゃれ合いとか
ゴロッと寝返りを打って鼻をかく
背中を向けたつもりだったのに目の前の大きな鏡に映ってやがる
- 261 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:37
-
美貴は別に一人が淋しいとか思ったことないし
どうせここには一人で入ってきたし
甘える相手は亜弥ちゃんとよっちゃんさんって決めてるし
ヤンタンでいつも美貴と一緒の愛ちゃんが
今着てる新垣仮面のTシャツがお気にだとか、くそ餓鬼Tシャツがお気にだとか
そんなこと美貴にとってはどうだっていいことだし
イラつくのは鏡の中の愛ちゃんがガキさん相手に「あ、ハモッた!」
「今ハモッた!」って、顔をくしゃくしゃにして大喜びしてるからでも
なんでもなくて
「いいんだよ!そんなの!もういいよ!愛ちゃんうるさい!」
気がついたら割り込んで八つ当たりしてたサイテーな自分
いきなり大きな声を出されてビックリして美貴のコト見てる愛ちゃん
周りのゴロッキなんてみんな顔引きつらせてシーンて固まっちゃって
そんな空気の中で「冗談だよ!」って笑えるほど、器用じゃない
- 262 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:38
-
わかってんだよ
一番年上のくせに大人げないのは……美貴だって
- 263 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:39
-
なんかいたたまれなくってスタジオを飛び出した
途中ですれ違ったよっちゃんさんが首にかけたタオルで口を拭きながら
優しい瞳でサラッと「早く戻んなよー」って
よっちゃんさんは大人
メンバーにも自分にも
だけど美貴は団体行動とか無理だから
マジで無理だから!
- 264 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:40
-
- 265 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:41
-
「こんなとこにおったんかー、ダンスレッスン始まるって」
あーもう戻るのヤだって思って、階段に座り込んでた美貴を
呼びに来てくれたのは愛ちゃんだった
「ちっ、新垣仮面かよ……」
「アッハッ、『とっても弱い』んやって(笑)」
「愛ちゃんさ、ガキさ……なんかそーゆう変なTシャツ好きだよね」
「んなぁ〜あーしより美貴ちゃんのほうが変やって」
「ハァ!? 美貴のドコが……」
「………」
「おーい? 美貴ちゃん?」
- 266 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:42
-
さっきのこと、ゴメンって謝ろうと思って謝りそびれた
愛ちゃんは目をパチクリさせてて、全然平気っぽかったから助かった
たいていのメンバーは美貴の言葉がキツくてヘコむらしいから
ヘコまないのは亜弥ちゃんと愛ちゃんぐらい……。
「…ううん。誕生日にさ、美貴が描いた絵をTシャツにプリントしてあげるよ」
ホラ美貴の絵って変わってるってなにげに評判だし?
「いらんって! 忘れられたら嫌やし……」
「嘘じゃないって!」
「ヤダ!」
「いや、ホントにホントに」
「ホントにできるの?」
「いや、どうにかするから」
「ほやったら欲しい」
「オッケー」
なんか素直な顔されるとくすぐったくなる
ラジオの企画にねじ込むから、レッスン着にしてよね
- 267 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:43
-
「あ、早く戻らんとみんな待っとるって!」
「ちょ、待って。あのさ、手つないでっても、いーよ?」
「えぇ〜、美貴ちゃんと〜?」
「嫌なのかよ!」
「ウソぴょん」
ハイ、と右手を出してきて、鼻の根にしわが寄っちゃうぐらいの笑顔
なんで美貴が小学生みたいにドキドキしなきゃなんないの
ヤベー、こんなの美貴らしくない
目をそらして軽口を叩く
- 268 名前:年上の後輩 投稿日:2005/06/08(水) 01:48
-
「愛ちゃんて」「美貴ちゃん」
「猿だよね」「デコ広いなぁ」
「………」
「うっせーよ!」
「今ハモッとった!」「ハモッた!」
全然ハモってないから、カブッただけだから。
って、こっちが話してんのにキャッキャはしゃいじゃって止まんない
まーでも? 繋いだ手がけっこう心地イイから
愛ちゃんの浮かれモードに もう少しだけ付き合ってあげる
川*’ー’)<ばいちゃ。
川VvV)<お前が〆るのかよ!
- 269 名前:ダブル、T 投稿日:2005/06/08(水) 01:50
-
渡された新曲のマスターテープのパート割りは高橋がメイン、れいなは
2、3のフレーズだけだった。あんなに、あんなに練習したのに。
「ばりムカ! ばりくやしかー!」
れいなは辺りを憚らず悔しさを漏らした。
モーニング娘。の中で一番になりたい。
だから歌もダンスもみんなが休んでる時に時間を惜しんで一生懸命やった。
けど届かなかった。自分の腑甲斐無さに腹が立った。
初披露のライブ、眩しいライトがセンターの高橋に当たっている。
バレイ仕込みの美しくてキレのあるダンスを、れいなは後ろから睨みつける。
どよめく歓声の中、広いホールの奥まで届く芯の通った歌声。
それは、小さくて薄い自分の声にはない魅力を持っている。
れいなは悔しさをダンスにぶつける。
与えられた少ないパートに、高橋に負けないだけの思いを込める。
「頂点はないと思う。」
あの言葉を聞いてから、憧れかられいなの闘争心に火が付いた。突き放さ
れた気がしたのかもしれない。高橋愛がゴールのない道を永遠に走り続け
るというのなら、れいなもその後を追っていこうと。そしていつか抜いてやろ
うと、誓った。
- 270 名前:ダブル、T 投稿日:2005/06/08(水) 01:53
-
れいなの観察では、ダンスレッスンやレコーディングに取り組む時の高橋は
他の誰よりも真剣に見える。いつもの、現実味のない、煙に撒くような話を
してメンバーを戸惑わせる彼女はどこへ行くのか、一転して凛々しい表情に
なる。しかしそれ以外の空き時間は相変わらず宝塚のMDに夢中だったり、
こ難しい本を読んでいたり、休みの日などは映画や舞台見て過ごしている
らしい。一日が何時間あっても足りないとれいなは思っているのに、一体い
つ練習しているのだろう、クラッシックバレイや声楽で培った力……れいな
だって今までは自己流やったけどボイトレば受けて努力しとぉよと、奥歯を
噛み締める。
れいなが焦燥感にかられているその時、とある対談の仕事で、プロデューサ
ーが歌について触れてきた。れいなは新人でセンターに抜てきされた「シャボ
ン玉」の頃のことや、最近の自分の課題について話した。
「太い声ば出せるよーにって、ボイトレしてもらったんっすけど……。
良かなっとーっちゃけど……ばってん、自分で実感がまだないけん。
愛ちゃ…高橋さんみたいな通る声がれいなも出せるようになりたいっす」
「田中はまだ15才やったな。これから大人の声に変わってくやろうから、サボ
らんとボイトレ続けてってったら大丈夫や。なんや、高橋が気になるか?」
れいなは頷いた。
「高橋は歌に関してもダンスに関しても決して天才やない。けど努力であそこ
まで魅せとる。アイツが凄いのは、努力を、努力と思わんところや」
努力ば努力と思っとらんと……?
眉間にしわを寄せて眉尻を吊り上げるれいなを見て、プロデューサーは穏やか
に「せやけど田中には田中のええところがいっぱいあるんやで」と付け加えた。
対談を終えると、順番待ちの高橋と道重と亀井で高橋の家に遊びにいく計画を
立てていた。れいなの目が高橋の目と合うと、高橋が「れいなも来る?」と誘
ってきた。
- 271 名前:ダブル、T 投稿日:2005/06/08(水) 01:55
-
れいなは同期の亀井、道重と一緒に、高橋の家に招かれていた。
訛りキャラとは対照的な、シンプルで都会的なインテリアが配置された部屋に
は、山ほどの宝塚や舞台、映画のDVD、邦楽洋楽いろんなジャンルのCD、
本が整頓されていた。さっそく亀井と道重は宝塚のDVDを観るよう勧められて
いる。部屋の真ん中の小さなガラステーブルを囲むように座った四人。
れいなは足許に置かれていた一枚のDVDを手に取った。
「これ何っすか?」
「『コヨーテ・アグリー』って洋画、英語覚えようと思って、何回も観とって。
この中のリアン・ライムスの曲を歌えるようになりたいんだよ。だよ、やって(笑)」
「りあん…?」
れいなには横文字はチンプンカンプンだ。思わずしかめっ面をする。
高橋は相当歌い込んだのだろうネイティブな英語で、嬉しそうにその歌を口ず
さんでみせる。亀井が殊更感心したように「スゴイですねぇ〜」と言う。
「スゴクないって。楽しいからやっとるだけやし。まだ全然喋れんもん」
頬を染めた道重の目の前に置かれたマグカップに紅茶を注ぎながら、高橋は
当たり前のように言った。
- 272 名前:ダブル、T 投稿日:2005/06/08(水) 01:57
-
楽しかと?
れいなは愕然とした。
れいなにとっては歌は、たった一行のパートでも、気を抜くことが出来ないタイ
マン、真剣勝負そのものだった。練習に練習を重ね、やり抜かないと気が済ま
なかった。それでも出来に納得できたことなど一度としてない。
れいなは居ても立ってもいられず、歌に対する自分の思いを高橋にぶつけた。
亀井や道重があっけにとられていたようだが、気にならなかった。
高橋はれいなの目を見て真剣に頷き、こう答えた。
「あーしも前は『間違えんようにせんと』とか『追い付きたい』って思っとった。
でも表現の世界はそれだけやない、ただ頑張るだけじゃダメなんやって気が
付いて」
「れいなは自分に納得いかんけん練習するったい! 人がどげん言うても――」
「ガンコやのーおっまえはー」
いきなり、高橋の右手がれいなの頭をわしわしと掻き回した。
18才と15才。瞬間的にカッと来て、その手を振り払う。
「いきなり何ばしよっと!?」
「んなぁ、れいなはほんまに歌が好きなんやのーって思ってぇ」
まるで自分のことのように嬉しそうに高橋は笑った。
高橋にとって今のれいなは昔の頑な自分を見ているようだったのだ。
他人の言葉が耳に入らず、悩み苦しみながら歌と戦っていたあの頃――。
- 273 名前:ダブル、T 投稿日:2005/06/08(水) 01:58
-
「れいなは歌やったら誰にも負けとーなか!」
乱された髪を手で直し、れいなは高橋を睨んで言い放った。
融通の利かないれいなの話を無表情で流していた亀井は、細い目を見開い
て呆れたようにれいなを見た。道重は口を閉じるのを忘れてオロオロとして
いる。しかし、高橋は受けて立つと言わんばかりに真っ直ぐに見つめ返し、
キッパリとした調子で「それでいいと思う。」と答えた。
「…っ…先に帰るけん!」
亀井と道重が失礼だよ、という困惑の目でれいなを見る。
それでも後に引けぬ思いでれいなは立ち上がった。今、この時も無駄にできない。
目の前のこの人に追い付くには、少しでも歌の練習をしなくてはいけない。
じっとなんかしていられない。
- 274 名前:ダブル、T 投稿日:2005/06/08(水) 02:01
-
高橋の家を出たれいなの携帯に、高橋からメールが入った。
「今度ふたりでカラオケ行こ」と、れいなには理解不能な絵文字入りで入って
いた。体がカッと熱くなる。高橋とのそれはカラオケであってカラオケじゃない。
いい加減な歌を歌って「れいなはこんなもんか」と思われたくない。
「あーーーーーーーーッ!!!!!」
夜空の下で、気合いを入れるように、れいなはひとり携帯を握りしめて叫んだ。
歌が好きだということを、誰よりもわかってくれたこと、それが嬉しかったことは
秘密だ。血の気の鮮やかな頬を、ギラリと強く光る瞳を、蒼い月が冷たく心地
よく照らしていた。
終わり
从 ` ヮ´)<終わりやなか! れいなはこれからたい!
- 275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 02:19
- すみません眠ぼけてたせいで途中抜かしてしまいました
>>270の最後
努力を努力と思ってないという高橋の何かがわかるかもしれないと思い、
れいなは「行く」と答えた。
- 276 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 18:08
- れいながんばれ、と思わず言いたくなりました。
どちらも高橋さんの魅力がうまいこと表現されてますね。
- 277 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/10(金) 01:59
- 作者さんは観察力が素晴らしいですね。
愛ちゃんもれいなの気持ちもこの通りなんじゃないかと思います。
とても良かったです
- 278 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:32
-
独白
- 279 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:32
- 朝起きて、顔を洗って、時計を眺めて、外を見て、あー今日もいい天気だ、
雨だけどってなんでだよっ!って一人で突っ込んでみて、
その突っ込みのポージングを姿見で4回ぐらい確認してみて、
よしっ今日もかわいい、なんて誰かさんの真似をしてみたりして、
昨日買ったばかりのカエルちゃんプリントの寝巻に包まれた自分の肉体美に思わず目を奪われて、
ハハッなんてねと照れてみたりしているとお腹が鳴るのも道理で、
何か食べようと思って部屋を見まわしてみても、昨日飲んだ焼酎とか日本酒の瓶がゴロゴロと転がっていて、
気付けば裕ちゃんがまだ寝てる。ゲロ吐いてた。もう汚いなとかなんとか言いながらも、
私は人を介抱するのが好きなのでちょっと裕ちゃん大丈夫?とか優しい声をかけたげて、
ゲッ死んでるとかなんとか悪ふざけをしてたら本当に裕ちゃんは寝ゲロによる窒息死で死んでいて、
どうしようどうしよう私のせいじゃないわよ、日本酒と焼酎を調子に乗ってちゃんぽんした裕ちゃんが悪いのよ、
とか思ってたら「おはよー」とのん気な声を上げてあっちゃんが起きてきて
「あんた居たの」とか私には珍しくきつい言葉遣いになってしまっていて、
あっちゃんが「圭ちゃんも毒吐くようになってきたなー」とそれはそれは嬉しそうに笑うのだけど、
笑ってなんかいられないと思う。
- 280 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:33
- 「あのねあっちゃん、裕ちゃんが死んでるんだよ。裕ちゃん。寝ゲロでさ。
私達が悪いわけじゃないよね?だって裕ちゃんが『もっともってこいやー!』とか言って、
日本酒と焼酎ちゃんぽんしたのが悪いんであってさ、私達ちゃんと止めたもんね?」
「いや、どうやったかな、ウチは止めた覚えはあるけど、圭ちゃんはあれよ」
「何よあれって」
「『焼酎の日本酒割りいっちょあがりー!』とか言って喜んでたやん」
うそうそうそ。そんなの無いって、ていうか私はそんな悪ノリは嫌い。
でもなんだかそんなこといったような気もする。どうしよう。私のせいだ。どうしよう。
って、まずそもそもなんで私達は昨日あんなに酒をガッパガッパ飲んだのだろう?
なんでなんで?昨日はカエルちゃんプリントの寝巻を買ってご機嫌で、
そのままカエルちゃんプリントに包まれた圭ちゃん、
なんてものすごいキューティクルな光を発する私を見てもらいたくて、
そうだよ、裕ちゃんとあっちゃんに電話したんだ。
そしたら「今なー、みっちゃんと飲んでんねん」とか言って、
そうだよ!みっちゃん!みっちゃんはどこ?防弾チョッキはどこ?みたいな、
なんで私007あんなに弱いんだろう。いやいやそれはこの際どうでもいい。
あっちゃんは裕ちゃんの死体を突ついて遊んでる。のん気なヤローだぜっ!ヘイッ!
踊るよー踊るよー!ってそんな場合ではなくて
- 281 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:33
- 「ねえ、あっちゃん」
「何?」
「みっちゃんは?」
「あー、みっちゃんはあれやわ」
「あれって何よ、生理?」
「仕事」
「仕事?仕事ってお仕事の仕事?」
「それ以外に何があんねん?ていうかどういう意味やねん」
「いや別に深い意味はないけど」
「圭ちゃんも人のこと言える立場じゃないねんで」
「まあそれはお互い様ということで」
「ほやね」
「で、みっちゃん、仕事って?何の?」
「知らんなー」
- 282 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:34
- あっちゃんは何かを知っている風にニヤニヤ。何よ言いなさいよ、
と思うんだけどニヤニヤしっぱなしで何も言わない。むかつく。まあいいけど。
とりあえずお腹が空いたので、朝飯を食っちまおう。あっちゃん何がいい?って、
あっちゃんはまだ裕ちゃんの死体いじくって遊んでる。何が楽しいんだ。死体だぞ死体。
死んでんだよ?縄文時代だったら「うへぇ、こいつ腐ってやがる、誰かゴミ箱に捨てにいけ!
あーキモイキモイ」みたいな扱いで、丸められて貝塚にポイされるような存在なんだよ?
使者への畏敬なんて概念は無いんだよ?あ、卵焼き焦げてる。これはいかんなぁ。
真っ黒だ。真っ黒というか炭と言うべきか、
まあ今日の圭ちゃんはこんなもの物ともせずに食べてしまうんだけど。
だってカエルちゃんのプリントをまとった圭ちゃんは最強なのよ。
って、あーおしっこ行ってなかった。なんか足りないなと思ってたんだわ。
裕ちゃんが死んだりするからさ、朝一のおしっこというこの大事な儀式を、
ってあー、漏れた。漏れてしまった。ハルンケア。そうだよ、今度ハルンケア買っとこう。
ししおどしカーン。しっかしそれにしてもカエルちゃんプリントが台無しだなぁ。
いやこれはこれで芸術かな、緑色のカエルちゃんプリントからしたたる黄金色の盛衰。
うほっ、盛衰だって。なんだよ盛衰。私は別にそういうことを言おうとしていたのじゃなくて、
聖水って言いたいのよ。圭(20代前半)の聖水。あんまり高値で売れないかも知れないけどマニアは買う。
多分買う。まあ高くて1万円ぐらいのもんだろう。そこらへんの客観視は出来てるつもり。
あ、あっちゃんおはよう。ご飯食べる?何これ、ってこれは卵焼きよ。
圭ちゃんの初夏の自信作「こげたま」今度ねー、これキャラクター化して売り出そうかなって、
そんなことも考えてる。NOVA圭ちゃんみたいな。ごめん、意味わかんないね、
私もわかんないからまあいいんじゃない?それにしてもさ、裕ちゃんの死体どうする?埋める?
- 283 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:34
- やっぱここらへんだったら富士の樹海あたりがベストポイントよね。
キロロのベストフレンズ歌いながら埋めてあげましょう。私達の手で。日本酒と焼酎新しいの買ってさ。
そこでまたみっちゃんも呼んで真夜中まで飲み明かすの。
どう?快感じゃない?あっちゃん?元気?あれ?あっちゃんも死ぬの?
お兄ちゃん、なんで人って死んでしまうん?ごめん、回想してた。ホタルの墓泣けるよね、
って本当にあっちゃんも死ぬの?いやっ、汚い、ゲロ吐いたコイツ。ゲロ吐きやがった。
別にあっちゃんとかゲロ自体に恨みはないんだけど、
私のカエルちゃんプリントの寝巻を汚したことが信じられない。ていうか許せない。
覚悟しろよこのバカ野郎。キャッ、キモイ。血が噴出してる。うっわー、キモイな。
これは最高にキモイ。普通皿で頭叩いたくらいで血噴出すか?バカじゃねえの?
稲葉バカじゃねぇの?まあいいけど。とりあえず裕ちゃんにもトドメを、
って裕ちゃん生きてるじゃん。「あんた、なんてことしてんねん」って何よ、何が?
あっちゃん?ああ、あれはね、仕方ない。仕方ないことなのよ。不可抗力っていうかさ、
事故というか。そうそう!他人の空似!あれはあっちゃんではありませーん!残念でしたー!
みたいな?ダメ?裕ちゃんそんな怒らなくたっていいじゃん。何が不満なのよ。
キーッ!って別にね、私はそんなヒストリーを起こしたりしないよ。
何?何が可笑しいの?ヒストリーじゃなくてヒステリーだって?知ってるわよバカ。
あんたがバカなのよバカ。バカバカバカ。うわっ、また血噴出してる。もー、キモイじゃんか。
カエルちゃんプリント台無し。私の聖水で清めなきゃダメじゃん?って何?
- 284 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:34
- 警察?警察の方が何の用ですか?私がかわいすぎるのがそんなに罪なの?何よ、触らないでよ。
そんな気安く私の身体に触らないでよ。警察呼びますよ。「私が警察だ」って何よ。
あんたつまんないわ。インパルスのデブよりつまんない。知ってる?インパルス。
嫌いなのよあのデブ。私が好きなのはハードゲイね。ハードゲイフー!って、何よ。
文句あんの?殴るよ?ていうかこれ手錠?取ってよ。私が何したってのよ。
ちょっとちょっとあれじゃない、美しすぎることが罪なの?なんだよバカ。死ねよ。
私、死んじゃえよ。
- 285 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:34
-
◇
- 286 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:35
- 私は今刑務所の中にいる。何もできない。寝る飲む食う歌う喋る怒る漏らす
失禁する排便する、セックスはできない、たまにオナニーする、看守は見て見ぬふりをする。
見せつける。それが快感。でも結局何もできない。酒も飲めない。クラクラしてくる。
裕ちゃんに会いたい。あっちゃんに会いたい。圭織に会いたい。あやっぺに会いたい。
紗耶香に会いたい。なんで私、こんな所に入ってんだろ。そうだ。
あの日にみんなで酒を飲んだからだ。なんで酒を飲んだんだろう。
そうだ、あの日にカエルちゃんプリントの寝巻を買ったからだ。
あんなもの買わなければ良かった。悔やんでも悔やみきれない。
- 287 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:35
- そうだ。仮定してみる。私がまだモーニング娘。にいたとしたらと仮定してみる。
多分私はまず田中ちゃんと仲良くなる。猫のよしみ。
私が「にゃにゃにゃー」というと田中ちゃんは「にゃにゃー?」と言う。きっとそう言う。
意思の疎通を図りたい。私は田中ちゃんとにゃにゃーにゃーと言って意思の疎通を図って、
ここから出してもらう。あれ?なんか変だ。違った。そもそも私がモーニング娘。であると仮定したら、
こんなところに入ったりしてない。田中ちゃん。かわいい。田中ちゃんはすごくかわいい。
妹みたいな感じ。それだからもちろん田中ちゃんのことを考えてオナニーとか、よくするけど、
それは仕方ない話で、何故かと言うとここが刑務所だから。刑務所は臭くて暗くてもう最悪。気分が沈む。
田中ちゃんが「保田さんはダメですね、もう最悪です、今まであった人の中でワースト1の実力者です」
とかなんとか言ってやがる。あああ、ダメ。壊れる。もっと明るい方面に考えをシフトさせていきたい。
ああでもダメ。なんかダメ。やっぱ一人だと辛いわ。裕ちゃん会いたいなぁ。
あっちゃん、会いたいなぁ。藤本でも吉澤でも誰でもいいから会いたい。辻加護は勘弁。
「ケメちゃんくさーい」とか「ブッサイクー」とか言いそう。あいつらなら言いかねない。
そんな世の中。世知辛いですのぅ。あれ?私って保田圭だよ?何だよお前、
こっち見てんじゃねーぞ、犯すぞコラ、おっぱいの先っぽで貴様のケツの穴犯すぞ。
見んなよ馬鹿。次見たら警察呼びますからね。
- 288 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:35
- ってあれ?紗耶香じゃん?久しぶり!どうしたのわざわざここまで、
会いに来てくれたの?何?万引きしてつかまった?あんたも苦労してんのね。
ていうかあんたも年取ったわねー。今いくつ?え?30?マジで?
そしたら私ってば何歳?33?嘘、いつの間にそんなに時間経ってんの?
だって私がここ入ったの23とか24の時よ?それがどうしたって?どうもしませんよはいはい。
さっきねー、紗耶香に会いたいとか思ってたのは実に失敗だった。やっぱ裕ちゃんに会いたい。
裕ちゃんなら私の全てを、って何?裕ちゃん死んだの?なんで?老衰?
プッ。老衰ですってば、やーね奥さん。何よ紗耶香、そんな変な目で見ないでよ。
「圭ちゃんが殺したんでしょ?」って何よ失礼ね。裕ちゃんは寝ゲロで死んだのよ。
私は何もしてないわよ。日本酒と焼酎をちゃんぽんするからいかんのよ。ああ全くもっていかんね。
カエルちゃんプリントのパジャマ欲しい。何?紗耶香今笑った?紗耶香笑ったらかわいいね。
まだまだイケイケよ。そういえばあんた、子どもはどうしてんの?
へー、もう13歳か、13っつーとあれか、中学生?毛は生えてるの?
「どこの?」って、あんたも野暮ね、なんで中学生相手に「髪の毛は大丈夫なの?」
なんていう質問を浴びせ掛けなきゃいけないのよ。愚問だわ。どう考えても下の毛でしょ。
陰毛よ陰毛。言ってごらんなさいよ。セイッ!「陰毛」何恥ずかしがってんのよ、
ここにはあんたと私しかいなじゃない。「いるよ」って誰が?アレ?何見てんだよ、
見んなって言っただろうが、ボケ。ケツの穴を小指の爪の先で犯すぞコラ。
なんだよ「おねがいします」って、このド変態めが。何?紗耶香何て言った?
「あれが私の息子です」って?マジで?感動のドキュメンタリー?この母にしてこの子あり!
みたいな?なんていうかさー、それってルービックキューブじゃない?
- 289 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:36
- 「そのこころは?」って何よ、何時代遅れの疑問系してるのよ、
そういう時は「ファナルアンサー?」って訊きなさいよ。
何?みのさん死んだの?なんで?肛門癌。なるほどねー、
まあ確かに肛門癌っぽい顔してたわ、奴は。何?「ファイナルアンサー?」って何よ。
つまんないのよ。私は嫌いなのよ。ああいう風に素人がヌケヌケとテレビに出やがって、
挙句の果てには「ドロップアウトします」とか言って10万円ぐらいで諦めて帰りやがるの。
最低。何考えてんのって感じ。でも高田純次さんが東京フレンドパークの金貨を
ダーツに交換せずに帰ったのにはもうなんていうかコペルニクス的な転換を感じたわね。
こうきたか!ってね。まあただ単に私があの人を好きだってだけの話なんだけど。
- 290 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:36
- あれ?紗耶香どこ行くの?もう出所?なんでよ、さっきからまだ5分も経ってないじゃない。
あれ?でもあんた老けたわね。今何歳?35?マジで?じゃあ何?私は38だとでも言うの?
えー、それってなんかチョベリバー。何?まだなんか言うことあんの?
何?バイバイ?あっそう。バイバイ。もう会うこと無いと思うけど、それじゃまた今度。
みんなでお酒でもこうさぁ、ガーッとね。富士の樹海でさ。こうやって肩組んで、
今日の日もさよなら♪ってね、メロディー忘れちゃったけど、
とにかくそんな歌を歌いながら酒をガンガンとね、飲むんだよ。
なあ、訊いてくれよ。看守殿。看守殿、聞いてくださいよ。
俺はね、だからそういう風に死にたいんだ。絞首刑なんて勘弁だよ。
聞けよバカ。掛けるぞ。潮掛けるぞこの野郎。田中ちゃんを思ってオナニーをしたこの潮を、
お前にぶちまけてやるぞ?何?「お前は頭が可笑しい?」うふふって感じ?それは結構だよ。
結構なことだ。あー、田中ちゃんと最後に喋りたかった。絞首刑なんて嫌だよ。
あれだろ?首つられた瞬間に全てが垂れ流し、白目を剥き、舌はダランと垂れ下がり、
私のカエルちゃんプリントの寝巻は私の黄金によって輝かしく彩られるわけだ。
それはそれでアリかも知らんね。じゃあ何の遠慮もいらないんで、
ガツーンっていっちゃってください。そのボタン押せばいいんでしょ?
その3つのボタンのうちの一つが本物なんでしょ?罪の意識の軽減?
- 291 名前:独白 投稿日:2005/06/13(月) 01:37
- バカだな、人を殺すのに罪の意識もクソもあるかよ。
殊に、私は今自ら望んで死のうとしているのだよ。
潔く一つのボタンでカタをつけたらどうだ。何?そういうわけにもいかない?規則ですから。
はぁ、それなら仕方がありまへんなぁ。規則ですからな。はいはい、規則ね。
あー、裕ちゃんあっちゃんごめんね。圭はこれから真面目な人間になります。って、
死ぬ間際に言ってもしょーもないしょーもない。あれ?田中ちゃん?
見に来てくれたの?圭ちゃんの晴れ舞台を?感涙。
もう今までこれほどまでに泣いたことがあっただろうか、ぐらいの涙。
よくよく見れば新旧モーニング娘。含めて全員いるじゃない。
しかもみんなピッチピッチじゃない。何よこれ。
何?死の間際に一番見たいものを見させてくれたの?誰が?神様?
そんなねー、ロマンチックなこと言ってるんじゃねーぞ、って感じがするけどね。
何?本当はそういうテクノロジーが云々?分かった分かった。いいよテクノロジーの話は。
もう聞き飽きた。私が信じているのは人間の心だから。
どんなに歪んでいてもこれだけは確かだから。私はモーニング娘。を愛している。
これだけは変わることなく確かだから。恨みなんて無いし、だからさー、
もうさっさとそのボタンを一つ押してくれればいいのよ、さっさとこうポチッとな、って
−了−
- 292 名前:名無し飼育 投稿日:2005/06/13(月) 13:57
- ああこの文体はもしかして春に咲く花の人かな
- 293 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/14(火) 03:52
- ↑自分もそう思いました。
ずるずると場面が引きづられて移り変わって行くのがすごいと思います。
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/28(火) 18:29
- 春に咲く花ってどこにあるの?
- 295 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/30(木) 07:02
- 紫。花の名前が題名。
- 296 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/30(木) 20:18
- ありがと
- 297 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:54
- タナバタバナタ
- 298 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:54
-
池袋行く。仕事終わりにいきなり話しかけられたと思ったら
手を引っ張られて気づいたら電車に乗っていた。
いきなりなにすんだこのやろー。
理由も何も知らない私は、愛ちゃんの楽しげな表情だけが頼り。
ニコニコしてて全然わかんないんですけど。
「どこに行くんですか?」
「なんで敬語なん絵里」
「どこに行くんですか?」
「池袋?」
なんで疑問系なんだよ。
自信なさ気な理由が分かりません。
「池袋?」
「ブクロ」
「に、何をしに?」
「七夕」
- 299 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:54
-
Q:池袋に何をしにいきますか?
A:七夕をしに行きます。
どこかの間違った英語の教科書みたいな返答。
意味が分かりません。私にはこの問題は解けません。
電車は池袋に到着すると愛ちゃんはさっさと降りていく。
「ちょ、愛ちゃん!」
「タナバタバナタ♪」
何の歌だよ。
「絵里、はよぉ」
「……」
山手線の階段を降りて、人ごみをかき分ける。
改札を通り抜けると愛ちゃんはすごい早さで真っ直ぐゴー。
西武も無視ですか。東口に行って、大学にでも行くつもりですか?
- 300 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:54
-
愛ちゃんは地下道を進んでいく。
階段を降りて、その背中が私の視界から消える。
急ごうにもサンダルが邪魔をしてなかなか急げない。
慣れないものを履くんじゃなかった。
がんばってなんとか追い上げると、愛ちゃんは意外とすぐ近くにいて
視線を動かさずにじっと一つのものを眺めていた。
「あ……七夕」
「タナバタバナタ♪」
だからなんだよその歌。
愛ちゃんが見ていたのは、沢山引っ掛けられた短冊だった。
「……すごい」
「……書くか」
「え?」
愛ちゃんはズガズガと歩くと備え付けられている机から短冊とペンを取る。
うーんだか、むぅー、だかうなりながら悩み始めると、
私のことなんてどうでもいいみたいで、ちょっとむっとした。
誘っておいてどういうことだコラ。
- 301 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:55
-
「あー……」
「愛ちゃん?」
「うー……」
「えー」
「むー……」
「めー」
置かれていたペンを手に悩む愛ちゃん。
何度も書こうとしてはやめ、書こうとしてはやめ。
私がここにいること自体に気づいてないみたい。
亀井絵里、ちょっと凹んでます。
「おぉし」
「愛ちゃん」
「うぉ!!絵里いつの間に」
いつの間にって……。
恋人になんて言い草だ。今日は七夕なのに。あんま関係ないか。
「瞬間移動したかと思た」
「そんな変な力愛ちゃんじゃないからありません」
「使えんわそんな力」
- 302 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:55
-
愛ちゃんは机に短冊を置くと、文字を書き入れた。
少しだけ期待して覗き込もうとすると、すぐに隠された。
「いいじゃないですかぁ〜」
「あかん。あかん」
顔を真っ赤にして隠す愛ちゃん。
期待していいってことなのかな。そう思うと
真っ赤に染まった完熟トマトみたいな愛ちゃんがたまらなく愛しい。
無理矢理回り込んで、奪い取る。
「あ!」
「やったー、どれどれ……」
さて、注目。愛ちゃんから絵里への愛の約束は?
『ソースカツ井食べたい』
「…………」
「あ、怒った?」
「絵里のことじゃないし、願いでもないし!まず漢字間違ってるし!」
「え?おぉ!」
「食べたけりゃ好きなだけ食べればいいじゃないですか!」
- 303 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:55
-
なんなんだよ愛ちゃん、期待させておいて。
笑うにも微妙すぎる。私よりソースカツ丼かよ。
拗ねる私にどうしていいのか分からないのか、
愛ちゃんは私の視界でおろおろしている。普段人のことなんて全然
気にしないくせに、今日に限って大慌てしてるよこの人。
だって最近構ってくれないんだもん。
仕事でしか一緒に会わないし、今日は久々に二人きりだったのに。
短冊の前に連れてこられて、私が少し期待したの分かってんの?
一体どんな素敵な言葉を短冊に込めてくれるのかって、
どんなうっとりするような魔法をかけてくれるのかって、
愛ちゃんにそれを期待すること自体間違ってるけど、期待しちゃうよ。
「ちょ、タンマ、今のなし」
愛ちゃんは短冊を鞄にしまうと机に向かう。
私も横に並んで紙を手に取ると、続いて青のペンを取った。
- 304 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:55
-
「ふー」
「よし」
二人とも書けた。私は間髪いれずに愛ちゃんのそれを奪ってやる。
うへぇ、何でぇ、何でぇと私から取り返そうとするけど
その前にしっかりと目に焼き付けて、
「75点」
「なんでそんな微妙やの」
「減点しますか?」
「……ごめんなさい」
珍しく素直に謝った。私は短冊に込められた願いに、
「とりあえず合格」
「とりあえずぅ?」
「とりあえず」
満足した。そんでもって自分の短冊は見せずに背中に隠した。
「見せて」
「い・や・です」
「何でぇ」
「愛ちゃんの願いが守られたら、教えますよ」
「……長いな」
「一言で言えば愛。地球愛」
「分からんわ」
- 305 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:56
-
二人で短冊をくくりつける。
たくさん短冊が集中しているところの右と左。
少し離れた場所にポジショニングしたけれど、それが織姫と彦星と
天の川に見えた。
「帰るかの」
「……はい?」
いきなり愛ちゃんの口から飛び出した言葉。絶句した。
「これが目的やったし」
「これだけのためにわざわざ池袋にきたの!?」
「ん」
んって。んって。
で? っていう よりムカつくんですけど。
愛ちゃんは歩く前にそっと手を差し出してきた。
意地悪く弾いてやろうかと思ったけれど、しっかりと握る。
「んでなぁ?」
「脈略がなさすぎてどこからか分かりません」
- 306 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:58
-
『来年の七夕も絵里といられますように 愛』
『巨乳 みき』
『セレブになりたい かおる』
『曲くれ みつお』
『友達ができますように れいな』
『全ての願いが叶いますように 絵里』
- 307 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:59
- >>297-306タナバタバナタ
- 308 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:59
-
- 309 名前: 投稿日:2005/07/09(土) 17:59
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- 310 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/09(土) 20:37
- なか4つに笑いました。でも・゜・(ノД`)・゜・。
杉田かおるはどうなったんだっけ
亀高好きっす。エリリンいい子だね
- 311 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 00:51
-
てってけラブリー とっとこガキさん
お休みの日の朝7時。
張り切ってドアフォンを押したわたしの前に出てきたのは、髪の乱れた寝ぼ
け眼の愛ちゃん。親指の付け根のとこで目をかしかし擦って、ブカブカな苺
柄のパジャマのズボンの裾を引きずってる。
「おっはよぉ〜!」
「どおしたの〜あんたぁ〜。朝から〜」
「明日行くって約束したよ?」
「ふわぁ〜(涙。まだ朝7時やろ。夕べ3時までDVD見とって寝不足なんやって。
も少し寝かせてって」
人の顔もよっく見ないでまっすぐにベッドに入っちゃう愛ちゃん。
「おーい!」って、わっさわっさ布団ごと揺り動かしても、返ってくるのは
気だるそうな幼い声。
- 312 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 00:53
-
「愛ちゃんサラダ作ってきたから」
「起きたら食べる〜」
「人が遊びに来たのに寝るなー!」
「あんたも一緒に寝ま〜」
「だからもう寝てきたの。目パッチリだから。愛ちゃんが起きて。ほら良い天気だよ」
カーテンを勢いよく開けたって愛ちゃんは見向きもしない。
んもぉ〜、せっかくお父さんに車で送ってもらって早く来たのに!
愛ちゃんのアホーーーーーーー!
「ん〜ほしたら宝塚見とって」
「……うぇ。やっぱ一緒に寝とくわ。隣あけて」
「あい。おやすみ〜」
「寝ちゃったよ」
いつまでも怒ってても仕方ないんで、わたしもベッドに入りましたよ。
新垣、返事と切り替えは早い方ですから!
- 313 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 00:56
-
隣で愛ちゃんは熟睡。
よっぽど夢中になってDVD見てたんですよ。
英語覚えるんだって、見てるうちに時間忘れちゃって。
おかげで約束してたこっちは待ちぼうけ。
罪のない顔しちゃって、どんな夢見ちゃってんだか。
早く起きないかなぁ。
部屋の壁掛け時計の音がカチコチカチコチ。
時間がもったいないもったいないって言ってる。
飯田さぁん、時計がある方が焦りますよぉ〜。
いつも集合時間にひとりだけ早く集まり過ぎてて、飯田さんに言われたんです。
時計をすればせっかちが直るって。
- 314 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 00:58
-
わっ。
愛ちゃんこっち近づいてきた。
「んふー」とかビミョーに色っぽい寝返り打たなくていいから!
って言ってるうちに、わっわっわっ!
体にしがみついてきて、両足で挟まれて身動きとれなくなっちゃいました。
暑いし体にチョー力入って痛いんですって!
ほらフトモモ、血止まりそうになってますもん。
こんにゃろ。コンニャロウ。
なーんて、もがいてももがいても離れない愛ちゃん(睡眠中)と格闘するのが
おもしろかったりして。ハムスターのビビちゃんが回し車で一生懸命遊んでる
のと同じ感覚だと思いますよ。
えぇ? 愛ちゃんが淋しいからお豆にしがみつく?
え〜そーなんですかねぇー? ん〜どーなんでしょーねー?
ああん? 照れてませんよぉ。照れてませんってば!
照れてない照れてない。ホントですって。ぜんっぜん照れてませんから!
- 315 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:00
-
でも愛ちゃんて一度仲良くなった子にとことん甘えたがりなトコ、
ありますね。こと最近の愛ちゃんときたら。
“美貴ちゃんカワイイなぁ。大人っぽいわぁ〜“
“美貴ちゃんも英語習いたいんやって!“
“ラジオの帰りに美貴ちゃんとお茶したのぉ〜”
お豆はあんまり考えたくないんですよ。
なんか考えたら悩んじゃいそうで。
考えるより行動あるのみ、ですよね!
だから今日も朝イチで来ちゃったのかも。
- 316 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:13
-
……。
………。
だいたい愛ちゃんは、
うぐっ!
えっ、なになに!?
なんで息とか苦しくなってんの!?
ウッソぉ。マジで!?
愛ちゃん助けて、おーい! 愛ちゃんって!
「もうバイバイ。美貴ちゃんと約束しとるの」
もうバイバイってなに!?
ちょちょちょ愛ちゃんちょっと待った!
愛ちゃーーーーーーん!!!
- 317 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:14
-
はッ。
「はぁはぁ、ゆ、夢っ…!?」
「あら〜起きたわ」
「愛ちゃん」
「キャハッ。鼻つまんでみた。ちょっと」
いつもの愛ちゃん???
ってことは……やっぱ夢だったんだ……。
あの「バイバイ」は夢だったんだ。
「? 泣いてまいそうな顔やざ。怒らんの?」
「え? お、怒るよ? ……愛ちゃん、何でそういうことするの!」
「何でってあんたが起きんでやろ。もうお昼やしいつまで寝とんの?」
「…はぁ!?」
うわあ。おもいっきり、寝てたーーーーーー!?
っていうかお昼!?
ああもぉマジで?1時とか?ガックリだよぉ。
キチョーな時間が……。
- 318 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:16
-
「おっまえさぁ、ええ天気やのに、はよ起きようとか思わんの?」
「うっわぁ〜言われたくない。7時に来たのに愛ちゃんが寝ろって言ったんでしょ!?」
「あーしのせいにするなよ」
「愛ちゃんのせいでしょーが!」
「あーしのせいやないって、DVDが」
「そこまでさかのぼるか。あ〜もう1時って1時だよ。1日半分終わっちゃてるし。
っていうか朝5時起きでサラダ作ってきた意味ないし」
「意味あったってぇ。ガキさんがおったであーしがよう寝れた。また一緒に寝ような」
「お?おぉ…」
うわ。ドキッとするような嬉しいことを。
(なんでそんな事言うの?)って顔して言ってから、ニコッて笑うんですよ。
こういう時の愛ちゃんは天使に見えたりして。川*’ー’)<Angel Heartsやし
ちょっと嫌な夢見ちゃったけど、お豆は気を取り直していきますよ!
- 319 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:18
-
すっかり昼下がりの午後1時。
お腹が減ったんで、愛ちゃんが作ったスクランブルエッグとトースト、わたしが
家で作ってきたサラダを食べました。最近苺=高橋愛を宣言して苺グッズを集め
てる愛ちゃんは、着てるパジャマも毎朝トーストに塗るジャムも苺にする徹底ぶ
りで、いちいちブツを写メに撮ってはメンバー全員に送ってくるんですよ。
苺のピアスだのなんだの、ほんっと楽しそうなんですよね。こんこんには嫌がら
せになってるって知ってるか〜い?
まぁですね、そんな愛ちゃんを見てるのも楽しいですよ。
- 320 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:20
-
「なんかさ、苺ってすごい果物やと思わん?」
「おいしいよ? おいしいけど」
「スラングやと、薬を欲しがる売春婦」←よくわかってない
「……ゲホッ!ゴホッ! ちょ鼻に牛乳入ったぁー!」
「ほれティッシュ」
「サンキュ。あのー愛ちゃん? ソレさ、よそで言ったら絶対ダメだから」
「何で? かっこいいやろ? セクシーやでさ。
あーし『コヨーテ・アグリー』みたいになりたいんやって」
「出たよ」
「カワイくてセクシーがいい」
「愛ちゃんの場合……そのうち間違いなく頭に苺のヘタが生えてくるね」
「ヘタ?」
「ぶっ(笑)」
「なんで笑うの?」
「カッパだ(笑)」
「?」
- 321 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:22
- もう何十回と聞かされた苺の話を聞きながら、遅すぎたブランチをムシャムシャ
食べて、それから青空が気持ち良さそうなんで(雨女ふたりが揃っててこの天気
は奇跡的ですよ!)、買い物を兼ねて、愛ちゃんの買ったばっかりの自転車で外
を散歩することにしました。
ふたりでマンションの前に自転車を出して、わたしが「後ろで立ち乗りすんの
ジャンケンで決めようっせ」って言おうと思ったら。
てか愛ちゃんもう後ろ陣取っちゃってるし!
「はよしねま」って顔して待ってるし!
「これペダル軽いでさ。乗ってみ?」
「あ、ホントだ」
なんか騙されてる気がするんですけど。まぁ、いっか!
- 322 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:25
-
チョー晴れた平日の昼間は、街も、のーんびりしてて超超超超いい感じです。
わたしの後ろで歌を歌う愛ちゃんの声も大きくなって。でも壊れたボイスレ
コーダーみたいに気に入ってるフレーズだけを歌い続けるんですよ!
ヒトの頭の上で! もう次の日もずーっと頭の中ぐるぐるしそーなぐらい!
だからちょっと「あれ歌って」ってリクエストして。
愛ちゃんが歌えるようになりたいって言ってたナントカナントカって洋楽。
外なんでマジに歌うのは「ヤダ!」って言い張ってましたけど、苺グッズの
ある横浜のお店教えてあげるからって言ったら、照れながらほんのちょっと
だけ歌ってくれました。
ホントね、あいっかわらず、上手いんですよ。
あ〜、愛ちゃんのファンの子にすっごい、すっごい聴かせてあげたい、コレ。
- 323 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:26
-
そんな感じで前半は愛ちゃんの歌のおかげでこっちもノレて、自転車もスイっ
スイ行けて。でも愛ちゃんの指示通りに道を進んでたら、登り坂に入っちゃって。
漕いでも漕いでもずっと坂なんですよ!
「アッ! ネコおった。ガキさんネコやって! ねぇ、聞いとる?」
「あん!? ネコがどうしたって!?」
「風気持ちいいねぇ〜」
「こっちは漕ぐの必死で全然わっかんないんだけど!」
「わかんないのかよ」
「だぁもお! 降りて歩いたほうが絶対早いから!」
「ダイジョーブできるって! あとちょっとやで行ってまえ〜!」
「ぬおおおおおおお!!!」
- 324 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:28
-
「おーやったぁ、登りきったわぁこんな坂」
(はぁはぁ、もー限界っ)
「こ、交代しようぜ…」
「はーーーーー。このチャリキふたりも乗っとってパンクせんのやろか…」
(ってオイ! いきなり自転車の心配かよ!)
「クギでも踏まない限り大丈夫だから。
そんなすぐパンクしたらね?自転車屋さんが商売上がったりだから。
……っていうか愛ちゃん交代して」
「えぇ〜…」
「えーじゃない。わたしここまで漕いだよ?
こんなきっつい登り坂をさ。誰かさんが降りてくれないから」
「もうわかったわかったよ」
「……わかったよってまた嫌そうに」
ふぅ、やっと交代だー。
でも! 安心するのは早かったんです。
- 325 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:30
-
「ほしたらいっちょ行くか!」
交代した途端、何を思ったか、高橋愛はいきなり自転車のペダルを全速力で
ぶっこいで右に左にクネクネ走り出したんですよ。あーなんでしたっけこー
いうの。ほら。アレですよ、アレ! 馬がピョンピョンするアレですよ。
こっちは落っことされないように愛ちゃんの肩にしがみつくしかないじゃな
いですか。
「何!?やばいって愛ちゃん! ムリムリムリムリ!」
「ターッタラッター♪」
「歌とかいいから! あぶないから!」
「アッヒャーーーーーーーッ」
「両足広げなくていいから!」
「ちょちょちょ止まって!止まって!いいから止まれーーーーーー!!!」
- 326 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:34
-
やっとブレーキがかかった頃には、わたしのテンションはもう下がりまくってて。
逆に愛ちゃんはホッペを赤くしてテンション上がりまくりで。
「キャハッ。おっまえずぅっとしがみついとったな」
「ぅわ喉カラッカラ。そこ喜んで言うトコじゃないから」
「ガキさんあーしにしがみついとっておもっしぇーかった!」
「あのね愛ちゃん、自転車の乗り方、小学生の時に交通公園で習ったでしょ?
ケガしたらどうすんの」
さすがに笑えないと思って、自転車の後ろから飛び降りて、愛ちゃんの目の前に
立って怒りましたよ。そしたらハンドルを握った愛ちゃんの顔からみるみる笑顔
が消えて、シュンと俯いて、いじけた暗〜い声で言うんです。
- 327 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:37
-
「あーしのこと信用してほしい…」
「だーかーらぁ、コケたらわたしも愛ちゃんもケガしてたかもしれないの!」
「信じてくれんと切ないんだって」
「そーいう問題じゃないでしょ」
「……もういい。」
「いや良くないから。聞いて?」
「ほんでもスリルあって楽しかったやろ?」
「ほら話聞いてない」
「あーしと一緒におって楽しくなかったんか…」
「……や、全体的には楽しいよ? 楽しいけど」
「ウャハッ!」
「ダメだこりゃ。心配するこっちの身にもなって欲しいわぁ」
「すんません」
はぁ。愛ちゃんが謝る時は、たいていわかってない時っていう。
反省してるような顔をして、ぜんっぜんしてないですから。
自分が相手を困らせたことはソッコー忘れますから!
でもわたしもすぐ忘れるほうなんで、だから愛ちゃんとケンカしても後に残
らないんですよね。
- 328 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:41
-
それからは危険すぎる愛ちゃんを後ろに立ち乗りさせて、またわたしが自転車
を漕ぎました。夕食のオムライスの材料とデザートの苺を買いに、商店街をブ
ラブラ回ってる時も、お互いが言いたいことをずーっと喋ってて、話が通じて
んだか通じてないんだか、わっかんないような感じでしたけど、ふたりで見る
お店、ふたりで見る街の景色に、たーくさんの発見があって。ちっちゃな感動
がいっぱいあって。ひとりだとそんな考えないじゃないですか。だって道路に
書いてある「止まれ」の文字で盛り上がれちゃうんですよ!
一緒に起きて、一緒にご飯食べて、一緒に買い物して。
時々すれ違う人がこっち見てても、愛ちゃんとふたりだったから全然気にしな
かった。
二人暮しの日曜日って、こんな感じなんですかね……?
かなり良いもんですよね。
- 329 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:55
-
前カゴにいっぱいの買い物袋を乗せて向かう愛ちゃん家への帰り道、歩行者信
号が赤になって、ブレーキかけて自転車を止めて。わたしとたぶん愛ちゃんも
目の前を次々と横切る自動車を見ながら、柄にもなくちょっと夕暮れに染まっ
て沈黙して。でもあっという間にいつもの愛ちゃんの早口な声が耳に降ってき
ました。
「二人で漕ぐチャリキあるやろ? 今度あれ買お」
「自転車がくっついたみたいな、サドルが2つあるやつだ」
「電動アシスト付き自転車高くて買えんかったで、ガキさんも漕げるのにするー」
「ははっ。わたし電動アシスト代わりなんだ(笑)」
呆れた顔で笑ってみせたけど、電動アシストでもなんでも。
一番近くで愛ちゃんを支えていきたいって、これホントに思ってるんだよ。
もっさんみたいにカッコ良くなれないわたしだけど――。
- 330 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 01:58
-
「ねっ。二人乗り買ったら遊びに行こうねぇ〜」
後ろから身を乗り出して、わたしの顔をのぞき込んで。
右手の小指を差し出してきて。わたしはハンドルを握ってたせいで汗ばんだ
右手にほんの少しためらいを感じながら、笑ってる愛ちゃんと小指を結びま
した。
「「約束!」」
鼻の根っこにしわが寄っちゃうぐらいのいーっぱいの笑顔を。
わたしに向けてくれるだけで。
不安が飛んでく。
- 331 名前:てってけラブリー とっとこガキさん 投稿日:2005/07/29(金) 02:08
-
また早起きしちゃいますよ〜!
愛ちゃんと一緒にいる1分1秒がすーんごく楽しくて仕方ないから。
それだけは愛ちゃんに伝わってて欲しいって、これからも、どんなことが
あっても、今までどおりのわたしで伝えていきたいって、お豆は思ってます!
川*’ー’)<おうがんばれ。
||c| ・e・)|<全然いいんだけどさぁ、やっぱ話聞いてないよね?
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/29(金) 22:50
- ものすごくよかった
この二人はこうでなきゃと思った
最高
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 11:10
- 萌え萌えの愛ガキネタの後に書くのは気が引けますが
藤高で行きます
- 334 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:13
-
- 335 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:13
-
おこづかいは1万円
- 336 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:14
-
「美貴ちゃんさー!」
「ん?」
「明日の9時に渋谷やから」
「何が悲しくてオフの日に愛ちゃんと・・・」
「どうせ家でダラダラとDVDでも見とるんやろ?」
「ダラダラ言うな!」
「そんなんやとおばあちゃんみたいになってまうで」
「愛ちゃん 美貴もいい加減怒るよ」
「ふえ」
「愛ちゃんってさ 人の都合とか考えたこと無いでしょ 美貴だって素敵な彼氏とデートして・・・」
- 337 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:15
- そんな時、愛ちゃんに美貴の声は聞こえていない。
だって小一時間文句言ったはずなのに愛ちゃんから出た言葉は・・・
「よくよく考えると9時は少し早すぎやよね 10時にしよ」
「え ちょちょっと愛ちゃん」
「じゃあ美貴ちゃんお疲れ 遅刻したら罰金やからね!」
「・・・・・・」
- 338 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:16
- 『美貴絶対行かねー』
愛ちゃんの背中に向かってつぶやいた。
「愛ちゃんはこういう子だから」
少しいらついている美貴に優しく声をかけてくれたのはガキさんだった。
「さすが愛ちゃんの子分 親分のことは良く分かってますねー」
「からかわないでくださいよ 私だって苦労してるんですから」
そんな風に言うガキさんは妙に楽しそうだ。
- 339 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:17
-
「まーまー でも明日愛ちゃん借りちゃって良いのかな?」
「もしかして私たちの関係誤解してます?」
『本当に誤解なの?』
何か言ってはいけない言葉のような気がしたから美貴は言葉を飲み込んだ。
「良いんだね?」
「親分をよろしくお願いします。」
「しょうがない明日は美貴が愛ちゃんのお守りをしますか・・」
- 340 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:18
- ↓
『愛ちゃんとデートか・・・・』
普段仲良しなメンバーからも何故かオフの日は遊びに誘われない。
”仕事で一緒でオフも一緒”って何か凄く疲れる気もしたし美貴からも誘わない。
でも愛ちゃんは何故か最近美貴を良く誘ってくれる。
誘い方は強引で不器用。愛ちゃんはいつも美貴をいらつかせる。
でも結局美貴は断れないんだよね。
『これってまさか・・・』
『無い無い』って1人突っ込みかよ。
↑
- 341 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:19
-
〜翌朝〜
美貴が待ち合わせ場所に到着すると愛ちゃんの姿がいない。
『ったく 誘っておいて遅刻かよ』
『愛ちゃんは美貴をいらつかせたら世界一かも知れない』
いらつきながら携帯を開くと愛ちゃんが美貴の顔を覗き込んできた。
- 342 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:22
-
「美貴ちゃんおはよー 何ぼーっとしてるの?」
「もしもし愛ちゃん?」
「時間がないからもう行くやよ」
「誰のせいで時間が無くなったと思ってるの?」
愛ちゃんは美貴の言葉を無視して歩き出した。
「って愛ちゃんまだ美貴の話終わってないし」
「でも時間もったいない」
だったら遅刻すんなちゅーの。
- 343 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:23
- 「愛ちゃん 今何時か分かってる?」
「あっ」
「ほら愛ちゃん遅刻したら素直に謝る!!」
「あらー時計してくるの忘れてたー」
なんかどっと疲れが出ました。
愛ちゃんはいつもこんな感じ。
こんなにいらついてるのになんか怒ると怒った自分が損をした気になる。
- 344 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:23
- 「そうじゃなくてね。愛ちゃん?」
「美貴ちゃんさー」
『ちっ!』
愛ちゃんやっぱり聞いてないよ。
美貴はもう諦めましたよ。
- 345 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:27
-
「ディズニーシーって行ったことある?」
「無いよ」
「今から行くことにしたから」
「行くことにしたからって」
「あっしが美貴ちゃんをディズニーシーに連れて行ってあげる」
「マジで?」
「マジやよ 美貴ちゃんは行きたくないの?」
「行きたいけど・・・」
「行きたいならもっと嬉しそうに返事するの!」
「行きたい行きたい!!」(うわー恥ずかしい)
そう言うと愛ちゃんは満足そうにうなずいていた。
もしかして美貴は愛ちゃんのペースにはまってるのかな?
- 346 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:28
- 「美貴ちゃん早く早く!」
ディズニーシーに着くと愛ちゃんは休む暇を与えず美貴を連れ回した。
- 347 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:29
-
「タッタラッタラー タララー♪」
「美貴ちゃんも一緒に」
「えっ」
「はい タッタラッタラー タララー♪」
「愛ちゃんちょっと」
「美貴ちゃんも一緒に せーの」
『タッタラッタラー タララー♪』
「声が小さい はいタッタラッタラー」
- 348 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:30
-
「タッタラッタラー タララー♪」(超恥ずいんですけど・・・)
「ハモッタハモッタ」
愛ちゃんは顔をくしゃくしゃにして大喜び。
そんな美貴も愛ちゃんにつられて手を叩いちゃってるし。
『あれ?可笑しいぞ 美貴も楽しんじゃってる?』
- 349 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:31
- ↓
パレードを一緒に見ていると愛ちゃんが手を握ってきた。
びっくりして愛ちゃんを見ると愛ちゃんはパレードに夢中。
- 350 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:32
-
「愛ちゃん?」
「・・・・・」
「終わっちゃったね」
「・・・・・」
「愛ちゃん本当に楽しかったよ 今日はありがとう」
「・・・・・」
美貴は珍しく素直な感想を伝えた。
愛ちゃんは余韻に浸っているのか呆然としている。
- 351 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:33
- 『愛ちゃんスルーかよ。』
最後の最後まで愛ちゃんは美貴をいらつかせてくれましたね。
悔しいから美貴は愛ちゃんに少しいたずらを仕掛けてみようと思う。
小学校の頃良くやったいたずら。
肩をトントン叩いて振り向くと指があるってやつ。
でも少しは愛ちゃんのこと感謝してるんだよね。
ほんの少しだけだよ。
だから振り向いた先にあるのは美貴の唇。
自分の考えたいたずらに少しニヤニヤしながら実行に移す。
- 352 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:34
-
「愛ちゃん」
肩を叩く。
「・・・・」
愛ちゃんは振り向かない。
さっきより強く肩を叩く。
「愛ちゃん」
「・・・・」
心配して愛ちゃんの顔を覗き込むと・・
- 353 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:34
-
『チュッ』
そこにあったのは愛ちゃんの柔らかい唇。
そしてタコのように真っ赤な顔をした愛ちゃん。
- 354 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:36
-
「美貴ちゃんの唇奪ったどー」
そう言うと美貴の前から全速力で逃げ出す愛ちゃん。
「まてー!」
- 355 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:37
- ↑
愛ちゃんはやっぱり少し先で待っていてくれた。
さっき真っ赤だった愛ちゃんの顔も元に戻っている。
↓
- 356 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:38
-
「美貴ちゃんやばいよ 急がないとあかん」
「えっ?」
「終電!!」
「終電って帰りはタクシーじゃないの?」
「今日のお小遣い使ってもうた」
「クスッ」
「何が可笑しいんや」
「タクシー代くらい美貴がおごってあげたのに」
「これでも娘。では先輩やし後輩におごって貰うわけにはいかん」
「でもハロでは美貴の方が先輩だよ」
「ディズニーではあっしの方が先輩やよ 言うことは聞くがし」
「ここから全速力で走るんやよ」
そう言うと愛ちゃんは美貴の手を握って走り出した。
FIN.
- 357 名前:おこづかいは1万円 投稿日:2005/08/03(水) 11:39
-
- 358 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 21:49
- イイ!!
ちょっとこんな愛ちゃんに惚れてしまいそうです
- 359 名前:LADY NAVIGATION 投稿日:2005/08/04(木) 09:22
-
LADY NAVIGATION
- 360 名前:LADY NAVIGATION 投稿日:2005/08/04(木) 09:30
- −月の美しゃや十日三日 美童美しゃや十七つ−
(お月様が美しいのは三日月で、乙女が美しいのが十七才)
2005年8月3日夜。
広島市某所。
外は台風の影響で雨が降っていた。
「んで、秀明ちゃんは?」
後藤真希は斉藤美海に話し掛ける。
「まだ勝負しよんじゃないか?」
「やれやれ、いつまでも変わらんのォ…」
真希は言った。
- 361 名前:LADY NAVIGATION 投稿日:2005/08/04(木) 09:43
- −2005.08.03 21:36−
「ハハハッ・・・その調子だ、どんどん来いや」
滝沢秀明は真希達とは別の場所にいた。
そこで秀明は他の男達と勝負を繰り広げていた。
「何でだ?こんならはこの前まで殺し合いの喧嘩してたチーム同士じゃないか・・・」
ある男はこう言うと倒れこんだ。
「広島にはあといくつかチームがある・・・」
秀明はこう言った。
すると真希は秀明の近くに来た。
「真希さん、こいつらどうしますか?」
秀明は言う。
「もうわかってるだろ・・・持って帰れや、ついでにそのツレものォ」
真希は言った。
- 362 名前:LADY NAVIGATION 投稿日:2005/08/04(木) 09:55
- −2005.08.04 07:34−
広島市内にあるマンション。
真希はこの一室に暮らしていた。
真希のいる「新廣島連合」は最近出来たチームである。
純粋なるチーマー軍団「COLORS」に加え、ケンカ軍団「魁皇」、暴走族である「賦離急亜」が入っている。
真希はこのチームで活動をしていた。
この日も真希は前日の事を思い出していた。
すると真希の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
- 363 名前:LADY NAVIGATION 投稿日:2005/08/10(水) 10:35
- 真希がドアを開けるとあさみが立っていた。
「よっ」
あさみは真希にこう話し掛けた。
「どうした…こんな朝早くから」
「すばるの事についてなんだが…」
「それってあさみさんのダンナさんじゃ…」
「何でも連合(新廣島連合)に入っとるみとぉなが…あんなぁいっつも帰りが遅いんじゃ、真希さんは何か知らんのか?」
「いや、ウチもいま起きたばかりで分からん」
「ほぉか…」
「でももしかしたら桧色雄待霧の連中とモメとるぅゆーて聞きよったが…」
「何か起きなければいいんだがのぉ…」
あさみは言った。
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 11:28
- >>359-363
>>1読め
完結してないなら書き込むなよ
- 365 名前:そーせき 投稿日:2005/08/14(日) 00:31
- いしよしです。
大変稚拙な内容ですが、初めて書いたということで、ご容赦ください。
- 366 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:33
-
「持って帰ったの?!」
ドアを開けた梨華ちゃんが、いつもよりさらに素っ頓狂な声で叫ぶ。
梨華ちゃんの目線の先は、アタシが持ってる大きな袋。
中身は、新曲『色っぽい じれったい』のメイン衣装。
「いやぁ、かさばるわ、重てぇわで、参ったよ」
「じゃ、なんで持って帰ったのよ? ってゆうかそれより、衣装さんになんて言って持ち出したワケ?」
「んとぉ、家で振り付けの練習したくてぇ、
リアルにやりたいんでぇ、衣装も付けてやりたいんですけどぉ、って」
「・・・すっごいウソっぽい」
「そーかな?」
「めちゃくちゃ白々しい。だって今までそんなことしたことないじゃん。
よっちゃん、振り覚えるの早いんだから」
「んふははは〜」
「絶対バレてるよ、本当のワケ」
「てことは、梨華ちゃんもわかってんだ、本当のワケ」
「・・・・・・」
「叶えてくれるんでしょ?」
- 367 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:34
-
「どうかな?」
着替えて寝室から出てきた梨華ちゃんの顔は、衣装の色が反射してるわけじゃなくて、少し赤い。
見ているアタシの顔もきっと赤いはず。だって…
「すっげー、カッケー!」
「もう! 他に言葉を知らないのっ!?」
そりゃ、絶対似合うって思ってた。
初めてこの衣装を見せられた時から、梨華ちゃんに着て欲しいって思ってた。
だから、白々しい口実まで考えて借りてきたんだけど。
それにしても似合いすぎ。キレイすぎ。見えてる腹がエロすぎ。
最初ちょっと緊張してた梨華ちゃんも、
アタシが口を開けて見とれているのに気を良くしたのか、スカートを持って回ったりしてる。
いや、そうゆうキショイことはしなくていいから。
・・・すると思ってたけど。
- 368 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:35
- 「じゃぁさ、ちょっと踊ってみてよ」
梨華ちゃんちにある初回盤CDを、コンポにセットする。
ちなみに、通常盤も買ったらしい。
どっちのジャケットも、よっちゃんがすごく素敵だったから、だって。
唯ちゃんも同じこと言ってくれたってのは、内緒にしとく方がいいよな。
「そこまでやらせる?」
「吉澤は、やる時ゃとことんやります!」
「わけわかんないよ」
再生ボタンを押すまでは、ちょっと軽蔑を含んだ呆れ顔をしてたくせに、
曲が始まったらいきなり真顔。なりきる、やりきる、ぶっちぎる。
別に、そんなにアゴ突き出してポーズ決めなくても。
あ、突き出してないの? 失礼。
- 369 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:36
- もちろん、梨華ちゃんもこの曲の振り付けは完璧に覚えている。
アタシのパートなのは、これ当然ね。
この間のハロコンで、アタシが『カッチョイイゼ!JAPAN』を演った時、
「梨華ちゃんに、振り付けを個人指導してもらったんでしょぉ?」
なんつー冷やかしの声を、何度もかけられた。
んなワケないじゃん、って答えたけど、それは嘘じゃない。
だって、お互いの振りなんて、わざわざ教え合わなくても、
PVとか穴が開くほど観てるんだから、覚えてるよ、
・・・とは言わなかったけど。
- 370 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:38
- それにしても、アタシ、そんなに腰は振ってないよ。だれも振ってないよ。
挑発してんのか、それとも、それが素なんだか。
ま、どっちでもいいんだけどさ。
いきなり腕をひっぱり、アタシが座っていたソファーに押し倒す。
「キャッ!」とか言うかなと思ったけど、全然びっくりしてない。
お姉さん、分かってた? それとも待ってた? きっと両方だな。
キスをしながら、梨華ちゃんの体に手を這わせていく。
色っぽい衣装なんだけど、あんまり露出はないんだよね、この衣装。
やっぱ12歳も着るからかな。
だけど。
「こっち側の裾、すっげー上の方まで上がっててさ」
「だよね。よっちゃんの足がセクシーだなーって思ってた」
「そう? アタシは、ここから手を入れて梨華ちゃんの足を触りたい、としか思わなかったよ」
言ってるそばから実行する。有言実行、カッケー!
「エロ・・オヤ・・・ジなんだ・から・・・」
さっき踊ってた時より荒くなってきた梨華ちゃんの息遣いが、更にアタシを追い立てる。
そろそろこれ・・・
「ね・・衣装・・・傷んじゃう・・・」
へへっ。梨華ちゃんもおんなじこと考えてるし。さすが、相性抜群じゃん。
- 371 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:40
- 「じゃ、脱ごっか?」
「・・・・・・」
なんなの、その不満そうな八の字眉毛は?
「シナリオ通りってカンジで、なんか悔しい」
「じゃ、やめる?」
「・・・それもシナリオ通りでしょ?」
言葉じゃなくて、微笑みを返す。
「爽やかジゴロの微笑み」とミキティに言われた、得意の笑顔。
新曲の撮影中に振りまいたら、亀ちゃんや麻琴はイチコロだった。
だけど小春ちゃんには全然通用しなくって、それどころか、気持ち悪がられて、
“憧れの人”の座を失っちまったけど、最愛の恋人には、効いたらしい。
立ち上がって差し出したアタシの手を、八の字を戻した梨華ちゃんが取る。
腕を引いていくのは、さっき梨華ちゃんが着替えに入ったところ。
さて、では本番スタート。
- 372 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:41
- 腕の中から聞こえる穏やかな寝息をBGMに、壁にかけた衣装をぼんやり眺める。
絞ったルームライトのせいで、真紅の衣装が更に妖艶に見える。
(キレーだったなぁ、梨華ちゃん・・・)さっき踊ってた姿を思い出す。
本人はピンクが好きなんだろうけど、いつも一所懸命で熱い梨華ちゃんには、
カルメンの色の方が似合うと思う・・・それが“空回りカルメン”でも。
でもやっぱ、どんな華麗な服より、どんなゴージャスなドレスより、
アタシは、たった今の梨華ちゃんの衣装が一番キレイだと思う。
BIRTHDAY SUIT、誕生日の衣装、生まれた時の姿、つまり・・・
- 373 名前:BIRTHDAY SUIT 投稿日:2005/08/14(日) 00:42
- アレだ。旅行と一緒だ。どんないいトコに行っても、結局は家が一番! って思うじゃん?
家の良さを再確認するために旅行に行く、なんて人もいるらしいし。
アタシにとっちゃ、梨華ちゃんのBIRTHDAY SUITが“家”なんだよね。
ま、コスプレなんてさせなくても、この衣装の良さは十分わかってるんだけどさ。
みんなに自慢したい、でも絶対誰にも見せたくない、アタシだけが知っている極上の衣装、
梨華ちゃんのBIRTHDAY SUIT。
FIN
- 374 名前:そーせき 投稿日:2005/08/14(日) 00:46
- お粗末さまでございました。
あの衣装を着た石川さんが見たい!という叶わぬ願いを、小説で実現させたかっただけです、ハイ。
ちなみに“BIRTHDAY SUIT”という英語は本当にあります。私の妄想の産物ではございません。
このような妄想を炸裂させた、いしよしに関する駄文を載せたブログをやってます。
小説は今のところこれしかないですが、よろしければ、お暇な折に、そちらも覗いてやってください。
ttp://blogs.yahoo.co.jp/soseki1231
- 375 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/14(日) 08:14
- すごくいいです。私も似合うと思ってたので、これが読めて幸せですw
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/14(日) 09:52
- そーせきさんのいしよしキター!
初書きとは思えないっす。
甘いいしよし、これからも書きつづけてください!
- 377 名前:くろ 投稿日:2005/08/14(日) 12:32
- 同じく初めてとは思えないです。
また次の作品も期待していますよ。
- 378 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:30
- 亡国の落日・外伝『LRRP』
(『亡国の落日』はこちら ttp://mseek.xrea.jp/event/pacifico04/1079851587.html)
- 379 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:31
- 〔交代〕
チョッパー(ヘリコプター)に乗り込んで十数分。目的地の上空に近付いた。
緊張が高まり、ドアガナーはM60を構えて万が一に備えている。
見渡す限りのジャングルの中、チョッパーは小さな空き地に向け降下して行く。
チョッパーから飛び降りる瞬間は、敵と間近で遭遇するより緊張する。
もう、数えきれない経験がある私でも、この瞬間だけは恐ろしくて仕方なかった。
「降下!」
私が怒鳴ると真っ先に安倍が飛び降りた。続いて通信機を持つ大谷。
それから私が飛び降りて近くのクレーターに走り込む。
先鋒の安倍がコルトコマンドー(CAR15)を構えていると、
最後の紺野がクレーターに滑り込んで来た。
その私達の上空を、前任者達をピックアップしたチョッパーが飛び去って行く。
これで五日間、私達は誰の支援も受けずに生きて行くのだ。
「敵の姿なし!」
「どうやら前の連中は追尾されてなかったみたいね」
私がそう言うと、紺野はニッコリと笑って頷いた。
運悪く前任者達が敵に追尾されているのに気付かなかったら、
私達は敵のど真ん中に置いて行かれた事になってしまう。
ところで、このクレーターこそ、B52による絨毯爆撃で出来たもの。
たった一発の爆弾で、四人が入れるだけのクレーターが出来るのだから驚きだ。
確か、このあたりは一ヶ月程前に爆撃したのだが、もう緑の侵食が始まっている。
いくら焼き払ったところで、いくら枯れ葉剤を散布したところで、
ジャングルは衰える事を知らずに『修復』を繰り返して行った。
- 380 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:32
- 「毎回ながらこの時が緊張するべさ」
私達LRRP(ラープ)は、敵地深く潜入して情報を持ち帰るのが任務。
いわゆる戦略的偵察部隊(リーコン)だが、五日間が限度とされている。
長期間の潜入は危険であるし、何よりも食糧が足りなくなってしまう。
だから、前にいた連中と交代に、今度は私達が潜入する順番になった。
これはある意味、敵を撹乱するいい方法である。
なぜなら、もし敵が前にいた連中を察知していたとしたら、
ただチョッパーに回収されたと思うだろうからだ。
「早くブッシュ(藪)に入ろう! もうじき砲弾が降って来るよ」
安倍が近くのブッシュに向かって走り出すと、
私達は周囲を監視しながら援護体制を崩さない。
安倍のGOサインが出ると、私達は一気にブッシュまで走った。
ブッシュに入ると、とりあえず周囲を監視しながら、
私は打ち合わせていた陣容を再確認してみる。
緊張し過ぎてると、肝腎な内容を忘れてしまう事が多い。
そうした部分をカバーするため、私は執拗に確認した。
「先鋒はなっち、殿軍はあさ美。宜しくね」
タイガーストライプのカモフラージュファティーグに同色のブッシュハット。
これがLRRPの制服みたいなもので、要するに国籍不明を装うのである。
だから、安倍こそコマンドーを持ってるが、私はAK47を愛用していたし、
大谷はポンプ式五連の散弾銃、殿軍の紺野はM2カービンを持っていた。
味方以外は敵という事だから、このいでたちでも敵は迷わず撃って来るだろう。
ただ、私達は国交もなく交戦国でもない国に無断で立ち入るのだから、
まさか正規兵のユニフォームは着られない。
- 381 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:32
- 「二キロ南に村がある。今晩はその近くで様子を覗おう」
大谷とは二回目だけど、安倍や紺野とは何回もやってるから安心だ。
安倍に前を任せておけば必ず何かしらを発見してくれるし、
殿軍の紺野は無口だが、それでいて敵の追尾を発見する天才だった。
無線機を持つ大谷の前任者は、後方の病院で治療を受けている。
あの時は敵の大部隊に追い駆けられて、死に物狂いで逃げたっけ。
全員無事にチョッパーには乗ったものの、敵の銃弾が床と彼女の足を貫通した。
「ん? いきなりかよ」
前方を見ると安倍が姿勢を低くして注意を促すサインを送ってる。
全員がそれに気付き、音をたてないように姿勢を低くした。
そして、みんな近くにある竹の根元に身を隠した。
竹の葉の隙間から太陽光が差し込み、チラチラと私達を照らしている。
タイガーストライプの迷彩服は、こうした場所でのカメレオン効果が絶大だ。
顔にも迷彩をしてあるため、このまま突っ立っていない限り、
数十メートル先からでも発見される事など皆無だろう。
(非武装の二人? 村人かな)
安倍はまるでバレーボールの攻撃サインのように、
手を腰の後ろにしてサインを送って来る。
チラリと後ろを見ると、さすがに紺野は後方を警戒していた。
でも、私の左手にいる大谷は前方を凝視したままである。
こういった時は左方を警戒するのがセオリーなのだが。
私は眼が合った大谷に手で左方警戒の合図を出した。
慌てて左方を警戒する大谷に、私はただ苦笑する事しか出来ない。
- 382 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:33
- (安倍が先鋒で良かった)
私達が持っているのは身を守る道具であって、戦うための武器ではない。
それは安倍もしっかり理解してるし、紺野だって以心伝心だった。
問題は無線機を担いだ大谷。彼女はまだ経験が浅過ぎる。
それでいて、今回は先鋒を志願して来たから驚いた。
そんな私達の数メートル先を、村人らしい二人が歩いて行った。
地図にはこんなところに小径があるなんて書いていない。
もしかすると、敵が物資輸送に新しく作った道路かもしれなかった。
「モーター!」
安倍が伏せると、空気を切り裂く音がして砲弾が降って来た。
敵は毎回チョッパーの接地地点付近を砲撃する。
こいつは八十二ミリのモーター(迫撃砲)だ。
私は十数メートル先に出来たクレーターに飛び込んだ。
なぜなら、迫撃砲は同じ場所には落とす事が出来ないからだ。
だからこそ、身を守るには最初に出来たクレーターへ飛び込むに限る。
これだけは順番じゃなくて、最初に取った者勝ちだった。
「わーん!」
駄目だ。大谷がパニックを起こしかけてる。
他の二人はモーターで出来た手近なクレーターに飛び込んでいた。
こんな神経で、よく先鋒なんて志願したもんだ。
先鋒ともなれば、その責任は途轍もなく重大になる。
トラップに注意しながら敵のアンブッシュ(待ち伏せ)を発見しないといけない。
私も何度かやった事はあるが、精神的にタフじゃないと務まらないポジションだ。
- 383 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:34
- 「雅恵、クレーターに入るのよ」
ここはまだモーターが降っても不思議じゃない場所だ。
この砲撃は最初から私達を狙ったわけではなくて、
たまたまチョッパーの接地地点から近かっただけ。
村人が通ったりしたから、動くに動けなかっただけの話。
私はクレーターの中から砲弾の向かう方向と角度を判断した。
八十二ミリの射程や方向からして、どうやら村が怪しい。
(あそこの村は、いつから敵性に?)
地図には友好的な村として書かれていたし、
事前のブリーフィングでも敵性ではないと言われている。
まあ、一晩もあれば友好的な村も敵性になるなんて珍しくない。
だからこそ、いきなり村に足を踏み入れてはいけないと教わった。
その事が現実に起きると、人間不信に陥りそうになってしまう。
とりあえず、今はクレーターの中で休んでるしかない状況だ。
それにしても、高性能爆薬だけの砲撃で助かった。
焼夷弾やガス弾を使われたら、こんな場所じゃ助からない。
「うわっ!」
至近に着弾し、私はクレーターの中で大量の腐葉土を浴びた。
その腐葉土の中にいたシロアリが、私の頬を反射的に噛んで来る。
しかし、たっぷりと塗った除虫剤のお陰で、シロアリは驚いて逃げて行く。
私は腐葉土を落としながら、三人の場所を記憶から呼び戻してみた。
確か、紺野が一番いい場所にいたっけ。
竹林の中のクレーターだから、私のように腐葉土を浴びる事もない。
- 384 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:34
- 「砲撃の場所が変わりました」
紺野の声で身体を起こすと、薙倒された竹の中から大谷が出て来る。
とりあえず、私はリーダーとして全員の無事を確認した。
それから、一刻も早くこの場所から移動しないといけない。
もしかすると、敵のパトロールがやって来るかもしれないからだ。
それに、ここは少しばかり窪地になってるから、万一毒ガスを使われたら全滅だ。
「なっち、二キロ南西に尾根があるから、そこで村を監視しよう」
「諒解だべさ」
都会で二キロを移動するのには、三十分もあれば充分だろう。
しかし、こうしたジャングルの中で周囲に注意を払いながら移動するには、
たっぷり二時間以上はかかってしまうものなのである。
どうやら大谷は、その遅い移動が嫌だったようだ。
あと二時間もすれば、そろそろ日没の時刻になるから、
尾根に着いたら適当な場所を選んで野宿の準備をしないといけない。
「その前に確認」
二人一組になって、落としたものや我々の痕跡がないか確認する。
ここに私達がいた事が判れば、敵は何が何でも探しに来るだろう。
私は村人らしき二人が歩いていた小径を地図に書き込むと、
再び安倍を先頭に菱形の陣形を保ちながら移動を開始した。
ここの国は名目上、中立国になってはいたが西側の支配下にあった。
戦争は交戦国同士で行われるだけじゃない。
私はそうした事を、この戦争を通じて思い知らされた。
- 385 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:35
- 〔尾根〕
私達が尾根に到着したのは一六:〇〇を過ぎた頃だった。
安倍と紺野に周囲を警戒させ、私と大谷で野営の準備をする。
尾根と言っても、本当に尾根の場所からは村が見えないから、
私達は尾根よりも十数メートル下った斜面を野営地に選んだ。
カモフラージュネットを張り、ブッシュの中に埋まるような感じだ。
これなら夜間であれば、数メートルまで接近しても気付かないだろう。
この辺りは尾根に囲まれて、いわば小さな盆地になっている。
数千人規模で守備するなら、難攻不落の地形と言っていい。
「なっちとあさ美、先に食事しちゃってよ」
「諒解」
二人が食事をしている間、大谷に周囲を警戒させて私が双眼鏡で村を覗う。
ここから村までは直線で七百メートルといったところだろう。
村にいるのは数名の西正規軍と、三十人くらいのゲリラ達のようだ。
夕日に照らされた村を見ると土嚢に囲まれた八十二ミリ迫撃砲も確認出来るし、
村の出入口には機関銃座やバンカー(掩蔽壕)もあるのが判る。
ブリーフィングの中尉の話だと、ここの村は友好的だった筈なのだが。
「軍曹、もしかして・・・・・・」
フリーズドライのレーションを水を飲みながら食べていた紺野は、
ずっと何かを考えていたようだが、何かを思い付いたように言った。
彼女とは私達の旅団にLRRPが出来てから、ずっとの付き合いになる。
言葉数の少ない彼女でも、私には考えている事が判ってしまう。
だからこそ、私は彼女を大切に思っているのではないだろうか。
- 386 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:35
- 「そうだよ。きっと」
紺野とは同郷だけあって以心伝心。
この村は敵の集合地になったんだろう。
そうなると、今夜は敵がゾロゾロとやって来るに違いない。
私は地図を見ながら敵の目的を考えてみた。
(LRRPの徹底排除かそれとも・・・・・・)
村の東側には川があり、その先に低い丘陵がある。
その丘陵の向こうには友軍の国境警備キャンプがあった。
どうやら敵の目的は、国境警備キャンプを攻撃する事らしい。
きっと、そのための集合地点に、この村が選ばれたんだろう。
「今夜、移動して来るんだべね。きっと」
「攻撃は明後日未明ってとこでしょうか」
国境警備キャンプは、旧宗主国の陣地を利用した堅固なものだ。
守備兵も百二十人からいるから、数百人の敵なら追い払えるだろう。
しかし、この村にいったい敵が何人集まって来るのか。
それだけは全く判らない。
「うへっ! あのアンテナは無線傍受だね」
私が言うと安倍が口を動かしながら私の双眼鏡を受け取る。
観察力のある安倍ならば、もっと詳しく見る事が出来るだろう。
こいつとも、旅団LRRPが出来て以来の付き合いになる。
とにかく全身がアンテナと言っていいくらいに勘が鋭い。
- 387 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:36
- 「そうだべねえ。あれじゃこっちの無線が使えないべさ」
安倍は私に双眼鏡を返すと、水に溶かしたココアを飲んだ。
無線傍受だけならいいが、数十秒も交信すれば場所が判ってしまう。
そうなったら、敵はどこまでも追いかけて来るだろう。
たった四人では、敵の追撃をかわす事も出来ない。
「あやっぺ、気付いたべか? 物凄い量の米と薪を用意してるっしょ」
「大部隊の到着待ちってわけか・・・・・・」
さすが安倍だ。そうした細かいところまで見ている。
夕闇が迫って来ると、村のあちこちで米を炊く炎が見え出した。
その数たるや中途半端なものではなかった。
これだけ多くの米を炊くのだから、かなりの大部隊が到着するのだろう。
「これは重要な情報です。報告しましょう」
「何言ってんだべか? 交信地点が判っちゃうっしょ」
紺野が言う通り、この情報は物凄く重要なものである事は事実だ。
友軍の国境警備キャンプが壊滅すれば、敵はそこから国内に侵入して来る。
そうすれば勢い付いたゲリラ達が、各地で暴れ始めるのは確実だろう。
もしかすると、これは旧正月の大攻勢以来の大規模な作戦かもしれない。
「尾根の向こうなら、傍受されても場所は特定出来ないんじゃない?」
尾根で乱反射するため、傍受は出来ても場所までは特定出来ないだろう。
僅かな望みに賭けてみるのもいいが、これも危険が多い。
当たりを付けて砲撃して来る危険性もあったからだ。
私はそれを承知で全員に提案してみた。
- 388 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:36
- 「それはそうだけど、大まかな見当なら付けられるでしょうね」
大谷は尾根の上を警戒しながら言った。
もっともな回答だが、他に選択肢があるとすれば、
歩いて国境警備キャンプ近くまで行って微弱な電波で交信するしかない。
距離としては直線で約十キロだが、ジャングルの中を通れば十時間。
道路を歩いて行けば三時間くらいで到着するだろう。
「それにあやっぺ、夜間の移動は危険過ぎるべさ」
LRRPでは比較的自由に行動する事を許されていたが、
夜間の移動は交戦した場合以外は原則として禁止されていた。
なぜなら、敵は夜間の移動が多く、それだけ遭遇する可能性が高い。
更にはジャングル等を進む場合、トラップに気付かないという危険もあった。
「安倍さん、夜が好きな連中が来ましたよ」
紺野の声で耳を澄ますと、足を引き摺るような音が聞こえて来た。
どうやら、この尾根を迂回して村に入って行く敵の部隊のようだ。
我が軍では敵の動向を探るために、夜間でも上空管制機を飛ばしていた。
でも、敵も馬鹿ではなから、エンジン音が聞こえると灯火管制してしまう。
「雅恵、敵の無線を傍受して」
西の言語は解り辛いが、私はもう五年もここにいる。
紺野ほどではないけれど、私にも西の言語は理解出来た。
ただ、単語に判らないものがあって、まだまだ勉強不足だと思った。
私は念のために、紺野にもヘッドセットを渡して間違いがないか確認する。
こうした時に、言語に優れた部下がいると心強いものだ。
- 389 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:37
- 「諒解」
交信は出来ないが、受信する事だけは出来る。
雅恵は周波数を探りながら、懸命に通信機を操作した。
すると、かなり微弱な電波ではあったが、敵の無線を傍受する事に成功した。
敵も考えたもので、あまり強い電波では傍受されてしまう。
そこでやっと通信出来るだけの弱さで通信していたのだ。
〈こちら火龍三十七。一九:二〇到着予定〉
〈大号三より菩薩へ。馬の蹄鉄が外れた。人力にて輸送中。到着予定は二〇:三〇〉
〈菩薩より大号三へ。それでは間に合わない。忠蟻二十一と合流されたし〉
私は『火龍』『大号』『菩薩』『忠蟻』とメモして考えた。
そういえば、ゲリラの拷問を見た時、RPGを『火龍』と言っていたっけ。
RPGより大きなものとなると、迫撃砲か野砲という事になる。
馬で牽かないといけないのだから、恐らく野砲だろう。
〈全軍に告ぐ。作戦は変更なし〉
〈忠蟻二十一、大号三と合流〉
何を急いでるんだろう。この村で一泊するんじゃないのかな。
確かに村からキャンプまでは、直線で十キロも無いんだけど。
・・・・・・もしかすると、政府軍と交戦があったのかもしれない。
でも、この辺りに政府軍が展開したという情報は入っていなかった。
「軍曹、攻撃は明日じゃなくて今晩じゃないでしょうか」
紺野が沿そう言うのであれば、その可能性は大きいだろう。
彼女のこうした勘のお陰で、私達は何度も危機を回避する事が出来た。
- 390 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:38
- 「そうだべね。その可能性は大きいべさ」
これは大変な事になった。もし、この情報を握ってるのが私達だけだったら、
国境警備のキャンプが全滅するばかりか、旧正月の大攻勢以来の大惨事になる。
同時に敵の輸送ルートが確保されるのだから、我が軍・友軍にも不利この上ない。
どうすべきなんだろう。いったいどうすればいいのだろう。
「尾根を越えて二〇:〇〇まで上空管制機を待とう」
敵の攻撃は深夜零時過ぎ頃と相場が決まっていた。
ここからキャンプまでは三時間の距離だから、
敵が動くとしたら二一:〇〇頃という事になる。
上空管制官に報告して司令部が情報を集めて解析し、
爆撃機が発進するまで、少なくとも三十分以上は掛かるだろう。
集まった敵を叩くには、二〇:〇〇が限界だった。
「これからっすか?」
まだ食事をしていない大谷は、移動するのが不満のようだ。
安倍と紺野が食事を終えたのは、かえって都合が良かった。
なぜなら、空腹で移動すると、どうしても足が速くなって、
つまらないトラップに引っ掛かる可能性が高くなるからだ。
「当たり前だよ」
何かしらの作戦や正規リーコンが展開する際には、
昼夜問わずに上空管制官の飛行が命じられていた。
もしかすると、司令部ではこの情報を握っているかもしれない。
ただ、敵の集結地が判明せず、情報を集めている可能性があった。
- 391 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:38
- 「夜間の移動は危険だって言ってるっしょ!」
安倍の言う事は正論だが、ここはグズグズしていられない。
私の判断はLRRPとして間違ってるかもしれない。
でも、ここで友軍を見捨てたら一生後悔するだろう。
私は陸軍軍曹及びこのLRRPチームの指揮官として、
この情報を一刻も早く司令部に知らせる義務がある。
そのためには、多少の危険は承知しないといけない。
「なっち、先鋒をして」
私が言うと渋々ながら出発準備を始める安倍。
さすがに紺野は心得たもので、もうカモフラージュネットを片付け始めていた、
ここに私達がいた事を隠すため、絶対にゴミを残してはいけない。
不自然にならない程度に、足跡も消さなくてはならなかった。
「軍曹、いいじゃないっすか。ここで野宿しましょうよ」
大谷は食事が出来なかった事が不満なのだろう。
しかし、食事を摂っていないのは私も同じである。
別に一食くらい抜いたところで、身体を壊すわけではない。
そういえば、大谷は夜間に移動した経験が無いんだ。
だから、不安で仕方ないのだろう。
何事も経験だ。大谷には経験が必要だった。
「雅恵、命令だよ」
私は三人の顔を見ながら言った。
- 392 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:38
- 〔通信〕
夜間の移動が危険なのは百も承知だ。だから先鋒に安倍と紺野の二人をつけた。
これで眼が四つになるわけだから、少しでも危険を回避する事が出来る。
安倍の五感は折り紙付で、生木の匂いだけで敵のトラップを回避した事もあった。
川を渡る時、安倍はブーツを脱いでゴムタイヤで作ったサンダルに履きかえる。
それで水中に仕掛けられたトラップのワイヤーを素足で察知するのだ。
先鋒は安倍に任せておけば安心。これは私の中で希望から信念に変わっていた。
「トラップだべさ」
安倍はコマンドーの先を地面に向けた。
私には何の変化もない腐葉土にしか見えない。
しかし、安倍はパンジースティックタイプの落とし穴だと言う。
腐葉土を掘り返した匂いと、何気なく置かれた石で判断していた。
こんな場所にトラップがあるという事は、近くに掩蔽壕でもあるか、
かなり以前からあの村を使う計画だったのだろう。
「そこが尾根の頂上だけど小径があるべさ。汗の匂いがする」
安倍は耳を澄まして様子を覗った。
彼女が合図を出して伏せると、数十秒後に足音が聞こえて来た。
足元だけを照らす提灯を持った二人が、AK−47を担いで通り過ぎる。
野良着姿であるため、二人はゲリラである事が判った。
「もうじき大人数が来るべさ。先に横切った方がいいっしょ」
安倍は小径に耳を付けながらそう言うと、一気に横断して行った。
私達三人も安倍に続き、音をたてないように横断してブッシュに入る。
- 393 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:39
- 「静かにするべさ」
小径から五メートルほど下がったところで、私達は原生林の中に隠れた。
すると、たった今横断して来た小径を、数十人が息を切らせながら歩いて行く。
大勢の足音が遠のくと、私達は再び慎重に下り始める。
安倍が注意しているのはトラップだけで、前方の安全は紺野に任せていた。
「うっ! 物凄い数だ」
尾根の中腹まで来ると、村へ向かう夥しい数の提灯が見える。
それはあたかも、愚かな人間を嘲笑う巨大な蛇のように見えた。
私達は尾根の北斜面の良さそうな場所を見付けて、
小休止を兼ねながら上空管制機が来るのを待つ。
上空管制機が来るのは、敵の提灯が消えるから自然に判るものだ。
「あやっぺ、これからどうするんだべか?」
「上空管制官に報告して村を爆撃して貰うの。
私達は日の出を待ってピックアップして貰おうよ」
時計を見ると、もう一九:四四になっていた。
上空管制機など、そう都合よく現れてくれるものだろうか。
まして、ここの上空を飛ぶ事は領空侵犯になってしまう。
敵も不法入国してるわけだから、非難される事はないだろうが。
「軍曹、こっちには敵が逃げて来るんじゃないですか?」
紺野が言うのは的を得ていた。
村を爆撃すれば、敵は山に逃げて来るだろう。
そうなると、どこかに隠れていないと遭遇する恐れがあった。
- 394 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:40
- 「その可能性もあるね」
私達の目的は戦闘ではなくて偵察だ。銃器を使うのは最終手段。
だから銃弾にも限りがあるし、退路を断つ事なんて出来ない。
紺野が言いたい意味は判る。この尾根を爆撃される可能性があるって事だ。
敵に撃たれて死ぬのなら、まだ納得出来るだろうが、
味方の爆撃で死ぬなんてのは、まっぴらご免だ。
「こいつを見て」
私はフィールドバッグからサイリウムを取り出し、
半分に折って発光させみんなに地図を見せた。
サイリウムの光はマグライトほど明るくはないが、
こんな微弱な光でもどこで敵が見ているか判らない。
だから窪地を選び、地面に地図を広げて反射まで考えた。
しかもスカーフで巻いて先端だけしか明かりが漏れないようにしてある。
これで敵に見付かったら、それこそ不運としか言いようがない。
「このまま西南西に五百メートル行けば廃坑があるでしょう?」
二十世紀初頭に石炭埋蔵調査のために掘られたものらしい。
その後、化石燃料(石油)がエネルギーの中心に切り替わり、
調査採掘だけですぐに廃坑になってしまったようだ。
この廃鉱は私達ではないが、二週間ほど前に他の連中が偵察している。
その際には敵の姿がなかったというから安心できるだろう。
私の考えでは、この廃坑に隠れて爆撃を回避すればいい。
そして、夜が明けるのを待って、チョッパーにピックアップして貰う。
これだけの重要な情報を得たのだから、快く迎えに来てくれるだろう。
- 395 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:40
- 「五百メートルも移動するんだべか? この夜中に」
「だったら味方の爆撃で黒焦げになりたい?」
「判ったべさ! 行けばいいんっしょ? 行けば!」
地図上では五百メートルでも、実際には標高差があるから+αがある。
直線的に向かえば最短距離だが、もし廃坑に敵がいた場合の事を考え、
私達は等高線上を移動し、それから降りて行く道を選んだ。
いざ銃撃戦になった場合、やはり上からの方が攻撃には有利である。
眼下を移動する敵も、そろそろ終わりが見えて来た。
あのペースだと、あと一時間もすれば村に集結するだろう。
そこを叩くのが最も効果的なのだが、私達が思ったほど上手くは行かない。
「爆音だべさっ!」
「雅恵、チャンネルをトップCに」
『トップC』チャンネルは、大尉以上でないと使用が許されない緊急チャンネルだ。
これは我が国四軍全ての航空機共通になっており、全てにおいて最優先される。
私達LRRPは深刻な緊急事態のみ、このチャンネルを使う事を許されていた。
ただ、空軍の中にはLRRPの存在すら知らないパイロットも少なくないだろう。
運悪くそんなパイロットだったら、私達は見殺しにされてしまうに違いない。
「トップCに合わしたっす」
「緊急通信。応答して下さい」
眼下の蛇のように連なった提灯が一斉に消えると、
爆音と共にジェット機が頭上を通過して行った。
機影とエンジン音で空軍のファントム戦闘機だと判る。
空軍ではたまに偵察目的で戦闘機を使うらしい。
- 396 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:41
- 〈緊急通信に応答。ここは作戦範囲外だが〉
「我々は第二〇三歩兵旅団のLRRPです」
〈LRRP? 何だそれは〉
〈緊急通信に応答。私は空軍中尉の戸田です〉
〈戸田中尉、LRRPって何です?〉
〈いいから! 君のコードと名前を〉
「L20311574。陸軍三等軍曹の石黒です」
〈馬鹿野郎! このチャンネルは大尉以上専用だぞ!〉
〈亀井少尉は黙ってろ! それで?〉
「座標24301・55766の村に敵の大部隊が集結中」
〈規模は?〉
「人数は数千人、野砲・迫撃砲もある模様」
〈諒解した。以降、上空管制官に引き継ぐ〉
この微弱な電波で短い交信だったから、敵が傍受した可能性は少ない。
それでも早急に位置を変えないと砲撃される心配があった。
村にある八十二ミリ迫撃砲なら、ここまでは楽に届くだろう。
もう廃坑の近くまで来ているはずだ。
私は地図を確認しながら、どこで下に向かうかを考えていた。
「地形からすると、あと百メートルで下に向かえばいいわ」
「百メートルね。夜間の移動は・・・・・・もういいべさ」
私が安倍の肩を叩くと、彼女は苦笑しながら溜息をつく。
溜息が出るのも当たり前だ。私達は物凄く危険な事をしているわけだから。
でも、先鋒を任せられるのは、この中では安倍以外に考えられない。
いや、安倍だからこそ、私は信念を持って先鋒を命じられるのだ。
- 397 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:42
- 〔危機一髪〕
「危ない!」
紺野と安倍が仰向けにひっくり返ったので、私は危うく撃つところだった。
てっきり敵のアンブッシュかと思ったら、どうやら違うようなので一安心。
散弾銃を握り締めて震える大谷を引き起こし、安倍に詳細を訊いてみた。
「あやっぺ、見るべさ。なっち、落っこちるとこだったよ」
「こいつは驚いたな」
見ると、そこには大きな崩落の跡があった。
どうやらB52の爆撃で、大きな木が倒れて崩落してしまったらしい。
これでは渡る事など不可能だから、上に登るか下に降りるしかない。
どちらにしろ、敵に遭遇する危険があった。
「軍曹、上空管制官っすよ。妙に明るい人で」
大谷からヘッドセットを渡された私は、そのハイテンションな口調に圧倒された。
まるでラジオのパーソナリティの如く、彼女は休む事もせずに話し続けている。
世の中広しといえども、ここまで陽気でハイテンションな上空管制官は初めてだ。
こっちは深刻な状況だってのに、高見の見物みたいで腹が立って来た。
〈アハハハハ・・・・・・。陸軍のアイドル・里田まいちゃんですよー〉
「こちらLRRP指揮官の石黒三等軍曹。指示をお願いします」
上空管制官は准尉と相場が決まってるので、一応は敬語を使ってみた。
もし、これが下士官なら怒鳴りつけてるところだ。
場合によっては、AKで撃ってやろうかと思ったくらいだ。
- 398 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:42
- 〈あのね。今、空軍の爆撃機が来るから。いやー、お手柄お手柄〉
「っていうか、立ち往生してるんだけど」
〈立ち往生? それは困ったわねー。どこにいるのかな?〉
「村の北東、約二キロ」
〈ああ、崩れちゃってるとこね? そこにいると危ないよ〉
「だから指示してくれっての!」
上空管制機が現れた事で、敵は我々の存在を知ったようだ。
尾根の方から敵が来る気配がする。こんな少人数では逃げるしかない。
上空管制機から照明弾が投下され、辺りが昼のように明るくなる。
視力のいい安倍が、数十メートル後方の敵を発見していた。
「仕方ない。アンブッシュだよ」
左翼に安倍、右翼に紺野を配置して敵の接近を待つ。
その間、照明弾はジワジワと接近して来る敵を照らしていた。
最悪はこの崩落を飛び降りるしかなさそうだ。
左右の二人は恐怖と戦いながら私が撃つのを待っている。
これが出来ないと、LRRPなんて仕事は務まらない。
私はセレクターがセミオートなのを確認して先頭の敵を狙う。
もう、先頭の敵は二十メートルまで接近していた。
「くそったれ!」
私の放った三発の内、一発目が腹に当たり二発目は胸、
そして三発目は確実に顔面にヒットしていた。
左右からはコマンドーとカービンがフルオートで敵を薙ぎ倒す。
左右の二人がマガジンを交換している間は、敵の反撃が来る。
手榴弾を投擲しようとした敵を、大谷がショットガンで仕留めた。
- 399 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:43
- 「『火龍』を前面に出さんかい!」
どうやら敵の指揮官が、RPGを前面に出せと言ってるらしい。
RPGなんかで狙われたら、それこそ蒸し焼きになってしまう。
私はフルオートに切り替え、地面スレスレを狙って撃ってみた。
悲鳴と泣き声が聞こえるので、どうやら敵に数人の負傷者が出たようだ。
〈石黒軍曹、戸田だ。村に燃料気化爆弾を投下する〉
「諒解」
〈その後、周囲にナパーム弾を投下する〉
「げげー! 私達は尾根の北斜面にいるんですけど」
〈速やかに下山されたし。以上!〉
「以上! ってオイ」
私はヘッドセットを握り締めて茫然としてしまった。
こんなに無責任な爆撃があっていいのだろうか。
情報提供した私達を見殺しにする気なのか?
まあ、尾根の反対側だから燃料気化爆弾のダメージは無いだろう。
しかし、問題は直後に投下されるナパーム弾だ。
あんなものが頭上に落ちて来たら、間違いなく死んでしまう。
「里田ァァァァァァァァー! 何とかしろォォォォォォー!」
〈ってな事で、気化爆弾の影響を受けるから、しばしのお別れ。なんちゃってー〉
上空管制機が遠ざかって行くと、尾根越しに大きなキノコ雲が姿を現した。
その直後、凄まじい風が麓から吹き上がって来る。
燃焼によって膨張した空気が冷えて気圧が下がり、
周囲の空気が流れ込む現象だ。
- 400 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:43
- 「ナパームが降って来るぞ! 飛び降りろ!」
私はAKを抱き締めると、そのまま崩落した場所へ身を投じた。
転がったら死ぬと判っていたので、両足を広げて体勢を崩さないように滑る。
私の肩越しに、火の点いたナパームのペーストが落ちて行く。
他の三人は大丈夫なのだろうか。そんな事、考えてる暇はない。
滑落して行く中で、頭上の焼けるような熱さは、次第になくなって行った。
「と、止まった」
崩落の下まで来て、私は何とか停止する事が出来た。
慌ててAKを取り出して周囲を見る。
すると、私にぶつかって来たやつがいた。
私の直後に飛び降りた安倍だった。
「なっち! 他の二人・・・・・・」
私はそう言って立ち上がろうとした瞬間、
後続の二人に激突されて川の中に転落してしまった。
慌てて岸に這い上がり、周囲を注意深く見渡した。
「いたたたた・・・・・・。えらく擦り剥いたべさ」
「うわっ、まだブッシュハットから煙が出てますよ」
「無線機は無事っすけど・・・・・・散弾銃がないや」
全員、大した怪我こそ無かったが、服はボロボロで凄まじい姿だった。
この姿では、まず敵か味方か判らないだろう。
大谷は武器が無いと不安だろうから、私のリボルバーを貸してやった。
- 401 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:44
- 〈アハハハハ・・・・・・。みんな無事だったみたいねー〉
「うるせー! この薄情者!」
〈あちゃー、ご機嫌ナナメ? これからどうするの?〉
「いいからチョッパーをよこせ! このヴォケ!」
〈ざんねーん! チョッパーは夜間飛行禁止でーす〉
「それ以上何か言ったら、撃ち落すから覚悟しろよ」
〈はいはい。それじゃ、ピックアップポイントが決まったら連絡するからねー〉
あんな無責任なやつなんか、上官でも何でもない。
とりあえず、私達は廃坑へ行く事にした。
もうじき敵の残党が逃げて来る頃だからだ。
廃坑はジャングルに埋もれているはずだから、
旧宗主国の人間か地元の人間しか知らないだろう。
「なっち、また紺野と先鋒」
あのナパームで尾根の敵は全滅しただろうが、
麓にはまだ敵が散開している可能性があった。
ここは速やかに、例の廃坑へ逃げ込むに限る。
周辺の敵は負傷兵の救出を優先するだろうが、
私達と出くわせば交戦になるのは確実だった。
「夜間・・・・・・判ったべさ」
ようやく安倍も諦めてくれたようで、それ以上は何も文句を言わなかった。
殿軍にまわった私は、神経の八十パーセントを後方に集中している。
追跡者を発見するのは、意外に難しいものだ。まして夜間だと余計だ。
戦闘機は小径を移動する敵を発見したようで、バルカン砲を撃っている。
毎秒百発もの二十ミリ弾が降り注げば、敵は反撃する余裕すらないだろう。
- 402 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:44
- 廃坑は成長した木々に埋もれ、見付けるまで時間が掛かるほどだった。
しかし、夜明けまでここに隠れているというのは、かなりのグッドアイデアだ。
なぜなら前面には高く木々や草が生い茂り、絶好のカモフラージュになる。
ただ、五十年以上前に掘られたものであるため、注意しないと落盤の危険があった。
「何も聞こえないべさ。誰もいないと思う」
コウモリあたりが生息していてもおかしくないが、中に生物がいるとは思えない。
紺野に殿軍を任せ、まず安倍が入って行く。続いて大谷、そして私の順だ。
廃坑といっても深いのかと思ったら、入口から数メートルで左に曲がっている。
コンクリートで補強されているのは、入口からの直線だけだった。
なっちは五感をアンテナにして、中に敵が潜んでいないか探っている。
もし、中に数人の敵が潜んでいたとしたら、間違いなく銃撃戦になるだろう。
「あやっぺ、変な臭いがするべさ」
安倍がマグライトを向けた先に、まだ幼さの残る少女の顔があった。
怯えて眼を剥く少女が少しでも動けば、安倍はマガジンが空になるまで撃つだろう。
私のマグライトで少女の周囲を照らしたが、武器らしいものは持っていなかった。
三人が少女に銃を向けたまま、周囲に気を配りながら近付いて行く。
「あさ美、入口を見張れ。雅恵は無線機を置いて周囲を警戒しろ」
私は安倍がコマンドーを少女に向けている事を確認した。
それからバヨネットを持って少女を立ち上がらせてみる。
小さなバッグを持っていたので、慎重に中身を確認した。
安倍が感じた臭いは、どうやら消毒に使う焼酎らしい。
どうやら彼女は、看護兵として連れて来られたようだった。
- 403 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:45
- 「名前は? 言葉は判る?」
「く、久住小春です。村ではバレーボールを・・・・・・」
「なぜここにいる? ここが野戦病院なのか?」
「ば、爆風で尾根から落ちたんです」
どうやら小春という少女は、燃料気化爆弾の衝撃で尾根から滑落し、
たまたまこの廃坑を見付けて逃げ込んだらしい。
身体検査をしても、重要な情報に繋がりそうなものは持っていない。
私は小春を座らせ、詳しく尋問する事にした。
「なっちとあさ美、交代で見張りをやってくれる? 雅恵はあの馬鹿准尉からの連絡を待て」
小春の村に西の正規軍が入って来たのは、一ヶ月ほど前の事だったらしい。
村の大半が徴兵され、小春くらいの年齢の子供は看護兵となったそうだ。
このように赤軍は村を襲い、抵抗すれば皆殺しにした。
燃料気化爆弾を投下した村も、赤軍に脅かされて仕方なく協力したのだろう。
「あやっぺ、どうするべさ」
「どうもこうもない。馬鹿准尉からの連絡待ちだよ」
私は食べ損なった夕食を摂るため、フィールドバッグからレーションを出した。
二個あったキャンティーン(水筒)は、一個が削れて穴が開いてしまっている。
だから、仕方なく無事な方のキャンティーンから使う事になった。
サイリウムを中央に置き、廃坑全体がボヤっとした感じで浮かび上がった。
「軍曹、上空管制官っす」
あの女は私を邪魔するために存在するのか?
会う事は無いだろうが、もしどこかで会ったら殺してやる。
- 404 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:45
- 〔廃坑〕
時計を見ると、もう〇三:〇〇になっていた。
あと二時間もすれば、チョッパーが飛べるようになる。
馬鹿准尉の話だと、空挺部隊が村(村跡)に展開しており、
尾根まで登ればチョッパーが拾ってくれるそうだ。
「これはCレーションっていうの。豆と牛肉よ」
大谷が小春にCレーションを食べさせている。
よほど空腹だったようで、小春はガツガツと食べ始めた。
私はフリーズドライのミートボールを齧りながら水で流し込む。
小春は非戦闘員だが、ゲリラという扱いになってしまう。
ゲリラは即刻処刑する事になっていたが、どうすべきか。
「銃声だべさっ!」
私は地図をポケットに入れ、サイリウムを土に埋めると、
おっとり刀でAKを持って安倍のいる入口へと向かった。
どうやら敵の残党、というか主力がが続々と終結しており、
掃討に出て来た空挺部隊と銃撃戦になっているらしい。
安倍によるとAKの音の方が多く、友軍は苦戦しているようだ。
もしかすると、これは罠だったのかもしれない。
「おい、疫病神! 尾根は安全か?」
こうなったら、一刻も早くチョッパーに来て貰わないと。
そうでないと、私達は敵の真っ只中に孤立してしまう。
そうなったが最後、この廃坑も見付かるのは時間の問題。
- 405 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:46
- 〈ちょっと待っててねー。照明弾を落としてみるから〉
尾根にも敵が散開していたら、私達はここから動けなくなってしまう。
とにかく、早急にチョッパーでピックアップして貰わないといけない。
私がヘッドセットをしながら自分の荷物を片付け始めると、
手の空いている大谷が廃坑内に落し物が無いかチェックした。
〈今のとこは平気だけど、敵が進撃して来るみたいよ。急いだ方がいいんじゃない?〉
「よし、尾根の上でチョッパーを待つ。到着予定時刻は〇五:三〇」
さて、小春をどうするべきなのか。選択肢は三つある。
まず、このまま放置して行く。次に一緒に連れて行く。
そして最後は・・・・・・赤軍に通報されたら私達が危ない。
私達の安全のために殺すか。だ。
「尾根の上でチョッパーを待つよ。・・・・・・あさ美、判ってるね?」
入口から差し込む月明かりの中で、紺野の表情が曇って行った。
本来なら指揮官である私が小春を殺すべきなのだろう。
でも、紺野は殿軍だしトカレフを持ってる。
トカレフならここで音がしても敵には怪しまれない。
「や、やめて! 殺さないで下さい! お願い!」
雰囲気を察してか、小春は急に怯えて震え出してしまった。
私一人であれば、きっと小春を殺さずに行くだろう。
でも、私には三人の部下を無事に帰還させる義務がある。
そのためには、少しでも不安は取り除かなくてはいけない。
- 406 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:46
- 「でも、軍曹・・・・・・」
「仕方ないのよ」
紺野にも判ってるはずだ。小春を置いて行くのが、どれだけ危険な事か。
危険は私達だけじゃなくて、命の綱であるチョッパーにも及ぶのだ。
私だって殺したいわけじゃない。まして、こんなに幼い子供を。
「あやっぺ! 何もそこまでする事ないべさっ!」
「敵に知られたらどうするの! 空挺部隊まで苦戦してるってのに!」
私は安倍の胸倉を掴んで声を荒げた。
これが戦争。私は間違ってない。
だって、私には三人を無事に連れて帰る義務がある。
苦渋の選択だという事、判っては貰えないかな。
「軍曹、連れて行ったらどうっすか?」
確かにそういった選択肢もある事にはあるが、
私は考えた挙句に出した苦渋の答えだった。
とにかく安全が第一でなければ意味がない。
小春のために三人の部下を危険に晒すわけには行かないのだ。
「雅恵! 足手纏いになるだけ。それだけ危険が増すの!」
私は安倍と大谷を廃坑の外へ押し出した。
肩越しに後ろを見ると、紺野が俯きながらトカレフを握り締めていた。
紺野には辛い事かもしれないが、何とか乗り切って欲しい。
もし、紺野が撃てないのなら・・・・・・私にも小春を撃てる自信はない。
こんなに後ろ髪を引かれる思いは生まれて初めてだ。
- 407 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:47
- 「お願いします! 撃たないで・・・・・・死にたくない!」
私は思わず耳を塞いでしまった。
何でこんな事になってしまったんだろう。
廃坑の中にいた小春が不運だったとしか言えない。
でも、この廃坑に先にいたのは小春の方じゃないか。
「・・・・・・」
人の命を天秤になんかかけられない。
でも、私の任務は三人を連れて戻る事。
泣き言なんて言ってる暇なんかないんだ。
「なっち、先鋒をたのむよ」
「もう聞き飽きたべさ」
私が廃坑を出るのと同時に、後方でトカレフの銃声がした。
あんな幼い子供でも、殺さなければならないのが戦争だ。
そうでも思わないと、それこそやってられない。
「あさ美、殿軍を頼むよ」
「・・・・・・はい」
廃坑から数十メートルも登ると、そこは焼け野原になっている。
見通しがきくので、敵のアンブッシュに要注意だ。
草木とナパームの焼けた臭いが充満し、かすかに蛋白質の焦げる臭いもする。
恐らくナパーム弾の直撃を受けて死んだ敵だろう。
戦争は残酷だ。でもそれが当たり前。これは殺し合いなのだから。
- 408 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:47
- 〈アハハハハ・・・・・・。アンブッシュに気を付けてねー〉
あの馬鹿准尉の里田だ。こっちは地面の上にいるんだ。
上空から遊び半分で戦争見物をしてるわけじゃない。
酸欠で死んだ死体はまだいいが、焼けた死体は無残そのもの。
頭蓋骨の中が沸騰するのか、どの死体も頭が破裂していた。
「ようやっと夜明けだべさ」
燻る煙の合間から、東の空が明るくなって来たのが見える。
ボロボロになった野戦服が、焼けた大地の熱を身体に伝えた。
そこはもはやジャングルではなく、いわゆる焦土と言うに相応しい。
ナパームの威力は、一瞬にしてジャングルを砂漠にしてしまう。
「なっち、尾根に出る時は要注意だよ」
「諒解」
見通しのきく尾根では、かなり遠方からも狙撃されやすい。
それが山岳戦の特徴でもあり、頼りになるのは私のAKだけだ。
でも、これだけタイガーストライプファティーグがボロボロだと、
遠くからは敵・味方の区別がつかないだろう。
「これじゃ、注意も何もないべさ」
尾根の上に着くと、そこは一面の焦土になっていた。
所々に残る有機質が、小さな炎を上げている。
それよりも恐ろしいのは、村があったはずの場所には何もない。
燃料気化爆弾が、数百人の住む村を消滅させてしまったのだ。
その影響はナパームを含めて半径二キロは焦土にしていた。
- 409 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:48
- 「地獄とはこの事だね」
私は茫然として立ち尽くして村跡を見ていた。
あれだけの敵が、たった一発の爆弾で消滅したのだから。
燃料気化爆弾は、核兵器にも匹敵する破壊力を持っている。
まったく恐ろしいものだ。
「あやっぺ、どこか窪地でチョッパーを待つべさ」
「そうだね」
私達は適当な窪地を見付けて中に入り、
C4プラスチック爆薬を燃やしてコーヒーを沸かした。
もうこれで誰も、キャンティーンの水は残っていない。
予備食糧を齧ってコーヒーを飲む。
こんな灼熱の地獄でも、風が吹くと寒いくらいだった。
〈チョッパーが出発したってさ。あたしも帰って寝ようっと〉
「ふふふふ・・・・・・。じゃあな薄情者」
私が馬鹿准尉と無線を終えた頃になると、
村があった場所に航空騎兵隊がやって来ていた。
航空騎兵隊が来たんだ。これで敵は逃げて行くだろう。
「・・・・・・」
後方を警戒する紺野に、私は何と声を掛けたらいいのだろう。
彼女は私の命令で無抵抗な幼い子供を殺したのだ。
これが交戦国内であれば、それこそ軍法会議ものだろう。
懲罰があった方がどれだけ気が楽か。
- 410 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:48
- 「チョッパーが来たべさ」
安倍の聴覚は動物並に鋭い。
その証拠に、すぐチョッパーからの無線が入って来た。
煙の中の朝日に小さな黒点が見えると、
やがてそれはチョッパーの姿になって行く。
〈発煙手榴弾を投げてくれ〉
私は黄色の発煙手榴弾を窪地のすぐ外に投げた。
これだけ焼焦げた大地だと、上空から人を発見するのが難しい。
まして、私達の服はボロボロだし、手や顔には迷彩をしている。
手を振ったところで、チョッパーからは見えるはずがない。
〈黄色かな? かなり白っぽい〉
爆音を響かせて接近して来るチョッパーのドアガナーに、
事もあろうか私達はM60を向けられた。
この姿では敵か味方か判らないのは当然だろう。
それでも数メートルまで接近すると、
私の顔を確認したドアガナーは銃口を横に向けた。
「大尉が天狗になってるよ」
LRRPの隊長である大尉は、旅団長から直々に感謝を言われたらしい。
浮かれるのは勝手だが、私達がどんな思いでリーコンしたのか。
無抵抗の子供を殺した事は、きっと私の記憶から消える事は無い。
紺野には本当に辛い事を命令してしまったものだ。
何とか慰める言葉を考えておかないと。
- 411 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:49
- 〔買い物〕
敵の大攻勢を未然に防げたため、上層部ではお祭り騒ぎだったらしい。
LRRPでも久し振りの成果があって、将校連中は勲章を申請したそうだ。
私達は擦傷の手当てをして貰うと、簡単な報告をして泥のように眠った。
これだけ緊張して疲れたリーコン(偵察)は初めてじゃないかな。
「あやっぺ、起きてるべか?」
「あ・・・・・・ふわ〜・・・・・・なっち?」
半地下のテントの中で、私は毛布から顔を出した。
枕元の腕時計を見ると、もう一五:〇〇になっている。
私は七時間近くも眠っていた。
「タイガーストライプのファティーグ、買いに行かない?」
そうだった。崖を滑落した時に、
私達のファティーグはボロボロになってしまった。
私はもう一着持ってはあったが、二着あったに越した事はない。
LRRPではタイガーストライプのファティーグがユニホームのようなものだ。
「そうだね。行こうか」
私は作業着のオリーブファティーグを着て、ピストルベルトだけをつけた。
リーコンの時は軽いリボルバーを持って行くが、普段はガバメントだ。
私用でキャンプから出る時には、原則として銃器の携帯は禁じられていたが、
このところゲリラによる被害が出ているせいか、拳銃だけは許可されている。
右に重いコルトだけだと重心が悪いので、左にはコンバットナイフを付けてみた。
- 412 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:49
- キャンプの外にあるダウンタウンでは、手に入らないものが無いくらいだ。
あきらかに横流し品であるものを、軍の放出品と称して売っている。
安倍と二人でアイスキャンデーを食べながら露天を物色して歩いた。
「人間って、本当に逞しいべさ」
こんな戦争中でも、人々は生活するために商売に精を出している。
この瞬間にも、どこかで戦闘が繰り広げられているというのに。
スコールのお陰で、ほんの少しだけ涼しくなったようだが、
熱帯の日差しは厳しく、私はサングラスとサンバイザーを着けていた。
「伍長さん、私に『死ね』いうのですか?」
「どうせ盗品か横流し品じゃないのよ」
どこかで聞いた声だと思ったら、あれは大谷じゃないか。
横にいるのは紺野。どうやら二人もファティーグを買いに来たみたい。
無口な紺野の横で、大谷が声を張り上げて値切ってる。
これだけ阿漕な商売をしても、この国の人は食べて行くので精一杯。
この国は決して私達の国のように豊かではなかった。
「四人分買うから安くしてよ」
「軍曹」
四人で値切った結果、タイガーストライプのファティーグは定価で、
ブッシュハットとスカーフを付けさせる事に成功した。
元々、口数の少ない紺野だったが、今日は一段と無口に思える。
無抵抗の少女を撃ったのだから、良心が痛んでいるのだろう。
ここは私が一杯奢って、少しでも精神的負担を軽くしてやらないと。
- 413 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:50
- 「あたしが奢るからさ。ビールでも飲もうよ」
レンガ造りの酒場に入り、四人でジョッキを注文した。
この国には関税がないせいか、私達の国の半額くらいで飲める。
しかも、麦芽とホップしか使っていない極上のビールだ。
「ねえ、あさ美。何て言うか・・・・・・戦場ではああいった事が」
私もあまり饒舌ではないので、どうやって話を切り出せばいいのか。
紺野は少し首を傾げたあと、大ジョッキのビールを一気に半分近く飲んだ。
隣では安倍が皮付ウインナを美味しそうに食べている。
大谷は私の奢りだからって遠慮もせずに、もう二杯目のビールを注文していた。
「よくある話なんだよ。だから、そう気にするなって」
「は?」
「だから、その・・・・・・小春を撃った事は・・・・・・」
「撃ってませんよ」
「へっ?」
でも、あの時トカレフの銃声がしたよな。
私はてっきり、紺野が小春を撃ったものだと思ってた。
まるで狐に摘まれたような気分だ。
「撃てますか? 泣いて命乞いする子供を」
「ふふふふ・・・・・・アハハハハ・・・・・・。ならいいんだ。アハハハハ・・・・・・」
紺野とは以心伝心だと思ってたけど、こいつは結果オーライだ。
私が笑うのを見てか、紺野は不思議そうな顔をしていたが、
そのうち私と同じ笑顔になっていた。
- 414 名前:偽みっちゃん ◆OaK4nRw27I 投稿日:2005/08/23(火) 23:50
- END
- 415 名前:_ 投稿日:2005/09/05(月) 21:57
-
よっちゃんは
真っ白に広がる美貴の画用紙に、透明のクレヨンで落書きをした
何度も何度も消そうとしたのに
よっちゃんは美貴の手を掴んで、長い間離してくれなかったよね
今思えば、すごく愛されてただなんて思えるようになった
自惚れ過ぎてたこと
惚気過ぎてたこと
カンチガイ?フーン、ソウダッタンダ
この一言で済めば、美貴はこんなに泣かなくて済んだのに
改めて自分がどれだけ愚かで孤独な存在だということを思い知らされて
みじめで、可哀想で
よっちゃんに、よっちゃんにそれを慰めてもらいたいと欲してた
- 416 名前:_ 投稿日:2005/09/05(月) 21:58
-
透明な色で、美貴にたくさんの落書きを残して
急にいなくなっちゃうんだもん、いやだったんだよ
いやだったんだよ
たくさん一緒にいてくれたじゃん、たくさん一緒に笑ってくれたじゃん
たくさん、たくさん
そのたくさんの一部を、美貴あげてただけで
他の全ては、よっちゃんの本当の人にあげてたんだね
気付かなかった
気付きたくなかった
- 417 名前:_ 投稿日:2005/09/05(月) 21:58
-
この落書きだけは、絶対に消したくないのに
こんなに泣きたくて叫びたくてしょうがないから、どうしても消さなきゃいけなくて
ぜんぶ、すべて、よっちゃんの存在もよっちゃんが美貴のだったってことも
忘れなきゃいけないんだ
体中に刻まれた言葉とか、あったかいハグとかキスとか
画用紙ごと、破ってしまわなきゃいけない
ビリビリと音をたてて、紙の破片は心の底に落ちて行く
破片を拾ってくっつけようとしても
どうしても一枚、無くなっているから
どれだけ美貴が泣いて叫んでよっちゃんのことを想っても
好きの一言ももらえなかった
落書きだけが美貴のなかに残ってるだけだって
- 418 名前:_ 投稿日:2005/09/05(月) 21:59
-
「…あぁ」
どうしてケースに、透明のクレヨンは無いんだろう
それを大事にとっておいて
落書きと一緒に奥底にしまっておけば、永遠によっちゃんがいると思える
とうめいの、とうめいの人だった
- 419 名前:_ 投稿日:2005/09/05(月) 21:59
- fin
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/05(月) 21:59
- 載せるとこないんでここにしました。御臨終。
- 421 名前:Rink 投稿日:2005/09/13(火) 04:32
- 柴マサです
稚拙な内容ですが
よろしくお願いします
- 422 名前:流れる 投稿日:2005/09/13(火) 04:41
- 一日目
二人でまったり過ごす夜の時間
クピクピとお茶を飲んで
テレビを見てると、急にあゆみんが
「ねぇ、ちょうだい」
「あぁ、全部飲んじゃったから
入れてくるよー」
鼻唄ちょーしで冷蔵庫に向かい
お茶を注いで持って帰ってくると
「やっぱいい」
えー!?
あ、あゆみん?
怒ってる…確実に怒った顔してる
そんなに飲みたかったの…?
- 423 名前:流れる 投稿日:2005/09/13(火) 04:46
- 二日目
クピクピとお茶を飲んでる自分に
あゆみんが
「ねぇ、ちょうだい」
そらきた
そう言われると思って
残しておいたんだ
「はいよ」
半分ほど入ってるマグを渡すと
一瞬目を見開いたあゆみんは
なんだかしぶしぶ受け取って
「ありがと…」
んー、違うのか
- 424 名前:流れる 投稿日:2005/09/13(火) 04:51
- 三日目
クピクピとお茶を飲んでる自分に
あゆみんが
「ねぇ、ちょうだい」
何だか彼女を
可愛いと思っちゃったんだ
素直に気持を出せなくて
恥ずかしがりやで
今も少しうつむいてる
まぁったく…
- 425 名前:流れる 投稿日:2005/09/13(火) 04:57
-
「いいよ」
彼女の側によって
一口お茶を含むと
あゆみんにキスをした
「……んっ…」
全部渡し終えて唇を離す
「…おいしかった?」
「ん…」
「まだいる?」
「…うん…」
ながいながいキスの後
彼女は顔を赤くして
ちょっと悔しそうにつぶやいた
「……おかわり…」
- Side M end -
- 426 名前:Rink 投稿日:2005/09/13(火) 05:00
- 続いて Side A
- 427 名前:流される 投稿日:2005/09/13(火) 05:07
- 一日目
二人でまったり過ごす夜の時間
クピクピとお茶を飲んでるマサオに
「ねぇ、ちょうだい」
少しの賭け
だけどあえなく惨敗
「あぁ、全部飲んじゃったから
入れてくるよー」
鼻唄なんか歌っちゃってさ…
おバカ!違うよー!
気付いてよ、鈍感!!
お茶を注いで持ってきた彼女に
「やっぱいい」
えー!?って顔をしてる
そりゃそうだ…
可愛くないなぁ、わたし
- 428 名前:流される 投稿日:2005/09/13(火) 05:12
- 二日目
クピクピとお茶を飲んでる彼女に
「ねぇ、ちょうだい」
リベンジをかけてみる
マサオはそう言われる事を
読んでたのか
少し嬉しそうに
「はいよ」
って半分ほど入ってる
マグを渡してきた
だーかーら!違ぁーう!!
でも悔しいから受け取って
全部飲み干した
もー!!
- 429 名前:流される 投稿日:2005/09/13(火) 05:23
- 三日目
クピクピとお茶を飲んでる彼女に
「ねぇ、ちょうだい」
さすがに三回も言われると正直
“何がしたいんだよ、コイツ!”って
いくらニブチンなマサオでも
ムッとするかもしれない…
自己嫌悪がぐるぐりる渦巻いていく
でも、なんか悔しくて…
これでまた一緒だったら
正真正銘の鈍感だ
『ニブチン大王』って
命名してやるんだ
三度目の正直か
二度あることは三度あるか…
後者に軍配が上がりそうな気配
120%だけど…
どう出る?ニブチン大王め
- 430 名前:流される 投稿日:2005/09/13(火) 05:26
-
顔をあげて彼女を見ると
優しく笑いかけていて…
どこか呆れ顔で
「いいよ」
って言ってくれた
マサオはわたしの横に座り直して
一口お茶を含むと
わたしにキスをした
- 431 名前:流される 投稿日:2005/09/13(火) 05:32
-
「……んっ…」
あ…
流れ込んでくるお茶に
少し息が詰まりそうになる
嬉しくて悔しくて、胸が苦しい
全部注ぎ終えたマサオが
ゆっくりと唇を離すと
名残を惜しむように
自分の唇が
薄く開いたのが分かった
…なんかエロい
- 432 名前:流される 投稿日:2005/09/13(火) 05:37
-
「……おいしかった?」
「ん…」
味なんて正直
“普通のお茶じゃん!”
ってツッコミたくなるけど
「またいる?」
そう聞かれたら
「うん」
って答えるしかないじゃん…
マサオは
ながいながーいキスをくれた
優しくてあったかくて
痺れるくらい気持いいキス…
- 433 名前:流される 投稿日:2005/09/13(火) 05:39
-
でも、まだ許さないんだから!
何回も言わせておいて。
ニブチン大王め!
「……おかわり…」
- Side A end -
- 434 名前:Rink 投稿日:2005/09/13(火) 05:42
- 長々と失礼しました
では
ε=ε= ヽ川σ_σ||人( `_´)ノ
- 435 名前:彼女の体温 投稿日:2005/10/09(日) 15:03
- 彼女の手が私の頭にポンと軽く乗せられる。
少し節くれだった細くて長い指が、私の前髪を梳かす。
たった、これだけで心の中にあった蟠りが消えて行く。
優しい気持ちになれる。
- 436 名前:彼女の体温 投稿日:2005/10/09(日) 15:19
- 楽屋での待ち時間。
彼女の胸に私の背中を預ける様にして座ってる。いわゆる「後ろからだっこ」のスタイル
この体勢、私は気に入ってる。
私の背中に伝わる彼女の体温
私の耳元で響く彼女の声
それが、すごく心地よくて安心できるから
少し首をひねって横を見れば、細面で形の良い横顔が見える。
眼鏡の奥の目は、今みたいに無表情な時でさえ優しくて
ずっと見てると時々、何だか切なくなる。
- 437 名前:彼女の体温 投稿日:2005/10/09(日) 15:34
- 実を言うと、かなり凹む事があったんだけど…
愚痴でも聞いてもらおうかと思ってたんだけど…
もう、そんな事どうでもよくなった。
私よりも細い腕
私よりも低い体温
私よりも悪いカツゼツ
傍にいるだけで優しい気持ちになれる不思議な存在
そろそろ時間だけど、もう少しだけ彼女の体温を感じていよう。
彼女が「あぅみん」て私の名前を呼ぶまでは
もう少しだけ…このままで
- 438 名前:彼女の体温 投稿日:2005/10/09(日) 15:35
- END
- 439 名前:彼女の体温 投稿日:2005/10/09(日) 15:38
- 駄文で失礼しました。
メロンの柴田さんと村田さんです。
この二人の暖かい雰囲気が好きなので書いてみました。
- 440 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:15
-
午後7時。
よっちゃんからメールが来た。
『今日はミキティとかと飲みに行ってくるから!』
このメールには今日はもう、メールも電話もするなよって
意味がこもっている。
「最近多いよね、こういうの」
独り言を言いながら、紅茶を飲む。
- 441 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:16
-
よっちゃんとは一緒に住んでるわけじゃない。
だから、毎日必ずメールや電話のやりとりをしていたんだけど、
20歳になってからは、いろんな人に誘われてるみたいで。
ここ最近はゆっくり話なんてした覚えが無い。
「寂しいなぁ。。。」
自然と独り言も多くなってしまう。
- 442 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:16
-
午後11時。
お風呂も入って、洗濯もして・・・。今日はもう寝よう。
明日が早いわけじゃないけど、することないし。
たまにはたくさん睡眠時間取らないとね。
そう思って布団に入るけど、
なかなか寝付けなくて、寝返りばかりうってしまう自分がいる。
こういう時ばっかり寝付けない自分に腹が立つ。
「もう!よっちゃんのバカ!!」
よっちゃんのことを思っていたら、不意に睡魔が襲ってきた。
これで寝れるなぁ。。。。。。。
- 443 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:17
-
午前2時。
ガサガサガサガサ。
え?何の音?誰か居る?
音と人の気配を感じ、起きてしまった。
でも怖くて目が開けられない。誰がいるか分からないのに。
それでも確認しないとダメなんだと自分を奮い立たせ、
薄目を開けて見る。
- 444 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:17
-
「っ!?よっちゃん!?」
「あ、起きちゃった。ごめん」
よっちゃんは特に気にするでもなく、寝る準備をしている。
歯を磨いたり、服をたたんだり・・・。
あれ?髪が濡れてる。シャワー入ったんだ。
全然気がつかなかった・・・
- 445 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:18
-
「何してるの?今何時?」
「今?う〜ん、2時ぐらいじゃないかな。
何してるの?って、寝る準備だよ」
そんなことぐらい見れば、分かるよ。
なんでここに居るのか聞いてるのに。
「ほら、ちょっと寄って」
よっちゃんは強引に布団に入ってきて、?をたくさん浮かべている
あたしを端に押していく。
そしてさりげなく、当たり前のことのように腕枕をしてくれる。
その動きがすごく自然で、身を任せてしまい、
ついつい甘い声を出してしまう。。。
- 446 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:19
-
「よっちゃ〜ん、今日はホントにどうしたの?
飲みに行ってたんでしょ?」
「うん、飲んできた」
「どしておうちに帰らなかったの?」
「なんだよそれ。来てほしくなかったの〜?」
よっちゃんは少し頬を膨らませて拗ねてるフリをしている。
ほんとは全然拗ねてなんかいない。拗ねるのはだいたい私の方だし。
主導権を握ってるのはよっちゃんだし。
「そういうわけじゃないけど、今までこんなことなかったじゃん」
よっちゃんは「そうだっけ?」なんて言ってとぼけたフリをしてる。
- 447 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:20
-
いつも飲みに行くって言った日は、一切連絡を取っていなかった。
次の日に普通にメールをするだけ。
2日連続で飲みに行くこともあって、すごい寂しい思いもした。
でも今日はいつもと全く違っていて、
変だな?って思うんだけど、よっちゃんの温もりが伝わってきて、
だんだん眠たくなってくる。。。
「梨華ちゃん?」
- 448 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:21
-
よっちゃんが私を呼ぶ声が聞こえてきたけど、眠たくて無視した。
次に聞こえてきたのは、とっても意外な嬉しい言葉。
「会いたくなったから来たに決まってんじゃん」
え?今のはよっちゃんの声だよね?
よっちゃんが言ったんだよね??
「ねぇ、もっかい言って?」
私は眠たいながらももう一度聞きたくてお願いした。
寝ていたと思っていたよっちゃんはビックリした顔をしている。
- 449 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:21
-
「何だよ!起きてたの?」
「う〜ん?もう寝そうだったけど、、、そんなこと言うからさ」
「・・・・・おやすみ」
「!?ねぇ、もっかい言ってよ〜」
「イヤじゃ」
「な〜んで?いいでしょ?どうしてうちに来たの?」
「・・・・・・・」
それぐらい言ってくれてもいいじゃん!ケチ!
そう思っていたら、不意にぎゅっと抱きしめられた。
- 450 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:22
-
「ゴメンね、最近。みんなに呼ばれること多くてさ。
あんまりちゃんと話してないよね。
いつもアリガトね、待っててくれて。」
「・・・・うぅぅぅ。大丈夫だよ」
最近は涙腺が弱くてダメ。齢のせいかな?
まだ20歳になったばっかりだけどね。
嬉しくて嬉しくて。待ってて良かったなぁって思って。
そんな私を見て「泣くなよ〜」とか言ってくれるのが嬉しくて。
この人のためならいつまででも待っていられるなって思った。
世界で一番大切な人。ずっと一緒に居たい人。
- 451 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:23
-
その日私は、
頭を撫でられながらあまりの心地よさにすぐに眠りについた。
「好きだよ、梨華ちゃん」
なんて言葉を聴きながら。。。
- 452 名前:待てる人 投稿日:2005/10/14(金) 01:24
-
その日以来、よっちゃんは飲み会が終わると家には帰らず、
うちに来るようになった。
酔っているのか分からないけど、そういう時のよっちゃんは
すごく優しいということに気付き、私は精一杯甘えることにした。
嫌な顔一つしないで甘えさせてくれるこの人と、
この先もずっと一緒にいられますように。。。。。。。。。
END
- 453 名前:スカッシュ 投稿日:2005/10/14(金) 01:26
- いしよしでした。。。
- 454 名前:プリン 投稿日:2005/10/14(金) 18:54
- 乙でした(*´Д`)
癒されました(*´Д`)
かなり良かったっす!
- 455 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/14(金) 23:42
- 良かったです・・
なんか、目に浮かぶようだ〜
ホント癒されました。
- 456 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:40
- 「久しぶりだね。集まるの」
よっちゃんがそう言った。
あたしとあいぼんがWになって。
梨華ちゃんが美勇伝のリーダーになって。
よっちゃんがモーニング娘。のリーダーになって。
互いに忙しくて。
ようやく、会えたオフの日。
「どこ行こうかー?」
あいぼんが笑顔で皆に聞く。
- 457 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:41
- 「やまー!」
「無理だよ」
梨華ちゃんがよっちゃんの提案にそう言った。
「じゃあう……」
「海も無理だからね」
さすが梨華ちゃん。長年付き合ってる事はある。
「じゃあ、どこ行きたいんだよー」
口を尖らせ、よっちゃん。
「ののはどこがいい?」
梨華ちゃんの言葉に、へらって笑ったあたし。
「んーん。どこでもいいよ」
「あ、じゃあ、あそこ行こうぜ」
「え?」
よっちゃんが思いついたように言った。
「プラネタリウム」
よっちゃんにしては、随分静かなところだなと思った。
- 458 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:42
- 寂れたプラネタリウムは、客が一人もいなかった。
真っ暗な空間の中、あたし達だけが四人固まって座っている。
「さみしー」
あたしの言葉に、よっちゃんが笑った。
「いいじゃん。貸切」
アナウンスが入り、人工的に光る星が見える。
「つまんねー」
「こらこら」
あいぼんの言葉に梨華ちゃんがたしなめる。
しばらく静かになったあと、よっちゃんがぼそっと呟いた。
「あたしさ」
それは本当に呟きだったけど、静かだったから、あたし達によく響いた。
「ちゃんと護るから」
その言葉に、ちょっとばかし、ずしってきた。
- 459 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:43
- 娘。は変わっていく。
あたし達が卒業して。
最後のオリメンだった飯田さんが卒業して。
矢口さんが急に脱退しちゃって。
梨華ちゃんが卒業してしまって。
新メンが入ってきて。
あたしの知っているモーニング娘。はもうないのだろうけど。
新しい風は、確実に、吹いているのだろうケド。
それでも、あたし達が築き上げてきたもの、ちょっとでも残っていればいいと思う。
そうして、それをよっちゃんがしっかり護ってくれればいいと思う。
「頑張るからさ」
よっちゃんが笑った。
まかせたぞー、なんてあいぼんが涙目で言った。
梨華ちゃんはしゃっくりあげながら泣いている。
あたしはぼろぼろ涙をこぼした。
- 460 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:43
-
あたし達は、今、確実に違う道を歩んでいる。
スタートラインは、おんなじだったけれど。
やっぱり、歩幅も進む方向も、全然違ったね。
「あっ、ほら! 流れ星だー」
あたしは指を差して、皆にそう言った。
人工的なヒカリが天井を流れていく。
「っしゃー! モーニング娘。のリーダー頑張れますようにー!」
「ちょっ、よっすぃー!?」
よっちゃんが急に立つと大声でそう叫んだ。梨華ちゃんが慌てている。
だけどあいぼんも立ち上がって大声で叫んだ。
「モーニング娘。をよっちゃんがちゃんと護れますようにー!」
だから、あたしも立ち上がって、
「梨華ちゃんの顎が治りますようにー!」
「なっ?!」
梨華ちゃんがぎょっとしたように振り向いた。
「うははは! いい、辻、それいい! 梨華ちゃんの顎が治りますようにー!!」
よっちゃんが大うけして、そう叫んだ。梨華ちゃんが叫ぶ。
「治りますようにって病気じゃないわよっ!!」
「んじゃ、引っ込みますようにー!」
「引っ込みますようにー!」
よっちゃんとあいぼんがげらげら笑いながら叫んだ。
- 461 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:44
-
懐かしいなあ。なんて思う。
こんなの、昔は楽屋で当たり前のように見れていたのに。
もう、見る事はないんだね。
あたしは明日レコーディングにも関わらず、思い切り大声で叫んだ。
「いつまでも一緒にいられますように――!」
皆が吃驚したようにこっちを見てきた。
あたしはそんなの関係なしに、なきながら叫んだ。
「一緒にぃ、いられますように――!」
梨華ちゃんが後ろからあたしを抱きしめた。
あいぼんが右手を握ってくれて。
よっちゃんは頭を撫でてくれた。
- 462 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:45
-
「いつまでも皆一緒にいられますように――!」
よっちゃんが、大きな声で叫んだ。それにあいぼん、梨華ちゃんも続く。
あたしは、泣きながら、笑った。
こんな素敵な仲間、きっとモーニング娘。に入らなかったら、絶対手に入らなかった。
友達だけど。でも、それとはちょっとだけ違っていて。
それは、多分、仲間、なのだと思う。
一緒にスタートラインにたって、別々な方向に進んだ仲間。
一緒に泣いて、笑って、喧嘩して、相談に乗って、友達かと思えば、ライバルで。
絶対的な友情はなく。絶対的な信頼がそこにある。
「一生、一緒に、いられますように――!!」
それは、無理な願いだって事はわかっている。
あたし達は、もう、全く別方向の道を向いている。
そうしていつしかあたしの隣にいるあいぼんとも別れる時が来る。
それは、きっと、あたし達が成長している証なのだろうけど。
寂しくて。
切なくて。
やっぱり、悲しくて。
でもあたし達は決してその歩みをとめることはないのだと思う。
- 463 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:46
-
あたし達はいつまでも、
「皆一緒にいられますように――!」
決して叶わぬ願いを泣きながら、
「いつまでも、皆と、一緒にいられますように――!!」
人工的なヒカリに叫び続けていた。
- 464 名前:我ら、四期ーズ。 投稿日:2005/10/16(日) 21:47
- 終り。
なんか四期って偉大だなあって思って。
彼女たちは一期、二期とは違った絆をもっていそうです。
それにしても四期ーズってなんか音が悪いなあ。
- 465 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/17(月) 00:11
- ごめん泣いた
- 466 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/17(月) 06:42
- 4期最高!!
- 467 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/17(月) 22:37
- 四期万歳!!!
作者様最高!
- 468 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:36
-
「いけません いけません」
- 469 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:37
-
天使の格好をしたいしかーさんが楽屋で寝ている。
コントの出番がおしている為、今は楽屋で二人っきり。
- 470 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:38
- いしかーさんは待ちくたびれたのか気持ちよさそーな寝息を立てている。
『かわいいー』
そうつぶやいて顔を近づけると石川さんの体がピクって動いた。
- 471 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:39
- 「愛ちゃん?」
「あっ」
「どうしたの?何か今日の愛ちゃん何かおかしいよ」
「な、なんでもないです」
「ホント?悩みがあったらいつでも聞くよ」
「そんなん無いですから、いしかーさん出番まで寝とってください。出番が来たら起こしますから」
「ありがと、じゃぁ出番が来たらお願い。」
そう言うといしかーさんは静かに横になって目を閉じた。
- 472 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:39
-
しばらくするといしかーさんの寝息が聞こえてきた。
「ふーっ」
あやうくばれるところやった。
- 473 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:40
-
「キスしちゃえよ キスしちゃえよ 寝ている間にキスしちゃえよ」
- 474 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:41
-
「わー、いしかーさんとはそんなんやないから!!」
振り返ると悪魔見習いの格好をしたさゆがニヤニヤしながらあっしの顔を見つめていた。
「愛ちゃん、相当重傷ですね」
「だから、そんなんや無いって」
「でも、石川さんの寝顔見ている愛ちゃんの目が女の子になってましたよ」
「なってへん!ってさゆ? いつからここにいたの?」
「すーっと見てましたよ」
そういうとさゆは舌を出した。
- 475 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:42
- 「石川さんぐっすり寝てますね」
「昨日の夜はラジオの生放送やったし、眠いんやろね?」
「詳しいですね。さすが・・・」
「だからそんなんや無いって!!」
- 476 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:43
- 『やれやれ世話のかかる先輩だ』
さゆはおもむろに立ち上がると
「愛ちゃんがしないなら、さゆみがしちゃおっかな?」
- 477 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:44
- 「さゆー、重さん ちょっと待って 何すんの?あかんって」
「ほらーやっぱ愛ちゃんがしたいんでしょ?」
「わー、わかったわかったから」
「やっと素直になった」
「ちゃうわ、いしかーさん気持ちよさそうに寝とるしで起こしたらあかんと・・・」
「まだそんなこと言ってるんですか?そんなこと言ってるとさゆみホントにキスしちゃいますよ?」
「だからそれもあかんのやって」
「もう!じれったい。キスしたいならしちゃえば良いのに」
「キスはそんな簡単なもんやない」
「だってさっきはしようとしてたじゃないですか」
愛の顔がみるみる真っ赤にそまった。
- 478 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:49
- 「道重さん出番です!!」っとADの声。
「愛ちゃん!さゆみ出番だからもういきますね」
「おぅ 頑張ってな」
「愛ちゃんこそ!吉澤さん もうすぐ楽屋に帰ってきちゃいますよ。キスしちゃうのなら今のうち」
そういうとさゆは楽屋から出て行った。
- 479 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:49
-
また2人きり・・・・・
- 480 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:49
-
『キスしちゃえよ キスしちゃえよ 寝ている間にキスしちゃえよ』
- 481 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:50
- いしかーさんはぐっすり寝ている。
愛は少し顔を近づけてみた。
寝息が愛の顔をくすぐる。
梨華の唇まで後3cm。
愛も目をつぶる。
- 482 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:50
-
「いけません いけません」
- 483 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:53
- 愛はびっくりしていしかーさんから離れる。
「何やってるの愛ちゃん?」
「えっ えっと」
少し怒った顔のいしかーさん。
- 484 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:54
-
「いけません いけません」
- 485 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:55
-
「途中で止めてはいけません」
- 486 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:55
-
そう言うといしかーさんは静かに目を閉じた。
- 487 名前:天使見習い 投稿日:2005/10/20(木) 05:56
-
おしまい
- 488 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:02
-
「ねえ、そろそろいいんじゃない?」
もう何十回言ったかわからないセリフ。
なのに、彼女は今だに首を振る。
その理由が、同性同士の恋愛に対する世間体とか倫理感?とかそういうことなら、もっと強引にこの関係を進めてしまうけど。
残念ながらそうじゃなくて。
だから、ごとーと梨華ちゃんはまだ友達のまま。
- 489 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:02
-
ごとーと出会った時、梨華ちゃんにはすでに恋人がいた。
というよりも、ごとーの先輩の恋人が梨華ちゃん。
圭ちゃんに恋人だと紹介された時は、正直、女同士っていうことに抵抗を感じてて。
でも、二人を見ているうちに、性別なんて関係ないんだってことがわかったんだ。
それくらい、素敵なカップルだったから。
梨華ちゃんは一見真面目でか弱そうなお嬢様に見えるけど、実はかなり頑固でとてもおせっかいなお姉さん。
それがわかるくらい距離が縮まった頃、ごとーは梨華ちゃんを好きになっていた。
そして、たぶん梨華ちゃんも。
- 490 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:03
-
社会人の圭ちゃんと、学生の梨華ちゃん。
二人はすれ違う生活を送っていて、そのことに負い目を感じてた圭ちゃんはごとーにこう言った。
「石川の遊び相手になってあげて」
それが間違いだったんだよ、圭ちゃん。ごとーにとっては感謝すべきことだけどね。
- 491 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:03
-
そんなこんなで、ごとーはしょっちゅう梨華ちゃんと遊ぶようになっていた。
最初は圭ちゃんのお願いを言い訳にしてたけど、そのうちに二人で会うことが当たり前になって。
まるで恋人のようにじゃれ合ったり、たまにケンカしたり。
自惚れてるわけじゃなくて、梨華ちゃんはごとーのことが好きなんだって感じてた。
- 492 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:03
-
そんな関係が半年ほど続いたある日、圭ちゃんから二人が別れたことを告げられた。
「石川にはあんたみたいのがお似合いかもね」
圭ちゃんはそんなセリフを残していった。
鋭くて気が利く圭ちゃんのことだから、梨華ちゃんの心の変化に気付いてたんだと思う。
そして、ごとーの気持ちにも。
だから、梨華ちゃんが苦しまなくていいように、自分から別れを切り出したんだ。
圭ちゃんは、そういう人。
だから、ごとーはその気持ちに応えるべきだと思ってる。
梨華ちゃんを幸せにする義務があると思う。
罪悪感はあるけど、圭ちゃんは梨華ちゃんの幸せを何よりも望んでるんだから。
- 493 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:04
-
なのに、それからたっぷり二ヵ月間、梨華ちゃんは全然会ってくれなかった。
うん、確かに気持ちはわかるよ。
わかるけど…。
圭ちゃんがどういうふうに別れを告げたかわからない。
たぶん、梨華ちゃんが負い目を感じないような言い方をしたと思うけど、梨華ちゃんはそんな優しさに気付いてたみたいで。
だから、ごとーと会わなかったんじゃないかな。
それはきっと、梨華ちゃんらしい、空回りの優しさと誠意。
- 494 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:04
-
やっと会うことが出来た日、ごとーは思いを打ち明けた。
けど、あの頑固なお姉さんは、
「保田さんに悪い」
なんて言い出して。
結局、昔みたいに一緒に遊ぶようにはなったけど。
何も変わらない、二人の関係。
- 495 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:04
-
ねえ、そろそろいいんじゃない?
梨華ちゃん、毎日ごとーに会いに来るじゃん?
こういう関係って恋人って言うんじゃないの?
ごとーのこと好きなんじゃないの?
ごとー、結構人気あるんだよ?
他の人と付き合っちゃうよ?
ねえ、梨華ちゃん。
- 496 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:05
-
問い掛けてみても返事はない。
無防備なお姉さんはスヤスヤと夢の中。
おーい、襲っちゃうぞ!…なんてね。
この人を好きになってからもうすぐ一年半。
もういい加減、次の段階に進みたいけど。
しょーがないからもう少し待つよ。
梨華ちゃんが納得出来るまで。
ごとーは待ってる。
- 497 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:06
-
だから、今日もごとーと梨華ちゃんは友達のまま。
いつか、ごとーと梨華ちゃんが恋人になれるその日まで。
- 498 名前:友達のまま 投稿日:2005/10/22(土) 00:06
-
以上です。
- 499 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:06
-
ごめんね。
自分の不甲斐無さを呪うように、亜弥の頭を撫でた。
この子が私の生存価値であるように。
この子には、幸せになって欲しいから。
こんなこと言ってる傍から、やっぱり自分への甘さがあると痛感。
けど、もう頼るものもないし。
気がつくと、そこはよっちゃんちのマンション前で。
亜弥の手を引いて、インターホンを押した。
- 500 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:06
-
変わっていなかった。金髪頭のジャージ姿は健在していた。
よっちゃんは亜弥を抱き上げて、顔をくしゃくしゃにして笑った。
亜弥はよっちゃんのことを知らない。不思議そうな瞳で、よっちゃんを映していた。
「ごめんね、突然」
「いいよいいよ、どうせ暇だし。つーか、いつのまに子供作ってたんだよ。かっわいいなぁー」
よっちゃんとは高校からの友達で、お互い就職の道へ進んでいた。
せっかく内定した仕事を1年足らずで辞め、今はフリーターに専念しているとか。
学校を卒業してからパッタリ連絡が途絶えて、こうして顔を合わせるのは久しくて、すごく懐かしい。
一応、年賀状だけの仲は続いていたのが、可笑しくて笑える話なんだけど。
- 501 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:07
-
「み、た」
「みた?」
「ああ、美貴のこと。何かわかんないけど、ママって呼んでくれないんだよねー?」
「みぃ、たん」
幼い口調でへたへたと頼り無く歩く亜弥を膝の上に乗せて、リズムを取る。
にこりと微笑むその表情は、幼いながらも少し自分と似ているなと思う。
よっちゃんは亜弥を高く持ち上げて、ひこうき、と言って遊ばせてくれる。
どちらが遊ばれているのか、よくわからなかった。
どう話を切り出せば良いのか。まだ美貴は、迷っていた。
亜弥と戯れるよっちゃんは至って普通で、昔の友達が遊びに来たとしか思って無い。
言葉で説明しなくても、楽な方法はないだろうか。卑怯な考えが渦巻いて、余計に気持ちを重くさせる。
- 502 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:07
-
「今日、旦那は?」
「んー、出張行ってる。ていうか一人じゃなくて良かったよ、亜弥がいないと蔑ろみたいで」
「出張かぁー。いつ帰ってくるの?」
「さぁ、よくわかんない。1週間かそこらで帰ってくると思うけど」
「別れたのか」
思ったよりも返事はあっけなくて、答えを出すのに時間は必要なかった。
亜弥は四つん這いになって、美貴の片手をきゅっと握る。あたたかで、小さい手。
そこには変わらない、親友だったよっちゃんの姿があった。
何か面倒な事があれば事を察して、すぐに勘付く子だった。苦笑いをして、髪を触る癖すらも。
- 503 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:07
-
「みぃ、たん」
「美貴一人で、この子育てる気?」
脅すような口調でなく、美貴の顔色を伺うような言い方だった。
別に気にしてはいなかったけど、どう答えようか、戸惑った。
これから何を言われるのか大体想像はつく。亜弥をちらっと盗み見して、両手を握りしめる。
息を吸い込むと、よっちゃんの匂いがする。
「わかんない。けど、しばらくはそうなる」
「聞いて良い?」
「なに?」
「何で離婚なんかしたの?」
- 504 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:08
-
いつものふんわりとした、あのよっちゃんの微笑みがなくなった。
言葉の強弱によると、なんだか少し、怒っているようにも聞こえて言葉に詰まる。
理由を問われた所で上手く言い逃れできる賢い脳は、美貴にはない。
自分が惨めで、唇を噛んであの人を思う事がとてつもなく嫌だった。
「愛して無かったって」
ほんの一握りの愛は、この子に託されて。
亜弥が生まれて成長するにつれて、あの人の姿は次第に消えて行った。
興味がなかったんだろう。周りの環境や、自分の妻と子にまで。
よっちゃんは息を大きく吐いて、また吸った。あんな風に煙草を吸えば、気持ち良いだろう。
- 505 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:08
-
『親権はおまえにやる。とにかく俺から離れてくれ。気が、散るんだ』
あの人が愛していたのは、仕事だけだった。
離婚届けに捺印した後に直ぐさま気付いたのは、たったそれだけのこと。
それからお母さんに電話をして、泣かれたのは言う間でも無く。
悪いのはあの人じゃない。あの人を選んだ、自分が悪い。
だから復讐をしようだとか妬んでやろうなんて気は一切、残っていなかった。
「美貴は旦那の事、愛してたの?」
こくりと小さく頷く。
だってこれは真実で、嘘の付き様もないから。
- 506 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:09
-
唯一気に病んでいる事と言えば、子供の存在だった。
家を出て行く時。あの人は亜弥の頭を撫で、笑みも浮かべずにネクタイをしめて。
両親に愛されていると感じていた亜弥を、あの人は裏切った事。
それが、許せなくて何度も泣いた。涙腺が壊れるんじゃないかと思う位、泣いた。
いくら自分が不幸せな状況に置かれたとしても、亜弥だけは。
この子だけは守りたかった。
- 507 名前:_ 投稿日:2005/10/30(日) 22:09
-
「うし、がんばったな」
よっちゃんのジャージに、いくつもの涙のシミを作った。
声をあげて泣いたのはこれが始めてだった。今までは、息を潜めて静かに泣いていた。
亜弥がびっくりしてぎゃあぎゃあと一緒に泣き出しても、よっちゃんは美貴の背中をさすって
抱きしめてくれていた。
頬をつたって流れる涙が冷たくて、しょっぱくて、何度もよっちゃんの肩に目を擦り付けた。
亜弥を抱き締める事が多かったせいか、誰かにこうされるのは凄く久しぶりのような気がした。
がんばったね。そう言って、ギュッと強く、優しく抱きしめて。
あの人のにおいが、仄かに香った気がした。
だけどもう、あの人を思う事はなかった。ただ、またがんばってみようと思った。
バツイチ、子持ちの21。
美貴はまた、がんばってみようと思った。
- 508 名前:誰でも無いどこかの作者 投稿日:2005/10/30(日) 22:10
- どうしても藤本さんを子持ちにさせたかっただけです。
それに松浦さんとよっちゃんを絡ませたかっただけです。
自スレにうpれば良いんですけどなんとなく気が引けたのでこちらに
供養させてもらいました。
- 509 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 05:17
- おもしろかったです。
なんか好きです、こういうの。
- 510 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:01
-
「上手なキスって、どんな感じだろうねー」
なんて彼女が突拍子も無いことを言い出す時は、
決まって誰かに何か吹き込まれたか、何かに影響された時だ。
「何?梨華ちゃん、誰かに下手だって言われた?」
「なっ、違うよ!柴ちゃんがそういう話してたのー!」
と予想通りの反応をする彼女が面白くて、
ますますからかいたくなるのも、いつもの事。
「…あたし上手いからさ、試してみる?」
なんてわざとらしく耳元で囁きながら
あー怒っちゃうかな?それとも真っ赤になるかな?
なんて考えてたら、予想に反して真顔の彼女。
- 511 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:01
-
「本当?」
「へっ?」
「本当によっすぃーってキス上手なの?」
想定外の質問に、一瞬言葉に詰まる。
「……だってあたし、タラシだもん」
「そっか」
って、納得ー!?
オイオイちょっと待ってよ…
なんてあたしの心のツッコミを無視して
「じゃあ試してみる!」
と突っ走る彼女を止める術があるはずもなく。
気付けば、目を閉じて無防備に唇を差し出す彼女の姿。
どうしよう?どうするよ?
- 512 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:02
-
実のない脳内会議の末、無責任にやっちゃえーって煽る
あたしが勝ちそうになった瞬間、彼女がパッと目を開いた。
「うっそー」
「なっ…」
「いっつもからかうから、仕返し」
本気にしちゃった?だって。何それ。
「柴ちゃんの言った通りだなー」
「何が?」
「コレね、柴ちゃんの作戦なの。
こうしたら、絶対よっすぃー引っかかるよーって」
ねぇねぇ、本気にしたでしょ?
って嬉しそうにネタばらしをする梨華ちゃんをよそに、
あたしは柴田って子の事を思い返して納得した。
勘の良さそうな梨華ちゃんの親友。
やっぱり気付いてたって訳か。
- 513 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:03
-
梨華ちゃんに騙されたってのはともかくとして。
数えるほどしか会った事の無い人間に、
行動を読まれてたってのがちょっと癪に障って。
さも大した事のないようにあたしは言った。
「へぇー、それで?」
「それで?」
「柴ちゃんは、その先のコト教えてくれなかったの?」
あたしの言葉に首を傾げる彼女。
そうそう、そういう反応が良いんだよねー
と満足すると。
「っ!」
その唇を掠め取った。
- 514 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:03
-
んー、今のは上手なキスとは言えないな。
なんて自己採点をしつつ、今度はしっかりと口付ける。
「ぁ…っ」
少し開いた彼女の唇に舌を滑り込ませたら、
思いっ切り身体が強張って。
こういうキスが初めてだってわかったけど、
止めるつもりはなくて。
「…は、ぁ…んっ」
甘美な声に強引になりそうな気持ちを押さつつ、
優しく丁寧に、舌を絡めてたっぷりと味わってから
「ゴチソウサマ」
って放したら、彼女はズルズルと座り込んでしまった。
- 515 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:04
-
あたしもその場にしゃがんで、彼女の顔を覗き込む。
「どう?上手でしょ?」
って聞いても無反応。
「もしもーし、梨華ちゃーん」
「………」
困ったな、完全に呆けちゃってる。
そんな風にしてるとまたキスするぞー
てか、襲っちゃうよー
とか考えてたら、名案を思い付いて。
彼女にそっと近づいた。
「ねぇ…この先のコトも教えてあげよっか?」
- 516 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:05
-
催眠術が解けたみたいにビクッとして、
大げさなほどズズズーっと彼女が後ずさる。
「い、い、い、いい!いいです!!」
真っ赤に染めた顔をブンブンと横に振る姿が
はははっ、かっわいー。
あまりにも予想通りの反応に、笑いそうになるのを堪えて
「そう?わりと上手いよ?」
なんて言いながら、とびっきりの笑顔で続けた
…試してみない?
「たっ…いやっ、ほらっ…あっ、時間!もう、こんな時間!
私、帰らなきゃ!じゃ、じゃあねっ」
バタバタと慌しく去っていく彼女。
あーあ、逃げられちゃった。
- 517 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:06
-
あたしはクスクスと込み上げる笑いに肩を震わせながら、
そっと唇に触れた。
思ってたよりもずっと柔らかで、とびっきり甘い彼女の唇に
ありったけの想いを込めてした口付け。
鈍感な彼女でも気付いたハズ。あたしの気持ち。
つまりは、もう遠慮はいらないって事か。
てか、もう我慢できそうもないし。
「ガンガンいきますかー」
よし!と気合を入れると、携帯を取り出してメールを送信。
相手は愛しの梨華ちゃんへ。
『続きはいつにする?』
なんてね。
- 518 名前:上手なキス 投稿日:2005/11/04(金) 02:07
-
オワリ
- 519 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/04(金) 23:15
- おもしろかったです。
なんだか、少し前の娘。小説に多かった
ほっとする萌えを感じました。
もちろん、最近見かける言い回しなどを”巧く書こうとしている”話も
向上心が感じられて大好きですが、
こういう、
好きに書いてるけれどその人の”巧みさが自然と滲み出てくる”様なもの
に触れると、なんだかうれしくなります。
ま、何が言いたいのかと言いますと、
「いしよしテラエロキャワス」
ということです。(w
- 520 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/05(土) 02:38
- 萌えた。普通に萌えた。
一人でニヤニヤしてる自分キモイ。
- 521 名前:そーせき 投稿日:2005/11/05(土) 14:05
- で、続きはいつ?^^
- 522 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:30
-
今日のハロモニはお相撲さんの格好をしての椅子取りゲーム。
さゆみってこういうゲームは何故か苦手なの。
もちろん愛ちゃんも。
- 523 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:31
- だから当然のように2人仲良く罰ゲーム部屋。
もしかしってこれって大チャンス?
負けて悔しい表情つくらなきゃいけないはずなのに何故か笑顔になるの。
- 524 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:32
- 「しげさん 何にやけてるの?」
(ちっ)
新垣さんは油断ならない存在なの。
さゆみの永遠のライバルなの。
あの愛ちゃんから禁断のチュー攻撃をされる羨ましすぎる先輩なの。
このままだと折角のおいしい状況を邪魔されかねないの。
- 525 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:33
-
さりげなく新垣さんと愛ちゃんの間に割り込むの。
狭い所に強引に入ったから少し苦しそうな新垣さん。
(ごめんなさい 新垣さん 今日は邪魔させないの。)
藤本さんとれいなの決勝戦。
注目のカードでさゆみを除くみんなが応援に夢中。
さゆみ以外に夢中になるのってたとえ愛ちゃんでも許さない。
だから応援に夢中になる愛ちゃんの手を引っ張って思いっきり後ろに引きずり出しちゃったの。
- 526 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:33
- 「ひゃー さゆ引っ張るなって」
「ごめんなさい」
(ここは可愛い子を演じるの。)
「もう 折角良いところやったのに」
「だってさゆみ見えなくてつまらないんだもん」
(もう一押しで愛ちゃんはさゆみに落ちるの。)
「もう!」
愛ちゃんはグーで殴る振りをすると笑顔で手を繋いできた。
- 527 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:34
- 「でもこっちで見ている方が面白いかも知れんの」
隙間も無いくらい密着して壁に張り付いて応援するお相撲さん達。
大きなお尻をふりふりしてとっても可愛いの。
こうやって愛ちゃんと2人きりでみるお相撲さんたちのお尻は何故かロマンティックなの。
もう邪魔者はいないの。
- 528 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:35
- 風船が膨らみ始めるとみんなもう大騒ぎ。
さゆみは愛ちゃんと隅っこに逃げる。
「怖い」
(愛ちゃんの前では恐がりな子を演じてみるの)
「大丈夫やって」
怯えた目で訴えると愛ちゃんはさゆみを強く抱きしめてくれたの。
愛ちゃんのぬくもりを感じ始めたところで風船が爆発。
- 529 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:35
- バーン
風船の衝撃に呆然とする愛ちゃん。
愛ちゃんも本当は怖かったんだね。
まだ震えてる。
やっぱり愛ちゃんって可愛い。
もちろんさゆみの次にだけどね。
- 530 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:36
- 前の方を見るとキョロキョロ周りを見渡す新垣さん。
(きっと愛ちゃんを探してるんだ)
『愛ちゃんはここですよー』
って勝利の「うさちゃんピース」
・・・・・・・・・
- 531 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:37
- 楽屋への帰り道、さゆみの隣には何故か吉澤さん。
「しげさんさー さっきのって吉澤が教えた悪魔ちゃんピースだよね」
そういうと悪魔の呪文を唱えながら吉澤さんは去っていった。
「とっちゃえよとっちゃえよ ガキさんいない間にとっちゃえよ♪」
『さすがリーダー油断ならないの』
- 532 名前:悪魔見習い 投稿日:2005/11/08(火) 16:37
-
おしまい
- 533 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/11(金) 08:52
- 赤板は初めましてでございます。そろそろ雪が降りそうな場所に生息している、駆け出し作者という者です。
別の話を書いている時に、ふと考えついた短編を1つ。日付から考えると主役はもちろんあの人です。
思いついた文をただ並べただけの拙い文章ですが、よろしければ読んでやってください。
- 534 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:53
- 絵里と大喧嘩をしてしまった。
きっかけは本当にささいなこと。「絵里とさゆ、どっちのほうが可愛い?」とはしゃいだように聞いてきた絵里に、ダンスレッスンで疲れていた私は「そんなのわからん」とぶっきらぼうに答えたのだ。
そこから言い合いになり、最後は絵里が「もうれいななんて知らない!!」と怒って帰ってしまった。
- 535 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:54
- 次の日は11月11日、16歳の誕生日だった。
さゆからは大きな鏡をもらい、他のメンバーからもマフラーだったりセーターだったり、いろんなプレゼントをもらった。
しかし、プレゼントの数を数えると8個。メンバーは私以外に9人いるのだから、1つ足りない。
ただ1人プレゼントをもらっていない相手―――昨日喧嘩したままの絵里は、すでに帰っていた。
- 536 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:54
- 帰りは途中までさゆと一緒に帰った。
「昨日あれから、絵里と結局仲直りできなかったの?」
「うん……。」
「絵里、けっこう意地っ張りなところもあるし、れいなから謝ったほうがいいと思うよ?一言『ごめん』って言えば済むことだし。」
「そうっちゃね……。」
- 537 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:55
- さゆと別れて1人になった途端、堪えていた涙が溢れだした。
今までも何度となく絵里とくだらないことで喧嘩してきたけれど、毎回次の日には絵里も私も喧嘩のことなんて忘れてしまっていた。……私は忘れたふりをした、といったほうが正しいかもしれない。
怒っている絵里、泣いている絵里は見たくなかったから。「れーな、れーな」と笑顔で私に甘えてくる絵里が、世界一好きだったから。
だから。喧嘩が次の日まで続いている今の状況は、余計に辛かった……。
- 538 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:56
- 今日から1か月と少しの間だけは、絵里と同い年なのに。1つ、大人になったのに。ちょっとしたことで喧嘩して、心は全然大人になっていない。……絵里から誕生日プレゼントをもらう、資格さえない。
正直なところ―――他のメンバーには悪いけれど、私にとって絵里からもらうプレゼントは、他の8人のプレゼントを合わせたよりも嬉しいものだと思う。いや、プレゼントなんて無くてもいい。ただ一言「誕生日おめでとう」と言ってくれれば十分だった。
……さゆの言うとおりにしよう。帰ったら真っ先に、絵里に電話して謝ろうと決心した。
- 539 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:56
- 家の近くに来て、目をゴシゴシと擦った。泣いて帰れば不思議がられるだろうし、せっかくの誕生日を悲しいものにしたくなかったし。
家に帰れば待っているであろうごちそうを思い浮かべて少しは気が楽になったその時、家の前で誰かがしゃがみこんでいるのを見つけた。
- 540 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:57
- 「絵里……?」
恐る恐る声をかけると、絵里はゆっくり顔を上げた。目が合う。そして。
「ごめんなさあい!!!」
泣きながらそう叫んで駆け寄ってきた絵里に、ギューッと抱きしめられた。突然のことに驚くと同時に、こうして絵里に抱きしめられているという事実に心臓がバクバクと鳴る。
少し自分を落ち着かせてから、「ごめんなさい」と何度も呟いている絵里の頭を撫で、「れなのほうこそ……ごめん。」と謝る。
- 541 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:58
- 体を離してからハンカチで絵里の涙を拭いてあげると、ようやく絵里が笑顔を見せてくれた。それに安心して「絵里は誕生日プレゼント、何かくれんと?」と冗談めかして言ってみる。
「うーん……じゃあ、目、瞑って?」
言われた通りにする。これで手にプレゼントを持たせるのだろうと思っていた。
チュッ
3秒くらい、唇に何か―――おそらく、絵里の唇―――が触れていた。
「え、えーっと、あの……」
混乱する私に、絵里は「今のが誕生日プレゼント!」と言ってニヤニヤ笑う。
「絵里からのプレゼントは気に入ってもらえましたか?」
「……うん。」
- 542 名前:Formless present 投稿日:2005/11/11(金) 08:58
- 絵里がくれたプレゼント。
形のないプレゼント。
たった3秒間のプレゼント。
でも、一番強く心に残る、プレゼント。
- 543 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/11(金) 08:59
- 以上です。
- 544 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:06
- ごっつぁんは中華街に縁があるねぇ、ってやぐっつぁんは笑った。
そういえばそうかなぁ、ってよく考えずにあたしは頷いた。
都内より空の青が少しだけ濃い気がする、のは気のせいかもしれないけど、とりあえず結構な仕事日和。
カメラはただし、まだまわってない、駐車場から横浜中華街の入口まで徒歩にて移動中の現在。
やぐっつぁんの言う「縁」の根拠を、とりとめもなく数えて歩く。
ひとつ、持ち歌に中華街だの中華料理だのの出てくる曲があること。
ひとつ、今こうしてロケに来ていること。
ひとつ、昔むかしに、3人で遊びに来たことがあること。
たぶん、これくらい。1つ目以外は、なんのことはない、やぐっつぁんだって一緒だ。
- 545 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:06
- 3つ目の「昔」がさてどれくらい昔かっていうと、それはもう夢にも見ない大昔のことだ。
なにしろ、あたしたちは14歳と17歳と、それから16歳だった。
大人みたいな遠出に内心ほんの少し緊張しながら、14歳のあたしは中華街大通りを歩いていて、緊張の糸をほどいてくれたのは確か、
「あれ、後藤、なに目ぇつむっちゃってんの」
あたしの名前を呼びながら店先の豚の頭に話しかける、小学生男子みたいな16歳だった。
「ひどいよ、いちーちゃん。ごとー、そこまで丸くないよ」
抗議したら、あんまり賢くない16歳であるところのいちーちゃんはさらに、「こんなとこでキス待ち顔なんかしちゃって後藤、エロいなぁ」なんて豚に言った。
すぐに何か言い返してやろうと思ったのに、言葉はどうしてか出てこなかった。
キスなんて、物心ついた頃から赤くもならずに聞いたり使った言葉だったのに、いちーちゃんが豚に言ったのなんかが今さら、なんでかやけに恥ずかしかった。
「いちーちゃんのエロオヤジ」
しばらくしてから、やっとツッコんだけど、それは声が小さすぎていちーちゃんには届かなくて、かわりに隣を歩いてたやぐっつぁんが大笑いした。
いちーちゃんは、なになに、って半笑いで訊いたけど、教えてあげないで、あたしも笑った。
とびきり忙しかった、20世紀最後の、短い冬休みの話。
- 546 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:07
-
◇
「なーんか、懐かしいね」
はっとするようなタイミングで、やぐっつぁんが言った。
同じ日のことを思い出していたのかなと思って横顔をうかがうけれど、やぐっつぁんは何も言わずに歩幅を少し大きくした。そうして、前を行く圭織たちの背中にちゃんと追いついていく。
それで、あたしだけが少し遅れて歩いてるふうになったけど、今さら感じる焦りもなかった。あたしだけが取り残されたようになるのは、それは何も、今日に限ったことじゃないからだ。
たとえば人の声も街の音も、耳に入るのに聞こえない時間が、あたしにはときどきやってくる。新聞紙の中に牛乳を注いだら消えちゃう、古い手品みたいな時間だ。
今日はおいしい中華料理が食べられるよとスタッフさんが言う。楽しみだ。
なんか世界一の肉まんもあるらしいよと圭織が言う。楽しみ。
肉まん作りにも挑戦してもらうから腕の見せどころだねとマネージャーが言う。楽しみだな。
楽しみ、なんだけどな。
- 547 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:08
-
◇
あの日も3人で中華料理屋さんに入って、だけど、あたしがギョーザとかチャーハンとかチャーシュー麺とか麻婆豆腐とか、知ってるメニューをとりあえず読み上げるノリで注文しちゃったから、円卓でいちーちゃんはその日初めて、本気で怒っていた。
「なんっで中華街まで来てギョーザにチャーハン、チャーシュー麺だよ、お前はアホか。なんかこう北京ダックとかフカヒレ・スープとかあるだろ」
「紗耶香も中華といったら北京ダック、フカヒレ・スープなあたり、後藤とどっこいじゃん」とやぐっつぁんが油をそそいだので、いちーちゃんは「今のは後藤のレベルに合わせたの! こいつにわかりやすいようにと思って言ったの!」と火を噴いた。あたしは叱られているのに、なんだか可笑しくなってきて、2人がモメている隙にそっと、シューマイ、春巻き、ワンタンメン、酢豚、トリ唐を追加オーダーした。
さんざん文句をたれたくせに「案外イケるじゃん」かなんか言いながら、いちーちゃんがチャーハンにがっついたのが、それからおよそ10分後。その顔の隣に春巻きのお皿がすとんと置かれたのは、それからさらに10分後のことだ。
「え、頼んでませんけど」
「はーい、ごとー、頼みましたー」
「な、えええ」
「あ、それも、ごとー、頼みましたー」
続いて唐揚げがやってきたときのいちーちゃんの顔が愉快で、あたしは自分のオーダーがとても正しかった、と思ったんだ。
- 548 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:08
- だいたい、ファミレスのテーブルだって中華の円卓だって、びっしり埋まってるのがいい景色だとあたしは思う。すかすかじゃ寂しいし、いろいろ食べてみたい。
その日もそれを力説したら、「じゃあ責任とって全部食え」といちーちゃんが意地悪なことを言う。「でも太るの禁止で」とさらに意地悪を足してきたので、ちょっと悲しくなった。
「いちーちゃん、あのねこれね、このネギのソース、いっぱいからめたらおいしいっぽいよ」
どうにか機嫌がなおらないかな、と思って、唐揚げに油琳ソースをたっぷりからめて、お皿にとってあげた。はい、と手渡してみたけど、いちーちゃんはそのお皿を脇へ置いて、すぐには食べてくれなかった。
本格的に悲しくなってきて、麻婆豆腐を小皿に取ろうとしたら、テーブルに上等の豚ミンチがぼたぼた落ちた。
「紗耶香」
蓮華でワンタンをすくいあげながら、やぐっつぁんが鋭く呼んだ。
いちーちゃんはそれで弾かれたように、やぐっつぁんじゃなく、あたしの顔を見た。
それから、なんだかバツが悪そうに唐揚げを頬張って、頬張ったものの、お酢が喉にきつかったのか、ゲヘゲヘゲヘと咳き込んだ。
「いちーちゃん、お水、お水」
ウーロン茶を差し出したら、今度はすぐに飲んでくれた。
やがてコップをテーブルに置いて、涙目のいちーちゃんは、かすれた声で言った。
「うん、イケるな、これも」
あたしとやぐっつぁんは、思いきり笑い転げたんだ。
- 549 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:09
- ほとんどおやつどきみたいなハンパな時間のせいもあるんだろうけど、店には空席も多くて、だからきっと味なんか本当は、たいしたことなかったのかもしれない。
だけど、シューマイもチャーハンも酢豚も全部、あのとき食べたのがダントツぶっちぎりに人生で一番、おいしかった。
いちーちゃんも同じ意見で、「こりゃなんか特殊なスパイス使ってるとみたね」とまで言った。
スパイスの秘密が、あたしたちにはそのとき、わからなかった。
- 550 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:09
-
◇
「ごーっちん」
あいぼんがさっきからチラチラこっちを振り返るなぁ、と思ってたら、急に走ってきて―――あいぼんのが前にいるんだから、立ち止まってくれればいくらあたしでも追いつくのに―――、急に手を握ってきた。
「んー? なあんだよー」
訊いてみるけど、あいぼんは、うへへと笑って答えない。
しかたがないのでそのまま手をつないで、あたしたちはとりあえずまた歩き出す。
握った手がふにゃっと柔らかであたたかく、あいぼんっていい子だなぁ、とあたしは思う。
教育係らしいこと、ろくにできないあたしだったのに。
- 551 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:10
- ◇
そういえばあの冬の日、いちーちゃんはお会計のときになって急に「教育係」を持ち出した。
「どう割ろうか」ってやぐっつぁんが多分、あたしだけ少なめにしてくれるつもりで言って、いちーちゃんはだけど、「3で割って」と答えた。
それから小さな声で付け加えたんだ。
「こいつの分、あたし払うから」
「や、いいよ、それだったら2で割ろうよ。うちらで半分ずつ」
「え、ごとー払うよ。いちーちゃん、だって昨日、『今月ピンチだ』って主婦みたいなこと言って」
やぐっつぁんもあたしも反対したけど、いちーちゃんは「うっさいなあ」と機嫌の悪い声で言った。「なあ」のところがクレシェンド気味になっていて、なかなか迫力だった。
- 552 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:10
- それで空気の重みが少しだけ変わって、そうなってみるといちーちゃんも気まずいようで、「教育係なんだし、これくらい、いいんだよ、たまには」と早口になった。
いちーちゃんは帽子を深くかぶりなおしたけど、耳たぶがリトマス試験紙ふうに赤くなっていくのが見えた。
やぐっつぁんは「じゃ、ま、後藤、今日のところは紗耶香におごってもらいな」と、なぜだかにわかに態度を変えた。口元あたり、にやにやしている。
あたしは釈然としないまま、ピンク色した耳に向かって、「じゃあ、ごちそうさまです」とお辞儀をした。
ン、と短く頷いて財布を取り出すいちーちゃんの横顔が、レストランでお会計するにあたってはちょっと無駄なくらい凛々しくて、かっこいいんだかわるいんだか、よくわからなかった。
「自分の綺麗なところだけで人付き合いしようったってそうはいかないよ」
いつだったか、いちーちゃんはかっこつけてそんなことを言ったけど、いちーちゃんて、綺麗なところやかっこいいところより、かっこわるいところのほうが正直よっぽど多くて、だからそんなセリフも、かっこわるい自分のための言い訳みたいで、やっぱり相当かっこわるかった。
かっこわるくて相当、愛くるしかった。
- 553 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:11
- ◇
「ごっちん、中華で何が一番好き?」
答えが知りたいというより、ただ口をききたそうに、あいぼんが訊く。
「え、うーん、なんだろ……チャーハンとかラーメンとか?」
「ていばーん。ていうか、それ中華かなぁ。まあ中華か」
汗かいてきちゃった、と手を離しながら、あいぼんは笑った。
「えー。じゃあねえ、トリ唐」
答えながら、ああこれは余計にバカにされるかなぁ、と思ったけれど、
「トリ唐かー。トリ唐はいいよねえ、トリ唐トリ唐。食べたくなってきた」
意外にもあいぼんはウンウン頷いた。
あいぼんにもトリ唐でなにか、忘れえぬ生涯の思い出があるのかもしれないな、とちょっと思った。トリ唐は偉大なのだ。
あいぼんの左手が離れたあたしの右手は少し、すうすうしている。
3月、風はまだ、あたたかくならない。
2月のあの日ほどではないにしろ。
- 554 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:11
- ◇
「さーむーいー」
「言っても暖かくなんないから黙れ」
背中を丸めてコートに手をつっこんで白い息を吐いて、あたしたちはそっくりなスタイルで、北風ぴいぷうな大通りを歩いた。何を見ようとか何して遊ぼうとか、スケジュールはなくて、ただ並んで歩いていた。やぐっつぁんはなぜかちょこっと前を、やっぱり寒そうに、ひょこひょこ歩いていく。
「寒い寒いさーむーいー」
「うっさいな、お前はー」
いちーちゃんは自分のマフラーをほどいて、あたしの首やら頬のあたりをぐるぐる巻きにした。もともとしていたマフラーの上から巻いたので、いちーちゃんのマフラーはほとんど顎のへんを覆う感じになっていて、実質ほとんど猿ぐつわだった。
「息しにくい」
「唾つけんなよ」
「唾はつけないけど、グロスついちゃったかも」
顎が出るようにマフラーを少し引き下げながら、いちーちゃんのマフラーとキスしちゃったなぁ、なんてことをぼんやり思った。
「首太い人みたいになってるし」
やぐっつぁんが立ち止まって、あたしたちを待っていてくれて、あたしの二重マフラーを笑う。
首が動かせなくなると、なんだか体全体がうまく使えなくなるみたいで、あたしはよちよちと、のろくさく前へ進む。
「ペンギンみたいだな」
いちーちゃんが横目であたしを見やって、ふふんと笑った。
顎のとがった白い笑顔は漫画の中の人みたいで、ちょっとかっこいいなと思う。
白状すると、本当はこれが見たくて、やや大げさに歩きにくそうにしてみたりもしたんだ。
- 555 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:12
- いちーちゃんはけれど、急に笑うのをやめて、変にまじめな目であたしを見た。
50メートル走のスタートを待ってるような、真剣すぎる目つきだった。
どうしたの、とあたしが問いかける直前、「あげよっか」といちーちゃんは言った。
「なにを?」
「それ、そのマフラー」
いやな感じがした。
「なんで……」
「なんでってことないけど。似合ってるからさ」
根拠なんかないけど、胸が騒いだ。マフラーは欲しいような気もしたけど、絶対にもらっちゃダメだと、なぜだか思った。
あたしは大急ぎで、いちーちゃんのマフラーに手をかけた。
超特急であたしの手がマフラーをほどくのを、かすかに曇った顔して、いちーちゃんがじっと見ていた。
「返す」
硬くてひびわれそうな声になった。
いちーちゃんは、ふん、と鼻をならして、変なやつ、と言った。
笑ったつもりだったらしいけど、笑顔には見えなかった。
胸元に押し付けたら、やっと受け取ってはくれたけど、いちーちゃんはそれをもう、自分の首に巻こうとはしなかった。
立ち尽くすあたしを置いて、ただ前へ、一歩、二歩、進んでいく。
- 556 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:13
- マフラーを手に持ったまま歩くいちーちゃんを、あたしは追いこして、そして立ちふさがった。
何が不安なのかもわからないまま、不安でしょうがなかった。
「ごとーが巻いてあげる」
今度はやわらかく言ったつもりだったのに、いちーちゃんのほうで硬い顔をした。
「なんで泣きそうになってんの」
そうか、あたしは泣きそうなのか今、どうしてなんだろう、と思って、答えなんか出なかった。
「そんなことないよ」
えへへと笑う。
いちーちゃんの首にマフラーを、ぎゅうぎゅう巻いた。
いちーちゃんは硬い顔のままで、どうしてか横でやぐっつぁんのほうが苦しそうな顔をしていた。
あたしも息苦しい気がして、いちーちゃんの鎖骨の前でマフラーを一度ほどいた。
いちーちゃんは微動だにせず、あたしの手元を見ていた。
視線が重くて、あたしはやけっぱち気味に、マフラーをどんどんねじる。
下まですっかり編みこんだら、テレビでもやらないようなアイドル笑顔をつくってみせた。
「じゃーん、中尾巻きー!」
爆笑にはほど遠く、失笑が2人から少しずつもらえただけだった。
あたしのハイテンションに押されたみたいにいちーちゃんは、「彬かよ」とひねりの足りないツッコミを、気のない感じでくれた。
それでも中尾彬巻きを直すつもりはないみたいで、「ほら行くぞ」と、あたしの腰のあたりを叩く。ちょっとハンサムな仕草だった。
- 557 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:13
-
「渋い渋い」とやぐっつぁんが囃して、3人でまた曖昧に笑って、なんとなく右足を前へ出し、転びたくないので左足をやっぱり出す。
歩き出したあたしたちは、「肉まんおいしそう」とか、「ヌンチャク発見」とか、見たものを単純に言葉にしていった。
3年前から売れ残ってそうなチャイナドレスとか、「静かにたたいてください」と注意書きされちゃってるドラとか、1人で見たらきっとたいして面白くもなかったようなものが、やけにおかしかった。
あの中華料理のスパイスがわからなかったあたしは、同じスパイスがこの街に、この時間に振りかかっているとはもちろん、気づかなかった。
なんてオモシロオカシイ街なのだと思って、中華街を好きになれたから、それはそれで、よかったのかもしれない。
- 558 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:14
- 「たあのすぃーねぇ」
「あはは、なんだそれ、たあのすぃーって」
つぶやいたら、やぐっつぁんはおもしろがってくれたけれど、いちーちゃんは呆れ顔というか、いっそ不安げな顔をした。
「イントネーションで遊べるのって小学生までかと思ってた」
うちの子ちょっと言葉が遅いみたいなんですけど、かなんか、誰かに相談したそうな顔だ。
「言っとくけど、ごとーはハイハイ始めんのとか早かったよ」
「うわ、それ全然わかんない」
「やっぱ天才だわ、後藤」
軽くあしらわれるのでさえ、さらさらの風に吹かれたような心地だった。
天下一おいしいものを山ほど食べて、オモシロオカシイ街を歩き、一等いい風が吹いている。やぐっつぁんもいるし、いちーちゃんがいる。それが今ここにある全てで、感じられることの全部で、他にない。
なんかすごいことだ、と思った。
ねえあのさ。
なにげなく呼んだら、2人とも当たり前に振り返ってくれる。
気持ちがよくて、言葉は考えるより断然早く、口をついて出た。
「また来ようね」
- 559 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:14
- やぐっつぁんは、「そこでそう来るのも謎だ」と口では言いながら、小さいのに手を伸ばして、あたしの頭をよしよしと撫でてくれる。思わず目を細めたら、「わあ、ごめん、チューしたい」と本気が混ざってるらしい冗談を言うから、なんとなくそれは困るかなと思って、いちーちゃんを見た。
いちーちゃんは、しばらくだけ、うつむいていた。
少しゆるめに巻きついている腕時計のバンドのところを触って、フェイスの位置を気に入るように直したら、顔を上げる。
うん、と言った。
やわらかな声だ。
「また来られるよ」
叱るときとも語りに入るときとも違って、ただ静かで、それはあたしが初めて聞く種類の声だった。
特別な声を、今この言葉に使ういちーちゃんは、天才だと思った。
2月の太陽が西へ急ぐのを寂しいと思う気持ちや、要するにまだまだ帰りたくない気分や、いろんなものを、同じだけ分け合えた気がした。どこも今、触れ合ってはいないのに、手をつないでいる感じがした。もしかしたら、この手はずっとつないでいられるんじゃないかと、そんな感じもしたんだ。
辺りじゃネオンがちらほら灯り始めて、いちーちゃんの鼻筋や睫毛を細い線でふちどっていく。夜色の光のせいか、輪郭の全部が、いつもより大人びて見えていた。
だからっていうわけでもないけど、絶対だよ、なんて子どもっぽい念押しは、しちゃいけないと思った。
あたしはただ頷いて、いちーちゃんは吐息をもらすように、小さく笑った。
- 560 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:16
-
どれくらいか進むとコバルト・ブルーの門が現れて、「あれ、もう出口だよ」とやぐっつぁんが言った。
門の向こうには横断歩道や信号機や、とても現実的な街並みが、しっかり広がっていた。
「出口か入口かわかんないけど」と、いちーちゃんは濃い青の門柱を見上げる。
思ったより短かったな。
つぶやいたのが聞こえた。
- 561 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:17
-
◇
「ごっちん、どしたー?」
あんまり生返事をしすぎたみたいで、気がついたら、覗き込んでくるあいぼんの顔が目の前にあった。
「わあ、ごめん。なんでもないっす」
顔が近すぎて、2人で照れ笑いをひとしきり。
やがてまた少しばかり距離をとって、あたしたちはてくてくてくと行く。
せっかく心配してもらったのに、あたしはそして、考えごとを再開する。
あたしはいちーちゃんの前では年より幼く振る舞う癖があって、なのに、どうしてあのときに限って、子どものふりができなかったんだろう。
無邪気な子どものふりで、「絶対だよ」と言ってみたらよかった。
どうしてあたしは、もっと子どもになれなかったんだろう。
どうしてあたしは、あんなにも、子どもでいたかったんだろう。
- 562 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:17
- 20世紀最後の冬休みが終わると、今日みたいな3月が来て、そのあと4月も来て、それからやがて5月が来た。21日になって、あたしは泣きながら、あの日のスパイスの秘密を知った。
時代は21世紀になって、季節はあれからもう、数えられないくらい過ぎた。
あたしは少し大人になりつつあって、たくさんたくさんのことを知り、あの頃あれほど子どもでいたかった理由も、なんとなくわかりかけている。
きっともし今、いちーちゃんと話せたなら、自分の言葉で説明ができると思う。
わかってもらえるかどうかは、わからないけど。
たとえばこの風がもし、いちーちゃんのところまで飛ぶのなら、口には出さない言葉だけれど、気が向いたらでいいから、届けてくれたらいいなと思う。
できたら、いちーちゃんがスーパーのビニール袋を提げているときとか、郵便受けを覗いているときとか、あくびしながら新聞をとるときとか、のんびりしている時間にそっと、届けてくれたらいい。
- 563 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:18
-
◇
いちーちゃん、ごとーはね。
たとえば夜明けがきたら星が消えるように、
大人になったら子どもでなくなるってことが、
とても寂しいことのように、思えていたんだ。
いちーちゃん、ごとーはね。
時間が止められないことくらい、ちゃんと知っていたんだ。
知っていても止めてしまいたいような、そんな気がしていたんだ。
それでも止められないんだってことも、本当は知っていたんだよ。
いちーちゃん、ごとーはね。
洗面器の水面より、はるかにきらきらな川や海の水面が好きだよ。
止まっていられないものの中にだけ見える、あの特別な光が好きだよ。
あの光が、大好きだったんだよ。
- 564 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:19
- ◇
中華街のどこかから焼き栗の匂いが、3月の風に乗って甘く漂いはじめる。
「おー、食欲そそるなぁ」
やぐっつぁんがのんびり言って、ガキさんがこまめに相槌を打っている。
3月、まだ風はあたたかくないけど、ものすごく冷たいわけじゃない。
もうすぐ4月で、その後には5月も来るけど、死ぬほど寂しいわけでもない。
ほんのときどき、心の中に風が吹くのを感じるけど、それだって、凍えるほど冷たいわけじゃないんだ。
長陽門の青い柱が、間もなくそこに見えてくる。
秘密のない肉まんを、あたしはおいしく食べるだろう。
風はまた前からやってきて、ためらいもなく後ろへ走りすぎていく。
久しぶりに見る青い門は、今日は入口の顔でそこに立っているだろう。
あたしはそれを、必ず笑顔で、もうすぐ、くぐる。
- 565 名前:風の吹く街 投稿日:2005/11/11(金) 23:20
-
end
- 566 名前:. 投稿日:2005/11/11(金) 23:20
- 妄想の下敷きにしたのは、
・ハロモニの中華街ロケ(2005年4月放送)
・2003年の後藤コンMC(市井、矢口と中華街に来た発言)
・後藤真希『来来!「幸福」』
妄想炸裂の契機になったのは、
2005年10月1日の後藤コンMCでの「いちーちゃん」でした。
現場にいたわけじゃないのですが。
- 567 名前:. 投稿日:2005/11/11(金) 23:21
- いろんな意味で、時宜を得ない小説ですが、
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/12(土) 00:38
- 良かったです。ありがとう。
- 569 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/11/12(土) 13:35
- 凄く良かったです!なんかしんみりしちゃいました。
また書いてくれると嬉しいです
- 570 名前:Only Holy Story 投稿日:2005/11/13(日) 01:36
-
Only Holy Story
- 571 名前:Only 投稿日:2005/11/13(日) 01:37
- 車から、通りを歩く梨華ちゃんを見つけ、クラクションを鳴らした。
目が合って、ぱぁっと彼女の顔が明るくなる。
彼女は雑踏から抜け出し、ベンチシート式のうちの車に乗り込んだ。
イルミネーションが輝く街を、肩を寄せ合って眺める。
シートに深く腰掛けて、サンルーフを覗くと、流れ星が見えた。
カーステレオから流れる心地よい音楽。
音に乗って、街はクリスマスを知らせている。
- 572 名前:Holy 投稿日:2005/11/13(日) 01:38
- 少し移動して、台場の観覧車に乗った。ありきたりだけど。
頂上付近で揺れる観覧車。キラキラと光が乱反射している。
その光が映し出す、梨華ちゃんの笑顔。
彼女の真心は、どこの奴の所でもなく、ココにある。
そう願って、口付けを交わす。
ふと外を見ると、雪が降り出していた。
もう少し、あと少しだけ、せめて鐘の音が響くまで、キミの笑顔を見ていたいんだ。
どうか、この粉雪が僕らをぎゅっと抱きしめていてくれますように。
- 573 名前:Story 投稿日:2005/11/13(日) 01:38
- あれから、一年。
冷たい粉雪の中、一人でさまよう。キミを探して。
声を枯らして名前を呼んでみても、離れ離れ。
もう戻らない、二人の想い。
あの時の傷ついた瞳と、冷めたセリフと、涙に、今も何も言えずにいる。
そのまま離れて、流れていった、二人の想い。
道の向こうに、キミに似た子を見つける。
ちょうど横断歩道を渡っているとき。
まだ、一人になんてなれないよ。
- 574 名前:. 投稿日:2005/11/13(日) 01:39
- どこへ行っても一緒だって、連れだっていた時は過ぎ去って。
彼女の手の温もりが消える夜に、はやる心を押し殺して。
今じゃ遠く離れた場所で、二人をつなぐのは電波だけ。
この恋愛ゲームは既に終演ムードなのに、携帯の電源を切れずにいる。
言い争いができた距離を、今じゃとても愛しく思う。
今年ももうすぐ終わりだ。
うちの白いため息が空へ上がり、冷やされて雪へと変わり
それが辺りを飾りつけ、時計は12をまわった。
二人はまだ、飛べずにいる。
この想いが、冷めることもない。
- 575 名前:Only Holy Story 投稿日:2005/11/13(日) 01:40
- おわり。
元ネタありです。
お邪魔しましたっ!
- 576 名前:模倣作家 投稿日:2005/11/13(日) 19:00
- 黒板の『真の御言葉』や花板の『天地創造』を読んで、
こんなのもありなんだと感じました。
それからいくつかのスレでれいなの訛りが何かおかしい、
さゆみが訛るとこんな感じかなと思ってたりして・・・
こないだの「なまり亭」で西村知美(宇部出身?)のしゃべりで、
それが確信に変りました。
ということで、れいなとさゆみの幸福論議(訛り付)を書きたくなりました。
福岡に住んでたことがあるけど、昔の事なのでかなり適当だし、さゆのほうは・・・
そして聞きかじりの幸福論も内容は破茶目茶になってしまいました。
そこのところは、お許しお願いします。
本当は草板にスレをたてようと思ったのですが、
あまりに短いのでここに載せていかだこうかと。
題は『幸福の起源』です。
- 577 名前:幸福の起源 投稿日:2005/11/13(日) 19:02
- 「れいな!何さえん顔をしちょると?」
「さゆに話したって、どげんもならんやろうもん」
「なんち!そぎゃんことはないっちゃ!」
「だってこないだ、れいなが相談した時、まともに答えてくれんやったろうもん」
「あれは辻さんと紺野さんが話してた事だっちゃ」
「だからそれがどげんしたとや?
あげな話やったら、励ましにもならんやなかね!」
「そぎゃんことはないっちゃ。
強く念ずれば、夢は叶うっちゃ、ウフ」
- 578 名前:幸福の起源 投稿日:2005/11/13(日) 19:03
- 「それはうそたい!
そげん簡単には、いかんばい!」
「そうなの、本当は思うだけじゃなくて、行動せないけんのだっちゃ」
「そうたい!努力する者は報われるったい!」
「でもね、一番重要なんは、心から強く無意識に達するまで願い続けることだっちゃ」
「そんなことはなか!
努力こそが大切たい!」
「でもね、努力しても報われるとは、限らないっちゃ」
「何でそげんことば言えるとね?
さゆは預言者のつもりになった霊魂に憑きまとわれとるんやなかね?
れいなも春頃、そげなことがあったばい」
- 579 名前:幸福の起源 投稿日:2005/11/13(日) 19:05
- 「そうなんだ・・・
なら、れいなに聞くちゃげど、それって神様の使者なん?」
「ちごうとると思う。たぶんいかれた男の霊魂ばい・・・
やけどなしてそげんことば聞くと?」
「紺野さんは辻さんが神様だとか言っとったごたるけど、
そげなこと信じられんやろ?」
「あたりまえたい!
神様が目の前に現われるわけがなか!」
「でもそれって、今までそげなことがなかったから、そう思とるだけやろ?」
「まわりでは誰も会った人は、おらんやろうもん」
「さゆもそげなことはないと思とるちゃけど・・・
でもね、紺野さんは神様に会ったと言うとるっちゃ。
うそついとるとは、思いたくないっちゃ」
「れいなも紺野さんがうそついとるとは、思いたくなかけど・・・」
- 580 名前:幸福の起源 投稿日:2005/11/13(日) 19:06
- 「さゆは思うちゃけど・・・
神様は必要とする人の前にしか現われんとやなかかと」
「でも辻さんは、神様ではありえんでしょう?」
「普通はそうなんやろうけど、本当に必要な人・・・
紺野さんの前では神として姿を現わしたんじゃないかな?」
「・・・信じられんばい・・・
でもれいなはそげんこと、どうでもよかと!」
「どげんしたら毎回メインでソロパートを獲れるか、でしょ?
前にも言ったけど、そげなことで悩むのはおかしいっちゃ。
れいなにふさわしいパートは、れいなのところに来てるちゃ。
さゆにはわかるっちゃ、アハ」
「れいなにはわからんばい。
間違いなくれいなの唄うべきところが、他の人に割り当てられとることが多いがたる気がするばい」
「そんなことはないっちゃ。
ただね、れいなが調子こいで、全部自分で唄おうと考えちょるんが問題だっちゃ。
モーニング娘。ちゅうグループの一員なんやから、みんなで一緒懸命に創り上げなきゃいけないっちゃ」
- 581 名前:幸福の起源 投稿日:2005/11/13(日) 19:07
- 「さゆは思うちゃ、この世はさゆのために動いちょるって。
この世の出来事は最終的にはさゆにとって最善の結果だっちゃ。
そしてこれはれいなにも言えると思うっちゃ。
現実はれいなにとって最善の方向に進んどると思うっちゃよ。
『あげんしとればよかった』とか『ああなればよかった』て思とっても、
実際は違うとるっちゃろ?
それに思い悩んだっちゃしょうがないっちゃ。
そげな風に考えれば、前向きになれるっちゃ」
「いつもれいなは前向きたい。
いつも最善の結果しか頭になかばい。
やから血の汗を流す努力ば、しとるとばい。
そやけど・・・」
「だから努力しても報われるとは、限らんちゅうこと。
それに最初の予定通りにいっても、それが最後には不幸を招くかもしれんし。
やからこれがうまくいかんでも、最後はうまくいくと信じることだっちゃ」
「そげな風には思えんばい。
れいなよりうまくいってる人を見ると、ムカムカくるばい」
- 582 名前:幸福の起源 投稿日:2005/11/13(日) 19:08
- 「他人と比較してはいけないっちゃ。
それに人はそれぞれ感じ方が違うとるから、同じ結果でも幸福の度合が違うっちゃ。
そして本当にしなければならない努力だけをして、
どうしてもしたくない努力はしないことだっちゃ。
嫌々したことは身につかないっちゃ。
人生楽しく生きなきゃね、ウフ。
思い悩んで苦しむのは、損だっちゃ。
それを無理してやって、自殺したくなるほど苦しくなるなら、
他人からとやかく言われても、やめていいと思うっちゃ。
人は生きてこそ価値ある存在だと思うっちゃ、エヘ」
「どげんしたと、さゆ。
神が降臨してきたごたる口調になっとるばい。
これは飯田さんを呼んでこな!」
- 583 名前:幸福の起源 投稿日:2005/11/13(日) 19:09
- END
- 584 名前:模倣作家 投稿日:2005/11/13(日) 19:10
- いろいろ突っ込みたいところがあるような、いいかげんなものでゴメンナサイ!
何の参考にもならないもので、失礼しました。
おかしな点があれば、どんどん指摘してください。
今後の創作活動に生かしていきたいので、よろしくお願いします。
- 585 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:07
- 突然秋の気配を感じるようになったのはついこの間のこと。
暖かすぎる秋の入り口を迎えてしまったせいか、木枯らしが吹いたという
ニュースを聞いても、しばらくは秋を感じる事が出来なかった。
そんなあたしが少し秋を感じるようになったのは、ボールを持って公園に向かった時だった。
- 586 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:08
-
++ 落ち葉舞うその時 ++
- 587 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:08
- 撫でると傷が分かるボールを土の地面に置き、足の裏で転がしながら少し走る。
夜の街灯が小さな公園を照らす中で、ひたすら体を動かす。
静かな住宅街に、だんだんと荒くなっていく自分の息遣いが響き、
着ていたジャージの下や被っていた帽子の中が熱を帯びていく。
進めば進む程に見えてくるのは足りないもの。
費やす時間は必然と増えて行き、自然と足はこの公園に向かっていた。
- 588 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:09
- 掻いてしまいたくなる程チリチリしている腕や太腿を
抑えるように両手を太腿につき、前傾姿勢になりながらベンチに座ると、
一気に疲労が体を走り抜けた。
首に巻いておいたタオルを口に当てて、右手を伸ばして
自分が飲み物を持ってきてなかった事に気付く。
「…あたし準備わりぃなぁ」
喋る言葉に、熱を含んでいるのが分かった。
熱くなった自分の頬に伸ばした手を持っていき、
目や鼻を押さえてから帽子を取った。
こんな時間だ、きっと誰もこんな公園通らないだろう。
それにこんなジャージ姿の自分に誰も目もくれないだろう。
そんな事を思いながら両足を伸ばして体を曲げていたら、
聞き慣れた声が静かな公園に響いてきた。
「あ、いたいた。やっほーい」
- 589 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:09
- その場違いに高い声は、夜の闇に溶け込むどころか
街灯を一つ増やしたような感じ。
そう、あんな声誰も間違いやしない。
「…梨華ちゃん」
けど、どうしてこんな所に?
タオルを顔からはずし、顔を公園の入り口に向けると、
こんな寒いのにスカートを履いた梨華ちゃんが
テテテッと小走りにやってきてあたしの目の前に立った。
「さっきよっすぃの家行ったら、おばさんが教えてくれたの」
いや、それは別にいいんだけど、ってか、突然どうしたの?
来るなら携帯に連絡くらい入れてくれれば迎えに行くかなんかしたのに。
「んー、でも別に最初は来るつもりなかったから」
そう言って梨華ちゃんは笑った。
- 590 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:10
- 彼女の家とあたしの家は、そんな近い距離にあるワケじゃない。
あたしの家の方に来るには少しは電車に揺られなければいけないくらいだ。
それに確か、今日は午後オフとか言ってなかったっけ。
何でこんな時間にこんな場所まで来たんだか。
「…まぁ、とりあえず座れば?」
隣をポンポンッと叩いて少し体をズラし、
足下にあったボールを手の中におさめる。
梨華ちゃんが隣に座るのを感じながら、ボールの砂を
手で払ってお腹らへんで抱えた。
「寒くなったねー」
「本当、寒くなるのアッという間過ぎ」
少し動かないだけで、汗をかいた体は冷えていく。
さっきまで前髪を張り付かせていた額の汗はひき、
まだ濡れて乾いていない前髪がほんのりと冷えている。
熱というのは、どうも引くのが早いらしい。
いや、そうじゃない場合もあるけど。
- 591 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:10
- 何となく彼女の方を向けなくて、手の中でボールを遊ばせながら
木々が作る公園の壁を見つめた。
彼女との熱が引いてしまって、もう随分の時が経っていた。
いや、熱が終わってしまったというのが正解か。
終わるキッカケはまぁ色々あったけど、終わってしまって、終わらせてしまった。
最初は意識をし過ぎて交わせなかった会話も、時間の経過と、
それと、彼女が頑張って接してきてくれたせいで
いつからか昔のように交わせるようになっていた。
あたしはそれが少し嬉しくて、少し悲しかった。
もう戻れないのかなっていうのと、また話せたっていうのが絡みあってたから。
友達とも違う微妙な関係なウチら。
よく皆が言う家族のような、戦友のような、そして今じゃ
かけがいのない仲間でもある。
なんて言うか、終わったって、終わりきらない関係だ。
熱が終わってしまった当初はそうは思わなかったけれど、今じゃこんな風に
一緒に仕事が出来て、一緒にプレーが出来るのを嬉しく思っている。
こんな風に思えるのは、あたしが少しは大人になったからかな。
…なぁんてな。
- 592 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:11
- 「よっすぃ、寒くないの?」
「寒くないと言ったら嘘になる」
「じゃぁ一度帰って着替えてくれば?」
「いや、いいよ。そんなスッゲー寒いってワケじゃないし」
こんな事を言ってるけど、それは少し嘘で、少し本当だ。
二人の間の熱が終わってしまってから、こうして夜彼女があたしの家のまで
訪ねてくるなんて事なんてなかったから、少しどころか、結構気になっていた。
「ダメ、風邪ひいちゃうといけないから着替えてきて」
「いや、ほら、だってあんまゆっくりしてると終電行っちゃうべ?」
昔ならそのまま泊まって行ったって良かったけれど、
いや、あたしは今でも良いって言えるけど…。
「大丈夫だよ。いざとなったらタクシーで帰れば平気だから」
- 593 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:11
- 梨華ちゃんはそう言ってあたしの腕を掴みながら立ち上がった。
引っ張られる様に立ち上がると、その拍子にボールが音をたてながら
弾んで転がっていった。
「待ってるから、行ってきて。
これじゃぁゆっくり話せないじゃない」
いつかのように彼女は少しお姉さんぶってあたしを見ると
背中に手を回し、力を入れてあたしを押す。
その力に逆らわなかったあたしは、数歩進んでから立ち止まり、
未だに足に残る疲労を感じながら後ろを振り返った。
梨華ちゃんはまるで何もなかったかのように
転がったボールに向かって歩いている。
ブーツとスカートの間からのぞく足は寒そうで、
思わずあんただって寒そうじゃんって言いたくなった。
- 594 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:11
- いつの間にか出来ていた彼女との距離。
それはいつしか消えていたと思っていたけれど
こんな状況になると、実は消えきってなかった事に気付く。
年単位の月日が流れたにも関わらず、今だにあたしは彼女を気にかけている。
あの温もりを思い出すのが辛くて、昔程近付く事が出来ないくらいに。
「…あのさ」
彼女が夜にあたしの家を訪ねてこなかったのと同じように、
あたしも彼女の家の扉を一度も叩く事が出来なかった。
何度か家の前まで足を運ぶことはあった。
だけども彼女がいるであろう部屋を見上げる事しか出来なかった。
「なーに?」
本当はまだ好きだったのに、好きじゃないなんて言って、
事務所からの圧力に刃向かう事なく、あたしは、終わりを選んだ。
そして彼女も、終わりを選んだ。
「…あの、さ」
- 595 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:12
- それは正解で、それは間違いだった。
あの時の答えがあったから今があるのかもしれない。
それは誰にも分からない。
だから正解だったかもしれない。
だけども、あたしの中にあるこの気持ちは、
あの時の決断の時を今も夢に見せる程に残っていた。
「寒ぃから、一緒に来ない?」
いくら気持ちが残っているとはいえ、あの時の言葉を取りかえす事は出来ないし、
そんな事はしちゃいけないと思って、ずっと気持ちは伝えずにいる。
いや、きっとこの先も伝える事はないだろうと思ってる。
それでも引ききれなくて、あたしは帽子を取りに行くフリをして
進んだ分以上に歩数を進め、しゃがんでボールを掴んでいた彼女に近付いた。
こうやってしゃがんでいると、彼女はさらに華奢に見える。
長い髪が風に揺られて顔にかかるらしく、彼女は髪を耳にかけた。
そんな仕種なんて見なれているはずなのに、
突然やってきた彼女のせいで、今のあたしは
たったそれだけの事にも胸をドキドキさせている。
抑え込もうとしている気持ちが、あたしの意思とは反対に暴れ出す。
- 596 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:12
- もっと何気ない素振りで、もっと今まで同じように、
意識すれはする程空回りする事は分かっているけど、
それなのに上手く出来なくて、まるで数年前に戻ったよう。
あたしは自分の中で起こるこの突然の出来事に対処しきれていない。
どうにかしなきゃって思う反面、ずっと心の中で願っていた
どうにかなってくれっていう気持ちが次から次へと溢れてくる。
このまま彼女が断ってくれればそれでいい。
そうしたらきっとこの暴走しそうな気持ちは治まるはずだ。
そうしたらきっと、また今までのように普通に過ごせる。
時間をかけて、修復して築き上げてきたモノを、壊さないですむ。
- 597 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:13
- 相変わらず自分は卑怯だなぁなんて事を頭の片隅で思いながら
梨華ちゃんの少し後ろで立っていると、しゃがんだまま何も言わなかっ
た彼女が小さくため息をついた。
「…本当、よっすぃはたまに私より空気読めないよね」
- 598 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:13
- 振り向く事なく立ち上がり、空を見上げるように頭を上げる。
大きく息を吐くと、白い息が昇っていく。
彼女は持っていたボールを胸で抱えると、笑いを含ませながら呟いた。
「やっぱり、来るんじゃなかったな」
- 599 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:14
- 彼女が振り返り、あたしを見る。
ドキッとした言葉に固まっていたあたしを見る。
薄暗い公園の中で、お互いの視線がぶつかって
様々な事が頭の中を駆け抜けていく。
そして、その答えを打ち消そうとする。
「やっぱり、揺らいじゃうもん」
彼女は笑った。
眉毛をハの字にして。
もう気持ちを打ち消すことなんて出来なかった。
- 600 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:14
- 腕の中に彼女を抱き締め、あたしと同じくらいに
冷たくなっていた体をきつく抱き締める。
泣きそうになる感情を押し殺しながら
彼女を頭を胸に抱いた。
きっと彼女もあたしのように何度も足を運んだんだ。
叩けない扉を前にして、何度も向かってきてくれようとしたんだ。
そういう事が、冷えきった彼女から伝わってきた。
- 601 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:15
- 彼女を抱き締めたあたしは、何も言う事が出来なかった。
それでも、おずおずと背中に回されていた腕に少し力が入ると
それに答えるように腕に力を入れた。
あの日の間違いを、あの日の嘘を伝えるように。
彼女も同じように何も言わなかった。
だが、少し強い風が吹いて落ち葉を舞わせると、
彼女は少しだけ体を離して下を向いた。
「本当はね、よっすぃん家まで行かなかったんだ。
近くまで行って、きっとまた何も出来ずに帰っちゃうん
だろうなぁなんて思いながら歩いてたらね、ボールを
持ったよっすぃが見えたの。でもさ、声なんて
かける事出来なくて、何度も駅の方に足を向けたの。
だけど、今度は帰る事も出来なくて…」
- 602 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:15
- 表情は見なくたって分かる。
お互いに微妙は顔をしているはずだ。
あの日ついたお互いの嘘を分かっていながらも認めて
進んだ未来が今だから。
その未来を生きているあたし達の環境は、あの日と比べると随分と変わっていた。
それはお互いに築き上げた未来で、そしてそれなりに良いと思えるカタチだった。
心に嘘は、ついていたけれど。
今この瞬間にこのカタチを崩してしまったらどうなるのだろう。
そう考えた事は一度だけじゃなかった。
けれども引けない所まで来ていたあたし達は、一人の我が侭で全てを壊す事なんて出来ない。
だから触れあっちゃいけないと思っていて、それを守る事で昔を肯定しようとしていた。
けれどもそんな頭の中だけの考えは、彼女を目の前にしたら薄れていった。
そしてずっと抑えていた気持ちが、自然と言葉となって流れでた。
- 603 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:15
- 何処かの映画のように、この後すぐに口付けを交わす事なんてなかったけれど
あたしはしばらく彼女の体温を腕の中で感じていた。
あの日出した答えで今があるなら、今の二人が出した答えで
また新しい未来がうまれるだろう。
あの日、立ち向かうことが出来なかったあたし達だけど
今度はきっと二人で手をとって立ち向かっていけるだろう。
お互いを想っていた期間に色々な事があった。
それでもこうして今が迎えられたって事は、
きっとこの先何があったって大丈夫。
二人なら、きっともっと大丈夫。
遠回りをしたけれど、こうしてまた近くにいる事が出来たから。
- 604 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:16
- 木枯らしが吹き、本格的な秋がやってきた。
気付けば落ち葉が舞い、街には乾いた葉がたてる音が聞こえるようになっていた。
そんな事にも気付かずに毎日を送っていたあたしに、秋の到来を教えてくれたのは彼女だった。
そして、彼女に再び近付けさせてくれたのは、落ち葉の舞う、こんな季節だった。
- 605 名前:落ち葉舞うその時 投稿日:2005/11/17(木) 13:17
- おわり
- 606 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/17(木) 13:21
- 久々にいしよしの短編が書きたくてこちらに書かせていただきました。
寒くなってきましたので皆さん風邪には気をつけて下さいね。
それでは失礼します。
- 607 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/17(木) 14:11
- とてもよかったです
ひんやりとした空気と二人の息づかいが感じられるようでした
- 608 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 14:32
- >>607様
ありがとうございます。
少しでも秋を感じてくれたみたいで良かったです。
- 609 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:28
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 610 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:51
-
Side:H
- 611 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:53
- 急に訪れた沈黙で、流れていたのがバイオリンのクラシック音楽だということに初めて気づいた。
さっきまであんなに話していたというのに、目の前の彼女はフォークを動かしているだけ。
今日はクリスマスイブの二日前。
クリスマス当日は毎年仕事が入っているので、その前にお互い時間を空けて、二人で過ごすようにしている。
今年は二十歳になったということもあり、某ホテルのレストランの個室を予約し、シャンパンとコース料理で少し大人なクリスマスを演出。
めったに食べることのないフランス料理を前にあたしは感動と緊張でいっぱいだ。
テーブルマナーを知らないあたしは以前番組で少し習ったという彼女にどうすればいいのかを聞きながら、おいしい料理を口に運んでいく。
次から次へと出てくる料理を一口食べれば「おいしいね。」とお互いにうなづき合う。
メインディッシュを彼女は肉で、あたしは魚を頼んだので、マナー違反ではあるものの、自分達以外は誰もいないということで、食べさせ合ったりもした。
- 612 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:54
- ピンク大好きな彼女なのだが、今日はそのコーディネートに一つもピンクは入っていない。
白いふわふわなセーターに黒のプリーツのミニスカート、最近買ったという黒いブーツと、シックな装いで、普段よりも大人に見える。
シャンパンを持つグラスの仕草とか、ナイフとフォークを動かすその手つきがどことなく様になっていて、そんな彼女にあたしはさっきからドキリとさせられていた。
今、あたし達の目の前にはクリスマスデコーレションされたアイスとケーキのプレートが置かれている。
そのプレートもすでに半分はお互いの胃の中。
甘いものの好きな彼女だから会話もせず、集中して食べているのかと思えば、どうやらそうでもないらしい。
フォークの進む手はなんだか遅い。
デートでカフェに入って、ケーキを食べているときの彼女はもっとうれしそうなんだけどな。
このケーキがまずいというわけではないはずだけど・・・。
ちらちらと彼女を見ていると、とうとう彼女はフォークを皿の上に置いた。
- 613 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:55
-
「あのね、ひとみちゃん。」
彼女があたしの顔をじっと見つめてくる。
こう彼女が名前で呼ぶときは何か大事なことを話そうとしているときだ。
「・・何?」
彼女がこれから何を話そうとしているのかあたしには分からない。
プレゼントはさっきすでにお互い交換した。そんなことじゃない。
彼女が話そうとしていることがいいことなのか、悪いことなのかいまいち彼女の表情からは読み取れない。
真面目な表情、あたしから逸らすこともなく、まっすぐに見つめる。
そんな彼女にあたしは緊張して、ごくりと喉が鳴った。
- 614 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:55
- 「私達、もう二十歳になったじゃない。だから、そろそろちゃんとけじめをつけた方がいいと思うの。」
「けじめ?」
「うん。」
うなづいた彼女。・・・なんだか嫌な予感がする。
「私達、出会って五年経つじゃない。ずっと一緒に仕事をしてきて、プライベートも一緒に過ごしてきた。今年、私はモーニング娘。を卒業して美勇伝のリーダーに、ひとみちゃんはモーニングのリーダーになって、仕事はもちろん、プライベートもなかなか会えなくなった。」
「そうだね。」
確かに梨華ちゃんの卒業後あたし達は一緒にいられる時間がかなり減った。
それまでメールとかあまりしなかったけど、卒業後はメールの回数も電話の回数もすごく増えた。
遠く離れててもいつでも繋がっていたかったから。
「たぶん、今なんだと思うの。これからもこの機会はあるかもしれないけれど、私は今言わなきゃって思ったから。」
「うん。」
「ひとみちゃん。」
- 615 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:57
-
「私のお嫁さんになってください。」
- 616 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:58
-
「・・・は?」
今、この人は何を言った?
瞬間に何もかもが消えて頭の中は真っ白。
あまりの衝撃に言葉はすぐには出なかった。
嫁って、何?あたしが梨華ちゃんの嫁になれって?
これって、これって・・・・プロポーズ?!
- 617 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 00:59
- パニクってるあたしをよそに彼女はすぐに話の続きを始める。
「私はこれからもひとみちゃんとずっと一緒にいたい。ほんとうに大好きなの。恋人になれたことも奇跡だと思ってる。最初は一緒にいられればよかったのに、今はひとみちゃんを独占したいなんてすごくわがままになってる。こんなこと言ったら、ひとみちゃんを束縛するだけだって分かってるの。でも、でも、私・・・・。」
そう言って梨華ちゃんは今にも泣きそうな顔でうつむく。耳まで真っ赤だ。
それでも自分の気持ちを伝えようと精一杯話してくれる。
「私、ひとみちゃんの王子様になりたい。ひとみちゃんのことを守ってあげたいの。ずっとずっとひとみちゃんが笑顔でいられるように。幸せにしてあげたいって思う。戸籍上では認められないけれど、ひとみちゃんにウェディングドレスを着させてあげたい。きっとすごく似合うと思うの。」
「あ、あの、梨華ちゃん・・・・。」
「ひとみちゃんの答えを聞かせてほしい。今すぐ無理なら私、待つから・・・。」
- 618 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:00
-
Side:R
- 619 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:01
- ついに、ついに言っちゃった!!
言った後、どうしようなんて今更ながらパニックになってる。
私の顔なんて絶対真っ赤になってるし。
怖くてひとみちゃんの顔が見られない。
ひとみちゃんは私のこと好きでいてくれると思う。
だけども、ここまで想ってくれてるかというとよくは分からない。
ひとみちゃんはあまり自分の気持ちを表に出す方じゃないから。
- 620 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:02
-
告白をしたのは私からだった。
初めてデートに誘ったのも、キスをしたのも私から。
ひとみちゃんといろいろなところに行きたい。
たくさんのものを見たい。
一緒にいたい。
私はわがままだから、どんどん欲が出てくる。
こんなにわがままだったら、ひとみちゃんに呆られちゃう。
そう思うから我慢するんだけど、それがもたなくなっちゃって、私はいつもついつい言ってしまう。
ひとみちゃんはやさしいから、いつも「うん、いいよ。」って笑顔で受け入れてくれる。
それに私は甘えてしまうの。
一緒にいられればそれでよかった。
でもね、すごく不安だったの。
いつかひとみちゃんは私から離れていってしまうんじゃないかって。
ひとみちゃんはとてもモテるから、きっとそのうち、ひとみちゃんにお似合いの人が現れて、私の側からいなくなってしまう。
私がモーニング娘。を卒業して、ひとみちゃんと会える日がものすごく減ってからそんな風に強く思うようになった。
そのうちに考えるようになったこと、それが「結婚」だった。
- 621 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:03
- 結婚したって離婚することもあるって言われるかもしれない。
でも、一生側にいるということを誓うことができる。
結婚という形はその事実を証明してくれる。
私とひとみちゃんは女同士。
だから正式な結婚というのは今の日本では認められないことは分かってる。
それでも結婚というものにすがりたかった。
そうでも考えていなければ、私はその不安から逃れられなかったのだ。
焦っていたことは確かだ。
でも、ひとみちゃんにプロポーズしようと決意したのは、最近のこと。
ただ、一ヶ月前くらいにクリスマスのプレゼントにリングを用意したのも、今日の二人で過ごす予定を話し合ったとき、高級レストランを提案したのも、おそらくは心の中にプロポーズのことが多少あったのだろうと今になって思う。
- 622 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:04
- 本当はプレゼントを渡すときに言おうと思ってたの。
でも、ひとみちゃんが結構早めにプレゼントを出してきたから、私もその流れで渡してしまった。
もう少し時間が遅かったら、「結婚してください」ってリングを渡せたはず・・。
何もしないで後悔するより、何か行動して後悔する方がいいと私は思う。
でも、今、少しだけ早まったかなとも思う。
だって、ひとみちゃんの顔、とても困ってるんだもの・・・。
「梨華ちゃん。」
「はっ、はいっ・・。」
声が上ずった。返事も敬語だし・・。
ひとみちゃんがいつになく真剣な表情で私を見つめる。
どこかうれしかった。
どんな答えをひとみちゃんが出してこようとも、きちんと真面目に考えてくれてるんだって分かったから。
あぁ、私、ほんとひとみちゃんが好きなんだなぁ。
私もちゃんとひとみちゃんを見つめた。
あなたの出した答えを教えてほしいの。
- 623 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:04
-
「梨華ちゃんは、あたしの王子様はなれない。」
- 624 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:05
-
「・・・そっか・・。」
私は目を伏せる。
私にはそんな大きな役目は無理だったかぁ・・・。
目頭が熱くなって、やばいと思った。
でも、ここで涙は流してはいけなかった。
大丈夫、私は泣かない。
だって、私は強がりだから。
私の横に気配がして、はっと顔を上げると、いつのまにかひとみちゃんが私の隣に立っていた。
ひとみちゃんは私の横に跪いて、私の右手を両手で包むと、見上げた。
- 625 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:07
-
「あたしが梨華ちゃんの王子様になるんだよ。」
「だから、梨華ちゃんは王子様にはなれない。」
「梨華ちゃんはお姫様だから。」
ひとみちゃんは私の右手を持ち上げて、その甲に口付けた。
・・ねぇ、それって・・・・。
- 626 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:07
-
「ひとみちゃん・・・。」
「何泣いてんの。」
「だって、だって・・・。」
すごくすごくうれしいんだもん。
止めようと思っても止まらないの。
「ったくさ、いつも梨華ちゃんはずるいんだよ。」
「何が?」
「あたしが言おうとしてること、全部先に言ってくる。」
「そうかな?」
「そうだよ。告白も、デートも・・キスだってあたしからしようと思ってたのに。そしたら、今度はプロポーズまで・・・。」
「だってぇ・・・。」
「だってじゃないよ・・・全く。」
そう言うとひとみちゃんは笑った。
- 627 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:09
-
「梨華ちゃんに先に言われる前に言うわ。」
「え?何?」
「一緒に住もう。」
- 628 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:10
-
ひとみちゃんの左手が私の頬に添えられる。
二人の視線は絡み合い、その瞳にお互いの姿を映し合う。
寄せられるひとみちゃんの顔。
私はゆっくり目を閉じて。
ねぇ、私はあなたに誓うよ?
これから先、どんなことがあってもあなたを愛して続けるって。
きっとこれから楽しいことだけじゃなく、辛いこともたくさんあると思うけど。
でも、ずっとあなたから離れることはないと言い切れる。
- 629 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:11
-
物語の中の王子様はいつだってお姫様を守っていた。
私はね、ひとみちゃんを守りたいって思ったの。
だから王子様になりたいって思ったんだ。
ひとみちゃんが私のことをお姫様だと言うならば。
私はただ守られるだけのお姫様にはなりたくない。
王子様を守って、支えていけるお姫様になりたい。
これは私の勝手な憶測だけど。
物語の中のお姫様も、本当は王子様を守りたいと思ってるんじゃないかなぁ。
- 630 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:12
-
私達の物語はまだまだこれからもずっと続くけれど。
今日のこの日の締めくくりに。
これは私の願い。
『王子様とお姫様は末永く幸せに暮らしましたとさ。』
- 631 名前:王子様にはなれない 投稿日:2005/12/23(金) 01:12
-
Fin
- 632 名前:七作 投稿日:2005/12/23(金) 01:16
- 久しぶりに書かせていただきました。
この時期だから、甘めのものができてしまいました。
みなさま、よいクリスマスをお過ごしください。
- 633 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 00:16
- よかったです。じんわり心にしみました。
よかったらまた書いてくださいね。
- 634 名前:引越し祝い 投稿日:2006/01/03(火) 23:51
-
…人の気も知らないで
ひとみは今日何度目かのため息をつくと、恨めしそうに梨華を見た。
そもそもさ、あたしの引越し祝いだパーティーだと言っておきながら、
あたしの部屋で、あたしの作った料理で乾杯をしている時点でおかし
かったんだ。しかも、2人しか居ないってのに、大して飲めやしない
アルコールを大量に買い込んでくる意味がわからない。
「…はぁ〜」
主役そっちのけで飲んで酔っ払って、眠いだ何だと騒いでた所までは
百歩譲って許すとしても…だ
何で?どうして?あたしの、しかも膝の上で…
「完全に寝てるし…」
何考えてるんだ、こいつは…
- 635 名前:引越し祝い 投稿日:2006/01/03(火) 23:52
-
あーもう誰かの胸倉を掴んで、どうしてこういう状況が生まれるのか
小一時間問い詰めたい…と願うも、部屋には梨華とひとみの2人だけ。
動くのも困難なこの状況に変わりがあるはずもなく。
手の置き場にも困るし。てか、そろそろ…あ、足が、ヤバ…
「ん…っ」
不意に梨華が声を漏らし、咄嗟に息を潜める。
起こせば良いのに、出来ない自分がいることには目を瞑る。
「…う…ぅんー…」
モゾモゾと寝返りを打った梨華が、再びスヤスヤと眠りについた事に
安心している自分がいることにも気付かないふりをして
「なんだよー、脅かすなよなー」なんて的の外れた文句を呟いた。
まあ、ほっときゃじきに起きるさ、と。起こさなかった理由を誰かに
言い訳して。自分の膝の上でスースーと規則正しい寝息を立てている、
寝顔をそっと盗み見る。
- 636 名前:引越し祝い 投稿日:2006/01/03(火) 23:52
-
キレイ…、と思わず呟きそうになったのを喉元で止めて、随分前から
ドキドキうるさい心臓を落ち着けると、引き寄せられるように漆黒の
髪に手を伸ばした。
ただ撫でるだけの指先が、笑っちゃうほど震えているのに、ちっとも
楽しい気分にはなれなくて。
「…梨華ちゃん」
それどころか、泣きたいほど胸が苦しくなった。
たとえば今、もし彼女が目覚めたら。
あたしの浅はかな嘘など、すぐに見破られてしまうに違いない。
ああ、どうして、こんなにも…
―――愛おしい
- 637 名前:引越し祝い 投稿日:2006/01/03(火) 23:53
-
柄にもない事を思ってしまったと苦笑いをすると、撫でる手を止めた。
それでも規則正しい寝息が変わらない事に安堵して。
人の気も知らないで…か。
本当に知られたら困るくせに。
臆病な自分に今日一番のため息をついて、一人笑った。
また置き場を失ってしまった両手は後ろについて、天井を仰ぐ。
完全に感覚を失った足。
仕方がないから、このままこうして待つとしよう。
目を覚ました彼女にどんな嫌味を言ってやろうか。
そんな事を考えながら。
- 638 名前:引越し祝い 投稿日:2006/01/03(火) 23:53
-
オワリ
- 639 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 01:10
- 素直になれよ
- 640 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:53
- 2006年1月19日。
今年最初のフットサルの試合。
相手はライバル、カレッツァ。
ガッタスメンバーは気合入りまくりです。
その中でも特に気合入ってる人。
吉澤さん。
ガッタスの頼れるキャプテン。
「このゲーム、絶対勝つよ!」
それから美貴ちゃんも。
ガッタスのエースストライカー。
「ゴール、決めるから!」
- 641 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:54
- この二人はいつもはクールに燃えているんです。
それが表面にでるほど、今日は特に力が入っている様子。
ただ単に宿敵カレッツァ相手だから、というわけではありません。
今日は二人の愛する石川さんの誕生日だからです。
二人はいいところを見せようと思ってるようで、今日の試合が決まってからの練習はいつも以上に熱心でした。
私には
「梨華ちゃんとの恋のゲーム、絶対勝つよ!」
「梨華ちゃんへのラブゴール、決めるから!」
としか聞こえません。
- 642 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:54
- 一方、石川さんはというと、いつも以上に空回りパワーMAXなテンションです。
なんたって今日は21歳の誕生日ですから。
そんな石川さんをメンバーはやれやれといった感じで見つめてはいるものの、あたたかく見守っています。
他のメンバーは吉澤さんと美貴ちゃんが思っていることなんてお見通しです。
一人だけ分かっていない石川さんは二人にまさかそんな下心があるとは全く思っておらず、吉澤さんと美貴ちゃんに誘われて、さっきから三人でフォーメーションの確認をしていたり・・。
- 643 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:55
-
「コンコン、今日はがんばろうね!」
ふと気づけば石川さんは私の隣に。
もちろんです、と答えようとして思いつく。
そうだ、ちょっと言ってみよう。
「ごほうびがないとがんばれません。」
私がごほうび、といったらお分かりですよね、石川さん。
私が答えに期待をしていると、石川さんはしょうがないなぁと苦笑い。
「勝ったら“ちゅう”してあげる。」
「はぁ?!」
私が言い返す前に石川さんは柴田さんのもとへ・・・。
- 644 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:56
-
あぁ、なんてことですか・・。
私はどうしても試合に勝ちたい。
メンバーだってみんな勝ちたい。
でも、試合に勝ったら石川さんのごほうびが実行されるわけです。
ごほうびがあの二人に知れたら・・・。
おそろしくてその先が考えられません。
- 645 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:56
-
私の肩に手がまわされ、はっと横を見れば、斉藤さん。
「大丈夫。フォローしてあげるから。」
さすがボス。頼りになります。
というか、さっきの話聞かれてたんですね。
「私が代わりに二人にキスしてあげる。」
・・さすがボス。そんなフォローはあなたしかできません。
- 646 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:57
-
試合開始まであと一時間。
運命の試合はもうすぐです。
おわり
- 647 名前:紺野あさ美のGATAS裏日記 投稿日:2006/01/19(木) 20:59
- 試合はもう始まって(終わって?)いますが・・・。
石川さん、お誕生日おめでとうございます。
- 648 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/20(金) 08:08
- このタイミングで上げてくれた作者GJ
- 649 名前:?おやすみ、………… 投稿日:2006/02/09(木) 17:03
-
『おやすみ、…………』
- 650 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:03
-
「麻琴〜っ!早くスタンバイしろよ!
小春ぅ!ほらミキティもこっちだってば!
もーみんな頼むよ、ちゃっちゃとやれば終わるんだからさぁ」
レギュラー番組収録中のTVスタジオ内に某リーダーの声がこだまする。
その様子をカメラの後ろで見ていた若年メンバーがふたり、ひそひそと話している。
「なんであんなカリカリしてるんだろ…
ね、さゆ、なんか最近おかしいよね?うちのリーダー」
「えりりん知らないの? あれ、後藤さんが倒れてからだよ」
「そうか……ってえ? え、でもなんで?」
「なんでって…
「コラ〜っ!そこのふたりっ!はよ位置につけっつーのっ!」
「「は〜い」」
- 651 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:04
-
ママがその事を告げに部屋に来て間もなく、
乾いた最小限の音を立てて薄暗い部屋のドアが開けられた。
あたしは重いまぶたを持ち上げ、逆光のシルエットに目を向けた。
細く開けられた隙間からもれた少しの光と同じくらい申しわけなさそうに
顔をのぞかせたのは…
「よしこ…
「ごめん急に…えっと……具合どう?」
「ん、だいじょぶだいじょぶ、入って」
ためらうのを導いて、ベットから起き上がろうとすると、
ドアを閉め近くまで来たよしこがあわてて押しとどめた。
「あ、良いから横になっててよ」
確かにまだ力が入らないんだよね。
病み上がりっていうかまだチャージ100%じゃないんだもん。
お言葉に甘えて腹筋の力を抜いてどさっとまたマットに体を落とした。
- 652 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:04
- 冬のライブが終わってすぐ、あたしは体調した。
バックステージでまるで糸が切れた操り人形のようにふっと力が抜けて倒れた。
気を張って挑んでた2時間ドラマの収録も終わってほっとしたってのもあるけど、
もともと調子も悪かったんだ。
だましだましやってたんだけどさすがに限界だったのかもね。
そんでそく病院につれてかれて、検査して、入院して、注射や点滴いっぱい打たれて、
かなり回復した今も自分の部屋で療養中。
もう2週間以上仕事を休んでいた。
いつものあたしならちょっとの休みでもじっとしてらんないのに、
ここまで体力落ちてると仕事の事も次のお休みにしようと思ってた事も
なんも頭に浮かばなかった。
毎日ひたすら眠っていた。なんか眠かったんだもん。
でもいくらねむっても眠り足りない感じ。病気だからかな…
- 653 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:05
-
「仕事は?」
ベットの傍らに両膝をついて腰を浮かせたちゅうとハンパな正座をしたよしこ。
「今日のは終わったよ。思ったより早かったからよってみたんだ…
ほんとはもっと早く来たかったんだけど…」
「ミュージカルとか忙しんでしょ?あ、娘。のライブももうすぐだっけ…」
「そんなんどーってことないよ…それよりさ……
よしこはふとんからはみ出てた顔のあたしの片手を両手で包みこんだ。
あぁ…あったかいナ…
そんでそのあったかい温度と一緒に『すご〜く心配』って言う気持ちが
あたしの中に流れ込んで来た。
「ごめんね…メールいっぱい…返せなくて…
いつも困ったときにするみたいにきゅっとくちびるをまるめて
よしこは“うううん”って首をふる。そしてあたしの額に片手をのせた。
「熱下がった?」
「うん…よしこのが熱いんじゃん?」
手をほどいて今度はあたしがぎゅっとした。あんま力入んないけどさ。
うん、やっぱよしこのがあったかいよ。
額にあった手はおでこのちょっと上あたりの髪を優しくごにょごにょしてる。
きのう無理してママにシャンプーしてもらって良かったよ。
じゃなきゃこんな風に触ってもらえなかったもんね。
なんか安心する…その仕草…その眼差し…
なんか…眠たくなってきた……
- 654 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:06
-
落ちそうな意識をなんとかこらえてよしこを見ると…
「んじゃそろそろ帰るね」
そう言って浮かせた片手を額から頬にすべらせ顔を寄せてくる。
ふわっと柔らかい少し冷たいよしこの唇の感触……
自然と目を閉じて、そしたらもうあっという間に意識が遠のいて、
“おやすみ、ごっちん”
半分夢の中でその囁きが聞こえて、
やっぱよしこは王子様だって……思った…………
・・・・・・・・・・・・
- 655 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:06
-
吉澤は少しの間その寝顔を見つめていた。
寝息に合わせて揺れる睫毛、なにか言だしそうな唇、少し痩せた頬…
その頬にいたわるようにそっと触れて、
横に置いたカバンと上着を取り上げ立ち上がった。
ベットサイドのスタンドの明かりを一段階絞って、部屋を出てゆく前に
もう一度後藤の寝顔を確かめて静かにドアを閉めた。
家路についた吉澤はタクシーの中、
“元気なかったけど元気そうって変かな…”
そんな自分の感想に少し笑った。
大きなアクビが湧いてくる。
その夜ぐっすりと眠れたのは後藤だけではなかった。
- 656 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:08
-
そんな魔法が効きますように……
ともかく元気になってほしいです。
- 657 名前:_ 投稿日:2006/02/09(木) 17:08
-
『おやすみ、…………』
fin
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/10(金) 00:40
- ごとーさん。・゚・(ノД`)・゚・。
- 659 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:38
-
幸せなら手を握ろう
- 660 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:39
- いつになく緊張している彼女の手を優しく握る。
強く握り返した手は汗ばんでいるのにとても冷たい。
「大丈夫だから 美貴がついてる」
返事の代わりに握りかえされた手が少し痛い。
「そろそろ行くぞ!!」
- 661 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:40
- メンバーが近寄ってくる。
慌てて手を離す私たち。
そしていつもの定位置に。
彼女の横にはガキさんとしげさんの最強布陣。
顔をくしゃくしゃにして笑う姿が少し悔しい。
その笑顔は私のものだ。
「いきまっしょい!!」
- 662 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:41
- 今日はツアーの初日。
メンバーの気合いも違う。
汗っかきの私たちは2曲目で既に汗だく。
出番前あんなに緊張で震えていた彼女もさすがプロ。
相変わらずのテンションの高さでファンを魅了していく。
美貴はというと定番となったソロで今日一番の歓声をゲット。
そんな私を袖で見守る彼女。
彼女の視線は誰よりも美貴に緊張感を与えてくれる。
彼女が見てくれる限り美貴は失敗出来ない。いや絶対失敗しない。
- 663 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:44
- 「お疲れ 美貴ちゃん」
そう言って投げられたタオルの肌触りが気持ちいい。
ミネラルウォーターを一口含む。
服を着替えてメンバーの元に急ぐ。
彼女の横に開いたスペースが美貴のポジション。
そこに飛び込んで一瞬のアイコンタクト。
いつのまにかシンクロしたダンスが心地良い。
- 664 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:45
- 巻き起こる歓声。
やっぱりライブは最高だ。
- 665 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:45
- 控え室で汗を拭う美貴たちにアンコールの声。
「よし、ラスト行くよ〜」
よっちゃんのかけ声で一斉に飛び出すメンバーたち。
一瞬遅れた美貴の手を彼女が引っ張った。
- 666 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:46
- 「美貴ちゃん あっし今凄い幸せやよ」
「なんで?」
「手と手のしわが合って幸せ・・なんちって・・」
シーン・・・・・
・・・・
・・
- 667 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:46
-
「ちょっと待って」
「ん」
立ち止まる彼女の手を強く引っ張る。
目の前に彼女の顔。
「美貴ちゃん みんな待っとるで」
・・・・
「美貴、もっと幸せになれる方法しってるよ」
「ふえっ」
- 668 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:47
- チュッ
美貴の唇が一瞬彼女のそれに触れた。
目をまんまるにして固まる彼女。
そんなに固まらないでよ。
- 669 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:47
- 「も〜最初はあっしからするって決めてたのに!!」
凄くドキドキしているはずなのに強がりを言う彼女が可愛い。
「だってこのまま待ってたら、美貴おばあちゃんになっちゃう」
少し困った顔をする彼女。
「美貴ちゃんはおばあちゃんになっても可愛いよ」
そんなに顔を赤くして言わないでよ。
美貴まで照れちゃう。
- 670 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:48
- 今日のところは合格かな?
これから2人の関係がどう進むか分からないけど
今の気持ちはきっと永遠。
・・・・・
いつの間にか舞台の袖に上っていた彼女は
美貴にウインクをしてこういった。
- 671 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:48
-
「美貴ちゃん はよしねま!!」
- 672 名前:幸せなら手を握ろう 投稿日:2006/02/16(木) 21:49
- fin
- 673 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/17(金) 02:01
- 可愛くて良かったよ
- 674 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:18
-
―――…たったひとつの、プレゼント。
- 675 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:18
- 「これ、なに?」
「んん?」
背中から聞こえた声に、体ごと向きを変える。
後ろにあるうっすらと曇った鏡には、首を傾げた彼女が映っているだろう。
訊いたくせに、答えを待つこともなく、探るようにじっとその手元を見つめている姿が。
「――…バースディ、…スーツ?」
「んー…ふふぁひふほはんにもぁ……っ」
「あーもう、うがいしてからしゃべるー」
間一髪、歯磨き粉は口から溢れずに済んだけれど、彼女の口からは諭すような声が漏れる。
怒られてるんだか笑われてるんだか、時々分からなくなる、いつもの声。
うがいをして、あぶなかったぁって言ったら、どうしてだかまた少し、笑われた。
「そんなに急がないのに」
「もぉ終わるとこだったからいいよぉ」
「そ?」
「うん。――これ?」
彼女の手から小さなボトルを受け取ると、頷いた彼女の手が体の横にすっと伸びてきて。
すんなりと、洗面台に置いた櫛に辿り着いた。
「初めて見るなぁって思って」
「…この間ね、スタイリストさんにもらったんですよ」
当然のように、何でもないことのように、知ってる。この部屋のこと。
自分では気付いて、ないんだろうけれど。
- 676 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:19
-
「そうなの?」
「柴田くん、いなかったんだっけ」
「うん。――もうすぐ3月だから?」
「…3月?」
「バースディ、…って。ちがうの?」
きょとん、と、大きな瞳が見上げてきて、思わず口許が緩む。
他に何があるの、そう言いたげな。正直な瞳。
「よくあるでしょ、誕生花とか誕生石とか。それでプレゼント、じゃないの?」
「あー…そう思うよにぇ。けど、違うんだって。たまたまね、乾燥対策何かないかなぁって、話してただけ」
「ふぅん? …村っち、それ合う?」
コトン、小さく音を立てて、元の場所に帰った櫛。
微かに揺れたまだ少し湿ってる髪から、シャンプーがふわりと香った。いつもとは違う、この部屋の。
「…試してみぅ?」
「うん。いい?」
「うん。あー、そだ。化粧水じゃなくて、ボディオイルだけど」
「へ? あ、そうなんだ」
手渡した手のひらサイズのボトルの中で、水面が小さく揺れる。
微かに触れた手は、お風呂の余韻に浸って、まだ少し暖かくて。
その余熱が。触れた手に、籠もった。
- 677 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:19
-
「――…バースディスーツって、英語なんですよ。柴田くん、知ぁない?」
「うん、わかんない。初めて聞いた」
うっすらと眉間に皺を刻ませる彼女の、ゆるりと流れる髪の間から、ほんのり薄紅に染まった耳が覗く。
普段はピアスで綺麗に飾られている耳朶が、今はただその輪郭を、くっきりと現すだけ。
「何か意味、あるの?」
「んー…――生まれながらにしてまとっているもの、とか、ありのままの姿、のこと、らしいですよ」
「…生まれながら?」
「そぉ」
「それ…って、」
手の中で転がしていたボトルに一度視線を落としてから、僅かに顎を上げた彼女の瞳と、目が合う。
ん? 声には出さずに訊くと、予想通りに、小さく視線を外された。
「カラダとか素肌とかが、ね」
「…スーツ、なんだ」
「そぉなんだって」
「それで、なんだ。これ」
「ね」
ふぅん、と再び視線は手の中に落ちる。伏せがちに見える長い睫毛が、頬に影を差した。
夏に日焼けして、綺麗な褐色だった肌の色は、今ではもうすっかり落ち着いて。
彼女の、素肌。滑らかで、艶やかな。曲線の。
―――生まれながらにして、まとうもの。
- 678 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:20
-
「―――…あー……間違ってない、…かなぁ?」
「誰に何訊いてるの、村っち」
思うのと同時に零れた言葉。笑いながら聞きとがめられて、一瞬、返答に迷ったけれど。
彼女が、ごまかしたところできっと納得してくれないのを、知ってるから。
答えを待つ彼女の真っ直ぐ見つめてくる瞳を、ゆっくりと見返した。
「あのにぇ」
「うん」
「…プレゼント、って」
大きな瞳が、瞬きに揺れる。薄く開いたままの唇が、何か言いたげに、見えた。
「…えー…、と?」
交わる道を外したのか、そんなつもりはないのか、手許へとゆっくり落ちた視線。
ラベルの文字を辿って、そうしてすぐ、またその視線が自分を捉える。
「それって、さ」
「はい?」
「…やっぱいいや」
「やだなぁ、あゆみちゃんたら。全部言わせたいんですか」
「や、いいってば」
頬がほんのりと紅いのはたぶん、気のせいでも、お風呂のせいでもないんだろう。
少し強くなった口調と、あっさりと解放してくれた視線は。
彼女の意図とは裏腹に、その証拠にしかならない。
「いいのかぁ…」
「なんか文句ある?」
「…ないですよぉ?」
拗ねた振りをしながら、それでも口許が綻んでるのが、自分でも解った。
答えに満足げに頷いた彼女の頬は、まだほんの少し赤くて。
持て余したように揺らぐ、手の中の小さなボトル。
- 679 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:20
-
「…つけてみないの?」
「あー、ね」
「お風呂上り、結構いいですよ? お肌つやつや」
「んー…遠慮しとこう、かな」
「えー?」
「だーから何で村っちがそういう…」
「だってー…――…あゆみちゃん?」
「それ以上言ったら怒るからね?」
言葉を遮って、解けたままの口許を塞いだ手のひら。唇に触れそうな素肌の、温度に。
「…はぁーい」
不意に振れた衝動は、きっと続きを言うより怒られるから、触れる代わりに零した苦笑でごまかした。
「村っちがつければいいじゃん」
「あらあら、やだなぁ柴田くんたら」
「…っ、そうじゃなくてー!」
「照れなくてもいいじゃないですか」
「ちーがう、ってば。村っちお風呂まだだし、それに」
それに、の後は特にないらしい。言葉に詰まった彼女の頬は、触れたらきっと、ひどく熱い。
それに? 訊き返すのを止めておいたのは、思わず緩んだ頬がやっぱり同じように少し、熱くて。
櫛を通したばかりの髪を軽く撫ぜて。
お風呂入ってきますね。そう振った手に、彼女が困ったように、けれどどこか照れ臭そうに、
そんな風に笑ってくれるのを知っていたから。
――――例えばそう、こんなこと。
こんな風に、君を知っていること。
- 680 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:21
-
「―――…柴田くん?」
暖色の淡い光に影を落とすシーツの皺に、すっかり乾いた髪がさらりと流れる。
力なく投げ出された手元には、もうすっかり使い込まれた台本。
小さく洩れた吐息のような声と、僅かに震える降りた瞼。
それはとても無防備に、狭いシングルベッドの上で、壁際にちゃんと一人分の場所を空けて横たわっていて。
細い肩が緩やかに描く曲線に、息をつくように、そっと笑みが洩れた。
「……むらっち…?」
「うん。明日早いし、もぉ寝ましょうか」
「…んー…」
いつもと逆だなぁ、なんて思いながら台本をサイドテーブルに置いて、ベッドの中に潜り込んだ
彼女の隣へと、同じように体を滑り込ませる。
「…なんか、いつもとちがーう…」
「んん?」
「…むらっちがちゃんと起きてるー…」
もう寝ますよ。
寝言にも聞こえる何故だか不服そうな声に答える自分の声はきっと、いつもと変わらなくて。
違ったとしても、口許から零れた笑みに彩られただけ。
「…ん」
「柴田くん」
いつもはたいてい、自分の方が先に眠ってしまう、って。
―――二人して同じように思ってる「いつも」があること。彼女は、気付いてるかな。
- 681 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:21
-
「落ちちゃうからこっち―――」
壁の方へ、自分のいる方へと引き寄せようと伸ばしかけた、手を止める。
狭いベッドの上で。枕に埋まる、身じろぎした彼女の頬と、すらりと伸びた手首。
不意に落ちた、香り。
「…あゆみちゃん?」
「……んー…」
大人しくベッドの真ん中へと体を移動させたのは、殆ど無意識なのか。答える声は、夢の中。
心地良さそうな寝息に微かに混じる、ハーブの香り。
自分が普段使っているボディクリームとは、違うもの。
そっと伸ばした手で触れた腕は、オイルをスプレーした後のツヤを身に纏って。
しっとりと、吸い付くように手のひらに触れた。
彼女の、素肌。
―――…生まれながらにまとって、いるもの。
枕に広がる柔らかな髪と、寝息を零す唇の薄紅と。
今は少し掠れた、笑うと途端に高くなる、アルトの響く声。
深い黒の瞳、長く伸びた睫毛。伏せられた瞼の、ライン。
しなやかに伸びる背中と、はっきりと輪郭を持つ骨格。
触れたその輪郭をもっと知りたくて、取った手にそっと口づける。
さすがに気付いたのか、ぼんやりと目を開けた彼女が視線を上げた。
- 682 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:22
-
「……村っち?」
――…つけたの? って。
そう訊いたら、どんな答えが返ってくるだろう。
素直に頷いてくれるかな。それとも、つけてないって言い張るかな。
照れ臭そうに。それを隠したくて、不貞腐れたみたいに。
「ん?」
―――…プレゼント。
「…どしたの」
そう思ったのは、嘘じゃなくて。揶揄うためでもなくって。
生まれたままの。ありのままの、姿。
あたたかな素肌とか。やわらかな体温の輪郭とか。
それだけじゃ、ないから。
素直なところとか、強気な瞳とか。
真っ直ぐな視線。照れ隠しに強くなる口調。ちょっとした意地悪でさえ。
彼女がそういたいと思うまま。彼女らしい、まま。
そんなありのままを、見せていてくれてるかな。――見せられる自分に、なれてるかな。
「…いい匂いだなぁって、思っただけですよ」
見せて欲しい、って。
幸せな時間も、ケンカしたときでも。泣きたいときでも。
意地っ張りで、どうしようもないトコだって。
―――ありのままの姿を欲しがる人は、君しかいないから。
- 683 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:23
-
「…あゆみちゃんだなぁ、って」
二人、おんなじ時間を、過ごして。
君が私のことを知っていて、私が君のことを知っていることは。
―――君が生まれて、ここにいてくれることは。
私にとっては確かにプレゼントだなぁ、って。
そんなことを、思ったんだ。
「……なにそれ」
眠たそうな静かな声で、言葉とは裏腹に、彼女が笑う。
―――たったひとつ。たった、ひとり。
その日だけ、その瞬間だけに与えられた、トクベツな贈り物。
…ありがとぉ、って、肌に埋めたら。
もう一度。なにそれ、って。
彼女が微かに笑った。
- 684 名前:バースディプレゼント 投稿日:2006/03/03(金) 21:24
-
END.
- 685 名前:亀梨・・・最高!!《亀篇》 投稿日:2006/03/05(日) 17:13
- 先輩の事・・・ずっとあこがれてました
・・・
あなたがいたから、私は今ここにいるのです
ネガティブを克服して
ポジティブに生きる先輩を目標に・・・
今、私はあなたをめざします
秘めた強い意志 情熱がある
私にもある
そう思ってるけど・・・やはり負けてるかな
そんなことはない!
自分に暗示をかける
あこがれの先輩と幸薄い姉妹のコントをやれた時
こんなキャラは嫌だったけど、
先輩と一緒だと、なんだか嬉しくなりました
- 686 名前:亀梨・・・最高!!《亀篇》 投稿日:2006/03/05(日) 17:14
- あなたが卒業して、離れ離れに・・・
ちょっとおおげさかな?
顔を合せる機会が少なくなりました
でもあなたを想う気持ち
今でも変わりません!
いえ、ますます強く繋がってる
そう思います
石川さん・・・いえ梨華ちゃんと呼びます
もっと親しくなるために
そして美しくて 勇ましい
梨華ちゃんの心を伝えるにふさわしい私になったら・・・
美勇伝に入れてくださいね
あなたの愛しいエリリンより
- 687 名前:亀梨・・・最高!!《梨篇》 投稿日:2006/03/05(日) 17:16
- あの子が入ってきた時のことは、忘れない
何だか自分の分身を見ているよう・・・
・・・て、ちょっと言い過ぎね
彼女は芯からの癒しキャラ・・・
私はどこかぶりっ子な感じで、本当は違ってる
・・・・・
メンバーがそんなこと言ってた
それでキショイのかな?
そんな事はない!!
自分に強く言い聞かせる
- 688 名前:亀梨・・・最高!!《梨篇》 投稿日:2006/03/05(日) 17:17
- 私が卒業して・・・
ピンクを引き継ぐと言い出したコンコン・・・
「紺色」そんなに嫌いなのかしら?
でもピンクは似合わないわよ
サユとコハもピンクの正統な継承者だと主張しているけど・・・
でも・・・私は絵里に・・・亀ちゃんに引き継いで欲しい
自信を持ってよ!
あなたはきっとハロプロの輝ける星になれる!!
私の亀ちゃんに
愛をこめて
- 689 名前:亀梨・・・最高!! 投稿日:2006/03/05(日) 17:18
-
END
- 690 名前:好きなんだよ、まだ。 投稿日:2006/03/23(木) 17:47
- 一ヶ月が経って、時間はただただ平然に流れて
あーしは幸せらしい
「愛ちゃん?コンビニ行くけど何欲しい?」
少しぼぉっとコタツに入っていると、美貴ちゃんが話しかけてきた
此処は、美貴ちゃんの家
2つ年下のガキんちょの家ではない
「ん、、お茶」
「りょーかい」
決して、一緒に行こう?なんていう恋人らしい言葉は出てきてはくれなかった
コタツに入って、机に体を預ける
バタンという音と共に美貴ちゃんの気配は消えた
さっきからずっと鳴り止まないMDコンポは美貴ちゃんの好みに沿った洋楽、はたまた日本のバラードなどが流れてくる
たまに知っている曲があると口ずさむけど、それも途中で飽きてしまう。
- 691 名前:好きなんだよ、まだ。 投稿日:2006/03/23(木) 17:48
- どうしてだろう、幸せなのに
どうしてだろう、大好きなのに
何かが違って何かが合ってて
その答えを見出すのは、あーしが中臣鎌足になるくらい難しいだろう
美貴ちゃんと付き合い始めて一ヶ月
ガキんちょと話さなくなって一ヶ月
高校の先輩で卒業生の美貴ちゃんに告白される1ヶ月前
その日の前日まで、あーしは、ガキんちょの家に住んでいた
同棲?よく解んない。
高校を卒業して、何となく家を出たかった、だから出た。
でも、行く当てはなくて。
そんな時に、幼馴染のガキさんが
「一緒に住もーよ!愛ちゃん」
なんて言い出したから一緒に住んだ。
その一ヶ月後に美貴ちゃんに告白された。
美貴ちゃんの事は、好きだった。だからOKした・・・
- 692 名前:好きなんだよ、まだ。 投稿日:2006/03/23(木) 17:48
-
チガウダロ
ウルサイ
チガウダロ
「うるさいっ!!」
いつの間にか叫んでた
違うのなんて分かってるよ。
好きの種類が違うのなんて知ってるよ
美貴ちゃんに対しての好きとガキさんに対しての好きが違うのなんて・・・・知ってるよ
- 693 名前:好きなんだよ、まだ。 投稿日:2006/03/23(木) 17:50
-
『ガキさぁ〜ん♪絵里の事好き?』
『何?いきなり、好きに決まってるじゃん』
冗談みたいな言葉だったけど、とてもその雰囲気からは冗談だなんて思えなくて
その日は雨が昼頃から降り出した。
―――あ、ガキさん傘持って行ってないじゃん。
たまには、ガキさん孝行でもしようと思って、高校まで傘を届けた
そしたら校門のところで鉢合わせ、おまけに向こうは相合傘
なんだろな、ガラスってさ、落ちたら割れるじゃん。そんな感じ
一気に砕けた思い出
一気に砕けた心
なのに冷静な頭
―――ぁ、ガキさんってあの子の事が好きなんだ。
家に帰って、荷造り。
後から帰ってきたガキんちょの言葉は、、
「何してんの?」
- 694 名前:好きなんだよ、まだ。 投稿日:2006/03/23(木) 17:51
- 「荷造り」
「引越し?」
「そう」
―――、、、やだよ。何で?
「恋人のとこに引っ越すから」
嘘、デタラメ、言い訳、逃亡
居ないよ、恋人なんて、、、ねぇ、もう1回引き止めてよ、ガキさん・・・里沙ちゃん、、
「わかった」
大好きだよ、、大好きだから、、引き止めて、、もう一回
「ばいばい」
あーしは家に帰った。
ガキさんがあーしの家に電話してたらしく、親には全く怒られなかった
フラフラ歩き彷徨った次の日
そんなあーしに声をかけた美貴ちゃんと、付き合うのには全く時間はかからなかった
- 695 名前:好きなんだよ、まだ。 投稿日:2006/03/23(木) 17:52
-
――――好きなんよ、まだ好きなんよ、何度何度、伝えても
珍しい、美貴ちゃんのMDの中にこんな曲が
―――ガキさんこのグループ好きだね?
―――大好きだよ〜この曲は特に
――――途切れてる、話途切れる、答えは、知ってんねん
涙が流れた
止めたくなかった
「好きだよ、、、まだ好きだよ、、、」
ぐしゃぐしゃに泣いた、何で今更?
自分の家に帰った時は流れなかったじゃん
何で、、今なの、、恋人の家で幼馴染思い出して泣くってどうよ?
「好きだったんだよ、言わなかったけど、、ガキさぁん・・・」
ほんとに好きだから、傍に居るのが当たり前だったから
お互いの家に行ったり
あーしの趣味に付き合せたり
当たり前だったんだよ、その当たり前の崩したのはガキさんじゃん
何であーしが泣かないといけないのさ、、
「ねぇ、、、答えてよ」
いつの間にか、服の袖はびしょびしょで、
帰ってる美貴ちゃんにも気付かないぐらい泣いていた
- 696 名前:好きなんだよ、まだ。 投稿日:2006/03/23(木) 17:53
-
「好きなんだよ、、、まだ、、大好きなんだよ」
END
- 697 名前:みちのいきもの 投稿日:2006/04/16(日) 01:10
- 「美貴ちゃ〜ん」
開いた雑紙の下からきこえてくるのは猫なで声。しかも春の夜の甘い
鳴き声をあげる期間の猫にそっくりだから、美貴の努めはこの野良猫
の繁殖を食い止めること。
「目上の人を名前のちゃん付けで呼ばない」
「私のことは、さゆって呼んでくださいね」
末っ子で愛されて育った美貴は、コミュニケーション能力高いと思う
のね。年齢で臆せずに誰にでも話しかけられるから。
だからずっと日本語を操る人間なら美貴はいけると信じ切っていたの
だけど・・。レアケースを引き当ててしまったのを悔いている。
「呼びません。道重さんはどうしてここにいるのかな?」
「藤本さん、カワイイ」
噛み合わない会話。名字になったのは嬉しいけれど真面目に向き合う
べき相手ではない。さっき脇によけられた雑紙を元に戻して、情報に
集中。
「カワイイ」
スプリングトレンチか。今買ってもな、すぐ暑くなるからな。でもこ
の白いの可愛いな。
- 698 名前:みちのいきもの 投稿日:2006/04/16(日) 01:11
- 「カワイイ」
ほんと、これ可愛いね。バイト代は半月後だからなー。
「さゆもカワイイですよね」
「聞いてない」
「もお!そんなの見ているとさゆのカワイイ顔が見えませんよ」
「見たくないから、別に」
だいたい自分のこと可愛いとか普通言えないでしょ?つうか言っちゃ
ダメでしょ。
「大丈夫です。藤本さんもカワイイですっ」
「ああぁぁ!!うるさい!」
美貴は雑紙を投げ捨てて見下ろしながら睨み付ける。道重さゆみはホ
ッペに手をあて、てへって微笑んだ。美貴はそんな仕草にドキッとき
たりしない。だいたい角度的に顎の下くらいしか見えていないでしょ
?カワイイカワイイって。
「カワイイ、のど動いた」
「うるさい!」
- 699 名前:みちのいきもの 投稿日:2006/04/16(日) 01:11
- 始めから危険だと察知していた。
忌々しい生き物、道重さゆみ。色々情報は聞かされているけれど、覚
えたくない。たしか高校生。美貴より背が高いのに見詰めてくるとき
は上目遣い。頬を赤く染める見た目は、可愛いには可愛い。でも、そ
んなの美貴に関係ないから。
始めに美貴の前に出現したのは、バイト先の休憩室。美貴はフリータ
ーで、ファミレスで働いている。長いからフロアも厨房もはいるし、
バイトなのに新人に付かされたりする立場。長時間勤務だから混雑の
時間帯になる前に30分休憩がもらえる。その日もいつものように缶
コーヒーを手に休憩室へ。
「藤本、悪い。新採用の子紹介しとく」
マネージャーが連れてきたのが、その新人が道重さゆみだった。
休憩が明けてからでいいと二人っきり。せっかくの休憩が。業務外に
愛想良くする必要もないし二つ並んだベンチに離れて座っていた。
「すみません、休憩中に」
「気にしないで」
一人だったらベンチで寝転がれるのに。ぼんやりクリーム色の壁を眺
めていた。
「あの、藤本さん」
その視界の中に上目遣いが割って入った。突然の事に返事もできず深
呼吸二回分たっぷり見つめ合った後。道重さゆみが放ったのは素っ頓
狂な科白。
- 700 名前:みちのいきもの 投稿日:2006/04/16(日) 01:12
- 「お久しぶりです」
はぁ?。美貴の記憶が混乱する。だって、まるっきり初対面でしょ?
全然覚えないし。忘れてる?でも美貴年下と関わり殆どないし。
「え?久しぶり?」
「はいっっっ!」
まばゆい笑顔で頷く。ちょっと傾げている首、一番可愛い角度とか計
算してそう。
「人違いとじゃないかな。」
「そんなことありません。覚えてませんか?昔斜向かいに住んでた」
全ての記憶に呼びかける。
「やっぱり違うよ。美貴の実家前に道路しかなかったし」
「あー違いました。ほら幼稚園で」
「いや、美貴は保育園だった」
怖い。世の中には自分に似た人が3人いるって話を思い出す。そんな
に似てるのかな。その割に首を捻りながらころころすり替わる道重さ
ゆみの思い出話。
「休憩時間終わるから行こうか」
「あ、はい」
要領を得ないままその話は打ち切りになった。
結局美貴の記憶に間違いがなかったのは後に判明する。道重さゆみと
はその日が正真正銘の初対面だった。全く関わり合いのない赤の他人
がそんなことを口にした理由こそ、一番怖いところだった。
『だってぇ〜離れ離れの二人が劇的に再会したみたいな運命の出会い
を演出したかったんですぅ』
つまり道重さゆみは、アブナイ人だった。
- 701 名前:みちのいきもの 投稿日:2006/04/16(日) 01:12
- キャーキャーわめきながら喉に伸びてくる手を払い落とす。
「藤本さんカワイイ」
もう好きにしなさい。もうすでにかなり好き勝手されているし。胡座
の美貴の膝の上には、無断で膝枕を楽しんでいる道重さゆみ。意味が
分からない。
美貴の平和な日常生活は崩壊した。もうあの穏やかな毎日は戻ってこ
ないの?
「道重さん家どこなの?」
「来たいんですか?来たいんですね」
「違う。毎日毎日なんでうちにいるの?」
「愛の力です」
頭をかち割って、手を突っ込んで間違ってしまった回路を正しいとこ
ろにしっかり結び直してやろうか。
「聞こえました?愛の力」
「うるせえよ」
一番迷惑なのは、美貴のことが好きらしい。
好きっていうのは、つまりその、一般的に美貴に言っちゃ駄目でしょ
の方の好きで。
「道重さん、お酒のまないよね?」
「さゆを酔わせてどうする気ですかぁ?」
どうもしたくないから、期待をこめた声出さないで。
- 702 名前:みちのいきもの 投稿日:2006/04/16(日) 01:13
- 「酔ったときは絶対来ないでね」
「ほろ酔いで色っぽくなった愛しのさゆが見たいですか?」
「誰が愛しいだ。とにかく来るな」
「一日一回は会わないと藤本さんが寂しがります」
「がんない」
「来るもん」
「来るな、襲われそうでイヤ」
「大丈夫ですよ、さゆ理性的ですから」
初耳なんだけど。会ったその日から性別に臆することなく好きだ好き
だと言えちゃう理性的な人。バレバレの尾行のすえ、勝手に部屋にあ
がりこんで毎日毎日人の膝の上でゴロゴロしている理性的な人。美貴
の部屋に辞書があったら正しい意味を教えてあげるのに。
毎日、一進一退が続く。ちがうちがう。美貴にその気はないから別に
進退はない。美貴は道重さゆみにそんな感情の欠片もない。
「そろそろ帰ってくれない?」
「ず〜っと一緒にいたいくせに」
「ありえないから。よっちゃんさん来るから帰ってよ」
いたい子の相手をしてる時間はないの。バイト仲間のよっちゃんさん
は美貴が付きまとわれているのを楽しんでいるから膝枕なんて場面を
見られたら、またからかわれるに決まっている。
「浮気は許しませんよ」
「よっちゃんさん女だし」
「判りました」
- 703 名前:みちのいきもの 投稿日:2006/04/16(日) 01:13
- 突然起きあがる道重さゆみ。美貴の足は痺れてじんじんしだす。にっ
こり微笑んだ道重さゆみは、美貴の頭まで痺れさせる科白を用意して
いた。
「判りました。さゆの敵は藤本さんの固定観念だったんですね」
「ごめん意味判らない」
「女の子と女の子がお付き合いしたっていいのです」
「だめだめ」
「藤本さんはさゆとお付き合いしていいのです」
「よくないから」
「そうか、さゆ頑張らなきゃ」
耳をかせ。話を聞け。
「それをまずどうにかしないとだ」
「あのさ、それだけの問題じゃないでしょ」
「それだけですよ」
「そんなこと無いよ。問題山積みだと思うよ、道重さんの恋路」
「大丈夫です。藤本さんはさゆを憎からず想っていますから」
「おい、おまえ」
張り倒してもいい?年下の女の子に手を上げても許される?衝動を必
死で押さえる美貴の後でチャイムが鳴らされた。
「は〜い」
元気に玄関に走る道重さゆみを止められなかった。ドアが開いた瞬間
に爆笑するよっちゃんが簡単に想像できた。
あの未知の生き物を退治しなくては。美貴は平和な毎日が恋しい。
−了−
- 704 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/17(月) 17:05
- 終わりですか?面白いんで続き読みたいんですけどw
- 705 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/17(月) 22:05
- 確かに面白かった
受けなミキティいいね
- 706 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:47
-
浦島「豆」太郎の災難
「うぇ〜!?え?え?ちょ!?わっかんないんだけど!」
いつの間にか右手に握りしめている木の釣り竿。腰にぶら下がってる魚籠。
なんでなんでどうしてと、交互にあたふたと見る。
気がついたらガキさんはお日様が照る白い砂浜にひとりで立っていた。
なぜか昔話に出てくる着物姿の漁師の格好で。
「ウェーン。いたい、ぃたいよぉ〜」
(ン?)
ガキさんは聞き覚えのある声にハッとして振り向いた。
「口からガーって火吐けんと?!」
「絵里はただの亀なんだよ?そんなことできるわけないじゃん…グスン」
ひざ丈の紫色の着物を着たれいながひざを抱えてうずくまる絵里を流木
の枝で突いている。絵里は首から下が緑色のタイツ姿で甲羅を背負って
いて、どっからどう見ても亀だ。
ガキさんは放っておけぬと「うおおおお」とダッシュしてかけつけた。
- 707 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:48
-
「か〜め〜を助けにきましたナンチャッテ」
「がきさん!」
絵里はうれしそうにガキさんを見上げた。
ガキさんは年長らしく力のこもった声でれいなに言った。
「こーらぁー。そんなかわいそうなことしたらダメでしょーが」
「なん、れいな亀と遊んどーだけっちゃ」
「絵里遊んでないよぉ」
「ん。たなかっち、いい子だからはなしてあげな」
れいなは何度も遊んでるだけだと言い訳したけれども、菩薩の顔をし
たガキさんが一瞬裏ガキさんになってピャラピャーンっと睨むと、大人しく
なって「れ、れいないい子やけん」と絵里を放した。
自由になった絵里はデレっとした明るい笑顔を浮かべてクネクネと立
ち上がり、ガキさんの手をとってナント竜宮城に連れていきたいと言
いだした。
- 708 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:50
-
「ウヘヘ。たすけてくれてありがとう。絵里の甲羅に乗ってください!」
「うそぉ。マジで?ホントにぃ?竜宮城ってあの竜宮城!?」
「れいなも行きたい!」
「え〜?それじゃ浦島太郎じゃない…あーウソです。どうぞどうぞウヘ」
「たかなっち、ニラミ入りましたぁ〜」
「行っとけ!行っとけ!(れいななぜかカメラ目線でウインク)」
「ハァ〜強引だぁ〜(笑)」
「ていうか、れいな連れてかないと後悔しますよ」
「わかったわかった。じゃあたなかっちもおいで」
「ウヘヘ。ふたりとも絵里の甲羅に乗りましたか?」
「オッケー…って、重いけどカメ大丈夫!?ねぇ」
- 709 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:51
-
「全然へーキですよ〜。じゃあいきますよ!」
絵里はガキさんとれいなを背負って海へザブザブと入った。
「えっえっえっうそぉ!?ホントに海に入っちゃうの?アッアッアッアッ!
ヤバイヤバイヤバイヤバイ無理だってムリムリムリムリムリだから!」
どんどん海水が顔に迫ってくる。ガキさんは絵里にしがみつきつつ鼻を
つまんだ。顔に感じる冷たさとともにザブンと全身が浸かり、ふたつに
縛った三つ編みが海中を漂った。そして、とうとうこらえきれなくなっ
て空気を豪快にブクブクと吐いてしまい、うわぁ〜もうだめだ〜と思っ
たその時、蒼い海底に輝くお城が見えた。ピンク色の珊瑚が柵のように
取り囲んでいて、ワカメがユラユラと波に踊り、見たこともないような
カラフルな魚がたくさん泳いでいる。不思議なことに海中だというのに
息は全く苦しくなかった。
「見て!れいなたちの周りサカナが泳いどぉよ」
「うわぁ〜キレイだぁ〜!」
「エヘン。もうすぐ竜宮城ですよ?」
ガキさんは未知の体験に目を輝かせて興奮していた。とても現実とは思
えなかったけど、楽しくなってきたので「これ夢だよね?おっけーオッ
ケー」と、テキトーに判断した。そういえば、昨日の夜にババちゃんと
おせんべいをかじりながら家のテレビで「まんが日本むかし話」を観た
んだよね〜、と。
- 710 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:52
-
「2名様ごとうちゃく〜。まいどありぃ〜」
門から建物からそれはそれはキラキラなお城だった。
直感2逃した魚は大きいぞがBGMで流れているヘンテコなお屋敷だ。
タイやヒラメたちがすれ違う廊下を目を丸くして歩くガキさん。
思わず「シェー」ポーズをしてしまいそうなほど反応が良いガキさん。
ガキさんが目を離しているスキに、れいなは近くに生えていたピンク色の
珊瑚の枝を勝手にポキンと折って、鉄パイプのようにブンブン振り回した。
「たなかっち勝手にダメだって!何してんの!」
「ちょーコレれいなかっこ良くないですか?」
「かぁっこ良くないよぉ〜。やぁ〜不良みたいだよ〜。ウヘヘ」
れいなは気に入った珊瑚の枝で絵里の頭を軽くポカポカと叩いた。
ピロリンピロリンと気の抜けたような音がした。
絵里は「いた〜い」と言いつつ頭を両手で押さえて楽しそうに笑っている。
ガキさんがれいなを止めると絵里は頭をさすって「こっちですよ?」と
再び歩き出した。そしてガキさんはお城の一番上の部屋の通された。
- 711 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:53
-
「よう来たのぉ〜。You're welcome.」
「あっ愛ちゃん!?」
『さくら満開』の衣装だったピンクの着物を着て、長い髪を頭のてっぺん
でハート形に結った高橋愛が朱塗りの椅子に扇子を持って座っていた。
なんだかいつもより更に変に訛っている。
「ウェルカムじゃないでしょ。なんで愛ちゃんが乙姫様なの」
「しらねーよ。キャハ」
「キャハじゃないから。そんなの乙姫様じゃないから」
「じゃあ『あかねさす紫の花』にするやよ」
「・・・・」
ガキさんは何も聞かなかったことにしてプイと横を向いた。
「あっ、こんこんとまこちぃだぁ。うお〜い!」
人魚の姿のあさ美と麻琴が手をつないで楽しそうにお城の外を泳いでいる。
ガキさんは窓辺に駆け寄り、愛に見せつけるように一生懸命手を振った。
絵里とれいなもガキさんの隣で「おーいおーい」と手を振った。
- 712 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:54
-
「なぁ聞いとる?『あかねさす紫の花』にするやよ」
「だぁ〜もうッ。リピートしなくていいから!」
「がきさぁ〜ん。絵里たちなんかへんな衣装になってるぅ」
「なんこれ。なんかいきなし長い帽子かぶらされとー」
「ガキさんは額田王やよ」
「うんうん愛ちゃんがナカトミノなんたらで…って、コラー!
なんでもかんでも宝塚にしないでって言ってんでしょ!
これわたしの夢なんだからね!勝手に変えるなぁー!」
- 713 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:55
-
「んなもん知らんが」
「知らんがじゃなーいっ。だいったい愛ちゃんさぁ…」
「どっちが年上かわかりませんねぇ〜ウヘ」
「コレ浦島太郎やないん?竜宮城でごちそうとか歌ったりせんと?」
「そう!たなかっちいいこと言った!愛ちゃんそういうのやってよ!ねぇ!」
「え〜やらねーよ」
「いいじゃん。やってよぉ〜!」
「やってよぉ〜、やって。アヒャ。おまえ変だな」
「(ピキッ)いいからやって!ほら!早く!」
「ヤダ!」
「なんでいっつもそうなの!このガンコ者ぉ!」
「あかねさす紫の花はケッサクなんやよ中臣鎌足は何も文句いわずに中大兄皇子
のコドモを奥さんにしただよすごくない!?すごいやろ!?なぁ!」
「テッテケテッテケ何言ってるかワカランわー!!!」
「ちょなんかふたりともマジになっとらん…?」
「ケンカはダメ〜! ウヘヘ」
「カメはちょっと黙ってて!」
「ア〜ッ!後輩にそんなキツイこと言ったらカワイソーやろ!?」
「愛ちゃんだけには言われたくないから!
なんなら愛ちゃんがカメとやった二人ゴト今ここで見せようか!?」
- 714 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:57
-
ふたりとも全く引かない。
絵里とれいなはケンカを止めようと何やらゴソゴソと探してきた。
「た、隊長! 絵里いいもの見つけてきました!」
「ナニ!? あのね、隊長じゃないから」
「じゃーん。エリック亀造のブロマイド!(はーと)」
「いらないから! エリックはいらない」
「ひどーいひどいよ〜ウヘヘ」
「新垣さん、れいなもいいもん見つけてきました!」
「あん?たなかっちゴメン後にして」
「ココとココとココに貝着けて踊るっちゃ」
「やだぁ〜。れいなエロいよ〜ウヘ」
「コラー。そんなのどっから持ってきたの!」
ガキさんはれいなが差し出した大胆な衣装にケンカを忘れて赤面した。
- 715 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:58
-
「れいなコレ新垣さんに似合うと思う」
「なぁに言ってんの!んなワケないでしょ!んなワケない」
「アッヒャーーーーーッ」
「ちょ愛ちゃんナニ想像してんの!(怒)」
「ナニってガキさんの―――」
「わーっ!!! ゼェゼェ」
「まだなんも言っとらんがし」
「(ブチッ)もう愛ちゃんさぁ、何もやってくれないなら帰るわ」
「ヤダ」
「はぁ!? っていうか帰るから」
「帰さないやよ」
「いーや帰る。ぜぇ〜ったい帰る!」
愛は急にしょんぼりとしたしおらしい顔を見せたけれど、ガキさん
の気が変わりそうになかったので諦めたらしく、玉手箱らしき漆塗
りの重箱を渡してきた。
- 716 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 00:59
-
「ほしたらこれ持っていきねの」
「はー。やっと浦島太郎っぽいものが出てきた」
「れいな知っとう。これさぁあけたらジジイになるっちゃろ」
「たなかっち、アイドルがじじい言ちゃダメだって」
「そうだよ〜うちらアイドルなんだよ〜?ウヘ」
「おじいさんにはならんがし。
『愛』がつるつるいっぱい入ってるの(はーと)」
「あぁそう?…ホントにぃ〜?」
「嘘やったら針千本飲むが」
「わかったわかった。もらっとく。カメ、たなかっち、帰るよ」
「ほぉ、かしこまりぃ〜」
「うぃっす」
- 717 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 01:00
-
愛と別れ、ガキさんは再び絵里の甲羅に乗って海中を上昇し砂浜に戻った。
砂浜でガキさんと絵里とれいなはもらってきた玉手箱を取り囲んだ。
「何が中に入ってるんだろ〜?ウヘヘ」
「れいな焼き肉セットがいい。あけてみてもいいっスか?」
「わー!待った待った。ちょっと待ったぁ。だって愛ちゃんだよ!?
イヤ〜な予感するんだケド!」
「でもあけんやったらわからんやん?」
「ウヘなんだろー。あけてみませんかぁ?」
「うーん…。よしっ!あけるか!」
絵里とれいなに見守られてガキさんは玉手箱の蓋をそっと開けた…。
パカッ。
- 718 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 01:01
-
チッチッチッチ
「はぁ!?何コレ!?時限爆弾!?時限爆弾!?バクハツ?爆発すんの!?
うそうそうそうそうそぉー!?カメパス!なんとかして!」
「エッエッエッエッ絵里ムリだって!ムリだって!ヤバイヤバイれいなパス!」
「たなかっち!たなかっち!おねがい!たなかっち!」
「ちょーれいなわからんって!コワイってバカ!塾長パァス!おねがいしぁっす!」
「う、ぅうぇ〜!?」
チッチッチッチッチッチッチッチッ
「アッアッアッアッ!どうしよどうしよどうしようわかんないわかんない
わかんないってばぁ!!!!」
ピ。
ちゅどどどどどどどーーーーーーーーん!!!!
どかああああああああああああああああん!!!!!
うおーっ。
- 719 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 01:02
-
ワショーイ(∩´∀`)∩ ∩(´∀`∩) ワショーイ
- 720 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 01:03
-
「…ケホッ。ゴホッ」
「…れいなたち生きよーと?死んどらん?」
「…だいじょーぶみたいウヘヘ」
「あ。新垣さん倒れとぉ」
絵里たちはとっさに頭を抱えてうずくまって無事だったけども、
玉手箱を持っていたガキさんは仰向けに大の字で倒れて口から
真っ黒な煙をプハーッと吐いた。
「もぉ〜!愛ちゃんのバカぁ〜!!!」
- 721 名前:浦島「豆」太郎の災難 投稿日:2006/04/20(木) 01:07
-
「がーきさん!」
バスの後ろの席から絵里が顔をひょこと出した。
振り向いたのはガキさんの隣に座っていた愛だった。
「あれ〜? がきさん寝てますかぁ?」
「さっきからうなされとるんやって」
「えー!?眉間にすっごいシワ入ってるぅ〜」
「ガキさん起きねまぁ。デコピン。起きんわ。アシャシャ」
「がきさん起きてぇ〜もう東京着くよ〜」
絵里に後ろから両頬をペシペシされながらガキさんはまだ夢の中だった。
「うーん。うーん。愛ちゃんの…ばかぁ…」
ガキさんの耳には愛がイヤフォンの半分を突っ込んで聴かせていた
いつもの音楽が大音量で流れていた。
絶叫コマーシャルロケの帰りのバスの中の出来事だったとさ。
( ×e×)<なんでこうなるの〜
川*’ー’)<この愛を受け止めて欲しいんやよ
リd*^ー^)<みんななかよしですよ?(はーと)
从*` ロ´)<新垣さんおつかれいなです!
- 722 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:08
-
こみゅにけーしょん
始業の鐘が鳴るギリギリ5分前、絵里は息を切らせて下駄箱に飛び込み
ました。朝の光に茶色く透き通る短い髪も跳ねたまま、腫れた瞼を気に
する余裕もなく、焦りに焦って廊下を走っていると、不意に後ろから誰
かに声をかけられました。
「あなた亀井絵里さんでしょ? 図書の返却期限が遅れてるんだけど」
人が急いでいるのを全く意に介していない、マイペースな、でもほんの
少し圧のかかった責めるような声色。絵里が恐る恐る後ろを振り向くと、
大きな瞳がちょっと恐い司書の飯田さんが難しそうな本を右手に抱えて
立っていました。左手で髪をかきあげコロンの匂いを辺りに振り撒き、
絵里の返事を待っています。絵里は急に、しかも名指しで引き止められ
たのでドギマギしてしまい、視線をオドオドとキョドらせて「すいませ
ん!」と頭を下げました。けれども、延滞している本がどの本だったの
か、久しく整頓されてない部屋のどこに置いたのか、寝坊で動揺してい
たのもあって、全く思い出せません。2ヶ月も前の読書週間に強制的に
借りさせられていたことをなんとか思い出した時には、始業のチャイム
が鳴ってしまっていました。
- 723 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:09
-
「あのっ、途中まで……読んで……わすれてましたぁ……」
「そう、早く返してね。あと、あなたのクラスの図書委員の藤本さん
に当番サボらないようにって伝えて」
「えっ、藤本さんにですかぁ?」
「一度も当番に出て来ないの。お願いね」
「ハ、ハイ。」
藤本美貴といえば乱暴な言葉遣いのクラスメイトで、絵里は隣の席と
いうこともあってか何かと因縁を付けられていました。絵里はひきつ
りながら美貴の顔を思い浮かべ、心の中で(絵里無理ですって!)と
叫びました。
朝から難しい頼まれ事をされて憂鬱な気持ちで教室に入ると、すでに
朝のホームルームを始めていた担任の石川先生に遅刻を注意されてし
まいました。絵里は伏し目がちに肩をしょんぼりと沈ませて自分の席
に着きました。案の定、隣の席の美貴から「おはよう」のかわりに
「バカじゃないの」という言葉が飛んできました。朝からキツイ一言
です。周りの女の子達は絵里を気の毒そうな目で見ましたが、美貴が
恐いので誰も何も言えないのでした。
- 724 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:11
-
絵里が言づてを伝えられるような雰囲気になるわけもなく、英語担当
のセイン先生が教室に入ってきて、1時間目が始まってしまいました。
今日はこの間実施された中間テストのテスト返しでした。絵里は解答
用紙を受け取って足下の地面が抜けそうなほど真っ青になりました。
何をどう勘違いしたのか、途中から見事に回答欄がずれていたのです。
ずれてさえいなければ点数は良かったはずなのに、追試決定でした。
セイン先生は解答の説明をする時に、手を挙げられずに小さくなって
いる絵里を当てて「Refrigerator(冷蔵庫)」という単語の発音をさ
せました。絵里はテストの点にショックを受けている上に当てないで
ほしいとひたすら念じていたので動転してしまい、何度やっても上手
く発音できません。
「リフリ・ジーレーター」
「No.Refrigerator.Repeat after me.」
「あれ?りふりじゅ?れいたー」
教室のあちこちからクスクスと笑い声が聞こえます。隣の美貴は白け
た顔をして知らん顔。絵里が焦れば焦るほど、正解からは遠くなり、
しまいには先生までが吹き出してしまいました。「あれ?」「あれ?」
と、上ずった笑顔でごまかした絵里でしたが、心の中では傷付いて
(だから当てないでってお祈りしたのに…)と愚痴るのでした。
- 725 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:12
-
授業が終わると、教卓の前の席から仲良しのさゆみが絵里のもとに
やってきました。
「エリおはよ。どうしたの?寝坊しちゃったの?」
「ん〜。起きたら目覚まし時計が7時半だったの!マジヤバかったぁ〜」
「ねぇここ。跳ねてる」
さゆみは制服のジャケットの内ポケットからピンク色の特大手鏡を出す
と絵里に渡して、後頭部のくるんと跳ねた短い髪を撫でました。絵里は
初めてホッとして、自分の鞄からブラシを取り出して髪を梳きました。
「もうさゆ聞いてよ。絵里教室くる前にね、司書の人につかまっちゃて」
「あのさ、エリ。今のテストさぁ何点だった?」
さゆみがこういう事を聞いてくる時は、大抵自分の点数が良い時なのです。
「もう最悪。追試だよぉ〜」
絵里は苦笑いで答えるしかありませんでした。
さゆみは「あーあ」という微妙な顔をしましたが、すぐに優しく「落ち
込んじゃ駄目なの」と慰めを言いました。絵里はテスト前の必死な勉強
が無意味になってしまったことにガッカリして俯くと「はぁ〜」と溜め
息をつきました。
「エリ、また100点? すごいの」
「亀ちゃん頭良いね〜」
「うへへへっ」
現実逃避の空想の中で、絵里は優等生でした。
みんなが絵里のことをスゴイと褒めてくれます。
- 726 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:13
-
「おめーよー、ニヤニヤしてキモイっつってんだろ」
絵里に冷たい言葉を浴びせて空想から現実に引き戻したのは、隣の席の
美貴でした。着崩した制服のジャケットのポケットに手を突っ込み、椅
子の背もたれにダルそうにもたれ、こっちを睨んでいます。絵里はほん
の一瞬だけ目の端でそれを確認すると頬を引き攣らせ、前を向いて俯い
てしまいました。
(うーん、うーん。絵里考えてるだけなのに、それだけなのに、
なんでこんなに恐いこと言うんだろう)
絵里は今すぐ教室の隅の掃除道具入れの中に閉じこもってしまいたい
気持ちになりました。美貴は学年でも恐れられている不良で、指導に
一生懸命な担任の石川先生にもことごとく反抗的な態度を取っては困
らせるという有り様でした。なので、絵里はなるべく美貴には関わり
たくないと思っていましたが、美貴には絵里の行動ひとつひとつが癇
に障るらしく、いつも隣の席から突っ込まれているのでした。
- 727 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:14
-
絵里は始業前に司書の飯田さんから言われたことを思い出しました。
(そうだ、藤本さんに伝えておいてって言われてたんだ。
……でも絵里ゼッタイ言えないよぉ)
美貴は鼻の調子が悪いらしくティッシュで鼻をかんでいます。
絵里はチラッと見てはうつむいて(無理っ)と呟きました。でも頭の
もう一方に大人オーラをバリバリ発している飯田さんの顔が思い浮か
びました。(怒ったらコワイかも…)と思い、鬼のような顔になる飯
田さんを想像すると、知らんぷりをして逃げることもできません。
絵里は伝言だけ伝えればいいんだ、とありったけの勇気を振り絞って
美貴に話しかけました。目を合わせることはできませんでしたが、
できる限りの低姿勢で、小さい声を震わせながら話しました。
「えっと、司書の、あの、図書当番が飯田さんでぇ…あれ?」
「ハァ?」
美貴は鼻をかんだティッシュを手でクシャッと丸めると、とても不機
嫌そうに絵里を睨んで聞き返しました。隣にいたさゆみが事情を察し
て場を和ますべくホンワカとした調子で「図書当番の話?」と助け舟
を出してくれましたが、目が泳いでしまっている絵里はその舟に乗る
どころではありません。
(やばいよ絵里、真剣に気まずい…っ)
絵里はズキンズキンと早くなっていく鼓動にますます焦りました。
「司書の飯田さんが図書当番をさぼらないようにって言ってました」と、
落ちついて話せばちゃんとに言えることだったのに、あがっていたので
上手く言えませんでした。あまりの緊張にわけがわからなくなって
「うへへ」と笑ってしまう絵里を、美貴は三白眼で睨み返しました。
- 728 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:16
-
「なに喋ってんのかわかんねーんだよ。今の授業のノート見せろよ」
「えっノート?あれ?ノートどこいったんだろう?今ここにあったのに」
「ちゃんと探すの」
「もういーよ。シゲさんに見せてもらうから」
「使えねぇ」と美貴が吐き捨てると、絵里は首を亀のように竦めました。
美貴は絵里のそばに立っていたさゆみに向かってまるで人が変わったよう
に笑みを浮かべながら「シ〜ゲさん、ノート見せて」と弾むような優しい
声で言いました。さゆみはちゃっかりした天然ぶりながら意外としっかり
していて且つ甘え上手なので、美貴からもシゲさんと呼ばれて親しまれて
いました。絵里は固まった暗い顔になりさらに落ち込みました。さゆみは
「英語のノート?」と聞き返すと、一番前の自分の席にノートを取りに行
き、うさちゃん縛りの長い黒髪を揺らして嬉しそうにノートを抱えてきま
した。
「はい美貴ちゃん」
「気まずい…」
美貴は絵里にはオホーツクの流氷のような冷たさの低い声で「何ブツブツ
言ってんだよ」と言い、ノートを差し出したさゆみには「ありがとーシゲ
さん」と笑顔でお礼を言いました。
- 729 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:17
-
美貴の態度がなぜさゆみへのそれと自分へのそれでこんなにも違うのか、
絵里にはわかりませんでした。さゆみは深刻な顔の絵里の目の前に、手を
かざしてひらひらと振り、それでも反応0の絵里に首を傾げてから、絵里
が座っている椅子にお尻を落として、半分を占拠しました。
「エリ、今日日直じゃない?」
「あ、忘れてた!」
さゆみに言われて、絵里は思い出しました。学級日誌を書いて提出しなけ
ればなりません。一日の授業が終わり、ホームルームが終わってみんなが
帰り支度を始めると、絵里は学級日誌を出してさゆみに声をかけました。
「さゆ、お願い。これ書き終わったら一緒に職員室行って!」
「ごめん、エリ。ついて行ってあげたいけどさゆみ漫画研究部の部長でしょ?
これから新しく入った後輩の子のお世話をしなくちゃいけないの。
職員室、ひとりで行けるよね?」
職員室は恐い先生がいっぱいるところ、いつもどこへいくにも絵里はさゆみ
と一緒でした。でもそう言われては絵里もしつこくついて来て欲しいとは言
えません。さゆみは両手を合わせてウインクし可愛らしく「ごめん」と言う
と、教室を出ていってしまいました。
- 730 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:17
-
絵里は日誌を一生懸命書き上げてトボトボと職員室に向かいました。
ふと顔を上げて横を見ると、下駄箱のところで靴を履いている美貴がいて、
こっちに気が付きそうだったので、絵里は思わず足を速めました。
- 731 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:19
-
恐る恐る職員室の石川先生の机の上に日誌を置いて、急ぎ足で戻ろうと
したら英語担当のセイン先生と鉢合わせして、追試が絵里ひとりだった
ことを聞かされました。伏し目がちにアヒルのように口を尖らせて(絵
里本当にツイてない)と呟きながら肩を落として教室に戻ると、今度は
女子数人が固まっておしゃべりをしていました。誰かが持ってきた中学
校の卒業アルバムを、みんなで見ているようです。
「ちょ、コレ見て。後ろの亀ちゃん心霊写真みた〜い」
「うわ〜幸薄そーw」
「だよね〜w」
中学生でまだ長い髪だった頃に言われていたことですが、すごく気にして
いたことだったので、クラスメイトにも言われてしまったのはショックで
した。今は髪を短く切って色も明るくしてるからそんな風には見えないは
ず、と、教室の戸口で絵里がぶつぶつと呟いていると、女子のひとりが気
づいてしまいました。女子たちはシマッタという表情で顔を見合わせて、
話をピタリと止め、「やだー亀ちゃん何?日直?」と訊いて来ました。
絵里も慌てて顔を上げ、無理に明るい顔を作って「うん」と答えました。
でもそこに流れている空気は明らかに気まずい感じです。
「幸うす江です…ナンチャッテ〜。あは、あはは」
絵里は泣きそうになるのをこらえて、精いっぱいノリの良い人の振りをし
ましたが、寒々しく痛々しかったので周りはさらに引いてしまいまいた。
「か、帰ろっか」「うん」「亀ちゃんじゃーね」
ビミョーな絵里を残して、女子たちはみんなバタバタと教室を出ていきま
した。
- 732 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:19
-
(絵里もうホント最悪。何やってるんだろう)
やっていることが全部裏目裏目に出てしまう。
今日は本当に最悪な日だ。
お気に入りの洋服を飼い犬のアルの粗相で汚されちゃった時以上に。
「おめーよーキモイっつってんだろ」
美貴のキツイ言葉が思い出されます。
絵里は笑って誤魔化すことすらできないほどブルーな気持ちになって、目
に涙が込み上げてきました。
(もうやだ…!)
- 733 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:21
-
こんな時、辛い気持ちを受け止めてくれるのはあそこしかない。
教室の隅の掃除道具入れの中。
バケツを外に出し埃っぽいホウキを押しのけて中に入ると、絵里は狭い空
間にピッタリはまりました。四方を囲むスチールの壁が自分を守ってくれ
る気がして、安心することができたのです。
ところがその時、遠くから足音がパタパタと近付いてきて、教室に誰か
が入ってくる物音がしました。
(誰か来ちゃった…!)
絵里の小さな胸はドキンと打ち、足が震えました。
掃除道具入れの中にいることを気付かれないように、慌てて息を殺しました。
- 734 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:22
-
「あんまり……しくさせると……氷になっちゃ……♪」
それはよりにもよって美貴の声でした。
ちょうど目線の高さにあった掃除道具入れの通気孔の細い隙間から、絵里
は目を凝らして外の様子をそっと覗きました。
さっき帰ったはずなのに、何の用事なんだろう、と。
〜絵里の想像〜
川?v?)<ヘッヘッへッ、何かお金になりそうなモノないかな
絵里は青ざめました。近頃、学校では盗難が多発していたのです。
こんなところを目撃していたということが美貴に見つかってしまったら、
ひどい目にあわされてしまうと思いました。
(エーッ!エーッ!エーッ! ゼッタイ見つからないようにしなきゃっ)
絵里は何を見てもうっかり声を出さないように、両手で口をギュッと押さ
えました。それが両目じゃなかったのは恐いもの見たさの心理でしょうか。
自分の席にやってきた美貴は机の側面にかけてあった大きめのバッグを手
に取ると、じーっと隣の絵里の席を見つめました。
(絵里のおサイフが狙われてるぅ…!)
絵里の鞄の中にはお気に入りの緑の財布が入っていました。
ところが美貴はふいと後ろを振り向くと、隠れて見ている絵里の存在を見
抜いたかのように、こちらに向かってきたのです! 一歩、また一歩。
- 735 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:23
-
(ちょっと待って!ちょーっと待ってっ!)
絵里は見つかったと思って、心臓はバクバク、頭の中に警報のサイレンが
鳴り響き、動揺した弾みで飛び上がった右足に、ホウキを当ててしまいま
した。
ガタンッ。
「うわあッ」
「こっ、こーんめんなさいっ!」
絵里はすっかりパニクって、謝る言葉も意味不明です。
さすがの美貴も掃除道具入れの中から人の声がしたので驚いて、飛び出さ
んばかりに両目を丸くしました。
「ビッ…クリした……って、カメイ!?」
「開けないで!」
「ちょ、何してんの? つか、掃除道具入れだしソレ」
「絵里ちょっと入ってるだけだから!」
「いや、意味分かんないから」
- 736 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:25
-
「絵里、何も見てないですぅ!ホント見てないですぅ!」
「ハァ? 美貴は別に体操服洗濯しよーと思って取りにきただけで」
「体操服取りにきたんですかぁ?」
「そーだけど。つかおめーよぉ、てめーの席ぐらいキレイにしろよ」
「?」
「机の下の、ゴ、ミ! 気になるんだって。そーいうの」
「も、もしかして絵里のトコ、キレイにしてくれようとしてたんですかぁ?」
「トナリが汚いとこっちまで不快だから。そんだけ」
とりあえず絵里は美貴がドロボーじゃないとわかってホッとしました。
(はぁ〜。良かったぁ、かんちがいで…)
「……んの? ちょっと聞いてんのかよ!?」
「え?え!?聞いてますぅ。聞いてますよ?」
「……そんなトコで何してんの?シゲさんは?」
「さゆは部活で…。えっ絵里、狭いところが大好きなんです!」
「あぁ、亀だけに(笑)」
「絵里いつも空回りしちゃうし。失敗ばっかりなんで。
ちょっと入ってますっ」
- 737 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:26
-
美貴の前に出ていくのが恐いので、絵里は適当に言いました。
当然、美貴がいつものように「じゃあずっと入ってろ」とでも言ってさっ
さと帰ってしまうと思っていたのです。でも意外なことに、美貴はいつも
のトゲトゲしい態度ではなく、いつもさゆみに話しかけるのよりもずっと
落ち着いた声で、掃除道具入れの中の絵里に話してきました。掃除道具入
れの中に閉じこもるという常識では考えられない行動に、さすがの美貴も
心配になったのでしょうか?それとも2人きりだったからでしょうか…?
「美貴はそんなの悩むだけ時間がもったいないって思うけど」
「えっ…?」
「落ち込んだってしょうがないしさ」
「ん〜でも絵里いつもそうだから」
「世の中にはさ、ドンクサイのを放っとけない物好きがいるかもしんないし」
「……いるのかなぁ?」
「いるんじゃない? どっかには」
- 738 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:27
-
「だからそんなトコ入ってないでさ。出ておいでよ」
掃除道具入れの通気孔の細い隙間から覗く、最後列の机に座ってこちらを
見ている美貴の表情が、今までに見たことがないほど柔らかく穏やかだっ
たので、絵里はビックリして思わず目を擦りました。
いつも恐いし、嫌だなぁと思っていたのに。
でもなんだかんだ言って美貴はいつも絵里に話しかけてくれるのです。
つまりそういうことだったのです。
「あの、絵里ってロングとショートとどっちがイイですかぁ?」
「ショート。だってそっちのほうが明るいじゃん」
「あーがとうございます!」
絵里はいっぱいの笑顔で掃除道具入れから外に飛び出ました。
美貴のその一言が、とてもうれしくて自信が付いたから。
- 739 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:28
-
「絵里、これからは俄然強めでいきます!」
「意味わかんないんだけど。つか立ち直り早くねーか?」
「うへへ。そうだ!一緒に図書室にいきましょう。ね?絵里勉強しないと」
「オイ、なんでオメーの勉強に美貴が付き合わなきゃなんないんだよ」
「図書当番、サボっちゃいけませんよ?」
「行かない。メンドクサイ」
「ダメです。絵里と一緒に図書室に行くんですぅ!」
「行かないったら行かないもん」
「つべこべ言ってないで行くんだぞコラー!」←このへんの棒読みが俄然強めらしい
「いやだ〜!美貴ちゃん帰ってキョンシーのビデオ見るんだから〜!やだ〜!」
「キョンシーなら絵里がやってあげますって!」
「地黒には無理だから!はなせ〜!はなせよー!」
- 740 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:29
-
絵里はジタバタする美貴の腕を捕まえて、図書室につれていきました。
わずかな咳払いでも響くほど静かな図書室の貸出カウンターに座っていた
司書の飯田さんは、「ヘイ藤本さん連れてきやしたぁ!」というべらんめ
ぇ調の明るい声に頭を上げると、朝とはずいぶん違うニコニコ顔の絵里を
見て意外そうにポツリと言いました。
「ほんとに連れて来れるとは思わなかった…」
「フン」
「絵里、藤本さんに可愛がられてます!」
「ハァ!?可愛がってねーよ。いつ可愛がったんだよ」
「うヘへへ。照れないでいいですよ」
「……おめーよぉ、調子乗んなよ?」
「絵里が淋しくさせると氷になっちゃうんです、美貴ちゃん」
「バッカじゃねーの。何言って」
- 741 名前:こみゅにけーしょん 投稿日:2006/04/20(木) 01:38
-
飯田さんは目を細めて微笑ましげに「ふたりとも楽しそうね」と言いました。
絵里はケラケラと笑いましたが、美貴は認めたくないらしく、鼻をフンと鳴
らして反論しました。
「ちょっとやめて下さいよ。ウザイだけだから、こんなの」
「なぁんでですか〜!? 俄然強めですよ。俄然強め。
あっ席なくちゃっちゃうから行かなきゃ。ちゃんとお仕事してくださいよ?」
絵里はクネクネしながら美貴の肩をうれしそうにポンと叩くと「くるりんぱ♪」
と言いながら自習席の方に跳ねていきました。仕方なく貸出カウンターの中の
椅子に座った美貴に、隣の飯田さんは「けっこう度胸あるよね、あの子」と言
いました。席につき英語の教科書を開いてそわそわと勉強を始めた絵里を、頬
杖をついて眺めながら「アホなだけですよ」と言う美貴の顔は、まんざらでも
なさそうなのでした。
おしまい
リd*^ー^)<絵里は『可愛がられ担当』ですよ?
川?v?)<いや、『勘違い担当』だから
- 742 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/04/20(木) 13:36
- ああ…ケータイさん残念(´-`)
美貴さまの目がw
- 743 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/21(金) 00:58
- かわいいなぁ・・・。
- 744 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/26(水) 23:25
- 亀レスですが「みちのいきもの 」の続きが読みたいです
面白いのでよかったらお願いします
- 745 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:19
-
Light
- 746 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:20
- モニターの中、長身をかがめるようにドアをくぐったカオリが
閉める前に振り返った。笑顔とかすかに動く口唇。
聞こえないはずの声が聞こえる――マタネ、ヤグチ。
カオリを乗せた宇宙船は轟音を響かせ、そしてあっという間に
見えなくなった。私は手の甲ではなをこする。
またねなんて簡単に言って。45光年離れてんだぞ。
カオリの宇宙船が「向こう」に着く頃には私は68歳だバカ。
着いてすぐ折り返してももう生きてないんだよ。
帰り道、石ころを蹴飛ばして、そしてワインを買って帰った。
- 747 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:20
- 「芸術は光の向こうにある」
長身のアーティストがそう呟いてからたった1ヶ月。その
カラダは空へと飛び立った。ろくに別れを惜しむ間もなく。
高校からずっと一緒で、私が文系の大学へ、カオリが
美大へ進んでからもたまにあっては話したりしていた。
カオリの交信を横目にパソコンを操ったりしていた。
交信ってただぼーっとしてるだけだと思ってたら、
カオリが弾かれたようにわめきだした。
「あの星の向こう。あの光の向こうにあるんだ」
そう、それが1ヶ月前。
- 748 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:20
- カオリと別れてから私は都合よく仕事が忙しくなって、
思い出す時間も減って、でもたまに夜空を見上げながら
ビールなんか空けて、あと40年以上飛び続けるカオリを
探して、まぁ当たり前だけど見えなくて、ちょっと涙ぐんで、
その気分を吹き飛ばそうとゲームなんか始めちゃって、
気がついたらコントローラーを握り締めたまま朝になったりしてる。
- 749 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:21
- 手紙を書いた。
光の速さで出しても、同じく光の速さで進むカオリには
届かないけれど、知り合いも居ない土地に届く手紙に
きっと感謝感激雨嵐だろうと高いコストをかけて送る。
足長おじさんならぬ背高お姉さんへ。
「ギャルサーに入りました」
「銭湯で働きました」
「ゲームで徹夜しました」
「引越しました。窓はセンチメンタル南向きです」
「ラーメンを食べました」
「映画にも行きました」
「結婚しました」
- 750 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:21
- リカッチ、アイボンと名づけた子供はふたりとも嫁に行った。
それまでは忙しさの合間をぬって書いていた手紙に
本腰を入れられるほどの静寂が訪れる。
あぁ、それでもまだカオリは目的の星に着いても居ないのか。
光速の中では歳を取らないという。
私は目じりにも手の甲にも皺が寄ったけど、失ったもの以上に
大事な家族を手に入れた今の暮らしに後悔はない。
そんなささいな幸せだけど本当の幸せを放棄したカオリ。
それに似合う対価を手に出来るんだろうか?
私はレターセットを取り出した。
- 751 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:22
- 68歳になった。
がたごととテーブルと椅子をベランダへと運ぶ。
雨が降らなくて良かったと思いながら、カオリと別れた日に
買ったワインを開けた。
45年を経た味はやけに酸っぱく、涙が出そうで顔を上げる。
願わくば、
私の手紙がアーティストを創作を支えてあげれたら良いと思う。
私は手の甲ではなをこすった。
- 752 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 12:24
- おわり
- 753 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/04(木) 14:06
- いいね。こういうの好き。
- 754 名前:merry merry wedding 投稿日:2006/07/09(日) 20:42
- 事務所から仕事へ行く道すがらの、通りすがりの教会。
白いタキシード姿の新郎と白いウエディングドレスを着た新婦が、人々の真ん中で祝福を受けている。ライスシャワーに紙ふぶき、紙テープ。高く響く口笛。
その様子をぼんやり見ていた私の隣にカオリがやって来て
「あ、結婚式」
と言った。
「そうね。どう見たってお葬式には見えないし」
私の返事に小さく笑って、機嫌が悪いんだと小さく肩を竦める。
- 755 名前:merry merry wedding 投稿日:2006/07/09(日) 20:43
- 別に、機嫌など悪くなかった。いかにも幸せそうな光景の中、真っ赤な顔で椅子に座り込んだ新婦の父親らしきおじさんもハンカチを握り締めている母親も。ただ、羨ましいとは思えずにいた。私の望みは永遠に叶えられないものと知っているから。
「私、きっとウエディングドレスが似合うはずなんだ」
と、呟いてみる。
「私ってかわいいし、スタイルも良いから」
「……そうね」
答えに空いた間が気に入らず、私は
「カオリは、ウエディングドレスは純白以外にした方が良いと思うよ」
と余計な忠告をした。カオリはもちろんこんなことで気分を害したりせず、ただ優しく微笑んで「そうだね」と、さっきと同じ答えを返す。
- 756 名前:merry merry wedding 投稿日:2006/07/09(日) 20:44
- カオリが純白のウエディングドレスを着た姿は、とてもじゃないが想像出来なかった。いや、白でなくとも、想像するのは難しい。
なぜ、というわけではなく、仕事仲間全員に共通して言えることなのだが。
では、私は? と自問して、私は答えを出すことが出来なかった。
人々の真ん中、新郎が新婦を抱き上げる。新婦は新郎の首へ腕を回し、幸せそうに体を預けている。
あんな風に、私も誰かのものになる日が来るだろうか。
- 757 名前:merry merry wedding 投稿日:2006/07/09(日) 20:44
- 食い入るように見つめていると、カオリはまた小さく笑った。
「ゴトウ一人くらい、ヨッスィはきちんと抱きかかえてくれると思うわよ」
その言葉に真っ赤になって、私は俯いてしまう。
私が誰にそうしてもらいたいか、いつか誰かのものになるなら誰のものになりたいと思っているのか、カオリはとっくに知っていた。
- 758 名前:merry merry wedding 投稿日:2006/07/09(日) 20:45
- カオリの言うとおり、私一人くらい簡単に抱き上げてしまうぐらいの力強さを、私が思う誰かは持っている。しかし、もしそうやって私を抱き上げたとしても、その誰かは物足りなく思うんじゃないかと不安になるのだ。
いくら私が選んだとしても、選ばれた方は私だけを選ばずに、抱えられるものを全て抱えて生きていきそうな気がする。そして恐らくは、私もそれを許してしまうのだ。
ふらふらと人の間を歩き回っていた新郎は、限界が近いのか何度も何度も新婦を抱えなおしている。例え少々軟弱でも、一人を全力で抱えていられる男を好きになりたかったと、少しだけ思った。
- 759 名前:merry merry wedding 投稿日:2006/07/09(日) 20:46
- ため息を吐いた私をカオリは目を細めて見つめて、しなやかに伸ばした手で私の頭を、まるでママみたいに「良い子、良い子」と撫でた。
- 760 名前:merry merry wedding 投稿日:2006/07/09(日) 20:47
- おわり
- 761 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/13(木) 21:08
-
紙切れ。
- 762 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:09
-
『亀井は道重を利用したいと思っている』
ハロモニの心理テストでそんな結果が出たとき、絵里は笑ってた。
心理テストなんて信じてなさそうな表情だったし、収録のあとで「さゆのこと利用したいとか、そんなこと全然思ってないよ?」って笑いながら優しく言ってくれた。
わたしも絵里みたいに、心理テストなんて信じないで笑い飛ばしたかった。
絵里を信用できなかったわけじゃないのに、『利用』の言葉が頭から離れなかった。
- 763 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:10
- わたしが絵里を避けがちになって、しばらく経つ。最初はいつもと同じように話しかけてきてくれた絵里も、次第に話しかけてこなくなった。
そのままの状態で迎えた、わたしの誕生日。
ほら、今日も絵里はれいなと一緒にいる。
- 764 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:11
-
「…おーい、重さんどうした?」
独りぼっちのわたしのところに吉澤さんが来てくれた。
大ざっぱな人に見えるのに、実はメンバー1人1人のことを誰よりもよく見てる人。
「亀ちゃんとケンカでもした?前はあんなにいつも一緒だったのに。」
少し声を小さくして尋ねられた。
「ケンカ…じゃ、ないんです。わたしが心理テストなんかを本気にしたから……。」
「心理テスト?…ああー、この前の。」
うんうんと大きく頷く吉澤さん。
「亀ちゃんのこと、信用できない?」
「そんなこと……ないです」
じゃあどうして、わたしは絵里を避けてるんだろう。自分でもわからない。
「…まっ、ああいうのって面白おかしくやってるだけだから、あんまり気にしちゃだめだよ。」
くしゃくしゃっとわたしの頭を撫でて、吉澤さんはさっきまで話してた藤本さんのところに戻っていった。
…あーあ。せっかくかわいく決まってたのに、髪が乱れちゃった。
- 765 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:11
- ダンスや歌の練習で1日中しごかれた後、メンバー全員でわたしの誕生日パーティーを開いてくれた。
ハッピーバースデイの大合唱に続いて、1人1人からプレゼントを渡される。
「あれっ、亀ちゃんは?」
「えーっと……恥ずかしいから、絵里は後でこっそり渡します。」
照れ笑いを浮かべながらもじもじしてる絵里。
肝心のプレゼントはどこにも見当たらなくて、嫌な予感がした。
- 766 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:12
- 絵里に連れて来られたのは、使われていない部屋。
さっきから絵里はずっともじもじしている。
……実はプレゼント用意するの忘れちゃった。
そう言われそうな気がして、不安になる。
- 767 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:12
- 「あのね、誕生日プレゼント……こんなのだけど……。」
予想に反し、絵里がジーンズのポケットから何か取り出して、わたしに差し出した。
折り畳まれた、1枚の紙。
「…開いてみて、いい?」
絵里が肯いたのを確認して、ゆっくり紙を開く。
- 768 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:13
-
『なんでも言うこと聞く券』
- 769 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:14
- しばらく言葉が出なかった。
これって……小さい子供が親にあげる『肩たたき券』みたいなもの?
「その……絵里がさゆのこと利用してるとか思わせちゃって、それでさゆを悲しませちゃったみたいだから……だから、さゆも絵里のこと利用して……?」
ああ、どうして泣いてるんだろう、わたし。
たった1つだけわかったのは、心のどこかで絵里を疑っていたわたしも、わたしが絵里を疑ってしまったのを自分のせいだと思ってる絵里も、どっちもバカなんだってこと。
- 770 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:14
- 「絵里……これ、今使ってもいい?」
「え?あ、うん…。絵里にできることなら何でもするから。」
「あのね……。今から一緒に遊びに行きたいの。」
「遊びに…?」
「だめ?」
「…ううん、いいよ!行こっか!」
「あ…えっとね……」
「どうしたの?」
「その………3人で遊びたいの。絵里と、れいなと、3人で。」
- 771 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:14
-
- 772 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:15
- 「楽しかったねー。」
「もうクタクタやけん……」
「また3人で遊ぼうよ。ね?」
ケーキ屋さんで小さなケーキを3つ買って3人だけの誕生日パーティーをしたり、ぎゅうぎゅう詰めになりながら3人でプリクラを撮ったりして。
楽しすぎて、幸せすぎて、泣きそうになってしまう。
オレンジ色の夕日を見ながら、3人でゆっくり歩く。わたしは真ん中。右にれいな。左に絵里。
真ん中のわたしは、2人と手をつないで。
- 773 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:15
- れいなが、わたしと絵里のつながれた手を恨めしそうに見ているのに気づいた。
……れいなが思ってることは知ってるけど、つながせてあげない。れいなが自分から「絵里と手をつなぎたい」って言うまでは。
べーっ、と、れいなに舌を出して見せる。
わたしとつないでいるほうのれいなの手が、わなわなと震えだす。
そんなれいなが面白くて、かわいくて、小さく吹き出してしまった。
- 774 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:16
- 「さゆー、何笑ってるのー?」
「なんでもなーい。」
もう一度れいなを見ると、今度はれいなが、べーっと舌を出して見せた。
わたしもれいなも、思い切り笑った。
「2人とも何で笑ってるのー?」
不思議そうに尋ねる絵里も、やっぱり笑っている。
- 775 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:16
-
2人の笑顔が、今日だけはわたしと同じくらいかわいく見えた。
- 776 名前:紙切れ。 投稿日:2006/07/13(木) 21:17
- おわり。
从*´ ヮ`)人从*・ 。.・)人リd*^ー^)
- 777 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/14(金) 14:20
- なんか涙でそうになった
こういうの好き
読めてよかったありがとう
- 778 名前:名無し雲 投稿日:2006/07/19(水) 01:26
- ちょっと失礼しますよ。
ガーッと書いたのでお目汚しになりそうですが、晒しておきます。
- 779 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:27
-
《灯りの行方》
- 780 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:28
-
あなたに会えない。
あなたに会いたい。
あなたはいない。
- 781 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:29
-
「紺野、花火しよ」
「…後藤さん?」
まだ夏に入る前ですよ?なんていわなくてもわかるから。
痛いほどのあなたの気持ちが私の胸に突き刺さる。
いつも綺麗なあなたの目が、前に2人で飼った金魚みたい。
大切なあなたを揺らめかせたのは…他でもない私なんだ。
「言わなくても、わかるよね?」
「はい」
わかります。
あなただから。
「怒ってますよね」
「…わかってないんじゃん」
子どもみたいな拗ね顔。
あの世界で、いろんな人に会って、やっぱりあなたが一番私を惹きつけた。
輝くような金色を纏ったあなた。
大人っぽさも子供っぽさも全部が愛しい。
隣にいられるのが信じられなくて泣いた日もあったな。
「え?怒ってないんですか?」
「…今怒った」
- 782 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:30
-
手をぐいぐい引っ張られて暗い夜道を歩き出す。
あなたの横顔が見えなくて戸惑う。
ずっと見てきた横顔がフラッシュバックする。
一番最後に見たあなたの横顔は、赤かったよね。
「後藤さん、バケツ持ってかなくていいんですか?」
黙って見せられたペットボトルは口の部分が少し切られていた。
あ、そっか。
これがバケツ代わりになるのかぁ。
連れてこられたそこは、小さな浜辺。
差し出されたのはたくさんの線香花火。
「え、これ2百本ほどないですか?」
「3百だよ、ごとーわざわざ注文したんだから」
えぇー!?
そんなに出来なくないですか?
っていうか線香花火だけなら近所の駐車場でも出来たのに…。
後藤さんは、その数にものともせず真ん中のろうそくの火に一本ずつ取ってはその先端を燃やす。
もう何本ほどその命を燃やしただろう。
二人で黙って小さく座ってパラパラと線香花火を燃やし続ける。
先程揺らめいていた後藤さんの目は、線香花火の光も手伝ってより綺麗に揺れていた。
…そっか、この膨大な量はそのためなんだ…。
私がそれに気付いたことに合わせたように後藤さんが口を開いた。
- 783 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:30
-
「ごとーに先に好きだって言ってくれたのは紺野だよね?」
「はい」
正確には口を滑らせたんですけどね。
その後で後藤さんは柔らかい、私の一番好きな笑顔で応えてくれたな…。
おいで、って手招きしてくれたんだ。
「紺野は今でも…いや、前にも言ったけどごとーは好きなんだ。紺野が」
「…はい…」
後藤さんは口下手で、こんなに喋ってくれるのを見るのは久しぶりだった。
だから一言も聞き落とさないように目を瞑った。
フラッシュは横顔ではなく、あなたの照れ笑顔になった。
ガラじゃないよって顔を染めてはにかんだ様に笑うあなた。
「最初は確かに怒ってたよ。相談してくれなかったし」
「すみません」
「うん、でも問題はそこじゃ無かったんだ」
後藤さんが両手で花火を持ち始めた。
一本、一本。
バラバラに灯されたソレはまるで私と麻琴みたいだ。
たくさん残っている花火たちがハロープロジェクトのみんな。
優しい光を秘めた、まだ燃えることの出来るたくさんの人。
…ひとつだけ用意された噴火花火は、誰よりも強く綺麗な光を放つ後藤さんだ。
この先、この人以上に眩しい人なんて見つからない。
手放したくなんてない大切で勿体ない人。
- 784 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:32
-
「…紺野と一緒にいたいんだ」
「…」
私も。
そう言いかけて言葉が詰まった。
これから、
あなたはもっと輝きを増していく。
私は違う世界で違う小さくてしっかりとした光を育んでいく。
まるで別れ道。
煌く光、あなたの目に映る。
私はどう見えていたんでしょうか。
あなたの綺麗な目には、何もかもが綺麗に見えるのか。はたまた逆か。
「紺野、あなたの世界にゴトーは存在してる?」
「私は後藤さんが好きです」
「…それだけ?」
「…」
好きです。
一緒にいると世界が綺麗に見える。
その中で一際綺麗なあなたが笑うところが見たいんです。
- 785 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:32
-
気付けば溢れ出した涙。
望んでいいのかわからない。
ただ、あなたが好きで。大好き過ぎて。
「…泣いたって許さないかんね」
「好きなんです…」
「だから、何?」
「望んでいいんですか?私は、望んでもいいんでしょうか」
まるで懺悔だ。
後藤さんという愛する神に許しを請う私という娘。
あなたと一緒にいたい。
違う世界に行けば、滅多に会えないかもしれない。
前ほど融通も聞かなくなる。
大変になるのは目に見えてるのに…。
会えない。
会いたい。
千切れそうな胸の痛みはあなたを知ってから覚えた。
呼吸困難に陥りそうな激しい自分への憎悪。
音もなく流れる涙。
とっくに消えた線香花火に一滴の気持ちが落ちた。
「紺野、言ってよ。線香花火がなくなるまで待つから」
さっきまでの子どもみたいな顔から、子どもを見守るような優しい大人の顔へ。
ああ、こんなときなのにあなたは眩しい。
- 786 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:33
-
「もう一度しか言わないよ?ゴトーはあなたの“未来の世界”にいますか?」
あくまで答えは言わず、ギリギリまでヒントしか言わない。
後藤さんはいつもそうだ。
大事な事はその人自身に言わせる。
そうか、ほんとに私はわかっていなかったんだ。
あなたの気持ちさえあればどうにかなったことだったのに。
- 787 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:33
-
「はい、私の世界に必要です」
- 788 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:34
- これまでにかかった線香花火時間、二人で129本。
後藤さんに抱きしめられた私は、一種の達成感に包まれていました。
「大丈夫、ごとー毎日会いにいっちゃうから」
「…はい」
受験なんだから、ほんとはダメなんですけどね。
仕方ないんです。
だって後藤さんがいなくなると私の世界は潰れてしまう。
そうなったら受験も何もなくなっちゃう。
涙を拭くと、よりリアルな世界であなたの存在を認識できた。
もう大丈夫。あなたはいる。
「愛してるよ」
「はい」
「紺野は?」
「大好きです」
あなたに会いたい。
あなたに会えない。
あなたがメールをくれる。
あなたが電話をくれる。
あなたが会いにきてくれる。
- 789 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:35
-
- 790 名前:《灯りの行方》 投稿日:2006/07/19(水) 01:35
-
無邪気に細められたあなたの目にはもう、前の揺らめきは無かった。
前よりしっかりと、いつものように落ち着いた輝き。
「紺野、いつかウチに暮らしにおいでよ」
「えぇ!?…フフッ、でも良いかもしれないですね」
「うん、二人で幸せになるよ?」
「そうですね…」
そこに見えるのは暖かい灯り。
自信を持ち直した優しいけど眩しい綺麗な光。
- 791 名前:名無し雲 投稿日:2006/07/19(水) 01:35
- 失礼しました〜。
そしてコンコンおめ。
- 792 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/20(木) 01:35
- サイコーです。
- 793 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/20(木) 23:30
- いいです!!
- 794 名前:new stage 投稿日:2006/07/23(日) 10:31
-
時刻はきっと深夜と朝の境目。
陽はまだ射していないくてあたりは暗く、
寂れたライトが紺野を乗せていく始発を待つアタシ達を照らしていた
そう、今日紺野は…遠くへと行ってしまう
「電車来ないねぇ」
「そうですね…」
「…………」
「…………」
本当は電車なんか来なければいいと思う。
けどこの沈黙が怖くて必死に意味のない話題を作っている
こんな話よりももっと伝えたい、言いたいことは沢山あるのに、言葉がでてこない。
- 795 名前:new stage 投稿日:2006/07/23(日) 10:33
-
ポタッ
えっ…?
うつむいて見つめてた乾いたアスファルトに1つ、2つと滴が落ちてきた。
雨なんか降ってないはず
じゃあ…
驚いて顔を上げたそこには
紺野が泣いてた
それは今までアタシが見たことない
痛そうで辛そうで悲しそうな泣き顔。
「え、こんの……?」
「ごめんなさい、なんでもない…です…っ」
泣くまいと一生懸命涙をこらえようとする紺野。
「紺野…?」
どこがなんでもないんだよ…
痛まれなくなったアタシは紺野を抱きしめた。
「ごとっ…さ」
「無理にしゃべらなくていいから」
「うっく…わた…し…少しこわ…くて…」
「ん………」
途切れ途切れ聞こえる話にはここを去るのが、未来が怖いと…
そう言いながら腕の中の紺野は震えていた。
- 796 名前:newstage 投稿日:2006/07/23(日) 10:34
- 怖い…か
アタシも怖いよ、紺野
数えきれないくらい抱きしめた君を手放す
つないでいたこの手を離す…
考えただけでも嫌だよ。
嫌なんだ。
離れたくないんだ。
卒業の話を聞いてからアタシはどうにかして紺野をそばへおくことばかり考えてた。
けど…気づいた。
紺野は……
紺野なりの未来を見つけて今ココにいる
大好きなもの 愛してたものから離れる代価を背負って
卒業しても仲間が近くにいるアタシなんかよりももっとつらい選択肢を選んだ。
そう思ったら紺野をすごく誇りにおもいはじめた。
さすがアタシの自慢の恋人だって
だから…
そっ
「ぁ…」
アタシは、この手を離すよ。
- 797 名前:newstage 投稿日:2006/07/23(日) 10:36
- 「ごとっ…さん…」
「んぁ!?ちょ、紺野」
あーぁ、またそんな泣かないでよぉ!まだ続きがあるんだからさぁ
「つづき?」
「あー、えー、ゴホン。あのですね、紺野さん。」
「アタシ待ってるから」
「ふぇっ?」
「だーかーらー、アタシがこの手を、離すのは、今だけ」
紺野がその目標?が達成した時まで、本当に今だけだよ?
だからさ…
「サヨナラじゃなくてまた会おうよ」
「っ…!!」
「でなきゃアタシ、迎えに行っちゃうよ?」
「で、でも」
「でもじゃなーい」
「ぅ………」
「アタシは、紺野じゃきゃダメなの」
ワガママってのは分かってる、勝手すぎるのも
でも本当にアタシは紺野じゃないとダメなんだ。
空気がなかったら生きていけないように
アタシは紺野がいないと生きていけなくなる。
「アタシは、紺野が必要なの」
「アタシの未来の隣には紺野がいてほしい。ダメ?」
「ア、アナタって人はっ…」
いつも以上に眉をハの字にした困った時の紺野の表情。
あーやっぱダメか…そうだよね、勝手すぎるよね。
諦めなきゃダメかな…とか思ったその時
- 798 名前:newstage 投稿日:2006/07/23(日) 10:37
-
どんっ
「んぁ?」
紺野が体当たりする見たいに腕の中に飛びついてきた。
「ダメなんかじゃっ…ないです。」
「紺野?」
「そりゃ、確かに後藤さんはワガママで自分勝手でエゴイストでエッチだし…」
オイオイ、言い過ぎじゃない?
心辺りありすぎて胸が痛いんですけど…しかも最後の言葉はなんか違うような
「でもっ!」
「んぁ!?」
「でも…そんな後藤さんが好きなんです、全部」
「紺野…」
「後藤さん」
「んー?」
「私で…本当私なんかでいいんですか?」
「うん、紺野じゃなきゃダメ。それに紺野はなんかじゃないってば」
昔からこーゆーネガティブな所はホント変わらないなぁ
「私も後藤さんじゃなきゃダメです」
でもって昔と違って大分こーゆー素直な所を見せてくれるようになったね。
「だから…すごく嬉しいです」
「うん」
「ごと…真希さん」
「…ん?」
「待ってて…くれてもいいですか?」
さっきの涙とはうってかわった迷いのない真っ直ぐな瞳。
いつからだろう。
紺野のその強い眼差しを見るようになったのは
「もちろん、どれたけでも。だから紺野の気が済むまでとことんやってきな?」
「はい!」
あ、やっと笑顔になった。
うん、やっぱり紺野は笑顔が一番いいよ。
- 799 名前:new stage 投稿日:2006/07/23(日) 10:38
-
ねぇ、紺野
強くなったね
ホントに強くなった
紺野に出会えて
紺野を好きになって 本当によかった
これからも… そんな紺野が大好きだよ
「また会おう、紺野」
「はい、必ず」
どちらともなく唇が近づき、アタシ達は優しく唇を重ねた。
『約束の口付けを原宿でしよう』
まぁ原宿じゃないんだけどね、ってか場所なんて関係ないか。
- 800 名前:new stage 投稿日:2006/07/23(日) 10:40
- ガタン ガタン プシュー
そして、ちょうどいいタイミングで電車が音を立ててやってきた。
「…きたね」
「はい、それじゃぁ…」
「うん、いってらっしゃい」
「…いってきます。」
そっと腕から離れて紺野はドアの向こうへ…
んぁっ!そーだ大事な事言うの忘れてた
「紺野!」
「え、は、はい!?」
「あのね
プシュー バタン
『アイシテル』
無常にも閉まってしまったドアだけど
これがアタシの気持ちだよ
愛してる、紺野
今も これからも ずっとずっと
愛してる
聞こえなかったかな?
でもそんな考えはすぐ間違いだと分かった。
だって、ドアの向こうの紺野はとまったはずの涙溜めて何度も何度も頷いてた。
『アイシテマス』
紺野はそうしゃべってるように見えた。
ううん、そう言ったんだよね?
問い掛ける様に笑ったら紺野も大きくうなずいてくれた。
そして…
泣いてんだか笑ってんだかよく分からない顔した紺野を乗せた電車はゆっくりと進み…
北へ向かって小さく消えていった。
- 801 名前:new stage 投稿日:2006/07/23(日) 10:42
- ポタッ
「っ、あー…」
ポタッポタッ
ヤバイ
「あー、もぅでてくるな」
ポタっ
意と反してアタシの目からは汗が流れてきた
ちゃんと決心したんだからさぁ、でてこなくていいっての。
「このまま終らせてたまるかー」
絶対紺野に負けないくらい頑張って
堂々と腕を広げて紺野を出迎えてやれるようになってやる。
だからそっちも頑張れ、紺野。
涙がこぼれないように上を見上げたら
暗闇は消え去り 雲の切れ間から眩しい朝日がアタシを包んでいた
それはまるで、紺野みたいに優しい光だった
「よっし、行きますか!」
これは終わりじゃない。
これからはまた新しい一章が始まるんだ。
今は進む向きは違うけど
いつか もう一度 お互いの道が重なりあう日を目指して
アタシ達は今その一歩を歩きはじめた。
アタシ達の「NEW STAGE」を。
END
- 802 名前:gung 投稿日:2006/07/23(日) 10:44
- 最初で最後の後紺です。
コンコン卒業おめでとう。
それではお邪魔しました、失礼しま〜す(脱兎
- 803 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/23(日) 19:04
- 後紺さいこーです!!
- 804 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:44
- 梅雨明け直後の週末。
昨日までの鬱陶しい空模様はどこへやら、太陽も沈みかけた夕暮れだというのに、
外はアスファルトに照りつけていた昼間の強い陽射しの余韻を残したうだるような熱気に満ちていて、
開け放たれた窓からはその熱気に負けじと短い命を誇示するセミの鳴き声と、太陽が落ちかけた夏の匂いを運んでくる。
「お母さーん、帯結んでー」
電気代節約の名目と室内の空気の入れ替えでリビングから庭へと続く窓を開け、
時折入り込んでくるささやかな風と扇風機と団扇で涼を取っていためぐみの耳に飛び込んできた、そんな声。
めぐみ以外の家族は、朝、めぐみが起きだしてきた頃には全員が出掛けてしまっていて、
ダイニングテーブルの上には、当たり前のようにめぐみに留守番を促す母親からの書き置きがあった。
- 805 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:44
- 何をするでもなくぼんやりひとりでテレビを眺めていためぐみの耳に聞こえてきた声は、
隣に住む女子高生、あゆみのものだとすぐにわかった。
わかった途端、胸のあたりがほわりと綻ぶ。
めぐみとは幾らか年が離れているのに、幼い頃からなんだか気が合う。
あゆみが高校生になって、めぐみが社会人になってからは以前ほどの交流は少なくなってしまったけれど、
それでも、時々は、携帯でのメールのやりとりなんかもあったりして。
平たく言えば、めぐみはあゆみにとても好感を持っているのだ。
幼馴染み、という点を抜きにしても。
聞きなれない単語への好奇心に勝てず、思わず耳をそばだててしまっためぐみはこっそり庭へ降りた。
彼女の声がよく通るというせいもあるのだろうが、向こうも窓を開けているのだろう、庭に出て耳を澄ませば、会話が聞き取れた。
- 806 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:44
- 「ねーねー、変じゃない?」
「ちょっとじっとしなさいってば、うまく帯が結べないでしょ」
「髪型とか、やっぱアップにしたほうがいいかなあ」
帯、と聞こえたことに思考を巡らせて、季節柄、浴衣に思い至る。
イマドキの女子高生、という括りにあゆみは当てはまるようで当てはまらないのだが、
普段の部屋着が甚平姿であることをめぐみは知っているので、ますます好奇心が湧き起こった。
垣根や塀があるし、まして向こうは着替えている真っ最中なのだからカーテンも閉じられていて、
会話は聞こえても中の様子はそう簡単に窺い知ることは出来なかったのだけれど、
そんなめぐみの心中を推し測ったように、あゆみの家の庭先のカーテンが、会話が聞こえなくなったと同時に不意に開いた。
思いがけず視界に飛び込んできた幼馴染みの見慣れない姿に、めぐみの心臓が一際高く跳ね上がった。
ジリジリ鳴いていたセミの鳴き声も、遠くに聞こえていた車の行き交う音も、近くで聞こえていたはずのテレビからの話し声も、
その一瞬は、めぐみの周囲から音を奪った。
- 807 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:45
- 「めぐちゃん?」
きょとん、と首を傾げた年下の幼馴染みに呼ばれて、めぐみはハッとなる。
―――― やば…。
心の奥底で独り言のように呟いたあと、履きなれていない下駄を引っ掛けたあゆみがめぐみのほうへとやって来た。
「…いいじゃん、それ。似合ってるよ」
普段はおろしたままでいるか左右に分けて結んでいるかの髪型も、
浴衣に合わせたのか項がはっきり見えるようにアップにされていて、
あまり見慣れないそれがまた、めぐみの心音を上げていく。
「ホント?」
まっすぐな感想に、あゆみは照れながらも嬉しそうに笑った。
- 808 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:45
- 「でも、珍しいよね、浴衣なんて。…ああ、そういえば今日、お祭りあったっけ。誰と行くの?」
高鳴る心音を気付かれないように少し早口になりながら問い掛けると、あゆみの表情が俄かに曇った。
「…お母さん」
「へ? 彼氏は?」
「そんなのいないもん」
あゆみにそういう相手がいないことを承知で言ったのだが、即座に否定されてめぐみは少しだけホッとした。
「学校の友達とかは?」
めぐみが至極当然の質問を投げかけると、つまらなさそうに唇を少し尖らせて、拗ねているとすぐにわかる口振りで。
「…みんな、彼氏と行くからって」
ぼそぼそ、と、聞き取りにくい声であゆみは言った。
- 809 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:45
- 「…ふうん」
曖昧に返事して、俯き加減に視線を下へ落としているあゆみの旋毛を見ながら、めぐみはそっと息を吐き出した。
見慣れない幼馴染みの姿を、今までにないくらいの強さで可愛いと思った。
それ以上の、心音が跳ね上がるような感情のコントロールが出来ないほど、めぐみは子供でもないので。
「じゃ、私と行く?」
まるで、めぐみがそう言いだすのを待っていたみたいに、あゆみの頭が勢いよくあがる。
「いいの?」
「いいよ。…ちょっと待ってて、用意してくるから」
ふたりの間の、胸まである隔たりの垣根を越えるように手を伸ばして頭を撫でて言い、
めぐみはあゆみの返事も待たずに踵を返した。
その背中に、仔犬が全開で尻尾を振っている雰囲気を思わせる声が届いた。
「あ、あたしもっ、荷物とってくるっ!」
- 810 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:45
- 庭先から戻って大急ぎで身支度を整え、戸締まりをしようとリビングに降りると、タイミングよく母親が帰宅してきた。
あゆみと夏祭りに出かけることを簡潔に告げ、お気に入りのサンダルをシューズラックから引っ張り出して玄関を開けると、
門扉の向こうで、夕陽を眺めているあゆみが立っていた。
出てきためぐみを認めて、嬉しそうに、笑って。
―――― やばいなあ。こんなに可愛い子だったかなあ。
誰に向けるともない独り言を、めぐみはまた心の奥底で呟いた。
- 811 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:46
-
- 812 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:46
- 「あ、金魚すくいやってるー」
左手の手首にリンゴ飴と焼きとうもろこしの袋をぶらさげ、右手にわたあめを持っていてもまだ物足りないのか、
まだ小さい子供たちの群れが出来ている店先で不意にあゆみは足を止めた。
「めぐちゃん、ちょっとこれ持ってて」
言われるなり戦利品を渡され、気付くとあゆみはもう、無数の金魚が泳ぐ桶の前に座り込んでいた。
その様子を見ながら、めぐみは思わず笑いが漏れてしまう。
勿論、あゆみの行動がいちいち可愛いからで、家を出てから今まで、何度そう感じたかわからないほどだった。
- 813 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:47
- 渡された食べかけのわたあめと、金魚すくいに夢中になり始めているあゆみとを見比べる。
見下ろす姿勢でいるせいか、アップにされている髪の後れ毛が項に伸びているのがよく見えて、
日頃は隠されているそれは妙な色香を含んで見せて、ちょっとだけめぐみも目のやり場に困って居心地が悪くなる。
夜になっても熱気はさほど冷めることもなく、あゆみの額にはうっすら汗が滲んでいて、
その健康的な艶やかさが、まためぐみの心臓を跳ね上げて。
直視しているとよからぬことを考えてしまいそうで、適当に視線を泳がせながらあゆみの横顔を眺めた。
そしてふと、預かったわたあめに目を向ける。
それは特有の甘い匂いをふんだんに振り撒いていて、
更にはあゆみの食べかけである、という不謹慎な誘惑も相乗効果となって、
おおっぴらに言葉に出来そうにないことを考えていためぐみの思考を増長させる。
控えめにひとくちだけを口に含むと、途端に口の中に甘い味が広がって、もっともっと、という欲求に繋がる。
なんだかそれは好きな人に触れることの出来たときの気持ちにも似ていて、
気付くと、預かったときの半分ほどまで食べてしまっていた。
- 814 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:47
- 「ちょっ、めぐちゃん?」
焦ったようなあゆみの声に我に返って、めぐみはすぐに自己嫌悪した。
「わ、わわ、ごめんっ」
わたあめでくるまれていた竹串の半分以上が見えているそれを受け取りながら、あゆみは唇を尖らせてめぐみを見上げた。
「ごめん、ひとくちだけのつもりが…」
「…もうほとんどないじゃん、ばかぁ」
「ごめんって、ホント。買いなおしてあげるからさ」
「……いいよもう」
預けたときの面影がまるでない残りを、一瞬の戸惑いのあとでそのまま無言で口に含み、食べ終えてから串を捨てる。
その動作を居心地悪く見ていためぐみは、周囲を見回し、まだ寄ってない店にあれこれとあゆみに誘ってみたけれど、
どうやら損ねてしまった機嫌はなかなか回復できないようで。
- 815 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:47
- 「……帰る」
「え?」
「もう帰る。お母さんたちにも、お土産買ったし」
「あ…、うん。わかった」
めぐみたちのほかにも帰ろうとする小さな子供を連れた夫婦やカップルはいたけれど、
そのどれもが楽しげな雰囲気を漂わせているのに、
ちょっとした油断と迂闊さが招いた事態で、数十分前とはまったく違う空気がふたりを取り巻いていた。
「…あゆみちゃん」
「…なに」
「ごめんね」
「もういいよ」
「や、でも、やっぱり買いなおして…」
「もういいってば」
あまりしつこいとますます機嫌を損ねてしまうのも目に見えていて、めぐみは自身の失態を心の底から悔やんでいた。
- 816 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:47
- 隣を歩くあゆみはずっと俯き加減に視線を落としていて、話し掛けるきっかけも作れない。
せっかく楽しくて特別になりそうな時間を共有できそうだったのに。
我ながら大人げないことをした、と、めぐみが大きく深く、息を吐き出したときだった。
その溜め息に弾かれたようにあゆみが頭を上げ、めぐみの着ている服の袖口を掴んだ。
「ん? なに?」
「…あ、あの…、あたし別に、怒ってるとか、そういうんじゃ、ないから」
「へ?」
「だ、だってめぐちゃんが…」
「私?」
めぐみを見上げたあゆみの頬が僅かに朱に染まった。
目が合って、気まずそうに俯かれて、めぐみの心音が期待を孕んで跳ねる。
- 817 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:47
- 「…あ、あたし、食べかけだったじゃん…」
たったその一言で、めぐみも感じた不謹慎な誘惑に思い至る。
「……なのにめぐちゃん、平気な顔してるから……」
袖口を掴むその手に、上からそっと、包み込むようにめぐみが自分の手を重ねると、あゆみの肩がびくりと揺らいだ。
熱気か、それとも不意に訪れた予想外の緊張のせいか、めぐみは自分の唇が渇いていることを自覚する。
俯くあゆみを下から覗き込むように見て、それでもまだめぐみと目を合わそうとしないあゆみに囁くように尋ねた。
「……あれも、間接キスに、なる?」
途端、あゆみの顔は夜の闇でもわかるほど真っ赤になった。
ぎゅっと目を閉じて、萎縮するように肩を竦ませるあゆみに、めぐみは、それまでとはまた違う感情に揺さぶられる。
重ねた手に思わずチカラがはいる。
込み上げる衝動にブレーキをかけつつ、空いた手であゆみの肩を撫でて。
- 818 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:48
- 「…ね、あゆみちゃん。ちょっと、顔上げて?」
めぐみの声に、あゆみはおそるおそる、顔を上げた。
その目にちゃんと自分が映っていることに何となく安心して、めぐみは柔らかく微笑んだ。
「…私だって別に、平気ってワケでも、なかったよ?」
「…? めぐちゃ…」
眉根を潜めたあゆみの不意をつき、周囲に人影がないのを確認して、掠め取るように、めぐみはその唇を奪った。
「…今ので、許して?」
ほんの一瞬の出来事のあと、めぐみは静かに告げて、そっと、重ねていた自分の手であゆみの手を握りしめた。
「帰ろ?」
半ば茫然としているあゆみの手を引きながら、ほんの一瞬だけ触れたあゆみの唇の感触を密かに味わう。
- 819 名前:夏祭り 投稿日:2006/07/30(日) 22:49
- 数歩歩いて、繋いだ手が僅かに後ろへ引かれた。
引力のままに振り向くと、あゆみが上目遣いにめぐみを見ていて。
「……許さないって、言ったら?」
思いがけない言葉が返ってきて目を見開いた。
オトナの余裕を見せてしまっためぐみへのささやかな反抗なのだろうか。
そんなあゆみさえ可愛くてたまらないのだと言ったら、あゆみはどう答えるだろう。
「許してもらえるまで、何度でも」
「…じゃあ、許さない」
上目遣いだった視線を、強く、まっすぐ、めぐみに向けて。
「だから、ずっと、何度でも、して」
命令のようなそれにめぐみが頷いてあゆみの手を握り返したとき、ふたりを包むように、夏の夜風が吹きぬけた。
end
- 820 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/30(日) 22:49
- おそまつでした。
- 821 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/01(火) 12:03
- どきどきしました。
夏寸前に読めて幸せです。
- 822 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 22:55
- 「わたしが勝ったら、ひとつお願い聞いてよね?」
- 823 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 22:59
- 久しぶりのライブハウスツアーの初日まで、後5日。一日の大半がリハーサルで
占められる。6月にライブはあったばかりだし、そう体力は落ちてない、と思っていたけど。やはりラ
イブハウス向けのものは動きがハード。もう少し前から細かい部分のリハはあったけど、全体を通
すようになると、流石に歩くのもキツいほどしんどかったり、した。
そんな中。同じ動きばかりだと身体が偏って疲れてしまうから、と。何故かスタッフさんが持ち込ん
できたのは卓球道具一式。確かに広いテーブルはあるから、適当に仕切り線を引いてしまえば即
席卓球台は出来る。でも、だからってわざわざハードなライブリハ(それも全通し)をやった「後に」
するかなあ。
- 824 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:00
- なんてことを思ってたのはどうやらわたし一人だけだったらしく、他の3人はなにやら興味津々と道
具を眺めている。特に一番運動量が多いはずの末っ子が、一番目を輝かせている。キミはフット
サルの自主練も同時並行でやってるくせに、まだ足りないのかね。
「温泉に来た気分だよねー」
とにこにこしながら真っ先にラケットに触ってるのはマサオくん。ひとみんも、「マッサージ行ってほ
ぐしてもらわなきゃ」なんて言ってたのがまるで嘘みたいに、ラケットで玉をついて遊んでる。で、い
つの間にやら羽根つきの要領でわいわいやり出す始末。
- 825 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:01
- どこにそんな体力残ってたんだキミらは?と思ってる間に。つかつか、とあゆみんが寄って来て。
びっ、と目の前に指を突き出して言ったのがさっきの言葉。
あのー、勝とうと負けようとキミのお願いは結局聞くことになるんだろうけど。
ていうか。そもそもやるともやらないとも言ってないのに
「先に10点取った方が勝ちだから」
有無を言わさずラケットを渡され、とっととテーブルの向こうに回られる。
いやまあ。やると言うならお相手しますが。もっとも、「うちに帰り着くだけの体力」と「明日以降の
本業に差し障らないだけの体力」は残しとかないと。……で、それと同じくらい大事なのが。この目
の前の末っ子のご機嫌を損ねないこと。
- 826 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:02
- といっても、決して彼女のコトを見くびったりしてるんじゃない。
大事でだいじでしょうがなくて。出来ればいつも笑っていてほしいから。願うことは全て、叶えてあ
げたいから。
「それをベタ惚れって言うんだよ」
とは、いつぞやマサオくんが呆れ顔で渡してくれた言葉だけど。ええまあ、「かあいそうたあ惚れた
てことよ」なんですよ。もう。
- 827 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:03
- そんなことをつらつら考えながらぽくぽくと相手をしてたら、あゆみんが鋭いサーブを打ち込んで来
た。ぬぬう、やるなあ。
「むらっち、ちゃんと本気でやってるの!」
いくら向こうが最近とみに運動モードだといっても、きちんと習ったことがなければ、玉は大きく円
弧を描いてしまう。台と平行に近くて、なおかつ鋭さを持つラリーを出すのは大人げないなあ、と思
ってたんですけどね。どうやら、やるならきちんとやれ、とのお達しが出たようです。
- 828 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:04
- 「ぬー。しばたくん、元卓球部員をナメちゃいけないよ?」
さてはて。どうしたものやら。
一度くらいは、際どいところに決めてみますかね。
「……!」
ありゃりゃ。まるでフットサルで1点決められた時みたいな顔してるよ。
ちょっとばかし、やりすぎたかなあ。
随分大人になった、とは思うけれども。やはり「悔しい」と思った時の表情は、出会った時の頃の色
を濃く残していて。これから年月を重ねていっても、そこは変わらないのかねえ、なんて、ちょっと
不思議な気持ちがよぎるですよ。
- 829 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:05
- その後はなるべく打ち返しやすいところに、やや甘めの玉を返してあげて。
それを彼女がまっすぐに打ち込んでくる、の繰り返し。
ただ、ワンサイドだとまたご機嫌斜めになるだろうから、ちょっと逆サイドに振ったりしながら。2点
差であゆみんの勝ち、になった。
「もー、くたくただよー。あゆみん、お願いきくから勘弁してよー」
- 830 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:06
- 実際、今日の体力はぎりぎりあるけど、明日に響きそうなくらい最後は夢中になってしまった。惚
れた弱みとはいえ、流石に聞けることと、聞けないことの分岐点が出来てしまいそう。でも「イヤ
だ」とは言えないしなあ……。
- 831 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:07
- へとっ、と座り込んだ右隣にあゆみんが回り込んできて。同じように腰を下ろして、こちらの息が整
うのを待つ。ん?と笑顔を向けたら、なぜかぐっ、と口を結んだ真剣な顔。少し首をかしげて、あゆみの言葉を待つ。
そして、静かに彼女の口からつむがれたのは
「むらっち、ごはん食べてよ」
のひとこと。なあんだ、それくらいだったらお安いご用ですよ。てか、そんなこと、これだけ一緒に仕事してんなら、仕事終わりに一緒にごはん食べるのはお願いされるまでもなく「当たり前」と思ってましたけど。こちらの甘えすぎですかね?なんて思ってにっこりしたら、表情はそのまま、その上両腕をがっちり掴まれた。
- 832 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:08
- 「……そうじゃなくて。リハが始まってから、むらっち、がくんと食べる量減ったでしょ?ちゃんと、見
てるんだよ」
食べられなくなる気持ちも分かるけど。でも、倒れたりされるのは、もっと嫌なの。
それと。そんな状況なのをしまいこまれるのも、なんだか嫌なの。
最後の一言は、ぎゅっと抱きしめられながら、耳元で囁かれた。
- 833 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:09
- 「……ごめんね、あゆみ」。
彼女の言わんとするところ、その気持ちが痛いほど分かったから。普段の愛称じゃなく、彼女の名
前をきちんと紡いだ。
ベタ惚れなのはこちらの方で。弱いのはこちらばかり、と思っていたけれども。彼女だって、見てい
るところはきちんと見てくれている。その上で、彼女なりのやり方で、手を差し伸べてくれたのだ。
- 834 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:10
- 「んじゃ、今日は遅いからダメだけど。金曜なら一緒に仕事が終わるでしょ?その後に、一緒にご
はん食べよ。あゆみが見てる前で、ちゃんと、食べるから」
きちんと目を見て、約束を差し出す。
やっとにっこりしてくれたな、と思いきや。
「その前に、明日のリハ中のケータリングも一緒に行くの。むらっち、マサオくんとかひとみんの余
りをつまんでどっか消えちゃうんだから!食べるのも仕事だって、忘れないでよね!」
再びおしかりを頂戴しました。でもまあ、それすらも「愛されてる証拠」と思えてしまうのは。やはり
惚れた弱み、ってやつなんですよね……
《END》
- 835 名前:I say a little prayer 投稿日:2006/08/18(金) 23:12
- 設定は「灼熱天国」ツアーリハ中の、村田さんと柴田くん、でした。
おそまつさまでした。
- 836 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/19(土) 19:05
- すごくリアリティのあるお話ですね。
かなり強引な柴田さんと、それに対して寛容な村田さん…最高です。
- 837 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:02
- あたしは短パンと少し伸びたTシャツのままキッチンにいた。
何の事はない、自分の家だし誰もいないし。
母親が見たらはしたない、とでも言うだろうか、いや言わないだろうな。
その辺特にこだわらないし。
一人暮らしをして数年経つ。ふと母親の事なんて考えてみたがすぐに思考は変わる。
冷蔵庫を開けて中を探る。最近買い物に行かなかったから冷蔵庫も空っぽに近い。
自分で作った方がお金も減らないんだろうけれど面倒ですぐに買って済ませてしまう。
手を伸ばして卵を手に取り貼ってあるシールを見る。賞味期限はもうすぐだ。
二つあったそれをあたしはおわんの端にぶつけて割る。黄身が二つ、あまりいきが良さそうじゃない。
それをぐるぐるかき混ぜてあたしは昨日の事をぼんやり考えていた。
突然さよならを言い出した恋人。
考えてみれば最近上手くいってなかったからまぁ言われても仕方ないと思っていた。
でも好きだったんだけどな。さよならを言われて情けない事にダメージを受けたのか一言も喋れなかった。
その姿を見て彼女は寂しそうに笑った。そしてあたしにこう告げる。
「やっぱりごっちんはあたしの事好きじゃなかったのね」
焼けたフライパンに混ぜた卵を流すとじゅわーっと音がして、あたしはそれをおもむろにかき混ぜる。
あたしはよく彼女に特製のオムレツをご馳走した。彼女はそれを美味しいと嬉しそうに食べていた。
そんなことを思うとなんだか作れなくなってぐちゃぐちゃにかき混ぜて、それはスクランブルエッグとなった。
- 838 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:03
- 焼いたパンとあまり美味しそうじゃない卵と牛乳をテーブルに置いて椅子に座る。
昨日の朝は目の前にいたのに急だよね。誰もいない椅子を見つめては小さなため息が出た。
テレビをつけてパンをほおばる。辛気臭いニュースがより一層心の中を暗くしたのですぐに電源を切った。
今日の予定はなんだっけ、特に何もなかったな。
そういえば美貴はデートだってメールが入ってた。話は出来そうにないな。
誰かに相談してももう遅いのかもしれないけれど、一人でいるよりはいいかも知れない。
あたしだってそれなりに傷とかつくし、弱ったりだってする。好きじゃないわけないのに。
牛乳を飲み干して少し乱暴に食器を流しに置いた。そんな音もよく響いて今のあたしをより不快にさせた。
二人で座るとちょうどいいね、と言われたソファーに座る。確かにちょうどいいね、二人だったら。
一人じゃ広すぎるソファーに横になってまた少し眠りそうになった。
眠ったら起きた時さらに落ち込みそうな気がしたから手を伸ばして眠気覚ましのガムを取る。
噛み始めたら思ったよりきつくてツーンとして涙が出そうになった。
振られても泣けなかったのにこんなので泣くのかあたしは。だからあんな事言われるんだよ。
自問自答したって自分を責める言葉とか相手を責める言葉とかしかでなそうなので思考を止めた。
ガムを噛んだまま考える。
彼女はいつでもあたしの事を好きだと言った。どんな時でも喧嘩しても「嫌いだけど好き」と怒っていた。
彼女の溢れるほどの愛情はあたしに凄く届いていたけれどあたしの愛情は届いていなかったのだろうか。
照れくさくて彼女よりも好きと言う言葉は少なかったと思う。
喧嘩した時はどうしたらいいかわからなくていつも無言だった。
今思えばこれが不安要素だったのだろう。
- 839 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:03
- 味のなくなったガムをティッシュに包んでゴミ箱へと捨てた。
あれはあたしだろうか。味がなくなって捨てられるガム。
…くだらない。彼女はそんな簡単な決断を下す人だとは思っていない。
納得してないなら会いに行けばいいのに。それも出来ないのは本当に弱っているからなのか。
隣に置いていた携帯が楽しい音楽を鳴らす。そういう気分じゃない。
けだるく折りたたみを開くとデートに行ってるはずの美貴からのメールだった。
「亜弥ちゃんと別れた?」
情報早いな。そりゃそうか、従姉妹じゃな。電話でなくメールという所が話も出来そうにないあたしへの配慮だろうか。
よく気がつく友達だ。でもあまりストレートに地雷踏むあたり配慮が足りないな。
右手を動かして文章を作る。さて、なんて送る?別れを切り出されてあたしは何の返事もしていない。
何も返事を出来ないまま、彼女は出て行ってしまったから。
頭では何も考えていないはずなのに指が軽快に動く。自分の事ながら気持ちが悪かった。
「別れてないよ、ただの喧嘩」
送信。
何送ってんだろう。未練がましい。でも否定する事しか出来なかった。
例えば今別れたら何事もなかったように生活は始まるんだろうか。
隣にいた人がいなくなっただけと割り切れるんだろうか。
そしてまた鳴る明るい音。
「そっか。なんか真剣っぽかったから心配になってさ。ごめんね、変な事聞いて」
わかったから。わかったからアナタはデートを楽しみなさい。
恋人の事思わないと振られちゃうよ、あたしみたいに。
- 840 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:04
- 携帯を投げ捨ててソファーにまた寝転んだ。
ガムの味ももう意味もなくなくなってすぐに眠れそうだ。夜眠れなかったから仕方ない。
目を閉じて静かな部屋の音を聴く。もっと何かの音が聞こえてもいいはずなのに無音だ。
耳を澄ますとただ一つだけ音が聞こえる。熱帯魚のエアーの音。ポコポコ水の音。
まるで海の上に浮いているようなそんな気分だ。
昨日の彼女の顔と笑う彼女の顔。水の中にいるはずなのにちらちらとちらつく。
もうあまり考えたくない。このまま水の中に沈んでしまえばいいのに。
少し経ってゆっくりと目を開ける。エアーの音じゃない。鈍い音がする。ざーざー。
外を見るとバケツをひっくり返したような雨が降っていた。
あぁ、これじゃデートも台無しだね。人のデートの心配できる立場かっての。
頭の中で自分が漫才をする。こんなキャラじゃないのに相当参ってるのか。
開いていた窓を閉めようと窓に向かうと外に黄色い傘が電信柱の隣で止まっている。
あの傘はあたしが彼女に買ってあげた、あたしの青い傘とおそろいのもの。
ぼーっとしてたのも覚めてどたどたとあせりながらあたしは玄関の扉をあけた。
あせって上手く履けなかったつぶれた靴と眠れなくて唸って横になってたせいでできた寝癖。
こんな格好悪い姿は見せた事がない。それなりに好きな人の前では気を使っていたつもりだったから。
アパートの2階から走って出てきたあたしを彼女は驚いた顔で見ていた。
- 841 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:04
- 「あ、あの…っ」
走ったせいで声にならない言葉とどうしようもない姿と。
それなのに彼女は呆れたように笑って雨に濡れてるあたしに傘を差し出した。
そのせいで少し自分も濡れてるのにそれも構わない様に。
「ごっちんかっこわるいね」
いじわるそうにあたしに言う。怒ってもいないし許してもいない声で。
「なんか連絡あるかな、とか思ったのに何もないとかほんとどーなのよ」
今度は少し怒った声で。でも語尾はなんとなく優しくて。
「本当はごっちんってこんなのだとかみきたんから聞いて全部知ってるのに
あたしの前でかっこつけるからこうなっちゃうんだよ」
きっと情けない顔をしてるあたしの鼻を人差し指で軽く突付く。
「…ごめん」
やっと出た言葉がこれなのかと心底自分に呆れたけど目の前の彼女は嬉しそうに笑った。
「別に試そうと思って別れるって言ったんじゃないよ。ただ本当にあたしは必要なのか知りたかった。
来てくれたら100点満点だったけどなんかそんなごっちん見てたらどうでもよくなっちゃったかな」
世間ではそれを試す、と言うのではないかと思ったけどそんな事は言わない方がいい事くらいわかってる。
- 842 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:05
- 「雨で濡れたら風邪ひくでしょ。おうち入れて?」
もうあたしは彼女の上に行くことはないんだろうと思ったけどかっこよく偽るよりはいいのかもしれない。
「…ちょっと散らかってるよ。昨日荒れたから」
あたしの言葉に彼女は目を丸くしてきょとんとした。
きっと想像できなかったんだろう。振られて暴れたあたしの姿なんて。
恥ずかしくて顔を隠すあたしの手を握ってまたもや笑う。彼女の笑顔は最大の武器だと思う。
「じゃぁ一緒に片付けよっか」
れっつごー、なんて言いながら元気に階段を上っていく。
その後姿を見て心底ほっとしてる自分に気がついてなんて情けないんだろうとまた思ってしまった。
扉を開けて「おおー、こりゃすごい」なんておどけた声も心地良い。
あたしは手を引っ張って引き寄せて抱きしめる。驚いたのか小さく声を上げたけどそんなのは気にしない。
向き合って抱きしめて、でもなんかほっとした事に力が抜けたのかずるずるとすべるように二人で倒れて。
冷蔵庫にもたれて抱きしめたままあたしは目を閉じる。
水の中、水の底。一人でなんか耐えられないよ。
目をゆっくり開けると甘えるように寄り添って同じように目を閉じている彼女。
そんな彼女の耳元で聞こえるように、聞こえて欲しいと呟く。
「ちゃんと好きだよ」
その言葉に静かに目を開けてあたしの目を見て照れたのかまた顔を隠してしまった。
素直になればこんなに喜んだ顔を見れる事あたしは知らなかった。
ブーン、とモーターの音の響く冷蔵庫と甘える彼女に挟まれてあたしもまた目を閉じた。
- 843 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:05
- 卵を買わないと。
オムレツが作れないよね。
- 844 名前:彼女 投稿日:2006/09/01(金) 00:07
- END
企画以外で久しぶりに書きました。
30分ほどで書いたものなのでスレ汚しすみません。
- 845 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/01(金) 00:20
- おもしろいよ
あやごまいいかもと思ってしまったw
- 846 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/02(土) 15:53
- わたしも、すごい面白かった。
また読みたいです。
- 847 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/03(日) 00:31
- 余程、a○koの影響を受けられたようですね
分かりやすい
- 848 名前:日常 投稿日:2006/09/19(火) 02:29
- 「ねぇ、今日夕飯なにするー?」
「あー、どうしよっか」
季節はもう夏から秋へと移り変わってきた時期。
そんな季節の中手をつないで並んで歩いて帰る私たちはこうして夕飯の相談なんかしながら
駅から家までの道のりをゆっくり歩いて帰るのが今じゃもう習慣。
なんかちょっとしたデートみたいですごく嬉しい。
最初は歩調がバラバラだった私たちも、すっかり同じ歩調。
恥ずかしがり屋のよっちゃんはずっと手をつなぐことにすごく照れてたんだけど
今じゃ自分から手を差し出してくれる。
- 849 名前:日常 投稿日:2006/09/19(火) 02:29
- 「んー、カレーとかどう?」
「それ先週食べたじゃない。」
「じゃぁ…シチュー」
「それあんまり変わってないって」
「あー…じゃハンバーグ!」
「ハンバーグかぁ…確かお肉ウチにあったし…じゃハンバーグにしよっか」
「やった、久々に梨華ちゃんのハンバーグ食べれるー」
「その代わりよっちゃんも手伝ってよ?」
「へーへー、分かってますよお姫様。」
「んもう…調子いいんだからぁ」
そんなとこも好きだけど…なんて言わないけどね。
絶対調子に乗るから、このヘタレ星人は…
- 850 名前:日常 投稿日:2006/09/19(火) 02:29
- いくら数分の道とはいえ
夕方から夜に変わっていく時間だから風も少し冷たくなってきた。
それなのに半そでなままの私は当然寒く感じてるわけで…
「ハ、ハクッシュン!」
「あーぁ、んな薄着してるから」
呆れ顔ながらも
よっちゃんは素早く羽織っていた黒のジャケットを脱いで私に着せてくれた。
「え、でもそれじゃよっちゃんが風邪引くよ?」
「アタシは大丈夫。だから梨華ちゃんは羽織ってなさい」
「…ありがと。」
「ん」
ぶっきらぼうな返事だけど
優しく笑ってぽんぽん頭撫でて
何も言わずにまた手を握りなおしてくれるよっちゃんに
あぁ、私って愛されてるんだなぁってついついうぬぼれちゃう。
- 851 名前:日常 投稿日:2006/09/19(火) 02:30
- 「もーすっかり秋だなぁ」
「ねー。もう少しで満月だし。」
「じゃあお月見しなきゃ、お月見」
「えー、本気?」
「本気本気、やっぱ日本人ならお月見はかかせないって」
「日本人ならって…」
「いいじゃん、梨華ちゃんの大好きな白玉も用意しようよ。」
「ホント?じゃぁするー」
「ハハ、白玉でるからするって単純だなぁー」
「なによー、よっちゃんに言われたくないわよ!」
「なぁにー?」
「ちょっとー、くすぐったいって!」
「アハハッ」
こんな風にふざけあって今日も一日が終わっていく。
いつも通りの日常。
いつも通り夜越え朝が来る。
これから何回よっちゃんとこんないつも通りの日常を過ごせるのかな?
- 852 名前:日常 投稿日:2006/09/19(火) 02:32
- 「ねー、よっちゃん。」
「んー?」
「あのね、愛してる。」
「んぇ!?なに急に」
変な声だしてよっちゃんはすごく驚いた顔した。
そりゃそうだよねー、急に言われたらびっくりするよね。
でも急に言いたくなっちゃったんだもん。いいじゃない?ね?
そういったらよっちゃんは照れくさそうに笑って私を引き寄せて
「アタシも、愛してるよ」
って耳元でささやいてくれた。
くすぐったっかったけど、今日もまた少しよっちゃんに近づけた気がする。
うん、やっぱこういうのっていいな。
- 853 名前:日常 投稿日:2006/09/19(火) 02:33
- どんな風に未来が続いていくのか分からないけど
この先もずっとこうやって当たり前に手をつないで歩いて
明日も これからもずっと 昨日より もっともっと アナタと笑えたらいいな
なんて思ったいつもの日常。
今日も私は幸せです。
- 854 名前:日常 投稿日:2006/09/19(火) 02:35
- ENDです。
なんか思いっきり思いつき書きでした。
お邪魔しました。
- 855 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/09/19(火) 12:21
- ほのぼのとして良いっすねー
二人の日常ってこんな感じかもって思いました。
まぁ自分の願望も入ってるかも...
- 856 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/19(火) 20:43
- お疲れ様です。
いいですねー。ほのぼの“いしよし”心が暖かくなりました。
素敵な作品をありがとう。
- 857 名前:曇り空の下 投稿日:2006/10/03(火) 04:12
-
「雨の匂いがする」
松浦の少し前を歩いていた藤本は突然立ち止まって言った。
その背中に追いつき、藤本の真似をして空を見上げる。どんよりとした鼠色の空。
「何よいきなり」
「本当だって、美貴鼻いいんだって」
「鼻炎持ちの癖に?」
からかう様に言うと藤本は顔をしかめて無言のまま歩き出した。
空から目を離して背中を追いかける。
「歩くの早いって」
随分と先を歩いていた藤本に声を掛けると「亜弥ちゃんが遅いんじゃないの?」と妙に冷たい声で返事が返ってきた。
少しムッときて藤本を背後から羽交締めにする。
前へ進もうとしていた所を急に拘束された藤本はバランスを崩して道端に倒れた。それにつられる様にして松浦も倒れ込む。
顔を上げた藤本の眉間に皺が寄る。何かを言おうと口が開くその前に松浦はニャハハと笑った。
眉間に寄っていた皺が消え、藤本は呆れ顔で松浦を見る。松浦はやはり変な声で笑っている。
おかしくなって藤本もプッと吹き出した。
「美貴たんココ汚れてるー」「亜弥ちゃんだって汚いよ」立ち上がって互いを指差し合いながら乱れている服を直す。
- 858 名前:曇り空の下 投稿日:2006/10/03(火) 04:13
- 「見てコレ、すんごいブツブツ」
藤本が手の平を見せる。アスファルトの跡がくっきりと残り凸凹している。
松浦が覗き込むようにして見ているとそこに小さな水滴が落ちてきて、二人同時に空を見上げた。
「・・・雨?」
「雨だね」
空から視線を下ろして二人の目が合う。松浦を見て藤本は勝ち誇った様に言った。
「言ったっしょ?雨の匂いがするって」
「・・・別に嘘、なんて言ってないもーん」
拗ねた様に言うと藤本はサラッと笑って松浦の頭を撫でた。
「早く帰ろ、濡れちゃう」
藤本の提案に松浦は笑って応えた。
手を繋いで帰る秋の夕暮れ。しとしと降り始めた秋雨が二人をゆっくり静かに濡らしていく。
- 859 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/03(火) 04:14
- 終わり
- 860 名前:アホの背中 投稿日:2006/10/04(水) 06:02
-
ひーちゃんは肌が白い。背中だって馬鹿みたいに白い。そして太陽の匂いがする。いい匂い。そして白い。
陶器のように滑らかで透き通るように白い。だけどただ白いだけじゃない。
その背中には、ちょうど両方の肩甲骨辺りに傷がある。ハの字型の傷。
「どうしたの?」と聞くと「天使業クビになっちゃったから羽根?ぎ取られちゃったの。神様に」なんて言うから一発殴ったら「バレー頑張りすぎて肺に穴開けちゃって」とカラカラ笑った。いくら大好きだからって穴開けるまで頑張るなんてアホだ。
その時は何となくノリで殴ってみたけれど改めて見てみると羽根を取られてしまった痕の様に見えないことも無い。
背中に羽根が生えているところを想像してみた。うん、中々様になっている。綺麗な後姿だ。
振り向いて・・・ダメだ、コイツが天使なんかになったらこの世は滅茶苦茶だ。その厭らしい顔で笑うのを止めろ。あーダメダメ。
アンタは悪魔の方がお似合いだよ。その白い肌が、お日様の匂いがする背中が勿体ない。
「うーん、亜弥重いぞー」
背中に顔を埋めてクンクンしてたらひーちゃんが声を出した。背中から響いてきてなんだかくすぐったい。
顎で背骨の辺りをグリグリしてやった。あたしが重いなんてなんて馬鹿な事を言うんだコイツは。
「あ゛あ゛あ゛あ゛」なんて変な声を出してひーちゃんはあたしを叩く。しょうがないので退いてやった。
「何すんだよいきなり」
「んーなんとなく?」
「なんとなくじゃねーべ、お前最近太ったろ」
カッチーン。側にあった枕を掴んで投げつける。ひーちゃんは顔面で枕をキャッチして倒れた。やった。
ひーちゃんは枕を引き剥がしてむっくり起き上がると枕を投げ返してきた。あたしは顔面なんかじゃなくちゃんと両手で受け止める。へへーんだ。
- 861 名前:アホの背中 投稿日:2006/10/04(水) 06:02
- 「もうお前出てけ」
ひーちゃんはしかめっ面をしてだるそうに言った。ちぇっ、何だよ冷たいな。
「ヤダ。だって暇だもん。相手してよ」
「お前が暇でも私は忙しいの。ほら、行った行った」
何が忙しいだよ。大して用事なんてないくせに。ばーかばーか。
ベッドの上でいつまでもグズってたらひーちゃんに落とされた。そしてしっしっと追いやられる。
なんだよ、つまんないの。
「じゃあまたねー」
しょうがないから出て行こう。バイバイと手を振るとひーちゃんは「もう二度と来るな」なんて冷たい言葉を言ってのけた。
ムカついたから思いっきりドアを閉めてやった。ばーか、ひーちゃんなんて大嫌いだ。
二度と来るな、なんて、あたしだって二度と来たくなんか無いよ。最近のひーちゃんは冷たいもん。ばーかばーか。
玄関で靴を穿いているとひーちゃんのお母さんが出てきた。私にとってはおばさんだ。
「あら、もう帰っちゃうの?」
「うん、ひーちゃんが出てけって言った」
「何あの子、亜弥ちゃんにそんな事言うの?あらーヤダわぁ」
「ううん、いいの。いつもの事だし」
あたしが言うとおばさんは申し訳なさそうに笑った。「お邪魔しました」と挨拶をして外に出る。
道路からひーちゃんの部屋が見える。窓開けっ放しだ。カーテンが風にヒラヒラ揺れている。そうだ。
「ひーちゃんのばーか!!!」
思いっきり叫んで走った。電柱の陰に隠れて様子を伺う。ホラ、出てきた。
サラサラの金髪頭を窓からヌッと突き出してキョロキョロしてる。馬鹿だコイツ。
「亜弥のアホー!!!」
「コラッ!!大きな声出さない!近所迷惑でしょ!!!」
親子は親子。2人とも馬鹿だ。その親戚に当たる私はどうなんだろう。まあいいか。
何だか気分が良くなってひーちゃんの家を後にした。
- 862 名前:アホの背中 投稿日:2006/10/04(水) 06:03
-
家に着いてから思い出した。そう言えばあたしは振られてしまったのだった。
長年の片想い、なんかじゃないけれど、結構大好きな奴に勇気を出して告白してみたらあっさりと振られてしまった。
本当にあっさりとしていて、なんだか笑いたい気分だった。けれどやっぱり笑えなくてそれでひーちゃんの家に行ったのだった。
そうだ、私は振られてしまったのだ。
なんとなく家の中に一人でいるのが嫌で、もう一度外に出た。
空は青い。太陽の光が眩しくてひーちゃんを思い出した。
一人でブラブラと歩いていると後ろから自転車のベルが聞こえた。チリンチリン。なんだよもう、貴方が私を避けて行けばいいでしょう。
少しだけ脇に退いた。チリンチリン。自転車のベルはまだ鳴っている。なんだよもう、しつこいなぁ。私は立ち止まって振り向いた。
「ヘイヘイそこのお嬢さん、俺のジャガーが呼んでいる。一緒に海まで行かないか?」
「・・・どっから拾ってきたのそれ」
「ん?駅前」
振り向いた私の前にいたのはおんぼろのママチャリに跨ったひーちゃんだった。
「ジャガーって何よ、ただのママチャリじゃん」と馬鹿にすると「こいつの名前はジャガーだ。今命名した」とニヤニヤ笑ってベルを鳴らす。うるさいなぁもう。
「海までは行かないけどどっか行って」
「なんだよどっかって」
ひーちゃんは呆れたように笑う。
私は無視して後ろの荷台に跨った。腰に手を回して背中に顔をくっつける。
お日様が当たっていた背中はポカポカして暖かい。いい匂いがする。
「お前やっぱ重くなったよ」
失礼な事を言うので頭突きした。
「ぐへっ」とひーちゃんは変な声を出す。
「早くどっか行って」
「ヘイヘイ分かりやしたぁ」
- 863 名前:アホの背中 投稿日:2006/10/04(水) 06:03
- おんぼろのママチャリはペダルを漕ぐたんびにギィギィ言う。それはおんぼろだからであって、決して私が重いわけじゃない。
ひーちゃんはさっきから黙ったまんま自転車を漕いでいる。私はひーちゃんの背中に頭をくっつけたまま流れる景色をぼんやり見てる。
「亜弥、なんかあった?」
暫くしてようやくひーちゃんが口を聞いた。背中から聞こえる声はごわごわしていてくすぐったい。
私は背中から頭をしてひーちゃんを見るけどひーちゃんは前を向いたまんま。
「別に何も?」
「・・・お前は嘘つくのが下手だよ」
ひーちゃんはずるい。
いつもはアホで馬鹿で変態で親父なクセに、こういう時に限ってなんだか真面目な事を言う。
それがムカつくし少し悔しい。しかもやたら声が優しいんだ。
いつもならそう、本当に悪魔のように嫌味な奴なのに天使みたく優しくなる。卑怯だ。
ズルイよ、泣いてしまいそうじゃないか。
「・・・振られちゃったよ、ひーちゃん」
涙がポロポロ溢れてきてひーちゃんの背中に顔を押し付けた。
心臓の音が聞こえる。ドクン、ドクン。何だよチクショウ悲しいなぁ。涙が止まらないよ。
ひーちゃんの背中は温かくて大きくてお日様の匂いがして私はギュッと顔を押し付けた。
「お前背中に鼻水つけるなよ」
くそ、やっぱり嫌な奴だ。鼻水つけてやる。グリグリ。
- 864 名前:アホの背中 投稿日:2006/10/04(水) 06:04
- 「・・・ダイジョブだって、お前はスゲーいい女だよ」
「ひーちゃんに言われてもあんまり嬉しくない」
「何言ってんだ、恋愛大臣の私が言うんだから間違いないさ」
「何よ、恋愛大臣って」
ひーちゃんは私の質問には答えずに鼻歌を歌いだした。心なしか自転車の進むスピードが早くなってるような気がしなくもない。
私はひーちゃんの背中に抱きついた。過ぎていく風は冷たいけれどひーちゃんの背中は温かい。
「ひーちゃん」
「んー?」
「・・・ありがとうね」
「・・・おぅ、いいってことよ」
背中から聞こえてくる声はやっぱりごわごわしてくすぐったくて変な感じがしたけれど温かくて優しかった。
ひーちゃんは前を向いたままやっぱり鼻歌を歌っている。
別に振られた傷が癒されたわけじゃないけれど妙にスッキリして私はひーちゃんの腰から手を離して両手を広げてみた。
「お前危ないよ」
「前見ろ!アンタが危ないよ!」
振り返ろうとするひーちゃんを制して私は首だけで振り向いて後ろを見た。
ホラ、天使だ。
前方に沈んでゆく太陽。その光が落とす影はひーちゃんの背中に羽根を作っていた。
ありがとうね、ひーちゃん。
背中に顔を押し付けて鼻をクンクンする。ひーちゃんの背中はやっぱり太陽の匂いがして鼻の奥がツンとなった。
- 865 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/04(水) 06:04
- 終わり
- 866 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 04:45
- すごく良かった
- 867 名前:馬鹿と煙 投稿日:2006/10/19(木) 12:15
-
上昇気流に飛び乗って
- 868 名前:馬鹿と煙 投稿日:2006/10/19(木) 12:15
- 目が覚めると身体が透けていた。目の前に両手を翳すとその向こう側が見える。
一瞬パニックに陥ったが、これはこれで悪くないと思うとスッと冷静になれた。
母に挨拶しなくては。階下へ降りると母は慌ただしく動いていた。父と弟達のお弁当、それと朝食を作っているようだ。
「おはよう」と私は言ったが母には聞こえていなかったらしく何も返事は無かった。
今朝のメニューはどうやらご飯と納豆とお味噌汁のようだ。朝はベーグルから始めたい私にとってはノーサンキューなメニューだ。
「朝ご飯いらないから」私は母に言った。母はやはり聞こえなかったらしくお弁当を手早く包んでいく。
忙しいのだからしょうがないか。お味噌汁の香りを肺いっぱいに味わって私は自分の部屋へ戻った。
窓から外を見ると、とても天気が良い。窓を全開にしてベッドに腰掛けた。開け放した窓から入って来る風が心地良い。
一際大きな風がやって来てカーテンをばたつかせた。その瞬間、私の体がフワリと浮いた。妙な浮遊感に少しだけ気分が悪くなる。
なんだこれは。私は一体どうしてしまったのか。浮いてしまったと言うのはただの気のせいなのか。私は確かめてみる事にした。
大きな風がやって来るのを待ち、来たと同時にジャンプしてみる。私の体はフワッと浮いて風に乗った。本物のウィンドサーフィンだ。
次から次へとやって来る風に乗った。コツを掴み、小さな風にも乗れるようになった。
そうすると部屋の中であると言う事が大層勿体なく感じられた。風に乗ったまま外に出る事は可能だろうか。
私は風の上を渡り歩き、窓から外へ出た。
部屋の中とは違い何の囲いも無い空はとてつもなく広く、少し感動してしまった。
次から次へと風へ飛び乗り、ふと横を見ると雲があった。私は一体どこまで高く昇って来てしまったのだろう。下を見た。
その瞬間、あまりの高さに目が眩み身体が竦みバランスを崩してしまった。バランスを崩した私の身体。真っ逆様に落ちてしまうのだ。
と思ったけれどそんな事は無かった。バランスを崩した変な格好のまま私は宙に浮いていた。
風に乗らなくても宙にいられる事は分かった。けれどもうあんな恐ろしい思いはごめんだ。私は慎重に高度を下げていった。
- 869 名前:馬鹿と煙 投稿日:2006/10/19(木) 12:16
-
小さな点としか認識出来なかった物が建物だと分かる位置まで降りて来た。
昼下がりの道路には人々の往来が見られる。けれど地上の人間は地上にしか興味が無いらしく誰も私には気付かない。
面白いようなつまらないような変な感じだ。風に乗らずに空を歩くコツは掴んだ。私は空中散歩を楽しむ事にした。
暫く歩き回っていると大きな建物を見つけた。どうやら病院のようだ。最上階の窓が一つ開いている。
ただ歩き回るという事に飽き始めていた私はこりゃ幸いとその窓から病院の中へ侵入した。
その病室には沢山の人がいた。皆で一つのベッドを取り囲むその光景はどこか異様だ。
囁き声と啜り泣く声が止む事無くひっきりなしに聞こえている。ベッドに群がっているのは女の子ばかり。中、高生くらいか。
病弱なクラスメイトのお見舞いにでも来たんだろうか。
しかしこんなに沢山来てくれるなんて、きっとクラスでも人気者で可愛い子なのだろう。ちょっと見てみたいな。
私は窓枠から腰を上げると天井近くをフワフワと移動して、皆に囲まれている病弱なクラスメイトを見た。
そこにいたのは私だった。
- 870 名前:馬鹿と煙 投稿日:2006/10/19(木) 12:17
- なぜ私が?私はここにいるのに!
私は私を取り囲んでいる人達をもう一度見る。ミキティ、がきさん、小春、梨華ちゃんに飯田さん。
うわぁ、なんてこった。ハロプロメンバー勢揃いじゃないか。
皆の輪の一番外れた場所にいた田中に話し掛けてみる。けれど田中はグズグズと泣くだけで私には目もくれようとしなかった。
次いでごっちんに話し掛ける。
聞いているのかいないのか、大きな目に涙を浮かべてどこか怒っているようにベッドの上の私を睨んでいる。
何だよ、私はここにいるよ。気付かせようと肩を叩いた。けれど私の右手はごっちんの身体をスッと通り抜けただけだった。
なんだこれ。どうしてしまったんだ。もう一度ごっちんに触れてみる。何の感触もない。
ごっちんの左肩の辺りから私の右腕が生えている。ヒラヒラ振るとごっちんの肩甲骨から鎖骨から私の指が現れる。なんなんだこれは。
私は誰彼構わず触りまくった。けれど何にも触れなかった。小春を思い切り抱き締めてみたけれど自分の体を抱くだけだった。
なんなんだ、どうしてしまったんだ。何か触れる物は無いのか。私は再び宙に浮いて考えた。
壁はどうだろうか。思い付いてやってみたが隣りの病室に入ってしまった。つまり擦り抜けてしまったのだ。私は途方に暮れてしまった。
私はここにいるのに、誰も気付かせる事が出来ない。宙に浮かんで胡座を掻いたままベッドの上の私を見た。
どうやら眠っているようだ。目を閉じている。何故お前がいるのだ。私はここにいるのに。
お前のせいで誰も私に気付いてくれないじゃないか。そこでふと思い出した。
私は私に触っていない。私は私に触れるだろうか。やってみよう。
私は水泳選手よろしくポーズを取るとベッドで横になる私のおヘソ目掛けて飛び込んだ。
- 871 名前:馬鹿と煙 投稿日:2006/10/19(木) 12:18
-
目が覚めるとそこは病室だった。
消毒の匂いと白い天井。腕から伸びる幾つもの管。頭がぼんやりする。
霞掛かった頭にやたらエコーの効いた声が聞こえる。薄く開いた視界が白から黒に染まっていく。
「ひとみ!!」
あぁ、母の声だ。一際はっきりとしたその声に目を開く。
黒に染まったそれは沢山の人の顔だった。皆一様に目が赤い。泣いていたのだろうか。
そういえば私の身体はどうなっている?さっきまで透けていたんだけど。
目の前で両手を翳して見る。そこにあったのは私の白い手。向こう側の天井は見えなかった。
血液が逆流して透明の管が赤く染まる。そっと腕を下ろした。回りを見渡して、ごっちんと目が合った。
さっきは触れなかったんだっけ、今はどうだろう。そっと腕を上げると伸びて来るごっちんの手。暖かい。ちゃんと触れてる。
安心して目を閉じた。途端ワーキャー騒がしくなる。五月蠅い。声は聞いてくれるだろうか。
「う・・・うるさい」
掠れた声で皆が黙り込む。
そこへ見慣れない白衣の男性が現れた。きっとお医者さんだろう。仲間達は部屋を出ていく。
- 872 名前:馬鹿と煙 投稿日:2006/10/19(木) 12:19
- 父、母、弟達とお医者さん。何を話しているのかは聞こえない。私は首を横にして窓の外を見た。
私はついさっきまであそこにいたのだ。あの空に。やがて話が終わったのかお医者さんが出ていき、父と弟が出ていった。
窓は開いている。そこから大きな風が入って来た。けれど私は浮かなかった。沢山の管で繋がれていたのだ。
「窓閉めようか」と母が立ち上がるのを制して「喉が渇いた」と訴えた。
母は笑って「それじゃあ買って来るわね」と部屋を出ていった。扉が閉まるのを確認して私はベッドから起き上がった。
腕に絡み付く沢山の管を毟り取る。窓は開いている。風も上々。私は行くのだ、もう一度。
風に乗って高い所へ、空を歩くのだ。私は窓枠に手を掛けて風が来るのを待ち、そして踏み出した。
けれど私はもう空を歩く事が出来なかった。白い煙になって風に乗ってどこまでも高く高く昇り続けるしか出来なかった。
- 873 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/19(木) 12:20
- 終わり
- 874 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:44
- 艶っぽい雰囲気を出してくれればいいよ、って言われた以外、特に指示はなかった。
カメラが回ってる。
見守るスタッフは、気のせいかいつもより少し多い。
そんな中で彼女とキスをするのは、たとえ演技で仕事だとわかってても、正直、イヤだった。
ふざけあった末に起きたアクシデントのような、軽めのそれとは違う。
ただでさえ普段から気持ちを抑えてる。
大親友だと豪語する相手を前にして、仕事とプライベートを混同しがちな現在、
たとえ演技だと言われても、触れ合ったところから本心が伝わってしまわないなんて言い切れない。
- 875 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:44
- 曲が流れ出し、それに合わせてあたしは表情だけでなく、手や視線で動きをとった。
そんなあたしを追うように彼女も視線をカメラに投げる。
あたしを見て微笑む。
あたしに触れてくる。
最後のフレーズを歌いきり、あたしを見つめてくる彼女の顎に手を伸ばす。
軽く持ち上げると、彼女はゆっくり目を伏せて。
目を閉じている顔を至近距離で見るのは寝顔で慣れてるはずなのに、
薄く開かれている唇から微かに漏れた吐息にカラダが火照る。
彼女と同じようにあたしも目を閉じるべきだったかも知れない。
だけど、目を閉じてしまうにはもったいないほどあまりにもキレイな彼女の顔に、唇が触れた瞬間、意識は飛んだ。
- 876 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:45
- 上唇を挟むように、啄ばむように触れた。
ほんの一瞬、触れるだけのキスでいいとわかっていても、彼女の唇の熱は思っていた以上で。
目の前に見える長い睫毛が震えたように見えて余計に気持ちが昂ぶり、
無意識に舌先が彼女の上唇を舐めてしまったとき、顎を引かれたと同時にカットの声がかかった。
声にハッとして彼女から離れたとき、彼女は眉尻を下げながらあたしを見つめていて。
こんなの演技じゃない。
ダメだ、バレた。
- 877 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:45
- 「チェックしまーす」
スタッフさんたちの声に従って、彼女を残したままセットのベッドから降り、
チェック用のモニタの前に用意された椅子に座る。
そのあたしをすぐに彼女は追いかけてきて、何も言わずにあたしの隣の椅子に座った。
でも彼女が見てるのはモニタの画面じゃない。
名を呼ぶことも、触れてくることもなく、ただじっと、あたしの横顔を見つめている。
彼女に振り向かない、あたしの横顔を。
- 878 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:45
- 一通り流したあとOKサインが出て、撮影終了の声がかかる。
「お疲れさまでしたー」
労う声を背中に聞きながら、あたしは彼女から逃げるように控え室へ向かった。
もうダメだ。
今まで築き上げてきた関係はもう崩れる。
どんな顔して彼女と向き合えばいいのかわからない。
気まずくなったとき、今までのあたしは、どうやってはぐらかしてきたっけ?
今までずっと、溢れ出しそうになるたびに曖昧に誤魔化して、
本当のところは気付かせないで適当にやり過ごしてきたはずなのに。
たとえ仕事だって言われても、引き受けるんじゃなかった。
彼女が面白そうだと言ったからって、承諾なんてしなきゃよかった。
- 879 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:45
- 「亜弥ちゃん、待って」
控え室のドアを開けたとき、彼女はあたしを追いかけて既に背後まで来ていた。
呼ばれても振り返らずに中に入り、メイク落としのために用意されていた蒸しタオルを取り出して椅子に座り、
背凭れにもたれながら、彼女と目を合わせなくて済むように顔の上半分を隠すようにしてそれを乗せた。
同時にドアの閉じる音と、続いて聞こえた鍵の閉まる音。
さっきのあたしの態度の意味を、はっきりさせたがっているのが伝わってくる。
「…ねえ、亜弥ちゃん…。さっきのってさ…」
ああ、どうしよう。
今更、どんな言い訳も思いつかない。
どんな嘘も、もう通用しない。
「……たんの好きなように解釈していいよ」
こうやって強がることしか。
- 880 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:45
- くっ、と、彼女が息を飲んだのが空気に伝わった。
顔を上げて、彼女の顔を見るのが怖い。
こんなことで彼女はあたしを嫌いにはなったりしないって、バカみたいにそんな自信はあるけれど。
近付いてくる気配に気付いても、身動きはとれない。
あたしに許されているのは、彼女から下される審判を聞くことだけだ。
目を閉じて蒸しタオルを乗せていたせいで、
彼女が近付いてきたのはわかっても何をしようとしているのかは読めなかった。
だから、すぐには、あたしの唇を塞いだものが何かわからなかった。
でも、一瞬後には、その感触が、自分がさっき覚えたものだと思い至る。
思わず上体ごと起こしたあたしの視界には、唇のカタチをへの字にしてあたしを見下ろしている彼女がいて。
- 881 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:46
- 「…意地悪なこと言わないでよ」
「え?」
「美貴の好きなように解釈しろって、そんなの、答えなんてひとつじゃん。ずるいよ」
さっき見たときよりも更に眉尻を下げた彼女の声が涙声に聞こえた。
「…そりゃ、引かれたらイヤだからいつも冗談ぽく言ってたけどさ、それでも、いつもいつも言ってるのに」
あたしの肩に額を押し付けて。
「ずっと亜弥ちゃんが好きだって言ってきたじゃん」
あたしの腕を掴んでそう言った彼女の手は、小刻みに震えていた。
「…亜弥ちゃんのことが、好きなんだよ」
同じ言葉をもう一度言わせてしまった自分に苛立ちながら彼女の腕を掴み返す。
緊張と嬉しさとが入り混じってドキドキと跳ね上がっていく心臓の音には、気付かれないようにして。
- 882 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:46
- 「…あたしも、何度も、言ってる」
弾かれたようにあたしを見た彼女は少し潤んだ瞳をしていて、泣きそうになるのを堪えるようにまた下を向いた。
「たんが思ってる以上に、たんのことが好きだよ」
見える旋毛に唇を近づけて、腕を伸ばして彼女を抱き寄せる。
「……不安にさせた?」
あたしの背中にまわされた戸惑いを孕んだ気弱なチカラがその言葉で強まる。
「…ごめん、もう不安にはさせないから」
ゆっくり上体を起こした彼女が僅かに唇を尖らせ、上目遣いであたしを見つめる。
「だったら、さっきのキスの続きして」
「え?」
「さっきの、前にしたようなキスじゃなかった」
「前って、あれは…」
「だから」
- 883 名前:kissing you 投稿日:2006/10/26(木) 23:46
- きっと、こんなことを言うのは彼女だって不本意なのだろう。
それでも彼女は言うのだ。
相手が、あたしだから。
「友達のキスじゃなくて、もっと本気の、恋人のキスしてよ」
友達じゃない、あたしだから。
「…なら、目閉じな」
半ば命令口調だったのにもかかわらず、一瞬の躊躇のあと、彼女はゆっくり瞼を下ろした。
そしてあたしは目を開けたまま、少し頬を染めた彼女のキレイな顔を眺めながら、静かに顔を近づけた。
end
- 884 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/26(木) 23:46
- ありきたりな展開でゴメンナサイ
- 885 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/27(金) 00:23
- 亜弥ちゃんおっとこまえー
超かっけー
- 886 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/27(金) 09:28
- ハァ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━━━━━━━━━━━━━ン!!!!!
- 887 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/27(金) 13:06
- あの寸止めのPVがそんな風にしか見えなくなって困るよ。
いやむしろありがとうございます。あやみきだいすっき。
- 888 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/10/27(金) 17:52
- 寸止め?
君は見ていないんだねw
アイチューンにリアルチューPVあるから買ってくださいw
- 889 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/27(金) 17:53
- あっ888ゲット
誰かみきあい書いて下さーい(切実)
- 890 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/27(金) 17:55
- 上↑↑↑
しくじった
- 891 名前:887 投稿日:2006/10/28(土) 15:36
- >>888
ようつべで見た!見ちゃった!!
ほんとにやっちゃってるよ!!
作者さん、ほんとこの話のまんまな気がします…
- 892 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:25
-
初めてその髪を目にした時「ライオンみたい」と思ったままを言葉にしたら、
彼女は眉尻を下げながら怒ったふりをした。
- 893 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:26
-
エレベーターの前でついさっき楽屋でバイバイを言った相手を見つけた。
最近変えた髪の色が目立ちすぎるその人は、
ケータイを耳に押し当てて電話中みたいで。
あたしは、声をかけようと上げてた右手を下ろした。
「うん。…うん、そうだよ」
声が聞き取れる距離まで近づくと彼女があたしに気付いた。
「あっ」って小さく声を上げてケータイを持ってない方の手をあたしに向けて軽く振る。
応えるようにあたしはにこりと笑ってみせて、
すぐに自分の頬の緩み方にぎくりとした。
仕事上、笑顔を作るのは少しも苦じゃない。
だけど今の笑みは、それとは別の、挨拶とも別の、もう少し複雑な気持ちが意識せず滲み出てた気がして。
慌ててそれ以上の営業スマイルで覆い隠す。
横に並ぶとさっきよりも彼女の声がよく聞こえる。
「うん?今のは、ちょっとね。…うん」
通話を続けながらも、気遣わしげな視線を送ってくる隣の人に、
「気にしないで」ってジェスチャーすると、彼女はケータイを持ってない方の手を口の前に立てて「ごめん」のポーズ。
- 894 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:26
-
「あ、うん。うん、…わかった」
ふと彼女の声音が変わった。
十分に注意を払ってなきゃ気付かないような小さな変化。
だけど、あたしにはすぐに分かったしまう、変化。
彼女が少しだけ視線を伏せた。
その顔にゆっくりと笑みが広がっていく。
あたしはそれを横目で見ながら、胸に湧き上がる気持ちを自覚する。
「うん。…じゃあね」
その声は、笑みに負けないくらい甘く響いて。
どくりと心臓が騒いで、ずくりとココロが痛みを訴える。
そんな彼女の仕草だけで、あたしはそのケータイの向こうの相手が誰だか分かってしまった。
だって、彼女のあの甘い表情を引き出せるのは世界でただ一人、あの子だけだから。
そして、その理由をあたしは十二分に理解してる。
彼女には見えないように体の影に手を隠して、ぎゅうと握りこんだ。
- 895 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:27
-
耳から離したケータイをぱたんと折りたたんで、
くるりとあたしに向き直り、にこりとした彼女。
「さっきぶりだね亜弥ちゃん」
ほら、その笑顔。
綺麗なそれは、だけど、さっきのそれとは決定的に違う。
そんなことを、今更再確認して少しだけ傷ついた。
でも、そんなのは少しだって表に出さずに、あたしもにこり。
ポーカーフェイスはこの仕事について一番始めに身に着けたものだ。
「だね。梨華ちゃん」
梨華ちゃんは何が嬉しいのか頬を更に緩ませて、
ケータイを鞄に仕舞い、あたしに視線をよこす。
「これからまだ仕事だっけ?」
「んー、直で現場ー」
うあって梨華ちゃんが顔を顰めた。
くるくる変わる、やたらに無防備な表情は、
仕事じゃないところで彼女がよくするものだってことをあたしは最近知った。
- 896 名前:誤算 投稿日:2006/11/03(金) 17:27
-
最近急に増えた彼女との仕事。
その関係で、話す機会も数年前とは比べ物にならないくらい増えて。
ころころ変わる表情だったり、年上とは思えない発言だったり、顔に似合わない大雑把な性格だったり。
それまで勝手に持っていた「梨華ちゃん」のイメージが、あたしの中で(良い意味で)壊れていった。
それは予想外だったけど、決して悪いものじゃなくて。
むしろ、良いモノだったと思う。
こんな、―――― いらない感情までも、芽生えてしまうくらいに。
梨華ちゃんから視線を外して、エレベーターの扉にやった。
銀色のそれは鈍く光って、あたしと梨華ちゃんの姿をおぼろげに映す。
扉の上に付いてる小さな液晶画面では、数十秒置きに数字がころころ変わる。
あたし達がいる階まであと数分はかかるな、とぼんやり思った。
「最近忙しいよねー亜弥ちゃん」
どくりと心臓が鳴いた。
名前を呼ばれただけでこんな反応をしてしまうなんて、自分も相当、相当、キてる。
あたしは隣に気付かれないように小さく深呼吸して気持ちを落ち着けて、
ゆっくり、静かに、梨華ちゃんの方へ顔を向けた。
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