花火
- 1 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/20(月) 01:24
- 初めて小説書きます。
なにぶん素人なもので、どういう風に書いていいかも
良くわかりませんが書いてみます。
- 2 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/20(月) 01:24
- 1
夏の暑い日差しが窓からはいってくる。
私はそれを避けるように帽子を目深にかぶり
俯いた。汽車のゆれと同調するように私の記憶も虚ろなものと
なっていった。思えば今ここで汽車に揺られているのが奇跡であった。
私は8月17日には、特攻に出ているはずであったのだから・・・
そんなことを考えている内にいよいよ私の記憶が外界を認識しなくなった。
- 3 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/20(月) 01:24
- どの位時間がたったのであろうか?私は夢と現の合間を彷徨っていた。
その定まらない焦点で私はあたりを見回した。
汽車の中には、やはり私と同じく郷里に引き返す者であふれていた。
どの人を見ても疲れ果ており。汽車の中は重い空気が立ち込めていた。
私は、そんな現実から逃れるように目を窓の外にやった。窓の外には
夏草が生い茂り、小川が流れ、人家がところどころ点在していた。
東京が焦土になったのに比べ、ここは何もかもが、戦争に行く前と変わらなかった。この景色を見ていると
戦争があったことが夢ではないかと思えてくる。
その景色がやがて私の見慣れた景色になって来た時、私の胸の中に熱いものがこみ上げてきた。
(帰ってこれた)と・・・・
- 4 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/20(月) 01:25
- 2.
汽車の重い車輪が運動をやめた時、私は、ゆっくりと立ち上がった。
かなり重い足取りでホームに降り立った。夏の日差しがまぶしかった。
その日差しの奥に見慣れた懐かしい顔があった。
「中澤の叔母さん!」
私はおもむろに彼女に駆け寄った。彼女は先日他界した私の母の妹で
私が留守の間(といっても私は、ここに帰ってくる予定ではなかった。)に
私の家を面倒見てくれていた。早くに父を亡くし、病弱だった母の代わりに
何かにつけて面倒を見てくれていたのが中澤の叔母だった。
「よう帰ってきたなあ」
そう言った彼女の目には涙があふれていた。
「おかげさまで無事に帰ることが出来ました。」
「まあ、ほんまにねぇ・・・あんたこの娘にお礼言わんとあかんよ。」
「この娘?」
私がそう思った瞬間、叔母の後ろから一人の少女が現れた。
- 5 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/20(月) 01:25
- 「千奈子・・・」
千奈子・・・本名は徳永千奈美と言う。私の幼馴染で家の近所に住んでおり
歳が離れていたが、私は、よく彼女の面倒を見ていた。
最後に見たのが二年も前であったが私はすぐに解った。
二年前はまだ国民の6年生であったが、今は中学になっていた。
色は健康的な小麦色をしており、足はすらっと伸びていた、
髪は三つ編みのおさげに笑顔がよく似合う少女であった。
「お兄さんお帰りなさい。」
彼女もまた大粒の涙を流しながら、私の帰還を喜んでくれていた。
「この娘はねぇ、あんたが戦争に行ってから毎日裏の神社で、あんたが
無事に帰ってきよるのを祈ってたんやで」
「えっ?」
思いもかけない言葉に私は、しばし戸惑っていた。
「さっ!立ち話もなんや、そろそろいこか?」
そういうと彼女は私の鞄を持って、出口の方に歩いて行った。
- 6 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/20(月) 01:26
- まあこんな感じで書いてますがいいんですかね?
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/20(月) 01:43
- よいです
- 8 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:30
- 3.
駅から出ると外は煩いくらいの蝉の声がした。
ふと目をやると何処かの姉弟であろうか?弟が元気に蝉を取っている姿が目に入った。
とった蝉を姉に自慢げに見せている姿がやけに微笑ましかった。
この当たり前の景色を当たり前だと思える今の自分の立場に感謝をした。
夏草の匂いが立ちこめる中、私たちは、家までの道をゆっくりと歩いた。
目の前にはT連峰がその巨大な雄姿をのぞかせていた。
気がつくと中澤の叔母はかなり私達の前を歩いていた。
私は、別に歩くのが遅いわけではないが、ただこの道をゆっくりと歩いていたかった。
- 9 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:30
- 「ねえ」
横に居る千奈子が声をかけてきた。
「本当によかったね。」
「うん」
「本当に・・・本当によかったね。」
彼女はそれだけ言うと、また再び黙ってしまった。
それから15分くらい歩いただろうか?
見慣れた屋根が目に飛び込んできた。
母がこの世をさり、荒れるだけの家になるはずであったが、中澤の叔母が
よほど丁寧に手入れをしてくれたのだろう、私が出兵する前と変わらない
姿がそこにあった。
門の前では既に中澤の叔母が待っていた。
「さっ千奈子、今日は忙しいんやろ?今日は帰り。」
「うん」
- 10 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:31
- 私は、その言葉に少々戸惑った。てっきり今日は一緒に居てくれると思っていた為である。
「千奈子、ゆっくりしていけばいいのに」
「ごめんなさい今日は忙しいの。でも明日花火があるの、その時お兄さんのお家にお伺いして
いいかしら?お兄さんのお家、花火がよく見えそうだから。」
花火?確か火薬類などは全て軍需物資に姿を変えたと思っていたこの終戦直後によくもそんなものがあったものだと私は、半ば呆れ、半ば感心していた。
こんな暗い世の中だからこそひと時でも現実を忘れたいと思う気持ちの表れなのだろうか?
「それじゃね」
千奈子はそれだけ言うと急いで家のほうに走っていった。
- 11 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:31
- 4.
畳の上に座ると私はそのまま仰向けになった。
その時耳の上の方でトンと言う音がした。
中澤の叔母が茶を淹れてくれていた。
「疲れたやろ?」
「ええ」
そういうと私はおもむろに茶を飲んだ。
懐かしい味がした。
- 12 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:31
- 中澤の叔母はこの二年間の事を色々と話してくれた。
母が他界したときの事。家の相続の事・・・私の家は地主であったので、私が戦争から帰らなければ
誰がその土地を継ぐかについてである。叔母は見たことも無い人が続々と親戚だと主張
してきたことについて笑いながら話してくれた。
また千奈子の両親が亡くなられたことについても話してくれた。
千奈子の父もまた戦地に赴き帰らぬ人となった。
また彼女の母は、漁に出た際、不慮の事故でなくなった。
彼女が自分のその立場を省みず私が帰還したことに涙してくれたことに対し胸が熱くなった。
- 13 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:32
-
中澤の叔母は、千奈子の面倒を見てくれていたことについても聞かされた。
この中澤の叔母は、若いころかかった病気の為子供がうめない体である。
その為30を幾つか越えた歳になっても独身である。
彼女はそんな境遇にありながらも明るさを失わない。寧ろ周りの人から
愛想がよくまた人あたりもよいというので、皆から好かれていた。
また本人も特に子供が好きだった為、千奈子の面倒を見るのは苦にならないといっていた。
「なあ?」
「はい?」
「菅谷さんのところの梨沙子ちゃん覚えとるか?」
- 14 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:32
- 唐突に叔母が私に話をふった。
「ああ・・・あまり」
「なんや・・・あんたの許嫁やないか」
そういわれれば、そうだった気がする。ただそれも私が出兵する少し前に出た話であり。
私が、生きて帰れるかどうかもわからない為、てっきりご破算になったとばかり思っていた。
前に一度あった時は中学だった気がするから、もう卒業したのだろうか?
「頑張りや、あんたのお母さんもこの縁談を最期まで気にしとったで」
そういわれると私には返す言葉が無かった。親同士の話し合いで決まった事で
あるなら私もそれに従わざるを得なかった。
母は、もしの条件で私が戦地から無事帰ってこれたらという条件でこの縁談を
まとめたらしかった。
- 15 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:33
- その後、叔母は自分がいかに戦時下で大変だったかと言うのを一人で話し始めた。
私は時折相槌を打ちながらも、心はそこに無かった。
そして叔母は話すだけ話すと五分ほど歩いた先にある自宅へと帰っていった。
そして一人になると私は、いろいろな事を思い始めた。
思えば私は、私の意志で生きてきた事が無かった気がする。
昔から、家を継ぐ為にふさわしい人物になれとか、そんなことばかりだ。
私は帝大まで出たが自分の意思でいったとは言いがたい。
常に道しるべに沿って歩いてきた。そのためか私は徴兵され特攻にでると
決まった時もそれすらも決められた道であると思い特別な感情はなかった。
だが私が生き延び再び郷里に戻れるとわかった時、私は安堵した。
その感情がどこから来ていたのか当時の私には、わからなかったのだが。
「ふう・・・」
私はどっと疲れがでてしまい、そのまま畳の上で寝た。
- 16 名前:流 飛燕 投稿日:2004/12/26(日) 13:34
- >>7さん
ありがとうございます。何とか完結するよう頑張ります。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/04(火) 05:55
- どんな話になるか楽しみ
- 18 名前:流 飛燕 投稿日:2005/01/12(水) 01:26
-
5.
翌朝私は強烈な夏の日差しにより目が覚めた。
畳の上で寝てしまった為に疲れが取れてるとは言いがたいが
それでも爆音と硝煙で目が覚めるのよりはずっとましだった。
私はこれから何をしようか考えた末、あたりの野山をぶらつくことにした。
あたりの見渡す限りの田んぼ、流れる小川のせせらぎが私の疲れた心を
幾許かいやしてくれた。田んぼの道を歩いていると小さな山の入り口にあたる。
子供の頃はよくここに入って遊んでいた。外の暑さと比べると山に入ると
ひやりとした空気が気持ちよかった。そのまま山間の道を進んでいくと
開けた場所にでた。そこには西瓜畑があった。
そこで西瓜を取ってる少女がいた。
- 19 名前:流 飛燕 投稿日:2005/01/12(水) 01:26
- 「友理奈ちゃん!」
私は、見覚えのあるその顔に私は、思わず呼びかけた。
彼女の名前は熊井友理奈、家の土地で小作農を営んでいる所の娘であり
千奈子の同級生である。背はすらっと高く、色白で均整の取れた
顔立ちをしており誰の目にも美人であるとわかる。
「お兄さん!」
そういうと網に詰め込んだ西瓜を置き私の所に来た。
「帰られてたんですね。」
「なんとかね・・・。」
「お兄さんが兵隊さんになったってきた時はびっくりしました。なんでこんな優しい
人がって・・・正直もう会えないと思ってました。」
「けどまだ生きてる」
私がそういうと友理奈はふふっと笑った。
「千奈子に会いました?あの娘お兄さんが兵隊さんになってからずっと神社で・・・」
「昨日、会ったよ。忙しそうだったな。」
「ええ、そうでしょうね。」
「えっ?」
- 20 名前:流 飛燕 投稿日:2005/01/12(水) 01:26
- 友理奈のその言葉の意味を私は理解できなかった。
「美味しそうな西瓜だね?」
私は唐突にそういった。
「ええそうでしょう。黒部西瓜の美味しいのですよ。」
「本当に美味しそうだ。」
私がそういうと友理奈はふふっと笑った。
彼女はよくぶっきらぼうであるという風聞を私は聞いていた。
しかしそれは、彼女が繊細な心の持ち主だったからであり
人にあまり多く物を語る事をしないためであった。
しかしそれも千奈子と付き合いだす事により変わってきた。
少なくとも私には心を開いてると思っていた。
「偉いね?お家のお手伝い?」
私は、網に西瓜を入れる友理奈を見てそう思っていた。
- 21 名前:流 飛燕 投稿日:2005/01/12(水) 01:27
- 「いえ・・・そうではないんですよ。ほらこんど千奈子が九州に行っちゃうじゃ
ないですか、だから家の美味しい西瓜を食べさせてあげたいと思って・・・」
「えっ?」
私は、一瞬、友理奈が何を言っているのかを理解できなかった。
私は動揺していた、それが多少強い語気になっていたのかもしれない。
「どういうこと?」
一瞬、友理奈はひるんだ様に見えた、しかし彼女は冷静に私に話しかけた。
「昨日、千奈子から聞かなかったんですか?明日、千奈子、九州の親戚のところに
行くんですよ。なんでも叔父夫婦に子供が居ないから養女になるとかで・・・
ほら、千奈子の両親も・・・・」
私が覚えてるのはそこまでだった。気がつくと私は来た道を懸命に走って戻っていた。
何故、そんな大切な事を中澤の叔母は教えてくれなかったのだろうか?
私は強い憤りを感じていた。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/19(土) 12:39
- 待ってます
- 23 名前:流 飛燕 投稿日:2005/07/03(日) 20:14
- 6.
私は中澤の叔母の家の前に来ると息が切れるのもかまわず大き声な声で叔母を呼んだ。
元々それほど広い家ではない。叔母は台所からすぐでて来た。
「叔母さん!」
「どないしたんや?血相変えて?まああがんなさい。」
「聞きたい事があるんだけど・・・」
「なんや梨沙子ちゃんの事か?」
叔母は私をからかう様にそういった。だが私はそんな事に付き合ってる暇はない
「千奈子のことなんやけど」私がそういうと叔母の表情が曇った。
「千奈子の何が聞きたいんや?」その声には普段の叔母からは想像も
つかない程の迫力のある声だった。私はそれにたじろいだ。
話せば長くなると思ったのだろうか?私は中に通された。
叔母は麦茶をいれてくれた。
「千奈子、九州にいくんか?」
私は、都会での暮らしが長い事もあり普段は標準語でしゃべるがそれでも
興奮すると地元の言葉が出る。
「誰からきいたんや?千奈子か?」
「友理奈ちゃんや!」
叔母は仕方がないといった表情で私をみた。
「なあ?いくんか?」
「そうや。」
「なんで黙ってたんや?」
「 知ってどないするん?」
私は言葉に詰まった。
「千奈子は俺の大切な・・・」
「大切ななんや?」
「大切な幼なじみや!」
「 嘘いうな!あんた千奈子の事が好きなんやろ
? 初めてみたであんたがこんなにムキになるのを」
私はなにも言い返せなかった。
- 24 名前:流 飛燕 投稿日:2005/07/03(日) 20:15
- 「まあ、あんたが千奈子の事好きなんは昔からわかっとったけどな。」
私は正直好きという感情が良くわからない。ただ一人になると千奈子のことを
考えたりする事は良くあった。また彼女と二人でいた時は抱きしめたいと
思うこともあった。これが好きという感情なのだろうか?
「あんた・・・くれぐれも馬鹿なことはせんといてや」
叔母は私に諭すように言った
私は急に目の前の現実・・・この家をついで行かなければならないということが
重くのしかかっていた。ならば千奈子と継ぎたいと私は思ったが、その考えも
すぐに私は駄目だとわかった。
ああ・・・なぜ私の頭はこんなにも不自由に出来てしまっているのであろう?
親同士の話し合いで結婚し、家を継ぐという固定観念から一歩も抜け出せないでいた。
神も人になるこんな世の中なのに私の頭の中は依然として呪縛を掛けれられたままであった。
- 25 名前:流 飛燕 投稿日:2005/07/03(日) 20:16
- 7.
私は何もする気になれずにいた。千奈子が九州に行くのが明日だという。
もう時間は残されていない。その事が私の心を煩わせていた。
ただこんな事をしていても時間だけは経つ。
気がつくと日が少し傾きかかっていた。
そういえば今日は、千奈子が家に花火を見に来ると言っていた。
千奈子の為に色々と用意をしておきたかったがそれも出来ないでいた。
私は、もはや用意する気も失せていたので縁側に座りじっと千奈子が来るのを待つ事にした。
疲労の為か私は、気がつくと転寝をしていた。寝ぼけた目であたりを見回すと
目の前には千奈子がいた。千奈子は浴衣を着て髪は三編みをしていた。
手には一升瓶と袋を持っていた。
「お兄さん今晩は!」
「ああ」
「今日は、花火見させてもらう御礼にお兄さんの好きな日本酒を持ってきたよ。あと私の
漬けた漬物も。食べてくださいね。」
「ああ・・・ありがとう」
私がそういうと千奈子は家に上がり用意してくれた。
それが終わると千奈子が私の隣に来て座った。
あたりは、既に日が暮れていた。何もない田舎のだ、
明かりといえば家の薄暗い明かりがところどころに見えるだけである。
- 26 名前:流 飛燕 投稿日:2005/07/03(日) 20:16
- とんでもなく間が空きましたが何とか更新しました。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:26
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
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