いちばん大切にしたい人
- 1 名前:ラッキー 投稿日:2004/12/20(月) 12:31
- この緑板の倉庫にある「いちばん信頼できる人」「いちばん?信頼できる人」の続編ですが、
あやみき、田亀がメインのお話を書きたいと思います。
いしよしはメインではありませんので、ご了承下さい。
とりあえず、過去のものを読まなくても済むように、
これまでの登場人物のプロフィールを簡単に。
(今回登場しない人もいますが)
年齢は今でしたら、3歳くらい上の設定と思って下さい。
吉澤ひとみ…レズビアンバーの店員。同じマンションで隣りの部屋の梨華とは恋人。
石川梨華…OL。ひとみの恋人。
中澤裕子…ひとみが働く店の店長。真里の恋人。
高橋愛…ひとみの同僚。あゆみの恋人。
小川麻琴…ひとみの同僚。大学生。あさ美の恋人。
市井紗耶香…ひとみの同僚。真希の恋人。
矢口真里…裕子の恋人で、店の常連。
後藤真希…大学生。紗耶香の恋人。ひとみとも仲が良い。
木村アヤカ…店のオーナーの娘。ひとみに好意を寄せている。
平家みちよ…裕子の親友で元店員。
柴田あゆみ…OL。梨華の同僚。愛と付き合っているが彼氏もいる。
安倍なつみ…裕子の店の姉妹店の店長。
加護亜依…なつみの店の店員。ひとみに好意を寄せている。
松浦亜弥…なつみの店の店員。ひとみに好意を寄せていた。
紺野あさ美…大学生。従姉であるなつみの店の店員。麻琴と恋人。
戸田鈴音…OL。なつみの店の店員。
保田圭…メイクさん。なつみの店の常連。亜依のことがお気に入り。
飯田圭織…モデル出身のタレント。なつみの店の常連。
辻希美…なつみの店の常連。亜依の親友。
- 2 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:33
- 「もうっ!よっすぃー、信じらんない!」
「あっ、梨華ちゃん!」
ひとみと梨華が付き合いはじめてもうしばらくたつが、
お互いの本音を普通に言い合えるようになっていくと、
自然と些細なことでのケンカも多くなっていった。
もちろん、すぐに仲直りできるようなこと。
ケンカするほど仲が良い証拠でもある。
ある日曜の夜、ひとみの部屋で2人でいるときに、
ひとみのちょっとした発言が頭にきてしまった梨華は、部屋を飛び出して、
エレベーターホールまで向かった。
すぐに追いかけてくるひとみ。
「ごめん、ごめん。ウチが悪かったって」
「よっすぃーはいつもそうじゃない!
私の気持ちなんて、全然考えてくれないで」
「そんなことないって、いつも考えてるって、梨華ちゃんのこと」
「ウソばっかり」
「ウソじゃないって!」
ひとみは梨華のことを抱き寄せた。
「ちょ、ちょっとやめてよ」
「やめない、やめらんない」
そういうと、ひとみは梨華に口付けた。
少し抵抗を見せた梨華だが、すぐにひとみに応え、だんだん激しくなっていく。
- 3 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:33
-
そんな最中、エレベーターが止まる。
中から、談笑しながら出てきたのは亀井絵里と田中れいな。
2人は熱いキスシーンを目の前にして固まる。
「…うわっ!」
れいなの叫び声でやっと唇を離すひとみと梨華。
「あー、こんなとこでわりぃ」
ひとみが、絵里とれいなに頭を軽く下げると、
顔を赤くしてうつむいてる梨華の手を取って、自分の部屋に戻っていった。
「……すごかね」
「…うん」
「女の人どうしやった?」
「…うん。2人ともこの階に住んでる人」
このひとみと梨華のいるマンションの同じフロアに、
絵里は3ヶ月くらい前から住んでいる。
実家も東京だが、大学進学をきっかけに自立したくて1人暮しをはじめた。
絵里の部屋は梨華の部屋の隣りで、挨拶はもちろん、
お土産とかを渡しにいったことももらったこともあるくらい、
お隣りさんとしては普通に良い関係だった。
もちろん、ひとみとも顔を合わせれば、挨拶はしているので、顔見知りである。
れいなは、絵里の大学の同級生であり、同じサークルにも入っている。
今日はサークル行事があったあとで、明日は朝から学校なので、
自分が1人暮しをしている部屋よりも大学に近い絵里の部屋に泊まる予定にしていた。
- 4 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:33
-
「へー、結構広いっちゃねー。れいなの部屋より全然広かよ」
絵里の部屋に入って、れいなはリビングのクッションの上に腰を下ろすと、
部屋全体を見まわして、つぶやいた。
「えへへー。部屋が広いのもよかったんだけど、
やっぱり女性専用ってとこが気に入ったから」
絵里がコンビニの袋から、お茶を取り出しグラスに注ぎながら答える。
「ふーん。でも、それやったら、彼氏出来ても連れ込めんけんね」
ニヤニヤしながら、絵里のことを見るれいな。
「そ、そんなことするつもりなんてないもんっ」
絵里は顔を赤らめながら、れいなの前にグラスを置き、
れいなの向かいに座る。
「なー、もしかして、絵里って男の人と経験ないの?」
れいなが絵里の顔をのぞきこむと、絵里は顔をさらに赤くした。
「もー、何でそんなこと聞くの?…れいなのイジワル」
絵里が唇を尖らせてそっぽを向いた。
(絵里、ホントに経験ナシなんだぁ。東京の子は遅れとるなあ)
れいなは、地元・福岡では結構ワルかったので、いろんな経験も積んできていた。
大学生になって、上京したら、周りはすごく大人しくて驚いた。
同じニオイのするヤンキータイプの人なんか全然いなくて、
斜に構えていたのにも関わらず、気さくに話しかけてきてくれた絵里と仲良しになったのである。
今では絵里の影響もあってか、れいなもすっかり落ち着いて、
普通の大学生になっている。
東京育ちの絵里にとっては、身近で聞く方言が新鮮で、
れいなと仲良くしたいと思ったのがきっかけだった。
ダボダボヤンキーファッションでも、睨むような目つきでも、
話してみれば、素直で面白い子だったので、
絵里もれいなといつも一緒にいるようになった。
- 5 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:40
-
「しっかし、さっきの人たち、マジすごかね。
付き合っとるんやろか、女どうしで」
「手繋いでたりするのは見たことあったけど…」
「2人とも、きれいっちゃね。宝塚の男役と女役みたい」
「…うん、キレイだった…」
絵里が、小さくため息をついた。
れいなが絵里の顔を見て、ニヤっとする。
「絵里もあんな風にキスしたいと思うん?」
「えっ!?」
絵里は驚いて、れいなの顔を見る。
「絵里、もしかしてチューもしたことないん?」
「あ、あ、あるもん!」
「へー、いつ?どんな風に?」
「べ、別にいいでしょ」
絵里は立ち上がると、キッチンの方に行こうとしたので、
れいなも立ち上がり、ギュッと絵里を抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!何?」
暴れる絵里をれいなはしっかり抱きしめる。
「絵里、かわいかー」
れいなが絵里の顔を覗き込むと、
れいなを上目使いで睨みながら唇を尖らせている。
(あー、絵里、ばりかわいいんやけど。
なんね、このかわいさは…)
れいなは絵里の尖った唇に自分の唇を軽く触れさせた。
絵里はキョトンとした後、顔を真っ赤にすると、れいなのことを突き飛ばした。
れいなも不意のことだったので、思いっきり尻もちをつく。
「な、何すんの!」
「あたた…別にいいっちゃろ?キスしたことあるんやったら、
女どうしでキスするくらい、どうってことなか」
れいながお尻をさすりながら、絵里を見ると、絵里は目にうっすら涙を浮かべていた。
「…絵里?ど、どうしよっと?」
「…はじめてだもん」
「…へ?」
「キスするのはじめてだもん!どうってことなくないもん!」
絵里は、そのまま自分の部屋に向かい、ドアをバタンと閉めた。
- 6 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:43
-
リビングに1人残されたれいなはしきりに頭を掻いていた。
「…したことあるって自分で言ったと?
だいたい泣かんでもええっちゃろ…」
れいなは、大きくため息をついて、床に大の字になった。
(ったく、絵里は子供なんやから。
そういう面でも子供とは思わんかったけど)
れいなは勢いよく立ち上がると、絵里の部屋に向かった。
ドアを軽くノックして、ドア越しに声をかける。
「絵里?あ、あのー、ごめん。れいなが悪かった」
何も返事がない。
「なー、絵里?…開けるよ」
れいながドアを開けると、部屋の中のベッドの上に絵里はちょこんと腰掛けていた。
「…絵里」
れいなが絵里の隣りに座る。
絵里の顔を覗き込むと、目が赤くなっていて、まだうっすら涙が浮かんでる。
「絵里…ごめん」
「…初めてのときはね、かっこよくて背が高くて大好きな彼氏と、
遊園地の観覧車のてっぺんでしたかったの」
れいなは吹き出しそうになったが何とかこらえた。
(…とことん夢見る乙女なんやなあ)
「絵里、れいなんこと嫌い?」
絵里は唇を尖らせて、れいなの方を見ると、
ゆっくり首を横に振った。
「…そっか、そんならよか」
れいなは、絵里の手を取って立ち上がった。
「じゃ、さっきのんはなかったことにしよ。リセット、リセット」
「…え?」
- 7 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:44
-
れいなはそのまま絵里をリビングの方に連れていくと、
テーブルを挟んで、先程と同じように向かい合って座った。
「…絵里、もしかしてチューしたことないん?」
「…え?」
「チューしたこと、ある?ない?」
「…ないよ」
れいなはニッコリとして、絵里の頭を撫でた。
「じゃ、初めてのキスはどこしてみたいん?」
「…観覧車の、てっぺんで」
「絵里はかわいかねー。
れいなはね、最初のチューは夕日の見える海辺でしたいと思っとーとよ…」
れいながさっきのキスの前のところからやり直してくれているのに気付くと、
絵里はやっと微笑むことができた。
「…れいな」
「ん?」
「…ううん、何でもない」
「…変な絵里」
「えへへへ」
絵里はれいなの隣りに行くと、れいなに寄りかかるようにした。
「絵里は、ホント子供みたいっちゃね」
れいなはそう言って微笑むと、絵里の頭を撫でた。
- 8 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:45
-
「亜弥ちゃん、最近何かいいことあったの?」
なつみの店で、カウンター席に座った藤本美貴は、
ドリンクを作っている亜弥に尋ねた。
「え?何でー?」
亜弥は、少しドキリとしながらも笑顔で切り返した。
「んー?笑顔が少し自然になってきた」
亜弥は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔を繕う。
「何それー?いつも、アタシの笑顔が不自然みたいじゃなーい」
「ミキティ、何言ってんの?あややスマイルは最強だよ」
美貴の隣りに座っていた圭が美貴の腕を叩きながら言う。
「そっか、そーだよね。ごめん、亜弥ちゃん、気にしないで」
美貴は笑顔で頭を下げた。
亜弥はそう見せまいとしていたが、実はかなり驚いていた。
自分の完璧だと思っていた笑顔を見透かされていたことに。
元々は人付き合いがうまく明るい友達の多い子であった。
しかし中学時代に本当に仲の良い友達に裏切られ、
皆からいじめのようなことを受けるようになり、
それ以来、人を本心から信じることができなくなっていた。
その代わり、本当の自分の心を隠して、
明るく振る舞うことが得意になっていた。
だから今でも友達は沢山いる。
でも本当に心を許せる親友と呼べる友達はいない。
そして、恋人もいないのだ。
もしかしたら、この人なら…と思い、好意を寄せたひとみに、
恋人ができたと知ったときのショックは大きかった。
その頃に、圭に連れられて初めて美貴はこの店にやってきた。
美貴の仕事はヘアメイクであり、メイクの圭と仕事を一緒にやることもある。
週に1、2回は1人でも店に顔を出す圭は、
それ以来、たまに美貴を伴ってやってくるようになった。
ひとみが恋人の梨華と一緒に店にやってきたとき、
本当に幸せそうであった、ひとみは本当に優しい顔つきをしていた。
それを見たら、亜弥の嫉妬の気持ちは薄れていって、むしろ自分もそういう人を見つけたいと、
ひとみのことはあきらめ、前向きに考えられるようになっていた。
(何で?今まで誰にもそんなこと言われたことなかったのに…
そんなちょっとした変化に気付くなんて…)
亜弥は、美貴のことをこっそり盗み見るようにして見ていた。
- 9 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:47
-
そして、その日、美貴と圭が帰るとき。
圭は亜依にベッタリくっついた。
「あいぼーん、また来るからねー」
「うわーっ、来てもええけど、美貴ちゃんとかカオリンとかかわいい人連れてきてや」
のけぞって、圭から顔を遠ざけようとしている亜依を、美貴は笑って見ていた。
「美貴ちゃん」
「ん?」
亜弥が美貴のことをまっすぐ見ていた。
「また来てね。1人でもいいから来てね」
「おっ?」
美貴が目を丸くして、亜弥を見た。
「何?」
「亜弥ちゃんにそんなこと言われたの、初めてだなあって思って」
「…そうだっけ?」
「うん。『また来てね』とは言ってくれるけど、
『1人でも』なんて言われたことなかったよ」
(確かにそうだ…そんなこと言ったことなかった)
美貴はうれしそうに微笑んで、鼻を掻いていた。
「えへへ、何かうれしいなあ。本当に1人でも来ちゃうよ」
(美貴ちゃん、かわいい…)
亜弥は自然に微笑んで、美貴を見ていた。
- 10 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:47
-
美貴が1人で店にやってきたのは、それから3日後だった。
混んでいないときではあったが、
亜弥はテーブル席で、常連のお得意の客を相手にしていたので、
美貴の方には行けなかった。
美貴がカウンター席に座ると、亜依がおしぼりを持ってきて、
美貴の隣りに座る。
「美貴ちゃーん、1人で来てくれてホンマうれしいわあ。
おばちゃんと一緒だと、美貴ちゃんとゆっくり話しでけへんから」
亜依はそう言うと、美貴にギュッと抱きついた。
「あははは、ありがとー。喜んでもらえて美貴もうれしいよ」
カウンターの中からはあさ美が美貴の目の前に来る。
「私も美貴ちゃんに会えてうれしいです」
「お、美貴、人気者じゃーん」
美貴が楽しそうに、亜依とあさ美と話しを始める。
亜弥は、その様子をイライラしながら見ていた。
(もー、1人で来てってお願いしたの、アタシなのに!)
しかし、亜弥の客は全然帰る気配も亜弥を離してくれる気配もない。
客の相手をしながらも、横目でずっと美貴の方を気にかけている亜弥。
かなり盛り上がっている美貴と亜依とあさ美。
徐々に店も混み始めたときに、
美貴は帰ることにして、亜弥に手を振った。
美貴が出ていったドアが閉められたとき、
亜弥は思わず立ち上がっていた。
「ちょ、ちょっと、ごめんなさい」
自分の客を置いて、亜弥は店の外に出た。
- 11 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:48
-
美貴ののんびりと歩いている背中が見えた。
「美貴ちゃん!!」
亜弥の大きな声に、美貴は驚いて振り向く。
亜弥が美貴の側に駆け寄る。
「亜弥ちゃん、どうしたの?」
「せ、せっかく来てくれたのに、お話できなかった、から」
「あー、そんなの別にいいのに。
あいぼんとあさ美ちゃんと話しできて楽しかったし」
(…そうだよ。別にアタシに会いに来たってワケじゃないんだろうから)
亜弥は自分の行動を恥ずかしく思った。
「それに、こうやって亜弥ちゃんとも話できたし、
今日は来てよかったよ」
美貴はニコニコと亜弥のことを見ていた。
「…今度、いつ来てくれる?」
「うーん、そうだなー…仕事で来週地方に行くから、
少し忙しくなるんだよね」
「…そっか」
亜弥がガックリと肩を落とす。
「ん?亜弥ちゃん、美貴にそんなに会いたいの?」
「え!?」
亜弥が思わず顔を赤らめるのを見て、美貴が楽しそうに笑う。
「じゃー、お店が暇のときにいつでも電話ちょうだい。
来れるかわかんないけど、
亜弥ちゃん人気者だからさ、お店に行っても話しできないんじゃさみしいし」
そういうと美貴はカバンから名刺を取り出し、亜弥に渡した。
名刺には携帯番号も書かれている。
「ほら、亜弥ちゃん、もう戻った方がいいよ。
お客さん待たせてるんでしょ?」
美貴は亜弥の手を取ると、店の前まで戻った。
「じゃね。またね」
美貴は亜弥に手を振ると歩き出した。
亜弥は美貴が見えなくなるまで見送ると、
美貴が握ってくれた左手をじっと見つめ、
美貴の名刺を宝物を扱うようにそっと握った。
- 12 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:49
-
今日はとくに予定もなく、学校からまっすぐ帰ると、
夕飯を自分で作るために、絵里は近所のスーパーで買い物をしていた。
せっかく1人暮しをはじめたのだし、家事はちゃんとこなしたい、
料理も練習したいということで、朝ご飯はもちろんのこと、
夜も何も予定がないときはキチンと自炊をしている。
といっても、まだ初心者のため、あまり上手にはできない、只今勉強中。
野菜コーナーをじっくり見ていたら、ポンと肩を叩かれた。
「よっ!」
「あ…どうも。こんにちは」
笑顔のひとみに、絵里は頭を下げる。
「えーと、亀井ちゃんだよね?自分で料理するんだ?」
「ハイ、一応。まだ全然うまくできないんですけど」
「んー、その材料だと、カレーかな?」
「ハイ、カレーライスにしようと思ってます」
「お、いいねえ。じゃ、ウチと一緒に作らない?」
「え?」
ひとみはジム帰りで、これから夕飯を家で食べて、仕事にでかけようというときだった。
誘われるままに、ひとみの部屋に行き、絵里は一緒にカレーライスをつくることになった。
「はい、じゃあ、ニンジン切って」
「あ、ハイ」
2人でキッチンに並んで、調理をはじめる。
絵里はひとみのてさばきの良さに、感心していた。
「吉澤さんって、料理上手なんですね」
「んー、一応、仕事で料理もするからねえ」
いろいろ話しをしている間に、どんどん出来あがっていく。
調理のコツなんかも教えてあげつつ、
結局、8割くらいはひとみが作っていた。
出来上がったカレーは味もおいしかった。
「おいしー!お店で食べるカレーみたい!」
「あはは、そう?じゃあ、今度は1人でがんばってつくってみてね」
「ハイ、ありがとうございます」
- 13 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:49
-
「あー、そーだ。この前、驚かせちゃってゴメン。
エレベーターホールで」
「あ…いえ…」
ひとみと梨華のキスシーンを思い出し、恥ずかしくなる絵里。
「友達にも驚かれちゃったでしょ。
突然、あんなシーン見させられたら」
「あ、でも、大丈夫です」
「ほう、あんなの見慣れてるの?し慣れてるの?」
ひとみがニヤニヤしながら、絵里の顔を覗き込む。
「そ、そんなことないですけど…」
絵里は、ひとみに顔を見られて照れていた。
(吉澤さんって、キレイ…かっこいい…背も高いし、優しいし…)
「…吉澤さんは、いつもあんなことしてるんですか?」
「さすがにいつもどこでもしてるワケじゃないよ〜ウチ、ヘンタイみたいじゃん」
「あ、すみません」
「いやいや。ま、梨華ちゃんとしてるのは事実だし。
あ、女同士なんて、って思ってる?」
「い、いえ、そういうのは個人の自由だと思います」
「そう?そう言ってくれてよかった。
梨華ちゃんはね、ウチにとって、ナンバーワンだし、オンリーワンなの」
「…そうなんですか」
「亀井ちゃんは、そういう人いないの?」
「…いませんね」
「そっかー、早くいい人、見つかるといいね」
「…ハイ、ありがとうございます」
「あ、そろそろ仕事行く準備しなくちゃ。
今度さ、ウチのお店おいでよ。
この前の友達と一緒でも、梨華ちゃんに連れてきてもらってもいいし」
「ハイ、ぜひ、お願いします」
ひとみが残りのカレーを絵里に持たせると、玄関まで絵里のことを見送る。
「あ、あの」
「ん?」
絵里がひとみに近づき、ギュッと一瞬抱きつく。
「あ、ありがとうございましたっ!」
絵里は顔を赤くして、慌ててドアを開けて出ていく。
(あー、もー、絵里、何してんだろ?恥ずかしい…)
絵里は、自分の部屋に飛び込むように入っていった。
「…でも、吉澤さん、ステキだったな…」
(あんな風に、自分の好きな人のことを言えるなんて)
絵里は、大きなため息をついた。
- 14 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:49
-
「バー?」
「うん、そう」
「行ったことない。そういうとこって緊張するけん。
何か大人の世界ってカンジで」
ひとみの店の場所を聞いた絵里は、
早速行ってみたいと思い、れいなを誘ってみた。
「でも、カジュアルなカンジのお店なんだって。
ちょっと驚くかもしれないけど、って言われたけど」
「なん?値段が高くてびっくりとかイヤやけんね。
だったら、居酒屋とかで十分」
「大丈夫だって。元々高いお店じゃないらしいし、
最初は吉澤さんが格安でサービスしてくれるって」
「ふーん。そんなら1回行ってみてもいいけど」
「えへへ、じゃあ決まり!」
店に電話したところ、ひとみは出勤していて、
絵里が行くと言ったら喜んでくれた。
「おう、じゃあ、席空けておくよ」
「いらっしゃーい。道迷わなかった?」
「あ、ハイ。すぐわかりました」
ひとみが笑顔で出迎えてくれたので、絵里はニコニコと返事をした。
カウンター席に通される絵里とれいな。
他の客はテーブル席に一組しかいなかった。
「あー、ヨシさん、またカワイイ子連れてきたー」
愛も笑顔で、2人におしぼりを出す。
「『また』ってなんだよ」
「いやー、カワイイ子いっぱい知っててうらやましーなって」
「そーですよね。さすがヨシさん、モテる男は違う」
愛と麻琴が笑いながら、ひとみのことをからかった。
(…『男』?)
れいなは、どうもこの状況がよめずに緊張したままだった。
絵里も、ひとみがいてくれているから安心しているものの、
どうもこの雰囲気に飲まれているようだった。
- 15 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:50
-
他のお客が入ってくると、麻琴に思いっきり抱きつき、
ほっぺにキスまでしている。
「このお店、どういうお店かわかった?」
ひとみが、飲み物を絵里とれいなに出してあげながら聞いた。
「もしかして、レ…」
れいなが思わず、大きな声を出してしまいそうになり、押さえた。
絵里はれいなが何を言おうとしたのか、
この店がどういう店なのかまだよくわかってなかった。
「そう、いわゆるレズビアンバー。
ウチは女のお客さんしか入れないし、
店員ももちろん全員女。男と間違われることもあるけど」
ひとみがサラッと答えると、絵里とれいなも目を丸くした。
「ま、だからっていって、普通のバーと一緒だから。
逆に女しかいないから、気軽に飲めると思ってもらえれば」
ひとみはつまみを出しながら、笑顔で言った。
「は、はあ…」
「ま、世の中には色んな人がいるってことでさ。
ある意味、人生のお勉強ってことで、楽しんでいってよ」
「…ハイ」
最初は戸惑っていた絵里とれいなであったが、
確かに店員も面白く気軽にいろいろ話しができたし、
料理もおいしいし、普通に楽しむことができた。
- 16 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:51
-
「あれ?初めて見る子たちだねえ」
真里がやってくると、絵里の隣りの空いてる席に座った。
「あ、ヨシさんの知り合いなんですって」
愛が答えると、真里は絵里とれいなを見て、笑顔で頭を下げた。
2人もそれに応えて頭を下げる。
「ホント、よっすぃーはかわいい知り合いが多いねえ」
「まるでナンパでもしてきたみたいに言わないで下さいよ」
「お?何?よっさんがかわいい子、ひっかけてきたん?」
裕子が、真里の背中から抱きつき、絵里とれいなを見る。
「いらっしゃーい。確かにかわいいやん。
んー、どうせなら、ウチで働かんか?」
「え?」「は?」
「こっちの子は、女の子っぽいから、あっちの店の方がええか。
でも、こういうかわいい男の子もおってもおかしくないしなあ」
裕子は絵里のことをジロジロ見ながらつぶやいた。
「あのー、ウチの知り合いをある意味ナンパするの、やめてもらえます?」
ひとみが、絵里のことを連れていくくらいの勢いだった裕子を遮った。
「何言ってんの。ナンパやなくてスカウトやないの」
「でも、明らかに困ってますから、彼女」
確かに絵里は助けを求めるように、ひとみのことを見ていた。
「そっか、イヤならしゃーないなあ。
ま、お客としていつでも来てや。かわいい子なら尚歓迎」
「…ありがとうございます…」
- 17 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:51
-
「しっかし、スカウトされるなんてびっくりやったね」
「うん。でも楽しかったあ」
絵里とれいなは、その帰り道、笑いながら歩いていた。
「確かに。店員さんも皆面白いし」
「あんなにかっこいい人たちだったら、男とか女とか関係なく好きになっちゃうよね」
れいなは、チラリと絵里の顔を見る。
絵里は本当にうれしそうに微笑んでいた。
れいなは普通に楽しめてはいたが、絵里のひとみに対する態度がどうも気に入らなかった。
話しをするときに体をクネクネさせて、恥ずかしがっているかのようにするのだ。
しかも、気が付くと、ひとみのことをうっとりと見つめている。
「…絵里、もしかして…」
「ん?」
「吉澤さんのこと好いとーと?」
「えー?」
また、絵里が体をクネクネさせる。
「よくわかんなーい。だって、吉澤さん、ちゃんと恋人いるわけだし。
ま、普通に好きだよ。かっこいいし優しいし」
「…恋人いなかったら、本気で好きになるかもしれんっちゅーこと?」
「わかんないよぉ、そんなの」
絵里はわかんないといいながら、なぜかうれしそうに微笑んでる。
れいなはなぜかイライラしてきた。
- 18 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:52
-
その日は遅くなると思ったので、店から近い絵里のマンションにれいなも泊まることにしていた。
絵里の部屋にはお客用の布団がないので、
泊まるときはいつもベッドに一緒に入って寝る。
「れいなぁ」
「ん?何?」
「ギュッってしてもいい?」
「は?は?なんね」
れいなが戸惑っているうちに、絵里はれいなに抱きついていた。
「えへへへー。人とくっついてると安心するの」
「そ、そうなん?」
「れいな、ちっちゃくてかわいい」
「…ありがと」
「吉澤さんとは全然違う」
「え?吉澤さんに抱きついたの?」
「うん。この前、お部屋に行ったときね。
やっぱり、背も高いせいか、男の人みたいで、包容力があるってカンジだった」
「…あ、そ」
れいなは、またイライラしてきた。
(もう、吉澤さん、吉澤さんって、なんね?)
れいなは、絵里のことをギューッと抱きしめ返した。
「れいなぁ、イタイよ」
れいなが腕の力を緩めて、絵里の顔を見る。
絵里は唇を尖らせて、上目使いでれいなを睨むように見ていた。
- 19 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:52
-
(うー、絵里、かわいすぎるって…)
「絵里…チューしていい?」
「え?」
「……ほ、ほっぺやから、唇にはせんから」
(うわっ、何言ってんやろ?)
れいなは無意識に言っている自分に驚いていた。
「んー…いいよ」
「へっ!?」
絵里がかけていた布団で自分の頬をこする。
「ハイ、どうぞ」
頬だというのに、なぜか目をつぶっている絵里。
(…か、かわいか…)
しばらく、絵里に見惚れてしまっていたれいな。
何もおきないので、絵里がパチッと目を開ける。
「もー、れいな、しないんなら、変なこと言わないでよ」
絵里が頬を膨らませる。
「あ、え、ご、ごめん!させて!」
れいなが、慌てて絵里の頬にキスをする。
絵里がニコッと微笑むと、れいなの頬にキスをした。
驚いて、目を丸くするれいな。
「にひひー。お返し」
絵里はれいなに抱きついて、そのまま眠りについた。
(もう、絵里って、ようわからん…
でも…何かペットみたいっていうか、ずっと側に、おって欲しいっていうか)
れいなは、絵里の髪を優しく撫でた。
- 20 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:52
-
(どうしよう、「今、暇だから、話し相手になって」でいいよね。
うん、よし、かけるぞ)
亜弥は握り締めている携帯で美貴の番号を呼び出すと、
通話ボタンを押そうとした。
が、寸前で、携帯を閉じる。
「…やっぱ、できないよぉ」
美貴から携帯番号の入った名刺をもらってから毎日、
亜弥は携帯電話を手に葛藤していた。
美貴に電話をしたいのだが、仕事中かもしれない、
もしかしたら自分のことがわからないかもしれない、
そう思うとなかなかかけられなかった。
- 21 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:53
-
店に圭が1人でやってきて、カウンター席に座った。
「あれー?おばちゃん1人なん?」
亜依があからさまに残念そうな声を出す。
「何?1人じゃ来ちゃダメっていうの?」
「そーじゃないけどー、美貴ちゃんは?もし来れるなら呼んでよ」
亜弥も、心の中で激しく同意していた。
「あー、ミキティは今、北海道行ってる。
確か1週間くらいだったから、残念だけど呼べないわよ」
「北海道ですか?どの辺に行ってるんですかね?」
北海道出身のあさ美も興味を持って圭に話しかける。
「んー、どこだろう?写真集の撮影で行ってるから、
景色のきれいなとことかじゃないかなあ?
ね、アイドルの道重さゆみちゃんってわかる?」
亜依がうれしそうに頷く。
「わかるよ〜シゲちゃんでしょ?かわいいよね。
ほわーんとしたカンジがいいよー」
「あはは、そーだね。ミキティの仕事、その子の写真集なのよ」
「へー、美貴ちゃん、アイドルの子と一緒に仕事もしてるんですか?」
あさ美が目を丸くして尋ねる。
「何かね、前に雑誌の仕事でついたら、えらい気に入られちゃったみたいでね。
実際の仕事の出来も気に入ったんだろうけど、ミキティ自身のことがね。
それ以来、ヘアメイクが必要なときは、ミキティ指名で、
半分専属みたくなっちゃってるみたい」
(何よ、それ!アイドルだからって…)
亜弥は会話には入ってなかったが、イライラして話しを聞いていた。
「あー、そういえば、週刊誌で見たことある!
シゲちゃんが女の子と路上で激しいキスしてた写真が出てたの」
「そうそう。彼女もそっちのケがあるみたいで。
ミキティ、確実に狙われてるんだよね」
「えー!うらやますぃー!!」
「どっちがよ?」
「シゲちゃんに迫られるのもいいし、美貴ちゃんに迫るのもいい!」
「じゃあ、アタシが代わりに迫るわよ」
「うわっ!いやや!!」
亜依が圭から逃れようとしても逃れられずキスされて、
「うええ…」なんてやっている。
(どうしよう…美貴ちゃん、シゲちゃんに迫られて
そういう関係になっちゃうのかな…もうなってるのかな…)
亜弥はガックリと肩を落とした。
- 22 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:53
-
それから、2週間後に圭が美貴を連れて店にやってきた。
「もー、アンタたちが連れてこいって、うるさいから連れてきたわよ」
「ははっ、ごめん、ごぶさたしてて」
「…いらっしゃいませ」
亜弥は、美貴が来てくれたのはうれしかったのだが、
さゆみとそういう関係になっているんじゃないかと思うと、
寂しいような悔しいような気持ちになっていた。
「わーい、美貴ちゃんだ!」
亜依が美貴に抱きつく。
「わーい、あいぼんだぁ」
亜依の背中に圭が抱きつく。
そんな様子を見て、美貴が大笑いする。
亜弥はカウンターで他の客の相手をしていた。
ソファーに座った圭と美貴には亜依がついた。
しばらくして、美貴がトイレに立った。
出てくるタイミングに合わせて、亜弥がおしぼりを美貴に渡す。
「ああ、ありがと。亜弥ちゃん、元気だった?」
優しく微笑む美貴に、亜弥は胸から熱いものがこみ上げてきて、
涙が出てきそうになる。
「…?どうしたの?」
「…ご、ごめんなさい」
亜弥は、そのままトイレに向かった。
(あー、もうっ!何で涙が出てくるの?)
泣きたいときに我慢することなんて、いくらでもできたのに。
ただ、美貴に優しい言葉をかけられただけで、泣けてしまうなんて。
涙をぬぐって、カウンターに戻って客の相手をしていると、
美貴が心配そうに亜弥のことをチラチラと見ている。
- 23 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:53
-
「なーなー、美貴ちゃん、シゲちゃんと仲いいん?」
「あー、うん。最近、よく一緒に仕事してるから」
「じゃー、今度ココにも連れてきてよ。生シゲちゃん見てみたい」
亜依が、美貴にしなだれかかるようにして甘える。
「ん、いいよ。
っていうか、シゲちゃんから連れてってって言われてるから」
「ホンマに!?じゃ、いつでもいいから絶対連れてきてよ」
「はいはい」
その会話が聞こえてきて、亜弥は不機嫌になる。
(いいよ、そんな子、連れてこなくても!)
亜弥が頬を膨らませているのを、美貴が不思議そうな顔をして見ていた。
結局、その日も、亜弥は美貴とほとんど話しができなかった。
「亜弥ちゃん、また来るからね」
帰り際に、亜弥に声をかける美貴。
亜弥は美貴に声をかけられただけで、うれしくなる。
「あ、うん。待ってるね」
膨れっ面も笑顔になり、美貴も少し安心した。
- 24 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/20(月) 12:57
- 更新しました。
キリがあまりよくないとこですが、あんまり長くなるのも何なのでこの辺で。
しかし改めて前作から2年以上たってることに自分で驚いてたりします(笑)
いまさらですが前作のレスのレス
>>164さん
ありがとうございます。
こんな遅くになってしまいましたが、今回もよろしくお願いします。
>>165さん
ありがとうございます。
甘いといっていただけるのはとてもうれしいです。
今後ともよろしくです。
>>166さん
ありがとうございます。
台詞は本人のキャラありきで考えてますが、
本当はそんなこと言わないか(笑)
>>167さん
どうもありがとうございます。
ため息つくほどのものでもないですよ…
遅くなりましたが、今後ともよろしくお願いします。
>>168さん
ありがとうございます。
今回はいしよしメインじゃなくてごめんなさい。
でもあやちゃんもかめちゃんもかわいく書きたいと思ってるので、よろしくです。
>>169さん
ありがとうございます。
こんまこも今回はあんまりでてこないですが…
これからもよろしくです。
今回はひっそりとochi進行していきます…いしよしじゃないし…(笑
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/20(月) 13:08
- あやみきに激しく期待!
- 26 名前:名無し飼育 投稿日:2004/12/21(火) 01:11
- ラッキーさん復活嬉しいです!
今度は、あやみきってことで、このCPも当然好きなんで楽しみです。
続き期待して待ってます。
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/21(火) 01:21
- いいですねぇ。面白いです!!
あやみきも田亀も好きなのでこれからも楽しみにしています。
頑張って下さい!
- 28 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:14
-
そしてその1週間後の早い時間に、美貴がさゆみを連れてやってきた。
まだ客も1組しかいなかった。
「うわーい!美貴ちゃん、いらっしゃーい。
あー、シゲちゃんだあ」
亜依がおおはしゃぎで、カウンター席に案内する。
「いらっしゃいませ」
「おっ、今日は亜弥ちゃんとお話できそうだね」
美貴の前に亜弥がやってきたので、美貴もニッコリと微笑む。
(美貴ちゃんが来てくれたのはうれしいけど、何であの子と一緒なのよ!)
さゆみはお店の中をキョロキョロと見渡していた。
「シゲちゃん、間近で見ても超かわいい!」
亜依がさゆみの隣りに座る。
「あ、ありがとうございます。
でも、ココの店員さんも皆さんかわいいですね」
さゆみはうれしそうに亜依の顔、亜弥の顔をじっと見る。
(く、悔しいけど、確かにかわいい…)
亜弥は、さゆみの顔を見て内心がっくりしていた。
さゆみは笑顔で美貴と乾杯している。
- 29 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:15
-
「ねー、もしかして、美貴ちゃんとシゲちゃんって、付き合ってんの?」
亜依が2人を見てニヤニヤしながら言う。
「んー、ワタシは藤本さんのこと、大好きなんですけどー、
この前、思いっきりフラれちゃいました」
「え!?」
思わず、亜弥がつぶやいてしまう。
「そんなあ、美貴が悪いみたいじゃーん」
「だってー、ワタシがこんなに思ってるのにー、
全然応えてくれないんです」
「いや、シゲちゃんは美貴のことが本気で好きなワケじゃないでしょ」
「そんなことないですぅ。
この前北海道行ったときだって、ずっと同じベッドで寝たのに何もしてくれなかったし」
美貴が飲んでいたものを喉につまらせて咳込む。
「…そんなことできるワケないでしょ!」
「ワタシからキスしても、全然美貴ちゃんからはしてくれないし」
「しませんっ」
「舌入れたら、拒否されたんですよー、ひどいですよね」
「わぉ!もったいないことするなあ、美貴ちゃん」
亜依が大袈裟に驚く。
「…もったいないとか、そういう問題じゃなくってー」
何となく、美貴がチラリと亜弥を見ると、
明らかに笑顔が固まっていた。
「あ、亜弥ちゃん?お代りもらっていい?」
グラスを亜弥の目の前に出すと、固まった笑顔のままで頷く亜弥。
- 30 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:15
-
「ほんじゃあ、シゲちゃんはー、どういう女の子がタイプなん?」
亜依がたずねると、さゆみは首をかしげて微笑んだ。
「んー、かわいい人が好きです」
「じゃ、ウチの店員だったら、どの子がタイプ?」
さゆみはキョロキョロと辺りを見渡す。
そのとき、店のドアが開いて、店の制服姿の愛が入ってきた。
「お疲れ様でーす。なっちさんは?」
愛が亜依や亜弥の方を見て尋ねる。
「あー、今ちょっと出かけてる。すぐ戻ると思うよ」
「そっかー。手渡ししてくれって頼まれたから、待たせてもらうね」
「うん。タカちゃん、何か飲む?」
「じゃ、ビールで」
亜依の隣りに座った愛に亜弥がビールを出す。
その間ずっとさゆみは愛のことをじっと見ていた。
その視線にやっと愛も気付く。
「ん?あ、あー。いらっしゃいませ」
すぐに、アイドルの道重さゆみだと気付き、笑顔で返す。
さゆみの顔が一気に赤くなる。
- 31 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:15
-
「…この人!」
さゆみが愛を指差す。
「は?」
「ワタシ、この人がタイプです!」
「そ、そりゃ、どうも」
愛が頭を軽く下げる。
亜依が苦笑いしながら愛と席を替わって、美貴の隣りに移動する。
「腕組んでもいいですか?」
「あ、もちろん」
愛が腕をさゆみの方に出すと、うれしそうに腕を絡ませ、
間近で顔を見つめるさゆみ。
「道重さゆみです。よろしくお願いします。
あのー、名前聞いてもいいですか」
「あ、ごめんごめん」
愛はポケットから名刺入れを出すと、店の名刺を取り出した。
「何か書くものある?」
亜弥がボールペンを愛に渡すと、名刺の裏に携帯番号を書いた。
「ココの近くの店で働いてるタカっていいます。よろしくね」
名刺をさゆみに渡すと、さゆみは超笑顔ですぐに携帯を取り出しダイヤルした。
愛のポケットの携帯が震える。
「それ、ワタシの番号です。いつでもかけて下さいね」
ウフッとでも言いそうな笑顔を愛に向けるさゆみ。
その様子を呆気に取られ見ていた美貴と亜依と亜弥。
「美貴ちゃん、ある意味フラれたんちゃう?」
亜依が笑いながら美貴に言う。
「あはは、確かにちょっとフクザツな心境」
「でも、よかったじゃん。美貴ちゃん、困ってたんでしょ?」
亜弥が普通の笑顔を美貴に向ける。
「そうだね。しっかし、イマドキの子の気持ちって全然わかんないよ…」
「あはは、美貴ちゃん、おばちゃんみたいなこと言わんといてや」
「いやー、マジでわかんないって」
愛にベッタリのさゆみを美貴は半分あきれて見ていた。
- 32 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:16
-
その数日後、また圭と美貴が2人で一緒にやってきた。
まだ客の入りも少なく、亜弥も亜依もソファーに座った2人のところに行く。
亜依に拒否られながらも、圭はギュウギュウ抱きついていた。
亜弥は久しぶりに美貴の隣りに座って、体が少し触れ合っているのを、
妙に意識してしまい少しドキドキしていた。
美貴が突然亜弥の髪の毛をくるくると指で回しはじめた。
身を固くしてしまう亜弥。
「亜弥ちゃん、髪伸びたねー」
「う、うん、一応伸ばしてるんだ」
「そうなんだー。でも、ちょっと揃えた方がいいんじゃない?」
「んー、まだ美容院行くほどでもないかなって」
「じゃ、美貴が切ってあげようか?」
「…え?」
「一応ね、人の髪いじる仕事してるんで、そのくらいできますよ」
美貴がニコニコしながら亜弥の髪をいじっている。
「揃える程度だったらすぐ終わるし、
仕事の前とかに、美貴んちおいでよ。
ココからもそんなに遠くないし」
「…でも…」
「別にお金もいらないよー。
あ、亜弥ちゃんが美貴に髪切ってもらうのなんてイヤっていうなら、
はっきり断ってくれていいからね」
「そ、そんなことないよ!
…美貴ちゃんに、髪切ってほしい…」
亜弥は顔を赤らめながらつぶやくように言った。
「えへへー、よかったー。
イヤって言われたら、美貴、相当ヘコんだよ」
美貴が今度は亜弥の髪を優しく撫ではじめる。
(美貴ちゃんに髪いじられるの、すっごく気持ちいいんだけど…)
亜弥は、思わずうっとりとした顔つきになっていた。
「じゃあ、いつにしよっか?早い方がいいよねー。
あ、今度の土曜は?美貴、たぶん休みの日だから」
「休みなの!?」
(美貴ちゃんと一緒におでかけしたいかも…)
「うん。美貴、休みの日はだいたいお昼過ぎまで寝てるから、
それから家のこととかやるしー…6時くらいとかでどう?
もっと遅い方がいい?」
「…ううん。大丈夫」
(…ガックリ。ホント髪切るだけってカンジじゃない…)
「じゃ、駅まで迎えに行くから」
笑顔の美貴を見て、亜弥もうれしそうに頷いた。
- 33 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:16
-
そして、その土曜日。
美貴の家にやってきた亜弥。
1Kの間取りだけれども、広さは結構ある。
「おじゃましまーす」
「どーぞ。散らかってて悪いけど。今日掃除したかったんだけど、起きたら4時でさ、
ちょっとしかできなかった」
キタナイというほどではないが、モノが沢山あり乱雑に置いてあったりする。
「もー、美貴ちゃん、女の子なのにダメじゃん」
「ごめーん。いつもさ、寝に帰ってきてるようなもんだからさ」
「じゃあ、今度掃除してあげるよ」
「あははー、亜弥ちゃんに掃除してもらえるなんてうれしいな」
美貴は、亜弥にTシャツと短パンを渡す。
「コレに着替えておいて。服に髪つくの、イヤでしょ?
着替えたら、あっちのお風呂場の方に来てね」
「うん」
美貴が部屋を出ていき、ドアを閉める。
亜弥はぐるりと部屋を見渡して、安心してうれしくなった。
(こんな散らかってるんじゃ、恋人なんていないんだろうなあ)
- 34 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:16
-
着替えてお風呂場の方に行くと、
美貴は亜弥にレインコートのようなポンチョを着せた。
「じゃ、髪の毛、濡らすよ。」
まずは美貴がお風呂の手前にあるシャワー付きの洗面所で亜弥の髪をシャワーする。
美貴の指が優しく、亜弥の髪を濡らしていく。
軽くタオルで髪を拭くと、お風呂場の中に置かれたイスに亜弥を座らせる。
「カタチは変えないから。全体的に1、2センチ切るつもりで」
美貴はハサミを使い始める。
お風呂場の壁にある鏡で美貴の姿を見つめる亜弥。
横の髪を切るときに、顔がすごく近づいてきて、
亜弥はドキドキしてきた。
「み、美貴ちゃんって、友達からも『美貴ちゃん』って呼ばれてるの?」
「うん、そーだね。呼び捨てか『ちゃん』付けか。
仕事仲間からは『ミキティ』って呼ばれてるけど」
「ア、アタシ、別の呼び方してもいい?」
「えー?いいけど、変なのはイヤだよー」
「んーと、んーと…じゃ、『みきたん』って呼んでいい?」
「は?何、『たん』って?」
「んー、かわいいかなあって…イヤ?」
「別にイヤではないけどー」
「じゃ、決まり!アタシ、これから『みきたん』って呼ぶからね」
「はいはい、わかりました」
美貴は正面に回って亜弥をじっと見る。
顔ではなく髪の毛を見ていたのだが、
亜弥はすごく恥ずかしくなり、思わずうつむいた。
「亜弥ちゃん、まっすぐ向いて」
美貴が亜弥のアゴを軽く上に向けさせる。
(うわっ!…キスするみたい)
美貴の顔が間近にあって自分をじっくりと見ているワケで。
前髪を切っている間中、
亜弥は美貴の目は見れずに、唇の辺りをぼんやり見ていた。
(みきたんの唇って、何か色っぽい…)
- 35 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:17
-
無事、髪の毛を切り終わり、もう一度、洗面所で髪をシャワーする。
「あ、シャンプーとトリートメントもしてあげるね」
美貴が、丁寧に亜弥の髪を洗う。
(あー、すっごく気持ちイイ…)
洗い終わると、ドライヤーをかけ、ワックスなどを使い、
亜弥の髪をセットする。
鏡を一緒に覗き込んでニッコリ微笑む美貴。
「どう?」
「…うん。すごくいいよ」
「ま、ほとんど変わってないんだけどね」
「そんなことないよ。ホントありがと」
「どーいたしまして」
その後、部屋に置いてあるベッドに寄りかかりながら、
しばらく2人でお茶を飲みながら話しをしていた。
亜弥の緊張もすっかり解けて、美貴とこんなに側で2人っきりでいられることを、
すごくうれしく思っていた。
ぴったり寄りそって、美貴の顔を近くでじっと見る亜弥。
(みきたん、かわいい…ダイスキ…)
「ねー、みきたーん」
「ん?」
美貴が亜弥の方に顔を向けると、亜弥はその唇にキスをした。
驚いて目を丸くする美貴。
思わずとってしまった自分自身の行動に恥ずかしくなって顔を赤らめる亜弥。
「…髪の毛切ってくれた、お礼…」
美貴はそんな亜弥を見て微笑むと、頭をポンポンと撫でた。
「亜弥ちゃんにキスしてもらえるなんてラッキーだなあ」
「…ホントに?うれしい?」
「うん、うれしいよ」
亜弥は美貴にギュッと抱きつく。
美貴も亜弥の背中に腕を回した。
亜弥が顔を上げて、上目使いに美貴のことを見つめる。
(…みきたん…うれしいんだよね?)
亜弥は、また美貴の唇に自分のを重ねる。
何度か繰り返した後、美貴の唇が少し開いた隙間から、亜弥が舌を滑り込ませた。
一瞬ビクッとした美貴だったが、そのまま亜弥に応えるように、
2人はしばらくの間、舌を絡ませ合っていた。
やっと唇を離すと、亜弥はギュッと力をこめて、美貴に抱きついた。
(拒否されなかった…アタシ、シゲちゃんに勝った…)
美貴は優しく亜弥の背中を撫でていた。
- 36 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:17
-
2人の呼吸も落ち着いてきたときに、亜弥が美貴の顔を見てニコッと微笑んだ。
「ねー、みきたん、今日、お店来て」
「えー?明日、朝早いんだよぉ」
「髪切ってくれたお礼にごちそうするから」
「…お礼は今くれたじゃん」
美貴が照れたように、亜弥の唇に人差し指をあてる。
「ホントはお礼じゃなかったんだもん。
アタシがしたかっただけ」
美貴は目を丸くしながらも、うれしそうな顔になる。
「じゃ、軽くご馳走になりにいこうかな」
「やったぁ!」
亜弥が美貴に思いっきり抱きつく。
「あはは、亜弥ちゃん、子供みたい」
「アタシ、かわいいってこと?」
「うん、かわいいよ、すっごく」
亜弥は本当にうれしそうに微笑んだ。
「亜弥ちゃんの笑顔は、本当にかわいいよ」
美貴も心からうれしく思い、笑みがこぼれた。
- 37 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:18
-
美貴と亜弥が軽く食事をすませてから、店に行くと、
亜依が一瞬驚いた顔をしたあとにニヤッとした。
「おはよー。亜弥ちゃん、美貴ちゃんと同伴なんてええなあ」
「にゃははー、いいでしょー」
亜弥が美貴の腕をとる。
美貴は照れたように、亜弥の顔を見ている。
「おはようございます。あれ?亜弥ちゃん、髪切った?」
あさ美はニコニコと微笑んでいる。
「うんっ、みきたんに切ってもらった!」
「えー?ええなあ。美貴ちゃん、ウチのも切ってよ」
亜依が自分の髪を触りながら、美貴の方を見る。
「あはは、美貴でよければ。10分1000円で」
「げ!金とるんかい!しかも駅前の散髪屋と一緒やん。安いけど」
亜弥が制服に着替えて出てくる。
客は亜依が相手にしている客がソファーに1組来ていただけだったので、
カウンターに座った美貴の前にはしっかり亜弥が立った。
亜弥はこれ以上ないような笑顔で、美貴と話しをしていた。
美貴もすごく楽しそうにしていた。
が、すぐに30代くらいの客が入ってきた。
亜弥にしか相手をさせない常連の客である。
「みきたん、ごめんね」
仕方ないように亜弥は、その客が座ったソファーの方へ向かう。
- 38 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:18
-
美貴も寂しそうに、そちらの方を見るが、
亜弥は笑顔で、その客に挨拶をしている。
客の方も亜弥に抱きついて、亜弥の頬にキスをしている。
美貴は小さくため息をついて、グラスの中身を飲み干した。
(そーだよな。亜弥ちゃんにとって、美貴は客の1人でしかないんだから)
美貴の前にあさ美がやってきた。
「美貴ちゃん、何か飲む?」
「あ、うん。じゃ、同じモノで」
しばらくあさ美と美貴で話しをしていた。
あさ美は不思議な子で、普通にしゃべっているだけなのに、
なぜか気持ちが和んでくる。
美貴も何だか癒されていた。
「あー、亜弥ちゃんいいなあ」
あさ美がそうつぶやいたので、ソファーの方を見ると、
亜弥が客からヴィトンの紙袋を受け取っているところだった。
「わあっ!ありがとう。中見てもいい?」
亜弥が紙袋の中を取り出すと、ショルダーバッグであった。
「すごーい、かわいい!こんな高いのいいの?」
「亜弥ちゃんが、喜んでくれるなら、安いもんだよ」
美貴はグッと唇を噛んだ。
(どうせ、美貴はそんな高価なプレゼントとかできないし)
- 39 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:18
-
「あのお客さん、社長さんらしいんです。
海外にもいくつか支店とかあるようなところで、
出張に行く度に亜弥ちゃんにお土産買ってきて」
あさ美がうらやましそうに、亜弥を見ていた。
「あさ美ちゃんも、お客さんからプレゼントもらったりするんでしょ?」
「ええ、まあ。でも、私は、ケーキとかお菓子とか、
ほとんど食べ物ばっかりですけど」
「でも、あさ美ちゃんはブランド物とかより、
そっちの方がうれしいんじゃない?」
あさ美がニッコリと微笑む。
「よくわかりましたねー。
そう考えると、私って安上がりな女ですよね…」
「そんなことないよ。ソレがあさ美ちゃんのイイところだよ」
美貴が立ちあがって、あさ美の頭をポンポンと撫でる。
あさ美が照れたように顔を赤くする。
その様子を亜弥がたまたま見ていた。
(あ!もーみきたん!アタシ以外の子にそんなことしちゃダメ!)
亜弥が顔をしかめると、客の方が心配する。
「別のブランドの方がよかったかな」
「え?あ、ううん。本当にどうもありがとー。
忘れないように、自分の荷物の方に置いてくるね」
亜弥が紙袋を持って立ち上がると、美貴の方にさりげなく寄っていって、頭を小突く。
「あ?…亜弥ちゃん?何?」
亜弥は、プイと顔を背けて、そのまま従業員室の方に向かう。
「もー、何なの?」
美貴が呟くのを、あさ美は微笑んで見ていた。
- 40 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/21(火) 13:18
-
その後も、亜弥が客と楽しそうに話しているのが気になってしまい、
他の客もやってきたので、美貴は帰ることにした。
「あさ美ちゃん、帰るね」
「あ、今日は亜弥ちゃんがおごるって言ってましたから、お金はいいですよ」
「え?ホントに?」
「はい。亜弥ちゃんがそんなこと言うの初めてですよ」
「ふーん…」
美貴が帰ろうとカバンを持って立ち上がると、
亜弥も立ち上がって美貴の方に行き、ドアの外まで見送った。
「みきたん、今日はありがとう」
「いや、そんな大したことしてないし。
こっちこそありがとう、ごちそうになっちゃって」
亜弥はうれしそうに美貴に抱きつく。
「じゃ、お礼して?」
「へ?」
亜弥が目をつぶって、顔を上げる。
「…え?あ、ああ、そういうこと?」
美貴が戸惑いながらも、軽くキスをする。
亜弥が笑顔になって、美貴の頬を撫でる。
「じゃ、また来てね!」
亜弥が満面の笑みのまま、店の中に戻っていく。
美貴は、店のドアをぼんやり見ていた。
(「また来て」かあ…そうだよ、あくまで客なんだって。
何、本気になりそうになってんだろ。美貴、バッカじゃないの)
美貴はトボトボと歩きはじめた。
- 41 名前:ラッキー 投稿日:2004/12/21(火) 13:23
- 更新しました。
>>25さん
早速ありがとうございます。
期待に添えるかわかりませんががんばります。
>>26さん
ありがとうございます。
自分でこの作品が一番好きだったんで、
今、定番のCPでも書いてみたいなーなんて思って書き始めました。
これからもどうぞよろしくです。
>>27さん
ありがとうございます。
私も、あやみき、田亀、好きです。
もちろん、いしよしやおがこんも好きですけどね(笑)
がんばります!
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 22:18
-
更新乙です!
復活なんてすごく嬉しいです。
前作のもとても好きだったんでw
今回はあやみき、田亀がメインだそうで
これからも楽しみにしています!
ラッキーさんが書くCP皆好きですので〜頑張って下さいね。
- 43 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 13:07
-
(みきたん、全然来てくれないし…)
亜弥が美貴に髪を切ってもらってから、3週間がたった。
その間、美貴は全く店に来ることはなかった。
亜弥は何度か携帯に電話をしてみたが、
出てくれたことはなく留守番になってしまうので、
メッセージは残さなかった。
(もー、電話してって言ったのみきたんなのに)
亜弥は自分の携帯番号を教えていなかった。
こっちからすればいいと思っていたから。
(アタシ、もしかして嫌われちゃったとか…でも、何で?)
亜弥は全く心当たりがなかったので、
ただ単に仕事が忙しいだけなんだと思うようにした。
圭が1人でやってきたときに、亜弥はそれとなく聞いてみた。
「最近、みきたん、忙しいんですかねー?」
「ミキティ?何かね、向こうのお店に行ってるらしいよ。
シゲちゃんに付き合わされてるみたいで」
「え?…そうなんですか…」
(何よ!何で、シゲちゃんに付き合うワケ?
だいたい、あっちの店行くなら、こっちにだって来てくれてもいいのに!)
「何だっけ?ホラ、ココでちょっと働いててカオリが気に入ってた子、
梨華ちゃんだっけ?その子の彼氏が最近お気に入りみたいで」
「え?よっすぃー?」
「あ、そうそう。ミキティがカッコイイとか言ってたわ」
(確かに、よっすぃーはかっこいいけど…)
美貴のタイプは、そういう人なのか、
確かに自分とは違うと亜弥はガックリした。
- 44 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 13:08
-
その次の日のこと、店の電話が鳴ったので、近くにいたあさ美が出る。
「あ、まこっちゃん?……なっちさん?まだ来てないよ……
こっちは、まだそんなに……へー、そうなんだ……
あ、美貴ちゃんでしょ?……そうそう……うん、わかった、じゃあね」
亜弥は『美貴』という言葉に反応してあさ美を見た。
あさ美は電話を切ると、亜弥の方を見て微笑んだ。
「美貴ちゃん、今、あっちのお店に来てるらしいよ」
「…え…」
「シゲちゃんと一緒に。最近、よく来てるみたいで」
(やっぱ、よっすぃーのことが好きなんだ。
アタシのことなんて、もうどうでもいいんだ…)
亜弥はボロボロと泣き出した。
「…え?亜弥ちゃん?どうしたの?」
亜弥はヒックヒック言うだけで、何もしゃべらない。
亜依も驚いて、亜弥の方を心配そうに見る。
あさ美が亜弥の耳元で囁く。
「…もしかして、美貴ちゃんのこと?」
亜弥はもうガマンできずに、コクンと頷く。
あさ美がニッコリとして、電話をかけはじめる。
「もしもし、あさ美です、まこっちゃん?……
あのね、美貴ちゃんに代わってくれない?……
あ、ご無沙汰してます。あさ美です……
あのですね、今すぐこっちの店にちょっとでいいんで来てもらえませんか?……
ちょっと亜弥ちゃんが大変なことになってて……
いや、美貴ちゃんじゃないと手がつけられないと思うんで……はい、お願いします」
あさ美が電話を切ると、亜弥に微笑む。
- 45 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 13:08
-
すると、1分もたたないうちに、店の扉が思いっきり開かれて、
美貴が息を切らせながら、入ってきた。
すぐに亜弥が気付き、美貴の胸に飛び込む。
他の客の視線を感じたので、美貴は慌てて亜弥を連れて店の奥に引っ込む。
「ちょっと、従業員室借りるね!」
従業員室に入った亜弥と美貴。
亜弥はまだ泣いている。
美貴は亜弥の頭を優しく撫でた。
「亜弥ちゃん…どうしたの?」
「…みきたんの、ばかぁ…」
「…確かにバカだけどさあ、そんな改めて言われても…」
「何で、電話に出てくれないの?」
「え?留守電入れてくれてないよね?」
「入れてないけどぉ、何回もかけたんだよ」
「ごめん。美貴、知らない番号からかかってきた電話は出ないんだよね。
本当に用事ある人なら留守電入れてくれるから、それでかけ直すから」
亜弥は頬を膨らませて、美貴を睨む。
「あっちの店によく行ってるんでしょ?」
「うん、シゲちゃんに付き合わされてね。
ホラ、タカちゃんのことお気に入りだから。
シゲちゃんもさ、美貴くらいにしか頼めないんだよ。
前に週刊誌に撮られたこともあるし、マネージャーとかも厳しいからさ。
っていってもあっちの店だって3回くらいしか行ってないよ」
「よっすぃーのこと、お気に入りなんでしょ?」
「あ、あー、かっこいいよねえ。でも、彼女いるじゃない。
彼女の話し聞くのが面白くってさ。
彼女の話ししてるときの、よっすぃーが普段と表情が違いすぎるし」
亜弥は美貴をじっと睨んでいたが、
美貴がこうやって来てくれて、
自分の髪を撫でていてくれていることで、少し落ち着いてきた。
- 46 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 16:36
-
「みきたん、アタシのこと、イヤになった?」
「え?な、何で?」
「だって、髪の毛切ってもらった日から、こっちに来なくなった」
「そ、それはたまたまだよ」
「アタシにキスされたのが、本当はイヤだったのかなあって」
「…そんなことないよ」
「じゃ、アタシのこと好き?」
「え?ああ、うん、まあ」
「愛してる?」
「…へ?」
「アタシはみきたんのこと愛してる。
みきたんのことが誰よりも好きなの」
「え?あ、あの、それって…」
「本気で好き、大好き」
亜弥は美貴に思いっきり抱きつく。
美貴は小さくため息をついた。
「…亜弥ちゃんにとって、美貴は単なるお客じゃないの?」
キョトンとして顔を上げた亜弥を、
美貴が少しさみしそうな顔をして見ている。
「そんなワケないじゃん!
そりゃ、お客さんでもあるけど、アタシにとって一番大切な人。
みきたんに側にいてほしいの」
「亜弥ちゃん…」
美貴は、自分の気持ちを素直にぶつけてくる亜弥を見ていて、
今までガマンしていたものが溢れ出たかのように、たまらなくいとおしくなってきた。
美貴が亜弥の唇を奪う。
亜弥もそれに応えて、2人は熱いキスを交わした。
- 47 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 16:36
-
ちょうどその頃、なつみが店にやってきていた。
「おはよー。今日も1日、がんばるよ!」
なつみが、そのまま従業員室に向かっていった。
「あ、なっちゃん!今入らない方が…」
あさ美の止める声は一足遅かった。
なつみは、従業員室の戸を開けると、一瞬固まった。
「……こんなとこで、何やってるさー!?」
「「ご、ごめんなさいっ!」」
美貴と亜弥が慌てて、店の外に出る。
「ごめん、亜弥ちゃん。後で怒られちゃうね」
亜弥はニコニコしながら、首を横に振った。
「いいもーん。みきたんとチューできたから」
美貴も笑顔になり、亜弥の髪を優しく撫でた。
「今度また、みきたんの部屋行ってもいい?」
「ん、もちろん」
「今度いつお休み?」
「えーと、あさってかな?」
「じゃ、仕事終わってから、あさっての朝、行くね!」
「ん、わかった。待ってる」
亜弥は本当にうれしそうな顔をして、美貴に抱きつき頬にキスをすると、
店の中に戻っていった。
美貴がはしゃぎたい気持ちを押さえながら、
元いた店に戻ったときに、ひとみがニヤニヤしながら見てきた。
「ナニナニ?ミキティは亜弥ちゃんとそういう関係なワケ?」
「んー、どうやらそういう関係になったみたい」
「えっ!?今、なってきたの?」
「そういうこと」
「えー!?すげー!あの亜弥ちゃんをおとすなんて。
さすがミキティ!ただものじゃないね」
「美貴も不思議なんだよねー。
亜弥ちゃんが何で美貴がいいと思ったのか」
「そんなとこもいいんじゃないの?
ウチも梨華ちゃんがいなかったら、ミキティに惚れてるかもだし」
「はいはい、さすが営業トーク、うまいね」
「ははは、バレたか」
そんな話しをしているときに、隣りで愛と話していたさゆみの携帯が鳴り、
さゆみは店の外に出ていった。
- 48 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 16:37
-
愛がため息をつく。
「タカ、大丈夫か?」
ひとみが心配そうに愛のことを見る。
「あ、ああ、大丈夫ですよ、何とか」
「ねー、そういえば、シゲちゃん、タカちゃんちに行ったりしてんでしょ?
もしかして迷惑だったりする?それなら、美貴がそれとなく言ってあげようか?」
美貴が愛のことを心配そうに見る。
「迷惑っていうか、この前、部屋で彼女を鉢合わせましたけどぉ…
それは何とかごまかせましたし」
あゆみが部屋にいるときに、さゆみが押しかけてきたことがあったのだ。
「何か、自分の気持ちがわかんなくなってきちゃって…」
最初は、さゆみの押しに負けてベッドを共にしてしまった。
でも、本来の恋人であるあゆみが、さゆみが部屋にいたことを、
大人の貫禄とはいえ、全然怒りもしなかったことも、
まだ彼氏と別れていないことも、愛にとっては実は不満であった。
「あゆみちゃんを好きな気持ちはもちろんあるんですけど、
最近、さゆが本当にかわいいなって思えてきて。
ほら、あの子、自分の気持ちをはっきりストレートに言うでしょ。
それが、たまんないっていうか…今まで、自分が付き合ってきた人が、
そういうタイプじゃなかったから、新鮮っていうか…」
「ほほう、今、どっちを取るか悩んでるところなんだ」
「まあ、浮気だけならともかく、二股とかできるほど器用じゃないんで」
そこまで話したところで、さゆみが席に戻ってくる。
「ねー、さゆがいなくて寂しかった?」
愛が目を細めて頷く。
「うん、すっごく」
「でっしょー?ねー、今日も泊まりに行ってもいい?」
美貴がさゆみの頭をコツンと軽く殴る。
「コラ、明日、学校なんでしょ。
シゲちゃん、そろそろ帰った方がいいよ」
「えー?じゃあ、もう少しだけ。今日中には帰るからー」
「まったく、しょうがないなあ」
美貴も、何だかんだとさゆみには弱いのだった。
- 49 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 16:37
-
そしてその2日後の朝。
亜弥は記憶をたどって、美貴のマンションまでたどりつき、
インターフォンを鳴らす。
美貴はその頃、まだベッドの中であった。
鳴り響くインターフォンも最初は夢の中のことかと思い、
無視をしていたが何度も何度も鳴るので、ようやく受話器をとった。
「…はい」
『みきたん、おはよー』
「あ、亜弥ちゃんっ?え?え?もう来たの?」
『だってー、みきたんに会えると思って急いできたの』
「あ、そ、そう。あ、今カギ開けるから」
『うんっ』
マンションのオートロックのカギが解除されると、
亜弥はエレベーターまで走った。
そして、美貴の部屋の前まで来ると、亜弥は部屋のインターフォンを鳴らす。
美貴が部屋のカギを開ける。
ドアが開いた瞬間に、亜弥は美貴に飛びついた。
「みきたんっ!」
「お、おー、おはよ」
美貴も戸惑いながら、亜弥の背中をポンポンと叩いた。
「ね、とりあえずシャワーかりてもいい?」
「あ、うん、いいよ、もちろん」
亜弥がシャワー浴びているとき、
美貴はバスタオルと普通のタオル、そしてパジャマ用にと、
Tシャツと短パンをバスルームの前のカゴに入れた。
「亜弥ちゃーん、タオルと着替え置いておくね」
『うん、ありがとー』
美貴はまたベッドに戻りそのまま眠りについた。
- 50 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/24(金) 16:38
-
亜弥はシャワーを浴び終えると、
体や髪を拭いたあと、体にバスタオルを巻いた姿で髪にドライヤーをかけた。
そして、そのままベッドの方に向かう。
美貴が気持ちよさそうに眠っている。
(もー、みきたん、ホント、かわいいんだから)
しばらく寝顔を眺めていたが、そのまま美貴の隣り、布団の中に入りこんだ。
美貴のことをギュッと抱きしめる亜弥。
「…ん?あ、もう出たんだ…」
美貴が目を細く開けて笑顔を亜弥に向ける。
亜弥は美貴にチュッと軽くキスをした。
「…ん」
美貴も亜弥の背中に腕を回した。
それで、亜弥がバスタオル姿のことに気付く。
「あれ?Tシャツとか置いておいたの気付かなかった?」
「ううん、わかったよ。
でも、どうせすぐ脱ぐからいいかなって思って」
「…へ?そ、それって…」
亜弥がニッコリ微笑んで、美貴にキスをする。
だんだん激しくなっていく。
そして、亜弥は美貴が着ているパジャマのボタンを外していくと、
自分の体のバスタオルもとった………
その約1時間後。
亜弥は疲れたのか、美貴の腕の中でぐっすりと眠っている。
その寝顔を美貴は微笑んで見ていた。
一応、今日が恋人として会うのは初めてになる。
だから、美貴も美貴なりに、部屋で会うんだし、
もしかしたらキス以上のこともできるような状況にもっていけたらなあと少しは考えていた。
(それなのにさ、亜弥ちゃんの方からでさ、しかもいきなりだし)
しかも、その後、数時間眠ったあとに、
起きがけにまた亜弥は美貴を求めた。
亜弥はそれから仕事だというのに、
そんなこともお構いなしに。
「…みきたん、ダイスキ」
「ん、美貴も…」
- 51 名前:ラッキー 投稿日:2004/12/24(金) 16:39
- 更新です。
1日遅れですが、亀ちゃんおたおめ♪
>>42さん
ありがとうございます。
何だか恥ずかしいですが、引き続きがんばりますので、
どうぞよろしくです。
- 52 名前:ルーク 投稿日:2004/12/26(日) 12:57
- 更新お疲れ様です。
ラッキーさんのこのシリーズは、
大好きなので、続編が読めてとても嬉しいです。
今回は、あやみきと田亀がメインということで、
これからを楽しみにしています!!
- 53 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:36
-
ある金曜日、絵里とれいなは夕ご飯を食べたあと、
カラオケに行こうとお店を探していた。
しかし、金曜ということもあってどこも空いていない。
「どーせなら、朝までフリータイムとかの方が安いし、
そのくらいの時間にまた来てみよっか?」
「んーそーだね。でもそれまでどうしよ?」
その辺にあるゲーセンなどにも行ってみたが、
まだ時間をもてあまし気味。
「あ!ねー、れいなぁ」
「ん?」
「吉澤さんのお店行ってみない?」
「え?でも…」
「イヤ?」
「…高いんじゃなかと?」
「んー、でもこの前もサービスはしてくれたけど、全然高くなかったじゃん。
そんなに長くいないし、飲み物も1、2杯なら大丈夫だよ」
「…んー……そんならよかよ」
「ホント!?やったー。じゃ、電話してみるね」
うれしそうに電話をかけている絵里を、れいなは少しムッとして見ていた。
(なんね、吉澤さん、吉澤さんって…)
「えー?いっぱいなんですかぁ?……ホントに?
じゃ、お店の近くにいきますんで!……はい、お願いします」
絵里は電話を切ると、笑顔でれいなを見た。
「何かね、今はいっぱいなんだけど、
そろそろ帰りそうなお客さんがいるから、その人たちが帰ったら、
携帯に電話してくれるって」
「あ、そう」
「じゃ、お店の近くにいこっ」
絵里はれいなの手をとると、歩き出した。
- 54 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:37
-
お店の近くには気軽に待てるようなファーストフードとかもなく、
絵里とれいなは近くの公園に空いているベンチを見つけたので、そこに座ることにした。
「ジュースでも買ってくる。絵里、何がいい?」
「じゃ、ミルクティー」
「了解」
れいなが、公園を出て周りを見渡す。
(販売機かコンビニか…)
公園から1分くらい歩いたところでやっと小さいコンビニを見つけ、
ミルクティーとオレンジジュースを買って、れいなは公園に戻った。
すると、絵里の隣りに誰かが座っているのが見えた。
男の人だろうか。
小柄だが黒いスーツを着ている。
絵里が立ち上がると、その人が絵里の腕をとった。
(ナニ!?)
れいなは走って絵里の側まで向かった。
「何しとーと!」
れいなは掴みかかりそうな勢いで相手のことを睨みつける。
「れいな!!」
絵里はれいなに思いっきり抱きつく。
その人は、キョトンとしてれいなを見た。
「なんだー、相手いるんだ。残念。
君みたいにかわいい子、なかなかこんなとこに来ないからねえ」
その人はさわやかに手を振って立ち去った。
- 55 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:37
-
「絵里?大丈夫やった?」
「…うん。さっきの女の人、何回も絵里の前通ってジロジロ見てくるから、
何かと思って絵里もあの人のこと、じっと見たのね」
「…え?さっきの人、女?」
「うん、最初男の人かと思ったけど。
そしたらね、絵里の隣りに座ってきて、『かわいいね』って言ってきたから、
『ありがとうございます』って返事したら、また顔をじーっと見てくるから、
こわくなって立ちあがったら腕つかまれて」
「…ごめん。絵里のこと、1人にしてしまったから」
れいなは絵里の背中を撫でた。
「ううん、れいなは悪くないよぉ」
絵里はれいなから少し体を離すと、顔を覗き込んで、ニコッと微笑んだ。
「っていうか、さっきのれいな、すごくかっこよかった」
「…そ、そんなことなか…あ、あー、ほら、ミルクティ買ってきたから飲も」
れいなは、何だか照れくさくなって、缶を絵里に渡した。
ベンチに座ってジュースを飲む絵里とれいな。
周りにいくつかあるベンチにはカップルたちが座っているが、
それぞれ男同士、女同士。
しかも結構激しいキスをしたり体を触りあったりしている。
「…何か周りスゴかね…」
「うん、そうだね…っていうか、絵里たちもそう見られてるんだよね」
「へ?れいなと絵里が?」
「そうだよ。さっきの人だってそう思ったんだろうし」
「そ、そんなこと…」
絵里がれいなの腰に腕を回した。
れいながビクッとして、ジュースの缶を地面に落としそうになる。
「…も、もー、驚かさんといて」
絵里がクスッと笑う。
「そんなにびっくりしなくてもいいのにー」
「だ、だって、絵里が変なこと言うから」
「変なことなのかな?」
「…え…」
れいなが目を丸くしてると、絵里の携帯が鳴った。
「あ、吉澤さんだぁ」
笑顔の絵里を、れいなは少し悲しい気持ちで見ていた。
(どーせ、絵里は吉澤さんのことがええんやろ)
- 56 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:37
-
絵里とれいなが店に行くと、ひとみが笑顔で迎えてくれた。
「おー、いらっしゃーい」
「こんばんはー」
混み合っている中、カウンター席に通される。
最初に少しだけひとみが相手をしてくれた。
さっきの公園での話しをすると、ひとみは笑い飛ばした。
「そりゃあそこに1人でいたら声かけられるよ。
だって、そういう場所だもん」
「そういう場所?」
その公園は、ゲイの人で相手を探してる人が
声をかけてもらうためにいくような場所だったのだ。
「え?じゃあ、もし絵里が連れていかれてたら…」
「やられてたね、確実に」
「な!」
れいなが、ムッとして握り拳をつくる。
「まーまー、何もなかったんだし、よかったじゃん」
れいなをなだめるように、ひとみが微笑む。
「亀井ちゃんもちゃんと守ってくれる人がいてよかったじゃん」
「はいっ!」
絵里もニコニコとれいなとひとみのことを見る。
(…ホントは吉澤さんに守ってもらいたいんっちゃろ…)
れいなは拳にグッと力をこめた。
さすがに混み合っているだけあって、
ひとみはいろんなお客さんのところにいっては声をかけている。
絵里とれいなはしばらく2人で普通に話しをしていた。
- 57 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:38
-
実は、そのとき、たまたま、美貴とさゆみが店に来ていた。
れいなの隣りにいたのがさゆみであった。
「ねー、今日、お部屋いってもいい?」
「いいけど、明日仕事じゃないの?大丈夫?」
「明日は夕方からだから大丈夫」
ふと、さゆみと愛の会話が聞こえてきて、れいながチラリとそちらを見る。
そして、さゆみに気付きハッとなる。
「ちょ、ちょー、絵里!」
「ん、何?」
れいなが、絵里に耳打ちをする。
「隣りにいるの、シゲちゃん!」
「え?」
絵里が覗き込んでさゆみのことを確認する。
「ホントだぁ。実物もかわいいねえ」
絵里も小声でれいなに答える。
絵里とれいなは2人で話しをしつつも隣りの様子が気になっていた。
今をときめくアイドルがいるのだから、当然のこと。
れいなはチラチラとさゆみ、そして美貴のことも見ていた。
「シゲちゃんと一緒にいる人もきれいかー。女優さんとかかな?」
「んー、テレビとかで見たことはないけど…」
れいながソワソワしているのが、絵里は面白くなかった。
(もー、れいな、ミーハーなんだから!)
- 58 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:38
-
他の客が入ってきて、愛がそちらに行くと、
さゆみが美貴と言葉を交わしつつも寂しそうにしていた。
「なー、シゲちゃんに話しかけてもよかね?」
れいなが絵里にコソッと聞く。
「えー、いいのかなあ?」
「大丈夫やろ」
れいなは笑顔で、さゆみの方に体を向ける。
「あのー、道重さゆみさんですよね?」
さゆみは一瞬驚くが、すぐに笑顔になる。
「はい、そうです」
「うわー、れいな、めっちゃファンなんですよ!
今やってるドラマも見てますし、日曜の朝やってる番組も見てるし、
映画も見に行ったし」
「ホント?ありがとうございます」
「あ、握手して下さい」
「はい。これからも応援して下さいね」
「はいっ!もちろんです」
れいなが両手で握手をする。
「絵里もしてもらいなよー」
「え、でも」
絵里が戸惑っていると、さゆみがニッコリとして手を出す。
「応援よろしくお願いします」
「あ、は、はい」
絵里も思わず手を出して握手をする。
「シゲちゃん、さすがだね、完璧だね」
ひとみが笑って見ていた。
「はい。私はかわいいアイドルですから」
さゆみも笑顔で答える。
「あはは、それでこそ、シゲちゃん」
美貴も笑顔で、さゆみの頭を撫でる。
「あ、あの、そっちの方は女優さんとかですか?」
れいなが美貴の方を見る。
「え?美貴のこと?美貴は単なるスタッフだよ」
「そうなんっすか?すっごいキレイだから芸能人かと思った」
「あはは、そんなワケないじゃん」
美貴が笑い飛ばすとひとみも笑った。
「ナニナニ?田中ちゃん、ミキティみたいのがタイプ?」
「え?いや、まあ、そのー、バリきれいっす!」
れいなが照れたように小さく微笑む。
「田中ちゃんっていうの?田中ちゃんもかわいいよ」
美貴がにっこりとする。
「い、いやー、そんなことなか」
「んー、かわいいです。ワタシ、かわいい人好きです」
さゆみもニコニコとれいなを見る。
「…そんなことシゲちゃんから言われると、超ハズいけん…」
れいなは顔を真っ赤にしてうつむいた。
- 59 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:38
-
(もー!れいなのバカ!)
その様子をずっと見ていた絵里は、ムッとしていた。
「絵里、もう帰る」
「え?帰っちゃうの?
カラオケの時間までまだあるけん」
「家に帰る」
「…は?何で?」
「じゃあね!」
絵里はサイフから5000円札を出すと、
それをテーブルの上に置いて、立ち上がった。
「ちょ、ちょー、絵里?」
れいなが絵里の腕を掴むが、振り払われる。
「れいなは、ゆっくりしていけばいいでしょ!」
「は?何言うと?」
絵里がドアまで行ったのを追いかけるれいな。
「もう!ついてこないで!」
絵里はドアを開けて、自分だけ外に出ると思いっきりドアを閉めた。
「…は?何ね?…ワケわからん…
せっかくシゲちゃんいるんやからゆっくりしたらよかね?」
れいなはブツブツ言いながら、席に戻った。
- 60 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:39
-
「田中ちゃーん。マズいんじゃないのー?彼女、怒らせちゃって」
美貴がからかうように笑う。
「彼女なんかじゃないです。単なる友達やし。
絵里の方こそ、突然怒りだしてワケわからんし」
「ふーん。でも、亀井ちゃんは、田中ちゃんのこと好きだと思うけどなあ」
ひとみもニヤニヤしながら、れいなを見る。
「は?そ、そんなことあるわけなか…
だいたい、絵里は別に好きな人がいるはずやけん…」
れいなはチラリとひとみをにらむように見る。
「そーかなあ?どう考えても今のはヤキモチじゃん。
美貴とシゲちゃんに対して」
美貴とひとみが頷き合う。
「ワタシもタカさんが他の子のことをカワイイとかキレイとか言ってたら、
あんまりいい気はしないです。
そりゃ、ワタシが一番だとは思いますけど」
さゆみもニコッと微笑む。
「田中ちゃんはどーなのさ?
亀井ちゃんのこと、好きじゃないの?」
ひとみがれいなに聞く。
「…そりゃ、友達としては好いとーけど…」
れいながつぶやくように言うのを、美貴がニヤッとして見ていた。
「んー、彼女みたいなかわいい子がこの辺ウロウロしてたら、
まずナンパされるね」
「あ、さっきもうされたらしいよ」
ひとみが答えると、美貴がうれしそうに笑った。
「そーだろうね。美貴も1人で暇だったら
彼女みたいなかわいい子いたら声かけるかもしれないもん」
「…え…あ、あの、帰ります!いくらですか?」
れいなは慌てて会計を済ませた。
「彼女のこと大切にしてあげてね」
さゆみが微笑むと、れいなは困ったようにしながらも頷くと、
急いで店を出ていった。
- 61 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/27(月) 19:39
-
「ふーん、ミキティ、ナンパとかするんだ?」
ひとみがニヤニヤしながら美貴を見る。
「するワケないじゃん。田中ちゃん、迷ってたみたいだからさ」
「おー、ミキティ、優しいねえ。
なーんだ、亜弥ちゃんにチクっておこうと思ったのに」
「え?お願いだから誤解されるようなこと言わないでよ!
後でフォローするの大変なんだから」
「じゃ、お店に来てたかわいい女子大生をナンパして、
2人で消えてったって言っておくよ」
「もー、マジでやめてよ!」
「ついでに、ワタシにも手を出したってことにしておいて下さい」
「シ、シゲちゃんまで何言ってんの!」
「だってー、藤本さんがオロオロしてるのかわいいんだもん」
さゆみとひとみは大笑いした。
「頼むよー、かわいいとかそういう問題かよ…」
美貴はガックリと肩を落とした。
- 62 名前:ラッキー 投稿日:2004/12/27(月) 19:42
- 更新しました。
しばらく田亀が続くかもです(笑)
>>52ルークさん
ありがとうございます。
前作からお付き合いいただいてるとはうれしい限りです。
これからもどーぞよろしくお願いします。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/28(火) 00:37
- 田亀一推しなんで嬉しいです!
ヤキモチ妬きあってるのがらしくて。゚+.(・∀・)゚+.゚イイ!!です
次回も期待してます。
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/28(火) 03:15
- さりげなく最後にあやみきがあるのが良かったです♪田亀も好きなんで、応援してます♪更新、頑張ってください♪
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/28(火) 04:17
- 先生、田亀が大好きです・・・・。
ありがとう、ありがとう。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/28(火) 10:57
- 田亀おもしろいw続き待ってます
- 67 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/30(木) 20:42
- (さっきみたいな男か女かわかんないような人なら、
絵里もついてくことないやろけど。
美貴さんとかいう人みたいなキレイな人だったら、わからんし。
つーか、れいなだったら誘われたらついていくかもしれん)
れいなは周りをキョロキョロと見ながら、急ぎ足で駅の方に向かっていた。
途中、絵里の携帯に電話もしてみるが、もちろん出てくれない。
(あーっ!もうっ!)
絵里のマンションへ駅からダッシュで走る。
とりあえず、部屋の電気がついてるのを見て、安心するれいな。
(よかった、ナンパについてったんじゃなくて…)
とりあえずホッとはしたものの、絵里の怒りを静めなければならない。
マンションの入口のインターフォンを鳴らす。
が、また無反応。
いるのはわかっているのだから、れいなもめげずに何度も何度も鳴らす。
1分以上鳴らしてやっとガチャリと受話器を取る音が聞こえてくる。
「絵里!!」
『…れいな、しつこい』
「ごめん、とりあえず開けて」
『ヤダ』
「そんなこと言わんと…ほ、ほら、さっき、お店に置いていったお金のお釣りもあるし」
『学校で渡して』
「そんな…だって、れいな、もう電車ないし」
『泊まるつもり?』
「え?…いかん?」
『………』
「じゃあ、また店戻ろうかな」
『…勝手にすれば』
「さっきの公園でも行って、誰か泊めてくれる人探そうかな」
『…もう知らない!』
ガチャンと受話器が置かれる。
(もー、冗談やろが)
れいなはマンションのロビーに座りこんだ。
(しょうがない。絵里にメールしとこ)
『よくわからんけど、れいなが悪かったなら謝る。
絵里が開けてくれるまでココにおるから』
- 68 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/30(木) 20:43
-
それから30分経った頃、
マンションのオートロックのドアが開いた。
「…れいなのバーカ」
「…絵里」
唇を尖らせて睨みつけてくる絵里を、れいなは微笑んで見上げた。
ちょうどそのとき、梨華がレンタルビデオ屋の袋とコンビニの袋を持ってやってきた。
慌てて笑顔を作る絵里。
「あ、石川さん、こんばんは」
「…こんばんは」
れいなも立ち上がって頭を下げると
梨華がニッコリと微笑む。
「こんばんは。友達、泊まりにきたんだ?」
「え?あ、ハイ」
そのまま3人でエレベーターに乗る。
「石川さん、何借りてきたんですか?」
絵里が笑顔を梨華だけに向ける。
「これね、何回も見てるんだけど、今日レンタル安い日だからまた借りちゃった」
梨華が袋の中から取り出したビデオは、アニメ映画のもの。
「あっ!れいなもコレ、大好きで5回は見ましたよ」
「ホント?何回見ても面白いよね」
「はいっ」
梨華とうれしそうに話しているれいなのことを、絵里はキッと睨んでいた。
「じゃ、おやすみなさい」
「「おやすみなさい」」
梨華と別れ、絵里の部屋に入っていく絵里とれいな。
- 69 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/30(木) 20:43
-
絵里は無言のまま、リビングの方に進んでいく。
「なー、絵里」
それを追いかけるようにして、リビングに行くれいな。
「…れいなのバカ」
「は?」
「れいな、かわいい子とかきれいな人なら誰でもいいんだ?」
「なん…」
「デレデレしちゃってさー、バカじゃないの」
「デレデレなんかしとらん!」
「してたもん!ニヤニヤしちゃって、
調子いいことばっかり言って」
「しとらんって!」
れいなが絵里の腕をとると、思いっきり振り払われる。
「もー!れいななんかキライ!大ッキライ!…れいななんか…」
絵里の目にうっすら涙が浮かんでいるのに気付き、
れいなは慌てて絵里の両肩をつかむ。
「ごめん、ようわからんけど謝るから、泣かんといて。
絵里に泣かれるのツライけん」
涙をこらえるようにグッと唇を噛む絵里。
「…れいななんか…」
絵里は、れいなに思いきり抱きつく。
「…ダイスキ…」
その一言でれいなの心臓は跳ね上がった。
絵里はれいなにしがみつくようにしてギュッと抱きついている。
(や、やばい…心臓超バクバクいっとる…
れいな、このまま死ぬかもしれん)
「…絵里以外の人のことカワイイとか言っちゃヤダ」
そう耳元で囁かれると、れいなは余計にワケがわからなくなり、
絵里のことを壁に押しつけ、唇を奪っていた。
だんだん激しくなっていく行為にちゃんと応えている絵里。
絵里は腰に力が入らなくなって、そのままズルズルと座りこんだ。
れいなもそれに従って、しゃがみ込み、キスを続ける。
自然に絵里のことを床に押し倒すような姿勢になり、
れいなは絵里の着ているシャツのボタンを外し始めた。
「…あ!待って!お風呂入ってないから…」
「…そんなの構わん…」
れいなが更にボタンを外していく。
「ダ、ダメ!れいながよくても、絵里がいやなのぉ」
絵里がれいなの腕をギュッとつかむ。
キスをしたせいで、すっかり高揚している顔で、
そんなお願いをされてしまうと、れいなは従うしかなかった。
「…わかった…じゃ、れいなから入ってきていい?」
「ん、いいよ。お風呂も沸いてるから」
- 70 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/30(木) 20:43
-
(ふぅ…ヤバイ、超ヤバイ)
れいなは湯船につかりながら、さっきの絵里との行為を思い出していた。
(絵里が好きって言ってくれたのは、
そういう意味ってことでいいと?)
自分は絵里のことをそういう意味で好きなのかはよくわかってないけど、
絵里とそういうことをしたいと思ったのは事実。
(絵里、かわいすぎるけん…
他の人にそんなことされるんやったら、れいながしたいけん…)
絵里が公園でナンパされていたときのこと、
ひとみのことをうっとりと見ていたことを思い出す。
お腹の奥底がキリキリと音を立てるような気がするほど、悔しく思う。
(…やっぱり、れいなも絵里のこと、そういう意味で好きかもしれん)
大きなため息をつく。
(でも、女の子とするときってどうしたらいいんやろか?)
れいなは、男の人との経験はあったけれど、
さすがに女の人とはなかった。
(しかも、絵里、初めてやなかと?)
れいなは自分の体をギュッと抱きしめた。
れいながお風呂を出ると、すぐに絵里が入っていった。
れいなは絵里の部屋に行き、ベッドを見る。
(ココでするんやろな…)
れいなはゴロンとベッドの上に横になり、
置いてあったぬいぐるみをギュッと抱きしめた。
「…絵里」
そのぬいぐるみにキスをする。
まるで予行練習をするようにぬいぐるみを相手にしていた。
(あー、れいな、アホや…
もー、落ち着かんから、テレビでも見てよ)
- 71 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/30(木) 20:43
-
リビングに戻りテレビをつけると、
たまたまれいなの好きなお笑い番組がやっていたのでそれを見ていた。
その番組が終わって、ふと時計を見ると、
れいながお風呂を出てから、もう1時間半くらいたっていた。
(絵里ってこんなに長風呂やったかなあ?
…もしかして、体とか丁寧に洗ってたりするんかなあ)
ニヤニヤしてしまう自分の頬をピシャリと叩くれいな。
すると、お風呂場のドアが開く音が聞こえてくる。
(あ!き、きた)
れいなは、何でもない風を装って、
テレビの画面をながめていた。
すると、バスタオルを巻いただけの絵里がヨロヨロとしながら、
リビングにやってきた。
「絵里!?どうしたん?」
「…のぼせちゃった、みたい…」
れいなは絵里を支えて、クッションを枕にして、じゅうたんの上に横たえた。
真っ赤な顔で苦しそうにしている絵里の額に、
れいなは冷やしたタオルを乗せてやった。
「…お風呂、出たら…そういうこと、するんだなあ、って思ったら…
なんか、緊張しちゃって…なかなか、出れなくて…」
絵里はポツリポツリとつぶやいた。
れいなは、悲しそうに微笑んだ。
「…そんな無理しなくていいけん。今日は辞めとこ。
絵里の心の準備ができてないなら、れいなはせんでもいいし」
「…え?」
「絵里がそういう気になったとき、言ってくれればいい。
そんときすればいいけん。
それまでれいなからは絶対何もせんから」
絵里がニッコリ微笑んで、コクンと頷いた。
「…れいなって、ホント、やさしいね」
「…そんなことなか」
れいなは照れたように微笑んで、絵里の髪を撫でた。
- 72 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2004/12/30(木) 20:44
-
(しかし、いつになったら、絵里はOKしてくれるんやろ)
あの未遂行為があったのが2ヶ月前。
あれ以来、週に1、2回はれいなは絵里の部屋に泊まりにいっている。
しかも、絵里の方から誘われて。
同じベッドに寝て、絵里もれいなに抱きついたりはしてくるが、
『してもいい』とは言ってくれない。
もちろん、あれ以来キスもしていない。
でも、絵里の方は、学校ででも抱きついたり、腕を組んできたりと
前よりもスキンシップをはかるようになってきていた。
(『れいなからは何もしない』って言ってしまったから、
逆に安心して、抱きついたりしてくるんやろなあ)
隣りでスヤスヤと眠っている絵里を見て、グッと唇を噛むれいな。
(もー、絵里のアホ!
そんな風に寝てたら、襲っちゃいたくなるけん)
れいなは、絵里に背中を向けて、ギュッと目をつぶった。
- 73 名前:ラッキー 投稿日:2004/12/30(木) 20:51
- 短いですが更新しました。
>>63さん
田亀いいですよね(笑)
年相応の幼さがあっていいカンジのイメージがあります、二人は(笑)
>>64さん
ありがとうございます。
次回も田亀メインになりそうですが、さりげなくあやみきも出てきそうです(笑)
>>65さん
そんなに感謝しないで下さい(笑)
こちらこそ、喜んでいただけるなんてありがとうです。
>>66さん
ありがとうございます。
がんばりまっす。
たぶん今年最後の更新ですね。
皆さんよいお年を。
来年もこんなのでよければ何卒よろしくお願いします(笑)
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/02(日) 03:21
- 田亀めちゃくちゃ面白いですね!
次回も楽しみに待ってます。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/02(日) 10:45
- あげちゃったらおとしましょー。
- 76 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 12:57
- その数日後。
2限が急遽休講になり、れいなは学校の外に出てブラブラしようと思った。
れいなたちの学校は都内の街中にあるので、
周りにおしゃれな気の利いたお店も沢山ある。
とくに目的もなかったので、ぼんやりと歩いていると、
人垣ができているところがあった。
その先には、大きな鏡のようなレフ板を持った人や、カメラを持った人がいた。
何かの撮影のようだ。
もちろん、れいなも興味を持って、すぐにその人垣の中に入りこみ、
それを見ることにした。
その撮影の被写体はさゆみであった。
かわいらしい服を着て、
笑顔でカメラに向かって、いろいろポーズをとったりしている。
(おー、シゲちゃん、やっぱかわいかね)
撮影が一旦休憩に入り、見学している人から、
「シゲちゃーん」と声をかけられると、
ニッコリ微笑んで手を振るさゆみ。
れいなも一緒になって声をかけ、手を振った。
さゆみがれいなを見ると、「あっ」とつぶやいてうれしそうに笑った。
れいなも笑顔で頭を下げる。
そして、スタッフの方に近づいていくと、その中の一人がれいなを見る。
そう、美貴である。
美貴は微笑んで、れいなの方に近づく。
- 77 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 12:58
-
「田中ちゃん、何してんの?」
「いや、授業、休講になってしまって、ウロウロしとったです」
「じゃ、時間あるんだ?
せっかくだから、近くで見ていきなよ」
美貴が見学客を見張っているスタッフに一声かけると、
れいなを、さゆみの近くまで連れていく。
さゆみがニコニコと手を振っている。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
れいなはさゆみが撮影だからというのもあるのかあまりにカワイイので、
直視できずに視線を泳がせていた。
それを見て、美貴がクスリと笑う。
「今日はね、雑誌の撮影。
こういう現場見ることなんて、滅多にないでしょ。
たぶん、あと30分くらいで終わるから、ゆっくり見ていって」
「はい、ありがとうございます」
さゆみは笑顔のままれいなを見ていた。
「ね、あのあと仲直りできた?」
「…え…ま、まあ」
「じゃあ、よかったー。ちゃんと付き合うようになったの?」
「…うん、一応…」
「彼女は今日は一緒じゃないの?」
「うん、絵里とは別の授業やけん、今は授業中」
「そっかー、残念。彼女もかわいくて好きなんだけどなあ」
「…へ?」
れいながキョトンとしていると、
休憩が終わったようで、美貴がさゆみの髪を整え、
メイクさんがさゆみの顔を少し直したりすると、すぐに撮影がはじまる。
- 78 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 12:58
-
美貴がれいなを連れて少しだけ離れた場所に立つ。
美貴の視線は、撮影中のさゆみに注がれている。
「彼女と恋人として付き合うことになったんだ?」
「…一応ですけど」
「一応って?」
れいなが、小さくため息をつく。
「あのー、美貴さんは、付き合ってる人、おるんですか?」
「んー、いるよ。
あの子もめちゃめちゃヤキモチ焼きだから美貴も大変」
「…もしかして、女の人ですか?」
「そうだよ。すっごくかわいい子。
超モテるからさ、こっちだって心配してんのに…」
「やっぱ、かわいいからスキになったんですか?」
「んー、そうかな?最初はただかわいい子だなって思ってて。
でも何か陰があるんだよね、それが気になっちゃって。
別にスキって意味じゃなくて、気になる子だったんだよね。
でもさ、向こうがこっちのことスキな素振りみせてくるとさ、
こっちも何かその気になってきちゃうじゃん」
「はあ、何となくわかります」
「それなのに、今じゃ、美貴も相当スキになっちゃったワケだけど」
美貴は困ったようにしながら微笑んだ。
れいなは、何となく自分と美貴の立場が似てるような気がした。
相手が同性の目で見ても、かわいいと思えるから気になったんだろうし、
向こうからスキって言われたことで、
こっちの方が余計にスキになっちゃったんじゃないかと感じるところも。
- 79 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 12:59
-
「あのー、ヘンなこと聞いていいですか?」
「いいよ、答えられる範囲で答えるから」
美貴はニヤリと笑うが、目はさゆみの方を見ている。
れいなが小声で美貴の耳元で囁く。
「彼女と付き合いはじめてどれくらいでしました?」
美貴は楽しそうに笑って、れいなの方を見る。
「もしかして、田中ちゃん、彼女としてないんだ!?」
「へっ!?あー、まー、そうなんです…」
「そっかー、彼女に拒否られてんの?」
「いや、そういうワケでもないんですけど、
たぶん、向こうはその気がないんじゃないかと」
「でも、田中ちゃんはしたくてしたくてしょうがない」
「まあ、したいことはしたいですけどー」
「そうだよなあ、普通そういう初々しさとかあっていいよなあ。
美貴なんか、初めてのデートで向こうからいきなりだったし、
起きたばっかりでムードとかそんなの一切なしだし」
「そうなんですか…」
「今でもさあ、美貴が休みの度に家に来るんだけど、
1日2回はするんだよねー。
美貴はそんなにしなくてもいいんだけど、向こうがしたいみたいで」
「はあ…」
「休みなのに、そっちで疲れちゃって。
最近、皆にやつれてるとか言われるしさあ」
「へー…」
(相談するつもりだったのに、何かノロケられてる気が…)
れいなはまたため息をついた。
- 80 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 13:00
-
「ある意味、田中ちゃんがうらやましいよ。
美貴はさ、何もしなくても、亜弥ちゃんが側にいてくれるだけでいいのにさ」
「れいなも、絵里が側にいてくれればいいと思っとるし、
絵里がしたくないんなら無理にはせんでもいいと思ってます。
でも、そういうのが全然ないと、本当にれいなのことスキなんかなあって、
不安にもなってしまって」
美貴はニッコリ微笑んだ。
「じゃあ、彼女にそうちゃんと伝えたら?
気持ちってね、言わなきゃわかってもらえないもんだし」
「そうですね…美貴さんも、ちゃんと彼女に言った方がいいんじゃないですか?
疲れるからそんなにしなくていい、側にいてくれればいいって」
「あはは、そうだね。美貴もエラソーなこと言えないか」
「まあ、れいなからしたら、すっごく贅沢な悩みですけどね」
「あははは、よしよし、がんばれよ」
美貴がれいなの頭を撫でていると、れいなのカバンのポケットの携帯が震えた。
れいなが画面を見ると、『絵里』となっている。
「うわわわ…もしもし」
『れーな?今何してんの?お昼は?』
「あ、シゲちゃんのとこにおる」
『え?シゲちゃんってどういうこと?』
- 81 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 13:00
-
事情を聞いた絵里は急いでやってきたが、
ちょうど撮影が終わるところであった。
さゆみは絵里に気付くとニコニコして近づいてきた。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
絵里が笑顔で頭を下げると、さゆみはより笑顔になった。
「んー、やっぱりかわいいっ。
ねー、友達になって下さい。名前なんていうの?」
「え?…亀井、絵里です」
「絵里って呼んでもいい?ワタシのことはさゆって呼んで」
「は、はい」
絵里は戸惑いながらもニッコリと微笑む。
「あ、シゲちゃん、車に戻ってって」
片付けをしていた美貴がさゆみに声をかける。
「はい!あ、藤本さん、彼女のメアド聞いておいてもらっていいですか?
ワタシのも教えておいて下さい」
さゆみが絵里の方を指差す。
「はいはい、了解」
美貴が苦笑いすると、ポケットから携帯を取り出す。
「じゃ、あとでメールするねっ!」
さゆみは絵里にギュッと抱きつくと、うれしそうに微笑んで手を振っていってしまった。
絵里がボー然として、さゆみの背中を見送っていた。
「ったくー。シゲちゃん、自分好みのかわいい子見つけると、
すぐにメアドとか携帯番号教えちゃうんだから。
恋人いるとか構わないし」
美貴が困ったように絵里、そしてれいなの方を見る。
- 82 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 13:01
-
そのあと、れいなと絵里は学校に戻って、学食でお昼を食べようということになった。
しかし、れいなの機嫌が悪く、何もしゃべらずにスタスタと歩いていってしまう。
「れーな!れーなってば!」
「…なん?」
れいなが鬱陶しそうに後ろを向くと、絵里が頬を膨らませている。
「歩くのはやいっ!」
れいなは仕方ないように絵里に合わせて歩きはじめる。
「シゲちゃん、あ、さゆって呼んでって言われたんだっけ、
やっぱかわいいね。周りであんなにかわいい子いないもんね」
れいなは何も答えないで歩き続ける。
「撮影とかってあんな風にやってるんだねー。
あ、今度ドラマの撮影、見に行かせてほしいってお願いしてみようかな。
ね、そんときは、れいなも一緒に行こうね」
「…行かん」
「…え?」
「絵里、1人で行ったらよか!」
「…れいな、何、怒ってんの?」
「怒ってなんかなか」
「あー、そっかそっか、れいな、もともとシゲちゃんのファンだもんね。
絵里にだけメアド教えてくれたのが気に入らないんだ?」
「…違う」
「じゃあ、何でそんな不機嫌なの?
さっき、電話で話してたときは機嫌よかったくらいなのに」
- 83 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 13:01
-
「…絵里、すごくうれしそうやった」
「え?」
「シゲちゃんに『かわいい』って言われて、
抱きしめられて、すごくうれしそうにしとった」
「そうだった?」
「しとった!れいなが『かわいい』って言っても、
そんないい顔してくれたことなか。
最近は抱きしめさせてもくれなか」
れいなはキッと絵里のことを睨んだのに、
絵里はうれしそうにニコニコとしていた。
「にひひひ」
「…な、なん?」
思わず、れいなも怯んでしまう。
「れいな、ヤキモチやいてくれたぁ。うれしいな」
絵里はれいなにギュッと抱きつく。
「…は?ヤキモチって?」
「だって、絵里がさゆにいい顔してたのがイヤだったんでしょ?」
「ぐっ…まあ、そうやけん…」
「れいな、最近、絵里のこと、『かわいい』って言ってくれてないよ」
「そ、そうやった?」
「れいなに『かわいい』って言われたら、一番うれしいのに」
絵里はれいなから体を離すと、れいなの手をとり、
手を繋いだまま、歩き出した。
「ね、今日、絵里ん家、泊まりにきて」
- 84 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 13:02
-
れいなは絵里の部屋のリビングでぼんやりとテレビを見ていた。
映画をやっていたが、内容は全然頭に入ってこなかった。
れいなはすごく緊張しながら、
絵里がお風呂から出てくるのを待っていた。
(さすがに、今日はさせてくれそうな気がする…
でも、もし、絵里が何も言わんかったら、れいなから…)
れいなは気合を入れるために、自分の頬をピシャリと叩く。
絵里がお風呂から出てくると、
テレビをつけたまま、しばらくくだらない話しなどをしていた。
「んー、そろそろ、寝ようか」
時計を見ると、1時を過ぎていた。
ベッドに並んで入る絵里とれいな。
「おやすみ」
「あ、おやすみ」
絵里が自然にれいなに抱きつくカタチになるが、
それ以上何も言ってこないし、してもこない。
れいなは大きく深呼吸すると、絵里の顔をのぞきこんだ。
「…絵里」
「ん?」
「…ごめん、絵里との約束、破ってしまう」
れいなは、絵里に覆い被さると、キスをした。
次第に激しくなっていき、れいなは絵里のパジャマのボタンを外していった…
- 85 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/07(金) 13:02
-
(絵里…やっぱりかわいか…)
れいなは絵里の髪を優しく撫でていた。
絵里は恥ずかしそうにしながら、れいなにしがみつくように抱きついている。
「…ごめん。絵里がいいって言ってくれるまでせんって言っとったのに」
絵里が突然クスクス笑い出す。
「な、何がおかしいと?」
「だってー、いつでもよかったのに。
絵里だってれいながしてくれるのずっと待ってたのに」
「…へ?」
「れいな、絵里が抱きついたりしても何にも反応してくれないし、
こんなに泊まりに誘ってるのに、全然何にもないし」
「…家に誘ってくれてたのは、OKだったからなん?」
「そうだよぉ。イヤだったら、泊まりになんか誘わないし。
もしかしたら絵里が嫌われちゃったのかと思ってたくらい」
「そんなこと、あるわけなか」
れいなが、絵里を優しく抱きよせる。
「絵里、かわいか」
絵里がまた笑い出す。
「れいな、今日『絵里、かわいい、かわいい』って言いすぎ。
さっき、何十回も言ってた」
「…やけん、絵里が喜んでくれるかと思って」
「…うん…うれしいよ」
絵里がれいなにギュッと抱きつく。
「でも、『好き』とかも言って欲しいな。
れいな、言ってくれたことないんだもん」
「…じゃあ、今度するときはそう言いながらするけん」
「もー、別にそういうときじゃなくても
いつでも言ってくれていいのにー」
「いや、言わん」
「れーなのケーチ」
「ケチでよか」
おでことおでこをくっつけて、れいなと絵里は幸せそうに微笑みあった。
- 86 名前:ラッキー 投稿日:2005/01/07(金) 13:05
- あけおめです。更新しました。
>>74さん
ありがとうございます。
田亀、ちゃいこーです(笑)
>>75さん
お気遣いありがとうございます
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/08(土) 02:24
- 田亀ちゃいこー
無意識にノロける藤本さんもちゃいこー
作者さんもちゃいこー
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/08(土) 17:31
- キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!!
って叫んでもいいですかね。
正座しながら待ってます( ・∀・ )
- 89 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:08
- 同じ会社の先輩が体調を崩してしまったため、
その人の代理で急遽、美貴は5日間の海外出張に行くことになった。
出張前も美貴は忙しい時期で1週間働きっぱなしであった。
帰国した日も朝に日本に戻ってきて、
それから会社に戻りいろいろとやることがあった。
その次の日は休みだったものの、
家に帰ると、そのままベッドに倒れ込んでしまった。
亜弥も、しばらく美貴に会えずに寂しい思いをしていた。
美貴が帰国したときに、メールが全然届いてなかったらそれも寂しいだろうと思い、
1日1通はメールをしておいた。
事前に帰国日の翌日は休みだと聞いていたので、
亜弥は仕事が終わると、早朝に美貴の家に向かった。
すでに、美貴は亜弥に部屋の合鍵を渡していた。
いつも部屋に来て、すぐにシャワーを浴びるので、
その間、美貴は寝ていたいというのもあったのだけれど。
- 90 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:08
-
亜弥が、そーっと美貴の部屋に入る。
部屋の中のあまりの散らかりように驚く。
ベッドで気持ちよさそうに眠っている美貴を見て、
亜弥は飛びつきたくなったのをガマンして、シャワーを浴びにいった。
亜弥が急いでお風呂から出て、美貴の隣りに潜り込んで、思いっきり抱きつく。
「みきたーん」
美貴は全く反応しない。
「みきたーん…みきたんってばぁ」
亜弥が美貴の体を揺すると、美貴は背中を向けた。
「みきたん!」
亜弥が美貴の体を無理矢理、自分の方に向ける。
美貴がちょっとだけ目を開けてしかめっ面になる。
「みきたん、おかえりなさい」
亜弥は、美貴にキスをした。
美貴はされるがままにしていたが、亜弥が覆い被さってくると、
露骨にイヤな顔をして、亜弥をどかした。
「…美貴、ホントに疲れてんの。お願いだから眠らせて」
美貴が亜弥に背中を向ける。
そんな美貴の行動は亜弥にとってはすごいショックだった。
美貴と会うことじたい、ひさしぶりだし、
自分の姿を見ただけで喜んでくれるんじゃないかと思っていたから。
それなのに、どう考えても鬱陶しいと思われている。
(もしかして、向こうに行ってる間に、誰かイイ人と出会ったとか…)
今回は人気女性モデルの写真集撮影の仕事であった。
(まさか、あのモデルさんと…!)
- 91 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:09
-
亜弥は悲しくなってきて、ベッドから出て、床に座りこんだ。
何とか座る場所が確保できたものの、部屋の中は本当に散らかっていた。
(…アタシ、ふられちゃうのかな…)
亜弥の目には涙が浮かんできた。
(せめて、みきたんに喜んでもらえることしておこう…)
亜弥は部屋の整理をはじめて、部屋に脱ぎ散らかされている服や、
開きっぱなしになっていたスーツケースから洗濯物と思われるものを取り出して洗濯した。
さすがに、掃除機をかけると美貴が起きてしまうかもしれないから、
とりあえず、モノを片付けるだけ片付けた。
そんなとき、亜弥の携帯が鳴り出した。
美貴を起こしてしまったかと思ったが、美貴は新聞を読んでるかのように、
両腕を上げたまま眠っていた。
(ホント、寝相悪いんだから)
美貴の腕を布団の中に入れようとして、
ふと、左手の薬指にリングがあることに気付き、亜弥はハッとする。
美貴はそんなにアクセサリー類が好きではなく、
普段からあまりつけていない。
それなのに、指輪をしている。しかも左薬指。
(…やっぱり、誰か特別な人ができたんだ…)
亜弥は涙が止まらなくなり、声を出して大泣きをした。
それでも美貴は起きる気配は全くなかった。
(みきたんからしたら、アタシ、ウザかったのかな…)
美貴が休みの度に、部屋に来てはしゃぎまくっていた。
(お休みの日だもん、本当はゆっくり眠ったりしたいよね…)
朝早くから押しかけ、美貴が眠っているのに関わらずエッチをしはじめて…
やっぱり休みの日には本当に体を休めたいときもあると思う。
自分が美貴の立場だったら、たとえ好きな相手だとしても、
そんなときに来られたら、イヤかもしれないと。
「…みきたん、ごめんね」
- 92 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:09
-
亜弥はとりあえず今日のところは帰ろうと、
カバンを持って部屋を出ようとしたときに、携帯が落ちた。
そういえば、さっき携帯が鳴ったことを思い出し画面を見ると、
妹からで内容は「元気?」みたいな普通のものであった。
が、その前にもメールが届いていた。
差出人は美貴であった。
昨日の夜、休憩に入ったときに、携帯の電池が切れてるのに気付き、
それから充電したので、その前に届いたものだったようだ。
亜弥は慌てて、そのメールを読む。
『ただいま。亜弥ちゃん、メールいっぱいありがとう。
何か元気になれたよ。でも体はちょっと疲れてるみたい。
明日はお休みだけど、時差ボケとかもあってあんまり寝てないから
起きれないかもしんない。
亜弥ちゃん来ても寝っぱなしだったらゴメンね。
そうなりそうな気がするんで、お土産はテレビの上に置いておきます。
次の休みのときは一緒に映画でも行こうね』
亜弥がテレビの上を見ると、ブランド店の小さな紙袋が置いてある。
急いで開けると、中にはプラチナのリングが入っていた。
「…かわいい」
左の薬指にはめると、サイズもピッタリであった。
指輪をじっくりながめてから、微笑んで美貴の方を見る。
美貴は楽しい夢でも見ているのか、顔が微笑んでいた。
(…あ!…もしかして…)
亜弥はカバンを置くと、美貴の左手をそっと布団から出す。
自分の薬指のリングと並べて見てみる。
(…うわぁ、オソロじゃん!)
さっきまでの気持ちがウソのように晴れて、
また亜弥は美貴の隣りに寄り添い、そっと抱きついた。
「…亜弥ちゃん…」
「ん?起きた?」
亜弥が美貴の顔を覗きこむと、まだ美貴は微笑んだままで眠っていた。
それなのに、美貴は亜弥のことを抱き寄せた。
(…みきたん、アタシの夢みてるんだ…うれしそうな顔しちゃって)
亜弥は美貴にそっとキスをすると、そのまま安心して眠りについた。
- 93 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:09
-
結局、亜弥が仕事にいく時間になっても、美貴は目を覚まさず、
2人は会話をすることがなかった。
それでも、亜弥は本当にうれしかった。
薬指のリングと美貴の顔を見て、笑顔で部屋を出ていった。
美貴は結局30時間ほど眠り続けて、目を覚ましたのは、
その次の日の朝だった。
(んー、よく寝た気がする…)
美貴が枕元に置いていた携帯電話を見ると朝の時間。
(アレ?そんなに寝てないのかな…そういえば、亜弥ちゃん、来てないのかな?)
起き上がって、部屋がキレイになってるのを見て驚く。
(…亜弥ちゃん?)
テレビの上の紙袋がないのを見て、もう一度、携帯を見る。
(あ、やべ…美貴、1日以上寝てるわ…)
その日は普通に仕事があったので、そろそろ準備をしないといけない。
ベッドから下りて、テーブルの上に紙が置いてあること気付く。
『みきたん、おはよー!おかえりなさい!
ちょっと寝すぎだよ〜
あと部屋キチャなすぎ!
掃除機くらいは自分でかけてよね。
じゃ、アタシはお仕事にいってきます。
ゴハン炊いておいたし、おみそ汁も作ったし、
冷蔵庫の中におかずもあるから、
ちゃんと食べて、みきたんもお仕事ガンバッテね。
あ、おみやげありがと!チョーうれしかったよ。
みきたん、大大大大スキ!!
あなたの亜弥より』
「…もー、亜弥ちゃんってば」
美貴は笑顔のまま、その紙を壁のコルクボードに貼りつけた。
「よし、亜弥ちゃんのために、がんばるよ!」
美貴は、キッチンに行き、冷蔵庫を開けて、みそ汁を温めはじめた。
普段は朝食をあまりとらない美貴だったが、
その日の朝ごはんは本当においしく食べられた。
- 94 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:10
-
「おぅ、ミキティ!久しぶり」
その日の仕事場で、久しぶりに圭と美貴は顔を合わせた。
「あ、保田さん、どーもごぶさたしてます」
「あー、最近、ミキティ一緒じゃないから、あいぼんに怒られるんだよね」
「あはは、ここんとこ忙しくって、向こうの店にも行ってないですから」
「じゃー、久しぶりに今日行かない?」
美貴は亜弥と付き合うことになってから、全く店には行ってなかったが、
今日はすごく亜弥に会いたいと思った。
「いいですよ。今日の終わり、そんなに遅くないですしね」
「よっしゃー!じゃ、また後でね」
- 95 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:10
-
美貴と圭がその夜、店に入ると、すぐに亜弥が気付き、
ものすごい笑顔になり美貴に抱きついてきた。
「みきたんっ!」
「あー、えーと、久しぶり…」
店に来ることも、亜弥に会うのも久しぶりだったし、
みんなの前で抱きつかれたりするのは、どうも美貴は照れ臭かった。
でも亜弥は美貴から離れなかった。
「ちょっとー、亜弥ちゃん!
美貴ちゃんのこと、独り占めせんといてよー」
亜依がニヤニヤしながらも亜弥のことを睨む。
「そうですよ。私も美貴ちゃんとお話したいです」
あさ美も頬を膨らませているが、目は笑っていた。
亜弥が美貴と付き合っていることは、店員たちは知っているので、
からかっているのである。
「…だってー、久しぶりなんだもん」
「ウチらの方が、もっと久しぶりやって、なー」
亜依とあさ美が笑いながら、頷きあう。
「…わかったよぉ」
亜弥が渋々、美貴から体を離す。
美貴はそんな亜弥がかわいくて、頭をポンポンと撫でた。
すると、亜弥は本当にうれしそうに目を細めた。
「何よ、ミキティばっかりで、私は歓迎されてないワケ?」
圭が不満そうに、亜依のほっぺをつねる。
「だってぇ、おばちゃんはぁ、見飽きてる」
「アンタ、ホントに失礼ね。そういうこと言うヤツはぁ…」
圭が亜依にキスをする。
「うぇぇぇ…やられてしまった」
亜依がガックリとしてるのを、美貴は笑って見ていて、
そんな美貴を亜弥は微笑んで見ていた。
圭と美貴がカウンターに座ったので、その前に亜弥が行こうとしたら、
亜依とあさ美にブロックされた。
「亜弥ちゃんは、あっちのお客さん、よろしく」
亜依はソファに座っている2人組の客の方を見た。
「よろしくお願いしますね」
あさ美もクスクスを笑いながら、亜弥を見た。
「え…そんなぁ…」
亜弥が明らかにガックリして、美貴のことを悲しげに見る。
「亜弥ちゃん、いっといでよ」
美貴もさみしげにだけれども、亜弥に微笑んだ。
「…わかった…みきたん、またあとでね」
亜弥は渋々ソファの方に向かった。
- 96 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:11
-
美貴は、亜弥が客から触られたり、
もてはやされているのを、チラチラと見ながらイライラしていた。
どうやら新規の客っぽいのだが、すっかり亜弥のことが気に入ってる様子である。
(亜弥ちゃん、相変らず人気あるんだな…)
美貴はなるべく亜弥の方を意識しないようにして、
圭、亜依、あさ美との話しを盛り上げていた。
そして、圭が事前に連絡をとっていたらしく、
途中で圭織がやってきて合流した。
「美貴!久しぶり!!」
圭織は入ってくるなり、美貴に抱きついた。
「ども、ご無沙汰です」
(あー!みきたんにそんなことしないで!!)
亜弥は横目で圭織を睨みつけていた。
ところが、圭織も美貴のことが気に入っているらしく、
美貴の隣りに座り、ベッタリくっついて離れない。
しかも、頬にキスまでしている。
思わず、亜弥は自分の客の元を離れ、
美貴の背中にひしっと抱きついた。
「え?…亜弥ちゃん?」
美貴も驚いたが、圭織もキョトンとしていた。
「あやや?どしたの?」
亜弥が本当にさみしそうな顔をしていたので、
亜依は思わず微笑んでしまった。
「あはは、亜弥ちゃん、かわいー」
「ほんと、何でミキティばっかりモテるワケ?」
圭が亜弥に抱きついた。
「あ!ダメです!」
美貴が亜弥から圭を離してかばった。
「え?もしかして、ミキティとあややって付き合ってるの?」
圭がポカンとして2人を見る。
美貴と亜弥が微笑しながら目を合わせる。
「それは想像にお任せします」
圭と圭織にニッコリ微笑むと、亜弥は自分の客の方に戻っていった。
- 97 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:11
-
それから約1ヶ月後。
美貴が目を覚ますと、ベッドの側に座って亜弥が不機嫌そうに美貴を見つめていた。
「…あれ?亜弥ちゃん、来てたんだ?
起こしてくれたらよかったのに」
時計を見ると、10時であった。
大きく伸びをしている美貴を亜弥は睨むように見ていた。
「みきたん、昨日、あっちのお店行ってたんだって?」
「え?ああ、夜までシゲちゃんと一緒の仕事だったから、
その後、付き合わされた」
美貴はあくびをしながら上半身を起こした。
「何で、こっちの店来てくれないの?
みきたんと付き合うようになってから、
来てくれたのってこの前の1回だけじゃん」
「…ああ…別にたまたま機会がないだけだよ」
「じゃあ、そういう機会作ってよ。
みきたんはアタシに会いたくないの?」
亜弥が頬を膨らませるのを見て、美貴は困ったように微笑んだ。
「亜弥ちゃんとは週に1、2回、休みの日の度に会えるじゃん。
だからお店に行かなくてもいいかなーって。
ほら、美貴、そんなにお酒も飲めないし」
「じゃあ、何で、あっちのお店に行くワケ?」
「それは、シゲちゃんの付き添いみたいなもんだよ」
「アタシより、シゲちゃんの方が大切なんだ?」
「そういう問題じゃなくてさあ」
「アタシより、よっすぃーに会いたいんだ?」
「は?何でよっすぃーが出てくるかな?」
「アタシは少しでも長くみきたんと一緒にいたいの。
だからお店にも来て欲しいし」
亜弥が目を潤ませて美貴のことを見つめてくる。
(あー、もう、亜弥ちゃん、そんな目でそんなこと言うなって)
「この前、お店行ったときさ、
亜弥ちゃん、自分の客放っておいて、美貴んとこ来たりしてたでしょ」
「…うん」
「やっぱ、そういうのってよくないと思うんだよね。
それに、亜弥ちゃんに付き合ってる人がいるってわかったら、
お客さん減っちゃうかもしれないし」
「じゃあ、じゃあ、みきたんがお店に来てもこの前みたいなことしないから!
みきたんに会えるだけでいいんだもんっ」
亜弥は美貴の手を取った。
- 98 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:11
-
美貴は観念したように、亜弥に向かって微笑んだ。
「…休みの日にさ、会ってるときって、亜弥ちゃんと2人っきりじゃない?」
「うん」
「でもさ、店にいると、他にもいっぱい人がいるわけでしょ」
「うん」
「…だから、つまり、ホントは亜弥ちゃんが他の人と仲良くしてるところを見たくないっていうか、
亜弥ちゃんには美貴だけを見てて欲しいっていうか…」
亜弥はベッドの上に上がって、美貴に抱きついた。
「みきたんのおバカさん。そんなこと気にしてたんだ」
「…気にするって」
「アタシ、いっつもみきたんしか見てないよ。
そりゃお店でいたら、仕事だから他のお客さんは相手にしなきゃいけないけど」
「それがイヤなんだよ…美貴さ、実はすごくヤキモチ焼きなの。
だから、亜弥ちゃんがモテてるところを見るくらいなら、
会うことをガマンした方がまだマシなんだよ」
美貴は困ったように、頭をポリポリと掻いた。
「ガマンしてるってことは、ホントはアタシに会いたいの?」
亜弥が美貴の顔をのぞきこむ。
「そりゃそうだよ。会いたいに決まってるじゃん」
「じゃ、毎朝仕事帰りに部屋に来るよ」
「それじゃあ、亜弥ちゃんが全然休めないでしょ」
「いいもん。アタシはみきたんに会えれば、それだけで元気になれるんだもん」
美貴はその言葉をうれしく思ったが、困ったように頭を掻いていて、
小さくため息をついた後、意を決したように亜弥に微笑んだ。
- 99 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/13(木) 13:12
-
「美貴、荷物多いからさ、この部屋狭いと思わない?」
「…え?うん、まあ、いつも散らかってるよね」
何でそんな話しをはじめるんだろうと不思議に思いながら、亜弥は答えた。
「再来月更新だから、そろそろ引っ越そうかと思ってて。
何なら、2人で住めるくらい広い部屋にしようかなあって」
亜弥がキョトンとしてしばらく美貴の顔を見つめる。
「亜弥ちゃんがよければ、一緒に住もうか」
美貴は亜弥の頭をポンポンと撫でた。
亜弥は満面の笑顔になって、美貴にギュッと抱きつく。
「みきたん、大スキ!」
「うん、知ってる」
美貴もクスクスと笑いながら、亜弥のことを抱きとめていた。
- 100 名前:ラッキー 投稿日:2005/01/13(木) 13:14
- あやみき更新しました(笑)
次回はまた田亀かも…
>>87さん
ありがとうございます。
そんな風に言って下さるあなたもちゃいこーです(笑)
>>88さん
ありがとうございます。
どうぞ叫んで下さい。周りに人がいないときに(笑)
- 101 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/15(土) 11:26
- 更新乙です。あやみきキタキター!二人ともかわいいすぎます!
続き楽しみしてますので頑張ってください。
- 102 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:10
-
「田中ー!」
「あ、先輩。どうしたんっすか?」
れいなは、授業のあと、教室移動を1人でしているときに、
同じサークルの男の先輩から声をかけられた。
「お前、亀井と仲良いいよな?」
「え?ま、まあ、ハイ」
『仲良い』なんてそんな言葉で片付けられないような関係なのだが。
「頼む!一生のお願い!!」
その先輩がれいなに向かって拝むように頭を下げた。
何でも、その先輩は絵里のことが気に入っているのだが、
あまり話しをしたことがない。
で、今週末サークル行事で旅行があるのだが、
そのときに仲を取り持って欲しいというのだ。
「そんなんイヤですよ!な、なんつーか絵里のこと騙すみたいやし」
「いや、2人っきりにさせてくれとかいうんじゃなくて、
田中も一緒でいいから、ちゃんと話ししてみたいっていうだけなんだよ」
「でも…」
恋人であるれいながそんな申し出を素直に受けるほど、お人好しではない。
「亀井って、彼氏いないんだよな?」
「…でもソレっぽい人はおるみたいっすけど」
もちろんれいな自身のことであるが。
「え?そうなの?
んー、でも、そういうんじゃなくても、とりあえず仲良くなってみたいからさ、
今週末、頼むな!」
その先輩はれいなの肩をポンと叩くと、走っていってしまった。
「…アホか…なんでれいながそんなことせないかんの?」
れいなは、その先輩の背中をギッと睨みつけた。
- 103 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:11
-
そして、その旅行の当日の夜。
泊まった温泉宿は全て和室で、男女別で数部屋をとってあるが、
そのうちの一部屋で飲み会がはじまった。
この旅行中、絵里はずっとれいなにベッタリくっついていた。
周りにそういう関係だとバレるんじゃないかと、れいなの方はヒヤヒヤしてたくらいに。
さすがに、女同士で付き合っているなんて公言できるような勇気は、
れいなにはなかった。
「にひひひー、れいなぁ」
少しのお酒で酔っ払っているのか、絵里はれいなにしなだれかかってくる。
「…絵里、重いけん」
「いいじゃーん。れいなイヤなの?」
「イヤとかそういう問題じゃなか…」
今日1日、例の先輩は、絵里とれいなの方をすごく気にかけてきていたのだが、
2人の雰囲気が、他の人を除けつけないかのようなので、
なかなか話しかけられずにいた。
でも、さすがに、飲みの場では、近づきやすいと思ったのか、
その先輩がれいなと絵里の前にやってきた。
「おう、飲んでるか?」
「…あ、ハイ」
れいなは少しだけイヤな顔をしたが、一応返事をした。
「亀井はもう酔っ払ってんのか?」
「えー?そんなことないですよぉ」
絵里は少し体勢を直したが、れいなの手を握ったままである。
「亀井と田中ってホント仲いいのな」
「はい、絵里はれいなのこと、大スキですから」
「…ばっ…」
(なに、バカなこと言っとーと?)
れいなは顔を赤くして、絵里の顔を見るが絵里はニコニコとしていた。
- 104 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:12
- 「あはは、女の子で仲イイ子って、まるで恋人みたいだもんなあ。
男同士だったら気持ち悪いけど、女の子だと微笑ましいっていうか」
「そ、そーですよね。女の子どうしで仲イイ子って、
やたらベタベタとかしてますよね?」
れいなが慌てて付け加えると、絵里は頬を膨らまして、
れいなの手をちょっとつねった。
「…イタッ!」
「どうした?田中?」
「い、いえ、何でもありません」
絵里はれいなを見るとニヤッと笑った。
(もー、なんね?絵里のアホ)
こんな状況で避けるのも失礼だし、れいなはその先輩と話しを続けた。
でも、絵里は黙ったままで、会話にほとんど入ってこない。
先輩やれいなが話しをふると、それに答える程度で、
れいなの指を一本一本触ったりくすぐったりして、れいなの手で遊んでいた。
(くすぐったいんやけど、ちょっと気持ちイイかも…)
れいなはそんな気持ちを顔には出さずに、とりあえず先輩と話していた。
- 105 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:12
-
「田中!お前、こんなことでノンキに飲んでる場合か!
俺と勝負するぞ」
「は?」
突然、ガタイのいい男の先輩がやってきて、れいなの腕を掴んだ。
その先輩はれいなと同じ九州出身。
れいなも小さい頃から酒を飲まされているので、かなり強い。
それを知っているので、その先輩はれいなのことをターゲットにしたのだ。
「ちょ、ちょー、先輩!」
「あー、れいな、連れてっちゃヤダー!」
絵里がそう言ったものの、れいなはその先輩に連れていかれて、
部屋の端の方で飲み始めた。
絵里もついていこうとしたが、目の前の先輩に止められた。
「あの人には近づかない方がいいよ、潰れるまで飲まされるから」
「じゃあ、れいなは?」
「田中は強いんだろ?ヤバそうだったら、連れてくるよ。
それまでココで見てたらいいよ」
絵里は不満そうにしていたが、目はれいなの方をずっと見ていて、
先輩の話しもほとんど上の空で聞いていた。
「じゃ、コレ飲んだら、向こうに戻っていいと?」
「おう、それ全部、飲んだらな」
れいなと九州男児の先輩は日本酒の一升瓶を目の前にして、
コップに注ぎ始め一杯づつ飲みあった…
もう少しで、瓶が空になりそうなところで、
その先輩がトイレに行くと言い出した。
れいなもトイレに行きたくなったが、部屋のトイレには先客がいる。
先輩はれいなと飲み始める前からかなり飲んでいた。
どうやら吐いているようで、長くなりそうだったので、
れいなは自分の部屋のトイレに向かった。
(あは、あははは…絵里、絵里はもう部屋に戻っとるんかな)
れいなもさすがに酔っ払ってしまい、記憶が定かでなくなっていた。
トイレから出て、部屋の中を見ると、布団が並べられていて、
1人だけ寝ている人がいる。
枕に乗っているのは、長い黒髪の頭だった。
(…絵里)
れいなは、隣りに入っていくと、その人の体を抱きしめた。
(ん…何かいつもより細い気するけど…絵里、痩せたんかな)
「…好いとう…かわいか…」
れいなは、その人を抱きしめたまま眠りについた。
- 106 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:13
-
たまたま目を逸らしていたときに、れいなが部屋を出ていったので、
絵里はれいながいなくなっているのに気付いて焦った。
「あれ?れいなは?」
「さっき、出ていったよ。部屋に戻ったんじゃないの?」
近くにいた女の子に聞くと、そう言われたので、絵里は慌てて自分たちの部屋に戻った。
絵里が部屋に入ると、1つの布団だけ膨らみがあった。
「…れいな?」
絵里が近づいて、覗き込んで驚いた。
れいなが、同期の新垣里沙のことを抱きしめていたから。
絵里は、里沙かられいなのことを引き剥がすと、
頬を思いっきり引っぱたいた。
「…ん?」
「れいなのバカっ!」
絵里は、れいなの両肩を掴んで揺さぶった。
「…あ?」
「もう、れいななんか知らないっ」
絵里は涙を浮かべて部屋を飛び出していったが、れいなはまだ酔っ払っていた。
(絵里…何で泣いとう?)
れいなは、もう一度隣りにいる里沙のことを抱きしめる。
「…れいながおるから。大丈夫…」
れいなは、里沙の頭を優しく撫でながら再び眠りについた。
- 107 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:13
-
翌朝、れいなは頭の痛さを感じながら目を覚ました。
二日酔いだと思いながら、腕の中にいる人物の顔を見てギョッとする。
「ガ、ガキさん!?」
里沙が顔を赤らめてれいなのことを見る。
「…おはよ」
「え?ああ、おはよう」
れいなは慌てて起き上がり、顔を洗いにいく。
れいなは、絵里と隣りで寝ているつもりだったので、
それは夢だったのかと思った。
(でも、何で、ガキさん、れいなのあんな近くにおったと?)
ふと鏡を見て、自分の左の頬が少し腫れているのに気付く。
(どっかにぶつけたんかなあ?何か痛いし)
部屋の中を改めて見て、絵里がいないことに気付く。
この部屋は1年生の女子の部屋。
他の人は全員揃っていた。
「あれ?絵里は?」
「たぶん、温泉じゃないかなあ?タオルとか持っていってたから」
「ありがと!」
れいなは、急いで大浴場に向かった。
お風呂に入ると、数人のおばちゃんがいるいだけだった。
(あ、もしかして…)
外の露天風呂に出ると、絵里がちょこんと1人で湯につかっていた。
「絵里、おはよう」
れいなが絵里に近づこうとすると、絵里はムッとして立ち上がる。
「?…絵里、どうしたん?」
「…自分の胸に聞いてみたら?」
「は?何言うと?」
れいなが絵里の腕を掴むと、思いっきり振り払われる。
「絵里とじゃなくて、ガキさんと一緒に入ればいいじゃない!」
「は?」
れいながキョトンとしている隙に絵里は出ていった。
「何で、ガキさんが出てくるん?ぜんっぜんわからん」
れいなは、難しい顔をしながらお湯につかった。
- 108 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:14
-
その後もれいなが話しかけようと絵里に近づくと、
絵里は逃げてしまい、別の人の側に行ってしまう。
しまいには、絵里に好意を持っている先輩がずっと絵里の隣りにいるようになっていた。
(絵里…何でなん?)
れいなはこっそり絵里にメールをした。
『絵里、何怒ってるん?全然わからんけん』
絵里がれいなのメールを読んだあと、れいなの方を見た。
れいなはうれしくなってニコッと微笑むと、
絵里はプイッと顔を背けて、メールの返事もくれなかった。
れいなが落ち込んでいると、里沙が隣りにやってきた。
「田中ちゃん、元気ないね?どうしたの?」
「え?いや、そんなことなか」
里沙はニコニコとれいなを見ていた。
「そういえば、田中ちゃんとあんまりちゃんと話したことなかったよね」
「んー、そうやった?」
れいなは、絵里の方が気になり、ずっとそちらを見ていた。
「田中ちゃんって、いっつも亀ちゃんといるから、
2人一緒には話しするけど、2人っきりでは話したことなかったんじゃないかなって」
「んー、んー、そーかも」
れいなは、絵里が男の先輩と笑顔で話しているのを見て、イライラしていた。
一方、絵里も、れいなが里沙と一緒にいるのに気付き、ムッとしていた。
(もー、れいなのバカ!)
結局、その旅行の2日目はれいなは絵里と話すことができなかった。
れいなはワケがわからず、何度も絵里にメールや電話をしたが、
全く返事はなかった。
- 109 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:15
-
その次の日、学校で会っても、絵里はれいなの方に近寄りもしなかった。
れいながうなだれて廊下を1人歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、例の男の先輩であった。
「田中ぁ、何度も呼んでんのに全然気付かないから」
「あー、すんません」
「ま、いいけど。あー、この前、亀井のことありがとな」
「え、ああ、いえ」
「おかげで、普通に話しできるようになったわ。
メアドも教えてもらったし」
「あ、そ、そーですか」
れいなはムカついたが、顔に出さないようにした。
「で、お前ら、ケンカしたの?」
「…へ?」
「だってさあ…」
旅行の日の夜、れいながいなくなったのに気付いた絵里が部屋から出ていき、
その後戻って来なかった。
先輩は自分の部屋に戻ったのかとも思ったが、何となく心配になって、
宿の中を捜してみたら、ロビーのソファーで絵里が、
『れいなのバカ…』とか呟きながら1人泣いていたのだ。
先輩が絵里に声をかけると、慌てて涙をぬぐって、
『何でもありません』と言って、自分の部屋に戻っていった。
で、次の日もれいなと絵里は全く話しをしていないし、
ケンカでもしたのかと先輩は気にかけていたのだった。
「れいなは何もしてないんですけど。
っていうか、あの部屋出たあとに、絵里と話しなんてしてな…」
れいなは、記憶がよみがえってきた。
絵里が自分のことをひっぱたき、泣いていたような気がする。
でも、自分は隣りにいた絵里のことを抱きしめて…
「…!!…絵里じゃなか…ガキさんじゃ…」
確かに、絵里と里沙の髪型は似ている。
絵里よりは里沙の方が少し痩せている。
自分が絵里だと思って抱きしめていたのは里沙で、
その光景を絵里が見てしまったのだとすれば…
(…絵里が怒るの当たり前と…)
れいなは、その後、また絵里にメールも送ったし、留守電も入れた。
『酔っ払っててガキさんと絵里を間違えた』ということを伝えたが、
やっぱり返事はない。
- 110 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:15
-
(こーゆーときは、どうしたらよかね?)
れいなは困っていた。
相談するにも誰に聞いてもらえばよいのやら。
(あ、美貴さん!美貴さんなら、れいなんことわかってくれそう)
でも、美貴の連絡先も知らないのだし、
会えるとしたら、店に行くことくらいしか思いつかなかった。
れいなは、そっと店のドアを開けた。
ひとみが気付きニッコリ微笑む。
「おぅ、田中ちゃん、いらっしゃーい。
あれ?亀井ちゃんは?1人なの?」
「は、はい…あのぅ、美貴さん来てませんか?」
「ミキティ?来てないよ。
ナニナニ?ミキティに会いたくて、亀井ちゃんにナイショで来たの?」
「ち、違いますっ!ちょっと相談にのってもらいたくって」
「恋の悩み?ウチでよかったら、話し聞かせてごらん」
絵里が好意をもっているだろうひとみに相談するのは少し気がひけたが、
今日はとにかく誰かにすがりたかった。
「すんません、じゃあお願いします…」
れいなは旅行でのことを話した。
れいなの間違いで絵里を怒らせてしまっていること、
絵里が全然口もきいてくれないこと。
- 111 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:16
-
「あー、そりゃ、怒るのしょうがないよ」
たまたま、店に来ていた真里も一緒に話しを聞いていた。
「しかもその子って結構意地っ張りだったりするでしょ」
「…はい、ちょっとガンコなとこあります」
「じゃあ、その事情がわかっても、簡単には許してくれないだろうね」
「どうしたら、いいんっすかねえ…」
れいなは大きくため息をついた。
「よっすぃーの彼女もそういうタイプじゃなかったっけ?
ケンカしたとき、どうやって仲直りすんの?」
「いやー、とりあえず謝り倒しますね、こっちが悪くなくても」
「そうなんっすか?」
「で、あとは強引にいきます」
「あはは、よっすぃーらしいわ」
真里が笑った。
「田中ちゃんはさ、きっと優しすぎるんだよ」
ひとみがニッコリとれいなを見た。
「女の人はね、相手がちょっと強引くらいな方がいいの。
真里さんもそうでしょ?」
「んー、そうかも。
とくに普段優しい人に強く来られたら、逆に惚れ直しちゃうかも」
「そんなもんなんっすか?」
真里は大きく頷いた。
「でも、強くってどんな風にやればいいんですか?」
「無理矢理押し倒す!」
ひとみの言葉に真里が大笑いする。
「ま、それは極端だけど、とりあえず部屋に押しかけてみたら?」
「でも、たぶんマンションの鍵も開けてくれないと思います」
「ウチだったら窓からしのび込むね」
「それじゃあ、犯罪じゃないですか!」
怪訝そうな顔をしたれいなの肩を、ひとみはうれしそうに叩いた。
「田中ちゃんは、いい相談相手を選んだね。
ウチのハニーに協力してもらうか」
「は?」
- 112 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:17
-
一方、その日、絵里にはさゆみから誘いのメールが届いていた。
今日はれいなと遊ぶこともないだろうし、
1人でいるのもさみしいから、OKをした。
絵里が1人暮らしのことを知っているさゆみは、できれば家で遊びたいと言ってきた。
アイドルと外で遊ぶなんて、もし周りの人にばれたら、
どう対処していいかわからないし、ジロジロ見られるのもイヤだし、
部屋の方がいいと絵里も思った。
そして、絵里はさゆみと待ち合わせをした。
途中、さゆみだと気付いた人もいたけれど、
とくに声をかけられるでも、追いかけられるでもなく、
近所のスーパーで買い物したり、レンタル屋でビデオを借りたりして、
絵里の部屋に向かった。
一緒にゴハンを作ったり、
ビデオを見たりしていたが、さゆみは何となく気付いていた。
「絵里、何か元気なくない?」
さゆみと絵里がこうやって遊ぶのは初めてだったが、
メールや電話はよくしていた。
だから、そういうのもわかるのだ。
「もしかして、れいなとケンカでもした?」
絵里がいつも『れいな、れいな』とれいなのことを話しているので、
さゆみも『れいな』と呼ぶようになっていた。
もちろん2人がそういう付き合いをしていることも聞かされている。
絵里は涙が込み上げてきて、ボロボロと泣きはじめた。
さゆみは、そんな絵里のことを抱き寄せて、背中をさすってあげていた。
涙が落ち着いた頃に、絵里は旅行でのれいなの話しをした。
別の女の子を抱きしめていたこと。
自分と間違えたのはわかっているのだが、
ココまで怒ってしまった手前、どんなタイミングで許していいのか分からないこと。
「れいな、優しいから、絵里が怒ってるってわかってるから、
話しかけてもこないし。
メールだってどんな返事していいのかわかんないし」
さゆみは小さくため息をついた。
「絵里はいいなあ」
「え?何で?」
「だって、れいなは絶対絵里のことだけが好きだもん」
「…そーなのかなあ」
「そーだよ。タカさんなんて、別に彼女いるし。
ワタシが好きになる人はだいたい他に決まった人がいるの」
「でも、さゆなら、好きになってもらえるんじゃないの?」
- 113 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:17
-
さゆみは絵里を見てニッコリ微笑んだ。
「じゃあ…」
さゆみは絵里にキスをした。
突然だったので、絵里が身動きとれないでいると、
さゆみは舌を入れてきた。
絵里はやっと我に返り、さゆみから離れる。
「…ど、どうして、こんなことするの?」
「ワタシ、絵里のこと好きだよ」
「え?」
「でも、ワタシのこと好きになってくれないでしょ?」
「だ、だって、絵里にはれいながいるから」
「ほら」
さゆみは、少し悲しそうに微笑んだ。
「芸能人だからって、そんな簡単に人から好きになってもらえないもん」
絵里は、何となくさゆみの孤独を感じとれて、
さゆみの頭を優しく撫でてあげた。
「絵里もさゆのこと好きだよ。
でもね、れいなの方が好きなんだもん。
相手がいる人は好きになっちゃダメだよ」
「んー、人のものって良く見えちゃうのかなあ」
さゆみがニコッと笑ったので、絵里も少し安心した。
「絶対いい人いるよ、さゆ、かわいいもん、いい子だもん」
「そうだよねえ。ワタシ、たっくさんの人から好かれてるのに」
「タカさんだって、本当は彼女よりさゆのことが好きかもしれないよ」
「んー、どうなんだろ?
あー、すっごくタカさんに会いたくなっちゃった」
さゆみは、携帯を取り出すと、美貴に電話をした。
「えー、まだ仕事なんですかぁ……わかりました……また…」
ガックリした様子で電話を切るさゆみ。
「んー、今日はそろそろ帰るね。
明日の朝、タカさんの家に寄ってみるから」
「ん、わかった。また遊びにきてね」
「うん」
- 114 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:18
-
絵里は、さゆみを送ったあと、お風呂を出てから、
ベッドに入りれいなからの謝罪メールを読み返していた。
「れーなのバーカ…」
絵里の目から涙が出そうになったときに、部屋のインターフォンが鳴った。
もう11時近くである。
こんな時間に誰だろう?れいなだろうか?
でもインターフォンはマンションのエントランスではなく、
部屋のドアのものが鳴らされているようだった。
絵里は不思議に思いながらも、受話器を取る。
「はい」
『あ、石川ですけどー。こんな時間にごめんね』
「いえいえ、どうしたんですか?」
『ごめん、ちょっと預かってるものがあって、
亀井ちゃんに渡さなくちゃいけないの』
「え?宅急便かなんかですか?」
『うん、そんなとこ。とりあえず、ドア開けてもらっていい?』
「はい、今開けますね」
絵里は梨華であることに安心して、
もし時間があるなら、れいなのことを相談にのってもらおうかと思って、ドアを開けた。
ドアを開いた瞬間に、れいなが絵里に抱きついて、部屋に雪崩れ込んできた。
「絵里!…ごめん!れいなが悪かった」
「…え?え?…なんで?」
梨華が笑顔で絵里に手を振ってドアを閉めているのが見えた。
そう、ひとみが梨華に連絡をしてくれたので、
れいなはこのマンションに入ることができた。
そして、絵里の部屋の鍵も梨華に協力してもらえば、簡単に開いたのだ。
絵里は、事情が全くわからず、自分に抱きついて、
何度も何度も謝っているれいなの声を聞きながらただボー然としていた。
- 115 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:18
-
「絵里以外に誰も好きになんかならん!
絵里のこと、一番好いとう」
れいなは、何も言ってくれない絵里にどうしていいかわからなかったが、
ふと、ひとみのアドバイスが頭をよぎった。
『無理矢理押し倒す』
れいなは、絵里に口付けた。
絵里は驚いたが、れいながキスをしてくれたことはうれしかったし、
もっとしてもらいたかった。
「…んっ…」
「…絵里…」
れいなは、部屋のベッドに絵里を押し倒した…
体では仲直りできたものの、終わってからも、絵里があまり元気がない。
「絵里…ホントごめん。
でも、ガキさんには抱きついただけで、何もしとらんから。
普段だって、絵里が寝てるときに何かしたりせんし」
「…ん…」
学校にいるときまでと違って、絵里が怒ってるような感じではない。
むしろ落ち込んでいるような感じですらある。
「絵里…れいなのこと以外に何かあった?」
絵里は目を丸くしてれいなのことを見る。
おそらく、れいなと里沙の間には本当に何もなかっただろうと思う。
でも、絵里はさゆみとキスをしてしまった。
自分の意思ではないとしても、してしまったのは事実である。
- 116 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/21(金) 12:18
-
「れいな、ごめん…絵里、れいな以外の人とキスしちゃった」
(まさか…先輩と!?)
れいなはガックリと落ち込んだ。
いくら絵里のことを思う気持ちは負けないとしても、
女である時点で、男の人には負けていると思っていたから。
「…絵里が、その人のこと好きっていうなら、
れいなは身をひくけん…今まで通り友達で…」
そう言ったものの、れいなは涙が出てきた。
絵里に背中を向けて、涙をぬぐった。
「え?何言ってるの?…あれ?れいな、泣いてるの?」
「ちが…泣いてなんかなか…」
れいなは、肩を震わせたまま布団にもぐった。
絵里は布団ごと、れいなのことを抱きしめた。
「れいな、ゴメン。泣かないで。
キスしたっていうか、気が付いたらさゆがしてきてたの」
「…へ?…さゆ?シゲちゃん?」
れいなは、布団から顔を出して、絵里を見た。
「そう。今日ね、メールきて遊ぼうっていうから、
さっきまで、この部屋でビデオ見たりしてたの」
「…え…」
「そしたらね、突然、さゆがキスしてきたの。
冗談みたいなカンジだったんだけど。
絵里がイヤがったら止めてくれたから」
「イヤがったの?」
「うん…だって、絵里にはれいながいるから」
絵里はれいなを見てニッコリ微笑んだ。
れいなは絵里に抱きついて、またキスをした。
「れいなも絵里だけやけん」
(でも、シゲちゃんとのチューを拒否するのはもったいなかね…)
れいなは、ヤキモチを焼く以前にそんなことを考えていた。
- 117 名前:ラッキー 投稿日:2005/01/21(金) 12:23
- 更新しました。
ガキさん、こんな登場の仕方で申し訳ないです…
>>101さん
どうもありがとうございます!
あやみきってホントにかわいいですよねえ(笑
たぶん、本編はあと1、2回で終わると思います。
でも前回もやりましたが、脇役の視点で番外編的なものも書きつつありますので、
引き続きよろしくお願い致します。
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 18:57
- れなえりチャイコー!
癒されました、ありがとうございます。
- 119 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 02:15
- イイ!
とにかくイイ!!!
あやみきも田亀もたまりません。
- 120 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 18:48
- れなえり・・・れなえり・・・れなえりです。
スミマセン、細胞が言うことをきかないのです。
- 121 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/28(金) 19:56
-
その日は聖なる日、バレンタイン。
れいなは学校帰り、絵里の部屋に泊まりに行く約束をしていた。
「チョコレートケーキ作ってあるから、部屋で2人で食べようね」
なんて絵里から言われてしまったら、れいなは自分がとろけそうな気持ちになっていた。
れいなと絵里が学校の廊下を歩いていた。
「田中ちゃん」
声をかけられて振り向くと、里沙がいた。
「おー、ガキさん」
里沙はニコッと微笑んで、紙袋をれいなに渡した。
「ん?何?」
「…チョコレート」
里沙は顔を赤らめてうつむくとそのままぴゅーっと立ち去ってしまった。
「…え?」
れいながキョトンとしていると、絵里がムッとしてスタスタ歩き出す。
「ちょ、ちょー、絵里、待ってよ」
れいなが絵里に追いついて、並んで歩き出す。
絵里は頬を膨らましている。
「何で、ガキさんがれいなにチョコくれるワケ?」
「し、知らんよ。
あ、れいな、高校んときとか、後輩の女の子からチョコもらったりしたことあった」
「何ソレ?自慢?」
「ち、違うって!だからガキさんもそんなつもりなんじゃなかと?」
絵里がチラリと紙袋の中を覗くと、手紙が入ってるのに気付く。
「手紙入ってるよ。ラブレターじゃないの?」
「まさか!そんなことあるワケなか」
れいなは、手紙を取り出し読み始める。
- 122 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/28(金) 19:58
-
「…え?…」
絵里が手紙をのぞき見しようとしたので、れいなは慌てて手紙を畳む。
「あー、今、隠した」
「そ、そんなことなか…ガキさん、何か勘違いしとるけん。
だから、あんまり人に見せたらいかんし」
「絵里に見せられないような内容なんだ?」
「いいいい、いや、そういうんじゃなか…」
「じゃ、いいじゃん」
絵里がれいなの手から手紙を取ると、勝手に読み始める。
『田中ちゃんへ
この前のサークルの旅行の夜のこと、ビックリしました。
田中ちゃんが私のこと、そんな風に思ってるだなんて。
あの日以来、何だか田中ちゃんのことが気になって気になってしょうがありません。
コレ私の気持ちです。
よかったら受け取って下さい。
PS 春休み中にディズニーランド一緒に行きたいな』
れいなはガックリと肩を落としていた。
絵里はキッとれいなを睨んでいた。
- 123 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/28(金) 19:58
-
「れいな、ガキさんに何言ったの?」
「酔っ払っとたから、全然わからん…
でも、絵里と間違えとったから、たぶん…」
「たぶん?」
「『好き』とか『かわいい』とか…」
「…もー、れいなのバカ!」
「ホント、れいなはアホやけん…」
れいなが自分のことをそう思ってくれてるのはうれしい反面、
そうしてそんなこと、間違えてるときに言っちゃうかなあと絵里は複雑な心境だった。
「ガキさんに、謝ってきて」
「え?今から?」
「そう、今すぐ。そうじゃなきゃ、チョコレートケーキあげない」
「え?お泊まりは?」
「それもなし」
「そ、そんなあ」
「早く、ガキさんとこ行って来てよ」
「わかった!ごめん、すぐ戻ってくるけん!ちょっと待っといて!」
れいながカバンを絵里に預けて走っていった。
その背中を絵里は微笑んで見ていた。
さゆみが言うように、れいな自身も言ってくれたように、
たぶんれいなは絵里のことだけが好きでいてくれてるんだろう。
れいなのカバン―トートバックの中身が何となく絵里の視界に入ってくる。
そこにはさゆみの写真集が入っていた。
この前北海道で撮影したときのものだ。
しかもご丁寧に、気に入っている写真なのか、いくつか付箋がついている。
「…もー、れいなのバカッ!」
唇を尖らせて、絵里はその付箋を外していった。
でも、悔しいけど、自分はやっぱりれいなが、れいなだけが好きなんだ、
そう思いながら、絵里は自分のプリクラを、写真集の表紙に貼りつけてやった。
- 124 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/28(金) 19:58
-
「もー、みきたん、まだやってないの?」
「ごめん、ごめん、ここんとこ、忙しくって」
部屋には畳んだままのダンボールが積み上げられていた。
この美貴の部屋の契約はあと2週間。
だが、亜弥は美貴が一緒に住もうと言ってくれたその日に、
部屋探しを始め、すぐに部屋を決めて、亜弥は先に1人で住み始めていた。
自分が不規則な仕事だからという理由もあり、
美貴の希望でちゃんとそれぞれの部屋があるようにと、2DKの部屋にした。
一緒に寝たいと思ったときは一緒に寝たらいいだろうということで、
ベッドもそれぞれの部屋に置くことに。
今日は美貴が休みの日なので、
亜弥も荷物の整理を手伝いにきたのだが、
全く手をつけていなかったので、亜弥は驚いていた。
そのくせして、新しい部屋の方が便利なところにあるので、
すでに何度かは美貴はそっちの部屋に泊まっていた。
本当は亜弥に会いたいという理由もあるのだが。
「とりあえず、いるものといらないもの分けてよ。
箱にしまうのはアタシがやるから」
「んー、わかった」
そう言ったものの、取り出したモノ1つ1つに解説をつけて、
説明してくれるので、なかなか先に進まない。
「うわぁ、懐かしい。
コレさあ、美貴が一番最初に1人でやった仕事のときにさあ…」
「わかった、わかった。で、ソレはいるの?いらないの?」
「コレは捨てられないよ」
「じゃ、こっちに置いて」
「はーい」
(ホント、子供なんだから)
見た目とか考え方は大人のくせして、
ときたま見せる子供のような美貴の行動は、亜弥にとってはツボといってもよかった。
(子供っぽいときのみきたん、いつもよりもかわいいんだもん)
- 125 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/28(金) 19:59
-
そして、美貴の引っ越しも無事に済んだものの、
新居にきて1週間経っているのに、美貴の荷物の入ったダンボール箱は
半分くらいしか開けられていなかった。
結局、亜弥が休みの日に残りのダンボール箱を全部開けて、
中身を引出しやタンスに詰め込んだ。
「ああ、亜弥ちゃん、ありがと」
その日、帰ってきた美貴にお礼を言われた。
「もー、みきたん、荷物たくさんありすぎだよ」
「ごめん、ごめん。ちょっとお風呂入ってくる」
亜弥は美貴と一緒に住むようになって、
美貴は本当に仕事が忙しいんだということがわかった。
亜弥も忙しいといえば忙しいが、店の営業時間が決まっているから、
夜の仕事とはいえ、きっちり規則正しい生活をしている。
その点、美貴は朝早く出ていく日もあれば、夜タクシーで帰ってくるほど、
遅いときもある。
休みも1週間以上とれないときもたまにある。
(みきたん、忙しいんだもん。
アタシができることはやってあげればいいんだよね)
美貴はお風呂から上がると、ソファーに座り、テレビを見ながら、
明日の仕事の資料をチェックしていた。
亜弥がその後ろにやってきて、肩のマッサージをしてあげる。
「…あー、亜弥ちゃん、気持ちいいよぉ…」
「にゃはは、アタシ、マッサージうまいでしょ?」
「うん…美貴、亜弥ちゃんが彼女でホントよかった」
「ん?どしたの?いきなり」
「だって、亜弥ちゃん、美貴のこと、すごくよくわかってくれてるっていうか、
何でも受け入れてくれるから」
「みきたんだって、アタシのワガママ聞いてくれるじゃん」
「んー、亜弥ちゃん、ワガママなんて言うっけ?」
「みきたんがそう思ってないならいいけどー」
亜弥はマッサージの手を止めて、美貴に背中から抱きついた。
- 126 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/28(金) 19:59
-
「みきたん、明日のお仕事、何時から?」
「明日は午後からだよ」
「じゃあ、わりとゆっくりだね」
「うん、そうだね」
亜弥はニコニコしながら美貴の顔をのぞきこんだ。
「…みきたん、疲れてる?」
「うん、ちょっとね。でもヘーキだよ。
家のことは亜弥ちゃんがいろいろやってくれてるし」
「ホントに平気?」
「うん。大丈夫」
「じゃ…」
亜弥は美貴にキスをした。
それが次第に激しくなっていく。
「…みきたんがココに引っ越してから、してないから」
「あ、そ、そっか」
確かに、美貴は本当に忙しく、
亜弥とちゃんと会話ができる時間すらあまりなかったのだ。
この前の海外出張帰りのときのこともあり、
亜弥は美貴が疲れてそうなときは、何もしないようにガマンしてきたのである。
でも、今日はガマンもしなくて大丈夫なようだ。
そのまま、美貴のベッドに行き、2人は愛し合った…
- 127 名前:いちばん大切にしたい人 投稿日:2005/01/28(金) 19:59
-
「…亜弥ちゃんさあ、もしかして、ここんとこ
美貴が疲れてると思って遠慮してくれてたの?」
亜弥が今までにないほど、自分のことを求めてきたので、
美貴はさすがに少し驚いていた。
「ん…だって、みきたんに迷惑だと思われるのイヤだもん」
美貴は亜弥の頭を撫でた。
「でも、亜弥ちゃん、したいんでしょ?」
「うん、ホントは毎日でもしたい。みきたんとなら」
美貴は笑顔で亜弥のことを抱きしめた。
「さすがに、仕事の時間とかもあるから毎日は無理だけど、
亜弥ちゃんがしたいときはいつでも言ってよ。
美貴が無理だと思ったら、そのときはちゃんと言うし」
「ん、わかった。チューは毎日してもいい?
寝てるときにもしてもいい?」
「うん、もちろん」
笑顔の美貴を、亜弥も微笑んで見つめた。
「…ねー、みきたん」
「ん?」
「みきたんは、アタシとしたいと思ったことないの?」
そう、仕掛けるのはいつも亜弥の方からなのだ。
「んー、したいと思うときは、亜弥ちゃんもしたいと思ってるみたい」
「そっか。でも、みきたんがしたいときがあったら、
アタシが寝てるときでも襲っていいからね」
「あははは。どーしてもガマンできなかったらね」
「うん、絶対、ガマンしちゃダメだからね」
「はいはい、わかりました」
美貴は、こんなに自分のことを大切に思ってくれている亜弥のことを
好きになって本当によかったと思っていた。
亜弥も自分の隣りにいてくれるのが、こんなにかわいくて優しい人であることに
幸せを感じていた。
そう、これから先もずっとずっと一緒にいてくれるだろうと確信していたから。
Fin
- 128 名前:ラッキー 投稿日:2005/01/28(金) 20:05
- 更新&終了致しました。
>>118さん
ありがとうございます。
れなえり、癒されますよねえ…スキです(笑)
>>119さん
イイですか?ありがとうございます。
横浜でリアルあやみきも田亀あるといいのですが(笑)
>>120さん
ありがとうございます。
れなえり推しですか?
自分はCPでもそれぞれ単独でも推してます(笑)
番外編(サイドストーリー)はいつになるかわかりませんが、
必ず書きますので、引き続きよろしくお願いしますです。
とりあえず、ここまで読んでいただけた方、どうもありがとうございました。
- 129 名前:名無し読者 投稿日:2005/01/28(金) 21:35
- やられた〜
あやみき同棲生活さいこー
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 00:17
- 作者さんの方向性に差し支えあるといけないのですが、
れなえりの思いの方向の違さが
実際の二人・・に通じるものを感じてしまって; ←何言ってるんだ?
作者さんのれなえり最高です!!
最後良い形で終わる事を願いますm(__);m ※ 詫)長文スミマセン;;
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 01:50
- ochi
- 132 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/06(日) 09:24
- 読者さん正直だなぁ・・・。
あやみきとれなえりで露骨にレス数が違う。
かくいう私もれなえりマンセーですけどね。
CPも好きですが、勿論ここの作者さんの文章が好きだからってことを付け足しますよ。
- 133 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 02:35
- うわぁ!このシリーズの続編を今更発見しちゃったよ!
シリーズの最初から読んでいた者です。発見できて嬉しい限りです。
しかも、今回のメインがれなえりだなんて…れなえり大好きです゚+.(*´д`)゚+.゚
次回更新も楽しみにしています。
- 134 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:14
- はぁ、ワタシって何て不幸なんだろう。
「美人薄命」っていうくらいだもん、
きっとワタシがかわいすぎるから、神様が妬んで試練を与えてるんだ。
ワタシの初恋は今考えると、お姉ちゃんだった。
ダイスキなかわいいお姉ちゃん。
どこに行くにもお家にいるときも、ワタシはお姉ちゃんから離れなかった。
だから、お姉ちゃんが中学生になって彼氏が出来たときは、本当にショックだった。
お姉ちゃんに怒って、大泣きして、家出までしちゃったくらい。
でも、すぐに見つかっちゃって、
お姉ちゃんとワタシがケンカをしたから家出したと
お父さんとお母さんに思われて、お姉ちゃんまで怒られてた。
お姉ちゃんは本気で自分が好かれてるとは思ってなかったらしく、
ワタシの気持ちを知って驚いてたけど、
それからも優しくしてくれた。
悔しいけど、彼氏が出来てお姉ちゃんがどんどんかわいくなっていくのもわかったし、
少なくともお家にいるときは、お姉ちゃんはワタシのものだと思って、
割り切ることにした。
それがきっかけかもしれない、相手がいる人を平気でスキになれるのは。
- 135 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:14
-
中学2年のとき、地元で行われたアイドルのコンサートに
お母さんとお姉ちゃんと行った。
かわいい人で、前からファンだったから、
コンサートもすっごく楽しみにしてて。
そのとき、きれいな女の人に声をかけられた。
「芸能界の仕事に興味ない?」って。
その人は、そのアイドルの人の事務所の人だと言って、名刺をくれた。
ワタシよりもお母さんを説得してて、お母さんもちょっと困ってた。
「あのー…」
ワタシが今回コンサートに出てるアイドルの子と友達になれるか聞いたら、
その人は笑顔で、
「もちろん。後輩だからかわいがってくれるよ」
って言ってくれた。
ワタシは、その言葉を信じて、芸能界に入ることを決意した。
お父さんお母さんは最初は反対したけど、お姉ちゃんは賛成してくれた。
それで、がんばって説得して、何とか、中学卒業してからって条件付きで、
その事務所にお世話になることになった。
でも、ワタシが友達になりたかったアイドルの人は、
事務所を移籍してしまって、結局全然会えてない。
その代わり、常にいっぱいキレイな人やかわいい子が周りにいるなんて、
ワタシってばシアワセと思った。
仕事じたいは正直ツライこととかイヤなこともあるけど、
それもワタシがかわいいからなんだと思えば、がんばれた。
- 136 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:15
-
そして、ある学園もののドラマで、ワタシはヒロイン役をやることになった。
同世代の共演者ばかりだから、普通に楽しかった。
このときだけじゃなくて、今までも共演した男の人に誘われたりすることは、
よくあったけど、2人で会うことは絶対しなかった。
本当は全く興味がないだけなんだけど、
「事務所の人に怒られるから」とか言って、
会うとしてもグループで会うようにしてた。
だから、男の人から直接口説かれることって、あんまりなかった。
そう、そのドラマでワタシはすごくステキな人に会った。
同級生役の女の子。
全然目立つ役でもなくて、その他大勢的な子なんだけど、
すっごくワタシのタイプだった。
だから、仲良くなりたくて、一生懸命話しかけたし、
ドラマの撮影が終わってからも、プライベートでも遊ぶようになった。
2人で歩くときは手を繋いでくれたし、
キスとかしても、最初は驚かれたけど、イヤな顔はされなかった。
だから、ワタシはすっかり恋人気分で、
仕事が休みのとき、仕事の合間とかにも、彼女に会いに行った。
そんなある日の夜、いつも受け身の彼女が珍しく積極的で
人通りはなかったけど道でいきなりキスをしてきた。
それも今までしたことのないような激しいのを。
ワタシは驚いたけど、彼女にそうされるのはうれしかったし、
すごくシアワセだと思っていた。
- 137 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:16
-
ところが、その数日後。
その日の仕事は休みだったはずなのに、
マネージャーさんから学校が終わったら、至急事務所に来るようにと言われた。
そしてワタシは社長室に連れていかれ、
マネージャーさんと社長に、週刊誌の記事を見せられた。
そこには、この前、彼女と道でキスしたときの写真が出ていた。
「スクープ!超人気アイドル道重さゆみの恋人は新人女優!」
って見だしがついてて。
ワタシは公認の仲になれたことを少しうれしく思ったりしたのに。
「さゆみ、悪い相手にひっかかったな」
マネージャーさんが悔しそうに言った。
「え?」
「コレ、この相手の子の事務所がリークしたらしい」
「?どういうことですか?」
「つまり、さゆみは、はめられたってことだよ。
この子、まだ駆け出しの新人もいいとこだろ。
人気アイドルと噂になりゃ、名前は売れるし。
しかも女同士なんて話題性もありゃ余計に世間は興味持つだろうからさ」
「え…そんな…」
その記事をよくよく見ると、彼女のインタビューまで載っている。
『さゆみちゃんとは仲良しですよ。
でもあくまで友達としてですから。
他の女の子の友達ともキスくらいしますよ。
周りの子たちもみんなしてますって』
だまされたってことももちろんだけど、
それよりも彼女が友達として見てくれてなかったことがショックだった。
- 138 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:17
-
「さゆみもさ、どうせ週刊誌に撮られるなら、
自分より格上のミュージシャンとか俳優にしてくれよ、もちろん男のな」
社長が苦笑いしながら言った。
「この件のコメントはこっちで考えるから。
さゆみはこっちで用意するコメント以外言わないように」
マネージャーさんが、難しい顔をして言った。
「はい…わかりました」
「それと、しばらく夜遊びは禁止。
こんなん出たんじゃ女の子同士でも噂になっちゃうから、
出かけるのはスタッフ以外ダメだからな」
「ええっ!?」
「『ええっ!?』じゃない。
今回はあっちの方が悪いけど、利用されるさゆみにも隙があるってことだからな」
「…わかりました…」
もー、ワタシに引きこもり生活しろっていうの?
ずっと家でマンガ読んだりゲームしたりするしかないのかなあ。
その後は、例の彼女からぱったり連絡がなくなった。
それどころか、携帯のアドレスも番号も変えられてて、
ワタシからは連絡が取れなかった。
それで、本当にだまされたんだなあって気付かされた。
ワタシはちゃんと言いつけを守って、それからしばらくは、
仕事が終わるとまっすぐ家に帰った。
- 139 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:17
-
でも、逆に大先輩の女優さんとか女性歌手の人に
「ゴハンでも行かない?」とか「今度、家に遊びに来ない?」
って誘われることが多くなった。
そういうことがある度に、マネージャーさんに伝えると、
すごく困った顔になってた。
どうやら、ワタシを誘ってくれるのは、
女だけど女の人が好きってことで有名な人ばっかりらしい。
「相手が相手なら、誘われたらむしろラッキーだよなあ…」って
渋々遊びにいくのもOKしてくれた。
「でも、できれば2人っきりはやめておけ。
さゆみがそういうことになってもいい相手ならいいけど」
「そういうことってどういうことですか?」
「…肉体関係だよ。キス以上のこともされるかもしれないんだぞ」
…えっ?
そっか、そういうつもりでワタシのことを誘ってくるんだ。
でも、誘ってくれる人は、確かにキレイな人が多いから、
ワタシは社交辞令だけじゃなくて、
実際に何度かそういった誘いに行くことにした。
遊び禁止だったから、遊びに行けるだけでもうれしかったし。
マネージャーさんが仕組んで、
事務所の後輩の女の子を一緒に来させたりすることもあったけど。
ほとんどの人が、本当に食事だけとかで、
軽く抱きしめられたり、キスされたりとかはあったけど、
それくらいで済んだから別にどうってことなかった。
まあ、キレイな人に「カワイイ」って言ってもらえるだけでうれしいし。
- 140 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:17
-
1回だけ、ある女優さんのお家に遊びに行ったとき、
泊まっていきなさい、一緒のベッドで寝ましょうって言われて、困ってしまった。
とりあえず、ワタシは事務所の寮に入ってるし、
今は週刊誌のこともあって外泊禁止なんだってことを伝えた。
っていうか、そもそも、この女優さんはキレイだけど、
ワタシのタイプでは全然なくって。
本当なら、マネージャーさんも事情はわかってるから、
たぶん外泊も仕方なくOKはしてくれるはずなんだけど。
「そっか、残念ね。じゃあ…」
って、ワタシは彼女にソファに押し倒されて、
すごい濃厚なキスをされて、服を脱がされそうになった。
さすがにこわくなって、泣いちゃった。
初めての相手は、やっぱり自分のタイプの人じゃなきゃイヤだもん。
ワタシがずっと泣きやまないから、彼女も困り果てて。
「ごめんね、ごめんね、さゆみちゃん、初めてなのね?
こわかったのね。ごめんね」
って、その後は何もされなかったから安心したんだけど。
その後も、そういう噂のある女性芸能人からのお誘いは絶えなくて、
ワタシも困ったけど、少なくとも自分がある程度はタイプだなって思える人とだけ、
実際にゴハンに行ったりするようになった。
マネージャーさんの判断ももちろんあるんだけど、
いわゆる『大物』って言われる人なら、とりあえずOKが出る。
まあ、そういう人ってだいたいすごく年上だから、
ワタシ的には一緒にいてもあんまり楽しくなかったりするんだけど。
- 141 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:18
-
そんな風に、大先輩たちとしか遊んでないような時期に、
ある雑誌の撮影で、ヘアメイクの藤本さんに会った。
見た目もキュートなんだけど、仕事の仕方もすごく好き。
ちゃんとワタシがどうしたいか聞いてくれながら、やってくれるから。
「この衣装だったら、髪飾りはピンクか白がいいと思うんだけど」
って2種類の髪飾りを見せてくれて、
「シゲちゃんはどっちがいいと思う?」
ワタシは迷わずピンクを選んだ。
「うん。美貴もピンクの方がシゲちゃんに合うなって思ってた」
ってニッコリしてくれて。
服もね、その日は、ジーンズの上にジャージを着てて、
キャップを被ってて、何か男の子みたいでかわいかった。
はあ、藤本さん、すっごくかわいいです。
すっごくワタシのタイプです。
その日のワタシは超ゴキゲンで、
藤本さんがやってくれた髪型も超かわいくて。
マネージャーさんに
「ね、ね、この髪、すっごくカワイイですよね!」
って自慢しちゃったくらい。
「うん、いいな。
また今度もヘアメイクは同じ人に頼むか」
って言ってくれた。
ラッキー!
また、藤本さんと会えるかもしれないなんて。
- 142 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:18
-
それから、実際しょっちゅうお仕事一緒にさせてもらって、
すっかり藤本さんとも仲良くなって、いろんな話しをするようになった。
この前の週刊誌騒動は、藤本さんもさすがに知っていて
「シゲちゃん、災難だったね。
こんなこというの何だけど、あそこの事務所、
あんまり評判よくないらしいよ。
美貴は仕事したことないから、よく知らないけど」
他にもワタシが誘われた女優さんとかの話しをすると、
藤本さんは「えー!?あの人も?」ってすごく面白がってくれた。
「藤本さんもかわいいからよく誘われたりするんじゃないですか?」
「ああ、でもそんな大物の人はいないよ。
芸能人よりむしろスタッフの人からの方が多いし。
ま、美貴、面倒くさがりだからさ、だいたいドタキャンするんだよね。
『急な仕事が入ってー』とかテキトーなこと言って」
「えー、ひどいじゃないですか」
「でも、どうでもいい人だからだよ。
大切だなって思える人との約束はちゃんと守るよ」
「じゃあ、ワタシが誘ったら、ちゃんと来てくれます?」
「えー?シゲちゃん?」
「え…ダメですか?」
「ウソウソ。もちろん、行くに決まってんじゃん。
シゲちゃん、かわいいし、面白いし、一緒にいて楽しいもん」
よかったぁ。
何もしてないのにフラれたかと思った。
- 143 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:18
-
その日はテレビ番組の収録だったんだけど、
ヘアメイクが終わったときに、
他の人を担当してたメイクさんがメイク室に入ってきた。
残念ながら、全くワタシの好みではない人だった。
「あ、保田さん。お疲れ様です」
藤本さんが笑顔で挨拶する。
「おー、ミキティ、お疲れ。
ね、今日、仕事、コレで終わり?」
「はい、そうです」
「じゃさ、いつもんとこ行かない?」
「あー、いいですよ。最近行ってなかったし」
「おぅ、じゃまたあとで」
「はい」
その保田さんは、ワタシにも手を振ると、部屋を出ていった。
「あのー、『いつもんとこ』ってゴハン屋さんですか?」
「え?あ、いやー、違うんだけどー」
「飲み屋さんとか?」
「ま、バーだから飲み屋さんだね」
「行きつけのところなんですか?
今度、ワタシも連れて行って下さい」
「うーん…困ったなあ、シゲちゃん、連れていけないとこだよ」
「もちろん、お酒は飲みませんから」
「そうじゃなくてさ、店じたいが、普通じゃないっていうか、
シゲちゃん的にはNGのとこなんだよ」
「何ですか?それ?どういうお店なんですか?」
「えっとぉ…」
藤本さんは仕方ないというように、そのお店の説明をしてくれた。
いわゆるレズビアンバーといって、そういう趣味の人たちが来るのだとか。
「藤本さんも女の子が好きなんですか?」
「え?いやー、今まで女の子とは付き合ったことないけど。
シゲちゃんと一緒でかわいい子見てるのは好きだよ。
まあ、普通の飲み屋じゃ、ナンパとかされるでしょ。
そういうのメンドイじゃん。
女の人しかいないとこなら、ナンパされても別にねえ」
「えー?じゃあ、今度、絶対連れてって下さいよ。約束ですよ」
「んー、そーだね。こっそりね」
藤本さんはナイショ話しをするように、ささやくように言った。
- 144 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:18
-
それから、約1ヶ月後のこと。
写真集の撮影で、ワタシは北海道に行くことになった。
もちろん、ヘアメイクの担当は藤本さん。
それだけで、ワタシはこの撮影を楽しみにしていた。
泊まったホテルの部屋はツインが用意されていた。
スタッフの人は皆2人で使っていたけど、
ワタシは1人でもツインの部屋だった。
コレはチャンスだと思って、藤本さんに電話した。
「あのー、ワタシ、広い部屋で1人でいるのコワイんです。
もしよければ、藤本さん、こっちに来てもらえませんか?」
『え?美貴、寝言うるさいみたいだけど、大丈夫?』
「そんなの全然構いません!」
『んー、じゃあ、一応マネージャーさんに聞いてからそっち行くね』
ワタシのマネージャーさんは男の人だから、
さすがに部屋に来てなんていうお願いはできない。
今回のスタッフさんの中で、ワタシが一番仲いいのも藤本さんだって、
わかってるだろうから、マネージャーさんもOKしてくれるはず。
10分くらい経ってから、藤本さんが部屋に来てくれた。
「あははは。マネージャーさんに、『さゆみのこと、よろしくお願いします』って、
言われちゃったよ」
「はい、よろしくお願いします」
「はいはい。って、美貴はただ単に部屋変わっただけなんだけど」
藤本さんはそう言って、荷物をベッドの脇に置いた。
「シゲちゃん、お風呂入ったの?」
「はい、もう入りました」
「じゃ、もう寝た方がいいね。明日早いんだし。
美貴も荷物整理したら、寝るから。
それまで、電気つけたままだけど、なるべく早く終わらせるから」
「でもまだ眠れないですよ」
だって、まだ10時だもん。
いくら明日早いからって、いつも寝てない時間にそうそう寝られない。
- 145 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:19
-
「じゃ、テレビでも見てよっか」
藤本さんはテレビのスイッチを入れると、
ベッドに腰掛けているワタシにリモコンを渡した。
でもあんまり面白そうなものがやってなくて、
ドラマをやっているチャンネルにしておいた。
藤本さんは、明日使うものなのか荷物を出して整理をしていた。
何となくテレビに目を戻すと、見慣れた顔が出てきた。
「あ…」
ワタシが週刊誌に撮られた相手の子。
結構、いい役をもらってるみたい。
藤本さんがワタシの方を見てから、テレビの方を見て、
困ったように微笑んだ。
ワタシは立ち上がって、藤本さんの背中に抱きついた。
「…一緒に寝てもらってもいいですか?」
「え?…あ…うん、いいよ」
藤本さんの用意が終わったのは、それから30分後。
もうテレビも消してたし、ワタシは布団に入って藤本さんが来てくれるのを待っていた。
「ったく、シゲちゃんはさみしがりやだなあ」
藤本さんはわざとふざけたように言ってくれた。
たぶん、さっきの彼女の姿を見て、ワタシがショックを受けてると思ってくれたんだろう。
藤本さんが隣りに来てくれた。
ワタシがすぐに抱きつくと、優しく背中を撫でてくれた。
藤本さんの手、すごく心地よかった。
身長はワタシの方が大きいのに。
大人だからなのかな、何だかすごく大きく感じられて、あったかかった。
- 146 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:19
-
「藤本さん…好きです」
ワタシはそう言って、藤本さんの唇に軽くキスをした。
藤本さんは一瞬ギョッとしたけど、困ったように微笑んでいた。
「はいはい、美貴もシゲちゃんのこと好きだよ」
「ホントですか!?」
「え…あ、あの、美貴が好きって言ってるのは、
友達っていうか仕事仲間っていうかそういう意味の好きだからね」
「ワタシは、恋愛対象の意味で好きです」
「あ、あはは…そう言われても…」
「藤本さんは付き合ってる人いるんですか?」
「いや、いないけどさあ」
「じゃ、ワタシと付き合って下さい」
「いやー…そのー…困ったなあ…」
藤本さんは、本当に困ってるみたいで、眉間にシワを寄せて考えこんでいた。
「あのね、さっき言ったけど、美貴がシゲちゃんを好きっていうのは、
そういう意味じゃないの。
だから、これからも、友達とか仕事仲間として付き合っていきたいんだよね」
「ワタシじゃ、ダメってことですか?」
「シゲちゃんがダメってことじゃないよ。
たぶん、今、シゲちゃん、さみしいだけなんだよ。
たまたま近くに美貴がいただけでさ。
そんなにあせる必要ないって。すぐにイイ人見つかるよ」
「違います、藤本さんが好きなんです」
「いやいや、美貴はシゲちゃんから好かれるような人間じゃないし」
「でも、好きなんです」
「んー?シゲちゃんに、美貴じゃもったいないって」
ワタシがいくら言っても藤本さんはそう思ってくれないみたい。
だから、無理矢理行動に出てみた。
- 147 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:19
-
藤本さんに、もう1回キスをする。
すぐに舌を入れてみたら、藤本さんはワタシの肩をつかんで、
思いっきり体ごと引き離された。
「…こら!こういうことは、ちゃんとお互いに好き同士の人としなさい」
ワタシのほっぺを軽くつまんで、睨むように見てきた。
でも、口調はすごく優しくて。
「ワタシがこんなに藤本さんのこと好きでも、
藤本さんは好きになってくれないんですか?」
「…ホントに美貴のことが好きなの?」
ワタシが大きく頷くと、藤本さんは小さくため息をついた。
「…好きになってもらえるのはうれしいんだけどさあ…」
「じゃあ、ワタシのこともそういう意味で好きになって下さい」
「んー、そういうのってさあ、なろうと思ってなれるもんじゃないじゃん。
気付いたら好きになってたってカンジでしょ、フツーは」
「じゃ、もしかしたら、ワタシのこと好きになってくれるかもしれないってことですか?」
藤本さんは困ったように頭をポリポリ掻いていた。
「…まあ、100%ないとは言いきれないけどぉ」
「ホントですか!?
ワタシ、藤本さんから好きになってもらえるようにがんばります!」
「…んー…わかった。
美貴、ちゃんとシゲちゃんのこと見てるから、お仕事がんばるんだよ」
「はいっ!」
ワタシが元気良く返事をしたら、藤本さんはニコニコと頭を撫でてくれた。
- 148 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:20
- 今回の写真集では、北海道のいろんなところに行くんだけど、
『初めての彼氏との旅行』みたいなイメージで撮ることになってる。
だから、隣りには彼がいるつもりでって言われたけど、
実際、大好きな藤本さんが側にいるから、そんなの簡単だった。
カメラマンさんも、すごくいい表情してるって誉めてくれて、
撮影も予定時間より早く終わる日が多かった。
最終日に、今回想定している彼と手を繋いで歩いている写真を撮ることになった。
相手の腕だけだけど写るから、本当に誰かと手を繋がなきゃならなくなって。
で、カメラマンさんのアシスタントの男の人がやることになった。
別にその人がイヤとかそういうワケじゃないんだけど、
ワタシはやっぱり藤本さんに隣りにいて欲しくって。
何だか表情も固くなってしまったみたいで、なかなかいい写真が撮れなかった。
「んー、さゆみちゃん、疲れてんのかな?休憩しようか」
カメラマンさんがそう言ったので、休憩になった。
すぐに、マネージャーさんが心配そうにしてやってくる。
「さゆみ、もしかして、あのアシスタントの人、イヤなのか?」
「いえ、そういうワケじゃないんですけど…」
「何なら別の人に代わってもらうか?」
「え!?じゃ、藤本さんで!」
「…え?」
写るのは肘から下の部分だけだし、ヒキで撮るから、
女の人でも問題ないだろうということになって、
藤本さんが、衣装の白いシャツを着てやってくれることになった。
「おー、美貴、シゲちゃんの写真集に出ちゃうんだ」
「何なら、顔も撮ってもらいます?」
「いや、ソレは怒られるから」
藤本さんはニコニコとワタシのことを見てくれていた。
かわいいなあ。
ワタシ、藤本さんの写真集ならいくらでも買うのに。
結局、その後の写真は即OKが出たくらいいいものが撮れたみたいで。
やっぱり本当に好きな人が隣りにいると、こんなにも違う顔ができるんだ。
カメラマンさんにお願いして、藤本さんと腕を組んでるポラを撮ってもらった。
「おー、いいねえ、2人ともかわいいよー」
「もー、何言ってるんですか」
藤本さんは照れたように笑ってたけど、本当にかわいかったから、
そのポラはワタシがもらっちゃった。
- 149 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:21
-
そうそう、その間はずっとホテルの部屋は藤本さんと一緒にしてもらってた。
でもお風呂一緒に入ろうっていっても1回も入ってくれなかったし、
バスタオル巻いただけの格好で抱きついても、
「そんなかっこでいたら風邪ひくよ」って言うだけ。
もう藤本さん、つれないんだから…
あー、ホントにワタシのこと好きになってくれるのかなあ…
北海道から帰って、少ししてからまた藤本さんと一緒に仕事させてもらった。
藤本さんに会えるだけでうれしいから、もうその日は1日ハッピー。
で、8時くらいで仕事が終わったから、
「藤本さーん、ゴハン連れてって下さいよぉ」
「んー、いいよ。何が食べたい?」
「そーですねえ…あ!ゴハンじゃなくって…」
お願いして、例のレズビアンバーに連れていってもらうことになった。
何でも店員さんからもワタシのこと連れてきてって頼まれてたらしいし。
お店に入って、店員さんたちがかわいくて驚いた。
これなら、藤本さんも常連になるのわかる気がする。
- 150 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:21
-
ワタシのことを連れてきて欲しいって頼んだらしい店員さんに
「じゃ、ウチの店員だったら、どの子がタイプ?」
って聞かれた。
うん、この人も色が白くて八重歯がかわいくて、何かマスコットみたいでかわいい。
カウンターの中にいる人もちょっとサルっぽいけど、それもかわいい。
あとは………
「お疲れ様でーす。なっちさんは?」
お店のドアが開いてココの店員さんと同じような制服を着た人が入ってきた。
でも、下はスカートじゃなくてズボン。
しかもガニ股で歩いてきてる。
この人も店員さんなのかな?
…あれ!?…すごくかわいい!!
すっごい大きな目で、何かすいこまれそう…
ポニーテールにしている髪もすごくキレイで。
「あー、今ちょっと出かけてる。すぐ戻ると思うよ」
「そっかー。手渡ししてくれって頼まれたから、待たせてもらうね」
「うん。タカちゃん、何か飲む?」
「じゃ、ビールで」
ニコニコしながら、ココの店員さんとしゃべってる。
その笑顔も、優しいしゃべり方も、すごくかわいくて。
ビールを一口飲んだところで、やっとその人はこっちを見てくれた。
うわぁ、やっぱりかわいい…どーしよ…
「ん?あ、あー。いらっしゃいませ」
鼻のところにシワを寄せてワタシに向けてくれた笑顔は
やっぱりすごくかわいくて…
…ワタシ、この人、好きかも。
- 151 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:21
-
「…この人!」
さっき聞かれた質問、どの店員さんがタイプっていったら、断然この人!
「は?」
「ワタシ、この人がタイプです!」
「そ、そりゃ、どうも」
さっきよりも目を大きくして、ワタシのことを見てくる。
ワタシの隣りにいた店員さんが彼女と席を替わってくれた。
かわいい人が近くにいるとすごくうれしいです…
「腕組んでもいいですか?」
「あ、もちろん」
すぐにそう答えてくれたのがすごくうれしかった。
腕を組んで、すごく近くで顔を見てもやっぱりかわいい。
「道重さゆみです。よろしくお願いします。
あのー、名前聞いてもいいですか」
「あ、ごめんごめん」
彼女はポケットから名刺入れを出して、1枚出すと、
その裏に携帯番号を書いてくれた。
「ココの近くの店で働いてるタカっていいます。よろしくね」
もしかして、携帯番号は特別な人にしか教えてくれないんじゃないのかな?
超うれしいです…
ワタシは自分の携帯を出して、すぐにその番号にかけた。
ちゃんとタカさんの携帯も鳴って震えてくれた。
よかった、ウソ教えられたんじゃなかったし。
- 152 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:22
-
早速、その次の日の夕方、タカさんの携帯に電話をしてみた。
普通にお話ししてくれて、すごく優しくて。
あー、もうどーしよ…
今までいいって思った人なんて、比べものにならないほど、
大好きかもしんない。
それから毎日、メールは必ずするようになって、
タカさんは仕事中じゃなければだいたいすぐに返事をくれた。
ある日、学校が終わってから、仕事がある予定だったんだけど、急になくなった。
だから、タカさんに電話して「会いたい」って言ってみた。
そしたら、
「夜、仕事あるけど、それまでならいいよ。ウチにおいで」
って言ってくれた。
もう、ワタシはうれしくってうれしすぎて、
思わずケーキを10個も買ってしまった。
「2人でこんなに食べるの?」ってタカさんに笑われたけど。
そう、お家は、すごくキレイでかっこいいマンションだった。
部屋の中もキレイにしてて、ワタシが着いたときは、
もうゴハンの準備までしてくれてて。
しかもワタシが好きだって言ったのを覚えててくれたのか、
明太子スパゲティだった。
ゴハンを食べながら、いろいろお話をして、
あー、やっぱり、ワタシ、この人好きだなって思った。
だって、まず顔がかわいいんだもん。
その大きな目で見つめられると、とろけちゃいそう。
性格だってかわいくて、優しくて。
本当はもっとゆっくりお話もしたい。
それでもって、ワタシの気持ちもちゃんとわかって欲しい。
時間がないから、ワタシは焦ってた。
- 153 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:22
-
食事が終わって、食器を洗ってくれてるタカさんの背中に抱きついた。
「ん?どうしたの?」
「タカさん…好きです」
タカさんは、クスッと笑った。
「ありがと」
「ホンキですよ。そういう意味での好きですよ」
タカさんは何も言わずに、食器を洗い終わると、
ワタシの方に体を向け、ニッコリ微笑んで頭を撫でてくれた。
むぅ…ワタシがして欲しいことはそんなことじゃないのに。
ワタシはタカさんに抱きつき、唇を重ねた。
タカさんは、ちゃんと受け止めてくれて、
ちゃんと大人のキスをしてくれて。
はぁ…やっぱり慣れてるのかな、すっごくうまいかも…
唇が離れたときに、ワタシはタカさんの目を見て言った。
「…ワタシとして下さい」
「え?…でも…」
「ワタシのこと、キライですか?」
「いや、好きだよ。好きだけど…」
「じゃあ、いいですよね?」
「いや………」
タカさんは、困ったように眉をしかめて唇を噛んでいた。
「タカさんがイヤじゃなければ…」
「イヤじゃないよ……でも……ホントにいいの?」
ワタシが大きく頷くと、タカさんはワタシをベッドに連れていった。
- 154 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/15(火) 12:23
-
―――タカさんはそういうことしてる時も優しかった。
ワタシが少し痛そうにしたら、「ごめん、痛いよね」って、
優しく優しくしてくれたり。
終わってからも、ずっと抱きしめてくれて、
ワタシの呼吸が落ち着くまで、ずっと髪を撫でてくれてた。
「さゆ…すごくかわいかったよ」
「いつも、かわいいですよ」
「あはは、うん、いつもかわいいけど、
さっきのさゆはいつもの何倍もかわいかった」
ワタシはニッコリ微笑んで、タカさんのほっぺにチュッってした。
かわいいのはわかってるけど、
タカさんがそう言ってくれるのはすごくうれしい。
タカさんが、そろそろ仕事に行かなきゃいけない時間になって、
ワタシたちは慌てて、脱ぎ散らかした服を着はじめた。
「なーんか、自分が学生じゃないのに、
制服脱がすのって、犯罪っぽいよねえ」
ワタシが制服のリボンを結ぶのを、タカさんはニコニコと見てた。
「んー、学生んときは、人の脱がしたりしたんですか?」
「ま、女子校だったからねえ。これでも結構モテたんだよ」
タカさんがモテるのなんて当然。
ワタシも、学校にタカさんみたいな人がいたら、
なんとしても友達になりたいと思うし。
部屋を出る前に、ドアの前でもう1回、大人のキスをしてくれて。
どうしよう…ワタシ、タカさんと離れたくない。
「また、遊びにきてもいいですか?」
「うん、もちろん、いいよ」
そう言ってくれたから、私は仕事がお休みのときは、
学校帰りにタカさんの部屋に何度か行った。
タカさんは仕事前だったけど、ちゃんとすることはしてくれたし、
すっごくシアワセだった。
- 155 名前:ラッキー 投稿日:2005/02/15(火) 12:24
- サイドストーリー、シゲさん編スタートです。
あくまでサイドなので、たぶん次回で終了です。
>>129さん
あやみき、実際同棲しちゃえばいいのに…ですよねえ(笑)
>>130さん
お褒めのお言葉(?)ありがとうございます。
実際の2人もこんなんだったらいいですねえ…
>>131さん
お気遣いありがとうございます。
>>132さん
そうですね、自分でも気づいてました>レス数(笑)
れなえり、人気なんですねえ。
大した文章書けてなくて、申し訳ないです…
>>133さん
ありがとうございます。
自分でも、この作品気に入ってたもので(笑)
今回はサイドなので、れなえりはありませんが…
- 156 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/15(火) 14:41
- 更新キテター
シゲちゃんかわいいっすね〜。
- 157 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:21
-
ある日曜日にお仕事があったんだけど、7時くらいに終わった。
しかも、タカさんの部屋から結構近くで仕事してたから、
タカさんに会いに行こうって思った。
今日はタカさんも仕事が休みだから、部屋にいてくれるといいなあ。
たまには突然行って驚かせちゃおうかななんて、
メールも電話もしないで、マンションに向かった。
タカさんのマンションは一応オートロックなんだけど、
実際、深夜しかオートロックにはされてないみたいで、出入りは自由。
だから、ワタシもそのままタカさんの部屋の前まで行って、
インターフォンを鳴らした。
『はい』
「あ、さゆです」
『え?ど、どうしたの?い、今行くから!』
バタバタって音がして、ドアが思いっきり開いた。
目を思いっきり大きくしたタカさんは外に出てきて、部屋のドアを閉めた。
「…さゆ、突然、どうしたの?」
「この近くで仕事してて、早く終わったんで、
タカさんに会えるかなって思って」
「あ、そ、そうなんだ…」
タカさんはちょっとオドオドして落ち着きがなくって。
だいたい、何で部屋に入れてくれないんだろう?
それを聞こうとしたら、またドアが開いた。
中から出てきたのは、ワタシの知らない女の人で、
ちょっとカワイイ人だった。
もちろん、ワタシの方がカワイイけど。
「タカちゃん、誰?……あれっ?」
その人は、ワタシが道重さゆみだってことに気付いたのか、驚いた顔をしてた。
タカさんは、気まずそうな顔をしてうつむいていた。
- 158 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:22
-
…これってあんまりよくない状況だったりするのかな?
とりあえず、こういうときは笑っておけばいいはず。
ワタシはニッコリ微笑んで、彼女に頭を下げた。
彼女もニコッとしてくれた。
「かわいー!
もう、タカちゃん、シゲちゃんと知り合いなら言ってくれればいいのに。
あのね、私の彼氏がシゲちゃんの大ファンなの。
写メさせてもらってよい?」
「あ、はい、いいですよ」
「じゃ、入って入って」
彼女に手を引っ張られて、部屋の中にやっと入れてもらえた。
彼女が携帯でワタシの写真を撮ったあと、
彼女とワタシのツーショット写真を、タカさんが撮ってくれてたんだけど、
そのときもタカさんは何か元気なくって。
うーん、やっぱり、ワタシ、来たらまずかったのかな。
タカさんに迷惑かけるのも悪いから、今日は帰っておこう。
「あの、今日はたまたまこの近くにいたんで、
寄ってみただけなんで、もう帰りますね。おじゃましました」
そう言って、ワタシは急いで部屋を出た。
はぁ…さっきの人、タカさんの彼女だよね…
でも、「私の彼氏」って言ってたから、違うのかなあ?
んー、やっぱり、タカさんのあの気まずい顔は、どう考えてもそうだよねえ。
彼女と一緒にいるときに、浮気相手が部屋に押しかけてきたなんて、
シャレにならないもんね。
別に、ワタシとちゃんと付き合ってるのかなんて確認しなかったし、
恋人がいるかどうかも聞いたことなかったし。
それにしても、ワタシが好きになる人は、どうしていつも相手がいる人なんだろう?
でも、しょうがないよね、好きになっちゃったもんは。
- 159 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:22
-
その日の遅くにタカさんから電話がかかってきた。
タカさんは、何度も何度も謝ってくれた。
自分に彼女がいたことを隠してたこと、
彼女がいるのにワタシとそういうことをしてしまったこと、
せっかく部屋に来てくれたのに冷たい態度をしてしまったこと。
別にワタシの方は、そんなダメージはなかったんだけど、
タカさんの方が心配。
「彼女、怒っちゃったんじゃないですか?」
『いや、大丈夫。元々、怒らない人だし。
シゲちゃんと写真撮れたって喜んでたくらいだから』
彼女には、男の彼氏がいることも承知で付き合ってるのだとか。
タカさんも大変なんだなあ。
「タカさんのこと、今まで通り好きでいてもいいですか?」
『え?あ、さゆが、それでもいいっていうなら…』
もちろん、いいに決まってます。
ワタシ、相手がいる方が燃えてしまうのかもしれない。
会えない日が続くと、さみしすぎるから、藤本さんにお願いして、
お店にも連れていってもらったりして。
さすがに、バーに未成年が1人で行くのは、普通によくないかなって、
藤本さんに付き合ってもらえるときだけだけど。
本当は毎日でも会いにいきたいなあ…
- 160 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:23
-
ある日、藤本さんとお店に行ったら、隣りの席にかわいい2人組がいた。
ヨシさんの知り合いの子たちみたい。
ワタシと年は変わらないと思う、大学生くらいなのかな。
ワタシの隣りにいた子、田中さんは、ワタシのファンって言ってくれて、
積極的に話しかけてきてくれたけど、
ワタシは、もう1人の子の方が気になってた。
どうもヤキモチをやいてたみたいで、
ムスッとして途中で帰っちゃったけど、絶対すごいかわいいはず。
そんな風に素直にヤキモチをやけるっていう性格もかわいいし。
初対面だっていうのに、2人が仲直りできるように、
藤本さんはアドバイスみたいのしてあげてた。
優しくて大人だから、やっぱり大好き。
そういえば、藤本さん、あっちのお店の女の子と付き合いはじめたみたい。
ちょっと残念だけど、藤本さんの恋人が女の子っていうのは、何かうれしいかな。
その少し後に、その田中さんが、たまたま雑誌の撮影現場の見学に来てた。
藤本さんもヘアメイクでついてくれてたから、
それを教えると、田中さんに声をかけて近くに連れてきてくれた。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
えへへ、かわいい。
たぶん、ワタシがかわいすぎるから、田中さん、緊張しちゃってる。
「ね、あのあと仲直りできた?」
「…え…ま、まあ」
「じゃあ、よかったー。ちゃんと付き合うようになったの?」
「…うん、一応…」
そっかあ。
いいなあ、かわいい子どうしのカップル。
- 161 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:23
-
その後、撮影がまたはじまって、30分くらいで終わった。
「お疲れ様でした〜」
なんて言ってるときに、ふと、田中さんの方を見たら、
ちょうど、田中さんのかわいい彼女がやってきたところだった。
田中さんに近づいたときに、すっごい笑顔になって。
あー、やっぱりかわいい!
ワタシも2人の方に近づいていって、彼女に挨拶した。
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
彼女の腕はしっかり、田中さんに組まれてて。
ワタシが笑顔だったのもあるけど、
彼女はニコニコと頭を下げてくれた。
「んー、やっぱりかわいいっ。
ねー、友達になって下さい。名前なんていうの?」
藤本さんやタカさんは年がちょっと上だし、
友達っていう付き合い方をしてないし。
この人ならたぶん、年は1つ上とかだろうし、
普通にお友達としてお付き合いしてみたいな。
側にかわいい友達がいるのは、それだけでうれしいし。
「え?…亀井、絵里です」
「絵里って呼んでもいい?ワタシのことはさゆって呼んで」
「は、はい」
彼女はちょっとビックリしてたけど、
一応笑顔のままで、ワタシのことを見ててくれた。
「あ、シゲちゃん、車に戻ってって」
藤本さんが呼びに来てくれた。
本当はもう少し絵里とお話したいんだけどなあ。
「はい!あ、藤本さん、彼女のメアド聞いておいてもらっていいですか?
ワタシのも教えておいて下さい」
「はいはい、了解」
こんなこと頼めるの、藤本さんしかいない。
困ったように笑ってたけど、携帯を出してたから、ちゃんと聞いておいてくれるはず。
「じゃ、あとでメールするねっ!」
ワタシは絵里に思いっきり抱きついた。
細くてかわいい。
髪はサラサラでいいニオイがした。
あー、いいなあ。
田中さん、こんなかわいい子をいつも抱きしめてるんだなあ。
何かうらやましいかも。
車に向かう前に、田中さんのことも見たけど、ちょっとムッとしてた。
いくらワタシのファンだっていっても、
さすがに自分の彼女に抱きつかれたら、ムカつくのはしょうがないか。
- 162 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:23
-
結局、その日はそのあとも仕事があったりと、バタバタしてたので、
次の日の夕方、学校が終わってから、絵里にメールをした。
そしたら、すぐに返事がきて。
それから、電話もしていろいろ話しをした。
田中さんは「れいな」っていう名前らしく、
絵里が「れいな、れいな」っていうから、ワタシも「れいな」って呼ぶことにして。
ワタシもタカさんの話しとか聞いてもらった。
さすがに、芸能界の友達にはこんな話しはできないし、
身近で聞いてくれるのは藤本さんしかいなかったから、
すごくいろいろ話せたし、
絵里もワタシの気持ちをよくわかってくれた。
うん、絵里とは本当に気が合うのかもしれない。
もし絵里が恋人だったら、すごく穏やかなときが過ごせそう。
それからも、ほとんど毎日のようにメールとか電話して。
タカさんと同じくらい、絵里ともしてるかも。
『遊びに行こう』って言っても、なかなか予定が合わなくて、
全然行けてなかったんだけど、ある日、仕事がなくて、
学校だけだったから、昼休みに絵里に
『今日遊べる?』ってメールしたら、OKの返事が。
外で遊ぶのもいいんだけど、周りに気付かれたら落ち着いて話もできないし、
ゆっくりお話ししたいから、絵里の1人暮らしのお部屋で遊ぶことにした。
絵里の部屋の最寄駅に行くと、絵里が改札のところからニコニコと手を振っていた。
んー、かわいい!
ワタシは改札を出ると、絵里に思いっきり抱きついた。
「絵里!会いたかったよぉ」
「んー、絵里もさゆに会いたかったよ」
ポンポンって背中を優しく撫でてくれた。
えへへ、ちょっとうれしいかも。
その後も手を繋ぎながら、夕食のお買い物。
絵里、料理できるっていうから、
明太子スパゲティを一緒に作ることにした。
絵里は、ワタシより年上なのに、何か子供みたいなとこがあって、
話してるとどっちがお姉さんだかわかんなくなるくらい。
たぶん、れいなも絵里のこういうとこ好きなんだろうな。
- 163 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:24
-
それにしても、絵里は、今日はいつもより静か。
電話で話してるときとか、いつもテンション高めなのに、
今日は、ふとしたときに何かさみしげな表情になってる。
何かあったのかなあ…
「絵里、何か元気なくない?」
絵里はハッとしてワタシの顔を見てきた。
「もしかして、れいなとケンカでもした?」
そう言った途端に、絵里の目から涙がボロボロ出てきた。
ああ、そうなんだ。
れいなとケンカしちゃったんだ。
辛そうな絵里がかわいそうで、でもかわいくて。
ワタシは絵里のことを抱きしめて、背中をさすってあげてた。
「…あのね…土日で、サークルで旅行に行ってきたんだけど…」
れいなも同じサークルだから、もちろん一緒で。
でも、夜、れいなは他の女の子を抱きしめて、布団に入っていたらしい。
その子は、髪型とかが絵里と似てると言われてる子で、
れいなもどうやら、酔っ払って、彼女と絵里を間違えたみたい。
そもそも自分の彼女を他の子と間違えるなんて許せなかった。
でも、本当にれいなが反省してるのは何通も届いてるメールでわかってる。
でもでも、ここまで怒ってしまったから、
どういうタイミングで許したらいいのかわかんなくて…って絵里は言った。
んー、何か2人の関係がちょっとうらやましい。
そういうことで、ホンキのケンカとかになっちゃうとこが。
ワタシは、恋愛面ではすごく物分かりがいいんだと思う。
タカさんみたく明らかに二股かけられてても、
別に怒る気にもならないし。
自分が好きって気持ちがあって、
その人が一緒にいるときだけでも、自分のこと好きだって思ってくれれば…
もちろん、自分が一番になれるのはうれしいことだけど。
- 164 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:24
-
「絵里はいいなあ」
「え?何で?」
「だって、れいなは絶対絵里のことだけが好きだもん」
「…そーなのかなあ」
「そーだよ。タカさんなんて、別に彼女いるし。
ワタシが好きになる人はだいたい他に決まった人がいるの」
そう、ワタシの恋愛ってそうだった。
相手がいるか、全く相手にしてもらえてないか。
「でも、さゆなら、好きになってもらえるんじゃないの?」
そんなことない。
今までいくら好きでも、本当に恋人って呼んでいい人なんてできなかった。
じゃあ、絵里はどうなの?
ワタシのこと、好きになってくれるの?
ワタシはちょっと試してみたくて、絵里にキスをした。
絵里が驚いて固まってるスキに、舌を入れてみたら、
さすがに、体を離された。
「…ど、どうして、こんなことするの?」
「ワタシ、絵里のこと好きだよ」
「え?」
「でも、ワタシのこと好きになってくれないでしょ?」
「だ、だって、絵里にはれいながいるから」
「ほら」
やっぱり、絵里だって、他の人と一緒じゃない。
「芸能人だからって、そんな簡単に人から好きになってもらえないもん」
そう。
学校の友達とか地元の友達とかに、
「芸能人だからモテるでしょ」なんて言われる。
確かに「芸能人」っていう意味では好かれるけど、
それはモテるってことじゃないし。
- 165 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:24
-
絵里が、ワタシの頭を撫でてくれた。
子供っぽい絵里に、こういうことされるのは、何かうれしい。
「絵里もさゆのこと好きだよ。
でもね、れいなの方が好きなんだもん。
相手がいる人は好きになっちゃダメだよ」
それは、よくわかってる。
でも、人を好きになるって、そんなうまくコントロールはできないんだよね。
「んー、人のものって良く見えちゃうのかなあ」
そう、たぶん、いい人だから、相手がいるんだ。
それに、他の人が持ってるものって自分のよりよく見えたりする。
そういうのって「隣りの芝生は青い」とかいうんだっけ。
「絶対いい人いるよ、さゆ、かわいいもん、いい子だもん」
「そうだよねえ。ワタシ、たっくさんの人から好かれてるのに」
でも、たくさんの人から好かれても、
自分が好きな人に振り向いてもらえないんじゃ意味がないんだよね…
「タカさんだって、本当は彼女よりさゆのことが好きかもしれないよ」
「んー、どうなんだろ?
あー、すっごくタカさんに会いたくなっちゃった」
確かに、最近、前よりタカさんの方から、連絡がくることが多くなった。
もしかしたらって思うところもあるけど、
実際、タカさんと3週間くらい会ってないんだよね…
お店に行きたいかもと思って、藤本さんに電話したけど、
まだお仕事中みたい。
絵里を誘って行くのもいいんだけど、
たぶん、絵里的にはそんな気分じゃないだろうし。
今日はこれかられいなと連絡をとって、少しでも早く仲直りした方がいいと思う。
しょうがない。
今日は早く帰って、明日の朝、タカさんの部屋に行ってみよう。
また突然行っちゃおう。
さすがに平日の朝に、彼女が来るとは思えないから。
ただ単にビックリされるだけだと思うし。
- 166 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:24
-
次の日の朝、タカさんの部屋に行ったら、まだタカさんは帰ってなくて。
そのまま、部屋の前で待つことにした。
でも、ワタシも学校があるから、あんまり長くは待てない。
一目会うだけでいいんだけど。
んー、ホントはギュッってしてほしいかな。
チュッってもしてほしい。
それ以上はガマンするけど。
5分くらいして、タカさんが帰ってきた。
「あれ?さゆ、どうしたのー?」
「んー、タカさんに会いたくなっちゃって」
タカさんはビックリした顔をしたけど、
すぐにギュッとしてくれて。
そのまま部屋に入れてくれて、チュッもしてくれた。
チュッくらいじゃ済まされなかったんだけど。
「…あー、ヤバイかも」
長いキスが終わったあとに、タカさんがつぶやいた。
「ん?何がですか?」
「さゆのこと、本気で好きだなあって思っちゃった」
「え?ホントですか?」
ワタシがタカさんの顔を覗きこむと、タカさんは大きく頷いた。
「あゆみちゃんとは別れる。
さゆと、ちゃんと付き合いたいから」
実際、タカさんは彼女とは別れて、これからは友達というか、
店員とお客の関係に戻ろうって話しをしたみたい。
ってことは、つまり、タカさんにとって、
ワタシが一番で、ワタシだけになったってことで。
んー、うれしいんだけど、どこか虚しくて。
一番になるのが目標だったけど、それが達成されちゃったってことだよね。
確かにタカさんのことはスキだし、
ずっと恋人としていさせて欲しいけど…
- 167 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:25
-
ある日、藤本さんとお店にいたら、
あっちの店の店員らしい女の人が入ってきた。
あー、かわいい。
何かすごくいい雰囲気の人。
いわゆる癒し系ってカンジで。
ワタシが前にあっちのお店に行ったときはいなかったから、
お休みでもしてたのかもしれない。
こんなかわいい人いたら、ちゃんと覚えてるもん。
中澤店長に何か封筒みたいのを渡してた。
その後、藤本さんが彼女に声をかけた。
「あさ美ちゃん」
「あー、美貴ちゃん!
たまにはこっちにも来て下さいよ。
亜弥ちゃん、さみしがってますよ」
あさ美ちゃんは、声も優しくてかわいくて。
あー、こんな人って隣りにいてくれるだけで、
あったかい気分になれそう。
彼女は、ワタシの方を見ると、ニコッって頭を下げてくれた。
んー、かわいいです。
一瞬だけちゃんと目を見てくれたけど、
すぐにちょっと恥ずかしそうに、目をそらすとこなんて、たまりません。
- 168 名前:シゲちゃんの憂鬱 投稿日:2005/02/21(月) 11:25
-
あさ美ちゃんは、帰り際に、カウンターの中にいるまこっちゃんに一声かけてた。
そのときの様子が、お互いに何だか照れたように微笑んでて、
すごくかわいかった。
あさ美ちゃんが店を出ていったら、まこっちゃんは名残惜しそうに、
ドアの方をぼんやり見てた。
「まこっちゃん、シアワセそうだねえ」
藤本さんが言うと、まこっちゃんは顔を真っ赤にしてた。
「なななな何言っちゃってるんですか!
シアワセって何ですか!?」
そっか、やっぱり、2人は付き合ってるんだ。
んー、何だか余計に魅力を感じるかも。
「藤本さん」
「ん?」
ワタシはナイショ話しをするように、
藤本さんの耳元でそっと言った。
「今度、あっちのお店に行きましょうよ」
「え?…あ、もしかして、あさ美ちゃん?」
タカさんは他のお客さんの相手をしにいってたけど、
藤本さんも声を小さくしてくれて。
ワタシがコクンと頷くと、藤本さんはあきれたように笑ってた。
「はいはい、もう、シゲちゃんには参るよ。
ホント、かわいい子、大スキなんだね」
だって、かわいいにもいろいろ種類があって。
お姉ちゃんのかわいいも、藤本さんのかわいいも、
タカさんのかわいいも、絵里のかわいいも、
あさ美ちゃんのかわいいも全部ちがって、それぞれの良さがあって。
一番とか1人だけなんて、ワタシには決められないだもん。
fin
- 169 名前:ラッキー 投稿日:2005/02/21(月) 11:29
- 更新&終了です。
シゲさんは「かわいい子みんな大好き」なイメージがあって…(笑)
>>156さん
どうもありがとうございます。
かわいいシゲさん、好きなんで(笑)
それでは、また隠居生活に戻ります。
気が向いたら、また何か書くかもしれませんが、
しばらくはおとなしくしてますので…
お読みいただいた方、どうもありがとうございました。
- 170 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/21(月) 19:28
- シゲちゃんのエピソード面白かったです。
このスレの登場人物の中で彼女がひときわ輝きがあったのも、作者様の思い入れかな。
またラッキー様の文章を楽しみにしております。
Converted by dat2html.pl v0.2