♪もういくつ寝ると……

1 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 16:58
「よいしょっと」
 久しぶりに家のおつかいに出てみると、またこれもいいもんだ。
「たまには家の手伝いもしなさい」
なんて、お母さんに言われて、最初はハッキリ嫌だったんだけど。
 だって、きょう12月17日は私の17歳の誕生日なのにさ。
2 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 16:58
 でも、近くのスーパーに行って、メモを見ながら肉や野菜を選んだりしてると、だんだん楽しくなってくる。
 レジのおばちゃんと、一言二言おしゃべりして、買い物袋に詰めて……。
 ズシッと重い袋を下げて帰ってると、妙な充実感を感じたり…ね。
 出掛けるときの不機嫌が嘘みたいに、ウキウキした気分だった。
 やっぱり人って、一瞬一瞬に生きてるんだねぇ。
3 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 16:59
「♪もう いくつ ねると お正月〜……」
 帰り道を歩いてると、途中にある保育園から、子ども達の歌声が聞こえてくる。
 そうだよねぇ。
 もう正月まで、後2週間くらいだもんねぇ。
4 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 16:59
 自分が子どもの頃…って言っても、今でもまだまだ子どもだけど、もっと幼かった頃も、よく歌ってたなぁ……。
 何の他意もなく、ただただ歌ってることが楽しくて、嬉しかった。
「…♪もう いくつ ねると お正月〜……」
 自分も口ずさんでみる。
 やっぱりいい感じ。
 幾つになっても、私は「歌う子ども」なんだなぁって……。
5 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 16:59
「ただいまぁ」
 シ〜ン……。
 あれ?
「お母さ〜ん?」
 キッチンに行ってもいない。
 取りあえず買った物を、冷蔵庫とかに仕舞ってと。
6 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 16:59
「お母さ〜ん…買い物、行ってきたよぉ?」
 出掛けたのかな?とか思いながら、リビングのドアを開けたら……。
 パ〜ンッ! パン、パ〜ンッ!!
 目の前を、クラッカーから飛び出た紙テープが流れる。
 何だ…これは?
7 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 17:00
「明日香、お誕生日おめでとう!」
 なっちに圭ちゃんに娘。のみんな?!……と思ったら、テレビの画面。
 部屋を見渡してみると、お父さんにお母さん、弟……。
「娘。の皆さんから、ビデオレターをもらったから…折角だから、派手にやろうと思ってな」
 満足げな顔のお父さん。
 好きだもんねぇ…こういう派手なこと。
8 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 17:00
「……父さんが、あんまりにもやる気満々だったから……」
 お母さんは、そんな風に言ってるけど、時間稼ぎにおつかいにやったの、明らかに共犯だよ。
「姉ちゃん、顔、赤いぞ?」
 ニヤニヤ笑ってる弟。
「う…うるさいの!」
 そりゃ…ちょっとは嬉しかったけどさ……。
 こんなドッキリ風なのは…ちょっとねぇ……。
9 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 17:01
「明日香〜、元気かい? もう二十歳なんだねぇ。はたち…いい響きだよね……」
 ビデオの中のなっちが、相変わらずの、どさんこなまりで呼びかけてくる。
 現役のときは、ホテルの部屋に集まって、誕生日パーティをやってもらったっけ……。
 懐かしく思い出されるよ。
 ほかのメンバーも次々にコメントをくれて……。
10 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/21(火) 17:01
 本当に嬉しいバースディ・プレゼント。
 こんな1つ1つの出来事が、とっても大切な物なんだってことに気づくたびに、私も少しずつ大人になってるのかなぁって思ったりする。
 本当の大人には、まだまだだけどさ。
 私が、一人前の大人になれるのは……いつのことだろう?

「♪もう いくつ ねると……」
って訳には……いきそうもないよ。
 幾つになっても、私は「歌う子ども」のままみたいだから……。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/22(水) 01:34
新作速報スレッドで作者サンの名前に
銀杏の文字が。もしやと思い来てみれば
案の定あの懐かしい方が登場していて
嬉しかったです。これからも頑張って下さい。
12 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/26(日) 15:51
 カポ〜〜ン――ざざぁ〜〜――。
「…っふぅ〜……」
「……いい湯だねぇ……」
 明日香と圭が、2人そろって大きな浴槽に浸かって満足顔。
 縁に両手をそろえて、その上にあごをのせた格好まで2人おそろい。
「…たまには銭湯もいいでしょ?」
「うん……いいねぇ……」

13 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/26(日) 15:51
 3rdシングル「抱いて HOLD ON ME!」のプロモーションが一段落しての貴重なオフ。
 明日香の、
「いいとこに連れてってあげるよ」
との言葉に、圭が喜んでついて来てみたら……明日香行きつけの銭湯だった。
 連れてこられた圭が、
「えぇ〜! いいとこって…ここぉ〜??」
と言ったのは当然の感想だったろう。
14 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/26(日) 15:52
 しかし、最近の銭湯は結構こっている。
 打たせ湯に薬草風呂、ジェットバスetc.
 明日香に手を引かれるようにしてそれらを回っているうちに、圭もだんだんのって来た。
 日ごろ、家の風呂にしか入りつけてない圭にとって、かなり新鮮な体験だった。
 一通りめぐれば、もう夢見ごこち。
15 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/26(日) 15:52
「…っはぁ〜……」
「…ふぅ〜……」
 湯船に浸かって、2人そろって至福の時間を過ごす。

「……ねぇ、明日香?」
「ん〜?」
「明日香の目標っていうか…夢って何?」
 まったりした雰囲気が、そんな突然の質問をも包み込む。

16 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/26(日) 15:52
「目標? ん〜突然言われてもねぇ…」
「…わたしはさぁ……」
 パシャン。圭が向き直って、小さな波が静かに広がる。
 どこかポワワ〜ンとした目を、明日香へと向ける圭。
 こんな近くであっても、湯気が薄いベールをかけている。
「やっぱり、ずっと歌う人でいたい…歌だったら自分の思いを伝えられるようになれそうな気がするし……だから……〈娘。〉になれてうれしかった。つんくさんとか、みんなにも会えたし……」
 歌番組に出ても、トークではまったくと言っていいほど目立つことの出来ない圭だったが、歌の面では、サビで明日香のバックアップ・パートを勝ち取るなど、着実に自分の位置を固めてきていた。
17 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/26(日) 15:53
「そっかぁ〜……」
 日ごろは、あらたまってこんなことを言うのは恥ずかしいが…今は2人とも自然な感じで会話できる。湯気のベールのマジック。

「……明日香は?」
「……“いて欲しい人”…かな……」
「ん?」
 キョトンとした顔で、圭が明日香を見返す。
「うちのお爺(じい)ちゃんがね…私が小さいころに教えてくれたんだぁ……『世の中には3種類の人がいる。“いて欲しい人”“いてもいなくてもいい人”“いては困る人”』って……」
 穏やかな目を圭に向けながら話す。

18 名前:マスク・ド銀杏 投稿日:2004/12/26(日) 15:53
「だから…今は力をつけて、みんなから『明日香がいないとね』って言われるようになりたいかなぁ……」
「ふ〜ん…“いて欲しい人”かぁ……」
 それぞれが考え込むように沈黙が広がる。
 “目標”“夢”――。
 面と向かっていても、湯気のベールが気恥ずかしさを隠してくれる。
 カポ〜〜ン――ざざぁ〜〜――。
 そんな銭湯での一コマだった。
19 名前:マスク・ド・リカッチ 投稿日:2005/01/06(木) 16:52
●Yの悲劇?!
「ホンット、人騒がせなんだから!」
 ひとみがベッドにドスンと腰を下ろしながら、不満をもらす。
「本当だねぇ…亜依ちゃんのイタズラ好きにも困っちゃうね……」
 眉を「ハ」の字にしながら、困り顔で梨華も隣に腰掛ける。

 地方コンサートのために宿泊しているホテルの1室。今の今まで、この梨華の部屋に亜依と希美もいた。
 亜依がひとみを驚かそうと、男性の声マネで、「〈モーニング娘。〉ですよね? 今から行きますから」と内線電話をかけたことが、そもそもの発端だった。
 怖くなったひとみが、梨華の部屋に逃げ込み、そこに亜依と希美も、素知らぬ顔で合流。
「どうしよう」「どうしよう」と焦るひとみに、亜依が、「ごめ〜ん。電話したの、私」と、あっけらかんと告白したのだった。
20 名前:マスク・ド・リカッチ 投稿日:2005/01/06(木) 16:52
 怒り心頭のひとみに、「謝ってるやろ!」と、何故か亜依が逆ギレ。
そこに、隣部屋の圭から『うるさい!』と携帯電話で一喝が入り、ひとまず和解することに。
「明日、保田さんに説明して謝ってよね!」と、念を押しながら亜依と希美を送り出したところだ。

「まったくぅ〜」
 まだ怒りが収まらないひとみ。
「私なんか、タンポポでも一緒なんだよぉ?」
と愚痴り始める梨華。
 2人とも、やんちゃな亜依に、日ごろから相当手を焼いているようだ。
『…はぁ〜あ……』
 ため息にも、疲れの色がにじんで見える。
21 名前:マスク・ド・リカッチ 投稿日:2005/01/06(木) 16:53
 ピンポ〜ン。
「また、きっと加護だよ」
 怖い顔をしてドアののぞき穴から廊下を見たひとみ。
 だが、(あちゃ〜)という顔で、物音を立てないように戻ってきた。
「どうしたの?」
「保田さんだよ……どうしよう……」
 ベッドに隠れるように床に座りながら、梨華に手を合わせる。
「梨華ちゃん、お願い!」
「えぇ〜……」
 恨めしそうにひとみを見るが……ひたすら頭を下げる様子に折れるしかなかった。
「わかった……」
22 名前:マスク・ド・リカッチ 投稿日:2005/01/06(木) 16:54
 ドアを開く。
「ちょっとぉ、今、何時だと……」
 大きな目をさらに見開いた圭が立っていた。その目に、梨華の今にも泣きそうな表情が飛び込んできて、思わず口を閉じてしまう。
「ちょっと保田さん、聞いてくださいよ!」
「ど、どうしたの?」
「亜依ちゃんが……」
 いきなり始まった梨華の愚痴を、延々と聞く羽目(はめ)になった圭。
「それにぃ……」
「わかった、わかったから。私から加護に言っとくから。あんた達は、もう寝なさい」
「……はい」
 まだ言い足りない表情の梨華。
 髪に手を当て、(まいったなぁ)という顔の圭。
 ドアは静かに閉じられた。
23 名前:マスク・ド・リカッチ 投稿日:2005/01/06(木) 16:54
「助かったぁ。梨華ちゃんありがとう!」
 手を取って大げさに喜ぶひとみ。梨華は戸惑ってしまう。
「別に……ひとみちゃん、保田さんのこと怖いの?」
「え? …う〜ん…怖いっていうか……保田さん、優しいけど…真面目でしょ? 怒ったときはちょっとね…苦手…かな」
「ふ〜ん」
(そんなもんかな?)という風な梨華の様子に、(あれっ?)と首を傾げるひとみ。
「『ふ〜ん』て……梨華ちゃん、教育係で保田さんには、たくさん怒られたでしょ?」
「うん。泣いちゃったりしたしね」
 思い出しながら、ほほ笑む梨華。
24 名前:マスク・ド・リカッチ 投稿日:2005/01/06(木) 16:55
「でも…保田さん、いろいろ気を遣ってくれるし、怒られても納得いくから……今はタンポポだから、それもあんまりないけどね……」
 どことなく寂しそうにも見える。
「……まぁねぇ…怒らせるこっちが悪いんだけど……」
 言いながら、ひとみは肩をすくめる。
「確かに……保田さんは、話せばわかってくれそうだもんね……私も、明日、謝るよ」
「うん」
2人でニッコリほほ笑んだ。

 そのころ……圭は、亜依を前に説教していた。
(何で、私が?……)という疑問を感じながら。
 保田圭、この時19歳。彼女もまた、悩み多き年ごろである。
25 名前:マスク・ド・ナッチ 投稿日:2005/01/11(火) 13:50
 新幹線の車中。席へと戻る途中で、ふと外を見たら真っ赤な夕焼けだった。
 あまりにきれいな夕焼けだったから、席についてからも窓からずっと眺めていた。
 地方コンサートも大成功で終わって、東京へと向かう帰途。隣の席は圭織。眠っているモデル然とした整った顔が、夕日に照らされて夢のようだった。

(…北海道の夕焼けも、きれいだったなぁ……)
 友だちとの下校風景。他愛もない会話。次第に赤く染まる空――。
 もう戻れない時。

 昔を思い出しながら、夕日を眺め続けた。
26 名前:マスク・ド・ナッチ 投稿日:2005/01/11(火) 13:51
 そのうちに日も沈み、代わって1番星が。
 赤から薄紫色の空となり、その色がだんだん、だんだん、濃くなっていく。それにつれて星の数も増え、いつの間にか一面の星空だった。
 東京では見られないほどの、目にまぶしい星々。

(…そう言えば…室蘭から東京に出てきたばかりのときは、星ばっかり探してたなぁ……)
 星が見えないと言っては泣き、懸命になって星を探してはホームシックを癒(いや)していた。
 当時、同室だった圭織と一緒に緑の多い公園を探し、2人でふるさと・北海道について語り合った。
 スーパーで鮭の切り身を買ってきて、2人で焼いて食べたことも――。
(「やっぱり、北海道の鮭の方がおいしいね」って、2人で笑いながら泣いたっけ……)
27 名前:マスク・ド・ナッチ 投稿日:2005/01/11(火) 13:51
 そうしたなかでも、東京での生活に慣れ、忙しさに流されながら、望郷の思いも心の奥隅に追いやっている毎日。それでも、その思いは薄れてはいないみたいだ。
 はっきりと見えていた星々が、何故だか潤(うる)んでよく見えなくなってしまった。

「…なっち……」
 突然呼ばれて振り向くと、圭織の顔だけが浮かんで見えた。
「…なっち…泣いてるの?」
 寝起きの圭織が、怪訝(けげん)そうに、心配そうに顔を覗(のぞ)き込む。
 言われて頬に手をやると、涙にぬれていた。
「……星を見てたの…すごく…きれいだよ……」
 涙をぬぐいながら、(圭織にだったら……恥ずかしくないや)と思った。
「…こんなたくさんの星、久しぶりだね……」
 私の顔越しに、窓の外の星を見つめる圭織。
「…うん……」
 それからしばらく、2人で黙って星空を眺めていた。
28 名前:マスク・ド・ナッチ 投稿日:2005/01/11(火) 13:52
「ねぇ、かおりん…」
「ん?」
 星空から目を移した圭織の顔も、とても懐かしそうで、しかも輝いていた。
「今度さぁ……鮭、買ってくるから…焼いて…一緒に食べよっか?」
「…うん……」
 私の目を真っ直ぐに見てほほ笑んだ圭織は、もう1度、星空に目をやると満足そうに、何度もうなずいていた――。
 車窓から2人で見つめる夜空には、数多(あまた)の星々が輝いていた。

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