side by side 

1 名前:名無し飼育 投稿日:2004/12/23(木) 19:37
ボツネタからの再利用モノです。
長くならない予定なので、どうかお付き合いください。
2 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 19:38
『本日、午後9時半頃。N県S町のアパートから
15年間監禁されていた少女が救出されました。少女は15年前…』


「ねぇ、お姉ちゃん…」
「何?」
「…さゆは…シアワセだったのかな………」
3 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 19:38
    
4 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 19:42
長かった梅雨がようやく明けた頃。
その日は朝から降っていた雨が急に止み、昼過ぎには
夏の気配を含んだ太陽が、アスファルトを照らしていた。

小さな公園で、学校帰りなのか、少女が2人、1つしかない
ブランコに乗っている。
椅子が濡れていて座れないという事で立ち乗り。
天使のような笑顔で順番を待つ少女の背には黄色いランドセル。
もう1人は赤いランドセルを背負っていた。
「かおりぃ、次なっちの番だよぉ…」
「もうちょっとぉ」
5 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 19:43
なつみは、もうとっくに約束した回数を過ぎても代わって
くれない親友に些か口を尖らせた。
そんななつみを見て、圭織は急に悪い事をしている気分になり
ぶらんこから飛び降り
「はい、次なっちね!」
「うん!」
ようやくぶらんこに乗る事ができたなつみの顔には満面の笑み。
圭織もなつみにつられて自然と微笑む。
「さーん、しぃい、ごぉ…」
なつみが一往復するたびに、カウント1回。
「にぃじゅういち、にじゅうに………なっち?!」
もうすぐで交代という時、なつみが急にぶらんこを止め
どこかへ走って行った。
6 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 19:45
慌てて追いかけると、なつみは屋根の付いたベンチの前に立ち
何かに手を出そうとしている。
「…何してるの?」
後ろから覗き込むようにして見ると、そこには、ちょこんと
ベンチに座っている赤ちゃんが。
赤ちゃんと言っても、2歳にはなっているだろう。
見ず知らずの人間に驚いたのか、赤ちゃんは2人を見ると急に
顔を歪め泣き叫び始めた。
7 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 19:46
「………」
2人がもう少し大人であれば、すぐに警察に連絡をしただろう。
しかし、まだ『遺棄』『捨て子』という言葉を知らない少女達は
赤ん坊を抱きかかえると、まるでおままごとでもするかのような
口調で言った。
「ママがいるから、泣いちゃだめですよぉ」
「いないいない…ばぁ!!」
それは、傍から見たら奇妙な光景だっただろう。
けれど、2人には、とある共通の思いが芽生えていた。


『この赤ちゃんは、私たちのだ』
8 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 19:49
赤ん坊は圭織によって「さゆみ」と名付けられた。
それは、圭織が大好きだったアニメのキャラクターのお姫様と
同じ名前。本当ならそのお姫様には漢字が使われていたの
だけれど、あえてひらがなを使う事にした。
それは、漢字が読めないという事と、自分に名前を付けさせて
くれた親友の名前がひらがなだった事から、幼心にも感謝の意を
表した、圭織の気持ちから来たものだった。

幼い2人が赤ん坊を育てている事を知るものは誰もいなかった。
恐らく、2人両親が共働きで殆ど家にいなかったという事と
圭織の家がその町で一番のお金持ちであった事。
なつみが年齢以上にしっかりしていた事が幸いしたのだろう。
9 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 20:07
「ねぇパパ!新しいお布団買って!!」
「何に使うんだい?」
「秘密基地でなっちとお昼寝するから!!」
そう言えば、圭織の父親は何でも買ってくれた。
さゆみ用の服も
「おままごとでお人形に着せてあげるの!」
と言って、あっさり手に入れた。
なつみも、家にあった妹用のミルクなどを持って来た。
その点で2人は、何の苦労もなかったと言える。
大変なのは、実際にさゆみを育てる事だった。
10 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 20:08
「なっちぃ。さゆみ、また泣いてるよぉ…」
「待ってよ、今ミルク作ってるの!!」
さゆみと遊ぶのは圭織。
ミルク作りはなつみ。
自然と決まった役割だったけれど、あまりに自分の言う事を
聞かないさゆみに、圭織は少なからず、いらつきを覚えていた。
「もうっ!いい子にしてないとミルクあげないよ!!」
「圭織!優しくしないとダメだよ!!」
そんな会話もしょっちゅうで、次第に2人の間にぴりぴりした
空気が流れていった。
11 名前:side by side 投稿日:2004/12/23(木) 20:09
さゆみはそんな2人の様子をいつも無表情に見つめていた。
言葉を話さず、泣く事で欲求を伝えるさゆみ。
けれどそれも、圭織がさゆみを育てる事を放棄し、なつみも
1人では育てられないと判断したのか2日に1度しか秘密基地に
顔を出さなくなった頃から少なくなり、いつしかさゆみは
『意思表示』と言うものを、まったくしなくなってしまった。
意思表示だけではない。
以前はなつみが顔を見せると嬉しそうに笑ってくれたのに
今では、ただぼんやりとなつみを見上げるだけ。
何かをあげても、その表情は変わらない。
さゆみには『感情』がなかった。
12 名前:名無し飼育 投稿日:2004/12/23(木) 20:23
一応、ここまでにしておきます。
時間があったら夜中にもう一度…
感想等、お待ちしています。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/23(木) 20:44
設定が面白そう。
続き期待
14 名前:side by side 投稿日:2004/12/24(金) 21:42
月日は流れ、子供が子供を育てるという異常な環境にもかかわらず
さゆみは幸いにも大きな病気1つせず育っていった。

2人がさゆみの事で真剣に話し合う事となったのは、2人が大学生になった
春の事。秘密基地が、マンション建設のために取り壊しとなったのだ。
「なっち、どうする?」
「どうするって言われても…」
「まさか、どっかに置いて来るわけにも行かないじゃん。」
それはなつみもよく分かっていた。あの頃は何も考えていなかったけれど
自分たちのしている事は『監禁』と大差ない。
いくら、さゆみが捨て子であったからとはいえ、これが犯罪に入るのでは
ないかという事ぐらい、中学生の時に分かっていた。
15 名前:side by side 投稿日:2004/12/24(金) 21:44
「さゆみって、今、何歳だっけ?」
本題と全然関係のない、なつみの発言に
圭織はやや呆れた顔をして
「そんなの知らないよ。
ウチらと7つか8つ違いでしょ…11歳くらいじゃん?」
そっかーと呟くなつみに、圭織は
「それがどうかした?」と訝しげな視線を送る。
「遠くに…引っ越しちゃおうかぁ…」
「ちょっと…何言って…」
「親には、なっちと圭織で2人暮らしするって言うの。」
そこに、さゆみを連れて行けばいい。となつみは言った。
16 名前:side by side 投稿日:2004/12/24(金) 21:45
「つまり、私たちがあのコと一緒に暮らすって事でしょ?
嫌だよそんなの。」
「嫌でもしょうがないでしょ?だったらあのコの事、警察に
連れて行く?」
それは…と圭織は口籠る。
無理だ。そんな事はできない。
あのコを拾った時から、いつかはこうなるって決まってたんだ。
どんなにリアルなおままごとも、いつかは飽きる。
圭織は、今も真っ暗な秘密基地にいるのであろうさゆみを
思い浮かべた。
「でも、連れて行ってどうするの?外には出せないし。
家でじっとしてろって事でしょ?」
「…そんなの、昔からじゃん。」
17 名前:side by side 投稿日:2004/12/24(金) 21:47
それもそうだ。けれど、圭織はいまいち納得できなかった。
2日に1度の食事。
それに加えてロクなものを食べていないハズなのに、さゆみは
町で見かける同年代の少女達よりも背が高い。
今はなつみの服でちょうどいいくらいだけど、あれ以上
大きくなったら、さゆみようの服を買わなくてはならない。
それに、食事だって、いつまでもパン1個というわけには
行かないだろう。まだ学生という身分で、しかも安いバイト。
1人暮らしなら、親に頼めば何とかしてくれるかもしれない。
けれど、2人で生活するとなったら生活費は自分持ち。
そりゃ2人なのだから、割り勘でも何でもいいのだけれど
それでも相当の出費になる。それに加えてさゆみの面倒も…
というのが、圭織の中で判断をつけかねていた。
18 名前:side by side 投稿日:2004/12/24(金) 21:48
「さゆみってさぁ…」
中々答えを出せない圭織の様子を眺めていたなつみが、ふと口を開く。
「普通なら、学校行ってるわけじゃん?あの子達みたいに。」
なつみの視線の先には、丁度さゆみと同じくらいの少女達がいた。
誰かにいじめられたのか、赤いランドセルを背負った少女が道の端で
しゃがみ込んで泣いている。その少女の前には、黒いランドセルの少女。
泣いている少女はその子を見るとますます泣き出し
黒いランドセルの子は困ったように頭をかいた後、すっと手を差し伸べた。
「あぁいう風に、友達とか作ってさ。」
19 名前:side by side 投稿日:2004/12/24(金) 22:05
圭織がその少女達を見た時は、泣いていた少女は立ち上がり
もう1人の少女と仲良く手をつないで歩いている所だった。
ぼんやりとその様子を見つめる圭織の耳元でなつみの声がした。
「あのコにとって、なっち達が親なんだよ。
もうこれは、おままごとなんて部類じゃない。」
圭織はなつみの顔を見つめる。
このコはいつの間に変わってしまったのだろうか…そんな瞳で。
数年の月日が、なつみの中に何かを芽生えさせたのだろうか。
母性本能とも少し違う気のする、何か。
「普通のコと同じようになんていうのはやっぱりムリだけど
なっち達にできる事はやってあげようよ。」
「………」

なつみの真剣な眼差しに、圭織はただ頷くしかなかった。
20 名前:side by side 投稿日:2004/12/24(金) 22:07
異常な環境での日常。
この生活が、いつまで続くのかは分からない。

3日後、2人は現在住んでいる町の隣の町に引っ越す事となった。
昼間中に全ての荷物を片付け、夜中にさゆみを連れ出す。
2人は誰かに見つからないかどうかが心配だったけれど
意外と事はスムーズに進んだ。
「ここが、新しいさゆみの家だよ。」
なつみは、さゆみの方に手を置きながら優しく言う。
さゆみは表情こそ変わらないものの、落ち着かなさそうに
周りをきょろきょろと見回していた。
21 名前:名無し飼育 投稿日:2004/12/24(金) 22:35
>>13 名無飼育さん様
ありがとうございます!
更新は遅くなるかもしれませんが、これからも見てやってください!
22 名前: 投稿日:2004/12/25(土) 18:22
文章力、恐れ入りました
23 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 22:47
「いい?」
なつみと圭織はさゆみをソファに座らせ、自分たちはその反対側へ座ると
机に広げた紙にマジックで大きく「さゆみ」と書いた。
「これが、さゆみの名前。さ、ゆ、み、だよ。」
なつみの言葉に、分かっているのか分かっていないのか
曖昧に頷くさゆみ。
なつみは続ける。
「それで、この人が圭織。か、お、り。で、なっちは、な、つ、み。
言える?圭織となつみ。」
24 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 22:49
「……」
鉛筆の持ち方すら知らないさゆみに、文字を書かせるのは無理
だと判断した2人は、専ら、言葉を話す事に力を入れていた。
1番言葉を覚える年齢というものを過ぎたさゆみにとってそれは
大分高いハードルのように思えたけれど、せめて自分の名前と
自分たちの名前だけは…と考え、名前ばかりを繰り返し教えた。
「さ……ゆ……み……」
なつみに合わせ、さゆみの唇がゆっくり動く。
まだ、たどたどしい言い方だったけれど、それでもこれは
大進歩と言っていいだろう。
25 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 22:55
「よく言えたねぇ、さゆ。」
なつみはさゆみの頭を優しく撫でる。
圭織には、その光景がとても微笑ましく、どこか悲しかった。
それは前のような、さゆみから逃げようとする気持ちではない。
なつみが頭を撫でても、ちっとも笑わず、どこを見ているかも
良く分からないような視線を向けるだけのさゆみ。
普通の暮らしをしていたなら…
普通に自分たちが接していたならば…
それは、後悔とも何ともつかない感情で、圭織はすっと
2人から視線を逸らした。
26 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 23:06
さゆみは、シアワセなのだろうか?
そんな考えが頭をよぎる。
何か意味があったわけでもなく、ふっと湧くように出てきた
気持ち。あのまま、講演に置き去りにされていたら
さゆみはどうなっていたのだろう。今頃は施設で、同じような
境遇の子供たちと楽しく暮らしていたのだろうか?
それと今では、どっちがさゆみにとってシアワセなのだろう…
圭織はそんな事を考えている自分自身に、些か驚いた。
これまでずっと、さゆみの事を半分邪険に扱っていたのに
今は彼女が自分の妹か何かのような気がしてならない。

……なつみも、同じような事を思ったのだろうか…?
27 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 23:29
なつみと圭織がそれぞれ考え事をしている頃。
昼間でも人通りの少ない通りにある3人の家から
道路を挟んで反対側の家の前に、1台のワゴン車が停車した。
そこから飛び降りるようにして出てきたのは
さゆみと同い年くらいの少女。
背はさほど高くない。
彼女はパンパンに膨らんだスポーツバックを肩にかけ
ワゴン車の運転手に頭を下げる。
どうやら、1人で夜道を歩いていた所を拾ってもらったらしい。
ワゴン車が走り去ると、外の音に気付いたのか、家の中から
1人の少女が出てきた。少女といっても大学生くらいで
それは少女というより女性という表現の方が適切かもしれない。
その人は少女に優しく笑いかけると、再び家の中へ戻っていく。
少女もその後に続き、外は再び静寂に覆われた。
28 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 23:37
田中れいな
隣町…すなわち、前に3人が住んでいた町から、イトコにあたる
梨華の家に引っ越してきた。

『変な奴だった』

彼女と同じ学校だった人間は、口を揃えてこう言うだろう。
小学校の時、ランドセルは黒。
遠足や合宿、校外学習等はすべて欠席。
親の送り迎えあり。
とにかく周りから見たら『普通』ではなかった。
29 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 23:49
「ごめんね、迎えに行けなくて…」
「いいよ。それより風邪、大丈夫?」
荷物をリビングに置き、ソファで並んで紅茶を啜る。
お陰様で。と微笑んだ梨華は、カップをテーブルに置いて
れいなに向き直ると、少し深刻そうな顔をした。
「おばさん、最後まで反対してたんでしょ?」
「うん。家出る寸前まで泣き叫んでた。…ムシしたけど。」
れいなの脳裏に、ドアを閉める寸前に隙間から覗いた母親の
表情が浮かぶ。最後までうっとうしい奴だった。
30 名前:side by side 投稿日:2004/12/25(土) 23:58
「でも、まぁ…れいなちゃんの家も色々あるし…」
梨華はそう呟いてから慌てて口を噤み、れいなの方を見る。
れいなは特に意に介さない様子で紅茶を啜っていた。
…言われ慣れちゃってるのかな……
れいなの家の事は、親戚内でも禁句となっている。
しかし、それを口に出されて取り乱すのはれいなの母親だけで
れいなと言えば、口を挟むことなく
淡々と大人たちの会話を聞いていた。
確かに、れいなの過ごした環境は『普通』ではなかったけれど、
いなにとってみればそれが『日常』だった。
31 名前:side by side 投稿日:2004/12/26(日) 00:12
「…学校は?まだ中学生でしょ」
「…気が向いたら行く。」
まったく…と呟きとも溜息とも付かない音を発すると
梨華はある事を思い出した。
「そういえば今日、れいなちゃんと同じくらいの女の子が
ここの向かいのアパートに来たよ。あそこに住んでるの、大学生
2人だから、どっちかの妹さんなのかもね。」
「何でそんな事知ってるの?」
「たまたま部屋から見えたの。」
仲良くなれると良いね、と言う梨華。
「そうだねぇ…」
とれいなは適当に返事をする。
自分の中では『普通』なのだけれど、他人から見るとやっぱり
『異常』な家庭環境のお陰で、友達なんていたためしがない。
いたとすれば、小学生の頃に近所に住んでいた1つ上のコ
くらいだろうか。
「でもさ、学校も変わるし。大丈夫だよ、きっと。」
梨華にそう言われたところで、れいなは学校に行く気など
全くなかった。
せっかく自由になれたのだから、自由に過ごしたい。


……そんな考えがあったから。
だから、2人は出会えたのかもしれない――
32 名前:名無し飼育 投稿日:2004/12/26(日) 00:14
>>22 ・様
ありがとうございます!
作者、まだまだ未熟者です。
これからも頑張って成長していきます!(…?
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2004/12/26(日) 17:59
さゆは…さゆは助かるんですか?

作者さんがんばってください
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/07(金) 23:15
ほぜ
35 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 17:08
「じゃあね、れいなちゃん。学校、ちゃんと行くんだよ。」
駅と学校へ行く分かれ道。
梨華は、既に歩き始めているれいなの背中に声をかける。
れいなからは何の反応もなかったけど学校までは後数分だし
ここまで来て引き返すような事もしないだろうと思った梨華は
駅への道を進む。駅に着き、カバンから定期を取り出した時だった。
ふと、視界に入った二つの影。
昨日、れいなが来る数時間前に向かいのアパートに女の子を連れて来た二人。
あの格好はこれから大学に行くのだろうか。
何となく二人が気になった梨華だけど、まさか追いかけるわけにも行かない
ので、そのまま改札を通り抜け、ホームへの階段を上って行った。
36 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 17:09
電車を待ちながら、梨華はれいなの事を考える。
れいなに、同居させて欲しいといわれた時は、正直驚いた。
でも、梨華の母親や親族達が、是非そうした方がいい。
それがれいなのためだと言っていたので、一応了解は出した。
れいなの母親はかなり反対していたけれど。
れいなには小・中学校と、友達という友達はいなかったと
聞いている。
『強がってるけど、本当はそんなに強くないからな。あいつ。』
いつだったか、れいなの姉。つまりは梨華のもう一人のイトコに
言われた言葉を思い出す。
おそらくそれは、まだ梨華も彼女も中学生になりたてだった頃。
お互いの制服姿を見せあいっこして、きゃあきゃあ騒いでいた時
だったと思う。
37 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 17:16
それをそばで見ていたれいなも、今より大分幼くて。
『美貴姉ちゃん、梨華ちゃん』
と嬉しそうに二人の後ろをくっついて回っていた。
次に二人に会ったのは、その年の秋頃。
病院の霊安室で、娘の遺体にすがりついて泣き崩れる母親と
その隣に呆然とした表情で立っていた黒いランドセルのれいな。
ランドセルには無数の傷がつき、とてもじゃないがまだ低学年
の女の子のランドセルとは思えなかったけれど、それはれいなの
兄から姉へ姉かられいなへと受け継がれたもの。
だから、ボロボロになっているのも仕方なかったと言えば
仕方なかったのかもしれない。
梨華はそんなランドセルと二人を見て、何かを感じた。
けれど、それが何だったのかは覚えていない。
38 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 17:18
そんな事をぼんやり考えていたから、自分のケータイが鳴って
いた事に気が付かなかった。
メール一件という表示の横にはれいなの名前。
どうしたんだろうと思ってメールを開いた梨華は、その内容に
思わず噴出しそうになった。
『梨華ちゃん、れなのクラスってどこ?担任って誰?
校長室、鍵かかってるんだけど…』
校長室の前で慌て気味にしているれいなの姿が目に浮かぶ。
梨華は、ちゃんとれいなが学校に行っていた事に安心する一方で
昨日教えなかったっけ。と自分の記憶を辿る。やっぱり、初日
くらいは自分も付いていった方がよかったのかもしれない。
『れいなちゃんのクラスは2組、担任は矢口先生。
校長室は…どうしようもないから、とりあえず事務室に行って
転校生なんですけどどこに行ったら良いですかって聞きな。』
39 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 17:20
素早く親指をボタンの上に滑らせる。
一度読み直し、間違いがない事を確認して送信。
返事はすぐに来た。
『うん、分かった。』
梨華はケータイをカバンにしまい、代わりに文庫本を取り出す。
先日買った本なのだが
『幼少の頃に親に捨てられた主人公が当時中学生だった二人組に
拾われ育てられる』
という少々現実離れした話で、中々面白い。
読み耽っている間に目的の駅に着き、梨華は慌てて本をしまうと
電車を降りた。
「あれ…?」
改札を抜けた梨華の視界に、先ほどの大学生二人組が映る。
この駅で降りたという事は梨華と同じ大学か。
どこの学部の人だろう。
40 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 17:48
向かうところが同じなのだから、別にそうしようと思わなくても
梨華は自然に二人の後をついて行く形になった。
学校の正門前の信号で、梨華は足を止め前にいる二人を見る。
すると、こんな会話が耳に入ってきた。
「圭織、今日の帰りにちょっとデパート寄っていい?」
「良いけど…なんで?」
「さゆみの物とか色々買いたくて。」
「そーだね、ひらがな表でも買っていく?」
「やっぱひらがなは書けなきゃダメかな。」
「名前だけじゃ…ねぇ…」
何なのだろう。この会話は…
梨華は、二人の話題に上っている『さゆみ』に一人だけ心当たりがあった。
昨日の少女。
でも彼女の事を話しているのだとしたら、これはものすごく異様な会話だ。
梨華の見た少女は、どう考えてもれいなと同い年くらい。
そんな子にひらがな表?
41 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 18:13
だとしたら、あの少女とは別に他の子がいるのだろうか?
でも、そうしたらその子と二人の接点はどこにあるのだろう。
それに、まだひらがな表が必要な年齢の子を長時間も一人で
家に置いておくものだろうか。
そんな時、梨華の頭にひっかかるものがあった。
さっきまで読んでいた本。あの本の中に出てきた二人組のセリフ
と目の前にいる二人の会話がそっくりなのだ。
「まさか…ね…」
そんな事あるはずがない。自分の考え過ぎだ。
梨華は自分の考えを振り切るように軽く頭を振ると
青に変わった信号をゆっくり歩き始めた。
42 名前:side by side 投稿日:2005/01/10(月) 18:17
更新終了です。

>>33 名無飼育さん様
さぁ、どうなるでしょう…?
すべては作者の気分次第ということでw

>>34 名無飼育さん様
ありがとうございます。
これからも頑張りますっ
43 名前:名無し飼育 投稿日:2005/01/10(月) 18:18
題名のままでした↓↓
では、また時間があれば数時間後に…
44 名前:名無し 投稿日:2005/01/11(火) 17:08
これがボツネタなんて・・・
十分面白いですよ。
これからも楽しく読ませて頂きます。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/11(火) 22:12
ドキドキする展開ですね。
これからどうなるのか楽しみにしてます。
46 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:34
やっぱ学校なんて来るんじゃなかった…
転校一日目。れいなはあまりの退屈さに午後の授業をすべて抜け出し
屋上に寝転がっていた。前の学校で友達なんかいなかったけど、元々そんな
に人と関わるのが好きじゃない。
だから、今日のように大勢から囲まれるのは、れいなにとってはただの
ストレスの種にしかならなかった。
『砂糖に群がる蟻じゃないんだから』
午前の間だけで、一体何度こんな事を思っただろう。
唯一の救いは、あのクラス担任だろうか。
やたら小さくてやたらテンションの高いその担任。名前は矢口真里。
梨華から事情は聞いているらしいが、あの人は相当面白い。
47 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:35
そういえば、中学に入って担任に対してこんなに好感を持てた
のは初めてかもしれない。
それまでの担任は、れいなの家庭の『事情』を知ると皆
れいなにあまり近づこうとしなくなっていったから。
まぁ、それが当たり前の反応なのかもしれないけど。
「田中ぁ」
その何となく聞き覚えのある声に、私は振り返る。
するとそこにいたのは思った通りの人。
「先生。」
一瞬、こっちに寄ってきた真里を見て、怒られるかなと思った
れいなだったけれど、真里は普通にれいなの隣までやって来て
その場に腰を下ろした。
48 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:37
「学校、どう?」
突然そう尋ねられ、れいなは少し考える。
「疲れました」
予想していたのか、真里は可笑しそうに笑いれいなを見上げた。
「まぁ、その内慣れるだろ。」
怒んないのだろうか、この人は。
そんなれいなの気持ちが伝わったのか
真里はれいなにも座るように促すと
「いーじゃん。いい天気なんだし。
教室にいるよりよっぽど気持ちいいだろ。」
「はぁ…まぁ…」
やっぱり変な人だ。でも嫌いじゃない。
「あ、あの…」
ふと思い出した事があって、れいなは真里に話しかけた。
49 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:38
「この学校に、私の家の近くに住んでいる子っていますか?」
その質問が意外だったのだろう。
真里は目をぱちくりさせてれいなを見る。やがて首を振りながら
「多分いない。けど…何で?」
「あ、いや…梨華…私のイトコが、近くに私と同い年くらいの
子が来たって言ってたんで…」
真里は「私立行ってるって可能性もあるからなぁ…」と呟いて
空を仰ぐ。れいなも「そうですね」と真似して空を見上げた。
何故、自分がそんな事を真里に尋ねたのかは分からない。
友達なんか要らない。
その自論に間違いはないと思っていたはずなのだけれど…。
50 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:41
そんな事を考えていたら、ふと真里の視線が自分に向けられて
いる事に気付いた。れいなは何だか急に恥ずかしくなり
照れ隠しのように鼻の頭をかく。
真里はそんなれいなを優しく見つめ、にっこり笑って言った。
「お前の言っていた子、こっちでも探しといてやるよ。」

次の授業は出ろよ、という言葉を残し、校舎に戻っていく真里。
その小さな後ろ姿を見送りながら、明日も学校来ようかな、と
考えていた。
あの先生に会うために。
51 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:42
「ただいま、さゆ。」
「…」
リビングのソファに何をするでもなく座っていたさゆみは
なつみの声に反応してゆっくり振り返る。
言葉が返って来る事はないけれど、特に気にもせずになつみは
手に持っていた箱を見せた。
「さゆにお土産。後で一緒に食べようね。」
箱の中身はケーキ。
きっとさゆみが気に入るだろうと思って買って来たのだ。
今、この家にいるのはさゆみとなつみだけ。
圭織は買出しだと言って、途中からスーパーへ行ってしまった。
52 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:43
「あのね、今日はさゆにいっぱいおもちゃ買ってきたんだよ。」
さゆみは表情を変える事なくなつみを見ている。なつみは
手にしていた袋から積み木セットを取り出してさゆみに渡した。
「これはねぇ…積み木って言って…うーん…こういう風にね…」
箱を開け、バラバラなサイズのそれを組み合わせながら
簡単なものを創る。
「ほら、これが家の完成!」
さゆも創って見る?となつみは自分の創ったものはそのままに
して、残りをさゆみの前に置いた。
「…」
積み木をじっと見つめるさゆみ。
しばらくして、さゆみは一度だけなつみの方を見ると恐る恐ると
いった感じで箱からいくつか取り出し、なつみの作品の隣に
同じものを創った。
53 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:45
「うわぁ、さゆすごいね。なっちと同じもの創っちゃった!」
なつみは嬉しそうにさゆみの頭を撫でる。
その時、一瞬…ホントに一瞬だけ、さゆみが微笑んだ。
…ような気がした。
「ただいまぁ」
玄関のドアの開く音と、圭織の声。
それに混じって聞こえるビニール袋の擦れる音。
どうやら大量に買い込んできたらしい。
「安かったんだよね、たまたま。」
「圭織、所帯じみてる…」
面白そうに笑うなつみに、圭織は軽く微笑み返し
「さゆみは?」と尋ねた。
それを聞いたなつみは、ついさっきの出来事を圭織に話した。
「え、ホントに?すごいねぇさゆ。」
54 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:46
なつみと同じように圭織はさゆみの頭を撫でる。
さゆみは、すっかり積み木が気に入ったようで創っては崩し
創っては崩しを繰り返していた。
「楽しそうだね」
圭織はなつみに言う。しかし返事は返ってこない。
圭織は不審そうになつみの方に視線を走らせ、はっとした。
寂し気な瞳。
いつか見たのと同じ、その瞳。
「なっち?」
呼びかけると、なつみは我に帰ったように圭織を見て
「ごめんごめん。またぼーっとしてたよぉ。
さて、ご飯作らなくちゃね。今日はオムライスだぁ!」
明るい声でそう言うとそのまま台所へと入り、圭織の買ってきた
野菜やジュースを冷蔵庫にしまい始めた。
それは、いつものなつみの姿。
55 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 16:47
圭織はそんななつみの背中をしばらく見つめた後、さゆみの隣に
腰掛け、自分も何か創ろうと積み木を手に取る。
「さゆ、ほらお城。なっちのなんかよりもずっとすごいでしょ?」
「ちょっとー、何それ〜」
台所からなつみの声が聞こえる。
圭織はその言葉にそっと微笑む。
けれどそれは、なつみの反応に安心したようなそれでもまだ
どこかに不安が残っているようなそんな複雑な気持ちが
溜息になって現れた事によってすぐに消えた。
56 名前:side by side 投稿日:2005/01/15(土) 17:07
更新終了です。

>>44 名無し様
面白いですか?ありがとうございます!
ボツネタを見ていたと時にビビッと来たネタだったので…w
これからも頑張ります。

>>45 名無飼育さん様
ありがとうございます!
ドキドキするとはいやはや…(照
これからもよろしくお願いします。
57 名前:名無し飼育 投稿日:2005/01/15(土) 17:08
sage忘れ〜
名前変え忘れ〜
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/15(土) 17:34
おもしろ。
頑張ってください
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/17(月) 23:26
これからどうなるのか全く予測できません・・・
楽しみです。
60 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:10
「お帰り、梨華ちゃん。」
「ただいま。」
家に帰ったられいながいた。それは当たり前の事なのかもしれないけど
梨華はれいなが7時前に帰って来ているとは思っていなかったのだ。だから
れいなが台所で2人分の夕飯を作っていたのを見た時はかなり驚いた。
しかし、それと同時に悲しくなった。
「れいなちゃん、学校どうだった?」
梨華は洗面所で手を洗いながらさり気ない風を装って尋ねる。
「別に。どーもしないよ」
「友達できた?」
カタッとれいなが何かを置く音が聞こえる。
しかし、彼女が言葉を発する事はなく、また、どんな表情をして
いるのかも見えない。
「あ、ごめん…」
61 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:16
そのれいなの反応に、梨華は慌てて謝る。
しかしそれでも黙ったままのれいなに、梨華は自分の発言が
軽率だったと後悔した。気まずさを抱えながらも洗面所から
覗くと、れいなの細く小さな背中が目に入る。
梨華が見ていることに気付いたのか、れいなの動きが止まり
やがて、ちらりと梨華を振り返るとれいなはぶっきら棒な声で
「…鬱陶しかった。」
ぼそっと呟くようなれいなの言葉。
しかしそれはしっかりと梨華の耳にも届いてきた。
「でも、学校は行く。」
先生が好き…とさっきよりも小さな、でもはっきりとした声。
その言葉に梨華は、数日前に会ったれいなの担任の事を
思い出していた。
62 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:21
「田中さんの実家は隣町ですよね?なのに何故…」
やはり、中学生の子が従姉妹の家に居候というのは大分先生方に
怪しまれたらしく色々な先生から事情を尋ねられた。
殆どの先生にはれいなの家は母子家庭で、今は母親が病気で
入院しているため、隣町の自分の元へやってきたという事に
なっている。しかしそれでも担任の先生には話しておいた方が
いいかもしれないと思い梨華は転入手続きをしに行った際に
真里を呼びとめて、れいなの家庭の事情を話していた。
「実は、母親が入院というのは嘘でして…」
教師二年目と言う彼女に、最初は些か不安を持っていたのが正直
なところだった。
63 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:26
『そっか。』
話し終わった後の第一声がそれだった。
どうやられいな転校理由はイジメか何かだと思っていたらしく
心底ホッとしたような表情で優しく微笑んでいた。
『田中も色々大変なのな。
まぁ、ウチにはどうする事もできないしなぁ…』
『あの、この話を聞いたかられいなちゃんへの態度が変わる
とかはないですよね…?』
『あ?何それ。前の学校ってそんなんだったの?
心配しなくても、そんな事は絶対無いから。』
梨華はそれを聞いて真里に深く頭を下げる。
真里は照れたように笑いながら
『田中の事はちゃんとみておくから』
その言葉に、この人なら心配ない。
そう思った。
64 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:29
「あの先生、ウチの事知ってるんでしょ?でも普通に接して
くれた。…ってよく分かんないけど。」
そう言うれいながどことなく嬉しそうだったのは
自分の思い違いだったのか。
梨華は「良かった」と小さく呟き、話題を変えようと流していた
水を止めてれいなの背後からナベの中を覗き込んだ。
「カレー?おいしそうだね。」
「梨華ちゃんのよりはマシ。」
きっと…いや絶対に否定はできない。
振り返ったれいなは、梨華がぷぅっと頬を膨らませている
その姿を見て
「あはっ、変な顔。」
と笑い出した。
「何よ、もう…」
65 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:30
梨華は少しだけいじけたような態度を取るけれど
れいなはますます笑う。
れいなが手に持ったオタマがゆっくりかき混ぜるカレーは
二人分にしては少し多いかなという気がして、それを告げると
れいなは「しまった」という顔をして梨華を見た。
「これ見ながらやってたから…全然考えてなかった。」
れいなが指差したのは、空になったカレー粉の箱。
さっきは気付かなかったけど流しに散った玉葱や人参の切れ端。
れいなの指に巻かれた数枚の絆創膏。
「れいなちゃん、もしかして料理した事なかったの?」
コクっとれいなが首を振る。
「やらせてくれなかったから。ご飯炊くくらいしか…」
66 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:32
あぁ…と勝手に溜息とも呟きともとれない音が漏れる。
それは納得してはいけないような
それでも納得せざるを得ないような話。
れいなはそんな梨華の反応にまた軽く笑い
カチッと火を止めると
「梨華ちゃん、お皿。あとご飯は炊いてあるからテキトウに。」
と言って台所を出て行った。
そしてそのまま向かうのは自分の部屋。
「あれ、れいなちゃん食べないの?」
「あ、先食べてていいよ。」
そういうとれいなはバタンとドアを閉めてしまった。
部屋からは何の物音も聞こえてこない。
多少気にはなったけど、人のやっている事を盗み見するような
趣味は梨華にはなかった。
67 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:35
「中々上手く炊けてるじゃん。」
炊飯器の蓋を開けると水分をたっぷり含んだ湯気が立ち
梨華の顔が僅かに水気を帯びる。
しゃもじを水道の水でさっと濡らしてふっくらと炊き上がった
白米を軽く切るように混ぜ、典型的なカレーライスの形に
ご飯とルーを盛ってリビングのダイニングテーブルに運んだ。
れいなの分も善そおうかと思ったけれどれいながいつ戻ってくる
かも分からないし、元々小食の彼女の事だ。
また殆ど食べないまま席を立つだろう。
「いただきます」
小さな声でそう言って梨華はスプーンを持った。
そのカレーは多少ドロッとし過ぎで、カレー粉が多すぎたかなと
いう感じがしたのと野菜が硬い。
特に人参はまだ、ガリッという感触が残る。
でも、初めて作ったにしては上出来だ。
68 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 20:41
手元にあったリモコンをいじって適当なバラエティを観る。
大して面白くもないゲームで流行のアイドルグループの
女の子たちがキャーキャーと奇声を上げていて、梨華は何となく
不機嫌になった。
そのままパチパチとチャンネルを変えてみるも、面白い番組は
やっていない。
結局、再びテレビを消して梨華は食べる事に集中する。
「れいなちゃん、何してるんだろう…」
相変わらず物音は聞こえない。
最初は電話かと思っていたけど、そんな様子もない。
もっとも、れいなが電話する相手なんていないのだろうけど。
梨華は、これを食べ終わってもまだ来なかったら声をかけに
行こうと思い、スプーンの往復スピードを少しだけ早めた。
69 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 22:22
「…梨華ちゃん、学校?」
「うん…ごめんね。具合悪いのに…」
れいなは赤い顔で大丈夫だって、と答える。
その額には替えたばかりの濡れタオル。
「何か食べたかったら、ゼリーとか買って来てあるから好きなの
食べてね。あと、先生にはちゃんと連絡しておいたから。」
「…ありがと……時間、大丈夫?」
時計を見ると、もう今から行っても遅刻寸前の時間帯。
「あ、ちょっとヤバいかも…じゃあ、ちゃんと寝てるんだよ?」
「うん…行ってらっしゃい」
れいなの言葉に送られるように梨華は家を出て少し急ぎ足で
駅へ向かう。
まさか、熱を出していたなんて思わなかった。
70 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 22:24
昨日の夜。
梨華が夕飯を食べ終えても出て来なかったれいなが気がかりで
梨華は部屋のドアを軽くノックした。
「れいなちゃん?どうしたの?」
しかし返事がなく、ドアを開けた梨華の視界に飛び込んで
きたのは梨華に背を向けてベッドに寝転がるれいなの姿。
その手に握られているのはケータイ。
「どうしたの?」
「…アタマイタイ…」
今にも消え入りそうなれいなの声に驚いて額に手を当ててみると
じわっと熱気が伝わってきた。
「ちょっと、熱あるじゃない!何で言わなかったの?」
顔を真っ赤にして息をしているれいなに急いで布団をかけ
台所に走ってタオルを濡らす。
それから体温計を探して水を用意して…
突然の事に、梨華は十分近くサイレント映画のひとコマのような
慌しさで家中を走り回っていた。
71 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 22:30
「ごめん」
そんな梨華の様子を見ていたれいなは、静かに呟いて
そのまますうっと眠りに落ちてしまった。
それからはタオルを濡らしに行く以外はずっとれいなの
側にいた。真夜中、何か嫌な夢を見ているのか時折辛そうに
顔を歪めるれいなが可哀想で、梨華はその小さな手を包み込む
ようにそっと握った。

「転校して来て皆に囲まれてたから、きっと気疲れしたんだよ。
ゆっくり寝かせてやれ。」
朝、まだれいなが寝ている間に学校にれいなの欠席を伝えると
真里はそう言った後、ちゃんと熱が下がってから登校するように
と付け加えた。
本当は、今日はれいなを病院に連れて行こうかと思っていた。
でも、今日はどうしても外せない用事があって何が何でも大学に
行く必要があった。
それに一応、梨華の母親にはれいなが体調を崩して家にいる事は
伝えてあるから、多分大丈夫だろうと思っていた。
72 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 22:32
「あれ?」
ようやく改札にたどり着いた時、梨華は例の二人組の片方…
…背の高い方の姿を見つけた。
「今日は一人なんだ…」
彼女も遅刻なのだろうか。
しかし、そう思いかけた梨華の本能が「おかしい」と囁く。
二人で暮らしているのに、片方だけが遅刻?
「変だよね…」
それはただの偏見から来る思いかもしれない。
この間からあの二人の事をおかしいと感じているから。
だから、こんな些細な事でも異常に見えてしまうのか。
「まぁいいか…」
そんな事よりも自分の遅刻だ。
梨華は定期を改札に通し、小走りに階段を駆け上がる。
上り終わったところでちょうど電車発車を伝えるベルが鳴り
梨華はろくに息を整えないままそれに飛び乗った。
もう後は電車に任せるしかない。
どんなに自分の気持ちだけが急いだところで、電車は速く
進んではくれないのだから。
73 名前:side by side 投稿日:2005/01/18(火) 22:33
時間的なものもあってかラッシュを過ぎた車内はがらんと
していて、時間差通勤だろうサラリーマン数人と制服姿の
女子高生。そしてこれからショッピングにでも出かけるのか
綺麗に着飾った中年女性のグループしか乗っていなかった。
ドアに寄りかかるようにして立った梨華は、いつものように
文庫本を取り出してページを開く。
けれど、いざ読み始めようとした時、ふと誰かの視線を感じた。
「……」
本から顔を上げて辺りを見渡すも、誰一人として自分を見ている
ような人はいないし、もちろん知り合いもいない。
気のせいか、と思って本に視線を戻すも再び誰かの視線。
気味が悪くなった梨華は、本をしまって別の車両に移動する。
車両と車両の間のドアを開けるまで背中に感じたその視線は
隣の車両に移り後ろ手にドアを閉めたと同時に、消えた。
74 名前:名無し飼育 投稿日:2005/01/18(火) 22:39
更新終了です。

>>58 名無飼育さん様
ありがとうございます!
これからも頑張ります。

>>59 名無飼育さん様
ありがとうございます!
どうなるかは作者にも予想できませんw
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/18(火) 23:21
更新お疲れ様です。
なんだか気になる終わり方・・・
次も楽しみにしてます。
76 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/11(金) 00:29
初スレさせて頂きます。 全読みさせて頂きました。かなり面白いです、しかも気になるところで終わってる感じがまた「分かってるなぁ」と納得。 更新待ってます。
77 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/27(日) 12:52
更新いつまでも待ってますよー。
78 名前:名無し飼育 投稿日:2005/03/11(金) 21:08
どうも、作者です。
2ヶ月放置。スミマセン…これというのもちょっと体調を崩しまして。
まぁ風邪だろうと放っておいたものが重症化してしまい、しばらく
パソコンから遠ざかっていました。
そんなわけで、作者自身が話の流れを忘れかけている事もあり、3月中は
もくもくと執筆活動に励みたいと思います。
そして、4月の頭にまたどどーんとupを約束します。
それまでお待ちください。
では。
79 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/16(水) 15:47
生存報告ありがとうございます。 そうだったんですか。体を大事にして下さい。
では4月を楽しみに待っております。
80 名前:side by side 投稿日:2005/04/01(金) 14:34
ケホッ、ごほっごほっ…と辛そうな咳が聞こえる。
なつみはその背中をさすりながら
どうしたものかと思考を巡らせていた。
『風邪』
簡単に言ってしまえばそれだけの事なのだけれども
さゆみは保険だとかそういう類のものに加入していない。
保険証だって持っていないし、あまり認めたくはないけれど
それは、不法入国の外国人と大差ない。
つまりそんなさゆみを病院に連れて行く事はできない。
幸い、大した事はなさそうだけれど
それでもさゆみと出会ってから今まで病気などした事がなかった
から、正直どうしていいのかわからなかった。
81 名前:side by side 投稿日:2005/04/01(金) 14:35
「さゆみ、辛いよね。ごめんね…」
外に出た事がないからと油断していた。
本当は、二人とも大学を休んだ方が良かったのかもしれない。
けれど圭織がどうしても大学に行かなければならないと
言うことで、なつみがさゆみの看病をする事になった。
看病といっても特にやる事はない。
今、さゆみはなつみのベッドに寝ているのだけど
横になると咳が出る。でも起き上がると相当体力を使うようで
さゆみは咳が収まると
そのままぐったりとなつみに凭れ掛った。
82 名前:side by side 投稿日:2005/04/01(金) 14:36
「さゆ、何か食べたいものとかある?」
なつみはさゆみの熱い呼吸を感じながら尋ねる。
さゆみは少しだけなつみから身体を離し、何も言わずに
潤んだ瞳でなつみを見つめた。
「ん?」
…何か、訴えている。
そう思ったけれど、それが何かは伝わってこない。
「なぁに?」
「……」
なつみは、その些細な表情から言葉を読み取ろうと
じっとさゆみと視線を合わせる。
それと同時に、今までさゆみと暮らしてきた中で彼女が何を
好んでいたかを必死に思い出そうとした。
83 名前:side by side 投稿日:2005/04/01(金) 14:36
「あ……」
やがて、ふとなつみの頭に1つの食べ物が浮かぶ。
あれ、まだあったよね……
なつみは、さゆみに待っているように告げて
部屋を出ると台所に向かい冷蔵庫を開けてみた。
……牛乳、ジュース、卵…あれ……?
確かに昨日まで入っていたものが、ない。
もしやと思ってゴミ箱を覗くと
空になったそれが捨ててあるのが目に入り
「仕方ないなぁ……」
なつみはリビングの電話を手に取ると
同居人の携帯に電話をかけた。
84 名前:side by side 投稿日:2005/04/01(金) 14:37
なつみから電話がかかってきたのは、ちょうど用事が終わり
帰ろうかと思った頃だった。
「もしもしー?どうしたの?」
『圭織さぁ、食べたでしょ?プリン。』
呆れたようななつみの言葉に
圭織は昨夜の自分の行動を思い出す。
「あ、もしかして、さゆみ食べたがってた?」
『本人がそう言ったわけじゃないんだけどね。
あの子、前にプリンあげた時やけにおいしそうに食べてたなぁ
と思って。それに、喉越しいいから、食べられるかなって…』
「あーじゃあ今から帰るからさ、帰りに買って行くよ。」
よろしく、という言葉を残して電話は切れた。
圭織はそれをカバンに突っ込み
周りの友人達に会釈をして大学を後にした。
85 名前:作者 投稿日:2005/04/01(金) 14:41
どどーんと更新の前にちょっとだけ更新。
少量なのでsage。

>>名無飼育さん様
石川さんはしばらくお休みでw
そろそろメインシーンに入りたいのですがね…w

>>通りすがりの者様
初めまして☆
面白いといっていただけて光栄ですw
これからもよろしくお願いします。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/01(金) 16:25
更新きたー。
待ってました。大量更新期待sage
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/01(金) 22:05
ワクワク
88 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/03(日) 17:31
更新待ちわびておりました。 大量生産待ってます。
89 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 19:57
暇。
れいなはそう呟いて、枕元にあった雑誌に手を伸ばす。
薬のお陰か午前中で熱は下がってしまい、梨華が用意してくれていた
軽い昼食も食べ終わって現在午後2時。
先ほどまで、梨華の母親が来てくれていたのだけれど
とりあえず熱が下がったという事で、家に帰ってしまった。
熱が出ているときは起き上がることも苦痛だったのに
下がってしまうと逆に暇をもてあましてしまう。
けれどやはり身体はダルく、別途から手の届く範囲しか行動できない。
漫画も、雑誌も本も全て読みつくした。
こんな事になるなら、新しい漫画でも買って置けばよかったと思いながら
れいなは手に取ったばかりの雑誌をパラパラとめくり、床に投げ捨てた。
90 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 19:58
「……」
人間は、一人で静かな場所にいると過去を思い出したりする
と何かの本で読んだ事がある。
今のれいなの頭に浮かぶのは、実家にいる母親の事。
口ではどうでもいいというような事を言っていても
やはり自分の唯一の家族だ。
心のどこかでは気にしていたんだろう。
れいなは、父親の顔を知らない。
彼女が生まれるのを待たず、病気で亡くなってしまったから。
母親と兄と姉。
何の問題もない、普通の家庭だったと思う。
けれど、兄は小学校に上がる寸前に
交通事故で亡くなってしまった。
91 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 19:58
その頃から。
夫に続き、大切な息子まで失くした母親は少しおかしくなった。
姉に兄が背負うはずだったランドセルを背負わせ
彼女が6年生になり、ランドセルではなく
普通のショルダーバックで登校を始めた頃に
それはれいなの物となった。
当たり前のようにそのランドセルを渡された瞬間、れいなは
何故、と思った。
まだ姉にそのランドセルを渡すのは分かる。
けれど何で自分にまでそのランドセルを使わせるのか。
それが不思議でしょうがなかった。
92 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:00
周りの子がみんなぴかぴかで
傷一つないランドセルを誇らしげに背負っている中
れいなだけは使い古した、しかも
黒いランドセル。
色は剥げ、形は歪になり
蓋を開ければ姉の『美貴』という名前の入ったランドセル。
そんなランドセルを持っていて
注目されない方がおかしかったのかもしれない。
『変人』
そんなレッテルを貼られるのも、そう遅くはなかった。
美貴は一年生の頃いつも友達に言っていた。
『自分で、黒選んだんだ。何かかっこよくない?』
けれど、それはランドセルがぴかぴかだったから言える事。
93 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:02
まだ、ランドセルの損傷が少なければ
『お姉ちゃんのお下がり』で済まされただろう。
しかしそれはどう見ても『買い換えた方がいい』
という所まで来ていた。
そんな『かっこよくない?』という話では済まされなかった。
『田中の家は超貧乏』
そんな事を言われるのも、日常茶飯事だった。

「妹イジメるやつは、美貴が許さない」
美貴はよくそう言って、一年生の廊下までやってきた。
一年生から見れば、六年生はえらく『お姉さん』に見える。
加えて、美貴のその鋭い視線にクラスメイトは怯んでしまい
れいなは美貴がいる近くでは何も言われずにすんだ。
94 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:05
それも、美貴が卒業してからは
言いたい放題と化してしまったけれど。
そしてその年の秋。
放課後になったからと言って遊ぶ相手のいないれいなは
クラスメイト達が楽しそうに待ち合わせ場所などを決めている中
一人足早に家路に着いた。
―――…?
もう少しで家、という時だった。
反対側から走ってくる母親の姿が見えた。
「あ、おか……」
「れいなっ」
母親は、れいなの姿を見るといきなりれいなの腕を引っ張り
大通りまで歩くとタクシーを止める。
95 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:06
早口に行き先を告げ、そのまま崩れるように泣き始めた母親。
「え、ちょっとお母さん?」
理由が分からず、れいなはただおろおろするばかり。
タクシーの運転手も何事かと言うようにミラー越しに母親の
様子を窺っていた。
やがて着いた場所は病院。
入り口に医者と看護婦、そしてスーツを着た人がいて
母親の姿を見つけると頭を下げた。
―――どうしたんだろう…?
未だに事情が分からず、その上母親に離れているように
言われたれいなは、仕方なく待合室のソファに座り
足をぶらぶらさせていた。
「れいなちゃん!」
聞き覚えのある声。
入り口の方を見ると
そこにいたのはれいなのイトコにあたる梨華とおばさん。
96 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:07
「れいなちゃん、お母さんは?」
おばさんに尋ねられ、れいなは母親の方を指差す。
そこには泣き崩れた母親と、それを見つめる看護婦の姿。
おばさんは何も言わず、れいなから離れ母親の方へ向かう。
それと入れ違いにれいなの前にやってきたのは梨華。
「……れいなちゃん、美貴ちゃんにはもう会ったの?」
「お姉ちゃん?」
―――お姉ちゃんが、どうかしたの?
れいなの不思議そうな表情に
梨華はまだれいなが美貴の事を聞かされていない事を察し
れいなの隣に腰を下ろすとれいなのその小さな身体を
抱きしめながら言った。
「れいなちゃん、よく聞いてね……」

「美貴ちゃん、死んじゃったんだよ……」
97 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:08
それからしばらくの事は、正直よく覚えていない。
美貴の遺体を前にして、れいなはただ呆然とするしかなかった。
そして、母親はその日以来、れいなが側にいないと
不安になるらしく学校も登下校は付き添い
遠足や社会科見学、修学旅行も欠席させるという事態。
何度もおばさんや親戚達が家を訪れ母親を説得しようと
したけれど、母親は頑としてそれを聞かず
れいなはそれが『普通』なんだと思い込むようになった。
次第に学年が上がるにつれ
れいなの事を表立ってとやかく言うクラスメイトは
いなくなった。しかしそれでもやはり
陰ではコソコソ噂される日々が続いていた。
いつしかそれは学校中に広まり、担任を始めとする教師達も
れいなに何か異質なものを見る視線を向け
腫れ物を触るような態度を取った。
98 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:10
中学に入っても、それは変わることなく続いた。
しかも中学では小学校ではなかった『先輩後輩』という
上下関係も出てくる。
何を言われても涼しげな表情で流すれいなが
気に入らなかったんだろう。
何度とも先輩たちに呼び出され、クラスでは相変わらず一人。
そして教師達も小学校と同じような感じでれいなを扱った。
そんな中で唯一、れいなには『友達』と呼べる相手がいた。
学年で考えれば先輩にあたる彼女は
小学校のときからの知り合い。
彼女との出会いは、放課後の帰り道だった。
その日、何故か母親は学校に姿を見せず、れいなは
一人で帰ろうと通学路を歩いていた。
その時に道の端に蹲って泣いていたのがその少女だった。
99 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:12
れいなが小学校の頃からの『ハブられ者』なのであれば
彼女は小学校の頃からの『いじめられっこ』だった。
どちらも似たようなものなのだが、れいなの場合
クラスメイト達はれいなの事を「避けて」いた。
確かに悪口らしきものは言われていたけれど。
しかし彼女はと言えば、悪口や物を隠されるのはいつもの事。
そして時には暴力までふるわれるという
典型的なイジメに遭っていた。
れいなは彼女に、自分の家の事情を話してあった。
気持ち悪がられるかとも思ったけれど
彼女は全てを聞き終わったあとただ一言「そっか」と言い
れいなから離れていくような事はなかった。

「私もね、その方がいいと思うんだ。れいなのためにも」

れいなが、イトコの家に行く、と告げたとき
彼女は少しだけ寂しそうな表情をしたあと
にっこり微笑んでそう言った。
100 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:12
「絵里………」
彼女は今、どうしているのだろう。
実家を離れてから、まだそんなに日は経っていない。
唯一の、友達。
彼女の事を考えると、れいなの胸にこみ上げてくるのは寂しさ。
実家を離れるのは何とも思わなかった。
学校も、転校したところで何も未練はない。
―――でも、絵里の事だけは…
唯一、れいなが笑顔を見せる事ができる人。
―――絵里に、会いたい……
そこまで考えて、れいなはふと自分の頬に流れていた
物に気付き、慌ててそれを拭う。
そして、絵里の事を追い出すように頭を振り
がばっと掛け布団を持ち上げ
その中に潜った。
101 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:13








102 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:13
「ただいまぁ、買ってきたよ。プリン。」
圭織は靴を脱ぎながらそう言ってなつみの部屋に入る。
首だけ振り返ったなつみは人差し指を唇に当て
しぃーっと言うと
「ありがと。今、さゆみ寝てるんだ。」
「具合、どう?」
「んー…咳は朝より大分収まったんだけど…
今度、熱出しちゃって…」
「高いの?」
「ちょっと前に測ったときは38度ジャストだった。」
圭織は「そっか」と呟き、なつみの肩越しにさゆみを覗く。
赤い顔で眠っているさゆみの顔は少し辛そうで。
圭織はさゆみの肩が上下するのを見つめながら
「ちょっと、薬局で薬見てくるよ。」
と告げて部屋を後にした。
103 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:15
とは言ったものの、薬なんて何を買っていけばいいのか
まったく分からない。
あれこれ悩んでいると
ふと、視界の端に一人の少女の姿が入った。
―――何でこんな所にいるわけ?
今朝、自分は遅刻寸前でいつもと違う電車に乗ったというのに
何故か同じ時間に駅にいた少女。
電車の中で思わずじっと見つめていたら、視線を感じたらしく
車両を変えてしまったその少女。
その彼女が、少し離れたところで薬を見ている。
圭織は、朝と同じようにしばらく彼女から視線を離せずにいた。
すると彼女は顔を上げ周りを見渡すような動作をする。
一瞬、気付かれたかとも思ったけど
彼女は近くにいた店員を呼んで何かを尋ね始めた。
104 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:15
―――気のせいか
最近、どうしても彼女の事が気になってしまう。
それは彼女がさゆみの事を知っているのではないかという不安。
朝も、電車で彼女に見つめられたり
大学でも時折、彼女からの視線を感じる。
彼女がさゆみの事を見たとしたら、あの日
さゆみを今の家に連れて来た時。
その日から一度もさゆみは外に出ていない。
もし、それを不審がっているのだとしたら?
何かある、と感付いているとしたら?
一度考えると、悪い事ばかり思いつく。
圭織はそれを無理矢理振り切るように
近くにあった風邪薬を適当に掴み、急いでレジへ持って行き
素早く会計を済ませると逃げるように店を出た。
―――なっちにも、相談した方がいいかもしれない…
105 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:15




106 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:17
「良かった。食べられたね。」
なつみは空になったその容器を受け取り、さゆみの頭を撫でる。
さゆみは熱のせいでぼんやりした表情でなつみを見つめていた。
「圭織、帰ってくるの遅いねぇ…どこまで行ったんだろう…」
圭織が出て行ってもう一時間以上が経つ。
なつみはそんな同居人を心配しつつ
さゆみの方へ苦笑いを向け
「まったく、困ったちゃんだよねぇ」
おどけた表情で言ってみた。
でも、そんな自分が恥ずかしくなって思わず噴出す。
その時だった。
さゆみが、少しだけ唇の端を吊り上げ目を細める。

―――笑った……?
107 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:17
それは、どうみても笑ったとしか思えない表情で。
なつみは驚きを隠せず、目を丸くしてさゆみを見た。
そんななつみが面白かったのか、もう一度
さゆみが同じ表情をする。
「さゆ、今笑ったねぇ。にこって笑ったねぇ」
なつみはこみ上げてくる嬉しさを抑えるように
何度も何度もさゆみの頭を撫でては
笑ったねぇ、と繰り返した。
笑顔のさゆみを見たのは何年ぶりだろう。
―――圭織が帰ってきたら話してあげよう。
なつみは喜ぶ同居人の姿を思い浮かべながら
しばらくの間、さゆみの頭を撫で続けていた。
108 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:18




109 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:18
「ただいま」
梨華が帰った時、家の中は異様な静けさに包まれていた。
「れいなちゃん?」
呼んでみるも、返事はない。
心配になって、れいなの部屋のドアをノックしてノブをひねる。
部屋に入り、れいなのベッドの側に近寄ると
れいなはすやすやと眠っていた。
「なんだ、寝てたんだ。」
れいなを起こさないように注意しながられいなの額に
手を当てる。熱は大分下がっているようだ。
「……」
ふと、梨華はれいなの頬についた涙の跡に気がついた。
―――泣いてたの?
110 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:19
理由は分からない。
れいなの涙を見たのが、ひどく懐かしく感じる。
美貴の葬儀のときも、れいなは一切涙を見せずにずっと
母親の側にいた。
じゃあ、最後にれいなが泣いたのはいつだろう…
多分それは、れいながまだ幼稚園の頃。
当時、れいなはよく美貴と梨華にくっ付いて遊んでいた。
その時美貴がジャングルジムに登ろう、と言い出したのだ。
しかしれいなはそれを嫌がった。
その頃のれいなは高いところが苦手で
特にジャングルジムといういつ落ちてもおかしくないそれが
大嫌いだった。
111 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:20
「あれ、れいな登らないのぉ?」
美貴にしたら少し意地悪をするつもりだったに違いない。
「じゃあ、美貴と梨華ちゃんだけで遊んじゃぉっと」
けれど、れいなは相当悔しかったんだろう。
下から美貴と梨華を睨みつけジャングルジムに手をかける。
「……」
しかし、そこから先が進まない。
心配そうにれいなを見下ろす梨華と
意地悪そうな視線を向け、しかしどこか見守るように
れいなを見る美貴。
しばらくして下からふえーんという声が聞こえて。
それと同時に、それまで隣にいた美貴が手を離して
下に飛び降りた。
112 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:21
「…くっ…みきねぇのバカぁ……意地悪ぅ…」
「ごめんってば、もう泣くな。ねっ?」
美貴はポケットからハンカチを取り出してれいなに渡す。
そして梨華の方を見上げ『おやつ食べに行こー』
と言ってれいなの頭をくしゃっと撫で
「ほら、れいなも一緒にね?」
その言葉に、にっこり笑って頷くれいな。
美貴はそれを見ると安心したように笑い返し
降りてきた梨華とれいなの手を取って
家までの道を歩いて行った。
113 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:22
―――美貴ちゃん、れいなちゃん大好きだったよね。
もちろんれいなちゃんも…
姉妹のいない梨華にとって、美貴とれいなの関係は
羨ましい限りだった。
しかし、周りの友達の姉や妹との関係を聞くと
あの二人の関係は特別だったんじゃないかと思えてくる。
だから、美貴が亡くなったという話を自分の母親から聞いた時
梨華は真っ先にれいなの事を心配した。
あれだけおねえちゃんっ子だったれいなが
美貴がいなくなってどうしているか。
でも、病院に駆けつけたとき
れいなはまだ美貴の死を知らなかった。
それに狼狽しつつ、梨華はれいなを抱きしめながら
美貴の死を告げる。
最初、れいなは何を言われたのか理解できなかったらしい。
え……と呟いてから、ちらりと母親の方に目をやった。
114 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:23
霊安室に入り、れいなはようやく事の次第が飲み込めたのだろう。
しかし、れいなが涙を流す前に
れいなの母親が美貴の遺体にすがり付いて
泣き喚き、れいなは驚いたようにそれを見つめていた。
幼いながらに自分がしっかりしなくてはと思ったんだろう。
葬儀の最中もずっと、母親の側を離れなかった。
それからのれいなの母親の異常なまでの行動は
親戚の間でも問題になった。
何回か、れいなを預かろうという話になったのだけれど
今の母親かられいなを離したら、一体どうなってしまうのか。
そういう事もあって梨華を含め皆
れいなと母親をただ見守る事しかできなかった。
しかし、れいなが中学生になってしばらく経った頃。
れいな本人の口から『梨華ちゃんの所に行きたい』という
言葉が出た。
115 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:24
きっと、一番中の良かったイトコでもあり、なおかつ
一人暮らしである梨華の家なら色々と都合がいいと
思ったのだろう。
梨華の母親も親戚達も、誰も反対しなかった。
しかし、れいなの母親はそれを認めようとはせず。
結局れいなは半ば家出をするような形で家を出てきた。
きっと今も梨華の母親はれいなの家に行き母親を説得している。
れいなが家に来てまだ日は浅いけれど、れいなは実家にいた時
よりも、遥に楽しそうに生活していると
梨華は思う。

ぐっすり眠るれいなの頭を優しく撫で梨華は小さく
「オヤスミ」と呟くと
静かに部屋を後にした。
116 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:24




117 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:26
―――夢だ。
れいながそう分かるまで、大した時間はかからなかった。
そこはに見慣れた、でも今は見る事のない光景が広がっていて。
俯き加減に椅子に座るれいなと
それを囲むクラスメイトは大分幼い。
小さな自分を客観的に見る、というのは
れいなにとって、かなり奇妙な感覚だった。
「おまえんちヘン。」
何の前触れもなく、れいなを囲むクラスメイトから
発せられた言葉。
しかし、れいなは動じることなくじっと机を睨みつけている。
その光景を眺めているれいなも、もちろん何の反応も示さない。
「おまえのかーちゃん、ビョーキなんだろ?」
冷やかすように言う、別のクラスメイト。
「お前も、あのかーちゃんみたいにおかしくなんのか?」
118 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:26
れいなの前の席に座っていた一人が、自分の指を
頭の隣に持っていき「くるくるぱー」という仕草を見せた。
クラスに、爆笑の渦が生まれる。
れいなはそれを淡々とした表情で眺めていたけれど
ふと、小さな自分の様子がおかしい事に気が付いた。
「泣いてる……?」
実際、今のようなことを言われた事は何度もあった。
その度にれいなはそれを軽く受け流していたはずだ。
それが、今、目の前にいるれいなは唇をギュッと結び
溢れてくるものを必死で耐えようとしているように見える。
その小さな肩は震え、それを見たクラスメイトたちの笑い声は
ますます大きくなる。
119 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:27
そして、とうとう耐え切れなくなったのか、彼女の頬を一筋の
涙が通った時、れいなは気付いた。

―――これは……
もう一人の『れいな』なんだ……

クラスメイトの言葉に素直に傷つき
涙を流す事のできる、もう一人の『自分』
その涙が、母親がバカにされた事の悔しさからきたのか
単に自分の事を言われてショックを受けたところから来たのかは
分からないけれど、とにかく目の前にいる自分は
『誰かのために泣ける人間』だった。
120 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:27
どっちが本当の自分か、なんて事は考えなかった。
れいなには分かっていた。
『どっちもれいなで、れいなじゃない』
少なくとも、今のれいなには家族の事を言われたくらいで
悔しいとか悲しいとか
そういった感情は一切起こらない。
「普通」じゃないのが「当たり前」
そう、思っていたから。
それは、諦めに近いものも少しはあったのかもしれない。
れいなは、未だに泣き続けている自分を見つめながら
「弱虫……」
小さく、そう呟いた。
121 名前:side by side 投稿日:2005/04/04(月) 20:29





122 名前:作者 投稿日:2005/04/04(月) 20:32
ミスった……
上のレスは気にしないでください…

>>名無飼育さん様
待ってていただけて光栄です。
これからも、よろしくお願いします。

>>名無飼育さん様
ワクワクですか?w
これからも、よろしくお願いします。

>>通りすがりの者様
待っていましたと言う言葉が、一番励みになります。
これからも、よろしくお願いします。
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/05(火) 14:06
大量更新乙です。
124 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/06(水) 04:04
大量更新お疲れさまです。田中ちゃんにはそんな事があったんですね。 かなりキツイです(;-_-+ 亀井さんとは一体何処で知り合ったんでしょう? 次回更新待ってます。
125 名前:名無し飼育、改め、夏風 投稿日:2005/08/04(木) 21:57
こんばんは。
そして、お久しぶりです。
前回更新したのが4ヶ月前…月日が経つのは早いです。
さて、作者から皆さんにお知らせがあります。
この『side by side 』正直に申しますと、少々息詰まっております。
ラストのシーンはできているのに、間の部分がどうしても納得できない
ストーリーになってしまうのです。

そこで、この話は、しばらく休載しようと思います。
自分の中で納得できる作品になるまで、このスレには別の話を載せるという
形を取りたいと思っています。
読者の皆さま。本当に、申し訳ありません。
もしよければ新しい話の方も、よろしくお願いします。
126 名前:夏風 投稿日:2005/08/05(金) 22:43
始めに、田中さんと藤本さんのお話です。
他にも何人か出てきますけど……
軽くエロあり。
そんなに長くならないと思います。
127 名前:夏風 投稿日:2005/08/05(金) 22:44





128 名前:夏風 投稿日:2005/08/05(金) 22:45


Nothingness

129 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:45





130 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:46


「バイバイ、みきたん」


131 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:46
突然携帯に入ってきた、たった一行のメール。

朝から雪がちらついていた、寒い日だったと思う。
美貴は、友達と大学の合格祝いに、遊びに出かけていて。
理由は、知らない。
前兆らしきものも何もなかったから
ただ「どうして…」と思う事しかできなかった。

あれから三年。

美貴は今も
亜弥ちゃんの事を忘れられないまま、生きている――――

132 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:47
カーテンの隙間から差し込む光で、目が覚める。
一人で使うには大きすぎる、ダブルベッドの右隅。
もっと広々と真ん中を使えばいいのだろうけれど
それは習性というか何と言うか。
ここが、美貴の定位置なのだ。
ぼんやりとした頭のまま、右手を横に探ってしまうのも、習性。
亜弥ちゃんはいないって、分かっているのに。
のろのろと身体を起こして、軽く頭を振る。
その動作によって一瞬だけクラリとした頭が
だんだんと、クリアになっていく。
タンスの上に置かれた時計に目をやる。七時ジャスト。
133 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:48
―――もう、起きないと。
それは分かっているのに、身体が言う事を聞かない。
一歩部屋を出れば、そこには“二人分”の世界が広がっている。
この、寝るためだけに用意された狭い部屋でさえ
亜弥ちゃんの面影を追ってしまうというのに
今の美貴に『その』世界は耐えられない。
けれど、少なくとも数分後には、友人がやって来る。
亜弥ちゃんがいなくなってからの美貴を見かねて
毎日、家に来てくれる、幼馴染。
134 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:49
彼女は毎朝、美貴の所にやって来ては朝食を作り
家事全般をこなしてくれる。
美貴はそんな彼女に申し訳ないと思いつつも
家の中を走り回る彼女を見つめながらゆっくりと朝食を摂る。
味わっているのではない。
ただ、頭の中がぼんやりとして、気が付くと
かなりの時間が経っている、それだけの事。
味覚なんて、大分前に失くした。
今の美貴に残っている感覚は、家のあちこちに残っている
亜弥ちゃんを感じる感覚だけ。
それも最近では“亜弥ちゃん”ではなく
“亜弥ちゃんとの思い出”しか感じられなくなって
しまっているのだけれど。
135 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:50
「おはよう、美貴ちゃん。」
「あ…おはよう……」
いつの間に入ってきたのか、梨華ちゃんはいつもと同じ
笑みを浮べて、ドアから顔を覗かせていた。
その手には、いつ渡したのか分からない、合鍵。
「おはよう」
―――違う。
美貴が一番最初に「おはよう」を言いたいのは亜弥ちゃんで。
でも、その彼女は、今、どこで何をしているのか分からない。
「朝ごはん作ったからさ、食べてね?」
「うん」
そう返事はしたものの、すぐに動く事はできず。
梨華ちゃんもそれを分かっているから
他には何も言わずにドアを閉めた。
136 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:50
再び一人になった部屋。
ドア越しに、彼女が廊下をパタパタと走るスリッパの音が
微かに聞こえてくる。
「………」
いつもこうだった、とその音にぼんやりと耳を傾けながら思う。
『ほら!起きて、みきたん。遅刻するよ?』
亜弥ちゃんは、羨ましくなるぐらいに朝が強くて。
それとは正反対の私は、いつも亜弥ちゃんが廊下を走る音を
布団に潜りながら聞いていた。
137 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:51
―――思い出…
―――また、思い出…

この家にいて、亜弥ちゃんに関する事が
全て思い出になりつつある。
「いつもこうだった」
「あの時はこうだった」
全て………過去形。

「美貴ちゃん」
もう一度顔を覗かせた梨華ちゃんに
ベッドサイドの時計を見ると、さっきから
悠に三十分は経過していた。
138 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:52
「私、学校行くけど……」
「………うん」
上の空のまま、そう返事を返すと、梨華ちゃんは
「じゃあ…」と言って、部屋のドアを閉めた。
ドアが完全に閉まるまで、梨華ちゃんの心配そうな表情から
目が離せなかったのは、その顔が亜弥ちゃんに似ていたから。
似ているというより、重ねてしまったんだと思う。
『じゃあみきたん、遅刻しないようにね?』
いつも、美貴より先に家を出る亜弥ちゃんが
今にも二度寝を始めそうな美貴に声をかけていたときの表情に。
139 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:53
結局、のろのろと食卓に着いたのは、それから大分経ってから。
梨華ちゃんの気使いなのか、それとも、たまたまなのかは
分からないけど、朝食はいつもサラダとパンで
サラダはラップをして冷蔵庫に入っていた。
亜弥ちゃんは正反対で、毎日が和食の朝食だった。
幸い、パンはまだ焼いていなかったから、それをそのまま
袋に戻して、美貴はサラダだけを、ゆっくりつまんだ。
「……――――」
梨華ちゃんがつけたのか、美貴自身がつけたのか
よく分からないテレビをぼんやり眺め
美貴は今日の事を考えた。
140 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:53
亜弥ちゃんがいなくなってからの美貴の毎日は
毎日が消費する日々。
一日が終わるとほっとして、朝日を見ると残酷な気分になる。
「………」
小さく切ったトマトを口に入れたとき、机の端っこに
小さなメモ用紙を見つけた。
その見慣れた筆跡は、梨華ちゃんのもの。

『美貴ちゃんへ
少しは外に出た方がいいよ?ずっと家の中にいるより…ね?』
141 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/05(金) 22:54
三日に一度。毎回同じ内容の、そのメモ。
そして美貴は、その日に限って、何となく
外へ出る事にしている。
適当にそれなりの身支度をして、机の上においてあ
る鍵を取る。
「行ってくる」
返事がないと分かっているし、それが、美貴に余計な虚しさを覚えさせる事も
よく分かっている。だけど、これも、習性。習慣。
三年経った今でも、美貴はどうしても口に出してしまう。
『行ってらっしゃい、たん』
あの笑顔が、部屋の奥から出てくる。

―――そんな、ありえない事を期待して。

142 名前:夏風 投稿日:2005/08/05(金) 22:55
ご意見、感想などありましたら、どうぞ。
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 03:02
side by side  待ってます
144 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/06(土) 08:23
更新お疲れさまです。 今度の作品も期待十分です。 前作品もいつまでも待たせていただきますので、今はこちらに専念してください。 次回更新待ってます。
145 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:42
外に出たからといって、特に何をするわけでもない。
目的もなく、モノクロの世界を歩き回るだけ。
でも、視界の端ではいつも亜弥ちゃんを探してしまう。
そんな自分に嫌気が差して
十分かそこらで家に戻ってしまうのも、いつもの事。
今日もやはり、何となく外に居辛くなって
帰ろう、と家の方に足を向けたときだった。
「……」
美貴の視線の先には、崩れるようにベンチに寄りかかっている少女の姿。
146 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:43
腰掛けているのではない。
あくまでも座っているのは地面で
背中をベンチの足にもたれかけている。
特に意味もなく近寄って、分かった。
少女の側に転がっているのはお酒の缶とタバコの吸殻。
それも、半端な数じゃない。
「……」
ぼんやりと美貴を見上げたその瞳に
美貴は思わず声を上げそうになった。
147 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:43

――――似てる。

誰に?
他でもない。
美貴、自身に。
148 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:45
虚ろな、何も映っていない瞳。
まるで生気が抜けてしまったかのような、そんな表情。
「……大丈夫?」
気がついたら、そう声をかけて、彼女を立ち上がらせていた。
亜弥ちゃん以外の誰かを気にかけたのなんて
凄く久しぶりな気がする。
「似てる……」
一瞬、その少女の言葉に反応できなかった。
「…………え?」
すると、少女はもう一度、小さく「似てる」と呟いた。
「あなたが、れなに…違う、れなが、あなたに」

似ている、じゃない。同じだ。

少女を見つめ、何となく、そう思った―――――
149 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:46
少女の名前は、れいな、というらしい。
「………アタマイタイ…」
一通り自分の状況を話した後
指でこめかみを押さえながら呟く彼女。
多分、二日酔いだろう。
どこにでもいそうな、普通の学生。
何でこんな、とは聞かなかった。
「美貴の家、来る?水か何か飲んだ方がいいよ」
思わずそう言ってしまったのは、感じたから。

『この子もきっと、何か大切なものを失くしてしまった』

そんな風に、思ったから。
150 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:49



151 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:49
「そこ、座ってて」
「………」
この時間のこの部屋に、美貴以外の誰かがいるなんて珍しい。
こうやって誰かのために動き、喋っている美貴も、そう。
「はい」
差し出したコップを受け取り、少しだけ口に付けたれいな。
そしてそれを机に置くと「……すいません」と小さく言った。
「いいよ、別に」
この子に、何があったというのだろう。
152 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:50
彼女は、何か話しそうな雰囲気ではなかったし、かといって
「帰ります」と言いそうな感じでもない。
それに、美貴自身、彼女には、帰って欲しくないと思っていた。
彼女がいなくなれば、また、一人になる。
それが嫌で、もう少し、彼女と一緒にいたかった。

会話も特にないまま、ただ、時間だけが過ぎていった―――
153 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:51
「美貴ちゃん……あれ?」
がちゃり、と鍵の開く音に、数時間ぶりの声。
梨華ちゃんは美貴とれいなを交互に見て
驚いたような声を出した。
「えっと……美貴ちゃんの、知り合い?」
「あ、いえ……そういうわけじゃ………」
口篭るれいなに、どう説明すればいいのか分からない美貴。
梨華ちゃんは、そんな美貴たちをしばらく見つめた後
何かを悟ったのだろうか。
話題を変えるようににっこりと笑い
「もう、遅いからさ。ここで夕飯食べていく?」
154 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:52
「え……」
一瞬、戸惑ったように美貴を見る彼女。
頷いてみせると「あ、じゃあ……はい…」と小さく言った。

梨華ちゃんは、気を利かせてくれたのか
「私、今日は家で食べるから」と夕飯を作ると、帰って行った。
れいなは、どこか申し訳なさそうな顔で
美貴をチラチラと見ている。
どうやら、美貴と梨華ちゃんの関係を勘違いをしている
ように思えて「幼馴染だよ、ただの」と言ってあげると
ほんの少しだけ顔を赤らめて
そっと、美貴から視線を外して俯いた。
その姿が、美貴が意地悪をした時の亜弥ちゃんに
重なって見えて、思わず、笑みが零れた。
155 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:54
結局、れいなは、そのまま美貴の家に泊まっていく事になった。
時間が遅かったというのもあるし、れいなの家が
一度、駅まで行かないと帰れない位置にある事が分かり
どうせなら、明日帰ればいいという事になったのだ。
一応、彼女の家に電話をかけ
美貴の事は学校の先輩という事にしておいた。
れいなが今夜は家に泊まるという旨を伝えたとき
電話の向こうの母親は少し驚いたようで。
何度も『よろしくお願いします』を繰り返していた。
156 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:55
「お風呂、先に入ってきなよ」
「え、でも………」
「別にいいって。美貴、後の方がいいからさ」
じゃあ……とお風呂場に向かうれいなに
バスタオル等を出してあげてから美貴は
リビングのソファにゆっくり沈み込むように座った。
疲れとは違う、何か別の重たさを含んだ美貴の身体。
何といえば言いのだろう。
いつもフワフワと浮いている美貴だけど
今日はしっかり地面に足をつけている―――そんな感じ。
157 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:56
れいながいるからだろうか。
部屋の中がいつもより明るく見えて。
それはまるで、亜弥ちゃんがいた頃のようだった。
「………あの…」
いつの間にいたのだろう。
美貴の出したジャージを着て
どこか居心地悪そうに立っているれいな。
美貴は彼女に自分の隣に座るようにと、ソファを軽く叩いた。
「ほら、ちゃんと拭かないと……」
座ったれいなの肩に掛かっていたバスタオルを頭に載せて
わしゃわしゃと髪を拭く。
158 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:57
驚いたように振り返ったれいなだけど、すぐに前に向き直ると
そのまま大人しく、なすがままにされていた。
「お茶かなんか、飲む?」
髪の水分がある程度飛んだところで
美貴はれいなにそう尋ねながら台所へ入った。
ガラスのコップを二つ取り出して並べる。
形も、大きさも全然違う、それ。
本当はそれぞれペアがあって、お揃いで使うものなのだけれど
亜弥ちゃんがいない今、美貴は例え梨華ちゃんが相手でも
それらのグラスをペアで使うことはなかった。
159 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:57
「…あ…………」
お茶を注ぎ、彼女の前にそれを置くと、れいなは
はっとしたような表情で、そのグラスを見つめた。
「どうしたの?」
「あ……いえ…同じグラス、前に持っていたので、つい………」
そう言ったれいなの顔は、気のせいじゃない。
どこか、青白くて。
何か、触れてはいけない一線に触ってしまったようだった。
「……グラス、変える?」
そう言うと、れいなは慌てたように首を振り
「大丈夫です、すいません……」と言った。
160 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:57
長い時間をかけて。
二人でちびちびとグラスの中身を減らしていく。
その間に、れいなも、美貴も。
あえて何も言う事はしなかった。
二人でいるのに、一人のような。
そんな、変な感覚。
カラン、と入れた氷が崩れ、涼しげな音を立てる。
それを合図にして、美貴は口を開いた。
「…もう、寝ようか」
「あ、はい……」
161 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:59
二人で立ち上がり、寝室へ向かう。
この家に、寝室は一つしかない。
美貴と亜弥ちゃんは、いつも一緒だったから。
「ここで寝なよ、美貴、リビング行くから」
そう言うと、明らかに困ったようなれいなの顔。
「でも…」と視線を宙に彷徨わせ、言葉を探している。
きっと、気が引けているんだろう。
見ず知らずの人に拾われた上、泊めてもらおうというのだから。
162 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 19:59
「じゃあさ…」
れいなの、その困り顔に視線を向けながら
美貴は一つの提案をした。
「一緒に寝る?」
「え…?」
途端に思案顔になるれいな。
―――なんか、余計に困らせちゃったかな。
そう思って「ごめん、今のなし」と
訂正を入れようとしたときだった。
「じゃあ、一緒に……」
「ん?」
163 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 20:00
逆に、美貴が驚いてしまった。
まさか、了解されるなんて思わなかったから。
「あ、いや…誰かと一緒に寝るのって久しぶりなんで
たまにはいいかなぁって…」
「ホントにいいの?美貴がどこの誰かも分からないのに」
何するか分からないよ、と付け加えると、れいなは少し微笑み
「大丈夫ですよ」と小さく言った。
左端にれいな、右端に美貴。
「真ん中、来ればいいのに」
「この位置が慣れてるんで……」
164 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 20:00
照明を落とし、れいなの背中に「おやすみ」と声をかける。
「おやすみなさい」と返事が返ってきたのを確認して
美貴は、目を閉じた。
目を閉じた所で、別にすぐに眠れるわけでもない。
亜弥ちゃんがいた頃は、亜弥ちゃんがすぐ側にいると思うだけで
安心できて、すぐに寝付くことができた。
けれど今は。
目を閉じるたびに、背中が寒く感じられて。
毎晩、昼間以上に寂しさが募った。
165 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 20:01
「………」
不意に耳に入ってきた声。
一瞬、聞き間違いかと思った。
「………り…」
「れいな……?」
聞き間違いじゃない。
はっきりとれいなの方から聞こえてくる声。
首だけ動かして見ると、そこではれいなが
その華奢な肩を震わせながら、小さく丸まっていた。
「れいな?どうしたの?」
もぞもぞと布団の中を移動しながら、れいなのすぐ隣まで行く。
上半身を起こしてれいなの顔を覗き込むんだけれど
暗くてよく見えなかった。
166 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 20:01
「………れいな」
ただ、暗い中でも、ひとつだけ分かった事。
れいなは……
「………え…り…」
泣いていた。
理由は分からない。れいなの頬を伝う雫は、微かな照明に
照らされて、ほのかな輝きを発していた。
「え…り…」
何度も呟くその単語は、誰かの名前なんだろう。
167 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 20:02
自分と、この子は似ている。
昼間、公園で思った事は
きっと間違いじゃなかったんだと思った。
もし本当に、美貴の考えている通りなら。
美貴がれいなにできる事は何もない。
それでも、小さく丸まるれいなが、いつかの自分と重なって
美貴は彼女の背中に手を伸ばすと
ゆっくりと、上下にさすった。
いつだったか、梨華ちゃんが、美貴にやってくれたように。
168 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/06(土) 20:02
どれくらい経ったのか、分からない。
気が付くと、れいなの肩は規則正しく動いていて
静かな寝息を立てていた。
無意識的に動かしていた手をどかして、美貴は元の位置に戻る。
まだ、れいなの温もりが残るその掌を、ぎゅっと握ってみた。
そのままそっと目を閉じる。
掌から広がる温かさを感じながら。
何となく、今夜はよく眠れそうだ、と思った。
169 名前:夏風 投稿日:2005/08/06(土) 20:05
>>名無飼育さん様
話がまとまり次第、すぐに再開します。
もうしばらくお待ちください。

>>通りすがりの者様
そう言っていただけると光栄です。
これからも、よろしくお願いします。
170 名前:夏風 投稿日:2005/08/06(土) 20:05




171 名前:夏風 投稿日:2005/08/06(土) 20:05




172 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:24
―――夢だ

そう思うまでに、大して時間はかからなかった。
美貴の目の前にある、小さな背中。
ピンク色のエプロンを下その後ろ姿は、美貴がずっと望んでいたもの。
朝…なのだろうか。
窓から差し込むやわらかい光。
細く開けた窓から入る風で、マリンブルーのカーテンが揺れる。
「亜弥ちゃん」
そう、小さく声をかける。
けれど彼女は振り向かない。
――聞こえなかったのかな……
そう思って、もう一度、名前を呼ぶ。
173 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:25
けれど、亜弥ちゃんが振り返る事はなく。
美貴に背中を向けたまま、何かを作っているようだった。
「……亜弥ちゃん?」
もう一度。
しかし、それでも亜弥ちゃんは、自分の作業を続けている。
「亜弥ちゃん」

何度も

「亜弥ちゃん」

振り返ってもらいたくて

「亜弥ちゃん!」
174 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:25
「……」
目が覚めると、目の前にあったのは見慣れた天井で。
それに被さるように見えるのは、自分の手。
「…あぁ………」
美貴は、天井に手を突き出して……いや、違う。
美貴は、亜弥ちゃんに手を伸ばそうとしていた――――

「あ…あの……」
戸惑ったようなその声に、ぼんやりとした頭が
一瞬でクリアになる。
「あ…おはよう」
―――見られちゃった、かな…
何となく気まずくて、れいなから視線を外すと
れいなは小さな声で「おはようございます」と呟いた。
175 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:26
朝から流れる、微妙な沈黙。
何か打開する方法はないかと、視線を宙に浮かせて考えるも
いい言葉は浮かばない。
れいなも同じだったようで、きょろきょろ視線を走らせている。
ふと視界に入った時計に、そういえば、と思った。
今日は、まだ、梨華ちゃんは来ていない。
もしかしたら気を利かせてくれたのだろうか。
―――あ……
「………朝ごはん、どうする?」
梨華ちゃん、という言葉で思い出した、朝ごはんの存在。
れいなは「あぁ」と小さく呟いて
「食べなくても、平気ですけど」と言った。
176 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:26
結局、れいなも美貴も大して朝は食べない派だということで
コンビニでパックジュースを買ってくることになった。
二人で早朝の町をぶらぶらと歩く。
手を伸ばせば届きそうで、でもやっぱり届かなさそうな
微妙な距離で、ゆっくりと。
美貴の家から一番近いコンビニ。
その看板が見えてきたとき、れいなが小さく声を上げた。
「……さゆ…」
れいなの視線の先には、たった今コンビニから出てきた
一人の少女。
「れいな……?」
177 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:27
さゆ、と呼ばれた子は、手に袋を提げたまま
じっとれいなを見つめている。
「……友達?」
小さくそう尋ねてみると、れいなはコク、と首を折った。
無言のまま、どちらも相手に話しかけようとしない。
友達には違いないようだけど
どうやら、今は顔を合わせ辛い相手だったらしい。
どうしよう、と思っていると、先に口を開いたのは
『さゆ』の方だった。
「…久しぶり、だね」
れいなは無言のまま。
ただ小さく、首を動かした。
「元気だった?」
もう一度、頷くれいな。
『さゆ』は「そっか…」と呟くと美貴の方を見て
「知り合い?」と首を傾げた。
178 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:28
れいなが頷いたのを見て、美貴は「どうも」と軽く頭を下げる。
『さゆ』も「こんにちは」と笑顔でお辞儀を返してくれた。
「……じゃあ、私、行くね?」
再びれいなの方を見て、そう言うと
『さゆ』は美貴とれいなに背中を向けて
ぱたぱたと走り去って行った。
まるで、れいなから逃げるように。
「……れいな?」
歩き出そうとせず、じっと彼女の背中を見つめているれいな。
その表情は、今にも泣き出しそうな、寂しそうな表情で。
「………行こっか」
小さなその手を掴むと、弱々しくだったけど
確かに握り返してくれた。
179 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:28
「何飲む?」
「………オレンジ」
れいなに言われた通り、手元にあったパックジュースを
カゴに突っ込み、美貴はその隣にあったココアを取った。
料金を払い、店を出る。
元来た道を並んで歩く。
肩と肩が触れ合うくらいの、近い距離。
コンビニと、美貴の家の、丁度、中間辺りに来たとき。
「……さゆは…」
れいなが小さく話し始めた。
「さゆとれなは、幼馴染で………
その…れなの事、色々気にかけてくれる…」
れいなから何かを話したのは、初めてだ。
何か、返事を返すべきなのだろうか。
けれど、何も言葉は見つからず。
美貴は曖昧に頷いて、続きを促した。
180 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/08(月) 22:30
「れなは…学校とか、最近全然…それでもさゆは
ずっと、待ってくれて…」
それ以上、れいなは何も言わなかった。
美貴も、特に聞こうとは思わなかったから
二人で黙々と、家への道を歩いた。

右手に感じた、温かい感触。
それは一瞬触れただけで、すぐに離れてしまう。
「手…繋ぐ?」
れいなに尋ねると、れいなは俯き加減のまま返事はせず
その代わり、自分の指を一本だけ、美貴の小指に絡ませた。
わずかに繋がるその部分は、今にも離れてしまいそうで。
それは、今のれいなの気持ちを表しているようだと思った。
181 名前:夏風 投稿日:2005/08/08(月) 22:30




182 名前:夏風 投稿日:2005/08/08(月) 22:30




183 名前:夏風 投稿日:2005/08/08(月) 22:30




184 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/12(金) 22:13
更新お疲れさまです。 ナニがあったんでしょう・・・。 次回更新待ってます。
185 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:16
その日の午後、れいなは家に帰って行った。

『じゃあ……その、お世話に、なりました……』
『また、おいでよ』

美貴自身、こんな事を言った自分に少なからず驚きを感じていた。
でも、れいなを見ていると、一緒にいたい、という気持ちが芽生えてくる。
美貴に似ていて、時々、ふとした動作が亜弥ちゃんに重なる彼女。
きっと、性格も癖も、亜弥ちゃんとは全然違う。
駅まで彼女を送りに行って、美貴の家とは反対方向の出口から帰っていく
彼女の後ろ姿を見送って、美貴は何とも言えない気持ちになった。
186 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:17
何なのだろう、この気持ちは。
心の中にもやもやと渦巻く、この感情。

寂しい……違う気がする。

悲しい……それは、ない。

ほっとした……多分、これが一番、合っている。
確かに、彼女がいなくなって『寂しい』という感情も
あるにはある。
けれど美貴は、安心していた。

これ以上。

これ以上れいなに、亜弥ちゃんを重ねなくて済むと思ったから。
187 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:18
「美貴ちゃん」
駅からの帰り道、家までもうすぐ、という交差点で
美貴は、後ろから誰かに呼ばれた。
振り返らなくても、誰だか分かる。
「……梨華ちゃん」
ずっと、美貴の事を見守ってくれている、幼馴染。
「あの子は…もう、帰ったの?」
多分、れいなの事なんだろう。
「帰った」と頷くと、梨華ちゃんは
あからさまに安心したような笑みを浮べた。
けれど、その後すぐに真剣な表情になって、言う。
「あの子と会うのは……危険だよ」

「美貴ちゃん、あの子の事『亜弥ちゃん』に見てたでしょ…?」

図星だとは、言えなかった―――
188 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:19
数日後。

「あ…れいな………」
「…………」
また、出会ってしまった。
あの―――公園で。
あの日と同じように、美貴はただ歩いていて。
れいなは、あの日と同じように
大量のアルコールを飲んでいた。
「れいな」
声をかけると、れいなの表情が少しだけ変わる。
バツの悪そうな、困った顔。
美貴は近くの自販機でスポーツドリンクを買い、彼女に渡した。
受け取りつつも、口を付けず、缶をじっと見つめるれいな。
189 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:20
……本当に、見つめているんだろうか?

ぼんやりとした虚ろな瞳には、何も映っていないように見える。
いや、本当は、映っているのかもしれない。
美貴の知らない、誰かの姿が。
やっぱりこの子は、美貴に似ている。
似ている、というより共通の『何か』を持っている。
だから、言った。

「家……来る?」

れいなは、小さく頷いて、立ち上がった。
190 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:21
前と何も変わらない。
『何があった?』と聞くのはタブー。
家に着くとれいなは、何も言わずにソファに座った。
その手には、まだ開けられていない
もう大分ぬるくなってしまったであろう缶ジュース。
れいなは、それを机の上に置く。
コト、という音が、リビングにやたら大きく響いた気がした。
「れいな」
何かを聞こうと思ったわけでも何でもない。
けれど美貴は、彼女の名前を呼んだ。
191 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:21
ゆっくりとした動作で振り返るれいな。
その瞳を見たとき。

―――やっぱり、似ている

もう、何度目になるか分からないその思いが
脳裏を掠め、れいなを家に連れてきた事が、ものすごく
いけないことのような気がした。
「美貴さん」
ぼんやりとしていた美貴の耳に入ってきたその言葉。
声のトーンも、質も全然違う。
でもそれが一瞬『みきたん』という、亜弥ちゃんの
甘えた声に重なって、美貴は思わず、あの名前を呟いた。
192 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:22
「亜弥ちゃん………」

少し驚いたような、れいなの表情。
戸惑ったように視線を漂わせ、先ほどの自分の言葉が
いけなかったと思ったのか「藤本さん」と呼び方を変えた。
「あ……その、ごめん」
彼女を「亜弥ちゃん」と呼んでしまった事が恥ずかしくなって
美貴は慌ててれいなに謝った。
れいなは、やっぱり困ったような顔をしながらも
特に何も言わずに、小さく首を振った。
193 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/13(土) 21:22
気まずさ、というより、微妙な沈黙が流れる。
美貴は、その沈黙を破るように、明るくれいなに話しかけた。
「また、泊まっていく?」
突然の提案に、れいなはまた、驚いたように
美貴の顔を見る。もう一度「泊まる?」と聞くと
れいなは、じっと考えるように俯いた後「はい」と
頷いて「お願いします」頭を下げた。
彼女が何を思い、何を考えて、承諾の返事をしたのか。
それは、分からなかった。
194 名前:夏風 投稿日:2005/08/13(土) 21:25
更新終了です。

>>通りすがりの者様
ありがとうございます。
それぞれの過去は…その内、だんだん明らかになっていく予定です。

次回、少々…いや、それなりにエロ、入ります。
195 名前:夏風 投稿日:2005/08/13(土) 21:25




196 名前:夏風 投稿日:2005/08/13(土) 21:25




197 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/16(火) 15:43
更新お疲れさまです。 ウーン、複雑です(汗 それまでの間、幾つか頭の中で考えてみることにします。 次回更新待ってます。
198 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/16(火) 16:36
みきれなヲタの俺はここが楽しみでしょうがないです
作者さん、ありがとう
199 名前:夏風 投稿日:2005/08/17(水) 11:53
>>通りすがりの者様
複雑、ですか?
そのうち、色んな事が明らかになると思いますよ(笑

>>名無飼育さん様
楽しみですか!
でも、作者はこれがエロ初書なんで……
期待を裏切ったらごめんなさい!
200 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/17(水) 11:55
前に美貴の家に来たれいなと
今、美貴の前にいるれいなは、同じようで、どこか違っていた。
きっと、他の人が見ても気が付かないような、小さな違和感。

今日のれいなは、明らかに「えり」と言う回数が多かった。

れいなの家に電話をかけたとき。
夕食のとき。
お風呂に入る前。後。
そして、今。

美貴のふとした動作や言葉に「えり」と言う。
それは、多分、美貴がれいなに「美貴さん」と呼ばれたときに
思わず亜弥ちゃんの名前を口走ってしまったのと同じ理由。
201 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/17(水) 11:57
だから。
今、れいなの口から発せられた言葉に
美貴は返事ができずにいた。
「……キス、しましょうよ」
何の前触れもなく、突如、れいなが言ったそれ。
「れいな…」
ただ、名前を呼ぶ事しかできなくて。
れいなの真意なんて考えている暇、なかった。
分かっていた。
れいなが美貴に「えり」を重ねている事くらい。
でもそれは、美貴にとって、越えてはいけない一線のように
思えていた。そこを越えてしまったら、もう二度と
美貴もれいなも戻って来れなくなる。
202 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/17(水) 11:58
でも。
それでも。
不意に唇に感じた温かい温もりを、美貴は、何の迷いもなく
受け入れてしまった。
「んっ……」
絡み合う舌と舌。
混ざり合う唾液。
微かに感じる熱い吐息。
それら全てが愛しくて、離したくなかった。
美貴は、れいなの肩を持ち、ソファに押さえつける。
れいなからの抵抗は、ない。
「亜弥ちゃん……」
また、言ってしまった。
けれど、れいなも。
203 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/17(水) 11:58
「………えり」
自分の言葉と、れいなの言葉。
その二つを聞いた途端、美貴の中で何かが弾けた。

―――もう、戻れない。

美貴は、れいなの着ていたTシャツを捲りあげ
晒されたその小さな膨らみを優しく揉む。
「ん……くはぁ…」
「亜弥ちゃん、気持ちいい?」
徐々にスピードを上げながら。
片方の手でズボンを下ろす。
204 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/17(水) 12:01
「あっ…えり…えりぃ……」
ズボンと一緒に、その白くて薄い布も取ると
美貴の前には『生まれたまま』の姿のれいながいた。
上を這う手は止めずに、美貴は空いた方の手で
『れいな』自身を擦る。
「ふ……くはぁ…え…えり……」
次第に湿り気を帯びてくる、その部分。
美貴は何度も何度も、その指を往復させた。
そのまま、小さく震えるれいなの体に、そっとキスをする。
いつも、亜弥ちゃんにやっていたように。
205 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/17(水) 12:06
美貴の指に絡まる愛液。
上気した、れいなの顔。
小さな、甲高い声が空気を微かに震わせる。
「…んっ…あぁ、くぅ………」
快感、というよりも、悲しげに表情を歪め
声の中に時折り聞こえる「えり」の単語。
―――何だか、すごく悲しくなった。

「あっ…んっ…えりぃ………」
何かに耐えるように、目を閉じるれいな。
そろそろだろうな、と思ったとき。
206 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/17(水) 12:08
「も……やめ…」

止まる美貴の手。
指を抜き、上を這っていた手はソファにつき
美貴は、れいなの顔を覗き込んだ。
れいなは目を閉じたまま、じっと動かない。
小さく、早く吐き出される熱い息。
苦しげに上下する、その細い肩。

どれくらい経ったのだろう。
その目尻から流れ落ちた雫を見たとき。

美貴の頬を、同じものが、流れた。
207 名前:夏風 投稿日:2005/08/17(水) 12:09
短いですが、キリがいいので終了です。
208 名前:夏風 投稿日:2005/08/17(水) 12:09




209 名前:夏風 投稿日:2005/08/17(水) 12:09




210 名前:夏風 投稿日:2005/08/17(水) 12:09




211 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/17(水) 23:14
こっそり、こっそりと追っていましたが、初レスさせていただきます。
駆け出しの自分が評論家のようなことを言って申し訳ありませんが、細やかな描写にひきつけられました。文字だけでも情景がはっきりと浮かびます。
今後の展開が楽しみです。
212 名前:夏風 投稿日:2005/08/23(火) 08:07
>>駆け出し作者様
初レス!ありがとうございます!!
そんな情景が浮かぶだなんて…照れるじゃないですか(笑
213 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/23(火) 08:08
あの日から。
れいなは毎日、美貴の家に泊まって行った。
昼間は一応、家に帰っているみたいだけど
毎晩の外泊に、彼女の母親は何も言ってこなかった。
美貴たちの関係は、毎晩の夜の行為が主。
それが意味のないことだとは分かっていたけれど
美貴も、れいなも「やめよう」と言う事は、一度もなかった。

「美貴ちゃん。あの子は、亜弥ちゃんじゃない」

「……分かってる」

この会話を、何度繰り返しただろう。
214 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/23(火) 08:09
梨華ちゃんは、もうあまり美貴の家に来なくなっていた。
遠慮しているのか、避けているのか。
多分、後者なんだと思う。
たまに、れいなといる時に会うときがある。
梨華ちゃんは、何も言わず
ただれいなに小さく頭を下げるだけ。
でも、れいながいないとき―――
たまたま、美貴が一人でいるときなどに
出会ったりすると、さっきのような会話が必ず出てくる。
でも決して、強く咎める事はなく、ただ一言そう言うだけ。
梨華ちゃんが心配してくれているのは、十分、分かってた。

でも美貴は、自分の感情を止める事ができなかった。
215 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/23(火) 08:09
『亜弥ちゃん』が誰なのか。
一度だけ、れいなに話した事がある。
それは、いつもの行為の後、美貴の膝に頭をおいて眠るれいなに
聞かせるつもりもなく、話した。
多分、眠っていたあの子は殆ど聞いてなかったんじゃないかと
思ったけど、その後『絵里』について少しだけ教えてくれたから
もしかしたら…という思いがないわけでもなかった。

『絵里』

れいなの幼馴染でもあり、恋人だったらしい。
学年はれいなよりも一つ上。
216 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/23(火) 08:14
「絵里は、小さい頃から体が弱くて…しょっちゅう入院してた」

体、というよりも、生まれつきに心臓に欠陥があったらしい。
手術をしないと、20歳まで体が持たないと言われていた一方で
手術自体、非常に難しく、少しでも異変があれば、その時点で
『絵里』の体力は持たないだろう。
そう、言われていたのだという。

そして、運悪く、彼女の手術の日と
れいなの部活の試合の日が重なってしまい。

れいなは、その日の事を話そうとはせず、ただ一言

「……れなが連絡貰って病院に行った時には、もう………」

と言っただけだった。
217 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/23(火) 08:14
その話をした後、膝を抱え、ソファの隅で蹲っていたれいな。
美貴は特に何も言わず、ただ彼女の隣に座っていた。

美貴たちは二人とも、とても大切なものを失くしてしまった。
その喪失が大きすぎて。
だから美貴たちは、誰かに頼らずにはいられないでいる。

あの日…初めてれいなにあった日に感じたこと。
あれは、間違いなかったんだと思った。
218 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/23(火) 08:16
互いの話をしたところで
美貴たちの関係が変わることはなかった。

「ん…くぁ…ふあぁ!!え…えりぃ…」
美貴の刺激に耐えながられいなが時折呟くのは、恋人の名前。
「あぁ!…はふうっ…絵里!絵里!!…あぁ!絵里ぃ!!!」
愛しい人の名を叫びながら、果てるれいな。
美貴は彼女の中から指を抜き別の指で彼女の頬を伝う涙を拭う。
「えりぃ……」
隣に寝転がるのと同時に美貴の胸にぎゅうっと抱きついて来た。
「……」
何か、無性に悲しくなった。
219 名前:Nothingness 投稿日:2005/08/23(火) 08:17
いつも。
どんなときでも。
れいなの瞳には美貴は映っていない。
もちろん、美貴の視界に、れいなも。
「れいな……」
耳元でそう呟いてみると、目を閉じていたれいなの肩が
ぴくん、と震えた。
「絵…里…」
幼子のように丸まって眠るれいな。
その小さな身体を抱きしめる。
亜弥ちゃんとは大分違う、その細い身体と、温もり。

―――これは、れいななんだ

そう思わないわけにはいかなかった。
220 名前:夏風 投稿日:2005/08/23(火) 08:17




221 名前:夏風 投稿日:2005/08/23(火) 08:17




222 名前:夏風 投稿日:2005/08/23(火) 08:17




223 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/23(火) 09:56
更新お疲れ様です。うーん、切ない…。2人がこれからどうなっていくのか非常に気になります。
ところで、夏風様の素晴らしい文章力を私に恵んでいただけませんでしょうか(w
次回も楽しみにしてます。
224 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/14(水) 20:43
更新お疲れ様です。

かなり切ないですね・・・。
人が辛いとき、一人は本当に生き地獄ですよ。

次回更新待ってます。
225 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/24(土) 13:37
side by side  待ってます
226 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/08(火) 02:31
side by side  待ってます
227 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/08(火) 17:17
最終更新3ヶ月を経とうとしています。
生存報告だけでもいいのでお願いします。
228 名前:作者 投稿日:2005/11/08(火) 22:14
生きてます。

とだけ言っておきます。

ごめんなさい。もうしばらくお待ちを……
229 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 00:49
side by side  待ってます
230 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/18(金) 00:20
side by side  待ってます
231 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:59
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
232 名前:作者 投稿日:2006/02/10(金) 07:58
自己保全
233 名前:名無しさん 投稿日:2006/02/11(土) 15:10
え!!作者さん発見。待ってますよ〜
234 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/23(日) 16:48
もう亜弥ちゃんでてこないですか?
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/25(火) 18:20
放置決定
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/27(木) 17:50
えぇ〜待ってるのに!
237 名前:夏風 投稿日:2006/05/08(月) 23:53
予定では、受験が終わるまで、あと10ヶ月。
必ず再開しますので、それまでお待ちくださいとお願いしてみる作者です…
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/15(月) 23:27
偽者乙
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/20(土) 02:16
再開されるまで落としておきます。
240 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 03:37
あ、放棄宣言きてたんだ
241 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/30(火) 04:32
はいはい、上げないようにね。
242 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 01:32
>>241
ドンマイ!ww
243 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/08(土) 23:42
まだかな〜
244 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/09(日) 01:14
                                 
245 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/11(金) 21:28
このスレもついに倉庫行きか
また書く気になったらスレ立てがんばってください>作者さん
246 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:00




247 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:03
目が覚めると、隣にいたはずのれいなの姿が見えなかった。
閉じていた左の手を開くと微かに残っていた温もりがすうっと逃げて行く。
起き上がり、軽く頭を振って――――見つけた。
部屋の隅。
そこに寄りかかるようにして眠っているれいな。

「…………」

美貴は、ベッドから降りてれいなに近寄り、その隣に腰を下ろした。
れいなの前にはアルコールの缶が2本転がり、その手にも1つ握っている。
缶をそっと手から外して振ると、まだ大分入ってるようで。
美貴はそれを自分の口元に持って行くと、一気に飲み干した。
時間が経ち、生温くなったそれは、到底おいしいとは言えないもの
だったけれど、舌に感じる苦味は今の美貴にはぴったりの気がした。
248 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:25
□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □

れいなが目を覚ますのを待って、美貴は外へ出る準備をした。

家に帰るれいなを送っていく。
それが、最近の美貴の日課になっていた。

送る、と言っても美貴たちの間に大した会話はない。
互いに黙ったまま、黙々と道を歩くだけ。

「じゃあ、また・・・」
「あ・・・うん」

今日だって、いつものように家のすぐ近所まで送り
歯切れの悪い別れの言葉を口にする。
れいなと家の近所で別れるのは、なんとなく彼女の母親に
引け目を感じていたから。同じような境遇だったからとはいえ
巻き込んでしまったことに、どこか罪悪感があった。
249 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:26
れいなと別れて、元来た道を戻っていく。
駅へ続く大通りを渡ろうとしたとき、誰かに肩を叩かれた。

「……えっと…」
「道重さゆみです。何か、れいながお世話になってます」

彼女は、美貴を待っていたのだろうか。
早朝、まだ開いている商店などコンビニくらいしかない。
けれど彼女は手ぶら。
ポケットに財布を入れている感じもしない。
偶然会ったとは、どうしても考えられなかった。

「今、時間ありますか」
「・・・別に大丈夫だけど」
「ここだと話し難いんで、どこか別の場所に行きませんか?」

そう言うと彼女は、美貴の返事を待たずに背中を向け
先に歩き始めてしまった。

―――――あぁ、やっぱりな・・・

彼女を追いかけながら、そんな予感のようなものが、あった。
250 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:28
「ここでいいですか」

やがて彼女が足を止めたのは、閑散としている小さな公園だった。
二人で公園の隅にある色の剥げたベンチにへ行き、彼女が右端に
座るので、美貴も何となくそれに倣って左端に腰を下ろした。

「さっきも言いましたけど……道重さゆみ、れいなの幼馴染です」
「ん・・・この間、れいなから聞いたよ」

彼女は、知ってるのだろうか―――――

そんな事を考えた。
知っているから、何か言いに来たのだろうか。
彼女がちらりと美貴の方に視線を向ける。
251 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:28
「…私は……確かに知っています。れいなと、あなたの関係は」
「………そう」
「正確には『知っていると思う』です。全部、憶測なんです。私の。
別に私は、れいなから、話を聞いたわけでもないですから」

美貴は、何も言えなかった。彼女の意図が分からなくて
どう対応していいのか、考えられなかった。

「……無駄だと、思いませんか」

小さく吐かれたその言葉。
特に、驚きはなかった。
多分そう言われるんだろうと、心のどこかで感じていたから。
252 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:29
「………思う、かもしれないね」

主語を自分以外の誰かにして、短く答える。
自分でも認めていた事実。
けど、受け入れてはいなかったそれを真正面から突きつけられ
意見を求められても、反論ができるほど、今の美貴は強くない。
分かっている。
今の美貴とれいなの関係が、行為が。全てただの『逃避』にしか
なっていないことくらい、ずっと前から分かっていた。

「れいなは………」

美貴が黙っていると、道重さんが小さく口を開き
そして、少し俯き加減のまま、ゆっくりと話し始めた。
253 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:29
「れいなは…あなたと会って、少し変わりました。
まだ学校にも来ていないし喋る事も殆どない。
それに、お酒と煙草も続けているけれど、絵里を失ったばかりの
れいなよりは、昔のれいなに戻る時間が多いんです。」

美貴は、黙っていた。
れいなと、彼女の口から時折出てくる『絵里』
この二人の間に何があったのか、正直、知らなかったから。

「時々、思うんです。
れいなはあなたに自分を…絵里を、重ねているんじゃなかって」

それだって、分かってる。
だって、美貴も同じだから。
254 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:30
沈黙が生まれた。
美貴には、何も言うことはなかった。
全てがその通りで、ちゃんと頭では分かっていることだから。
そして、道重さんもまた。
言葉を選んでいる最中なのか、俯き加減で視線を泳がせている。

「もう……やめませんか」

不意に小さく耳に届いた言葉。
何か言おうと彼女の方を見た美貴は、けれど何も言えなかった。

彼女が、泣いていたから。

微かに肩を震わせて、時折小さく嗚咽を上げる。
255 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:31
「このままだと、二人とも何も変わらないんです。
互いに依存して寂しさを紛らわせて・・・それは、ダメなんです」

間違ってるんです・・・と小さく呟き、それっきり、道重さんは
何も言わなかった。人気のない公園に、彼女の泣き声だけが
妙に大きく響いている。

―――――この子、梨華ちゃんに似てるんだ

どうしてあげることもできずに彼女の横顔を見つめていると
ふと、そんな考えが浮かんできた。

梨華ちゃんが美貴のことを心配してくれているように。
道重さんもまた、れいなのことをとても心配していて。
そして、れいなも美貴も、それをわかっている。
256 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:31
もしかしたら。

美貴が依存しているのはれいなよりも梨華ちゃんの方に
なのかもしれない。そしてそれは、れいなもまた然り。

彼女がいなかったら、きっと美貴はここにいなかった。
彼女がいたから、美貴は亜弥ちゃんのいない空虚から
抜け出さず、甘えていられた。

『間違ってるんです』

先ほどの彼女の言葉が、頭をよぎる。

間違ってる。

美貴は、進まなくちゃいけない。
互いのことを「受け入れ」なくちゃいけない。

そのために、美貴たちは―――――
257 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:32
そこまで考えて、ある一つの考えにたどり着いたとき。
美貴は反射的に道重さんを抱きしめていた。

「え?あの、ちょっと・・・・・・!」

驚いたように顔を上げ、身を捩る道重さん。
その頬に付いた涙の跡をすっと指で拭い、美貴は彼女の耳元に
そっと唇を近づけた。

「―――――え?」

美貴の囁いた言葉に、素っ頓狂な声を上げる。

「・・・・・・本気、ですか?」
「うん」

いまいち「信じられない」という表情を浮かべた彼女に
美貴はちょっとだけ笑って

「大丈夫」

そう、頷いて見せた。
258 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:32




259 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:32




260 名前:Nothingness 投稿日:2006/09/03(日) 01:32




261 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/13(月) 00:58

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