もっと、強くなろう。

1 名前:アイサー 投稿日:2005/01/08(土) 17:53
初めまして。
え〜小説初心者ですが、よろしくおねがいします。
みきよしで、主にシリアスです。
そしてファンタジーの予定。
2 名前:『もっと、強くなろう。』第1話 投稿日:2005/01/08(土) 17:57
「美貴ちゃん、じゃあね〜」
毎日、毎日そう言って去っていく友達。
私は何故だか、力なく言葉を返す。
「うん。バイバイ・・・」
友達は、セミロングの髪の毛を少しずつ、決まったリズムで揺らしながら、悠然と去っていく。
友達の向かう先には、夕日で真っ赤に染まった血のような空があった。
3 名前:『もっと、強くなろう。』第1話 投稿日:2005/01/08(土) 18:13
私は藤本。藤本美貴。
近くの私立高校に通う、2年生。
何となくやる気が出ないのは、ある悩みを抱えているから。
ありがちな悩みだけど、その人にとってそれは、決してありきたりな答えを望まない。
悩みの種類は十人十色。
こういう時まで個人を大切にされると、かえって困る。
その悩みが何かっていうと、最近、何をやってもつまらない。
今みたいに友達と一緒に帰ったりするけど、本当言うと気持ちはカラッポ。
胸の中はワケのわからない喪失感で、1ミリだって満たされちゃいない。
正しい答えを求めていたいわけじゃなくて、ただ時間が解決してくれると思っている。
そのうち恋でもして、彼氏でも作って、一緒に誕生日とバレンタインとクリスマスでも過ごせば、
少しは満足感が得られるさ。
・・・もちろん自分でもわかってはいる。
最低のところまで現実をナメた、甘い考えだってことは。
行動を起こさないと、現実は動かない。変わらない。
でも、行動の起こしようがないと、その場で現実に突き放され、押しつぶされていくほかに道はない。
今の私は、それに必死に手足を突っ張って、空前の灯火も同然にただひたすら耐えているに過ぎないんだ。
4 名前:アイサー 投稿日:2005/01/08(土) 18:14
とりあえず書けた〜
今日はここまでにしたいと思います。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/08(土) 23:04
みきよし好きなんで
楽しみにしてます。
6 名前:『もっと、強くなろう。』第1話 投稿日:2005/01/10(月) 13:38
PiPiPi...
ふと、私の携帯がシンプルに誰かからの着信を告げた。
満たされない時間は常にやってくる。朝と夜が移り変わっていくように。
別に・・・ディスプレイに表示されてる友達と、話したくないわけじゃないけど、
何となく気だるい喪失感が自分を取り巻くことは、決して嬉しいことではない。
「もしもし・・・」
『あ、美貴ちゃん?まだ帰り?私は今、家に着いたんだけど・・・』
「ん、まだ帰り。どうかした?」
『んーん、今日美貴ちゃんに借りたシャーペン、返すの忘れてたから・・・』
はぁ・・・まったく。
そういうことならメールで一通送ってきてくれれば済むことじゃん。
別にいいんだけどさぁ・・・何か・・・こう・・・ムシャクシャするんだ。
『ごめんね。こんなことで電話して・・・。じゃあ、ちょっと早いけど、おやすみ。』
「うん。おやすみ」
電話を切って、私は一つ、溜息をついた。
そういえば、溜息一回するごとに、幸せが一つ逃げていくらしい。
どういう基準で「一つ」なのか知らないけど、とにかく不幸になるってことだ。
さっきの友達が教えてくれたこと。
別にそんなの信じてないけど、溜息をつくと、気のせいか肩がちょっと重たくなるんだ。
何かに憑かれてるのかなぁ・・・。
不幸は悲劇を呼び、悲劇は死を招く。
そして死は地獄を選び、地獄は血を見せる。
私はこの、転落の一途をたどっているのだろう。
7 名前:『もっと、強くなろう。』第2話 投稿日:2005/01/10(月) 13:54
ところが、そんな私の毎日は、一人の人間の手によって断ち切られた。
いつものように起きたはずが、何か様子が違う。
ポワンとしてるというか・・・。私はこれが「夢」だと確信した。
夢ながら夢だ、と確信するところ、相当に生々しい夢になることは予想されていた。
しかし、それは、私の想像を遥かにしのぐものだった。
『そこ危ないよ!!隠れて!!』
『え・・・?』
瞬間に場面が変わって、あちこちで銃声が聞こえる、戦場のド真ん中の少しのくぼみに、
私の体はうつぶせに寝かされていた。
目の前には、戦う女兵士が一人。
言われた通り、ほとんど地面につっぷして、地球と仲良しになっていると、女兵士が叫んだ。
『そこ!ちょっと場所空けて!!』
驚いて顔を上げると、全速力でこちらへ駆けてくる女兵士の姿が目に映った。
慌てて右に体を反らすと、女兵士は私の横にバッと飛び込んできた。
あっぶね〜・・・もうちょっとで下敷きじゃん。
私は肩で息をしながら女兵士を見た。
一瞬、こっちを見ているのかと思って驚いたが、ただ手榴弾のピンを外しただけだった。
・・・って手榴弾!?
『わっ・・・』
『しっ!さっきからもう・・・死にたいの!?』
またもやビックリさせられて飛びのこうとした私の頭を、女兵士はすごい力で押さえつけると、少し優しい目でこう言った。
『これが終わったら、たっぷり遊んでやるよ・・・』
その時私は、女兵士の顔を初めてしっかりと見た。
その端正な顔立ちに、私は思わず息をのんだ。
・・・美人だ。女の私でもドキドキしてしまうほど。
『あの・・・』
と、声をかけようとしたところで目が覚めた。
8 名前:『もっと、強くなろう。』第2話 投稿日:2005/01/11(火) 11:53
今度は何だか意識がしっかりとしている。
現実とのギャップがあまりない、生々しい夢だったために、より念入りに意識の覚醒を確かめる。
それにしても・・・今更ながらだけど、生々しいというには少し違う感じの夢だった。
不思議な・・・どこか妖艶な感じというか。
・・・どーでもいいけど、何でだか汗ビッショリだ。
夢ん中で何か変なこと言われたし・・・。
『終わったらたっぷり遊んでやるよ』?
やめよ、考えるの。私は断じて欲求不満じゃない!
「・・・あんた、何やってんの?」
いつも寝起き最悪の私が、最悪を通り越して超最悪の気分でいると、お母さんが入ってきて怪訝そうな視線を私に向けた。
「なっ、何よ!いつもノックしてって言ってるでしょ!!」
「はいはい。早く起きといでよ。」
お母さんは適当に受け答えして、乾いた洗濯物をベットの足元にポンと置くと、さっさと出て行った。
私はそんなことよりも、あの女兵士のことが気になって仕方がなかった。
これこそ夢の人だよ。いるわけないし、あんな人。
でも、でもさぁ・・・わかっちゃいるけどやめられないってこーゆーことよね。
キレイ・・・で、カッコイイ。マジ完璧。
いたらいいなぁ。絶対アタックしまくるのになぁ。
「美ぃー貴ぃーっ!!」
下の階から私の苛立った時の声によく似たお母さんの叫びが木霊する。
「今行くーっ!!」
自分も負けじと大きい声を出して対抗する。
うちのお母さんてば、口うるさいところが欠点よね。
私ってどっちかって言うと、お父さん似かも。
だってやっぱそーゆーのヤじゃん。口うるさい女は嫌われるよ。
お母さんが嫌いなワケじゃないけどさ。
9 名前:『もっと、強くなろう。』第2話 投稿日:2005/01/17(月) 18:47
私はもそもそと起きて、下の階へ続く階段を降りる。
お父さんはとっくに会社。
読み終わって少しくちゃっとなった新聞が食卓テーブルの上にのせられている。
時間は・・・何だ、まだ6時40分じゃん。
あと20分は寝てられたじゃん。ったく、あの夢のせいだよ!
「せっかくだから、朝ごはん食べちゃえば?」
「ん、そーする。」
テレビからは、ありきたりなニュースばかり。
けど最近は、政治家のヘマとか、殺人とか、自殺とか・・・。
上野動物園がどーの、とかって、ちっとも聞かない。
しかし、私はただ何となく見ていたはずなのに、それにしては目ざとく見つけてしまった。
フッと画面を横切ったその顔・・・。
私にはわかった。見覚えがあった。
しかも、ついさっき見た、夢。
あの整った顔立ち、上半身しか見えてないけど、背が高くてスラッとしているのがわかる。
「あっ・・・!!」
思わずトーストをくわえていた口を開ける。
やはりあっけなくトーストは床に落ちた。
・・・でも、そんな場合ではない。
「美貴っ!?何やってるの!」
この時ばかりはお母さんの喋りの呪縛も歯がたたない。
だって、だって・・・。完全に理想だった人が、そこに存在しているんだから。
フッとその人がカメラ目線になる。
自分に向けられているはずのないその視線に、思わずドキッとする。
眼は青く、どこか憂いがあって、言い知れぬ暗闇がそこにあった。
不幸は悲劇を呼び、悲劇は死を招く。そして死は地獄を選び、地獄は血を見せる。
その人の眼の奥に、私はエンドレスな悪夢を見た気がした。
ニュースのレポーターが喋っている右下に、簡単な住所が書いてある。
近場だ。しかも見たことある景色。
あそこに行けば会える?理想の人に?
戦場の・・・女兵士に?
乾いた砂漠にいずるオアシスの蜃気楼を、私は見た。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 22:07
レスしていいですよね?投稿中じゃないかちょっと心配しつつレスします(笑)
どうなるのか非常に気になってる一人です。
続き、おとなしく待ってま〜す
11 名前:アイサー 投稿日:2005/01/26(水) 11:54
>5
>10
レスどうもです!
更新はなまら遅いと思いますが、気長に待っていただけたら嬉しいです。
12 名前:『もっと、強くなろう。』第2話 投稿日:2005/01/26(水) 12:07
「ちょっ、ちょっ、ちょっと行ってくる!!」
食べかけのトーストもおろそかに、歯ブラシをくわえて、ニーソックスをはく。
2年通っている学校の制服をものすごく急いでる時の着かたで着る。
生徒手帳は胸ポケット、リボンをして、手鏡で前髪を見る。
バッチリ、美貴ちゃんは今日もキマってます。
ゼッタイ見つけ出して、さりげな〜く話しかけて、ゆくゆく2人は・・・w
「行ってきまぁーすっ!!」
オヤジのようなニヤケ顔で出かけていく娘を見て、母はどんな気持ちを抱いたのだろうか。
でも、そんなことは今はどうでもいい。
愛しのあの人に、理想が現実となったあの人に、会える。
漠然としたヒントだが、それでも自分が知っている場所でよかった。
いつもより20分早く起きたことに、カンシャ!!
私はなけなしの陸上部の脚力を思いっ切りフル回転させて、走った。
走った、走った。心臓が口から飛び出てくるかと思うくらい走った。
でも、何故だか苦しくはなく、むしろ心地よかった。
ニュースで、ただの一度上半身しか映らなかった人に、会いたくて。
雲を掴むに等しい行為。でも、雲だって時には、掴めないこともない。
私はその先の月だって太陽だって、掴んでみせる。
13 名前:『もっと、強くなろう。』第2話 投稿日:2005/01/26(水) 12:17
とにかく走りまくって、やっと目的地に着いた頃には、テレビの機材もだいぶ減って、
野次馬もぽつぽつという程度だった。
私はその中に、必死に理想の人を探した。
前に、わけのわからない不信な動体視力テストなるものをやって、
友達の中では私が一番だった。
またくだらなくて信じられない能力が身に付いたと思いながらも、けっこうまんざらでもなかった。
こういう時、こういうことを思い出すと、不思議と見つけやすくなるものだ。
そして、友達内No.1というはりぼてで飾られた動体視力が、あっけなくそれを捉えてしまった。
スラッと伸びた背丈、整った顔立ち。
そして、ブラウン管の向こうにあった視線が、何の隔たりもなく、はっきりと私に向けられている。
ドキドキする。何か別の意味でドキドキする。
嬉しい、けど、辛い?悲しい?・・・怖い。というか。
でも来たからには、どーにかしないと。私は野次馬。今は野次の馬よ。
できるだけ自然に、ナチュラルに、私はその人に声をかけた。
14 名前:アイサー 投稿日:2005/01/26(水) 12:18
とりあえず今日はここまでにしときます。
ホントゆっくりですみません!
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/27(木) 11:32
ワクワク
16 名前:『もっと、強くなろう。』第3話 投稿日:2005/01/31(月) 17:42
「あの、何があったんですか?
「あぁ、空き巣・・・らしいですよ。」
アルトな声で、口調はこれでもかとゆっくりしている。
大人の魅力。スレンダーで美人なオンナのヒト。
切れた息を整える。肩で息をして、思いっきり空気を吸っても、心臓はやっぱり口から顔をのぞかせてきそうで。
「・・・あの、大丈夫ですか?」
ハッとして隣を見上げると、同じ深い色をたたえた瞳を向けて、少し心配そうに私を見下ろしていた。
本気で心臓が喉元まで上がってきたかと思った。
ますます息は荒くなるばかり。その人は、首をかしげるばかり。
「あっ、あのっ・・・大丈夫・・・です・・・」
ここで、「もうダメです」とか言ってのけて、フラッと倒れかけたら、この人は受け止めてくれるだろうか。
さすがにそれは引かれる?でもやってみたい好奇心もあったり。
「・・・あの・・・」
「はいっ?」
突然浴びせられたアルトに、裏返った声で応答。
何?何か聞きたいことでもあるの?まかせて、何でも答えてあげるからっ!
「この辺、まだ引っ越してきたばかりで、よくわからないんです。麻城高校って、どこにあるかわかります?」
きた、道案内。
もうバッチリストライクで専門分野ですとも、ええ。
しかもそこの高校私が通ってます、ええ。
今にも羽生やしてお空へサヨウナラしそうなくらいグッジョブです、ええ。
「あっ、わかりますよ!・・・案内しましょうか?」
「ホントですか?助かります。お願いします。」
17 名前:アイサー 投稿日:2005/01/31(月) 17:43
すでにギャグになっとるorz
今日はここまでにします。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 04:12
面白いです。
次も楽しみにしてます。頑張ってください。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 19:35
よっちゃんのこーいうキャラは懐かしいですね。
最近は壊れキャラが多かったのでw
20 名前:アイサー 投稿日:2005/02/01(火) 20:29
>18
どうもです!
いろんな方向に脱線していくかもしれんですが、
軌道修正しながら。。。
がんばります。
>19
そうですねぇ〜
予定では、落ち着いてて大人でクールな、
そんなよっちゃんさんを目指します(笑
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 22:10
クールなよっちゃん大好物です。
みきちゃんさんのキャラも面白い。
22 名前:アイサー 投稿日:2005/02/07(月) 20:18
ここから作者の意に反して何故かギャグでおおくりします(汗笑
23 名前:『もっと、強くなろう。』第3話 投稿日:2005/02/07(月) 20:29
輝くようなその笑顔。そんなあなたにFALL IN LOVE FALL IN LOVE THIS MORNINGですよ。
自分でもわかる。有頂天故に不自然な笑顔。そりゃもう恐ろしいくらい。
それでも必死にポーカーフェイスを装って、爽やかな、自然な笑顔で道案内。
「こっちです。」
「ありがとうございます。ホント困ってたんで助かります。」
「い、いや〜・・・そんなぁ・・・」
そんなにお礼言われるとちょっと恐縮しちゃう・・・。
いいのよ、気にしないで。むしろ私の方がお礼言いたいくらいなんだから!
「・・・楽しそうですね?」
「えっ?あ、そ、そうですかね・・・」
しまった、ポーカーフェイスが。危ない、危ない・・・。
だって実際楽しいんだもん。うれしい!たのしい!大好き!状態なんだもん。
そんな有頂天バレバレの私を、なおも優しい笑顔で見てくれるその人。
やんわりとした笑顔。輝いてます・・・。
私は今、人生の中で一番幸せな登校時間をおくっています。
・・・それが、人生の中で一番キケンな時間の始まりとも知らずに。
24 名前:アイサー 投稿日:2005/02/07(月) 20:31
みきちゃんさんがアホでごめんなさい。
そして楽曲の知識がある程度で止まっていてごめんなさい(爆
続きは気長に待っててやってください。
25 名前:『もっと、強くなろう。』第4話 投稿日:2005/02/18(金) 21:06
程なくして、私の通う麻城高等学校にたどり着いた。
どこにでもあるような女子高で、普通の、至って普通の高校。
こんなところに、こんな素晴しい人が、何の用なんだろう?
「あの・・・」
「あ、すいません、校長室までお願いできます?」
そっか、そりゃそうか。
この高校の場所も知らない人が、職員室やら校長室までたどり着けるはずないか。
きっとオトナの話なんだろうな。
って言っても、ぶっちゃけ私も校長室の場所はよく知らない。
学級委員長でもなければ、どっかの部の部長でもない私は、
あまり職員室にお世話になることはなかった。日直の時くらいかな。
いやでもここは、麻城高の名誉(?)をかけて、校長室まで案内してつかまつらなければ!(?)
「あ、じゃあこっちです。」
大体、校長室なんて職員室の隣にあるもんなんだからさ。

・・・あるもん・・・そのはず、なんだけど。
26 名前:アイサー 投稿日:2005/02/18(金) 21:06
ちまちまとここまで。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/04(金) 03:57
更新お待ちしております。
28 名前:アイサー 投稿日:2005/03/04(金) 16:15
え〜、と、このへんで生存報告。
まぁ多忙なのと、筆が思うように進まないのとあるので、もう少し待ってやってください。
近いうちに更新したいと思いますので!
すみません!(汗
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/05(土) 21:48
マターリ待ちまぁ〜す!!
30 名前:『もっと、強くなろう。』第4話 投稿日:2005/03/18(金) 16:27
「あの・・・ここ、屋上の階段ですよね?」
ヘタな意地は張るもんじゃない。
私の目の前には、何故か屋上へと続く長い階段。
隣には、困った笑いを浮かべる運命の人。
「あ、あはは・・・」
もう笑うしかなかった。
あぁ、運命の人、苦笑いでもその笑顔、素敵です。
「戻りましょうか。誰か先生に聞いてみましょう。」
「そうですね・・・」
肩を落とす私に、「気にしないでくださいね」と優しい言葉をかけてくれる運命の人。
少なからずその言葉に励まされ、元来た廊下を戻ろうとした。
その時・・・
「!伏せてっ!!」
先程とはまるで違う、鋭い声が隣から発せられたと思うと、瞬時に私の体は冷たい床に押し付けられた。
その感覚は、何かに似ている気がしたが、よく思い出せない。
「あのっ・・・何・・・!?」
私を床に押し付けた張本人であろう運命の人の姿を見上げると、その姿は先程とはうって変わっていた。
黒の革ジャンに、細いシルエットのパンツを穿いていたはずのその服装は、まるでどこかの軍隊が着るような、
いわゆる迷彩服を身にまとい、右肩から左の腰あたりにかけて黒く長いもの。
目深にキャップを被り、口に何かくわえている。
「はっ・・・?」
一瞬のうちに起こった様々な出来事に、私が混乱していると、不意に運命の人の右腕が振り上げられた。
思わずその手元に目をやると、初めて何か持っていることに気付く。
それは、深緑色をしていて、丸く、すっぽりと手におさまっていた。
31 名前:『もっと、強くなろう。』第4話 投稿日:2005/03/18(金) 16:42
「出て来いっ!!」
ドスの効いた声で、深緑を投げる。と、同時に、口にくわえられていたものも落ちる。
黒いわっかのようなもので、小さく金属音をさせて落ちた。
それは私の真上を通って、すぐそこの廊下の突き当たりにまで飛んでいった。
初めてはっきり見たそれは、丸というよりはだ円に近い形だった。
それにも何か見覚えがあったが、先程と同じように、もやがかかったように思い出せない。
運命の人が、今度は背中の黒いものをかまえる。
これは・・・
必死にもやを振り払おうとした瞬間だった。
鋭い閃光が走り、私の視界を奪う。
運命の人が何か叫んだ気がしたが、私の耳まで届かなかった。
鈍い爆音。しかし、すぐにそれは静寂を取り戻し、閃光は純白を作り出した。
白い静寂の中で、私の意識は何かに吸い込まれていった。
32 名前:『もっと、強くなろう。』第4話 投稿日:2005/03/18(金) 17:19
「・・・とー・・・ふじもとー」
「ん・・・?」
視界に光が戻ってくる。
景色が、色が蘇る。
ここは・・・
「ふーじもとぉー」
少し苛立ち始めたその声に、はっと我に返る。
黒板の前に立つ担任の苛立つ顔がすぐさま目に入る。
見回すと、何人かが窓際の一番後ろの席の私を、楽しそうに眺めている。
どうやってかは知らないが、いつの間にか朝のホームルームに出席しているらしい。
頭の中のもやを振り払う前に、「早く返事をしろ」とでも言いたげな担任の視線に答える。
「はぁい。います。いますよ。」
担任は、一瞬ピクリと片眉を吊り上げたが、とりあえず私が返事をしたことに満足したようだ。
淡白な担任で助かった。
私はもう一度伏せて、ゆっくりともやを晴らしていく。
金髪の、優しい笑みを浮かべる女性がいた。
同じ金髪で、鋭い声を発し、見るからに物騒なものをかまえる女性がいた。
どちらも同じ人だ。
深緑のだ円を持ち、長く黒光りするものを肩にぶらさげて。
迷彩服を着込んで、私を床に押し付けた。
とんでもない仕打ちのように聞こえるが、あのやんわりとした笑みは何物にも替えがたい。
深緑が真っ白な光を放ち、一瞬の爆音と共に私の意識を奪った。
あの人はどこに?私の意識だけでなく、あの人までも奪っていった光。
「え、と・・・あ、そうだ。今日はな・・・」
しかし、そこまで神様は冷酷でもないらしい。
「転入生がいるんだ。・・・入りなさい。」
33 名前:アイサー 投稿日:2005/03/18(金) 19:17
更新終了です。
支離滅裂でごめんなさい(汗
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/19(土) 04:33
更新お疲れ様ですーーー!!
待っててよかたっス。
次回の更新マターリ待ちます。
35 名前:『もっと、強くなろう。』第4話 投稿日:2005/03/22(火) 19:15
「転入生」という単語に私の興味の視線は一気に移された。
誰だって少なからず意味のない期待感を抱くものだ。
しかし、その「転入生」を見た瞬間、私の期待感は、とんでもないほどの狂喜に変わった。

「転入生の『吉澤ひとみ』さんだ。よろしくやるように。」
淡白な担任の、淡白な紹介でしかなかったが、私の胸は余計に高鳴った。
そう、「彼女」がいた。
スラッとした背丈に、うちの学校のブレザーを見事に着こなして、そしてあの微笑みをたたえていた。
深緑のだ円なんて嘘だったかのように、長く黒い鉄の塊なんて幻だったかのように。
そして、今更ながら初めて名前を知ったことにまた少しの喜びを覚えた。
「吉澤ひとみです。よろしくおねがいします。」
背の高い体が真ん中から折れて、ペコリ、と一礼。
私はもうすでに、我を忘れかけていた。
思わず立ち上がって礼を返すところだった。
優美にふわり、と流れる金髪を揺らして、また元の姿勢に戻る。
その行動一つ一つがスローモーションのように見えて、寸分の狂いもなく私の脳裏におさまった。
そういえば。
私は思い出した。
朝のホームルームで目が覚めて、何となく違和感を感じていた。
その時はまぁ、ちっとも頭が働いていなくて、その違和感がいかなるものなのか微塵もわかりはしなかったけれど、
今やっとわかった。
私の斜め前の席がぽっかりと空いている。
ついこの間まで、大して仲の良くない子がひっそりと座っていた席。
その席が、今とても大きな存在感を放つ席へと、変貌をとげようとしている。
「じゃあ、席はあそこな。」
と言って、担任が指差したのは間違いなく斜め前の席だった。
私は初めて、転校していったその子に感謝した。
36 名前:『もっと、強くなろう。』第5話 投稿日:2005/03/22(火) 19:44
「こんちは。」
ホームルームが終わって、すぐさま、私は運命の人、吉澤さんのもとへ歩み寄った。
吉澤さんの方も、声でもう私が誰かわかったようで、振り向きざまニッコリと笑顔を向けてくれた。
よくよく見ると、その笑顔はどこか幼さを含んでいて、一概に「大人」とは言えそうもなかった。
私はそんな幼い笑顔が、性懲りもなくカワイイと思った。
「かっこカワイイ」そんなところだろうか。
うん、これ、今年の流行語大賞決定。
「こんちは。藤本さん。」
「ん?名前知ってた?」
「うん。聞いた。」
どこで誰に聞いたのかは知らないが、私の名前を知っててもらえたってことが、ちょっと嬉しかった。
「私ね、吉澤さんって年上だと思ってた。」
「えぇ?そうかなぁ。私は藤本さんの方が先輩かなぁ〜って。」
聞くと、実際は私の方がほんのわずかだけ早生まれらしい。
よっし、これで主導権は頂いた。
「あとさぁ、私のこと『よっすぃー』でいいよ。前の学校でもそうだったから。」
「よっすぃー・・・」
口に出して復唱してみると、妙に優しい響きだと思った。
これだけであの微笑みを象徴しているような。
「おもしろいあだ名だね。私なんか『みきたん』とか『みきねぇ』とか『ミキティ』とか挙句には縮められて『たん』だけとか。」
最後の「たん」で、よっすぃーがクスッと笑った。
まぁ、「たん」は私のいとこしか使わないけどね。
「私もいろいろあったよ。『よっちゃん』に『とみ子』に『ひとむ』とか『ぴとみ』とか。」
私としては「とみ子」がよくわからない。
実にくだらないことながら、10分の休み時間をあだ名の話題で潰した。
個人的に「よっちゃん」が気に入ったので、「よっちゃん」って呼ぶって言ったら、多少難しい顔をしながらもOKしてくれた。
よっちゃんの大体のあだ名は、前の学校の先輩がつけてくれたらしい。
よっちゃんは、「ミキティ」が気に入ったみたい。
話せば話すほどに、何か恋人同士の会話みたい、と思ってしまった。
あだ名のこと話してる時点で初対面の会話なんだけど、私の雰囲気察知レーダーはこれを、「恋人の空気」だと判断したようだ。
私の中で、何かが高まっていくような気がした。
37 名前:アイサー 投稿日:2005/03/22(火) 19:46
ここらへんで更新終了。

>34
レスどうもです!
こんな駄作を心待ちにしてくださって・・・
がんばって精進します!
これから春休みなので更新もこまめにしたいと思っています!
38 名前:『もっと、強くなろう。』第5話 投稿日:2005/03/23(水) 15:43

今思えば、あの時屋上の階段前で起きた出来事のことをよっちゃんに聞かなかったのは、どうしようもなくバカなことだった。
39 名前:『もっと、強くなろう。』第5話 投稿日:2005/03/23(水) 16:01
「よーっちゃん、次音楽だぜぃ」
「うん・・・」
よっちゃんが来て、早くも一週間が経っていた。
この一週間で、よっちゃんと話した内容も、よっちゃんが喋ったことも、よっちゃんの仕草も、
まるでロボットのように私の脳は記憶していた。
転校初日の、あのやんわりとした笑顔も。
いつものように声をかけたつもりだったが、今日のよっちゃんは少し様子が違った。
難しい顔をして、顎に手をあてて何やら考え込んでいる。
「よっちゃん?どしたの?」
綺麗な横顔を、ひょいと覗き込む。
よっちゃんは、一瞬チラッと私を横目で見ると、フッと笑みをこぼした。
笑顔はいつも通りだったことに少し安心して、私もだらしなく笑い返す。
しかし、よっちゃんの優しい笑顔はそれだけで、あとはさっきの難しい顔をしたままだった。
そして、顔に似つかわしく真剣な声でこう言った。

「ミキティはさ、信じてる?」

当然ではあるが、私はその言葉の意味を図りかねた。
修飾語の見えない文章。
よっちゃんは、表情を崩すことはせずに、言葉を繋いだ。
「だからさ、私のこととか、このクラスの人のこととか、親とか、親戚とか。」
「あぁ・・・」
「公園の砂場に忘れられてったスコップとか、駅のホームにうずくまってるおじさんたちとか、給食時間に誰とも机をくっつけないで一人で食べてる子とか。」
よっちゃんは、一つ一つを噛み締めるように、言葉の意味をちっとも疑わずに、言った。
「そういうもの、信じてる?」
40 名前:『もっと、強くなろう。』第5話 投稿日:2005/03/23(水) 16:09
よっちゃんの瞳の色は、あの時テレビの画面越しに見たものと同じ色をしていた。
不幸は悲劇を呼び、悲劇は死を招く。
そして死は地獄を選び、地獄は血を見せる。
私が悟ったこの定義は、意外にも万人に当てはまるものだったらしい。
よっちゃんは、一週間経ってもよっちゃんのままだった。

「・・・うん、私、信じてるよ。」
「そう。・・・なら、いいかな。ミキティ。」
よっちゃんがその時浮かべた笑顔は、私の大好きな笑顔ではなかった。
瞳の色は、同じだった。
41 名前:『もっと、強くなろう。』第5話 投稿日:2005/03/23(水) 16:30
「ミキティ、今日は暇かなぁ?」
その日の放課後だった。
よっちゃんが妙に上機嫌で、私の目の前にぴょん、と現れた。
相変わらずニヘニヘしていたが、私も負けないくらいニヤケていたので突っ込めない。
よっちゃんからのお誘いは、ここのところ多くなってきていたので、特別珍しいことではなかった。
ただ今日は、いつもより格段にハイテンションなよっちゃん。
やっぱり様子がおかしいのだけど、同じ調子で誘いを受ける私が、5秒後にはいるわけで。
「ちょっと用事あるんだけどさ、付き合ってくれる?」
「うん、いいよいいよ〜」
よっちゃんの中での「付き合う」は、特に大きな意味を成しているわけではないけれど、
私の耳は、何よりもその単語を捕まえて脳に伝えることを優先しているらしい。
ただ、私は、よっちゃんがわずかにいつもと違う笑顔を浮かべたことに、気付いていなかった。

よっちゃんは、街の方向には向かわず、むしろ反対方向に向かって歩いていた。
「付き合う」と言ったからには、私は黙ってその後ろをついていく。
しかしさすがに不安になってきた。
用事といえども買い物付き合ってだとか、せいぜいそういうことだと思っていた私は、まったく予想外のことに少し混乱していた。
「ね、ねぇ、よっちゃん?」
「ん〜?」
さっきから何度も行き先を尋ねようとはするのだけれど、前から降ってくる上機嫌な高いトーンの声に、結局何も言えないでいた。
言われるがままについてきたはいいが、人間、先が見えないと不安になるとは、よく言ったものだ。
私は、カワイイよっちゃんの「ん〜?」をかいくぐって、やっとのことで切り出した。
「どこ行くの?」
私の苦労の気持ちも知らず、よっちゃんがやんわりと振り返ってのうのうと言ってのけた。
「先輩んとこ。」
42 名前:アイサー 投稿日:2005/03/23(水) 16:33
更新終了でぃす(何
ここからちょっと動かしていこうと思っています。
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/24(木) 01:18
2日続けての更新お疲れです!!
ここからどのように展開するのか期待大!!!!
次回の更新も待ってます。
44 名前:『もっと、強くなろう。』第5話 投稿日:2005/03/25(金) 19:27
・・・は?
当然のように、私の脳は混乱する。
よっちゃんの言葉は、いつもちょっとばかり理解が困難で、私はこの一週間で
「は」の一文字をどれほど使ったことだろう。
「な、何?先輩って・・・よっちゃんの名付け親の?」
「そ。あと、もっといっぱいいるんだけど、その人もいるよ。」
よっちゃんの微笑みは変わらず、声のトーンも変わらず。
もっといっぱいって・・・私は一体、そこで何をされるの?よっちゃん・・・
「えへへ、嬉しいなぁ。ミキティは信じてるって言ってくれたから、きっと大丈夫だよぉ。」
言葉の真意はまったくもって意味不明だが、今の笑顔は最高級。
思わず私の頬も緩み、いつもの調子に戻ってしまう。
いつの間にか繋がれたよっちゃんの手は、柔らかくて、フワフワで、これから起こる出来事なんて、微塵も感じさせないものだった。
「もう少しで着くよ・・・ミキティ」
・・・よっちゃんの言葉の真意は、いつもわからないままだった。
45 名前:『もっと、強くなろう。』第6話 投稿日:2005/03/25(金) 19:43
どれくらい歩いただろう。
とにかく、相当な距離を歩いたことは確かだ。
陸上部の私の足が、不満を言い始めた頃だった。
「ミキティ、ほら、着いた。着いたよ!」
無邪気な、子供のようなよっちゃんの浮かれた声に、もうほとんど下を向きかけていた視線を前に戻す。

目の前には、とんでもなく殺風景な黒色が浮かんでいた。

どこかの工場の跡地なのだろうか。
ところどころにボルト、ネジ、ペンチなどが、無造作に転がっている。
そしてそのペンチ諸々に、黒く固まった赤黒いモノがついていた。
それを見た瞬間、ひどい悪寒が走った。
じわり、じわりと、何かに汚染されていくように、何かに・・・寄生されていくように。
「よ、よっちゃん・・・」
声は、情けないものしか出なかった。
ゆっくりと吐き出される息は、冷たく細く長く。
あるわけがない。あってはならない。
「よっちゃん・・・あれってさ・・・」
「うん、あれ?『血』だよ。」
よっちゃんの声は、いつものトーンに戻っていた。

よっちゃんの笑顔は、とんでもなく素敵だった。
46 名前:アイサー 投稿日:2005/03/25(金) 19:46
更新終了。
今日から春休みです♪
作者は血とか好物です(ぇ

・・・青板で田亀(亀田)始めました・・・(ぼそっ
47 名前:アイサー 投稿日:2005/03/26(土) 00:52
レス返し〜
>43
ありがとうございます!
これからちょっとダークになっていくかも・・・
48 名前:『もっと、強くなろう。』第6話 投稿日:2005/03/26(土) 11:49
「矢口さーん。いますかぁー?」
血なんてホラー映画のニセモノぐらいしか見たことがなかった私は、その色と臭いに立ちすくんだ。
よっちゃんは、そんな私を一人おいて、あたりをフラフラと歩き回っている。
キョロキョロして何かを探しているようだが、なかなか見つからないようだった。
私はとうとう、生臭いような、それでいて無機質な鉄の臭いに耐えかねて、思わず声をあげた。
「よっちゃ・・・」
「あ、動かないで。」
・・・いや、正確には、あげようとした。

突如として、私の胸元に、チクリと痛みが走った。
否応にも一歩前の右足を引っ込めると、目の前に鋭く尖った鉄の塊がゆらり、揺れていた。
不恰好なそれは、形は何となく剣の形をしているものの、刃の部分はひどく歪んで、無数の突起を作り出していた。
そして、先端には、ペンチやボルトについているのとはわけが違う、

鮮やかな、赤。

「あー、矢口さーん。どこ行ってたんですかぁ?」
よっちゃんがゆっくりと振り返る。
もちろん、微笑みをたたえて。
「どこだっていいだろー?・・・で、この子?新しい『信者』ってのは。」
私はその声で、初めて剣の持ち主を見上げた。
ずいぶんと小柄な人で、髪は派手な金色に染まっているが、顔つきからはどことなく大人っぽさが感じられた。
いつの間にか手に持っていた剣はなくなり、無防備なまま、しりもちをついた私を見下ろしている。
「そうですよ。眼力通じなかったですもん。」
「よっすぃーの眼力はアテになんねぇからなー」
「なぁーんでですかぁー」
さっぱりわけのわからない私をよそに、二人はそんな会話を繰り広げた。
そして、よっちゃんの言葉にキャハハ、と笑った後、矢口という人は、ゆっくりと私と目線を合わせた。
「で、ミキティ。」
「・・・はい。」
一瞬、何であだ名知ってるんだろう、とか思ったけど、不毛な考えなのですぐに取り消した。
矢口さんは、ゆっくりと言葉を繋ぐ。

「信じてるんだ?」
49 名前:『もっと、強くなろう。』第6話 投稿日:2005/03/26(土) 11:56
本日二度目の質問。
矢口さんの瞳は、よっちゃんのそれと、何ら変わらないものだった。
妙に安堵感を覚えるその瞳。

私はゆっくりと深呼吸をすると、言った。

「うん。信じてる。」

矢口さんの顔が、何かを確信したような笑みに変わる。
こればっかりは、よっちゃんの笑顔の方が素敵だ、と思った。
「よっすぃー!この子大当たりだよ!」
「でしょでしょ?さっすが私。」
よっちゃんと矢口さんは、しばらく二人で飛び跳ねて喜び合ったあと、そのままぴょんぴょんと私のところにやってきた。
「ミキティ。藤本美貴さん、あなた、合格。」
矢口さんの手には、いつの間にかあの剣が握られていて、先端についた血がヒュッと払われた。
剣は、無骨に形を変えていった。
50 名前:アイサー 投稿日:2005/03/26(土) 11:57
更新終了。
ミキティが巻き込まれていきます。
51 名前:夜鷹 投稿日:2005/03/26(土) 23:27
更新お疲れです!!
ミキティ・・巻き込まれる!?何に!?
次回の更新も楽しみにしています!!!
52 名前:『もっと、強くなろう。』第7話 投稿日:2005/03/28(月) 14:54
「ちょっとよっちゃん!一体どういうこと!?」
あの後すぐに、矢口さんはまたどこかに出かけ、私はよっちゃんに建物の中に案内された。
外から見れば殺風景で、ただの廃墟にしか見えなかったが、意外にも中身はしっかりしていた。
しかし、私には、中をのんびり見物している余裕はない。
「さっきの何なの!?ホントに先輩!?」
「まぁまぁ、ミキティ、落ち着いてよ。」
半歩前を歩くよっちゃんが、ゆったりと言う。
相変わらずなよっちゃんの態度に、少し苛立ちを覚えた私は、さっきよりも強い口調で突き詰める。
「落ち着いてるよ!てゆーか、あの状況で冷静になれる!?」
「そだねー、私はもう慣れたからねー」
何故だろう、いつもは大好きな、よっちゃんの余裕な幼い笑顔も、今は・・・

「よっちゃんっ!」
よっちゃんはおもむろに一つのドアの前で立ち止まると、ノックするでもなくガチャリと開けた。
よっちゃんから離れれば、私もどうしようもなくなるので、とりあえず後に続く。
部屋の中は、6畳ほどあって、簡素なベッドと、これまた簡素な机が一つあった。
「座って。ミキティ。」
よっちゃんは、机のイスに座って、私をベッドに座るよう促す。
・・・別に、座れない理由などないのだけど、妙に言う事を聞きたくなくなって、立ったまま質問する。
「ね、どういうこと?私何されにきたの?」
「うん。説明するから。座って。」
・・・あくまで私を座らせたいらしい。
私はふてくされた態度で、ドスッと音をさせてベッドに腰かける。
よっちゃんはそれを見て、少し苦笑いをしたが、かまわず続けた。
「さっきの人は矢口真里さんっていってね、私の先輩。」
「ふーん・・・やっぱ先輩なんだ。物騒な人だよね。」
私はよっちゃんの顔を見ずに、言い放つ。
よっちゃんは、今度は苦笑いもせずに、真剣な声音で、言った。

「ミキティ、今ここで殺されたりしても大丈夫?」
53 名前:『もっと、強くなろう。』第7話 投稿日:2005/03/28(月) 15:12
ピクリ、と、私の体がいったん活動を中止した。
恐る恐る、よっちゃんの瞳を見る。

エンドレスな悪夢。

あぁ、と。
あの時私が見たものは、テレビの画面越しに見たものは、

「嫌・・・だ。」

『殺意』のこもった瞳だった。

「だよね。よかった。『大丈夫。』とか言ったらどうしようかと思った。」
よっちゃんは、いつもと違う笑顔を浮かべて笑った。
私はまたじっとりと冷や汗をかくものと思っていたが、かかなかった。
よっちゃんが、何故そんなことを聞いたのかが、わからなかったから。
本当なら、あそこでよっちゃんに殺されていても、おかしいことはないのだろうな。
何かが、私をこの場に繋ぎとめていた。
「ミキティ、その気持ちすっごい大事。『死にたくない』って気持ち。」
よっちゃんは大きく反り返って、イスの背もたれで背骨をボキボキいわせた。
「『死にたくない』っていうか、『死ねない』。」
私はおもしろいくらいに落ち着いていて、今ひょっとしたら自分の瞳はよっちゃんのものと同じかもしれないとか思った。
そう、『死ねない』。
そりゃ、よっちゃんは大事な人だ。好きな人だし。
でも、私には家庭的なお母さんがいて、仕事熱心なお父さんがいて、超生意気だけど微妙にカワイイ妹がいて。
馬鹿っぽいけどその分おもしろい友達がいて、目標とする部活の先輩がいる。
藤本美貴という名の天秤は、好きな人よりもそっちの方に傾くだろう。
「よっちゃん、私さ、『死ねない』よ。」
家族とかのためにもね。
よっちゃんは、かわいく笑った。
54 名前:アイサー 投稿日:2005/03/28(月) 15:14
更新終了。

>>51夜鷹様
レスどうもです!
巻き込まれる・・・何にでしょうね〜(核爆
もっと動かしていきますよ〜
・・・多分(ぇ
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 15:16
リアルタイムだ♪
青板の方も読んでますよ〜
これからも頑張ってください!
56 名前:『もっと、強くなろう。』第7話 投稿日:2005/03/31(木) 16:50
「じゃあさ、ミキティ、一回しか言わないから、よーく聞いてて。」
そう言って、よっちゃんはとつとつと話し始めた。
説明だとか説教だとかは、もともと大っ嫌いな部類だからいつも聞き流しているけど、
人間、自分の命運がかかっているとあっちゃ、こうも変わるものなんだなと思った。

「ミキティはさ、SF映画とかに出てくるような『力』って、信じる?」

・・・それは、つまり・・・。
「例えばさ、空飛んだりとか、目からビームとか。」
目からビームは何か違うような気もしたけど、私はこの前見た『リーグ・オブ・レジェンド』ってのを思い出す。
確かケーブルテレビでかかってたやつだ。
変なおじさんが出てきて、とんでもなくデッカイ化け物が出てきて・・・。
・・・あぁしまった。途中で眠くて寝ちゃったんだ。
「とにかくそういう・・・ブッ飛んだの。」
「ブッ飛んだの・・・?」
そりゃ、空飛んだり、目からビームはいらないにしろ、人の心を読んだりだとかは、できたら面白いけど、
知らないうちに割り切って見ている部分があった。
「こんなことできっこない」、「夢の中の出来事」。
いつからこんな、夢のない高校生になったんだろう、私は。
「信じたいよね。けど、何か信じらんない。」
よっちゃんは、またニコニコとした笑顔を浮かべた。
さっきから予想通りのことばかりなのか、余裕のよっちゃんって感じだ。
笑顔になっててくれるのは嬉しいけど、反面、ちょっと困らせてみたいと思った。
57 名前:『もっと、強くなろう。』第7話 投稿日:2005/03/31(木) 16:58
「いいねぇ。ミキティ。それが普通だよ。」
「普通ねぇ・・・よっちゃんは?」
不意に質問を振ると、よっちゃんは一瞬キョトンとする。
「ん?」
「よっちゃんは信じてんの?目からビーム。」
よっちゃんの顔はゆっくりと難しい顔に変わっていく。
顎に手をあてて、左上を見つめる。
もちろんその空間には何もないわけだけど、人は何かを考える時、左上を見、何かを思い出す時、右上を見るという。
よっちゃんは、今何か考えている。

「・・・そうだねぇ・・・」
しばらくして、ゆっくりと口を開く。
その先には、全く予想通りの答えが待っていた。
「信じない。」
よっちゃんはやんわりと微笑んだ。
58 名前:アイサー 投稿日:2005/03/31(木) 17:00
更新終了。

>>55
レスどうもです!
リアルタイムで読まれるのって何か嬉しいw(ぇ
しかも青板の方まで読んでいただいて!ありがとうございます!
これからも頑張るっす♪
59 名前:『もっと、強くなろう。』第7話 投稿日:2005/04/01(金) 13:23
「ほんでさ、私はそんなもん信じてないわけだけど、さっきの矢口さんの、見たでしょ?」
心臓がドキッと鳴る。
不恰好な形の剣。矢口さんの瞳の色と共に、その形を自在に変えていった剣。
あれをSFと言わずして何と言おう。
目からビームのいい例を前にして、何で私は「信じない」とか言ってのけたんだろうと、今更ながら思った。
そのあたり、微妙なる現実主義の壁が立ちふさがったのかと思うが、ほんの少し残った、「人間としての理性」のせいだったかもしれない。
「ミキティ、わかってないなぁ。」
まるで私の心情を察したかのように、よっちゃんがニヤリと笑う。

「SFって何の略だか、知ってる?」
・・・改めてそう言われると、わからないかもしれない。
よっちゃんのサラサラの金髪が揺れた。

「Science Fiction.フィクションなんだよ。」
作られた物語。人々の夢の世界。
科学でしか成し得ない、ひどく眩しく、かつ、恐ろしい物語。
「Science Fiction.」。嫌な響きだと思った。
「でもね、矢口さんのは・・・」
作られたものでもなく、決して手の届かないところにあるわけじゃなかった。
それは確実に、私の目の前に「存在」した。

「ノンフィクションだからさぁ。」

よっちゃんは笑わなかった。
60 名前:『もっと、強くなろう。』第7話 投稿日:2005/04/01(金) 13:32
よっちゃんのその言葉を聞いたとたん、何か言い知れないものが背中から這い上がってくるのを感じた。
ほんの少し残った理性が、わずかなる野生の勘が、「逃げろ」と言う。
私はたまらなくなって立ち上がった。

「あのさ、よっちゃん・・・」
「・・・何?」
よっちゃんは私を捕まえようともしない。
何もかも知っているような、そんな顔。
「悪いけど私、『フィクション』になんか付き合ってらんないから。」
踵を返し、ドアを押し開ける。

逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ・・・。

「いーださ〜ん、捕まえてくれませ〜ん?」
今はもう、あまり愛しいとは思えなくなった間延びした声が、後ろから響く。
「いーださん」が誰かは知らないが、目の前には誰もいないし、捕まるような気配は微塵もない。

と、思った矢先だった。

「・・・まったく、よっすぃーは・・・」

隣から、そんな声が聞こえたかと思うと、私はそちらを向くこともできないうちに、意識を奪われた。
遠くでぼんやりと、よっちゃんの「すいませ〜ん」って声が聞こえた気がした。
61 名前:アイサー 投稿日:2005/04/01(金) 13:33
更新終了。
よっちゃんはどこまでも余裕な人なのです。
62 名前:夜鷹 投稿日:2005/04/01(金) 19:47
更新お疲れです。
余裕なよっちゃん・・・イイっす!!
次回の更新も待ってます。
63 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/04/05(火) 13:33
『ミキティ。』

誰かが私を呼ぶ。
声だけでは、誰かわからない。

『信じてる?』

だからさぁ、何回も言ったじゃん。
「信じてる」よ。

『ありがと。じゃあ、そろそろ起きようか?』

・・・なるほどね。
これって、夢の中ってわけ・・・
64 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/04/05(火) 13:51
「おはよう。」
「ぅっ!?」
目を開けると、もう鼻先1cmくらいのところによっちゃんの顔があって、なまらビビった。
もう、やめてよ、よっちゃん・・・北海道弁まで出させないで。
「よかった〜。飯田さんけっこうホンキだったんだもん。」
私の目が開いたのを確認すると、よっちゃんは何やら振り返ってそう言った。
かなり天井の高い部屋で、何か機械でも動いているのか、低い振動音が聞こえる。
右手に感じる感触は、よっちゃんの柔らかい手のひら。
その手のひらの感触に、またニヤケてしまう私がいるわけで。
・・・救いようがないな。
「ホンキでなんかやってないって〜。だっていきなりよっすぃーが声かけるから、カオリ、びっくりしたぁ。」
よっちゃんが振り向いた方向から、間延びした声。
なるほど、これが「いーださん」か。よくも気絶させてくれたわね・・・。
起き上がって顔を見てやろうと腹筋に力を入れるが、どうしてか体は反応しない。
別に腹筋がないわけじゃないんだけど、「力を入れろ」って命令が届かないみたい。
「あ、あと30分は起き上がれないよ。」
「はぁ!?何でよ?」
よっちゃんは、当たり前だが相変わらず私を見下ろしている。
いや、こっちは起き上がりたいんだけど。手伝ってくれたっていいじゃん。
「だから飯田さんってば、ホンキで・・・」
「やってないってば!」
すかさず後ろから突っ込み。
「何?それもSFの力の一種なわけ?冗談じゃないって・・・」
「うん。そうだよ。ものわかりいいね、ミキティ。」
・・・くっそぉ。
このペースに巻き込まれない力が欲しいです、SFの神様・・・。
「あと30分したらまた説明するから。逃げないでよね。」
また気絶させられて30分寝たっきりになるなんて御免だし。逃げないよ。
おまけに首も動かせないなんてさぁ・・・。
「いーださん」とやら、ホンキだったでしょ・・・。
仕方ないので、また30分、寝ることにした。
65 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/04/05(火) 14:06
「おは・・・」
「もうその手には引っかからない。」
案の定、目を開けるとよっちゃんが目の前にいたので、軽く目潰ししてやった。
「いってー!飯田さん、うち失明します!」
「しちゃえばー」
またまた後ろから突っ込み。
ふーん、「いーださん」、けっこう気が合いそう。
それはそうと、もう一回腹筋に力を込める。
さっきのがウソだったかのように、すんなりと起き上がる体。
「はいはい。初めましてー」
起き上がった早々、背の高いスラッとした美人が、近寄ってきて勝手に握手した。
まさか、この美人さんが「いーださん」?
うそだぁ、想像と全然違う。もっと凶悪そうな顔つきかと思った。
「私が『飯田圭織』です。さっきはやっぱちょっとホンキだったわ。ゴメンね。」
ゴメンじゃ済まないですよ。
「それでさ、説明するのはいいんだけど、何でここに連れてきたのかってことを言ってなかったらしいのね。あのバカ。」
「あのバカってうちのことですかー?」
「他に誰がいんのよー」
遠くでまだ目頭を押さえていたよっちゃんが、こっちを振り向く。
飯田さん、やっぱり気が合いそう。
「じゃあ、本題に入ります。あなたがここに連れてこられてきたのは・・・」
飯田さんはまだベットに半分横になったままの私と目線を合わせる。

「普通の人間だったからです。」
66 名前:アイサー 投稿日:2005/04/05(火) 14:08
更新終了。

>>62
よっちゃんの余裕な秘密はSFにあります(何
そして、よっちゃんはそんなにバカキャラじゃない予定です(爆
これからもがんばりますw
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/09(土) 08:39
待ってていいの?
ってか待つ!!
68 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/07/13(水) 13:15
飯田さんはめちゃくちゃ真顔で普通に言ってのけた。
ただ、そのポーカーフェイスから何かがわかるはずもなく、当の私は口を半分開けた。
それって説明になってるんですか・・・。
「・・・あのぅ、何が何やら・・・」
大体、こんな異常事態の説明を一言で、ましてや一文で済ませてしまうのはどうかと思う。
飯田さんは、「あれ?わかんない?」というような表情を浮かべていた。
よっちゃんが遠くで、「やれやれ」とかほざいて、嬉しそうにこっちへ寄ってきた。
「飯田さ〜ん、ダメですよぉ、それじゃわかりませんって〜」
よっちゃんが手をパタパタ横に振って、さも「バカにしてます」とでも言っているような口調で言う。
飯田さんのポーカーフェイスが、何となく怖くなったような気がした。
それと同時に、飯田さんの背後にある大きな黒い四角い物体がヴィンと音を立てた。
・・・正直ビビッた。
「まぁ、つまりは先入観よね。」
背中に大量の飯田さんの負のオーラを背負っていることにも気付かず、よっちゃんは話し始める。
「ミキティはさ、『ケッ、SFなんてあるワケねーじゃん。バーカ。』的な人でしょ。」
そこまで冷めてない。
「もし信じてる人を連れてきちゃったりなんかしちゃったら、『SFはすごい。』っていう先入観で、
目の当たりにすると怯えちゃうワケよ。」
「でも大抵の人はSFなんて信じていない。」
横から飯田さんが、何やら資料のようなものを見ながら口をはさむ。
「だけどね、心のどこかで『実はあるのかも。』って思ってるもんなの。」
「だから幽霊が怖かったり、宇宙人に夢を持ったりするわけでしょ?」
「で、ミキティはね・・・」
69 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/07/13(水) 13:34
「別に幽霊は幽霊だし、宇宙人が侵略してくるならしちゃえば?って感じの人なのよ。」
「つまりそれだけSFをコケにしてるってこと。」
・・・この二人、私の好感度下げようとしてる。絶対そうだ。
だけど、一概にハズレとも言えない。
そもそもSFに興味はないし、もし本当に存在したとしても、私には関係のない遠い国でのこと。
そう思っていた。
しかし今日、この場所で、まさに私の目の前で、間近で、それは存在した。
夢とも思えないリアリティ。赤い妙刀。
何か悔しくて、フザケた科学者の遊び心にまんまとハメられたような気になって、それから目をそらした。
私が過ごしたほんのわずかの、17年間のつまらない日々が、もう戻ってこないような気がして。
「何で私がって思う?」
ただ夢を見て、ニュースを見て、野次馬にまぎれてただけなのに。
私は今何に飲み込まれてるの?
「帰れんの?」
「ミキティががんばれば。」
よっちゃんは微笑みをたたえてすぐに答えた。
「何を?」
「プチ闘争。」
頭の中が暗くなった。
よっちゃんはまだ笑っている。
「私さ、もうがんばってきたよ。」
「ん?」
こんな理不尽なことって、ない。

「幼稚園出て、小学校出て、中学校出て、受験して、部活やって、友達作って!
それなりに反抗期迎えて辛い時もあったよ!マジで首吊ろうかとか手首切ろうかとか思ったこともあったよ!
まだ足りないの!?私の17年間にはまだ隙間があるの!?
普通な人は普通の生活してちゃいけないの!?デカイ夢持ってなきゃいけないの!?

私の『当たり前』には何が足りなかったの!?」

よっちゃんと飯田さんは、目を丸くした。
そりゃそうだ。私の全部をぶちまけたんだから。
70 名前:アイサー 投稿日:2005/07/13(水) 13:36
何とまぁ更新!
待っててくださった皆様、どうもすみませんでしたー。
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/14(木) 06:42
更新乙です!!
ここからの展開どうなるかワクワクしながら
次回の更新マターリ待ちます。
72 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/09/18(日) 06:01
よっちゃんはゲホゲホと咳き込み、飯田さんはいそいそと資料のページをめくった。
また後ろの機械がヴィンと言ったので「それうるさい」と文句つけたら、即座に飯田さんがリモコンのようなもののスイッチを押した。
とたんに低い振動音は止んだ。
「えー、と、ミキティ?」
「何?」
何の面白味もない白いリノリウム。
ただ今はよっちゃんと目線を合わせずに、かつ私の威圧感をしらしめるには非常にいいリノリウムだと思う。
そういえば飯田さんの気配が消えた。逃げたな?
「その、何てか・・・すんません・・・。」
この美貴の前で使う謝罪の言葉とは到底思えないけど、その調子とよっちゃんの姿が、妙に滑稽で吹き出してしまった。
美貴自身も今のはダサいなと思った。
「何!?ミキティ・・・。」
「っはは、別に。」
よっちゃんはそれでも相当怖かったらしい。
頭をかく手が小刻みに震えていた。

「さて、それじゃ・・・」
また振動音が聞こえてきたかと思ったら、飯田さんがいつの間にか後ろに立っていた。
・・・これまたいけしゃあしゃあと・・・。
「言いたいことも言ったようだし、OKしてくれる?」
今までのは何だったんだと言いたくなるほど、飯田さんはさらっと言ってのけた。
いや、だから、美貴は平凡に暮らしていきたいんだって。
平凡な私にだってできるはず、とか言わないからね。
「普通の人なら山といるのにさぁ、何で美貴なわけ?」
「カワイイから。」
飯田さんが小さく頷いて何か言おうとしたのをさえぎって、よっちゃんがアホ面で言った。
飯田さんは後ろからよっちゃんの後頭部にボールペンを刺すと、何事もなかったかのように続けた。
「このご時世さぁ、普通に見えても実は危なかったりする人いるじゃない?この近辺って特にそういう人多いのよ。」
この近辺って言われても、身近にそんな恐怖が潜んでたって困るし。
クラスのアイツとかアイツとか思い当たる節がいっぱいあるんだからやめてよ。
「まぁ、よっすぃーがそのいい例なんだけど、」
「うぅ・・・」
すぐそこでうずくまってるよっちゃんは、何か言い返そうとしたらしいが後頭部の痛みがそれを許さなかったらしい。
なるほど、美貴って騙されたんだ?
「でもミキティ、すっごく普通だったから。」
・・・何かヤダな。
73 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/09/18(日) 06:02
「だけど完璧によっすぃーの好みよねぇ。最初カマかけてた時笑ったよ。」
今更ながら思うけど、美貴の恋って割と両想い?
「こっちはマジでやってたんですからぁー。人の頭にボールペン突き刺しといて笑ったとは何ですかー・・・。」
何か血が出たような勢いで後頭部の安否を確認するよっちゃん。
いや、正直言ってあれは痛そうだった。
サクっていったもん。サクって。
「てわけで私も命がけだったわけだし、いいよね?」
どういうこじつけなのか、よっちゃんはニコニコして美貴の方を向く。
マジでこいつらラチが明かないけど、スリルのある毎日もひょっとしたらいいかも・・・とか。
「体験版とかないの?」
最近整えてない爪を見ながら、ちょっと思いついたことを言ってみる。
二人は案の定、キョトンとしている。
「だからさぁ、お試し期間とかないわけ?や、何を試すのか知らないけど、一ヶ月くらいならやってもいーよ。」
そうそう、ダブの試供品みたくさ。
そもそもちょっとした刺激がマンネリ化した私の生活に欲しかったわけだし、お試し期間なら死なない程度に大丈夫・・・なはず。
ぼーっと考えていたら、「やったー!!」という耳をつんざくような二人の歓声が部屋中に響き渡った。
・・・美貴そういう大声系嫌いなんだけど。
「一ヶ月ね!一ヶ月!!ありがとう!やっぱミキティ最高だよ!」
そう言ってよっちゃんは美貴の手を両方合わせてぎゅっと握った。

実はちょっと照れたなんてこと言わない。
74 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/09/18(日) 06:02
「それじゃあ早速、部屋に案内するわね。カモン、ロッキーズ!!」
さっきまで冷静に資料をめくっていたはずの飯田さんが、突然人が変わったように指を打ち鳴らし、そして叫んだ。
よっちゃんは隣で、「よっ、ダンスの神様!」とか言ってる。
今の・・・ダンスって・・・
いい加減この二人にうんざりしてきた時、後ろの扉が近未来的にスィーッと開き、女の子が三人、こちらにやってくる。
『こんにt』
「どうも〜。この業界屈指の美少女、プリンセスさゆみんで〜す♪」
前にいた二人が挨拶しようとするのを遮って、後ろから華麗にピンクの女の子が登場。

・・・は?
「あ、そ。で、そっちの二人は?」
「えっ、さゆみって新人さんにまでもスルーされるの?」
「はい、私はエリック亀造エリザベスキャメイエリドリアン亀井エリーゼ亀山その他いろいろこと亀井絵里です。」
長い。無駄に長いよ。わずかながらに殺意を覚えるよ。
「・・・絵里長か。どうも、田中れいなです。」
この子はまともと見せかけて美貴と同じ匂いがする。
ってか何こいつら。
「今日からこの子たちと一緒に行動してもらうからね。」
思いっ切り絶望的なことを、いともあっさりと飯田さんが言い放ってくれた。
無理だ。それは無理だ。例え美貴がゴルバチョフだとしても無理だ。
いやだってもう二人は論外だし、唯一まともそうな誰だっけこの人・・・山田さん?は一番細いし。関係ないけど。
とにかく無理。言っとくけど無理。
「じゃあ、部屋に案内してあげて。その後は任せるから。」
『はぁ〜い』
そんな美貴の心の叫びもむなしく、三人に引きずられて愛しのよっちゃんから引き離されていく。
さながらロミオとジュリエット。
近未来的な扉が私の目の前でスィーッと閉まった。
75 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/09/18(日) 06:03
何か普通の株式会社みたいな廊下が味気なく続いていて、三人がぎゃあぎゃあ騒いでいる。
・・・正確には二人か。
で、話を聞く限り三人は、最近ここに連れてこられた新人で、「モーニング部隊」という中のさらに「6期」というくくりの中にあるらしい。
ここにいる人たちはみんな、美貴みたく拉致られた人たちで、ここにいても大丈夫と言ってくれた人だけが「新人」として加わるのだそうだ。
何かの研究所らしい。
仕事の内容はおおまかに二つに分かれていて、一つは研究を進めるまんま「研究班」という名がついている。
もう一つは何か事態が起きた時に対応する「処理班」。
美貴はどうやら処理班に入れられるらしい。
「ねぇっ!さゆってば信じらんない!!」
やっぱ行動派なのかなぁ美貴って・・・。
まぁずっと研究室にこもって顕微鏡とか覗いてるよりは遥かに面白味があっていいけどね。
「絵里の方がカワイイよねぇ!?」
「はいはい、どっちもかわいか。」
「どっちか一つに決めて!・・・まぁもちろんさゆが選ばれるだろうけど・・・」
「いい?これはれいなのセンスの問題よ。従って絵里を・・・」
「はいはい、じゃあどっちでもよか。」
・・・約二名吊るし上げる。
「るっさいよ。ちょっと黙っててくんない?」
今まで万人が震え上がった藤本EYEで二人を睨みつける。
田中さん(山田さんじゃなかった)が、その他いろいろこと亀井絵里を青い顔でどつく。
とりあえずそれっきり音の振動で空気が震えなかったのは確かだ。
76 名前:『もっと、強くなろう。』第8話 投稿日:2005/09/18(日) 06:03
何か知らないけど、一つのドアの前で田中さんが止まって、殺意を覚える対象ベスト1・2の二人にバイバイと手を振った。
美貴もとりあえず手を振っておいた。あの二人とは一緒に行動したくないと思ったからだ。
これでよかったのかと田中さんを見下ろすと、ニコッとしてうんうんと頷いてくれた。
ま、当然のことだけど、ちょっと安心するよね。
「今日からここが藤本さんの部屋になるとです。・・・散らかってないかな・・・」
田中さんはそう呟くと、何かちくわみたいな棒状のものを取り出して、ドアの丸い穴に差し込んだ。
これって鍵?おぉ、画期的。
ウィーンと機械音をたてて開くドア。中は殺風景な普通の1LDKって感じ。
「よかった。散らかっとらんかった。入ってください。」
ご丁寧に玄関らしきものがあって、田中さんがそこで靴を脱いだので、美貴も真似して脱ぐ。
部屋を見渡してみると、それはもう生活感たっぷりで、いかにも「ここに住んでます!」って感じ。
もしかして田中さんと相部屋?
「えっと、一緒の部屋になるとですけど・・・よかですか?」
今更そんなのやだなんて言えないし、本音はよっちゃんと一緒がよかったなんて下心見え見えだし。
それはもう爽やかに、美貴は「ん。」と頷いた。
77 名前:アイサー 投稿日:2005/09/18(日) 06:07
実は更新(何

>>71
どうもお待たせしてしまってすいません(汗
こんなペースでほんのちょっとですが、勘弁してやってくださいね・・・。

シリアスって言ってたのは記憶の彼方に追いやってくださいな(爆
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 22:59
待ってます。
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:17
突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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