-My sentimental light-
- 1 名前:ダントウ 投稿日:2005/01/13(木) 07:56
- 恐れ入りながら、スレを立てさせて頂きます。
よろしくお願いします。
田中さん、亀井さん中心のお話になるかと。
他には吉澤さんと石川さんも登場します。
では、早速。
- 2 名前:ダントウ 投稿日:2005/01/13(木) 07:58
-
ただ、誰かに必要とされたくて。
もう探してないよ、ってひねた振りしてても、ほんとはずっと探してた。
誰かに愛されて、誰かに必要とされて、
人生で今が最高の瞬間!なんて思えるくらいの
おっきなときめき。
だけど、
吸い込んでも、もう咽なくなった煙草。
道端に座って、どうどうと吸っていたって誰も何も言わないような、
こんな世の中じゃ・・・。
- 3 名前:ダントウ 投稿日:2005/01/13(木) 07:59
-
あたしの、部屋には灰皿がある。
その灰皿には、吸った煙草の後が残っていて。
部屋のドアはいつもわざと開けっ放し。
だけど、誰にも気付かれず。
そんな、虚しい行為には、もう疲れたよ。
こんな虚しい自分など、大切に抱えて何になる?
ふいに涙が滲みそうになる。
と、どっからか視線を感じた。
キョロキョロと周りを見回すと、道のあっち側の向かって左側、
道端に座ってタモさんみたいなでかいサングラスかけた男の人が、
あたしのこと見てた。
あたしと目が合ったのに気付くと、ニコッと笑う。
- 4 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/13(木) 08:00
-
やっばい。
逃げようと思って、立ち上がる。
アイツも立ち上がる気配を感じた。はやく逃げなきゃ。
なんか、ヤバイ。アイツはヤバイ。
何故かしきりに胸がそう言う。
のに、
「待ってよ。」
と、腕を掴まれてしまった。
ん?
「・・・女?」
声が思っていたより高くて、よく見ると浮かれた柄のアロハシャツの胸の部分が少し膨らんでいて。
彼女は、ニヤニヤとまた笑った。
サングラスがスッと取られて、「わ・・・。」とつい声を出してしまった。
- 5 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/13(木) 08:02
-
ニヤニヤと笑う。
でも、さっきみたいな嫌悪感は感じない。
だって、そのサングラスの下は優しい大きな瞳が隠されていて。
そう、つまり、とてつもなく綺麗な女の人だったから・・・。
「ね、君家出?」
「は?」
怪訝な声で答えると、そう言えば肩にぶら下げたままだった大き目のバッグを指で指された。
「これ、止めなよ。」
「あ。」
煙草が手から抜き取られて、それから地面に落ちる。
グシャグシャと踏み潰される。
なんだか、胸が熱くなった・・・。
今までずっと誰かに言って欲しかったこと・・・。
「いくつ?」
「あ、15です。」
「あー?意外と礼儀正しいな、つまんねぇ。」
サバサバした言い草で彼女は言った。
いや、ただ今まで会ったことないような綺麗な人だから、緊張してるだけ・・・。
「名前は?」
「・・・。」
思わず、口をつぐんだ。
いくら綺麗な人だからって、ここは平気で煙草が吸えるくらいの土地柄だし。
そこで声をかけられて名前を教えるほど、馬鹿じゃない。
- 6 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/13(木) 08:03
-
「意外とビビリだし。」
ニヤニヤと笑うその声に思わずカッときて、
「れいな!」
と答えた。
彼女は、またニヤッと笑った。
「ウチは吉澤、よろしくぅー。」
彼女はそう名乗ると、手のひらを差し出してきた。
「ん。」ともう一度突き出されて、仕方なく握手をした。
「で?」
「・・・は?」
吉澤さんは、腕を組むとまるで自然なことのようにそう尋ねてくる。
「だから、家出ですか?って。」
「いや、別に・・・。」
吉澤さんはキョロキョロと辺りを見回した。
パチンコ屋の前で、揉める男たちが遠くに見えた。
「どうだい?吉澤と一緒に来る?」
「は?」
「行くとこないんでしょ?大丈夫。あたし、怪しいもんじゃないし。変なとこには連れてかないって誓うから。」
吉澤さんは、右手の手のひらをあたしに見せてそう言った。
- 7 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/13(木) 08:05
-
「・・・どう考えても怪しいですけど?」
「でも、逃げないね。」
また、ニヤニヤ。
グッと唇をかみ締めるとポンポンと頭を叩かれた。
やだな、涙が出そう・・・。
「じゃ、今日から仲間。」
照りつける太陽が、眩しかった。
吉澤さんの茶色い髪は綺麗に透けて、その笑顔が眩しかった。
涙目になったあたしに、サングラスをかけてくれた。
「うん。かわいいかわいい。」
馬鹿なことかも、しれなかった。だけど、憧れていた何かに、はじめて手が届きそうな気がしたんだ。
- 8 名前:ダントウ 投稿日:2005/01/13(木) 08:05
- 今回はここまでです。
以後、よろしくお願いします。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 12:04
- マジですごく良いです
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 21:52
- いい感じ。
続き期待してます。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/13(木) 23:39
- いいですね。れいなと吉澤さんのやり取りが好感触。
- 12 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/13(木) 23:58
- 連れられてきたのは、赤いオープンカーが泊まった場所。
『荷物載せな?』と言われるままに荷物を預けて、あたしは助手席に乗った。
でかい音楽がスピーカーから流れ出す。
けど、振り向く人はいない。イカれた街だ、つくづく。
吉澤さんは、それにハナウタしながら車を発進させた。
「どこ行くんですか?」
「れいな、それどこの訛り?」
「訛ってます?」
「インタネーションが、ね。」
「福岡です。」
「あー、あの茨城県の上んとこ?」
「は?」
「ジョーダンだよ。」
吉澤さんのジョーダンは笑えなかった。
だって、茨城の上って、なんでそれが冗談?
吉澤さんは、ハナウタを歌う。
どこへ、連れて行かれるんだろう。
ヤバイ場所なら、逃げようと思ってた。
- 13 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/13(木) 23:59
-
でも、着いた場所は意外にまともで、海の側の小さな一戸建て。
青い壁の一戸建て。
「はい、お疲れさん。」
ギアを引き上げた吉澤さんは、そう言った。
「ここに住んどるんですか?」
「カッケーね。福岡弁。」
福岡弁を出したつもりじゃなかったけど。
訂正する気は起きなかった。
「おいで。紹介する。」
紹介?
誰に?まさか、怖いお兄さんがこの青空色の家の中にわんさかってことはないよね?
そんなことをひっそりと考えていたんだけど、見当違いも見当違い。
鍵を開けられた部屋。
ソファーに座っていたのは、華奢で綺麗なお姉さんだった。
「梨華ちゃん。」
吉澤さんはそう言った。
あたしの顔を見て、
「梨華ちゃん、ちょっと疲れてるんだ。」
と付け足した。
梨華さんは、とても綺麗な人。
少し色が黒いけど、ガイジンさんみたいに綺麗な吉澤さんとは真逆で、ほんとに日本人らしい綺麗な顔を
した人だった。
- 14 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/13(木) 23:59
-
「れいな、お前馬鹿だな。」
「へ?」
梨華さんの髪をサラリと撫でる吉澤さんについ見とれていたら、ソファーに座った吉澤さんにそんな風に
言われた。
「お前さー、見ず知らずの人についてくんなよぉー。」
短めの茶色い髪の毛をスッと掻き揚げる。
「ついてこいっつったの、そっちやろが。」
思わずそう呟く。
吉澤さんは、ニコニコと笑っていて。
何故だか、怒る気にはなれなかったから。
「お前、お父さんの昔の姓知ってる?」
昔の姓?
あ、え??
「タナベ・・・。」
「あ、そっか。籍抜けてたんだっけ。」
「はい?」
「兄貴なんだ。」
「え、なんが?」
「だからぁー、お前の父ちゃんの俊夫はあたしの兄貴なの!」
「はい?」
あたしは、愕然とする。
- 15 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 00:00
-
「つっても、兄ちゃんが家でてってからは一回も会ってなくて。聞いたことあるっしょ?ウチの両親もウチが小さい
頃に分かれてさ。兄ちゃんは母さんに連れられて行った。れいなが福岡訛りってことは実家に帰ってたんだろう
ね。」
おばあちゃんの顔を思い出そうと思う。
でも、思い出せなかった。
もう、遠い昔の話・・・。
「しかし、金持ちんとこに婿入りしたあげく、絶縁状態。借金抱えて逃げるとは・・・あの兄貴もよっぽどのボンクラだな。」
「は?マジで妹?」
「マジもマジ。」
あたしは混乱して、家をキョロキョロと見回した。
と、梨華さんが目に入る・・・。
ちっとも、表情を変えずに少し先の床をずっと見つめてる。
吉澤さんは、そんなあたしに気付いたのか細くため息を吐き出した。
「そんな目で梨華ちゃん見んな。来て。部屋、あるから。」
「え?」
「留守電が一件。れいなをよろしく。だとさ。」
「はぁ・・・。」
荷物を持って、階段を上る吉澤さんの後を追った。
なんだこれ、なんだこの展開・・・。
さっきの怪しい人を装った勧誘はなんだったんだ。
真っ白い壁の部屋に通された。
ダンボールが置かれてあって、何故かれいなのベッド・・・?
- 16 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 00:01
-
「引越し屋さんは、素晴らしいよね。」
ダンボールをポンッと叩いて吉澤さんはそう言った。
そこには、お父さんのサイン・・・?
マジでこの人、お父さんの妹なんだ?
「・・・さっき仲間とか言いませんでした?」
「へ?ああ・・・なんか、れいながかわいいからついね。」
吉澤さんはバツが悪そうに笑った・・・。
一気に力が抜ける。
「でも、仲間は仲間じゃん。」
「・・・まぁ。」
渋々納得する。
勝手に、期待したのは、あたしだし。
「夏休みの間は自由に過ごしな。それからのことはそれから考えよう。」
吉澤さんは、優しい笑顔で笑うとまたあたしの頭をポンポンと叩いた。
- 17 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 00:04
-
布団もひかれてないベッドにゴロンと横になる。
さっき聞かせてもらった留守電の声は、ほんとにお父さんで・・・。
その愛想も味気のないしゃべり方もまんまあたしのお父さんで。
お父さんが、いなくなることをなんとなく予感してた。
借金抱えて、いつも切羽詰ってた。
捨てられる前に、自分から捨ててやろうと思った。
なのに、結局あたしが行く場所なんかなくて。
でも、ここにたどり着いた・・・。
期待してた展開とは、かなりズレていたけど・・・。
現実なんて、所詮こんなもんか。
他に行く当てもないし・・・。
どこか、ホッとしてるあたしもいた。
吉澤さん、それから梨華さん・・・。
あの人、なんでちっとも反応しないんだろう。
『疲れてる。』って言ってたけど、そんな問題じゃないと思った。
- 18 名前:ダントウ 投稿日:2005/01/14(金) 00:10
- 今回は、ここまで。
なんだか冒頭だけ読み出すと、
もっと別の期待を抱かせてしまったかもしれません・・・。
>>9 名無飼育さん
>>10 名無飼育さん
>>11 名無飼育さん
レスありがとうございます。
できるだけ頑張ります。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/14(金) 19:56
- 面白そうなのハケーン。
謎めいている二人が気になります。
- 20 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 22:45
-
「れいな!れぇーいな。」
肩をゆすられて、目が覚めた。吉澤さんが微笑んでいた。
体が少し痛い。
あのまま、ベッドの上で眠ってしまったらしかった。
「飯、食うでしょ?」
「あ、ハイ。」
「じゃ、下りておいで。」
ベッドの上で寝ぼけたままボーッとしてると吉澤さんはそういい残し先に部屋を出て行った。
まだボーッとしたまま、階段を下りるとすごくいい香りにお腹が素直に反応した。
ん?
リビングが目に入った瞬間、疑問が生まれる。
吉澤さんと、椅子に座ってる梨華さん・・・もう一人、いる。
こっちに背中を向けてるの、誰?
真っ黒い髪、まさか、そんなぁ・・・。
笑い飛ばそうと思ったのに、振り向いたのはやっぱり思ったとおりの顔だった。
「あ、スペシャルゲスト。亀井ちゃん。知ってるでしょ?」
「知らん。」
四つしか席がなかったので、仕方なく亀井ちゃんとやらの隣に座った。
ほら、またすぐ泣きそうになる。なんだか、見てるとイライラするんだ。
「その態度はねーだろ。あんね、お前が家にいなくて吉澤が愕然としたとき、助けてくれた天使ちゃんだよ?
亀井ちゃんは。」
あたしは、隣の彼女を見る。
俯いて、下唇をかんでる。
嫌なんだ、こういう暗いタイプ。
顔は悪くないと思うのに。
- 21 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 22:46
-
「あんな危ない場所にいるって聞いたときはびっくりしたけどね。でも、煙草吸ってるれいな見て思わず笑っちゃったよ。
サマんなってたね。」
吉澤さんは、ビーフシチューをテーブルに運んだ。
「はい。」
「ども。」
早速、頂こうとスプーンを手に取ると、ビーフシチューの入った皿がスッと遠のいた。
思わずムッとしてその手の主を見る。
「れいなが、今飯にありつけてるのは亀井ちゃんのおかげ。お礼言ってから食べなさい。」
「は?」
思わずそう言ったけど、おいしそうな料理を目の前にして四の五の言ってられなかった。
「どうも、ありがとう。」
おもっきし棒読みで、そう亀井ちゃんとやらに言うと・・・あれ?笑った。
「どういたしまして。」
しゃべった・・・。
なんだ、かわいいんじゃん。ちゃんと、かわいく笑えるんじゃん。
もったいねー!と、思いながらもがつがつと思いのほか美味しいビーフシチューにがっつく。
「梨華ちゃん食べな。」
その声が聞こえた瞬間だけ、顔を上げてしまった。
梨華さんは、優しくそう言われて髪を撫ぜられると、ふっと気付いたようにスプーンを手に取って
ゆっくりとシチューを口に運び始めた。
隣のスプーンを持った手も止まっていて、亀井ちゃんとやらも梨華さんを見つめた。
それから、あたしの視線に気付いたのかハッとして、自分のシチューを食べ始めた。
- 22 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 22:47
-
「吉澤さんってもしやシェフ?」
「あはは!それ褒めすぎ。」
「じゃ、何やってる人?」
「古着の販売員。」
「え?」
「やってたんだけど、辞めちゃった。」
「そーなんすか・・・。」
ビーフシチューの皿を片付けた吉澤さんがまた席に戻ってきて、梨華さんはリビングの端の襖のソファーのところに
行ってしまった。
チラッと梨華さんを伺い見た。
「でも、ほんとにおいしかったです!」
なんだ?この人・・・。
隣の亀井ちゃんとやらがやけに大きな声でそう言ったので、びっくりする。
「そんなに褒められると照れるねぇ。」
吉澤さんにそう言われて亀井ちゃんとやらは、照れくさそうに俯いた。
あたしは、なんとなく面白くない。
だって、亀井ちゃんとやらは・・・そこまで考えて頭をフルフルと振った。
これじゃ、なんか嫉妬みたいで馬鹿みたい。
あたしは、立ち上がる。
「ん?れいな、もう部屋行くの?」
「はい。」
「あ、言い忘れてたけど、亀井ちゃんも夏休みの間ウチに泊まるからね。れいなの隣の部屋。」
「へ?あ、そーなんですか。」
吉澤さんを見た笑顔を引きずったままの、亀井ちゃんやらと目が合ったけどすぐに逸らして階段を上った。
布団を引っ張り出して、ベッドに敷く。
そこに、ゴロンと横になった。
- 23 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 22:48
-
寝返りを打つ。
亀井絵里、だよね?あの子。
学校では、腫れ物に触るように扱われてたれいなに臆することなく近づいてきたクラスメイトに名前を聞いた
ことがある。亀井絵里は、いつもあたしを見てた。
そのクラスメイトは亀井絵里をかわいい、と言っていて。あたしも、それには同意だったけど、やっぱり暗くて
俯いてるところは嫌いだった。
亀井絵里は、何故かいつもあたしを見てた。
視線を感じて目を上げると、彼女がいることが多かったのでそういうことなんだろう。
ウチは女子校で、そういうことも少なくなかったから、クラスメイトはあたしにこう言った。
『あの人、れいなのこと好きなんだと思うなぁ。羨ましい。』
さっきの、亀井絵里を思い出す。学校では、寧ろうっとおしくて、なるべく見ないようにしてた所為か、笑顔は
見たことがなかった。吉澤さんに対するみたいな、明るい声も聞いたことがなかった。
いつもビクビクあたしを見てたのは、やっぱり怖かったからか。
舌打ちをして、起き上がった。
ダンボールを開けて、いくつか物を取り出すと目当てのものは見つかった。
灰皿の灰は綺麗になくなっていて、それを床に置くと鞄から煙草とライターを取り出して火をつけた。
窓際に寄って、窓を開ける。
吉澤さんにバレたら、また怒られそうだし。この部屋、熱いし。
でも、ここからの眺めは結構好きかも・・・。
ふぅ、と煙を吐き出したところで、トントン、とノックの音が聞こえた。
やばいと思いながらも、せっかく火をつけた煙草がもったいなくて、そのまま「どーぞ。」と声をかけた。
吉澤さんが入ってくると思ったら・・・。
「あ・・・。」
そんな風に小さな声で呟いて俯いたのは、亀井絵里だった。
あたしは、いくらかホッとしてまた煙草を口に加えた。
- 24 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 22:49
-
「なん?」
窓際に浅く腰をかけて、そう尋ねる。
「や、一応挨拶しとこうかと思って・・・さっき、しゃべれなかったから。」
なんで、俯いてんの。イライラする。
さっきは、あんな楽しそうに笑ってたのに。
「それだけだから。」
亀井絵里は、そう言うとれいなを見ないまま部屋を出て行こうとする。
「あ、なんで知ってたの?」
亀井絵里が振り返る。やっと目が合った。
気弱い瞳が、なにを?と尋ねてくる。
「れいなが、あそこにいるって。」
「あの、クラスの子達が噂してんの聞いたことがあって・・・。」
合った視線はすぐにはずれて、また亀井絵里は俯いた。
「ふぅーん。そっか。」
あたしは、窓の外を眺めて煙を吐き出した。
亀井絵里がまだいる気配がしたけど、放っておいた。
そのうちに、ドアがパタン、としまった。
潮の香りが、窓の外から微かに漂う。
- 25 名前:My sentimental light 投稿日:2005/01/14(金) 22:49
-
・・・お父さん、どうしてるだろう。
『近いうちに、返せると思う。』ってあの留守電には入ってたけど。
考えてると、なんだかイライラしてきて煙草を灰皿に押し付ける。
やめやめ。うっとおしいことを考えるとは止めにしよう。
吉澤さんが『れいなはなんの心配もすんな。』ってきっぱり言ってくれたし。
それからベッドに横になると、疲れてたのかすぐに眠りにつくことができた。
- 26 名前:ダントウ 投稿日:2005/01/14(金) 22:54
- 今回はここまで。
登場人物総登場。
レスありがとうございます。
>>19 名無飼育さん
余り期待せずにお願いしますw
- 27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/15(土) 02:25
- 文章の雰囲気がすごく好きです。
応援しています。
- 28 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/16(日) 01:35
- お、おもしろそうなのみっけ
作者さんがんばってください
- 29 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/01/16(日) 15:36
- 面白いです、続きが気になりますね。
更新待ってます。
- 30 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 18:40
- うまい文ですね。
登場人物もつぼです・・・。がむばつてくだしゃい
- 31 名前:ダントウ 投稿日:2005/02/06(日) 10:05
- 翌朝、見慣れない天井にボケーッとしてると強制的にたたき起こされた。
眠いままズルズルとひきずられて、車に乗せられた・・・。
やっぱり、笑えるんじゃん。
ばしゃばしゃと飛沫が飛ぶ。快晴。
気持ちのいい海辺。
ちょっとしたプライベートビーチ風に、岩の間に砂浜があって。
吉澤さんと亀井絵里が海に足の先だけ浸かって遊んでる。
あたしが座ってるのとは、別の岩に座って小さく何かを呟いてる・・・歌ってる?梨華さん。
ボンヤリと向こうを眺める。
その視線が、何を見つめているのかはやっぱり今日も掴めない。
「れいなぁ!」
「つめたっ。」
水しぶきが顔面に飛んできて、思わず立ち上がった。
笑ってる吉澤さんと、亀井絵里。
思わず、その光景にムッとなる。
「こっち来いよ。若いのにスカしてんなぁれいな!」
「スカしとらん。」
「じゃあ、来い来い。」
あたしは、渋々二人に近寄った。
だって、こんな浅瀬に足をつけて、水しぶきを掛け合うだけでなんであんなにはしゃげるのか・・・。
とか、思ってたあたしはやっぱりスカしていたのかもしれない。
ものの十分の間に、ただそれだけのことに楽しくてしょうがなくなって全身ビショ濡れになってる
あたしがいた・・・。
- 32 名前:ダントウ 投稿日:2005/02/06(日) 10:06
-
「オバさんは、安心したよ。」
白いタオルがパサッと頭にかけられて、吉澤さんは太陽に細めた目であたしを見た。
それから、梨華さんの方に寄って、そっと髪の毛を撫ぜた。
「吉澤さん、いい人だね。」
隣に亀井絵里が立っていて。
薄いピンクのタオルを肩からぶらさげて、吉澤さんを微笑んで見る。
なんだ、吉澤さんに惚れたのか。
でも、無駄だよ。気付かない?吉澤さんは、きっと梨華さんが好きだから・・・。
眩しい太陽に照らされて、吉澤さんと梨華さんが寄り添う光景は、まるで映画のワンシーンみたいで。
ただ、吉澤さんが笑っているのに表情を変えない梨華さんが、なんとなく悲しくて。
だけど、それがなおさら綺麗に見せるのかもしれない、そんなことを思った・・・。
「れいなが一番!何故なら、昨日入ってないから。」
家に着くと、吉澤さんがシャワーの順番を決める。
さっき、海水にまみれたままのパリパリの服で梨華さんを車に残し、みんなで夕食の買い物をした。
たまに変な顔でチラリと見られたけど、おばさん連中の怪訝な顔に思わず笑ってしまった。
- 33 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/06(日) 10:07
-
「亀井ちゃん上手いよ。そんな顔して卑怯でね?」
順番にシャワーして、吉澤さんが出てくるといきなり『ゲームしよう。』って言い出して、ゲーム大会。
梨華さんはれいなが出てきたときには、もうリビングにいなかった。
あたしは、実はテレビゲームをやったことがなくて。見てることにした。
「ゲーム好きなんです。」
亀井絵里は、少し照れたように笑った。
彼女は、やっぱりあたしを余り見ない。
「あの、」
亀井絵里は画面をジッと眺める。
「ん?」と吉澤さんが、涼しげな視線をあたしに向けた。
「この人、なんでここにいるんですか?」
亀井絵里を指差す。
今日の間に、何度か思った。
亀井絵里がビクッとして、俯く。吉澤さんはそんな彼女を見て、
「『この人』とか言うなよー。」
とあたしの膝を軽く叩いた。
名前の呼び方がわからないからその言葉を使っただけだ。
「亀井ちゃんは、夏休みの間することがないって言うから、吉澤が誘ったの。これについて、れいなが文句を
言う筋合いはゼロ。OK?」
確かに、ここは吉澤さんの家なわけだし・・・。
でも、ほらあたしを見ようとしない亀井絵里がイライラさせるから悪いんだ。
その後は、あたしも参加させられた。
亀井絵里は、ほんとに上手かった。吉澤さんは言っちゃ悪いけど、ヘタクソだと思う・・・。
でも、そのおかげでいっぱい笑うことができた。
- 34 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/06(日) 10:08
-
吉澤さんの家に来てから、今まで生きてた数年がなんだったのかと思えるくらい、毎日は楽しくて。
いつも強制的に遊びに参加させられたので、今の自分の状況だとか、そんなの考えないようにしようと思わなくても
余り考えずに済んだ。
絵里−そう呼んでいいと言われたので。−は、あたしの前でも普通にしゃべるようになったし、ここにいて嫌だと思う
こともなくなった。
『遊園地に連れてってやる。』と吉澤さんが言って、あたしと絵里は喜んで車に乗り込んだ。
赤いオープンカーに三人で乗り込むと、どこまでも行けるような気さえした。
ただお昼ご飯の用意だけして、残していく梨華さんのことが気になった。
遊園地に着いて、ジェットコースターにたった一回乗っただけ。
なのに、「若いモンは遊んで来い。」そう言って、ベンチに座ってしまった吉澤さん。
「じゃ、行く?」
あたしが、問いかけると「うん!」と絵里は嬉しそうに笑った。
その笑顔になんだか嬉しくなる。
あたしと二人でいても、いつもよりよく笑ってくれる絵里にもっと嬉しくなった。
遊園地、好きなのかな?と思う。
あたしは、ほんとに小さな頃の記憶だけどジェットコースターとか、海賊船が大好きで。だけど、絵里は苦手みたい。
苦手と言いながらも、結局一緒に乗って、きゃーきゃーはしゃいであたしの腕に捕まった。
れいなはやっぱり平気だったから、なんだか、得意な気分になった。
今なら、絵里をれいなも素直にかわいい子だなって思える。
だってほら、海賊船に酔ったらしい絵里に腕を組まれて園内を歩くと、男の人が絵里のこと見よぉよ。
見られてるのは絵里なのに、何故だかれいなが得意な気分になる。
ジュースを買ってから、さっきのベンチでダラリとしていた吉澤さんに絵里と二人で近寄った。
「吉澤さん、どーぞ。」
絵里が、笑って吉澤さんに買ってきたオレンジジュースを渡す。
- 35 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/06(日) 10:08
-
「おお。ありがとう亀ちゃん。」
笑う絵里を見てた。
二人でジュースを頼んでいると、『あっ、吉澤さんにも買って行こう?』と絵里が言って、楽しそうに吉澤さんの好きな
オレンジジュースを頼んでいた。
なんとなく、面白くない気分になった。
ドカッとベンチの端に座る。
絵里は、あたしを見てそれから吉澤さんを見てその真ん中に座った。
「吉澤さん、梨華さんのこと聞いていいですか?」
あたしの質問にびっくりしたのは吉澤さんじゃなく、絵里だったようで彼女はびくっとあたしを見た。
眉毛を上げて、なに?って顔して吉澤さんを見た。
「んー、そりゃ気になるわなぁ。」
絵里が、小さく頷いた。
「梨華ちゃんはね、自閉症なんだ。」
「・・・ジヘイショウ?」
?マークが浮かんだあたしとは対象に、絵里はそれがなんのことだか知ってたみたいだった。
「そう。生まれつきの障害でね、人と接することとかコミュニケーションが極端に苦手なんだ。
うん・・・梨華ちゃんの意識がいつもどこに向いてるか、あたしにもまだわかんない。」
「でも、自閉症ってある程度よくなるって聞いたこと、あります。」
絵里が、真面目な声でそう言った。
吉澤さんは、頷く。
「梨華ちゃんね、幼馴染なんだけど。小学校二年生ぐらいだったかなぁ?そんくらいのときから、全然部屋から出して
貰えなくなったんだ。」
吉澤さんが俯いて、オレンジジュースの入った容器がちょっとだけ凹んだ。
- 36 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/06(日) 10:09
-
「去年、あたしがあの家から連れ出してきた。何度も何度も土下座して。そしたら、梨華ちゃんのお母さんなんて言ったと
思う?『それなら、もう二度とここには来ないでね。』って言ったんだ。ウチだけじゃないんだよ。梨華ちゃんが、ウチと
一緒に家を出るって言うのに・・・。だから、うん・・・梨華ちゃんの自閉症はほとんどよくなってない・・・一人でいることには
慣れてるみたいだけどね・・・。」
お昼を示す太陽が、丁度吉澤さんの顔に影をつくって・・・。
絵里も、隣で唇を引き結んで俯いていた・・・。
- 37 名前:ダントウ 投稿日:2005/02/06(日) 10:19
- 更新です。
ここの亀井さんは黒髪ロングのままってことで
言わなくてもわかるとは思いますがw
>>27 名無飼育さんさん
ありがとうございます。
頑張りたいです。はい。
>>28 名無飼育さんさん
ほぉーい。
なんとか頑張れそうです。きっと。
>>29 通りすがりの者さん
まだ続きを気にして頂けるでしょうか?(w
>>30 名無飼育さんさん
ありがとうございます。
がむばりまふ。
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 21:06
- GJ!!最後まで見守りたい作品ですね・・・。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/10(木) 17:35
- 独特の雰囲気が良いです。
これからも期待してます。
- 40 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/12(土) 15:24
- ぜひ!まったりと続きの更新を待たせていただきます。
- 41 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:17
-
「また吸ってる。」
部屋に入ってきた絵里が、あたしの煙草を取り上げた。
「勝手に入ってこないでください。」
その手から煙草を奪い返す。
「れいなってほんと、不良だよね。」
「ほっとけ。」
あたしが言い放つと、絵里が笑う。
ほとんに明るくなったなぁ。もう、俯いていることなんてほとんどなくって。
「何?」
思わず、笑顔を見つめていると、そんな風に尋ねられた。
「ううん。」と首を振る。
「梨華さんの話。びっくりしちゃった。」
ああ、それが話したかったのか。
それが彼女がこの部屋に入ってきた理由。
なんだか、急に胃が凭れたみたいな気分になった。
「でも、ラッキーやん?」
「へ?」
「吉澤さん、取ったらよか。」
視線を逸らして、窓の外に煙を吐き出した。
- 42 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:17
-
バチン−
ほっぺたにすごい衝撃。
煙草が、窓の外に飛んで行った。
クラクラ、する・・・。
「最っ低・・・。」
今まで聞いたことないくらい、低い絵里の声が聞こえて。
ほっぺたはジンジン痛んで、駐車場に落ちた煙草がボンヤリ光るのを滲んだ目で見ていた。
ドアの閉まる音がした。
胸が、痛い・・・。
部屋を出る。階段を下りる。
『ねぇ、梨華ちゃん。好きだよ・・・。』
ほら、リビングを通ると聞こえる。
襖の向こうの声。
吉澤さんは、梨華さんが好き。だけど、絵里、好きだったら奪えばいーじゃんか。
あたしは、最低で不良かもしれないけど、なんだか絵里の幸せを、
なんでだか、強く願っちゃうから・・・。
- 43 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:18
-
駐車場に出ると、ほっぺたに涙が落ちて、はたかれた部分がヒリと傷んだ。
赤い火を踏んで、消す。グチャグチャに踏み潰してしまえ。
フィルターから、綿みたいのがはみ出て・・・それもすぐに涙で見えなくなって・・・。
あたしは、そこに座り込んで一人で泣いた・・・。
- 44 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:19
-
ああ、家に帰りたい。
ここに来て、はじめてそう思った。
だって、あたしは自分の気持ちに気付いてしまった。
絵里が、好きだ・・・。
だけど、絵里は。
だけど、吉澤さんは。
引っ叩かれたほっぺたが痛い・・・。
胸も・・・。
重い気持ちで、リビングに下りて行くとあたしの顔を見ようとしない絵里と、あたしの顔を見てびっくりした
吉澤さん。梨華さんは、いつものように静かにそこにたたずんでいた。
あたし、ほんとに最低かも知れない。梨華さんを、憎らしく思う・・・。
絵里を。俯いてばっかだった絵里を、いつもあたしを怯えるみたいな目で見てた絵里に、あたしの頬を張らせる
ぐらい前向きにさせた吉澤さんが、あんなに貴方のことを思っているのに。
- 45 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:20
- そんな日も、吉澤さんは出かけようと言い、絵里が頷く。
その嬉しそうな笑顔に胸が痛くなって、あたしは体調が悪いと誘いを断った。
二人で過ごしたら、吉澤さんもきっと絵里を好きになるよ。
さっきからずっと目を合わせなかったあたしを、やっと心配するみたいな表情で見てきた絵里に、視線でそう伝えた。
絵里はかわいいから、一緒にいれば、吉澤さんもきっと絵里を好きになる。
あたし、こんなに悲観的な性格じゃなかったはずなんだけどな。
二人は、元気に外に出て行って、ガチャンと玄関のドアが閉まる。
だってさ、吉澤さんがかっこいいんだもん。
吉澤さんを見てる絵里の笑顔、好きなんだ・・・。
自室に戻り、ベッドにゴロンと横になると煙草を咥えた。
絵里が、思い浮かんだ。
いつも、ドアを開けては『煙草やめなね。』なんて、心配そうな顔で言ってきた。
吉澤さんに向けるような笑顔は、れいなにはほとんど向けてくれなくて。
けど、あの心配するみたいな表情はれいなだけのものって思う。
それだけ考えて、なんだか笑えた。それから、涙がちょっと出た。
心配ってなんだよ。
その所為で、それだけの為にほんとはそんなにもう好きじゃない煙草を止めたくない自分が悲しすぎる。
止めてやる。
取り出した一本をギュッとひねりつぶして、灰皿に突っ込むとジュースでも飲もうとリビングに下りた。
少し、ドキッとする。
- 46 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:21
- 梨華さんがいつもみたいにソファーに座っていたから。
その顔は、ほとんど表情を映し出さないけど、その所為でなおさら綺麗に見える。
冷蔵庫に近づいて、オレンジジュースを注ぐ。
また、絵里が思い浮かんでフルフルと頭を振った。
ふいに、スッと梨華さんが、立ち上がった。
驚いて、ジュースを注いだコップを落としそうになった。
何びびってんだろ、あたし。
梨華さんがゆっくり近づく。
そして、オレンジジュースをジッと見つめた。
「あ、飲みます?」
グラスを差し出すと、それを手に取る。
それから、コクコクとオレンジジュースが喉を通って行った。
あたしは、なんだか嬉しくなっていた。
梨華さんと、目が合う。笑ってみた。
ん?なんか、うっすら微笑んでるように見える。
すぐに目がそらされて、梨華さんはコップをテーブルに置くとソファーへと戻って行った。
あたしは、梨華さんの隣に座ってみる。
悪魔が、囁いた。
彼女をもしれいなのものにできたら・・・絵里は、吉澤さんと幸せになれる?
そこまで考えて、頭にカッと血が上った。
- 47 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:22
- そんなことより、今頃どこかで楽しく遊んでるだろう吉澤さんと絵里に・・・嫉妬した。
吉澤さんに、嫉妬した。二人っきりになんか、やっぱりするんじゃなかった。
血が沸々と沸いてくる。まるで、めちゃくちゃだ。あたしは、ワガママだ。
梨華さんが、クスッと笑う。
それに、意識を連れ戻された。
奪ったら、吉澤さんはどんな顔をするんだろう・・・。
そうだ。れいなは、いつも吉澤さんに憧れてた。
服の趣味はわからないけど、いつも輝くようなそれでいて優しい笑顔を浮かべるあの人に。
年の所為もあるのか、非の打ち所なんて、れいなからはちっとも見つからなくて。
絵里の・・・心を奪った吉澤さんが羨ましくて、でも、れいなじゃ勝てそうになくって・・・。
ずっと、ずっと嫉妬してたんだ。
「れいな・・・。」
小さな、鈴みたいな声が聞こえた。
え?今、梨華さんしゃべったと?
れいな見て、笑ってない?
あたしは、嬉しくなった。もしかして、梨華さんはれいなを必要としてくれるかもしれないと思った。
だから、ゆっくり髪に触れてみた。ほら、嫌がらない。吉澤さんに並んだ。
じゃあ、ほっぺたに触れてやる。
綺麗なのにほっぺただけは、妙に幼くてほんとは何度か触れてみたいと思ってた。
ゆっくりとほっぺたに触れた瞬間―――
「うあーあーあー!!」
梨華さんが立ち上がって、急に叫びだした。
な、何?
「梨華さん?」
「あー!あー!!」
耳をバンバンと叩く。それは、まるで小さな子供のような動作で、あたしは怖くなった。
ガチャン−
と音がして、
「梨華ちゃん!?」
吉澤さんの声がした。
あたしは、涙目で思わず床に落ちた格好のまま、吉澤さんを見た。
梨華さんは、わめき散らす。
絵里は、ボーゼンと梨華さんを見てた。その梨華さんをギュッと抱きしめる吉澤さんを見てた。
- 48 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/19(土) 22:23
- 吉澤さんが、抑えてゆっくり目を覗き込んで、『梨華ちゃん?わかる?』と言うと、梨華さんはやっと小さくなった声を
消して、耳に当てていた手も下ろした。
「あっちの部屋、行こう?」
吉澤さんがゆっくり言って、襖の向こうに梨華さんを連れていく。
あたしは、ボーゼンとその様子を見つめていた。
吉澤さんが、出てきて襖を閉める。
「れいな、何した?」
吉澤さんに、強い目で睨まれて胸の中がカッとなる。
そんな本気で怒らんでもよかろが。
絵里が、見てる前で。
「キス。」
嘘をついた。
見てみたかった。本気で、怒るとこ。
それから、どうしようもないあたしを、そう
「お前っ!!」
胸倉をガシッとつかまれる。
殴れば、いい。
吉澤さんの手がピタッと止まる。
「なんね?キスもまだしたことなかとや?」
「お前!最悪だ!!」
拳が振り上げられて、
「吉澤さん!!」
目を瞑った瞬間に、影が降った。
フワリといい香り・・・。
絵里が、あたしをかばうように目の前を塞いでた・・・。
- 49 名前:ダントウ 投稿日:2005/02/19(土) 22:27
- 更新です。
レスありがとうございます!!
>>38 名無飼育さん
是非、最後まで見守ってやってください。
>>39 名無飼育さん
ありがとうございます。
頑張ります!
>>40 通りすがりの者さん
まったりと待って頂ければ丁度いい感じだと思いますです。
- 50 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/20(日) 15:34
- ついに言ってはいけない事を 汗
気になります!かなり気になる展開です!!
更新待ってます。
- 51 名前:ゆら 投稿日:2005/02/21(月) 17:28
- 同板に書いてるものです^^
すごくいいですね!上手ですね!
楽しみにしてます^^
- 52 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/21(月) 19:34
- G ちゃいこーです。
J 田中さんの真理描写うまいすね〜
!!
- 53 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:46
- 吉澤さんは、拳を下ろした。
あたしは、耐え切れなくなって部屋に駆け込んだ。
帰ろう。もう、家はないかもしれないけど。
もう、ここにはいられない。吉澤さんが許してくれない。
あたしは、馬鹿だ。
嘘だと、言おう。許してもらおうとは思ってないけど。
涙が溢れて止まらない。
あたしは、馬鹿だ。さっきは、どうかしてた。
でも、きっとそれだけじゃ済まないから。
鞄に荷物を手当たり次第に詰めていると、ノックの音がした。
絵里だと思ったので、放っておいた。
カチャ−と音がして、はいってくる。
「なんね?勝手に入ってくんなって言ぃよろぅが。いっつも。」
鼻声が出る。
知られたくないのに。
- 54 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:46
- 「ね、れいな。梨華さんのこと、好きだったの?」
絵里も、何故だか鼻声で。
泣いてるんだろう、と思った。なんだか、さっきの光景はすさまじかったし、それも当たり前のことかもと思う。
それに、今のあたしによく似た、胸が引き裂かれるような気持ち。さっきの吉澤さんに絵里は感じたはずだから。
あたしは、つくづく馬鹿だな。
「なんで帰ってきたとや?せっかく二人っきりになれたのに。」
涙で声が滲む。
随分、帰ってくるのがはやかったから。
それだけが、少し気になっていた。
「れいなが、あたし昨日殴っちゃったし、心配になって・・・。」
心配・・・また、それか。
どうせ、あたしは一個年下で。吉澤さんみたいに頼りにならなくて。
涙だって、全然止まらなくて。もういいと思ってた絵里のことだって、全然諦められてなんかなくて・・・。
梨華さんにだって、拒絶された・・・。
「梨華さんのこと好きだったなら、ごめん。」
「なんで謝ると?あんなんなってれいなが悪いに決まっとろぅが。」
わざと、明るい声で言った。
こうなるように、仕向けたのはれいななのに、絵里の口から『梨華さんのことが好き?』そう聞かれることがこんなに
辛いことだとは思っても見なかった・・・。
「れいな、出てくの?」
「しゃんなかやろ。こんなことになって、ここにおれんけん。」
「でも、行くとこないよね?」
荷物がもう見えるところに転がってなくって、しょうがなく絵里の方を向いた。
赤い目と伝う雫が、胸をギュッとする。
- 55 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:47
- 「退いて。おれんけん。ここには。」
目を逸らした。
「ヤだ。」
「なんで?あ、もしかして、れいなおらんなったらこの家追い出されると思ってる?大丈夫やろ。吉澤さん、絵里のこと
気に入っとぉはずやけん・・・。」
「そうじゃないもん。」
「退いて。」
「ヤだ。」
なんで・・・なんで退いてくれんのやろ・・・。
泣いてる顔なんて、できれば見られたくなくて。目を見られないけど、きっとずっと見られてて。
恥ずかしくてたまらない。はやく、出て行きたい。出て行かせてよ。
「ふぁ?」
鼻水としゃっくりあげたのとで詰まった喉から変な声が出た。
絵里に・・・抱きつかれてる?
心臓が、ドキドキと鳴る・・・。
なんで?
「絵里、離して。」
「ヤだぁ・・・。」
離してくれんと、こんなん・・・。
あたしは、ズリズリと床にくずれおちた。
- 56 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:48
- 涙が溢れて止まらない。
絵里が、目の前にしゃがみこむ。
それから・・・え?
「なっ、なんした!?」
唇を押さえてのけぞった。
だって、さっき・・・絵里の唇が・・・れいなのに・・・。
「キス。」
絵里は真っ赤な目で、ジッとれいなを見つめて言った。
「意味わ、わからん。なんしよぉとや?」
涙がぴたりと止まってしまった。
「だって、絵里、れいながずっと好きだったのに・・・。」
「・・・は?」
心臓がドクドク脈打っていて、聞き間違えたと思った。
でも、絵里は俯いていて・・・。
「え、なん?意味わからん。絵里、吉澤さんが好きなんっちゃろ?」
絵里がパッと顔を上げる。
「違う。れいながずっと、好きだったもん。」
はっきりと、そう言われた。目をジッと見つめられて・・・。
「なのに、あんな風に・・・梨華さんにキスしちゃうしっ・・・もう、帰るとか、言うからっ・・・。」
絵里はしゃくりあげはじめて、震える声でそんなことを言う。
・・・え?なに?わからん・・・。
わからんけど、目の前で俯く姿が余りに頼りなくて思わず腕を回して絵里のことを抱き寄せた。
絵里がギュッとしがみついてくる。
- 57 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:48
- 彼女がひくひくとしゃくりあげるのを何度か聞いた後で、やっと事態が飲み込めた。
何それ・・・。さゆが言ってたこと、当たってた?絵里がれいなを好きだって・・・。
れいなの、完璧な一人相撲やったとや?
みんな、巻き込んだ・・・。
黒い長い髪の毛の匂いに酔ってしまいそうになりながら、熱に押しつぶされた喉に力を入れて言葉を放つ。
「嘘やけん。・・・梨華さんとキスとか、嘘。吉澤さんにヤキモチ妬いとった。絵里が、吉澤さんのこと好きやと思っとった
けん・・・。」
絵里がぴくっ反応して体を離そうとしたけど、ギュッと腕に力を込める。
「れいなも、絵里のこと好き・・・。」
情けない・・・。語尾が涙で震えた。
そのうち自然に涙が引いて、二人で吉澤さんに謝りに行った。
全部、素直に話すと吉澤さんは、「よかったぁ・・・ビビらせんなよ。もう・・・。」とヘナヘナとソファーに寄りかかって、
それからちょっと涙目でれいなと絵里の頭をポンポンと叩いた。
- 58 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:49
-
- 59 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:49
-
日も暮れかけて、オレンジに染まる浜辺を歩く。
絵里と、手を繋いで。
今夜、絵里は家に帰る。
れいなは、ここに残る。
ここに残って、こっちの学校に通うことになると思う。
絵里と、一晩中抱き合って過ごした夜、絵里が言った。
『絵里ね、煙草の匂いのするキス、してみたかったの。』
くすぐったそうに笑って、そう話してくれた。
『れいなが、煙草を吸ってるって知ってから。』
あたしは、ポケットに忍ばせたそれに手を当てた。
ガサガサと取り出すと、絵里はキョトンとした。
「え、れいな止めたんじゃなかったの?」
「止めたよ。」
また、キョトンとする絵里をほっぽって煙草を咥えて火を点けた。
一息吸い込んで、吐き出した。
頭がちょっと、クラッとなる。
「絵里、キスしよ。」
繋がれた手を引いて、それから唇を重ねた。
深いキスをして、絵里に肩を押されて離れる。
「煙草の匂いした?」
上目遣いの絵里に尋ねる。
「した。」
そう笑う絵里の目には、少し涙が滲んでるように見えた。
「でも、いつものキスのが好き。」
「マジで?せっかく禁煙やめたのに。」
「え?」
「うっそぉー。」
しばらくブラブラと浜辺を歩いていた。
向こうから、吉澤さんが大声を上げて走ってくるのが見えた。
- 60 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:50
- 「れいな!れいなぁ!!」
あたしの目の前で、かがみこんで肩で息をする。
「どうしたとですか?」
「あんなっ、兄ちゃんが借金返したって!!だから、お前またあの家に住めるよ!!」
「え?でも、なんで??」
借金、結構な金額があったはずだ・・・。
「ああ、福岡のれいなのばあちゃんに頼みまくったらしい。」
れいなは、がっくりと落ち込んだ。
そう言えば、ばあちゃん金持ちなんだったっけ・・・?
どうしようもない、父親・・・。
「ほんとに?れいなとまた同じ学校通えるんですか?」
絵里がそう言って、気分が晴れた。
どうしようもない父親でも、感謝しなくちゃ。
一番感謝するのはばあちゃんかな。顔は、思い出せないけど・・・。
「よかったなぁ、二人!」
よかったよかった!!と吉澤さんははしゃいで、その後ぽつりと『ウチも梨華ちゃんとまた二人暮らし』なんて言葉が
ポロリと聞こえてきて、絵里と顔を見合わせて笑った。
バレないように、チュッとキスを交わしたら、絵里が呟いた。
「まだ煙草くさい・・・。」
繋いだ手をブラブラ揺らして、二人で笑った。
- 61 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:51
-
ね、絵里?
絵里となられいな、人生で最高!って思える時間が何度でもつくれそうな気がしよぉよ。
やけん、繋いだ手をこのまま離さんとおって欲しい。
夏休み最後の夕日が、絵里の頬を染めながらゆっくりと落ちていく・・・。
- 62 名前:My sentimental light 投稿日:2005/02/26(土) 05:52
-
その日の夕食は、少しだけ泣いた。
なんだかんだ大変だったけど、毎日ほんとにびっしりで、ほんとに楽しかった・・・。
ここんとこ毎日、笑ってご飯が食べれてそれが、無くなると思うと無性に寂しくなる。
吉澤さんが、ポンポンとあたしの頭を叩いて笑った。
「またいつでも遊びに来い。」
その目が優しくて、また涙が滲みそうになって慌てて大好きなビーフシチューを口にかき込んだ。
ほんとに、探してたのはこんな風な日常・・・。
今夜、家に戻ったらすぐに寂しくなるのかも。
でも、何度だって遊びに来てやる。
あたしの涙に気付いた瞬間、ギュッと手を握ってきた絵里と一緒に。
何度だって来てやるから、覚悟しといてよ、吉澤さん。
あたしが涙目を向けると、吉澤さんはやっぱり優しい目をして、でも少しだけ涙を浮かべて、
「あー、吉澤も年かな。」
なんて言って笑った。
あたしは、笑う。絵里も笑う。梨華さんは、嬉しそうな顔でシチューを食べてる。
今までの人生で一番に幸せな夕食は、間違いなく今夜だと思った・・・。
FIN.
- 63 名前:ダントウ 投稿日:2005/02/26(土) 05:55
- 気がつけば、ラスト更新。
みなさんの期待に沿えてればよいのですけど。
読んでくださったみなさま、レスをくださったみなさま、
ありがとうございました!
- 64 名前:ダントウ 投稿日:2005/02/26(土) 05:56
- レスありがとうございます。
>>50 通りすがりの者さん
こんなんなりました。
いつもレスありがとうございました!
>>51 ゆらさん
どもども。
恐縮です。ありがとうございます!
>>52 名無飼育さん
嬉しいです。
ありがとうございます!
- 65 名前:ダントウ 投稿日:2005/02/26(土) 05:56
- ラスト隠し。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 10:24
- よかったどぇすぅ☆
いんやぁ。ホントよかったぁ。
- 67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/26(土) 18:47
- よかったよかった( ;∀;) カンドーシタ
なんか終わりってさみしいなぁ・・・。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/27(日) 16:07
- 初めてレスをします。
切なくなったり、笑ったりと読んでる最中は
色々と楽しませてもらいました。
今までお疲れ様でした。
また今度、作者さまがこのような素敵なお話を
お書きになられた時はすっ飛んで見に来ます。
- 69 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/02(水) 23:41
- 完結お疲れさまでした。 すごくよかったです。 実はですね、もしでいいんで、ぜひ続編などもしてくれると幸いです。 石川さんの事も気になりますし、いえ!出来たらでいいので、気分的にお願いします。 本当にお疲れさまでした!
- 70 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/05(土) 11:26
- レスは初めてですが、ずっと読んでましたよ。
すごく良かったです。
お疲れ様です。
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