Cinema

1 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/01/18(火) 20:13
某所に連載していたネタです。折角なのでこちらで掲載させていただこうと思います。

※微妙に鬼畜テイストが混ざっているのでご了承ください。
2 名前:序章 投稿日:2005/01/18(火) 20:14
さすがの3人も状況がのみ込めて来たようだ。
一番大きくて良く育ってるのは真っ青になって全身をぶるぶる震わしてる。
「どうした?寒いのか?」声をかけてやるとピクンと弾ける。目が焦点を失ってる。

まん中(笑)はそれなりに覚悟を決めた様子だ。
「お願いします。なんでもしますから、なんでもしますから無事に帰してください。」
なんでもか、つまり無事じゃなくなるんだけどな(・∀・)ニヤニヤ

一番小さいのが一番元気だ。顔を真っ赤にして
「お前なんてこわくなか!噛みついちゃるけん、泣いても知らんとよ!」
ホント、可愛いよな。

とりあえずタバコをくわえて3人を眺め回す。どの順番が一番楽しいだろうか?
3 名前:序章 投稿日:2005/01/18(火) 20:15
なんか勘違いがあるといけない。もう一度彼女達にオリエンをする。
「いいか?俺は援交の斡旋屋でもなければ、裏ビ業者でもない。
映像作家だ。プロデューサー・監督・脚本・演出・編集ついでに営業。それがこの俺だ。
そして主演はお前たち。
お前達がこれまでにどんな映画を見たか、あるいは語るに足る映画を何も見ていないか。
そんなことは関係ない。俺たちは芸術家だ。フィルムのもとに平等なんだ。分かるか?」

「カメラは…?」
亀井つったっけ?今日はオリエンと軽い演技指導だ。カメラは使わない。
そしてもう一つ。質問に質問で返すのは認めない。はいかはいかはいかいいえだ。
分かったか?
「は、はい…」
じゃ、とりあえずちっこいの、田中?亀井が田中をひっぱたくところからだ。
「え…?」
3人の声が重なった。さあ、楽しませてもらおうか。
4 名前:序章 投稿日:2005/01/18(火) 20:17
ザワザワ…。
「えりがれいなをはたくと?」
3人いればホントに字の通り姦しい。これを考えついたのは中国人か日本人か。
何を調べればわかるかな…。こんなことを考えるうちに3人は静かになって俺を見つめる。

パンッ!平手が一閃。
亀井があさっての方向を向き、数秒の間を置いて頬をおさえる。
完璧!
今のがお手本。さ、やってみろ

5分ほどの沈黙の後、亀井はようやく動き出した。
「ごめんね。ごめんね、れいな」
「ちょ、ちょー待つと、えり!」
べちっ。…

びんたは手の平じゃない、手首だよ。手首を使えばいい音が出るんだ。
そう言っても二人は口を開けて俺を見つめるだけだ。
しかたないな。パンッッ!

「痛いの…」道重の目が見開かれる。そこに写るのは驚愕。
お前、今自分には関係ないと思ってただろ?
5 名前:序章 投稿日:2005/01/18(火) 20:18
お前さ、そんなんで立派な大人になれると思ってんの?
「さゆ、そういうのよくわからないの…」
まあいいや。おいおい分かってくるだろう。
分からなくてもこいつらがダメなら別の女優を見つければいい。

亀井、続けろ。お手本ならいくらでも見せてやるから、リラックスしてけ。
べち、ぺち、ぱち、パンッ、ぺちん、ぱす、ピシィィ…
田中の頬が腫れていく。涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。嗚咽は洩らさない。
「えり、遠慮することなか!もっと頑張れば楽になるたい!」
思った通り気が強い。もう一押しかな。
白かった道重の頬はりんごみたいになってる。俺がお手本を見せてるからな。
「えり、れいな、いたい…、いたい。たすけてよ、えり、れいな」
…こいつ何か隠してる。なんだか分からない。でも「隠してる」ことそのものに価値があるのか。
とにかくもう一押しだ。それでダメなら!いっそのこと!
6 名前:序章 投稿日:2005/01/18(火) 20:19
亀井よぉ。ホントにお前ら友達なの?
ぺち「えぇ?どういう意味ですか?」
友達なら喧嘩ぐらいしたことあるだろ?
ぱち「そりゃあ、」
あるはずだ。嫌いなとこぐらい。
「…」
生意気だと思ったことないのか?へこまされたことないのか?
殴ってやりたいと思ったことないのか?殺してやりたいと思ったことも?
それとも二人をゆっくりなぶり殺してやりたい、今そう思ってんのか?

パァァン!ピシィイイィ!

道重が凍り付いている。
「ごめんね、えり。そんなに気にしてたなんて、ほんとにごめんね、えり。」
田中は子供のように、や、子供なんだが嗚咽をもらしてる。
亀井はただ二人を抱きしめている。こんな色っぽい顔するなんてな。
こいつら最高だ。決めた。俺の作家生命はこいつらに預ける。
7 名前:クランクイン 投稿日:2005/01/18(火) 20:21
2日が過ぎた。頬の腫れがひくのを待つ間にも仕事はできる。
楽しいことばかりじゃない。だがあいつらは俺を待ってる。
だが時間は俺たちを待ってはくれない。

現場に戻ると、小動物のようにおびえる六つの瞳が俺を迎える。
腫れはすっかりひいた。カメラを向けて話しかける。
お前らあれから何してた?あのときのことは何て?どうせ俺の悪口で盛り上がったんだろ?
蛍光灯の下で伏目がちに応える、おびえた3人の女の子。いい画だ。
ピクニック行くぞ。準備しろ
「え、…?」手を振り上げてみせる。
「は、はい!」
今日は日差しも風もいい。陽光の下の画を撮ることに決めた。
8 名前:クランクイン 投稿日:2005/01/18(火) 20:22
今時渋谷あたりで厨房ナンパしてもいい画は撮れない。
所謂「素人中学生本番ビデオ」はみんなラブホかウィークリーマンションだ。
自主映画がそれをやっても意味がない。だからこの陸の孤島に連れて来た。

久し振りに外に出た3人は楽しそうだ。俺は寝転がってカメラを回す。
なあ、3人の中で一番の田舎出身は誰だ?陽光は人を優しくさせる。
田中と道重が顔を見合わせた。やや間を置いて田中がこたえる。
「やっぱり、さゆ?」「れいなよりはさゆ、かな?」亀井がやけに自信ありげだ。
宇部だって結構都会だぜ?村から町をすっとばして市になったとこなんて他にないしね。
自然は結構残ってるな。あ、小郡駅の立ち食いうどんは結構好き。
「今は新山口…」道重は明らかに驚いている。
「監督、宇部知っとう?」田中、馴染んでやがるな(笑)
知っとうもなにも、生まれだけは宇部じゃいね
「変な宇部弁!」そうだ。その笑顔。

「きゃ、なに〜、これ!」亀井が情けない声を上げる。
「セミの抜け殻!こんなんがこわいと?」
「初めてセミ捕まえたのはじいさんちのそばの林だったかなぁ。」
「さゆもお兄ちゃんと一緒に虫捕り言ったことあるの」
「いつもお姉ちゃんと一緒だったんじゃないの?」
「お姉ちゃん、昔は体弱かったから…」
そうだ。今この瞬間を切り取って、永遠にする。それが俺の仕事。
9 名前:クランクイン 投稿日:2005/01/18(火) 20:23
3人が弁当を食べているあいだも、カメラは回りつづける。
普段3人でどんな遊びしてる?
「プリクラ撮ったり、一緒に歌ったり、踊ったり」
「カントクが出かけてるときも練習しとったんよ」
見てみたいな。「恥ずかしかね!」笑ったりしないからさ
二人より早く食べ終わった田中が立ち上がった。
両手を広げ、翼のように動かす。

…あなたが持ってる未来行きの切符…

失笑。歌とダンスのぎこちなさに、俺は失笑を隠せない。
失笑はやがて哄笑に変わった。
視線で人が殺せるならば、その時の田中のような目をしたことだろう。
亀井と道重が立ち上がった。

…夢はかなうよ、絶対かなうから…
今度は3人で始めた。田中は先ほどとは違う。自信が違うのだ。
亀井のダンスのキレ、道重の存在感。そして3人の瞳は憎悪に燃えている。
10 名前:クランクイン 投稿日:2005/01/18(火) 20:24
燃える六つの瞳に写るのは俺だけ。
その男は口の端に笑みを浮かべ、拍手をしてる。
軽薄にも口笛まで鳴らす始末だ。
他にはなんかないのか?「まだ…これだけですッ」

眩しくも優しかった陽光は姿を隠し、雨雲が見え始める。
天気予報どおりだな、大体。道重の頬を雨粒が濡らした。
「よし、テイク2!」
「(゚Д゚)ハァ?」昂揚した3人は牙を取り戻した気になっている。
田中ぁ、お前こいつらに何やった?亀井の恨みはふっかいぜぇ?
なんせ、あの往復びんただからな。道重、なんか心当たりないか?
道重の瞳が泳ぎだす。「えり、さゆ。踊るよ!」
田中のリードで3人は再びダンスを始める。動きも表情も硬い。
テイクを重ねる。雨が激しくなる
原色のパンツが、白いワンピースが、黒いタンクトップが肌に貼りつく。
…覚悟するのは簡単だった。夢がそこにあったから…
横殴りの激しい風。足が絡む。転倒。白い肌に・黒い髪に泥が纏わりつく
11 名前:クランクイン 投稿日:2005/01/18(火) 20:25
嵐の中泥だらけの少女が3人。
歌もダンスもテイク1をとっくに超えた。
このまま続ければ嵐を超える。確信めいたものが芽生える。

…「キスがしたい」は人間の本能…

俺への憎しみなのか…。それとも世界中すべてへの憎しみなのか。
だめだ!俺を憎め!今お前たちは俺のモノなんだ!
震えが止まらない。頼む、俺を置いて行かないでくれ!

…あなたと二人できっと、叶えたい。I love you…

カァット、OK!
水溜りの中にへたりこんで、3人はけたけた笑っている。
今日はなんかあったかい物を食わせてやろう。
12 名前:幕間 投稿日:2005/01/18(火) 20:28
山小屋に戻るとともかく3人を風呂に入れる。しかし俺自身少々無理をした。
バスタオルで全身を拭くが、体温の低下がひどい。買い置きのウォッカをラッパ飲みして
ようやく一息つく。

月が見える。雨はすっかり上がったようだ。明日以降の撮影に思いをはせながら
タバコに火をつける。
道重が一足先にあがってきた。ぬれた髪に上気した肌、さっき散々見たのにやはり
艶かしい。
3人とも怪我はないか?小さな擦り傷でもあったら言えよ。手当てするから
「へいき…。カントク、タバコってどんな味?」
また大きなヒントだ。
吸ってみるか?数秒置いて、くわえていたタバコをそのまま道重の唇にねじ込む。
13 名前:幕間 投稿日:2005/01/18(火) 20:30
眉間にしわを寄せて、左手を腰に当て右手でタバコをつまむ道重。
ん?もしかして吸ったことあんのか?
「ケホ!」大げさに体を折る。涙まで浮かべて。
ヤケドでもすると大変だ。すぐに取り上げる。
「カントクがさゆ泣かしと〜」「さゆに変なこと教えないで下さい!」田中と亀井だ。
田中が素早く俺の手からタバコを奪い、「二ヒヒ」と笑う。
「ダメだよれいな!」「固いこと言うなっちゃ!」
田中は口の中にいれた煙をそのまま吐き出す。
まったく。形ばっか整えやがって。タバコを奪い返し、火を消す。

豚汁でいいか?田中の抗議を無視して訊ねるが、亀井が顔をしかめる。
「お風呂入ってくださいっ!」
いやごもっとも。
ガキどもの残り湯でも頂こうかね。
俺の言葉を聞いて亀井は露骨に嫌な顔をした。
14 名前:幕間 投稿日:2005/01/18(火) 20:31
酒飲んだのが間違いのもとだ。あやうくガキどもの残り湯の中で溺れるところだった。
たっぷり1時間は風呂に入ってたことになる。まったくなっちゃいない。
俺を起こしたのは亀井の歌声だった。

「椅子に座って爪を立て さやえんどうのすじを向く
さやが私のこころなら 豆はわかれたおとこたち
みんなこぼれて 鍋の底
煮込んでしまえば形もなくなるもうすぐ出来上がり」

カレーの匂いがする。亀井が鍋をかき回し、田中がサラダ作り、道重はイスに座って
子供のようにニコニコしている。
えらく古い唄知ってるんだな。3人が俺のほうを向いた。
「お母さんが好きでよく歌ってたんです。」「誰の唄なん?」「さあ…?」
荒井由美、と言ってもこいつらには分かるまい。
「でもよかった、カントク死んじゃったかと思った」亀井が割と唐突に。
「だって、死んじゃったらカレーに入れて煮込まなきゃいけなかったから!」
15 名前:幕間 投稿日:2005/01/18(火) 20:32
亀井はくねくねニコニコ笑っている。
お前、面白いな
「えー?やだな〜、そんなこと知ってますよぉ!
ってえりの思い付きじゃないんですけどね」
田中と亀井は頭を小刻みに震わす。「うちらじゃないうちらじゃない!」
「やっぱりお母さんから聞いたんですよ。
新婚の奥さんが、浮気した旦那さんをね、こう、刺しちゃって
例の歌を歌いながらコトコトコトコト…。」
「こわか〜、えりのママ、ホントにパパ食べちゃったの?」眉間に皺を寄せる田中
「まさか。普通に仲いいよ?」
「でもなんだかとってもロマンティックなの。」道重はうっとりしてる。
「でも、カントクもえりたちに食べられたら満足でしょ?」
死んだらな。そう簡単に殺される気はないから覚悟しとけ。
16 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:27
今、俺の前で半裸の道重が田中に口付けをしている。
「えりにも、えりにも〜」亀井がけらけらと笑う。

 ど う し て こ ん な こ と に な っ た ん だ ろ う ?

・・・
亀井のカレーは悪くない出来だった。もっとも市販のカレールーを使って不味い
カレーを作るのは至難だが。あえて難点を上げれば追加のスパイスが少々多かったこと。
端的に言うとちょっと辛い。俺は辛いのには強いので何てこともない。
水の入ったグラスを口に寄せたとき、違和感に気づく。
一服盛られたか?3人とも既に水をおかわりしている。一体誰が?

水じゃない。この匂いはウォッカの水割りだ。
慌てて流しの下の酒瓶を確認する。半分しか残っていない。
こんな真似をするのは?
「さゆ〜、えり〜、ほらシェイクシェイク!ニヒヒ!」

 田 中 れ い な 、 貴 様 か !
17 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:28
アルコールを過剰摂取したときにしてはならないことがある。
(そもそも過剰摂取してはいかんのだがそういう突っ込みはなしで。)
脳を揺らすことだ。逆に言うと誰かを酔い潰したいときは飲ませた上で
頭をシェイクしてやればいいのだ。その際にもっとも有効な酒はジンまたはウォッカ。
適当に薄めれば簡単に騙せる。
80〜90年代の学生サークル文化がスーパーフリーによって終止符を打たれるまで
何人の田舎娘がこの手で食われてきたか。
恐ろしいことにこの小娘はそれを親友二人にやってのけたのだ。
「流石にカントクは引っかからんちゃね。で、どっちがよかと?」
亀井はけたけた笑っている。先ほどの笑いとは明らかに違う。
そして道重は気だるげに、「あっつぅい」

なるほど、俺に和田さんになれといってるわけか。
18 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:29
酔っ払った子供に乗るなんて、セックスマシーンじゃあるまいし。
俺には他にやるべきことがある。カメラカメラ…。

「しゃくらまんか〜い〜♪」調子っぱずれに歌う亀井
「あつうい…」道重はまっかだ。
一人素面の田中は思い通りにことが運ばなかったことが不満な様子だ。
「カントク、ヘタレ?キ○タマついとる?」
うるせーよ。罵倒ももう少し工夫しないと芸になんねんだよ、チビが。

「あつい!」道重がTシャツを脱いだ。
オイ!カメラの前で服を脱ぐときにそれかよ!
恥じらいとか怒りとか誘惑とかなんもなし?脱衣所じゃねんだよ。
しかし演技指導は出来ない。形のいい胸の前にただカメラを回すことしか許されなかった。
19 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:31
神の造りしものの前には人の手など必要ない。
どんな演出も弾き飛ばす本物がある。
それは芸術家たる者にとってはまさに敗北であり屈辱なのだが、
それを感じる瞬間の為に人生の全てがあるのだろうか。
上体を反らして伸びをする道重を見ていると、もう全てがどうでもよくなってくる。

いや、よくない。ともかくカメラに収める。演出の不在は編集でどうとでもなる。
そのためだけに俺がいるのだ。

道重は大きくあくびをしてから立ち上がりかけて、転んだ。
あきらめて四つん這いでゆっくりと進む。昔サファリパークで見たライオンによく似た動き。
百獣の王・獰猛な肉食獣・サバンナの狩猟者。ゆっくりと歩き回るその姿にはやはりある種の
風格を感じたものだ。いかん。動いたら食われる。

道重は酒瓶の前に辿り着くとラッパ飲みを始めた。
「さゆ!ダメだっちゃ!」事態の異常さに気づいた田中が止めに入る。
ライオンが子猫を捕らえる。まさにそんな映像。
田中を捕らえた道重は、濃厚な接吻をした。いや、口移しでウォッカを飲ませているのだ。

>16冒頭へ
20 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:32
口の端からウォッカの混じったよだれを垂らした田中はその場に崩れた。
「れ〜いにゃ♪」亀井がご機嫌でそこに飛びつく。
田中を貪りつくした道重はそんな亀井とカメラを見比べている。
「んんんんん〜っ」再び動き出した。二つ縛りの髪が揺れている。
吸い込まれそうな瞳とふっくらとした頬が近づいてくる。
っておい。俺はムツゴロウさんじゃないんだ。「わしゃしゃわしゃしゃ」とかやるわけないだろ。
だが触れてみたい。あの木目の細かい白い肌に。肌越しに皮下脂肪と筋肉の弾力を確かめたい。

いや、不埒なことを考えているわけではない。俺はその感触を知らなければいけない。
そうだ。全てはフィルムのためだ。この生物を永遠に残すためなんだ。

そんなことを考えている間に道重さゆみは俺の前に辿り着いてしまった。
「ぅぅぅうううううぅぅぅぅぅ!」抵抗する間もなく俺は押し倒された。
21 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:33
「せっせっせーの♪よいよいよい!」亀井の幼児化は止まらない。
真っ青な顔をした田中がなんとかそれに応えている。
道重にマウントポジションをとられた俺もまた正気を失っていた。
触りたい。触ってもいいはずだ。こいつらは俺のモノなんだし。
てゆーか、理屈はいらない。普通触るだろ、この状況なら。触ってやる。

むき出しの両肩に手を置く。肌・脂肪・筋肉、そして骨。鎖骨の感触を親指で確かめる。
広背筋と肩甲骨も確かめると、そのままわき腹に滑らせる。あばら骨の硬さとうっすら
ついた脂肪の柔らかさを堪能する。そして腰へ。
「んふふふふっ」道重が頬を寄せて笑った。
横っ面を張ったときの頬の感触を、そしてタバコを吸わせるときに触れた唇の感触を思い出す。
全てを確かめたい。そのためには俺もケダモノになるしかない、覚悟を決めた。
22 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:34
道重(猛獣)の体重を感じながら、身体を入れ替えるタイミングをうかがう。
が…。
「れいな、らいじょぶ?れいな!」亀井(幼児)がパニクっている。揺するな馬鹿野郎!
見ると田中(患者)は顔色は真っ青を通り越して真っ白だ。いかん。
猛獣(道重)を押しのける。「む゛ぅぅぅぅうぅうううう!」軽く引掻かれた。いてて。
そのまま幼児(亀井)をまたいで患者(田中)に到達。抱き上げる。軽っ!
「お姫様だっこぉお〜」黙れ幼児。そのままトイレに入る。
田中が便器を抱きしめる形になった。背中をさすってやると案の定…。

すっぱい香りが充満する。お陰で少し楽になってきたようだ。
風に当てたほうがいい。もう一度抱き上げて外へ連れ出す。
横向きに寝かせてから一人で山小屋に戻る。猛獣と幼児を引っ付けて遊ばせる。
水の入ったバケツとペットボトルを用意。念のためウォッカは流しに捨てて空き瓶は手の届かない場所に。
まったく、3人も相手にするのは大変だ。ファンタジーのようには事が運ばない。
23 名前:ある種の惨劇 投稿日:2005/01/18(火) 21:36
患者(田中)の顔と胸を濡れタオルで拭いてやり、水を飲ませる。
「パパ、ゴメンナサイ。二度とお酒なんて飲まんけん…」
顔色もよくなってきた。これだけ喋れれば脳も大丈夫だろう。一時はどうなるかと思った。
安心感と同時に悪戯心が頭をかすめる。まいっか。からかってやれ。
大丈夫だよれいな。パパはお前が大好きだから心配するのさ

田中は啜り泣きを始めた。あらら。
「れいなは悪い子だったたい。友達に意地悪したり、ウソついたり」
仕方ない。ガラじゃないがいい人をやるか。
れいながホントはいい子だってことはパパが一番良く知ってる。れいなは自慢の娘だぞ
軽く抱きしめてやる。服に吐瀉物の匂いが染み付いてるが、父親ならそんなことは気にしないはずだ。
まだしゃくりあげている。
「ひっく、えっぐ、れいなにだけよそよそしか!さゆとえりにはビンタしたのに!」
大分混乱してるな。俺も混乱してきだ。俺はパパなのか?カントクなのか?
ともかくこのシーンを続けよう。
じゃ、悪い子のれいなにお仕置きだ。頬をつねる。そのままぐにぐに。
不細工だね、こりゃ。思わず笑い出した。れいなは泣き笑いしながら俺に抱きついてきた。
笑いながら頭をクシャクシャ撫でてやる。このまま寝付いてくれればカットOKだな。
まったく、なんて1日だ。
24 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/01/19(水) 02:14
ho
25 名前:ロールプレイ 投稿日:2005/01/19(水) 19:34
俺の前に亀井がいる。凄い目で俺を睨んでいる。
えっと…、もしもし、とりあえずカメラ回していい?
「足を崩さない!」
いや、そのすんませんすんません_| ̄|○

って、
 何 で こ ん な こ と に な っ ち ま っ た ん だ ?

・・・・・・

あの日は無事にカットOKだった。我ながら見事にタイトロープを渡りきったもんだ。
俺の肩に頭をのせる田中を起こさないように注意しつつ毛布をかけてやって、
満ち足りた疲労、そして微妙に残念な脱力感をおぼえながら眠りについたもんですよ。
いや〜、よく眠れた。こんなに気持ちよく眠れたのは久し振り。

虫と鳥の鳴き声が聴こえてくる。癒されるね。顔の上になんかいるな。
さゆえりれいな、悪戯はやめろって、くすぐったいなぁ( ´∀`)

(゚Д゚)
れ、れれれれれれ。地に足がついてない。
誰か今の俺を撮影してくれ。よーし、ぶらんぶらん動いちゃうぞ〜。
ってつまり、簀巻きで樹から吊るされてるわけだ。

 や ら れ た !
26 名前:ロールプレイ 投稿日:2005/01/19(水) 19:36
…ぷらーん。
「…おはようございます…」「…タリいな〜」道重と田中だ。
そんな二人を両脇に従えた亀井。足を肩幅に開いて腕組み。目を細めて俺を見上げている。
やはり俯瞰でも撮るべきだな。
おい、ちょっと立ち位置変えてみろ。田中と道重それぞれセンターのパターン見たいし。
「いいです、そんなこと興味ありませんからっ。」いや、俺がお前らに興味あんだよ。
「昨日の晩はさゆとれいなに何したんですか!」
もしかして、尋問してる?俺のこと尋問してる?
「質問に質問で返さない!大人なのにそんなことも分からないんですか!」
え、オレ何もしてないっス。ね、さゆ?れいな?
「いつもと呼び方が違うじゃないですか!それに二人とも何も憶えてませんよ。
お酒やクスリで女の子をもてあそぶなんて、カントクがそんな人だと思わなかった!」
もしもし亀井さん?ボクがまともな大人だと思ってたんですか?
それとも…、もてあそんで欲しかったのかな?(゚∀゚)アヒャ!
亀井は真っ赤になった。「おしおきです!」
竹製の物干し竿を振り回す。危ないって。こら。あたたた。
「さゆもやるの!」こら、栗を投げるな!まだ青いじゃねーかYO!
もしかしてオレ、嬲られてる?ガキ二人に嬲られてる?(;´Д`)
うわ、字が逆じゃん!

そんな俺を宿酔いの田中が呆れ顔で眺めている。
「カントク、カッコ悪か…」
うるせえ。漢には格好悪くとも堪えなきゃいかん時があるんじゃ!(;´Д`)ハァハァ
27 名前:ロールプレイ 投稿日:2005/01/19(水) 19:38
…ぷらーんぷらーん。
もしもし亀井さん?そろそろ降ろしちゃ貰えないですか?
「反省しましたか?」ええ、そりゃもう堪能いたしましたよ。えりりんてば責め上手?
ピシッ!物干し竿がしなる。あぅぅ。そんなに激しく動くと見えるぞ…。
「え、何が?」亀井、お前今ノーブラだろ?(←真顔)
「もういいです!さゆ、れいな、放置しよ!」
を〜い、ゴメンヨ。君タチガコンナニ傷ツクナンテ思ワナカッタンダ。ヲロシテヨー。
…ぷらーんぷらーん。

ぷらーんと1時間が過ぎる。いい匂いがしてきた。朝ご飯かあ。( ´∀`)
若いって凄いよな。あんなにグニャグニャに酔っ払っても翌朝に飯が食えるんだから。
ふと気が付くと道重と田中が足元にいる。やあ、朝飯は何食ったんだ?
「しー!」唇に指を当てる道重。
「えりの気が変わらんうちに降ろすとよ。」田中がロープを解き始める。
あちこちに擦り傷とこぶが出来たが20分ほどかかって地面を踏みしめることが出来た。
田中、道重、お前ら手の平大丈夫か?よく洗って消毒したほうがいいぞ。
そんな話をしながら山小屋に戻る。救急箱出さなきゃな。
俺を待ち受けるのは当然亀井である。板の間にピシッと正座している。
こいつ、フニャフニャするばっかりだと思ったら、こんな凛々しい表情もできるんだな。
しげしげと眺める俺に鋭い声がとんでくる。
「カントク、そこに座ってください。」有無を言わさぬ迫力。

>25の冒頭へ
28 名前:ロールプレイ 投稿日:2005/01/19(水) 19:48
えっと…、もしもし、とりあえずカメラ回していい?
「足を崩さない!」
いや、そのすんませんすんません_| ̄|○
何 で 俺 が 謝 っ て る ん だ ?

「さゆ、れいなと外で遊んでなさい」おい、お前はどこのおかんだよ。
「またそうやって、いつもそうやってからかってばかりで、何も真剣にやろうとしないじゃないですか!」
ヤバイ。マジヤバイ。「視線で人が殺せるならば、こんな目をしているだろう」
そんな慣用句こそがふさわしい目だぞこれは。
「行くよ、さゆ」危険を察した娘二人は両親を残して逃げるように出て行く。
「映画撮るとか言って、泥んこダンスしか撮影してないじゃないですよ?
絵里たち主役で傑作を撮るって嘘だったんですか?」
誰が書いたんだよこんな糞脚本?昭和の昼ドラか?前世紀末のとれんでぃドラマか?
俺が撮りたい作品はこんなんじゃないぞ!
すぐにドカンと一山当てて、さゆもれいなもいい学校行かせてやっからよ。
めそめそ泣くんじゃねえよ、うぜーな。それとも実家帰るか?
「そんなこと言ってるんじゃないのに。カントクおかしいよ、ついてきた絵里達が馬鹿だったの?」
うるせえ!家族の食事が乗ったちゃぷ台をひっくり返す。「きゃっ」
亀井(女房)のショートパンツから伸びた脚が妙に艶かしい。
ハァハァ。亭主なめとったらいてまうど(#゚Д゚)ゴルァ。

なぁえりちゃあん、ええじゃろたまには。さゆもれいなも二人とも外で遊んじょるから。
「何言ってんですかカントク?なに擦り寄ってきてるんですか?」
カントクじゃなくて名前で呼んどくれよ。外では女優と監督だけど、ここはワシらの愛の巣だぜ?な?な?
「え、ちょっとなに〜?」(;´Д`)ハァハァ。
絵里(女房)は柔らかい。昨日の酒の匂いがする。クンクン。絵里さん、昨日風呂入ってないじゃろ?
「やだ、触んないでよ、このキ○ガイ!」ウッヒョ〜、いい反応。さすが我が女房にして女優。
プレイってモノをわかっちょるね〜。スクリーンプレイじゃなくてお布団プレイだけどな〜グヘヘ。
29 名前:ロールプレイ 投稿日:2005/01/19(水) 19:51
先ほどまで殴る・引っかく・蹴っ飛ばす等、あらん限りの肉体的抵抗をした絵里(幼な妻・女優)。
ようやく大人しくなった。さあ、もっともっと楽しませてもらうぜぇ(・∀・)アヒャ!
くびすじうなじみみもとくちびるかみのけかたさこつにのうでせなかおへそあしのゆびふくらはぎかかと、
それともふともも。
さあ、どこから責めてほしい?恥ずかしがらずに言ってごらん。(゚Д゚)ハァ?聴こえねえぞ。もっとおっきな声で!
「…そうやってさゆもれいなも手なずけたの?」…泣いてる。
女優ってのはこれだから始末が悪い。普通の男ならころっと騙される。
だが映画監督である俺にとっては本当に泣いているのか、
それともまばたきをガマンして無理やり涙を流しているのか見破ることなど造作もない。

だがしかし見破ったからといって自分の主張を押し通すというのも論外だ。
夫婦とは敵対するものでなく、協調するものなんだから。
ケモリン化した夫に対して、その不実をなじる妻。愛情を示すために誠意ある言葉と重ねる夫。
優しいスキンシップがやがて…ハァハァ
というシナリオだな。イイヨイイヨ-!(・∀・)さすが俺が見込んだ女優。
30 名前:ロールプレイ 投稿日:2005/01/19(水) 19:56
ばかだなあ、絵里は。さゆとれいなに嫉妬する必要なんてないんだぜ?
「はぁ?なんで絵里が嫉妬しなきゃイケナイんですか?」
そうやって理屈で考えるのはよくないよ。感情の問題なんだ。
血が繋がらない娘たちに対してお前が複雑な感情を抱くのは当然だ。
しかもさゆとれいなは絵里と一つしか歳が違わないときてるからな。
つーか、そもそも俺の前の嫁さんの連れ子だから俺とも血は繋がってないわけで。
しかしだ、前の嫁さんが死んだとき、俺は約束したんだ。
この二人の娘を健やかに育てると!そのとき俺は初めてあの二人の父親になった。
血は繋がってないけど本当の父親なんだ。
だから俺は二人に対して邪まな感情なんて抱いていない。アア断ジテ抱イテイナイトモ。
時に慈しみ、時に厳しい父親ではあるが、二人ヲ女性トシテハ見ラレナインダヨ!
絵里にはすまないと思っている。俺と恋愛して、様々な障害を乗り越えて一緒になったってのに、
そこに難しい年頃の二人の娘がいるんだもんな。
これじゃミポリンだ。『ママはアイドル』だ。
俺は確かにあのドラマの三田村邦彦のような素敵な旦那様じゃないかもしれない。
でも俺は…、俺にとっては…。
31 名前:ロールプレイ 投稿日:2005/01/19(水) 20:50
「…だからカントクは一体何が言いたいんですか?」
コンチクショウ、言わせるつもりかよ!ああ、言ってやるともさ。

 誰 よ り も お 前 を 愛 し て る !

「はぁ?」よし、効いてる。愛の告白をするときはじらしてじらしぬいて、迂回して迂回しぬいて、最後に直球ど真ん中だ。
「ホントに絵里のことを一番好きなんですか?」ああ、一番愛してるとも。だから、さゆとれいなに嫉妬なんてするな。
「えへ、えへへへへ、うふふふふふ。」絵里は真っ赤になって笑みをもらす。よし、このタイミングだ。
自然に、あくまでも自然に頭に右手を回して抱き寄せる。あとは…

ポタッ。フローリングの床にどす黒いしずく落ちた。いけねえ、さっきぶたれたから鼻血が出てきた。
「あ、カントク大変!ど〜しよ〜」
いや、いいんだ。いいんだよ絵里。ちょっと横になればすぐに直るから。な?
反論する隙を与えずに絵里のフトモモに頭を乗せる。
うわっは〜、膝枕。鼻血も悪くないぜ。
割とボリュームのあるフトモモ。ちょっと固いぞ。リラックスしろよほら。
「ひゃっ!」尻を軽く叩くと、枕が少しだけ柔らかくなる。
心配そうに、でもどこか満足げに俺の顔を覗きこむ絵里。もうすこしだけこのままでいようよ。

…でも俺は気づいてなかった。
このときカメラが回っていたことに…。
32 名前:おっさんと子猫ちゃん 投稿日:2005/01/19(水) 21:32
撮影が順調に進んだある日のこと。
ちょこんと膝を抱えた田中れいな。俺を上目遣いに見つめて一言。
「カントク、絵里とはもう…したと?」
何言ってんだよこのガキは。とりあえずカメラを廻しつづける。
したって、なにを〜?(・∀・)ニヤニヤ。田中は顔をしかめる。プンッと鼻を鳴らしながらそっぽを向いた。
猫じゃらしが花穂を揺らしている。ちょうどいい、こいつでつっついてやれ。
「なにしよーと、くすぐったか!」

なあ田中、AVって見たことあるか?あれってさ、本番シーンの前にカメラと女優の一対一でインタビューするんだぜ。
「え…?」田中硬直。目が泳いでる。
そんでさ、インタビューの後にいろんな道具でこうやって…、
「猫じゃらし使うAVなんて見たことなかよ!」立ち上がってカメラを睨みつける。
なんだ、見たことあんじゃんかよ(・∀・)ニヤニヤ。
33 名前:おっさんと子猫ちゃん 投稿日:2005/01/19(水) 21:33
「カントクは!絵里と!セックスしたと?」頬を高潮させながら、文節をしっかり区切って再度質問。
ちっ、開き直りやがった。誰からそんなこと聞いたんだよ?
「さゆも気にしちょる、絵里が最近おかしいって。」
んぁ〜、それってアレっすか?友達のうち一人だけ大人になっちゃうと、取り残されたみたいで不安になるってアレ?
「な、なぁにゆうとや!」
いやかめへんかめへん。オイちゃんもその気持よっく分かるよ〜。ダチが家庭教師のお姉さん相手に童貞捨てたとか、
そんな話を聞くたびに、あぁこうなったらソープにでも行って童貞捨てたる、虎の子のバイト代はたいたる、そんな風に
思ったもんさ。いやいや、女の子も同じように考えても何にも恥ずかしくないんだよ、へへへhhhhhhh。
「バカ!変態!近寄らんといて!」わたた、石投げるな…、カメラ壊れる!
ゴンッ!空が揺れる。クンクン、この匂いは…、土と草の匂…
「カントク?だいじょぶ?カントク〜!」
34 名前:おっさんと子猫ちゃん 投稿日:2005/01/19(水) 21:35
ぴちゃ…
ぴちゃぴちゃ…
ぴちゃぴちゃぴちゃ…
いてえ。頭がヒリヒリする…。
ぴちゃ…
ぴちゃぴちゃ…
ぴちゃぴちゃぴちゃ…
なんだ?額にあたる、このざらっとした感触は?
でもなんだかあったかいや( ´∀`)
35 名前:おっさんと子猫ちゃん 投稿日:2005/01/19(水) 21:36

俺、何やってたんだっけ?頭の中の過去ログを開いてざっとおさらいする。
ふむふむ。えーっと、田中に石ぶつけられて気絶したわけだか
気絶した俺のおでこを田中がぴちゃぴちゃと舐めている(・∀・)コレダ!!
この場合はどうやって目醒めるべきか…。
1.寝言を言って反応を見る
2.死んだふりを続ける
3.デビルボーン!

ふむ。3はちょっとアレだな。「ハッピーバースデー・デビルマン」とか返されるとマジ凹んじまうな。
後の楽しみにとっとこ。
1ヶ月とか気絶してたら洒落にならん。そういう意味では2も却下だな。
よし、ここは1番で逝くぞ。問題は何を呟くかだな。
三人の誰に呼びかけるようか。田中orれいな、亀井or絵里、道重orさゆ。
フラグの立ち具合を計る意味では絶好のチャンスか?
ピコーン。今、ララァが言った。ここで俺が言うべき台詞はたった一つだと!

「 … れ い な 、 し な の っ て … 」
36 名前:おっさんと子猫ちゃん 投稿日:2005/01/19(水) 21:38
短パンから覗く生足とバケツ。うっすら開いて見回した俺の目に映ったのは雑巾を絞る田中れいなの姿だった。
_| ̄|○裏切られた。ぺろぺろ舐めてくれてるんじゃなかった。あろうことか汚い雑巾で俺の汗を拭いてたのかYO!

だが俺はへこたれない。この程度のアクシデントで練りに練ったシナリオを変更することなどありえない。
か細い声で呟く。
れ、れいな、たのむ…。 
「ふふふふ、ふふんふ、ふふふふふ〜ん♪」
鼻歌混じりに雑巾を絞っている。畜生このガキ、聞いちゃいねえ!
れいな、しなのって、しなのって言ってごるぁ…

…ばさ。濡れ雑巾が顔に被さる。うぷっ、息ができない。たまらず状態を起こし、雑巾を払いのける!
「やっぱり起きてたったい!ニヒヒヒ」
殺す気か、貴様!
「え、濡れタオルっていかんの?」
いかんもなにもあるかよ。寝てる人間に濡れタオルかぶせて窒息死させるって、サスペンスの常道だごら。
「ぶっちゃけ起きてたっちゃろ?」ジト目で俺を見つめる。
ホントに寝てたらどうするつもりだ?今時の厨房は命の重さと言うものをわかってんのかよ。
こんちくしょう、ゆとり教育に毒された貴様らにこの俺がttt
田中がそれを遮る。大人の話聞けよ!
「オヤジくさ!カントク、そうやってコむずかしい話して、会話のペース持ってこうっていうの、オヤジくさかよ!」
「若ぶっちょるけど、カントク、結構トシいっとるん?あー!白髪みっけ!30いっちょるじゃろ!」
田中は満面に笑みを浮かべる。小憎らしい。
「えりにもさゆには言わんけん、れいなにだけ言ってみるっちゃ!」
俺の秘密を握りたいのか?それとも亀井と道重に後で話して、俺を笑いものにする気なのか?
真意を探ろうと俺はれいなの瞳の奥深くを凝視する。

ダメだ、読めねえ。れいなはただニヒヒと笑った。
37 名前:おっさんと子猫ちゃん 投稿日:2005/01/19(水) 21:41
( ゚д゚)、ペッ昭和も知らねえ小娘に愚弄されたままでカツドウ屋が務まるかってんだよ。
お前はなんでそこまでして俺の年齢を聞きたがるんだ?いいか俺の話を遮らずに良く聞けよメスガキ。
コナンと言えば名探偵なのか未来少年なのか州知事なのか、
世代別のリアルタイム仮面ライダー・ウルトラマンについてお前がどれだけ語れるんだ?
男の年齢なんてちゃんと毛が生え揃って赤飯炊いて、同級生の男子の一人や二人泣かせて、
一度くらい結婚を本気で考えたけど諸般の事情で新しい探す、そんないっぱしの女になったら、
年上の男の年齢をネタにして遊んでよろし!
それまではわぁ、大人なんですね〜ポワワーとか言ってろってんだわかったか(#゚Д゚)!

「ヒヒヒヒ、ププ、アハハハ、ニヒヒヒヒ!」
このガキ、いい加減にしないと大人の怖さ思い知らせるぞ!
れいなはひとしきり腹を抱えて笑うと、まじまじと俺を見つめた。
「カントクの寝顔、可愛かったっちゃよ?」なに?
「コむずかしい理屈こねてみたり、演技でキレて見たり、そりゃストレスもたまるたい」なに?
「寝言でママって言ってたのも、指しゃぶる癖も、さゆとえりにはナイショにしとくけん安心してよかよ?」
ナンダッテ━━━(゚Д゚;)━( ゚Д)━(  ゚)━(   )━(゚;  )━(Д゚; )━(゚Д゚;)━━━!!!!!
38 名前:おっさんと子猫ちゃん 投稿日:2005/01/19(水) 21:50
「歳のことは絵里が最初に気にし出したんよ。絵里は26くらい?って言っちょって、
れいなはぴったり30と見とるんじゃけど」
動揺を隠せない俺に対してれいなは当初の質問の続きを投げかける。
「ホントの歳に近いほうがおやつをゲットすると。さゆは興味ないみたい。」
オマエはどうして俺が30だと思ったんだよ?
「白髪。えりは気づいちょらんみたいだけど。カントク、けっこう苦労しちょるやろ?
よしよし、れいなさんが頭なでなでしちゃるけん、ホントのこと言って楽になるっちゃ」
いいか、俺の白髪を増やしてるのは他ならぬ お 前 ら だ。
そうは言ってみたものの、俺の言葉に力はない。
からかうような口調の田中、年長者を敬おうという気持ちの欠片もない田中。
当惑する俺の様子をニヤニヤした笑みを浮かべながら見つめる田中。そしてそのキラキラした瞳。
なんだか稀少な宝石を目の前にした気分だ。そう思うと妙に素直な気分になってくるってもんだ。
いいや。田中、オマエの勝ちだ。
ホントの年齢を言う気はないけどな、オマエの答えの方が近いよ。
だから、ほれ、このおっさんの頭を撫でて、いい子いい子くれ。
ついでに肩ももんでくれるか?年寄りは大事にしてくれよお嬢ちゃん。
「でも、寝言でれいなって呼んでくれたのは嬉しかったったい!」
俺の肩のつぼを見事に押しながら、れいなはすこし恥ずかしそうに笑った。
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 00:30
とりあえず今日はここまでです。
40 名前:未知との遭遇 投稿日:2005/01/20(木) 21:19
男には孤独と向き合う時間が必要だ。
屋根裏の編集室、それが俺だけの城。ガキどもにはここに入らないよう厳命してある。
盛大に紫煙をあげながら編集する時間こそが俺にとっての至福。
3人はプロの女優ではない、今回の映画は演技ではなく彼女達の現在をフィルムに移しとる記録映画だ。
これまでに撮ったフィルムを見返し、新たな発見に基づいて脚本と撮影プランを練り直すことはしばしばだ。
我ながらいい画が撮れている。いい意味で固さは取れてきたし、瑞々しさに溢れている…。
だがまだもの足りない。
10代半ばの少女だけが持つなにか
大人になることへの恐れ
それまで当たり前だったことが当たり前でなくなることへの痛みや哀しみ
そんな感情まで切り取らなければこの映画は完成しない。
俺のやってきたことは全て無駄になってしまう。
悪い意味で馴染みすぎたのかもしれない。
41 名前:未知との遭遇 投稿日:2005/01/20(木) 21:28
コツンッ。
窓に小石が当たる。強い風でも吹いてるのか?窓辺に近づいて周囲を見渡す。
ここからは周囲の様子が一望にして見渡せる。
すぐ近くの樹海、小さな湖、そこに写るのは満ちつつある月。
2階のベランダに誰かがいる。
道重だ。道重が編集室の窓に小石をぶつけたのだ。
月明かりで晒された白い肌は輝かんばかり。今は窓硝子に映る自分自身になにやら話しかけているようだ。
妖精じみた不思議な生き物。それはいい妖精なのか悪い妖精なのか。
いや、良いも悪いとかは人間のものさしで計るものだ。
彼女達には悪戯も人助けも等価。基準はただただ自分が楽しいかどうか、それだけだ。
もうずいぶん遅いのに眠れないのだろうか…?2階に降りてもう少し近くで観察することにした。
42 名前:未知との遭遇 投稿日:2005/01/20(木) 21:51
「ねえ、さゆりん。誰か来たよ?」
「さゆみんが可愛いから気になって起きてきたんじゃないの?」
「あの人、いつも何だか気取ってるよね。ちょっとからかってみる?」
「あははは」

亀井も田中もすやすやと寝息を立てている。今この山で起きている人間は妖精を観察する俺だけか。
「眠れないの、カントク?」妖精が語りかける。
子供が寝てる間にも大人は働かなきゃいけないんだよ。
「さゆね、詩を書いて見たの。カントク読んでみたい?」道重は携帯電話を差し出した。
もちろんここでは電波が入らない。それでも紙と鉛筆よりも、携帯電話を筆記用具として使っているようだ。
この謎の生き物が大きな瞳で何を見て、何を考えているのか、それを窺い知る絶好のチャンスが到来した。
43 名前:未知との遭遇 投稿日:2005/01/20(木) 22:01
キラキラ光る星やハートのシールが貼られた携帯電話。
ナウでヤングなデジタル世代のイカシたコミュニケーションツール。

空にはチューブが張り巡らされ、月面には高級リゾート、そして木星圏で新たな人の革新が起こる…。
ブレードランナー以前の未来観。それが子供の頃、科学雑誌に載ってた21世紀。
そこに住む未来人(!)たちはみんな小さな通信機を携帯していたものだ。
子供の頃に夢見た未来とは明らかにずれてしまった現在。夢見ていたのとは明らかに違う大人になった俺自身。
でもこの携帯電話は違う。おとぎ話としての未来からそのままやってきたアイテム。
おとぎ話にしか登場しないはずの生き物の手に握られたそれに、特別な感慨を抱かずにはいられなかった。
44 名前:未知との遭遇 投稿日:2005/01/20(木) 22:20
観察対象に興奮を悟られてはいけない。つとめて無関心を装いつつ携帯電話を受け取る。
送信待ちメールを見ればいいのか?道重がコクンとうなずく。
…頭を殴られるような衝撃がそこにはあった。
それは詩などと呼べる代物ではなかった。
こんな酷い文章は「頭の悪い子供」にしか書けないだろう。
だがそこには彼女以外の何者も持ちえないパースペクティブがあった。
透明で、冷徹で、時に残酷な視線を持ち、それ余すところなく表現できる道重に嫉妬すら覚えた。
「どうしたの、カントク。どっか痛いの?」さゆは俺を見下ろしている。
気がつけば俺はさゆの前に膝をついていたようだ。
畜生、とんだ恥をかいたもんだ。映画で借りを返してやる。

いいか道重、朝までに明日の晩の撮影に使う台本を書くから、お前はそれを完璧に自分のものにしろ。
そして新しい台本のことは絵里とれいなには秘密だ。二人には俺から別の台本を渡す。
全てはお前次第。さゆがヒロインだ。

「キレイに撮ってくれるなら、さゆはそれでいいの」
ただそう言って屋根裏に戻る俺を見送るさゆの微笑み。
新しい台本を書きながら、俺はなにか大きな力に自分自身が絡み取られてしまったこと気づいた。
45 名前:中の人 投稿日:2005/01/20(木) 22:21
本日は以上です。
46 名前:絶望の宴 投稿日:2005/01/22(土) 21:50
おいこらガキども、今夜はバーベキューだ。
「んもう、わかってますよ?えりたちのご機嫌とりたいんでしょ?」八重歯を見せながらニヤニヤ笑い
「にく!に、にににににくーっ!パーッと景気よく、食い倒すばい!」瞳の輝きは平常時の3割増
「デザートはアイスクリームがいいな。あ、チョコミントで!」おう、ドーンとまかせとけ

続いて撮影プランと台本について説明。
といってもいつもと同じで難しいことなど何もない。
ごく簡単なテーマを与えてフリートークさせるだけだ。
小学校のころ身近に流行った遊び、先生についての思い出、一番嬉しかった誕生日のプレゼントetc
リラックスして、そんな他愛もない会話をさせる。どんなに脱線しても構わない。
普通の少女達が、普通の生活の中で普通の会話をする。実際それでずいぶんいい画が撮れている。
ついでに動物の形態模写もお題に加えてやれ。
3人はクスクス笑いながら楽しそうに俺の説明を聞いている。
だが二人は知らないが、一人だけは既に演技に入っているのだ。
正真正銘、これは仕込でありやらせである。
俺はドキュメンタリー作家として最低の行為に及ぼうとしているのかもしれない。
47 名前:絶望の宴 投稿日:2005/01/22(土) 22:08
バーベキューってのは共同作業だ。下ごしらえ、道具や火の支度、当然手分けしての作業になる。
それを見守るのが監督者たるこの俺の仕事というわけだ。ただ見守るだけじゃなくその様子も撮影するわけだが。
「カントク、肉は何キロ用意してあると?5キロ?10キロ?」2キロだ2キロ!田中は不満げに俺を睨む
アメリカ人じゃねんだから、そんなにたくさん食えるかよ。これでも多いくらいだ。
「さぁ〜斬って切ってきーりまくりますよ?」バカ、包丁をそんな風に持つな。怪我したらどうすんだよ。
亀井がぶんむくれる「ひどぉい、バカって言った!」┐(゚〜゚)┌
「もうちょっとキレイなのなかったんですか?」水辺では道重がタワシとスポンジで鉄板と格闘している。
すまんな。予算の関係だ。ホレ、スチールウールも使えよ。焦げを落とせばあとは何とかなるから、な。

3人の苦労の甲斐あって夕方にはバーベキューが始まった。
「もうおなかぺこぺこたい!」「カントク、アーンして、アーン!」「こっからここがさゆの陣地!」
幸せな食事シーン。この後のことを考えると少しだけ、本当に少しだけ心が痛む。
「カントク、泣いてると?」バ、バカ。お前がよこしたタマネギに火が通ってねえんだよ。
「大人なのにタマネギくらいで泣いちゃうの?」「カントクって時々微妙に可愛らしいですよね」
いいから、食えよ。そこの肉焦げちまうぞ?
「おかしか。れいなのタマネギはいい感じやのに…」
48 名前:絶望の宴 投稿日:2005/01/22(土) 22:20
流石に本気になった10代女子の食欲には目を見張るものがある。
2キロの肉はあっさりなくなり、付け合せの野菜が少々残るばかり。
やっぱりこいつら獣だ。俺とは類だか目だか科が違う生物だ。
焼そばなどかき回しながらグダグダフリートークが続く。
お題はいよいよ「将来」だ。

「さゆはね、絶対、もうぜっっったい!かわいい女の子が欲しいの。
キレイな髪飾りつけて、毎日カワイイ、カワイイってしてあげるの」
なにかと道重と張り合いたがるのが亀井だ。「絵里の子供だったら男の子でもかわいいもん!」
「なにゆうとや。さゆの子絵里の子って、イケメン捕まえてからのはなしっちゃろ。」
田中はジト目で二人を見つめると鼻で笑う。
「ほんっと、れいなってば少し女の子らしいメルヘンが足りないんじゃない?ね、カントク?」
「絵里、こんバカ!カントクは関係なかよ!」言葉による軽いジャブの応酬。
だがそろそろグローブに仕込まれた凶器が光を放つ頃合だ。

すっかりウォーミングアップの済んだ道重が用意された流れに二人を誘う。
「ねえ、絵里とれいなはどんな大人になるか、考えたことあるの?」
「れいなはすっごい歌手になりたかよ」「えりは素敵な奥さんがいいな」
「違うの。どんな大人になりたいか、じゃなくて、
どんな大人に な っ て し ま う か 、なの。」
道重はいつもと変わらぬ天真爛漫な笑顔で亀井と田中を見比べる。
道重の質問の意図を測りかねた二人はただ笑顔を作るばかりだった。
49 名前:絶望の宴 投稿日:2005/01/23(日) 00:20
「ねえ、カレン・カーペンターって知ってる?」唐突な質問に二人はふるふると首を振る。
「エ〜ヴィー、しゃららら〜、エヴィwowow♪って歌ってた人」
「それなら聞いたことあるっちゃ」「うん、お母さんがCDもってたよ」流石にイエスタデイ・ワンスモアは知ってるようだ。
「すごい歌が上手な人で、お兄さんと一緒に世界一たくさんレコードを売ったらしいんだけど…」
「だけど…?」田中が怪訝な顔で先を促す。
「じゃ、ブライアン・ジョーンズは?リバー・フェニックスは?シド・バレットは?シドとナンシーは?
カート・コバーンでもいいんだけど」
「外人ばっかり…」「そん人たちがどうしたと?」
楽しくてしかたがない、大好きな芸能人について語るのと同じ調子で道重は続ける
「みんなみんな、自分を見失って、馬鹿みたいに自分を傷つけたの。ねえ、どうしてだと思う?」
うふふふぶ。道重はそんな転がるような笑みを浮かべ、二人を見つめた。

楽しくて仕方がない、お気に入りの玩具を見つめる、満足した子供の視線で。
愛しくて仕方がない、飼い主がペットを見つめるときの、圧倒的な優位を根拠とする温かい視線で。
50 名前:絶望の宴 投稿日:2005/01/23(日) 00:22
「さゆ、一体なんの話がしたいの?」「ちょお、おかしかよ?」
亀井と田中は当惑を隠せない。道重は二人が静かになるのを待つ。
「しょうがないよね。二人とも、自分がどんな大人になっちゃうか考えたことなんてないんだもの。
でもさゆはね、さゆだけはそれを知ってるの。だってさゆにはえりとれいなの未来が見えるんだから」

虫の鳴く声
鳥の羽ばたき
炭火がはぜる音
一瞬の沈黙のあと田中が口を開く。「ちょっと聴いてみたかばい。」
挑戦的な瞳は誇り高き野良猫のそれだ。亀井はぎゅっと田中の手を握った。
51 名前:絶望の宴 投稿日:2005/01/23(日) 00:28
「れいなはね…」さゆはれいなの肩をつかみ、瞳の奥を覗き込む
「れいなはね…、歌手を目指してレッスン受けたり、オーディション沢山受けていつもいいとこまでは行くんだけど
どうしてもいいとこどまりでね。ストレスでちょっと太っちゃったりするの。」
「でもこのままじゃいけないって頑張ってダイエットするれいなはホントに強い子だと思うの」
「なんかダイエット癖なのかな…、拒食症気味になってすっごい、すっごい痩せちゃうんだよ!
それで骨が弱くなっちゃってね、あるとき、こう、ぽきんって。」

顔面蒼白になってぷるぷると震えるれいなに向かってさゆは続ける
「安心していいよ。命に別状はなくて、ただ一生立てなくなるだけだから。さゆも絵里もずっと友達だから、
ちゃんとお見舞いとか行くし、れいなはただ甘えてればいいの」
「絵里はね、ちゃんと素敵な奥様になって、れいなが出来なかった普通の生活をするの」
絵里とれいなの視線が一瞬交錯した。耐えられなくなって先に目を逸らしたのは絵里の方だ。

「別にれいなに悪いとか思わなくてもいいの。相手はすっごいかっこいい、音楽とかやってる人だよ。」
「ちょっと怖いイメージがあるけど、絵里にはとっても優しいの。出会って三日でプロポーズなんてスゴイよね。」
「お父さんやお母さんの反対を押し切って結婚したけど、その人は仕事がうまくいかなくて、絵里が頑張って支えてあげるの
絵里、その人のことがホントに好きなんだね。」
「でもその人がホントに好きなのは、絵里じゃなくて自分自身で、絶対に絵里には応えてくれないの。
でもいいじゃない、絵里はホントにその人のことが好きなんだから」
二人を交互に見つめるさゆの黒い瞳は、ただただ深く、そして透き通っていた。
52 名前:絶望の宴 投稿日:2005/01/23(日) 00:31
「絵里はね、旦那さんに裏切られたり、ひどいことされたり、自分がみじめに思えてしかたがないときに、
れいなのお見舞いにいくの。ベッドに横になるれいなに本を読んであげたり、からだをふいてあげたりして、
れいなが嬉しそうに笑うのを見るたびに、自分は幸せなんだ、そう思うの。」
「ウソ!絵里はそんなこと思わないから!」切れ長の目は潤んでいる。
「でもするの。いいじゃない、そうやって一生いい友達でいられるんだよ?」
アーモンドの形をした目には何の翳りも見られない。
「…どうして、どうしてそんなこと言うとや!」くりくりとした瞳は怒りに燃える。
「だって友達だから。大事な友達だから、友達としての将来を教えてあげただけなの」
「友達がどうしてそんなひどいこと平気でいえると?笑っていえると?いつもそうやってれいなたちのこと見てたと?」
53 名前:中の人 投稿日:2005/01/23(日) 00:32
今日はここまでです。
54 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:21
パシィィィ!
撮影を始める前に聞いた音。えりがれいなの頬に手の平を叩きつける音だ。
「さゆはそんな子じゃない!れいな、ちょっとおかしいよ?」絵里はついに敵を見つけたようだ。そう、俺だ。
「カントクが言わせたんでしょ?さゆのこと騙して、絵里達と喧嘩させようとしたんでしょ?
さゆにひどいこと言わせて、絵里達がどんな顔するか撮りたかったんでしょ。
それを屋根裏部屋で一人で見て、ニヤニヤするつもりだったんでしょ。
そんな人だと思わなかった。素敵かもしれないなんて、ちょっとでも思った絵里が馬鹿だった!」

恍惚の笑みを浮かべるさゆ。自分自身と俺に対する怒りに震える絵里。絶望と懐疑の間を揺れ動くれいな。
絵里は間違えている。何度フィルムを見返しても、今目の前でお前たちを見ている以上の感動は得られないだろう。
後からフィルムを見返すとき、抜け落ちた情報の大きさに俺は嘆息するだけだろう。
55 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:23
「まだ撮ってるの?もうたくさん!カメラ止めてよ!」絵里はカメラを止めようとする。
触るな!叫ぶことは出来ても絵里を直接止めることなどできるはずもなかった。
ただ一挙手一動をフィルムに収めたかったから。
「ちょ、あぶなかよ!」れいなが絵里の手首をつかんで押しとどめる。
「れいな、このおっさんの肩もつんだ?」絵里は口元に薄い笑みを浮かべた。
いまだに敵を見つけられずにいるれいなは返答が出来ない。
「ふんっ」絵里は鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「さゆ、戻ろ。」俺とれいなには目もくれず、さゆの手を引いて山荘に向かって歩いていく。
れいなにはただ俺とさゆを見比べることしか出来なかった。
56 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:26
「絵里が言うようにカントクがやらせたと?カントクがさゆにあんなひどいコト言わせたと?」
赤く腫れた左頬と虚ろな瞳。れいなはいまだに合点が行かない様子で俺に詰め寄る。

どうだっていいことなんだよ、れいな。
俺にとって大事なのは、お前が、絵里が、さゆが素敵な表情を見せてくれること。
笑顔を 涙を 喜びを 悲しみを 怒りを 憎しみを 痛みを 空虚を 
俺はただフィルムに収めたいだけなんだ。
映画にしちまえばお前たち3人はずっと俺のモノになって、そして俺はお前たち3人のモノになるんだから。
わかるか、れいな?

「…全然わからんちゃ。あんなにれいなたちに良くしてくれて、四人で仲良く焼肉パーティーしてたのに、
こんな風になって笑ってられると?どうして、どうしてカントクやさゆは…」

なぜって、キレイだからだよ。
れいなだって、キレイなものを見てたらいい気分になるだろ?
笑っているお前たちも、怒っているお前たちも、傷つけ合ってるお前たちも、美しくてしかたがないんだよ。
俺はお前らと仲良く過ごすために映画撮ってるんじゃない。全ては芸術のためだ。魂ならとっくに悪魔が予約済みさ。
今だって俺は悩み苦しむお前の姿をとらえるために細心の注意でカメラ回してんだぜ?
さあれいな、どうだ、むかつくだろ?憎らしいだろ?ほら、お前の怒りを見せてみろよ!
57 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:28
カメラはれいなの表情を追う。
女優は俺を睨み、大地を眺め、天を仰ぐ。
長い長い沈黙の1カット。ゆうに5分は続いただろうか。
ポタリ。涙がひとしずく、頬をつたった。
「カントクってイヤな大人やね。…でも、れいなもカントクみたいな大人になりたかよ」
れいなは顔をくしゃくしゃにして、消え入りそうな声で呟いた。
58 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:30



 ◆     ◆     ◆



59 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:32
「さゆ、カントクの言うことなんてきいたらだめだよ?ろくでもないこと企んでるに決まってるんだから」
亀井は俺が隠れて撮影していることに気づかないまま道重の髪をブラシで梳いている。
危なっかしい手つきでボンボンのついた髪飾りをつけた。
「今度はさゆの番なの」
亀井の髪を弄ぶ白い手の動きはなめらかで、ある意味猥褻な独立した生き物にすら見えた。
俺のいない間に風呂に入って濡れた髪はドライヤーで瞬く間に乾かされ、ツインテールに纏まった。
「ほんっと、さゆって上手だよね。おかげでまたキャワいくなっちゃった!」
鏡越しに目を合わせて同意を求める亀井。道重は3秒ほどの間ニコニコと亀井見つめてから答えた。
「うん!でもやっぱりさゆのほうがカワイイ!」

肩をすくめて曖昧な笑みを浮かべ、亀井は語り続けた。
「れいなはもうダメだよ。すっかりカントクに丸めこまれちゃってる。でも大丈夫だよ。さゆは絵里が守ってあげるから。」
「カントクは悪い人なの?」上目遣い。
「だってさゆのこと騙したんだよ?さゆのこと道具にして、絵里と喧嘩させようとしたんだよ?
ホントにキモイよね。もう信じちゃダメ。ね、絵里だけはさゆの味方だから、お願いだからさゆ、絵里と一緒にいて。ね!」
二人の間合いは既に互いの鼻が触れ合わんばかりだ。
60 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:37
ポキッ。俺の足元で乾いた木の枝が折れた。
亀井は目を見開いき、周囲を見回した。
「その辺に隠れて撮ってたりしてww」
何たる不覚か。田代神の加護を祈って隠し撮りに臨んだ筈のこの俺が物音を立てるとは。
つーか田代に祈ったのが間違いだったのか?
「あ、ウサギちゃん!」道重が俺に近づいてくる。ちょうど亀井の視線を遮る形で。
両手で頭の上にピースサインを作りつつ、その視線は確実にカメラを捕らえている。

は ・ や ・ く ・ に ・ げ ・ て

道重は声を立てずに唇の動きだけで俺に命令した。

「えりもウサギちゃん見たい〜!」
俺がまさに脱兎となって逃げるための時間はまさに刹那。
「あ〜あ、行っちゃった…、絵里、残念だったね」
共犯者なのか、それとも全てを騙そうとしているのか、およそ計りがたい道重の声だけが耳に飛び込んだ。
61 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:37



 ◆     ◆     ◆




62 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:41
一通り仕事を終え、風呂に入った頃には0時を過ぎていた。当然ガキどもは既に寝静まっている…、と思っていた。
「今日の反省会がまだなの」刺客は脱衣所から現われた。
湯けむりのむこうに一体の人影。どこか遠い星にある山口県宇部市からやってきた生き物・道重さゆみだ。
手足の長い、およそ中学生離れした肉体をスクール水着で隠している。
芸術家たる俺様は極めて冷静。スクール水着を前に落胆することも狂喜することもないぞ。まあ多分ね。

せっかくだから背中でも流してもらおうか、ほれスポンジだ。
「カントクは宇部のどこ?」道重は泡を立てながら訊ねてくる。
草江のほうにお袋の実家があってさ、生まれたのは市内の病院だ。
じいさんばあさんが生きてる間は何年かに一度遊びに行ってたよ。
「さゆは常盤のほうだけん、結構近くじゃね。」
常盤公園の釣堀とジェットコースター、市内のお好み焼き屋のメニュー、空港の食堂の肉うどん。
俺の知ってる宇部と、道重の知ってる宇部は案外似通った街だった。
もしかしたらホントに同じ街なのかもしれない。そこにあるのはただ昭和と平成の違いだけで。
俺は湯船につかり、一人で夜行列車に乗り、宇部に行った小学生時代の思い出を語ってみた。
じいさんばあさんと3人で少々足を伸ばした秋芳洞の思い出。
だが道重は秋芳洞を知らなかった。「それは観光客の行くとこだけん」
63 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:44
「ねえカントク、今日のさゆどうだった?上手に出来てた?」
道重は湯船に入り、俺の胸を背もたれにする形で足の間にちょこんと座った。
黒い髪、白い肩、赤く上気した耳たぶが目の前に迫る。くそ、そんな手に惑わされるもんかよ。

60点だよ、ギリギリOKだ。
よし、俺はまだ大丈夫だ。天井を見上げれば完璧に対応できる。
なあさゆ、お父さんやお兄ちゃんともこんな風に一緒に風呂に入るのか?
「え?カントクが初めてだよ?」道重は俺の膝に腕を絡める。こちらの身体の変化にはお構いなしだ。

……。少しだけ挑発に応えることにした。白い肩にあごをのせて囁く。
なあおい、なに企んでんだ?
ゴチン、さゆは首を回し、お互いのひたいが軽くぶつかる。
「いたた…。カントクこそこれからどうしたいの?」
「これから」の意味に思いを巡らせながら、俺はしばし考え込んだ。
64 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:47
道重の言う「これから」っていつのことなんだろうか…。
「これからどうしたい」と尋ねられたた今、俺はどっちの「これから」を選ぶべきなんだろうか。
ケダモノとして正直になるならば「今から」だ。
所在無く遊ばせてる両腕を腰に回し、うなじ・耳・肩に舌を這わせたい。
滑らかな腕の感触を、すらりとした太ももの弾力を確かめたい。
ついでだから水着をひん剥いて、どんな声で喘ぐのか試してみるのも面白いだろう。

賢明で忍耐強い諸兄は既に御理解されているものと思う。
この卑小なる語り手の劣情が単純に入れたり出したりして満たされるものではないということを。
4pしようと思えば簡単にできる立場にいながらそれをしなかった俺が、この程度でケダモノになることなど…。
俺がしたいのはもっとキモチイイことなんだ。でも正直、ちょっとぐらついてたのは秘密だぜ?
65 名前:敵・味方、共犯者 投稿日:2005/01/25(火) 00:48
おい道重、最初に言ったはずだ。俺が質問した時に質問で返すんじゃねえ。
「さゆは何もたくらんどらんけん。カントクの台本どおりにやったんだけどなぁ。結構しんどかったのに」
しおらしいことを言ってもこいつの瞳はこう語っている『抱きたくて仕方ないんでしょ、オジさん!』

「これからどうしたいの、カントク?」ふん、そうだなまずは…こうだ!
道重の髪をつかんで顔を湯船に沈め、30秒数える。
突然のことに道重は抵抗できずに手足をバタバタさせる。そうだ、いいぞ。その調子だ。
きっかり30秒で引き上げてやる。

「な、なにを…?カントク?」そうか、まだしゃべる元気があるか。
大変結構!今度は1分だ。ほらいいお湯だろ?楽しいよなあ!
さゆの肺から出た空気が泡となって湯船に浮かぶ。手足から少しずつ力が失われる。
「ゴホッ、ゴフゥッ」引き上げてやるとさゆは苦しげにむせ返る。全く、仕方のないガキだ。
背中をさすってやれば少しは楽になるだろう。
だがさゆは俺の手を払いのけ、蒼白な顔のまま俺を睨みつけた。
そうだ、いい表情するじゃないか。いいぞ、それが見たかったんだよ。
この俺がそのへんの発情期の犬っころみたいにお前に騙されると思ったのかよ?
くくくくkkkkkkkkkkkk はははっぁあははははhhhhhhhhh
66 名前:中の人 投稿日:2005/01/25(火) 00:52
加筆修正分はここまでです。
この先はちょっとペース落ちますが、気長にお付き合いをお願いします。
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 04:53
続き楽しみにしてます!
68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 22:11
実は僕も楽しみにしています
69 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/24(木) 01:51
この板のどのスレよりも楽しみにしてます
70 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/05/25(水) 01:27
ho
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:44
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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