娘。祭り

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 22:52
( ´ Д `)<でも主役はあたし
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 22:53
二人ゴト
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 22:54
「二人ゴト」が復活することになった。
ハロプロの中から仲のよさげな二人をピックアップしてフリートークさせる
という、なんとも無計画な番組だ。
しかもだ、しかもである。仲がよさげな、と便宜上書いてみたが
実際がどうであれ、その二人の組に需要があれば仲などそっちのけ
ということもありうるのだ。
実際、田中とやらされたときはしんどかった。

しかし今回はもっとしんどい。
相手は娘。でシゲさん、などと呼ばれている、道重さゆみなのである。
私は彼女のことをあまり知らない。興味がないから。
どうやら彼女は自分自身のことが好きらしいということしか知らない。

とりあえず撮影を迎える。
セットの中に取り残されるあたしと道重。
微妙な距離を空けて二人並んで座る。
私はぼーっとしている。
彼女は早速どこかから鏡を取り出して自分の顔をしげしげと見ている。
会話などあろうはずもない。
そりゃあそうだ、お互い興味ないんだもん。
カメラは回り続ける。無言。
ネイルアートを弄りながらぼんやり思う。これは放送事故だ。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 22:57

しかしスタッフは許してはくれなかった。
怒ってしまった。
「お前ら、ちゃんとトークしろ。萌える映像が撮れるまで何時間でも
 撮り続けるからな!」
凄い剣幕だ。我を忘れているようだ。自分の台詞の気持ち悪さに気付いていない。

言われたところでどうしょうもないこともあるのだ。
それからも私たちは黙りこくっていた。

撮影開始から2時間ほども経ったときには、さすがに私もうんざりしてきた。
とにかく適当でもいいから終わらさないとスケジュールだって押してしまうのだ。
私は始めてくらいの勢いで彼女の方を見た。
相変わらず真剣な眼差しで自分の顔を見ていた。筋金入りだ。
「ねぇ、ミッチー」
話しかけてみた。こちらを振り向きもしない。
「そろそろさぁ…」
「待ってください。後藤さん」
「んあ?」
道重は相変わらず視線を私にくれることなく言った。
「今、適当に終わらそうと思ったですね?」
驚いた。心が読めるのかしら、この子は。
いやまて、考えてみれば普通にわかることだ。
「それじゃダメです」
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:00
「なんで?」
「後藤さんが私に興味ないからです」
ふむ、違いない。
「それじゃあ、ダメなんです。
 後藤さんが私の可愛さにめろめろにならないとダメなんです」

可愛い顔をしてなんて可愛くないことをいう娘だろうと思った。
そしてそう言い放ったあと道重はまた黙りこくってしまった。

私は何だか妙な敵愾心に燃えた。
私と向こうを張ろうというのか。自慢じゃあないが
私も無関心ではちょっと名の知れた後藤真希だ。
あんたがナルシーで名うての道重さゆみだな。相手にとって不足無し。

私もまたむっつりと黙ってやった。
二人掛けのゆったりとしたソファーに少し距離を離して座る二人。
黙々と。
20時間を経過したあたりで、スタッフが音を上げ始めた。
40時間を過ぎたあたりで、先ほど(といっても二日前だが)凄んだ
スタッフが、「もうカンベンしてくれ」と泣いた。
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:01

結局撮影はお釈迦になって、私たち二人はスタジオを蹴り出された。
しかし勝負はまだ終わってはいなかった。
底冷えのする夕方にスタジオを追い出された二人は
どちらが言い出すともなく同じタクシーに乗った。
タクシー内でも一定の距離をあけて、二人とも黙り込んだ。
運転手さんがほとほと困り果てていたので
私が「ファミレスまで」というと、道重はニヤリと笑った。
勝負の趣旨が変わってきていはしまいか。だんまり大会と違うでしょうに。

とりあえずファミレスについた。
二人無言で席に座る。
実は二日間飲まず食わずで腹ペコなのだ。
彼女もそうだったと見え、明太子パスタを2杯平らげた。
「奢るよ」
私が言うと彼女は「結構です」と言いかけた。
言いかけて、はっとして慌てて財布を取り出す。この世の終わりのような
悲壮な顔があった。今度は私がニヤリと笑ってやった。
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:02
二人分の会計を済ませると店を出た。
久しぶりに食べた食事に生き返った。
並んで歩く。
相変わらず一定の距離は保たれている。
しかし先ほどのことで私のほうがリードしているのだ。
この戦いも終焉が近い。
と思ったら道重は歩きながら涼しい顔で聞くに堪えない鼻歌を歌っている。
なかなかに手強い。長期戦が予想された。
しかし私にも意地というモノがある。負けるわけにはいかない。

また二人でタクシーに乗り、ビジネスホテルにやってきた。
二人で一つの部屋に入る。支払いは私のカードで前払いだ。
道重はすでに開き直っている。
私と張り合うにはこのくらいの図太さが必要だ。

二人でシャワーを浴びる。バスルームが狭くて体が密着してしまうが
それは仕方がない。不可抗力だ。
シャワーは先に使わせてあげた。先輩として当然なのだ。
道重はちょっと申し訳無さそうな顔をした。私はまたニヤリと笑うことに
成功した。
といっても一人が使えばもう一人にもお湯がかかるのだ。
あまり順序は関係なかった。すっかりしくった。
彼女の柔らかい、冷たい肌の感触がちょっと気持ちよかった。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:03

シャワーを上がると、二人で寝た。シングルベット。
端と端で距離を空けて寝るのがポイントだ。
道重が寝てしまってから、今にもベットから落ちそうな道重を
引っ張って真ん中で寝かせてやった。先輩として、当然のことなのだ。

朝になった。
道重は気持ちよさそうに寝ていた。
私は先にベットから出て、身支度をしていた。
道重も起きだした。
さて勝負開始から三日目の朝がきた。
どちらからともなく、今日はどうしよう、という話になった。
道重が遊園地に行きたいと言い出した。
それで、遊園地に行くことにした。
彼女にしてみれば遊園地で勝負をかけるつもりだったのだろう。
まだまだ子供だ。私はまた笑った。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:07

遊園地は込んでいた。人込みで逸れそうになる。
道重が私の手を掴んできた。私も握り返した。
仕方ないのだ。逸れては勝負どころではなくなるのだ。
しかも彼女は持ち合わせがないのだ。先輩として当然なのだ。

遊園地では柄にもなくちょっと本気で楽しんでしまった。
しかし道重も本気で楽しんでいたのでいいのだ。おあいこだ。
夕方までいろいろに乗り回して、疲れて遊園地を出た。
遊園地を出るとまた手を離して距離を置いて歩いた。
でも風が冷たかったので、やっぱりもう一度手を繋いだ。
寒かったからなのだ。風邪をひいては勝負どころでは無くなるのだ。

道重が自分の家にいきたいと言い出した。
「後藤さんだけお金持ってるのは卑怯なの」だそうだ。
彼女なりに気にしてはいたようだ。私はまた笑ってやった。
今晩は道重の家にやっかいになることになった。
すっかりしくった。罠だったか。
しかしそんなことで取り乱すごとーではない。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:08
部屋についた。
ピンク色を基調とした女の子らしい部屋だった。
某石川の部屋を思い起こさせる。
しかし某石川よりもずっとセンスがいいと思った。
「可愛い部屋だね」
からかい半分に言ってやった。
「可愛いですか?!ですよね!!」
すっかりしくった。調子に乗せてしまった。
それから何時間か部屋の調度品の可愛さについてくどくどと語られた。

二人で料理をすることにした。
案の定というか、道重はぶきっちょだった。
包丁を使う手つきがあやしいので
「私がやるからいいよ」と言った。
道重は頬を膨らませ拗ねた。私がその頬をつんとつつくと
恥ずかしそうに笑った。
ほんとのほんとにちょっとだけ、可愛いと思ってしまった。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:08

道重をリビングに返して私が一人で料理した。
出来上がりは相当うまくいった。
道重は素直に美味しいと目を輝かせてくれた。
まだまだ子供だ。

ご飯を食べ終わると二人でまったりした。
テレビにモーニング娘。が映っていた。
バカなトークをしてたので二人で笑った。
私がいないモーニング娘。にはあまり違和感はなかった。
道重がいないモーニング娘。にもあまり違和感はなかった。

すっかり忘れていた携帯電話を取り出すと、恐ろしい量の
メールと着信があった。私は一括でみんな破棄した。
それを見た道重も私の真似をした。

12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:09



3年ほど経った。勝負はまだ続いていた。
だから私が土方のバイトに行く時、道重はいってらっしゃいのキスを
口にはしてくれなかった。いつも頬っぺたなのだ。

歩きながら昔のことを思い出した。
きっかけは二人ゴトだった、という以外実はあんまし覚えてなかった。
『後藤真希と道重さゆみ、謎の失踪』というニュースは
とうの昔に鎮火していた。

時々会った人に「後藤真希さんですよね?」と
些かびっくり顔で言われるけど
私は「そうですよ」とニッコリ答える事にしていた。

家に帰ると道重がご飯を作って待っていてくれるのが日課になった。
この子の料理も上達したのだ。よかった。
「おかえりなさい」と道重がニッコリ言うので
「何か夫婦みたいね」と笑って言うと、照れたみたいだった。
今更照れることでもないのにと思った。
「ねぇごとうさん」
道重が言う。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:09
「そろそろ負けを認めませんか?」

「正直、私たちって何の勝負してたんだっけ?」
ちょっと考えてから私は言った。
何か勝負をしてたのは覚えてるけど、それが何だったか実は覚えてないのだ。
多分どうでもいいことなのだ。

道重が私の言うのをきいて怒ったみたいに頬を膨らませてしまった。
「もう、知らない」
私は困ってしまって、頭をぽりぽり掻いた。


14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:10


それからまた3年ほどしたある日、私は不意に思い出してぽんっと手を打った。
「そうだ、私たちアイドルだったのだ」
道重も一瞬きょとんとしたあと、ナルホドと手を打った。
でもだからといってすることもないので
私たちはコタツに足を入れてみかんを食べた。寒い日だったので。

テレビをつけると紅白歌合戦をやっていた。
モーニング娘。が出ていた。
誰が好き、という話になったので「9期メンバーの梨沙子ちゃん」
というと道重が怒ったみたいに言った。
「ごとうさんってあーゆーのが好みなんだ」
別にそんなわけではないんだけどごにょごにょ。
「じゃあ道重は誰が好きなの?」
「私は後藤さんが好き」

なんだか照れくさくて頭をぽりぽりと掻いた。
不意に大昔にしていた勝負のことを思い出してぽんっと手を打った。
私勝ったんだ。もちろんそんなこと言わなかったけども。

2010年もそろそろ終わろうとしていた。


15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/20(木) 23:10
終わり
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 03:35
何コレおもしれーw妙にハマってて初めて見る2人なのに違和感ナシ。次も期待。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 05:03
本気でおもしろいですw
なんか良い夢見れそうだ〜
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/21(金) 13:41
この組み合わせは初めて読んだけど、こんなに萌えられるなんて驚愕。作者さんGJ!!
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 00:35
こんなカプがあったとは
素晴らしい!
接点がなさそうなのに、普通に読めたのがすごい
作者さんありがとう
20 名前:読み屋 投稿日:2005/01/22(土) 01:26
さっぱりとした文体と淡々と語られる文章
かつほどよい面白さ

いやぁ参りましたねぇ、なんかこの二人合いますねぇ
ビックリですw
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 16:33
( ´ Д `)<沢山のレスありごとう
从*・ 。.・从<感謝なの

( ´ Д `)>>16
      あたしとシゲさんはラブラブだぽ。そこんとこ、ヨロシク。
从*・ 。.・从>>17
     私が出てきたらいい夢なの。
( ´ Д `)>>18
      萌えられると照れるぽ。
从*・ 。.・从>>19
接点なさそうだって。
( ´ Д `)あるぽ。(どこにあるかは知らないけどね!)

从*・ 。.・从>>20
     文章は後藤さんが喋ってるだけなの。でも嬉しいの。


( ´ Д `)んじゃ次の話うpしようか!
从*・ 。.・从…これごまさゆじゃないの。

(; ´ Д `)それは…
从*・ 。.・从そもそも、最初は私達で返レスする気も無かったの。知ってるの。

(; ´ Д `)と、とりあえず次いくよー。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 16:51
見上げれば満月
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 16:57
貧乏が憎い。神様の次に憎い。
貧乏さえなければ…。

ねぇ神様?美貴が何かしたの?

私はいつも苛められるのだ。
学校に行くと、それはそれは酷い。
いつも暗い夜道を辿る学校への道は憂鬱でならない。

教室に入るとやはりいつもの面子がいる。

「おはよぅ、ひ・ん・にゅ・うちゃん☆」
石川梨華がイキナリ私に言う。
私は唇を噛むしかできない。

知ってるのだ。こいつだって大してあるわけじゃない。
…人並みなだけだ。
私は、私は…。

とりあえず無視だ。無視無視。
どんなに心が傷ついても、私は顔に出さないのだ。
ママンが言ってた。
『どんなに貧乏だからって、どんなに胸が貧しいからって、
 心まで貧しくなっちゃダメよ、ダメよ。ダメなのよ』

その時は勢いママンをどついたけども
今ではその言葉が身に染みる。
涙が出そうになる。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 16:58
「石川さん、あんまりです。ぺちゃ先輩が泣いちゃいますよ」
道重がいけしゃあしゃあと言う。
後輩の癖に生意気にも美貴より+3カップも
上のブラをつけていやがる。
いつも私は何も返すことができなくなってしまうのだ。

私は二人の嘲弄の眼差しを、椅子に座って項垂れて
甘んじて受けるしかないのだ。


ああ、神様。美貴は良い子です。
だからせめて…せめて…

教室のドアがガラガラと開く。
あのお方が、ついにやって来られた…

「れいな様!」
「れいな様だ!」
「おはようございます、れいな様!」

教室のあちこちから憧憬と畏敬の込められた声が飛ぶ。
私は見ないように見ないように、ぐっと下を向いて堪えている。
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 16:59

れいな様は鷹揚とした佇まいで
いつものように
二つのスイカのようなお胸を携えてやって来られた。

「れいな様バンザイ!」
「キョ乳バンザイ!」

いつもの恒例行事であるバンザイ三唱が教室内に轟く。
私は下を向いている。

れいな様は俯いて唇を噛む私を傲然と見下ろしている。
その視線が痛くて痛くて、顔を上げることもできない。
まるで蛇に睨まれた蛙。

「フン」
れいな様は私の項垂れた頭の更に下のほうを一瞥したあと
鼻で笑って過ぎていった。

今度こそ本当に、悔しくて涙が出てきた。


26 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 16:59


苦痛な夜学の授業を終えると
既に時は深夜だ。

とぼとぼと帰路を歩く途中、まんまるなお月様が私を見下ろしていた。
月め、なんだってお前はおっきくなったり小さくなったりするんだ。
バカ、バカ。

夏の夜の虫たちの合唱が
ヒンニュウ、ゲラゲラ ヒンニュウ、ゲラゲラ
と涼やかに響く。

また涙が溢れてきた。


家に帰るとまたママンに八つ当たりするのだ。
悪いと思ってもやめられない。

「なんでこんなに貧乏なんだよ!!
 こんなだからパットも買えなくてまた苛められるんだよ!」

ママンは悲しそうに言う。

「ごめんね美貴ちゃん…遺伝だから…」

5度目くらいに蹴り上げられた足に、へにゃへにゃと力が抜ける。
私はそのまま、ママンにごめん、とだけ言い残して
タオルケットに包まった。


27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 16:59



悲しい夢を見た。


28 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 17:00


次の日、体育があった。
この時だけは私の心も軽くなる。
体操着の前がまな板と笑われようとも
体育にとって胸はジャマなのだ。(たぶん)

バスケットの試合で私は面白いように活躍する。
運動オンチの石川や道重は面白く無さそうに私を見ている。
サイコーに気持ちいい。

調子に乗ったのがいけなかったか
ボールを追って、後ろ向きに歩いていたら
ぶつかった。れいな様に。
そしてそのまま、ずっこけた。

ぶぉよん。

あえて言うならそんな音だった。
私の頭は、れいな様の二つのダイナマイトプリンの丁度真ん中に
墜ちていった。
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 17:00


「っつ、痛ってー!!!ごるぁ、どこ見てんだよ!!
 一遍氏ね!いや、百篇氏ね!!このドヒンニュウ!!!」

れいな様の怒号が、どこか遠くから聴こえてくる。
私の全身系は後頭部の後ろに集中して、何もわからなかった。
羨望と嫉妬と敗北感と脱力感と、そんな感情が
頭の後ろでぐるぐると渦巻く。

気が付くと私は、大粒の涙を流していた。

ああ、れいな様――あなたはやっぱり、偉大なお方だ。
遠のく意識の中で、私はハッキリ、

恋をしていた。



30 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 17:01




大量の寝汗とともに目が覚める。
辺りを見回す。
楽屋だ、間違いなく楽屋だ。

一応自分の胸に目を遣る。


「おはよー美貴ちゃん。なんか魘されてたみたいだけど、大丈夫?」

石川だ。
私はとりあえず石川をグーで殴って、楽屋を飛び出した。
田中は、田中はどこだ!

自販機の前で田中を見つけた。
暢気にジュースなど飲んでいる。
その胸は、、、
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 17:01

田中だ。
マチガイナイ。
ヒンニュウだ。
美貴を凌ぐヒンニュウだ。

全身の緊張が一気にほぐれる。
汗がどんどん引いていく。
身体を覆っていた冬が晴れ、春が来た。


「どぅしたんすか?凄い顔して」

「田中…」

「ふ、藤本さん…なんすか…?」

「私にはあんただけだよ、田中」

「藤本さん…あぁ、人が、人が見て…」



ロマンチック恋の花咲く口付けは、森永牛乳の味がした。

32 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 17:01
終わり
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 17:31
ミキティ・・・。・゚・(ノД`)・゚・。
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 18:01
すげー面白いよ 次回作も頼む!!
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/22(土) 20:12
ダイナマイトプリン最高
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 00:51
ヤンタンを聞いた後だけに余計に泣ける!w
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 00:56
れいな様…wヤバ、ニヤニヤしてしまう
(・∀・)b!次も待ってるぜぃ!
38 名前:読み屋 投稿日:2005/01/23(日) 01:10
おもろい!おもろい!おもろい!夜中!夜中!夜中!
次!次!次!

ガンバレミキティ!
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 06:52
やっぱしめちゃくちゃ面白い(w 作者さんのレスも可愛い♪
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/23(日) 19:51
バカだwww
最高だよ、作者さん
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:13
从 VvV)レス有難う!
( ´ Д `)はげどー
从 VvV)ハゲ言うな

( ´ Д `)>>33
      ミキティは強くたくましく生きてるよ!
从 VvV)>>34
     面白いって言われるのも何か(ry
( ´ Д `)>>35
      プリン旨いぽ
从 VvV)>>36
     ヤンタンで何か言ったっけ
( ´ Д `)>>37
      田中も偉くなったもんだねぇ
从 VvV)>>38
     気を確かに
从*・ 。.・从>>39
      可愛いのは私
|ミ サッ

(; ´ Д `)
从; VvV)

( ´ Д `)>>40
      ごとーは賢いぽ

( ´ Д `)次いくよー
从 VvV)殺伐とね
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:14
ガキの帝国
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:16
ハロコンの終わりに、ハロプロの皆が集められた。
今日は前から言われてた『無礼講の日』なのだ。
先輩後輩関係無く、何をしてもいい日という触れ込みで
スタッフが準備していた。
総勢40数人のハロプロメンバーが一同に集められた。
いろんなアイテムとか集められた広いスタジオだ。

「大丈夫、カメラとか回ってないから、なんでもしていいんだよ」
と、スタッフ。
嘘ばっかり、と思ったけどあたしは大人なので言わない。

明らかにターゲットになると自覚してる人たちは
この日に備えて完全防備してきていた。
圭ちゃんなんかは野球のキャッチャーのプロテクターを纏っている。
完全にガメラだ。
しかも律儀に「楽天ゴールデンイーグルス」のロゴ入り。
何となく泣けた。

裕ちゃんや圭織もびびりまくりだ。
あたしは別にターゲットになるとも思えないので普段どおり。
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:17

スタッフが開始の合図をしたけど
誰も何もしようとはしない。
そりゃそうだ。
イキナリ何してもいいなんて言われても困ってしまうもの。

40人立ち尽くしはさすがに白けるだろう。
誰かが空気を読まなければいけない。口火を切らなければいけない。

ふと、まっつーと目が合った。
彼女も私と一緒で、ターゲットになることは無い立場の人だ。
あたしが目配せをすると、彼女はしぶしぶ頷いた。

まっつーがつかつかとアイテム置き場に行って
お馴染みのパイを両手に持って
戻ってきて
裕ちゃんと圭ちゃんの顔面に
思い切りぶつけた。

まっつーが不安そうにあたしを見た。
あたしは軽く親指を立てた。

45 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:17

開始の合図になった。

娘。の下のメンバーが次々に動き出した。
パイ投げ合戦。
標的は次第に裕ちゃんや圭ちゃんに限られなくなってきた。
メロンとかゆきどんとかカントリーとか
入り混じっての大騒乱となった。

あたしはぼんやり見ていた。
気を使うのも楽じゃない。

亀井ちゃんはひたすら笑顔で美貴ティにパイをぶつけていた。
心底楽しそうだった。

麻琴はどさくさ紛れによっすぃに抱きついていた。
心底嫌そうだった。

高橋は逃げ惑うオトナ組の背後に回り込み、ひたすらカンチョーしていた。
理解に苦しんだ。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:17

まだ、キッズの子達が遠慮していた。
一応乗ってみるものの、後々が怖くてあまり外せないでいるようだった。
裕ちゃんがボロボロの体でキッズの子達の前に行く。

「お前らもどんどんやってええねんで。
 今日は今日や、何しても無礼講。何やっても怒らへん。
 かまへんからドンと来い」

さすがオトナだ。
だけど、裕ちゃんのこの言葉は、無邪気な彼女たちに火をつけてしまったのだ。
キッズが動き出したら、もう止められない。止まらない。

彼女達は本当はまだ遊びたい盛りの子供だから
無理とにオトナの社会に組み込まれてしまったストレスは人一倍なのだ。
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:23

彼女達の目の色が変わった。
子供にストッパーは無い。
常識も無い。

可愛らしいパイ投げ合戦も、そろそろネタが尽きてきた頃
カンチョーに励んでいた高橋がキッズの子達のタックルによって吹っ飛ばされたのを
キッカケに、子供たちの逆襲が始まった。
何故こんなモノがあったのか、金属バットやら鉄パイプやら
手に持ったキッズ達がオトナ組を襲い出した。

みんな楽しそうに可愛らしく笑っている。
しかし洒落にならない。

あたしはぼんやり見ている。
道重があたしの脇にちょこんと来て
「これは罠なの」
とだけ言って私の影に隠れた。
寄らば大樹か。
ハローにいて立場の特殊なあたしとまっつー以外
みんな危険が迫っていた。
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:23

これは何とかした方がいいんじゃないか。
オトナの悲鳴とコドモの笑い声が木霊する奇妙なスタジオで
あたしも何となく思い始めていた。

オトナが次々に蛸殴りにされている。

田中があぁ!の二人に吊るされている。
美貴ティが亀井ちゃんに押し倒されて××××。


見守っていたはずのスタッフを見ると
ニヤニヤと笑っていた。
ナルホド、罠か。
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:24

コドモにとって悪戯とは暴力なのだ。
コドモにとって抑圧の表現はやはり暴力なのだ。

オトナ組は反撃することも出来ず
次々と倒れていく。
死屍累々。
悲惨な現場だ。

「ねぇ、道重。これは本当に、私たちで何とかした方がよくない?」
行き過ぎ、ということがある。

「無理なの」
道重はいつの間にかあたしの服の中にもぐりこんでいた。
「なんで?大人のほうが数が多いんだし」

道重は無表情で応えた。
「みんなコドモだから」


前を見ると、なっちがニコニコしながら立っていた。
「ごっちん」
ニコニコ。
手には金属バット。
それが振り上げられるのをぼんやりと見ながら
ナルホドね、と呟いた。
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/25(火) 22:24
終わり
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 00:31
あぁー、そーキたか。でも好みな黒さです。それでもやっぱ、ごまさゆは有りだ。
52 名前:読み屋 投稿日:2005/01/26(水) 01:18
ウム、今回は黒々してますな
個人的にミキティとエリリンが気になるのですが・・・
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 05:38
黒も(・∀・)イイ!!っす(w 個人的には高橋の書き方にバカウケ(w
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:24
(●´ー`)レスありがとー
( ´ Д `)ごとー

( ´ Д `)>>51
      ごまさゆはガチ。そこんとこヨロシク。
从*・ 。.・从ヨロシク。
|ミ サッ

(●;´ー`)
(; ´ Д `)

(●´ー`)>>52
       中々目の付け所がいいべさ。見込みあるべ。
( ´ Д `)>>53
       黒いのは梨華ちゃんぽ。高橋は変な子だぽ。


( ´ Д `)んじゃ次いくよー
(●´ー`)なに?これ
( ´ Д `)知らないぽ。さゆが書いたぽ。ごとーじゃないぽ
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:24
夢見る機械
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:26
軽く握り締めた拳でコンコンとドアを叩く。
軽快な音を期待しても、いつもくぐもった音しかでない。
何事も思うようにはいかない。

「はい」
中から聴こえる静かな声。
私は今一度、自分が息を吸うのを認めてから返事をする。

「紺野です」

「入って」

取っ手に手をかけて捻ればドアは簡単に開いた。
こんな簡単なことにも躊躇する今の自分が滑稽だった。
部屋に入りドアの鍵を内からしっかりと閉めたのを確認すると
私はできるだけ自然な笑顔を作って言った。

「こんばんは、松浦さん。調子はいかがですか?」

部屋の主である彼女は、私の来る方を向いてニッコリと微笑んでいる。
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:27

「良好、と言いたいところだけど」
「そうですか」

聞く必要の無い質問だった。言ってすぐに気付いた私は
彼女の言葉を遮るとそのまま椅子の合間を縫って彼女の脇に来た。
いかにも自然な仕草で私を待つ彼女に、私の鼓動は微かに早まる。

「見ます」
「ヨロシク」

彼女が私に背を向け、着ている服を一枚一枚、ゆっくりと脱ぐ。
相変わらず、なんて綺麗な体なんだろう。
私はいつものように揺らぐ蛍光灯の下で、半ば夢心地になりながら
ぼんやりと考える。

彼女の背中が完全に露になった。
「失礼します」と言って彼女の背中に手を伸ばす。
彼女がクスリと笑った。
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:27

彼女の肩甲骨の下についている、ごくごく微細なカバーを手探りで
探し出す。それを見つけたら次はカバーを慎重に剥していく。
中にあるスイッチを爪の先で強く押す。
微かな電子音がして、その背中が、パックリと口を開けた。


アイドルサイボーグ。そう彼女が世間で呼ばれだしたとき
私は些かの驚きと、妙な得心とを同時に覚えた。
それは事実だったから。こちらが如何に分からないようにと作っても
見ていれば分かるのだろう。彼女の異質な何かが。

試作品として作られ、テストとして芸能界に送り込まれた彼女は
開発者の誰もが予想し得なかった成功ぶりを示して見せた。
私は急遽送り込まれた彼女のメンテナンス係。
客観的に見て、合格するはずも無かったモーニング娘。の5期オーディションに
「補欠」といういかにもそれらしい言い訳と共に合格したのは、そういう訳だった。
思えばあの頃は有頂天だった。
研究所でも下っ端の私が、研究所の最先端の実験の前線に立てる。
それに幼少より仄かに憧れていた芸能界に、私も入ることが出来る。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:28

「どんな感じ?」
黙々と点検する私に、彼女が声を掛けた。
あまりにも静かの中にいたことを思い出させる。

「そうですね。バッテリーは大分消耗してますから
 予備電池は取り替えましょうか。あといくつか細かい
 部品も取り替えておきます」

「そう、お願い」

事務的に告げられた私の声に、彼女は柔らかく返した。

彼女の活躍は本当にめざましいものだった。
私は、自分のアイドルとしての活動に励みながらも
いつも彼女のことを見守り、定期点検を怠らなかった。
彼女が世間の賞賛を浴びれば浴びるだけ、私は誇り高い気持ちになった。
その誇りが、目の廻るような過密スケジュールの合間を縫って
彼女の元に行く原動力ともなった。
本当に充実した数年間だった。
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:28

バチリ、と稲光が煌いた。

「あっ」

思わず声をあげてしまう。

「どうしたの?」
彼女は変わらない柔らかい口調で尋ねた。

「いえ、少し静電気が」

「そう…」

ゴムの手袋をしていても尚感じられた電気刺激。
――漏電してるのかもしれない…

作られて4年強。彼女の身体は相当にガタがきていた。
精密なシステムを有した彼女が、永く活動するには
彼女の運動量は多すぎた。そして彼女の人工皮質は、薄すぎた。
明らかな無茶だった。
外面的に衰えは見られなくても、中を見ればそれは明白すぎることだった。
幾つかの機能は本人も知らない裡に停止している。
それを知っているのは私だけだった。
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:30

電池の交換が終わり一通りの点検が終わると、私は
彼女の背中をゆっくりと閉じた。

「終わりましたよ」

「ありがとう」

彼女が振り返って、またニッコリと笑う。
私はその身体に一瞬目を奪われて、直ぐに逸らした。

「早く服を着ましょうね」

「あはは、紺ちゃん照れてんの?
 今更照れるような仲でもないじゃん」

彼女はさも可笑しそうに笑うと
徐に衣服を着け始めた。

「ねぇ、どんな感じ?」

ブラウスのボタンを留めながら聞く彼女。
私はすぅ、と静かに息を吸ってから
「完璧です」
と言った。
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:30
彼女はふふふ、と軽やかに笑った。
『完璧です』は私が彼女の点検をした後で使う決まり文句だった。
それは一種の儀式めいたやりとりで、彼女はいつもその言葉を欲した。
しかし思えば、本当に欲していたのは私だったのかもしれない。
いつからか、この言葉が嘘になってからは…。

彼女がふとに笑顔を消し、どこか憂いた目で中空を見つめる。
不意に彼女の口からこんな言葉が紡がれた。

「ねぇ、紺ちゃん。私さぁ、壊れるなら
 ステージの上で壊れたいな」

「……」

私は目を瞑った。

「なんて、そんなこと許されないのは分かってるんだけどね」

彼女は舌をぺろりと出して笑って見せた。

「ねぇ、『完璧です』って、嘘だよね?」

「どうしてですか?」

「にゃはは、自分のことは自分が一番知ってるの」

何もかも知っているような口ぶりに少しカチンと来る。
彼女のことを一番知っているのは間違いなく、私だ。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:31

「ねぇ、私が壊れたらどうなるの?
 新しい『松浦亜弥』が私の代わりに、何事も無かったみたいに
 活躍するのかなぁ」

「そういうことになりますね」

彼女は拗ねたように頬を膨らませた。
今日の紺ちゃんはイジワルだ…口の中だけでぼそぼそと呟く。

実際に、研究所の技術は上がっていた。技術的になら
彼女を上回るヒューマノイドが作れるはずだった。
しかし何体試作しても、彼女を超える「松浦亜弥」は出来なかった。

「でも松浦さん、アナタを超える『松浦亜弥』を作ることは不可能です」

「何それ」

彼女が面白く無さそうに言う。
私の言葉は半分事実で、半分嘘だった。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:32

「でもさぁ、何か寂しいな。
 紺ちゃんはさ、私の代わりが来ても、私と同じように優しくするんでしょ?」

「……」

「どんなに夜遅くても、どんなに疲れててもさ
 私が『来て』って言ったら、飛んで来てくれたじゃん?
 それってすっごく嬉しかったんだよね…」

私は無意識に、下唇を噛んでいた。

報告書に記載する。
「異常なし」の羅列。
これは私のみに許された嘘だった。

「ねぇ、紺ちゃん?」

65 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:33

彼女はどこまでも「完璧」だった。
その笑顔も、その仕草も。相手の心を絡め取る、心の機微も。
すべて、プログラムの範囲を超えていた。
『突然変異』
もし、コンピューターに対してその言葉を使うことが許されるのならば
彼女はまさしくそれだった。
太古の海に生命が生まれたごとく、彼女は私たち製造者の意思と別のところから
偶然生まれ出た新生命だとさえ、言うに吝かではない。

それは恐ろしいことだった。
私たちがまるで神になってしまったかのような錯覚を起こさせる。
研究所の人たちは報告書の彼女とメディアに開かれた彼女としか知らない。
それですら彼らは自分たちが神であるかのごとき錯角を俄かに覚え始めているのだ。

間近にいて、本当に彼女を知っているのは私しかいない。
それは耐え難い恐怖だった。

報告書の記載を終え、鞄に仕舞う。
彼女は私の仕草をじっと見つめていた。
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:34

「じゃあ、私はこれで。何かあればまた呼んで下さい」
視線に耐えられない私は、そう告げて席を立とうとした。
彼女が言う。

「待ってよ」

「何ですか?」

彼女は真剣な眼差しで私を見ていた。
彼女の後に作られた試作品には、どれだってそんな目はできなかったな。
ぼんやりとそんなことを思った。

「今日は一緒にいて欲しい」

その一言に私の胸は、焦げ付くように熱くなってしまう。

「明日仕事は?」

「朝10時からがっつり入ってます」

「でも一緒に居て?」

彼女がニンマリと笑う。完全に、私は敗北している。
溜息が出る。
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:34

「わかりましたよ…」

「わーい、紺ちゃん大好き!」

彼女は私の手を引くとそのまま簡易ベットの上に倒れこんだ。私ごと。
「お話しよう」甘い声でそう囁いて、私の髪を掻き揚げる。

「さっきの話の続きして」

「さっきの話?」

「ほら、私以上の『松浦亜弥』は作れないって話」

「ああ、それは、松浦さんが完璧だからですよ」

「なにそれー。面白くなーい」

68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:35

アナタ以上の松浦亜弥は作れない。

研究所の人たちがその結論に満足するはずが無い。
彼らはより以上のモノを作ろうと貪欲になりすぎていた。
科学者の悲壮な性とでもいえるものが、本能的な涜神の連鎖と、狂気を産んでいる。
それは私も同じ。ただ、彼らはこの「松浦亜弥」を知らないだけ
まだ可愛らしい存在と言えるかもしれなかった。
彼らは早く彼女が停止し、そこからメモリーを抜き取る機会を得るのを心待ちにしていた。
激しい運動を禁じようとしないのもその為だった。彼らは新たなる破滅的創造のために
彼女の生贄を待ち望んでいた。
そして私は、その一切の鍵を握っていた。

彼女が私の耳元を擽る。
私は身を捩って、降参の意を示した。
きつく抱きしめる。彼女の身体は、冷たい。

「私が愛してる松浦さんはアナタだけだから、
 アナタ以上の『松浦亜弥』なんて作れないんですよ」

彼女の耳元に囁きかける。

「あ、ちょっと、面白い話かも」
69 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:36
「紺ちゃんがそんなこと言ってくれたの、初めてだ…」
彼女は小さな声で呟いた。


私は、研究所の人達とは比べようも無いくらい、狂っている。
それを今、自らに認めさせる為に言葉は発せられた。
彼女はささやかな幸せでもかみ締めるように私の胸に頭を預けている。

彼女は私という一人のニンゲンを狂わせた。
コンピュータという新人類の最初の勝者であり、私は哀れな
人類最初の敗者だ。
誰もこの危険に気付いていない。
この新人類のより完成された、より純粋な魔力に。

「あー、何かすっごい幸せ」

彼女が呆けたように言う。

「じゃあ、私はもう帰ってもいいですか?」

帰る気なんてさらさら無かった。
彼女の腕の中はどんな麻薬にも勝る依存性を持っている。
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:36

「何それー。脈絡無いよ。
 一緒に居てくれるって言ったでしょー?」

「今日は随分と甘えたですね」

彼女はんふふ、と笑った。

「私もさー、ほら、限界近い訳じゃん?」

「そんなことは…」

「あるの」
直ぐに打ち消される。
今日の彼女は何時になく、強い。

「だから紺ちゃんとの思い出、いっぱい作っておきたいの」

「……」

「正直に言ってみて。私あとどのくらい持ちそう?」

彼女は頭がいいのだと思う。
そして私は、ニンゲンの代表格となれるほどに
バカなんだろう。
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:37
「…持って、一月です」

「そう」

その時、ふとある考えが閃いた。
それは世にも恐ろしい、禁忌としか言えない考えだった。
醜い、ニンゲンだからこそ持てる最低の考えでもある。
しかし彼女は、私と同時にその考えを抱いていたらしかった。

「ねぇ、今日ここでさ、私を壊すことって、できるよね?」

私の内に閃いた悪魔の囁きを、彼女はいとも簡単に口にした。

「どうせステージの上で壊れられないならさ、
 紺ちゃんと二人きりの時に壊れたいなぁ、なんて」

彼女は無邪気で残酷な狩人なのか、それとも
私の心を読みでもしたのだろうか。

どちらにせよ、私の心は最奥のどす黒い沼の中に追いやられていた。

「…私に、松浦さんを壊せって言うんですか?」

自分の口からでた言葉には、妙に甘い響きが伴っていた。
72 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:38
「私としてはそれが嬉しいなぁ」


「誰にも見られずに、紺ちゃんと二人っきりで
 朝気が付いたら私が動かなくなってるの。何かいいでしょ?」

まるで、秘密の悪戯を考え付いた子供のように
無邪気に言う。
私はゆっくりと目を瞑った。
彼女の甘い囁きを、頭の中で形作る。

私は研究員としての立場も、アイドルとしての立場も棄てて
一個の愛欲に絡め取られた独占者として、彼女の機能を停止させる。
もちろん彼女のメモリーも復元不可能なまでに破壊する。
彼女は二度と生まれない。私は唯一の新人類との唯一の交感者として
特別な存在になる。

身を引き裂くような牽引力を持って、彼女の言葉が
私の脳内を跳梁した。

ふと、思った。自らの「死」すら既に受け入れている彼女に
私のような迷いや、煩悩の暗い影が兆すことは果してあるのだろうか。
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:39

暫くの沈黙の後、言った。

「私が今、何を考えてるかわかりますか?」

「私のこと」

彼女の応えは正解だった。
そして私の質問の意味を汲みながら、その意図をずらし
彼女の心中をも悟らせないという、巧みな応え。
あまりにも人間的で、しかし不可思議な応えだった。

沸き立つ、科学者としての好奇心が、私を支配していた熱を幾分冷ました。
それは純粋に「彼女のメモリーを見てみたい」という好奇心。
しかしそこで、ハッとした。

私は、試されているのだろうか。

彼女の方を見る。慈愛に満ちた微笑を私だけに向けて当てていた。
その笑顔は、勝ちを確信していた。
私という一人のニンゲンを溺れさせ、欲望に絡めとりそして
何一つ私たちニンゲンの思う通りにはいかせない。
そんな挑発的な、鷹揚な姿だった。



74 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:39


私は完全なる敗北者だった。
ただ彼女の微笑に、溶けるほどに熱を上げて
彼女の振り下ろされた唇を
雛鳥のように無心に求めた。

何一つ、思う通りには行かない。



朝、総ては彼女の言葉通りだった。
彼女は静かに眠っていた。
私は少しの涙を流した後、彼女のメモリーと共に
この部屋に、火を放った。

75 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:39
終わり
76 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:53
。・゚・(ノд`)・゚・。
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 23:58
なんと・・・・・。色々考えさせられます。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/27(木) 00:18
これは・・・ひとつのはハッピーエンドなのだろうか?にしても、さゆが書いたのかw
79 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/01/27(木) 07:11
マルチを思い出します。
好きだなあこういうの
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/27(木) 19:53
さゆ天才だな
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/28(金) 01:44
まつこんアリエネ!
さゆの才能も地に落ちたか!!
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:47
( ´ Д `)れすてんくす
从*・ 。.・从てんくす

川;o・-・)ちょっと待って下さい!
     セオリー通りなら返レスするのは後藤さんと私のはず…

( ´ Д `)でも、レスくれた人が誰も紺野に触れなかったという事実が
从*・ 。.・从みんな私に夢中なの

                =====ヽ川o `Д´)ノウワァァン

( ´ Д `)>>76
       泣くな。男の子でしょ!(しらんけどね)
从*・ 。.・从>>77
       ハッピーエンドだよ。
( ´ Д `)>>78
       さゆが書いたぽ。しょーじきあたしもよくワカランぽ。
从*・ 。.・从>>79
       私はマルチを思い出さなかったの。詳細キボンヌなの。
(* ´ Д `)>>80
       ヌハー
从*・ 。.・从後藤さんが照れることじゃないと思うの。
( ´ Д `)>>81
       ハゲド
从+・ 。.・从=);´ Д `)ジョパー

从*・ 。.・从というわけで次なの。
( ´ Д `)次は小休止だね。  
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:47
空とぶくじら
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:48
夏の暑い暑い日のことでした。
ビルの部屋の窓から、真っ青な空をぼんやりと眺めていると
ビルのニョキニョキ立った隙間から
それはそれは大きな鯨がすいすいと泳いでいくのが見えました。
妙に垂れ目な鯨は、私の方を見て、キュッと目を細めて笑って
すいすい、通り過ぎて行きました。

私は思わず
「くじらー!」
叫びました。

それぞれ、何かしてた娘。のメンバーさんたちが
何かと思って私の方を見ました。

「今、くじらが空を泳いでたの!」
私はちょっと興奮して言いました。

みんなはキョトンとして、それから大笑いしました。
「重さんらしーや」口々にそんなことを言いました。
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:48

「ほんとだもの!」
私は悔しくなって言いました。
「どこどこ?」
半笑いでみんなが窓辺に来たときには見えるのは
ニョキニョキ立ったビルの影とどこまでも真っ青な空ばかりでした。

私はなんだかやるせなくて、楽屋を後にしました。
出しな、絵里がニコニコ笑って言いました。
「あたし知ってるよ」

私は「ありがとう」と言って部屋を出ました。

86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:48

外はカンカンの日照りが眩しくて、とても蒸し暑いのです。
そこで、後藤さんに貰った麦わら帽子を被りました。
可愛いリボンのついた麦わら帽子でした。

空を見上げると、やっぱりニョキニョキ立ったビルの間から
大きな大きなオムライスが、お皿に乗って飛んでいるのが見えました。

私はなんだか嬉しくなって、後藤さんに会いにいくことにしました。

87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:49

後藤さんと、都会のまんなかの芝生の青い公園にやってきました。
「似合ってるよ」と後藤さんは、私の麦わら帽子と水色のワンピースを見て
嬉しそうに言いました。
私はえいっと、後藤さんの鼻を押しました。なんとなく。

「さっきのは後藤さんですね?」
公園のベンチに座って、言いました。

「さっきのって?」

「さっき空を飛んでたくじら。後藤さんにそっくりだったの」

後藤さんは、あはっと笑いました。

「それはあたしじゃないよ」

「えー、じゃあなぁに?」

風がワッと吹いて、思わず麦わら帽子を押さえました。
後藤さんはニコニコ笑っています。
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:49

空を見ると、真っ青な中に白い大きなお城がぷかぷかと飛んでいました。

「あ、お城」

「お城だねぇ」

お城が過ぎると、今度は
大きなアザラシが気持ちよさそうに泳いでいきます。

「あ、後藤さん」
「ちがうってば」

「みんな飛んでるの」
「飛んでるねぇ」

色んなモノが飛んでました。傘とか自動車とかケーキとか
さっきの大きなくじらもいました。
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:50
暑い日差しの中を気持ちよさそうにすいすいと
私たちを見ながら泳いでいきました。
ホラ、あたしはここにいるから、違うでしょ?
後藤さんが言いました。

「あ、絵里だ」
「亀ちゃんだ」

絵里がすいすいと空を泳ぎながら、さゆーとか叫んで楽しそうに
手を振っていました。
一緒に飛ばないの?絵里は言いました。
見れば娘。の皆がいて、気持ちよさそうに泳いでいました。

「飛んでくれば?」
後藤さんが言いました。
私は首を振りました。

「私は後藤さんと一緒に見てるの」

90 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:50

暑い日差しがなんだか気持ちよくて、ふわふわとした気分です。
ちょっとだけ眠たくなってきました。

「眠いの?」
うとうとしてる私に、後藤さんが優しくたずねました。
私は薄ぼんやりとした意識のなかで、コクリと頷きました。

「どうぞ」
後藤さんが、膝をぽんぽんと叩いて、ちょっと悪戯な
顔で言いました。
私は、そのまま後藤さんの膝まくらに倒れこみました。

ああ、きもちい。

溶けていく意識の中で、後藤さんが
私の髪を撫でてくれているのがわかりました。

そうしながら、あいた方の手を絵里に振っている後藤さん。

浮気モノ――――
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:51



目が覚めると、辺りは涼やかな夕暮れでした。
空に遊んでいたみんなは、どこかに居なくなっていました。
そのかわり、後藤さんは相変わらず
私の髪を撫でていてくれました。

おはよう

92 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 11:51
終わり
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 15:09
もうっ!後藤さんの浮気者w 
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/29(土) 15:12
一緒に空飛んでいいですか?
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/30(日) 01:53
かわええなー。さゆごまいいなー。
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/30(日) 15:35
きゅ〜んとなるなぁ(w
97 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:35
从*・ 。.・从レス感謝なの。
( ´ Д `)なの。

从*・ 。.・从>>93
      後藤さんはお仕置きなの
( ´ Д `)>>94
      一緒に飛ぶぽ
从*・ 。.・从>>95
      私は可愛いの。あなたは正しいの
(* ´ Д `)>>96
      きゅーん

从*・ 。.・从次いくの
( ´ Д `)ジジねたぽ
98 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:35
雨降り隊長
99 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:36
さあさあと降りしきる雨の音に擽られて目が覚めると
あたしは吊るされていました。



「あ、起きた。
 って………キャハハハハハハハ、何?その顔…
 あっハハハハ、サイコー!ねぇ、ねぇ、誰?誰?」

脇で聴こえる甲高い声。

「その声は…矢口?」

「カオリ?カオリなの?ぷっ、けっさくー」

あたしはカオリ?そうだそうだ、あたしは飯田圭織だ。
横を見ると、何か変なちっちゃい白いのが私と同じように
吊るされています。これが矢口なのかしら。

「ねぇ、矢口?あたしたち何してんの?」
100 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:36

矢口?まだ自信ないけど、声だけなら矢口な
その白いのに、聞いてみます。
白い丸い頭に、マジックで書いた落書きみたいな顔があります。

「プッ、いや、いやいや、ごめん。
 何ってホラ、照る照る坊主」

ああ、なるほど。言われて見ると照る照る坊主でした。
矢口はあたしの顔がそうとうツボにきたらしくて
まだケラケラ笑っています。

「何で照る照る坊主なのかな?」

「何で、って。雨だからでしょ?
 亀井が作ったんじゃん。12人分」

ああ、そうそう。亀井が作ったんだった。だから矢口の
顔がそんなに滑稽なんだ。
101 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:37
降り止まない憂鬱な雨を疎んで作られた12体の照る照る坊主は
自分勝手に、好きにお喋りをしたりして退屈を紛らせているようです。


「カオリ、言っとくけどね、カオリの顔の方がよっぽど
 滑稽だからね。ぷ、くく」


12個の照る照る坊主が、ずらっと
一列に並んでいました。
みんな思い思いに窓辺に吊る下がって楽しそうにしていました。



「あれ、でもじゃあ何であたしがカオリで
 矢口が矢口ってわかったんだろ」


顔を見ても、亀井には悪いけど全く誰が誰だかわかりません。

「それは、ほら」
矢口が背中を見せる。と、そこには
拙い文字で「やぐちさん」と書かれていました。
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:38

あたしにも書いてあるのかな、と思って
ひらひらな白いスカートみたいな身体をねじってみてみると
やはりそこにも同じような拙い字で「いいださん」と書いてありました。

くすり、と笑いが漏れました。


「亀井も可愛いことするのね」

「そだねぇ」

あたしたちから一番遠くで、6期の3人の遠慮がちな笑い声が
響いていました。


雨はざぁざぁと降っていました。
あたしは街の雨空をぼんやりと眺めていましたが、
ふとあることを思い出しました。
103 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:39

それで、矢口にしか聴こえない声でいいました。

「そういやさ…カオリ、もう卒業したじゃん。
 ここにいて、いいのかな…」

矢口は少し考えるような表情になりました。
その顔が可笑しくてちょっと笑えました。
矢口は言いました。

「別にいいんじゃないの?亀井が勝手に作ったんだし。
 ホラ、亀井にとってカオリはまだ必要ってことでしょ?」

あたしの口から、知らず知らず溜息が漏れました。

「ああ、そうだね。でも…」



「必要っていうより、まだ実感が無いんだろうね。
 昨日の今日だし。きっと、すぐカオのいない娘。にも
 慣れるよね」

「……」
104 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:39
あたしが居ない娘。の活動は実質、まだ始まっていないから。
でも、あたしがここにいちゃいけないのは確かなのです。

「てか、そうじゃなきゃ困るよ。
 しっかり引っ張ってやりなよ、新リーダー」


「あたしがこの役目終えたら、もうここに吊るされることも
 無いだろうし、ね。変な顔描かれることも無いだろうし。
 最後の仕事、しっかり雨降り止まさないとね」

「変な顔してカッコイイこと言うなよ」

矢口はまた、ケラケラと笑いました。

雨どいを伝った雨粒が、ぽろり、と落ちました。
105 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:40

暫くの間、あたしたちはそうして降りしきる雨を見ていました。
年少のメンバー達は相変わらずで、楽しそうにお喋りをしたり
お互いの顔の不出来についてからかいあったりしていました。
そして一番、みんなから突っ込まれた亀井は
照れくさそうに弁明していました。

また雨粒がぽろりと落ちました。


空が明るんできました。
段々雨脚が弱まり、やがて、雨は上がりました。


「あ、止んだ」

矢口が呟きました。

そのとき
私を吊るしていた糸が
プツリと切れて
私はふわりと落ちていました。

106 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 20:40
終わり
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 23:51
ありがとう最後のオリメン圭織。あなたは確かにそこにいた。
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/01(火) 22:16
圭織さんお疲れ様でした。
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:18
( ´ Д `)レスありがとさん
川‘〜‘)||本当にありがとー

( ´ Д `)カオリももう卒業か。大人になったねぇ
川‘〜‘)||ごっちんには言われたくないわ

( ´ Д `)>>107
      カオリはいるぽ。どっかには
川‘〜‘)||>>108
      ありがとう。ソロになっても応援してね

( ´ Д `)さて、次を…
从+・ 。.・从=);´ Д `)ジョパー

从・ 。.・+从もう知らないの

    (´ Д ` ;)
    (゜皿 ゜ )
110 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:19
ふーりっしゅフィッシュの休日
111 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:19
あたしはあんまり回りのことに興味無いんじゃないかとか
巷では昔から言われたりもしてたんだけど
それはちと違うくて、
あたしは今、娘。に非常に興味がある。

なっちやカオリも居なくなって梨華ちゃんもやめてしまうという
娘。が一体どうなっていくのか、どうなってるのか
そんなことに、曲がりなりにもちょっとだけ娘。にいたことのある
あたしとしては気になるのですよ。

そこで、娘。の楽屋に潜入することにしたのだ。
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:21

普通に入ってってもいいんだけども、みんなの態度が妙によそよそしくなるから
今日はこっそり入ってみた。

楽屋はまだ誰もいない。
あたり前田のクラッカーだ。いないように早い時間に来たからだ。

とりあえず楽屋に隠れるのだ。
皆が来ない先に。
あたしはとりあえずクローゼットに身を潜めることにした。

とりあえず入ってみる。
クローゼットの隙間から楽屋内がよく見渡せるように。
身体を押し込んでみる。
113 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:22


ぷぎゅ。

変な音がした。

「痛いですぅ」

吃驚仰天だ。亀井ちゃんだ。先客がいたとは。

「んあ、ごめんねぇ。まさか亀井ちゃんがいるとは思わなかった」

「いいですよー」

亀ちゃんはうへへと笑っている。
何してるんだろう、この子。今の娘。はよくわからない。

「後藤さんもなんですかぁ?」

「んあ?何が?」

それにしてもクローッゼットのなかは思いのほか狭いので
私の背中で亀ちゃんを押してる形でどうにも動けない。
亀ちゃんが背後でえへへと笑っている。
114 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:23
「亀ちゃんは何してるの?」

「私狭いところが好きなんです」

「へぇ…」

変な子だ。
とりあえず向きを変えてみよう。
と思って動くのだけれども、そのたび、あたしの肩が
亀ちゃんを押さえつけてしまう。

「痛くない?」

「平気ですよぉ」

私の背中に押さえ込まれた亀ちゃんはくぐもった声で言う。
ごそごそとやって、何とか向きが変えられた。
今丁度亀ちゃんとあたしが向き合う格好。
なのはいいんだけども、狭すぎてなんか殆ど抱き合ってるのだ。

「えへへ、後藤さん」

なんて亀ちゃんが言うものだから、どうしたもんか。
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:25

「後藤さんは何してるんですかぁ?」

ギクリ。
まさか、娘。を覗きに来たなんて言えない。
いや、言ってもいいかもしれないけど
何かあたしのキャラじゃない感じしてやだ。

「えーっとね…ちょっと、そう、私もちょっと狭いところに入ってみようかなって」

まずった。苦し紛れに言ったのが間違いだった。
亀井ちゃんの目が急に光り出した。
暗いクローゼットの中なのに、キラキラ光ってる。
水を得た亀だ。

で、そのくせ何も言い出さない。
じっとあたしを見つめてくるもんだから、さあ困った。
正直どうしたらいいのか。
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:27

「ねー亀井ちゃん…いつまでこうしてるの?」

じーっと見てくる。なんか照れる。
亀井ちゃんの体がぴっとりとあたしにくっついてる。
不可抗力なのはわかってんだけど恥ずかしい。

「出来る限り永く…がいいです」

うわぁ…。反則じゃない?
何この子。変だ。変だけど、可愛い。それって変だ。

ガチャリ、と楽屋のドアが開く音が聞こえた。
誰か来たのだ。なんとなく、まずい。
あたしはまた体の向きを変えようとして、動いた。

「あっ」
亀ちゃんが、何かイロっぽい声を出した以外
何にも動かない。
まずい、詰まった。
誰が来たのかしらないけども、まだあたしたちには気付いて無いようだ。
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:28

「しっ」私は亀ちゃんに声を出さないように指示だし。

「でも、後藤さんがそんなとこ…」

…どんなとこなのか、亀ちゃんは何かくねくねしてる。
そのたびにあたしの体と亀ちゃんの体が擦れて、なんか、なんか。

「とにかくだよ。動けないよ。どうしよう」

「どうしましょう」

定員オーバーのようだ。
あんまり亀ちゃんは慌ててる風でもない。
かく言うあたしも、こうなっちゃー仕方ないと思い始めていた。
仕方ないからちょっと亀ちゃんの女の子らしい
やわこい身体を楽しもう、とか、考えてないから、無いから。
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:30
何かいろいろ頑張って、二人で体動かしてみたりしたんだけど
こそばいだけで、抜けない。

「抜けないね」
「抜けませんねぇ」

何かもう諦めた。
なるようになるよ。みたいな。
亀ちゃんもずっと笑ってるんだし。

「しゃーないね」
「そうですね。えへへへ」

「ちょっと寝ていい?」
「どおぞ?」
亀ちゃんが小首を傾げて言う。
なんたってこんな可愛らしいんだろう、と思った。

ともかく寝ることにした。
どうしょーもない時は寝るのが一番なのだもの。
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:30


で、起きたらクローゼットあいてて娘。のメンバーがみんなあたしと
亀ちゃんの抱き合ってる(みたいな格好の)現場見てて、
新リーダーのやぐっつぁんが何か怒ってて。
亀ちゃんが「えへへ、出られなくなっちゃいました」とか可愛く言って
みんなにひっぱり出してもらいました。

であたしは娘。の楽屋をおっぽり出されたよ。
結局娘。のこと何にもわからずにただ亀ちゃんと寝てただけでした。

でも何か特した気分だったので
外にぶらりと出ました。

ハロショに寄ると、亀ちゃんの生写真あったので、思わず買っちゃいました。あは。

120 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/02(水) 23:30
終わり
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/03(木) 00:46
なんかこういうのも(・∀・)イイ!! 激萌っ!!
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/03(木) 01:15
うっわなんだこれ萌え過ぎだ!
123 名前:読み屋 投稿日:2005/02/03(木) 03:25
うわぁ萌え萌え萌え萌え
おりはごっちんと絵里の間に挟まりたいなぁ・・・w
もっと絵里をくださいw
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/03(木) 14:53
この2人もアリだwすげー作者さん!!…でも、さゆ…。だから殴ったのかしら?
125 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/05(土) 20:19
よかったね、ごっちん…
126 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:23
( ´ Д `)みんなありがとねー
ノノ*^ー^)ちゃいこーです

( ´ Д `)>>121
       ごとーはアホじゃないぽ。そこんとこだけヨロシク
ノノ*^ー^)>>122
      萌えすぎは身体によくないですよ
( ´ Д `)>>123
      もちつけ
ノノ*^ー^)>>124
     さゆは怖い子ですからねぇ
(* ´ Д `)>>125
      ヌハー

ノノ*^ー^)次ってさゆが書いたやつですか?
( ´ Д `)そうだぽ
ノノ*^ー^)これ当てつけじゃないですよね?
(;´ Д `)…
127 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:24
乱れ髪
128 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:25
悲しい夢を見たんです
後藤さんが死んだんです
さゆやれいなも死んだんです
あたしの知ってる人、あたしのことを知ってる人
みんな死んだんです

それで泣いているの?

あたしは泣いてないんです
ただ、雨が降っただけなんです

この雨は、亀ちゃんの涙――

違うんです
違うんです

みんなが死んで
一人一人死んで
一粒の
一粒ずつの
雨に変わっちゃったんです

だから雨に打たれるの?
風邪をひいてしまうよ?

誰もいなくなってしまったのですもの
風邪をひいたって、熱が出たって

誰もいなくなっちゃったんだもの
129 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:25

どうしてそんなところに隠れるの?
みんなが探しているよ

悲しくて、眠れません
温かいベッドの上では眠れません
優しい月明かりの中では眠れません
誰もいないのに
眠れません

出ておいでよ
みんないるよ
ホラ、あたしも―後藤もここにいるんだよ?

後藤さんがそこにいるなら
見えないのは夜の闇のせいですか?
降りしきる雨のせいですか?

君が隠れてしまったから

あたしは悲しくて眠れません
あたしは悲しくて、後藤さんが見えません
130 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:26

誰も死んではいないよ
ホラ、雨をやまそうよ

死んでしまったみんなが、楽しそうに光の中にいるのが
見えるような気がします
私だけ―生きている私だけ雨に打たれて暗闇にいるのは
きっと私だけ、悲しいからなんです

みんな亀ちゃんを待っているのに

身体が凍てるようです
誰もあたしを見つけてはくれないんです

夜の隙間に隠れてしまって
雨に打たれている亀ちゃんを
誰だって放っておくはずがないんだよ
131 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:26

悲しいんです

悲しいのは気のせい

雨が降っているのは、みんながあたしを嗤っているから

そんなことはない

みんながあたしの身体を冷まして
みんながあたしの耳を塞いで
みんながあたしの目を眩まして
みんなあたしを置いて流れてしまうから
132 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:27

もし雲間から一片の光が覗いたら
君はきっと戻ってきてくれる?

誰もいない寝室に?

みんなが笑っている寝室に

雨に沈められたアルシュの中に?

お日様の温かい日差しの中に

そんな場所があるんですか?

亀ちゃんが、あたしの雨をを見つけられたなら
あたしがそこまで連れて行ってあげるのに

後藤さんの雨

そう、あたしの雨

どこにあるのだか、わかりません

それならずっとそうして、隠れているの?

悲しみが消えるまで

悲しみは嘘
誰も君を置いていきはしないよ
怖がらないで
出ておいで
133 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:28

身体が冷たくて
動かないんです

黒い一筋の雨が見えなかった?

雨はどれも黒々としていて

あなたの望む一筋を
あなたの手で掴んでみて欲しい

雨はあたしを穿つので
怖いんです

怖がらないで

あたしの手をすり抜けて、嗤いながら流れていくのが
怖いんです

君を嗤う人なんていないよ
あたしは君を嗤ったりしないよ

さあ
134 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:28

一筋の黒い雨
後藤さんの
一筋の
髪の毛のようなすべすべとした
優しい雨

さあ、力いっぱい
引っ張ってごらんよ

力いっぱい――

135 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:29


「亀ちゃん…」

「…はい?」

「痛いよ…」

「あ、ご、ごめんなさい…」
136 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:29

気が付くとあたしは後藤さんの長い髪を掴んで引っ張っていました。
あたしはどうやら、永い永い眠りの途にあったようでした。
身体を起こすこともむつかしいくらい、重く柔らかなベットに沈みこんでいました。
見れば部屋はあたしの部屋で、さゆとれいなが後藤さんの脇にいて
私が目を覚ますと同時に私の名前を呼んで私に縋りついてきました。
後藤さんが呆れたように、世話をかけるんだから、と言いました。
あたしは何がなんだかよくわからないまま、ごめんなさいとだけ言いました。
3人とも見知ったより随分やつれて目はウサギのように
生まれつきとも思えるくらい真っ赤でした。
意識がぼんやりとして、何も思い出せませんでした。
ただ、酷い頭痛と、何かしらたといようも無い悲しさが、微かに残った
まどろみの中に薄れていくのを感じていました。
137 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:29

雨音が耳に届いてきました。それも酷いどしゃ降りのようでした。
あたしはいつから寝てたんですか?後藤さんに尋ねると
何故だかさゆとれいなの目から水が溢れてきて、バカ、と口々に言われました。
後藤さんがあたしの身体を抱き起こしてくれて、ベッドに腰掛けました。
窓の外を見ると、私の部屋が二階なはずなのに、水がすぐそこまで
溜まっていました。
東京が、沈んでいました。
それでも雨はまだ降り続いていました。
勘違いも程ほどにね、後藤さんが泣き笑いとも苦笑いともつかない笑顔で
言いました。
椅子に腰掛けた私に、さゆとれいなが抱きついてきました。
なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちでした。
138 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:30

悲しい夢を見ていた気がしました。
その悲しさが今一刻一刻、消え去っていくのがわかりました。
絵里ちゃんのバカ、さゆが消え入りそうな声で呟きました。
なるほど、あたしは大きな勘違いをしていたようでした。
後藤さんが、はやく雨を降りやませてよ、と呟きました。

それで、私にはなんだか全部がわかってしまいました。
さゆとれいなにごめんね、と言いました。
それから後藤さんに、自惚れてみていいですか?尋ねました。
後藤さんは放埓に伸びきった私の髪を、大きな手のひらでくしゃくしゃと
混ぜたあと、すん、と一つ鼻を鳴らしました。

何時から降り続いていたのかも知れない、東京をすら沈めてしまった雨が
弱まり、やっと、止みました。
雲間から、微かにお日様の光が零れてきました。
さゆとれいなは、その空を見て泣きながら歓声を上げました。
後藤さんは私を見て、また少しだけ笑いました。
139 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:30


半年間、雨を降らせていたのは私じゃないんです。
私のことを想ってくれた人たちの、悲しさが東京を沈めるくらいの
どしゃぶりになって降ったんだって
ねぇ、後藤さん、私そんな風に自惚れてもいいですか?


140 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:31
終わり
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 16:48
さゆ……かわいいよ、さゆ…いい話だね。
142 名前:読み屋 投稿日:2005/02/09(水) 00:45
詩みたいな感じですね、なんだか不思議な雰囲気が心地よいです
143 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/09(水) 05:04
さゆ凄いな。
144 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/10(木) 02:14
やっぱ巧いなー。六期と三期をこうも上手く絡ませるとは。
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 02:08
さゆはロマンチストなのね
146 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:03
( ´ Д `)レスありがとう ヌハー
ノノ*^ー^)ぬはー                                  从・ 。.・*|

(* ´ Д `)オイデ
                                             サッ ミ|
ノノ*^ー^)サユオイデヨ 
                                             从・ 。.|
(* ´ Д `)ダイニンキダヨ?
                      从・ 。.・*从)))

(* ´ Д `)。.・*从 ピト

ノノ*^ー^)…

(* ´ Д `)>>141
       知ってるぽ。
从*・ 。.・从>>142
      なんとなく書いてみたの。素敵だなと思った詩をノートに(ry
ノノ*^ー^)>>143
      さゆはアッチも凄いですよ
( ´ Д `)>>144
       3期って誰だっけ?
从*・ 。.・从>>145
       リアリストだと思うの。

ノノ*^ー^)次の話は6期出ませんね。
( ´ Д `)そだね。
从*・ 。.・从誰も読まないの。

ノノ*;^ー^)…
(; ´ Д `)…
147 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:04
ピエロとピエレットの唐草模様
148 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:06
「あたしもいつかは卒業するわけよ」

吉澤さんは、それはもう何の前触れもなく言いました。
うひょうひょなデートの途中の喫茶店でのことでした。
私、ピーマコこと小川麻琴はそりゃーもう気合を入れて臨んだデートだったわけなのです。

さっきまで普通に殴られたり突っ込まれたりどつかれたりして
いつもの吉澤さんだったのに、急に神妙な顔になって何を言い出すかと思えば
そんな台詞だったのですよ。

「なぁーに言ってんすかぁ、吉澤さんがソロでやってけるわけないじゃないすかぁ!」

何にも考えずに言ったら、ボコって、グーで、グーで殴られましたよ。
ヒドイヒドイわ。顔が膨れちゃったらどうするのよ、グスン。

「まぁ聞けよ小川」

「なんですかぁ?」
149 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:06

人の顔グーで殴った吉澤さんはそのまま何事もなかったかのように
話を続けてます。ヒドイったらないわ。

「あたしも娘。に入って5年経とうとしてるわけだ」

「そうですねぇ。それって何か凄いですね」

「だしょ?」

「だす」

うん。よーわからん。

「あたしも娘。のサブリーダーにもなったわけだし、そろそろ
 後輩に役を譲ろうとか考えてるわけなのよ」

「ほぇ?役?」

「そう、役」

吉澤さんは昔からよーわからん人だったのですが、そんな吉澤さんも
カッコイイわ、とか思ってたら頭はたかれました。ナンデ?

「真面目に聞け」

「ふぁーい…」
150 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:07

「オマエは成長した。ナンダカンダで笑いも取れるようになった。
 そして、オマエには私を継ぐ才能があると思ってるのだよ」

頑固一徹みたいな変な喋り方で言う吉澤さん。
真面目に聞けって言ったくせに、自分ふざけてるジャン。
とはともかく、私なんか褒められてます?

「そんなぁ、ウチなんてまだまだですよぉ」

「うん。まだまだ」

「あ、ヒドイ」

「とにかくだよ。オマエにオレを継いで欲しい」

あ、出た。オレ、吉澤さんのオレ。
これが出る時はアレだよ。なんだ。どれだよ。

「何を継ぐんですか?」

吉澤さんの目がキラリと光りました。
なんだか、吉澤さん、マジに真面目な話してるみたい。
ワタシもちょっと真面目モード。

「これだ!」

言って吉澤さんがどーんっとテーブルの上に置いたのは
一抱えもある大きな風呂敷包み。
唐草模様のその風呂敷の口は堅く縛ってありました。ってかこんなの持ってたっけ?
どっから出してきたの?教えてエロい人。

「ふ、この喫茶店に預けてあったのさ」

あ、心読まれた。
151 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:07

「とにかく開けてみれ」

言われるままに、風呂敷包みの口を開ける、と中にはなにやら分厚い資料みたいな
紙束と、その他よーわからん雑多なモノが入っていました。
資料の一番上に乗ってる表紙のような紙を取り上げ、その書いてある文字を読んでみますと。

「”モーニング娘。裏役職ナンバー13 道化”」

ハテナ。なんじゃあこりゃ。
私の読み上げた言葉に吉澤さんはうんうんと頷いているのですが
なんのことやら判りません。

「これはいったいナンデスカ?」

「アホだな。書いてあるじゃんか」

「道化?」

「そう」

てかその前に、裏役職ってなんだってんだ。

「そうだな、まず裏役職から話さないといかんな」

あ、また心読まれた。
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:08

「まあ、聞け。娘。にはいろんなポディションがあるだろ」

「ですね」

「センターとかメインとかエースとか」

「それ殆ど同じっすね」

バキって、また殴られたっす。
「話の腰を折るでない」

当然の突っ込み入れただけなのに。泣いちゃるぞ。

「とにかくそんな数あるポディションの中でも、決して表に出ない
 アンダーグラウンドのポディションがあるわけだ。それが裏役職なのさ。この役は
 代替わりしてく決まりだからね。ちなみにアタシは道化二代目だから」

「はぁ。何となくわかりました。でも決して表に出ないって
 吉澤さんが道化なんて周知の事実じゃないすか?」

「そこが浅はかだっての」
153 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:08
そうなのかしら。吉澤さんといえば奇妙な行動とコントで人一倍の強烈なキャラが
持ち味のアイドル集団にあるまじき道化だと思うんだけど。
あ。

「それでアタシに継げと仰るんですね」

アタシもナンダカンダとコントではアイドル捨ててるし、今度出る写真集も
ちょっとマニア向けのブラクラちっくな仕上がりだし、吉澤さんを踏襲するものがあるわ。

「オマエ道化を舐めてるだろ…」

「そんことは無いっすけど」

「いっとくけどこの道は他のどんな役よりもきつくて険しいぞ」

吉澤さんの眼力が急に増した。というか今まで見たことの無いような表情。
なんだか急に緊張感がただよってきたみたいな…。

「先に確認するぞ。継ぐ意思はあるか?」

何となく、おちゃらけたことが許されないような雰囲気。緊張感。
吉澤さんにこんな空気があったとは知らなんだ。っとまずいまずい。
154 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:09

「ハイ」

私はその眼力に捉われ操られるように、真面目に応えておりました。

「よし、じゃあ説明する」

吉澤さんは雰囲気を変えることなく、淡々と手元の資料を捲りだした。
”道化の心得 其の一”文字が見える。何だか緊張してきたとです。オシッコ…

「まず道化の基本は、笑いを取ることだ」

何だ…普通ジャン。
それなら私も吉澤さんまでとはいかなくてもイイセンいってると思いますよ。うん。

「そこが甘いっての。確かにオマエは面白いときは面白いけど
 半分くらい天然だろ?道化は狙って笑いとらなきゃ意味ねーんだよ。
 しかも狙ってるってばれちゃいけないの。わかる?」

「…はぃ」

なんだか、物凄くむつかしいような簡単なような。
とにかく笑いを取ればいいんなら、進路変更する必要は無いってことでファイナルアンサー?オーライ?

「まぁ、この其の一はオマエならできるよ。くれぐれも言うけど
 これ基本だからな。大前提、忘れるなよ」

「はいな!」

また、叩かれた…。「面白くねーんだよ!」って。ふざけたら怒るくせに。理不尽だ…。
155 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:09

「いいか、道化は絶対に全部計算して笑い取らなきゃ失格だぞ。
 あと自分のこと考えるんじゃねーぞ。その場その場に応じて常に周り最優先おK?」

「おKですっとこどっこい」

ボスッ。
また…。この人何言っても殴る気だわ…。

「次、其の二」

ゴクリ、唾を飲み込んでみましたよ。

「ダンス、歌は常に完璧であれ。※ただし決して目立つな」

ナニー!?目立っちゃダメだってぇ。
あ、ワタシにぴったりじゃーん。それって何か悲しいわ…。

「注意書きはまあつんく雄の意向だからしゃーない部分もあるけど
 とにかく絶対一番最初にマスターしろ。特にダンス」

「えーと、でも先輩とかいるし愛ちゃんとかのが絶対早いんですけども…」

「だ・か・ら!他の人より遅かったら10倍努力しろっての。
 そんで余裕作って他の人のも覚えろ。道化はただ面白けりゃいいような生易しいもんじゃねーぞ」

なんとなく、最も過酷な道って意味がわかってきたですよ…。
156 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:10
「ちなみにこれ、初代がごり押ししたルールだから絶対守るように」

「初代って誰なんですか?」

「圭ちゃんに決まってるでしょーが」

なるほど、なんかわかるわ。でも保田さん道化って感じじゃなかったけど。

「まぁ、完成させたのはあたしだからね」

ほへー遭難ですか。モトイ。

「他の人のも覚えたらさりげなーくサポートするのがポイントね。
 自分はもう完璧とか他のメンバーに思われたら失格。あくまでバカでないといけんぞ」

むつかしいこと言いますのね…。
てか、吉澤さんはそれをやってきたってことだろうか。
そういえばそんなに飛びぬけて早くマスターしてた印象ないけど、いつの間にかマスターしてて
気が付くと他の人にも目がいってたみたいな。もしかして、吉澤さんって何気に凄い人
だったんだろうか。

「其の三。バカであってバカでないこと」

「と言いますと?」

「勉強しろってこった。どんなジャンルもね」
157 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:11

吉澤さんが一番バカなんじゃないのかしら。
そこが道化なんだろうか。いや、でも吉澤さんは本気で本当のバカだ。そのはず。

「そう。みんなにそう思わせるのが大事。次」

「…」


「これはオマエにとっては課題だな。其の四。常に笑え」

課題?ワタシいつも笑ってません?

「アホだな。常に笑えってことは、絶対泣くなってこった。
 いや、絶対とは言わんけど、人前では泣くな。カメラの前でも泣くな。
 泣くなら誰もいないところで、一人で泣け。ってこと」

「…それは、どんな時でも…?」

「うん」

「例えば…」

「誰かが卒業するときとかもね」

やっぱり…。そういえば吉澤さんって泣かないよなぁ、とか思ってた。
後藤さんが卒業したときも、保田さんときも、飯田さんときも。
一人で泣いてたのかしら…。

「アホ。泣いとらんわ」

158 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:11

「吉澤さんってこれ全部やってたんですか…?」

「まぁ、ところどころ不完全に終わりそうな部分もあるけど、だいたいはな」

「なんでこんなことするんすか…?」

「アホ。娘。支えるために決まってんじゃん。心得其の七読め」

言われるがままに、ぱらぱらと捲る。
其の七。誰よりも娘。を愛すること…

不覚にも、不覚にもちょっとだけ涙が出てしまいますた。ごめんやす。

「泣くなっつってんのに…」

吉澤さんが困ったちゃんでも見るように、困ったような顔で言うのでなんだか余計も。
なんだろう、これは。悲しいわけでもないのに、なんか、なんか。

「道化同士じゃ、いいんでないですか…?」

「一人前面すんなってーの」
159 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:12

また頭はたかれたんですけども、そんなに痛くなかったのは吉澤さんの力加減だったみたい。


吉澤さんの講釈は続きました。
ワタシの涙はすぐ鼻水になってだらだら垂れて、吉澤さんに「それだ!」と褒められました。
正直、どれだかわかりませんでしたが、とにかく続きました。

喫茶店の外では何時しか雨が降っていました。
せっかくのうきうきデートだっていうのに。
といっても既にデートの気分ではありませんでした。
でも、もっと吉澤さんのこと、好きになったのだけは確かでした。

「よーし、次、最後。よくがんばったな」

いつしか外は土砂降りでした。
ワタシは吉澤さんの話をひたすらに聞き続けたっちゅーのこんちきしょー。
薄暗い外とは隔絶されたように店内は浮き立ったような橙色でしたが。


「これ、あたしはちょっとばかし守れなかった。いや、あたしの改善ルールなら
 守れたということも可」

「最後は、どんなことですか?」

「其の四十四。道化は恋を、するなかれ」
160 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:13

え…。それっていうのは…。

「意外と簡単そうだろ?」

「は、はい…」

「それが意外と難しいのだよ」

ちょっと守れなかったってことは、吉澤さんも誰かに恋をしたってことだろうか…。
その相手はいったい誰なんざんしょう…。もしかしてシツレン?
あ、これってイケナイんだ…。ほんとだ、むずいかもだ…。

「改善ルールというのは、ナンデスカ…?」

「聞きたい?」

「…はい」

「『恋しちゃっても、絶対想いは伝えちゃダメダメ。そぶりも見せちゃいけないyo!』
 オーライ?」

つまり吉澤さんにはそういう人がいたんだ。今もいるのかな…?
161 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:13

「なんでそこまでするんですか…?」

「娘。に波風立てるじゃん?」

そうなんだろうか…。吉澤さんって、そんなに強い人だったんだろうか。
知ってるつもりだったよワタシ。吉澤さんのこと。何も知らないのに…。

「これでお仕舞いだけども、あたしって優しいから考えさせてあげるよ。
 どう、継ぎたい?嫌なら別にいいよ」

そんな風に言われて、嫌っていえるわけないこと、吉澤さんは知ってるんだろうか。
ワタシはいつでも吉澤さんに憧れて、吉澤さんみたいになりたいって思ってたのに…。
これはチャンス…なんだろう、と思う。

「継ぎたい、です」

「そう?」

「はい…」
162 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:14

「じゃあ、とりあえず見習いだな。その今にも泣きそうな顔じゃ
 とってもじゃないけどハイドウゾってな訳にゃあいかんざき」

言われて、慌てて瞼を押さえたんだけど、そのせいで一粒だけ涙が落ちた。
これ、何の涙なんだろう。サヨナラワタシ?
でも、ワタシはこの役を仰せつかって何か変われるってそんな気がするんだから、うれし涙。きっとそう。

吉澤さんはそんな私からすいっと視線を切ると、雨模様の空を見上げながらポツリと呟いた。

「はぁ、同期の初恋相手が卒業するまでには間に合いそうもないな…」

その瞬間、ワタシの目からは堤を切ったように涙が流れ出した。
とめることが出来ない。
その呟きが、全部をワタシに悟らせてしまったからでやんす。ダメ、ボケきれない…。
163 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:15
ワタシを見た吉澤さんが「ヤレヤレ」と言って肩をすくめました。
それからワタシの手を取り上げて「来い」って引っ張ります。
ワタシはされるがまま、椅子を立ち上がりました。

「どごいくんですか?」

「この役引継ぎの恒例行事だよ!」

そのままワタシは引っ張られて、雨の降りしきる表に連れ出されました。
一気に冷やされる身体。
吉澤さんを何するのかって見てると、ワタシの手をとって雨の中、
踊り出しました。

何のすてっぷかよくわかんない、多分めちゃくちゃな踊り。
びちょびちょになってそれでも、なんだかわからないけど凄く物悲しくて
そんでもってすんごく綺麗な踊り。
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:15
「オマエも踊れ!」
ワタシも言われるままに踊りました。吉澤さんのを見よう見まねで。
行き交う人が傘の下からちらちらと見ていきました。
でも灰色の雨に隠れて誰にも私たちは気付かれませんでした。

踊っていると、だんだん、アタマがぐるぐるしてきて、ナニナガンダカ
ちょうど、そう唐草模様。ぐるんぐるん。
サヨナラワタシ。こんにちわ、ワタシ。

さっきまで流していた涙が、いつしか雨と見分けられなくなっていて
吉澤さんも、顔中びしょびしょで、でも目が赤くなってて
ずっと踊りました。

「どう、なんかわかった?」

「いろいろわかりましたっ!」

「それでこそマコトだな。見込んだだけのことはある」

吉澤さんは凄い人でした。
たぶん、きっと。
ワタシに超えることができるかって、そんなのやってみなけりゃ――

「ハックショォウイ!!ちくしょーどっこい…」

豪快なくしゃみが出ましたです。恥ずかしいったらないったら。
165 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:17
吉澤さんが笑いながら言いました。
「道化は体調管理も完璧に、だぞ。まだまだだな!」

こんな雨んなかで躍らせといて無茶なって、思いましたけども
でも、やっぱり吉澤さんって凄いんだと思いました。

このことは誰にも秘密。
ワタシはまだ見習いだけど、吉澤さんみたいに、皆を足の裏から支えられるような存在になれたら
素敵だな。うん。
今はまだ、まだまだ。泣いてるしね!

なんだか空がくるくる回っているようで、身体は不思議と勝手に踊って
気が付くとワタシは、笑っていました。


「そう、それだ!」


ピエロピエレット踊りけり
雨に打たれて踊りけり 歌いけり
ピエロピエレット
ピエロピエレット 踊りけり

166 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 00:17
終わり
167 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 06:02
いい話じゃねーか(涙)作者さんありがとう。
168 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 07:57
よしこ……まるでその日が近いみたいじゃないか(ノД`)
169 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/17(木) 01:22
マコ素敵だよマコ…
よっすぃお幸せにね( ^▽^)
170 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/18(金) 06:03
笑っていいのか泣いていいのか解らない気持ちだよマコ…
171 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 13:15
( ´ Д `)てんきゅーべいべー
(0^〜^)ベイベー

( ´ Д `)>>167
       泣くなぽ
(0^〜^)>>168
       んなことねーYO!
(* ´ Д `)>>169
       梨華ちゃん
(0^〜^)>>170
       笑ってやってくださいな

( ´ Д `)次いくぽ
(0^〜^)これ娘。の一人称じゃないのね
( ´ Д `)そんな縛りした覚えはない!
172 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 13:15
廃品回収
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 13:16
あるときつんく♂氏は自分がプロディユースするところの
モーニング娘。を彼の自宅に集めて言いました。
「娘。はどんどん新しくなるんや」
娘。の一同は出し抜けに言われてなんのことやらわかりません。
と、つんく♂氏宅の前に一台の大型トラックが止まりました。
「ちわー、毎度おおきに、廃品回収です」

つんく♂氏は満足そうに一同を見回してから言いました。
「まず矢口、オマエは壊れたスピーカーやから廃棄や」
すると、廃品回収のおじさんが矢口さんを小脇に抱えて
トラックに積み込んでしまいました。
唖然とする一同。
つんく♂氏は尚も続けました。
「それから新垣、オマエはとうとう人気が30ツンクスに
 満たなんだから廃棄や」
新垣さんも同じように積み込まれてしまいました。

「ほんでから小川、オマエは水ぶくれやから廃棄」
小川さんも積み込まれました。
「大分すっきりしたな」
つんく♂氏はまた満足そうに一同を見渡しました。
娘。の一同はただ呆れかえって、
冷ややかな視線をつんく♂氏に注いでいました。
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 13:16
カタリと紺野さんが立ち上がりました。
「あの実は」
「なんや、紺野」
「私隠してたんですけど胃下垂なんですよ。廃棄されさせてもらいます」
言うと紺野さんはスタスタと出て行って、自らトラックの荷台に乗り込みました。
ぽかんとしてしまうつんく♂氏。
「実はうちアフォなんで」
「私訛っとるで」
「私腹黒いんで。うへへへ」
「私リアルに黒いんで。チャオー」
「はぶられとるけん」

紺野さんに続いて、娘。のメンバーが次々と席を立つと
トラックに乗り込んでしまいました。
慌てふためくつんく♂氏。
藤本さんが席を立ちました。
「お、おい…ふじもんまでなんてことないよな…?」

藤本さんは勇気を持って言いました。
「わ、私…ヒンニュウですから!ザンネン!」
藤本さんもスタスタとトラックに乗り込んでしまいました。

残された道重さんを、つんく♂氏は縋るような目で見ました。
「お、おまえは行かんよな?道重は完璧やもんな…?」

道重さんは完璧な可愛らしい笑顔で言いました。
「私可愛すぎるんで」
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 13:18

モーニング娘。がみんな乗り込んでしまうと、廃品回収の車は行ってしまいました。
呆然と見送るつんく♂氏。
しかし直ぐに我に帰りました。
アカンアカン、このままやったら破滅や。
つんく♂氏は、回収業者に電話をかけました。
「おい、俺や!」
『誰や』
「アホ、俺っつったらつんく♂しかおらんやろ!
 アンタんとこで回収したんを返して欲しいねん!」
『はあ、しかしもう集積所についてしまったもんで…』
「まちがって捨ててもてん!頼むわ」
『はあ、全部お返しすればいいんで?』
「いや、一部でええねん!」
『でももう見分けがつかないんで、そりゃ無理っすわ』
「それやったらしゃーない!トリアーエズ全部返してくれ!」
『はぁ、でも特別でやんすよ。手数料いただきますからね」
「ええ、ええ、いくらでも払ろたる!」
『んじゃ、お届けします』

電話を切って、つんく♂はやっと安堵の溜息をつきました。
あいつらめ、舐めた真似しおってからに。
オシオキが必要やな。

そんなことを考えながら煙草をくゆらせていると
程なく大型の廃品回収車が停車しました。
やっと来たか。つんく♂氏は、ほっと胸を撫で下ろしました。

荷台から人が降りてきました。
176 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 13:19
その面々を見てつんく♂氏はびっくりして腰を抜かしてしまいました。
みんな物凄い形相でつんく♂氏の方に向かってきました。

中澤氏、石黒氏、福田氏、市井氏、保田氏、カントリー娘。(オリメン)
シェキドル、ココナッツ娘。石井ちゃん…
手に手に鉄パイプを持って。


つんく♂氏の顔面は蒼白になってガタガタと震え出しました。


回収車の運転席から作業服の女性が降りてきました。
その顔に見覚えがありました。

平家の、みっちゃんでした。



「還ってきたでぇ…」

177 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 13:19
終わり
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 14:47
みっちゃん…(ノ∀`)
179 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 18:53
おもろい!
180 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 19:19
りんね投げまくり!
181 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/25(金) 19:27
回収かw 面白い!
182 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/27(日) 04:16
上手い!!
183 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/27(日) 21:22
面白い!こりゃやられたなw
184 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:15
( `◇´)かえってきたでぇ!
( ´ Д `)みっちゃんおひさー
( `◇´)ごっちん懐かしいなぁ。
      昔はみちごまが世間を席巻したこともあったなぁ。
( ´ Д `)ぇ

( `◇´)>>178
      うちは不死身やで
( ´ Д `)>>179
        わろとけわろとけ
( `◇´)>>180
       どよーん
( ´ Д `)>>181
       わろとけわ(ry
( `◇´)>>182
       知ってる!
( ´ Д `)>>183
       わろ(ry

( `◇´)次のは…投げやりやな
( ´ Д `)ヌハー
185 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:17
東京三つ星物語
186 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:17
今日も今日とてルンルン気分で娘。の楽屋に遊びに行くと
すれ違ったスタッフの人に「今日は娘。休みだよ」と言われた。
なんだガックシと思いつつ娘。の楽屋の前に来ると
中から話し声が聴こえる。
さゆと亀ちゃんだ。

「今日こそはさゆを倒さないといけない…」
亀ちゃんが悲しそうに言う。

「どうして?絵里」
「あたし、知ってるもん。さゆが本当はシゲタン星人だって」
「!!!!」
「あたし、シゲタン星人を退治するためにキャメイ星からやってきたの」
「そんな…」

何となく込み入った話みたいだから退場しようかと思ったんだけど
二人の口からあたしの名前が出てきて思わず引き戻された。
187 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:17
「最初はさゆがシゲタンだなんて思いたくなかった…。
 でもさゆが後藤さんに近づいたとき、わかっちゃったの…」
「どうして絵里がそれを…」
「知ってるわ。シゲタン星人はその巨体を小さく保つために
 ヤセテール波の強い人の近くにいないといけないってこと。
 最初はれいな、そして次は…このままだと後藤さんがれいなみたいになっちゃう!」

「違うよ!私は純粋に後藤さんといたかったからいたの!」

「どっちでも、あたしの後藤さんがれいなみたいになっちゃうなんて許せない!」
「ちょっとまたれいな!後藤さんはさゆのなの!」

あのー君たち…。

「とにかくさゆを退治しなきゃいけない!
 さゆのことは好きだったけど…覚悟して!」
「のぞむところなの!
 絵里がキャメイ星人と聞いては私も黙ってはいられないの!」
188 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:18

さゆが言ったかと思うと、辺りに猛烈な地震がおこった。
二人が危ないんじゃない?と思ったあたしは楽屋に飛び込んだ。
そこで見たものは、
猛烈に巨大化していくさゆと七色に発光している亀ちゃんだった。
さゆはどんどん巨大化していく。
天井を突き破り、テレビ局を粉砕して街に降り立った。
その大きさたるや、東京タワーがさゆの膝っ小僧までしかなかったことからも
想像できよう。
ただ一言補足するならば、さゆは巨大化しても可愛い。

亀ちゃんは光が弱まると、へそ出しのタンクトップにホットパンツという
妙にセクシーな格好に変身していた。しかし背中には大きな亀の甲羅を背負っている。

突然東京のどまんなかで二人の超人の戦いが始まった。
街は大混乱。世界の終わりか、シゲタン星人の侵略か…。
189 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:18
シゲタンの先制攻撃。
最大にして最強の必殺技、踏んづける、を繰り出した。
キャメイはなす術も無く潰された、かに思えた。
しかしキャメイは潰れてはいなかった。
その甲羅に器用に四肢を畳んで伏せると、シゲタンの必殺技にいとも簡単に耐えてしまった。
シゲタンは「えい!えい!」といいながら何度も踏んづけている。
そのたびに街はことごとく破壊されていく。
キャメイは涼しい顔で笑っている。

均衡状態になった。
シゲタンの攻撃が効かない。
しかしキャメイも、殻に篭る以外に特に出来ることはないようだった。
二人のにらみ合いは続く。

暫くのにらみ合いが続いたあと急にシゲタンが
「あっ3分たっちゃった」と呟いたかと思うと
シュルシュルと縮んで、元のサイズに戻ってしまった。
190 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:19
その機を逃さずにキャメイの反撃。
シゲタンの頭をぽかりと殴った。
シゲタンは頭を抑えて泣きそうな顔でキャメイを見つめる。
「あ、ごめん…」
キャメイは思わずあやまってしまった。
「痛い…絵里のバカ…」
シゲタンの目から涙がこぼれる。
狼狽するキャメイ。
とうとうシゲタンの涙腺が決壊し、おお泣きを始めてしまった。
そしてシゲタンは泣きながら空の彼方に飛んでいってしまった。

キャメイはシゲタンの消えたそらを見ながら悲しそうに呟く。
「ごめんねさゆ…こうするしかなかったの…」
キャメイの目からも一粒の涙が毀れた。
191 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:19
その日から娘。に道重さゆみはいなくなった、らしい。
でも誰もそれに気付く人はいなかった。
何故って、首都がほぼ壊滅してたもんで。

私はなんだか置いてけぼりを食らった気分で家に帰った。
するとさゆがいて
「家が潰れちゃったから泊めて欲しいの」
と言って可愛く笑った。

私は、首都決戦第二弾の予感に背筋を冷やした。
でもそれはそれとして、さゆはやっぱり可愛いので、何か得した気分。
192 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:19
終わり
193 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 20:10
なんだこりや
さゆが可愛くて面白過ぎるw
作者さんの発想が大好きです
194 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 22:21
おもしろいっ!!!いいわぁ〜w
ごっちん…可愛いさゆが大好きなのね。
195 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/02(水) 15:06
この三人可愛くて好きw
196 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/03(木) 00:45
なんだかんだで普通に受け入れてるごっちんも強いなw
お幸せに
197 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:44
( ´ Д `)んあー、みんなありがとねぃ
ノノ*^ー^)あれ?最近さゆいないですね?
( ´ Д `)風邪ひいたらしいぽ
ノノ*^ー^)へー

(* ´ Д `)>>193
       さゆキャワワ
ノノ*^ー^)>>194
       後藤さんは可愛いエリも大好きですよ
(* ´ Д `)>>195
       ヌハー
ノノ*^ー^)>>196
       後藤さん最強という説も

( ´ Д `)次いてみよー
ノノ*^ー^)これもさゆ作ですか?
( ´ Д `)そうだぽ
ノノ*^ー^)さゆ、ノイローゼなんじゃないですか?(文章も変だし)
(; ´ Д `)…
198 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:44
ニセモノ
199 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:45
あるとき後藤さんが相談があるといって
私のところにやってきた。

「こんな話、さゆにしかできないんだ。ごめんね」

後藤さんはいつになく真剣な顔でいった。

あたしが、二人いたっていったらどうする――?


後藤さんは二人いた。俄かには信じられなかったけど
後藤さんの横から、もう一人後藤さんが出てきては信じないわけにはいかなかった。
二人はどちらも後藤さんだった。性格も喋り方も仕草も。
何も違わない。

ただ、『もう一人の後藤さん』には私との思い出がなかった。
『もう一人の後藤さん』にとって私はただのモーニング娘。の6期メンバーの一人でしかない。
彼女にとって一番大事な人は、私の先輩、紺野あさ美、その人だった。
200 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:45

「ごめんね、みっちー。こんなこと相談してもどうしょうもないかもしれないんだけど」

もう一人の後藤さんが言う。
彼女は私のことをさゆとは呼ばなかった。
彼女は紺野さんを愛してるという。
そしてまた、紺野さんも彼女を愛しているという。
区別するためにもう一人の後藤さんのことを紺ごまさんと呼ぶことにする。
私の知ってる、私を可愛がってくれる後藤さんのことはさゆごまさんと呼ぼう。

二人の後藤さんは話す。
いつからなのか全く分からない。
本人たちも、お互いがばったりと出会って初めて気付いたことだそうで。
お互いが確認しあっても二人の違いは、私のことが好きか、紺野さんのことが好きか
という点だけだったらしい。
さゆごまさんには私との
こんごまさんには紺野さんとの
それぞれかけがえの無い思い出を持っているのだと。

奇妙な話すぎて、さすがの私でも少し整理がつかなかったくらい
へんてこなことだけど、後藤さんは確かに二人いた。

「もし、このことを紺野が知ったら、頭のいいこだから何か手立てを考えてくれるかもだけど
 それ以上に傷つくと思うんだよね……」

こんごまさんが遠い目をして呟いた。
201 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:46

「自分のことを何とも思ってない、あの思い出も持ってないアタシが
 同時に存在してるなんて知ったら…」

少しカチンときてこんごまさんを睨んだ。
さゆごまさんはそんな私とこんごまさんとをゆっくり見比べて少し困ったように笑っている。
こんごまさんもそんな私の視線を受けて、すぐに察してくれて
目だけで私に謝ってくれた。

「あたしはね」

さゆごまさんが口を開いた。

「二人後藤真希がいちゃいけないって思うんだよね」

「……」

「それって何か普通に考えてみるとおかしすぎるから」

続いてこんごまさんが言う。

「あたしは別に二人いていいと思うんだ。なっちゃったものはしかたないんだから」

同じ後藤さんでありながら、彼女達の意見は割れているらしい。
202 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:46

「一人に戻ることはできるの?」

「それは簡単」

「どうやって?」



「どっちかが消えればいい」


どちらが言ったのかはわからなかったけど、もしかしたら二人同時に呟いたのかもしれないけど
後藤さんはそう言った。



「さゆはどう思う?」


私はその質問をとりあえず保留にして、二人の後藤さんとわかれた。
203 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:46
家に帰ってお風呂に入って、コタツに足を入れながら鏡を見ていると
だんだん、先ほど聞いた話が頭の中に整理されだした。

二人の後藤さんには13歳でモーニング娘。に入り、楽しくて激しい時間を駆け抜けた
思い出がある。
そして、こんごまさんには紺野さんとの特別な4年間の思い出が。
さゆごまさんには私との、1年に満たない思い出――

なかなか寝つけなかった。

こんごまさんが紺野さんを思い出しているらしいときに見せる表情は
私がまるでみたことのない「後藤さんの表情」だった。



次の日は奇しくもハローでの仕事が入っていた。
大所帯での仕事は喧しくて楽しい。
絵里やれいなも、いつもの娘。とは違う雰囲気に浮かれているみたいだった。

紺野さんがいて、ついつい彼女を見つめてしまっていた。
「どうしたの?」
いつもの紺野さんの、ほんわかとした優しい笑みで問いかけられて
慌てて、なんでもないです、と取り繕った。
204 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:47

そして、紺野さんを映す私の視界の中に同時に後藤さんが映りこんだ。
紺野さんの後ろ向こうにいる後藤さんに紺野さんはまだ気付いていず
後藤さんは私たちに気付いていた。

私と紺野さんが対面している状況を見、そして私と目があった後藤さんは
バツの悪そうな、申し訳無さそうな視線を私に送った。
その瞬間に、わかった。彼女はこんごまさんだ、ということ。
仕事等は基本的に交互にすることにしている、と聞いていたのですぐに合点がいった。

私の視線がずれていることに気付いた紺野さんが、ふと後ろを振り返る。
「後藤さん」
紺野さんの表情。
それも、出会ってから今までみたことのない表情だった。
後藤さんがそこにいた、というそれだけのことなのに、これ以上はないというくらいに幸せそうな。
まるで紺野さんにとっての世界は後藤さんのみによって形成されているかのような。

「あ、ちょっと、ごめんね」そう言って少し申し訳無さそうに私に目礼した紺野さんは
そのまま一目散に後藤さんのところに駆け寄った。
その紺野さんを受け入れた後藤さんの顔もやはり、同じだった。
二人は本当に愛し合っている。
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:47

あまりにも不自然な光景で、思わず吐き気を催した。
それは、彼女達に、というのではなくて
まるで私自身が異世界に飛ばされてきたかのような
自然な日常の中にいる「私」という不自然さの所為だった。

それから私の体調は思わしくなく、満足のいく仕事はできなかった。
後藤さん、いや、こんごまさんはときどき気を使って私のことを見てくれた。
でも、そんなことが余計私の気を患わせることには、さすがの彼女も気付いていないみたいだった。

観察していれば後藤さんと紺野さんとは、どんなときでも
お互いを意識していない瞬間のないことが明白だった。
私はただただ疎外感を感じるだけ。

二人の後藤さんの会話を想像してみる。
こんごまさんは、紺野さんとの楽しい思い出や、どれだけ彼女達が愛し合っているかについて
話したんだろう。じゃあ、さゆごまさんはいったい何を話したんだろう。
後藤さんは確かに私にとって特別で、後藤さんにとってもたぶん私は特別だったと思う。
でも、それ以上であったかしら。
今目の前にいる二人、後藤さんと紺野さんのような絆、愛情、結束。
そんなものが、果して私と後藤さんとの間にあったとは思えない。

さゆごまさんは、ただこんごまさんの話を聞いていたんだと思う。
こんごまさんの、虹色の恋が眩しくて、我が身の覚束なさに戸惑いながら。

どっちかが消えればいい――

さゆごまさんは、既に心に決めているのかもしれない――

206 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:48


その日の夜、もう一度二人の後藤さんに会った。
私の意見を言うために。
今日を見ていて、こんごまさんが紺野さんに相談を持ちかけようとしなかった理由が
なんとなくわかった。
多分紺野さんは、そんな話を聞いたら死ぬほど悩んでしまうんだろう。
そしてさゆごまさんが私に相談を持ちかけた理由もわかった。

決め手が欲しかったんだろう。

さゆごまさんは、私が何か言おうとする前に言った。

「今日はさゆの意見をききにきたんだけどさ、あたしのなかでは
 なんてゆーか、どうしようか決めてるんだよね」

カラっとした笑顔。でもどこ空虚な、後藤さんらしくない笑顔。
なんだか腹が立った。

「それなら何で私に相談したの?」

イジワルな質問してみる。後藤さんは困ったみたいに頭をかいた。
207 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:48
その仕草、それでこそ後藤さんだって思った。
さゆごまさんの横で、こんごまさんはもっと所在なさげにしている。
一番心苦しいのは彼女だろう。
じっと次の言葉を待っていた。


「あたしが、消えることにする。ごめんね、さゆ」

さゆごまさんは予想通りの言葉を言った。

涙が出そうになって、慌てて堪えた。俯いて。
頬がかってに膨らんで、子供っぽくて嫌なのに、だだっこみたいな顔になる。
後藤さんはまた困ったみたいに頭をかいた。

「ごめんね…泣かないで…」

「泣いて、ないの…」

強がってみる。だって本当に泣いてないもの。まだ。

「あたしの方がニセモノだったみたい…」
208 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:49

その言葉に、カッと血が昇るのを感じた。
ニセモノ、なんて、まるでそんな言葉が軽々しく出てくるとは思わなかった。

「それは私のことも全否定してる言い草なの!!!」

「そういう意味じゃないよ…」

後藤さんの、泣きそうな表情。
見ると血の昇った頭が一気に冷えていく。
冷えた頭で考えれば
「ニセモノ」ってあえて使った彼女の方がどれだけ心を痛めているか
容易に想像できて
カッとなった自分が無性に恥ずかしくなった。
209 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:49

暫くの沈黙。
私はかねてより言うつもりでいたことを、言った。


「…いいの。後藤さんがそう決めたなら、私は何も言わない…」

「ありがと、さゆ」


後藤さんはそういうと、真に晴れ晴れしいみたいに笑った。
優しいくせに、無神経だ。

「じゃあ、そういうことだから、消えるね」

「…さよならなの」

「あ、最後だから言うけど」

後藤さんの体が微かに透けている。
本当に、消えてしまう。

「さゆ、愛してるよ。あは」



後藤さんは消えてしまった。
210 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:50

瞬間、我慢してた涙が、どんどん溢れてきて
止まらない。大声で
泣いた。泣いた。泣いた。

こんごまさん、いや、もう、一人しかこの世にいない『後藤さん』が
私の頭を抱き寄せてくれて、頭を撫でてくれて
その胸のなかで、泣き続けた。

「ごめんね…みっちー…」

「ぐすっ…あやま、あやまられると…うっく…余計腹がたつの…」

腹なんか立ってるわけもなくて、ただ悲しくて泣いてるんだけど
そんな風に言うと、後藤さんはもっと強く抱きしめてくれて
ごめんね、って繰り返して、彼女も泣いてた。

紺野さんに怒られるよって言ったら、そうだねって。
笑って、泣いてた。
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:50


誰が悪いんでもない。悪いのは変な細工をした神様。
でも、さゆごまさんが消えること、無かった。
だって私だって、今になって思えば、誰にだって、紺野さんにだって
負けないくらい、後藤さんのこと愛してたって思うのに。

ニセモノなんかじゃない。本当に愛してたのに。



二つのホンモノの世界が、何かの拍子に突然被さってしまったとき
どっちでもよくて、ただ、まだ自信のなかった私の後藤さんが消えちゃったっていう
多分それだけの話なんだ。

後藤さんの胸の中で泣きながら、もしかしたら私も
このまま消えられるんじゃないかって思いながら、
いつしか私は眠りに落ちていた。

このまま眠っていられますように。
そう願い続ける
夢を見た。
212 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 15:50
終わり
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 16:19
このお話正直にとても好きだ。
さゆも好きだ。ごっちんも好きだ。こんこんもすk(ry
214 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 16:57
。・゚・(ノд`)・゚・。
215 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/06(日) 18:50
うわ、辛いなあー
さゆ…
216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/08(火) 00:43
なんつーか、単純に面白いなぁ・・・
深く心に残るなぁ
217 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/08(火) 17:17
ただ、切ない。でも面白い。
218 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/09(水) 06:46
さゆ…・゜・(ノД`)・゜・
219 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:45
( ´ Д `)あーがとぉ
从*・ 。.・从ちょぉ

( ´ Д `)>>213
      DDハケン
从*・ 。.・从>>214
      …
( ´ Д `)>>215
      元気出すぽ
从*・ 。.・从>>216
      わろとけなの
(* ´ Д `)>>217
      さゆ

从*・ 。.・从ただいまなの
(* ´ Д `)お帰りなの
从*・ 。.・从何事も無かったかのように復帰してみたの
(* ´ Д `)元気でなによりぽ
220 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:46
空に堕ちる
221 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:46
朝目が覚めると、私は天井で寝ていた。
なんのことやらサッパリ。
上を見ると、ベッドに、箪笥に、いつもの私の部屋がある。
部屋が、逆さまになっていたのだ。

暫くのあいだわけがわからずにぼんやりとしていた。
都内のマンションの一室の割には静かだ。
というか、何も音が聞こえない。
辛うじて、小鳥の鳴き声が遠くから聴こえてくるだけだ。

天井を歩いて、窓の枠に掴まって外を見ると
窓の外もやっぱり、なにもかもが逆さまだった。
上を見上げれば東京の町並み。
下を見下ろせば、果てしなく広がる青空。

今日も天気がいいみたい。

そして世界中の天と地とがひっくり返っていたみたい。
222 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:47

こんなことしちゃいられない。
仕事にいかなきゃ。と、ちょっとだけ考えて
バカらしくってやめた。
着替えるのだって、頭上にある箪笥に手が届かないからできない。
テレビのスイッチも入れられない。
部屋の天井に座りこんで考える。

何にもできないや。

窓の外をぼんやりと見ていると
人が、落ちていくのが見えた。

下のほうに。
真っ青な空の向こうに。
見ていると、何人も何人も、どんどん落ちていく。

どうやらサカサマになっちゃったのは私だけじゃないみたい。
223 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:47

ふいに皆のことが気になって
枕元においてある携帯電話に手を伸ばした。
届かない。
蛍光灯の傘の上に乗って手を伸ばす。
辛うじて、ベッドの足に掴まることができた。
力いっぱいベッドの足を引っ張ってジャンプすると
携帯に手が届いた。
ストラップを掴んで再び着地すると
携帯はすっぽり私の手の中に納まった。

とりあえず絵里に電話してみる。
224 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:47

「もしもし、絵里?」
『さゆ?』
「ねぇ、何かかわったこと無かった?」
『うへへ、実はね、凄いんだよ』
「あ、待って。私が当ててあげる。逆さまになっちゃったでしょ?」
『あれーなんで知ってるの?』
「実は私もなの」
『そうなんだぁ。不思議だね、ね。皆もなのかな?』
「多分そうじゃない?」
『さっきね、私のお母さんが』
「どうしたの?」
『落ちちゃった』
「私も見たよ。いっぱい人落ちてるよ」
『うそ?』
「ホント。窓の外見てみなよ」

『うわー、ほんとだぁ』
「ね?落ちたらどうなるのかな」
『ほんとだね、お母さんどうなっちゃったんだろう』
「うーん」

『ねぇ、みんな逆さまになっちゃったんなら
 今日のお仕事って休みだよね?』
「そうだろうね。働きようがないもん」
『みんなどうしてるかな』
「電話してみようか」
『そうだねー、じゃあいったん切るねー』
「うん、またー」
225 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:48

電話を切って、とりあえず他の人たちにも電話かけてみる。
飯田さん、矢口さん、石川さん、藤本さん、高橋さん、
みんな繋がらない。
どうしたんだろう。
紺野さん、小川さん、新垣さん、れいな、
やっぱり繋がらない。

実家にいるお姉ちゃんに電話をしてみた。
やっぱり繋がらない。
お父さんもお母さんもお兄ちゃんも。
地元の友達も、親戚の叔母さんも。

なんだか寂しくなって、また絵里に電話した。
絵里だけはすぐに出てくれた。
226 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:48

「ねぇ、皆電話してもでてくれないの」
『あたしも電話したんだけど、だーれも出ないよ』
「どうしてだろう」
『みんな電話に手が届かないのかな?』
「あーそうかも」
『ねぇ、暇ね。遊ばない?』
「遊びたいけどさ、どうやって?外に出たら落ちちゃうよ?」
『それもそうだねぇ』
「もしかしたらみんな落ちちゃったのかも」
『うーん』

「あっちょっと待って。誰かから電話来た。一回切るね」
『あ、うん』

別の誰かから通話があったので慌てて切り替えてみる。
声の主は後藤さんだった。
227 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:48
『あ、さゆ?元気?』
「元気ですよ」
『何かさ、逆さまっぽくない?』
「逆さまっぽいです」
『どうなっちゃったんだろうね』
「どうなんでしょうね」
『困ったね』
「困りましたね」
『なんかさっき圭織からメールがあってさ
 〔私落ちる。バイバイね〕ってさ。圭織落ちちゃったみたい』
「そうなんですか」
『なんかさ、もう会えないのかな?』
「どうなんでしょうね」
『うーん』
「後藤さんは誰と連絡繋がったんですか?」
『えーと、さゆと圭織のメールと、あとは繋がらないなぁ。
 うちのお母さんとかお姉ちゃんとかは困った困ったとか言いながら
 隣の部屋にいるけど』
「世界中の人がこんななのかな」
『それだったら困るよね。誰も仕事できないじゃん』
「そうですね。原発とか危なくないかなぁ」
『ああ、危ないねぇ。
 さゆは誰かと連絡繋がった?』
「絵里しか繋がらないの」
『亀ちゃんかぁ』
「どうしたらいいのかな」
『とりあえず、おなか減ったなぁ』
「あ、私もなの。でもご飯作ることもできないし、買いに行くこともできないの」
『だよねぇ。もし買いに行っても誰も売れないしね』
「そうですねぇ。あ」
『どったの?』
「てことは、後藤さんや絵里とももう会えないってことかな…」
『あー…』
「なんかやだなぁ…」
『うーん、とりあえず電話はできるんだし』
「そうですね…」
『あ、じゃああたし亀ちゃんにも電話してみるね?』
「はい」
『じゃあ、いったん切るね。また』
228 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:49
携帯電話を見つめてみる。
絵里にかけるってことは今二人とも通話中かな。
つまんない。

言われて気付いたけど、世界中の人がみんな逆さまだったら
私たちなんて何にもできないや。
窓の外をカラスが飛んでいく。カラスたちは逆さまになってないみたい。
いつものゴミゴミしてるはずの街が閑散としてて
拍子抜けしてるみたいだ。

歌を歌ってみる。
歌は逆さまになってないけど
ただの歌で、部屋に遠慮がちに響くだけ。
一人で歌うのはつまんない。
だって私のパート少ないもん。

これからずっと一人ぼっちなのかしら。
229 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:49
絵里に電話かけてみると
案の定通話中だった。
何はなしてるのかな。

このままずーっと逆さまなのかな。

窓の外をもう一度見下ろすと、突き抜けるようにどこまででも広がった
無限の空が青く青く濃くなっていた。

空の向こうには何があるんだろう。

どこまでも落ち込む空を、相変わらず人がぱらぱらと落ちていく。
あの人たちは死んじゃうんだろうか。
それともどこか別の世界へでも向かうんだろうか。

空を見下ろして、大声で歌を歌うと
近くを今おちていった人が
大声で
「ありがとー」って叫んで
直ぐに見えなくなった。

なんだか凄く虚しい。

携帯が鳴った。
後藤さんからだ。
230 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:50
『さゆ、時計ある?』
「ありますけど?」
『さっき亀ちゃんと電話しててさ、やっぱりもう一度三人会いたいねって
 話になって。皆とも会いたいけど。さゆも会いたいよね?』
「会いたい」
『だからさ、三人一緒に飛び降りようよって』
「飛び降りる、んですか?」
『うん、せーので、そしたら落ちていって空の中で会えると思わない?』
「そんな気がします」

壁掛け時計を見た。
逆さまになってて時間がわからないので、手にとって
反対向けてみる。今午前8時22分。

『時計合わせられる?』
「できます」
『今、8時23分19秒、20、21…』
「あわせました」
『じゃあ、8時半きっかりにせーので飛び降りようよ』
「わかりました」
『また皆で歌おう』
「はい」
231 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:50
電話を切って時計と睨めっこ。
空を見下ろす。

私、飛び降りるんだ。
なんだか少しだけ、怖くなった。
だってどこまで続いてるのかわからないくらい空は深くて青いから。
でも、みんなともう一度会えるんだったら
飛び降りてもいい気がする。
みんなと一緒に歌いたい。
ここにいてもずっとひとりぼっちだもの。

一秒一秒数えていると、あと1分になったので
そこから声に出してカウント。
窓を開ける。
冷たい風が、なんだか私を誘うみたいに吹き込んできた。
56、57、58、59…

それ!
232 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:51
全身を一気に投げ出すと、身体は地面を離れて
どんどん落ちていく。
真っ青な空に。
色んな人が落ちている空に。

さて、待ち合わせの場所に急がないと。
後藤さんと、絵里が待ってる。
どんどん落ちながら
すいすいと泳いでいくと、身体はなんだか凄く気持ちよくて
ひとりでに鼻歌が出た。

しばらくいくと、絵里がいて、「さゆー」って嬉しそうに手を振って
二人で一緒にもうしばらく落ちてくと
後藤さんもいた。
233 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:51
三人でどんどん落ちていく。
歌を歌いながら。
やっぱり一人で歌うより全然楽しい。

もっともっと落ちていくと
他のみんなもいた。

さあ、どこまでも落ちる。

皆いた!

みんなで歌いながら、この終着点はどこだろう。

青空はどこまでも青く深く
濃くなっていく。


234 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 17:51
終わり
235 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/15(火) 21:58
読んでで自分が逆さまな気がしますた
236 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/16(水) 02:02
逆もまた真なり

素晴らしいです
237 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/16(水) 05:07
なんだかちょっぴりしんみりしたけど、すげー爽やかな気持ちになった。ありがとう。
238 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 02:57
迷宮写真館
239 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 02:57
( ´ Д `)実はこの話でこのスレ終了の予定だったのは秘密ぽ
从*・ 。.・从秘密はいわなくてもいいの

( ´ Д `)>>235
       コウモリハケン
从*・ 。.・从>>236
       だまされちゃいけないの
( ´ Д `)>>236
       アナタもだまされてるぽ

( ´ Д `)次こんどこそ最後ぽ
从 ´ ヮ`)…
( ´ Д `)どったの?
从 ´ ヮ`)初主演なのに…
240 名前:迷宮写真館 投稿日:2005/03/17(木) 02:58
一枚の写真をぼんやりと見ている。
いつの写真だか思い出せないけど
ライブの写真で、歌い終えて、みんな感極まって
喜びの絶頂にいる。
私もさゆも絵里も、本当に心の底から楽しんで
自然に手を取り合って笑っている。
絵里が私の左手を取って
さゆが私の右の肩口から顔を覗き込んで微笑んでいる。
こんな瞬間があったんだ。
写真は凄い。ぜったい止まらない時間を
いともかんたんに止めてしまう。

「れーいな、何してるの?」
「写真見とー」
絵里が後ろから覗き込んでくる。
どれどれ、そんな風に言いながら。
「あれ?これいつの?」
「わかんない…」
「こんなのあったかなぁ」
絵里が不思議そうに呟く。
「あっ」
241 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 02:59
一枚の写真をぼんやりとみている。
へんてこな写真だ。私と絵里が一枚の写真を
覗き込みながら不思議そうな顔をしている。
こんなこと記憶に無いし
第一私たちが全然意識してないのにどうやって撮ったんだろう。
「なぁに?その写真」
さゆが後ろから覗き込んでくる。
何だか同じようなことがどこかであったような気がして
急に不気味になってきた。
「さゆ?」
「どうしたのれいな?」
「今日って何月何日だっけ?」
「どうしたの?急に」
「ちょっとど忘れして…」
「今日は…」
242 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 02:59
一枚の写真をぼんやりと見ている。
私が何だか怖い顔をしてさゆに詰め寄っている写真。
さゆはそんな私に不思議そうな顔を向けている。
何でこんな写真が私の手元にあるのかも分からない。
何だか腹立たしくなったきた。
この写真はいったいさゆに何を言っているというのだろう。
全然記憶にない。
私は写真をうっちゃって部屋を出た。
243 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 03:00
一枚の写真が落ちている。
私が一人で写真を見てる写真。
いつものことだ。
いつものこと過ぎて、いつ撮られたのかわからない。

もういいかげん、かんべんして欲しい。
244 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 03:00
終わり
245 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/17(木) 20:29
れいにぁ(ノД`)
作者タソのお話楽しかったです。お疲れ様でした。
246 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 02:17
面白かったです。
ありがとうございました
247 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 03:55
( ´ Д `)>>245
       田中ちゃんに幸あれ
( ´ Д `)>>246
       にょ。それはよかた
248 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 03:56
ブックエンド
249 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 03:57
モーニング娘。が解散したとき
私とさゆは、何故だか大喧嘩をした。
理由は覚えちゃいない。
きっとつまらない理由だったんだと思う。
二人とも芸能界に残らないって決めてたから
袂を分かつ不安が、そんなつまらない喧嘩になったんだ。

風の気持ちいい丘の上にひっそりと
その石は立っていた。
モーニング娘。が解散して30年くらい経った。
そして、さゆが居なくなって10年。
初めて、この石の前に手を合わせた。
なだらかな丘の上はようよう春めいてきて
緑地になっている辺りで子供たちの声が聞こえる。

「やっと手を合わせる気になったの」
れいなが後ろから少し微笑んで言った。
私は振り返らず、ただ笑っている。
「別にそういうわけじゃないんですが、何となく」
私の言葉を聞いてまたれいなはふっと笑った。

「久しぶりね、絵里」
「相変わらずお元気そうで、田中さん」
「変な感じ」
振り向くとよく見知った顔があった。
「少し歩きませんか?」

れいなは相変わらず綺麗だった。
もう50近いはずなのにずっと若く見える。
未だ芸能人として、メディアに映る彼女は
まるで30年前の輝きをそのまま持ち越したように
いとけなく光っていた。
私は年相応にめっきり老け込んだ。

「さゆとは結局会わなかったん?」
歩きながられいなが言う。
250 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 03:58
新緑を撫でながら届く風が気持ちいい。
「タイミングが無くて」
私は苦笑いしながら言う。
「喧嘩したままなんだ…?」
「そういうことになるかもしれないですね」

「あんな激しいさゆとあんなに怒ってる絵里と
 あのときに見たのが最初で最後だったね」
「子供だったんですよ。二人とも」

「田中さんは…」
「れいなって言ってよ」
れいなの、変わらない姿に思わず笑いが漏れる。
「れいなは、さゆの死に顔を見たんですよね?」
「見たよ」
「どんな風でした?」
「綺麗だったよ。昔のまんま」
「そう…」

「そうだ、あのとき私凄い怒ってた。絵里に。
 何で来ないんだって」
「それも、何だかタイミングがね…」
「意地っ張り」
「そういうわけじゃないんだけど」

緑地のベンチに腰掛ける。
どこかしらから、微かに甘い春の花の匂いが届いた。
れいながキュッと目を細める。
その姿には、やはり彼女にも肉体的な老いのきていることを
否応なく思わせるものがあった。
251 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 03:59
「絵里は今どうしてるの?」
「主婦ですよ。高校生になる娘が一人、中学生の息子が一人。
 あとは…絵本を描いてます。50の手習いで」
「へぇ、絵本…かぁ」
「今描いてるんですよ。ちょうど」
そういって肩掛けから描きかけの絵本を取り出す。
これは人に見せるのも初めてだった。
その人がれいなだということがなんだかとても嬉しい。

「見ていいの?」
「描きかけでよければ、れいなに見て欲しい」

れいながパラパラとそれを捲くる。

不器用な3匹の猫がいろんな苦労をしながら
幸せを見つける話。れいななら、すぐにわかってもらえると思った。

「これって…」
「ふふふ」

れいなの目が心なし潤んでいる。
なんだかとても嬉しくなった。

「……あぁ、絵里器用だなぁ。昔は絵だってあんなにヘタクソだったのに…」
「下手の横好きってやつかな」
少し得意になって、笑って見せた。
252 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 03:59
「『あるとき猫と猫と猫のうち、仲良しだった猫と猫が大げんかをしました。
  一緒に夢を叶えよう、そう約束したのに二匹は別々の道をめざしたのです。
  3匹ははなればなれになってしまいました。
  それぞれ、自分の選んだ道をいきました。そして、一匹は成功し
  一匹はへいぼんな猫生を送り、もう一匹はどこかに姿をかくしてしまいました。
  それぞれが自分の道をすすみながら、いつしか思うのでした。
  さびしいなぁ、と。』」
「声に出して読まれると恥ずかしいよ」
恥ずかしいというより、くすぐったい気持ち。

「『とうとう、一匹の猫がさびしさに耐え切れずに、他の猫たちと
  なかなおりをしにいくことにしました』
 ここまで…で、終わってるね。最後の一ページが真っ白」
「うん。猫はね、いざ仲直りをしようと思ったけども
 どうすればできるのかわからないんですよ」

「……」

れいなが立ち上がった。
私も続く。陽気は増して、何かしら夢心地のする遊歩道を
れいなは歩いていく。
気がつくとまた、さゆの眠る石の前まで来ていた。
253 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 04:00
れいなが野の花を2,3手折ってさゆの前に供える。

「簡単だよね?さゆ」
そういいながら、私のほうに視線をくれる。

「簡単なのかな、さゆ…」
まるでそこにさゆがいるみたいな気がして、ふいに身体が強張った。
30年前喧嘩してから、とうとう一度も会えなかった。
なかなおりがこんなに難しいことだって、
あんなに大事だった人がこんなに簡単に離れちゃううんだって
思い知らされた。

「絵里はこの最後のページを描くために来たんだね」
幻聴かしら。れいなの言葉に、さゆの声がかぶさったような気がした。

随分長い間忘れていた涙が一粒、目から毀れた。
さゆが笑ってくれてるような気がしたから。
「簡単でしょ?」
「そうだね…」

別にどうもしなくてよかったんだね。
ただ一言

ごめんね、さゆ。


昼下がりのうららかな墓地にまた気持ちよい風が吹いた。
254 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 04:00
終わり
255 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 04:10
二人ゴト
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ガキの帝国
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256 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 04:17
   〇
  O
 o
 ゚
( ´ Д `) zzZ

( ´ Д `)んあ?夢か

( ´ Д `)あったかくなってきたなー

(* ´ Д `)さゆ、今何時?

( ´ Д `)なんつって、いるわけないよね

(* ´ Д `)気をつけないと退かれるぽ
257 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 04:24
( ´ Д `)それにしても眠いので

( ´ Д `)もういっぺん寝るぽ


んじゃ、おやすみ

        Z
         Z        
          z           
                     
    n,,,-- ' ̄ノノハヽ ̄` -- ,,,n  
    | |  「⌒(´ Д ` )、   ||
    | |, 一〜~⌒⌒⌒^^ー--¬   
    |∫       :|' ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄`|
    |j        .|          |
    (,〜、_〜2_J┌─────┐| 
258 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/18(金) 05:00
おしまい
259 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/22(火) 21:12
お疲れ様でした。なんだかリアルでさゆごま見れそうなので記念カキコw
260 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 06:24
お疲れ様でした
最後まで色々と学ばせて頂ける話ばかりで・゜・(ノД`)・゜・
261 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/31(火) 16:00
あげ
262 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/08(金) 14:29
あげ
263 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/25(月) 23:59
おもろい
264 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:03
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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