白と黒の条件

1 名前:神風 投稿日:2005/01/21(金) 08:32
6期主役のアンリアル。
マターリと。
2 名前:神風 投稿日:2005/01/21(金) 08:34
白と黒の条件
3 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/21(金) 14:30
オセロって、黒と黒に白があったり白と白の間に黒がある事が条件。
4 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 21:30
悪魔を呼び出すのにロウソクだとか妙な図形はいらない。
必要なのは、その望みを叶えたいという気持ちだけ。
…二年間の仕事で学んだ事。

電気を消した部屋に差し込むのは月明かり。
綺麗な丸を形作るそれを見ていると、月にはうさぎが住んでるん
だよという、あの子の言葉を思い出す。
窓から顔を出して雲一つない空を見上げると、さぁっと
冷たい風が頬を撫でた。
もうすぐその時がやって来る。
「月の美しいこの晩に私を呼ぶのはあなたですか?」
懐かしいその声に振り返ると、かつての先輩が二人
変わらぬ優しい笑顔で立っていた。
「ヒサシブリだね、田中ちゃん」
5 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 21:31
白いセーターと同色のスカート。
清楚な制服に身を包んだその人はその格好に不釣り合いな大きな
鎌を右手に持ち、空いた左手を私にひらひらとふっていた。
「れーな。」
その隣に立っていたもう一人の先輩は、黒い上下のスーツに
黒いネクタイ。その鋭い目つきには仕事を始めたばかりの頃は
幾度となく泣かされた。
「少し、昔話でもしようか。」
先輩たちは私の返事を待たずにふわっとベッドに腰掛ける。
彼女たちを前にして、私に「断る」という選択肢はない。
私は勉強机の椅子を引き寄せ、そこに座った。
「元気そうで安心した。」
「おかげさまで。」
6 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 21:33
私たちはあの日から何も変わっていない。
以前のように笑い、くだらない事でケンカもする。
私たちはあの日のままだった。
…一人、いない事を除いて。
「今、いくつだっけ?」
「高校一年です。」
「……もう、三年前なんだ。れーなが初めて美貴の所来たの。」
その先輩…美貴さんは懐かしげに目を細め、私を見る。
私は美貴さんの言葉に曖昧に頷いた。
何故本題に入らないのだろうと思わなかったと言えば嘘だった。
先輩たちはどうして早く「儀式」を始めてくれないのか。
もう、覚悟はできているのに。
「そう焦らないでさ。ちょっと話しようよ。」
7 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 21:36
もう一人の先輩である亜弥さんはそう言ってにこっと笑う。
この人の特技は心を読む事だったと、今更ながらに思い出した。
「あの頃、れーなもさゆみも仕事嫌がってさ。大変だったよね」
「みきたん、毎日眉間に皺寄ってたもんね。」
あの頃。
それは、私がさゆと出会った頃。
私は毎日のように美貴さんに怒られては亜弥さんに慰められ
それでも仕事を積極的にやろうとはしなかった。
自分を取り巻くすべての環境が謎だらけだった。
「どうして私が」
「何でこんな事を」
そんな事を思いながら過ごしていた、あの頃…
8 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 21:58
「田中っ、何してんの!」
「ごめんなさい…」
また怒られた。
私は自分の革靴にじっと目を落とす。今日だけで三回目。
私より少しだけ背の高い先輩は、その鋭い眼光を私に向け
不機嫌丸出しの声を出した。
「みきたん、田中ちゃんまだ入ったばっかりなんだから
あんまり怒ったら可哀想だよ」
美貴さんとペアを組む亜弥さんは美貴さんのスーツの裾を軽く
引っ張りながらたしなめる。
美貴さんはそんな亜弥さんをキッと睨むけど、亜弥さんは特に臆する
様子もなく私の方に肩をすくめて見せた後で苦笑いをして
「ゴメンね。みきたん、朝から機嫌悪くて…」
「…田中がもっとちゃんとしててくれれば
美貴は怒鳴ったりしないんだけど。てか人が話してる時くらい顔上げろよ」
9 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:00
その言葉に顔を上げるも、私の視線は美貴さんに定まる事なく
やや斜め下の空間の行ったり来たりを繰り返していた。
「みきたんっ…ほら、田中ちゃん怖がっちゃってるじゃん。」
言葉と同時に頭に乗せられる手。一瞬ぶたれるのかと思い
思わず目を瞑る。しかしその手はゆっくりと私の髪を撫でた。
「大丈夫。まだ馴れてないだけだもんね。」
亜弥さんの声が聞こえる。
私が首を振ると亜弥さんは私と同じ高さになるようにしゃがみ
視線を合わせると、笑顔で頷いてくれた。
「じゃあ、ほら。みきたん行くよ」
そして美貴さんの手を取り
半ば強制的にどこかへ連れて行ってしまった。
10 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:01
私は二人が飛び去った方をしばらく眺め、周りの風景に視線を
走らせる。今私がいるのは高層ビルの屋上で、下を見れば
一定方向に進む色とりどりの車と豆粒のようなたくさんの人。
私は風に身をまかせるように体の力を抜く。
そしてそのまま軽くジャンプをすると私の体はふわりと宙に
浮いた。背中に生えた羽を使い、自由自在に空を飛ぶ。私の姿は
仲間にしか見えないのだから、誰かに見つかる心配はない。

遠くに海が見えた。
今まさに沈もうとしている太陽に照らされたオレンジ色の水平線
がどこまでも続いているのが、ここからでも分かる。
「海か…」
11 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:02
…ちょっと遠いけど行ってみようかな。

これで帰るのが遅くなったら、また美貴さんに怒られる。
それは分かっていたけど、今の私にとってこの都会や自分の家と
呼べる場所は私の悩みをより一層深くしてしまうに違いない。
私は海の方へ向かいながらきちんと絞めたネクタイを緩め
ワイシャツの第一ボタンを開けた。
生暖かい風が隙間を通って私の肌に直接当たる。
けどそれは決して不快なものではなく、心を直接撫でるような
その生暖かさに却って心地よさを覚えた。
12 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:03
「……」
静かに砂浜に降りると、私は波打ち際まで歩いてみた。
先ほどまでオレンジ色に輝いていた海は暗闇に飲み込まれ
見上げれば空にはいくつかの星が瞬いている。
寄せる波が私の足元にまで届き、靴を濡らすけれど
特に気にはならなかった。

『馴れてないだけだもんね』

亜弥さんの言葉を思い出す。

『もっとちゃんとしててくれれば怒鳴ったりしないんだけど』

波の音に混じって美貴さんの声が聞こえる。
分かってるんだ。怒られて当然だったって。
仕事を始めて一ヶ月も経ったのに、未だに一人しかやっていない
自分が悪いんだって。
13 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:04
でも、私にはできない。
人と魂の契約を結ぶなんて…
人の魂を食べるなんて…
「うっ…くっ…ひっく…」
私の頬を伝うそれは止めようにも止められず、次から次へと波に
落ち、そのまま遠くへと流されていった。
ここは私が泣ける唯一の場所。
誰もいないから思い切り泣ける。
いくら、普通の人に姿は見えないと言われても、やっぱり自分が
涙を流している近くに人がいるのはどうしても気が引けた。
14 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:05
「田中」
どれくらい経ったのだろう。
突然背後から聞こえた美貴さんの声に
私はびくっと肩を震わせて反応してしまった。
怒られる。
しかし予想に反して美貴さんはそれ以上何も言わない。
どうしたんだろう。私は肩に入れていた力を抜くと急いで
涙を拭き、美貴さんの方を振り返った。
「田中」
美貴さんは私と目が合うと、もう一度私の名前を呼んだ。
「………はい」
15 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:06
『呼ばれたら返事をするように』
そう彼女に教えられたのは、一ヶ月ほど前だったか。
小さな声で返事をすると、美貴さんは私にすっと手を伸ばし
「帰るよ」
「え……」
「おいで。みんな心配してるんだから…」
私はゆっくりと砂浜を歩き、美貴さんの前まで行く。
手が届く距離まで来ると、美貴さんは私の腕を掴んだ。
そして、行くよ。と呟くとそのまま大空へと飛び上がる。
16 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/01/22(土) 22:08
さっきよりもたくさんの星が輝く夜の空を、美貴さんと並んで
飛んでいく。
腕を掴んでいた手はいつの間にか私の手と繋がれていた。
「あーあ。真っ暗…」
「…ごめんなさい」
「…いいよ。さっきは美貴も言い過ぎた」
隣を飛ぶ美貴さんの口調は相当ぶっきらぼうだけど
繋いだ手は暖かく、私はそれがすごく嬉しかった。
「…れーな」
「ふぇ?」
急に下の名前で呼ばれ、不意打ちを食らった私は、美貴さんの
方を向くと同時に、妙な声を出してしまった。
「ははっ。可愛い」
始めて聞く、美貴さんの笑い声。
私は自分の顔がカァッと熱るのを感じ、周りが暗くてよかったと
感謝した。それは美貴さんも同じだったのかもしれない。
「まぁ、出来の悪い後輩だけど」
そう付け加えた美貴さんは、間違いない。
笑っていた。
17 名前:神風 投稿日:2005/01/22(土) 22:10
こんな感じで進んでいきます。
感想、意見は大歓迎です。
もし、誤字脱字などがありましたら遠慮なく言ってください。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/26(水) 15:21
おもしろそう。
続きまってます
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 14:55
いい感じだ ガンガレ
20 名前:神風 投稿日:2005/03/02(水) 22:48
こんばんは、スレ立てた早々放置気味の作者です。というもの、この話を書き進めていく内に某作品と内容が被ってきていることに気付き「これはマズイだろう」と思い執筆を中断していたからです。しかし、立てたからには作者にはスレを埋める責任があるのではないかと考えました。
そこで、現在連載中の話と平行に書き進めていた話があるのでそれをUPしたいと思っているのですが、ここでアンケートです。
れなえり中心の話とりかれな中心の話、どちらがいいですか?ちなみに、どちらもエロなしでそんなに明るくも暗くもないです。皆さんの読みたいと思う方のCPの話をUPしたいと思います。


21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/02(水) 23:51
内容が少しくらい被ってしまうのは仕方ないとは思いますが、ちょっと残念です。

何はともあれ、りかれな希望。
贅沢を言えば両方ですが…
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/03(木) 14:05
この連載はやめてしまうということ?だとしたら残念です。

両方のせるということはできないのでしょうか。
とりあず、れなえり希望で。
23 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/03(木) 19:49
作者さんの好きなほうで。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/04(金) 00:39
う〜ん、やっぱりれなえり希望ですね。
一推しCPです。
25 名前:作者 投稿日:2005/03/09(水) 16:16
こんにちは、作者です。
色々考えた結果、現在連載中の話は加筆訂正を行った後、もう一度再開したいと思います。
それまで別の話を楽しんでいただく形にしようかと…。ということで、れなえり、りかれなの順でUPをしたいと思いますが現在テスト期間なため、来週からスタートしたいと思います。
それまでお待ちください。よろしくお願いします。
26 名前:作者 投稿日:2005/04/04(月) 22:45
こんばんは。
来週更新するとか言っておきながら、4月まで更新していない
嘘つきな作者です。ごめんなさい。
さて、散々皆様にアンケートをとっておいてあれなのですが
れなえり、りかれな共にとても1スレに収まらないような内容に
なってしまったので、別スレを立てたいと思います。
じゃあ、このスレはどうするのか…はい。このスレはちゃんと
利用します。加筆訂正を加えた『白と黒の条件』で。
優柔不断な作者で大変申し訳ありません。
皆様、ご迷惑をおかけしました。
という事で、れなえりとりかれなはもう少々お待ちください。
27 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/04/04(月) 22:46
>>16の続きからです。
28 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/04/04(月) 22:47
「失礼します…」
その夜遅く、私は亜弥さんに呼ばれ彼女の部屋にいた。
美貴さんは仕事に行っていて、今はいない。
「いらっしゃい」
ベッドに転がっていた亜弥さんは私の姿を確認すると
手元にあったクッションを私に放り、座るように促した。
「何ですか、話って」
「…田中ちゃんさ、今何か悩んでるでしょ?」
あまりにも短刀直入な質問に、私は言葉が出なかった。
黙ったままの私に自分の予想が当たっている事を
確信したのか、亜弥さんは起き上がって私を覗き込むように
見つめながら言った。
「当ててあげようか?まず、何で自分がここにいるのか。
次は何でこんな仕事をしなくちゃいけないのか。
あとは自分にはこの仕事がきつい…違う?」
違わない。私は素直に頷いた。
「でも何で…」
そう言いかけて気付いた。
亜弥さんの特技。それは『人の心を読む』事だったと。
29 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/04/04(月) 22:49
『悪魔』
一般に、私たちはそう呼ばれている。
ただ、実際とは随分違う悪魔像を
人々は思い浮かべているようだけど。
しかも、やたらにろうそくを立ててみたり
紙に変な絵や文字を書いてみたり…
「こんな事しなくても分かってるんだけどな」
先輩たちはいつもそう言ってから呼び出し人の心に話しかける。
閉め切った部屋でろうそくをつけているせいで
私たちが行く頃にはむわっとした熱気が立ち込め
とてもじゃないが長々と儀式をしてはいられない。
『汝の望み叶えるに、我、降臨せり』
最初に話しかけるのはこの言葉。
すると、普通の人には私たちの姿は見えないから
呼び出し人は天からの声だと言わんばかりに
わけの分からない呪文を唱え始める。
その人の望みの内容は、あらかじめもらう調査書に書いてある
から、詳しい事は一切聞かず、そのまま次のセリフを言う。
『汝の望みを叶えた後、汝の魂が体を離れた時は
我にその魂を差し出す事を誓うべし』
ここでYESと言えば商談成立。
もし急に気が変わっても
私たちが危害を加えるような事はない。
30 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/04/04(月) 22:50
「ごめんね。田中ちゃんの言いたい事は分かってるのに
答えてあげる事、できないんだ…」
私にも分からないから、と亜弥さんは言った。
「でも、これだけは言えるよ。
田中ちゃんがこの仕事を辛いと思うこと。
それは間違ってないんだよ。
だけど、そう思ってるのは田中ちゃんだけじゃない。
私だって…」
商談が成立したら、私たちは一度本部に戻りサインを貰う。
そうしたら次は亜弥さんたち死神の番だ。
呼び出し人の後を追い、願いが叶ったのを確認したら
数日以内にその魂を狩る。
どのように狩るのかは、知らない。
一度だけ亜弥さんに聞いた事があったけど
ものすごく悲しそうな顔をして、ゴメン、と言われたから。
それ以来、その事に触れた事はない。
31 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/04/04(月) 22:51
「私だって、辛いんだ。でもね、先輩に言われたの。
いつか分かるときが来るよって…」
「亜弥さんの先輩、ですか?」
当たり前の事だけど、亜弥さんにも新人の頃があったんだ。
もちろん、あの、美貴さんにも。
「だからね、大丈夫…っていうのはおかしいかもしれないけど
ゆっくり考えようよ。急がなくっていいじゃない。ねっ?」
あたしは、反射的に首を縦に振る。
亜弥さんはそれに満足したのかにっこり笑い、そういえば…
という風にぽんっと手を打つと
あたしの方に笑顔を向けたまま言った。
「田中ちゃんとペアになる子、決まったよ。」
32 名前:神風 投稿日:2005/04/04(月) 22:52
たった数レスですが、更新終了です。
あ、29が異様に長いのはミスって事で…
33 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/04/06(水) 04:24
初レスさせて頂きます。 といっても、前々から密かに読まさせては頂いていたものの、作者様から中止の報告を見た為、止むを得ず見るのを諦めていました。ですが、作者様が復活されてこの機会にと書かさせて頂きました。 短編などもぜひ拝見させて頂きたいです。 次回更新待ってます。(汚文申し訳ありませんデシタ)
34 名前:名無し 投稿日:2005/07/20(水) 14:14
待ってます………。
35 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/20(水) 20:25

『闇が、光に飲み込まれる。』

朝焼けを見て、こんな表現をしたのは
確か亜弥さんだったと思う。
妙にその表現が気に入ってしまった私は、それ以来、毎日
高い所から朝日を眺めるのが日課になっていた。
もちろん、今日も。
ただ、いつもは何も考えずに見ている朝焼けも、今日はどうしても
一つの事が頭から離れずにいた。
『田中ちゃんとペアになる子、決まったよ。』
亜弥さんはそう言っていたけれど、私とペアになってどうするのだろう。
契約一つまともにできない悪魔と組まされて、迷惑なだけじゃないか。
そう言うと、亜弥さんは「大丈夫だよ、多分」と言った。
36 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/20(水) 20:26
その子とは、今日、会う事になっている。
美貴さんはどうやら昨日の仕事帰りに、一足早く
その子と顔を合わせたようで、ここに来る途中に
ちらりと見かけた美貴さんは亜弥さんに、ひたすら何かを
尋ねていた。何となく聞こえたのは
「大丈夫なの?あの二人」という言葉だけ。
という事は、その子も相当の落ち零れなんだろうか。
「何してるの?」
一瞬、どこから声がしたのか分からなかった。
「ここだよ、ここ。」
まさか、と思って上を向くと、そこには見たことのない人が
浮いていて。でも、その格好からして、亜弥さんと同じ
死神なんだと思う。
「あなたが、れいなちゃん?」
まるで、そこに床があるかのように宙に肘をついて
尋ねるその人に多少驚きながら「あ…はい…」と答えた。
37 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/20(水) 20:27
「あれ、梨華ちゃん。早いね。」
「おはよう、美貴ちゃん。」
梨華ちゃん、と呼ばれたその人は、私の隣にやってきた
美貴さんに、にっこり笑いかけ、もう一度私の方を見た。
「れいなちゃん、さゆみとペアだよね?よろしくね。」
「え?あ、はぁ……」
さゆみ、っていうんだ。相手の子。
「美貴、まだれいなに何も説明してないんだけど。」
美貴さんが、梨華さんを見上げながら苦笑いを浮べる。
梨華さんは呆れたように眉間に皺を寄せてから
「やっぱりね」と呟いた。
「何か、話が前後しちゃったけどさ」
美貴さんが、私の隣に来て、梨華さんに降りて来るように
指示をする。
「こいつは、石川梨華。美貴の……友達?」
「やだ、何で疑問形になるの。」
38 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/20(水) 20:27
少し、傷ついたような表情になる梨華さんに、美貴さんは
笑いながら「ごめんごめん」と言い、私の方を見ると
「今日から、れいなとペアになる奴の、教育係やってるんだ。」
美貴さんに指差された梨華さんは、にこっと笑うと
「始めまして、石川梨華です」と頭を下げた。
「あ、田中れいなです。」
れいなも慌てて自己紹介をする。
「れいなちゃんは、さゆみと同じ歳だから
仲良くできると思うよ?」
ね?と確認するように美貴さんを見る梨華さん。
美貴さんは、少し複雑な表情になりながらも一応頷いた。
「…ねぇ、梨華ちゃん。ホントに大丈夫なの?二人…」
それでも、口に出さずにはいられなかったのか
美貴さんが小さく呟くと梨華さんは微妙な笑顔を作って
「大丈夫。多分…」と言って、私を見た。
39 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/20(水) 20:28
「ね、れいなちゃん」
「はい?」
しばらくの沈黙。
やがて梨華さんは、何でもない、と首を振り
美貴さんの方に視線を向ける。
美貴さんも私の方を見て「まぁ、何とかやってくよ。な?」
「え…あ…はい…」
よく分からないけど、私とそのペアの子は
何か問題があるらしい。
もしかして、向こうは相当の優等生とかなんだろうか。
そうしたら私は、毎日迷惑かけてばかりになってしまう。
「れいな、今日で美貴はれいなの教育係じゃなくなる」
「え?」
突然、美貴さんが発した言葉に私はついていけず。
美貴さんはそんな私を面白そうに眺めながら、もう一度
同じ言葉を繰り返した。
40 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/20(水) 20:29
「何で……」
「この世界では、元々そういう約束なんだ。
自分が面倒を見ていた後輩にペアができたら
その日限りで教育係は終わり。
あとは、そいつがペアの子と力を合わせて仕事をこなす。」
美貴さんは、そう言うと、そっと私の頭に手を延ばす。
「れいなには、正直、まだ早いかなって思う。でも、そうやって
上が言ってきたって事はきっと何か理由があるんだよ。」
「だから頑張れ」と美貴さんは乗せた手を何度か往復させる。
そして手を下ろすと梨華さんの方を向き
「じゃあ、行こうか」
「うん。さゆも、待ってるだろうし」
先に空に舞い、すぐに小さくなっていった二人の後ろを
必死で追いつくように飛ぶ。
待ち合わせの場所は、もう、すぐ近く――――
41 名前:神風 投稿日:2005/07/20(水) 20:32
たまたま覗いたら一番上にあったので
短いですが更新してしまいました。
また書き留めないといけないので、ホント、まったり
ゆっくり進んでいきますけど、見捨てないでやってください。
待っていてくださる皆様、間が空いてばかりいて本当にごめんなさい。
そして、ありがとうございます。

では、また
42 名前:名無し 投稿日:2005/07/27(水) 21:31
更新ありがとうございます。
これからも作者さんのペースで頑張って下さい。
陰ながら応援してうります。
43 名前:神風 投稿日:2005/07/31(日) 07:58
>>名無し様
ありがとうございます。
これからも、速度は遅いと思いますが頑張ろうと思います。
44 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/31(日) 07:59
「…さゆ、仕事……三丁目」
「……うん…」
先輩たちに見送られ、さゆみと二人、下界へ降りる。
目的の家は、ごく普通のマンションの一室だった。
窓から部屋の中へと通り抜けると、途端に感じる熱気。
「れいな…早く、やっちゃおうよ………」
「……あぁ…うん…」
大きな鎌を肩に乗せ、呼び出し人から視線を外すようにして
呟くさゆ。小さく頷いて、呼び出し人に話しかけた。
「……汝の望み叶えるに、我、降臨せり」
数秒後、はっとしたように顔を上げ
きょろきょろと辺りを見渡す呼び出し人。
私はその表情を見ないようにしながら、言葉を続けた。
「汝の望みを叶えた後、汝の魂が体を離れた時は
我にその魂を差し出す事を誓うべし」
45 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/31(日) 08:00
言うな――――
この一言が言えたら、どんなに良かっただろう。
耳に届く「誓います」の声に、思わず「あぁ……」と呟いて
私は、さゆの方を見た。
青白い顔で俯いて、きゅっと唇を噛み目を閉じている、さゆ。
「………さゆ…商談、成立…一回、戻ろう」
「…うん……」
二人で手を繋いで、本部へと戻る。
そこにいた先輩たちと目を合わせないようにしたまま、私たちは
本部長の前へ進んだ。
「商談、成立しました」
「ん、分かった」
その言葉と共に押される『認証』の印。
それをぼんやり眺めながら、私はさゆの手を少し強く握った。
46 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/31(日) 08:01
さゆと仕事を始めて、もうすぐ一ヶ月になる。
その頃になると、私は分かっていた。

何故、美貴さんがあんなに心配をしていたのか。
何故、梨華さんが複雑な表情をしていたのか。

『…初めまして……道重、さゆみ…です』

ようするに、私たちは似たもの同士だったのだ。

『あ…えっと…田中れいなです…』

私と、道重さん。
共に仕事のできない、落ちこぼれ同士。
47 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/31(日) 08:02
私とは正反対の色をした清楚なセーター。
それと同色のスカートは、彼女にはとても似合っていて。
その肩にかけた大きな鎌だけが、異様な輝きを放っていた。
「さゆ、この子がさゆとペアになる子。
同い年だから、仲良くやりなね?」
「できの悪い悪魔だけど、見捨てないであげてくれるかな」
梨華さんと美貴さんが、それぞれ道重さんに話しかける。
道重さんは、ちらりと私を見た後、すぐに俯き加減になり
小さな声で「初めまして」と言った。
「梨華ちゃん、美貴たちどっか行ってようか」
「え?」
「ほら、後は若い人同士で、みたいな」
意味ありげにそう言った美貴さん。
梨華さんにも伝わったんだろう。
「そうだね」と頷いて、私と道重さんに手を振ると
美貴さんと二人、どこかへ跳んで行ってしまった。
48 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/31(日) 08:03
その場に残された私たち。特に会話はない。
道重さんが、時々私の方に視線を向けているのは分かっていた
けれど、私もかける言葉が見つからず、わざとそれに
気付かない振りをして、そっと顔を背けた。
「あ、あの…………」
耳に入る、道重さんのどこか、おどおどしたような声。
「よろしく、お願いします…」
小さく、そう頭を下げた彼女に、私も同じ動作を返す。
最初はすごく、優等生のような印象を受けたけれど
彼女の喋り方で、何となく分かった。

―――きっと、私と同じなんだ。

名前を告げ合い、それでもなお、会話の続かない私たち。
どうしよう、と思っていると、本部から連絡が入った。
49 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/07/31(日) 08:04
私たち悪魔は、常に携帯電話のようなものを持っている。
本部から直に連絡の来るそれは、まだ美貴さんと行動していた
頃の私には必要のないものだったけれど、今日からは
ダイレクトに連絡が入ってくる。
道重さんは、それを梨華さんからでも聞いていたんだろうか。
不安そうに私の方を見て「仕事?」と呟いた。
電話ではなく、メール形式で送られてくる仕事内容。

『そこから三時の方向に、呼び出し人あり』

そう書かれた文章を、道重さんの方に見せると、道重さんは
ますます不安そうな顔になった。
「………行こう…」
とりあえず、行かなくては。
50 名前:神風 投稿日:2005/07/31(日) 08:05
次回、二人の初仕事。
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 17:55
はじめまして。
なんだか面白い展開になってきましたね。楽しみにしています。
52 名前:名無し 投稿日:2005/09/01(木) 18:03
コウシンマッテマス
53 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 20:53
時間が、すごくゆっくり進むように思える。
空は悲しいほどに清清しい青をしていて。
呼び出し人の家へ向かいながら、私は空を見上げ、思わず溜息をついた。
私も道重さんも何も言わない。
さっきまで私たちの間を渦巻いていた空気が『戸惑い』という名の沈黙なら
今、この場を支配するのは『不安』ただ一色。
やがて前方に見えてきた、他の家と大して変わらない
ごく一般の、こじんまりとした家。
「あれだ………」
一々口に出さなくても分かっている事なのに、どうしても
言葉に出さずには、いられなかった。

家の上、数メートル。

私たちはここで、一旦止まった。
54 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 20:53
「………」

止まってしまって、後悔した。
行くなら一気に行ってしまえばよかったのに。
どうしても、私の身体は言う事を聞かない。

『行かなくちゃ』

『行きたくない』

二つの思いの中で揺れる私。
多分、道重さんも同じなんだと思う。
私の隣で瞳を閉じ、自分を落ち着けるかのように
何回か深呼吸を繰り返していた。
55 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 20:54
ここから先は、私が一人で行かなくてはならない。
道重さんはここで待機。
「じゃあ………」
口にはそう出したものの、身体は進まず。
背中に感じる、道重さんの視線。
逃げちゃおうか。
一瞬、そんな思いが頭をよぎる。
けれど。

「れいな」

不意に聞こえた、美貴さんの声。
けれど当然、彼女が近くにいるはずはなく。
急いで、たった今浮かんだ考えを追い出し
私は覚悟を決めた。
56 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 20:55
部屋の中は、とにかく暑かった。
思わずスーツの上着を脱いでしまいたい衝動に駆られたけれど
今は仕事中。少しだけ、ネクタイの結び目を下げるだけに留めておいた。
目の前にいるのは…彼女が呼び出し人なのだろうか。
まだ若い、少女。
もしかしたら、私と同い年くらいかもしれない。
申し訳程度に立てた蝋燭の明かりが、暗い部屋の中で
微かに揺れている。

―――早く終わらせよう。

その一心で、私はゆっくりと口を開いた。
57 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 20:57
『汝の望み叶えるに、我、降臨せり』

そこからは、何度も見てきた光景。
驚いたように辺りを見渡し、さらに何かを呟く呼び出し人。
それを見ていると、次の言葉が、すごく重く感じた。

『汝の望みを叶えた後、汝の魂が体を離れた時は
我にその魂を差し出す事を誓うべし』

「Yes」

即答されたこの言葉に、ただ「あぁ…」と呟くしかなかった。

この、たった数言の会話で、彼女の運命は決まってしまう。
けれど、その言葉の重要さを知っているのは、私たちだけ。
58 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 21:24
とりあえず、私の仕事はこれで終わりだ。

そう思うと、一気に脱力感に襲われ、フラフラと外へ出た私は
その場に座り込んだ。
視界の端に、道重さんが近寄ってくるのが見える。
「………大丈夫…?」
頷くと、彼女は、静かに溜息をつき「終わったの?」と
小さな声で尋ねてきた。
「……ん」
「そっか………」
59 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 21:28
どこか複雑そうな表情で、私を見ている彼女に
戻ろう、と告げると、小さく頷いて、私の手を
そっと握ってくれた。
それは、きっと私への労いと
次に待つ自分の仕事への不安の表れ。
そう思ったから、私は彼女の手を優しく握り返す。

―――私の仕事は終わった。けど、まだ続いている。

本当は、死神の仕事に付いて行ってはいけない…というより
付いていくような事はしないのだけれど
私は、この後に待つ仕事で、彼女と一緒にいたいと思った。
60 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 21:29
悪魔になって、数ヶ月。
本部がこんなにも遠いと感じたのは、きっと
初めて美貴さんに任務を見せられた日、以来だと思う。
本部に着くと、繋いだままだった手をどちらからともなく離す。

報告は、礼儀正しく、はっきりと

美貴さんがそう教えてくれた事がある。
その時は、何かの標語みたいだ、と笑っていたのだけれど
実際、本部の人間達を前にしたら、そんな余裕もなくなる。
ましてやパートナーと手を繋いでいる所などを見られたら
面倒なことになりかねない。
61 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/09/02(金) 21:31
「田中、道重。第一報告にやってきました」
「……ん」
本部の中で、一番偉いとされている人のデスクの前に立ち
道重さんと二人で並ぶ。
その人はチラリと顔を上げ、私たちが新人だということに
気付いたのか「あぁ、藤本と石川の…」と呟き
デスクに散らばった書類の中からあの呼び出し人についての
報告書を取り出し、手元にあった大きな印鑑を押した。

『YES』

たった一言の、その赤く滲んだインクに
どこか眩暈を覚えながら、私たちは一礼をして
その場を後にした。
62 名前:神風 投稿日:2005/09/02(金) 21:33
>>名無飼育さん様
初めまして
楽しみ、ですか。ありがとうございます!

>>名無し様
これからも、更新は遅いと思いますけど
よろしくお願いします。
63 名前:奈名師 投稿日:2005/09/04(日) 17:44
更新ありがとうございます。次の更新にも期待してます。(´∀`)
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/05(水) 19:48
つづき…まだかな(._.)
65 名前:初心者 投稿日:2005/12/04(日) 22:58
読ませてもらいました
続きが読みたいです
更新待ってます
66 名前:作者 投稿日:2005/12/08(木) 15:26
お久しぶりです。

……年内中には何とか更新したいです。
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 20:55
ありがとうございます。楽しみにしてます。
68 名前:初心者 投稿日:2005/12/08(木) 23:46
楽しみに待ってます
69 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:43
その光景を見た瞬間、分かった気がした。

どうして、死神たちが己の仕事について口を閉ざすのか
ということに……
70 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:43
「じゃあ、私…行くね?」

報告が終わった後、道重さんは言った。

「どこへ?」

聞かなくても分かっていたのに
思わず口を付いて出てしまう。
困ったように顔を伏せる彼女が可哀想で
私は「ごめん」と頭を下げた。
彼女は気にしないでいいからと小さく笑い
肩にかけた鎌を持ち直す。
その仕草が何か悲しくて、ただ
「いってらしゃい」と言うことしかできなかった。
71 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:44
道重さんを送り出してから時間が空いた私は
ふらふらと散歩に出かけることにした。
別にどこに行こうとか思っていたわけじゃない。
ただ、本部にいるのが嫌だったから。
空は相変わらず青くて、まだそんなに時間が経って
いなかったから、どこかに道重さんの姿があることを
期待しながら私はぼんやりと地上の様子を眺めていた。
けれど、結局私が着いたのはさっきの呼び出し人の家で。
道重さんの姿を捉えたのは、その数メートル上の方だった。
72 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:45
「………」

声をかけようかと思った。
けれどそれが仕事の妨げになる事は分かっていたし
話しかけたところで、何を言えばいいのか分からなかった
から、私は彼女に存在を気づかれないような位置で
止まり、その場から彼女の様子を見ることにした。

「なんだかなぁ……」

溜息と一緒にそんな言葉が漏れた。
私の視線の先には、道重さんが持っている大きな鎌。
刃先が鋭く、いっぺんに人を殺めることのできるような鎌。
どこかほわほわとした雰囲気が漂う彼女とその鎌が
とてもアンバランスに思え、逆に絶妙な組み合わせにも見えた。
73 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:47
呼び出し人と、道重さんの様子を交互に見つめながら
ふと浮かんだ言葉を口にした。

「長期戦、なのかなぁ………」

本部からチェックを受けたあと
願いがすぐ叶うのかといえばそういうわけではない。
比較的簡単なものなら確かに数時間以内にかなってしまう
らしいが、今回のように恋愛が絡むと一週間近く
かかってしまうこともあると聞いたことがある。
74 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:48
あ。

道重さんが動いた。
その視線の先には、どこかに出かけるのか
よそ行きの格好をして家から出てきた呼び出し人。
心なしかその表情は明るくて、何となく。
何となくだけれど、何をしに行くのか予想できる気がした。

「公園って。何かベタな所だなぁ……」

呼び出し人と、それを追う道重さん。そしてさらに
彼女を追う私が着いたのは紛れもなく、公園。
この町では比較的大きくて、お弁当を食べたり
バレーボールなんかができるような広場があったりする。
75 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:48
「噴水の前で待ち合わせ、ねぇ」

よく、ドラマなんかでやっているような光景だ。
噴水の前、ベンチもあるけれどそれには座らずに
辺りをきょろきょろと見渡しながら、手に握った
携帯電話を見つめている依頼人。
その顔が、ぱぁっと明るくなったとき。
同時に、道重さんの表情は辛そうに歪められた。

「待った?」
「いえ、今着たばっかりですから」

呼び出し人と、彼女より大分大きい男。
その肩に掛けられているのは、多分、竹刀。
剣道部かなんかなんだろうなぁ、と思う。
76 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:48
「で、どうしたの?突然」
「あ……あのっ………」

―――見ていられない。

青春の一大イベントをしようとしている依頼人と
どことなく、そわそわした感じの男を、ではない。

「…………」

鎌を構えたまま、微動だにせずに二人を見つめている
道重さん。

彼女のことを。

彼女の、今にも泣き出しそうな表情を。
77 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:49
結局私は、最後まで事の成り行きを見ないまま
その場から離れてしまった。
何となく、見てはいけない気もしたし
なにより自分自身が見ているのが辛かったから。
あの後の二人がどうなったのかは知らない。
けれど、結果は分かっている。

『先輩と、付き合いたい』

それが、依頼人の願いだったから。

彼女の、彼に対する気持ちの大きさが
どんなものか、知っていたから。

呼び出し人の願いを叶える。
それが、私たちの仕事だから。
78 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:49
「れーな?」

聞き覚えのある声に振り返る。
そこにいたのはやっぱり想像通りの人。

「美貴さん」

すーっと私の隣に来た彼女は「んー」と唸りながら
何も言わずに、じっと私を見つめている。

「何ですか?」

何となく居心地が悪くて、そう尋ねると
美貴さんは私の顔を覗き込むように見ながら、

「仕事、してきたんだって?」
「………」
79 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:50
何故か「はい」と言えずに小さく首を振るだけに留める。
美貴さんはそんな私に何も言わず、ただ優しく、私の頭を
撫でてくれた。

「もう一人は?」
「あ、道重さんはまだ………」

そういうと、美貴さんはそっか、と呟いて
またしばらく思案気な表情になった。
どうしたんだろう、と思っていると美貴さんが口を開く。

「見に行く?」
「え?」

何を、という言葉。それは、美貴さんのセリフに遮られた。

「死神の仕事」
80 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:50
「美貴ちゃん………」

美貴さんに付いてしばらく行くと、そこにいたのは
梨華さんで。私が一緒なのを見て、相当驚いたようだった。

「梨華ちゃん。見せてやって、こいつに」
「でも………」

いいの?と不安そうに私を見る梨華さん。
私は意味が分からずに、美貴さんの方を向いた。

「れいな」

いつになく真剣な美貴さんの表情。
あぁ、あの時の顔だと思った。
私が仕事を始めたばかりの頃の、美貴さんの顔。
81 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:50
「本当は、死神の仕事を誰かが見ることはない。
 でも、れいなは………れいなたちは、互いの仕事を
 知っておくべきだと思う。でも、それにはそれなりの
 覚悟が必要なの。分かる?」

はい、と頷くと、美貴さんは梨華さんの方をチラリと見る。
その唇が「いいよね?」と動いた気がして。
梨華さんが何も言わずに頷いたから
きっとそれで合っているんだと思う。

「じゃあ………」

梨華さんと目配せをして、どこかに去ろうとする美貴さん。
梨華さんもその後に続く。

「え、どこ行くんですか?」
「ここから先は、れいな一人で見るべきだから」
82 名前:白と黒の条件 投稿日:2005/12/09(金) 13:52
そう言い残して、二人は連れ立ってどこかへ言ってしまった。
私は少し戸惑いながらも道重さんの方へ視線を向ける。
下には、やっぱりというか何というか。
微妙な距離を保ったまま並んで歩く、二人の姿。
二人からそう遠くない所をふらふらと飛んで付いて行く
道重さんの表情は、相変わらず、悲しそう。
あれからずっとこんな表情をしていたのかと思うと
私の方が泣きたくなってきた。

何で、私たちがこんな仕事をしなくちゃいけないのか

久しぶりに感じたその思いは消えないまま、私もふらふらと
彼女の後を付いていく。

『その時』がいつなのか。
知っているのは、きっと、道重さんだけ。
83 名前:神風 投稿日:2005/12/09(金) 13:54
…年内中にはというレスをした次の日に
更新をする自分が何となく滑稽に思える、今日この頃(笑

読者の皆さま、レスどうもありがとうございます。
レス返しは省略させて頂きますが、週に1度のペースで更新
できるように、これからも頑張って行きたい思います。
84 名前:初心者 投稿日:2005/12/10(土) 23:33
更新お疲れ様です
さゆは仕事をこなせるのか
れいなもどんな風に感じるのか
二人での初仕事どうなるか続きが気になります
次回更新楽しみに待ってます
85 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:06
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 16:48
一気に読みました。面白いです
続きマッタリお待ちしています〜
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 23:49
待ってます

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