Lost youth

1 名前:おーともーびる 投稿日:2005/01/27(木) 18:06
ずっとROMってましたが、今回、書く方に初挑戦してみたい
と思います。
道重主役の学園もの。
初心者マークの作者なので、誤字脱字・その他読み辛い箇所等
あるかと思いますが、そういう時は遠慮せず、どんどんご指導
のほど、よろしくお願いします。
2 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:08
『先生なんて役に立たないじゃんか!』

生徒の叫ぶ声が聞こえる。
下のざわめきを、駆け抜ける風が消す。
ここにいるのはあたしと、2人の女子生徒だけ。
一歩近づくと、彼女たちは一歩後ろに下がる。
『……先生…もう…やめてください…』
辛うじてあたしの耳に届いた、か細く、消え入るような声。
何か言いたいのに、あたしは声が出せない。
この状況が、未だに信じられなくて。
いや…いつかはこうなるだろうと思っていた。
それ以上にあたしを驚かせたのは、目の前の2人が
あの日のあたしたちにぴったり重なって見えたから。

右も左も分からなくて。
下に広がる闇に落ちるか、青い空に手を
伸ばすかしか選択肢のなかった、あの日のあたしたちに…
3 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:13
「………」
一瞬自分のいる場所がどこなのか分からなくて、辺りを見渡すと
最初に映ったのは茶色くて太い柱が丸出しになった天井。
壁に貼られたポスターは、もう5年以上前にハマったアイドル。
カレンダーも、机に立てた教科書や参考書の類も。
全てが高校時代のまま。
…ここは、あたしの部屋だ。
少し色の剥げたカーテンを開けると、あたしが東京に出る前は
見えていた緑の山々が、乱雑に立ち並ぶマンションやアパートで
遮られていて。それはあたしに、どこか東京の街を思わせた。
4 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:15
高校時代。
中学生から更に大人に近付き
将来の進路を少しずつ考えるようになっていた頃。
その頃のあたしは、自分の町が嫌いだった。
それは、小さい頃に着ていた服が急に窮屈になるような感覚に
似ていたんだと思う。テレビで見る、東京や大阪の街に憧れ
大学生になったらあの大きな街で自分を精一杯試すんだと
そんな事ばかりを考えていた。

けれど、それが間違いだと知ったのも、高校時代。
自分がこんなにちっぽけな存在だったんだと思い知らされ
自分の無力さを痛感した。
5 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:18
「……」

どうして、急にこんな事を思い出したのだろう。
あたしは、横になっていたベッドから身体を起こし
まだはっきりとしない頭で考える。
――あぁ、そうだ…

『役立たず!』

つい先日、生徒があたしに投げつけたあの言葉。
あれと同じ事を言われたのが、この町だったんだ。
だからあたしは帰って来た。
今なら、あの時の疑問に答えが出せると思ったから。

……いつまでも逃げていたらダメなんだって思ったから―――
6 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:21
「いつも一人でお弁当食べてるけどさぁ…トモダチいないの?」
高校生になって一ヶ月ちょっと。
元々そんなに積極的なほうじゃないあたしは、自分から友達を
作る事ができず、急ピッチで進められるグループ構成に見事に
乗り遅れてしまっていた。
「え…あの…別にそういう訳じゃないと思うんですけど…」
突然話しかけられてどぎまぎしてしまい、必死でそう返しながら
あたしは、自分に話しかけてきた人物を見た。
きょとんとした目に、小さく開いた口。
正直、目のバランスが少し不釣合いだと思った事は否定しない。
未だにクラスメイトに対して敬語を使うあたしに、相手は些か
驚いたらしい。けれどそれはすぐに微笑みに変わり、彼女は
あたしの真似をしながら言った。
「…一緒にお弁当食べませんか、ミチシゲサン?」
7 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:22
「あたしの事は、何て呼んだって構わないから」
れいな、というのが彼女の名前だった。
そういえば入学式の時に校長祝辞の最中に携帯を鳴らしたのは
彼女ではなかったか。
「ん?そうだよ。あー、あの後は参ったね。
さっそく担任に怒られてさぁ…」
「もう、参ったじゃないでしょぉ?まったくれいなは…」
れいなには…こういう言い方をしていいのか分からないけど
絵里という連れがいた。
れいなとはまた違うタイプの彼女は、どっちかと言えばお姉さん
気質で、少しやんちゃな所のあるれいなと、ただ大人しいだけの
あたしの面倒をよく見てくれた。
あんなに性格のバラバラな3人がくっついた事は自分でもかなり
驚きものだったけど、今考えれば、バラバラだったからこそ
上手く微妙な釣り合いを保てていたんだと思う。
8 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:37
「でねー、その時れいなったら…」
「もぅ。絵里うるさい!」
中学の時から仲が良かったらしいれいなと絵里は、よくこうして
中学時代のお互いの思い出話をしてくれた。
でもそれは失敗談ばかりで、それは違うとか、あれはああだったとかで
言い争いになる事も珍しくなかったけど、それでも2人の会話は
聞いているだけで楽しかった。
でもその反面、懐かしそうに中学時代を振り返る2人を見ていると
どうも自分だけがのけ者にされたような気分になったのも確かだった。
もちろん、あの2人にはそんな気は全くなかったのだろうけれど。
9 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:39
いーちにぃさんしー…
にぃにっ、さんし…

校庭で、先輩たちが体育をしているのが見える。
広々とした校庭の端の方に、規則正しく並べられているのは
ハードル。元々体育は嫌いだけど、特にハードルは嫌い。
あれ、当たると痛いんだよなぁ…
そんな事を考えながら、ふぁ…と欠伸を必死でかみ殺す。
六時間目。
これが終われば、自由な放課後が手に入る。
しかし、あたしにとっては睡魔との闘いになるこの時間。
単調な声で教科書に載っている長い物語文を読んでいる先生は
ラスボスといったところか。
あたしは、気を抜けば途切れてしまいそうな意識を刺激する
ように頭を軽く振って周りの様子を観察した。
といっても、殆どが午睡の真っ最中のようだけど。
右隣に座った絵里は、教科書は開いているもののページが違う。
反対の隣のれいなはと言えば、教科書もノートも開かず
堂々と机に突っ伏して眠っていた。
10 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:40
先生は慣れているのか無視しているのか、ゴーマイウェイと
いった感じで教科書を読み続けている。
今、どこを読んでいるんだろう…。ってか、先生ハゲ丸分かり…
「道重」
ぼんやりと先生の薄くなり始めた脳天を眺めていたあたしは
その言葉で、はっと我に返る。
まさか。先生、エスパーですか?
「続き、読んで。」
その言葉に、思わずズッコケそうになった。
「あ…はい…」
そう返事をして立ち上がるも、それまでちっとも
聞いていなかったのだから続きがどこか分からない。
周りを見渡しても、頼りになりそうな人はいない。

『自分が当てられなくてほっとした』

クラス中の顔に、そう書いてある。
11 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:42
絵里はにやにやとあたしを見ているし、れいなはまだ夢の中。
教室内を支配する、奇妙な沈黙。
やがて、いつまでも読み始めないあたしをチラッと見て
先生が軽く舌打ちをする音が聞こえた
「ったく…聞いてなかったのか?…169ページの三行目だよ。」
むっとしたような先生の口調に
誰も聞いてないの知ってただろうと思ったけれど
運が悪かったのだと思うことにして、あたしは先生の言った
箇所を読んだ。
「……我々が自然の中にある時、もっとも知りたいのは
自分がどこにいるか、つまり自分と周囲との地形の関係が……」
12 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:45
「さゆ〜さっきの時間、先生の事ハゲとか考えてたでしょー?」
先生のお陰で、当てられた後は眠気もすっかりなくなり
残りの時間はマジメに授業を受け…
といっても残りなんて5分やそこらだったけど。
今はSHRに担任が顔を出すまでの短い休憩時間といったところ。
「え、何で分かったの?」
「ずっと先生の頭見てるんだもん。普通に気付くでしょ。」
さっきにやにやしてたのも、それでか。
「え?あたし、全然気が付かなかったんだけど。」
れいながあたしの首に腕を回し、じゃれつきながら話に加わる。
そりゃあ、れいなはチャイムが鳴るまで寝てたんだから
気付くはずがない。
あたしがそう言うと、それもそっかとあっさり納得するれいな。
絵里とあたしはそんなれいなを見て笑い
れいなが何で笑うのーと拗ねる。
13 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/27(木) 18:46
…これが、普通だった。

これが、あたしたちの『日常』だった。

「だった」はずなのに………
14 名前:おーともーびる 投稿日:2005/01/27(木) 18:47
短いですが、こんな感じで進んでいきます。
感想等、お待ちしています。
15 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:41
「帰ってるならただいまくらい言いなさいってお母さんが。」
いつの間にいたのだろう。
あたしの部屋のドアから顔だけ覗かせそう告げたのは
2つ違いのお姉ちゃん。
あたしと違って地元の大学に進んだお姉ちゃんは、今年26歳。
そろそろ身を固めなきゃとか何とかという話を
電話でしたのは、つい一週間前だったか。
「あー…うん…」
そうは言ったものの、どうも身体が動かない。
まるでこの場から動く事を拒否しているかのように身体全体が
重く、力が入らなかった。
お姉ちゃんは、自分の足元にあったあたしのクッションを拾い
じーっと見つめた後それを軽くあたしの方に放りながら
「ねぇ、さゆ……何しに帰ってきたの?」
あたしはそれを受け取りながら考える。

答えを探しに。
この答えは、あっているんだろうか………?
16 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:42
じりじりと太陽があたしの背中を照らす。
「さゆー、早く!」
のろのろと運動靴の靴紐を結ぶあたしの背中にかかる
れいなの声。
あの子はいつだって元気だ。
あたしから少し離れた所では、他のクラスメートがあちこちで
グループになって喋っている。
その中には…………絵里もいる。
最近、絵里はいつもあのグループにいた。
あたしはあまり人の事をどうこう言うのは好きじゃないん
だけど、あのグループだけはどうもあまり関わりたくなかった。
何というか『女子高生の集まり』で、授業中だろうが休み時間
だろうがキャーキャーと騒いでいるグループ。
「絵里…ウチらと一緒にいなくなったよね」
いつの間にかあたしの隣にやって来て言うれいな。
あたしは靴紐に視線を落とし、彼女の言葉を聞き流していた。
17 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:43
『田中ってムカつく』

その話を聞いてしまったのは、まったくの偶然だった。
その日に限ってれいなは遅刻するというメールが入っていて
絵里は用事があるとかであたしより早く登校していた。

『最近、絵里どうなのー?』
『あぁ…れいな?』

……入り辛い。
あたしは、開ける一歩手前で止まったドアから手を離し
教室から遠ざかろうと元来た道を歩き始めた。
18 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:45
『田中とか言ってさー、マジでムカつくんだけどー!!』

え…?
反射的に、あたしの足がぴたっと止まる。
さっきのは…絵里の声だ。
教室からはわぁっという笑い声が上がり
手を叩く音まで聞こえてくる。
何かに胸を締め付けられたような苦しさを覚えたあたしは
その場から逃げた。
教室を振り返らないようにして、声を聞かないように
耳を塞ぎながら…

「ムカつく」

この時から、あたしたちの間で何かが狂い始めたんだ。
19 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:46
「さゆ?さゆ〜。どうしたの?」
気が付くと、目の前でひらひらと手を振っているれいな。
その表情はあどけなくて、まだ幼さが残っている。
「あ、ゴメン…暑くてぼーっとしちゃった…」
とっさにそんな嘘をつく。
何だー、と笑ったれいなを見ていたら
何故か胸がむかむかした。
……?
立ち上がろうとした時、背中に誰かの視線を感じた。
しかし振り返っても、あたしを見ているような人はいない。
「ん?何?」
突然振り返ったあたしを不審に思ったのか
れいながあたしの視線を追う。
そこにいるのは、絵里のいるグループだけど
さっきから聞こえてきている話題はカラオケの事とか駅前に
新しく入ったプリクラだとか、どうでもいい事ばっかりだ。
20 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:48
軽くストレッチをした後、先生が今日はリレーをやると告げた。
一斉に上がる不満の声。
しかし先生はそれを楽しむかのようにささっとチームを分け
先頭の人にバトンを渡す。
「さゆー、チーム一緒だね。良かったぁ」
赤――あたしのチームには絵里も一緒だった。
あたしも絵里も短距離は苦手な方だったけど
生憎、同じチームのメンバーは、それこそ体育祭ではリレーの
選手に選ばれちゃうようなメンバーばかり。
絵里が一緒でほっとした事は言うまでもない。
「…れいなは…青なんだ…」
あたしは、トラックの反対側にいるれいなを見つけて呟いた。
「……」
それは、何気なく言った一言だった。
でもその直後、周りの空気がさぁっと一気に冷めた事は
いくら鈍いと言われるあたしでも、すぐに気付いた。
21 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:49
気まずい沈黙
痛いほどに感じる、みんなの視線。
反対側のれいなが、それに気付く事はない。
けど心なしかあのチームの中で、れいな1人だけが
浮いている気がする。
いや、浮いているというより…

―――外されてる?

「ねぇ、さゆ」
背中に張り付くような絵里の声。
その口元に広がるのは微笑み。
何も変わっていない。数ヶ月前の絵里と何も…
それなのに、体操着から伸びた腕にはぞくっと鳥肌が立った。

「れいなの事、シカトしてくれない?」
22 名前:Lost youth 投稿日:2005/01/29(土) 20:51
相変わらず笑顔で、でもどこか冷めた口調の絵里。
あたしは何を言われたのか理解できず、絵里の顔を見つめる。
違う。理解はできていたけど、納得できなかったんだ。
やがて絵里があたしから視線を外したのを合図に
あたしの視線もふわふわと宙をさまよい始めた。
絵里からクラスメイトへ、そしてさらに別のクラスメイトへ…
彼女たちはあたしの視線を受け取っても、すぐにそれをこぼす。
けれどそれは俯いたんじゃない。
笑いが耐え切れなくなったんだ。
もちろん、その中には絵里も含まれていて。
クラスメイトたちがクスクスと笑う声が、いつまでも耳に
まとわりついて離れなかった。
23 名前:おーともーびる 投稿日:2005/01/29(土) 20:59
短いですが、更新終了です。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/30(日) 00:32
はぶられいな…・。゚(ノД`)゚。・。
25 名前:おーともーびる 投稿日:2005/02/02(水) 23:51
更新…ではありません。

>>24 名無飼育さん様
ごめんなさい。
田中さん、こんな役で本当にごめんなさい…
26 名前:side by side 投稿日:2005/02/09(水) 22:44
「あのさー、昼休みに…」
「ごめん、あたし先生に呼ばれてるから……」
そう告げて席を立った時、一瞬だけれいなと目が合った。
いぶかしげな表情を浮べながらも「そっか」と
納得してくれたれいな。
でも、何か悟ったんだろう。
それ以上何も言うことなく、静かに自分の席に戻っていった。
「………」
自然と、れいなの背中を目で追ってしまう。
昼休みに先生に用事なんてなかった。
ただ、あの体育の時間からじっとあたしを観察している
絵里たちが怖くて。
だから、そんな事を言ってしまった。
27 名前:side by side 投稿日:2005/02/09(水) 22:46
「さゆっ」
まるでそのタイミングを見計らったかのように後ろから
抱きつくような形であたしに飛びついてきたのは、絵里。
あたしは何故か固まってしまい、動くことができなかった。
「ねぇ、あっちでトランプしようよ。皆待ってるからさ。ね?」
皆……それは、何とクラスの殆どで。
あたしとれいなを見比べて意地の悪い笑みを浮べている。
「ねっ?遊ぼうよぉ」
あたしはれいなの方に視線を走らせる。
気づかないフリをしているのか、れいなは机に突っ伏していた。
「ほら、早く」
半ば無理矢理、輪の中に引っ張られていくあたし。
28 名前:side by side 投稿日:2005/02/09(水) 22:46

嫌だ

この一言が言えたら、どんなに楽だろう。
掴まれた手は熱を帯ていて、それがあたしのものなのか
絵里のものなのかは分からない。
引っ張られるまま椅子に座ると、あたしの前には既に
シャッフルして配り終えたトランプ。
どうやらこれはあらかじめ用意されていたものらしい。
彼女達は、あたしが断るはずないと確信していたんだろうか。
もし断っても、無理矢理連れてくるつもりだったのだろうか。

……どっちにしろ、吐き気がした。
29 名前:おーともーびる 投稿日:2005/02/09(水) 22:50
すみません、「side by side」を保存させていただこうと
コピッていたので、そのまま貼り付けてしまいました。
「side by side」の作者様、大変申し訳ございません。
作者の完璧なるミスです。
30 名前:おーともーびる 投稿日:2005/02/09(水) 22:50
ちょっと落としときます。
31 名前:おーともーびる 投稿日:2005/02/09(水) 22:50
失敗。
32 名前:Lost youth 投稿日:2005/08/22(月) 21:24
あの瞬間から、れいなは一人になった。
もちろん、あたしはそんなつもりはなかった。
でも、れいなに話しかけようとする度に感じる、悪意の視線。
べったりとくっついて、朝も、移動教室も、いつも一緒に行くように
なってしまった、あのグループの人たち。当然その中には絵里の姿。
しばらくして、あたしは、あのグループがいる時に
れいなに話しかけるような素振りは見せないことにした。

怖かった。

逆らえなかった。

あたしは弱かった。
自分を守るために誰かに従順な振りをしていた。
33 名前:Lost youth 投稿日:2005/08/22(月) 21:24
れいなは、絶対に学校を休んだりはしなかった。
ただ、先生がグループを作れ、と指示を出したりする度に
その瞳が悲しそうに揺れていたのは、分かっていた。
でも、どうする事もできなくて。
「まだ、組めてない人」と先生が言う時に小さく手を上げる彼女に
申し訳ない気持ちで一杯だった。
一度、れいなに謝った事がある。
誰もいないときを見計らって。
「別にいいよ」
そのれいなの言葉が、何よりも悲しかった。
それに、謝ってしまってから凄く後悔した。
何で、謝ったのだろう。
謝っても、自分には、何もできないのに………
34 名前:Lost youth 投稿日:2005/08/22(月) 21:25
「さゆみ」
絵里とは違うその声に振り返る。
そこにいたのは、あのグループの人たち。
その表情から、何かよくない事を考えているのだろうと言う事は
理解できたけれど「何?」と作った笑顔で応じてみた。
「あのさ、田中にちょっと伝えてほしい事があるんだけどさ」
そう言って、耳元で囁かれた言葉に、あたしは戸惑いを隠しきれなかった。
それを告げた人物の顔を見ると、彼女は口元に厭らしい笑みを浮かべ
ちらり、と自分の背後に視線を這わせた後、言った。
「今のは、絵里が言い出したんだけどね」
思わず、さっき、彼女が見たのと同じ方に視線を向ける。
そこには……
下唇を噛み、青白い顔で俯いた絵里がいた。
35 名前:Lost youth 投稿日:2005/08/22(月) 21:28
「期限は今週中。もし言えなかったら…分かってるよね?」

そんな言葉を残して、彼女たちはどこかに行ってしまった。
きっと今頃、トイレかどこかでおもしろがって笑っているに違いない。
それを考えると、また吐き気がして。
さっきの絵里の姿を思い出すと、胃が、キリキリと悲鳴を上げた。

あれは、絵里の考えた言葉じゃない。

そうでなければ、絵里があんな表情をする事はあり得ない。

絵里は今、あのグループと一緒にいる。
何となく複雑な気分だった。
さっきの事で、絵里に対する気持ちが、少しだけ変わった。
あの子の一連の行動は、もしかしたら、本気ではないのではないか。

そうであると、信じていたかった
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/02(金) 00:06
なんか文章に引き込まれる感じがして、すごく続きが気になります!
次回更新、楽しみに待っています。
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/12(水) 08:23
過去と現在が交錯していて面白いです。
次回の更新楽しみにしています。
38 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:54
結局、れいなにその言葉をいえるはずのないまま時は過ぎ。
一方的に『期限』と決められた日の朝。
あたしは、あの日と同じようにグループに囲まれていた。

「道重さん。期限は今日ですけどぉ。
どうします?いつ言いますかぁ?」

わざとらしく、語尾を延ばす口調。
いつ聞いてもそれは、嫌悪感と同時に恐怖を運んできた。

「言えないならさ、手紙でもいいんだけどぉ」
「そうそう。その方が、渡しやすくていいでしょぉ?」
39 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:54
―――どうしよう。

言えない。
言えるはずがない。
でも…………

「あのさぁ。黙ってないで何か言ったら?」
「しーんとされてもさぁ、困るんだけど。」

何か言葉を吐く度に
じりじりと近寄ってくる彼女たち。
不意に
その中に絵里がいないことに気がついた。
40 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:55
「あぁ、絵里?」

彼女たちの一人が、あたしの視線に気付いたのか
面白そうに笑いながら言う。

「今日は、まだ来てないんだよねぇ」
「連絡もなかったしぃ?」

拒否ったんじゃねぇ?という誰かの言葉に
くくくと笑う彼女たち。

………胃が痛い。

絵里は、その日は一日中教室に来なかった。
休み時間に、ちらりと、彼女が保健室にいるという
噂が流れたけれど
それも本当かどうか確かめようという気も
起きなかったから、どうだったのかは、分からない。
41 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:56
れいなは当然、何も言ってこなかったし
私もまた、何も言わなかった。

「先生」

すべての授業が終わった放課後。
ホームルームが終了したと同時に、あたしは担任に声をかけた。
滅多に自分に話しかけてこない生徒が突然
真剣な顔で話しかけてきたのだ。
担任は些か驚いた表情であたしを見る。

「絵里…亀井さん、何で休みなんですか?」
42 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:57
一瞬、担任の目が細められた―――気がした。
しかし担任は何も言わず、ゆっくり首を振り
「知らない」の一言。
そうですかと返事をして、あたしはその場を離れた。

「さゆみちゃぁん?」
「まさか、逃げるわけじゃないよねぇ」

彼女たちが輪になっている間に帰ろうと鞄を掴む。
しかしそれは彼女たちの手によって阻まれた。

「ほら、田中、待ってるから」
43 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:57
指差された方を見ると、そこには別の数人によって
囲まれ、やや俯き加減で視線を泳がせているれいな。
あたしは彼女たちに手をつかまれたまま、まっすぐに
れいなの方へと引っ張られていった。

「ごめんねぇ、待たせちゃって」

あたしを引っ張っていた彼女の手が離れる。
ちらり、と視線を上げたれいなは、けれども何も言わず
再び、俯き加減に戻った。
44 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:57
ほら、早く言っちゃえよと一人があたしの肩を小突く。
それと同時に湧き上がる笑い声。

「何かねぇ、道重さんが話したいことがあるんだってぇ」
「この子、照れ屋だからさぁ。
なかなか言い出せなかったらしいよぉ?」

彼女たちの笑い声が、耳の奥で反響して
頭に響く。

―――嫌だ。言いたくない。止めて………
45 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/17(月) 17:58
突然、ぐいっと肩を押され、あたしの耳元で一人が囁いた。

「てめぇ、逃げようとか考えてんじゃねぇよなぁ?」

笑い声。

交わされる視線。

俯いたれいな。

―――胃が痛い。

耳鳴りがする。

息が上がる。

「言わなかったら、次はお前」

その言葉を最後に、音が消えた――――――
46 名前:おーともーびる 投稿日:2005/10/17(月) 18:00
>>36>>37
ありがとうございます。
更新の遅い作者ですけれども
これからもよろしくお願いします。

それにしても…彼女たちに光はあるのか。
書いている作者がだんだん心配になってきました…
47 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/20(木) 07:01
頭が重い。

あたりは薄暗くて、いつの間にか寝てしまったんだと思う。
ドアを閉めた向こう側、階段の下から
家族の賑やかな笑い声が聞こえる。
幼い頃は、その笑い声に混ぜてもらいたくて
すぐに階下に降りたのに
高校生になった頃から、一人で過ごすことが多くなった。

「れいな……絵里…」

何か、さっきまで夢を見ていた気がした。
あの頃の夢じゃない。
まだ、あたしたちが壊れていなかった頃。

絵里がからかい
れいなが拗ねて
あたしが笑う。

それを、当たり前だと思っていた頃の、夢。
48 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/20(木) 07:01
廊下の方から足音が聞こえる。
それが誰かのものか分かったから、あたしは起き上がり
じっと、ドアを見つめた。

「さゆみ、ごはん」

足音の主は、部屋には入らずにそう告げる。
もうそんな時間なのかと外を見ると
日は完全に沈み、小さな星がきらきらと輝いていた。
でもまだ、東京では家にも帰っていない時間。

そういえば、と思う。
あの頃はいつも、こんな時間に夕飯を食べていた。
ちょうど、部活のあるお姉ちゃんに合わせて。
49 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/20(木) 07:02
「あんたねぇ。帰ってきたらただいまくらい言いなさいよ」

階段の中腹辺りで、母親はあたしを見上げ、言った。
口篭っていると、母親はソファに座って
テレビを見ていたお姉ちゃんの頭を叩き
「少しは手伝ったらどうなの」と台所へ戻っていく。
その、昔と何も変わらないやり取りに思わず笑みが零れると
ソファから立ち上がりかけたお姉ちゃんが「怒られたよ」と
悪戯っ子のように笑った。

「ただいま」

母親の後ろに立って、声をかける。
一瞬、驚いたような顔で振り返った母親は、けれども
すぐに前に向き直り「おかえり」と言った。
50 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/20(木) 07:02
「ほら、お箸とか、色々並べて」
「うん」

懐かしい。
全てが懐かしい。

母親の作る料理の香りも
こうやって、お手伝いをすることも
お姉ちゃんが相変わらずテレビを見ていることも
それを、母親が呆れたように見ることも

全部。

何も、あの頃から何も変わっていない。

それが嬉しくて
でも、すごく怖かった。
51 名前:おーともーびる 投稿日:2005/10/20(木) 07:03
ちょっとだけ更新。
朝から話が暗くてごめんなさいorz
52 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/10/20(木) 21:55
更新お疲れ様です。
一気に読まさせていただきました。
これからもがんばってください。

次回更新待ってます。
53 名前:初心者 投稿日:2005/10/24(月) 17:57
読ませていただきました
続きがとても気になります
更新待ってます
54 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/24(月) 18:07
「学校、行きたくない」

朝、あたしを起こしに来た母親にそう言った直後
彼女の顔をまともに見れずに俯いた。
絶対に怒られると思っていたから。
理由を尋ねられるのが怖かったから。
けれど母親は。

「そう」

それだけ言って部屋を出て行った。
逆にあたしが驚き、些か拍子抜けしてしまう。
でも、もしかしたら、知っているのかもしれない。
母親は、何度かあった保護者会などを通じて
れいなと絵里の母親と大の仲良しになっていたから。
55 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/24(月) 18:07
だから、もしかしたら、きっと。

れいなのこと

絵里のこと

あたしたちのこと


……全部、知っているのかもしれない。
56 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/24(月) 18:07
8時を過ぎると、母親が仕事に行ってしまい
家の中はあたしだけ。

絵里は、まだ休んでいるんだろうか。
れいなは、今日も学校にいるのだろうか。

絵里の家に電話をしようという勇気も、だれかに
彼女たちのことをたずねようという勇気もなく
あまり思い出したくない学校のことばかりが頭を巡り
キリキリと、胃が痛んだ。

どうして、こんなことになってしまったんだろう。

ふと、壁に掛けてあるコルクボードの写真に目が行った。
三人で並んで撮った、その何枚もの写真が
すべて、遠い過去のような気がしていた。
57 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/24(月) 18:08
「あ………」

電話が鳴る。
ドアを閉めていても聞こえてくる、やたらと大きな呼び出し。
のろのろと部屋を出て階下に向かう。
誰からだろう、と一瞬ためらってから、ゆっくりと
受話器を取った。

「もしもし」

相手は何も言わない。
時間は丁度、学校だとホームルームが終わって
教科の先生が来るのを待っている時間。
まさか、と急に怖くなって受話器を置こうとすると
向こう側から「道重?」という声が聞こえた。
58 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/24(月) 18:09
「………先生?」

その聞き覚えのある声にそう返事をすると
その人はもう一度、黙りこみ、そして。

「あんたねぇ、休むならちゃんと電話しなさいよ」
「え?」
「え?じゃないでしょ。まったく………で、何。風邪?」
「……あ、まぁ。そんなところです」

どういうことだろう。
普段、欠席をするときには母親が連絡を入れてくれている。
今日に限って忘れたなどは、どうも考えにくい。
59 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/24(月) 18:09
「ねぇ、道重?」

急に彼女のトーンが変わった気がした。
何だろう、と思うのと同時に、もしかしたら、と思う。

「あんた……大丈夫?」

あぁ、やっぱり。
気付いてたんだ。

でも、彼女に言ったところで何が変わると言うのだろう。
逆に、状況が悪化するだけじゃないのか。
そう思った。
だから。
60 名前:Lost youth 投稿日:2005/10/24(月) 18:10
「風邪がですか?」

ごまかしておいた。
いつもの、ちょっと不思議なミチシゲサユミを演じて。

「………まぁね」

少し間があったけど、先生は乗ってくれた。
きっと、気付いたと思うけど
特に何も言わないまま、軽く世間話をして電話は切れた。
61 名前:おーともーびる 投稿日:2005/10/24(月) 18:12
更新終了です。

>>通りすがりの者様
ありがとうございます。
こんなものですが、末永くよろしくお願いします(笑

>>初心者様
続きが楽しみといって頂けることが
何よりも励みです。
これからもよろしくお願いします。
62 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/10/24(月) 21:25
更新お疲れ様です。
なんだかいろんなことが渦巻いてるようですね。
次回更新待ってます。
63 名前:初心者 投稿日:2005/10/30(日) 10:32
お疲れ様です

先生が誰なのかきになりますね
更新待ってます
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:40
突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

Converted by dat2html.pl v0.2