それぞれの明日

1 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 02:40
お久しぶりです。
って覚えている人はほとんどいないでしょうが(w

しばらく書いてなかったんですがまた創作意欲が
高まってきたのでこちらに書かせてもらいます。

ただ以前より私生活が忙しいので更新頻度は落ちます、悪しからず。
それでは稚拙な文章ですが気が向けば見てやってください。
2 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:42
その日は前の日から降り続いた雪がまだ世界を白く染めていた。
私たちの家族は、全員居間のこたつに入りこんで、
こたつの上に置かれたコードレス電話を見つめていた。

「ねぇ、あさ美姉ちゃんホントに二時って言ってた?」

末っ子のれいなが待ちきれない、と言った感じで聞いた。
まだ中学一年生のれいなには受験の緊張感というものがよく分からないらしい。
おもむろにこたつの上のみかんに手を伸ばすとみかんを口に運ぶ。

「あの子のことだからきっと合格した嬉しさで電話するのを忘れているんでしょう」

台所の向こうからお母さんがいつものようににこにこしながら歩いてきて言った。
なるほど、あさ美のおっとりした性格は母親譲りらしい。
3 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:43
「それより発表は明日でしたなんていう事はないだろうな」

お父さんがこたつの上に転がっていたボールペンをカチカチとノックしている。
お母さんと対照的にせっかちなお父さんもれいなと一緒でこの時間が窮屈で仕方ないようだ。

「あさ美なら大丈夫だって、我が家の自慢の娘なんでしょ?」

私――安倍なつみも落ち着いた風に言ってみるものの、まるで自分の合格発表のように
心臓がドキドキしているのを感じた。
時計を見ると、もう二時半を回ろうとしていた。

「プルルルルル・・・」

その時、コードレス電話が鳴り響いた。
お父さんが慌てて受話器を取り上げる。
焦って取り落としそうになったが何とか通話ボタンを押す。
4 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:43
「もしもし?合格したよ!!」

お父さんよりも先に受話器の向こうから元気の良い声が聞こえてきた。
それを受けて家族がみんなで受話器を回しておめでとう、と賛辞の言葉を送った。
私は「これで春から晴れて高校生だね」と言うと、照れくさそうな「ありがとう」という返事が返ってきた。

「そうか・・・頑張ったな。気をつけて帰ってきなさい」

最後にお父さんがそう言って電話を切った。
眼鏡の下から涙を拭っているらしく、語尾が少し震えていた。

電話を切り終わった後、みんな嬉しい気持ちでいっぱいで、
みんなでバンザイをした、みんな笑顔だった。

降り積もった雪が溶けるぐらいの家族のぬくもりがそこにはあった。
これが家族五人で感じる最後の幸せだと、この時誰が気づけただろうか。

5 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:44
「あさ美姉ちゃん、まだぁ〜?」

れいながあさ美の部屋のドアをガンガンと叩く。
女だらけの家族の中で、れいなだけどうして性格が勝気なのかは私にも分からない。

今日はあさ美の高校の合格発表の日からちょうど一週間後の日曜日。
地域でも名門といわれる私立女子高の合格のお祝いとして、
家族で夕食を食べに行く事になっている。

両親は二人揃って高校の合格祝いを買いに、昼から家を開けている。
何でもあさ美をビックリさせる為に何を買うかは秘密らしく、
あさ美はもちろん、私やれいなにすら教えてくれない。

家に残った私たちは六時に駅前で待ち合わせているのだが、
今日の主役であるあさ美が準備に手間取っているようだ。
合格発表の時といい、あさ美の体内時計は人より遅く進んでいるのだろうか。
6 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:44
「はーい、お待たせ」

ようやくあさ美が部屋から出てきたところで、ようやく家を出た。
今からだと何とか待ち合わせの時間には間に合いそうだ。

「ねぇねぇ、今日どこで何食べるの?」

今日も先週ほどではないが、道の端のほうにはうっすらと雪が降り積もっており、
その上をぴょんぴょんと足跡をつけながられいながこちらを振り返り私に聞いた。
二つにくくったお下げ髪も動きに合わせて跳ねて回った。

「知らない、それも秘密なんだって」

私は肩をすくめて答えた。れいなはそれを聞くと前に向き直りまた雪の上を歩き出した。

「危ないわよそんなところ歩いてたら」

あさ美がいつものおっとり口調で注意しても聞く耳を持たずれいなはぴょんぴょん跳ね続けた。
私がふと手のひらをかざすと、雪の結晶がふっと落ちて手の中で消えた。
雪はいつまでも形として残らないから人の心に強く呼びかけるものだと思った。

そして雪が嫌いになるなんて、この時は思わなかった。

7 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:45
「遅いね、二人とも」

駅前の大時計の針が六時半を回ったのを見ながらあさ美が言った。
私も自分の腕時計でもう一度時間を確認する。
そういえばこの時計は私の高校の合格祝いだった。
きっと、何を買うかであれこれと悩んでいるに違いない。

優柔不断なお母さんがあれこれ迷っているのを
後ろからせかすお父さんの姿が容易に想像できる。

地下にいるのか、さっきからお父さんの携帯に電話してみても繋がらない。
動こうにも動けない私たちはその場でただ待つことしかできなかった。

街がすっかり暗くなってからまたかなりの時間が流れた。
七時を回っても一向に連絡がつかないので
さすがにおかしいと思い始めた矢先、私の携帯電話が鳴った。

登録していない電話番号が表示されていたその電話をとる。
8 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:45
「もしもし・・・」

あさ美とれいなは話の相手が両親だと思っているようで、
あさ美はこちらをじっと見つめて、れいなは遅ーい、と言って立ち上がっていた。

しかし、その時はそんな二人の姿も、もう目には映らなくなっていた。
いや、見えてはいたのだが視覚からの情報が遮断されていたと言った方が正しいかもしれない。
私は受話器から聞こえてきたその言葉にただただ呆然としていた。

「お姉ちゃん?お父さん?何だって?」

あさ美の質問の嵐でようやく我に帰る。

「朝比奈・・・大学病院から・・・」

私は何とかその言葉を搾り出した。
携帯電話を持った手が小刻みにカタカタと震えているのが分かった。
混乱しながらも何とか平静を保っていられたのは二人の妹がいたからだろうか。
二人ともその言葉でただ事ではないと悟ったのか、顔色が変わる。
9 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:46
「こっからならタクシー拾うより走った方が速いよっ」

真っ先に動いたのはれいなだった。
荷物を持つと同時に病院の方へと駆け出していた。
それに続くようにあさ美が駆け出したが、私は動けなかった。

携帯電話を握り締め、その場にしゃがみ込んだ。
震えが全身に回って動くことさえ出来ずにいた。

それにあさ美が気づいて、急いで戻ってくると私を抱き起こし、
雪に足をとられ、それを歯がゆく思いながらも病院まで一緒に走った。

病院に着き、正面入り口から中に入る。
あさ美が首を左右に振って場所を確認していたが、
右奥の方かられいなの叫びにも似た泣き声が聞こえてきたのでその方へ向かった。
10 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:46
角を曲がると、れいなが廊下に泣き崩れているのが見えた。
私たちがれいなのもとへ歩み寄ると、後から看護婦が近づいてきて、

「安倍さんのご家族の方ですか?私、先ほど連絡しました者ですが、
先生からお話がありますのでこちらへお願いします」

と、私を促した。

「私も行こうか?」

看護婦に支えられながら何とか歩く私に心配そうにあさ美が声をかけた。
その大きな目からは涙が後から後から溢れ出ていた。

「ううん、大丈夫。だから今はお父さんたちの側にいてあげて」

私はそういい残すと、看護婦と共に医師の待つ部屋へと向かった。
いっそ、夢ならいいのに、悪い夢なら早く覚めればいいのに。
歩きながら待ち受けている現実から逃げ出したい気持ちばかりが先行した。

コツコツという自分の靴音が、病院の暗い廊下に単調に鳴り響いて、
私はその中に吸い込まれそうな感覚に陥った。
11 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:47
医師とは事の詳細とこれからの事、つまりは葬儀云々について話を聞かされた。
両親は駅へと向かう幹線道路を歩いていた際、
雪に滑ってハンドル操作のきかなくなった車に突っ込まれたらしいという事。
私は両親の死の原因をこの時初めて聞いた。今までは好きだった雪を怨んだ。

その後は遺体の引き取りや葬儀に関する話をされたが
もうその言葉は私には届いていなかった。
ただ、両親を失ったという事実だけが悶々と頭の中を回っていた。

三十分ほど医師と話をした後、あさ美とれいなの待つ霊安室へと向かった。
霊安室の前の廊下にある椅子に腰掛けて、二人は肩を寄せ合って泣いていた。

歩いてきた私に気づくと、あさ美は涙を拭って引きつった笑顔を作った。
まだ十五歳のあさ美が少しでも私に気を使わせないようにしているのかと思うと胸がひどく痛かった。
12 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:47
私は持っていた荷物をあさ美に預け、霊安室へと入った。
仲良く寄り添うようにして、両親の遺体を乗せたベットが二台並んでいた。

顔の布を取ってみても、両親の死の実感が沸いてこなかった。
打ち所が悪かった、と医師が説明した通り、見える範囲に傷らしい傷は一つも無く、
そこには、本当に眠っているとしか思えない、いつもの両親の姿があった。

ただ、二人の声が聞こえない。
お父さんのせっかちだけど私たちを暖かく包み込む声が、
お母さんのあのおっとりとした快活な笑い声が、聞こえない。

「どうして・・・どうして私たちを置いていっちゃうのよ・・・」

私はベットの上に泣き崩れた。
その声に気づいたのかあさ美とれいなが霊安室に入ってきた。
あさ美の手に、見慣れたお母さんのカバンと、小さな紙袋が一つ抱えられていた。
13 名前:それぞれの明日 ―第1章― 投稿日:2005/01/30(日) 02:47
「これ、さっきの看護婦さんが渡してくれたの・・・」

あさ美はそう言って紙袋に手を入れ、中のものを取り出した。
やはり事故の痕跡なのか、紙袋には赤黒いシミがいくつかついていた。

紙袋の中からは、以前からあさ美が欲しいと言っていた携帯電話の箱が出てきた。
箱には小さなメッセージカードが添えつけてあり、「高校合格おめでとう」という文字が見えた。

「こんなの、お母さんたちがいないのならもらっても嬉しくないよ・・・」

あさ美が消え入りそうな声で呟いた。
先ほど泣き止んだはずだが、また俯いて泣いているようだった。
もしかすると、両親がこんな事になったのは、自分のせいだと考えているかもしれなかった。

れいなもまだ泣き続けていた。
就職もし、ある程度自立している私とは違い、
いくら見かけが大人っぽいとは言ってもまだ十三歳の中学生なのである。
いつも私やあさ美に「お姉ちゃん」と甘えている以上に両親に甘えていたはずだ。

私たち三人は、その日の夜が明けるまで病院で肩を寄せ合って泣いた。

そして、かげがえのない家族は三人になった。
14 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 03:01
今日はここまでです。
構想自体は昔にしたものなので年齢が現在よりも低いです(−−;

最初に書いたとおり更新ペースは遅めなんでごゆるりとお待ちください。
15 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 03:49
スレ流しというなの設定集(?)

長女 なつみ
一応長女ということで今回は安倍姓になりました。
あさ美が判断しづらいところですが・・・
設定上は短大を卒業した後、小さな経理会社に勤めてます。
姉妹の一番上だけあって割としっかりしています。

次女 あさ美
三姉妹にあって唯一学業優秀。
いつもボーっとしていて上からも下からも
面倒を見られている。
おっとりしているというよりもボーっとしている。

三女 れいな
長女と次女が母親似でおっとりしているのに対して
三女のれいなだけが父親の性格(せっかちで勝気)に似ているのは
男の子が欲しかった父親の影響とかそうでないとか。
見た目よりしっかりしているように見えて実は甘えん坊で二人の姉が大好き。
16 名前: 投稿日:2005/01/30(日) 03:52
スレ流しという名の後記

この話は構想自体はだいぶ前にあって
(そりゃ話の中の年齢見れば分かりますねw)
途中で詰まって書いてなかったんですが
まぁ書いていくウチにどうにかなるだろうと楽観的に再開しました。

途中のポイントは頭の中にあるんですが
間の部分がまだぼんやりとしてますのでこれからどうなるか作者にも分かりません。

というわけで今日はこの辺で。
次回更新を暇な人だけお待ちください。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 00:33
期待できる!
暇人なので待ってます。
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 02:56
まだ分量あんまり無いけどイイですね。
栞さんの名前を見つけて読みましたがやはりなっちですか。

今回は誰と絡むのか楽しみです。
期待しつつも気長に待ってます。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/01/31(月) 23:45
おもしろそう!これからに期待してます
20 名前:それぞれの明日 ―第2章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:21
あさ美やれいなは別として、私は両親の死よりも、
その後の大人の事情というものに酷く疲れる事になった。

私たちは、父親が一流企業に勤めていることもあり、
世間一般で言うところの"お嬢様"とまではいかなくても
生まれてから今まで、何不自由なく暮らしていた。

そういえばお母さんがよく、
「ウチはみんな背が低いから高いところにあるものが取れないのだけが不自由ね」と
言って笑っていた。もう、その声を聞くことすら叶わない願いではあったのだが。
21 名前:それぞれの明日 ―第2章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:21
そして、お父さんはその命と引き換えに"遺産"という冷たいものを残していった。
私はそんなものに微塵も興味が無かったのだが、親戚たちはそうではないようで、
あれこれと私たちに優しい言葉をかけては何とかおこぼれに預かろうとしているようだった。

私はそんな親戚たちが人間ではなく心の無い獣に見えた。
己の欲望を剥き出しに醜い姿をさらけ出す獣に。
そんな親戚の姿を見て例えようの無い不快感が自分の中に充満していった。

葬儀が終わり、式場の人たちが机や椅子などを片付けている時のことだった。
今まで何度か、それこそ親戚の結婚式か葬式ぐらいでしか見たこともないような、
私からすれば他人に等しい親戚のおばさんが話しかけてきた。

「今回は大変だったわねぇ、私たちも急なことで驚いたわ・・・」

そう言っていかにも悲しそうな顔をする。
22 名前:それぞれの明日 ―第2章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:21
(何が大変なのよ、私たちの気持ちなんてちっともわかってないくせに)
私は心の中ではそう思いながらも当たり障りの無い返事をする。

長々と哀悼の言葉を置いて(それすらも不快に感じたのだけれども)、
そのおばさんが切り出した。

「・・・でね、一つ提案があるんだけれども、なつみちゃんもまだ若いんだし
下の妹さん二人を養っていくのは大変だと思うの。
れいなちゃんはまだ小さいからいきなり家族と離れるのは大変だろうから
あさ美ちゃんをウチの養子にしようかって話になってるのよ、
悪い話じゃないと思うんだけどどうかしら?」

その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが弾けた。

「何の・・・話をしてるの?こんな時に・・・」

わなわなと震えているのが分かった。しかしこれは先日病院からの電話を
受けたときの震えとは違うことがはっきりと分かった。これは、怒りから来る震えだ。
おばさんがはっとした表情でなだめようとしたが、もう、止まらなかった。
23 名前:それぞれの明日 ―第2章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:22
「何が悪い話じゃない、よ!あなたに私達の何が分かるって言うのよ!
本当に私達の事を思うのならほっといて欲しいわね。
それとも何かしら、頭のいいあさ美を引き取って遺産のおこぼれにでも預かりたいのかしら?」

堰を切ったように言葉が後から後から出てきた。
長姉という立場上、今までの間表にすることができなかった本当の自分がそこにはいた。
私の叫び声に気づいて、近くにいた親戚や、あさ美とれいなも何事かとこちらにやってきた。

おばさんは最初、私の剣幕に驚いていたが、
そのうちにだんだんと目が釣りあがっていったのが分かった。
24 名前:それぞれの明日 ―第2章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:22
「何ですかあなたその態度は!こっちが心配して言葉をかけているのに。
じゃあ好きにすればいいじゃない、その代わり後から泣きついてきても知りませんからね!!」

そう吐き捨てるように言うと、ドスドスと走り去って行った。
後の方に立っていたおばさんの旦那さんらしき人が慌てて後を追う。

「私たちは三人で生きて行きますから、絶対に離れたりなんかしませんから!」

私は走り去るおばさんに向かって声の限り叫んだ。
あさ美とれいなが心配そうな表情で私を見ていた。

私はこの時、誰にも頼らずにこれからの人生を生きていくことを決意した。
25 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:22
それから二ヶ月が過ぎ、私たちは、三人になって初めての春を迎えた。

あさ美は中学を卒業し、高校へ入学。
家計を心配したのか、あさ美は地元の公立高校の受験を考えたようだが
私がその必要は無いと言って当初の予定通り私立の女子高へと通わせた。
同じ中学からあさ美と一緒に合格した高橋愛ちゃんが説得してくれたのも大きかった。

れいなも両親の死後、ずっと塞ぎ込む毎日が続いていたものの、
最近はようやく笑顔を見せるようになってきていて、
「先輩」と呼ばれるのが恥ずかしいとか、一年の時から入っている演劇部で
二年生ながら今度の公演会の主役に抜擢されたとか、いろんな事を報告してくれる。
それでも時折目を赤く腫らして部屋を出てくるときがあり、
そんな時やはり以前と同じではないのだと痛切に思う。
26 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:22
私はというと、勤めていた経理会社をを先月一杯で辞めて、
今月からは夜はホステスとして駅前の繁華街にある夜のお店で、そして昼間にバイトを挟んで働いている。
秋前には両親の遺産も入ってくるので家計が別段苦しいというわけでもなかったのだが、
それを頼りにするのも何となく気が引けたし、
できるだけ自分の力で二人の妹を支えていこうという決意もあった。
そんなわけで、安倍家の三人はそれぞれ環境の変化に戸惑いながらもそれぞれの春を向かえていた。



「あさ美姉ちゃんいつまで寝てるの、早く起きないと遅刻するよ!」

だぶだぶのパジャマを着たのれいなが眠そうな目であさ美の部屋のドアをガンガンと叩く。
最近ではもうこれが安倍家の日常になっている。
27 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:23
あさ美はよく勉強や読書で夜更かしするせいか朝にめっぽう弱い。
逆にれいなは朝は早起きなのだが、夜はドラマなどを見ていてもうつらうつらといつも眠そうだ。

あさ美の通う高校は私鉄と地下鉄を乗り継いだ先にあるので、
朝は地元の高校生よりも早めに出なければいけないのだが、
私が仕事から帰ってくるといつもこの調子の会話が聞こえる気がする。

れいなは学校に行くまでまだ時間があるせいか、
あさ美の朝食を作ったり、仕事終わりの私に水をくれたりと動き回っている。

私がひと心地ついたところで、あさ美がバタバタと動き出す。

「もう〜、れなったら何でもっと早く起こしてくれないのよ」
28 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:23
セーラー服のリボンを結びながら階段をバタバタと降りてくる。
寝癖でボサボサの髪もそのままに猛ダッシュで玄関へと向かう。

「起こしたよぉ〜あれっ、あさ美姉ちゃん朝ごはんは?」

れいなが不満げにぷうっと頬を膨らませて焼きたてのトーストを差し出す。

「あー、もう間に合わないからくわえてくっ!いっふぇふぃふぁ〜ふ」

語尾はパンをくわえてる上に既に家の外からだったのでよく聞こえなかったが、
とにかく嵐のように去っていくあさ美を二人で呆然と見送った。

「なつみ姉ちゃん今日も遅いの?」

やっと自分の朝食にありついたれいなが朝のニュースを見ながら聞いた。

「一回夕方に帰ってくるけど夜はまたお店かな、どして?」

「うーん、別にィ・・・」
29 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:23
れいなはちょっとつまらなそうな顔でクロワッサンをパクついていた。
会話の無い食卓に、ニュースキャスターの抑揚の無い声が響く。

そういえば確かに最近夕食の時間帯に家にいる事は稀である。
れいながしっかりしているのをいいことについつい家事を任せたりしているが、
やはり朝しか話を聞いたりする時間がないというのは寂しいのだろう。

「今日は無理だけどね、明日はお店ないし、コンビニも夕方までだから夜はずっと一緒だよ」

その言葉を聞いてれいなが眩しいくらいの笑顔でこちらを振り返る。

「ホント!?じゃあ明日の夜ハンバーグにしようよ」

「そうだねぇ、久々に腕をふるっちゃおうかな」

れいなはお母さんの作るハンバーグが好きだった。
体は小さいのに、いつも家族の誰よりもいっぱい食べていた。

料理が好きな私は昔からお母さんの後にくっついて料理を教わっていたので
両親の死後、れいなの好物を作るのは私の役目になった。
30 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:23
「そろそろ時間でしょ?夕食準備して待ってるからちゃんと勉強してきなさいよ」

「だってぇ、勉強おもしろくないんだもん」

れいなも私と同じで勉強が嫌いだ。
姉妹の中であさ美が4と5を通知表に並べる代わりに
私とれいなで残りの数字を埋めているのも頷ける。

「おもしろくなくてもやるの。百点取れなんて言わないから」

「はーい、じゃあ行ってきまーす」

元気のいい声で外へと出て行った。
少しずつ、少しずつ三人での生活に慣れてゆくのを感じた。
そしてれいなも、あさ美も少しずつ変わり始めている。
31 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:24
「さーて、洗濯でもして寝るか〜」

私はコーヒーを飲み干すと、ひと伸びして風呂場へと向かった。
脱衣カゴに入っている服と、自分が今来ている服を洗濯機に放り込みスタートボタンを押す。

長めのシャワーを浴び、髪を乾かす。
自分の姿を鏡で見てふと思った。


自分は、何か変わったのだろうか

それとも、何か変わらなければならないのだろうか

胸にポッカリと空いた穴は埋まることなく

悲しみも癒えぬままそれでも毎日は過ぎ去って

これから私たちは、どうなっていくのだろう


ピーッ、という洗濯機の終了音で我に返る。

そう、現実はこちらの意志とは無関係に過ぎていくものだから。
だから、変に自分の事を考えるのはやめよう。
32 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:24
大きな洗濯カゴを抱えてベランダへと出る。
暖かな春の陽射しを浴びながら慣れた手つきで手際良く洗濯物を干す。
春のうら暖かい陽射しの匂いを風が運んでいた。

洗濯物を干し終え、ようやく家事から解放された私はベットへと倒れこむ。
ぽかぽかした陽気も手伝って、いつしか私は深い眠りについていた。



「ふぁ・・・」

まだ太陽も高いの午後一時過ぎ、目覚まし時計に起こされる。
体中が重く感じるのはいつものことだ。

昼過ぎから歩いて程近いコンビニのバイト。
夜からはいつもの夜のお店のバイトである。
33 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:24
眠い体を引きずり、動きやすいジーパンとシャツに着替える。
コンビニでは私服に制服ののエプロンを着るのでこの格好がちょうどいいのだ。

まだ四月だというのに午後の陽射しは陽気というよりは熱気に近い。
街路樹の影を踏みながら私はコンビニへと急いだ。

「もー、なっち遅いよぅ」

コンビニに着くなりレジの方からやっと来た、というような声が聞こえた。
声のした方を見やると、膝上のデニムのスカートと黒のシャツに身を包んだ
背の低い金髪の少女がぷぅっと頬を膨らませてこっちを見ていた。

「ゴメンゴメン、つい寝過ごしちゃって」

そう言いながら店の奥へ入り手早くエプロンを着る。
住宅地とオフィス街の間にあるこのコンビニは昼食時間帯を過ぎると
それまでの忙しさが嘘みたいに暇になる。
34 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:24
私も経験があるがその暇な時間を話し相手もなく一人で過ごしていると、
時間の流れが本当に遅くたまに買い物に来るお客さんと話し込みたくなるぐらいである。

「昼間に寝てる方が悪いの、食べて寝てばかりいたら牛になるよっ」

これでもかとばかりに私に憎まれ口を叩く少女―――矢口真里は、
偶然私と同じ日にここのバイトに入った女の子だ。
この春にあさ美が入学した高校をかなりよい成績で卒業したらしいが本人曰く、
「もー勉強めんどくさいから」という理由で進学せずフリーターをしている変わり者である。

「ねぇ、なっちまた少し痩せたんじゃない?無理してるんじゃないの?」

この子は、本当に鋭い。私のちょっとした心境だとか体の変化にすぐに気付いてしまう。

「大丈夫よ、ちょっとここんとこ食欲ないだけ」

ヘタな嘘は逆に心配させるだけだから、私も素直に自分の事を話す。
他に自分の事を相談できる人がいないので、最近ではこの子は私の一番の理解者となっていた。
35 名前:それぞれの明日 ―第3章― 投稿日:2005/02/21(月) 22:25
「そういう矢口だって、ちっこいまんまちっとも成長しないじゃんか」

「なっ、これは矢口のチャームポイントなんだぞ。
どんな男の人でも矢口より背が高くなれるんだから」

「そりゃあ虫だからねぇ」

「虫って言うな、アホ」

「アホって最初に言った方がアホなんだぁ」

馬鹿なやりとりをしていたら、ウィーンと入り口の自動ドアが開いた。
二人ともそちらに向き直り「いらっしゃいませぇ〜」と営業スマイルで出迎える。

この時間には珍しい来客に、真里は"ひとまず停戦"となつみの耳元で囁き
ひじでうりうりとなつみを小突いてそのまま商品の陳列をしにレジを離れた。

真里は小さな体をめいっぱい伸ばしてもなお届かない棚の上の商品と格闘し、
私は目の前のお客さんを応対していた。

この時私は、少なくとも私だけは確かに新たな日常を手にしたと思っていた。
36 名前: 投稿日:2005/02/21(月) 22:28
>>17
初レスありがとうございます。
ちょいちょいしか更新できませんが飽きることなく見ていただけるとありがたいです。

>>18
やはりなっちは外せないです。ってそういうわけでもないんですが今回もそうですね。
今回は今までからんだことの無い人も絡ませたいなぁと思う今日この頃です。

>>19
期待にこたえられるように頑張りむぁす。
37 名前: 投稿日:2005/02/21(月) 22:33
スレ流しという名の設定集

高橋愛
まだ名前しか出てませんが、一応登場したので。
設定としてはあさ美と同じ中学から同じ高校へ進学したあさ美の親友。
中学に入ってからの友達なのですが仲良くなったエピソードはまた時間があれば。

矢口真里
書き始めた時期がずいぶんと前なのでまだ未成年(笑)高校を卒業したばかりです。
なつみのよき理解者として相談に乗ったりアドバイスをしたり、その逆もまた然り。
矢口がなぜ大学に進学してないのかも理由があるのですがそれも追々。
まだ書かないんだったら設定集に出すなってのはナシにしてくださいm(_ _)m
38 名前: 投稿日:2005/02/21(月) 22:35
スレ流しという名の後記

今回の更新は半月前に行いたかったのですが私生活の多忙で
結局こんなに遅くなってしまいました。先が思いやられます・・・。

主要人物も全部出し切ってないのに一ヶ月が経ちそうで怖い(−−;
とりあえず読んでくれてる人がいると分かった嬉しさを
ヤル気に還元して頑張っていきますのでながーい目で見守ってください。
39 名前:なちのまご 投稿日:2005/02/24(木) 00:16
ちょっと重い出だしでしたが
これからどんな展開になっていくのか…
登場人物も増えてきてこれからが楽しみです
まったり待ってます
40 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/24(木) 21:50
一気に読まさせて頂きました。 結構暗めな作品かと思われますが、ひっそりとまったりと更新待たせて頂きます。
41 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/24(木) 22:51
いつまでも待ってますよー。
42 名前: 投稿日:2005/03/28(月) 08:12
どうも作者です。
ここんとこインフルエンザやら何やらでまったく弱りきってます。
こんな状態で執筆しても後から自分が満足できるものが書けるとは思わないので
今は中断してますが、近いうちに更新したいと思います。

期待してくれてる人がいる以上完結に向けて頑張りたいと思いますので
どうか今しばらくお待ちください。
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/29(火) 23:56
続けてくれるということで安心した
気長に待ってるから気楽にガンガっておくんなまし
44 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/30(水) 14:52
そうだったんですか。 なら、元気になって、万全になったら帰ってきてください。 作者様の作品をいつまでも待たせて頂きます。
45 名前: 投稿日:2005/07/02(土) 13:19
七夕の夜に何かが起こる?
とひっそりといってみる。
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 23:40
頑張れ。
ずっと待ってますよ。
47 名前: 投稿日:2005/08/25(木) 09:45
ごめんなさい。PCが発狂しました。
まだ続きはかけませんが、生存報告だけ・・・
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:37
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
49 名前: 投稿日:2005/12/24(土) 18:17
日常生活がいつまでたっても落ち着かないのと、
最近体調が悪いのとでとてもじゃないですが小説を書ける状況になくなりました。

言い訳ばかり並べて本当に申し訳ありません。
今はまだ書ける状況にないので生存放棄とさせていただきます。
もし、再び筆を取るときにまだスレが生きていたらその時は書かせていただきます。

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