Abide by decision
- 1 名前:葉月 投稿日:2005/02/07(月) 22:58
- 更新は結構遅いと思います。
オールキャストまでは行かなくても、それなりの人数が
出る予定です。まぁ予定は未定といいますし…
一応脳内完結してるんで、暇な方はお付き合いください。
- 2 名前:01.オープニング 投稿日:2005/02/07(月) 23:00
- ―――可愛い…
黒猫が初めて彼女を見たのは、本部に配布された写真の上だった。『要注意人物』
赤マジックでそう書かれた紙が写真に留められ
その下には小さな字で
『見つけ次第処分』
と赤マジックとは別の筆跡で書き加えられている。
彼女の名は――――狐
「あー…この子。…処分命令になったんだ…」
「…まぁ…あれだけ人、殺してればねぇ…」
黒猫の後ろから写真を覗き込むようにして話しかけてきたのは
彼女の先輩である鷲と薔薇。
「狐って、人殺しなんですか?」
初めて知ったというような後輩の言葉に、鷲と薔薇は
互いの顔を見合わす。
- 3 名前:01.オープニング 投稿日:2005/02/07(月) 23:01
- たっぷり1分間はそうしていただろうか。
鷲が「まいったなぁ…」と頭を掻きむしり、未だキョトンとした
顔で自分を見つめている後輩の肩を軽く叩くと
「お前ねぇ…いくら単独行動が多いからって
一応は契約社員なんだから。危険人物とかちゃんと把握して
おけよ…ってーか、この間届いたろ、手紙。」
「手紙………?」
そんなのあったっけ、と黒猫は自分の記憶を辿る。
「…あぁ……」
言われてみれば、数日前にポストに入っていた気がする。
でも…
「見てないんですよね、あれ…」
はぁ…と2人分のやたら大きな溜め息があたりに響いた。
- 4 名前:01.オープニング 投稿日:2005/02/07(月) 23:03
- 「ったく…捨ててはないんだろ?家帰ったら見とけよ。」
「あ、ハイ…」
じゃあ、と手を振り立ち去る2人の後ろ姿を見送り
黒猫はもう一度、狐の写真に目をやった。
―――やっぱり、可愛い…
細いけどくっきりした瞳と、両端が少しだけつり上がった唇。
それは、可愛いというよりもむしろキレイで。
でもこんなのが殺人犯なのだから、世の中どうかしている。
まぁ、自分のような子どもが、あまりマトモとは言えない会社の
契約社員になっている時代だ。
狐のようなキレイな子が連続殺人犯だとしても
まったくもって不思議ではないのだが。
- 5 名前:01.オープニング 投稿日:2005/02/07(月) 23:04
- 『ザザー…聞こえて…ザー…か?ザーザザー…に…
ザー…から…依頼…ザザーザー』
耳につけたイヤホンから突如流れる放送は、中央塔からのもの。
何だか、いつもに増して電波が悪い。
「あのぉ…よく聞こえないんですけど……」
黒猫は内蔵マイクに向かってぼそっと呟く。
しかし、あっちの声が聞こえないのだ。
こっちからの声も当然聞こえないだろう。
「聞こえないってば。」
耳障りな雑音にいらいらが募り、黒猫はイヤホンを外し
スイッチを切った。
もし急用なのであれば、あとで携帯の方に連絡をよこすだろう。
でも、こんな真昼間。どうせそんなに重要な事ではあるまい。
家に帰って例の手紙でも探そうか。
黒猫は、んーっと背伸びをしてその場を後にした。
- 6 名前:葉月 投稿日:2005/02/07(月) 23:05
- 以上、オープニングです。
次回から一章に入りたいと思います。
感想、ご意見等ありましたらどうぞ。
- 7 名前:名も無き読者 投稿日:2005/02/07(月) 23:39
- 大好きっぽい雰囲気にレスさせて頂きます。
黒猫、鷲、薔薇、狐……気になりますねぇ。
続きも期待してます。
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/08(火) 14:43
- 狐はなんとなく分かりましたが、他の3匹(?が気になりますw
名作の予感、期待してます!
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/10(木) 20:58
- なんか面白そう
それぞれ誰か予想してみてるけど違うかな?
- 10 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 22:44
-
イノチネラウモノアリ。チュウイセヨ。
たった一言そう書かれた手紙を
黒猫――田中れいなはびりびりと破り、ゴミ箱に捨てる。
そしてその足で部屋の隅に置かれたパソコンの前に腰掛けると
れいなはとあるサイトを開き、狐に関する情報を収集しようと
あれこれ検索をかけてみた。
「性別、女…年齢、16〜18…」
ディスプレイに映し出される情報は、どれも先ほど仕入れた情報と
顔写真ばかり。それ自体、大した情報じゃない。
れいなはその情報の乏しさにやや呆れを感じながら、ページを印刷する。
「あ…」
ウィーンとコピー機の作動する音に混じって聞こえたのは
脱ぎ捨てたジャンパーのポケットに入れていた携帯の着メロ。
「……」
- 11 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 22:46
- 表示された文字は『ひとみさん』
すなわち、さきほどの鷲。
「さっき電波悪くて依頼の内容聞こえなかったでしょ?」
聞こえてきたのはひとみではなく、その連れの声だった。
「まぁ…で、何なんですか?」
やはり予想したとおり、大した内容じゃない。
大まかな話だけを聞いて電話を切ろうとすると
電話を代わったのか、ひとみの少し慌てたような声に
引き止められた。
「お前、手紙読んだ?」
「……読みましたよ。」
あれは手紙というよりメモだったような気がするけど。
「…また一人、襲われたんだ。」
なるべく物々しく聞こえる口調にしたつもりなのだろう。
けれど、れいなにはどうもひとみが電話の向こうで笑いを
堪えているような気がしてならなかった。
何でそう思ったのか、理由は分からない。
- 12 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 22:48
- 「今月に入って5人目だ。
やっぱり今回のも狐が関係している。本部で見ただろうけど
狐を見つけたら連絡は不要、すぐに処分しろ。」
「はい」
「それから…」
―――Pi
まだ何か言いたそうな先輩を無視して通話を終了させる。
やがて待ち受け画面に戻ったそれをパタンと閉じ
ソファに放り投げるとれいなは再びパソコンの前に戻った。
フリーメールをチェックすると、そこは依頼の山。
どうでもいいようなものから、何日かかるか分からないものまで
多種多様なそれを1つづつ見ていく。
あと数通というとき、れいなの視線は一番下にあったメールに
吸い寄せられた。
- 13 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 22:49
-
件名:non title
守ってあげてください
たったこれだけ。
お金の問題などの詳しい事は一切書かれていない。
しかも「守ってください」じゃなくて「守ってあげてください」
……誰を守ればいいんだろう。
少し気になるけれど、これ以上情報の収集の仕様がない。
れいなはメールを終了して電源を落とす。
時計は6時を少し過ぎたところ。
机に貼った付箋には7時約束と書いてある。
「そろそろ…かな」
れいなは気持ちを引き締めるように洗面所に入り
冷水で顔を洗う。
いつまでも……
このメールにだけ気を取られているわけにはいかないんだ。
- 14 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 23:21
- 「え、コドモ?」
れいなが待ち合わせ場所に着いたとき
すでに依頼人はそこにいて。
彼女はれいなを見た途端、疑わしげな目になった。
「ガキじゃないです。一応社員なんで。」
いつもの事だ、という調子でれいなは返す。
それでも尚じろじろと自分を見つめるその人に、れいなは一言
「ガキに任せるのが不安なら、辞めときます?」
その場合、料金は二倍かかりますけど。
「あ、いえ…よろしくお願いします」
依頼人はそう言うと、そそくさとその場を去って行った。
その背中を見つめながら、れいなはふぅっと溜息をもらす。
- 15 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 23:23
- 依頼なんて、所詮はお金を手に入れるためだから。
だから、いつもれいなが引き受ける依頼は大した内容じゃない。
今日だって、ものの数時間
依頼人の恋人を見張ればいいだけだし。
浮気調査だの不倫調査だの、この時間帯に多いこの手の依頼。
恋人のよからぬ行動を発見次第、仕事は終了だ。
数時間後。
れいなは、いつも通り簡単に報告書を作り、依頼人に自分の
口座番号をメールで送る。
そしてそのまま特に意味もなく、ラブホテルのネオンが輝く
その道を、ぶらぶらと歩いていた。
『守ってあげてください』
仕事が終わって意識が散漫になったせいだろうか。
あのメールの事が、ふと頭をよぎる。
- 16 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 23:24
- 何となく、嫌な予感がする。
逃げられないような事件に巻き込まれる、そんな予感。
「…でも、依頼は受けない」
依頼は毎日殆どの時間が埋まっているから、そんな全体像の
ハッキリしない依頼を受けるわけにはいかない。
……そんなの、言い訳だって分かっていた。
れいなは、足を止めて空を見上げる。
ビルとビルの隙間から覗く空は
今にも吸い込まれそうなほど、暗い。
「弱虫…」
「ウチらの仕事はさ。命捨てる覚悟じゃないとできないんだ。」
これは、社員になってすぐ、ひとみに言われた言葉だ。
「あたしには…そんな覚悟、ない…」
れいなの呟きは、誰の耳にも入らないまま
空に吸い込まれて消えた。
- 17 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 23:56
- 「……」
れいなは、目の前の状況にただ絶句するしかなかった。
辺りを見渡しても、そこに手がかりになるようなものは
何も残っていない。
よく見ないと分からないけれど、かろうじて肩が上下している
事から、その人が死んでいない事だけは確認できた。
「どうして…」
恐らく、自分と大して歳の変わらない少女。
同業者かとも思ったけれど、その着ている服からはどう見ても
普通の子にしか思えない。
―――狐、か
そう思ったれいなは、素早く辺りを見渡す。
もし狐の仕業なら、この少女の様子からして
そう時間は経っていない。
狐が近くにいる可能性は十分にあった。
- 18 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/11(金) 23:57
- 「……」
しばらく神経を集中させていたけれど誰かが近くにいる
気配はなく、れいなは再び少女に視線を落とした。
「どうしよう…」
まさか放っておくわけにもいかないけれど
自分の家に連れて行くのは少しためらわれた。
なんせ自分のやっている事がやっている事だ。
あまり、見ず知らずの人に関わりたくはない。
けど……
本能というのだろうか。
何かがれいなの心に告げていた。
「この子を助けなければならない」
- 19 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/12(土) 00:22
- 少女を家まで運び、リビングのソファに寝かす。
傷口を見ると、やはり大した怪我じゃなく
れいなは引き出しからガーゼと消毒液、そして包帯を取り出すと
その隣に座った。少女はいつの間にか眠ってしまったらしい。
先ほどとは違い、規則正しい寝息を立てていた。
「……よし」
だてに仕事はしていない。
救急の際の初歩的な手当てを習っておいてよかったと思いながら
れいなは使った道具をしまったあと、キッチンに行き
遅い夕食を作ろうと冷蔵庫に手を掛けた。
- 20 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/12(土) 00:23
-
コンコン
そう広くない部屋に響いた、ノックの音。
れいなは一瞬だけ身を強張らせ
それから、ソファの上の少女に目をやった。
―――きっとこれは、嬉しい客じゃない。
そう判断したれいなは、ゆっくりとドアに近付き覗き穴から
外を窺う。
「……あ」
しかし、視界は暗くれいなは覗き穴が何かで塞がれていた。
イチカバチか。
れいなは静かに鍵を回し、ドアのチェーンを外す。
そして、ドアノブに手を掛けると一気に開いた。
「……」
誰もいない。
また、誰かがいるような気配もない。
それでも気を付けながられいなは覗き穴を塞いでいるものを
確かめようと外へ出た。
- 21 名前:02.割り込んだ依頼 投稿日:2005/02/12(土) 00:26
-
『守ってあげてください』
そこにあったのは、そう書かれた一枚の紙。
それは、あのメールと同じ文面。
「……」
れいなは、ワープロ打ちのそれをじっと見つめる。
誰からの依頼なのか分からない。
あの少女といい顔を見せない依頼人といい、それはきっと
表立ってできるものじゃない。
れいなは、パソコンで管理していた今後受ける予定の依頼の
リストを思い浮かべそれをすべてデリートキーで消した。
逃げられない。
そんな思いがれいなの心を占め、れいなはその紙を剥ぎ取ると
ぐしゃぐしゃに丸めて掌で強く握った。
――――――依頼が、割り込んだ
- 22 名前:葉月 投稿日:2005/02/12(土) 00:30
- 更新終了です。
>>名も無き読者様
大好きっぽい雰囲気ですか?
これからも頑張ります!
>>名無飼育さん様
狐は分かっちゃいましたか?
これからも色々出てくると思うんで想像してやってくださいw
>>名無飼育さん様
面白いだなんて…(照
なんせ未熟者なんで、何かありましたら遠慮なく言ってください。
次回、『03.コードネーム』
- 23 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 02:51
- これは・・・久々にシリアス系の物語にハマってしまいそうな予感がします。
とりあえず、黒猫と狐が大好きです。(笑)
次回更新楽しみにしています。
- 24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 10:17
- うほぉ!すっごいおもしろそうな感じっス!
続きとか激しくまってます!
- 25 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/13(日) 11:43
- 面白そうです。 色々と黒猫とか狐とか考えてたんですが、まさかあの二人かな?という期待感を持ち更新まってます。
- 26 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:28
- 数時間後。
目が覚めた彼女は自分を『白鳥』と名乗った。
それ以上は何を聞いても答えない。
ただひたすら小さな声で『イー・アール・アイ』と呟くばかりだ。
「イー・アール・アイって何?」
答えなど期待していなかったけど、それでもれいなは白鳥に尋ねてみた。
「イー・アール・アイ…」
思った通りの返事。恐らく何かの名前なのだろう。
それが組織名なのか、建物の名前なのか。
はたまた人の名前なのかは今のれいなには判断できなかったけれど
この白鳥はイー・アール・アイというのを探しているということだけは
何となく想像がついた。
でも、それについての情報が彼女の口から語られる様子はない。
- 27 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:29
- 「ねぇ」
れいなは、ふと思った事を口にする。
「あんた、あたしの職業知ってた?」
―――沈黙。
質問をした時の白鳥の表情。
一瞬だけ見せた狼狽。
…知ってたな。
「…あんたも、同業者?」
首を縦に振るその動作は、れいなの知る限りでは肯定のサイン。
けれど、そんな名前は一度も聞いた事がないからきっと彼女は単独行動者。
すなわち契約社員ではないんだろう。
「何の依頼だったの?」
そう言ってかられいなは答えてくれるわけないか、と呟く。
この業界では、互いの依頼には干渉しないのがルール。
それは、契約社員だろうとそうでなかろうと同じ事だ。
- 28 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:30
- 無言のまま虚ろな目で床に視線を落としている白鳥を横目で
見やり、れいなはもう一度台所に立つと棚からカップを二つ出し
ポットに入っていた紅茶を入た。そして片方を白鳥の前に置く。
「飲みなよ。」
白鳥はそれに手をつけようとはせず、じっとれいなの方を
見つめる。
「…別に、変なものは入れてないよ。」
警戒されていると思ったれいなは、自分用に入れた紅茶に
口を付けながら言った。それでも尚自分を見つめている白鳥に
多少の居心地の悪さを感じ、れいなは彼女に背中を向けるよう
な形で床に直接腰を下ろした。
やがて、コトリとカップとテーブルの触れ合う音が聞こえて
れいなは自然にふぅっと肩を撫で下ろした。
自分がなにに対して安心したのかはよく分からない。
その得体の知れない安堵感と入れ違いのように湧き上がって
くる不安。全くと言っていいほど先の見えないこの状況に
れいなはただ戸惑う事しかできなかった。
- 29 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:31
- 翌日、れいなは昨日に続けて本部に顔を出した。
家に置いてきた白鳥の事が少し気になったけれど、それ以上に
イー・アール・アイが何なのかが知りたくなり、れいなは
顔見知りの先輩に片っ端から尋ねて回っていたのだ。
もちろん、昨夜の事や白鳥の事には一切触れずに。
「イー・アール・アイ?知らない。何かの名前?」
「私も知らないな…どうして?」
「あ、いえ大した事じゃないんで。気にしないでください。」
怪訝そうな表情のまま遠ざかっていく鷲と薔薇を見つめながら
れいなはポケットからメモ用紙を取り出してボールペンで
チェックをつける。頼りになりそうな先輩たちはこれでみんな
聞いてしまったのだけれど、誰一人としてイー・アール・アイ
や白鳥という名を知っている人はいなかった。
「もう、この人たちしかいないかなぁ…」
- 30 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:32
- れいなの視線の端には、線を引かれることなく残った名前が二つ。
しかしれいなは、実を言ってしまえばあまりその二人に
関わりたくなかった。
相性が悪いとかそういうのではないのだけれど
その二人の持つ雰囲気がどうも苦手だった。
仕事をする気があるのかないのかよく分からないその二人…
通称、「鷹」と「姫」。
- 31 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:33
- 「仕事する気はある。ただ内容があまりにもつまらないから…」
れいなの家からそう遠くない雑居ビルの中にある
二人のオフィス兼住まい。
所々継ぎ接ぎだらけのソファに腰掛けた鷹は、れいなを一目見る
なりそう言った。
「じゃあ、どんな内容なら受けてくれるんですか。」
危険な仕事―――鷹はそう呟くと、ふぅと煙を吐き出す。
れいなが顔をしかめると、彼女はごめん。とあまり悪びれた
様子もなく軽い調子で謝った。
「私たちは危険であればあるほどわくわくする。
もちろん、限度はあるけどね」
姫がコップに注いだジュースをれいなに私ながら言う。
れいなはそれに対する反論も答えも見つからず
だまってストローを咥えた。
- 32 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:34
- 「……で?」
しばらく間があいたあと、鷹が指に挟んだタバコを灰皿に
押し付けながら問う。彼女が何を言いたいのかは分かっていた。
ここに来た用件、本題。
れいなはストローを咥えたまま鷹と姫の顔をちらりと見
聞きたい内容を一瞬で整理する。
そして
「イー・アール・アイまたは白鳥という名の少女について
調べてもらいたいんです」
刹那、部屋の空気が一瞬にして冷たくなったのがれいなにも
分かった。
鷹と姫は互いの顔を見合わせ、なにやらコソコソと耳打ち
し合う。それは決して気分のいいものではなかったけれど
二人の様子から何かを知っているのは間違いないと感じ
れいなは二人の口から発せられる言葉を待った。
「れいな」
ようやく鷹が口を開き、れいなは思わず身構える。
しかし、彼女が放った言葉は予想だにしないセリフだった。
「We would not take it.」
それは、れいなたちが依頼を断るときに使うセリフ。
- 33 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:35
- 「それは、私たちには無理だよ」
簡単に言ってしまえばそういう事なのだが
それでは納得がいかない。
れいなはソファから身を乗り出すようにして
鷹にその理由を尋ねる。
「…危険すぎる」
鷹は小さくそう言うと、もう帰ってくれと言うような目つきで
れいなを見た。れいなはすがるような思いで姫に視線を送るが
彼女も鷹同様の視線をれいなに向けた。
「諦めろ。その話題はここで終わり。」
きっぱりした口調で鷹はそう言い、れいなは姫に半ば
引きずられるような形で外へ出された。
- 34 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/14(月) 23:35
- 「れいな」
仕方なく家へ戻ろうと歩き出したれいなの背中にかかる姫の声。
振り返ると、姫はさっきとは違う優しい表情を浮べていて。
その唇は微かに『ごめんね』と告げていた。
れいなは軽く頭を下げ、家への道を早歩きで進む。
―――誰も教えてくれないのなら…
―――だったら自分で調査しよう。
そんな思いを、抱きながら…
- 35 名前:葉月 投稿日:2005/02/14(月) 23:42
- 短いですが、更新終了です。
>>23 名無し飼育さん様
ハマりますか?!ありがとうございますw
作者も黒猫と狐が大好きです^-^
>>24 名無飼育さん様
恐らく更新は遅いと思いますけれど、お付き合いくださいw
これからも頑張ります^▽^
>>25 通りすがりの者様
何だか皆様色々想像してくれているみたいですねw
これからもよろしくおねがいします^0^
次回『03.コードネーム』続きです。
- 36 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/02/16(水) 03:36
- れいなが危険な道に!
狐さんにはいつごろ出会えるんだろう・・・楽しみです。
- 37 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/02/19(土) 20:27
- うーん、やっぱり安全な道はないというわけですね。
更新待ってます。
- 38 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/26(土) 22:49
- 『鷹と姫が大怪我を負った』
そんな情報が入ったのは、れいなが二人の元を訪れてから二日後の事。
いつかの手紙と同じような形でその通達は舞い込んできた。
幸い一命は取り留めたようだけれど、それが事故なのか事件なのかは
いまだ不明。二人が何かを調査中だったという事も、社員の間で
随分と話題を呼んでいた。
「あの二人、何を調べていたんだろう?」
偶然街中で出会った白鷺に連れられ、れいなは駅前の喫茶店にいた。
白鷺はれいなより三つ上の先輩で、姫とは同い年だった気がする。
いつも四人組で行動しているイメージの強い白鷺が一人でいた事に
些か疑問を感じたけれど、特にそれには触れず、れいなは静かに
白鷺の話を聞いていた。
- 39 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/26(土) 22:51
- 「れいな、心当たりない?」
「全然」
嘘だった。
もちろん、自分が考えている事が必ずしも
当たっているとは限らない。
なんせ、一度あの場で断られているのだから。
「そっか」
白鷺は呟くようにそう言うと、カタッと席を立ち
机の上に千円札を一枚置いた。
「知らないならいいや。ごめんね、時間とらせて。」
そのセリフにどこか引っかかりを覚えながらも
れいなは白鷺に頭を下げる。
自分が何に引っかかっていたのかがはっきり分かったのは
白鷺が店を出た後で残っていた自分のオレンジジュースを
一気に飲み干している時だった。
- 40 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/26(土) 22:53
- ―――偶然会った?
確かに、今日自分がこの場所にいたのは偶然だった。
けれど、果たして白鷺の方はそうであったか。
きっと、答えはNO.これは憶測に過ぎないけれど、どこかで
白鷺は自分の事を見張ってたのではないだろうか。
いつもの、他の3人と共に。
つまり、自分はついさっきまで取調べを受けていた事になる。
そして、それに嘘をついた。
調査錯乱罪には問われる可能性は十分にある。
その罪に問われたところで、特に何かあると言うわけでも
ないのだけれど、会社に居辛くなるのは確かだし
下手をすれば仕事が回ってこなくなる。
そうなったら死活問題だ。
- 41 名前:03.コードネーム 投稿日:2005/02/26(土) 23:04
- 余計な依頼、するんじゃなかった。
そう思わずには入られなかったけれど
いつまでも後悔していたってしょうがない。
そう思ったれいなは席を立つと、レシートとお金を掴み
レジへと歩いていった。
『ターゲット、移動開始』
『このまま見張り続けます』
『了解』
店を出るれいなの後ろをそんな会話を交わす数人の人影が
追っていた事を、彼女は知らない…
- 42 名前:葉月 投稿日:2005/02/26(土) 23:10
- 更新終了です
>>36 名無し飼育さん様
レスありがとうございます。
狐は…次回に出せれば出そうかなと思います♪
>>37 通りすがりの者様
レスありがとうございます。
きっとこれからどんどん危険な道に進んでいきます☆(←え!?
さて、そろそろ作者が期末テスト地獄に入りますので
次回は3月10日頃にお会いしましょう♪
次回『04.たった一つ、守りたいもの』
- 43 名前:葉月 投稿日:2005/02/26(土) 23:11
- sage忘れ…
- 44 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/02(水) 21:12
- うーん、だんだん誰たが混乱してきました 汗。 次回更新待ってます。
- 45 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/16(水) 15:50
- いつまでも待ってますよー。
- 46 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/20(日) 01:56
- >>45
静かに待ってあげようよ
まだそんなに経ってないし
とゆーわけで作者さん、自分のペースで頑張ってください
- 47 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/28(月) 14:24
- 「お帰り」
部屋に入ったと同時に聞こえた声。
「あ…うん…」
あいまいに返事をしながら
れいなは着ていたジャンパーをソファに投げ捨てた。
台所で手を洗いながら、れいなはリビングをちらりと見る。
そこには、何をするわけでもなくぼんやりとソファに座ったままの白鳥。
まだ、慣れないんだよね。これ…
『お帰り』
鷹と姫の所を訪れた日、家に戻ったれいなを待っていたのは
思いがけないセリフだった。
家に来てから一度も『イー・アール・アイ』以外の言葉を発しなかった
白鳥からかけられたこの言葉にれいなは戸惑い
そしてどこか照れくさくなった。
- 48 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/03/28(月) 14:25
- 白鳥は、その言葉だけを言うとまた一言も喋らなくなるのだけれど
それでも家に帰る度に彼女の存在を思い出す。
……もう何年も、家に自分以外の誰かがいたことなんてなかったから。
この気持ちが何なのか、自分でもよく分からなかった。
「ねぇ夕飯、何でもいい?」
微かに動く頭。それは、肯定の合図。
それを見たれいなは、冷蔵庫を開けて適当なものを取り出す。
今まで自分一人だったから食事なんて簡単に済ませていた。
けど今は違う。
一緒に食事をする人がいる。
それが何だか無性に嬉しかった。
- 49 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/03/28(月) 14:26
- コンコン
その音に、れいなの肩がぴくっと動く。
あの日と同じノックの音。
―――怖い…
白鳥とであったあの日とは何かが違う。
底知れぬ不安と恐怖。
ドアの向こうの威圧感。
白鳥も何か感じたのだろうか。
見ると、身体をこわばらせて緊張しているのが
後ろからでも分かる。
- 50 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/03/28(月) 14:28
- れいなは、リビングのタンスから万が一の時のためにと
渡されていたものを取り出す。
黒く光沢を放つ筒状のそれは小型なわりにずっしりと重く
こんなもので人を殺す事ができるのだと思うと
れいなの背筋にぞくっという寒気が走った。
れいなはそれを小さな手でギュッと握り締めると
ゆっくりとドアの方へ向かった。
そして、覗き穴から外を確認する。
少しゆがんで見える外の世界。その中に映る、数人の頭の影。
……どれも、知り合いとは思えない。
れいなは左手をドアノブにかけ、反対の手で例の物を構える。
手の平も、背中も、汗で湿って気持ちが悪い。
得体の知れない威圧感の中、れいなは数回深呼吸を繰り返し、そして
ガチャ―――――
静かに、恐る恐るドアを開けた。
- 51 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/03/28(月) 14:30
- 「……何か用ですか」
れいなの前に立っていたのは、黒服の男が数人。
恐らく、全員会社の人間だ。
「田中れいな。貴様、何か会社に隠している事はないか?」
「は?何の事ですか?」
そうとぼけてみたものの
頭を占めるのは部屋の奥にいる白鳥の事。
―――狐がらみか…
そう思ったと同時に聞こえてきた言葉に
れいなは自分の耳を疑った。
「高橋、小川、紺野、新垣。この4名を知っているな?」
―――チクッたな
昼間に出会った白鷺こと高橋愛の姿を思い浮かべて
軽く舌打ちをする。
「そいつらから、お前が先日の事件に関わっているという
情報を得た。」
―――やっぱり、あれは偶然じゃなかったんだ…
- 52 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/03/28(月) 14:31
- 時間だけが流れていく。
れいなが何も言わない事を肯定と取ったのか、男たちは
顔を見合わせ口元を少しだけ上向きに引きつらせる。
一人の男が、反対側にいた男に軽くあごをしゃくると
その男は頷き、自分の後ろに手を伸ばした。
「……なっ…」
それまで気が付かなかったが、男達の後ろには
自分と同じ年くらいの少女がいた。
しかも、その顔には見覚えがあって……
「き、狐?!」
- 53 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/03/28(月) 14:32
- ただ、あの写真に写っていた狐とは違う。
身体は薄汚れ、所々に赤い傷。
俯き加減のその顔には幾つもの痣。
「昼間、ここを見張っているときに丁度通りかかった。
狐がこんな所にいた理由…貴様なら分かるんじゃないか?」
知るわけないだろう、とは言えなかった。
『あの』依頼が誰からのものだったのか、分かったから。
「お前、知ってるか?」
突然、それまでとは違う口調で話しかけてきた一人の男。
れいなは狐から視線を外し、男を見る。
「会社はな、別に狐を追っていたわけじゃない。」
―――は?
「確かにコイツは罪人だが、殺す必要はあまりない。」
「でも、処分命令って……」
- 54 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/03/28(月) 14:33
- 「エリっ!!」
れいながそこまで言ったとき、背後から聞こえた言葉。
その声に振り返ると、そこにいたのは真っ青な顔をした白鳥。
男たちは彼女の姿を見ると
すぐさま彼女に、手にしていた銃を向けた。
れいなは、はっと白鳥の言葉を思い出す。
『イー・アール・アイ』
それはイコールERI。
狐の、本名。
「田中れいな」
男が、れいなの名を呼ぶ。
「そいつを渡せ」
- 55 名前:葉月 投稿日:2005/03/28(月) 14:41
- 中途半端で大変申し訳ないのですが、更新終了です。
>>通りすがりの者様
混乱してきましたか?
これからだんだん誰が誰だか分かっていくと思いますよ(←人事w
>>名無飼育さん様
ありがとうございます。
4月から学校始まるというのに休みの間に
こんなペースでいいのだろうかと反省していますw
これからも、更新は不定期になると思いますけれど
どうぞ飽きずにお付き合いください。
- 56 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/29(火) 14:38
- 更新お疲れさまです。 そして待ちわびておりました。
えぇっ( ̄□ ̄;)!! もしかしたらのもしかしたりするんですか!?(アホ次回更新待ってます。
- 57 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/29(火) 20:33
- 逃げてー!!みんな逃げてー!!私に構わず逃げてー!!!
という気持ち。どうかみんな無事で・・・。
次回更新も楽しみにしています。
- 58 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/11(月) 23:47
- 狐予想と違った
鷹と姫ってだれだ?
やる気なさそうってので、あの二人かとも思ったけど、鷹のキャラとはあわない気もするし。
俺が狐と思ったやつが鷹でその相棒はあいつなんかな?
- 59 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/30(土) 23:15
- 予想は自分の心の中にしまって静かに待ちましょう。
- 60 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:33
- 今までなら、命令に逆らわず、すんなりと彼女を渡しただろう。
だけど…
「それは…できない」
驚いたようにれいなを見る男たち。
れいなは、もう一度言った。
「白鳥は……渡さない」
それまで流れていた張り詰めた空気が、不意に途切れる。
しかしそれは一瞬。
銃口が一斉に、れいなに向けられた途端
空気は、先ほど以上に重たいものに変わっていた。
- 61 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:34
- 「命令違反だ」
男が告げる。
しかしれいなの口元には微笑み。
「何言ってんの。こっちは依頼と命令を遂行しているだけ。」
『守ってあげてください』
それが、自分が受けた依頼。
『受けた依頼は、何があってもやり遂げろ』
それが、会社に入って一番最初に受けた命令。
- 62 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:35
- わけが分からない、といった表情の男たち。
れいなは右手で銃を構え、左手を後ろに回す。
そして、白鳥に自分の側に来るように合図をすると
れいなは男達を睨みつけた。
―――この状況で、逃げ出せるわけがない
いくら自分も銃を持っているとはいえ
入社時に数回、訓練を受けただけ。
この男たちはきっと、とても厳しい訓練を耐え抜いた
いわばその道のプロ。
勝算は、限りなくゼロに近かった。
- 63 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:36
- でも、ゼロではない。
何かあるはず。
しかし男たちは一向にれいなを攻撃する様子がない。
白鳥がれいなの側に近寄ろうと動いているというのに
そちらに危害を加えようともしない。
れいなには、それが不思議で仕方なかった。
―――何を、狙っている…?
ちらり、と狐の方に目をやると
れいなの視線に気付いたのか、狐もれいなの方を見た。
その唇が、微かに動く。
一度目は何を言っているのか全く分からず
二回目は途中までしか理解できなかった。
- 64 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:37
- 『私が引き付けるから』
数回、同じ動作を繰り返してやっと読み取れたその言葉に
れいなは、信じて良いのだろうか…と思いつつ
いや、今は狐に頼るしかないのだ、と感じ
彼女に軽く頷いて見せた。
「あのー」
何をするのだろう、と彼女を見ていたれいなは
その声に思わず「は?」と声を上げてしまった。
「いえ、あなたじゃなくて。」
狐は、にやりと唇の端を吊り上げて、笑う。
笑顔というより、傷の痛みに耐えつつの苦笑い、みたいな笑み。
でも、挑発しているような、そんな笑み。
- 65 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:39
- 「誰が喋れと言った。」
一人の男の銃が、狐に向く。
れいなは、その一瞬を見逃さなかった。
視線は全員、狐に向き、リーダー格と思われる男の銃口も
狐の方へ。
―――プロのクセに、バカだ。
相手に隙を見せるのは、負けたと同じ事。
例えそれが、ほんの一瞬だったとしても。
れいなは白鳥の手を掴んで、駆け出した。
背後で聞こえる銃声と、怒声。
けれど、振り返っている暇はない。
銃の扱い方は慣れていないけれど、足の速さなら
誰にも負けない自信がある。
- 66 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:41
- 右手に掴んだ白鳥が「エリ…」と呟いているのに
何の根拠もない「大丈夫」を繰り返し、れいなは階段を駆け下り
ビルの外へ出た。
多少なりとも覚悟していた。
ビルの前で、会社の人間が見張っているかもしれない。
そうなったら、多少の撃ち合いも仕方ない、と。
実際に人など撃った事など、ない。
射的の相手はいつも、木の人型だった。
けれど、意外な事に外には誰もいなかった。
れいなは、頭の中に完璧に入っている、このあたり一帯の地図を
思い浮かべる。
どこか、逃げられるようなルートはあるだろうか。
- 67 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:41
- 「こっち!」
一瞬、誰が叫んだのか分からなかった。
気がついた時には、れいなは白鳥に手を引かれ
細い裏路地を進んでいた。
「え、ちょっと……」
れいなの戸惑いの声は、白鳥の耳には入っていないらしい。
「そっち、行き止まりだよ!」
「いいから!」
―――あたしの方が、道、知ってるって…
そう思っても、白鳥の握力は意外に強く
簡単に振り外せるものではないと思った。
「……え?」
白鳥に引っ張られる事、数分。
れいなは、自分が、想像してたのとは違う道を
通っていることに気がついた。
- 68 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:42
- 「こんな道、あったっけ……」
「細い裏道だから、地図にも載らなかった道なの。」
白鳥が、ややスピードを落としながら言う。
―――知らなかった。
やがて、二人が足を止めたのは、古い廃ビルの中だった。
「…ごめんね、引っ張ってきちゃって………」
「はぁ、はぁ…ううん、大丈夫…」
そうは言ったものの、れいなは大分息が上がっていた。
訓練でさえ、こんなに走った事はない。
それなのに、白鳥は息が切れるどころか、申し訳なさそうな
苦笑いを浮べている。
―――こっちは、表情作るだけで大変だって言うのに……
何故、この子は平気な顔していられるんだろう…
- 69 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:44
- そんな事をぼんやりと考えていたから
不意に耳に入ってきた言葉が、何の事だか分からなかった。
「道重、さゆみ」
「え?」
聞き返すと、彼女は自分を指差し「名前」と言って笑った。
「さゆみ、っていうの。」
こんな簡単に、別に簡単じゃないのかもしれないけど
名前、バラしていいのかなぁ…と思いつつ
れいなはようやく整った息を、一度大きく吐いた。
何であれ、相手が名乗ったのだ。
自分も名乗らないと失礼だろう。
「あたしは、れいな。田中れいな。」
うん、と頷く白鳥…もとい、道重さゆみ。
- 70 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:44
- 「亀井絵里。」
それがイコール狐の事なのは、聞かなくても理解できた。
れいなは「知ってる」と呟くと「聞いてもいいかなぁ…」と
さゆみを覗き込むようにしながら、話しかけた。
「道重さん、とさぁ…亀井さんって、どんな関係?」
答えは、あまり期待していなかった。
きっと…答えない。
れいなはそう思っていた。
「友達…かな…」
でも、れいなの予想に反して、さゆみはそう答えると
「けど、よく分からない」と付け加えた。
「れいなは、一人なの?」
- 71 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/06/09(木) 18:45
- 「え?」
質問の、意図が分からない。
さゆみは、きょとんとした顔のれいなを見つめ、もう一度
「れいなはずっと、一人なの?」と言った。
一人…なのだろうか。
れいなは「さぁね」と肩を竦め、さゆみから視線を逸らす。
自分の親の顔なんて知らない。
死んだのか、生きているのか。
それさえも分からない。
気がついた時には、あの会社にいて。
いつの間にか、周りには先輩たちがいた。
「そっか…」
さゆみは、それ以上聞いてくることはなく、壁に凭れ掛り
何かを考えるように、視線を中に浮かせていた。
- 72 名前:葉月 投稿日:2005/06/09(木) 18:50
- 更新終了です。
>>56 通りすがりの者様
もしかしたらもしかしたでしょうか?
白鳥さんと狐さんはこの方達でした(笑)
>>57 名無し飼育さん様
みんな、無事なんでしょうかねぇ…(笑)
これからもお付き合いください。
>>58 名無飼育さん様
どんどん想像してやってくださいな(笑)
他の方々も、その内キチンと出てきます(予定では…)
>>59 名無飼育さん様
ありがとうございます。
これからも、よろしくお願いします。
- 73 名前:葉月 投稿日:2005/06/09(木) 18:51
- ではまた、時間があれば数時間後にお会いしましょう(笑)
- 74 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/10(金) 23:11
- 更新お疲れさまです。 なにやら深ーい事情がありそうな模様。 今後に期待が膨らみますね。 次回更新待ってます。
- 75 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:28
- どれくらい経ったのだろう。
黙っていたさゆみが、不意に口を開く。
「私には…ずっと、絵里がいた…」
れいなは、さゆみの方に視線を向け、言葉の続きを待つ。
「私、お父さんも、お母さんも小さいときに死んじゃったの。
だから、ずっと施設にいた。そこで、絵里に会ったの。」
施設。
別に、家庭に事情のある子供たちを、まとめて世話をする所じゃない。
今、施設といえば、れいなたちのような仕事をする人材や
スパイの育成をする所。そこでは、れいなの所の訓練とは比べ物にならない
くらいハードな訓練を行うと、噂に聞いていた。
彼女の、さっきの疲れ知らずの理由が、分かった。
- 76 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:29
- 「絵里はね、私が10歳のときに、別の施設から来たの。」
何故か。
それは、さゆみも知らない。
さゆみが覚えているのは、先生の後ろに隠れるようにして
恐々とさゆみたちを見回していた、頼りない、絵里の姿。
「今の絵里からは考えられない」とさゆみは笑う。
その話を聞きながら、れいなはふと
自分が昔連れて行かれたことのある施設を思い出していた。
そこで何をしたのかは、よく覚えていない。
誰かと会話を交わしたのかさえ、記憶になかった。
ただ一つだけ、鮮明に残っている事がある。
- 77 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:30
- 「あたし、一回だけ、施設に行った事あるよ。」
何でかは、知れないけど。
れいなの言葉に、さゆみが一瞬だけ、はっとしたような顔をした
……気がした。
でも、すぐに同じ表情に戻り「それで?」と話の続きを促す。
「その時にね、あたし、初めて同じ年の子と、しゃべった。」
会社では、れいな以外は皆、年上で。
確かに、白鷺―――高橋愛にくっついている
他の3人は、れいなと年が近い。
新垣にいたっては、たった一つしか違わないのだけれど
その一つの年の差が学年の違いを生み出し
会社で訓練とは別に行われていた一般教養…普通の学校で
やるような授業は、クラスにれいな一人しかいなかった。
- 78 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:31
- それに、元々のれいなの性格上、あまり
誰かと組むというのが得意ではない。
新垣とて、同じ学年はいないはずだけれど
れいなとは違って、周りに『友達』と呼べる人が大勢いた。
だからなのだろう。
その日、会社の人間に連れられて行ったその施設で
れいなはその施設の先生に「遊んでおいで」と言われ
そこで初めて、自分と同じ年の子と口を聞いた。
多分、先に話しかけたのはれいなの方だと思う。
その子は、友達を探して施設の中を走り回っていた。
- 79 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:32
- 「一緒に探す」
そう言うと、その子は嬉しそうに笑い
「じゃあ、狭い所、探してみて」と言って
どこかへ行ってしまった。
狭い所……意味が分からずに、それでも何となく
施設の建物を出て、裏庭らしき所に向かったれいなは
そこで、塀と壁の間にしゃがみ込んでいた
一人の少女を見つけた。
「何、してるの?」
声をかけると、その子は驚いたように振り返り
れいなの事を怯えたような目で見ると
「誰?」と小さな声で言った。
「あたしは、田中、れいな」
「れいな?」
彼女は、ふーんと呟き「れいな、ここの子じゃないよね?」
「うん。ここに来たの初めてだし……泣いてたの?」
- 80 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:32
- れいなは、彼女の頬の、涙の跡のような筋に気付き、尋ねる。
「な、泣いてなんかないもん」
強がるようにそう言った少女に、れいなは特に突っ込む事もせず
「ふーん」と言うと、さっきの少女を思い出し
「探してたよ。友達が」
その言葉に、少女は少し動揺したような顔をした。
「行かないの?」
少女は、答えない。
れいなは彼女の隣にしゃがみ、もう一度「行かないの?」
「わたし、ともだちなんか、いないもん……」
少し、舌足らずなその言葉に、れいなは首をかしげ
「でも、探してたよ?一生懸命。いいの?」
- 81 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:33
- それでも、少女は動こうとしない。
れいなは「あーあ」と溜息をつくと
「あたしさ…」と少女に語りかけるように話し始めた。
「あたしね、友達、っていないんだ。ずっと、一人だから。」
「……一人?」
少女は、訝しげな視線をれいなに向け「何で?」と尋ねる。
「お姉ちゃんみたいな人はたくさんいるんだけどね。
何でだろう。よく、分かんないや」
そう言うと、少女は頷いたあと「わたし…」と口を開く。
「わたし、まだ、ここに来たばっかりなの。
本当は、別の所にいたんだけど、この間から、ここにいる。
それでね、わたし、ともだちとか作るの苦手で、みんなが
遊んでる所に入って行けなくて…そうしたら
いつの間にか仲間に入れてもらえなくなっちゃったの………」
- 82 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:34
- れいなは、少女の話を聞いて
「困ったなぁ」という風に、頭をかいた。
自分にアドバイスして上げられる事は、何もない。そう思った。
なんせ自分も、友達とか作った事がないのだから。
でも、これだけは言える。そう思ったれいなは
少女を覗き込むようにして笑顔を見せながら
「でもさ。さっき、あなたの事探していた子は
あなたが心配だったんじゃないの?」
「心配?」
「うん。だからさ、別に仲間に入れてくれないんじゃなくて
あなたが入らないから、みんな、どうしていいのか
分からないだけなんじゃないのかな?」
そう言った時、先ほどの少女が、れいなの後ろからやって来た。
「あ、ここにいたー」
「あ…」
- 83 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:35
- その子は、気まずそうな顔をしている少女の腕を掴み
「行こ。おやつ、食べないの?」
と、彼女を隙間から引っ張り出した。
その時、その少女とれいなの目が合い
少女はにっこり笑いながら
「あ、さっきの。ありがとう、探すの手伝ってくれて」
「え……あぁ、うん」
少女は、にこっと笑い「名前は?」と言った。
「れいな」
そう答えると、少女は「れいな」と納得したように頷き
「じゃあ、れいなも行こ?先生が、一緒におやつ食べなって」
「あたしも?」
うん、と少女は嬉しそうに言い「だから、一緒に行こう」
と、空いているほうの手でれいなの手を握った。
- 84 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:37
- 「あのさ……」
夕方になり、そろそろ帰るという時。
門の所まで見送ってくれた、その二人に、れいなは言った。
「あのさ、もし何か困った事があったらあたしが守るから。
その……一人には、しないから……」
再び会えるかどうかも分からない二人に
何で、そんな事を言ったのかは分からない。
その後、車の中で「友達できたのか」と聞かれたときも
「うーん」と曖昧な返事をしてしまった。
あの二人が、自分にとって友達と呼んでいいものなのか
れいなには、よく分からなかった。
何の根拠もなく言った「守る」という言葉。
あの二人が、今でもそれを覚えているのかどうかは
分からない。
- 85 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:39
- 「今でも思うんだ。あの二人の名前、何だったんだろうって」
「聞かなかったの?」
どうなんだろう。でもきっと、聞かなかったんだと思う。
名前を知らなくても
あの二人といれるだけで凄く楽しかったから。
「ふーん…会いたい?」
さゆみの問いかけに、れいなは「分からない」と首を振る。
「会っても、向こうがあたしの事、忘れてるかもしれないし。
そうだったら、何か、寂しいじゃん?」
れいなはそう言うと「もう終わり」という風に
パンッと手を打ち
「それよりさ、これからどうする?」と言った。
「あたしはさ、狐…あの子の事、助けに行こうと思う。」
「助けにって…どこに?」
さっきいたのは、全員、れいなの会社の人間だ。
狐は、会社の地下室かどっかに連れて行かれていると思う。
それを言うと、さゆみは「分かった」と頷き
「でも、どうやって行くの、そこまで」
- 86 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:40
- それは、れいなも思っていた。
きっと今頃、れいなは『裏切り者』として
会社に指名手配されている。
正規の入り口から、秘密の裏口まで、会社のあらゆる所にある
出口や通路は知っているけれど、そんな所は
とっくにマークされているだろう。
「今、二人で入ったって、勝算はない」
「え……」
会社には、常時、人がいる。
銃が全く使えない、主に情報管理をしている奴らから
先ほどのようなその道のプロまで。
そしてもちろん、ひとみや梨華たち、れいなの先輩も。
「あたし、先輩に勝てる自信は、全然ない。それに……」
あたし銃、使えないし……とれいなは申し訳なさそうに言う。
するとさゆみは「大丈夫。私が使えるから」と言って
笑顔を見せた。
- 87 名前:04.たった一つ、守りたいもの 投稿日:2005/07/01(金) 17:41
- それでもやはり、今行くのは危険すぎる。
れいなは、あれこれと思案をめぐらし
何かいい手はないかと考えた。
「れいなさ、いないの?知り合いの情報屋さんとか……」
「情報屋?」
「うん。だって、その会社が
今、どういう状況か教えてもらえるじゃない」
そこまで聞いた時、れいなにはあの二人の顔が浮かんだ。
何かを調査している最中に、大怪我をした、あの二人。
―――そういえば、あの二人が怪我をした理由は、まさか……
れいなは、ちらりとさゆみの顔を見る。
「どうしたの?」
「あのさ……」
―――あの二人、さゆみたちが怪我させたの?
- 88 名前:葉月 投稿日:2005/07/01(金) 17:43
- 更新終了です
>>通りすがりの者様
いつもありがとうございます。
更新の遅い作者ですが、これからもよろしくお願いします!
- 89 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/17(日) 13:45
- 更新お疲れ様です。
過去が少しだけ分かったような気がします。
まったりと次回更新待ってるので、作者様のペースで頑張って
下さい。
- 90 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/25(日) 22:12
- 更新待ってます。
- 91 名前:初心者 投稿日:2005/10/24(月) 18:00
- 続きが気になります
更新待ってます
- 92 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:18
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
Converted by dat2html.pl v0.2