スニッフ
- 1 名前: 投稿日:2005/02/10(木) 20:17
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A sneeze must prevail in the end.
- 2 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:18
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コンビニ袋を胸に抱えた少女が、静まり返った深夜の住宅街を忙しげに歩いていた。
第1志望の高校受験を1ヵ月後に控え、勉強していた少女は、息抜きがてら
なくなったシャープペンシルの芯を買いに出かけた帰りだった。
寒さに震えて吐き出した息が煙のように白い。夕方に見たニュースによると朝には雪が降るらしい。
嬉しいような、嬉しくないような。
どうせなら休みの日に降ってくれればいいのに。
複雑な煙をまた吐いて、少女はコンビニ袋から温かい紅茶の缶を取り出した。
―――と、その時。
気配を感じて、少女は振り返った。
深夜とはいえここは住宅街。自分のように外出する人がいてもおかしくはない。
しかし誰もいなかった。
気のせいか。少女は再び歩き始めた。するとまた―――……誰かいる!
5メートルほど離れた電柱に隠れた影を、少女は見逃さなかった。
あれは人だ。人だからおかしくはない。おかしくはないけれど、オバケのほうがよかったかもしれない。
ホラー映画は大嫌いだけど、この場合に限ってはオバケのほうがマシだった。
- 3 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:19
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咄嗟に走り出した少女を、自身のものではない足音が追いかけてきた。
悲鳴を上げようにも喉は寒さと寒さではない何かで凍りついてしまったらしい。
焦りが腕の筋肉を動かし、手に持っていた缶を後ろに投げた。
「ぐあ」という男の声。
その声に、少女は寒さではない何かが恐怖であることを認識した。
怖い、明らかに追われている、男の人に。たぶん、きっと、そういう目的の為に。
一瞬男の足音が怯んだが、それもつかの間。
たいした時間を稼がせずに盛大な舌打ちと足音が激しく迫ってきた。
走っているのに、水の中をもがくように走っているのに、距離はどんどん縮められ、ゼロになり、
とうとう少女は恐ろしいほど強い力に捕えられた。
あの、あの角を曲がれば家なのに…っ!
男の腕から逃れようと必死で抵抗するも、敵わない。
少女を引きずりながら顔を覗いてきた男の顔は、これ以上ないほど厭らしく歪んでいた。
- 4 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:19
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◇◇◇
- 5 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:20
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「で、そん時助けてくれたんがハナカメン?」
「ちがうよ! ハナカメンじゃなくてハナカミン様!」
「…変な名前」
「こら! 失礼なこと言わないの!」
「しかも様ってなんやの、様って」
「様は様でしょ、偉い人につけるやつ。
ハナカミン様はあたしの命の恩人なんだからこの世でいっちばん偉いの!」
「あ、そ」
ここは、無限の宇宙の片隅に浮かぶ青くて丸い星、都球。
色々と都合のいいこの星の、とある国の適当県適宜市にあるハロモニ高校の体育館では
まもなく入学式が始まろうとしていた。
新品の制服に身を包み、緊張の面持ちを隠せない新入生が多い中で
同じ中学から進学してきた友人・高橋愛にぎゃんすか噛みついているのは松浦亜弥。
透き通るような白い肌に、吸い込まれそうな色素の薄い瞳。
大人っぽいようであどけなさの残るその顔がとてもかわいいことは、本人が誰よりもよくわかっている。
こうして祈るように胸の前で手を組めば、周囲の視線を釘付けにできることも。
- 6 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:20
-
ハナカミン様。正しくは、仮面ハナカミン様。
助けてもらったあの日から、あたしはあなたのことが忘れられません。
『ったくこんな寒い日にバカ!』
風のように現れた白いマントが、男の顔にめりこんだしなやかな脚が。
今も瞼の奥に焼きついて離れない。
『あんたもあんただよ! 女の子が夜中に1人歩きしたら危ないって常識じゃん!
家まで送るからさっさと帰るよ寒い!』
怒鳴られたのには驚いて体がすくんじゃったけど。
白い毛糸の手袋がほっぺたに触れて、ようやく助かったと認識したあたしの涙が止まらない放課後
なのを見ると、急に焦って頭を撫でてくれた。
『ご、ごめん、怖かった? あ、怖い、よね。ほんとごめん、怒鳴っちゃって。
でもミ…ミンはさぁ、こんな寒い日に呼び出しとかマジありえないってゆーか
気持ちよく寝てたとこ起こされて腹立ったってゆーか』
- 7 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:20
- 『ひっく……怖かっ…怖かったよぉ…っ』
『わわわ、う、うん。もう大丈夫だよ、ミンがやっつけたから』
抱きついたあたしを、戸惑いながらも受けとめてくれて。
マントの端っこを小さく破いて涙を拭いてくれた。
『歩ける? 寒いから早く帰ろ。これからは遅くに1人で出歩かないようにね』
『…はい。あの、あたし松浦亜弥っていいます。あなたは…』
『あれ、言ってなかったっけ?
いっけね、寒いから忘れてたや。ちょっと待ってね。
さゆー、1番小さいので音ちょーだい』
♪ ズズズズズ ズズズズズ ズズズズズ ズズズズズ ズズズズルッ ♪
湧き出るアイツには 柔らかティッシュが必需品
かめ! かめ! 鼻かめ! 腰に手をあてSay スッキリ!
『仮面ハナカミン、参上!』
- 8 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:21
-
『……………』
『……………』
『……………』
『………わかってんだよ、微妙だってことは』
『そ、そんなことないですよ?』
『無理丸出しでフォローされると余計痛いから』
『……………』
無理なんかしてない、そりゃ正直微かにセンス疑ったけど。
けど、それよりもさっき破ってくれたマントがよく見るとティッシュだったのはそういうことかぁとか
仮面も仮面っていうよりティッシュをグルグル顔に巻いてるだけなんだぁとか
ミンはハナカミンのミンなんだぁとか、自分のことミンって言うの可愛いいなぁとか
そういうこと考えてたのに。
本当は助ける前に、参上した時にしなきゃいけなかったらしい決めポーズを
あんまり乗り気じゃない様子で披露してくれたハナカミン様は、居心地悪そうに
背中を丸めてあたしを家まで送ってくれた。
『ここか、じゃあね』
『ありがとうございました。あの、よかったらお茶でも』
『お気遣いなく、これバイトみたいなもんだし。早く家入りなって』
『…あの! だったら……マント、もう1切れもらえませんか?』
- 9 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:21
- 図々しいお願いだってわかってた。
でも、さっきの鼻水で汚れちゃったし、これを持ってればまた会えるような気がしたから。
『へ? いいけど』
『ほんとですか? ありがとうございます!』
『大げさな、これただのティッシュだよ?
だから寒いんだよねー、冬の間だけでも毛皮のマントに替えてくんないかなー。
……………………チッ、だめか』
ハナカミン様は時折何もない空中に向かって話しかけてて
それは今思うと少しおかしかったけど、その時は新しくもらったティッシュを胸に抱いて
幸せに浸ってたから気にならなかった。
『じゃーね、バイバイ』
『ほんとにありがとうございました!』
あれから、あたしはもらったティッシュをお守りにして受験に挑み、
あたしの成績では難しいと言われていたこの高校に見事合格した。
そう、あたしが高校生になれたのもハナカミン様のおかげ。
だからお礼が言いたいのに、会ってお礼が言いたいのに、あれから1度も会ってない。
会いたいな………ハナカミン様、今どこで何してるんだろう……………
- 10 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:22
-
「どっかで鼻かんでるんやろ」
「そりゃそうだろうけど! 恋する乙女に水差さないでよ!」
友人のどうでもよさそうな声に、意識を飛ばしていた亜弥の眉がひん曲がる。
「愛ちゃんってさー、ほんとわかってないってゆーか空気嫁ないってゆーか訛ってるってゆーか
失礼が靴履いて歩いてるようなもんだよね」
「今は上履きやけどの」
「細かいことは気にしないのっ!」
「ックシュン」
「ん?」
だったらハナカミンもハナカメンでええがし!と、反論しようとした時
頭の上から降ってきた可愛らしいクシャミに愛は振り返る。
すると、赤い眼鏡をかけた上級生と思しき美人が亜弥の頭を見下ろしていた。
美人だが髪は茶色く、美人だがポケットに両手を入れて背中を丸めていて、美人だが怖い。
こっ、これは…っ、亜弥ちゃんうるさかったから目ぇつけられたんやよ!
- 11 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:22
- 「あ、亜弥ちゃん早く謝らんとっ」
「ふぇ? 誰に?
それより考えてよー、どうすればもう1度ハナカミン様に会えるか」
「いや、あの、後で考えるから、とりあえず今は後ろに向かって頭を深く下げたほうが…っ」
「後ろ?」
自身の頭部に降りかかる“怒”の念に気付かない亜弥は、ガクガクプルプルしている愛を
怪訝に思いつつ振り返る。目の前にはボタン。ん? なんでこんなとこにボタ―――
「…あんな変なやつの、どこがいいの?」
「はい…?」
―――ンは亜弥も着ている制服のブレザーについているもので、ということは後ろに誰か
立っているらしいと顔を上げた亜弥の視界に、自分を見下ろしている見たことのない……心なしか
拗ねた顔が映った。
変なやつ? 変なやつって……強いて言うなら今変なのはあなたですよ?
「あんなダサいやつ、どこがいいの。
もう1度会いたいなんておかしなこと考えないほうがいいよ」
- 12 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:22
-
ダサい…?……まさか、ハナカミン様のこと?
「なっ! あ…なたは先輩?…こそなんなんですか!
いきなり出てきてあたしの大切な人馬鹿にしないでくださいっ!!」
「ひゃああ、亜弥ちゃん死ぬ気かの?!」
わからんか? この人に逆らったらどうなるかわからんのか?!
アホやよ、亜弥ちゃんは救いようのないアホやよ。
10秒後にはコロンブスの遺産やなくて体育館中が朱に染まるやよ!ルパーン。
恐ろしい予兆に身を震わせたのは愛だけではない。事の成り行きを見守っている
新入生エトセトラの表情からも、サァーッと血の気が引いていく。
しかし、ハナカミンを侮辱された亜弥の怒りを真正面からぶつけられた当の赤眼鏡は
亜弥を殴ることも蹴ることも揉むこともせず、大きく目を見開いて俯いてしまった。
「べ、別に馬鹿にしてるワケじゃ」
「してるじゃないですか。格好なんてどうでもいいんです。
ハナカミン様はあたしの命の恩人で、優しい人で。
もう1度会いたいって思うの、おかしな考えじゃありません」
- 13 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:23
- 亜弥は小さい頃から、話す時は相手の顔をじっと見る子だった。
だが今は相手が俯いているから、前髪を見つめて。じっと、強く見つめて。
相手が先輩だろうが怖そうだろうが、関係ない。ハナカミン様を悪く言う人は、許さない。
「でも、会えないほうがいいんじゃないの?」
「え?」
諦めたような溜息をついて顔を上げた赤眼鏡の頬は、なぜか眼鏡のフレームと
同じくらい赤く染まっていた。
「会えないってことは、あんたが無事に暮らしてるってことじゃん」
「そ…うですけど…」
その通り。ハナカミンは、ハッキリとは言わなかったけど正義の味方で、お助けマンで。
あの日出会えたのは、あたしが危険な目に遭ったから。
寒いのに、眠いのに飛んできてくれて、助けてくれたから。
あれから言われた通り遅くに1人で出歩くことはなく、至って平和なライフを
過ごしている亜弥。だからこそ、会えない。
- 14 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:23
-
「会う時は危ない目に遭ってる時なんだから、会いたいなんて思っちゃだめだよ」
「…………そっか」
「ん?」
「危ない目に遭えばいいんだ…」
「「え?」」
ぼそっと呟かれた言葉に、赤眼鏡と愛がハモる。
そんな2人をよそに、なにやら恐ろしいことを思いついてしまった亜弥は、クックックッと肩を
揺らして嬉しそうに笑い出した。
「ありがとうございます、先輩のおかげでわかりました」
「へ? ちょ、ちょっと待って! 自分から危ない目に遭うなんてっ!」
「そうやよ! なんかあったらどうするがし!」
「大丈夫。ハナカミン様が助けてくれるもん」
「間に合わなかったらどーすんのさ!」
「ハナカミンはバイトみたいなもんなんやろ?!今日が定休日やったらどうするやよ!」
「それでも来てくれるって信じてる」
「「アホなぁっ!?」」
- 15 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:24
-
慌てて亜弥に詰め寄る赤眼鏡と愛。馬鹿を、この馬鹿を止めなくては。
しかし、会ったばかりの2人のコンビプレーでは、難攻不落の亜弥はなかなか落とせない。
「んあー」
もうこうなったら力ずくで!と2人が思い始めた時、眠そうな声と細い腕が
赤眼鏡の腰に絡みついた。のっそりと赤眼鏡の右肩に現れたその腕の持ち主の顔も
赤眼鏡に負けず美しく、絡み合う姿はどこかおタンビな雰囲気を醸し出している。
「ちょっ、なにいきなり!」
「ハイハイ、時間切れだよ。もう始まるかんね。
係でもない人はタイジョー」
「待って離しっ…あんた! 絶対に馬鹿なことしちゃだめだよ!
そんな馬鹿助けに行くほど暇じゃないんだから!!」
大きな声で叫びながら、赤眼鏡は細い腕に引き摺られて体育館を去っていった。
と、そこで亜弥が気付く。
「あれ? なんであの先輩、ハナカミン様のこと知ってるんだろ?」
「亜弥ちゃんみたいに助けてもらったんやないの?」
「えー、なら悪く言うワケないじゃん」
- 16 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:24
- あたしなんか恋しちゃってんだよ?
ハナカミン様に助けられて、嫌いになる人なんかいないに決まってる。
「ま、いっか」
亜弥は基本的に自分以外に興味がない。ハナカミンは別だが。
頭を切り替えて、さっさと今夜の作戦について考えることにした。
「どんな危ない目に遭おうかなぁ」
「だからやめ………知らんでの、あーしは止めたでの」
友人の頑固な性格は嫌というほどよくわかっている愛が説得は不可能と
判断して間もなく、入学式が始まった。
- 17 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:24
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◇◇◇
- 18 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:25
-
家に帰ってすぐ、台所に飛び込んで焼いたクッキー。
綺麗に焼けたものだけを選んで、可愛いピンクでラッピング。
お風呂にも入ったし、香水もつけたし、メイクだって頑張った。
夕食はいつもより控えめに、食後の歯磨きだってちゃんとした。
「よし、完璧」
午後8時。部屋にある大きな鏡の前で最終チェック。プリーツスカートを揺らしてポーズ。
クッキーを渡す時の上目遣いの練習もして、とびきり甘い、1番可愛い声が
出るように発声もした。これで文句なし。
8時なら、夜だが夜遅くはないだろう。そう思うが、さりげなく門限を過ぎていて
玄関から出るワケにはいかないので、亜弥はこっそり持ち込んでおいた
ブーツを抱え、部屋の窓から庭に縄梯子を垂らす。
ちょっと怖いけど、ハナカミン様のためだ! ええい!
意を決して身を乗り出し、慎重に足をかけてゆっくり降りていく。
頼りない感触に、何度も悲鳴を上げそうになったが堪え、やっとの思いで
地面に辿り着―――
- 19 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:25
-
「ックシュン!」
「ふぇ?!」
―――くと同時に横から可愛いクシャミが。驚いて振り向くと、白い…ハ、ハナカミン様!
「わわわ静かにね。そっちだって困るでしょ、バレたら」
「んぐっ…ん、ん」
思わず大声を出しかけた亜弥の口を、ハナカミンの手が塞ぐ。
この柔らかい手袋の感触、優しい匂い、どれも憶えていた。
「部屋入っていい? ここだと誰かに見られる」
質問してるのに手は離してくれないので首を大きく縦に振った亜弥を抱え
ハナカミンはフワリと宙に浮き上がり、開けっ放しの窓から部屋に入った。
そしてベッドに降ろされてすぐに喋ろうとした亜弥の口を人差し指で制して
縄梯子を回収し窓とカーテンを閉める。その時、また誰もいないのに
「あんたらはだめ」と言っているのが聞こえたが、触れられた唇を抑えて
頬を熱くしている亜弥には気にならなかった。
- 20 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:26
-
「え、えっとさあ」
「…どうして?」
「へ?」
「どうして来てくれたんですか? あたしまだ、危ない目に遭ってないのに」
「……危ない目に遭ってからじゃ遅いじゃん」
亜弥はベッドから腰を上げて、窓際にいるハナカミンの目の前に立つ。
たしかに、たしかに会いたいと思っていたし、会いに行くところだったけど
何1つ危なくないのに会えるのは――しかも家の庭に、自分の部屋にハナカミンがいる
など信じられないったらありゃしなかった。
それにそれに、危ない目に遭ってからじゃ遅いって
まるで危ない目に遭おうとしてたことを知ってるみたいな言い方―――
「た、たまたま通りかかったらさあ、窓からお尻が出てたから
落ちたら受けとめようと思ってたの! 落ちなくてよかったよ、ほんと」
「お、お尻…」
「べべべ別に見たワケじゃないよ!」
「……ストライプ」
「え? 無地じゃなかった?」
「 見 た ん で す ね 」
「ハッ!?……いや、その、見えたんだよ! 下にいたし」
- 21 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:27
- それはそうだろう。膝上10センチのプリーツスカートで縄梯子なんか降りたら
下にいた人には全て見えてしまう。仕方ない、それは素敵に仕方ないこと。
「ハナカミン様になら…いいですけど」
「………てか“様”ってやめない?
くすぐったいんだけど」
「じゃあ、ハナカミンさん」
「……それも微妙……いっか」
渋々といった様子で言うと、ハナカミンは亜弥の肩をちょんと引っぱって
もう1度ベッドに座らせ、自分も隣に座った。
白いティッシュに覆われた口が、何か言いたそうにもごもごしている。
も、もしかしてあたし、今からハナカミンさんと……ピンクな関係に?!
亜弥の心臓が一気に高鳴る。どうしよう、どうしよう。
でも大丈夫。準備は……できてます!
「あのさあ」
「はい!」
- 22 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:27
- 勢いのよすぎる返事をして、どうぞ来いとティッシュの隙間から覗く目をじっと見つめる。
気のせいか、ハナカミンの目は少し潤んでいた。
「亜弥ちゃん、だっけ。2ヶ月くらい前、会ったよね」
「憶えててくれたんですか!」
嬉しい、嬉しい、ハナカミンさんがあたしのことを。
1回助けたっきりの、あたしのことを。ああ、可愛い顔でよかった。
「うん、泣かせちゃったしさ。
ちょっと気になってて、それでその、会いたかったなーって」
「え…?」
会いたかった? あたしに?
「や、その、なんていうか、亜弥ちゃんって、初めてちゃんとお礼言ってくれた子なんだよね。
ミンこんな格好だから、ひったくりから鞄とり返しても逆に怪しまれちゃって
亜弥ちゃんみたいに何度も何度もありがとうって言ってくれた人、いなくって」
「そんな…ひどい…」
助けてもらったらお礼を言う、そんな当たり前のことができないなんて。
そういえば今朝の赤眼鏡。あの人もお礼を言わなかった1人だろう。
今度会ったら「ありがとう」って言いながら100回おじぎの刑だ。
- 23 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:28
-
「つらい時とかね、励みになったんだよ。
亜弥ちゃんみたいな子もいるんだから頑張ろうって。
だからさ、亜弥ちゃんが平和に、元気に暮らしてくれてると、ミンは嬉しいな」
「ハナカミンさん…」
そんな風に思ってくれてるなんて。
どうせあたしなんか、助けたうちの1人だと思ってたのに。
亜弥は嬉しくなって、すぐ近くにあるハナカミンの左手をそっと握る。
「縄梯子で脱走なんて、しないでさ」
「あ……ごめんなさい」
言えない。脱走後、近所の踏み切りに飛び込もうと思ってたなんて。
自ら危険に飛び込もうとしてたなんて。
反省して深くうな垂れると、柔らかい毛糸が亜弥の頬を撫でた。
「ん?……あ、行かなきゃ」
「え、どうしたんですか?」
- 24 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:28
- 突然、ハナカミンがカーテンに目を向けて立ち上がった。
その拍子に離れた手を亜弥も追いかける。
「事件、あったみたい」
「そうですか……あ! あの、これ! こないだのティッシュのお礼です!」
それなら引き止めることはできない。慌てて忘れていたクッキーを差し出す。
あんなに練習した上目遣いをする暇もなかったが、精一杯可愛い声は出せた。
「あ、ありがとう。手作り?」
すでにカーテンと窓を開け、窓枠に足をかけているハナカミンは、可愛いピンクの
ラッピングを素早くほどいてクッキーを1つ出し、口に放り込む。
「おいしい! ありがとう!」
そして、亜弥の頭をひと撫ですると、窓枠を蹴って飛び立った。
白いマントが風に揺れ、空へ舞い上がる。
「ハナカミンさん! また会えますか?!」
「亜弥ちゃんが元気にしてたら、また来るよ!!」
- 25 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:28
-
さっそく元気じゃなくなってはいけないので、窓から落ちないように身を
乗り出して訊ねた亜弥に、クッキーを持った手をブンブン振りながら答えて
ハナカミンは飛んでいく。
また来るってことは、また会えるんだ!!!
小さくなっていく白いマントに、満開の笑顔でいつまでもいつまでも手を振る亜弥―――
「亜弥ちゃん? 亜弥ちゃんどーしたん?」
「亜弥ぁ! お前なに騒い……ってなんで鍵かかっとるんやあ!
亜弥あ! 亜弥返事せぇ! ここを開けえ!!」
「パパ、声でかいで、亜弥もお年頃なんやから」
「ママー、オトシゴロってなぁにー?」
―――の部屋の前には、突然聞こえた亜弥の大声に両親と妹2人が
心配して駆けつけていた。
- 26 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:29
-
◇◇◇
- 27 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:29
-
「生きとるってことは、ハナカメンに会えたん?」
「だからハナカメンじゃなくてハナカミンさん!!」
「お、“様”はやめたんやの」
「そうですぅー、仲良しさんになったんですぅー」
翌日、1年5組の教室で亜弥は昨日の出来事を愛に話した。
聞き終えた愛は、どこか引っかかるものを感じずにはいられなかったが
亜弥が幸せそうなので、まあいいやと流しておく。
なんだかんだ言って、嬉しそうに笑う亜弥は可愛い。
「って、それのどこが仲良しさんなん?」
「…う。た、たしかにまだ微妙だけど!
でも、次会う時は絶対ぜーったい友だち以上になるんだから!」
恋人まではいかなくても、恋人未満になるんだから!
「次っていつやろねー。
社交辞令じゃなかったらええのー」
「え…そんなワケないよ! 愛ちゃんに宝塚のビデオ借りるんじゃないんだから!」
「やっぱりそうなんか……あれはそうなんか……」
- 28 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:30
- 意地悪な笑顔でからかったつもりが思わぬカウンター喰らい、机に溶けていく愛。
そんな愛の頭を撫でていた亜弥は、大切なことを思い出した。
「ねえねえ愛ちゃん、昨日の赤眼鏡の先輩って何年何組か知ってる?」
「ヒッ! し、知るワケないやよ。
なんでそんなこと訊くん?」
「ハナカミンさんにお礼言わない人には注意しなきゃ」
「まさか会いに行く気?!
やめるがし! 亜弥ちゃん今度会ったら生きとれんよ!
ハナカミンさんに元気でおるって約束したんやろ!」
「それとこれとは話が別!!」
愛ちゃんが知らないなら職員室で先生に訊こう!
溶け残った腕で必死に止める愛と、2人の会話を聞いていた
クラスメイトからの命知らずに向ける視線を振り切って
亜弥は教室を飛び出す。
が、以前の中学に比べて生徒数も倍近く多いハロモニ高校は広く、
3棟もある校舎のどれに職員室があるのか……昨日教えてもらった気がするが
ハナカミンに会うことばかり考えていて聞いていなかったのでわからない。
それでも探せば見つかると考え、適当に見つけた階段を上る。
- 29 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:30
-
「んあー」
「あ…」
適当に上った先にあったのは、3年担任室。
そしてそこから出てきたのは、昨日赤眼鏡に絡み付いていた細い腕だった。
「普通スキップでガラス割る?」
「んあ、ごめん」
「怪我ない? もういいから教室戻んなよ。
ったく、どうせ割るなら2担の割ればいーのに」
「あっは、今度はそうする」
「すな!」
と、続いて出てきたのは赤眼鏡。
ターゲット、発見。
「赤メガネ先輩!」
「…ん?」
「あたしがこれから生きていく上で必要なこと教えてあげます!!」
「ハ? あんた昨日の…」
「いいですか! まずおじぎの角度は45度! お風呂の温度より3度高めで!」
「ハァッ!? いたたっ!痛いって!
角度と温度は別モンでしょーが!!てか赤メガネってなんだ!」
「んあ、特徴を捉えてるよね」
「いやいや感心するほどじゃないし!」
ただ見たままである。
- 30 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:30
-
「ハイ! 次は『ありがとう』の正しい発音!」
「ワケわかんない! 正しいってなんだよ!」
「お腹に力いれて」
「キャハハッ! やめてー! 美貴そこ弱いんだって!!」
「んあ。スキップしよーっと」
「ちょ、ちょっと助けなよ! スキップなんかどーでもいいから!」
「スキップは楽しいんだよ」
「知るかっ!!」
「ハイハイ知るかじゃないでしょー?
あーりーがーとーうー、はい言ってみてー」
「だああ! 離せええ!」
離しません。悪い子には徹底的に礼儀を教えてやるんだから。
あたしって意外とスパルタなんだ。ハナカミンさんの為だからかな?
好きな人の為になにかするって、楽しい!
この後、チャイムが鳴って強制的に教師に引き剥がされるまで
赤眼鏡に礼儀を叩き込んだ亜弥は、入学2日目にして学校中に知られる存在となった。
- 31 名前:出会い。 投稿日:2005/02/10(木) 20:30
-
- 32 名前:ピアス 投稿日:2005/02/10(木) 21:14
- すごく面白いです。
どんな話になっていくのか、楽しみにしています。
- 33 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 00:28
- ふふっ、どこまでもついて行きますよ〜(・∀・)
なんか始めっからとても面白いんですけど、どーしましょう・・・。
次回更新も楽しみにしています。
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 00:46
- 主要人物がわかった時点でガッツポーズ
すごくワクワクしてますよ
次の更新楽しみにしてます!
- 35 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 01:18
- うわーまたすごい話しきたなぁ…
作者さんの小説のおかげで、笑いすぎて腹筋が鍛えられ
少しお腹まわりがスッキリスッキリしてきましたw
次回もシェイプアップ効果期待しております。
- 36 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 02:45
- ぶはっ腹がよじれるw おもしろいです。
更新楽しみに待ってます。
- 37 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/11(金) 14:42
- 現れましたね
今後ともしつこいほどにひっついて行きます
ハナカミン最高です
- 38 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 10:00
- >>10 >>11
美貴たんの身長は亜弥ちゃんと同じぐらいでは?
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 12:34
- >38
どうでもいいことを……。
とりあえずochi
- 40 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/12(土) 15:10
- 勝手にさげんな
- 41 名前:◆ZpT8ZEbM 投稿日:2005/02/15(火) 17:46
- おなじくどこまでも(ry
いやぁ…メガネといえばかしましのいめぇじしかないですw
亜弥ちゃんが頃されないよう願いますw
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/02/20(日) 22:59
- 今回も色々面白そうな設定ですねw
格好を想像しただけで噴出してしまいました。
続き楽しみにしてます。
- 43 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:10
-
◇
- 44 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:10
-
「それでぇ、またその先輩がぁ」
「赤眼鏡の?」
「そうです。うちはエアスクータでの登校は禁止なのに、たまに堂々と乗ってくるんですよぉ。
先生たちも諦めてるみたいで注意しないし」
「へぇ、困った子だね」
元気にしていたら、という言葉の通り、あれからハナカミンは時折亜弥の部屋を訪れるようになった。
大抵ひと仕事終えた後、マントをなびかせながらクシャミをしつつ
亜弥の部屋の窓を5回ノック。クシュン、ハ・ナ・カ・ミ・ン。
すると、待ってましたと言わんばかりの勢いでカーテンが開き、パジャマ姿の亜弥が現れる。
何度目かの訪問で、やってくる時間は早くても夜9時以降と察した亜弥は、いつナニがってもいいようにと
それまでに入浴を済ませ、毎日入念に磨いた身体で待っていたりなんかしちゃってるのだ。
しかし毎日来てくれるワケではない。
いつまで待ってもクシャミは聞こえず、ガックシと肩を落として
もらったティッシュを握りしめて眠る夜の方が多い。
- 45 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:10
- だから、来てくれた時の喜びといったらドエライもので、グワワッと込み上げる
涙を誤魔化すように白い肩に抱きつくと、柔らかい手はいつも優しく頭を撫でてくれた。
外から入ってきたハナカミンの体はいつも冷えていて、風呂上りのほてった亜弥には心地いい。
ああ、シアワセ。
「あたっ」
「大丈夫ですか?!」
「う、うん。ちょっとドジッちゃって」
あの再会の日から2ヶ月程経ったこの日も、ベッドにピッタシ並んで座って
仲良く話していると、ハナカミンが突然腰を押さえた。
亜弥の瞳が心配そうに揺れる。
「ドジって、転んだとか?」
「いや、強盗がね、1人かと思ったら2人組で。
油断してたら後ろから蹴られちゃってさあ。倍返ししてやったけど」
「後ろから?! ほ、骨折れてないですか?!」
「全然。平気だよ」
「でも痛むんですよね? 湿布とか貼った方がいいかも……ちょっと見せてください!」
「え? うえ? ひゃー」
- 46 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:11
- 毎日のようにハナカミンへのハンパない想いを嫌がる愛に語り聞かせている亜弥だけに
心配する気持ちもハンパない。
最近、元気を保つ為に鍛え始めた上腕二等筋に力を入れてハナカミンの身体をベッドに
うつ伏せに寝かせ、白いマントをペロンと捲る。さあ次はこのまたしても白い―――…って。
「えっと、これどうやって脱ぐんですか?」
「ぬっ、脱がせなくていいから!
ミンの家にも湿布あるし、後で貼っとくからいいよ!」
「……ほんとですか? 絶対ですよ? 体、大事にしてくださいね、約束」
「うん、うんうん。絶対、約束する」
なにげにマントの下は白い全身タイツと白いチョッキ(春秋限定)を着ているだけのハナカミン。
脱がせたいのは腰の部分だけだが、全身がタイツでタイツGA全身な以上
部分的に脱がすことなど無理だ。
自分が見られる心の準備はしてたけど………。
大好きなハナカミンの全てGAむき身の状態を拝む勇気は、まだ亜弥にはなかった。
- 47 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:12
- 絶対約束、と念を押して差し出した小指に、ハナカミンの小指が絡むのを見て
少し不満そうにしていた顔がパアッと明るくなる。
その輝きに、ティッシュに隠された頬が熱を持つ。
「あ、亜弥ちゃん、あのさ、ミン――――」
「はい?」
ワタワタと体を起こしたハナカミンが、きょとんと首を傾げる亜弥の両肩を掴ん―――
「…ぐっ、わかったよ! 今行くよ!」
「ふぇ…?」
―――だと思ったら、窓の方に向かって苛立たしげに声を出し、うな垂れる。
「………はあ」
「事件…ですか?」
「…うん、ごめん」
「謝ることないですよ。ちょっと淋しいけど、
ハナカミンさんはあたしだけのハナカミンさんじゃないですし。
こうやってお話できるだけでいいんです」
- 48 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:12
-
ほんとは、ちょっとじゃなくてすっごくすっごく淋しいけど。
でも我侭言って困らせて、嫌われたくない。
だから気にしないでくださいと、微笑んでみせる亜弥。
もしかして、ハナカミンさんも淋しいと思ってくれてるんですか?
そう考えてしまうくらい、名残惜しそうにゆっくりと亜弥の頭を撫でて
窓を開けるハナカミン。
「ミン、亜弥ちゃんと話すの楽しい。……だから、また来るね」
「はい! 待ってます!」
飛び立つ白いゆらめきを、精一杯の笑顔で見送る亜弥。
「亜弥ちゃん、また騒いどるん?」
「亜弥! 亜弥あ! 誰を待っとるんやあ!? ってまた鍵閉まっとるんかい!!」
「まあまあパパ、亜弥にも春が来たんよ」
「ねーねーママー、もうすぐ夏なのにまた春が来るのぉー?」
と、その家族。
- 49 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:13
-
◇◇◇
- 50 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:13
-
「なんかそれ、妹かペットみたいに思われとるんと違う?」
「そ、そんなこと…」
「抱きついても頭とか撫でてくれるだけなんやろ? よしよしって」
「よしよしとは言ってないよぉ」
今日も今日とて登校したと同時に愛をひっ捕まえた亜弥は、1限目の授業が行われる
生物室に移動しがてら、ハナカミンと過ごした素敵な夜のヒトトキを語り聞かせている。
「んだども、亜弥ちゃんって案外っていうかやっぱりっていうか
攻めるタイプなんやの。ベッドに押し倒して脱がそうとするなんて」
「ち、ちがうよ!
あれは怪我の具合を診ようとして…っ」
おおお押し倒すなんてっ、ちょっと寝転がってもらっただけだよ!
ハナカミンさんが帰った後、ちゃっかりその寝転がったあたりのシーツに
ぎゅうぎゅう顔を埋めて寝たりもしたけど! しばらくシーツは洗わないけど!!
「クシュンッ」
「藤本が手伝ってくれるなんてなあ……いまだに信じられんわ」
「教材運んでるだけじゃないですか。
いちいち感動しないでください」
「でもあの藤本やで、あの藤本がやで、あのあの藤本がやで」
「……うっさいなあ」
「「あ」」
- 51 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:13
- と、からかう愛と真っ赤な顔で噛み付く亜弥の視線の先に
細長い筒を抱えながら目元にハンカチをあてて涙ぐんでいる女教師と、
同じく筒を小脇に挟んで両手をブレザーのポケットにつっこみ
背中を丸めて歩いている赤眼鏡の姿が。
「赤メガネ先輩! せっかくいい事してるのに最後の一言はなんですか!」
「あああ亜弥ちゃん、また命知らずな…」
「ゲ。またあんたか」
入学に2日目に礼儀を叩き込まれて以来、廊下などですれ違う度に
亜弥に小言をもらっている赤眼鏡は、天敵の登場に顔をしかめる。
「『またあんた』ってのも失礼です!
確かにあたしは先輩より年下ですけど、可愛い後輩には優しく微笑みかけて
『やあ、また会ったね』って言わなきゃだめなんですよ!」
「可愛いって自分で言うなよ。
てか美貴のこと赤メガネって呼ぶあんたも充分失礼だし」
赤メガネ――どうやら藤本美貴というらしい――の言う事は最もである。
しかし、唯一の欠点が『人の話を聞かない』である亜弥には届くワケもなく。
- 52 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:14
- 「大体ですねぇ、先生の後ろ歩く時の態度もなってないです!
ちゃんと背筋伸ばして! ポケットから手も出してください!」
「や、やだよ。寒いじゃん」
「もう6月なのに何言ってるんですか!」
「美貴は基本的に1年中寒いんだよ!」
「ならあたしが温めてあげますから手ぇ出してください!」
「どうやって…っわあ!? だだだ抱きつくな!」
ほらほらこうすれば温かいでしょー? はいはい手ぇ出してぇーちゃんと気をつけしてぇー。
力強い、だけど優しさを知っている腕にグルンと巻きつかれて、あわあわと抵抗する藤本。
無数の遠巻きな視線を感じて、その顔は瞬時に赤く染まっていく。
「ほおー、藤本に堂々と噛み付く1年の松浦ってこの子やったんかー。
可愛い子やないの。ほな藤本、それ教室まで持ってきてなー」
「ちょっ、先生助けてよ!」
「違うでしょ、『助けてよ』じゃなくて『助けてください』。
ただしセカチューばりの切なさで叫ばなきゃだめです」
「だめなワケあるか!…っあたた」
「え…?」
- 53 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:14
- ほとんど同じくらいの身長らしく、抱き合うと目の前にあった
藤本の表情が突然苦痛に歪む。
慌てて亜弥が腕を解くと、藤本は亜弥に凭れたまま腰を押さえた。
その様子は、昨夜のハナカミンを思い出させる。
「先輩も腰痛めたんですか?」
「え?…あ、あ、寝違えたんだよ、今朝。
美貴もって、他に誰か腰痛の子いんの?」
「ふぇ? い、いるけど先輩には関係ないです!」
やだやだ、あたしったらハナカミンさんの心を傷つけた先輩でハナカミンさんを
思い出すなんて。おまけに腰を押さえる手の上に、優しく自分の手を重ねるなんて。
しかも寝違えたって…、世の平和の為に戦ってるハナカミンさんに比べて
この人は。ハナカミンさんを悪く言うクセに、腰痛とか、自分のこと
『美貴』って言うところとか、よくクシャミするところとか、
なんとなく声も、変に似ているところがあって腹が立つ。ああ腹が立つ。
「あっそ。じゃあ美貴もう行くから。
あんたも早くしないと遅れるよ」
「だからあんたじゃなくて!」
「…名前、なんていうの?」
「え? あ、亜弥、ですけど」
「ふぅん、聞いてなかったからさ。じゃあね、亜弥ちゃん」
- 54 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:15
-
言われてみれば、確かに名乗っていなかった。
そういえば、赤眼鏡のフルネームを知ったのもついさっきだし。
礼儀を叩き込んだのに、肝心の自己紹介を忘れるなんて。
…けど、散々隣にいた愛ちゃんが名前呼んでたのな。
あの人も人の話聞かないのかな。やっぱり失礼な人だ。ほんとに失礼。
―――なのに、どうしてだろう。
赤メガ…、もとい藤本先輩に、『亜弥ちゃん』って呼ばれた瞬間
ただ今健やかに成長中の胸が小さく跳ねたのは、どうしてだろう。
「って愛ちゃん、なんでそんな遠くにいるの?」
「安全な場所に避難したに決まっとるがし!
亜弥ちゃんみたいな爆心地の傍におったら間違いなく助からんでの!」
「…………ニャンダト」
「ひぃっ!? メガンテがくるやよぉ!」
「くるワケないでしょ! 人を爆弾岩扱いしないでよ!」
愛ちゃんも愛ちゃんで友だちのクセに限りなく止め処なく失礼なんだからっ!!
10メートル程離れた場所で太陽の冠を装備する愛に呆れた目を向けつつ
亜弥はそっと、左胸に手をあてた。
- 55 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:15
-
◇◇◇
- 56 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:15
-
「ねえ、今日ってなんかあったの?」
「ふぇ?」
「これ、ケーキってやつでしょ? それにあれ、赤丸ついてるし」
いつもと違ってベッドに凭れるようにカーペットの上に並んで座った途端、テーブルに
白い塊が乗った皿があるのを発見したハナカミンは、壁に掛けられたカレンダーを指差した。
「ケーキってやつって…」
「あ、アハハ、ミンの家貧乏だから、ケーキなんか食べさしてもらったことなくて。
今1人暮らしで、贅沢できる余裕ないし」
「そうなんですか……あ、あの、誕生日なんです、今日、あたしの」
「えぇ!? ほんとに?! なんで早く言ってくんないのさ!」
今日は6月25日、亜弥の16歳の誕生日。
急に教えられて、ケーキと一緒に出された紅茶を口を覆うティッシュをえんやこらと
ずらして飲んでいたハナカミンは、吹き出さんばかりの勢いで亜弥に掴みかかる。
ななななんでって、自分から言うのってなんか、プレゼント催促してるみたいだし、
パパたちや愛ちゃんに色々もらったから、もう別に欲しい物とかないけど
何かあげるって言われたら『ハナカミンさんが欲しい』って迷わず言っちゃう自信あるし…っ。
そんな事言っても、困らせるだけだし。
忙しくて、会えない日ばっかで、会えても時間短かったりして。
不満に思ってたりすることが、爆発しちゃいそうだったから。
『誕生日に会ってください』って言っちゃいそうだったから。
あなたを縛っちゃ、いけないのに。
- 57 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:16
- 「誕生日って生まれた日じゃん!
欲しい物もらえて、パーティして、好きな物食べて、ケーキに蝋燭立てて火ぃ吹き消す日じゃん!
ミンだってその日は親戚のオジサンにもらったレバ刺し家族みんなで切り分けて食べて
ケーキの写真に蝋燭ぶっ刺してもらってたよ!
そんな大事な日をなんで教えてくんなかったのさ!」
「ひゃあっ、零れちゃいますよぉ」
「ん? あ、ご、ごめん」
両肩をグワングワン揺らされている亜弥の手の中のマグカップからココアが
零れそうになっているのを見て、さらっと切ない家庭事情を暴露していた
ハナカミンは慌てて手を離す。が。
気付くと、思いのほか近くにあったお互いの顔に、お互い頬を赤く染めて。
1度目が合ってしまったら、なぜか逸らす事ができない。
大事な日。
この日がなかったら、あたしはこの世にいなくて、ハナカミンさんとも会えなくて。
でも、教えてなかったのに。最近、来てくれなかったのに。
今日という、この大事な日にハナカミンさんは会いに来てくれて。
それだけで嬉しい。それだけで、幸せ。
声は出さず微笑んで、亜弥はゆっくりハナカミンに寄りかかる。
すると肩を抱かれて、手触りのいいマントに包まれた。
- 58 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:16
-
きっ…来た! 来たのねとうとうこの日がっ!!!
バクバク高鳴る心臓を、パジャマの上からぎゅっと掴んで。
舞い降りる温もりを待ち受けるべく、そっと目を閉じる亜弥。
「亜弥ちゃん? 眠いの?」
「ふぇえ?」
んなっ!? ハナカミンさんって鈍感?!
それともやっぱりあたしって……、妹かペットなの? そんな、そんなあ。
「…っ、ふぇっ……ぅぇっ…くぅっ…」
「んぇ? な、な、なんで?! なんで泣くのさ亜弥ちゃん!」
「んっ…んぅ…ハナっ…カミさ…の、ばかぁ…っ」
「えええミン何かした?
した、んだよね、ミンしかいないもんね。
何したんだろ、わかんないんだけど。亜弥ちゃんごめんね、泣かないで」
何かしたっていうか、ナニもしてないから泣いてるんですぅ!
なんて、言える程大人ではない亜弥。
16になったのに、大人じゃないからだめなのかと思うと、どんどん悲しくなってきた。
初めて会った時のように、頭を撫でたり、背中をぽんぽん叩いたり、
ちぎったマントで涙を拭ってくれるハナカミンに黙ってしがみついて、ただ涙を流す。
- 59 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:17
- 「お願い、泣かないで。
ミン何でもするから、ね?」
「ふっ……くっ…、な、…なんでも…?」
「う、うん。お金のかかること以外なら、なんでも」
格好よく言ってみたものの、今も切ないハナカミン事情。
でも、そんな心配いらない。亜弥が欲しいのは、あなただから。
「じゃあ、このケーキ、一緒に食べてください。
今日、できるだけ長く、あたしと一緒にいてください」
「……そんなんでいいの?」
「…………そんなんが、いいんです」
あなたとこうして一緒に過ごす、時間だから。プライスレス。
先程、家族とパーティをした時、こそっと2人分のケーキを持ち出して食べるのを我慢した。
日付が変わってもハナカミンが現れなかったら、ヤケ食いして不貞寝しようと思ってた。
だけどこうして、マントに包まれながら食べることが出来て
初めて食べるケーキに、子供のようにはしゃぐ姿を傍で見ることが出来て
「ミンのイチゴ食べていいよ」って、食べさせてもらえたりなんかしちゃって。
いつ別れの時間がやって来るかわからないから、いっぱいいっぱい甘えて。
とっくに涙の乾いた瞳を、嬉しそうに細める。
- 60 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:18
-
「ほんとに、こんだけでいいの?
他になんか……宿題やって、とか。
ミン、国語以外ならなんとかなるよ」
「宿題は、自分でやらなきゃだめなんですよ?」
「あ、そ、そっか。
亜弥ちゃん偉いね」
「えへへ」
褒められちゃった。それにそれに、今日はいつもよりたくさん頭撫でてくれるし。
気持ちいいなぁ、もっともっと甘えたくなっちゃう。
もっともっと触れて欲しくなっちゃうよ。
「でもやっぱ、亜弥ちゃんの誕生日なのにケーキもらっちゃって。
なんか悪いよぉ」
「………じゃあ、ちょっと目ぇ瞑ってください」
「へ? こお?」
軽い子だと思われちゃうかな? でも、ちょっとくらいなら、いいよね。
何も考えずに素直に閉じてくれた目を確認してそぉぉぉ〜っと唇を近づける。
睫毛長いなぁ。そんなことを考えながら
フワッと柔らかいティッシュ越しに、触れた。
「…………あの」
「………………はい」
「……………………それ、鼻なんだけど」
- 61 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:18
-
わ、わかってますよぉ。
だってだって、いきなり唇にしたら怒るかなぁって。
しかもさっきからテッシュずらしてるから、そこはノーガードだし。
「怒んないよ」
「お、怒んなくてもっ……、は、恥ずかしいよ」
「じゃ、これでよくない?」
「え?」
俯いていた亜弥が、どこか拗ねた声に顔を上げると、目の前に長い睫毛。
驚く間もなく、あまりにも突然に、ティッシュ越しに重なっていた唇。
しかしそれは一瞬で、すぐに離れていくのを物足りない気持ちで見ていると
頬に手がかかってもう1度重なった。今度は、少し長く。
こ、これって……ここここれって………ききききききっ…………キス、してる?
ティッシュ越しだけど、確かに感じるカタチ。
これが何かぐらい、ちゃんとわかる。
目を閉じればもっと、もっと確かに感じられる、唇。
- 62 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:18
-
「やだった?」
「……ううん」
強く抱き寄せられて、けれどひどく優しい声が
元の位置に戻されたティッシュの向こうから届く。
「じゃ、じゃあ、もっかいだけ―――…うあ」
「うにゃ? どうし…」
苦い物を無理矢理飲まされたような呻きに、閉じ込められていたマントの中から
亜弥が顔を出すと、目を歪めて窓の方を気にしているハナカミン。
…………ここまで、ですね。
「うーっ、やだ。行きたくない」
「だめですよぉ。
困ってる人、いるんですから」
「だってやだよ。亜弥ちゃんは嫌じゃないの?」
「嫌に決まってるじゃないですか」
即答。しかも低い声で即答、しながらも、亜弥はハナカミンの腕からするりと抜け出して
立ち上がり、さあと窓を開ける。
- 63 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:18
- 「切り替え早いんだね…」
「無理、してるんです」
「うあーっ、だめ、そんな可愛いこと言っちゃだめ」
「ハナカミンさんこそ、そんな可愛く拗ねないでください」
「亜弥ちゃあん」
「だからだぁーめ」
意外と甘えたなんだから。
外に出たがらないハナカミンをよしよしと撫でる亜弥。いつもとは逆の光景。
「ぐっ…わかったよ、行くよ、行きゃいいんだろ。
覚悟しとけよこの野郎、今のミンは最高に機嫌が悪いからな」
どこの誰か知らないが、アーメン。
ようやく亜弥から離れたキレ気味の、いやすでにキレまくりのハナカミンは
ティッシュの越しでもわかるほどの怒りを目に宿して外に出る。
そしていつものように飛び立―――つかと思いきや、
「そうだ。絵里、さっきの1個出して」
内容は亜弥には聞き取れなかったが、何もない宙に向かって2、3言話し
くるりと亜弥に振り返った。
- 64 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:19
- 「これ、今日ここに来る前に助けたおじいちゃんがお礼にくれたんだ。
おじいちゃん、目が悪くて、ミンのことよく見えなかったみたいでさ。
2個もらったから1個亜弥ちゃんにあげるよ。
誕生日おめでとう」
「……いいんですか?」
さっきキス…してもらったのに。
目が悪かったからでも、ハナカミンさんにちゃんと感謝してくれたおじいちゃんがくれたものなのに。
それにこれ、ランランドットコムの『奇跡ぢゃ!』っていう香水。
ちょっと値段、高いやつなのに。
あたしにあげるくらいなら、それ系の場所で売って現金に代えたほうが。
そしたら、ちょっと贅沢する余裕できるかも…。
「せっかくの貰い物売り飛ばして贅沢なんかしたくないよ。
ケーキ、食べれたし。
いいんだって。亜弥ちゃんにあげたほうが、おじいちゃんも喜ぶ」
「じゃ、じゃあ……ありがとうございます」
確かに、くれるなら売り飛ばせという発言は品がなかったと反省した亜弥は
素直に香水を受け取る。その頭を撫でて今度こそ飛び立つハナカミン。
いつもの光景に戻った2人は手を振り合って別れる。
- 65 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:20
- 「あ、あのこれ! 2個ってことは、ハナカミンさんの分もあるんですよね?」
「うん、あるよ」
「あたしっ、これ毎日使います!
だからハナカミンさんも、これつけてあたしのこと思い出してください!」
「わかった。じゃあね!」
「はい、気をつけてください!」
遠ざかっていく背中を眺めながら、さっそく香水の蓋を開けて吹きかけてみると
亜弥好みの、甘くて可愛らしい匂いが辺りを漂った。
ハナカミンが見えなくなるとすぐに香水を抱きしめてベッドに潜り込む亜弥。
「亜弥ちゃん、今日はまた大騒ぎやん」
「亜弥あ! お前誰に思い出されとんねん! 誰のメモリーやねん!
16になったゆーてもお前はまだ子供やぞ! 聞いとるんかぁ!」
「まあまあパパ、16いうたらあたしも1歩足を踏み入れた年やったで」
「えーママー、どこに踏み入れたのー?」
「こ、子供は聞いたらアカン! ママぁ! 激しく詳細キボン!!!」
と、今日も明るいその家族。
- 66 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:20
-
◇◇◇
- 67 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:20
-
「うぇえええ!? そそそそれって、両想いなんやないの?!」
「んー? んふふ、やっぱそう思う?
時間なかったからちゃんと話せなかったけど
次会う時は絶対そういう関係に固まると思うんだぁ」
珍しく登校途中に会った愛に、昨夜のご報告。
まだまだ友だち以上どころか、友だちになりかけみたいな関係だったのにグワッと。
一気に恋人になっちゃう日はそう遠くないね!とトロケそうな笑顔で
宣言する亜弥の体からは、ばっちりと『奇跡ぢゃ!』の香り。
「ふんふん、ええ匂いやの。あーしも欲しいわ」
「だーめ! これはあたしとハナカミンさんだけの匂いなの!
愛ちゃんはソースでも塗っとけばいいでしょ」
「ひどっ、あんなん塗ったら体ベトベトになるやないの!」
「ウスターなら大丈夫じゃない?」
「ああそうかも…って騙されんがし!!」
「にゃはは」
ちょっと言ってみただけなのに、カツでもないのにソースをかけられそうになった愛は
頬を膨らませるが、内心では、亜弥に訪れた春に心底喜んでいた。
- 68 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:21
-
「んあー、ミキティもスキップしよーよ」
「やだよ」
「つれないなぁ……あれ?
なんかいい匂いすんね。香水変えた?」
「うん。前の割れちゃって」
と、後ろから聞き覚えのある声が。
振り返らなくても誰かわかってしまった愛は、隣にいる亜弥の袖を掴み、
さっさと教室に連れて行こうと………
「あれ? 亜弥ちゃん?」
したが、なぜか隣に肝心の亜弥がいない。
まさか………恐る恐る後ろ見た愛の視界に、飛び込んできたのは――
「藤本先輩!!!なんで先輩がその香水つけてるんですかあ!!!!!」
「ハァ!? なにいきなり…っ。
香水ぐらい何つけたって美貴の自由じゃん!」
「その香水に関してだけは自由じゃないんですっ!!!
しかも今日から変えただなんて…っ、今すぐ前のに付け替えてください!」
「だから割れたんだってば!」
――爆心地・AYA。
鞄から取り出した太陽の冠を装備して、愛はすごすごとその場を去る。
- 69 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:22
-
「なら無臭でいいですっ!!!!」
「なんでだよ! ワケわかんない!!」
「んあ? この子からも同じ匂いすんね〜」
「そういうことです! あたしが洗い流してあげますから、お風呂行きますよ先輩!!」
「1人で行きなよ!
美貴と同じなのが嫌ならあんたが落としてくりゃいいじゃん!!!」
「またあんたって言ったあー!!!!!」
「だああ! 離せええ!」
「あっは、行ってらっしゃーい」
離しません。そりゃあ、ポピュラな香水だから
他の人がつけてても仕方ないけど、それはわかってるけど。
せめて今日、1日だけでも、ハナカミンさんと2人っきりの香りであって欲しかったのに。
よりにもよって先輩が邪魔するなんて!
この日、授業を2限サボッて学校近くの商店街にある銭湯に藤本を引きずり込み、
無理矢理身体を洗い流すついでに自分の身体まで洗い流してしまった亜弥は、
16歳2日目にして商店街中に知られる存在となった。
- 70 名前:進展。 投稿日:2005/02/28(月) 23:23
-
- 71 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/02/28(月) 23:25
-
美貴さんの誕生日にあえて。あえて、という試み。
川V-V)<てゆーか過ぎてるし。
(;´Д`)ミキサマミキサマオシオキキボンヌ
またしてもしょーもない駄文に、レスありがとうございます。
>>32ピアス様
ありがとうございます。
大した話にはならないと思われますが、呆れないでやってください。
>>33名無し飼育さん様
ふふっ、どこまでも連れてっちゃいますよ?(・∀・)
相変わらず始めっから阿呆で、きっと最後まで阿呆です。
>>34名無飼育さん様
しゅ、主要人物とは誰のことやら(w
ワクワクを私のアホアホがぶち壊してしまっても、どうか
ガッツポーズで握った拳をボディに打ち込まないでくださいね。
>>35名無飼育さん様
結構前から考えていたネタで、ボツにしようと思っていたのに
晒してしまいました。私のお腹まわりはタルタルなんですけど(悲
(vV从从<それはただの食い過ぎだ。
- 72 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/02/28(月) 23:26
- >>36名無飼育さん様
は、腹がよじれっ!? 衛生兵!衛生兵ぇー!!
( `◇´)<呼んだか?
(;‘д‘)<まさか…衛生兵やで。平家とかけたとしても“け”がな…
(TдT*)<ゴルァ!誰の毛がないんじゃあ!!!
>>37名無飼育さん様
へい、懲りずに現れてしまいました。
今後ともよろしくです。
ハナカミン、ちょっとどころかすごくダサいんですけどね(w
>>38名無飼育さん様
从*・ 。.・从<実はあそこは、入学式だから松高コンビはパイプ椅子に座ってて
その後ろに藤本さんが立ってたってゆーとこだったのに
阿呆が描写し忘れてたの。本当に申し訳ないの。
从 `,_っ´)<まったく、困った阿呆たい。
ノノ*^ー^)<ごめんなさいです。
>>39名無飼育さん様
お気遣いありがとうございます。
今回はochiスレというワケではありませんので。
>>40名無飼育さん様
お気遣いありがとうございます。
マターリ、マターリ。
>>41◆ZpT8ZEbM様
へい、まさしくメガネはあんな感じです。
ちゃんとハナカミンが守りますので、どうぞご安心をw
>>42名無飼育さん様
格好を想像…ちょっぴりエロいことになって…ませんよね(w
あくまで白く、あくまでダサい格好でごめんねハナカミン。
- 73 名前:◆ZpT8ZEbM 投稿日:2005/03/01(火) 02:52
- 風呂はいってふと見たら…更新ファブリ━━━.゚+.(・∀・)゚+.゚━━━ズ!!(違)
なんでだろぅ。
全身シロタイツなんですよね?ティッシュなんですよね?何ですかこの胸の高鳴りは!!
妖精のホルンはどこで吹くんですか!!(すすめない)
広島近県のソースの基本はおたふくだと主張しつつとりあえず寝て待ちます………
- 74 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 15:14
- ドラクエネタワロス。
次回の更新が今から待ちきれないです。
因みにごまヲタの私としてはスキップしたがるごっちんに萌えです。
- 75 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/01(火) 19:05
- 生まれてはじめてのケーキ…・゚・(ノД`)・゚・
涙が止まりません…
せつない家庭事情、来週も期待しております。
- 76 名前:75 投稿日:2005/03/01(火) 23:08
- すいません、次回もって書こうとしたら来週もって書いてしまいました…
ミンサマミンサマオシオキキボンヌ
- 77 名前:名無し読者 投稿日:2005/03/03(木) 15:53
- 相変わらずおもしろいなぁ
- 78 名前:名も無き読者 投稿日:2005/03/03(木) 22:34
- 新作おめでとうございます、と今更言ってみるテスト。
更新お疲れサマです。
相変わらず無闇に素敵なお話で♪
もうずっと好きでいいですか?
たとえ嫌だと言われてもついて行きますが。(ぉ
とゆーわけで続きも楽しみにしてます。
- 79 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/03/25(金) 19:01
- お待ちしております・・・
- 80 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:19
-
◇◇◇
- 81 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:19
-
「ぷはっ、………………長い」
無限の宇宙の片隅にある、色々と都合のいい惑星・都球になんとなくマンパワーな生き物が
暮らし始めていつの間にか千年とかでもまだ二千年は経ってないよね、という微妙な時期に
とある北国の真ん中らへんの病院で、とてつもなく可愛い、いや美しい、むしろ神々しい、
大きな瞳の奥に鋭い何かを秘めた赤ん坊が、 ア カ ン ボ ウ が―――
「………ックシュン。
ちょっと、いくら可愛いからっていつまでも黙って見てないで体拭いてよ」
産声を、上げるはずだったのだが。
「いやああああ!? 先生ぇ! なんなんですかこの子はぁああ!!!?」
「ふっ、藤本さん! どうか落ち着いて!」
「お気を確かに! ヒッヒッフーですよ! ヒッヒッフー!」
「いやいや、もう産んだ後じゃん」
生まれたての赤ん坊は、取り乱すママンたちを冷めた目で見つめ、時間が巻き戻ってしまったかの
ようにラマーズなナースに的確なツッコミを入れた。
- 82 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:20
- 「てかさあ、やっと出てきた娘に労いの言葉とかないワケ?
逆子だったのを超必死でデングリ返ってちゃんと頭から出てきたってのにさあ」
「……確かに一昨日まで逆子だったが……」
「……産まれたばっかりなのに、なんで『逆子』って言葉を知って……」
近くに置いてあったタオルを手に取り、まだまだ開ききらない小さな手で体を拭く赤ん坊の言葉に
青ざめるドクター&ナース(密かにデキている)。
それなりに仕事の経験は豊富な2人でも、こんな赤ん坊を取り上げたのは初めてだった。
「いやああああ!! なぜ?! なぜなの?!
私は元気で可愛くて何モノにも染まってない純白の赤ちゃんを産んだはずなのに!
なんで毛は薄いのに濃すぎるキャラが既に出来上がってんのよお!!!」
「ぬっ! 薄いだと?!
クリリンのことか……クリリンのことか―――っ!!!!!」
「だからなんでよおっ!! なんであんたクリリンのこと知ってんのよ!!
色んな意味でおかしすぎるじゃないのっ!!!」
さっきから少々小生意気な態度だが、半狂乱になって叫ぶママンにお約束のネタを披露するあたり
なかなか出来る赤ん坊のようだ。ドクター&ナースは密かに感心した。
- 83 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:21
-
「…っはあ。お父さん、あんた見たら泣いちゃうかも」
「大丈夫、慣れてるでしょ。私はたぶん3人目だと思うから」
「いやああああ!? クリリンだけでなく綾波まで…っ、てゆーかたぶんもクソも3人目だけど
なんでわかんのよ! 上の2人はあんたみたいなニュータイプじゃなかったっつーのよ!!!」
「んだよ、さっきから文句ばっかり。普通の子みたいに泣けば満足なワケ?
ならお望み通り、オギャア」
やっとその姿に相応しい言葉が聞けたものの、演技は苦手なのかワザとなのか、オギャアは棒読みだった。
こいつめ……、ママンの眉間に深い皺が刻まれる。
「もういいわ。あんた、そうね、見た目はまあ美人になりそうだけど
騙されるな、気をつけろって事で『美気』でいいかしら、いいわよね。
お父さんいないけど勝手に決めるわ。あんたの名前は美気よ、美気でいいわよ」
「ちょっと、なにその投げやりな決め方。
ミキってのはいいけどさあ、どうせなら美気じゃなくて美貴にしてよ。
そっちのがしっくりくるし」
「嫌よ! 美しいってことよりもむしろ『気をつけろ』って事が大事なメッセージなんだから!
なんなら美危にしてもいいのよ!!!」
「やあーだあっ! 美貴がいいっ!!」
「うっさいわね!! 名前っつーもんは親が決めるもんなのよ!
子供が口を挟むんじゃないの!………ってあら? あんた何持って……」
- 84 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:21
- 末っ子だかなんだか知らないが、生意気だか焼き意気だか構わないが、美気とか美危なんて
冗談じゃない!!…と、激しい抵抗を示す赤ん坊の手に、なにやら赤黒い物体が。
なによなんなのよ気持ち悪いと顔を歪めるママ―――
「ん? あーこれ。中でお腹空いちゃってさあ、美味しそうだったから持ってきちゃった。
お 母 さ ん の レ バ ー 」
「いやあああああああああああああ―――――っ!!!!!」
「なぐはぁっ!? 君っ! すぐに外科の稲葉先生に連絡してっ!!」
「ハハハハイッ!」
「美気ちゃん! いい子だからすぐにそれを返しなさい!!」
「んー。美貴にしてくれるなら返したげてもいーよ」
「わかった! お母さんは私が説得するから!」
この後、無事マイレバーを取り戻して生還したママンと、めでたく美貴と名づけられた赤ん坊が
再会を果たしたのは、2ヶ月先のことだったそうな。
- 85 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:21
-
◇◇◇
- 86 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:22
-
「ってワケ。ちゃんちゃん」
「へぇ〜。美貴ちゃんって生まれた時から美貴ちゃんだったんだね」
「その後も幼稚園の鬼ごっこ大会では『鬼殺しの美鬼』と恐れられ、
小学校のドッジボール大会では『斜め投げのミキティ』と恐れられ…」
中学校のポカポカクイズ大会ではジャイアンを殴り返すも、ドラえ○んのクイズマッスィーンの
落雷をまともに喰らって全治1週間の大怪我を……
「ってアホかあ!? 斜め投げだけは本当だけど軽々しく末恐ろしい作り話すんな!!
いくらレバ刺し好きだからって生まれて早々殺人未遂犯す赤ん坊がどこにいんだ!!!
てか梨華ちゃんも信じんなよ!!!」
世間知らずのお嬢様だとか幸薄い割烹着姿が似合おうがなんだろうが
本当は芯が太くて真面目だけどズボラで慎ましいなんて夢のまた夢なのはわかってんだ!
今更人の話をすぐ信じるキャラ演じてんじゃねえ!!!
「きゃあっ!? だ、だってぇ、真希ちゃんが真剣に話すからあ」
「真剣に嘘つく奴だっていんだよ!!
むしろ嘘つく時はみんな真剣じゃん!」
「んあ、フザケて嘘なんかついちゃいけないよね」
「お前が言うな!!!」
- 87 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:22
-
ここは都球のとある国の適当県適宜市にある、ハロモニ高校・スキップ同好会の部室。
メンバーは1年生にして会長の早乙女真希ちゃんと、副会長であり美貴と
同じクラスの石川梨華ちゃんの2人だけ。
にも関わらず、美貴のアパートより断然広い部室には、なぜかフカフカの
ベッドやソファまであって寝心地がいいので、美貴はメンバーじゃないけど
バイトまでの時間潰しによくここを利用してる。
「んあ、梨華ちゃんスキップしよ!」
「うん! スキップスキップ楽しいな♪」
「「スキップスキップ楽しいな♪♪」」
…………うるさいから、あんま寝れないけど。
けど、今日はバイトがないのにここに来てしまっているあたり
美貴はここが好きっていうか2人と過ごすのは楽しいと思ってる。
うるさいのにも慣れてきたし、2人のいつもより高い、梨華ちゃんに至っては甲高い声や
軽快な足音も、思い込めば子守唄にならないこともないし…………zzz…………。
- 88 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:23
-
「スヤスヤ」
「んあ、ミキティ起きて〜」
「だめよ真希ちゃん、耳元に吐息を吹きかけながら起こさなきゃ」
「んあ〜、恥ずかしいよぉ」
「じゃあ私がやってあげ…」
「だああ!? 起きたし起きたし起きたし!!!」
だからやめてえ! 真希ちゃんも恥らってないでこのフゥとかヒュウって
冷たい空気を吹きかけてくる女を止めんかっ!
「あはっ、ミキティ喜んでる」
「どこが!!」
「うふふ。顔、笑ってるじゃない」
「くすぐったいんだよバカ!!!」
証拠に目は笑ってないでしょーが!…と、抵抗すること10分。
ふと見ると時刻は5時になってた。1時間も寝たんだ。
外も暗くなってるし、起き上がって制服の皺をたたき額に滲む汗を拭って部室を出る。
「んあ、どっか寄る?」
「ごめん、私これから家族と外食なの」
「そっか、毎月恒例だもんねぇ」
「美貴お金ない」
「……今日食べるもんあるの?」
「あるよ。パンの耳にケチャップとマヨネーズ塗ったやつ」
「( T Д T)」
「( T▽T)」
泣くなよ。
- 89 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:23
- 「ね、ねえミキティ、真希とご飯行こ。奢るから」
「だめだめ、真希ちゃん後輩でしょ」
「いいって。こないだ3つ数字選ぶやつ当たったから」
「そのお金、人気ブランド・ビビビッdの7万もする財布買うのに使ってたじゃん」
「でもまだ残ってるし」
「後輩に奢られるのが嫌なら私と一緒にレストラン行こ?」
「家族団欒の邪魔しちゃ悪いし、ケチャマヨスティック美味しいんだよ?
マジ下手なピザより美味しいよ? ライターでちょっとあぶるのがポイントでね」
「( T Д T)」
「( T▽T)」
だから泣くなよ。
「せめて、せめてトースターでチンしてよ」
「ないんだもん」
「( T Д T)」
「( T▽T)」
川つvT从
「じゃあ、また明日ねー」
「バイバイ」
「んあー」
- 90 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:24
-
駅前で梨華ちゃんと別れ、2駅分徒歩で帰る美貴は、電車に乗る真希ちゃんとも
別れるはずなんだけど……
「たまには歩くのもいいっしょ」
「いいけど、スキップはやめてね」
「あはっ、言われるとしたくなってきちゃったあ♪」
「だああ!? やめてってば!」
気を遣ってくれたのか、ふんにゃり笑って美貴の隣を歩く真希ちゃんは
美貴の余計な忠告のせいで足が軽く跳ね始める。
「我慢してよ。高校生にもなって公衆の面前でスキップとかマジありえないから」
「う、うん」
「ん?」
ピタッ
ノノハヽヽ ノソハヽヽ ん?
( ;´ Д `) (VvV从
と ∽@つ O|| ∽ ||つ
(_ノ__ノ (_)__)
- 91 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:24
- 「今ちょっとしたでしょ?」
「ん、んあぁ、シシシしてないよぉ」
否定してるけど、その最中も真希ちゃんの体は正直にリズムを刻み出してる。
しょうがないなあ、涙目になってるし、可哀想だからちょっとだけ許してあげるか。
「30秒ね」
「やあああったあああ!!!!
スキップスキップ楽しいな♪ イェイ! スキップスキップ楽しいなあー♪」
「アハハッ、可愛いねえ」
嬉しそうにはしゃいじゃって、子供みたい。
黙ってると色気あって美貴より年上に見えたりすんのにねえ。
「スキップスキップー♪」
「グォォォォオ」
「…ん?」
それにしてもあんだけ足上げてよく下着見えないなあと感心していると
後方からけたたましい音が聞こえて、振り返ると、バカでかいトラックが
物凄いスピードで走ってきた。
- 92 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:24
-
それだけなら、うるさいで済む話なんだけど。
あれ? 美貴の目がおかしいのかな? 嫌なものが見えるんだけど。
スキップに夢中になるあまり、車道に飛び出しちゃってる真希ちゃんが見えるんだけど。
このままだと間違いなく轢かれんだけど。轢かれ……
「だあああっ!? バカッ!!!!!」
「んあ? ひゃあ!?」
ドーン。
咄嗟に駆け出した美貴は、迫るトラックの前に飛び出し
真希ちゃんを思いっきり歩道に突き飛ばしたところで大きな衝撃を受け、宙を舞った。
ドンドンドーン、事故デース、ドドン…って保田 対 サーカスのネタやってる場合じゃなくて。
やばいかも。痛みは感じない、けど。
空があまりにも近いから、このまま飛んで逝けちゃうかも。
あの空の、彼方に。
- 93 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:25
-
◇◇◇
- 94 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:26
-
「こん人、ちょっと華奢すぎやない?
こげん細か腕、力もなさそーやし」
「運動神経はいいって書いてあるよ。力も、平均より少し上だって」
「ふーん。
精神面もクリアしとーと?」
「じゃなきゃ神様も連れてこないよぉ。でも少し食生活が悪いみたい。
『短所:時々、空腹のイライラを教師にぶつけてしまう。
先日は昼休みにシラス3匹を食べた後、校長室に押しかけて幕の内弁当を食べていた校長先生の
顔面いっぱいに油性ペンで“肉畜生”、止めに来た女教師の両頬に“肉不幸”と…』」
「……意味がわからんっちゃ」
「半目が直らないの」
「うぉっ!? サササさゆ、いつの間におったと?! てか何しとるん?」
「この人、可愛いの。好敵手現る、なの。
なのに寝顔は白目剥いてて可愛さが台無しなの」
「…そやね、ちょっと怖かね。
ばってん、あんまり触っちゃいけんよ」
「ねーねーれーなぁ。寝顔だからよくわかんないけど、この人大天使様に似てない?」
「あー、言われて見れば。
まさか神様しゃん……それでこん人のこつ……」
「その可能性、大なの」
- 95 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:26
-
「そっかあ。じゃあ優しいかな?
絵里といっぱい遊んでくれるかなあ?」
「何言っとう。
こん人はれーなたちの後輩たい。
今まで1番下っ端でみんなにコキ使われて毎日毎日ヘトヘトなれいなたちに
やっと出来た後輩たい。遊んどる場合やなか。
社会のルールばビシバシ厳しく教えて迅速に仕事ば憶えさせ、
次の新人しゃんが入ってくるその日まで、いやむしろその後も………
____
/ ̄ ̄ \
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___ |
/ |/| ! __
/ ̄ \ ! |/ \
/! ̄ ,,;i!\ / ! / \
| "ゝ○|! / |/| / ̄\ _ |
i '''' __! / \| \| 从从从从从从从从从从从从从从从从
l /\ ノ ,,,_ |/ 从 从
! \ ,○ \' 从 コキコキのコキコキに 从
i 丶__/ '''  ̄ ふは 从 コキ使いまくってやるっチャア!! 从
\ / ふはははははは 从 从
 ̄ ̄ ̄ i, __ 从从从从从从从从从从从从从从从从从
,/_j`! `,. //⌒)
/ | `! / 'ー / ,r‐、
i´ / |/ ./ / l | ノハヾノノハヾヽ
| | / / / ー| (^ー^;(・ 。.・*从 おおー
ノ ! / / ノ .| (つと ( ∪)
- 96 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:27
-
「れ、れいなが、れいなが燃えてる…」
「熱い心意気、激しく伝わってくるの」
「フハハハハアッ!! いつまでもれーなたちが下っ端やと思っとったら大間違いばい!!!」
「ふぁああ。
…誰が誰をコキ使うって?」
「「「え?」」」
「クシュンッ。あーっ、ティッシュくれない? 鼻かみたいんだけど」
「あん? 先輩に挨拶もせず生意気な物言いするとはどういうこつや?!
何事も最初が肝心やけん! 遠慮なくヤッチまってくれるばい!!
あんたの弱点は…ネギ! くらえ! ネギマボーガン!」
「ぎゃあああっ!?」
三三三―{}@{}@{}-
三三三―{}@{}@{}-
_ ∩
⊂/ ノ ) 三三三―{}@{}@{}-
/ /ノノノ 三三三―{}@{}@{}-
し'⌒∪
「ちぃっ、確かに身体能力は高いようやね」
「いきなり何すんだよバカッ!!
人に向かって物投げちゃいけないって教わらなかったのか!」
「斜め投げのミキティに言われたくなか!!」
「あれはスポーツでしょーが!!
ってだからなんで美貴に詳しいんだよ!」
「だから 先 輩 やって言っとーと!!!」
「意味わかんないよ! そっちがその気なら、子供だからって容赦しないから!!」
「望むところたい!!!」
- 97 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:29
-
┌──────────────────────―─┐
│ |
│ |
│ |
│ |
│ 〃_,从,_ヾヽ .|
│ 川VvV从0―{}@{}@{}-.. |
│ (0―{}@{}@{}-. |
│ (_ノ(⌒) |
│ |
│ Now Negiting. |
│ |
│ |
│ しばらくネギティでお待ちください.... |
│ |
│ |
└───────────────────────―┘
- 98 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:30
-
〜10分後。
「か、肩揉みますとよ」
「あんがと」
「は、針刺します」
「えっ? それはやめて」
「あ、あ、ゴゴゴごめんなさい許してください針なんかポキポキに折って捨てますから!!」
「…別にそこまでしなくても」
いいんだけど、怖がられちゃったかな。
涙目で針を粉々にしてる――絵里ちゃんには何にもしてないんだけど、
寝起きを突然襲われたとはいえ、今は肩を揉んでくれてる――れいなを、思いっきり
シメちゃった後だし。
「でさあ、ここがどこかとか、訊いていい?
さっきからワケわかんないんだけど」
「も、もちろんです。絵里が説明するけん」
よかった。やっと訊けるんだ。時間が経つにつれて思い出した事故のこと。
真希ちゃん突き飛ばしちゃったけど、大丈夫だったかな?
怪我してなきゃいいけど。
- 99 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:31
-
「その前に質問なの。事故のことは憶えてますか?」
「うん。ここ病院じゃないよね、美貴は死んだの?」
「死ぬ予定だったの」
「へ? じゃあ生きてるんだ?」
けど、死ぬ予定?
「ここは、天国と地獄の前にある雲の島です。
亡くなった人が旅立つ前に世界を見下ろす場所です。
藤本さんは本日午後5時47分、最初の予定では駅前で友人と別れた後
ひったくりにナイフで刺され出血多量で亡くなるはずでしたが、
神様がひったくってもお金なんか入ってないし、なにより藤本さんに痛い思いをして
欲しくないと申されて、ヨンティトラックに撥ねられて即死というものに変わったんです」
「ヨンティ?」
「絵里…それはヨンティやなくて4dっちゃ」
「え、あっ…」
「悔しいけど可愛いミステイクなの」
可愛いっていうよりありえない…はいいとして、神様が何て言ったって?
どうせお金は17円しか入ってないけど!
「あのトラックは元々、2`先でおじいちゃんを轢いてしまう予定で
おじいちゃんは心臓病を患っていたので、そちらが原因で眠るように亡くなって
頂く代わりに、藤本さんが事故に遭いました。
最小限に抑えたとはいえ、遺体に傷が残ってしまうことを
神様は悔いておられましたが、あの時間、他の死因は起こり得なかったんです。
藤本さんは空腹でも、体は健康でしたから」
- 100 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:31
- はあ、そりゃそうだろう。
でもなんで、なんで神様は、美貴の事そんな気にかけてくれんの?
「好きなんですよ。も、もちろん友達としてですけど。
藤本さんのこと」
「友達?……あ、待った、ひったくりはどうなったワケ?
美貴の代わりに誰かを…その…」
「いえ、それは大丈夫です。
ひったくりはあまり裕福ではない家庭の女の子で
3つ子の弟たちにパンを買ってあげる為にお姉ちゃんが思いつめて…という事情で。
『そんなバカやっちゃだめっしょ』って昨夜大天使様が夢枕に立って改心させたんです」
大天使様、か。
てことは3人はもしかして天使?
「まだ天使見習いなの」
「へぇ。えっとじゃあ、つまり美貴は死ぬ予定で、なんでか知んないけど
美貴にフレンドリーな好意を抱いてる神様が色々手を打ってくれたのに
生きてて………って、だったら、なんでここにいんの?」
ここはあの世の前なんでしょ。
あの世に行かない美貴がなんで来ちゃってんのさ?
- 101 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:31
- 「藤本さんみたいなケースは初めてではありません。
私たちにとっては初めてですけど。
極々珍しい、本当に稀な事なんです。
いいですか。簡単な事ではありませんが、神様は代替の有効な範囲ならば死因を変更する事は可能です。
しかし、死ぬ予定を覆すことだけはできないんです。
命が終わる日は、たった1日しかないんです」
今日死ぬと決まったら、今日死ぬしかない。
明日じゃだめで、昨日でもだめで、今日しかありえない。
運命ってやつか。
なんかやだなあ、決まっちゃってるなんて。
「…あ、じゃあ、美貴ってこれから死ぬの?
今日中に、ここで死んどかなきゃいけないワケ?」
ハッ、そっか、れいなが襲ってきたのはそういう理由だったか。
「ち、違いますとよぉ!
れいなたちは見習いとはいえ天使やし、神様も人を殺すなんて
そんな事したら失職たい!!」
「そなの? ごめんごめん」
でも、ネギマボーガンは充分殺傷能力あったと思うけど。
- 102 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:32
- 「な、なにはともあれ、藤本さんは死ななかった。
神様でさえ覆せない事を覆したんです。
普通あんなスピードのヨンティ…じゃなくて4dトラックに轢かれたら
確実に死にます。なのに死ななかった。それどころか背中の打撲と軽い擦り傷だけで
助かっちゃったんです」
「…………」
絵里ちゃんの言葉に、れいなとさゆが妖怪を見る目を美貴に向ける。
な、なによ、美貴だってビックリだよ、死んだと思ったよ!!
「それで、ここからが大事なんですけど。
死ぬ予定を覆した人間――つまり神様が不可能な事をやり遂げた人間には
ある使命を背負って頂く事に……」
「んあ、そこから先はごとーが話すよ」
「…え?」
そ、その声……ま、真希ちゃん?
「かっ、神様!」
「ハ?」
「ここここりゃ藤本しゃん!
神様しゃんの前で頭が高いばい!!」
「あ、神様〜、昨日のチョコレート美味しかったですぅ」
「んあ、また作ったげるねぇ」
「…ってあんた…」
- 103 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:33
-
◎―◎
/ \
◎ A A ◎
| @.@.@.@ | ンア、カミサマダポ
◎( ´ Д `) ◎
\ ノ(ノ ) /
(⌒⌒⌒⌒)
〜〜〜〜
「何が神様だっ!!!
雷様じゃんか!!!!!!!」
「ひゃあっ!? 藤本しゃん、神様に向かってなんて失礼なこつ言うんねっ!?
雷様だって立派な雷の神様やなかかっ!!!」
「神様を侮辱する人は絵里の敵ですぅ!」
「さゆだって許さないの」
えぇえ!? だって、だってだって!
真希ちゃんだし雷様だし後輩だし真希ちゃんだし!!!
美貴が事故に遭った時だって一緒にいて、
いやそもそも、真希ちゃんを助けて美貴は事故に遭ったような………
「んあ、その節はありがとね。
でもごとーが飛び出さなかったら
通りの向こうを歩いてた男の子が飛び出す事になっててね。
小さいこじゃあ、ミキティに突き飛ばされた時、上手く受身とれないでしょ?」
ああ、そう、てことは、あんたは、やっぱり真希ちゃんで、でも、なんで、神様なのよ?
- 104 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:33
-
「あはっ。これはそのお、家業、みたいな?
ほら、前、うち自営業だって話したじゃん」
「自営業…なの…?」
「あ、名前ね、早乙女って偽名なんだ。本当はゴッドだからゴトウ、後藤真希。
改めてよろしく、ミキティ」
「……ゴッドなら、ゴドウじゃないの」
「やん、そこはつっこまないで♪」
「…………」
何が楽しいのか、雷様スタイルの神様な真希ちゃんは
スキップもしてないのに語尾を跳ね上げる。
けど次の瞬間、呆気にとられる美貴の手を取って強く握り締めると
急にハイだった声を低め、ふにゃふにゃした口調を引き締めて、言った。
「そういうワケでさ。ミキティ、正義の味方になってくんない?」
「ハア?」
- 105 名前:唐突。 投稿日:2005/03/25(金) 20:33
-
- 106 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/03/25(金) 20:34
-
間が空いて申し訳ございません。
レス、ありがとうございます。
>>73◆ZpT8ZEbM様
(VvV*从<中身がよけりゃ、衣装なんか関係ないんだよ。
その胸の高鳴りは、動悸だと思います。
>>74名無飼育さん様
ドラクエネタ、狙ったのでウケてよかったです(w
お待たせして申し訳。ごっちんいっぱいなんでどうかお許しを。
ヾ( *´ Д `)ノ<一緒にスキップしよー♪
>>75>>76名無飼育さん様
川 *Vv)<美味しかったのだ。だから泣かないで。
今回も切ない事情が暴露されました。・゜・(ノД`)・゜・
頑張って来週に間に合わせようかと思いましたが、全然駄目でした(爆
(VvV*从<していいの? しちゃうよ? ウルァ!!!
- 107 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/03/25(金) 20:35
- >>77名無し読者様
ありがとうございます。
これからもそう言っていただけるよう頑張ります。
>>78名も無き読者様
いらっしゃいませ(w
おお、告白されてる(ぇ
ではでは無闇にハイなテンションで暴走しますんで
しっかり掴まっててください。
>>79名無し飼育さん様
お待たせしました。遅くなって申し訳。
- 108 名前:75 投稿日:2005/03/26(土) 01:16
- 更新キタ━━━(゚∀゚)━━━!!
オシオキ ハァ━━━━━ ;´Д` ━━━━━ン!!!!
ママンのレバーまで狙うなんて…貧乏か、全部貧乏が悪いのか…
いやぁ最高おもしろかったですw次回も期待大!
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/26(土) 07:52
- トースターも無いお家に住んでらっしゃるのね…
泣きべそながら今回も面白かったです
次回も待たせて頂きますね
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/26(土) 10:46
- むむむ
ビミョーな訛りの大天使様はもしかして…
- 111 名前:◆ZpT8ZEbM 投稿日:2005/03/27(日) 09:38
- 更新乙です。
アニヲタですかそうですか。
いやぁ今回は懐かしネタで楽しませて頂きました。
続きマターリお待ちしてます。
セーラームーン(再)をレンタルしながら待ってます
- 112 名前:名も無き読者 投稿日:2005/03/28(月) 21:58
- 更新お疲れサマです。
あー笑った。笑った。(爆
リズムと言い流れと言い、ホント巧すぎです♪
振り落とされないようしっかと続きも楽しみにしてます。
- 113 名前:MONIX ◆RjqrC4Ko 投稿日:2005/04/10(日) 16:53
- いやぁ、作者様相変わらず素晴らしいキレですねぇ〜
おふぇんすらぶから作者様のファンですが今回もがんばって
ついていく所存であります!!!
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/10(日) 22:26
- ふ…2駅分も徒歩で…・゚・(ノД`)・゚・
切ない…切な過ぎる…
美貴様、私が車でお送りいたします
- 115 名前:美貴たんに無我夢中♪ 投稿日:2005/04/23(土) 13:49
- うはww
おもろいw
美っ貴たぁ〜〜ん!
- 116 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/25(月) 22:34
- ageないでくれ
結構期待しちゃっただろ
- 117 名前:名無し読者 投稿日:2005/04/29(金) 23:31
- 続き読みてェまじで
- 118 名前: 投稿日:2005/05/02(月) 19:59
-
◇◇◇
- 119 名前: 投稿日:2005/05/02(月) 20:00
-
『大天使様? いっぱい荷物持って、お出かけですか?
もうお外真っ暗なのに』
『亀ちゃん………なっちは……なっちはもう…、ここにはいられないんだべ』
『え…?』
―――
『待ってください! それってどういう』
『ついてきちゃダメっしょ!
それと今見た事は、誰にも言っちゃだめだべ!!』
『待って!…っ、神様! 神様ぁ!!』
―――
- 120 名前: 投稿日:2005/05/02(月) 20:00
-
『…んあ? エリエリ?
うーっ、頭痛い…。
どうしたの、怖い夢でも見た?』
『ちがっ、大天使様がっ! 大天使様が!!!』
―――
『むぉっ!? さゆ起きんしゃい!!
絵里が泣いとーよ!!!』
『明日の可愛さは確かな睡眠で決まるの。……むにゃ』
―――
『ごめんね。捜さないでね。
なっち、気づいちゃったんだ』
―――
- 121 名前: 投稿日:2005/05/02(月) 20:00
-
『なっちが?……なっちが!!?
なんでっ、どこに…っなんでさあ!!!!』
―――
『バカだね。何回も見てたのに』
―――
『まさか降りたの…!?
ごとーも降りる!』
『でもそんなことしたらっ』
『んぱあっ!』
―――
『だからもう、ごっちんの傍にはいられない』
―――
- 122 名前: 投稿日:2005/05/02(月) 20:01
-
◇◇◇
- 123 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:01
-
「んあ、難しいもんじゃないよ。
悪い人をやっつける。困ってる人を助ける。そんだけ」
「ふぅん。ほんとに正義の味方じゃん。
美貴も昔は憧れたなあ」
「じゃあオッケー?」
「断る」
「なんでよ!」
面白そうだったから興味深く話は聞いたものの、当然の如く澄みきった瞳で
首を横に振った美貴に、真希ちゃん――てゆーか雷様――と思ったら神様は
新喜劇を彷彿させる勢いでコケた。
「だってさー、美貴の生活事情知ってるでしょ?
バイトが忙しいの、バイトが。
稼がなきゃ死ぬし」
高校生で夜遅くまでは働けないから、家で内職したり朝の新聞配達したり。
寝る時間割いて働いてもギリギリのギリギリなんだよ。
正義の味方なんて無償っぽいもんしてる時間ない。
- 124 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:02
- 「んあ、誰が無償だなんて言ったのよ。
テレビ見てそういう勘違いする人多いんだけどね、
自分を犠牲にして悲しみを背負えばかっこいい時代は終わってんの。
ごとーはちゃんと、引き受けてくれた人には報酬与えるよ」
「え、くれんの?」
「当然だよ。でもお金あげんのは初めてかも。
嫌がられるんだよねぇ、『金が絡むと正義っぽくない』って。
だから例えば日焼けしにくくしてとか、色白にしてとか、お願い叶えたり」
地黒で悩んでる正義の味方がいたのか…。
まあイメージを大事にしたい気持ちはわからなくも…って
言ってもないのに美貴の報酬はお金で決定してんのかい!
「他に欲しいものあるの?
でもあったとしてもさ、お金があれば買えるじゃん。
お肉、食べられるじゃん」
「に…肉っ…!」
- 125 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:02
-
肉。にく。ニク。
それは美貴の心を惑わすワード。
記憶を遡っても食べた事なんて数える程しかないけど。
それでも美貴の心を掴んで離さない。
できれば毎日、朝から焼肉を夢見て生きてきたこの16年間。
長かった、16年。
「ミキティさあ、毎日毎日、ほとんどインスタントラーメンじゃん。具なしの。
たまーに具が載ったかと思えばモヤシだし。
痩せてるかと思えばたまにポッコリお腹出てるけど
あれってモヤシラーメンだった日だけじゃん。
ミキティのポッコリは 9 9 % モ ヤ シ で 出来てるじゃん」
「う、うっさいな!
モヤシは安いし良いダシ出んだよ!」
普通モヤシってシャキシャキ感出す為にみんなヒゲ取るけど!
美貴はそのヒゲすらもバクバク食べちゃうくらいモヤシが好きなんだぞお!!
「…それはただヒゲすらも食べなきゃ満たされないだけじゃんかあ!
ポッコリの50%がヒゲに支えられてるだけじゃんかあっ!」
「ちがう! 美貴は好きで食べてるの!!」
- 126 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:03
- 誰がなんと言おうとアイラブモヤシ! アイラブヒゲ!
ただいつか、その隣に厚くてジューシーなチャーシューが載る事を切望してるけど!
「ほらあ、やっぱお肉食べたいでしょー?
給料制で毎月15万、どお?」
「じゅっ!? じゅじゅじゅじゅうごまんぅぅう?!?!?!」
じゅ、ジュウゴマンって事は!
福沢トメ吉だか輸血って人が15人雁首揃えて美貴の手元に!?!
「そんなにもらっていいの?!」
「んあ、もっとあげなきゃいけないんだろうけど、ごめんね。
ちゃんとボーナスもあるから」
「ボッ、ボボボッ!」
あ、だって、月々15万って事は年収が12かけてえーと…ひゃっ、ひゃあっ!?
100万越えるよ税金払わなきゃいけなくないむしろ200万に近うわあ待ってuhega@ijky:
その上ボーナスだなんてヤバイよ! ヤバ過ぎだよ!!
- 127 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:03
- 「わかった詐欺だな! 美貴を騙してどうする気だ!
お金ならないぞ!!!」
知ってんでしょーが!
今だって所持金17円だぞ!(胸張って言う金額じゃないけど)
「んあ? ちがうよぉ。
ごとーはミキティに人並みの生活を送って欲しいだけだよ」
「ちょっと! 今の美貴は何並みだってのさ!」
「んあ……ワンちゃん?」
「キャンキャンキャンキャン!!(なんだとグルァ!!)」
「むしろワンちゃんのほうがいい暮らししてるよ」
「キャンキャッ……クゥン(そんなこっ……そうかも)」
ワンティな美貴の頬を伝う雫をそっと掬って、真希ちゃんは美貴の肩を
そっと抱きしめた。
「今日はケチャマヨスティックって言ってたよね。
てことはさ、ラーメン買えないんでしょ?
近所のパン屋さんにご好意で20円でもらってるパンの耳と、半年前に
アパートの隣の部屋から出てった人に餞別で半分残ってたヤツもらった
ケチャップとマヨネーズしかないんでしょ?」
「…ク、クゥン」
- 128 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:04
-
「でもそれは、実家にお金送ったからだって、ごとーは知ってる。
実家で飼ってる犬のアン君のエサ代が無いって言われたからだって。
ごとー、ミキティのそういうとこ大好きだよ。
すっごく尊敬してる。
さっきもさ、自分の事よりひったくりの事気にして、そういう優しさを持ってるから
ミキティは選ばれたんだと思うんだ」
「…真希ちゃん……」
いつもどこかフニャフニャしてる真希ちゃんの細い腕が、こんなにも
強く、しっかりしてたなんて。
美貴は不思議な安らぎに包まれる。
「ミキティがもうすぐ死ぬってわかった時、すごいショックだった。
助かって欲しくて、教えちゃいそうで顔見れなかった。
だから、ミキティがここに来て、ごとーはすっごく嬉しい。
やっぱり死んで欲しくない。
だからお願い。正義の味方になってくれないかな」
真剣な眼差し。必死さが、伝わってくる眼差し。
そっか。断ったら美貴は本当に死ななきゃいけないんだ。
たぶん真希ちゃんの手に、送られて。
- 129 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:04
-
「わかった。美貴やる――」
「美貴ちゃあああん!!!
不安な気持ちはわかるけどネガティブに考えちゃダメよ!
せっかく助かった命、正義の為にポジティブに使わなきゃ! ハッピー!」
「わああ、入ったらダメっちゃ!」
「れいなが覗かせるから……絵里はダメって言ったのに」
「たまにさゆより可愛い石川さんの登場なの」
ん? ハッピーに石川さん? ( ^▽^)?
「りりり梨華ちゃんぅううう?!?」
「チャオー♪」
「何やってんのあんたあっ?!」
「美貴ちゃんと同じよぉ。私も2ヶ月前、牛に轢かれて善光寺に参るどころか死んじゃって。
と思ったらここにいたの。だから正義の味方としては
美貴ちゃんの先輩になるわね」
「牛に?」
いやいや善光寺参りは牛に轢かれてじゃなくて引かれてだよ。
………。
- 130 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:04
-
「てか地黒で悩んでる正義の味方はお前かあっ!!!」
「キャッ、な、なんでそれ知って…っもぉ! ごっちんが言ったのね!」
「あは、ごめぇん」
真希ちゃん! 突かれて笑ってる場合か!
地黒な時点で気づかなかった美貴も美貴だけど!
まさか梨華ちゃんが…正義の味方だあ?!
「えへ、信じられないよね。
私力ないし、体力ないし、戦ってるようには見えないもんね」
「その前に地黒治ってなくない?」
「それは言わないでえ!」
だって梨華ちゃん、相変わらず黒いし。今も黒いし。
やっぱ真希ちゃんが神様って嘘なんじゃないの?
「んあ、ごとーは白くしたんだけど、3日しかもたなかったね。
ほら夏の終わりさあ、一瞬梨華ちゃん白かったでしょ?」
「ああ……あれか」
そういえば、いきなり白かったから何か塗ってるか怪しい薬飲んだんじゃないかって
学校中で噂になったっけ。
- 131 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:05
- 「コホン! いいから忘れてあの時の事は!!
あれから私は、肌の事は忘れてごっちんに超能力もらったから
それで戦ってるの」
ふーん、へー、美貴はお金だよ。
「聞いてたわよぉ。
でもよかった。美貴ちゃんの事、心配だったから。
ひったくりとか事故に遭わなくても、いつかモヤシをくわえて死ぬんじゃないかって」
「嫌な心配の仕方すんな!」
「だってえ! 私知ってるんだよ!!
美貴ちゃんが……美貴ちゃんが去年のクリスマス………っ、マッチ売ってたこと」
「( T Д T)」
「从*T ヮT)」
「ノノ*TーT)」
「从*・ 。.・从」
泣くなよ!!! てか泣くなら泣くでさゆも泣かんかっ!!
「さゆの涙は零れると真珠に変わるの」
「なら泣け! 思いっきり泣け!
真珠かき集めて売り飛ばす!!!」
「いやあん、泣くと目が腫れて可愛くなくなるのぉ」
- 132 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:05
- 「腫れなんて氷で冷せばイッツオーケィ!」
「んあんあ、ミキティ落ち着いて。
シゲちゃん怖がってるから」
「ふぇ? あ、ごめ、目先の儲けに目が眩んで…」
「( T Д T)」
「( T▽T)」
川つvT从
「ミキティ、梨華ちゃんの乱入で言いかけだったけど
引き受けてくれるよね? 月15万の正義の味方」
「…うん、美貴やる」
お肉の為、お金の為、そして生きる為に。
「じゃあミキティのサポートは絵里たちに頼むね。
最初、慣れるまではごとーもついてくし」
「「「はぁい」」」
「絵里ちゃんたちって3人とも? 梨華ちゃんには?」
「私にはののとあいぼんって子がいるから。今度紹介するね」
言いながら、梨華ちゃんがスッと差し出した写真には、顔は全然違うのに
どこか双子みたいな雰囲気の可愛い女の子たちが映ってた。
- 133 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:06
-
「じゃあまずはごとーと2人でなっちのとこに行こうか。
名前とコスチューム決まったらみんなも呼ぶから、お菓子でも食べて待っててね」
「なっち? 誰それ?」
「…大天使様のことですよ。
ここで1番偉い人です」
「神様よりも偉い人やけん、粗相しちゃいけんとよ」
「たまにさゆと石川さんよりも可愛い人なの」
神様よりも偉い天使?……どんな人だろ。
てか名前とコスチュームって何よ?
「美貴ちゃん!」
「ん?」
「あんまり反抗しちゃ、ダメだよ」
え、何反抗って。美貴はどうなっちゃうのさ?!
◇――― ――― ―――◇
- 134 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:06
-
「大天使様、運命に逆らった者を連れて参りました。
藤本美貴です」
「よく来たべ、藤本さん」
「こ、こんにちは…」
どえらく巨大でファンシーな扉を開けて中に入ると、さっきまでニコニコしてた
真希ちゃんが急に凛々しく表情を引き締め、片足を床につけて頭を下げた。
その、まるで女王様の前にひれ伏す騎士みたいな姿に気圧されてしまった美貴は
目の前の白いカーテンにうっすら浮かぶ影にギクシャクと頭を下げながら
ふわりと沸きあがる懐かしさを感じた。
この訛り……、故郷を思い出す。
でもどっか、違う感じもして。なんか、訛りがさらに訛ってるっていうか、不自然な感じ。
「それではさっそく、藤本さんのヒーローネイムを決めるべ」
「ヒーローネイム?」
「仮面ライダーとかパーマンとか、そういうのだよ」
「マジ? かっこいいのがいいなぁ、美貴」
ワクワク。やっぱ強そうなのがいいよね、それでいてベタじゃない感じの…
- 135 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:06
-
「うむ。清貧仮面がいいべ」
「ハ?」
「清く正しく美しく貧しい藤本さんにピッタリっしょ。清貧仮面」
「どこがピッタリだどこが!!
前の3つはともかく、これからの美貴は貧しさとはおサラバなんだよ!」
「んあ、それはそうだけど大天使様が一生懸命考えてくださったんだし」
うっさいカミナリ!
反抗ってこういう事かよ梨華ちゃん!!
ああ、梨華ちゃんはなんて名付けられたんだろ? やっぱ地黒系?
「んあー、梨華ちゃんは最初アゴデテルダーだったっけ」
「そっちかい!!」
「でも泣いて嫌がってねぇ、シャクレーンでもヤダって3時間ぐずって
結局アチャチャーミーになったんだよ」
「…反抗しまくってんじゃん、自分は」
てかアチャチャーミーってギリギリ可愛いネーミングでいいなら
美貴にも可愛い名前つけてよ!!
なんでわざわざ気にしてる部位を名前にすんの!
- 136 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:07
-
「しょうがないなぁ。大天使様、貧しさとは別のものでお願いします」
「うむ。………クシャミデルダー」
「却下! アゴデテルダーと変わんないじゃん!」
「………ハクショイハニー」
「ハニーつけても可愛くないし!」
てか美貴から貧しさ取ったら次はクシャミかよっ!
「んあ。ミキティ、あんま大天使様困らすとシバクよ?」
「え?…ヒッ?!」
隣からまろやかに漂う殺意。振り向くと、真希ちゃんのものとは思えない
冷徹な視線が美貴に刺さってた。
「………ならハナカミンっていうのはどうニ…っじゃないどうだべ?」
「え? は、はははいっ!
いいですそれでいいですそれでいいから真希ちゃんやめて美貴に殺意を向けないで!」
「んあ、じゃあミキティはハナカミンね」
「う、うん」
ハナカミン_| ̄|○
なんじゃそりゃ、結局クシャミ関係から抜け出せてないじゃん。
梨華ちゃんは3時間かけてシャクレから脱出したのに。
- 137 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:07
- 「次はコスチュームね。
ハナカミンって名前からいくと…こんな感じかな?」
真希ちゃんが指を鳴らすと、どこからか白い衣装を着たマネキンが現れた。
「なにこれ…」
ハナカミンって名前から逝っちゃった時点で期待はしてなかったけど
これはなんてゆーか………タイツ?
「ちょちょちょ待ってよお!!
なにこれ! 全然頼りないじゃん!
こんなん着てたら正義の味方どころかただの変態だよ変態!!!」
「時期に応じて形を変えるのが変態だからね。
ミキティも正義の為に戦う時は、このコスチュームで形を変えて…」
「そっちの意味じゃなくて!」
そんなもん着て人前に出たら確実に逮捕だよ拘留だよ罰金だよ!
だって真っ白い全身タイツに、お腹んとこに赤のベルト(H−MINってロゴがある)。
靴も手袋も真っ白で、おまけにマントが!
なんか透けてると思ったらティッシュじゃんこれ!!!
- 138 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:07
- 「特殊なティッシュでできてるからね。
銃弾だって弾き返せるよ」
「たわけたことを」
たかがティッシュが銃に勝てるワケないでしょーが!
「ほんとだよぉ。大天使様とごとーの祈りを捧げてあるし
目に見えるものだけが強さじゃないんだよ」
「もっともらしい事言われてもおいそれと信じられるか!」
「ゴッドの名においてキミを呼ぶ」
「へ?」
マネキンをずずいと近づけてくる真希ちゃんが、嫌がる美貴にまた冷たい目を向けて
左手を上げた。すると次の瞬間―――
ゴロゴロピカッ
「ぎゃあっ!?」
いきなり部屋の天井が光ったと思うと、美貴の腕を少しかすって真横に稲妻が落ちた。
- 139 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:08
-
「…………」
「着てみてくんない? サイズ合ってると思うからさ。
みんなにお披露目しなきゃね」
「………はい」
お披露目ってゆーか。
こんな格好見られるなんて、ただの晒し者だと思う。
「キャーなんかエロい!
全身のラインがクッキリハッキリでチャーミーどうしていいかわからないっ!」
「わあ、格好いいですぅ。
藤本さん似合ってますよぉ」
「ブッ!………ふ、藤本さん、下着も替えたほうがよかったんやなかと?」
「白タイツの下に黒い下着だなんて、ちょっとはしたないと思うの。
可愛さ減点なの」
「うっさいな!
今日たまたま黒だったんだからしょうがないじゃん!」
真希ちゃんも女の子なら、銃弾を弾き返す前に下着が透けない加工を施してよ!!
- 140 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:08
-
こうして、透けパンの苦悩の中、ハナカミンは動き出す。
- 141 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:08
-
- 142 名前:始動。 投稿日:2005/05/02(月) 20:09
- 大幅に遅れまして申し訳。
今回、さりげなくごまみき。
レスありがとうございます。
>>108 75様
川 *Vv)<お、まめお喜んでるw
川;VvV)<てか待って。あれは真希ちゃんの作り話だから!
( ´ Д `)<怖い赤ちゃんだよねぇ。
楽しんでいただけて嬉しいです。ママンには悪いことをしましたが。
>>109名無飼育さん様
川つvT从<美貴だってチンしたいよぉ。
2本100円のライターで温めています・゜・(ノД`)・゜・
アフォな話に温かいお言葉、ありがとうございます。
>>110名無飼育さん様
誰でしょうねぇ?(w
そのあたりはもう少し後になります。
>>111◆ZpT8ZEbM様
有名どころしか拾ってないんで、アニヲタかどうかは微妙ですが
アニメは日本の宝です(何
( ´ Д `)<ごとーもセラムン見たい〜。
- 143 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/05/02(月) 20:09
- >>112名も無き読者様
面倒な部分を排除してるだけなんですが、結構悩みどころなので
リズムや流れを褒めていただけると嬉しいです。
たいしたカーブもないですが、よろしゅうに。
>>113MONIX ◆RjqrC4Ko様
どうもどうも、ありがとうございます。
勢いだけで書いてたあの頃が懐かしい…(そして恥ずかしい
遅筆ですがこの度もよろしくお願いします。
>>114名無飼育さん様
川;VvV)<い、いい運動になるんだよ、泣かないでよ…え?
車で送ってくれるの?マジで?
(;^▽^)<待って美貴ちゃん!怪しい人だったらどうするのよ!
( ´ Д `)<阻止。
お気持ちだけ、有難く受け取っておきます(by りかまき
>>115美貴たんに無我夢中♪様
|(VvV川<ハーイ!
お手数ですが更新時にageますんでsageでお願いします。
>>116名無飼育さん様
私くしの更新の遅さも問題かと。
申し訳。
>>117名無し読者様
お待たせしました。
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/02(月) 22:16
- きたぁ!!ハナカミンの飛躍に期待です。
- 145 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/05/03(火) 15:56
- み・美貴さま ○けるコスティウムですか (;´Д`) ハァハァ
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/08(日) 23:29
- 面白すぎます(笑 しかし、梨華ちゃんも正義の味方だったとは!
梨華ちゃんの活躍も少しは期待しちゃいます(笑
- 147 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:12
-
◇◇◇
- 148 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:12
-
「キャーッ!」
「逃げたらアカン! さっき格好いいとこ見せる言うたんは誰やねん!」
「だってえ! 鳥苦手なのお! ダチョウ怖いのお!」
「のん、ダチョウの卵で作った卵焼き食べたい」
「……………」
まずは見学からって事で、連れて来られた小高い丘の上。
『細かい事はメモしたほうがいいけん』って言われてわざわざ紙とペンまで
持ってるのに、見て学ぶ対象のドピンクはさっきからダチョウに追いかけられて泣き叫ぶだけ。
その声は仮面を被ってるおかげで篭ってるけど、限りなく騒音に近い。
正義の味方なんて言うから、てっきりナイフ持った人やっつけるとか
強盗捕まえたりするんだと思ってたのに
今回の梨…もといアチャチャーミーの任務は、動物園の飼育係の人が鍵を掛け忘れた扉から
脱走しちゃったダチョウを捕まえる、というもの。
まあ捕まえるって言うと大袈裟かな。
アチャチャーミーの力、超能力でチョチョイと操って用意してある檻の中へ
入れちゃえば終わりらしいし。
- 149 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:13
-
けど梨華ちゃん…ダチョウが脱走したのは真夜中の事で、美貴たち以外誰も気づいてないから
日が昇る前に元に戻そうっつってんのに大きな声出して騒いでるだけで超能力使いやしないし。
『チャーミーの活躍ちゃんと見ててねっ!』って言ったのはどこの誰だ。
大体さあ、いつだったか昼休みに透明の袋一杯に詰まったパンの耳そのものの味を
大事に噛み締めてた美貴の前でバクバク鶏の唐揚げ食べてたクセに、鳥が嫌いだなんて。
『ん〜っ、美味しい』
『…タンパク質…ブツブツ……動物性タンパク質…ブツブツ…』
『え、なあに美貴ちゃん?』
『タン…タンパ…タンパク…うがあああああ!!!!!』
『きゃあっ!?
飢えた美貴ちゃんが私のお弁当を!!』
『人間ってのはタンパク質が不足すると生命を維持する働きがスムーズに行われなくなって
脳の働きが鈍っちゃって記憶力と思考力が減退して学業に支障きたすし
体力がなくなって健康的な生活が送れなくなんだよ!!
よって美貴は摂取する!』
ウガームシャムシャー キャーワタシノユビマデー
- 150 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:13
-
それまでの美貴は、いつも優しい梨華ちゃんが『おかず、好きなの食べていいよ』って
言ってくれるのを遠慮して断ってたし、その日も我慢してたんだけど。
あまりにも……梨華ちゃんの歯に噛み潰された唐揚げから漂ってくる匂いがあまりにも魅惑的で…。
「自分、切ない人生送っとるんやな」
熱くなった目頭をそっと押さえると、アチャチャーミーの頭の上を飛んでる2人の天使の
関西弁の方、たしかえーと、カルボキシル基をもつ有機化合物みたいな名前の……
「それはカルボン酸やろ!!
ウチはあいぼんや!…ってボンしか合ってへんがな!!」
「あ、そうだ。あいぼんだあいぼん」
いやー美貴にツッコむなんて、さすが関西弁の天使…ってあれ?
今美貴声に出したっけ? さっきも思い出してた昔の事とか…
「んあ、あいぼんはね、ちょっとだけ人の心が読めるんだよ。
一定の線を越えて強く思った事とか」
「ハ? 心が?」
- 151 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:13
- 美貴の隣で紅茶を啜りながら逃げ惑うアチャチャーミーを眺めてたごっちんの眠そうな声を
上手く飲み込めなくて口が開く。へえ、漫画だけじゃないんだ、そういうの。
思わずまじまじ顔を見てると、頬を赤くしたあいぼんがこっちに飛んで来た。
「な、なんやねん。自分、さっきから人の顔ジロジロ」
「あ、ごめん。心読めるって聞いてすごいなあって」
「すごい? 怖いとかやなくって?」
美貴が素直に謝ると、あいぼんはびっくりしたような、でもどこか心配そうな顔をした。
「え、全然。
あいぼん可愛いし。
美貴の心読んだ事隠さなかったじゃん」
「……うへへ、いやや、照れるやん」
おお、可愛い。
美貴にパタパタ近づいて俯き加減で肘をつついてくるあいぼんは
赤ちゃんみたいに幼いけど、女の子らしい顔立ちをしてて
肌は白いし、声もわたあめみたいにフワフワしててすっごく可愛らしい。
- 152 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:13
-
「あいぼーん、ダチョウ檻に入ったよー」
こんな妹欲しいなあ、なんて4人兄妹の末っ子の美貴があいぼんの小さな頭を
撫でてると、もう1人の、たしかえーと、被害者側からみた騒音の程度の単位みたいな名前の……
「それはノイやがな!」
「じゃあ1985年に亞女梨華で開発された世界最大級のレーザー装置みたいな名前の」
「それはノバやし! むしろ英会話やし!
あの子はののや!」
「あーっ、そうそう、ののちゃんだののちゃん」
「…自分、わかっとって言うとるやろ」
「のんが何?」
こっちに飛んできたののちゃんは、あいぼんの背中に張り付いて美貴を見ようとしない。
梨華ちゃんに聞いてたけど相当の人見知りらしい。
それでもちらちら美貴を覗く顔は、遠目で見るとあいぼんに似てて区別がつかないくらいだったけど
近くで見ると全然違った。
鼻が高くてどこか大人っぽいのに、なんでか幼い不思議な顔をしてる。
- 153 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:14
- 「いきなり立ち入った事聞くけど、ののちゃんも心読めたりするの?」
「ううん、ののは肉体派やから。ね?」
「うん」
柔らかそうなあいぼんの肩越しにニョキッと出てきた腕は、ほどよく日に焼けて
綺麗な筋肉がついてる。うわーすご…いけど天使にも肉体派とかいるんだ…。
マッチョな天使ってちょっとヤだけど、ののちゃんは可愛いからヨシとしよう。
「ひゃあ、ななな、なんやの急に」
「…っ……」
「うーん2人とも可愛い」
天使は、空の上にいる時は美貴と同じ人間サイズでいられるけど
地上にいる時はぬいぐるみくらいの大きさになるので
美貴はプヨプヨ浮いてる2人をそっと抱っこする。うーん、抱き心地も天使だねえ。
「んあ、ミキティ」
「なによ、邪魔しないで」
「……梨華ちゃんの事忘れてない?」
- 154 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:14
- ハッ、そういえば。てかごっちんの事も忘れてたし。
「ひどいよね、ミキティってそういう人だったんだ…クスン」
「あはは、ごめんってば。ほんで梨華ちゃんは…」
たしかさっきののちゃんがダチョウ檻の中に入ったって言って、なのに梨華ちゃんが見当たらない。
まさか・・・・・
「だずげでええええ!!!!!」
テカテカした素材のピンク色のマントが暗い闇の中をはためいている。
超能力を使わずに誘導に成功した梨華ちゃんは、ダチョウと一緒に檻の中にいた。
「何やってんだあんたあ!?」
「出してーっ!!!」
「自分で出なよ! 超能力使ってさ!」
「怖くて集中できないから使えないのよお!!!」
「のの、梨華ちゃんが通れるだけ鉄格子曲げて出したって」
「…しょうがねえなあ」
- 155 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:15
- てかののちゃんは知ってたんじゃないの?
あいぼんが美貴のとこに来た後も梨華ちゃんの上飛んでたんだし……。
「ののはチューインガム作るのにサポジラを育てる事から始める職人肌なとこあるから。
たまに厳しく梨華ちゃんを谷底に突き落とすことがあんねん」
「へえ……」
美貴、ののちゃんがサポート役じゃなくてよかった。
れいなたちがどうかまだわかんないけど、こないだシメたし、突き落とされはしないだろう。
「んあ、大丈夫かなあ」
「てか真希ちゃんもさ、見てたんでしょ梨華ちゃんの事」
「いやあ、ごとーはてっきり鳥嫌いを克服する為にワザと入ったのかと」
「神じゃなくて鬼でしょ、あんた」
動物園にこっそりダチョウを返した後、ぐったりしたアチャチャーミーの仮面を取ると
梨華ちゃんの顔は涙と汗と鼻水でえらい事になってて
可哀想だけど梨華ちゃんを見て学べる事は何も無かった。
- 156 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:15
-
◆◆◆
- 157 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:15
-
「とゆーワケで、ミキティの初任務です」
「いきなりかよ!!」
だってしょーがないじゃーん、アチャチャーミーの中の人である梨華ちゃんが
ダチョウと檻の中でトゥギターだった時に右足捻挫しちゃって動けないんだからー。
ダチョウを返した1時間後、そろそろ空が白み始めた頃に再び不穏な空気を察したごとーは
ミキティの記念すべき初任務に今夜はお赤飯ね♪って思ったんだけど、
どうやら当の本人はご不満の様子。
まあ気持ちはわかるよ。不安だよね、なんせ暴れてるロボットを取り押さえろっつーんだから。
「ハア!? なに暴れてるロボットって!
美貴生身だよ?! コスチューム着たってティッシュだよ?!
死んだらどうしてくれんのさ一体!!!」
「大丈夫大丈夫。ごとーがついてるから」
- 158 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:16
- それに本当なら既に死んでんだし。
「れいなたちはいないし、あいぼんたちは梨華ちゃん家に送ってるから
ごとーと2人だけだけど、なんせ神だからね、安心したまえ」
「……わかったよ、信じるからね」
「んあ、じゃあそのへんで変身してきて。
言っとくけど誰にも見られちゃダメだよ。正体バレたらミキティ死ぬから」
「………あのさあ、そういう大事な事はもっと早く言ってよ」
「あは」
んあ、自分を犠牲にする必要はないけどね、命の決まりに逆らって生きてんだから
リスクは背負ってもらわないとダメなのよ。って言い忘れてた、ごめんなさい。
「じゃあ、変身してくる」
「んあ」
ミキティは、ごとーの笑顔に深く息を吐いて近くの公衆トイレに入っていった。
と思ったら2秒で出てきた。
- 159 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:16
- 「どうやって変身すんの?」
「あれ? 言ってなかった?」
「聞いてないよ」
あ、そっかー、お披露目の時は直接着たんだっけ。
あのねー、変身する時はこの腕時計、え? タダであげるよ、わわ、泣かないでよ。
この時計の右のボタンをポチッと押して『変身・ハナカミン!』って言えばいいから。
「わかった。時計ありがとう真希ちゃん」
「んあ…」
嬉しそうに腕時計をつけて走ってく後姿に、思いがけず涙が込み上げる。
もしかしてミキティ、腕時計つけるの初めてだったのかな…。
おっとっと、泣いてる場合じゃない。
ちゃんと変身できるかどうか心配だから覗きに逝こー…と、トイレの中に忍び足で入ると
中から何やら、ブツブツ声が……
「へーんしん、…ちがうなあ。ハナカミン!
やっぱこの名前じゃ気合が入んないよねえ」
- 160 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:17
- もお、まだ大天使様がつけてくれた名前に文句言ってんのかい。
ごとーは素敵だと思うよお、ハナカミン。
てかゴソゴソ音するけど何やってんだろ、早く変身しろっちゅーに。
少し力を使って体を浮かせ、ミキティが入ってる個室の中を上から覗くと、中では…
ノノハヽ
川川川 ) へーんしーん……
( )
| | |
( _)_)
クルッ ____________
ノノハヽ /
从VvV)彡< ハナカミン! 参上!
⊂ つ \
人 Y  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
し (_)
- 161 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:17
- プッ、なんだ、ブツクサ言って結構楽しんでんじゃん。
ポーズなんて考えちゃってさあ。つーかだから変身するときゃ右のボタン押しなってば。
「ミキティ、今もロボット暴れてんだからポーズ決めんのは後でいいでしょ!
さっさと変身して現場行くよ!!」
「ぎゃあああっ!?
ままま真希ちゃんの変態! 堂々と覗かないでよ!!!」
「いいから早く!」
「よくないよバカあっ!」
〜10分後〜
「まったく、こんな時間かかって…初めてだからって許されないよ!」
「くっ…真希ちゃんが覗くからじゃんバカ」
「別にお尻見たワケじゃないもん。今日はベージュの下着だから透けてもないし」
「言わないでそれは!! てか透けなくしてよ!」
「また今度ね。ほらほら、あそこだよ」
「今度っていつだよ!…ってげええっ!
ズゴックじゃないの?! あれどう見てもズゴックじゃん!!」
- 162 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:17
-
んあ、お尻を見られたより恥ずかしそうにしてるミキティを抱えて、やっとこさ現場上空に来ると
静まり返った海辺の住宅街をのっそり歩くズゴック…いや、人で言う膝から下が異様に太い足や
3本爪は似てるけど、胸のとこに『ズ紺ク』って書いてある。
「てか暴れてないじゃん」
「んあ…暴れた後かも、とりあえず倒そ」
「無理だよ! あんなもんどうやって倒すのさ真希ちゃん!」
「任務中ごとーの事はごっちんって呼んで」
「…ごっちん、せっかく助かった命だけど、やっぱり美貴…」
「何言ってんの、それに不用意に自分の名前も口にしない方がいいよ」
「なんでごっちんはそんな落ち着いてんのさあ!!」
まあ慣れてるからね。
でも意外だったなあ。ミキティなら動じないかと思ってたけど、やっぱ女の子なんだねえ。
「終わりだ、終わりなんだ、もう……初任務でズゴックになんか勝てるワケないもん…グスッ」
「よしよし、大丈夫だからね。
ごとーの神の目であいつの弱点見てあげるから」
- 163 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:18
- 顔に巻いたティッシュの向こうで目をウルウルさせちゃって可愛いなあ。
そんな怖がらなくても、いざとなったらごとーが守ってあげるかんね。
大好きななっちにほんのり似てるミキティが肩を震わせて泣いてるのを見るのは
ごとーもつらい。右目を閉じて、左目だけでズ紺クを睨むと……見えた!
弱点はまさに、胸の『ズ紺ク』の“紺”!!
「ハナカミン!
ごとーが引き付けてる間に後ろから近づいて
胸の紺の字にこの鎌を…っ!」
「 鎌 か よ ! ! 今どき鎌なんてザクレロかジャック・オー・ランターンしか使わねえよ!
もっと近代的でカッチョイイ武器をよこさんか!!」
「んあ! しょーがないでしょ!
住宅街で銃なんか使えないし素人に変な刃物持たせらんないんだから!!!」
鎌なら学校の草取りとかで使った事あるし身近じゃん!
ブーブー文句言ってないで鎌を…っコラ! 捨てるな!!
- 164 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:18
- 「いいよ! 鎌なんかより16年一緒に生きてきたこの足があればいい!」
「蹴る気?! バカなっ…相手は重装甲のロボットだよ?!」
無鉄砲にも程があるよ!
仕方ない、こっそりミキティの履いてるブーツに特殊加工したげるか。んぱっ!
「さーて、そろそろ逝くよ!
やいズ紺ク! ここで会ったが100年…んあああっ!?」
『アヒャ!!』
ズ紺クの背中側にミキティを降ろした後、黒いマントで顔を隠して前方に回って
向き合うと、突然変な掛け声を発してズ紺クがごとー目掛けて猛ダッシュしてきた。
「ちょっとごっちん!
引き付けるってこれじゃ追いつかないじゃん!」
「ごめんちょっと待って!!」
背中側のミキティから苦情が入るけど聞いてらんない。
ごとー←ズ紺ク←ハナカミンな追いかけっこをしたまま、ごとーはとうとう港に追い詰められる。
- 165 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:20
- 目の前に広がる海にごとーはキュキュッと足を止めるけど、ズ紺クはズゴック同様水陸両用なのか
止まる気配なく突撃してくる。…こうなったら!!!
「ゴッドズびっくりドッキリメカ!!! ポチッとな!!」
/ ̄ ̄ ̄ ̄\
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| \/ ___人.| ンア!
| |\+` Д ´)ンア! ンア! 彡(*´ Д `)
\ \\( ´ Д `)ンア! (+` Д ´)
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| | | \ \\(+` Д ´)ンア!ンア! 彡 ンア! ンア!
(__)_) \  ̄|\( ´ Д `(l|l´ Д `(+` Д ´(*´ Д `(+` Д ´)
- 166 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:20
-
『アヒャ?! アヒャア!?』
「よし! 動揺して動きが止まった!!
今だハナカミン!」
「ハアッ…ハッ、ハアッ、無理、もう走れない、苦しっ…」
だああっ!? なにバテてんの!!
全力疾走とはいえ150メートルくらいしか走ってないのになんで倒れこむのよ!
「足りないんだよお…動物性タンパク質があ……」
「わかった。これが終わったら朝から焼肉食べさせてあげるから」
「 マ ジ で ! ? 」
んあ、お店は開いてないから、ごとーの家で食べさせてあげるよ。
タンはないけど、カルビとロースならあるから。
「朝からタンパ…タンパク質……動物性タンパク質ぅううう!!!!!」
歓喜に満ちたミキティの長い足がムチのようにしなり、ズ紺クは粉々に砕け散った。
- 167 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:21
-
◇◇◇
- 168 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:21
-
「本当に、申し訳ございませんでした。
怒りに我を忘れていたとはいえ、クラスメイトのご自宅を崩壊させようなど
愚かな考えであったと認めざるをえません」
___
/@ \〃ノハヽ
| @ 川o・-・)
|@ @>O O
\ @ /│ │
 ̄ ̄ ∪"∪
鮮やかに放たれた美貴の蹴りによって粉々になったズ紺クから出てきたのは
意外や意外、外見はとても大人しそうな、今喋ってても謙虚さが伝わってくるような、
物腰の柔らかい女の子だった。
ホントにこの子が…? 中身の恐ろしさはさておき、ズ紺クの破片を回収して包んだ風呂敷を
背負って涙ぐむ姿は思わず抱きしめたくなるほど儚げなのに。
- 169 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:21
- 「反省してるならいいけど。
なんで家壊そうとしたワケ? ただのケンカならそこまでしないよね」
「………それは……」
「ハナカミン、あまり立ち入った事は…」
「いいんです。よければ聞いてください。私の怒りの源シズカを」
美貴の好奇心を止めようとしたごっちんに微笑んで、ズ紺クの少女は話し始めた。
「私くし、姓を紺野、名をあさ美と申します。
完全完璧十全を目指し、勉学・スポーツに励むごく普通の中学生です。
別にマジメなワケではありませんよ、学校にいるとフザケてる時の方が多いですから。
昨日も放課後、友達と教室に残って話をしていた時、リクエストされて金魚のモノマネをしていました」
「金魚の? 見せてくれない?」
「…パクパクパク」
「「おお…っ!」」
すげえ! 金魚だ! 思わず掬いそうになっちゃったよ!!
- 170 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:22
- 「これは、私くしの唯一の持ちネタと言ってもいいものなので
確実に笑いを取れるよう、何度も練習して鍛え上げた自信作だったんです。
しかし昨日……私たちから少し離れた席に残っていた男子が私のモノマネを見て
『あれ、金魚っていうよりアマダイだよな』って言ってるのが聞こえたんですっ…!」
「「…っ………」」
「わかりますかっ! アマダイですよアマダイ!!
そりゃあアマダイと言えば京都ではグジと呼ばれ若狭湾産のひと塩グジは
高級料亭では欠かせない食材ですがね!!
アカアマダイのお刺身も絶品ですが私はシロアマダイの西京漬けの方が好きですよ!
でもそれがなんだって言うんですか!!」
海に向かってバカ野郎な勢いで叫ぶと、紺野ちゃんは大きな目に涙をいっぱい溜めて
指先が白くなるほど強く拳を握った。
「…それで、その男の子の家を?」
「ええ、どうしても許せなかったんです。
私の金魚をアマダイだなどと…アマダイだなどとっ!!」
- 171 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:22
-
アマダイ…美貴は、タイなんて高そうな魚は食べた事がないけど
家にあった本で写真なら見た事がある。
昔は毎日お姉ちゃんたちとあの本見て、味想像してから白いご飯を食べてたっけ。
ってそうじゃなくて、アマダイか。たしかにあの顔…は、怒るかなあ。
「ん。むかついちゃった気持ちはわかった。
けど暴力はダメだよ。もっと他の方法あるはずだから」
「はい。何らかの方法で、必ず復讐してやろうと思います」
「んあ、お手やわらかにね」
ほんとに大丈夫かこの子。『復讐』って言った時顔が川o・∀・)になってたけど。
まあズ紺クは壊したからいっか。
「ところでお二人は、誰なんですか?」
「え? あ、えーと…正義の味方、ハナカミンだよ」
ここは格好よく決めないとって張り切って
美貴はティッシュで見えてない事も忘れて思いっきり笑顔で親指をグッと立てて応えた。
- 172 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:23
-
「そちらの黒マントの方は?」
「んあ、ごとーはただの付き添いだから気にしないで」
「ごとーさん…ですか」
「んあ…」
アホかごっちん。無意識に名乗ってるし。
でも地上では早乙女真希だから、言っちゃっても問題ないか。
「あ、お母さんからだ、ちょっと待ってください」
「いや、ごとーたちはそろそろ…」
「お願いです、ちょっとだけ」
空を見ると、すっかり明るくなってて、朝起きたら娘がいない事に気づいたお母さんから
電話が来たみたい。美貴たちも帰らないと焼肉食べる時間が…
「ハナカミン、電話してる間にこっそり帰ろう」
「え、でも」
「正義の味方に長居は無用だよ」
「…うん」
- 173 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:23
- 倒したんだか助けたんだか微妙だけど、初任務で出会った紺野ちゃんと
さよならも言わずに別れるのは少し寂しいなあ。
でも別れを嘆くより、出会いに感謝して。
心の中でバイバイと手を振って、ごっちんに抱えられて飛び立―――
「待てと言ったはずですが」
「「え…?」」
とうとした瞬間、後ろに引っ張られて振り返ると、なんか怖い顔した紺野ちゃんが
美貴とごっちんのマントを鷲掴みにして引き止めてた。
「あ、紺野ちゃん、悪いけどもう行かないと」
「んあ、勝手に行こうとしてごめんね。でも…」
「逃がしませんよ」
「「…ハ?」」
え? なに? 逃がさない?
- 174 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:24
-
「犯罪に走りかけたところを止めていただいて恐縮ですが
お二人はどう見ても 不 審 者 なので、 警 察 に 連絡させていただきました。
それを察して逃亡を図ったのでしょうが、完璧な紺野が見破れないとでも?」
「へ? 何言ってんの紺野ちゃん」
警察って、あの 警 察 …?
「気安く名前を呼ばないでもらえますか。
ハナカミンだかハナミカンだか知りませんがね 白 タ イ ツ 。
そんな格好で外を歩いていいワケないでしょう」
お、お、お、………恐れていた事態がっ!!!
「だから言ったじゃんごっちん!
こんな格好で人前に出たら確実に 逮 捕 だ 拘 留 だ 罰 金 だ って!!」
「んあ、ででででもお、隠すところは隠してるじゃん」
「隠しゃいいってもんじゃないんですよ。
ごとーさんも、黒マントの下はどーせ何も着ていないんでしょう。
見せたがりですね、わかってるんですよ」
「げぇええ!? 露出魔だったの?! ごっちんのスケベ!」
「チチチ違うよお!!」
- 175 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:25
- 違うんなら、いや違わなくてもいいからさっさとこの状況をなんとかしろ!
美貴は警察になんか捕まりたくなあいっ!!
「大人しくしてください。
もし身の潔白を証明したいのなら、刑事さんの前ですればいいでしょう?
すぐそこの署で出されるカツ丼は美味しいって評判ですし」
「カッ…カツ丼!!」
「グルァハナカミン!
帰れば焼肉だってば!!
カツ丼で目ぇキラキラさせないの!!!」
クッ…だって、だってカツ丼だぞカツがドンなんだぞコノ野郎!!!
………でも美貴、やっぱり焼肉がイイッ!!
「よし、せーのでマント破って飛ぶよ!」
「わかった!」
「せーのっ!」
カツ丼を振り切った美貴は、ごっちんの小声の指示を了解して右手を肩に伸ばし
思いっきりマントを引き裂いた。
- 176 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:25
-
◇ ◇ ◇
「おはよー美貴ちゃん、初めてのお仕事はどうだっ…っどうしたの?!」
「……ヤキニク…ウソツキ…ゴッチンノバカ……」
1時間後、難を逃れて警察に捕まらずに済んだ美貴は、教室の自分の机に伏せて涙に暮れていた。
あの後……飛べたと思ったら紺野ちゃんが後ろからズ紺クの破片を投げつけてきて、
それがごっちんの頭に当たって海に落ちるわ美貴の鼻に当たって鼻血出るわ……最悪だった。
助けた子に通報されるなんて、どこが正義の味方だよ。
おまけになんとか真希ちゃんの家に着いた時には時間なくて
シャワーだけ貸してもらって約束の焼肉は食べさせてもらえないし。
何が『遅刻はダメだよミキティ』だよ!!!
誰のせいで遅刻しそーなんだよ!!
美貴は…美貴は…っうわああああんん!!!!!!!
- 177 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:26
- 「美貴ちゃん…そりゃ、正義の味方だもん。
やっぱりつらい事は、たくさんあるんだよ」
「ふぇぇえん、うぇええん」
梨華ちゃん……ごめんね。昨日美貴、梨華ちゃんの事ちゃんと見てなかったし、
最後はバカにした目で見てたのに…。
美貴よりきっと、ののちゃんに突き落とされたりして、たくさんつらい目に
遭ってきた正義の味方の先輩は、後輩の心の懺悔に気づく事もなく
わあわあ泣いて周囲の視線を集めてる美貴をその胸の中に隠してくれた。
「うぇえぉーいおいおい、っごめ…ね、りがぢゃん…」
「なーに謝ってるのよぉ。
そうだ、美貴ちゃん朝ごはん食べる時間ないかもと思って
おにぎり作ってきたんだけど、食べる?」
「食べるっ…グズッ……おなかすいたあ…っ」
「じゃあその前に顔拭こうね。最初は何が食べたい? おかか? 昆布? 牛肉しぐれ?」
「ニクっ!!!」
- 178 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:28
-
梨華ちゃん足怪我してるのに、美貴の為におにぎり……ありがとう。
昨日夜遅かったし、あんま寝てないっぽくてクマもできてるのに
美貴が顔を上げるとクシャクシャッて笑ってくれて。
「美貴ちゃん、ゆっくり、ちゃんと噛んで食べてね」
「うぐもぐもぐもぐ…おいふぃっ」
「ほんと? まだいっぱいあるからね。ふふふっ」
ハードすぎた初任務。
世の中の厳しさまで教えられた初任務。
情けなく泣いちゃって、もう嫌だって思ったけど。
梨華ちゃんのあったかいおにぎりを食べて、次も頑張ろうと思った。
- 179 名前:初任務。 投稿日:2005/05/09(月) 19:28
-
- 180 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/05/09(月) 19:29
-
間に合わなかった挙句、随分ひどい役になってしまいましたが。
石川さん、お疲れ様です。
とゆーワケでさりげなくりかみき。
レスありがとうございます。
>>144名無飼育さん様
从*VvV)<きたぜぃ!!
初任務はつらい事になってしまいましたが
これからは飛躍できると……いいんですけども(泣
>>145名無し募集中。。。様
川;VvV)<………。
○けます(;´Д`)ハァハァ
しかし美貴様も色々と策を練っておられるようです(悔
>>146名無飼育さん様
( ^▽^)<キャッ!ありがとう!チャーミーとってもハッピー!
(;^▽^)<…ってあれ?少しは?
川VoV)<多いに期待なんかできないよね。
いつか、いつか活躍する日が来ると思います(遠目
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/10(火) 15:13
- すごく、すごく良いですw
亜弥ちゃんの登場を待ちわびて、次回も待たせてもらいますね。
- 182 名前:名無し読者 投稿日:2005/05/26(木) 14:43
- 面白い!
AAがいい味だしてますね。
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/06(月) 18:43
- んもう最高ですよ作者様☆たのしみに待ってます
- 184 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/08(水) 18:33
- 待ってます。ハナカミン、更新待ってます。
- 185 名前:名無しJ 投稿日:2005/06/14(火) 14:02
- もぅ
最 高 で す 。
- 186 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/06/21(火) 20:35
-
スニッフとはなんら関係のない話ですが、黄板の続きをこちらに貼らせていただきます。
レイナンと亀ちゃんを見守ってくださった読者様、最後の最後でお手数お掛けしまして
申し訳ございません。
残り僅かですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
これまでのレイナンと亀ちゃん。
・福岡ぶらり旅。
・マジで気まずい自宅前。
・天の声。
・壁にゴン。
・パラダイス風呂場。
・ミンチでメンチでモンチッチ。
- 187 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/06/21(火) 20:36
-
「お客さん、カユイところないですかー?」
「………ないです」
「むぅ、嘘でもいいからどっか言って」
「………じゃあ、左の後ろ」
「ここ?」
「………うん」
もうそろそろ、のぼせて倒れて気ぃ失ってる間に部屋に運ばれてもよくない?って思う。
だって顔は痛いぐらい熱いし、心臓も速いし。
お姉さんはよく毎日松浦さんと入れるなあ……。
それもあんな楽しそうに。大人の余裕ってやつなんやろーか。
でも…やったら、このことがバレても、大人の余裕で許してくれるかもしれん。
『HAHAHA、レイナンからならともかく
絵里が突入して来ちゃったんだからしょうがないKA☆』
そう、こんな風に、きっと笑ってくれ―――ばってん……
- 188 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/06/21(火) 20:36
- 『お風呂でバッタリとか期待すんなよ? むしろ狙うなよ?』
居候初日の、あの物凄い顔が鮮やかに脳裏に甦る。
期待どころか完全に想定の範囲外やし、むしろ狙ったんは絵里やけど
そんな言い訳、通じる人やないけん………。
重い空気が圧しかかるれいなの背中で、絵里はいたってマイペース。
「うへへ、楽しいねえ、れいな」
「…え?」
「さゆは入ってくれるけど、れいなはいっつも嫌がるんだもん。
絵里、寂しかったんだよ」
「…あ、ごめん、恥ずかしかったと」
絵里やさゆは小っちゃい頃から、今もたまにお姉ちゃんと一緒に
入ってるけん慣れとるっていうか、抵抗がないんやろーけど。
れいなは家を出るずっと前に弟とも入らんくなったし、
1人で入るんが当たり前っちゅうか、見られたり、それより見るんが恥ずかしかよ。
ましてや………あんた……、絵里やし。
- 189 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:37
- 「そっか、れいなは絵里が好きかぁ」
「へっ!?…や、いや、好いとーけど…」
いまさら言わんでも…背中に抱きつきながら言わんでも……っ!
「絵里も好きだぞー」
「…あ、う、うん、ありがと」
肩に顎乗っけて、息がかかるほど近くに聞こえる甘い声に
何度も頷いて必死で応える。
もういっぱいいっぱいやのに、絵里は離してくれえる気配はなくて、
れいなごとクネクネ揺れながら甘く鳴き続ける。
「ねえれいな、絵里、帰ったらすごいプレゼント欲しい」
「…なん? すごいプレゼントって…」
城とか? いやいや、さゆやあるまいし。
「んー、じゃなくて、プレゼントの、もっとすごいの」
「プレゼントの……え…」
プレゼントってあの……それのすごいのってことはつまり、ズバリ、 肉 体 関 係 ?
- 190 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:37
- 「えぇえ!? いきなり何言い出すんっ?!」
「さっき部屋で途中だったし。
でも今夜、ここでするのは、やっぱだめかなーって」
「う、うん、それは賛成やけど」
「だから帰ったら、頑張ってね、れいな」
「…………」
絵里、すっごく嬉しいけど、場所はどこか2人だけになれるとこ探さん?
おたくの家は危険度が高すぎるけん、危険度が。
「お姉ちゃんたちもしてるだろうから、大丈夫だよ」
「間違いなくしてるやろうけど大丈夫やなかよ」
頑張れと言うのなら、命の保障があって、安心して頑張れる環境をください。(切実)
「んー……じゃあ探す」
「うん、ありがと」
「ところでれいな」
「なん?」
「れいな、………かわいいんだね」
「へ?…にゃ? うにゃあっ!? みみみ見たとっ???!」
「見ちゃったとー♪」
ニヤニヤな絵里に、慌てて目線を下げるとタオルが少しズレとって……
だから、だから嫌やったんやああああっ!!!!!
- 191 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:38
- 「さ、先に出るけん!」
「れいな、まだ頭流してないよー?」
「ぬぐっ…! は、早く流しんしゃいっ!!」
いつかは知られてしまうと、覚悟はしてたっちゃけど。
風呂じゃなくても、未遂やった時に絵里がエビにならんと最後までしとったら
あの時点でバレてたことやけど。
絵里の、この『アリだと思うよ、れいななら』みたいな視線がつらか…っ!
ナシやけんっ!
あんたに本気で植毛を考えたことのあるれいなの気持ちがわかると?!
わからんやろね、わかるワケなかったい!
素麺のことを冷たいトゥル…もとい冷たいツルツルって言う小さな子供の声にさえ
反応してしまうこの気持ちはっ!!!
「…くぅっ…」
「れいな、泣いてるの……?
からかってごめんね。別に絵里、気にしないよ?
れいなが気になるって言うんなら………そうだ! 絵里もれいなと一緒になる!!」
「え…?
うがああっ!? 待ちんしゃいっ!!
どこから出したか知らんけど今すぐその手の刃物を放しんしゃい!」
れいなが泣いたくらいで何しよるんアホっ!!
真剣に考えた風やったのに導き出す答えが間違い過ぎたい!!
- 192 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:38
- 「止めないでっ! 絵里もすぐに行くから!」
「どこに逝くと?!
はやまるな絵里ぃいい!!!」
見かけが同じになっても、天然と人工の差は埋められなか!
と、いくら言っても手は止まらなかったので、れいなは仕方なく
絵里の胸骨(別名・エビスイッチ)を押した。
ビチッ、ビチチッ
.........................................................
......................................
...........................
.................
◇ ◇ ◇
- 193 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:38
-
「じゃあ、帰るけん」
「寂しくなるたい。
夏になったらもっと長く帰って来んしゃい」
「お世話になりました」
「絵里ちゃんも、また来んしゃいね」
「れいなぁああ!! うおおお! 帰っちゃいけん!!
お前はもうクマば捕まえたんやから!!」
「おとーしゃん、みっともなか。姉ちゃんは向こうの学校通ってるんやけん」
「転校すればよか話たいっ!」
「…あ、おかーしゃん、家に戻ったら郵便が届くと思うんやけど。
ダンボールで 2 0 箱 ほ ど 」
「20? なんね、その嫌がらせに近い数は」
「中身はおとーしゃんが明らかに嫌がらせで送ってきたキティちゃんやけん、
れいなの部屋に置いといて欲しいと」
「あん人はまったく……、了解したばい。
そろそろ搭乗時間やなか?」
「うん、もう行くけん。見送りありがと」
「体に気をつけて、絵里ちゃんの家の人に迷惑かけんときぃよ」
「わかっとう」
「れいな!! れいなー!!!!」
「姉ちゃん、絵里ちゃんバイバイ」
- 194 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:39
-
2泊3日の帰省はあっという間に終わり、空港まで来てくれた家族に
手を振りながら、搭乗口に向かう。
おかーしゃんたちが見えんくなったところで隣の絵里を見ると
さっきまでの笑顔が消えた。
まだ怒っとーと……?
『ひどい! ワザとエビにするなんて!』
『だ、だって非常事態やったけん…』
意識を取り戻した絵里は、前みたいに無表情でオムライスを作り出す代わりに
れいなのベッドにあった枕を持って、
『今日はれいなのお母さんと寝る!』
ってえぇええ!? おかーしゃんの部屋にはおとーしゃんも寝てるとよ!!
『姉ちゃん、僕おとーしゃんと寝るハメになったんやけど』
『ごめん、ここにあるれいなのマンガ、好きなのあげるけん』
『マジ? みこすり半劇場もらってよか?』
『あれはだめ、あんたにはまだ早い』
『えぇー』
弟よ、あんたも男の子っちゃね。
- 195 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:39
-
次の日謝り倒して、絵里はトゲトゲしい態度やったものの
その夜はおかーしゃんと3人で川の字で寝て。
『絵里がアパートでエビになった時、れいな気にしてないって言ってくれたじゃん。
いっぱい頭撫でて、どんな絵里でも気持ち変わんないって言ってくれたじゃん』
『…ん、言ったと』
『絵里もそうだよって言いたかったの。
そう思ったら、同じにするしかないって。
でも落ち着いて考えたら、止めたれいなの気持ちもわからないでもないし、
だからやめるけど、でも、エビにしたのはほんとに怒ったんだからね?』
『ハイ、ごめんなさい』
『もうしない?』
『絶対せん』
今朝、一緒に歯磨いとう時仲直りできたって思っとったっちゃけど
甘かったんかなあ…。はああ。
「プフフッ」
「ん?」
- 196 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:39
- 自分の甘い考えを呪って頭を抱えたと同時に
堪えきれんって感じで絵里が噴き出す音がした。
いきなりなん?って訊く間もなく、続いて右腕に上機嫌に巻きつかれる。
「れいなの困ってる顔かわいいからー」
「ぅお? なん、怒ってなかと?」
「んー、怒ってるつもりだったけど、れいなかわいいからもういい」
「あ、そ、そう…」
中学の卒業式の日、下駄箱に『なんか最近ブスやね』って誰が書いたかわからんメモが
入っとってかなり凹んだことがあったけど、絵里に許してもらえる程度には
かわいかったみたいや。よかった。
「それに、福岡が綺麗で食べ物美味しくて、すっごくいいとこだったから
怒ってんのもったいないし。
れいな、絵里も連れて来てくれてありがとね」
「なつみお姉さんが旅行券くれたおかげやけん、こちらこそ、付き合ってくれてありがと」
「あー、お姉ちゃんかー、元気かなあ、会いたいなあ。
昨日も一昨日も家の電話留守電になってたけど、後藤さんと遊んでたのかな?」
「携帯にかけんかったと?」
「んー、後藤さんと出かけてるなら邪魔しちゃうと思って」
- 197 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:40
- ふうん……。そういや、後藤さんといえば、れいな2回も幻覚見たんやった。
なつみお姉さんも1回見たし。
あの2人の幻覚なら絵里のほうが見そうやのに、
向こうに着いたら一応病院行っとこ。ばってんこの場合、眼科でよかと?
「わー、色んなの入ってるー」
喋りながら歩いてる間に飛行機の中におって、席に座るとすぐに
おかーしゃんに『飛行機の中で食べんしゃい』って渡されたお菓子の袋を
物色しとる絵里の声を心地よく聞きながら
れいなは自分の目に異常があるのか、心に異常があるのかをしばらく真剣に考えた。
◇◇◇
「ふう、なんとか無事に終わりそうっしょ」
「だめだよなっち、家に着くまで気ぃ抜いちゃ」
「あらごっちん、遠足の時の先生みたいだべ」
- 198 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:40
-
数分後に離陸を控える、某飛行機内にて。
嬉々として袋を除いている少女と、その隣で少し暗い顔をしている少女の
3つほど後ろの席に、金色に輝くアフロが2つ、仲良く並んでいる。
「行きの飛行機によっちゃんがいた時はびっくりしたけども。
ヨッスィバーガーっていうのは、そんなに恐ろしいもんなのかい?」
「んあ、兵器だよ、兵器。
なっち、絶対食べちゃだめだかんね」
「わかったべ。
それにしてもごっちん、外人さんの真似上手かったね、完璧だったべ」
「あはっ、まっつーに教えてもらったもん」
大きいほうのアフロが得意気に揺れると、その肩をねぎらうように小さいほうの
アフロが撫でる。サングラスに長いヒゲまでつけた2人は、言うまでもなく
周囲から浮きに浮いていた。
「ペットショップで田中ちゃんがこっち見た時はヒヤっとしたけど
お家でもバレなかったし、ひょっとしてなっちたち、才能あるのかなあ」
「ペットショップか……あれは大いに不本意だったよ……」
大きいほうのアフロは膝の上の小さなバッグから金魚のコスチュームを
取り出し、静かに涙ぐんだ。
- 199 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:40
-
そして数分後、雲の上を飛ぶ某飛行機内にて。
「絵里ちゃん、頭なんでもないみたいでよかったね。
ミキティへの恐怖心も消えたみたいだし」
「なっち、あん時壁に隠れ蓑の術で張りついてたから、思わず飛び出しそうになったっしょ」
「しかもその後いい雰囲気になっちゃってねえ。
ごとー、ドキドキしちゃった」
「なっちは亀ちゃんの成長を目の当たりにして複雑だったべ。
ああやってお菓子食べてるとこは、まだまだ子供なのに…」
小さいほうのアフロは腰を浮かせ、前方にぴょこっと見える、
袋を見たり隣を見たりと忙しげな少女の頭を遠い目で見つめた。
「れいな、チョコ食べる?」
「アーモンド入りのやつがよか」
「はあい。あ、よっちゃんイカもあるよ」
「ちょうだい」
甘えたような声でも、姉に向かって発せられるものとは
全く違う響きのそれに、小さいほうのアフロはそっと目を伏せ―――
「ヘイガールズ!! 呼んだかYO!!!」
「んがあっ!?」
- 200 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:41
- ―――る寸前、某飛行機内に現れた白い影。
隣でひっくり返る大きいほうのアフロ。
「んああっ! よしこのやつ!!
なんでまたいるのさあっ!!!!?」
「……よっちゃん、髪型まっすぐに戻ってるべ」
小さいほうのアフロの言う通り、あのどこか間違えた感のあるうねりは
まっすぐに伸ばされていた。
「ん? ガールズたちは、先日会ったばかりじゃないかYO!
そっかそっか、そんなにまたひーちゃんに会いたかったか。
ブタゴリラについて語り合いたかったかYO」
「え? あの、こないだも今も呼んでましぇんけど…」
「なにぃっ?!
『よっちゃん』って言ったじゃねーか!」
「いや、言いましたけど、よっちゃんイカやけん……」
「んだよ、駄菓子かよ。
まあいいや、また会えた記念に、今度こそヨッスシバーガー2あげっから」
「あ、ありがとうございますとよ」
「いただきまぁす」
「ンアァッ! あなたシツコイ人ダヨ!!
あなたタチも! こんな科学兵器食べちゃダメダモンネっ!」
「おあ?! お前は石川の名を使ってヨッスィバーガーを奪いやがった外人!!
やっと見つけた! 今日こそ成敗してくれるっ!!!」
- 201 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:41
-
ンアァー トリャアー キャー ワー
「あ! 今度こそ梨華ちゃん!!」
「え、どこ?」
「嘘ダヨバーカ!」
「…なっ!? またかよっ!!!
てかなんでお前が石川のこと知ってんだ! 待てこのアフロ野朗!!!」
逃げるアフロに、追うサラサラヘア。
「やけんなんなんやろ、あの人ら」
「忙しい人なんだよ、きっと」
そして、またしてもヨッスィバーガー2をもらい損ねた2人は…………
「美味しかねえ」
「うん。いつもより美味しい」
「え? なんで?」
「んふふー、れいなと一緒に食べてるからー」
「っ…!」
仲良くよっちゃんイカを齧っていたとさ。
- 202 名前:ただいまとおかえり 投稿日:2005/06/21(火) 20:41
-
- 203 名前:余談。 投稿日:2005/06/21(火) 20:42
-
◇
一方その頃、地上のある森の中では―――。
「まいちゃん上!」
「ぐわあっ!?」
「大丈夫?! この辺はトラップだらけだから気をつけないと!」
「ありがとミッキー! 助かっ……ん?」
_____
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-=二 ̄::. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ .:: ̄二=-
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- 204 名前:余談。 投稿日:2005/06/21(火) 20:42
-
「ぎゃあああああミッキー!!!?!
あんたこそ上!!! 連れてかれるよ!!」
「ハ…? おわあっ!?
あの小っこいの! 『今年は宇宙っぽい感じで』ってこういうことかよっ!」
「ミッキー! こっからはノンストップでとにかく走ろう!
ゴール地点にあるリンゴ食べればクリアだから!」
「わかった! でも絶対、今年もゴール前にラスボスいるんだろうなあ…」
「去年は凶暴なムーミンだったっけ…」
「あった! ゴールだ!!」
- 205 名前:余談。 投稿日:2005/06/21(火) 20:43
-
,へ、 /^i
| \〉`ヽ-―ー--< 〈\ |
7 , -- 、, --- 、 ヽ
/ / \、i, ,ノ ヽ ヽ
| (-=・=- -=・=- ) | オレのリンゴはやらんぞ。
/ 彡 / ▼ ヽ ミミ 、
く彡彡 _/\_ ミミミ ヽ
`< ミミ彳ヘ
> ___/ \
/ 7 \
| /
「ラスカルかよっ!!!」
―――毎年恒例、知学部の大人ピクニックが熾烈を極めていた。
- 206 名前:余談。 投稿日:2005/06/21(火) 20:44
-
おわるべき。
- 207 名前:余談。 投稿日:2005/06/21(火) 20:45
-
- 208 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/06/21(火) 20:46
-
上手いこと指が動かず、お待たせして申し訳。
あちらにいただいたレスですが、こちらでさせていただきます。
どうもありがとうございました。
>>610◆ZpT8ZEbM様
言えない…2の中身を考えてないなんて……。
とりあえず身体にいいけど味はひどい組み合わせだと思います(w
>>611名無し飼育さん様
(0^〜^)ノ□<変人じゃねーYO! 鼻血拭けYO!
毎日待ってくださって、どうもありがとうございマウスw
なんとか終わりました(ホッ
>>612名無飼育さん様
結局…えっと、どうなったのやら?(爆
でもきっと、たぶん、少しは進んで、進んだ、はず。
>>633名無飼育さん様
めっちゃ嬉しいだなんて、私も嬉しいです・゜・(ノД`)・゜・
ありがとうございます。
幻覚はちょっと怒られそうな気が…(汗
- 209 名前:633名無し 投稿日:2005/06/22(水) 14:21
- 更新お疲れ様でっす。
いやー面白かった!幻覚も笑っちゃいました。
あの時続きしてたらやばかったなぁw
大人ピクニックも大変ですね、ホント命がけ?
とにかく楽しかったです!
- 210 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/22(水) 15:02
- 更新されてる━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
嬉しすぎて小躍りしちゃったYO!
プレゼントのもっとすごいの編も、わくわくてかてかしながら待ってます!
- 211 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/06/23(木) 00:20
- 更新キテタァ(゚∀゚)ァァ( ゚∀)アァ( ゚)ァア( )ァァ(` )アア(Д` )ァア(*´Д`)アァン
更新されていることを知った瞬間軽く呼吸困難にw⊂⌒~⊃。Д。)⊃
完結お疲れさまでした!お話しの最初から番外編まで、すべて楽しめました!
れなえり!れなえり!作者様ラヴ
- 212 名前:名無しJ 投稿日:2005/06/23(木) 14:52
- キタ━━━(。Α。)━(゚∀゚)━(。Α。)━(゚∀゚)━━━!!
いやいやお待ちしてましたよwかなり笑いました…てかれいなは何故そんなマニアックなマンガを…w
- 213 名前:名も無き読者 投稿日:2005/06/30(木) 17:39
- ハァ━━━━━━;´Д`━━━━━━ン!!!!(発作)
あーもーよっちゃんマイラヴ♪
あの2人は忍者かYO!
れいにゃはそんなこと気にしなくても(ry
ハァ━━━━━━;´Д`━━━━━━ン!!!!(発作)
引き続き何もかも楽しみにしてますっ。
- 214 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/01(金) 00:37
- あ!番外編!!まえのかな〜り好きだったんで楽しめました↑ハナカミンも大好きです☆
- 215 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 22:55
- ハナミカン大好き!!ぜひ続きをお願いしまっす!!
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 09:09
- 待ちますよマターリ マターリ
- 217 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:28
-
◆
- 218 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:28
-
あの日、空っぽのお腹を満たしてくれた、あったかいおにぎり。
優しく撫でてくれた、手のひら。
『あんな、梨華ちゃん、気になる人がおるみたいなんやけど…』
あいぼんが不安そうにごっちんの手首を掴んだのは、冬が来る少し前。
『こうなったらもう、記憶を消すしか………』
苦しそうなごっちんの。
『ごめん、間に合わなかった。
ごとー、また止められなかった』
涙は冷たい雨に流されて、梨華ちゃんは堕ちた。
- 219 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:28
-
◇◇◇
- 220 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:29
-
「あー、お腹空いた」
実感はないけど、運命を覆しちゃった美貴が“仮面ハナカミン”という不本意な名前と
変態チックな衣装を授かって、3週間が過ぎたある夜。
まだ真希ちゃ…ごっちんの力を借りつつの正義の味方活動だけど
助けた相手に通報されたり悲鳴を上げられたりするのを除けば、結構慣れてきたかな。
れいなたちとも仲良くなったし。
れいなは元も小さいけど、雲の上では美貴より大きい絵里とさゆも
地上ではぬいぐるみサイズでパタパタ飛んでんのが可愛いんだよね。
梨華ちゃんにそう言うと、『わかるっ! あいぼんとののも可愛いもん!
だからちょっとしたイタズラされても許しちゃうのよねー』って言ってた。
お母さんみたいな顔で。
- 221 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:29
- 美貴もあんな顔になってんのかなー。
もう何回か、『ウチの子のが可愛い!』みたいな言い合いになったことあるし。
(教室でなっちゃって、ちょっとした誤解と騒ぎを生んだことも…)
でもしょーがないよねー。
そりゃあいぼんとののちゃんも可愛いけどさあ
絵里とれいなとさゆもそれぞれ特色があって見てて飽きないっていうか。
3人の中では少しだけお姉さんで、初めて喋った時もしっかりした話し方をしてた絵里は
最初は大人しくて、あんまり話しかけてもこなかったんだけど
抱っこするとずーっと笑ってて、離すと寂しそうな顔をするけど、気づくとまた笑ってる。
れいなは最初の印象では熱々だったけど、実際は冷めてるようで熱いっていうか。冷めてんだけど熱い、みたいな。
抱っこすると真っ赤になって恥ずかしがってジタバタして、でも本気で離れようとはしなくて。
目が嬉しそうなのは、美貴の勘違いじゃなきゃいいなあ。
さゆは意外としっかりしてて、自分を可愛い可愛いって言ってばっかだけど
たまにポツリと呟く言葉は的を射てるし、頭はグルグル回ってんだけど
言葉と口が間に合わなくて固まってることがよくある。
- 222 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:33
-
まだ短い付き合いだけど、どっかの天使みたいに職人肌なとこもないから
美貴を厳しく谷底に突き落とさないし。
その上イタズラまでされて許しちゃう梨華ちゃんって……、すごいな。
母性の面では美貴の負けかも。まあ、末っ子だし。
そう、末っ子。美貴は末っ子で、かまわれたがりで、お母さん大好きなのに。
ここ適当県のアルバイトの時給が、なんと田舎の倍以上って情報だけを
小耳に挟んだお父さんに小さなリュック1つ分の荷物だけを持たされて………
たしかに時給はそっちよりいいけどな! 物価や家賃も倍以上なんだよ!!!
……ハッ、おっと、いつの間にか話が思いっきり逸れてた。
心の中では可愛いウチの子自慢してたのに、
お腹が空いたからラーメン作ろうと思ってもこの部屋には
ガスが無い = 火が無い = 悲しいね( T▽T)
だからお父さんに持たされたリュックの中に入ってたアルコールランプに
去年のクリスマスに売り歩いたマッチの売れ残りで火をつけて
鍋を持ったまま沸騰すんの待たなきゃならない現実に恨み辛みが甦っちゃった。
- 223 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:34
-
これ地味に手が疲れるんだよね。はあ。
でも! なんとも素晴らしい事に本日はインスタントラーメンに!!
ノノハヽヽ
从*VvV) < 卵 が 入 る の だ ! ! !
○⊂(⌒)@O
ヽ__) スキップスキップ♪
イェイ! ブラボー!
たぶん8ヶ月振りくらいの快挙だよ!! カモーン エッグフェスティバール!
- 224 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:34
-
思い起こせば、ハナカミンになることが決まった日、美貴の財布の中身は17円だった。
『突然ですみません。お世話になりました』
『…いいのよ。藤本さん、一生懸命働いてくれたから。
でも大丈夫なの? まだ未成年でしょ。
自分の身体は大事にしなきゃだめよ』
それまでのバイト先で店長に頭を下げたら、とうとう学校を辞めて
そっち系の世界に入るのかと勘違いされた。
入りませんよ。ある意味、なんていうかそっちじゃなくてあっちの世界に入るけど。
『これ、今月の分って言っても、少ないけど…』
新しい月に入ったばっかだったから、本当はもっと少ないハズなのに。
美貴の肩に置いた手を震わせていた店長は『肝臓、気をつけてね』と言って涙ぐんでた。
だからそっちじゃないってば。
- 225 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:35
- 結局最後まで勘違いされたままだったけど、もらったお給料で
無事ラーメンも買えたし。おまけに、
『藤本ちゃーん、ひとみんに卵もらってさー。
冷蔵庫ないから腐ると困るし、これ食べてくれるー?』
さっき隣の部屋に住んでる大谷さんが、養鶏所を営んでる友達にもらった卵を
分けてくれて、今夜のメニューはめでたく卵ラーメンになったワケ!
やっぱ人はさ、支えあって生きてくんだよ、エンジョイ近所付き合いってことだよ。
大谷さん、お友達のひとみんさん、ありがとうございます。
ハナカミンのお給料が入ったら、1番にお礼買いに行きます。
やっと沸騰したお湯に麺を入れてほぐし、火から鍋を降ろして粉末スープを入れ
有難き卵さまに合掌して深々と一礼してから、美貴はそっと熱々のスープの中に卵を――――
- 226 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:35
-
,. -─ '' "⌒'' ー- 、 __,,. -──- 、.
./ ,r' ´  ̄ ̄ `'' ‐-r--、 r=ニフ´  ̄ ̄ ~`` ‐、 \
/ ,r--‐''‐ 、.._,,二フ-、 ,. -‐゙ー-‐ ''、'ー--''-_、 \
/ / , '´ ,.イ ヽ__ }ノ´二 -‐ヽ._ \
{ i >{ L ,'ー 'ー ''´ ̄}
ト、 !. 〈/ } / ,.イ
ヽ、___ヽ、 ./ カパッ  ̄レ' _, ‐'
、 " `,二ヽ! r''二  ̄
` ‐- 、..__,. -‐─┴─' ││ ゙─‐'--''─- 、..___ ,.
│││
;;''""''';;
∈・,,,,,,,,,,ミ ンア♪
(´ Д ` )
ミ,,"""""彡
,,ノ"'''|'""
「ぎゃあああああああっ!?!?!?」
「んあ♪…ってぁあああっちぃいいいいいい――――――っ!!!!!!!
熱い熱い! 美貴ちゃん助けて!!! 火傷しちゃうよぉおおお!!!!!」
- 227 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:36
-
「ななな何やってんのあんたあっ!?」
「んああっ!! 氷水ぅ!!
早く冷さないと水ぶくれできちゃうよおお!!!」
「氷なんかないよ! 冷凍庫もないのに!」
「( T Д T)」
「泣くな!」
なんで大谷さんにもらった卵からヒヨコごっちんが出てくんのさっ!
ワケわかんないし自業自得じゃん!
てかヒヨコってことは……このまま煮込めば食べられたり………
「んああっ!? 何考えてんの美貴ちゃん! ごとーは美味しくないよお!」
「わかんないじゃん。誰か試食したの?
動物性タンパク質……肉……鶏肉、鶏肉……チキンチキンチキンチキンチキンチキンチキン…」
「いやあああっ!!!
待って! 美貴ちゃん正気に戻って!
んあ! ごとーお給料渡しにきたのにぃ!!」
「 そ れ を 早 く 言 わ ん か 」
- 228 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:36
-
◇
◇
◇
- 229 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:37
-
「大天使様、この書類に目を通しておいてください」
「わかったべさ、そこに置いとくっしょ」
「よろしくお願いします、失礼します」
白いカーテンのむこう。またなにやら難しいことばかりが
わざわざ難しい漢字と言い回しを使って、長々と書かれている
書類を持ってきた第9班天使長の足音が室内から消えるのを待って
天使塾・塾長――新垣里沙は疲れきった様子で目を閉じ、黒イスの背もたれに沈み込んだ。
「ちょっとニイガキ、油断しすぎよ」
「ニィアっ!?……あ、保田さんかあ……あービックリした」
「アタシじゃなかったら大問題よ!
疲れた顔して、なに、あんたまだ慣れないの?」
いつの間に入ってきたのか、目を開けると1人乗りの雲に乗った保田圭が
プカプカと新垣の頭上を浮いていた。
彼女は真希の補佐役で、残念ながら天使ではないが、新垣の極秘職務を知る数少ない1人である。
- 230 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:37
-
「いやいやいやいや、慣れるワケないじゃないですか、ずーっと憧れてた人のフリなんて。
それに天使長の先生方に敬語使われるなんて今までなかったことだし、
声とシルエットは変な機械のおかげで完璧に大天使様ですけど
喋り方とか、うっかりミスして気づかれたらどうしようって…」
「ちょっと!
アタシの作った機械を変とはなによ!」
後輩の気疲れを癒そうとフンフン悩みを聞いていたところ、さらっと
渾身の作“なりきりなっち7号”を変呼ばわりされて
保田は怒りを露わにした。
「この7号完成までの苦労も知らないで!
これのおかげでなっちになりきれてんだから少しは感謝しなさいよ!」
後ろから紐で操ると、細かい癖や仕草まで表現でき
なりきりなっちマウス越しに喋ると、本人と寸分違わぬ声が出るこの機械は
初めて見た真希が思わず抱きついたほどの傑作である。
ただ同時に、『んあ! なんでけーちゃんこんなもん作れんのさ!』と
真希の嫉妬を買ってしまい、悲しいことに1号から6号は没収されてしまった。
- 231 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:37
-
「保田さん、大きい声で極秘事項喋んないでください」
「うっ…と、とにかく!
たしかに訛りは完璧とは言えないけど上手くできてるし。もっと肩の力抜きなさいよ」
「でも抜くと、間違えてニィって言っちゃうんですよお」
「あ〜、それがあんたの訛りだからねえ」
「こうやって敬語話してると出ないんですけどねえ」
なっちこと、大天使・安倍なつみが
真希の紅茶に薬を入れて熟睡させ、深夜に寝室を抜け出して
雲の穴から地上に降り、さらに悪魔の住まう暗黒っぽい面っていうか
ライク・ア・ダークなサイドに堕ちていったのは、今から1年と半年程前のこと。
- 232 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:38
-
あの頃、なつみは職務中にボーッとしたり
真希を見るとパッと下を向いて慌しく逃げ去ってしまったり
どこか悩んでいる風もあったので、最初は思いつめて飛び出し
地上に降りただけかと思われていた。
しかし、ぐっすり眠り込んでいたところを絵里に揺り起こされた真希が
頭痛を堪えながら、地上をどんなに懸命に捜してもなつみは見つからず。
その上、れいなの肩で泣き止んだ絵里が、去っていくなつみがすれ違い様に落とし
慌てて拾ったチケットにライク・ア・ダークと書かれていたのを目撃していたことから、
なつみが堕ちたことは決定的になった。
- 233 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:39
-
『ニイニイ、これは、ニイニイにしか出来ないことなんだ』
天上や地上の人間が暗黒っぽい面に堕ちる為には、悪魔の手引きが必要である。
しかし普通なら、悪魔は天上の者には手を出さないのがルールだ。
なつみを唆した掟破りの悪魔が、どこの誰かは知らないが。
『ごとーは絶対暗黒っぽい面への入り口を見つけて、なっちを連れ戻す。
だから、なっちがいなくなったこと、他の人には内緒』
混乱を避ける為、なつみの失踪を知っているのは真希、保田、絵里、れいな、そして新垣の5人だけ。
その中でも、その場に居合わせたワケでもなく、真希の補佐でもなく
むしろそれまで真希と直接話したこともなかったのに突然呼び出され、
『ニイニイはなっちに憧れてんだよね。ん、大丈夫』
と目が合ったと思ったら次の瞬間に大役を任せられていた新垣は
この1年半、天使塾でニニニィと大天使様ステッカーを集めていた頃とは
比べ物にならないほどのプレッシャーを感じ続ける日々を送っている。
- 234 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:39
-
早くなっちを見つけないと…………。
この小さな体に、大きすぎる負担を掛け続けるのは酷だ。
保田はじわっとこみ上げる涙を堪えて鼻をすすると
再び目を閉じてウトウト眠りかけている新垣の体を
勢いよくうつ伏せに引っくり返した。
「え、何すんですかあqwsでfrtgyふじこlp;@」
新垣のどこから出してるんだかサッパリわからない不思議な声を聞きながら
保田は新垣の肩を、背中を、腰を、優しく、 優 し く マッサージ。
そしてトドメに。
「今日はアタシが、美味しい手料理作ってあげるわ♪」
「ニエッ!? ちょっ、勘弁してくださいマジで!」
それから3日間、新垣が正露丸を手放すことはなかった。
- 235 名前:堕ちる。 投稿日:2005/08/08(月) 21:39
-
- 236 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/08/08(月) 21:40
-
間が大きく空きまして、申し訳。
その上話のサワリだけというか、短くて申し訳。
レスありがとうございます。大変感謝でございます。
>>181名無飼育さん様
すごく、すごくですかw ありがとうございます。
彼女は次か次の次くらいの再登場の予定です。
从‘ 。‘从<チャンネルそのままで、もうちょっと待ってください。
>>182名無し読者様
ありがとうございます、嬉しいです!
AAで色んなものを誤魔化してもいます。
>>183名無飼育さん様
んもうありがとうございます。
>>184名無飼育さん様
おおおお待たせしました。
从VvV从<やべ、ハナカミン出てないじゃん。
>>185名無しJ様
もぅ
あ り が と う 。
- 237 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/08/08(月) 21:41
- >>209 633名無し様
最後までお付き合いくださってありがとうございました。
よかった、幻覚怒ってないw
楽しんでいただけて安心しました。アナタ、ヤサシイヒトネ。
(VvVlll从<命がけだよ、マジで、半端ないんだから。
>>210名無飼育さん様
小躍りシチャッタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
ところがえぇっと、スレも終わってしまいましたので
プレゼントのもっとすごいの編は…ないような気がします(ボソッ
从;´ ヮ`)<え? れいなはずーっとオアズケ? (vV从从 フフン
>>211名無し飼育さん様
完結シタワァ(゚∀゚)ァァ( ゚∀)アァ( ゚)ァア( )ァァ(` )アア(Д` )ァア(*´Д`)アァン
軽く呼吸困難になるほど待たせてしまったとは、
それなのに嬉しいお言葉&お付き合いくださってどうもありがとうございました!
れなえり!れなえり!こちらこそ、名無し飼育さんラヴ
>>212名無しJ様
お待たせしまシタ━━━(。Α。)━(゚∀゚)━(。Α。)━(゚∀゚)━━━!!
待たせた上に無茶な話で、笑ってくださってありがとうございます。
从*` ヮ´)<ちょ、ちょっとした好奇心たい。
若さ故、でしょうね。
- 238 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/08/08(月) 21:43
- >>213名も無き読者様
おお、なにやら発作小僧がw
(0^〜^)<お、でもヨシコのラヴはやらねえYO!
なちごまはくの一だYO!
从*` ヮ´)<ととと年頃なんやけん仕方ないっちゃろ!
では引き続き頑張りますっ。
>>214名無飼育さん様
前のモノもハナカミンもお世話になりまして
ありがとうございました。これからもよろしくです。
>>215名無飼育さん様
これは釣りなのか、釣りなのかクマー
川 *Vv)')<ハナ カ ミ ン なのだ。
続きお待たせしました。
>>216名無飼育さん様
マターリ マターリ 温かい心遣いありがとうございます。
最後に、チーズ番外編、誤字脱字多すぎでご迷惑をおかけしました。
読んでくださった方、本当に申し訳&ありがとうございました。
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 22:32
- 待ってましたー!
って、り梨華ちゃん… この先どのような展開が(T▽T)
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 22:57
- みきてぃ・・不憫な子(泣 こんどダチョウの○マゴあげるからね
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/09(火) 12:23
- _n
( l ノノノハヽ
\ \ (VvV从
ヽ___ ̄ ̄ ) 待ってたよ!!
/ /
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/09(火) 13:11
- 待ってました…更新キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━!!!!!!!!!!
容易く手に入る卵なのに…・゚・(ノД`)・゚・
もうハナカミンには同情無しではついて行けません。
- 243 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:31
-
◆
- 244 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:31
-
空気が重い。
それが、初めて地上に来た時の感想。
何もないのに両肩にどっしり錘が乗ってるみたいな。
どうしてみんなは平気な顔してられるんだろう。
地上に来て5秒、もうアタシは帰りたかった。
だから素直に帰りてーって顔しかめてたら、遠くにいた先生がすっ飛んできた。
いっつも長い前髪で顔を隠してる大人しい先生が
えらく興奮した様子でアタシの顔を覗きこんで肩掴んで揺らして。
- 245 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:32
- あのね、地上の空気には地上の者の色んな感情が染み込んでいて
重いと感じるのはその中の悲しみや涙といった負の感情に強く反応したからで
しかもこんなに敏感に、アナタは将来きっと立派な悪魔に
これほどの力があるなら直接カオタン様のご指導をどーのこーの。
聞いたこともないような速さで
つまりアタシには素晴らしい才能があるってことを
説明する先生の口はなかなか止まらなかった。
- 246 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:32
-
◆◇◆
- 247 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:33
-
「カオ、たこ焼き食べたい」
無限の宇宙の片隅に浮かぶ青くて丸い星、都球の暗黒っぽい面っていうか
ライク・ア・ダークなサイドで最も高い暗黒山の頂上に聳え立つ暗黒城の最上階。
―――通称、カオリンのお部屋で。
「地上行くの?」
「ヨッスィ買ってきて」
「え、1匹で行っていいの?!」
部屋の中央に置かれた大きなベッドに寝そべっている部屋の主、
イイダ・サタン・カオリが猫撫で声で発した一言に、メフィスト・フェレヨッスィは
前髪を掻き回していた手を止めて思わずソファから立ち上がった。
- 248 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:33
- 「お、嬉しそうだね」
「だだだって今まで1人で行かしてくれなかったじゃん!」
「周りがね。カオは全然オッケーだったんだよ?
普通は15で1匹立ちなのに、ヨッスィもう16じゃん。
昔のカオと力が似てるからって過保護過ぎんだよ、みんな」
実のところ、メフィスト・フェレヨッスィを最も甘やかしているのは
まだ暗黒小学校の4年生だった彼女を暗黒城に招いて以来、
妹のように可愛がっているイイダ・サタン・カオリその人なのだが。
イイダは本人に自覚があるのかないのか
強大な力と美貌で暗黒っぽい面を統治している悪魔で、
3年前までサタン・カオリ様――略してカオタン様と呼ばれていた。
- 249 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:33
- しかし、イイダはカオタンよりもカオリンのがいいに決まってるじゃん主義だったので
3年前テレビANKOKUのお昼の生放送番組中にスタジオに乱入し
2カメにきちんと目線を合わせて、
『カオが思うに、略したらサタカオかタンカオっしょー?』
と、魅力的な分厚い唇を震わせながら訴え、
さらにパーンしてくる3カメに向かって
『これからカオのことはカオリン、もしくはリーダーって呼ぶこと。
それ以外で呼んでも振り向いてあげないっ』
と、新しいカオリン法を発令し、その日からめでたくカオリン様、
もしくはリーダーと呼ばれるようになった。
(しかしどちらを使うか悩んだ挙句決められず
2つをくっつけてリーダー・カオリン様と呼ぶ悪魔もいる)
- 250 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:34
-
「やったー! ありがとうカオリン!」
そんな中、悪魔としては珍しくイイダに敬称を使わないメフィスト・フェレヨッスィ。
都球の悪魔は、平均12〜13歳の間に臀部から黒いシッポが生えると
なんとなく片足が馬の脚に変わり、足をひきずって悪魔役所まで歩いていくと
トリアーエズ成人の証として“より悪魔っぽい名前”を与えられる。
メフィスト・フェレヨッスィは、名前がまだ
ヨシザワヒトミだった頃に暗黒小学校の社会科見学で訪れた
初めての地上でその才能を見出され、イイダの元へ連れて来られた。
初めて会った時は、カオの腰らへんに綺麗な金髪の頭があって。
少しふっくらしていた頬は押すとプニプニして気持ちよかったのに。
今やイイダと対して変わらぬ身長となった体で跳ね回り、
大人びた顔を緩ませて喜ぶメフィスト・フェレヨッスィを見て
自然とイイダの大きな目は潤んだ。
- 251 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:34
- 「ねえねえ、たこ焼きと一緒にソフトクリーム買ってもいい?」
「いいよ。
あと帰りに里田のとこ寄ってイチゴ買ってきて。持てるだけいっぱい」
「わかった。なんか作んの?」
「いんやー、なっちが昨日から元気なくて。イチゴ好きだから」
「え、安倍さんが?」
なっちと口にした途端、イイダの眉が心配そうに垂れ下がるのを見て
メフィスト・フェレヨッスィも跳ねるのをやめて顔を曇らせる。
1年半ほど前のある日、悪魔が寝静まる時間に珍しく1匹で出かけたイイダが
地上で言う深夜が明け方になる頃に、小さな黒い袋を抱えて帰ってきた。
その中に入っていたのが、なっちこと安倍なつみで
部屋に着いた途端、疲れたイイダがベッドに放り投げたにも関わらず
彼女は赤く泣き腫らした目を閉じてすうすう眠っていた。
- 252 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:35
-
それから、イイダに悪魔学を教わるワケでも、部下として仕えるワケでもないのに
暗黒城で生活するようになった安倍。
イイダと同い年らしいが、いつもブカブカの黒いローブを
頭までスッポリ被り、裾をズルズル引き摺っているせいか
容姿はイイダよりずっと幼く見える。
加えて性格も―――暗黒城に来たばかりの頃は常に赤い目を窓の外に向けて
深く沈んでいることが多かったのでわからなかったが、最近よく小さなイタズラを
イイダたちに仕掛けて遊んでいる様子は相当子供っぽい。
しかしなぜか、他の悪魔にやられたら腹の立つような
くだらないイタズラでも、成功したのを見てケラケラ笑っている
安倍を見ると不思議と楽しい気分になるので、誰も怒らない。
イイダとは幼馴染みの悪魔、らしいが。
メフィスト・フェレヨッスィは彼女のほかに
世界が華やぐような温かい眼差しを持つ悪魔を知らない。
- 253 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:35
-
「カオがカラオケに誘ったのが悪かった」
「なんで? カラオケ楽しいじゃん」
「そうじゃなくて。
大事な子のこと思い出させちゃってねえ」
「あー、ゴンだかチンとかいう…」
以前、安倍が寝言で呟いていた犬みたいな名前。
実際はゴンでもチンでもないのだが。
納涼でダジャレなんて思いつくわけないじゃん…っ。
と、安倍に元気がなくなった原因を思い出し、己の不甲斐なさを呪うイイダに
訂正する余裕はなかった。
そう、あれは昨日の朝食後の散歩中…………
『ねーなっち、今日さ、カラオケ行こ。
近くに新しいのできたって』
『カラオケかい? 懐かしいっしょ。
最後に歌ったのって………ああ、天上・秋の納涼カラオケ大会の時だべ…』
『え、あ、えっと…』
- 254 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:36
- 朝刊に挟まっていたチラシを見て、安倍は歌うのが好きだったことを
思い出したイイダの誘いに、嬉しそうな声が返ってき―――たと思いきや。
急に低くなった声に、イイダは不穏な空気を感じて
咄嗟にダジャレを考えた。
だが、「納涼」という難度の高いお題でトライした為に、
『その納涼自転車は、1人乗ぅりよぅ』
という苦しすぎて流石のダジャレマスターも口に出せないモノしか思いつかず。
その前に納涼自転車って何?と、イイダが悩んでいる間に
安倍は思い出という名の海に肩まで沈んでしまっていた。
- 255 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:38
-
『なんだい、なんなんだい、スクランブル歌ってる時の
ごっちんの可愛さったら…まさに霊長類の宝だべ…』
『わああ、なっち!』
慌てて引き上げようとしたものの、イイダの手をすり抜けて
海底に辿り着いた安倍の足に絡みつく、回想という名の海草。
『あー、人混みに〜♪』
『エル・オー・ブイ・イー・ラブリーごっちーん!!!
圭ちゃん! ちゃんとビデオ撮ってるべか?!』
『バカ! ちゃんと撮ってんだから揺らすんじゃないわよ!』
360度観客に囲まれたステージでスポットライトを浴びた甘い笑顔が
優しい腕が、引き締まったお腹が輝いていた。……ん? お腹?
『一緒にー、ワオワオ♪』
『ワオワ…ってひゃあごっちん! そんなハシタナイ格好しちゃダメっしょ!』
『んあ? ごとーのお腹変ー?』
『変なワケないっしょ! ごっちんのお腹っつったら霊長類の誇りだべ!
だからって見せびらかしちゃダメ!!
これ、なっちの編んだ腹巻つけなさいっ!!』
『ええー…』
『ほれ早く!!』
『んあ……ぐっふぃーりんおーらい…』
- 256 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:38
- 『あーいつはー、後悔しーはーじーめているさー♪』
『当たり前だべ! ごっちんをフるなんて…っハ!
ごごごごっちんフラれたべかっ?! 誰だい?! どこの愚か者だい!!
見つけ次第なっちが下ろし金で摩り下ろしてやるべ!!』
『なっち落ち着きなさいよ!
カラオケなんだから、後藤がほんとにフラれたワケじゃないでしょ!』
嫉妬にかられたとはいえ、さり気なく恐ろしい発言があった。
『あんま慣ーれないことー♪』
『慣れない? ごっちんが慣れないのって……掃除? 掃除かい?!
…ぐすっ、ごっちんのバカあ!!』
『だから違っ…ぐはあっ!?』
『んあ? なっちどこ行くのー?』
大盛り上がりで幕を閉じた天上・秋の納涼カラオケ大会の翌日。
白い手編みの腹巻をつけて安倍の部屋をせっせと掃除してくれた、大事なあの子。
ベッドで拗ねて丸くなっていた毛布を時々思い出したように撫でては
何度も何度も降ってきた優しい声が甦る。
- 257 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:39
-
『んあ。本棚の上、ホコリいっぱいとれたよ』
『なっち、お腹空いてない?』
『ねえ、喉渇いてないの?』
『見てなっち、窓ピッカピカ』
あの時は、我慢できなくなって目だけ出したら
窓よりも何よりもピッカピカに光り輝くあの子がすぐ傍にいた。だけど。
ここでは、どこを見ても、ごっちんのカケラさえ見つからないよ。
目を閉じて、なっちの心の中にしか、ごっちんはいないんだ。
『そうだ、涼しくなってきたしぃ、魚のぅ、漁にでも行くぅ?』
『…………』
『夏の終わりに作るおにぎりに巻くのは海ぅ苔よぅ』
『…………』
大事なあの子を求めて回想に浸り、深海を彷徨う安倍に
苦しさは相変わらずのダジャレをいくつ投げただろう。
打ち返せなんて言わないから、せめて受け取ってくんない?
くたっと体から力は抜けているが、眠りもせず、ダジャレも聞かず、昨日から何も
食べようとしない安倍に、イイダはほとほと困り果てていた。
- 258 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:40
-
「ぐす。そりゃさ、ひどかったよ昨日は。
でも厳しいっしょ。納涼だよ?」
「カオリン、もうバスの時間だから行っていい?」
「なっ…!?」
花びらが散ってしまったかのような幼馴染みの姿に心を痛めるイイダは
気持ちを共有してくれていると信じていたメフィスト・フェレヨッスィの言葉に耳を疑う。
「ぐすん! ちょっとは慰めてよヨッスィ!」
「だって早く行きてーんだもん。
イチゴだって早いほうがいいじゃん」
傷つくかなーと思ったけれど、バスの発車時刻が5分前に迫っていたので
メフィスト・フェレヨッスィは軽くイイダの頭を撫でて
さっさと部屋を出て行ってしまった。
「もう! ヨッスィなんて転んじゃえ!」
その背中に、悪魔の頂点に君臨するサタンとしては弱すぎる不幸の言葉を
叫んで、イイダは小さい時から書き溜めたダジャレのネタ帳を手に
安倍の部屋へ向かった。
- 259 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:40
-
◆◇◆
◆
- 260 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:41
-
「ふうー、気持ちいいー」
今は今、初めてのお使いを終えた1匹の悪魔が
緑の敷き詰められた山の上をフヨフヨと飛んでいる。
用は済んだのだから、なるべく早く帰らないといけないのに
小さい頃お姉さん悪魔に教えてもらった地上のイイモノのひとつ――眼下に広がる
自然の色を眺めるのが大好きな悪魔は
山を見たのだから海も見てから帰ろうとマントを翻した。
お使いのついでに買ったソフトクリームの最後の1口を飲み込み
風のしょっぱい方へ。
「けっこ近……いっ!?」
本気を出してビュンビュン飛んでいると、頭を鈍器で殴られたような
衝撃に襲われて、悪魔は慌ててブレーキをかける。
- 261 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:42
- こういう時は…近くに……。
優秀な悪魔は、地上の者の悲しみを空気で感じることができる。
ここだけの話ペーパーテストは散々だったのに、たぶん直感的な才能が
あるらしい悪魔は、流れを辿って悲しみの根源を探す。
すると、お姉さん悪魔が毎週楽しみに見ている火サス――
――火曜サスペンデッド・ゲーム劇場(内容はドラマだが、その名の通り
途中で放送が中止になる)に出てくるような断崖に、2つの人影が。
\\ ビ \\ \ \\\ \\ \ \
\\ \\ ュ ウ \\ \ \\
\\ \\ \\ \ ウ \\\ \\
\\\ \\ \ノハハ ウ \\ \
\\ \\ (‐Δ‐川ノハハ ゥ\ \\
\ \ ( ||σ_σ川 \\ \\ゥ\\
\ \\ \| | と ヽ \\ ゥ
\\ \ \\ (_(_(_(_) ′ \\ \\
\ \\ \ | ̄ ̄|  ̄ ̄\ \\ \\
\ \ \ / Y \ ∨ |  ̄ ̄ ̄ ̄ヽヽ
\\ \\ | | | \ ヽ
- 262 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:43
-
「高いね、お姉ちゃん」
「むぁ。あゆみん怖い?」
「んーん。だってもうすぐ天国に行けるんでしょ?」
「……むぁ」
「お父さんとお母さんに会えるんだよね?」
「………むぁ」
ゆっくりと近づいて聞き耳を立てると、姉妹と思しき2人は
穏やかな表情で思いっきりヘビーな会話をしていた。
どうしよう。
初めて1匹でこういう現場に立ち会った悪魔は、今にも海にダイブしそうな2人に普通にビビる。
こういう時、お姉さん悪魔はどうしていたか。
たしか去年ビルの屋上から飛び降りようとしていたオッサンに
『バカーっ!』と強烈な右フックを喰らわせて…。
「いやいやいやいや、それはまずい」
あのオッサンはマゾだったのか、『痛いでしょ?! それが生きてるってことだよ!』
というお姉さん悪魔の言葉であっさり改心したが。
- 263 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:43
- 「あゆみね、お父さんに会ったら肩車してもらうの。
お母さんには、……えへへ、卵焼き作って欲しいな」
「…むぁ。お腹いっぱい食べられるよ」
この2人は殴ってはいけない。
ただでさえ断崖ギリギリに立っているし、会話もますます剣呑。
おまけに手を握り合って………最終段階じゃねえかあっ!!!
しょうがない。何の策もないけどやるしかない。
悪魔はぐっと腹を決めて姉妹の目の前まで移動し、地上の者の目に
見えないよう全身に施していた術を解―――
「そこの美貴ちゃんみたいな2人!
命を粗末にしちゃいけないぞっ☆……ってきゃああ!?」
―――こうとした瞬間、キーンと耳から脳髄にまで突き刺さる高い声。
突然のソプラノボイスに驚いた小さな体が、悪魔の腹部にダイブ。
- 264 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:44
-
「うげっ」
「ああああゆみっ………ん?」
「大丈夫よ! アチャチャミーの超能力でっ………ほえ?」
鳩尾に綺麗に入ったヘッドに苦しみながら
悪魔は断崖から落ちた妹を足でキャッチ。
慌てて後を追いかけた姉は、宙を浮く妹に手を伸ばしたまま固まっている。
その後方で何やら小指を立てたポーズのピンクの塊――ていうか
お前のせいで命を粗末にするとこだったじゃねえか――を悪魔が睨むと
ピンクのマスクの向こうから、信じられない言葉が聞こえた。
「あなた、だあれ?」
「え…?」
術はまだ解いてない。ないのに。
てかなんだ、こいつ。
変な格好して、ピンクだしなんかキショいし。
キショいんだけど、でもなんか、あれ、これってなんなの?
- 265 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:44
-
「あゆみん、こっちおいでっ」
「ひゃっ……お姉ちゃん天国は?」
「むぁ! 忘れなさいっ!」
どうやら自分の姿が見えているらしいピンクに驚き桃の木ミルクシェーキな
悪魔の足の間から妹を引っこ抜き、姉は物凄いスピードでその場を走り去った。
しかし、もはや悪魔は姉妹のことなど忘れて
ピンクのマスクの中から自分をじっと見つめてくる眼差しに心を奪われている。
このどピンク、目が痛いのに目が逸らせない。なんで?
すらりと細い褐色の腕、小さな手のひらに触れてみたい。どういうこと?
頭の奥までシビれた声を、もう1度聴きたい。それってなんか。
それってつまり。
どうやら悪魔は恋をしたみたい。
- 266 名前:堕ちていく。 投稿日:2005/08/17(水) 07:44
-
- 267 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/08/17(水) 07:46
-
川‘〜‘)||<誕生日がくるとっくの前に登場するハズだったのに。
( ・´ー`)<なっちは登場したんだかしてないんだか。
お二人も、遡って6月とか誕生日だった人も、ひっくるめておたおめ。
レス、ありがとうございます。
>>239名無飼育さん様
お待ちくださいまして、本当にありがとうございます!
(;^▽^)<ハッピー!…だといいんだけど。
>>240名無飼育さん様
川つvT从<美貴は不憫なんかじゃっ…不憫なんかじゃ……ないけど
くれるならダチョウは有難く受け取ります。
>>241名無飼育さん様
ミミミミキサマ!
お待たせしました!
>>242名無飼育さん様
川つvT从<たっ…容易いだとぉっ。
ハナカミンのお給料が入ったみたいなのでこれからは……どうなるやら。
- 268 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 00:40
- 村っち…柴ちゃん…・゚・(ノД`)・゚・
がんばれっ!極貧でも正しく生きている人もいるんだから…从VvV从
続き楽しみにしています。
- 269 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 04:01
- あやみき・・・
- 270 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 14:16
- お疲れ様です。
なんか、肌の色が、白い人と黒い人キター(´∀`)
これからの展開を楽しみにしております。
- 271 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 04:20
- 物凄くツボに入っている今日、この頃。
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 00:59
- あやみき不足・・・ですたい。待ち通しくてたまりません。
- 273 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:54
-
◇
- 274 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:54
-
♪ ジャーッジャジャーッジャッジャッジャジャーッ ジャジャーッジャジャーッジャッジャッジャジャーッ ♪
四六時中 胃袋 嘆きっぱなしの憂鬱
なんだか 畳すら 美味しそう
三畳半抜け出して 大の字で寝てみたい
枕なんか欲しいワケじゃない
5円玉握るアナタの横顔 嫌いじゃない
だけど ひもじいよ
ハートどころか意識が遠のく ヤバイよ
10円でもいい
道に落ちてて want want want want!
もっと激しい欲に抱かれたい (ニクーッ!)
No No 贅沢 敵じゃない
ホントはお札拾いたい (ユキチーッ!)
No No 交番 届けない
心の中 良心 叫んでる
わかってる ネコババは・・・ (でも!)
「夢見るメロンじゃ満たせない」 (Fu―!)
- 275 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:55
-
「お姉ちゃん、マサオ、歌上手だね」
「むぁ。心に染みる歌声だのう」
「大谷さんステキーッ!」
「なはは、どもども」
初お給料日の数日後、美貴は大谷さんと卵の恩人――ひとみんこと斉藤瞳さんと
お2人の友達の村田めぐみさん・あゆみちゃん姉妹と一緒に、
アパートの傍の公園で、昨日から大谷さんの部屋に住み始めた村田姉妹の
歓迎会(近所の人に怒られないように声を潜めた、物凄く静かな)をしている。
「どもどもじゃないわよアハァン!
マサオフォウ! あゆみに不道徳な替え歌聞かせるんじゃないのオーマイガッ!
美貴ちゃんも何がFu―よウフゥン!
貧しい中でも常に人として正しくあれっていつも言ってるでしょーがオーイエッス!!」
いや、美貴は初対面だから初めて言われたし。
いちいち洋モノの匂いがす…じゃなくてセクシーな斉藤さんの語尾もどうかと…
- 276 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:55
- 「「ごめんなさい」」
思うけど、たしかに小学生に聞かせていい内容じゃなかった、ネコババだし。
素直に反省してボーカル担当の大谷さんとコーラス担当の美貴が一緒に頭を下げ―――
「ンフゥッ、わかってくれればい」
「ねえお姉ちゃん、ネコババってなあに?」
「「「っ!?」」」
―――ると同時に警報が。
【緊急事態発生! 緊急事態発生! 清貧レンジャーに告ぐ! ピュアなハートを断固死守せよ!】
ラジャ…ってちょっと待てクルァ! 誰が清貧レンジャーだ!!
しかもどっかで聞いた名前じゃん!
「むぁ? んーとぉ…」
「ああああゆみィイッ! ネコババっていうのは恐ろしい呪いの言葉のことよドンスタァップ!
今の歌は『呪われたくなかったら、拾ったお金は必ず交番に届けましょう』っていう歌なのプリーズモア!」
「そうそう、ノロイだよあゆみん!」
「ノロウイルスじゃなくて呪いだよ呪い!」
- 277 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:55
- ノロウイルスも怖いけど!
冬の生牡蠣に注意…って食べた事ないけどコレカラ食べんだよコレカラ!!
「そうなの?……怖いね。
あゆみ、ちゃんと届ける」
言葉に詰まる村田さんを押し退けて迫る清貧レンジャーの叫びに
どこか怯えた顔であゆみちゃんは頷く。よかった。
「むぁ、あゆみん偉いぞい」
「えへへ」
あらら、お姉ちゃんに褒められて嬉しそう。
いいな、美貴もお姉ちゃんたちに会いたい。
「藤本ちゃーん、乾杯しない?」
「あ、ありがとうございます」
「なーに言ってんのー。これ買ってくれたの藤本ちゃんじゃーん」
ステージ(滑り台の上)で斉藤さんがセクシーに腰をくねらせ始めた頃、
家族を思い出してシュンとなる美貴の隣に、大谷さんがコーラを持ってやって来た。
- 278 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:56
- そう、まあ、美貴が買ったっていうか。お給料出たし。
火傷したとこを羽でパタパタ冷ましながら恨みがましい目を向けてきたごっちんは
口を尖らせながらも、ちゃんとくれたし。
『んあ! シャウエッセンじゃないんだから茹でないでよ!』
『ごめんなさい』
『ごとーは美貴ちゃんに喜んでもらいたくて
急いで持ってきたのに!』
『ごめんなさい。…ところでなんで今日は“美貴ちゃん”なの?』
いつもは“ミキティ”なのに。
『っ!? ス、スキップしてたからだよ!
やっとスキップの素晴らしさをわかってくれた美貴ちゃんに愛を込めたの!
間違えたとかじゃないの!』
間違えたんだ。
- 279 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:56
-
『…で?』
『んあ?』
『…あの、お給料…』
『んあ、ハイハイ、今ので減給にしたいとこだけど』
『ええぇ』
そんな、怖い事言わないでごっちん!
『冗談だって、ハイどーぞ』
『おおお!』
『んあ? 待って、ユキチの顔の向きがバラバラだ。揃えるね』
『………』
『ハイ、今度こそどーぞ』
『うおおお!』
『んあ? 待った、ピンサツにすんの忘れてた。換えてもらうから明日でいい?』
『 い い ワ ケ あ る か ! 』
お金なんだよ!
美貴の目の前でごっちんがヒラヒラさせてんのは
顔の向きがバラバラだろうとしなびてようとお金であることに変わりないんだよ!
- 280 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:56
- 『じゃあ、ホントにどーぞ。
今度から卵割る時は中にごとーがいないかちゃんと確認してね』
『どうやって…』
『心で感じて。きゅーん』
『………わかった』
で き る か 。
そんなこんなで懐が温まったから、こないだの卵のお礼も兼ねて
今日の歓迎会はほとんど美貴の出資。
って言っても、気を遣わせちゃうから高いモノは買ってない。
お菓子じゃお腹にたまんないから、食べ物は美貴が買ったお米の一部を
大谷さんが飯盒で炊いて、それを斉藤さんが握ったおにぎりだけだし。
でもそのおにぎり、具が入ってんだよ! すごくない?!
しかも美貴の好きなスクランブルエッグ!!
やっぱおにぎりにはこれだよねー。斉藤さんが鶏飼っててホントよかったー。
- 281 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:57
-
「ぷはっ! 美味いなあ、コーラなんて何年振りだろ?」
「美貴、初めてかも」
「えっ、ほんとにー」
「コーラ味のガムなら、噛んだ事ありますけど」
「それ小っちゃい箱に丸いのが4つぐらい入ってるのじゃない?
他にグレープとかカルピスとかあってさー」
「それです。フーセンガムで」
兄姉妹で1つずつ分けて。
大事に大事に噛み締めて。
味が無くなっても、捨てずにいつまでもいつまでも膨らませてた。
いつだったか、口に入れたまま寝ちゃって、
次の日起きたら髪にガムがへばりついてたのは、幼い日の苦すぎる記憶。
「はは、は。……あたしもやったよ、それ。
全然取れなくってさ、ムース使えとか言われても無いし、結局最後は髪切って。
ずっとロングだったけど、それからショート」
「美貴も、お母さんにザックバランに切られました…」
- 282 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:57
- 油で取れるってお兄ちゃんが言ったのに、勿体無いって言われて…。
「恥ずかしいことじゃ、ないさ」
「…ぐすん」
◇ ◇ ◇
楽しかったんだか切なかったんだか。
美貴と大谷さんが話してる間に、いつの間にかステージに上がって斉藤さんの隣で
盆踊りしてた村田さんの背中であゆみちゃんが寝ちゃったのを合図に
歓迎会はお開きとなった。
ふぁーあ、結構遅くまで騒いで(小声で)、疲れたかも。
だけど久しぶりにご飯いっぱい食べられて……満腹って、幸せだなあ。
- 283 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:57
-
ハナカミンになって散々な目にたくさんあったのが、報われたっていうか。
今は無理だけど、少しずつお金貯めていつか引越そう。
大谷さんたちと離れるのは寂しいけど、やっぱガスとか、お風呂とトイレも部屋に欲しいし。
このアパート………家賃5000円だからってひどいんだもん。
女の子の住む場所じゃないもん。
お風呂ないしトイレ共同だし。
綺麗にしてたいから、毎日の銭湯通いで食費なくなるし。
共同のトイレがまた面倒くさいのなんの。
いや、割と臭くはないんだけど。住み始めたばっかの頃、使い方を説明してくれた大家さん曰く…
『トイレはここやから。
大丈夫やと思うけど紙がなかったりしたらここのブザー押し。裕ちゃんが5秒で駆けつけるで』
『はい、わかりました』
『あとこれ、1番大事なことなんやけど…』
『なんですか?』
『このトイレに入ってる間はずっと「がんばり入道ホトトギス」って心ん中で唱えてな。
ええな? 絶対やで。唱えやんとどうなっても知らんで。自己責任やで』
『……はい』
- 284 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:58
-
正直、がんばり入道って何だよって激しく思ったし、面倒とも思ったけど。
大家の中澤さんのとてつもない迫力に押された美貴は言い付けをキチンと守ってる。
今ではクセでつい学校のトイレでも唱えちゃうぐらいだ。
『…ガンバリ入道ホトトギス…ガンバリ入道ホトトギス…』
『美貴ちゃん? 何か言った?』
『ガンバ…えっ!? あ、や、言ってないよ! 空耳でしょ!
てか梨華ちゃんして』
『しないよ!』
じゃあなんでいるの? という疑問は置いといて。
早くこんな変なとこ抜け出さなきゃ。
肉も少し我慢して、とりあえず屋根がありゃいいってもんじゃないんだ!
うおおーっ!!!………さ、寝よ。
この薄い布団とももうすぐお別れだ。
待ってろよベッド! やたらデカくてフカフカの買って大の字しまくりで寝てや……ん?
- 285 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:58
-
ZZZzzz C⌒ヽ ん?
_⊂二二⊃__ノハヽヽ___
/( ´ Д `)(vV从从(()/
/'⌒ ⌒⌒⌒⌒∪⌒とノ⌒ ヽ
/ ノ
/ どさんこ専用ふとん /
(____________,ノ
「 な ん で い る ん だ よ ! ! 」
「んぱあっ?
だってたまにはー、ごとーも薄くて固くて背中が痛くなるとこで寝てみたいなーって」
「 シ バ く ぞ 」
「まあまあ自分、そんな怒らんと。
ごっちんに相談したんはウチやから」
「え?…あいぼん?」
- 286 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:58
-
道産子じゃないのに!!…じゃなくてアンタは伊賀忍者か!ってな勢いで
隣に寝てたごっちんのパジャマの胸元からひょっこり顔を出したのは、あいぼん。
なんで? 梨華ちゃん付きの天使が、なんで美貴のとこに? 何の相談?
「んあ、だからね、スパッとゴマッと説明すると
ごとーはあいぼんから、梨華ちゃんが変だって相談を受けたのさ。
で、ミキティに心当たりないか聞きに来たの」
「あの子はいつもどっか変だ。
気にするな。
てかごっちん、道産子専用なんだから出てよ」
「んあ! そういうんじゃないの!
結構深刻っぽいんだよ、あいぼんすごい悩んじゃってて」
「…そーなの?」
言われて見ると、心なしかあいぼんの白い肌に青い影があるような。
つか道産子専用スルーしたな。
- 287 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:59
- 「あんな、変っていうかな、心があるとこに靄がかかってんねん」
「モヤ? 読めないってこと?」
人の心が、ちょっとだけ読めるあいぼん。
読めるっていうか、勝手に耳に入ってくる感じらしーけど。
「…うん。ウチは人の心全部読めるワケやないし、それ自体は変ちゃうんやけど。
梨華ちゃんはいっつも、聞いてへんのに心ん中垂れ流しとるタイプやから
アレ食べたいとかコレ可愛いとかヤダ怖いとか、うるさーてしゃーなかったのに、
それがパッタリなくなってしもーてん」
垂れ流しって…。思ったことをすぐツッコミとして口走っちゃう美貴と違って
梨華ちゃんは色々気にして口に出さなかったりするから意外だな。
「ただ元気もなかったし、初めはこういうこともあるんやろって思ってたんやけど」
「長いらしーんだよね。
ミキティのお給料日の次の日からずっとなんだって。
ねえ、教室で梨華ちゃん変わったとこなかった?」
「うーん…」
- 288 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:59
-
あ。そういえば。
なんか最近、ボーッとしてることが多いような。
給料日の次の日も変だった。あの日の美貴は、お金が入ったばっかでテンション高くて
『ヘイ、グッモーニン!』って跳ねるようなスキップで教室に入ってったのに
梨華ちゃんが見てくれてなくて、かなり寒い思いをしたんだった。
それに昨日、呼んでも肩たたくまで気づかなかったり。
心ここに在らずって感じで、今日もずっと溜息ついてたし。
「溜息………ほな、やっぱそうなんかなあ」
「やっぱって?」
「んあ、なんかね、モヤの中に、たまにうっすら大きな目が見えるらしーのさ。
すんごい綺麗な目で、だけど全然見覚えないんだって。
梨華ちゃんの家族とか学校の子見せてみたんだけど、どれも違うって言うし」
大きな目?
なに梨華ちゃん、一つ目小僧にでも会ったの?
- 289 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:59
-
「そ、そうやなくて。
自分が思ったみたいに、梨華ちゃん心ここに在らずって感じやん?
加えてウチに見えるんは大きな目だけ。
それってつまり、その目に心奪われたってことなんと違う?」
「え……」
心奪われた? それはえっと、好きな人が出来たってこと?
それなら別に、変なことじゃないじゃん。
「んあ、それだけならね。
でも奪われ過ぎなんだよ。普通なら、あいぼんに目しか見えないのはおかしいワケ。
好きな人が出来たんなら、その人の顔がずーっと頭ん中にあって、
梨華ちゃんのことだから『あ〜、愛しいあの人。お昼ご飯、何食べたんだろう?』って
聞こえてくんのが当たり前じゃん?」
「…まあ、いつも以上にうるさくなるだろうね」
「そう。なのに逆に、何も聞こえないの。
これって十分変だし、もし相手が変なのだったら
アッサリ騙されたりしそーじゃん。
梨華ちゃんはもう、完全にその人オンリーロックオンなワケだから」
- 290 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 17:59
-
なるほど。
そりゃ心配だ。
しっかりしてるけど信じやすくて、からかわれやすいタイプだし。
「でも、好きな人って誰よ?」
これが1番気になるところ。
だって美貴毎日会ってるけど全然わかんない。
「ごとーもあいぼんも全っ然わかんない。
ミキティにお給料渡した次の日さ、ごとー、梨華ちゃんにも
新しい超能力あげようと思って、朝迎えに行ったのね。
思えばあの時から元気なかったんだけど、ごとー眠かったから気づかなくて。
学校ではミキティがずっと一緒だし、あの日は放課後すぐアチャチャーミーで
あいぼんとののが一緒だし」
ふむ。で、そん時あいぼんが気づいたと。
「そう、でね、それからあいぼん、心配になってずっと気づかれないように
梨華ちゃんのこと見てたらしーんだけど、全然それらしい人がいないんだって。
ただ寝言で『…ひとみちゃん』って言ってたけど
その人と会ったり、電話したりしないし」
- 291 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:00
- ひとみちゃん?
セクシーダンスの斉藤さんもひとみだけど。
「ちがう。もっとこう、セクシーっていうより綺麗なビー玉みたいやねん」
美貴の中の斉藤さんの目を見たあいぼんが首を振る。
やっぱり違うか。
「ねえ、その前の日の梨華ちゃんはどうだったの?」
次の日の朝から元気なかったっぽいなら、そのどこかのひとみちゃん、
もしくは別の誰かに心奪われたのは前の日だと思う。
「前の日…は、ミキティ休みだったけど
梨華ちゃんはアチャチャーミーで北の断崖に行ってたの」
「断崖?」
「うん、両親を立て続けに亡くして
借金と一緒に残された姉妹が、若い命を散らそうとしててね。
でも2人はまだ死ぬ運命じゃなくて友達の説得で思いとどまるハズだったんだけど
友達の1人はセクシー卵に夢中になってるし、もう1人は卵かけご飯に夢中になっちゃってて。
間に合わないから代わりに梨華ちゃんに行ってもらったの」
- 292 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:00
- ん? どっかで聞いたような。
『これ、ひとみんがセクシーに産ませた卵だから超美味しいよ!
アタシはやっぱ、まずは卵かけご飯かな。
え? 藤本ちゃんはラーメンに入れんの? いいねー』
『ごめんね。友達が一緒に住むことになって、ちょっとうるさくなるかも。
ご両親が亡くなって大変みたいでさ、村田って言うんだけど
ひょろっとしてんのがめぐみんで、小っこいのがあゆみんね。よろしく』
………まさか、まさかね。
「でえ、その後はあいぼんに聞いた方がいっか」
ごっちんがクイっと胸元を開いて(うわデカっ!!…って違う違う見えてない見えてない)
そんな世間は狭くないだろと思い直す美貴の元に
あいぼんがパタパタと飛んできた。
そして、前日の梨華ちゃんの様子を語り始めた。
- 293 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:01
-
◇ ◇ ◇
あの日はな、制服のまま人がこーへん長いビルの隙間で変身した
アチャチャーミーとののと3人で、ごっちんにもらった地図見て現場まで飛んでったんや。
せやけどウチらって、女の子やん乙女やんフェミニンやん?
地図なんか見てもわかるワケないねん。
梨華ちゃんが悲しい気配をテレパシーで探って
なんとか断崖には着いたんやけど、別の断崖やったみたいで姉妹おれへんし。
『チッ、おめーは役に立たねえな』
『そんなこと言ったってえ! じゃあのの地図読んでよ!』
『読めるワケねーだろ!!』
『何よ胸張って言うことじゃないでしょ!』
アホ2人はケンカ始めるし。
あーあ、こんなんやったらこの仕事、あの血液中でフィブリンを溶解する
タンパク質分解酵素の1つみたいな名前の新人さんにやらせればよかったんや。
え? それはプラスミンやて? ごめんごめんわかってるがな。
とまあ、そんなこんなで。
しゃーない、この近くの断崖におるハズやから、手分けして探そってことになったんや。
- 294 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:02
-
でもその前に。
『おめーはテレパ使えんだからハンデな!』
『イヤアアアアアア!!!!!』
よいしょっ
_,,,、_,,,、_,,,、_,,,、_,,,、_,,,彡
_,,,,,,-''"""^~~´ ....;;;;;;;::..
_,,=-''"~∧ノハ∧ ::::::;;;;;;,,,...
/;,; ミ´D` 彡 ,、....... ∧ノハ∧ ;;;;
/// /// :|゙'、 ミ ミづ つ ::::::::... ミ‘д‘,,彡
| .〉 ミ ⊂,,,゙,,,ジ〜* ,,,...._,,,, ミ ゙';,.
| | | | | | l|| | ∪ ミ,,UU,,,,,,彡〜'' ::::,,,,
| |\_ :::....,,,, """"
| | | 。 | | | 〈 ノ |::::j\ ゞ:::::::....
/ ヽソ::::.〉 l .|""''--=_ ;:::...
⊂"゙"''⊃ .| | ( ` .L:::: :::::| l ̄""'''==--...,,,=__''''""";;;,,,,
⊂∧,,∧づ |::| / :::| i || ソ
ミT▽T 彡
" ゙ イヤアアアアアア!!!!!
- 295 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:02
-
ってののがアチャチャーミー断崖から投げて。
急いで見つけなあかんからハンデとかいらんのやけど、ののは職人肌やから。
しかもいつの間にか“早く見つけたモン勝ち”ってことになっとって。
ウチは走った。一等賞を取る為やない。
遅い足を懸命に動かして、投げられんようにののから逃げた。
ついでに姉妹を捜した。
そんなついでじゃ、見つけられなくて当然さ。
数分後、遠くから小さく『見つけたわ!! わーいのののバーカバーカ!』っていう
歓喜の声が聞こえた。
それが、ウチが最後に聞いた梨華ちゃんの心の声やった。
ウチはすぐに割と近くで『どこだよいねーぞ!』って毒づいとったののを連れて
急いで現場に向かった。
- 296 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:02
- すると途中、小さい女の子を抱えて物凄い真顔で走るひょろっとした女の人とすれ違った。
後でそれが助ける姉妹やったってわかったんやけど。
そん時は知らんとやり過ごしたら、ビュウビュウ風が吹いとる中アチャチャーミーが1人で断崖に立っとった。
そうや、よう考えたら、こん時から変やったんや。
『おめー! これで勝ったと思うなよ!』
『キャッ!? も、もう、なによお』
ののが頭に乗っかるまで、ぼうっと荒れ狂う海見つめとったし。
『ねーお腹空いたー、早く帰ろうよあいぼん』
『あいぼんも空いたー。なあ、何食べる?』
『ちょっとアンタたち、私に一言お疲れ様とかないのお?』
でもアチャチャーミーに抱っこされたののと
今夜のご注文はなあにトークに花咲かせてしもて…。
ブツブツ文句は言っとったけど、帰り家の前まで送っとる間、梨華ちゃん静かやった気がする。
その後はすぐに天上に戻ったで、家入るとこ、ちゃんと見てないけど。
- 297 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:03
-
地上の午後7時くらいやったから、梨華ちゃん家はご飯の時間やんな。
せやから家に入ったと思うけど、それから出かけたかもしれんし。
でも、出かけてないとしたら、やっぱり。
あの目は、ウチが見た姉妹のでもなかったし。
ウチが梨華ちゃんの声を聞いてから、ののと駆けつけるまでの僅かな時間。
あの姉妹以外に、梨華ちゃんの前に現れて、ウチらが来る前に姿を消した誰かが。
草しか生えてなくて、あたり300メートルに体を隠す木すら無い、あの断崖に?
◇ ◇ ◇
- 298 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:03
-
「すんごい足の速い人とか?」
あいぼんの話を聞いてわかったのは、ののちゃんが予想外に怖いことぐらいで。
美貴にはサッパリ、こんな考えしか出てこない。
「うん。しかも、あんな短い時間で梨華ちゃんの心まで奪っとる。
まず一目惚れやろ。
足が速い上、面もかなりイケてるハズや」
「うーん……でも、あいぼんの足の遅さを知ってるごとーからすると
足遅くてもお互いの趣味くらい話す時間あったかもね」
「え? そんな遅いの?」
「ぐっ…!
足はたしかに遅いけど!
飛んでったで走るよりは速かったもん!」
腕を組むごっちんの言葉に、美貴の腕の中であいぼんがキャンと叫ぶ。
飛んで少しは速くても、距離あったみたいだし
この子ら地上で小さいし。5分、いや10分は時間あっただろうな。
- 299 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:03
- けど逆に、10分もあったらメアドとか、一目惚れしたんなら交換しない?
あ、でもアチャチャーミーあの格好だし。
梨華ちゃんが寄ってっても相手は引いちゃったかも。
ピンクな分ハナカミンより変態っぽいし。で、振られてボーゼン?
「んあ。それなら電話しないし会いにも行かないよねえ。
そっか、そういうことか。失恋しちゃったのか、梨華ちゃん」
「や、わかんないけど。
もしそうなら、騙される心配ないし、その前に変身してる状態で会ったんなら
相手は梨華ちゃんの素顔知らなくない?」
「「…あ」」
今まで気づかなかったのか、お前ら。
美貴と一緒で、梨華ちゃんも腕時計で変身できるけど
それは出動要請がかかってる時だけ。
正義の味方を悪用しないようにって、そう決まってる。
そんな決まりがなくても、出動時以外で変身する気なんか美貴には微塵もないけど。
- 300 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:04
- 「ほな、梨華ちゃんがまたその人に会ってしもても
ウチとのんが傍におるから大丈夫やな。
梨華ちゃんが騙されそうになったら助けたれるし、もしエエ人やったら応援したれるし」
「んあ、そだね。
あいぼんたちがいれば大丈夫だね」
「…………」
あいぼんはともかく、ののちゃんが心配だけど。
でも梨華ちゃん水臭いなあ。
失恋の痛みを消すことは出来ないけど、ぱーっと一緒に遊んで忘れさせること
なら出来たのに。今ならぱーっと遊ぶお金もあるし。
「てか梨華ちゃん、素の状態だったら
成就した可能性すごいあっただろーに…」
名前と学校か勤め先だけ訊いといて、後で会いにいきゃよかったのに。
キショいけど可愛いし、絶対オッケーだったと思うな。
- 301 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:04
-
「ねえあいぼん、もしまた会えたら写真撮っといてよ。
ごとー、どんな人か見てみたい」
「美貴も美貴も。目が綺麗なイケメン見てみたい」
断崖なんつう辺鄙なとこで会った人だから、次はどこで会えるんだか。
街中で出会えなさそうな人ナンバーワンだとは思うけど。
美貴もごっちんも、梨華ちゃんが好きになった人に物凄い興味ある。
「…そうだ、さっきの話。
姉妹のお姉ちゃんの方、ひょろっとしてたって言ったよね?」
「え? うん。腕細ーて、あんなんでよう妹抱えて走れんなって感心してん」
「んあ? そういえばあの姉妹、今隣に住んでない?」
ほーう。そんな狭すぎるワケないじゃんって切り捨てたけど。
やっぱりそう?
「てか今ごろ気づくなよごっちん!!!」
「んあ、ごめぇん。
じゃあ、もしかしたら見たんじゃない? 梨華ちゃんの相手。
ねえ、ミキティ訊いてみてよ」
「え、無理」
「なんでよ?」
- 302 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:05
- だって物凄い真顔で走ってったっていうのが、物凄く引っ掛かるし。
それより何より、なんて訊きゃいいの?
「それはそのー…
『ねえねえ、こないださ、姉妹で死のうとした時にさ、
ピンクの変な人来たでしょ? そん時もう1人誰かいなかった?』って…」
「訊けるかあっ!!!」
姉妹で死のうとしたこと美貴が知ってんのおかしいし!
せっかく考え直したのに古傷えぐれるかバカっ!
「んあ! バカって言う方がバカだいっ!」
「やかまし! 子供かあんたは!」
「2人とも子供や。ちょっと待ち。ウチが覗けるかもしれん、姉妹さんの心。隣におるんやろ?」
くっ…、子供に子供と言われるバカですか美貴たちはそうですか。
大谷さんの部屋がある方の壁をすり抜けようとしてるあいぼんに見下ろされ
美貴はガックリ肩を落と―――
「あはっ、そうだ。ミキティなんかよりあいぼんに頼めばよかった。
すっかりしくった。あははっ」
「てめえ乾電池にすんぞゴルァ!」
―――してる時にケンカ売んなゾルァ!!!
ンアー グルァー ンアッ! ゴロゴロピカッ! ギャアー
- 303 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:05
-
◇◇◇
- 304 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:05
-
「今日で1年、か」
学校の裏に停めておいたエアスクータに凭れて、美貴は空を見ていた。
1年前の今日は大雨で、空気が刺すように寒かったのをよく憶えてる。
忘れられるワケない。
『嘘だ! そんな…梨華ちゃんまで…っ』
村田さんの部屋から戻ってきたあいぼんの話を聞いて、血相を変えたごっちん。
あゆみちゃんが宙に浮いたという事が何を示すのか、美貴が理解したのはずっと後。
『関係ない!!!
私はひとみちゃんが悪魔でも好きなのお!!』
- 305 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:06
-
口で説得しても耳を貸さなかった梨華ちゃんに
とうとうごっちんが泣いて止めるあいぼんとののを振り切って、つらい選択をした日。
『梨華ちゃんの記憶を消す』
初めて見るごっちんの、冬の雨より冷たい表情に
美貴は何も言えず、蹲って泣くしかなかった。
だけど。
深夜になってもやまない雨の中、帰ってきたのはズブ濡れのごっちん、ただ1人。
『ごめん、間に合わなかった。
ごとー、また止められなかった』
なにそれ。なんなの、暗黒っぽい面って。ライク・ア・ダークなサイドってどこよ?
梨華ちゃんは? ねえ。
メフィスト・フェレヨッスィって誰だよ!!!
- 306 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:06
-
全てを知った。
悪魔の存在。ごっちんがここにいる理由。
梨華ちゃんは堕ちて、いなくなった。
この地上から。
ねえ梨華ちゃん、家族大好きだったじゃん。
その家族がさ、『ウチには梨華なんて子いません』って言うんだよ。
真面目に通ってた学校。
授業中に居眠りなんかしたことなくて、いっつも梨華ちゃんのこと褒めてた先生が
『石川? そんな生徒いないぞ』って言うんだよ。
ねえ、それってすごく、悲しくてしょうがないよ。
梨華ちゃんは今、幸せなのかな。
好きな人の傍で、笑ってんのかな。
ねえ、美貴たち、また会える?
- 307 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:07
-
「あーっ! 藤本先輩!
またエアスクータで来たんですかっ!
校則で禁止されてるって言ってるじゃないですか!!」
うるさいのが来た。
1人になりたいって時に。
「悪いけど、今日はあんたに付き合う元気ない。
明日聞くからどっか行って」
「え…」
キツい言い方なのはわかってるけど。
何度も怒られてるのに、また『あんた』って言っちゃったけど。
「……何かあったんですか?」
なんで、今日は怒らないの? やだな、美貴泣いてんのかな。
心配そうな目で見ないでよ。
美貴が逃げないようにそっと手を伸ばして、頭撫でたりしないで。
- 308 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:08
-
「…先輩」
「ごめん。ちょっと肩貸して」
今すごく格好悪いから、顔見ないで。
声にならなかったけど、わかってくれたみたい。髪に背中に優しい手が滑る。
この子とは、初めての出会いが2度もあったけど
どっちも美貴にすれば最悪で。
今もロクな関係じゃないし、思いっきり嫌われてるのに。
なんで、こんなに優しいのかな。
涙と一緒に込み上げる鼻を啜りながら
美貴は梨華ちゃんを失った冬の、亜弥ちゃんとの2度の出会いを思い出していた。
- 309 名前:涙。 投稿日:2005/08/24(水) 18:08
-
- 310 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/08/24(水) 18:08
-
いつも通り無駄に長くなりまして。
これで、第2部っぽいものが終わりました。
レスありがとうございます。
>>268名無飼育さん様
そうですよね、極貧でも正しくっ…今回一部正しくなかったですけど・゜・(ノД`)・゜・
( ‐ Δ‐)ノシ<むぁ、ありあとー。
川σ_σ||<正しく生きるミュン。交番届けるミュン。
>>269名無飼育さん様。
ごめんなさい。僅かですがお待たせしました。
>>270名無飼育さん様
白いはともかく(;^▽^)<黒いってなによお!
2人はまたいつか、出るんだか出ないんだか。
(0^〜^)<出せYO!
- 311 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/08/24(水) 18:09
- >>271名無飼育さん様
おわわありがとうございます!
こんな話をツボに・゜・(ノД`)・゜・
足ツボにだったら痛そうです。大丈夫でしょうか。
>>272名無飼育さん様
ごめんなさい。
お待たせしている気はしていたのですが土台も書きたかったので。
我侭で申し訳。僅かですがお待たせしました。
- 312 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/24(水) 22:07
- 最近更新ペースの速さに狂喜乱舞しております。
この調子で…と言いたい所ですが作者さんのペースで頑張って下さい。
ハナカミンと亜弥ちゃんのラヴラヴシーンが来る事を楽しみに次回の
更新、すごく楽しみに待っています。
- 313 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/25(木) 00:02
- 更新乙です
おわ、いろいろ設定的なのきたー!
さりげにあやみき・・・・w
次回更新楽しみにしてます
- 314 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/25(木) 01:00
- 途中まで幸せな気分
ところが、最後の最後で・・・・orz
でも、話的には物凄い面白し!!
- 315 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/25(木) 04:30
- 笑えるとことシリアスな部分のギャップがたまらなく好きです
最後らへんは胸にグッときました
応援してます!
- 316 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/25(木) 15:13
- 更新お疲れ様です。
なにやら、黒い人と白い人が。。。
出るんだか出ないんだか分かりませんが、
なんとなく待っております(笑
- 317 名前:名も無き読者 投稿日:2005/08/26(金) 13:37
- 更新お疲れサマです。
そこのピュアな小学生が大好きです。
……いえ犯罪的な意味合いはありません。いやホント。
土台が敷かれて、この先の物語もある意味安心して読めそうですw
続きも楽しみにしてますっ。
- 318 名前:名無しJ 投稿日:2005/09/02(金) 17:47
- し あ わ せ で す
ヒサブリに開いたらすげ更新料。
卵…笑いました
- 319 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/13(火) 14:58
- ヤバイ、そろそろ禁断症状が出て(ry
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/25(日) 14:00
- お待ちしております。。。。
- 321 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/25(日) 14:01
- ごめんなさい。上げちゃいました・・・・
逝ってきます
- 322 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/09/26(月) 00:37
- 更新が遅れておりまして申し訳。
扁な桃の腺が腫れて寝込んでいました。
今月中は間に合わないかもしれませんが、できるだけ早く更新します。
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/28(水) 16:19
- 扁な桃の腺が腫れた?アワワヽ(´Д`;≡;´Д`)ノアワワですな。
私の身内もそれにかかったため入院しました。
どうぞ御体をお大事にして、執筆頑張って下さい。
正座して待っとります。
- 324 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:34
-
◇
- 325 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:34
-
―――あの冬。
きっと、ううん、絶対忘れられない別れと出会いがあった。
「んあ、3丁目で強盗ー」
「7丁目でひったくりー」
「2丁目でボヤー」
「だあああああ!! やってらんねええ!」
梨華ちゃんが堕ちてから、ハナカミンの活動は多忙を極めた。
それまでならアチャチャーミーがやってくれた分が全部こっちに回ってきてる
だけだから仕方ないけど、この量、尋常じゃなくない?
この街に平和はないのか!
- 326 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:35
-
おまけにさあ、慣れてきたからごっちんの付き添いもなくなって。
完全に絵里たちと4人で活動してんだけど……それがまた……なんていうか。
『……………』
『絵里!』
『少し出血してますけど、気絶してるだけです!』
『わかった、早く手当てして。
クルァ!! 金盗る上に人傷つけるなバカ! 二重バカ!』
『あっ!? なんだテメェは?!』
『おお、あん人、強盗するだけあって屈強そうっちゃね』
『感心してる場合じゃないの。
こんな事もあろうかとさゆが極秘に開発した、この新しい装備を渡すの』
『なんそれ?』
『スペインの長靴なの。ハナカミンさーん、これ履いてくださーい』
『あー、ありが』
『んん? さゆ、ズペインの長靴って拷問道具じゃないの?』
『 履 け る か あ っ ! 』
強盗に履かせろよっ!!
さゆが開発したって時点で警戒するべきだった。
絵里が気付いてくれなかったら、美貴の足の骨は無惨に砕けていただろう。恐ろしい。
- 327 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:35
-
『キャアア!! 誰か! あの鞄には私の全財産が入ってるのよお!』
『ぐへへ、いただきブハァッ!?』
『ったく、足遅ぇーんだよ。
大丈夫ですか? これ…』
『イヤアアア!!! 何よあんた?!
変態! 私をどうする気?! こんな人気の無い道で私をどうする気よお!』
『いや、どうもしないし。
わかってんなら全財産持って人気の無い道歩くなよ』
おまけに助けた人には相変わらず変態扱いされるし。
『放してえ! あの中には主人にもらったラブレターが! ルァヴレトゥアーが!!』
『諦めろヨモギ子! また書いてやるから!』
『……人は無事なの?』
『はい、燃えてるのは庭の物置なんで』
『なんでそんなとこにラブレター保管すんだよ!』
泣き叫ぶ程大事にしてんならせめて押入れに保管すりゃいいじゃん!
- 328 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:36
- 『それは人の自由なの。ぶつくさ言ってないで早く取りに行ってあげるの』
『はあっ!?
あんな思いっきり燃えてる小さな物置に入れるワケないじゃん!!
てかとっくに燃えてるでしょ、紙だし』
『それでも行くのが、ハナカミンなの』
『いやいやいやファイヤアアアアアアーっ!!!』
不幸中の幸いってやつか、ラブレターが入った缶は焦げてたけど中身は無事で。
だけど不幸のド真ん中。ハナカミンのコスチュームってティッシュなんだよね、ティッシュ。
ごっちん曰く特殊なティッシュで銃弾も弾き返すらしいけど
ティッシュだって紙だし、薄いし火つきやすいし。
『あっちちちちちー!!!』
『ぬおっ!? 中から火ダルマが!』
『あっ! 火ダルマが持ってるのは…キャア! 燃えちゃうじゃない!
早く鎮火してえ!!』
『放水!』
- 329 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:36
- 『いやん。鎮火したらハナカミンさんの全裸が丸出しなの。ハレンチなの』
『ぜ、全裸…』
『暢気に言っとらんと早く助けるとよ!
絵里! 何赤くなっとう!』
水をぶっかけられたと同時に絵里たちが持ち上げて飛んでくれたのと
やっぱどこか特殊らしいコスチュームのおかげで
あんなに熱かったのに火傷もなく
鎮火しても丸出しどころか小出しにもならなかったからって、それがなんだ。
誰かを助けたんならともかく
よりによって中年のオバサンが旦那にもらったラブレター…。
そりゃ本人にとっちゃ大事なもんだろーし、何年経っても仲いい夫婦は素敵だけど。
- 330 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:37
-
ぶっちゃけ、美貴にとっちゃ面白くもなんともない紙屑の為に
火がついたコスチュームの表面を黒焦げにしちゃったから
新しいのを新調してもらうのに反省文(原稿用紙5枚)みたいなの書かされて。
ほんと、ロクな事がない。
◇◇◇
- 331 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:37
-
ガツガツガツガツ
「由々しき事態なの」
「美味しそうっちゃね…」
「だめだよ、れいな。天使がお肉食べちゃ」
「食べとらんと! 見てるだけたい」
「ガツガツガツガツ」
珍しく平和な夜。
ごっちんに招待された美貴は、前に食べ損ねた焼き肉をご馳走してもらってた。
放課後、美貴のクラスまで来たごっちんを見た時は、早速かと思ったけど
今日はごっちんの、神の勘では大丈夫らしい。
地上で早乙女真希として借りてるマンションは玄関が美貴の部屋より広くて
目にした途端、鼻がツーンとした。な、泣いてないもん。
- 332 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:38
- 通されたリビングとかいう部屋には、美貴の布団とほぼ同じサイズと薄さのテレビがあって…
だから泣いてねえよ。
スッと布団テレビから目を逸らすと、2回はでんぐり返られそうなソファの上に
美貴の可愛い天使たちが絵里を真ん中に川の字で寝てんの見つけて
てっきり皆で食べるんだと思ったら、天上の人たちは肉とか魚食べちゃだめなんだって。
ならなんでここにいるのか、よくわかんないけど、れいなに羨望の眼差しを向けられながら
ごっちんがせっせと焼いてくれる肉を、さっきから美貴は1人で食べてる。
あー幸せ。いっぱいあるみたいだからタッパに詰めて持って帰ろっかな。
大谷さんたちに食べさせてあげたい。
村田さん細いし、あゆみちゃん育ち盛りだし。
斉藤さんもセクシーの為に食べた方がよさそうだし……ガツガツガツガツ。
- 333 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:38
-
「んあ、ミキティ、マクロファージじゃないんだからそんなガツガツ食べないの」
「ガツガツガつあっ!?
ちょっとごっちん! 美貴の可愛いあだ名を貧食細胞と並べないでよ!」
「いいじゃん、“貧”繋がりで」
「 よ く ね え よ !
そんな繋がりないし! そりゃ…っまだボロアパート暮らしだけど!
美貴もいつかはここの3分の1くらいの部屋に住むし!」
このソファより大きくて、小さく開いたドアから見える隣の部屋の
すんごいデカいベッドよりは小さなベッドだって買って寝ちゃうぞ!
「興奮して啖呵きっても、ここと同じくらいって言えない
現実的なところが切なさを誘うの」
「ノノ*TーT)」
「从*T ヮT)」
「( T Д T)」
「(vT从从<泣くんじゃねえ!!」
3分の1でも頑張った発言だったのに!!!
本気でリアルに考えたら5分の……いや7分の……悲しいからやめていい?
- 334 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:38
- 「んあ。さて、お約束の泣きが入ったところで
本題に入っていい?」
「お約束ってなんだよ!…って、本題? ああ、それで絵里たちもいんの?」
「うん。シゲちゃんが」
「 由 々 し き 事 態 な の 」
「って言うからさ、対策を練ろうと思ってね」
対策? その前に何が由々しいの?
さゆの極秘開発の事? たしかあれは由々し…
「ほら、前に紺野ちゃん助けた時もそうだったけどさー、変態扱いされたんでしょ?」
「…ああ、それか」
「何が悪いのかなーって、ごとーは多いに疑問なんだけどー」
「いや、ハッキリ言ってコスチュームのせいだし」
理由は明確なんだよ。
- 335 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:39
- 「んあ!? そんなバカなっ?!」
「バカも何も美貴は最初から言ってんでしょーが!」
「でも今さら変えられないよ、登録しちゃったしー」
「登録し直せよ!」
マジで由々しいんだから!
逮捕されたらどうしてくれる!
「てかさ、今まで梨華ちゃんのドピンクとか問題なかったワケ?」
微妙だけど、あっちの方がヤバいっちゃヤバかったような。
「ああ、梨華ちゃんは超能力使ってたからね。
『ピンクの可愛い人に助けてもらった』って脳に刷り込んだりとか」
「うわ、ずりー」
あやつめ……でもそれで感謝されて…ハッピーだったのかな。
なんかあるといっつも『美貴ちゃん、ポジティブポジティブ!』って言ってた
笑顔が急に思い出されて、ちょっと鼻出た。ぐすっ。
- 336 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:39
-
「そだね、ずるいね……。わかった、登録のやり直し考えとく。
でも、なんとかならない? もっとこう、親しみやすい雰囲気を出すとか」
「そんなこと言っても、怖い目に遭った人には気遣って喋ってるよ?
けどパッと見で判断されちゃうから」
尻餅ついてる人に手を差し伸べても、すがってくれる人はいなかったし。
手袋で暖かいハズなのに冷めた右手は、いつまでも冷たいまま。
マイハンド イン リフリジーターってワケでもないのに。
「ああーっ、じゃあ、パッと見られる前に
自分が正義の味方なんだって事を言ったらどうですか?」
「「へ?」」
箸を持った右手を見つめてブルーになってると、絵里がピョコピョコ飛んできて
凄い名案を思いついたって顔で言う。
パッと見られる前?
誰もいないのに「今から現れますけど正義の味方でーす」って
急に声聞こえたら普通におかしくない?
- 337 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:39
- 「それやったら登場する時に『正義の味方・仮面ハナカミン参上』って言えばよかやなか?」
「それは嘘臭くない?」
正義の味方っつって、出てくんのがティッシュ巻きだよ?
「んあ、名前だけ名乗ったら?
それでイイコトしたら、『ハナカミンはいいやつ』って
勝手に広まりそうじゃん」
「待て待て、紺ちゃんの時も思いっきり名乗ったじゃん」
なのに思いっきり通報されたじゃん。
「わかったの。名乗り方に問題があるの。
ここは正義の味方らしく、テーマソングと決め台詞が必要なの」
「「テーマソング?」」
え、何、それ歌いながら現れろとか言うの?
やだよ。決め台詞とか、寒いのは絶対ゴメンだ。
- 338 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:40
- 「決め台詞はさっきれいなが言ったのでいいの。“正義の味方”はナシで。
テーマソングはずばり、こんな事もあろうかと
さゆみが極秘で作成した“仮面ハナカミンのテーマ”で決まりなの」
「い、いつの間にそげなもん作ったと?」
「あー、そういえばさゆ、昨日ピアニカ吹いてたねえ」
おい待て、待ちなさい。
さゆと極秘が揃ってんだよ! しかもピアニカかよ!!
「シゲちゃん、どんな曲なの?」
「ご清聴プリーズなの」
- 339 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:40
-
______
\| (___ ♪
♪ |\ `ヽ、
| \ \
oノノハヽo \ 〉 ♪
. 从*・ 。.・) ♪ \ / <ダンダダンダン!!ギャンギャン!!
‖ / つ| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄! ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ノ バンバン!fdサjkf;ジャs♪
‖( 匚______ζ--ー―ーrー´ ♪
〓〓UU ‖ || .||
‖ ‖. ‖) ◎ .||
. ◎ .◎
「だあああああ!!! スススストップ!!!!」
こここ鼓膜が…っ、なんで皆は平気な顔…ってグルァ!
ごっちん絵里れいな! 何こっそり耳栓してんだよ!
「んはは、防災?」
「神様、それは言い過ぎですよぉ」
「さゆだって頑張ってるんやけん」
全くだ。笑顔でひどいこと言いやがる。たしかにちょっと…近かったけど。
れいな、そう言うなら聞いてやれ。
- 340 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:40
-
「むう、ピアノって弾きずらいの。
やっぱり使い慣れたピアニカが1番なの」
「…………」
だったら最初から是非そうして欲しかったもんだ。
悔しそうに、そもそもどっから出したのかわからないグランドピアノ
(地上でのさゆサイズだから凄い小っちゃい)を部屋の隅にどかすと
さゆはまたどこからかピアニカを取り出し……
どうしよう、今度こそ、って耳栓ないし。
指で塞いだ方がいいかな。
「♪〜」
と、迷ってる間に、さっきの騒音からは考えられないくらい
綺麗な音色がピアニカから流れ始める。
うわっ、何これ、カッコイイ!!!
- 341 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:41
- 「すごいじゃんさゆ!!」
「んあ、勇ましさの中に優しさがあるねえ」
「さゆはやれば出来る子だよね。絵里はわかってたよ」
「これならハナカミンしゃんも変態扱いされんっちゃ」
ほんとに。最初の方のメロディは、ちょっとショッカーが迫ってきそうだけど。
なんてゆーか、全然期待してなかった分感動しちゃって
美貴は得意気な顔でピアニカを吹き終えたさゆを掴まえて頬ずりした。
―――が、しかし。
「えへへ。で、これが歌詞なの」
「おおー、歌詞まで! このメロディに合わせりゃどんな詞でも―――おあ?!」
【 湧き出るアイツには 柔らかティッシュが必需品
かめ! かめ! 鼻かめ! 腰に手をあてSay スッキリ!
そして今日もさゆが1番可愛いっ! 】
- 342 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:41
-
なんだこれは。
「メロディ通りにヒーロー性を出しつつ、ハナカミンさんがどういう人かっていうのを
簡単にまとめてみましたあ」
「どういう人かって、これじゃただ鼻かんでるだけじゃん!
その前に最後が思いっきりおかしいし!」
つーかどこにヒーロー性があるんだどこに!!
この後でティッシュ巻きじゃ、ますます変態だよ!
「いいえ。変態っていうより、ただの変な人なの」
「キッパリ言うな!」
「んあ、変っていうか…ミキティがいっつも鼻かんでるのは本当だしねえ」
「こないだなんて、かみ過ぎて鼻血出たと」
ま、まあ、そんな事もあったけど。
てかこんな歌必要なの?
この歌詞だったらない方がマシだと思うんだけど。
- 343 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:41
- 「この歌の役目は、コスチュームのパッと見のインパクトを和らげる事なの。
これを聞いて、何? 鼻かめ? → うわっ、ティッシュ出てきた
→ 何あの変な人…助けてくれたんだわ! → ありがとう!
ってなるワケなの」
ならないと思うの。
「んあ、なるほど。
曲の歌詞でキョトンとさせて、変態だと思い至る前に助けた事わかってもらうのね」
「その通り、さすが神様なの」
「あっは」
「さゆ、よく考えたねえ」
「ばってん、それやとただ変な人やったっちゅうのだけが残る可能性も…」
「…………」
可能性どころか、ありがとうまで思い至らずに
ただ変な人見たって思う人ばっかだと思う。
「れいな、よーっく考えて。
変態と変な人、どっちがマシ?」
「…変な人」
「川;V-V)」
- 344 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:42
-
どうしよう、美貴わかんなくなってきた。
ハナカミンである前に人として、マシの基準がわかんない。
「んあ、変な人って言い方じゃなくてさ、変わった人でいいべ?
時間かかるかもしんないけど、いつか変わった人から正義の味方になるよ」
「……もう、なんなくてもいいけどね」
よくよく考えたら、感謝されようがされまいが、お給料は出るんだし。
どっかのアンパンは愛と勇気だけだけど、ハナカミンは札と小銭だけが友達でいいんだい。
◇◇◇
- 345 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:42
-
「仮面ハナカミン、参上!」
開き直った美貴は、変態だろうが変な人だろうが構わなくなってたんだけど。
さゆが一生懸命考えてくれたし、絵里とれいなも気に入ってるみたいだし。
ハナカミンは、今日も恥を忍んで決め台詞。
いや、前に変身する時言ってみた事あるけど、人前で言うのは恥ずかしいんだって。
ただテーマソングの方は、生歌は勘弁してって頼んで。
ついでに美貴が歌うのも勘弁してって頼んだら、ごっちんの補佐をしてるっていう
猫目の天使っぽくない人が、すんごい歌唱力で歌い上げてくれた。
あ、もちろん最後のとこはカットで。
てか、ありがたいんだけどさゆがCDを流すたびに
こんな歌の上手い人に歌わせてよかったのかと、肩が重くなる。
そうごっちんに言ったら、
『んあ、圭ちゃん楽しそうだったよ。
役作りにハナカミンのコスプレまでして超ノリノリ』
………ああ、そうなの………ふーん。
- 346 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:42
-
そのノリノリの熱唱のおかげか、変態とは言われなくなって
ただ大抵の人に、ハア?って顔で見られるけど。
大声で喚かれるよりは、その方がずっとマシ。このマシの基準は間違ってないハズ。
今日も今日で、腹の立つ程寒い日に黄色いシャツの男の子と青くて丸いのが
空き地で喧嘩してるっていうから、慌てて駆けつければ…
_____
/ ̄ ̄ ̄ ̄\,, /−、 −、 \
/_____ ヽ / | ・|・ | 、 \
| ─ 、 ─ 、 ヽ | | / / `-●−′ \ ヽ ・・・・・。
| ・|・ |─ |___/ |/ ── | ── ヽ |
|` - c`─ ′ 6 l |. ── | ── | |
. ヽ (____ ,-′ | ── | ── | l
ヽ ___ /ヽ ヽ (__|____ / /
/ |/\/ l ^ヽ \ / /
| | | | l━━(t)━━━━┥
- 347 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:43
-
ってあんたらかっ!
確かにシャツ黄色いし青くて丸いけど!
なんであんたらの喧嘩ごときに…っ。
ただの言い合いみたいだし、もしなんかあっても道具でなんとかすりゃいいじゃんっ!
オイ青いの! 腹についてんのは何の為のポケットだよ!
てかこのティッシュまじ寒い!!
明らかにハナカミンの助けなんかいらない2人と寒さに頭を沸騰させつつ
そういやごっちんが好きなこと思い出して
青いのにサインと、写メール撮らせてもらってその場を去った。
「ショックなの。
ハナカミンさんがこんな鈍かったなんて」
「人がいいっちゅうか……神様もサインくらい自分でもらえばええのに」
「ファンだから恥ずかしいんだよぉ」
帰り道、変身を解いてアパートまで歩く美貴の首のマフラーに入り込んで
天使たちがなんかヒソヒソ喋ってたけど、どうせさっきの屋台のクレープが
食べたかったとかそんな話だろう。
- 348 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:43
-
アパートの前で絵里たちと別れ、部屋に入ると同時に薄い布団に包まると
疲労感がどどっと押し寄せてくる。
ああ、マジ、徒歩きつい。
移動手段考えなきゃ。
よっぽど遠い時はごっちんが送ってくれるけど
ごっちんも暗黒っぽい面への入り口探しで忙しいから、いつもってワケにいかない。
絵里たちが美貴を持ち上げて飛ぶのは、あの子ら小っさいから
頑張って20メートルくらいだし。
ハナカミンの時は、コスチュームのおかげで走るのが楽だから夜はいいんだけど。
いやよくない、寒いし。
今みたいに日が落ちる前の時間はハナカミンのまま爆走するワケにも
いかなくて。だって何が追いかけてくるかわかんないじゃん。
ただでさえ歌って変な人、歌わなくて変態だし。
- 349 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:43
-
夜の方が出動機会多いけど、そのせいで朝起きるのつらくて
学校も徒歩だと遅刻しちゃうし。
自転車……や、それならエアスクータ欲しいなあ。
空気で動くから燃料費タダだし。その分高いけどローン組めば買えないことはない。
夢の焼肉三昧が遠のいてくけど………清貧のままになっちゃうけど………うがああっ!
買おう! 決めた! 決めたから寝る!
どうせ起きてたって夕飯食べる余裕なんかないもん!! ケッ!
あっ、でもその前にやっぱ暖房…は灯油高い………っのおおぉぉ。
◇◇
「…貴、美貴、起きなさい」
んん………誰? なんか、すごい懐かしい声が……
- 350 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:44
-
〃ノハヾヽ
__ノノハヽ _ (´ v ´*从
/((v − 从ノ⊂ ) ))
/ ̄⌒⌒∪⌒とノ""ヽ(_(_^)
/ どさんこ専用/
(________,,ノ
「のわああっ!? おおおおかーさん!」
「ミキティ起きた?」
「へっ…ぎゃっ!? ごっちん?」
「んあ。ごめん、お母さんっぽく起こしてみたから」
ああ、なんだ、びっくりした。
てか真っ暗なんだけど、今何時だ。
「言いにくいんだけど、ミッドナイトな1時」
「ゲ。おやすみ」
「んあ、お仕事ですよー」
「知るか。美貴は熟睡中なの、こんな寒い日にやっと暖まった布団の中から
抜け出して外に飛び出す程バカじゃないの」
「んあ、暖房なしでよく生きてるね。
ごとー、ここ入った瞬間凍死するかと思ったよ」
「 こ の 温 室 育 ち め が 」
- 351 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:44
-
美貴は一応北の生まれだし、大丈夫なんだよ!
そりゃ寒いけど! 北と比べなくても寒いもんは寒いけど!
美貴なりに極寒で安らかに眠ってんだよ! 起こすなバカ!!
「んああっ!? ミミミキティ!
安らかってそれやばいよ! 旅立ちかけてるじゃんかっ!」
「アハハ、夢の国、夢の国に行くんだあ…」
「待って! 逝っちゃだめ! 戻って来てミキティ!!」
「アハハハハ、アハハハハ」
ラン ランララ ランランラン ラン ランラララン
「ミキティ――――っ!!!!!」
◇
「あー、痛ぁ」
「大丈夫ですか?」
「神様、意外と腕力あるけん」
「さゆみ、前に高い高いしてもらって、大気圏に突入しかけた事あるの」
「………よく無事だったね」
- 352 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:45
- そこまでの腕力の持ち主も怖いけど、それよりそんな恐ろしい体験を
ニコニコを懐かしそうに話すさゆが1番怖い。
ごっちんの張り手で文字通り叩き起こされた美貴は
部屋でハナカミンに変身し、ただいま天使を抱えて人気の無い深夜の街を爆走中。
てゆーか寒い、半端なく寒い。
走れば体暖まるかと思ったけど、そういう問題じゃない。
もうすぐ雪降るんじゃない?
「無事じゃないの。さゆの可愛い前髪が焦げちゃったの。
ショックで、ショックが抜けてもショックな振りでずーっと泣いてたら
神様がロールケーキ作ってくれて、美味しかったの」
「んお? さゆ、やっぱあれ嘘泣きやったとー?」
「いいじゃんれいな。
さゆは絵里たちにもロールケーキ分けてくれたんだし」
………ロールケーキってなんだろ?
たぶんケーキ、だよね?
- 353 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:45
-
たぶん泣かれるから声には出さず、こっそり考えてみる。
あいぼんがいなくてよかった。
そういえばあの2人は、あれから謹慎処分になったって聞いたけど、
元気にしてるといいな。……泣き顔だったし、最後に見たの。
「ハナカミンさん、あそこ曲がってすぐです」
「はいはい、えっと、夜中にフラフラしてるバカを大バカがつけてるんだっけ?」
固く丸めた小さな手で、グシグシと涙を拭ってた梨華ちゃんの可愛い天使。
何やってんだよ、かあちゃんは。
年のせいかなって年でもないのに、最近すぐ溢れそうになる熱さを誤魔化そうと
少し大きく声を出す。
ああでも、声に出したらムカついてきた。
こんな寒い日につけまわす方はもちろん、つけられてる方も何考えてんだか。
何も考えてないのか? まったく。
呆れながら角を曲がると…いた!
男が女を引き摺って……ってまだ子供じゃん! だああ! ムカつきマァックス!!!
- 354 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:45
-
「ったくこんな寒い日にバカ!」
- 355 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:46
-
ねえ。あの時さ、ほんとに驚いたんだ。
ムカつきに任せて、歌流す前に飛び蹴りして、怒鳴っちゃって。
大きく見開いた目から雫がいっぱい零れた途端、変態って叫ばれるかもとか
手を振り払われるかもって考える間もなく伸ばしてた腕に
亜弥ちゃんがすがってきた時は、本当にびっくりした。
左頬についた、ごっちんの手の痕からカーッと熱が出て。
マスクの下、顔中真っ赤になりながら必死に謝って言い訳して、ミンとか言っちゃって。
涙が止まって、しっかりと姿を捉えても逃げないのが信じられなくて。
でも、これならどうだって、ぶっちゃけ試す気持ちで
いつもはしない決めポーズまでして。
- 356 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:46
-
固まったから、ほらねって思ったのに。
並んで歩いてる間、亜弥ちゃんったら仔犬みたいな目でずーっとこっち見ててさあ。
絵里たちが頭の上をキャーキャー言いながら飛んでて。
くすぐったくて、なんていうか、いい意味で居心地悪いみたいな。
気のせいだって言い聞かせてた。
別れを惜しんでくれてるように見えるのは。
誘ってくれたのも社交辞令だって。
気のせいだって言い聞かせてた。
何かが始まる音が聞こえたのは。
いつまでも止まらない高鳴りも、走ったせいだって。
言い聞かせてたのに。
- 357 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:46
-
◇ ◇ ◇
- 358 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:46
-
「今日元気ないね」
「あ、ごめんなさい、でもハナカミンさんに会えて嬉しくないとか、そういうんじゃなくって…」
「謝る事ないよ。なんかあった?
…無理に話さなくていいけど」
冬らしい寒さが訪れたある日、1週間振りに聞こえたノックに
亜弥は複雑な気持ちでカーテンを開いた。
もちろん会いたかったけど………、だけど。
今日は上手に笑えそうになくて。ハナカミンさんと楽しくお喋り出来そうになくて。
「うーっ、あったかーい」と、山奥の秘湯に辿り着いた旅人のような
呟きと共に入ってきた白く冷たい体に、何も言わず抱きついて
背中をポンポンと叩かれながらいつもの定位置―――ベッドの上に並んで座った後も
ずっと黙っているなんて、初めての事。
- 359 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:47
- それでも、亜弥が落ち着くのをじっと待っていてくれたハナカミンの声は
山奥の秘湯に劣らず温かく亜弥の心をほぐしていく。
おかげで、何と言ったら良いかわからなかったモヤモヤが、少しずつ形になって零れ始めた。
「……あの、前に話した先輩なんですけど」
「―――えっ」
「ふぇ? あ、憶えてませんよね、えっと」
「ううう、ううん!! 憶えてるよ! 亜弥ちゃんの話は全部、完璧に!
亜弥ちゃんが注意しても全然聞かない悪い先輩でしょ?」
「は、はい、そうです」
一瞬マスクがひん曲がったように見えたのが気になったが
続けて必死に叫ばれた言葉に亜弥の胸はときめきまくってそれどころではなくなった。
「校則違反してて、亜弥ちゃんの事“あんた”って呼ぶんだよね。
ひどいねー、ミンがシメとこうか?」
「そうですね、先輩を助ける事があったら」
「やーだ、助けてやんないもーん」
「ですよねー、お礼も言えない人助けなくていいですよねー」
元気の無い亜弥を気遣って、冗談とわかる明るい声でファイティングポーズを
とるハナカミンにまたときめいて、亜弥はようやく笑顔になる。
- 360 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:47
-
「で、その先輩に、また何か言われた?」
その柔らかい笑みをなぞると小さく頷いたので、ハナカミンは続きを促した。
「違って、そうじゃなくて……、なんか今日の先輩、いつもと違って。
なんだか寂しそうに1人で空見てて。
だから、迷ったんですけど声かけたら、見てわかるくらい震えてて…。
言葉は私のこと撥ね退けたのに、目が“行かないで”って言ってるみたいでほっとけなくて」
「…………」
「だから、どうしたのかなって、気になっちゃうんです」
「…………」
純情な乙女心事情で、肩を貸して背中を撫でた事は言わなかった亜弥。
いや、ハナカミンとは、クリスマスじゃなくても、もっとピッタリなワケだから
言っても構わなかったかもと思ったけれど。
話し終わっても、何も言わないハナカミン。
どうしよう……気になるって言ったの……誤解されちゃった?
- 361 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:47
- 「あ、あの! 違いますから! 別に先輩の事は!」
「……い……じゃなかったの?」
「ふぇ? あの、もう1回」
「………………嫌いなんじゃ、なかったの?」
「え……」
えっと、それは、えっと。
たしかに先輩は口が悪くて、ハナカミンさんを悪く言ったの、許せなくて。
ぶっきらぼうで愛想ないし、けど何度か話すうちに、違う!
あれはその、なんていうか、ウチのパパもママも昔悪かったし、だから、
決して、あの変な気持ちは、なんでもなくて、亜弥ちゃんって呼ばれた時、それは、だから。
違うよ、こんなに、色んな気持ちは必要ないよ。
普通に、最初は嫌いだったかもしれないけど、なんだかんだ、よく話すから
今はそんなことないです。と言えば済むことなのに、赤眼鏡の先輩―――藤本のことを
考え出すと、なぜか亜弥の思考は止まらなくなってグチャグチャになってしまう。
どうしよう、どうしよう、早く言わなきゃ、余計誤解されちゃう。
言わなきゃ、言わなきゃ、私が好きなのは―――――っ
- 362 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:48
-
「きっ、嫌いじゃ、ないですけど! 先輩のことっ!
だって、よく話す先輩だし、でもそれだけで、愛ちゃんの方が好きだし!
じゃなくて、今日はたまたまっ…その、ギャップがあるとびっくりするじゃないですか!
先輩がいつもと違い過ぎたから、気になるっていうよりびっくりで!
びっくりドンキーのドン・キホーテで!
私が気になるのは………っ、1番気になるのは…ハナカミンさんだから…っ」
絡まる思考の中から、伝えたい事を強引に引っ張り出したせいで
途中、関係のないレストランと激安店が紛れ込んでしまったが
どんどんすぼんで小さくなっていく声でも、聞こえたハズ。届けられた、ハズ―――
「……………」
「………………」
「…………………」
「……………………」
―――なのに。
ハナカミンはまた黙り込んでしまって、反応がない。
完全とは言えないけれど、思い切った告白をした亜弥はただ今
“NO 反応,NO LIFE”状態なワケで、この沈黙は息苦しいったらありゃしない。
- 363 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:48
-
頬には、後悔と何を言われるかわからない恐怖で
気付かないうちに大量の涙が伝っている。
「……亜弥ちゃん」
キタッ。
苦手なホラーを見た時なんかと比べものにならないくらいの恐怖の中で
長らく待たされた亜弥は、もう目を開けていられなかった。
ハナカミンが振り向く前にギュッと瞑ってしまう。
何も聞きたくなくて、耳も両手で塞いだ。
やだ、怖い。もう会えなくなっちゃったら、やだよ!
「ん………っ!?」
え? あれ? 私、今、んんんっ。
何が起こって、る?
- 364 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:48
-
えっと、手がなんか、耳にあててたのに、フワフワの毛糸に包まれてて。
目の前に、ティッシュと長い睫毛があって。
く、唇に、ティッシュじゃない、温かくて、柔らかい感触があって。
さらになんか………入ってきてる?
ひゃあっ!?
どどどどうしよう?!
つつつ常に用意はしてるけど!
桃色な時間に憂いないように備えはバッチリだけど!!
どーどーどどーどーどどどうっ?!
待って、落ち着いて、亜弥、力抜いて、ここは下手に動いちゃだめ。
ここは、えっと、 お 任 せ し ま す 从*− 。 −从
- 365 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:49
-
「んんっ……んっ…はっ……」
「…亜弥ちゃん…」
キタキタッ。
マスク越しじゃないからか、いつもと少し違うけれど間違いない声は
少し掠れていて、首にかかった吐息に頚動脈が波打つ。
亜弥から離れたハナカミンが立ち上がると、部屋の電気が消えた。
戻ってきたハナカミンによって、ゆっくりベッドに寝かされた亜弥の緊張は
最高潮に向かってドクドクと――――
「今日、泊まっていい?」
「…はいっ…」
ひゃあああああ、ドクドクどころじゃないよお、ドドドドって、
何かが物凄いスピード迫ってくるっ……で、でも、ハナカミンさんと一緒なら怖くないもん!
- 366 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:49
-
「じゃ、おやすみー」
「はい、おやすみなさ―――え?」
あれ、聞き間違いかな?
おやすみっていうのは、寝る時の挨拶で、桃色タイムの開会宣言じゃないよね?
むしろ閉会宣言だよね?
「あの、ハナカミンさ…」
「zzz…」
「早っ!」
寝てるしっ!
え、だってだって、待ってこれって中学の時のテニス部で言ったら
球拾いしただけでボール打つことなく退部しちゃったみたいなナニコレ?
それにおやすみって言ってすぐなのに熟睡?!
グルンと強く腕に抱きしめられて身動きがとれない上に
暗闇でよく見えない中、必死に首を伸ばしてマスクの中覗くと
ハナカミンの目は半分開いて―――
「きゃあっ!?」
- 367 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:49
- ちょ、ちょっと怖かったが、規則正しい呼吸からして
どうやら本当に眠ってしまったらしい。
「なんだよお」
肩透かしを喰らった亜弥はえいえいとハナカミンの鎖骨らへんに頭突きしてみるが
起きる気配はナイ。くうくう眠りこけている。
「はあああああ〜っ」
思わず亜弥の口から深い深い溜息。
こっちの気も知らないでえっ!
……でも、残念だけど、ありえないぐらいの緊張が解けて、正直ホッとしちゃった。
いきなりだったから、やっぱり怖かったし。
- 368 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:50
-
ハナカミンさん、こんなすぐ寝ちゃうぐらい疲れてたのに
今日私のとこに来てくれたんだもん。しかも泊まってくれて、それだけで満足。
「でもやっぱり、ちょっと残念だぞ」
最後にもう1回だけ頭突きして。
「おやすみなさぁい」
「zzz…」
初めて、好きな人の腕の中で甘い夢を見るべく、そのまま目を閉じる亜弥。
- 369 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:50
-
「亜弥ちゃん、今日はえらい静かやん」
「でもさっき、きゃあって聞こえたで」
「なななにぃいい?!
ママあ! なんでそれをはよ言わへんねん!!
亜弥の身になんかあったらどうするんやっ!
おい亜弥!…ってまた鍵閉まってるやんけ!!うおおドアぶち破ったるわあああー!!!!」
「パパ、そんな事したら 1 年 ゴ ル フ 禁 止 やで」
「えええ!? 娘の一大事に何言っとんねん!」
「やかまし。大きい声出さんとさっさと寝。今すぐ寝やんだら3年ゴルフ禁止」
「ハイ寝ますスグ寝ますオヤスミナサイ」
「ねーママー、パパは亜弥ちゃんよりゴルフが大事なのー?」
「ホッホッホッ、ええ子やから今聞いたことは忘れなさい。
ほな、ウチらも寝るでー」
「「はぁーい」」
と、今日も愉快なその家族。
- 370 名前:冬。 投稿日:2005/10/14(金) 22:50
-
- 371 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/10/14(金) 23:29
-
サクサク続いていたところ急にストップして申し訳。
ずーっと治ったら何を食べるかを考えていたので
ミキさんにもお腹いっぱいと思って書き直していたら
さらに時間がかかってしまいました。
レス、ありがとうございます。
>>312名無飼育さん様
せっかく狂喜乱舞していただいたのに…っ。
早くキリのいいところまで上げたかったので、亀が兎になりました。
温かい言葉ありがとうございます。
今回微妙なラヴラヴを綴りましたが、本当に微妙です。
>>313名無飼育さん様
へい、設定的シリーズが終わったので
これからはゆっくりお2人さんが出てくるんだか来ないんだか。
>>314名無飼育さん様
( ^▽^)<元気出して! ハッピー!
川;VvV)<あんたが言うな!
面白しだなんて、嬉しいお言葉ありがとうございます。
>>315名無飼育さん様
ありがとうございます!
ギャップは結構バランスで悩んだりするので
グッときていただけて本当に嬉しいです。頑張ります。
- 372 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/10/14(金) 23:29
- >>346名無飼育さん様
ええ、出るんだか出ないんだか出ちゃうんだか出ちゃわないんだか
わかりませんが、なんとなくでお願いします(笑
私の駄文で期待すると確実に後悔しますから(w
>>317名も無き読者様
念の為言っておきますが、犯罪の気がなくても
ピュアな小学生を守る為なら姉さんズは闇の力を解放…するっぽい。
メロンはいつも、よくわかんないけど結束の固い4人組という感じにしか
ならないんですけど、大好きって言っていただけて嬉しいYO!
>>318名無しJ
あ り が と う 。
卵、うずらと悩んだのは内緒です。
でもそれじゃあまりにも酷いと思いまして・゜・(ノД`)・゜・
>>319名無飼育さん様
おわわ、大丈夫でしょうか。
お待たせして本当に申し訳。
>>320名無飼育さん様
ほんとにほんとにお待たせしました。
ドンマイ。
>>323名無飼育さん様
優しく温かいお言葉ありがとうございます・゜・(ノД`)・゜・
初めてかかったんですが、結構苦しいものですね。
くだらない話ですんで、どうぞ足をおくずしください。
- 373 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/10/14(金) 23:33
-
ノノハヽ
从VvV从 ミステイクでござる。
.ノ^ yヽ、
ヽ,,ノ==l ノ
/ l |
"""~""""""~"""~"""~"
申し訳ございません。
346ではなくて>>316名無飼育さん様でした。
- 374 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/15(土) 00:14
- ちょwwwおもしろすぎwww
布団テレビワロタ
更新お疲れ様です。体大丈夫ですか?
美貴様の分も作者さんはしっかり栄養取ってくださいねw
続き楽しみに待ってます〜作者さんのペースでがんがってください
- 375 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/15(土) 04:44
- 頭突きかます亜弥ちゃんキャワwです
- 376 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/15(土) 10:29
- 待ってましたよぉぉぉぉ!!お帰りなさいです!
あやみきに悶絶です。しかし後一歩の所で…ハナカミンも憎いですなぁ。
二人がもっとラブラブになれるまでついていきます。
病み上がりなのに更新乙でした。
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/21(金) 01:43
- うー…。
先が気になるぅ…。
- 378 名前:名無しJ 投稿日:2005/10/24(月) 20:51
- もぅ………だめです
いろいろとw
亜弥ちゃんと美貴たんの行く先を生暖かく見守ります
- 379 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/26(水) 07:29
- 飽食のこの時代に何て悲しい話を・…。
神様、彼女におなか一杯のお肉を!!
- 380 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/16(水) 22:09
- まだかなあ・・・
- 381 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/17(木) 00:15
- 川VvV) <このまま放置したら、ツンツンしちゃうぞ
- 382 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 20:13
-
◇
- 383 名前: 投稿日:2005/11/18(金) 20:13
-
Please don’t die !
There’s still so much I want to tell you !
- 384 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:14
-
◇
- 385 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:15
-
「うえええ!? おおおととまままあっ?!」
光り輝く眩しい太陽、渺茫たる青い空、驚愕の悲鳴轟くハロモニ高校1年5組。
何事かと振り返るクラスメイトたちの視線の先には、ほんのり赤らめた頬に手をあてて
幸せそうに微笑む亜弥と、その肩に、目をひんむいて踊るように掴みかかる愛の姿が。
なんだ、また松浦さんたちか。
プッ、見てよ、高橋さんったらただでさえビックリした顔がさらに…。
やれやれ、毎度毎度騒がしいね。2人とも可愛いからいいけど。
本当にいいのか、カマイタチ、いやお前たち。と、問いかけたくなる勢いで
集まった視線が散っていった後も
亜弥は両肩に愛の手を乗せたまま恥ずかしそうにユラユラ揺れている。
- 386 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:15
- そんな恋する乙女ビームを、真正面からまともに喰らっている愛の脳内は
パニックでベコンベコンのダコダコイェイ! ダコダコイェイ!
ゆっ…昨夜って、あーしは夕食の後レッチリ聴きながら、現在若狭湾が抱えとる
重大な問題について真剣に考えとったらいつの間にか寝とったってゆー、
何の変哲もない、むしろ寂しい寂しすぎる夜やったのに、亜弥ちゃんとハナカメンは
1つ屋根の下の同じベッドの上でシュガーボンボン並みに甘い夜を過ごしとったなんて……
「うがああっ! ずるいわああっ!!」
「でっ、でもでも…その…なんていうか……」
「あん? なんやの?
ハナカメンとのキュルルンメモリーなんて聞きたくないがし」
「ちがって! だからその……そういうのはなかったっていうか……。
いやあるにはあったけどなかったっていうか……」
「はあ?」
- 387 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:15
- 惚気なんてGOMENDAと言わんばかりに、鞄から文庫本を取り出していた愛は
いつもなら真っ先に“ハナカメン”に反応する亜弥が、もじもじと
ブレザーのボタンを触りながら俯いてボソボソ喋る様子に首を傾げる。
「だからね、……キ、キスは、したんだけどお…」
「ん? てことは進展なし? 前みたいにティッシュとくっついただけかの?」
「んん〜っ、それが、昨日は口だけ…マスク、取ってくれて…なんか、
深いっていうか……」
「ひょおっ!?」
「な、生々しいっていうか……本格的な感じの…」
「もっもも、ももももういいやよお!」
ボタンから唇に手を移動させて軽く撫でながら、詳細をキボンヌしてないのに
語り出されて、愛は慌てて手をブンブン振り乱して止めに入る。
あああ亜弥ちゃんがいっちゃん生々しいわっ!!
- 388 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:16
-
「はあ…」
「ふう…」
揃って可愛らしいのに猿によく似た顔を赤くして、1人は熱い溜息を、もう1人は疲れ切った吐息を。
騒がしかったと思えば、今度は黙って息をハーフー吐き合う2人。
かなり怪しい図になっている。
「………でもそれだけだよ? その先があるのかと思って、やまだかつてない緊張に襲われてたら
ハナカミンさん寝ちゃうし。朝も、起きたらもういなくて」
「ほ、ほお…(ヤマダ?)」
「おはようございますって、言いたかったんだけど……」
さり気なく出た言葉に、愛の脳内を年齢詐称という言葉が駆け抜けたが、それはさておき。
今朝、亜弥がひやりとした空気に目を覚ますと、『急に泊まっちゃってごめんね。ありがとう』という
ティッシュにボールペンで苦労して書いたっぽい手紙と
お揃いの香水の香りだけをベッドに残して、ハナカミンはいなくなっていた。
- 389 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:16
-
「はあ…」
「ふう…」
なんとなくそんな気はしてたけど、やっぱり寂しかった。
だけどもし、起きるまでいてくれてたら、あたしはちゃんと、ハナカミンさんの目を
見られなかったかもしれない………。
「はああ……」
「ふうーっ……ん?」
何度目かのハーフー合戦で、突然、亜弥の溜息が変わる。
それは微小な変化であったけれど、付き合いの長い愛はすぐに気付き、眉を寄せて
亜弥の表情を伺う。すると、何やら難しいことになっていた。
戸惑い? 後悔? いやいや嬉しい、けど微妙?
- 390 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:17
-
「亜弥ちゃん、亜弥ちゃーん」
「…っな、なに?」
「どしたん? 顔変やで」
「な、なんだとお!」
「ひぇっ、ちがうがし! そういう意味やないがあっ!」
ただあーしは、ハナカメンと上手いこといって幸せなハズやのに
どことなーく亜弥ちゃんの顔が暗いで心配になっただけやよ!
「別に、暗くないよ…」
「そうかの? ならええけど」
拗ねたように反駁されて、とりあえず引き下がる。
しかし、愛にはやはり、亜弥が何か抱えているように見えてならない。
んーっ、なんやろ?
ハナカメンになんかされ…てはないんか。いや、ないことはないけども。
なんか言われたんかな? まさかもう、これっきりこれっきも〜お〜♪とか歌ってモモエチャーソ……
- 391 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:17
- 「そんなあっ!? ひどいやよハナカメン!!」
「は? 何言ってんの?
てかその前にハナカ“ミン”さんだって何回言えばわかんの」
「おおっ、亜弥ちゃん元に戻ったがし! おかえり!」
「…………ただいま」
何を勘違いしているのやら、暴走している上に再三の注意も無視されて
ちょっぴり怒り心頭の亜弥だったが、愛が涙目になって抱きついてきたので
そんなに心配されるほど暗かったかと、こめかみに指をあてながら抱き返してやる。
「なんかあっても、あーしがついとるでの。
ハナカメンの代わりにはならんやろけど、ずっと友達やでの」
「…………」
だからほんとに、どういう勘違いしてんの。
愛の心配は見事に的外れな方向へ伸びているが、気持ちはとても嬉しいので、
呆れた声は心の中だけにしまっておく。それに実際、亜弥は悩んでいた。
- 392 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:17
-
あたし……、どうしちゃったんだろう。
昨夜、初めての、あんなことがあって、頭の中はハナカミンのことでいっぱいだったハズ。
なのに、ハナカミンの腕の中で目を閉じて、なぜか夢に見たのは、あの藤本だった。
いつものように赤眼鏡をかけて、両手をブレザーのポケットにつっこみ
背中を丸めて歩く藤本が、隣にいた。
寂しそうに震える姿を見てから、ずっと気にはなっていた。
でも、ハナカミンとの夜に、彼女を夢見てしまうなんて。
- 393 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:18
-
ハナカミンさんが好きなのに。
あたしが好きなのは、ハナカミンさんだけのハズなのに。
いつでも会えるワケじゃない。
忙しい中、時間を見つけては会いに来てくれるハナカミンさんとの貴重な夜に。
たとえ藤本でなくとも、他の人の夢を見るなんて、そんな、心の浮気みたいな、
ジュディなオングじゃあるまいに、あたしに限って、そんなこと。
- 394 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:18
-
夢の終わり、名前を呼ばれて振り向くと、赤眼鏡の奥の瞳は
ひどく優しい光を湛えて亜弥を見つめていて。
藤本のそんな瞳は見たことがないハズなのに。会えば邪険に扱われて
面倒そうに見られたことしかないのに。なぜかいつも見ているような、それが当たり前のような。
あたしは、あの目を、知ってる――――?
「ねえ、愛ちゃん」
「うんうん、元気出すやよ」
「愛ちゃんってば」
「んえ?」
「今日の放課後、付き合って」
- 395 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:19
-
◇◇◇
- 396 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:19
-
「んあー、ミキティ何にしたの?」
「んっふっふっ、そりゃもっちろんカフェ・モ力!
1年の時に梨華ちゃんが飲んでてさー、コーヒー苦手じゃなかった?って言ったら
これはチョコの味がするからいいのって言われて意味わかんなくて。
どんな味すんのかずっと気になってたんだよねー」
「……んあ」
「でさあ、色々考えたらパピコが味近いっぽかったから、3日分のご飯我慢して
アイス3割引のスーパーに買いに行って、冷たかったけど布団の上から抱っこして溶かして
大谷さんと半分こして飲んだことあるから、味は大体わかってんだけどー」
「……んああ」
「やっぱ本物はちがうのかなー? 美貴楽しみだよ、ワクワク」
「んああミキティ!!! たーんとお飲み! たーんと!」
- 397 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:19
-
いつぞや、亜弥が藤本を引きずり込んだ銭湯もある商店街の一角。
ここは、美味しいコーヒーをゆったりしたスペースで楽しむことが出来ると評判の
スタンバってますコーヒー、略してスタバ。
「ぐすっ…くっ、ひっく…」
その店内の商品受け渡しカウンターの前で、なにやら切ない会話を交わす美しい女子高生2人組に、
注文のカフェ・モ力(モカではなくモヂカラ)をこしらえていた、アルバイトの高火衣津狗瑠代(コウヒイ・ツクルヨ)は
人知れず涙を流していた。
すると、後ろから店長であり父でもある津狗瑠造(ツクルゾウ)が音もなく現れ、
津狗瑠代が持っていたカップに首を振り、1番大きいサイズのカップを差し出す。
「パ…じゃなくて店長っ!」
「……サービスだと、言っておきなさい」
「…パパっ…!」
娘はこの日、改めて父の背中の大きさを知った。
- 398 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:20
-
「お待たせしました、カフェ・モ力のお客様」
「はーいっ!…ってあれ? 美貴、こんな大っきいの頼んでませんけど」
「サービスです。たーんと召し上がってくださ……うっ」
「ハ?」
「んあんあミキティ、ラッキーだねえ」
きょとんとする藤本に、津狗瑠代は堪えきれず背を向け、その場を去る。
離れたところにいた父は、藤本と娘を交互に眺めて満足そうに微笑んでいた。
「ほんとにいいのかな、これゲレンデだかブロンテでしょ?」
「んあ、ゲレンデのが割と近いね。
せっかくのサービスなんだし、素直に受けとんなよ。
てか早く座って飲も」
「うん。でもどうせなら、真希ちゃんのもサービスしてくれりゃいいのに」
あんなに楽しみにしていたカフェ・モ力を手にして、申し訳なさそうにしている藤本。
その小さな頭を後輩であり友人の早乙女真希が撫で、見つけた空席に落ち着くと
さっそく1口飲んだ藤本の表情が一瞬にして明るくなる。
- 399 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:20
-
「美味しい! 美味しいよ真希ちゃん!!」
「んあ、よかったねえ」
「なにこれっ…パピコじゃないよ! 美貴、こんな美味しいもん生まれて初めて飲んだ!」
「んあんあ、よかったね、ほんとによかっ……( T Д T)」
「な、泣かないでよ真希ちゃん、美貴嬉しいんだからさあ」
「真希も、真希も嬉しいんだよお…っ」
初め、飲み慣れている周囲の客は、たかがコーヒーに大きな声を上げる女子高生に顔を顰めたが、
小さな子供のように、大きな目をくりくりさせながらちびちび飲んでいる藤本と、
どこからか取り出した純白のハンカチーフで涙を拭う早乙女の姿に
自分たちが失ってしまった大切な何かを思い出して、視線を温かいものに変えていった。
「うぐっ、えぐっ、よかったのう藤本先輩…っ、サービスした店員グッジョブやよ」
「ちょっと愛ちゃん、静かに!」
そんな、ただ今世界で最もハートウォーミングなコーヒーショップの片隅、藤本たちから
近すぎず遠すぎずの位置にある席に、愛と亜弥の姿があった。
- 400 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:20
-
ハナカミンを想っているのに、藤本が気になるという、
自分の気持ちなのに自分のものではないような、整理できない感情をなんとかしたくて
亜弥は放課後、喚き抵抗する愛を連れて下校中の藤本を尾行していた。
「ぐずっ…、ご、ごめ…っ、でも、藤本先輩って、あんな人やったんやな。
苦労人で子供っぽいとこもあるなんて、今まで誤解しとったがし…」
「………ん」
今日は機嫌がいいのか、早乙女が一緒だからか、それとも、亜弥がいないからか。
学校からここまで、初めて見る藤本の顔がたくさんあった。
『迎えに来ましたぞー』
『あ、真希ちゃん、来てくれたんだ』
『んあ。今日は今んとこ大丈夫よ、どっか行くの?』
『うん。あのね、お父さんが宝クジ当たったから今月は仕送りいらないって言われて。
余裕できたからスタバのコーヒー飲んでみたいんだ』
『んあ、おっけおっけ行こう』
ついでに切ない事情も。
- 401 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:21
-
切ないところまで、一緒だなんて。だけどそんな切なさにもめげず、あんな無邪気に笑うなんて。
口が悪かったり、態度が悪かったりするところと、昨日の、寂しげな姿しか知らなかったけど。
今微妙に傍にいる藤本は、口を大きく開け、いつもより高い声でキャッキャキャッキャ笑っていて。
笑い過ぎて大きな目から零れた涙を、早乙女に拭いてもらっていて。
物凄く可愛い。
たぶん、風にそよぐ紐にじゃれる仔猫よりも。
尻尾をフリフリ飼い主を見上げる仔犬よりも。
可愛いと、亜弥は思った。
- 402 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:21
-
思ったので、黙ってじーっと見つめていると………
「プハーッ、美貴、今日のこと一生忘れないよ!
これも真希ちゃんのおかげだね、ありがとう」
「んあっ、ミキティが頑張ったからだよ!」
藤本の両手に左手を包まれ、頭を下げられて照れまくっている早乙女の姿に
亜弥の眉がひん曲がる。
「あのオタンビコンビ、やっぱ怪しいなあ」
さらに聞こえた愛の呟きに、目つきがギギッと鋭くなる。
オタンビコンビというのは藤本と早乙女のことで、学年が違うのに仲が良く
双方学年トップの美しい外見であることから、一緒にいるだけで
どこかおタンビな空気が漂ってくる為、密かにそう呼ばれていて、
確かそう、付き合ってるとかいう噂もあったような気が―――――
- 403 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:21
-
「ぐぬぬぬぬ……」
「ん? 亜弥ちゃひゃお!? どどどどうしたん?! 鬼の形相になってるやよ!」
「ぐぬぬぬぬぅぅぅ……っ」
わかんない、わかんないんだけど、なんか、なんかあっ。
藤本の甘えるような瞳とか、藤本の横顔に時折りハッとして、懐かしむように
愛おしげに目を細める早乙女とか、触れ合ってる手とか、
照れた笑顔とかを見ていたら、爪先から物凄いスピードで熱がせり上がってきて………
これってなんか、これってなんか、妬いてるみたいじゃんっ!!!
でもっ…どうっ、ぐぬぬ……ありえないけどムカつく!!!!
- 404 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:21
-
「……亜弥ちゃん」
「ぐぬぬぬぬぬぅぅぅぅっ……」
「…………好きなん?」
「ぐぬぬっ…ぬぬぅぅ……」
ちがう! だって、好きだとしたら、あたし、同時に2人のこと好きってことでしょ?
そういうの、仕方ない時もあるかもしれないけど。
だけどあたしは! ハナカミンさんが好きで!
キスだってしたんだよ?
だからちがっ…………………………うの?
ちがうなら、この気持ちは何?
こんな抑えきれないくらいムカついてるのはなんで?
熱くて頭が割れちゃいそうだよ? このままじゃ壊れちゃうよ?
- 405 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:22
-
「……好き、なんか」
「ぐっ……」
「………………早乙女先輩のこと」
「ちがいますっ!!!」
やはり愛は、空気が読めなかった。
- 406 名前:はじまり。 投稿日:2005/11/18(金) 20:22
-
- 407 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/11/18(金) 20:23
-
またしても遅れて申し訳。
ちょっと長くインターがネット出来ない環境におりまして
年内で終わる予定が希望が夢が幻・゜・(ノД`)・゜・
れいなとか色々おめでとう(遅杉
レスありがとうございます。多謝。
>>374名無飼育さん様
嬉しい&温かいお気遣いお言葉ありがとうございます。
布団テレビ怒られるとオモタ
体はもう大丈夫です。美味しいものいっぱい食べてがんがりまーすw
川;VvV)<てか美貴の分は美貴に食わせっ。
>>375名無飼育さん様
从*^ 。 ^从<ありがとうございまぁすw
余談ですが、顎でウリウリと悩みました。
- 408 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/11/18(金) 20:23
- >>376名無飼育さん様
ぉぉぉぉお待たせしました、そしてまたお待たせして申し訳。
ハナカミンは体が温まったので、眠くなったようですw(子供です
あんまりラブラブになれないかもしれないですけども
よろしくお願いします。優しいお気遣いありがとうございます。
>>377名無飼育さん様
素直に嬉しいお言葉をありがとうございます。
でもこの先もきっとくだらないまま終わっていくとオモワレ。
>>378名無しJ様
い、いろいろ?w 大丈夫ですか?
では生ぬるい駄文ですが生暖かくお願いしますw
- 409 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/11/18(金) 20:23
- >>379名無飼育さん様
(VvV;从<か、悲しくなんて、ないやい。
( ´ Д `)<んあ、任せてだぽ。
ご提供、ありがとうございます。
>>380名無飼育さん様
すみません。お待たせしました。
>>381名無飼育さん様
えっ……ツ、ツンツンして欲しいなあ(爆
美貴様、そんなこと言われたら放置してしまいます。
- 410 名前:774飼育 投稿日:2005/11/19(土) 00:39
- おぉ 更新されてるw
面白く読ませていたただいてます
次回の更新楽しみにしてます。
- 411 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 02:24
- リアルにムフッとか気持ち悪い感じに笑ってました。
所々にある小ネタが大好きです。
- 412 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/19(土) 05:59
- >>409
川VvV)っ ツンツン
- 413 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 12:49
- 初レスで〜す。
めちゃくちゃ笑えます、泣けますでマジサイコーです!
何よりもミキティのビンボーに号泣・・・(泣)
今後のあやみきが楽しみです!
次の更新楽しみにしてます♪
- 414 名前:名も無き読者 投稿日:2005/11/20(日) 16:04
- 更新お疲れ様です。
店長、そこで働かせて下さいっ。うう、大きい人だ。(涙
寒い冬で凍えた体に温かい何かが流れ込んできました。
今後の展開も楽しみにしております。
- 415 名前:名無しJ 投稿日:2005/11/21(月) 20:28
- 更新お疲れ様です!!
やま(ryは俺知ってますよーw師匠の年一個上ですがwてか3日分ていくらなんですか…_| ̄|〇
つぎもテカテカしながら待ってます。
- 416 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/28(月) 00:46
- 待ってますよ
- 417 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/28(月) 13:55
- スニッフって痛くないのかい???
- 418 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/30(水) 04:44
- >>416-417
メール欄に「sage」と入れてから書き込みをしてください。
- 419 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 05:11
- 更新まってますよぉ
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/10(土) 09:34
- 更新待ってまーす!
頑張ってぇ
- 421 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:51
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 422 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 17:05
- 待ってるよ
頑張れ
- 423 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 23:47
- き、きになる〜
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/15(木) 22:37
- いつまでも待ってます
- 425 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 00:35
- まだかなあ・・・待ち遠しいよ。
- 426 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/18(日) 11:41
- まだまだ待ちますよぉ!
- 427 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:02
-
◇◇
- 428 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:02
-
「そーいや、もうすぐクリスマスかー。
一昨年はマッチ売ってたんだっけ……」
「( T Д T)」
念願のカフェ・モ力を味わい、スタンバってますコーヒーを出たところで
商店街のあちらこちらから流れる定番ソングを耳にした藤本は、ふと、
人生で1番寒かったクリスマスを思い出した。
『マッチいりませんかー?』
『いや、ライターあるし』
『マッチいりませんかー?』
『ギンギラギンにさりげないのなら欲しいわ』
『発火用具いりませんかー?』
『ねーママー、あのお姉ちゃん死んじゃうのー?』
『シッ! 見ちゃだめ!』
- 429 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:03
- ついでに思い返せば去年も、友人がいなくなってしまったショックと
薄い素材でできた特殊な衣装での外の仕事のせいで、十分寒かったのだが。
まあ、1人っじゃなかっただけ、マシだったよね……。
『そうだよ美貴ちゃん、ポジティブポジティブ』
今はいない友人の声が心の中に甦り、藤本はすんと鼻を啜る。
「んあ、去年はバタバタしちゃって何もできなかったけど
今年はみんなでパーティでもしよっか。
お仕事入っちゃうかもだけど、その後で」
音を聞いて察したのか、商店街をてくてく歩きながら空気に混ざった寂しさを
弾くように早乙女が出した提案に、俯いていた藤本の顔がパアアアッと輝く。
- 430 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:03
- 「いいねえ! 美貴の実家でもクリスマスパーティはしてたよ。
ケーキは無理だったけど、毎年お母さんが奮発してミス丸でドーナツ買って来てくれて。
しかも1番 高 い やつ!……名前なんだったっけ?…えーと…あっ! ハニーデップップ!
あれを子供だけで4等分して食べさせてもらって、嬉しかったなあー」
ミス丸とは、“ミスター丸いやつ”というドーナツやら飲茶やらを扱う店の略称で、
その店の辛子を財布の中に入れておくと、恋の花が咲いたり咲かなかったりする。
チェーン店だが、藤本の実家がある、クリステルじゃない滝リバーという町には
なかったので、母親が雪の中ママチャリをブッ飛ばして隣町まで買いに出かけていた。
「んあ? ハニーデップップって…」
そんなガッツ溢れるママンはさておき、乙女くさい迷信には興味なさげを振舞いつつ、
こっそりと、もうかれこれ7年くらい入れっぱなしの辛子を財布の中に忍ばせている
藤本のはしゃいだ声に、早乙女は顎に手をあて眉をひそめる。
- 431 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:04
- 「真希ちゃん、食べた事ない? 美味しいんだよ。
ぶっちゃけ美貴はチョコのやつがいいって思った事もあったけど
ドーナツだしおやつだしおまけに 1 番 高 い のだしさー、毎年クリスマスは楽しみだったなー。
そーだ、まだ余裕あるし、ミス丸寄ってっていい?」
「…ん、んあ!
でも今日はモ力飲んだし! いっぺんに使わなくても!」
語尾を上げておきながら、返事を待たずに進行方向を変えようとする藤本を
早乙女は必死に止める。
んああ! 余裕があろうがなかろうがミキティの笑顔の為にも行かせるワケには!
だ、だって……言えないよ……、ハニデップップは94円でチョコは105円だなんて…っ。
その上、エンゼルハレンチやらカヒミカリーパンやら、もっと高いのがゴロゴロいるなんて…っ。
- 432 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:04
- 「( T Д T)」
「へ? なんで泣くのさ」
「なんでも…っ、なんでもないよおっ…」
「なんでもなくないじゃん、そんな泣いて。頭痛いの?
ミス丸はまた今度にするから、もう帰ろ」
「んあんあ」
見事に勘違いだが、泣きながら頭を抱えた早乙女を心配して、藤本はあっさり諦める。
その優しさが胸に沁みたのか、ひぃぃんと嗚咽しながら強く藤本に抱きつくと―――
「やっぱり。尾けられてる」
小さく低く、渇いた声で、後藤真希は呟いた。
- 433 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:05
-
◇◇◇
- 434 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:05
-
『 ひとつで〜も、ニンジン〜
ふたつで〜も、キュウリ〜
君のピンチには 来るクルミラクル その名も 赤ピーマン〜 』
「……アリだと思う。美貴は」
「あっは! 最近なんか悩んでると思ったら、これ考えてたんだ!」
「振り付けが格好よかばい」
- 435 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:05
-
商店街の真ん中らへんで抱きついてきたごっちんの口から、なんかボソッと
聞こえたと思ったら、いきなり腕を引っ張られて細道をジグザグ歩かされた挙句、
何番目かの角を曲がったとこで叫ぶ間もなく担ぎ上げられていた美貴。
最初はビビッたけど、ごっちんだし変なとこ連れてかれるワケないしって
安心しきって身を任せてたら、物凄いスピードでごっちんのマンションに到着。
エレベータの前で降ろされて、普通に寒いのにオデコが汗でキラキラしてる
ごっちんの荒い息をBGMに部屋へ向かうと、玄関入ってすぐのとこで
なんかガタガタ揺れ―――
- 436 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:06
-
.. /⌒<なまもの注意|
_ _ /  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
/ / ____/___
/ ,//, / /| ガタガタ
/_____/// / "|
| |‖| ̄| |
| |‖| | |
| |‖| | |||
| |‖| | ///
| |‖| |/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄´
『なっ、なまもの!? ななななまものって肉かな?!
肉だよね! 肉しかないよね!!』
『んあ!? 落ち着いてミキティ! 肉しかっていうのはありえな…』
ありえなくないっ!! 若く麗しく飢えた乙女にとって、生と言えば肉だ!
自分の家の玄関先に置いてあるクセに、危険物だったらどーすんのって
的外れな心配をするごっちんを振り切り、生肉一直線な美貴が箱のフタを開けると中から―――
- 437 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:06
-
/゙ミヽ、,,___,,/゙ヽ
i ノ `ヽ'
/ `● ●´i、 ネコー!!
彡, ミ(__,▼_)彡ミ
,へ、, |∪| 、`\
_ / .___' ヽノ `/´> )
( (___) / (_/
ゝ.,__| /
| /\ \
| / ) ) ニャア
∪ ( \ ニャア
\_)
『キタ━━━━━━(*VvV)━━━━━━!!!!…って猫かよ!!
いくら動物性タンパク質でも猫は無理! だって美貴モノマネするなら猫だもん!』
『んあ、しかもこれ、人形だよ』
『だああっ!!! 人形のどこがナマモノだどこがっ!!!!
若く麗しく 飢 え た 乙女を騙しやがってコノヤロウ!!』
込み上げる怒りのままに、なまもの注意の札をビリビリのバリバリに破いた。
それでも足りなくて箱にローなキックをかますと、猫の下から聞き覚えのある可愛い声が。
- 438 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:07
-
『んん? あ、絵里、起きんしゃい』
『んー? あー、藤本さん、絵里たちのプレゼント気に入ってくれましたー?
ネコちゃんはさゆからでー、絵里とれいなはー』
l≡l .l≡l
|:::└┬┘:::|
|:::┌┴┐:::|
ノ::::::丶 /::::::\
(::(*^ー^)(´ヮ `*):) パピーコデスヨー
|:∪::::| |つ:と::|
((((:::::)) (((::::::)))
∪ ̄U U ̄∪
『 お 前 ら 、 溶 か す ぞ 』
『ええー? 溶かしたらアイスの意味ないですよー』
『あ、藤本さん、パピコ知らんと? ばってんアイスは知ってますよね?』
『うっさいバカッ! アイスも何もパピコは 熟 知 してるに決まってんだろ!!
てかさゆは猫なのにお前らは2人でパピコか!!』
激しく存在するその差はニャンだっっっ!
この憎らしい天使どもっ!! 憎らしいならニクらしいで肉持って来い!!
- 439 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:07
-
いや、あのさ、絵里たちがくれるなら何でも嬉しいよ? ほんとに。
でもさ、れいなが『アイスは知ってますよね?』って言った時、
2人して『まさか』って顔しやがったでしょ? それにプライドが傷ついたワケ。
だからソファにふんぞり返って、2人の首根っこ摘んで吊るし上げながら
小指でチョイチョイお腹を突きつつ、鋭い眼光を至近距離で浴びせた事は
仕方なかったっていうか。
さゆがいない事には最初から気付いてたし、
地上に来る時はいつも3人一緒なのに変だって思ってたよ。
- 440 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:07
-
『だ、だって、「今までお世話になったお礼に
藤本さんに渡して欲しいの」って、ついさっきさゆに頼まれて…』
『時間なかったけん、買い物に行けんかったとお…』
『あん? 今までのお礼?』
どういう意味?
『んあ、もしかして小春ちゃん?』
え? だからどういう意味? コハルって誰?
『そ、そーです!』
『ばってん、まだ見習いやけん、さゆが教育係になったと!』
『んあ、そっかあ』
ねえ、わかんないってば。さゆがいないのはわかったけど、説明してよ!
『あ、あ、そだ、れーな、あれ』
『ああっ、これ、塾長からっちゃ!』
- 441 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:08
-
で、ワケわかんないまま見せられたのが………。
『仮面赤ピーマン、参上!』
「……仮面っていうか、被りものじゃん」
「んあ、近頃妙にたくさん指に絆創膏巻いてると思ったら、これ作ってたんだねえ」
「決めポーズも格好よかばい」
「もおっ! どこが格好いいの! 藤本さんも感心しないでくださいっ!」
んぇ? べ、別に、感心してんのは偉いねえって言ってるごっちんで、
美貴は全然、むしろ引いてるじゃん。
だってピーマンだよ西洋唐辛子だよ子供に嫌われやすい野菜第1位だよ?
- 442 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:08
-
れいなが取り出したビデオに映ってたのは、胸に金色のPの文字が光る赤い全身タイツに
少し硬そうな緑のマント、頭からすっぽり被ったキルティング地の赤ピーマン、という
ハナカミン並にダサい格好で恥ずかしげもなく歌い踊るバ………
じゃなくて、ある意味勇気に満ち溢れた、天上のマユゲビームこと、新垣さん。
ビデオでは赤ピーマンだけど、普段は暗黒っぽい面に堕ちてしまった大天使様のフリをしてたり、
天使塾の塾長だったり、れいなに尊敬されてたり、絵里に変な対抗意識を燃やされてたりするらしい。
てか、ハナカミンなんつう微妙な名前考えやがったのはこいつか。
そう思うと、自然に拳に力が入っちゃう。
「はああ、塾長のステップはいつ見ても素敵やね」
「れーなのバカ! ピーマン食べれないくせにデレデレしないのっ!」
「んなっ!? デっ、デレデレなんかしとらん!
つか絵里だってピーマン食べれんやん!」
れいなはどこにそこまで魅力を感じるんだか。美貴が赤ピーマンに対していいなと思う点は
衣装の素材がハナカミンより断然暖かそうなとこだけだ。他はただただ恥ずかしい。
- 443 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:08
-
『必殺技は赤ピーマンデコピン、略して赤ピン!
これで地上にはびこる悪を一掃だニィ!』
ブッ! ピッコロじゃあるまいに、デコピンなんかでどうやって…
決めポーズ後の軽い挨拶の後、赤ピーマンが胸を張って言い放った言葉に
思わず美貴は吹き出した。だけど次の瞬間――――
『ずあっ!!!』
「えっ…」
「わああ! すごかっ! スイカが木っ端微塵たい!!」
「ぜ、絶対なんか仕掛けがあるんだよ、仕掛けが」
え、す、すごいっ!! 何今のっ? デコピンで…っ、デコピンでスイカがっ!!
「ごっちん! すごいよ赤ピーマン!」
「んあ、ニイニイもやるねえ」
- 444 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:09
- 衣装のダサさが、一瞬で吹き飛んだ。
すごいなあ、ハナカミンもなんか技作ろうかな。
「で、赤ピーマンさんはいつからお仕事すんの?」
「んあ…いや、それが…」
「ん?」
とりあえず会えたらサインもらおうと張り切る美貴がルンルンで訊くと
なんか困った感じのごっちん。どーしたの?
「あのね、これは試作っていうか、アチャチャーミーがいなくなって1年経つでしょ?
けど新しく運命に逆らう人出てこないし、いつまでもミキティ1人じゃ大変だから
なんとかなんないか、ごとー、圭ちゃんに相談してたのね」
「ああ、ハナカミンのテーマ歌ってくれた…」
楽曲にそぐわない歌唱力を披露してくれた保田さんね。
- 445 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:09
- 「んあ。で、その話をニイニイが聞いてたみたいで、これと
サポートする天使も用意してくれたみたいなんだけど」
その天使が、さっきチラッと出たコハルか。
「小春ちゃんは後で話すけど、とりあえず赤ピーマンは
今すぐって話じゃないのさ」
「ええっ!? なんで!」
すぐ会えないの?! サインもらえないの?!
明日食べようと思ってたハニーデップップを我慢して、密かにペンと色紙を
買う決意までしていた美貴の肩が、ガックシと落ちる。
「んあっ、いつでも会わせてあげるから色紙買っといた方がいいよ!
でもね、亀ちゃんたち見てたらわかると思うけど、天使は地上では小っちゃくなるでしょ」
「…あ、そっか。赤ピーマンの中の子も天使か」
- 446 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:09
- あのデコピン……地上じゃ使えないんだ……。
「ニイニイは独自に鍛えたりしてるから、普通の天使と違った事が出来たりするけど
地上で大きいままでいるのは、特別な訓練が必要で。
その訓練も年齢制限があるから、あと2年経たないと受けられないのさ」
そうなんだ…じゃあ、残念だけど仕方ないね。
「だから赤ピーマンは、2年経ってもミキティ1人だった時の為に
補欠みたいな感じで考えてくれたんだと思う」
「ええっ!? あんなすごいのに補欠?!
じゃあもし2年以内に運命に逆らう人がいたら、
赤ピーマンさんはコルド大王並みに活躍の場がないまま終わっちゃうの?!」
そんな…っ、もう美貴、ハナカミンの白いマントを
緑色に染めてやろうかと思うくらいファンなのに…っ。
- 447 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:10
- 「…んー、もしかしたら、2年以内に出てきた人に赤ピーマンとして活躍して
もらうかもしんないけど、その人じゃ、必殺技は使えないだろうねえ」
「くうっ! それじゃ意味ないじゃん!」
デコピンあっての赤ピーマンなのに!
「んあ、そんなに気に入ってくれるなんて、ニイニイも喜ぶよ。
えっと、そんでさ、シゲちゃんね、妹の…なっちが最後に産んでった小春ちゃんの
教育係する事になって、ミキティから急に外れる事になっちゃったんだけど」
「…産んだ?」
「んあ…ポッ」
え? 待って、ごっちんの大切な大天使様って子持ちだったの?
って、美貴が首を傾げると、涼しい顔で喋ってたごっちんの顔が
見る見る赤くなってく。
- 448 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:10
- 「うへへぇ、天使で、正義の味方のサポートをする子は
例外を除いてみんな大天使様から生まれたんですよお」
「れいながその例外っちゃけど。
昔から絵里たちと仲良かったけん、誘われたと」
「ふうん」
ごっちんが茹ダコ状態で黙りこくっちゃって、ますます首を傾げる美貴の元に
絵里とれいなが(・∀・)ニヤニヤしながら飛んできた。
で? なんでごっちん赤いのよ?
「だからそれはー、大天使様と神様がとーっても仲良くした次の朝に
大天使様のお腹のあたりにポコンって綿がついて、
その中から天使の赤ちゃんが出てくるんです」
「あ、なるほど」
とーっても仲良くしたのね? ごっちん(V∀V)ニヤニヤ
「ん、んああ…」
「まーまー、照れなくても。
そっかー、あいぼんとののちゃんもごっちんの子供なんだ、へえ」
「んああっ」
- 449 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:10
- あらあら、素直に反応しちゃって可愛いね。
「んあっ、そ、それはともかく、小春ちゃんも今度紹介するから。
これからは亀ちゃんと田中ちゃんと3人で頑張ってね」
「「「はあーい」」」
ごっちんは真っ赤な頬を手で仰ぎながら言うと、立ち上がって寝室に入ってった。
からかい過ぎちゃったかな。
「てか、さゆが教育係って……大丈夫なの?」
「大丈夫ですよー、絵里よりしっかり者だし」
「小春ちゃんとも仲いいけん」
ん、まあ、しっかりはしてるけど、あの子が独自に発案したモノで
えらい目に遭った事あるからさ。拷問されそうになったりとか…。
「んあ、天使ちゃんたちー」
って、スリルに満ちてたさゆとの思い出に浸ってたら、白い紙袋を持って
ごっちんが寝室から出てきた。ほっぺがまだ少し赤い。
- 450 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:11
- 「悪いけど、今から天上に戻って
これ、ニイニイと圭ちゃんに渡してくれる?
仕事入ったらサポートはごとーがするから、今日はそのまま休んでいいよ」
ごっちんは紙袋をれいなに、羽織ってたパーカのポケットから出した封筒を
絵里に持たせて、ふんにゃり笑った。
「え、いいんですか?」
「たまには。ミキティも、いいよね?」
「うん、全然オッケー」
ごっちんがいいなら、美貴は全く問題ないから頷く。
さゆが抜けて1番寂しいのは絵里とれいなだし、さっき怖がらせちゃったし。
この子たちもずっと忙しかったから、休まないとね。
美貴は2人を抱っこして、「さゆに、ありがとう、大事にするって伝えて。
それと、絵里とれいなも、ありがとう」って言って頬ずりする。
天使のほっぺはマシュマロみたいで気持ちいい。
- 451 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:12
-
「気をつけて帰りなよ」
「はーい。じゃあ、平和じゃなかったらまた明日ー」
「……絵里、そん言い方、微妙」
ベランダで見送ると、絵里が本当に微妙な発言を。
けど、世の中が平和で事件もなかったら、絵里たちが降りてくる事もないし。
美貴は、毎日仕事しながらウンザリする事もあって、
平和になって欲しいってもちろん思ってるけど。
平和だったら、正義の味方なんて必要ない世の中だったら、あの子にも会えなかったんだ。
こんな風に思っちゃうのってどうなんだろう。
飛んでいく小さな背中を見送る間、ずっと、頭の隅に
あの子の、今朝見た寝顔が浮かんで。
- 452 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:13
-
あーあ、会いたくなっちゃったな。
昨日はやばいぐらい幸せで、思い出すだけで顔が………おっと。
「さーて、仕事入るまで昼寝するかー」
わざと大きな声で、しかも棒読み。
なんか突っ込まれて当然だったのに。
あくびするフリして、にやけちゃう顔を誤魔化すのに必死だった美貴は
この時、隣にいる人が、震えている事に気付かなかった。
- 453 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:13
-
◇ ◇ ◇
- 454 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:13
-
その夜、亜弥は、今朝までハナカミンと一緒に眠っていたベッドに
ひとり横たわっていた。額には、ピタッと冷却シートが貼られている。
2時間入ってても平気だったのに……、1時間しか経ってないじゃん。
ここ最近、亜弥はハナカミンが来てくれるかもしれないと、身体は入念に洗うのに
逸る気持ちで湯船にはほとんどつからず出ていた。
しかし今日はやけに体が重く、すぐに上がる事が出来なかったので
たゆたう湯の表面に映った自分の顔を可愛いなあとしみじみ眺めながら、久しぶりに長く湯船につかった。
すると、額から汗がじわりと浮かんだ時、お湯に映る自分の顔が
突然藤本に変わり、続いて責めるようにハナカミンに変わった。
驚いて、交互に現れる2つの顔をじっと見ていたら、だんだん気が遠くなり、
気が付くと、一緒に入りにやって来た下の妹に揺り動かされていた。
- 455 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:14
-
あたし……やっぱり、2人の事が好きになっちゃったの?
胸に手をあてると、認めたくない、そんな、まさか、許したくない感情が
確かに芽生えている。ような気が、しなくもない。
だって、だって、うぅぅぅ〜………。
ズキズキするこめかみを押さえ、ベッドの上を転がる。
ただでさえのぼせているのに転がったもんだから、頭は回るわ目は回るわグルグルグルグル
何が何やらわからなくなって、ふいに聞こえた5つの合図の音も、最初は何かわからなかった。
ハっ、ハナカミンさんっ!
わかった瞬間グルグルが止まり、渦巻いていた視界も元通りになって。
心音が跳ね、胸が温かくなる。これは間違いなくトキメキ。
- 456 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:14
-
あたし…っ、あたしやっぱりハナカミンさんが好きっ!
勢いよく布団をはねのけて起き上がり、カーテンを開けると
いつもの白いティッシュが目に飛び込んできた。
「ハナカミンさん!」
「……こんばんは、亜弥ちゃん」
窓を開けると、寒そうに震えた声。なのになぜか、ハナカミンは部屋に入ろうとしない。
首を傾げ、亜弥は白い手袋をきゅっと掴む。
「昨日来てくれたから、今日は会えないかと思ってました」
「………うん」
「来てくれて、嬉しいです」
「…………」
「ハナカミンさん…?」
- 457 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:14
-
いつもなら、『ミンも嬉しいよ』とか、何か言ってくれるのに。
ハナカミンは亜弥の嬉しそうな笑顔から目を逸らして俯いてしまった。
手袋を掴む亜弥の指先に、力が入る。
1本1本絡ませようとした動きを、掠れて、震えて、抑揚のない声が止めた。
「お別れ、言いに来た」
「え……」
耳に入った言葉が脳に届いた時、ハナカミンが顔を上げ、鈍く光る瞳が見えた。
「もう、こういうのは、おしまい」
そして、見つめ合ったまま告げられて、亜弥の頬を涙が伝った。
- 458 名前:別れ。 投稿日:2005/12/22(木) 09:15
-
- 459 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/12/22(木) 09:17
-
なかなか更新速度が上がらず申し訳。
次はおそらく来年かとオモワレ。
レスありがとうございます。
お手数ですが、レスはsageでお願いします。
>>410 774飼育様
ありがとうございます。嬉しいです。
ほんと、遅くてすみませぬ。
>>411名無飼育さん様
小ネタは微妙なものも多いと思いますが、気持ち悪かろうが
怪しかろうが、笑っていただけて嬉しゅうございます。
ありがとうございます。
>>412名無飼育さん様
ツンツンハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!! し、幸せ(爆
>>413konkon様
ありがとうございます。失礼すぎる貧しさですみません(平謝
- 460 名前:名無しのЛ 投稿日:2005/12/22(木) 09:17
- >>414名も無き読者様
こんな事言っちゃあなんですが、美貴さんになら
心の小さい私でも同じ事をするような気がします(え
ラストはできてますが間が全然なので、当分終われません・゜・(ノД`)・゜・
>>415名無しJ様
計算すれば出ますが、計算しない方がいいと思います。
どうか油取り紙を使ってください。っ□
>>417名無飼育さん様
やった事がないのでわかりません。
ここのスニッフはそちらの意味ではないです。
>>418名無飼育さん様
お気遣いありがとうございます。
>>416
>>419-420
>>422-426 名無飼育さん様方
お待たせして申し訳ございません。
- 461 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/22(木) 13:24
- ハァァンどうなるんだろう・゜・(つД`)・゜・
- 462 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/22(木) 22:41
- うあああ……何を言うんだハナカミン!
次回がすごく気になりますね。来年もついていきますよーw
- 463 名前:774飼育 投稿日:2005/12/22(木) 23:39
- ゆっくり まったり 書いていっていいと思いますよ
このお話面白いので・・・
次回がどうなるのか待ち遠しいです
更新お待ちしてます
- 464 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/28(水) 23:56
- >>438のAAが激キャワで(*´∀`)ポワワしたけど
最後のところで……うわ〜ん・゚・(ノД`)・゚・ 。
つづき待ったりお待ちしています。作者様のペースでがんばってくださいね。
- 465 名前:名無しJ 投稿日:2005/12/29(木) 12:26
- 更新乙です…毎回毎回貧乏だなぁぁぁ(T_T)
頑張れメケティ。
今回もかなり笑わせていただきました。
ご馳走様でした。
- 466 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/08(日) 23:57
- ご褒美の・・・・
川VvV)っ ツンツン
- 467 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/10(火) 00:52
- 今日発見して一気に読み上げちゃいました!面白いし登場人物がみんな可愛らしくていいですね。作品に流れる空気が温かい。
読んでて作者さんの愛情を感じます。
自分的に、ぬいぐるみサイズな天使ちゃん達がかなり萌ぇです。ミキティのマフラーに隠れてる萌ぇ。
- 468 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/10(火) 03:01
- ま、まだかなあ・・・
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/18(水) 01:06
- 気になるしぃ
- 470 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:42
-
◇
- 471 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:43
-
「ほあ?」
「……ぐすっ」
かくれんぼしてる太陽、どんより重い灰色の雲、かすかに湿っぽい空気。
そして、目と鼻を真っ赤にした亜弥を前に、愛が呆然と口を開けて固まるハロモニ高校1年5組。
ちょっと今日ちがくない? 高橋さん何かしたの?
えーっ、高橋さんじゃないでしょ、びっくりしてるもん。自分のした事にあそこまで口開かないって、普通。
でもちょうど「ワ」の形だし。オハヨウって言おうとしたのに口からコンバンワとか。
それで松浦さんが泣くワケないじゃん。
や、期待を裏切られたショックで…………ないか、ないな、ないわ。あははー。
- 472 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:43
-
あははじゃないだろ、オマールエビ、いやお前たち。と、顎を掴んでやりたくなる勢いで
近くにいたクラスメイト数名の視線が薄情なほど高らかな笑い声に乗って
散っていった後、ようやく時の流れを取り戻した愛は、パチクリと瞬きをした。
え、え、えーと。なんか、おしまいって聞こえたんやけども。
思いっきり泣き腫らした顔を見るに、聞き間違いやないんやけども。
なんで、いきなりそうなるん?
どういう事なん、ハナカメン。何考えとるんハナカメン!!
「…あたし、寝てる間に失礼な事したのかなあ?」
「ええっ!? そんなんしとっても意識ない時の話やろ!
意識アリアリで期待させといてサッサト寝たハナカメンに亜弥ちゃんが怒るならともかくっ!
なんで一方的におしまいなんて言われなあかんのっっ!!」
「だから“ミン”」
「あ、ごめんなさい」
- 473 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:43
- 不条理やわああっ!!と、拳を振り上げた愛は、亜弥に冷たい声で注意されて
素直に頭を下げる。が、続いて聞こえた悲しげな呟きに、再沸騰。
「あたし、嫌われちゃったんだよね…」
「んなっ!? 不条理な上に嫌うとはっ!
怒ったやよ!! ヤロウ! とっ捕まえてハナ鍋にしたるがあっ!!」
「え? ちょっと! ハナカミンさんはタヌキじゃないんだから!」
ガアッと空に飛び立たんとする勢いで立ち上がった愛の腰に、慌てて亜弥がしがみつく。
その姿は全クラスメイトの視線を浴び………
プッ、高橋さん、今度は鼻の穴まで広がっ…ぷぷっ。
ツ、ツクルネちゃん、笑っちゃだめだよ、笑っちゃあ。くっ。んぐっ。
某コーヒーショップの某店長の次女であり、1年5組のお花係でもある
高火衣津狗瑠禰(コウヒイ・ツクルネ)と親友の未流玖戸朱賀吾子(ミルクト・シュガーコ)は
吹き出す音を聞いたクラスメイトに口を抑えられ、廊下に引き摺られていった。
- 474 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:44
-
そんな周囲の反応やら対応も知らず、しがみつかれた拍子に亜弥の頭が
綺麗に鳩尾に入って崩れ落ち、机に突っ伏していた愛は
やっと落ち着いて顔を上げると、背中を擦ってくれている亜弥にゼエゼエ言いながら問いかけた。
「亜弥ちゃんも、おしまいでええの?」
「……よくは、ないけど……」
苦しげな声に、より苦しげな声で返ってくる答え。
俯いた亜弥の目に滲む、新しい涙。
「亜弥ちゃん……………、っ!?」
愛が、制服のポケットからハンカチを出したつもりが、間違えて
大切な宝塚のパンフレットを差し出してしまった事に気が付いたのは、
亜弥がそれに顔を埋め、グワシャアッと握り締めて嗚咽を堪えた時だった。
この日、愛の泣き叫ぶ声は、極めて南にある氷山を割ったと言われている。
- 475 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:44
-
◇
- 476 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:44
-
いいワケ、ないよ。
でもよく考えたらあたし、ハナカミンさんの事、何にも知らない。
いつも会いに来てもらってて、連絡先もわかんないし。
わざと危ない目に遭ったら、また迷惑かけて余計嫌われるだけだし。
普通、付き合ってる同士だったら、電話したり会いに行ったりできるけど。
ハッキリちゃんと付き合ってたワケでもないし。
あたしが……浮かれちゃってただけで。
それにあたし、他の人が気になっちゃった。その罰なんだよ。
絶対に恋じゃなくても、気になってる。その罰。
だから、仕方ないよ。
おしまいにされちゃったら、おしまいにするしかないよ。
- 477 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:44
-
放課後、亜弥は1人で歩いていた。
学校から徒歩で10分の距離にある自宅に帰る気になれなくて
もうかれこれ30分以上、大きい緑地公園の周りを、魔方陣じゃないけどグルグル歩いている。
学校を出る前に、いつの間にか亜弥と同じぐらい目と鼻が大惨事になっていた愛と
化粧で誤魔化してはみたが、顔を上げて歩いていると
すれ違う人がギョッとするので意味はなかったらしい。
開き直って背を伸ばし、まっすぐ前を向いていると、前方にのそのそ歩く新聞紙を見つけた。
………ん? 新聞紙?
え、嘘、新聞紙が、三角錐っぽい新聞紙が歩いてる…?
や、ちょ、どうしよ、歩くの遅いから、どんどん近づいちゃってるしっ。
- 478 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:45
- 近づくのが嫌なら自分が止まりなよ、お嬢ちゃん。みたいな簡単な事に気付かないもんだから
謎の新聞紙との距離はどんどん縮まっていく。
ひ、ひえええ、怖いよおっ、オバケっぽいもん! オバケにこういうのいたもん!
まだ夕暮れ前だよ、お嬢ちゃん。なんて事も忘れてパニックに陥る亜弥。
しかしその時、耳慣れているような、恐怖もパニックも一瞬で吹き飛ばしてくれる気がする声が―――
「ックシュン」
「…え? あ、あのっ!」
い、今の、今のはっ……!
―――聞こえたもんだから、つい0,00001秒前までオバケ扱いしていた物体を躊躇なく呼びとめ、
振り向いた、新聞紙の隙間からヒョコっと出た顔を凝視すると―――
「ん?」
「ふえ?」
いつにも増して不機嫌そうな、藤本だった。
- 479 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:45
-
「亜弥ちゃん? 何か用?」
「…………」
「おーい。話しかけといて無視かよ」
振り向いた時は小さい子が知ってはいけないメヂカラだったが、
亜弥だと気付くと、藤本はほんのり表情を和らげたように見えた。
他の人は一目見てまず驚く亜弥の顔の惨事も、あまり気にならないのか
いつもと変わらない様子で喋っている。
「……せんぱい?」
「そだよ。え、わかってたんじゃないの?」
「わ、わかるワケないじゃないですか。なんでこんな格好…」
「だって寒いんだもん」
ふあい? 寒い? あ、まあ、冬ですから。
当然のように言われて、そりゃ当然だと思いつつ、だからってなんで新聞…………あ。
- 480 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:46
- 「新聞ってさー、暖かいんだよ。紙パワーがね、風遮るし。
マジでカシアミとかのコートより暖かいんじゃないかなー」
「…そ、そうなんですか(カミパワー?)」
首を傾げる途中で、昨日知った藤本の切ない事情を思い出した亜弥は、小さい疑問も
間違いの訂正も口にせず頷く。
すると藤本は、イタズラが失敗した子供のような顔をした。
「あり。みんな泣くんだけどな。
てかもう泣き尽くしたって感じ?
美貴、さっきいっぱいアメもらったから、いっこあげる」
亜弥は昨日まで知らなかったが、藤本の切ない事情は結構有名らしく
おまけにこんな格好で歩いているもんだから、たまにすれ違う人から小さな親切を受ける。
亜弥は一瞬迷ったけれど、やはり藤本も
少しは気になっていたのか慰めてくれているようなので
素直に受け取ってピンク色の包みをほどき、口に放り込んだ。途端広がる、桃の味。
- 481 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:46
- 「ありがとうございます」
「別に、美貴に礼言わなくても。もらいもんだし。こないだ肩貸してもらったし。
つーか今日マジ寒いよね、曇ってるから余計。
なんか雨降りそうだし、傘持ってないから早く帰んなきゃ。じゃーね」
「え、あ、待っ…」
ペコリと頭を下げると、藤本はプイッと顔を逸らして早口になり、ヒラヒラ手を振って
去ろうとした。しかし、なんとなく藤本と会った瞬間から心が軽くなった亜弥は、
つい手を伸ばして引き止めようとし――――た時。
ポタ。 ハリー、ポタ。 ザアアアッ!!!!
「あんっ!? だあああ!! 2秒で本降りかよっ!
ったく、あんたが引き止めるから!」
「なっ!? 2秒なんだからあたしのせいじゃないですっ!!
てかまたあんたって言ったあ!!」
- 482 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:46
-
こんなの自然の摂理ダシあたしが引き止めなくても絶対濡れてタシっ!
なんなのこの人っ! こっ…こんな人が気になったなんて…っ。
血迷ったんだ、あたしっ! 絶対そう!!
ああもう! 血迷った罰で振られるなんて悔しいっ! 悔しすぎるっ!!
突然噛み付かれて、胸に抱いた気持ちも、引き止めようとした事も、いいえ今ここで
声をかけてしまった事、さらには同じ高校に入学した事までも後悔し始めた亜弥は
ぷくうっと頬を膨らませて藤本を睨む。しかし。
「あ? 何突っ立ってんの!
風邪ひくよ!」
「ふぇっ」
誰にも負けないメヂカラをお持ちのこの方には、ボーッとしてるように見えたらしい。
藤本は着ていた新聞紙を4,5枚剥がすと、それを亜弥に被せ、腕を引いて走り出した。
- 483 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:46
- 「紙だからあんま意味ないけど。ほら、屋根あるとこまで行くよ!」
「え、あ、は、はい!」
後悔真っ最中なのだから、腕を振りほどく事も出来たハズなのに。
亜弥のせいにしておきながら亜弥を気遣い、一所懸命走る姿に気圧されて一緒に走ってしまう。
けれど、頭の中にはまだ苛立ちがあった。
なんなの、この人。
口は悪いけど寂しそうなとこがあって事情は切なくて、でもやっぱり口は悪くて。
早乙女先輩には可愛いとこ見せるのに、あたしにはツンツンしてて。
ひどいと思えば………、優しい、の、かな。
掴みどころが、ないっていうか。だから気になっちゃうのかな。
もう、ほんと、なんなのこの人。
- 484 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:47
-
「うーっ、寒い冷たい寒い」
「先輩って寒がりなんでしたっけ」
「うん」
思いっきりドシャ降りの中を走って、緑地公園の中の屋根付きのベンチまで
避難した2人は、濡れた新聞紙を脱いでゴミ箱に捨てた。
亜弥も特別寒さに強いワケではないが、走ったおかげで体が温まっているので、そこまで寒くない。
藤本も走ったんだし、ずっと新聞紙を被っていたので濡れた部分も亜弥より全然少ないハズだが
寒いもんは寒いらしく腕で体を抱いてプルプル震えている。
もしかして……ババシャツ着てないのかな?
亜弥は、制服の下に3枚のババシャツを重ね着している。ついでに、表面しか濡れなかったので
マフラーも巻いたまま。
しかし藤本は、新聞紙の下は制服だけだった。
中は見えないけど、ババシャツもタダじゃないし………たぶん………。
- 485 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:47
-
いくら寒がりでも、この震え方は尋常じゃない気がするし。
一応、助けてもらったんだから、いいよね?
ハナカミンさんに振られたのが、心が揺れた罰なら、これは、誠意がないかもしれないけど。
このままじゃ、先輩が風邪引いちゃうし。
そうだ、昨日の続き。この機会にゆっくり話してみて、気になる原因を確かめて。
恋じゃないって確かめよう。
そんな事しても、ハナカミンさんは、もう会いに来てはくれないだろうけど。
きちんとしておきたいから。
ハナカミンさんに恋をしたのは、嘘じゃないから。
気持ちは、本物だから。
- 486 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:48
-
「…先輩」
「ん?」
だからこそ、割り込んできたこの人への気持ちを、きちんと確かめておきたい。
「あたしの家、ここからすぐなんです。
走れば2分くらい。また濡れちゃいますけど、ここより暖かいから、来ませんか?」
「え、い、いいよ。
美貴も家帰るから」
「先輩の家、近いんですか? エアスクータ使ってるんだから、遠いんじゃないですか?
今日は乗ってこなかったんですね」
「ぐっ、ま、まあ、駅2つ向こうだけど。アパートの人に借したんだよ。
てかいきなりお邪魔したら悪いじゃん」
「大丈夫です。ママと妹がいますけど、遠慮しないでください」
「え、でも、わあっ」
断られても、聞く気はない。だってそれが唯一の短所だから。
今度は亜弥が藤本の手を引いて、先程と変わらないドシャ降りの中を走り出した。
- 487 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:48
-
◇
- 488 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:48
-
「紅茶でいいですか?」
「あ、うん」
「安物のダージリンですけど」
「だんじり? へえ、祭りみたいな名ま…わあっ! なにこれ?! すごい美味しい!!!」
「これママが昨日焼いたのなんですけど」
「ほお、亜弥ちゃんのママすごいねえ、なんていうの?」
「スコーンです」
「すこんぶ? え、ちがうでしょ明らかに」
「 ス コ ー ン です」
「み、美貴だってさあ、肉なら詳しいよ。親戚が焼肉屋さんしてるし。
肉なら全部好き。ロースもカルビもタンもツラミも生レバーもハツもホルモンも
ミノもセンマイもハチノスもギアラも全部好き!」
「へ、へえ…」
「知ってる? 豚の腎臓は空豆の形に似てるからマメって言うんだよ。
牛のはブドウの形してんの」
「へえ、面白いですね」
「ま、肉食べる機会は少ないんだけどね」
「从T 。T从」
- 489 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:49
-
亜弥の自宅に着くと、2人は交代で風呂に入って体を温めた。
背丈がほとんど同じなので、なのに、上の下着以外はぴったりで丁度いいのが複雑だったが、
脱いだ制服は乾かしているので、藤本は亜弥の服を借りている。
藤本がつい脱衣所で亜弥の下着をじいっと眺めて、肩を落としながらニヤけたなんて、
そんな事はなくはないようでない事もない。
亜弥の母親は友達と買い物に出かけていて、妹たちもまだ帰っておらず、
きっと、雨が弱まるまでは帰ってこないだろう。
よって2人は、1階リビングのフカフカのソファに座って2人きり。
フ タ リ キ リ 。
- 490 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:49
-
ああもう!! わかってるよ2人きりなのはあっ!!!
そう、ただの高校の先輩と後輩の中なワケだから、フタリキリだからって
大騒ぎするほどのもんじゃない。
誘ったのは亜弥なのだし。気持ちを確かめるという理由で。
しかし、ただいま亜弥の心臓は、ハツは、とんでもない事になっていて
確かめるどころではなくなっていた。
ななななんで!? どうして?! このドキドキはなぜ止まらないのっ?!
あらあら松浦さんったら大変な事に、風呂で体がポカポカになったせいか、
暖房の効いた部屋が嬉しいのか、フカフカのソファが気持ちいいのか、
だんじりじゃなくてダージリンの美味しさに感動したからか、
スコーンが珍しかったのか、おそらく全てが藤本を超ご機嫌状態にさせたのであろう、
昨日、スタバでこっそり遠くから見た可愛い顔が、今、目の前にある。
- 491 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:49
- 遠目で見たってあんなに可愛かったのだから、近くで見れば
亜弥が受けるダメージは相当なものがあった。
ちがうのっ! だって! あたしの気持ちはハナカミンさんに向いててっ!
先輩が気になっても、ハナカミンさんへの気持ちは少しも弱まってないし!
振られても大好きだって、胸を張って言えるのに!!
この人は、なんでこんなに可愛いのっ!!!
ダージリンをずずっと啜って、プハーッて和む幸せそうな顔。
スコーンにがぶっとかぶりつく、子供みたいな、小動物みたいな仕草が、堪らない。
ハナカミンに感じるドキドキとは全然違う。
憧れの気持ちは微塵もない。
ただ、やたらと可愛い。
- 492 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:50
-
どっ、どどっ、どっ、どうしようっ。
お茶とお菓子出したら、何話せばいいかわかんなくなっちゃった。
早く、なんか、言わないと、あたしが黙って
先輩の横顔ガン見してるの気付かれたら、絶対変に思われる…っ。
「お、亜弥ちゃん家、DVDあるんだー」
「ふぃ? あ、はいっ、何か見ます?!」
「んー、何があんの?」
チャーンス。
雨は全く弱まる気配がないし、家族も当分帰ってこない。
藤本を帰すワケにもいかない。
2人っきりでガン見している亜弥に気付かれないように
藤本の神経を集中させるには、DVDは最高のアイテムだった。
- 493 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:50
-
「えーっと、映画でいいですか?」
「うん。…あっ、ヘリーピッターある? 美貴さあ、1と2は見たんだけど
3作目の『ヘリーピッターと明日カバンの修理』は見てないんだよね」
「ありますよお。今、4作目やってますよね」
「うん、炎のゴムネットも早く観たいなー」
映画を観ている間、藤本は全神経をテレビに向けていたので、亜弥は心おきなく
その顔を見つめていた。
ワクワクしたりハラハラしたり真剣になったり笑ったり。
コロコロ変わる表情はどれも可愛かったけれど、亜弥が1番可愛いと思ったのは、
ヘリーの親友のレロレロンが、鞄の修理なのに間違えて靴を持ってきて
オーマイハニーに叱られる場面にウケた時の笑顔だった。
- 494 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:51
-
その笑顔に、心の中で、「参った」と呟いて。
亜弥は、2つ目の恋を認めた。
- 495 名前:恋。 投稿日:2006/01/20(金) 17:51
-
- 496 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/01/20(金) 18:18
-
明けていました。(遅杉
今年も遅くてすみません。
相変わらず阿呆なふつつか者ですが、よろしくお願いします。
レス、ありがとうございます。
>>461名無し飼育さん様
泣かな〜いで〜(タチヒロシ
( ´ Д `)ノ◇<んあ、ハンカチーフ使ってだぽ。
>>462名無飼育さん様
川*’ー’)<っとに、ハナカメン許せんやよ。
ありがとうございます。よろしくですw
>>463 774飼育様
お優しいお言葉、ありがとうございます。
しかしながらそれに甘えず、なるべく早い完結を目指します(新年の抱負
>>464名無飼育さん様
从*´ ヮ`)<て、照れるたい。ノノ*^ー^)<うへへー。
( ´ Д `)ノ◇<あなたもハンカチーフ使ってだぽ。
ありがとうございます。がんばります。
- 497 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/01/20(金) 18:22
- >>465名無しJ様
ほんとに毎回毎回、今回も・゜・(ノД`)・゜・
( ´ Д `)ノ◇<もう3枚目だぽ。
川つvT从<頑張るよおっ。
お粗末様でした。
>>466名無飼育さん様
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
うおおっ!今年も幸せだチクショオッ!!(;´Д`)ハァハァ
>>467名無飼育さん様
ありがとうございます。一気に読んで頭痛はしませんでしたでしょうか。
一部扱いがひどかったりもするのですが、愛情を感じていただけて嬉しいです。
彼女たちが小さくなるのは、萌ぇの為だけだったので
どんどん萌ぇてくださいまし。
>>468名無飼育さん様
すみません、お待たせしました。
>>469名無飼育さん様
待たせちゃってごめんなさいだしぃ。
- 498 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/01/20(金) 18:27
-
- 499 名前:名無し 投稿日:2006/01/20(金) 23:18
- 更新乙です。
オーマイハニーに激ワラ
- 500 名前:konkon 投稿日:2006/01/21(土) 00:11
- 更新お疲れ様です
あやや、可愛い恋をしてますね♪
ミキティはやっぱり・・・(泣)
- 501 名前:名無しJ 投稿日:2006/01/21(土) 01:11
- シリアスな場面なはずなのにどっかおかしいw
新キャラの2人も気になりますw何者だwww
そしてあいかわらずびんぼ(ry
…更新お疲れさまでした。次もまったり待ってます
- 502 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 10:14
- ヘリ−…私もその映画見たいですよ。早速レンタルしてきますね。
亜弥ちゃんは純だなぁ。ふたりがすごく可愛いですw
- 503 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 20:20
- 無理だから!
電車の中で読むとか無理だから!
今回も笑わせていただきましたm(_ _)m
- 504 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 23:51
- ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!
- 505 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 04:20
- ご褒美
´д`)っ ツンツン
- 506 名前:467 投稿日:2006/01/23(月) 01:33
- >>497お気遣い有難うございます。笑い過ぎによる腹痛こそはしましたが、頭痛は起きませんでしたよ。
宝塚のパンフがポケットに入ってる愛ちゃんが素敵です。そして律儀にレスする作者さんに(*´д`)ポワワ
- 507 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 23:09
- 次女ワロタ
- 508 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 01:30
- ツラミ…
辛かったんだね。・゚・(ノД`)・゚・。
- 509 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 01:31
- すいません…ageちゃいました…orz ツライ
- 510 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 05:08
- もういっちょご褒美w
´д`)っ ツンツン
- 511 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/31(火) 01:27
- 気になるぅ〜
- 512 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/31(火) 18:21
- ご褒美の・・・・
川VvV)っ ツンツン
´ Д `)っ ツンツン
- 513 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 18:32
- ,,,,,
( ・ア
ヾ゙`(VvV) ポッポー
゙ミ(ノ,,,,,,,ノ
U''''U
- 514 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/05(日) 16:37
- ごちむはんかちーふありがとだぽ
i
、 i!
i,`ヽ、 i |
i 丶、 ,i :|
i;::_,、-、`1_ | .:|
-'‐'"1i !、'i゛ヽ:;、__
ヽ:::|| | /' _,、‐'" '`‐、
ヽ|i!r'/ \
W'" ̄''‐-、_. \
`''‐-―一
早く治りますように
- 515 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/16(木) 03:50
- 続き気になるなぁ〜
- 516 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/24(金) 12:21
- 続きマダァ-? (・∀・` )っ/凵⌒☆チンチン
- 517 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:38
-
◆◆◆
- 518 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:39
-
「ぶちえらいわややん」
「むあっ!? こらさゆ! 手ぇ放したらいけん!」
「れーなー、重いぃー」
「田中さあん、重いですぅ」
「な、なんでれいなに言うと?! さゆに言いんしゃい!!」
「んあ、田中ちゃんファイッ」
「かかか神様! おるんやったら見とらんで助けてくださいよ!
降らせ過ぎたら床上浸水とかっ、ここからは離れとぅけどハナカミンしゃんの
ボロアパートがツルンと流されたらどうするんねっ!!」
「んああっ!?」
- 519 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:39
-
そんなのダメに決まってんじゃん!
引っ越したい引越したいって言ってるけどねえ、ミキティはあのボロいアパートが大好きなんだよ!
あそこにいる清貧仲間が大好きなんだよ!!
この雨で、ごとーの力をちょっぴり乱暴に行使して降らせたこの雨で、
『ミキティとあの子の距離を縮めちゃうぞ大作戦』は見事成功を収めたものの、
あの子と仲良くなってルンルンなミキティが帰ったら…
【 アパートがありません → うええん! 美貴泣いちゃうよおー、大谷さあん、村田さんあゆみちゃあん! 】
なんて悲劇でミキティの目から大雨洪水警報発令されちゃったらどーすんのさっ!!
「シゲちゃんっ! 傾き過ぎないようにちゃんとそっち支えて!
いい? 適度に降らせんだよ。後30分くらいしたらやめていいから」
「30分も無理なに。手がジンジンして可愛くないの」
「んあ! ジンジンした手を涙目で擦るサマが可愛いから大丈夫!」
「なるほど。それは盲点だったの。頑張るの」
「………さすが神様、見るポイントが違うばい」
- 520 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:39
-
あはっ、そんな褒めたら照れるよー。
にしてもにしてもー、ミキティ楽しそうだなー。
あーんなニコニコしちゃってさ。
いきなり走り出した時はどうしようかと思ったけど、結果オーライってやつ?
んあ、作戦ではさあ、まず田中ちゃんたちが、この大きいジョウロで雨降らせて―――そうすれば
ミキティはあの子と一緒に雨宿りするって思ったかんね。
で、2人がどっかに落ち着いたとこに、ごとーが雷をゴロゴロさせて―――
『キャッ!』
『っ……、だ、大丈夫?
へえ、亜弥ちゃん、雷苦手なんだ?』
『に、苦手っていうか……』
『怖い? 震えてる』
『………うん』
『じゃあ、今日は美貴が貸したげる』
『…………』
- 521 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:40
-
音にビックリしたあの子が思わずミキティに抱きついて、戸惑いながらもミキティは
安心させようとトビッキリ優しい声で囁いたりしちゃってー、肩とか背中撫でちゃってー、
仕舞いにはギュウウウッと抱きしめてあの子もそっと腕を回して2人は熱くっ、熱く ひ と つ にっ!!!
なるハズだったんだけどー。
ごとーがいざって構えた時にまた雨ん中走ってくんだもん、ガックシよ。
ごとーはまあ、ナニゲにあの子の気持ちわかっちゃってるけどさ。
まさか家に誘うとは思わなかったから、どこ行くのって、ちょっとドキドキしちゃいましたぞ。
・・・・・。
そう、ごとーはわかってる。あの子の気持ち。
危ない、アブナイあの子の気持ち。
- 522 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:40
-
それにミキティの気持ちも。
入学式の日、チチンプイプイで常に窓際の席を確保してるごとーは、新しい制服着慣れてませんって
雰囲気丸出しの子たちが、校庭を挟んだ向かいにある体育館に押し込められてくのをボーッと見てて。
全部入ったなーって時に、物凄い勢いで校庭に砂嵐が巻き起こったと思ったら
見慣れた光を発する額が体育館に飛び込んでくのを見つけた。
『んあ?』
最初は見間違いかと思った。妙に制服着慣れてたけど、遅刻しそうで慌てて走ってく新入生かなって。
だけどちくちく、胸騒ぎ。
変だな。ミキティ、用なんてないハズ。
入学式の雑用係は眼光で回避したって言ってたし。
何の為にあそこへ? 何の為にあんな一生懸命走って? 100円でも落ちてんの?
- 523 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:41
- ごとーも同じように砂嵐を巻き起こしながら体育館に飛び込むと
入ってすぐのとこにある黒いカーテンに身を包んで、ミノムシみたいになってるミキティがいた。
『んあ、何してんの?』
『え?………うおっ!? ままま真希ちゃんっ!』
ぬっそりカーテンの隙間に顔を突っ込むと、ミキティは面白いくらい飛び上がった。
驚きまくってるほっぺにピタッとくっついて見てた視線の先を辿ると………あの子?
『や、だから、あの子、前助けた子で。
たまたま見かけたから元気かなって、顔だけ見よっかなって』
『……ふうん』
ふむ。この頃はもう、ごとーは別行動だったから知らない子だった。
でも今までミキティが助けた人の事気にするなんて……まあ、助けても変態扱いされたりしてたかんねえ。
- 524 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:41
- そういやちょこっと前、ミキティが変にご機嫌な日があったなあ。
お肉食べたワケでもないのに。むしろラーメンで、もやしすら入ってなかったのに。
んあ、そっか。あの子はきっと変態扱いしなかったんだ。
ハナカミンに、きちんとお礼言ったんだ。
それが嬉しくって。
だからミキティにとって、ある意味最初に助けた子なのかも。
『でも……うーん、もうちょっと近くで見たかったけど。
こっからじゃ顔、豆サイズだし。
でもたぶん、元気っぽくてよかった』
『んあ、じゃあコレあげるよ。天上製の眼鏡。かける人の目にあわせてレンズが変化すんの。
しかもこのボタンを押すと望遠鏡にもなるのです。
すごいっしょ』
『ええ!? すごいじゃん!!
いいの?! 給料日でもないのにもらっていいの?!』
『んあ。誕プレお肉だったでしょ?
なんか残るモノもあげたいなって思ってたんだよね』
『でももう大分過ぎてるのに………っありがとう! 一生大切にする!!
ほんとにありがとう真希ちゃん大好きっ!!!』
『あ、あはっ………ポッ』
- 525 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:41
-
も、もうミキティったら!! そんな笑顔満開で目ぇウルウルさせながら抱きつかれたら
なっち一筋のごとーだけどごとーだけどごとーだけど!!!!
ちょっぴし似てるから微妙にムラムラしちゃったり
間違いを起こしそうになっちゃったり要するに萌えたりしなくもないのよ!!!
って萌えないよ萌えないさっ!!
そ、そうよ、匂いが決定的に違うもん。なっちはもっと、甘くてホクホクだもん。ふうう。
『……亜弥ちゃん』
なーんて荒い息を飲み込んでスーハー深呼吸するごとーの心の葛藤も知らず、
ミキティは嬉しそうに眼鏡をかけてあの子を凝視。GYOUSHI。漁師。遠洋漁業と日本近海漁業。
エンラク師匠と弟子のラクタロウ…って違う!!
んああ、何か呪いかと思う勢いで脱線しちゃってる間に判明したけど、あの子亜弥っていうんだ。
ふうん、可愛い子だね。隣にいる子もサルっぽいけど、うん、可愛い。
- 526 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:42
- 『ん? 違うよごっちん。
サルっぽいのが亜弥ちゃんだよ』
『んあ? そうなの?』
『そう。で、ウオっぽいのが真希ちゃん』
『へえ、そうなん…んああっ!? どういうこっちゃギョルァ!!』
『ぐあっ!? あ、ごめっ、つい口が滑って!』
『ついって事は日頃から思ってんでしょ! ひどいよ! ミキティのおバカ!』
『ちょっ、ご、ぎょめんってば!』
『魚面だとうっ!?!?』
『ちちち違うーっ!! てか自分もさっき「ギョルァ」って言ったじゃん!』
んあ! 確かに「ギョルァ」は言ったけどね!
「ギョルイ」とは言ってな………んあ!?
『誰が魚類じゃあああっ!!!』
『えええっ!? 誰も言ってないしっ!!』
問答無用ンアアー!! ダアアッ!! 七輪デヤクゾコノヤロウ!!
- 527 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:42
-
と、カーテンの中でごとーとミキティが揉み合っていた、その時。
『ちがうよ! ハナカメンじゃなくてハナカミン様!』
『『…っ!?』』
牙を剥いて睨み合ってたけど、ハッキリ聞こえた高い声。
ごとーもミキティも、思わず動きを止めて掴み合ったまま耳を済ませた。
いや、何か聞こえたけど、ねえ?
そんなワケないよねえ? しかも様とかついてたんだけど……。
ハナカミンを変態扱いしなかったかもしんないけど、所詮そこまでっていうか。
あんな風に友達に、目をキラキラさせながら話すなんて
ミキティもまさかって顔してる。
ごとー的にはあの格好イケてると思うんだけど、いかんせん地上の者にはウケが悪いみたいだし。
残念だけど、聞き間違いよね、やっぱり。
- 528 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:42
-
と、思ったんだけど。
『様は様でしょ、偉い人につけるやつ。
ハナカミン様はあたしの命の恩人なんだからこの世でいっちばん偉いの!』
『『………』』
んあ? ちょっと、ミキティ、間違いじゃないよ!!
聞こえたよ! ハッキリ聞こえた!! あの子ハナカミンって、命の恩人だって!!
『……………』
『ミキティ! よかったね! あの子、本当に感謝してるじゃん!』
『……う、うん』
頑張ってきた甲斐があったねえって、出そうになる涙を堪えて背中をポンッて叩いたら
ミキティは呆然って感じで、喜びが大き過ぎたのか、しばらく動けなくなってた。
でも、ギシッて音がしそうな感じで振り返ったと思ったら、おもむろに
『ちょっと行って来る』って……待って! どこに?! 何しに?!
- 529 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:42
- 『まさか名乗る気じゃないよね?! バレちゃダメって言ったでしょ!』
『わ、わかってる。そうじゃなくて、大声で騒いでるみたいだから
注意しに行くだけだよ』
『…んあ、それでも! いきなり話しかけたら変だって!』
あんた係じゃないんだし! もうすぐ入学式が始まるし、ほっといたって先生が注意するでしょ!
って、カーテンから出てフラフラ歩いてくミキティを追いかけようとしたら…んあ!
ごとー自慢のサラサラな髪がカーテンの巻いてある部分に挟まってイタタタタ!!!!
『んあっ、ちょっ、どうなってんのコレ!
待ってミキティ! 痛っ!』
痛がってんだから戻って来てよって感じだったんですけどー。
もがいてる間にミキティはあの、亜弥ちゃんって子のトコに行っちゃって。
しかもなんか、怒らせちゃって、話も何かおかしくなっちゃって。
- 530 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:43
-
『だって……喋りたかったんだもん……。
けど、バレちゃいけないから……嬉しかったのに……ぐすん』
やっとこさカーテンから脱出して、体育館の外に連行した時はヘコみまくってて
可哀想だったけど。
注意しに行くって言ったんだから『うるさいよ』って言えばいいのに
なんでわざわざ 自 分 の 悪口 自 分 で 言って怒られてんのさ。
『み、美貴だって! 「そろそろ始まるから静かにね」って、上級生らしく
爽やかに注意して立ち去ろうと思ったよ! 思ったけど!!
なんか、は、恥ずかしかったんだもん!!』
『…………』
不器用だなあ。……そこがイイんだけどさ。
『絶対嫌われたよね。はああっ。
てか、本気かなあ? 美貴のせいで大変な事になっちゃったよ』
『んあ、あの顔は本気だね。
ミキティのせいだって思うならさ、ちゃんと責任取って
あの子がバカやる前に止めなきゃダメだよ』
『……え? あ、うん』
- 531 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:43
- 『本当は行かせたくないけどねー。
言っとくけど、今回だけだよ。学校も同じになっちゃったんだし。
それに正義の味方は、人気はなくても皆のモノであって、あの子のモンじゃないんだから』
『う、うん』
思えばコレが失敗だった。
ミキティは悪くない。ごとーの判断ミス。
今回だけって言っても、すでにこの時、あの子に惹かれてたミキティが
ごとーとの約束を破っちゃう事くらい、ちゃんと考えるべきだった。
シゲちゃんから聞いた時、頻繁にではなくても会ってる事を咎めるべきだった。
入学式の時のおかげか、あの子は藤本美貴とは仲が悪かったとはいえ。
ごとー自身、好きな人の傍にいられない苦しさがわかってるからって
見逃して許しちゃったのは、優しさなんかじゃない。
- 532 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:43
-
「……神様?」
「んあ?」
「大丈夫ですか? もう終わりましたよ?」
「ん、んあ」
いつの間にか、30分経ってたみたい。
ジョウロから手を放さないごとーの顔を、絵里りんが心配そうに覗き込んでた。
田中ちゃんとシゲちゃんと小春ちゃんは、力尽きたらしく倒れて寝ちゃってる。
「うまくいくといいですね。
ハナカ…じゃなくて藤本さん」
「んあ。最初から、こうしてればよかったんだよねえ。
遠回りしたけど、結局あの子も藤本美貴に惹かれたんだから」
簡単には納得できなかったみたいだけど。
「今更思いついても遅いけどさー、入学式の日の夜だって
心配した藤本美貴が様子を見に来たって事にして
ミキティのまま行かせてれば、あの子もミキティも、余計なつらい目に遭わなくて済んだんだ」
「でも、あの時の藤本さんが亜弥さんの住所知ってるのおかしいですよぉ?」
「んあ……まあ、それは誰かに聞いたとか言やいーじゃん」
- 533 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:44
- 学校で担任に聞いたとか。そうだよ、そうやって、あの子の中から
さっさとハナカミンを追い出してればよかった。
「……それは少し、寂しいです。
知ってますぅ? 亜弥さんの部屋って2階だから、いっつも絵里たちが
マント持って持ち上げて飛んでたんですよお?」
なんか心が重くってヤサグレタ声が出ちゃったごとーを気遣ったのか、絵里りんは少し下を向いた後、
クリッとした上目遣いで、「正直重いんですぅ」って唇を尖らせた。
「なのにー、窓が開いたら自分だけ中に入って、ゼエゼエいってる絵里たちのこと置いてっちゃうし。
帰る時も格好つけて飛び去るから、また絵里たちが持ち上げなきゃいけなくて。
でもその後、いっつもギュッて抱っこして羽根撫でてくれて。
それが気持ちよくって大好きだったから、絵里もれいなもさゆも文句言いながら頑張ってたんです」
藤本さんってほんと、ズルいですよねーって笑う絵里りんは
さすがなっちの子供だなって思う程キャラキャラ笑う。だけどふっと、笑いを引っ込めた。
- 534 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:44
-
「さっき神様が言った通り、2回目のコンタクトがなかったら
仲良くなったり、突然別れさせたりしなくてよかったと思いますけど…。
上手く言えないですけど、ハナカミンさんに会えて、亜弥さん、本当に嬉しそうでした。
だから、そんなに自分を責めないでください。
神様がつらそうだと、絵里も悲しいです」
「……んあ」
微かに唇を震えさせて、目を伏せて。
頭を撫でると、細めた目から涙が落ちた。
「ごめんなさい」
「謝るのはごとーの方だよ。心配かけてごめんね」
ふるふる揺れる頭を抱える。
子供に心配かけて泣かせちゃうなんて、ごとー、親失格だね。
「あああっ」
「んあ?」
- 535 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:45
-
と、美しい親子の絆を感じたりなんかしちゃってるイイトコロなのに、
ごとーの左肩におでこをくっつけてた絵里りんが慌てた様子で顔を上げる。
「こ、これってレーテーの水じゃないですかあっ!?」
「んあ、うん。そうだよ」
左胸のポケットに入れてたから、鼻があたったみたい。
絵里りんはおっかなびっくりビンを抜き出してまじまじと見つめた。
「これ……石川さんの時の…?」
「うん」
レーテーの水。暗黒っぽい面っていうかライク・ア・ダークなサイドに流れる、
忘却の河・レーテーの水は、飲んだ者の記憶を消す効果がある。
このビンの中は改良したバージョンで、一部の記憶しか消さないんだけど。
「梨華ちゃんの記憶を消そうと思った時に買ったんだ。
結局、使えなかったけどね」
- 536 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:46
- だから中身は満タン。
ずっと棚の奥にしまってたけど、昨日、ミキティに見せる為にポケットに入れて
そのままになってた。
『それで美貴の記憶を消すの?』
『これからもハナカミンであの子と会う気なら』
『…………』
『って言いたいけどね、ちょっと違う。
ミキティ、正体がバレたら死んじゃうって前に話したけど、あれ嘘なんだ。
本当はこれの原液を飲んで、全ての記憶を消さなきゃいけない』
『全て? 完全な記憶喪失ってこと?』
『そう。そしてこの一部の記憶を消す水で、あの子にミキティの事も
ハナカミンの事も忘れてもらう』
『お願い、もう会わないで。ハナカミンとしてあの子と恋してどうなるの?
ハナカミンはミキティだけど、ミキティは藤本美貴だよ!
仮面を被った自分でいいの?!
あの子の事が好きなのは、仮面の中の、藤本美貴じゃないの?!』
- 537 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:46
-
最後はみっともなく大泣きして、鼻水だって垂れたごとーに
ミキティは『わかった』って言ってくれて、すぐにあの子にさよならをしに行った。
そして今。
何を話してるかはわかんないけど、ゴッドズ・地上覗き見ミラーで
2人の様子を見るに、中々上手くいってるみたい。
これから、ちょっとずつだろうけど距離を縮めて、穏やかな恋をしてくれたらいい。
こんな、暗黒っぽい面の、物騒な水の出番なんか来なきゃいいんだ。
もう捨てちゃおうかな。結構高かったから、とっといたんだけど。
「あのぅ」
「む?」
- 538 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:46
- 変なブランドのバッグより高かったんだからーってボヤいてたら
絵里りんがピョリッと首を傾げて、不思議そうに呟いた。
「これ、買ったって言いましたよね?」
「んあ? 言ったよ」
「どこで買ったんですか? これ、暗黒っぽい面のモノだから
暗黒っぽい面に行かないと買えないんじゃないですか?」
「ああ、通販だよ。ごとー、暗黒っぽい面への入り口探してまだ見つかんないのに
買いに行けないもん。インターネッチョでチョチョイのチョイよ」
「へええ、通販ですかあ」
そうそう。天上の者と暗黒っぽい面の輩は、直接接触したりすんのは
許されてないけどね、ごとーが神になるずーっと前から買い物はできるの。
「マイとアヤカのカントリーココナッツ市場とかいうサイトがあってねえ、こっちからも
天上製のシャンプーハットとか売っ……………」
「? 神様?」
- 539 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:47
-
てるんだぜえ、と言いかけた時、突然、頭のてっぺんから足のつま先に電流が走った。
「あ、あ、あ………んあ!! その手があった!!!」
「え? え? ふぇ?」
「ありがとう絵里りん!!!」
「や、ふぁ? ど、どういたしまして」
もうピカーンドカーンとひらめいちゃったよごとー!!!
「ん、んん? 神様? 何騒いどーと?」
「田中ちゃん! オッハヨウ! 起こしちゃってごめんね!」
「ぐあっ、ちょ、耳元で大きな声出さんでくださいぃぃ」
苦しそうに耳を押さえる田中ちゃんの頭をグリグリ撫でて、ほっぺに口づけもしちゃうと
絵里りんが慌ててごとーから田中ちゃんを引っぺがす。
「わああっ」
「か、神様! 何するんですかあっ!」
「あはっ! 祝砲、かな?」
「…なんの?」
- 540 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:48
-
真っ赤な顔であわあわしてる田中ちゃんと、ちょっと怒った顔の絵里りんに
ごとーはニッと唇を曲げる。
「内緒。しばらく留守にするって、けーちゃんに言っといて」
やっとわかったよ、なっち。
もう逃がさない。
- 541 名前:閃き。 投稿日:2006/03/03(金) 21:48
-
- 542 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/03/03(金) 22:30
-
ミキサ…
从从+V)<何も言うな。
スミマセン・゜・(ノД`)・゜・
レスありがとうございます。
>>499名無し様
ロンはいじりようがなくて、オーマイハニーも苦し紛れだったんですが
ワラていただけてよかったです。ありがとうございます。
>>500konkon様
可愛いですか? ありがとうございます。
(vV;リ从<だから泣くなって。
>>501名無しJ様
シリアスっぽいのは気のせいですから。終始アホです。
あの2人の登場はアレッキリでしょうが、普通の可愛い女子高生です。
- 543 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/03/03(金) 22:31
- >>502名無飼育さん様
レンタルできなくても私のせいにしないでね。
じゅ、純と言っていただけるとは思わなかったです。ありがとうございます。
レスはsageでお願いします。
>>503名無飼育さん様
じゃあバスの中で読(ry
電車で隣の人に覗かれでもしたら危険ですから
是非家でコッソリ見てください。
>>504名無し飼育さん様
ハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン返し!!!!!
>>505名無飼育さん様
わあ…って誰!?
だ、誰にでもツンツンして欲しいワケでは(と言いつつ嬉しげ
>>506 467様
頭痛はなかったですか。安心しました。
川*’ー’)<あーしの左のポケットは宝塚ポケットって呼ばれとる。略してT・P。
- 544 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/03/03(金) 22:31
- >>507名無飼育さん様
コーヒーよりもお花を愛する彼女は現在反抗期です。
>>508名無飼育さん様
(VvV;从<いやいや、ツラミはほっぺたのことだから。
まあ、つらいのもホントですけどもw
>>510名無飼育さん様
だから誰っ!?
え、えーと、まいっかw
>>511名無飼育さん様
お待たせしました。レスはsageでお願いします。
>>512名無飼育さん様
ミキサマハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ゴッチンモハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ダブルハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
- 545 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/03/03(金) 22:32
- >>513名無飼育さん様
キャワワ。はい、豆。(;´Д`)っ(;・e・)
>>514名無し飼育さん様
(*´ Д `)<んあ、どーいたしましてぇ。
復帰したけど無理しないでねごっちん。
>>515名無飼育さん様
お待たせしました。レスはsageでお願いします。
>>516名無飼育さん様
お待たせしました。このAA可愛いですよねw
- 546 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/04(土) 06:24
- 更新キターーーー!!!
作者様の言葉遊びに相変わらず大爆笑しております。
- 547 名前:konkon 投稿日:2006/03/04(土) 22:51
- 待ってました〜!
作者様面白すぎでございます!
自分も一つけじめをつけさせてもらいます。
从VvV)<もう泣くなよ
(*´ Д `)<もう泣かないぽ
- 548 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 08:27
- 川o・-・) つ ツンツン
- 549 名前:あお 投稿日:2006/03/07(火) 20:42
- >>543
467改め、あおです。
T.P.!成程、心にメモっときますw
何だか損な役回りっぽいれいにゃが(・∀・)イイ!じゃ、お約束の……
从*´ヮ`)つ ツンツン
- 550 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/08(水) 21:48
- ご褒美
ノノ*^ー^)つ ツンツン
- 551 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/18(土) 23:56
- き、きになるっす!!
- 552 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/20(月) 22:33
- 後押しの・・・
从VvV)つツンツン
(*´ Д `)つツンツン
(0^〜^)つツンツン
- 553 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/27(月) 21:46
- そろそろ続き読みたいなぁ
- 554 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/27(月) 22:36
- あーげーるーなーよー
- 555 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/04(火) 21:42
- . ,,,,,,,,,,,
,( ・ア
(VvV) ぽぉ〜ぅ・・・ ぽげぎょい
. ノ^ yヽ、
ヽ,,ノ===l ノ
/ l |
"""~""""""~"""~"""~"
- 556 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 00:32
- 待ち遠しいなあ・・・
- 557 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 03:02
- パワーを注入する為にツンツンを…
- 558 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:30
-
◆
- 559 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:30
-
「あ〜あ、愛しいあの人。お昼ごはん、何食べたんだろう?」
ここは、無限の宇宙の片隅に浮かぶ青くて丸い星、都球の暗黒っぽい面っていうか
ライク・ア・ダークなサイドで最も高い暗黒山の頂上に聳え立つ暗黒城の最上階。
―――通称、カオリンのお部屋の窓際に置かれたピンクのロッキングチェアに
腰掛けてゆらゆら揺れていた石川梨華は、胸に手をあて、潤んだ瞳で窓の外を見つめていた。
「やっぱり、お弁当作ってあげればよかったな」
そしたら、今頃ヨッスィは私の卵焼き咀嚼してくれてるかなとか、デザートの白玉見て
私の白い肌を思い出してくれてるかしら…キャッ!とか、
色々楽しく妄想じゃない想像できるのに。
- 560 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:31
-
『梨華ちゃんの弁当って、一波乱ありそうだからいい』
なーんてぶっきらぼうに言ってくれちゃって。照れ隠しだってわかってるんだゾ☆ フフフッ。
「あああああっ!!! もうダメッ!!
いくら我慢強いカオでも耐えられない!!!!」
梨華は何でもお見通し♪ってな具合に、石川が1人でニヤニヤキャッキャしていると
部屋の中央の大きなベッドに寝そべって本を読んでいた
イイダ・サタン・カオリが突然髪を振り乱して立ち上がった。
「ふえ? カオタン、どうしたんですかあ?」
「がああっ!! カオタンじゃなくて カ オ リ ン だって何回言えばわかるの!」
「ええー、でもカオタンの方が可愛いですよお」
「うっさい! 石川だからってうっさい!」
「だからってなんですか、だからってー」
- 561 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:31
- だからはDAKARAだよ! 飲み物じゃない方の!!
ぶっちゃけ、かれこれ30分も前から勝手に聞こえてくるファニーボイスのせいで
本に集中出来なくなっていたイイダは、それでも最初は広い心で我慢していたのだが、
いつまでも鐘のように鳴り響くエンドレスファニーにとうとう限界が訪れてしまった。
「だって……寂しいんですもん。
今までずっと一緒だったのに…」
「そりゃわかるけど、ヨッスィだって仕事なんだから仕方ないでしょ!
それにねえ! アンタよりカオのが何百倍も寂しいんだから!」
出会ってまだ1年ちょっとのアンタと違って
カオはまだヨッスィが割り算も出来ない頃から面倒見てきたんだよ!!
歴史が違うんだよ歴史がっ!と、大きな目にうっすら涙を溜めて、イイダは俯く石川に吐き捨てる。
- 562 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:33
- 「大体さー、ヨッスィが暗黒門の見張り番しなきゃいけないのは
石川のせいでもあるでしょー?」
「うっ…」
「あの子は才能を認められて暗黒城に来たエリート中のエリートなのに
地上でアンタなんか拾ってきちゃったから1年も謹慎喰らって、おまけに暗黒門勤務だなんて……」
暗黒門とは、地上への行き来に使う、暗黒っぽい面っていうか
ライク・ア・ダークなサイドの入り口にある大きな黒い門のことで、
城からはデビルカーで1時間という離れた場所に建っている。
恋心があったとはいえ、地上の者を
暗黒っぽい面に引き入れてしまったメフィスト・フェレヨッスィは
裁判にかけられ、罰として1年の謹慎と2年の暗黒門勤務を言い渡された。
今日がその勤務初日であり、デビルカーの免許を持っていないメフィスト・フェレヨッスィが
デビルバスに乗って門に向かうのを、イイダと石川はハンカチ片手にバス停まで見送りに行った。
- 563 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:33
-
『じゃ、行ってきまーす』
『ヨッスィ! 着いたらまず一に挨拶、二に挨拶、三枝はカツラで五にスマイルだよ!』
『わーってるって。つーか恥ずかしいからもう帰ってよ』
『ヨッスィ、気をつけてね。早く帰って来てね』
『ん。おめーも早く帰んな』
『おーヨッスィ、今日からか。大変だなー』
『うっす、おはようございまーす』
『ちょっとヤグチ!! 事故ったらタダじゃおかないかんね!』
『イイダさあん、あの人ブレーキに足届くんですかあ?』
『おあ? カオリンじゃん。なに、見送りー?
ヨッスィ初めてバス乗るワケじゃないのに大げさだねー。
てかヤグチ今まで事故ったことないしー…って待てコラァ!!
そこのキンキン声! 今なんつった?! ブレーキに足が 届 く か だとおっ?!
いいか! このバスはな! ヤグチ用に改造してあんだよ!
つまりヤグチ専用バス、略してヤグバス!!
特徴はこの黄色いボディだ! 覚えとけ!』
- 564 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:34
-
そういうあなたもキンキン声なデビルバスの運転手、ミニデモン・ヤグチに怒鳴られ
せっかく持っていったハンカチを使う前に帰ってきてしまったが…。
「石川が余計な事言うからちゃんと見送れなかったし。
遠く見つめて溜息つきたいのはこっちだっつーの」
「…うっ、すみません…」
イイダは腰に手をあて、唇を尖らせる。
しかしこれは本当に怒っているワケではなくて、寂しさを紛らわす為のポーズだった。
さっきから発言は冷たいが、イイダは決して石川の事が嫌いではない。
むしろ可愛がっている。ひっそり。
その証拠に、石川が座っているロッキングチェアはイイダが彼女にプレゼントしたモノで、
家具店の安売りで買ったと言ってあるが、本当は安倍に手伝ってもらって
ノコギリやトンカチを振り回し、仕上げにピンクのペンキを塗って作ったイイダのお手製だった。
- 565 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:34
- だから全然、これっぽっちも泣かせる気はなかったのだが。
「ぐすっ」
「…え? え? 石川?」
気が付いた時には大粒の涙が石川の小さな手を濡らしていた。
しまったと思っても、もう遅い。
苛々していて、つい口が滑ったイイダは、石川の最も痛いトコロを的確に突いてしまっていたのだ。
自分のせいでメフィストフェレ・ヨッスィが罰を受けた事を彼女は気にしていた。
本来のネガティブを大いに発揮して、みるみる深海に沈んでいく。
「や、えっと、違う。違うんだよ石川、泣かなくていいの。
さっきはああ言ったけど、なんていうか、カオの言い間違い?
ヨッスィが石川に惚れちゃったんだし、石川がヨッスィのタイプだったせいっていうか、えっと」
「わ、ひっく、私の顔が悪いんですぅっ…」
「いやいや、そうじゃないよ。
ミカンあるでしょ? 石川はミカンの皮だけ食べたりする?
しないっしょ? 皮は剥いちゃうでしょ?
美味しいとか、好きだと思うのは中身でしょ?」
「じゃあ、私の中身が悪いんですぅ…ぐず」
- 566 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:37
-
ええええー、だからそうじゃなくってー。
以前、安倍を沈ませてしまった時、得意なダジャレで失敗したので
同じく得意な例え話で挑んでみたが、またしても失敗だった。
「あのね石川、悪くない、悪くないんだよ。
巡り会ったんだから、本当なら出会うワケもなかったのに。
その上石川はヨッスィの為に、大切なモノ全部とお別れして暗黒っぽい面に来てくれて、
カオは心からありがとうって思ってるよ。エイッ語で言うとモロキューベリーマッチョだよ」
「っく…ぅっ…」
余談だが、エイッ語は地球でいう英語っぽい感じで
暗黒っぽい面の限られた悪魔だけが使える偉大な言葉である。
失敗にちょっぴり凹みつつ慌ててフォローしても、止まっちゃくれない石川の嗚咽。
どうすれば元気を取り戻してくれるのか、震える頭をヨシヨシ撫でながら
イイダはダジャレを考える時以上に必死に考える。
うーんうーん、なんか欲しいモンあげるとか……食べたいモノ…でも昼食べたばっかだし……、そーだ!
「ね、ね、石川、今からさ、ヨッスィにお弁当作ったら?
お昼過ぎちゃったけどおやつに!」
「…ピク」
- 567 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:38
- やった、カオってば天才! エイッ語で言うと Oh! ジーニアチュ!
先程は邪魔くさいだけだったファニーボイスを思い出して
提案してみると、石川の耳が猫のように反応した。
「どうする? 作るなら泣いてるヒマないよ」
「つ、作ります!」
「よし、じゃあカオのキッチン使って。
手伝いはー……ミーヨたちでいいか」
そうと決まれば即行動。
イイダは城内電話を手に取り、厨房の番号をプッシュする。
「あの、1人で大丈夫ですよ?」
「一応だよ、ヨッスィが食べるんだから栄養も考えなきゃいけないし。
出来たら届けてもらわなきゃいけないっしょ。
もしもーし、あ、ユイ? ミーヨとカオの部屋来てくれるー?」
ユ、ユイちゃんと、ミーヨちゃん?
初めて聞く名前の悪魔2匹との対面、石川の体に緊張が走る。
- 568 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:38
-
罰を受けたメフィスト・フェレヨッスィと同様、石川も裁判所の通達により、
暗黒っぽい匂いになるまでは自由な外出も許されず、ほとんどカオリンの部屋にいるので
イイダと安倍とメフィスト・フェレヨッスィ以外の悪魔と会って話までしたのは
ヤグチが初めてだった。
(安倍は本当は悪魔ではないが、イイダが石川の前では「なっち」と
呼ばないようにしているのと、元々面識は無かったので、石川は安倍の正体に気付いていない)
今朝、初対面のヤグチに怒鳴られたのは、記憶に新しい。
ユイとミーヨって子が来てくれるみたいだけど……、大丈夫かな?
変な事言わないようにしなきゃ…梨華ファイッ。
「初めましてえ。
ナイスバディが特徴の厨房見習い、ユイ・クロセル・オカーいいます。
得意な技はフンフンむちむちおどり」
「初めまして。
…バディは自信ないですけど、同じく厨房見習いのミーヨ・ハゲンティ・エリカです。
得意な技はおどろきしぱたです」
- 569 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:39
-
迫り来る不安と緊張の中、己を励ましていた石川の前に現れたのは
おっしゃる通りのナイスバディに、ナニワの響きが宿る声のユイと、
これで眼鏡をかけたら完璧に学級委員に選ばれそうな、要するに
真面目でしっかりした印象のミーヨの2匹だった。
よかった、2匹とも可愛くて優しそう。
2匹の温かい眼差しに、石川はほっと胸を撫で下ろす。
ただ発言の 一 部 が ものすごーく耳に引っかかった。
「は、初めまして、石川です。
よろしくお願いします」
けれど、ヤグチとのトラブルを反省していた石川は、引っかかったなんてソンナモノは
とりあえず華麗にスルーツカヤして丁寧に頭を下げる。が。
「石川さんの得意な技はなんですかあ?」
「ひょえ?」
スルーツryしてはいけなかったらしい。
ナイスバディとフワフワな髪を揺らし、ユイが興味津々といった様子で尋ねてきた。
- 570 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:40
- え!? わ、私?! こ、この子は確かフンフンむちむち……って事は私も………。
何と答えるべきが焦ると同時に、ユイが奏でるナニワの響きは
石川にある天使の笑顔を思い出させる。
『アチャチャーミー、行くで!』
『今日もしっかりやれよー』
あいぼん……元気かな…、ののも…いい子にしてるかしら。
「石川さーん?」
「え、あ、えっと、と、得意な技は、とってもかなしみしぱた!」
「ふあー、そうですかあー」
「…う、うん」
ああ私ったら! しぱたじゃミーヨちゃんとカブッてるじゃない!!
咄嗟だったとはいえ、やかましぶわさが出てこなかった自分が心底憎らしい。
どこか気の抜けた声で感心しているユイの隣で静かに微笑むミーヨは全く
気にしていないように見えるが、実は心の奥で『カブんなやコルァ』と思っているかもしれない。
どうしよう! 嫌われたかも!
言い直した方がいいかな? でもそれで余計不快にさせちゃったら…っ
石川のネガティブ機関車が、汽笛を鳴らして発車した。
- 571 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:41
-
「ちょっとちょっと石川!
何勝手に落ち込んでんの!
てかユイもミーヨもいつからそんな技が得意になったの!!」
頭上に暗雲たちこめる石川を見かねて、ベッドで本の続きを
読んでいたイイダがすっ飛んでくる。
「いやあ、堅苦しい挨拶やとあかんかなあと思って。
エリカちゃんも緊張してたし」
「だ、だってヨッスィさんのお相手だし、すごい綺麗だって噂になってて…」
「ああもお、だからって他になかったのー?」
大体カオリですら再放送だったのに、なんで揃って変態技知ってんだか。
「おーい石川、戻ってこーい」
「グスッ…シパタが……シパタがカブッたんです……グスン」
「カブッても問題ないよ!
ミーヨの本当の得意技は水をワインにしちゃう事だし、
ユイは水を操って温泉発見できんの! ここの中庭の温泉もユイが見つけたんだよ。
でもミーヨと仲良いから普段は厨房で働いてる。だから、ね、全然カブんないでしょ?」
「スゴイ……ワタシなんか…到底ソンナコト…」
「 で き な く て い ー ん だ よ ! ! 」
- 572 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:41
-
結局この日、暗黒門に石川のおやつ弁当が届く事はなかった。
- 573 名前:平穏。 投稿日:2006/04/20(木) 17:41
-
- 574 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/04/20(木) 17:42
-
久方ぶりの登場でした。
というか更新も久方ぶりで申し訳・゜・(ノД`)・゜・
よっちゃんスマヌ。
(0^〜^)<・・・・オイラ登場したか微妙だYO。
前回の更新時にお礼申し上げるつもりがスッカリウッカリで
物凄い勢いでイマサラなのですが、この阿呆なスレに期待を寄せてくださった方
どうもありがとうございました。
もう先は長くないと思うのですが、もうしばらくよろしくお願い致します。
レス、ありがとうございます。
亀更新で申し訳。
>>546名無飼育さん様
ありがとうございます!遊ぶしか脳がないのでw
これからも子供の心を大切に生きていきます。
- 575 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/04/20(木) 17:43
- >>547konkon様
またもお待たせしました。ありがとうございます!
けじめまでつけていただいて(ホロリ (vV从从<お前が泣くんかい。
>>548名無飼育さん様
こんこんキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
コンコンハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
>>549あお様
レイニャハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
なんかお約束になってるみたいハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
改めましてこちらこそよろしくですハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!(え
>>550名無飼育さん様
カメチャンハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
なんだか「ご褒美」という文字がエロく見えるのはナゼ(;´Д`)ハァハァ
>>551名無飼育さん様
あ、ありがとうございまっす!!
- 576 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/04/20(木) 17:44
- >>552名無飼育さん様
ミキサマハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ゴッチンハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ヨッチャンハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
トリプルハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
あんまりされたら萌え死んじゃう(幸死
>>553名無飼育さん様
お待たせしました。
お手数ですがレスはsageでお願いします。
>>554名無飼育さん様
マターリ。
>>555名無飼育さん様
え、えーとこれは……とりあえずお食べ(;´Д`)ノ(;・e・)
>>556名無飼育さん様
お待たせしました。
>>557名無飼育さん様
从*VvV)<して欲しいの?
しょーがないなー、ミキがしてあげ…
( `.∀´)つ 横取りツンツン
川;V-V)<……… |#‘ 。‘从<ヤッスーグッジョブ
- 577 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/22(土) 03:15
- し…しぱたですか!www
私も再放送でしかしりませんwww
- 578 名前:あお 投稿日:2006/04/23(日) 00:12
- 更新乙です!
つい最近、昔の作品も読ませていただきましたが、作者様はどんどん進化してるのですね!面白さが作品ごとに倍増してます!素晴らしいー。
しかし、ライク・ア・ダークサイドもみんな変なやつばかりw
オイラをもっと出せYO!>(0^〜^)つ゛ツンツン
- 579 名前:名無しJ 投稿日:2006/04/28(金) 14:17
- 美貴さんとみーよをだきしめたくなったアサダマオ15歳です。
嘘です。
でもだきしめたくなったのは本当です。僕の気持ちに嘘はありま(ry
まぁともかつチャイコーです。ツンツンしながらまってます
- 580 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/30(日) 04:13
- ( `.∀´)つ ご褒美のツンツン
- 581 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/08(月) 18:29
- もういっちょ。( `.∀´)つツンツン
- 582 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:25
-
◇
- 583 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:25
-
ボクの髪が〜 肩から伸びて〜 (しかも物凄い勢いで〜)
「キャアアアアア!!!」
「ちょっとマサオに美貴ちゃんアハァン!! 聖なる夜に何ホラーな歌うたってんのよホーリーナイッ!!
あゆみが怖がってるじゃないオーマイガッ!!!」
「むあ? あゆみんは平気な顔しとるぞい」
「あははっ、変なお歌だねっ」
「え…ホワッツ? じゃあ今のはウフゥン?」
「……あ、亜弥ちゃん?」
「ふぇええ」
- 584 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:26
-
「「ご、ごめんなさい!!!」」
ここは以前、村田姉妹の歓迎会が行われた場所でもある、藤本らが暮らすアパートの傍の公園。
今日はクリスマスの前日、つまりはイブなんていうぶっちゃけタダの前日なのに
むしろ当日より盛り上がってしまう、そんなホーリーナイト。
きっと君はコナイ━━━━━━(;゚∀゚;)━━━━━━ !!!!!なんて歌もあるけれど、
当初アパートの面子と斉藤だけで行われるハズだったパーティに、
大きなケーキを抱えてやって来た、亜弥の姿があった。
『はあ? ちょ、ど、どういうことやよ?!』
先日、放課後の教室で藤本とイブを過ごすと告げた時、熟読していた
「マリア様が見て見ぬフリ」の最新刊「いいえむしろ見まくり」を手から滑り落とし
口をあんぐり開けた愛の驚きはもっともで。
てゆーか犬猿の仲だったのに、いきなり廊下で会っても喧嘩せず、親しげに話す様子は
周囲にも動揺を与えていたのだが、まさか、聖なる夜を共に過ごすなんて…っ。
- 585 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:26
- 『わ、わかった! あーしを騙しとるんやろ!
あーしが安心して太陽の冠を手放したところで爆発する気なんや!』
『ええ? 何言ってんの愛ちゃん』
『騙されん! 騙されんで!! だってあんなピリピリムード満載やったがし!』
『だから、こないだ話したでしょ。
雨の日にたくさん喋って、仲直りっていうか、友達になったって』
あの日に打ち解けたとはいえ、本当はあまり喋らず横顔ばかり見ていたし、2つ学年が上の先輩を友達と
言っていいものか亜弥は少し考えたが、可愛らしい藤本の一挙手一投足は
むしろ年下に見えたほどだったので、まあいいかと口にしていた。
しかし、その単語が愛に与えた衝撃といったらなかったようで―――
『んがっ?! こないだはあまりにも寒そうやったから着替え貸しただけって………友達?
ってことはあーしと同じなんかっ!!
フレンドパークで仲良く金貨獲ってダーツ投げて車もらうんかっっ!!!
あんな険悪な空気を周りに漂らせといて! 今までのあーしのっ!
おまかせに同じ事務所の後輩Fキョンがゲストで来た時のアッコさん並に気ぃ遣っとった
あーしの苦労はどうなるんやよっっっ!!!!』
―――意味不明な叫びと懐から投げ捨てた太陽の冠を残して去って行ったきり
愛は高熱を出して寝込んでしまった。
- 586 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:26
-
ああ、愛ちゃん誤解してるもんなあ……。
スタンバッてますコーヒーで亜弥が早乙女に気があると読んだ愛のエアーリーディングは
きっぱり否定したが、それを受けて愛は、単に亜弥は嫌いな藤本の幸せそうな顔に
腹を立てたのだと考えていたらしく、友達である亜弥の本心に少しも気付いていなかった。
嫌いな人の幸せで怒るって…、私鬼じゃないんだから。
そう呆れたものの、友達というか親友である愛にも、芽生えてしまった2つ目の恋を
打ち明ける事が出来なかったのだから、仕方ないのかもしれなかった。
だって愛ちゃんは、私がどれだけハナカミンさんに夢中だったか知ってるし……。
事実、友達だと言っただけでああなる藤本への想いを話したら、
愛は一生口をきいてくれないかもしれない。
いくら空気が読めなくても、亜弥にとって愛は大切な存在なのだ。
- 587 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:27
-
「ひっく、大丈夫、です」
そんな大切な親友の、尊い犠牲をはらってまで来たパーティ。
亜弥は思わず零れてしまった涙を急いで拭いながら微笑んだ。
「本当に申し訳ないです」
「ごめんね、怖がらせたかったんじゃないよ?」
「…ん、私こそ、泣いちゃってごめんなさい」
たまに食うにも困っている割に、髪の毛を派手に脱色した頭を深く下げる大谷に並んで
じっと顔を覗きこみながら謝る藤本に、亜弥の胸が高鳴る。
眼鏡かけてないから、ダイレクトに可愛いなあ…ポワワ。
「謝る必要ないわよ亜弥ちゃんアーハッ!! 肩 ま で 髪が伸びたら
結婚しようっていうロマンティックなタクローの歌ホラーにしてくれちゃってジーザス!!
2人は猛烈に反省しなさいサルデモデキール!! 加えてセクシーにイエッス!!!
今日も今日で可愛い藤本に、亜弥が緩みそうな頬を抑えていると
斉藤がセクシーに飛び込んできた。
「え、セクシー? どうやっ……えーと…ごめんなさいウハァン」
「えええ、美貴セクシーなんてやった事な……えーと、ごめんねイヤァン」
「っ!?!?」
- 588 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:27
- 戸惑いながらも斉藤に睨まれて2人がやりきると、亜弥の全身が一瞬で赤く染まった。
「よしよしベイビーズ、頑張ったわグッジョブ」と満足気な斉藤と
初めてのセクシー謝罪に照れまくりな大谷と藤本は、日が落ちている事も手伝って
全く気付いていないが。
亜弥はもう本当に火がついたように顔が熱いわ身体の全部が心臓になったみたいに
バクバクしてるわアラヤダよだれが出るわで大変な事にジュルッ。
どどどどっ、こ、この人、可愛いだけじゃないっ!!!
ただ今外での活動中という事で、藤本はありったけの服を着込み
頭と首には黄色いトレーナーを巻くという斬新なファッションを披露しているのだが、
その内から溢れる色気に、亜弥は見事ノックアウトされた。
「亜弥ちゃん、お腹空いたの?
あゆみのアメあげる」
「ふえっ……あ、ありがとう」
- 589 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:28
- 恥ずかしながらよだれを啜る音を聞かれてしまったらしい。あゆみがテテテと
やって来て、亜弥の手の平にいちごみるく味のアメを乗せた。
食事の前に亜弥が持って来たケーキを皆で軽く摘んでいたので
特に空腹ではなかったが、小学生のあゆみにまさか藤本の色気にやられたとは
言えるワケもないので有難く受け取る。
この寒い中わざわざ外にいるのは食事の支度の為で、あゆみの姉であるめぐみは
さっきから飯盒で米を炊いていた。
クリスマスと言えばチキンやらスープやらパンやら洋食を食べるものだと
思っていた亜弥は驚いたが、斉藤も大谷もめぐみも、藤本が持って来た米を見て
泣いて喜んでいたし、職業柄チキンを食べない斉藤が持って来たソーセージに藤本が狂喜乱舞していたので
亜弥はここへ来てすぐ、ケーキより牛肉を持ってくればよかったかと後悔した。
しかし、亜弥がおずおずとケーキを見せた時のどよめきと歓声が
それを一瞬で吹き飛ばした。
あれこれ悩んだ挙句、幸せそうにカフェ・モ力を飲む藤本を思い出して
シンプルなチョコレートケーキを作ったのは正解だった。
味も今までで1番美味しくて、それはやはり、作っている間ずっと思い浮かべていた、あの笑顔のおかげだろうか。
- 590 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:28
-
「手がよく動くボクサーが、家でする遊びってなーんだ?」
「遊び…? え、なんだろ、亜弥ちゃんわかる?」
「うーん……あ! 水遊び!!」
「え、なんで?」
「ジャブジャブするから」
「せーかいっ!」
「へえぇ、亜弥ちゃんすごいね」
「むあ、炊けたぞーい」
大谷の膝の上に座ったあゆみのクイズに藤本と亜弥が挑んでいると
清清しい達成感溢れる声が届いた。
顔を向けると、めぐみが嬉しそうに飯盒を掲げてピースしている。
「よしウフッ、こっちもソーセージ焼けたからファイアッ、アパートに戻りましょうかフォロミー。
マサオの部屋でいいわよねオーケィ?」
「あ、じゃあ布団どかさないと入れないかな」
「なら美貴の部屋にしません?」
「いいの? じゃあお願い。ひとみーん、藤本ちゃんの部屋にしてー」
「かしこまりアンッ!」
大谷と藤本の部屋の広さは同じだが、大谷の部屋には3人分の布団があるので
どんなに小さく畳んでも場所をとってしまい、とてもじゃないが6人入れる部屋ではなかった。
斉藤はセクシーに了解すると、焼けたソーセージを入れたタッパーを大事に抱え―――
- 591 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:28
-
ジャパーン!!!
「「「「「っ!?」」」」」
―――た時、めぐみがいた方から不吉な、どうしても受け止めたくない気がする音が。
「のおおおおおっっ!!!!」
続いて、めぐみの絶望にまみれた悲壮な叫びが。
皆の視線が集められると、めぐみは尻餅をついたまま絶叫しており、その手には飯盒はなく………
一堂がキョロキョロ忙しく眼球を動かすと、めぐみの投げ出された足の先に何やら
小さな水たまりがあり………そこにブクブク飯盒が 沈 ん で いくではないかっ!!
「オーマイガアハァンッ!!」
「むああ!! 待て! 待たんかあっ!!!」
いち早く反応した斉藤と、それに我を取り戻しためぐみが手を伸ばすも虚しく空をかき、
飯盒は静かに水たまりの底へと消えていった。
- 592 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:29
-
「……………」
「………え、ありえなくない?」
「ふ、藤本ちゃん、ごめんね、でも村っちもわざとじゃ…」
「いや、それはいいんですけど、あれ水たまりですよね?
飯盒が沈むほど深いワケなくないですか?
あの辺に穴があった記憶ないし、雨もしばらく降ってませんよ?」
藤本と亜弥が襲われた大雨からもう1週間以上経っているし、それにあの大雨は
誰かの意図かと思うぐらい 局 地 的 なものだったので
アパート近くには降らなかったと聞いている。
なら、あれは誰かのイタズラか。藤本は眉をひそめた。
「ワッ?」
「むあ?」
その時突然、呆然と凝固していた前方の2人が声を上げた。
見ると、不思議な事に水たまりの表面が眩しい黄金色の光を放っている。
「ますますありえない」
急いで藤本は心配そうに自分を見ている亜弥の手を引き、
あゆみを抱っこする大谷と斉藤たちの元へ駆けつけた。
- 593 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:30
-
すると、皆が揃うのを待っていたかのようなタイミングで
光り輝く水面の向こうから、落ち着いた大人のクールビューティな声が。
「あなたが落としたのは、金の飯盒ですか? それとも銀の飯盒ですか?」
「……むあ?
え……あの普通の…黒くて……ちょっともうハゲてて…」
「ちょっと村フゥッ! そんな細かく言わなくてもキャハアン」
「 わ か り ま し た 」
「ヒッ」
「正直なあなた、そしてそのフレンズよ――――」
__
/ ___ヽ
レ〆ノノハ) ∬
川 ` ー´川 ,;'"゙;, キンメマイ食え
Q_ ノ/{l y'/}ヽ、 ./てフ
,___("ァx'´(`ー'´,、 y'^'フ´
、,.ヘ|:======:|'ヾ、_ノ> ヽ_,,ノ´
─.、//|======|─‐./´ 人)──
<,/ |_r---t_,| (_、_/_ン〉
「「「「 し、青争 香 さん !!!!!! 」」」」
- 594 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:30
-
◇◇
- 595 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:30
-
「いやー、美味しかったねー。
美貴、あんな美味しいご飯初めて食べたよ!」
「私もです」
「美貴が買った安い米があんな美味しいのに変わるなんてさー。
村田さんホントありがとうって感じだよねー」
「…………」
可 愛 い な コ ン ニ ャ ロ 。
あゆみが小学生という事もあって、パーティは9時にお開きとなった。
片付けの後、部屋に2人きりになり、亜弥がドギマギしながら改めて部屋の中を
観察していると、「亜弥ちゃん、門限10時だったよね」と言って
藤本が亜弥の荷物を持った。
まだ30分ぐらいあるのにな……。
パーティの余韻からか、楽しそうにコロコロよく笑いながら背中を丸めてピョコピョコ歩く藤本と
ゆっくり家路を辿る。
部屋に戻ってからは顔と首に巻いていた黄色いトレーナーを
外してそのままなので、可愛い笑顔がよく見える。見え過ぎる。
このままではガン見してしまうので、亜弥は気を逸らすべくキョロと目を動かして
空を見た。あの日と違って雲ひとつない夜空には、たくさんの星が輝いている。
- 596 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:31
-
「 青争 香 さんにも会えたし。
さすがクリスマス・イブだよね。奇跡が起こっちゃった」
「奇跡……か」
亜弥とあゆみは初めて知ったのだが、
あの黄金色の水たまりから出てきたのは、本当の正直者だけに福を与える都球の妖精で
生きている間に遭遇できるのは、100万人に1人と言われているらしい。
そんな妖精が6人もの大人数の前に現れて、ご飯をよそってくれるなど。
『おかわり!』と元気に言うと普通によそってくれて
『おかわり……いいですか?』と不安気に訊くと大盛りにしてくれるなど、確かに
奇跡としか言いようがなかった。
はて、ということはこの夜空も、奇跡なのかもしれない。
クリスマスには雪が降る方が奇跡的だろうけど、でも、雪の代わりに降ってきそうなほどの星。
今まで気付かなかったのが不思議なくらい、キラキラ眩しいほどの。
この夜空も奇跡なら。
ならば、その奇跡の下にいるフタリは?
- 597 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:31
-
「…? おー、すっごい星」
空を見上げて立ち止まった亜弥に、藤本も釣られて上を向く。
「わあ、こっちでこんな星見んの初めてかも」
「こっち?」
「うん。美貴の田舎ってほんと田舎でなんも無いから、こういう空が当たり前だったよ。
だから結構詳しいんだ。あれがオリオンでしょー。
その隣がヤク座、フリー座、プラウ座、モナ=リ座…っ」
そうしようとか思う前に、亜弥はすぐ隣にあった藤本の左頬に口付けていた。
ほとんど無意識に。
離れた瞬間、自分のした事に気付いてハッとしたが
藤本は空を指差したままポカンと固まって動かない。
ぬあっ!? イマわたしっ…………、しちゃった?
どれぐらい経ったのか、物凄く近くでグリンと藤本の大きな瞳が亜弥を捉えた時、間違いなく
しちゃった事は明白になった。
- 598 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:31
-
しちゃった。うん、それはわかった。
わかったし、しちゃったものは取り消せないし、しちゃったけど後悔とかしてないし。
でもね、自分にとってもいきなりだったから驚いてるワケで。
近距離でそんな「信じられない」って目を向けられても困るっていうか。
こんな事したの初めてで、……そ、そりゃキスは初めてじゃないけど
自然と動いちゃって自分からとか吸い込まれちゃったっていうか。
事後処理じゃなくてフォローっていうか、こういう時
何て言えばいいのかわかんなくってどうしよう?
お互いまでの距離はたぶん2センチもなくて、無言でまるで
睨み合ってるみたいに見つめ合っててドウシヨウこの人可愛い。
可愛いから、なに?
- 599 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:32
-
『××××、×××××××』
- 600 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:32
-
「……せ、先輩が悪いんです!」
「………は?」
「先輩が、元気だし、近いし、トレーナー巻いてないし!」
「あ?」
自分の問いかけに返ってきた心の声に動揺して、亜弥は混乱の頂点にいた。
藤本に向かって何を言っているのか、半分もわからない。
同じ自分の感情なのに、ハナカミンに対して抱いた、あの穏やかで緩やかで
我慢強い気持ちはなんだったんだろう。
想うだけで幸せだった。なのにどうして、この人に対しては。
「だ、だって、あんなん巻いて隣歩いたら
亜弥ちゃん恥ずかしいと思って!」
「お気遣いどーもっ!
でも先輩が風邪引いたらどうするんですかっ!」
「なっ、だ、大丈夫だよ! 服いっぱい着てんだから!!」
「だったらなんで背中丸めて歩くのっ!
ホントは寒いんでしょ!!!」
「さ、寒くないやい!!」
- 601 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:32
-
あれ? なんで? いつの間に喧嘩に?
明らかに自分からフッかけておいて、亜弥はワケがわからなかった。
口が勝手に動いてる。あらら? 手まで動いちゃう。
「いいからおいで!!」
「はあ? どっ…」
亜弥の腕の中に納まると、藤本は途端に静かになった。
いや、ただガチンと固まったのか。
その石のような硬さに十分触れたところで、亜弥の手は大人しくなった。
それでも5分か、もっと短かったかかもしれないが、
それぐらい経って、亜弥はそっと藤本の身体を離した。
「……あ、…あの」
「ここでいい」
「へっ?」
- 602 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:32
-
ルンルン歩いてたら突然キスされて、びっくりしてたら喧嘩売られて。
挙句抱きしめられたと思えばココデイイ?
顔を伺っても無表情で、亜弥が何を考えてるんだか
サッパリわからない藤本は気の抜けた声を出す。
「あの、意味わかんないんだけど」
「わかんなくていい」
「いや、よくないし」
「これプレゼント」
「へっ?」
またしても気の抜けた声が漏れた藤本の眼前に、可愛らしいピンクの包みがあった。
「…い、いいの? 亜弥ちゃん、ケーキもくれたのに」
「あれは皆さんにって作ったし、先輩だってお米持ってきたじゃないですか」
「で、でも美貴、なんも買ってないよ?
大谷さんたちと共同出資であゆみちゃんに自転車買ったから
もう今月余裕なくって」
「何言ってるの? もうもらったから」
そう言うと亜弥はふんわり笑って藤本の左頬を突っついた。
- 603 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:33
-
「っ!?」
「にゃははっ、送ってくれてありがとうございました。
後は1人で大丈夫だから、先輩も気をつけて帰ってくださいね」
「………っぅ、うん」
「またアパートに遊びに行きますから、皆さんにもよろしくお願いします」
「…うん」
「じゃあ…って先輩、大丈夫ですか?」
「…うん」
「今夜ウチ泊まります?」
「ととと泊まりません!!!」
「にゃはははっ」
真っ赤になって再び石化する藤本の小さな頭を撫でて
明るく笑うと、亜弥はくるりと背中を向けて歩き出した。
下唇を強く噛んで、すぐに駆け戻りたいのを必死に堪えながら。
角を曲がる前に1度だけ振り返ると、藤本はまだ同じ場所に立って亜弥を見ていた。
- 604 名前:奇跡。 投稿日:2006/05/23(火) 19:33
-
- 605 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/05/23(火) 19:51
-
コンコン、ピーマコ、ファイッ。
レス、ありがとうございます。
>>577名無飼育さん様
しぱたです!(何
あのアニメは子供心に衝撃の出会いでした。
おっ、再放送組、仲間ですねーwww
>>578あお様
昔の駄文まで読んで頂いてありがとうございます。
自分では退化した部分しか目につかないのですが(悲
更新速度とか…ってヨッチャンハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
いつか出します。出せたら(ぇ
- 606 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/05/23(火) 19:52
- >>579名無しJ様
ミラクルマオキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!! って嘘か(当たり前
抱きしめるのはモチロン
从#‘ 。‘从< 阻 止 。
>>580名無飼育さん様
ヤ、ヤッスーハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
そういや出番全然なくて申し訳ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
>>581名無飼育さん様
もういっちょキチャッタハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
- 607 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/23(火) 21:53
- ついに…キタ━━━━ヽ(゚ )人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人( ゚)ノ━━━━ !!!!
待っていた甲斐がありました…今回もたっぷり笑わせてもらいましたよw
藤本さん、セクシーですw
- 608 名前:konkon 投稿日:2006/05/23(火) 23:30
- キターッ━━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━━!!!!!!
笑えるし可愛いし貧しいし_| ̄|○
そこはともかく、愛ちゃんの混乱には笑わせていただきました♪
何か(・∀・)イイ!!
次も楽しみに待ってます!
- 609 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/26(金) 05:41
- 半蔵門ひとみハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
門様最高です!!
メロンが良い味出してますね!最高に笑わせてもらいました!!
そしてやっぱり・・・あやみきハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 14:51
- ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!
あや男じゃ、あや男がおったでえええええええ
あや男やりよんなー
新刊の名前と斉藤さんがツボでした
- 611 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/28(日) 17:21
- 静雄バロス
この冬から春にかけてさんざん見たAAだけど、まさかこのスレでも見るとはw
やっぱ台詞は棒読みなのでしょうか。
- 612 名前:あお 投稿日:2006/05/30(火) 09:36
- やべー、更新きてたー!
ツンデレか!ツンデレなのか、あやや!
ハァ―――;´Д`―――ン
川o・-・)つ゛<ところで私の出番はもうないんですか?
- 613 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/31(水) 02:22
-
キタ━(゚∀゚)━!!!
二人の雰囲気いい感じなんじゃないのぉー?
はぁ〜また続きが気になって毎日覗きに来ちゃうよ…
一体どうなるのかな?
- 614 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/01(木) 04:57
- ご褒美の・・・
||| ´_`||つ
- 615 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/01(木) 05:00
- おいらが先だ〜
"||| ´△`||つ (0^〜^)つツンツン
- 616 名前:名無しJ 投稿日:2006/06/04(日) 09:00
- あやみきハァ━━━(´Д`*)━━━ン!!
あやちゃんがかわいいよぅ
みきたんがかわいいよう…
トレーナは盲点でした。夏場にTシャツでチャレンジしてみます
- 617 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/04(火) 19:27
- まだかなあ・・・。激しく気になります。
- 618 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/05(水) 20:28
- ( ^▽^)<ゲームしましょ
( ^▽^)<飛んだ飛んだ
( ^▽^)<テポドン!
- 619 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/23(日) 21:06
- まーだーでーすーかー?
( `.∀´)つツンツン
- 620 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:38
-
◇
- 621 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:38
-
「ハナカミンさーん、昨日の絵里たち見てくれましたー?
すっごくすっごく頑張ったんですよお!」
「おかげで筋肉痛なの」
「…れーな、ジャンケン負けてフリー座やったけん、忘れてほしか」
「ええー? 絵里なんてヤク座だったんだよー?
一番不似合いだったんだよー?」
「楽しんどったやん……」
「まあまあれーな、何であれ美しく輝いていたことに変わりはないの。
ちなみにさゆはモナ=リ座だったの。世間の意見はともかく、さゆとしては彼女、
お世辞にも可愛いとは言えないけど、長年に亘って人々の心を掴んで離さないトコが気に入ったの」
「…………」
- 622 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:39
-
「あ、で、この子がプラウ座を担当してくれた」
「ああ、前にごっちんに聞いた事ある。確かニスの製造に用いる天然樹脂みたいな名前の…」
「それはコーパルばい!!
この子はコ・ハ・ル! 小さな春っちゃ!」
「ん、あ、そう、そうだ、小春ちゃんだ。
てかこんな朝早くに何なの?
いや、来てくれたのは嬉しいんだけど、………まだ5時だし」
昨夜の賑やかさは何処へやら、日の出前だから暗いし静かだし。
いやそんなことより、睡眠中と言えど気を抜けば三途の川くらい走り幅跳びでヒョイと
飛び越えられちゃいそうな寒さで凍てつく波動じゃない部屋で。
巧みに体を丸めて『道産子専用布団は羽毛布団だ!』という無理な自己催眠までかけて
必死にムニャムニャ眠ってた美貴は、腰に感じた軽い衝撃に目を覚ました。
- 623 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:39
-
でも最初は夢かと思ってジッとしてたんだけど、キャッキャ言いながら上で跳ねるから
くすぐったいし……
『ねえねえ、起きてくださーい』
『『うさちゃんジャーンプ! うさちゃんジャーンプ!』』
『おお、さゆ、新技やん』
『ックシュン、ピースがジャンプになっただけじゃん』
……れいながあまりにも感心した声出すから、思わず突っ込んじゃって。
『あ、起きましたー? おはようございまーす。
…む? 顔出してくださいよぅ』
『ヤダ寒い』
『じゃあじゃあ絵里たちも布団に入れてください』
『ヤダ寒いしアンタラ道産子じゃないし』
あのね、中に入れるって事は布団を浮かせなきゃならないワケで、つまり隙間が生じるワケ。
別に道産子じゃなくても絵里たちなら入れてもいいって思うよ、思うけど。
冷気の侵入までも許してしまうのがイヤなの。絶対に。
- 624 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:40
-
『むう! 前に神様は入れたじゃないですか!』
『あれは勝手に入ってたんだよ!!』
『じゃあ絵里も勝手に入りますぅ!!!』
『ギャアー!!!!』
だめだってば!! いい? いくら絵里が小さくても隙間は出来るの。
冷気ってヤツァそこから図々しくも遠慮なく堂々と入ってくるんだよ、ピュウッと。
『絵里、なんムキになっとう?』
『ウフフ、絵里ってばヤキモチ焼きなの』
『可愛いですねえ☆ あ、さゆみお姉さんの次にですけど☆』
『おあ? ヤキモチって……まさか絵里、ハナカミンしゃんに惚れとーと?』
『……そんなワケないの。れーなのニブチン』
『ニブチンニブチーン☆』
いやいやヤキモチとかニブチンとか暢気な事言ってないで絵里を止めてえっ!!!
ピュウで美貴の命の灯火は消えちゃうかもしれないんだぞ!!
むしろ消えちゃうぞ! 消えちゃっても知らないぞ!
- 625 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:40
-
『ぷあー、入れたー』
『シラナイモンシラナイモ……あれ?……うはっ、あったかあーい』
ほっぺのあたりが一瞬冷たくなって、ギュッて目を閉じたら、数々の思い出が走馬灯のように
駆け巡らなかった。
代わりに、実家にいた頃、洒落になんぐらい寒い日にだけお母さんが持たせてくれた
ホッカイロみたいな温かい塊が顔の右半分に飛びついてきた。
『うへへー、あったかいですよね?
絵里たち、さっきまでストーブの前で寝てたんですー』
『あ、そーなの、それ早く言ってよ。言えよ。
れーなたちも入っといでー』
『……わかりやすい人っちゃ』
『正直なだけなの』
『心の底から冷え性なんですね☆』
うん、冷え性だけど、その前に寒がりだとか、この部屋が寒過ぎる点に気づけ。
- 626 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:40
-
と、いうワケで、顔に絵里、首にれいなを巻いて、さゆと小春ちゃんを抱っこして
ぬくぬく暖まりながら、勇気を振り絞ってイエーイズバッと布団から目を覗かせて
時計を見ると、まだ起きるには早い時間。
前に内職してた頃は、こんぐらいに起きてせっせとガムを包んだ事もあったな。
今はしてねえよ!
てかこんな時間に呼ばれるなんて出動要請か、と思って身構えたのに
可愛い天使たちは遊びに来ただけっぽいし、そもそもこの子たちが呼びに来る前に
ごっちんから連絡がなきゃおかしいし。
担当外れてから、しばらく会ってなかったさゆと初対面の小春ちゃんまで連れて、マジでどしたの?
- 627 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:41
-
「まさか忘れてます?
今日クリスマスパーティするって約束したじゃないですかー」
「ああ、忘れてないけど」
早いだろ。
「お、怒らないでくださいよお。
今すぐパーティするんじゃなくて、その前に神様に捜しに…」
「へ? ごっちん?」
神と言えばごっちんの真希ちゃんなら、年末は何かと忙しいみたいで
学校に来てないから会ってない。しばらく地上に来られないとも言ってたし。
ハナカミン出動要請は腕時計で受けるんだけど、それも
最近は出張中のごっちんの代理だとかで保田さんの声だったし。
『5丁目でひったくりよ! 捕まえなさいよっっっ!!』
のほほんって感じのごっちんの声と違って必要以上に鬼気迫ってるからちょっと怖いんだよね。
- 628 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:41
- でもでも、ごっちん今日帰ってくるんじゃないの?
絶対パーティしようって言ってたし。
その為の時間まで……、無理して作ってくれたし。
や、その、亜弥ちゃんに学校で雨の日に借りた折り畳み傘を返した時にね、
どういう流れだったかクリスマスの話になっちゃって。
『クリスマスは毎年家族と過ごすんですけど、私、イブは 空 い て る んです』
『ふうん、友だちとは遊ばないの?』
『 え え 、 だ か ら 空 い て る ん で す 』
『あ、そ、そうなんだ』
『はい。先輩は何してるんですか?』
『え? え、えーっとお…』
『早乙女先輩と会うんですか?』
『へ? ううん、真希ちゃんとはクリスマスに遊ぶから』
『…遊ぶんですか。
じゃあイブは誰と?』
『ん、や、バイトだよ、バイト』
『バイトなら1日中じゃないですよね?』
『えっ、う、うーんとお…』
なんでか色々訊かれて、気付いたらアパートのパーティに亜弥ちゃんが来ることになっちゃって。
- 629 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:42
-
『どどどどーしよう真希ちゃあああん!!!』
『んあ?
なによ慌てて』
『あああちゃちゃちゃあぱいぶはあっ!!』
『ふむふむ、亜弥ちゃんがアパートにイブ?』
『くくくぱぱぱてっ!!』
『ふむふむ、来るのね、パーティに。よかったねえミキティ』
よくないよっ!! そっ、そりゃ一緒にいられるのは嬉しいけどっ!
パーティの途中で要請かかったら抜け出さなきゃならないんだし!
大谷さんたちだけならいいけど、亜弥ちゃんも来てたら抜けられないじゃん!
『……んあ、そっか、どーしよ』
『や、やっぱ美貴、断ってくる! あ、でも、また嫌われちゃうかなあ…』
『んあ! 待ってミキティ! 真希に任せなさい!』
せっかく廊下で会っても噛み付かれないようになったのになって、凹む美貴を気遣って
ごっちんはイブとクリスマスの内の数時間だけ、ハナカミンの代わりに活躍できるように
色んな手続きして“赤ピーマン様”こと新垣さんを、地上でも小さくならないようにしてくれたのね。
おかげで昨日のパーティを抜け出さなくてよかったし、 青争 香 さんにも会えたし。
………あ、亜弥ちゃんには、からかわれただけだったけど。でも、楽しかったし。
今日もちょこっとだけ赤ピーマン様に代わってもらって、パーティするんだから。
- 630 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:42
- だから普通に、天上で待ってりゃいいんじゃないの?
こんな寒いだけの美貴の部屋に来たって意味な…………ん?
「捜す?」
ちょっと待って、おかしくない?
言葉もだけど、なんで絵里、れいなもさゆも小春ちゃんも、顔暗いの?
戸惑ってると、首から離れたれいなが顔に登って、俯く絵里の頭を撫でながら
不安そうに美貴を見る。
「こん前、地上に雨降った日あったやないですか。
あの日、神様がいきなり『しばらく留守にする』って言い出して、ばってん、
部屋でなんかバタバタしとって、すぐには出かけんかったんですけど』
「出かける準備をしてたんだと思うの」
いつの間にか、さゆと小春ちゃんも美貴の腕を抜け出して、鎖骨のあたりから
ニョキッと顔を出した。
- 631 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:43
- 「ふむ。美貴も雨の日の後、学校で会ったよ」
亜弥ちゃんと少し仲良くなったって言ったら、すごい喜んでくれて。
いつも以上にスキップしちゃって大変だった。
「最後に会ったん、いつか憶えてますか?」
「んー…、雨から4日は経ってたような……赤ピーマンさんの事とかあったし」
安心して楽しんでねって、言われたのが最後だった気がする。
や、最後ってなんか、変だけど。
「じゃあ、たぶんその次の日なの。
今ぐらいの時間に起きたら部屋に神様がいて
『みんなが1番喜ぶプレゼントと一緒に帰ってくるからね』って言って出かけたの」
さゆが言うのに、次々と頷く。
じゃあ、いつ帰ってくるかは言わなかったのか。
「何日か地上におる事も珍しくないし、年末の仕事はほとんど出かける前に
片してあったけん、最初は保田さんも
気にしとらんかったっちゃけど、なかなか帰ってこんし。
そこでも使えるお手軽テンテンも繋がらんけん、おかしいって言い出して。
ばってん、プレゼントと一緒って事は、クリスマスには帰ってくるやろって、
神様がずっとおらんのがバレたら問題になるけん、出張って事にしたんです」
- 632 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:43
-
「……………」
どうしよう、お手軽テンテンがわかんない。
聞き流せばいいんだけど。
みんな沈んでるから訊きづらいし。
「キラリンキラリン☆」
「ん?」
ごっちんが帰ってこない事に比べたら小さ過ぎる問題だし、と諦めた瞬間
小春ちゃんの絶対に口じゃないあたりから妙な音が。
てかこの子、瞬きする度に目から星が飛び出てる、すげえ。
まさか昨日の星は全部この子が出したの?
「さゆみお姉さん☆ ハナカミンさんの頭に疑問発生です☆!」
「察知できたのね。えらいの、さすがさゆの妹なの」
「あれ、れーなの話、なんかわからんとこあったと?」
「え、あ、うん。
今起こってる事もよくわかんないけど」
いきなり美貴の頭になんか変なモン湧いたみたいな事言われたんですけど。
- 633 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:43
-
「ああ、あれはあいぼんしゃんと同じような力たい。
まだ全然自由に使えるわけやないし、あいぼんしゃんと違って
相手の頭に浮かんだハテナにしか反応せんのですけど」
「へえ」
「で、何が疑問なんですか☆?」
ん? あ、そっか、何にハテナかはわかんないのか。
「すごいね小春ちゃん。美貴はただ、お手軽テンテンって何かなって」
「立派な疑問です☆! やったあ☆!」
「うさちゃんヨシヨシ、うさちゃんヨシヨシ」
「おお、さゆ、また新技やん」
「…………」
答えろよ。
「コホン、絵里が答えます。
テンテンっていうのは天上テレフォンの略で、携帯できるテンテンを
お手軽テンテンっていうんです」
「へええ、てかテンテレじゃないんだ」
「はい、神様が使ってるの見たことありませんか? 白い羽根の形の」
「ああ、あれか。教えてくれてありがとう、絵里」
「うへへー」
- 634 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:44
- 思い出した。地上のごっちんの家で使ってるの見たことあるし。
そっかそっか、スッキリした。美貴に向かって星まで飛ばしておきながら
答えちゃくれない小春とエトセトラと違って絵里は優しいなあ。
いっぱい撫でちゃおう、うんうん。
「ああっ!! 横取りはずるいの!
まずは小春がハナカミンさんに撫でられるべきなのっ!!」
「ずるいですー☆」
「はいはい、わかったわかった」
みんなおいでーと腕を広げて、飛び込んできた天使たちをまとめて抱っこ。
ちょっと離れて見てたれいなも捕まえて。
やっと表情に明るさを取り戻してくれたことにホッとしながら
小さな頭をワシャワシャ撫でる。
そして、目を閉じて考える。
つまりごっちんは、行き先も帰る日も告げずに天上を離れて
テンテンにも出ない。電源切ってんのかな。まあ、それは置いといて。
- 635 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:45
- ごっちんの身に何かあったんなら別だけど、あんまり考えたくないし、
そういうケースは1番最後に考えることにして。
ううーん、れいなは違うけど、自分の子供である天使たちに『帰ってくる』って
言った以上、ごっちんは絶対帰ってくるハズだよね。
でも仕事をほとんど片してったってことは、自分でもいつ帰るか
わかんなかったんじゃないかな。
だから心配するなって言いたいけど。
「神様は、毎年クリスマスには、12時ピッタリにサンタしゃんの格好で
プレゼント届けに来てくれるとです。
やけん、昨日もずっと起きて、みんなで待っとったんですけど……」
美貴が黙ってることに気付いたのか、れいながまた首のあたりまでやって来た。
そうか、『みんなが1番喜ぶプレゼントと一緒に帰ってくる』イコール、
クリスマスにって考えなら、今日が始まった瞬間に帰ってこなきゃおかしいのか。
「気付いたら寝ちゃってて、起きてすぐ探しても、何もなかったし」
- 636 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:45
- れいなの後を引き継いだ絵里の言葉に涙が混じる。
小指で掬うと同時に湧き上がった疑問を、小春が反応する前に口にし―――
「ねえ、あんたたちが1番喜ぶプレゼントってなに?」
「「……………」」
―――たんだけど。なぜ黙る、どうして俯く、そこまで悩む?
別に難しい事は訊いてないぞ?
でもそっか、自分が1番欲しい物なんてパッと出てこない時のが多いか。
「ちがうの」
「へ?」
美貴はすぐ出てくるけどねー、肉でしょー、肉とかー、肉だったりー。
まあとにかく肉なんだけど、違うって何が?
首を傾げる美貴に、小春ちゃんは反応しない。
さゆの背中にひっついて肩を震わせている。
「……絵里も、れいなも、同じなの」
「同じ?」
1番欲しい物が?
- 637 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:46
-
「さゆも。小春も、まだ会ったことがないけど、会いたいに決まってるの」
「……え、もしかして……」
「神様が『一緒に帰ってくる』って言ったら、大天使様しかいないの」
ええ? でも、なっち、だったっけ?
その大天使様は、梨華ちゃんと同じトコロに――――
「そうなんですけどっ! 最初は絵里たちもわかんなくてっ!
何くれるのか考えてたんですけど、でもっ!
一緒にって言ったんです! 神様は、一緒に帰ってくるって!!」
すぐには呑み込めない美貴の耳に、大粒の涙を流す絵里の叫びが響く。
そりゃ、確かにごっちんは、ずっと大天使様を捜してて、ライク・ア・ダークなサイドへの
入り口を探してて、でも見つかったなんて一言も…………、内緒にして驚かせるつもり?
けどそれで、帰って来ないって事はつまり、ごっちんもプレゼントって言葉に
いつも通りサンタの格好でクリスマスに帰ってくるって意味を込めたのなら、それは――――。
ただ帰らないって事じゃなく、ライク・ア・ダークなサイドに堕ちたかもしれないってこと?
- 638 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:46
-
「てか待ってよ!!
ライク・ア・ダークなサイドって悪魔の手引きがないと行けないんでしょ?!
ごっちんがそんな………どうやって…………」
「わからないんです…、全然。
そもそもライク・ア・ダークなサイドに関しては、学校でも
暗くてオバケ屋敷より怖いところだとしか教えてもらってないし」
美貴も、ごっちんから色々聞いたけど、ごっちんも小さい頃から
悪魔と仲良くなっちゃいけない、興味を持つなって言われてたらしくて
詳しく知ってるようには見えなかった。
メフィスト・フェレヨッスィってヤツのこととか、梨華ちゃんの事があって
初めて知ったみたいだったし。
「最近になって、悪魔と知り合いになったとか…?」
「どうっちゃろ……でも、たとえ地上におっても天上の者の体は
薄い光に包まれとるけん、
地上の者には見えんけど、悪魔にはそれが見えるって聞いたっちゃ」
「神様はその光も絵里たちより大きくて濃いし、
悪魔から見てもタダ者じゃないってわかるハズだから
知り合いになんて………。
絵里たちも、地上で悪魔に会った事なんてないですから、ああ、向こうも避けてるのかなって思うし」
- 639 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:46
-
や、でもほら、ごっちん色気あるし、スタイルいいし。
なんかこう、天上だってわかってもナンパしちゃう悪魔ぐらいいるんじゃないの?
「大天使様もさ、悪魔の手引きがあったんでしょ?」
「だからこそですよお!!
悪魔は神様から大天使様を奪ったんですよお!!
その悪魔がどれだけ物凄い力を持ってたとしても、天上の力が1番強い神様の怒りを
買った事くらいわかってると思います!!」
そっか、なんて言っても悪魔だし、悪い魔だし、あんま考えずに行動しちゃうかと思ったけど
甘かったらしく、絵里は拳を振り上げて吼えた。
その横ではさゆがむくれる。
「リスク覚悟で神様をナンパするなら、その前にさゆに声を掛けないのはおかしいの」
「おかしいですよねー☆ ハナカミンさん間違ってます☆」
「わわわ、小春ちゃん、何言っとーとっ」
小春め、結構度胸あるな。
美貴の眉間に少しばかり寄ってしまったラインを見て、なぜかれいなが焦ってんじゃんか。
- 640 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:47
-
「じゃ、じゃあさ、ごっちんがライク・ア・ダークなサイドに
行ったって考えも弱くない?
絵里たちの『クリスマスプレゼントに大天使様』ってのは当たってるとしても、
やっぱ全然手掛かりがなくて、でも言っちゃったから見つけるまで帰れなくて困ってるとか」
うんうん、我ながらイイ考えだと思うんだけど。
ごっちんがライク・ア・ダークなサイドに行く為の
悪魔の手引きを受ける可能性の低さを考えると、こっちのがアリだと思う。思うんだけどよ。
「あれ☆、さゆみお姉さん持ってますよねえ☆」
「もちろん。乙女の必需品なの、ハイ」
「ありがとー、うわあ、やっぱ寝癖ついちゃってるー…ってちげえよっっっ!!!
これは手鏡でしょーがっっ!!
美貴が言ったのは手鏡じゃなくて手掛かりっ!!!!!」
人のナイスアイディアでボケるなバカッ!!
話がワケわかんなくなるでしょーがっ!!!!
- 641 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:47
-
「あーっ、もう、頭痛い」
てか、小春とかあいぼんとか、そういう能力ある子いるんなら
テレパシーが使える天使もいたりしないワケ?
「なんかこう、ごっちんが今どこにいるかわかんなくてもいいから、
早く帰って来いって念を送れるような………」
「ああああーっっっ!!!!」
「うわあっ!? な、なにっ?」
期待値ゼロで思いっきり投げやりに完璧な独り言モードで呟いたら、
絵里がなんか変なモン飲んだみたいに絶叫した。耳の物凄い近くで。
ついでに鼻息荒く顔面に迫ってくひゃあああっ。
「いますっ!! いるんですっ!!!!
ねっ、れーな! 念は送れないかもしれないけどっ、
神様の状況とか頭の中とかっ、りんごっちんならわかるよねっ!!!」
「ん? おお! そうやね!」
「ハ? り、りんごっちん?」
何そのリンゴとごっちんの華麗なる融合はコラボは合体は。
「絵里、今の絶叫は可愛くないの。
5点減点」
「わあ、5点は痛いですー☆」
なんのテストだよ。
絵里の前に、美貴の疑問に反応してない妹を減点しなさい。1000点ほど。
- 642 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:48
-
◇◇◇
- 643 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:48
-
ヽ
〆⌒⌒ヽ
( *´ Д `) ンア。
ヾ ____ノ
「えええぇえっ!!!? ほんとにリンゴでごっちんじゃんっ!!!」
早く早くと急かす天使に、極寒だって言ってんのに布団を剥がされ
お湯なんか出るワケもない水道で顔を洗わされ、手を引かれて天に召され…じゃなくて
天上にやって来た美貴は、そこでごっちんの顔をしたリンゴ―――りんごっちんに会った。
- 644 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:48
-
「んあ? 朝から大きな声なのは誰だぽ?」
「あ、初めまして…って感じじゃないけど、み―――」
「んあっ、わかるぽ。
アナタはごっちんの友だちぽ。確かごっちんはアナタの事を
素粒子の性質を示す値みたいなあだ名で呼んでるぽ」
「や、それはパリティーだと思うんで、ごっちんは美貴をミ―――」
「んあっ! 思い出したぽ!
今度こそわかったぽ! ごっちんはアナタを鍵穴の外側から鍵の先端を抓み、
それを回転させて錠を下ろす為の道具みたいなあだ名で呼んでるぽ!」
「それはウースティーティーだろーがっ!!!
美 貴 だっつってんのに、そこからヒントを得ろよ!!
自信満々のクセにかけ離れてどーするっっ!!!」
「んあ? ああ、ミキティだっけ。
ヤダ、たんじゅーん」
「なんだとクルァ!!!!」
美貴の誇りであり矜持であり宝であるあだ名を単純とはなんだっ!!!
あんたの名前のがスコブル単純じゃんか!!
- 645 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:49
-
「ちょっと! なんなのこのリンゴは!」
「まあまあ、落ち着いてくださいよ、りんごっちんはお茶目やけん」
「お茶目で済むか!!」
「むうう。リバプールのゴールキーパーじゃない方のレイナの言う通りぽ。
ごとーはお茶目さんなだけなのに。
ミキティとやら、ごっちんが言ってたのと大分イメージ違うぽ」
「違って結構!!」
あんたもリンゴとごっちんが合体した見てくれの割に、キャラがごっちんと違うじゃん!!!
「んあ、ち、違わないもん。
ごとーとごっちんはソックリさんだもん」
「へー、あっそ」
「んぽおおおっ!!! なんなのぽっ!!
朝っぱらからデカイ声出したと思えば突っかかってきてっ!
高等動物の結合組織にコラーゲンと共に存在する硬タンパク質みたいな名前の
正義の味方さんがごとーに一体何の用だぽっ!!!」
「突っかかってんのはどっちだ!!
てかそれはエラスチンだバカリンゴッ!!!!!!」
ダレガバカポォー!!! オマエシカイネーヨ!!!!!
焼きリンゴにして朝食にしてやるっっっっ!!!
- 646 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:49
-
「……お茶目なりんごっちんとケンカする人なんて初めて見たばい」
「ハナカミンさん、完璧に目的忘れてるよね…」
「ふふっ、でもりんごっちんちゃんも楽しそうだから、
しばらくほっとくの。拳でわかりあう友情もアリなの」
「でもさゆみお姉さん、りんごっちんに拳ないですよおー☆?」
「……あ」
- 647 名前:早朝。 投稿日:2006/08/10(木) 21:49
-
- 648 名前:余計なお世話かも知れんが… 投稿日:2006/08/10(木) 22:24
- 気付かないと行けないので上げさせて貰います
- 649 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/08/10(木) 22:24
-
色々な事が通り過ぎてしまいましたが、( ・´ー`)おめでとう。
レス、ありがとうございます。
>>607名無飼育さん様
オマタセ━━━━ヽ(゚ )人(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)人( ゚)ノ━━━━ !!!!
心温かく待って頂いてありがとうございます。
从*VvV)<が、頑張っちゃったもんね。エヘン。
(;`_´)<わ、私は?
>>608konkon様
川;’ー’川<笑い事やないやよ。
何かイイですか、ありがとうございますw
>>609名無飼育さん様
半蔵門wwwwwwwwあれはセクシーを飛び越えてるようなwww
メロン良い味出てますか! すごい嬉しいです、ありがとうございます!
ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!もありあとーw
- 650 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/08/10(木) 22:24
- >>610名無飼育さん様
そうです、あや男です、あや男ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
新刊の名前苦し紛れだったんですが、ヨカタ。
斉藤さんは怒られるかと思ったんですけど、ありがたいです。
>>611名無飼育さん様
へい、降臨させてしまいましたw
ただし、台詞は棒読みではなく、クールービューティーです(真顔
>>612あお様
ツっ!? あまり意識してませんでした(沈
きっとツンデレです。
それでえーと、川o・-・)はですね、当初の予定では後半の要だったので丸々変更してしまいました。
∬∬´▽`)も赤ピーマンにとか思ってたんですが中止しましたので、出番はもうありません。
>>613名無飼育さん様
オマタセ━(゚∀゚)━!!!
おわわ、毎日ですと相当お待たせしてしまったと思います。スミマセン。
どうなるんでしょうねえ(え
あまり大した事にはならなさ気だと思います。
- 651 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/08/10(木) 22:25
- >>614名無飼育さん様
えっ!? ココココ!!!!
出ていないのになぜっ!?
でもハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
>>615名無飼育さん様
横取りよっちゃんハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
>>616名無しJ様
从*‘ 。‘)从*VvV)<知ってるーw
盲点のままでよかった気が激しくします。
チャレンジがまだでしたら心の底からやめた方がいいと思います。
>>617名無飼育さん様
お待たせしました。
>>618名無飼育さん様
コラコラ。
>>619名無飼育さん様
おーまーたーせー。
- 652 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/08/10(木) 22:26
- >>648様
どうもお気遣いありがとうございます。
- 653 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/11(金) 12:02
- まさかこんなところでりんごっちんにお目にかかるとは・・・w
- 654 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/12(土) 04:09
- オイラのことも暖めて♪
- 655 名前:あお 投稿日:2006/08/13(日) 01:58
- 更新オツカレサマです!
またしても強烈な新キャラが。。。こりゃこんまこの出番が無くなる訳だ。
でも、良いんです。
(´v`)つ゛<らって面白いんらもんw
- 656 名前:konkon 投稿日:2006/08/14(月) 22:05
- こっちのごっちんは「ぽ」がついてる・・・(笑)
しかも思いっきり突っ込ミキティ復活だし(爆)
いつ読んでも爆笑しまくりです!
今後の展開にまた笑わせてもらいますw
- 657 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/25(金) 19:47
- ファイト!!
从*VvV)つツンツン
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/01(日) 11:42
- 続きが読みたいです!!
从*VvV)つツンツン
- 659 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/02(月) 21:46
- 頑張れ!!
川*’ー’)つツンツン
- 660 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/15(日) 00:57
- 頑張れ!!
(・U・)つ
- 661 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/16(月) 18:55
- まだかな・・・
从*VvV)つツンツン
- 662 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:00
-
◇
- 663 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:00
-
「具合どー?」
「ひゃあああっ!? ななな何しに来たんやよっっっ!!!」
イブという名のホーリーナイトが明け、訪れたクリスマス。
この日は毎年家族と過ごす亜弥。
朝から皆で外出し、夕方には家に帰ってパーティーをする。
今年も今年で例外なく朝からショッピングモールに行って妹達とはしゃぎまわり、
パーティーのご馳走に備えてパンとサラダの軽めの昼食を摂っていると
ここ数日メールの返事がなかった親友――愛から、不可解なメールが届いた。
【−3】
- 664 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:01
-
マイナスさん? ひくサン? 何これ?
亜弥が口にした言葉で錯乱して熱を出し、寝込んでいた愛。
だから返事が無くても当然と思いつつ、責任を感じていた亜弥は毎日メールを送っていた。
具合が悪くて今日まで携帯を見る事が出来なかったのか、
亜弥に対する感情からか、やはり反応の無かった愛が
ようやく返事をくれたと思えば、この奇怪な数字。
なによこれ、意味わかんない。
前からまともなメールしてくる方が少ない子だけど今日は特にわかんない。
さんって何、何から引くの。
- 665 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:01
-
「身長ちゃう?」
「愛ちゃんって確か、亜弥ちゃんより3aくらい低いやん」
フォークにサラダのアスパラを刺したまま携帯を睨んで唸っていると
両隣から妹達が亜弥の肩に顎を乗せて覗き込んできた。
いつもなら見ないでと怒るところだが、今はいい。心の底からこの暗号を解くヒントが欲しい。
「お、何の話や? 愛ちゃんがどーしてん?」
「そーいや愛ちゃん、風邪はもうええの?」
しかし身長だとしても意味がわからず、むしろ余計に不可解なので
揃って首を傾げると、両親も眉を寄せて訊ねてくる。
付き合いが長く家に来る事も多い愛は、黙っていれば普通に可愛いどころか
美少女な上、サルっぽい顔に親近感も湧き、両親も愛を気に入っていた。
- 666 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:02
-
「風邪てお前、聞いてへんぞ」
「パパに言ってもしゃーないやないの」
「しゃーない事あれへんがな。亜弥、見舞い行ったんか?
まだやったら今から行ったらどや?
センピキ屋でフルーツ買うたるで」
「行ってないけどパーティーは? それにセンピキ屋って……」
センピキ屋とは、亜弥の学校の先輩の某F本が足を踏み入れようものなら
『なんじゃこりゃー』と諸手を上げて引っ繰り返りそうな程イイ値段の、
けれど一口食べたら号泣しそうな程美味しいフルーツだらけのフルーツ王国である。
フ、フルーツっていえば、昨日、あんな事しちゃった後の先輩のほっぺた、桃みたいだったな。
センピキ屋のにも負けないぐらい、ううん、きっと都球で1番美味しい桃だった。
「だからもっと食べちゃいたかったなーなんて……ニャフフ」
「うわ、こわっ、何ブツブツ言うてんの?」
「亜弥ちゃん、何1人で笑ってるん?」
「おーい亜弥、見舞い行かんのかー?」
「ニャフフフ……」
- 667 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:02
-
ドン引きする妹達の突っ込みと父の問いかけは、含み笑いを続ける亜弥には届かない。
ただ今亜弥の心を占領するは、可愛くて甘い心のピーチ姫こと藤本の柔らかい頬、ほっぺ、以上。
その感触を思い出して唇にそっと指を添える娘に、母の鋭い視線が飛ぶ。
(亜弥……あんた、知ってしまったんやね……)
昨夜、帰宅した娘の顔を見た時から薄々気付いてはいたけれど。
「ニャフフ、もう、可愛いんだから」
「うわ、アスパラに話しかけとるで。見たらあかん、見たらあかん」
「ええー、野菜コントって新ネタやん。なんで見たらあかんのー」
「コントちゃう、壊れただけや」
「おーい亜弥、何が可愛いねん、帰ってこーい」
◇ ◇
- 668 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:03
-
「で、これ何なワケ?」
「ほあ? わからんかったん?
熱が3度下がって平熱になったで、もう大丈夫って意味やよ」
「わかるワケないでしょ! どんだけ省略してんの!」
てか省略するとこ間違ってるし!
3はいいから熱下がったって言ってよ!!
下の妹には野菜コントに見えたピーチ姫との楽しいヒトトキを終え
現世に舞い戻ると、夕方までに必ず帰る約束をして家族と別れ
病に臥せ……てると思ってた愛の元へセンピキ屋のイチゴを持って見舞いに来た亜弥。
- 669 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:03
- 久しぶりに会うし、先日驚かせてしまった謝罪も込めて
サービス満点のスマイルで愛想良く扉を開けたというのに。
熱は下がったものの、大事をとってベッドで大人しく本――昨日母親に買って来てもらった
「マリア様が見て見ぬフリ」の最新刊「開き直ってガン見」――を読んでいた愛は
派手に叫んで布団ごと転がり落ちながら、素早くメタルキング装備一式を身に纏った。(その間5秒)
おまけに目に涙まで溜めやがって。
そこまでされたら泣きたいのこっちなんですけど。
おまけのおまけに、心の中でぷんすか怒りつつも元気そうな姿に安心して
小さく息を吐いた亜弥を見て、何を勘違いしたのか愛は慌てた様子で懐から
ファイトいっぱつと書かれた小瓶を取り出し、グビグビ飲み干しやがった。(その間3秒)
- 670 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:04
-
あ、あんた、やる気っ!?
さすがの亜弥も普通に凹む。ついでにキレる。
人が心配して会いに来れば何その態度。
センピキ屋のイチゴまで持ってきたのに何その態度。
あんたが置いてった太陽の冠持って帰って大事に預かってるのに何その態度。
ついでに汚れてたから磨いてピッカピカにしといてあげたのに何その態度。
そっちがその気なら、あたしの中のPの遺伝子が黙っちゃいないぜ。
―――と、亜弥の体を流れる、昔そちらの道を暴走していたペアレンツの血が
ふつふつと沸き始めかけた、その時―――ガチャ。
「おあ? 愛、やっと熱下がったばっかやのに
重いもん着て何しとるがあ。無理したらぶり返すやよ。
あ、亜弥ちゃんイチゴありがとねえー。ほれ愛、さっさと脱いでこれ食べ」
- 671 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:04
-
ノックも無しに突然ドアが開き、娘によく似たびっくり顔が、お茶とイチゴを乗せたお盆を持って現れ、
娘以上の早口をテッテケと披露して風の様に去って行った。(その間2秒)
いつもながら半分も聞き取れず微妙に微笑んで見送った亜弥の後ろで
腹の立つ程気の抜けた声が。
「なんや亜弥ちゃん、見舞いに来たんかあ」
「当たり前でしょーがああああっっっ!!!!!」
◇◇◇
- 672 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:04
-
「んあ、かじるなんてひどいぽ。
あいぼんからミキティは名前でボケるのが好きだって聞いてたから
真似っ子しただけなのに」
「……ご、ごめん、朝ご飯まだだったから……」
「ごとーはリンゴだけど食べちゃだめぽ!」
「う、うん……や、はい。ごめんなさい」
「れーなあ、終わったみたいだよー」
「ん? おお、さゆ、小春ちゃん、起きんしゃーい」
「zzzz……やー」
「zzzz……☆」
「まあ一口だし、ごとーもお茶目過ぎたし、反省してるみたいだから許してあげるぽ。
でももう二度とごとーを食べ物だと思っちゃヤダぽ!!」
「え、じゃあ、何だと思えば…」
「りんごっちんに決まってるぽおおおっ!!!」
- 673 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:05
-
えええ、そんな思いっきりリンゴなのに。
自分でもリンゴだって言ったばっかなのに。
って言いかけて口を抑える。リンゴなのは認めるけど
食べ物なのはヤなのね、わかった。
結構美味しかったのに。
「む、何か言ったぽ?」
「へっ、いいい言ってない言ってない思ってもないっ!」
「……アヤシイポ」
こんなどもりっぷりだと、少なくとも何か「思った」とは言ってるようなもんで。
鋭く飛ばされる視線をビシビシ感じながら、美貴は絵里が持って来てくれた
ドラちゃんの絆創膏をかじっちゃったとこに貼ってあげた。
りんごっちんなだけあって、趣味はごっちんと似てるらしい。
ふにゃふにゃと機嫌が良くなったのも見て、ほっと一息。
- 674 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:05
-
「ついてる場合じゃないですよお。ここに来た目的、覚えてますぅ?」
「ん――んえ?」
れいなは寝ちゃったさゆ達を起こしてるらしく、1人で美貴の隣に
立ってた絵里に袖を引っ張られて、ポカンと口が開く。
やば、覚えてなかった。華麗に忘れてた。
カレーが食べたいな、いやそれは置いといて。
「神様の事頼みに来たんじゃないですかあっ!
大切な事忘れないでくださいっ!!」
「あ、うん、そだった、ごめん」
「ひどいですぅ」
ほんとひどいわ。
一瞬でも、実家にいた頃のジャガイモしか入ってないカレーを思い出してる場合じゃなかった。
絵里が泣いちゃってて、慌ててぎゅっと抱きしめる。
って言ってもここ天上だから、絵里の方が背が高くて、美貴、しがみついてるみたいなんだけど。
- 675 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:06
-
「んあ? ごっちんがどうしたぽ?」
なんか、れいなの方とかから冷たい視線を浴びつつ、必死に頭を撫でてると
ルンルン揺れてたりんごっちんが絵里の頭にストンと乗った。
必然的に見下ろされる形になって、なんとなく違和感。
ごっちんはいつも、美貴より背高いのに首をちょこっと傾げて
上目遣いで顔を覗き込んできたからかな。あの顔、可愛くて結構好き。
「ふむふむ、それは変だぽ……」
絵里が事情を話すと、りんごっちんは揺れるのをやめて真剣な表情になった。
半分はごっちんだけど、普段そう頻繁に会う仲でもないし、
りんごっちんは天上の和みキャラとして、日々ンアンアノホホンと暮らしているので、
出張の話すら知らなかったそうだ。
- 676 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:06
-
「今夜戻って来るかもしれないけど、この子たちも心配してるし。
戻らなかったら捜しに行くしさ。
なんか、ごっちんの居場所、分かるような力あったら調べて欲しいんだ」
「んあ。任せるぽ。
ごとーの心の中にごっちんの心も半分入ってるぽ。
覗いてみれば何か分かるハズぽ」
「お願い」
ンンンンンンアポオオオオオオ!!!!!!
正直、ちょっとどうかと思う叫びを上げて目を閉じ、りんごっちんは
静かに瞑想を始めた。頭の上に乗ったままだから、絵里も緊張して固まってる。
気配を感じて振り向くと、やっと起きたさゆと小春ちゃんの間で
れいなが心配そうに絵里を見てた。
てか小春ちゃんでかくない?
天上で美貴より小さいのって、れいなだけじゃん。
なんかちょっとショックなんだけど。
- 677 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:06
-
「んあぽぅ? 暗いぽ、暗くてよく見えないぽ!
何? しくった? 他のにすればよかった? んあ? やっと……?」
だって美貴より全然子供なのにさー…って足の親指で『の』の字を書いてると
目を閉じたままりんごっちんが突然口を開いた。
暗いって、ごっちんが暗いとこにいるって意味?
イメージ的に、暗黒っぽい面ってとこは暗そうだけど。
しくったって大丈夫なの? てか他のって何だ?
美貴同様、天使たちも首を捻って考えてる。
でもヒントが少な過ぎて、皆何も思いつかないみたいだった。
そのまま、10分ぐらい経って―――
「んあっ!!!
だめぽっ! ごっちんは何だか遠い所にいるぽっ!
や、近くかもしれないけど、上手く見えないんだぽ!
ごとー、ちょっと集中するから独りにして欲しいぽっ!」
―――そう言われたから、美貴たちは眉間に皺を寄せて難しい顔をしてる
りんごっちんを残して、その場を離れる。
途端、保田さんからケタタマシイ指令が入った。
- 678 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:07
-
◇ ◇ ◇
- 679 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:07
-
「もしもし、ママ? うん、今から帰る。
パン? フランスパン? はーい」
午後3時を過ぎた頃、見送る愛に手を振って玄関を出たところで
亜弥は母親からお使いを頼まれた。家族はすでに家に戻っているようだ。
愛と亜弥の家は直線距離にして200b程の距離にある。
パン屋に寄るのは遠回りだが、愛とセンピキ屋のイチゴを堪能したばかりの
亜弥は、鼻歌交じりで冷たい外気を斬るように歩く。
そうだ、パン屋の隣のスーパーでお菓子買おっかな。
お気に入りのチョコのやつ、確か家になかったし。
……ニャフフ、チョコといえば。先輩、何してるかな?
今日も寒いけど大丈夫かな?
あのプレゼント、使ってくれてるかな? 使ってくれてたら、きっと温かいよね。
- 680 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:07
-
リターン・ザ・含み笑い。
先程までの愛との会話ではクラスの様子だとか、いつ親戚の家に行くだとか
あたり障りの無い話をして、2人ともおそらく意識的に藤本の名を出さず、
よって昨日の出来事など話題になるワケもなかったが。
愛と別れた途端、亜弥の頭の中には再びあのピーチ姫やら
寒そうに丸まった背中やら厚着しててもわかる細い肩やらクリクリ動く瞳やら
嬉しそうに夜空を見上げた無邪気な横顔やら星をなぞる綺麗な指先やら
テッペンが赤い鼻やら、ヤラヤラがカムバック。
やたら可愛いんだから! もお!!
そう言うあんたもヤタラ可愛いよ。
なんて事は言われなくても熟知している亜弥は、ブーツのかかとを
軽快に鳴らして「フランスパンくださあーい♪」とパン屋に飛び込む。
するとその笑顔の眩しさに目が眩んだ店長の藩津来人(パンツ・クルヒト)は
7割引にしてくれた挙句、5個入りのバターロールまでおまけしてくれた。
- 681 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:08
-
いくらなんでも安過ぎないかと戸惑いながらも、見送る藩津のシワシワの笑顔に
ブンブン手を振って、亜弥は軽快にスーパーに滑り込む。
野菜や調味料のコーナーは迷いなくスルー。目指すはお菓子コーナーのみ。
目標が近づくにつれ、ルンルンとスキップしそうになって、瞬間止まる。
スキップといえば………早乙女先輩。
早乙女先輩といえば………ふぬぬぬぬぅぅ。
やめよ。ううん、別に、早乙女先輩がどうとかって前に
高校生がスーパーでスキップってどうかと思うからやめよ、うん、やめよ。
頭の端っこに浮かんだ、藤本と微笑み合う早乙女をエイヤッと追い出して。
3回深呼吸してから、さっきとは打って変わって落ち着いた足取りで
お菓子コーナーへ向か――――おうとした時。
「ックシュン」
「あっ…」
◇◇◇
- 682 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:08
-
「仮面ハナカミン、参上!」
「え? 誰この貧そうなミイラ」
「誰がミイラじゃあああ!!!!!」
100歩譲って貧そうは許すとして、この白は包帯じゃなくてティッシュだよ!!
「ハナカミンしゃん! ハナカミンしゃん落ち着いて!」
「この子はやっつけるんじゃないですよお!
迷子だから家の近くまで送るんですっ!」
「ヤダ! 1人で帰れ!」
こんな偉そうな態度の迷子がいるかっ!
迷子ってのは基本何訊いてもわかんない仔猫ちゃんでしょーがっ!ニャンニャン!
「強がっとーんですよ」
「フン、可愛くない」
「ねえミイラ、さっきから独り言デカ過ぎるけど、頭平気?」
「オイこいつは強がりじゃなくて素だぞ。
てかミイラじゃないって2度も言わせんなクルァ制裁加えんぞ」
「待ってくださいハナカミンさん! ここは大人に! ひとつ大人に!」
「ええい止めるにゃあ!」
ニャー! オ、ヒトリゴトノツギハネコカ、マスマスアブナイナ。 ニャアンダトゥ!?
- 683 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:09
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┌──────────────────┐
│ |
│ ZZzz... |
│ ./\__,ヘ. |
│ (.ノノハヾヾ |
│ 从 ̄v ̄) |
│ /∪ /∪ |
│ し―J. |
│ Now mikinyaing... |
│ ■■■□□□□□□□□□□□□ |
│ |
│ しばらくみきにゃでお待ちください... |
│ |
│ |
└─────────────────―┘
- 684 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:09
-
「ったく最近の小学生は。最初から素直に泣きゃいーんだよ」
「……あの子、泣いてませんでしたけど」
「で、でもっ! 知っとー道まで着いた時
ばり安心しとったっちゃ! ハナカミンしゃんに感謝しとったハズばい!」
「ほお」
それにしては最後に『人と歩くの好きじゃないし、
さっきも別に迷ってたワケじゃないけど、あんた面白かったからヨシとするよ』
とか言われて憎たらしい事この上なかったんだけど。
「ま、まあ過ぎた事は忘れて!
どげんします? 次の指令入っとらんっちゃけど。
りんごっちんもまだみたいやし」
りんごっちんは大きな手掛かりがわかり次第、保田さんを通して連絡をくれる事になってる。
けど、今んとこ腕時計はウンともスンとも言わない。
「うーん、あ、じゃあアパート戻っていい?
その後買い物付き合って欲しいんだけど」
「「えっ…」」
「なに、えって」
「だって、だ、大丈夫と?」
「買い物なんかして……まだ今年は終わってないですよ?」
「…………」
- 685 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:10
-
都球広しといえども、年越しを天使に心配される正義の味方は
ハナカミンしかいまい。
胸張って言うことじゃないけど。
でもね、大丈夫っていうか、前から貯めといたお金だからいいんだよ。
クリスマスだし、絵里たちにお菓子でもプレゼントしようと思って。
ただ小春ちゃんと新垣さんの分が増えたから、1人あたり40円までしか
予算がなくって、あんま高いのは買ってあげられないけど。
なーんて話を、アパートの近くで変身解いたらパジャマだったから、
慌てて着替えつつ絵里とれいなに話したら…………泣かれた。
「バカですっ、ハナカミンさんはバカですっ。
そんなっ、200円あるなら松浦さんにプレゼント買えばいいじゃないですか!」
「そうたいっ! そのババシャツのお返し買えばよかっ!」
「……え、で、でも……」
「それに新垣さんの分はいらないですっ!」
「や、だって昨日迷惑かけたし」
- 686 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:10
-
あれ、喜んでもらえると思ったんだけど、なんで怒られてんの?
てかなんでこのババシャツ亜弥ちゃんからだって知ってんの?
「そんなの包みから出した時の顔と
着た時のとろけそうな笑顔見ればわかりますぅ!」
「わかりやすい人っちゃ!」
「ぐっ……」
思い起こせば確かに、ニヤついたかもしれない、けど、けどさ。
「亜弥ちゃんはさ、突然来る事になったし、絵里たちのが先に約束してたんだし。
美貴はさあ、もうあんた達のこと妹みたいっていうか、
家族みたいなもんだと思ってんの。
で、美貴にとって1番大事なのって家族だから。だから、買わせてよ、プレゼント」
あんた達だってさ、あんな綺麗な星空、プレゼントしてくれたじゃん。
手を伸ばせば届きそうで、故郷に帰ったみたいだったよ。
本当に嬉しかった。
「ふぇぇっ、ハナカミンさん、ほんとバカですっ…でも大好きですっ…ヒック」
「…グスッ、れーなも大好きっちゃ…」
「うん。美貴も大好きだよ」
- 687 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:11
-
よしよしぐりぐり抱きしめて、3人で鼻を啜って、へへって笑い合って。
財布を持つと、肩に乗っかってきた天使を両頬に貼り付かせ
美貴はエアスクータをブルルンと飛ばした。
―――ってそんなイイトコロに指令が2個も入ってきてコノヤロウ。
クリスマスぐらい大人しくしろっつーの。
おかげで随分アパートから離れた、学校の近くのスーパーで買い物する事にする。
早く買わないと、またいつ指令が来るかわからないし。
「えーと、どこ?」
初めて来るスーパーだから微妙に配置がわかんない。
お菓子はどこかな? えーっと……
「あ、あっちやね」
「ん? あ、ほんとだ」
いつものトコより広くて迷いかけた時、れいなが指差した方向に大きな袋入りの
煎餅があって、その上を絵里がフヨフヨ浮いてる。いつの間に。
- 688 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:11
-
「ったく勝手に行きよって」
「ハハ、っ……ックシュン」
「あっ…」
そっかそっか、絵里はお煎餅が好きなんだっけ。でもあの大きいのは
無理っぽいから小っちゃいの―――って、ん?
「先輩!」
「んのわあっ!?」
びびびうううええええっ!? なんか似た声がと思ったらなんでいんのっ?!
「…先輩、そんな思いっきり仰け反らなくてもいいじゃないですか」
「へっ、あ、驚いたから、ごめん」
てかいきなり顔面ドアップが迫ってきたら誰でも仰け反るよ。
「もお、今度仰け反ったらノケゾーって呼ぶからね」
「え、やだよ」
「じゃあもう仰け反っちゃだめ」
「は? や、意味わかんないし、近い、凄い近い」
「ニャハハッ、よいではないかー……あれ? 先輩、首んとこ何かついてますよ」
「え?」
「取るからジッとしててください」
「うぇ? ひゃっ」
- 689 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:11
-
あわわわわ、ちょっと待って!
いや、取ってくれんのは有難いけどそこまで近づく事なくない?
そんな真剣な顔する事なくない?
てか取るって言っといて、なんか首を指で何度も優しく撫でられてるような気がするのはナゼ?
また、からかわれてんの?
くすぐったいから逃げたくて、でも思いのほか逞しい腕にガシッと
ホールドされてるから動けなくて、唯一自由な目玉を力いっぱい動かして
視界の端にれいなを捉えたもののスゲエ笑顔で手を振られた。助けろよ。
目で訴えるも通じず、煎餅から離れた絵里も嬉しそうに
ウヘヘヘヘ笑いながら口をパクパク。『お幸せに』 違う! 違うバカ!
「くっ…ふあっ…亜弥ちゃんっ、早くしてっ…」
「ふぇ? あ、あー、はい! 取れましたよ!……これ、ティッシュ?」
「ええっ!? あ、あ、あ、さ、さっき顔拭いたからかなー?」
やば、ハナカミンコスチュームの一部が破けてくっついちゃってたんだ。
急いでて気付かなかった。でもまあ、たかがティッシュだし。
- 690 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:12
-
「顔拭いて首にくっつけてるなんて、子供みたいですね」
「べ、別にいいじゃん」
意地悪な声がしたから、ちょっと睨んだのに、気のせいか亜弥ちゃんは
とんでもなく優しい顔で笑ってた。美貴が戸惑っちゃうぐらい。
いや、だから気のせいだ。
また、昨日みたいにからかってんだ。
ハナカミンの時にポツポツ聞いて、嫌われてはないんだって思ったけど。
でも、あれはハナカミンの前だからそう言っただけかもしんないし。
あんな風に一方的にサヨナラした翌日、新聞紙に包まって凹みまくってた美貴の
前に現れた亜弥ちゃんは泣き腫らした顔で。
そんだけ、ショックだったって事で。
あーあ、ティッシュを巻いた美貴に勝てない美貴ってどーなのよ。
- 691 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:12
-
ニコニコ降り注ぐ太陽みたいな笑顔から逃れるように顔を逸らして
亜弥ちゃんが取ってくれたティッシュをポイッと捨てる。
「…シャツ、温かいよ。ありがとう。じゃあね」
一応お礼だけは言って(ババを省略したのは美貴の乙女心です)
そのまま振り返らずにスタスタ天使達の元へぐえっ。
「待って! 何買うんですか?」
「ぐふっ…う、何でも、いいじゃんっ」
行こうとしたのに何で後ろからホールドしてくんだよお!
そりゃ温かくて気持ちいいけども、いいけれども。
「てかシャツ着てくれてるんですねっ!
よかった。先輩、いっつも寒そうだったから。
あ、あたしお菓子買いに来たんですけど、先輩はー?」
「ええっ、い、一緒だよ」
「ほんと? じゃあ一緒に選びましょう!」
「え、まっ、いや、あの」
「こっちこっち」
「わああっ」
- 692 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:12
-
「ノノ*^ー^)」
「从*´ ヮ`)」
「…………」
「先輩? どうしたんですか、黙りこくって」
どうしたもこうしたも、今目の前に天使がいて、授業参観の時の親みたいに
見守ってくれやがってるなんて、言えるワケないじゃん。
美貴と亜弥ちゃんが立ってるちょうど前の棚に仲良く並んで腰掛けてる天使の
脇腹を、お菓子を手に取って見るついでにつつく。笑うな。
「や、どれがいっかなーって」
「先輩、どれが好きなんですか?」
「………んー、ここにあんのほとんど食べた事ない。
それに、美貴が食べるの買うんじゃないし」
「え?…………あ、早乙女先輩と遊ぶって言ってましたもんね…」
「ん? あー、そうだけど、真希ちゃんが食べるのでもないよ。
真希ちゃんの子ど…っ妹がね、いっぱいいて!
その子たちのだから!」
あぶなっ、事実だけど、ここで言うのは憚られるから
舌を噛みそうになりながら必死に言い換える。
変に思われなかったか、そおっと隣を窺うと―――
- 693 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:13
-
「2人で遊ぶんじゃ、ないんですか?
早乙女先輩のご家族と一緒なんですか?」
「へっ? うん、そだよ」
てか下手すると妹もとい娘たちだけで、親いないんだけどね。
そーいやりんごっちん、まだ連絡ないな。
すっと時計に目をやると、棚の下の方に移動していた絵里と目が合った。
「どーれが食べたいかなー?」
考えるフリして訊くと、絵里はパタパタ飛んで美貴の胸あたりの高さにある
小さなチョコレートを指差す。
「れーなもこれがよか」
煎餅じゃないの?と眉を上げると、れいなも飛んできて同じのを欲しがったから
手に取って値段を見る。10円?
「これ4個ずつがいいかなー?」
40円までって言ってあるからそういう事かと思って20個数えようとしたら
絵里とれいなが血相変えて手元にすっ飛んで来て、必死に人差し指を立てる。何よ?
- 694 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:14
-
「1個で十分、十分ですっ!」
「れーな小っちゃいけん、そげなたくさんよう食べんとよ!」
「大丈夫だって言ったじゃん、遠慮しないの――ハッ」
ここに来て何を言い出すのさって思わず声に出しちゃってから
慌てて右手で口を抑える。そんな古典的なリアクションの美貴に、絵里とれいなもフリーズ。
3人で意を決し、恐る恐る亜弥ちゃん―――おや? 俯いてる。
よかった、聞いてなかったかなって、顔を覗きこむと――――。
「付き合って、るんですか?」
「ハ?」
何て? え、何の話?
なんか今付き合ってるとか聞こえたんだけど。
亜弥ちゃんとさっき話したのって………え、真希ちゃんと?
たぶん、いや、間違いなく『何言ってんのあんた』という疑問を
顔いっぱいに打ち出しながら、改めて亜弥ちゃんをじっくり見ると
心なしか青ざめた頬と、力なく揺れる瞳がそこにあって。
冗談を言ってるワケじゃ、ないらしい。
だからこっちも変に緊張して真面目に答える。
- 695 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:14
-
「あの、普通に友達だよ?
真希ちゃん、相手いるし」
「…そうなんですかあ……」
え、なんだこの反応。
なに、もしかして亜弥ちゃん。
「……………真希ちゃんのこと、好きなの?」
「はあ?」
およ、違った?
んん、じゃ、じゃあさ、あれ、待って、何かおかしい事が起ころうとしてない?
「先輩、愛ちゃん並に空気読めないんですね。
お会計してきます」
あれ、なんか怒ってる。
ていうか、拗ねてる?みたいな表情で青い箱のお菓子を取ると
亜弥ちゃんはプイと背を向けて行ってしまった。
- 696 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:15
-
「何してるんですか! 早く追いかけてくださいっ!」
「お菓子はもういいけん、早くっ!」
呆然と立ち尽くしていた美貴に、天使の声が刺さる。
10円チョコを棚に戻して亜弥ちゃんと同じ青い箱を引っ掴むと
値段も見ずにレジへ走った。
◇
「200円です」
「セーフッ!」
「え?」
「あ、なんでもないです、はい200円」
「ありがとうございましたー」
- 697 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:15
-
袋を慌しく受け取って、出口に向かってる背中を一直線に追いかける。
でも、それほど距離も離れてないし、亜弥ちゃんも普通に歩いてるから
すぐ追いついちゃって。
追いついたものの何と声をかければよいのやら。
わかんなくて、1度隣に並んだのにすぐ1歩下がって後ろを歩いてみたり。
何やってんの美貴は!!!
エアスクータも絵里とれいなもスーパーに置いてきちゃったし、
あんま遠くに行く前に話しかけなきゃだめじゃん何とか言えよ美貴!!
と、自分に突っ込んでもバカみたいに口が開くだけで声が出ないので
グワッと手を伸ばしてジャケットの裾を摘んだ。そう、掴めず、摘みました。
指でちょいっと。
あああっ!! この情けない子、誰っ!?
自分の指がこんなに頼りなく見えた事が、かつてあったでしょうか。
いいえなかった。絶対なかった。
- 698 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:15
-
「先輩」
「ふえ? わあああっ」
と、絶望的に頼りない指が、力強い太陽に覆われた。
次の瞬間物凄い力で引っ張られて、今出たばかりのスーパーに引き摺り戻される。
え? え? なぜに?
入り口近くの野菜売り場をポヨポヨ飛んでいた天使が
これ以上ない程目を見開いてる。
「あああ亜弥ちゃんっ」
「なに?」
「あの、どこにっ?」
「静かなとこ」
「えっ…?」
ドンッ! バンッ! ガタッ! ぎゅううううっ!
「え?」
- 699 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:16
-
「ここ、使う人少なくて綺麗なの。静かでしょ」
「っ………」
えええええ?
美貴は、指見てて。情けないなって、思って。
そしたらいきなり亜弥ちゃんが振り向いて、絵里とれいながびっくりしてて、
赤いピカピカのタイルが眩しいと思ったら個室に2人で途端に抱きしめられたんだけど。ナニゴト?
「……また、からかってんの?」
「バカ、好きだよ」
ナニゴトかと言われれば、2人だけのヒメゴトな雰囲気。
タイルが赤いからじゃない。
亜弥ちゃんの手の平に包まれた美貴の頬は、この目の前のものと同じように
綺麗に色づいてるだろうか。
腰に手をまわす。
静かに、ゆっくりと、スローモーションのように近づいて―――――
- 700 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:16
-
ビービービービービー!!!
重なるかと思った瞬間、美貴の腕時計がケタタマシク鳴った。
ビクッと揺れた亜弥ちゃんが音の発信源を確かめようとするのを
抱きしめる事で阻止して、その肩越しに腕を見る。
すると、切羽が詰まり過ぎててシャレになんない形相の保田さんのドアップが、
さっきの亜弥ちゃんのとは比べ物にならない勢いのドアップがそこに。
その肩にはりんごっちんの姿もある。
「先輩…?」
「ごめんっ! 美貴ちょっと用があって、行かなきゃ」
血相が変わったであろう美貴を、不安そうに見つめる亜弥ちゃんをこのまま
置いてくのは心が痛むけど、保田さんの尋常ならぬ様子は緊急事態を告げている。
「待って! 明日会える?」
「明日は……わかんない、ごめん、ちょっと急ぐから」
「な、ならこれっ! あたしの番号、ヒマな時かけて」
「わかった。じゃあごめん」
- 701 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:17
-
最後にぐっと抱きしめてトイレを飛び出し、走りながら時計を操作する。
「どうしたんですか!」
『ごっちんが大変ぽっ!
ごとーの中のごっちんの心が突然消えてしまったぽ!
何かあったに違いないぽっ! こんな事は初めてだぽおおっ!!!』
「消えた?! その前のごっちんの心は?!」
『暗いとか狭いとか、酔いそうとか言ってたけど、
他はよくわかんなかったぽ。たぶん何か暗くて狭い乗り物に乗ってるぽ!』
暗くて狭い乗り物?
「保田さん心当たりは?」
『全っ然! とにかくこっちに来てちょーだい!!』
「了解!」
猛ダッシュでスーパーを出ると、出口の近くにある自動販売機の陰で絵里が手招きしてる。
2人にも連絡は来たようで、美貴が自販機の裏に入るとすぐに天上へワープした。
- 702 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:17
-
◇◇◇
- 703 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:18
-
「来たわね!」
天上に着くと、いつも以上にギラギラな保田さんがりんごっちんを
抱えて待ち構えてた。
「後藤の身に何かがあったのは確実だから、早く捜さないと。
でも如何せんヒントがさっぱりよね。
暗い狭い乗り物なんて、狭いのは満員って意味かしら?」
「満員だとしても範囲が広すぎるぽ。
誰か、最近ごっちんと暗い狭い乗り物について熱く語り合った子はいないぽ?」
ううん、少なくとも美貴は語り合ってない。
そんなもの、乗りたくないし。
- 704 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:18
-
「狭いんやったら、絵里好きやろ。何か知らんと?」
「えっ……うん……」
「ん? 何かあるん?」
「でも……そんなワケ……」
保田さんもれいなも、狭いのは嫌らしい。けどただ1人、狭いの大好きな絵里は
れいなの問いかけに、まさかという顔で口篭った。
「何でもいいよ! ありえないようなのでもいい!
とにかく心当たりがあるなら何でも言って!」
どんなにくだらなくても、バカみたいでもいいから。
両腕を掴んで懇願すると、絵里は細く息を吸った。
「この間、神様と2人で話してた時に、レーテーの水を神様が持ってたんです。
藤本さんも知ってますよね?
それで、そういえばどうやって買うんですかって話になって。
だってレーテーは暗黒っぽい面を流れてる河だから。
そしたら通販だよって。天上からもシャンプーハットとか売ってるでしょって」
- 705 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:18
-
「え……まさか……」
早々と保田さんは何かを悟ったらしく、驚きの声を上げる。
美貴とれいなはまだわからない。
てか通販で買い物って。悪魔がシャンプーハットって。
「そしたら神様、その手があったって。
すっごく嬉しそうにはしゃいで、れーなにキスまでしちゃって。
しばらく留守にするって保田さんに伝えてって……」
「あの大バカっ!」
こめかみに青筋を立てる保田さんと、申し訳なさそうな絵里は
もうこれで決まりって感じなんだけど。
「ごめん、わかんない」
通販がごっちんの失踪とどう繋がるワケ?
「だからね藤本。通販てのは、商品を送るワケでしょ。
で、天上製のシャンプーハットだとか、育毛剤だとかは
ぶっちゃけ暗黒っぽい面でかなり売れてんのよ。
いっぱい出荷されてるワケ」
「……てことはまさか、その育毛剤やらに紛れて暗黒っぽい面に送られてったとか?」
狭いやら暗いっていうのは、ダンボール的な物の中に入ってるからとか?
- 706 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:19
-
「じゃ、じゃあ、ごっちんの心がりんごっちんの中から消えたのは
ダンボールが暗黒っぽい面に入ったから?」
「それはわからないぽ。
ごとーは行った事がないし、でもごとーの中から消えたって事は、
ごっちんの心がなくなってしまったって事だぽ」
「えっ…」
ごっちんの心がなくなったって………それって、生きてるの?
や、考えたくないけどだって、ダンボールで行っちゃったんだとしたら、
モチロン悪魔の手引きってのが無いワケでしょ、それで何か、問題が生じて―――
「保田さんに電話なの」
「え? アタシ?」
美貴の思考がどんどん最悪を辿る中、さゆが白いテンテレを持ってやってきた。
電話って、ごっちんならいいけど、心がないんなら……
「ハ!? アンタ誰よ?! カオリン?!
知らないわよ何言ってんの!? 今忙しいんだから切るわよ!」
「あれー? イタズラですかー?」
「ワケわかんないわよ、イシカワだかイシヤマみたいにカオタンって呼んだら怒るとか言って…」
- 707 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:19
-
ん?
「あー、また鳴ってますー。
さっきの人じゃないですかー?」
「え、もうイヤよ、出ないわよ、アタシ」
「ままま待ってください美貴が出ます美貴が出ます!!!」
「ハ? なんでアンタが…」
そんなワケないのはわかってるけど!
でも引っかかるからちょっと待って!!
訝しむ保田さんから強引にテンテレをひったくって耳にあてる。
遠慮がちに呼びかけると、色気があるのに妙に子供っぽい声が柔らかく届いた。
「もしもし?」
『あー、あれー? アナタ誰ー?』
「えっと、藤本って言います」
『フジモトー? 聞いた事ないなあー…あああっ!?
ちょっ、石川! 今カオが電話して…っ』
と、その聞き取り易い声が突然歪んで、脳天に、あの、懐かしい音波が直撃した。
『美貴ちゃあああああん!!!
わかる!? 梨華だよ!! ハッピーでお馴染みの梨華だよ!!!』
「……っりりり梨華ちゃんんんぅううううう!?!?!」
- 708 名前:接近。 投稿日:2006/10/24(火) 21:20
-
◆◆◆
- 709 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/10/24(火) 21:34
-
ようやっと終わりが見えてまいりました。
レス、ありがとうございます。
>>653名無飼育さん様
こんなところで出してしまいましたw
出来心です。
>>654名無飼育さん様
从#‘ )<ダメに決まってるじゃないの。
>>655あお様
いえいえ、りんごっちんのせいで出番がなくなったワケじゃないですよ。
有難いお言葉どうもありがとうございます。
>>656konkon様
こっちのというか、りんごっちんですから(真顔
どうもありがとうございます。
今後の展開に笑いがなかったらごめんなさい。
- 710 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/10/24(火) 21:35
-
>>657名無飼育さん様
アリガト&ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
>>658名無飼育さん様
オマタセ&ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
>>659名無飼育さん様
愛チャンキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
ガンバリマスハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
>>660名無飼育さん様
なんか鼻が長い人キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
ガンバリマス。
>>661名無飼育さん様
オマタセ&ハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ああ、美貴様ツンツンいっぱいで幸せ(;´Д`)ハァハァ(爆
- 711 名前:名も無き読者 投稿日:2006/10/25(水) 01:18
- 更新お疲れサマです。
面白。萌え。この感想が交互に飛び交いますw
もうなんか…ありがとうございます。(お礼が言いたい
見えてきた終わり。
終わっちゃうのかあと寂しく想いつつ次回も楽しみに致しております。(平伏
- 712 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/28(土) 22:07
- 尾も白杉
- 713 名前:ななしJ 投稿日:2006/11/14(火) 10:53
- やーべーおもしろいです。 名古屋風にいうとでらおもろいです。 なーさん風にいうと、なー!!
次も楽しみにしてます。
ノリo´ゥ`)人(‘ 。‘从
↑こいつら好きです↑
- 714 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/11(月) 23:29
- 更新お疲れです!
作者さんのあやみき好きです(*′∀`)
次回もゆっくり楽しみに待ってますので頑張ってください(・∀・)ノ
- 715 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:44
-
◇◇◇
- 716 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:44
-
『それでねっ、それでねっ、色っぽいキュウリとじれったいナスのサラダと
舌平目が無理し過ぎないムニエル食べて、食後のダークティ飲んでたら
いきなりカオタンがスプーン落としちゃって、ヤダア、お行儀悪ーいって……』
「だああああっっ!!!
そんな話はどーでもいい!!!!」
色っぽいやらじれったいやら……食べ物の話ばっかしやがって!!
美貴は今日まだ何も食べてないんだぞ!!!
『あ……そうだった……美貴ちゃんって…………、ごめんね……』
「っ…!」
美貴ちゃんってなんだ! 何か文句あるか!!
「何も食べてないって、ごとーの事かじったの誰ぽ」
ハイ、ごめんなさい。
- 717 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:44
-
てか今って緊急事態で、そっちが切羽詰った声で電話してきたクセに
暢気に今日の朝からの出来事話してんじゃねえよ。
耳にした途端、懐かしくて涙が出そうだった高い声も、余計な話が長くなると
ウザさが込み上げるもので。
自然に力が入った右手の中でテンテレがメキメキ嫌な音を立てる。
『あ、あのっ、違うの。ここからが大事なトコで…っ』
「ゴルァ石川あ!
だったらその大事なトコから話しなさいよ!!」
『ふぇ? 保田さあん、お久しぶりですう。
お酒飲み過ぎてないですかあ?』
「うっさいわね!
アンタのせいで毎晩ヤケ酒に決まってんでしょ!!」
「わわ、保田さん、落ち着いて」
『っ…ご、ごめんなさい……グスン』
「ハ? 梨華ちゃん待って! 泣いてる場合か! こっから大事なんでしょーが!」
『ヒック、だってえ…』
『だああーっ!!! 何凹んでんの石川!
返しな! カオが話す!』
コチラで、始めのうちは呆気にとられながらも、心配そうに様子を窺ってた
保田さんが、5分経つ頃には漏れ聞こえる高音波にイライラを噴火させたのと同様に、
アチラでも話が長い上に泣き出した梨華ちゃんに耐え切れなくなったようで
最初に聞こえた声が、腹立たしげに割り込んできた。
- 718 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:45
-
『えーっと、もしもしー? カオだけどー。あ、カオリンって呼んでね。
それ以外は受け付けません。
あなたの事は藤本さんでいいかな?』
「はあ、何でもいいですけど」
この人もイマイチ緊迫感ないな。てか梨華ちゃんと一緒にいるって事は…人じゃない?
「メフィスト・フェレヨッスィさん?」
『はああっ!? だからカオは カ オ リ ン だってば!!
ヨッスィはカオの弟子みたいなもんだよ!
もおー、石川の友達ってやっぱ石川みたいなワケー?
こっちは今大変なんだよー』
「 ち ょ っ と 待 て 。美貴と梨華ちゃんは
聖書とダーウィンの進化論並に異なる存在だ。一緒にすんな』
共通点があるとすれば、声が可愛いぐらいだ。
カオリンとやらの不満気な発言に、記録的な低音の否定が迅速に滑り出る。
「ちょっと藤本、気持ちはわかるけど抑えなさい。
話が進まないでしょーが」
「はっ、そうでした。あの、これ、
たぶん暗黒っぽい面からの電話ですよね?」
「…ぅぅん、まさかと言いたいけど……でも石川…」
- 719 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:45
- 鋭く尖りかけた眼光を抑えて、たぶんと言いつつ確実な推測を投げると、
保田さんは苦しげに俯いてしまった。
絵里とれいな、さゆと小春ちゃんも手を取り合って不安そうにしてる。
けど梨華ちゃんを連れてった悪魔が、このカオリンの弟子なら……。
『もしもーし、たぶんじゃなくてー、ここ暗黒っぽい面だよー。
カオは暗黒城に住んでるイイダ・サタン・カオリ。
長いからカオリン、もしくはリーダーって呼ばれてる。
でも藤本さんにリーダーって呼ばせるのおかしいっしょ?
カオはいわば暗黒っぽい班の班長さんであって、天上班の班長じゃないんだから』
「そ、そうですね。
暗黒城の、イイダ・サタン・カオリさん」
なんか、わかるようなわからんような。
どうでもいいような。
首を傾げつつ保田さんたちに相手の名前を報告。
すると、うな垂れてた保田さんの全身が、雷に打たれたように激しく揺れた。
そりゃもう、ドスンって音がピッタシなくらいに。
- 720 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:45
-
「サササササタンぅううううっ?!?!
ウィウィウィィィイイダ・サタン・カオリって、暗黒っぽい面のトップじゃない!!!
なんでそんなヤツが天上に電話かけてくんのよ!!!!
悪魔との交流は通販以外禁じられてんのよ!!
てかなんで番号知っ……ハッ」
顔を上げて絶叫してた保田さんが、何かに気付いてカッと目を見開く。
と、同時に美貴も、思い当たる。
梨華ちゃんの前に、堕ちた天使の存在に。
ごっちんの大切な、かけがえのない存在に。
「なっつぁん?! なっつぁんもそこにいるの?!」
『あー、それがなっちさー、ここんとこ元気なくて寝てんだよねー。
今呼びに行ってもらってんだけど、この番号はなっちのパンツに書いてあったからさー。
洗濯するたびに爆笑してたら覚えちゃったんだー。
ホラ、カオって結構頭イイじゃん?』
「「 知 ら ね え よ 」」
- 721 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:46
- 思わずハモってしまった後に、「でもパンツに書いてあんのはホントだわ…」という
保田さんの呟きが聞こえた。
マジかよ。
…………ま、まあ絵里やさゆの母ちゃんだから、ちょっと抜けてるトコあっても
不思議じゃないか。はははっ…………。
てかこのイイダさんって暗黒っぽい面のトップのクセに洗濯するんだ。
他人の、いや天使のパンツまで。
頭の良さは知らないけど、イイとこあんじゃん。
「って感心してる場合じゃなかった! 結局用件はなんなんですかっ!?」
『え? あ、そうだよ!
だから大変なんだよ!!
カオと石川がデビルレストランに行ったのは聞いたっしょ?』
「ええ、腹が 減 る ほど」
梨華ちゃんは堕ちちゃってから裁判で外出禁止になったんだけど、
今日その禁止が解かれたから外食したのって、さっき散々高音波で聞かされた。
- 722 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:46
-
『そこでね、カオの頭がチカチカプーンってなって。
チカチカプーンは何か異常が発生したのを察知した時に鳴るのね。
そんで何かなあって考えてたら、今度はチョキチョキグリーンってなって、
チョキチョキグリーンは…』
「ええい! チョキだのパーだのはどうでもいい!!!
要点を話さんか要点を!!」
梨華ちゃんと交代しといてアンタまで遠回りしてどーする!!
『キャッ、怒鳴んないでよお。藤本ってば怖いなあ』
「悪魔に言われたくない」
『ひどっ…、ひどいよ! そんなの偏見だよ!! 悪魔は全然怖くないよ!
カオ怖くないっしょ?! むしろ愛らしいっしょ!
本当に怖いのはそっちのクセに!!
暴走したら手ぇつけらんないんだから!
今だってカオの手にも負えないから電話してんじゃんかあっ!!』
「 ハ ? 」
愛らしいって自分で言うな。じゃなくて、最後なんつった?
- 723 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:47
- イイダさんの悲痛な叫びは、保田さんや絵里たちにも届いてて、
目が合った途端、全員の顔が一斉に蒼くなる。
通販・狭くて暗い・ダンボール。
りんごっちんの中から消えたごっちん。
イイダさんの手に負えない暴走。
『ねえ! これ誰なの?!
チョー力強いんだけど!!
こんだけ悪の道の影響受けちゃうって事は、この子相当地位高いよね?!』
「…悪の道?」
『そーだよ! 知ってるでしょ!!』
「いや……」
初めて聞いたし。
目で訊いたら保田さんもキョトンとしてる。りんごも天使も右に同じ。
『ハア!? 信じらんない!!
今から100年くらい前に暗黒っぽい面の入り口の、暗黒門の前に
いきなり悪の道が出来ちゃって、天上の子が入ると自我喪失しちゃって暴走するから
天上の子は暗黒っぽい面に立ち入り禁止になったんじゃん!!』
「え?」
- 724 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:47
-
てことは100年前までは天使も暗黒っぽい面に出入りしてたワケ?
疑問をそのまま口にすると、保田さんが横に首を振った。
だけど。
『してたよー。普通に仲良く遊んでたから
立ち入り禁止っつっても上手くいかなくて、
暴走した天使のせいで暗黒城なんか1年に5回も建て直したって聞いたもん』
「え、そんなに…」
城の建て直しって、いくらかかるんだろう……。
『まーおかげで歴史の古さに比べて綺麗で新しいから住み易いし、
カオとかヨッスィみたいに、ある程度力があれば、
フォローして悪の道から守ってあげられるけど
力の弱い悪魔が連れ込んで暴走させちゃったケースも多かったから、こっちも悪かったし』
美貴の給料の……って何ムナシイ計算してんだ自分っ!!
てか、なんか、この話だと、悪魔の方が天使を恐れて交流が無くなったの?
絵里たち見てると逆だと思ってたんだけど。
- 725 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:47
-
『暴走もね、天上の力が弱ければ大した事ないんだよ。
でも、精神的ダメージとか、体への負担も大きいし、
こっちの建物の被害もひどかったから、悪魔が天上に行くのも禁止にして、
お互いに興味を持たないようにって、今の形になっ…キャアアアアア!!!!』
「っ!? どうしたんですか?!」
イイダさんの声越しに、ゴロゴロ音がしたと思ったら
次の瞬間ドカンって大きい音と耳をつんざく鋭い悲鳴。
呼びかけても応答がない。いつの間にか背中に張り付いてた絵里とれいなは
泣きそうに、いや泣いてる。
「イイダさん! イイダさん!」
『……っふー、ああああ!!! カオの自慢の髪が!
麗しきストレートにちょこっとパーマかかっちゃってるぅううう!!』
いいじゃん、タダでパーマかけれたんなら。
美容院でいくらすると……
- 726 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:48
-
じゃなくて!!!
「よかった、無事だったんですか!」
『無事じゃないよ!!
前髪クルってなってるもん!
常に向かい風みたいになってるもん!!
もお! あの子なんなんだよ! キレるぞ!
さっきからビリビリする攻撃ばっかしやがって!!
てか藤本!! カ オ リ ン って呼んでって言ったじゃん!!』
「……カオリンさん、それ、雷じゃないですか?」
『んえ? あーっ、ホントだ!』
確定。
なんてこった。
背中の嗚咽が大きくなる。
さゆと小春ちゃんに抱きつかれて、保田さんも痛みを堪えるように唇を噛んでる。
イイダさんの隣には、まだ凹んでるかもしれないけど梨華ちゃんがいて。
暴走してるごっちんを見てるハズなのに気付いてないだよね?
どうなっちゃってんだろう。
自我を失って攻撃だなんて。
いつも優しいごっちんが。楽しそうにスキップしてる真希ちゃんが。
- 727 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:48
-
「イイ…カオリンさん、それごっちんです。美貴が止めます」
『おおーありが…っごっちん?! マジで?!
なっちの相手じゃん! てゆーか神じゃん!! 天上班の班長じゃん!!
そんな子カオの手に負えるワケないじゃん!
早く来て! 速攻来て!
悪の道の影響受けないように誘導するから何人で来てもいいよ!』
「はい、お願いします」
初めての場所に行くこと。
それが暗黒っぽい面であること。
怖くないって言ったら嘘になる。でも、迷わなかった。
『今から言う通りにして。
まず、頭が入るくらいの空箱ある? なかったらゴミ箱でもいいけど』
「ええっと………、はい」
美貴の腕を強く掴んでる絵里の手を、そっと外す。
部屋の隅にあった青いゴミ箱を引っくり返して中身を出した。
『したら、そこに頭入れて、大きな声で合言葉いって。
合言葉は…………』
- 728 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:49
-
「わかりました。すぐ行きます」
「ハナカミンさんっ! 絵里も行きます!」
「れいなも!」
「さゆも!」
「小春もですぅ☆!」
テンテレを切ると天使が飛びついて来た。
みんな真っ赤な目と鼻で。
うん、そうだね、そうだよね。行きたい気持ちはわかるけど。
だけどごめん。連れて行けない。
あんたたちに、自我を失ってるごっちんを見せたくない。
きっと、すごくつらいから。
何よりごっちんが、見せたくないハズだから。
- 729 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:49
-
「大天使さんもいるみたいだし、ちょうどいいや。
あんたらの親迎えに行ってくるから。
パーティーの準備頼んだよ?」
ニッと笑って、4つの頭をワシャワシャ撫でる。
何か言おうとするのを、目で制して。
「お腹減ったら、美貴のプレゼント先食べていいからさ」
慌ててレジに持ってったから、どんなお菓子が見てないけど。
亜弥ちゃんが買ってたのだから、すごく美味しいと思うんだ。
えぐえぐ言いながら、離れようとしない腕を、無理矢理剥がして。
ごっちんもいない今、ここを離れるワケにはいかない保田さんに押し渡す。
4人を受け取った保田さんは、申し訳なさそうに頭を下げた。
「アタシが行けたらいいんだけど……。悪い、あんたに任せる事になって」
「気にしないでください。この子たち、お願いします。
じゃあ行ってくんね。
ちゃんと顔洗って待ってなよ! 変し……あっ、保田さん、
美貴がハナカミンだって、悪魔にはバレても問題ないですよね?」
「もちろんよ、あんたがバレちゃいけないのは地上の者だけよ」
- 730 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:50
-
よかった。電話で思いっきり藤本って言っちゃったし。
梨華ちゃんもミキミキ言いまくってた後だからな。
「じゃあ心置きなく………、変身! ハナカミン!」
「ふぇぇん、ハナカミンさんのケチぃー」
「ひっく…絵里、ケチじゃないっちゃ…ハナカミンしゃんは、えっく」
「ぐすっ、ただの、貧乏なの、ぐすん」
「うぇっく、お姉さん、清貧じゃなかったですか☆? ひぃぃん」
「うっさいバカ!」
泣きながら遠慮なく失礼な発言するな!
…ったく、いい子で待ってなよ。
お菓子よりもっと素敵なプレゼント、絶対連れて帰るから。
わずかに緊張し始めた胸をそっと押さえて。
大きく息を吸い込み、ゴミ箱に頭を突っ込んで精一杯の大声で叫んだ。
「 天to the下to the無to the敵 !!
One nation under a glove !
信じるものはコブシのみ! ディアアアアアー!!!!!」
- 731 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:50
-
「ふっふっふ、上手くいったようやな」
「ぐええ、グルグルして気持ちワリーよー」
- 732 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:50
-
◆ ◆ ◆
- 733 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:51
-
「ホントにっ?! ホントにごっちんなのお?! ねえ返事して!」
「んあああああっ!!!!!」
「キャーッ!」
「バカ! おめえ危ねーだろ!」
「あっ、ありがとヨッスィ」
「いいけど…怪我ない?」
「うん…」
「だああああっ!! そこ! イチャつかない!!」
「え? べ、別にイチャついてないよ、カオリン」
「そ、そうです! ちょっと見つめ合っただけで!」
「それをイチャついたって言うんだよっ!!
はああ、藤本まだかなー」
「うわああああああ―――――ッ!!!!?」
「あ、来た…ってブッ!
何あの格好! 白いよ! 白くて薄いよ!!」
「カッケー」
- 734 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:52
-
「み、美貴ちゃあああん!!!」
「痛てえ! マジ痛てえ!
おでこから堕ちた! なんでこんな硬いんだよ!」
「そりゃ地面だから硬いわよお」
いや、そりゃそうだけど!
イイダさんめ、誘導するって言ったんだから着地点にマットぐらい敷いといてよ!
「…って梨華ちゃん!」
「美貴ちゃあん!」
梨華ちゃんだ………梨華ちゃんだ!!!
おでこの激痛で潤んだ視界にハッキリ映ったのは、紛れもない梨華ちゃん。
甲高い音波も、巻きつく細い腕も、そのクセ大きい胸も。
1年前、すぐ傍にあったのと、確かに同じ。
ここって太陽の光がなくて、名前の通り暗いのに、肌の色まで変わってない。
梨華ちゃんだ!!
- 735 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:53
-
「コホン、あーっ、感動の再会を邪魔して悪いんだけどー」
「悪いなら邪魔すんな」
「あ、そだね……ってクルァ!!
カオはただそれ以上するとヨッスィがヤキモチ妬き子サンだよって
教えてあげようと思っただけなのに!!」
「へっ!? べ、別に妬かねえって」
ん? あ、そういえば。
梨華ちゃんが堕ちたのは、そのヨッスィとやらに出会ってフォーリンラブったからで。
目が綺麗だってのは聞いたけど、どんなヤツかすごい興味あったんだった。
「どーも」
「っ!? えっ、目だけじゃないじゃん!!」
「へ?」
全部綺麗だよ! そら惚れるわ!
おでこを擦ってくれる梨華ちゃんの手の向こうにいた黒のスーツを着てる悪魔―――てか、
外見は全然地上の人間と変わんない―――が、ペコッと頭を下げたから
じーっと顔を見てみたら、すげえ美人だった。いや、美悪魔か。
このヨッスィも背ぇ高いけど、その隣―――うわ、イイダさんも美悪魔だ―――はもっと高い。
黒いローブを着てて地味なのに、モデルさんみたいに華がある。
ただ、見事に前髪だけにかかったパーマのせいで油断すると吹き出しちゃうけど。
- 736 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:53
-
さっきの電話でもっと気の抜けた顔を想像してたから、悪いけど物凄く意外。
ガンダムの声が梨華ちゃん並に高いソプラノボイスだったのぐらい意外。
ガンダムの指を軽々しく持ち上げた怪力過ぎるフラウ・ボウ並に想定外。
なーんて美悪魔コンビに見惚れてると
笑える前髪のイイダさんが盛大な溜息をついて美貴に近寄ってきた。
「てかさあ、ガッカリだよ。
カオ言ったじゃん?
何人で来てもいいって。
それはつまり、大勢で来いって意味でしょ」
首根っこ掴まれて梨華ちゃんから離されて、ギロッと睨まれる。
や、それは十分、すっごく伝わってたんだけど、だって。
「神が暴れてんだよ? 神が悪の道入っちゃったら
自我喪失どころの騒ぎじゃないんだよ?
入ってすぐ暴れ出した時に暗黒門閉めたから
まだ中に入られてないけど、雷はビリビリだし、門ももう限界だし。
な の に 、来てくれたのがたった 3 人 って。
そっちの班長が暴れてんだからさー、100人とかで来るかなってワクワクしてたんだよカオリは!」
- 737 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:54
-
んなっ、100人って、しょーがないじゃん!
ただでさえ大天使さんの失踪は保田さんと絵里たちしか知らないんだから!
赤ピーマンこと新垣さんと保田さんの努力でずっと隠してんだから!
「つーか遠足でもないのにワクワクすんなよ!」
「うっさいな! ホントはキャピキャピもしてたよ!」
「知るか!」
キャピキャピってアンタいくつだ――――ん?
ちょっと待て。
「今なんて言いました?」
「え、だからキャ…」
「その前」
「…100人?」
「もちょっと前」
「…3人?」
「それだ!!」
それだよ、来てくれたのが3人って、どこが?
美貴は思いっきり1人で来たよ。
泣いてきたがる天使を置いて。
- 738 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:54
-
「だっているじゃん、そこに2人」
「ハ?」
不思議そうな顔でハナカミンの腰のベルトあたりを指差すイイダさん。
いるワケないじゃんって手を伸ばした瞬間、美貴より先に、梨華ちゃんの体が跳ねた。
「のん、バレたみたいや。
久しぶりの登場バッチリレッチリムッチリ決めるで!」
「おうよ!」
そんな声にマントがフワッと揺れて。
ヌイグルミみたいな2つの体が美貴の腰の後ろから飛び出したのと、
梨華ちゃんの目から涙が零れ落ちたのは、ほとんど同時。
「きみの 涙 最後にするワケはー♪」
「虹の 橋が もうすぐ架かるからー♪」
「a・chi・a・chiは双子やけど!」
「のんたちは双子じゃないのに双子みたい!」
「「だーぶるゆーでーす!」」
ポーズが決まるころには、腕を広げて。
「あいぼん! ののお!!!」
「「梨華ぢゃああああああん!!!!!」
梨華ちゃんは力強く、天使を抱き締めた。
- 739 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:56
-
「じゃあナイルズとホランドみたいに、実は三つ子とか?
カッケー」
「違う違う。普通に姉妹だよヨッスィ。
あの子たちの写真なら、なっちに見せてもらったもん」
「へ? あー、安倍さんのー」
あの子ら……いつの間に……。
てか天上でも全然会ってなかったし、イイダさんに言われるまで気配すら感じなかったぞ?
「梨華ぢゃんのアボオオオオ!!!
ウチらがっ……ウチっ……ウチがどんだけっ……」
「寂しかったじゃねーかよおおお!!!勝手にいなくなんなよおお!!」
「ごっ、ごめ…ごめんねっ」
自分の鈍感っぷりに正直ショック。でも、やばい、もらい泣きしそう。
頑張って鼻をすすって堪えると、なぜかイイダさんが盛大に泣き出した。
「ううーっ、泣ける、泣けるよ石川あ!」
「なんか石川、かーちゃんみたいだな」
「ひっく、ホントだね、でも母ちゃんはなっちだから、
姉ちゃんがイイと思う。ぐすん」
「あ、そっか」
- 740 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:57
-
ヨッスィはドライだな。まあ、とにかく感動。鼻水止まんねえ。ぐずっ。
「ところで、なんか忘れてるような………」
「カオリン様あああ!!!」
………気がするけど、今はとりあえず鼻かも、マントちぎってチーン。
「なあに? 今イイトコなんだからブチ壊さないでよ。
感動なんだよ、再会なんだよ、胸が温まるんだよ」
「し、しかし!
暗黒門がブチ壊されてしまいました!!」
「ふえ? ああ! 忘れてた!!!!」
ああ! 美貴も!
「んああああっ!!!…っちはどこだああああっ!!!!!」
「っ……ご、ごっちん…?」
え、嘘。あれが?
報告に来た悪魔さんの指差す場所で、豪快に倒壊してる
バカデカイ門の瓦礫の中から現れたのは、ゴールドに輝く大きな雷の塊。
- 741 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:57
-
その真ん中に、辛うじて黒い輪郭は見える。
でも顔は見えなくて、声もガラガラ。
確かにこれじゃ、ごっちんだなんてわからない。
ていうか、果てしなく怖い。
「ごっちん! 美貴だよ!…って言ってもダメか。
カオリンさん、どーすりゃいいんですか?!」
「ええ?!
と、とりあえず怒らせちゃダメ!
絶対絶対、悪口とか言っちゃダメ!!」
「いやいやカオリン、怒らせるも何も、もうすでに怒り狂ってんじゃん」
てかまず出てくる対策がそれかい!!
こんな状況で悪口って、美貴だって言わないよ!!
そら普段はズバッと言っちゃう事もあるけどさ!
こんな怖すぎるごっちんに悪口言う暢気なヤツがどこに―――――
- 742 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:58
-
,..).、__
..,,_ .イ:::・:(< アホー
!:::::`'::::::::!ソ
`>:::::ノ
く/ゝゝ
「誰がアホじゃあああああああああああああ――――――っっっっっ!!!!!」
「ギャアアアアアアっ!?!!! 違う違う!
美貴が言ったんじゃないよ!!!!
あの鳥!! あのカラスが言ったんだって!!!!!」
「違うよ藤本、あれはカラスじゃなくて暗黒鳥」
「3歳のオスだね」
「そんな情報いらんわいっ!!!!」
- 743 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:59
-
悪口じゃないけど、ノホホンと暢気な声出してんじゃねえ美悪魔コンビ!
ねえマジで、どうすりゃいいのさ実際!!
絵里たちに格好イイこと言って来たのに。
えっとごめん。
無事に帰れる気がしねえ。
- 744 名前:再会。 投稿日:2006/12/20(水) 20:59
-
- 745 名前:名無しのЛ 投稿日:2006/12/20(水) 21:21
-
誤字脱字が多く読み辛い駄文に、心温かい目で
お付き合いくださって、どうもありがとうございます。
次で終われば終わりたいです。
レス、ありがとうございます。
>>711名も無き読者様
どうも有難いお言葉ばかり、こちらこそありがとうございますw
見えてきたのに無駄な阿呆ばかり割り込んでくるので微妙に遠いです(泣
次でまとまるかなー?(オイ
>>712名無飼育さん様
ありがとうございますだワン。
从*VvV)<お? 白いイヌか。
>>713ななしJ様
これはこれは、様々なバージョンでありがとうございます。
英国風で言うとテンキュウ。
川;VvV)<それはただの英語だ。
私もそいつら好きです。
>>714名無飼育さん様
ありがとうございます!
温かいお言葉、胸に沁みております。(ジワワ
頑張ります(・∀・)ノ
- 746 名前:魔神 投稿日:2006/12/21(木) 01:41
- 魔神英雄伝ワタルオープニングキター!!!!!
だぶるゆーサイコー!!
暴走ごっちんどうなるのぉおおお!?
作者様更新乙です。
aci・aci?ネタ笑えました(笑)
- 747 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/09(金) 11:10
- 更新乙です!
暴走ごっちんがどうなるか気になるー
そしてあやみきもどうなるかも楽しみです^^
次の更新、ゆっくりと待ってます☆
- 748 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/10(土) 02:48
- マジで何度読んでも魔神英雄伝ワタルOPネタ笑える(笑)!
ごっちんも気になります。ハイパワーごっちん。
- 749 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/18(日) 19:51
- (・U・) 早く更新しないとつんつんしちゃうぞ
- 750 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/19(月) 11:08
- 川VvV)っ ツンツン
- 751 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/19(月) 15:44
- 从‘ 。‘)っ ツンツン
- 752 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 14:25
- ( ´ Д `)っ ツンツン
- 753 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/27(火) 10:46
- ダブルで。
川VvV)っ ツンツン 名無しのЛさんっ(‘ 。‘从
- 754 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:00
-
◆◆◆
- 755 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:01
-
「いやー凄いよね。
だって自由に操れるワケじゃん、雷を。
そりゃ神だから当然かもしんないけど、その神だって事が凄くない?
家業だっつってもね、誰だって継げるモンじゃん。
優しくて強くてスキップも超上手いごっちんだからこそ継げたワケでさー」
「そーそー、カオの友達もダーク温泉の三代目女将やってるけど
家業継ぐのって結構大変っぽいもん。
比べられちゃうし、未熟なトコは総攻撃で突かれちゃって
厳しいなー、でも頑張ってて偉いなーって、カオはいつも尊敬してる。
ヨッスィも知ってるっしょ? あそこの温泉卵好きだもんね。
石川あ、アンタの謹慎解けたら一緒に行かない?」
「はいっ! 連れてって下さい!」
「……つーか、スキップ上手いのって関係あんの?」
- 756 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:02
-
「あるに決まっとるじゃろがあああーっっっ!!!!」
「うわあっ!? イテェ! 何すんだよ!」
「なにすんだよじゃねえメフィストグルァッ!!
イイ感じに空気が和やかにまとまってたのに、何ブチ壊してんだよ!」
綺麗な顔で淡々としてっからクールで出来る悪魔かと思えば!
怒らせるなって、アンタの班長の指示でしょ!
颯爽と無視すんじゃねえっ!!
「へ? 気になったから訊いただけじゃん。
悪口言ってなくない?」
「ご、ごめんね、美貴ちゃん、私が悪いの。
ヨッスィにごっちんとスキップの密接な関係を伝えてなかったから」
…関係って。
ま、まあわざわざ話さないか。
「え? あのビリビリちゃん、そんなにスキップ好きなの?」
- 757 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:02
-
「誰がビリビリちゃんじゃああああああーっっっっ!!!!!」
「ぐぎゃあっ!? イタアッ!?
焦げた! 尻尾が焦げたよ梨華ちゃあん!」
「だ、大丈夫ぅ?」
「焦げたよじゃねえメフィストてめえ! 今のは明らかに悪口じゃん!
わざとだろ! 絶対わざとだろ!!」
このスットコドッコイ!!
梨華ちゃんに抱っこされて涙ぐんでるのは正直可愛いけど許さねえぞ!
焦げたんならイッソ引っこ抜い――――
「まあまあ自分、落ち着いて。
気持ちはわかるけど………はあ、あんなヤツで大丈夫なんかなあ。
梨華ちゃんもそれなりのスットコドッコイやのに」
「仲は良さそうだからいいんじゃない?」
――――てやるぅうう!って飛びつこうとしたら、後ろから
あいぼんとののちゃんの小さな体に羽交い絞めにされた。チョット気持ちいい。
てか、美貴の右肩でアッケラカンとしてるののちゃんはともかく、苦いお茶でも
飲んだような顔で重々しい溜息を吐く左肩のあいぼんは、梨華ちゃんの親みたい。
- 758 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:03
-
「いやー、わざとじゃないんだけど、ゴメンゴメン。
スキップ好きって珍しいなーと思ったらつい。
「ハ? 珍しかないでしょ。
梨華ちゃんだって同好会入ってたんだし。こっちでも毎日してんでしょ」
「へ?」
気苦労の耐えない天使の頭を撫でつつ、思いっきり心のこもってない謝罪に眉をしかめる。
悪魔コノヤロウ。何だその間抜けな反応は。……え? してないの?
「えっ、あの、違うの、してるよ? 毎朝欠かさず早起きして
20分してるんだけど、よく考えたら恥ずかしいとかじゃなくて
コソコソッと独りで楽しむのがマイブームっていうか」
恥ずかしかったんかい。
「そうなの? 知らんかった。
言ってくれればたまには付き合ったのに」
「えっ…本当? ヨッスィ、一緒にスキップしてくれるの?」
「あ、でも独りがブームなんか」
「ううん! ヨッスィと一緒の方が100万倍いい!
明日からは毎日一緒にしよ!」
「いや、たまにでいいって、たまにで」
「毎日せんかいグルァァァァァアー!!!!!!」
- 759 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:03
-
「わあああっ!?」
「きゃあああっ!?」
「だからさ、嘘でもいいから、後で撤回してもいいから毎日って言えよ」
それくらい空気読め。
梨華ちゃんに最高にキラキラした目で見つめられて
照れ隠しもあったのはわかるけど。――――ん?
こんな状況だけど微笑ましいなあ、なんて小さく笑ってたら急に肩が軽くなって。
目の前を、物凄い勢いで羽をバタつかせて飛んで行くあいぼんとののちゃん。
右腕を走る、不穏なピリピリ。
え、まさか。
「ミギディ」
「だあっ!? ほっ、うぇっ、ごっ、ごっちん!? いつの間に…っ」
ついほんの5秒前まで、50bくらい離れた所から
ビリビリを飛ばしてたごっちんが、美貴のすぐ隣でコンニチハ。
こんなに近くても、ごっちんの顔は全身を覆う雷でよく見えない。
声も違うし、怖くて、怖過ぎて、てかどうしていいかわかんなくて
助けを求めてイイダさんを見る。………すると、我が目を疑いたくなる光景が。
- 760 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:03
-
暗黒っぽい面の班長は、最高責任者は、信じられないほど遠くに避難して
『ノゾム、平和的解決』って書かれたデカイ紙を堂々と掲げてた。
アノヤロウっ……助ける気ゼロか!
ヨッスィと梨華ちゃんもいつの間に移動したのか、それでも
イイダさんよりはちょっと近い場所からこっちを窺ってて
そのほんのちょっと後ろにいるあいぼ―――
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| ここでボケて! |
|_________|
@ノハ@ ||
( ‘д‘) ||
/ づΦ
無理に決まってんだろーが!!
てかボード持ってんのはあいぼんだけど、書いたのはののちゃんだろ!
美貴まで厳しく谷底に突き落とそうとするな!!
- 761 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:04
-
「ったく、…どいつもこいつも」
「…んあああ……ミギディ…」
「ふぇ? は、はいっ、何?」
てか近っ!!
鋭い視線で抗議を訴えてる間に、ごっちんはあれよあれよと美貴に迫って
鼻先10aの距離にアニョハセヨ。
コスチュームのおかげで雷が触れても痛くないけど
ピリピリが全身を駆け巡って相当くすぐったい。ぐっ。ぷくくっ。
「んがあ、嘘ばよぐないじ、後で撤回なんで言語道断」
「…あ、そうです! そうでした! ごめんなさい!」
『冷静なツッコミは、ときに諸刃のつるぎ』
そんな言葉を遺したのは、美貴のじいじのばあばだった気がする。
やっと意味がわかりました、合掌。
- 762 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:04
-
「……ミギディ」
「はいっ、まだ何か?」
てか合掌ついでにじいじのばあば、よかったら教えてくんない?
平和的解決ってどーすりゃいいの?
ごっちんに両腕掴まれちゃって、身動き取れないんですけど。
「だ…………だずげで……」
「え…?」
もうやばいかも、無理かも。じいじのばあば、今、会いに逝きます。
そう呟いて目を閉じかけた時、耳に届いた微かな声。
慌てて目を凝らすと、ビリビリの中にうっすらと、いやハッキリごっちんの顔が見える!
「ごっちん!!」
「…ミ…ギディ……、ご、めん……」
ガラガラだけど、確かにごっちんの温もりが戻った声が嬉しくて
美貴は駆け抜けるピリピリにも構わずごっちんに抱きついた。
鼻がツンとする。ぽろぽろ、ぽろぽろ、涙が出る。
「ほんとだよ! 勝手にいなくなって!
みんな心配してるよ! 早く帰ろう!!」
「うぅ……でぎない……。
ごどー、もう抑えられない……。
もっどびどぐなる………ミギディ……突ぎ落どじで……、ごどーを…レーデーの河に…」
「ハ…? 何言ってんの?」
- 763 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:05
- レーテーって、記憶を消すの?
そっか、悪の道に入っちゃった時の―――
「ちがう。死ぬ気だ」
「――えっ」
解決策が見つかったかと、安堵しかけた美貴を突き刺す残酷な言葉。
振り返ると、イイダさんに梨華ちゃんたちを任せて
1匹近づいてきたらしいヨッスィは、鋭い目を細めて美貴の後ろに立っていた。
「天上の子も悪魔も、レーテーの水に長く浸かると
身体が溶けるんだ。1時間もあれば、何も残らない」
「そんな……」
そんなの、出来るワケないじゃん。
友達なんだよ、美貴たちは。
「レーテーの水飲ませて、悪の道に入っちゃった時の記憶消すんじゃダメなの?」
「影響受けてんのは身体だから。
体質が反応してるワケで、心は侵食っつーか、支配されちゃってんだよ。
今も十分凄い力だけど、僅かに保ってる心で抑えてたんなら
記憶消したり、これ以上侵食が進むと
さっきまでとは比べ物にならない力で暴走すると思う」
- 764 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:05
-
比べ物にならない?
さっきまでだって手のつけようがなかったのに?
「だ…がら、…ミギディ……早ぐ…」
「っ、早くったって出来ないよ!!
ごっちんのおかげで美貴はお腹いっぱい焼肉食べれた!
カフェ・モ力だって飲めた! フカフカのソファに座れた!
足が伸ばせる家風呂に入れた!!」
「(0T〜T)」
へえ、悪魔も泣くんだ。てか悪魔にまで泣かれるんだ(vV;リ从……じゃなくて!
「ごっちんは美貴に、いっぱいいっぱい楽しい事くれた。
正義の味方っていう特殊で面白い事も、ごっちんが神様じゃなかったら
さっさと断って成仏してた!!!
今生きてるのごっちんのおかげなのに!!
…なのに溶かすなんて…っ あ り え ね え ん だ よ !!!」
「ッギディ…」
暴走すんなら、していいよ。
ビリビリがバリバリでもいいよ。
美貴が絶対止めてやる。
何があっても絶対止める。だから溶かせなんて言うな!!
- 765 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:06
-
「美貴ちゃんさんの気持ちはわかった。
でもどーすんの? ぶっちゃけカオリンはお手上げよ?」
「わかってる。それはよーくわかってる」
あんな堂々と逃げられたらな。
けど、お手上げなのは一緒だろうに、美貴たちの傍に来てくれて。
結構イイヤツじゃん、ヨッスィ。いや。
友達になれそうだから、ヨッちゃんって呼ぶ。
「昔はどーしたワケ? 城壊された時とか」
「ああ、確か網で捕獲して檻に入れて……大天使だっけ?
天上の偉いさんに引き取ってもらったって聞いた。
その後は知んないけど、大天使が何とかしたんじゃねーの」
ふむふむ。
なんだ簡単じゃん。今ちょうど抱きついてるから
このまま大天使様のトコ連れてけばよくない?……てゆーか、
「イイダさんクルァ!
ならそんなトコで手ぇ上げてないで早急に大天使様連れて来いよ!!」
「ひゃっ…怒鳴んないでよバカッ!
カオはちゃんとヤグチに頼んだもん! 暗黒城になっち迎えに行ってって!
暗黒法定速度無視していいからチョッパヤでプリーズって!
だからカオはなっちが来るまで正々堂々お手上げで待つの!!」
「………」
- 766 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:06
-
暗黒っぽい面のみなさん、いいの?
アイツがリーダーで本当にいいの?
「あれ? もしかして、大天使って安倍さんなの?」
「え、そうだよ、知らなかったの?」
もしかしてお酢貸してもないよ。
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| それは苦しい! |
|_________|
@ノハ@ ||
( ‘д‘) ||
/ づΦ
うっさいほっとけ!!
自分が1番よくわかってるから心の中で言ったのに読むな!
「やー、天上の者だって聞いたのもついさっきだし。
けどカオリンの古い友達だって紹介された時から、変だと思ってたんだよね。
全然悪魔っぽくないしさ、嗅いだ事ない匂いとかするし…って美貴ちゃんさん?
どしたの? 顔赤いけど」
「くっ…な、なんでもない!」
- 767 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:07
-
『読んだんとちゃう、聞こえたんや。
いやむしろ自分、聞かせたかったんちゃう?』
なーんてあいぼんの目が言ってるような気がして赤くなってなんかないもん!
「ぐああ……」
「ハッ! ごめんごっちん! すっかり忘れ…てたんじゃなくて!!
もうちょっと我慢して!
ヨッちゃん、ヤグチさんって悪魔、車かなんかに乗ってったの?」
「うん。すっげー派手な黄色いバス」
「じゃあすぐわかるね。
美貴、ごっちん抱っこしたまま走るから城まで案内してよ。
途中で会えれば待ってるより早いし」
ごっちんも大分苦しそうで、顔がまた雷でぼんやりしてきてるから急がないと。
ヨッちゃんもごっちんの様子を見て、黙って頷いた。
もう目と鼻しか見えないごっちんを右肩に担ぐ。
ほとんど雷になってるせいか、全然重くなくて。
なんか、ごっちんがいなくなっちゃいそうで、また零れそうな涙を振り落とす。
- 768 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:07
-
「道もほとんど一本道だから行き違いはないと思う。全速で走るよ?」
「グズッ…うん、お願い!
ごっちん! もうすぐなっちさんに会えるからね!」
だからしっかり!
――――って、ヨッちゃんの背中を追いかけようとした時。
「んぐあ………なっぢ……どーじで……どーじでいなぐなっだ……。
ごどーの前がら……ごんなに……ごんなに会いだいのに……」
ごっちんの声から、微かに戻った優しい温もりが消え始めた。
さっきよりどんどん低くなって、聞いた事もない恐ろしい唸り声が響く。
「うぁあっ!? 痛っ!
待ってごっちん! 後ほんのちょっとだから! しっかりして!!」
「なっぢ……会えない…………誰が隠じだ………お前が…?」
「ち、違うよ! 明らかに違うから落ち着いて!」
「んぐああああっ!」
「どわあああっ!?」
- 769 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:08
- 担いでるごっちんのビリビリが、凄まじい勢いで力を増していく。
その遠慮のないバリバリに、至近距離で耐えていたコスチュームが破れて
美貴の身体を強烈な痛みが襲った。
辛うじて手は離さなかったけど、その場に崩れ落ちた美貴の視界で
破れたティッシュがヒラヒラ踊る。
「美貴ちゃんさん!」
「ぐっ…ヨッちゃん! 予定変更! なっちさん連れて来て…っ!
美貴が抑えてるから早く!!」
「わかった! てか美貴ちゃんさん、顔可愛いね」
「ありがと! でも暢気な事言ってないで早く行けっ!」
ええい、悪魔ってのはなんであんなに緊張感がないんだ!
間違いなく心の侵食が進んで、暴走マキシマムだっつーのに!
『胸んとこと、大事なとこは特に丈夫に作ってあるかんね』
ハナカミンになってすぐの頃に聞いた通り、コスチュームは
どんどん破れて顔も腕も剥き出しで痛さがハンパないんだけど、
大事な部分は黒く焦げながらもしっかり残ってて、
さりげなく太股のティッシュも一切破れてないのには、ごっちんのこだわりを感じた。
- 770 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:09
-
って、美貴まで暢気になってんじゃんか!!
「お前が……お前が…隠じだ………ごどーの大事なエンジェル………ッ」
「だから違うって!
ああっ!? ババシャツも破れちゃってるっ…グスン」
亜弥ちゃんにもらったのに…、うわあん。
「黙れぇええ……お前が隠じだんなら……、お前がなっぢを奪っだんなら……
……ごどーだっで奪っでやる……お前の………大事な大事なエンジェルをっ!!!」
「えっ?
ちょっ、待って!!
ごっ…わっ、だわあああああーっっっ!!!?!」
◇ ◇ ◇
- 771 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:09
-
♪♪♪〜
上野発の夜行列車降りたときから 美貴の財布はスッカラカン
北へ帰る人の群れは誰も無口で 腹がグウとだけ鳴いている
私は一人 連絡船を見送り (乗れるワケないじゃんスッカラカンなんだから!)
凍えそうなカモメ焼いて食べていました (ジュ〜)
アアアアァア〜…
『イヤアアアアアハァンッ!!
みみみ美貴ちゃん何て事をオーマイガッ!
カモメってば鳥類じゃないトリじゃないターキーじゃないチキンじゃないオフコース!!
凍えて弱ってるトコ捕獲して過熱して咀嚼だなんてジーザスッ!
よくもそんなムゴイことをっ……ユアクレイズィッ!』
『へ?』
- 772 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:10
-
『わああ、藤本ちゃん、言ってなかったっけ?
ひとみんはトリさんを養鶏してて、トリ食べないの。
普段は人が食べるのに口挟まないんだけど……さすがに衰弱したカモメはなー』
『カモメには何の罪もないじゃないノークライム!! アンドペナルティ!』
『えっ…いや、あの、本当に食べたワケじゃなくて!
大谷さんが替え歌って言うから適当に』
『適当でカモメ焼いちゃダメよイァフゥ!
カモメの体は白いけどっホワイティ! 背中と翼はセクシーグレーなんだからオーイエス!』
『は、はい、ごめんなさい。
ひどい替え歌伸びやかに熱唱しちゃって』
「よかったあ、フィクションのお歌だったんだね」
「…むぁ、難しい横文字知ってるね。
凄いぞい、あゆみん」
「えへへ」
- 773 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:10
-
ここは、なぜかと言われれば間違いなく優しい家賃を理由に
住人全てが清貧だったりタダの 貧 だったりするアパートの一室。
清貧なのにヘアスタイルには金をかける大谷の部屋で
大谷とセクシー斉藤、村田にあゆみの4人は、仲良くちゃぶ台を囲んでいる。
ちゃぶ台の上には、斉藤がセクシーに焼いた卵焼きがあった。
「さ、あゆみフゥン、おばさんのとは違うかもしれないけどディッファレン、
たーんとお食べなさいカモォン」
「いただきます!
わあい、ありがとうひとみちゃん!」
「むあ。ありがとねえ」
「いいのよアハァン」
水色の弁当箱にギッシリ詰められた卵焼きに
嬉々として箸を伸ばすあゆみを、姉たちは温かい目で見つめる。
お人形さんのような顔で、小さな事でも心の底から喜ぶ健気なあゆみは、3人の宝物だ。
- 774 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:11
-
可愛いなあ(ウハァン)…。
と、3人の心の声がセクシーな部分を除いて見事に一致した時、
斉藤はふと、先ほどの昔話の続きを思い出して微笑んだ。
「そういえばァン、美貴ちゃんにもこうやって卵を焼いてあげたんだったわ…リメンバー」
「あー、そうそう。
貝殻のお礼にね」
「貝ガラ? もしかしてアレのこと?」
大谷の膝の上で卵焼きをくわえて首を傾げたあゆみが指差した先にあるのは
狭いの部屋の片隅にちょこんと置かれた透明のケース。
中には白のようなピンクのような紫のような
見る角度によって違う色に見える、不思議な貝殻がある。
それはかつて隣人の藤本が、大谷と斉藤の為に
海岸で拾ってきたものだった。
- 775 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:11
-
『これ、よかったらどうぞ。
2枚あるんで斉藤さんにも渡してもらえますか?
本当はヒトデを獲りに行ったんですけど、見つからなくて…』
「むあ……ヒトデ?」
「ほら、ワカメちゃんってさー、海に行くと約7割の確率でヒトデ拾ってくるじゃん。
だからこっちの海では簡単に獲れると思ったんじゃない?
私もこっちに住むまではそう思ってたし」
「北の国の子は皆そう思ってんのかしらねスケアリィ。
でも嬉しかったわ貝殻ンフゥ。
カモメで私が泣いちゃったからセクシークライ、気にして獲って来てくれたのよねナイスガール」
1日中探し歩いたのだろう。
日が変わる前に眠ろうとしていた大谷の部屋のドアを
控えめにノックした藤本の髪は潮でベタつき、服は砂まみれだった。
「引っ越してきたばかりでロンリィ、
道も詳しくなかったのにナビプリーズ。
あの時が初対面だったんだからファーストインパクッ、
大人気なく泣いちゃった私が悪いのにソーリィ、優しくってワァォ。
ヤダァン、思い出したらまた涙がゲラウェイ」
「むあ。これで拭きなされ」
「ありがとウッフン」
- 776 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:12
-
ひよこのハンカチでセクシーに目元を押さえる斉藤の震える肩を
村田が優しく撫でる。
その光景を見て、あゆみがくすぐったそうに言った。
「あゆみね、美貴ちゃんだーい好き。
でも、マサオはもっともーっと好き」
「っ!?」
「ほぅえっ!? …あ、…そりゃ、どうも」
「えへへ」
「……」
むあっ…とうとうこんな日が…っ。
突然の告白を受けて、年上の威厳など素粒子ほどもない様子で
慌てふためく大谷の肩に、頬を赤く染めて飛びつく妹を見て、村田は激しく凹んでいた。
そんなこんなで、穏やかな時間が流れるアパートの前を
1人の女子高生がうろうろ歩いている。
- 777 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:13
- 女子高生だから辛うじて怪しくないが、こめかみに手をあてて
何やらブツブツ呟きながら彷徨う姿は不審者に限りなく近い。
ちがうの。
私は部屋でまったり大人しく電話を待ってて。
なのに突然右足が前に出たと思ったら左足も出ちゃって。
また右足が出たらまた左足も出て、それを繰り返してたらここにいたの!
来ようと思ったワケじゃないの決して!!
誰に対する言い訳なのか、呟き続ける女子高生――亜弥は
先日お邪魔した藤本の部屋の窓を、悩ましげに見上げた。
いるの―――…かな?
昨夜は早乙女先輩の家族とパーティしたんだよね?
なら……泊まっちゃってたり、するのかな?
…………するんなら、激しく腹立つんだけど。
昨日だって急に帰っちゃうし。
もうちょっとだったのにさあ、すっごくイイ感じだったのにさあ。
- 778 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:14
-
蹴った小石は、どこにもあたらず虚しく転がる。
まるで自分を見ているようで、亜弥は少し泣きたくなった。
でも泣かないもん。
泣くヒマがあったら、ピンポン押すもん。
先輩がいてもいなくても、折角来たんだから、押すだけ押して帰ろう。
藤本が在宅の場合、押すだけで帰ったらただのピンポンダッシュなのだが。
こうと決めたら行動の早い亜弥は、颯爽と身を翻して
アパートの入り口に向かった。
―――すると突然。
「お前だな」
「っふぇ…? 早乙女先輩?」
目の前に、亜弥にとってはちょっぴり憎いスキップ好きが
無表情で立っていた。
な、なんか怖っ…、てゆーか今お前って言った?
藤本先輩の「あんた」ならともかく、お前ぇ?
- 779 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:14
-
思わず顔を引きつらせる亜弥にお構いなく
早乙女は無表情のまま首を傾げる。
「ミキティに会いたい?」
「えっ?……ああ、別に、会いに来たワケじゃなくて
偶々通りかかって、もう帰りますから…」
なんかやばい気がする。物凄くやばい気がする。
心の誰かに、早く逃げろと叫ばれた気がして、亜弥はそそくさと頭を下げ
その場を立ち去ろうとした。しかし。
「会わせてあげるよ」
「ひゃっ、ふぇ? 待ってくださいどっ…きゃあっ!?」
恐ろしいほど強い力に引き止められる。
なんで? なんか変、早乙女先輩ってこんな人だっけ?
ちゃんと話した事ないけど、藤本先輩といる時はおタンビで優しかったよね?
恐怖と疑問を渦巻かせながら、抵抗しようと足をバタつかせた時
頭から黒い布を被せられ、視界が黒に染まる。
ほんの一瞬、間近で見た早乙女の瞳は、ぽっかり穴が開いたように暗く、何も映していなかった。
- 780 名前:侵食。 投稿日:2007/03/02(金) 19:15
-
- 781 名前:名無しのЛ 投稿日:2007/03/02(金) 19:28
-
从从+V)<間に合いもしなかったしな。
ゴメンナサイ・゜・(ノД`)・゜・
申し訳ありませんが、レス返しをまとめさせていただきます。
ワタルネタ、ワロてくれてテンキュウ。Stepは名曲。
楽しみなんて言ってくれるアナタは優しい人ネ。
ハイパワーて(ww
つんつんいっぱいでハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
ダブルで挟み撃ちハァ━━━━━━ ;´Д` ━━━━━━ン!!!!
どうも、みなさまありがとうございました。幸せです。昇天。
次で必ず終わります。
- 782 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/03(土) 23:22
- 更新おつかれさまです
最終回寂しいですね、でもお待ちしてます
- 783 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/07(水) 00:03
- 最終回、来て欲しいような…
もっと、じらしプレイして欲しい…
- 784 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/09(金) 00:54
- キテタ―――ヽ(ヽ(゜ヽ(゜∀ヽ(゜∀゜ヽ(゜∀゜)ノ゜∀゜)ノ∀゜)ノ゜)ノ)ノ―――!!!!
最終回かぁ・・・
ちょっと気が早いけど、のほほんとした番外編なんかを期待してみます。
次回更新まで正座して待ってますYO!
- 785 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:30
-
◆◆◆
- 786 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:31
-
「……ふぇ? ここどこ?
てゆーか、なんで夜?」
物凄い力に持ち上げられたと思いきや、すぐに降ろされて。
黒い布を剥ぎ取られたと思えば、なぜか視界は暗いまま。
突然の出来事に事態を呑み込めず、亜弥はキョトンと首を傾げる。
ところどころに見た事のない形の街灯があるおかげで
真っ暗ではばいが、まだ昼前のハズなのに
空からは太陽が消え、おどろおどろしい黒雲が世界を覆っている。
やだ………ここなんなの…?
やっと事態の異常さに気付いて辺りを見渡しても、見知った光景はひとつもない。
それどころかこの光景は、昔アニメで見た地獄や魔界を連想させる。
おまけに少し遠くに何か建物が倒壊して出来たらしい無惨な瓦礫の山まであって
亜弥は思わずその場にしゃがみ込んだ。
- 787 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:31
- 冗談みたいに震える体を丸めて、細い息を吐く。
本当は叫びたかったけれど声が出ない。
……ええっと…なんでこんなとこに?
さっきまでは確か、行くつもりは無かったようで大アリだった先輩のアパートに
つい到着しちゃって、折角だから呼び鈴をピンポンしようと思ったら
無表情な早乙女先輩がいきなり会いたいかとか、会いたいなら――――
――…会わせて……会わせ………ぬぬぬぬ……。
つーか会わせて あ げ る ってなによ。別に付き合ってないんでしょ?
なら藤本先輩は早乙女先輩のモンじゃないし。
苗字も名前もスッ飛ばしてイキナリお前たあ、いい度胸じゃねーか!
「そっちがその気なら受けて立つぞコンニャひゃあっ!?」
- 788 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:32
-
現状を把握しようと記憶を真希じゃなかった巻き戻して再生していたところ
いつの間にか早乙女への怒りで恐怖を忘れ、亜弥は元気いっぱいに
叫んで拳を地面に叩きつけようとしていた。
しかし寸前で、すぐ傍に黒いマリモのような物体と
半分焦げた白いボロ布が落ちているのに気付き、コンニャロウのロウが悲鳴に変わる。
や、やだ、何このマリモっ…。
離れたい。速攻で離れたい。
だけどマリモに呼び戻された恐怖で足が動かない。
ならそっちがどっか行けと念じても、マリモはピクリとも動かない。
う、動かないなら怖がる事ないか……で、でもいきなり動いたらどうしよう…っ。
てかマリモって動くっけ? てかマリモってなんだっ――ん?
懸命に自分を奮い立たせ、ようとして、こうなったら後で
図鑑買って調べようマリモについて真剣にとか思っちゃってた亜弥は
白いボロ布の真ん中らへんに赤いモノを見つけ、恐る恐る顔を近づける。
すると――――
- 789 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:32
-
…あれ? これってベルト?
どっかで見たような………あっ、腕と足!!
うわ……てことはこれ…………マリモじゃなくて……アフロ?
――――ただのボロ布ではなく、ボロ布を纏った人間がうつ伏せで倒れていた。
「大丈夫ですか?! どうしたんですか!?」
「…ぅ…うぅ…」
ピクリとも動かなかったから、最悪の状況も考えられたけれど。
大声で呼びかけながら剥き出しになっていた肩のあたりに触れると
アフロ田ボロキレ子さん(仮名)は、苦しそうに呻いた。
それを聞いて、怪我やボロボロ具合はともかく、生存者である事に
本来なら安心したかったのだが。
えぇっ、わ、私ったら、こんな時にどうしちゃったの?!
亜弥が触れたその肌は、ボロボロなのになめらかでみずみずしく
キメ細かく手の平に指に吸い付いてきて離せないんだけどドウシヨウ。
プラス心臓がアリエナイ。ありえないって何このスピード。
ぶっちゃけボロ雑巾みたいなアフロ田さん(仮名)に、ハートビートが止まらないっ!
- 790 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:32
-
待って! やばいって! なんか从*^ 。 ^从ハァハァ言っちゃってるよ私!!
誰かお願いロマンティック的なもの止めて誰かあっ!!
おそらく重傷者のアフロ田さん(仮名)の肩に貼り付いたままの
手を見つめ、次第に呼吸の荒くなる少女A(元気で明るい女子高生)。
ひょああー!! SHOP自分じゃなかったストップ自分!
待ちなさい! 肩触ってない方の右手待て!
ナニ背中とかボロ布の上から撫でようとしてんのよコルァ……………ほぇ?
しかし心を、理性を無視して暴走した右手が捉えた感触に、思わず呆ける。
え、これ、これって……ティッシュ?
そんな、じゃあまさか…
「ハナカミンさん?!」
ある日突然、別れを告げて。
亜弥の前からいなくなった正義の味方。
藤本が心に入ってきても、それでも大好きな人のヒトリ。
- 791 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:33
-
ハ、ハナカミンさんって………アフロだったの?
亜弥の心の中で、理想という言葉にちょっぴりヒビが入る。
い、いや別にどんな髪型でもいいけど!
そんなの全然関係ないけど!
…てかまだ別の人かもしれないし。
たまたま生地の材質が似てるだけかもしれないし。
でも一応、確認した方がいいよね?
そっと、うつ伏せの体を痛くないように慎重に引っくり返して腰のベルトを見る。
一部焦げて変色しているが、よく見るとH-MINのロゴがしっかりあった。
決まりだ。
「ハナカミンさ…っ」
「うぅ…」
―――っえ?
- 792 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:33
-
初めはマリモでボロ布で。
だと思ったらアフロ田さんで。
かと思えば仮面ハナカミンさんで。
決まりだと思えば、せんぱい?
どうして? ドウシテ?
なんで先輩が、ハナカミンさんの格好して、アフロで倒れてるの?
変だって言った。ダサいって言った。
アフロじゃないし、アフロにするお金もないと思う。
なのにドウシテ?
アフロの下の、いつか見た半目。綺麗な鼻。可愛い頬。乾いた唇。
どう見たって、何度見たってこの人は。
間違えようもなく、間違えるハズもなく。
その仕草、その表情の、圧倒的な可愛さで、私の心を奪った人。
- 793 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:33
- 最初は嫌な人だと思った。
好きじゃなかったよ。口悪いし。
近づけば邪険にされて、面倒そうに睨まれてると思ってた。
でも違ったんだ。
いつだって赤眼鏡の向こうの、私を見る目は優しかった。
ティッシュの隙間から、私を見る目と同じように。
ううん。同じだったんだね。
あなたはいつも、優しく見守っててくれたんだ。
『ったくこんな寒い日にバカ!』
『ミ…ミンはさぁ』
『美貴は基本的に1年中寒いんだよ!』
やけに転がってる共通点に、腹が立つ事もあったけど。
『ふぅん、聞いてなかったからさ。じゃあね、亜弥ちゃん』
あのとき跳ねた胸は、真実を告げてくれていた。
私は恋を、あなただけにしている。
- 794 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:34
-
『あたしっ、これ毎日使います!
だからハナカミンさんも、これつけてあたしのこと思い出してください!』
『藤本先輩!!!なんで先輩がその香水つけてるんですかあ!!!!!』
私のお願い、ちゃんと聞いてくれたんだよね。ありがとう。
なのに怒ってごめんね。
『へぇ、困った子だね』
『亜弥ちゃんが注意しても全然聞かない悪い先輩でしょ?』
自分の事じゃん、トボけちゃって。
傷ついてたよね。ごめんね。
『………………嫌いなんじゃ、なかったの?』
好きだよ、こんなに。
◆ ◆ ◆
- 795 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:34
-
「あああもおっ!
ヨッスィが行ったと思ったら次は何だよ誰だよ!
ねえ石川あ…っブアハアッ!
ちょっ、石っ、何その頭! 超クルクルじゃん! 超パーマ!」
1匹走り去るメフィスト・フェレヨッスィを、ハンカチを振って見送っていたところ
離れた場所にいたにも関わらず、神が発した今までとは比べ物にならない威力の
超特大電撃に吹っ飛ばされたイイダは、憎憎しげに起き上がると
まだ後ろで転がっている石川を指差して盛大に吹き出した。
「プッ、キャハハ!
何言ってるんですか! カオタンだって超グルグルですよ!」
「えええっ!? 嘘おっ?!」
が、八の字眉で顔を上げた石川に盛大に笑い返されて
驚愕に満ちた頭に手をやると、ワオ、マジでグルグルじゃん。
「いやあああああっ!!!」
悲痛な声を上げて、イイダはその場に崩れ落ちる。
それを静かに見守る石川の背中では、天使たちが石川の服で
冷や汗を拭っていた。
- 796 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:34
-
「ふーっ、うちらは無事でよかったなあ、のの」
「梨華ちゃんを盾にしたおかげだね。
たまには役に立つじゃん」
「あ、あんたたち! よかった…怪我ないのね。髪もサラサラで」
「「………っ」」
その声に瞬時に振り返った石川は、盾にされた事は十分承知しているのに
目を潤ませて安堵する。
その姿に罪悪感が湧く前に、天使たちはこれまた盛大に吹き出した。
「ぶっ! やめて梨華ちゃん! こっち見んといてーっ!!」
「ぶほおっ!! んだよ梨華ちゃんのクセにおもしれー!」
「……………」
これには流石にカチンときたのか、笑い狂う天使たちを摘み上げると
石川は、なぜか傍にあったボストンバッグに2人を放り込む。
「うわっ、くっさいカバン!」
「いきなり何すんだよおっ!」
「…あんたたち、危ないからしばらくこの中にいなさい」
「えーいやや、くっさいし狭いしー」
「お菓子くれるなら、のんはいいよ」
「はいはい。じゃあ大人しくしてんのよ」
「いやや臭いー!!」
- 797 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:35
- アチャチャーミー時代、谷底に落ちていく自分を、いつも『またか』という目で
見ていた天使はまだごねているが、安全の為だ、仕方ない。
アチャチャーミー時代、よく自分を谷底に突き落とした天使に
ポケットから出したデビルキャンディとデビルスコンブを渡して
石川は心を鬼にし、ボストンバッグの口を閉じる。
のの、お菓子はちゃんと分けて食べてね。
独り占めしちゃダメだぞーフフフン♪…なんて鼻歌が飛び出しかけたところで
ふと大切な事を思い出した石川は両頬に手をあてた。
「ハッ!? そういえば美貴ちゃん!!」
そういえばとは随分な言い草・ミチクサ・ヤチグサカオルだが
髪と天使に気を取られて、遠くの自分まで吹っ飛ばす程の電撃を
至近距離でモロに容赦なく受けたと思しき親友の事をすっかり忘れていた。
- 798 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:35
-
しかもイイダさん、次は誰とか言ってたけど
ごっちんと美貴ちゃんは一体どうなって………
「どーもこーもさあ、ごっちんって子は姿隠したね。
気配はビンビンあるからここを離れてはないけど、デカイ力使ったから
どっかに潜んで充電してんのかなー。
藤本は……アレかあ……うっわボロボフォッ!?
ヤダ何アレ!! うちらよりヒドイよ! ねえ見てよ石川あ!!」
「ええ?………ブッ!」
み、美貴ちゃん…っ、なんてこと…っ。
いつの間にやら立ち直っていたイイダから暗黒望遠鏡を受け取って
覗いてみると、誰かに抱えられ、静かに横たわるアフロ。
笑っちゃ悪いと思っても笑うしかない。
「くっ…ぷっ…」
「ちょっと、ツボ入る気持ちわかるけどあの子見て。あの子知ってる?」
「くくっ…え、あ、知らないです。
天上の子ですか?」
「ううん。オーラないもん。悪魔でもないし」
震える喉を堪え、顔をしっかり見たが、初めて見る顔で間違いない。
とても優しい表情をしているので、石川と面識のない天使かと思ったけれど……。
ていうか悪魔でもないのなら…………っ
- 799 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:35
-
「ち、地上の子ですか!?」
し、しかもよく見るとあの雰囲気って……。
あっ、美貴ちゃんのほっぺ撫で…キャ! いいい今ここここめかみにっ!
地上の、加えて藤本の知り合いだったとしたら物凄くやばいような
気がしつつも、レンズの向こうで繰り広げられる光景に
石川は1人、赤面して悶える。
キャッ、そんな…っ、わああ、ひゃああ。
「はああっ、もおヤダ帰りたい。
久しぶりに悪の道に天使と思ったら神だし怖いし強いし。
地上のバカは石川だけで十分だっつーのにまたあ?
てかどうやって来たんだよ! いきなりかよ!
温和で温厚で温泉好きなリーダーだって怒るぞ!!」
そんな中、イイダは文句いっぱいに立ち上がると
モジモジしながらレンズに釘付けになっている石川の首根っこを掴んで
藤本と少女の元へズンズン歩き出した。
「カっ、カオタン! ダメですよ邪魔しちゃあ!」
「はあ? 邪魔してんのはあっち!
ここはカオの庭だ! つーかカオリンだっつーの!!」
- 800 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:36
-
◆
「やいっ! そこの不法侵入者!」
「え?…きゃっ!?……え、えっと……どなたですか?」
こんな状況で暢気な話だが、腕に可愛いハニーを閉じ込めて
甘い気分に浸っていた亜弥は、突然の怒鳴り声とズンズン迫る黒い影に
驚いて飛び上がる。
「ドナタもハルカもカナタもない!!
カオはカオリン! ここのリーダー! よろしくっ!」
「は、はあ…。
私は松…松田サヤです。
高校生です。よろしくお願いします」
なにやら全身黒服で妙なテンションのカオリンと名乗る目の大きな女性は
亜弥にとって脅威以外の何物でもない。
勢いに押されて挨拶しつつ、亜弥はしっかり偽名を名乗った。
「ふん。松田屋さんね。
石川、ココセイって何?」
「違いますよ、高校生。こっちで言うハイスクール暗黒組の子です」
「へえ」
- 801 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:37
-
……高校生を知らない?
ていうか偽名だから別にいいけど松田屋って…。
「さ」だけどこに行ったんだとツッコみたいが、声にはしない。
しかけた時、リーダー(わあ、美人)がズズイと顔を近づけて来たからだ。
「で、どうやってここに来たの?
松田屋さんは地上の子でしょ?
ここってそんな簡単に堕ちて来ていい場所じゃないワケ」
「…地上?」
美人なら少しは安心かと言われればイイエ全く。
亜弥はハッキリ怯えながらも、怒らせないように唯一の短所を克服して
リーダーの話をしっかり聞いた。聞いたら何か変だった。
え……やっぱここって、地獄とか魔界とかそういう系?
さっき暗黒とか言ってたし。
「あ、あのね。ここは普段、松田屋さんがいる所と違ってね?
松田屋さん、誰かに連れて来てもらったと思うんだけど」
- 802 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:38
-
亜弥の顔から、スッと血の気が引いていくのに気付いたのか
デビルって事は悪魔系なのかもしれないリーダーの隣の
石川と呼ばれていた服以外も若干黒いヒト(…じゃないかも)が
慌てた様子で近づいて来た。なぜか淡く頬を染め、どこか照れた様子で。
「今は1人みたいだけど、さっきまで誰かと一緒だったんじゃない?」
「…ああ、えっと、早乙女先輩です。
同じ学校の先輩なんですけど」
なんでこんな恥ずかしそうなのかわからないが
石川は優しそうなので素直に答える。
だけど答えたところで、悪魔系のヒトが早乙女先輩を知るワケ…
「サオトメ?
さ、早乙女って真希ちゃんぅ?!」
「ふぇ?」
なくはないらしい。
何気に尖ったアゴの上から甲高い声が放たれると
リーダーが少々厚めの唇から舌を覗かせて悔しげに吼えた。
- 803 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:38
-
「ちくしょう! カオが吹っ飛ばされてる時だな!
舐めやがって! 舐めまくりやがって! サタンの名において絶対に舐め返す!
顔中ベッタベタになるまで舐め返してやる!!」
「待って下さいカオタン!
ホントに舐めたらただのセクハラですよお!」
「うっさい石川! カオリンだっつの!」
「…あのー…」
ここはどこですかとか、藤本先輩みたいに早乙女先輩の名前を
親しげに呼ぶって事はお友達なんですかとか、
こっちも質問したいなー…なんて思うんですけど。
「…っぅん、んん?」
「ほょ? 先輩? 大丈夫ですか?!」
「ハッ! そうだった美貴ちゃん!」
思うものの、言い争いのバカさ加減に呆れていた亜弥の腕の中で
スーピー鼻を鳴らして気絶していた藤本の瞼がピクッと動いた。
すると突然、石川が今までスッカリ忘れていた事を高らかに宣言しながら
妙に親しげに可愛い顔に接近してきたので、亜弥の目が鋭く光る。
てめえ、近えよ。
- 804 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:38
-
「…梨華ちゃんの声、耳痛い」
「えっ…、もお、美貴ちゃんった…らっ、アタタ!
や、やめて! 何するの松田屋さん!」
何もカニもない。
可愛い顔が迷惑そうに歪んでるし。
文句でも可愛い声に最初に呼ばれるのは私の名前じゃなきゃおかしいでしょ。
てか何照れ臭そうに可愛いほっぺ触っちゃってんの。
そんなの見たら手が勝手に動くじゃん。
だって誰にも渡したくないから。
あの星の夜。奇跡の下で。
生まれて初めてそう思ったから。
だから私は全力で、あなたのアゴを、掴んで捻る。
「アハハ! 梨華ちゃん面白い顔!
てか松田屋って誰だよっ…………っ……………………んなあっ!?」
「 お そ い 」
オメメが落ちそうな藤本に、亜弥は冷えた声でにっこり笑う。
捻る力はそのままに。
「わわわわななななああああっ!?!」
- 805 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:39
-
あらやだ。ビックリした顔まで、なんでそんなに可愛いの。
その可愛さに免じて石川は解放してあげる。
「…っあ、亜弥ちゃん……なんでっ…」
「なんでじゃないよ。
どうして教えてくれなかったの?
ハナカミンさんは先輩だって」
「っ!?」
そうだよ、教えてくれれば、もっと早く仲良くなれたし。
2つの想いに悩まされる事もなかったのに。
不満たっぷりにベルトを指差すと
藤本は怪我をしているとは思えない速さで亜弥から離れ、細い腕でロゴを隠す。
それは遅過ぎる行為だったが、あまりにも深刻な藤本の表情に
亜弥は自分が物凄くマズイ発言をしたらしいと気付いて
涙目でアゴを擦っている石川に視線で訊ねた。
「…あ、えーっと、やっぱり松田屋さんは
美貴ちゃんの知り合いなのね?
ええっと、ちょっと長いけど説明すると、ここは都球の暗黒っぽい面なの。
別に怖いトコじゃないよ? ただ都球にはこういう場所もあるの。
で、亜弥ちゃんが普段いる場所は地上って呼ばれてる」
- 806 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:40
-
ああ、それでさっき…。
暗黒っぽいとか言われても、正直戸惑う。
だが、ここがやっぱり未知の場所だという事は納得出来た。
「私は前は地上にいて、美貴ちゃんと同じクラスだったの。
真希ちゃんは後輩だったけど仲が良くて、いつも3人で遊んでた。
それで、まあ、色々あって、私と美貴ちゃんは偶然同じ運命っていうか」
「………」
話の腰を折りたくないので黙っているが
同じ運命という言葉の甘美な響きに、亜弥の眉がひん曲がる。
「簡単に言うと、同じ仕事をする事になって。
でもそれは誰でも出来るワケじゃない特別なモノで。
その仕事をしてる事は、地上の人にはバレちゃいけない決まりなの」
「えっ…」
つまり、その仕事は正義の味方で。
その正体を亜弥が知ってしまったのは…………
「どのぐらいマズイんですか?」
「うーん…正直、相当マズイ」
「えええっ!? どうしよう先輩!!
あ! そうだ頭殴って!
ここ1時間あたりの事を綺麗にズバッと忘れるくらい!」
- 807 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:40
- 無理っぽいのはわかってるけど、それしか思いつかない。
亜弥は自分から離れて蹲っている藤本に駆け寄って頭を差し出す。
けれどいつまで経っても衝撃は訪れず、代わりに
柔らかい吐息が髪を揺らした。
「何バカな事やってんの。
まあ、バレちゃったもんはしょーがないよね」
「え、でも相当マズイんでしょ?」
「マズくても亜弥ちゃん殴りたくないし」
ド、ドキーンッ。
そんな風に微笑まれたら、ときめくのが世の常です。
例えアフロが相手でも。ポワワ。
可愛い笑顔の次は凛とした顔を見せられて
亜弥は事の深刻さを把握しないまま、ポワポワと昇天した。
「で、でも美貴ちゃん…」
「いいって」
「………」
そんな亜弥を横目に、石川は心配そうに藤本を見るが
ヤケにスッキリした表情で首を振られてしまう。
- 808 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:41
-
「とりあえずここ、なんとかしなきゃっしょ?
ごっちんはどこにいんの?
イイダさんはまだ待機してるワケ?」
高校で机を並べていた時は、石川の方がお姉さんだったのに。
頭を撫でてあげるのは、石川だったのに。
諭すような手の平に、熱くなる目から
大きな涙が少しだけ零れた。
「…そうだけど…、わかった。
ごっちんは近くに潜んでるみた……アレ? カオタン?
なっ、さっきまでここにいたのに!!」
が、泣いている場合じゃない。
藤本の気持ちに応える為にも…と張り切ったところでリーダーがいない。
「見ぃーつけたあ!!」
と、辺りを見回して、ポワポワしたまま上の空の亜弥の肩の向こうに。
「んがあああああああっ!!?」
「グルァ! 動くなカミナリバカ!!」
雷の塊と、ビリビリも気にせず塊に手を突っ込んで口を大きく開け舌を出し
今まさにサタンの名において舐め返そうとしているリーダーの姿があった。
- 809 名前:昇天。 投稿日:2007/04/12(木) 21:42
-
- 810 名前:名無しのЛ 投稿日:2007/04/12(木) 21:48
-
次で必ずとか言っといて申し訳ございません。
恥ずかしいので落とします。
こんな阿呆にレスありがとうございます。
- 811 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/13(金) 02:58
- うはぁ
まだまだ楽しめるのですね!!イイヨイイヨ(・∀・)
後日談とか番外編の用意してくれちゃってもイイヨイイヨ(・∀・)
- 812 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/13(金) 09:37
- 川VvV) <うm 苦しゅうないぞ マターリ仕上げよ
- 813 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/13(金) 09:47
- 更新されてる
作者さんのペースで続けてくださいー
長引くのに関してはむしろウェルカムですw
- 814 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/13(金) 22:15
- 感謝の気持ちです。
川VvV)っ ツンツン
- 815 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/04/22(日) 01:25
- 面白いのでもっともっと見たいです
从*‘ 。‘)つツンツン
- 816 名前:ななしJ 投稿日:2007/04/23(月) 13:03
- あやみきとメロンさんが素敵すぎます。大好きです。
クンクン
- 817 名前:ななしJ 投稿日:2007/04/23(月) 13:04
- スイマセン…orz
- 818 名前:名無しメガネ 投稿日:2007/05/05(土) 01:01
- 初めて見たんだけど面白い!!
次も楽しみに待ってます。
- 819 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/20(日) 21:38
- 面白いーーー!
作者さんがんばってくださいー
- 820 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/13(水) 16:45
- 待ってますよ!
- 821 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/10(火) 03:28
- 作者さんの小説が大好きです
更新まってます
- 822 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/11(水) 13:14
- ま、まだかな・・・
川VvV)っ ツンツン
- 823 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/26(木) 09:52
- お待ちしてます!
- 824 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/01(土) 00:37
- まだかなあ・・・
- 825 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/19(水) 21:35
- 作者さんマジでお願い
君はもう書かないかも知れないから
早く続きが読みたいとかは頼まない
でもこのスレをまだ見てるなら
少しでもいいからなんかのコメントでもしてくれよ
まだ俺みたいに君のおもしろい小説読みたい人のためにでもな
へたな長文でスマソ
- 826 名前:名無しのЛ 投稿日:2007/09/26(水) 14:21
- 御無沙汰して申し訳ございません。
あと一歩というところでお待たせしてしまいまして心苦しいのですが、
PCが逝きました。
こんな不束者の駄文をお待ち下さって有り難い事この上ないのですが、
まだ復旧しておりませんので、いつ更新出来るかわかりません。
本当に申し訳ないです。
- 827 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/26(水) 16:30
- あららら
いつまでもお待ちしております
- 828 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/26(水) 23:30
- それでも待つよおいらは
- 829 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/31(水) 00:11
- いつまでも待ちます!
作者様のPC早く戻ってこーい。
- 830 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/12/07(金) 00:38
- これは放置プレイですか?(笑)
作者様のイジワルー
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