微妙な距離
- 1 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 16:45
- はじめて書かさせていただきます。
あいみきでいきたいと思います。
- 2 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 16:46
- <br>当たり前だと思っていたことが、実はそうじゃなかったことってありませんか?<br>
自分の中の常識が世間一般から見れば少しずれている、みたいな。<br>
私の場合……<br><br>
- 3 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 16:47
- 日本晴れ。
そんな言葉がぴったりなぐらい晴れ渡っている。
私は目を細めて外を眺めていた。
窓の外は見慣れた景色が流れていく。
歩道の端に植えられた木々も葉が色づきはじめていて、そろそろ落ち葉の絨毯を作る頃だろう。
車内は学生で溢れかえっていた。
昨日のドラマの話やら誰かの悪口など、様々な会話が飛び交っている。
聞き耳を立ててるわけではないが、嫌でも耳に入ってきてしまう。
- 4 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 16:48
- 私の家はバスターミナルの近くにあり、始発なので余裕で座ることができる。
毎朝、こんなに込み合ったバスに揺られなければいけなかったとしたら私はきっと遅刻の常習犯になっていたのでは、と思う。
目的地を告げるアナウンスが車内に響き渡った。
こういう時はみんな、誰かがやってくれるだろう、と他人任せになる事が多く、バス停の近くにならないとボタンを押さない。
これが集団心理というものなのだろうか。
その例に漏れることなく、私もボタンを押したことは今まで一度もない。
その日はいつになくみんなが粘り、バス停の十メートル手前ぐらいでやっと誰かがボタンを押した。
- 5 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 16:49
- 校門まで続く道は途中にある地下鉄の駅から学生の数が何倍にもなる。
上空から見下ろせば、まるで蟻の行列が行進しているように見えるのではないだろうか。
そんな事を考えながら歩いていると、制服の袖が引っ張られているような気がしたので何気なく振り返った。
そこにはあさ美の姿があった。
「あさ美ちゃんか。誰かと思ったよ」
「おはよう、愛ちゃん。何か考え事?」
「何で?」
「呼んでも全然気付いてくれなかったじゃん」
「ううん。別に何でもないよ」
「ふーん。じゃあ、いいんだけど」
「それにしても、あさ美ちゃん今日は遅いんだね」
「だって、今日は社会のテストだから昨日ちょっと遅くまで勉強してたんだ」
- 6 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 16:49
- やばい……
テストの事なんてすっかり忘れてた・・・
「もしかして、愛ちゃん忘れてたなんて事ないよね?」
「……図星です」
「やっぱりね」
そう言うと、あさ美は鞄の中を探り出した。
「はい、これ」
あさ美から差し出された一枚の紙を受け取った。
「要点は抑えてるはずだから、それ覚えたら何とかなると思うよ」
「ありがとー。でも、あさ美ちゃんは大丈夫なの?」
「多分ね」
「さすが天才あさ美ちゃん!」
「そんなんじゃないってば・・・」
- 7 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 16:50
- 二時間目の始まりを告げるチャイムが鳴った。
「あさ美ちゃんのおかげで何とかなりそうだよ。ほんとにありがとね」
「いいってば。お互い良い点取れるようにがんばろ」
そう言って自分の席に戻っていった。
あさ美ちゃんは本当に頭が良い。
私なんて全く相手にならないぐらいだ。
それなのに、その事をひけらかすわけでもなくて。
テスト用紙を配り終わり、飯田先生の「じゃあ、始め」を合図にテスト用紙を引っくり返す音が一斉に響いた。
あさ美ちゃんの予想はほとんど当たっていた。
一時間目の英語の授業を丸々暗記に費やしたおかげで、私はすらすらと空欄を埋めることができた。
- 8 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:52
- 「助かったー。流石、あさ美ちゃん。覚えたとこほとんど出たよ」
「じゃあさ、私のお願い聞いてくれる?」
「何よ」
まあ、私もそれなりにあさ美ちゃんとは付き合いがあるので察しはつく。
「パン奢ってー」
やっぱり。
あさ美はとんでもなく食いしん坊だ。
見た目は女の私から見てもスタイルいいなと思わせるぐらいなのに、食べる量はハンパじゃない。
一体、彼女の胃はどうなっているのだと疑問に思った事は、それりゃ一度や二度じゃない。
「分かった分かった。昼休みになったらダッシュで買いに行こう」
「今だよ」
「へっ?」
「今、食べたいの」
「だって、まだ二時間目終ったところだよ」
「知ってるよ」
そう言うと、立ち上がり満面の笑みで私を覗き込んできた。
「しょうがないなぁ」
全く、あさ美ちゃんの笑顔には敵わないよ。
「行こっか」
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/08(火) 16:54
- さっきのテストの話なんかをしながら階段を下りていた。
その時。
「あっ、藤本センパーイ」
隣のあさ美ちゃんを見ながら話していた私は、いきなりの大声に驚いた。
あさ美ちゃんが駆け下りていった先には藤本美貴がいた。
高校に入って一番最初に仲良くなったあさ美ちゃん。
ゴールデンウィーク前ぐらいに彼女から紹介されたのが中学の頃の先輩だという藤本美貴だった。
私はいつの間にか手を握りしめていて、その手が少し汗ばんでいるのに気付いた。
- 10 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:55
- 「おっ、あさ美どうしたの?」
「愛ちゃんにパン買ってもらうんです」
あさ美は私を指差して言った。
あさ美の指差した方を見た美貴と美貴を見ていた私の視線が交わった。
私はとっさに視線を外した。
「何やってんの愛ちゃん?」
あさ美が手招きして呼んでいる。
私は少し俯き加減で階段を下りていった。
「こんにちは」
「……こんにちは」
私は美貴の顔を見れないでいた。
- 11 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:56
- 「センパイは何してるんですか?」
「ん? これから保健室」
「どこか具合悪いんですか?」
「そんな風に見える?」
そこであさ美は何かに気付いたようだ。
「またサボりですかぁ?」
ほっぺたを膨らませて言った。
「まぁまぁ。せっかくのかわいい顔が台無しになっちゃうでしょ」
そう言うと、美貴は両手であさ美のほっぺたを挟んだ。
たこみたいに尖らせていたあさ美の口からは、ぷすぅと音をたてて空気が漏れた。
- 12 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:57
- 「ふざけないでくださいよ。いいんですか? サボったりなんかして」
からかわれたのが気に入らなかったのか、あさ美は少し強い口調だ。
「ゲームやってたらやめられなくなっちゃってさ、気付いたら外明るくなってんの。ちょっとびびっちゃったけど、まぁいっか、って感じでそのまま学校来たけどやっぱ眠くて。だから、家に帰って寝るの」
「寝るの、って……。もう、勝手にしてくださいよ」
そう言うと、あさ美は私の腕を掴んでぐいっと引っ張った。
「行こう、愛ちゃん」
「う、うん」
私はされるがままにあさ美の後に続いた。
「またねー」
後ろから陽気な美貴の声が聞こえた。
あさ美は振り返る気配がなかったので、私もそうした。
- 13 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:57
- 「あっ、これもおいしそう。やっぱりこっちにしようかなぁ。でも、これも捨てがたいよなぁ」
あさ美はしゃがみこんで商品棚に噛り付いていた。
昼休みになると混み合う購買だが、二時間目が終った今はほとんど人がいない。
混雑を避けるために早めに来る人もいるが、次の授業の用意や移動などがあるため、やはりみんな昼休みに来るのである。
上の階から一年、二年、三年となっている学校の構成上、一年はとても不利だ。
四階から一階と二階から一階じゃ勝負にもならない。
後から来て上級生の中を掻き分けて買うなんてのも少々気が引けるし……
だから、一年生はほとんどの人がお弁当を持ってきている。
私も数える程しか購買を利用したことがない。
- 14 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:58
- それにしてもいつまで悩んでいるのだろうか……
「あさ美ちゃん、早く決めなよ。休み時間終っちゃうよ」
「もーう、先輩が邪魔するからいけないんだよ」
なんてつぶやきながら、最終候補に残った焼きそばパンとカレーパンを交互に見て困った顔をしている。
こりゃ、ほっとけばいつまでも続くな……
「じゃあ、その二つでいいよ」
「でも……」
「いつもあさ美ちゃんにはお世話になってんだからさ、遠慮なんてしなくていいってば」
普段でも大きいあさ美の目がさらに見開かれ、輝きを増したように私には見えた。
「ほんとにー!」
- 15 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:58
- 周りが静かなだけにあさ美の声は余計に響いた。
私は口の前に人差し指を立てた。
「もう、大声出しすぎだってば」
「ごめん……」
舌先をちらっと見せて、照れるように笑った。
あさ美は持っていたパンを購買のおばさんに渡した。
「二百三十円だね」
財布を開いてみると小銭がほとんどなかった。
最後のお札なので使いたくなかったけれどしょうがない。
私は千円札と三十円で支払うことにした。
お釣りの八百円と財布の中の二十七円が今の私の全財産というわけだ。
シールを貼ってもらったパンをおばさんから受け取りあさ美に渡した。
「ありがとー」
もう、これ程の笑顔があるのかというぐらいの満面の笑みであさ美は言った。
「こちらこそ、ありがと。また、何かあったらよろしくね」
「うん」
- 16 名前:_ 投稿日:2005/03/08(火) 16:59
- 「あんたたち」
私とあさ美は同時におばさんに視線を移した。
おばさんは何かを指差しているようだ。
おばさんの指差している方を見ると時計があった。
気付いたのと同時にチャイムが鳴り始めた。
「あさ美ちゃん、急がないと!」
私たちは一気に駆け出した。
「次、何だっけ?」
「えっと……国語。中澤先生だ!」
「やばい! 急げ!」
普段、滅多にやらない二段飛ばしで駆け上がった。
先生が遅れていることを願いながら。
- 17 名前:フィル 投稿日:2005/03/08(火) 17:04
- こんな感じです。
最初とか名前欄とか、失敗しちゃいました・・・
これからは気をつけます。
- 18 名前:マカロニ 投稿日:2005/03/09(水) 22:23
- 紺ちゃんいいキャラですね〜続き気になるんで頑張ってください
>^_^<
- 19 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:33
-
「威圧感ありすぎなんだよ、中澤先生は」
そう言いながらもあさ美は笑顔だ。
右手に焼きそばパン、左手にカレーパンを持って交互に口に運んでいる。
- 20 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:38
-
私たちの願いもむなしく教室の扉を開くと中澤先生が教卓の前で腕を組んで立っていた。
「あんたたち、どこ行っとたんや?」
どすの利いた関西弁と突き刺すような鋭い目。
何か言い訳を、と考えてみるが教室中の視線と中澤先生を目の前にしたこの状況ではどうしても頭がこんがらがってしまう。
頬を伝っていく汗が冷や汗なのか、それとも階段を急いで駆け上がったせいなのかも判断がつかなかった。
「あのー、ちょっと私お腹痛くて」
横目で隣のあさ美を見ると、苦しそうな顔で少し前かがみになりお腹をおさえていた。
「それで高橋さんに保健室付き添ってもらったんです」
「もう大丈夫なんか?」
「はい」
「ほな、しゃーないなぁ。はよ座り」
「はい」
よく意味が分からず私は言われるがままに席に着こうとした。
その時、同じく席に着こうとしていたあさ美と目が合った。
あさ美は先生から死角になっている左目でウインクをした。
やっと、そこで気が付いた。
- 21 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:39
- 「さっきのあさ美ちゃんは演技賞ものだったよ」
「いえいえ」
それにしても、食べているときのあさ美ちゃんは本当に幸せそうだ。
「愛ちゃんも食べる?」と聞かれたが、私には彼女の幸せを奪う気にはなれなかった。
「はー、おいしかった。ごちそうさま」
あさ美は両手を合わせてお辞儀をした。
「あーあ、もっとまともな嘘思いつかなかったかなぁ」
指を鳴らす仕草をしながら言った。
どうやらあさ美は鳴らせないようだ。
「何で? 凄く良かったと思うけど。中澤先生も気付いてなかったみたいだし」
「だって、あれじゃ先輩と一緒じゃん。なんか、悔しいもん」
そう言うと、少し唇を尖らせた。
- 22 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:39
-
あさ美と美貴は中学の陸上部の先輩、後輩という関係だと聞いた。
美貴は短距離の選手で、その分野では結構有名だったようだ。
今でも中学三年の頃に美貴が樹立した市の記録は塗り替えられていない、とあさ美が言っていた。
そんな美貴が高校に入った途端、陸上を辞めた。
理由はあさ美にも分からないようだ。
何度も聞きだそうとしても結局は誤魔化されてしまうらしい。
あさ美はというと、見学に行ってみたものの、見るからに厳しそうな練習についていく自信がないという事で陸上部には入らなかった。
- 23 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:40
- 放課後、私はCDが欲しいというあさ美について行くことにした。
学校から十分ぐらい歩けば繁華街に出るので寄り道する生徒が多い。
若者が行くようなお店では、大体の確立で同じ制服とすれ違う。
お目当てのCDを手に入れ、機嫌のいいあさ美に「カラオケでも行こうよ」と誘われたがやんわりと断った。
「じゃあ、また明日ね」
「うん。バイバーイ」
あさ美と別れた私は財布の中身を思い出し、思わず溜息を漏らしてしまった。
- 24 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:40
- 八百二十七円か……
バイトでもしようかなぁ。
そんな事を考えながら歩いていると、目の前の信号がちょうど赤になった。
バイトっていっても十六歳なら結構限られてしまいそうだ。
何気なく横を見るとコンビニがあった。
コンビニとか私にはむいてないんだろうなぁ。
そうだ、情報誌でも見てみよう。
- 25 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:41
- 私はコンビニのドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
レジに立っている店員が威勢のいい声で私を迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
もう一人の声が少し間を置いて、トイレのあたりから聞こえた。
店内に響いているのは、さっきあさ美が買ったCDだった。
本棚に積まれていたアルバイト情報誌を手にとった。
こうやって見てみると色々な種類のアルバイトがあるが、やはり十六歳となるとファーストフードやコンビニなんかが中心だ。
新聞配達も気になったけど、朝早いのはちょっと…
情報誌を食い入るように見ていた私は、背後に迫っていた気配に気付いていなかった。
- 26 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:42
- 「すいません、立ち読みは困るんですけど」
ドキッっとして咄嗟に情報誌を閉じた。
「すいませんでした」
そう言いながら振り返った私には二度目のサプライズが待っていた。
「ヨッ!」
そこにはモップ片手に仁王立ちの美貴がいた。
こんな状況なんて全く想定していなかった私は催眠術でもかけられたかのようにピクリとも動けないでいた。
「ここまでビックリしてくれると驚かし甲斐があるってもんだね」
そう言うと白い歯を見せながら笑った。
「バイト探してるの?」
「えぇ……まぁ……」
「じゃあさ、ちょっと待っててよ」
そう言うと美貴はモップを私に向けて差し出した。
あまりの勢いに私は何も言えずに、ただ受け取るだけだった。
美貴はレジの奥に消えていった。
私は無意識のうちに深呼吸をしていた。
店内に響いているだろう音楽は私の耳にはこれっぽっちも届いていない。
いつもよりスピードを増した鼓動だけを感じていた。
- 27 名前:_ 投稿日:2005/03/17(木) 17:42
- 程なくして戻ってきた美貴は、さっきと同じ格好のままの私を見て「ごめーん、お待たせー」と言って笑った。
「愛ちゃんさ、バイト探してるんならここで働きなよ」
「へっ?」
「最近、一人辞めちゃってさ。今なら私から店長に言えば大丈夫だと思うよ」
「む、無理ですよ、私には」
「んなことないって。私が教えてあげるから」
「でも……」
「大丈夫だって。あ、いらっしゃいませ」
いつの間にか無人になっていたレジにお客さんが並ぼうとしていた。
「それじゃ、あとでメール送るから」
早口で言うと私の肩をポンと叩いて足早でレジに向かっていった。
「お待たせしました」と一礼をした美貴は値段を読み上げながらバーコードを読み取り始めた。
邪魔しちゃいけないな、と思い私はコンビニを後にすることにした。
扉を開ける時に一瞬だけ見た美貴の横顔が、今までに見たことのないようなマジメな顔で思わず胸が高鳴った。
私はそれを誤魔化すようにピッ、ピッ、という機械音を背に足早にコンビニを後にした。
- 28 名前:フィル 投稿日:2005/03/17(木) 17:48
- 少ないですが更新しました。
マカロニさん
ちょくちょく更新していくつもりなので
お付き合いしていただければ幸いです。
- 29 名前:ひろ〜し〜 投稿日:2005/04/04(月) 01:06
- 私の好きなカップリングです。
これからの藤本さんと愛ちゃんの行動が気になります。
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