冬と春の間に。

1 名前:オニオン 投稿日:2005/03/12(土) 21:11


出逢いには百万通りの形がある。

2 名前:めぐ。 投稿日:2005/03/12(土) 21:12
はじめまして。
寒いこの季節、せめて心だけでも温かくならないかなと思い、彼女さんを募集させて頂く事にしました。
[私の事]
■都内住みの23歳
■160cmの痩せ型
■煙草・お酒×
■Aセク・リバ
外見・年齢等は問いません。
私はAセクなので彼女さん募集と言っても精神的な事になるのですが。
私を一番大切に思ってくれる方、私に一番大切に思わせてくれる方を求めています。
気になった方、メールから始めてみませんか?
3 名前:- 投稿日:2005/03/12(土) 21:13
出会い系サイト。
それはネット上に数え切れない程存在し、数え切れない程の恋が交じり合い、すれ違う。
恋に堕ちるのが運命なら、こんな手段を使わなくても出逢う事なんて出来るはず。
そう思っていたはずなのに、と中澤は思う。
だから当然、当事者になるつもりなどあるはずもなく、ただ、「切実に」「恋がしたい」「運命の人と」なんて言葉を並べる彼女達の見え

隠れする本心を見つけたりして、なんだかなぁと思うのが日課のようなものだった。

あくまで、傍観者のはずだった。
けれど今日見たこの書き込みに中澤は釘付けになってしまっていた。
正確に言うと、そこに貼り付けられてた写メに映る彼女の、つまらなそうな笑顔に見とれていた。
4 名前:- 投稿日:2005/03/12(土) 21:13
淀む空を気にしながらいつものように電車に乗り込む。
ぎゅうぎゅう詰めの満員電車の中で新聞広げてるサラリーマンに、黙々とメールを打っている女子高生。
それぞれが自分なりの時間の使い方を知っていて、中澤もいつもなら文庫本のひとつでも広げてるところなのだが。
外との温度差で曇った窓に、昨日見た彼女の顔が浮かんでくるのだから、困った。

どこかで目にした事があった。
Aセクの人は「同性愛者」というくくりにも「ノンセクシャル」というくくりにも入る事は出来ない。
世間的にはそのどちらよりも認知度が低く、自分がAセクという事にも気付かないままでいる人が多い。
その反面、自分はAセクと認めている人はそれをなかなか理解して貰えずに悩んでいる、と。
彼女の笑顔の儚さは、そのどれかが要因なのだろうか。
そんな事を思っていた。
5 名前:- 投稿日:2005/03/12(土) 21:13

覚醒剤に嵌ると、こんな感じになるのだろうか。

中澤は仕事を終え帰宅すると毎日のようにパソコンの電源を入れ、あの掲示板にいるあの子の微笑みを眺めていた。
何をどうするって訳でもなくただ、眺めていた。

6 名前:- 投稿日:2005/03/12(土) 21:14



小さな依存症。
小さな好奇心。
小さな好意。
小さな、勇気―――?

7 名前:- 投稿日:2005/03/12(土) 21:14
あっという間もなく飲み込まれてしまっていた。

躊躇いや打算や後ろめたさ。
もう戻れなくなりそうな気がしたり、この子の事だけ今回だけとも思う。
こういうのが魔力なのだろう。
目の前に好みの、或いは理想の人物がいるというのに、何もするなというのは無理な話で。
例えばその人が誰かと恋仲になったとしてもそれを知る術はない。
当事者にならない限り、知り得ない。
極端な話、嫉妬する事も横恋慕する事もあり得ない。

多少でも実際に交流のある人ならどこかで耳にする事はあるかもしれないけれど、そうではない。
本当なのか罠なのか、そんな事を読み取る事なんて出来なくても、自分から接触しなければ何も始まらない。
中澤は彼女を知ってしまったけれど、彼女はまだ、中澤を知らないのだから。

それが全て。
それが全てだった、きっと。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 15:19
オニオンさんの作品を見つけたことがただでさえ嬉しいのに
これまたおもしろそうな話ですごく楽しみです
9 名前:- 投稿日:2005/03/18(金) 20:11
001     2/03 20:28
[Fr]xxxx-xxx@xxx.ne.jp
[Sb]GMG掲示板
――――――――――――
めぐ。さん
はじめまして。ゆうこと言
います。
数日前に掲示板を見たので
すが、何かずっと頭に残っ
ていると言うか、簡単に言
うと気になって仕方ないと
いう感じで、メールする事
にしました。
自己紹介をしておきます。
東京住みの31歳。
仕事は普通のOLです。
セクはリバネコ。
158cmの普通体型。
煙草は数年前に卒業。
お酒は嗜みます。
元々は関西の人間で、10年
程前から都民。
外見は普通に女です。
興味を持って貰えたら返信
してくれると嬉しいです。
10 名前:- 投稿日:2005/03/18(金) 20:12

物事の始まりはいつも思いがけないタイミングでやってくると誰かが言っていたのを思い出した。
まるでその言葉に倣うようにして村田の元に一通のメールが届いたのは、あの書き込みから一週間以上が経った日の夜だった。

何度か募集をして分かっていた事。
Aセクである自分にメールを出そうなんて人はどこの掲示板に行こうとほぼ皆無なのだと。
だから期待などしていなかったのに。
けれど忘れかけていた頃に、メールは届いた。
11 名前:- 投稿日:2005/03/18(金) 20:12
大抵、村田にメールを送るのは、恋だの愛だのなんてよく分かっていないような女子校在学中の学生さんか、同じAセクの人のどちらかと相場は決まっていた。
けれど文脈から受ける印象ではこのメールの差出人はそのどちらでもないように思えた。
村田は、彼女が何故自分に興味を抱いたんだろうという事に少し興味が沸いた。

彼女の名前とアドレスを新規登録してそれから、返信ボタンを押す。

冷やかしだったなら適当に切ればいいだけ。
不純なのはどちらも同じはずなのだから。
いつもそう思いながらメールを返す。
なのに村田の右手は一文字も打たないまま、クリアボタンに伸ばされた。

ケータイを閉じてソファーに沈むと、何だか凄くめんどくさく感じられて溜め息をついた。
何が、というより、何もかもが。
それは、予感なのだろうか。
これから先のいつか、途轍もなくめんどくさいこと、言い換えれば、人間らしいことの渦中にいるのだという事の。
12 名前:- 投稿日:2005/03/18(金) 20:12

目を閉じて目蓋の中で振り払う。
彼女の名前を。


私は他人に期待をしちゃいけないヒトだから。
きっと彼女もそのうちに消えてしまう。
私と距離を取りながら、少しずつ少しずつ遠ざかっていつの間にかいなくなってしまうんだ。

もうそんなことはごめんだ。
もう、ごめんだ。


蹲るように膝を抱えながら、そう思った。
13 名前:オニオン 投稿日:2005/03/18(金) 20:15
>8
有難う御座います。
設定オチと言われないよう頑張ります…。
14 名前:ケロポン 投稿日:2005/03/20(日) 22:34
新スレおめでとうございます。やっぱり良い感じです。
こんな設定初めてですぐに惹かれていきました。楽しみにしちゃいます。
15 名前:- 投稿日:2005/03/26(土) 19:45
いつの間にか眠りに堕ちていたらしく、村田が目を覚ますと、窓の外で微かにスズメの囀りが聞こえていた。
自分の体温と溶け合っていたせいで生暖かい熱を持ったソファーから体を起こす。
カーテンから外を覗く。
まだ全然街は明けていない。
テレビをつけると、砂嵐、通販、それからニュースが始まったところだった。
表示されている時刻は四時十二分。

いつ以来だろうか。
こんなに早く目覚めてしまうのは。
普段ならばほんの二時間前くらいまで起きている事の方が多いのに。

「参ったなぁ…」

村田の、朝早くから活動するという行為に関する引き出しは、ほぼ空っぽに等しい。

とりあえず冷蔵庫からペットボトルのミネラルウォーターを取り、ソファーへと引き返す。

昨夜からテーブルに散らかしたままのレポート用紙を無造作に手に取る。
相変わらず、自分の創り出す言葉をあまり好きにはなれない。
16 名前:- 投稿日:2005/03/26(土) 19:45
村田は自覚している。
物作りをする者として自分には絶望的に足りないものがあるのだという事を。

「…分からないよ。愛してるだなんてさぁ」

大切と愛してるが別物なら、村田の中に愛してるという感情はない。
もうそれを自分の中に求めるのはとっくに諦めたつもりだ。
きっと今更、見つかりましたよ、なんて言われてもそれはそれで困るのだが。

この用紙の中に並ぶ自分の言葉が全て、ひとつ残らず嘘偽りなんだと感じてしまう。
自分に感情を詠う資格なんてあるのか?と思ってしまう。

――むらっちは、ずっと詩、書いててよ――
17 名前:- 投稿日:2005/03/26(土) 19:46
いつも。いつも。
こんな時思い出すのは彼女の事ばかりだ。

いつも。いつも。
こんな時そんな風に笑ってくれたのは彼女だけだ。

大切と愛してるが別物なら、村田の中に愛してるなんて感情はないけれど。
それでも彼女を大切だと思った。
愛してる、がない感情の中で、彼女への想いが最上級だった。
それを思い出させてくる。

彼女を思い出す時、いつも心の中には温かい気持ちで溢れていくけれど。
いつも最後に残るものは酷く冷めた想いだった。

何故、彼女はここにはいないのだろう。
何故、あんなにも大切だったのに、彼女はどこにもいないんだろう。
18 名前:- 投稿日:2005/03/26(土) 19:46
ペットボトルを飲み干して、テレビの時計を確認する。
まだあれから一時間程しか経っていないけれど。
立ち上がって出掛ける準備を始める。

ここにいては、ここにいないはずの彼女に呑み込まれてしまうのも時間の問題だ。
そうなる訳には行かない。

折角いつもと違う今日が始まったのだから。
そう簡単に呑み込まれてしまう訳にはいかない。
19 名前:オニオン 投稿日:2005/03/26(土) 19:47
>>14
有難う御座います。
最後まで楽しんでもらえるよう頑張ります。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/29(火) 23:07
孤独な人たちの雰囲気が好きだ
21 名前:- 投稿日:2005/04/02(土) 18:42
灰色がかった空と、それと同じような色をしているような空気の中を歩いていた。
右手を押し込んだコートのポケットには鍵と財布とケータイ。
左手にぶつかるのは入れっぱなしにしてある小さなメモ帳とシャーペン、通称創作セット。

目的地は特には決まっていないけれどいつも、ぼんやりと歩いていると同じ公園に向かっていた。
路地裏を歩いていると見えてくる都営団地に隣接する小さな公園。
昼間は、はしゃぐ子供達の声で賑わっているのだろう。
けれど村田がここへやってくる時間は街も人も寝静まっている時間帯が多く、いつも風の音と時々遠吠えする犬の声がする以外は、自分の足音だけしか聞こえなかった。
22 名前:- 投稿日:2005/04/02(土) 18:42
今歩いてきた道と向き合うようにしてベンチに座る。
突っ込んだままだった左手をポケットから引っ張り出して、ついでに創作セットも取り出す。

「―創作とはなしえることではなく、湧き出てくるものである、か…。
 誰だっけなぁ…そーんな悠長なことを言ってたの」

メモ帳を開いて、昨日の自分の言葉を見返す。
大抵、一日日を置くと自分でがっかりするようなありふれた言葉しか綴られていなかったりして、落ち込む。
その時は、いい感じ、と思うのに。
創るって事は凄く難しい行為なんだと毎日のように実感する。

「――。
 むらっちはそういう仕事してる割に保守的なんだよ。だからそうやって落ち込んじゃうんじゃない?」

確かにそう聞こえたんだ。
違う、嘘。
彼女のせいにしたかっただけなんだ。
現状に刺激を求めているくせに何かを起こす勇気はなくて、いつも待ってる期待してる。誰かからの合図を。
23 名前:- 投稿日:2005/04/02(土) 18:43

「はー…。
 私も、人生の八割が好奇心で出来てたら良かったのに」

そう呟いて、苦笑した。
折角、彼女の事を考えるのを辞めようと家を出たはずなのに、頭の中には彼女の事で溢れている。
それも、いつもにも増して。
24 名前:- 投稿日:2005/04/02(土) 18:43

どうすれば君のいない世界へ行ける?
そう自問自答して、ケータイを開いた。

例えばこの人は、どこか新しい世界へと抜ける扉の鍵を持っているだろうか?
それは、訊いてみないと分からない。

「なら、訊いてみよぉじゃありませんか」


所詮は出会い系。
運命以外ははいさよならなのだから。
25 名前:オニオン 投稿日:2005/04/02(土) 18:44
>>20
有難う御座います
雰囲気のみで書いてるという噂も(ry
26 名前:ケロポン 投稿日:2005/05/07(土) 20:02
更新お待ちしております。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 04:11
待ってるよ
28 名前:- 投稿日:2005/05/30(月) 17:01
まるで朝の訪れを告げるように、午前六時丁度、メールが届いた。
まだパジャマ姿のままケータイを開いて、そこに表示された彼女の名前に、中澤は酷くほっとした。
「おはようございます」「今日も寒いですね」なんてありふれた言葉が並ぶだけのメールだったけれど。
そのどこにでもあるような言葉が嬉しかった。
これから始まるんだと、自分と彼女との日々が当たり前のように始まるんだと、そんな風に思えたから。
29 名前:- 投稿日:2005/05/30(月) 17:01
けれど、忘れてはいけない。
中澤と彼女とは別の生き物なのだ。
何かをひとつ間違えれば、きっと確実に彼女は顔を背ける。
中澤はまだ、彼女の目に映った訳ではない。
ただ、中澤裕子という人間を認識されただけに過ぎない。
留まれるか否かはまだ決まってはいないんだ。

そう自分に言い聞かせながら、返信ボタンを押す。


願う事はただひとつ。
またこのメールが折り返されてくる事ただひとつ。
30 名前:- 投稿日:2005/05/30(月) 17:01
長文・短文・ギャル文字・小文字・絵文字、好き嫌いが分かれそうな文章にならないように気を配る。
愛想はいらないが素っ気はいる。
並べているのは文字なのか感情なのか。
その答を出すには未だ早いだろうか。
そもそも自分はこの大で小な想いをたかが数行に込められる程語彙の多い人間だっただろうか。

彼女へのメールを書いている時、中澤の頭の中はパンクしそうな程フル回転していた。
こんなに気を使ってメールをする事は思い出す限り、今までの人生でなかったはずだ。

けれど、それくらいの事で彼女と繋がっていられるなら代償としては軽いくらいだとも思う。
31 名前:- 投稿日:2005/05/30(月) 17:01
村田からのメールを待っては折り返す日々。
他愛ないありふれた言葉達が何の熱も持たず静かに並ぶだけのメールを繰り返す。
人生三十年もやっていれば、平静を装う事くらいは難なく出来る。
けれどそれの代償として、心の一番深くのブラックホールへと投げ込んだ想いを、表に持って帰ってくる方法は忘れてしまったようだ。
送信を押しては溜め息ひとつ。

「会いたい」と言えば、全てが終わってしまうような気がしていた。
32 名前:オニオン 投稿日:2005/05/30(月) 17:05
>>26-27
大変お待たせしました。
もうちょいペース上げれるように精進します。
33 名前:ケロポン 投稿日:2005/05/30(月) 19:42
更新お疲れ様です。
どうぞマイペースで…
34 名前:- 投稿日:2005/06/01(水) 20:34
窓の外は雨だった。
昨日は太陽が頑張っていたっていうのに目が覚めるとその名残などなく、薄暗い空が窓を覗き込んでいた。
何がそんなに悲しいんだい?なんて平凡な発想は詩人失格。

「それともウガイ中?
 ……………センスないなぁ私…」

厚手のカーテンだけを開けて、ベッドの脇に腰を下ろす。
微かに窓を打つ雨音。
その粒が滑り落ちていく窓の方がよっぽど、さっきガラス越しに見上げた空よりも悲しそうに思えた。
悲しい、は言葉にしなくても顔を見れば分かる。それは人間だけに限った事ではないのだろう。
「楽しい」で「悲しい」を誤魔化す事は出来るけど、埋める事は出来ない。
それはつまり、君の代わりはいないという意味。
彼女に求めたものは、君の代わりではない。
君の代わりなどこの世界中を隈なく探したところで、どこにも見つけられはしないのだから。
35 名前:- 投稿日:2005/06/01(水) 20:35
降りしきる雨のせいにすればいいか、とケータイを開く。
そう、きっと雨音が、君の声を遠ざけて。
そう、きっと湿気った空気が、君の存在感を覆い隠すんだ。

神様が村田に問い掛ける。
君は未来にいく気はあるかい?と。
答はふたつ用意されている。
けれど、ひとつあれば十分だ。
36 名前:- 投稿日:2005/06/01(水) 20:35
001 2/16水13:10
[○]めぐ。さん
[件]今日和。
――――――――――――
相変わらず寒い日が続きま
すね。私は元々インドア気
味なのですが、ますます外
に出る機会が減ってしまっ
ています。
そこで、相談なのですが、
出掛ける理由になって頂け
ませんか?
勿論、ゆうこさんが嫌でな
ければなのですが――――
37 名前:オニオン 投稿日:2005/06/01(水) 20:36
>>33
有難う御座います。
まあぼちぼち行きますんで。
38 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/07/11(月) 00:48
今一番楽しみな作品です。待っています。
39 名前:- 投稿日:2005/08/18(木) 21:41

03/03 07:30pm

駅の構内も外も、足音と話し声で賑やいでいた。
たった一枚の写メールで、お互いの事を探し出せるのだろうか疑問が頭の中に留まり続けている。
なのに、いくつも並ぶ自動改札機のひとつに、彼女の姿を見つける事が出来た。

目が合う。
行く?行かない?待つ?待たない?
ナンパをする時ってこんな感じなのかな。
なんて事を思ったりする。


答は決まらないまま、小さく歩き出して近付く。

「めぐさん」

視線の先にいるその人から発せられた村田の名前。
そこには疑問符なんてついていなかった。

「はい」

「はじめまして」
「はじめまして、ゆうこさん」

「あ、えぇっと。
 すぐ、分かりましたか?」
「うん?
 メール通りの人やったから」

村田のものとは違う言葉。
真っ直ぐな、濁りの感じられない言葉。
40 名前:- 投稿日:2005/08/18(木) 21:41
立ち止まるふたりを振り返る事もなく行き交う足、足、足。
発車のベル、電車の音、ヘッドフォンから漏れるベース音、話し声、笑い声。
全てがふたりをすり抜けて改札の向こうや構外へと消えていく。

「さて、どこ行きましょうか。
 おなか空いてる?」
「それなりに」
「なら、どこかでご飯にしよか。
 この街に詳しい?
 私はたまにくるけど夜となるとなぁ…」
「私もたまにですねぇ。
 詳しいまでは」
「そっか。
 なら、ピンときた店に入ろっか。
 いい?」
「あ、はい」

構外へと出ると、煙草の臭いが鼻を掠めた。
音を奏でる横断歩道を渡り、この街の、所謂繁華街へと歩みを進める。
41 名前:- 投稿日:2005/08/18(木) 21:41
駅前のアーケード街からひとつ細い道を曲がると、明らかに他とは異質な空気を持つ一角が目に入る。
店の軒先に下げられた電球の光と、立ち上る煙草の煙でそこだけが映画の回想シーンのようにセピア色に見えた。
その一角を通り過ぎたすぐのところにある居酒屋に落ち着くと、村田が口を開いた。

「どうして、今日だったんですか?」

素朴な疑問。
嬉しいかどうかは別としても、今日は村田にとって、また一年が始まる日という日だったから。
それを知らないはずの中澤が、偶然にしろ今日を選んだ理由が知りたいと思った。

「あー…いや、ふと、思い出したんよ。
 私、高校ん時すごい好きな人がおって。
 けど、言われへんかった。
 高校の卒業式、三月三日やったんよ。
 その子に何も言えんまま、卒業してしまった日が今日」

そんな風に答えながら、中澤は苦笑した。
独特の暗い照明の下でも、その表情ははっきりと村田の目に映った。
42 名前:オニオン 投稿日:2005/08/18(木) 21:44
>>38
これだけ間があいて少量更新で申し訳。
これでも在庫一掃セールです…
43 名前:ケロポン 投稿日:2005/08/19(金) 22:41
来た来た!お疲れ様です。
少量でも雰囲気がものすごい好きやから十分です。
次回もまったり待たせていただきます。
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/23(火) 22:04
初めて見て一気に読ませていただいたんですが、とてもおもしろいです。
とてもリアルで、引き込まれてしまいました。
続き楽しみにしてます、がんばってください。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/19(月) 11:40
ho
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/10(木) 18:52
待ってます
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:16
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
48 名前:オニオン 投稿日:2006/02/12(日) 19:31
忘れないうちに自己保全。
49 名前:ケロポン 投稿日:2006/02/15(水) 00:42
待ってますよ
50 名前:オニオン 投稿日:2006/08/10(木) 18:22
自己保全
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/16(水) 00:40
ん〜2人の過去が気になります。
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/08(金) 00:57
ここの中澤さんの雰囲気が好き。
待ってます。
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 04:28
続き楽しみにしています
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 23:26
忙しいのかな?待ってますね。

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