やわらの道は柔らかい

1 名前:亀男 投稿日:2005/03/13(日) 00:58
こんにちわ。柔道話書きます。
主人公は樫山しんご君です。
誰かって言われたら、僕だって応えたいと思います。
んではどうぞ。
2 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 03:04
桜が舞っている。
陽射しはたおやかで、歩道に沿って植えられた緑も生命力に満ちている。
まさに一年の始まりにふさわしいな、と一人うなずいていると、
後頭部への物凄い衝撃とともに目の前に星が浮かんだ。

「いってぇぇぇぇ!!!」
「あ、ごっめーん、手が滑った」
「てめえ!!」

未だチカチカする視界の向こうには、にやにやと悪魔のような笑みを浮かべる少女の姿があった。
藤本美貴――どんな因果か、高一からクラスメイトの腐れ縁だった。
一見クールなその容姿と、みんなの話にばしばし突っ込む性格から、
クラスの内外問わず人気があったようだが、俺への扱いは今見た通りひどいもんだ。
3 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 03:08
「ったく、三年になっても相変わらずかよ、お前は」
「あはは。ごめんごめん、ちょっとした挨拶でしょ」
「どこがちょっとした挨拶だ、角が当たったぞ角!」

そう言って後頭部をさすってみると、早くも痛々しいこぶができていた。
ちょっと触れただけで傷口はじくじくして、もしかしたら血が出ていたりするかもしれない。

「まあ、今度こそこの腐れ縁ともおさらばだけどな」
そう言って、かばんからコンビニで買ったアンパンを取り出しかぶりつく。
「はぁ? なによおさらばって。まだクラス分け見てないじゃん」
頭にはてなマークを浮かべながら突っ込む美貴ににやりと笑いかけ、右手を突き出す。
「キモっ」とか言われたがそれはほっとくことにした。
4 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 03:16
「見ろ! ミサーンガッ!!」
俺は自信満々に差し出した手を盾に、言葉をまくしたててやる。
「これで、お前とクラスが別々になるという願いが叶うのだ! あっはっは」
「……」
しかし、美貴は冷たい目で俺を見つめるだけで、何も言葉を返してこない。
「あれ、知らない? ほら、サッカー選手とかが身に着けてる、切れると願いが叶うってやつ。ブームじゃん」「あ、遅刻するよ、はやくいこ」
「え、あれ?」

なんだよ、せっかく昨日町中探し回って買ってきたのに!
すたすたと歩いていく美貴を慌てて追いかけながら、右手に巻きついた新品のミサンガを見る。
傷ひとつないミサンガは、決して切れることのない友達の輪に見えた。
……こんなこと、美貴の前では絶対言えねぇけどな。
そしてようやく美貴に追いついたのは、満開の桜が一面に広がる校門をちょうどくぐったときであった。
5 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 04:25
校門に入るなり、美貴は至る所から声をかけられ、俺との距離は離れていく。
これが俺と美貴との格付けか、と一人黄昏ていると、背後から「せんぱーい!」という声が聞こえた。
追いついてきた少女――高橋愛はくりくりした目と大きな口をいっぱいに開いてはきはきと挨拶をした後、
がばっと120度のおじぎをする。
こいつは俺が部長を勤める柔道部の後輩で、ちょっと抜けたところはあるがなかなかにかわいい奴だった。
空気が読めないのが玉に瑕だが、それがかわいいと勘違いしてる奴も結構いるようなので、
これはこれでいいのかもしれない。

美貴が戻ってくる気配もないので、愛と一緒にクラスの分けの張り紙を見に行くことにした。
掲示板の前にはうざいくらいに生徒がたかっていて、思わず舌打ちをする。
「せんぱいっ! 私が見てきます!」
珍しく空気を読んだのか、愛は元気よくそんなことを言うと、
掲示板に群がる猛者どもの塊へと突進していった。
6 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 04:27
愛を待っている間、俺はぼうっと周囲に視線をやる。
100人は超えようかという人ごみの中で偶然、見知った茶髪の少女が目に入った。
後藤真希。我が柔道部が誇る天才だ。
一見クールで、端正な容姿は人を寄せ付けない威圧感を感じさせるが、
さすがに二年の付き合いにもなると、意外と話せる奴だってことに気づく。

そして実は――後藤真希は、俺の密かな憧れでもある。

そうこうしているうちに、愛が戦地から帰還する。
心なしか、彼女の目は潤んでいるように見えた。
「せんぱーい……」
どうやら予想は当たっていたらしい。
愛は情けない声を出すと、びしっと掲示板を指差した。
「先輩と違うクラスだったわー! うわーん!」
そう言って、泣く。
俺はどう言っていいかわからず、ぽりぽりと首元を掻いた。
7 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 04:30
「あのな、念のため言っとくけど、俺は三年でお前は二年だからな。
先輩とか言っときながら、忘れてたとか言うなよ」
「だって先輩留年しそうとか言ってたから、せっかく同じクラスになれるかと思ったのに!」
「お前……」

褒めてんだか貶してんだかわからない愛は結局役立たずで、俺は仕方なく自分で人ごみの中に身を投じた。
「3−3……か」
クラス自体に大して意味はなかったが、なんとなく呟いてみる。
しかし大事なのは、誰が同じクラスなのかということだ。

一瞬、さっきみた真希の横顔が浮かぶ。
あわてて頭をふり、クラス名簿をざーっと見ていくが、いまいち頭に入らない。
8 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 04:37
何度目かの往復を始めたとき、
「後藤さん……かねぇ」
そんな愛の小さな声が聞こえた。
「べ、別に真希なんてどうでもいいよ!」
「は、後藤さんがどうかしたんですか?」
「いや、お前今、真希がどうとか……」
「ああ、後藤さん怪我治ったんですかねえ、って言いましたけど、それがどうかしましたか?」
顔が熱い。
先走った自分の恥ずかしさにいても立ってもいられず、俺は思わず
「別に何も言ってねえよ! てか後藤って誰だバカ! 俺はしらねーそんな魚しらねー!
なんかよくわかんねえけどプランクトンでも食ってろ!」
と、自分でも意味がわからなくなりながら、愛に向かってまくし立てた。
9 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 04:41
愛は少しだけ気まずそうな顔をしつつ、持ち前の明るさ(空気読まなさ)を十二分に発揮し、
俺の背後に微笑みかけた。
「先輩の後ろにいるじゃないですか」
その言葉に恐る恐る振り返ると、髪の毛を逆立てた魚のお化けが今にも俺を飲み込もうと
不気味な笑みを浮かべていた。
「ヒィィ! お化けッ!!」
「……あはっ。魚って何……? プランクトンって何……? お化けって何かしら……?」
そういった真希は俺の肩をがしりと掴み、女性とは思えない握力でギリギリと締め付ける。
その形相に、俺は一瞬で死を覚悟する。
それでも最後の勇気を振り絞って、手を差し出した。
相手が魔王ならば謙譲物を捧げなければ――!

「アンパン、食うか……?」
「そんなものいるかっ!!」

一瞬で意識を刈り取られる。
こうして俺は、真希の怪我がすっかりと治っていることを身をもって思い知ったのだった。
10 名前:#1 レッツ イート ザ アンパン 投稿日:2005/03/13(日) 04:43
#1 レッツ イート ザ アンパン  FIN!
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/13(日) 06:45
面白いですね。
柔道ものって少ないですから、
がんばってくださいね。
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/14(月) 18:27
なにげにおもしろそうww
すげー期待してます!柔道物ってのは目の付け所がいい!
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/25(金) 00:35
まってるぞ!
14 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/05/09(月) 23:04
いい加減書けよ
15 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:19
桜の木にもぽつりぽつりと緑の芽。
すっかり春めいたのどかな校内の、中央に構える厳しい建物。
僕は今その前に立っている。
「柔道部」
表札には立派な楷書体でそう書かれている。
緊張から、鼓動が高まっていくのがわかる。
「うわー…」
隣で、変な嘆声を漏らしている女の子が一人。
田中れいな――それが彼女の名前。
「絵里ぃ、緊張しとー?」
「え?あ、うん…」
馴れ馴れしく僕のことを絵里と呼び、どうしたわけかニヤニヤ笑って尋ねてくる
彼女が、僕は些か苦手だ…。
だって僕と彼女とはまだ会って数日しかたってないんだから。
16 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:20
入学式の日。
浮き立つ期待と妙な緊張とを持って入ったクラスで、僕とれいなは
たまたま隣同士の席になった。
もっとも僕は人見知りで、入学式の日に友達ができたことなんてないし
ましてや女の子となんて、今までなら1学期が終わるくらいで
やっとクラスメイトの名前を覚えるくらいだったのに。
れいなとの出会いは忘れようとしても忘れられないものになってしまった――
17 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:20

もくもくもく(回想の効果音)

「今日は天気がよかねー。気持ちいい」
「そ、そうだね…」
「あ、私田中れいな。よろしく」
「あ、よろしく…えと、僕は亀井絵里…」
「絵里かぁ、あはは、僕って。かわっとるね」
「えと、そうかな…?」
「絵里はもう入る部活とか決めとー?」
「えと、まだはっきりとは…
 柔道とか入ってみようかなとか思ってたり…」
「キタ━━━━━━━━从*´ ヮ`)☆━━━━━━━━!!!」
「は…?」
「れいなも柔道やるっちゃ!やっぱ後藤さん?後藤さんやんね?」
「はぁ…?」
「いやーよかー。一人で不安やったけん、どげんしよ思とったと。
 こんな近くに同じ部活ばはいろーちゅう子がおろーもんね」
「はは…(何言ってるかわかんない…)」
「今時分柔道やろうって子もなかなかおらんけんね。
 特に女子はねー」
「はぁ…」
「でもここの柔道部って女子が殆どらしいし」
「へ、そうなの?」
「あれ、知らんかった?」
「え、うん…」
「へぇ、知らんで入りよぉんかぁ」
「えと、まだ入るとは…」
「後藤さんっていうね、すっごく強くてかっこいい先輩がおるけん」
「そうなんだ…」

もくもく
18 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:21
とこんな感じで、れいなの強引なテンションに乗せられるまま
僕は柔道部の門を叩くことになった。
もともと僕が柔道部に入ろうと思ったのにそれほど深い理由があるわけ
ではない。
昔から小さくて華奢な僕はいつも女の子みたいだと言われていて
何かひとつ、そんな自分を抜け出せる手立てになるんじゃないかと
考えたまでだ。
実際れいなも僕のことを女の子と思って話しかけたらしい。

入学式の翌日それとなく自分が男だと主張した僕に
れいなは教室を割らんばかりの声を出して驚いた。
「えええええええぇぇぇぇぇ从 ゜ ヮ ゜)ぇぇぇぇぇええええええ」
「声大きいよ…」
「絵里男だったと!?何で言ってくれんかったと!?」
「言わなくても気付いて欲しかった…」
「わかるわけなかよ!そんな可愛い顔して!!」
「可愛いって…」

正直、恥ずかしすぎて思い出したくもない思い出だ。
19 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:21
ともかく、何の因果か僕とれいなは一緒に柔道部の門を叩くことになった。

「何て言って入る?やっぱ『たのもー』?」
「そんなバカな…」
普通に入ればいいじゃんか…。
ということで、僕とれいなは並んで、失礼しますと言いつつ門を潜った。

扉を潜るとなんとも言えない、独特な熱気が伝わってきた。
なんとなく、気持ちが高ぶるのを感じる。
れいなも緊張してるみたいだった。
とりあえず靴を直して、道場の扉を開ける。
「あ、いらっしゃい!」
不意に叫ばれてびくりと身体が反応した。

「ようこそ!ね、新入生?入部希望?」
何だか全体的に小さく纏まった先輩が、僕たちに向かって一気に言う。
「ハイ!一年2組、田中れいなです!」
れいなが言ったので僕も慌てて
「えと…1年2組の亀井です」
と言った。
20 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:22
「やー嬉しいなぁ。新入生なかなかいなくてねぇ。
 人数少なくて困ってたんだよね。それが、こんな可愛い子が二人も…本当にありがとう!」
ちょっと待って…
「あ、ごめんごめん、私2年の新垣里沙。よろしくね!」
「よろしくおねがいします!」
ちょっと待って…
間違いが気になっていると、れいなに横脇を小突かれた。
「よろしくおねがいします…」

新垣さんは一度満足そうに頷くと、入って入って、と私たちを促して
道場の中に入っていった。

「石川さーん!新入部員ですよー!!」
道場の端で何か読んでいた女の人に声をかける新垣さん。
石川さんというその人はすぐに立ち上がると、にこやかに僕たちのところにやってきた。
凄く綺麗な人だ。
21 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:22
「ようこそ。私は石川梨華、一応副部長やってます。よろしくね」
「田中れいなです!よろしくお願いします!」
れいなの目が何だか異様に輝いている。
後藤さんが何だとか言ってた気がするけど、石川さんも知ってるんだろうか。
「亀井です、よろしくおねがいします」

「田中ちゃんに亀井くんね。よろしく。二人は柔道の経験は?」
亀井くんって、わかってもらえてる!
いや、それが普通だよね…。新垣さんが石川さんの横で
信じられないようなびっくり顔になってる。

「ないです」
「ないです」
とりあえずれいなに続いて応える。

「そう、じゃあ道着とか持ってないよね?暫く部の道着使って貰う事になるけど
 いいかな?」
「はい!」
22 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:23
そんなわけで石川さんと新垣さんに促されて
道着の掛かったロッカールームへ。サイズを確認したりして
会う道着を見繕ってもらった。
ロッカールームには数人先輩がいた。
話に聞いたとおり、みんな女の人だった。
本当に女子しかいないんだろうか…。僕は些か不安になってきた。

「高橋愛です。よろしく」
にこやかにそう言ってきたのはこれまた美人な、そしてどことなく猿っぽい女の人。
続いて
「紺野です」
とだけ言った人はなんとも可愛らしい丸顔の女の人だった。

「とりあえず練習までまだ時間あるからさ、二人の話聞かせてよ!」
道着あわせを終えた僕たちに新垣さんが言ってくる。
石川さん、高橋さんも面白そうによってくる。
23 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:24
「亀井くんって男の子だったの、全然気付かなかった!」
「ガキさん、それ失礼やから…」
「え、愛ちゃんはじゃあわかったの?」
「いや、ぜんぜん」
「ちょっと、あんたたち…」
賑やかな先輩たちだ…。

「あのー…」
僕は恐る恐る聞いてみた。
「男子部員ってもしかしていないんですか…?」
先輩たちが一瞬顔を見合わせる。
石川さんがパッと笑って言った。
「いるよ。部長が一人」
続いて高橋さんが言う。
「先輩なら、もうすぐ来ると思うよ」

一人なんだ…。女性ばかりのこの部活で一人で部長を務めるその人が
いったいどんな人なのか、そんなことが気になった。
24 名前:#2 それはまったく必然に 投稿日:2005/05/15(日) 02:24
#2 それはまったく必然に  了!
25 名前:TACCHI 投稿日:2005/05/17(火) 00:52
初めて読んだのですがとても面白くて続きが
楽しみになりました。これから、どうなるのでしょう?
今後を楽しみにしています♪
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:40
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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