Assassin

1 名前:初心者マークの作者 投稿日:2005/03/20(日) 20:29
ずっと読者側にいましたが、今回自分も書いてみたくなって
作者に挑戦する事にしました。
未熟者なんで、色々と至らぬところはあるかと思いますが
どうぞ、よろしくお願いします。
えりれな主体で、もしかしたら他にも出てくるかもしれません。
2 名前:Assassin 投稿日:2005/03/20(日) 20:31

あの時こうしていればよかったなんて、もう遅すぎる。
私たちは、取り返しのつかない所まで来てしまったんだ―――
3 名前:Assassin 投稿日:2005/03/20(日) 20:31







4 名前:Assassin 投稿日:2005/03/20(日) 20:31
「ねぇ、れいな……?」
「うん?」
顔を伏せたまま、一度も私の方を見ようとしない彼女の顔を
覗き込むようにして尋ねると、彼女はちらりと私の方を見た。
“ごめんね”
微かに動くその唇に、私はゆっくりと首を振った。
「いいよ、私が勝手について来たんだから…」
5 名前:Assassin 投稿日:2005/03/20(日) 20:32
ガラスが少しだけ割れた窓から差し込む、赤い光。
マイクで拡声された、低くて太い男の人の声。
ざわざわと騒がしい外の世界。
そんな中で、私たちの周りだけは静かで。
きっと、彼女も分かっているんだと思う。
それはもちろん私も同じ。
6 名前:Assassin 投稿日:2005/03/20(日) 20:32
「また…会えるかな…?」
「会えるよ。きっと」
根拠のない私のセリフに彼女は顔を上げてふっと笑い
「そうだね」
やはり根拠のない返事をしてくれた。
「ははっ」
「へへへ」
意味もなく顔を見合わせ、笑い合う。
まるで、これから二人で楽しい所へ遊びに行くかのように…
7 名前:Assassin 投稿日:2005/03/20(日) 20:33
「そろそろ、行く?」
「……うん」
私は立ち上がり、彼女に手を差し伸べる。
彼女はそんな私をしばらく見上げ
やがて大きく頷くとその手を握った。
彼女のぬくもりを感じながら、私は彼女を力任せに引っ張る。
私たちが動くと一緒に、周りの空気がふわふわと動き
赤い光に照らされて舞い上がった埃が怪しげに光っていた。
示し合わせたわけでもなく、私たちは同時に足を踏み出す。
ぎぃっと床の軋む音。
怖くなんかない。
私たちはずっと一緒だから。

ずっと
一緒だから……
8 名前:Assassin 投稿日:2005/03/20(日) 20:33







9 名前:初心者マークの作者 投稿日:2005/03/20(日) 20:35
導入部分だけですが、今日はここまでにします。
ご意見・ご感想等、お待ちしています。
10 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/20(日) 23:37
楽しみな出だしですね。 いきなりですが、最後までお付き合いさせて頂きたいのですがよろしいですか?次回更新待ってます。
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/21(月) 12:59
出だしから興味をそそられる作品ですね。
えりれな好きの自分にはたまらないですw
ずっと応援しますので頑張ってください!
12 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:40
その電話がかかってきたのは、もう大分夜が更けてからだった。
半分寝ぼけながらもしもしぃと言った私は、彼女の切羽詰った
声で、一気に目が覚めてしまった。
「どうしよう、れいな…どうしよう………」
壊れたロボットのように同じ言葉を繰り返す彼女に
私はわけの分からぬまま彼女の今居る場所を確認して
その場から動かないように指示すると手元にあったジャンパーを
掴んで家を飛び出した。
13 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:41
外は、もう春だというのに冷たい風が吹き
ぱらぱらと細い雨が糸のように降っていた。
それは次第に強くなり、私の体を容赦なく打つ。
けれど私はスピードを変えず、彼女が待つ公園まで走った。
「…はぁ…はぁっ…絵里!!」
街頭のない、真っ暗な公園は静かで、人がいる気配はない。
あたりに響くのは雨の音だけ。
14 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:42
「絵里っ!どこにいんの?絵里!」
力いっぱい叫んでも絵里の姿は見えず
私はポケットからケータイを取り出して絵里の番号を呼び出すと
通話ボタンを押した。
『おかけになった電話は、電波の届かないところにいるか
電源が…………』
聞きなれたメッセージが流れてきて、私はそれを最後まで聞かず
通話を終える。そして、呼吸を落ち着けようと私は近くにあった
ベンチに腰を下ろした。
屋根がないせいで全身びしょ濡れになってしまったけれど
今の私には絵里の事が心配で、自分の服の事に構っている
余裕はなかった。
15 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:42
「……どこ行ったんだろう…」
何があったのかは分からないけれど、動くなと言ったはずだ。
ベンチに座ったままきょろきょろと視線を動かしていると
ふと誰かが後ろに立つ気配がした。
「絵里…?」
振り返ろうとした、その瞬間
「ぐっ……」
ガツンと頭に走る痛み。
それが何だったのか確認しようとすると、もう一度衝撃が走り
私はベンチから崩れるように地面へと滑り落ちた。
16 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:43
水溜りの中に体を横たえたまま私は動けず、首だけ動かして
上を見上げる。
街頭も月明かりもないこの場所からは
そこに立っているのが誰だか分からない。
次第に薄れ行く意識の中で私は、雨音に混じって彼女の
すすり泣く声を聞いた気がした。
立ち尽くしていた人影が動き、私の側に膝をつく。
そこにいたのはやはり想像した通りの人物で。
「…絵、里……?」
「れいな、ごめん…ごめんね……」
17 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:43
何で、泣いているの?
そう尋ねようとしても、私の意識はどんどん遠ざかっていく。
絵里の泣き声はだんだん大きくなり
ついには声を上げて自分の顔を両手で覆って涙を流し始めた。
私が意識を手放す寸前、絵里はゆっくり顔を上げ、そして

「……私、人…殺しちゃったんだ…………」

そう、呟いた―――
18 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:44






19 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:44
頭の痛みに顔をしかめながら、私はゆっくりと目を開く。
見慣れない天井、薄暗い部屋。
どこだろうと思っていると
きぃっと椅子か何かが動くような音がして
「れいな、起きた?」
「絵里………」
聞きたい事はたくさんあったはずなのに、彼女の顔を見た途端
それらはすべてどこかに飛んでいってしまった。
彼女の生気のない、ぼんやりとした瞳。
青白い顔。
それは、いつもの絵里じゃなかった。
20 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:45
「………」
言葉を発する事ができず固まっていた私をじっと見つめて
絵里はゆっくりと私の頭に手を伸ばし
「ごめんね……」
口調は泣きそうなのに、一向に変わらない彼女の表情。
私はそんな彼女の服に明らかに模様ではない
“何か”がこびりついている事に気が付いた。
私の、“何か”を見つめる視線に気付いたのか
そこで初めて絵里の表情が少しだけ歪んだ。
『人、殺しちゃったんだ』
絵里の言葉が脳裏をリフレインする。
「…怪我、したの?」
21 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:46
自分でも、何でこんな事を聞いたのか分からなかった。
“何か”が何なのかくらい、理解していたのに。
「………大丈夫」
絵里は、首を振り俯き加減になって自分の服を引っ張った。
「…お母さんの、だから……………」
「そっか…」
不思議と、怖いという気持ちは起きなかった。
絵里は自分の親を殺した。
それはこれまでの彼女の言葉で分かったいた。
それでも逃げようといういう気にならなかったのは
きっと、彼女の電話口での声が耳について離れなかったから。
22 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:46
絵里が、自分を必要としている。
その思いの方が、大きかった。
幼馴染として。親友として。
そして……愛する人として。
どうしても彼女の側にいてあげたかった。
「…びっくりしたよね……突然…」
「いいよ、もう」
私は起き上がって手を伸ばし、絵里の髪に触れる。
彼女は一瞬だけびくっとしたように肩を振るわせ
私の方をまじまじと見た。
「一緒にいるよ。絵里と一緒に……」
呟くように繰り返す「一緒に」という言葉。
絵里は目を閉じ、静かに私の言葉を聞いていた。
23 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:47
どれくらい経ったのだろう。
絵里が、ゆっくりと口を開いた。
「お母さん、殺しちゃった……頭の中、ぐちゃぐちゃで……」
私は、うん…とだけ言い、続きを促す。
「気が付いたら、れいなに電話してて…でも、怖かった……」
「絵里……何で……」
何で、お母さん殺したの?そう言いかけて、やめた。
そんな質問は絵里を苦しめるだけだと思ったし
それに、もし答えを聞いたところで今、この場において
全く必要のないものだと思ったから。
24 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:47
「これから、どうするの?」
「分からない…」
これから、どうするのだろう。
私としてはずっと絵里と一緒にいるつもりだったけれど
具体的に何をどうしていいのか、さっぱり分からなかった。
「とりあえずさ。絵里、その服着替えない?」
「うん、でも……」
私の服、貸すからと言うと彼女は頷き私はそれを確認すると
寝かされていたソファから降りた。
「そう言えば、ここどこ?」
「公園の近くの廃アパート。」
25 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:48
絵里の言葉で思い浮かぶ、公園近くに建つ古いアパート。
私たちが小学生の頃から無人になって
幽霊アパートと名付けられていた。
「雨、まだ止んでないんだ。」
「そうみたい」
取り止めのない会話をしながら部屋を出て、階段を降りる。
外へ出ると、あたりは真っ暗で。
それは、まだ夜が明けていない事を示していた。
「見つかったら、どうしよう…」
絵里は、家に帰る道すがらずっとそればかり繰り返していた。
私は大丈夫だよなんて言いながらも、内心びくびくしていた。
26 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:49
「じゃあ、絵里。ここで待ってて」
家の前まで来ると、私は絵里にこの場で待っているように言い
そっと家に入る。幸い、家族は誰も起きていないようで
私は足音を立てないようにゆっくりと二階にある自分の部屋へ
歩を進めた。
クローゼットの奥の方にしまってあったスポーツバックを
二つ取り出し、タンスの中の服をできるだけたくさん詰める。
何となく、もうここには帰って来ない気がしたから。
ファスナーを閉める寸前、私の視界に入った一枚の写真。
それは、今年の夏に私と絵里とで行った花火大会の写真。
満面の笑みで私に抱きつく絵里と、それを邪険に扱いながらも
赤くなった顔を隠しきれずににやけている私。
27 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:50
まだ数ヶ月しか経っていないのに、何だかそれが無性に
懐かしくて、私はそれを写真立てに入れたまま無理矢理バックの
隙間に突っ込んだ。
「………」
パンパンに膨らんだ二つの塊をぼんやり見つめながら
私はこれからの事を考える。
絵里の家に行く気はない。
彼女だって、戻りたくないと思うし。
机の下に置いた貯金箱を開け中身をすべて机の上にぶちまける。
引き出しの中にあった通帳の残高とそれらを頭の中で足し算して
一ヶ月くらいなら暮らせるだけの財力がある事を確認すると
私はそれらを手近にあった袋に放り込み
それもバックの隙間に捻じ込んだ。
28 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:51
入った時と同じように、音を立てないようにゆっくりと階段を
降りて廊下を進む。
今度は荷物を持っているから、一歩踏み出すたびに木の廊下が
ぎしぎしと軋み、家族が置きだすんじゃないかと冷や冷やした。
ドアを開ける寸前、私は嫌な予感に苛まれた。
また、絵里がいなくなっているんじゃないかという、不安。
「…絵里……?」
細く開いたドアの隙間から外を窺うと、私に背中を向ける形で
座っている絵里の姿が見え、私はふぅっと溜息をついて
勢いよくドアを押した。
29 名前:Assassin 投稿日:2005/03/21(月) 16:51






30 名前:初心者マークの作者 投稿日:2005/03/21(月) 16:54
更新終了です

>>10 :通りすがりの者様
ありがとうございます!
こんな駄文でよろしければ
今後もお付き合いいただけると光栄です。

>>11 名無飼育さん様
ありがとうございます!
この二人のCPは作者も大好きです。
これからも応援、よろしくお願いします。
31 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:41
「本当に、入るの?」
うん、と首を振りつつも私の隣から動こうとしない絵里。
ここに来るまでの間にいつの間にか繋がれていた手に加わる
微かな力。それを強めに握り返すと
一瞬だけ絵里の硬い表情が和らいだ気がした。
「……一緒に、行く?」
「れいなは…ここにいて……」
それと同時に離れる手。
私は「分かった」と、さっきの絵里と同じように
その場にしゃがむ。
「じゃあ……」
数回深呼吸を繰り返して、やがて意を決したように
中に消えた絵里の後ろ姿を振り返ってぼんやり見つめる。
32 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:42
ここに来たいと言われた時は、正直びっくりした。
「…色々…とって来たいものとかあるし……だから…」
「分かった。行こう」
絵里の行きたいといった場所は、彼女の家だった。
ごく普通のマンションの二階にある彼女の家。
父親を早くに亡くし、兄弟のいない絵里にとって
母親が唯一の家族だった。
なるべく気まずくならないように
私は絵里に当たり障りのない話題を振る。
けれど絵里はそれに曖昧に頷くだけで。
家に近付くにつれて徐々にそれもなくなっていった。
33 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:42
絵里は、なかなか出てこなかった。
だんだん心配になってきて、私は立ち上がると
ドアのノブに手をかける。
けれど、それ以上の動作ができず、私は手を離すと元いた
位置に戻る。当然というか何と言うか
中からは何の物音も聞こえてこなくて。
私の耳に入るのは、振り続ける雨の音だけ。
「何してるの?」
不意に声をかけられてその方向を向くと
そこに立っていたのは一人の女の子。
34 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:43
「……誰?」
「ここは、絵里の家なの」
知ってる。
だから何なんだ。
「絵里はおかーさん殺しちゃったの」
「………」
何なんだ、こいつは。
絵里、と言っているくらいだから
きっと知り合いかなんか何だろうけれど。
「あんた、誰?」
「さゆはさゆなの」
話にならない。
私は無視を決め込んで、ただひたすら雨の音に耳を傾けた。
時折ちらりと少女の方を見てみると、彼女は私をじっと見つめ
目が合うたびに、にっこりと微笑みかけてきた。
35 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:44
がちゃっという音と、さゆ…という絵里の声はほぼ同時だった。
「さゆ…なんで……」
驚きというより怯えているような絵里の声。
「絵里、コイツ何なの?」
「……隣の家の…さゆみっていう子………」
だからさゆなのか、とよく分からない納得をして
私は彼女に向き直る。
「何、絵里に何か用?」
「絵里は、おかーさん殺しちゃったの」
さっきと同じ言葉を繰り返す少女。
今度こそ、はっきりと絵里の表情は怯えたものに変わった。
「ちょ…何言って………」
「悪い子は、お仕置きしないといけないの」
36 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:45
そう言って、にっこり微笑む少女の手には携帯。
私には少女が何をしようとしているのかが分からなかった。
「さゆ、待って!あれは………」
「警察は110だったの」
絵里の声を遮って、彼女は楽しそうにボタンをプッシュする。
私は咄嗟に、彼女を突き飛ばし携帯を奪い取った。
「れいなっ!」
どんっ、という鈍い音とごふっという妙な音。
それが何だったのかを確認した時、私の流れた冷たい汗。
「あ……え…ちょっと……」
慌てて少女の側にしゃがみ、肩を揺する。
しかし、少女は私の手の動きと共に体を揺らし
そのまま廊下に倒れこんだ。
37 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:46
―――………死…?

目の前に倒れている少女は、数分前と何の変わりもない。
けれど、そこに“生”はなかった。
「……さゆ、死んだの?」
ぞっとするようなその冷たい声が
一瞬誰のものだか分からなかった。
「絵里…」
「死んだの?」
私はその絵里の声につられるようにゆっくり首を縦に振る。
すると絵里はしばらく少女“だったもの”を眺め
目を閉じ、大きく息を吐く。
そして手を伸ばして私の腕を掴むと
「行こう」
38 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:46
引っ張られる力に任せて立ち上がると、絵里はちらりと私を見て
「れいな、震えてるよ。足」
私は慌てて掴まれていた腕を解き、両手で膝を押さえ込む。
しかし震えは止まるどころか腕にまで伝わり。
私は一歩も歩く事ができないまま
その場にへなへなと座り込んでしまった。
「何してるの、置いてくよ?」
「……」
絵里じゃ、ない。
絵里のその、横たわる少女を見る瞳は何というか
“もの”を見る瞳。
そこら辺に落ちている石ころとか、空き缶とか。
そういった類のものを見るときの瞳と全く同じだった。
39 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:47
「絵里は……」
私は、絵里の顔を見ないように俯きながら声をかける。
彼女が私を見ているのかどうかも分からないまま
私は言葉を続けた。
「何で、平気なの?」
「何が?」
「何がって…この子、絵里の知り合いなんでしょ?
私、この子の事殺したんだよ?何で平気な顔していられるの?」
俯いているせいで、嫌でも視界に入る少女の遺体。
今にも眼を開いて起き上がりそうなそれを見ていると
胃のあたりがむかむかして吐き気を催した。
絵里は何も言わない。
40 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 13:52
「……行くよ」
そう言って絵里はスタスタと先に歩き出す。
私の方も少女の方も、振り返る事なく…
―――オカシイヨ
頭の中で声がする。
……誰が、おかしいの?
私?
絵里?
それともこの少女?
警察に通報しようとしたこの少女も
それを止めようとした結果、少女を殺してしまった自分も
そして、彼女の死に動じることなく先に行ってしまった絵里も
みんな正しいように思えたし、間違っているように思えた。
41 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 14:04
どこからか、耳をつんざくような悲鳴が聞こえて
私の思考は元の位置に引き戻された。
見ると、少女を境にした私の反対側に立っている一人の女性。
年齢からして大学生くらい。
このマンションの住人だろう。
―――住人?
―――ちょっと待って…私、もしかして…
「何してるの?!」
―――見つかった?
正当防衛、そんな言葉が頭に浮かぶ。
ちっとも正当じゃないんだけど。
私は急いで置いてあったカバンを肩にかけ、さっきの少女と
同じように女性を突き飛ばし、階段を駆け下りた。
42 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 14:05
息を切らしながら、マンションの駐車場出口から外に出る。
するとそこには絵里がいて。
私はそれを見て不覚にも、安堵に似た気持ちを抱いた。
「行く?」
肩で息をする私にそう言った絵里に、私は頷き
そして言った。
「うん、逃げよう」
絵里の目がきゅっと細くなり
それが笑ったんだと認識するまで数秒かかった。
「逃げよっか」
私たちは手を繋いで走り出す。
背後から、さっきの女性の大きな声が聞こえてきたけれど
私が振り返る事はなかった―――
43 名前:Assassin 投稿日:2005/03/23(水) 14:05






44 名前:初心者マークの作者 投稿日:2005/03/23(水) 14:05
更新終了です。
45 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/03/24(木) 22:32
更新お疲れさまです。 かなり最初の辺りから凄いことになってますね。 軽く寒気がきました(;-_- 次回更新待ってます。
46 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:40
車体がカーブを切るたびに、キキィというブレーキの音が耳に響く。
よく、風景が走るなんていい方をするけれど
今、目の前に広がっているのは田んぼばかりで
いつまで経っても同じような風景があるだけだ。
隣で私の膝に頭を乗せ、大人しく寝息を立てている絵里。
そんな絵里の髪を手を伸ばしながら優しく梳き
私は、駅の売店で買った雑誌に視線を落とした。
47 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:41
どこか遠くへ。

そう言ったのは絵里だった。

私は特に反対しなかった。
あの女性が少女の事を警察に通報しているだろうし
もう地元にはいられない。
最初は、もっと都心の方へ逃げてしまえばいいと思っていた
けれど、絵里曰く、都心は街頭テレビとかがあるから
万が一ニュースに流れたら困る。
それに、田舎に行った方が色々と都合がいいんじゃないか
という事で、今、私たちはここにいる。
48 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:41
「ん…れぇな…?」
「あ、ごめん。起こしちゃった?」
大丈夫だよ、と言いながら体を起こし、絵里は外の方を見た。
「どこ、ここ?」
「さぁ……」
知るわけがない。
適当に切符を買って適当に電車を乗り継いできたのだから。
「そろそろ降りる?」
うん、と頷いて周りの荷物をまとめる絵里。私もそれに倣う。
よく分からない駅名のアナウンスに押されるように席を立ち
昇降ドアの前に立つ。
ぷしゅーっと音を立てて開くドア。
……降りたのは、私と絵里だけ。
49 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:42
「で、どうしようか?」
やけに明るい調子で尋ねる絵里。
「どうするって言われても…」
何も考えていなかった。
ただ、遠くへ。
それだけの思いでここに来たのだから。
「とりあえずさ、歩いてみようよ。」
「あ、うん…」
私を置いて先を歩いていってしまう絵里の後ろを
慌てて追いかける。
「待ってって」
「早く来ないと置いてくよー?」
50 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:43
何で、この子はこんなに明るいんだろうと思う。
電車の中でも、そうだった。
絵里は乗り込んですぐ、ぐっすりと眠ってしまったというのに
私はといえば、目を閉じるとさっきの少女の姿が浮かんでしまい
どうしても眠る事ができなかった。
「れいな。手、繋ごう」
「え…?」
いいから、と言って私の手を掴む絵里。
私は自然と、握られた手に力を入れた。
絵里は今、何を思いながら、ここにいるのだろう。
ふと思い出す、絵里が電話をかけてきた時の事。
もうずっと前のような気がするけれど、本当は
まだ一日も経っていない。
51 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:43
「何かさぁ…ごめんね。」
何を言い出すのだろう、突然。
「私が電話したりしなければこんな事にならなかったのにね。」
あぁ…と思った。
ただ、明るく振舞っていただけ。
本当は、私なんかよりも絵里のほうがよっぽど
辛かったはず。
絵里に返す上手い言葉が見つからなくて
私は曖昧に首を振った。
迷惑だとは思っていない。
ただ、これからの事が不安なだけだから。
だから、大丈夫だよ。
52 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:44
「ねぇ、れいな。今夜、どうする?」
「あー…どうしようか。」
随分歩いた。そんな気がする。
空はいつの間にか暗くなっていて、数メートルおきに付けられた
街灯が、細い田んぼのあぜ道をぼんやりと照らしていた。
「野宿ってわけにも行かないよね。」
「ってか、こんな所じゃ野宿もできないよね。」
絵里は、私の言葉に少しだけ笑った後
「じゃあ、山の中入ってみる?」と言った。
「使ってない別荘とかさ、何かあるでしょ。」
あるかなぁ…とは言わないでおいた。
何でも、いい方向に考えよう。
そう思ったから。
53 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:45
道なのか、道じゃないのか。
そんな、よく分からない所を絵里に引っ張られながら進む。
一歩進むごとに、私の、膝丈のズボンを穿いているせいで
剥き出しになっていた足が、紙で指を切ったときのように
ひりひりと痛んだ。
だから、真っ暗で足元が見えないけれど
ここはきっと草の生い茂った所。
「痛っ…」
今までで一番鋭く感じた痛みに、絵里が振り返る。
でも、その表情は見えない。
「どうしたの?」
「…多分、草で足切ったんだと思う…」
がさり、と絵里がその場にしゃがむ気配がした。
「絵里…?」
「ここじゃ、何も見えない…もう少し、頑張ってみよう?」
「うん…」
54 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:46
その会話が最後だった。
手は繋いだままだったけれど、私たちは一言も喋らずに
ひたすら山の中を進んだ。
足の痛みは、ひりひりからじんじんに変わり、足を地面に
つけるだけで足全体にそれは伝わった。
今が何時かも分からない。
冷たい風が吹いていると言うのに、私の体は汗びっしょりで。
きっと、それは絵里も同じ。
「れいな、広場だよ。」
不意に、絵里が口を開く。
「え?」
確かに、自分たちが通ってきた道らしきものはそこで途絶え
目の前に広がるのはキャンプ場のような広場。
「小屋もある。行こ。」
55 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:46
それは、別荘のようだった。
「入れるの?」
「うん。鍵は開いてるよ」
絵里がドアノブを持ち、ゆっくりと引く。
「…真っ暗…」
「埃っぽい…電気、どこだろう。」
パチッと音がして、周りが明るくなる。
隣を見ると、どこかほっとしたような表情で私を見ている絵里。
でもそれも、私の足元を見た途端、崩れた。
「れいな…足…」
見ると、案の定傷だらけの足は、流れた血が固まって
スニーカーや靴下が所々、赤く染まっていた。
56 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:47
「れいな、ここ。座って。」
絵里に促されるまま、すぐ近くにあったソファに座る。
「靴脱いで、足出して。」
何するの、という私の質問には答えずに
絵里は持っていたバッグを下ろして
中をごそごそと漁り出した。
取り出したのは、家庭用の救急箱を小さくしたようなやつ。
絵里はその中から、消毒液と大きなガーゼ
ティッシュにタオルを取り出すと「ちょっと待ってて」と言って
奥の方へと小走りに消えて行った。
その後ろ姿を見送って、私は小屋の中に視線を巡らす。
もう誰も使っていないのだろう。
でも、一応電気が通っている事からして
定期的に掃除をしているのだろうか。
そのわりには結構、埃っぽい気もするけれど。
57 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:48
「お待たせ」
戻ってきた絵里の手には水の入ったコップ。
「水、出たんだ。」
「うん。ガスは使えなかったけど。」
絵里は、コップをテーブルの上に置くと、私の
足元にしゃがんだ。
そして、私の足を持ち上げ、その下にタオルを敷く。
「しみたら、ごめん。」
そう言いながら、ティッシュをそこに突っ込み
ぽたぽたと雫の垂れるそれを、そのまま私の足につけた。
「っつー……」
思わず声を出すと、絵里は一瞬だけ手を止めて
「ごめん。でも、洗ってからじゃないと消毒できないでしょ?」
58 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:48
机の上に転がる、いくつもの濡れたティッシュの塊。
私の足が少なくとも泥と血まみれではなくなった事を確認すると
絵里は消毒液を傷の上に直接垂らす。
一通りそれが終わった後、絵里はガーゼと包帯を器用に使って
私の足を巻いていく。
「こうしておけば、大丈夫なはず。」
「ありがとう」
はにかんだように笑う絵里に、もう一度お礼を言って、私は
そのままソファに横になった。
「れいな、寝たら?疲れたでしょ。」
絵里が、使ったものを片付けながら言う。
「私は電車の中でも寝てるし。ね?」
59 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:50
「寝れない。」
そう言うと、絵里は不思議そうな顔をした後、ふにゃりと笑い
「私、ここにいるから。安心していいよ?」
絵里はそう言うと、私の左手を優しく握ってくれた。
「オヤスミ。」
「……うん…」
正直、相当疲れていた。
絵里の言葉に安心感を覚え、目を閉じると
私の意識は一気に、眠りの世界に引き込まれる。
意識が途切れる寸前「ごめんね」という
絵里の声を聞いた気がした。
「もう、謝らなくていいよ。」
目が覚めたら、きちんとそう伝えてあげよう。
そう思った―――
60 名前:Assassin 投稿日:2005/05/15(日) 16:50




61 名前:初心者マークの作者 投稿日:2005/05/15(日) 16:53
久々に更新終了です。

>>45 通りすがりの者様
ありがとうございます。
いやぁ、二人とも大変そうですよね(笑)
これからもよろしくお願いします。
62 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/24(火) 20:53
更新お疲れさまです。 待ち侘びてましたよ。 亀ちゃんのあの変化の理由は一体何なんでしょう? 気になりますねぇ。 次回更新待ってます。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/21(火) 10:34
今日初めて読んだのですが、おもしろかったです。
本当に次、楽しみにしてます。
64 名前:初心者マークの作者 投稿日:2005/08/14(日) 11:37
自己保全
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/13(火) 00:22
なんか惹かれるなぁこの話。あたいも保全!
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/23(水) 23:17
まってみる
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:01
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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