私は海に何をしにいく?

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 20:55
狼でちょこっと書いたやつの続きを。
俺×藤本、高橋で
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 21:08
「だからさ、童貞君が安吾読んでもわかんないって」
「…悪いかよ」
「いや、悪いってことないんだけどさ、アンタ解んないでしょ、それ」
「じゃあ、解らせてくれるのか?」
「死ね」
時々この女は、こうやって俺を挑発することで沈黙を破ろうとする。
藤本美貴。十七歳。今日の頭髪検査でもその茶髪はひっかかったのだろう。
校則違反が服を着て歩いているような女で、とかく悪い噂が絶えず、
最近では夜な夜な大学生と遊び歩いているとさえ言われる。
だが藤本は高校内では孤独だった。いや、藤本は何時も孤独ではないかと俺は勘繰る。
この女がどこか傲慢さを感じさせる下目で本を読む姿からは、影が感じられる。
…藤本は本が好きなのだ。不良というのは不思議と本が好きなものだ。
好きな作家は、坂口安吾、太宰治。いかにもだ、と俺は思う。
藤本は授業を大抵サボり、図書室に居る。一人で菓子を食い、MDを聴きながら夕方まで本を読んでいる。
藤本が聴くMDの微かな電子音だけが響く、基本的に静寂な世界。それが放課後の図書室。
普通の教室を少し広げた程度の大きさしかなく、そこに書架と閲覧用の机が並んでいる。
放課後の図書室にはいつも俺と藤本と、図書委員のタカハシさんの三人しかいない。
タカハシさんはいつも一人図書委員のカウンター席に鎮座して、
爛々と眼を輝かせ宮部みゆきやファンタジー小説を読んでいる。
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 21:08
窓ガラスを、早咲きの桜が桃色に染めている。二階なので丁度下から生えている桜の花が間近なのだ。
稀に宴会と称してやかましい男子達が入ってくるが、その度に藤本が追い散らす。
図書室の守護神みたいやね、とタカハシさんはいうが、俺にはこの、
本を無断で持ち出し半ば自分の所有物とし、
いつも飲み食い散らかしたあとを俺とタカハシさんに片付けさせ、(時には発泡酒が置いてある!)
いつも脚を机の上に投げ出して偉そうに本を読む女がそうとは到底思えない。
そして今も、藤本は正面に座る俺に向けて脚を机に投げ出している。
最もスカートの下に安全ピンだらけのジャージというよくある全く不可解なファッションのため、
色気があったものではない。
「アンタさ、バスケ部やめたんだって?」
「ああ」
「どうすんだよ。アンタそれじゃブクブク太って、尚更本ばっか読んでオタクっぽくなるんじゃない?」
「俺の勝手だろ。それに本ばっか読んでんのは藤本も同じだ」
「私はね、アンタと違って思想を行動に移してるから。実践してるから」
「どんなだよ」
「生きよ、堕ちよ」
「藤本が言うとありたきりに聞こえるな」
「ハァ?殺すぞてめ」
タカハシさんが後ろでくすっ、と笑う声が聞こえる。俺と藤本が振り向くと、
あ、すいません、今小説が面白くって…と戸惑った表情で応えた。
その時藤本の携帯が鳴り出す。大方遊び仲間だろう。俺は盗み聞きする気もなかった。
藤本は会話を終えると、ジャージがなかったらと惜しまれるようなモーションで立ち上がる。
「じゃ、これ返せよ」
藤本は俺の手の「坂口安吾全集」をひったくると、風のように立ち去った。


それっきり藤本は高校に、図書室に姿を見せなくなった。消えてから今日で一週間になる。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/23(水) 21:09
「どうしよう、どうしよう」タカハシさんは藤本がいなくなって五日過ぎてから、急にそわそわしだした。
というのは、以前藤本が五日連続で高校にも自分の家にも姿を見せなかった時、この人口十万の地方都市に、
街中の高校からいわば「夜回り先生」が駆り出され、「藤本包囲網」が敷かれたのだ。
結果、あえなく藤本は御用となり、翌朝くたびれた表情で図書館に姿を見せたのをタカハシは覚えている。

学校中、藤本の噂で持ちきりだった。理由なく三日休めば家に担任が来るという教育方針のこの高校で、
これだけの事をしでかしたのは藤本が始めてかもしれない。
やはり「藤本、遂に包囲網を突破」というのが相場らしい。
「どうしよう、藤本さん、帰ってこないかもしれんよ?どうやって連れ戻そう」タカハシさんは俺に尋ねる。
(どうしようもない)天衣無纏にも程が有る。
放って置いても春休みが来る。始業式になればひょっこり顔を出すのではないか。
「でも、心配やよ・・・」
藤本とタカハシさんは普段、仲がいいわけではない。かといって悪いわけではなく、
お互いのフィールドに立ち入らないという感じだ。要するに、距離がある。互いに違う人種だとわかっている。
本を貸し借りする時の二、三言の会話。藤本が食い残した菓子を押し付けるとき。
それくらいしか二人の間に会話はない。

俺は本を読み始める。カミュ「異邦人」
いつもと違い、静寂の中に微かな電子音が響く事はない。
快適だった。
だが、ふと本から顔を上げた時、そこに藤本はいない。
陽が傾くにつれ、文庫本の影ができる。藤本の影は、ない。
夕陽に照らされた藤本の顔が美しいと何度密かに思った事だろう。

「タカハシさん、藤本の図書カード、見てみないか?」
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/26(土) 18:30
狼のあのスレから見つけてきた
楽しみにしてるよ
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/08(土) 00:37
続き読みたいんだけど
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:41
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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