キミの青空になる
- 1 名前:ヒガン 投稿日:2005/03/25(金) 17:51
- 初めましてヒガンと言います。
ここで小説を書かせていただきます。
下手くそな小説ですがお付き合いください。
- 2 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:52
- 彼女はいつも青空を笑顔で見上げていた・・・
アタシはそんな彼女を不思議に思った。
「青空を見ていると心が穏やかになるんですよ」彼女は言った。
アタシも青空見上げてみたけど気持ちはよくわからなかった。
今思えば彼女と初めて出会ったときも空を見上げていたっけ。
あれは確か6月ちょうど梅雨の時期、2日ほど降り続いた雨が嘘のように
晴れ渡った空だった。
- 3 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:53
-
1――――
- 4 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:54
- アタシ後藤真希は高校3年生、学校はごくごく普通の高校に通っている。
その日の授業は午前中で終わり帰り支度をしていた。
「おーい真希、この後どうするの?」
ガムを噛みながら親友の藤本美貴が話し掛けてきた。
「カメラ持って海にいくつもりだけど」
「またなの?あんたも好きだね」美貴は呆れながら言った。
美貴とは幼稚園からの長い付き合いになる、もう腐れ縁といっていい存在だ。
「そういう美貴はまた部活なんでしょ?」
「うん、そうだけど万年帰宅部の真希と違って美貴は忙しいのだ」
「はいはい、それは恐れ入りました、まあせいぜい頑張ってくださいな」
そうこう話しているうちに美貴はそろそろ部活の時間だからと言って教室を出て行った。
アタシもクラスメートに別れを告げながら教室を後にした。
- 5 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:55
- アタシの住んでいる場所は海岸に面していてとても環境がいい、高校から徒歩10分程度の住宅街に
アタシはお父さんと二人暮しをしている。お母さんはアタシが3歳の時に病気で亡くなった。
それ以来お父さんが男手ひとつアタシを育ててくれて高校まで通わせってもらっている、最初の頃は
辛かったけど今は幸せだと思っている。
「おー真希お帰り」家に着くと裕ちゃんこと中澤裕子に声を掛けられる。
裕ちゃんはお父さんのいとこでアタシの家の隣に住んでいる、小さい頃よく面倒を見てもらった。
ヤンキーのような風貌でちょっと怖いけどアタシにとっては姉のような存在だ。
裕ちゃんは三十路にはなったけどいまだ独身、これ以上このことに触れるのはやめておこう。
「もしかしてまたカメラ持って出かける気やろ?」
「んあ・・・やっぱりわかる?」
「カメラもいいけど、ほどほどにしときや大学受験も控えていることだし」
また始まってしまったよ裕ちゃんの説教が一度始まると長いんだよね。
でも裕ちゃんの言うことはわかっているもり、けどなかなかやめられない
カメラ始めてはや3年今では自分でも自覚あるほどのカメラバカになってしまった。
将来はもちろんカメラ関係の仕事につくもりだ。
「それより裕ちゃん、なんか用事があったんじゃないの?」
「ああそうやった買い物に行くんやった」
アタシがそう言うと裕ちゃんは慌てて駆け出していった。早くいい人見つければいいのにね。
そう思いながら家に入る。
- 6 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:56
- 自分の部屋に入り制服を脱いで私服に着替えてカメラのセッティングをする。
アタシの部屋はもう写真で埋め尽くされている。
無造作に置かれたフィルムや機材、壁いっぱいに貼られた写真、本棚の大量のアルバム
どう見ても女の子の部屋と思えないと以前この部屋に来た美貴がそう言ってたけ。
一通りの準備を終えて玄関を出て空を見上げた。
雲ひとつない青空、今日はいい写真が撮れそうな気がするそんなこと考えながらゆっくりと歩き始める。
海岸沿いを潮風の匂い感じながら海に視線を向ける、ギラギラと照りつける太陽がとても眩しい。
梅雨が終われば本格的な夏が来るアタシの住んでいる地区から数キロ離れた所は観光スポットになっている
今は静かだか夏休みになると大変な人で賑わう、それでも今の時期はサーファー達が波乗りをしに来る。
アタシはそういうところを避けて地元の人しか知らないような場所を選んでいる。
今日もそこにいってみようと思う、その道は学校とは逆方向にある細い道を抜けるとアタシの秘密の場所がある。
- 7 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:57
- この場所に住んで長いけどまだまだ知らない所が多い、今の場所もたまたま学校の帰り寄り道した時に
見つけた、ある程度の下見をしておいたから風景のイメージは出来ていた。
目的地に着くと遠く方に目を向けるとサーファーが波乗りを楽しんでいる。
自分の世界に入り込んでいるという感じがする、アタシも自分の世界に入ろうとカメラを手にした。
ファンイダー越しに自分のイメージを重ねシャッター何度も押す、アタシのカメラは中古で買った旧式
だからフィルムも手動で巻かないといけない自動がほしいところだか高すぎてなかなか手が出ないため
仕方なく中古で我慢している。バイトで稼いで新しいカメラを買いたいけどあいにくうちの高校バイト禁止
という校則があるため卒業するまで待たないといけない、今の月のお小遣いほとんどフィルム代や現像代に
使っているためほとんどたまってない今月もかなり厳しく残りわずかしか残ってない、そのせいでよく美貴から
カラオケや買い物に誘われるが大抵奢ってもらうか誘いを断ったりしている、このことは美貴に悪いと思っている。
でもそんなアタシに美貴は嫌な顔をせず接してくれているそこが美貴のいいところなんだよね。
- 8 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:58
- 一通り写真を撮り終えるとアタシは砂浜に腰を下ろした、潮風の音と共にカモメの鳴き声が聞こえる。
時計を見ると既に2時半を過ぎていた、場所を変えようと立ち上がるとアタシは不思議な少女が気になった。
岩場にちょこんと座って空を見上げていた、これだけでは普通の光景だかアタシには違って見えた。
- 9 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 17:59
- その少女は溢れくらいの笑顔で青空に向かって微笑んでいたでまるで会話を楽しむように。
海の風が少女の髪を揺らしている、特徴的なふっくらした頬そして何よりアタシが気になったのは
まるで吸い込まれるような大きな瞳、その瞳でしっかりと空を見上げていた。
アタシは思わずカメラ構えてその少女にズームを合わせてシャッターを切った。
普段は風景写真しか撮らないアタシだがこの笑顔を写真に残したかった。
言葉に言い表せないなにか感じていた、今まで感じたことない気持ちになってきた。
- 10 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:00
- しばらく見ていると少女は空を見るのをやめてゆっくりと立ち上がった。
すると困ったような顔をし始めたからアタシは気になったから少女に話し掛けてみた。
「どうかしたの?」
「あの・・・地元の方ですか?」少女は戸惑いながら言った。
「うん、そうだけど」
「道に迷ってしまったみたいなんです、駅はどこですか?」
「駅?ここからバスに乗ってかないといけないよ、よかったら案内しようか?」
「すいませんお願いします」
少女は丁寧におじきしながらアタシを見つめるキラキラと輝く大きな瞳にアタシは思わず見とれてしまう。
- 11 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:00
- そしてアタシは少女をバス停まで送っていくことにした、でも少女は少し距離置きながら歩いていた。
「なんでそんな離れて歩いているの?」
「いや・・・あの・・その・・なんて言うか恥ずかしいから・・・」
少女の頬がトマトのように赤くなってモジモジし始めた、その仕草に思わずアタシは吹き出した。
「別に恥ずかしがることなんてないじゃん」
「あまりにステキだったから・・・」
「そんなことないよ、君のほうが可愛いよ」
そう言うと頬はますます赤くなっていた沸騰して倒れちゃいそうなくらいに。
「あの・・・カメラ好きなんですか」
少女がふいに話題をアタシのカメラに向けてきた、なんか逃げられた?そんな気がした。
「うん、このあたりでよく写真撮ってるんだ」
バス停まで距離は短くあっという間に着いてしまった、出来ればもっと子のこと話したいと思ったけど
そういうわけにもいかないからね。
- 12 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:01
- 「すいません、ご迷惑おかけして」
バス停に着くなり少女はまた丁寧におじきしながら謝った。
「別に謝ることはないよ、ちょうど場所を変えようと思っていたところだし」
そう話しているうちにバスが来た、少女と話した時間はほんのわずかだったけど楽しかった。
初めて会ったばかりなのにこんな気持ちは今までなかった気がする。
本当に不思議な子だなこの子は別れるが辛いかも。
「ありがとうございます」
彼女は一言お礼を言ってバスに乗り込んだ、バスの扉が閉まり出発していった。
アタシは少女に手を振りバスが見えなくなるまで見送った。
- 13 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:01
- 少女を見送った後ふと時計見たもうすぐ3時になろうとしていた。
アタシはその足で先輩が経営している喫茶店行くことにした。
その場所はバス停すぐそばにあった。店の名は「グラフィティ」と言う。
そこは写真屋兼喫茶店というちょっと変わった感じのスタイルだった。
カメラ好きの人たちがよく集まる店としても知られている。
アタシはレトロな感じの扉をゆっくりと開ける
「いらっしゃい、なんだ後藤か」
カウンターにはボーイッシュなスタイルのアタシの先輩いちーちゃんこと市井紗耶香がいた。
そしてアタシがカメラ好きになったきっかけを作った人物でもある。
今は体を壊した父親に代わって店を切り盛りしている。
「いちーちゃん、現像したいんだけど暗室借りていい?」
「いいよ、使いな」雑誌を見ながらいちーちゃんは答えた。
- 14 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:02
- 暗室に入ると早速準備に取り掛かる、薬品など使うため最初の頃はいちーちゃんに手伝ってもらったが
今ではフィルムの感光から印画紙の焼付けまで1人で出来るようになった。
写真が浮かび上がる瞬間がアタシはたまらなく好きなんだよね、そして1枚1枚丁寧に現像していく
最後の1枚あの青空の下で微笑んでいた少女の写真が浮かび上がってきた。
アタシは印画紙を定着液ですすぎ、水洗いしてから乾かすために頭上に渡してあるヒモ
についたピンチではさんでぶら下げた。
- 15 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:03
- 作業を終えて暗室を出ると外の景色はオレンジ色に染まっていた。
「コーヒーでも飲んでいけよ」
「ありがとう、いちーちゃん」
アタシはカウンターに座りいちーちゃんのいれてくれたコーヒーを一口だけ飲んだ。
店の内装はどこでもありそうな喫茶店だけど張り紙を見るとメニューの隣に目を向けると
「証明写真撮ります」の張り紙があるというなんとも奇妙な光景がある。
アタシがカメラを始めたのは高1の時当時2年生だった今のアタシほどはないが家庭の影響でカメラ好きだった
いちーちゃんからカメラを渡されて「なんでもいいから撮ってみろ」と言われたから近くの海の写真撮った。
その時は今日みたいに夕日がとても綺麗だった、そのとき出来上がった写真を見てアタシは感動してしまった。
- 16 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:04
- それ以来アタシはいちーちゃん以上のカメラ好きになってしまった。
「しかし後藤はカメラ好きだよな、誰に似たんだよ?」いちーちゃんが呆れながら言う。
「いちーちゃんのせいだよ」
「ここまで後藤がカメラにはまるとは思わなかったよ、でも後藤のおかげで稼がして貰っているけどな」
「それはどうも」アタシはコーヒーを一気に飲み干した時計を見る5時30分になろうとしていた。
そろそろ帰らないといけない時間になった、アタシは慌てて暗室に戻り出来上がった写真を取りに行った。
カウンターに戻ると財布から現像代とコーヒー代を取り出した。
「コーヒー代はいいよ、私のおごりだ」
「ありがとう悪いね」
アタシはいちーちゃんにお礼を言って店を出た。
- 17 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:04
- 家に着くとアタシはもうひとつ仕事がある、それは家事である。
炊事、洗濯、掃除はほとんどアタシの仕事でお父さんはなにもしないというかさせたくない。
なぜなら料理は一言でいえば最悪、小さい頃は文句は言えなかったが年齢が上がるとさすがに
きつくなり小学校高学年あたりからアタシがすべての家事を仕切るようになった。
まあこれならいつ結婚しても困らないなんてことも最近は思ったりしている。
でも当分結婚するもりはさらさらないけどね。
- 18 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/25(金) 18:05
- 食事の支度が終わると同時にお父さんが帰ってきた、2人で夕食済ませた後
アタシは食事の後片付けしてから自分の部屋へともどって写真の整理でもしよう思った。
鞄から今日現像した写真を机の上に広げると真っ先に手にとったのはあの少女の写真、そういえば
名前聞いてなかったなそれになんであんな風に笑っていたのかもアタシは知りたかった。
また彼女に会えるといいなという素直な願いを胸にアタシはその写真をそっと机の引き出しにしまった。
- 19 名前:ヒガン 投稿日:2005/03/25(金) 18:06
- 本日はここまで
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/25(金) 18:12
- おもしろそうですね。
期待しています。
- 21 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:16
- あれからアタシは何度も少女と出逢った場所に行ってみたけど当然いるはずもない。
どこにいるかわからない少女探すなんておかしいねアタシって。
もしかしたらあの子は幽霊か幻だったのかと思うくらい不思議な少女だったからな。
彼女の笑顔がどうしても忘れられない・・・
- 22 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:17
-
2――――
- 23 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:17
- いつもの日常生活が始まった、アタシはお父さんより早く起きて朝食の準備する。
「お父さん、仕事遅刻するよ!早く起きて」
アタシが大声出さないと起きてこないまったく困ったもんだよ、数分後眠たそうな顔して
お父さんが起きてきて「最近、明るくなったんじゃないか」なんて言っていたけどアタシはいつもと
変わらず至って普通なんだけどな。
しかしアタシは自分の変化に気づかなかったも知れない、登校時間になり家を出るときもそうだった。
自宅を出ると隣のうちの庭先で裕ちゃんが花に水をやっていた。
「おはよう、裕ちゃん」
「真希、おはようえらく明るいけどなんかあった?」
まただお父さんに続いて裕ちゃんにまで言われた、でもいつもより明るいだとか元気だとか
言われてもアタシはピンと来なかったまあそんな疑問も抱きつつ学校に向かった。
- 24 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:18
- 今日もよく晴れ渡っている、梅雨入りしたけど雨が降ったのは数えられる程度、テレビでは
今年は空梅雨になりそうだと言っていたけ、流れる雲を見ながらアタシは校舎に入った。
下駄箱で靴を履き替えていると後から美貴の声がした。
「おっす、真希」明らかに眠そうな声で美貴が言った。
「おっす、美貴、今日は早いじゃん」
「美貴だってたまには早く来ることもあるよ」
美貴は時間にルーズでいつも遅刻ギリギリでやってくる、しかし今日は珍しく早く登校してきた。
そんな話している最中でも美貴は大きなあくびする。アタシはそんな美貴を呆れた目で見ていた。
教室に入ると美貴は大きなため息をつく、まだ授業も始まってないのに疲れた表情をしている、美貴はたまに
油断しているとありえないくらい怖い顔している時がある、アタシが何度注意しても直らないんだよねこれが・・・
「美貴、また怖い顔になってるよ」アタシはたまらず注意する。
「まだ眠いこのまま眠ってしまいたい・・・」
そういえば授業中美貴がまともに起きていたことあんまりなかったけ、どうしようもないね美貴って。
- 25 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:19
- 「ねえ真希、聞きたいんだけど」
美貴の顔つきが急に変わり真剣な表情になった、なんか怖いんですけど・・・
「最近、真希の様子がおかしいんだけど何かあった?」
「はぁ?」美貴の質問に思わず腹か声が出てしまった。
「真希、声大きいよ」
「ごめん、それでアタシの様子がおかしいどういうこと?」
「なんか明るくなったと言うか、ロマンティック浮かれモードと言うか」
最後の言葉の意味はよくわからないけど、お父さんや裕ちゃんに続いて美貴にまで言われたか
そんなにアタシってそんなに明るくなったのかな?自分ではなんのことだがわからない。
「アタシこれでも普通のつもりなんだけど」
「いや絶対違う、明らかにおかしい、なんか空を見上げたと思ったら思い出し笑いしてるし」
アタシ気づかない間にそんなことしてたんだ、一体どうしたんだろう?
「わかった!男が出来たんだそうでしょ?」
「違う、男じゃないから・・・」
テレビドラマの取調べ見たいなってきた、今すぐ逃げ出したい気分、でも美貴は許してくれるはずもない。
神様でも誰でもいいから助けて欲しいよ。
- 26 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:20
- 「後藤!藤本!うるさいぞ!もうチャイムは鳴ってるぞ」
気がつくと担任の平家先生が来ていた、いつの間かに始業ベルが鳴ったらしい、とにかく助かった。
「続きは放課後にやるから覚悟しといてね」
「まだやるつもり?」
「当たり前でしょ」
ヤバイ目が本気だよ、その目に思わずアタシは身震いしてしまった、なんでそんな必死なのかわからないけど。
天気がいい日だからカメラを持って出かけようと思っていたのになんとかして逃げ出してやる。
アタシはずっと逃げる方法を考えていたため午前中の授業内容はほとんど頭に入らなかった。
- 27 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:20
- 時はあっという間に過ぎていき今日の授業はすべて終わった、ふと美貴を見るとクラスメートとお喋りをしている
今がチャンスだと思いアタシは気づかれないようにそっと教室を出て廊下を一目散に走り出した。
途中で先生に注意されたけどなんとか校舎を出ることが出来た。
校門まであと少しと思った瞬間誰かがアタシの肩を叩いた。
「美貴から逃げられると思ってんの?」
まるで忍者のような速さでアタシに追いついていた。
「ねえ美貴、今日は開放しれくない?」
「ダメです!」即答びっくりするくらいの即答だった。
「美貴・・・今日部活はどうしたの?」
「今日は休みですから!残念!」
アタシの願いもむなしくあっさりと斬り捨てられてしまった。
「さてグラフィティ行こうか」
「アタシお金ないよ・・・」
「しょうがない優しい美貴が奢ります!」
アタシは強引に美貴に腕を掴まれてグラフィティに連れていかれてしまった。
今日は諦めるしかないな、奢ってもらえるしまあいいかな。
- 28 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:21
- グラフィティまでの道のりアタシは空を見ていた、今日みたいな天気がいい日に写真が撮れないとは
本当についていない、隣にはしっかりと腕を掴む美貴がいた。
「ねえもう腕離してくれない?」
「ダメ絶対にダメ!」
アタシはまさにヘビに睨まれたカエルのような状態になってしまった。
もう戦力もないどうにでもしてくれアタシは逃げも隠れもしないから。
グラフィティに着くと美貴がゆっくりと重い扉を開ける。
「いらっしゃい」
「こんにちは市井さん」
「おうおまえらか、後藤どうした浮かない顔して」
「別になんでもないよ」
アタシと美貴はカウンターに座ったそして取調べ第2ラウンドが始まった。
「さて本題に入ろうか、その前に市井さんコーヒー2つ真希にはケーキも付けてあげてください」
「はいよ、ところでなんの話だ?藤本がすごく張り切っているみたいだが
- 29 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:22
- いちーちゃんの質問に美貴は一呼吸置いてこう言った
「真希に男が出来たみたいです、それでいろいろ聞こうと思って」
「ちょっと美貴、アタシそんなこと言ってないんだけど」
話がとんでもない方向に進みそうなんでアタシは慌てて否定した。
「違うの?」
「うん、アタシに男なんて出来てない」
「本当に?」
「しつこいよ」
美貴はあんまり納得出来ていないらしい、なんでそこまで知りたいのか不思議だけど
とにかく誤解は解けたみたいアタシは安心してケーキを一口食べる。
「じゃあさなんでそんなに浮かれているの?」
「アタシは浮かれているつもりなんてないけど」
「納得できないな・・・」
アタシと美貴の会話を黙って聞いていたいちーちゃんがゆっくりと口を開く。
「藤本、あんた後藤に男が出来て浮かれるような奴だと思ってるわけ?」
「確かに言われてみればそうですけど・・・」
「後藤は今や男さえも寄せ付けないほどのカメラバカだよ、そんな奴に男が出来るわけがない」
「いちーちゃんそれ誉めてんの?バカにしてるの?」
「一応誉めたつもりだけど」いちーちゃんは苦笑いしながら言った。
- 30 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:22
- まあ確かにいちーちゃんの言うことは間違ってはいないけどね、昔はよく男が数え切れないほど
言い寄ってきた、アタシはそれをうるさいハエを振り落とすかのように避けていた。
そんな日々も何年か続いたけどここ最近はそんな男も寄り付かなくなった。
「そうですよね、美貴すごい想像しちゃいましたよ」
どんな想像したのか聞きたいところだがやめておこう、まあとにかく誤解が解けてよかった。
「でもさ、真希のそう言う顔さ新鮮で美貴は好きだな」
「そう言えば最近見たいことない明るい表情になったな、後藤でもそう言う顔するのか」
やっぱりいちーちゃんもアタシの変化に気づいていたんだ、自分では気づかないアタシの変化とは
一体なんだろうか見当さえもつかなかった。
でも今日はいい日になったと思う、自分の変化に気づいた記念日といった感じかな。
- 31 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:23
- 「人間は気づかない間に変化していくものだよ」
いちーちゃんが優しく言った、確かにそうかもね。
「これが大人への第一歩なんだね」
「美貴らしくもない似合わないこと言っちゃってさ」
「たまには美貴だってマジメなことだって言うよ」
人は変化を繰り返して大人になっていくものだと思う。
少しずつだけどアタシも大人への道を歩いていくんだね。
「さてアタシはそろそろ帰るとするか」
「そう、美貴はもうちょっといるけど」
「それより毎回奢ってもらっちゃって悪いね」
「いいのいいの気にしなくて」
アタシは美貴といちーちゃんに別れを告げて、グラフィティを出た。
なぜか家までの帰り道の足取りが軽くなった気がした。
- 32 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:24
- そしてその日の夜のことだった、いつも通り夕食を食べているとお父さんが急にマジメな
顔したアタシはそんなお父さんを見て不思議に思った。
「どうしたの?」
「真希、父さんな再婚しようと思うんだがどうだ?」
「いいんじゃない、アタシは賛成だよ」
最初は驚いたけどすんなり賛成できた、お母さんが亡くなって10年以上も経つしアタシだって
いつまでもこの家にいるわけじゃないからね、そろそろそんな時期かなと思っていたところだったから
アタシは素直に安心した。
「そうか、早速で悪いんだが彼女を明日連れてきてもいいか?」
「明日?いいよ」
「彼女には連れ子がいてな、その子も来る予定だ」
「その子いくつ?」
「確か高校2年生だったと思う、おまえの妹になるな」
妹かまさかこの年になって妹が出来るとは思わなかったな。
このアタシがお姉さんになるのかなんか複雑な気分だね。
- 33 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:25
- 次の日、アタシ授業を終えて早々に帰り支度を始めた。
「おー真希、今日は妙に急いでるね」
今まで寝ていたらしく美貴が大きな背伸びをしながら言った。
「今日はちょっとね家に早く帰らなくちゃいけないんだ」
「なんでよ?」
「お父さんが再婚することになったから、その相手と一緒に挨拶に来るんだ」
「へぇーそうなんだ、大変だね」
「さてアタシは急ぐんで帰るよ」
アタシはまだ眠そうな美貴を置いて家路へと急いだ。
- 34 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:25
- 家に近づくにアタシは緊張と不安に襲われはじめた。
新しく母親になる人そして妹になる子とうまくやっていけるかどうか
それが一番アタシにとって心配だった。
それにしてもこんな緊張するのは久しぶりかもしれない小学校の学芸会以来かな。
そうこういってる間に家に着いてしまった。緊張してもしょうがないアタシは思い切って家に入った。
リビングに向かうと既にお父さんと綺麗な中年の女性がいた。
「真希、お帰り」
「ただいま、ごめんちょっと鞄置いてくるね」
アタシはその人に軽く一礼して自分の部屋に向かった。なかなかいい人そうで安心した。
でも女の子がいなかったような気がするけどどうしたんだろう。
部屋に入ると見知らぬ女の子が壁いっぱいに貼られた写真を熱心に見ていた。
「あの・・・」
アタシが声を掛けようと思った瞬間。
「あっ・・ごめんなさい勝手に入ってしまって」
その子はアタシに一礼して部屋を出た、それにしてもあの子どこが会ったような気が・・・。
まさかね、アタシは気のせいだろうと思い着替え始めた。
- 35 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:26
- 着替えへ終えリビングに戻るといつの間にか女性の隣には女の子が座っていた。
その子は目の前に差し出されたケーキを夢中で食べていた。
アタシは息を整えお父さんの隣に座った。
「あなたが真希さんね」
「はい、後藤真希ですよろしくお願いします」
深々とアタシは頭を下げる、その人の声は優しく温かい感じがする人だった。
「ほら、あなたも挨拶しなさい」
「はい、わかりました」
挨拶するように促されてケーキを半分まで食べてところでフォークを置いた。
「紺野あさ美と申します、よろしくお願いします」
その子は礼儀正しく深々と頭を下げた、ゆっくりと顔を上げた。
アタシはその子を顔見て驚いた、そうあの写真の少女だった。
あの時青空の下で微笑んでいた少女が今アタシの目の前にいる。
- 36 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:26
- これがアタシと彼女の2度目の出会いだった。
彼女の名前は「紺野あさ美」、この子がアタシの妹になる。
アタシは彼女をじっと見つめていた。
彼女が視線に気づいたらしくアタシに話し掛けてきた。
「すいませんでした、勝手に部屋に入ってしまって
ステキな写真だったからつい見入ってしまいました」
「別にいいよ、気にしてないから」
しかし話しているうちに彼女の表情が変わった。
「以前どこかでお会いしましたよね?」
「うん、この前海で会ったよね」
「やっぱり、そうでしたかこの前はありがとうございました」
優しい微笑みにアタシは思わずフリーズしてまった。
彼女の瞳はまるで宝石のように輝いていた。
「おい真希どうした?」
「ごめん、なんでもない」
お父さんに声を掛けられアタシは我に返った、彼女もアタシを不思議なそうな目で見ていた。
そんなアタシに彼女はにっこりと微笑む、その時胸の鼓動が強くなった気がした。
彼女に初めて会った時と同じ気持ちかもしれないうまく言葉では言い表せないけど優しい
気持ちになったような感じだった。
- 37 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/03/27(日) 14:27
- そして日も暮れかけたころ2人は帰っていった。
3日後にはここに引っ越してくるとお父さんが言っていた。
こうしてアタシと彼女は家族となった。
- 38 名前:ヒガン 投稿日:2005/03/27(日) 14:30
- 本日はここまで
>>20
レスありがとうございます
期待に答えられるどうかわかりませんが
よろしくお願いします。
- 39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/03/27(日) 18:30
- いち小説として、すごく好きです。
- 40 名前:ヒガン 投稿日:2005/03/28(月) 20:45
- 早くも行き詰まってしまったので今回は特別短編を載せようと思います。
タイトルは「かたちあるもの」ですCPこんごまです。
- 41 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:46
- アタシは泣いていた・・・
これ以上の悲しみはない
風が吹き荒れる屋上で
アタシは泣きつづけた。
何度名前を呼んでも君はいない
君のいなくなったこの世界
アタシはこれからどうすればいいの?
- 42 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:46
- ほんの1時間前の出来事だった。
慌しくなる病室、むなしく響く機械の音
弱々しくなったの君の姿、アタシはただ名前を呼びつづける。
行かないで行かないでと心の中で何度も叫んだ。
何故なんだろうと君と過ごした日々が走馬燈のように蘇る
- 43 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:47
- 君と初めて出逢ったのは桜舞う季節だった。
春の風がとても心地よかった。
そんなことを感じながらアタシは桜並木が綺麗な道を歩いていた。
ふと上を見上げた花吹雪共にプリントのような物が舞っていた。
アタシの手元にそれは落ちてきた。よく見るとそれは譜面だった
辺りを見回すと散らばった譜面を必死で集めている女の子の姿があった。
- 44 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:47
- 何故なんだろう、アタシはほっとけなかった。
気づいたら一緒に譜面を集めていた。
「はい、これ」
「すいません、ありがとうございます」
アタシは女の子の顔を見て固まった
大きな瞳がしても印象的だったから・・・
これが君との最初の出会いだったね。
- 45 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:48
- それからあの道を通るたびに君と会った。
2ヶ月ぐらいたった頃だろうか。
アタシにある感情が生まれたのは。
君に想いを伝え日、笑顔で頷いてくれたね。
アタシはすごく嬉しかった。
- 46 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:48
- どんな時も君はアタシの側にいてくれた。
こんな日がずっと続くと思っていた。
でもそう長くは続かなかった。
ある日突然君が倒れたと聞かされ
アタシは夢中で病院に向かった。
そして医者から信じられないことを言われた。
- 47 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:49
- 余命1年・・・
目の前が真っ暗になった。
嘘だ・・・嘘だ・・・誰が信じるか。
そう何度も言い聞かせた。
でも時は無情にも過ぎていく・・・
- 48 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:49
- 何も知らず、アタシに笑顔を見せてくれた君
その姿はとても悲しかった。
そしてアタシは涙を見られないように
君を抱きしめたね、突然のことにびっくりしてよね。
でもアタシは構わず君を抱きしめた。
- 49 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:50
- そして3ヶ月前のことだった。
「別れませんか?」
アタシは耳を疑った、あまりにも唐突な君の一言に。
今に涙が流れそうな瞳で君を見つめた。
「薄々気づいていました、私がもう長くはないということは」
君はすべて知っていたんだね、アタシ思わず唇をかみ締める。
「あなたの優しさが私を余計に苦しめているような気がするから
だから・・・私と別れてください」
なんでそんなこと言うの、アタシはただ君を離したくないだけなのに
どうしてわかってくれないのアタシは君を見つめ続けたる。
「それに見たくないです後藤さんが悲しむ姿なんて、考えただけでも嫌なんです」
「そんなこと言わないで・・・」
アタシは君を抱きしめようとしたでも君は受けいれてくれなかった。
「やめてください・・・今あなたに抱きしめられたら忘れなくなっちゃいます・・・」
アタシは涙が止まらないでも君は必死で涙をこらえていた。
- 50 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:51
- 「わかってください、これは後藤さんのために言ってるんです」
「紺野・・・どうして・・・アタシはこんなにも君を愛しているのに・・・」
「私だって・・・本当は嫌です、後藤さんと別れるなんて・・・」
君は思わず口に手を当てる、これが彼女に本心なんだ、これが優しさなんだ
君なり考えた答えがアタシの別れなんてバカだよ、君は・・・本当にバカだよ
アタシはそっと彼女の方を抱く、君は今まで我慢していた大粒の涙を流した。
「アタシのわがままを聞いて欲しい、ずっとそばにいたいのお願い・・・」
「ごめんなさい・・・後藤さんのために言ったのにやっぱり私には無理でした」
そう一番辛いのは他の誰でもない君自身なんだ、今ごろなってわかったよ。
- 51 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:52
- 残り少ない君との日々を一日一日大切に過ごしていた。
徐々に君は元気をなくしていった、笑顔の数も減っていた。
そして別れは突然やってきた、君の容体が急変したという
連絡があり急いで病院に向かった。
- 52 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:52
- 病室に入ると医者や看護士たちが慌しく動いていた。
アタシは君の側まで行こうとした。
なぜか足が鉛のように重たく感じベッドに向かうまで時間が掛かった。
そして冷たくなった君の手を握った。
「紺野・・・・行かないで・・・お願い」
アタシはすでに泣いていた、涙が止まらない、ただ願うしかできなかった。
君が小さな声でなにかを言おうとしている、アタシよく耳をすませてみた。
ゆっくりとこう言った。
「後藤さん・・・・私のこと忘れないでください・・・私、後藤さんの想い出でいたいから」
「バカ・・・なんでそんなこと言うの?紺野を思い出なんかしたくないよ・・・」
君が笑った、久しぶりに見た君の笑顔、でも今にも消えそうな微笑み・・・
「私はずっと後藤さんを愛しています・・・・」
次の瞬間、部屋中に機械の音が響き医者が素早く脈をとった。
「残念ですが・・・ご臨終です」
最後の医者の言葉はアタシには聞こえなかった。
ただ胸に残っているのはあの言葉だけだった・・・
- 53 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:53
- アタシは病院の屋上で泣いた人知れず泣いた。
何度も何度も紺野の名前を呼んだ。
「紺野・・・・」
アタシは今すぐにでもここから飛び降りて紺野のところへ
行こうと思い手すりに手をかけた瞬間だった。
「後藤さん」
「紺野?」
アタシの目の前に紺野がいた、アタシの目の前で笑っていた。
「大丈夫ですよ、私はここにいます」
そう言って私の手を取り胸にそっとあてた。
「私はいつだって後藤さんの中にいます、安心してくださいね」
強い風が吹いたアタシは思わず目を閉じる、そしてゆっくりと目を開くと
そこには紺野はいなかった、アタシはそっと胸に手を当てる。
「紺野、ありがとう」
アタシはそっとつぶやいた。
- 54 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:54
- 紺野の葬儀も終わり、アタシは部屋にいた。
今までずっと一緒にいた紺野がいないのは寂しいけどね。
アタシは気分転換にラジオをつけた。
陽気なDJの声もアタシの心を落ち着かせていた。
「さて次のリクエストいきましょう、都内に住む紺野あさ美さんからのお葉書です」
アタシは耳を疑った、ラジオのボリュームをあげた。
「こんにちは、私は愛する人と別れて遠い所にいます、その人はアタシと別れてきっと
寂しい思いをしていると思うのでこの歌でメッセージを伝えたいと思います」
紺野の葉書を淡々と読むDJにアタシはただ驚くだけだった。
「はい、わかりましたじゃあ曲のほういきましょう柴咲コウさんで『かたちあるもの』です」
歌が流れた、今のアタシにぴったりの曲かもしれない
「紺野、アタシは大丈夫だよ」
- 55 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:55
-
泣きたいときや苦しいときは 私を思い出してくれればいい
寄り添える場所遠い夏の日
温もり 生きる喜び
全ての心に・・・。
- 56 名前:かたちあるもの 投稿日:2005/03/28(月) 20:56
-
終わり
- 57 名前:ヒガン 投稿日:2005/03/28(月) 20:59
- 以上です。
>>39
レスと嬉しいお言葉ありがとうございます
今後も頑張りたいと思います
- 58 名前:ヒガン 投稿日:2005/03/28(月) 21:00
- 一応隠します
- 59 名前:ヒガン 投稿日:2005/03/28(月) 21:00
- もう1回
- 60 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:45
- 彼女がアタシのそばにいる・・・
手の届くところに彼女がいる・・・
優しい笑顔をアタシにくれた。
キミのことをもっと知りたいんだ。
- 61 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:46
-
3――――
- 62 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:47
- 今日からアタシ達は4人家族になる。
今まで二人暮しにはちょっと広すぎたこの家も賑やかになる
そんなことを考えながらアタシは彼女たちを迎える為に掃除をしていた。
アタシの隣の部屋が彼女の部屋として使うことになった。
その部屋の掃除をしているうちに昔のアルバムを見つけた、幼い頃のアタシの写真
そして若い頃の両親の写真を見ていた、アタシが3歳の時に病気で天国に行ったお母さん
アタシが小さかったせいかあまりお母さんのことは覚えていない、覚えているのは手の温もりだけ
写真の中のお母さんは優しそうな顔していた。
きっと天国でも優しい微笑みでアタシ達を見守っている、アタシはそんな気がしていた。
新しいお母さんとうまくやっていけるかどうか不安はあるけど、アタシなりにがんばってみるか。
しばらくすると外からトラックの音が聞こえた、彼女たちが着いたようだ。
「さて、行きますか」アタシは気合を入れなおして外へ向かう。
- 63 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:48
- 玄関を出るとそこには裕ちゃんもいた。
「おはよう、裕ちゃんも手伝ってくれるの?」
「うん、人が多いほうが早く片付くだろうと思ってね」
「それはどうも」
裕ちゃんは結構世話好きなんだよね、昔からよくアタシ達のことを気に掛けてくれた。
今回のお父さんの再婚を自分のことにように喜んでいた。
「さっき挨拶に来たよ、新しいお母さんとその子ども、なかなかいい人やん、安心したわ」
アタシは静かに頷くだけしかできなかった。
「そう言えば真希、あんたお姉さんになるんやね」
「うん、いまいち実感湧かないけどね」
アタシは昔、弟か妹が欲しいとお父さんにわがままをいったことがあった。
その時はお母さんの死について理解してなかったからな、周りの友達に弟や妹がいるのを見て
とにかくうらやましかったのを覚えている、そんな思いもいつしか消えている。
あの時は本当にお父さんに悪かったと思っている、それが今ごろになって妹が出来ると言われた時は
結構複雑だった、アタシが姉とは笑っちゃうね。
- 64 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:48
- 「さてそろそろ始めますか」
「そうやったな、話してる場合やないな」
アタシと裕ちゃんは荷物運びを手伝った、二人暮しのせいか荷物は意外と少なくてすんなりと
片付いてしまった、いよいよ新しい家族生活が始まるんだな、ようやく実感が湧いてきた。
「今日からよろしくお願いしますね、真希さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
これからはこの人がアタシの母親になるんだ、アタシはこの人のことをお母さんと呼べるのだろうか
いまだに消えない前のお母さんの温もりがまだ手の中に残っているから時間は掛かるだろう。
でもいつかはお母さんと呼べる日が来ると思う、だからがんばらなくちゃいけないんだ。
- 65 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:49
- 翌日、日曜日は唯一寝坊が許される日、でも日頃の習慣のせいで早く目が覚めてしまう。
窓から外を覗く、今日も空はよく晴れ渡っていた。
まだ眠いけど起きなきゃアタシは重い体を引きずるようにしてベッドから抜け出した。
それにしても静かだ誰もいないのかな?あたしは不思議に思い部屋を出た。
リビングに来るとそこには誰もいなかった、ふとテーブルを見ると置手紙があった。
「親戚に結婚の挨拶に行ってくる、帰りは遅くなる」とお父さんの字で書かれていた。
じゃあアタシ一人か、気が抜けたようにソファーに腰をおろした、その時物音がした。
アタシはビクッとしながら物音の方向を見た。
- 66 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:50
- 「あの・・・おはようございます」
緊張した面持ちの彼女がいた、そうだ忘れていたアタシ一人じゃなかったんだ。
「お・・おはよう」
「お母さん達はどうしたんですか?」
「出掛けたみたい、帰りは遅くなるらしいよ」
「そうですか・・・」
今、この家にはアタシと彼女しかいない、この2人きりの空間が妙に重く感じた。
アタシも彼女もどうしたらいいかわからない状態、さてどうしたものか。
「朝ごはん、まだだよね?」
「はい、今起きたところなので」
「そっか、じゃあアタシ作るよ」
「私、手伝います」
今日一日、彼女と過ごす日曜日というのもいいかもしれない。
彼女のこともっと知るチャンスでもあるし。
- 67 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:50
- とりあえず朝食作ることにした、アタシは目玉焼きを焼き、彼女がサラダを作る。
「あの・・・後藤さん」
彼女がアタシの名前を呼ぶ、しかし「後藤さん」はないでしょ。
「うーん・・・おかしくない?」
アタシが当然のようにツッコミを入れるが、彼女は首をかしげていた。
「後藤さんっておかしいでしょ、キミも後藤さんになったわけだし」
「あっ、そうですよね、すいませんなんて呼んだらいいかわからなかったので」
確かに呼び方って困るね、いきなりお姉ちゃんとか呼ばれるのも恥ずかしいような気がするし
こりゃ困ったどうしようか悩んだ挙句。
「普通に名前で呼んでくれればいいよ」
「じゃあ、真希さんと呼ばせてもらいます」
アタシもそのほうがいいかも、それにしても礼儀正しい子だねアタシとは大違いだわ。
「私のことはあさ美と呼んでください」
彼女はニッコリと微笑みながら言った。
- 68 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:51
- 朝食を済ませて後片付けしていたアタシは天気もいいから出掛けようと思った。
「ねえ今日、暇?」
アタシは皿を洗いながら彼女に聞いた。
「はい、部屋も片付いたので暇ですけど」
「アタシと一緒に出掛けない?この辺案内したいし」
アタシがそう言うと彼女はなんだか困ったような顔していたので。
「アタシじゃダメかな?」
「いえ!とんでもないです、行きます」
彼女にはしては珍しく大きな声で答えてくれた、言ってみるもんだね。
準備も早々に済ませてアタシと彼女は家を出た。
- 69 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:51
- 2人で海岸沿いの道を歩く、でも彼女は前と同じように少し離れて歩いていた。
「まだ、恥ずかしい?」
「えっと・・・あの・・・ごめんなさい」
「謝るところじゃないよ」
「あ・・・ごめんなさい」
「緊張しすぎだよ、リラックスリラックス」
アタシはそう言いながら彼女に頬に触れてみた、すると彼女の顔はたちまち赤くなった。
そんな彼女の仕草にアタシは思わずクスッと笑った。
「でも嬉しいです、真希さんのようなステキなお姉さんが出来て」
「そう言われるとアタシも嬉しいよ」
ようやく彼女も落ち着いてきたみたいで会話がよくはずむようになってきた。
これが本来の彼女の姿なんだろうね。
- 70 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:52
- そしてアタシはどうしても知りたいことがあった。
初めて出会ったときからずっと気になっていたことだ。
「この前どうして嬉しそうに青空を見上げていたの?」
アタシの質問に彼女は困ったような顔をした。
「どうして言われると困るんですけど、好きみたいです青い空が」
青い空が好きそれだけが理由なのか、アタシはそうは思えなかった。
「青空を見ていると心が穏やかになるんですよ」
彼女の心を穏やかにする、青空とは一体なんだろうかアタシにはわからなかった。
「悲しい時や辛いことがあったときはよく青空を眺めているんです
すべてを洗い流してくれるような気がするから」
彼女にとって青空は友達みたいな存在なんだね。
これは彼女にしかわからない気持ちなんだろう。
「つい我を忘れて、何時間でも見てしまうんですよ」
彼女はそう言いながら空を見上ていた。
- 71 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:53
- 「あの日私は一人で電車に乗ってここまで来たんですよ、海がとても綺麗だったから
電車を降りて空と海を見ながら歩いていたら迷ってしまって、あの時は慌てましたよ
そしたら真希さんが声を掛けてくれてバス停まで送ってもらって、優しい人だなと
思いました、そして今真希さんと私が家族なった、不思議な話ですね」
彼女が優しい笑顔になった、アタシも自然と笑みがこぼれる。
「お母さんに連れられてこの街に来た時はびっくりしました
再婚してこの街に住むのよと言われたから」
それにしても不思議な話だね、あの時遠かった存在なのに
今はこんなにも近くにいるなんて。
「疲れたでしょ、アタシの先輩がやっている喫茶店に行こう」
アタシは彼女をグラフィティに連れて行くことにした。
「どんな人なんですか?」
「アタシがカメラ好きになるきっかけを作った人なんだ」
- 72 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:54
- グラフィティに着くと店の外観を見て「ステキな店ですね」と言った。
「いらっしゃい、おー後藤か」
店の扉を開けるといちーちゃんが出迎えてくれた。
「あれ?今日は見慣れない子連れてるな」
「アタシの妹だよ」
「妹?おまえに妹なんていないだろ」
アタシはいちーちゃんにこれまでのことを話した。
「へーそうなんだ、私は後藤の先輩の市井紗耶香、よろしくね名前なんて言うの?」
「は・・はい・・・紺野・・・じゃなくて後藤あさ美です」
「かわいいね、サービスしちゃうよ」
そう言っていちーちゃんは彼女にジュースを差し出した。
「いちーちゃんアタシにはサービスないの?」
いちーちゃんはしょうがないなという顔しながらコーヒーをいれてくれた。
「しかし、おまえが姉貴かよ、似合わないな」
「ほっといてよ」
アタシは膨れっ面になりながらコーヒーを一口飲む。
そんなアタシを見て彼女がクスッと笑った。
- 73 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:54
- 「この店は市井さん一人でやってるんですか?」
「そうだよ、父親が体壊して母親が看病してるからね、店は私に任せられてるよ」
いちーちゃんの言葉に彼女は真剣な眼差しで見ていた。
アタシはなぜかいちーちゃんに嫉妬してしまった。
「おまえどうした?」
いちーちゃんの言葉にアタシは思わず我にかえる。
「いちーちゃん、妹に手を出したらアタシが許さないよ」
「バカ、何言ってんだよ」
そう言った後、いちーちゃんが思わず吹き出した。
「何、笑ってるの?」
「もう姉貴らしくなってたからな、つい笑っちまったよ」
アタシもう姉らしくなってるの?ふと自分の言った言葉を思い出し
彼女を見た案の定頬を真っ赤にしてうつむいていた。
無意識というものは怖いそう思いながらコーヒーをまた一口飲む。
- 74 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:55
- その後グラフィティを出て、軽く背伸びをする。
彼女は花壇に咲くアジサイを見つめていた。
そしてアタシ達はゆっくりとまた歩き始めた。
「さっきは嬉しかったです」
ふと彼女がつぶやいた。
「んあ・・・何が?」
アタシは少し戸惑いながら聞いた。
「妹に手を出したらアタシが許さないよと言ってくれて
恥ずかしかったけど嬉しかったですよ」
自分で行った言葉なのにアタシも少し恥ずかしくなってしまった。
「だってキミはもう大切な家族だからさ」
今の言葉は嘘偽りのない言葉、彼女といるとなせだか素直になれる。
- 75 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:56
- 「さて、これからどうする?」
「この前の海岸に行ってみたいです」
多分アタシと彼女が初めて出会った場所のことだと思う、アタシのお気に入りの場所
秘密の場所のつもりだったけど彼女ならいいだろう。
彼女もあの場所が気に入ったに違いない、さすが見る目があるねアタシは感心した。
「早く行きましょうか」
彼女がアタシの手を握りゆっくりと走り出した、アタシはその手をしっかりと握り返した。
しかし彼女はとても足が早くて着いた頃には息切れしてしまった。
「足速いね・・・」
「はい、陸上やっていましたから」
速いはずだわ、それに息切れもしてないし意外と強くて驚いた。
「いい所ですねここ」
彼女は両手を広げて潮風を浴びながら気持ち良さそうにしていた。
そんな無邪気な彼女を見てアタシは小さく笑う、今日は彼女の素顔がいろいろと
わかってよかった、これからの生活がもっと楽しくなるかもしれないね。
- 76 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/03(日) 14:56
- 一日というものはあっという間に過ぎる、海は夕焼けに染まっていた。
「オレンジジュースみたいですね」帰り道で彼女が言った。
家に着くなりアタシも彼女もお腹がすいていたため夕食をとることにした。
得意料理のオムライスを作ってあげた、彼女はおいしそうにオムライスを
食べてくれる、こんなにおいしそうに食べる子初めて見たよ。
作ったアタシとしては嬉しいんだけどね。
彼女がこんなに食いしん坊だったことに驚いたよ。
アタシはそんな彼女を見てまた笑う、そにしても
今日はよく笑ったな、こんなに笑ったのは始めてかもしれないね。
久しぶりにいい日曜日だったと改めて思った。
こんな日々が毎日続けばいいな、彼女と一緒なら退屈はしないだろう。
「これからもよろしく、あさ美」初めて彼女の名前を呼んでみた。
しかしオムライスに夢中でまったく聞いてないみたい。
まったくもう・・・でもそこがかわいいから許しちゃう。
- 77 名前:ヒガン 投稿日:2005/04/03(日) 14:58
- 本日はここまで
- 78 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:29
- 彼女と過ごした休日、すごく楽しかった。
キミがいるとアタシは笑顔になれる。
ねえ今日もアタシに笑顔をちょうだい。
ほんの少しだけ笑ってくれればいいから。
- 79 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:30
-
4―――
- 80 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:36
- 月曜日これほど憂鬱な日はない。楽しかった昨日はもう帰ってこない。
気だるい気分の時は彼女の笑顔を思い出す。
不思議と気持ちも晴れやかになってくる。さて今日も1日がんばりますか。
気合いを入れなおして朝の仕事を始めることにした。
しかし、いざキッチンに行くとお父さんは既に食事をしていた。
「あら、真希さんおはよう」
「お・・おはようございます」
そうだ、この人がいた、既に朝食が出来てるということはアタシの出番なしか。
「今まで真希さんが家事を全部やっていたそうね」
「はい、そうです」
「これからは私が家事やるから、安心してくださいね」
長いことやってきたからな急にもうやらなくていいと言われるとなんか寂しい。
でもなんかやらないと体が鈍ってしまいそうだ。そこでアタシは考えた。
「あの・・・当番制にしませんか?」
- 81 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:37
- 交渉の末、当番制で家事を分担することになった。
アタシはため息着きながら席に着く。
「おはようございます、真希さん」
「おはよう、早いね」
「何言ってるんですか、今日から私も学校です」
ふと見ると真新しい制服に身を包んだ彼女がいた。しかもアタシと同じ高校か。
これはまた楽しみが増えたね。
「家事好きなんですか?」
「まあね、長いことやっていたから楽しくなっちゃって」
「私も見習わないといけませんね」
そう言いながら彼女はパンを一口食べた、アタシも久しぶりに人に作ってもらった
朝食を食べる。悪くないねこういうのも。
- 82 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:37
- 「さて、そろそろ行こうか」
朝食を食べ終えたアタシは彼女に声をかけた。
ところが彼女はまた食事中だった。
まるでスローモーションのようにゆっくりと食べている。
「転校初日から遅刻するつもり?」
「もう少しで食べ終わります、待っていてください」
アタシは呆れながらも彼女が食べ終わるのを待っていた。
「お待たせしました、行きましょう」
口の周りにパンくずがついたままだったのでアタシは
それをハンカチで拭いてあげた。
「すいません」彼女は恥ずかしそうに小さな声で言った。
- 83 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:38
- 家を出て軽く深呼吸をしてみる。今日もいい天気、風がとても気持ちいい。
「2人ともおはよう」
隣の庭先から裕ちゃんの声がした。
「おはようございます」
「おはよう、裕ちゃん」
「あさ美ちゃんは今日から学校やったな、がんばってな」
「はい、がんばります」
彼女は元気な声で答えた。
「真希、あんたもがんばりや」
「はい・・・」
「なんやそれ、もっと気合い入れんかい」
裕ちゃんも彼女も朝から元気だね。
朝からテンション上げるなんてアタシには無理だよ。
アタシは思わず苦笑いをしながら彼女と学校に向かった。
- 84 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:39
- 学校までの道のり彼女と話をしていた。アタシは驚いたことがあった。
彼女はとても成績がいいらしい、前の学校では常に成績トップだったという。
うちの高校の編入試験も余裕でクリアしてしまったらしい。
いつ試験受けに来たんだろうと思い、聞いてみると一週間前と答えた。
美貴に捕まってグラフィティに連れていかれた日だ。あの時捕まらなきゃ
学校で彼女に会えたかもしれないそう思うと美貴を恨みたくなってしまった。
でもあと1ヶ月近くで夏休みに入るという時に転校なんて大変だねとアタシは思った。
- 85 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:39
- 「緊張してる?」
「はい・・・」
やっぱりね、学校に近づくにつれて口数が減ってきたからな。
「大丈夫、なんとかなるよ」
「そうですかね・・・」
結構大人しいからいじめられたりしないかな、それがアタシには一番心配だった。
「しょうがない、職員室まで着いて行ってあげよう」
アタシはボディガードになるそして彼女はお姫様、どんなことがあっても守ってあげる。
なんてドラマみたいなことを想像しながら学校までエスコートした。
- 86 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:40
- 「大丈夫、アタシといれば緊張なんてきっと吹っ飛ぶよ」
アタシは勇気づけるつもりで言った。けど彼女は顔を真っ赤にさせてしまった。
あらら逆効果だったかな?余計に緊張しちゃったみたい、少しだけ反省した。
「ここから1人で大丈夫です」
職員室の前で彼女は言った。
「そう、困ったことがあったらいつでもアタシの教室においでよ」
「はい、ありがとうございます」
彼女はアタシに一礼して職員室に入っていった、まあとりあえず安心かな。
そしてアタシは自分の教室に向かった。
- 87 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:41
- 教室に入るとなんだかニヤニヤした顔つきで美貴が待ち構えていた。
なんか嫌な予感がする。
「おはよう、真希ちゃん」
美貴はなぜかちゃん付けでアタシの名前を呼ぶ。
「お・・・おはよう美貴・・・」
「早速ですが質問です」
来た・・・多分彼女のことを聞くに違いない。
「さっき一緒にいた子は誰かな?」
やっぱり予感的中、手をマイクに見立てた美貴が興味津々で聞いてきた。
「ノーコメントでダメ?」
「ダメです、マジメに答えて」
「妹だよ」
「マジメに答えてと言ったはずよ」
いや・・・マジメに答えたんだけどそういえば美貴に親が再婚することは言ったけど
妹が出来るってことは言ってなかったので慌てて説明する。
- 88 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:41
- 「本当に妹なんだ疑ってごめん」
「まあ別にいいけど」
ようやく美貴にもわかってもらえた。とにかくよかった。
「ねえ、紹介してくれない?」
「なんで?」
「だって真希の妹がどんな子なのか知りたいし」
「会わせたら妹にアホがうつるから嫌だ」
「はぁ?何それ」
アタシはきっぱりと断った。しかし美貴は一歩も引いてくれない。
渋々昼休みに会わせることにした。気があんまり進まないけどね。
- 89 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:42
- 昼食を済ませたあとアタシは美貴を連れて2年生の校舎に行くことにした。
「なんでそんな機嫌悪いの?」
「別に・・・」
「いやいや機嫌悪いのもろに顔に出てるから」
美貴はアタシの頬を掴み無理やり笑顔を作る。
なんかむかついたからアタシも美貴の頬を掴んで変顔を作った。
「こんなことやってる場合じゃないでしょ、早く行くよ」
美貴は手を放したのでアタシも美貴から手を放した。
やっぱりそうなるのね・・・まあいいやどうにでもなれ。
そういえば彼女のクラスがどこか聞いてなかった。
「後藤さーん、藤本さーん」
そう思っていた矢先、前のほうからアタシ達を呼ぶ声がした。
「どうしたんですか?2年生の校舎に来るなんて珍しいじゃないですか」
そう言ってアタシ達に声を掛けたのは後輩の高橋愛だった。
- 90 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:43
- 「ちょっと用があって来たの」
アタシが言う前に美貴が答えた。
「そうだ、聞いてくださいよ。今日私のクラスに転校生が来ました」
転校生?多分彼女のことだろう。高橋と一緒のクラスなんだちょうどよかった。
「それに後藤さんと苗字が同じなんですよ。早速仲良くなったんで連れてきますね」
高橋は早口でアタシに何も言わせず教室に入っていった。数分後高橋が戻って来た。
もちろん、彼女と一緒に手なんかつないだりして、すっかり仲良くなってるみたい。
「妹ってもしかしてあの子?」
美貴が小声でアタシの耳元に話し掛けてきた。アタシは小さく頷いた。
「この子です、後藤あさ美ちゃんって言うんです」
「よ・・・よろしくお願いします」
彼女は緊張したように丁寧に挨拶をした。でもアタシに気づいたらしく笑顔を見せてくれた。
「この子が真希の妹か、私は藤本美貴、真希の親友なんだよろしく」
美貴が彼女に手を差し伸べて握手を求めながら言った。彼女も緊張しながら握手にこたえた。
「何言ってるんですか藤本さん、後藤さんに妹さんはいないじゃないですか」
高橋が訛りのあるイントネーションで言った。
アタシも彼女も本当のことが言い出せず、黙り込んでしまった。
- 91 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:43
- 「いや・・・高橋、美貴の言ってることは本当だよ」
黙っていてもしょうがないアタシがそう言うと高橋は
目を見開いてビックリ顔をした。
「ウソだー、冗談はやめてくださいよー」
「あの・・・愛ちゃん、本当のことなんだけど」
ようやく彼女も口を開いた。
「ウソー!本当なの?」
高橋は廊下中に響き渡る声で叫んだ。
なんだか恥ずかしくなってきたので場所を屋上に移した。
「驚きました、後藤さんに妹が出来たなんて」
「美貴もびっくりだよ、真希がお姉さんとはね」
そんな二人の言葉にアタシ達は苦笑いしかできなかった。
でも正直安心した。彼女にもう友達が出来たからね。
- 92 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:44
- 「高橋、妹のことよろしく頼むよ」
そう言うと高橋も美貴もそして彼女もあっけに取られていた。
アタシってなんか変なこと言った?
「あはは、格好いいな、こんな真希初めて見た」
美貴はよっぽどおかしかったらしく腹を抱えて笑っている。
「あーいいな、後藤さんみたいなお姉さん、羨ましいぞあさ美ちゃん」
そう言って高橋は彼女の肩をバンバンと叩いた。
彼女は苦笑いを浮かべているけど嬉しそうだった。
そうやって話しているうちに昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「じゃあ、また」
アタシ達は高橋と彼女と別れ教室に戻ることにした。
- 93 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/08(金) 22:45
- 教室に戻るまでの間美貴はずっと顔に笑みを浮かべていた。
「何笑ってるの?気持ち悪いんだけど」
「真希が明るくなった理由はもしかしてあの子かなと思ってね」
美貴に言われて気づく最近なんだか気分がいい、美貴の言うことは間違ってない。
アタシは彼女を見ているとなんだか安心する。
それは友達や家族といる時とはまったく違う気持ち、彼女と出会ってから
不思議な気持ちになることが多くなった。なんか毎日が楽しくなった気がするよ。
こうして彼女の新しい高校生活が始まった。
- 94 名前:ヒガン 投稿日:2005/04/08(金) 22:47
- 途中フリーズしましたが本日はここまでです
- 95 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:10
- キミと過ごす日々、とても充実してる。
もしもキミと出逢っていなかったら
そんなことを考える自分がいた。
アタシらしくもない想像だ・・・
- 96 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:11
-
5―――
- 97 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:12
- 彼女がこの家に来てから一週間がたった。この生活にもだいぶ慣れた。
彼女と過ごしてわかったことたくさんあった。
それはよく寝ること、アタシも人のことは言えないけど
彼女一度寝てしまうとなかなか起きない、昨日もそうだった。
リビング寝てしまった彼女、アタシが何度起こしても起きなかった。
アタシは仕方なく彼女を抱きかかえて部屋のベッドへと運んだ。
彼女の時間はゆるやかに進んでいるのかもしれない、彼女はいつもマイペースだ。
- 98 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:12
- 人の生き方ってそれぞれのスピードがあると思う。
生き急ぐ人、彼女のようにマイペースな人、様々な人がいる。
アタシはどちらか言うとマイペースで進むタイプかな。
急ぐことはないゆっくりとじっくりと考えて進めばいい
アタシは自分にそう言い聞かせている。
- 99 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:13
- 彼女がここに来てから2回目の日曜日が来た。
アタシも彼女もいつもより遅く起きた。
まだ眠いらしく彼女が大きなあくびをする。
つられてアタシも大きなあくびをした。
そんな些細なことでアタシ達は笑いあっていた。
- 100 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:13
- 午前10時、アタシは自分の部屋でカメラの手入れをしていた。
その時だった、ドアがノックする音が聞こえてアタシは振り返った。
「あさ美です、入ります」
彼女がゆっくりとドアを開けて部屋に入ってきた。
「どうかしたの?」
「あの・・・今日お暇ですか?」
「うん、暇だけど」
アタシがそう言うと彼女は安心したような顔した。
「ちょっと私に付き合ってくれませんか?」
意外な彼女からの誘いだった。アタシは突然のことで驚いた。
「ダメですか?」
「いいよ、行こう」
アタシは即答した。断る理由はどこにもない。
- 101 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:14
- 「どこ行くの?」
「私が前に住んでいた所です」
彼女が前に住んでいた街どんな所なんだろう。
アタシと暮らす以前ことはまったく知らないからな
彼女がどんな街に住んでどんな生活を送っていたのか知りたくなった。
アタシは浮かれ気分で彼女と出掛けることにした。
カメラも持っていこう、もしかしたらいい写真が撮れそうな気がするから。
バス停までの道のりひとつだけ疑問に思うことがあったので聞いてみた。
「なんで前住んでいた街に行こうと思ったの?」
「引っ越しが突然だったのでちゃんと街にお別れが出来なかったからです」
彼女は寂しそうに言った。長い事住んでいた場所を離れるのは辛いと思う。
アタシはそんな彼女の頭を優しく撫でてあげる。
- 102 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:14
- しばらくするとバスが来た。アタシ達は後の座席に座わった。
駅までは10分ほどかかる、それからまた電車に乗って4駅過ぎると
彼女の住んでいた街がある。そこに着くまで時間はかかる。
アタシは車窓の風景を眺めていた。
「ここの海はいつ見てもきれいですね」
彼女がバスの窓を開けてつぶやく、風で髪の毛が揺れている。
日曜日だというのにバスにはアタシを含めて数人しか乗っていなかった。
道路もそんな混んでいなかったから予定よりも早くバスは駅前に着いた。
- 103 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:15
- アタシ達は切符を買ってホームで電車を待っていた。
周りを見渡すと家族連れらしき人たちがいた。
数分後、電車が来た。電車の中は冷房が入っていて
ひんやりとしていて気持ちいい、アタシ達はゆっくりと座席に腰を下ろした。
電車から窓の風景を眺めていると海が見えなくって住宅街に入って
それからだんだんとビルが多く目に入ってくるようになった。
人通りも多い街に入ってきたみたいだ。アタシは人ごみがあんまり好きではない。
なんだか息苦しくなる感じがして嫌になるから。そんなことを考えていたら
息苦しくなってきた。アタシは軽く深呼吸をした。
アタシがそんな思いをしているのも知らず彼女は嬉しそうな顔をしていた。
- 104 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:16
- それからしばらくして電車が目的地についた。
駅前は近くに大きなデパートがあるせいか大変な人で賑わっている。
彼女が住んでいた場所は商店街を抜けたところにある。
そこ着くまでの彼女の話は「この店のかぼちゃケーキが美味しい」とか
「ここのスーパーでよく干し芋を買って食べた」とか食べ物の話ばかりだった。
アタシはそんなの彼女に呆れながらも黙って話を聞いていた。
「まだそんなに時間は経ってないですけど懐かしい気がします」
彼女は街を見回しながら静かに言った。
「もしよかったらここでの思い出話聞かせてよ」
アタシがそう言うと彼女は静かに頷いた。
- 105 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:18
- 「私の生まれは北海道なんです・・・」
彼女は生まれた時の話をし始めた。アタシはただ黙って話を聞いていた。
「それからすぐに父は交通事故で亡くなりました、」
初めて知った彼女の母親の過去、彼女はさらに話を続けた。
「そしてまだ幼い私をつれてこの街にやってきました。私は父というものを
よく知りません、ずっと母と一緒だったので」
「辛くなかった?」
「最初は辛かったです、でも私には強い味方がいました。この青空です」
そうだったね。彼女の強さはこの青空のおかげなんだ。
「今はステキな家族がいます、新しいお父さんそして真希さんというお姉さんがいる」
彼女の言葉にアタシは思わず照れてしまう。そんなアタシを見て彼女は小さく笑った。
- 106 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:18
- 彼女は表情ひとつ変えずに過去を話してくれた。今の彼女はとても輝いて見える。
そして彼女と歩いてるうちに小さな公園に来た。
「小さい頃よくこの公園で遊びました」
アタシはカメラを取り出してブランコや滑り台を撮る。
ここは彼女の思い出なんだと思いを込めてシャッターを切った。
そして次は彼女に通っていた小学校へその次は中学校に行った。
こうして彼女の思い出の場所を辿っているとアタシ自身もこの場に
いたような気がしてくる。
- 107 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:19
- 次はつい最近まで通っていた高校行くことにした。
そこに向かうまでの道アタシに立ちはだかったものがあった。
「んあ・・・何これ?」
坂というか山に近い急な斜面だった。
「心臓破りの坂と言われている坂です」
彼女がさらりと言った。確かに心臓が破れそうな坂だ。
こんな坂を彼女は毎日登っていたのかと思うと感心してしまう。
「平気ですよ、私こんな坂なら走って登れますよ」
やっぱり彼女はただ者ではない、アタシは深いため息を
つきながら坂を登りはじめる。
- 108 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:21
- それから5分ほどでアタシは坂を登りきった。
アタシは疲れてその場にしゃがみ込んだ。
「大丈夫ですか?」
彼女は疲れた顔ひとつ見せずに言った。
「まあ・・・なんとかね」
アタシは彼女の手を借りながらゆっくり立ち上がった。
だいぶ落ち着いてきたのでアタシは校舎の写真でも撮ることにした。
真昼の校庭で彼女は流れる雲を見つめていた。
アタシは出逢ったときと同じように彼女の笑顔を撮った。でも彼女は気づいてない。
- 109 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:21
- 「じゃあ、次行きましょう」
アタシと彼女は再び歩き出した。
「紺野?紺野じゃない?」
後から誰かが彼女の名前を呼んだ。アタシが呼ばれたわけじゃないのに
つい振り返ってしまった。彼女もそれに合わせて振り返った。
そこに立っていたのは一見と男と見間違うなような容姿の女性がいた。
「吉澤さんじゃないですか」
「やっぱり紺野じゃん、どうしたんだよもう帰ってきたのか?」
「はい・・・この街にちゃんとお別れがしたかったので戻ってきました」
吉澤と呼ばれた人物は彼女とずいぶん親しい関係みたい。彼女も嬉しそうに話している。
「紺野が転校してから寂しかったよ、まだ一週間しかたってないけどさ」
「私もですよ。吉澤さんと離れて寂しかったです」
最早アタシはこの会話に参加することさえできなくなっていた。
- 110 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:22
- 「それで新しい学校はどうなの?」
「はい、新しい友達も出来て楽しくやってますよ」
なんだかアタシの存在が忘れられた感じがする。
「ねえ、後の人は紺野の知り合いなの?さっきからずっと睨んでるんだけど」
ようやくアタシの存在に気づいてくれた。でもアタシは睨んだつもりなんてないけど・・・
「すいません忘れていました。紹介します、私の姉になった後藤真希さんです」
「へぇーそうなんだ、私は吉澤ひとみ、まあよろしく」
吉澤・・・いやここは吉澤さんと呼ぶとしよう、なんか感じ悪い奴それが第一印象だった。
「吉澤さんはとてもお世話になった先輩なんです」
「よせよ紺野、照れるだろ」
はしゃぎあう彼女と吉澤さんにアタシは強く嫉妬してしまった。
- 111 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:22
- 「ところでアンタ学年は?」
「高3だけど」
「なんだ私と一緒か」
そして吉澤さんはアタシの体をなめ回すように見た。
「しかしアンタが紺野の姉貴とはね・・・」
「なんか文句あるわけ?」
あまりの感じの悪さにアタシは思わずカチンと来た。
「正直言うよ、アンタの見た目感じ悪かったよ、でも紺野をちゃんと守ってくれそう」
最初に一言に殴りかかってやろうかと思ったけど、最後に一言にはなぜか安心した。
吉澤さんの印象が少し変わった気がした。
「紺野に姉が出来るって聞いたとき不安だったよ、紺野がいじめられないか
でもいい人そうで安心した。紺野のことよろしく頼むよお姉さん」
「言われなくてもわかってるよ」
アタシがそう言うと吉澤さんは安心したように軽く微笑んだ。
- 112 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:24
- 「紺野は寂しがり屋だから誰かが側にいてあげないといけないからね」
アタシは驚いた。びっくりするほど彼女のことをよくわかっていたから。
吉澤さんにアタシは敗北を味わった気がした。
「吉澤さんはいい先輩だね」
アタシは彼女に笑顔で言った。
「はい、私もそう思います」
彼女がそう言うと吉澤さんまた恥ずかしがった。
「紺野、向こうでもがんばれよ」
「はい、それと私はもう紺野じゃなくて後藤ですよ」
「そうだったね、でもさ呼び方紺野のままじゃダメかな?」
「どうしてですか?」
「私の中では紺野は紺野のままでいてほしいからさ」
吉澤さんがそう言うと彼女は静かに頷いた。
- 113 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:24
- 「ありがとうな紺野、私そろそろ行くよ」
彼女に礼を言うと吉澤さんはゆっくりと歩き出した。
「吉澤さん、ありがとうごさいましたお元気で」
「紺野も元気でな、それからアンタ紺野のこと頼むよ」
アタシは静かに頷いた。それで安心したらしく笑顔で去っていた。
最初は嫌な奴と思った吉澤さん、でも中身は違っていた。
アタシよりもすごく彼女のことをわかっていた
どっちが姉かわからなくなるくらいだった。
アタシはまだ彼女と一緒にいてそんなに時間はたっていない
それでも彼女の気持ちは少しずつわかるようになった。
当面の目標は吉澤さんアンタだよ、いつか越えてやるそう心に誓った。
- 114 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/16(土) 20:25
- 「お腹がすきました」
「そう、じゃあなにか食べていこう」
彼女はアタシの手を握ってきた、アタシも彼女の手を握る。
手をつないでゆっくりと坂道を下った。
「とてもおいしい洋食屋があるのでそこにいきましょう」
その後、彼女の紹介してくれた店でハンバーグを食べた。
彼女の言うとおりとてもおいしかった。
それからまた彼女といろんな所へ行った。
そして日も暮れかけた頃アタシ達家に帰ることにした。
彼女ははしゃすぎたのようで疲れた帰りのバスの中で
眠りこんでしまった。アタシの肩に寄りかかりながら
スヤスヤと寝息を立てて眠っていた。
アタシはそんな彼女の頬に触れてみた。
彼女の柔らかな頬はなんか気持ちよかった。
バスが目的地に着くまでアタシはずっと彼女の手を握っていた。
- 115 名前:ヒガン 投稿日:2005/04/16(土) 20:25
- 本日はここまで
- 116 名前:konkon 投稿日:2005/04/17(日) 04:25
- 面白いです。
こんごまなんですかね〜?
次の更新待ってますよ。
- 117 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:53
- キミと別の誰かが話している時
アタシはなぜか嫌な気分になる。
キミは誰のものでもないのにね。
アタシってこんなに独占欲が強かったかな・・・
- 118 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:53
-
6―――
- 119 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:54
- 時は流れるのが速い、高校生活最後の夏休みになった。
アタシはこう見えても受験生だ。
たまにはカメラを遠ざけて、勉強をしなければならない。
アタシは図書館に来ていた。自分の部屋で勉強したいが
あいにく部屋にクーラーはない、サウナのように暑い部屋では
何も頭に入る気がしない、だからアタシは図書館にやってきた。
美貴に図書館行こうと誘ったけど断られた。
「図書館に行ったら脳みそが溶ける絶対嫌」というのが理由だ。
美貴も大学を受験するのにこんなんでいいんだろうか、アタシは心配だ。
- 120 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:55
- 参考書を広げて、ノートに必要な項目だけを書き写していく、今回は本気でやらないと
かなりやばい。それというのも期末テストでアタシはいつもキープしていた50位以内
から転落してしまった。ちゃんと勉強していたはずなのに一体どうしたのか。
アタシはこれと言って行きたい大学はない、でもお父さんが「大学は入った方がいい」
と言われたからアタシは受験することにした。自分のレベルにあった所を受験するつもりだ。
- 121 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:56
- ふと外を見ると雨が降っていた。夏の天気は気まぐれだ。
こんな時こそ彼女の笑顔が見たいのに、アタシは思わず
「雨のバーカ」そう呟きながらノートに視線を戻した。
それから1時間ほど勉強してから、アタシは休憩をしようと
館内を探索していた。所狭しと専門書や小説などが置いてある。
アタシはふらふらと歩いてるうちに見覚えのある後ろ姿を見つけた。
文庫本のコーナーで真剣に本を選んでいる彼女の姿があった。
声を掛けたい所だがここは図書館だからさりげなく近づいて
そっと彼女の肩を叩いた。彼女は目を真ん丸くしてびっくりしていた。
- 122 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:57
- 「真希さんどうしたんですか?」
彼女は小声で囁いた。
「アタシはここで勉強してたの」
アタシも同じように小声で囁いた。
「そうですか、私は夏休みにたくさん本を読むつもりなのでここに来ました」
彼女は本を読むのが好きらしい、引っ越しの時ダンボールいっぱいの本を
持ってきたのを思い出した。
「どれくらい読むの?」
「夏休みの間に20冊くらい読めればいいかなと」
その数を聞いてびっくりした。アタシは活字がちょっと苦手で
10ページくらい読んだ所で眠くなってしまうんだよね。
- 123 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:57
- 既に彼女は5冊ほどの本を持っていた。
「本を読んでいると自分もその世界にいる気がするんです」
アタシも写真を見ている時、自分もそこにいるような気がする。
きっと彼女とアタシの感覚は同じなのかもしれない、そう思うと
アタシはなんだが嬉しくなった。
彼女の世界にもきっと澄み渡った青い空が広がっているんだろう。
そして彼女は笑顔でその世界を見据えているだろう。
- 124 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:58
- その後、アタシは休憩を終えて勉強再開をした。
隣には彼女が熱心に本を読んでいる。
彼女が気になり勉強が進まない、アタシは深いため息をつきながら
シャープペンをくるくる回した。
今日はこの辺でやめておこう、アタシ参考書とノートを鞄にしまって帰る準備をした。
「もう終わりですか?」
「うん、今日は終わり」
「じゃあ、私も行きます、ちょっと待っててください」
そう言うと彼女は小走りでカウンターに向かった。
なにやら手続きをしていた。どうやら本を借りるらしい
それから数分たって彼女は戻って来た。
- 125 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:58
- 彼女は借りた本を鞄にいれた、そして2人で図書館を出た。
外に出るとすっかり雨は止んでいた、空からは薄っすらと
太陽の光が差し込んでいた。
アタシはなんだか喉が渇いたから彼女を誘ってグラフィティに
行くことにした。
梅雨明けも発表されて本格的な夏がやって来た。この辺りも
車の数が随分増えてきて、海岸は連日多くの人がやってくる
ようになった。
- 126 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 13:59
- さっきまで雨が降っていたとは思えない
日差しになってきた、歩けば歩くほど汗が流れる。
グラフィティに着けばそこはもうオアシスだ。
早く渇いた喉を潤したいアタシはフラフラになりながら
ドアをゆっくりと開ける。
「いらっしゃい」
「暑い暑い、いちーちゃんアイスコーヒーちょうだい」
「はいよ、あさ美ちゃんはジュースでいい?」
彼女は小さく頷いた。それからすぐに差し出された
アタシは一気にアイスコーヒーを流し込んだ。
「あー生き返るね」
アタシがそう言うと彼女はクスッと笑った。
- 127 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:00
- 「あさ美ちゃんもずいぶんここに慣れたみたいだね」
「はい、おかげさまで」
いちーちゃんは馴れ馴れしく彼女をちゃん付けでなんか呼んだりしている。
昔からそうだ、いちーちゃんは誰でも仲良くなれる。
初めていちーちゃんに声をかけられた時もそうだった。
アタシが中1の時にいちーちゃんと知り合った。
きっかけは部活の勧誘だった。その頃のいちーちゃんはバスケ部の部員だった。
馴れ馴れしくアタシに話しかけてきたいちーちゃん、第一印象は明るい人だなと思った。
結局アタシは部活の勧誘を断った。それがきっかけでいちーちゃんと仲良くなれた。
最初の頃アタシは「市井さん」と呼んでいた、それが今じゃ「いちーちゃん」なんて
呼ぶようになった。今じゃカメラの師匠であり、尊敬できる先輩という存在になった。
- 128 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:00
- アタシは氷だけなったコップを見つめながら静かにため息をついた。
隣では彼女といちーちゃんが楽しそうに会話している。
確かにここの生活にずいぶん慣れてきたみたいだ。
最近ではアタシと一緒にいても緊張することはなくなった。
それはアタシとしても嬉しい変化だ。
「おまえ図書館で勉強してたらしいな」
ふいにいちーちゃんが話しかけてきた。
「うん、カメラばかりやっているわけにいかないし」
「もう高3で大学受験だもんな」
「いちーちゃんはいいよね、楽な仕事やっていて」
「バカ言うなよ、店の経営はすごい大変なんだぞ、ちっとも楽じゃないよ」
- 129 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:00
- アタシがバカなこと言ったせいでいちーちゃんの愚痴を聞かされる
はめになってしまった。アタシは思わず反省する。
喉も潤ったところでアタシ達はグラフィティを後にした。
外に出ると相変わらず暑かった。アタシ達は日陰のある所を選んで
歩きはじめる。空を見上げると目の眩みそうな青い空ともくもくと
入道雲が広がっていく、そして水平線の向こうには1艘の船が
ゆっくりと進んでいた。
- 130 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:01
- それにしても今日は暑い、空から太陽が容赦なく照りつけていた。
「今日はいつも以上に暑くなりそうですね」
「そうだね・・・」
日陰もだんだんと日当に変わってきた道、もうどこにも日陰はない。
「そうだ、高校の裏にある森に行こう」
あの場所なら涼しいし、日もあんまり当らない、絶好の場所だと思う。
高校の裏にある森、そこは自然がそのまま残っていて緑の木々が
たくさん生い茂っている。
森に一歩入ると聞こえてくるのは風で揺れる木々のざわめき、蝉の声
小鳥のさえずり、それらがまるでオーケストラみたいに様々な音を奏でていた。
- 131 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:02
- 森に入るとやはり涼しかった。ここに来るとさっきまで暑さなんて
忘れてしまいそう、空から木漏れ日が差し込んでいた。
まるで高原みたいな空気、アタシと彼女はほぼ同時に深呼吸をした。
「気持ちいいですね」
「そうでしょ、夏になるとよくここに来るんだ」
彼女はまるで絵画から飛び出しみたいにきれいだ。
海にいても森にいてもこれほど絵になるのは彼女
だけかもしれない、それが彼女の魅力でもある。
今ここにカメラがないのは非常に残念だ。
アタシは森の中の彼女をしっかりと目に焼きつけた。
- 132 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:02
- ここは公園としても利用されている。
明け方にはジョギングする人、犬を連れて散歩にしに来る人
様々な人が来る。アタシもたまにここに写真をよく撮っている。
アタシ達は少し疲れたのでベンチに腰をおろした。
しばらく座っているとどこから楽器の音が聴こえてきた。
アタシは音の方向に目を向けるとそこにはサックスを吹く美貴がいた。
「あれ藤本さんですよね?」
のんきにサックスなんか吹いちゃって、アタシの誘いを断ってすることがそれかよ。
しばらく見ているとアタシ達の目線に気づいたらしく美貴はバツの悪そうな顔をした。
「あちゃー見つかっちゃったか」
「うん、見つけちゃった」
美貴は思わず苦笑いをした。
- 133 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:02
- 「美貴、なんか言うことがあるでしょ」
「真希ごめん、だってこんな暑さじゃ勉強する気おきないもん」
美貴は謝りつつも無駄な言い訳をする。もうしょうがないんだから。
「勉強しなきゃダメじゃん、美貴も成績落ちて怒られたじゃん」
美貴もアタシと同じように順位を落とした。原因はもちろんサックスだ。
昔から美貴は軽音楽部に入るほどの音楽好きでほぼ毎日を部活に精神を注いだ。
3年生になり部活も引退の時期が来たというのにサックスを放さなかった。
「しょうがないね美貴のサックス好きには」
「真希のカメラ好きには負けるけどね」
- 134 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:03
- 「アタシは勉強そっちのけで写真を撮ったりしません」
「後から勉強するつもりなの、今は休憩」
美貴の言い訳はまだ続く、アタシは最早お手上げ状態だった。
「まあまあ、そのへんにしておきましょうよ」
アタシと美貴の間に彼女が割って入ってきた。
彼女に止められては仕方ない、アタシは素直に言うことを聞いた。
「まさかあさ美ちゃんに止められるとは思わなかった」
「なんか見てられなかったので、体が勝手に動きました」
彼女は照れながら言った。
「それにしても真希さんと藤本さんは仲がいいですね」
「真希とは幼稚園から付き合いだし、切っても切り離せない仲になったよね」
- 135 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:04
- 確かに美貴の言うとおりだ。アタシと美貴はもう10年以上もずっと一緒にいる。
今では互いのいい所、悪い所、すべてを知っている。
言いたいことも素直に言える仲、たまにはけんかもするけどすぐに仲直りできる。
「藤本さん軽音楽部だったんですか?」
「うん、そうだよ」
「私も中学の頃やってましたよ、トロンボーンを吹いてました」
「へーそうなんだ」
彼女と美貴は楽しそうに話していた。彼女は真剣な表情で相手の目を凝視している。
誰に対しても彼女は相手の目を凝視する。それが彼女の癖でもある。
「さて、美貴は帰るよ」
そう言うと美貴はサックスを頑丈そうなケースにしまいこんだ。
「真希がうるさいから、たまには勉強してみる」
美貴は嫌々ながらもケースを担いで去っていた。
「藤本さんっていい人ですね」
「そうだね、勉強嫌いが治ればもっといいんだけど」
アタシは笑いながら美貴の去っていく姿を見ていた。
- 136 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:05
- 「さて、アタシ達も行こうか」
アタシ達も森を出ようとゆっくりと歩き出した。
「真希さんちょっといいですか?」
「どうかしたの?」
彼女が突然真剣な眼差しでアタシを見た。
「お母さんのことでお話があります」
「話って何?」
アタシがそう言うと彼女は一呼吸置いて口を開いた。
「私たち一緒に暮らして一ヶ月くらい経ちます・・・
でもまだ真希さんはお母さんと呼んでませんよね」
彼女に言われて気づく、そうアタシはまだあの人のこと
をお母さんと呼んでいなかった。
- 137 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:05
- 「お母さんはきっと真希さんにお母さんと呼んでほしいと思うんです」
アタシもそれはわかっているつもりだった。でもなかなか前に踏み出せない
きっと前のお母さんのことが忘れられないせいだろう。
「アタシの前のお母さんのこと聞いてる?」
「はい・・・確か真希さんが3歳の時に病気で亡くなられたんですよね?」
彼女がそう言うとハッとした顔した。
「ごめんなさい・・・私無神経でしたね」
彼女は慌てたようにアタシに謝った。
彼女もアタシと同じように幼いころに父親を亡くしている。
でも、父親の顔すら知らない彼女と母親の温もりが忘れられないアタシ
これは大きく違うと思う、アタシはしばらく考えた。
- 138 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:05
- 彼女はアタシのお父さんに随分慣れて今じゃお父さんと呼べるようになっていた。
しかし、アタシは未だにお母さんと声に出すことすら出来ない、アタシはダメな奴だね。
「ごめんなさい・・・私の言ったこと気にしないでください」
考え込みながら立ち止っていたアタシに彼女が再び謝った。
アタシのことを心配してくれている彼女、優しさと温もりはまるで母のようだった。
「ねえ、ちょっと行きたい所があるんだ、一緒に来てよ」
アタシはふとある場所が浮かんだ、なぜか急にそこへ行きたくなった。
彼女は戸惑いながらもアタシの後をついてきた。
- 139 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:06
- その場所へ向かう途中アタシと彼女は一言も言葉を交わすことはなかった。
それから数10分歩いた。その場所は墓地、そうお母さんの眠っているお墓がある所だ。
アタシは命日やお盆には欠かさずにここに来ている。
本当は来月彼女をここに連れてくるつもりだった。
「ここだよ・・・アタシのお母さんの眠っている場所は」
彼女と2人でお墓の前に立つ、アタシは手を合わせながらお母さんに報告した。
「この子がアタシの新しい家族だよ」心の中で語りかけるように言った。
彼女も同じように手を合わせていた。
「真希さん・・・本当に私の言ったことは気にしないでください」
彼女が静かに言った。そんなアタシはそっと彼女の髪を撫でた。
「焦らずゆっくりと進んでください真希さんのペースでいいですから」
「ありがとう・・・そう言ってくれて嬉しいよ」
- 140 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:06
- どう?この子とても優しいでしょ。アタシは再び心の中で語りかけた。
なんだかこの子お母さんに似てるような気がするよ。
アタシは静かに目を閉じる、そしてどこからともなく声が聞こえた。
「真希、大きくなったわね・・・私はずっと真希を・・・真希たち家族をずっと見守っているわ」
アタシはハッとした。遠い昔に聞いたお母さんの声が届いたから。
「だから安心して、新しいお母さんにも私と同じように接してあげてほしいの」
心の中に響くお母さんの声、アタシは静かに頷いた。
「でもこれだけは忘れないで、私はずっとあなたのお母さんよ、そしてあなたたち
家族をずっと見守っているからね。いいわかったわね」
そういい残してお母さんの声は風と共に消えていった。
- 141 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:07
- 「真希さんどうしたんですか?」
「いや・・・なんでもない」
彼女の声でアタシは我に返った。今の声はなんだったんだろう。
確かに聞こえたお母さんの声、アタシは胸にそっと手をあてた。
ふと彼女を見る、彼女の優しさとお母さんの優しさは似ている。
「さあ、帰ろうか」
彼女が言うようにアタシは焦らずゆっくりと進んでみよう。
なんだか彼女にそっと背中を押された気分になった。
- 142 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/04/26(火) 14:08
- その日の夜、今日はアタシが夕食当番でアタシは忙しく働いていた。
アタシは彼女が好きなかぼちゃの煮つけを作っていた。
そしてアタシの隣にいるのは・・・
「この味どうですか?お母さん」
「えっ?ええこれでいいわよ」
自然と出たお母さんというフレーズにアタシは驚いた。
もちろん言われたお母さんも驚いていた。
「今、お母さんと呼んでくれたの?」
アタシは静かに頷いた。するとお母さんは涙を流して喜んでいた。
ふとリビングに目を向ける。リビングでテレビを見ながら
くつろいでいた彼女がアタシに笑顔を見せてくれた。
これでいいよね、アタシも彼女に笑顔で応えた。
彼女の優しい言葉でアタシは前に進めた。
アタシは心の中で彼女に「ありがとう」と言った。
- 143 名前:ヒガン 投稿日:2005/04/26(火) 14:10
- 本日はここまで
>>116
レスありがとうございます
わかりにくいかもしれませんが一応こんごまとなっております。
これからもよろしくお願いします
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 10:21
- 待ってます…
- 145 名前:名無し読者 投稿日:2005/06/08(水) 17:44
- 待ってます……。
- 146 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:24
- キミはアタシの光かもしれない
暗闇で迷っているアタシを
優しく導く眩しい光のようだ。
ねえ光の先にはなにがあるの?
- 147 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:25
-
7―――
- 148 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:25
- 夏休みになって2週間が経った。相変わらず暑い日々が続いている。
昨日も暑くてあんまり眠れなかった。さすがにクーラーがないときついな。
外にもあんまり出る気がしない、アタシは扇風機の前で風を浴びながら
涼んでいた。それにしても暑い暑すぎる・・・
Tシャツをパタパタと仰いでいるとドアをノックすると音が聞こえた。
「あさ美です、あの・・・ホッチキス借りてもいいですか?」
「いいよ、机の引出しに入ってるから勝手に持っていて」
そう言うと彼女は真っ直ぐとアタシの机に向かった。
- 149 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:26
- 「真希さんだらしないですよ、もっと女の子らしくしないと」
「だって暑いんだもん・・・」
彼女の注意されてもこの暑さじゃだらしなくなっちゃうよ。
そんな会話をしながらもアタシは扇風機に当たりつづけていた。
「しょうがいないですね」そう言いながら彼女は机の引出しを開ける。
彼女はホッチキスを探していたけど、なんか様子が変になったので
近づいてみた。すると彼女は1枚の写真を見ていた。
引出しに写真なんか入れたっけ?アタシは記憶の糸を辿ってみた。
「あっ・・・」
アタシはようやく思い出した。
- 150 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:26
- 「この写真いつ撮ったんですか?」
それは彼女と初めて出会ったときにアタシが撮った写真だった。
「初めて会った時に撮った。あんまりいい笑顔だったからさ」
アタシがそう言うと彼女は頬を真っ赤にしていた。
「でも真希さんは風景専門ですよね」
彼女は壁に貼られている無数の写真に目を向けた。
確かにそう、アタシは主に風景写真を専門に撮っていた。
あの時は笑顔が凄く気に入ったから撮った、ただそれだけのこと。
「でも撮る時はちゃんと言ってほしかったです」
「なにも言わない方が自然な表情が撮れるんだよ」
めったに人物写真は撮らないアタシだけど、人物や風景も
自然のままが一番いい写真ってそう言うもんだよ。
- 151 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:27
- 「なんか恥ずかしいです・・・」
彼女は自分の写真を見ながらまた頬を赤く染めた。
「これ、引き伸ばして額に飾ろうかな」なんて言ってみた。
「やめてください!余計恥ずかしくなります」
すると彼女は頬を膨らましながら言った。
どうやら怒らしてしまったみたい、しまったやってしまった。
「ごめん・・・冗談だよ」
「もう知りません!」
アタシが謝っても彼女はそっぽを向いたまま機嫌なんて直らない
こんな怒った彼女を見たのは初めてだ。
- 152 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:27
- アタシはある事を思い出した。今日は毎年恒例の夏祭りの日だった。
「ねえ、お詫びに今日夏祭り行かない?」
でも彼女はこっち振り向こうとしなかった。
「屋台も出るんだよね」
一瞬、彼女の体が反応したように見えた。
「焼きそばとかたこ焼きとか」
もうあと一押しかな、さらにとどめの一撃を言うか。
「焼きトウモロコシもあるんだよね」
「行きましょう!」
そう言って振り返った彼女の瞳はものすごく輝いていた。
いつもそうだ、食べ物が絡んでくると彼女は生き生きしてくる。
彼女の機嫌が直ってアタシは一安心した。
- 153 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:28
- この街では毎年8月上旬に夏祭りが開催されている。
この夏祭りのメインが花火大会、アタシはこの花火を毎回
楽しみにしている。今年は彼女にこの花火を見せたいと思っていた。
夏祭りは夕方からなのに既に彼女はそわそわしていた。
「ねえ浴衣着てみる?」
「はい、着てみたいです」
アタシは押入れから浴衣を取り出した。
「アタシのお下がり、きっとキミにも似合うと思う」
そう言ってアタシは彼女に浴衣を手渡した。
「でも着方がわかりませんよ」
「じゃあ裕ちゃんに教えてもらおう」
アタシ達は浴衣を持って裕ちゃんのところに向かった。
- 154 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:28
- 彼女に浴衣を着せてほしいって裕ちゃんに言ったら
心よく引き受けてくれた。
「今度はこの浴衣あさ美ちゃんが着ることになったんか、嬉しいな」
裕ちゃんは浴衣を見ながら懐かしそうな顔しながら言った。
「この浴衣は私のお下がりでもあるんよ」
「そうなんですか?」
そうこれは裕ちゃんのお下がりでもある、それからアタシが着て
今度は彼女が着ることになった。
「さて早速始めようか、真希あんたはいったん部屋を出とってや」
「どうして?」
「あさ美ちゃん恥ずかしがっているやん」
裕ちゃんが指を差した方向を見ると真っ赤な顔した彼女の姿があった。
- 155 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:29
- アタシは仕方なく部屋を出た。疑問だ同姓なのになんで恥ずかしがるんだろう
そんなことを考えつつ彼女が着替え終わるのを待っていた。
「真希、もう入ってきていいで」
それから数分後、裕ちゃんの声がしたのでゆっくりドアを開けた。
そこに立っていた浴衣姿の彼女を見てアタシは固まった。
紺色の浴衣にピンクの帯が見事にマッチしていてとても綺麗だった。
その姿にアタシはもう釘付けだった。
「似合いますか?」
「うん、すごく似合ってるよ」
彼女ははにかんだ笑顔でとても嬉しいそうだった。
「あさ美ちゃんこれ履いてみて」
裕ちゃんは可愛らしい下駄を彼女に渡した。
「私からのプレゼントや、お下がりやけど受け取ってな」
- 156 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:30
- 「ありがとうございます」
彼女は深々と裕ちゃんにお辞儀をした。
「それじゃあ、夏祭り楽しんでらっしゃい」
アタシと彼女は裕ちゃんに見送られて夏祭りに向かった。
彼女は慣れない下駄を履いているため少し歩くスピードが遅い
「ちゃんと歩ける?」
アタシは彼女が転ばないようにしっかりと支えてあげた。
「はい、なんとか」
彼女が歩くたびにカランコロンと下駄が鳴っていた。
そんな音も今はなぜかアタシには心地よく感じた。
夏祭りの会場に近づくたびに人通りが多くなってきた。
- 157 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:30
- すく側を子どもたちが我先にとお目当ての屋台に向かって
一直線と進んでいた。
そして彼女の目も建ち並ぶ屋台に目をキラキラさせながら
見ていた。アタシは幸せそうな彼女を見るだけで嬉しくなる。
しばらく歩いていると見知った顔を見つける。
「おー真希にあさ美ちゃんじゃん、2人も来てたんだ」
右手にカキ氷、左手に焼きそばを持った美貴がいた。
「花火を見せたかったから一緒にきた」
「おっあさ美ちゃん、かわいい浴衣着てるじゃん」
彼女は照れつつも目線は美貴の持っている焼きそばの方にいっている。
「ねえ焼きそば食べる?」
アタシがそう言うと彼女は待ってましたという感じて「はい!」と
元気な返事をした。
- 158 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:31
- アタシは焼きそばを二つ買った。近くにあったベンチに腰をかけて
花火大会まで時間もあるから腹ごしらえしておくことにした。
「あー焼き肉でもあったら最高なのに」
焼きそばを食べながら美貴はとんでもないこという。
「いいですね、私もあったらいいと思います」
意外にも彼女が美貴の話に食いついた。
アタシは驚いて食べている焼きそばを吹き出しそうになった。
「おーあさ美ちゃんもそう思うんだ」
「はい、焼き肉おいしいですから」
焼き肉の話で意気投合する彼女と美貴、なんでそんな話で
盛り上がれるのかアタシは不思議に思った。
- 159 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:32
- 焼きそばも食べ終わり、アタシと彼女は歩き始める。
美貴も一緒にぶらぶらと屋台を見てまわった。
彼女が突然急ぎ足になった、なんだろうと思い前を見ると
そこに高橋がいた。互いに嬉しそうにはしゃぎあっている。
「後藤さんに藤本さんも来てたんですか」
高橋はわたあめをほおばりながら言った。
アタシは軽く頷いた。
「あさ美ちゃんの浴衣とってもかわいい」
「これ真希さんのお下がりなんだ」
彼女は袖をつまみながらクルクルと回った。
「そういえば昔こんなの着てたね」
美貴が思い出したように言った。
- 160 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:32
- そろそろ花火の時間、アタシ達は会場に向かった。
でも人が多すぎて見ることができなかった。
彼女は困り果てた顔をしていた。
「これじゃあ見れませんね」
寂しそうに彼女が呟いた。
「大丈夫だよ、絶好の隠れスポットがあるから」
本当はアタシと彼女の2人っきりで見たかったのに
美貴と高橋というお邪魔虫がいる。
アタシ達はその場所に向かって歩きはじめた。
その場所に近づくにつれてみんな心配そうな顔をしてきた。
「ねえ真希こっちの方向でいいの?」
不安そうな顔をして美貴が言った。
「いいのいいの、心配しないで」
「でもさ、こんな海岸で花火見れるの?」
- 161 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:33
- アタシは毎年、会場から離れた海岸で花火を見ていた。
そこから見る花火はとてもキレイだった。
小学生の時からずっとこの場所で花火を見ていた。
でもその場所に向かうにはゴツゴツした岩場を通り抜けないと
辿りつけない、アタシ達はなんなく歩けるけど、問題は彼女だ
慣れなれない下駄を履いているため歩くのに時間が掛かっていた。
慎重に岩場を歩く彼女がアタシは心配だった。
- 162 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:34
- 少し時間はかかったけどようやく岩場を通りぬけた。
「そろそろ始まるかな」
美貴が携帯の時計で時間を確認しながら言った。
それから数分後、夜空に色とりどりキレイな花が咲いた。
彼女はうっとりとした表情で空を見つめていた。
「すごくキレイですね・・・」
花火の音と共に彼女が呟いた。
「ここから見る花火は最高でしょ」
彼女は笑顔で頷いた。その笑顔にアタシは嬉しくなった。
そして目線を花火の方に移した。
遠くでは花火が上がるたびに歓声が上がっていた。
それから一時間後、花火大会は無事に終わった。
「まさかこんないい場所で見られるとは思わなかった」
美貴が満足げな表情で言った。
「こんな所知ってるなんてさすが後藤さんですね」
高橋はアタシを尊敬の眼差しで見ていた。
彼女はという未だ花火の余韻に浸っていた。
- 163 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:34
- 再び足場の悪い岩場を歩くことになる、アタシは彼女が
心配だから後の方をピッタリと着いていくことにした。
美貴と高橋は既に姿が見えなくなっていた。
海岸は真っ暗で見通しも悪く彼女は歩くの一苦労だった。
アタシはここは手をつないでいったほうがいいかなと思った
その時だった、彼女の小さな悲鳴が聞こえた。
「危ない!!」
彼女が転びそうなったのでアタシは素早く彼女の元へ向かった。
アタシは彼女の手を掴んでなんとか転ばずにすんだ。
ホッとしたのも束の間だった。突然、彼女が遠くなったと思ったら
目の前は水の中、すぐにアタシは海に落ちたんだと理解した。
どうやら足を滑らせてしまったらしい、アタシは必死で這い上がった。
「真希さん!!大丈夫ですか?」
彼女の叫び声が聞こえた。
「藤本さーん、愛ちゃん、大変です!!」
彼女が必死で美貴たちを呼んでいる。
- 164 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:35
- アタシはゆっくりと泳いで沖に向かった。
「どうしたの?」
彼女の声で美貴が慌てて戻ってきた。
「真希さんが海に落ちました」
彼女は泣きそうな顔をしながら美貴に言っている」
「マジで?おーい!真希大丈夫?」
「なんとかね!」
大声で呼ぶ美貴にアタシも大声で答えた。
それから美貴に手を借りてアタシは陸へ上がることが出来た。
「大丈夫ですか?」
高橋も戻ってきて心配そうにアタシに言った。
「ごめんなさい・・・私のせいで・・・」
彼女は泣きながらアタシに向かって頭を下げた。
- 165 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:35
- 「いや・・・キミのせいじゃないよ・・・」
「でも・・・私が転びそうになったせいで」
彼女はまだ泣きつづけていた。
びしょ濡れのアタシは必死で彼女を慰める。
「それより早く戻ろう」
アタシはゆっくりと歩きはじめた。
「高橋、あさ美を支えてあげてアタシ濡れているからさ」
アタシがそう言うと高橋は彼女の手をとりながら岩場を歩いた。
夜の風は少し涼しくてアタシの体を冷やしていった。
「真希、もう帰った方がいいよ」
心配そうな顔をした美貴がアタシに言った。
「うん・・・そうするよ」
- 166 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:36
- 美貴の言うことを聞いてアタシ達は帰ることにした。
家まで帰り道、彼女は悲しげな顔をしていた。
「ごめんなさい・・・」涙声で彼女が呟いた。
彼女の悲しい顔は見たくはないからアタシは目をそらした。
彼女には笑顔しか似合わないからアタシは彼女の顔を見なかった。
「気にしてないからもう泣かないで」
振り返らずにアタシはゆっくりと呟いた。
家に帰るとびしょ濡れのアタシに当然のようにお父さんもお母さんも
驚いていた。彼女に何も言わせずアタシは自分の不注意で落ちたことにした。
アタシはそれからシャワー浴びて眠りについた。
- 167 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:37
- 翌日、アタシはゆっくりと目が覚めたが体が妙に熱かった。
夏の暑さのせいではない体がなぜか重たく感じた。
しばらくしてドアのノックの音が聞こえた。
「入ります・・・なかなか起きてこないので起こしにきました」
彼女はゆっくりとアタシに近づいてくる。
「どうしたんですか?」
「なんか気分悪くてね・・・」
アタシがそう言うと彼女はアタシの額に手を置いた。
「あっ・・・すごい熱じゃないですか・・・」
今のアタシにはそんな声も遠くのほうに聞こえる感じだ。
「ちょっとお母さん呼んできます」
彼女は慌てるようにして部屋を出て行った。
- 168 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:37
- しばらくして彼女とともにお母さんが部屋に入ってきた。
熱をはかると38度9分もあった。
昨日海に落ちてびしょ濡れになり冷たい夜風を浴びたから
風邪をひくは当たり前だ。
「お母さん、真希さんの看病私がやります」
アタシは突然の一言に驚いた。
「えっ?あさ美に出来るの?」
お母さんの問いかけに彼女は深く頷いた。
「わかったわ、最低限のことは手伝うわよそれでいい?」
困った顔をしていたが彼女の気迫に負けて彼女に
すべてを任せることになった。
- 169 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:38
- それからいろいろ準備があるということで彼女とお母さんは
部屋を出て行った。それからしばらくして彼女が戻って来た。
「今日1日私が看病します」
「なんで・・・そこまでするの?」
「真希さんが風邪のひいたのはあたしの責任ですから」
彼女はよっぽど昨日ことを気にしているようだ。
でも今日1日彼女に身を任せるのもいいかもしれない。
「さあ真希さん寝ていてください」
そう言うと彼女は濡れたタオルをアタシの額にそっと置いた。
彼女に言われるがままアタシは眠ることにした。
- 170 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:38
- それから数時間後アタシは目を覚ました。
「すいません起こしちゃいましたか」
彼女が濡れタオルを取り替えながら言った。
「具合どうですか?」
「うん・・・まだ気分悪いよ・・・」
「そうですか・・・」
そう言うと洗面器を持って部屋を出て行こうとした。
「お腹すきませんか?」
「あんまり食欲ないよ・・・」
「少しでも食べて栄養つけないと」
今のアタシは何も食べる気がしなかった。
「お粥なら食べられるんじゃないですか?」
- 171 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:39
- 「お粥か・・・わかった、食べてみる」
「はい!じゃあ作ってきますね」
そう言うと彼女は張り切って部屋を出て行った。
彼女の料理楽しみなの半分、怖さも半分ある。
まあお母さんが手伝うと思うから大丈夫だろう。
そんなことを考えながら窓の景色をぼんやりと見ていた。
数分後、彼女がお粥を持って部屋に入ってきた。
「出来ましたよ」
「ありがとう・・・」
彼女が茶碗にお粥をよそってくれる。
「はい、あーんしてください」
「いいよ、自分で出来るから」
- 172 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:39
- 「ダメですよ、さあ早くあーんしてください」
アタシは仕方なく彼女に言うことを聞いた。
「どうですか?お味は」
「うん・・・美味しいよ」
「よかったです、でもほとんどお母さんに手伝ってもらったんですけどね」
「とても気持ちがこもっていて嬉しいよ」
「そう言ってくれると作った甲斐があります」
彼女はとても嬉しそうに言った。
お粥を食べた後風邪薬を飲んだアタシはもう一眠りした。
- 173 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:40
- そしてアタシがもう一度目覚めた時には既に朝になっていた。
昨日とは違ってスッキリした気分、どうやら熱も下がったみたいだ。
ゆっくりと起き上がって軽く伸びをした。
アタシの側には彼女が寝息を立てて眠っていた。
昨日がんばりすぎて疲れたんだろう。
アタシは彼女を起こさないようにそっと起き上がった。
彼女をベッドに移動させてアタシは部屋で出てリビングに向かう。
- 174 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/06/18(土) 18:40
- 「おはようございます」
「あら、真希さんもう気分はいいの?」
お母さんが心配そうな顔して聞いてくる。
「すっかりよくなりました」
「そうそれはよかったわ」
アタシそう言うとお母さんは安心した顔をした。
「ところであさ美はどうしたの?」
「疲れたみたいで眠っています、今日1日は休ませてあげましょう」
アタシがそう言うとお母さんは「そうね」と言った。
彼女が起きたらオムライスを作ってあげようと思った。
彼女の喜ぶ姿を想像して思わずクスッと笑った。
- 175 名前:ヒガン 投稿日:2005/06/18(土) 18:45
- 本日はここまで
1ヶ月ほど放置してすいませんでした。
本格的に再開いたします
>>144
>>145
レスありがとうごさいます
待っててくれる方がすると嬉しいです。
- 176 名前:ヒガン 投稿日:2005/06/18(土) 18:49
- ×待っててくれる方がすると
○待っててくれる方がいるとは
すいません間違えました。
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/19(日) 23:23
- 更新嬉しいです。この組み合わせ好きなので続き楽しみにしてます。
無理なさらず自分のペースで頑張ってください。
- 178 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/28(火) 00:42
- この2人、すっごく良いです!!
更新まってます。
- 179 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:24
- 彼女の笑顔はまるで薬みたい
アタシを元気にさせるよく効く薬
彼女が笑えばアタシはもっと強くなる
そんな気がするよ。
- 180 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:24
-
8――――
- 181 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:25
- それは突然のことだった。お父さんが家族旅行に行こうと言い出した。
お父さんの仕事が忙しくて新婚旅行にいけなかったのでそれも兼ねて
四人で旅行をしようということになった。
アタシにとっては初めての家族旅行になる。
その話を聞いたときの彼女はとっても嬉しそうだった。
そして旅行の前日、準備をしているアタシはなんだかワクワクしていた。
こういう気分は小学校の遠足以来かもしれない。
旅行にはもちろんカメラを持っていく、家族全員で写真も撮ってみたいからね。
- 182 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:26
- 「入りますよ」
彼女が部屋に入ってきた。
「旅行の準備進んでますか?」
「うん、準備完了だよ」
「そうですか、私も完璧です」
そんな会話をした後、アタシ達は明日のために早く眠ることにした。
翌日、アタシ達はお父さんの運転する車に乗り込んだ。
お母さんは助手席にアタシ達は後部座席に座った。
出発の前に裕ちゃんが見送ってくれた。
「お土産よろしくね」なんて言ってた。まったくしっかりしてるね。
- 183 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:26
- 車は高速道路に入ってビルがだんだんと少なくなり、緑の山々が増えてきた。
アタシと彼女はただ車窓の景色を見つめていた。
「ところでカメラは持ってきたんですか?」
「うん、でも今回は家族との写真を中心撮るつもりだよ」
そんな会話をした後、目的地の着くまで少し眠ることにした。
彼女は持って来た本を熱心に読んでいる。
- 184 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:27
- それから1時間ぐらい経っただろうか、アタシは彼女に起こされた。
「真希さん起きてください」
「んあ?もう着いたの?」
「違いますよ、サービスエリアで休憩です」
それから大きなあくびをひとつしてからアタシは車から降りた。
夏休み真っ只中なこともあってサービスエリアにはたくさんの車があった。
車のナンバーを見ると遠くほうから来た車もあった。
空を見上げると雲ひとつない青空が広がっていた。
- 185 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:28
- アタシは喉が渇いたので自販機で何か買うことにした。
財布から小銭を取り出してお金をいれて缶コーヒーのボタンを押した。
しかし押しても押しても出てこなかった。
「あれ?出ない」
アタシが困り果てていると後から声が聞こえた。
「ちょっとどいてくれますか」
振り返るとダボダボのヤンキーファッションに身を包んだ女の子がいた。
その子の言われるとおりにアタシは自販機から離れた。
そして次の瞬間、自販機に1発蹴りを入れた。そしてゴトンと音がして
缶コーヒーが落ちてきた。
「出てきましたよ」
そう言われてアタシは缶コーヒーを取り出した。
「ありがと、やるじゃん」
「いえいえ、たいしたことではないですよ」
アタシはその子に会釈してだけしてその場を離れた。
- 186 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:28
- それからアタシはベンチに腰をかけて一息ついた。
すると向こうの方から彼女がやってきた。
「真希さんここにいたんですか、そろそろ行きますよ」
彼女に言われてアタシは慌てて缶コーヒーを飲み干した。
「真希さん危ない!!」
アタシ達は車に戻ろうとした瞬間、彼女が突然叫んだ。
気がついたときにはアタシは1人の少女とぶつかってしまい勢いよく転んでしまった。
「痛っ・・・」
「いたた・・・ごめんなさい・・・大丈夫ですか?」
アタシの目の前には尻餅をついた少女がいた。
その子は黒髪のロングヘアーがとっても似合う子だった。
- 187 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:29
- 「こっちこそごめん、前よく見てなかった」
「いえ悪いのは私の方です」
アタシは彼女に手を借りて立ち上がった。
「本当にごめんなさい」
その子も慌てて立ち上がり深々と頭を下げて謝った。
「あのー絵里がなんかしましたか?」
アタシは声の方を振り返った。そこにいたのはさっきのヤンキー風の少女だった。
「あっ、れーな違うの、私がこの人ぶつかっちゃただけだから」
黒髪の少女がそう言うとヤンキー風の少女はアタシの向き合った。
「そうだったんですか、絵里がすいませんでした」
「いや、気にしなくていいよ、アタシも悪かったし」
アタシがそう言うと2人は安心したような顔をした。
- 188 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:30
- 「ったく・・・絵里はどうしようもなかね」
「だってれーなすぐいなくなっちゃうからさ・・・」
「あたしはただジュース買いに行ってただけとよ」
仲のいい2人の会話をアタシは笑いながら見ていた。
「さあ真希さん行きましょう」
彼女に促されてアタシはその場を後にした。
「ご迷惑かけてすいませんでした」
黒髪の少女が言った。
「あたしも謝ります、すいませんでした」
「いいよ、もう気にしなくて」
アタシは笑顔で2人に手を振った。
- 189 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:30
- 休憩を終えてアタシ達は車に乗り込んだ。
「あの2人すごく仲良しですね」
「うん、そうだね」
そして車は再び走り出した。アタシは再び窓の景色を眺めていた。
外の景色を眺めるのは結構楽しかった。
ふと隣を見ると今度は彼女が居眠りをしていた。
アタシは暇なので彼女の持って来た本でも読んでみることにした。
まあ眠くなることは覚悟してるけどね。
読んでみると結構面白くてどんどんとページが進んでいった。
それから半分くらい読み終えていったんの外の景色を見た。
気がつくと車は止まっていた。
- 190 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:31
- 外を見ると、古き町並みが残っている静かな所だった。
いったんここでこの町を探索しようといことにした。
アタシは眠っている彼女を優しく起こした。
「起きて、降りるよ」
「はーい」
彼女は眠たい目をこすりながら言った。
それから家族4人で写真を撮った。
こういう時間を過ごしていると改めて家族っていいなと思った。
- 191 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:32
- その後お父さんとお母さん、アタシと彼女は別れて観光することにした。
後でまたおち合ってホテルに行くことになった。
「さて、行こうか」
こうやって彼女と一緒に歩くのも何度目になるだろうか、あの青空の下で
出会ってから変わらない横顔があった。時に目が合えば小さく笑う彼女がいる。
彼女の笑顔は何度見ても飽きなかった。
「静かでいい所ですね」
「うん、いい写真が撮れそうでワクワクしてくるよ」
歩きながら町の風景を写真に収めた。その姿を見て彼女はまた笑った。
「いつ見てもいいなって思うんです」
「何が?」
「真希さんがカメラ持っている姿が幸せそうで私は好きです」
その一言に思わず手が止まった。
- 192 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:33
- 彼女の頬は赤くなっていた。どうやら自分で言った事に照れてるようだ。
「私、何言ってるんだろう、おかしいですね」
アタシは照られ笑いする彼女にカメラを向ける、今回は一言声をかけて
「そのままでいて、撮るよ」
そう言ってアタシはシャッターを切った。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
彼女がそう言ってももう遅い、もう撮ってしまったから。
「いい笑顔してたよ」
「また、黙って撮るなんてひどいですよ」
「撮るって言ったじゃん」
「心の準備ってものがあるじゃないですか」
「いいじゃん可愛いんだから」
アタシがそう言うと彼女は頬を真っ赤にしながら歩きはじめた。
- 193 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:33
- 彼女は相変わらずの恥ずかしがり屋だ。
そんな彼女を見てアタシはいつも笑顔になれる。
それから2人でソフトクリームを食べながら歩いていると
前の方から見覚えのある2人組がやってきた。
「あっ、さっきはどうも」
先に声をかけてきたのはヤンキー風の少女だった。
「キミ達もここに来たんだ、旅行かなんか?」
「はい、商店街のバスツアーで来たんです」
そう答えのは黒髪の少女だった。
「そっか、アタシ達は家族で旅行に来たんだ」
「じゃあ、姉妹なんですか?」
驚きの表情で黒髪の少女が言った。
- 194 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:34
- 「もしよかったら4人で歩きませんか?」
彼女が意外な提案をした。その一言に2人しばらく考えた。
「いいですね、行きましょう。れーなもいいよね?」
「あたしもそれでよかよ」
こうしてアタシ達は4人で行動することになった。
自己紹介をしながら街を歩きはじめた。
ヤンキー風の少女の名前は田中れいなで黒髪の少女は亀井絵里という。
2人とも高校1年生だ。
「でも2人は姉妹なのに全然似てないですね」
絵里ちゃんはアタシと彼女の顔を見比べるように言った。
「アタシ達は血は繋がってないんだ」
「あっ・・・私いけないこと聞いちゃいましたか?」
「いや、気にしなくていいよ」
- 195 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:35
- アタシがそう言うと絵里ちゃんは安心たような顔をしていた。
絵里ちゃんの隣ではれいなちゃんがジロジロとアタシをまるで観察
するように見つめていた。アタシは妙にその視線が気になった。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもないです」
れいなちゃんと話していて気づいたことがあった。
それは絵里ちゃんと話しているときは博多弁を喋っているけど
アタシ達と話すときには標準語になっていることだ。
「そう言えば絵里ちゃんと話すときだけは博多弁なんだね」
そう言ったのは彼女だった。
「はい・・・できるだけ他人には標準語を使うようにしてます」
れいなちゃんはためらうように言った。
- 196 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:35
- 「どうしてそんなことしてるの?」
「バカにされるのが怖いからですね」
「別にバカにしたりなんしないよ」
アタシはれいなちゃんに優しく言った。
「そう、隠す必要なんてないよ」
彼女も続けて言った。
「そう言ってくれて嬉しいとです」
れいなちゃんの笑顔で言った。
- 197 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:36
- それからアタシ達4人は昼食をとってから
アタシ達は他愛のない会話を楽しんでいた。
その後、彼女と絵里ちゃんが席を外してアタシとれいなちゃん
の二人になった。なんとなく微妙な雰囲気、年下なのにアタシが一歩
引いてしまう。一言も喋らぬまま時間だけが過ぎていった。
れいなちゃんは窓際で外を眺めていた。
「絵里ちゃんと仲いいんだね」
「ええ・・・まあ」
こんな具合に会話は続かなかった。
しばらくして彼女たちが戻って来て、アタシ達は店を出た。
- 198 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:36
- それかられいなちゃんと絵里ちゃんはもうすぐ集合時間だから
と言ったので店の前で別れた。
「じゃあ、アタシ達も戻ろうか」
「そうですね」
それからアタシ達は車に戻ることにした。
「真希さんとれいなちゃんって似てますね」
「えっ?どこが似てるの?」
「クールな所ですかね」
そんなことを言われてもアタシにはピンと来なかった。
「絵里ちゃんも同じこと言ってましたよ、雰囲気が似ているって」
アタシとれいなちゃんが似ているか、よくわかない感覚だ。
- 199 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:37
- 車に戻ると既にお父さんとお母さんが待っていた。
そして車が動き出し宿泊するホテルへと向かう。
彼女は再び本を読み始めた。
「さっき寝てる間にその本読ませてもらったけど面白かったよ」
「そうですよね、でも真希さんって活字が苦手なんじゃないですか?」
「そうなんだけど、不思議と読めた」
彼女が読んでいる小説はごく普通の恋愛小説だった。
アタシにはいまいち恋とかよくわからないけど、誰かを愛する
ということはとてもいいことなのかもしれない。
そんなアタシらしくないこと考えていた。
- 200 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:38
- それから数時間後、車はホテルに着いた。
チェックインを済ませてか部屋に向かった。
部屋は入るなりアタシはベッドへと倒れこんだ。
「真希、あさ美、食事までまだ時間があるから2人で温泉に行って来い」
アタシはお父さんの言うとおりにしようと思った。疲れもとれると思うし。
でも、彼女を見ると少し戸惑っている感じがした。
「じゃあ行こうか」
「はい・・・」
彼女はなんか乗り気じゃないみたいだった。
アタシは温泉に行く準備をした。鞄からバンドを取り出して髪の毛を束ねた。
そしてアタシと彼女は部屋出て温泉に向かった。
- 201 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:38
- ここのホテルは露天風呂がとても有名らしい、なんでも予約するのが大変みたい
予約が取れたのも奇跡だってお父さんが言っていた。
温泉に向かう途中、彼女はなんだが落ち着かない様子だった
その理由もすぐにわかった。脱衣場で服を脱ぐ時もマイペースな彼女では
考えらないスピードで早々と大浴場に向かった。
そう言えば彼女は極度の恥ずかしがり屋だったことを忘れていた。
アタシは思わず苦い笑いしながら彼女の後を追った。
- 202 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:39
- 大浴場からの景色はとてもきれいで温泉もとても気持ちいい
今日1日の疲れを洗い流してくれるようだった。
隣の彼女はこっちも見ずに背中を向けていた。
「もっと近くに寄りなよ」
アタシがそう言うともっと距離を広げてしまった。
そっちが近づかないならこっちから寄っていくよ。
しかし、近づいてみるとアタシはドキッとした。
湯煙で見えなかったせいだろうか、彼女の白い肌、意外と大きな胸の膨らみに
アタシは目がいってしまう。同姓なのに目のやり場に困ってしまった。
「真希さん、そんなに見ないでください・・・恥ずかしいです」
「ごめん・・・」
アタシは彼女に背中を向けた。彼女の頬は温泉で温まって赤いのか
恥ずかしがって赤いのかわからない状態だった。
- 203 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:40
- このままだとのぼせてしまいそうだからアタシは先に出ることにした。
アタシは脱衣場でホテルの浴衣に着替えて温泉の入り口で彼女が出るのを
待っていた。それから数分後、彼女が出てきてアタシ達は部屋に戻った。
その後すぐに食事の時間になった。
豪華な懐石料理がとても美味しかった。もちろん彼女も夢中で食べていた。
お腹も満たした所でアタシは一息ついた。
「真希さん、お土産見に行きませんか?」
アタシは彼女と一緒にお土産を買いに行くことにした。
- 204 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:40
- 土産物屋に着くと名産物とか様々な商品があった。
裕ちゃんにお土産頼まれているし、美貴やいちーちゃんにも
何か買っていこうかなと思い店の中を見て回った。
ふとロビーを見るとまたも見たことある顔が目に入った。
こっちに気づいたらしくその子は近づいてきた。
「どうも、よく会いますね」
「本当だね。ホテルも一緒とね」
「あれ?絵里ちゃんどうしたの?」
彼女に言われて気づいたが絵里ちゃんの姿が見えなかった。
「お土産買いに来たのはいいんですが、財布忘れて部屋に取りに言ってるとです」
れいなちゃんは少し不機嫌になりながら言った。
「あっ・・・私も財布忘れたみたいです」
彼女が思い出したように言った。
- 205 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:41
- 「待ってるから取っておいでよ」
アタシがそう言うと彼女は慌てて部屋に戻っていった。
「ったく、しょうがないな」
アタシは笑いながらロビーに腰をおろした。
「変なこと聞きますけど、本当にあの人妹さんですか?」
「一応そうだけど、なんで?」
「確かめたかっただけとです、気にしないでください」
れいなちゃんはそう言うが、アタシに気になって仕方がない。
「すごい気になるから言ってくれない?」
「ただ姉妹というより恋人に見えた、それだけです」
恋人か、れいなちゃんはそういう見えてしまったのか。
なんでそういう風に見えちゃたんだろうか不思議だ。
- 206 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:42
- 「ところでれいなちゃんと絵里ちゃん仲いいね」
「ええ・・・まあ、そうですね」
アタシもちょっと攻撃を仕掛けてみようかなと思った。
「絵里ちゃんのこと好きなの?」
アタシがそう言うとれいなちゃん黙り込んでしまった。
「図星のようだね」
「なんでわかったとですか?」
「なんとなくかな」
れいなちゃん少し苦笑いを浮かべていた。
「あたし、絵里のことものすごく大切に思っています」
れいなちゃんは嬉しそう言った。
- 207 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:43
- アタシは彼女の持っていた恋愛小説を思い出した。
幸せそうなれいなちゃんを見て思わず笑った。
「ところで後藤さんいないんですか?好きな人」
「えっ?今はいないよ」
突然の質問にアタシは驚いた。
「本当ですか?」
れいなちゃんは疑いの目でアタシを見た。
「なんで疑うのさ」
「ただ聞きたかっただけなんで」
アタシは彼女が戻ってくるまでれいなちゃんと
楽しく会話していた。
- 208 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:43
- 「絵里があたしと後藤さんが似てるって言っていたんですけど」
「あさ美も同じこと言ってたよ」
「似てると思いますか?あたしと後藤さん」
「よくわからないよ、2人が同じことを言うってことは似てるんじゃない」
アタシとれいなちゃんは訳もわからず納得していた。
それから彼女と絵里ちゃんがいっしょにやって来た。
話によると、れいなちゃんたちも同じ階に泊まっているという。
それからみんなへのお土産を買った。
- 209 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:44
- その後、れいなちゃんからゲームセンターで遊びませんかと
誘われたけど、アタシちょっと疲れたから部屋に戻ることにした。
「真希さん、本当に行かないんですか?」
「ちょっと休みたいし、アタシのことは気にしなくていいから行ってきなよ」
アタシは彼女をれいなちゃん達に任せてエレベーターへと向かった。
エレベーターに乗り込むと目的の階のボタンを押した。
ドアが閉まりかけたその時だった。
「すいませーん乗ります」
絵里ちゃんが慌てて飛び込んできた。
「あれ?一緒に行かなかったの?」
「あっ・・・ちょっと部屋に用事があるんです」
そう言えば絵里ちゃんと2人きりなるの初めてだった。
ちょっと緊張している感じがする。
- 210 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:45
- エレベーターの中、絵里ちゃんはアタシのことをじっと見ていた。
「どうかした?」
「やっぱり似てるなって思って」
「アタシとれいなちゃんのこと?」
「はい、そっくりです」
そういえば最初に似てるって言ったのは絵里ちゃんだったけ。
「どこが似てる?」
「うーん、無愛想な所ですかね」
「えっ?アタシって無愛想?」
「あっ・・・そうじゃなくて人を寄せ付けないオーラを放っているみたいな」
「アタシもそんなオーラ出してる?」
「いや・・・あの・・・その」
絵里ちゃん地雷踏みまくりだよ。アタシは思わず吹き出した。
- 211 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:45
- アタシは絵里ちゃんにもれいなちゃんと同じことを聞いてみようと思った。
「れいなちゃんのこと好きなの?」
「はい!大好きです」
正直な答えにアタシは驚いた。
「れいなちゃんが言ってたよ、絵里ちゃんのこと大切に思っているって」
「本当ですか?普段のれーなってそんなこと口にしないのにな、でも嬉しいです」
絵里ちゃんは恥ずかしそうにしていたけど、嬉しそうだった。
そんな仕草は彼女とよく似ている。
「後藤さんは好きな人はいないんですか?」
「れいなちゃんにも同じこと聞かれたよ、まだいないよ」
「そうですか、きっと後藤さんもれーなと同じようにその人のこと大切にするんだろうな」
絵里ちゃんは笑顔で言った。
エレベーターが目的の階に着いた。アタシと絵里ちゃんとその場別れた。
アタシは部屋に戻ってそのまま眠りについた。
- 212 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:46
- それからアタシが目覚めたのは夜中の2時だった。
ふと見ると窓が開いていた。ベランダで彼女が夜空を眺めていた。
「眠れないの?」
「はい、なんだか寝つけなくて」
空を見上げるとキレイな星が輝いていた。
でもなんだか彼女は俯いていた。
「どうかしたの?」
「嬉しいんです」
「なにが?」
「こうやって家族で旅行に来れて、これが家族なんだって思うと嬉しくて」
彼女はすごく嬉しそうに言った。
「それにれいなちゃんと絵里ちゃんに知り合えたし、一生忘れたくない思い出が出来ました」
「アタシもそう思うよ」
アタシも彼女も笑った。でもアタシは彼女が過ごす毎日が思い出になっていく、そんな気がした。
「そろそろ寝ましょうか」
「そうだね」
アタシたちは夜空の星を見ながら眠りについた。
- 213 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:46
- 翌日、目覚めると気持ちいい風が吹いていた。
いつもと違った風の匂いが心地よかった。
それからアタシ達は朝食を食べた後、早々に帰り支度を始めた。
ロビーでお父さんがチェックアウトをしている間、ロビーでアタシたちは待っていた。
玄関のほうではれいなちゃん達がバスを待っていた。
こっちに気づいたのかれいなちゃん達は近づいて来た。
「今度こそ本当のお別れですね」
そう言ったのはれいなちゃんだった。
「せっかく仲良くなれたのに寂しいですね」
絵里ちゃんが悲しそうに言った。
「でもさいい思い出が出来たからいいじゃん」
「そうですよ」
アタシと彼女は笑顔で言った。
- 214 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/05(火) 19:47
- 「2人とも元気でね、これからも仲良くしなよ」
アタシがそう言うとれいなちゃんと絵里ちゃんは深く頷いた。
「真希さん、そろそろ私たちも出発ですよ」
「そうか、じゃあね、バイバイ」
アタシ達はれいなちゃんと絵里ちゃんに別れを告げてその場から離れた。
車に乗り、外に目を向けるとれいなちゃん達が手を振ってくれている。
アタシ達もそれに答える。アタシ達は見えなくなるまで手を振りつづけていた。
こうして夏の旅行は終わった。楽しい思い出が出来たしもいい出会いもあった。
アタシもあの二人のように大切な人がきっと現れる。
それも遠くない未来のような気がした。
- 215 名前:ヒガン 投稿日:2005/07/05(火) 19:51
- 本日はここまで
1回きりの登場ではもったいない2人の登場です。
>>177
レスありがとうございます
僕もこのCPが好きなのでじっくりと
書いていきたいと思ってます。
>>178
レスありがとうございます
良いですか?嬉しい言葉ありがとうございます
今後もこの2人を見守ってください。
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/18(月) 16:11
- おもしろいです↑一気にぜんぶ読みました☆更新たのしみに待ってます☆
- 217 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:50
- キミと過ごした夏の思い出はずっと忘れない
でもアタシはキミといる毎日が思い出
そう思ってる・・・
また今日も思い出が増えていく。
- 218 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:50
-
9―――
- 219 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:51
- 夏休みも後少しで終わりに近づいたある日のことだった。
裕ちゃんとケンカをした。別に珍しいことじゃない。
原因はほんの些細なことなんだけどね。
「またカメラもって出掛けるか?勉強はどないした?」
「ちょっと息抜きだよ」
「息抜きばっかりやな、アンタは受験生なんやでわかっとるか?」
「わかってるよ、うるさいな!」
「なんやそんな言い方は」
「あーもう!そんなんだからいつまでたっても結婚できないんだよ!」
つい言ってしまった一言、裕ちゃんに一番言ってはいけないこと言ってしまった。
「なんやて、もういっぺん言ってみいや!」
こうなってしまっては後の祭り、アタシはその場から逃げ出してしまった。
- 220 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:52
- まあこんな具合にケンカするのはいつのことで慣れている。
妙にすっきりしない気分になった。
昔からそうなんだ。裕ちゃんの説教を聞くのは。
小さい頃から面倒見てもらった。お姉さんでもありもう1人お母さんでもある。
裕ちゃんはそんな存在だ。
アタシのために言っているそれはわかっている。
一回りも年が離れているせいか言う事がなんか古い、それがなんか嫌だった。
- 221 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:52
- 決まってアタシはいつも家を飛び出してしまう。
アタシはグラフィティに逃げ込むようにして入った。
コーヒーを一口飲んで深いため息をついた。
「どうかしたの?ため息なんかついてさ」
「別に・・・なにもないよ」
「そういう風には見えないぞ」
さすがいちーちゃんなんでもお見通しだね。
アタシはいちーちゃんに話してみた。
「それは後藤が悪いだろ」
「そんなことわかってるよ」
「わかっていたら謝った方がいいんじゃない?」
簡単に言うね。いちーちゃんは裕ちゃんの怖さを知らないから
そういうことが言えるんだよ。
- 222 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:53
- 結局、アタシはいちーちゃんに店を追い返されてしまい
行く所がなくなってしまった。
アタシはどうしたらいいかわからなくて近くの公園のベンチに
座って時間を潰していた。
それから1時間くらいアタシは座っていた。
ふと見るとこっちに近づいてくる人影があった。
「真希さん、ここにいたんですか、探しましたよ」
「もしかして裕ちゃんに言われて探しに来たの?」
「はい、そんなところです」
彼女がアタシに座った。
「ハァ・・・裕ちゃんに酷いこと言っちゃったかな」
思い悩むアタシに彼女は困ったような顔をした。
- 223 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:54
- 「謝った方がいいんじゃないですか」
やっぱり彼女も同じ意見だよね。
「私はまだ中澤さんのことよく知りません、でも真希さん違う、中澤さんすべてを知っている」
確かに彼女の言う通りだ。アタシは裕ちゃんの性格とかすべて知っている。
お父さんのいとこでお隣さん、関西弁で捲くし立てられるととても怖いけど、けど優しい
一面もある。アタシは昔から裕ちゃんについてまわってた記憶がある。
そうやって喋っていると隣に彼女はいなかった。
ふと砂場を見ると小さな女の子と一緒にいた。
どうしたんだろうか?アタシの彼女の元へと行った。
- 224 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:54
- 「どうしたの?」
「この子が迷子みたいです」
彼女が泣きじゃくっている女の子の頭を優しく撫でていた。
「ねえ、あなたお名前は?」
「まい・・・萩原まい・・・」
小学校低学年くらいの女の子のようだ。
「まいちゃんは1人なの?」
「ううん、おねえちゃんといっしょにいたけど、いなくなっちゃったの」
彼女は優しくまいちゃんを慰めていた。
「よし、アタシ達がまいちゃんのお姉ちゃん探してあげよう」
「ほんと?」
まいちゃんは泣くのをやめた。
「でも、真希さん探すっていってもどこ探すんですか」
「まあ、なんとかなるでしょ」
彼女はあんまり納得出来てないようだけど、こうしてまいちゃんの
お姉ちゃん探しが始まった。
- 225 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:55
- 別に行き当たりばったりで探すわけではない、まいちゃんの来たルート
辿ってみればお姉ちゃんが戻って来てるかもしれないそう思った。
そういえばアタシもこんなことあったな、ちょうど年は今のまいちゃんと
同じくらいだったかな、アタシは思い出していた。小さい頃のアタシのこと。
あの時は1人で遊んでいるうちに帰り道がわからなくなってしまったんだっけ
それで日も暮れかけたところにアタシを必死に探しにくれたは裕ちゃんだった。
「真希、探したよ、まったく心配かけてこの子は」
「うわーん、ゆーねえちゃん、怖かったよ・・・」
アタシが迷子になると裕ちゃんは必ず探してくれた。
あの頃は裕ちゃんに迷惑かけてばっかりだったな・・・
- 226 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:55
- 「どうしたんですか?」
アタシの様子に気づいたのか彼女が話しかけてきた。
「アタシも小さい頃同じことあったなって思い出してた」
「真希さんでも迷子になるんですね」
彼女はそう言うと小さく笑った。
「それより、まいちゃんのお姉ちゃん探さなきゃ」
アタシはそう言うと足早に歩きはじめた。
それから公園、近くのコンビニ、森の中とかまいちゃんが行ったところは
すべて行ったけどまいちゃんのお姉ちゃんは見つからなかった。
「いないですね」
アタシ達は途方に暮れていた。アタシ達はいったん公園に戻ることにした。
- 227 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:56
- 公園に戻る道の途中、別の姉妹らしき子たちとすれ違った。
それに重ねあわすのはアタシと裕ちゃんの昔のことだった。
「ちょっと昔話、聞いてくれない?」
アタシはなぜだか昔の話を喋りたくなった。
「アタシさ昔ね金髪にしたことあるんだ」
それはアタシが中1の頃のこと、時期はちょうど夏休みだった。
アタシはつい興味本位で髪の毛をそれも金髪に染めた。
その行動に一番怒ったのは裕ちゃんだった。
「なんやその髪の色、すぐ直しや!」
「嫌だ!せっかく染めたのに」
「あかん、あんたはまだ子どもやから」
「裕ちゃんだって染めてるじゃん!なんでアタシはだめなの?」
「私はええけど、アンタはあかん!」
結局、アタシは裕ちゃんに無理やり黒に戻された。
- 228 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:57
- アタシは昔から裕ちゃんに髪を切ってもらっていた。
金髪にしたのも裕ちゃんに憧れていたからなんだよね。
一歩でも近づきたいから金髪にしてみたのにすごい剣幕で怒られた。
「真希さんは中澤さんのことが大好きなんですね」
彼女がそう言った。そうかもねとアタシは思った。
「中澤さんも真希さんのことがきっと大好きだと思います」
「裕ちゃんがそんな風に思ってるはずがないよ」
「そんなことないです」
彼女は自信に満ちた表情で言った。
アタシはなにも考えたくなかった。
今はまいちゃんのお姉ちゃんを探すのが先だ。
- 229 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:57
- 今度は海岸の方を探してみたけど、でもいなかった。
「やっぱり、いませんね・・・」
「うん・・・」
結局、どこにもまいちゃんのお姉ちゃんは見つからず
アタシ達は元の公園戻ることにした。
公園の時計を見ると、時間は4時を過ぎていた。
アタシ達はどうすることもできずに、ただベンチに座っていた。
しばらくすると遠くのほうから誰かを呼ぶ声が聞こえた。
「お姉ちゃんだ!」
さっきまで遊んでいたまいちゃんが急に立ち上がって走り出した。
アタシ達もそれを追った。
- 230 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:58
- すると前の方から少し大人ぽっいけど小学生ぐらいの女の子がいた。
「みやびお姉ちゃーん!」
「やっと見つかった、探したよまいちゃん」
「うん、あのお姉ちゃん達に遊んでもらってたの」
そう言ってまいちゃんはアタシ達を指を差した。
「キミがまいちゃんのお姉さんなの?」
彼女が聞いた。
「いえ、まいちゃんの近所の子なんです」
まいちゃんがお姉ちゃんと呼ぶこの子の名前は夏焼雅、まいちゃんの近所に
住んでいるらしい、2人で遊んでいて少し目を離した途端まいちゃんがいなくなってしまい
必死になって探していたらしい、そんなことも知らずまいちゃんは雅ちゃんと会えたこと
喜んでいた。これでもう安心だね。
- 231 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:59
- 「じゃあ、まいちゃんもう雅ちゃんと離れちゃダメだよ」
「うん、わかった」
アタシはまいちゃんにそう言ってその場を離れた。
「バイバイ」
まいちゃんが元気な声で手を振っていた。
アタシと彼女も笑顔で手を振った。
「じゃあ、私たちも帰りましょうか?」
「アタシはまだ帰らないよ」
「えっ?なんでですか?」
アタシはそんな彼女の声に構わず歩きはじめた。
「ちょっと待ってくださいよ」
彼女がアタシの後を追ってくる。
なんとなく家には戻りたくなかった。
アタシはあの海岸に行くことにした。
- 232 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 14:59
- 海岸までの道のりで前の方からいちーちゃんがやってきた。
買い物袋下げている、どうやら買出しの帰りらしい。
「おー後藤、謝りに言ったのか?」
アタシは何も言えずにただ黙っていた。
「その様子だとまだみたいだね」
アタシはそんないちーちゃんの声を無視して歩きはじめた。
「もうしょうがないな、あさ美ちゃんの方からガツンと言ってやってよ」
「なんとかやってみます」
今のはアタシにはそんな会話さえ聞こえてこなかった。
「真希さん、待ってくださいよ」
彼女がアタシの後を追ってきた。
- 233 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 15:00
- 海岸に着くと、アタシは砂浜に腰をおろした。
深いため息をついて、空を見上げた。
日も落ちかけていて夕焼けがとてもキレイだった。
「ずっと、こうしているつもりですか?」
今のアタシには家に真っ直ぐ帰ることは出来なかった。
彼女は呆れた顔をしていた。
「もう!いい加減してよ、お姉ちゃん」
「えっ?」
彼女の一言にアタシは耳を疑った。
「お姉ちゃん」と彼女がアタシのことそう呼んだ。
「さあ早く帰ろうよ、お姉ちゃん」
それに敬語じゃくなっている。彼女は戸惑うアタシの手を掴んで
離さない、アタシは彼女に引っ張られて家に帰ることになってしまった。
- 234 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 15:01
- 「ねえ、どうしたの?急にお姉ちゃんなんて呼んだりして」
「一度呼んでみたかったんですよね」
彼女笑いながら言う。でも元の敬語に戻っていた。
お姉ちゃんって呼ばれるのも悪くないなと思った。
しょうがない、彼女の言うことを聞いて家に帰ろう。
そして家の前に着くと、裕ちゃんがいた。
ずっと帰りを待っていたらしい。
「やっと、帰ってきたか」
うつむくアタシを見かねて、彼女がそっとアタシの背中を押した。
裕ちゃんの前で言葉が出なかった。
- 235 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 15:01
- 「裕ちゃん、ごめん」
アタシは小さな声で言った。
「真希、私もごめんちょっときつく言いすぎたかもしれん」
裕ちゃんは笑顔で言った。そして裕ちゃんに抱きついた。
すごい久しぶりに裕ちゃんの温かさを感じていた。
アタシはまだまだ子ども、でもいつかは裕ちゃんみたいになりたい
裕ちゃんいつもありがとう、そしてこれからもよろしくね。
アタシは心の中でそう言った。
彼女を見ると安心したような顔をしていた。
彼女にも迷惑かけてしまったかな、ちょっと反省した。
「よかった、真希さんと中澤さんが仲直りできて」
彼女は笑顔で言った。
- 236 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 15:02
- さっきまでお姉ちゃんと呼んでいたのに、また元に戻っていた。
「ねえ、もう一度お姉ちゃんって呼んでよ」
「嫌ですよ、恥ずかしいじゃないですか」
「いいじゃん、呼んでよ」
彼女は頬を赤くしてそのまま家に戻ってしまった。
逃げられてしまったか、なんか寂しい気分になった。
もう一度お姉ちゃんと呼んでほしいなとそんな願いを
胸にしまってアタシは家に入った。
- 237 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 15:02
-
- 238 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/07/25(月) 15:02
-
- 239 名前:ヒガン 投稿日:2005/07/25(月) 15:04
- 本日はここまで
>>216
レスありがとうございます
また読んでもらえると嬉しいです。
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/26(火) 23:37
- 心があったかくなる小説ですね・・・今日は幸せな夢が見れそうです
更新楽しみにまってます
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 22:25
- 初書き込みです。すごくさわやかな物語ですね。続きを楽しみにしてます。
あと、少し脱字が多く折角の話の展開が分かりづらかったのが残念です・・。
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/23(火) 01:23
- あー、すごく好きです。作者様の更新を見つける度に疲れが吹き飛びますよぅ。
頑張って下さい。
- 243 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:02
- 私の好きなもの、それは澄みわたった青い空
晴れた日には必ず空を見上げている。
何時間だって見ていられる。
青空は心が癒される、そういう気分になるんです。
- 244 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:03
-
10―――
〜ASAMI SIDE 前編〜
- 245 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:04
- 今日の空もよく晴れていてとっても綺麗です。
「ちゃん・・・あさ美ちゃん・・・」
私は我に帰り声の方を振り返った。
「あさ美ちゃん、さっきから呼んでるのに全然返事ないんだもん」
そう言ったのはクラスメートの小川麻琴、通称まこっちゃんです。
まこっちゃんと中学校からずっと一緒の友達です。
「ごめん、ちょっとボーッとしてた」
こうやって注意されるのもいつのもこと、それくらい私は青空が好き。
「あさ美ちゃんって暇があるといつも空を見てるよね」
まこっちゃんはこう言いますけど、私以上にボーッとしている時があります。
そのときはいつも口が開いています、その表情にいつも私は笑わされています。
こんな風に私はいつも高校生活を楽しんでいました。
- 246 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:04
- 放課後、私は授業を終えて帰り支度をしていました。
「あさ美ちゃん、この後なんか予定ある?」
「別にないよ」
「そう、だったら遊びに行こうよ」
私はこの後、まこっちゃんと遊びに行く約束をしました。
そして2人で教室を出て歩き始めると前のほうから
3年生の吉澤ひとみさんがやって来ました。吉澤さんは中学の時から
お世話になっている先輩です。とっても面倒子のいい人です。
吉澤さんはスポーツ万能で今はフットサル部のキャプテンを務めています。
「おー紺野に小川、今帰りか?」
「はい、これからまこっちゃんと遊びに行くんです」
「そうかいいな、私はこれから部活だよ」
吉澤さんサッカーボールを見せながら言いました。
- 247 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:05
- 「それよりさ紺野、フットサル部入る気ない?」
吉澤さんから何度もフットサル部の誘いが来るんですけど
私はそのたびに断っています。別に運動が苦手という訳ではなくて
私は自分でとろい人だと思っていて、もし私が入ったら
チームに迷惑をかけてしまいそうで怖いからというのが理由です。
「申し訳ないんですけど、私には無理ですよ」
「そっか、紺野って足速いから向いてると思うんだけどな」
私は中学時代、陸上部に入っていて、それなりの記録も残しています。
吉澤さんはそのことをよく知っているので、私をスカウトしてくるのです。
「私の後を継げるのは紺野しかいないわけよ」
そう言ってくれるは嬉しいのですが、私は丁寧に断りました。
「吉澤さん、あたしじゃダメですか?」
「うん、小川はいい」
吉澤さんはあっさりとまこっちゃんを払いのけてしまいました。
- 248 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:05
- 「なんでですか?あたしも誘ってくださいよ」
それでも一歩も引かないまこっちゃん、よっぽど吉澤さんのことが
好きなんだなと思いました。でも吉澤さんはまったく相手にしてないみたいです。
「じゃあ私は行くね」
「えっー?そんなー」
吉澤さんは逃げるようにして行ってしまいました。
まこっちゃんは吉澤さんに憧れているみたいです。
でも全然相手してもらえないみたいでいつもスネてばかりいます。
「いいよね、あさ美ちゃんは吉澤さんに好かれていて」
「別に吉澤さんはまこっちゃんのこと嫌いではないと思うよ」
「そうかな、あたしとあさ美ちゃんの接し方全然違うじゃん」
「まこっちゃん、考えすぎだよ」
私はまこっちゃんをなだめながら校舎を出ました。
- 249 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:06
- 校舎を出てグラウンドの方を見ると吉澤さんが元気に
フットサルをしていました。
「やっぱり、かっこいいな吉澤さん」
まこっちゃんはうっとりした目で吉澤さんを見ていました。
「そうだね」
私もまこっちゃんと同じ思いでした。
「じゃあ行こうか」
私たちは再び歩き始めました。
その後、私たちはマックでハンバーガーを食べたり
ゲームセンターでプリクラを撮ったりしました。
そして、日も暮れかけた頃、私たちはその場で別れました。
- 250 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:06
- 私の住んでいる街は山を削って作られた住宅街にあります。
そこのマンションでお母さんと二人暮らしをしています。
お父さんは私が生まれてすぐに交通事故で亡くなったと聞いています。
辛いこととかあったけど、私は泣いたりしなかった。
いつも私には青空という味方があった。
空を見上げると青空が「大丈夫だよ」って言っているよう気がします。
だから私は辛くはありません。
- 251 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:07
- 時間はもう少しで6時になるところ、すっかり遅くなってしまいました。
私は急いで家に帰ることにしました。私たちが住んでいるのはマンションの7階
高台に立っているのでとても景色がいいんです。
玄関に着いて鞄からカギを取り出して扉を開けました。
「ただいま」
私がそう言っても返事がありませんでした。
部屋の電気もついていないのでお母さんはいないみたいです。
リビングに行くと、テーブルの上に置手紙が置いてありました。
「ちょっと出掛けて来ます、夕食は作っておきました」
手紙を読んで夕食を確認すると、私の大好物、芋の煮込みがありました。
私は思わずガッツポーズしました。そう私は芋類が無性に好きなんです。
- 252 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:08
- 「お母さんはまたデートか」
私はそう呟いて、自分の部屋に行きました。
お母さんにはここ1年、付き合っている人がいるみたいです。
その人の年お母さんとは同い年で病気で奥さんを亡くされて
今は高校3年生の娘さんと二人暮らしをしていると聞いています。
私も一度会ったことあるのですが、とてもいい人です。
その人と会う日のお母さんはとても嬉しそうです。
そんな顔を思いだしながら私は一人でお母さんの作ってくれた
夕食を食べました。私は部屋に戻って今日の宿題をしました。
勉強終えて、一息ついていると時間は夜の9時になっていました。
それからしばらくしてお母さんが帰ってきました。
- 253 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:08
- 翌日、私はいつものように高校に向かう道を歩いていました。
そして途中でまこっちゃんと一緒なり2人で手をつないで歩きました。
私が通っている高校は坂の上にあり、この坂は生徒たちの間では
心臓破りの坂と呼ばれています。その坂はとても急で登るには
少し時間がかかります。慣れていない人には結構大変かもしれません。
私も1年生の時は息を切らしながら登っていましたが、今はでは
走って登れるほどこの坂道にも慣れました。
- 254 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:09
- その時、後ろの方から私たちを呼ぶ声がしました。
振り返ると吉澤さんが元気に走ってきました。
「紺野、小川、おっす」
「吉澤さん、おはようございます」
私たちは声を揃えて挨拶をしました。
「吉澤さんは今日は気合い入ってますね」
まこっちゃんが感心しながら言いました。
「まあな、明日、試合だから今のうちに気合い入れておかないとな」
「えっ?明日は試合なんですか?絶対、応援に行きます!」
まこっちゃんは興奮しながら言いました。
「おう、いいよ、紺野も来てくれよ」
「はい、私も行きます」
私がそう言うと、吉澤は嬉しそうな顔をしました。
そんな話をしながら私たちは校舎に入りました。
- 255 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:09
- その日のお昼休みのことでした。私は昼食を食べてから
空を見るために屋上に上がろうと思いました。
外へ出てみると大きな空が目に入ってきました。
涼しげな風と共に雲が流れていきます、その雲をじっと
見ていると、まるで私も雲になった気分になります。
しばらく空を見ていると、後の方から吉澤さんの声が聞こえてきました。
「おーい、紺野」
「吉澤さん、どうしたんですか?」
「いい天気だし、外の空気で吸おうかなと思ってさ」
吉澤さんはそう言って深呼吸をしました。
私と吉澤さんと2人でしばらく空を見ていました。
「ねえ紺野、なんか悩みとかあるの?」
「いえ、別にないですけど」
「そう・・・ならいいや」
どうしたんだろう?私は気になりました。
- 256 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:09
- 「どうかしたんですか?」
「紺野がたまに寂しそうな顔するがあるんだ、それが妙に気になってさ」
多分、空を見上げている時の私を見ていっているのでしょう。
吉澤さんの目には私が寂しそうに写ったのかもしれません。
「寂しくなんかありませんよ」
私は笑顔で言いました。
「そっか・・・安心したよ、でもなんかあったらすぐに言ってよ」
「はい、わかりました」
吉澤さんはいつも優しく私に接してくれるとてもいい先輩だと
私は思いました。それからしばらくしてお昼休みの終わりを告げる
チャイムがなりました。
「じゃあ、私そろそろ教室に戻りますね、明日頑張ってくださいよ」
そう言って屋上を出ました。
その日の吉澤さんは1人で遅くまで練習をしていたそうです。
明日の試合はただの練習試合はずなのに、一体どうしたんでしょうか。
- 257 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:10
- 試合の当日、私とまこっちゃんは試合の行われるグラウンドに行きました。
既にたくさんの人が集まっていました。
グラウンドでは準備運動を入念にしている吉澤さんの姿がありました。
「吉澤さーん、頑張ってくださいよー」
まこっちゃんが大きな声で叫びました。
吉澤さんはその声に手を振ってこたえました。
試合開始前なのに既に吉澤さんは真剣な顔をしていました。
「ねえあさ美ちゃん、今日の吉澤さん妙に張り切ってない?」
「うん、そうだね」
「今日は練習試合のはずなのに、なんでだろう」
確かに吉澤さんの様子はおかしかった。それは他の部員の人も
気づいているでしょう。でも私たちには理由がわからなかった、
- 258 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:11
- そして試合開始の時間になりました。
「がんばっていきまっしょい!」
吉澤さんの掛け声で選手のみなさんがそれぞれのポジション
につきました。試合中の吉澤さんも真剣そのものです。
試合は吉澤さんが積極的に動き、チャンスを作ります。
そして試合が始まって5分で吉澤さんがゴールを決めたのです。
「よっしゃあ!!」
吉澤さんの雄叫びがグラウンドに響きました。
その気迫に押されてか、試合は吉澤さんのチームが優勢でした。
吉澤さんは3得点の大活躍で5対0の圧勝でした。
試合後の吉澤さんのとても満足げな顔をしていました。
- 259 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:11
- 試合の終わった吉澤さんに私たちは駆け寄りました。
「すごかったですよ、今日の吉澤さん」
まこっちゃんは興奮しながら言いました。
「紺野、どうだった今日の試合」
「とってもかっこよかったです」
私がそう言うと吉澤さんは満足そうな顔していました。
「このなんか予定あるか?」
「いえ、別にないですけど」
「そうか、よしなんか奢ってやるよ、ついでに小川も来いよ」
「ついでってなんですか」
小川さんは頬膨らましながら言いました。
「ははは、まあいいじゃん」
吉澤さんは笑いながら歩き出しました。
まこっちゃんは不満そうな顔をしながら着いていきました。
私はそんな2人を見て思わず笑いました。
吉澤さんは私たちと別れるまでずっと上機嫌でいました。
- 260 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:12
- 翌日は日曜日、その日の空はどんよりとした曇空で青空は
見えませんでした。私はそんな空を見て思わずため息をつきました。
青空が見えない日はなぜだがとっても悲しくなります。
アタシがもう一度ため息をついたその時でした。私の携帯が鳴りました。
ディスプレイに表示された『吉澤さん』の文字を確認して通話ボタンを押しました。
「もしもし、紺野」
「吉澤さん、こんにちはどうしたんですか?」
「ねえ今日暇かな?もし暇だったら来てほしいんだ」
「はい、いいですけど」
「わかった、じゃあ公園で待ってる」
そう言って吉澤さんは電話を切りました。私は訳がわからぬまま
公園へと向かうことにしました。
- 261 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:13
- 外に出てみると、空模様がなにやら怪しくなってきました。
雨が降るかもしれない、そんなことを考えながら約束の公園へと急ぎました。
公園に着くと、吉澤さんはまだ来ていませんでした。
ここの公園は小さい頃からよく遊んだ思い出の場所です。
私はベンチに座って吉澤さんを待つことにしました。
それから数分後、自転車に乗った吉澤さんの姿が見えました。
私に気づいたのかスピードあげて近づいてきました。
「ごめん、待たせちゃって」
「いえ、私も今来た所ですから」
「そう、よかった」
吉澤さんはそう言うと、自転車から降りて私の横に座りました。
「昨日の試合でお疲れじゃないんですか?」
「いや、そんなことないよ」
昨日の試合ですごく頑張っていたのに、吉澤さんは疲れた表情は
していませんでした。その表情は試合前と同じで気合いの入った顔をしていました。
- 262 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:14
- そして一番気になることは、今日呼び出された理由です。
「どうしたんですか、私なんか呼び出したりして」
私は思い切って聞いてみました。
「うん・・・まあ・・・ちょっとね」
戸惑う吉澤さん、こんな吉澤さんを見たのは初めてです。
私はそんな姿をただ見つめることしかできませんでした。
「吉澤さん?」
私が呼びかけても返事はありませんでした。
数分の沈黙、まるで時間が止まったような感覚です。
それでも私はただじっと吉澤さんを見ているだけでした。
一瞬だけ生暖かい風が吹きました。吉澤さんは深いため息をつきました。
「あのね紺野・・・私さ・・・」
吉澤さんがそう言いかけたその時でした。雨がぽつぽつと地面を濡らし始めました。
その雨はだんだんと強くなってきました。私たちは慌てて公園を出ました。
- 263 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:14
- 「紺野、とりあえず私の家に来なよ」
「迷惑じゃないんですか?」
「いいよ、親は夜まで帰ってこないから」
私は吉澤さんの言うこと聞いてそうすることにしました。
こんな雨では仕方ありませんからね。
吉澤さんの家は公園の近くにあるのですぐに着きました。
短い距離なのに、私たちはもうびしょ濡れです。
「紺野、私の部屋で待っててタオルとか持ってくるからさ」
そう言って吉澤さんはバスルームの方へと行きました。
そして、私は吉澤さんの部屋に向かいました。
「失礼します」
誰もいませんが一応そう言って部屋に入りました。
部屋に入ると、吉澤さんの部屋はフットサル一色でした。
フットサル関連の雑誌とか、サッカー選手のポスターも貼ってありました。
- 264 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:15
- 机の上にある写真立てを見ると、私とまこっちゃんと吉澤さんの3人で撮った写真
そのはずなんですが、まこっちゃんの部分だけ雑誌の切り抜きで
隠してありました。これを見たら怒るだろうなと考えながら
吉澤さんが来るまでじっと待っていました。
外を見ると、雨が強い音を立てて降っていました。
それからしばらくして吉澤さんが部屋に入ってきました。
「ごめん、お待たせ」
私は吉澤さんからバスタオルを受け取って、濡れた髪の毛を拭いた。
「それにしてもよく降るな」
吉澤さんはそう言いながら乱暴に髪の毛をバスタオルで拭いていた。
それから吉澤さんは私にスープを渡してくれた。
冷えた体を温めるにはちょうどいい熱さ、私はスープを一口飲んだ。
「おいしいです」
私がそう言うと、吉澤さんは「そう、よかった」と笑いながら言いました。
- 265 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:15
- それから私は雨が止むのをただ待っていた。
「雨が止むまでゆっくりしていきなよ」
吉澤さんがそう言ったので、私はお言葉に甘えさせてもらうことにしました。
しかし、雨は一向に止むことはなく、時間だけが過ぎていきました。
部屋の時計をみると、時計の針は5時を差していました。
「すいません、私そろそろ帰らないと」
「そっか・・・」
私がそう言うと、吉澤さんは寂しそうな顔をしました。
それから私は吉澤さんに傘をお借りして、家に帰ることにしました。
雨が降る帰り道、私はあることを思い出しました。
今日、吉澤さんは私に用があったはずでは、雨が急に降ってきたので
そのことをすっかり忘れていしました。
明日、学校で聞けばいいですよね。そう思いながら私は家へと急ぎました
- 266 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:16
- 翌日も雨でした。それもそのはず私の住んでいる地方も梅雨入りしたそうです。
しばらく雨が続くと思うと憂鬱な気分になります。
私はお気に入りの赤い傘をクルクルと回しながら学校へと向かいました。
そして、いつものように途中でまこっちゃんと会って、手をつないで歩きました。
「なんか雨って悲しくなるよね」
まこっちゃんが空を見上げながら言いました。
「私もそう思うよ」
私もまこっちゃんと同じ意見でした。雨は空が泣いているみたいで私は嫌いです。
雨の時は私まで悲しげな気持ちになってきます。
そんな話をしながら私たちは校舎へと入りました。
- 267 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:17
- 校舎に入って、靴を履き替えて教室に向かいました。
「おーい、紺野」
後から私を呼ぶ声がしました。振り返ると吉澤さんがいました。
「吉澤さん、おはようございます」
「おはよう、昨日は大変だったね」
「はい、昨日はありがとうごさいました。傘必ずお返ししますね」
「それよりさ、昼休み体育館に来てほしい、昨日言えなかったからさ」
そう言って吉澤さんはその場を後にしました。
一体どうしたんでしょうか吉澤さん、昨日といい、今日といい様子が変です。
「あさ美ちゃん何やってんの?早く行くよ」
「ごめん、今行く」
そんな疑問を吹き飛ばすまこっちゃんの声、私は急いでまこっちゃんの元へ急いだ。
- 268 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:17
- 午前中の授業が終わって、昼食を済ませると私は約束をした体育館と向かいました。
外は相変わらず雨が降っていました。早く止めばいいのにそう思いながら体育館の扉を
開けるとすでに吉澤さんは来ていて、ステージの上で座って待っていた。
吉澤さんは私に気づいてステージから降りると嬉しそうに駆け寄ってきました。
「ごめんね、また呼び出したりして」
「いえ、別に構いませんよ」
吉澤さんは転がっているバスケットボールと手にした。
キレイなフォームでボールを投げると、アーチを描くように
ボールはネットへと吸い込まれるように入っていきました。
それを見た私は何をやってもかっこいいなと改めて思いました。
- 269 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:18
- 吉澤さんの投げたボールは私の足元に転がってきました。
私はそのボールを手にとって吉澤さんの方を見ました。
「紺野、私は・・・」
吉澤さんが言いかけたその時でした。
体育館に大きな声が響き渡りました。
「あさ美ちゃんどこにいるの?」
私を呼ぶまこっちゃんの声、私は飛び上がるくらいびっくりしました。
「こんな所にいたんだ探したよ、それより吉澤さんと何やってたの?」
「別になんでもないよ」
そう答えたのは吉澤さんでした。
「本当ですか?」
疑いの目で私と吉澤さんを見るまこっちゃん、私は思わず苦笑いをした。
「なんでもないって言ってるだろ」
そう言って吉澤さんは歩いて体育館と出ようとしました。
「あれ?吉澤さん私に用があったんじゃなかったんですか?」
「まあいいや・・・たいしたことじゃないから」
そう言って吉澤さんは体育館を出て行きました。
- 270 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:19
- ふとまこっちゃんの方を見ると、不機嫌そうな顔をした。
「私っていつも吉澤さんに邪魔者扱いされているような気がする」
「前にも言ったじゃん、別に吉澤さんはまこっちゃんが嫌いな訳じゃないって」
「そうだといいんだけどな」
私のフォローが効かなかったようで、去っていく背中は寂しそうでした。
体育館を出ると、雨は弱くなっていました。
「明日は晴れるかも」
そう呟いて教室へと戻った。
そして午後の授業が終わった頃に雨はすっかりと止んでいた。
- 271 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:19
- それから翌日、雲ひとつない青空が広がっていた。
私はなんだか嬉しくなって、浮かれた気分で学校に向かった。
今日の授業は午前中で終わりだから、どこかへ出かけよう。
そんなことを考えていた。授業中、何度も青空を見ていて
何度もまこっちゃんに注意されてしまった。
それくらい私はもう青空のことで頭がいっぱいでした。
そして授業を終えると、一目散に学校を飛び出して
家に帰って、着替えて再び家を出ました。
- 272 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:20
- 私はただ行き先は決めずに電車に乗りました。
自由気ままの途中下車の旅といったところでしょう。
ガタガタと揺れる車内、私はただ窓の風景を見つめていた。
当てのないの旅というのも、なかなかいいものです。
しばらく見ていると海が見えてきました。
海は太陽の光でキラキラと輝いて、とてもキレイでした。
そしてこの青空、それを見て思わず感動しました。
私はここで電車を降りようと思いました。
- 273 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:20
- 電車から降りて、改札口を出て海の見えた方向を進みました。
しばらく歩いていると、電車の窓から見えた海が目に入ってきました。
波の音、潮風の香り、すべてが心地よく感じた。
そして、私は砂浜を歩いてみようと思いました。
静かでいい所、こんなところに住んでみたいなって思いました。
私はただゆっくりと砂浜を歩いてた。少し疲れたので近くの岩場に
腰をおろした。軽く背伸びをして青空を見上げた。
その空を見て、私は笑った。いつ見ても青空は私の心を癒していく。
雲か流れていく、あの雲はどこに行くんだろうとか考えていると
時間はどんどんと過ぎていく、そんなの1人だけの自分の世界に
- 274 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:22
- 入り込んでしまった。
そろそろ帰ろうかなと思い、私は立ち上がった。
そしてあたりを見回して、気づいたことがあった。
ここどこだっけ?と思わず自分に問い掛けた。
ふらふらと歩いているうちにどうやってここに来たか
忘れてしまいました。どうやって帰ったらいいんだろうと
1人で困り果てていた。すると後の方から声が聞こえた。
「どうかした?」
突然声を掛けられ、私はびっくりして振り返った。
そこにいたのは長いサラサラのロングヘアーでとっても
キレイな女性でした。私はその場で思わず固まってしまった
- 275 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:23
-
- 276 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:23
-
- 277 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/08/23(火) 19:27
- 本日はここまで
今回は視点変え、時間を戻してみました。
そしてメール欄にも書きましたが最後の方
ミスしてしまいしました。すいません。
>>240
レスありがとうございます
いい夢は見れましたでしょうか?
>>241
ご指摘ありがとうございます
これから気をつけたいと思います。
>>242
レスと嬉しいお言葉ありがとうございます
これからも頑張りたいと思います。
- 278 名前:ヒガン 投稿日:2005/08/23(火) 19:38
- 名前変えるの忘れてました・・・
- 279 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/30(火) 00:02
- 今日はじめて、全部一気に読みました。
とても楽しいです♪
大好きなこんごまが読めてうれしいな。
これからもがんばってください!
- 280 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/28(水) 22:08
- 待ってます………
- 281 名前:名無し飼育 投稿日:2005/10/02(日) 23:46
- めっちゃ面白いです!!
気ままにやって下さい。。。
- 282 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:06
-
11――――
〜ASAMI SIDE 中編〜
- 283 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:07
- 「どうかしたの?」
突然、声を掛けられて戸惑う私、きっと私の様子に気づいて
声を掛けてきたのでしょう。
「あの・・・地元の方ですか?」
「うん、そうだよ」
私が事情を話すと、駅に行くにはバスに乗らないと行けないということで
バス停まで送ってくれるというので、私はその人についてくことにしました。
でもバス停までの道のり、その人と少し距離を置いて歩いていました。
「なんでそんな離れて歩いているの?」
当然のように聞かれた私は戸惑いました。
「いや・・・あの・・その・・なんて言うか恥ずかしいから・・・」
そんなに私を見て、その人は笑っていた。
- 284 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:07
- 「別に恥ずかしがることなんてないじゃん」
「あまりにステキだったから・・・」
「そんなことないよ、君のほうが可愛いよ」
なんて言われたから、体がなんだか熱くなってきた気がしました。
なんか話題を変えようと思って考えました。ふと首に掛かっているカメラが目に入った。
「あの・・・カメラ好きなんですか」
私は話をカメラに移しました。
「うん、このあたりでよく写真撮ってるんだ」
なんとか逃げる事に成功しました。
バス停までの距離は短かったけど、とても楽しかった。
とても優しい人、この人が声を掛けてくれなかったら
なんて想像したら怖くなりました。
- 285 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:08
- その人はバスが来るまで一緒に待っていてくれました。
なんだか悪い気がしたけど、嬉しかったです。
しばらくするとバスが来ました。
「ありがとうございました」
私は一言お礼を言ってから、バスに乗りました。
扉が閉まってバスが動き出した。
その女性は手を振って見送ってくれた。
しかも見えなくなるまでずっと、今日はとってもいい日になりました。
- 286 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:09
- そんな楽しい思い出が出来たその日の夜、私とお母さんは夕食を食べていました。
「あさ美、話があるんだけど」
お母さんが真剣な顔をしていいました。
「何?急に」
「お母さんね、再婚しようと思うけど、どうかな?」
「もちろん賛成だよ、おめでとうお母さん」
いつかはこうなるだろうと思ってた。でもこんな早くそんな日が
来るとは思わなかったけど、私は素直に祝福できました。
「これから忙しくなるわよ、引っ越しとかあなたの転校とかもあるし」
お母さんの転校という言葉で初めて気づいた。
私、転校しなくちゃいけないんだ。この街を離れるんだ。
そう思ったら寂しくなった。
編入試験は一週間後になるそうです。
あまりにも急なことですが、高校側はこころよく受け入れてくれたそうです。
これからどうなるんだろう少し不安です。
- 287 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:09
- 翌日のこと、急に引っ越しや転校のこと聞かされたので
あまり眠れませんでした。私は教室でもため息ばかりついていた。
「あさ美ちゃん元気ないね、とうしたの?」
そんな私に気づいたのかまこっちゃんが声を掛けてきた。
「私ね、転校することなった・・・」
私は静かな声で言いました。
「えっ今なんて言ったの?」
「だから・・・転校するの」
「本当なの?」
まこっちゃんの問いかけに私は静かに頷いた。
「えっ・・・嫌だよ・・・あさ美ちゃんと離れるなんて」
今にも泣きそうなまこっちゃんの声、それにつられて
私も涙が出そうになった。
- 288 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:10
- 「まこっちゃん泣かないで、私だって辛いよ」
私は涙をこらえていました。まだ泣くのは早いと思ったので。
その日のまこっちゃんはずっと悲しそうな顔をしていました。
その顔を見た私は、胸を締めつけられる思いでした。
放課後、まこっちゃんは急いで教室を出て行ってしまいました。
私はため息をつきながら、ノロノロとした足取りで教室を出ました。
校舎出て、校門の方に向かうと、吉澤さんがいました。
どうやら私を待っていた様子でした。
- 289 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:10
- 「ねえ紺野、転校するって本当なの?」
吉澤さんは私の肩を掴み、真剣な顔つきで言いました。
「はい・・・そうですけど、どこでそれを知ったんですか?」
「小川がさ、泣きながら私のとこへ来て、そう言ってた」
「そうです、昨日決まりました」
私がそう言うと吉澤さん寂しそうな顔をしました。
「それでいつなの?」
「まだわかりません、決まり次第お伝えします」
「そっか、紺野がいなくなると寂しくなるな」
吉澤さんの寂しそうな顔、私はまた痛くなった気がした。
- 290 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:11
- それからこの一週間は、なんだか落ち着かない日々でした。
まこっちゃんや吉澤さんの顔を見るたびに辛くなってしまいます。
本当は転校なんてしたくないけど、これは仕方がないこと
私は最後まで笑顔でいようと思いました。
そして編入試験の当日が来ました。その日は学校休んで
新しくお父さんになる人が住んでいる街まで行きます。
お母さんと2人で電車に揺られて新しい高校へ向かいました。
この一週間はずっと不安だった。私って本当に転校するんだ
と実感も湧いてきました。そんなことを思いながら窓の風景を見ました。
するとだんだんと見覚えるのある風景が目に入ってきた。
海が見えてくるとお母さんは「次で降りるわよ」と言いました。
- 291 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:11
- びっくりする暇もなく、電車は目的の駅に止まりました。
驚いたのはそれだけじゃなかった。
新しい高校はこの前の海岸のすぐ近くにありました。
海が近くにあって、とても環境が良さそうです。
編入試験が始まるまで、私は教室の窓から景色を眺めていた。
ふと私はあの海岸で逢った女性のことを思い出した。
あの人高校生みたいだったけど、もしかしたらこの高校だったりして
あの時名前を聞いておけばよかった、なんてことを考えているうちに
試験の時間が来ました。
それから試験終えて、少しだけ面接もありました。
聞かれたのは今の学校のこととか、この高校でうまく
やっていける自信あるかだとか聞かれました。
- 292 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:12
- そして面接が終わりました。結果は3日後に連絡をする
と言われました。今日はとても疲れた1日でした。
帰り道、海を見ながらバス停に向かう。
こんな所に住みたいなって思ったら、まさか本当に
そうなるなんてびっくりです。
「合格が決まったら、向こうの家に挨拶に行くわよ」
お母さんがそう言うと、私はただ静かに頷いた。
それから3日後、学校から連絡が来ました。
結果はもちろん合格でした。
- 293 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:12
- そしてお母さんから今後の予定を聞かされた。
まず明日は新しくお父さんになる人とそしてその娘さんに
ご挨拶をしに行くこと、その3日後には引っ越しをすると言いました。
つい引っ越しの日が決まってしまいました。
私はため息をついて、吉澤さんとまこっちゃんにその事を伝えるために
メールを送りました。それからすぐ私の携帯がなった。
ディスプレイを見ると吉澤さんからでした。
「もしもし、とうとう決まっちゃったんだね・・・」
吉澤さんの第一声は悲しい声でした。
「はい・・・決まりました」
電話の向こうで吉澤さんがため息をついたのがよく聞こえました。
「紺野が新しい環境でうまくやっていけるか心配だよ」
「大丈夫ですよ、心配しなくても」
いつも私のことを心配してくれる吉澤さん、まるで私のお姉さんみたいです。
- 294 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:13
- 私はふと思った。そうだ本当にお姉さんが出来るんだ。
今度お母さんが結婚する相手には娘さんがいる。ということは
私とその人は事実上姉妹なる、今まで思っても見ないことになんか
不安になった。私はそのことを吉澤さんに言ってみた。
「余計、心配になってきた」
なんて言い出しました。私はただ大丈夫ですよとしか言えなかった。
つい吉澤さんと長電話をしていました。
「会える時間は残り少ないけど、その時間を大切に過ごそう」
そう言って吉澤さんは電話を切りました。
そしてメールチェックするとまこっちゃんから返事が来ていました。
一言だけ『悲しいよ』とだけ書かれていました。
それを見た私はまた辛くなってしまいました。
でも私は泣きません、別れる時は笑っていたいから。
私は明日に備えて早めに眠ることにしました。
- 295 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:14
- 翌日は授業を午前中だけ受けて、午後には早退しました。
今日は新しい家への挨拶の日です。
前と同じくお母さんと電車に揺られて、今日は試験以上に
緊張しています。私は車内で胸を押えながら深呼吸をしていました。
そして海が見えてきました。この街に来るのももう3度目、だいぶ
この街のことが好きになってきました。
家に着くと、お母さんの恋人、いえお父さんが待ってました。
もう家族になるんですから、こう呼んでもいいでしょう。
まだ娘さんが学校から帰ってきていないということなので
しばらく待つことにしました。
- 296 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:14
- 待っている時間、お母さんとお父さんは仲良くお喋りをしていました。
私は退屈だったので、リビングを出て2階に上がってみようと思いました。
この家はとてもおしゃれな出窓があるので、私はそこから空を見てみた。
海も近いし、空気もおいしくて本当にここいいところだなって改めて
感じました。それから私はリビングに戻ろうしました。
しかし、私はなぜかある部屋が気になってしまいました。
多分、娘さんの部屋なのでしょう、勝手に入るのはいけないこと
そうわかっていましたが、私はその部屋のドアを開けてみました。
中を見ると、まるで展覧会のような光景が広がっていた。
壁いっぱいに貼られた風景写真、その1枚1枚がとてもキレイでした。
私は夢中になってその写真を見入っていました。
- 297 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:15
- しばらく見ていると誰かの目線が気になった。
「あの・・・」
写真を見ているうちに娘さんが帰ってきたみたいです。
「あっ・・ごめんなさい勝手に入ってしまって」
私はその人に一礼して、慌てて部屋を出ました。
それにしてもあの人、どこかで見たような気がします。
私はそんなことを考えながらリビング戻りました。
ゆっくりとソファーに腰をおろすと、お父さんはケーキを
出してくれました。
「いただきます」
そう言って私はケーキを一口食べました。
ケーキはとてもおいしくて、つい夢中になって食べていました。
- 298 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:15
- しばらくして、誰かの足音が聞こえました。
多分、娘さんがリビングに入ってきたのでしょう。
「あなたが真希さんね」
「はい、後藤真希ですよろしくお願いします」
「ほら、あなたも挨拶しなさい」
「はい、わかりました」
娘さんの自己紹介が終わり、私はお母さんにそう言われて
フォークをゆっくりと置いた。
「紺野あさ美と申します、よろしくお願いします」
私は深々とお辞儀をしました。ゆっくりと顔を上げて
娘さんの顔を見ました。緊張してるらしく私のほうを
ずっと見ていました。
- 299 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:16
- 「すいませんでした、勝手に部屋に入ってしまって
ステキな写真だったからつい見入ってしまいました」
「別にいいよ、気にしてないから」
私は話しているうちに、あることに気づいた。
この人と会ったのは今日が初めてじゃないなと思いました。
「以前どこかでお会いしましたよね?」
「うん、この前海で会ったよね」
「やっぱり、そうでしたかこの前はありがとうございました」
私が軽く笑いながらそう言うと、その人は固まったように
動かなくなってしまいました。一体どうしたんでしょうか。
「おい、真希どうした?」
「ごめん、なんでもない」
びっくりした様子でその人は慌てて返事をした。
そんな姿に私は思わずクスッと笑った。
2度目の出会いがこんな形なんて正直驚きました。
- 300 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:17
- それからこれからについていろいろと話し合った。
いよいよ新しい家族の生活が始まります。
挨拶も終えて、長年慣れ親しんだ街ともお別れする日も
近づいてきました。私は部屋で荷物をまとめていました。
本棚いっぱいに入っている本をダンボールに詰めていました。
私は1ヶ月に10冊ぐらい読むほど本が大好きなんです。
いい小説を見つけたら、すぐ買ってしまうため数がだいぶ増えてしまいました。
部屋の荷物もまとめて私はベランダに出て見ました。
今日も晴れていてとてもキレイです。
住む場所は変わっても青空は決して変わることはない、だから私は大丈夫です。
- 301 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:17
- 翌日、この坂道を登るのも今日が最後です。
私はその道を一歩一歩丁寧に踏みしめました。
いつのもようにまこっちゃんと一緒になった。
でも、今日は無言のまま私の手をギュッと握りしめていました。
私も何も言わずにまこっちゃんの手をギュッと掴みました。
教室に入るまで私たちはずっと手をつないでいました。
「おはよう」
私はいつも変わらない笑顔でクラスメイトのみんなに挨拶を交わした。
クラスメイトも笑顔で返してくれた。でもその笑顔はぎこちない様子でした。
私は今日1日を大切に過ごそうと思った。
最後までは私は涙を流すつもりはありません、ずっと笑顔をキープしていたい。
- 302 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:18
- 授業が始まった。いつもお喋りばかりしているまこっちゃんも今日は交わす言葉
は少なかった。元気のないまこっちゃんを見ているのはなんか辛かった。
そして、もう一人元気のない人がいた。吉澤さんも今日は大人しかった。
放課の時もベンチで一人座っていた。時よりため息をついていました。
しばらくして隣にまこっちゃんが座って、また同時にため息をつく
私はなんだか見ていられなくて、二人にもとに急いで駆け寄りました。
でも私が側に行くと、二人は笑っていた。無理して笑顔を作っているのが
よくわかった。多分私に合わせているのかもしれません。
- 303 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:18
- 「紺野、私は最後までさよならは言わないつもり」
吉澤さんが笑いながらそう言った。
「だって、またきっと逢えるから」
「私も吉澤さんと同じ意見だよ」
吉澤さんに続いて、まこっちゃんも笑いながら言った。
そう、二度と逢えなくなるわけじゃない、きっとまた逢える。
私もそう信じています。そんな二人に私は力一杯の笑顔を見せました。
吉澤さんもまこっちゃんも本当の笑顔で笑った。
私たちはただ人目も気にせず、ずっと笑っていた。
そして楽しい時間はあっという間に過ぎた。
- 304 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:19
- 授業も終わり、ホームルームの時間になった。
そこで私の送別会することになりました。
クラスを代表して学級委員から花束とクラスのみんなが
書いてくれた寄書きを貰いました。
その寄書きを見ると、その言葉ひとつひとつがとても
心がこもっていて、私は涙が出そうになりました。
でも涙をこらえて笑顔を作った。
そして、歌のプレゼントがあるということで
クラスのみんながいっせいに立ち上がりました。
- 305 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:21
- 君が笑った 僕もつられて笑った
映し鏡みたいだ 君はぼくのともだち
君が怒った 僕も負けずに怒った
子供のけんかみたいだ 君はぼくのともだち
まこっちゃんが最初に歌いだすと、その後に他の子も続いた。
今の私たちにすごくぴったりな曲、私はその歌をじっと聴いていました。
目を閉じると思い出が駆け巡った。なんだか私は幸せな気分になりました。
君がいないと 僕は本当に困る
つまりそういうことだ きみはぼくのともだち
歌が終わると、私は笑顔で拍手をした。
「みんな、ありがとう」
私がそう言うと、クラスメイト達は笑った。
- 306 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:22
- 楽しかった時間はあっという間に過ぎて、お別れの時間が来ました。
「今日は私のために、こんなステキな会を開いてくれてありがとうございます」
私は心をこめてお礼を言いました。
「新しい学校に行っても、みんなのことは絶対に忘れません」
泣いている子もいた。でもまこっちゃんは笑っていた。
「ほら、みんな泣かないで、決めたじゃん笑顔で送り出そうって」
まこっちゃんは笑って言う。私のために本当にありがとうまこっちゃん。
校舎を出て振り返ると、窓からみんなが大きく手を振っていた。
私も大きく手を振った。そしてゆっくりと新しい一歩を踏み出した。
- 307 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:22
- 引っ越しの当日、荷物も積み込みが終わって、あとは出発するだけになった。
先に引っ越し業者のトラックに出発して、私たちタクシーで行くことになりました。
私はこのベランダ見る最後の青空を眺めていた。
「そろそろ、行くわよ」
お母さんがそう言うと、すっきりとした部屋を見回した。
「いい思い出をありがとうごさいました」
そう言って私は部屋を出ました。
外に出ると私は驚きました。まこっちゃんと吉澤さんが来ていました。
「どうしても見送りたくってさ、来ちゃった」
「私も吉澤さんと同じだよ」
私は嬉しくなりました。この二人との日々はすごく楽しかったです。
- 308 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:23
- 「あさ美ちゃん、元気でね。私とあさ美ちゃんはずっと友達だよ」
そう言ってまこっちゃんは私に抱きついてきました。
「ありがとう、まこっちゃん」
私は笑顔でそう言うと、まこっちゃんも笑っていた。
「紺野、向こうの学校でもがんばれよ」
「はい、吉澤さん今までお世話になりました、それと傘を返すの遅れてしまいました」
そう言うと吉澤さんは傘を受け取ってからそっと私の頭を撫でました。
「吉澤さん、まこっちゃん、さよ・・・」
私がそう言いかけたその時、私の唇に人さし指を当ててきました。
「紺野、それは言わない約束だろ」
「あっ・・・そうでしたね」
「別れる時はいつものように、じゃあまただよ」
「はい、じゃあまた逢う日まで」
私はそう言って、タクシーに乗りました。
そして、ゆっくりとタクシーは動き出しました。
吉澤さんとまこっちゃん車が見えなくなるので手を振っていた。
- 309 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:23
- 動き出した車の窓から見える風景、私はじっとただその風景を眺めていた。
ありがとう思い出の街、またきっとこの街に来るつもりもそう思って
私はただ笑っていた。
そして、車は新しい街へと近づいて来ました。
窓から見える海は今日もキラキラと輝いていました。
車が止まり家に着くと、お父さんが出迎えてくれました。
そしてもう一人出迎えくれたのがお父さんのいとこで中澤裕子さんと
という女性、見た目は怖そうですが、とても優しそうな人でした。
それからしばらくして家を出てきたのはあの人だった。
中澤さんと楽しくおしゃべりしている。これからこの人が私のお姉さんに
なるんだという実感が湧いてきました。
あの人とうまくやっていけるかなと考えているとお母さんがその人に近づき。
「今日からよろしくお願いしますね、真希さん」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
なんて会話をお母さんとしていました。
- 310 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:24
- 翌日は日曜日、とても気持ちのいい目覚めの朝でした。
荷物が少なかったせいか部屋もあっという間に片付きました。
私はパジャマ姿のまま、窓から空を見上げた。
今日もキレイな青空が広がっています。
私は着替えて、階段を降りてリビングへと向かった。
少し緊張をしていました。私は息を整えゆっくりとリビングに入った。
しかし、お母さんとお父さんの姿はなくて、代わりにいたのはあの人だった。
びっくりした表情でソファーに座っていました。
「あの・・・おはようございます」
「お・・おはよう」
私は少し緊張しながら挨拶をしました。
「お母さん達はどうしたんですか?」
「出掛けたみたい、帰りは遅くなるらしいよ」
「そうですか・・・」
それから立ち尽くしているうちに、その女性は朝食作ってくれるそうなので
私も手伝うことにしました。
- 311 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:25
- 私はサラダの盛り付けをすることになりました。
でも皿の置いてある場所がわからなくて、聞いてみる事にしました。
「あの・・・後藤さん」
「うーん・・・おかしくない?」
私はなんのことだかわらなくてつい首をかしげた。
「後藤さんっておかしいでしょ、キミも後藤さんになったわけだし」
「あっ、そうですよね、すいませんなんて呼んだらいいかわからなかったので」
私がそう言うと、普通に名前で呼んでくれればいいと言うので、私はその人のことを
「真希さん」と呼ぶことにしました。
真希さんに言われて初めて苗字が変わることに気づきました。
私は「紺野あさ美」から「後藤あさ美」になる。なんだか別の人みたいな気分です。
長年慣れ親しんだ苗字が変わるのは寂しいですが、新しい自分とこれから日々に
目を向けなくてはいけません。だから私は「よろしく新しい私」と心の中で囁いた。
- 312 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:25
- それから朝食を食べ終わり、真希さんはお皿を洗っていました。
「ねえ今日、暇?」と真希さんが訪ねてきました。
「はい、部屋も片付いたので暇ですけど」
「アタシと一緒に出掛けない?この辺案内したいし」
真希さんがそう言うと、私は答えに困ってしまいました。
そんな私を見かねてか真希さんはこう言った。
「アタシじゃダメかな?」
「いえ!とんでもないです、行きます」
私は自分でもびっくりくらい大きな声で答えました。
私と真希さんは準備を済ませて外へと出ました。
- 313 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:26
- 海岸沿いを二人でゆっくりと歩いていました。
私は前と同じように真希さんから少しだけ離れていました。
「まだ、恥ずかしい?」
やっぱり聞かれた一言、私はつい戸惑って謝ってしまいました。
「緊張しすぎだよ、リラックスリラックス」
そう言うと真希さんは私の頬っぺたに手を触れた。
体がなんだか熱くなって気がしました。
そんな私を見て真希さんはクスクスと笑っていました。
「でも嬉しいです、真希さんのようなステキなお姉さんが出来て」
私がそう言うと真希さんはとても嬉しそうな顔をしていた。
なんだかだいぶ慣れてきたみたい、スラスラと言葉が出てくるようになった。
- 314 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:26
- それから真希さんといろいろなことを話しました。
「この前どうして嬉しそうに青空を見上げていたの?」
真希さんに質問に私は困ってしまった。
「どうして言われると困るんですけど、好きみたいです青い空が」
他の人にはわからない気持ちかもしれません。
「青空を見ていると心が穏やかになるんですよ」
私は青空の魅力について、言えるたけ言いました。
いつか真希さんにもわかってもらえるといいなそんな願いを込めて
私は青空見上げた。それから真希さんと初めて出逢ったときの話になった。
気がつけば私ってこんなお喋りだったかなと思うくらい話していた。
- 315 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:27
- そして、真希さんは少し休もうという言って真希さんの先輩が経営している
という喫茶店行くことになりました。なんでも真希さんがカメラ好きになる
きっかけを作った人、真希さんの師匠ということになるんでしょうか。
案内されたのはこの前バス停の程近い場所にありました。
その店はとてもステキな外観でドラマに出てきそうな建物でした。
真希さんの話によるとここは写真屋でもあるんだよと教えてくれました。
「いらっしゃい、おー後藤か」
店の扉を開けて、そこにいたのはショートカットが良く似合う女性でした。
「あれ?今日は見慣れない子連れてるな」
「アタシの妹だよ」
「妹?おまえに妹なんていないだろ」
その人に言われて、これまでの経緯を話していました。
- 316 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:28
- 「へーそうなんだ、私は後藤の先輩の市井紗耶香、よろしくね名前なんて言うの?」
「は・・はい・・・紺野・・・じゃなくて後藤あさ美です」
まだ慣れていないので、前の苗字で言ってしまい慌てて言い直しました。
市井さんはそんな私を見て笑いながらジュースを差し出しくれた。
真希さんと市井さんはとても仲が良くて、先輩後輩というより姉妹みたい。
「しかし、おまえが姉貴かよ、似合わないな」
「ほっといてよ」
そう言うと真希さんは頬を膨らませながら言いました。
私はそんな真希さんを見て小さく笑った。
「この店は市井さん一人でやってるんですか?」
「そうだよ、父親が体壊して母親が看病してるからね、店は私に任せられてるよ」
私は市井さんの話を真剣に聞いていました。真希さんはというとコーヒーを飲みながら
視線は私たちの方に向いていました。
「おまえどうした?」
- 317 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:28
- 真希さんの視線に気づいたのか、市井さんが不思議そうな顔をして言った。
「いちーちゃん、妹に手を出したらアタシが許さないよ」
「バカ、何言ってんだよ」
市井さんは姉らしくなってるなと笑いながら言っていた。
けど、私はなんだかそれが嬉しいんだけど恥ずかしかった。
それから私は真希さんはお店を出ました。
店の花壇に咲くアジサイの花がキレイだったのつい見とれていました。
そして、私と真希さんはゆっくりと歩きはじめた。
さっきの真希さんの言葉、嬉しかったですと言ったら
「だってキミはもう大切な家族だからさ」
真希さんの温かい言葉にまた私は嬉しくなった。
- 318 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:29
- 「さて、これからどうする?」
「この前の海岸に行ってみたいです」
真希さんそう聞くと、私は迷わず答えました。
あの海岸から見る空は今でも忘れない。
真希さんもあの海岸は気に入っていると言っていました。
私はどうしても早く行きたくって真希さんの手を握って駆け出しました。
真希さんも手を離さないようににギュッと握ってくれた。
でも、私の足が速くてついた頃には真希さんは息を切らしていた。
ちょっと悪かったかも、私は少し反省しました。
それから私たちは日が暮れるまで海岸にいた。
夕日に染まった海はまるでオレンジジュースのようでした。
- 319 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:29
- その日の夕食、真希さんは手馴れた手つきでオムライスを作ってくれました。
真希さんの得意料理だけあって、とてもおいしかった。
私はつい夢中になって食べていた。真希さんが何か言っていたようだとけど
それさえも聞こえないくらいに夢中になっていた。
今日はとても楽しい日曜日になった。そして真希さんの人柄もよくわかったし
私はここでうまくやっていけそうだなって思った。
- 320 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:30
-
- 321 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/10/03(月) 16:30
-
- 322 名前:ヒガン 投稿日:2005/10/03(月) 16:36
- 本日はここまで
結構長くなってしまったのでこれは中編といたします
言い訳は次回の更新で。
だんだんと更新ペースが遅くなってますが必ず完結させます。
>>279
レスありがとうございます。
喜んでいただけて嬉しいです。
>>280
レスありがとうごさいます。
お待たせしてすみません。
>>281
レスありがとうございます。
焦らずゆっくりと頑張ります。
- 323 名前:名無し飼育 投稿日:2005/10/04(火) 01:08
- 更新お疲れでございます。
なんか本当にドラマみたいで思わず釘付けになっておりますwww
また次の更新までまったり待っとりますwww
- 324 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:12
-
12――――
〜ASAMI SIDE 後編〜
- 325 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:12
- 今日から新しい高校での生活が始まる。
真新しい制服に袖を通して、鏡を見てみる。
よし完璧。そう言って私は部屋を出ました。
「おはようございます」
キッチンではお母さんは朝食を作っている
お父さんは既に食事をしていた。
私はイスに腰をおろして、時計に目を向けた。
それからすぐに真希さんもやってきた。
なにやらキッチンでお母さんと話をしていました。
聞こえてくる声に耳を傾けると、これからの家事について
話しているみたい。真希さんは今まですべての家事を
やっていたらしいです。昨日のオムライスのことを考えれば
納得できました。
- 326 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:13
- 話が終わると、これから家事は分担でやるということになりました。
そして真希さんは私の隣に座った。
「おはようございます、真希さん」
「おはよう、早いね」
「何言ってるんですか、今日から私も学校です」
真希さんを見ると、私と同じ制服着ている。同じ高校で少し安心した。
3年生だけあって制服をバッチリと着こなしている。
「家事好きなんですか?」
私がそう聞くと、長いことやっている楽しくてねと答えました。
私は真希さんのようになりたいな、そう思いながらパンを一口食べました。
- 327 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:14
- 真希さんは朝食を食べ終わると、リボンを結びなおしていた。
「さて、そろそろ行こうか」
そう言われても私はまだ食事中、いつもお母さんに「早く食べなさい」と
起こられてばかりいます。食べるのは好きなんですがスピード人よりかなり
遅いんです。そのため周りに人に迷惑をかけています。
「転校初日から遅刻するつもり?」
真希さんの一言に私は無理やりスピードを上げました。
食べ終わって、席を立つと私は慌てて準備を済ませた。
「お待たせしました、行きましょう」
私がそう言うと、真希さんはハンカチを取り出して口の周りをふき取った
どうやらパンくずがたくさん付いていたみたいです。私は恥ずかしくなってしまった。
- 328 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:15
- 外へと出ると、中澤さんがいた。「学校、頑張って」とやさしく言ってくれた。
真希さんにも同じこと言っていたけど、本人は苦笑いでした。
学校に向かう道のり、真希さんといろいろ話をした。
でも学校が近づくと、話す言葉も少なくなってきました。
「緊張してる?」
「はい・・・」
真希さんは私の様子に気づいたようで優しく声をかけてくれました
「大丈夫、なんとかなるよ」
「そうですかね・・・」
私がそう言うと、真希さんは職員室まで着いて来てくれると言ってくれました。
なんだか私って守られるみたい、そんな真希さんの優しさが私の緊張を徐々に
打ち消していくようでした。
- 329 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:17
- 学校に着いて、校舎へ入ると、職員室に向かった。
「ここから1人で大丈夫です」
「そう、困ったことがあったらいつでもアタシの教室においでよ」
「はい、ありがとうございます」
私は真希さんにお礼を言って職員室へと入った。
それから私は担任の先生を紹介されました。クラスは2年2組で担任は
稲葉貴子先生という関西弁を喋る陽気そうな先生でした。
「ほな、後藤さん教室行こうか」
稲葉先生にそう言われて、私は少し緊張しつつ、先生と一緒に教室に向かいました。
ここの学校は1年生と2年生の校舎と3年生の校舎は別れて建っていました。
真希さんのいる3年生の校舎は体育館の近くに建っていて、私たち1年と2年の校舎は
海がよく見える高台に建っている。教室に向かう廊下の窓から太陽の光がキラキラと
輝いている海を見ながら、少しでも緊張を和らげようと外の景色を見ていた。
- 330 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:18
- そんなことを思っているうちに教室に着きました。
ザワザワと賑やかな声が聞こえてきました。
「ちょっと、ここで待っててな」
稲葉先生にそう言われて、私は静かに待っていた。
「ほら、静かにしいーや!」
稲葉先生の一言で教室はウソのように静かになった。
「今日からうちらのクラスの新しい仲間が増えます」
そう言った途端、クラス中がまた騒がしくなりました。
「じゃあ、後藤さん入ってきて」
先生にそう言われ、私はゆっくりと教室に入った。
それと同時に稲葉先生が私の名前を黒板に書き始めた。
「じゃあ、自己紹介してください」
「はい」
ちゃんと言えるかな、私は息を整えて一歩前に出ました。
「後藤あさ美と言います、皆さんよろしくお願いします」
私は丁寧に頭を下げました。
- 331 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:18
- 私は間違えずに名前が言えて少し安心しました。
「えーと、後藤さんの席はあの窓側が空いているからそこに座って」
先生が指を指した所は窓側の前から5番目の席になった。私がその席に行くのを
クラスのみんなが目で追っているのがよくわかった。
そして私はゆっくりとイスに腰をおろしました。
「なにかわからないことがあつたら隣の高橋に聞くように」
「はい、わかりました」
稲葉先生にそう言われ私は隣に目を向けました。
「そういうことなんでよろしくね」
隣の席にいたのはなんたがとても明るい子でした。
「よ・・・よろしく高橋さん」
私はその元気さに少々戸惑いながらも挨拶をしました。
「私は高橋愛、愛でいいよ」
「じゃあ、私はあさ美と呼んで」
私は愛ちゃんと仲良くなれそうな気がした。
- 332 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:19
- 1時間目の授業が終わって、次の授業の準備をしていた。
「あさ美ちゃん、どうこの学校は?」
「なかなかいい感じ、うまくやっていけそう」
「そう、よかった」
私は愛ちゃんと話していて気づいたことがあった。
それは他の人とくらべて随分イントネーションが違っていた。
「私も転校の経験あるからわかるんだ、あさ美ちゃんの気持ち」
「愛ちゃんってここの出身じゃないんだ」
「やっぱり、この訛りでわかっちゃった?」
「なんとくね、そうじゃないかなって思ってた」
愛ちゃんは苦笑いしながら「訛りが抜けなくて困ってる」と言いました。
話によると、愛ちゃんは中学2年の時にこの街に引っ越してきたという
最初の頃はなかなか馴染めなかったけど、今のこの街が大好きだと言った。
「あさ美ちゃんもこの街きっと好きになれるよ」
笑いながら言う愛ちゃんを見て私も笑った。
- 333 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:20
- まだ逢って間もないのに愛ちゃんと仲良くなることが出来た。
なんとかうまくやっていけそう、そう思えるのも愛ちゃんのいてくれたから。
そして昼休みの時間になって、昼食を済ませた後、私は教室の窓からぼんやりと
青空を眺めていた。まるで今日の報告をするみたいに青空を見つめた。
「あさ美ちゃん」
私は愛ちゃんに呼ばれて振り返った。
「どうしたの?」
「先輩にあさ美ちゃんのこと紹介したいから来てくれない?」
私は愛ちゃんと手をつないで教室を出た。
先輩かどんな人だろう、怖い人じゃないといいなそんなことを思ってました。
不安になりながら私は愛ちゃんの手をしっかりと握って歩いていた。
- 334 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:20
- 廊下に出ると、二人の先輩らしき人の姿があった。
「この子です、後藤あさ美ちゃんって言うんです」
「よ・・・よろしくお願いします」
そう言って頭を下げました。そしてゆっくりと顔を上げると
そこには真希さんがいた。そんな私を見て真希さんは軽く微笑んでいた。
「この子が真希の妹か、私は藤本美貴、真希の親友なんだよろしく」
そう言ったのはもう一人の先輩の藤本さん、なんか目つきが怖かったけど
とてもいい人そうだった。
「何言ってるんですか藤本さん、後藤さんに妹さんはいないじゃないですか」
愛ちゃんの一言に黙ってしまう私と真希さん、本当のことだよ真希さんが
言っても信用してくれず、私が言うと愛ちゃんはようやく納得してくれた。
- 335 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:21
- それから私たちは屋上に行くことにしました。
私と真希さんが姉妹になったことに藤本さんも愛ちゃんもすごく驚いていた。
そんな二人に真希さんは苦笑いをしていた。
「高橋、妹のことよろしく頼むよ」
突然の真希さんの一言、藤本さんも愛ちゃんもそして私も固まってしまった。
「あはは、格好いいな、こんな真希初めて見た」
藤本さんはお腹を抱えて笑っていた。
「あーいいな、後藤さんみたいなお姉さん、羨ましいぞあさ美ちゃん」
愛ちゃんは私の肩をバシバシと叩きながら、私は恥ずかしかったけど
すごく嬉しかった。私たち四人はチャイムが鳴るまで笑いあっていました。
- 336 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:21
- それから私たちは真希さんたち別れてそれぞれの教室に戻りました。
「後藤さんとひとつ屋根の下で暮らすなんて、本当羨ましいよ」
教室に戻る途中の渡り廊下で愛ちゃんが言った。
「後藤さんってね、この学校では結構人気あるんだよ」
「そうなの?」
「うん、特に同性に後藤さんを好きな人多いよ」
私は特に驚かなかった。だって真希さんは優しいし誰からも好かれているから
当然かなと私は思った。愛ちゃんは真希さんの事をいろいろと教えてくれた。
「楽しくなると思うよ、後藤さんとの生活」
愛ちゃんは笑いながら言った。
- 337 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:22
-
愛ちゃんの言うとおり、真希さんとの日々は
毎日が楽しく駆け抜けていくようだった。
- 338 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:23
- 私がここに引っ越して一週間がたったある日、その日は日曜日でした。
天気もいいから、私は前に住んでいた街に行こうと思った。
まだ離れて一週間しかたってないけど、どうしても行きたかった。
真希さんと一緒に行きたかった。ちゃんとお別れがしたいということ
私の住んでいた街を真希さんに知ってもらいたい理由です。
私が真希さんにそう言うと嫌な顔せず、着いてきてくれました。
バスに乗り駅まで行ってから、電車に乗り換えました。
真希さんはカメラ持ってきていた。きっといい写真撮れると思います。
私は隣で気づかれないように笑った。
- 339 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:23
- しばらくして電車が目的の街に着いた。離れてそんなに経ってないのに
なぜだか懐かしいような気がします。日曜日なので駅前はとても混んでいました。
私が住んでいた場所に向かう、そこにいくには商店街を通り抜けないと行けない
その道の途中で私はよく行ったケーキ屋さんの話とかスーパーで干し芋を買った
とかつい食べ物の話ばかりしていました。
「もしよかったらここでの思い出話聞かせてよ」
真希さんにそう言うと、私はここでのいろんな思い出を話した。
私が生まれた時のこととか、亡くなった前のお父さんの話だとか
真希さんは真剣に私の話を聞いてくれた。
それからよく遊んだ公園、通っていた小学校や中学校などいろんな所へ行きました。
真希さんは思い出の場所につくたびに熱心に写真を撮っていました。
カメラを持った真希さんはとても真剣な目をしていた。
- 340 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:24
- それから、私は高校へ行くことにしました。
しかし、その高校に行くには越えなくてはいけないものがありました。
そう、心臓破りの坂です。その坂を見た真希さんはあ然としていました。
私は慣れているので真希さんのペースに合わせて坂を登ることにしました。
坂道を登り終えた頃には真希さんは息を切らしていました。
「大丈夫ですか?」
私は疲れてしゃがみこんでいる真希さんに声をかけた。
「まあ・・・なんとかね」
それから真希さんだいぶ落ち着いたようで、校舎の写真を撮っていました。
青空の下で私は深呼吸をしました。風がとても気持ちよかった。
- 341 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:25
- それから私たちは次の場所へ向かおうとしたその時でした。
「紺野?紺野じゃない?」
なんだか聞き覚えのある声、振り返るとそこにいたのは
吉澤さんでした。グラウンドでフットサルの練習でもしてたようで
ジャージ姿でした。
「吉澤さんじゃないですか」
「やっぱり紺野じゃん、どうしたんだよもう帰ってきたのか?」
「はい・・・この街にちゃんとお別れがしたかったので戻ってきました」
私がそう言うと吉澤さんはなんだか嬉しそうだった。
「紺野が転校してから寂しかったよ、まだ一週間しかたってないけどさ」
「私もですよ。吉澤さんと離れて寂しかったです」
吉澤さんと偶然の再会、私は嬉しくってつい時間を忘れて吉澤さんと楽しく
会話をしていた。それからしばらくして吉澤さんが不思議そうな顔をした。
- 342 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:29
- 「ねえ、後の人は紺野の知り合いなの?さっきからずっと睨んでるんだけど」
私は吉澤さんと話し込んでいて、真希さんのことをすっかり忘れていました。
吉澤さんに真希さんのことを紹介しました。
「へぇーそうなんだ、私は吉澤ひとみ、まあよろしく」
そう挨拶を交わすと、真希さんと吉澤さんは私のことについて話をしていました。
私はそんな二人を見て、なんだか気が合うのかもしれない、そんなことを思ってました。
真希さんは吉澤さんのこといい人だね。と言いました。真希さんの一言に照れくさそうに笑った。
ここに来て、本当によかったと思いました。また新しい思い出が増えました。
- 343 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:29
- そして夏休みになりました。この街に来て私もだいぶ慣れてきた時の事でした。
グラフィティで休憩して、高校の裏の森で藤本さんと別れた後のこと、私はどうしても
真希さんに言いたいことがあった。
それはお母さんこと、一緒に暮らしてだいぶ経つと言うのに真希さんはいまだにお母さんと
呼んだことがないのです。私はそれが気になっていた。
「お母さんのことでお話があります」
「話って何?」
私は勇気を出して真希さんに言った。
「私たち一緒に暮らして一ヶ月くらい経ちます・・・
でもまだ真希さんはお母さんと呼んでませんよね」
私の言葉に真希さんは黙り込んでしまった。
「お母さんはきっと真希さんにお母さんと呼んでほしいと思うんです」
私がそう言うと、真希さんは何かを考えているようだった。
- 344 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:30
- 「アタシの前のお母さんのこと聞いてる?」
「はい・・・確か真希さんが3歳の時に病気で亡くなられたんですよね?」
私は言ってはいけないこと言ってしまった。そう思いました。
私は一番大事なことを忘れていた。
真希さんは前のお母さんのことが忘れられないんだ。私は自分を責めた
なんて無神経なことを言ってしまっただろう。
「ごめんなさい・・・私無神経でしたね」
私と真希さんは同じ境遇だと思っていた。でも実際は違うんだ。
私はお母さんのことばかり考えていて、真希さんの気持ちをまったく
考えていなかった。
「ごめんなさい・・・私の言ったこと気にしないでください」
でも真希さん黙っていてなにも言おうとはしなかった。
- 345 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:30
- 「ねえ、ちょっと行きたい所があるんだ、一緒に来てよ」
それまで黙っていた真希さんがようやく口を開いた。
真希さんはゆっくりと歩き出した。私は戸惑いながら真希さんの
後を追った。真希さんは一体どこにいくつもりなんだろう?
私は見当もつかなかった。
しばらく歩くと、たどり着いた場所は墓地でした。
「ここだよ・・・アタシのお母さんの眠っている場所は」
そう言うと真希さんは目を閉じて手を合わせました。
「初めまして、あさ美と言います」
心の中でそう言いながら、私も目を閉じて手を合わせました。
- 346 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:31
- 真希さんのお母さんはどんな人だったのかな。
きっと真希さんと同じ様にとても優しい人だったのでしょう。
これからも真希さんの事見守っていてくださいね。
私はそう心の中で囁いた。
「真希さん・・・本当に私の言ったことは気にしないでください」
私がそう言うと、真希さんはそっと私の髪を撫でた。
「焦らずゆっくりと進んでください真希さんのペースでいいですから」
「ありがとう・・・そう言ってくれて嬉しいよ」
そう言った途端、真希さんの様子はなんだかおかしくなった。
一体どうしたんだろう?私は不思議に思った。
「真希さんどうしたんですか?」
「いや・・・なんでもない」
そう言った真希さんはなんだかとてもいい顔をしていた。
- 347 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:32
- そして、その日の夜のことでした。
今日は真希さんか食事当番の日、真希さんは忙しく働いていた。
私は食事ができるまでリビングでテレビを見ていた。
キッチンの方からはかぼちゃの煮付けの匂いがしていました。
「この味どうですか?お母さん」
私の耳に入ってきた意外な言葉、その言葉に驚いた。
紛れも無く真希さんの一言でした。
「えっ?ええこれでいいわよ」
お母さんも突然のことに驚いていたけど、すごく嬉しそうでした。
これで本当の家族になれた気がした。
キッチンの真希さんと目が合った。そして私はニコッと微笑みました。
真希さんも笑顔を返してくれた。
- 348 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:32
- 夏休みになって2週間がたった頃のことです。
私はホッチキスを借りる為に真希さんの部屋に行きました。
部屋に入ると、真希さんは扇風機の前でTシャツを仰いでいました。
だらしなくしている真希さんに呆れながら、私は真希さんの机の引き出しを開けた。
ホッチキスと取ろうとしたとき、気になる一枚の写真を見つけた。
なんでこんな所に入れてあるんだろう、その写真を見て驚いた。
だってそこに写っていたのは私だったから・・・。
なんでこんな写真があるんだろう、じっと写真を見ていたら
真希さんが慌てるように私の元にやってきました。
「この写真いつ撮ったんですか?」
「初めて会った時に撮った。あんまりいい笑顔だったからさ」
- 349 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:33
- あの時、私のこと撮っていたんだ。全然気づきませんでした。
それほど私が夢中で青空を見ていた。そういうことになります。
私はその写真を見てなんだか恥ずかしくなった。
「でも真希さんは風景専門ですよね」
部屋を見るとどの写真も風景ばかりで人を撮った写真は一枚もありません。
そんな真希さんが私の写真を撮った。なんでだろう私は凄く気になった。
「でも撮る時はちゃんと言ってほしかったです」
「なにも言わない方が自然な表情が撮れるんだよ」
そう言われて私はまた写真を眺めた。私っていつもこんな風に笑ってるんだ。
「なんか恥ずかしいです・・・」
改めて見ても恥ずかしい。でも結構いいかもなんて思ったりしました。
- 350 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:34
- 「これ、引き伸ばして額に飾ろうかな」
「やめてください!余計恥ずかしくなります」
真希さんの一言に腹がたちました。
だってそんなことされたら誰だって恥ずかしいはず
それなのに真希さんはわかってないんだから・・・。
「ごめん・・・冗談だよ」
「もう知りません!」
冗談だとしても私は許せなかった。私はそっぽを向いて頬を膨らました。
後で真希さんが困っているのがよくわかる。
真希さんはお詫びに夏祭りに行こうと、誘ってくれました。
けど私はそんなことでは振り返らない、でも・・・屋台が色々と出ると言った瞬間
私はすべてを忘れて返事をしてしまった。私って本当に食べ物が絡むと弱いな・・・。
- 351 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:34
- 真希さんは浴衣を差し出した。紺色の着物にピンクの帯がとても可愛かった。
昔、真希さんが着ていた浴衣。中澤さんに浴衣を着せてもらって私と真希さんは
夏祭りへと出かけた。その途中で藤本さんと愛ちゃんと偶然一緒になってみんなで花火を
見ることになった。でも・・・会場はとても混んでいて花火が見られそうもなかった。
真希さんは隠れスポットがあるからと行って、海岸の方へと向かいました。
その場所に向かうにはゴツゴツとした岩場を通らなければいけません。
私は履き慣れてない下駄のせいで、歩くのに一苦労でした。
時間はかかったけどなんとか目的の場所に着くことが出来ました。
それから数分後、花火を次々と打ちあがりました。
色鮮やかな綺麗な花火が夜空いっぱいに広がっていった。
普段は青空はがり見ている私だけど、夜空はあまり眺めたことはなかった。
今日見上げた夜空は青空と同じくらい、私の心を癒していくようでした。
- 352 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:35
- 「すごくキレイですね・・・」
私は思わず呟いた。
「ここから見る花火は最高でしょ」
真希さんがそう言うと、私は笑顔で頷いた。
私の反応に真希さんはとても嬉しそうな顔をしていました。
真希さんは再び花火に方に目を向けた。
それから一時間後、花火大会は無事に終わりました。
私たちは海岸を後にしました。またあの岩場を歩かないといけません。
転ばないようにゆっくりと慎重に歩きました。
愛ちゃんと藤本さんは先に行ってしまって、姿は見えなくなってしまいました。
私の後には心配そうな顔をしている真希さんがいました。
急がないとそう思って足を速めると私は足を滑らしてしまった。
思わず声を上げた。転んでしまうそう思った瞬間、真希さんがすく側まで来て
私の手を掴んだ。私は何とか転ばすにすみました。
- 353 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:36
- ホッとしたのも束の間、突然私の目の前に水しぶきがかかりました。
何か起こったのか私にはよくわかりませんでした。
気づくと真希さんの姿は見えなくなっていました。
私はすぐに理解した。真希さんが海に落ちたんだと。
「真希さん!!大丈夫ですか?」
私は必死で真希さんの名前を叫んだ。
でも暗くて真希さんの姿は見えなかった。私は藤本さんと愛ちゃんを呼んだ。
その声にすぐに二人は戻ってきました。私はすぐに真希さんが海に落ちことを
伝えました。
「マジで?おーい!真希大丈夫?」
「なんとかね!」
藤本さんがそう呼びかけると真希さんの返事が返ってきました。
- 354 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:36
- それから真希さんは藤本さんに手を借りて陸へと上がりました。
もう真希さんは全身ずぶ濡れの状態でした。
「大丈夫ですか?」
愛ちゃんも心配そうな顔をしている。
私のせいで真希さんが海に落ちしまった。
「ごめんなさい・・・私のせいで・・・」
私は涙が止まらなかった。
「いや・・・キミのせいじゃないよ・・・」
「でも・・・私が転びそうになったせいで」
泣いて謝っても真希さんはただ慰めるだけで責めそうとはしませんでした。
どうしてですか?真希さん・・・。
それから私たちはゆっくりと海岸を後にしました。
愛ちゃんに手を借りながら私は道を歩いていました。
夜の風は冷たくて、真希さんが少しだけ震えているのがわかった。
- 355 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:37
- 藤本さんはもう帰ったほうがいいよ。と言うので私たちは家の帰ることにしました。
帰り道、ずぶ濡れの真希さんの後ろ姿を見ながら私は泣いていた。
「ごめんなさい・・・」
私がそう言っても、真希さんは振り返ることはなかった。
「気にしてないからもう泣かないで」
真希さんは静かにそう言った。これも真希さんの優しさなのかな・・・。
家に帰っても真希さんは私のことは何も言わなかった。と言うより
言わせてくれなかったと言った方が正しいのかな、これでいいのかな
私は納得出来なかった。真希さんはそれからすぐに眠ってしまった。
風邪を引かなければいいな・・・そう思った。
でも翌日、真希さんは昼近くになっても起きてこなかった。
私は心配になって真希さんの部屋へ行くと、真希さんはなんたが
苦しそうにしていた。私は真希さんの額に手を触れた。
- 356 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:38
- 「あっ・・・すごい熱じゃないですか・・・」
私の願いも届かず。真希さんは風邪を引いてしまった。
どうしよう・・・私の責任だ。私がなんかとしなきゃ、そう思った。
私は急いで、お母さんに真希さんが風邪を引いたことを伝えた。
部屋に戻って熱をはかると38度9分。完全に風邪です。
よし決めた。私はお母さんに思い切って言ってみた。
「お母さん、真希さんの看病私がやります」
真希さんもお母さんも驚いた表情でした。
私は今日、真希さんの看病するそう決めた。お母さんは心配そうな顔していけど
私に任せてくれることになった。でもお母さんは最低限のことは手伝うといいました。
それでもいい。とにかく私は出来る限りのことは一人でやるんだ。
- 357 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:38
- それから数時間後、私は真希さんの濡れタオルを変えるために真希さんに
近づいた。タオルに手をかけた瞬間、真希さんが目を覚ましました。
「すいません起こしちゃいましたか」
私は濡れタオルを取り替えながら言った。
「具合どうですか?」
「うん・・・まだ気分悪いよ・・・」
「そうですか・・・」
私は立ち上がって、部屋を出ようとした。
「お腹すきませんか?」
夕方近くになったけど、真希さんは朝から何も食べていなかった。
「あんまり食欲ないよ・・・」
「少しでも食べて栄養つけないと」
どうしたらいいのかな、真希さんに何か食べてもらいたい
なにがいいか私は考えた。
- 358 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:39
- 「お粥なら食べられるんじゃないですか?」
私がそう言うと真希さんは食べてみると言ってくれました。
「はい!じゃあ作ってきますね」
私は張り切ってキッチンへと向かいました。
けど・・・失敗の連続、ほとんどお母さんに手伝ってもらいました。
私もまだまだみたいです。でもなんとかお粥も出来た。
さて真希さんの所へ行こう。
「出来ましたよ」
「ありがとう・・・」
私はお粥をお茶碗によそった。
「はい、あーんしてください」
「いいよ、自分で出来るから」
私がそう言うと真希さんは恥ずかしがって口を開けてくれませんでした。
「ダメですよ、さあ早くあーんしてください」
真希さんは仕方なく口を開けてくれました。
私は子ども叱るお母さんみたいに気分になった。
- 359 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:40
- お粥も食べ終わると、風邪薬を飲んでからまた真希さんは眠ってしまった。
これでもう安心かな。熱もさっきより下がっていたし、大丈夫でしょう。
でも私は心配だったので、ずっと真希さんの側にいようと思った。
空を見たらもう暗くなっていた。私は深いため息をついた。
少し眠ろう、そう思って目を閉じた。
でも・・・私はよっぽど疲れていたのだろう、気がつくと朝になっていた。
私はベッドで寝ていた。真希さんの姿はない、私は慌ててリビングに
向かった。そこにいたのは元気になった真希さんがいた。
そして、「昨日はありがとう」と言ってオムライスを作ってくれた。
真希さんが元気になった真希さんを見て、私は嬉しくなった。
でも思い出はこれだけじゃない・・・。
- 360 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:40
- 家族で旅行に行くことになった。これはお父さんの提案で決まったこと。
旅行と聞いて私はなんだかワクワクしてきた。
真希さんも嬉しそうな顔をしている。きっと同じ気持ちなんだろう。
私と真希さんにとっては初めての家族旅行になる。
お父さんの運転する車に乗って、隣では真希さんがぼんやりと外を見ていた。
私は空を見ていた。雲がどこまでも追いかけて来るように見えた。
ほら、こっちだよ。私はここだよ。私はまるで鬼ごっこしているみたいに
心の中でイメージを広げた。白い雲は青空を泳ぐように進んでいた。
それから私たちは休憩をとった後、昔の町並みが残っている観光地に着きました。
そこからはお父さんとお母さんと別々の行動をとることにした。
- 361 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:41
- 私は真希さんと一緒に歩いていた。
初めて会ったときには恥ずかしくてって隣にいることが出来なかった私。
今では気にすることなく一緒に歩けるようになった。
私もちょっとは大人になったのかななんて思ったりした。
真希さんはいい風景を見つけると立ち止って写真を獲っていた。
「いつ見てもいいなって思うんです」
「何が?」
「真希さんがカメラ持っている姿が幸せそうで私は好きです」
私は笑いながら言った。真希さんはカメラを持つと人が変わったように
真剣に顔をしている。私はいつも思っていました。
「私、何言ってるんだろう、おかしいですね」
自分で言ったことなのに恥ずかしくなってしまった。
「そのままでいて、撮るよ」
真希さんは照れ笑いする私にカメラを向けた。
- 362 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:41
- 「ちょ、ちょっと待ってください!」
でも、そう言ったときにはもう遅くて、カメラのシャッターは押されてしまいました。
また恥ずかしい所を撮られてしまった。真希さんはまるでいたずらが成功した
子どものように笑っていた。
「いい笑顔してたよ」
「また、黙って撮るなんてひどいですよ」
「撮るって言ったじゃん」
「心の準備ってものがあるじゃないですか」
「いいじゃん可愛いんだから」
真希さんにそう言われて、恥ずかしくなって
足早に歩き始めました。
- 363 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:42
- この旅行でちょっとした出会いもありました。
サービスエリアで出会った女の子二人組と偶然一緒になりました。
名前は田中れいなちゃんと亀井絵里ちゃん、商店街の旅行でやってきたそうです。
黒髪の絵里ちゃんとヤンキー風のれいなちゃん、れいなちゃんはどことくな雰囲気が
真希さんに似ている気がする。4人で食事をしていると真希さんとれいなちゃは
向かい合わせの席になりました。じっくりみても似ています。
お手洗いで一緒になった絵里ちゃんも同じことを言っていました。
そして、絵里ちゃんとれいなちゃんは付き合っているらしい。別に驚かなかった。
なんとく、そうだろうなって思っていた。いつもラブラブなんだろう。
それから私たちはその場で別れて、私たちはお父さんたちとおち合ってホテルへ
向かいました。ホテルでは食事も美味しかったし、温泉も気持ちよかった。
でも・・・真希さんと一緒はちょっと恥ずかしかったですけどね・・・。
- 364 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:43
- それから、真希さんと一緒にお土産見たり、ホテルも一緒になった
れいなちゃんと絵里ちゃんと一緒にゲームセンターへ行ったりと
とても楽しい旅行なりました。私はそんな今日一日の思い出を
思いだしながら、ホテルのベランダから夜景を見ていました。
「眠れないの?」
夜空を眺めていると後から真希さんの声がした。
「はい、なんだか寝つけなくて」
「どうかしたの?」
私の様子に気づいたのか、真希さんが不思議そうに聞いてきた。
「嬉しいんです」
「なにが?」
「こうやって家族で旅行に来れて、これが家族なんだって思うと嬉しくて」
私は一生忘れたくない思い出が出来たそう真希さんに言うと真希さんも
同じこと思っていました。本当に家族で旅行できてよかったな。
- 365 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:43
- こんな風にして楽しい毎日は過ぎって行った。
夏休みも後少しで終わりという時にこんなことがありました。
私はいつもの海岸で青空を見てから、その帰り道で中澤さんと出会った。
中澤さんは真希さんを探していた。理由を聞くとふとしたきっかけで
真希さんと中澤さんはケンカをしてしまったとのこと。
「私も探してきます」
そう言って、思い当たる所を探しました。
まずグラフィティに行きました。でもそこには真希さんはいなかった。
「後藤なら追い返したよ」と市井さんが言っていた。
私が真希さんはまだ帰ってきていないこと伝えると市井さん呆れた顔をしていた。
「しばらく放っておいたほうがいいよ」
市井さんそう言ったけど、私はなんだかそんな気にはなれませんでした。
私はグラフィテイを出て、再び真希さんを探した。
- 366 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:44
- そして次に行った所は高校の裏にある森へ、でもそこにもいませんでした。
結局見つけることが出来ずに家へと戻ることにしました。
真希さんが帰っているかもしれないし、そう思って急いでいると通りかかった
公園のベンチでぼんやりと座っている真希さんを見つけた。
「真希さん、ここにいたんですか、探しましたよ」
「もしかして裕ちゃんに言われて探しに来たの?」
「はい、そんなところです」
私はゆっくり真希さんの隣に座った。
真希さんは相当落ち込んでいる様子でした。
「ハァ・・・裕ちゃんに酷いこと言っちゃったかな」
「謝った方がいいんじゃないですか」
私は真希さんそう言った。でも真希さんやる気がなさそうな顔をしました。
- 367 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:45
- 「私はまだ中澤さんのことよく知りません、でも真希さん違う、中澤さんすべてを知っている」
真希さんと中澤さんを見ていると、まるで本当の姉妹に見えるときがある。
ずっと長いこと一緒にいる中澤さん、怖いけど優しい人。真希さんの優しさは
中澤さん譲りなのかもしれない、なんて私は思う。さあ真希さんどうするんですか?
私は真希さんの答えを待っていた。ふと砂場の方に目を向けると泣いている女の子がいた。
気になって近づいてみた。どうやら迷子みたいです。そのすぐに真希さんもやってきた。
迷子の名前はまいちゃん、お姉ちゃんとはぐれてしまったとのこと。
すると真希さんがお姉ちゃんを探してあげようと言い出しました。
私たちはまいちゃんの来たルート辿りました。そうすれば見つかるかもしれない
と真希さんが提案しました。その途中、真希さんは昔の話を聞かされてくれた。
小さかった頃の真希さんの話、迷子になった時のこと、そして中澤さんのこと
いろいろ話してくれました。
- 368 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:45
- 真希さんは昔の自分とまいちゃんを重ね合わせて見ているのかもしれない。
なんだかんだ言っても真希さんは中澤さんのこと大切に思っているんですね。
「真希さんは中澤さんのことが大好きなんですね」
まだまだ真希さんと暮らして日は浅いけど、これだけは自信を持って言える。
「中澤さんも真希さんのことがきっと大好きだと思います」
これも自信を持って言えること。
「裕ちゃんがそんな風に思ってるはずがないよ」
「そんなことないです」
私は胸を張って言った。でもそんな真希さんは何も言わず再び歩きはじめた。
結局どこが探してもまいちゃんのお姉ちゃんは見つかりませんでした。
そして日も暮れ始めた頃、私たちは公園に戻りました。
私たちがどうしようかと悩んでいました。それからすぐにまいちゃんのお姉ちゃんが
やってきたのです。お姉ちゃんと再会したまいちゃんはとても嬉しそうな顔をしていました。
- 369 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:46
- まいちゃんを見送った後、私は真希さんのほうに目を向けた。
そう、私にはまだやることがあります。真希さんを連れて帰らないと
いけません。
「じゃあ、私たちも帰りましょうか?」
「アタシはまだ帰らないよ」
「えっ?なんでですか?」
しかし・・・真希さんは家には帰ろうとはせずに足早に公園を出て行きました。
「ちょっと待ってくださいよ」
私は慌てて真希さんの後を追いました。もう真希さんたら頑固なんだから・・・。
真希さんの足は海岸の方へと向かっていました。
その途中で市井さんに会いました。市井さんがいくらいっても話も聞こうとせず
真希さんは再び歩き始めました。
「もうしょうがないな、あさ美ちゃんの方からガツンと言ってやってよ」
ガツンとですか・・・どう言えばいいんでしょうか?今の真希さんには何も言っても
ダメのような気がします。私はなにがいいか考えていました。
- 370 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:47
- 海岸に着くと、真希さんは腰をおろして深くため息をついた。
夕焼けの空を見ながらただじっと座っていた。
「ずっと、こうしているつもりですか?」
私が問い掛けても返事はなかった。まったくしょうがいない人ですね。
でも一応、私のお姉さんなんです。ほっとくわけにはいきません。
私はふと思いついた。きっと真希さんは驚くだろうな。
「もう!いい加減してよ、お姉ちゃん」
「えっ?」
案の定、真希さんは驚いていた。一度も呼んだことない「お姉ちゃん」と
呼ばれたから、さてこの頑固なお姉ちゃんを連れて帰らないと。
私は真希さんの手を引っ張って海岸を出ようとしました。
「さあ早く帰ろうよ、お姉ちゃん」
真希さんは普段とは違う私に戸惑っていた。
- 371 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/11/21(月) 09:47
- 「ねえ、どうしたの?急にお姉ちゃんなんて呼んだりして」
「一度呼んでみたかったんですよね」
お姉ちゃんって響きもなかなかいものですね。
でもこうやって呼ぶは一回だけにしようかな。
なんだか恥ずかしいし、やっぱり真希さんって呼ぶほうが私に合っている。
どうですか真希さん、お姉ちゃんと呼ばれた感想は?
真希さんの顔を見るとまんざらでもないみたい。さあ家に帰りましょう。
家の前で中澤さんがずっと待っていた。でも言葉の出ない真希さんがいた。
私はそっと真希さんの背中を押した。そして小さな声で「裕ちゃん、ごめん」と言いました。
「真希、私もごめんちょっときつく言いすぎたかもしれん」
そしてその言葉に真希さんは中澤さんは抱きつきました。私は笑いながら二人を見ていた。
こうして真希さんと中澤さんは仲直りすることが出来た。
いろいろあったこの3ヶ月、短いのかな?それとも長いのかな?すごく楽しかった。
これからどんなことが起こるんだろう。それは真希さんにも私にもわからないげと。
もっと楽しくなれば私はいいと思いました。
- 372 名前:ヒガン 投稿日:2005/11/21(月) 09:54
- 本日はここまで
紺野視点はこれに終了です。
視点を変えて話を書きたいなと思い書いてみました。
総集編みたいな感じだから楽だ思っていました。
しかし・・・思いのほか長くなってしまった。時間がかかりました。
さて、次回からは新展開がいろいろありの第3部がスタートします。
また更新が遅れるかもしれませんがよろしくお願いします。
>>323
レスありがとうございます。
まったりしたペースですがまた読んで頂けると嬉しいです。
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:15
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 374 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:30
- キミと出会って3ヶ月がたった。
もう3ヶ月なのか、それともまだ3ヶ月なのか
それさえもわからないくらいの日々だった。
さあ、これからどんなことが起こるのかな?
- 375 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:31
-
13――――
- 376 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:31
- 夏休みが終わり、2学期が始まる。
あれだけ賑やかだった海も、今やウソのように静かだった。
高校最後の夏休みが終わると、すぐやってくるのが受験である。
もう大事な時期でもある。気を抜いていられないそう思いながら
学校へ行く準備する。アタシは旅行先で買った美貴へのお土産を鞄に入れて
部屋を出て、リビングに向かおうとした。すると彼女も学校へ行く準備を終えて
部屋から出てきた。
「おはよう」
「おはようございます真希さん」
彼女は相変わらず丁寧な挨拶をした。
- 377 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:32
- いつものように朝食を済ませて、家を出て学校へと向かう。
彼女と一緒に歩くのも、もう当たり前のようになった
校門に近づくと、生徒のみんなは久々の再開に喜んでいた。
彼女とは校門を通り過ぎた所で別れ、それぞれの校舎へと向かった。
教室に入って、クラスメイトと挨拶を交わした。
「おはよー」
美貴が陽気な声で挨拶をしながら教室に入ってきた、
「来たな、この遊び人が」
「なにその言い草、酷くない?」
「よく言うよ、真っ黒に日焼けしちゃってさ」
何も言い返せなくなった美貴は黙って自分のイスに腰をおろした。
- 378 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:32
- 「はい、これお土産」
美貴は鞄から小さな袋を取り出してアタシに渡した。
「ありがとう。どこか行ってきたの?」
「まあちょっとね、一人旅ってやつかな」
美貴からお土産を受け取ると、アタシも美貴にお土産を渡した。
「サンキュー、真希は温泉に行ってきたんだ」
「うん、家族で旅行なんてしたことなかったからね、すごく楽しかったし」
「温泉ってことはあさ美ちゃんの裸見たんだ」
「んあー。何言ってるの!」
アタシはつい大声を出してしまった。まあ・・・見たの事実だけど
なんだか否定したくなった。なんでたろう・・・体もなんだか熱くなってきた。
「冗談で言っただけなのに・・・そこまで怒る事ないじゃん」
美貴は顔を真っ赤にしたアタシを見ながら苦笑いを浮かべていた。
- 379 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:33
- アタシはふと美貴が首からかけているペンダントが気になった。
「おっ、いいペンダントしてるじゃん」
「これね、旅行先で見つけたんだよ」
ペンダントには「M&S」という文字が刻まれていた。多分、ブランド名か
なんかだろう。美貴はそれがとても気に入っているようだ。
それからしばらくして、平家先生が入ってきた。
今後の進路についての話だった。
「美貴は大学行く所決めたの?」
「F大学にしようかなと思っているけど。真希は?」
「アタシはN大学かな」
「遠いじゃん、じゃあ一人暮らしするわけ?」
「うん、そのつもり。もうお母さんもいるし大丈夫かなって思ってさ」
この街を離れるの寂しいが、彼女だっているわけだしなにも心配することはない
あと受験の日まで精一杯勉強するだけだ。
- 380 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:34
- 今日は授業はなく、学校も昼前で終わった。
アタシと美貴はいつのもようにグラフィティに行くことにした。
「あさ美ちゃんも誘ってきなよ。夏休みの話とかも聞きたいし」
「わかった。ちょっと行ってくるよ」
美貴にそう言われてアタシは彼女のいる校舎へと向かった。
彼女の教室に行くと、廊下で誰かを待っている彼女を見つけた。
「あっ、真希さんどうしたんですか?」
彼女はアタシに気づいてようで、驚いた顔をしていた。
「これから美貴とグラフィティに行くけど一緒に来ない?」
「でも私、これから愛ちゃんと遊びに行く約束しちゃったんです」
彼女は申し訳なさそうに答えた。
「そう、残念だね」
「本当にごめんなさい」
「いいよ気にしなくて、それより気をつけてね」
彼女は「はい」と大きく頷いた。
- 381 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:34
- 「あれ後藤さんどうしたんですか?」
アタシと彼女が一緒にいるのを見て、高橋は得意のびっくり顔をしていた。
「真希さんに誘われたんだけど、愛ちゃんと遊びに行くからっと断ったんだ」
「そうなんだ。後藤さんすみません」
高橋も彼女と同じように申し訳なそうに言った。
「じゃあ、あさ美ちゃん行こうか」
そう言って高橋と彼女は仲良く手をつないで行ってしまった。
まあしょうがないか。アタシは校舎を出て美貴のもとへと急いだ。
校門の前に着くと、美貴はあくびをしながらアタシを来るのを待っていた。
「真希、遅いよ。ところであさ美ちゃんはどうしたの?」
「高橋と遊びに行くからって断られたよ」
「そっか・・・残念だね」
アタシ達は仕方なく二人でグラフィティに行くことにした。
「あさ美ちゃんもここの生活もずいぶんと馴染んだよね」
美貴はまるで自分が姉みたいに言った。
- 382 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:35
- 「そうだね。最初は心配だったけどさ、なんかとかやれているみたいで安心した」
淡々と答えたアタシに美貴はニヤニヤした顔つきだった。
「なにその顔は?」
「あんたも立派なお姉さんになったもんだね」
美貴は腕組みをしながらまるで親みたいな口調で言った。
バカ言ってるじゃないよ、そんな顔をしながら足早に歩きはじめた。
「真希、照れてるの?」
そんな美貴の声も無視してグラフィティへの扉を開けた。
「いらっしゃい」
いつものようにいちーちゃんはカウンターでアタシ達を出迎えた。
「そうか、今日から新学期だったな」
いちーちゃんは壁に掛かっているカレンダーをチラッと見て呟いた。
「また憂鬱な日々が始まっちゃったんですよ」
美貴はただ勉強嫌いなだけでしょ。と口こそ出さなかったけど
そう思いながら、イスに腰をおろした。
- 383 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:36
- いちーちゃんはアタシ達が何も言ってないのに、黙ってコーヒーを
差し出した。まあいつ来てもコーヒーしか頼まないから当然か。
「ここに来ると落ち着くな」
そう言いながらアタシはコーヒーを一口飲んだ。
「後藤はカメラを持っても同じこと言うくせに」
いちーちゃんの鋭い突っ込みにアタシは返すこと言葉がなかった。
だって図星なんだから。いつも私の心を読んでしまういちーちゃん
本当に頭が下がるよ。
そんなこと思っていると、ある物を見つけた。
それはいちーちゃんがしているペンダント。「M&S」と刻まれていた。
美貴がしている物とまったく同じ物。このペンダント流行っているのかな?
アタシはそんなには気にならなかった。
「あのー紗耶香さん」
「なんだ?美貴」
「砂糖がないんですけど」
「ごめん、今入れるよ」
なんだろうこの不思議な違和感。でもそれがなにかわからない。
気のせいかな?なんとも言えない変な気分だった。
その違和感とペンダントの意味を知るのはもう少しに後になってからのこと。
- 384 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:37
- アタシは昼過ぎまでグラフィティにいた。
「さて、アタシはそろそろ帰ろうかな」
「じゃあ美貴も行くよ」
アタシはコーヒー代をカウンターに置いた。
「じゃあ、いちーちゃんまた」
アタシがそう言うと、いちーちゃん振り替えことなく「おう、またな」
と一言だけ返しくれた。
グラフィティを出ると、太陽の光が眩しかった。
9月になったけどまだまだ暑い日が続きそうだな。
「さて、帰ったら勉強しようかな」
美貴にして珍しいことを口にした。
「ようやくその気になったか」
アタシは美貴の変化に感心していた。
「そろそろやっておかないヤバイって思ったし」
アタシも負けていられない、そう思いながら海岸沿いを歩いていた。
- 385 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:38
- ふと、見ると砂浜になにやら人だかりが出来ていた。
なんだろうと思い、海のほうに目を向けた。
「波乗りチャーミーが来ているみたいね」
美貴がアタシと同じと方向を見ながら言った。
「あの女子高生サーファーだっけ?」
この街では有名なサーファーがいる。その名も波乗りチャーミー。
アタシたちと同級生らしい、でもそのアタシはサーファーの本当の名前は知らないし
顔も見たことがない。後はピンクのサーフボードがトレードマークということ。
知っていることはたったこれだけ。
サーファーの間ではかなり有名な子らしい。アタシにはよくわからないことだけどね。
でも、波乗りチャーミーっていうネーミングはありなのかな?なんて少し気になった。
- 386 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:38
- それから美貴とは途中の曲がり角で別れた。
アタシはゆっくりと家に向かっていた。
「真希さん」
誰かに呼び止められ、振り返ると彼女が急ぎ足でやってきた。
「お帰り、早かったね」
「はい、愛ちゃんが急に用事が出来たからって先に帰っちゃたんですよ」
そんなことを話していると、彼女のお腹が鳴ったのがよく聞こえた。
アタシは思わず笑った。彼女は当然顔を真っ赤にしていた。
「お昼ごはんまだなの?」
「はい、お腹が空いていたので急いでいたんですよ」
「じゃあアタシがなんか作ってあげよう。何食べたい?」
「オムライスがいいです」
彼女は私の作るオムライスが大好きみたい。いつも美味しそうに食べる姿。
「真希さんのオムライスはいつ食べても美味しいですからね」
私はそれ見ていて嬉しくなる。よし今日はサービスして大盛りにしちゃおうかな。
あんまり食べさせちゃうと太っちゃうかもしれない。それが心配だった。
- 387 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:39
- その日の夜、アタシは夕食の後片付けを終えて部屋に戻ろうとした時。
「真希さん。ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「旅行の写真ってどうなってます?」
「ごめん・・・まだ現像してないや」
彼女に言われて思い出した。すっかり忘れていた。
「そうですか。ちょうどよかったです」
「なんで?」
「現像するところ見せてもらっていいですか?」
意外な彼女のお願い。でもアタシもちょうどよかったかもしれない。
前から写真を現像するところを見せてあげたかったし。
「うん、いいよ明日行こう」
アタシがそう言うと彼女は嬉しそうに笑った。
- 388 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:39
- 彼女は「明日が楽しみです」そう言いながら部屋へと戻っていった。
アタシも楽しみになってきた。写真が浮かび上がってくる瞬間、彼女は
どんな反応をするんだろう。笑った顔、驚いた顔、彼女の写真も何枚か
あるから、きっと恥ずかしがるだろう。最近じゃアタシはカメラを向けると
決まって顔を隠してしまうことが多くなってきた。
彼女はアタシがカメラを持っているときはかなり警戒しているようだ。
油断した瞬間がシャッターチャンス、だから気を抜かないほうがいいかもよ。
なんて独り言を言ってみた。
- 389 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:40
- 翌日、アタシも彼女も浮かれた気分でグラフィティへと向かっていた。
アタシは早く見せたくって、早足になっていた。
けど、彼女もなんとかそのペースに合わせようとしていたのに気づいて
すぐにやめた。そんなアタシを見て彼女は不思議そうな顔をした。
今度は彼女の歩くペースが速くなって、アタシもそれを追った。
抜いたら抜き返す、それの繰り返しだった。
私と彼女はしゃぎながら追いかけっこのしていた。グラフィティへ
たどり着いた。なんだかおかしくって笑いながら扉を開けた。
「なんか賑やかな声がするな思ったら、後藤だったのか。ずいぶんと嬉しそうだな」
「そう?アタシは全然普通だよ。それより暗室借りていい?」
「おう、いいよ」
いちーちゃんはそう言って暗室の鍵を放り投げてきた。
アタシはそれを受け取って彼女と一緒に暗室に向かった。
- 390 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:41
- 「あさ美ちゃんはどうしたの?」
「現像する所が見たくって、一緒に来ました」
「もしかして例の件、実行したんだ?」
「はい、実行しました」
そんな彼女といちーちゃんの会話が耳に入ってきた。
例の件?実行?一体何のことだろう。さっぱり見当もつかなかった。
そんなこと考えながら、アタシは暗室の鍵を開けて中へと入った。
現像に必要な薬品を出したり、アタシはいろいろと準備をしていた。
彼女はそんなアタシを真剣な眼差しで見つめていた。
「よし、始めようかな」
準備完了。彼女はそれを聞いて私の近くへとやって来た。
1枚1枚丁寧に現像をしていく、隣では彼女が熱心な視線で
アタシの作業を見つめている。暗室の中でもよくわかるほど
大きな瞳はキラキラと輝いていた。
- 391 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:42
- そして、次に浮かび上がってきた写真を見た途端、彼女は表情を変えた。
それは彼女自身の写真。写真の中の彼女はとてもいい表情、アタシの横で
恥ずかしがっている姿は全然違う顔だ。
でも、その以降に浮かび上がってきた写真を見て、アタシは驚いた。
撮った覚えのない写真があった。それはアタシが撮れるはずもない
アタシが車の中で口を開けて眠っている写真だったから。
「んあー、何これ?」
思わず声を上げてしまった。隣では彼女がクスクスと笑っていた。
どうやら彼女の仕業のようだ。
「よかった。上手く撮れますね」
「ねえ・・・これいつ撮ったの?」
「帰りの車の中です」
やられた・・・。アタシは完全に油断していた。
まさか、あんな姿を彼女に撮られてしまうなんて思わなかった。
- 392 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:42
- しかし、疑問がひとつだけあった。アタシは彼女にカメラの使い方を
教えたことはなかった。それなのに彼女はカメラの使い方がわかっていた。
旧式のカメラだし、初めて使うにはちょっと複雑なはずだ。
「でも、よく撮れたね。難しくなかった?」
「大丈夫です。使い方教えてもらいましたから」
アタシ以外にカメラの使い方を知っている人物、それは1人しかいない。
暗室を出てカウンターに戻ると、その人物はニヤニヤした顔つきをして
アタシを待っていた。
「いちーちゃん、あさ美にカメラの使い方教えたの?」
「ああ、教えたよ。だってさ大きな瞳を潤ませながら頼まれたら断れないよ」
アタシが知らない所でまさかそんなことがあるなんて思いもしなかった。
「あさ美ちゃん、撮った写真見せてみて」
「はい、どうぞ」
- 393 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:43
- 写真を受け取ると、いちーちゃんはすぐに声を出して笑った。
「よく撮れてるじゃん。初めてにしては上出来だよ」
いちーちゃんがそう言うと、彼女は照れたように「エヘヘ」と笑った。
「でもさ・・・なんで寝てる姿なの?もっといい場面がよかったよ」
「真希さんのいい表情といったら、カメラ持ってる姿と寝顔しか思いつかなかったんです」
彼女の言葉にいちーちゃんは笑いながら頷いていた。
「さすが、あさ美ちゃんはよくわかってるじゃん」
そう言ういちーちゃんだが、アタシは忘れてないよ。昔いちーちゃんにも同じことをやられた。
あれはアタシが高1の時のこと、いちーちゃんの部屋でカメラのこといろいろ教えてもらってた。
そこでつい居眠りをしてしまった。その時にいちーちゃんに寝てる姿を撮られてしまった。
「しかし、いつ見ても後藤の寝顔はかわいいな」
この言葉も昔いちーちゃんに言われた。なんだか急に恥ずかしくなってきた。
- 394 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:43
- それからアタシと彼女はグラフィティを出た。
彼女は嬉しそうな顔をして、写真を眺めていた。
そんなに見られると、なんだか変な気分になってくる。
「真希さん、お願いがあるんですけど」
「なに?」
「この写真、貰っていいですか?」
アタシは答えに困っていた。でもアタシも彼女に黙って何回か写真を撮っている。
まあ、アタシのほうが数は多いけどね。まあいいか、アタシは素直に「いいよ、あげる」
そう言うと、彼女は今まで以上に満面の笑顔で嬉しさを表現した。
彼女はアタシの写真を大事そうに抱えて、家へと急いだ。
- 395 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:44
- その後のアタシの生活はカメラを出来るだけで控えて、勉強に専念していた。
でも、たまに勉強が思い通りに進まないときはカメラを持って持って海へと行く。
たまに裕ちゃんに見つかって叱られる時もあるけど、前ほど口うるさくはなくっていた。
「まあ、たまには休むことも必要からね」と裕ちゃんは言う。
なんか調子狂っちゃうけどね。
彼女も「受験かんばってくださいね」と優しく励ましてくれる。
一番力になるのは彼女の言葉と笑顔、それを見るだけでアタシはなんか強くなれる
気がする。不思議だねこんな気持ちは、今まで感じたことないや。
- 396 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:45
- それから9月も2週間ほど過ぎた頃、アタシと彼女はいつものように学校に
向かっていた。空を見上げると雲はいくつも連なって、遠くのほうまで続いていた。
風も冷たくなっていて、もう秋なんだなって感じるようになってきた。
秋の空はアタシの目には悲しげに写った。彼女はどうだろうか?
彼女のことだ。きっとこの空も彼女の心を癒していくんだろう。
それから彼女は高橋の姿を見つけて、アタシに手を振って、高橋の元へ
急いだ。アタシはその姿を見送った後、3年生の校舎へと向かった。
教室に入ると、美貴はもう来ていた。疲れきった表情をしている。
美貴も相当、がんばっているんだね。アタシは美貴の変化に感心していた。
- 397 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:46
- そして、あっという間に1日の授業は終わった。
最近ではグラフィティに行くことも少なくなっていて、そのまま家に帰ることが
多くなった。アタシは美貴と別れて校門に向かっていた。
すると彼女がいた。アタシのことを待っていたらしくて、笑顔でアタシに手を振った。
彼女と一緒に帰ることも最近多くなってきた。
「真希さん、勉強は順調ですか?」
「うん、なんかとね」
「そうですか。真希さん家を出るんですよね。なんか寂しいですけど」
彼女は寂しそうな顔をした。アタシだって同じ気持ち、でもまだ時間はある。
それまで彼女と思い出をもっといっぱいを作りたい。そう思ってアタシは空を見上げてみた。
「真希さん、家のことは私に任せてくださいね」
「おー頼もしいね。じゃあ任せちゃおうかな」
そんな風にずっと笑い合ってみたいな、なんてアタシは思っていた。
- 398 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:46
- そんな話をしてからの彼女は本当に頼もしくなった。
アタシに家事をいろいろと教えてほしいと言ってきた。
彼女は本気なんだな。アタシは家事の基本を色々と教えた。
とても飲み込みが早いし、彼女も真剣に家事を勉強していた。
家事を彼女とお母さんに任せて、アタシは受験勉強に専念していた。
彼女もがんばっている、アタシも彼女を見習ってがんばるか。
- 399 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:47
- 翌日のことだった。夜遅くまで勉強をしていたせいでまだ眠い。
大きなあくびをしながら、リビングに向かう。
キッチンを見た。彼女が忙しく動いていた。
「おはよう・・・何やってるの?」
「真希さんおはようございます。お弁当作ってるんですよ」
ふと、テーブルを見ると2人分のお弁当箱があった。
ひとつは彼女のもうひとつはアタシのお弁当箱だった。
「もしかしてアタシのお弁当もあるの?」
「はい、だってこれは真希さんのために作ってるんですから」
眠気さえも吹っ飛ぶ一言。なにもそこまでしなくてもって感じだだけど
すごく嬉しい。これはまた昼が楽しみになってきた。
- 400 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:47
- その日はなんだか落ち着かなかった。早く昼が来ないかとずっと時計を見ていた。
そんなアタシを見て美貴は不思議そうな顔をしていた。
そして、待ちに待った昼食の時間になった。
「今日の真希、なんか挙動不審なんだけど」
「そ・・・そんなことないよ・・・」
アタシがそう言うと美貴は目を細めながらアタシを睨んだ。
まあ、そんなことはともかく早く彼女の作ってくれたお弁当が食べたかった。
アタシはゆっくりと弁当箱の蓋を開けた。
とても綺麗な盛り付け、とても初めて作ったとは思えなかった。
「おーなんか今日のお弁当はなんか雰囲気違わない?」
さすが美貴、いつも一緒にお弁当を食べているだけに鋭い。
「今日はあさ美が作ってくれた」
「ほー愛妻弁当ならぬ愛妹弁当ってわけね」
「別に愛じゃないし」
「そんなことないよ、愛情こもっているって感じ」
「別に普通だと思うけど」
さて、今日は味わってゆっくりと食べるか。
- 401 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:48
- 「あっ、ようやくわかった。そういうことね」
「んあ?どうしたの急に」
「挙動不審な理由はズバリこれだね」
美貴はお弁当を指さしながら言う。ズバリその通りなので
アタシは何も言い返せなかった。そして、アタシはオニギリを手にとった。
形はちょっと悪いけど、がんばって握ってある。
一口食べると、すごく美味しかった。卵焼きも上手に焼けてる。
「どれどれ、一口貰うよ」
そう言って美貴は卵焼きを一つ奪っていた。
「おーこれ美味しいじゃん。真希の味によく似てる」
「そりゃそうだよ。アタシがしっかりと教えたし」
「あさ美ちゃんも相当がんばっているんだね」
本当にそうだ。彼女はすごいと思う。
- 402 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:48
- それから午後の授業は終わり、帰り支度をしていた。
教室を出ると、彼女が待っていた。
「どうしたの?」
「お弁当の感想が聞きたくって、ここまで来ちゃいました」
彼女はモジモジしながらそう言った。
「すごく美味しかったよ。ありがとう」
アタシは素直に言った。
「本当ですか?」
アタシは深く頷いた。すると彼女は目を輝かせて嬉しそうに笑った。
「よかった。自信なかったんですよ本当は」
「大丈夫ちゃんと出来ていたよ」
彼女は安心した顔をしていた。授業中もそのことばかり考えていたらしい
そんなところははアタシと一緒だね。
そして、アタシと彼女はゆっくりと家に向かって歩きはじめた。
- 403 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:49
- しかし・・・その帰り道、アタシはなんだか付けられているような気がした。
学校を出たあたりからだ。彼女はまったく気づいていないみたい。
ストーカーだろうか?アタシは恐る恐る後を振り返った。
そこにいた人物を見てアタシは驚いた。
電柱の陰に隠れていたのは高橋だった。なんでそんな所にいるんだろう。
こっちに来ればいいのに。すると高橋と目が合った
その瞬間、高橋はものすごい勢いでその場を去っていた。
アタシは訳がわからずただぼう然としていた。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
高橋は一体なにがしたかったんだろう。
理由はわからないけど、なにかありそうな気がする。
- 404 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:50
- 翌日の夜、アタシにとって一つの転機といい出来事があった。
アタシは夕食の時間まで勉強をしていた。
けど眠くなってしまって。アタシはベッドへと倒れこんだ。
最近、よくあることだ。少しだけ眠ろう。そう思って目を閉じた。
しかし、アタシはずいぶんと眠り込んでしまったみたいで。
「・・・真希さん・・・真希さん」
誰かがアタシを呼んでいた。
「真希さん、夕食の時間ですよ。起きてください」
彼女の声だ。アタシは驚いて慌てて体を起こした。
その瞬間、唇に柔らかな感触を感じた。
アタシと彼女の唇は重なっていた。
「えっ・・・」
彼女が思わず声を上げる。
- 405 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:50
- 目の前には目を見開いて驚く彼女の顔があった
アタシは慌てて、彼女から離れた。
「あっ・・・ごめん」
あまりにも突然ことで彼女は放心状態だった。
彼女は唇を触りながら、今起きたことを理解しようしていた。
「ごめんね・・・ちょっとびっくりしちゃった」
気まずい雰囲気。アタシはどうしたらいいかわからないから
ただ何度も「ごめん」しか言えなかった。
「いえ・・・大丈夫です」
彼女は戸惑いながら言った。
アタシと彼女はキスをした。でもそれはただの事故。
そのはずなんだけど、おかしい・・・なんだかアタシの胸がすっきりしない。
一体どうしたアタシ?なんだか胸が熱くなってきた。
- 406 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:51
- 翌日になってもすっきりしない気分が続いた。
思い出すのは昨日の彼女のこと、いまだに唇の感触が残っている。
彼女は普段変わらない態度接してくれた。昨日のことをまるで忘れたみたいに。
このいいようのない胸のもやもやアタシだけの感覚なんだな。
いつも登校風景も、アタシは少しだけ彼女から離れて歩いた。
「昨日はごめんね」
アタシはポツリと呟いた。
「気にしないで下さい」
彼女は笑いながら言った。
その顔を見て、アタシは胸のドキドキが止まらなかった。
アタシ・・・おかしくなってしまったのかな?
- 407 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:51
- 学校に着いて、アタシは彼女のことずっと考えながら
教室に向かっていた。
「おーい、真希。おはよー・・・って真希!前危ないよ」
気づいた時は目の前は壁。アタシは頭をぶつけてその場に倒れこんだ。
「アイタタタ・・・」
「ちょっと、真希大丈夫?」
「うーん、なんとか・・・。美貴もうちょっと早く声かけてよね」
「はぁ?美貴は何度呼んだはずだよ。それなのに真希たら聞かないんだもん」
「本当に?」
美貴は何度も頷いた。「ボーッとしすぎたよ」そう言って教室に入っていた。
でもこれだけじゃなかった。その後は壁に2回も激突して階段も3回踏み外した
さらには4回も転んでしまい、もうアタシは傷だらけといってもといっていい状態。
本当に今日のアタシはおかしい。なんでかな考えても思いあたるものはない。
- 408 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:52
- その日の学校の帰り道は美貴が着いてきた。理由は言うまでもなくアタシのことを
心配して途中まで着いてきた。その方がいいかもしれない。
このままだったら事故にもあってしまうかもしれないし、何が起こるかわからない。
「今日の真希おかしいよ。熱でもあるんじゃない」
そう言ってアタシの額を触ってきた。
「別にアタシは元気だよ。いつも通りだし」
「どこがいつも通りなのよ?」
美貴に突っ込まれアタシは何も言えなかった。
「おっあれ、あさ美ちゃんじゃん」
美貴の言葉にアタシは後を振り返った。
高橋と一緒に歩いている彼女がいた。
「真希さんと藤本さんも今お帰りですか?」
「うん、そうだよ」
答えたのは美貴の方だった。
- 409 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:52
- 「後藤さん、足どうしたんですか?」
高橋がアタシの足元に気づいたらしい。
そりゃそうだろう。湿布と包帯だらけの足を見れば
誰だって聞いてくる。
「それがね。壁に激突しまくり、階段も何回か落ちて転びまくったからね」
「えっ!!真希さん大丈夫なんですか?」
それを聞いて彼女がアタシのもとに駆け寄ってきた。
「大丈夫みたいだよ。頭だけは打ってないみたいだし」
美貴の言葉に彼女はホッと胸をなでおろした。
「転んだ時はちょっと笑っちゃったよ。パンツ丸見えだったし」
「美貴、余計なこと言わないで・・・恥ずかしいから」
「ごめんごめん。じゃあ後はあさ美ちゃんに真希のこと頼もうかな」
「はい。いいですよ」
彼女は即答した。でも彼女の言葉に高橋は戸惑った顔をしていた。
- 410 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:53
- 「ごめん愛ちゃん、真希さんこと心配だから一緒に帰るね」
「あ・・・そう。仕方ないね。じゃあバイバイ」
高橋はなんだか寂しそうに帰っていた。その後すぐに美貴も帰っていた。
アタシと彼女はゆっくりと家に帰ることにした。
でもアタシはまた変な気分のになった。それは彼女といる時に限ってそうなる。
どうしてこうなるんだろう。わからないよ・・・。今までこんなことなかったのに。
彼女は心配そうにアタシの隣をゆっくりと歩いている。
そんなことを考えているうちにアタシの足がふらついてしまった。
「危ない!」
彼女がアタシの手をギュッと掴んだ。温かい温もりだ。
「大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
胸の高鳴りが強くなった気がした。一体なんなの?この気持ちは。
- 411 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:53
- この気持ちはすぐに消えるだろう。そう思っていた。
けど、3日立っても消えなかった。不思議なことに胸の高鳴りは
彼女といるだけに起こっていた。美貴や裕ちゃん、いちーちゃんといる時には
そんな気持ちにはならない。でも彼女と一緒に途端にその胸は高鳴っていく。
次第に慣れていくだろうとアタシは気に止めなかった。
そんなある日の昼休みのことだった。アタシは教室の窓からぼんやりと空を眺めていた。
時よりため息をついては空を眺める。彼女の真似をして空を見る。
なんだかからっぽな気持ちになるだけだった。
- 412 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:54
- 「後藤さん」
クラスメイトの一人に呼ばれて振り返った。
「後藤さんに話があるって人が来ているよ」
そう言われて、廊下の方を見た。見知らぬ女の子が立っていた。
目が合うとその子は軽く頭を下げた。
「わかった。今行く」
アタシはクラスメイトにお礼を言って、その子の元へと向かった。
「アタシに話があるってあなたのこと?」
「うん、そう」
「話ってなにかな?」
「ここじゃ嫌だから。屋上行こうか」
アタシは屋上に向かう途中、ずっと考えていた。
話ってなんだろう。この子とは面識もまったくない。
- 413 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:55
- その子の特徴は色黒で声はなんだかアニメのキャラクターみたいな感じ。
いかにも美少女という顔立ちをしている。
そんな風にしてその子を観察しているうちに屋上に着いた。
秋の風が心地よく吹いて、その子の髪の毛を揺らしていた。
「今日はいい天気だね」
「そうだね」
アタシはなんて答えたらいいかわからないからからただ相槌を打った。
「後藤真希さん。今日は話があってあなたのことを呼び出しの」
その子はアタシと向き合って軽く咳払いをした。
「ワタシと付き合ってくれない?」
それは驚きの言葉だった・・・。
- 414 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:55
-
- 415 名前:キミの青空になる 投稿日:2005/12/26(月) 14:55
-
- 416 名前:ヒガン 投稿日:2005/12/26(月) 14:59
- 本日はここまで。年内最後の更新です。
年内で終わらせる予定だったのに年を越してしまいます(泣)
さてさて来年もよろしくお願いします。
- 417 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/26(月) 23:48
- 更新お疲れ様です。
後藤さんとあさ美ちゃんの関係も気になりますが、
藤本さんも気になります…
楽しみにしてるので来年もがんばってください。
- 418 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:24
-
14――――
- 419 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:25
- 「ごめん・・・もう1回言ってくるかな?」
アタシはいまいち状況が理解できなかった。
聞き間違いかもしれないから、もう1回聞こう。
「ワタシと付き合ってください」
聞き間違いじゃなかった。確かに付き合ってと言った。
「それってどういうこと?」
「恋人同士になろうってことよ」
「んあー!」
状況を理解して、つい大きな声を出してしまった。
つまりはこれは告白だ。アタシは突然のことでどうしたらいいか
わからなかった。
「ワタシね1年生のときから後藤さんの事ずっと気になっていた。
高校生活も残り少ないし、悔いのないようにしたいから、告白するなら今って思ったんだ」
微笑みながら言う。でもアタシはただ黙って聞くことしかできなかった。
- 420 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:26
- 「ワタシは後藤真希さんのことが好きです」
「ちょ、ちょっと待って。そんなの突然言われても困る」
「そりゃそうだよね。こうやって話すのも初めてだしね」
戸惑うアタシをなんとも思ってないよな答え方、完全にこの子のペースに
飲まれていきそう。
「ごめん、まだワタシ名前言ってなかったね。ワタシは石川梨華。よろしくね」
石川さんはいかにも美少女って感じの笑顔になった。
「よ・・・よろしく」
「さて話は戻るけど、どう?」
「どうって言われても・・・」
すぐに答えを出せというのも無理な話、簡単に決められる訳がない。
石川さんは腕を組んで何かを考えているようだった。
「じゃあ、こうしよう」
どんなことを言うんだろうか?アタシはゴクリと息を飲んだ。
「ワタシとデートをしよう」
- 421 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:26
- またも驚くようなこと言う石川さん。そんなアタシを無視して
構わず喋りつづけた。
「お互いのことよく知ったほうがいいと思うし、いろいろ話を聞いてみたい
後藤さんの急に言われて答えもなかなか出ないから、デートしましょう。
どうするかは後藤さんに任せるわ。これでいいよね?」
強引ではあるけど、アタシは断るのも悪いと思ったから、石川さんの意見を
受け入れた。それから携帯番号を交換しようといって自分の携帯電話を取り出した。
石川さんのストラップは小さなピンク色のサーフボードの形をしたもの。
好きな色はピンクのようだ。そう言えば彼女もピンクの色好きだったような気がする。
そんなことを思い出していた。番号の交換をした後、デートの日にちを決めた。
今度の土曜日にすることにした。最近のアタシはなんかおかしいから、気分転換しよう。
- 422 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:27
- 「じゃあ、土曜日楽しみにしてるね」
石川さんはそう言って、嬉しそうに屋上から出て行った。
取り残されたアタシはぼう然と立ち尽くしていた。
デートか・・・あんまりデートなんてしたことないからよくわからない。
どうすればいいんだろう。アタシは深いため息をつい屋上を出た。
誰かに相談しようかな。そんなことを考えながら教室に戻った。
「真希どうした?」
美貴に相談しようかな・・・と思ったがやめておこう。
なにを言われるからない、絶対冷やかしてくるに違いない。
「なんでもないよ」
「そう、ならいいけど」
となるといちーちゃんかな。いちーちゃんならなんでも話そうな気がする。
いやいちーちゃんもこういう話すると、勝手なことを言いそうだ。
- 423 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:28
- じゃあ裕ちゃんに・・・いやダメダメ。逆に怒らせてしまいそうだ。
それなら高橋あたりはどうだろか、後輩に相談することじゃないし・・・。
ふと彼女の顔が思い浮かんだ。なんでこんな時の思い出すんだろう。
彼女に相談するのか・・・。これもあまり気が進まないし、彼女にわかるだろうか。
いろいろ悩んでみたが、自分で考えるしかない。これはアタシ自身の問題だし。
当たって砕けろって感じでやってみるか。アタシは誰にも気合いを入れた。
そして・・・その日はすぐにやってきた。
- 424 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:28
- 土曜日、アタシは早く起きて、お弁当の準備をしていた。
やっぱり必要だよねお弁当は。しかし気かづいたらアタシも
なんだかその気になっていた。思わず笑ってしまう。
「おはようございます。真希さんお出かけですか?」
「おはよう。うんちょっと遊びに行って来る」
「そうですか。気をつけてくださいね」
「うん、わかった。お弁当余分に作ったから食べてね。この前のお礼」
「ありがとうございます。ところで今日はどちらへ?」
なんて言えばいいんだろう。素直にデートとは言えないし・・・。
「ちょっと天気もいいからお弁当持って出かけようかと思ってね」
「2人分ありますけど、藤本さんとですか?」
「そうだよ」
アタシはウソをついた。気づかれるといけないからアタシは目をそらした。
- 425 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:29
- そして時間が来たので、アタシは家を出ることにした。
「真希さん、いってらっしゃい」
玄関で彼女が笑顔で送ってくれた。
「行って来ます」
アタシはゆっくりと歩き出した。お弁当の入った鞄をしっかりと抱えて
駅に向かった。集合時間は9時。時間は結構余っているからゆっくりと歩いた。
胸の中は緊張と不安でいっぱいだ。生まれて初めてのデート。こんなに緊張する
ものなんだ。アタシは無理やり笑顔を作って必死で緊張を押えようとしていた。
しかし、今日はどこに行くかわからない。今朝、石川さんから届いたメールには
『とりあえず駅に来て』と書いてあった。
石川さんはよくわからいな子だ。どうしてアタシなんかに告白したんだろう。
駅に向かうバスの中ずっとそれを考えていた。
- 426 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:30
- 駅に着くと石川さんはまだ来ていなかった。待ち合わせ時間までにはあと10分ほど
あるから当然だろう。アタシはベンチに腰をおろして石川さんを待っていた。
アタシは人の流れを見たり、時より空を眺めたりして時間を潰していた。
ため息共に携帯電話の時計を確認した。気づいたら待ち合わせ時間から5分ほど
過ぎていた。それなのに石川さんはまだ来ない。アタシは当たりを見回した。
待ち合わせ場所はここでいいんだよね。なんて不安になったその時だった。
交差点の向こうからこっちに向かって走って来る石川さんが目に飛び込んできた。
そして、信号が青に変わった。アタシも石川さんに元へ駆け寄っていた。
「ごめんなさーい。遅れちゃった」
「いいよ。気にしなくて」
アタシはお決まりのような言葉で返した。
「さあ、早速行こうか」
そう言って、石川さんは歩き出した。アタシはただそれに着いて行くだけだった。
- 427 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:30
- 電車の中で今日の予定を聞かされた。まず水族館に行く。その後はお弁当。
アタシはお弁当を作ってきたことを話すとすごく喜んでいた。
石川さんは「ワタシの作るお弁当は危険だから。作らなかった」と言っていた。
一体どういうお弁当なんだろうか。それはそれですごく気になった。
そして、公園をブラブラと歩いて、最後は石川さんの自宅へと行く。
こんなデートプラン。石川さんはこれを徹夜して考えていたため遅刻したと言う。
アタシはよくわからないから、今日はすべて石川さんに任せよう。
石川さんはウキウキしながら、アタシはダラダラと歩きながら駅の中へと入っていた。
最初に向かう先は水族館。ここから一駅離れた所にある。
この街ではかなり大きな水族館で、週末ともなればたくさんの人で賑わう。
今日は土曜日だから、たくさん人がいるだろう。
- 428 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:31
- 電車の中では会話もなく、アタシはぼんやりとしていた。
「ねえ、デートなんだから会話しないと」
石川さんはそう言うけど、なにを話していいかわからない。
アタシはこういうのは全然ダメ。石川さんはそっとアタシの手を握ってきた。
「緊張してるみたいだね。でも大丈夫だよ。だってワタシがいるんだもん」
あまり説得力のない言葉。アタシはどうも石川さんのことがよくわからない。
石川さんはニッコリと微笑んでいた。
「着いたね、行こうか」
そう言って石川さんはアタシの腕を掴んできた。
「これでデートらしくなったね」
「そうだね・・・石川さん」
「ねえ、名前で呼んでよ」
「じゃあ・・・梨華ちゃん」
そう呼ばれた梨華ちゃんは満足げな顔になった。
「さあ、行こうよ真希ちゃん」
そして、アタシ達はゆっくりと歩き出した。
- 429 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:32
- 水族館に着くと、たくさんの人がいた。
隣では梨華ちゃんの楽しそうな鼻歌が聞こえてきた。
でも・・・その鼻歌は少しだけ音程が外れていた。
アタシは思わず苦笑いになってしまう。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。行こうか」
そう言ってアタシ達は建物の中へと入っていた。
予想通り人は多かった。特に多かったのはカップルだった。
もちろんアタシ達のように女の子同士なんてどこにもいない。
周りにはどんな風に写っているんだろうか・・・それが今一番気になっている。
隣の梨華ちゃんはそんなことも気にせずに笑っていた。
梨華ちゃん、キミは一体何を考えているの?
人と付き合うってどういう気持ちなんなのかずっと考えていた。
でも答えなんてない。水槽の中の魚達はたくさん群れを作って泳いでいた。
この魚達は一体なにを思って泳いでいるんだろうか
- 430 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:32
- 「どうしたの?元気ないじゃん」
「そうかな?アタシは元気だよ」
本当はそうじゃないんだけど。強がりを言ってみた。
「ならいいけど。さあ次に行こう」
梨華ちゃんはアタシの腕を引っ張って再び歩きはじめた。
楽しそうな顔をする梨華ちゃん。でもアタシはそういう気分じゃない。
水槽の前で魚をじっと見つめている梨華ちゃん。その姿を青空を見上げている
彼女と照らし合わせてしまった。また彼女のことを思い出す、最近じゃこういうことが
多くなってきた。あの不意にしてしまったキス。今ではまもとに彼女の顔さえ
見れなくなってきた。考えるのはやるようと思っても、この感情は生まれてくる。
「ねえ、真希ちゃんは今好きな人いないの?」
「好きな人か・・・今はいないよ。何突然そんなこと聞いたりして」
「ただ、聞きたかっただけ」
好きな人か、今までそんなこと考えたこともなかった。
アタシははよくわからない。人を好きになることがどういうことなのか
梨華ちゃんしたってそうだ。どうしてアタシを好きになったのか。それが
アタシには不思議で仕方なかった。
- 431 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:33
- それからアタシたちは、ペンギンとか海亀とか見たりして楽しんでいた。
そしてイルカのショーを見終わった跡、時間はお昼の時間になった。
アタシたちはお弁当を食べようと思って、水族館の近くにある。
芝生に腰をおろして昼食をとる。お弁当箱のフタを開けた。
「すごーい。これ真希ちゃんが作ったの?」
「うん、そうだよ」
「ふーん。じゃあ料理は得意なんだ」
「まあね。家事1人でこなしてと時もあったし」
アタシがそう言うと梨華ちゃんは感心した表情でアタシを見ていた。
- 432 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:34
- 二人でお弁当を食べ始める。あたしは気になることがあった。
それはここに来る前に梨華ちゃんは自分のお弁当は危険って言ってたこと。
アタシは思い切って聞いてみた。
「ねぇ梨華ちゃん、さっきさ言ってたことなんだけど、
梨華ちゃんが作るお弁当が危険ってどういう意味?」
「知りたい?」
アタシは一瞬迷った。けどすぐ頷いた。
「実はね、ワタシの作るものってなぜだが、トイレの味がするらしいのよ。
親戚の子に言われてすごいショックだった。それ以来は料理は作ってないの」
トイレの味とは、一体どんなものだろうか、あたしには想像すらできなかった。
「真希ちゃんは何も気にすることはないんだよ」
梨華ちゃん笑って言う確かにそうだ。
梨華ちゃんは美味しそうにお弁当食べていた。
「真希ちゃん、わたしに料理教えてよ。真希ちゃんみたいに
こんな美味しいもの作りたいねぇいいでしょ?」
「いいよ」
「本当に?やったー」
梨華ちゃんは、ものすごく喜んでいた。教えるのは、慣れ始めたところだ。
しかし梨華ちゃんは彼女のようにうまく覚えてくれるだろうか。
今日見る限りではとてもやっていけない気がする。
- 433 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:35
- お弁当も食べ終わり、次の場所に向かうことにした。梨華ちゃんに全て任せているため
アタシはついて行くだけ。紅葉で紅く色づきはじめた公園の並木道を二人で歩く。
今日カメラを持ってくればと後悔するくらいに綺麗な景色。そして、真っ青に染まっている空。
彼女が見たらきっと喜ぶだろう。そういえばここ最近はずっと彼女がアタシの隣いたんだ。
でも今日は別の人が隣にいる。アタシは梨華ちゃんと付き合うのかどうかまだ答えは出ない。
梨華ちゃんはもう本気のようだが、もし付き合うことにしてもアタシの気持ちは中途半端に
なってしまいそうだ。隣の梨華ちゃんは相変わらず音程の外れた鼻歌を歌っていた。
でも、その鼻唄も聴き慣れてきた。
鼻唄を聞いてると梨華ちゃんは、不思議そうな顔してアタシを見ていた。
- 434 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:36
- 「なんか、真希ちゃんって変わった子だよねコロコロと表情が
よく変わったりして、時々何考えているんだろうって思う時があるよ」
よく言われたことだ。昔からアタシはそういう性格みたい。
あんたは他の人とは違うね。美貴にこう言われたこともある。
人ってみんなそういうものじゃないのかな?アタシだけが特別なのかな。
そんな訳ないじゃんって自分にいい聞かせていた。
「でもね、それが真希ちゃんの個性なんだよ。ワタシはそう思ってる」
人それぞれ個性があるそれはアタシでもわかる。
黙るアタシ構わず、梨華ちゃんは続けた。
「わたしね、人からキショイって言われるの、それはワタシも十分
わかっているつもり、だってさこんなキャラだもん。そう思われて当然だよね」
嫌なこと言われているのに、どうして笑っていられるのかな
もしかしてこれが梨華ちゃんの個性なのかな。
アタシから見れば梨華ちゃんのほうが変わっていると思う。
アタシに告白してきたのそうだし、その前向きな考え方とか、とにかく変わっている。
よく考えて見たら、彼女だって変わっている。
いつも青空を眺めている彼女は決まって笑顔だ。アタシは未だに気持ちがわからない。
彼女の真似しても、アタシはアタシのまま、心は癒されいくことはない。
- 435 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:37
- そんなこと考えていたら、あることに気づいた。
アタシ、また彼女のこと考えていた。
やめようと思っても彼女のことを考えてしまう。この気持ちは一体なんなの?
もうわからない・・・。
ふと、見上げた空はアタシの心をほんの少しだけ癒さしてくれた。
「それだよ」
「なに、急に」
「真希ちゃんに足りないもの。笑顔だよ。今空を見上げて笑ったよね。その顔すごくいいよ」
アタシはもう一度空を見上げた。でも、さっきに気持ちにはならなかった。
一瞬だけど青空に癒された。アタシその気持ちを忘れないでおこうと思った。
アタシ達は少し休もうと思って二人でベンチに座った。
今日、梨華ちゃんと一緒に過ごしてみた印象は面白いし退屈はしない。
でも、付き合うかどうかの答えはまだ出ない。胸に引っ掛かる何が気になるから
梨華ちゃんにこの気持ちがわかるだろうか?
- 436 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:37
- アタシは隣の梨華ちゃんを見た。
「どうしたの?」
「なんでもない」
「そう、ならいいけど。そろそろ行こうか」
そう言って梨華ちゃんは立ち上がった。
アタシは手を引っ張られてまた歩き始めた。
まだまだデートは終わらない。梨華ちゃんの顔を見てそう確信した。
アタシもなんだか楽しくなってきた。何か忘れるように早足になる。
「ちょっと、真希ちゃん早いよ」
「ごめんごめん」
今はとりあえず笑っておこう。かなり無理して笑ってるから、
変顔になっているかもしれないけど、とにかく笑っておくことにした。
そんなアタシを見て、梨華ちゃんは笑っていた。
どれくらい歩いたのかわからないけど、気づいたら駅に着いていた。
次は梨華ちゃんの家に行くことになってたんだっけ。
- 437 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:38
- 電車に乗っても梨華ちゃんはずっとアタシの手を握ったままだった。
アタシは窓の風景をずっと眺めていた。海はいつ見ても綺麗な色をしている。
ガタガタと揺れている車内、見渡せばアタシ達含めて乗客は5.6人程度しかいなかった。
「好きな人が優しかった」と歌う梨華ちゃん。もうお決まりのBGMになりつつある。
本当に梨華ちゃんは変わった子だ。でもそこが梨華ちゃんのいいところなのかな。
それから電車は駅に着いた。改札を出るとゆっくりと梨華ちゃんの家へと向かった。
場所はアタシ達の家とは逆方向であの海岸から少し離れた所にあるらしい。
しかし、なんでデートプランに梨華ちゃんの家が入っているんだろう。それは謎なところだ。
まあ、いいか。今日は楽しい1日になってるし。
- 438 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:39
- 街の風景はいろんなお店が増えてきた。
「ワタシの家はここだよ」
そう言って見上げると少し派手な店の前に立っていた。
「えっここ?」
「そうだよ。ここがワタシの家」
そこはサーフショップだった。たくさんのサーフボードとかウエットスーツとか
ダイバー用の酸素ボンベなんかが並んでいた。
店の名前は「サーフショップ 美勇伝」。外観とは少しかけ離れた店の名前だ。
「さあ、入ってよ」
店内に入るとリズムのいい音楽が流れていた。すっかり秋だというのに
ここはまだ夏のようだった。ここはサーファー達では有名な店だと聞いたことが
あった。まさか梨華ちゃんがここの店の子だとは思わなかった。
「梨華ちゃん、お帰り」
掃除をしていた店員の1人が梨華ちゃんに声を掛けた。
「絵梨香ちゃん、ただいま。今一人?」
「いえ、店長いますよ」
「えっマジ?パパいるの・・・。まいったな・・・」
なんだか梨華ちゃんは嫌な顔をしていた。
- 439 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:39
- 「ねえ、梨華ちゃん。後の子は梨華ちゃんの友達?」
「まあ、そんなところ。紹介するね後藤真希ちゃんって言うの」
梨華ちゃんに紹介されて軽く会釈だけした。
「あたし、三好絵梨香。梨華ちゃんのお店でバイトしてまーす。よろしくね」
「ワタシ達と同じ高校に通ってるんだよ。ワタシと同じクラスなんだ」
「そうなんだ。でも・・・うちの高校ってバイト禁止のはずじゃ」
「もちろん・・・高校には内緒だよ」
三好さんは人さし指を自分の唇を当てて言った。
「それでパパは?」
「今は物置にいると思うよ」
「よし、じゃあ見つからない今のうちに行こう」
見つかるといけないことでもあるのだろうか。アタシは訳がわらなかった。
- 440 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:40
- 梨華ちゃんは足早に店を出ようとした。
自動ドアが開く音がした。
派手なアロハシャツにサングラスという格好をした男の人が入ってきた。
「なんだ梨華、帰ってたのか」
男の人がそう言うと梨華ちゃんは罰の悪そうな顔をした。
どうやらこの人は梨華ちゃんのお父さんのようだ。
さっきから話を聞いているとなんだかお父さんを避けているみたい。
「君は梨華の友達かな?」
「はい、初めまして後藤真希です」
「どうも、梨華の父です。よろしく」
サングラスを外して、アタシに握手を求めてきた。
戸惑いながらもアタシは握手に答えた。
なんだかとても陽気そうな人だ。
この人が梨華ちゃんのお父さんというのも納得できる。
梨華ちゃんのお父さんはいかにも海の男って感じがする。
「ちょっと!パパいつまで手握ってんのよ」
- 441 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:41
- 「すまんすまん。梨華そんなに怒るなよ」
「もう。真希ちゃん行こう」
アタシは梨華ちゃんに手を引っ張られて店を出た。
「ごめんね。迷惑かけちゃて」
「迷惑だなんて思ってないよ。面白いお父さんじゃん」
「そうでもないよ。あんな感じだから、女性客があんまり来ないのよ。
ワタシが文句言ってもダメ。二言目には商売だからって言うのよね。
なんとかならないかな、あの性格」
こうは言ってる梨華ちゃんだけど、本当はお父さんのことが
好きなんだと思う。なんとなくそれはわかる。
- 442 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:41
- 外へ出て、店の裏側に行くとガレージ見えてきた。
梨華ちゃんの話によると、そこは店の在庫を置く物置になってるらしい。
もうひとつガレージがあった。そこは家専用で車が何台か停めてあった。
サーフショップだけあってサーフボードも何枚か立掛けてあった。
特に一番目立っているのは、ピンクのサーフボードだ。
「あのサーフボードは梨華ちゃんの?」
「うん、そうだよ」
「へぇー、梨華ちゃんもサーフィンやるんだ」
「一応、サーフショップの娘だからね」
「じゃあ、結構長いんだ」
「五歳ぐらいから、やってるの。パパに教えてもらってね。
覚えちゃえば楽しいよサーフィンって」
梨華ちゃんの意外な趣味。これにはちょっと驚いた。
人は見掛けによらないというのは本当なんだな。
アタシな感心していた。
- 443 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:42
- 家の玄関の前に着くと梨華ちゃんはドアをゆっくりと開けた。
広い敷地に店とガレージが二軒そしてこの家
もしかして梨華ちゃんの家って結構お金もちなのかな。
「ただいま」
「あら、おかえり」
そう言いながら階段を降りてきたのは、梨華ちゃんのお母さんのようだ。
陽気そうなお父さん違って、なんだか優しそうな人。
アタシと目が合うとニコッ笑ってくれた。
「あら、初めて見る子ね」
「初めましてアタシ、後藤真希と言います」
「初めまして、梨華の母です」
挨拶を終えると、梨華ちゃんはキッチンへ向かおうとした。
「真希ちゃん、先にワタシの部屋に行ってて階段上がって、すぐだから」
アタシは言われるがままに階段を上がろうとした。
「後藤さん、ごめんなさいね。梨華慌ただしい子で」
「いえ、そんなことないです。梨華ちゃんと一緒にいると楽しいです」
「そう、ならいいのよ。あの子は父親に似て
結構バカやる時があるけど、その時は叱ってやってね」
「はい、わかりました」
- 444 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:43
- そう言って梨華ちゃんのお母さんはキッチンの方へと向かった。
やっぱり思ったとおりの人だな。梨華ちゃんは両親に愛されてる。
アタシは笑いながら、階段を上がった。
梨華ちゃんの部屋はすぐにわかった。
だってドアのプレートにアルファベットで「RIKA」と書いてあったから。
ドアを開けると、女の子らしい部屋がそこにあった。
かわいいぬいぐるみがあったり、アイドルのポスターが貼って
あったりでとにかく女の子らしい。
特に目を引くのがベッドのカバーからカーテンがピンクであること。
梨華ちゃんは相当なピンク好きなんだ。
写真で埋めつくされたアタシの部屋とは大違いだなと、
苦笑いしながら部屋を見回した。外の風景を見れば、海が間近に見える。
梨華ちゃんはいつもあの海でサーフィンをしているのだろう。
そんなことを思っていると、梨華ちゃんがクッキーと紅茶を持ってきた
- 445 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:44
- 「はい、お待たせ。真希ちゃん座りなよ」
梨華ちゃん促されてアタシは腰をおろした。
「すごいね、このピンクの部屋」
「ワタシ、ピンクが大好きなんだ。なんかこの色見ると落ち着くの」
アタシにはわからないけど、きっとカメラを持って時のアタシと同じことだろう。
それから梨華ちゃんと他愛のないおしゃべりを楽しんでいた。
アタシが話をしていると梨華ちゃんは真剣に耳を傾けていた。
「ところでさ、真希ちゃんの趣味ってなに?」
「趣味はカメラだよ。好きなんだ写真を撮るのが」
「へぇー、カメラか。そういえばよく海岸でカメラを持った真希ちゃんを見たな」
気づかないところで逢っていたなんて、不思議な話。
でもこうやって2人で話すなんて思っても見なかった。
- 446 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:45
- 「見たいな、真希ちゃんの撮った写真」
あいにく今日はカメラを持っていない、カバンの中にもないと思う
でも一応探してみた。運のいいことに写真の入った袋が二つ入っていた。
多分、旅行の時の写真だろう。家族で撮った写真と風景の写真をあらかじめ
分けておいた。アタシは梨華ちゃんに風景の写真が入った袋を渡した。
写真を受け取った梨華ちゃんは熱心に1枚1枚写真を見ていた。
「真希ちゃんは風景専門なんだね」
「うん、そうなんだ」
そして再び梨華ちゃんは再び写真に目を向けた。
しばらく見ていると梨華ちゃんの手が止まった。
どうしたのかな?なんか変なものでも写っていたのかなと思い
覗き込んだ写真ゃ見た。
「あっ・・・」
思わず声が出た。それは彼女の写真だった。
見られたくないから風景の写真と混ぜておいたのを忘れていた。
- 447 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:45
- 「ねえ、この子誰なの?」
「妹だよ」
「あれ?妹さんなんていたんだ」
「妹っていっても義理だよ。最近お父さんが再婚してね。その人の連れ子」
「そうなんだ」
そう言うと梨華ちゃんは彼女をじっと見つめていた。
アタシも写真の中の彼女を見つめてると、なんだが頬がゆるくなってきた
「妹さんはどんな子なの?」
「頭が良くて運動もよく出来て食いしん坊で喜怒哀楽が激しいんだ
その中でもあの子の笑顔が一番かな。本当に一緒にいるとこっちまで嬉しくなる」
アタシは喋りつづけた。例えるならダムの水が溢れ出るように彼女のこと話した。
「名前はあさ美って言ってね。ちょっと変わった子なんだ。青空を眺めるのが好きで
暇さえあれば、青空を見ている。アタシはよくわからないけどね」
梨華ちゃんの表情が変わった気がした。でも構わずアタシは喋りつづけた。
- 448 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:46
- 「初めて出会ったときもそうだった。あの子は青空を見ていた。あれは運命かも
って思った。2度目に出会ったときには妹してアタシの前に現れたんだ」
もうアタシは止まらない。自分自身でもよくわからないけどとにかく話しつづけていた。
「最初はとても恥ずかしがり屋で、アタシと一緒に歩くのに離れて歩いていた。
でも最近じゃそんなことはなくなった。それ見て変わったなって思ったよ」
梨華ちゃんはただ相槌を打つだけで話について来れないようだった。
しかし、アタシはそんなことも気にせずただ喋っていた。
「あさ美はとても優しい子だよ。あの言葉も心に残るんだよね。
そしてアタシの作るオムライスが大好物で、いつも夢中で食べるんだ」
今までのことを思い出しながら、梨華ちゃんに彼女のことを話していた。
気がついたら空は夕焼けに染まっていた。アタシはどれくらい喋っていたのかな
時間も忘れて話していた。
- 449 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:47
- 「もう・・・日が暮れるよ。そろそろ帰らなくていいの?」
梨華ちゃんにそう言われて、部屋の時計を見た。
「あっ本当だ。帰らなきゃ」
アタシは梨華ちゃんの両親に挨拶がしていきたいと言ったので
再び店に戻ることにした。梨華ちゃんの表情は昼とは一転して
浮かない顔をしていた。きっと寂しいのかもしれない。
店に戻ると三好さんと梨華ちゃんのお父さんがなにやら話していた。
「ちょっとパパ。なにやってるの?」
「おまえの新しいグッズが出来たんだよ」
梨華ちゃんは眉をひそめながら、そのグッズを手にとった。
「携帯ストラップに続く第2弾は、波乗りチャーミーキーホルダーだ」
「もうまたこんなもの作って・・・。いい加減娘を商売の道具に使うのやめてよ」
波乗りチャーミー?あの有名な女子高生サーファーのことか。
ということは梨華ちゃんがあの波乗りチャーミーってこと。まさかね・・・
「ねえ・・・梨華ちゃんがあの波乗りチャーミーなの?」
「うん、そうだよ」
- 450 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:48
- これはまた驚いた。今まで全然気づかなかった。そういえば梨華ちゃんの
サーフボードはピンクだったけ。そして波乗りチャーミーのボードもピンク
だった。梨華ちゃんは呆れた表情でキーホルダーを眺めていた。
「でもねワタシはそう言われるのがあんまり好きじゃないんだ
ただ人よりサーフィンが上手かっただけなのに、パパたら勝手にこんな
名前つけて商売までしちゃうだもん」
梨華ちゃんは悲しげな表情で言った。それ聞いたお父さんもなんだかションボリ
していた。
「確かに店長は、ちょっとやり過ぎなところもあるけど。全部梨華ちゃんのためだよ。
作ったはいいけどあんまり売れなくって赤字になるのは困るけどね」
三好さんに最後は痛い所をつかれたお父さんは苦笑いをしていた。
「これお土産として持っていきな」
そう言って渡されたのが携帯ストラップとキーホルダー。ストラップは梨華ちゃんが
していたものと同じもの。
「ありがとうございます」
アタシはそれをカバンの中にしまった。
- 451 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:49
- 「でもさ、パパこれからはグッズ作る時はワタシに言ってよね
ワタシだってパパに少しは協力したいんだから」
梨華ちゃんそう言うとお父さんは納得したように頷いていた。
「それじゃあ、アタシはこれで失礼します」
アタシは頭を下げて店を出ようとした。
「待って真希ちゃん、送っていくよ」
店を出て途中まで梨華ちゃんと一緒に歩いた。
「真希ちゃん、今日は付き合ってくれてありがとう。楽しかったよ」
「アタシも楽しかったよ」
「付き合う話なんだけど。少し待ってくれないかな?考えたいことが出来たから」
「うん・・・いいけど」
どうしたんだろう。梨華ちゃんの様子が変になった。
「じゃあ月曜日まで待ってほしい」
梨華ちゃんはそれだけ告げて、店の方へと帰っていた。
- 452 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:49
- その後ろ姿を見送った後、アタシは夕日を見ながら家へと帰った。
その途中で彼女と逢った。
「真希さん、お帰りなさい」
「ただいま。またあの海岸に行ってたの?」
「はい、青空を見てたらこんな時間になってしまって」
彼女の青空好きは本当に頭が下がる。ここまで熱心に見れるなんて
すごいと思う。
「真希さんは今日はどうしでした?」
「うん、すごく楽しかったよ」
「よかったですね」
彼女の微笑みを見て、アタシも笑った。
彼女と一緒に家へと帰る。アタシにはまだあの不思議な気持ちが
張り付いたままだけど、この気持ちにも慣れてきそうだ。
- 453 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:50
- 月曜日になった。いつも通りの変わらない日々だ。
いつもように彼女と学校へ向かう。
すべてがいつも通りに進んでいく。当たり前のように。
自分の教室に向かう途中、廊下で梨華ちゃんと会った。
「おはよう。真希ちゃん」
「梨華ちゃん、おはよう」
「昼休みに屋上に来てね。話したいことがあるから」
「うん、わかった」
そう言って互いの教室に入った。アタシは梨華ちゃんの話を断ろうと思う。
理由は簡単だ。中途半端な気持ちだから、とても付き合えない。
よく話し合ってわかってもらうおう。梨華ちゃんならきっとわかってもらえる
- 454 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:51
- そして昼休みになった。アタシは約束どおりに屋上に向かった。
一歩一歩階段上がって、自分の気持ちをどう言うか考えていた。
屋上に出ると梨華ちゃんは手すりに手を置いて校庭を見ていた。
「梨華ちゃん」
そう呼びかけて振り返った梨華ちゃんに顔に笑顔はなかった。
アタシはその表情に思わず戸惑った。この前とはまったく違う顔。
「真希ちゃん、あのさ・・・付き合って話だけど、なかったことして」
えっ・・・?思いもしない梨華ちゃんの一言。どういう心境の変化だろうか。
「どうしてなの?」
断ろうと思っていた矢先、梨華ちゃんからこんなことを言ってくるとは思わなかった
アタシは思わず梨華ちゃんに問い掛けた。
「なんて言うのかな・・・真希ちゃんはワタシが思っているような人じゃなかった」
それはどういう意味たろうか。アタシなにかしたの?心当たりはない。
「でもね、あなたとは友達でいたい。そういうわけでこれから友達として
よろしくね。真希ちゃん」
そう言って笑顔で梨華ちゃんは去っていた。
- 455 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:51
- 屋上に取り残されたアタシ、訳がわからない。
一体どういうことなんだろう。
「早く気づけばいいのに、自分の気持ちに」
階段をゆっくりと降りる梨華ちゃんがこんなこと呟いているなんて
この時のアタシは知る由もなかった。ましてや言葉の意味さえもわからなかった。
梨華ちゃんはアタシがまだ知らないなにかを感じとったんだと思う。
その意味を知るのはもう少し後になってからのこと。
- 456 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:52
- それからのアタシの日々は、平穏という訳ではないけれど
ごく普通に過ごしていた。梨華ちゃんも普通に接してくる。
友達としての付き合いが始まったようだ。
でも、そんな日々も長く続かない。梨華ちゃんのあの告白から
ちょうど一週間たった日のことだ。
アタシはいつもと違い、校庭にいた。別に意味はない。
ただ気まぐれだ。ベンチに座ってグラウンドで遊ぶ学生達を見ていた。
「後藤さん」
突然、声を掛けられて振り返るとそこにいたのは高橋だった。
「高橋じゃん。どうかしたの?」
「はい、ちょっとお話があります」
いつもと違う。どこか違う。前にもこんなことがあったような感じ。
「私、あさ美ちゃんのことが好きになったみたいです。どうしたらいいですか?」
またも驚くのような一言を高橋は言ってきた。アタシはその場で固まった。
- 457 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:53
-
- 458 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/01/30(月) 09:53
-
- 459 名前:ヒガン 投稿日:2006/01/30(月) 09:57
- 本日はここまです。ようやく今年最初の更新です。
今年もよろしくお願いします。
この人のキャラはこんな感じでよかったですかね?
>>417
レスありがとうごさいます
2人の関係、そして藤本さんのことも後々書いていきます。
今年も読んで頂けると嬉しいです。
- 460 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/04(土) 02:04
- うわぁ。また気になる展開ですね。次回真希さんは自分の気持ちに気づくのか・・
ホント、気になりまくりです。
これからも応援してますので、頑張ってくださいね。
- 461 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:27
-
15――――
- 462 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:28
- 「今、なんて言ったの?」
状況がつかめないアタシは、高橋に聞いた。
「あさ美ちゃんのことが好きです。でもどうしたらいいかわからなくて
後藤さんに相談しようと思って」
アタシにどうしろって言う訳?わからないよ。
「なんでアタシなの?」
「一応あさ美ちゃんのお姉さんだし、後藤さんだったら
なんかいいアドバイスくれると思って」
正しい判断と言っていいのかどうかわからない。でも高橋は本気のようだ。
けど、アタシはなんて言えばいいの?混乱している頭の中で考えていた。
ふと、思い出したのは一週間前のこと、梨華ちゃんにデートに誘われたことだ。
「だったら・・・一回デートしてみたら?それからでも遅くはないよ」
「さすが後藤さん。いいアイディアです」
高橋は既に興奮状態だった。もうその気でいるようだ。
- 463 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:28
- 「そうと決まれば、早速誘ってきます!相談に乗ってくれてありがとうございました」
そう言って高橋は駆け抜けて行ってしまった。高橋は嬉しそうな顔をしていた。
そうか・・・最近物陰に隠れたいたのはずっと彼女のことを見ていたんだ。
別にいいじゃん彼女が誰と付き合っても、彼女が幸せになるならそれでいい。
それでいい・・・そのはずなんだけど、アタシはすっきりしない。
まただまたあの気持ちがこみ上げてきた。
アタシは深いため息をつきながら、教室へと戻った。
午後の授業はまったく頭に入ってこなかった。
帰りの時間になっても高橋と彼女のことが気になって仕方なかった。
- 464 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:29
- 「真希。元気ないねどうしたの?」
アタシの肩をポンと叩きながら美貴が言う。
「なんでもない・・・」
「最近、そればっかり。ちょっとは相談してよ。なんのための友達なのさ」
「本当になんでもないよ」
「まあ、いいか。真希がそう言うならそうなんだろうね。
でもさ、自分で悩み事背負うのは真希の悪い癖だよ。
今度、迷ったら美貴に相談してよ。力になりたいからね」
そう言うと美貴はニカッと笑って、教室を出て行った。
相談したくても出来ないよ。アタシには説明できないこの気持ち
美貴にわかるだろうか。人には言えない悩みってあるんだよね。
今日2度目の深いため息をついて、教室を出た。
- 465 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:30
- 校舎を出ると待ち構えていたのに高橋がいた。
顔をもう嬉しそうだ。
「後藤さん、やりましたよ。あさ美ちゃんバッチリ誘えました」
「そう、よかったじゃん」
「早速、明日デートです。本当にありがとうござました」
アタシはなにもしていない。ただこうしたらどうって言っただけ。
そしてまた高橋は嬉しそうに駆け抜けていった。
明日か高橋と彼女のデートは、なぜかこの前の自分と重なった。
「真希ちゃん、帰るところ?」
校舎の前でボーッと立っていると、梨華ちゃんに声を掛けられた。
「梨華ちゃんか・・・」
「気分でも悪いの?元気なさそうだよ」
「そんなことないよ。アタシは普通」
美貴に言った時と同じような言葉。アタシってそんな表情出やすいんだ。
今まで知らなかったよ。
- 466 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:30
- 今日は梨華ちゃんと一緒に帰ることにした。
梨華ちゃんとは友達という関係なったけど、なにも変わりはない。
むしろ梨華ちゃんのほうがあのことを忘れてしまったような感じ。
「明日は土曜日だね。予定あるの?」
「特にないよ」
「そう、ワタシは明日サーフィンするつもり。いい波が来そうなんだ」
「わかるんだ。そういうの」
「ほとんど勘だよ。でもよく当たるんだ」
こうやって話してはいるけど、頭の中は彼女と高橋のことでいっぱいだ。
なんでそんなに気になるの?自分に問い掛ける。当然のように答えはない。
「真希ちゃんも喜怒哀楽が激しいんだね。今はなんだか怖い顔してたよ」
そう言われて止まっている車のサイドミラーを見てみる。
別に普通じゃん。なにも変わらない。いつのものアタシだよ。
梨華ちゃんはそんなアタシを黙って見ているだけ。
- 467 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:31
- 道の途中で梨華ちゃんと別れ、まっすぐと家を目指した。
「どうしちゃたのかな、アタシ」
人目も気にせず、独り言を言ってみても、誰も答えてくれない。
家に帰ったら彼女は既に帰っていた。もちろん明日のことも聞かされた。
アタシは初めて聞いたふりした。
彼女は明日がデートであることを知らないだろう。
ましてや高橋から告白されるなんて思ってない。
何も知らない彼女。
一体、どんな反応するだろう。きっと戸惑いを見せて答えに困るだろう。
その姿は想像できる。
そして・・・答えは彼女の優しい性格から考えても、
その思いを受け止めてしまうかもしれない。彼女はそういう人間だ。
なんて考えていてもしょうがない、決めるのはアタシじゃない。
彼女自身なのだから。全ては彼女次第。
彼女がどんな答え出してもアタシは何も言わない。
- 468 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:32
- しかし、翌日は彼女のことが気になって眠れなかった。
アタシはボサボサの髪のまま、リビングに向かった。
彼女はすでに起きていて、出かける準備完了と言う感じだった。
「真希さん、おはようございます。もう出かけないと。行って来ます」
「ああ、行ってらっしゃい」
アタシは玄関で彼女を見送った。
でも、人って生き物は時に思いもしない行動に出るものなんだね。
アタシは急いで部屋へ行き、素早く着替えた。
そしてニット帽をかぶって、サングラスをかけて、彼女の後を追った。
自分でもなんでこんな行動に出たのかわからないけど、アタシの本能が動いたのだと思う。
でも、アタシ格好からしてかなり怪しいかも、
それに彼女の後をつけているっていうのも誰が見ても怪しく思うだろう。
アタシは彼女に気づかれないようにそっと歩いた。
彼女が公園に着いた。高橋との待ち合わせ場所はここのようだ。
アタシは物陰に隠れて高橋が来るの待っていた。
それからすぐに高橋はやってきた。
その顔はもう満面の笑顔だった。
すぐに二人は手を繋いで歩きだした。アタシもその後を追った。
- 469 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:33
- 二人がどこに行くかはわからない。
アタシはバレないようにできるだけ離れて歩いた。
2人はバスに乗り込んだ。アタシも2人にバレないようにバスに乗った。
最初に来た所は動物園だった。梨華ちゃんと同じようなプランみたい。
二人は入場券を買って園内へと入っていった。
アタシも入場券を買って園内に入った。
動物園に入るなんて小学生以来かな、なんだか懐かしいや。
そんなことを考えつつも、目の前の二人を見失わないよう見つめていた。
楽しそうに笑う彼女、遠くから見ていてもそれだけはよくわかる。
でも、アタシは全然楽しくなかった。だって遠くから見ているだけだから。
なぜだか、彼女が他の誰かのものになるのが、嫌なんだ。
理由はわからない。
あえて言うなら、あの不思議な気持ちのせいだろう。
アタシって彼女のことしか考えてないみたい。
今までそんなことなかったのに。アタシってこんなだったけ?
また自分に問いかけみる。やっぱり答えは出なかった。
- 470 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:33
- 楽しそうな二人を見ていても、何も答えなんて出るわけでもない。
でも、彼女のことを見ていたいから、行ける所まで行くことにした。
おかしい、訳のわからない気合いが入ってしまった。
二人は猿山の猿たちを見ていた。
二人が何やら話していたので、聞こえる所まで近づいた。
「ねぇ、あさ美ちゃん。聞いていい?」
「うん、いいよ」
「好きな人いる?」
「ほぇ!?」
「んあー!?」
ほぼ同時に声が出た。しまったとあわてて口を押さえる。
幸いなことに二人に気づかれることはなかった。
彼女は困ったような顔をした。
「好きな人か。今はいないかな」
「本当に?」
「本当だってば」
彼女の好きな人、いたとしたら、結構気になる存在かも。
なんでかなこれは姉として気になるのかな。
- 471 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:34
- ようやく、アタシもお姉さんになってきた。
なんて一人で笑ってたら怪しすぎるじゃん。
周りを気にしつつ、再び彼女たちに目を向けた。
彼女と高橋は移動して別の所へ行く。
嬉しそうに歩く彼女を見ていて、嬉しいけどなんだか切ない。
そんな感情が生まれていた。
決まって彼女のことを考えるとあの不思議な気持ちになる。
こんな時は空を見よう。サングラス越しに見る空は雲が動いてるのが
よくわかる。サングラスを少しだけずらして青空を目に焼きつけた。
鳥たちが群れを作って飛んでいる。その向こうには子どもがふいに手を離して
しまったんだろう。青色の風船が舞っている。
しばらくしてその風船は雲の切れ間へと消えていった。
- 472 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:35
- いつの間にか彼女たちの手には風船を手にしていた。
彼女がピンク色、高橋が赤い色の風船を持っていた。
アタシもうさぎの着ぐるみを着た人から風船を渡された。
けど、目立つといけないから、無視して先を急いだ。
しかし、高橋が後を気にしはじめた。
ヤバイ、バレたかと思いあわてて物陰に隠れた。
「愛ちゃん、どうかしたの?」
「なんだか、後を付けられているような気がしたけど違ったみたい」
もうアタシは心臓が止まりそうになった。
気をつけないと、バレてしまう。
アタシは慎重に二人を追うことにした。
っていうか、アタシ何してるんだろう。
今日はなんのために来たんだっけ?改めて考えてみた。
答えは彼女が気になるから。今はそれだけはわかった。
周りを見ると家族連れやカップルが多い。
アタシのように一人で来てる人なんてこれぽっちもいない。
それにアタシは動物を見に来た訳じゃない。
アタシが見たいのは、彼女がどんな決断をくだすのかが知りたいだけ。
ただそれだけだった。
- 473 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:35
- 高橋がやたらと後を気にするようになってきた。その度に目線を外して動物を見る。
アタシと目があったナマケモノは不思議そうにアタシを見ていた。
何見てんの?そんな感じにナマケモノを睨みつけてまた歩き出した。
高橋はどこで告白するつもりだろうか。
この園内でだろうか。それとも別の所かな。
考えるのはそればかりだった。
ずっと前を見ていると高橋が急に立ち止まって後を振り返った。
ヤバッ!アタシは慌てた。
「やっぱり、私達後付けられてるよ」
高橋は回りをキョロキョロしていた。
「本当に?気のせいじゃない?」
「そう思ったけどね。なんか違う気がする」
「考えすぎだよ。さあ次へ行こう」
彼女は高橋の手をとった。高橋も納得して、また歩き出した。
物陰に隠れていたアタシはもう焦った。
下手な行動はするものじゃないな。
- 474 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:36
- それから二人は、動物を一通り見てから、動物園を後にした。
アタシもその後を追った。高橋の告白はまだか、アタシはそれしか頭にない。
二人は商店街へと入っていった。
アタシも商店街に入ったけど、人とすれ違う度にアタシのことを見ていた。
もしかしてアタシってすごい目立ってるのかな。
人の目線ってこれほど気になるものだとは思わなかった。
なんだか恥ずかしくなって身を屈めて歩いた。
二人はというと、楽しそうに服とかアクセサリーなんかを見ていた。
彼女はお気に入りの服でも見つけたのだろう。嬉しそうな顔をしている。
アタシはその顔を見るたびに安心するんだ。
- 475 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:36
- 彼女たちはお目当ての服を買って店を出た。
高橋はそろそろ告白するつもりだろうか。
ずっと歩いて来たから、そろそろ疲れてきた。
そう思った矢先のこと、彼女たちはオープンカフェに入っていった。
アタシも店に入って、2人の会話がよく聞こえる席に座った。
「ちょっと、疲れちゃったね」
高橋がため息をつきながら言う。
「うん、でもさ今日は愛ちゃんと一緒に遊べて楽しかったよ」
2人の会話を黙って聞いていた。注文を聞きに来た店員も不思議そうな
顔をしていた。アタシはバレないよう声色を変えてコーヒーを注文した。
その間も2人の会話は聞き逃さなかった。
- 476 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:37
- アタシは少し落ち着こうと思ってコーヒーを一口だけ飲んだ。
「私さ、前から聞きたいことあったんだ」
「なに?」
「家での後藤さんってどんな人?」
急にアタシの話題が出た。思わずアタシは飲んでいたコーヒーを
吹き出しだ。
「家での真希さんのことか。でもなんで?」
「私が知っているのって学校での後藤さんしか知らないから
家ではどんな感じなのかなって思ってさ」
彼女は「うーん」と何かを考えていた。
「真希さんのイメージってクールだよね。でも実は違うんだ
たまにボーッしている時もあるし、少しだけ抜けている所があるかな」
彼女はアタシのことそういう風に思っていたんだ。
でもこういう話は前から聞いてみたいことだったので、聞けてよかった。
- 477 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:38
- 「へぇー意外だなぁ。なんかイメージ変わりそう」
高橋は感心したように言う。
「後藤さんなんだかあさ美ちゃんの後でずっと見守っている感じがするよね」
まさしく今のような状況を言うのだろうか。
「後藤さんって結構変わっているところあるからね。今も近くにいたりして」
「愛ちゃんもそれはないでしょ」
彼女は笑いながら言う。実際当たっているから怖い。
高橋も「そうだよね」と笑いながら言った。
アタシは苦笑いしながコーヒーをもう一口飲んだ。
「真希さんが写真を撮るのが好きなのは知ってるよね?」
「うん、後藤さんのカメラ好きは有名だよ」
「真希さんが一番いい顔をする時がカメラ持った瞬間なんだ。
私はその顔が結構好きなんだよね」
その言葉は以前、旅行に行ったときに聞いたことがあった。
そのことははっきりと覚えている。
- 478 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:38
- 「そうなんだ」
ジュースを飲みながら高橋が相槌を打った。
「風景写真しか撮らない人。でも私、よく真希さんに撮られちゃうだよね。
最初はなんか嫌だった。けどね最近はそんな気しなくなっちゃった」
彼女は頬杖をついて、なんだかそのことを思い出しているようだった。
アタシも彼女と同じように思い出していた。
最近は出逢った時の事を何度も思い出すようになった。
思い出せば必ず最初に浮かぶのは彼女の笑顔だ。
「私にとって真希さんは憧れの人かな」
「憧れ?それは好きという意味じゃないの?」
「ちょっと違うかな。んーなんだろう、側にいれば安心するみたい
うまくは言えないけど、癒し系って感じかな」
憧れか、まあ悪くないね。アタシが側に彼女は安心するんだ。
アタシと同じ気持ちか、なんか嬉しいかも。
- 479 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:39
- 「後藤さんがお姉さんでよかったと思う?」
何気ない高橋の問いかけだ。
「もちろんだよ。真希さんがお姉さんでよかった」
彼女は自信を持って答えた。アタシもそうだよ。キミが妹でよかった。
心からそう思ってるからね。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
そう言って2人は会計を済ませて、店を出た。
それと同じようにアタシも店を出る。
高橋の表情がなんとなく変わっているのがよくわかった。
ということはそろそろ告白でもするのだろうか。
「真希?あんた真希やろ?」
急に名前を呼ばれてドキッとした。
なんとなく聞き覚えのある声だ。
- 480 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:40
- そこにいたのは裕ちゃんだった。アタシの怪しい格好にあ然とした表情だ。
なんでこんな所にいるんだろう。そうだ。裕ちゃんは働いている美容室は
この近くだったけ。しかも見事にアタシの変装を見抜いている。
「あんた真希だよね?なんや格好は」
「いいえ、人違いじゃないですか?」
声色を変えて別人に成り済ました。
「いや、絶対真希やて、間違えるはずあらへん」
もうバレそうなので、アタシはその場から逃げ出した。
一応、変装したつもりだったのに・・・裕ちゃんにはわかっちゃったか。
しかし・・・裕ちゃんに出くわしたおかげで、2人を見失ってしまった。
周りを探せど二人は見当たらない。アタシはニット帽とサングラスを外した。
まあいいか・・・このまま帰ってしまおう。アタシはゆっくりと家に帰ることにした。
- 481 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:40
- 秋風がそっとアタシを通り抜けた。風は少しだけ冷たくて体が震えた。
彼女は今頃、何をしてるんだろうか。もう告白されているだろうか。
帰りのバスの車内、客はアタシしかいなかった。
たった一人の空間、まるでアタシのからっぽの心みたい。
バスが着くと、アタシはまっすぐと家に帰る気にはならなかった。
だから、アタシはグラフィティで時間を潰すことにした。
「いらっしゃい。なんだ後藤か」
いつものようにいちーちゃんの笑顔が出迎えてくれた。
「なんか今日は暗いな」
「別に・・・」
「コーヒー飲むか?今日は奢るよ」
そう言われて、アタシは静かに頷いた。
いちーちゃんは黙り込むアタシになにも言わずにそっと
コーヒーを出してくれた。
- 482 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:41
- アタシの目の前でいちーちゃんただアタシがコーヒーを飲むのを
眺めていた。その表情はいつもとなにも変わりはない。
「すっかり、秋だな」
「うん・・・そうだね」
当たり前のことしか言えないアタシ。カップをそっと置いたその時だ。
眩しい光がアタシを襲った。いちーちゃんがカメラを構えていた。
「その情けない顔、撮らしてもらったよ」
いちーちゃんは白い歯を見せながら笑った。
「こうやって後藤を撮るのも久しぶりだよ」
懐かしい思い出。カメラを始める前のアタシはよくモデルにされていた。
でも、決まってアタシの知らない瞬間に写真を撮られてしまう。
やっていることは今のアタシと同じだ。
- 483 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:41
- 「最近の後藤はなんか変だぞ。美貴も心配していたよ」
ここでいつも通りだよと言っても、いちーちゃんはそんなことない
というだろう。確かに最近のアタシは変なんだ。それはわかっている。
知りたいのは変に思われる理由。それがわからないから悩んでいる。
「いつだったか、いちーちゃんこう言ったよね。人は気づかない間に変化していくものだって」
「ああ、確かに言ったな。でも、今の後藤はその変化に気づいているみたいだね」
そうなんだ。アタシは自分の変化に気づいている。
「いちーちゃん、今と昔を比べてみてアタシって変わったかな?」
「変わったよ。笑顔が多くなってるし。無愛想だった昔とは大違いだよ」
いちーちゃんの答えは想像通りだった。
「でもさ・・・アタシ変化の理由がわからない」
アタシはなんで変われたのか。いちーちゃんはわかるだろうか。
- 484 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:42
- 「目の前にある大事なの物に気づいてないからだな」
「それはなに?」
「言えないな。これはおまえが考えることだから」
目の前にある大事な物ってなんだろう。また新たな問題が出てきた。
「ゆっくり、考えてみる」
すっきりはしないが考える価値はありそう。やっぱりいちーちゃんは頼りになる。
コーヒーを飲み終えてアタシは店を出ようとした。
「このままでいいのかよ」
「えっ?なにか言った」
「いや、なんでもない独り言だ」
いちーちゃんは何か言いだけな表情だった。
それとがなんとなく気になった。
- 485 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:43
- 家に着くと、既に彼女は帰っていた。何事もなかったような顔をしている。
彼女は高橋の告白を受け入れたのだろうか。
でも彼女の心は読めなかった。一体あの後どうなったんだろうか。
気になって仕方がない。
「今日は楽しかったの?」
「はい、とっても楽しかったですよ」
「そう、よかったね」
彼女の言葉を聞いてもなにもわからない。
かと言って告白はされたのって聞けるわけがない。
「ところで真希さんもどこか出掛けていたのですか?」
「気分転換に散歩していた」
二人の後をつけていたなんて言えるはずもない。
なんとかごまかしてみた。
でも高橋とどうなかったか気になる。
月曜日にでも聞いてみるか。
- 486 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:43
- 翌日、今日は日曜日。朝食を食べた後、勉強をするが
まったくに頭に入ってこない。
ここのところいつもこんな感じだ。
なんだかムシャクシャとして来たのでアタシはカメラを持って外に出た。
隣の家の庭先には裕ちゃんがいた。
「おーおはよう真希」
「裕ちゃんおはよう」
「それより、昨日はどうしたの?突然逃げ出したりして」
昨日のことを言われて、アタシは言葉に詰る。
裕ちゃんに話してみるか。
「裕ちゃん・・・最近アタシおかしいんだよね」
裕ちゃんは黙ってアタシの言葉に耳を傾けた。
「あさ美のことが気になって仕方がない」
そう言うと裕ちゃんの顔つきが変わったような気がした。
- 487 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:44
- 「昨日だってそう・・・あさ美のことが好きだって子がいてね
どうしたらいいかって相談を受けてね。アタシはその子デートしてみたら
って言ったんだ。でも・・・アタシはなんだか気になって、二人の後をつけたんだ」
言い終わると、裕ちゃんは黙ってアタシを見つめていた。
「どうしちゃったんだろうねアタシ」
「真希・・・まさかあんた・・・」
「んあ、どうしたの?」
「いや、なんでもない」
裕ちゃんは何かを言おうとしてやめた。それは昨日のいちーちゃんと同じだ。
一体、どうしたの?裕ちゃん何か言ってよ。そんな目で見ても裕ちゃんは答えなかった。
裕ちゃんは逃げるようにして、家と入ってしまった。
- 488 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:44
- アタシはそんな裕ちゃんの行動を気にしつつ、ゆっくりと歩きはじめた。
いつもの海岸に行こうと思ったが、彼女も行くかもしれない。
なんだか顔を合わせるのが怖いから、アタシは別の場所を探すことにした。
たどり着いた場所は高校の裏の森。ここも落ち着ける場所のひとつだ。
アタシはベンチに座って、空を眺める。木漏れ日が差し込む森の中、風の音しかしない。
でも考えること言ったら彼女のことしかないんだよね。
ふと、耳を済ませるとサックスの音色が聞こえてきた。
いつの間にか隣に美貴がいた。目が合うとウィンクしてきた。
アタシは美貴の演奏を黙って聞いていた。聞いたこともない曲。
美貴のオリジナル曲だろう。昔からそう作曲をするのが得意だった。
「それなんて曲?」
「銀色の永遠だよ」
サックスから口を離して美貴が答えた。
- 489 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:45
- そして、美貴は再びサックスを吹き始めた。
アタシはただその演奏を聞いていた。
美貴はこの曲でなにかを伝えたかったのだと思う。
でも、アタシにはそれがなにわからない。
難題ばかりの毎日で最近いやになってくる。
「美貴、そのままでいいから聞いてくれる?」
美貴はサックスを吹きながら深く頷いた。
「確かにアタシは悩んでいる。でもさ・・・その悩みの原因がわからない」
美貴は演奏をやめて、しばらく黙り込んだ。
「美貴にもよくわからないけど、言えることはひとつだけ
周りをよく見て、なにかに気づくはずだよ」
いちーちゃんと同じようなこと言う美貴。一体、何に気づけって言うの?
「周りを見ればきっと大事なことに気づくはずだよ」
そう言って美貴はサックスをケースに入れた。そしてゆっくりと去っていた。
- 490 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:45
- 美貴もいちーちゃんも肝心なことは教えてくれない。
結局、考えるのは自分ってことか。
アタシはイライラしてきて、髪を掻き毟る。
ヒラヒラと空中で枯葉が舞っていた。
アタシはゆっくりと立ち上がった。
森の中は落ち葉がまるでじゅうたんのように敷き詰められていた。
歩くたびにカサカサと音がした。
アタシはそんな秋の風景を写真に収めた。
その日はずっとカメラを持ったまま外にいた。
- 491 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:47
- 翌日のことだ。彼女は日直でいつもより早く登校して行った。
だから、今日はアタシ一人だけだ。
アタシはブラブラと学校に向かった。
「後藤さん、おはようございます」
高橋がアタシのもとやってきた。
「おはよう・・・高橋」
高橋も彼女どうように何事もなかったような顔をしている。
結局あの後どうなったのだろうか。
「あの・・・後藤さん。私あさ美ちゃんのこと諦めようと思うんです」
アタシが聞く前に高橋が言った。
驚いてアタシは声が出ない
「・・・どうして?」
アタシは搾り出すような声で言った。
- 492 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:48
- 「デートしてみてわかったんです。私じゃ無理だってことが
あさ美ちゃんにはいつも近くで見守っている人がいるみたいです」
一体誰のことだろうか?心当たりはない。
「私はその人に勝てそうもないなって思ったので諦めることにしました」
高橋は何も気にしてないようで、笑顔で話してくれた。
しかし、気になるのは彼女を見守っている人のことだ。一体誰なんだろう。
「じゃあ、私は失礼します」
そう言って高橋は校舎へと走っていった。
しかし、アタシにその声は届いてなかった。
アタシは彼女を見守っている人の存在のことをずっと考えていた。
そんなことを考えながらアタシも自分の校舎と向かった。
アタシのそんな姿を廊下の窓から高橋が見ていた。
「あさ美ちゃんの言うとおりだね。後藤さんはクールじゃない
おっちょこちょい。そしてもうひとつはものすごい鈍感だよ」
アタシの知らないところで高橋はそう呟いた。
もちろんアタシにはその言葉に意味はわからない。
- 493 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:49
-
不思議な気持ちを持ったままアタシの日々は過ぎていく・・・
- 494 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:49
-
- 495 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/02/27(月) 14:49
-
- 496 名前:ヒガン 投稿日:2006/02/27(月) 14:52
- 本日はここまで
統合して最初の更新です。
>>460
レスありがとうございます。
今回はこんな感じとなりました。
鈍感な真希さんですが、温かく見守ってあげてください。
- 497 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:34
-
16――――
- 498 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:35
- 10月になった。すっかり秋も深くなってきた。
海から吹く風はとても冷たくなっていた。
アタシは慣れているが、彼女は初めての経験なので凍えながら歩いていた。
海から吹く風はとても強いから厄介だ。
10月の最初のイベントは体育祭だ。アタシとっては高校最後の
彼女にとってはここに来てから初めての体育祭になる。
そのため彼女はとても張り切っていた。
張り切るのにも理由がある。彼女は陸上が得意だからだ。
その中でも長距離走が得意分野だと言う。
中学の時にはそれなりの記録も作ったらしい。
久しぶりの走りとなる体育祭も人一倍張り切っていた。
昨日も日がくれるまで走る練習をしていた。
- 499 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:36
- 当日はよく晴れていた。絶好の体育祭日和だ。
体育祭は赤組と白組に別れて行われる。
アタシと美貴は白組に彼女と高橋は赤組になった。
グラウンドで待機していると向こうの方から梨華ちゃんがやって来た。
「真希ちゃんは白組か。ってことは今日は敵だね」
そういう梨華ちゃんのハチマキは赤だった。
「あの子だね。真希ちゃんの妹さん。ワタシと同じ赤組なんだね」
梨華ちゃんの目線の先には彼女がいた。
「今日は互いに頑張ろうよ」
アタシがそう言うと梨華ちゃんは笑顔で頷いた。
そしてもうすく入場のため、それぞれの組へと向かった。
- 500 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:37
- 「真希、今日は絶対勝つよ!」
いつもより増して元気な美貴がいた。
「美貴、気合い入ってるね」
「当たり前だよ。今日のために鍛えてきたんだから」
美貴はブンブンと腕を回しながら言った。
毎年、美貴は体育祭が近づくと張り切って練習をする。
でもアタシにはその理由がわかっている。
美貴は単に目立ちたいだけなんだということが。
そんな美貴を横目にアタシは彼女のいる赤組のほうに目を向けた。
そして、高校生活最後となる体育祭が始まった。
- 501 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:37
- まずは全員参加の短距離走が始まった。
最初は一年から始まって、二年、三年と続いてく。
アタシ達は出番が来るまで、後輩達の走りを観察していた。
「おーい真希。応援に来たよ」
声がした方向を見ると裕ちゃんが来ていた。
「来てくれたんだ」
「当たり前やん。真希の走っているところみたいし」
そんな会話をしていると、美貴も後ろのほうからやってきた。
「中澤さんじゃないですか。お久しぶりです」
「美貴やんか、久しぶりやね。ずいぶんと大人ぽっくなって」
「そうですか?いやー照れるな」
美貴と裕ちゃんは久しぶりの再会で楽しそうに会話にしていた。
- 502 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:38
- 「おっ、やってるな」
ジャージ姿のいちーちゃんが来た。
アタシは慌てていちーちゃんに駆け寄った。
「いちーちゃんも来たの?お店の方はどうしたのさ」
「今日は遅めの開店にするよ。後藤達の応援もしたいしね」
いちーちゃんはニヤニヤと笑いながら言った。
「よう美貴応援にきたぞ」
いちーちゃんがそう言うと美貴は嬉しそうな顔をした。
「中澤さんはお久しぶりですね」
「紗耶香も久しぶりやね。お店の方はどうやの?」
「はい順調です。たまには店の方に来てくださいよ。コーヒーご馳走しますから」
「それは楽しみやね」
そんな会話してるうちに短距離走は2年生の番になっていた。
- 503 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:39
- そろそろ彼女の出番だ。アタシはグラウンドに視線を集中させた。
「ねえねえ、真希。あさ美ちゃんって走りのほうはどうなの?」
「中学の時、陸上の経験あって長距離が得意らしい。記録も持っているって聞いた」
「それってすごくない?」
以前、彼女に手を引っ張られて走ったことがあるが、彼女の足は早かった。
体育祭の前日言っていた。短距離走はウォーミングアップみたいなのものだと
だからあまり実力は出さないだろう。
「いよいよ、あさ美ちゃんの番だね」
彼女がスタートラインに着いた。そして合図と共に一斉にスタートした。
美貴が驚いた表情になった。
「あさ美ちゃん、速いね・・・」
やはりそうだ。彼女の実力はこんなものじゃない。
「美貴、あさ美は実力は出しきってないよ」
「ええ?あの走りで」
「そのうちわかるよ。あさ美の実力」
アタシは小さく笑いながら彼女に走りを見ていた。
- 504 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:40
- 結果は当然のように彼女が1着だった。
そして、2年生の短距離走が終わるといよいよアタシ達3年の番だ。
「よっしゃ、行くか」
美貴も気合い充分という感じだ。
アタシが走る順番は7番目になった。
「じゃあ、行ってくる」
アタシはスタートラインに着いた。
「真希ちゃん勝負だよ」
梨華ちゃんが相手か・・・結構手強いかもしれない。
運動は得意な方ではないけれど、梨華ちゃんだけには負けたくない。
スタートの合図と共に一斉に走り出した。
その光景を見つめる美貴、いちーちゃん、裕ちゃん、高橋そして彼女もいた。
それを横目にゴールに向かう。アタシに後には梨華ちゃんがピッタリついて来る。
- 505 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:41
- 梨華ちゃんもなかなか足が速い。サーフィンで鍛えたのだろうか
アタシは抜かれないように、スピードを上げた。
負けじと梨華ちゃんもスピード上げてきた。
「真希さん、がんばってください!」
アタシの耳に届いた彼女の声。いつの間か彼女はゴール前にいた。
思わぬことにアタシはバランスを崩してしまった。
「真希ちゃん、お先に」
ゴール間近でアタシは梨華ちゃんに抜かれてしまった。
体勢をなんとか立て直して、アタシはゴールに着いた。
しかし、梨華ちゃんに負けて二着になってしまった。
1着になった梨華ちゃんは嬉しそうにピースサインをしている。
アタシはとぼとぼと美貴たちの所に戻った。
- 506 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:41
- 「もうちょっとだったのにね。真希の仇は美貴がとってくるよ」
美貴はそう行って駆け足でスタートラインに向かった。
アタシはため息をついてイスに腰をおろす。
「真希さん!」
彼女がアタシの元に駆け寄ってきた。
「真希さん、ごめんなさい。私が声を掛けなければ一着なれたのに」
「いや、アタシが悪いんだよ。ちょっとスピード上げすぎだけだよ」
「でも・・・」
「キミは悪くないよ」
アタシは悲しげな顔をする彼女の髪をそっと撫でた。
「美貴が走るようだね」
アタシはグラウンドの方を見た。
- 507 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:42
- 美貴は真剣な顔つきでスタートラインに立っていた。
そして、合図とともに美貴たちは走り出した。
美貴はゴールに向かって全力だった。
美貴は何度も抜かれそうになっていた。
負けそうだ。そう思った瞬間。
「美貴、負けるな!もう少しがんばれ!」
そう叫んだのは意外にも、いちーちゃんだった。
熱心に美貴を応援するいちーちゃん。それに応えるよう美貴は
スピードをあげた。最後まで抜かれることなく一着でゴールした。
「やった!さすが美貴」
自分のことのよう喜ぶいちーちゃん。
美貴は笑顔でいちーちゃんに手を振っていた。
- 508 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:42
- 美貴は嬉しそうにピースサインをしながら戻って来た。
そして、アタシとハイタッチをした。
同じようにいちーちゃんとハイタッチをしたり、抱き合ったり
なんかして、二人ってこんな仲良かったかな。
アタシは不思議に思った。でもいい雰囲気の二人だ。
こうして全ての生徒が走り終わった。
この後、アタシは障害物競走に出ることになっている。
でもアタシが気になるのは彼女が走ることになっている1500m走だ。
走るまでまだ時間があるというに彼女は入念にストレッチをしていた。
声をかけよう思ったが、彼女の顔は真剣でそんな隙はない。
「真希、そろそろ出番だよ」
「わかった。すぐ行く」
美貴に呼ばれて、アタシはその場を後にした。
- 509 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:43
- 障害物競争に出たアタシは、なんとか一着になることが出来た。
ゴール先には彼女が戻ってきていた。
目が合うとニッコリ笑いながら拍手をしてくれた。
「次は1500m競争です。出場する生徒の皆さん集まってください」
そのアナウンスを聞いた瞬間、彼女の表情がガラリと変わった。
彼女はアタシに一礼して、スタートラインへと向かった。
アタシは席に戻って、彼女が走るのを待っていた。
「あさ美ちゃんの本当の実力見せてもらおうかな」
いつの間か隣にいた美貴が呟いた。
合図と共に彼女が走り出す。そのフォームはまるで見本のように綺麗な走り。
相手の生徒をまったく寄せ付けない。
美貴は彼女に走りに口を開けてみていた。かなり驚いてる様子だ。
- 510 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:44
- 驚いているのは美貴だけじゃない、いちーちゃんや裕ちゃんも驚いている。
本当は頑張れって声を掛けたかった。でもそれはできない今日の彼女は敵という
関係になっている。それに集中して走っている彼女の邪魔はしたくない。
だからアタシは心の中で何度も何度も頑張れって叫んだんだ。
「びっくりだよ。あれがあのあさ美ちゃんなんて」
それまで黙っていた美貴が、ようやく口を開いた。
でも、アタシは何も答えず、彼女しか見ていなかった。
彼女の走りに歓声があがる。彼女は惑いもなく走っている。
そして、そのままゴールまで一直線。一着でゴールした。
ものすごい拍手の中、彼女は恥ずかしそうに周りに頭を下げながら
赤組の陣地へと帰っていった。
- 511 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:44
- こうして午前の競技が全て終わった。
昼食はいちーちゃんがお弁当を持ってきてくれた。
「さあ、食べてくれよ」
いちーちゃんの作ってくれたお弁当は綺麗な盛り付けだった。
さすが、喫茶店を経営しているだけに料理も上手くなっているみたい。
「いやー、驚いたよ。あさ美ちゃんのあの走り」
いちーちゃんは感心したように言った。
「ありがとうございます」
彼女は頬を赤くしながら言った。
「あさ美ちゃんって足速いんやね、私も驚いたで」
ちゃっかりとお弁当を食べている裕ちゃん。
こんな感じで、みんなで楽しく昼食をとった。
- 512 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:45
- 午後からの競技は先生や親などが参加する徒競走がある。
これは誰でも参加できる競技だ。
「よし、私出ちゃおうかな」
いちーちゃんが立ち上がって準備体操をし始めた。
「紗耶香さん、ジャージってことは最初からそのつもりだったんですよね」
「まあね、体をちょっとでも動かさないとね」
そう言っていちーちゃんは屈伸をしていた。
「じゃあ、行って来る」
いちーちゃんはスタートラインへと向かった。
「あの、真希さん。市井さんって運動はどうなんですか?」
それまで黙っていた彼女が、アタシに聞いてきた。
「中学、高校とずっとバスケ部だったよ。結構うまかったよいちーちゃんのバスケ」
アタシは昔のいちーちゃんを思い出した。
- 513 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:46
- まだ、いちーちゃんと出会って間もない時のことだ。
バスケ部に勧誘された時、せっかくたがら見学に行こうと美貴と一緒に
見に行った。当時、いちーちゃんは2年生ながらエース的存在だった。
コートの中で誰よりも早く、声を出して走り回っていたのが印象に残っている。
なによりも、いちーちゃんは人気があった。特に女子からの人気は凄かった。
ラブレターなんて当たり前のように貰っていた。
いつも「困るんだよね」と苦笑いをしていた。
そんなことを思い出しているとなにやら歓声があがっていることに気づいた。
いちーちゃんが走ると知って、みんな驚いているようだ。
卒業してずいぶんたつのに未だに人気があるんだ。
いちーちゃんはやっぱりすごいや。
- 514 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:47
- スタートラインに着くと、いちーちゃんの顔つきが変わった。
「卒業生でもある市井さんと対戦するのは稲葉先生です」
平家先生の紹介でおどけたように手を振るは稲葉先生。
一年生のアタシの担任で、バスケ部の顧問でもある。
今は彼女のクラス担任という。なにかと縁のある先生だ。
そして平家先生と漫才コンビように仲がいい。
「稲葉先生、負けたら承知しませんよ」
平家先生がマイクを使って稲葉先生にエールを送っている。
「若いものにはまだ負けんへんで!」
隣にいるいちーちゃんは苦笑いを浮かべていた。
そして、合図と共にいちーちゃんが勢いよく走り出した。
稲葉先生はというと着いていくのが精一杯という感じ。
それを見た平家先生は頭を抱えて項垂れていた。
- 515 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:48
- 言うまでもなくいちーちゃんが一着でゴールイン。
疲れた表情をまったく見せていない。生徒の拍手と歓声に笑顔で手を振っていた。
戻って来たいちーちゃんは満足そうな顔をしていた。
「生徒のアタシ達より目立ってどうするのよ?」
「まあ、いいじゃんか」
いちーちゃんはポンポンとアタシの肩を軽く叩きながら笑った。
それから、着々とプログラムは進行していった。
そして、この学校ならではメインイベントが始まろうとしていた。
周りの生徒達はそわそわし始めた。
「真希さん、今から何が始まるんですか?」
状況が飲み込めない彼女がアタシに問い掛けた。
「二人三脚だよ。赤組白組、学年はまったく関係なく好きな人と組むことが
できるんだ。これを楽しみにしている生徒がすごく多いんだ」
「そうなんですか、おもしろそうですね」
- 516 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:49
- アタシは毎年、美貴とペアを組んで走っている。
美貴となら息も合うし、完璧のコンビだと思っている。
「さて、美貴。今年も頑張ろうか」
「真希、悪いけど断る。今年は組みたい人がいるんだよね」
美貴の予想外の言葉にアタシは驚いた。
そして、美貴は早足で目的の人物の元へと向かった。
そこにいたのは彼女と高橋だ。二人の前で立ち止った。
「さて、一緒にやろうか愛ちゃん」
その相手は意外にも高橋だった。隣にいる彼女も驚きの表情だ。
「はい、頑張りましょう藤本さん」
高橋はなんの戸惑いもなく、美貴の手を取った。
アタシはどうすればいいんだろう。組めそうな相手を探した。
梨華ちゃんは既に三好さんと組んでいた。
これは困った。組む相手がいない。どうしようと思ったその時だ。
彼女も相手が見つからなくて困っていた。
- 517 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:49
- 「まだ、相手見つからないの?」
「はい・・・まだです」
彼女は高橋と一緒にやるつもりしていたのだろう。
それに転校してきてまだまだ浅いし、声を掛けづらいと思う。
「じゃあさ、アタシと組もうか」
こうなってくるとやはり彼女しかいない。
彼女もアタシだと安心するだろう。
「はい、よろしくお願いします」
彼女は深々と頭を下げた。
ペアが決まったら、互いの足を結ぶ紐をもらって、
アタシの右足と彼女の左足をしっかりと固定した。
「ちょっと練習しよう」
そう言って彼女と呼吸とタイミングを合わせた。
最初はゆっくりと歩いて、それから少しずつスピードを上げていく。
彼女も最初は戸惑っていたけど、なんとかうまくやれるようになった。
- 518 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:50
- 練習を終えて、アタシ達はスタートラインに向かった。
二人三脚は十組ずつで行われる。
アタシ達の順番は4番目になった。
周りの生徒達は走りにくい足に戸惑いながらもゴールに向かった。
「アタシ達はゆっくり行こう」
そう言うと彼女は小さく頷いた。
そして、アタシ達の番が来た。
合図と共に一斉に走り出す。アタシは彼女が倒れないように
しっかりと彼女の体を支えた。
アタシの胸の鼓動は止まらない。
だって、こんなにも彼女が近くにいるから。
アタシは気づかれないように視線をゴールに向けた。
- 519 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:50
- そんなアタシ達を黙って見つめる美貴と高橋、いちーちゃんに裕ちゃんがいた。
妙にその視線が気になった。けど、アタシはただ黙々とゴールを目指した。
それから、なんかと転ばずにゴールすることが出来た。
その後、美貴と高橋、梨華ちゃん達を走るのを見ていた。
午後の競技も何事もなく終わり、結果は赤組が勝った。
アタシ達白組は残念ながら負けてしまった。
張り切っていた美貴はとても悔しそうな顔をしていた。
彼女もここに来て、初めての体育祭をとても楽しんでいたようで
アタシは安心した。
- 520 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:51
- 体育祭が終わると翌日には、アタシ達3年生にとってはとても大事な個人面談がある。
これでアタシの進路もひとまず決定することになる。
担任の平家先生は熱心な顔をして書類に目を通していた。
「よし、今の後藤ならN大学合格できそうだね」
先生がそう言うとアタシはホッと胸を撫で下ろした。
「安心するのはまだ早いよ」
「あは、そうですよね」
「でも、後藤の成績ならもっと上の大学目指せると思うよ」
それから今後のことを話してから面談は終わった。
「失礼します」
先生に一礼して教室を出た。
ふと、隣の教室を見ると梨華ちゃんが出てきた。
「真希ちゃんも今日が面談だったんだ」
アタシは小さく頷いた。
- 521 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:51
- せっかくだから途中まで一緒に帰ることにした。
誰もいない静かな廊下に響くアタシ達の靴の音だけ。
「梨華ちゃんは進路どうするの?」
「大学に進学するつもりだよ。近くの大学を探してる
地元離れたくないから、それに海があるほうがいいし」
「そっか、アタシはN大学に行くつもり」
「結構遠いね。じゃあ一人暮らしするんだ」
「うん、そのつもり」
「お互いに大変だね」
そんな話をしながら、アタシ達は歩いていた。
校舎を出たところで梨華ちゃんと別れて、グラフィティに行くことにした。
- 522 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:52
- 秋の風に吹かれながら道を歩く。高校の近くの空き地が最近慌しくなっていた。
9月の初め頃から高層マンションの建設が始まったからだ。
鉄骨を運ぶ大型トラックが行きかい、排気ガスと砂煙を撒き散らしていた。
でも、アタシは風景が変わってしまうのでいい気分はしない。
空を突き刺すように建つ、鉄骨の固まりを見上げながら道を歩く。
グラフィティの扉を開けてすぐに足元に光るものを見つけた。
それを拾い上げて見てみると、「M&S」と書かれたペンダントだった。
「いちーちゃん、ペンダント落ちてたよ」
「マジか。ヤバイヤバイ」
いちーちゃんは自分の首を確認してから、慌ててアタシの元に駆け寄ってきた。
ペンダントを受け取ると、すぐに首に取り付けた。
よっぽど大事な物なんだね。
そう言えば同じ物を持っている美貴も大事そうにしていたっけ。
- 523 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:53
- ペンダントを取り付け終わると、いちーちゃんはすぐにコーヒー出してくれた。
アタシはすぐにカップに口を付けた。
「今日はやけに帰りが早いな」
「3年生は個人面談あるからね」
「そうか、もうそんな季節か。確かN大学に行くんだったな」
「うん、そうだよ」
いちーちゃんもコーヒーを飲みながら、ため息をついた。
「後藤もこの街出て行くのか」
いちーちゃんが寂しそうに言った。
「思い出すな、私も進路の大変だったからな」
「そうだったね。まだ一年しか経ってないけど遠い昔みたい」
いちーちゃんが高校3年生の時の話だ。
大学受験まで後少しと迫った頃、いちーちゃんのお父さんが倒れた。
もうダメかもしれないと医師に言われて、いちーちゃんは相当なショック
を受けていた。
そんないちーちゃんを見ていて、アタシはどうすることもできなかった。
- 524 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:53
- いちーちゃんは三日ほど、学校を休んだ。
久しぶりにアタシ達の前に姿を現したいちーちゃんは驚くべき決断をした。
大学受験をやめて、グラフィテイを継ぐことしたからだ。
誰にも相談せずに、一人で勝手に決めた。
学校やお母さんを必死で説得したという。
1度決めたら動かない、いちーちゃんに負けてしまったようだ。
その気持ちはすごくよくわかるんだ。
グラフィティはいちーちゃんにとって大切な場所だ。
いつもグラフィティは私の誇りとなんだ何度も聞かされていた。
そして、いちーちゃんはグラフィティを任された。
店を継いだことにより、いちーちゃんのお母さんは看病に専念することが出来た。
そのおかけで今ではお父さんの病状は回復に向かっている。
アタシはできない、勇気のいる決断だったと思う。
- 525 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/17(月) 13:54
- あの頃を思い出しながら、コーヒーを飲む。
「いちーちゃんはさ自分の進んだ道が正しい思ってる?」
「最初は間違っていると思っていた。でも、今では正しかったんだ
って思えるようになった。間違った道もいつかは正しい道になるんだよ」
温かみのあるいちーちゃんの言葉、アタシはいつも励まされるんだ。
「アタシもそんな道を進みたいね」
「真似なんてするなよ。悪い見本だよ私は」
確かにそうだ。だからアタシはいちーちゃんのいい部分だけを
真似してみようと思った。
「まあ、後藤なら正しい道を進めるよ。頑張れよ、応援してる」
「ありがとう。いちーちゃんが応援してくれるなら心強いよ」
応援してくれる人がいる。そう思うとなんだか嬉しくなった。
アタシはコーヒーを飲み干して、グラフィティを後にした。
- 526 名前:ヒガン 投稿日:2006/04/17(月) 13:56
- 話の途中ですが、今回はここまでにします。
続きは近いうちに更新したいと思います。
- 527 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:07
- 翌日、休みの時間のことだ。アタシは廊下を歩いていた。
「後藤さん、ちょっといい?」
「んあ?」
クラスメイト達に声を掛けられた。
なにやら噂話をしてるようだ。アタシはそういうのはあまり好きではない。
誰が誰を好きとか、あの子は誰と付き合っているとか、別に興味はない。
「ねえ、藤本さんって付き合っている人いるんだよね?」
思いもしない名前が出てきてアタシは驚いた。
「そう言えば、体育祭の時来てたよね」
そう言ったのはもう1人のクラスメイト。一体、誰のことだろうか?
「もしかして、市井先輩のことかな」
「バスケ部だった市井さん?」
また思わぬ名前が出てきた。
- 528 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:08
- 美貴といちーちゃんが付き合っている。
まさか、あり得ない。でも思い返して見ると
そんな雰囲気は感じ取れる。
「後藤さん、知っているでしょ二人のこと」
「その話は本当なの?」
「後藤さん、知らないの?だって藤本さんと仲良いじゃない」
アタシは首を振った。いくら仲がいいと言っても知らないことだってある。
「後藤さんが知らないなら違うのかな」
アタシもクラスメイト達も半信半疑のまま、チャイムが鳴ったので
教室へと戻っていた。噂話が好きではないアタシも、このことに関しては
気になって仕方がない。ふと隣の美貴を見つめるが、そんな素振りを見せず
いつもと変わらない美貴だった。
- 529 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:09
- 「ん?美貴の顔になんかついてる?」
「いや、別になんでもない」
軽々しく聞ける話題じゃないし、どうやって聞こうかアタシは悩んでいた。
本当に美貴はいちーちゃんと付き合っているのかな。
もし付き合っているとしたら、いつから、どんなきっかけでそうなったのか知りたい。
もう一度、隣にいる美貴を見つめる。
眩しい太陽の陽射しで胸もとのペンダントがキラリと光った。
今日も面談があるため授業は午前中で終わり、面談の終わった人は早々に帰り
今日が面談の人は教室に残ったりしていた。
アタシは真実を確かめたくって、すぐにグラフィティに向かった。
美貴は既に教室にはいなかった。
都合がいい、美貴かいると聞けないことだから。
それにいちーちゃんなら笑って否定してくれるはず。
そんなこと思いながらアタシはグラフィティの前に立っていた。
いつもなら、すぐに扉を開けるはずなのに、窓から店の様子を覗いてみた。
そこにあったのは、驚きの光景だった。
- 530 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:10
- 美貴といちーちゃんが一緒にいた。二人は見つめあっていた。
それからすぐに二人は唇を重ねていた。
アタシは声も出なかった。
いつから二人は、そんな関係になったの・・・。
結局、アタシは店に入ることはなく、家に帰ることにした。
アタシはなぜだか寂しくなった。長いこと一緒にいる二人だからだろうか。
それなのにアタシは全然気付かなかった。
まあ、アタシも不思議な気持ちのせいで悩んでいたのも理由のひとつだろう
みんな変わっていく、美貴もいちーちゃんも、なんか変わった。
ため息をついて、見上げた秋の空はアタシの目には切なく映った。
- 531 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:11
- 翌日、美貴の顔もまともに見れなかった。
二人のあんな所を見てしまったから、当然だろう。
そんなアタシの態度に美貴は不思議そうな顔をしていた。
休み時間、携帯電話を見てみるといちーちゃんからのメールがあった。
『話があるから、放課後校門の前で待ってる』と一行だけ書かれていた。
メール見終わって携帯を鞄にしまった。
いちーちゃんの話。多分、美貴とのことだろう。
でも、ちょうどよかった。アタシも話が聞きたかったから。
授業が終わると。アタシは真っ先に教室を出た。
美貴は今日が面談のため、教室に残っていた。
- 532 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:12
- 急いで校門に向かうと、いちーちゃんはバイクにまたがって待っていた。
「来たか、待ってたよ」
そう言っていちーちゃんはアタシに真っ赤なヘルメットを渡す。
いちーちゃんは銀色のヘルメットを被った。
「乗れよ」
バイクのシートをポンポンと叩き乗るように促した。
アタシは言われるがままに、ヘルメットを被りシートに座った。
キーを差し込むとエンジンが大きな音を立てて動き出した。
いちーちゃんがバイクに乗り出したのは16歳になってすぐのこと。
もちろん学校には内緒で免許をとった。
最初の頃は安いスクーターの乗っていて、今乗っているバイクは
いちーちゃんのお父さんから譲り受けたもの。
なんでも外国の有名メーカーのバイクらしい。
- 533 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:13
- アタシはよく後に乗せてもらい、二人で遊びに行った。
でも、最近は美貴が乗ることが多いだろう。
いちーちゃんの背中に頬をつけて見る。久しぶりの温もり。
「久しぶりだよな、こうやって後藤を乗せるのも」
風の切るように走る中で聞こえたいちーちゃんの声。
「そうだね。ところで話ってなに?」
「まあ、焦るな。このままどこかに行こうよ」
「うん・・・いいけど」
そう言うといちーちゃんはバイクのスピード上げた。
もう一度、背中に頬をつけてみる。いちーちゃんの鼓動が聞こえる。
どこに行くかはわからない。今日はいちーちゃんに身を任せようと思った。
- 534 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:14
- どれくらい走ったのだろうか、バイクはアタシ達の街から2キロくらい離れた。
小高い山に着いた。上から見下ろすと海がよく見える。
「昔はここによく来たよな」
いちーちゃんに初めてバイクに乗せられた時もここに来た。
でも、今ここにいるいちーちゃんは昔とはちょっと違うような気がする。
いちーちゃんは無言のまま、海を眺めていた。
アタシはその後ろ姿を見ているだけだった。
風が吹き抜けると同時に、いちーちゃんが振り返った。
「昨日、店の前に来てただろ?」
アタシは静かに頷いた。
「ってことは、私と美貴が一緒にいるのも見られたってことか」
いちーちゃんは苦笑いをしていた。
「なら、もう隠してもしょうがないな」
いちーちゃんが真剣な顔した。
「私は、美貴と付き合っている」
いちーちゃんはアタシの目をしっかりと見つめながら言った。
- 535 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:14
- 「・・・そうなんだ。おめでとう・・・」
こういう時、なんて言ったらいいんだろう。言葉を探すけど見つからない。
「ありがとうな。ずっと言おうと思ってたんけど、なかなか言い出せなくて」
「いいよ気にしなくて。ところでいつから付き合ってるの?」
「夏休みの終わり頃かな。夏の間、美貴と過ごすことが多くてさ
一緒に遊びに言ったり旅行したり、ずっと一緒だった。
気がついたら私は美貴のこと好きになってた」
アタシはあることを思い出した。それは始業式の日のグラフィティでのことだった。
――――あのー紗耶香さん
――――なんだ?美貴
あの時の感じた違和感はこれだった。
二人が名前で呼び合っている時点で気づくべきだった。
「これで気づくと思ったんだけど、おまえ気づかないもんな」
そう言っていちーちゃんはペンダントを見せる。
- 536 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:15
- 「M&S」のペンダント。これを意味するものがようやくわかった。
Mは美貴、Sはいちーちゃんの名前、紗耶香。
二人の名前を差していることにも気づかなかった。
「今まで黙って悪かった」
いちーちゃんはアタシに頭を下げた。
「やめてよ。いちーちゃん頭を上げて」
いちーちゃんは頭を上げたけど、申し訳なさそうな顔をしていた。
こんな顔をしているいちーちゃん初めて見る。
二人がこんなことになるなんて、まったく想像もしていなかった。
「美貴のこと本気で好きなの?」
「ああ、当然だよ。世界中の誰よりも愛している」
アタシはため息をついて、遠くの景色を眺める。
「そっか・・・。でもさ、もうちょっと早く言ってほしかったな」
寂しい思いは消えない。長いの付き合いの二人だからこその感情だろう。
アタシは空を見つめる。またため息がひとつだけ出てきた。
いちーちゃんは隣で微笑んでいた。
- 537 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:16
- 「時間もあるから、今日はいろんな所へ行こうよ」
「うん、いいけど、お店の方はいいの?」
「今日は臨時定休日ってことにしてあるから、問題ないよ」
そう言っていちーちゃんは、アタシの手を引っ張ってバイクの停めてある
場所に向かった。楽しそうないちーちゃん、でもアタシは楽しめないよ。
なんだかアタシだけ一人取り残された気分になった。
最近はいろんなことが多過ぎた。
梨華ちゃんからの告白から始まり、高橋と彼女のデートに尾行もしたりした。
そして、美貴といちーちゃんが付き合っていることがわかった。
恋ってなんだろう。愛ってなんだろう。考えてもわからない。
そんな考え事も知らずに、いちーちゃんの運転するバイクに乗って
夕方まで遊んでいた。
- 538 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:16
- 家に帰って、しばらく考えてみた。
人を好きになるってどういうことなのか。
アタシにはいまいち理解できないし、二人の気持ちもよくわからない。
どれだけ考えても答えはわからない。結局、その日は考えるのをやめた。
翌日、土曜日。学校は休み。アタシは何をするでもなく
ただベッドの上でぼんやりとしていた。
「真希さん、お客さんですよ」
ドアの向こうから彼女の声が聞こえた。
「うん、わかった。今行くよ」
アタシはノロノロとベッドから降りて部屋を出た。
「誰が来てるの?」
「藤本さんです」
玄関に向かうと、美貴は待ち構えていたように笑顔で待っていた。
「よっ!なんだか眠そうな顔してるね」
「なにか用?」
「ちょっと話がしたいから、顔を貸してよ」
アタシは美貴に手を引っ張られて連れ出された。
- 539 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:17
- 「あさ美ちゃん、ちょっと真希借りるね。大事な話があってね」
「はぁ・・・まあいいですけど」
彼女は美貴の行動に戸惑いながらも答えた。
「よし、決まり行くよ!真希」
アタシは美貴に強引に腕をつかまれて外へと出た。
美貴と海岸沿いを歩く。表情もいつもと変わらない。
「どこ行くの?」
「人があんまり来ない所にしよう」
そう言って連れて行かれた所は、夏祭りの日に花火を見た場所だった。
あの日の帰り道、海に落ちそうなった彼女助けて、アタシが海に落ちて
しまったんだよね。ついこの間のことなのに昔の感じてしまう。
そこに着くと、美貴は持ってきたサックスを取り出した。
演奏し始めた曲は「銀色の永遠」だった。
アタシは美貴の演奏を黙って聞いていた。
- 540 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:18
- 海に向かって、気持ち良さそうにサックスを吹くその姿。
見慣れた後ろ姿。美貴の演奏は結構励まされる。
いつも真っ先にオリジナル曲をアタシに聞かせてくれた。
楽しい曲だったり、悲しい曲だったり、美貴の曲はアタシ結構好きなんだ。
「紗耶香さんから話聞いたよね?」
気がつくと美貴は、演奏をやめてアタシに近くまでやってきた。
「聞いたよ。付き合ってるんだね」
「うん、そうなんだ。ずっと言えなくてごめんね」
アタシは首を振る。
「びっくりしたよ。まさかいちーちゃんと付き合うなんて」
「美貴もまさかこういうことになるなんて思ってなかった」
「いちーちゃんに言ったけど、おめでとう」
「ありがとう。でもね・・・今日はその話をしに来たわけじゃないんだよ」
突然、美貴は表情を変えた。
「真希、あんたさぁ・・・あさ美ちゃんのこと好きでしょ?」
- 541 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:18
- ・・・一瞬、美貴が何を言っているのがわからなかった。
アタシは彼女が好き?何を言うんだろう。
冗談にしては笑えない。
「美貴・・・何、言ってるの?冗談はやめてよ・・・」
アタシがそう言うと美貴は、大きなため息をついた。
「いつもの真希なら、強く言い返してくると思ったんだとけどね」
アタシは強く否定したつもり、けど美貴にはそう聞こえなかったようだ。
「よし、質問を変えよう。今、一番大事な人は誰?」
アタシは考えた。真っ先に浮かんだ顔は・・・彼女の笑顔だった。
何度考えても浮かぶのは彼女の顔だった。
「どう?あさ美ちゃんの顔しか浮かばないでしょ」
まるで心を読んだような美貴の一言。アタシはゆっくり頷いた。
「でも・・・例えアタシがあさ美のことを好きだとしても、妹だよあさ美は」
そうこれは絶対に変えられない関係。血は繋がっていなくともアタシ達は姉妹なんだ。
「妹だから何?姉妹だからなんなの?別にいいじゃん!誰を好きになったっ
- 542 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:19
- 真剣な目をしてアタシを見つめる美貴。思わず目をそらしてしまった。
「あさ美は好きになっちゃいけない人だよ」
「なにそれ?そんなのいないよ。そんなこと言ったらさ
美貴だって・・・紗耶香さんは好きになっちゃいけない人だった
真希に理由はわかるかな?」
アタシは首を振る。どういうことだろうか・・・わからない。
「やっぱりね・・・こけだけは知っておいてほしい。
紗耶香さんはねずっと真希のことが好きだったんだよ」
いちーちゃんがアタシのこと好きだった・・・?
まさか、何かの間違いだろう。
「それは最近までの話。あさ美ちゃんがこの街に来て
しばらく立ってからさ、紗耶香さんこう言ったんだよね。
あさ美ちゃんといる時の真希は輝いているって。
私じゃあんな風に輝かせることはできない。そう言ったの」
- 543 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:20
- 気づかなかった。いちーちゃんのアタシへの思い。
そこまで強いものだったんだね。
でも、彼女が来てから、その思いは消えてしまった。
アタシってバカだよ。ずっと一緒にいたのに。
「真希のその鈍感さが、周りのみんなを傷つける」
ふいに、アタシに想いを伝えた梨華ちゃんの顔、彼女のことを想ってた
高橋の顔、そしていちーちゃんの顔、そして目の前の美貴も傷つけてしまった。
「もう、誰も傷つけちゃいけないよ」
「でも、アタシはどうしたらいいの?」
「それは真希自身が考えることだよ。美貴はヒントを出しただけ」
長いことアタシを苦しめてきた不思議な気持ちは、彼女への想いだった。
それはわかった。けどその先、どうすればいいのかがわからない。
戸惑うアタシに、美貴は何も言ってくれない。
- 544 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:21
- 「ねえ、ひとつだけ聞かせて。いつからアタシはこんな風になったの?」
「真希が転びまくった日あったじゃん。あの辺からかな」
アタシが考え事をしていて、階段から落ちたり、壁に激突したりした時か。
確かその前日、彼女と不意にキスをしてまった。思い出してハッとした。
あの時からアタシは彼女のことを意識するようなった。
「でもね、真希が変わったのはもっと前からなんだよ
それは、あさ美ちゃんが来てから。真希は確実に変わった」
美貴はアタシの隣に立った。風で最近伸ばしはじめた髪の毛が揺れる。
「真希、覚えてる?美貴が真希の事問い詰めたことあったじゃん
真希の様子がなんだかおかしかったからね。美貴はてっきりあの時、
男が出来たと思ってた。もしかしたらもうあの時あさ美ちゃんと
出会っていたんじゃないかなって今になって思うんだ」
美貴の言うことは当たっていた。
- 545 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:22
- アタシはもうなにがなんだかわからない。
「真希、この先どうするつもり?」
そう聞かれても選択肢が見つからない。
思わずアタシは髪の毛を掻き毟った。
「この先、告白するもしないも真希の自由だよ。
でも、好きって気づいたらそのままじゃいられないよ」
そう言って美貴は、サックスをケースしまって立ち上がった。
「ったく・・・こんなこと言う友だち。世界中探したって美貴だけど思うよ
後は美貴たちは見守るだけだよ。じゃあね」
美貴は小さく笑いながらケースを担いで去っていた。
取り残されたアタシ。少し無責任のような気もするが
これもアタシのためなんだろうか。
- 546 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:23
- アタシは彼女が好き。スキ・・・すき・・・好き
それってどんな気持ち?アタシはどうすればいい?
どうしたいの?自問自答してみても答えにたどり着かない。
アタシはしばらくその場を動けなかった。
歩けば答えも出るだろう。そう思ってアタシは歩き出しだ。
帰り道とは違う方向に向かって進んだ。
ゆっくり歩いていると、海から上がってくるサーファーと目が合った。
それはよく見慣れた顔だった。
「あれ?真希ちゃんじゃん」
「梨華ちゃん・・・」
浮かない顔をしたアタシに、梨華ちゃんはそっと微笑んだ。
「どうしたの?」
「うん・・・ちょっとね」
アタシが言葉を濁した。こんな気持ち言える訳がないよね。
- 547 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:23
- 「もしかして、やっと気づいたのかな?自分の気持ちに」
アタシは驚いた。梨華ちゃんもアタシの気持ちを知っていた。
「なんで知ってるの?」
「わかるわよ。ワタシとデートした時のこと覚えてる?」
そう言われても、なにも変わったことはなかったような気がする。
「あの時の真希ちゃん、妹さんの話しかしてなかったよ。
それで確信したんだ。真希ちゃんは妹さんのことが好きなんだなって」
その時のことは全然覚えてない。アタシそんなことしていんだ。
梨華ちゃんはゆっくりと砂浜に腰をおろして、アタシに座るように促した。
「なんか、迷ってるようだね」
迷って当然だよ。そう思いながらアタシは梨華ちゃんの隣に座った。
「そりゃ、戸惑うよね。相手は義理と言っても妹だもんね」
その関係だからこそ、アタシは悩んでいる。
- 548 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:24
- 「アタシは・・・また自信がない。本当に好きなのか」
「じゃああなたはどう思ってるの?あさ美さんのこと」
アタシは聞かれて考えた。彼女がそばにいると安心する。
彼女が他の誰かと話している時、なぜか嫌な気分になる。
彼女がいればアタシは強くなる。彼女の微笑みがアタシを変える。
アタシは彼女をずっと見ていたい。
離したくないし、誰にも渡したくない。
ずっとずっと彼女と一緒にいたい。
「ワタシはもう答えが出てるような気がする」
「どういうこと?」
「今、心の中で思った気持ちが答えだと思う」
アタシはまだ理解するのに時間がかかると思った。
「ワタシが真希ちゃんを好きになった時は、胸のドキドキが止まらなかった」
今の気持ちと同じじゃない?そう言いだけな梨華ちゃんの顔を見た。
- 549 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:25
- そうかもしれない。でも、彼女を好きだという気持ちを認めたくない部分もある。
いいのかな、彼女の事を好きでいて。
黙り込むアタシに、梨華ちゃんはそっと微笑むだけだった。
―――――別にいいじゃん!誰を好きになったって
美貴の言葉を思い出す。人を好きになることは悪いことじゃない。
アタシの場合、相手が義理の妹ということだけ。
「いつまで迷ってんのよ!自分の気持ちに正直になりなよ!」
珍しく声を荒げた梨華ちゃんの声に、アタシは我に返った。
「ごめん、アタシもゆっくり考えてみる」
「ワタシのほうこそごめん。ちょっと熱くなりすぎちゃったかな」
考える時間は、そんなにないかもしれない。
アタシは納得いく答えを出したいと思った。
隣の梨華ちゃんが急に立ち上がって、海のほうを見ていた。
「どうしたの?」
「うん、ちょっとね。明日は強い風が吹くかもしれないから気をつけてね」
前、梨華ちゃんは海にいれば、天気はだいだいわかると言っていったけ。
でも、アタシはこの言葉をちゃんと聞いてればよかったと後悔することになる。
その時はそんなことなんて思いもしなかった。
- 550 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:25
- その日の夜、アタシは部屋に閉じこもりずっと考えていた。
彼女と出会ってから今日までのことを、思い出せば思い出すほど
色んなことが駆け巡る。笑顔、涙、怒り、これまで彼女の表情が浮かぶ。
アタシは彼女からいろんなものを貰った気がする。
今度はアタシが彼女に色んなものをあげる番かな。
そう思い、アタシは立ち上がり机の引出しを開けた。
いつの間か数十枚に増えた彼女の写真。どの写真も彼女は笑っていた。
その中にはいつも青空が広がっている。
よし、決めた。アタシは部屋を出て、隣にいる彼女の部屋のドアをノックした。
「はい、真希さん。どうしたんですか?」
いつもと違う。アタシの雰囲気を感じ取ったのだろうか、不思議そうな顔をしていた。
「明日、暇だったら遊びに行かない?」
「はい・・・いいですけど。なにかあったんですか?」
「うん、最近勉強ばかりでさ姉妹であんまり過ごすことなかったじゃん」
アタシは都合のいいこといって彼女を納得させた。
- 551 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:26
- これでいいのかどうかアタシにもまだわからない。
でも、自分を信じてみようと思う。
例えダメでも、この関係が終わるわけじゃないから
アタシは覚悟を決めて、その日を迎えた。
空はやたらと雲が多くて、青空は少しだけしか見えなかった、
出掛ける直前、天気予報に耳を傾ける。
午後から強い風が吹くので注意してくださいとテレビの声が聞こえてくる。
しかし、今のアタシにはそんなことを気にとめていなかった。
頭の中は彼女のことでいっぱいだ。
アタシは玄関で彼女が来るのを待っていた。
「お待たせしました。行きましょうか」
彼女が笑顔で二階から降りてきた。
「うん、行こうか」
そして、アタシ達は二人で歩き出した。
- 552 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:27
- 「今日はどこへ行こうか」
「どこでもいいですよ」
いつものように彼女は笑っていた。
今のアタシの気持ちも知らずにただ笑っていた。
この笑顔をずっと見ていたい。
とりあえず、いくあてもないままアタシ達は歩いていた。
さっきまで青空を覗かせていた空も今はどんよりとした曇り空。
海もなんだか荒れていて波が激しく音を立てていた。
あの海岸に行こうと、思ったが波が高いのでやめておこう。
「天気、あんまりよくないね」
「でも、雨は降らないみたいですよ」
「そうなんだ。よかった」
途切れ途切れの会話。まるで昔のアタシ達に戻ったみたい。
- 553 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:27
- 彼女は今のアタシを見て、どう思っているのだろうか。
行くあてもないまま歩くアタシ達。
とりあえずグラフィティに行こう。なにかいい案が浮かぶだろう。
そこに着くまで会話はあんまりなかった。
思いを決心はしたはいいが、最初の言葉がなかなか見つからない。
グラフィティに着くと、ゆっくりと扉を開けた。
「いらっしゃい」
変わらない笑顔で、迎えるいちーちゃん。
でも。目つきはなんだか違う。
いちーちゃんの目は「決めたんだな」と言っている気がした。
だから、アタシは小さく頷いた。それに答えるように
いちーちゃんも頷いた。これでいいんだよね。これでいいんだ。
アタシはカウンターに座った。
一言も話さないアタシ達に、彼女はなんだか戸惑っているようだった。
- 554 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:28
- いちーちゃんはアタシ達にコーヒーとジュースを出すと
黙々と雑誌を読み始めた。
「あの、ケンカでもしてるんですか?」
「んあ、なんで?」
「真希さんも市井さんも一言も話さないので」
いちーちゃんは読んでいた雑誌を閉じて、アタシ達に向き合った。
「ちょっと二人きりしとこうかな思ってね」
「えっどういうことですか?」
「こっちの話気にしないで、それにケンカなんてしてないから安心してよ」
うまいフォローとは言えないけど、なんとか彼女を納得させることが出来た。
いちーちゃんもさすがにこの態度はまずかったかなと思い、いつも通りになった。
けれどもアタシはいつも通りになることができない。
しかし、いつまでもこうしているわけにはいかない。
アタシは急いでコーヒーを飲み干した。
「じゃあ、行こうか」
「お金はいいよ。今日は奢るから」
「いいの?」
そう聞くと、いちーちゃんは深く頷いた。
- 555 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:29
-
アタシはいちーちゃんの言葉に甘えて、お礼を言って店を出た。
店を出て、空を見上げるとますます天気は悪くなっていた。
強い風がグラフィティの窓をガタガタと揺らしていた。
そんな風の中をアタシ達はゆっくりと歩き出した。
さあ、彼女にどんな言葉で伝えよう。アタシは言葉を探す。
森の中へ行こうと、アタシ達は高校の近くを通りかかった。
ビルの建設現場は大きな音を立てて作業をしていた。
クレーンが鉄骨を運ぶ、そんな光景をアタシは見ていた。
さっきより強い風が吹いた。その時だった。
「危ないぞ!」
誰かの声がした。アタシはとっさに上を見上げた。
強い風で鉄骨を支えるワイヤーが切れたのだろう。
アタシ達に向かって鉄骨が勢いよく落ちてくるのが見えた。
ここは彼女だけても助けたいと思い、突き飛ばそうと思い
彼女に手を伸ばした。しかし、どんなに手を伸ばしても
彼女には届かなくて、どんどん彼女が離れていった。
- 556 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:30
- アタシは何が起こったかわからなかった。
なんで・・・どうして・・・そう、思った瞬間。
アタシは彼女に思いきりつき飛ばされて、地面に倒れこんだ。
それから、辺りに轟音が響き、砂煙が舞った。
思わず目を伏せるアタシ。頭が痛い。突き飛ばされた時に
打ってしまったのだろう。体をふらつかせながら立ち上がった。
「あさ美!」
彼女の名前を呼ぶ。けれども応答はなかった。
砂煙が晴れると目の前に信じられない光景があった。
鉄骨の下敷きになった。彼女の姿を見た。
「あさ美!あさ美!」
何度呼んでも彼女は返事をしない。
足がもつれてうまく歩けない。けど夢中で彼女に元へ向かった。
「ねぇ・・・あさ美。返事をして」
騒然とする周り、アタシは構わず名前を呼び続ける。
彼女の血が地面を真っ赤に染めていった。
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
アタシは力の限り叫んだ。
- 557 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:30
-
- 558 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/04/28(金) 17:31
-
- 559 名前:ヒガン 投稿日:2006/04/28(金) 17:32
- 本日はここまで。16話後半終了です。
大事な所でコピペミス・・・すみません。
- 560 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/26(金) 01:59
- すごく場面がイメージできて読みやすいです
- 561 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/07/15(土) 22:42
- ひそかにワクテカしながら待ってます
- 562 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:07
-
17―――――――
- 563 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:07
- どれくらいの時間がたったのだろうか。
アタシはどうやってここに来たのだろうか。
それさえわからないまま、アタシはずっと座っていた。
手術中という赤いランプを見つめていた。
彼女を庇うはずが、逆に助けられてしまった。
なんで、あの時彼女はアタシのことを・・・。
今は彼女を守れなかった悔しさで胸がいっぱいだった。
拳を強く握りしめて、壁に思いきり打ちあてる。
痛みなんて今のアタシには感じない。
そんなアタシを横目に手術室を医師や看護師たちが慌しく
行きかっていた。
「あさ美は・・・妹は大丈夫なんですか?」
アタシは一人の看護師に歩み寄って声を掛けた
- 564 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:08
- その看護師はアタシよりも背が低かった。
落ち着いた表情でアタシを見ている。
「助けてください・・・妹を助けてください!」
「落ち着いてください。我々も全力で尽くして手術をしています」
「お願いです・・・アタシはどうなってもいいから・・・」
看護師はアタシを宥めるようにして、椅子に座らせた。
「今は冷静になってください」
看護師が、ふとアタシの手を見た。
壁を殴ったせいでアタシの手の甲は血で染まっていた。
「あなたもケガしてるわね。さあこっち来て手当てしましょう」
でも、アタシはそこかに一歩も動きたくはなかった。
「あの・・・ここを離れたくないです」
「わかりました。ここで待っていてください包帯と消毒液を持ってきます」
そう言って看護師は急いで廊下の奥へと駆けて行った。
- 565 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:09
- アタシはまた赤いランプに目を向けて、後悔を繰り返す。
今は祈ることしかできない。誰でもいいから助けてほしい。
そう願っていた。出来ることなら変わってあげたい。
それから、しばらくして看護師が包帯と消毒液を持って
戻って来た。アタシは自然と手を出した。
今頃になって手がジンジンと痛み始めた。
看護師は黙々と手当てをしてくれていた。
廊下の向こう側から慌しい足音が聞こえてきた。
「真希!」
連絡を受けたのだろう、お父さんとお母さんが駆けつけた。
そんな二人顔を見たら、また涙が流れてきた。
「お父さん・・・あさ美が・・・あさ美が・・・」
「真希、落ち着きなさい。おまえは無事なんだな」
お父さんがアタシの肩をしっかりと抱いて、ポンポンと背中を叩く。
- 566 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:09
- 「ご家族の方ですか?」
「はい、そうですが。娘の様態はどうなんですか」
「はい、今手術していますが、大変危険な状態です」
その看護師の言葉に、お母さんは涙を流し、お父さんは座り込んで
項垂れていた。アタシも頭を抱え込んで泣きつづけた。
アタシの手当てを終えて看護士は、再び手術室の中へと入っていった。
アタシ達、3人はずっと手術室の前で待っていた。
けれど、赤いランプが消える様子はなかった。
「おまえ、そのケガ大丈夫なのか?」
「うん・・・」
包帯の巻かれた自分の手を見る。
神様がいるのなら、助けてほしい。
- 567 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:10
- 「真希、おまえは帰りなさい。手術は終わりそうにない」
アタシは強く首を振る。いやだ・・・この場を離れたくない。
離れたら・・・彼女がいなくなりそうで怖い。
「お願い・・・ここにいさせてよ」
「ダメだ、帰りなさい。おまえまで倒れるぞ」
「アタシはどうなってもいい!」
「何を言うんだ!」
お父さんはアタシの肩を掴んだ。
「今日は言うことを聞いて帰れ。また明日にでも来なさい」
結局アタシは無理やりタクシーに乗せられて家へ帰ることになってしまった。
家に着いて真っ暗の部屋の中、ただぼんやりと座っていた。
もう涙も枯れ果ててしまった。アタシはゆっくりと立ち上がり浴室に向かう。
- 568 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:17
- 家にいてもなにをすればいいかわからないし、ただ座っているのも嫌。
アタシは今の気持ちを洗い流すようにシャワーを浴びる。
けれども・・・それは無理だった。アタシは浴室の壁にもたれ掛って
涙は出ないけど泣き続けた。
「真希!どこにいるの?いるんでしょ!」
誰かがアタシを呼んでいる。今は立ち上がる力もない。
勢いよく、浴室の扉が開かれた。
「真希・・・何やってるの?」
その声の主は美貴だった。
「何って・・・シャワー浴びてるんだけど・・・」
「服を来たまま?」
美貴に言われて、気かづいた。アタシは服を来たままシャワー浴びていた。
水をたっぷり染み込んだ服の重みさえも今は感じない。
「ったくもう・・・何やってるの」
美貴は濡れるのも構わずに浴室に入って、シャワーの蛇口を閉めた。
- 569 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:18
- アタシは美貴に引っ張られて、脱衣所まて連れてこられた。
側にあったバスタオルを取って、乱暴ではあるけどアタシの
濡れた髪をゴシゴシと吹き取っていた。
「情けない・・・」
ポツリと聞こえた美貴の声。まったくだ。今のアタシは情けない。
タオルに首にかけたまま、美貴に手を借りて自分の部屋に行った。
部屋に入るなり、勝手にクローゼットを開けてアタシにジャージを渡した。
「とりあえず、着替えなよ。風邪ひくよ」
美貴に言われるがまま、アタシは渡されたジャージに着替えた。
着替えた後は、ベッドの上でうずくまってまた泣きそうになった。
そんなアタシに美貴は睨みつけるように向き合っていった。
「なんで・・・美貴はここに来たの?」
今はどうでもいいことなんたけど、自然と口が動いた。
「おじさんから連絡あって、真希の側についてろって言われた」
「そう・・・じゃうもう知ってるんだ」
声もほとんど出なくって来た。美貴はアタシを睨んだままだ。
- 570 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:19
- 俯いたままアタシは自分を憎んでいた。
「全部アタシが悪いんだ・・・」
「なにそれ・・・」
「アタシがもっと早く助ければあさ美はこんなことには・・・」
美貴はアタシに抱きつき、力強く、背いっぱい抱きしめてきた。
「今・・・あさ美ちゃん頑張ってる・・・それなのに真希がそんなでどうするの?」
「もっと早く気づいていたらよかったのかな・・・」
美貴はアタシから離れて、今度はそっと肩に手を回した。
「たらればの話なんてしてたらきりがないよ」
もしも彼女と出会っていなかったら・・・。
もしもアタシがあの海岸にいかなかったら・・・。
もしもお父さんとお母さんが再婚しなかったら・・・。
確かにたらればの話を考えるときりがない。
- 571 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:20
- 「助けられなかった真希の気持ちはわかるよ。
けどさぁ・・・それがあさ美ちゃんの優しさなんだよ」
そんな優しさなんていらない。
今は彼女を失いそうな悲しさがいっぱいだ。
「夏祭りの帰り、真希があさ美ちゃんを庇って海に
落ちたことあったよね。その後、あさ美ちゃんと話す機会があってね。
あさ美ちゃんはこんなこと言っていったんだ
―――いつも私は助けられてばっかりです。いつかは私が真希さんを助けたい。
今回のことはあさ美ちゃんの意思なんだよ」
なにそれ・・・この結果が彼女の意思だって言うの?
そんなの嫌だよ。そんなの受け入れたくない。
「もう・・・しょうがない。真希の方も心配だから、今日は泊まる」
今はその方がいい。一人でいるのも怖いから、誰がいてくれたほうがいい。
- 572 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:21
- 美貴はアタシのジャージを着て、ひとつのベッドで寝ることにした。
「真希、あんまり自分を責めないでよ」
今日の美貴はなんだか心強い。これが本来の美貴の姿なのかもしれない。
アタシの想いを気づかせてくれたのも美貴だし、頼りなる存在。
けれども、アタシは未だに自分を責めつづけた。
責めるなと言われても無理だよ。
「今日はもう寝よう。明日一緒に病院に行こう」
そう言って美貴は目を閉じて、しばらくして規則正しい寝息が聞こえてきた。
でも、アタシは目を閉じることすらできなかった。
いや・・・したくなかったのかもしれない。
眠ったら明日、彼女はもういないかもしれないなんて考えてしまう。
これは夢なんだ。眠れば醒めるだろうという考えもあるけど
そんなことは今のアタシには思いつくこともなかった。
- 573 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:21
- 結局、アタシは一睡もすることができなかった。
ただ、空が明るくなるのをただ見ていた。
アタシは寝ている美貴を、起こさないようにベッドから出た。
窓を開けてまだ薄暗い空をみた。昨日の強い風がまるで嘘のような空。
手の傷もまだジンジンと痛みがある。
リビングのソファーに座った。出てくるのはため息と涙だけ。
玄関のほうから慌しい物音がした。
「真希、おるんやろ?上がらせてもらうよ」
血相を抱えた表情で裕ちゃんが部屋に入ってきた。
「昨日の夜遅くてなってしもうて、明け方にメール見てびっくりしたわ。
大変なことになってるやん。真希はあんた大丈夫なん?」
アタシは答えることもできずに、裕ちゃんから視線を外した。
そして、二階から裕ちゃんの声を聞きつけて、美貴もやってきた。
- 574 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:22
- 「美貴も来てたんや」
「昨日の夜に来て、心配だから泊まったんです」
二人はいっせいにアタシに視線を集中させた。
「それより・・・なんやこの真希の姿。まるで抜け殻やん」
「はい・・・昨日からこんな感じです」
裕ちゃんはアタシに近づいて、肩を掴んで何度も名前を呼ぶ。
けど、そんな声も今は遠くの方で聞こえる。
「真希。しっかりせいや」
アタシを強く揺らす裕ちゃん。美貴が裕ちゃんの腕を掴んで止めた。
「中澤さんは・・・今の真希には何を言ってもムダみたいです・・・」
その時だ。裕ちゃんの携帯電話が鳴った。
「はい・・・おはようございます。今、真希と一緒にいます」
様子から見ると電話はお父さんからのようだ。
しばらくすると、裕ちゃんの表情が変わった。
- 575 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:24
- 電話を閉じるとアタシ達に背を向けたまま涙を堪えていた。
「あさ美ちゃんの手術終わったそうや。一命はなんとか取りとめた・・・。
けどな・・・未だに意識が戻らんらしい・・・」
言い終えると、裕ちゃんと美貴は唇を噛み締めていた。
アタシはまた絶望感で胸がいっぱいだ。
「とにかく・・・今から病院に行こう」
アタシは裕ちゃんに手を借りて、立ち上がった。
足は鉛のように重い。支えられながらゆっくりと歩いた。
アタシと美貴は着替えてから、玄関を出た。
外にはバイクにまたがったまま、こっちを見ているいちーちゃんがいた。
「いちーちゃん・・・なんで」
「美貴が呼んだんだよ」
いちーちゃんはアタシの表情に気づいて、バイクから降りて近づいてきた。
- 576 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:24
- 「大丈夫か?」
俯いているアタシにいちーちゃんは覗き込むようにして顔を見せる。
今のアタシはなにも答えられない。
「私も病院に行くよ。後藤は私と一緒に来い」
そう言ってアタシにヘルメットを被せて、手を引っ張られて
バイクに乗せられた。
「少しは頭も冷えるだろ」
穏やかな表情をしたいちーちゃんの声。
今のアタシを見て、どう思っているのだろうか。
「美貴は私と一緒に車で行こう」
美貴は裕ちゃんの運転する車に乗り込んだ。
いちーちゃんが先に動きだすと、それを追うようにして走り出した。
相変わらず温もりのあるいちーちゃんの背中。温もりを感じながら
空を見た。なぜだが悲しくなった・・・違うじゃん・・・話と違うじゃん。
- 577 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:25
- 全然、癒されないよ。青空はアタシを悲しませるだけだった。
今の空は悲しみの青。笑えることすらできない。
彼女が見ていた空はこんな空だったの?違うきっと違う。
でも、この悲しさは青空のせい・・・もうなにも信じられない。
それから、アタシは空を見るのもやめた。
空はアタシも彼女も守ってくれない。だからは空を見るのをやめた。
「スピード少し上げるよ。風で涙も拭えるかもな」
バイクの速度が上がる、冷たい風が頬に差す。
風で涙は流されていく、そんな気がした。
けれども、アタシの心の中まで風は吹き込むことはなかった。
それからいちーちゃんにも何も言わず、病院までバイクを走らせた。
- 578 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:26
- 病院に着くと、アタシ達は彼女が運ばれたICUに向かった。
そこにはお父さんとお母さんがいた。ガラスの向こうには彼女がいた。
その姿はアタシは息をのむ。ベッドに周りには見たこともない機械があった。
それに囲まれて横たわる彼女の姿。アタシは思わず目を背ける。
美貴と裕ちゃんは泣きながら彼女を見ていた。
いちーちゃんは唇を噛み締めて悔しそうにガラスの向こう側をみる。
お父さんは疲れきった表情をしている。お母さんもかなり泣いたのだろう
憔悴しきっていた。
「アタシのせいだよ・・・なんでこんこなとに。全部アタシが悪い」
アタシがそう言って俯いた。その時だコツコツと足音が聞こえてきた。
顔を上げると同時に頬に痛みが走る。叩かれたんだなと理解した。
アタシを叩いたのは誰?裕ちゃんかな、美貴かな、それともいちーちゃん?
- 579 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:27
- 誰でもいいよ。今のアタシにはちょうどいい痛みだ。
顔を上げて顔を見る。アタシを引っ叩いたのは意外な人だった。
「お母さん・・・」
「しっかりしなさい!あなたはあさ美の姉でしょ」
初めて叱られた。叩かれたのも初めてだった。
なんでそんなに冷静なんですか?あなたの娘が大変なんですよ。
そんな表情で見つめても、お母さんの顔はそのままだった。
「あなたがそんなんじゃ、あさ美も悲しむわよ」
そう言って涙を流しながら、アタシから離れていった
「言いたいこと言われてもうた」
裕ちゃんがアタシの肩をポンと叩いた。
「あーあー、思い切り引っ叩いてやろうと思ったのに」
いちーちゃんもアタシの肩をポンと叩いて通り過ぎた。
「美貴もだよ。でも先越されちゃった」
続いて美貴もアタシの肩を叩いた。
- 580 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:28
- それからしばらくしてアタシ達のもとに彼女の担当医がやってきた。
話があるらしくて、お父さんとお母さんが医師についていった。
アタシも行こうとしたが、裕ちゃんに止められた。
「行かせてよ・・・アタシも話が聞きたい」
「聞かんほうがええ。あんたのために言ってるんや」
でも、アタシは裕ちゃんを振り払って後を追った。
会議室のような所へ通された。医師と看護師が真剣な顔をして立っていた。
看護師はアタシのケガを手当てしたくれた人だった。
その人は目が合うと、軽く会釈をした。医師がレントゲン写真を見ている。
しばらく黙っていた医師がようやく話を始めた。
でも、アタシには言っているかさっぱりわからない。
彼女は外傷ないが、頭を強く打っていた。
受け入れたくはないが、彼女もう目覚めないかもしれないという現実
- 581 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:29
- 次に医師は彼女の病状についての説明をした。
「植物状態に陥った患者さんも、約5〜6%は自然回復が認められています。
回復と言っても元の状態戻るというように著しい回復が見られるわけありません」
お父さんとお母さんは口を抑えて震えていた。アタシも言い様の無い怖さを感じた。
医師は構わず話続けた。
「例えば記憶障害とか言語障害、体の自由が利かなって車椅子の生活になります。
ごく稀に意識を喪失してから数年後に意識が回復して普通の生活に戻ったという
事例も報告さています」
アタシはもう聞くのをやめて、部屋を出て、そのまま駆け出しだ。
目覚めたとしても、障害が残る?嘘でしょ・・・そんなことを考えながら
夢中で階段を駆け降りた。何も考えず走った。
「真希!?」
階段の上から美貴の声がした。でも、アタシは見上げることなく走った。
- 582 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:30
- 病院を出て、走り続けた。転ぶこともあったけど立ち上がる。
今のアタシはなにから逃げてるんだ。それもわからないくらいだった。
夢中で走るあたしが辿り付いた場所はお母さんの眠るお墓。
なんでここに来たんだろう。
「お母さん・・・お願いあるの。あさ美を連れて行かないで・・・あさ美を助けて」
祈ればなんとかなるだろう。神様でも仏様でもいいからこの願いを聞いてほしい。
どれくらいそうしていたのかな。冬が近くなったとは思えない風が吹く。
「やっぱり、ここにいたんだ」
振り返ると美貴が立っていた。隣にはいちーちゃんもいる。
「さすが美貴。よく後藤の行き場所がわかったな」
「悩み事があると時々にここに来てたから、もしかしてって思って」
「そっか。後藤はなんで何を話していたんだ?」
「祈ってた・・・。お母さんに連れていかないでって」
それを聞いた二人はなんて言ったらいいかわからない表情をしていた。
- 583 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:31
- 「今はそれでいい・・・私にも祈らせてくれ」
いちーちゃんはそう言ってお墓の前で手を合わせた。
「じゃあ、美貴も。3人で祈れば効果あるかも」
美貴もお墓の前で手を合わせていた。
ありがとう美貴、ありがとういちーちゃん。
こんなアタシに付き合ってくれて。
「真希、病院に戻ろうよ」
「うん・・・」
アタシは美貴といちーちゃんに挟まれて、病院に戻る。
ふと、後を振り返ってお母さんのお墓を見る。
アタシ達の願いは叶うかどうかはわからない。
でも、きっと祈ったから大丈夫。
「ちょっとは落ち着いたようだな」
いちーちゃんがそっとアタシの頭を撫でる。
まだ笑顔にはなれないけど、アタシは病院に向かった。
- 584 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:32
- 病院に戻り、彼女の眠っているICUを見つめた。
変わることなく眠りつづけている。
「真希、戻って来たようやね」
「やっぱり、逃げることなんてできないからさ・・・」
二人でガラスの向こうの彼女を見ていた。
「裕ちゃん・・・アタシさ・・・」
「あさ美ちゃんのこと好きなんやろ?」
「裕ちゃんにもわかってたか。許されないことだよね」
「別にええやんか。私は構わないと思うよ」
思いもしない裕ちゃんの言葉。
「だったら、もう逃げたらあかん。わかったね」
優しい顔をして裕ちゃんが言う。アタシは深く頷いた。
ガラス越しに映ったアタシの顔。ひどい顔をしてる。
「ちょっと、顔を洗ってくる」
そう言ってはお手洗いへと向かった。
- 585 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:32
- 冷たい水で顔を濡らした。なにもかも洗い流されたようだ。
顔を洗い終えて再び彼女の元へ戻ろうと思い、廊下に出た。
アタシはふと、暗い階段の前で足が止まった。
そこにいたのは、お母さんだった。
俯いたまま泣いていた。すすり泣く声がここまで聞こえてくる。
辛いのはアタシだけでじゃないんだ。
そんな当たり前のことにようやく気づいた。
アタシだっていつまでも泣いているわけにはいかない。
ずっと彼女のそばにいる。そう決めた。
- 586 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:33
- それから、彼女は一般病棟へと移された。
アタシは必要な身の回りの持っていくため。
久しぶりに家へと戻って来た。
彼女の着替えとか必要だから、彼女の部屋に入った。
彼女の部屋に入るのは初めてだった。
とても、綺麗に整頓されている。
掃除してやらないとな。そんなことを考えていた。
本棚にはいっぱい本があり、机の上には写真縦が置いてあった。
その写真は旅行の時、彼女が撮ったアタシの写真だった。
ずっと飾っていてんだ。恥ずかしいけど嬉しかった。
たまには空気を入れ替えてあげないと、アタシは窓を開けた。
風が吹いて、机においてあった日記帳がパラパラとめくれあがった。
人の日記を読むはいい行為ではないけれど、彼女の思い知りたいから
アタシは読んでみた。
- 587 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:34
- 『6月に入りました、もうすぐ梅雨という季節がやって来ます。
ああ、しばらく青空が見られないと思ったら、寂しいです。
てるてる坊主でも作っておこうかな。』
当たり前のように書いてある青空のこと。
『今日はまこっちゃんと学校の帰りに、新しく発売された
かぼちゃのスナックを食べました』
食べ物の話題ももちろん書いてあった。
まこっちゃん。前の街でとても仲が良かった子と聞いている。
かぼちゃが大好物と言っていたのを思い出した。
『今日はフットサル部の練習試合。吉澤さんの応援に行きました。
いつも以上に張り切っていた吉澤さん。かっこよかったな』
1度だけ会ったけど、あの時の吉澤さんは彼女の気持ちをよく理解していたな。
今のアタシはどうだろうか。これぽっちも理解なんてしてない。
目標とは言ったけど、まだまだだねアタシも。
- 588 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:35
- 『ついに梅雨入りしていました。天気予報じゃ明日も雨。
そして、もうひとつ気になることがありました。
吉澤さんの様子がおかしかった。なんだろう?
明日、学校で聞いてみよう』
アタシにはなんとなくわかった気がする。吉澤さんは彼女のことが・・・。
『今日も雨でした。まこっちゃんも雨って悲しくなるよねって言ってました。
私も同じ気持ちです。やっぱり吉澤さんの様子が変です。
また呼び出されたけど、結局、どうでもいいことだからと言ったままそれっきりです』
間違いない。アタシの思った通りだった。もう少し落ちついたら連絡しよう。
次のページをめくった。日付はアタシと彼女が初めて出会った日だ。
『今日は雲ひとつのない青空が広がっていました。
そんな、空の下で私はとてもステキな出会いをしたような気がします。
キレイな海岸で、キレイな青空で、そして、キレイな人と出会いました。』
あの日のことがまた蘇ってくる。
- 589 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:36
- 『その人はカメラを大事そうに持っていました。道に迷ったアタシにとても
親切にしてくれました。でも・・・ちょっと後悔してます。
名前を聞くのを忘れてしまいました。』
あの出会いを忘れない。まるで昨日のことような出来事だった。
『でも、今日はいいことばかりではありません。
お母さんから再婚すると。告げられました。
もちろん、私は賛成しましたが、転校しないといけなくなりました。
寂しいですけど、仕方ありません』
ショックだったろうな・・・住み慣れた街を離れると知った時は。
『転校するとまこっちゃん、吉澤さんに言いました。
予想はしたけど、みんな寂しそうな顔をしていた。
特にまこっちゃんはボロボロと涙をこぼしていた。』
この二人の気持ちはよくわかる。同じ立場だったらきっと涙を流す。
- 590 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:37
- 『転入試験の日。新しく住む場所に来て、驚きました。
だって、この間来たばかりの街だったから・・・。
この街に住めばいつかはあの人にまた会えるかも。
・・・なんて、思ったりしてます』
そんなこと思ってたんだ。アタシは思わず笑った。
『この街に来てからは、驚きの連続のような気がします。
新しくお父さんになる人の娘さんは、なんとあの人だったから
もう、頭の中は混乱していました。世間って狭いなって思います』
アタシだって驚いた。もう一度会いたいとは願ったけどこういう形の
再会になって思っても見なかった。
『別れの日はやってきました。皆、悲しそうにしていたけど
最後には笑顔で手を振っていた。みんな・・・ずっと友だちだよ』
これを書いた時きっと泣いていたはず、涙で字が滲んでいたから。
- 591 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:38
- 『街を離れる前、まこっちゃんと吉澤さんが見送りに来てくれた。
三人で決めたことさよならは言わない。
でも、そのことを忘れていて、ついに言いそうになった』
アタシはさらにページをめくる。
『新しい街での生活が始まります。周りの人たちはいい人ばかりです。
隣に住む中澤裕子さんという人はとても怖そうなんですがも優しそうな人。
そして、あの人のこと後藤真希さん。私のお姉さんになるんですね。』
ここからはアタシもよく知っている出来事が続いていく。
『やっぱり緊張します。あの人・・・じゃなくて真希さんといると。
うーん、慣れるまで時間が掛かりそうです。
でも、この街でうまくやっていけそうな気がします』
彼女の優しい文字を見ていると、あの時の風景が浮かんでくる。
- 592 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:39
- 『新しい学校の初日。緊張しました。でもすぐに友だちが出来ました。
高橋愛ちゃんです。愛ちゃんは早口で訛ってる子。とても元気な子です。
他にも知り合った人がたくさんいます。
真希さんのお友だちの藤本美貴さん。目つきがちょっと怖かったですが
とても面白い人です。真希さんととっても仲良くて羨ましく思いました。』
美貴が聞いたらどんな風に思うだろか。想像してたら笑えてきた。
『真希さんはいい人たちに囲まれて。幸せなんでしょうね。
お父さん、中澤さん、市井さん、藤本さん、愛ちゃん。みんないい人ばかり』
笑顔の次は嬉し涙が流れてきた。泣いたり笑ったり忙しい日だね。
- 593 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:40
- 『今日は日曜日だったので、真希さんと一緒に前、住んでいた街へ行きました。
お別れという意味もあったのですが、真希さんに貰いたかったから来てもらいました。
真希さんはその風景を真剣な顔をして、写真に撮っていました。
いい写真が出来ているはずです。できたらみせてもらうおうかな。』
あの時は、彼女のおかげで本当にいい写真がとれた。感謝してるんだ。
『偶然、吉澤さんにも会えたのがとても嬉しかった。
真希さんと吉澤さんがもし二人が友だちだったら、きっとうまくいくと思う
根拠はないけど、そんな気がする。』
アタシと吉澤さんが?あり得ないって日記に突っ込みをいれた。
- 594 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:40
- 『夏休みになりました。ここの街は海が近いから、とても賑やかです。
ここに住んではや1ヶ月。ずっと気になっていとこがあったから
思い切って真希さんに言ってみた。お母さんと呼んであげてくださいと。
でも、無神経なことを言ってるのに気づかなかった。
真希さんの前のお母さん(失礼かな)のお墓に案内された。
そこでいろんな思い出話を聞かせくれた。
私は焦らずゆっくりと言ったのですが、真希さんはすぐに
お母さんって呼びました。これで本当の家族になれようで嬉しかった』
これも彼女のおかげなんだよね。いつも思う不思議な力を持ってるんだな。
思えばアタシは何度も救われているような気がする。
アタシはどれくらい彼女を救えたのだろう?
- 595 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:41
- アタシの手を止まることなく次のページをめくった。
『今日は笑ったり、怒ったり、泣いたり、忙しい日でした。
知らないうちに写真を撮られていたのには驚いたな。
でも、私はいつもあんな風に笑っているんだ。
知らなかったな。でも・・・恥ずかしい。
その後は真希さんと一緒に夏祭りに行った。
焼きそばとかわたあめとか、とても美味しかったな。
花火もキレイだった。
けど、私のせいで・・・真希さんが海に落ちちゃった
風邪をひかないといいんだけど・・・』
あの時のアタシは無我夢中だったな。
彼女が助かればそれでいいと思っていた。
『真希さんが風邪を引いてしまいました。
全部、私の責任だから、精一杯看病しました。
そのおかげで真希さんはとても元気になった。
これからも真希さんをどんどん助けていきたいな』
その言葉だけで充分だよ。今度はアタシが救う番だよ。
- 596 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:42
- 『今日は家族旅行。初めての家族旅行、なんかいい響き。
真希さんとっても嬉しそうでした。
ステキな時間を過ごせたし、ステキな出会いもあった。
田中れいなちゃんと亀井絵里ちゃん。とても仲良しで
なんだか羨ましく思えた。』
あの二人は元気でいるだろうか。今も仲良くしているだろうか。
もし、会う事があったら報告したいことがある。
大切な人を見つけたよとあの二人に伝えたい。
『真希さんの寝ている姿。写真に撮っちゃいました。
いつも撮られているお返しです。
市井さんに教えられたとおりにやったけど
うまく撮れているか心配です。
出来た写真見たらきっとびっくりするだろうな
その時が楽しみだな。』
彼女の文字を見ているだけで、想いが伝わってくる。
不思議な気持ちだ。
- 597 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:43
- 『真希さんと中澤さんがほんの些細なことでケンカ。
私は真希さんに謝るように説得しましたが
言うことを聞いてくれず、途中で出逢った迷子の女の子を探すことに
その途中で中澤さんとの思い出話を聞かせてくれました。
真希さんは中澤さんのことが大好きみたいです』
彼女はアタシの心を読むのがうまい。いつだって心は読まれている。
『無事に迷子の女の子のお姉ちゃんも見つかって
真希さんも家に帰ると思ったら、そのままいつもの海岸へ
ちょっとだけ子供ぽっいところがあるんだな。
だから、私はちょっとだけ驚かせてみた。
お姉ちゃんって呼んでみた。案の定驚いた顔をしていた。
それから、無理やり引っ張って中澤さんの所へ行った
真希さんは中澤さんの前で、素直にごめんと一言だけ言いました。
仲直り成功。でも。真希さんはしょうがないお姉ちゃんです』
しょうがない姉か。確かその通りだ。彼女のほうがしっかりしている。
- 598 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:44
- 『今日は旅行の時の写真を現像した。一枚一枚、丁寧に現像していく。
真希さんの寝ている写真うまく撮れていた。その写真を見た。
すごく驚いていた。市井さんにも誉められた。
勝手に撮られる気分が少しはわかってくれたかな。』
うん、よくわかったよ。けどねアタシは反省することなく
黙って撮りつづけているけどね。机の上の写真立てを見た。
眠っているアタシはどこか間抜けだ。
『真希さんの大学受験も近くなってきたから
私は家事を本格的に習おうと思う。真希さんもきっと安心するだろう。
まずは真希さんのためにお弁当を作ってみよう』
あの時のお弁当の味は今も忘れてない。一生懸命作っていた姿を思い出した。
- 599 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:45
- 『今日、真希さんとキスをしてしまった。と言っても事故なんだけど。
嫌な気持ちはしない。ファーストキスだったのに全然イヤじゃない。
不思議すぎる変な気持ち』
この時からだ。アタシが彼女を意識し始めたのは、気になるのは
彼女の意味深な言葉。いったいなんだろう。
『ここ最近、真希さんの様子がおかしくなった私はそんな気がする。
私への態度もなんか変。ケガが多くなってるし
私にだけは嘘をついたことがなかった真希さんが初めて嘘をついた
藤本さんと出掛けるって言ってたけど、一人でいる藤本さんを見かけた。
どうしてだろう・・・嘘をつく必要があったのかな』
梨華ちゃんとデートした時のことだ。見抜かれていたんだ。
彼女が少しだけ変化しているように感じた。
- 600 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:46
- 『今日は愛ちゃんと一緒に動物園に遊びに行った。
動物園なんて久しぶりだったから愛ちゃんも私もはしゃいじゃった
それから買い物をした。その帰りのカフェで愛ちゃんとお喋りをした。
愛ちゃんは変な質問ばかりしていた。好きな人はいるかと、なぜか真希さんのことも
聞かれた。でも・・・真希さんは憧れとは言ったけど今思うとなんか自信がない』
それ以降アタシと同じように彼女はなにかを悩んでいたようだ。
そして・・・日付は事故前日。この時の彼女はどんな気持ちだった?
『真希さんから明日遊びに行こうと誘われた。
なんだか顔つきが違います。でもちょうどよかった私も言いたいことがある。
私は真希さんのことが・・・』
日記はここで終わっていた。途中まで書いてあり消しゴムで消した後がある。
まあ、いいか。気にすることはないかもしれない。
アタシは日記を閉じて、彼女の部屋出て、再び病院に向かった。
- 601 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:47
- それからのアタシは、ずっと彼女のそばにいた。学校も休んでいる。
毎日毎日、彼女が目覚めるまでそばにいるつもりだ。
アタシを心配してか、美貴やいちーちゃん、裕ちゃんが様子を見にくる。
来るたびに大丈夫だよと言った。
ベッドの上で眠る彼女の顔を見つめる。普段色白な彼女の顔はさらに白くなっていた。
ただ見つめるだけ、彼女の手を握るととても冷たい。
「失礼します」
そう言って入ってきたのは彼女を担当している看護士の矢口真里さん。
手術室の前でアタシを宥めてくれた看護士だ。
定期的に機械のチェックをしに病室に入ってくる。
アタシより年は上だが、アタシよりも背が低い。
ナース服を来てないと学生と間違われるだろう。
機械のチェックを終えて、アタシに一礼をして矢口さんは病室を出た。
- 602 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:48
- 面会時間は7時まで、家に帰ってもあんまり眠ることができない。
常に彼女のことが気になってしまうから。
寝ることができたとしても、せいぜい3時間程度しか眠れない。
私は満足に食事も摂ることなく、今日も病院に行く。
もうすぐ、冬がやってくる。彼女と出会ってから3つ目の季節になる。
病院に入ると、ロビーに美貴がいた。
「ちょっと美貴、どうしたの?学校は?」
「真希が心配だから休んできたよ。先生もクラスのみんなも心配してるよ」
「ごめん。美貴にも迷惑かけちゃったね」
「美貴のこと気にしないでいいよ。学校に顔を見せなよ」
それはわかっている。けど今は1秒たりとも彼女の前から離れたくない。
美貴には感謝している。学校帰りにいつも来てくれるから。
アタシは美貴に心の中でお礼をいいながら、病室に扉をあけた。
病室に誰かが来ていた。それは見覚えのある顔だった。
- 603 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:49
- 「吉澤さん・・・?」
アタシの声に振り返った吉澤さんは、鬼のような形相をしていた。
そして、アタシに歩み寄ってくるなり、胸ぐらを掴んできた。
「これはどういうことだよ!」
吉澤さんの声が病室に響いた。
「ちょっとあんた、いきなりなんなの!?」
美貴が間に入って、吉澤さんの腕を掴んだ。
吉澤さんは美貴を睨みつける、美貴も負けじ吉澤さんを睨みつける。
「美貴、いいから止めないで」
「なんでよ?」
「黙って見ていて。お願い」
美貴は言われたとおりに腕を離して真ん中にたった。
「吉澤さん、どうしてここに?」
「最近、紺野にメール送ってもなかなか返事来なかった。
これはおかいしいと思ってさ、電話したんだよ。
そしたら・・・紺野のお母さんが出た。
話を聞いたら、意識不明だって言うじゃないか・・・」
胸ぐらを掴んだまま吉澤さんは俯いた。
- 604 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:49
- どうしても自分の目で確かめたかったから・・・ここに来た」
今も泣き出しそうな吉澤さん。アタシはただそれを見ているだけ。
「あんたが付いていながら、なんだよこの様は・・・」
そうだった。アタシは吉澤さんとの約束を守れなかった。
守るっていたはずなのに、アタシは彼女を守れなかったよ。
吉澤さんは震えながら拳を振り上げて、アタシの目の前へ。
アタシは抵抗しなかった。されるがまま、無防備の状態だ。
いいよ、殴っても。殴られて当然の行為をしたんだ。
アタシはそんな目で吉澤さんを見た。
「あんた、まさか・・・」
吉澤さんは振り上げた手をおろして、アタシから離れた。
どうやら、アタシの気持ちに気づいたみたい。
- 605 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:50
- 吉澤さんは落ち着きを取り戻した。アタシ達は中庭に出た。
美貴はまだ、吉澤さんのことが信用できないみたいでアタシ達の
後にぴったりと付いて来ている。
「ごめん・・・ついカッとなっちゃて、あんたを責めるつもりはなかった」
「いいんだよ。殴られるのも覚悟していたし」
アタシ達は中庭のベンチに座った。それと当時に深いため息をついた。
「私じゃ無理だったんだな・・・」
アタシは吉澤さんの横顔を見つめる。
「ずっと紺野のことが好きだった。私が守りたいってずっと思ってた」
アタシが確信した通りだった。ずっと彼女のことを想っていたんだね。
「告白する機会は何度もあった・・・けれど、あと一歩というところで言葉が出ない」
目に涙を浮かべながら、無理やり笑っている。強がっているけど辛いと思う。
「今日すべてが終わった・・・。あんた好きなんだろ?紺野のこと」
アタシは静かに頷いた。吉澤さんは少しだけ笑った。
- 606 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:51
- 「薄々気づいていた。紺野と電話やメールをするたびにあんたの話題ばかり
初めてあんたと会った時もこうなる予感はしていた」
吉澤さんは吹っ切れたような顔になった。
「ごめん。アタシは吉澤さんを傷つけてしまったようだね」
「気にすんなって、もうすべてあんたに任せる。もう一度言いたい。
紺野を守れるのはあんたしかいない。紺野のことをよろしく頼む」
深々と頭を下げる吉澤さん。その言葉、確かに受け取ったよ。
「こういうこと聞くのもなんだけど、紺野は目覚めるよね?」
心配そうに聞く吉澤さん、アタシは不安にさせないように
自信に満ちた顔をした。
「アタシは絶対目覚めるって信じている」
「じゃあ、私も信じてみようかな」
そう言うと笑顔になった。そして吉澤さんは立ち上がった。
「じゃあ、私はそろそろ帰るよ。ごめんね迷惑かけて」
そう言って吉澤さんは歩きはじめた。
- 607 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:52
- 「吉澤さん」
「なに?」
アタシは吉澤さんを呼び止めた。
「また、来てよね」
「うん、わかった。それと後藤さんの友達?いきなりごめんね」
美貴に一言だけそう言って、吉澤さんは去っていった。
アタシはその後ろ姿を静かに見送った。
「最初は嫌な奴って思ったけど、いい人じゃん」
美貴もその後ろ姿をずっと見ていた。
吉澤さんは強い人だ。それに比べてアタシはまるでダメだね。
目標にしていたアタシだが、まだ吉澤さんには敵わない。
吉澤さんを見送った後、アタシは病室に戻った。
吉澤さんっていい人だね。眠っている彼女にそう語りかけた。
そう語りかけても彼女は微笑むことない。
アタシはいつまでも彼女の寝顔を見つめていた。
それだけで一日が過ぎていく。
- 608 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:53
- 翌日も変わらない生活を続けていた。
体の調子はあまりよくない。それでもアタシは彼女の側にずっといる。
アタシは彼女に空を見せてあげたくて、カーテンを開けようと
立ち上がった瞬間、足元がフラついた。
目眩がしたと思ったらそこでアタシは意識を失った。
「うーん・・・」
朦朧とする意識の中、アタシは小さな声をあげた。
「気が付きました?」
ゆっくりと目を上げると、そこには矢口さんが立っていた。
でも、表情は渋い顔をしている。
「ここは・・・?」
「病室で倒れていたので、処置室まで運んだんです。軽い貧血です」
矢口さんは呆れた表情をしながら、点滴を取り替えていた。
「最近、満足に食事や睡眠を摂っていませんね?」
さすが、看護師なんでもお見通しだ。アタシはなにも言えず天井を見つめていた。
- 609 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:54
- だいぶ落ち着いてきたからアタシは体を起こした。
「無理に起きないで。しばらく休んでてください」
「はい、すみません」
「まあ、気持ちはわからなくはないけどね」
突然、矢口さんの口調が変わった。
「ちょっと無理しすぎだね。側にいることも大切なんだけど
あなたはちょっとやりすぎかな」
矢口さんは腕組みをしながアタシと向き合っていた。
「あなたには妹さんのために他にできることがあるんじゃないの?」
アタシにできることってなんだろうか、側にいてあげることしか
思いつかない。他にあるのだろうか。
「あなたを見ていると昔の自分を思い出すんだよね」
矢口さんはゆっくりとしゃべり始めた。
「あたしも高校生のころ、今のあなたと同じようなことがあったの」
- 610 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:55
- 矢口さんは淡々と自分の過去を話し始めた。
「すごく好きな人がいてね、その人は幼馴染でずっと一緒にいたの
どんなときもその人は側にいてくれた。あたしが付き合ってください
っていたらその人もあたしのことが大好きだって言ってくれたの」
今のアタシとなんとなく似ている気がする。
「でも、ある日のことその人が交通事故にあったの。意識不明の重体・・・
もう助からないかもしれない・・・そう言われたの」
アタシは思わず息を呑む。同じだ今のアタシと。
「あたしは僅かな希望だけを信じてその人が目覚めるのを待っていた。
でもあたしはこんなんじゃダメだって思ってね。看護師になることにしたの」
強いな矢口さんはアタシとは大違いだ。
「今、こうしてアタシがいるのはその人のおかげかな」
矢口さんは笑いながら言った。
「それでその恋人はどうなったんですか?」
「それはね・・・」
その時だった。処置室に大きな声が聞こえてきた。
「真里!!どこにいるべさ」
- 611 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:56
- 処置室に入ってきたのは童顔の看護師だった。
「ここにいたべか、ちょっと助けて欲しいから来て欲しい」
「わかった。いま行くよなっち」
矢口さんがそう言うとその人は急いで出て行った。
「もしかしてあの人が矢口さんの・・・」
矢口さんはニコッと微笑んで頷いた。
「そう、あの人があたしの恋人安倍なつみ。今ではすっかりあんな風に元気だよ」
矢口さんは安倍さんの後を追うようにして出て行こうとした。
「点滴が終わったらからもういいわよ。でも今日は帰ることをお勧めする」
アタシは少し考えてから頷いた。確か今の生活を続けていると彼女のためにならない。
「わかりました。そうします」
アタシがそう言うと安心して処置室を出て行った。
矢口さんの姿を見送ったアタシはゆっくりと処置室を出た。
- 612 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 17:57
- アタシは廊下を歩きながら考えていた。
アタシが彼女にしてやれることってなんだろう。
側にいるだけじゃダメなんだ。それはよくわかった。
窓の向こうに青空が広がる。彼女の事故以来苦しくて見なくなった空。
久しぶりに見上げた空は。とてもキレイで自然と笑顔がこぼれた。
こういうことを言うのかな、これが彼女が癒された青空なんだな。
青空の魅力がなんだかわかった気がする。
「青空・・・アタシにできること」
そして、アタシにある事を思いついた。
こんなことでいいのかはわからない、けどアタシは自分を信じてみたい。
アタシは決意を固めて、今日は家に帰ることにした。
- 613 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 18:00
-
- 614 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/07/28(金) 18:00
-
- 615 名前:ヒガン 投稿日:2006/07/28(金) 18:03
- 本日はここまで。
前回の更新からちょっど3ヶ月たってしまいました。
パソコントラブルなどがあり更新できませんでした。
こんこんの卒業という事態もありましたが復活です。
>>560
お褒めの言葉ありがとうございます。
>>561
レスありがとうございます。
大変、お待たせしてすみません。
さて・・・復活宣言して早々なんですが、次回、最終回の予定です。
- 616 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:30
-
18――――――
- 617 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:31
- 朝、目覚めてすぐにベランダに出て、空を見上げる。
パジャマ姿のままカメラをかまえた。空に向けてシャッターを切った。
「よし、OK」
一枚だけ写真を撮ったら、すぐに制服に着替えてリビングに向かう。
久しぶりの学校だ。これ以上休むわけにはいかないし
たくさん迷惑かけたから謝らないとね。
リビングに出るとお父さんとお母さんは驚いた顔をしていた。
「今日から行くのか、学校へ行くのか」
「うん、今まで迷惑かけてごめんなさい」
「あんまり無理するなよ」
「わかってる。それとさ決めたことがあるんで聞いて欲しい・・・」
アタシは一晩考えたことを二人に告げた。最初は渋い顔をしていたけど
素直に認めてくれた。一言だけ好きにしなさいと言ってくれたのが嬉しかった。
- 618 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:32
- そして時間になったので、アタシは学校に向かう。
「いってきます」
病院にいる彼女に届くように言って、アタシは外へ出た。
冬が近いとは思えないくらいの空の色。
彼女にもこの空が見えているかな。きっと見えているだろう。
ゆっくりと校門に向かう先々でたくさんの人に声をかけられた。
みんなアタシを心配していた。アタシは何度も何度も謝りながら
校舎へと向かっていた。
「後藤さん?」
高橋が驚きの表情で駆け寄ってきた。
「おはよう高橋」
「お・・・おはようございます。後藤さん大丈夫なんですか?」
「うん、アタシは大丈夫だけど、あさ美がね」
アタシがそう言うと、高橋は言葉を詰まらせる。
- 619 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:33
- 「それは聞いてます。まだ意識不明なんですよね?」
アタシは首を縦に振る。そしたら泣きそうな顔になった。
「大丈夫だから」
アタシは笑顔で高橋をなだめる。
「それとごめんね高橋。アタシは高橋のことを傷つけた」
「やめてください・・・なんで謝るんですか?」
「高橋はあさ美のことを思っていたのに、アタシのせいで・・・」
高橋は慌てたように首を振る。
「言ったはずです。私は後藤さんには勝てないと」
「やっぱり高橋もアタシの気持ちに気づいていたんだね」
「はい、後藤さんの優しさが大きすぎるから無理だなって思ったんです」
高橋の表情に後悔はない。完全に吹っ切れてるんだな。
「お見舞いにも来てよね。あさ美きっと喜ぶから」
高橋は深く頷いてから頭を下げて、2年生の校舎へと掛けて行った。
- 620 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:34
- アタシも自分の校舎へと向かった。
下駄箱から自分の教室に行くまでも心配する声は鳴り止まない。
「真希、来たんだ。びっくりしたよ真希が学校に来たって聞いたときは」
美貴は笑顔で言った。
「迷惑かけてごめん。アタシはもう大丈夫だよ」
「そう来なくっちゃね」
アタシは美貴と軽くハイタッチをした。
こうやって美貴と二人で笑いあうのも久しぶりだ。
しばらくして、平家先生が教室に入ってきた。
ホームルームが始まる前、アタシはもう一度みんなに謝ってから
今日の授業が始まった。
- 621 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:35
- 1時間目の授業が終わり、アタシは廊下を歩いていた。
「真希ちゃん!」
後からアタシを呼ぶ声がした。梨華ちゃんがアタシの元にやってきた。
「真希ちゃん、学校に来てたんだ・・・」
「うん、今日から来た」
「聞いたよ・・・事故のこと大変だったね」
心配そうな顔をしてアタシを見つめる梨華ちゃん。
「心配かけてごめん。なんとかアタシは大丈夫」
「そう・・・ならいいんだけど」
「それから、梨華ちゃんのこと傷つけてごめんね」
「なんにもこんな時にそんなこと・・・」
泣きそうな顔して言う梨華ちゃん。けれどすぐに笑った。
「でも、そんな所が真希ちゃんらしい」
チャイムが鳴るとアタシは梨華ちゃんに手を振って教室へと入った。
「無理しないでね」
みんなに言われた言葉。アタシはこれぽっちも無理なんてしていない。
アタシは自分の道を進むだけだ。
- 622 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:36
- 午前中の授業が終わり、昼食を早々に済ませてアタシは職員室に行く。
重大な決意を平家先生に伝えるためにだ。
軽く気合を入れて、職員室の扉を開けた。
辺りを見回し先生がいるのを確認して近くに歩み寄る。
「平家先生」
「後藤どうした?」
「ちょっとお話があるんですが」
アタシのただならぬ様子を察したのか先生は会議室に行こうと言った。
平家先生は会議室の扉を開けて、開いている椅子にゆっくりと腰をおろした。
「それで話ってなに?」
「進路のことでお話があります」
「進路のこと?」
「N大学からF大学に変えたいのですが」
「はぁ?変えたい?」
会議室中に響き渡る先生の声、驚くのも無理ない。
- 623 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:37
- 「今さらで申し訳ないんですけど」
「理由はなに?」
「近いから・・・こんな理由じゃダメですよね」
アタシはある程度大学について、調べておいた。
家からもそして病院からも近いところにある。
アタシが出した結論はこの街を離れるのをやめにした。
ずっとこの街にいたい。彼女と出会ったこの場所を大切にしたい。
「まあ、いいんじゃない。後藤の人生なんだから」
「ありがとうごさいます」
「しかし、残念だね。後藤ならもと上の大学を目指せたのに
やっぱり妹さんの事故の関係かな?」
「はい。そんなところです」
その後、平家先生は何も言わずアタシの肩をポンポンと叩いた。
「まあ、がんばれよ」
「はい、失礼します」
アタシは会議室を出て、教室へと戻った。
- 624 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:37
- アタシの決断は正しいのか、それはまだわからない。
後悔することはきっとないだろう。
これでいいんだよ。そう強く言い聞かせてアタシは進む。
教室に着くと、不安そうな顔をした美貴がいた。
「真希、あんたどこ行ってたの?」
「職員室だよ」
「どうして?」
「進路先を変えたいって先生に言ってきた」
ある程度は予想していたのだろう。そんなに驚くことはなかった。
「それはあさ美ちゃんのためだよね。美貴にはできない決断だよ」
感心したように美貴は言う。
「それでどこの大学にしたの?」
「美貴と同じ所にしたよ」
これには美貴も驚いていた。これから美貴とともにがんばっていこう。
- 625 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:39
- 学校が終わると、アタシは駆け足で家路を急ぐ。
眠っている彼女は青空を見られない。
だから、アタシは彼女のために晴れた日には青空に写真を撮ろう。
そう決めた。これがアタシにできることなんだ。
周りがどう言うおうとも青空の写真をアタシは撮りつづけるだろう。
アタシにはこれくらいしかやってあげることが出来ないから。
帰り道に空を見上げて、アタシは彼女の笑顔を思い浮かべる。
きっと笑ってくれるよね。その思いながら家に戻り、カバンを置いて
着替えることもせずにカメラを持って、再び家を出た。
- 626 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:39
- アタシはいつもの海岸へと着く。青空がよく見える場所。
彼女も大好きな海岸。思えばすべてはここから始まったんだな。
アタシはカメラを構えて空にシャッターをきる。
気持ちのいい空、アタシは目を閉じて風を感じる。
季節は変わっても、変わらない青空がある。
アタシは彼女の代わりにこの空を見つづけるよ。
写真を撮り終えると、その足でグラフィティへと向かった。
すぐに現像して彼女に所に持っていきたかったから。
- 627 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:40
- 急ぎ足でグラフィティに着くと、息を切らしながら扉を開けた。
「いちーちゃん、暗室借りるよ」
アタシはカウンターのいちーちゃんの答えも聞かずに暗室へと入った。
さっき撮ったばかりの写真を現像する。
いつもはゆっくりやる作業も、今日は早く進めていた。
「おい、後藤どうした?おまえなんかおかしいぞ」
アタシの様子を不思議に思ったのか、いちーちゃんの心配そうな声がした。
「アタシは普通だよ」
ドライヤーで写真を乾かして、写真を持って暗室を出た。
「ちょっと、待ちなよ」
出て行こうとするアタシの手をいちーちゃんが掴む。
「おまえ、自分を見失ってないか?美貴から進路のこと聞いたぞ」
「もう決めたことだよ。あさ美のためにやれること見つけたから」
「なんだよそれ」
いちーちゃんはアタシの持っていた写真を床に叩きつける。
- 628 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:41
- 「これなんだ?空の写真ばっかりじゃん」
写真を一枚拾い上げていちーちゃんが言った。
「あさ美が大好きな青空だよ。ダメかな?こんなじゃ
でも、アタシにはこんなことしかできないんだよ!」
「後藤・・・おまえそれでいいのか?本当に正しいって思ってるのか?」
「前にいちーちゃん言ったよね。間違った道もいつかは正しい道になるって
アタシは違うよ。アタシは最初からこの道が正しいと信じて進むことこにしたの」
アタシの言葉にいちーちゃんはそれ以上なにも言うことはなかった。
「おまえ、本当に変わったな。アタシより大人じゃんか」
「そんなことない・・・アタシはまだ子供だよ」
それから、いちーちゃんはカウンターに戻って。
バイクのカギとヘルメットを持ってきた。
「病院に行くんだろ?送っててやるよ」
「でも、店のほうはいいの?」
「いいんだよ。配達中ってことにしとくから」
アタシはいちーちゃんのお言葉に甘えることにした。
- 629 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:42
- いちーちゃんはバイクを引っ張り出してきて
アタシにもうひとつのヘルメットを渡してきた。
「それとこれ持っていけよ」
いちーちゃんは紙袋を差し出した。
受け取って中身を見てると中には写真立てと小さなアルバム
そしてフィルムが何個か入っていた。
「いちーちゃん、これは?」
「おまえが変われた記念のプレゼントだ」
「ありがとう、いちーちゃん」
アタシはにやけた顔を隠すために急いでヘルメットをかぶった。
いちーちゃんのバイクの運転でアタシは病院に向かう。
海岸沿いをバイクで駆け抜けていく、雲はまるで追いかけてくるように見える。
- 630 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:43
- 病院に着いて、ヘルメットをいちーちゃんに渡した。
「送ってくれてありがとう」
「お礼なんていいよ」
照れたように笑ういちーちゃん。本当にいい先輩だよ。
「美貴とはうまくやってるの?」
「なんだよ突然、なんとかやってるよ」
いちーちゃんは頬を赤く染めた。その反応でわかる。
うまくいってるんだな。アタシもなんだか嬉しくなった。
「じゃあ、私はそろそろ店に戻るよ」
「そう、わかった。じゃあね」
いちーちゃんはバイクで颯爽と帰っていた。
アタシはその姿を見送った後、彼女の病室へと向かった。
- 631 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:43
- エレベーターを降りると目の前にはナースステーションがある。
たまたまそこにいた矢口さんと目が合うと、あたしは軽く会釈をした。
彼女の病室はナースステーションのすぐ側にある。
病室に入ると、相変わらず彼女は眠ったまま。
「青空見たいよね。たくさん撮ってきたよ」
アタシは写真を一枚選んで、いちーちゃんから貰った写真立てに入れて
彼女の枕もとにそっと置いた。アタシはパイプ椅子に座って寝顔を見つめた。
しばらく見ているとドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。点滴の交換にしにきました」
矢口さんは慣れた手つきで点滴を交換する。作業を終えると目線は写真を見ていた。
不思議そうな顔して青空の写真を見ている。
「この写真あなたが撮ったの?」
「はい、あさ美は青空が大好きだから毎日撮ってあげようかなと思って」
矢口さんはふと窓から空を見上げた。
- 632 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:44
- 「青空が好きか、なんとなくわかるような気がするな
あたしもたまに見るよ。なんか落ち着くんだよね」
青空は不思議な力を持っているんだね。誰の心でも癒していくすごいと思う。
「たしかあなたと妹さんは義理の姉妹だそうね」
「はい、そうです」
「直感で聞くけど、あなたは妹さんのことが好きなんでしょ?」
矢口さんは鋭いことを聞いてきた。アタシは否定するつもりもなく素直に頷いた。
アタシはどうやらとってもわかりやすい人間のようだ。
「やっぱりね。初めて見た時からそうじゃないかなって思ってた」
「おかしいですよね。妹に恋することは」
「全然、おかしくはないよ。恋は悪いことじゃないんだから」
恋は悪いことじゃない。何度も言われた言葉だ。
人を好きになった時、最初は誰でも戸惑うと思う。
今では彼女のことを心から愛せるようになった。
- 633 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:45
- アタシは彼女に視線を移す。目覚める気配は感じない。
「最近は、ちゃんと生活できているみたいだね」
「矢口さんに言われて気づきました。こんなんじゃダメだって
青空の写真を撮ることにしたのも矢口さんのヒントのおかげです」
アタシの言葉に矢口さんはニコリと微笑んだ。
「じゃあ今日は帰ります。アタシ一応受験生なんで勉強しないと」
アタシはそう言って、部屋を出ようとした。
「いつ来てもいいよ。上のほうには内緒にしておいてあげるから」
矢口さんの言葉に、アタシは笑って頷いた。
「あたしもよく面会時間外に入れてもらってたからね。
それにあたしのいう事聞いてくれたからご褒美だよ」
「ありがとうごさいます。助かります」
アタシは丁寧にお辞儀をして、病室を出た。
- 634 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:46
- 家までの帰り道、偶然裕ちゃんと会った。
「真希、病院の帰り?」
「うん、そうなんだ」
「ところで聞いたよ、進路のこと」
アタシは怒られるなって思った。
「まああんたならやれるから大丈夫やね」
裕ちゃんがそんなこと言ってくれるなんて予想外だった。
笑いながら裕ちゃんはアタシの髪の毛をそっと撫でる。
「私はもう真希のことに関しては何も言わない。そう決めたんよ」
「裕ちゃん・・・」
「あんたももう立派な大人やん。何も言う必要なんてあらへん」
裕ちゃんは泣いていた。アタシはただ黙って裕ちゃんにハンカチを渡した。
アタシは久しぶりに裕ちゃんと手をつないで一緒に帰った。
- 635 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:47
- 土曜日、美貴が勉強をしようと珍しく自分から言ってきた。
美貴とは同じ大学を目指すことになったから、お互いに頑張っていこう。
勉強はアタシの部屋ですることになった。
青空を撮るようになってから、部屋は随分と様変わりをした。
「なんか、部屋の感じ変わったね。明るくなった気がする」
そう言われて、アタシは部屋を見渡した。
確かにどこを見ても、青が広がっていた。
「あさ美ちゃんの写真もちゃんとあるんだね」
美貴は引き伸ばして額縁に入れておいた写真をニヤニヤしながら見ている。
これは外しておくべきだったなと、アタシは反省した。
「写真をポケットに入れて常に持ってることも美貴は知ってるよ」
「はいはい、わかりました。とっと勉強やるよ。美貴の気が変わらないうちに」
美貴と勉強を始めると、ちょっと目を離すと美貴が居眠りをしているので
おでこをパチンと叩く。自分から誘っておいて寝るなんてどうしかしてるよ。
- 636 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:48
- 「眠い・・・言うんじゃなかった」
「美貴、本当に受験する気あるの?これからが大変なんだよ」
「真希だって大丈夫なの?滑り止め受けずF大学一本で行くんでしょ」
そう、アタシは浪人覚悟でひとつしか受けないことにした。
「無謀ってことは十分わかってるよ。アタシなりに精一杯やるつもり」
「真希らしいね。よっしゃ!美貴もがんばろう」
アタシ達は勉強を再開した。
美貴は眠たいのを我慢しながら必死で問題を解いていた。
アタシは写真の中で笑っている彼女の笑顔を見た。
なんて言うんだろう、見えない力がアタシを動かしている。
そんな気がした。まあ、人にはわからない気持ちだろう。
- 637 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:48
- アタシは忙しい毎日送っていた。受験勉強しながら晴れた日には
青空の写真を撮る。これは最低でもやっておきたいことだから。
勉強は図書館でやったり、彼女の病室ですることもあった。
そして、季節は冬になった。彼女の事故から一ヶ月以上がたった。
いまだに彼女は眠ったままだ。彼女の手を握っても髪を撫でても
反応はない。彼女の手は冷たい、まるで冬の風のように冷たい。
笑顔を見れないのはすごく辛い。そんな時は青空を見る。
悲しいときは空を見る。これは彼女に教えられたことだ。
アタシは寒さに耐え切れず、グラフィティへと行く。
寒い日にはいちーちゃんの温かいコーヒーを飲む。それが一番だ。
- 638 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:49
- いつのもようにグラフィティの扉をあける。
「いらっしゃい。後藤か」
「あー寒い寒い。もうすっかり冬だね」
「そうだな。早くコーヒー飲んで温まれよ」
コーヒーカップに口をつけて一口飲むと、体に染み渡っていく
温かさを感じた。思わず顔がにやける。
「おまえ、うちのコーヒー好きだよな」
「いちーちゃんが作ったコーヒーだからね」
「お褒めの言葉ありがとうございます」
二人で笑っていると、すると美貴が寒そうな顔して店に入ってきた。
「なんだ真希も来てたんだ」
「図書館で勉強してた。美貴はどうしてたの?」
「美貴は参考書を買いに本屋に行ってた。それにしても寒いね」
いちーちゃんは美貴の前にコーヒーを置いて腕組みをした。
- 639 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:50
- 「二人ともがんばってるんだな」
そう、もう気を抜いていられないそんな時期になったんだ。
「まだ早いけどさ、クリスマスにここでパーティーしないか」
「いいですね。やりましょう」
美貴が嬉しそうに言った。パーティーかいいかもしれない。
「後藤はどうだ?」
「うん、やろうか」
クリスマスか。パーティーというの久しぶりだな。
「後藤、料理作るの手伝ってくれるか?」
「うん、いいよ」
まだ時間あるけど、アタシはなんだがクリスマスが楽しみになってきた。
- 640 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:51
- 翌日のこと、アタシはいつのもように病院に来ていた。
日替わりでお見舞いに来るがいる。
裕ちゃんに、いちーちゃんや美貴もたまに彼女の様子わ見に来る。
しかし、あれ以来吉澤さんが来ることはなかった。
アタシと同じ受験生だから、きっと忙しいのだろう。
その時だドアをノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞ」
アタシがそう言うと、ドアが恐る恐る開いて見知らぬ女の子が入ってきた。
「あの・・・紺野じゃなかった・・・後藤あさ美ちゃんの部屋はここでいいでしょうか」
「うん、そうだよ」
病室に入ってきた。女の子は少しだけぽっちゃりとしていた。
着ている制服はアタシの通っている高校のものじゃなかった。
その制服には見覚えがあった。
- 641 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:52
- 「あの私、あさ美ちゃんと前の高校で一緒だった小川麻琴と言います」
「もしかしてキミがまこっちゃんかな?」
まこっちゃんはびっくりしたような顔して頷いた。
「あさ美からよく話は聞いているよ」
「えっと・・・あなたが義理のお姉さんになった真希さんですか?」
「うん、アタシのこと知ってた?」
「はい、あさ美ちゃんと電話やメールをするたびに必ず名前が出てきますから」
アタシはふと彼女の視線を移す。それを見てまこっちゃんは悲しげな表情を浮かべた。
「びっくりしました。あさ美ちゃんが事故に遭ったて聞いたときは・・・
すぐに駆けつけたかったんですけど・・・なかなか来れなくてごめんなさい」
頭を下げるまこっちゃんにアタシはそっと肩に手を置いた。
その気持ちだけで十分だよ。アタシはそっと微笑んだ。
「あさ美ちゃんの言ってた通り、優しいですね」
まこっちゃんは涙をこらえて無理して笑っていた。
- 642 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:53
- アタシ達は彼女のことについて話をしていた。
決まって出るのは食べ物の話題。
まこっちゃんは変わっていないって苦笑いしていた。
「食べ物も好きだけど青空のほうが大好きってよく言ってました」
「ここでもずっと青空を見ていたよ」
「どこに行ってもあさ美ちゃんは変わっていませんね。安心しました」
まこっちゃんは彼女に近づいて何か語りかけるように見つめていた。
「早く目を覚ましてねあさ美ちゃん・・・吉澤さんもすごく心配してるよ」
アタシはそんなまこっちゃんをただ見つめていた。
「吉澤さんは元気?」
「吉澤さんを知ってるんですか?」
「2回ほど会ってるよ。ここにも一度来たことあるし」
そう言うとまこっちゃんはなぜか心配そうな顔をしていた。
- 643 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:54
- 「この前吉澤さん泣いていたんです。どうしたんですかって聞いたら
私は負けたんだって言っていたんですけど、訳がわからなくて」
多分、アタシのことだろう。吉澤さんの敗北宣言にアタシは驚きを隠せない。
ただ気になったのはまこっちゃんは吉澤さんのことをよき気にしている。
もしかしたらまこっちゃんは吉澤さんのことを好きなのかもしれない。
「アタシにはわからない。でもきっと理由があるんだよ。
だからさまこっちゃんが吉澤さんのこと支えてあげてよ。
あさ美もきっとそう願っているはずだから」
「えっ・・・?はい・・・わかりました」
まこっちゃんは戸惑いながら返事をした。
「じゃあ、私はそろそろ失礼します」
「そう、また来てよ。今度は吉澤さんと一緒に」
そう言うとまこっちゃんは照れたように笑う。
アタシにペコリとお辞儀をして病室を出て行った。
いい友達を持った彼女はとても羨ましく感じた。
- 644 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:55
- そして日々は過ぎ、クリスマスの日がやってきた。
アタシは多いほうが楽しいだろうと思って梨華ちゃんを誘った。
料理を作るアタシ、いちーちゃんも真剣な顔をして料理をしている。
美貴はただ見ているだけ、最初のほうは手伝っていたけど失敗ばかり
するから外れてもらった。
その時だ扉を開ける音がしたので振り向くと梨華ちゃんが立っていた。
「おじゃまします。真希ちゃん来たよ」
笑顔で手を振る梨華ちゃんにアタシも笑顔で手を振った。
「ねえ、真希の誘った子ってあの子?」
「うん、紹介するね、石川梨華さん」
「よろしくお願いします」
梨華ちゃんは笑って挨拶をした。
「藤本美貴って言います。よろしく」
「アタシの先輩で今はここの店主の市井紗耶香さん」
いちーちゃんはカウンター越しに会釈した。
- 645 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:56
- 「梨華ちゃんは結構有名人で美貴も知ってると思うよ」
美貴は驚いた顔をして、少し考えて心当たりを探していた。
「波乗りチャーミーって言えばわかるかな」
「えっ!?あの波乗りチャーミーなの?ってかなんで真希と知り合いなの?」
「まあ、ちょっとしたことで知り合いになったんだよね。ねえ梨華ちゃん」
知り合ったきっかけは言わなかったけど、告白されたなんて言えやしないから。
梨華ちゃんもわかってるようで、何も言わなかった。
「もしかしてサーフショップ美勇伝の娘さんだよね?」
「紗耶香さんも知ってたんですか?」
「店長さんがよくここに来るんだよ。いつも娘さん自慢ばかりしているよ」
いちーちゃんがそう言うと、梨華ちゃんは恥ずかしそうな顔をした。
「さて、料理も出来たことだし始めようか」
いちーちゃんの一言でクリスマスパーティーが始まった。
- 646 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:57
- 美貴も梨華ちゃんも美味しそうに料理を食べていた。
彼女がここにいたら、目を輝かせて食べてくれるだろう。
大好物のオムライスまで作ってしまった。
オムライスを見るだけで、彼女の顔が目に浮かぶ。
「真希ちゃんどうしたの?」
「オムライス見てたらあさ美の顔が浮かんできてね。大好物だから」
そう言うと梨華ちゃんはなんだが黙りこんでしまった。
その空気に気づいたいちーちゃんは美貴の肩をポンと叩いて目で合図を送った。
美貴はそっと立ちあがってサックスを取り出した。
店内に響くサックスの音、一瞬で賑やかな雰囲気になった。
「ワタシ、歌っちゃおうかな」
「・・・それはやめといたほうがいいんじゃない」
「なんで?」
梨華ちゃんには言えないが、アタシにはわかるどんなことになるか。
「まあ、いいじゃん食べよう食べよう」
アタシは笑ってごまかした。
- 647 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:58
- パーティーも終わって、アタシ達は片づけをすることにした。
「後藤、ここはいいからおまえはこれ持って病院にいけよ」
いちーちゃんはクリスマスケーキを渡してくれた。
「多めに入れてといれといたから看護婦さんにも分けてやってくれ」
「ありがとう、いつも悪いね」
「気にするな、早く行って来い」
美貴、梨華ちゃん、いちーちゃんに見送られてアタシは病院に向かった。
外は寒い。今にも雪が降ってきそうな空だ。
病院に着くと、中は真っ暗だった。面会時間を過ぎてるから当然だ。
アタシは足音を立てずにそっと歩いた。
エレベーターに乗って、彼女の病室へと向かった。
目的の階について、アタシはナースステーションを通り過ぎようとした
その時だった。懐中電灯の明かりをアタシの目に飛び込んできた。
- 648 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 16:59
- 「そこにいるのは誰ですか?」
しまった。見つかったか。アタシは素直に観念した。
「面会時間はもう終わったんですけど」
「すみません・・・」
「もしかしてあなた後藤真希さん?」
「はい・・・そうですけど」
「なら、話は別たべ。さあ行っていいよ」
アタシは訳がわからず、看護師の顔をじっと見た。
確かこの人は・・・。
「矢口から話は聞いてるべ。今日の夜は必ず来るって」
矢口さんの恋人の安倍なつみさんだった。
「すみません。ありがとうごさいます。それとこれ皆さんでどうぞ」
アタシは安倍さんにクリスマスケーキを渡した。
- 649 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/06(日) 17:00
- 「ありがとう。まったくクリスマスに夜勤なんてついてないべ」
安倍さんはナースステーションに戻ろうとした。
「あなたは好きな人とステキなクリスマスを過ごしてね」
そう言って安倍さんは去っていった。
アタシは病室に入って小さな明かりを灯して、そっとケーキを置いた。
「メリークリスマス」
ふと窓の外を見ると雪がちらついていた。これって空の贈り物かな。
今日はホワイトクリスマスだね。
外は雪、小さな明かりの中、アタシはケーキ食べた。
口の中で広がる甘さが美味しかった。
欲しい?なんて彼女にいたずらな笑顔を見せた。
彼女のことだから起きていたら怒るだろうな。
- 650 名前:ヒガン 投稿日:2006/08/06(日) 17:03
- 話の途中ですが、本日はここまで
最終話に突入しましたが思ったより
長くなってしまったので分けて更新することにしました。
続きはまた近日更新予定です。
- 651 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:48
- そしてあっという間に大晦日。一年の終わりの日。
アタシは今年を振り返る。
彼女と青空の下で出会って、一目見たときから気になって
再会したら妹としてアタシの前に現れた。
笑って、怒って、泣いて、すべての感情を見せてくれた。
ずっと一緒にいるうちにアタシは彼女を愛した。
アタシは悩んで、迷って、前に進めなかった。
思いを伝えようそう決めた。
でも、彼女が事故に遭い、アタシは苦悩した。
そんなアタシを支えてくれたみんながいた。
今のアタシがいるのは、彼女とそしてみんなおかげだ。
心から感謝しているんだ。
- 652 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:49
- アタシは美貴といちーちゃんにカウントダウンを迎えてから
初詣に行こうと誘われた。
11時50分美貴といちーちゃんも今年を振り返っていった。
「美貴は本当にいい一年だったな、紗耶香さん付き合うことなったし
本当に言うことなしだったよ」
この二人はバカップルになることはないだろう思っていたが
最近はベタベタしすぎたと思う。美貴が受験で忙しいというのも
理由の一つだけどまさかこんな二人になると予想していなかった。
「おーい、真希どうした?」
「どうしたもこうしたもないよ。ラブラブ度見せつけるために呼んだの?」
「違うって。なにスネてるの?」
「別に・・・」
いちーちゃんは苦笑いをしながら間に入った。
- 653 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:49
- 「おいおい、そろそろ時間だぜ」
11時59分。まもなく新しい年が始まる。
彼女と共に大切な日々を過ごしていけるだろうか。
10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0
「あけましておめでとう!」
三人でいっせいに叫んでから、近くの神社へと初詣へ行く。
願うことは決まっている彼女の回復はもちろんのこと大学合格祈願だ。
神社に着いて、アタシは強く願った。
「真希は何願ったか聞くまでもないよね」
「美貴も聞くまでもないよね」
美貴といちーちゃんはニヤニヤと笑っていた。
「年が明けた。二人とももうすぐだよ、がんばれよ」
受験の日は近い。アタシと美貴は気合を入れなおして受験に望む。
- 654 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:50
- そして、厳しい勉強漬けの日々を終えて、試験の日がやってきた。
会場の前でアタシは彼女の写真を見つめていた。
力を貸してよ。アタシがんばるから、そう言って写真をポケットに入れた。
「よし、真希行くよ!」
「うん、行こう」
隣の美貴も準備完了。アタシ達はいざ建物の中へと入っていった。
試験開始前、アタシは胸に手を当てて眼を閉じた。
そして、試験が始まった。彼女の写真の効果なのか。
アタシはスラスラと問題を解いていっていた。
彼女のおかげでアタシは1日目も2日目も乗り切ることが出来た。
一方の美貴はというと、なんだか浮かない顔をしてため息ばかりだった。
アタシはとても声をかけられるような状況じゃなかった。
アタシ達はやるべきことはやった。後は合格発表を待つだけだ。
- 655 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:51
- 受験を終えた次の日、その日は土曜日で午前中から病院に来ていた。
まだ寒い日が続いている。早く春がくればいいのにと思いながら屋上で
空を見ていた。空を見るようになってからわかったことがあった。
それは同じ空でも季節によって表情が違って見えることだ。
夏の空はなんだか強くて、秋の空は切なくて、冬の冷たさのどこか温かさを感じる。
春の空はどんな感じなんだろう。まだ見ぬ青空を思い描いてアタシは頬を緩める。
ふと、隣を見ると不思議そうにアタシを見つめる一人の少女がいた。
「なんか用かな?」
「すみません、空を見て笑っているから不思議に思って」
そう話し掛けて来たのは、松葉杖をついた少女。口元のほくろが印象的だ。
「青空を見ていると癒されるんだよ」
アタシも青空の虜になったんだな。そう思うと嬉しくなった。
- 656 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:52
- アタシに話し掛けてきた女の子。名前は道重さゆみちゃん。
同じ病院に、骨折で入院してきたという。
雰囲気はどことなく彼女に似ている気がする。
アタシは屋上にベンチに座った。するとさゆみを隣に腰をおろした。
「聞かせてもらってもいいですか?青空を見ている理由を」
「うん、いいよ」
アタシはさゆみちゃんに話した。これは彼女との出会いから話さないといけない。
さゆみちゃんは真剣に話を聞いてくれた。
時よりアタシとさゆみちゃんは青空に目を向ける。
「それで・・・妹さんは今も眠ったままなんですよね?」
「うん、そうだよ」
「それなのになんで、元気でいられるんですか?」
「やっぱり、青空のおかげかな」
彼女が教えてくれた。悲しい時、辛い時は青空を見上げよう。
そしたら自然と笑顔になる。
- 657 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:53
- 「なんとなく、わかる気がします。さゆみも青空を見て元気になります」
またここにも青空を好きになりそうな子が見つかったよ。
青空が嫌いな人なんていない。もっと青空をみんなに見て欲しいな。
アタシとさゆみちゃんが笑っていると後ろのほうから声が聞こえた。
「さゆ、どこにおると?」
「あっ、れいなの声だ。れいなここだよ」
さゆみちゃんは松葉杖を上手に動かしながら声のした方に向かった。
「さゆ、ここにいたんだ。じっとしてなきゃいかんとーよ」
「だって、病院は退屈だもん」
きっと友達なんだろう。アタシは邪魔をしちゃいけないなと思い
屋上を出ることにした。
「話していた人は誰と?」
「後藤さんって言って同じ病院に妹さんが入院してるんだって」
それにしてもどこか聞いたことのある博多弁だな。
- 658 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:54
- どこで聞いたんだっけ。アタシは記憶を辿りながら歩いた。
そして、ようやく思い出した。
「れいなちゃん?」
「後藤さん?」
思ってもいなかった再会だった。
話によるとれいなちゃんとさゆみちゃんは一駅離れた所に住んでいる
ということがわかった。出会った経緯を話すとさゆみちゃんは驚いていた。
それから、さゆみちゃんは病室に戻るということなので今度はれいなちゃんと
話をすることにした。
「びっくりだよ。れいなちゃんとまた会えるなんて」
「あたしもびっくりしました」
前会ったときより少し大人になった感じ。しかし足りないものがある。
「絵里ちゃんは元気?」
「はい、元気すぎるくらいです」
今も変わらず二人の関係は続いてるんだ。それは安心した。
- 659 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:55
- 「そう言えばあさ美さんが入院してると聞きましたけど」
れいなちゃんの伝えなきゃいけないな、アタシはすっと立ちあがった。
「会っていく?」
れいなちゃんは何も知らず、喜んだように立ちあがった。
アタシはれいなちゃんを彼女の病室へと案内した。
それからすぐにれいなちゃんの顔から笑顔が消えた。
病室に横たわる彼女を見た途端、言葉も出なくなっていた。
「去年の秋から意識不明なんだ」
そう言うとれいなちゃんは押し黙ってしまって、何も言わなくなった。
辛そうなれいなちゃんが見ていられなくなったので、アタシはれいなちゃんと
一緒に部屋を出た。
「後藤さんは辛くはないんですか?」
「辛いよ。いつ目覚めるかどうかもわからないのに待ちつづけるなんて」
アタシはじっとれいなちゃんを見つめる。
- 660 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:56
- 「あさ美が目覚めたときにはアタシは笑顔でいたいからさ常に笑っていないとね」
れいなちゃんは納得してくれたかな?きっとわかってもらえたはず。
その時だ静かな病院の廊下の叫び声が響いた。
「れーな!!」
叫び声の主は早足でツカツカとアタシ達の方に近づいてくる。
「絵里、静かにすると」
「さゆから聞いたキレイな女の人と一緒だって聞いた。だから文句を言いに来たの」
絵里ちゃん?それにしては雰囲気が全然違う。
「いやこの人は・・・」
れいなちゃんが言い終える前に絵里はアタシのほうに歩み寄ってきた。
「れーなとどういう関係ですか?」
すごい迫力に圧倒されそうだ。雰囲気が違って見えたのはロングヘアー
からショートヘアーになったからだった。
前と会ったときよりも一段と大人ぽっくなっていた。
- 661 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:57
- 「絵里ちゃん、久しぶり元気そうだね」
「えっ?」
そう言われて絵里ちゃんはアタシの顔を凝視し始めた。
「もしかして後藤さん・・・?」
ようやくアタシのことを思い出して、自分の勘違いに気づいたようだ。
「ごめんなさい。つい勘違いしちゃって」
「いいよ。気にしてないから」
絵里ちゃんは恥ずかしそうな顔をしている。
「ところあさ美さんはお元気ですか?」
「わっ!?絵里、バカ。なんてこと聞くと!?」
れいなちゃんに注意された絵里ちゃん。でも本人は訳がわかってないようだ。
「絵里ちゃんも会っていく?」
絵里ちゃんはアタシの様子に不安がって、れいなちゃんの方を見た。
れいなちゃんは静かに頷いた。
- 662 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:58
- 絵里ちゃんを連れて再び、病室へに行く。後には寄り添うようにして
れいなちゃんもいる。アタシが扉を開けると絵里ちゃんの息を呑む
音がはっきりと聞こえた。れいなちゃんはそっと肩を抱かれて病室に入った。
「あさ美さん・・・どうして?」
アタシは絵里ちゃんに事情を話した。すると絵里ちゃんの目に涙が浮かんでいた。
絵里ちゃんにそっとハンカチを渡した。
そうだ。アタシは二人に言うことがあったんだ。
「アタシ見つけたよ。大切な人」
そう言うとれいなちゃんはそれが誰だかわかったようで、絵里ちゃんに目で合図を
送っていた。最初わからなかった絵里ちゃんが少し考えてからわかったようだ。
「あたしはこうなるだろうなってあの時からずっと思っていましたよ」
れいなちゃんは笑って言う。
「絵里の言った通り、後藤さんはあさ美さんのことすごく大切にしていますね」
絵里ちゃんに顔にもようやく笑顔が戻ってきた。
- 663 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 14:59
- アタシはもう一度、眠っている彼女を見つめた。
相変わらず穏やかな顔をしている。
「あさ美さんはきっと目覚めると思います」
絵里ちゃんが自信に満ちた表情で言う。
「珍しく絵里と同じ意見になったと」
この二人も彼女が目覚めることを信じてくれている。
「今日はあさ美も喜んでいると思う。二人に会いたがっていたから」
「お願いがあるんですけど」
絵里ちゃんが言う。
「また、来てもいいでしょうか?」
「もちろんだよ。アタシも言おうと思っていたところだよ」
そう言うと二人は嬉しそうな顔をした。
「じゃあ、あたし達はこれで変で失礼するとです」
そう言って二人は病室を去っていった。
アタシと彼女もあの二人のようになれるだろうか。
いや、きっとなってやる。
- 664 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:00
- 今日は大学の合否が決まる日、アタシと美貴は早くから
結果が張り出せるのを待っていった。
「あー、神様お願いします。合格していますように」
美貴はひたすら祈りつづけている。これにも理由がある。
3つ受けたうちの2つを落としてしまい、ここが最後の望みだった。
「真希だって、そんなこと言ってられないじゃん落ちたら美貴と一緒に浪人だよ」
幼稚園からずっと一緒の美貴、さすがに浪人も一緒なんてことは避けたい。
アタシも祈ったほうがいいかも、そう思って静かに手を合わせた。
そして、遂に合格者が張り出せた。アタシは一目散にそこに向かい。
すでに周りには喜びの声が聞こえていた。自分の受験番号を確認した。
順番に目で追っていく・・・そしてアタシの受験番号の手前になった。
「あった・・・よかった・・・」
アタシは合格していた。喜びたいところだが隣の美貴が気になる。
美貴は受験番号を手に震えていた。
- 665 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:00
- ダメだったんだな・・・かける言葉が見つからない。
「美貴・・・」
美貴は泣きながら、アタシに抱きついてきた。
「真希、やったよ・・・合格だよ・・・めっちゃ嬉しい」
「んあ、本当に?」
アタシは美貴の受験番号を確認した。美貴の言うとおり合格していた。
「合格してるじゃん。よかったじゃん美貴」
今度はアタシが美貴に抱きついて喜んで飛び跳ねた。
しかし、この時喜んでいるアタシを見ている二人の影に
アタシは気づくことはなかった。
「わざわざ、遠くの大学受験してよかったかも」
そう呟いた男と間違うような容姿の女の子。
「大学生活も楽しくなりそうだな」
そう呟いた色黒の女の子。
そう言ってその二人は去っていった。
- 666 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:01
- それからアタシと美貴は合格したことを報告するために
学校に来ていた。他の生徒たちも今日が合格発表らしくて
続々と生徒が職員室に出入りしていた。
そして、アタシ達も平家先生の元にやってきた。
「おっ、後藤、藤本、どうだった」
「はい、合格してました」
「美貴も合格です」
アタシ達がそう言うと平家先生は満足そうな顔をした。
「後藤は1つしか受けなかったのが心配だったけど、よくやった
藤本は心配したよ2つ落ちたときはどうなることか思った。よくがんばったね」
後は卒業を待つだけ、アタシ達の高校生活も後わずかしかない。
いろいろあったな、また早いの懐かしい思い出ばかり蘇ってくる。
「合格できたのも先生のおかげです。ありがとうございました」
アタシは先生に深々と頭を下げた。
「美貴もお礼を言います。ありがとうごさいました」
そう言う先生は涙ぐんでいた。
- 667 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:02
- アタシ達は報告を終えて、職員室を出て、そのまま帰ることになった。
校舎を出ようとしたとき、アタシ達は高橋と出くわした。
高橋はいつもと変わらない笑顔で言った。
「後藤さん、藤本さん、どうしたんですか?」
「そう言えば、今日は大学の合格発表でしたね。どうでしたか?」
「アタシも美貴も合格してたよ」
「そうですか、おめでとうございます」
「ありがとう」
それからすぐに高橋はもうすぐ授業だからということなので、その場を去っていた。
アタシには気になることがあった。
それは彼女の事故があってから高橋は一度もお見舞いに来ることはなかった。
高橋には来てほしいが無理強いするつもりはない。
ゆっくり時間をかけてでもいいから高橋には来てほしい。
- 668 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:03
- アタシ達は校舎で出て、改めて合格の余韻に浸っていった。
「本当に合格していてよかった」
美貴は軽く背伸びしながら言った。
「しかし、美貴とまた一緒になっちゃったね」
「美貴はいいよ。真希とならどこだって着いて行くつもりだよ」
「おー、美貴、言ってくれるじゃん」
美貴と一緒に校門まで向かうとした時だった。
「さて、もう一人真希に着いていきたい人がいるんだよね」
そう言って美貴は指を指した方向にはいちーちゃんがいた。
「どうしたのいちーちゃん?」
「おまえ達の合格発表が気になってな、その様子だと合格したんだな」
「うん、おかげさまでアタシも美貴も無事合格したよ」
アタシがそう言うといちーちゃんはアタシに近づいて、アタシの手を掴んだ。
- 669 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:04
- 「なに、どうしたの?」
「どうせあさ美ちゃんの所行くんだろ?送っててやるよ」
「美貴のことはいいの?」
「いいんだよ。だって頼んだのは美貴だし」
アタシは驚いて美貴を見る。ニヤニヤと笑いながら美貴はアタシを見ていた。
「言ったよね。紗耶香さんも真希に着いて行くって」
「そういうこと、さあ行くよ」
いちーちゃんはアタシの手を引っ張って歩き出した。
アタシはお言葉に甘えて素直に歩き出した。
いちーちゃんの運転するバイクで病院まで駆け抜けていった。
アタシはいちーちゃんにお礼を言って病室へと急いだ。
エレベーターに乗って目的の階に着くと目の前にはナースステーション。
アタシは矢口さんと安倍さんと目があった。
結果を聞きたそうな顔をしていたから、ピースサインをしながら通りすぎた。
すると後から「おめでとう」という二人の声が聞こえてきた。
アタシは振り返って頭を下げた。
- 670 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:05
- 病室に入って、彼女に近づいた。
「あさ美、アタシ大学合格したよ」
そう言っても反応はない。ずっと応援してくれていた彼女。
アタシは彼女がいたからがんばれたんだよな。
「ありがとう」
そう呟きながら彼女の手を握る。まだ温もりは戻らない。
あの日の手の温もりは忘れない。
あの日の笑顔も青空も今もまぶたに焼きついて離れない。
彼女が目覚めたら言いたいことがいっぱいあるんだ。
アタシも今、青空が大好きになったんだよ。
そう言ったら彼女はなんて言ってくれるんだろう。
きっと笑ってくれるだろう。アタシは日々こんな想像している。
- 671 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:05
- それからあっという間に卒業式の日がやってきた。
その日の教室はいつもと雰囲気が違っていた。
いろいろあった3年間。昨日のことのように思い出す。
アタシと美貴は静かに式が始まるのを待っていった。
そして、平家先生が教室に入ってきて、もうすぐ式だから
整列するようにと言われて、アタシ達は教室を出た。
アタシは思い出をかみ締めるように教室、廊下、校庭を見渡した。
アタシ達はゆっくりと歩き出し、体育館に向かった。
- 672 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:06
- 体育館に入ると、後輩たちの拍手で迎えられた。
体育館の中をゆっくりと進む、その中に高橋の姿を見つけた。
アタシ達はゆっくりと席に座り、それからすぐに式が始まった。
校長の話から卒業証書授与まで式は順調に進んだ。
そして、式も終わり卒業生がいっせいに退場をする。
始まったときより、一段と大きな拍手で見送られた。
それから、教室に戻って卒業証書を受け取った。
アタシの高校生活もこれで幕を閉じた。
式の間ずっと我慢していた涙が込み上げていた。
「おーい、真希泣くなよ」
明るい美貴の声が聞こえた。でも美貴は・・・
「あんただって泣いてるじゃん・・・」
涙を堪えようとして無理して笑う美貴、涙で顔がグシャグシャだ。
- 673 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:07
- いつまでも泣いていられない、アタシは別れを惜しむように
クラスメイトや先生たちの写真を撮った。
「真希ちゃん、一緒に写真撮ろうよ」
「うん、いいよ」
廊下の向こうから梨華ちゃんがやってきた。
「ねえねえ、美貴ちゃんもおいでよ」
「梨華ちゃん、今行くよ」
クリスマス以来、美貴と梨華ちゃんもすっかり仲良くなっていた。
梨華ちゃんも大学合格したと聞いている。
どこの大学に行くかは知らないけど、梨華ちゃんならうまくやっていける。
季節はすっかり春になって心地よい風が吹いている。
3年間の様々な思いを胸にアタシたちは今日、高校を卒業した。
- 674 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:08
- 春休みになって、彼女と過ごせる時間が多くなった。
桜の樹はちらほらと咲いている。
アタシは青空が入るようにその桜を写真に収めた。
「真希、おはよう」
「裕ちゃん、おはよう」
「これから病院に行くの?」
「うん、ちょっと行って来る」
アタシは歩き出しそうとした。
「ちょっと待って」
裕ちゃんはアタシに近づいて、髪の毛をそっと撫でる。
「髪の毛ボサボサやん、5分でいいから時間くれへん?」
そう言ってアタシは裕ちゃんの家の庭先で髪を整えてもらった。
手馴れた手つきで真剣な顔をして髪にブラシを入れる。
- 675 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:09
- 「いい天気やね。すっかり春だね」
「うん、そうだね」
裕ちゃんは一旦手を止めて、空を見上げる。
「あさ美ちゃんはこんな青空が好きなんやろ?」
アタシは深く頷いた。
「あさ美ちゃんなよくベランダから笑顔で空と見上げていたよ」
「アタシはあの笑顔が大好きなんだよ」
アタシがそう言うとだ何も言わずニッコリと笑った。
裕ちゃんは再び手を動かし始めた。
「終わったで、ごめんな時間とらせて。本当は切らないとあかんけどな」
「ありがとう、今度、裕ちゃんの店に行くよ」
アタシはゆっくりと歩き出そうとした。
- 676 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:10
- 「裕ちゃん、頼みがあるんだけど」
「なんや?」
「時間があったらでいいから、あさ美の髪も整えてあげて
看護師さんに許可とっておくからさ。あの子さクセ毛でよく悩んでいたから」
「ああ、ええよ」
アタシはそう言って、ゆっくりと歩き出して病院へ行く。
春の風を浴びて海岸沿いを歩く。アタシは立ち止まってカメラを構える。
写真を撮ったら、また歩き出す。近くのアパートを通り過ぎると
引越し業者のトラックが止まっている。ここは大学生が多く住んでいる
アパートだから、きっとアタシと同じ大学になるんだろうなとそんなことを
考えながら足取りを早くして病院へと急いだ。
- 677 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:10
- 病院の通り道にも桜が咲いていて、とてもキレイだった。
風で花びらがヒラヒラと舞い落ちる。
彼女と出会った季節にはまだちょっとだけ遠い。
アタシは桜がキレイだよって報告したいから、急いで
病室に向かった。
ナースステーションを通るとアタシは矢口さんに呼び止められた。
「後藤さん、ちょうどよかったお客さんだよこの子がね妹さんに
会いたいって言ってきたから病室に案内しようと思っていたところ」
振り返るとそこには驚きの人物が立っていた。
「こんにちは、後藤さん。あさ美ちゃんのお見舞いに来ました」
「高橋・・・」
彼女の事故以来、初めて高橋が病室に来てくれた。
アタシはそれがすごく嬉しかった。
- 678 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:11
- 高橋を病室に案内した。彼女の姿を見た途端、今にも泣きそうな顔をする。
「高橋、よく来てくれたね」
「今まで来れなくなってすみません。あさ美ちゃんのこんな姿見るのが辛くて
でも・・・それじゃあダメだなって思ってようやく来る決心が出来ました」
高橋は彼女の姿を見つめた。高橋も辛かったんだな。
「後藤さんは強いですね。私だったら逃げ出していたかもしれないです」
高橋は呟くように言った。アタシはそっと高橋に近づいた。
「アタシはそんなに強くはないよ」
アタシだって辛くて悲しくて、逃げ出したいって思うことが何度だってある。
「けれど、悲しむあたしの姿をあさ美はきっと望まない。だからアタシは逃げない」
「やっぱり、私はあさ美ちゃんのことを諦めてよかったと思っています」
高橋は笑った。アタシもつられて笑う。
「私たちのデートに着いて来ちゃうのはちょっとやりすぎだと思いますよ
しかも、バレバレの変装までしちゃって」
- 679 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:12
- あの時のことバレていたのか、今思い出しても恥ずかしい。
「アタシはすごい鈍感だよね」
「はい、すごい鈍感です」
アタシと高橋は笑いあっていた。高橋には悪いことしたかもしれない。
「高橋、あさ美の分まで楽しんでよ」
「はい、わかっています。任せてください」
それから高橋は「また来ます」と笑顔で去っていった。
高橋もいつかきっと誰にも負けない強さを手に入れると思う。
アタシもまだ強くはないかもしれない。
彼女が目覚めたときには、その強さをアタシは手に入れることが
出来るだろうか。アタシは今日もその答えを探している。
- 680 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:13
- 4月となって大学の入学式の日が来た。
アタシは美貴と一緒に行動を共にしていた。
「いよいよ、大学生活スタートだな。共にがんばろうぜ真希」
「うん、がんばろう美貴」
アタシたちがそう意気込んでいると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「もしよかったら仲間に入れくれない?」
アタシは振り返って驚いた。だってそこにいたのは・・・。
「どーも、吉澤ひとみでーす。以後よろしく」
「吉澤さん、どうしてここに?」
「どうしたもこうしたも私もここの大学に入ったわけよ」
「なんで、こんな遠くの大学を選んだの?」
そう聞くと、吉澤さんは恥ずかしそうな顔をした。
話によると、志望校を落ちてしまい遊びのつもりで受けたのが
この大学。彼女の病院が近いし、なんでもアタシと仲良くなりたいらしい。
- 681 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:14
- アタシは美貴に吉澤さんを紹介した。
「一度会ったから知ってるよね?吉澤ひとみさん」
「あーあー、あさ美ちゃんに告白できなかったヘタレだよね」
吉澤さんは痛そうな顔をして胸を押さえた。
「ちょっといい?」
吉澤さんはアタシの手を引っ張って小声で囁いた。
「美貴って呼んでるあの人いつもこんな感じなの?」
「悪気はないから許してあげて」
「まあ、あんたがそう言うなら許してやってもいいけど・・・」
吉澤さんは納得できない、そんな表情を浮かべて美貴を睨んでいた。
- 682 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:15
- それからすぐに、アタシ達の元に明るい声が聞こえてきた。
「あれ、梨華ちゃんじゃん」
先に気づいたのは美貴だった。
「ヤッホー、真希ちゃん、梨華ちゃん、一緒になれて嬉しいよ」
いつも以上にテンションの高い梨華ちゃん。
「梨華ちゃんも同じ大学か。言ってくれればよかったのに」
「美貴は知ってたよ。梨華ちゃんにも、よしなんとかさんにも試験会場で会ったよ」
アタシと美貴は試験会場が別々だったし
アタシがここの大学に決めたのも遅かったし、まあ仕方ないか。
「梨華ちゃんは合格すると思ったけど、よしなんとかさんは合格するとは思わなかったな」
そう言われた吉澤さんは、ムッとした表情をした。
「吉澤さんごめん。美貴は口はちょっと悪いけどいい奴だから」
「なんか、うまくやっていけそうにないな。
それとさ、さん付けなんて堅苦しいからやめてよ」
アタシは吉澤さんをよしこと呼ぶことにした。
男の子のような風貌だけど中身は純粋な女の子。
そんな意味をこめてアタシは吉澤さんをよしこと呼ぶことに決めた。
- 683 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:16
- 大学生活はアタシと美貴。梨華ちゃんとよしこが加わって賑やかになるだろう。
その後は、グラフィティに行き新たな出発とよしこの歓迎会をすることになった。
そこで決まったのは、アタシ達の呼び名。
まずアタシは、美貴は変わらず名前で呼んで梨華ちゃんもちゃんづけこれも変わらない。
よしこはアタシのことをごっちんと呼ぶことに決まった。
美貴はアタシと梨華ちゃんは今のまま、よしこはミキティという変わったあだ名をつけた。
よしこは美貴がよっちゃんさん。梨華ちゃんはよっすぃ〜。
見事に三人バラバラの呼び方だ。
唯一、全員統一されたのが梨華ちゃん。
これには梨華ちゃんもちょっと不満そうな顔をしていた。
- 684 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:16
- 「よっちゃんさんってなんだよ。よっちゃんでいいじゃん」
「ミキティって意味不明なんだけど・・・」
こう言ってる二人だけど、もう互いに認め合っている。
アタシにはわかる。この二人はうまくやっていける。自信を持って言える。
「なんか見てたら大学生になりたくなってきたよ」
いちーちゃんがポツリと言う。
「紗耶香さんも来ましょうよ。きっと楽しいですよ」
美貴は笑いながら言う。
「ごっちん、ちょっと質問があるんだけど」
「んあ、なに?」
「ミキティと市井さんだっけ?どういう関係なの?」
「どういうもこういうも付き合っているんだよ」
吉澤さんはオーバーに驚いた顔をして、二人に目を向ける。
- 685 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:17
- 「もう一つ。梨華ちゃんって何者?いまいちよくわからない」
「梨華ちゃんはこの街では有名なサーファー。波乗りチャーミーだよ」
「へぇーそうなんだ。でもさちょっと変わってるよね」
アタシはまったく同じ気持ちだったので何も言えなかった。
「そう言えば住むところはどうしてるの?」
「アパートで一人暮らし始めたよ。結構、いい所だね気に入ったよ」
よしこは窓の向こうの海を見ながら言った。
「紺野は相変わらず?」
アタシは静かに頷いた。アタシの反応によしこは深くため息をついた。
「言いたいことがあるのに・・・」
「アタシでよかったら聞くけど」
「私は去年の秋から、付き合ってる人がいるんだ」
「まこっちゃんのこと?」
アタシが名前を出した途端、よしこは目を見開いて驚いた。
- 686 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:18
- 「な・・・なんで知ってるの?それに麻琴に会ったことあるの?」
「付き合ってることは知らなかった。まこっちゃんは
月2回くらい、お見舞いに来てくれる。っていうか知らなかったの?」
「あいつ、私に気を使ってるのかな」
よしこはそう言ってコーラを飲み干した。
まこっちゃんの気持ちはなんとなくわかる気がする。
よしことまこっちゃんのことはアタシが責任に持って伝えてあげよう。
それからアタシ達はグラフィティでこれまでのこと、これからのことを
笑いながら話していた。
- 687 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:19
- 大学生活はとにかく毎日が楽しく過ぎていった。
アタシは青空の写真を撮りつづけて、毎日の彼女の元へ。
美貴はサックスに磨きをかけている。いちーちゃんの関係も順調だ。
梨華ちゃんは女子大生サーファーとして、学内の注目を集めている。
よしこはフットサル部を設立し、日々駆け回っている。
美貴や梨華ちゃんもそのフットサル部のメンバーとして試合に出ることもある。
アタシは部に入っていないけどよしこは「ごっちんも立派なメンバーだから」と
言って、着ることのないユニフォームをベンチに置いているらしい。
よしこは本当にいい奴だ。目標としてきた存在も今や頼れる親友になった。
よしこだけじゃない梨華ちゃんも結構頼れるんだよね。
曇り空や雨の日で落ち込むアタシに明日は晴れるからって優しく言ってくる。
そして、美貴は大学でも仲良しコンビで知れ渡るようになった。
- 688 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:20
- ある晴れ日のことだった。
「青空がずっと続けばいいのに」
アタシがふと呟いた言葉。
「それだ。ごめん私帰る!いい曲を思いついた」
美貴は大学の講義をサボってまで曲を作っている。
音楽のことになる見境がなくなる美貴にアタシ達は呆れていた。
それから2日後、美貴は出来たばかり曲持って大学にやってきた。
「これは真希に聞いて欲しいんだよ。そして、あさ美ちゃんにも」
そう言ってアタシにMDを渡してきた。
タイトルは『青空がいつまでも続くような未来であれ!』
「真希の言葉がヒントになった。とりあえず聞いてみて」
アタシは美貴の持ってきたプレーヤーで曲を聞いた。
- 689 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:22
- AH 長い長い この地球に 歴史がある
SO 少しだけど この私も一部だわ
いきなりの歌声にアタシは驚いた。
美貴はニヤニヤとし顔つきでアタシを見ている。
青空がいつまでも続くような未来であれ!
と今日も願っている ずっと願っている
いい歌だ。なんだか心に響いてくる。
心を繋いで 叶えようよ小さいことでもいいさ
なせばなると教わったし
詩もすごくいい。曲もすごくいい。さすが美貴だな。
夢には大きな 希望を乗せて 飛び立つ準備をしてさ
風が吹けば大空へと羽ばたくから
アタシは曲を聞き終わって、思わず涙ぐむ。
- 690 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:23
- 「いい曲だよ。感動した」
「よかった。美貴の自信作だよ」
「歌ってるのは美貴とよしこだよね?」
「うん、そう」
しかし、一人だけ不満そうな顔をしている梨華ちゃんがいた。
「なんでワタシを誘ってくれなかったの?」
「いや・・・梨華ちゃんの音程がちょっとね。だから曲調に合わないと
思ってね。決して下手と言ってるわけじゃないよ」
美貴は言葉に困りながらも、梨華ちゃんに説明していた。
美貴とよしこと梨華ちゃんでカラオケに行ったらしくて
その時に梨華ちゃんの歌を聞いてしまったようだ。
「ごっちんは知っていたみたいだね。梨華ちゃんの歌のこと」
よしこが小声囁いてきたから、アタシは静かに頷いた。
- 691 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:24
- アタシは美貴に貰ったMDを大切にカバンの中にしまった。
ありがとう、彼女にも聞かせるよ。
大学の講義も終わり、学生たちは帰る準備を始める。
「よっしゃ、ミキティと梨華ちゃん、遊びに行こうぜ」
「たまには真希ちゃんもおいでよ」
「そうだよ、来てくれよ。ごっちんがいないとつまんないんだよ」
誘ってくる梨華ちゃんとよしこに、アタシは何も言えない。
4人で会うのは講義くらいで、遊ぶときはいつもアタシは不参加だった。
「二人とも、もうあきらめて美貴たちだけで行こうよ」
美貴に説得されてよしこと梨華ちゃんなんとかあきらめてくれたみたい。
「ごっちん、たまには息抜きも必要だよ。疲れた時はいつでも来てよ」
「わかった。今度は絶対行くよ」
アタシの返事によしこは白い歯を見せて笑顔で去って行った。
- 692 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:25
- 「絶対、来てよ真希ちゃん。ワタシ達はずっと待ってるよ」
「ありがとう、梨華ちゃん。約束するよ」
梨華ちゃんも嬉しそうによしこの後を着いて行った。
アタシはそんな後ろ姿を見送った。
「二人とも真希に気を使ってるんだよ」
「それはわかってるよ。みんなには本当に悪いと思ってるよ」
「気にしないで、あさ美ちゃんが待っているよ。行きなよ」
美貴はアタシの背中をポンと叩いた。
「おーい、ミキティ何やってるの?早く来いよ」
「わかった、今行くよ。じゃあ真希、美貴は行くよ」
美貴も笑顔で去って行った。
ありがとう、美貴、よしこ、梨華ちゃん。
この埋め合わせはいつか必ずするよ。
そう心に強く思って、アタシは病院へと急いだ。
- 693 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:26
- アタシは美貴の作ってくれた曲を毎日欠かさず聴いている。
今日も青空の下でアタシはカメラを構えている。
アタシはフィルムが無くなっていることに気づいてグラフィティに
買いに行くことにした。空は五月晴れ。雲ひとつない青空だった。
もうすぐ彼女と出会って2度目の夏がやってくる。
事故から半年以上がたっても彼女は目覚めることはなかった。
アタシは泣くこともせずに、毎日、笑うことを忘れない。
それが彼女ため、みんなのためになるんだ。
アタシがグラフィティに着くといちーちゃんが店に前にいた。
そして、カメラを空に向けてシャッターを切った。
- 694 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:27
- 「いちーちゃん、何やってるの?」
「おー後藤、おまえの真似して青空を撮っていた」
いちーちゃんにも青空の魅力がわかってきたのかな。
青空が好きな人がまた増えたな。
「空って不思議だよな」
「えっ?」
「世界には色んな国がある。色んな人がいる。でも空は一つだけ
それって不思議だよ。そう思わないか?」
いちーちゃんに言われて気づいた。それは不思議だ。
アタシは海の向こうの空を見つめた。
ずっとずっと向こうにも今、青空を見上げている人がいるだろうか。
きっといるだろう。アタシは空を見上げて笑う。
それから、アタシはフィルムを買って、彼女の病院に向かった。
- 695 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:28
- 病室に入って、今日撮った青空を写真立てに入れて彼女の枕もとに置いた。
流れる雲、さわやかな風、心地よい波の音、太陽の光で輝く海。
窓を開けて、空気を入れ替える。カーテンが風で舞う。
「いい天気だよ。青空もキレイだし」
アタシは彼女の手をそっと握って声をかけてみる。
寝顔見ていても全然飽きない。その手を頬に持ってきた。
少しでも彼女が温まればいいと思ったから、アタシは目を閉じる。
春の穏やかな風を感じながら・・・。
- 696 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:28
-
- 697 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:29
- 夢を見た。真っ白な空間でアタシ一人だけ。
周りには何もない。窓も扉もない。
ここはどこ?見渡しても心当たりはない。
声を出しても誰も来ない。
アタシは空間のずっと向こうまで歩くことにした。
しばらく、歩いていると人影を見つけた。
真っ白の空間の中、真っ白なワンピースを着た少女がいた。
あさ美・・・?思いアタシはその少女に近づいた。
その少女は蹲ったまま、泣いているようだった。
「あさ美・・・」
アタシの声にビクッとして、少女は顔を見せた。
「真希さん・・・?」
夢の中とは言え、彼女の声を久しぶりに聞いた。
- 698 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:30
- 「どうしたの?」
「ここから出たい・・・青空が見たいです」
周りを見渡す出口はない。アタシは彼女の手を握った。
「あの場所まで走って行こうか?」
思いつきで指を指す。そこに出口があるかわからない。
けど彼女と一緒ならどこだっていいよ。
その下に青空があるならどこだって行く。
「さあ、行こうよ」
彼女の手を離さないようにアタシは駆け出した。
彼女もアタシの手を強く握って駆け出した。
息切れなんて気にしない。倒れたとしても彼女ここから出す。
強くなる鼓動を押さえて、アタシは走りつづける。
そして、ひとつの扉を見つけた。手を握ったまま扉を開けると
眩しい光が差し込んで思わずアタシは目を閉じた。
- 699 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:30
- ゆっくりと目を開けると真っ白なシーツが見えた。
ここは病室か、それにしてもいい夢だった。
彼女に会えたそれだけで満足だ。
夢の中でも彼女は青空を見ることを望んでいた。
アタシは顔を上げて大きなあくびをする。
すっかり眠ってしまったんだな。無理な体勢で寝たから首が痛い。
首を押さえようしたら、右手に不思議な感覚がある。
ほんの僅かだけど、温もりを感じた。
強さはないけどしっかりとアタシの手を握っている。
「真希さん・・・そんなところで寝ていると風邪引きますよ」
聞こえた声、弱々しいけど、確かに愛しい人の声がした。
アタシは恐る恐る声のしたほう見る。
そこには・・・今も変わらない彼女の・・・いやあさ美の笑顔があった。
- 700 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:31
- ずっと聞きたかった声・・・。
ずっと見たかった笑顔・・・。
嬉しくて嬉しくてアタシは泣いた。
本当は矢口さんを呼ばないといけないんだけど
それさえも忘れて、アタシは泣いた。
「青空・・・とてもキレイですね・・・」
擦れた声であさ美は言った。
そんなよく晴れた午後の出来事だった。
- 701 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:31
-
- 702 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:32
-
エピローグ――――
- 703 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:32
-
- 704 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:33
- それから2ヵ月後、あさ美は無事に退院することが出来た。
あれから検査をして、あさ美はどこにも異常が見つからなかった。
医者も奇跡だと驚いていた。厳しいリハビリを終えて元通り
歩けるようになった。
退院祝いにあの海岸へ行こうとアタシは言った。
けれども、あさ美は一人で行きたいと言い出した。
アタシはもちろんのこと、周りは大反対だった。
こういう時のあさ美は頑固だからしょうがない。
結局アタシは海岸で、待つことにした。
- 705 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:34
- アタシはあさ美が目覚めた今でも青空を撮っている。
そして、今日も青空の下にいる。
写真を撮り終えて、振り返るとゆっくりとした足取りで
あさ美がやって来た。
「待ってたよ」
「やっぱり、ここは気持ちいいです」
あさ美は嬉しそうに笑う。
二度目の夏、この場所で出会ってから一年が過ぎた。
今も変わらず笑顔はそこにある。
今日は言いたいことがいっぱいあるんだ。
- 706 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:35
- アタシは今、青空に癒されているよ。
でもね・・・もっと癒されるものがアタシにはあるんだよ。
それはキミの笑顔、キミはアタシにとっての青空なんだ。
キミが微笑めば、アタシは心が穏やかになる。
ねえ、笑ってよ。少しだけでいいから。
アタシの隣であさ美は笑っている。
そうだ、アタシがキミの青空になってやる。
毎日、キミを癒してあげよう。
そうすればキミはずっと笑ってくれるはず。
「あさ美、こっちを向いて」
アタシが呼びかけるとアタシに向き合った。
「愛してる・・・アタシはあさ美のことが大好きだよ」
- 707 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:35
- そう言うとあさ美は恥ずかしそうな顔をした。
「私も真希さんが大好きです・・・」
キミは満面の笑みを浮かべて微笑んだ。
アタシは思わずその笑顔に向かってシャッターを切った。
これでアタシはキミの青空になれただろうか。
それは目の前にいるあさ美しか知らない・・・。
- 708 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:36
-
- 709 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:36
-
――――終わり
- 710 名前:キミの青空になる 投稿日:2006/08/07(月) 15:37
-
- 711 名前:ヒガン 投稿日:2006/08/07(月) 15:42
- これにて「キミの青空になる」完結です。
去年の3月から今まで何度か更新も止まりましたが
完結させることが出来ました。
設定の変更や現実ではこんこんの卒業という事態
ともありました。この時は本当にショックでしばらく
小説が書けなくなってしまいました。
でも、この小説だけは完結させたい思い気力を出して
書きました。
こんな下手くそな小説を読んでくださった皆様
レスをくださった皆様、ありがとうございました。
今後もまた娘。小説を書いていきたいと思っています。
- 712 名前:闇への光 投稿日:2006/08/07(月) 15:51
- はじめまして。闇への光と申します。
前からこの小説を気に入っていて
最後にリアル更新に会うことが出来ました。
こういう話は大好きです。
季節が違いますがふと河口恭吾の
『桜』を思い出しました。
完結お疲れ様でした。
- 713 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/07(月) 22:26
- 完結、おめでとうございます。
スタートからずっと更新をたのしみにしていました。
次回作も楽しみにしてます。
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