ほのかにいしよし・・・2章

1 名前:咲太 投稿日:2005/03/30(水) 14:21
咲太と申します。
1月に書き始めたばかりで、まだまだ拙い文章で申し訳なく思います・・・。
なんとか続けられたらと思いまして、スレをお借りすることになりました。
どうぞよろしくお願いいたします。
2 名前:咲太 投稿日:2005/03/30(水) 14:23
最初に、吉澤さんの生誕祭には少し早いのですが、
3月中に繋げてスレをたてたいと思いまして・・・。

前作の番外編となります。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/red/1105075507/

内容のない内容?ですが
お付き合いいただけたら幸いです。
3 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:24




4 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:25
『ぷろじぇくと5』〜吉澤さん生誕記念

       
        
5 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:28




『リアル226』

『華美』


20歳記念の写真集。

2005.4.12
うちの誕生記念に出される写真集の名前は

『H/R』



そう。矢口さん案『リアル1444』とか
並居る競合?を抑えて決定されたわりにはまんまなんだけど。

つまり、あの自費出版が一般発売されるのが、4.12


6 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:29


ソロのを出しましょうよとかいろいろ言ってくれるスタッフさんとかもいたんだけどね。
うちの愛はそんなせまっちょろいもんじゃない。

せっかくの20歳。

私と梨華ちゃんを再び繋いだ記念すべき写真集をその日に出すことができるなんて、
これ以上の幸せはない。



さすがにあのまんまじゃまずいってことで、
表から開けば梨華ちゃん、裏から開けばあたし。

で、真ん中の数ページが例のやつ。
まあもちろんほとんど取り直しになってしまって。

それはちょっとわからなくもない。

あたしってこういう目をして梨華ちゃんのこと見てたんだって、
何が恥ずいかってこんなたらんってした自分の顔を見るのが一番やばいかな。

7 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:32



で、だ。なんであたしがこんなにへこんでるかっていうと。

コンサート帰りの新幹線の中。

2週間単位で渡されたスケジュール表。

「はあっっ?福岡スタート?」
「よっすぃ、札幌??」

お互いに覗き合って、唖然。

写真集発売記念に握手会するっていうのは前々から聞いてて、
そりゃあもウキウキもんだった。

だって、朝からだよ。一日だよ。
終わったらこれ行って、あそこ行ってって・・・。

あたしなりに完璧なスケジュールを想定してたわけですよ。




ここ数年は二人っきりで過ごせた誕生日なんてなかったから。

それぞれに仲間とか友達とかいて。

だから、今年は気合入りまくりだったんだ。

くどいようだけど、しつこいようだけど20歳だし。
8 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:33

「札幌スタートって、そっからどこいくんすか?」

私は新幹線の座席の上に膝立ちになると、後ろにいるあたし担当のマネージャーに聞く。

あたしたちのこと、知ってる彼女はほんとに申し訳なそうな顔でちらっと私の目をみたあと、

「よっちゃんは、札幌、仙台、東京、新潟で、おしまいかな。」

すごい形相をして、梨華ちゃんの通路どなりにすわっている梨華ちゃん担当マネージャーにむかって身を乗り出すと、

「梨華ちゃんは福岡、広島、大阪、名古屋。」

それでね・・・と、言いづらそうに彼は口にした。

「夕方さゆと合流して、万博の地方紙のインタビューとか入ってるから、
 そのまま名古屋ステイ、ね。」
9 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:33
ほら。去年だって、静岡行けたんだよ。ごっちんとか一緒だったけど。
夕飯みんなでさっくり食べたくらいだったけど。

なのに、これかい・・・。

そして、そんな私たちにさらに追い討ちをかけるように、お互いのマネージャーが目を合わせて
早口で告げた。





「梨華ちゃんは保田さんと、よっちゃんは中澤さんとまわってもらうから。」


10 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:34



11 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:34



最悪の結末。今あたしは前泊で中澤さんと一緒に札幌の夜景をみている。

スタッフさんがせっかくの誕生日だからと気を利かせて、いつもは使わない、
夜景のきれいなホテルをとってくれたのは嬉しいんだけど、なんで中澤さんかな・・・。

そう。つまりだよ。20歳を迎える瞬間を一緒に過ごすのは中澤さん。

先ほど届いたメールによると、愛するあの人は博多の街を引き回されてるらしい。
12 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:35
いや、わかるよ。ほら。何枚かは保田さんが写したやつ、そのまま採用されてるしさ。

帯にもちっちゃく保田さんの名前だって入ってるし。

さすがに印税とは関係ないところらしいんだけど、でもね。

だからそれは納得なんだけど、なんでうちの担当が中澤さん??

泣きそうな顔で苦いビールをちびちび、口にあてていたら、中澤さんが意味深に笑った。



「ばれんようにな。目付け役や。」
13 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:35



翌日になってよ〜くわかったその意味。
書籍搬入口から通されて、こっそり外を見て愕然とした、長い行列。
しかも


「よっすぃもりかちゃんも大好きです。応援してます。」

     「ありがとう。」

「20歳、おめでとうごさいます。がんばってね。」

     「はい、がんばります。」


「吉澤さん、梨華ちゃんを幸せにしてやってね。」

      (苦笑)

   事前に渡されたマニュアルに、苦笑しろって書いてあったんだもん。
   困った質問にはすべて苦笑。

「梨華ちゃん可愛いですね。」

     「はい。そうですね。」
14 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:36
たまに暴言もあるけどさ。その気持は分からなくもないから、苦笑して握手。

でも中にはマニュアル想定外のことをいう人も来るわけで。

「梨華ちゃんって、岡田さんより、美乳ですか?」

     「美勇?」

         「いえ。おっぱい。」

はっっ??

とかね。
15 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:36
中澤さんの役割は
後一人で私の前にくるという人への牽制。

そしてもうひとつ。
なにかのはずみに失言しないようにって私への牽制。
16 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:37
つんく大プロデューサーによると、もう俺はケチくさいことはいわん。
もう事務所公認。解禁や。

ただし、まだ一般人にはにおわす程度やぞ。
ほのか〜に匂わす。これが一番そそるんや。

ええか。あからさまはあかんで。



十分ケチくさいっておもうんですけどね。
商売根性丸出し。

でも「お前たちが最終兵器なんや。」
そういわれると悪い気はしない。

17 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:37
とにかく、どこにいっても長蛇の列。

中には20冊買いましたとかっていう強者もいて。

時間の関係で、そういう人たちを残して次の会場に移るのは忍びなかったけど、

「ずっと待ってました。」
って目をうるうるさせてくれるひとがいたりして。


応援してくれるひともいたんだって、こっちまで一緒になってちょっとうるうるして中澤さんの睨みが入るとか。
もちろんメンバーとかも励ましてくれてたんだけど。

こうやって認めてくれてる人たちもいるんだな。



うん。ありがとう。
梨華ちゃんのことはみんなの分まで大事にするからね。(涙)
18 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:37


19 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:38
新潟が終わって、新幹線に飛び乗ったのは19時半。
なんだか目がしょぼしょぼしていて、何度も塗りなおしたメイクは禿げかけで。

盛大に欠伸とかしていたら、中澤さんは元気に携帯片手になにかピコピコやっていた。

移動時間があうたびに一応報告しあっていた梨華ちゃんに、新幹線に乗る前に
終わったよってかけてみたけど、エコモニの取材が始まってるらしく、電話に出ない。

座席に深く腰掛けて、帽子の鍔をおろして、目を瞑っていたら。

「吉澤、これから名古屋行くか。」

「はい?」

「明日、ハロモニの収録は午後からやろ?マネージャーにはうちから話してやるから、
 みんなと東京駅でわかれて、行こ。」

「だって東京に着くのって・・」

「10時の新幹線にはなんとか間に合いそうやて。名古屋へは11時40分。ぎりぎりやけどな。」

中澤さんはにっこり笑って、携帯の画面をみせてくれた。

「と、ちょっと、電話してくるわ。」

おもむろに立ち上がって、通路席へ向かって歩いていく。
ヒールを履いてさっそうと歩いていく姿がかっこよく。

いやあ、中澤さん、マネージャー業っていうのもいけますよ。
20 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:38
想定外の展開になんか急に勢いづいて食欲まで顔を出す。

マネージャーに渡されたまま、新幹線の窓におきっぱなしだった弁当をバリバリと破いて、
見事に等分に割られた箸にまで感動してる自分って・・・。

そうだよ。梨華ちゃんが帰ってこれないならこっちから行っちゃえばいいんだよ。

今日は大人しく家に帰って、みんなから預かったプレゼントを玄関に置いとくよっていわれてたから
それでも開けて、地味〜にサッカーでも見ようかって思ってたんだ。

右手に箸。左手に携帯。名古屋に着く直前までリダイヤルしてみたけど、梨華ちゃんには繋がらない。
メールは送ってあるし、まあ、中澤さんと保田さんのことだ。マメだし。ヒマだし??

忙しく座席とデッキを行き来する背中を見送ってまた頬張る。
きっとなんかやってくれてるはず・・・だよね。
21 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:40




「ええか。よっさん。タクシー乗り場まで走って4分。タクシー乗って5分。チェックインは圭坊が
 してくれとるからな。それでもぎりぎりやなあ。死ぬ気で走れよ。」

「中澤さんは?」

「うちは石川の部屋やもん。あそこは駅から遠いからな。ゆっくりタクシーで行くわ。」
まあ、あんたいつも、荷物少ないからな。がんばれば間に合うやろ。

そう言ってにっこり笑った。


うん。勝負。


ドアが開くのをいらいらしながらまって、半分くらいまで開いたところで全力疾走。

手にもってるのは携帯と、ちょっとのメイク道具が入ったくらいのバック。
フットサルで鍛えた脚力は並じゃない。
走るのに邪魔で帽子もサングラスも全部外して。
死ぬ気で走ってるあたしをびっくりした顔で見る人はいても
どうせ顔までは気付かれないだろう。


とにかく走って走って走って。
タクシーに乗ってから、もう一度携帯を鳴らす。
まだ同じメッセージ。
22 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:40


中澤さんの教えてくれたホテルはこれまでの遠征でも使ったことがないところで
エントランスを抜けて、保田さんの顔を見つけると、妙にほっとしてしまった。

だって自分でチェックインとかってしたことないしさ。

保田さんは私を見てから腕時計をちらっと確認すると、
しゃべりかけようとする私を制して、カードを渡した。

「早く乗りなさい。」
腕をつかまれて閉まりそうになるエレベーターを手でこじ開けて中に放り込まれ、

「ありがとう、保田さ、あ〜っっ。何階?」
「上。上。」指差す手だけ見えて、あわててカードをあけて部屋番号を確認する。
へ?最上階・・??


23 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:41
廊下をつきぬけてなんだか豪勢なドアの前に立つ。
絨毯までいつもと様子が違って一人で歩くのが居心地がわるくてたまんない。
どうすんだ?ここでいいんだよね?

もう一度カードと番号を見合わせてから、思い切って差し込むんでドアを開けると
圧倒されるような、ガラス何枚分かに広がった夜景。
ハンパじゃないよ、これ。


ばんばんってシャンデリアをつけて、見回す。
なんか、かっけえ。前見た、つんくさんの部屋みたい。

でも。いくらくらいすんだろ。
すごいエントランスだったぞ。

もしかして30万くらい?もっと??


ん。まあよし。そのために毎日死ぬ気で働いてるんだし。
日ごろ無駄遣いなんてしないほうだけど。
よしっと覚悟を決める。
だって、愛するあの人と一緒に過ごす、最高の誕生日にするんだもん。


24 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:43
一度つけた部屋の電気をもう一度消しに行き、部屋の奥へとすすんだところで
カチャリと音がして。
間髪を入れずに飛びこんできた彼女。
真っ暗な部屋に、廊下から入ってくる光でシルエットだけなんだけど。


11時55分。

「ふうっっ。」
大きくひとつ息をついた。

「間に合ったね。」

「うん。」

「お誕生日おめでとう。」

「何回目だよっっ!!」

「会って言いたかったんだもん。」
25 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:44
尻上がりなその言い方は容赦ない突っ込みが入りそうなところなんだけど。
ほら。こんなシチュエーションだし。二人きりだし。
なんかあたし、妙に機嫌がいいし。
へらへら笑って、こっち、来てみ?って呼んだ。

荷物をソファーにおいてから、こちらに近づいてくる彼女の顔が、
予想以上にうれしそうな笑顔で、押さえ切れないくらい頬がゆるむ。

梨華ちゃんの後ろに立って肩に顎をおき、後ろからきゅっと抱きしめ、
広がる景色と、ガラスに映った幸せそうな笑顔を交互に眺めていた。


「あ、そうだ。ひとみちゃん?」

呼ばれて顎を持ち上げ、「うん?」っていうと、
首を後ろに回してチュッっと唇に短いキス。


「なに?それで終わり?」

「うん。とりあえず12日のうちにね。」
26 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:45
そういわれると、昨日がやけにむなしく思い出された。

本当だったらだよ。こうやって一緒に日付変更線を越えながらこういうこととかああいうこと、してるつもりだったのに。
酔っ払った中澤さんの目を盗んでこそこそ電話とかしあってる場合じゃなかったよ。

「いいじゃない。会えたんだし。」

梨華ちゃんはあたしの手の上に自分の手を重ねると、ぎゅっと握り締めてくれた。
よしっとばかりに回転させて顔を近づけようとしたら。

「あっっ!」って。
保田さんがね、カウンターバーがあるはずだから、見に行けっていってたの。

ピキピキに冷やされたシャンパンと磨かれたグラス。

なんか保田さんのありきたりの演出にさすがキングオブケメコって感じだったけど。

カードまで添えられたそれはちょっと小憎らしくて、素直に心の中で感謝した。



27 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:45
もちろんまだそれをおいしいってガブ飲みできるほど大人ではなくて。

コルク栓したまんま持っていくと保田さん、飲んでくれるかなあくらいのあたしたちの味覚はオコサマ。

形だけって感じで軽く2杯ずつ飲んだだけでけっこうポワポワになってしまい、
とりあえず、シャワー行ってくるねって言った梨華ちゃんの足取りがちょっとよろめいているのを、
だらーってソファーにすわりながらニヤニヤしてみている私も似たようなもの。


握手ってけっこう真剣勝負だからね。

一人一人の気持に負けないように、心を込めて手を握るんだから。

うん。いろんなこと言われてあせったりしたけど、
でもうれしかったなあ・・・
28 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:46
いつのまにかうとうとしてしまっていたような私を、しっかりパジャマを着込んだ梨華ちゃんが起こす。

「ほら。よっちゃんも早く入ってきたら?」
「ひとみちゃんって、呼んでよお。」
「はいはい。」

疲れなのか酔いなのかぼうっとする頭を右に左にぽきぽき鳴らして、
よっこらせと立ち上がる。

そうだよ。あたしは着るもん、ないんだよ。泊まりの予定なんかじゃないから。
まあいいや。下着とかは売ってるだろうし。
とにかく風呂入ってこよう。
29 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:46
熱いシャワーを浴びながらムースたっぷりの髪を洗い流していたら、肝心なことを忘れていたことにようやく気付いて。
もっとお疲れモードの梨華ちゃんが先に寝てしまわないように、急いで体を洗うと
あわてて外に出た。こんな広いバスルームなのに。シャワー室とかガラス張りなのに。
スイートルーム、ごめんよぉ。



いかにもっていった感じの、ふかふかで胸に銀字のマークの入ったバスロームを素肌に羽織り、
梨華ちゃんの姿を探して広い部屋を右往左往すると、
メインベットではない別のベットルームでうつ伏せのまま雑誌を読んでいるのを見つけた。

「なんで?あっち行かないの?」

「あ。うん。行くけど。なんか一人じゃおちつかないんだもん。」

30 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:48
あいかわらずピンクのゴムで前髪をしばった、色気とかなんとかかけはなれた姿で、
ピンクの靴下とか履いちゃってちょこまかついてくる姿は、な〜んかこの部屋向きじゃない。



ねえ、せっかくだから、もう一本飲んどいてよ。

ほら。せっかくだからいつも見せないいしか〜さんっていうの、見てみたいじゃない。




冷蔵庫を物色してオレンジと桃のカクテルみたいなのを探してプシュってあけてから渡すと、

「私になにかさせようって思ってるんだったら、ひとみちゃんだって飲まなきゃ。」

そう言って、炭酸系のなんかのカクテルを選んであたしによこした。

「だって。誕生日プレゼント、もらってないしさ。」

「明日渡すつもりでおうちにおいてあるんだってば〜」

そう言うと思って。

「かわりにお願いがあるんだけど。」

「何?」

「恥ずかしいから、後で言う。」

31 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:50
だだっ広いベットのど真ん中に入り込んで二人でしっかりと抱きしめあう。
腕を伸ばしてゴムをとると、前髪を優しく梳き上げて。

おでこと鼻の横の小さなほくろにそっとキスを落とした。
あたしがここが好きだよっていうから、最近彼女はいつも額を上げる。


わざと唇には触れないまま、もういちどきゅっと抱きしめて。




「どうだった?今日。」

「うん。なんかね。結構応援してくれる人たちっていうのがいて、うれしかったな。」

「あたしも。かなり昔のこととか言ってくれる人とかいてさ。
 なんかそのころから梨華ちゃんのこと好きだったんだなあって、みんなに言われて思った。」

「途中で矢口さんとか心配してメールくれてさ。経過を伝えると喜んでくれて。
 それにね。最後に、二人で積み上げた歴史みたいなのを形にできたのが、
 ほんとにうれしかった。」

「うん。そうだよね。」
32 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:52
4期最後の二人の集大成とかって帯には書いてあったけどさ。

いろんな思いをしてすれ違って、傷つきあい、気付かぬように夢中に走り抜けて。
あるのかどうかもわかんなかったけど、どうしても辿り着きたいとほんとは願っていた場所。
まったく逆の方向からお互いが探しあてたゴール、そしてスタート地点。

だからあたしたちにとって余計にこの意味は深い。


「マコトとかも結構心配してくれてて。
 自分たちはノリで自費出版とかって作っちゃったけど、皆が受け入れてくれるかっていう不安はずっとあったから。」

「うん。直接みんなの声が聞けのはうれしかった。別々に周ったぶん、倍の人の気持を
 聞くことができたからね。」

「保田さんも、喜んでくれてさ。お祝いだって、この部屋。まさかこんなにいい部屋だなんて思ってなかったら
 びっくりしちゃった。」

「何それ??」

「あれ、聞いてない?」

「何が?」

「中澤さんと保田さんからのプレゼントなんだよ。ここ。」

「ああ・・・そうなんだ・・・。」
33 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:54
しのごの言うスタッフを一喝してくれた中澤さん。
チェックインのためだけにわざわざここまできてくれた保田さん。
ヒマなんて言ってごめんよぉ。
なんかうれしいっす。やっぱ二人はウチらのリーダーだよ。


「よし。せっかくこんなとこに泊まらせてもらってるんだし。おかげで昨日はなんにもなくて
 しっかり眠れたからさ・・・」



だんだんトーンを落としながら、鼻と鼻が軽く触れるか触れないかのところで止め、
わざと瞳を細めると、梨華ちゃんはうっとりした目で見つめ返してくる。

冷やっとした指があたしの首の後ろに周ってきて、
なされるがままにあたしは彼女の唇に寄せ。

何度もついばむようなキスをしたあと、深く唇をあわせたまま、腰を浮かせ、着ているものを性急に剥いでベットの下に投げてから自分もバスローブを脱ぎ捨てた。


「梨華ちゃん。」
さらに低くて甘い声でささやき、濃厚に舌を絡めたところで。



うん??違うじゃんっっ!!


34 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:55
跳ねるようにベットから飛び降りた。
ベットの下に投げ出されたままのバスローブを肩にかけながら
ベットサイドの照明やら、枕の下やら、化粧台の横の棚とか怪しそうに思える場所をかたっぱしから開けてった。

「何やってるの?」

シーツで胸元を隠したまま起き上がる梨華ちゃんに

「ぜってえ監視カメラとか、ついてるって。もしかしたら盗聴とか。」

だって。あの人たちだもん。
動画のほうはもう作成済みで、いっつも矢口と鑑賞してるわって言ってたもん。
何の見返りもなく、こんな高い部屋、とってくれるわけないじゃん。
しまった・・。このまえのときはキスなんてしてないときだったからなあ。
やられたっっ!!

そう言ったら。

「それはないよ。」って言ってにっこり笑って、ちょいちょいってあたしを手招きした。
35 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:57
「まあ、いいから、座って。」

「だってあの人たちのこれまでのこと考えると、わけなくこんな部屋・・・」

「それがね。」


疑いの目のまま一応、バスローブを肩から落とすと、もぞもぞと梨華ちゃんのとなりに入り込んだ。

「結構売れてるって聞いた?」

「ウチらの?」

「うん、そう。」

「なんか初回生産、全然追いつかないんだって?」

「うん。」
36 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 14:58
素っ裸で、この豪華な広いベットの上で、とりあえずシーツで隠したまま体育座りをするウチらってのも、なんだかね。
顔をあわせると、にっこり笑って梨華ちゃんは続けた。

「で、まだひっきりなしに注文入ってるらしくて、正式におととい、決まったらしいのよ。」

「何が?」

「例の期別対抗プロジェクト写真集。卒メンまで含めてね。6月にオリメンからはじめて、6期まで。
 毎月。で、売上に応じて、頭割りらしいの。」

「頭割りって、ぶっちゃけ、貢献度とかって関係なく?」

「うん。関係なく。」

って・・・。オリメンって安倍さんとか安倍さんとか安倍さんとか。
そりゃあ、中澤さん、おいしいわけだ。


1期から6期まで全員の顔をひとりひとり思い浮かべてみる。

うん。間違いなく。一番おいしい思いをするのは中澤さんだ。
37 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:01
なるほどって顔をしたあたしをみて梨華ちゃんは笑うと、

「だから、なんだかあたしたちにはこのくらいのこと、してやらんとな。
 これからも頑張ってもらわなあかんわけやし。」だそうで。


そっかそっか。なんか妙に納得。ん?でも保田さんは?

「ああ。ごっちんをどうするかって話になったときに、
 2期に混ぜるって強固に交渉したらしくって、ガッツポーズだったらしいよ。」



・・・・・・いや。間違いなく一番おいしいのは保田さんだな。うん。




「ね。だから。カメラとかないから。もう、・・・きて。」



38 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:02




「ああ〜〜!!思い出した思い出した!!」







どさくさにまぎれてさっきのシャワー中に思い出しだことをすっかり忘れるところだった。
梨華ちゃんはびっくり目になって。

「何?どしたの?」

「うん。あれ、やって。」

「あれって?」

「だからあれ。ほら、ここのベットみて思い出したんだ。あれよあれ。」

「ああ、あれかあ。」

真っ赤になって照れる梨華ちゃんに、あたしはほらっ、ほらっっって促す。
39 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:02
「だって。ほら。服とかないし。あ、パジャマ着ちゃだめっっ?」

「だめ。あのウサギ柄じゃ台無し。」

「じゃ、せめてバスタオルとか。」

「だめ。だから20歳のプレゼントなんだよっっ。」

「でも・・・。」

「ウチがどんだけ奥歯を噛みしめて耐えてきたかわかってんの?」
40 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:03
瞳をでっかく開いて、一徹ばりに梨華ちゃんの目を覗き込むと
ふふって吹きだして。笑い声のまま

「で、どれやるの?」



「まずね。三好のでウチを待ってて、岡やんので誘って。
 でも顔はあっちむいてるんじゃなくて、『い〜つでもどぞ』のとこのあの顔ね。」



あたしの目がキラキラ輝いてるのをみて、ちょっと恥かしそうに

「わかったよぉ。」って。
41 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:05
首の角度が違うっとか、照れちゃだめ、とか。

「ひとみちゃん、なんでそんな詳しいのよぉ。」

何回見てるとおもってんだい!!

でもしょうがないなあって、ふうっと真面目にあたしだけのためにあの顔をしてくれた梨華ちゃんに
あたしは心臓をバキュンと打ちぬかれてしまって。

いつもよりさらにどきどきしながらそっと近づいていった。



うるんだような瞳が私の目の奥をとらえ、つややかな唇があたしの・・・




42 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:06
「あ〜〜〜っっっ」

「今度は何っっ?」

「てことはさ、4期写真集ってのも、またやるの?」

「うん。するらしいよ。皆で撮影だって。今からすっごく楽しみ。」



あたしはもう一度順々にメンバー全員を思い浮かべる。
メンツを考えるに。つまりさ。一番おいしいのって、ウチらじゃない?


うん。最強っっ。
43 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:07
頑固一徹ファミリーの日常とかって入れたら
ハロモニファンの心もくすぐりそうだし。
4人で海外ってのも楽しみだな。



ウチらだけしか知らない4期の絆ってやつをあたしが精一杯プロデュースしようっ。
色っぽいのからかっけえのからかわいいのから癒し系まで。
4色あればさらに幅が広がる。それが最強にして最高。
辻っ、加護っ、そして梨華っ。父ちゃんに任せろっっ。
44 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:07

「ひとみちゃん。もう。しないの?」

ちょっといらつき気味に梨華ちゃんが呟く。

「今夜はたっぷり時間がある・・・し」

掠れた声が終わらないうちに、唇をふさがれた。
45 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:10
この人のこんな表情を知っているのはあたしだけ。
最近ますます艶っぽいって評判が高い梨華ちゃんに
いよいよ磨きがかかったって言われるあたし。


よしっ。そろそろ本気で集中しよっ。

初夏の撮影までたっぷりと時間をかけて、もっとあでやかに。

まだ照れくささだって残ってるんだけどさ。でもこのキスが。
20歳になったウチらの魅力を最大限に引き出してくっていうことで。






(おしまい)
46 名前:ぷろじぇくと5 投稿日:2005/03/30(水) 15:12


47 名前:咲太 投稿日:2005/03/30(水) 15:12
本日の更新は以上です・・・。
おめでとう企画ってことで
お目汚しをお許しください・・・。
48 名前:忍の者Y 投稿日:2005/03/30(水) 20:03
更新お疲れ様でした。
そして新スレありがとうございます。
また書いてくれる事が本当に嬉しいです。
ほのか〜が出た時は、キター!でした。
やっぱほのか〜は最高です!
それでは、次回の更新を楽しみにお待ちしてます。
49 名前:名無しのLorR 投稿日:2005/03/30(水) 22:43
えっとこれってリアルですよね?写真集どこに売ってますか?w
それはともかく新スレおめでとうございます。お待ちしていました。
やはりいしよしはいいですね〜(*´∀`)ポワワ
これからも応援していますので頑張ってください。
50 名前:酢のもの 投稿日:2005/03/31(木) 00:04
新スレおめでとうございます!!

まさか続きが読めるとは思っていなかったので嬉しくて飛んできました。
今回もまたまた極上のいしよしごちそうさまです(ぺこり)

次回の更新&写真集の販売まったりお待ちしておりますw
これからもマイペースに頑張って下さいね♪
51 名前:1444読者 投稿日:2005/03/31(木) 04:55
新スレキタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!
更新お疲れ様です
待ってました!!前スレの798です。
咲太さんのいしよしはやっぱりイイですね。

いしよし写真集も4期写真集もほすぃです(*´∀`)ポワワ
美勇伝PVに嫉妬するよちいも(*´∀`)ポワワ
52 名前:1444読者 投稿日:2005/03/31(木) 04:56
下げ忘れごめんなさいorz
53 名前:咲太 投稿日:2005/04/01(金) 10:08
>48 忍の者Yさま

ほのかというより、あからさまにいしよしオンリーなのですが、
ご愛嬌ということでw
しつこいくらいいしよしで参ります。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。


>49 名無しのLorRさま

いつも本当にありがとうございます。
いろいろお言葉をいただいて、スレ立てさせていただきました。
ご協力深く感謝です。ペコリ。

>50 酢の物さま

インパクトのあるHNありがとうございます。
決して忘れませんよw

どのくらいのものが書いていけるかわかりませんが、
なんとか続けられたらとおもっています。

>51 1444読者さま

うわあ。798様。ここまできていただいてありがとうございます。
本当にうれしいですw
美勇伝PVは見たとたん釘付けになりましてw

ほんとに何の変哲もない駄文ではございますが
またお付き合いいただけたら幸いです。
54 名前:咲太 投稿日:2005/04/01(金) 10:11
え〜と、昨夜のちゃんちゃみで桜の開花宣言がきたとか。
かわり映えのないお話で恐縮ですが、
開花の時期に書きたいなと思ってたものがありまして・・・。
おそらく3日に一度くらいの更新になるかと思います。

えっと、いろいろご協力をいただいてできあがりましたお話ですので、
また完結しましたら、ご挨拶申し上げますです。
それでは。第一話から・・・。
55 名前:咲太 投稿日:2005/04/01(金) 10:12


56 名前:Blooming 〜 投稿日:2005/04/01(金) 10:16
   

『 Blooming〜 』
57 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:18



58 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:18


第1話          MAR 14, 2005






時間のあるときでいいんで、このアドレス、覗いてみてくれる?

http://www.geo/sakusakusyXXX/index.html




********************************

59 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:20


カーテンを開くなり、柴ちゃんはいきなりパソコンを覗き込んできた。

「また増えてんじゃん。」

容量を示す緑色のグラフをぱっと確認すると、さらっと笑った。
画面の端にいっぱいに並んだ sy  の文字。

どうせ、他の人の名前なんて滅多にでてこないんだけどね。


「フォルダとか作って整理しなさいよ。」

何度も言われてるんだけど。そういうとこ、なんか面倒くさがりっていうか・・・。

「じゃあ、捨てれば?」

「やだ。」

いつものように、私をからかい気味に眉を少し上げて笑ってから
ようやくパイプ椅子を開いて深く腰掛けた。


最新のメールの最後に書かれたアドレスはすごく気になったけど。
柴ちゃんの横で開くのはまたあきれられそうで、とりあえず電源を落とした。

60 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:21
***********************************



油絵の具で描かれた一面のたんぽぽの花。
パソコンの壁紙にも使っている、お気に入りの一枚。

羽生さんの絵が大好きで、サイトに通うようになったのは、この病院に入ってなんとか落ち着いた頃だったと思う。

他に楽しみとかってなかったから。
新作が出たときにたまにだけど感想をつけてみたり。



たまたま月1回のオープンチャットの日。
水曜日は必ず柴ちゃんが学校帰りに寄ってくれるのに用事があるってメールがあって。
なんかちょっと人恋しかったのかな、多分。
ふらっと覗いてみたチャットルーム。
開いた瞬間、見慣れた名前が飛び込んできた。



sy :はじめまして。syといいます。(入室) 19:41

61 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:22

syさんって。多分、いつも書き込んだりしてるひと。
並んでる名前も、常連さんっていうか、見たことのある人たち。



ゆき :こんにちは。syさん。 19:42

sy :えっと。チャットははじめてなんですけど。よろしくです。19:43




画面に表示されてた分を時間をかけてちゃんと読んでみた。
話題はお正月明けに発表された新作のことみたい。

うん。これなら少しお話してみたいな。

私と同じ初心者がいてくれたっていうのもちょっとした勇気の素。
ピンク色のアイコンを選択して、思い切ってボタンを押してみた。




chamy :こんにちは(入室) 20:05


*************************************
62 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:22

通いなれた人たちが次々に落ちていって、
私もようやく発言するタイミングがつかめてきた頃。
偶然二人だけが残されてしまって。

二人だけってなんだか緊張しちゃうなあ。
読んでるだけってわけにもいかないし。

慣れてる人だったら話題もふってくれたんだろうけど、初めて同士だもんなあ。


あ、syさんてたしか水彩画とか描いてるって書いてあったっけ。
みんながいる時にはなんとなく聞きそびれちゃったから。うんそれにしよう。


63 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:24


charmy :絵を描かれてるんですよね・・?BBSで読んだことがあった気が・・・。 21:13

sy :は、はい。そうです。 21:13

charmy :私も描いてるんですよ。あまりうまくないんですけど。 21:14

sy :そうなんですかー。charmyさんはどんな絵を描くんですか? 21:15

charmy :風景画です。 21:16

sy :自分はほとんど抽象画かなぁ。あ、ときどき友達に頼まれてラフなスケッチ書きなんかもするけど。 21:18

charmy :へ〜、頼まれるって事は上手なんでしょうね。うらやましいです。 21:19

sy :上手かどうかは・・・(笑)どっちかっていうと、スポーツの方が得意ですよ。21:20

charmy :何かやってるんですか? 21:21

sy :うん。サッカーやってます。charmyさんは? 21:22

charmy :私は全然だめなんです。いいな〜、スポーツ得意な人って。21:23

sy :そんな、得意とか不得意とかは関係ないよ〜。要は楽しむことが大事かな・・・なんてちょっとクサイ?(笑) 21:24
64 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:26
charmy :(笑)ううん。私、観るのは好きなんですよ。でもあんまりサッカーは分からないんですよね。父の影響で野球ばかり見てたんで。 21:25

sy :そうなんだ。サッカー面白いよー!見るのもだけどやるほうが自分は好きですね。 21:26

charmy :じゃあ、これからはサッカーも見ますね。(笑)21::28

sy :是非、見てください。楽しいですから!charmyさんは今何か描いてますか? 21:29

charmy :今は本格的には書けないけど・・・でもスケッチ程度なら。 21:30

sy :スケッチだけでも描くことって楽しいですよね。 21:30

charmy :うんっ!楽しいですよね。syさんは皆さんみたいに絵をUPしないんですか? 21:31

sy :え゛・・・・しないと、思う。 21:32

charmy:(笑)え゛って・・・syさんって、楽しいですね。 21:35

sy :そうかな〜?charmyさんが話しやすいからですよ。 21:34

charmy :私もsyさんは話しやすいですよ。最初は緊張してましたけど、今は全然。(笑)
でもなんでUPしないんですか? 21:36

sy :だって、なんか恥ずかしいんだよね・・・不特定多数だし。 21:37
65 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:27
charmy :syさんの絵、見たいな〜。 21:37

sy :いや、マジで皆に見せるなんて恥ずかしいよ〜。 21:38

charmy :じゃあ、私にだけ見せてくださいよ〜 21:39

charmy :あっ・・・うそです・・・ 21:39

sy :え?!う、うそなの?ちょっと見せてもいいかな〜なんて思ったのに(笑) 21:40

charmy :え?うそじゃないです・・・でも・・・ 21:41

sy :でも? 21:41

charmy :だって・・・私だけに見せてもらうって、どうやったらいいのかな?って・・・ 21:42

sy :じゃあさ、ys13221@yabee.so.jpが自分のアドレスなんで一度メールくれるかな? 21:44

charmy :あ、はい・・・ 21:45

sy :なんか唐突だったかな?ごめん。 21:45

charmy :ううん、違うんです。私が教えればよかったのにって思って・・・ 21:47

sy :そっか、よかった。さっきまで恥ずかしかったけどなんだかcharmyさんに見てもらいたくなってきた(笑) 21:48

charmy :今、試しに送ってもいいですか? 21:49








***********************************************************************
66 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:47


それがsyに送った初メール。


毎日書き始めたメールはすぐに数が増え、いつのまにか自然に決まったような時間に返事をしあって。
一日3通ずつ交わした受信箱の中身は、スクロールしてもしてもずらっと並ぶ”彼女”からのメール。


syについてわかったこと。
大学1年生ということ。サッカー部にはいっているということ。
ごっちん、ミキティという腐れ縁の友達がいて、ミキティは一浪してひとつ上のくせに、
サッカーにあけくれて、ほとんど授業に出てないということ。
このふたりに「よっすぃ」とよばれてて、『sy』って名前は すぃ から来たものだってこと。

私は、詳しくは触れてないけど、心臓の病気で入院してしまっていること。
ちょっと長くなりそうだということ。
柴ちゃんて幼馴染がいて、いつも遊びにきてくれるということ。


お互いに本名だって性別だって知らない。
あ、歳だけはね、私のほうがひとつ、上みたい。

勝手に女だって思い込んでるなんじゃないの?って、柴ちゃんにはいつもからかわれてる。
でも文面のやわらかさっていうかな。
たまに感じる繊細さっていうのは。
直感だけではないと思うの。きっと。

67 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:48
ごくたまに。描いてみたって照れながら送ってくれる絵は、
わけわかんないってみんなに言われるみたいなんだけど、私はなんか、こういうの、好き。
抽象画っぽいのも。
色鉛筆で描いたやつとか。水彩画とか。

運動は出来なかった分、高校のときには美術部にいて。
負担にならないように、展覧会のときに1枚描きあげるのが精一杯だったけど、
見るのはとっても好きだったから。

あれこれ感想をいうとよっすぃはすごく喜んでくれて。
看護婦さんの目を盗んでは何度もパソコンを開いてメールをチェックして返事を打つ。
なんでだか、捨てられない。
フォルダーの容量がだんだんいっぱいになってきて、お見舞いに来るたびに柴ちゃんに笑われても。

68 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:49

*****************************


柴っちゃんが帰ってから、夜の見回りのあと、そっともう一度起動。

気になってたHPのアドレス。

淡いブルーの表画面に、蕾の桜。

写真の下に白い文字で書かれた
『蕾が少し膨らみはじめました…in March.13,2005』
 

いそいで何行かメールを書いて送信すると、すぐに返事が返ってきた。


ああ、ごめんね。恥かしいんだけど、まだ準備中っていうか。
これから手を加えていく段階なんだ。でも準備してるうちにもう桜、咲き始めそうだし。

69 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:50


『桜が大好きなんだけど、この病室からは見えないんだよ』


いつかのメールに書いたことがあった、たった一行。
病気のことだって深くは聞いてこない。さりげなく優しい人。
自分にも柴ちゃんにもばれないように、心の奥から聞こえてくる声に気付かないふりをしてきていたけど。


もう一度開いた写真に目元が少し熱くなっていた。
そして頬も。
たぶん。
このときに私ははっきり、好きなんだなって、思った。




70 名前:BL 1 投稿日:2005/04/01(金) 10:50


71 名前:咲太 投稿日:2005/04/01(金) 10:51
本日は以上です・・・。
72 名前:A−203 投稿日:2005/04/01(金) 16:51
初めまして。新作も凄い良いですね。
雰囲気がすごくすごく暖くて切ない・・・。感じが大好きです。
まったりマイペースで頑張ってください♪
73 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2005/04/04(月) 01:02
更新お疲れ様です。
いしよしが大好きな為、作者様の作品は前スレより密かに拝見させていただいておりました。

新作の雰囲気、大好きです。これからも楽しみに読ませて頂きます。

74 名前:咲太 投稿日:2005/04/04(月) 13:52


75 名前:咲太 投稿日:2005/04/04(月) 13:58
>72 A−203さま

はじめまして。お言葉をいただいて、ほんとにありがとうございます。
暖かくて、切ない・・・。そんな風に言っていただけると
幸せな気分になります。
何よりの励みになりますのでww
今しばらくお付き合いいただければ幸いです。

>73 孤独なカウボーイさま

レスいただきまして、ありがとうございました。
おお。私もいしよしが大好きでいろいろ読みまくっておりましたので、
お名前は存じ上げておりましたw
なんだか書いていただいて、うれしく思います。
読んでいただいていたとはww
これからもたぶんいしよしのみで、変わり映えのない駄文ではございますが
どうぞよろしくお願いいたします。
76 名前:咲太 投稿日:2005/04/04(月) 13:58
それでは本日の更新をさせていただきます・・。
77 名前:咲太 投稿日:2005/04/04(月) 13:58


78 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/04(月) 13:59


79 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:01


第2話  APR 11,2005





毎日更新される桜の写真。近所の公園の華やかなソメイヨシノ。お寺に一本だけ咲くシダレザクラ
合宿のときに見たという、一面のシロヤマザクラ。
八重の花びらをピンク色に染めるサトザクラ、早咲きのカンヒザクラ。


1分咲きから2分咲き、急にあたたかくなった3月の終わりから一気に蕾がやわらぐ様子が
毎日映し出される。

それと平行して、写真だけだったサイトは、日記が増え、チャットが作られ、
少しづつ充実していく。

もともとのセンスなのかな。素人っていうわりには写真のアングルとかものすごくうまくて。
二人だけだったカウンターが徐々に進むようになったのは、うれしいんだけど、ちょっと複雑かも。
でも毎晩、見回りの終わる9時から30分だけ限定でやるチャットの場所だけは表にはリンクさせてなくて。

時間が来るのはあっという間で、右端に出てくる時間にあせってしまう気持ちって
なかなか慣れそうにない。
80 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:02




お昼の後に、私がパソコンを立ち上げていると、片方の眉だけ上げて保田さんが近づいてきた。
パジャマの袖を手荒くまくりながら、聴診器を腕に当てる。

わかってますよ〜。
もう。心配性なんだから。


小さい頃から口うるさいほどに言われて、十分にいたわってきたはずの私の左胸。
保田さんはこれ以上負担かけちゃだめだよ、って、たまにきつい口調でお小言を言う。
高校の時に新人だった保田さん。
あんなに薄かった化粧が年々濃くなってきますねっっって言うとすっごい怒られるけど。

保田さんは聴診器を耳からはずすと胸のポケットからボールペンと取り出す。
あいかわらず目を吊り上げたまま書き込んでいる様子を、上目遣いに伺っていたら
なによ、っていって、ふって笑った。

私の肩にぽんって手をおくと、画面上の桜をにっこりして眺めて
もう、こんな時期だっけかって言って小さくため息をついた。
彼氏できないのを、忙しいせいにしちゃいけませんよ?
小さく言うと私の頬っぺたをくにゅっとつまんで。
ほどほどにしなさいよ、そう言って外に出て行った。

81 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:03

だってね。

日記から伝わってくるよっすぃの日常はとても微笑ましくて、
読むたびにウキウキしてしまうの。

部活のこと。はまっているお菓子のこと。練習試合でぶつかったときにちょっと突き指してしまったこと。

すぐにどうこうなるわけじゃない。そんなことはわかってるんだけど。
たまにいろいろ考えそうになって。
ママたちを心配させないように無意識で作っていた笑顔がホンモノになったのは
よっすぃと話すようになってからだと思うから。


82 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:03

******************************


いつものように見回りを終えてから、21時きっかりにパソコンの電源を入れる。
明日からよっすぃたちは春季リーグの開幕。

かなりハードだったらしい合宿も、春休み返上で毎日あけくれている練習も
そして、早朝、ひとりでやっているっていうトレーニングもよっすぃがかなりこの試合に懸けている証拠。
照れ屋なよっすぃはあんまり自分のチームのこと深くは語らないけど。
遠征って文字とかもあったから、たぶんかなり強いみたい。

83 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:05
よっすぃ〜 :明日晴れるかなぁ 21:08

チャーミー :晴れるといいね。でもサッカーって雨でもやるんだもんね。 21:09

よっすぃ〜 :う〜ん。雨でもやるけどやっぱり晴れたほうが気持ちいいよー! 21:10

チャーミー :そうだよね。お天気いいといいね〜 21:11

よっすぃ〜 :今日ごっちんがテルテル坊主作ってた。子供みたいだよねー(笑) 21:12

チャーミー :私も作るっ! 21:12

よっすぃ〜 :ホント?!チャーミーも子供だー! 21:13

チャーミー :子供じゃないもんっ!でもこれから作るね。 21:14

よっすぃ〜 :晴れるように祈っててくれる? 21:15

チャーミー :うんっ!願いを込めてテルテル坊主作るねっ! 21:16

よっすぃ〜 :どうせなら試合に勝つように願っててほしいな・・・ 21:17

チャーミー :もちろん、願ってるよ。今日もずっと思ってた。 21:18

よっすぃ〜 :ホントに?嬉しいな〜。それ聞いたらすごく頑張れると思う。けど・・・ 21:19

チャーミー :けど? 21:19

よっすぃ〜 :直接、頑張れって言ってほしい。チャーミーの声で・・・ 21:20

チャーミー :え・・・ 21:21
84 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:07
よっすぃ〜 :ご、ごめん!突然変なこと言っちゃって。あー!もうさっきの忘れて!ホントごめん。 21:22

チャーミー :ううん、私もよっすぃ〜と話してみたいけど・・・ 21:23

よっすぃ〜 :あ、じゃあウチの携帯の番号教えるからもしよかったらでいいんで・・・090-XXXX-XXXX 21:24

チャーミー :あ、うん・・・ 21:25

よっすぃ〜 :ホント、突然でごめん。でも電話待ってるから。頑張れって、待ってるよ・・・ 21:26

チャーミー :うん。あの、そろそろ時間だから。 21:27

よっすぃ〜 :そっか。もうそんな時間なんだね。 21:27

チャーミー :ごめんね。 21:28

よっすぃ〜 :そんな謝ることなんてないよ〜。毎日楽しみなんだからさ! 21:28

チャーミー :ありがとう。じゃあ、明日。おやすみなさい。 21:29

チャーミー :あ、がんばってねっ! 21:29

よっすぃ〜 :うん、頑張るよ!オヤスミ〜。 21:30

****************************************************************************
85 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:07
目を瞑っても嫌な気持ばっかり思い浮かんでしまう。

あの場の勢いでかけちゃったらよかった・・・。
なんて思われたかなぁ。
もっとうまく返事とかできたらよかったのに。


何度も目がさめて枕元におかれた携帯が目に入る。
起きてるかなあ。
でも試合の前日だから、あんまり遅くにっていうのもなあ・・・。

もうメールとかこなくなったらどうしよう・・・。
86 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:09
朝から久々のネガモード。意識して気分を切り替える。
よしっ。9時になったら・・。ちゃんと自分に言い聞かせて。
携帯の時計をちらちら覗いてはどきどきする気持を押さえ込む。
表示が切り替わるのを見届けてから、よしって思い切ってボタンを押す。
何度も入力させては消して来た番号。

冷たくなった指先を頬で感じながら耳元に当てると、流れてきた器械音。
開会式って言ってた、そういえば・・・。
携帯なんてユニフォームのとき持ってたりするのかな・・・。

二度の勇気は出なくて、枕もとに携帯を立てかけた。
うん、やっぱこれはやめとけってことなのかな。

声を聞いてみたい気もしたけど、なんて名乗ればいいのかわかんないし。
「charmyです」なんてマヌケだもん。

そういうこと。
87 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:11
パソコンを立ち上げメールを開くと、いつもの返信ボタンを押した。

なんて書き出そうかキーボードの上で指が動きあぐねていると、
枕の上で振動する音が響いて、思わず体が固まる。
表示された番号をみてさらにドキドキする。
ボタンを押しながら病室を抜けた。


『あの、電話。もしかしてもらいました?』

電話越しに聞こえてくる、アルトの声。
穏やかであたたかみのある、やわらかな声。

「あ、はい・・・。あの・・・」

それしかいえなくて。
88 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:12
『あの、やっぱりcharmyさん?』

「あ、うん。」

『すっごおっ!!』とか『やったじゃん』とか周りから聞こえてくる騒々しい声。
急にあせった風によっすぃはごめん、ちょっと・・と言ってからうるせえとかって。

しばらくしてから息を切らせながら
『ごめん、ちょっと場所変えた。
  ありがと。すっげえうれしいかも。』

「昨日はごめんなさい。なんだか・・・。」

『いや、こっちこそ変なこと言っちゃって、まずかったかなって思ってたんだ。
 うん。なんか。ごめん。』

「試合、これから?時間大丈夫?」

『うん。第二試合だから。あ、でもチャーミーさんなんて呼んでるのって、なんか変態っぽくね?」

「そだね。じゃあ、りか。で。」

『え?あ、あの、偽名とかでもいいよ』

とたんにあせったようなよっすぃの声。
あわててる声がちょっと可愛くて、私はちょっと噴出してしまった。

「いいよ、別に。」

『うん。じゃ。ウチも。平仮名でひとみっていうんだ。」


89 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:19
こそこそ何やってるの??
後ろから聞こえてくる声にあわてて受話器を手でふさいだけど、聞こえちゃった・・?

『もしかして、例のヤスダさん??』

ちょっと笑った感じも少しくだけてきた感じも
なんかすっごく嬉しくて。
談話室の入り口に立っていた保田さんはあたしの顔をみて
安心したようにあきれたように笑って、ストレッチャーを押してエレベーターの方に向かって行った。
まったく。もう。
 
『あ、でもそろそろアップしなきゃいけないから。
  また夜メールする。』

「あ、待って。」

『ん?』

「その・・・。試合、頑張って。」

『・・・ありがと。』


なんか子供のように舌ったらずな言葉に、電話を切ってからも
キュンってしたまんま。
談話室のソファーに座って、からからになった喉を潤しながらニヤニヤして余韻を楽しんでた。

90 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:20



なのに。待ってもその日のメールは来なかった。
夕方に勝てたよって興奮した声で電話がきて、また後でってすぐに切れたんだけど。

もしかして引かれちゃった・・・??
高いって言われる声のせいかな・・・。
ちょっと落ち着いた風にしゃべってみたつもりだったんだけど、勝ったってきいて思わず
嬉しくなっちゃったし・・・。

もしかして予想してたのと違ってがっかりさせちゃったとか・・・。

91 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:21


消しては起動し、消しては起動し。
繰り返して何度も確かめたけど届かなかったメール。
更新されない日記と写真。カウンターだけが増えてく。

2日後に届いたメルアドはいつもと違う、携帯からのメール。

今夜チャットできる?

            吉澤ひとみ


92 名前:BL 2 投稿日:2005/04/04(月) 14:22


93 名前:咲太 投稿日:2005/04/04(月) 14:22
本日は以上です。
94 名前:プリン 投稿日:2005/04/04(月) 14:27
新スレですねwこちらでもよろしくですw
かなり自分的には好きな感じです。
どう展開していくのかな〜。すんげー楽しみです。
マイペースに頑張ってくださいね。
95 名前:A−203 投稿日:2005/04/05(火) 15:45
更新お疲れ様です♪
初々しいやりとりに、ほんわか心の中が暖かくなります。
ちょっぴりネガな梨華ちゃん、可愛いですw
最後までついて行きますのでw まったり頑張って♪
96 名前:咲太 投稿日:2005/04/08(金) 14:34

97 名前:咲太 投稿日:2005/04/08(金) 14:41
>94 ブリンさま

ありがとうございます・・。
レスいただいて、感激です・・。
なんとかご期待に添えるようにがんばります。

>95 A-203さま
どうもありがとうございます。
けっこうネガ・ポジ混じった梨華ちゃんかもしれませんw
最後までおつきあいいただけますかw
すごく嬉しいです。がんばります。
98 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/08(金) 14:42
  
99 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:44




第3話   APR 13,2005







なんだか落ち着かない一日を過ごした。
一行だけなんて、余計にいろんなこと思い描いてしまう。
どんなことでもいいからメールで書いてくれればよかったのに・・。
もしかして伝えにくいこと・・?
あたしのテンションのせいかなあ・・・。


100 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:45

電話をした翌朝に、おめでとうってことだけメールをしたけど、それ以来返事がなかった。
夜にもう一度どうかした?って打ってはみたけどそのまま出すのが怖くなって。


間があいたって、ひとみちゃんにとってはぜんぜん気にならないようなことだったのかも。
待ってるのは私だけだったのかな・・。
それだったらいきなり理由とか聞いちゃうのも失礼だし・・・。
101 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:46

早めにパソコンを開いて、時間をもてあましてあちこち覗いてみる。

最近開いてなかった羽生さんのHPには
このまえ知りあったひとたちの名前がいっぱいあって、BBSをさかのぼってみた。
何ページか辿ったところでsyの文字をみてまた胸がキュンと締め付けられる。

あ〜あ。なんでこんなにひとみちゃんのことばっかりになっちゃってるんだろう・・。


自分がちょっと情けなくなってはあっっと息をついた。


いきなり質問攻めにしちゃうのもあれだし、待ってましたといわんばかりっていうのも気が引けて。
わざと9時を回って少ししてからパスワードを入力した。
102 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:48


***********************************************************

ひとみ :連絡遅れてごめんね 21:03

りか :ううん。 21:03

ひとみ:今日メール見てさ。返事もしてなかったから・・・。21:04

ひとみ:実は・・・骨折しちゃって。足をちょっと・・。 21:05

りか :え?足って・・・大丈夫なの?・・あの試合のとき?? 21:06

ひとみ :試合中っていうか・・・すげぇカッコ悪いの。打ち上げでさ、足滑らせちゃって・・・ 21:07

りか :もう。カッコいいもカッコ悪いもないよっ! 痛む?痛いよね??今、おうち?病院? 21:07

ひとみ :ど、どうしたの?りかちゃん落ち着いて〜 21:08

りか :こんな事聞いて落ち着ける訳ないじゃないっ! 21:08

ひとみ :ごめんなさい・・・(0´〜`) 21:09

りか :心配したんだから!って、今でも骨折したなんて聞いて心配してるけど! 21:10

ひとみ :ホントにごめん!りかちゃんに余計な心配かけたくなかったんだ。黙ってるつもりだったんだけど。21:10
103 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:51
りか :ほんとに・・・心配だったの。あれこれ・・。 21:11

ひとみ :うん。ごめん。もっと心配させちゃったね・・・やっぱカッコ悪いな 21:11

りか:なんか電話のときのこととかも・・。21:12

ひとみ :電話のときって? 21:12

りか :私の声・・・ 21:13

ひとみ :りかちゃんの声がどうかした? 21:13

りか :私の声とか・・・変だから・・・だから連絡がないのかって・・・ 21:14

ひとみ :りかちゃんの声は変じゃないよー!!すごく可愛いよ。高くて女の子らしくてウチは好きだよ! 21:15

りか :ホントに? 21:15

ひとみ :ホントホント!マジで。ぜっっったい可愛いって。誰がなんと言おうと! 21:16

りか :私、いつも初めて話す人にはアニメみたいとかって言われるんだよ。可愛いなんて言われた事ないよ・・・ありがと・・・ 21:17

ひとみ :りかちゃん、かわいい・・・ 21:17

ひとみ :いますごく可愛いって思ったよ。声だけじゃなくてえっと、文章が! 21:18

りか :文章が可愛いなんて、変だよ、もう。21:19

ひとみ :だって可愛いって思ったんだもん。あ・・・ウチ普通にりかちゃんって呼んでた。馴れ馴れしくてごめん。21:20

りか:ううん。私も、ひとみちゃんって呼ばせてもらってもいい? 21:21

ひとみ:ひとみちゃんなんてちょっと照れくさいな・・・ 21:21

りか :だめ? 21:22
104 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:52
ひとみ :ううん、ダメじゃない。むしろ呼んでほしい・・・かな。 21:22

りか :うん。じゃあこれから、ひとみちゃんって呼ぶねっ! 21:23

ひとみ :ウチもりかちゃんって呼んでいいの?もう呼んじゃったけど。 21:23

りか :うん、いいよ。私ってあだなとかなくて。みんなから、りかちゃんって呼ばれてるから。ああ、そんなことはいいから。足の方は大丈夫なの? 21:24

ひとみ :足は大丈夫だよ〜。頑丈にできてるからね!うん。いいなあ。なんかりかちゃんって感じでかわいいなあ。 21:24

りか :だからそれはもういいって。w もしかして入院? 21:25

ひとみ :そう。ウチは入院なんてしなくてもいいって言ったんだけど、監督が大事を取れって無理やりね・・・ 21:25

りか :入院した方が安心だよ。じゃあ、今は病院なんだよね? 21:26

ひとみ :そう、すっごいボロなんだけどさ。新しくできた棟に、最新のリハビリ科が入っててけっこう有名らしくって、そこ行けってうるさくって。でもこっちは超古いの。 21:27

りか :そうなんだあ。 21:28

ひとみ:りかちゃんとこは新しいんだよね?最新式のベットがっていってたもんね。こっちはぎしぎししてるし、早く退院したいよ。21:29

りか:そっかあ。早く退院できるといいね。21:29

ひとみ:まあ大学病院なんてそんなもんかもしんないけどね。あ、そろそろか。
    あ〜あ。ねえ、日中とかってチャットできる?ウチ、いちにちヒマだし。 21:30

りか:うん。検査とかに重ならなければだけど。メールで時間とか指定してくれたら。21:30

ひとみ:わかった。またメールするよ。おやすみ〜。21:31

りか:うん。おやすみ〜。でもまだ痛むよね?眠れる?21:31

ひとみ:大丈夫。ありがとっ。心配かけてごめん。21:32

ひとみ:bye(退室) 21:32

********************************************************************************

105 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:58



ひとみちゃんが出て行ってから、急いでHPを開く。





「城北公園」っていうありふれた名前。

お寺の片隅にずらっと並んでたどこにでもあるような灯篭。

埼玉のほうだって思ってたのに・・・。

最新鋭のリハビリ科のある、大学病院・・・?


まさか・・・・。

106 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 14:58


107 名前:BL 3 投稿日:2005/04/08(金) 15:01
本日は以上です。
108 名前:A−203 投稿日:2005/04/09(土) 07:31
更新お疲れ様です。文字だけでも可愛い梨華ちゃん。w
最高ですよ。作者様の書かれるこの雰囲気が大好きです!?
続き、まったり待ってます。
109 名前:1444読者 投稿日:2005/04/09(土) 13:43
更新お疲れ様です。

(0´〜`)のAAに笑ってしまいました。
よっすぃはホントにこういう顔してそうですもんね
次回も楽しみにしています(*´∀`)ポワワ
110 名前:咲太 投稿日:2005/04/10(日) 20:52
  
111 名前:咲太 投稿日:2005/04/10(日) 20:57
>108 A−203さま

いつも本当にありがとうございます。
文字だけって笑っちゃいますよねw
吉なりの精一杯ってことでw

>109 1444読者さま

本当にありがとうございます。
ポワワって言っていただいてすごくうれしいです。
3日ごとに更新といいながら・・・。
駄文ですので、もったいぶらずに勢いでやってこうって思います。
がまんできない体質なのかもしれませんね。

それでは本日の更新に参ります。

112 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/10(日) 20:57


113 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 20:58


114 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 20:59


第4話 APR 17.2005





浅い眠りを繰り返しているうちに朝になった。



片道1時間半の東京郊外にあるこの病院までの道のりは長かったから、
診察帰り、気分転換だよってパパがちょっとだけ寄ってくれた公園。
あまりにかけはなれた場所だったから考えもしなかったけど・・。
10年前のおぼろげな記憶をたどれば、少しずつ昔の光景がよみがってくる。



信じられないような偶然に飛び上がりそうなくらい。
ベットの上でじっとしてられない。何をしていても手につかない。
いるんなら、見てみたい、もう単純な好奇心。

115 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 20:59


1階の売店横の廊下を進めばそのまま旧棟に行き着く。

配膳であわただしい時間帯だったらけっこう誰がいても人目につきにくいかなあ。
でも部屋は多すぎるし。プレートをたしかめて歩くのはかなり怪しいし・・・。


「もう配られてるわよ?」

エレベーターの横でターンしようとしたら保田さんに声をかけられて思わず肩をすくめた。

「何やってんのよ?さっきからブツブツ言っててキショいわよ?」

「もう。そんなこと言わないでくださいよぉ。」

「めずらしいじゃない。どこ行くつもりだったの?」

「いえ、売店にちょっと・・。」

「だから。どこ行くつもりだったの?」

「・・・・・あの、確か矢口さんって今、整形でしたよね?」

「そうだけど。どうしたの?」

「ちょっと・・・知り合いが入院してるかもって聞いたから。」

「そのくらい私でも調べられるわよ。誰?なんて名前?」

「あの・・・吉澤ひとみ・・・っていうんですけど・・・。」

保田さんの手がありえないくらいキラリと光り、私の片腕をがっしりつかみ、そのままエレベーターに
連れ込まれそうになって。

「まって、待って〜!」

「何よ?」

「だから・・・こっそりでいいんですよぉ。こっそり。」


116 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 21:06


点滴から解放されて、午後になると、保田さんは私を後押しするかのごとく勇んで病室までやってきた。
旧棟に入ると矢口さんはニヤリと笑って、待ち構えたようにナースステーションに私を呼び入れて、話すフリをしながら目線で合図をしてくれて。

おそるおそるのぞいた先に。
ナースステーションのちょうどまん前にあたる大部屋の、真ん中のベットに座っている彼女を捉えた瞬間。
ほおっとため息をついて、動けなくなってしまった。

ああ、こんなきれいな子っているんだぁ・・・。
光を見に纏ったような肌の白さも。零れ落ちそうなほどの大きさの瞳も。
繊細に、見事なまでに整った鼻も口元も。

思わず声を漏らしてしまった私に、矢口さんもうんうんって頷いた。
こんな子、めったにいないよねって。

私もため息をついて答える。

これじゃ保田さん、絶対来るって言いそうだな・・。
どうしよう・・・私、ゆるみっぱなしかも・・・。
117 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 21:07


***********************************

ひとみ:(入室)14:22

りか:(入室)14:28

りか:あれ、コーチは?14:28

ひとみ:とっくに帰ってもらったよw14:29

りか:じゃあもうちょっと早くきてみればよかったね。14:29

ひとみ:ううん。ちょっと洗濯とかしてたし。14:29

りか:洗濯?足とか、大丈夫なの?14:30

ひとみ:へーき。おとといお母さんがきたんだけどね。まとめて一週間分着替えもってきて、これで大丈夫よねって。ひどくない?14:30

りか:一週間ってw14:30

ひとみ:まあ、大きいのものはごっちんたちが合宿所の大きいやつで、洗ってきてくれるんだけど。さすがに下着とかは
自分で洗いたくて。でも混んでるし、超ぼろっちいの。14:31

りか:みんな優しいね。14:31

ひとみ:うん。ありがたいけどね。まあ、家からは遠いからさ、弟とかもいるし。14:32

りか:近かったら、全部やってくれそうなんだけどね。14:32

ひとみ:そうだね。まあこっちだからみんなきてくれて暇つぶしにはなるかなw14:32

りか:いっぱいきてくれるみたいで、いいなあ・・。14:33
118 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 21:07
ひとみ:そんなことないよ〜。今はチャットしてるときが一番楽しいし。30分なんて何も話せたなかったじゃん。4:34

りか:そうだね。14:34

ひとみ:もう、一日でも話してたいくらいだよ。みんな早く帰れ〜って感じw14:35

りか:うらやましいなあ。うちに寄ってくれるのは柴っちゃんくらいだし。14:35

ひとみ:ウチは柴っちゃんがうらやましいよ。寄りてぇ!!14:36

りか:またまた〜。14:36

ひとみ:ホントだって。ダメ?14:37

りか:ダメとかじゃないけど・・・。14:37

ひとみ:じゃあ、いいの?そんなこと聞いたら今すぐにでも行きたいよ〜。14:38

りか:もう。またそんなんばっか。14:38

ひとみ:ほんとだって。でも、横浜だからなあ、杖ついてるうちはムリかあ。くそ〜。こんなことだったらケガする前にお見舞い行っちゃえば良かったw14:39

りか:今まで一言も言ったことなかったじゃない。14:40

ひとみ:うん。だって、メールのときも、声聞きたいっていったときもウチからだったし・・。引かれちゃってたらどうしようかなって思ってたんだ。14:41

りか:そんなこと・・。14:41

ひとみ:もしかして、毎晩のチャットも、付き合ってもらってるだけなんじゃないかなって。14:42

りか:そんなわけないでしょ?14:42

ひとみ:うん。それはわかったw 朝も昼もいっぱい話してくれるし。14:43

りか:私も楽しいんだから。14:43
119 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 21:09
ひとみ:じゃあ、ほんとに行かせてくれる?14:44

りか:もう・・それは良くなってからおいおい考えるっていうことでw14:45
1
ひとみ:ほら、また〜。そうやってはぐらかす。やっぱ、だめ?14:45

りか:だめとかじゃないけど・・・。ほら、イメージとかあるでしょ?それをこわしちゃったら怖いなっていうか・・。14:46

ひとみ:そんなことないよ〜。ウチ、カンはすごいんだよ。コーチからもお前の一番の才能だって言われてるし。14:46

りか:それに・・・入院も長くなりそうだし・・。14:47

ひとみ:そしたら、何回も会いにいっちゃうよ!14:48

りか:ありがと。14:48
120 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 21:09
ひとみ:もうね、この時間だけが生きがいっつうか。みんなから怪しいって言われてるんだよ。もうチャットなしでは生きていけないくらいw14:49

りか:大袈裟なw14:49

ひとみ:ほんとだってば。早く会いたいよ〜。ほんとに行っていい?14:50

りか:だめ。14:50

ひとみ:まじ?14:51

りか:凹んだ?14:51

ひとみ:うん。14:51

りか:うんって・・・w14:52

ひとみ:いいもん。絶対行くから!14:52

りか:そんな気合いれなくてもw14:53

ひとみ:行くから。14:53

りか:こなくていいからw14:53

ひとみ:絶対行ってやる!うがっっ。14:54

りか:うがっっ??14:54

ひとみ:あいつら、また来たよ〜。ねえ、4時には帰すから、またその時でいい?14:54

りか:私はいいけど・・皆に悪くない・・?14:55

ひとみ:ううん。いいんだよ。最優先だからw 一応4時に覗いてみてくれる?14:55

りか:うん。わかった。早く閉じたほうがいいんじゃない?14:56

ひとみ:うん。じゃああとで、また。14:56

ひとみ:(退室)14:56

**********************************************
121 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 21:10



もう、やめよう、ばれちゃたらヤバイしとかって思ってたのに。

勤務時間が過ぎて、私服に戻った保田さんが病室に入ってきたときから毎日誘惑に負けちゃう私。

ここまできたら勢いがついちゃったというかなし崩しというか。
何度もこっそり病室を訪ねてしまう。


少し瞼を落とした様子が、まるで絵のように美しくて、
短い、栗色の髪も、淡い瞳の色もそのすべてに惹き付けられるように・・・。

122 名前:BL 4 投稿日:2005/04/10(日) 21:10

123 名前:咲太 投稿日:2005/04/10(日) 21:10
本日は以上です。
124 名前:A−203 投稿日:2005/04/10(日) 23:03
更新お疲れ様です♪続きが読めて幸せです。
文字だけでも雰囲気が可愛いとかすっごくわかりますよ。w
甘いのに切ないですね。梨華ちゃんがんばって・・・。
125 名前:咲太 投稿日:2005/04/12(火) 13:23
  
126 名前:咲太 投稿日:2005/04/12(火) 13:26
>124 A−203さま

いつもいつも本当にありがとうございます。
Aさまのお言葉に支えられていますw
拙いお話を読んでいただけるだけで感謝してます・・・。


それでは本日は吉澤さんのお誕生日ということで・・・。
誕生記念ではないのですが、上げさせていただきます。
もし間に合うようでしたら、夜にも更新する予定でおります。
では・・・。
127 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/12(火) 13:27
  
128 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:27





129 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:28



第5話   APR 23, 2005






日に日に増えていくひとみちゃんとの会話のなかで、いろんなことを覚えていく。

相手の言葉のもつ雰囲気に自分をあわせていくということ。
入室前にほんの少し気持を高めにリセットして、
普段よりはもっと可愛い、甘えたような口調を含んで会話してみること。




130 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:30


こういうときにはこんなふうに期待されてるんだろうな。
二人の仲で暗黙の了解ができていく。


突っ込まれたり、突っ込んでみたり。
文字を大きくしたり、小さくしたり、変形させたり・・・。


いろんな技を覚えたりしていくうちに、ひとみちゃんを喜ばす小さな嘘も覚えた。


ひとみちゃんが退院したら・・・
リハビリをがんばっちゃうって張り切るひとみちゃんを
甘い言葉でうまくかわす術。


131 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:31

画面を閉じるたびに少しだけの罪悪感が生まれるけど、
それを打ち消すように現実の幸せに目を向け続けた。


パソコン上のほんの些細な操作でいくらでもできる逃げ道を残しているから。
それを使うことがないことを心の中で深く祈りながらも。




冬よりも少しだけ増えた、腕に繋がれている管の拘束時間や
見慣れた名前が加えられたカプセル。
あえて保田さんには聞いたりはしなかったけど、
ゆるゆると進んでいく方向に必死に抵抗して
ひとみちゃんのあの横顔を見ようと、何度も何度も通い続けた。


132 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:32






毎日。入れ替わり立ち代りひとみちゃんの病室に訪れるたくさんの女の子たち。

いつ病室に行っても誰かがきてて。
それも下はどうみても中学生くらいの子たちから、上は社会人っぽい女性まで。

そろいもそろってきれいな人ばっかり。

せっかく昼間にもチャットができるって思ってたのに、
結局途切れ途切れになっちゃったり。


133 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:39


検査が予定していたより少し早く終わって、次のチャットの時間までもてあまし気味に
いつもとは違う夕食直前の時間帯に、ほんのすこしだけって寄ってみたその日。


「よっちゃ〜ん!!」
お芝居のように両手を開いた、髪の短い、キュートな『ミキティ』に、軽く腕を伸ばしてハグするひとみちゃん。
何度かふざけるように方向を変えて交互に抱き合って、そのうちひとみちゃんの頬っぺたキスしようとして。


「もうおしまいだってば。行くよ。また明日ね、よしこ。」

苦笑いしながら引き離した、髪の長い、目鼻立ちのくっきりした『ごっちん』に引きずられるようにして離れると、
それからまだしばらく、楽しそうにひとみちゃんと三人で談笑が続く。
ようやく立ち上がって病室から出ようとした瞬間に背中に

「あ、ごっちん。今夜の試合、ビデオよろしく。」
声をかけたひとみちゃんと、思わず視線が重なりそうになってーーー

134 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:39

瞬間的に隠れた。

パジャマ姿のまま。お化粧もしてない・・。

こっそり覗いている自分が恥ずかしくって・・・。
やけにみすぼらしく思えて・・。



ああっ。もう。何やってんだろう・・・。


135 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:41


友達だってわかってるのに、仲間に囲まれてニコニコしてるひとみちゃんの笑顔にイライラした。
それ以上に、こんなとこで一人でイライラしてる自分に、もっともっとムカムカしてた。



自分の想像してた以上に知らぬ間に溜まっていたものを、抑えることができない。
いつものように深く息を吸っても、上手になっていたはずの切り替えのコントロールがきかない。


136 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:41


137 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:42
*****************************************


ひとみ :(入室) 20:57

りか :(入室) 20:59

ひとみ :あ、きたきた。 20:59

りか :うん、こんばんは。20:59

ひとみ :今日さあ、な〜んかなまってそうで体動かしたいなー思っててさ。 21:00

りか :うん。 21:01

ひとみ :ウズウズしちゃって病室でボール蹴ってて看護婦さんに怒られちゃったよ〜 21:01

りか :そうなんだ。 21:02

ひとみ :しかもすっげー怖い看護婦さんでさ、鬼みたいだったよ〜。ごっちんたちもビビってた(笑) 21:03

りか :ごっちん達もいたんだね。 21:04
138 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:45
ひとみ :そうそう。アイツら毎日来て人の病室で騒いでくんだよー。 21:05

りか :一緒に怒られたの? 21:05

ひとみ :うん。ボールとか回してたらジャレついてきちゃって、それもうるさいって。(笑) 21:06

りか :仲良しでいいね。21:07

ひとみ :ミキティはすぐに抱きついてくるんだよー。クセなのかな(笑) 21:07

りか :そっか。 21:08

ひとみ :なんかさ、ウチってペットみたいな感じなのかも。毎日くるなんてよっぽど暇なんだよ。彼氏とか作りゃあいいのにさ。 21:09

りか :二人とも可愛いもんねっ! 21:10

ひとみ :たしかに二人とも可愛い顔してるしすごいモテるんだよ〜 21:11

りか :ひとみちゃんだってかっこいいしさっ! 21:12

ひとみ :えー!!かっこよくなんてないよ〜 21:12

りか :だってひとみちゃんの病室っていっつも女の子がいるじゃん! 21:13

ひとみ:そんなことないって〜。w 21:13

りか :かっこいいから、もてるんでしょ? 21:14

ひとみ :もてたりとか、ないない。 21:14 

りか :いっつも可愛い子に囲まれていっつもベタベタベタベタされてて。 21:14
139 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:46
ひとみ :ちょっと待って。21:15

ひとみ :ねえ、もしかしてお見舞いに来てくれたの? 21:15

ひとみ :どうして寄ってくれなかったのかな・・・? 21:16

ひとみ :りかちゃんに会いたかったな・・・ 21:17

りか :私だって会いたいよっ! 21:17

ひとみ :なんで入ってきてくれなかったの?どうして病院に来てくれたのかな・・・? 21:18

りか :だって・・・ 21:18

ひとみ :りかちゃん・・・どうしてなにも言ってくれないの? 21:19

りか :私だって会いたかったよ。 21:19

ひとみ :それならどうして・・・? 21:20

りか :会いたかったけど・・・でも・・・ 21:20

ひとみ :でも? 21:20

りか :でもひとみちゃんの周りにはいつも誰かいて、私の事なんて忘れてるみたいで。私はひとみちゃんの事ばっかり考えてるのに・・・ 21:21

ひとみ :ウチだってりかちゃんのことばかり考えてるよ。誰といたって。だから来てくれたなら、やっぱり会いたかったな・・・ 21:22

りか :だっていっつも楽しそうにしてるじゃない!女の子に囲まれてニヤイヤしちゃって! 21:23

ひとみ :ニヤニヤなんてしてないよー!それにいつもってわけじゃないし・・・ 21:23

りか :ううん、ニヤニヤしてるもん!私が行くといっつも誰かいてベタベタされてて、ひとみちゃんはニヤニヤしてる! 21:24
140 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:48
ひとみ :いつもって・・・りかちゃんいつも来てくれてるの?なんで? 21:24

りか :いつもじゃないもん・・・ 21:25

ひとみ :でも今いつもって言ったよね? 21:25

りか :間違えたの・・一回しか行ってないもん・・・ 21:26

ひとみ :いつも・・・ウチの病室に来てるの? 21:27

りか :一回だけだよ・・・ 21:27

ひとみ :でもさっきいっつもって・・・ 21:28

りか :言ったよ・・・だって毎日行ってるんだもん!ひとみちゃんの事毎日見てるんだもん! 21:28
141 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:49
ひとみ :りかちゃん・・・毎日来てくれてるなら、どうして会ってくれないの? 21:29

りか :会いたいけど、会えないの! 21:29

ひとみ :どうして!! 21:30

ひとみ :ウチは会いたいよ!りかちゃんに会いたい!! 21:30

りか :私だって会いたいよ! 21:30

ひとみ :会いたいって言うならどうして・・・ 21:31

りか :会えないわけがあるの・・・でも今は言えない。 21:31

ひとみ :なんで?りかちゃん本当はウチに会いたくないのかな? 21:32

りか :そんなわけないじゃない! 21:32

ひとみ :だって、会いたいのに会えないってわかんないよ。ちゃんと言ってくれなきゃウチわかんないよ・・・ 21:33

りか :私だって、どうしていいか分からないよ・・・目の前にいるのに、会いに行けないなんて・・・どうしていいか分からないよ!21:34

ひとみ :会えないわけって、なんなの? 21:35

りか :ごめんね、ひとみちゃん・・・ 21:36

りか :(退室) 21:36

**********************************************






だって・・・。私はひとみちゃんに会えないんだもん。








142 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:52
瞳にタオルを強く押し当てて、興奮して止まらない涙を瞼から零れ落ちる前に拭き取った。
やわらかいタオルの肌触りを頬で感じてようやく気持が落ち着いてきて・・・。


もう一度戻ってみたけど、すでにひとみちゃんは出てしまったあとだった。
しばらく中で待っていてくれた形跡を見て、またじわじわと目頭が潤んでいく。


だって私はたぶん・・・ひとみちゃんと顔をあわせられないほうがいいって思うの。


うぬぼれじゃなくて、ひとみちゃんの言葉の隅々に
ちょっとずつ私の存在みたいなものが大きくなってるのが感じられて素直に嬉しかった。
私がこの時間を何よりも大切にしているように、
ひとみちゃんも囚われたように通ってくれてるのが痛いように伝わってきてたから。

143 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:53
でもそうなればなるほど・・・ひとみちゃんの前には出て行けないって思った。
だって私は知ってるの。
今までの人生の中で、かかわってきた人との別れをひとみちゃん以上にたくさん体験してる。
それまで横にいてくれたものが突然なかったことになっていく恐怖。
挨拶しか交わしてなかった人でさえ。
もう存在しないっていう恐怖を感じるときに、最初に浮かんでくるのがその人の笑った顔だっていうこと、
一層辛くなることを、いっぱいいっぱい知ってるから。

少しでもあの横顔を曇らせてしまうなら・・・。
今までどおりの場所で言葉を交わすだけのほうがいい。
144 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:54
なのに・・・。
やっぱり自分でも気付かないうちに求めてしまっての。


必死で心の奥底に気付かないようにしてきたその想いが
突然に錘をはずされて浮かび上がるガラス球のように加速して、水圧に耐えられずにはじけ散る。
私の中のあなたの存在と同じ比重でありたいと・・・。

145 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:54


どうしてあんなこと言っちゃったのかな・・・。
大人気なかった自分の行動にとまどって、なんでって後悔もあふれてくる。

146 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:55


最初に覚悟した方法を思った。
別の逃げ道と言い訳を綴った。
思いつくがままに感情を書きなぐった。
拒絶する言葉だけは使えずに、この期に及んで勇気のでない自分を責めた。


何度も何度もキーボードに手をのせ、動けなくなっては消す。



147 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:55
でも・・・ひとみちゃんに伝えなければいけないことがある。
逃げてしまう方法が一番卑怯だと納得させる。
きっと私が思っている以上にひとみちゃんを深く傷つけてしまってるから。
自分の言葉でちゃんと伝えなきゃ・・・。

できるだけ感情を交えず。
ありのままのことを。



重すぎる私の気持は伏せて。
ひとみちゃんが自分の心で捉えてくれればそれでいいから。






長く書き上げたメールをもう一度削除して、
新しいページを開いた。


148 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:57



ひとみちゃん





昨日は本当にごめんなさい。
あれからしばらくして戻ったんだけど・・・。

会えない理由って聞いてくれたよね。
あんまり感情的になりたくないので、事実だけ簡単に書きます。

子供の頃に何度か手術はしていて、学校とかも普通に通えてたんだけど。
一年前に発作がおきて。
残ってる方法はあまりない・・かな。


可能性は低いけど、手術を受けてみようかなって
ひとみちゃんの毎日の様子をきくたびに、少しずつ思い始めてた。
あ、でも今すぐどうこうってことではないんだよ。
うろうろできる程度には元気だしw
発作さえおきなければ、まだまだ大丈夫。

なんかそういう風なチャットって、悲しいかなって。
楽しいのが一番だもん。


深く聞いてこないひとみちゃんの優しい気持にすごく支えられてたんだよ。


ありがとう。



         梨華






149 名前:BL 5 投稿日:2005/04/12(火) 13:57






150 名前:咲太 投稿日:2005/04/12(火) 13:58
とりあえず、ここまで。
151 名前:くれす 投稿日:2005/04/12(火) 14:04
はじめまして。
毎回ドキドキしながら読ませて頂いております。
この先どうなって行くかすごい楽しみです。
期待しているのでがんばって下さい。
152 名前:咲太 投稿日:2005/04/13(水) 07:22


153 名前:咲太 投稿日:2005/04/13(水) 07:26
>151 くれすさま

こちらこそ、はじめまして。咲太と申します。
ありがたいお言葉、本当にありがとうございます!
上げながら、読んくださってる方っているんだろうか・・・って
あれこれ悩む小心者のヘタレですのでww
ご期待に添えるよう頑張っていきますので
どうぞ最後までお付き合いいただけたらと思います。


申し訳ありません。ゆうべのうちに上げる予定でしたが、
とりあえず翌朝ということでw
笑ってお許しくださいませ。

それでは更新参ります。
154 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/13(水) 07:27


155 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:27



156 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:29


第6話 APR 24, 2005






回診を終えてナースステーションに帰ったはずの保田さんがもう一度部屋に入ってきて
あたしの顔をじっと見つめた。
なんとなく予感がして入り口のほうを向いたのと
保田さんが入り口を指差したのがほぼ同時だった。



松葉杖をついたまま照れくさそうに立ちすくんでいる人。

やっぱり見つかっちゃったんだ・・・。
思わず眉を下げる。

もじもじと中に入ってこないひとみちゃんをみて私がベットから降りようとしたら
保田さんが入り口に向かって歩いていって、ひとみちゃんの肩に手をおいて。
車椅子、持ってきてあげるから、待ってなさい。長くなるんでしょ?

157 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:30
ひとみちゃんは不器用そうに松葉杖を動かして近付いて来た。
椅子を出そうと立ち上がると慌てて止めたので、

「そんな悪いわけじゃないってば」

そのまま降りてパイプ椅子を開いてから、自分も横向きでベットに腰掛ける。

ほっとしたように笑って座るひとみちゃんをみてたら、なんだか少しおかしくも思えるくらい、
すっきり晴れていくような気がして。

158 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:31

「元気そうじゃん。」

初めて言ってくれる第一声がそれ??

電話越しでも、耳を凝らしてかすかに聞こえてくる声を追ったのでもない。
あたたかく響く優しい声と、その呑気とも言えそうな口調に、心がほんわりと包まれていく。

もっと、いろいろな複雑なこと。夜中っていうのもあってあれこれますます思い描いて。
あんなメール、送らなきゃよかったかなとか、ひとみちゃん、なんて思ったんだろうとか、
最悪のメールに、最悪の出会いのシチュエーションまでもう眠れないくらい悩んだあとだったから、

その屈託のない笑顔と、何気ない言葉が、ほんとは何より欲しかったものだったんだなって、思った。


「覗きにいけるくらいはね。」

つられて微笑みながら返すと、一気にひとみちゃんの頬が赤くなり、なんだか慌てふためいてる。
それから泳ぐように私から視線をそらせて俯くと、

「うん。元気そうでよかったぁ・・・。」

届くか届かないくらいの小さい声で、そうつぶやいてくれた。
159 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:32
保田さんの持ってきてくれた車椅子に座りかえ、
杖を持って出て行く保田さんの背中をニコニコ見送るひとみちゃんの顔を、
気付かれないようにこっそり見てると。

「ねえ、まさかあれがヤスダさん?」

話し掛けられて、ばちっと合った視線。

「そだよ。」

「このまえ怒られたときはすげえ怖えって思ったけど。
 けっこう優しい?」

「うん。言ってたでしょ?」

間近で寄せてくれるひとみちゃんの笑顔は、もう言葉にできないほどきれいで優しくて
目線をはずすことすら出来ずに、ただうっとりと微笑んでしまう。

きっと。矢口さんにあれこれ聞きに言ってくれたときなんだと思うよ。
もしかしてって思ってたんだけど、まさかよその階の患者さんまで怒鳴りつけるなんて。
なんか保田さんらしくて笑えるよね。
160 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:33
「いい人だよ。」

そういったら。うんって頷いて。

そのままじーっと私の顔を覗き込んでる。

「なあに?」

そんな大きな目で見つめられるともうどうしようって感じなんだけど・・。

「うん、いや・・・その・・・なんつうか・・・。」

なんかもじもじして口ごもる様子がすごく可愛くて。
ちょっとひとみちゃんの気持が読めたような気がして嬉しかったから
意地悪するようにもう一度聞く。

「なあに?」

「いや。うん。またメールでもするよ。」
161 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:34
なんか。あれこれ考えてた今までがすべて、色を戻していく。
思ってもみることのできなかったほど、なめらかに自然に。

もう、メールもチャットもできないって書いたほうがいいのかなとか。
書いてから何度も消してみたりだとか。
きてくれるかもっていう淡い期待とか。
そしたら何を話したらいいんだろうとか。
もちろん、覚悟まで。

ひとみちゃんのあたたかい笑顔をみてたら、そんなこと一気に飛んじゃって。
あいかわらず幸せのまっただなかにいちゃってもいいのかな。

いろんな偶然がたくさん重なり合って紡がれた糸に
ただ今は素直に深く感謝だけしていればいいんだって思った。




162 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:35


しばらくの間、眠り姫の印象の強かったごっちんが、
あんなにきびきびとした端正な顔だちだとは思わなかったなんて、あれこれ話した後に。
突然に。

「ごめん、聞いていい??」

「なに?」

「手術すれば治るの?」

浮かれ気分に浸っていた私はその言葉に引き戻され。
一瞬黙ってしまった。
163 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:37
私を見つめているひとみちゃんの眼差しが真剣で、なんか子供のように心細げで。
見上げている瞳をみてたら、ちょっと勇気がでて。
軽く答えられる、そう思った。

「うん。すればね。」

「そんなに難しいの?」

「うん。結構。」

ひとみちゃんは唇を噛みしめて視線をそらさない。
そのまま黙っているから、私から続ける。

「でもちょっとだけ迷い始めてるの。それでも受けてみようかなって。」

ひとみちゃんの唇がなにか言いたげに動いたけど、声にはならずに。

「ひとみちゃんが側にいてくれるんだったら、それもいいかな、なあんてね。」

「・・・ウチでいいんだったら。」
164 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:38
軽めの笑顔を作りながら話していた自分が、さっと素に戻っていくのがわかった。

そんな私に気付いたひとみちゃんは、さっきとは違った大人の表情をしておだやかに微笑み、
私にそっと手を伸ばす。


その手をとりたくて、でも固まったままぎゅっと握り締めていた私の手を
ひとみちゃんは反対の手でつかんでそっと自分の手と重ね合わせ、挟んでくれた。


その温かでやわらかな手のひらが心地よくて。


不安とか嬉しさとか幸せとか。すべての感情がとめどもなく溢れだし、
ひとみちゃんの笑顔をみつめたままで、静かに涙をこぼしていた。




165 名前:BL 6 投稿日:2005/04/13(水) 07:38



166 名前:咲太 投稿日:2005/04/13(水) 07:38
本日は以上です。
167 名前:A−203 投稿日:2005/04/13(水) 10:34
更新お疲れ様です。毎日スレッドを覗いては読んでますよ(^^)
感情移入しちゃって、前のめりに気味なって読んでます。w
この幸せで切ない雰囲気がたまらなく好きで胸をしめつけます。
168 名前:1444読者 投稿日:2005/04/14(木) 03:22
更新お疲れさまです。
あーもう梨華ちゃん…胸が痛いです・゚・(ノД`)・゚・。
次回も楽しみにしています
169 名前:baka 投稿日:2005/04/19(火) 21:09
自分や周りの人たちと重ね合わせて読んでしまいました。
梨華ちゃん、がんばれ!!
170 名前:咲太 投稿日:2005/04/20(水) 01:56
>167 A−203さま
いつもレスいただきありがとうございます。
そんな・・、毎日覗いていただいてるなんて・・・。
前のめりが反対にのけぞらせてしまわないように、頑張りますです。

>168 1444読者さま

いつも本当にありがとうございます。
胸が痛いですか・・・。書いてても同じく痛いですw
書き始めたからには最後までなんとか走りますw

>169 bakaさま

レスいただいてありがとうございます。
重ねていただけて恐縮です。
応援いただいて、きっと頑張ってくれることでしょうw


なんだか娘。さんたちにもいろいろな変化の時期で、
更新が滞ってしまって申し訳ないです。
これ以降はそんなにお待たせしない予定ですので、
相変わらずの駄文にもう少しだけお付き合いいただければ幸いです。
171 名前:咲太 投稿日:2005/04/20(水) 01:56



172 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/20(水) 01:56


173 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 01:57


174 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 01:58
第7話 MAR 9.2005







ベットに前のめりでよりかかりながら。
頬杖をついて話してくれるひとみちゃんを眺めてるのが大好きだった。
保田さんに、あんまり入り浸ってると退院させるよ?って言われるくらいいつも一緒にいて。
小さい頃の私のこととか、自分のこととか、まるで今までの時間をすり合わせるかのように
毎日飽きることなく語り合って。


好きだとかって言い合ったわけでもない。恋人ってわけでもない。
お互い、かすかに見える可能性を信じていて、その時がきてから伝えたい言葉だったんだと。
口にはしなかったけど、多分お互いそう思ってたんだって思う。


うぬぼれなんかじゃなくて、少しとろんとなる甘い瞳も、ちょっと舌ったらずのようになる口調も
言葉にする以上に大きなものを伝えてくれてたの。

たまに差し出してくれる手をぷにぷにとさわっているのが好き。
長いくるんとした睫毛を、斜め上から眺めてるのが好き。
175 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 01:59
だから、保田さんが冗談めかしたその日があっけなくきてしまって、笑顔で見送ったそのあとに
自分でも思ってもみなかった思いが体一杯をじわじわと埋め尽くしてく。


会いたい。側にいてほしいの。
習慣付けられた枠の中から踏み出せない私には、正直に吐きだせなかった言葉が
どんどん胸いっぱいにうごめいて。
怒りの矛先は一番言いたくなかった人へと向かってく。

今日こそはって落ち着かせて入るのに、
結局途中で途切れてしまうここ何日かに、
尻込みする時間と、過敏に反応していく心の脆い部分が、徐々に増えていく。


176 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 01:59
********************************************





ひとみ :ねえ、平気・・・? 22:20

りか :平気って、何が? 22:20

ひとみ :うん。元気かなって思ってさ。22:21

りか :あいかわらずだよ。毎日言ってるじゃない。22:21

ひとみ :うん。そうだけど。検査とか、きつくない? 22:22

りか :ううん。大変だったのはもうほとんど、終わってるし。22:23

ひとみ :変わりないんだよね?22:23

りか :もちろん。まあ、安定してるほうだって。安心して。22:24

ひとみ :うん、それは安心してる。22:24
177 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:01
りか :だから、もう寝よう。まだレポート、残ってるんでしょ?長く邪魔してごめんね。22:25

ひとみ :ごめん・・・ここ何日かの、りかちゃんの話が気になって、ごっちんに行ってもらったんだ。病院。で、保田さんに聞いてもらったんだけど・・・。22:26

りか :どういうこと・・?22:26

ひとみ :様子がおかしいって保田さんもご両親も心配してるって・・。22:27

りか :どうしてそんなことするのよ・・。22:28

ひとみ :ごめん・・。22:28

りか :なんでごっちんとかにきてもらうの?私のことなんて全然知らないんだよ。22:29

りか :ひとみちゃんにとっては親友かもしれないけど、探るような真似させて。22:29

ひとみ :ごめん。探るとかっていうつもりじゃなくて・・ほんとはウチが会いにいきたかったんだけど。22:30

りか :私が何してようと、関係ないじゃない!ごっちんには。22:31

ひとみ :みんなも心配してくれてて・・。22:31

りか :いつもいつも仲間って。それとあたしのことは別でしょ?22:32

ひとみ :うん・・・。ごめん。ウチが無神経だった。22:32

りか :謝ってばっかりなんて、ずるいよ。22:33



******************************************



子供みたいだよ。これじゃ・・・。バカみたい・・・。
178 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:02
嫉妬って言ったらなにをって笑い飛ばされそうだけど。

たくさんのメールやチャットで、みんながどれだけひとみちゃんのことを支えてきてたかって伝わってきてて
素直にいいねって言えてた。

ひとみちゃんがよく使う「アイツら」っていう言葉も、かっこいいなって思ってた。

合宿のときは吐いちゃうんだよって、体力の限界以上の練習を一緒にやりきって。
言葉とかじゃなくて目で交わす合図だけですべてをわかりあえるような、
そういう友情に憧れてたの。
私は知らない、持つことのできなかった世界だったから。

あったかい人柄も、包み込んでくれるような大らかさも
さっぱりとしたところも、子供みたいに単純な素直さも
ひとみちゃんのまわりにあるこの関係がさせてるものなんだなって、それも大好きだった。

なのにそこにひとみちゃんを帰してしまったような、そんな気持が急に心を占めてしまって
不安で不安でたまらなくなるの。
こんなことでキレてしまう自分の小ささも、かっこ悪さもひっくるめて
全部がいや。すべてイヤ。
179 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:03
この体を意識したことなんてもう久しくなかったはずなのに、
ぐるぐる巡り巡って同じ答えに行き着いて、両親にも激しい口調をぶつけてしまう。
どっちかっていうとそのものよりも、前後が大事って口うるさくいわれてるのに、
ご飯の匂いや、口の中に広がる不快感に、箸さえ持ちたくない日が続いて、
心配してくれる保田さんの姿さえ、わずらわしく思えてしまう。

突然あらわれてしまった、思いがけないほどわがままで幼稚な自分。
ひとみちゃんが退院していってから毎日こう。

もう何度か経験してきたいつもどおりが、ただ繰り返されるだけって最初のうちは思ってた。
幼かったときと、今の恐怖心を比べるのはちょっと違うけど
単純にはじかれた確率みたいなのは、まだ今のほうがって。
なのにそうって笑って返せるだけの心のゆとりは思いがけず簡単に崩れてく。
180 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:05
言葉にはっきりできないおぼろげな夢が、
心を砕いてしまうような余韻をくっきり残したところで目覚めてしまうの。

正直に言ってしまえるほどの強さか、甘えてしまえるだけの弱さかがあったら、
こんなに自分がイヤになることなんてなかったろうな。


会いたいって言えれば、きっとすぐにきてくれる。
受けたくないって言ったら、きっと何も言わずに手を握っててくれる。


ひとみちゃんがわかればわかるほど、想いが強くなるほど、
単純な言葉が口に出来なくて。
予想もしてなかったひねくれた言葉が無意識に心の奥底から溢れてしまうくらいなら
正直に言えたほうがはるかにいいってわかってるのに・・・。



長く取られた準備期間のハンパさがきつい。
一日中側にいて、笑ってられたあの時間にどんなに癒されてたのか。
感謝の気持はそのまま今日の後悔につながってきつく唇を噛みしめる。


181 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:05


182 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:10


翌日。病室に予想通りの姿をみかけたときにも。
綻ぼうとした顔を、私はやっぱり意識的に押さえ込んでしまった。


うつむいたまま一言も漏らさない私をじっと見つめていたひとみちゃんは、
ゆっくりとした動作でいつものように椅子をだすと、深く腰掛けてただ食い入るようにしばらく見つめていた。

「リハビリ通うの、大変だから。しばらく合宿所に入ることになったんだ。
 荷物とかはだいたい送ってるから、今、体だけ移動中。」

驚いて顔を上げた私を見て、ほっとしたように微笑んで続けた。

「ギプスがとれる来週からって思ってたんだけど、
 腕とか、右足とかの筋力が落ちてきてさ、矢口さんと担当の先生からも、早めにはじめるようにってすすめられたの。」

「でも、お父さん、家からじゃないとって、今まで・・・」

「うん。だから寮にはいれてもらえなかったんだけどね、さすがに家じゃリハビリなんてできないし、なんとかね。
 交渉成立してから言うつもりだったんだ。ぬか喜びとかってさせたくないもん。」

今まで聞かされてきた頑固なお父さん像にいっしゅんほろりとなちゃったけど、
ひねてしまった私はあいかわらずひとみちゃんの笑顔にうしろめたさを感じて。
183 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:13
「手。」

「何?」

「いいから、手、貸してよ。」

「いや。」

つかまれようとした手を上に振り上げて、体育座りをした足を両腕できゅっとはさんで
自分の肘のあたりを固く握り締める。

ひとみちゃんはもう一度笑いかけ、両手で私の左手に触れて、指の一本一本を丁寧に起こしていった。
頑なに閉じようとする指を繰り返し開いて膝から離すと、
うれしそうに両手できゅっと握ったりゆるめたりしてから

「りかちゃん不足かも。」

照れたように私の瞳から、また視線を手に落とす。


掌でやわらかく包まれたり、指の端を滑らせたりしてから
比べるように右手を沿わせ、指と指の隙間に自分の指をからめて深く握り締めた。

「なんでも言ってくれていいってば。受け止めれないって、思った?」
184 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:15
そんなこと、思ってたわけじゃないんだけど・・・。

さらにうつむくと、膝の上に顎が触れる。

「どんなことでも、ちゃんと言ってよ。
 理解してあげられなくってムッてなっちゃうこともあるだろうけどさ。
 一緒に考えたり、泣いたりとかくらいだったら、できるだろうって思ってるわけですよ。」


片足だけでぴょんって立ち上がった瞬間にバランスを崩したのが、うつむいた視界にも映って思わず見上げてしまった。
ひとみちゃんは笑ったままで私の瞳を覗き込んで、それから一瞬ドアが閉まったままなのを確認して背中に手を回す。

「ごめんね。あたしのほうがこう、したかったんだよ。」

私もあっけなく見つけてしまった何かに、思わず出そうになったため息を抑えて、
絡めた指を離してひとみちゃんの後ろへおずおずと手を伸ばす。

私にもはっきりとわかるくらいこくん、と音がして、
それからもう一方の手を回してほんの少しだけ触れ合うくらいのところまで引き寄せてくれた。
185 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:18
「謝ったりすんのってなし。ね。」

「だって・・・。」

いつもより少し低くて掠れたような声が耳元に優しく響く。

「ね。そのくらいなら、会いたいとか、そういうの、聞かせてほしいんですけど。」

「い や 。」

「読むいやとは全然違うなあ。」

ニコニコ笑うひとみちゃんの横顔につられて微笑んでしまう。
ちょっと嬉しそうに唇を結んでもう少し引き寄せてから、トントン、ってゆっくりと背中を打ってくれて。

「子供じゃないよ。」

あわてて離れかけそうになる私をもう一度抱きしめて続けてくれる手のひらに、しばらく甘えてみようって今度は素直に思えた。




186 名前:BL 7 投稿日:2005/04/20(水) 02:19



187 名前:咲太 投稿日:2005/04/20(水) 02:19
本日は以上です。



188 名前:A−203 投稿日:2005/04/20(水) 10:45
更新お疲れ様です。このお話の切なくても見え隠れする幸せに癒されましたぁ。
梨華ちゃんを包む、よっすぃの寛大な心がカッケーですね。
まったり無理せず頑張ってくださいね。
189 名前:咲太 投稿日:2005/04/23(土) 00:42


190 名前:咲太 投稿日:2005/04/23(土) 00:43
>188 A-203さま

いつも本当にありがとうございます。
切ないばっかで申し訳ないんですが、幸せを見出してくださってありがたいですw
頑張ります。



それでは本日の分・・。
191 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/23(土) 00:44



192 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:44


193 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:46

第8話           MAR 18,2005








消灯時間まであと30分になって、パパとママが席を立った。

手術の前日。

車で送ってくと言ったパパを、ママも横から止めてくれて。


廊下まで見送りに出て行き、かなりの時間の立ち話。
あまりに長いのでいい加減声をかけようとしたけど。
ひとみちゃんの横顔が急に真顔になって、相槌を打つのが見えたから、
枕を背中に移動させて、パパがさっきまで見ていた試合の続きを眺めていた。

194 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:46
深々と頭を下げて見送ったあとに、にっこりしながらこちらへ戻ってきたひとみちゃんは
ベットに回り込む前にこちらへ腕を伸ばしていて、いつものように手を握ってから椅子に腰掛ける。

「パパとママ、お礼言ってたでしょ?ひとみちゃんに。」

よっちゃんは照れくさそうに首をならしながら。

「違うよ。弁当屋の話、してた。」

「弁当?」

「すっげえおいしかったからねー、さっきの。
 でもビーフコロッケのが有名なんだって?
 梨華ちゃんもよく小さい頃からよく食べてたって。」

「うん。ママの作るのより、よっぽど好きだったの。パパに言うと
 怒られちゃうけど。」

「場所も教えてもらったし。また行ってくっかなあ。」

「もう、油ものばっかとってると、また太っちゃうよ。 体も動かせないのに。」

「いいもん。お母さんにりかちゃんの昔の写真、見せてくださいって頼んどいたから。」

「見せるわけないでしょ?そんなの。」

「だめー。退院前にでも遊びに来ていいって言われてるんだもんねーだ。」

「ママったら〜」

「お父さんが迎えに来てくれるんだってさ。」

「なんで私が知らないところでそんなに話がすすんでんのよ」

まったく私抜きでみんな勝手なことばっかり決めてるんだから。
絶食の娘の前で平気でお弁当をつつきあったり、ほんとに緊張を感じさせない。
それがひとみちゃんがなごませてくれる空気っていうか。
195 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:47
「そういえば、さっきのメールは?」

「あ、ごっちんから。その・・・鶴って要んないよね?」

「鶴?」

「ウチはいらないって言ってたんだけどさ。なんか皆で作ってたらしくて。
 古っぽいでしょ?」

「古いなんて・・。うれしいんだけど、いいの・・?」

「いいもなにも、みんな喜んじゃうよ。
 それがさ、最後の仕上げを昨日美貴がやってたらしくて。
 鶴が斜めに横にすげえことになっちゃってて、ごっちんが今繋げなおしてるって。
 じゃあ、ちょうだいって言ってもいい?」

「もちろん。今までそういうの、作ってもらったことないし。」

あたしが本当に嬉しそうに言ってたので、
ひとみちゃんはほっとしたように笑ってジーンズから携帯を出した。
196 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:48
「じゃあ、ごっちんにOKってメール打っとくよ。
 写真見て笑っちゃったよ。どピンクなんだもん。みんな目がチカチカするって言ってた。」

「えー??見せてよ。」

「だめ。」

「見せて?」

「いやだ。」

「ピンク一色?」

「ううん。ピンクのグラデーション。」

「うっわ、見たい。見せて。」

取り上げようとした携帯はすぐに振動して。
返って来たメールには、もう面会時間終わっちゃうから看護婦さんに渡しとくねって。

197 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:49


ポケットに携帯をしまうと、すぐに手を伸ばしてくれる。

一本一本を指でなでたりしながら、穏やかな気持でひとみちゃんの声に包まれていた。

指を繋いだまま、身振り手振りで笑わせてくれていたひとみちゃんの手から、
かすかに振動が伝わってくるまで。


「んと・・・。抱きしめていい?」

いつもしてるくせに。

いいよって答えるかわりに体を横に向けると、ひとみちゃんはゆっくり背中に手を回した。
私に負担をかけないように、ふんわりとした抱きしめ方でトントンってたたいてくれてた指が
突然強く握り締められ。
肩から肘にかけてのものすごい力を必死で抑えるように。


「ひとみちゃん・・・?」


抱きしめられた姿勢のまま。
耳の横あたりで触れていたはずの顔が急に離れると、
肩の後ろにのせられた顎が小刻みに震えはじめる。

少しずつ、じんわりと後ろに廻る手が強くなっていく。


ほんとはもしかしたら、ひとみちゃんのほうが・・・。


198 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:50
背中に回していた手をひとみちゃんの肩にまで伸ばし、自分のほうへ引き寄せた。
震えている肩を思いっきり押さえるように力を込めて。
背中にまわった腕は一層力強く、初めて身動きもできないほどきつく抱きしめられる。


「好きだから。」

肩の振動といっしょに、ごくごく小さな声が耳に届く。

「なに?」

「・・・・好きだから。」

掠れた声が胸の奥底にまで響いて、首だけで小さく頷いた。


「・・・だから・・・」

199 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:51
それだけ言って言葉を繋げずに腰に回した腕が尚も強くなる。
しばらく抱きしめられたままでいた私は、ひとみちゃんからそっと体を離し、不安げなその瞳を覗き込んだ。
震えている頬に、そっと手をあて、ゆっくりと唇を寄せた。
かすかに触れた唇は冷たくて、ごく間近に、ひとみちゃんの長い睫毛が小さく揺れるのが見えた。

目を閉じたままのその頬に、ぴったりと頬を合わせて、耳元にそっとささやく。



「目が覚めたら、ちゃんとキスしてね。」



200 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:51




201 名前:BL 8 投稿日:2005/04/23(土) 00:51


202 名前:咲太 投稿日:2005/04/23(土) 00:52
本日は以上です。
203 名前:ひすい 投稿日:2005/04/23(土) 10:25
うわー。・゜・(ノД`)・゜・。
今一気に読みました。。。梨華ちゃん。・゜・(ノД`)・゜・。
梨華ちゃん梨華ちゃん(つДT)早く目ぇ覚ましてね!!!

作者様頑張ってください。ついていきます!(ぇ
204 名前:プリン 投稿日:2005/04/23(土) 14:17
更新お疲れ様です!
ひぇぇ・゚・(ノД`)・゚・。
目が覚める時を待つしかないですな(`・ω・´)
続き気になるー!w
205 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/24(日) 00:52
初めて拝見させていただきました。
すごく好きです。
続き、楽しみにしています。
206 名前:A−203 投稿日:2005/04/24(日) 17:19
更新お疲れ様です。読んでるうちにどんどん惹きこまれています。
黙って続きを待ってます。
(ふたりの会話・・・言葉にならない部分が切ないです。)
207 名前:咲太 投稿日:2005/04/26(火) 01:10


208 名前:咲太 投稿日:2005/04/26(火) 01:16
>203 ひすい さま

レスいただき、ありがとうございます。
ついてきていただけるなんて感激ですww

>204 ブリンさま

待っていただいてありがとうございます。
ううう。。と、とりあえず、今はこれだけ・・・。

>205 名無し飼育さま

読んでいただけただけで、本当に感激しています。
レスいただけるのは何よりの励みになります。

>A−203

いつもありがとうございます。
言葉にならない部分を汲み取ってくださってほんとに感謝ですw


というわけで、
更新させていただきます。
209 名前:咲太 投稿日:2005/04/26(火) 01:17
失礼しました。

>206 A−203さま

です・・・。失礼しました・・・。

それでは。
210 名前:咲太 投稿日:2005/04/26(火) 01:18


211 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/26(火) 01:18



212 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:18


213 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:20

第9話      JUN 15.2005




窓に叩きつけられては線を描いて流れ落ちる水滴を、さっきからため息をついて見ている。
ひとみちゃんのTシャツからはかすかに雨の匂い。
廊下を行き交う金属音の合間に、シャーッという雨音だけが響く瞬間でもあると、
それだけでまったりとした空気くらいは感じられるんだけど。

毎日降り続くのは、ね。

やっとひとみちゃんとお散歩を許可してもらえたっていうのに、
まだ雨に触れるのはムリかな。

「週末くらいには、晴れるってよ。」

私があんまり外ばっかり覗いているので、つまらなさそうにベットに頬杖をつきながら言った。

「けっこう長持ちするから、大丈夫だって。」
214 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:21
桜の次は紫陽花ですかって笑いながら、翌日には差し出してくれたスケッチブック。
棚の上に大事に飾ってあるそれに視線をやりながら。

もちろん、すっごく嬉しいんだよ。ほんとは。

「だって、あれじゃあ、抽象的すぎて、わかんないよ〜。本物が見たくなったの。」

「ウチの絵、好きって言ってくれてたじゃん。」

「うん。好きだよ。でもちょっとやりすぎ。」

ごっちんと美貴ちゃんと三人で、ありえないって首をかしげたひとみちゃんの紫陽花。

なんだよー、いつものはリップサービスだったのかよ〜っていうから、ちょっとねって返事したら、
はあって首をうなだれる仕草が可愛くて。
困らせてみるのも、楽しみなの。


だってあれほど大人っぽかったあなたは急に年下の効力を遺憾なく発揮しだして。
甘えたり駄々をこねてみたり。
二人きりになったときには必ずベットに両手をついて頬をのせ、
まるでよしよしってしてもらうのを待っているかのように、あたしを見上げて話し掛ける。
215 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:23




昨日。私は保田さんに頼んでひとみちゃんをカーテンの外から呼んでもらった。

「たぶんあんたたちがこれから乗り越えて行かなきゃいけないところだから。
 早いうちがいいんじゃないかって思う。」

目を閉じたまま保田さんの手際のいい動きを待った。
覆われていた布が少しずつ軽くなっていくのに従って、瞼に一層力が入ってく。

名前をよばれて見上げたら、心を穏やかにするような、
思わずつられて微笑みたくなるような、いつも通りの笑顔のあなたがいて。

「うん。りかちゃん。がんばったね。」
ひとみちゃんの瞳の奥に一瞬の陰りでもないか、私は目をこらして見つめてみたけど、
「ん?」
笑ってくれた笑顔はあまりにきれいで優しくて・・・。
私はひとみちゃんにむかって笑いかけながら、流れる涙を止めることができなかった。


あなたがいてくれたこと、何に感謝したらいいのかな。
ひとみちゃんのやわらかな髪をなでながら、そう思う。
216 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:25

パパやママや、保田さんや。あれからみんなが話してくれたの。


階段の隅で毎夜、口を真一文字に結んで声をたてずに泣いてた姿や。

病室を出る私に、これ、ウチのお守りだからって、一瞬だけ手のひらにのせられた、深緑の石。
それを両手に挟んで、ただひたすら祈り続けてくれたというひとみちゃんのこと。

ふわふわと居心地の良い、浮かぶような意識の中で、何度かこのまま眠りに任せたいって思った。
そのたびに手のひらが燃えるように熱くなったって、保田さんに言ったら、
私はもっといろんなこと、見てきたわよって背中を撫でてくれた。
信じられないようなことなんて、ここにはたくさんあると思うって。

217 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:28
5日目の朝。

ひとみちゃんが震えながら落としてくれたキス。

パパもママも、柴ちゃんも、それからサッカー部のメンバーも全員がガラス越しに見守るなかで、
照れ屋なあなたがかまわずにそっと触れた瞬間は
思い出すだけで目が潤んでくるよって、美貴ちゃんは言う。
218 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:29

私が想像しているよりはるかに深くて広い、私を思いやってくれる心。
目とか指とか唇で伝えてくれる以外に、直接の言葉として出てくることは少ないけれど。
その分まわりの人たちがちゃんと話してくれる。
どれだけ強い想いに守られ、包まれていたか。

ありがとうって言うと、ちょっと口をへの字にして怒っちゃうから。
そのあと瞬きをさせない瞳にも気がついてしまったから。
私の中にじわじわと広がってく気持を
心のすべてをかけて伝えていけたらいいなって思う。
219 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:31




ゆるいウエーブのかかったやわらかな髪をなでると、気持よさそうに目を瞑ってしまう。

一人だけ今にも眠りに落ちてしまいそうなひとみちゃんが寂しくて、
なんてことのない話題を振ってみた。
くぐもった甘い声や、やわらかい相槌。どんどんとゆったりとなっていく言葉。
もっと聞いていたくて、意地悪して次々と話し掛けてはみる。
まあ、頭をいとおしむように撫でてるこの手もいけないんだけどね。


一緒に眠っちゃおうかな。
私の隣で眠ってしまってくれるほどもう安心してくれたんだもん。
こういう、ゆったりとした時間の流れがなんかしあわせだなって思う。

寝ぼけながらあなたがさっき言ってた時間のことを思い出して、
携帯のアラームをあわせてから目を閉じた。




220 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:32




両肩をやさしくゆすってひとみちゃんを起こすと、
とろんとした目でこちらを見るのがたまらなく可愛くて思わず笑みをこぼした。
彼女はてへへって笑って、もう一度私の手のひらにすりすりと自分の頬を寄せてから、
一瞬で余所行きの顔を作り出した。

今日は室内練習だけのはずだから、きっと5時前にはぞろぞろといつものメンバーが
入れ替わり立ち代りでやってくる。
冷蔵庫の中を整理しないと入りきらないほど、あちこちからおいしいおみやげを抱えて。

「こんなに押しかけてくるのは個室の間だけにしなさいよ!!」
そういう保田さんも、ごっちんに渡される差し入れの誘惑には負けてしまう。
221 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:35

手術前には一度もこなかったメンバーの思いやり。
できるだけ濃密な時間を過ごさせてくれようとした、みんな。
私がわがままをぶつけたりできるように、精一杯壁になって支えてくれたひとみちゃん。

もう一度、勉強しなおしてみようと思った。
リハビリを終え、練習に復帰するひとみちゃんが、ここにこれない時間ができるから。
ひとみちゃんが最高っていう仲間のいる場所を、一緒に分かち合えれたらって思ってる。
今言い出したら、きっと泣いておろおろしそうだから、しばらくは黙ってるつもりだけどね。

222 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:36






それにしても毎日増えていくこの人たちは一体何?
高等部の時の後輩とか。
「ようやく解禁になりましたもんで。」
って。鮎じゃないんだから。

ひとみちゃんの日記に書かれていた私のことを読んでいた後輩たちが
まるで動物園の一般公開のようにぞろぞろと押しかけてくる。
保田さんも毎日キレるのに疲れ果てて、こめかみをマッサージしていることが多くなった。

でも。
どうも、ひとみちゃんが呼んでるでしょ?時間指定までしちゃって。
次々に持ってきてくれる花束とか、いろんな地方の訛り豊かな後輩たちが
私に向かって可愛いだの、なんだの言ってくれて、それに曖昧な笑顔で対応する私を
ニヤニヤしながら見ているなんて。

夕食の配膳の音がしだして、すべてをお見送りしてからまた
甘えたように笑うひとみちゃんに。
223 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:38
「もう。恥ずかしいじゃない。みんなにあんな風に言われて。」

「いいじゃん。ほら、脚色してるってとこもあるしさ。」
「脚色なの??」

「や・・そういうわけでもないっつうか・・。」
「もう。」

「あれ?でもずるいよ。ウチの気持は全部残ってるのに、りかちゃんのなんて 聞いたことないし。」
「言わせないだけじゃない!」

「面と向かってっていうのは、照れますねえ。」
「あの書き方のほうがよっぽど照れます。しかもなんで連れてくるのよ!!」

「ほら。見せたいっていうかさあ。そんなの、ない?って、やっぱずるいよ。
 なんにも残ってないっていうのは。」
「私が送ったメール、いっぱいあるでしょ?」

「だって、あれはその、あれだ。まだ気持とか伝える前だし。ちっとも甘くないじゃん。」
「それはそうだけど・・。」

「甘いほうがいいの?」
「そりゃあ甘いほうがいいですねえ。」

「じゃあ、ひとみちゃん・・・あーーー」
「あ〜〜!!それはやめて!!」

最近こんなひとみちゃんがかわいくて仕方ないんだけどね。
私の指を握ったまんま耳に手をあててるとことか。
224 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:40

「じゃあさ、前に約束したじゃん。りかちゃんが来年、管理人してよ。」
「ひとみちゃんのサイト?」

「うん。一緒に散歩でもしながら写真とかとって。」
「うん。」

「たっぷり脚色してもらって。」
「うん?」
225 名前:BL 9 投稿日:2005/04/26(火) 01:42
うん。仕方ない。
約束してたもんね。



蕾の綻びはじめから、深緑に変わって、また新しい春を生み出すまで。
たくさんの季節を探して一緒に歩いていこう。

きっと配色が、とかアングルがとかブツブツ言って、
結局はあなたが仕上げることになりそうだけど。


この深い想いに少しでも近づけるような言葉探しをしながら、綴っていこうと思う。
あなたに任された、来年の桜の管理人。





   HP   Blooming
              〜花の盛りの〜





      


226 名前: Blooming 〜 投稿日:2005/04/26(火) 01:43


227 名前: Blooming 投稿日:2005/04/26(火) 01:43
以上です。
228 名前:ひすい 投稿日:2005/04/26(火) 08:14
作者様お疲れ様でした(つДT)
梨華ちゃん○○(ネタバレ規制中)たよ!
よっちゃん頑張ったよ!!

リアルでも、もっといっぱいイチャこいてくださいですよ!
あぁ。。いいなぁ。やっぱ、いしよしですよね!(*´∀`*)
次の作品とか期待していいでしょうか?(・∀・)ニヤニヤ
229 名前:A−203 投稿日:2005/04/26(火) 11:24
更新&完結お疲れ様です。
ほんわか暖かい気持ちになれました。ありがとうw
230 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/27(水) 20:01
完結おつかれさまです。
幸せな気持ちになりました。
またお待ちしております。
231 名前:咲太 投稿日:2005/04/29(金) 11:20


232 名前:咲太 投稿日:2005/04/29(金) 11:33
>228 ひすいさま

どうもありがとうございます。
ネタバレにまでお気遣いいただきまして・・・。
リアルもなかなかいしよしが豊富でw
ほんとにいしよしオンリーですが、
これからも読んでいただけるとありがたいです。

>229 A-203さま

ほんとに最初から最後までどうもありがとうございました。
暖かい気持なんて、嬉しいです。
感謝をこめて最後に贈り物といいますか・・・番外。
別名「チャット物語」ですのでw

>230 名無飼育さん
どうもありがとうございます。
幸せな気分になっていただけたなら、
こちらもこれ以上の幸せはないですw


冒頭にも書きましたが、このお話は
私が敬愛する方々のご協力をいただきまして
作成させていただきました。
私の未熟さゆえに表現できなかった部分が多々でき
地団駄を踏む思いも残りますが・・・。

心からの感謝を申し上げます。
いつもありがとうごさいます。

それでは最後の最後に。
番外といいますか、読んでいただいた方に
感謝の気持を込めまして。
233 名前:Blooming〜 投稿日:2005/04/29(金) 11:33


234 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:34


235 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:36


BL10(番外)      APR 19, 2006





**********************************

H:(入室。) 22:07

H:まだか。 22:07

H:ちと飲み物探してくる。  22:10

H:ただいま。まだいないのか。 22:13

H:りかちゃん、おそいよ〜 22:14
 
H :はやくきてよ〜 22:14

H:り〜かちゃん 22:15

H:りかちんっ 22:16

H:RIKA カッケー! 22:17

H:お〜い! 22:17

H:りかちゃん、だいすきっ! 22:18

H:りかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかりかーーー 22:19

R:(入室) 22:19

H:りかちゃんっ! 22:19

H:? 22:20

H:りかちゃん? 22:21

R:ひとみちゃん、なにひとりで遊んでたの〜?w 22:22

H:あっ!読んでたんだな・・・ 22:23

R:だって、私の名前ばっかりなんだもん。気になるじゃない。 22:23

H:だって書きたかったんだもん。いいじゃん。それよりどうかした? 22:24

R:入ろうとしたらパソコンが固まっちゃって。焦っちゃった。 22:24

H:なかなか来ないから何かあったのかと思ったよ。 22:25

R:なかなかって言っても約束の時間よりまだ早いじゃない。w 22:26

H:そうだけどさ〜 22:26
236 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:37
R:ひとみちゃん。 22:26

H:なあに? 22:27

R:明日だね、やっと会えるんだね。 22:27

H:うん、やっとだね。長かったーーー! 22:28

H:あ、そうだ。今日さ買い物行けたから探したんだけど、やっぱりなかった。 22:29

R:もういいって言ったのに。 22:29

H:でもりかちゃん欲しいって前から言ってたじゃん。 22:30

R:いいの。ひとみちゃんが帰って来てくれるだけで。だから帰る日まで探したりしないで ね? 22:31

H:でもさ、空港ならあるかもしれない。 22:32

R:ダメッ!飛行機に乗り遅れたら大変だもん。ドキドキさせないで、お願いだから。 22:33

H:ごめん。 22:33

R:ううん、私こそごめんなさい。ひとみちゃんの好意なのに・・・でもね、本当にもういいから。 22:34

H:分かった。あのね、実は色違いだったらあったんだ。だから一応買っといた。黄色なんだけど・・・ 22:34

R:黄色でも何色でもいいよ!ありがとう、ひとみちゃん。 22:35

H:ホントに?ピンクじゃないけど。 22:35

R:ひとみちゃんから貰える物だったら、何でも嬉しいもん。これだって、ひとみちゃんに買ってもらおうなんて思ってなかったし。 22:36

H :じゃあさ、ピンクは今度一緒に探そうね。 22:37

R:うんっ!一緒に探すっ! 22:37
237 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:38
H:体の方大丈夫? 22:38

R:毎日聞いてるじゃない。w大丈夫だよ。 22:38

H:そっか、よかった。 22:39

R:ひとみちゃんは? 22:39

H:うちは元気モリモリだよ! 22:39

R:ケガもしてない? 22:40

H:してないよ。りかちゃんだって毎日聞いてるじゃん。w 22:41

R:ケガはいつだってしちゃうかもしれないでしょ!だから心配なの。 22:41

H:ありがとう。 22:41

R:ううん、私こそありがとう。 22:42

H:あー!早く会いてー! 22:42

R:早く会いたいよー! 22:43

H:会ったら抱きしめちゃおう! 22:43

R:それも毎日言ってるよ。w 22:43

H:会ったらキスしちゃおう! 22:44

R:もういいよ、分かってるから。w 22:44

H:会ったらしようね? 22:45

R:おバカ!毎日そんな事ばっかり言ってよく飽きないね? 22:45

H:飽きるとか飽きないの問題じゃないんだよ。 22:46

H:りかちゃんこそ、おバカさんなんだから。 22:46

R:あー!バカって言った人がバカなんだよー! 22:47

H:最初に言ったのりかちゃんじゃん。 22:48

R:いいよ、ひとみちゃんなんて〜 22:49
238 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:39
H:怒った? 22:50

R:こんな事で怒るわけないでしょ〜 22:50

H:知ってる。w明日だね。 22:51

R:うん、明日だね。迎えに行くからね。 22:51

H:いいよ、ホテルで待っててよ。 22:52

R:だって、早く会いたいんだもん。 22:52

H:うちもだけどさ、でも疲れちゃうよ。 22:52

R:1ヶ月前だって元気だったでしょ?もう本当に大丈夫なんだよ。 22:53

H:うん、それは分かってるけど・・・ 22:54

R:そうやって心配してくれてる人が、毎日、しよう?なんて言う?w 22:55

H:それとこれとは話が違うもん。wでも本当に大丈夫? 22:55

R:うん、大丈夫だよ。心配性なんだから。w 22:56

H:苦かったりしない? 22:56

R:本当に大丈夫だよ。だから心配しないで。 22:57

H:じゃあ会ったら、してもいい?w 22:57

R:おバカっ!結局、そっちの心配なんじゃないの?w 22:58
239 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:41
H:両方の心配かな?w会ったら、してもいい? 22:58

R:また言ってるし。w毎日、良いって言わせないでよ。 22:59

H:だってさ〜 23:00

R:ひとみちゃん、本当にしてくれる? 23:00

H:どうしたの急に。させてって言ってるじゃん。w 23:01

R:そんな事言ってても、あの時だって私からさ・・・23:01

H:なかなか出来なかったのは、やっぱり体の事が心配だったから。でも大丈夫って分かったじゃん。 23:02

R:うん、大丈夫だったね。w 23:02

H:だから、するよ。wさせてね。ww 23:03

R:うん、分かったから。もう言っちゃダメだよ。 23:03

H:もう言わないよ。これが最後!しようね?w 23:04

R:おバカっ!電話では、そんな事一言も言わないのに。 23:04

H:当たり前じゃん。毎日たった5分しか出来ないんだよ。こんな話してられないよ。 23:05

R:でも明日になればずっと話してられるもんね。早く明日にならないかな〜? 23:06

H:寝れば明日になるよ。w 23:06

R:そうやってイジワル言うと出ちゃうよ! 23:07
240 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:42
H:冗談だよ。最後のチャットだから楽しもうよ。w 23:07

R:そうだね、もうしないだろうしね。 23:08

H:あ、でもさ、話しづらい事はチャットでするのもいいんじゃない?w 23:09

R:話しづらい事って・・・。もういいよ、また話が戻るから。でもチャットがあって良かったね 23:10

H:そうだね。1ヶ月は長かったけど、おかげで色々話せたしね。 23:10

R:帰ったら少しは時間があるのかな? 23:11

H:うん、遠征も終わったら、また声が掛かるまでは大学の方に専念するよ。 23:11

H:帰ったら一緒に通えるね。でもうちの方が先輩だけどね〜 23:12

R:でも私の方がお姉さんなんだからね〜 23:12

H:たった3ヶ月じゃんかっ!うちだって20歳になったもん。 23:13

R:そうだね。明日、お祝いしようね。 23:13

H:してくれるの? 23:13

R:毎日、するって言ってるでしょ。w 23:14

H:うん、言ってくれてるね。プレゼントもよろしくね。w 23:14

R:また、話を戻そうとしてるんでしょ。本当に飽きないよね。wプレゼントはブレスレットですから! 23:15

H:まあいいや。帰ったら、好きにしちゃうから。w 23:15
241 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:43
R:ひとみちゃんのおバカ! 23:16

H:うちはおバカじゃないよ〜。あっ!そう言えば、おバカさんと一緒に講義受けてるの? 23:17

R:ひとみちゃんっ!美貴ちゃんをおバカさんなんて言っちゃダメだよ。 23:17

H:ミキティーをおバカって言わないで誰の事を言うんだよ。w 23:18

R:美貴ちゃんだって頑張ってるんだから、言っちゃダメ。 23:19

H:分かったよ、言わないよ。本人の前ではね。w でもミキティーが留年してくれたおかげで、うちも安心してるんだ。 りかちゃん、一人じゃないからさ。 23:20

R:そうだよ、美貴ちゃんがいてくれるおかげでどれだけ心強いか。 だから、おバカなんて言っちゃダメだよ。 23:21

H:うん、今日で最後にするよ。w りかちゃん、そろそろ寝なきゃいけないんじゃない? 23:21

R:今日はいいの。明日お休みだし。それに最後のチャットなんだから、ね? 23:22
242 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:44
H:だから最後じゃないって言ってるのに〜 23:22

R:その先言ったら出るからね! 23:23

H:冗談だよ。だから出ちゃダメだよ? 23:23

R:出るわけないでしょ。w 23:24

H:良かった。後、19時間だね。 23:24

R:うん、もうすぐだね。 23:25

H:会ったら抱きしめていい? 23:25

R:空港で? 23:25

H:ホテルでだよ。やっぱり迎えに来ちゃダメ。今夜、夜更かししちゃうんだから、そのままゆっくり寝てて。 23:26

R:目が覚めて、ひとみちゃんがいたらステキだね。w 23:26

H:りかちゃんが寝てたら、うちもそのままベッドに入るよ。w 23:27

R:起してよ。w 23:27
243 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:44
H:りかちゃんの寝顔も好きだから、どうしようかな〜 23:28

R:最初は私が眠ってるの嫌いだったよね。 23:28

H:うん、やっぱね・・・ 23:29

R:ごめんね、心配かけてばっかりで。出会ってから私は勇気をもらったけど、ひとみちゃんには心配ばかりかけちゃったもんね。 23:30

H:なんだよ、急に。 23:30

R:急なんかじゃないよ。いつも思ってた。ひとみちゃんには悪い事しちゃったな、って。
  普通さ、付き会ったら楽しい事ばっかりだと思うの。ケンカとかするだろうけど
  それもきっと楽しくなっちゃうんだろうな、って。 23:32

H:ちょっと、待ってよ。うちは楽しいよ。 23:32

R:今はそうだけど、最初の頃は手術の事とかで心配ばかりかけてたでしょ。 23:33

R:あの頃は私もひとみちゃんしかいなかったから、何も考えずに頼ってた。 23:33

H:うちだって頼ってもらって嬉しかったよ。 23:34

R:きっとこういう事って面と向うと泣いちゃって言えなくなるから、今言わせてくれる? 23:35

H:うん、いいよ。 23:35
244 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:45
R:あのね、元気になってあの頃の事を思い返すと凄く胸が苦しくなるの。心臓じゃないから心配しないでね。 23:37

R:もし自分が逆の立場だったらどうだったろうって。 23:38

R:ひとみちゃん、私の為に大好きだったベーグル食べなかったんだって?今も食べてないんでしょ? 23:39

H:美貴? 23:39

R:うん、聞いた。それまで毎日食べてたのに、私の心臓の話を聞いてから一切口にしてないって。 23:40

H:前にばあちゃんから聞いた事あったから。願掛けっていうの?あれ。まあそれをしたからって、 23:41

H:本当に願い通りにはなる訳もないんだろうけど、少しはうちも頑張らないとね。って、
  食べ物我慢したぐらいどってことないんだけどね。w 23:42

R:ベーグル大好きだったんでしょ? 23:42

H:ん?まあ、あの時は一番ね。でもりかちゃんに比べたら全然好きじゃないよ。w 23:43

R:ひとみちゃん、ありがとう。 23:43

H:うちこそ、ありがとうだから、もういいよ。 23:44

R:ううん、最後のチャットだから言わせて。 23:44

H:だから最後のチャットじゃないかもって言ってるのに。w 23:45

R:うん、きっとまたやると思うよ。私の方がやりたくなると思うから。 23:45

H:どうしたの? 23:46

R:チャットだとちゃんと言えるの、自分の気持ちを。 23:47

H:うちも言えるかも。w 23:47
245 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:45
R:ひとみちゃん、私の事を見守ってくれていて本当にどうもありがとう。 23:48

R:ひとみちゃんがいなかったら、私どうなってたか分からない。 23:48

H:りかちゃん、もういいよ。うち泣いちゃうよ。 23:49

R:泣いてもいいから、読んでて! 23:50

H:分かった・・・ 23:50

R:ひとみちゃんのおかげで生きてこれた。 23:51

R:ひとみちゃんのおかげで今があるの。 23:51

R:ひとみちゃんに出会えて本当によかった。 23:52

R:あの苦しい時に支えてくれて本当にありがとう。 23:53

R:ひとみちゃん? 23:54

R:え?もしかして独り言言っちゃった?ひとみちゃんっ! 23:55

H:いるよ・・・(T_T) 23:55

R:もしかして本当に泣いてたの? 23:56

H:ないてる・・・ 23:57
246 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:46
R:今は元気なんだから泣かないでよ。w 23:58

H:元気だから泣いちゃうんじゃないかっ! 23:59

R:なんで怒るのよ?w 00:00

H:りかちゃんが泣かせるからいけないんだっ! 00:00

R:勝手に泣いたくせに。w 00:01

H:うちも言いたい事はあるけど、会ってからにするよ。 00:01

R:今、言えばいいじゃない。w 00:02

H:きっと泣いて入力出来なくなるからやめとく。 00:03

R:私が? 00:03

H:ううん、うちが。絶対泣いちゃうもん。 00:04

R:じゃあ会った時に聞くね。 00:05

H:うん、そうして。 00:06

R:ちょっと残念だけどね。w 00:06

H:残念って。wじゃあ、一言だけ言うよ。 00:07

R:うん、どうぞ。w 00:07

H:りかちゃん、生きててくれてありがとう。 00:08

H:りかちゃん? 00:09

H:もしかして怒ってるの? 00:10
247 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:47
H:出ちゃった? 00:11

R:(T_T) 00:12

H:泣いてるの? 00:12

R:・・・ 00:13

H:なんでよ?一言だけじゃん。 00:13

R:バカ 00:14

H:バカって言う人がバカなんだよ? 00:14

R:ひとみちゃんのバカッ!でも・・・ 00:15

H:でも? 00:15

R:だ〜〜〜〜〜いすきっ! 00:15

H:うちだって、だ〜〜〜〜〜いすきだよ! 00:16

R:ひとみちゃん、お願いがあるんだけど・・・ 00:16

H:なあに? 00:17
248 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:48
R:明日、ホテルに一緒に泊まるでしょ? 00:17

H:うん、泊まるね。だからするんでしょ?w 00:18

R:おバカっ!きっとすると思うんだけど・・・次の日の朝にね・・・ 00:18

H:すると思うんじゃなくてするのに。w照れ屋さんなんだから〜 00:19

R:照れ屋は自分でしょ!面と向ったら真っ赤になるくせに! 00:19

H:それは色が白いから仕方ないじゃん。 00:20

R:どうせ、私は黒いですよ。子供の頃から病弱なのに黒かったです!って、
  そんな事言いたいんじゃないのに!ちょっと黙って聞きなさい! 00:21

H:チャットなんだから、黙ってますよ。wまさかりかちゃんって話しながらやってるの?w 00:22

R:真面目に聞いてくれないなら出るよ? 00:23

H:ウソです・・・次の日の朝にね、の続きどうぞ。 00:23

R:次の日の朝、私より先に起きてくれる? 00:24

H:うん、いいよ。うち朝は強いから時間言ってくれれば起きるよ。でも、なんで? 00:24


R:目が覚めたら、キスしてね。 00:25



                           
                         



****************************************




249 名前:BL10 (番外) 投稿日:2005/04/29(金) 11:48







250 名前:咲太 投稿日:2005/04/29(金) 11:49


251 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/04/29(金) 15:28
番外編更新お疲れさまです!もう良過ぎてニヤケ過ぎて涙でました
ふたりがあまりに可愛くていとおしくなります目じり下がりまくりです
おバカでちょっとエッチで甘甘ないしよしって無敵ですわ最高です
252 名前:ひすい 投稿日:2005/04/29(金) 16:22
あぁ・・・・。・゚・(ノД`)・゚・。 うえええん
幸せですねぇ。。。パソコン前で久々に泣いてしまいました。。。
作者さんありがとう!ありがとう!!
次回作とかとか、期待していいんでしょうか?
253 名前:1444読者 投稿日:2005/04/29(金) 19:55
完結おめでとうございます。
良かったホントに良かったです・゚・(ノД`)・゚・。
咲太さんのお書きになるいしよしが大好きです。
二人の間に流れる独特空気が好きなんです。

番外編も甘甘なのに涙がでるのはなんででしょうね・゚・(ノД`)・゚・。
番外編の締めの言葉がとてもいいなと思いました(*´∀`)ポワワ
次回作を期待しつつ失礼します
254 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/29(金) 20:09
番外編更新お疲れ様です。
チャットだけでこのとろけるような甘さを表現出来るなんて凄いです!!!
こういう形式って初めてじゃないですかね?番外編はとびっきりの甘さですね。
甘甘だったのに締めの言葉で涙が出ました。・゚・(ノД`)・゚・。

幸せな気持ちにしてくれてありがとう!!!
255 名前:パンナコッタ 投稿日:2005/04/29(金) 21:23
完結お疲れ様です。皆さんの言う通り最後の締めの言葉…ぐっときます。
鼻の奥がつーんとしました。こういう言い方をしたら失礼かもしれませんが
書き手が変わったって思うぐらい最後は甘かったですね。ひとみちゃんがエッチなんだけど暖い。
254さんが言われたようにチャットって初めてじゃないですか?メールはよくあるけど。
画期的な作品ですね。心の残る作品になりました。次回の更新も期待せずにはいられません!
256 名前:A−203 投稿日:2005/04/30(土) 11:57
遅れ馳せながらチャット物語すごく良かったです。
二人の絆も見え隠れして・・・最後の台詞に心を激しく掴まれました。
可愛らしい、こういう雰囲気良いですね。w
素晴らしい物語を読ませてもらってありがとうございます!
257 名前:咲太 投稿日:2005/05/02(月) 20:01


258 名前:咲太 投稿日:2005/05/02(月) 20:15
>251 名無し飼育さま

どうもありがとうございます。
いしよしは無敵ですよねw
自分が表現できてるかどうかははなはだ疑問ですが
喜んでいただけたら幸いです。

>252 ひすい さま

いつも本当にありがとうございます。
レスに励まされました・・・。
泣いていただけたなんて・・・こっちが泣きそうですw

>253 1444読者さま

いつも読んでいただいて本当にありがとうございます。
こんな自分の話が好きなんて言っていただいて、もうなんていったらいいか・・・。
駄文におつきあいいただいて恐縮です。いましばらくお目汚しを・・・。

>254 名無し飼育さま

チャットはよりリアルを求めて実はいろいろ試してみたのですが、
気に入っていただけたのなら、作者冥利というか・・。
最高の喜びです。
本当にありがとうございます。

>255 パンナコッタさま

締めの言葉を誉めていただき、恐縮です。。。
画期的なんてとんでもない・・・。
会話で雰囲気を読んでいただいて、
こちらこそ本当にありがとうございました。

>256 A−203さま

いつもいつも本当にありがとうございます。
支えていただいて完結に辿りつきました。
あたたかいお言葉がいつも胸に染み渡っています。



259 名前:咲太 投稿日:2005/05/02(月) 20:15

260 名前:咲太 投稿日:2005/05/02(月) 20:17
え〜、あんな内容のあとにこんな内容ですが、
某所でお約束したものをひとつ・・・。
ほんとにくだらない短編で恐縮です・・・。
しかもそのまんまの題でw
それでは・・。
261 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:17



『動物占い』


262 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:18



「愛したがりの愛されたがりって、さゆ、ぴったりやん!」

 
周りの人にかまってほしい、愛されたいという願望が強い人。そうされないとスネることも。
でも、自分から頼まなくても不思議と面倒をみてもらえます。
初対面の人に対しては警戒心が強いタイプ。でも、仲良くなると、うってかわったように
「ワガママな態度に、だって!すっごい!当たっとる!」

「わがままなんか言わないじゃない。」

「いいまくってるよ、毎日。コジカそのものじゃん。」
263 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:20
ハロモニの休憩時間。
ついつい、三人で大声でキャピキャピやってたら。
そういうことにはかなり敏感な先輩がニコニコしながら近づいてくる。

「なになに? うわ、懐かしいっっ!」
「さゆが持ってきたんです。」
「中学くらいだったかなあ、流行ったの。」
「あたしたちは、小3でしたよ。」

伸ばされた黒い手が一瞬止まりかけた。
264 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:32
「石川さん、何ですか?」
「虎、だった気がするよ。」

横から手を出してきたれいながページをめくると
いそいそと嬉しそうに後ろ側に回り込んで、私たちの肩に手を置いた。

女性ならアネゴ肌。グループや組織の中では、まとめるのがうまく面倒見のよい人です。
実力も認められているので、上に立ちやすいが
気がついたらいいように利用されていたり・・・・・・。やや器用貧乏な面があります。

「思い込みが激しく、常に『自分が正しい』」と思っています。
 
 また、一度正しいと思いこむと、ちょっとやそっとじゃ考えを変えません。
 間違いを指摘されると怒り出すことも・・・て、私って怒り出す?」

途中までニコニコ顔で読んでたのに
急になさけなさそうにれいなに向かって。

「いや、怒るとかいうことはないと思いますけど・・
 熱くなったりってとこじゃあ・・・」

「あ、それはあるなあ。」

「ですよね。」

石川さんのことはね。れいなが答えるのが一番無難だとおもうの。
265 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:34
「ねえ、よっちゃん。なんだっけ〜?」

「ゾウ」

さっきのメイクが気にいらないとかで、さらにアイラインを濃くしてる最中の吉澤さんに向かって。
部屋中に通る高い声で読み上げる先輩。


「どっしりと落ち着いた雰囲気を持っていて、威厳があります。
 
 一見恐そうな感じがしますが、見かけとは違って、実は心配性だったりします。
 
 打ち込むものがないと、パワーが出ないタイプ。
 だから、常に夢中になれるものを探しています。

 どんな環境の中でも合わせられる柔軟性の持ち主。
 頼まれると断れない、人の話を聞けない、だって〜!」

足をばたばたさせて喜びだした石川さんは、次の獲物を見つけて、
れいなから本まで取り上げちゃって。
266 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:36
「2.26・・・・コアラねえ。コアラ。
 
 集中力を持続させるためには、ボーっとして、休憩する時間がないとがんばれません。サボっているわけではなく、コアラにとって必要な時間なのです。
 
 とにかく楽しいことに目がないタイプ。ものごとの最終的な判断は、『楽しいかどうか』で決めることが多いようです。
 
 口八丁手八丁のコアラは、失敗したときの言い訳が大得意。スラスラとその場を取りつくろう言葉が出てくるので、聞いた相手はすっかりダマされるだって。
 
 すごい当たってるよ、なんか!!」


聞いてもいないのに読み上げられて苦笑いの藤本さん。

ね、今日は仕方ないってあきらめててください。

次は・・・とめくりはじめた手が急に止まった。


267 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:40

「相性??  虎とゾウ・・・40点・・・。」
「あ、石川さん、それ。50点満点ですから。」
「あ、なんだ。・・・コアラコアラ・・・30。」

一瞬緩んだ石川さんの顔。

「ごっちんは・・・たぬき。あ、なんかわかるかも。相性は・・・」

10。

あ、今すごい嬉しそうな顔したでしょ?
見逃しませんよ、さゆは。

「満点って・・・ライオンだ!
 まさか保田さんって・・・ん?80年だっけ・・・?・・・黒ヒョウ。
 ああっっ、岡ちゃん・・チーター。よし。」

すでに、みんなの性格なんてどうだっていいみたい。

辻ちゃんって87年?
独り言なのかわかんないくらいでぶつぶつ言いながら表を指でなぞってる石川さんに
新垣さんの一言。

「愛ちゃん、ライオンだよね?」

石川さんに背を向けたままびくっと肩をすくめてる高橋さん。


「だよね?」
268 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:47
シーンと静まった楽屋に、さっそうと響きわたる新垣さんの声。
どよんと黒いものをまとってしまった石川さんと、
そんな高橋さんを心配そうにちらちら見てる吉澤さん。

「あ、石川さん。これって反対側からの相性っていうのもあるんです、次のページに。」

抜群の私のフォローにすばやく次のページをめくった石川さんは
能面からまたいつものスマイル。
ね、エコモニはキュートな笑顔がポイントなんです。

「いや〜ん。虎からゾウは50点ですって〜!!
 コアラからは10・・たぬきも10・・・ライオンも10!」

さらに声を高くして。
固まったまんだった高橋さんも吉澤さんも、
心底ほっとした表情で、メイクの続きに入った模様。
269 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:59
「合計90なんて〜。やっぱ虎とゾウが最高ってことお?」
 
楽屋中に甲高い声が響いても、全員がニコニコしてスルー。

なんてったって、今日は卒業収録の日。
主役にいい気分でいてもらわなきゃ困るもの。


抜群の笑顔のまま、本を戻してくれて。

さゆ、これ、貸して〜ってピンクのボンボンのついたゴムをもって
愛しい人の前に駆け寄った石川さん。

ふたつ結びのほうがいいかなあ?アップのまんまでいい?

吉澤さんの目の前の鏡に向かって、あっちにしたりこっちにしたり。
ご機嫌な姿に吉澤さんも、いいんじゃないなんて言いながら眉を下げてる。

ね、今日はキショなんて言っちゃだめですよ。
ほら、あっちで藤本さんも血管浮き出しながらガマンしてることだし。

すっかりのアツアツムードに、やっと穏やかないつもの光景が戻った瞬間に。
あの人の無情にもさわやかな一言。

「でも虎って。キャメちゃんも、飯田さんも、安倍さんもですよね?
 あれ?そうですよねえ?前、喜んでましたよね?吉澤さん。」





  


おしまい。
270 名前:動物占い 投稿日:2005/05/02(月) 20:59



271 名前:咲太 投稿日:2005/05/02(月) 21:00
以上です。
272 名前:大の大人が名無しだなんて。。。 投稿日:2005/05/02(月) 21:24
なっちはライオンだったような気がする。

273 名前:咲太 投稿日:2005/05/02(月) 21:41
>272 大の大人が名無しだなんて さま

ご指摘ありがとうございます。さっそく調べなおしましたところ、
ご指摘どおり、なっちはライオンでした・・・。
娘さんたち全員、注意して調べたつもりだったのですが、本当に
申し訳ありません・・・。
え〜と、今出てる残りのメンバーについて改めて調べなおしましたが、
残りは大丈夫・・・のはず・・・。
どうぞ笑ってお許しくださいませ(ペコリ
274 名前:A−203 投稿日:2005/05/02(月) 22:12
更新お疲れ様です♪(修正も乙です)
個々のメンバーの様子が頭に浮かんできて面白かったです。w





275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/02(月) 22:39
あははー素直に面白い!
いつも素敵なお話ありがとうございます。
次作も期待して待ってます!
276 名前:咲太 投稿日:2005/05/05(木) 16:33


277 名前:咲太 投稿日:2005/05/05(木) 16:36
>274 A-203 さま

いつもありがとうございます。
修正大変失礼しましたw
娘さんたちって、けっこう動物、固まってるようです。

>275 名無し飼育さま

読んでいただいて、ありがとうございます。
面白いっていっていただけるのが何よりです。



時期も差し迫ってまいりましたが、とりあえず短編を・・・。
278 名前:咲太 投稿日:2005/05/05(木) 16:36


279 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:36


280 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:37

『GWの憂鬱』



すんごい楽しみにしてた映画も、あっけなく睡魔に負けた。

寝たら起こせって言ってあったから、
律儀な真琴に思いっきりガクガクやられてた気はすんだけど。


気がついたら椅子から半分落ちるように座っていて
背もたれからがっくり後ろに落ちてた首がけっこう痛い。


絶対どんな話だったか教えてねっていわれてたのに。

仕方ないから、いつもは買わないパンフを買って丸めた。
やっぱ『不幸』がなんちゃらって題が気になるところが梨華ちゃんらしい。

281 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:37

「愛ちゃんから聞いたケーキやさんでいいっすか?」

先週、帰りの飛行機の中で知らされたオフ。

結局、予定が埋まらず
今朝、梨華ちゃんちを追い出されてから手持ち無沙汰で呼び出したら、
ごきげんに釣られた一名。

「よしざーさん、行きましょう!」

寝違えたっぽい首をさする腕をつかまれ、真琴にだまって引きずられている。
282 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:37
せっかくのオフなのに。世間はGWなのに。

知ってる?梨華ちゃん。
GWってねえ、映画会社が名付けたんだから。
だから一本くらいは一緒に見にいかなきゃ、GWとは呼べないんだぞとかわけのわかんない理由をつけたり
最後はもう存分に駄々をこねまくったりしたんだけど。

ママが来てくれて衣替えすることになってるの。
ごめんね、ってきっぱり。

今朝も頬っぺたに軽いキス。
行ってらっしゃいって、早朝から追い帰されてしまった。
でも『マスク2』はとっておいてね、って。
283 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:38
いいじゃん、別に衣替えなんてさ。
来週になればたっぷり時間だってあるじゃん。

わざわざ外に行かなくっても。
家でごろごろ寝転んでビデオ見ながらでもよかったんだ。
途中でちょっとたんまとかって言って、またよっちゃんはって叱られたり。
映画そっちのけで濃密にいちゃいちしちゃったりしながらさ。
一緒にごはんでも作ったりして、まったり過ごそうって思ってたのに。
284 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:39




真琴の話に適当に相槌を打ちながら、
ストローの入っていた紙をしわしわにして毛虫とかってやってたら。

「吉澤さん、これ。」

真琴が店員さんが持ってきた紙袋をよこした。

「何、これ。」
「ここの、プリンが絶妙なんです。愛ちゃんが前に石川さんに話したら
 食べたい〜って言ってたから。持ってってあげてください。」

トイレかなんかに行ったのかなって気にもしなかったのに、
ずっしり重い袋を受け取って。

「あ、でも今日衣替えとかって・・・」
「いいじゃないですか。差し入れとかって持っていけば。」

なおも躊躇するあたしの側のテーブルの端においてあった携帯をとると
履歴を追って勝手に回しだした。

どっかで期待もあったから、こんなとこに置いてたんだけどさ。
手持ち無沙汰でそのまま窓の外を見下ろしてたら
真琴がちょっと唇をとがらせて。

「出ないっすよ。」
「出ない?」
「うん。」

真琴は自分の携帯からアドレスを探すと、またあたしの携帯を持って。

「自宅も、出ないですねえ。留守電にもならない。」

ん??

今日は絶対うちにいるって言ったくせに。

邪魔だといわんばかりに泊まりに行ってたあたしを追い出したくせに。

ママとお買い物とか行ったのかも。
まったく・・・。
285 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:39


「こんなに買ってどうすんだよお。」
「保冷材は入れてありますけどねえ。」

自分が払うって言った真琴をかわして、さっさとレジを済ませると。
むしゃくしゃする気持を払うようにいつものバッティングセンターへ向かった。

一体いくつ買ったんだ?
揺れないように移動するのってけっこうしんどい。

ママとおいしいもんでも食べに行ったんだろうから、どうでもいいやっとも思ったりもするんだけど。

おいしいってとろけそうな笑顔で言われんのが、たまんなく好きなんだから困ったもんで。

何層だかにわかれてる特製のやわらかプリンってやつを
きれいなまんま食べさせてあげたいなって。

結局いつになっても甘いんだよなあ、梨華ちゃんには。

286 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:40



「どこ行っちゃったんですかねえ。」
「知るか。」


5月とはいえ記録的な暑さ。

何度かけてもでない携帯にイライラもピークになって。
ポケットに強引に押し込んで、がんがんバットを振り回す。

「冷蔵庫に入れないとそろそろやばいですよねえ。鍵、持ってるんでしょ?」
「まあね。」
「行きましょう、タクシー、捕まえますよ。」
「いいって。今日は真琴とデートじゃん。」
「また今度付き合ってくださいよ。私はそのまんま愛ちゃんちに向かいますから。」
「あ、じゃあ、このプリン、高橋に持っていけよ。」
「私が石川さんに食べて欲しいんです。ね。」


287 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:41



288 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:41

タクシーから強引に袋を持って降ろされ、走り去る真琴を見送った。

マンションのエントランスで、手にもったパンフを紙袋に突っ込み、
キーホルダーをだしてロックをはずした。

まったく。せっかく真琴も気を効かせてくれたってのに、どこ行ってんだよ。
部屋の前でもう一度鍵。

あれ?手ごたえがない。

開いてる・・・?
289 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:42
「こんにちは〜。」

さすがに今日はだまって上がるわけにもいかず、恐る恐る声をかけると。

「あれ?」ってほっかむりに、マスク姿のあやしい人。
スカートに蛍光ピンクの靴下っていう、色気もくそもない姿で。

「いたの?」
「うん。衣替えしてるって言ったじゃない。」
「何回かけても電話でないし。・・・・・・・なんだ??これ・・・。」

部屋中に広がった衣装ケースと、山のように積まれた、洋服の海。

台所の戸棚は全部開きっぱなしだし、
ビデオは雪崩れおこしてるし。
290 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:42
「はじめたらあっちもこっちも気になって・・・。」
「お母さんは?」
「妹が急に体調悪くなっちゃって、来られなくって。」
「じゃあ、すぐにあたしをよべばいいじゃん。」
「あ、うん・・・だけど・・・」

まあ、それにしてもなんだ。
この人に任せてたら、貴重なオフをつぶしてもなお余りあるぞ。

速攻で箱を冷蔵庫に押し込んでから
散乱したビデオを寄せて、サッカー関係、娘関係の棚に並べはじめた。

上下とか、数字とかも順番じゃなきゃ落ち着かない。

すさまじい勢いで本とオーディオまわりを整理して、
なんとかできたスペースに、ソファーの上のワンピースの束を重ねたら。

案の定、子機と携帯が埋まっていた。
着信履歴12件。

「子機は使ったらすぐにホルダーにしまう。」

いつも言ってることでしょ?

「だってえ。」

もう。いいから。あとは洋服、手伝う?
291 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:43
「あ・・うん。でも、いいよ、こっちは。」
「遠慮しなくっていいって。ここの、たたむ? 捨てるのとかあったら、先に言ってよ。」
「・・・うん。」

なんかやけに歯切れが悪いけど。
ピンクが主流を占めるセーターとかパーカーをてきぱき畳む。

「トレーナーはどうする?」
「うんと・・・もう少しこっち側においといてくれる?」

あっちうろうろ、こっちうろうろであんまり役に立ってない梨華ちゃんをよそに、
手際よく種類別に重ね合わせ。
292 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:44
「今度はこれあければいい?」
「あ、そっちはもう・・・」

返事を待たずにダンボールの蓋をあけた瞬間。

「・・・・・これってさ、ハロモニで着てたやつだよね。」
「・・うん。」


293 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:44

一番上におかれた、小さな花柄のカットソー。
あたしが誉めたらすごく喜んでスタイリストさんに頼んで買い取らせてもらって。
なんで好きなのって聞くから、かがむと結構胸がって言ったら怒られたっけ。

初めてのミュージカルの練習の前に、一緒に買いにいったピンクのジャージ。
胸にM、袖にCa+って入ったラガーシャツ。
ごっちんと3人で買いに行って、コンサのリハによくおそろいで着てた黒いTシャツ。

たっぷりといろんな思い出が膨らんできて。
めくるたびに、いろんな光景がばんばん浮かんできて。
うわ、やばいよ・・・。




そのまま手が止まってしまった私をみて、梨華ちゃんが背中のほうから近づいてきた。

「だから、今日は出ててっていったのに・・・。」

目元が熱くなってきた。なんか最近、涙腺がゆるい。


294 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:48


移動車の中でのいつものどんちゃん騒ぎを
「静かにするー!」とかって、もっぱらリーダー口調でおさめてることが増えた。

ため息をついて、斜め後ろに座ってた梨華ちゃんの顔をみたら
こんな光景を愛おしむかのようにあったかい眼差しで見守ってて。
凛としたカオと、優しい微笑み。

そんな表情をした梨華ちゃんを見てたら余計に悲しくなって。
すっごい遠くに感じた。



あとちょっとなんて思い出したくもなかったから。
だから今日はいつも以上にぴったりくっついてたかったのに。


なのに。
295 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:49

「もう。ね、私がやるから。ちょっとお茶でもしよう。」
「さっき飲んだからいい。」
「紅茶、入れてあげる。」

くしゃくしゃってあたしの髪を撫でて、もう一度台所へ向かう梨華ちゃん。
なんか気持もすっかり萎えきってしまって、ソファーの上で胡座をくんだまま座り込んでる自分。

「なんで内緒でこんなこと、今やるんだよお。」
「だって、今やっとかないと、私も・・・。」

ほら、新学期の前って、必ず机の引き出しとか整理しなさいってママに言われなかった?
前の学年で使った教科書とか、いらないものは捨てて、ノートも消しゴムも新しくして。

296 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:49
捨てるようなもんじゃないじゃん。
整理するようなもんでも。

クラス替えとかはやだったけどさ。
新しい文房具とか、教科書とか、きれいになるたびに、今度こそしっかりノートとるぞとか
改めて気合が入るんだよね。

でも、それとこれとは別じゃん。
なんでもかんでもしまってしまわないで。
そりゃあ、娘って書いたTシャツとかは着る機会ないかもしんないけど、でも・・・・。
297 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:50



「あったかいのがいい?冷たいの?」
ムスッてしてたら。
「じゃあ、冷たいの、ね。」


ちゃんと2個のポットをあたためて
葉を十分にひらかせてから茶漉しでもう片方のポットに移して。
最後の一滴のゴールデンドロップまで振り注ぐ、自慢の入れ方らしい。

こういうときだけの特別なアイスアップルティはカランって涼しい音をたてながら、
りんごの甘酸っぱい香りを漂わせていた。
298 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:58
「おいし。」

ごくごくと喉をならすあたしをうれしそうに見守る笑顔に癒されたけど
どこか拗ねたままのあたしは軽く憎まれ口をたたく。

目の前の梨華ちゃんのコップにはもやもやと琥珀色の線がうずまいていて。
大人っぽい視線と対照的なオコサマ味覚が梨華ちゃんらしい。

「ガムシロ入れすぎんのは邪道だってば。絶対ストレートだって。」


梨華ちゃんは何も答えずにくすくすって笑ったまま、あたしの隣に移動して。
手を伸ばしてグラスを寄せ、うれしそうに甘い紅茶を含む。
またなんか企まれてるってのはわかったけど、その手にはのるもんか。
肝心なこと、聞いてないもん。
299 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:59
「ねえ。あれ、捨てるの?」
「まさか。大事な宝物だし。思い出のつまったものだから全部とっておくけど、
 ちゃんと整理して実家に持っていってもらおうと思って。」
「梨華ちゃんは平気だってことなんだね。」


おいてかれるほうが辛いっていうじゃん。
遠距離恋愛とかってしたことないからわかんないけど、
見送るほうが辛いって。


昨日も明日も。もう既に梨華ちゃんのいない収録は始まって。
まだ卒業なんてしてないのに、もう台本にも見慣れた名前がのってない。
雑誌の集合写真のたんびに上のほうから覗き込むようにして位置を確認してた姿がない。
そんなんがウチらはもう始まってて。


みんなや、真琴が心配してくれるあたし。
知らないのは多分、梨華ちゃんだけ。

300 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 16:59
「もう・・・・バカ。」

立ち上がると、冷蔵庫から白い箱を取り出して、
テーブルの真ん中に置いて、さっきと同じように隣にぴったり座った。

「甘いもの、食べると落ち着くよ。」
「そんなの、梨華ちゃんだけだよ。」

目の前に置かれたプリンを、払うように梨華ちゃんの前に戻す。

「あたしのほうがよっぽど不安なのになあ・・・。」

ちょっと眉を下げて困ったようなため息をついた。
301 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 17:00
「なんでよ?」
「だって・・・あたしが見てないとこに一人でひとみちゃんを残してくんだよ。
 今度の子だって、よっちゃんのファンだって言うし。」
「あんた、12だよ?」
「分かってるけど。同い年なんてやばいくらいみんなライバルだし。」
「あのねえ・・・。最近のウチ、みてて、わかんないかねえ?」
「それはわかるけどお・・・。」

梨華ちゃんは一瞬口をへの字に結んで、手にもったままのプリンを、またテーブルに戻した。

どこをみてヤキモチなんて妬いてる?
最近、やばいくらい梨華ちゃん一色じゃん。
気付けば仕事中でも見つめちゃってるじゃん。
302 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 17:02
「終わってから言おうって思ってたのに・・・あっちの部屋のクローゼット、空けたの。」
「だって、今まであたしが何回言っても・・」

いつもそれだけはケジメがないって。
どんなにお願いしても聞き入れてくれなかった境界線。
スケジュールの合間をみつけては、通ってきてたのに。

「ママも、もういいって言ってくれてるし。」
「お母さんにも聞いたの?」
「うん。もうお互い20歳になるんだから、いいでしょって。今日も手伝ってくれる予定だったの。
 あんたの部屋はだらしないから、ちゃんと片付けしないとひとみちゃんに越してきてもらえないわよって。」
「いいの?
「ひとみちゃんこそ、いいの?」
「そんなん、決まってるって。」
303 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 17:03

「じゃあ・・・あさって。一緒におうちに帰ろう?」

梨華ちゃんの小さなつぶやきが、あたしの心にも嬉しく広がっていく。

おいてかれてるなんて拗ねてたあたしと同じく。
ぐんと大人っぽくなった笑顔の陰で、こんなGWの計画をきっとずっと考えてた梨華ちゃんも十分、コドモ。

花束を抱えた車の横には当然乗り込むつもりだったよ。
でも付いてくんじゃなくって、一緒に帰るって。
そのちょっとの差が梨華ちゃんにとってもあたしにとっても
思いがけずおっきな拠り所になっちゃうらしい。

あさってを笑顔で迎えるための。
これからのあたしたちのための。


304 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 17:07
うれしそうにあたしを見上げる視線は、出会ったときとかわんない。

うっとりするほどきれいになって、
やきもきするほど魅力的になっていっても

あたしを頼りきってくれてるようなこの瞳が、大好きなんだって思う。



さらうように唇だけ寄せて、チュッと音をたててキスしたら
少しだけ驚いてにっこり微笑んだ。

わざとそのまま待っていると、思い出したようにくすっと笑って。
首に手を伸ばしてきてそっとあたしを引き寄せ
たっぷりとあたしのより甘いアップルティーの味を広めてくれる。
305 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 17:14
甘いアップルティーはキライだけど。
最高に好きなこの味は、梨華ちゃんも狙ってる反則技。

甘酸っぱい香りに酔いながら、うっとりとした瞳で梨華ちゃんを見つめて、
どんどん深いキスを止められない。


「全部片付けてからしよ。」
「全部片付けるよ、でも、終わってからね。」


もうってつぶやく口内の甘さをのこすところなく絡め取る。
そのままソファーに押し倒したら、足元に置かれた思い出の台本や雑誌の山ががらがらと崩れた。

306 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 17:15

「これからずっと一緒にいるのに、二つはいらないものだよね?
 それともいつかのために、とっておいたほうがいい?」



わかってるくせに冷静な口調でそんなことを聞いてくる唇に。
にっこり笑いかけて、自分のグラスを含むと、さわやかな酸味を氷ごと流し込んだ。








終わり
307 名前:GWの憂鬱 投稿日:2005/05/05(木) 17:15


308 名前:咲太 投稿日:2005/05/05(木) 17:15
以上です。
309 名前:咲太 投稿日:2005/05/05(木) 17:15


310 名前:酢めし 投稿日:2005/05/05(木) 17:31
更新お疲れ様です。

なんて素敵な休日なんでしょう。
ちょっと切なくなりつつも、ほのぼの感に癒されました。

(余談ですが、リアルタイムで読めたのでドキドキ感倍増でしたw)
311 名前:プリン 投稿日:2005/05/05(木) 20:00
更新お疲れ様です。
切ないけど程よい甘さで…w
自分は大好き系ですw
いよいよ卒業迫ってきましたね。自分は北海道から遠征ですw
卒業式見届けて来たいと思います(/Д\)
312 名前:A−203 投稿日:2005/05/05(木) 21:07
更新お疲れサマです。最後の甘い二人に癒される♪
もうすぐですね・・・。実感できないでいるのですが、号泣しそうな自分。w
(なかなか良い感じで登場した後輩のCPにニヤニヤしちゃいましたYO!)
313 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/06(金) 11:26
切ない時期なので、読んでいて癒されました。ありがとう。
314 名前:ひすい 投稿日:2005/05/06(金) 12:16
ハァ━━━━━━ *´Д` ━━━━━━ン!!!!
一言で表すとコレに尽きますよねw

信じられないなぁ、もう2日をきってて。
梨華ちゃんが娘。からいなくなるなんて・・・
(2日前に、フッと思い出して部屋で膝から崩れ落ちたなんてことは内緒ですよ!)
こんな二人の新生活があるなら、泣かなくてすむのになぁw
315 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/06(金) 15:47
マジ泣きしますた。・゚・(ノД`)・゚・。
明日もたぶん泣くのでしょう…。
316 名前:1444読者 投稿日:2005/05/07(土) 12:21
更新お疲れ様です
涙が止まりません・゚・(ノД`)・゚・。
たぶん今日も泣くと思います
よっすぃの気持ちも梨華ちゃんの気持ちも痛いくらいに伝わってきます
でも最後の部分は甘くて(*´∀`)ポワワ

私もいしよしの卒業式を見届けてきます。
次回も楽しみにしてます。
317 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/07(土) 20:14
読まないつもりだったのに来ちゃいました。
あー!良かったよー!
次回の更新を楽しみにしてますね。
318 名前:咲太 投稿日:2005/05/27(金) 22:48


319 名前:咲太 投稿日:2005/05/27(金) 22:49
>310 酢めしさま

リアルタイムで読んでいただいたなんてありがとうです。
こういう休日だったらと、祈るような思いで書いてましたw

>311 プリンさま

北海道から遠征お疲れ様でした。
本当はレスいただいた直後にお返事をしたかったくらいでしたがw

私も参戦させてもらいました。リアルのパワーに圧倒されました!

>312 A−203さま

いつも本当にありがとうございます。
後輩のカップルの使い方はAさまに匹敵するものはいないでしょうw

>313 名無し飼育さま

レスいただいて、本当にありがとうございます。
癒されるなんていっていただけると、作者冥利に尽きます・・・。
320 名前:咲太 投稿日:2005/05/27(金) 22:53
>314 ひすいさま

いつもありがとうごさいます。
私もしばらくは脱力していました・・・。
でもいしよしの絆は永遠なり、ということでw

>315 名無し飼育さま

レスありがとうございます。
号泣だったことと思います・・・。
大きな節目でしたよね・・・。まもなく1ヶ月かあ・・・。

>316 1444読者さま

いつも本当にありがとうございます。
1444読者さまも参戦なされたのですね。
最後の舞台一周はなんとも言葉にできない感動でした・・・。


>317 名無し読者さま

レスいただいてありがとうございます。
読んでいただいてよかった内容なら、嬉しいです。
次・・・と思いつつなかなかw





321 名前:咲太 投稿日:2005/05/27(金) 22:57
多くのかたに思いがけずレスをいただき、恐縮した日々を過ごしておりました。

卒業の節目は迎えましたが、やっぱりいしよしはいいなあと
あくまでいしよし一徹でw




あいかわらずの見切り発車ですが、
おつきあいいただければ幸いです。
322 名前:咲太 投稿日:2005/05/27(金) 22:58



323 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 22:58

『 夏待人 』
324 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 22:58


325 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 22:59



物心なんて一体いつくらいにつくもんなんだろう?


「じーたんじーたん」ってどこにいくにも付いてまわって、ほっぺたを膨れさせちゃった3歳の夏。

あたしを抱き上げようとして共倒れになったプールで。
「りーたんが・・・」って泣きべそをかいた4歳の頃。


りかちゃんって呼べるようになった5歳の夏は、ようやく背が並んで
花火を手に、逃げ回る梨華ちゃんを追い掛け回してた。

326 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:00

そして。



最後に会ったのは4年生の夏。

あたしは彼女の名前を呼べなくなった。

梨華ちゃんって名前が、なんかくすぐったかったんだよ。




*********************************
327 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:01


328 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:01


329 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:02

昨日、美貴と飲みすぎたせいで、目が腫れぼったい。

瞳なんて大きくったって小さくったって、どうでもいいことなんだけど。
ソファーに寝そべったまま、もう10分以上氷をあててる。


今日の占いコーナーが聞こえてきて、
タオルで目を押さえたまま、テレビに向かってリモコンを伸ばした。

連打したけど消えなくって、あわてて起き上がって主電源ごと落とす。


間に合ってほっとしてる自分に笑えた。
いつもだったらそんなの、笑って聞き流してるのに。

330 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:04




『・・・ひとみ?・・ひとみちゃん?』

また留守電に流れだした母の声は無視。


『ひとみ、ねえ、もう出た・・・?』

時差があるからあっちはもっと早朝のはず。なのに。



『あのね、ご祝儀袋のことなん・・』



「ああ、もう何?あとちょっとで出るんだけど。」

「ねえ、さっき中封筒に住所を書いとくって教えたっけ?筆じゃなくてボールペンでもいいか・・」

「そのくらい知ってるからいちいちいいよ。もう書いたし。」

「バックは黒いのが2種類あるけど、ちゃんと草履と刺繍が同じやつ・・」

「花火みたいにしゅっしゅってなってるやつのほうでしょ?
 もういいから、もっかい寝なよ。」
331 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:04
昨日、神戸から上京してきてる母の親友からの頼まれ物。

黒留袖の小物関係を、玄関先に全部忘れてきてしまうなんて
そそっかしいとこはあいかわらずらしい。


草履くらいわかるけどさ。
オビアゲとかオビジメとかダテジメとかハンエリとか。
耳慣れない単語のブツをすため、昨夜も電話片手に1時間も潰して。

おかげで昨夜は2軒目からの合流になっちゃって
すでに出来上がりかけてた美貴からかなり飲まされたんだから。
332 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:06


「なんか今日のよっちゃん、妙に機嫌よくない?」

「なんで?」

「いや、ピッチ早いし。朝、何時に出んの?」

「着付けが9時からって行ってたから、うち出んのは7時半くらいかな。」

「じゃ、早く帰んなきゃまずくない?」

「美貴が帰してくんないんじゃん。」

「だってこんなにいろいろ語るよっちゃん、めずらしいんだもん。
 こうやって美貴やいろんな子たちと遊ぶよっちゃんってのは、その圭ちゃんの影響が大きいわけだ〜。」
 
333 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:07
 
んと。それは正確には違うんだけどね。
まあ、今のあたしがあたしであるのは、圭ちゃんの言葉の責任ってのも多分にある。



そしてその圭ちゃんが明日の花嫁。
自分で頼んだくせに、珍しいって母から不振がられながら訪ねていくのも
圭ちゃんの相手を見てみたいという興味と。
それからもうひとつの本当の理由。


334 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:07


335 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:08


「ほんとに朝早くからごめんね〜。」


髪のアップだけ終わった状態のアンバランスさで、あたしにむかって微笑みかける。
あいかわず歳を感じさせない可愛さは、ウチの母さんとはエラい違いだよなあ。


正月に母の一時帰国にあわせて会いにきてくれたときには、ちょっと太ったなんて言ってたけど。
どこがって豪快に笑った母に、自分の先行きまで不安になったし。


「たぶんこれで全部だと思うんですけど・・・。」

「ありがとう、ちょっと着付けの人に見てもらってくるから、ここで待っててくれる?」


どっかで見たことのあるようなないような、黒留袖の集団が行き交う。
おばさんを待つフリをして美容室の奥をさりげなく覗いてみる。
336 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:09


・・・いない・・・?
・・・なんで・・・??



一番仲のいい従兄弟だよね。

一人っ子の圭ちゃんにとっては妹みたいなもんだって可愛がってのに。

337 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:10

「足りました・・?」

「うん、大丈夫、ほんとにありがと。ねえ、ひとみちゃん、圭も裕子もひとみちゃんに会いたがってるし、
 もし時間があるようならもう少し待っててくれる?
 着付け終わったらすぐ行くから、ロビーでコーヒーでも飲んでて。」


梨華ちゃんは??って、さくっと聞けちゃえばいいのに。



あっちがどう思ってるかはわかんないけど、一応唯一の幼馴染みたいなもの。
たった一言が相変わらず出ない。


「あ・・、母からお祝いとかも預かってるので、じゃあ、後で・・・。」


「もう。要らないって言ってあったのに・・・。って私が言うことじゃないか。
 ありがとう。じゃあ後でね。」

338 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:11


339 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:11

通されたのはロビーから丸見えの席だった。


6月の大安吉日っていうくらいだから、和洋さまざまに着凝らしている人たちの溜まり場。

あの頃の、圭ちゃんのイメージからするとジューンブライドなんてのにこだわるような人ではなかったのにな。



といっても福岡で会ったのっていつだっけ?

あたしが小4だったから、・・・圭ちゃんが中3?

340 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:13



父はけっこう優秀なサラリーマンだった。
日本各地どころか海外も含めてテコ入れ部隊というか。
成績を上げては次。


おかげで一人娘のあたしは毎年のように転々とさせられて。

今にして思えば各地で最初から人間関係を作らなきゃいけなかった母の、
せめてもの息抜きだったのかもしんない。




毎年。


終業式の日の午後には福岡のおばあちゃんち行きの新幹線に飛び乗るのが
あたしの夏の始まりだった。



341 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:15



幼稚園からのつきあいだった母たちは、お互い転勤族と結婚してしまって
自分たちのような幼馴染の関係を作ってやれないことを、かなり気にしてたらしい。


スタイにオムツ一枚の格好で、並んで転がされてた0歳の夏から
あたしたちは不思議なくらい、同じ夏を過ごしてきた。



既に家を引き払って市内のマンション暮らしだったうちのおばあちゃんちに比べて、

古い田舎の一軒屋のままの梨華ちゃんのおばあちゃんちは子供心にも心地良くて。


帰省した梨華ちゃんと、それから近所に住んでた、たくさんの従兄弟たちと
夏の間はあっちの孫のように、毎日せっせと通って遊ばせて貰ってた。

歳の離れた従兄弟たちにとって、梨華ちゃんは可愛い末っ子のようなもので。
その梨華ちゃんよりさらに小さいあたしも、一緒になって大事にしてもらった。

342 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:15
おばあちゃんの人柄のように、大らかで世話好きな、あったかい家族。

夕食もお風呂もごちそうになったけど。

さすがに毎日お泊りすることだけはうちの母に止められて、
従兄弟の圭ちゃんたちがうらやましいって泣きながら帰ってたっけ。



343 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:17






「ひとみ・・・?」





懐かしい声に思わず顔を上げる。


ええ〜っっっ??

厚化粧してるけど。金髪じゃないけど。眉あるけど。




「裕ちゃん?」


344 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:17

「よかった〜。おばさんに聞いたけど、わからんかったらどうしようかと思ってたんよ。」

「久しぶりです。」

「ほんまやなあ。まあ、瞳がでっかいのはかわらんけど、おっとこ前になったなあ。
 聞いてはいたんやけど。」

「おかげさまで。」

「ちゃうちゃう。うちのせいだけやないって。圭ちゃんの影響やろ?」


祐ちゃんは苦笑いしながら、目の前の席に座った。
きりっとした美人さんになって。まあ、前からきれいだったけど。

惜しむらくは妙齢っていうか。

345 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:18

「圭ちゃんもだけど。直接手を下さないだけで、裏で指示してたのは祐ちゃんって聞きましたよ。」

一人っ子同士の気安さからか、梨華ちゃんと連絡をとりあわなくなってからも。
圭ちゃんからはたまーに葉書とかきてた。


「あの写真、可愛いやろ?」

「可愛いですけど。今思えばいやらしいっすよね。」

「ちょうど思春期やったからなあ・・・。いろいろやってみたいお年頃やったんよ。」


祐ちゃんの思春期って中学だったっけ??
346 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:20



3歳のころかなあ。

覚えてるのか、それとも後になって写真を見すぎて記憶のつもりになってるのかわかんないけど。



いつもフリフリの格好が多かったけど、ふわふわにカールまでされた梨華ちゃんと。

もともとのショートカットに、どっから借りてきたのか、男の子用の七五三のスーツを着せられたあたし。
半ズボンにサスペンダー。上着はなしで、ちょっとネクタイを着崩してて。



腕を組んでたり、頬っぺたにキスされてたり。
3歳児にして腕枕なんてしちゃって、ベットの上で並んで寝せられた写真たち。


異性に興味を持ち始める小4くらいの圭ちゃんにさせられた記憶はあるんだけど。

あとにして思えば、細かい芸はすべてこの人の入れ知恵だったんだよね。
おそらく。


蝶よ花よと育てられてたわけじゃなかったけど。
あそこからあたしの人生の方向が決まったと思う。間違いなく。


347 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:23
「祐ちゃん、でも近寄れない時期もあったし。よく更正したよね。」

「うるさいわ。」

「でも圭ちゃんに越されちゃったんだね・・・」

「あれは妥協しすぎやの。見てみ?あとで。  あんなんでよければいっぱいおるで。」

「一応今日の主役だからさ・・・」

「優しいだけが取り得の大人しいやつやからなあ。もう尻にしかれてるんやで。」

「ご主人だけ、来月から中国って聞いたんだけど。」

「仕事、辞めるつもりが辞められなくなって、結婚しても圭ちゃんだけこっちのマンションに住むらしいわ。
 結婚する意味、ないやんなあ。そのくらいガツンといったる男やないと・・」




握りこぶしで力説する姿はやっぱり変わってない。
怒涛のようにしゃべりながら、途中で店員さんを捕まえて、コーヒーを急がせる姿も。


348 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:26
「せっかくやから、もっと話したいんやけど。もう帰るの?」

「はい。小物は宅急便で送り返してくれるって言ってたし。」

「もし何もなければ4時からここ貸切にして2次会やるんよ。っていっても
 学生の頃の友達ばっかやし、うちら親戚の若い子たちは隅っこで集まってると思うしな。」

「若い子って?」

「せからしいわ。圭ちゃんもさすがに式前は話せないからな。出てくれたら大喜びするで。
 そろそろ金屏風の前に行かんと・・・。一緒に行こか。

 あ・・ちょっと。もう、間に合わないからいいですわ。」


店員さんにさっくり告げると、私の分の伝票をさっさととって、ルームナンバーを記入してくれた。


「あの、いいですよ、自分で。」

「何言うてるん。圭ちゃんちのツケやし、大丈夫。 あの男な、ああ見えて小金ためてんやで。」


349 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:32


350 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:32
「もうしばらくしたら親戚も誰もおらんようになるから、控え室のほうで待ってたらええ」



強引に腕を組んで連れて行かれたロビーの、2階へ続く螺旋階段の下。




藤紫とピンク色の小花の散った、華やかな色彩の振袖と
アップにした後ろ髪にゴールドとピンクのビーズで作った髪飾りをつけた彼女が
あたしのほうをまっすぐに見つめていた。



あのとき思ってた可愛いっていう姿よりは。
さらに凛として美しく。


固まったままのあたしから向こうも視線をそらせずに、
ただ見詰め合ってしまっていた。

351 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:34


やばいくらい。

綺麗になってる・・・。


華、開いたっていうか・・・・・・




だんだんと唇が緩んでくるのをおさえられないまま・・・
笑顔を見せてあたしは彼女に近づく。


「梨華ちゃ・・」


「お久しぶりです。吉澤さん。」



呪縛がとけたあとに待っていたのは、梨華ちゃんの引きつった笑顔。
他人行儀に頭を下げてから、すぐに裕ちゃんへ視線をそらした。



「そろそろ始まるよ。行こう?」


352 名前:夏待人 投稿日:2005/05/27(金) 23:34


353 名前:咲太 投稿日:2005/05/27(金) 23:34

354 名前:咲太 投稿日:2005/05/27(金) 23:35
本日は以上です。
355 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/28(土) 01:54
お〜新作ですね!どう展開していくのか楽しみですw
356 名前:ひすい 投稿日:2005/05/28(土) 09:09
おぉぉ。(・∀・)いい感じですね。
(0´〜`)楽しみに待ってますYO!
357 名前:名無しのA 投稿日:2005/05/28(土) 11:27
新作だ〜、読めてめっちゃ嬉しいですo(^-^)o
なんだか今までと少し違う雰囲気ですね。続きまったりお待ちしています。
(でも最後の会話で、ちょっこす泣いちゃったヘタレです。w)
358 名前:プリン 投稿日:2005/05/28(土) 15:27
更新お疲れ様ですー。
新作キタ━━━\(T▽T)/━━━ !!!
めっちゃ面白いっす!
梨華ちゃんどーしたのかなあ…w
次回の更新も待ってまーす。
359 名前:咲太 投稿日:2005/06/04(土) 14:11


360 名前:咲太 投稿日:2005/06/04(土) 14:17
>355 名無し飼育さま

レスありがとうございます。
どういう展開になっていくのか自分でもわかりませんが・・・
お付き合いいただけたら幸いです。

>356 ひすいさま

いつもありがとうございます。
楽しんでいただけたらうれしいのですが・・。
頑張ります。


>名無しのAさま

いつもありがとうございます。
ちょっと違います〜?♪
なら嬉しいんですけど・・・。
ヘタレは私も同様ですのでw

>プリンさま

いつも読んでいただいてありがとうございます。
面白いと言っていただけるだけで、幸せになっちゃいます。
何とか次の更新を・・・。


それでは本日の更新をさせていただきます。
361 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:17


362 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:17

363 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:18

丸みをおびてふっくらと結わえた中心から、少し流れるように落ちた銀糸の帯。
翻ってきらきらと光を反射する様を、
あたしは黙ったまま立ちすくんで見送っていた。


螺旋状になった階段から、時折見える横顔は少し唇をかみしめているようで。


でも、少しつま先を内側に向けた足は、留まることはなく。
白い足袋をちらつかせながら一歩一歩進んでいく。





裕ちゃんはその背中に向かって、わからないようなくらい、小さなため息をついて。
あたしのほうを申し訳なさそうに振り向いた。


「ほら、行こ。」
包み込むように。やさしく。



裕ちゃんにむかって曖昧に微笑み返しながら
遠ざかっていく後姿をもう一度見上げた。

364 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:19



365 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:20


おばあちゃんのところに陰干ししてあった、裕ちゃんの振り袖を見た梨華ちゃんは
こんなのが着たいってそりゃあもう大騒ぎだった。


毎年おさがりを借りてばっかりだったから。

今年くらいは
一緒に浴衣を買いに連れて行ってあげましょうって。



「ひーちゃんは、色が白いから、絶対水色がいいと思うよ。」


いち早く、淡い桜色の浴衣を決めてしまった梨花ちゃんは
嬉しそうに行き来して、あたしに次々とあてては戻っていく。


その楽しそうな笑顔を見てたら、
ほんとは、いつも通り、甚平がいいんだと。
今年はTシャツでもいいって思ってたって。
言い出せなくなった。


梨華ちゃんの笑顔を一番あざやかにした柄をあたしは手にとって、
意外なくらい嬉しそうな母に差し出す。

366 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:21

ちょっとだけリップを塗ってお化粧をしてもらって。

「お人形みたいにきれい」
まわりの声がひそひそ聞こえてくる中を。


誇らしげにあたしの手をぎゅっと握り締めて、
小さなお祭りをぐいぐい歩いていく梨華ちゃん。

慣れない草履でその後姿を追い。


「ひーちゃん。」

「なに?」

「可愛いっ」


時々振り返っては、満面の笑みで何度も繰り返す。
367 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:22
照れくさくって。
ちょっとふてくされて。

だってね。ちょっと複雑だった。


こんなふうに手を引かれるより。


去年みたいに、今までみたいに。
小さい頃からずっとずっと期待されてたみたいに。


あたしが梨華ちゃんをひっぱっりたかったんだよ。

まだまだ小ちゃいあたしだったけど。
だぶん頼られたかったんだよ。
368 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:23

「来年も、再来年も、一緒に浴衣きて、お祭り行こうね。約束だよ。」


振り返った梨華ちゃんはそんなあたしに気付かず。

満足気に、横に並んで瞳を大きく見開き。
耳元でささやいて、頬を上気させ、うれしそうににっこり笑う。



その時から
あたしは梨華ちゃんの顔を、間近で見れなくなった。





夏の終わりの合図の地蔵祭り。

ふわふわにカールをかけてアップしていた髪に、
小さな二羽のウサギのついた簪がゆらゆらと揺れていた。


369 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:23


370 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:28
一度も振り返らずに、ずんずんと奥のソファーにたどり着いた梨華ちゃんを確認してから。
裕ちゃんに引っ張られおずおずと金屏風にまで進み寄る。 


にっこり微笑んでみたつもりが
片頬が引きつってしまい。

だけどあたしに気付いて、笑顔を見せてくれた圭ちゃんは
想像してた以上に楚々としてて、白無垢がとてもよく似合っていて。


「きれい・・・」

心からの言葉が漏れた。


「何言ってんのよ?」

ちょっと照れくさそうに言った口調は、なつかしい圭ちゃんそのまま。

立ち位置を離れてあたしの方に向かって歩き出そうとして、
式場の人にあわてて止められてるし。


隣に並ぶ人は、ほんとに大したことのない、普通の人だったけど。
そんな圭ちゃんをうれしそうに見守ってる瞳がおだやかで。
圭ちゃんはきっと幸せなんだろうなって、そのときにようやく、自然に笑うことが出来た。


「もちろん、一緒に飲んでいくわよね?」

ばっちりされたウインクが相変わらずで、少し怯む。
371 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:29
口々に圭ちゃんの名前を呼び合って
カメラを片手に近付いて来る女性の集団が近づいてきて

「じゃあ。」

口だけでそっと告げて、二人に向かって軽く頭を下げた。


「4時からやからね。」

階段のほうへ向かって歩き出したあたしの背中に
裕ちゃんのかなり大きな声がかかる。


一斉に後ろの声に集中した集団の気配を感じて、
もう一度裕ちゃんのほうを振り向いたら。




視界の端に、顔をゆがめて泣きそうな顔をしてあたしを見つめる彼女の姿が入った・・・。





372 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:30





なんだかなあ。
なにやってんだろ。

いつもだったらしない、マスカラも。
柄にもなくアイロンまで引っ張り出したシャツも。

自分の行動がおかしくなって。
なにかを期待してたことがむなしくなって。

ホテルのエントランスをくぐりぬけながら、携帯をつかむ。
373 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:31
「起きてた・・?」


長い呼び出し音で、向こうの状況くらいわかってはいたんだけど。
決まり悪くって一応ひと声。


「ん・・?よっちゃん・・?」

「そう。」

「よく起きれたね。・・・ったま、痛い・・。よっちゃん、平気?」

「うん。」

「・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・あんまり期待しすぎちゃだめだって、言ったじゃん。膨らみすぎだって。」

「・・・・」
374 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:32
「なんか言われたの?」

「ううん。」

「何にも?」

「挨拶された。」

「それだけ?」

「そう。」

「で、よっちゃんは何か話し掛けたの?」

「ううん。」

「全然?」

「うん・・・。」

「理由も聞かなかったの?」

「・・・・・」
375 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:35
「・・・・よっちゃんはね。優しいから、いつも相手にあわせてくれるよね。
 自分が何したいって言うより、して欲しいことを言ってくれたほうが楽だって。
 だから美貴と一緒にいると楽なんだって。」

「・・・うん。」

「いっぱい転校とかして、いろんなことあったって言ってて。
 近づきすぎないように、離れすぎないように、相手がよっちゃんにして欲しいっていうことを、
 たとえばふざけてキスとかだって、してって言ったらしてくれるけど。
 
 でも ほんとにキスを求めてるときには、絶対しない。」


だからあのとき、美貴にはしてくれなかったんだもんね。



「よっちゃんがね。今このまんま離れても、神戸まで追いかけていけるような性格だったら
 笑って、じゃあ、ぱーっと飲みに行く?って言えるんだけど。
 今離れたら、ぜったい一生聞けないよ。 だから、言うね。 戻れ。」
376 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:36




377 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:37



「遅いわ、まったく。」


大幅な遅刻。

のこのことまた来たって思われるのがヤで。

裕ちゃんに挨拶を返しながら、ちょっと周りを見渡したけど、
どうもこの辺には姿が見えない。
378 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:38
「遅すぎよ。」

大業なドレスをつまみ上げながら。
圭ちゃんは座ってる中心から、頭を下げつつ前を通り抜けてくる。

あたしを見て一瞬ニヤリとしたあと、

「裕ちゃんに聞いたわ。まあ、あの子もあの子なんだけどね。」

「えっっ? 圭ちゃん、なんか知ってるの??」

そういやさっき裕ちゃんもため息をついてた。


ねえ、梨華ちゃんがあたしを避けてる理由って、なんなわけ?
なんか悪いこと、した・・?


「まあ、ちょっとだけね。」

圭ちゃんは苦笑いしながら、裕ちゃんに目配せする。

「ちょっとって・・・」

「あの子も、話が要領を得なくってよくわかんないっていうのと。
 泣き虫で甘ったれなクセして、肝心なとこは強くて頼ってこないっていうか。
 だから本当の本当のことはわかんないんだけど・・・」

「だけど?」

「まあまあ、そんなに圭ちゃんにくってかからんと。
 戻ってきたってことは、任せてもいいのかもしれんしな。
 まあ、酔わなきゃ絶対話さない子なんで、あっちで先にたっぷり飲ましといたから。」
379 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:43
裕ちゃんたちが指差した先は、窓際の一番端のテーブル席。

たった一人で、前のめりになって倒れている梨華ちゃんには、
ご丁寧に汚れないようにバスタオルなんてかけてあって。


目の前に座って、しばし眠ったままの梨華ちゃんの顔をまじまじと見つめる。


これが最後になったら・・・どうしよう・・・?



声をかける勇気が出なくって、首をななめにかたむけたまま梨華ちゃんを眺めてたら。

突然肩をぶるんと震わせて、がばっと上体を起こし上げ、あたしの瞳を凝視した。


「り・・・梨華ちゃん・・・?」

「ひーちゃん・・・・・。」




380 名前:夏待人 投稿日:2005/06/04(土) 14:43


381 名前:咲太 投稿日:2005/06/04(土) 14:43
本日は以上です。
382 名前:咲太 投稿日:2005/06/04(土) 14:44


383 名前:プリン 投稿日:2005/06/04(土) 19:44
更新お疲れ様ですw
うわあああああああどーなるんだああああああw
ドキドキして寝れません〜w
次回の更新待ってます!
384 名前:名無しのA 投稿日:2005/06/04(土) 23:50
更新お疲れ様です。おぉ、ドキドキだぁ。
(親友&お姉さん二人に後押しされて頑張れよっちぃw)
次回更新をおとなしく待ってますw またり頑張ってくださいo(^-^)o
385 名前:1444読者 投稿日:2005/06/08(水) 08:11
新作キテタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!

更新お疲れ様です
つ、続きが気になる〜〜〜〜
個人的に圭ちゃんの綺麗な姿に(*´∀`)ポワワでしたw
次回も楽しみに待ってます
386 名前:ひすい 投稿日:2005/06/08(水) 16:03
ワーワーワー
気になる。。。(*´∀`)
ねーさん、さすがだよねーさんw

作者様、まったり頑張ってくださ〜い
387 名前:咲太 投稿日:2005/06/11(土) 08:03


388 名前:咲太 投稿日:2005/06/11(土) 08:03
>383 プリン様
いつもありがとうございます。
夜もなんて・・・そんな大層な話ではありませんので、
どうぞお気楽にw

>384 名無しのAさま

レスありがとうございます。
お姉さま二人、けっこう好きだったり。。。
頑張ります。

>385 1444読者
読んでいただいて、本当にありがとうございます。
圭ちゃんはどうも白無垢が似合うような気がしてますw

>386 ひすい様
いつも本当にありがとうございます。
こういう従兄弟は最強ですね(ニガワラ

それでは本日の更新に参ります。

389 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:03


390 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:04



「なんで、いるのよぅ・・・」

端正な顔がみるみるうちに崩れていく。
きれいに整った眉が一気に下がって。

口を思いっきりへの字にして、下唇がちょっとだけとんがり。。

まるで子供。思いっきり幼い梨華ちゃん。
アップにした髪も、ちょっと濃い目にしたメイクも不似合いなくらい。
391 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:05
「もう、ひーちゃんなんてダイッキライ。」

それだけ言うと、コテンって、目の前の机に片耳をつけるようにして倒れこんだ。


「たらしでエッチで・・・妊娠させちゃったり・・」

「はあっ?妊娠???」

思いっきり叫んじゃった。
横のテーブルにいた、お婿さんの会社関係とおぼしき集団が引きつった顔でこっち見てるし。

今なんて言った・・?前のほうは否定できない自分がいるわけだけど。
最後のセリフって一体・・・・
するならともかく、させるってどういうこと?


「ねえ?あたし、女だよ?」

「知ってる・・」

「なんであたしが、させちゃうわけ?」

「待て待て!梨華、それは違うって教えたやろ。」


こっちをニヤニヤしながら眺めてたお姉さま方が
血相を変えて走りこんできて。
久々にオタオタする裕ちゃん。
遅れて圭ちゃんも長いドレスの裾をぞろぞろ引きずりながら。


梨華ちゃんはちょっと顔を上げてちらっと裕ちゃんのほうをみて。
それからぷっくり膨れて、また同じようにテーブルに横向きに伏せた。
392 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:06
梨華ちゃんはちょっと顔を上げてちらっと裕ちゃんのほうをみて。
それからぷっくり膨れて、また同じようにテーブルに横向きに伏せた。

「背中に無数の傷があるって・・・。それがひーちゃんの勲章なんでしょ?」

「あれ・・?そっちも嘘やって言わなかたっけか・・?」

「知らないっっ。」




「ねえ、裕ちゃん、待って待って。あたしが妊娠させたって?」

「高校のときに、同じ寮の先輩を妊娠させて、退寮になったって・・」

小さい声がブツブツと斜め下から聞こえてくる。


はい?あたしの耳がおかしいの?
どういうこと?

「ねえ、梨華ちゃん。だからあたし女だよ?」

「わかってるよ。」

「どこをどう間違えたら、あたしが・・・?」
393 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:08
あたしだってうら若き乙女なわけで。
素面でそんな単語をぽんぽん言えるほど、大人じゃない。
ってさっき叫んじゃったけど。

梨華ちゃんはうつむいて閉じたままだった目をぱちっと見開き。

「・・・だって。そんな方法があるんだって、教えられたんだもん。裕ちゃんたちに。」

「そんなの・・・・ありえないでしょ?授業とかで習うでしょ?普通。」

「ちょうど転校とかで、ちゃんと習ったりしてないし・・そんなこと教えてくれる友達、いなかったし・・。」

「いないからって、信じてたの?」

待て待て。保健とかいう以前の問題で。
生物とかでだって習うじゃん。

この世の中でどういう原理で女性が女性を・・その・・・子供ができたりするわけ?

「世の中には、梨華が知らないだけで、いろんな方法があるって言われたんだもん。
 表だってみんなは言わないけど、陰ではみんな、知ってることなんやって。
 アルビノとか突然変異とか、8年間何にも食べないで空気だけで生きてる人とか、
 科学では解明できないいろんなことがいろいろあるし、秘密の方法もあるって。
 世間の大人に騙されるなって 裕ちゃんが・・・」

「裕ちゃん!!」

「いや、だから、言ったやん、あれは嘘やって。おととし。」

「・・・うん。聞いた。」

「おととしまで信じてたの??」
394 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:09
ありえないって。そんなの。
一体どういう育ち方をしてきたら、そういう。
よくいえば純粋培養というか。悪く言えば常識知らずというか。


「あの頃の梨華っていったら、新しいとこに馴染めんでいっつも小さい頃の写真ばっか見てなあ。
 言い寄ってくれる人も結構いたのに見向きもせんと。
 ひーちゃんだったらこうしただの、ああしただのってそればっかで。」

「そうそう。それで、ちょうど退寮事件を小耳に挟んだもんで裕ちゃんと二人で
 荒療治っていうか、ちょっとからかったっていうか。」

「最初は男前になってるから、けっこう遊び歩いてるんやろうなあとか、
 子供でも作ってるんやないって言ってたら、梨華が真顔になってほんとにって言い出して。」

「梨華の様子が面白かったから、どんどん話がエスカレートしちゃって。
 そのうち結構梨華もノリノリで、まったくしょうがないなあ、ひーちゃんなんて言い出したから、
 てっきりわかってるもんだとばっかり思ってたの。」

395 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:10

「・・・・面白がってたんでしょ?」

「まあ、それはそれで・・」

二人は顔を見合わせて、ニヤっと笑った。

「まさか高校生にもなってあんなんに騙されるとはおもってなかったからどんどん
 エスカレートしてってなあ。でもあんときも否定したんやで。すぐに。
 いっぱいいっぱいになって聞こえてなかったみたいやけど・・・。」

「あんときまで信じてたなんて、あたしたちもびっくりだったんよ。」
396 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:12

「それにな。」

だまって横向きで目を閉じている横を向いてる梨華ちゃんのほうをいとしそうに見てから
裕ちゃんは続けた。

「梨華は、ちょっと世間ずれしてるっていうか、夢見てるとこがあるからな。
 梨華のおもうひーちゃん像に合うやつなんて滅多におらんわけで。
 それを先に崩してやりたかったんよ。 
 思いのほか浸透しすぎてて、びっくりやったんやけどな。」

「じゃあ、梨華ちゃん、それで今日、口を聞いてくれなかったんですか・・?」

「それはないよ。多分。
 さすがにね、現実もわかる年頃だしそんなこと毎日引きずって生きてるわけないし。
 久々に飲んで、本人に会って、たまった鬱憤をぶつけたかっただけだと思う。
 梨華のほんとの気持はあたしたちにもわかんないんだ。

 あのときだって最初はびっくりしてたけど、しばらくしたら、まったくひーちゃんたらって、
 苦笑いしてたから、すっかり過去のことになってるってあたしたちも思ってた。
 だから安心してたっていうか・・・。あとになって信じてたって聞いてびっくりして、あわてて否定して。
 騙されたって一瞬膨れてたけど、そのうち大笑いしてたんだから。」
397 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:13


「ほら。こんなとこで寝てても、時間なくなるで。
 梨華が聞きたかったことはそんなんやないんやろ?」


いつのまにか規則正しい寝息をたてはじめた梨華ちゃんの肩をぽんぽんって叩くと、
あとは頼むなって、あたしに向かって声をかけて、元の集団の中に戻っていく。





梨華ちゃんがあたしに聞きたかったこと・・・?
たぶん、天国から地獄のようなすごいフリ幅であたしのこと捉えてるんだよね?
あたしのこと、やっぱりキライ?
それとも・・・。



398 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:13


399 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:20
 

「部屋まで行こう?」


思い切って立ち上がらせて、腕をつかむ。
とたん、ふらっと倒れ掛かり。
帯の後ろに手を回そうとしたあたしの手をさえぎって、一人でよろめきながら歩き出す。




エレベーターの中でも一言も口を聞かなかった梨華ちゃんは
到着と同時に突然口元を押さえてスタスタと走りだした。
一直線に部屋に入ってしまうと、パタンとドアが閉じられしまい。


え・・・・。
どうすんのよ・・。



帰るにも帰れず。
かといってチャイムも押せず。

なにもできなくて立ちすくす。
400 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:21



目の前のドアがカチャッと開いたのはかなりたってから。

壁にもたれかかって唖然として梨華ちゃんを見つめてたら、
一瞬口を結んでもう一度あたしを見て。

「・・・・どうぞ。」

梨華ちゃんは一番奥のテーブルのところまで進んで、

「もう・・・最低。」

悲しそうに眉を下げた。

「あたし・・?」

「ううん。私。」
401 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:23
「いっつも、いつまでたっても振り回されてる自分が一番ヤなの。
 ごめんね。 八つ当たりまでしちゃって・・・。」



そのまま黙ってる梨華ちゃんにあたしから話し掛ける。

「あのさ、さっきのやつだけど・・・。どんな風に聞いたかわかんないけど、
 途中までは本当だけど、そっから先は嘘だよ」

「・・・高校のときのこと・・?」

あの。興味本位で、高校の先輩に誘われてそういうことやっちゃったことは否定できないんだけど。

「その・・2、3回。」

こういうフォローもなんだかなと思うけど。
まあまあ好きだったから。
そのまあまあが問題といわれたらそこまでですが。

それを友達と携帯で話してたとこを、たまたま母が聞いてしまって。
もちろんそれなりに怒られはしたけど、寮を出たのは、偶然父の転勤が海外になってしまったから。

大学に入るまでは母があたしと日本に残って、一緒に暮らすっていうことになって
近所にマンションを借りて。

「だから退寮ってわけじゃないんだよ。」

「もう、どうでもいいよ、今さら。」


今さらって。それはそう。
どうだっていいよね。普通。
幼馴染の女の子が、あちこちで流してた醜聞を嘘でも耳にしてたわけで。

スキとかキライとかって次元を超えて、そんなの、気持悪いって思うよね。

402 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:24
「・・・もひとつ、聞いてもいい?」

「どうぞ。」

「あのね、キスしまくりっていうのは?」

「女子高っていろいろあって・・。ほら、友達とかる〜くっていうやつ?」

「そんなの、全然わかんない。」

「そっちは共学だったじゃん。あたしだって、いろいろ聞いてたよ。モテてたって。」

「モテてない。」

「待ち伏せされたりして、おばさん、心配してたって。毎日おじさん、迎えに行ってたんでしょ?」

「・・・・」

「電話とかもたくさんかかってきたってーー」

「でもキスなんてしたことないもん。」


それを言われるとなんともいえない。
403 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:25
なんかね。毎年転校とかしてると、つながりって薄くない?

絶対手紙書くからと泣いてくれた子たちが、5月を目処にだいたい音沙汰なしになってしまって。
遊びに行くからねって言ってきてくれたためしがない。

そのうちに。友達を作る手法だけうまくなっていって。
どうせちょっとの間だけなんだからって相手の求めるあたし像っていうのに
こっちが合わせるようになって。

かっこいいって言われればかっこいいセリフを言うし。
なんて言葉がほしいかっていうのを先回りして考えちゃう習性。

「転校ってけっこうイヤじゃなかった?そのたびに、自分じゃなくなってくっていうかさ。」

「それはなんとなくわかるけど・・・。」

「中学んときかな。なんか突然、自分がわかんなくなってさ。
 急に今まで知ってたおばさんとかおばあちゃんとかにも全然甘えられなくなったり
 なに話していいんだかわかんなくなったりして。 」
404 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:25
自分がやりたいこととか、ほんとは何を言いたいのか自分でもわかんなくなって。
もう転校しなくてもすむとこを選んだ。東京の全寮制の私立の高校。

でもやっぱり東京の子っていうのに対するコンプレックスがあったり。
中学校上がりの子たちも多い中、
自分の居場所を探すために、あたしがしてしまったことは相変わらずで。

買い物行こうっていわれたら喜んでお供し。
お弁当って作ってきてもらえば、笑顔で受け取って。

「それでみんなとキスしてたの?」

「マジなキスはしてないって。ほっぺたとか。」

「ほっぺだけ?」

「いや・・・口もたまにはあったけど。ありがとう、とか、おはよう、とか」


「私も転校ばっかだったけど、そんなこと、しなかったもん。」

そこを突かれるとグウの音も出ない。
405 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:27
「あ・・でも私の方が、転校の回数は少ないんだけど・・」

そこまで言って、梨華ちゃんはもう一度苦しそうに顔をゆがめた。

「大丈夫・・?着物、脱ぐ?」

「いい」

「・・・洗面所は・・?」

梨華ちゃんはぷるぷると首を横に振った。
あたしは立ち上がって冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出し、梨華ちゃんに渡す。
406 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:42

「ごめん」

「いいって。」

「そうじゃなくて・・・。私、いっつもばかみたいにひとみちゃんのこと王子様みたいに思ってたの。勝手に。
 お母さんが電話で話してるの聞くたんびに、すっごい苦しかった。
 でもどうせただの幼馴染だし、ひとみちゃんは私のことなんて、きっと思い出にしちゃってるんだろうなって割り切ってたの。ずっと。
 だから、今日もしかしたら、来てくれるかもしれないって思ったときに、
 笑顔で挨拶して、たくさん思い出話、しようって思って。
 なのに顔、見ちゃったら・・・ごめん。失礼なことばっか言ってごめん。
 もう、自分がイヤ・・・。」



「そんなことないって。あたしの中でも、なんつうか・・・梨華ちゃんのことが
 ずっと奥にあったっていうか・・・」

「嘘。」

「嘘じゃないって。」

梨華ちゃんは部屋の隅まで歩いていって、ちょうど腰の高さの出窓に軽くもたれかかった。
ペットボトルをきゅっと握り締めたまま、一度深く息を吐いて。
そこから真剣な眼差しであたしを見上げた。


「だって。ひとみちゃんはーーーー覚えてないでしょ?」

 
407 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:42


408 名前:夏待人 投稿日:2005/06/11(土) 08:42


409 名前:咲太 投稿日:2005/06/11(土) 08:43
本日は以上です。
410 名前:咲太 投稿日:2005/06/11(土) 08:55
申しわけありません・・・。
>392 2行、更新重なってしまいました・・・。
411 名前:A−203 投稿日:2005/06/11(土) 13:31
更新お疲れ様です。梨華ちゃん可愛いすぎです・・・w
いろいろと進展しながら謎な部分もあり、先が楽しみです。
まったりと続き待ってます♪
412 名前:名無しのLorR@携帯 投稿日:2005/06/11(土) 15:34
またいいところで切られたーーーっ!!
おねーさま方サイコー。
信じちゃう梨華ちゃんアイタタタ。
純粋というか素直というかアフォというかw
413 名前: 投稿日:2005/06/13(月) 10:18
完結まで読まないつもりでしたが来ちゃいました。あはっ!
早く帰って来て続きを・・・
いっぱい妄想が膨らんでる事を期待してます。
おバカな石川さん最高ですNE!
414 名前:咲太 投稿日:2005/06/22(水) 18:05


415 名前:咲太 投稿日:2005/06/22(水) 18:11
>411 A-203さま

いつもありがとうございます。
可愛いといっていただいてちょっと嬉しかったり・・・。
謎がどの程度のものかわかんないですが、続きの更新です。
って最終話なんですけど・・w

>名無しのLorR@携帯さま

携帯からありがとうございます。
いや、変なとこで切ってしまって恐縮です。。、
純粋で素直な、でもアフォって言っていただけるのは最大の誉め言葉です。

>Yさま

きていただいてありがとうございます。
おかげで本物を見て満足して帰ってきましたよw
完結ですのでどうかご安心を・・・!?


いつも拙い文章を読んでいただいてありがとうございます。
一気にラストまでおつきあいいただけたらと思います。

416 名前:咲太 投稿日:2005/06/22(水) 18:12


417 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:12

418 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:13







あの日。
たしか10年に一度の地蔵祭り大祭で、いつもよりたくさん並んだ出店。

女の子二人なんだから、絶対に日が暮れるまでには帰ってきなさい、
特に、ひとみ。梨華ちゃんを頼んだわよ、って言われて。

419 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:16
おばあちゃんとこは、あたしたちが住んでた東のほうよりも1時間くらい日が長くって。

毎日一緒にいても遊び足りないくらいのあたしたちにとっては
いつまでも暮れない一日っていうのは、子供心をくすぐるとっておきのことだったんだ。



人ごみの中、梨華ちゃんの揺れる簪を目印に追いながら、
あちこちの屋台をくぐりぬけ。

7時をとうに過ぎた時間になってぽつぽつと点灯しはじめた電球の灯りに気付いて、
そろそろ家に戻るつもりだった。

お母さんたちとみんなでそろって、大祭のときだけに打ちあがる花火を見に出直そうって。


420 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:21


「お姉ちゃんたち、やっていかない?」


毎年、梨華ちゃんの分もだって言い訳してたくさん金魚をとってしまって
母たちに、地元に帰る直前にとってきたってお世話もできないのにって叱られるのが恒例。


だから、今年はって、そこだけは素通りしてたその場所に最後の最後に偶然に。

あの子たちが通りかかったんだ。

5年生になった梨華ちゃんが通い出した、夏季教室の。

いつも朝から晩まで一緒だったのに、
「あたしも行く」って行ったら、来年からねって却下されて。
つまんなくて、お昼の時間になると必ずお迎えに走って。


背はあたしより低いくらいだったけど、なんか目が強い男の子。

一番最初に会ったときに。
思わず見返してしまったあたしを、あっちも睨みつけるように立ってた。

421 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:22

「いる?」

あいつはあたしの浴衣姿をちらっと見て、ちょっとおどろいたように笑って、
それからまっすぐ梨華ちゃん目の前に、黒いのとか、赤いのとか、いっぱい入った小さな袋を差した。

「いらない。」

「俺んち、まだいっぱいいるから。」

「いい。」



あたしは。何も言わずに梨華ちゃんの横をすぎて、財布から100円玉を取り出すと
そのまま水槽の前にしゃがんだ。


梨華ちゃんは小さな鈴の音をちりちり鳴らしながら、急いであたしの横にかけこんできて。

浴衣の裾を両手できれいにのばしてから、隣にちょこんと座りこんで、
あたしの横顔にうれしそうに笑いかけた。
422 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:23

「どれがいい?」

「んと、あれ」


指差した、赤と白がきれいに混じった、ちょっとかわいい金魚。


そんなの余裕。

見てろっていわんばかりにそいつの前で。

そっと紙を近づけてあと少しってなったときに。

「濡れちゃう。」


まくりあげた袂が腕をすべりおちて水に入りそうになって、
思わずあたしの袖に手を伸ばした梨華ちゃんを振り向いた瞬間に。


すくいあげた金魚が勢いよく、紙をつきやぶって、水面に吸い込まれていった。


423 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:24


お金なんてもっと入ってた。
欲しかったわけじゃない。
どうせ怒られたんだし。


でも。



顔がどんどん紅潮していくのがわかった。
恥ずかしくって、悔しくって。

座ったまま動けなかったあたしの手をひっぱったのは梨華ちゃんだった。
424 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:25


「行こう。」



ずんずん人ごみの中を進む。
ふてくされたように重い足取りのあたしを、かまわずぐいぐい引っ張って。
あたしの手を離さないよう、力いっぱい握りしめて。




「帰ろうよ。」

「もうすぐだから。」

「どこ・・・行くの?」

「花火。一緒に見よう。」

「だって、怒られちゃうよ。もう暗くなっちゃうし。」

「ひとつだけ。最初の一個だけ、一緒に見よう?」



もう既に陽は暮れはじめていた。

いつも真面目で。どっちかっていうと自由気ままなあたしをたしなめる立場の梨華ちゃんが。
425 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:26


あと10分。



あと5分。




すでに藍色になりかけた空の下。
家までの直線距離の小川の土手の上で。
あたしたちはだまったまま手を繋いでいた。






ドーン



空気がビリビリと細かく強く振動して
体の奥底までぎゅっと捉まれるように響く低い音。

まだ遠くの稜線にだけかすかに雲の影を映す夜空に、白い光が驚くほど大きな華を咲かせて。
一瞬だけ闇に消え、さらに鮮やかな弧を描いてすーっと流れ落ちた。


426 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:27




 いつか。一年で一番、日が長い日。一緒にいたいな、ひーちゃんと。



 だって・・それじゃ明るくって花火やってないよ?



 それでもいい。ずっとひーちゃんと一緒にいるの。だめ?




427 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:27


428 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:27


429 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:28


「そんなの、覚えてるよ。」


たぶん、梨華ちゃん以上に。




梨華ちゃんはあたしの言葉にささっと顔を見上げて、
ちょっとだけ照れくさそうに笑った。



それまではずっとずっと自然に隣にいれてたはずだから。
あたしたちの距離が変わったあの日のことでしょ?



430 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:29


「・・・じゃあ、もひとつだけ、聞いてもいい?」


小さく頷くと、梨華ちゃんは思い切るかのように
一旦軽く目を閉じてから、続けた。


「ずっと気になってたの・・・。あの日からひとみちゃん、急にあたしのこと・・。
 あの日まですごおく優しかったのに、突然ぶっきらぼうになって・・・」

「だからあれはさ・・・。」

「なに?」

「いたじゃん。いろいろ。まわりに。」

「まわり?」

「だから、もう簡単に言うと、ヤキモチというか・・・その、いろいろ・・」

「妬いてくれたの?」
431 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:30

まっすぐにこっちを見つめかえしてくる目をみないようにして、バックの夜景に視線を泳がせたあたしに、
梨華ちゃんはちょっと笑って近付いて来る。

「ほんとに?」

すごく嬉しそうに。



「ひとみちゃんと一緒にいたいっていったのに、返事もくれないし。花火ほんとにちょっとだけ見たら『帰ろう』って
 ダッシュで帰っちゃうし。」

「最初からちょっとだけ見てって約束だったじゃん。」

「どうせ怒られるんだから一緒だって思ったのに。」

昔っから生真面目なくせに、ひらきなおると妙なところで度胸があるというか。
そういえば二人で正座して怒られながら、一瞬の隙をついてあたしに笑ってみせたんだっけ。

432 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:34
「だけど。あのあとお風呂に入りなさいって言われても絶対きてくれなかったし。
 浴衣も汗でどろどろだったのに、いいって帰っちゃって。
 後になっていろいろ考えて。ひとみちゃんのこと、怒らせちゃったのかなって。」

「怒らせる?」

「うん。そう。浴衣も勝手に押し付けちゃったし、怒られるってわかってて花火にもつきあわせて。
 私がいつもふりまわしちゃったから・・・ってあの日のことだけじゃなくて、それまでもいろいろ
 ・・・だからひとみちゃん、それがイヤでーー」

「待って待って。誤解だって。お風呂は・・・ああもうっ!!」

なんか勝手に思考が進んじゃってるのも梨華ちゃんらしいけどさ。
ねえ、ほんとに覚えてないの?言わせるかなあ。
433 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:35
「お風呂は・・・何?」

「えっと・・・・。」


あたしはなんか小っ恥ずかしくって、梨華ちゃんから大きく視線をはずした。


「まあ、いっか。もう大人になったんだもんね。今だから言えちゃうけど。」

「なに?」

「あのね、あのあと、言われたじゃん。女の子はあんたも含めて
 いろいろ気をつけなきゃいけないって。最近の梨華ちゃんの体の変化がどうのって・・
 今日浴衣買ったときに、梨華ちゃんのママといっしょに買っといたからって言われて。
 そういうのに、一番敏感なときっていうか、恥ずかしいときっていうか。」

「何を?」

「だから。もうっ。その。上。」

「あ・・・それで・・・」

「そう。だからもう、見られるのなんかありえないって。急に」


「あたし、全然おぼえてない・・。なんかリボンとかが可愛いデザインだって嬉しかった記憶だけ・・。」


「だからそういうとこ、あたしのほうが、ちょっとだけませてたってことなんだよ。」

434 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:36
久々に思い出した。
甘酸っぱいというかほろ苦いというような遠いできごと。

一番敏感なお年頃に、一番触れてほしくなかった話題を平気でしてくれた母たちにも
すごく腹を立ててたんだ、あたしは。



今だったら平気で肩紐とかだって直せちゃえたりするし。
さりげなく人のを外す技術も持ち合わせてたりするんだけど。


不思議と梨華ちゃんの前では。
そんな話するだけで、火がつくように恥ずかしかった。
435 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:36



たぶん、あの日に。
あたしの中でいろんな感情が生まれた。
あまりに一気に起きすぎたから。


その気持を自分の中で処理できずに、
家に戻る日までできるだけ距離をおいて。
翌年から、バレー部に入ったことを理由に。あたしは一人で勝手にあの夏を終えてしまった。


436 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:37

「ごめん。だから、まったく梨華ちゃんのせいじゃないんだよ。」


掠れ気味に搾り出した声は、耳に届いていたのか。
いろんなことを思い起こすように黙ったまま瞳をふせた梨華ちゃんを
この距離のまんまで見つめることしかできなかった。




ねえ、これで伝わってるの?

梨華ちゃんが可愛過ぎて、
笑顔をまっすぐ見られなくなったって。


あの日、あたしはねってごまかさずに
はっきり言ってあげればいい?


もっと安心させてあげられるような、うまい言葉が溢れない。
かわききった喉も、固まったまま動かない腕も足も自分のものじゃないようで。


437 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:40





ビーーー



沈黙を破る、ホテルには不似合いな鈍いチャイム。

びくっとしてお互い瞳をあわせた。


「なに?」

「ママかな?」


そうだ。そうだ。なんか忘れてるって思った。
だよね。一緒の部屋なんだよ。そういえば。




ビーービーー


思わず背筋を伸ばして、梨華ちゃんの開くドアの先をみつめた。
438 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:41
「なんや、まだこんな格好で。」


って裕ちゃん?


「まさかまだ着物着てるとは思わんかったわ。ほんとに口ほどにも無いーー」


公言してないない!!


片手に持った大き目のバックをどんと床において、ずかずか部屋に入り込んでくる。
さっきまでの沈黙を、嘘のようにぶち壊す、強力なお姉さま。
439 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:42

「せっかくこんなシチュエーションなんだから『あ〜れ〜』とかやるほどの
 遊び心くらいないと。」

「へっっ?」

「初夜なんて明日からでも振替きくけど、
 こっちは今日逃したらとりかえしのつかんことになりそうやし。
 圭ちゃん呼ぼか?」

「もうっ!!裕ちゃん、何しにきたの??」

「ほら、あれ。おばさんから預かってきたんよ。まだしばらくカラオケかかりそうやからね。
 安心して続きをって言おうとおもったのに。まったく、梨華も梨華や」

「はいはい、ありがと。もういいから酔っ払いは寝て。」


ええか、梨華・・ずるずると梨華ちゃんに引きずられて、廊下へと遠のく声に
安心してたら。


「襦袢は、ええで〜!」


最後にばかでかい伝言。

なんじゃそりゃ。
440 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:43



しばらくたって戻ってきた梨華ちゃんは部屋へ帰るなり、カチャッと2重にロックをかけた。


え・・・?ってあの。
いきなりそれは。


「『あ〜れ〜』っていうの、やりたいの?」


真っ赤な顔でそんなこと言われたってさ。

いくらあたしでも。再会初日に。素面でそれは。

無理です、無理です。
思いっきり首を振ったあたしに梨華ちゃんはうつむいたまま。
441 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:44

「じゃあ、着替えるからあっちにいてくれる? ごはんでも食べに行こう。」



ごはん。そっかそっか、ごはん?

いや、たしかにおなかはすいてるけど。昼だって珈琲しか飲んでないことに今さら気付くけど。


その中間みたいなのはないわけ?
まさかごはんが梨華ちゃん・・なんてことはないよね。




洗面所のほうに退散しながら。
素直に『あ〜れ〜』をやっておけばよかったと、
激しく後悔。



くそっ。


でもさ、なんか言っていいのかな?


不思議と、あたしの中では気持は固まっちゃってるみたいなんだけど。
現在進行形で断言しちゃったら、引く?
引くよねえ。


10年のブランクがあるんだもんねえ。
順を追ってかなきゃ、信用しないよねえ。


あれっ?


携帯をひらいて思わずカレンダーをたしかめる。
そうだ・・・。


442 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:45

「いいよ。」



えっ?もういいの?


うっすら寄せた期待もむなしく、すっかり着替えを終えた梨華ちゃんが、
鏡を見ながら最後の簪をはずしている。

ベットに置かれた襦袢が目に痛い。あ〜あ・・・。せっかくの・・・


「ごめん、ひとみちゃん。ちょっとこれ、手伝ってもらっていい?」


髪にひっかかってしまった簪を片手でもったまま、梨華ちゃんはあたしを呼んだ。
触れてしまった手にどきどきしながら、ちょっと複雑に絡んでしまっていた細い茶色い髪の毛を丁寧に外す。
443 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:53
「まだ残ってる?」



髪の奥に入り込んだUピンを手探りで外す。
なんかこういうのってちょっと色っぽいかも・・・。

最後のだと思われるピンを外したら
あらわになっていた項に、はらりと髪が落ちた。

大きくウエーブのかかった髪がやけに艶かしくて。
すっごい、きれいで・・・。

思わず魅入ってしまったら、鏡越しにばっちり目があってしまった。



恥ずかしそうにうつむいて、照れて笑う笑顔があまりに可愛くって。その。

思わず後ろから封じ込めてしまった。




うわ、やっちゃった!!


444 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:55
バクバクする心臓の音が自分の耳で聞こえるようだったけど、
一度出しちゃった腕を今さらひっこめるのはみっともないし。

いやいや、何よりもったいない。



「あの、・・・約束。」

「や、約束?」


あたしはさっき、洗面所であれこれ考えた精一杯のセリフを口にする。



「だから。一番日の長い日に、一緒にいるってこと。今日だっけ?明日?
 それまでこっちにいてくれる?」

「何それ。」

「・・・夏至でしょ?今年ってどっちだっけ?わかんないけど両方一緒にいればいい?」

「ああ・・・・そっか。」

鏡に映る梨華ちゃんは、頬を染めたまま、コロコロと笑った。

え?違ったの? はずした・・・?


「ひとみちゃんと長く一緒にいたいってことだけだったの。
 一緒にいれるなら、昼でも夜でもどっちでもいいなあ。」

「だったら夜が長いほうが・・・」

思わず出てしまった言葉に一瞬の間があき。

「え〜っっ??」

って、今頃気付くんですか、梨華ちゃん。
そんな真っ赤になって照れられても、こっちもね。


「でも、ひとみちゃんがそんなことまで覚えててくれたなんて、うれしいな。」

梨華ちゃんの前で組んだあたしの指に、小さな手がそっと触れる。
445 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 18:57
「・・・いいの?」

「何が??」

「だってえ。私はどんなひとみちゃんでも好きでいられるって思うけど、
 今の私を好きになってもらえるか自信ないもん・・・」

「そんなことないって。」

「ある。」

「大丈夫。・・・でも・・その・・・なんちゃらかんちゃらって言葉とかはもうちょっと待ってくれる?」

「何よお。なんちゃらって。」

「だから、軽く口にしたくないの。それと、ちゃんと言いたい日があるから。」

「言いたい日?」

「そう。」

「いつ?」

「梨華ちゃんが思い出すまで内緒。」

「またそんなことばっかり〜!」
446 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 19:22

「でもそこまでは待てないから・・・」


あたしは思いっきり梨華ちゃんの腰を抱き寄せると、
後ろから頬っぺたにチュッとキスを落とした。

みるみると真っ赤になってく耳元に気付いてはっと上を見上げたら、
よっぽど真っ赤になってる自分が鏡にうつっている。

梨華ちゃんにそんなあたしが見えないように、頬に片手を添えて顔だけ自分の方をむかせ、
ほんの一瞬だけ唇をさらう。


そのまま梨華ちゃんを肩越しに後ろから包み込むように腕を回して、
首筋に顔を埋めて、両腕でぎゅーっと強く強く抱きしめていた。


梨華ちゃんからはあの頃とは違う、お化粧のような、
すごくいい香りがして、思わず大きく息を吸い。


ゆっくりとカウント。


・・・1,2,3,4,5、6,7,8,9,10秒。





「よしっ、ごはん、行こう!」

思い切るように、大きな声。







「よしっ、ごはん、行こう!」

真っ赤になって固まってしまっている梨華ちゃんの手をぐいっと引っ張ると、
照れくさい自分を隠すように、ずんずんホテルのドアをめざす。

もう片方の手であたふたとバッグをとろうとした梨華ちゃんに、最上級のカオでにっこりと笑いかけて、
あのころしてなかった指と指をからめた手繋ぎにかえたら
うっとりと嬉しそうにこっちを見上げて、微笑みかえしてくれた。

447 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 19:24
真っ赤になって固まってしまっている梨華ちゃんの手をぐいっと引っ張ると、
照れくさい自分を隠すように、ずんずんホテルのドアをめざす。



もう片方の手であたふたとバッグをとろうとした梨華ちゃんに、最上級のカオでにっこりと笑いかけて、
あのころしてなかった指と指をからめた手繋ぎにかえたら。

うっとりと嬉しそうにこっちを見上げて、微笑みかえしてくれた。


頬を染めたその笑顔は、今まで見た梨華ちゃんの笑顔の中でもたぶん最高のもので。
あたしはなんだかうれしくなって、一層指に力を込めた。
448 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 19:24


慌てなくったっていいような気がしてるんだ、梨華ちゃん。


これから重ねていく時間はたっぷりあるし。
ゆるぎない積み重ねがあるから、なんか自信も出てきてたりするよ、実は。

449 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 19:26


指折り数えて夏を待った、あの日がまた始まってる。

今年が10年目の大祭ってこと、梨華ちゃんがいつ気付くかな。






ほんの少し触れた艶やかな唇も、腕にしっかりと残ったやわらかい感触も抗えないほど魅力的だったけど、

梨華ちゃんの間違ったハンパな知識を、これから側でゆっくり解明してくってのも
ものすごい楽しみにしてるっていうのは・・内緒。















end



 
450 名前:夏待人 投稿日:2005/06/22(水) 19:27


451 名前:咲太 投稿日:2005/06/22(水) 19:27


452 名前:咲太 投稿日:2005/06/22(水) 19:27


453 名前:A−203 投稿日:2005/06/22(水) 20:37
更新&完結お疲れ様です♪
この感動を表現する言葉を持ち合わせていないのが、もどかしい…・・
作者様のお話、すっごい好きですよ♪(*´▽`)´〜`*)
454 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/22(水) 21:08
ぐはー
455 名前:咲太 投稿日:2005/06/22(水) 21:31
うわ・・・やってしまいました・・・。
>>446の下6行(セリフの部分から)あやまって
文章が残ったまま更新してしまってました・・。
ほんとに申し訳ないです・・・。脳内削除お願いいたします。
456 名前:プリン 投稿日:2005/06/23(木) 16:55
更新・完結お疲れ様でしたー!
かなりいい話でしたw好き系ですw
続編キボンヌって感じですw
457 名前: 投稿日:2005/06/23(木) 22:31
完結お疲れ様でした。
ステキなラストにぽわ〜んです。w
間違った知識を解明してあげる編?を期待して待ってます。w
もちろん続きはありますよね?w
そして新作もよろしくです!
458 名前:baka 投稿日:2005/07/01(金) 23:20
すごく、すごく良かったです。
子供の頃の可愛い二人が目に浮かびました。
459 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 14:46
完結お疲れさまでした。
石川さんも吉澤さんもやさしく爽やかに描かれていて…。
あと、「白無垢の圭ちゃん」のところもいいな、と思ってしまいましたw
460 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/12(火) 23:05
まってます。
461 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/23(土) 21:26
完結おつかれさまでした!!
一気に読ませていただいたのですが、とっても良かったです(*´Д`*)
新作期待しちゃいます〜
462 名前:咲太 投稿日:2005/08/25(木) 20:50
>453  A-203さま

いつもあたたかいお言葉、ありがとうございます。(涙)
好きなんて言っていただいてw(照れっ)
なんとか書き上げられてよかったです。

>454 名無し飼育さま

レスいただいて本当にありがとうございます。
読んでいただいたことが分かっただけで、嬉しくて励みになります。


>456 プリンさま

いつも本当にありがとうございます。
好き系なんて言っていただくと、なんだか肩の荷がおります。
続編・・・いやはや・・・w

>457  Yさま

いつもありがとうございます。
「間違った知識を解明してあげる編」には
Yさまのご協力が必要かとw

>458 bakaさま

ありがとうございます。
子供の二人がすごく書きたかったので、そう言っていただけて
とても嬉しいです。


>459 名無し飼育さま

レスいただいて、本当にありがとうございます。
爽やかだと思っていただけたら、この上なく嬉しかったり。
白無垢、似合いそうですよね、圭ちゃん。

>460
 
ありがとうございます。
こんな自分の拙い話を待っていただけて・・・
書き続けようかなって単純に思うバカものですw

>461 名無し飼育さま

レスいただいて本当にありがとうございます。
新作というには程遠いのですが・・。




463 名前:咲太 投稿日:2005/08/25(木) 21:02
気がつけば2ヶ月もたってしまいました。
生存報告がわりに一遍。

お付き合いいただければ幸いです。
464 名前:咲太 投稿日:2005/08/25(木) 21:02
  
465 名前:咲太 投稿日:2005/08/25(木) 21:02
  
466 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:04








467 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:05
 




「しばらく実家に帰らせていただきます。」



テーブルのど真ん中に置かれたメモ。
風貌に似合わない、少年っぽい文字は、
どう見たって間違いようがない、いつもの見慣れた字。 

468 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:06

まじですか。
ちょっと苦笑いなんてしながら。



膝にどっと流れた疲れに気付かないように蓋をして、
リビングを突き進んでドアを開け放つ。


ベットの横に盛られた、昨日の朝、たしかに見送った服。

脱ぎ捨てられた服の向こうに、
新幹線で買ったらしい、最近定番になった、笹かま。
 
どう見てもめちゃめちゃ慌てて出て行った模様。

469 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:07


『ただいま運転中のため、電話にでることができません。』


んなわけないじゃん。
電源切ってないだけましだけど。


470 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:08

「ごめん、寝てた?」
「いいえ、お風呂上がったとこです。どうかしました・・?」


仕方なく一番かけやすい相手から。


「いや、今日梨華ちゃんと話したかなって・・」

「ああ、話ましたよ。30分くらい前かなあ。
 ほら、私、バスの中でも爆睡してたじゃないですかあ。
 石川さんから何件か入ってて。折り返しかけましたけど。」

「なんか言ってた・・?」

「ううん。なんかすごい急いでるみたいで。
 コンサートお疲れ様とか、ちょっと話してすぐ切りましたよ。 」


そこまで話してから、携帯を耳にはさんだまんま、
自分の部屋のパソコンを立ち上げ。



だってそういえば。
思い当たる節が、ないこともない、んだ。

まさかこんなに情報が漏れてるなんで思ってなかったから。

帰ってからピロートークで弁解でも、なんて思ってたら
思いっきり先を越されてたようで。
471 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:21
案の定、ほら。
やっぱエラーで構築中。

あれほど強制終了するなって教えたのに・・・。
間違いない。確信。


「吉澤さん???」

「ごめん、ちょっと切るわ。」

マコトが口あけて爆睡してたのは、今さらだけどはっきり思い出しちゃったから。



残るは。

472 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:26
あかさたなはま  み ・・・

左手で携帯を探り、挨拶もそこそこに本題に入って、右手は忙しく巡回。

最近ネット検索ができるようになった程度の梨華ちゃん。
だけど。
ああっ・・・もう・・・。
履歴に残った画面を開いて、大きくため息をついた・・・。


「あの〜吉澤さん?聞いてます??」
「あ、うん。」


慌しく画面を切り替えながら、
片っ端から斜め読み。


「私、一番弟子なんですから。そんな告げ口みたいなこと、するわけないじゃないですか〜!
 ちゃんとわきまえてますよ、そのくらいっ!」

電話口で語尾を伸ばすさゆに相槌を打って謝りながら、
両方とも強制終了。
473 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:32
まったく人の弁解も聞かないで。
大したことじゃないのに。
こんなん、見るからだよ。
ーーーーー教えたのはあたしだけど。



大急ぎで荷物だけ詰める。


ああっ。明日早いのに。間に合うんだっけ?
マネージャーには言っとかないとまずいか。
474 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:48
一体どういう顔して迎えに行けばいいんだって。
夜中だし。
梨華ママに理由聞かれても答えらんないっつうの。



ブツブツぼやきながら、玄関に向かったところで、Uターン。
ずっと喉が渇いてたことすら忘れてて。



ペットボトルを取りだして冷蔵庫を閉める間際に。




きれいにお皿に盛られたお惣菜と
冷えたスパークリングワイン。


不器用に貼られたラップが、きらきら冷蔵庫の小さな灯りで光ってて。





その時。

あせってイライラしてた感情が
一気にすーっと冷めた。

475 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:49
急なできごとに、どっか他人事っぽくって、
人のせいにばっかしたけど。
たったあれだけのことで、ここまでとか面倒くさって、
ほんとは心のどこかで正直思ったけど。




ごめん、梨華ちゃん。
とにかく、ごめん。


476 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:49


477 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:50


運転手さんにあっちだこっちだ、最後は怪訝なカオをされながら、
1時間も走り続けて辿りついた先は、結局ほど近い、見慣れたマンション。


実家にいなくて。
柴ちゃんちでもなくて。


久しぶりに開けた玄関の向こうに水音が聞こえて。
へたりこみたくなるくらいほっとした。



怒ってるけど、心配してるけど。
でもそんなこと、とりあえずどうでもいい。
とにかく、見つかった。
まずは梨華ちゃんを抱きしめて、謝ろう、それから・・・

478 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:51
「ごめん、梨華ちゃん、あたしが・・・・」


バスルームの引き戸を開けた瞬間、あたしの口はそこで見事に止まった。


梨華ちゃんはものすごい形相で天井を磨いてて。
ジャージを膝まで捲り上げて、両足をバスタブにのっけて。

そのまんまの格好で、驚いてあたしをまじまじと見下ろした。



って、あたしのほうがびっくりなんだけど。
こんな時間に何やってんの?

「なんでわかったの??ここ。」
「だってあたしの家じゃん。」
「そうだけど・・・。」
479 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:53
自分ちは放置状態のくせに。
いっつもあたしがやってるくらいなのに。
家出するほど怒ってて、なんでこんな夜中に、
必死で空家を磨いてるのか。
しかも怒りの矛先の、あたしんちを。

「台所とか磨いてたら調子に乗ってきちゃって・・・」


伸ばしかけた腕も、投げかけようとした言葉も
中途半端に固まってしまって。

梨華ちゃんはなんかキマリがわるそうに一人でバスタブから飛び降りて、
泡だらけの手をぷらんと下げた。


「・・・もしかして、迎えにいってくれたの?向こうまで・・?」

ちょっと心配そうにカオを覗きこんで。


「ああ、なんか横浜の手前くらいで、もう着いてるくらいかなって思って梨華ちゃんちに電話したら、
 お父さんがでて。このまえ考えたってネタとか話されちゃうし、違うかなって。」

状況説明とかしてる場合じゃないのに、今。
480 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:54
「あ、あの・・」

「ごめん・・・。」

先を越されてしまって。
なんかかっこ悪すぎ。
なんで先に梨華ちゃんが謝るの?

「電車には乗ったの。でもなんかフェアじゃないなって。
 しばらくスタバでお茶とかしてたんだけど・・」

「近所の?夜中に一人で?危ないじゃん。」

「うん、だけど帰るのは癪だったし・・。」

「柴ちゃんとこかなって思ったんだけど。」

「・・・うん、知ってる。柴ちゃんからもさゆからも三好ちゃんからも電話あった。
 とらなかったけど。きっとよっすぃがみんなに電話しまくってるのかなあって。」

「うん。」

そこまで言ってから、ちょっと困ったように眉を寄せて。

「でもみんなのとこ、行ったら、迷惑かけちゃうし、
 それにひとみちゃんのこと、悪く思われちゃうのも、なんかそれもいやで・・・」




・・・・ああ、もうまったくこの人は。


あたしは肩ごと梨華ちゃんを抱きしめる。


いっつも一人相撲ばっかして。
勝手にいろんなこと、やらかして。
でも、たぶん。あたしのこと、愛してくれてるんだって。いっつも。

481 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:55
「いやっ。」
「だめ。」

胸の中でいやいやをするように抵抗する梨華ちゃんにさらに力を込めて。

「泡ついちゃう。」
「いい。」

しばらくその姿勢のまんまで抱きしめていたら、
梨華ちゃんの力がふーっと抜けて。
ことんとあたしの肩におでこをのせて、小さな声で言った。
482 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:56

「すっごい怒ってたの。私。すっごく。
 ちょっとくらい心配させてやろって思った。
 眠れなくって、なんか台所とか気になってひとみちゃんのバカって思いながら
 夢中になってゴシゴシこすってたら・・・」

「うん。」

「そしたら、なんか途中から一人で怒ってるのがバカみたいになってきちゃって。」

「うん。」

「・・・ほんとは、私、今日ひとみちゃんに聞いてもらいたいことがいっぱいあって、
 ひとみちゃんのお話もいっぱい聞いてあげたくて。なのに・・」

少し上ずってきた梨華ちゃんの声を聞いて、
慌ててぐしゅぐしゅっと髪をなでる。

「ごめん、あたしこそ、無神経で・・」

「違うの。あのね、あたし、今日・・・」




483 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 21:59
それからあたしたちは。
しゃくりあげながらこの週末のことを語ってくれる梨華ちゃんの話を、
二人で並んでバスタブに腰掛けたまま聞いていた。
背中をゆっくり撫でながら。

そう、たぶん梨華ちゃんは
不安で不安でいっぱいいっぱいだったんだ。
娘。でいたときと、今と。
迎えてくれる、周りの空気とか。
それでも大丈夫だって、一生懸命二人を引っ張って、
きっとポジティブにポジティブに笑ってたんだって思った。


リハでほとんど一緒に入れなかった日が続いても、寂しいって顔も見せずに、
順調だった今日の滑り出しをお祝いしてくれるつもりで、
自分だって疲れてるくせに、いろいろ買い込んで。

あたしの大好きな、マスカットの味の強いスパークリングワインを
わざわざデパートまで買いに寄って、
冷やして待っててくれて。
484 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:02
話すだけ話したら、すっきり笑って、いつもの笑顔になって。
そう、こんなふうに笑って。
ひとみちゃんに聞いてもらってよかったって。

「ごめんね、いっつも聞いてもらってばっかで。」
「そんなことないって。」


その笑顔を見ると、隣にいれてよかったって、あたしはそれだけでまた幸せになってるってことを
たぶん梨華ちゃんは知らないから。
485 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:03
「そっちは?どうだった?」
「楽しかったよ。緊張したけどね。」
「うん。みんな喜んでてくれたみたいだね。よっすぃ、かっこよかったって。みんな。」

心から嬉しそうに喜んでくれる梨華ちゃんを見てたら言葉が出なくなって。
幸せなんだけど、言葉が出なくなって。

しっかりしなきゃ。あたしはもっと梨華ちゃんの話を聞いてあげたいのに。
繋いだ手をぎゅっと握り締めたら、トントンって手の甲をやさしく撫でてくれた。

「どうした・・?」

いつもこう。
でも・・ほんとは・・・・。
486 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:08
「・・・・・・ほんとは・・・探して泣きそうになった。」

「疲れてるのに、ごめん・・」

「じゃなくて。ステージで。目で探しちゃうの・・。クセ・・なのかな。」

「ひとみちゃん・・・」

「フリの合間とか、セリフのときとか、ついつい見ちゃって。
 あれって。慣れなきゃいけないんだけど、どうしても慣れなくって・・・」



だって、ずっと一緒だったから。
手を伸ばせばすぐそこにいてくれたから。

梨華ちゃんの声が流れてくるはずのところで
違う声を聞きながら、そのたんびに実感しちゃったりして。

487 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:09

「だから・・・思いっきり梨華ちゃんを抱きしめたくてしょうがなかったんだ。
 帰ったら、真っ先に。」



ごめんね、

梨華ちゃんの小さな声が、耳もとにふんわりと届く。


潤んだ目で梨華ちゃんのことを見つめたら、
少しだけ照れくさそうにあたしを見つめ返して。

静かに立ち上がると自分からあたしの首に腕を回して。
これ以上ないくらい、たっぷりの愛を込めて、熱い唇を寄せてくれた。





488 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:10



489 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:10
「もう・・。ベットに染みになっちゃうからいやだって言ったのに。」

「いいって。」

だってもう止まらなかったから。
マットレスだけ置かれたベットの上で。

あたしは梨華ちゃんの裸の背中をぎゅっと抱きしめて、
首元に顔をうずめ、梨華ちゃんの匂いに包まれる。

490 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:11
「こういうのも、なんかよくない?ちょっと萌えっていうか。」
「・・・おっさんくさいよ・・」
「これから先、困ったなあ。あたし、失言しちゃう自信、ありまくりだよ。」
「もう!!」
「そしたら毎回家出する?だったらこっちにもシーツもってきとかないとさ。」
「バカっ!!」

回した腕を思いっきりつねられる。

「もういいっっ。じゃあ私、免許取りに行く。週末全部。」
「それはやめなって。ほら、混むよ。危険だし。」
「ううん。なんかつんくさんの知り合いの学校だと、予約まとめてとってくれるって。」
「でもほんとに危ないから。」
「それって私が先にとるのがいやなだけでしょ?」

うん、それも正直あるけど。

先に取って、隣にのせたいっていうのは、譲れないささやかな夢。
491 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:13
「あ〜あ・・・。土日ご主人のいない奥さんとかって、何やってるんだろう・・・」
「あたしたちに土日とかって関係ないから。」
「関係あるの!気分的に。それも11月の終わりまででしょ?」
「10月はそっちだっていないでしょ?」
「一ヶ月もあるんだよお。毎回お泊りなんて、寂しいなあ・・」

すねたような横顔がかなり可愛かったりして。

「もう、買い物でもなんでもしててよ。好きなだけ買っていいから。」
「やっぱおっさんくさいよ、ひとみちゃん。」

仕事でつきあえないご主人って、みんなこうやって奥さんを甘やかしているのだろうか。

「見に行ってもいい?」

そりゃあ、いいけど。
いや、でもたまーにがいいな、たまーにが。
下がった眉を覗き込んで、思いっきり頬っぺたをつままれた。
492 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:13

「わかってないんだから、もう。」
「なにが?」
「成長します。私だって。このくらい免疫できちゃってるから。」
「ほんと?」
「あ、あんまりひどいと気にするかもしれないけど。」

そこんとこの境界線っていうのが難しいからね。
やっぱ自己申告してたほうが・・・


「だってあれはほら、盛り上げようと必死で・・」
「ウソばっかり。素でしょ?」

まあ、そうとも言うけど。
493 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:14
「終わったあと、楽屋でもデレデレして二人でしゃべってたって。」
「思い出したっっ!!誰??ネットじゃないでしょ、それ。」
「教えない〜。」
「ねえ、誰がチクッたの?」
「チクッたって・・・報告されて困るようなこと、かる〜く口にしちゃう自分が悪いんでしょ?」
「・・・マコトでもさゆでもないし、そこらへんはちゃんと言ってきかせて・・」
「そんな、裏工作しようとする人には教えないっっ!!」
反対側を向いてしまった隙に、床に落ちてた梨華ちゃんの携帯をそっと開いて・・・



ああああ!!


「くっすんだ!!!」
がばっと起き上がる。
上半身まっぱのまんま。
494 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:15

「何勝手に見てるのよ!!」
「なんで繋がってるんだよ。」
「うるさい〜。ピースのセリフのこととか、いろいろね。」

そうだ。あいつだ。
嬉しそうに梨華ちゃんに事の次第を報告してる様子がありありと目に浮かぶ。
そうだ。たしか小春ちゃんは・・・・。

「って、梨華ちゃん、わざとあたしたちのこと教えるなって、口止めしたでしょ?」
「だって夢見てるのを壊しちゃ可哀相じゃない。」

そうやって、梨華ちゃんは娘。のなかに隠れ刺客を放っている。
いい意味でも悪い意味でも梨華ちゃん寄りになってしまった二人以外に。
ばか正直な、純な刺客を。
495 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:18

べーって軽く舌を出して、ベットから立ち上がろうとした梨華ちゃんの腕を強引に抱き取りつつ。

「キショ。」
「ほら、そんなことばっか言うんだから。ああ。今度こそよそに家出しちゃおうかな。」 
「またあ。愛しくって仕方ないくせに〜。」
「それとこれとは別。週末、自由な時間が増えたことだし。」
「じゃあ、ののに、きてもらおうっと。ママのお相手は娘たちにお任せして。あたしは・・・」


あたしにしかできないこと。

496 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:27
あたしはもう一度、今度は自分から梨華ちゃんに熱いキスをする。
もっともっと強く、深く。
全身でお互いを感じられるくらいに。


梨華ちゃんは余裕たっぷりの表情で、あたしを射落とすように唇を絡めながら。


「今度は実家に帰るんじゃなくって。追い出しちゃおうかな。」

ちょっと小悪魔のようにふふって笑う。





言葉とは反対の、いつもより妖艶な目つきの梨華ちゃんに
もしかしてこういうのも悪くないなってニヤり。

ん?って顔を寄せてきた梨華ちゃんに、大真面目な目線をお返ししつつ。


怪訝そうな顔で、それでもあたしを押し倒す梨華ちゃんの流れに
幸せな気持にひたりながら、ゆっくりと身を委ねていた。







(fin)
497 名前:実家に帰らせていただきます。 投稿日:2005/08/25(木) 22:27
    

498 名前:咲太 投稿日:2005/08/25(木) 22:28
  

499 名前:咲太 投稿日:2005/08/25(木) 22:28
以上です。
500 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/25(木) 22:55
いやはや、最高ですw
いしよし夫婦を堪能しました。ごっつぁんです。
旦那の発言をうまくいかした作者さんの手腕に脱帽(マジで!
501 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/25(木) 23:33
おもしろかったです!
いしよし・は もうね〜ほんっと
夫婦の域ですよ♪
更新、ゆっくり待ってます。
502 名前: 投稿日:2005/08/25(木) 23:40
ごちそうさまでした。
美味しくいただきました。
新たな刺客キター!w
ステキないしよしありがとう。
503 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/26(金) 12:47
いしよし最高〜〜〜(*´Д`*)
おっさんな(O^〜^O)も(・∀・)イイ!
いつもありがとう(謎)
504 名前:A−203 投稿日:2005/08/26(金) 18:08
(*´∀`)ポワワ
すいません、顔がおもいっきり緩みました・・・orz
癒されましたよん、作者様♪(テンションおかしすぎw)
505 名前:baka 投稿日:2005/09/07(水) 01:27
かわいい奥さんだ!!
そして必死なひとみちゃん、かわいい。
506 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/06(木) 18:32
続き…というか、交信待ってます^^
507 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 12:42
>500 名無飼育さま

いしよし夫婦というお言葉、何より嬉しいです。
紺での旦那の発言を聞いた瞬間、どうしてもどうしても書きたくなっちゃってw


>501 名無飼育さま

喜んでいただいて本当にありがたいです。
そうそう、夫婦の境地に達してますよねえw

>502 Yさま

いつもありがとうございました。
小春ちゃんは純粋無垢な刺客ですからね。
さらっといろんなことに使えそうです。

>503 名無飼育さま

かわいいAAレス、ありがとうございますw
おっさんですからね、いしよし並びの吉はw

>504 A−203さま

いつも本当にありがとうございます。
癒されるなんて言っていただくと、調子にのっちゃいますよw

>505  bakaさま

レス、本当にありがとうございます。
奥さんに惹かれてくれて、感謝しますw

>506  名無飼育さま

更新待っていただいたなんて・・
何よりありがたい言葉です。励みになります。
508 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 12:43
気が付けばもう秋なのですね・・・。
2ヶ月もたってしまってましたw

ええと、生存報告がわりに短編をひとつ。
509 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 12:44



510 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 12:44


511 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:45

『 満願成就・保田大明神 』
512 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:45


513 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:46



今日もあたしは一升瓶を抱えて鳥居の前に立つ。



明日は土曜日。
斜め向かいのコンビニでスナック菓子を買い込んだついでに
窮屈なストッキングを脱ぎ捨てて、白いソックスに履き替え済み。

お清めの水で口と手をすすいでから、青白い小さな灯りだけのついた拝殿へ進み、
神妙な面持ちで、二礼二拍手一礼。


ガラガラと大きめに鈴を振って。
「保田さあん」
神殿左手にある社務所にむかって声をかける。


巫女さんスタイルの髪型のまま、洋服だけは既にスウェットって、およそ似つかわしくない格好で現れた保田さんは

「早すぎだってもう!!鍵かけたりしてくるから、先に準備してて。」

顔だけ出して奥へと消えていく。

あたしはいつものように、もう一度ぺこりと拝殿の奥に向かって頭を下げてから、靴を脱いで上がりこみ、
コンビニの袋から紙皿を取り出して、
ポテチやら、ナッツやら、秋限定のポッキーやらを適当に並べ始める。


514 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:47


保田さんは社務所の奥から火鉢をもってきて、
「最近夜は冷えるしねえ・・」
そういいながら、熱燗の準備を始めた。

「で、うまくいってるんじゃなかったの?」

それが・・といい始めたあたしの口を塞ぎ。

「とにかく、まあひとつ。」
って、まだ完全に温まりきらない熱燗をとくとくと注ぐ。

相当酔わないと聞いてくれない、そんなことわかりきってるので。
すきっ腹に日本酒って危険を百も承知で。







515 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:47


516 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:48


ほら、あのラーメン屋の裏に、ちっちゃな神社、あるやろ。そうそう。あの寂れたっていうか
いっつもほとんど人がいないとこ。
あそこなあ、実は隠れご本尊があってなあ。
とにかく、それにお願いごとすると、なんでも叶うんよ。
ほんとに、何でも。やで。
ただし、相当不幸な身の上だとあちらさんが認めてくれんと、
ご尊顔を拝むことすらできんのよ。





結婚式の2次会で。
真紅のドレスと幸せオーラを一身にまとって、高らかに笑う中澤さんが
そっとあたしに秘密を打ち明けてくれたのは、2年前のこと。





だって、あの中澤さんなんだもん。
その中澤さんの幸せを目の当たりにして。
そりゃあ、もう一も二もなく信じて。


代変わりして、神主さんはしばらく本筋の神社のほうの仮神主として出とられるからなあ。
今いんのは、一人娘なんやけど。
その子がまあ、酒好きでな。
あんた、そんなに強いほうやないから、大変やと思うけど、
とにかく付き合ってやり。
ええことあるで。いや、マジで。


517 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:49


「このご本尊さまを公開して、ボロ神社を建て直そうかって若い頃は思ったこともあったんだけどさ。」


はじめて一緒に飲んで、泣きじゃくって、
頭がガンガンするのが、二日酔いなのか泣きすぎだったからかわからないほど意識を朦朧とさせつつ迎えた朝。
あれだけ飲んだとは思えないくらい、爽やかな笑顔をした保田さんは、
いつのまにかジャージから神聖な巫女さん姿に変身していて。

あたしの目の前になんかの葉っぱとかいろいろ置いて、
あれこれと難しい儀式のあとに、厳かに奥の小さな箱を開いた。



金儲けに使って、ご利益がなくなるってのもつまんないしさ。
何代目なんていうプレッシャーも最近感じてきてるのよね。
だから、自分の気に入った子だけ幸せにする、
そのほうがよっぽどおいしいってことが分かったのよ。
で、あんたの好みは?




そう、あのときあたし、なんて言ったんだっけ・・・?


あ、そうだ、彼氏が欲しいんです。とにかくかっこいい人。


ほとんど意識がないまま、そんなことを叫んだって聞いたんだ。後になって。





518 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:51



それから何度も別れるたびに、振られるたびに保田さんに愚痴っては飲み。
毎回毎回、願い事に付け加える文言が増えていき。

ほんとはね、素面のときにお願いごと、したいんです、って言ったら。

「だってそんなのつまんないじゃない。
 あんたの本音が聞きたいの。心からのお願い事じゃないと、叶わないのよ。」
なんて真しやかに告げられて。


そして、前回。つい一ヶ月前のこと。


「美形で、優しくて、働き者で、暴力なんてふるわなくって、安定した収入があって、
 まじめで・・・・・あ、だけどもてる男はいや〜〜!!」

夜明けにそう叫んだ。ようです。はい。
記憶がないの、そこら辺・・・。

で、最後の一言のせいで、というか、そのおかげで、
思わぬところから紹介されて成就した恋。

だけど・・・。









519 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:52


520 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:52


「熱っちっ!!」
大袈裟に叫びながら、湯煎にかけられた徳利を慌てて手放して、耳朶にやって身をすぼめる。

「保田さんがやっても・・可愛くない・・・」
「るっさいっっ!!」
じろりと睨まれて、コップになみなみと注がれている日本酒。
いつのまにおちょこじゃなくなったんだろうって思いつつ、唇につけたらあまりに熱くって。
両手で包んでふーふーしはじめたら、
「あんたもね。」
ってぱこって頭を小突かれて。

もうほっぺたが火を噴きそうに熱いの。
両膝をくっつけて、足はルの字型になって。
かろうじて意識は保ってるけど、なんか全体がゆらゆ〜ら揺れてる感じ。
521 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:53
「で?」

ごくりと音をたてて飲み干して、美味しそうに目を一度閉じてから、保田さんは話の続きを問い掛ける。

「だからあ。通りを歩いてると、みんなじろじろ見るんですよぉ。
 モデル顔だしぃ。雪みたいに白くって、お肌とかツルツルできれいで、
 もうこの世の人かってくらいきれいだし・・。
 で、横のあたしを見て、みんなニヤって笑うの。 あたし、そんなに黒いですかあ??」
「いや、黒いとかそんなんは関係な・・」
「関係あるんですぅ!!」
「私的にはお似合いだと思うんだけどなあ。」
「そんなはず、ないじゃないですか・・・。きっと黒いし、中身だって腹黒いって思われてるんだ・・・。」

自分の言葉に自分で凹んで。
胃は熱いの通り越して、かっかって燃えてて。
それ以上に頭んなかも爆発しそうにどくどく脈打ってるかんじで。
肌だって・・・こんなに黒いのに、こんなときだけまだら模様に赤いって
どういうことよっ。

もうっっ。飲まずにはいられない。
この年にして、既に中澤さんの気持がわかりかけてるって、一体・・・。
522 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:54
「このまえデートにいったんです。あ、このまえだけじゃないの。
 んと、先週もほとんど毎日一緒にいたんたんですけど。」
「はいはい。」
「そしたらすっごいきれいな人がどこいっても寄ってくるんですよお。
 このまえの人はね、すごおく背が高くてモデルみたいな大人っぽい人。
 なんか二人とも話してることとか、すっごい大人で。
 隠してるけど、ぜったいモトカノなんだと思う・・・」
「ふんふん、それで?」

保田さんはあたしの話なんか興味なさそうに、持ってきたコンビニの白い袋をひょいっと覗き込んで
お目当てのスルメを見つけると満足そうに火鉢の上にのせ。
香ばしいかおりを漂わせながら、チリチリと縮む足を嬉しそうに眺めている。

「もう、聞いてるんですか??保田さん。」
「はいはい。それで?」
「あたし、すっごいバカだったんです。」
「ふんふん。」
「もてる男もいやだったけど、もてる女もいやなんですう・・・。
 何回やっても言葉も満足に選べないなんて・・・どうしようもないですよね。あたし・・・。」

メソメソと泣き始めたあたしを保田さんはチラッとだけ見ると、
アツアツになったスルメの足をちぎってよこした。

「あのね、あのね。
 よっすぃ、すごおくキスが上手なんです。エッチだってたぶんすっごい上手いの。
 だけどあたし、全然下手だし、こんな反応でいいのかなって。
 もっと萌えさせるような・・その・・声とか言葉とか、いろいろ。 
 きっとあるはずだと思いません・・??」
「いや、あるはずだとか言われても・・」
「きっとあるんです!!たぶんよっすぃはそんなのに慣れてるはずなの・・・。
 だからきっとあたしなんかでは満足してないはずなんです。絶対。」
「いや、それはあっちに聞いてみないとなんとも・・」
「だってそんなこと聞けないんだもん〜〜!!
 もうっっっ!!なんで噛み切れないのお!!保田さん、スルメ硬すぎだよお〜〜!!」
 
523 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:56



次に意識があるのは。

なぜかあたしは火鉢を抱えるようにして寝転がっていて。
保田さんがちょっと寒そうに半纏をはおったまま、ちびちびと手酌で飲んでいて。

「ほんっとに、風邪ひいたらあんたのせいだからね。」
「じゃあ、あっちで寝ればよかったのにぃ・・。」
「だってあんた、一人でここに寝かせられるの、怖いって言うじゃない。」
「いいもおん。どうせあたしなんか。
 一人でいるのがお似合いなんだから。あっち行ってください。」
「ほんっとに、もうちょっと限度をわきまえなさいよ。
 まあ、面白いんだけど。」
「ふうんだっ。だって飲まないとお願い事、聞いてくれないくせに〜。
 さっさと着替えてきてくださいよ。ほら。お・し・ご・と!!」
「うるさいよっ。まだ飲むんだから。」
起き上がりかけたあたしの顔をぺしゃって床に押し付けると、
そのままの姿勢で頭上でちびちびと酒をそそぐ。
「もうっ!あたしの上でこぼさないでくださいよお。」
ぺちっとおでこを叩かれて。
そのあと、なんか続いたような・・・気がする・・・。


 で、あんたはどういうお願い事をしたいわけ?
 もてない人がいいって?? それともキスとかそこそこに下手な人がいいの?


524 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 12:59






それから。

たぶんかなり時間がたっていて。

気が付いたらいつのまにかあたしはよっすぃの背中の上で、
ちょっと靄のかかったような、冷えた朝の景色のなかに溶け込んでいた。
よっすぃの匂いのするパーカーを、スーツの上に着込んでる格好で。

「なんで?」
「電話もらったよ。 梨華ちゃんが酔いつぶれてるって。
 ついでにちょっとだけお説教もされた。」
525 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 13:00
よくよく見れば、いつもは真っ白のよっすぃのほっぺたもかすかにピンク色に染まっていて。
下ろしてってバタバタしても、下ろしてくれない、がっちりホールド状態。

「で、梨華ちゃんのお願い事ってなんだったの? 何が不安・・・?」

優しい声が頭の中に響いて。
アパートの階段を上りながら、
あたしは懸命に考える。

ううん。ずっとずっと考えてたこと。

「あのね、よっすぃの好みの女の子になりたいの。全部。」
526 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 13:02

よっすぃは一瞬足を止めて。
肩越しにあたしの方をじっと見つめた。

それから黙ったまま、手に持たされていたらしい、ピンクのバックの中からおうちの鍵を取り出して。

自分のスニーカーを脱いでから、あたしのヒールを玄関に並べて
まっすぐに部屋の奥のベットにぽんっとあたしを座らせた。



「あたし好みの女の子って、どういうの?」

「わかんないけど・・・よっすぃみたいに色が白くって、肌がきれいで、目が大きくて・・・
 ううん、それはムリなんだけど・・・。
 よっすぃみたいにはなれないけど、でも好きって思われるくらいの人になりたいの。」

回りきらない頭でゆっくりと話すあたしを、
よっすぃはベットの下で、胡座を組んだままじっと見つめていて。
零れ落ちそうなくらい、大きな茶色い瞳が、ずっと私に注がれているのをちょっと面映く感じて
思わず視線をそらせながら、あたしは言葉を追った。

「・・・あのね、いっつもお化粧しながら悩んじゃうの。
 もっと白いファンデーションのほうがいいかなとか、
 もっとアイラインはいっぱいいれたほうが目が大きく見えるかなとか、
 よっすぃの好みの口紅の色はどんなんだろうとか・・・。」
527 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 13:03
「・・・わかった。じゃあ、教えてあげる。」

よっすぃは立ち上がって、洗面所に置いてある、あたしのメイク道具を取って戻ってきた。
情けない表情のまんま、ベットに膝を抱えてすわってるあたしの顔を見つめて、小さくため息をついて。

昔、ほんのちょっとだけかじったことがあるって言ったよっすぃは。
色を悩んで悩んで増えすぎてしまったリキッドファンデーションの蓋を、馴れた手つきで片手だけで外してから、
左手の親指の甲で何色も重ね合わせると、丁寧にスポンジに刷り込んで、額からトントンと優しく色をのせていく。
二つにたたまれてふっくらとしたパフに、たっぷりの粉をつけ、
軽く顔を滑らせてから、丁寧にブラシで払う動作を何度も何度も繰り返す。

「梨華ちゃんの顔って、ラインの引きかたで全然違ってくるから。」

それから真新しいパフを薬指と小指にかけ、頬骨の一番高いところに当てて腕を固定すると、
すうっと吸い込んでから息を止め、なめらかな手つきでアイラインを入れ。

濡れたように艶やかなコーラルシフォンをスパチュラにとって、
ほんのすこしだけ深みのあるオリエンタルベージュと混ぜ合わせ、
唇の一番膨らんだ部分にだけ、グロスを乗せた。

528 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 13:04

「どう?」
よっすぃが横にずれて、壁際の大きな鏡にうつってる私。
なんか、いつもと違う・・・すっごい大人っぽくて、華やかで・・・
思わず鏡に近づきそうになったあたしを、よっすぃは後ろからきゅっと抱き留め。

「たぶん、あたしが梨華ちゃんの一番いい顔、知ってるよ。」

そんなふうに囁くと、後ろから耳朶にそっとキスをした。


だけどね。



すわったままの姿勢で、あたしはくるりと回転させられる。
そう、よっすぃに向かって。

「あたしが、一番可愛いって思う梨華ちゃんは、あたしが誰にどんなに手を加えたって、
 絶対マネできないから。」

529 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 13:07


目を閉じて。




小さい声でささやくと、そっとあたしの瞼を撫でる。
最初からメイク道具といっしょに用意されてたオイルの小瓶。
よっすぃの手の温度で温められたそれは、指先が触れるか触れないかくらいの強さで
あたしの頬を、額を、鼻筋を、ゆっくりとすべっていく。
ぬるぬると、とても心地よく。
心までも一緒に溶かしていくように。

目の際になってなお一層優しく。
いとおしむような、丁寧で柔らかな指づかいは
自分がいつも自分に施す手つきとは全然違って。

そうかあ、あたし、すごく大切にされてるんだって。
軽く目を開けてみたときに、真正面にあった、とても穏やかで優しく、
うぬぼれじゃなくって、ちょっととろけそうなよっすぃの表情を見て。
ああ、あたし、愛されてるんだって。
涙が出るほど、幸せを感じた。





530 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 13:09






少しあいた隙間からだけではなく、カーテン全体が、部屋中を明るくしてる。
絶対電気なんてつけさせなかったのに、見えないようにしてたのに、
この明るい中で並んで眠っている自分たちの姿が恥ずかしくて、
ふとんを巻きつけたままごそごそとベットの下を探る。

「もうちょっと寝てようよ〜。」

腰に絡ませた腕にきゅっと力を込めたよっすぃ。
だって、もう、まっ昼間だよ。
というより、もう、ちょっと翳り出してない?


そういえば大事なこと、忘れてたんだもん。

あたし、お願いごと、なんてしちゃったんだろ・・・。

まさか、もてない人が現れますようにとかって言っちゃってたら、
急いで前言撤回してこなくちゃ。

531 名前:満願成就・保田大明神 投稿日:2005/10/25(火) 13:10
「ちょっと保田さんとこ、行ってくる。」
丁寧にほどこうとした指をよっすぃはいやいやをしながらぐっと握り締めて。
「もうちょっとこうしててよお。どうせ夜また行くことになってるから。」
「なんで?」
「今度は二人揃ってこいってさ。2本持って来いって、銘柄指定までされちゃったよ。」
「えええ??」
「一緒に言わなきゃ意味ないんだってさ。梨華ちゃんと幸せになりますようにって。」


あたしと一緒でたぶんちょっと言葉足らずのよっすぃに
そのセリフのほんとの意味がわかってるのかどうかわかんないけど。
目を閉じたままむにゅむにゅと頬を埋めてくるよっすぃの横顔があまりにも可愛過ぎるから
気付かないフリで、一緒にお願いしちゃおう。





よっすぃと絶対、幸せになれますように。







(おしまい)
532 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 13:10


533 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 13:10
以上です。
534 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 13:10

535 名前:咲太 投稿日:2005/10/25(火) 13:11


536 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2005/10/25(火) 14:42
前回の書き込みからずっと拝見させて頂いてます。
今回の短編や続いていた物など、作者様の作品には『いしよし』の特性というか‘二人にしか出せない雰囲気’というのがあると思います。
いま私が飼育の中で楽しみにしているスレのひとつです。
長たらしく偉そうな書き込みになってしまいましたが、本当に頑張ってください。
537 名前:A−203 投稿日:2005/10/25(火) 16:03
更新お疲れ様です。
>>529が物凄い好き。おいらも泣(ry・゚・(ノД`)・゚・  この雰囲気がすごく好きです。
やっぱり作者様の書く「いしよし」あったかくて優しくて大好きです。
538 名前:メトロ 投稿日:2005/10/25(火) 22:08
なんだか素敵空間にトリップしちゃったぞ?
ここのいしよし、二人とも柔らかくて綺麗ででもちょっと抜けてて、好きです。
まったり頑張ってください。
539 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/26(水) 12:59
更新乙カレーです。
空回り梨華ちゃん最高w
保田大明神さまのご利益にあやかりたいですw
540 名前: 投稿日:2005/10/26(水) 13:52
更新お疲れ様です。
あ〜面白かった〜
いしよし不足だったんで満足でございますよ。
これからも自給自足の精神で頑張ってください。
ヤス最高です!
541 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/26(水) 18:14
交信お疲れ様です!!!
今回もいいですね〜(*´Д`*)だいぶ幸せになりました(笑)
これからも頑張ってください( ・∀・)ノシ
542 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/26(土) 20:34
待ってまつ〜(´ω`)
543 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:30
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
544 名前:咲太 投稿日:2005/12/23(金) 11:25
またまた2ヶ月・・
とうとう冬になってしまいました。
ほんとに遅レス、申し訳ないです・・・。


>>536 孤独なカウボーイ さま

どうもありがとうございます。
偉そうなんてとんでもないです。ものすごく励まされましたし、
がんばろうって気持ちが繋がりました。
『いしよし』が好きっていうだけで続いてるスレですが、
これからもどうぞよろしくお願いいたします。

>>537 A−203 さま

いつもありがとうございます。またまた日があいてしまいましたw
ちょっとでも潤んでいただけたら、光栄・・・ww
なんとか更新・・次は中編を、とここらへんで宣言しとかないとまたずるずると・・・w

>>538 メトロさま
どうもありがとうございます。
こういう二人しか書けませんw
ドラマチックな展開も甘い言葉を書ける腕もなくへこたれ気味ですが、
なんとかマイペースでまったり頑張ります。

545 名前:咲太 投稿日:2005/12/23(金) 11:26
>>539 名無飼育さま
もしかしていしよしヤスヲタなのかもしれない、と思ってしまってます。
保田大明神はすごいですよおw
気合いで叶えてくれますからw

>>540 Yさま
いつもありがとうございます。
最近たくさんのいしよし小説を読めてしあわせに浸っているとこですw
つたない文章ですが、たまには自給自足w
年末頑張ります。たぶん・・・w


>>541 名無飼育さま

どうもありがとうございます。
幸せになったと言っていただけて、こちらも幸せになりますw
ゆったりペースの二人ですが、どうぞよろしくお願いします。

>>542 名無飼育さま

ありがとうございます。
こんなスレを待っててくださる方が
いてくださるって思うだけでなんとか頑張ろうって思います。

>>543 名無飼育さま

ご案内ありがとうございます。
拝見させていただきます。

546 名前:咲太 投稿日:2005/12/23(金) 11:28


とりあえず季節物を。
大好きないしよし(ヤス)で??w
547 名前:咲太 投稿日:2005/12/23(金) 11:29


548 名前:咲太 投稿日:2005/12/23(金) 11:32




『満員御礼祈願・保田大明神2』



549 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:33





550 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:34




待ちにまったイヴ、クリスマスイヴ。
生まれて初めて愛する人と過ごすイヴ。


もうちょっといいじゃん・・って甘く掠れた声でささやく恋人の頭をそっと撫でて、
名残惜しそうな手を、自分もやっとの思いで振り切って
気合いを入れてベットを抜け出たのに。






「石川、生まれるわよっっ!!いい?20分でいらっしゃいっっ!」
その一言で切られた携帯。


551 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:35

奮発したグラム1700円の松坂牛のタンも、通販で取り寄せたデミグラスソースも。
北海道産の無添加高級生クリームも銀座千疋屋まで走った特選苺も。


ぱたん。
ため息をつきつつ冷蔵庫を閉じて、
ぬくぬくとあったまっている恋人の布団を、無情にも一気に引き剥がす。

「起きて。」

えええっっ?ってびっくりした顔でぎゅっと背中を丸くして縮んだよっすぃに。

「10分で支度できる?」って。

ごめん、よっすぃ。
とにかく説明してる暇はないの。



552 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:36




553 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:37


半泣きでいやがるよっすぃをなだめすかしながら
あたしたちは延々と続く雪道を時速20キロで走り続けていた。
縁結び、厄よけ、安産祈願  保田大明神、ってでっかく書かれた、白い、座り心地の悪いワゴンで。











「友達のところで白蛇様が生まれるのよ。とりあえず親のほうの巳様を正月限定で借りてくるからあんたもついてらっしゃい。」

って言われたのは秋の終わりだっけ。

どうやら孵化には60日くらいかかるらしくって。

絶対行かないって突っぱねた蛇嫌いのよっすぃだから、
そのときは私だけが付いていくって約束だったんだけど。

飲酒に路駐で免停になった保田さんの矛先は免許とりたてのよっすぃもセット。

「誰もいなくていいんですか?社務所。」
「なんなら石川、残る?吉澤と二人で行ってきてもいいけど。というより、あんた来ても なんの役にも立た・・」
「絶対いやですっっ!」


だってせっかくのイヴなのに。

中澤さんちで召集をかけられた忘年会で、はじめての幸せなクリスマスだってめそめそ泣いたら、
よかったよかったって保田さんもつられ泣きしてくれたくせに。

554 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:38

「いいのよ、だいたい、クリスマスに神社に参ろうとする不届きな輩に、御利益なんてあってたまるもんですかっっ。」

って神に仕える立場の人間がそんなこと言ってていいんでしょうか・・・。


「ああ・・・・梨華ちゃんのタンシチュー・・・」
「ここまで来てあんたも細かいわね。滋賀ってったら近江牛よ、近江牛。
 ステーキでもなんでもばんばんおごってあげるわよ。」
「ほんとですか〜?保田さん??」
「うちは梨華ちゃんの手作りのほうが・・・」
「ばかっ。石川に高級食材なんて豚に真珠でしょ?」
「いや、だからウチも手伝うつもりで・・・」
「冷凍して年末やんなさい。そうだ。大晦日は三人で年越しよっ。」
「だって大晦日って保田さん、穫き入れ時じゃ・・」
「あら、そうね・・・。今年は三倍増しだしw」
「客寄せに借りてきた蛇で御利益なんてもんが・・」
「るさい。みさま、と言いなさい、みさま、と。
 御利益があるかないかはあんたたちで試させてもらってもいいのよ。」


ああ、これまで何度、この手で操られてきたことだろう・・・。


555 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:39




556 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:39

ナビになるはずの保田さんは後部でぐっすりご就寝で。
方向音痴の私はまったくあてにされず、よっすぃが自分のカンと案内板だけを頼りにようやく到着したのは、すでに日暮れ近く。
保田さんとこと同じくらい、よく言えば由緒正しい、歴史のある建造物、稲葉大社。
敷地面積は東京の片隅にあるあっちとは比べようもないけど。

宮司の稲葉さんは、巫女姿にエスキモーみたいなコートを羽織って
私たちを出迎えてくれた。

「遠いとこ、おつかれさんだったなあ、圭ちゃん。」
「やっぱ寒いなあ、こっちは。で、間に合いました?」
「まだまだやねえ。一個だけちょっとヒビみたいなんが入ってるけどなあ。」

挨拶もそこそこに打ち合わせながら、二人はさっさか歩き出す。
ぎゅっぎゅっと雪を鳴らして。
倒れそうになりながら、よっすぃに腕を支えてもらって、
必死で前の二人においついたら、

「ああ、トランクに一升瓶、入ってるから。段ボールごと運んでくれる?」

いいようにこき使われてません?私たち。

557 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:41


向かった先は大社の裏側にある、対照的な近代プレハブ。
冷暖房完備の巳様の御室。

「あったかあい。」

外とは別世界の気温26度。
なのに中に入ってこないよっすぃ。

「どした?」
「うん、梨華ちゃんだけ入っておいでよ。」
「ムリそう?」
「ううん、その、まあ・・・。」
「じゃあ、あたしもよっすぃのそばにいる。」

割っちゃうといけないからって、手袋をはずして一人で運んでくれたよっすぃの指を。
コートに入ってたカイロを取り出して、そっと両手で包みんだ。

真っ白な景色に真っ白な肌。頬だけ真っ赤にさせてうれしそうに笑ったよっすぃが可愛くて。
唇を近づけてほーって息をかけて暖めたら、耳まで真っ赤になって。

ああ、もうなんて可愛いんだろ〜。

558 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:42
「そんなことでなにやってんの?あんたたち。」

ガラスの扉に張り付いてニヤニヤ笑ってる二人。

「まあ、あとで存分に二人の時間は作ってあげるから、中入っておいで。
 しゃれになんないよ。今日の寒さは。」
「クリスマス、高熱でぶっ倒れてました、じゃ、あんた、一生言われ続けるわよ、石川に。」
 
559 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:43
背中を一番遠い壁に張り付けたよっすぃは。
二人の前だっていうのにそのまま私の手を離さなくって。
口をへの字にして薄目をひらいてる横顔に、緩みっぱなしの私の頬。

違う違う、今日はよっすぃの顔を見に来たのではないから。

不謹慎な自分をコホンって咳払いして。
顔をしゃんとさせてから、真正面の祭壇を見る。

温室の奥に祭殿のように作られた場所にはガラスケースがいくつも並んでいて。
雪のように真っ白で、苺のように真っ赤な瞳の巳様。

生まれて初めて私たちは、その神様といわれるお姿を、見た。


560 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:44




「根気いるからなあ。たぶん深夜か明け方近くや。
 うちらはこのまんま飲んでるけど、明日運転やし、二人ははよ寝ておいで。」

御室の隅で酒盛りっていうのもどうかと思うんだけど。
まあ、保田さんとこだって盛り場と化してるわけで。

御神酒って便利な言葉だなってつくづく関心してしまう。


「あっち、暖房もなんもなくて寒いと思うけどごめんな。」
「生まれそうになったら携帯鳴らすから。」
「はい、じゃあ、お先に。」
「のぞきに行ったりしないから、大丈夫よ。」
「明日にそなえて、そこそこにして眠るんやで〜」


561 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:45

もうっっっ。
酔っぱらったよっすぃは使い物にならなそうだし。

私のほうが先に酔っちゃって、よっすぃにおぶわれて帰るってパターンばっかりだったのに。

長時間、慣れない運転で気を張ってたよっすぃは、今日はあっというまに二人に撃沈されてしまって。
おんぶなんてできないから、横からしがみつくように体を支えて
一歩一歩社務所までの雪道を歩く。

562 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:46

並んで敷かれたお布団の中は、雪の中に寝転がってるのと同じっていうくらい寒い。
はあって息を出すと、まるで外と変わらないくらい、白い息が上がる。

お泊まりの準備なんてしてこなかったから、
ダウンだけ必死に脱がせてパーカーのまま横にならせて。

私もセーターとジーンズだけになってから、よっすぃの横にすべりこんで。

そういえばおつまみ以外なんにも食べてないなあ、なんて。
聞こえないくらい小さくため息をついた。

「梨〜華ちゃん。」

眠ってしまったと思ってからびっくりして。
暗闇で目を凝らすとよっすぃは目を閉じたまま。
もう一回、私の名前を呼んだ。
563 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:48

「なに?」
「ごめんね、二人に負けちゃったぁ。」
「いいんだよ、そんなの。」
「・・・へんなクリスマスになっちゃって・・・ごめん。」
「よっすぃのせいじゃないもん。」
「でも・・・楽しみにしてた、でしょ?一生懸命準備して、さ。」
「元はといえば、保田さんは私の知り合いなんだし。私こそ、ごめん。
 せっかく私に合わせて、奮発してくれたのに、ね。」
「蛇は、あれだけど、さ。でもなんか楽しいよ。
 梨華ちゃんのまわりの人たち、も、すっげえ楽しい。」
「そう・・かなあ。」
「あんまりしてこなかったから、ね。そういうの。」

あ、って小さく声をあげて。
大きな目をぱちっと見開いてよっすぃは私の顔をのぞき込む。

ダイジョウブ、そのくらいで妬いたりしないよ?
笑い返すと安心したようにふうっと息を吐いて、
また天井を見上げた。
564 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:56
「二人でいるのも、みんなでいるのも、梨華ちゃんがそばにいれば、そんだけでいい。」

しあわせ、だ、なあって。思う。


酔ったよっすぃの口調はいつもよりゆっくりでやわらかくって。
一言一言、ぽつ、ぽつ、と吐き出される掠れ気味の言葉は、
たぶん。嘘偽りなんてない、よっすぃのほんとの気持ち。


天井を向いたまま、白い唇からのぼる白い息はきっと寒さのせいだけじゃなくって、
よっすぃの心がとってもあったかいから。


目がそらせなくなるくらい美しい横顔を眺めながら、瞳から熱いものがこぼれたのは、
よっすぃへの想いで心がいつもいっぱいに満たされているから。


565 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 11:57
「どした・・? 」

よっすぃの大きな手のひらが、そっと額の生え際の髪をかきあげる。
上になった左目から零れた涙は右目を伝い、ひとつになってこめかみを湿らせていく。

「ごめん。プレゼントも置いて来ちゃったし。ほんとに、ごめん。」
「ううん、そうじゃなくって。」

そうじゃなくって。
これ以上ないってくらい、愛しいって思う気持ちを伝えたくって、
言葉にできないのがもどかしくって。

せめて何かが届くように。
胸にこつんっと、顔をうずめた。
566 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:00

よっすぃは胸を大きく膨らませてため息をついて。
もう、なんでこんなに梨華ちゃんは・・・って小さく漏らして。

頭の後ろから苦しくなるほどぎゅっと私を抱きしめたあとで、
両腕ごと抱え上げて自分と同じ高さまで引き上げる。

おでこをとん、っとぶつけてきて。

唇が触れる一歩手前のところで止めて、
「寒いっしょ?」って。

「ひとみ・・ちゃんは・・・?」

いつもは照れくさくって呼べない名前を呼ぶと、小憎らしいほどかっこよく決めた顔を一瞬にして崩して。
私以上に照れながらもうれしそうに笑って。

「・・・・・・あっためて。」

子供っぽくこぼした笑顔に勝てなくって、私は自分からチュっと音を立てて軽くキスをした。




腕をずらして黒いパーカーに手をかけ、首のほうへと抜き上げる。
一瞬離れた間。脱ぎ去って再び現れた愛しい笑顔に、もう焦らしたりする余裕も持てなくて、
夢中で自分から激しく唇を寄せ、同時に口内で捉える。

できうる限り体を密着させたまま、ひとつひとつあわらにしあうたびに
触れ重なる体のすみずみが熱気を帯びていく。

背中にまわされた腕で、隙間なくただ深く強く抱きしめあい、唇だけで緩急をもってお互いを求めた。
境界線のない世界まで溶け合っていくこと、ただそれだけを祈って・・・・。




567 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:00



568 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:01



携帯が何度か鳴っていたのに気づいたのは明け方。
昨日よりは一層寒さを増していたのに温かったのは、
ぴったりと寄り添ったまま眠っていたせい。

普段は眠くなるといつのまにか離れてしまってるのにね。

これだけ寒いってのいうのも、なんかいいね。

「おはよ。」
寝ぼけ眼でそのまま頬をすりよせてきたひとみちゃん。
もうちょっと余韻に浸らせてあげたいのもやまやまなんだけれど。


これからなにが起こるのか思い出したひとみちゃんは、情けなさそうに目を垂れて、唇をとがらせて。

昨夜の、私を翻弄し、漂わせたとは思えない手で、
私の人差し指だけを握りしめて、ちょこちょこ後をついてくる。

569 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:01
「あああ、まあ、すごい顔だね。あんたたち。」

お互いの顔を見合わせ、えっっ??
なんかおかしい?

化粧崩れの保田さんたちのほうがすごい顔してない?違う??


「二日もあっちを閉めるわけにはいかないからね。残念だけどそろそろ出発しないと。」

時計を見るともう10時近く。
これじゃあ東京に着くのは夜になっちゃう。
570 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:03


「まあ、せっかく来たんやから、お参りしてお帰り。」

稲葉さんはささっとエスキモー仕様コートを脱ぎ捨てると、
厳かな音色の大きな鈴と、台座を運んできて、私たちと向きあった。

「じゃあ、お財布、並べて。」
「財布?」
「巳様は弁財天ともいわれとってな。ものすごい御利益があんのよ。」

バックから、自分のとよっすぃのお財布とを取り出して台座の上に並べた。
稲葉さんはケースのなかの白い巳様のうちの御一体を慎重に手のひらにのせて、私たちの財布に横たわらせる。

「手のひらを下に向けて、巳様の御体にそっと触れて。そっとやで。握りしめたらあかんよ。」
「触れる??」

青ざめかけたひとみちゃん。
肩をすぼめるようにして、なさけなさそうに眉を下げて。

手が、震えてる。

「願掛け、したいんやろ?」
「あ、いいです、あの、お金持ちになるの、梨華ちゃんだけでいいかも。」
「私だって別にお金持ちになんてならなくってもいいもんっ。」
「いいんだよ、梨華ちゃんに一生ついてくから。」
「ええ?しあわせにしてくれるんじゃないの〜っっ??」

「ばあか。最初っからあんたたちに財運だけの祝詞をあげようなんて思っとらんよ。」

優しく笑った稲葉さんの目はとてもあたたかで優しくて、頼もしくて。

どうする?って見上げた私の目の奥を、ひとみちゃんはのぞきこんで、小さく微笑んで。
それから小さな声でお願いしますって答えた。

ひとみちゃんの右手と、繋がれた私の左手。
その手を私はもっと強い力で握り返して、手のひらで包むように握り直す。
571 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:04

いくよ? せえのって思い切って同時に添えた巳様は、
見た目と全然違ってさらさらっとしてて。
ハンドバックみたい・・・ひとみちゃんはぼそっとつぶやいた。

もう、保田さんに聞こえたら大変でしょ?


動いたり舌をちろちろっと出すたびにびくっとして私の手を握ってくるへたれだけど。

それでも私たちの未来?のためにがんばってくれてるひとみちゃんだから。
たまには私が守ってあげるよ。

長い祝詞のところどころにわたしと自分の名前が出てくると
急に改まった表情になって神妙に頭を下げる、
ひとみちゃんのめまぐるしく変わる横顔をこっそり盗み見しながら。

どうかひとみちゃんがいつまでも幸せでありますように。って。
いつまでも隣に寄り添ってたいですって。

白くて小さな神様に祈りを捧げた。



572 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:08






「ここに座って。そろそろ、くるよ。」


お借りする神様を車にお乗せして、もう一度社務所に戻ったときに、
稲葉さんはうれしそうに私たちを手招きした。

吉澤、ものすごい御利益あるんやからね。しっかり、そのでっかい目で見ときな。って。

この期に及んで、できるだけ首を後ろにのけぞらせて、
遠目でガラスケースを眺めようとしたひとみちゃんの肘をつんつんってつついて、目だけで合図をした。
ひとみちゃんはちょっと笑って、つながった手に力を入れつつ、ちゃんとケースを直視する。


コツコツコツ。


何箇所かにできた線のような傷が、大きな亀裂に変わって。
半透明の体に、赤い筋の入った鼻先がのぞいて。
それから、頭がぴょんって飛び出して来た。
小さくても、同じ赤い瞳。

「ほら、みてみ。空気を吸ってるやろ? あたりの様子をうかがってるんよ。」

いきなり全身を表すことはなくって。
これから一日とかかけて、ゆっくり外に出てくるものだって。

573 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:09
小さくても神様。
生まれながらにして神様。

大きくなったらいただくって張り切ってる保田さんの、頼りになる担い手。


きっとこの後たくさんの人たちの夢や願いを叶える
立派な巳様になっていく。


稲葉さんと保田さんはきちんと正座してぱんぱんっと柏手を打ち。
深く深く一礼する。
私とひとみちゃんもそれに習って、ぱんぱんっと大きな音を響かせる。



574 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:10






575 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:11


「いやあ、あんたら、ほんとについてたなあ。」
「ものすごい御利益あるんやで。」
「って、昨日も言ってましたけど、なんの御利益ですか?」

たずねた私たちに二人は顔を見合わせて一瞬笑いあって。

「子宝や。」

って、それはデキないでしょ?保田さん・・・。
いくらなんでもムリ、でしょ・・・?


「まあな、メインはそれなんやけど、ほかにもいろいろあげといたから大丈夫や。」
「そうよ。まあ、聞いててびっくりするくらい、いろんな祝詞をあげてくれたわよ。」
「八尾路図の神がついてるって思って安心しとき。」
「そんなんなくても、あんたたちは大丈夫だと思うけどね。」
「それじゃ商売になんないでしょ?」

二人は顔を見合わせて豪快に笑う。

「春になったら、またおいで。今度こそ近江牛、な。圭ちゃん。」
「だね。お礼参りもさせなきゃいけないし。」
「お客様からの声ってやつ、二人の写真付きで貼ったるわ。」
「あら。じゃあ絶対不幸にはさせらんないわね。」
「うちらの商売繁盛は二人にかかっとるな。」

「じゃあ、もう私たちを脅したりしないでくださいよ。」

保田さんはふふっと笑って返事をしないまま、ほら、乗って、と
助手席のドアをぱたんと閉めてくれた。



576 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:13

「ちょっとは慣れたけどさ、助手席でそれ、抱えるのはやめてね。」

垂れ目をいっそう下げながらこっそり耳打ちしたひとみちゃんの頭をいい子いい子って撫でる。

「それと、返しにいくのも、無しでもいい?」

それは自分で保田さんに言ってよね。

「あと、さ。保田さんの前ではその、名前で呼ぶやつ、なし。」
「なんで〜?」
「絶対突っ込まれるし。」
「いいじゃあん。そのくらい。」
「・・・ウチが・・照れる・・。」


可愛くってしょうがない、愛しいヒト。
いつもの頼もしい姿も大好きだけど。
こんな姿を見ちゃうと、もう絶対離れられなくなっちゃうよ。








どうか、よろしくお願いします。
12月25日にお生まれになった、真っ白な小さな神様。





サンタさんには会えなかったけれど。

ひとみちゃんと末永く一緒いられることが、
私たちが一番欲しいと願う、最高の贈り物。











fin 




577 名前:満員御礼祈願・保田大明神2 投稿日:2005/12/23(金) 12:13



578 名前:咲太 投稿日:2005/12/23(金) 12:14


579 名前:咲太 投稿日:2005/12/23(金) 12:14
以上です。
580 名前:名無しとんがりこーん 投稿日:2005/12/23(金) 12:22
更新お疲れ様です。
そしてよっすぃも…乙w
保田大明神がまた読めて嬉しかったっす!
かなりご利益ありそうですねウヒヒw
581 名前:A−203 投稿日:2005/12/23(金) 13:08
更新お疲れ様です。そして、ありがとう(*´▽`)´〜`*)w
やっぱり咲太さんのお話を読めるのが、とても幸せです。
ふたりならきっと、こ(ry……もできるよw
582 名前:しょうゆマヨ 投稿日:2005/12/23(金) 22:42
更新お疲れ様でした。久しぶりに読めた〜!
責任とってその後を書いてくださいね。
ご利益があったかどうか・・・(自らハードル上げたなw)
次回の更新楽しみにお待ちしてます。
583 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/24(土) 00:18
>>575
八百万のことかな?

ひさしぶりにいしよしヤッスーが見られて楽しかったです
584 名前:孤独なカウボーイ 投稿日:2006/01/27(金) 19:14
あぁ、巳様が生まれて力が抜けたwww
保田さんのキャラがこの二人にピッタリきてる気がしますね。
ご苦労様でした(^^)☆
585 名前:孤独な名無し 投稿日:2006/03/22(水) 19:39
お待ちしております☆
586 名前:咲太 投稿日:2006/05/06(土) 20:55


587 名前:咲太 投稿日:2006/05/06(土) 20:56
いつのまにやら冬を終えて春も中盤になっています・・・



>580 名無しとんがりこーん さま

どうもありがとうございます。
白蛇さまがいなくても保田さんのご尊顔だけでご利益がありそうな予感・・・

>581 A−203 さま

いつもありがとうございます。
こ(ryができる話も書きたいんですけどね。(ナイナイ
お尻をたたかれながら久々に・・・w

>582 しょうゆマヨ さま
どうもありがとうございます。もっと空いてしまいましたw
え??ハードル上がっちゃったんでしょうか・・・ぅぅっ。。。
ご利益はご利益は・・・

>583 名無し飼育さん さま

そうです!!八百万です!!ほんとに失礼しました・・・
いしよしヤッスーヲタとして(?)読んでいただけて本当に嬉しいです。


>584孤独なカウボーイ さま

いつも本当にありがとうございます。
巴様に見守られいしよしは永遠でしょうw
どうしても保田さんを出したくなる自分は・・・(ry

>585 孤独な名無し さま

本当にありがとうございます。
待っていただいてるというお言葉が身にしみて嬉しかったです。
大変お待たせしてしまって・・・



あの日から明日で一年になります。
とりあえず更新を・・・。



588 名前:咲太 投稿日:2006/05/06(土) 20:59




『 next 』









589 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 20:59



590 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:00




恐ろしいほど堅物だから。困ったもんだといつも思う。


寝る前のマスクや。冷房をつけないことや。
普段はどっちかっていうとだらしない方のくせして、
こうと決めたことはとことん守らなきゃいけない性格っていうか。





だから。


ピンポーン


チャイムが鳴って。

高級スーパーの紙袋をいくつもぶらさげて、
朝っぱらから満面の笑みをうかべて、
「きたよ〜」と笑う梨華ちゃんを。

頬を緩ませながら、ドアをあけて迎え入れる。


591 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:01


台所に直行して、ちょこまかと冷蔵庫の中に食材を入れるのを、あたしも後ろから手伝ったり。
朝から気合を入れて煮込まれるらしい野菜を剥く梨華ちゃんを眺めながら、
対照的に手抜きされた出来合いのお昼用のお惣菜をお皿に盛り付けたり。







二人っきりで外で食事なんて久しくしてない。
記念日と言われるときには一緒に過ごさない。
クリスマスでも誕生日でもバレンタインでも、
「ほとぼりがさめてから」っていうのが暗黙のうちの約束。

あたしの中ではそんなもの、もうとっくにどうでもよくなっていて、
さらっと出かけるくらいいいじゃんって思うんだけど。


それが梨華ちゃんのなかでめいいっぱいの許容範囲であるらしいから、
当日はお互いに適当な友達と一緒だったりして、
メールだけを送りあったりして、
次にスケジュールが合ったときとか、仕事の空いた隙間に
必ずここに会いにきてくれる。



「みんながしてるから大丈夫」らしい、
軽いキスをするのは許され。
頼めば一緒にお風呂にも入り、背中を流し
何も言わなくても、こういう夜は必ずあたしのベットの中にもぐりこんできたり。

592 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:01


だけど、肝心の言葉や、愛ある行為は
彼女の中のバランスを崩してしまいそうだから。


マジメで堅物で、自分の決めた事は絶対曲げず、
だからご法度って言われればそれは何があっても守らなければいけないヒトだから。


――――踏み込んで崩してしまうのは怖いから。






いつのまにか境界線を踏みたいと思う強い欲求みたいなのは
凪のように穏やかになって。

見守るような気持ちになったのはいつからなんだろう。


593 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:01






594 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:02


「飲む?」
「ん、ありがと」


髪を拭きながらキッチンまで来ると。
先にシャワーを済ませていた梨華ちゃんが、ドライヤーを止めて
ペットボトルからミネラルウォーターをグラスに注いで手渡ししてくれた。



「見たよ、パソコンで」
「何を?」
「すげえ衣装じゃん」
「もぅ!!どこでそんなの見つけるのよ〜〜!」
「壁紙にしようかなって思ってやめた」
「バカッ!」
「いや、ごっちんのをね」
「はいっ?」
「うそうそ。でも発育した?育ち盛りだねえ」
「太ったわけじゃないからね!」
「いいなあ、地方は・・・。美味しいもの食べすぎでしょ?
 たまにはクール便でカニとかイクラとかさ、届けてくれると嬉しいんだけどな」
「北海道はないもんっ!」
「ないの?」
「欲しけりゃ、美貴ちゃんとかコンコンとか、まいちんだって。
 あなたの周りには送ってくれる人、たくさんいるでしょ?」
「そりゃあまあそうだけども・・」

ムキになってミネラルウォーターを音をたてて飲み干す。
595 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:03
「いいなあ、ごっちんと飲むの・・」
「いいでしょぉ?」
「楽しいだろうなあ・・ごっちんと飲むの・・・」
「・・・・・・・・・・」
「のの、やきもちやいてるだろうなあ・・・」
「未成年なんだから連れてけるわけ、ないでしょ?」
「そりゃあそうだけどさ、あ〜あ、ごっちんって酔ったらどんな感じ?」
「ちょっと口数増えるかなあ・・・あと優しくなる」
「げっ!ずるぃなぁ・・ごっちんに優しくされたいよお!」
「ふふ〜ん!」
「あ〜あ、あと2ヶ月も続くんだよなあ・・・」

こっちはようやく一息つけるっていうのに。

「じゃあ、見にくればぁ?」
「くればってどこに?」
「どっかに。」
「いや、柴っちゃんみたいにってわけにはいかないでしょ・・・」

立場的に。
あんまり遠くにわざわざ見に行ったってのはよくないかもって、
変な気働きばっかしてしまう。
596 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:03
「さ、寝よ寝よ、明日朝早いんだあ、6時にうちのマンションの前だって。
 5時には起きないきゃいけないから・・・あ、寝てていいからね。勝手に起きて出るから」


言いながら。
梨華ちゃんはあたしの部屋にノックもせずにあたしより先に入って行き、
どすんとベットにジャンプするように飛び込んで、壁際につめると、ニッコリ笑ってぽんぽんとマットをたたいた。


素直に入り込むのもなんか癪にさわるし。
最近忙しすぎてお泊りなんてホント久しぶりだから、妙に緊張しちゃって。

「歯磨きしてくるから先寝てて」

「うん、じゃあおやすみ〜!」

って。コロンと寝転がる人を見て、入り口の電気をパチンと消して、
ドアをそっとしめた。
597 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:04


とくに急ぐわけでもないメールに返事をしながら歯磨きをして。
必要も無いのにリビングとか片付けしちゃって。
梨華ちゃんの道具だけガーって広がってるのをささっと集めて。
バックの上に無造作に置かれているスプリングコートをハンガーにかけ。

そおっとドアを開け、寝息を確認してから、手前に音をたてないように潜り込む。



しばらく暗闇に目を慣らしていると、真横の顔がぼんやり見えてきて。
パッツン切っちゃった前髪とか。相変わらず口元にかけられたマスクとか。
小さい手を布団の上に出して、顔の前で組んでるとことか。


ニヤって笑いながらくるっと反対側に背を向けて。
布団を肩まで被って目を瞑ると。
後ろがモソモソ動き出して。



「なんでそっち向いてるの・・・?」


「あ。ごめ・・起こした・・?」


物音にやたら敏感な彼女は、ぱっちり目を開けて、じーっとあたしの顔を覗き込んでいた。

って、わざわざ向き合って寝ることもないし。
抱きしめあって寝るような関係じゃないし。
これまでだって梨華ちゃんがギューって寄ってきて、なんてのはあったけど、
こっちからベットで抱き寄せて、ってのは久しくしてない。
598 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:05
「ね、ひとみちゃん」
「なに?」

唐突に語り始めた彼女。


真っ暗な部屋の中で、ベットに寝転がりながら。
こうやってトーンを落とし、すこしかすれ気味の声を聞くが好き。
いつもはわざとからかったりもするけど。
回らない舌で、甘えた口調になる梨華ちゃんの夜語りは、ずっと昔から大好きな瞬間。


「ライブ、ね」
「ん?」
「すっごく楽しいの、毎回MCとかどんどん長くなっちゃって。移動中もワイワイやって。
 なんか、そういうの久しぶりだなって」
「久しぶり?」
「ん、頑張り過ぎなくていいっていうか、ごっちんに任せてれてば大丈夫みたいな。
 安倍さんとかみんないてくれたときの娘。だったときみたいな感じかな。」
「そっか・・」
「でも、一番嬉しいのは思う存分ひとみちゃんの話できることかな。
 ああいうこともあった、とか、共通の話題がいっぱいあるじゃん?それが楽しい・・」
「ん・・・」
「ののとか止めても止めてもケーキとか食べ過ぎちゃうし、ごっちんもつられてすごいし」
「だからそんなに太ったんだ」
「もぅっ、気にしてるんだから!顔、丸くなったってみんなに言われる・・・」
「いいじゃん、肉感的なのも」
「やだっ!衣装が苦しく無い程度にしようと思ってるんだけど・・」
599 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:05
ちょうど一年前にとった写真に比べても。
どう考えても今の梨華ちゃんの体は一味違っていて。
容赦ない体になってて。
それが最近緊張感をあおる。


いや、あのときだってそれなりにすごいなって思ってたんだけど。
今の梨華ちゃんに比べたらまだまだ子供だって思えるくらいの艶っぽさに、
DVDとかこっそり見ながら、う〜、とかわ〜、とか言ってるのをたぶんこの人は知らない。


かけられたマスクに手を伸ばして、そっと耳からはずして、
じーっと眺めると。


「なによぉ・・・」
「うん、丸くなった」
「ひっどおい!私、いくらよっちゃんが大きかったときだって、そんなひどいこといったことないじゃない!」
「なんだよ、大きかったときって」
「あ〜あ・・あのぷにぷにお腹が懐かしいよ・・」


そう言って。
布団の中でごそごそと手を伸ばして、あたしのわき腹をぎゅーっとつまむ。
600 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:06
「へ〜ん!つまめないじゃん」
「あれはあれでよかったんだけどなあ・・抱き心地よかったし・・」
「ぬいぐるみじゃないし」
「すっごい安心したんだからぁ!」
「今は?」
「今は・・・・・・なんか照れちゃう・・・」

そう言って。
梨華ちゃんは少しうつむいてしまった。


「きれいすぎて、照れちゃう・・」

なんかこういう空気が恥ずかしくって。
思わず口走りそうになるのが怖くて。


「いいじゃん、今は梨華ちゃんのほうが抱き心地よさそ」


両腕を伸ばして腰に回してぎゅーっと抱きしめると、
確かに胸周りあたりがさらにボリュームアップしてて。

昔はずっとこんな風にして寝てたはずなのに。
なのに今は息苦しくなってしまって。



自分からまわした腕だったのに、不自然に引っこめてしまった。
601 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:08


「さ、寝るよ。おやすみ」


いまさら反対側を向いて眠るわけにもいかず。
黙って仰向けになって、目だけをぎゅっと閉じた。
眠れないことなんてわかってる。
強く瞑ると瞼が震えてしまうから。
気づかれないようにそっと触れるくらいの力に戻す。


はぁっ・・・・


小さなため息が聞こえても。
あたしは聞こえないフリをする。





だって、何にも言ってあげられない。
抱きしめてだって上げられない、今は。



画像を見ながら、思う。
あんなに挑戦的な瞳と客席を魅了しているのに。
なのにしゃべり始めると急に彼女は歳相応か、もしくはそれ以下くらいの幼い少女に戻っていて。

たぶんこれが本当の梨華ちゃん。
魅惑的なダンスも、そそるような腰の動きも
いくらかの本能と、仕事への生真面目さの代物。
602 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:08

「ねえひとみちゃん、ひとみちゃんってばぁ・・・・・・」



ゆらゆらあたしの体を揺らし続ける梨華ちゃんを無視して。
あたしはぎゅーっと目を瞑り続けた。



「もうっ!!起きてっ!」


うぐっぅ・・・

どすっと音がして。
梨華ちゃんはあたしのお腹の上に跨ってる。
603 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:09
「なんだよ・・」
「なんでそんなに機嫌悪いのよ〜っ」
「悪くなんかないじゃん」
「悪い!」


もう、仕方ないんだからぁ・・・


そう言って彼女は。


あたしのおでこの上の髪を細い手でさらっと掻きあげて。
額にゆっくりとキスをした。
何秒か唇を押し当て。
やわらかで温かな感触が心地よくて。あたしは黙って目を閉じ続ける。
密かに予測していたより、それはとても長い時間で。
何も言わない彼女の気持ちが注がれていくようで、体中に入っていた力がゆっくりと抜け落ちていくのを感じる。


にやって笑って上を見上げると。
あたし以上に表情を崩した梨華ちゃんがいて。

目でもう一回って伝えるとわざと小さくため息をついて、ちょっと考えるような表情をした。
604 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:09
「ねえ、一年間よく頑張りましたってのは?」

彼女が欲しがった理由づけ。

あたしの声を聞くと、嬉しそうに目を三日月のように細めて。
腕を背中で組んだまま。
体を折りたたんで、顔だけをゆっくりと近づけ、ちゅっと音をたてて、あたしの唇にのせた。


「ねぇ、・・・・私には頑張りました、は?」

ささやくような声にあたしはにっこりと笑って起き上がり。
彼女を腿の上にのせたまま、両方の腕をそっと背中に回して、軽く唇を寄せた。



「残りもさ、ごっちんとののと楽しんでおいで」
「ん・・・」


小さな手があたしの首の後ろにそっと回されたのがわかったから。
ゆっくりと顔を近づけ、さっきよりも強く唇を押し付ける。

口を半開きにしてぷくっとめくれあがったような梨華ちゃんの上唇をはさむと、
彼女もそっと隙間をあけ、お互いの唇のやわらかさを確かめる。


抵抗をしない彼女にいつもよりキスを深めながら。
パジャマの隙間からじかに腰のくびれを撫でたらかすかに声を漏らして、あたしの舌の動きに自分を合わせてくる。


滑らかな肌の感触を手のひらで味わってから、
背骨に沿って指を走らせて、片手をホックに到達させるとびくっと震えて。

「ごめん・・・」


思わず手を引っ込めると、情けなさそうな顔をして、小さくうつむいてしまった。
605 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:10


「寝ようね。明日梨華ちゃん、早いし」


つとめて明るく微笑みかけたら、唇をかみしめて一層うつむいてしまい。



もう、だからそういう顔をされるとさ、
どうしようもなくなるじゃん。
きっとほんとは。こういう自分の性格を一番気に病んでるのは梨華ちゃんのほう。


彼女の頭をくしゃくしゃって撫でて。



「朝ごはん、作ってあげよっか?」
「要らない。オレンジジュースだけ買ってあるから、それ飲んでく・・・」

もそもそとあたしの膝からおりて。
ベットの中に入り込んで体を丸めて小さくなってしまった。
606 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:10

「ほら、おいで」

って両腕を広げ。

「いい・・・」
「来なって」

前からぎゅーって抱き寄せ背中をぽんぽんとたたく。

ご・・め・・・・途中で飲み込まれてしまった小さな声。


大丈夫だって。みんなに対して梨華ちゃんの中で言い訳ができてる間は。
こうやって抱きしめる事だってキスすることだってできる。


重なり合う気持ちを言葉にだして確かめることはできなくても。
その瞳がもっと語ってくれてる。

あたしの気持ちだって、伝わってるはず、でしょ?
607 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:10
サラサラの髪の毛をゆっくりと撫で続けた。

しばらくの間あたしの胸の中で猫のように小さくうずくまっていた彼女は。
されるがままにあたしに髪を撫でられ抱きしめられ。
やがてもそもそと上がってきて。



「ありがと・・・」


満面の笑みで笑った。





そう、この表情。


なんともいえないあどけない笑顔。
こういう梨華ちゃんが好きで。
好きで好きでたまらなくて。



どんなにステージの上で熱い視線と嬌声を集めていても。
惜しみなく肢体をくねらせても。


こんな顔を向けてくれるのはあたしにだけだから。
梨華ちゃんの中にあり続ける、純粋で不器用すぎるくらいの可愛らしさは
誰よりもあたしを捕らえて離さないから。
608 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:11
ちゅっ


「あ・・・ほっぺ・・・・・」
「だって。なんかひとみちゃん、色っぽかったんだもん・・・」
「そんなことすると襲うよ?」
「だめ〜!」
「胸とかさわっちゃうよ?」
「たまに触ってるじゃん、寝てるときとか〜」
「えっっっ?知ってたの?」
「知ってるよ、目、覚めちゃうもん・・・」
「ふ〜ん、気持ちいいんだ、だから・・」
「違うって〜〜!」
「じゃあ、今も触っててもいい?」
「だめ」
「なんで〜?一緒じゃん!」
「起きてるときはダメ」
「って、寝たふりなんでしょ?」
「と、にかくダメなもんはダメなの」
「どうして〜?父ちゃん、触りたいなあ・・」
「やだ。止まらなくなりそうだから」
「減るもんじゃないし〜」
「やだ。恥ずかしくって堂々とステージに上がれなくなっちゃうもん・・・」

小さくほっぺたを膨らました彼女のを両方の指でぷしゅってつぶして。
609 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:11
「練習も必要じゃん」
「なんの?」
「表情とか」

潤んだ瞳とか。
誘う仕草とか。

「そ〜ゆ〜のは、ビデオとかみて鏡で練習してるからだいじょ〜ぶ」
「まだまだ甘いよ」
「そう・・・?」
「つんくさんの命令なんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「じゃあ、もっと練習したくなったらいつでも言って」
「やだあ!ひとみちゃん相手じゃ恥ずかしぃ・・・」
「恥ずかしいって。じゃあ誰相手にやんの?」
「他には・・・いないけど・・・」
「じゃあ、そんときは父ちゃんにいっておいで。」
「いやあよ。エロ親父っぽいから!」

「さ、ほんとに寝るよ。明日クマできちゃうよ、梨華ちゃん」
「ふんっ!」


610 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:12



「はい、マスクつけて」

枕の下側においてあったマスクをそっと耳にかけてあげる。



「ねえ、梨華ちゃん。もっと、会いに来てよ」
「ん・・・」
「相談したいこととか、いっぱいあるから、ね」
「うん!」
「梨華ちゃんだけが頼りなんだから」




仕方がないなぁみたいに嬉しそうな表情で、
目だけでにっこり微笑んだ彼女を後ろからぎゅっと抱きしめた。




腕のなかで背中を丸めた彼女はほおっとため息をついて。

「大好きだよ、ひとみちゃんの腕の中でぎゅーっとされるの・・・」


聞こえないくらいの声でそう言って。



あたしは、マスクで隠されてしまった唇のかわりに、
その耳たぶの下にちゅっと口付けてから、首筋に顔をうずめて大きく息を吸った。



伝えられない言葉はたくさんあるから。
抱きしめる腕だけに力を込めた。
小さい手があたしの指の先をぎゅっと握りしめてる、
それだけで幸せを感じてしまうのを、しょうがないなって思うけど。
611 名前:next 投稿日:2006/05/06(土) 21:13
たとえばもっと器用で、要領が良くて。
平気でまわりに嘘をつけるような、隠し通せるような彼女だったら。
あたしはこんなにも愛してはいなかったんだと思うから。



わりと気長な性格で。
待っているのも最近は苦痛じゃなくて。
からかってるのに心地よさも感じちゃってたりするからさ。







いつのまにか眠りにおちたらしい彼女の寝息がスーと聞こえ。
規則的に上下しだした体からそっと手を抜いた。
もっともっと梨華ちゃんが。
深く安らかに眠れるように。

体をびくっとさせて、不安げに伸ばされた腕をそっとつかむ。



そんな必死に握ってなくても、だいじょうぶだから。




指をからめて包みこむように握りなおすと、うっすらと開いた瞼がもう一度閉じた。
幸せそうな寝顔に思わず頬を緩ませたまま、天井をまっすぐ見上げてぎゅっと目を瞑った。


























612 名前:咲太 投稿日:2006/05/06(土) 21:13



613 名前:咲太 投稿日:2006/05/06(土) 21:14


614 名前:咲太 投稿日:2006/05/06(土) 21:14
本日は以上です。
615 名前:風邪っぴき 投稿日:2006/05/06(土) 21:47
素敵ないしよしの絆に頬が緩み、
年月を重ねてきた確かさのようなものを感じました
素敵な話をどうもありがとう
616 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/06(土) 22:19
GWももう終わりでさびしいなと思っている時に暖かくてステキな話しを読むことができました
読んでるうちに涙が落ちできて悲しい涙じゃなくてなんかうまく説明できないのですが
本当に本当にありがとう

ぜひまた書いてください
617 名前:ごま高菜 投稿日:2006/05/06(土) 22:50
更新おつです。
心が繋がってるいしよしサイコー!
前回は冬、今回は春。
なんだか季節ごとのようですがw
次回は近々お願いしますね!
618 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/07(日) 00:21
いしよしの深く繋がっている絆に胸がじ〜んとしました。
素敵な作品をありがとう!!
619 名前:A−203 投稿日:2006/05/07(日) 20:15
更新お疲れ様です。ほんとに言葉に出来ないくらいに感動しました。
ありがとう。それだけを伝えたいです……
620 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/08(月) 15:04
いしよしは良いです!最高です!!
621 名前:nanasi 投稿日:2006/05/28(日) 23:09
更新お疲れ様です。
胸が締め付けられるくらい良い話でした。
軽く感動です!!
622 名前:咲太 投稿日:2006/06/09(金) 23:59
>>615 風邪っぴきさま

もう体調の方は大丈夫ですか・・?
読んでいただきありがとうございます。
描ききれないリアルのいしよしの絆に、いつか少しでも追いつけるように・・・
日々精進ですw


>>616 名無飼育さま

こんなお話に泣いていただいたなんて、
自分のほうがありがたくて涙が出そうになりました・・
力不足はいつも感じてますが、
良かったと思ってくださる方が一人でもいてくださったら書き続けたいなと思うことができました。
本当にありがとうございます。

>>617 ごま高菜さま

レスいただいてありがとうございます。
そう、この際季刊誌でw・・・・と思いましたが、
お言葉をいただいて、なんとか書きはじめてみました。
気に入っていただけるかどうかはまた別ってことでww

>>618 名無飼育さま

本当にありがとうございます。
素敵なんて言われたら天に昇っちゃいそうですww
いしよし好きな気持ちだけで書いてますのでww

>>619 A−203さま

いつもありがとうございます。
読んでいただけただけで嬉しいのに、もったいないお言葉です・・・
なんとか気持ちをふり絞って頑張りますw

>>620 名無飼育さん

レス、本当にありがとうございます。
そうですっっ!!いしよしは最高です!!!大好きっっ♪

>>621 nanasi さま

レスをいただいて、こちらが感動しちゃいますよ・・・
いただいたお言葉のひとつひとつが次を・・・と思う原動力になってます。
本当にありがとうございます。
623 名前:咲太 投稿日:2006/06/10(土) 00:00
性格的に追い詰められないと書けない傾向なようで・・・
本当に先の見通しさえたっていませんが、
エイヤーってあげてしまいます・・・
中篇くらいになったらいいのですが・・・むむっ・・・

一週間に一度の更新を目標に・・・
(なんて公言しちゃっていいのだろうか・・・)

まったりとお待ちいただけたら幸いです。
624 名前:咲太 投稿日:2006/06/10(土) 00:00






625 名前:咲太 投稿日:2006/06/10(土) 00:01



  『 i've just moved 』



626 名前:咲太 投稿日:2006/06/10(土) 00:01
 

627 名前:i've just moved  投稿日:2006/06/10(土) 00:03


ピカピカに磨かれたガラス張りの自動ドアの前で大きく深呼吸をした。
駅で塗りなおしたリップと書き加えた眉。
背筋をしゃんと伸ばして。いかにも落ち着いたように。

ガーッ


「「いらっしゃいませ〜」」


あっ・・・


一瞬にして捉えてしまう。
探そうなんて意識するよりもっともっと早く。


628 名前:i've just moved  投稿日:2006/06/10(土) 00:05

右奥のテーブル席で接客中だった彼女も同じように視線を上げ。
にゅ〜って口元が緩んだのがわかって、思わず表情まで崩してしまいそうになった。




だめだめ。変わってないなんて思われちゃいけないんだから。




意識して口元を締め、自分で勝手に思ってる、最上級の笑み、を返して軽く顔を傾けて会釈してみた。

顔をくしゃくしゃにして喜んでくれた彼女の反応が嬉しくて。
自然と目尻を下げてしまいそうになるのを必死に抑え、口角をきゅっと上げて小さく微笑んでみせると、
あわてたように真顔に戻って、お客様のほうに向き直った。
ついつい目で追いそうになるのをこらえて壁際を向き、一面に貼られた物件の紙を何気なく眺めてるフリ。


大好きなピンクをはずしてコーディネートしてみたけど。
もっと明るい色にしたほうがよかったかな。
やっぱこの前薦められたカットソー、買っておけばよかったかも・・

はぁっっ・・・それよりこの爪。
昨日一箇所だけ見つけた小さな欠け、ちゃんと全部塗りなおしに行ってくればよかった。


でも午後からだと吉澤さん外出してることが多いって聞いたから。
午前中のネイルサロンの予約、とれなかったんだから仕方ないか・・・



629 名前:i've just moved  投稿日:2006/06/10(土) 00:07

「お待たせしました。どうぞ、こっちに・・」


背中から声をかけられ、とっさに左手を隠してしまった。
机にのせないようにしなきゃ・・




「あ、ありがと。元気そうだね〜!」
「はい、先輩も相変わらずで・・」





私より半歩先にカウンターの中へ入っていく背中を追う。

見慣れない、膝より短い丈のスカート。
高いヒールの靴。

すらっと伸びた足は現役のころの彼女のイメージとは違くて。
ストッキングとかはいちゃってるんだ・・あたりまえだけど。

ギャップが大きすぎて、なんだか見てるほうが妙に恥ずかしくなっちゃう。
ううん、すっごく似合ってるんだけど・・・



「ごっちんからメールもらって、一応合う条件のを探してみたんですけど、なかなかないんですよね・・・」

足にみとれてたら声をかけられて、あわてて椅子に腰掛けた。

630 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:08


会社から30分以内の小田急沿線の駅。
できれば準急も止まって徒歩5分以内の2LDK。そう、ここが重要ポイント。
増えすぎた荷物とお気に入りの家具。
思い出とともに処分するにはあまりに惜しくって。


未練なんてもうとっくになくなってしまっているのだけれど、
さくっと買いなおすほどの甲斐性は私にはないようで。
変なとこ貧乏性だってママにも言われるんだよなあ・・・
まあでも人は人。物は物。思い出は思い出。


「ごめんね、忙しいのにいろいろ調べてもらっちゃって。」
「いえいえ。お役に立てたら嬉しいですよ。1LDKだとたくさんあるんですけどね・・・」


そう言って彼女は分厚い青いファイルをテーブルの上において、
あらかじめ抜き出しておいたコピーを何部か私の前に抜き出した。


631 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:08
  

632 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:10


「最初はどれ?」
「ええっと、一番近いとこから順番にまわってみましょうか。ちょっと古いんですけど、このまえリフォームはいったばっかなんです。」

吉澤さんは黒いバックにファイルを入れると、助手席にまわってドアを開けてくれた。

「この時間帯だと街道沿いが混んでるかもしれないんですよね。
 もう少し時間ずらしてから、西方面のほうがいいかなあって。」


手馴れたハンドル捌きと切り替えし。
発進も停止もものすごくおだやかで。
吉澤さんらしい性格があらわれてる、こんなとこにも。

すっごく安心できる運転だなあ・・

ちらっと吉澤さんの横顔を見上げながら、さっきから感慨にふけってばかりいる。
なんていうんだろう・・・親心みたいな?
あの子がこんな風にねえ、みたいな。
やだ、これじゃ親戚のおばさんっぽい・・・・


学生時代はまさかこんなふうにして、吉澤さんの隣に座ったりするなんて思ってもみなかった。
移動はいっつも電車だったから。
633 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:11
「すごいね、いっつも運転して見せてまわってるんだぁ」
「一応仕事ですからね。先輩は?免許とってましたよね?」
「うん。完全にペーパーだけどね。」
「外回りとかってないですか?」
「ううん、ほとんど会社の中で片付いちゃうかなあ。たまに支社に行ったりするけど、電車が多い」
「去年主任になったんですよね?おめでとうごさいます。」
「あ、うん。まぁ・・」


知ってたんだ・・・




卒業して5年。
ひとつ年下で、一浪してた彼女が仕事についてから3年。
忙しさにかまけてなんとなく会わなくなって、生活の時間帯がかわって、そのうちメールも途絶えがちになって。
理由はもちろんそれだけじゃないけど。
彼女は前から勤めたいって言ってた不動産関係のお仕事に就いて、実家近くのお店に配属されて。


一年に一回くらい同級生の飲み会には顔を出してる。
そこでも私が吉澤さんの名前を口にするとみんな変に意識してしまうから。
近況とかはあえて自分からは聞けずにいた。



吉澤さんと同級生の後藤さんが、仕事場のすぐ近所のレストランのチェーン店に異動になったって聞いて。
ランチを食べに行ったら嬉しそうに次から次へとデザートを出してくれて。
引越し先を探してるって話したら、よしこが今埼玉からこっちの支店にうつってきたから、
小田急線あたりだったら詳しいはずですよって。
変わってしまってた吉澤さんのメルアドと、支店の名前をメモにさらさらと書いて渡してくれたのは先週のことだった。
634 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:13


変わらない長い睫と、透き通るような肌。
日差しはどんどんきつくなっていく季節なのに、気にも留めず晒したむき出しの白い腕。
ちゃんとメイクされた横顔には、子犬のようになついてくれたあのころの面影はなくて。



『マスカラしたら〜?すっごくきれいだから映えると思うよ〜』
『やですよ、恥ずかしぃ・・』
『いいじゃん、塗らせてよぉ』
『やですっ!リップだけで精一杯。これ以上ぜったいしませんから!』
『リップってあたしがあげたやつでしょ?あんなんじゃなくってさ、もっと似合う色あるから買いにいこっ』
『だからぁ。なんで先輩は私を着飾らせるの、好きなんすかぁ・・』

彼女が一年生の秋。

嫌がる彼女を無理やり連れ回して、デパートめぐりとかしてたな・・・。
おね〜さんたちにメイクしてもらってほおっとため息をつかれる瞬間が大好きだった・・・


635 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:14


「次どっちから行きます?」
「へっ?」
「あ、今のとこからちょうど反対方向にあるんですよ。3枚目のほう、先に行きます?」

あわてて手元にあったコピーをめくる。

「あ、うん。吉澤さんに任せるよ」

はいって、にっこり笑うとウインカーを上げて。
そのまま緩やかに車線変更して、右折レーンへ流れる。

「今のとこ、家族連れが多かったですね。子供の足音とか、気になっちゃうかもしれないし。
 先輩、すぐ目が覚めちゃうでしょ?ちょっと住みづらいかもしんないですよね」

覚えててくれたんだ・・・
そんなちっちゃなことまで。

あたしが口に出すまでもなく。
先回りしていろんなことを条件に上げてくれる。
気が利く子だったもんね、昔から。
後藤さんからもちらっと聞いたけど、営業成績もすごくいいんだろうな。

636 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:18
「う〜んと・・・最後のあたりはまあまあかなって思うんですけど、
 あんまり治安がよくはないんですよねえ。徒歩4分くらいなんですけど、途中に飲み屋さんが多い商店街を抜けるんですよ。」
「でも駅から近いんでしょ?だったらそのくらい大丈夫だよ」
「だって心配じゃん・・・」


さりげない一言に胸がドクンと音をたてた。








――――『先輩、大丈夫ですか?あたしが送っていきますから。』

下級生のくせに。自分のほうがよっぽど飲まされて酔いが回ってるくせに。
いっつもあたしのことを心配して。

みんながそれぞれの駅で降りて。
二人っきりになったときだけ、私たちは、いや、私は、か。
彼女の口から敬語が出てくるのを拒んだ。



『あんまムリばっかしちゃだめだよ。すっごい心配になるじゃん・・・』

耳元で囁かれる言葉にたゆたいながら、
彼女の肩にもたれかかって目を閉じていた―――――





微妙にいろんな時期がズレてたんだって今だから冷静に思える。
伝えられない言葉がたくさんありすぎて。

ううん、そうじゃなくて。
言わせない言葉がたくさんあったんだ、と思う。
でも、かわりに投げかけてくれたギリギリの言葉と優しさだけで。
息が詰まりそうになるほど、幸せを感じられてた・・・・・






637 名前:i've 投稿日:2006/06/10(土) 00:19




窓から流れていく景色が徐々にゆるやかになり、体が傾くこともないくらいやわらかく滑るように車が止まる。

「ここの白いほうの建物です。」
「あ・・・うん・・・」


「今ちょうど二部屋空きが出てるんですけど。長方形の間取りのと、くの字型になったほう。
 リビングはくの字のほうが若干広いんですが。」


さっきまでと同じように吉澤さんは慣れた様子で助手席へまわってドアを開ける。
手に二つのキーと書類ケースを抱えて、颯爽と私を導いていく。



いつのまにか散らばってしまっていたコピーを膝の上でまとめ、意識を掻き寄せて思い出を封印した。

じわりと心の奥に広がりそうになる小さな寂しさを笑顔で飲み込みながら、階段へと伸ばされた細い脚を見上げていた。


638 名前:i've just moved 投稿日:2006/06/10(土) 00:20


639 名前:i've just moved 投稿日:2006/06/10(土) 00:20
  

640 名前:咲太 投稿日:2006/06/10(土) 00:21
本日は以上です・・
641 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 01:15
どうなるんだろ、ワクワク
642 名前:米っ子 投稿日:2006/06/10(土) 09:55
ヤバイ!ヤバすぎる!初回で思いっきりはまりました。
早く続きを!と催促したくなる作品です。
次回の更新も楽しみにお待ちしてます。
643 名前:A−203 投稿日:2006/06/10(土) 15:38
更新お疲れ様です。やっぱり優しさと切なさが同居する作者様のお話が好きです。
つづきも楽しみにしてます。あまり追い込まずにまったりと頑張ってくださいね〜。
644 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 16:31
二人の距離感が気になりますね。
続きを楽しみにしています。
645 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/10(土) 18:35
二人の過去とか関係とかとにかく続きが気になります(*´д`*)
646 名前:咲太 投稿日:2006/06/23(金) 19:09


647 名前:咲太 投稿日:2006/06/23(金) 19:10
>>641 名無飼育さま

どうなんでしょう・・?こちらも行く末がわかりませんw
ご期待に添えてるといいのですが・・・・


>>642 米っ子さま

はまっていただいてありがとうございます。
1週間といいながらすでに・・・(苦笑
どうぞビシビシ催促してください、お尻をたたかれないと・・・

>>643 A−203

いつもありがとうございます。
どうしてもどこか切なくなってしまってるようで・・・(苦笑
でも好きといっていただいてほんとにいつも励まされています。

>>644 名無飼育さま

過去と現在とあっちこっち行ったりきたりで読みにくいと思いますが・・・
なんとか距離感を表現できるよう頑張ります。


>>645 名無飼育さま

ありがとうございます。
まったり進行で申し訳ないです・・・
キビキビいけるよう精進します・・・


いきなり間が空いてしまいましたが、
なんとか更新です。
まったりペースですがおつきあいいただけたら幸いです。
648 名前:咲太 投稿日:2006/06/23(金) 19:10
ああ・・・ごめんなさい・・・
A-203さま、でした。(お許しを・・・)
649 名前:咲太 投稿日:2006/06/23(金) 19:11


650 名前:i've just moved  投稿日:2006/06/23(金) 19:11


651 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:12


お惣菜の入ったビニール袋をテーブルにおいてまっすぐ電話口に向かった。

今日は届いてないらしい。
最近定例になってるFAX。

とたんに一日の疲れがどっと沸いてきて。

いいや、今日は白ご飯炊くのサボっちゃおう・・
スーパーでもらったビールのミニ缶があったよね。

冷蔵庫の中を物色して。
脱いだ服はダイニングの椅子にかけただけにして部屋着に替え、ソファーに深く腰掛けた。
テーブルに置かれっぱなしの透明ファイルに手を伸ばしてぱらぱらとめくる。
FAXの表書きに書かれた吉澤さんの几帳面な文字。
652 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:12
毎日のように物件を送ってくれて。
あんまり気に入るような間取りではなくても。
予算的に届かないってわかってる物件でも。
なんとなく携帯に電話してしまって。

たいてい、吉澤さんのほうが先に答えを導いてくれてる。
こういうのしか見つからなくてすみません、なんて笑いながら。

まだ社内に残っている時間が多いからそんなに長くなんて話せないけど。

昨日たまたま郵便物の中にタイムリーに届いてたOG名簿。
姓が変わってたあの子のこと、さらっと話題にしてみようかななんて思ってたんだけどな・・・・
今夜はかける理由が見つからない。


爪が折れないようにスプーンを使ってビールをあけて、
久々の苦い味に顔をひそめた。



653 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:13


654 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:14


3年になってゼミが忙しくなって部活にも顔を出せなくなって。
すごく久しぶりに部室に教科書を取りに寄ったときに。

「おはようございます。」
立ち上がって挨拶した彼女を見たときに、あ、この子のことだったんだあって、すぐにわかった。
体育会系でちょっとお堅い雰囲気のとこだったから、私が座るまで彼女も立ったまま。

「教科書、探すだけだから、座ってて。」
そう言ってもなんかもじもじ立ったまま。
場も続かなくって仕方なく背を向けたまま話し掛けた。

「1年生?」
「はい」

そのまま無言。二人きりの部室に微妙な空気が流れて。
こっちも名乗るべきかなって思ったけど、遅れたら出席カードをもらえない授業で。
レポ用の課題図書を山のように積まれた自分の棚から引っ張り出してもう一度彼女の方を見た。

「ごめんね、急ぐから」
出て行くあたしに向かって慌ててぺこって頭を下げる仕草が視界の隅に入って。
きれいな子だなあ、みんなが騒いでたわけだ、それが彼女の第一印象だった。



655 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:16




新入生歓迎コンパで、ようやく新一年生全員の9人の名前と顔が一致した。
そのなかでも彼女は群をぬいて美しくて。
最近は滅多に顔を出さなくなってきたOGの中澤先輩も保田先輩も、これをエサに誘い出されたらしい。
さすがやり手の美貴ちゃんっていうか。

例年5人くらいの軟式庭球部にこれだけの人数が入ったのは、彼女の手腕。
あたしたちの同期だけ8人と多いのも、お局さまと化した過去の先輩たちの言葉巧みな勧誘。

いわく、体育会だと就職に有利だよ。
いわく、硬式のほうは経験者ばっかだけどさ、うちは初心者でも全然おっけ〜!
いわく、学食は混むからね、部室があると便利よ。


たぶん毎年繰り返されるこの単語で、あの子もひっかかったんだろうけど。
蓋をあけてみれば一癖も二癖もあるツワモノぞろいで。

あたしはこれでも経験者だったからなんとか練習についていけたけど、
ほんとに初心者だった美貴ちゃんたちなんてものすごく大変で。
でも心は優しい先輩たちばっかだったから、言葉はきつくてもほんとに初心者でもあったかく鍛えてくれて。
持ち前の運動神経でめきめきと力をつけた美貴ちゃんが同期の主将になっていた。
656 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:17
副会計って、よくわかんない三役に就任した私はOB諸先輩方にお酌してまわる立場に進級していて、
もう一次会が終わりかけまもなく集金という時間になってはじめて一年生の輪のなかに入り込んだ。

「石川先輩だよ。」

二年の高橋が背筋をしゃんと伸ばして私を紹介する。
律儀な高橋に習ってきちんと正座をしなおした一年生たち。
斜め向かいに座ってた彼女はすでに首や胸元まで真っ赤になってて。
あたしの視線を感じたのか手元にあったビールを苦そうに一気に飲み干すと
グラスを両手であたしの目の前に差し出した。

「もぅ、そんな固くなんなくっていいってば〜。OG先輩と4年生の先輩のときだけ、コップ空けてあげてね。」
そんなことを言ってたら。

「何あまやかしとんねん。」
聞きなれた声に思わず身をすくめた。

「いつからそんなに偉うなった?石川。」
にっこり笑って差し出されたビールに、持ってきたグラスを一気に空けて出すと。

「まあ、あんたもすごい成長したなあ。おととしのこの時間帯にはあそこらへんで座布団の上に積みあがってた石川がねえ。」
毎年定位置となったそこにはすでに4人ほど転がされていて。
彼女はそんな私たちのやりとりをさっきよりも真っ赤な顔をしながら、緊張した面持ちで眺めていた。
657 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:18
「だいじょぶ・・?あんまり飲んだ事ないんでしょ?」

帰りの電車の中で。
彼女はコクリと頷いて、はあっと小さく息を吐き出した。
隣駅だっていうのは聞いてたから。
みんなが降りてしまって二人きりになった電車の中。

文系の私と、理系の彼女、
それぞれキャンパスは違ったから、部室で重なるといってもあのときが最初で最後だったし
練習は合間を見て一般教養用のキャンパスに通って1年生を見ることになってたけど、
授業が重なって一緒のコートで練習することはほとんどなかったから。


「座れば?」
「あ、いえ・・・」
「いいって。ほら。座ろう?」

かなり酔っているのか、つり革に両手をぶらさげて、
手のひらに額を押し付けるようにして体を支えていた彼女を強引に座らせた。

「吉澤さんって、埼玉出身なんだっけ?」
「はい。」
「18?」
「いえ。一浪してて4月生まれなんで20歳になったばっかです。」
「噂には聞いてたんだ〜。すっごい可愛い子が入ったよって。なかなか見れなかったけどね。」
「そんな・・」
「駅も隣だし、よろしくって美貴ちゃんからも頼まれてたんだけどなかなかね。」

吉澤さんははにかむようにしてペコリと頭を下げた。

「可愛いなあ。すっごくもてたでしょ?」
そんな風に言って顔を覗き込むとびっくりしたように真っ赤になって。

「そ、んなことないです。」
「なんで〜?すっごいきれいな顔してるじゃん。告白とかいっぱいされたでしょう?」
「ぜ、全然です。高校のときは眼鏡かけてましたし、浪人中も勉強ばっかでしたから。」
「ほんとに?」

まじまじと顔を近づけて大きな瞳を覗き込むと。
ぶわっとありえないくらい耳朶まで真っ赤になって。
そんな様子が可愛らしくって、しどろもろに答える彼女に矢継ぎ早に質問を浴びせた。
658 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:19







それから。梅雨の鬱憤をはらすかのように、
毎年恒例の4校対抗の新人戦に向けてどんどん練習がハードになっていって。

その頃には。
なんとなく言われるようにはなってた。
よっちゃんは石川先輩にベタぼれですからねって。
たまたま隣に座ってても。あたしが彼女のフォームを直していても。
冷やかしっぽい視線がまとわりつくようになり。

だから、かな。飲み会でもあえて彼女の隣を外すようになってた。
というか私が隣にいけば4年の先輩たちが吉澤さんに飲ませに集まってくるのがわかってたから。
どっちかっていうと吉澤さんを守るため、なんて言い訳をしながら。
659 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:20
試合の後の打ち上げで。優勝者はうちの部の一年生だったからすごく盛り上がって。
だけどあたしはどうしても吉澤さんにちゃんと声をかけたくて。
初心者でベスト16なんてすごいことなんだよって。

ちょうど吉澤さんが他の一年生の介抱のために外に出るのを見計らって、席をそっと抜け出した。

「大丈夫?お水、もらってこよっか?」

居酒屋の表にある大きな生垣の前に座り込むようにして眠った一年生の横で。
自分も真っ赤になりながら体操座りしてた彼女の横に、並んで腰をおろしたら吉澤さんはすごくびっくりして。
それから嬉しそうに目尻を下げて微笑んでくれた。

「さっき飲ませました。眠たいだけなんじゃないかなって思います」

そんなに嬉しそうにされたらこっちまでつられて笑ってきちゃう。

「おめでと。」
「ありがとうございます。あの・・・・わかりました。」
「試合終わったあと?」
「はい。がんばったって言ってくれたの」

ベスト8をかけた試合で負けてしまって悔しそうに唇を結んだ彼女の視線が誰かを探していて。
その前からあたしは、ほんとは彼女のことを目で追ってしまってたから。
視線があうとぴたっと彼女の動きが止まり。

あたしは。
小さく頷いて微笑んでいたんだと思う。
「がんばったよ」
スタンドで口だけ動かしたあたしを見て、吉澤さんは目を伏せてそれからもう一度あたしを見上げて。
コーチのようにしてベンチに入っていた美貴ちゃんのところへ走っていった。
660 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:21
「あの・・・」
「なに?」

吉澤さんはアスファルトに視線を落としたまま。

「先輩、お付き合いしてる人、いるんですね。」


会話の流れに沿うわけでもなく、本当に唐突に。
あたしに尋ねるというわけでもなくまるで独り言のようにさらりと。

あたしが必要以上に彼女に近づかないようにしてた理由をいとも簡単に打ち破って。


答える言葉すら失って黙り込んでるあたしを、吉澤さんは潤んだ瞳で見上げ。

「聞いてました。新入生歓迎会のときに。中澤さんから。」
「へっ?」
それって、2ヶ月以上も前・・・?

「社会人の人らしいですね。」
「・・・うん・・・」

弁解も。何もできないまま。

隠してたわけじゃない。
聞かれたら答えたと思う。
でも。言いたくない、知られたくないって気持ちはずっと高まってて。
661 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:21
「先輩みたいな人だったらいて当たり前でしょ?うちら、みんな知ってますよ」
「そっか・・」

「でも・・・」
気丈にスラスラと話していたはずの吉澤さんの表情から微笑みが消えて。
眉をすっと寄せてきゅっと唇を閉じた。

「なんでもない・・です」

「あ、あのね」
「いろいろ聞いてます。去年の秋くらいに、中澤先輩の紹介でお付き合いしだしたんでしょ?
 だけど結構仕事が忙しい人で・・・」

そう、あんまり会ったりしてない。
だからそれを中澤さんが申し訳なく思ってて、会うたびに大丈夫か?って心配してくれてる。

最初のうちは少し腹を立てたりもしてた。
でも初めてお付き合いした人で、感覚もわかんなくて。
週末も仕事が入ったと言われればそんなもんなんだろうって思って。
662 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:22
「いい人、みたいですね。性格も穏やかで優しくて、仕事もできる人で。
 すごく大人で包容力もあって」

すべてその通り。あたしにはもったいないくらいの人。
会えないことを除けば非の打ち所がないくらい、なんだ、と思う。

「先輩可愛いし、ほっとけない感じの雰囲気だし、」
「な、何言ってるのよぉっ」
「だって一目ぼれしてましたもん、新入生の勧誘のとき。」

さくっと言われて。

ドキドキするような言葉。
だけど、そのあとに、ついてたよね?今。

してました。

―――過去形。

ズキュンと痛んだ胸のひっかかりに気付かなかったことにしたくて。
あたしはそのまま何事もなかったように言葉を続けた。


「だって私いなかったよ?」
「はい」

ちょうど予算委員会に提出する書類の計算違いが見つかって。
翌日の会議で部費の値上げの申請を行うことになってたので、
美貴ちゃんから勧誘はいいから部室で書類を仕上げてってきつく言われてたんだもん。
663 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:23
「他の部も見て回って、帰ろうかなあって思ったときにふらっと軟式庭球部の前を通ったら、いたんです、先輩」
「えっ?」
「藤本先輩にノート見せにきてたでしょ?なんか突っ込まれてガクって落ち込んで・・・」
「あぁ・・・」
「で、そのあと部室かなんかに戻ることになって小走りで藤本先輩を追っかけてて。
 藤本先輩が振り返ってしょうがないなあみたいな感じで手を出したら、すっごく嬉しそうに笑って手を握ったんです。」

吉澤さんはあたしを見て頬を緩めて。

「あんな風に笑ってもらえるように手を伸ばしたいって・・・ずっと思ってました。」

それだけ言って大きなため息をひとつこぼした。
664 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:24
「先輩、中戻ってください。もう少しこの子みてないといけないんで。」
「いいよ、あたしもここにいる」
「みんな中で飲んでるし」
「いいからいいから」

横にちゃんと座り込むと吉澤さんは少しだけ微笑んで。
それ以上何も言わなかった。



「はい」
手を差し出すとびっくりしたような顔をしてまじまじとあたしを覗き込むから。

「はい」
もう一度目の前で手のひらを開いてみせたら。

吉澤さんは途端に真っ赤な顔をしておずおずと指先に触れて止まった。

「もぅ・・・」
止まった手をぎゅっと両手で握り締めると、びくんと体ごと震えて。
半分泣いたような半分笑ったような顔で。あたしのことを見上げて。

それから私たちは。繋いだ手を握り締めたまま、生垣の前の地面にしゃがんみこんでずっとずっと話していた。


いつのまにか宴が終わって、探しにきた高橋が頬を赤らめて。
吉澤さんがあわててぱっと手を離して立ち上がるまで。
665 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:25

先にお店に戻ろうとしたあたしが一瞬だけ振り返ると、
とろけそうな笑顔を返してくれたから。





ずるいけど。
あたしはすごくずるいけど。



そのときから吉澤さんの側にいてもいいやって。
結んでいた心の封印を自らの手で紐解いてしまった。

だってこんなに嬉しそうに笑ってくれる。
何より、自分自身がこんなに喜んでる・・・

まわりに冷やかされても。なんと言われても。
「秘蔵っ子なんです」って答えてふざけて頭を撫でるフリをするとされるがままににっこり笑ってくれる彼女。
そんな様子をまったくあんたたちはってからかわれても。



はたから見てもわかるくらい、吉澤さんのことを可愛がって。
ひとつ前のあたしの駅で降りる彼女を止めずに、遠回りして一緒に歩いて。


会えない寂しさを埋めるなんて気持ちはさらさらなかった。
ただ吉澤さんの側にいたい。
甘えたり喜んだり怒ったりふくれたり。
ときには真剣な表情でだまってあたしの話を聞いてくれる横顔をずっとずっと眺めてたい、
ただ純粋にそれだけの気持ちで――――









666 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:25


667 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:26








大きなため息をついて空っぽになったミニ缶をテーブルに置いた。
もう少し酔いたくなって、冷蔵庫の奥にずっと眠っていたカクテルの缶を取り出した。

冬の限定缶って・・もう夏になるっていうのにな。

缶のまま飲むのは味気ない気がして、グラスに氷を入れ、注いでいたそのときに。
充電器の上におかれた携帯から鳴った着信音。
668 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:26
「もしもし」
「先輩?寝てました?」
「ううん、吉澤さんは?まだ仕事中?」
「もうすぐ家です。駅から歩いてるとこ。ねえ、先輩、引っ越し急ぎます?」
「ううん、どうして?」
「あの・・うちが住んでるとこ、かなり先輩が出してる条件に近いんです。しかもオーナーがとっても裕福なおばあちゃんで、
 現金で建ててるから、家賃が先輩が言ってるやつより、ちょっと安いくらいで、リビングも広くて。
 ただそういうとこだから、市場に出る前に決まっちゃうんですよ」
「そっか、人気高そうだね」
「うちの上の階の女性が今朝、再来月くらいに田舎に帰ろうかなあなんて話をしてて。まだ正式に決まったわけではないので
 確約もできないしどうしようかなあって思ってたんですけど・・・」
「再来月かぁ・・・」

今の家にそのまま一人で住み続けることには抵抗があった。
未練はなくても、生活の匂いが住み着いているから。
だいたいのものは二人で整理してすべて処分してしまって。
でも洗面台の下とかから、買い置きしてたらしいものがふいに出てきたり。
669 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:27
「あ、ごめんなさい。空くか空かないかもわかんないとこ待つっていうのもイヤですよね。それにうちの上とかって・・・」
「あ、ううん。そしたらいつでも顔見れ――――」

思わずぽろっとこぼれた本音。
しばらく間があいて。
吉澤さんが慌てて言葉を繋げた。

「先輩、飲んでるでしょう?」
「わかる?」
「わかりますよ。声が違うもん、いつもと。それにそういう甘やかしってほとんどしれくれなかったじゃん」
「別に甘やかしてるわけじゃないから」
「もうっ。いいですよ。でもめずらしいですよね。家では飲まないって言ってませんでした?」
「うん、もともとあんまり好きじゃないもん。」
「うちも買って帰ろうかな。そろそろ家の近くのコンビニなんです」
「あ、ごめん。じゃあ、切るね」
「あ、こちらこそ遅くにすみませんでした。間取りとか見たいですよね?
 今度日程が合うときにでも覗きにきてくださいよ」
「ありがと〜。じゃあ、おやす――」
670 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:30
「あ、あの先輩?」
「なに?」
「なぁんか毎日話してた頃のこと、思い出しちゃって・・・すいません、
 明日かければよかったんですけど、どうしても話したくなっちゃって・・」
「ううん、あたしも声聞きたいなあなんて思ったから」
「ほら!またそうやってからかうっ!酔っ払うと優しくなるんだから〜」
「いつも優しいじゃん」
「はいはい、飲みすぎはダメですよ、早く寝てください」
「今から飲むくせに〜!」
「先輩はすでに酔っ払いでしょ?」
「一本だけだもん」
「ウソばっか。あんなに飲んでた人が」
「ほんとだって。もういいっ、寝るね。おやすみなさい」

「先輩、おやすみ」


吉澤さんの声を最後まで聞いて。ゆっくりと携帯を畳んだ。
半分溶けて薄く飲みやすくなったカクテルをきゅーっと喉に流し込んだ。



いつのまにか心がふんわりと満たされた気分になっていたのは。

懐かしいあの頃の思い出に一瞬だけ漂っていたからなんだろうか・・・






671 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:30



672 名前:i've 投稿日:2006/06/23(金) 19:30



673 名前:咲太 投稿日:2006/06/23(金) 19:31
本日は以上です。
674 名前:咲太 投稿日:2006/06/23(金) 19:31


675 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/23(金) 22:56
更新お疲れ様です。
ヤバイです。。。続きが気になります!!
ガンバです♪
676 名前:米っ子 投稿日:2006/06/23(金) 23:54
更新お疲れ様です。
いい展開になりそうでワクワク!
お尻叩いていいならジャンジャン叩きますYO!
次回は早急に。w
それでは楽しみにお待ちしてま〜す。
677 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/24(土) 21:12
よっすぃ(*´д`*)カワイー
どことなく甘酸っぱいかほりがして切なくなりました。
次回以降も楽しみに待ってます。
678 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/26(月) 12:17
何だか良い感じ♪
引っ越ーせ!引っ越ーせ!今すぐ引っ越ーせ!!w
679 名前:A−203 投稿日:2006/06/26(月) 22:45
作者様の文が好きすぎてバカみたい……ほんとに更新お疲れ様です。
なんどもじっくりと読み直したい気分です。っていうか読みまくりますねw
(あっ、お気になさらずに〜)
680 名前:咲太 投稿日:2006/06/27(火) 02:41


681 名前:咲太 投稿日:2006/06/27(火) 02:41
>>675 名無飼育さま

レスいただいて本当にありがとうございます。
ヤル気に繋がります〜!
続きは・・・w頑張ります。

>>676 米っ子さま

いつもありがとうございます。
ハイハイ、叩かれて励むタイプですw

>>677 :名無飼育さま

甘酸っぱいですか、そうですかw
ありがとうございます。これからも目指せ、可愛いよっすぃです!

>>678 名無飼育さま

ありがとうございます。
「引っ越ーせ!引っ越ーせ!今すぐ引っ越ーせ!!w」
自分もこう歌いたいです・・・ほんと・・・

>>679 A−203さま

いつも本当に嬉しくなるお言葉をありがとうございます。
こんな駄文、読み返さないでください・・・(苦笑


ええっと、不定期で申し訳ないです。
とりいそぎ短いですが更新。

682 名前:咲太 投稿日:2006/06/27(火) 02:42


683 名前:咲太 投稿日:2006/06/27(火) 02:42


684 名前:i've just moved 投稿日:2006/06/27(火) 02:42


685 名前:i've just moved 投稿日:2006/06/27(火) 02:43
「ここの間取りとは正反対なんですけど・・」


なかなかお休みの日があわなくて、吉澤さんちにお邪魔させてもらうことになったのは、
それから10日以上たった土曜日だった。
備え付けの背の高い下駄箱から、ワッフル地のスリッパを取り出して、床に並べてくれる。

これだけ大きければ増えすぎた靴もたっぷり入りそう。

「お邪魔しまぁす」

パタパタとスリッパの音を立てながら部屋の奥へと進んでいく。
あんまりジロジロ見ちゃうのも変だし。
意識してないように見るのってムズカシイ・・・


「ここがリビングなんですけど、まあ、広いほうでしょ?」

まあっていうより。
賃貸物件ではこんな広さなんて見当たらない。
たぶんあたしの今の部屋の1.5倍くらい。

うちのより若干小さめだけど、真っ白なキャンバス地のソファーが壁際にどんっておいてあって。
床に座ってもちょうどいいくらいの高さにそろえてある、全体がガラスのテーブル。
大き目のテレビも全然違和感ない。

大きな部屋に住みたい一番の理由。
一目ぼれして買った、淡いピンクの大きなソファー。
どこを探してもこんなにきれいな色がなくって。
ボーナスの半分が吹っ飛ぶくらいの値段だったけど、思い切っちゃって。
ほんとにこんなの買うの?ってママに苦笑いされながら、押し切って。

あれだけは絶対手放せないんだもんっ!!
686 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:44
キッチンとの境の棚の上とかにもほとんど道具とか置いてなくて。
すごくシンプルなお部屋。

もともと、吉澤さんちに遊びに行って、散らかってた印象なんてほとんどなかったけど。
あいかわらずちゃんと片付けされてて、その上道具もセンスよくそろえてあって。

こんなにきれいに住めるかどうかわかんないけど、
こういう部屋に住めたらほんと、いいだろうな・・



「こっち側にベランダがあります。日当たりはいいですよ。あ、空く予定のお部屋も方向おんなじだから、大丈夫だと思います。」
「3階?」
「そう、ちょうど3部屋隣になるのかな」
「今どんな人が住んでるの?」
「美大出身で、きれいな絵を描く人なんですよ。一室アトリエにつかってて。あ、でも水彩ですから
 強い匂いとかないんで。お部屋もきれいに使ってると思います」
「詳しいんだねぇ」
「外で挨拶する程度だったんですけど、絵、見たいなあっていったら喜んで見せてくれて。
 それからたま〜にですけどお茶とか出してくれたり」
「ご実家に帰られるんだっけ?」
「はい、おうちが新築になって、アトリエまで作ってくれちゃったみたいで。
 もう両親孝行するかなあって。でもまだ美大のほうにお手伝いに行ってる仕事が辞められないらしくて、
 それでいつになるかがわかんないんです。曖昧ですみません」
「ううん。今まで見たとこより全然条件いいもん。しばらく待ってみようかなぁ・・」
「今のとこの契約とか、延長できます?」
「うん。年末まで残ってるから」


過保護なパパとママは。
別れたって聞いたらすっごく喜んじゃって。
家賃のほとんどを仕送りしてくれて。
折半してた今までよりずっと自由に使えるお金が増えちゃったし。
687 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:45
「こっちの部屋は寝室に使ってます。」


あけてくれた部屋にはベットと小さなサイドテーブルくらいしかおいてなくて。
昔使ってた黒いパイプベットじゃなくって。
少し大きめの木製のゆったりとしたベット。
ちゃんとベットカバーまでしてある。


「クローゼットも広いね」
「ん〜、けっこう余裕があるかな。右半分は奥行きも広めになってるので、
 プラケースも深いやつ、入りますよ」
「出窓もあるんだね。」
「間のふたつのお部屋にはないんですけど、ここと、空く予定のお部屋は角だからついてるんです。
 こっち側になるんですけどね。」

吉澤さんは反対側に向き直って、手で四角を描いてみせた。
688 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:45
「じゃあお風呂行きましょうか」

バスタブだけはちょっと狭いんだよなあっていいながら首をちょっと捻る。

洗面台とドラム式の洗濯機がおかれた脱衣所。
手入れが行き届いたバスルーム。

棚に並べられた色とりどりの入浴剤も
お化粧品なんかの瓶も昔の吉澤さんの印象とは違くて。
じろじろ見てたら。

「・・・・入っていきます?」
「ば、バカ!」
689 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:46
それからキッチンの備え付けの食器入れや、冷蔵庫を置くスペースなんかを簡単に説明してくれたのに。
吉澤さんの寝室のひとつ手前のドアだけは開けられぬまま。




「ここの部屋の作りはさっきの部屋と一緒ですね。あ、出窓はないかな」




それだけ言って。彼女はその部屋を開こうとはしなかった。



そっか、やっぱそういうことなんだ・・・

一応普通のOLでお給料もらってて。
2LDKのお部屋に住んでる。

この10日間。たぶんそうなんだろうなって言い聞かせてた。



また今までのように。
あたしと彼女とのタイミングがズレただけ・・・








深くは聞かない。聞く勇気もない。







690 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:47

















「すみません、お茶も出してなくて・・・」
「あ、そんな気にしないで。すぐに会社行かなきゃいけないんでしょ?」
「すいません。午後からどうしても出なきゃいけなくなっちゃって」
「ううん、無理して時間とってもらってごめんね。土日にお休みなんてほとんどとれないんでしょ?
 貴重な時間なのに・・・」
「いえいえ。ちゃんと見てもらいたかったので、嬉しいですよ。駅こっちのほうが近道です」
「あ・・せっかくだからちょっとお店とか見てから帰るね」
「コンビニは向こう側です。歩いて2〜3分かな。隣が郵便局で、銀行は駅前にそろってます。」
「スーパーは?近くにある?」
「北口のとこが大きいのでだいたいそこで買い物してますね。24時まであいてるので。
 ごっちんとこのファミレスの姉妹店も北口にありますよ」


駅へと続く高架橋の下を並んでくぐりながら。


「そういえばOG名簿届いたんだけど・・・彼女結婚してたんだね」


なんとなくきっかけを逃して。聞けてなかったことが不意に口をついた。


「らしいですね。入社して2ヶ月ですもんね。早くないですかぁ?」
って吉澤さんはまるで他人事みたいに笑う。

「あたしに聞かないでよぉ!おととし会ったときには『吉澤先輩のことが忘れられないんですぅ』とかって泣きつかれたんだよ。
 私に言われても、ねえ」
「ねえ」
吉澤さんはケラケラって笑ってた。
691 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:48


あたしの卒業と入れ替わりに入ってきた年下の子。
他にも吉澤さんのこと好きだった後輩はきっといっぱいいたのに、あたしに遠慮してかな?
直接言ってきた子はいなくて。
何度もまっすぐに気持ちを伝えられたって相談されて。
可愛い子みたいだし、付き合ってあげれば〜?なんて言ったらそうですね、って今と同じように瞳を細め、笑って頷いた。

 
その年の新人戦を見に行ったときに。
石川先輩ですよね、って声をかけられて。
吉澤先輩からいつも話を伺ってます、
写真も見せてもらってました。
先輩みたいになれたらいいなって思ってるんですけど・・・難しそうだなぁって邪気なく微笑まれ。

動作ひとつひとつが小鹿みたいにぴょんぴょん跳ねてて。
育ちがよくて品があって、くるくるとよく動く黒目の大きな瞳。
あたしの懐にまでぴょんって飛び込んでくるような。
あんな風に素直に褒めてもらえると、いい娘見つけたね、ってそれしかいえなくって。
692 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:50
二人が最初にデートした場所。
キスした夜のこと。
そういうこと、けっこう聞かされたり・・・・


「全然未練とかないの?」
「なんで?」
「ううん、なんとなく」
「ないですよ。いい子でした」
「そうだね」

ほんとにいい子だったからあたしは吉澤さんに幸せになってほしいなって思った。
ちょっとでも意地の悪いことでも言われたら、必死になって邪魔してんだろうな・・・



ちょうど就職したてで。しかもほとんど会ってなくて自然消滅しかかってたところに
いきなり二年間海外に赴任するといわれて。

だけど吉澤さんには何も相談しなかった。
背伸びして無理していい女ぶって。
たっぷり吉澤さんのお悩みとか聞いちゃって。

結局何事にも決断を下せなかったのは。
全部自分のせいだから。
離れてもこのまま続けていきたいと言われて無下に断れるほどの強さは持ち合わせず。
返事を持ち越しただけになってしまったのも。
693 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:56




ねえ、それで今の彼女は?




流れで聞くにはいいタイミングだったのに。

あたしは喉元で言葉を飲み込んだまま。
改札口を入っていく吉澤さんの背中を見送っただけだった。




なんてことないじゃん
懐かしい思い出に浸ってただけでしょ?




なのに。
ショックを受けてるらしい自分がさらに追い討ちをかける。

用もなくスタバに入ってお茶を頼んで。
彼女と時間をずらして駅の階段を上って。
694 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:58


なんでだろう・・・
本人の口から付き合い出したって聞いたあのときより。
今のほうがまるで切り傷みたいに
浅くてもズキズキと主張してる。


卑怯な私は。
まだまだ子供なんだって。
あの子と自分を比べて安心してたとこがあった、から・・・?
それともどこかで、何かを期待しはじめてる自分がいたから・・・?






吉澤さん自身が選んだヒト。
影すら見えないヒト。




バカみたい・・・今さら何考えてるんだろ・・・・


揺れる電車の窓に写った自分の表情に、思わず目をそらした。

急に降り出した雨で曇りはじめた空よりも。
自分でこぼしたため息のほうが重くて、ますます心を塞がせていった。


695 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:58


696 名前:i've 投稿日:2006/06/27(火) 02:58


697 名前:咲太 投稿日:2006/06/27(火) 02:59
本日は以上です。
続きは早めに・・
698 名前:米っ子 投稿日:2006/06/27(火) 10:35
更新おつです。
お尻を叩いていいんですね。(ニヤリ
でも作者さんも続きは早目にと決めて?いるようなのでw静観します。
色々気になる人もいますが・・・それは今後明らかになるのかな?w
次回の更新も楽しみにお待ちしてます。
699 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/27(火) 20:13
更新お疲れ様です。
すれ違ってますな。なんだかすれ違っちゃってますな。
というより梨華ちゃんが先走ってる気もしなくもない。
続き楽しみです。頑張って。
700 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/27(火) 23:25
くっ苦しいです!続きを…(パタ
701 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 00:32
梨華ちゃん切なすぎる。・゚・(ノД`)・゚・。
よっすぃの心のうちが気になりますね。

それにしてもいい部屋ですね。住みたいw
702 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/30(金) 00:52
切ないねぇ
703 名前:咲太 投稿日:2006/06/30(金) 18:26
704 名前:咲太 投稿日:2006/06/30(金) 18:27
>>698 米っ子 さま

いつもありがとうございます。
ハイハイ、ばんばん叩いてください(エッ?
今後明らかに・・なっていくのでしょうか?
先がみえてません(苦笑

>>699 名無飼育さま

ありがとうございます。
そうですよね・・・先走りは梨華ちゃんの得意技ですけど、
すれ違いは悲しい・・・
頑張ります。

>>700 名無飼育さま

レスいただいてありがとうございます。
起き上がって下さるような文章になるよう励みますw

>>701 名無飼育さま

どうもありがとうございます。
よっすぃの心のうちは・・どうなんだろう・・・
ええ、ここの管理人として君臨したいです。

>>702 名無飼育さま

読んでいただいてありがとうございます。
レスいただいて、本当に励みになります。
いつかせつなさから脱却することを目標に・・w



不定期で申し訳ありません。
続きを更新させていただきます。
705 名前:i've just moved 投稿日:2006/06/30(金) 18:28
  
706 名前:i've just moved 投稿日:2006/06/30(金) 18:28
  
707 名前:i've just moved 投稿日:2006/06/30(金) 18:29


一応まがりなりにも住むところは、というか、住むべき方向は決まったっていうのに。
吉澤さんは毎日電話をかけてくる。
それを心待ちにしてしまってる自分もいるわけだけど。


電車に揺られながら。
もう惑わされる事はやめようって自分で決めたから。

理想どおりの、仲のいい、先輩、後輩。
それでいいじゃない。
きっちりケジメをつけて。



なのにそういうときに限って監督が齢40前にして、晴れて結婚。
2次会に呼ばれてる歴代の主将。
自分はどうしても仕事で出られそうにないからかわりにお願いって美貴ちゃんに頭を下げられて。
しぶしぶ来てみたら、開始して10分くらいでノコノコ笑ってご本人登場なんて
もうハメられたとしか思えない。
そもそも副将でもないあたしが。
どうしてこの席に並んで座ってなきゃなんないのよ・・・・・
708 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:30
つまるところ。
それは必然的に吉澤さんも一緒ってこと。


「今度ね、石川先輩、うちの上に住む事になりそうなんです〜」

満面の笑顔で美貴ちゃんに報告してた様子を。
隣のテーブルの耳ざとい方々が見逃してくれるはずもなく。

「なんやて〜??石川、今さら、というかついに、ってやつか?」
「ち、違いますよぉ!たまたまあたしが探してる物件の条件に吉澤さんとこがぴったりで・・・・」
「だって吉澤のこの顔見てみ。なんでこんなに嬉しそうなんや?」

真正面にある吉澤さんの顔。
これ以上崩しようのないくらいニコニコ顔で。
先輩たちに晒されてるあたしにお構いなく、やりとりを他人事のように見守ってる。

「ちょ、ちょっとぉ!吉澤さん、早く否定しなさいよお。だって吉澤さんは別に・・・」
「部屋が空くまでにしばらくかかりそうなんですけどね。」

だからどうして普通に答えてるのよっ!!

「ちょうどいいじゃん、吉澤さんだったら梨華ちゃんの部屋だってきれいに片付けてくれそうだし」
「美貴ちゃんまでっ!」
「いいですよ〜、ヘルパーとして毎日でも通っちゃいますよ」
「ついでに梨華ちゃん、今でも料理ダメなんだよね〜」
「他人のこと、いえないでしょっ??」
「じゃあそれも全部まとめて面倒みちゃいます」
「言うようになったなあ、吉澤」

中澤さんたちが面白がってガンガンついじゃっても。
吉澤さんの勢いは止まらない。
709 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:31
「ねえ、そろそろやめといたら・・・?」
「ん?」
「飲みすぎだよぉ。あの人たちのペースにあわせてたら大変なことになっちゃうって・・・」

お絞りを渡しながらそっと近づいて声をかけたら。
にぃ〜って笑って耳元に口を寄せてきて。

「先輩もムリしちゃだめだよ。飲まされそうになったらうちが飲んであげるから」

こ、ここでタメ口?
あなただって十分酔ってるじゃん・・・

公の飲み会ではないし、もう卒業しちゃってるからいいようなものの。
ほら、今の、中澤さん絶対聞こえたって。
ああ・・・また大瓶追加してるよ・・・・・

「さ、石川、おいで」

ほらきた・・



710 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:31


日曜の夜。明日は憂鬱な月曜の朝を迎えるというのに。
お店は変われど主はかわらず。

終電を間際に解放されて、今に至る。


711 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:32


2次会用の引き出物なのかシャレなのか、
創部20周年に作られたっていう手ぬぐいをまあとっとけって監督に渡されて。
今どきなんに使うんだろうね、なんて話しながらいつのまにか二人。ぷらぷらと駅まで。



「だいじょぶ?気持ち悪くない?」
「うん・・・たぶんへ〜き。でも早く寝たい・・・」
「弱くなったって言ってたのにムリするからだよ」
「ひっさびさ、がんばったなぁ・・・やっぱ気合だね、気合。飲めないわけじゃないんだ〜〜!」
「はいはい、もっと歩道の内側を歩く!」

肘を支えられ。
飲み屋街を行き交うおじさんたちから守ってくれるようにして。

「ほら、先輩、傘貸して。もぅっ!だから振り回さない!!」


振り返った吉澤さんは、あたしの指に握り締められた傘と紙袋を強引に奪い去った。
712 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:33
「よしざ〜さん、駅違うじゃん・・・」
「だから、藤本さんが送ってってやれって。先輩だいじょぶ?急にまわってきた?」
「3倍以上飲んでる人にいわれたくないですよぉだ!」

歩道の脇の縁石に登ったらふらっと足がよろめいて。
慌てたように背中を支えてくれて。


「はい」
ふざけて手を目の前に出してみたら。

「はいはい」
ってちょっと照れたようなカオをして。
ぎゅっと手を握り返された。

あ・・・久しぶり・・・
なつかしい、やわらかな手のひら。
このまま握ってていいのかな・・・

一瞬迷ってしまったけれど。

手、くらいいいよね。
今日だけは酔ったせいにして。
このまま気付かなかったことにしちゃおう・・・・

713 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:34
あたしはちょっと嬉しくなって。
止められるのも聞かずにそのまま縁石の上を歩いた。

ここだと、彼女より視線が高くなる。
甘えたように見上げるその瞳を見るのは密やかな楽しみだから。

ほっぺたを緩ませたまま見つめてたら照れくさそうに顔をそらして。
手をぐいって引っ張って歩きだした。


「なんで酔うといっつも危ないことするかなあ・・・・」
「いいでしょぉ?」
「ほんと、急に子供みたくなっちゃうんだから・・・」
「自分のほうが子供のくせに〜!」
「だから一人で電車乗せんの、イヤなんだよなあ・・・」
「また酔っ払い扱いする〜!あ、引っ越しても片付けとかしてくれなくていいからねっ!」
「え?やったげますよ」

不思議そうに即答した彼女。

「バカ。彼女がイヤな気持ちになるでしょ?」
「ん?」
「あくまであたしとは知り合い、だからね?邪魔とかたくないし・・・あ、挨拶くらいはするけど・・・」
「あぁ・・・なんで?」


思わず使ってしまった彼女って言葉を。
否定しないまま理由を聞かれて。

―――やっぱ、彼女、なんだ・・・


万が一の可能性も考えてみなかったわけじゃない、だけど・・・

714 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:35
「先輩のことはいっつも話してるから大丈夫です」
「はあっっ??それで今度上に住むかもしれないってことまで?」
「うん」
「なんでそんなこと話すのよっっ!!」
「なんでって・・・」
「もういい。やっぱあの部屋いいや。別のとこ探して」
「なんでそんなムキになってるんですか?」
「べ、別にムキになんかなってないし」
「やましいことあるわけじゃないからいいでしょ?」
「や、やましいって・・・」


ほろ酔い気分の頭に冷水をかけられたようで。
そのまま握っていた手を解いてしまった。



そうだ、別に何もあるわけないのに。
あたしが一人で勝手に先走ってただけじゃん・・・


「やましいこと、したこともないでしょ?あの時だってせんぱ―――」

ピタッ


足を止めて。
思いっきり振り返ったら。

茶化すような口調でからかってた彼女から、ふうってため息が漏れて。
ブツブツと唇を尖らせたようにして何かを小さな声でつぶやき、足を止めてしまった。

「・・・何?」
「なんでもないよ」

ぜったい覚えてないし・・・

ボソっと続けたのだけは聞こえて。

「何よ・・」
「行きましょう。終電遅れちゃいますよ」

ふてくされたようにずんずん前を進んでいって。
今度は手を握ってはくれなくて。
肘をつかまれ、ずるずると引っ張られるがまま。

715 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:36


「ねぇ、彼女ってどんな子?」

信号の前で立ち止まったとき。頭で考えるより先に言葉が出てしまった。

吉澤さんは一瞬固まって。
瞳を大きく見開いてあたしの顔をじーっと見つめたあと、
また小さくため息をついてから信号を見上げて答えた。


「・・・・ショートカットで、可愛い感じ、かな。
 先輩とはだいぶタイプが違いますね。あ、たまに寒いとこ言うとこは似てる」
「同じ職場の子?」
「ううん、看護婦さん。の卵、です」
「ふうん・・・」

自分で聞いておきながらこれ以上聞きたくない・・・
すごい、ワガママだなぁ・・・あたし。


それきり何も尋ねないまま。
斜め上の赤い表示を見上げて黙り込んでしまった。

716 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:37

「先輩だって・・・あ、あの、もし二人で部屋を使うようなら先に大家さんに言っておかなければいけないんですけど・・」


吉澤さんも信号を見上げたまま。
あくまでさりげなく、声のトーンを変えず。

だけど笑顔が作ったようになるのは。
今まで何度も見てきた吉澤さんの姿。

何か大切なことをあたしに尋ねたいとき。
彼女が無意識にとる表情。



「一人だよ」
「えっ?」
「だから一人」


ほんの少しだけ。
吉澤さんの眉がツーって寄せられていく。
何かを考えるように留められた視線。

ねぇ、そんな表情を見せられて。
あたしはどう受け止めたらいい・・・?


717 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:38
注がれた瞳から思わず目をそらして。
言葉を返すこともできずに信号が切り替わるのをきっかけに向こう側へと飛び出すと。
吉澤さんはゆっくりと追いかけてきて
まっすぐに進行方向を見つめたまま、ボソっとつぶやいた。

「よかった。正直あんまり見たくなかったんですよね。二人でいるところなんて。」


・・・・それをあなたが言うんだ・・・・・



思わず口に出しそうになって。
あわてて両手で抑えた。



あたしだって、見たくなんてないもん
今だって、平行して部屋を探そうかなって思ったりもしてるもん・・・・・


でも・・・・

718 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:50


「あたしは・・・結構楽しみだなあ。きっとデレデレしてるんでしょぉ?」


口角を上げ
目を細め
完璧な笑顔を作って
軽く顔を傾ける。




ひと呼吸、間があき。
小さく息を吐き出した彼女の頬が静かに上がって。



微笑をたたえ
声のトーンを高めて
答えが返される。


「さぁ、ど〜だか。超超トップシークレットだって」


「もぅ!絶対覗きにいっちゃうからねっ!」



――――これが、正しい関係、でしょ?


だから。
これからも二人で笑い合っていける――――

719 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:51

「はいはい、ほら、急いで歩いて。終電行っちゃうよ。一人で乗れる?」
「だから大丈夫だって」
「やっぱ送ってこうか?」
「明日会社でしょ?早く家に帰んないとダメだよ」
「ううん、明日休み。先輩は仕事だもんね。日曜の夜にみんなよくやるよね・・・・」


一気に酔いは覚めてしまったけれど。
頭がガンガン痛む予感はしてる・・・


「起きれる?電話入れよっか?」
「い、いいよ、いっぱい飲んでるし、ゆっくり寝てて」
「大丈夫だよ、先輩起こしてまた寝れるもん」
720 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:53


「ほんとに平気・・?」

最後の最後まで心配されながら。
切符を買って改札から中に入るまで見送られた。


入ってきた電車に際どいタイミングで飛び乗ると。
ゼイゼイ上下する胸を抑えて大きく深呼吸しながら、携帯を取り出す。

乗り過ごすことのないように。
降車時間を見計らって、電話を入れるなんてこと、彼女だったらしてくれそうだから。

マナーモードに切り替えようとした瞬間、車内に鳴り響き出して。
心臓をバクバク言わせながら、あわててメールをコソコソと開くと。
傘と、叫びの絵文字だけの題名。思わず崩れおちそうになる頬っぺた。


あっ・・・

まあいぃか。
手ぬぐいとクッキーだし。


張り合って絵文字だけで返信しようと、しゃかりきになって指を動かして、ボタンを押した。
721 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:54


朝になったらあたしがちゃんと起きるまで。
何度も何度も電話かけてくれそうなあなただから。
電車をおりたら真っ先にマナーモードを解除しなきゃなあなんて考えながら、
速効返信されてくるメールを開いて、どうしようもないほどカオが緩んでいく。




心配症でおせっかいで、甘えたがりのくせに、あたしを子供扱いするのも大好きで。



きっとずっと、これからも。彼女のあたしへのスタンスは変わらない。
誰がいてもいなくても。
いつも最優先で。
・・・・誰よりも、優しくて。


今はまだ、それを幸せだ、って思う気持ちと。
そうでもないって思ってしまう気持ちが、正直半分半分だけど・・・

722 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:55
あのね、あなたのこういう温度が、すごくすごく、私、心地がよくて。
特別に甘やかしてくれるその場所は、とてもあたたかくてふわふわと和まされて。


長い人生では、ほんのひと時のことかもしれないけど。
ムキになってメールを送りあったり、笑いあったり、
きっと何ヵ月後かには朝偶然会っておはよ〜って挨拶して、
もし許してもらえるならたまにご飯を食べにいったりもして。
そういうことを想像できるだけで日々をいとおしく感じられる・・・あたし・・・だから・・・





たまに溢れそうになるワガママはちゃんとしまっておくから
楽しいよね〜て幸せな気持ちだけで心をいっぱいにできる日がきっとくるって思うから




ねえ、だから。
もう少しだけこんなふうにしてもらっててもいい・・・・・・?





723 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:55



724 名前:i've 投稿日:2006/06/30(金) 18:55


725 名前:咲太 投稿日:2006/06/30(金) 18:56
本日は以上です。

726 名前:A−203 投稿日:2006/06/30(金) 20:05
更新お疲れ様です。こんな日常が想像できて切なくなります。
行方をまったり見守っています。
727 名前:米っ子 投稿日:2006/06/30(金) 23:25
更新おつです。
切ないですね・・・
早く・・・お願いします・・・
728 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/30(金) 23:58
二人とも素直になって
729 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/01(土) 00:13
せつないです。
胃がキューてなってます。
梨華ちゃんもう少しだけ素直になればいいのに・・・。
730 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/01(土) 01:14
あー…あぁ…石川さん…

あの子が看護士の卵っていいですね(ニヤニヤ
731 名前:sage 投稿日:2006/07/07(金) 22:36
いしよしって甘酸っぱいですね。。
甘酸っぱい青春です。
732 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/08(土) 00:07
>>731
あのね、sageはメール欄に入力してね。w
733 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/11(火) 10:02
雑誌やワンダ、最近リアルでの絡みが嬉しいですね
ここの二人の笑顔が見たいです
734 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/26(水) 00:35
続き楽しみにしてますよ♪
735 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/02(水) 11:39
微妙にすれ違っている二人の今後が気になりますね。
引き続き楽しみにしてるんで頑張って下さい!
736 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/21(月) 12:01
オモシロイデス!
更新楽しみに待ってますよ!!
737 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/10(日) 01:35
同居人てホントにいるのかな?
続き待ってます。
738 名前:咲太 投稿日:2006/10/03(火) 16:46


739 名前:咲太 投稿日:2006/10/03(火) 16:48
身辺慌しく、長い間更新できず、本当に申し訳ありませんでした。
3ヶ月もたってしまいました・・・
今後はなんとかさくっと上げられるように。
日々精進したいと思っております。

>>726 A−203さま
いつもありがとうございます。
日常を思い描いてくださって嬉しいです。
読んでる方々の想像力だけが頼りです。

>>727 米っ子さま
切ないですね〜
書いてて自分もせつなくなってます(ヲイ

>>728 名無飼育さま
どうもありがとうございます。
ほんとにこの二人にもっと素直さがあったら・・・

>>729 名無飼育さま
ありがとうございます。
梨華ちゃんの意地っ張りぶりは本人譲りなんだと思います。

>>730 名無飼育さま
ありがとうございます。
構想の最初から、なんとなくあの子の顔が浮かんでました。

>>731 さま
どうもありがとうございます。
本当に甘酸っぱいですよね・・・w
見ててじれったくなるような、現場の裏側でしか見れないいしよしが大好きです。

>>732名無飼育さま
どうもありがとうございます。
かくいう自分も実はsageの記入を毎回間違いそうになって・・・・(爆
740 名前:咲太 投稿日:2006/10/03(火) 16:48
>>733 名無飼育さま
ワンダ、大爆発でしたね〜!
スペシャルジェネレーションは文字通りスペシャルでした。
早く最後の見詰め合いのような満面の笑顔の二人にしたいです・・・

>>734 名無飼育さま
楽しみにしていただいてありがとうございます。
更新できずにいる間、何度もレスを読み返して気持ちを奮い起こしていました。

>>735 :名無飼育さん
ありがとうございます。
今後の二人は自分もとても気になってます・・・
なんとか最後まで頑張ります。

>>736 名無飼育さま
本当にありがとうございます。
間があいてしまって申し訳ありませんでした。
引き続き楽しんでいただけたら嬉しいです。


>>737 名無飼育さま
レスありがとうございます。
たぶん・・・ゴニョゴニョ・・・
どうぞ続きを・・・


741 名前:i've just moved 投稿日:2006/10/03(火) 16:50


742 名前:i've just moved 投稿日:2006/10/03(火) 16:50


743 名前:i've just moved 投稿日:2006/10/03(火) 16:51


「おぅ、早かったなあ、梨華。椅子、借りてくるからな」

あたしを見るなり嬉しそうに、いや、逃げるように?
そそくさと病室を出て行ったパパ。

「え??あ??な、なに?・・・パパ?」

ベットの上でしゃんと腰を伸ばして座りつつ、
あたしの顔を見て苦笑いしてるママ。

『ママ入院した』

カタコトだけのメールが届いたのが数時間前。
そこから家にかけても携帯にかけても全く通じずに。
744 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:51
久々にもらってあった有給。念入りに施してるお化粧の真っ最中に。

とるものもとりあえず、電話で明日までに休みを伸ばしてもらって、
大慌てで駆けつけてきたのに。


もうっっ。そういうことなのっ??


パパを見送りながら軽くため息をついたママの表情を見たら、すぐに察しがついた。

「ん〜、ちょっと最近血圧が高かったりしてね。
 最近検査もしてないから、この際ってことになっちゃって。ほら、叔父さんの病院だし」
「ひどいよぉっ。すっごくびっくりしたんだから」
「ほんとにねえ。梨華も来てくれるっていうから止めようとしたんだけど、
 パパから携帯取り上げられちゃってね。
 まあ、お盆だって帰ってくるっていいながら帰ってこなかったし、パパも待ちわびてたのよ」
「今年の夏は忙しくなるって言ってあったでしょ?夏休みなんて一日もとれなかったし。
 出張先からダダ茶豆だって送ったじゃん」
745 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:52



「あれ、美味かったぞ」

後ろから声がしたかと思ったら、パイプ椅子を抱え嬉しそうに横に並べたパパ。

「もうっ!!なんで嘘つくのよ」
「嘘なんてついてないだろ。ママは入院したんだし」
「検査入院なんでしょ?最初からわかってたくせに」
「お前、心配じゃないのか?」
「そりゃあ心配だけど・・・」
「顔見たらほっとしただろ?」

ママが小さく微笑んで。
あたしにゴメンって口だけ動かすのを見て。
ふうっと息を吐いてなんとか気持ちを落ち着かせた。
746 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:52
だってだって。なんのためにせっかくの有給とったかわかってる?

夏の間、平日お休みなんて言い出せるような雰囲気じゃなかったし、
吉澤さんは土日にお休みなんてこと滅多にないし。
こっちから誘ったりなんてしていいかも・・・わかんなかったし。

美味しいうなぎ屋さん見つけたので行きましょうって向こうから言ってもらったのに、
夕方の5時から並ぶなんて、無理で。
何度も断わって・・・


はあっっ・・・
747 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:53
「さあ、じゃあ一回家に戻るか」
「え?あたし、帰るよ。今だったら夜には着けそうだから」
「せっかくこっちまで来たんだから、今日くらい泊まっていけばいいだろ?」
「いいよぉ。だって家に帰ったってパパしかいないし。」

思わず口が滑ったら、ムッとしたように一言。

「そういえば更新の話はどうなったんだ?」

パパのこういう声。
しまったって思ったときは後の祭りで。
もうちょっと言葉選べばよかった・・・

突然何の脈略もなくはじまっちゃう。
不機嫌になると重箱の隅をつついてくるんだもん。

「こ、更新って?」
「家、だよ。そろそろこっちから通うようにしたらどうだ?」
「何言ってんのよっ!何時間かかるかわかってる?」
「さゆも春までこっちに帰ってくるって言ってるんだぞ」
「えっ?何それ?」

なんでここでさゆの名前?
パパの話が唐突過ぎて。
奥に視線を移すと、ママはにっこり笑って口を開いた。

「あのね、8月いっぱいで今の会社やめちゃって、
 新しいとこ見つかるまで帰ってくることになったのよ」

どうしてあの子そんな大事なことをあたしに相談もなく決めちゃうわけぇ?
って、辞めたいっていうのは聞いてたけど、そんなにあさっり転職とか考えちゃっていいの?
再就職のアテなんてないくせに。
748 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:54

「な?家族そろって住めるというのもこれが最後のチャンスだぞ」
「・・・・・・」

意図してなのか急に優しい口調に戻ったパパ。

「年末が更新だったろ?ちょうどいいからしばらくの間だけでも帰ってきなさい」
「・・・急に言われても・・・・私にも予定があるし・・・」
「ん?新しいとこ、見つかったのか?」
「一応決まりそうっていうか・・・無理して後輩にお願いしてる所だから断るのも悪いかなって・・」
「後輩って?」
「あ、部活の時の後輩が不動産やってて・・・」

「ああ、吉澤さん?」

黙ってやりとりを聞いていたママが口を挟んだ。

「・・そう」

ちょっと居心地が悪い。
ママの吉澤さんを信頼しきってる目がかえって。

「そっか、また彼女にお世話になってるのね。いいおうち、見つかりそうなの?」
「うん・・・」

あたしが今の仕事に就いてついていけないって大騒ぎしたときも。
実家に帰るって大騒ぎしたときも、いつも振り回されて走ってくれたのが吉澤さんで。


「まだ契約したわけじゃないだろ?あっちも仕事でやってるんだから、ごめんなさいって言えないのか?」
「言えないわけじゃないけど・・・」

ああ、もうなんて説明したらいいんだろ・・・
749 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:55
「パパ、いいじゃない。こっちから通わせるのも梨華だって大変でしょ?」
「俺が毎日駅まで送って行くから―――」
「もう、続かないことは言わないでくださいよ。」

ママが言うと、パパはそれっきりムスっと黙り込んでしまった。

「心配しなくていいから、早いうちにおうちに帰りなさいね」
「でも明日―――」
「いいから、いいから。梨華が有給みたいなのよって、私がパパに口を滑らせちゃったから・・・」
「滑らせたはないだろっ」
「検査って言っても叔父さんが見てくれるんだし、大丈夫よ」
「・・・うん・・」
「ほら、早く行かないと遅くなっちゃうわよ。乗り換える頃には本数少なくなってるでしょ?」
「うん」




車の中で。肩から下げた荷物の紐をぎゅっと握り締めた。
ほんとはお泊りセットだって入ってるんだもん。

ママのことだって心配だし。
今夜くらいパパにご飯でも作ってあげよっかなって考えないでもなかった。

でも。今日ここにいたら、丸め込まれてしまいそうな自分がいて。
そして会えなかったってイライラをぶつけてしまいそうな自分がイヤで。


機嫌が直らないらしいパパにありがとう、とだけ言って車を降りた。
なにか言いたげにこちらを見たけれど、眼をあわせたらパパのほうが視線をずらして、
駅のロータリーを離れていった。
こっちまできたのに連絡もしなきゃさゆも怒るんだろうけど・・


750 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:56




あいにく前の電車は出発したばっかりで。
携帯に電源を入れると、何通かのメールが一斉に届いた。

何度か携帯に文字を入力しようとしてあきらめ、
階段を下りてくる女子高生を避けるようにしてホームの隅に走り、
リダイヤルのボタンを押した。


「どうでした・・?」
「ごめんね、パパが大袈裟なだけで・・・。検査のための入院みたいなの」
「じゃあ、お母さんの具合は?」
「顔色もいいし、心配することなかったよ。ほんと、ごめん・・・・」
「じゃあ、お元気だったんですね、よかったぁ」
「それはよかったんだけど・・・でもせっかく誘ってくれたのに・・・」
「そんな、せっかく、なんて・・」
「今から帰っても・・・間に合わないよねえ・・・」

プラットホームの上の時計を見てはあっとため息をつく。

「え?先輩、今日は実家に泊まってくるんでしょ?」
「そのつもりで明日もお休みもらってたんだけど、ママが帰りなさいって」
「もしかして駅?」
「うん。気になる仕事も残ってるから今日中に帰ろうと思って」
「あの、よかったら駅まで持っていきましょうか?傘と荷物」
「え?悪いよぉ。わざわざ申し訳ないし・・・」

だって吉澤さんちからって・・・
接続悪いし、1時間くらいかかっちゃうと思うよ?
751 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:58
「クッキーだってもうすぐ賞味期限になっちゃいそうだから・・・」
「え?もう食べてもらってるんだって思ってたぁ・・処分してくれてていいよ?」
「・・・・そう・・ですよね」
「あ・・・うん」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・じゃあまた、今度会ったときに・・・」

今度って・・
口実でもないと電話だってしにくいのに。

「・・・・・あの、絶対またうなぎ屋さん連れてってね」
「あ、はい!もちろん」

来週からまた忙しくなるのはわかってて。
吉澤さんにわからないように、小さくため息をついた。
752 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 16:59
「あの、じゃあもうすぐ電車くるから」
「あ、はい。・・じゃあ、くれぐれも気をつけて」
「・・うん」
「じゃあ・・」


その言葉のあとでしばらく待っても。
向こうから切ってくれる気配がなくって。
お互い微妙な間。


「あ。あの、・・・」
「なに?」
「こっち今雨降ってて・・そっちは?」
「あ、まだ降ってないですけど・・・」


うっ・・・・・・
なんてバカなんだろ・・


二ヶ月も傘無しで平気だった人が。
急に傘がどうのなんて。
とってつけたような口実。

「いや、ちょっと曇りだしてる・・かも。あの、先輩さえいやじゃなければ届けます」
「イヤだなんて・・」
「じゃあ、うちもあと30分くらいしたら出ますね」
「う、うん。ありがと・・・」


753 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:01



754 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:01

駅につく頃にはけっこう本格的に降り始めていて。
ホームの屋根と電車の少しの隙間からだって降り込んできてしまうほど。
ちょっと後ろめたかった気持ちが、雨に洗われたような思えて。
もう少し強く降ってもいいかな、なんてのんきに思いながら階段を急いだ。

折りたたみ傘を開く人、コンビニに傘を買いに走る人、
ごっちゃ返した改札口で。
不機嫌そうに空を見上げて足早に家路に急ぐ人たちの背中をぬって、
キョロキョロと彼女を探す。

あれ・・?
まだ着いてないのかな?
もう電車乗り換えてる時間なのにな・・

メールの時間を確認しようと携帯を開いたときに。

「先輩っ!」

前方から耳に届いた声。

「すみません、コンビニ行ってて・・」

グレーのTシャツの色が濡れて変わっていて。
短い髪から、雫が滴り落ちて続けてる。


「え?なんで?傘さしてくれてればよかったのに・・」
「売り切れしちゃったっぽいです。バカですよね〜、自分の分忘れてきちゃって・・」

少し日焼けしたのかな・・?
ノーメイクに近い肌。
小さな紙袋と傘だけというラフな出で立ちで。
濡れて鼻筋にかかってきた前髪を無造作に掻きあげ。
照れくさそうに笑った。
755 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:02



「あの・・お構いなく・・・・」

気を使ってくれたのか、私よりも距離をとって歩いてきてくれて。
って言ったって、たかが2LDKのマンションの廊下。
脱ぎ散らかしたまんまの洋服だけ重ねると
自分の部屋のベットの上にどさっと放り込む。

「あ、あの、どうぞ。散らかってるけど・・・」

自分とこの近くのコンビニで買うからいいって言った吉澤さんだけど、さすがにそれは気の毒で。
お茶くらいって声をかけてから、惨状を思い出した。

床に散らばってる雑誌やリモコンを取り急ぎ部屋の片隅に重ねる。
吉澤さんはできるだけ見ないようにして、
所在なさげに立ち尽くしてる。
756 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:03
「あ、ごめん、すぐお茶入れるね」
「すみません、こんなに降るとは思ってなくて・・・」
「ううん、あたしが変なことお願いしちゃったし・・」
「あの・・・何かお手伝いしましょうか?」
「う、ううん、いいの。とりあえずここ座ってて」


そのままキッチンに立つと
吉澤さんは立ったままめずらしそうにソファーをじろじろと見て、
手で撫でたり、弾力を確かめるように腰を落とした。

「あ・・・ふわふわしてる・・・」
「でしょ?そこで昼寝すると気持ちいいんだよ」

色だけじゃなくって。
弾み具合がちょうどよくって。
背もたれにもたれかかると、包み込むようにしてふわっと体が沈んでいく。

「あ、ほんとだ・・・!映画とか見たいなあ」
「見てる間に寝ちゃうんだけどね」

カップボードの奥からお客様用のティーカップを引っ張り出す。

あ・・・そういえば・・

「ね、もしかして吉澤さんも夕飯食べてない?」

尋ねてしまってから思った。
おうちで用意してある、よね?

「ううん。まだ」
「だ、大丈夫?その・・・・」
「今日夜勤だから・・・」

夜勤・・・そっか、看護婦さんって言ってたっけ・・・
757 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:05
「冷やし中華くらいしか冷蔵庫に入ってないと思うけど・・・あたしもまだだから食べる?」
「え?ほんと?先輩作ってくれるの?」
「季節外れだけどね。具もハムときゅうりくらいしかないよ。あと卵か。」
「十分です」

錦糸卵用にカシャカシャ混ぜてたら。
ふいに背中に近づいてきて。

「ふぅん、作れるようになってるじゃないですか」
「卵流すだけだもん」

温まってきたフライパンに油をのばし、ささっと薄黄色の膜を作る。

「昔作ってくれたフレンチトースト、すごかったですよね〜」
「へっ?も、もうっっ、さっさと忘れててよ〜」
「余った牛乳と卵までどばっと注いじゃうんだもん。止めたがいいのか止めないほうがいいのか、すっごい悩みました」
「だって・・・捨てちゃうのはもったいないかなぁって・・」
「パン一枚に2個も3個も卵割りませんよ、普通」
「だって吉澤さん卵好きっていうから・・・たっぷり入れたほうが嬉しいのかなぁ・・・って」
「え?だから多めに入れてくれたんですか?」
「そうだよ・・・」

パンの上に激甘の入り卵のような物体がパンから溢れ出してわんさか乗っちゃってて。
美味しいって食べてくれる吉澤さんにうれしくなってフォークでつまんだら・・・

あぁ・・思い出したくもないくらい胸焼けしてくる。

「そっか・・・作れるようになってるんですね。先輩」

きゅうりとハムを切る手元に視線が注がれてる。

そ、そんなにじっと見られてると切りにくいってば・・・

思わずまな板を叩く音が崩れはじめて、
吉澤さんはあわてたように奥のガスコンロに向かった。


758 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:05
「ごめんね、ほんとはうなぎのはずだったのに・・・」
「いいえ、すっごく美味しいです」
「あ〜ぁ、パパさえバカな嘘つかなかったらよかったのに・・・」
「嘘じゃないでしょ?」
「そりゃあそうだけど・・・」

パパの話をしてたら尽きなくって。
箸で麺を持ち上げては途中で止め、一方的にしゃべり続けるのを。
吉澤さんは相槌を打ったり顔をしかめてくれたり、
ニコニコと笑ったりして受け止めてくれる。

「さゆがかえってくるからってあたしにまで帰って来いなんて言い出すんだよ」
「え?先輩、帰っちゃうの?」
「ううん、通うのに大変だもん」
「そっか・・・よかった。でも急がないとアレですよね・・?」
「急がないとって言ったって・・・相手もいることだし・・・」
「大家さんとちょっと話してみますね。すみません、確約できない物件をお勧めするなんて
 あるまじきことなんですけど・・・」
759 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:06
気がつけば彼女のお皿はとっくに空になってて。
あわててお皿に集中しかけたときに、外の音が耳に入ってきて。


「やだ・・どうしよ?」
「え?」

あわてて立ち上がって窓際に急いだ。

「どうしたの?」
「・・・・すごい雨強くなっちゃってる・・・」
「え?」
「・・ここの電車すぐ止まっちゃうの・・・」
「え?マジで?」
「ちょっと雨が強いと運転見合わせちゃうのよ・・」

上下線の待ち合わせとか。
強風や大雨で止まっちゃうとか。
それが不便で早く引っ越したいって思ってるくらいだもん。

「あの・・ご馳走になってすぐで申し訳ないんですけど、駅まで行ってみますね」
「あ、待って。私も送ってくから」
「いいですよぉ。先輩濡れちゃうから」
「でも・・」
「伸びないうちに食べてください」
「あ・・・ぅん、これ傘。折りたたみでほとんど使ってないやつだから・・・」
「ありがとうございます」

760 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:07
部屋の中で見送ったものの、心配で。
もう一度玄関を開けたら、室内で聞いてたときより一層激しさを増していて。

かなり奥行きのあるはずの、階段まで続くコンクリートの床まで
ずぶずぶと水が入って、雨どいから溢れかえっている。

やばいなあ・・・・・

「ま、待って〜」

1階のエントランスで傘を開こうとする吉澤さんを捕まえた。

「え?」
「たぶん、この雨じゃムリだと思う・・・駅に電話してみるけど」

それにこの時間だと本数も少ないから平気で1時間とか待たされるし・・・

761 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:08
「はい、わかりました・・ありがとうございました・・」

いったん部屋に戻って玄関先で傘を握り締めたままの吉澤さんに、子機を握り締めたままで近づいた。

「ほんと、ごめん・・・」
「動いてないんですか・・?」
「・・・うん」
「どうしよう・・・?」
「どうしましょう・・・?」
「・・・泊まってく・・・?」

なんてわけには―――

「ふぇっ?いいんですか?」
「へっ?や、やっぱまずいよね。あ、あの、あたしタクシー代出すから・・・」
「あ、いや、先輩さえよかったら・・・嬉しいんですけど・・・いいの?」
「・・・だってあたしのせいだし・・・」



間に流れる無音。


762 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:09
「で、でも悪いよね、うん。すぐタクシー呼ぶね」
「あ、あの、先輩のとこに行くってのは知ってますから・・・」

え?そ、そうだよね・・
でもそのほうがまずかったりしないのかな・・?

「明日は午後からだから、朝一で帰って着替えてから行けば間に合うと思います」
「うぅ・・・ん・・・」

弱ったなぁ・・・

あたしは開けっ放しになった玄関からもう一度外を見上げ。
大きくため息をついた。

困ったなあ・・・
いいのかなぁ・・・?


「・・・・・・あ、あの、でもちゃんと連絡してくれる?」
「あ、もちろんです!」

とりあえずもう一度中に入ってもらって。
鍵とチェーンを閉める前に、外を見上げた。
ドアが閉まると同時に少し遮断された音に後ろめたさをますます感じてしまう。
ジーンズのポケットから携帯を取り出そうとした吉澤さんにあわてて
お風呂沸かしてくるねって言い残して。
急いでその場を離れた。
763 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:09


764 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:12
「あの、あたしここにお布団運ばせてもらっちゃったんで・・・」

お風呂から上がると。
既にソファーとテーブルの間の隙間に、きっちりとお布団が敷いてあった。

吉澤さんに先にお風呂に入ってもらってる間に、とりあえずお客様用のお布団を出して。
あたしの部屋か、物置化してるあっちの部屋か、それともリビングか。

布団をかかえたままうろうろしていたら、
吉澤さんが上がってきちゃって。

お風呂の中で考えようなんて思いながら床に放置していったのに。
丁寧に散らばってた雑誌までちゃんと棚にたててある。

「あ、ごめんね・・あっちの部屋ぜんぜん整理してなくって・・」

お掃除もいつしたか覚えてないくらいだもん。
埃だってものすごいもん。
765 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:13
「いいえ、先輩も明日早いんでしょ?」
「ぅ、うん」
「うちも朝5時には出て一度家に帰んなきゃいけないから」
「あ、そっか・・・」
「声はかけないで帰りますね」
「え、いいよ〜!ちゃんと起きるから」
「今日も日帰りで大変だったでしょ?ね?ゆっくり寝ててください」
「う、うん・・・」
「じゃあ、おやすみなさい」



うん、おやすみって。
なんでもないように伝えて。

部屋のドアを閉めた。



なんか。あっけない。




766 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:13



だってだってだって。
お風呂の中でいろいろ考えちゃって。
一緒の部屋はやっぱまずいよね?とか。

今までだって何度か一緒に眠ったことは、ある。
それも同じベットで。

そりゃあ一緒のベットなんていうのは最初っから消去してたけど。

でも・・・



767 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:14


お布団の中に潜り込んで深く息を吸い込む。
壁際に横向きになって目を強引に閉じる。


少しもドキドキなんてしてくれてないの?

すっごく久々に会えたのに。

あたしなんて。会いたくて会いたくて。
なんかすっごくうれしくなっちゃって。
興奮気味に話してた自分が恥ずかしいくらい・・・なのに。


夜どおしお話したいなとかって思ってくれないのかな?

せめてあたしの部屋にお布団並べて。
もう少しだけ側にいたかったのに。


768 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:15


布団を目の際まで持ち上げて。
顔にぴたっと押し付ける。




あの頃。
あたしはわざとからかい気味に彼女のベットにもぐりこんでた。
顔を真っ赤にして照れくさそうに隅に寄ってくれる彼女が可愛くって仕方なくって。
鼓動があたしにまで伝わってくるほど。

ああ、いつだったか、すっごく酔っ払って彼女の部屋に泊めてもらったとき。
勢いで彼女の耳をぱくって噛んじゃったことがあったっけ。
月明かりの下でもはっきりとわかるくらい、首筋まで赤く染めた彼女は
目をまん丸に見開いて。

もぅ、いっつもそうやってからかうんだから・・・
知りませんよ?どうなっても

そう言ってあたしに背を向けて。
声をかけても返事もしてくれなくって。

あたしはそういう彼女が愛しくって、後ろからつついたり、抱きしめてみたり・・
って・・・

って、あたし、すっごいひどい事やってたんだ・・・



769 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:17



―――――あぁあ!バっカみたい。


今は彼女にはちゃんと隣で抱きしめたい人がいて。
だからこうやって距離があるのが当然で。


時計を見上げると午前2時過ぎ。
吉澤さんほどじゃなくったってあたし、明日早いのに。


お腹すいたぁ・・・

結局途中から喉を通らなくなって、
伸びきった麺はすべて吉澤さんが食べてくれた。

冷蔵庫になんかあったっけ・・・

770 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:18
音を立てないように気をつけて台所に向かい、冷蔵庫からカステラを引っ張り出した。
コップにミルクを注ぐと、そのまま床にぺたんと座り込んで。
お行儀悪いななんて思いつつ、両手に握り締めたまま、カステラをぱくっとほおばった。




パチッ


突然リビング側の灯りがついて。



「先輩・・・」
「よ、吉澤さん・・・?」
「おなかすいた?うちが全部食べちゃったから・・」
「う。ううん、違うの。ほんとにちょっとつまんでただけ」
「・・・・・・・」
「食べる?」
「うんっ」

あ〜んと口を開いた彼女。
一切れちぎって入れると、とろんとした目でにっこり微笑まれるとこっちまでつられて笑ってしまった。
「ミルクは?」
「うん」

そのまま待ってるから。
マグカップを彼女の口元につけると。
嬉しそうにコクンと飲み込んだ。
771 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:19
真夜中にいい大人がふたり、台所の床に座り込んで。
丈の短いピンクのパジャマとか着ちゃって。
髪の毛をはねさせたりして。

かわぃぃ・・・

「あ、あ、あのさ」
「なに?」
「あの・・・あたし運ぶから・・・だからあたしの部屋で一緒に眠らない?」

まだ半分覚醒しきってない様子で。
あたしの顔をじーっと見つめてた彼女はすっごく嬉しそうに。

「いいの?」
って聞いたくせにあたしの返事を待たないまんまでフラフラと立ち上がって
リビングのほうに歩いていった。

え?あ、あ、あの、別にそういう意味じゃなくって。
あの・・・その・・・


772 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:20


でも吉澤さんはあっという間に自分の枕だけ抱えて
あたしの部屋の前に立っている。



布団を並べて一緒に・・・ってつもりだったのに。
今さらお布団運びこむのも、警戒してるみたいで変・・だよね?


これって・・誘っちゃったことになるのかしら・・?
だ、大丈夫。並んで眠るだけだから。
つもる話をするだけだから。



「え、っと・・あ、あの。歯磨き!」

って別に変なこと考えてたわけじゃなくって。
夜中に甘いもの食べたんだから当然、だよね?

ぱたぱたと洗面所に戻ってぐしゅぐしゅやってると、吉澤さんも後ろからやってきて、
広くもない鏡のまえで、二人並んで磨いてる。

吉澤さんの表情が半分だけ見えるのがなんだか。
徐々に目が冷めてきたのか、とろんと垂れ下がってた目が、くるんと睫までちゃんと上を向き始めて。

一瞬鏡越しに目があって、視線をそらされてしまった。

もともと長い時間磨いてるほうなんだけど・・・・
やめどきって難しいなぁ。
773 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:21
「ほん・・・」
とにあたしの部屋でいいの?

なんて聞いてしまいそうになって。
あわてて飲み込んだ。

戸惑ったような瞳を追い込んでしまうような気がして。

案の定あたしから発せられた言葉を聞いた吉澤さんは続きを待ってる。


「ほ、ほんとに夜中に起こしちゃってごめんね。さっさと眠ろっか」
「はい」
774 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:21
あたしのあとに続いてもぞもぞとベットに入って来た彼女は。
間隔をあけたまんま横たわっている。
ちょっと広めのセミダブル。
にしてはちょっと開きすぎてない?


そっと頭を上げて奥を確認すると、ベットの際ギリギリのところで。
居心地悪そうにまっすぐになってる吉澤さん。


「ねえ、落ちちゃうよ?」
「あ、でも・・・」

ごにょごにょと口ごもった彼女。
775 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:23

「なに?」
「・・・・だって・・・先輩、うちのこと警戒してない?」
「なにそれ」
「だって・・お風呂に入る前も布団抱えたままうろうろしてたし・・・」
「け、警戒なんてするわけないじゃん」
「そ、そっか」
「誤解とかさせちゃうと申し訳ないかなあって思ってさ・・・」
「・・・・いくらなんでも手とか出せませんって」
「そ、そうだよね」

当たり前だ・・・

「あ、そういう意味じゃなくって。ああっ、もうっ」
「なに?」
「先輩は、べつ、だから・・」
「べつ?」

「いつまでも・・・特別だから・・・」



耳を澄ましてなければわからなかったくらい。
とてもとても小さな声で。

776 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:28
「ま、またぁ。そういうことばっか言ってると勘違いしちゃうよ?」
「え?」
「あ、ほ、ほら、あたしだけとかじゃなくって。んと、か・・まわりも、ね?」


使えなかった彼女って言葉。
まわりって言葉で濁して。


けれども何にも返事は返ってこないまま。

横で小さなため息が漏れた。





長い沈黙のあと。



「ねぇ。うち、何回もいい続けてきたでしょ?」



吉澤さんは少し怒ったように。
薄い唇を噛み締めていた。

777 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:30


わかってる・・・何回も何回もあなたにもらってる言葉。
すごくすごく嬉しくて。
だけどそのたびに胸がぎゅーっと押しつぶされそうになる感覚は今でも変わらない。
少しだけ立場は違うけど。
伝えられる言葉はありがとう、それだけだから。



「あ、あの・・・ありがとう、そんな風に言ってくれるだけで嬉しいよ」



ムリして微笑んでみせると。




吉澤さんはあたしから視線をフッとそらして。
暗闇の中、思い切ったように勢いよく、影が動いた。


「やっぱお布団運んできます。先輩眠りづらそうだし・・・」
「えっ?」


起き上がって真っ暗なままの部屋から出て行く背中。
少し乱暴な足音。
床にどんっと布団が置かれる音がして。


「おやすみなさい」


それだけ言ってまっすぐに天井を向いて、静かに瞳を閉じた。



778 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:31





「ご、ごめん・・・」



小さくつぶやいてみる。



返事がない。




こんなふうに怒らせてしまうつもりなんてなかったのに。
もっといろんな楽しいお話とかして、眠りたかったのに。

引っ越してしまったらお泊りなんてもうないかもしれないのに。


779 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:32
ほんとに、ごめん。
嬉しいんだよ?
でも今はそれ以上に。苦しいの・・・

特別な場所でなんてなくていいから。
あなたのココロの真ん中にいたいって。
そんな風に思ってしまう自分が消せなくって。
どうしてもどうしても消えてくれなくって。



手のひらをぎゅっと握り締めて、はちきれそうになる心を押さえつけた。


780 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:33
眠れない・・・






何度も寝返りを繰り返す。
やがて彼女の規則正しい寝息が聞こえてきて。
うつ伏のまま、目を開け。
彼女の寝顔を眺めてみる。



形よく整った、薄い唇。
目を閉じると一際長く思える睫。
暗い部屋でも浮かび上がるような、白くて透明感のある肌。
造詣のひとつひとつがお人形のようなに整った顔立ち。
あの頃よりもずっと大人びた首筋。

781 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:34


もう少しだけ・・・


ベットの一番彼女寄りのほうまで動くと。
手を伸ばせば届くくらいの彼女との距離。


瞬きをすることも忘れて。
枕にほっぺたを押し当てたまま、目だけを開けて彼女を見つめていた。
あたしが自分に許せる、最短の距離。


782 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:35


それからどのくらいの時間がたったんだろう・・




うとうととしたまどろみを繰り返していたら。
すーっと立ち上がった気配がして。



もう朝・・・?


そう聞こうとした言葉を、瞬時にして飲み込んでしまった。

783 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:36




ねえ?もしかして
あたしのこと見てる・・・?




新聞配達のバイクの音がガチャガチャ聞こえて。
走り去る音が消えると、部屋の中は全くの無音になって。



見つめられてる気配がしている。
今さら目を開けるのも恥ずかしくて。
力を入れすぎると瞼が動きそうになるから。
リラックスって自分に言い聞かせて枕もとにうつ伏せ、顔を横向きにした姿勢のまま。


不自然に右端が開いているベット。
限りなくあなたに近づいてしまってる位置。
移動しようにも動けず。
ただ固まったように。

規則的に寝息をたてようと努力する。

784 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:37

すぅっ・・・・


触れるか触れないかの強さで。
上側になったほっぺたに何かが触れて、離された。


それから静かに頬が包み込まれるように。
手のひら全体があたしの頬に触れたまま。

785 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:38

長い長い時間がたったように思えた。
触れられた頬はどんどん温度を増し、
彼女に気づかれるんではと気が気じゃなかった。

もう既に寝息を意識するどころではなくって。
息を潜めて苦しくなりそうだった。


細い小指が戸惑うようにあたしの唇の端を軽くなぞって・・・

思わず眉がぴくりと動いてしまって。


ふいに体温が離れた。
カチャリとドアが開く音。


あたしは・・・

786 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:40
立て続けに息を吸い、吐いた。
苦しくって入っていかなくっても。
とにかく意識して吸い、吐いた。

台所から聞こえてくる物音に耳を澄ましながら、
じっと布団の中で考えた。

指先まで冷たかった手のひら。
自分の指でそっとさっきまで触れられていた頬をさわってみる。



ねえ、どういうこと・・・?

もし、今あたしがあなたの手を掴んだら。
あなたはどうしたの・・・?





何事もなかったようにおはようって起き上がるべきなのか。
自然に声をかけてみようって心に決めて、ドアノブを握り締めた。


その瞬間。
787 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:49
ブルルルルルル


突然、床が振動する音が聞こえて
反射的に布団の中にうずまってしまった。


ブルルルルル

ブルルルルル


携帯にかけられたアラームなのか、それとも・・・
電話に手を伸ばすこともできず、頭の中でいろんな考えがよぎる。



カチャッ


そっとドアが開いて、吉澤さんが手を伸ばして携帯を取り上げた。


・・・・・・・もしもし?
・・・・・あ、うん、おはよ。
・・・・・大丈夫、起きてるって。




再び閉まるドアの音。
788 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:49
・・・ぅん。わかってるって
・・・あ、いいよ、うちが買っとくからさ。卵サンドでいいっしょ?



耳を塞ぐこともできず。
身じろぎもできずに聞いていた。




遠くの方でバタンという音が響き。
家の中から一切の音が消えても。


部屋から見送りに出ることもせず。
両手をぎゅっと握り締めたまま。

深く深く布団の中に潜り込んでいた。




789 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:50


790 名前:i've 投稿日:2006/10/03(火) 17:50


791 名前:咲太 投稿日:2006/10/03(火) 17:50
本日の更新は以上です。


792 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/03(火) 22:39
更新お疲れ様です。
切ないです胃がキリキリいってます。
次回更新を楽しみに待ってます。
793 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/03(火) 23:23
胸が苦しい・・・・
石川さん、吉澤さん。どうにかしてください!!

次回を楽しみにしています。
794 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/04(水) 22:16
よっちゃん…
795 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 20:18
更新お疲れ様です。
看護士さんの登場が待ち遠しいのは自分だけでしょうか…
796 名前:咲太 投稿日:2006/10/08(日) 21:03




797 名前:咲太 投稿日:2006/10/08(日) 21:04
>>792 名無飼育さま

本当にありがとうございます。
キリキリいわせてしまって申し訳ないです・・・(汗
書いている自分も辛くて・・(涙

>>793 名無飼育さま

どうもありがとうございます。
そうなんですよね。二人とも頑張ってほしいって常々思っています・・・
どうにかなれ〜っ!!


>>794 名無飼育さま

レスありがとうございます。
本当、よっちゃんに言いたいことは多々あります・・・

>>795 名無飼育さま

どうもありがとうございます。
今気づきました・・・看護‘士‘でしたw
変換して読んでいただければ幸いです。
はい、いつか出ていらっしゃるかと・・・??


ということでいつものことながらストックも何もなく今後は未定ですが、
前回の更新が苦しかったので、早めに更新させていただきます。
798 名前:咲太 投稿日:2006/10/08(日) 21:12
  
799 名前:i've just moved  投稿日:2006/10/08(日) 21:12


800 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:13




髪の毛を切った。





美容室の帰りに夕食に呼び出すと、美貴ちゃんはすっごいびっくりして。
「梨華ちゃん、これって、明日からも同じようにセットできるの?」って聞いた。





801 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:14





「で?」
 
トロピカルティーのおかわりを選んだあとに、運ばれてきたピザを4切れお願いしたあとで、
美貴ちゃんはせわしげにタバスコをかける。

「だからぁ・・」
「あたしだったら絶対その場で追いかけるね。だって触れられてるんでしょ?」
「目瞑ってたから、はっきりとはわかんないし・・・・」
「他に考えようがないでしょう、それ」
「でもでも・・・」
「ああ、もう、なんでびしっと行かないかなあ、まどろっこしい」
「だって・・彼女だっているのに・・・」
「いたって関係ないじゃん」
「あ、あ、あたしそんな女じゃないし」
「そんな女が泊めたり一緒に寝てたりしちゃ世話ないでしょ」


それを言われたら何も返せないけど。

「で、そっから連絡とったの?」
「してない・・・」
「よっちゃんからは?」
「連絡ない・・」

ま〜ったくってあきれたように言い放って。
でも食欲は落とさず、
これ、食べちゃうよって。
あたしの目の前に置かれたピザにまで手を伸ばす。


「で?あたしはいまだに梨華ちゃんの気持ち、聞いてないんだけど?」
「き、気持ち・・・?」

あたしはさっきから。
すっかり溶けてしまった氷をくるくるストローでかきまわしてるだけ。
802 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:15
「だからぁ、好きなんでしょ?よっちゃんのこと。まあ、言わなくたってわかるけどね」
「・・わ・・かんないよ・・」
「この後に及んでしらばっくれるかなぁ?まあいいや。いっつもそういう答えだったよね、梨華ちゃん」
「な、なによ、いつもって」
「ていうか、ずっとじゃん。誰の目から見ても明らかなのにさ。
 絶対言わないの。心の奥ふか〜くに沈めてるって感じ?」
「・・・・・・・」
「もう、いいじゃん、認めちゃいなって」
「・・・・・・」
「でしょ?」

膨れっ面をして目の前を見ると、美貴ちゃんがあたしの目を射抜くようにして見つめていて。



かくんと頭を垂らして小さく頷くと、
向かい側から手を伸ばしてヨシヨシって撫でてくれて。
手を離す瞬間にコツンと軽く頭を小突いた。


「で、でも絶対言わないで。誰にも」
「言わないよ。言うわけないじゃん。自分ではっきりしなきゃ」
「はっきりって・・・?」
「ミキなら直接奪い―――」
「ぜ、絶対ムリっ!」
「なんでよ・・・」
「だ、だって・・・・吉澤さんにだって彼女にだって・・・気持ちとかあるし・・・」
「はぁっ・・なんでそんなにいい子になろうとすんのかね?」
「いい子?」
「そうでしょ。自分が理解ある先輩になりたいだけでしょ?」
「・・・・・・・」
「駄々捏ねたっていいじゃん。好き好きって詰め寄ってみれば?
 ちゃんと考えられない子じゃないと思うよ」
「でも・・・」
「彼女のことはあんたとは別でしょ?考えるのはあっち」
「・・・・・」
「それより気になってたんだけどさ、いまだに梨華ちゃん、ヨシザワさんなんて呼んでるの?」
「えっ・・・」
「いつまで先輩後輩ぶってんのよ。もう卒業して何年でしょ?
 そりゃさ現役がいる飲み会でひとみちゃぁんなんて言われたらミキもぶっしばくけど、
 ふたりんときくらい、砕けてあげたら?可哀想になっちゃうよ、よっちゃんが」

そう言って軽くあたしを見て。
眉が下がりっぱなしの表情を読んで、まったくってため息をついた。

すいませ〜ん、次の、もってきてもらえますか?

あわてて店員さんがシーフードピザをもってくると、
あたしのお皿にもぽんっと置かせて。

あったかいうちに食べちゃいなよって。
ささっとあたしのから先に少量のタバスコをかけてくれる。

言葉の刺のわりに、こういうとこはすっごく優しいんだよね。
803 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:16
「ねえ、待ってるつもりとか言わないよね?」
「え・・・?」
「ていうかさぁ、聞きたいんだけど、待たせてるって自覚はあったんだ?」


両手でピザを握り締めたまま、胸元で止まってしまう

って、何が言いたいの・・・・?
美貴ちゃんの真意がつかめない。

「だからぁ、ぶっちゃけ、待たせてて悪いなあって思ったわけでしょ?
 んで、かわりに今度はわたしが〜、なんて考えてる」

ゴクリ・・・

何にも答えられなくて。
とりあえずぶんぶんと首を横に振ったら。

「まあいいって。なんとなく気持ちもわかるし。でもさ、そんなん、やめなよ」
「・・・・どうして・・?」
「待っててって言われたときだけ待ってりゃあいいじゃん」
「・・・・・・」
「お互いのことを思って〜なんてずっとやってたけどさ、もう若くないんだし。
 あ、ミキは若いけどね、梨華ちゃんよりは」

そう言ってちょっと笑って、ガバッと薄いピザを丸めて一口にして飲み込んだ。
804 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:18


「ねえ、携帯貸して」
「・・・なんで・・・?」
思わず身構えて隣に置いたバックを膝の上におくと。

はあってまたため息をついて、ささっとナプキンで自分の手をぬぐって。
ポケットから自分の携帯を出した。


こ、ここ、お店の中だよ、ミキちゃん・・



『あ、もしもし?そう、ミキだけど・・・』
『うん、そう。あのさ、唐突で悪いんだけど、なんか美味しいうなぎ屋知ってるんだって?どこよ?』
『ふん、あああ・・・はいはい、うん、え?右。
 ちょ、あとでちゃんと今のもう一回メールで送っといて。あ、ついでに電話番号も』
『そうそう、で、ほんとにそこ美味しいわけ?保障する?』
『・・・失礼な。ラブラブだってば〜。ほら、高くってまずかったらミキ、愛のムチだし。』
『え?・・・・るさいよ。もうっ!!』
『で、今さ、梨華ちゃんといるんだけど、行きたいんだってさ、ど〜しても』

ちょ、何よ。いきなりっっ!!


『ん?火曜って・・・・並びなよ、よっちゃんが。一人で』

突然あたしの方を一睨みして。


来週の火曜って何時に終われる?
8時?遅っ、7時でいいねっ?


そう言い放ったあとに。

『じゃあ、ちゃんと並んでおくよ〜に。あ、メール忘れないでよ?』

そう言って電話を切った。

ご、強引なんだから・・・・

ぷくっと膨れるとにやりって笑って。


805 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:19



「ねえねえ、申し訳ないなんて思ってるんだったらさ」
「なに・・?」
「この際一発パーッと抱かれちゃえばぁ?」
「は、はいっ?」
「よっちゃんもずーっと苦労してたからねえ。一度はそういうことしてちょうどよいかと」
「み、美貴ちゃんっ??」
「うまくいきゃあひっくりかえせるかもしんないしさ」
「バカッ!!!!」

美貴ちゃんはさも愉快そうに笑って。
お店の外でごちそうさま〜って言って頭を下げた。
お給料日前なのにな・・・
しかもあさってはウナギにしてくれちゃったのにな・・・


街の風は、秋色を濃くしていて。
涼しくなってしまった首筋を思わず引っ込めた。

うなじをひゅーっと撫でられて。

「ひゃぁっ!!」
「けっこういいと思うよ、短いのも」






ちゃんとメールすんだよ〜、
それだけ言って別々の地下鉄の駅まで行く。
わかってるよ、美貴ちゃん。


あたし、ちゃんと。
自分と向き合ってみるから。ね。



806 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:19



807 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:22




裏通りを曲がったところにある、小さなお店。

あれ・・・?思ったより人、少ない・・・?

あがってしまった息を整えながら列に近づくと。
一番前に吉澤さんが座っていて。

「ご、ごめんね遅くなって・・・」
「い・・・」

ベンチに座った格好であたしを見上げた吉澤さんは。
言葉にならないほどびっくりしたようで。
ごくっと息を飲み込んで、もう一度あたしを見上げて瞳をまん丸にした。
808 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:22
「似合わないかなぁ・・?」
「あ、いや、そういうんじゃなくて・・・びっくりしただけ・・・」

そんなに珍しげに見られるとこっちだって恥ずかしくなっちゃうじゃん・・・

「あれ?順番、次?」
「あぁ、というか・・・・・・」


どうやら次々と後ろの人に順番を譲って。
今日はこの最後尾の人でおしまいになってしまうらしい。

「危ないとこだったんだねぇ、ごめん」
「いえ、間に合って良かったです」

もくもく上がっていく白い煙とともに
甘辛いタレの香ばしい香りが道路一面に広がってる。
809 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:23
中に通されると何席かのカウンターと、小さなテーブルが4個だけしかなくて。
入れ替わりに出て行ったサラリーマンの肩をよけるために、端に寄らなければいけないほど小さなお店。

「あの・・・あたしが頼んじゃっていいですか?」

吉澤さんはあたしをテーブル席に残したままカウンターへ近づき。
手馴れたように、おじさんに注文を伝えに行った。

「ちょっとだけ、なら飲めますよね?」
「うんっ」

椅子に座りながら尋ねられて。
元気に返事してしまった。
810 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:24

これとねえ、これと・・・

割れたプラ板に挟まれた古ぼけたメニューを指差しながら、
注文したものを教えてくれる。



指先を見つめてたらこの前のことを思い出して頬がカーッと熱くなって。
あたしを覗き込んだ吉澤さんと思わず目が合い、お互い固まってしまって。

慌てたように隣に置いたカバンの中から折りたたみ傘を出してあたしの目の前に置いた。



「あの、ありがとうございました。泊めていただいたのに、お礼も言えずに・・すみません」
「あたしも・・・ちょうど忙しくって全然連絡できなく――――」


「お待たせして申し訳ありませんでしたね」


ぎこちなくなりそうな気配を。
店主の奥さんらしい、品のいい女性が遮ってくれた。

焼きたての白焼き。
わさび醤油のいい香りがする。



「じゃあ、先輩・・・」


ビールで喉を潤し、箸を運ぶ。


811 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:25

ここは関東にしてはめずらしくって、蒸してないんですよ。
いきなり焼いてあるの。
だからタレのほうのもちょっと荒っぽいんだけど、美味しいんですよ。くせになっちゃって。


いつもよりちょっと饒舌になってる彼女。
すすめられるがままに口にした冷酒が、とっても喉に心地いい。
濡れたガラスの器を持ち上げると。
彼女も白い指の先まで桃色に染め、美味しそうに飲み干してからグラスを差出してくれる。






812 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:25





「あぁ〜!お腹いっぱいだよ〜〜」

ビールと日本酒と、その上白いご飯までおかわりしてしまって。
いつもより箸のすすんだあたしを見て、
吉澤さんはなんだかとっても喜んでくれた。

「いいからいいから!!」

どうしてもと強く言われて外に出ると。
すでに暖簾を下げたガラス戸から吉澤さんが出てきて。

「あの・・・ごちそうさま・・」
「んな・・最初っからそのつもりで誘ってたんだもん」ってにっこり笑った。



「ねぇねえ、先輩」
「ん?」
「ちょっと歩かない?」



813 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:26



通りをまっすぐ歩くと、川沿いに出る。
反対側に浮かび上がるネオン。
ところどころにベンチが置いてある遊歩道を、
あたしたちはゆっくりとどちらへ方向を決めることもなしに歩きだした。

いい風だねえ〜
上機嫌な吉澤さんは鼻歌なんて口ずさみながら。
あたしにあわせてほんとにゆっくりしたペースで歩いてくれる。

雨上がりの、幾分温かな夜。


814 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:28
「そういえばさぁ、さゆちゃんどう〜?お姉ちゃんに帰ってきてほしいんじゃない?」
「うん。毎晩のように電話あるよ〜。パパよりもしつこいの」


彼女には話せないけれど。
ほんとは週末さゆがお泊りにやってきて。
どうして帰ってこないのってさんざん聞かれた。


もちろん吉澤さんのことはいっつも話題にしていたから。
うすうすは気がついていたみたいなんだけど。
まさかこんなに本気だとは思ってなかったって・・・
お姉ちゃんはバカだって言われた。
さっさと帰ってくればいいじゃんって。


そんなに好きならさっさと言っちゃえばいいじゃん!!
それでダメなら戻ってくるとかさ。
同じとこに住むかもなんて、さゆには考えらんないって。
815 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:29


「やっぱなぁ・・ほんとに帰んなくていいのかな?」
「いいよ〜。それに一度帰ったら二度と出れなくなりそうだし」
「・・・いいの?」
「いいってばぁ!」
「・・・じゃあ、言うけど・・」
「なぁに?」
「上の人ね、今月末で出ることになったんだよ〜」
「えっ?」
「だから・・・もし先輩がこっちでもいいって決めてもいいんなら、話をすすめちゃうけど・・・」
「うん、お願いします」
「いいの・・?マジで?」
「うん、迷惑じゃなければ」
「迷惑なんて思うわけないじゃんっっ」
「ほんと?」
「ほんとにほんとっ!」


毎日毎日。
繰り返し考えた。

美貴ちゃんの言ったとおり、思い切ってど〜んってぶちあたって。
華々しく散って、おうちに帰っちゃうのもアリかなぁ・・なんて。


だけど。
丸一日お布団の中でふてくされているうちに、いつのまにか涙は収まってしまって。
もしかしてこうやって。
声を殺しながら震えていたこの子がいたんじゃないかって。

大事な言葉を言わせなかったんだって思ってた。
あたしのせいだって。
でもそんなのはただの驕りで。

きっとあなたはあなたの意思で。
何度も飲み込んでくれてたんだと思う。
それは側にいるためではなくて。
あたしの気持ちを一番に大切にしてくれていたから。
それがあなたのあたしに対する、最高の愛情の形だったんだろうなって、
今ならちゃんと受け止められる。

816 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:30
「うわぁ・・・どうしよ・・・」
「どうしたの?」
「ほんとに越してくると思ったら緊張してきた。やばいかも・・・」
「なんで?」
「だってさぁ・・・・・・・・・」
「なによ?」


瞳の奥を覗き込むように見上げると。
彼女は首をひくようにして、照れたようにニコニコ笑った。

「だってさ、買い物してても駅にいても日常でばったり会えるってことでしょ?」
「そんな・・・いくら同じとこの住民だってそんなに頻繁にはあわないでしょ、普通」
「エレベーターに乗ったら先輩いたりしてさぁ」
「もぅ、人の話聞いてる?」
「やべぇ・・超嬉しいかも・・・」

今日の吉澤さんはいつもにもましてご機嫌で。
そんな素直に言ってもらうと、こっちまでついつい頬が緩んできちゃって。

「なぁに?めずらしいじゃん、酔ってる・・?」
「うんっ!ダメ?」
「ダメじゃないけど・・・」
「だって二人で飲んだのって何年ぶり?」
「あ・・・そっかぁ」

でもなあ、もっともっと飲んでも平気な人なんだけど。
たしかにペースは速かったけど、そんなに量多かったっけ・・・?
でもたまには。こういう彼女が見れるのも嬉しかったりもするんだけど。
817 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:31
「先輩のショートってどんななんだろうって想像したことがあったんだけど・・・」
「え?」
「なんか、思ったより・・・」
「なに?」
「幼くなるよね」

そ、それって失敗ってこと?


「ああ、そういうんじゃなくって・・・」


吉澤さんはちょっと笑ってから。


「んっっと・・・」
「なに?」
「褒めてもいい?」
「うんっ」
「・・・すげえ可愛いって思った」


少し照れ気味にボソって言うから。
お酒で火照った顔がさらに熱くなってきちゃう。

818 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:33
「どっちかっていうとお姉さんって感じだったからさ」
「えっ?」
「こういうの、いいよねえ。・・・・・・あのさ、一度やってみたかったんだけど・・・」
「な、何?」
「しゃわしゃわって・・・」

えっ?えっっっ??

いきなり横から頭を軽く抱えられて。

まるで仔犬を抱きかかえるように
頭をくしゃくしゃと撫でたかと思ったらぱんって離れた。

「なっ・・・!」

へへ〜ん、って嬉しそうに笑ってるから。
もうっって髪の毛を手で整える仕草をしてごまかしつつ。
819 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:33
「吉澤さんは切らないの?」
「髪?」
「せっかく伸びたとこだからなあ。ここまで伸ばすのけっこう大変だったし」
「うん、こんなに長いの見るの、初めてのような気がする・・・」
「でしょでしょ?先輩は?どっちがいいと思う?」
「うぅんと・・・・って、あたしの好みって関係ないじゃん」
「いいから。どっち?」
「長いのも大人っぽくって好きだけど、短いのも捨てがたいし・・・」
「で、どっち?」
「ひ、人に頼ってないで自分で決めなさいよぉっ!」
「じゃあ先輩は?」
「なぁに?」
「なんで切ったの?」
「教えな〜い」
「なあんだ。失恋したとか言われたらどうしようかと思ったのに」
「してないも〜ん」

それは半分ウソだけど・・

「してないって・・・えっ?え〜〜〜っ???じゃあ好きな人とかって・・・いるの?」

瞳をまん丸にして。
あたしの顔を覗き込むから。
思わず斜めに視線をずらしてしまった。
820 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:34

「・・・・・どうして?」
「どうしてって・・・」
「まぁ、いつかね」
「はぁっっっ、ずるいなあ・・・」
「そんなに聞きたい?」
「超聞きたいっっっっ!!」
「やだよ〜!ぜ〜ったい教えな〜い!!」
「はあっっ・・・なんかすごいショック・・・」
「なんで?」
「だっていっつも誰かいるんだもん。どういうヤツ?」
「どういうって・・まあ、いいじゃない」
「もうっっ!」
「でも・・・・・・しばらく恋なんてするつもりないし」
「えっ・・・?」



あなた以外とは。




821 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:35
「なんで〜?」
「なんでも。たまにはいいかなって」
「はあっ・・・」



小さくため息をこぼして子供みたいにふてくされる彼女を見上げる。




   

ごめんね、美貴ちゃん。

口に出して認めてしまった途端に、まるでつっかえがとれたみたいに。
ざーっと溢れてきた感情は、いつのまにかあたしの心のど真ん中を占めてしまって。



そうだね、美貴ちゃんの言うとおり、
あたしはずっとずっと彼女が好きだったんだなって思った。
自分自身で思ってより、ずっとずっと。
もう誰かに替えようがないくらい、大きな存在・・・みたい。


答えを聞くのが怖いからとかじゃなくって。

わかってしまったから。
自分の中で彼女への思いがどれほど強いか。

だからこれがあたしなりの決心。

822 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:37

待っててくださいとか、待たないでくださいとか。
そのどちらかの答えが返ってきたとしても。
決してあたしの心は揺るがないって思えたから。


言わないし、媚びないし、迷わない。
逃げ出すことだけはしないって・・・

変なとこ、負けず嫌いだって、また美貴ちゃんに笑われそうだけど。
彼女に大してというより。
あたしに対する宣戦布告。


また泣きついてなぐさめてもらいたくなるかもしれないけど。
そのときはグチグチこぼしちゃうと思うけど、つきあってよ。

823 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:38




・・・・大好きだよ・・・?




斜め後ろから見上げて。
今まで決して使わなかった言葉を初めて心の中で口にした。



ふてくされたまんまの背中を後ろからぽんって押すと、
振り向いた瞳とばっちり向き合ってしまって。
照れくさい気持ちと一緒に、自然と笑顔が溢れてくる。

824 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:38


「ええっと、駅ってどっち・・・?」
「知らない・・・」
「えっ?」
「まっすぐ歩いてれば手前か奥の駅につくよ、きっと」
「まぁいっか。あたしが今日は駅まで送ってあげる〜」
「ええっ?」
「いいからいいから」


美貴ちゃん、いろいろ悩んだわりには、最後にそれかよって笑われちゃうかもしんないけど。
偉そうな理由を語っちゃったけど。




ほんとの想いはたったひとつだけ。





離れたくないんだもん・・・





825 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:39


826 名前:i've 投稿日:2006/10/08(日) 21:39


827 名前:咲太 投稿日:2006/10/08(日) 21:39
本日の更新は以上です・・

828 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/08(日) 23:41
やっと自分の気持ちを素直に認めたのはいいけどどーしてそっちに行くかな。
よっちゃん、恋人ホントにいるの?
829 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/14(土) 00:59
どうなるのか気になって気になって・・・
パソコンを開くたびにここを開いてしまうようになってしまいましたw

お待ちしております!!
830 名前:A−203 投稿日:2006/10/14(土) 20:07
更新お疲れさまです。やっぱり作者さんのお話の雰囲気が大好きです。
会話とか仕草とかいろいろな表現すべて大好き
しばらく覗けないうちに2回も更新されてて、めちゃくちゃ嬉しかったです
まったりと作者さんのペースで進めてくださいね
831 名前:咲太 投稿日:2006/11/17(金) 23:40


832 名前:咲太 投稿日:2006/11/17(金) 23:41
>>828 名無飼育さま

レスいただき本当にありがとうございます。
ほんとにやっと認めた石川さんがもどかしてしょうがないです。
困ったものだ・・・

>>829 名無飼育さま

嬉しいお言葉をありがとうございました。
本当に励みになります。
またまた間があいてしまいまして・・・(汗
ご期待に添えるような更新ができるよう頑張ります。


>>830 A−203

いつも本当にありがとうございます。
過分なお言葉ですってばぁ!(というかそっくりそのままお返ししますよw)
まったりとしすぎなのではないかという話も・・w


ということで、本日の更新に参ります。
833 名前:咲太 投稿日:2006/11/17(金) 23:41


834 名前:i've just moved  投稿日:2006/11/17(金) 23:42


835 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:44


「だから、あの色じゃやばいって」
「なんで〜?クッションと同じほうが絶対おしゃれだもんっ」
「大きさ考えなっていってんの。あれが一面だよ?特注までして」
「いいじゃん、美貴ちゃんが住むわけじゃないんだし」

ブツブツ文句を言いながらエレベーターに乗り込んだ。

急に部屋が空いたからって、カーテンの長さとかはかりにきたのがお昼過ぎ。
美貴ちゃんと待ち合わせしてオーダーのお店に向かったものの、
あたしが選ぶ生地ことごとく却下されて。

部屋の雰囲気を見にくるというから。
預かったキー片手に、もう一度このマンションに戻ってきた。


「リビングのカーテンは今使ってるやつそのままにするからいいの」
「ええええ?あれこそ趣味悪いじゃん!」
「ひっどおい!!!」
「だったら寝室のをもうちょっと考えなって」

不満の声を上げてたら。

「あ、す、すみません」

一度閉じかけた扉がもう一度開き。
駆け込んできた女の子が、ペコリと頭を下げた。
あたしたちの声に圧倒されたのか、ちょっと固まった様子で。


「・・・何階ですか?」
「あ・・・・2階お願いします・・・・」

肩で息をしたまま。
申し訳なさそうに軽くお辞儀をして、足早に降りた。
836 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:44
「ほら、やっぱ間違ってるじゃん」
「え?どこどこ?」
「ちゃんとこっから計った?10センチくらい足りなくなっちゃうよ。早く訂正の電話入れとかないと・・」
「そうする・・」


メジャー片手にぽんぽんって自分のほっぺを叩いてる美貴ちゃん。
夕暮れになってきて電気もついてない部屋はだんだん薄暗くなっていく。
寝室の出窓のところだけ市販のカーテンのサイズではあわないっていうのは吉澤さん情報。
教えてくれるっていうのを一度ちゃんとお部屋を見ておきたいからって。


「せめて寝室のメインのカーテンくらいは同じやつで買いなおしなよ」
「ええっ?もったいないじゃん、今のとこのとサイズ同じだし」
「だから、お金の使い道間違ってるって。両方の質を落としたって一緒にしないと・・」



「あとさ、たぶん大丈夫だとは思うんだけど、今のところより玄関だけ若干幅狭くない?
 吊り上げないとあのバカでかいソファー入らないかもよ」
「えええ?ほんとに??」

「もうっ。貸してっ!」
「え?」
「ほら、あたしが計るからドア開けて」

ガチャッ
 



えっ??さっきの女の子・・?



「・・・・・・・・・」


はっと息を飲み込んで。立ち尽くしてる彼女・・・



え、もしかして・・・

837 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:45
「ああ、よっちゃんとこの?」


あたしより頭の回転の速い美貴ちゃんが。
ささっと横から声をかけた。

小さくコクリってうなずく。

ショートカットで可愛い感じ。
ああ、そうか。なんか納得・・・

「あ、あの・・・」

ちょっと目を泳がせながら。一歩後ずさってる。


「ちょ、美貴、お茶でも買ってくるわ。何もないですけど、どうぞ」

ど、どうぞって美貴ちゃんっっ!!
エエエエエっっっ???この部屋に入れるって??

838 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:46
「あ、でも・・・」
「まだ清掃も入ってないらしくって。でもけっこうキレイですから。床にでも座っててください。
 あ、紅茶がいい?コーヒー?」
「えっ・・・?」
「紅茶?」
「あ、はい・・」
「りょ〜かい」

家主でもない美貴ちゃんがそそくさと話をまとめて。
嵐のように過ぎて行くと。

取り残されたのはあたしたち。

ドアを開いたままのハンパな姿勢で固まったまま。

どうぞってとりあえず笑いかけて、彼女を部屋に招きいれた。

えええっと。
何から話したらいいもの・・・?
てか、この子は何をしにここまできたんだろう。
839 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:47
「あ、あの!」
「は、はいっ」

「あたし絵里です。亀井絵里」

「あ、あたしはい、石川梨―――」
「知ってます」

そ、そっか。知ってるよね。
だからここに来てるんだもんね


「ひ〜ちゃんに聞いてますから」

ひ〜ちゃ・・・・
ひ〜ちゃんって呼ばれてるんだ・・・・・




胸の中がざわめいた。



床の上にお互い向き合って正座して。

上手く話を続けることもできず。
しーんと場が静まりかえる部屋。
840 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:49
「てかコンビニってどこ???」

突然ドアが乱暴に開いて。
ひょいって美貴ちゃんが顔を出した。


お互い緊張の糸がほどけたように顔色が和んで。


「あ、あの、うちに飲み物ありますんで、もしよかったら・・・」
「え?マジ?いやあ、助かるわあ」

って、美貴ちゃんっっ?

「ここって電気もないじゃん?暗くなってくのってあんま好きじゃないんだよね〜」

それって部屋の明るさのことだけじゃないよね?

「あの、藤本先輩、ですよね?」
「あ、知ってる?」
「はい、よく話を聞いてます」
「そうそう。すっごいお世話したからね。で・・・なんて呼んだらいい?」
「あ、亀井っていいます」
「じゃあ、亀ちゃんでいいや」

二人でさっさと歩いていく後姿を見送りながら
ドアの鍵を閉めた。

841 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:52





「よっちゃんってどう?恋人としてやさしい?」
「えっっ??」


ちょ、ちょっと美貴ちゃん!!
まだやかんのお湯だって沸騰してないのに。
どうしてそういうこと、唐突に聞けちゃうわけ?

ほら、亀井さんだってびっくりして。
固まっちゃってるし。

しばらくしてようやくフリーズが溶けた亀井さんは。
ちらっとあたしのほうを伺うようにしてから、美貴ちゃんに向き直った。

「あ・・・はい、やさしい、です」
「だよね〜」
「食事とか全部作ってくれるし」
「え?よっちゃんが?」
「ええ。一人だとあんまり何にも食べなくって。すごくやせちゃうんです。
 だけど、あたしがいればちゃんと作ってちゃんと食べるから」
「ああ、なるほどね〜。よっちゃんらしい」

「よっちゃんって料理上手?」
「上手いですよ〜。一通りなんでもできるし。
 あんまり本とかみないで目分量でささって作っちゃう」

ああ、そうか。なんだかとっても吉澤さんっぽい作り方。
842 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:53
「しっかし、すっごいおしゃれな家だよね〜」
「そうですかぁ?」

ちょっと嬉しそうにはにかむ亀井ちゃん。

「うん、同じ家でもだいぶ違ってくると思うよ〜」

意味深にあたしの方を見ながらニヤニヤしないのっ。

「ですかね〜。ほとんどひ〜ちゃんが選んだものばっかなので」
「なになに?ひ〜ちゃんなんて呼ばれてるの???」
「え・・・?は、はい」

身を乗り出すようにしてばしっと突っ込みを入れた美貴ちゃんは。
あたしの様子を目の端でちらっと観察してお構いなく続けた。


「ひ〜ちゃんかぁ」


さっきワンクッションおいてただけ。
マシなんだと思う。

ニヤニヤ笑いながらあたしと亀井ちゃんを見比べてる。
だから、そこであたしを見なくたっていいでしょ?


「ふぅん、きゃめちゃんはすごいひ〜ちゃんのこと、好きなんだね」

そんなこと明言させなくたって。
この子の表情を見てればわかりきってる。


ぽっ、なんて照れたようにほっぺたを抑えて。

「ええ、そんなんじゃないですよぉ」なんて言いながらまんざらでもなさそうに。


ブルルルルルル


「梨華ちゃん、携帯鳴ってるよ」

「あ、うん。・・・・はい、もしもし・・・」

843 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:53
さっきのカーテンの変更について担当の人から
折り返しかかってきたのを口実に外に出た。


電話の用件は簡単に済んだけど。
どうしてももう一度踏み入れる気になれなくて。





可愛いよねえ、とっても。
素直で、すごくまっすぐに育ったんだろうな。
お仕事で失敗とかもしちゃいそうだけど。
なんか憎めない子だなって思う・・・


844 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:53

845 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:54
  

846 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:55
「もぅっ!!そんなの見てないでさっさと手を動かしてよ〜!」
「いいじゃあん。もう疲れてきたよ〜。燃料切れ」

バタバタと慌しく引っ越しの日はやってきて。

ようやく半分くらい空になったダンボールを玄関先にまで運びながらリビングを通ると。

美貴ちゃんはぺたりと床に座り込んで、楽しそうにあたしの小さい頃のアルバムなんか物色しちゃって。
さゆもさゆだって。なんで一緒になってまったり観賞しちゃってるわけ?


「そろそろ休憩しよ〜よ。明日仕事早いんだよ〜」
「・・・・・・じゃあ、さゆ、コンビニでおそばかなんか―――」
「やだあ、力入んない」
「・・・・何がいいの?」
「決まってるじゃん」
「えええ?でもこういうときは引っ越しそばでしょ?縁起物だし」
「そんなんじゃ体元に戻らない!!」

はぁっ、仕方ないなあ・・・
休日返上で昨日から徹夜気味で手伝ってくれてるのも事実で。

「じゃあ、二人で行ってきて・・・」

お財布の中から1枚だけとり出してさゆに渡そうとしたら
横から鋭く視線が突き刺さった。



もぅ、何かと物入りなんだからねっ。

でも・・かなり助けられたのも本当だし。
口はアレだけど、一番体を動かしてくれるのも美貴ちゃん。
改まってバイト料なんて払うような間柄とも違うしね。

もう一枚を財布から抜き取ってさゆに渡すと。
美貴ちゃんはニヤって笑ってさゆの手をとって立ち上がった。
847 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:56
「おし、きゃめちゃん誘いに行こう」

え?亀井ちゃん??

「ですね〜、あたし、会うの楽しみ〜♪」
「さっきメールしたら夜勤明けだったみたいで、明日の午後までお休みなんだって。
 一日寝てたっていうから何にも食べてないと思うし」
「ちょとねえ美貴ちゃんっ!!いつからメールなんてしてたのよ〜!!」

あたしの質問になんて答える気はさらさらないようで。
さっさと玄関から出て行く美貴ちゃんを、さゆがあわてて追いかけた。



848 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:57



「あ、もしもし、梨華ちゃん今からさあ―――」
「美貴ちゃんっっ??ハンガーラック組み立ててくれるって言ってたのに〜!」
「ああ、ごめんごめん、帰ったらやるからさ」
「ウォークイン片付かなくて困ってるんだからね」
「わかったってば〜。ところで、焼肉屋来ない?」
「今それどころじゃないし」
「よっちゃん来てるんだけど」
「え?」
「美貴が飲ませちゃったらけっこう亀ちゃん出来上がっちゃってさ。お姫様のお迎えにいらしたのです」
「・・・・・・・・・行かない」
「じゃなくってさ、よっちゃん今まで仕事してたからおなかすいてるっていうし、
 美貴たちもうたらふく食べたあとだし。焼肉なんて一人で食べたって美味しくないじゃん?」
「でも・・」
「梨華ちゃんだって昨日からろくに食べてないじゃん。まだ明日だってお休み残ってるんだしさ。
 力つけとかないと倒れちゃうよ?」
「だけど・・・」
「それだけじゃなくて、お宅のさゆちゃんも倒れちゃってるんだなあ、これが」
「はあっっ?」
「ほら、よっちゃんは亀ちゃんで手一杯だし、さゆちゃん美貴ひとりじゃ連れて帰れないし」

もう、一体どんだけ飲ませたのよっっ!!


849 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:57


「美貴ちゃんっっ!!!」


お店に入ると。
一番奥の席に吉澤さんと美貴ちゃんが座っていて。

半分テーブルの下に隠れるようにして、亀井さんとさゆが二人仲良く横たわって
気持ちよさそうに寝息をあげている。

「何飲ませたのよっ?」

「て、ビールくらいだよ〜。あとサワーを1、2・・3杯?」
「この子、ほとんど飲めないのに〜!」
「いやあ、二人歳も近いし、なんかすごい盛り上がっちゃったんだよね〜。
 あと夜勤明けとか、徹夜明けとかで回っちゃったんじゃないの〜?」

テーブルの上には。
すでに半分以下に減ってしまっている焼酎のボトルがあって。
絞られたレモンやオレンジや炭酸なんかがずらりと並んでいる。
「いやあ、ここ、美味しいよ。通っちゃう、あたし」
「そんなに喜んでくれるんだったらもっと早く先輩に教えればよかったですね〜」
「ほら、なにやってんの。梨華ちゃんも座りなよ。よっちゃん、何も食べずに待ってたんだから」
「す、座るわよ」
「もう、遠慮しなくていいからガンガン頼んじゃって。足りない分は今日は美貴が出すから」

850 名前:i've 投稿日:2006/11/17(金) 23:57


851 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:00


「先輩、先輩・・・」

ゆさゆさゆすられて。

あたしは自分が机にうつ伏せになってしまったまま眠ってしまっていたのに気づいた。
「あれ・・・?みんな・・・」
「さっき藤本先輩がさゆちゃんは連れて帰りましたよ。先に絵里をおぶって部屋まで運んできたんですけど・・・
 って記憶ない?」
「・・・・・ない・・・・・」

すっかり片付けられてしまったテーブル。
看板も仕舞われてしまっている店内。
「あたし・・・」
「もう、そんなカオしなくたって大丈夫ですってば。すごい疲れてたんですよ。
 何日かほとんど眠ってなかったんでしょう?」
「うん・・・」
852 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:00
引っ越しそば変わりだって冷麺を強引に頼んで。
一口食べて、もうお腹いっぱいだって嫌がる美貴ちゃんと吉澤さんの口を開けさせてに無理やり食べさせて。
そこから気持ち悪くなって。
トイレにうずくまってた時間も長かったような気がするけど・・・気のせいかなぁ・・・

これまでも何度も酔っ払ったことはあったけど。
記憶が途切れてるのなんて初めて・・・
情けない・・・


座敷から立ち上がろうとしたけどふらって倒れて。

「もうっ。危ないから、つかまって」
「靴だけはいて。足伸ばして」

俯くとまた気持ち悪くなってきて。
仕方なく足を伸ばすと、ブーツを膝まであげてくれてからひょいって後ろを向いた。


体がふわっと宙に浮く。

「ちゃんと肩でもいいから捕まっててくださいよ」
「や、やだぁ、歩けるってば」
「いいから。首に手まわして」

「やだ・・やっぱおろして」

表通りに入ったところで。
ぽんと背中から飛び降りた。
勢いがつきすぎてくらっとしちゃったりして。

「ちょ、おぶってくから。ね?乗って」
「いいもん、歩けるから」

なのに体は全然言う事を聞いてくれなくって。
ふらふらと次の通りまで歩いたところで。
めまいがしてへたりこんでしまった。
853 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:01
「じゃそこで休もう。そこまでだから、ね?」

吉澤さんはすごくやさしい顔で。
座り込んでしまったあたしの顔を諭すように覗き込んだ。

「ぅん・・・」
「ほい」

ささっと背を向けて。
両手を広げて。


あたしは両手をおずおずと吉澤さんの首に回して。
背中に体を預けた。

「いくよ」

腿の下に両腕がまわって。
あたしの体は再び宙を浮く。


さっきよりも体をぴたっとくっつけてみる。
吉澤さんの匂いだ・・・



そこまで、だから・・・
ちょっとだけだから・・・いいよね・・?


もっともっと近づきたくてきゅっと体を寄せた。
一瞬背中が固まったような感じがしたのは気のせいかな・・?

854 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:06
「座れる・・?」
「うん・・・」

通り沿いにある小さな公園。
外套がたったひとつついているベンチの前まできて。

そっとあたしを椅子の上に降ろすと、地面に中腰になって目線の高さを合わせて。


酔いまどろんだ頭に優しく響く声。
手を伸ばせば軽く届いてしまいそうな距離・・・




「大丈夫・・?」
「うん・・・」
「喉かわいてない?」
「少し・・・」

吉澤さんは軽く微笑んでからすくっと立ち上がって。
背もたれによりかかっていたあたしの背中をそっと浮かせて。
自分の着ていたダウンを脱いでふんわりと肩にかけた。

ほわんとした視界が歩いていく背中を小さくなるまで写したあと。



あ・・・・

目を閉じて静かに息を吸って。
また吉澤さんの香りにつつまれながら、ゆらゆらする意識の中で漂っていた。

855 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:07



「はい」

冷たいアルミの感触が手のひらに降ってきて。
プルタブに手をかけようとしたら

「あ、ごめん。貸して」

って。
もしかして・・・・・


待ち合わせのお店に向かう前に、禿げてしまったネイルが気になって。
玄関で慌てて補修しただけの爪だけど・・・


プスっと音がして。
吉澤さんは再びあたしの手の中にドリンクをおさめた。

さりげない優しさに、緩んできてしまう頬をごまかすように。
コクコクと勢いよく喉の奥に流し込んで。
856 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:08
「吉澤さんのは?」
「あ・・・」
「これ・・・飲む?」

何気なく缶を彼女の口元にまで持っていったのに。

「え・・・いいよ・・・」
「いや?」
「そういう訳じゃなくて・・・」

なんか・・困ってる・・・?

「ごめん・・・変な事言って・・・」

手元に戻してひとつため息をこぼした。
857 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:08
「先輩、違うんだって!」
「え?」
「いやとかじゃなくて・・・」
「なに?」




思いがけずずっとずっと近くにあなたのカオがあって。

まるで夢の中にただよっているように。
あたしの目の中に大きな瞳が揺れている・・


「ひとみちゃん・・・」

「え?」

まさか心の中の声が出てしまうなんて。
口がすべってから思わず手で塞いだ。


案の定彼女はビックリした顔をして。
照れくさそうに「またからかう〜」なんてぶ〜って口をとがらかして視線をそらした。

「もうっ!からかってるわけじゃないのに」
「じゃあなに?」
「だからそんなんじゃなくて・・・・・あっ・・・!」

「ちょ、そのまま動かないで」

吉澤さんは自分のポケットからハンカチをとると。
こぼれて濡れてしまったあたしのパーカーを先に拭きだして。

「あ、あたしのはいいからダウン・・・」
「ほら、動いちゃダメだって」

口とは裏腹に、とても優しい手つき。
858 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:09
「もぅ、相変わらずおっちょこちょいだなあ〜」
「そんなことないもん」
「そんなことありますよ。ほらあの時だって」
「あのときって!吉澤さんがあたしのアイス落としたんでしょ?」
「違うよ。先輩がどうしても自分の持ってるアイスを食べろって 強引に舐めさせようとしてそれで・・・」
「違うよ。吉澤さんが自分はいいです、っていいながらこっちをじっと見てるから」
「ウチは先輩と違って酔った勢いでアイスって騒いだりしないんですっ」
「だって〜。食べたくなるんだもん!もとはといえば吉澤さんちの冷蔵庫に入ってたものだから一口くらいって・・・」

チョコのたっぷりかかったコーンのアイス。

「うちは美味しそうに食べてて可愛いなあって思ってみてただけで・・・」
「えええ?何それ〜」
「それを先輩が無理やり口に入れようとしたんでしょ」

ソファー代わりに使っていたベットの上で。
半ば馬乗りみたいになって。

「そういえばあの時もひとみちゃんってうちをからかって〜」

彼女の真っ白いトレーナーの上にとけかかったチョコがべたりと落ちて・・・

「からかってなんかないもん・・」
「だってひとみちゃんって言ったじゃないですか」
「からかって呼んだことなんてないもん・・・」
「え・・・?」

「あのときだってほんとはからかって呼んだんじゃないよ・・・?」

からかって呼んでたわけじゃなくって。

声に出してみたかったんだもん・・・あなたの名前を。
越えてもいいかなって思ったんだもん・・・あのときのあたしは。

859 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:10
「先輩・・・?」


俯いたあたしの顔を下から覗き上げる。



あのときに。
ふざけあったりごまかしたりせずに。
ちゃんと伝えられていれば。
今ごろこんな距離にはいなくて済んだの・・・?




潤んだ瞳にうつる彼女の顔から、冗談めかしていた笑みが消え。
真剣な表情をしてあたしを見返している。



ちゃんと重なり合ってる・・・今・・・



860 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:10
「ひとみちゃん・・・」



あたしは。
静かに目を閉じた。


「・・・・・先輩・・・・」


すーっと唇の先に。
一瞬だけ温もりが触れる。


一度・・・


二度・・・




唇がかすかに。
小さく触れ合い。


そっと伸ばされた手が重なり。
ためらいがちに握り締めた。


かーっと頭のてっぺんまで逆流していく。
三度・・・・



ガッシャーン!!!


「ニャアアアアアッ!!!」


なっ???

ネコ????



けたたましい音とともに、ベンチのすぐそばの木から飛び出してきた猫が悠々と横切っていく。
861 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:11



再びとられてしまった距離。
薄暗い外灯の下で。
俯き気味につなげる言葉もなくて。








「絵里・・・?」



公園の生垣の向こうで。
小さな人影が揺れ。
862 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:11
「えっ・・?」
「何してんだよっ!危ないじゃん、一人で」

思わず同時に立ち上がり。
吉澤さんは小走りに垣根を越えて彼女のもとへと向かった。

「気持ち悪くなって起きて・・・そしたらひ〜ちゃん家にいなくて・・・」
「探しにきたの?まっすぐ歩けてないくせにっ!」
「だって・・・」
「しょうがないなあ・・」

吉澤さんが着替えさせたのかジャージの下に長袖Tシャツっていう軽装で。

「ほら、乗って」
「うん・・・」
吉澤さんはしゃがみこんで。
亀井ちゃんをその背中に乗せた。
863 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:12
お互いとても気まずくて。
何もしゃべらないまま黙って横に並んで。


あ・・・・


肩にかけられたままのダウンに気づいて。
あたしは背伸びして亀井ちゃんの背中に着せた。
一瞬吉澤さんと目があったけど、泳ぐように瞳をそらされて。
少し離れて後ろを歩いた。




亀井ちゃんは首を傾けて。
吉澤さんの肩に頬をぴったりと押し当て。
しっかりと腕を首に巻きつけている。
864 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:12
「もう気持ち悪くない?」
「うん・・だいじょ〜ぶ」

話し掛ける吉澤さんの声はとても優しくて。
答える亀井ちゃんの声は限りなく甘い。


亀井ちゃんの口から白い息が上がっている。
かじかんで冷たそうな手のひら。



この子はずっと待ち続けてたんだろうか。
あたしたちがこんなふうにしてベンチの上で過ごしていた間も。
部屋を探して。いないって不安になって。
寒空の中再び外に飛び出してしまうほど。

軽く閉じていた目がうっすらとあいて。
何かを伺うように、あたしのほうを見て。
唇を噛み締めて。また目を閉じていた。
865 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:13



しゃんとしなきゃって。
自分の中で残ってる理性を集めて、ただまっすぐに歩いた。



「大丈夫?部屋まで行こうか?」
「ううん、平気。さゆも美貴ちゃんも部屋にいるし」

多分寝てしまってるだろうけど。



玄関だけつけていてくれた灯り。
物音しない部屋。
廊下にずらって並んでるダンボール。



部屋に入った瞬間ずるりとへたりこんだ。



866 名前:i've 投稿日:2006/11/18(土) 00:13


867 名前:咲太 投稿日:2006/11/18(土) 00:13

868 名前:咲太 投稿日:2006/11/18(土) 00:13
本日の更新は以上です。
869 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/18(土) 00:31
も、もどかしい・・・・。
美貴ちゃんは亀ちゃんと仲良くなって何か企んでるぽいな。
870 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/18(土) 11:26
更新お疲れさまです。
二人の想いが朧気で、もどかしく思いつつも更新を楽しみにしていました。
いよいよ動き出した、という感じでしょうか?次回更新を心待ちにしてます。
作者様のペースで頑張ってください。
871 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/18(土) 19:11
おお・・・待ってました
続きがこんなに待ち遠しい思いは久しぶりです
反芻しながらまったり次回お待ちしております
872 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/18(土) 22:20
更新待ってました!!
しかし、うぅ…(涙
二人のもつれた赤い糸がいつかほどけてくれる事を願いつつ、
続きを楽しみに待っています!
873 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/12(火) 22:40
。・゚・(ノД`)・゚・。
874 名前:咲太 投稿日:2006/12/23(土) 08:21


875 名前:咲太 投稿日:2006/12/23(土) 08:21

>>869 名無飼育さま

もどかしいですよね・・・
亀ちゃん生誕になんとか更新をと思ってましたので・・・


>>870 :名無飼育さん

どうもありがとうございます。
動きだしながらもなかなか次が上げられなくて・・・
楽しみにしていただけたら嬉しく思います。

>>871 :名無飼育さん

ありがとうございます。
続きが待ち遠しいなんて言ってもらえて書き手冥利に尽きます・・・
お眼鏡に叶うよう頑張ります。

>>872 名無飼育さん 

どうもありがとうございます。
泣かせてしまって申し訳ないです・
でも自分も「いつか」を信じて・・・

>>873 名無飼育さん

レスいただき、本当にありがとうございます。
なんとか次を更新させていただきます。
876 名前:i've just moved  投稿日:2006/12/23(土) 08:22

877 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 08:23




「石川さん・・・?」



向こうから声をかけられて一瞬顔をそらしそうになった。




飲み物とお菓子とパンだけで占められてる買い物籠。

かたや亀井ちゃんの抱えている籠には。
ひき肉やキャベツ、玉ねぎなんかがずっしりと入っていて。

特売のインスタントラーメンを入れてなかったのが救いだけど・・・


「今日は?お休み?」
「はい。石川さんも、ですよね?」
「うん、そう」

もうお買い物が終わったらしく。
あたしのすぐ後ろのレジに並んでしまった。
全部中身を見られてしまって。

うっ・・・すごく恥ずかしいなぁ・・

878 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 08:24
引っ越してからのほうが吉澤さんに出会う回数は減った。
わざわざ電話するような用事だってないし、
家だって決まってしまえばメールする理由もない。
基本的に吉澤さんのほうが朝も夜も遅いから。
普通の会社勤めのあたしと時間帯があうわけがなく。

近所やエレベータの中でも、他の住民とさえ会うことは少ない。
考えてみたらわかりそうなことだけど。

一度洗濯物を干しにベランダへ出ていたときに、たまたま下を歩いている背中をみかけたけど。
わざわざ3階から声をかけるのも変だし。
追いかけるほどの理由があるわけでもなくて。



―――あのキスの真意を確かめる勇気もないまま。
879 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 08:27
「あ、これ、なかなか美味しいんですよ?食べたことあります?」

並んでる間にレジの横のところに陳列されている今日のお勧めのコーナーから
季節限定のチョコに手を伸ばしながら尋ねられた。

「ううん、ない。買ってこうかな」
「あ、とりますよ」


亀井ちゃんは自分の分を渡してくれて。
もうひとつ別のを後ろからとった。


ここで先に帰っちゃうのって不自然だよなあ・・
やっぱり終わるのを待ってるべきかなって思って。

彼女が袋に詰めるのを待って、一緒に並んでスーパーを出た。

遅いブランチ用にコンビニに寄ってこうって思ってきてたんだけど。
この上お弁当じゃ、何にもできない女丸出しだもん・・・

880 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 08:37

「石川さん、甘いもの好きですか?」
「うん、好きだよ」
「チョコのケーキとかは?」
「大好き〜」
「あの。よかったらうちに来ません?」
「えっ?」

お、おうちに・・・?
二人でいるところにお邪魔するのは正直複雑な気分・・・・・

「今看護士さんの間で人気のやつがあって。
 昨日買ってきたんだけど、ワンホールなんて食べれなくて困ってるんです」
「でも・・せっかくのお休みなのに・・・ゆっくりしたいんじゃないの?」
「ひ〜ちゃんいないんです。最近忙しくってほとんど休みとれないし、毎日遅いしお泊りとかも多くて。
 今日は帰れないってさっきスーパーでメールが届いて。
 頼まれたもの、もう入れちゃったあとだし、返すのも面倒でそのまま買っちゃったから」
「そうなんだぁ・・・」
「ダメですか・・?」

甘えるように見上げられたら、断れないくらい可愛くって。
まぁいいか、お留守なら・・

「う、ううん、じゃあ・・・お邪魔させていただこうかな」

「あっ!」
「なに?」
「すみません、ちょっとコンビニ寄ってっていいですか?」
「うん、もちろん」
「まだお昼食べてないんです。パスタとか買って帰ろうかなって思ってて・・・」

そう言ってニッコリした彼女に。
なんかちょっとほっとしちゃった。
そんな固くなることないじゃん。

あたしも笑顔を返すと。
一緒に店内に入って、亀井ちゃんと同じパスタを選んだ。

881 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 08:38


882 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 08:38
「何か冷やしておくもの、あります?入れときましょうか?」

ほんとに急なお客様でも対応できるくらい、きれいなお部屋なんだ・・・

「あ・・・牛乳だけお願いしててもいい?」

自分の袋から取り出して渡すと
中まできっちり整理された冷蔵庫の中身。

うわぁ・・これじゃこの子はうちに呼べないかも・・


「ああでもどうしよっかなあ、ひき肉・・」
「ん?」
「頼まれて買ってきたのに・・・しばらく夜勤続くんで食べられないんです」
「ハンバーグ?」
「じゃなくて。ロールキャベツ。石川さん、好き・・?」
「好きだけど・・・」
「一緒に作りません?」
883 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 08:39
誘ったからにはきっとできるんだろうってタカをくくってたのに。
目の前のこの子はたまねぎの皮をむくのがかろうじて、くらいで。


「もっと細かくしたいのにぃぃ!!」
なんて涙をぽろぽろこぼしながら。
不器用な手つきで玉ねぎを破壊していく。

「ちょ、ちょっと待って。根元のほうはつけっぱなしのほうが切りやすいから」
「え?石川さんすご〜い!!」
「すごいって・・・」



目を真っ赤にしながら、ニコニコ笑って手渡された包丁。

そんな、あたしだって上手いなんて言われる立場じゃないんだけど・・・


不器用な音を響かせながら。
ざっくざっくと切り落とす。
そんな嬉しそうに覗いてなくていいから。
先に他のことって・・・


「次何すればいいですか?」
「え?んと・・じゃあひき肉をボールに入れてくれる?」
「は〜い!」

パタパタとスリッパの音をたてて。
冷蔵庫からさっき仕舞われた発砲スチロールをとりだして。
おりゃあ〜とか言いながらひっくりかえしてる。

「亀井ちゃん、作ったことあるんじゃないの〜?」
「ううん〜。ロールキャベツってひ〜ちゃんの得意料理なんです」
「そうなんだ・・・」
「たまに覗いたりしてるから手順くらいわかるかな〜って思ってたんだけど・・・ダメですね。やるのとは全然違うもんっ」
884 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:01
あたしだって。ハンバーグくらいは作ったことあるけど。
自慢じゃないけどもうひと手間かけちゃうようなお料理なんてするわけがなく。

二人でああでもないこうでもない言いながら
知恵を絞るようにしてできあがったロールキャベツ、というよりは。

煮込みそぼろ状ハンバーグキャベツ添え。

蓋をとった瞬間。思わず眉を下げたあたしに。
亀井ちゃんはキャハハって明るく笑って。

「だいじょ〜ぶですよ、絶対美味しいですって」

ってにっこり笑ってくれた。

「あ・・ごはん炊き忘れちゃった・・・」
「あたしが買ってきたフランスパンあるけどそれでいい?」
「うんっ!嬉しいなぁ!あたし、お皿持ってきますね」

さゆと一緒に食事を作ったことなんてそういえばなかった気がするけど
なんだかすごく楽しい。
メインコックから助手からお客さんへと格下げしていった亀井ちゃんだけど。
屈託なく笑われるとこっちまで嬉しくなってくる。
885 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:11











「・・・ただいまぁ、玄関に靴あったけど絵里―――」


えっ?よ、吉澤さんっ―――???

突然声がしていきなり開いたリビングのドア。
食べ終わったあとテレビそっちのけで二人で盛り上がってたから、物音にさえ気づけなかった。


ドアノブを握り締めた変な姿勢のまま、大きな瞳をさらにまん丸にして。

「あ、あの・・お邪魔してます・・・」

うわっ・・あたし、ものすごい上ずっちゃってるし。


「・・・・い、いらっしゃい・・・・」

なんともぎこちない声が帰ってくる。
それ以上続ける言葉が浮かんでこない。

・・・・あたし以上にびっくりしてるよね?
留守中に勝手に上がりこんで。

あ、あたしだって帰ってくるってわかってたらこんなことしなかったもん・・・

886 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:12
「ひ〜ちゃん、帰ってこれたんだぁ、嬉しいぃ〜!!」
「あ、うん、今日はちょっと・・・」

救いようのない空気に気づいてなのかどうかはわからないけど、
嬉しそうに勢いよく亀ちゃんは立ち上がって。
ドアのほうに向かって小走りになって。
迷うことなく吉澤さんへと手を伸ばし、指先を握り締めながら嬉しそうに話し掛けている。

「お腹すいたでしょ?今日は石川さんと一緒に作ったんだよ?」
「え・・・?」
「だってひ〜ちゃんメールくれるの遅いんだもん」
「ごめんごめん、何作ったの?」
「だからぁ、ロールキャベツだって〜」



「えええ?これが?」

手を引かれるがままに台所へと一直線させて。
残ったお鍋の中を覗き込むなり苦笑して。


亀井ちゃんはひど〜いなんて吉澤さんを上目遣いに見上げて。
握られたままの大き目の荷物を受け取って、奥の部屋に運んでいった。

その一瞬の隙にあたしとばっちり目があってしまって・・・
まだ心の準備だってできてないのに。
なんかすごく居辛い・・・


「あ、あの、先ぱ・・・」

「ひ〜ちゃん、まず手洗ってきて」
「あ、うん」

満面の笑みの亀井ちゃんは、吉澤さんの洗面所のほうへと背中を押すと
自分は台所に立って、お鍋の中身を温めはじめた。


それはまるで新婚家庭にお邪魔してしまったような居たたまれなさで。

うぅっ・・・あたしここにいていいのかな?
・・・ていうか、早く帰りたいなぁ・・
887 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:17
「ひ〜ちゃん、早く座ってよ〜」
「あ、あの私そろそろ・・・」

着替えを済ませてからリビングに戻ってきた吉澤さんに。
あたしたちはほぼ同時に話し掛けていて。

「え?先輩まだいて下さいよ」

立ち上がるタイミングをさらっと受け流されて。

ごくあたりまえのように吉澤さんは自分でスプーンとコップを並べた。
亀井ちゃんがお皿に盛り付けている間に、冷蔵庫の中から副菜の入ったタッパーを取り出したり。
あまりに自然な二人の分担作業に手を出す隙さえないほどで。

家でくつろいでる吉澤さんの姿なんて初めてみたから。
なんかとても新鮮に思えた。



「あ、忘れてた!」
「なに?」
「モンブラン・・・」
「またぁ?」

亀井ちゃんはぴょこぴょこと玄関先まで走っていって。
紙袋を下げて戻ってくる。

「先輩、もしよかったらどうです?ついでにお持ち帰りも・・・」
「えっ?」
「ここの大家のおばあちゃん、なんかうちのこと可愛がってくれてるんだけど、
 さっき書類渡すものがあってご自宅に寄ったら持たされちゃって。いっつもいっぱいくれるんですよ」
「それもモンブランばっか」

亀井ちゃんが苦笑いしながら箱を開いてあたしの目の前に置いた。

「でも・・・亀井ちゃんだって吉澤さんだって食べるでしょ?」
「なぜか同じやつばっかで・・・もうひ〜ちゃんなんて見るのもダメだってくらい苦手になっちゃったのに。
 断れないんですよぉ、この人」
888 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:18
一人でリビングのソファーに腰掛けて。
とりあえず味見にって出されたモンブランと紅茶をいただきながら。

ダイニングテーブルを横目でちらと覗いた。

「どう?美味しい?」
「まだ口に入れたばっかだって」

ニコニコしながら吉澤さんの目の前に座って。
頬杖をつきながらただ嬉しそうにフォークで口に運ぶ吉澤さんの姿をじっと見てる。

「ねえねえねえ、どう?」
「あ、うん。けっこう美味しいかも・・・」
「でしょ?ね?ちょっと近いでしょ?」
「まあ・・・」
「これねえ、絵里が巻いたやつだと思うよ」
「なんで?」
「どうしても横っぴろくなっちゃうの」
「そ〜いえばちょっと生クリーム入れた?」
「あ、忘れた・・!だから酸っぱいだけだったんだぁ・・・」

なんだか新婚さんの食卓を盗み見てるようで。
喉の奥にぐぐっとモンブランを押しいれ、紅茶で流し込んだ。
889 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:20
「あ、お風呂洗ってくるね。ひ〜ちゃん、ゆっくり入りたいでしょ?」
「あ、うん・・」

ひっきりなしにおしゃべりしていた亀井ちゃんがすっと立ち上がって洗面所のほうに行くと。
吉澤さんは最後の一口を食べ終えてから、背もたれにもたれかかるようにして。
間をおいて立ち上がり、自分の食器を重ねて、台所へと向かった。


「吉澤さん、・・・ねえ、もしかして・・・」


背中を追いかけて、すぅっとおでこに手を当てたら。
案の定少し熱くて。

疲れてるだけなのかなって思ってたけど。
少し潤んでるような瞳が気がかりで。


「もしかして調子悪くて帰ってきた・・?」
「あ・・ううんそんな熱高いわけじゃないし・・」

「だめだよ、お水触ったら」

蛇口に伸ばされかけた白い手を止めて、間に割り入り強引に水を流すと。
そのまま横に立ってあたしの手をじっと見てる。
890 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:20
「座ってて?」
「あ、うん、大丈夫だから」
「最近ほとんどお休みないって絵里ちゃんが・・」

洗い流したお皿を拭こうと布巾に手を伸ばしかけた吉澤さんを止めた。

「今はひどくなくても、できるだけ冷たいものにさわったりしないほうがいいと思うよ」
「別にそんなにひどいわけじゃ・・・」
「喉も痛むんでしょ・・?」
「えっ?」
「飲み込みづらそうだったから・・・」
「あぁ・・ぅん」
「ね?今ちゃんと直さないと。本職の人がいてくれて良かったね。」
「・・・・・・・・・ねえ、先輩」
「なに?」
「あの・・・この前の・・・」

「あ、石川さん、私が洗いますって・・・・ひ〜ちゃん・・・?」

亀井ちゃんはパタパタと走ってきて。
横に立ったままの吉澤さんの姿を見て察したのか、いきなり背伸びしておでこをごつんと当てた。

「・・・体温計とってくる・・・」




891 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:21
部屋に戻ってきた亀井ちゃんは少し声の感じが落ちていて。
静かに吉澤さんに体温計を手渡しすると。
小さくため息をついていた。


「ごめんね、あたし帰ります、お邪魔しました」

なんか少しだけ亀井ちゃんの気持ちがわかった気がした。
ごめんなさい・・・
きっとすぐに彼女だって気づいたはずなのに。

「あ、でも・・・」
「忙しかったんでしょ?ゆっくり休ませてあげてね」
「スミマセン・・」
「もし何か必要なものとかあったらいつでもメールして。買い物くらいお手伝いできるから」
「ありがとうございます」

あたしにはそのくらいしかできないけど。

あたしがいると落ち着かないもんね。
久々に二人きりでいれる時間のはずなのに。


立ち上がってシーツを暖かいものに交換したり。
パジャマを厚手のものに変えたりしはじめた亀井ちゃんに挨拶そこそこにおいとまして。
892 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:21


893 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:22
玄関のチャイムが鳴ったのは、お風呂をため始めてしばらくたった頃。
ドアをあけると意外なことに吉澤さんが立っていた。

「どうしたの・・・?」
「これ、先輩のでしょ?」

冷蔵庫の中に置かせてもらっていた牛乳。

「あっ・・・」
「先輩ここのしか飲まないじゃん」

ちょっと高めだけど。
しつこくない濃さが好きって、コンビニでも必ずこれを選んでた。


「ありがとう・・でもうろうろしてちゃダメじゃない!絵里ちゃんは?」
「今買い置きのやつよりいいのが出てるからってお薬買いにいった」

さっきより目をトロンとさせて。
大きめのダウンを羽織って、白い息を上げている。

「ごめんね、電話くれたらとりに行ったのに・・・」
「ううん、あとこれ。・・・いる・・・?」

いたずらっぽい顔をして、大きな白い箱を出して。

「あっ・・・」
「先輩もキライ?」
「ううん、すごく美味しかったよ」
「よかった〜!じゃあ、これも」
「うん」

とっても嬉しそうにニコニコ笑って。
吉澤さんは私の手にモンブランの入った紙袋を握らせた。
894 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:24
「早く帰らなきゃ。冷えちゃうでしょ?」
「うん。でも大丈夫」
「うそばっか」

首筋に手をあてるとひゃあって肩をすぼめて

「あ、ごめ・・・でもさっきより熱上がってるでしょ?」
「え?そんなことないって」
「もぅ、ちゃんと閉じないと・・・」

急いではおってきたのかボタンが全開になったダウンを。
ぷちぷちと上から止めていたら、なすがままになって唇をへの字に結んでる。



「あのね、先輩・・」
「なに?」
「ごめんね、この前の・・・」





ああ、そうか・・そういうこと・・





895 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:26
「あやまりにきたんだ・・・?」



だからこんな寒い中。
わざわざ彼女がいないときを見計らって。



「えっ?違っ」
「こっちこそごめんなさい。すごく酔っててあたし・・・」
「えっ・・・?」
「あの、だからほとんど記憶ないっていうか・・・その・・覚えてないから・・だから」
「・・・・・・・・」
「だからそんな気にしなくていいから・・って気にもしないよね」



キスくらい。



続けそうになった言葉を。
目の前の苦しそうな表情が飲み込ませた。




なんで黙ったままなの・・?


返って来る言葉が怖くて。

必死で考える。
先回りして。


これ以上傷つかなくてすむように。
896 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:29
「あ、あの・・大丈夫。しゃべったりなんかしないよ?
 えっとぉ・・あたし、亀井ちゃん、すごくいい子だし、これからも亀井ちゃんさえよければ三人で・・・・・」



上目で様子を伺えば。

苦しそうな表情のまま眉をひそめて。
コンクリートの床を見つめたままきゅっと唇を結んでいる。


「・・・そぅ、だね」

しばらく待ったあと吉澤さんの低い声がもれた。

「えっ?」

「・・・たかがキスだし」




すごくすごく息苦しい。
胸がぎゅうぎゅう鳴り続ける。



声が・・・出てこない・・・・




897 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:30
ひきつったままの頬を口を必死に動かして。あたしは笑ってみせた。
いつものようには笑えなくても。
笑顔にみえるようにくらいできる。そう思った。



だけど。



吉澤さんはあたしのカオを見た瞬間。
これまでも見たことがないほど、みるみる表情を壊していった。



「・・・・・・先輩はいつだってそうやってウチのこと・・・・・」



目の前の唇が小さく動いてる。
上気した頬は赤みを帯びて。


潤んでいる瞳は熱のせいなの・・・?
それとも・・・


898 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:31
「・・・・・・ねぇ、そういうときだけウチのこと、欲しくなるの・・・?」


えっ・・?


「・・・・・・先輩、すごく優しくなるの。ウチに誰かがいるとき・・・」
「ち、違う!そんなんじゃな―――」




「・・・・なんか・・・すごいこと言ってるし・・・・ごめん」


吉澤さんは両手を真っ赤にして握り締めたまま。
苦しそうに目を閉じたまま、くしゃくしゃにカオを歪めて大きくため息をついた。



「あの・・あたし吉澤さんのこと、好きよ。好きだけど・・・」

精一杯しぼりだした。
なのに閉じたままの目をもっとつらそうに固く瞑って。

くるりと後ろを振り返った。


「ごめん・・・おやすみ・・・」



899 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:32




あたしは・・・あなたにずっとそんなふうに思われてたんだ・・・

恥ずかして。悔しくて。
でももっともっと悲しくて。

もうわけがわからなくなって。






この恋をして初めて。あたしは涙を流した。


こらえてもこらえてもこらえても。
涙が止まらなかった。




900 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:32


901 名前:i've 投稿日:2006/12/23(土) 09:32


902 名前:咲太 投稿日:2006/12/23(土) 09:35
本日の更新は以上です。
次回は近いうちに・・・
903 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/23(土) 11:38
お待ちしておりました。

ん〜っ、まだまだ・・・う〜ん
近々の更新お待ちしております。
904 名前:名無し飼育 投稿日:2006/12/23(土) 13:13
更新乙です

ここでじらすなんて酷過ぎる・・・
気になって今日は眠れないな・・・
905 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/23(土) 23:30
更新お疲れ様です。

またすれ違い・・・。
く、苦しい。近いうちの更新お待ちしてます。
906 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/28(木) 22:05
切ねええええ
梨華ちゃん先回りしすぎだよ・・・
次回も楽しみにお待ちしておりやっす
907 名前:咲太 投稿日:2006/12/29(金) 22:19
>>903 名無飼育さま

お待ちいただきありがとうございます。
うならせてしまって申し訳ないです・・(汗

>>904 名無し飼育さま

レスありがとうございます。
自分がじれったくてしょうがなかったです(苦笑
ゆっくりお休みいただけているならいいのですが・・・w

>>905 名無飼育さま

読んでいただいて本当にありがとうございます。
直後にあげるはずだった予定があいてしまって申し訳ありません・・・

>>906 名無飼育さま

楽しみにしていただけているという言葉が励みになります。
ありがとうございます。
ほんと、先回りは石川さんの特技ですよね・・・w




前回の更新の直後にあげる予定でしたが、
パソコンの環境がどうしても整わず・・・。
遅れてしまいましたことに目を瞑って読んでいただければ幸いです。
では、本日分の更新に参ります。
908 名前:咲太 投稿日:2006/12/29(金) 22:19


909 名前:i've just moved 投稿日:2006/12/29(金) 22:20

910 名前:i've just moved 投稿日:2006/12/29(金) 22:24


師走に入った。
クリスマスムード一色の街。


亀井ちゃんが買ってきてくれた薬が効いたのか、翌日にはちゃんと会社にいけて。
ご心配おかけしましたってメールが亀井ちゃんのほうから届いた。

あれから彼女とは会わずにいた。
正確には。一度だけマンションの外ですれ違いそうになって。
あたしのほうから避けるように足早に逃げさってしまった。

彼女の激務はあいかわらずで。
ほとんどお休みがとれないって聞いてる。
寂しい思いをしてるらしい亀井ちゃんとの距離は、皮肉にもどんどん近くなってる気がする。
さゆと亀ちゃんが仲良くなってショッピングに行って、帰りにうちに寄ってくれたりとか。
911 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:25


『最近ひ〜ちゃん出張ばっかで・・・』
『そうなの?』
『泊りがけの出張が多いんです。関東だけじゃなくって周辺にも広げるらしくって・・』
帰ってきても疲れてるのか全然口利いてくれないし・・・』
『こういうときこそ亀ちゃんの出番じゃん!』
『・・・・そうなんですけど・・・』



こんなグチにも笑顔を返せるほど。
たぶんあたしは十分にオトナになりすぎていて。


悔しかった思いも。
日々を追ってみればもしかしたら彼女の指摘どおりかもしれないって。
弁解の言葉だって見つからず、
このまま距離をおかれてしまったらしまったでしょうがないなあなんて思った。

亀井ちゃんの人なつっこい笑顔をみるたびに胸がちくりと痛むのはまだ続いてるけど。
いつかそれも消えてなくなってしまったころに。
笑って彼女と接することができていくのかな――――


912 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:25


『お姉ちゃん、このプレゼント、朝のうちに渡しにいこうよ』
『まだ早すぎない?寝てたらかわいそうじゃん。夜にでも届けに行こうよ』
『・・・・・・あのね、絵里たち、今日から旅行に行くらしいの。やっと吉澤さんお休みとれたんだって。
 近場だけど箱根の旅館が急にキャンセルで空いたから、お誕生日とイブを一緒に過ごせるって喜んでた』
『・・・へえ、よかったじゃん!』

さゆにすら。
あたしは笑顔をみせた。


『ねえ、お姉ちゃん・・・・』
『何?』
『お姉ちゃん、ほんとにほんとに今のままでいいの・・・?』
『良いも何も。亀井ちゃん、すごく可愛いなっておもうし』
『だから?』
『だからいいの、もうすっかり吹っ切れちゃったし。それよりあんたはどうなの?』
『どうって・・』
『イブにひとり身なんて、つくづく恋愛に向いてない姉妹なのかねえ・・』
『ほっといてよ』
『どうする?明日はどっか食べにいっちゃおうか?』
『ううん、あたし今から家に帰るね』
『なんで?』
『お父さんがファミリークリスマスだって張り切ってるし』
『私、誘われてないんだけど・・・』
『もぅっ!私とママで止めただけだよっ』
『あたしも帰っちゃおうかなあ・・」
『今日だって明日だって会社でしょ?ムリしないの』
『そうだけど・・・』
『だったら家にいたほうがいいと思うよ』
『まあね、きっとみんなさっさと残業切り上げて帰っちゃうんだろうなあ・・・』

913 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:26




だからこうやって。
イルミネーションに輝かされた街並みを一人で歩いている。


おみやげがわりに申し訳程度のチキンをコンビニで買い込み、美貴ちゃんの家まで。


ああ見えてロマンティストでイベントを大事にする美貴ちゃんと。
実質主義でお休みのそろった日にコトを済ませちゃえば、仕事帰りにムリして時間を作らなくてもいいっていう亜弥ちゃん。

そういう二人の関係がわかってるから、一応確認のメールを入れてみたら案の定今夜は独りらしく。
うちのマンションで帰ってきた二人と鉢合わせなんてのは絶対に避けたくて。
半ば強引に美貴ちゃんちに寄らせてもらった。
914 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:27
美貴ちゃんは半纏なんて着ながら。
こたつに入って丸まっていた。
おとといかなり気合の入ったクリスマスを過ごしたから、もうどうでもいいらしい。

あたしは余ってしまいそうなチキンをこたつの中でもぐもぐ食べながら。
テレビから流れる特番を黙ったまま美貴ちゃんと二人で見ていた。

「結局断ったの?」
「え?」
「いろいろ誘われてたんでしょ?」
「あぁ・・・うん」
「ああいうのってどっから情報漏れるのかなあ。人をよせつけるフェロモンみたいなのが出てんのかねえ。例年以上だったんでしょ?」
「まぁ・・・」
「行くかなあって思ってた」
「うん・・・」

「ああ、なんか暗いからっ!!帰らなくていいの?家に」
「・・・・・・うん」
「よっちゃんからメール届いたんでしょ?」
「えっ・・??何で知ってるの・・・?」
915 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:29


朝。

あれ以来はじめて吉澤さんから届いていたメール。


今夜会えますか?



たったそれだけの文。




二人で温泉旅館に泊まって。
亀井ちゃんの誕生日を祝って。

結局なんだかんだ言って楽しんでるんじゃん・・・

人のこといろいろ言ったところで。
この状況がかわるわけじゃないのに
何を今さらって。



「先約があるから」


正直、ちょっと腹立たしい気持ちを抱えながら短い返事を送信した。

送ってしまったあとになって。
自分の浅はかさを後悔したりして。

なんとなく飲みに行ったりする気にもなれなくて。
保留にしてあった数人とのパーティーも、仕事のせいにして断って。

だからといって他にメールを送る気にもならないまま、今日一日が過ぎていた。

916 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:31
「あのさ、大きなお世話なんてやきたくなかったけど・・・だから黙ってるつもりだったけど」
「ん?」
「亀ちゃん、よっちゃんの幼馴染なの。すごい憧れてたの」
「えっ・・・?」
「聞いてて苦しくなった。よっちゃんのこと、ずっと好きだったみたいだよ。昔っから」



参ったんだよね、実際。頑張れって励ましてあげたくなっちゃうくらい。
よっちゃんにとって梨華ちゃんが初恋の人だったように。
亀ちゃんにとってもよっちゃんは何者にもかえられない大切な人だったんだって。



「よっちゃんママと亀ちゃんママって友達同士でさ。よっちゃんがやせたり太ったりを繰り返しちゃうもんで、
 看護学校を卒業して東京に行くっていった亀ちゃんを、よっちゃんにお目付け役としてつけたらしい。
 亀ちゃんいればよっちゃんもムチャしたりしないしね。
 梨華ちゃんと再会してからよっちゃんがいろんなことにすごく反応しちゃって。
 ものすごいご機嫌で帰ってきたり、心ここにあらずって感じで考え込んじゃってる姿を見てるのがすごくつらかったって。
 梨華ちゃん、思い当たること、あるでしょ?」


「一度さ、梨華ちゃん、よっちゃんを泊めたことあったっしょ?あんとき、ほんとは亀ちゃん、夜勤なんかじゃなかったんだって。 
 いないって言えばいいかなって思って、病院終ってからスタバとか寄って時間つぶして。 
でも、我慢して我慢して我慢できなくなって早朝からよっちゃんに電話しちゃったんだって。
 飲み会とかで遅くなったときもあったしょ?ああいうときもずっと起きて待ってたって・・・。
 
 亀ちゃん『あたしひ〜ちゃんにずっと大好きって口癖のように言い続けてきたから・・・。
 そしたらいつもはいはいって頭撫でてくれて・・・』って悲しそうに笑ってた。
 よっちゃん、知らなかったんじゃないかな・・・。
 じゃなきゃ恋人のフリしててって頼んじゃったりはしなかっただろうし・・・」
 
917 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:31
「今日のメールはね。よっちゃんの携帯を内緒で借りて亀ちゃんが送ったものだったんだって」
「えっ・・・?」
「どういう意味かわかるでしょ・・・?」
「だ、だって・・・急にいろんなこと聞いて・・・あたし・・・はい、そうですかなんて・・・」
「梨華ちゃんだったらそういうだろうって思った。
 だから亀井ちゃんが出発前にあたしに相談しにきたときに止めようとしたんだよね。
 でももういいって首を振って。仕事だけじゃなくって、最近のよっちゃんの落ち込みぶりとか見てたら
 もう自分ではどうしようもないって。
 最後にたっぷり甘えて、ちゃんと伝えて・・・そして背中を押してきますって。
 あまりに亀井ちゃんの顔が真剣だったから。彼女なりのすごい決心だと思ったから、
 そっかって送り出してあげることしかできなかった」
「でも・・・」
「無駄にしないであげて」




918 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:32



走って走って走って。
ドアの閉まる直前の終電へ滑り込んだ。
もうクリスマスの夜は終わってしまったけど。

あてなんてなかった、だけど
家にも帰れずにこの寒空のどこかに彼女がいるとしたら・・・



919 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:33



エレベーターのドアが開いて、小さく丸くなった人影を認めて。
あたしは呼吸を整えることもしないまま、ドアの方向へ向かった。

吉澤さんは天井を向くようにして白い息を上げ。
あたしの部屋の前で壁にもたれかかるようにして座っていた。



コツコツコツコツ



廊下に響き渡るブーツの音。
視線だけこちらに向けてあたしを確認すると
静かに下を向いて、よろっと揺れるようにして立ち上がった。

920 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:34
「ずっと・・・ここにいてくれたの・・・?」
「・・・」
「また風邪ひいちゃう・・・待って、すぐ開けるから」
「あ、いい、ここで・・」
「でも・・・・」
「・・・・・今さら遅いけど・・・ごめん・・・」
「えっ・・・?」
「先輩にすごいこと言って・・・あやまることもできなくて。
 マンションで偶然会ったとき先輩の顔が引きつって立ち去ったの見て追いかけられなかったくせに・・・・・・
 クリスマスにメールとか送ったりして」
「それってこの前・・・」
「ごめん、意味わかんないよね・・ちゃんと話そうって決めてたのに何から話していいかわかんないや・・」

はあっ・・・

大きくため息をついて。吉澤さんは肩を落とした。


「メールくれたの、絵里ちゃんだったんでしょ・・・?」
「えっ・・?」
「美貴ちゃんに聞いた、それであたし・・・・・」
「そっか・・・・・・」

整った顔をすごくつらそうにぎゅっと歪めて。
搾り出すようにして唇を開いた。
921 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:36
「・・・彼女いるって聞かれたことなかったって、気づいてた・・・?」
「えっ・・・?」
「いっちばん最初にね、いつのまにか『彼女』ってことになってた。いるって前提で話された。
 そっちのほうが先輩にとって都合がいいのかなって。あと・・・
 どこかでちょっと妬いてくれたらいいなって気持ちもあったのかも。
 再会してぜんぜん成長してない自分を見せるのもイヤだったから・・・
 だから最初は絵里にも口裏あわせてもらったりして・・・
 正直・・・・そっちのほうが先輩と一緒に入れるかなってやましいよね、うち・・・」
「そんなこと・・・」
「 自分が抑えられなくなって先輩につらそうな顔をさせちゃうことだけは絶対したくなかった。
 ・・・それだけじゃなくて・・・ほんとのほんとは自分がもうボロボロになってしまうのが怖くって・・・
 必要以上に近づかないためにいい口実だって思ってた」


自分の気持ちを辿るようにぽつぽつと話して。
苦しげに小さく笑った。
922 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:39
「一番いい距離のような気がしてた。先輩も変に警戒したり意識したりせずに安心して近寄ってくれたし。
 先輩に好きな人がいるってこと聞いてたし、今は付き合う気がないってことだって 
 自分に言い聞かせて一線を張ってたから・・・。

 けっこうコントロールできてるつもりだった。自分に対しても先輩に対しても。
 だけど公園で・・・もうどうしようもなくなって手を伸ばしてしまって・・・
 ・・・もしかしたらなんてちょっと期待とかしちゃってさ・・・バカでしょ・・・?」
「待って、ちゃんとあたしの話を・・」
「ううん、最後まで黙って聞いてて・・今までずっと言えなかったから・・今日じゃないとまた言えなくなっちゃいそうだから・・・・」


そう言って吉澤さんは唇をきゅっと結んだ。  


「先輩の笑顔をまた壊してしまうのが怖くて・・・・・・・
 ・・・もういちど先輩から距離をおかれたら、もう立ち直れないって思ってたから・・・・」


大きく息を吸い込んで。
掠れるように小さな声で一息で彼女は綴った。




 
 ずっと笑っててほしかったしずっとじゃれあってたかったし頼りにしてもらいたかったし
 恋人とかじゃなくってもトクベツだなってくらいな位置においててくれてたらそっちのほうが幸せだって思いこませようってしてきた・・




手すりにおかれた手を、色が変わるほど強く握り締めたまま。
923 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:44
「だけど・・・」
「なに・・?」
「だけど・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・ずっとずっとずっとずっと好きだった・・・」




待ち望んだはずの言葉は。
大好きな横顔をいっそう歪めただけで。




「もう言わないから・・・これ以上迷惑かけたりしないから」

924 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:50
「・・・・・待ってよ・・」
「えっ・・・?」
「どうしていつもあたしの気持ちを聞いてくれないのよぉ・・」
「だって・・・」
「ひとりよがりでなんでもあたしの気持ちを大事にするって言っちゃって・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「早合点して答えを出しちゃって・・・過去形にして勝手に整理しちゃって・・・」
「先輩だっていっつも逃げちゃうじゃんっ!」
「そうだよっ!」
「そうだよっって・・・勝手に答えを出しちゃうのもなにも言わせないように先回りするのも先輩のくせ―――」

「知ってるよ、知ってるけどっ!!」
「なに?」



いらついたように厳しい表情をした目の前の顔を睨み付けるようにして。
唇をぎゅっと噛み締めた。
抑えきれずにあふれようとする涙を止めたくて。




「・・・・・・側にいてって言ってくれなかったじゃん・・・」
「えっ・・・?」


言ってしまってから。
自分の心の声に気づいてしまった。
ああそうか・・・
一番欲しかった言葉ってこれだったんだ・・・





「一度も、側にいて欲しいなんて言ってくれなかったじゃん・・・」




もしも言ってくれたら。
何をおいても駆け出す勇気を持ち得たのに・・・





「言わせなかったのはあたしだけど・・・勝手なこと言ってるのは承知だけど、
 ・・・・・・・・・・めちゃくちゃなことはわかってるけど・・・」
925 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:52
今泣くのは卑怯だって。




唇の裏を、切れそうなくらい強く噛み締めるのに。
爪が食い込むほど、両手を硬く握り締めたのに。





一度コンクリートの床にぽたりと色を作ってしまった涙は
もう自分でも止めようがなくって。





すっごいわがままだ・・・あたし・・・・だけど・・・

926 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:53
顔を両手で覆うようにしてうつむいてたら。
あなたの手がさ迷うようにしてそっと肩に触れた。




「・・・・・・ごめん・・・」
「先輩・・・」
「・・・・・・・優しく・・なん・・てなくていいから・・・」
「えっ・・・・?」
「優しくしなくていいから・・・どうしてもあたしじゃなきゃやだって駄々こねてよ・・・」
「ごめん・・」
「だから謝らないでよぉ・・わがままにしてくれていいんだもん・・」
「だって・・・」

「ちゃんとあたしのこと信じて・・うぬぼれてて・・・・・」




はあっっ・・・



大きく息を吐くのが聞こえて。
肩に両腕がまわって。強く抱きしめられた。






涙で白いTシャツの襟元が染まっていく。
濡れてしまわないように顔をおこそうとしたら頭をぎゅーっと再び胸に押し付けられて。
不器用な片手があたしの背中をなで続けてくれる。

927 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 22:56


「・・・・でも・・いいの・・?絵里ちゃんのこと・・・」


かなりの時間がたって。



胸に包まれたままぽつりとつぶやいたら。
ずっと背中を撫でてくれていた手に、小さく力がこもって。



ぽつぽつと耳元で掠れるような声が響いた。





「絵里のことは・・・ね・・」
「ぅん・・・」
「ほんとはさ、なんとなく気づき始めてたんだ・・・」
「えっ・・・・?」
「あ、最近だけど。でも昨日ちゃんといわれるまではっきり言われてないことをいいことに逃げてた。
 どうしようもないってわかってるのに笑顔をみせてるのがなんか自分とかぶってて・・」


抱きしめられていた胸元から顔を離して見上げると。
苦笑いしながら続けてくれた。


928 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 23:03
「はっきり先輩に言うってことは絵里との距離もかえなきゃいけないってことでしょ・・?
 だからこのまま自分さえ気づかないようにしてニコニコ笑ってたらいいのかなって・・・」



あ、そうか・・・これからの絵里ちゃんとのこと
最優先して考えてた彼女の優しさが声色から伝わってくる。


「だけどさ」
「ぅん?」
「すげえ怒られた。イブの日に夕飯食べたあと口聞いてもらえなくなって、
 朝起きたら送信済みの携帯渡されて、荷造りして帰っちゃった。鍵もとられちゃって・・」
「ええええっ?」

「はは、すごいかっけえでしょ?」
「うん・・・すごい・・」
「ウチより思いきったことするんだよ、あの子は」
「そっか・・・」
「こうって決めたら突っ走っちゃうところなんて似てるのかもしんない、先輩に」
「え?あたしはそこまで・・・」
「なんかウマがあうのかもって。絵里が」
929 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 23:05

「あっ、これ、渡してって・・・」


吉澤さんはもぞもぞとポケットの中から折りたたまれた小さな白い封筒を差し出した。

部屋の前の小さな外灯の下、かじかむ手で糊付けされた封を開くと。
ビーズでツリーが縁取られたクリスマスカード。

文字を書けなかった白紙のカードの上に
亀井ちゃんの精一杯の気持ちがあふれているのが、せつなくなるほど伝わってきて。
小さく目を閉じて、しゃんと背筋を伸ばした。




「・・・あたし宛てなんだよね?」
「うん・・・」
930 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 23:07


手のひらの上に小さなカードをのせたまま上向きにして、離れた両手を改めて彼女の前に差し出した。
軽く微笑んでみせると、さっきまで抱きしめていてくれたくせに
耳元まで赤くしながら、そっとあたしの指の上に自分の指を重ねた。



かすかに震えてるような手のひら。
あたしよりもひとまわりだけ大きな手をきゅっと握り締めると。
冷たい感触と正反対の熱い気持ちが心の芯にまで伝わっていく。



手を繋いだまま瞳を見つめると。
恥ずかしそうに、でもそらさないように懸命に見返してくれている。

931 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 23:08


「あのね・・?」
「ん・・?」
「・・・亀井サンタさんからのプレゼント、なんでしょ?」
「うん・・・・・」
「クリスマスは過ぎちゃったけど、まだ間に合うかな・・?」
「えっ・・?」
「・・・受け取っても・・いい?」



手のひらを少しだけ強く自分の方へ引っ張ってみた。



あのね・・・

うん?


小さな声で呼びかけると、首を傾けるようにして耳を近づけてくれた。
触れそうなくらいの距離にある耳元にささやく。




・・・・・あのね・・・・・胸がはちきれそうなくらい・・・大好きだよ・・・?







大きな瞳を丸くさせて息を呑んだ彼女の顔があまりに幼くて可愛くて。
照れくささを隠したくって、手を握りしめたまま自分から背伸びをして唇を塞いだ。





932 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 23:08


933 名前:i've 投稿日:2006/12/29(金) 23:08


934 名前:咲太 投稿日:2006/12/29(金) 23:08
本日の更新は以上です。
935 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/30(土) 00:55
更新お疲れ様です。
おぉやっとですね。良かった。
亀ちゃんホントいい子ですね。
936 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/30(土) 01:57
あわわわわ(汗
ネタバレしそうなので余計なことは言わないでおきますw
亀ちゃんを好きになってしまいそうです
937 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/30(土) 23:24
あ〜素敵だ〜。
作者様、更新ありがとうございました。
938 名前:A−203 投稿日:2007/01/08(月) 21:48
更新お疲れさまです。なんだろうホッとしました。
ふたりの気持ちが繊細に描かれていて、泣きそうになりました。
(おいら亀井さんダイスキw)
939 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/17(土) 21:16
このお話が大好きです
更新お待ちしております
940 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/23(金) 21:47
私も楽しみに待ってますです
941 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 07:18


942 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 07:18


943 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 07:19

>>935 名無飼育さま

ありがとうございます。ほんとにやっと、です(涙
亀ちゃん、いい子ですよねぇ・・・



>>936 名無飼育さま

お気遣いいただいてありがとうございます。
誰かを不幸にしてしまうような話には絶対したくなかったので・・

>>937 名無飼育さま

こちらこそ、読んでいただいて本当にありがとうございます。
なんとかここまで来てほっとしています。

>>938 A−203さま

いつも嬉しいお言葉をありがとうございます。
亀井ちゃんがほめられていただけると嬉しいw

>>939 名無飼育さま

本当にありがとうございます。
レスに励まされようやくここまで繋いでくることができました。

>>940 名無飼育さま

楽しみにしてくださってるというお言葉が何より嬉しいです。
ありがとうございました。
944 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 07:19

途中いろいろありましたが
なんとかここまで来ることができました。
更新がすごく長引いてしまって申し訳ありませんでした。
こんなに間隔をあけるつもりはなかったんですが・・・(汗


とりあえず最終話です。
容量の関係で途中で分断して新スレに移ることになると思います。
見づらいと思いますがご容赦くださいませ。
945 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 07:19


946 名前:i've just moved  投稿日:2007/03/07(水) 07:21


947 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:22



あれから。
あたしたちは一歩進んだようで、そうでもなかったりして。




絵里ちゃんへの捉えようのない気持ちを心の隅っこに抱えて。
表立って会うなんていうのもお互い切り出しにくくって、いつも通りの生活を続けていた。
丸二週間が過ぎようとした頃、真っ先に怒り出したのは絵里ちゃんのほう。

948 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:22


こういうのも変な話だけど、週に一日だけ曜日を決めて、彼女はあたしに会いに来る。
たった一回!なんて絵里ちゃんは手を腰に当ててぷんすか腹をたててたみたいなんだけど。

どのみち曜日が合わないあたしたちには、これでも大きな進歩なんだけどな・・・




仕事の忙しさは年を越えても同じで、できるだけ早く帰ってこようと頑張ってくれてる。
だけどたいてい深夜終電がとっくになくなってしまってるような時刻。
何時になってもいいから絶対起こしてって頼んであるのに、
優しい彼女はインターホンを数回鳴らすと家に帰ってしまって。



そういうことが何回か続いて、業を煮やしたあたしは彼女にうちの鍵を渡した。

949 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:23
コンコン





「失礼します・・・・・」




小さな声が寝室のドアのところで聞こえる。



わざと電気を消して寝たフリしてたら、
忍び足でベットに近づいてきて。
しばらく横にたったままじーっとしてて、
そっと足音が去っていった。


「またぁ!!!」
「えっ??」
「なんで起さないかなぁ?」
「起きてたのっっ?」


ぷぅってふくれてベットから体を起すと。
のそのそとあたしのほうへ近づいてきてへへへって笑った。

「また帰るつもりだったんでしょ〜?」
「ううん」
「えっ・・?」
「ほら、これ・・」


真っ暗の部屋の中に、廊下からの光で白い袋が浮かび上がる。

「なぁに?」
「朝ご飯。コンビニので申し訳ないんだけど作っておいとくといいかなって・・」
「ふぅん・・・」
「ん?」

仕事ですっごく疲れてるくせに。
小さな心配りがうれしくって。

こういうとこものすごいマメなんだなって思う
950 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:24
「ねぇまってまって」
「なに?」

がばっと布団から出ると、
台所へ向かう背中を急いで追いかけた。


「あのさあ・・・」
「なぁに?」
「朝ご飯はいいからさ・・」
「ん?」
「・・・・ずーっとずーっと待ってたんだけど、な・・?」

そういうと一瞬背中が固まって。
ものすごく嬉しそうに笑顔を崩してあたしに向かって手を伸ばした。
そのままあたしの指の先をちょんと握って
一緒にリビングまで引っ張られる。
951 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:25
「あ、そだ。肉まん・・・食べる?」
「ううん、いいよ。もしかして夕飯もまだ・・?」
「あ、うん」
「じゃあ、なんか作るよ。ちょっと待って―――」
「いいから!うちも・・・一緒にいたい、し・・・」


繋いだ指を離さないままソファーにあたしを座らせて。
片手だけで苦労しながら袋をあけはじめた。


「ほらぁ、紙、紙!!」

繋がれたほうと逆の手を伸ばしてはがすと。
嬉しそうに笑って。大きな口で頬張ってる。


もぐもぐとほっぺを動かしてるしあわせそ〜な横顔って。
なんか子供みたいに可愛いんだよね〜

それにこの手。
あたしより大きいのにふにゅっとしてやわらかくって。
ついつい両手で指のつけねとか弄って遊んじゃってるのを
照れくさそうに横目で見ながら、最後の一口をつめこんでる。
952 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:25
「ねぇ・・」
「なぁに?」
「お風呂入ってく〜?」
「うっぐふぉっっ!」
「や、だぁ、ほら、お茶・・・」

思わず手をほおリ投げて
白い袋からお茶を取り出して彼女に差し出した。


「い、いいですって。ゆ、湯冷めしそうだしさ、それに先輩はもう入っちゃったでしょ?」
「ん?一緒だったらいいってことぉ?」
「ち、違いますってば!」
「じゃあ、溜めてこよっかな♪」

立ち上がるフリをしたあたしの腕をぐっとつかんだ。

まぁったく。そんなに恥ずかしがることないじゃんっ♪

953 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:27


再びソファーに座ってひざをとんとんってすると。
もっと真っ赤な顔をしながらごろんって寝転んできた。
恥ずかしいのかテレビのほう向いた横向きの姿勢で。

ニュースに見入るようなフリしちゃって。
耳たぶまで真っ赤だよ?


「もしかして吉澤さんって・・」
「吉澤じゃなくって!」
「あ、ひとみちゃんって・・・・」
「なに・・・?」

まさか、ケイケンナイ?

小さな声で耳元で囁いたら。

「ば、バカ。違う違う!!」

って思いっきり否定した。
なら当然。
そんなに真っ赤にしてることないじゃん!

「だよね〜、なんでぇ?」




上手い・・・?



もう一度囁くように耳に近づいたら。

「またからかうっ!!」


って。

「だってねえ・・・」
「なに?」

からかいでもしないと言えないことだってあるし。


はぁっ・・・

954 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:28


「どうしたの?」

聞こえないようについたつもりのため息に気付いて。
心配そうに上に向き直った。


「うぅん・・・なんかさ」
「ん〜?」
「アタシってどんな人?」
「はっ?」

あたしの問いが唐突すぎたのか。
瞳をまんまるにして、じーっとあたしの目をつめている。



だってさ、あなたの中でのアタシって。
あまりにも崇められちゃってたような気がしちゃって。
生身のアタシでいいんだろうか、とか。
ものわかりよくなきゃダメなんだろ〜か、とか。


会えないときに考えれば考えるほど。
なんかネガティブな思いがふつふつと湧き出たりして。
こんなこと思ったりしたことなかったのに・・

ああ、ううん。なんか良く思われたいって。
そういえばどっかでずっと心の奥で感じで頑張ってたとこもあるのかも・・・

妙に物分りがいい先輩として。
結局何にも確認できなくて空周りしてたことだって。
955 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:28
「どういうアタシがいいわけ?」
「なんでそ〜ゆ〜こと聞いてくるかなぁ」
「だって・・・」
「だっても何もっ!」

もぅ。こっちはけっこうマジメに話してるんだけどな。
なんでニヤニヤしちゃってるのよぉ。

「すんごい子供っぽくてゲンメツしちゃいそうだったら・・・」
「それはヤバイ・・・」
「えっっ・・?」


やっぱり?
そうだよね・・やっぱオネエサン、みたいのがいいんだ・・・・


「じゃなくて」
「なに?」
「それされたら・・・・・ますます抜けらんない・・・・・・」
「なによぉ、抜けるって〜!」
「ううっ、もういいでしょ?」
「だってだってだってほんとはすんごいワガママだし、融通きかないし
 ものわかりだってよくないし、吉澤さんが思ってるようなあたしじゃないよ?」
「そんで?」
「それに・・吉澤さんも言ってたじゃん。あたし独占欲だって強いかも」
「うわっ。まだ根に持ってる・・・」
「だってほんとだもん!!」

その上根深そうだし・・私・・・

956 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:29


「ばぁか!!」
「へっ?」
「知ってますよっ!だけどずーっと・・・・」

眉をひそめて。腕を組んで。まっすぐに上を向いたままあたしのこと見つめてる。


「ずーっと、なによぉっ」
「だからぁ・・」

大きな瞳を瞬きさせて。
ため息をはあっとこぼして。

ん〜?って顔を覗き込もうとしたらふって首の後ろに手がまわってきて。


「ちょ、な―――」

強引なくらいあたしを引き寄せて。
あ・・・キス・・・・って思った瞬間に。

チュッ


「えええええええっっっ??」

軽く音をたてたくらいで。
掠めた唇はあまりにあっけなくって。

もぅっ!肝心なときに力抜いちゃうんだからっ。
957 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:29
「それだけぇ?」
「・・・んだよ」


ますます真っ赤になって唇を尖らせてる。

結局なんにも言ってくれないつもり〜?
それにこんなキスだけなんて・・・

「ずーっとのあとは?」
「もぅ・・いいじゃん・・・」
「だぁめっ」

「だからっ、ぅぅっ・・・り、梨華さ・・ちゃんのことが好きで好きでたまりませんっ」
「なによその言い方ぁ」
「だからぁ・・・ずっと好きだったのはこっちのほうだって―――」
「・・・・・しょ〜がないなぁ―――」



おでこに手のひらを添えて。
唇を覆うようにしてキスを浴びせ、
そっと舌先をすべりこませた。


絡みついた彼女の温度。
やわらかくつつみこまれる感触はだんだん―――



・・・・んっ・・・ぅっ・・んぅ・


あまりの心地よさに。
自分から漏れた声に驚いて。
最初に唇を離したのはあたしのほう。




な、なんでこんなにうまいわけ?




「・・・舐めんなっ」

乱暴な言葉のわりにすごい甘えたような声で。
小さくつぶやく顔が可愛くって思わず覗き込んだ。
958 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:30
「ねぇねぇ」
「・・なに?」
「・・・・・・・もっかい・・」

「・・いいの?」
「ばかっ――――」

勢いよく跳ねあがった彼女は
あたしと完全に向き合うと、唇を開いたままあたしを塞いだ。



背中にまわった手がもどかしげに背筋をなぞる。

「・・・・んぅっ・・・」

どちらからともなく漏れる息が
テレビの音に混じって耳に届く。


やば・・どうしよぅ・・

思考力をなくしていくほどのキスがあたしのココロを塗りつぶしはじめる。


せわしなく働き始めた最後の理性が、眉間に深い線となって刻まれていく


「・・・・ん?」


彼女はそっとあたしから唇を離すと。
薄く目を開けてあたしのことを見つめている。

飲み込まれそうなほど艶やかな色をたたえた瞳。


流されてしまいそうになる心を懸命に抑えて、
小さく息を吐いて、こつんと顎先に額をぶつけた。



「やっぱ・・・ナシ・・・」
「じょーだんでは誘うくせに」

959 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:38


首筋からかすかに香る彼女の匂いを。
大きく吸い込んで深くため息をつく。


「・・・・・・だって・・」
「気にしてる・・?」
「気にしてるのはそっちでしょ?」
「そーじゃなくて。うちはなんつうか・・まだ照れくさいだけだよ」



それもほんとのこと。
だけどきっと優しい彼女が。
心の底にある迷いだって言われなくたってわかる。



彼女は優しく微笑んであたしの頭の後ろに腕をまわして、
そのまま肩にもたれかからせた。


うつむいたままのあたしの手をとって。
優しく包み込むように握り締めた。







いざってときに踏み込めないのはお互いさま。
ボディーシャンプーの香り。
そんな些細な変化だって女の子は気付いてしまう・・・










960 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:38



961 名前:i've 投稿日:2007/03/07(水) 07:38


962 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 07:39
ここで一旦区切ります。
夜に新スレを立てて続きを・・・。
963 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/07(水) 15:47
わー更新されてる!
どきどきしながら読みました。
新スレお待ちしております。
964 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 23:41
>>963さま


読んでいただいて本当にありがとうございます。
ドキドキしていただいてこちらもドキドキですw
さて、この後がご期待に添えるといいのですが・・・



965 名前:咲太 投稿日:2007/03/07(水) 23:44
スレをお返しできることにほっとしています。
長い間読んでいただいた皆様、
管理人の方々、本当にありがとうございました。

新スレでも変わらずお付き合いいただけたら嬉しいです。

夢板

ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1173246251/
966 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/08(木) 00:54
おぉー更新されてる♪
二人のこの感じ大好きです。

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