Ghost life

1 名前:lily 投稿日:2005/04/05(火) 23:09
グダグダ時々下ネタ、所により破壊
地方では下らないネタが出没するでしょう。。。

ヒロイン:亀井さんに依頼
出演依頼:今の所飯田さんと田中さんに要請
2 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/05(火) 23:10
1話 転生、濡れ女子
3 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/05(火) 23:12
 誰も近寄らない、大きな大きな洋館。
 数百年前に建てられて、今や廃屋と化したその館に本日来訪者一名。
 キョロキョロ、オドオド。
 戸惑い・緊張・一種の恐怖を隠さず廃れた、板張りの廊下を歩く。
 顔色は人のそれよりはるかに悪く、青白い。
 肩ほどまで伸びる薄い茶色を混ぜこんだ髪の毛は、満遍なく濡れている。
 羽織る白いコートも、また然り。
「わっ」
 視線を一点に留めずに歩いていたら、ガクンと身体が沈没。
 見れば、床へ突っ込む自分の右足。
 腐りきった木製の床が成した、唐突の所業。
 アワアワ。慌てながら少女は急いで足を引っこ抜く努力。
 けど、慌てていては折角の努力も空回り。
「うわぁっ」
 挙句、下半身がずっぽりはまってしまう始末。
 ヤバイ。このロングコートの下は、何の着用もしていない。
 で、そのロングコートは今たくし上げられている。
 つまりは、何のしがらみもなく、まるっと晒された己の下半身が下の階層に。
「うわっ、あ、や」
 何ゆえこうも慌てるか。
 答えは簡単、彼女はここに住むモノに用がある。
 そのモノがここに居るとわかっていたから、こうして訪れた。
 だから、彼女にはここにソレが居るという確信がある。
 蒼白な面を朱色に染めて、グアッと身体を引き上げた。
 冷たい床に身を投じて、はだけたコートをすぐに修正。
 その時確認した、やはりな事実を認識し、ほんのりブルー。
「う・・・」
 コートの下は思考どおり。
 しがらみなくしげみがあった。
4 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/05(火) 23:14
 
 少女は目を伏せ、立ち上がる。
 気は晴れずとも、ここに居るヒトを見つけなければ意味はない。
 僅かに鬱になった気分をふるいたて、目を開けた。

 …………

 横に切れた二つの目。
 針みたいに鋭い瞳。
 何の予告もなく訪れたその視線は、見事少女と交差した。
 両者瞬きも忘れて見詰め合うこと数秒間。
 目の前の猫のような目がキュッと、いじけた様に歪んだ。
「立派なもんもっとぉと」
 バツンと切れた沈黙の糸。
 ついでにコートの少女の緊張と一種の恐怖の糸も連れ立って。
「あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜〜〜!!!!????」
 コートの少女の紫色のきめ細かな唇から、濁った絶叫がほとばしった。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/06(水) 01:05
おもろい
早く続き見たい
6 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/08(金) 21:44


「・・・耳が千切れるかと思うたばい」
「・・・ごめん」
 穂先が外に跳ねた黒髪。
 その頂に一対の鋭角を描く耳を携えて、れいなと名乗った猫目の少女は目を細めた。
 ジトリと。コートの少女を睨む目は、侮蔑に濡れている。
 しかしコンマ一秒でそれは消え去った。
 頬に刻む、左右あわせて6本のひげをくしくしと揺らしてれいなは訊く。
「まぁ、よかね。
 ところであんた、連絡ばよこしてくれた亀井しゃんと?」
「あ、うん・・・じゃなくて、はい。
 死んでからの勝手も行き先もわからなくて」
「あー・・・よくおると。
 なーんも迎えが来んで、ろとうに迷うヒトが」
 見るからに気を落とす少女。
 その前で、れいなは気まずそうに視線を泳がせる。
 ポリポリ、尖った爪で頬をかいて立ち上がった。
 その動作を少女は目で追って、再びれいなの視線と会い見える。
 パチパチと少女、瞬き幾度。
 戸惑う少女に手を差し伸べて、れいなは言った。
7 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/08(金) 21:46
「ついてきてくんしゃい。支配人とこば案内するけん――ぅひゃ」
「あ・・・」
 繋いだ手ごしに伝わる、少女の常軌を逸した低体温。
 プリーツスカートの裾から出る尻尾の先から、頭頂の耳の先までぶるりと震撼。
 立ち上がった少女はそれに気付いて間抜けた声をもらした。
「冷た・・・でか・・・」
「ご、ごめんなさい・・・」
 慌てて手を離し、ぺこりと一つ謝罪を表明。
 しかし、れいなの意識はそことはまた別のところにあった。
 少女を見上げて、あどけなくも鋭い面貌がくしゃりと歪む。
 明らかな苛立ち。
 少女は首を傾げた。
「・・・?どうしたの?」
「・・・何もなか。行くとよ」
 振り向き、れいなは回廊を進む。
 かぎ尻尾を水平に、ゆらゆらと揺らしながら。
 少女はその小さな背中を追いかける。

 ……………

 小さな背中。
 僅かの差でも、少女はれいなを見おろす立場にあった。
 その事にれいなが密かに涙したことは、本人だけの秘密。
8 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/08(金) 21:47


 洋館の最上階。
 立て付けの悪いことが明確な扉の前で、少女はぐったり疲労困憊。
 ○| ̄|_の格好でゼハゼハ荒い呼吸を繰り返す少女を見おろし、れいなは呆れ顔。
 驚きの先は呆れとよく聞くが、案外間違ってもいないようだ。
 何となく、れいなは思う。
 この子は決して運動神経が悪いわけではない。
 ただ、圧倒的に薄幸なのだろう。
 むしろ、不幸かもしれない。
 いや、不幸だ。れいなはそう完結させた。
「だ、大丈夫とね?」
「・・・ぎ、ぎりぎりで」
 腐って抜けた床にはまること十数回、
 すべって転ぶこと数十回、
 階段から足を踏み外すこと、一階上がるごとに必然的。
 もはや、奇跡の領域。
 メイクミラクル。
 れいなは声に出さず、心中祈りを捧げた。
(―――ここまで人間的な妖怪も初めてと・・・)
9 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/08(金) 21:49
 嘆息を短くはきだし、れいなは扉に溶け込んでいった。
「・・・え?」
 ようやく顔を上げた少女の目には、扉に染みこんでいく鉤尻尾。
 困惑100%。少女は呆然。
「何しとっと?あんたもはよ来んしゃい」
「うひゃ?!」
 にょきっと生え出たれいなの面。
 扉と一体化しているように見える、奇妙な光景。
「―――あ」
 と、ここで、少女は思い出す。
 自分は今、幽体だということを。
 だとしたらば、よくドラマやマンガで見たことあるように、
この少女のように物体をすり抜けることが出来るのではということを。
 少女は勇んで立ち上がる。
 それを確認し、れいなが顔を引っ込めた。
 未知なる経験に対する楽しみが、少女の心を高鳴らせる。
 扉との、僅か1mにすら満たない距離で、少女は全力疾走を試み
「・・・イタヒ」
「・・・どげんして?」
 結果、扉に激突。
 そのまま内へと、れいなを巻き込んで倒壊した。
 扉を越し、鬱陶しげに少女を脇へ退かす。
 れいなは立ち上がり、一つ腰を折った。
「すいません、飯田さん」
 こうべを垂れたまま、れいなの声はしっかりと目標へ向かう。
 少女は痛む鼻をおさえつつ、不可視なる声の軌跡を辿った。
 
 全身びしょ濡れ状態でも、死んでからは寒いなどとは感じたことなし。
 しかし、どうだろう。
 この手を、この背中を、この唇を震わせるものは。
 これは、忘れかけていたその感情。
 まさしく、寒気に違いない。
 少女は死して初めて、対面するだけでゾッとする人物と出会った。
10 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/08(金) 21:56
「珍しいお化けさんだね。
 物体透過の能力が使えないって・・・あ、れいな。頭上げていいよ」
 「はい」とハキハキ返事を返すれいなのことすら、意識の外。
 少女はただただ、目前の宙に泰然と浮かぶ女性に見惚れていた。
「名前は・・・何だっけ?」
「亀井絵里さんです。死因は溺死。
 幽霊になって今日で3日。
 日も浅いのでまだ勝手が良く理解できていないのかと」
 自分をさしおいて展開される会話に耳も傾けず、絵里は息を呑む。
 それに気付いたか。
 椅子に座るかのように宙に浮かぶ女性は、ふくよかな唇で弧を描いた。

 狭くも広くも無い、なんともいえない半端な広さの部屋。
 文明の利器と呼ばれるものが一切無く、
 あるものといえば、高い頭上の天窓一つ。
 月光を導く、天窓一つ。
 見栄えがするものは、たったのそれだけ。
 後は無雑作に蜘蛛の巣や、木々の残骸が散らばるのみ。
 そんな退廃的という言葉を絵に描いたような風景に、ふわふわと漂う女性。
 無駄が無く、適度に細い肢体を覆う雪色の着物。
 肩に届くかぐらいの漆黒の頭髪は、清流の流れの如く。
 だけど。
 その風体は完璧ではなく。
 一つの欠点を、絵里は発見していた。
 それは、双眸を覆い隠す無骨なベルト。
 月明かりに照らされて鈍く光るそれは、頭髪よりも深い深淵の黒。
 勿体無い。
 そう思うと同時、絵里はさぞ整然としているであろう飯田の両眼を想像し、それだけで唾をゴクリ。
 飲み込んだ。
11 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/08(金) 21:59
「―――なの・・・って、亀井さん。聞いてないでしょ」
「っあ・・・すいません・・・」
 妄想世界へ片足どころか、旋毛までどっぷり使ってしまっていた絵里。
 いつの間にやら始まっていた飯田の説明は、完全な一方通行になっていた。
「………………………………………………………」
 特徴的な唇がついと結ばれ、飯田はベルトで遮られた視線をあらぬ方角へと向ける。
 その様を見て、れいなはうんざり大きなため息を吐き出した。
「あ…っちゃー…交信はいったとね」
「コウシン?」
 コクリとれいな、頷いて。
「基本的にランダム発生なんやけど…ショック受けたり、悲しいことば起きたりすると飯田さん、意識どっかに飛ばしよーよ」
 真上を見上げればまん丸の月。
 そこから視線を下にずらしていけば、宙に張り付く飯田の姿態。
 背筋をピンとはった、まさしく直立不動の姿勢。
 綺麗だな。
 多分、何回見てもそう思う。茫漠とした確信を、絵里は掴んだ。
「ま、よか。この人がココの管理人で、飯田圭織さん。
 顔は覚えておいても損は無いと思うとね」
 ヤル気の失せた声で簡素な紹介を絵里に。
 指先すら動く気配の無い飯田を指し、言う。
 それが終わるとくるっと小柄な身体を反転。
 ボーっと飯田に見惚れたままの絵里の肩をポンと叩いて
「行くとよ」だけ言い残し、すべる様に部屋を後にした。
 曖昧な返事を返して、絵里は飯田から視線を切る。
 すでに一つ階下に下りていたれいなを視認し、慌てて階段を駆け―――
「わきゃあああ!」
 転げ落ちた。
12 名前:lily 投稿日:2005/04/08(金) 22:00
>>5 名無飼育さんさま
初レスありがとうございます。
ストック小出しで申し訳ないのですが、
頑張っていきたいと思います。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/09(土) 14:48
更新頑張ってください
応援してます
14 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/12(火) 19:05

 先導されるままついていくと、辿りついたのは
「・・・?お風呂??」
 だだっ広い洋館の割には、人一人がようやく入れそうな狭小な浴槽。
 絵里は頭上に?を数個浮かべて、隣のれいなに目線を配る。
 すると、れいなは一度頷いてから、浴槽を指差した。
 貼られた水が、静かに絵里たちを映し出している。
「ココが亀井しゃんの部屋やけん」
「…………………………………………ん?」
 血色の悪い自分の顔と対面していると、耳元で戯言が聞こえた。
 そう戯言。まさに戯言。圧倒的に戯言。
 だから、絵里はれいなへ問い返した。
「いや、だからここで亀井しゃんには寝泊りしてもらうと――」
「どぉーしてっ!?」
 小さな肩を掴むと、べしゃっと水滴が舞った。
 絵里の予想外の大声、それと異常な接近にれいなは戸惑い怯む。
 掴まれた肩が痛い。
 この力も、予想外。
「ど、どぉーしてって・・・」
 れいなをまっすぐ見つめる絵里の瞳は、悲しいのだか怒っているのだか。
 どうにも微妙な色を灯して、揺れている。
 もごもごと、れいなは言葉を舌の上で転がした。
15 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/12(火) 19:06
「亀井しゃん・・・あんた、濡れ女子なんやろ?」
「濡れ・・・、何?」
 絵里の瞳が疑問一杯に満ち満ちる。
 開放された肩を、己を抱くように擦っていたれいなは意外そうに一言「…え?」
 絵里の紫色の唇が、薄っすらと開いている。
 れいなの鋭角の耳がぴくぴくと小刻みに振動する。
 針の瞳と、疑念の瞳が交差した。
「死んでまだ日が浅いから、自覚が無いんだよ」
「―――わひゃあ!?」
「ふにゃ?!い、いいいい飯田さん!?」
 声が降ってきた。まさしく、降ってきた。
 しんと空間に染み渡る透明な声調に誘われ、二人が上を見上げる。
 そこから悲鳴を上げるのに、1秒も要さなかった。
 雪色の着物に、流れる髪1本1本に夜闇を貼り付けたショートカット。
 そして、不躾に目を覆う黒いベルト。
 天井にぶら下がり、 飯田圭織。
 不意討ちなる、再びの顕現だった。
16 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/12(火) 19:06
「ヒドイよ、二人とも。カオリに黙って出てっちゃうんだもん」
「それは飯田さんが…ってか、飯田さん!
 音も気配も断ちながら近づかんでください!ほんま、ビックリするけん…」
「近づくななんて…れいな、ヒドイよ」
「どげんして修飾部を抜かすとですか?!いくら飯田さん相手でも、そげんストレートに物言わんとですよ!」
「あ、あの…」
 宙吊り女と猫幼じ…猫娘の口論という、ある種滑稽な図が展開されている只中。
 絵里は恐る恐る手を挙げた。
 沸騰寸前が明らかなれいなからはやはりギロリと睨まれたが、飯田は短く思い出すように声を漏らすと、その場で身体を横に半回転。
 足音も最小限に、降り立った。
「これ、さっき二人が来たとき言おうと思ってたことなんだけど―――亀井絵里さん、あなた死んだことの自覚はあるよね?」
 髪の毛が逆立つれいなを宥めながら、絵里は頷く。
 それを見て、飯田も頷いた。
「じゃあ…死んだ後、妖怪に転生することがあるって知ってる?」
「ヨウカイ…テンセイ?」
 れいなの喉を撫でつつ、絵里は眉をひそめる。
 飯田は「そっか」と短く呟いて、浴槽の縁に腰を下ろした。
17 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/12(火) 19:07
「人の想いって、
 それも負の想いって案外強くてね、その人が死ぬと滓として残るんだって。
 この滓がね、妖怪になる素”妖素”って、カオリは呼んでるんだ。
 ほら、最近略するのって流行ってるでしょ?
 ウリナリもそうだし、チョベリバも、ね?」
 傍らから、小さな声で「古か」と聞こえた気がしたが、あえて黙殺しておいた。
「あ、ごめんごめん。話を戻すね。
 妖素ってのはね、死んだ時の状況も結構関係しててるわけ。
 で、その妖素が死んだ後の人間の身体にまとわりついて、出来上がるのが妖怪。
 亀井さんはどうやら水関係で死んだみたいだから、濡れ女子に転生しちゃったんだね。
 ちなみにね、カオリは雪山で――――」
 この後も何やらをすらすらと、薄っすら唇で笑みを描いて飯田は述べていく。
 だが、なにを言われているかちんぷんかんぷんな絵里は目が点。
 その頭上に、幾多も?マークが張り付いている。
 れいなははぁと疲労感をびっしり乗せたため息を吐き出すと、助け舟を出航させた。
「つまり、亀井しゃんは死ぬとき何か腑に落ちないことをおもっとって、
 それとそのときの状況が重なって濡れ女子っちゅー妖怪になってしまったとね」
「あ、そういうことぉ」
 絵里は納得の笑顔を咲かせ、掌同士を打ち鳴らす。
「そぉかぁ、わたし妖怪になっちゃったんだぁ」
 うふふと口元を押さえた笑いは、どこか悪戯めいていた。
18 名前:1話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/12(火) 19:07
 絵里のこの反応に、れいなは少なからず驚きを覚えた。
「あ、何か…うん。おちつくぅ…」
「――でね…あれ?亀井さん、いつの間にお風呂に?」
「飯田さんまだ喋ってたんですね」
 狭い浴槽に足を畳み、絵里は浸かる。
 水面から出た首から上が、ふにゃりと緩む。
 それに気付いて飯田が独り言を止めると、れいなはドハァと盛大に息を吐き出した。
 うんざりてんこ盛り。
 飯田はムッと、口をへの字に曲げ、れいなをベルトの下から睨みつけた。
 当然の如く、れいなは黙殺を決める。
「じゃあ、亀井しゃん。れな達は行くけど、ここでよかね?」
「うん。あ、でも――」
 いじけた木偶を浴室の外に押しやって、れいなは聞く。
 クルリと首をれいなへと向けた絵里は一言。
「もうちょっと、浴槽狭く出来ないかなぁ?」
 予想の線路から脱線した質問。
 パチクリと猫目を数回瞬かせ、困ったようにれいな
「うー………ん…れなは、大工じゃなかから」
 尤もなことを絵里に告げた。
19 名前:lily 投稿日:2005/04/12(火) 19:09
>>13 名無飼育さんさま
僕の自己満足に近い書き物に
レスを付けていただき
まことにありがとうございます。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/12(火) 20:48
飯田さん黒いなぁw
21 名前:一話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/13(水) 19:45

 飯田とれいな。
 両者横並びで階段を上る。
 その道中、何気なくれいなは切り出した。
「―――珍しかとです」
 歩みを進めながら、お互いの顔を見ず。
 話しは展開していく。
「うん?亀井さんのこと?」
「はい」
「そーだねー。一応幽体の身なのに物質透過能力が使えないってのはねぇ」
「や、それはそれなんですが…」
 もごもごと、尻すぼみになっていく言葉。
 そこで初めて飯田はれいなを見る。
 無論、ベルトの下からだが。
「どした?」
「…亀井しゃん、自分が妖怪になったっていうのに、あげん楽しげに笑っとった。
 それがれなには分からんとです」
「あー…れいながここに来て同じこと聞かされた時、モノスゴク取り乱したもんね。
 『れなは違う!れなはまだ人間とぉ!!』って…ふふ、初々しかったなぁ」
「あ、あれは…っ!まぁ、その…れなも子供やったってことで…」
「妖怪は成長しないよ。その証拠にほら、ここはまだちっちゃい」
「ぅにぃ!?」
 しなやかな人差し指が、ティーシャツの上から僅かな稜線をなぞる。
 れいなは高く悲鳴をあげて直後、サッと胸を両腕で庇った。
22 名前:一話 転生、濡れ女子 投稿日:2005/04/13(水) 19:45
「い、飯田さん!人が気にしとーことを…っ!しかも触らんでくださいよ!!」
「ふふふ…ちっちゃいちっちゃい、ふふふふふ」
「…っ…こらー!!逃げんなぁー!!!」
 激昂するれいなの目の前、清澄な冷たい風が舞い上がり、飯田が消え去る。
 風が止み、ちらちらと舞う白銀の結晶を見
「ったく」れいなは怒り冷めやらぬ一声をもらした。
 そこに、涼しげな声が降ってかかる。
 
―――――亀井さん本人に聞いてみるほうが良いと、カオリは思うなぁ―――――
 
「…言われんでも、近々聞いてみますよ」
 
―――――れいなが怒った。カオリ悲しい。ふふふ…―――――
 
「あんたは悲しいと笑うんかっ!!」
 
―――――もっと大人になってから死んでればね…ふふふふふ…―――――

「…っ!やかましかあぁぁ!!!!」

 叫んで直後、ほんのり涙したことは、国家機密にも値する(れいな談)。

23 名前:lily 投稿日:2005/04/13(水) 19:50
1話 転生、濡れ女子〜オワリ〜

次回より
2話 Ghost's Desire(激しく仮)
24 名前:lily 投稿日:2005/04/13(水) 19:52
>>20 名無飼育さんさま
飯田さんは好き勝手書いたら
こんなになってしまいました(汗
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/14(木) 00:53
国家機密に笑いました
2話も楽しみにしてます
26 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/04/24(日) 13:56
2話 思い出した欲望
27 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/04/24(日) 13:57
――――****
 れいなが言う。
「幽体になれば、皆無意識に出来ると思うんやけど…」
 飯田が言う。
「どっちかと言うと、存在固定のほうが意識するんだけどね」
 二人同時に首を傾げて、声を揃えた。
「「…不思議だぁ」」
 絵里はむくれた。
28 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/04/24(日) 13:58

 古の空気をヒシヒシと醸し出す洋館『ア・ターレ』。
 その実態は妖怪・怪物といわれる類が住まう、言ってみればお化け屋敷みたいなもの。
 そこに亀井絵里が住まうようになってはや一週間。

 宵闇降りる薄暗い空を外に見ながら、絵里は鼓動を高鳴らせていた。
 水滴走る左手で拳を作り、胸に当てる。
 小刻みに震える右手は、曖昧に開いて指先を壁に当てんと伸ばされていく。
 ドキドキがだんだんと強くなっていく。全身で感じた。
 グッと息を飲み込んで、壁に触れる寸前で右手を停止。
 息を大きく吸って、短く吐き出す。
 ちょっと咽た。
「エホッ、ゲホッ…」
 気を取り直して。
 唇をギュッと強く引き結び、右手の中指は―――
 壁の感触をしっかり感じ取った。
29 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/04/24(日) 14:01
「ぅ…やっぱりダメだぁ」
 手を離して、壁を見つめながら呟いた声は微かに涙混じり。
 その後、既決となっているようにがっくり肩を落とした。
 勿論、緊張していた気持ちも共連れで。
「むぅぅ…難しいよぉ」
「そげなこつ言うお化け、れなは初めて会ったとね」
「ひゃっ」
 神出鬼没の猫娘は本日も健在。
 まるで気配も音も発せず、いつの間にやら絵里の後ろにはれいなが佇む。
 今までが静か過ぎたので、口から何かが出そうなほど驚いた。
 それはもう、デロンという不気味な効果音と共に。
「れぇな!近づくときは分かるようにしてって言ったでしょぉ!」
 両目をウルウルと潤ませて、絵里は立ち上がりれいなを見おろす。
 のんびりした中にも、鬼気迫るものがありれいなは一歩怯んで後退。
「く、クセやし…そう簡単に治らんとね…」
「努力して!人1ば…ううん!7倍ぐらいっ!!」
「ちょ…それは絵里にも言えるやん!」
「絵里はがんばってるよぉ!」
「ウソや!もう一週間も同じことして、1歩というかミリ単位も進んでなかよ!!」
「う…んぐぅー、がんばってるもぉんっ!!」
 火花飛び散る口論の中、冷風が一筋2人の間を抜けた。
30 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/04/24(日) 14:02
「青春だね。カオリ、羨ましいよ」
 神出鬼没はれいなだけではなかった。
「飯田さんからも言ってやってください!れいなにもっと足音立てなさいって!」
「そげんことよか、絵里にもっとちゃんとやるよう注意せんと!」
「が、がんばってるもん!ちゃんとやってるもーん!!」
「終始ドカドカ歩いとったらやかましいやろが!」
 噛みつかんばかりに牽制しあう、2人を交互に眺めて飯田は口元を綻ばせた。
 しかし、それは一瞬の後雲散し。
 吼えあうれいなと絵里に気付かれることなく、飯田は口元に苦味を浮かべた。
「でも、そうだね。亀井には特訓が必要そうだね」
 信じがたい、その感情を見開いた目に一杯乗せて、絵里は飯田を捉えた。
 思案げに顎に指を這わせる飯田は、
 絵里の視線に1ミクロンの意識も向けず、自己完結。
 頷き、言葉を失くした絵里に向かって、爽やかな笑みを投げかけた。
31 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/04/24(日) 14:04
「亀井は明日からカオリのところに来ること。
 1人でやるより、多分効率いいから。オーケー?」
「ぅ…分かりました…」
 言葉尻を濁して、絵里はガックリうな垂れる。
 れいなはそんな絵里を尻目に、小さく、含み笑いを漏らした。
 そこに、飯田の指摘、よりも命令の響きが強い言葉が矢のようにれいなへと飛来した。
「れいなも。あんまり人を驚かせるのは感心しないよ?
 今日から、れいな、音を立てないで歩いたら…鈴付きの首輪つけちゃうよ?」
「―――!!??そ、そんな…っ!ひどいっちゃよ!おーぼーやー!」
「現れるときは、何か自分が来たよってこと知らせないと。
 勿論、敵方さん以外、友達同士っていう範囲でだけどね」
 首を傾げ、飯田は悪戯めいた笑みを口元に宿す。
 そして、盛大にうな垂れる2人を残して、身を翻した。
「亀井。もしこなかったら、カオリは悲しいな」
 去り際に一言言い残し、飯田は舞い上がる冷風となり掻き消えた。
 残されたれいなと絵里は、お互いの顔を見やって―――どさりとため息を1つ。
 脱臼しそうなほど落とされた肩をそのままに、それぞれの部屋へと戻り行く。
 その際――――
 絵里の背後からは程よい音量の足音が、一定のリズムを刻んで離れていった。

32 名前:lily 投稿日:2005/04/24(日) 14:06
>>25 名無飼育さんさま
笑っていただきありがとうございます。
2話…タイトルも変わりすぎだし
何よりシリアスになりそうですが……
頑張ります。
33 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:21

 
「そこで意識を集中させて…ワタシハトオレル、トケコメルって」
「は、はいっ」
 翌日より始まった、猛特訓…とまでは、行かなかった。
「うー…ん。出来ないねー」
「すいません…」
「疲れたのかな?ちょっと休もうか」
「は、はいー…」
 コーチが飯田ということもあり、厳しくも無く優しくも無い。
 まったりのんびり、けどきっちり、
 絵里は物質透過の練習を続けていた。
 ちなみに、1時間ほど前に始められた本日の練習。
 その半分以上は休憩の時間に割り当てられていた。
「どうして出来ないんだろうねー」
「はぃ……」
 天窓から射し込む光は、月のもの。
 それが電灯として機能し、室内を照らす。
 相変わらずの殺風景さは見事なもの。
 飯田いわく、ごちゃごちゃあっても鬱陶しい。
 それに無くても困らない。
 だってもう死んでるもん、らしい。
「そんなに気落とさなくても…あ、そうだ。
 ちょっと待っててね、
 何で出来ないか、原因今聞いてくるから―――…………………………」
 ペタンと座り込んで、絵里は隣で逝ってしまった飯田を確認した。
 はぁとため息をついて、所在無さげに視線を泳がす。
34 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:23
 ………………
 ホントに何もねぇ…。
 似合わない悪態をつきそうなほど、絵里の表情が歪んだ。
 次いで、その顔のまま飯田を少々観察。
 柔らかそうな唇は半開きの形で固定。
 明後日の方角へ向かっているはずの双眸は、
 無骨なベルトによって今日も見ること叶わず。
「……」
 交信終了まで黙って待とう。
 ため息混じりにそう決めて、だけど、ふと心をよぎる。
 床へと行きかけた視線は、再び飯田―――の両目を覆うベルトに。
 よぎった感情、それは欲求。
 いまだ見たことのない、そのベルトの下。飯田の瞳。
 未知との遭遇、その愉楽。
 ソイツのぶっとい両腕が、絵里の心を鷲掴みにした。
35 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:24
 どくどく、心臓が高鳴る。
 唾をゴクリと飲み込んで、割れ物に触るように慎重に、
 飯田から光を遮るベルトに向かって右手を伸ばした。
 微かに、期待に震える指先があと数ミリでベルトに届くかというとき、それは突然。
「―――ぃひっ?!」
「亀井………」
 目にも留まらぬ速さで、絵里の手首はつかまれた。
 巻きつく繊細な五指はそれほどに強いわけではない、のだが。
 伝わる感触は、ひどく重く、冷たかった。
36 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:25
「亀井………だめだよ、これに触っちゃあ」
「ひ…はひ……っ」
 口調はいつもの飯田と変わらない。
 しかし、その声調は至極平淡で、だから絵里には圧し掛かるように重く感じられた。
 息を詰まらせ、絵里はつかまれていた手首を振りほどく。
 視線のない睨みを受けながら、恐慌し、座った姿勢のままあとずさった。
「これは、別にファッションとかでつけてるわけじゃない。
 カオリの、自分でもうんざりするくらい獰猛な欲望を抑えつけているんだよ。
 だから、これに触っちゃだめ。いい?」
 何回も頷いて、返事を返したつもりが、声は出ず。
 ただ機械的に、焦心顔でコクコクと頷いただけだった。
「よし」
 でも、それで満足したのは飯田圭織。
 口元にやんわり笑みを象って、一度静かに頷いた。
 その後はすぐに解散となった。
 飯田は普段と変わらず絵里に接してくるのだが、如何せん絵里の態度がぎこちない。
 そんな状態では出来ることも出来なくなる。
 そう飯田は自分の持論を絵里に聞かせ、口の両端を優しく吊り上げた。
 その、何のわだかまりも無い柔和な笑顔にも、絵里は得体の知れない慄きを感じた。
37 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:28

 頭頂に生える耳を、手櫛で梳かす。
 絵里と肩を並べてベッドの上にと座り、
 何気ない行為の中、れいなは何気なく隣の絵里を確認する。
 いつも濡れている前髪。
 その下から見える大きな瞳が、潤み、揺れていた。
「…何で、ベルトに触ろうとしたと?」
 2階の最も奥の一室。
 6畳ほどの広さの小汚い部屋に、
 れいなは多くのキティちゃんと生活を共にしていた。
 そこに絵里が訊ねてきたのは、今から10分ほど前。
 いつもと変わらない、ずぶ濡れのコートの裾を引きずって。
 いつもと異なり、憔悴しきったようにうな垂れて。
 れいな’sルームのドアを叩いたのである。
「ただの、好奇心………あ、あんな反応されるとは、思わなく、て……ぅ」
 その時の状況を思い出したのだろう。
 絵里の眉が、八の字に曲がった。
 どうしたものか。
 れいなはくしくしと髭を動かした。
「あー……なんてーか、
 人にはやっぱり触れて欲しくないところが一つや二つあるとね。
 それが飯田さんの場合、あのベルトやったてこと。
 やけん、あんまり気に病むことはなかよ」
「ぅー……でも、でもでも…っ」
38 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:30
「やったら、絵里はどうして死んだか教えてくれるの?」
「………っ!」
 反論される前に、正論でねじ伏せたつもりが、
 れいなの予想以上の反応が返ってきた。
 絵里の面貌にはっきりと浮かぶ、ソレは憎悪の感情。
 噛み締められた唇は、今にも千切れそうで。
 俯きがちな絵里の視線は、誰を、何を見つめているのか。
 怨恨の、どす黒い炎が虚空を貫く。
「え、絵里…?」
 友人のあまりにもな変貌に、れいなはたじろぐ。
 体を縮めつつも負のオーラを放出させる濡れ女子に向かって、
 れいなは恐る恐る手を伸ばした。
「………そぉだね」
 絵里が呟き、れいなはビクリ。
 濡れた肩に触れる直前で、鋭い爪が生えた手は停止した。
「誰でも一つくらい、触れて欲しくないものは……あるよね」
 ポソリと呟いて、ぴょんと身軽に絵里は跳躍。
 ベッドから降り立って、すすすと扉へ向かっていく背中を
 れいなは目を広げながら見つめていた。
39 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:31
「ありがとね、れいな。話、聞いてくれて」
 一度振り返って、れいなへと向けられるはカラカラとした笑顔。
 それに反応し、自分の意識を急速に呼び戻して
 しかし、れいなの口を割って出た言葉は
「ん、ぅん……」
 なんとも曖昧な、生返事だった。
 しかし絵里は何か言い返そうともせずに、扉へと向き直る。
 そして、再び滑らかに足を運んで、れいなの部屋を後にした。
 “扉を、開けることなく”。

「で、できとるっ!?」
 れいながつっこんだのは、絵里が出て行ってから約3分後だった。
40 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:32

 れいなに言われて、思い出した。
 ううん。ホントは忘れたことなんかなかった。
 生きてる間がそうだったみたいに
 死んでからもアノコトははっきりとわたしの中に残ってる。
 今までは、あんまり意識してなかっただけ。
 だって、ここの生活が結構楽しかったから。
 願わくは、消えて欲しかった――――
 何だろ…すっごく胸がモヤモヤする――――
 ああ、何かな……何だろ?
 この感覚、何て言うんだろ?
 
 ヤリタイ?チガウ。
 イキタイ?チガウ。
 コワシタイ?チガウ。近いけどチガウ。

 ……
 ………
 …………

 ホシイ?ああ、これだ……。
 この感情―――わたしの中を飛び回る、この感情。

 わたしは、欲しい、んだ
41 名前:2話 思い出した欲望 投稿日:2005/05/29(日) 14:34
――**

 天窓から降り注ぐ月光を浴びて、
 自室の中央に飯田は悠然と佇んでいた。
 無骨な黒いベルトに、長く精錬された指先が触れる。
 羽織った雪色の着物、その胸元を正しながら、飯田の指はベルト上を滑る。
 形の良い、艶かな唇が、真一文字に結ばれた。
(おかしいなぁ……やっぱり、不自然だよねぇ)
 先ほどまで、ここには絵里が来ていた。
 勿論、物質透過の訓練を行なう為。
 しかし絵里は、一言「出来るようになりました」と言い置いて
 あっさりと扉を通り抜けてみせたのだ。
 これには、流石の飯田も驚嘆とした。
(昨日まで全然出来なかったし……それに―――)
 驚きと共に賞賛を浴びせる飯田に微笑みを残し、
 絵里は静かにこの部屋から去っていった。
 その時はただ絵里に対する驚きが大きくて、大して考えもしなかったが。
 冷静になって見返してみると、明らかにおかしい。
 幽体といえど、
 出来ないことを出来るようにするにはそれなりの努力と時間を要する。
 何より、飯田もそれを経験しているだけあって、多すぎるほど理解している。
 だから昨日今日始めたばかりの絵里がいきなりとは、
 どうにも考えにくい。
 それに―――
(アレ、亀井だったのかな―――)
 飯田のもとに訪れた絵里は、終始微笑みを崩していなかった。
42 名前: 投稿日:2005/05/29(日) 14:39
2話 思い出した欲望〜オワリ〜

次回より
3話 Deliver the Chaos(仮)
新登場予定人物:後藤真希
43 名前:lily 投稿日:2005/05/29(日) 14:40
間が空いて申し訳ありません。。。
44 名前:lily 投稿日:2005/05/29(日) 14:40
隠し
45 名前:lily 投稿日:2005/05/29(日) 14:41
隠し
46 名前:名無し読者 投稿日:2005/05/30(月) 00:20
お待ちしてました。
シリアスな展開になってきましたね。
47 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 11:54

3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる
48 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 11:54
 
49 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 11:55
 
50 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 12:00
――――****
 ギラギラ照りつける陽光の下、地べたを這いずる人物一人。
 濁った喘ぎ声を漏らしつつ、敷かれた石畳の上をズルズル、ズルズル。
 傍から見れば、蛞蝓…それ以上に変人だった。
「あ゛ぁ〜…ぅう゛〜…」
「お、お嬢ちゃん大丈夫かい?」
 あからさまに避けていく雑踏の中、見かねた初老の女性。
 邪念など全く感じられない、
 真なる心配を面貌に浮かべて蛞蝓もとい這いずる少女に近寄った。
 少女は初老の女性を見上げ、蒼白な顔に笑みを浮かべた。
「ぅ〜…ん…だいじょぉぶー…
 ちょこぉっと、頭痛がして吐き気がしてめまいがして動悸がするぐらい…
 あ、あと、身体の節々がすこし、痛いかな…」
「…全然大丈夫じゃないってことだね」
「ぅ…?そーなるのかなぁ…ゴパァッ!!」
「ひっ!?お嬢ちゃん!あたしんちすぐそこだから休んでいきな!寧ろ、休んでけ!」
 会話を交える最中、少女の口から吐瀉物。
 それに混ざって、血液も少々。
 いい加減ただ事でない。
 そう確信した初老の女性は、小刻みに痙攣する少女を背に担ぐ。
 するとまるでそこにいないかのように、少女は軽く。
 初老の女性は驚愕を通り越し、困惑さえ感じた。
「あ、あんた…ちゃんと飯食ってんのかい?」
「ぅーん…最近、食べてない、かなぁ…」
「駄目じゃないかい!
 ダイエットだかなんだ知らないけど、若いうちは食べとかなきゃいけないんだよ!
 それで、どれくらい食ってないんだい?」
 少し溜めて背中の少女、
「んー…確か、もう、半年は何も食べてない、かな…」
 聞いて初老の女性は噴出すと同時、一気にダッシュをかけた。
 視線を自分たちに向ける人並みをかき分けて、
 年の割には驚くべき脚力をひけらかせ、つっきっていく。
 道中。
「…よく死ななかったよ」
「あは。ごとーは丈夫さが取り柄なんで」
「褒めてないよ!呆れてんだよ!!」
 ベタな漫才が執り行われた。

 その最中に、少女がニヤリと怪しく微笑んだことは
 一心に駆ける初老の女性は、知ることは出来ない。
51 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 12:04
――――*****

 古びた扉をノックしても
「絵里ー…」
 その名前を呼んでみても、返ってくる答えはない。
 れいなの部屋に来てから、既に3日が経過しようとしている現在。
 絵里は自室にこもり、顔すら出そうとしない。
 勝手にはいることも憚られ、れいなは困却していた。
「絵里…」
「れいな」
 呼びかけられて振り返る。
 飯田が口元に微笑を作って、立っていた。
「飯田さん…」
「亀井は、まだ出てきてないんだね」
「……はい」
 しかし、柔らかな口元の曲線はすぐに消え去る。
 れいなの沈んだ声を聞き、
 飯田は困ったように唇を歪め、扉を見つめた。
「……………」
 見えないからこそ、よく見えた。
 扉から放たれる、暗闇の帳。
 どす黒い欲望。
 枯渇した喉を潤したいと、彼女は強く欲している。
 グッと息を呑んで飯田、僅かに右足がたじろいだ。
「飯田さん?どうしたとですか?」
「ん…ぅうん…いや……あ、亀井も一人にないたいときぐらいあるよ」
 冷や汗が流れたことなど、何年ぶりだろう。
 れいなの髪を優しく梳きながら、飯田は口元を険しく歪めた。
52 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 12:05
◇◇◇
53 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 12:16
○月×日 夜

 とある街。
 一人暮らしの初老の女性が、
 全身の血を抜かれて死んでいるのが発見された。
 しかし不思議なことに、
 その部屋には女性の死体しか在らず、荒らされた形跡も
 他の者がいた形跡すらなかった。
 謎めいたこの事件の犯人は
 未来永劫突き止められることはない。

―――赤き唇を舐めて潤し

―――唇の隙間から零れる白い歯とは対照的な、漆黒の翼

―――それを広げて少女、闇夜に躍り出た

54 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 12:17
◇◇◇

――――****
55 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/06/05(日) 12:17
 『ア・ターレ』6階、飯田の個室。
 別名、交信部屋。
 今日も飯田は例外なく、その部屋の宙に浮き、
 タンポポの綿毛のように漂っている。
 しかし、交信をしているわけではない。
 彼女は待っていた。
 小さな客人を、その悪報を。
「い、飯田さんっ!」
 そして、れいなは現れた。
 幼い面を、戸惑いに歪めて。
 慌てふためき、声が喉の奥に引っ掛かる。
 両手をぶんぶんと振り回しながら、狼狽するれいなを
 飯田は見おろしながら、音もなく降り立った。
 そして、何も聞かずに、れいなの脇へと歩み寄り
「行こうか」
 とんと、その小さな背中を押してやった。
56 名前:lily 投稿日:2005/06/05(日) 12:20
>>46 名無し読者様
お待ちいただき、ありがとうございます。
シリアスな展開になっても
どうか亀ちゃんたちを見守っていてくださいまし。
57 名前:名無し 投稿日:2005/06/06(月) 20:37
ぅっしゃ!ごとーさん登場!
敵でも味方でも飯田さんとの絡みに期待しちゃう自分はかおごま好きです

亀井も気になるなぁ
58 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/01(金) 00:19

 午後1時05分。
 陽射しが強く照りつける真っ昼間に、
 飯田とれいなはア・ターレの玄関前に立っていた。
 陽光に当れば消える、というわけでもないが
 一度死んだ身に、太陽光は少々刺激が強すぎる。

 しかし、そんなことは意に介さず。
 表情を引き締めて二人は前方を―――
 眼下に広がる街、そこへとのびるあぜ道を
 悠然と進んでくる人影に、厳しい視線を向けていた。
 と、突然。
 50メートルほど先にあった人影が、幻のように掻き消えた。
「久しぶりー。元気してたー?」
 そして、背後から聞こえる間延びした声。
 彼女のこのような行動は日常茶飯事なので、飯田達は動じない。
 厳しい表情を崩すことなく、振り向いた。
「昨日までは元気だったよ」
 飯田は答える。
 するとふにゃらと笑っていた女は、悲しげに眉尻を下げた。
 それとはっきり分かるほど、わざとらしく。
「今日元気がないのは?」
「ごっちんのせい」
「ひどー」
 ぴしゃりと言い放つ飯田に、しかし女はカラカラと笑った。
 それを傍から見ていて、れいなは大きな嫌悪感を覚えた。

 ――――後藤真希。嫌われ者の、気まぐれ帰郷。
59 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/01(金) 00:22

 正直、お日様キツイ。
 という後藤の申し出で、
 仕方なく飯田達は後藤と共に館内へと入った。
 ひんやりとした空気が漂う、一階ホール。
 豪奢なシャンデリアがぶら下がる、その下で
 小さな円卓を囲んで座る、飯田とれいな、そして後藤。
 無言の緊張感が空気をピリピリと振るわせる中、
 しかし後藤は気にした風もなく、グッと伸びをした。
 着ている服が黒のノースリーブゆえ、
 しなやかな白い両腕が露となっている。
「……ごっちん」
「ん〜?」
 ややあって、飯田が口を開いた。
 緊張を解かない厳かな声で後藤を呼ぶ。
 対する後藤は、のんびり聞き返した。
「なに?」
「…………………」
 眉も口も平淡にした飯田が、無言で円卓の上に身を乗り出した。
 そして後藤のノースリーブの胸元を掴み、グッと引き寄せる。
 鼻先がつくぐらいの近距離で、
 咎める飯田の声色は怒りに染まっていた。
「ここに来る前、食事してきたでしょ?」
「うん。そうだけど」
 しかし後藤は全く動じず。
 鬱陶しげに眉をしかめると、胸元にのびる飯田の手首を掴んだ。
「ていうか、苦しいんだけど」
「どうして…」
 引き離そうと後藤は力を入れるが、飯田も譲る気はないらしい。
 二つの力が拮抗する中、飯田は更に咎める。
「どうして、平気で、そう、人間を殺すの?」
「そんなの、生きる為に決まってるじゃん」
「嘘。ごっちんは、食糧としてじゃなく、遊びでも、殺してる」
「妖怪とか怪物とかって、みんな、そんなもんでしょ?」
60 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/01(金) 00:23
 一際強く、後藤が握力を強めると
 飯田の手首から先が砕けて散った。
 グッと口元を歪めて退く飯田に、慌てて傍らのれいなが手を伸ばす。
 そのやり取りを冷めた目で睥睨しながら
 後藤は服の胸元を直し、言い放つ。
「ごとーたちは一回死んでバケモノに転生してる。
 自分たちの負の想いが原因でね。
 つまりさ、怒り、悲しみ、物欲、ある意味それがごとーたちじゃん?
 だから、ごとーの行動ってバケモノの本能を遵守してるってことで、
 別に何の問題も無いんじゃないかな?」
「……ごっちんは、食糧として必要だから、
 その分は仕方が無いと、圭織は思うよ。生きるためだし。けど…」
 飯田の消失した右腕の先に涼風が一筋集結する。
 きらきらと輝きを放ちながら、風は手の形を創っていく。
 静かに風が凪ぐと、飯田の手は元通りになっていた。
「けど、ごっちんは明らかにやりすぎ。
 無闇矢鱈に世界のバランス崩したら、圭織たちのことすぐばれちゃうよ」
 れいなの頭を撫でつつ、後藤を睨む飯田。
 その視線を受け止め、後藤は「はぁ」落胆のため息を吐き出した。
「結局は、自分たちのためなんだねー」
 嘲弄を多分にのせて後藤、薄ら笑い。
 しかし飯田は怯むことなく、真摯に応対した。
61 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/01(金) 00:23
「そうだよ」
「………」
「結局は自分たちのため。だって、圭織たち生きてるし。
 でもさ、圭織たちはごっちんと違って誰にも迷惑をかけてないよ?
 本能もこうして抑えてるし、世界のバランスにも極力気を使ってる」
 言って、飯田は自身の双眸を覆うベルトに指先を這わす。
 後藤はつまらなそうに、それを傍観している。
「圭織たちは、平和に生きていきたいだけなんだよ」
「……平和、かぁ」
 後藤の口元に、再び嘲笑が浮かぶ。
 今まで椅子の背もたれに仰け反っていた身体を戻し、
 円卓に右肘を突いて、軽く握った拳の上に己の頬を置いた。
 そして余った手の人差し指をピンと立て、天井を指差した。
「じゃあ、あの子は?」
「………あの子?」
 クスリと笑う、後藤。
 れいなの耳が小刻みに震えていた。
「ごまかしたってぇ、ダメ。ごとーには分かるんだ。
 この上、ごとーと似たような空気が充満してる部屋がある。
 これは、平和的と言えるのかなぁ?」
 意地悪く口元を歪める後藤の前で
 飯田がスッと右腕を上げた。
 肩と水平にし、人差し指を後藤に伸ばす。
 直後、ニヤニヤと笑う後藤の顔、
 その眉間を全長60cmはあろうかという巨大な氷柱が貫いた。
62 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/01(金) 00:24
「…ごっちんとは一回、本気で話し合わないとって思ってたんだ」
 背後へと仰け反り、後藤は仰向けに倒れこむ。
 後藤の後頭部の下からだんだんと朱色が広がっていく。
 しかし後藤は、顔の半分を潰されながら
 辛うじて無事な口元を引きつらせ笑い、
 怨嗟の吐息と共に言葉を吐き出した。
「奇遇だね。ごとーも、だよ」
 刺さったままの氷柱を豪快に引っこ抜いて。
 瞬き一つの間にも満たない時間で、後藤の顔は完治していた。
 冷酷な輝きを放つ瞳が、飯田の姿を凝視している。
「れいな。亀井を」
「あ、は、はい…っ」
 突然呼ばれ、うろたえるれいな。
 しかしコンマ一秒で思考回路を復活させると、クルリと身体を半回転。
 猫特有の俊敏さで、一気にホールを駆け抜けた。
63 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/01(金) 00:24


ガッシャン、バリバリ、メキメキ、ドガ、グシャメシャ、バキ!!!!!!

 後、閉じた扉の向こう側。
 予想通りの”話し合い”が行なわれる音を、れいなは確認した。
64 名前:lily 投稿日:2005/07/01(金) 00:27
>>57 名無しさま
なんというか、後藤さん
こんな役割で申し訳ない。。。
亀ちゃんは・・・次回か、その次に。


更新が遅れて申し訳ありません。
暫く不定期更新は続きそうです。
65 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:26


 自分に出来ることはなんだろう。
 自問し、れいなは絵里の部屋の前まで来た。
 しかし答えは未だ分からず。
 だけど、やれることを精一杯やってみよう。
 心にそう決めて、れいなは唇を引き結び、扉を抜けた。
「え…り…!」
 入って直後、身体の隅々まで電気が走る。

 小さく狭い浴槽。
 その中に入り、茫洋と立ち尽くす亀井絵里の姿は一糸纏わぬ。
 れいなより育った胸部の稜線、
 これもやはりれいなより発育が進んでいる恥部。
 友人の裸身を目の前にして、
 切迫した展開なのにも関わらず、れいなはアワアワと慌てふためく。
66 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:27
 すると。
 虚空を見つめていた絵里の両眼が、そこで初めてれいなに向いた。
 しかし彼女のレンズに、れいなは映っておらず。
 果てしない虚無を、映し出す。
「えええええええええりっ!?ふ、ふきゅ、服、きっ」
 だが、その事にれいなは気付かない。
 相変わらず面白いぐらいにうろたえて、
 その場でじたばた不審な挙動を開始した。
 しかし。
 それを前にして尚、絵里の表情は揺るがない。
「れぇな・・・」
 慌てふためくれいなの前で、絵里は囁く。
 淡々とれいなを呼んで、ふとその時。
「えりね、こんなこともできるようになったよ」
 ボコリと膨らむ絵里の肢体。
 一拍の沈黙の後、音も無く、弾けて消えた。
67 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:28
「………え?」
 れいなの困惑の一声が、仄暗い浴室の壁に反響する。
 一欠けらの残滓も残さない、完全な消失。
 頭の中が混乱し、れいなはその場に立ち尽くす。
 すると、首を挟むように、ひんやりと冷たい感触が押し当てられた。
「ひやっ!?」
「すごいでしょ?
 えりね、いいださんみたいにすがたけせるようになったの」
 直後、耳元にかかる柔らかくも湿った吐息。
 れいなの尻尾から耳の先までがぶるりと震える。
 硬直してしまったれいなを
 後ろから絵里がその首に腕を回す。
 降り立つ静寂にどっぷり浸る、湿った空間。
 奇妙な構図のまま二人は、暫く静止していた。
68 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:31


「へぇ。中々いい感じだねー、キミ」
 れいなには数時間にも感じられた、時の流れ。
 実際は数秒にも満たないソレを断ち切ったのは、
 間延びした、ご機嫌な声。
 背後からではなく、
 嫌われ者のバケモノは、れいなの真正面
 擬態をとくかのように、背景から浮かび上がって現れた。
「後藤さん……」
「雪女が吸血鬼に勝てるわけないでしょ…ってね。
 ちょっと、きつかったけど」
 呆れたように呟く後藤。
 その身体には、先ほどの”話し合い”の痕跡。
 肘から先が消えた左腕、
 右胸を貫く氷柱、
 右太ももを斜めに貫くこれまた氷柱。
 他にも無数の切り傷、打撲傷、貫通銃創(ぽいもの)。
 一言で表せば満身創痍がしっくりくる風体であるにもかかわらず、
 後藤真希はフニャリと笑い、れいな越しに絵里を見つめていた。
69 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:33
 
 虚ろな目で、絵里は後藤を眺める。
 ふと、そこで。
 後藤が右腕、その先でピンと張った指先が絵里の額に触れる。
「初めは思い切りが肝心だよ」
 呟かれたとき見えた、後藤の鋭く発達した犬歯。
 薄く開かれた双眸の奥に、怪しい光をたたえ、後藤は
「パーン」
 のんびりした口調で言い、絵里の額を弾いた。
 銃の形を模した手が、天上に向かって掲げられる。
 れいなの首から、感触が消えた。
「えりっ?!」
 不安がれいなの身を縛る。
 その束縛を振り切るようにれいなは叫び、振り返った。
 だけど、そこに目当ての姿は見えず。
 汚れた扉だけが、黙ってれいなを迎えた。
「…っ後藤さん、絵里に何をっ」
 歯列を噛み合せ、れいなは振り返ったと同時、
 後藤に掴みかかった。
 だが、後藤の身体はピクリとも動かず。
 その顔は、冷淡な笑みを象る。
「まだ理性がちょこぉっと残ってたから、
 それを取っ払っただけだよ、ごとーは」
「っぐ…っ」
 言い終わると同時に、後藤はれいなの首を掴み、軽々と持ち上げた。
 苦悶の表情と声を漏らすれいなは、後藤から逃れようともがく。
 しかし、後藤は嫣然と微笑み、
 無情なほど力を入れた。
「か…は…ぁ…!」
「れいなは…もうムリっぽいね。
 圭織と長く居過ぎみたいだし。
 残念だなー、もうちょっと自分の抑制に拙かったら
 れいなもあの子みたいにしてあげたのにー。
 うーん、残念だー」
70 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:34
 のんびりひとりごちる間にも、れいなの首を締め付ける力は強くなる。
 小さな力で抵抗を示し、
 後藤の腕を掴んでいたれいなの両腕がだらりと垂れた。
 いい加減、意識が遠のき始めていた。
「ヨウカイの魂って、けっこう美味しいんだよね」
 後藤、べろりと舌なめずり。
 しかし、れいなはそれに気付かない。気付けない。
 首に更なる力が加わり、
 自分が散らばってしまいそうな、そんな感覚に襲われた。

 と。

 不意に、首から圧迫感が失せた。
71 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:35
「っぇほ!い、ぃた、ふっ、ふぁ…っ」
 浮遊感に次いで、浴室の床に落下。
 臀部を強打し、
 むせ返ると同時にその傷みで、れいなは半混乱。
 首を押さえつつれいなは、
 目の前に佇む、右腕も失った吸血鬼を見上げた。
 後藤の色の失せた瞳が、自らの腕を睥睨している。
 つと、後藤の視線はれいなの背後へと移動した。
「―――ごとー、傷なんかすぐ治るったって、
 それなりに傷みは感じるんだけど」
 結晶化する傷口。
 後藤はそこを握り、苛立ちを多大に込めて、握りつぶした。
 五指の合間から、潮のように血潮が噴き出す。
 数滴が、れいなの顔を汚した。
72 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:37
「―――もう一回、死んでみる?」
 俯き加減からあげられた、後藤の面。
 新鮮な血のように、真紅に染まった一対の虹彩。
 尖った瞳と、吐息を吐き出す時にのぞく犬歯が、
 後藤の憤激を物語る。
 背筋も速攻で凍るような後藤の言葉に
 れいなが慄いていた、その刹那に。
 同じような声色が、れいなの背後から放たれた。
「圭織は思う。ごっちんが死ねばいい、って」
 その極低温の声調に呼吸を止められること、一瞬。
 れいなは首元をつかまれ、扉の方へと放られた。
 流れていく景色の中、視界の隅に確認した、長身の女。
 
 雪色の着物をズタズタにされながら、飯田圭織。
 その白い肌を走る傷は全く在らず。
 しかし、その不思議よりも。
 れいなは、一つの事象に驚愕した。

――――飯田圭織が、ベルトを千切った。
73 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:39
◆◆◆

 無限に広がる闇の中、
 穏やかに眠っていた女性が目を覚ます。
 がりがりと、セミロングの髪の毛を掻き毟り、
 苛立ち眼を薄っすらあけて、身を起こした。
 しかし、次の瞬間には。
 端整な面貌は、貪欲な歓喜に彩られ。
 女性、大きく息を吸い込んで、一気に吐く。
 それだけで眠気を吹き飛ばすと、女性は
 鋭い双眸を一層鋭利にして微笑み、
 闇に溶け込んだ。

◆◆◆
74 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:40

75 名前:3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 投稿日:2005/07/03(日) 00:40

76 名前:lily 投稿日:2005/07/03(日) 00:45
3話 平穏にはいつしか亀裂がはいる 〜オワリ〜

次回より
4話 それ即ちストレス解消法(仮) スタート

新登場人物(予定)
藤本ミキティ

※次回よりの注意
男の影がちらりと出ます。
苦手な方、嫌いな方はご注意ください。

                    lily
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 09:08
うわぁ…画が浮かんでくるようですね。
登場人物の魅力が、作者さんの描写力で見事に引き出されており驚愕です。
期待して待ってます。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/23(土) 16:27
この話、大好きです。
ここまでの展開ですでにひとりひとりのキャラが生きていてすごいです。
第4話も期待しながら待っています。
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/03(土) 21:40
待ってます。
80 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/07(水) 19:51
■■■■■

『絵里が一番可愛いよ』
 囁き、男は少女の髪の毛を指に絡める。
『もう僕には絵里しか見えないから』
 男の手が、少女の頬へと降りてくる。
『きっと、これからも―――』
 男の手の上に、少女の両手が重ねられ
『絵里も―――』
 二人は見つめ合い、そして

 ―――ずっと、好き

 強く、抱きしめあった。

 好き―――お互いの気持ちを確認しあう、美麗な言葉。
 しかし、ともすれば。
 互いを憎む大きな起因となりえる、残酷な言葉。
 前者は彼から教えてもらい、
 だけど、後者も、絵里は彼から学ばせてもらうこととなった。
81 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/07(水) 19:51

 高校入学当時、偶然席が隣同士になった童顔の男の子。
 何のことはない、本当に偶然。
 確か、その後どちらかが消しゴムを忘れて、
 貸してもらったことがきっかけだった覚えがある。
 ベタな展開から、お約束のように親密度が増していき、
 自然、絵里と童顔の男子は付き合うこととなった。

 周りのカップルと変わらない。
 極々普通に互いを好きあっていた。
 だからこそ、両者は互いに信頼しあい、仲を深めていった。

 その間、何度も囁いてもらった、『好き』その言葉。
 絵里も何回同じ言葉を返したか、覚えていない。
 絵里は、この関係はずっと続くものだと
 信じて止まなかった。

 それだけに、
『別れよう』感情の全く篭らない瞳を向けられ
 そう告げられた時は、困惑した。
 ありえないと確信していた言葉が飛んできて。
 そこから、自分の感情がはじけるように霧散していくのを自覚した。
 
『好きな人が出来た』
 何だというのだろう。
 初めは絵里のことが一番だといっていたくせに。
 言ってからギュッと抱きしめてくれたくせに。
 その一番は偽りなのか…あの抱擁の強さは偽りなのか…。
 分からなかった。
 何を考えても脳内がグチャグチャになって、
 絵里はそれから亡羊と日々を過ごす。
 学校にも行かず、カーテンを閉め切った部屋の中
 タンスとタンスの間に篭り、涙を流した。
 枯れるのではないかというぐらい流した涙は、
 しかし決して枯れることはなく。
 
 どれくらい経った頃か。
 自然の流れで枯れない涙は止まり、
 そしてそれに取って代わるように一つの感情が浮き上がってきた。
 
 人間誰しもが、一生に一度は必ず向き合う負の感情。
 勿論、絵里も短い生涯で何度か対面したことがある。
 しかし、今回のものは今までのそれとは比べ物にならないほど
 どす黒く、ドロドロで、獰猛だった。
 どんなに抑えようと努めても、
 静まるどころかソレは更に肥大し絵里を蝕む。
 
 このままでは取り返しのつかないことをしてしまう。
 そう絵里は確信を持った。
 だから、本当は嫌だと叫ぶ本能を振り切って
 絵里はまだ理性が残るうち、その身を大海原へと投げた。

 しかし、結果どす黒い感情は妖素へと転換し、絵里に力を与え
 その代わりに、一部の記憶を縛り付けた。
 ……ある少女の何気ない一言で思い出してしまうぐらい
 緩んだ紐を使って。

 無意識下で、忘れてしまったことを喜んだ絵里は
 今、湧き立つ欲望――負の感情に歓喜を感じている。

―――――その負の感情を、ヒトは憎悪と呼んでいる。

82 名前:lily 投稿日:2005/09/07(水) 19:58
期間空いた上に、極少量更新なのでsage。
申し訳ありません。。。

>>77 名無飼育さんさま
そう言っていただき、書き手としては嬉しい限り。
読者の方にその場面が思い浮かぶよう書きたいと
常々思っておりますゆえ。

>>78 名無飼育さんさま
やっぱり好きなので、皆ちゃんと生かしてやりたいです。
ので、そういわれるととても嬉しいしだい。

>>79 名無飼育さんさま
お待たせしすぎて申し訳ありません。


●この回は男の影が出て、しかもあまりにも下品な描写を使用します。
 そんな彼女達を見たくないとお思いの方は
 見ないことをお勧めいたします。
                            lily
83 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:45
■■■■■

 小さな黒猫へと姿を転じ、
 れいなは身体中にびんびん感じる霊気を辿っていた。
 姿が見えると色々と面倒なので、現在れいなは不可視の状態。
 故に、周りをうろつく雑踏は決してれいなに気がつかない。
(……ヤバか)
 四肢で石畳を素早く蹴り、れいなはひた走る。
 心中を際立つ焦心に包まれながら、
 濡れ女である友人が残す霊気を辿っていく。
(……こげな・・・でかくて、狂った、霊気放っとったら、アイツラが…っ)
 冷たく、残酷で、かつ歓喜に満ち溢れた、それは殺意。
 れいなが感じられるほど肥大したその気は、
 同時に招きたくない客人を招待してしまう結果へと、直結する。
 事実、以前飯田の時もそうだった。
(れなが、止めんとっ)
 細かったり太かったり綺麗だったり毛むくじゃらだったり。
 人それぞれに異なる脚。
 無雑作に動くその合間を、れいなは縫うように進んでいく。
 焦りと共に奥歯を噛み締めた。

 その丁度真上。
 どこまでも続いていそうな碧落の一点、
 一瞬波紋が広がって、刹那には大きく歪んでいた。
84 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:46


 港に立ち並ぶ大きな倉庫のその屋根に、
 絵里は佇み、一組の男女を睥睨していた。

 ただ、何となく判った。
 そこにアイツがいると。
 すると案の定に、ソイツは居た。
 絵里の知らない女と肩を並べて、
 絵里のよく知っている夕焼けを眺めている。
 水平線に沈もうとしているオレンジ色の太陽。
 その華美さとは対照的な絵里の心中。
 憎いと思った、殺したいと思った
 不幸になればいいと思った、残滓も残さず消え去ればいいと思った。

 だから、やろう、思って口角吊り上げた。

 有耶無耶に覚えている。
 告白された思い出のこの場所で、
 現彼女諸共、その存在、全てを否定してやろう。

 収縮した虹彩で眼下のカップルを射抜き、
 絵里の身体は弾けて、水滴となる。
 一拍の間すらも置かず、絵里はカップルの傍らへと降り立った。
 夕焼けを見、会話を楽しむカップルは、絵里に気付かない。
 その当然の結果でも、絵里を苛立たせるには十分すぎた。

 絵里はゆっくりを伸ばし始めていた腕の動きを、
 不意に止める。

 夕日が沈み、オレンジ色が水平線を走る、まさにそのタイミングで。
 男が、優しく女と唇を重ねた。
 僅か一瞬の出来事。
 離れたカップルは互いにはにかみ、微笑みあう。
85 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:46

 ブツリ、と何かが切れる音。
 ザワリ、と綺麗な黒髪が逆立つ音。
 ククッ、と濡れ女の喉が愉悦と怨嗟、赫怒と歓喜に唸る音。

 その時、何でもできる、そんな感覚が絵里の心中に渦を巻く。

 絵里は男の肩に、そっと手を置いた。
 ビクリと、男は悪寒を感じ、振り向く。
 驚愕に彩られた表情は、後に戦慄へと転じる。
 大きく開いた口腔が、断末魔の絶叫を搾り出そうとするその前に
 絵里は青白い肌の上に、冷酷な笑みを貼り付けた。

86 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:47

 妖怪の類は、ただ自分から姿を見せぬよう図っているだけであり、
 僅かな工夫を取り入れれば顕現させることなど容易。
 多分、今の絵里にもそれは当てはまる。

 焦心が膨れ上がる中、
 黒猫れいなは倉庫と倉庫の狭間、そこの作り出す闇から飛び出した。
 クルリと空中で一回転、その後着地。
 そして、眼前に広がる光景に、息を呑んだ。
 
 日が落ち、数多の星が広がる空の海。
 ぽかりと浮かぶ満月が、下界の海にも反射している。
 ゆらゆら揺れる、海に映る月
 それを背景に、煌く巨大な球体が一つ、浮いている。
 円形に近いが、蠢き決して形態を留めないそれは
 球体の前に佇む少女の所業。
 その証拠に、少女は笑っている。
 球体に包まれもがき苦しむ一組の男女を眺めて、
 妖艶に微笑んでいる。
87 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:48
「えりっ!!」
 その後姿に言いしれない懸念と危惧を感じ、
 れいなは叫び、駆け出した。
 少女の背中が、だんだんと近くなる。
 しかし、その距離が0となることはなく。
 少女の背後5メートル。
 飛びつけば届くという距離で、れいなの身体を球体が包む。
 口を開けば気管に侵入してくるそれは、紛うことのない水。
 僅かに喉を通過する冷たい感触を覚えたのと、
 れいなが身の危険を感じたのはほぼ同時。
 黒猫れいなは咄嗟に前足で口と鼻を塞いだ。
「だめだよぉ、れぇなぁ」
 水球に包まれたままれいなは宙に浮く。
 前方の球体に手を伸ばしたまま絵里は、半身を捻り、れいなに微笑みかけた。
「じゃましちゃあ、だめ」
 「ね?」と首をかしげる絵里に、れいなは叫ぶ。
 しかし声は水中に四散し、言葉は水泡へと転じる。
 しまったと懸念するも、遅く。
 気管に侵入してきた水が、否応なしにれいなに苦しみを与えた。
 それを見届け、絵里は再び前方に向き直る。
 もがきながられいなは、絵里の行動を薄目を開けて観察し

 ―――――――
 溺れてしまうという危機感が
 別の感情へと変化した。
88 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:48

「仕事増やさないでよ、妖怪風情が」

89 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:49
 パチンと割れる二つの水球。
 ザバリと形を失った水が流れて、
 れいなはコンクリの上へ
 男女二人は海の中―――のはずだったが。
 一組の男女は、落ちていく中で急激に軌道を変え、
 コンクリの上に打ち付けられた。
 それから気管にたまったであろう水を咳と共に吐き出しながら、
 わけも分からないといった表情で、それでも怯え。
 走り去っていった男女を、しかしれいなは見ていない。

 こちらも水を吐き出し、見上げた月、そのふもと。
 そこにいる二人を見て、れいなは絶叫を上げた。
「えりっ!?」
 持ち上がる華奢な身体は濡れている。
 しかし今回は水だけでなく、自身から流れ出す、
 見たことも無いような得体の知れない、淡い色の光が混ざる。
 光は、西洋刀が深々と突き刺さる、その部位から流れ出ていた。
「ぅ、ぁ…?な、にコレ??い、たいの?」
「痛くないでしょ?」
 戸惑う視線で自分の身体を貫通する西洋刀を見おろす絵里は
 その感覚が分からず、思わず首をかしげた。
 そこに声が一つ割って入る。
 苛立たしげな
 愉しげな
 冷徹な
 残酷な。
 すべてが混ざった淡々とした声の発生源。
90 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:50
 絵里が見おろす先には、ニヤリと口元だけで笑った黒装束の女性。
 そこで絵里は、この女性が自分を刀で貫いたのだと認識した。
「気持ちいい、気持ちいいんだよ。その感覚は。
 だって美貴がわざわざ念込めて、
 痛くないように、気持ちいいようにってした剣だもん。
 最期なんだから苦痛じゃなくて、快楽におぼれて死にたいでしょ?」
「ぁあっ!!」
 女性が、西洋刀をもった右手を軽く捻る。
 そうすると必然的に剣も捻られ、絵里の傷口が広がった。
 それでも、絵里の開いた口唇から漏れるものは悲鳴でなく
 限りなく嬌声に近い響きを持っていた。
「ね?濡れちゃうでしょ??」
「…っ!やめるったい!!」
「あん?」
 まだ僅かに力が入らない身体に鞭を打ち、れいなは勇んで立ち上がる。
 猫から人間へ。
 戻しても戻らない頭頂の耳をピンと立たせ、
 鋭く細くなった瞳孔で女性を睨みつけている。
 しかし、女性は気にせず、れいなの全身をまじまじと眺め、
 口元に愉快げな笑みを象った。
91 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:50
「アンタ、いい感じじゃん」
 ゾクリと全身が震えた。
 ゴクリと息を呑む音がやけに大きく聞こえた。

 震撼し固まってしまったれいなの体を
 女性は容易に引き寄せた。
 右手を左右に捻りながら、
 近づいたれいなの頬を舐めながら、
 優しく冷酷に囁く。
「ちょっと待って。コレ消したら、次、アンタだから」
「ぅあんっ」
 絵里が喘ぎ、れいなは引き戻される。
 固まった意識が再び回転を開始した。
「…っ!だ、だめやっ」
 叫んで、至近距離にあった女性の頬を殴打した。
 力を一杯に込めて、
 全身の力を使って振りぬいた右フック。
 しかし女性、顔の向きを僅かにずらされただけで了し。
 でも戸惑うことなく追撃を試みるれいな。
 その首を、女性の左手が捕らえた。
92 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:51
「お前、今何した?」
 上下に振られる右手。
 次いでどさりと何かが落ちる音。
 れいなが尻目で確認すると、
 絵里が腹部の傷から光を出しながら倒れていた。
 絞首の力が強くなる。
「たかだか妖怪風情が」
 首に掛かる力が更に強まり、意識が薄れた。
 ぼんやりとする視界の先に、きらりと鈍く光る尖端が見える。
 ヤバイな、と思うとすぐに。
 来た。
「う、わあ!ぁあああ、ひぃあ、やあぁうくぅぅぅイぃぃイイいい!!!」
「美貴に、何をした?」
 首に掛かる力がなくなり、
 押し寄せるものは快感の怒涛。
 腹部を貫く女性の剣から撹拌され、足の指先から旋毛まで。
 全身をくまなく、恐ろしいほどの快感が襲う。
 痙攣する身体と意識で認識できたものは
 恥部が熱い
 ただ、それだけだった。
93 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:51

 びくびく痙攣するれいなを、
 女性は右手を振りアスファルトの上へと放った。
 冷酷な笑みの下、放心するれいなを眺め
 右足首を切断した。
「ひ、っい、ィ、ひっ」
「ククク。傑作だね」
 腹部から、足首から淡い色の光を垂れ流すれいなを
 女性は嘲笑の末、蹴り飛ばした。
 ゴロゴロと固い地面の上を転がり、
 落ち着いたところで、れいなの太腿の辺りがじわりと濡れた。
 アスファルトも水分を吸って、黒く変色している。
 女性は、いよいよ高らかに。
 大口を開け、星空を仰いで、哄笑した。
「アーハッハッハッハッハッハッハ!いいよ、いいよ!すっごくイイ!
 キミはどうやら処女のまま死んだみたいだ。
 経験がないから、美貴の剣の刺激に耐えられなかったんだね??
 だから、おもらしするぐらい絶頂しちゃったって、そういうことだね!?
 面白いよ!今時、そんな子あんましいないから。すっごく、キミ、良いじゃん!」
 剣を地面に突き刺し、
 腹を抱え大笑いする女性の姿は、心底愉快そうだった。
94 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:52
 暫し哄笑は月夜に響き、

 唐突に止んだ。

「あ〜愉快愉快」
 目尻に滲んだ涙を指先で掬い取りつつ、女性は剣を引き抜いた。
 月光を受けて刃が怪しく光っている。
 そこに付着した淡い光の残滓を眺め満足そうに頷くと、
 女性は振り向き、剣を横一文字に振るった。
 パシャリと。
 形を崩した水球は、ただの水へと回帰し、アスファルトへと染み込んだ。
 女性は、水球の根源を睨みつけ、舌打ち。
 不快げに双眸が細まった。
「どうにも、今回は…クソ生意気な妖怪が多いらしいね」
 腹部より溢れる光を手で押さえ、
 絵里はまっすぐ左手の人差し指を女性へと向けていた。
 片膝をつく彼女の表情は、苦悶に歪んで、頬が赤い。
 一見、快感と苦痛が入り混じっているよう見えた。
「まったく…これじゃ、ストレス減らないじゃん」
 ぼやき女性、一歩前に踏み出す。
 絵里の指先から野球ボール大の水球が飛んでくるが、
 女性は難なく切り払い、絵里へと近づいていく。
 だんだんと水球を放つ間隔が長くなり、
 その大きさが小さくなっていく中、絵里は呟いた。
「あ、なたは、何なの…?」
「美貴?」
95 名前:4話 それ即ちストレス解消法 投稿日:2005/09/19(月) 13:52
 伸びていた絵里の左手首を切り落とし、女性はニコリと笑う。
 快楽がびりりと全身を痺れさせる中で、絵里は聞いた。
「美貴は美貴。死神、藤本美貴」
「ぅぐっ」
 女性―――藤本美貴の左手が絵里の首を掴み、持ち上げる。
 その際、失った左手に意識を集中させてみたが
 変化はなく。
 淡い光がボタボタと零れ落ちる中、身体を小刻みに痙攣させ
 絵里は藤本の言葉を反芻した。
「死に、神…?」
「そ」
 頬を紅潮させ、それでも苦しげに顔を顰める絵里に対し
 藤本はニコニコと空虚な笑顔。
 そして、続けた。
「死者の魂を幽界に導く、その死神」
 ドスリと。
 絵里の右肩を、剣が貫く。
 ピリリと感じる苦しい快楽を耐えるように顔を顰め、
 藤本をにらみつけた。
「み、導くはず、の、死神が、なん、で、こんな―――」
「そんなの――――」
 藤本は剣を引き抜き、さも当然のように、飄々と告げた。

「ストレス解消に決まってんでしょ」
96 名前:lily 投稿日:2005/09/19(月) 13:54
ちょっと下品なのでochi。

4話 それ即ちストレス解消法 了

次回より
5話 (タイトル未定)開始
97 名前:名無し読者 投稿日:2005/09/23(金) 23:26
久々にSの美貴様を見た気がする・・・

絵里の憎悪は解消されたのかな?気になるっス
98 名前:我道無壊 投稿日:2005/10/31(月) 23:48
ひと月ほど前から愛着が
娘。と娘。小説を書くことに対する愛着が消えていきました。
まことに身勝手で申し訳ありませんが、
ここに放棄を宣言させていただきます。
娘。小説を書く事は、恐らくこれからはないと思います。
色んなことを勉強させていただき、ありがとうございました。
そして、様々な方に迷惑をかけて申し訳ありませんでした。

我道
99 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/07(月) 00:29
…………え?
100 名前:名無し読者 投稿日:2005/11/07(月) 17:47
放棄・・・?

いつも思う。
どうせもう書かないんなら、この先どうするつもりだったかってネタバレしてくんないかな?
気になってしょうがないじゃん。
101 名前:名無し読者 投稿日:2005/11/11(金) 22:57
海@「INSANITIY」でも同じ放棄宣言見つけた。
lilyさんと「我道」同一人物?
新種の荒らし?
正直困惑してます。作者さんから何らかの補足があるとありがたい。
とりあえず読者は冷静に見守りましょう。
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:11
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
103 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/29(木) 05:22

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