ショートストーリーズ。

1 名前:240 投稿日:2005/04/27(水) 21:31
以前ここで書いてました。
久しぶりに書きます。

いろいろな組み合わせで、
よし、みき中心かもです。

どうぞよろしく。
2 名前:ヤキモチ 投稿日:2005/04/27(水) 21:33


「よっちゃんさんさぁ」
「ん?」
「ヤキモチとか、…妬かないワケ?」



なんですかどうしたんですかフジモトさん。
その質問の意味がわからないんですけど…って意味くらいわかるか。
わからないのはその質問の意図。そしてミキティの今の気持ち。

「突然どうしたよ?」
「質問の答えになってませんー」
「や、ていうか、なぜにそういう質問が出るのよ」

そうだよあたしの言う通り。
なぜにその言葉が出てくるのか。
あたしにはよくわからない。
3 名前:ヤキモチ 投稿日:2005/04/27(水) 21:33

「…例えばさぁ、美貴が梨華ちゃんと一緒にいて、じゃれあってたりするじゃん」
「うん」
「その時、よっちゃんさんはどういう気持ちになってる…のよ」


なんですかどうしたんですかフジモトさん。


「や、普通に仲いいんだなぁ、みたいな」
「…ふーん」
「なによぉ」
いつものフジモトさんらしくないですよ。
元気ないし言葉に力入ってないし目力弱まってるし。

「じゃあ質問変えます。いいですね?」
「はいな」

「…例えばさぁ、よっちゃんさんとまこっちゃんが一緒にいて、じゃれあったりするじゃん」
「うん」
「その時、よっちゃんさんは何を考えてる…のよ」
「何…って」
4 名前:ヤキモチ 投稿日:2005/04/27(水) 21:34

…あー、わかった。


あたしってば、相当鈍感だね。



「ミキティ、ラブ」
「は?」
「だから、ミキティ、ラブ」
「なによ、それ」
「いや、だから…」
「あーもうわかったから!もういいよ、答えなくて」

ミキティは膨れ面。
はりせんぼんのような、とげとげしい膨れ面。
その膨らんだ頬を、指でつついてからあたしは口を開く。


「あの、さ。いくらメンバーとじゃれてたってさ」
「…」
「あたしの気持ちは変わらないよ?」
「…うん」
「そこはさ、心配しなくて大丈夫だから」
「…わかってる、わかってるんだけどさぁ」
「うん?」


「どうしても、ヤキモチ妬いちゃうんだよ、美貴」
5 名前:ヤキモチ 投稿日:2005/04/27(水) 21:35
顔を真っ赤にして言うミキティ。
恥ずかしいのか、あたしの胸に顔をうずめる。

「なーんかね、よっちゃんさんモテるからさぁ、どうしてもね」
「えぇ、あたしモテないよぉ」
「自分で気づいてるクセにー」
「たは、バレた?」
「バレバレ。少しくらい隠しなよぉ」

普段は出さないその甘ったるい声に、戸惑いながらもあたしも頬を赤らめる。

「あ、よっちゃんさん赤くなってるー」
「ミキティもじゃん」

目が合って、お互いに笑顔を見せる。
照れくさいような、そんな感じで。

あたしはミキティをぎゅっと抱きしめてから、ミキティの目線に合わせた。
6 名前:ヤキモチ 投稿日:2005/04/27(水) 21:36
「ウチさぁ、結構ヤキモチやかれるの好き」
「何よそれ、美貴を困らせたいのー?」
「や、だってさ、好きだからこそ、そうやってヤキモチやいちゃうワケじゃん」
「うー、確かに」


これってすごいワガママ。
でも、相手の愛情を1番感じられる。そんな気がするんだ。


「じゃあ、よっちゃんさんを好きになった美貴は、ヤキモチをやかざるを得ないのね」
「や、無理してやくもんじゃないと思うけど」
「無理しなくてもやいちゃうんですよーだ」

べーっと舌を出して、お馴染みの小悪魔スマイル。
そんなミキティに、思わず笑顔がこぼれる。

「じゃあ美貴がヤキモチやくぶん、よっちゃんさんにはその代償を払ってもらわなくちゃねぇ?」
「えー、そんなぁ」
7 名前:ヤキモチ 投稿日:2005/04/27(水) 21:36

ちゅ。

にぃ、と笑ってあたしの顔を覗き込んでいたミキティに不意打ちのキス攻撃。
油断していたミキティの顔は、一気にまっかっか。

「なっ…!」
「代償は、まだ払い足りない…よね?」
「…ばかよっちゃんさん」


代償を払いすぎるくらい、あたしはミキティのこと、愛するよ。


「ミキティ、ラブ」
「だから、なによそれ」
「だから、ミキティ、ラブ」
「あーもう!わかったってばー」

もう一度、膨れ面になるミキティ。
でも今度はハリセンボンじゃなくて、赤い風船のようで。

今度は指で突いて壊さないように、そっとキスをした。
8 名前:240 投稿日:2005/04/27(水) 21:37
ヤキモチ(よしみき)でした。

今日はこのへんで。
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/04/27(水) 21:51
あまーい。こんなお話もっと希望です。
10 名前:ひろいもの 投稿日:2005/04/28(木) 20:49


「わん」


道端のダンボールで、一度だけ鳴く捨て犬。
一度だけ鳴いて、それからもう二度と鳴かない捨て犬。
そしてその潤んだ瞳で、遊んで、と言わんばかりに美貴を見つめる。


あぁ、まだこの犬は、自分が捨てられた事に気づいてないんだ。


しきりに振る尻尾は好奇心を表していて、
決して拾って、というサインではない。

ただ今は、狭い部屋に入れられただけだと、信じ込んで。
ただ今は、いつもと違う景色を見ているだけだと、信じ込んで。


いつもと違う広い景色は、この犬にはどう見えているのだろう?
11 名前:ひろいもの 投稿日:2005/04/28(木) 20:50
―――――

「…で、拾ってきちゃったんだ、捨て犬」
「…ごめん」

美貴は気がつくと、捨て犬の入ったダンボール箱を抱えて、よっちゃんさんの家に来ていた。

「ま、ウチはペット大丈夫だからかまわないけど…」
「いや、美貴が世話するからよっちゃんさんは気にしないで」
「気にするなって言っても、…な〜んか情が湧いちゃったんだよね、コイツに」

おーよしよし、と、捨て犬を抱きかかえるよっちゃんさん。
すると捨て犬は、安心したのか眠りに入ってしまった。

「ありゃ、寝ちゃったみたいだね」
「ホントだ」
「寝るの早すぎ!」
「あはは」
「なんか箱みたいのあったかな?コイツの寝床作らなきゃ」
12 名前:ひろいもの 投稿日:2005/04/28(木) 20:51

眠っている捨て犬をそっとソファに降ろしてから空き箱を探すよっちゃんさんを、


「…ん?どうしたミキティ?」
「…」


思わず美貴は、腕を掴んで止めていた。

「どうかした?」
心配そうに美貴の顔を覗き込むよっちゃんさん。
でも、美貴は何も答えられなくて。



今まで狭いところにいたのに、また狭いところに置くのは嫌だよ。
コイツは、よっちゃんさんの広い腕の中に安心して眠ったんだよ。



こう言いたかったのに、言葉になって出てこない。
美貴はよっちゃんさんの腕を掴んだまま下を向いてしまった。
13 名前:ひろいもの 投稿日:2005/04/28(木) 20:51
なぜ、こんなにもこの捨て犬に、情が湧いてしまったのかわからない。
けど、犬の叫びが美貴の心に響いたような、そんな感じがして。

「ミキティ…?」
「せまいのは…、いやだよ…」

ようやく出せたこの言葉。
涙も混じって、聞き取れないくらい小さな声だったけど。


ふわり。


美貴の涙が床にぽたり、と落ちるのと同時に、
美貴の体が、優しい腕の中に引き込まれた。

「よっちゃ…さ…」
「ここの中なら、広いかな…?」

ゆっくり顔を上げると、にぃ、と笑ったよっちゃんさんの顔。
美貴はすごく安心して、また泣いてしまった。
14 名前:ひろいもの 投稿日:2005/04/28(木) 20:52
あぁ、この人はどうしてこんなにも広いんだろう。

この腕の中も。

この心も。


「なーんか、さ。この犬に情が湧いちゃったのは、この犬がミキティに似てた、そんな気がするからなんだよ」


今幸せそうに眠っているこの捨て犬は、美貴そのものだったのかもしれない。



本当は、捨てられたことに気づいていながらも、
まるで気づいていないかのように、取り繕って尻尾を振る。
いつか、優しい飼い主が拾ってくれることを信じて。
いつか、この狭い空間から開放されることを信じて。


「もう大丈夫」


いつか、広い腕の中を持った拾い主が現れることを信じて。


いつもと違うその広い景色も、あなたとなら大丈夫。
15 名前:240 投稿日:2005/04/28(木) 20:54
ひろいもの(みきよし)でした。
おそらく次もみきよし。
何か要望があればどうぞ。

>9さん
レスありがとうです。
今回のは甘いというよりはすこししょっぱいですね。
また読んでいただけたら嬉しいです。

今日はこのへんで。
16 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:34

例えば。
洗濯をするときに洗剤を適量入れたはずなのに、
ちゃんと濯がれてなかったらどうしようって思うようなあの感じ。

例えば。
メイク落としと洗顔が同時にできる洗顔料を使うとき、
顔の汚れが本当に落ちたのか不安で、今度は洗顔専用の洗顔料で顔を洗うようなあの感じ。


ちょっとした不安が、よっちゃんさんの「好き」にはある。
17 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:35

「おぉ!ごっちん久しぶりー!」
「よしこ!ホント久しぶりだねぇ」
「会えなくて寂しかったよー」
「ごとーもだよっ」

あるテレビ局の廊下。
親友との再会を喜ぶ、何の変哲もない姿だ。
美貴はさっき買ったコーヒーを右手に、その姿を見つめる。
嬉しそうに会話をする姿を見て、思わず力が入って缶コーヒーの冷たさが手のひらに伝わる。

「そういやこの前、買い物行ってさぁ。よしこ好きそうなアクセ見つけたからあげるよ」
「ホント!?」
「んと、…あった!これ。どうよ?」
「うわぉ!超かっけーじゃん!大好きごっちん!」

目をキラキラさせて喜ぶよっちゃんさん。
そんなよっちゃんさんを見て、他には見せないような笑顔を見せる後藤さん。

…別に親友同士で再会を喜ぶ姿を羨ましく思っているわけじゃない。
…別に美貴も、アクセが欲しいわけじゃない。
美貴にも亜弥ちゃんという親友がいるし。
美貴もたくさんお気に入りのアクセ持ってるし。
18 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:36

…ただ、今ここにいる人が、よっちゃんさんってことが気に入らないだけ。
19 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:36
「よっ、ミキティ!」
そこに、テンション高めの矢口さんが足取り軽くやって来た。
「あ、矢口さん」
「うわ、なんだよーそのそっけない態度!」
「いつもですよ」
「ちょっと、少しくらい絡んでよー」
美貴の周りできゃいきゃい絡んで来る矢口さんを軽くかわす。
それにしてもアレだね、気分が乗らない時に絡んで来る矢口さんの扱いほど、つらいものはないね。
だって…。
「ちょっとミキティ!この前石川がさー」
「…」
「ちょっと聞いてるー?」
「聞いてますよ。一応」
「一応ってなんだよっ」
かわしてもかわしてもついてくる、なつっこい子犬よりタチの悪い矢口さん。
けれど、そんな子犬と違うのは、
20 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:37

「あ、気になるんでしょ、よっすぃ〜のこと」


妙に勘がいいところ。

「そんなんじゃないですよ、別に」
「ウソつけー!ずっとよっすぃ〜の方見てたじゃん」
「気のせいです」
「気のせいかぁ。ミキティがよっすぃ〜のこと気になってるっていう気のせいかぁ」
「なっ…!」
ちょっと動転してしまった美貴を見逃さないのも違うところ。
そして。


「ヤグチがさ、聞いてあげるよ、ミキティの気にかかってること」


人一倍優しいのも、子犬と違うところ。
すとん、と美貴の隣に腰掛けて、じっと美貴の顔を見つめる矢口さん。
今の言葉が、ふざけて言ってるんじゃないっていうのを、目で語ってる。
美貴はその矢口さんの目を見ると、自然と気分が落ち着いてきた。
21 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:37

「なーんか、ですよ」
「うん」
「よっちゃんさんって、モテるじゃないですか」
「そーだねぇ。なんであんなにモテるんだ、あいつー」
「そうですよー」
「でもねぇ、ヤグチもよっすぃ〜のこと大好きだからねぇ」


そう、まさにその言葉。


「矢口さん、今『大好き』って言いましたよね」
「え?あぁ、うん」
「それなんですよ」
「どういうこと?」


「よっちゃんさんの『好き』には、不安があるんですよ、少し」
22 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:38
よっちゃんさんはモテるから、たくさんの人に好き、って言われる。
そしてよっちゃんさんは優しいから、たくさんの人に好き、って返す。
その意味の『好き』は、美貴に向けられている意味と違うんだって頭じゃわかっている。
よっちゃんさんも、ミキティに言う『好き』は違うよって言ってくれてる。

それでも。


不安になっちゃう美貴は、ワガママでしょうか…?


「ふーん…。なるほど、だよね。わかるよその気持ち」
ふむふむ、と腕を組んでうなずく矢口さん。
「あれだよね、よっすぃ〜は他の人にもすぐに『好き』って言うから、
 特別な存在であるミキティに向けられる時に、特別な意味を失われている気がするってことでしょ?」

そうですまさにその通り。
こく、と首を縦に振る。
23 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:38
高価なダイヤモンドが、たくさん取れてしまったら価値はなくなっていく。
トリュフが、そこらへんの畑からたくさん取れるようなものなら、価値はなくなっていく。
それと同じように、よっちゃんさんの『好き』が、安っぽいものになってしまったら。

…嫌なんですよ。すごく。

それだけ美貴にとって、価値あるものだから。


「…こういうとき、日本語って紛らわしいな〜って思うんだよね」
「はい?」
「だって日本語の愛情表現って、きわどくない?同じ『好き』って言葉でも意味が違ったりするじゃん。
 それでよく勘違いしちゃう男子中学生とかいたりするし」
「あ〜…」

友達としての『好き』と、恋人としての『好き』。
言葉にしなくちゃわからない。
24 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:39
「でも英語はハッキリしてる。『LOVE』と『LIKE』じゃまるで違うもん」
「そうですよね」
「ま、シャイな日本人には、あいまいな表現が似合ってるのかもしれないけど」
「あはは」
「その2つの間の微妙なニュアンス、っていうのかな。おそらくそれが、ミキティの不安材料になってるのかも」
「え…」

矢口さんは足をブラブラさせて、その勢いで立ち上がる。

「『好き』は簡単に言える言葉だよね。あの歌手好き、とかさ。
 でも『愛してる』ってなると全然違う。心が入ってる感じじゃない?
 だから言う方も、軽々しく言えない。
 でも、ミキティ。ミキティは『愛してる』って言われたことあるっしょ?」
上を見ていた矢口さんが、美貴の顔を覗き込む。
美貴は不意打ちを食らって、少しだけ後ろに下がる。
「あ…、ありますけど…。ほとんど言ってくれませんよ」
「でも、あるんじゃん。ヤグチはないよ」

…は?どういうこと?
美貴が腑に落ちないような顔をしていると、矢口さんは再び上を見上げる。
25 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:39
「よっすぃ〜はさ、本気で好きな人にしか『愛してる』って言わないよ。
 その一言で、よっすぃ〜のミキティに対する『好き』の意味は深くなるんじゃない?」

矢口さんがにこっと笑う。

…あ、そっか…。
そういうことか…。

ダイヤモンドが少ししか取れないから高価なように。
トリュフが好条件じゃないと取れないから高価なように。
よっちゃんさんの『愛してる』は、たまにしか言わないから意味が深いんだ。


それはいつもの『好き』にある、ちょっとした不安を全て吹き飛ばしてしまう。
26 名前:ラブ・ライク 投稿日:2005/04/30(土) 20:39
「なんか…、わかった気がします」
「ホント?よかった」
「だいぶすっきりしました。ありがとうございます」
「なんかミキティにお礼言われると変な感じだなぁ」
「なんですかそれー!」
きゃはは、と笑う矢口さんを見て、美貴もつられて笑った。

右手に掴んでいた冷たい缶コーヒーはいつのまにかぬるくなってしまっていたけど、
それでもかまわず一気に飲み干した。
口の中に、安っぽい甘さが広がったけれど、
その甘さが気にならないほど、美貴はすっきりしていた。


『好き』と『愛してる』の間の不安。
『LOVE』と『LIKE』の間の意味の違い。


それは見えなくて、想像しているよりも大きいものだけど、
その意味は、さらに深いものなんだろう。

大切な意味を持っているんだろう。
27 名前:240 投稿日:2005/04/30(土) 20:40
ラブ・ライク(みきよし)でした。
なんか言いたいこと言えてません…。

今日はこの辺で。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/02(月) 18:22
こんなテンポすきです。
みきよしってこういう関係だと思うんですよね。
29 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:26


「よしっ…と」


化粧水と、乳液と。
毎日欠かさずやってきたお肌のお手入れを終えて、ぱちん、とふたを閉める。
時計を見ると、もう11時を回っていた。


「もう寝なくちゃね…」

もそもそ、とベッドに入って、スタンドライトをスイッチオン。
携帯のアラームもしっかり確認。
念のために二重、三重にセットしちゃたりして。

ライトを消す。
部屋が暗闇に包まれる。
あまり眠気はないけれど、明日のために目を瞑る。
目を瞑れば、いつかは眠りにつく。
眠りにつけばすぐ朝が訪れる。

いつも通りの朝。
だけどそれは、明日の私にとっては、特別な朝になる。


武道館。
モーニング娘。としてのラストステージ。
30 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:26


「早いなぁ…。もう卒業だよ…」

思えば5年前のこの頃に、右も左もわからず芸能界に飛び込んだ。
あいさつだとか、礼儀だとか、いろんなことを教えられ、
そしてダンスや歌、トークを教えられ。
怒られては泣いて、褒められても、泣いて…。

「…っく」

自然と涙が溢れてくる。
5年間の思い出を思い出さないようにブレーキをかけても、
溢れてくる思い出はアクセル全開。

そうだ、ステージでは泣かないように、今のうち泣いておこう。
笑って、笑顔で卒業しよう。

1つ1つ、思い出を振り返る。
初めて撮影をした時のこと。
初めてロケをした時のこと。
初めてステージに立った時のこと。
31 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:27
ののとあいぼんにからかわれ、保田さんに怒鳴られ、矢口さんに注意され。
飯田さんに相談したり、安倍さんとダンスレッスンしたり、中澤さんと真剣な話をしたり。
メンバーそれぞれとたくさん思い出はあるけれど、
その中でも、やっぱり…。


ピルルルル…


突然、真っ暗闇の部屋に、機械的な音がけたたましく鳴り響く。
えっ、私アラーム間違えて設定した…?
…いや、でもこれは、この音は…。


「もしもし」
『もしもし!ひとみだけど、梨華ちゃんもう寝てた?』


よっすぃーだ。


「ううん、今寝ようとしてたところなの」
『あぁ、そうなの』
「で、どうしたの?突然電話なんて』
『ちょっとね、とにかく外!空見て空!』

空?と疑問に思いながらも、ベッドから出てバルコニーに出る。
少し寒いけれど、そんなのお構いなし。
そして空を見上げると…。
32 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:27

「うわぁ…」


夜空は、たくさんの星でいっぱいだった。

『キレイっしょ?さっき何気なく外見てたらさ、めちゃくちゃ星出てんの見つけてさー』
「本当にキレイ…」
『ベタな表現だけどさ、マジで宝石箱をひっくり返したみたいな、そんな感じだよね』
「うん…」

星をつないで、名づけられた星座の名前はほとんどわからないけれど、
真っ暗な闇の中で、今ここにいるよ、と輝く星はとてもキレイで。
まだ11時を過ぎた頃といっても、周りはすごく静かで、星の瞬く音までも聞こえてきそう。



『…うちらが入ったばっかりの頃、こうして2人で星を見たの、思い出してさ。それで電話したんだ』



そういえば、そんなことあったっけ…。

33 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:28
―――――

マネージャーさんや現場の人に怒られて、へこんでた日の夜。
私は部屋に篭って、ずっと泣いていた。
どうして上手くできないんだろう。
どうしたら上手くできるんだろう。

ベッドの上でうずくまっていると、携帯が鳴った。
携帯を見ると、メールではなく、着信。


「もしもし…」
『もしもし梨華ちゃん?ちょっと外見て!すごい星キレイだよ!』


よっすぃーの声に促されて、急いで窓を開ける。
するとそこには、にぃ、と笑ったよっすぃーが立っていた。
34 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:29
「え…、どうして…?」
「今日さ、すっごいへこんでたじゃん?気になってさ」
「でも、住所…」
「マネージャーさんに教えてもらった。石川を励ましてこいって言われちゃったよ」

あはは、と笑ってるよっすぃー。
そんなよっすぃーを見て、私は泣き出してしまった。

「え、ちょっと梨華ちゃん!?」
「ごめん…」
「な、泣くほど驚いた?」
「ううん、驚いたけど、嬉しくって…」

涙が止まらない私を、よっすぃーは優しく抱きしめてくれた。

「よっ…すぃ…?」
「いや、なんかさ。こうしたくなった」
よっすぃーはにしし、と笑うと、体を離して空に向かって指を指した。

「すごいよね、星。めちゃくちゃ光っててさ。今ここにいるって自己主張してるみたい」
「うん…」
「あたしたちもさ、今はまだ輝ききれてないけど、いつかはあの星のように輝きたいね」
「そうだね…」
35 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:29
―――――


「懐かしいね、あの頃。毎日がいっぱいいっぱいで…」
『梨華ちゃんは今でもそうじゃない?』
「もう!少しは余裕を持てるようになったわよ!」
『あはは、ごめんごめん』

いつもと変わらない声。
この声に、私は一体、何度励まされたんだろう。
冗談を言いながらも、ふざけながらも。
なんだかんだ言ってよっすぃーはいつも、優しく励ましてくれた。



電話じゃなくって、直接声を聞きたい。



「ねぇ、よっすぃー、今から…会えないかな?」
『え?今から?」
「ごめん、無理だよね…。明日も忙しいし」
『いや、あたしはすでに会ってるつもりだけどなぁ。梨華ちゃん気づいてないだけじゃん?』
36 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:30
その言葉で、はっと気づく。
身を乗り出して下を見ると、


「や」


携帯を片手に、上を見上げていたよっすぃーが、いた。

「いつ気づくかなーって思ってずっと言わないでいたらホント気づかないんだもん」

電話越しじゃなくて、直接聞こえる声。
いつも傍で、聞いていた声。
外にいるせいか少しだけ小さく聞こえたけど、私の心の中に大きく響いた。

「そっち、行ってもいい?」

よっすぃーの問いに、私は首を縦に振って答えるだけで精一杯で。
ドアを開けてよっすぃーが現れた瞬間、私は泣き崩れてしまった。
37 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:30
「ちょ、り、梨華ちゃん…?」
「よっすぃーのばかぁ…」
「あはは…」
「まさか、あの時と同じことしてくれると思わなかったよ…」

5年前のあの夜のこと。
今でもはっきりと思い出せる。
2人で、空に輝く星みたいに私たちも輝けるようになろうって誓ったあの夜のこと。

「明日、梨華ちゃんが卒業したら、モーニング娘。じゃなくなる。
 あんまり会えなくなるかもしれないし。
 だから今日のうちに、あの夜のことを思い出して欲しいって思ってさ」
泣きじゃくる私を優しく受け止めて、よっすぃーは言う。


「とりあえずさ、星、見ない?」

38 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:31
2人で星を見るのは久しぶりで、何か変な感じ。
さっきよりも夜は更けて、暗くなったのか少しだけ星が多く輝いている。

「いやー、ホント思い出すよね、あの頃の事。入ったばかりで何も知らなくて」
「そうそう。本当にどうしようかと思ってたもん」
「そう考えると、あたしたちも成長したよね。自分で言うのもなんだけどさ」
「そうだね…。後輩もできたし、いろんなことに挑戦して、いろんなことを経験できた」

普通に生活していれば、絶対に経験できなかったこと。
普通に生活していれば、絶対に出会うはずのなかったたくさんの人達。
その経験と出会いは、これからも大切な宝物だ。


けれど。


ふと、心の中に浮かぶ闇。

「ん?どうしたの?」

少しうつむいている私を見て、よっすぃーが声を掛ける。
39 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:31
心の闇。
それは、私のこれから。


「なんかね、怖いの。この先が…」
「先って、卒業した後ってこと?」
「うん…」

卒業をして、グループ活動をしていくけれど、
行き着く先には何が待っているのだろう。
たとえその先に良い未来が待っていたとしても、
私はそれまで輝き続けることができるのだろうか。

「自信があんまり持てないっていうか…」


ばし。


「いったぁ!」
「まーたネガティブに戻っちゃうのかよー梨華ちゃん!」

背中に走る鮮烈な痛みと、よっすぃーの叱咤。
40 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:32
「せっかくポジティブになったのに、戻ったら意味ないでしょうが!
 いい?娘。を卒業しても、梨華ちゃんは梨華ちゃんのままでいればいいの!」
「よっすぃー…」
「あたしたち、誓ったじゃん。空に輝く星のように、あたしたちも輝けるようになろうって。
 それは、モーニング娘。としてじゃなく、石川梨華、吉澤ひとみとしてでしょ?」


よっすぃーは、私の顔を見て言った後、もう1度空を見上げる。



「梨華ちゃんは明日、娘。を卒業して、これからは美勇伝として活動していくよね。
 そりゃやっぱり環境だとかは変わるけれど、『石川梨華』は変わらないよ。
 あたしも『吉澤ひとみ』として、これからも頑張って輝いていく。
 だからあの頃と同じように、一緒に頑張って輝いていこうよ」

そう私に言う横顔はあの頃のままで。
頼もしさと、強さもあの頃のままで。

「うん…、そうだね」

あいづちを打ちながら、私も空を見上げる。
41 名前:いつか見た星 投稿日:2005/05/12(木) 23:32

見上げた空には、たくさんの星。
いつか見た星も、今見ている星も、ここにいるよ、と輝いている。
この5年間、必死に走り続けてきた。
これからも、全力で走り続けたい。
たくさんの星が輝くこの世界で、
私も、ここにいるよ、と輝き続けたい。


『石川梨華』として、輝き続けたい。


「よっすぃー」
「なに?」
「ありがとう」
「…うん」


たくさんの思い出と、感謝を胸に。
私、石川梨華はモーニング娘。を卒業します。
42 名前:240 投稿日:2005/05/12(木) 23:35
いつか見た星(いしよし)でした。
石川さん卒業記念ってことで。
こんなことがあったらいいなって感じで書きました。
あくまでも私の解釈ですので…。

久しく更新してませんでした、すいません。
今少し長いのを書いていまして。

今日はこの辺で。
43 名前:茅ヶ崎のマヤヤ☆ 投稿日:2005/05/15(日) 14:34
やっぱいしよし最高ですね。
これからもいしよしお願いします!
44 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:34

昨日も、今日も、視線を感じる。
それはいつも同じ視線。

昨日も今日も、きっと明日も。
それはいつも同じ視線。
45 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:34


「でさぁ、ミキティ…」


出番待ちで、メンバーは全員楽屋で待機。
その間、みんな思い思いのことをしてる。
誰かと話したり、1人で音楽聴いていたり、用意されていた雑誌を読んでいたり。
いつもと同じような、楽屋での風景。

美貴は、というと梨華ちゃんと一緒におしゃべり。
別に深刻な話ってわけじゃないし、すごくくだらない話題。

「…というわけなの。ちょっとミキティ聞いてるー?」
「あー、ごめん、聞いてなかった」
「ちょっとーひどーい」

梨華ちゃんの話はいつもつまらないけれど、
さすがに美貴だってそんな梨華ちゃんを相手にしないほど冷酷じゃない。
けれど今、話を聞いていなかったのには理由がある。


視線を、感じるんだ。
46 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:35
それはストーカーとか、そういう類のものじゃなくって、
なぜか嫌な感じを受けない視線。
けれどどうしても気になってしまう、視線。
無視したくても、無視できない。

「どうしたの、落ち着きないよミキティ」
「いや、別になんでもないんだけど」
「そう?なんかいつものミキティじゃないみたいなんだもん」

不思議な顔して言う梨華ちゃん。
そりゃいつもの美貴じゃないのも仕方ない。
自分でわかってるほど、普通じゃない。


だってその不思議な視線に、美貴は囚われてしまっているから。
47 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:35
ねぇ、どうにかしてよ。


感じる視線の先を辿ろうとすれば、それは魔法のように消えてしまう。
いつも、いつも。
もし辿ることに成功しても、きっとあなたは自然に知らないふりをするんだろう。


ねぇ、ずるいよ。


美貴にその気がないのなら、今すぐその視線を止めて欲しい。
お願いだから、止めてよ。



その気じゃなかった美貴が、その気にさせられちゃってるんだよ。

48 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:36

「ちょ、ミキティ?」
「トイレ行ってくる」

突然立ち上がった美貴に驚く梨華ちゃん。
その梨華ちゃんに悪いと思いながらも、急いで楽屋から出る。
乱暴にドアを開けて、少し離れた先に…いた。



「よっちゃんさん…!」



視線の、犯人。



美貴をこんなにもその気にさせてしまえる人は、この人しかいない。

49 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:37

「ん?どしたんミキティ」

知らん顔して、振り返るよっちゃんさん。
いつもと変わらない表情。

本当は、どうなんですか。
美貴にその気にさせたあなたは、美貴に対してその気なんですか。


けれど、言葉にはならない。


その場に立ったまま口を開かない、いや開けないあたしを見て、
よっちゃんさんはゆっくり美貴に近づいてくる。

「何が、言いたいんだい?ミキティ」

ニヤニヤ笑いながら近づいてくるよっちゃんさん。

「…どうして、いつも見てるのよ、美貴のこと」

やっと口を開き、伝えたいことを言葉にできた美貴。

「ありゃ、気づかれてたか」
「誰だって気づく。あんなに見られてたら」
「そっかぁ」

失敗失敗、と頭を掻くよっちゃんさん。
50 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:37
あなたは、どこまでシラを切る?
あなたは、いつ本当のことを言ってくれる?


「どうしてっ…!」
「好きなんだよ、ミキティのこと」


本当のことを知りたいと、迫った直後に言われた言葉。
その言葉と共に、美貴に向けられるまっすぐな視線。


いつも感じていた、あの視線。


「照れくさくて、言えなかったんだよ。2人になる機会もなかったし」


だから。


「ずっと見てたんだ」


美貴の体が、よっちゃんさんの腕の中に吸い込まれていく。
51 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:38
「だからって、ずっと見てるなんてありえない…」
「いや、だから照れくさかったんだってばー」
「ありえない」
「仕方なかったんだってー」

そんな風に軽くよっちゃんさんは流すけれど、
その視線で、美貴がどれだけ…


ドキドキしたのか、知らないくせに。


「そろそろ、戻りたいんだけど。美貴、トイレ行くって言ってるし」
「別にあたしがミキティを誘い出したわけじゃないけど?」
「…勝手にあんたが誘いに乗ったんだろ、ってこと」
「まぁね」

またそんなことを言って、困らせる。
その言葉と、視線とを武器にして、何度も美貴を困らせるよっちゃんさんは、確信犯。
そんな確信犯に騙される美貴も美貴なんだろうけど。
52 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:38

「じゃ、ちょっと延長」
「なんだよそれー」

よっちゃんさんにぎゅ、と少しだけきつく抱きつく。
そんな美貴に、よっちゃんさんも力を入れて応える。


「そういや、ミキティはどうなのよ」
「何がよ」
「何がよって、あたしのことどう思ってんの」

よっちゃんさんが、美貴を抱きしめながら問いかける。
知ってるくせに。もう前から知ってるくせに。
美貴に言わせたくて、そう問いかければ美貴が言うってことを知ってる確信犯なよっちゃんさん。
それを知ってて、でも騙されてしまう美貴。


「好きだよ、バカ」


聞こえるか、聞こえないか微妙なくらいの音量で。
美貴はよっちゃんさんの胸に顔をうずめながら、言った。
53 名前:視線 投稿日:2005/05/15(日) 22:38
…あー。きっとこれからもその言葉と、その視線に、
美貴は囚われ続けるんだろう、きっと。

でもよっちゃんさんも、美貴自身に、
囚われ続けるんだろう、きっと。
54 名前:240 投稿日:2005/05/15(日) 22:42
視線(みきよし)でした。
すごく思いつきで書いたので至らぬ点がたくさんありそう…。

>茅ヶ崎のマヤヤ☆さん
いしよしいいですよね!私も前はいしよしばっかり書いてたんですよ。
ちょっと今はミキティに押されてますが(w
いずれどこかの板でいしよしの長編書こうかと思ってます。


今日はこの辺で。
55 名前:茅ヶ崎のマヤヤ☆ 投稿日:2005/05/15(日) 23:42
こちらこそレスありがとうございます☆

なんかみきよしもいいかも・・・。(w
自分はいしよし以外にあやみきも好きですが、
案外みきよしもアリかもって思っちゃいました。

次も楽しみにしてます☆
56 名前:240 投稿日:2005/06/06(月) 23:52
うわ、半月更新してない…。
まだできてないです、すいません。
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/19(日) 01:36
あせんなくて大丈夫ですよ。作者さんのペースが大事です。
うちらはマターリ待ってますのでー
58 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:10
いつからだろう。
うまく歯車がかみ合わなくなったのは。


いつからだろう。
うまく笑い合うことができなくなったのは。
59 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:11
―――――

「よっちゃんさーん」
「なにー」
「今日さ、家行っていい?」
「あぁ、いいよー」

今日の仕事が終わって、着替えたり片したりしてる楽屋の中。
普段の会話のようにミキティが話しかける。
大体どちらかが誘って。
どちらかは拒む事もなくその誘いを受け入れる。

「よっちゃんさんトコの冷蔵庫にさ、今何入ってる?」
「ん?もしかして何か作ってくれるの?」
「たまにはねー」
「おぉ!やったね!」

思わず笑みがこぼれて、ミキティも顔がほころぶ。
そんなミキティを見て、あたしはさらに嬉しくなる。
60 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:12
付き合いだして2ヶ月。
想いを先に打ち明けたのはあたしの方からで、
でもミキティの方が、あたしよりも長く想い続けてたらしい。
ミキティはあややのことが好きだと思ってたし、
しかもあややもまんざらでもなさそうだったから、てっきり2人は付き合ってるもんだと。
そんなことを2人でいる時に話したら、



「別に…亜弥ちゃんは親友ってだけだし…。恋愛感情はないよ」



その言葉があたしには、GOサインにしか聞こえなくて。
そのままあたしの想いを打ち明けた。
61 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:13
「…ホントさ、びっくりしたよあの時は」
「それあたしのセリフ」


所変わって、あたしの部屋のベッドの上でまったり中。
ミキティは冷蔵庫のもので適当にごはんを作ってくれて。
ホント適当でびっくりしたんだけど、やっぱり嬉しかった。

「ミキティさ、料理上手くなった?」
「マジで?嬉しいんだけどー!」
「まだ適当さが目立つけどね」
「ちょっと褒めてんの?けなしてんの?」

少しドスかかった声でも、やっぱり照れてるのは隠しきれてなくて。
その証拠に頬が少し赤くなる。
…うん、やっぱかわいいわ、コイツ。
こんなに夢中になるとは、想定の範囲外。

「ところでさ、いつ頃から好きだったのよ、あたしの事」
「何その突発的な質問」
「いいじゃん別にー。はい、答えは?」
「ヤダよ言いたくない」

いいじゃん言ってよ気になるじゃん。
あたしの突然の質問でさらに赤くなるミキティ。
62 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:15
「なんで言いたくないのさー」
「恥ずかしいじゃんかー」

くすぐろうとして近づくあたしを避けようと、
ミキティは笑いながら体を反らして逃げる。

「もー、やめてよー」
「やだー、やめなーい!言うまでやめないもーん」



ピリリ…


と、その時、機械的な音楽が部屋の中に響いた。
あたしの携帯だ。
ん?と起き上がって携帯を見てみると、光るディスプレイに表示されたのは、



『石川梨華』



「梨華ちゃんからメールだね」

あたしに続いて起き上がったミキティの声が、冷たくなる。
さっきまでの甘えた声とは正反対だ。
63 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:16
携帯を手に取ろうとするが、やめた。
別に急ぎの用じゃないだろうと、自己完結。

「見ないの?」
「別にいいよ」
「急ぎの用だったらどうすんの」
「そんなんじゃないんじゃん?」

さっきまでまったりしていた空気は突然刺々しくて、
あたしもミキティも、言葉を選んで話しているはずなのにどこか冷たい。



そんなつもりじゃないのに。



ミキティの言葉がちょっと悔しくて、一度は止めた手を再び伸ばす。
薄暗い部屋の中でさらに目立つランプを消し、メールを読み始める。
64 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:16

『突然メールしてごめんね。大した用事じゃないんだけど。
 ミキティとはうまくいってる?応援してるよ☆
 今は忙しいけど、今度会ったら話そうね!』



心が、痛む。
意識してないのに、心の奥深くに痕を引くような痛みを感じる。


「梨華ちゃんなんだって?」
「やっぱり大した用事じゃなかったよ。今度話そうねーって」
「返信しないの?」
「大丈夫だよ」
「ふーん」

相変わらず冷たい声で、抑揚もなく淡々と話すミキティ。
ごろん、と再び寝転がるのと同時に、
ぎし、とベッドが音を立てた。
65 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:17
「あのさ」
「うん」
「美貴さ、なんとなーく思ってたんだけどさ、…梨華ちゃんと何かあったんじゃないの?」


ずきん。
さっきと似た痛み。


「なに、その何かあったんじゃないのっていう質問」
「そのまんまじゃん」
「梨華ちゃんとは普通に友達だよ。友達っていうよりは親友か」
「本当にそれだけ?」

あえてあたしの目を見ないで投げかけられた言葉は、
容赦なくあたしの心に突き刺さる。
66 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/05(火) 00:17


「本当に、それだけだよ」



今までで1番強い痛みが、襲った。


あたしは嘘はついてない。
本当にそうなんだ。


けど。
胸が締め付けられるような痛みに襲われる。
それがどうしてなのかは、…わかってるんだ。

わかってるから、辛い。
打ち明けられるものなら、打ち明けてしまいたいよ。



結局そのメールには、返信をしないままだった。
67 名前:240 投稿日:2005/07/05(火) 00:21
お久しぶりです、240です。
少しだけですが更新。今回は今までよりも少し長くなる予定です。

>茅ヶ崎のマヤヤ☆さん
今回はいしよしみきを絡ませます!
でもあんまり期待しないで下さいね〜(w

>57さん
ありがとうございます。
更新はものすごく遅いですがよろしくです!
68 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:06


「あ」


いつものスタジオの廊下。
普段会わなくなったその人を見つけて、思わず指を差してしまった。

あたしの声に気づいた彼女は、
少し驚いたような、でも嬉しそうな表情で振り返った。


「ごめん、思わず指差しちゃったよ」
「ふふ、そんなに驚いたの?」


梨華ちゃん。

一緒に活動しなくなってから少し経つけれど、
その独特の柔らかい笑みは、出会ったときから変わってない。
69 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:07
「そういやよっすぃー、私昨日メールしたよね?」
「あぁ、ごめん、返してないわ」
「もしかしてお取り込み中だった?」
「…まぁ、そんなとこ、かな」
「あらら、ごめんね」

昨日のメール。
内容を読んだのはいいけど結局返してなくて。
まさか梨華ちゃんが計算して送信したとは思えないけど、
あのタイミングは絶妙だった。
…まぁ、そういう時に限って邪魔が入るもんだよね、うん。



…ふと、昨日のことを思い出す。
梨華ちゃんとあたしのことを明らかに疑っていたミキティ。
あの後、いつものようにまったりして、
いつものように一緒に時間を過ごしたけれど、
どこか気まずい空気が流れていたのは言うまでもない。
70 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:08
「…よっすぃ〜?」
「…あ、ど、どうかした?」
「いや、なんかぼーっとしてるから何か気になることでもあるのかなぁって思って」


…きっと梨華ちゃんは、あたしが悩んでいる事に自分が関係あるなんて思ってないだろう。
けれどこれは、いつかは話し合わなきゃいけない事。
今話しておかなきゃ、どうすることもできない。


なんとか、しなくちゃ。


梨華ちゃんと、話がしたい。



「あのさ…、梨華ちゃんこの後、ヒマ?」
「え?うん、何もないけど…。…どうかしたの?」


心配そうにあたしを見つめる梨華ちゃん。
そんな顔をされると…、苦しくなる。
71 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:09
「いや、ちょっと話したいなって思って。
 ほら、昨日梨華ちゃんもメールで言ってたじゃん?今度会ったら話そうねーって。
 梨華ちゃんこの後ヒマならさ、あたしも何も予定ないし、
 だからちょうどいいかなって」
「うん、そうだね。
 じゃあさ、お互い帰る準備できたらここで待ち合わせでいい?」
「わかった。じゃ、後でね」


動揺している自分を必死に隠しながらの提案は、
変に思われることもなく、すんなりと通った。
そしてあたしも梨華ちゃんも、お互いに笑顔を向けて背を向けて歩き出した。
72 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:09
窓から見える景色をぼーっと見ながら、1人廊下をすたすた歩く。

…だいぶ普通に接する事ができるようになったな…。
一時期は目も合わせられないくらいで。

でも、さっき話している時にお互いに歩み寄ろうとせず、
距離が空いていたのは、今の関係を如実に表しているのかもしれない。
近づこうとしたら、後ろに一歩、引かれるんじゃないかとお互いに恐れている。
そんなことしないって、きっとお互いに思ってるはずなのに。




こんなはずじゃ、なかったのに。


73 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:10
「よっすぃー、遅いー!」
「うわ、ごめんごめん!」
「じゃ、行こっか」

こうやって2人だけで、足を揃えて歩き出すのはいつぶりだろう?
そりゃ仕事とかじゃあったかもしれないけど、
プライベートの時間にこうしてるのは、きっと3ヶ月ぶりだ。

適当にお店を見つけて、席についていろいろと話し始める。
今の仕事のこと、ガッタスのこと。
…でもあたしは、どの話題でも上の空だった。


ミキティのことをいつ切り出そうと、そればっかり考えていた。


「…よっすぃー?」
「うん?」
「どうしたの?元気ないみたい…。もしかしてミキティのこと?」

そんなあたしに気づいて、梨華ちゃんが心配そうな顔をする。
74 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:11
梨華ちゃんが思っている「ミキティのこと」と、
あたしが切り出そうとしている「ミキティのこと」はきっと違うけれど。

「うん…、ちょっとね」

あたしは頼んだコーヒーに口をつける。
独特の苦さが、口いっぱいに広がる。



「…実はさ、ミキティにあたしと梨華ちゃんの関係を、怪しまれててさ」



かた、とあたしがカップを置いた音が少しだけ響く。
案の定、梨華ちゃんの表情は、…固まっていた。
75 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:11
「…ミキティは、何て…?」
「『梨華ちゃんと何かあったんじゃないの?』…って」
「そう…」

明らかに動揺している表情を見せる梨華ちゃん。

「それでよっすぃーは、なんて答えたの…?」
「…本当に、何もないよって。何も言わなかった。
 これってあたしだけの問題じゃなかったから、そんなにすぐに言える事じゃないし。
 それにウチら、…付き合ってたわけじゃ…なかった、じゃん?」
「…うん、そうだね。付き合ってたわけじゃなかった」



「でも、恋人みたいなもんだった」

76 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:12
あたしの言葉で、お互いにあの時のことを思い出して少しだけ笑みがこぼれる。
笑み、というかなんというか。
思い出を懐かしむような表情。

「いろいろあったね…」
「そうだね…。楽しかった…」

いろんな所へ行った。
ステキなプレゼントも貰った。
そしてなにより、2人でいる事が何よりも嬉しかった。


けれど、離れてしまっていた。


くるくる、くるくる。
意味もなくミルクティーをかき混ぜる梨華ちゃんの姿はすごく寂しそうで。


…こんな寂しい思いをさせたのは、誰?
77 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:12

「ごめん、あたしが…はっきりしなかったから…」


それは、ここにいる…あたし。


思わず耐えられなくなって、梨華ちゃんから目を逸らす。
こんな寂しそうな姿にしたのが自分だって思うと辛くて。

「ううん、私もちゃんと言わなかったから…。よっすぃーが悪いんじゃないよ?」

梨華ちゃんはちゃんとあたしを見て言っているのに、
辛いがために目を合わせられない自分が情けなく。


自分に向かってため息、1つ。
顔を上げる。


「ごめんね」


恋は不安定だからグラグラ、フラフラしちゃうんだろうけど、
曖昧なままじゃ何も生まれて来ない。
今こうして、傷付いてる人がいる。


もうこんなことは、…したくない。

78 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:13

「…それで、これからどうするの?ミキティ気にしてると思うよ…?」


少しだけ身をのりだして、訴えるように梨華ちゃんが言う。


「あたしは…、このまま言わないつもりだよ。
 もし言ったら、梨華ちゃんが傷つきそうな気がして…」


あたしにとってミキティは恋人だけど、梨華ちゃんも大切な人だ。
どちらも失いたくないし、傷つけたくもない。


二兎を追うものは一兎も得ず。


その言葉がふとよぎったけど、それでもあたしは2人とも傷つけたくない。

79 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:14
「…よっすぃーがそうしたいのなら、私はそれでいいと思う」


心配そうな顔をしながらも、微笑みながら言ってくれた言葉。
その言葉が、今のあたしにとってどんなに嬉しかったか。
自分がやろうとしていることにいまいち確信が持てなくて。
本当にこれでいいのかって、何度も考え直した。


…やっぱり梨華ちゃんはあたしにとって、特別な存在だ。
たった一言でこんなにもあたしは、安心できるんだから。



「…そろそろ帰ろっか?」
「そうだね。あ、あたし払うよ」
「いいよ、自分の分は自分で…ね?」

おごろうと席を立つあたしを制する梨華ちゃん。
ホント、昔と変わってない。
80 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:14
会計を済まし、外へ出る。
もうすっかり辺りは暗くなっていた。

「家まで送るよ」
「いいよ、大丈夫」
「でも、もう暗いからさ」
「ううん、本当に大丈夫だから心配しないで。
 それにもう、よっすぃ〜はミキティのものなんだから…」


…なんだろう?
すごく胸が痛い。


普段ミキティも梨華ちゃんも、普通に話してるし、
今までも時々、ミキティの事を梨華ちゃんに相談してた。


けれど。


こんなに梨華ちゃんがミキティのことを、気にしてるなんて思ってなかった。
いつのまにかあたしは、大切な人を傷つけていたのかな…?


あたしはその言葉に何も言えなくて。
タクシーに乗った梨華ちゃんを見送った後も、しばらくその場に立ち尽くしていた。


81 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:15

Past
82 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:15

Now
83 名前:P−N−F 投稿日:2005/07/20(水) 22:16

Future
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/27(水) 01:42
せつないっすね〜
特別な存在って言葉がよく似合う二人だなって思います。
もちろんミキティともお似合いだけど・・・
85 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:18

別に付き合うとかそんなんじゃなくて
ただ一緒にいれば、一緒に笑い合うだけで良かった

お互いに恋人同士になることを望んでいたかもしれないけど
言葉にはしなくて
いや ならなくて

言葉にはできない何かで繋がってるって思ってたんだ

86 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:20
―――――


「お疲れ〜!」
「お疲れ様でーす」


今日の仕事はこれで終わり。
それぞれに声を掛けながら帰路につく中で、あたしも帰る準備を始める。
季節はまだ秋だけど、すっかり寒くなってきてマフラーしちゃうか迷っちゃうくらいだ。
あ、そういやあのお店で売ってたマフラーかわいかったなぁ!
今度買っちゃおうかな?

「あれ?よっすぃー!」

カバンの中をごそごそしながらマフラー計画を練っていると、
後ろから声を掛けてきたのは…あの人。

「梨華ちゃん、まだ帰ってなかったの?」
「うん、ちょっとね」
「あれ、でも今日は早く帰るんだって言ってなかった?」
「確かに言ったけど…、よっすぃ〜と一緒に帰りたいなって」

え、え…?
マジで?その言葉マジ?

「うおー!マジ嬉しい!」
「ちょ、よっすぃ〜声大きいよっ!」

思わず叫んでしまったあたしに、梨華ちゃんは驚いた顔をしてたけど、
お互いに嬉しかったのは言うまでもない。
87 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:20
外に出ると、辺りはもう暗くなってきていて、
太陽が出ていても寒かったのに、隠れてさらに寒さが増している。

「うは、今日は昨日より寒いね」
「冬が近づいてきてるって感じだね」

白い息が目の前に広がって、すぐ消える。
街路樹の葉も落ち始めて少し寂しい風景が広がる。
なんか秋ってこういう風景見ると少し切なくなるけど…、

「うん?どうしたのよっすぃ〜?」
「ん、なんでもないよ」

何気なく握ったその手のひらから、温かさが伝わってくる。
ちょっとだけ冷たくなったあたしの心が、
まるで暖かくなり始めた春のように満たされていく。


「行こっか」


しっかり握った手を離さないで。


あたしと梨華ちゃんは歩き出した。

88 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:21
―――――

思えばあの日。
梨華ちゃんだけ違う仕事で別行動の時があった。
梨華ちゃんはいつも傍にいるのに、一緒にいないことが不思議で、

寂しくて。

他のメンバーが別の仕事で抜けてる時も、寂しいなーとは思っていたけど、
それとは違う想いが、あたしの心の中にあったんだ。


その想いが恋愛感情だって気づくのに、時間はかからなかった。


2人でいて楽しいし、落ち着くし、
何よりも嬉しかった。
そしてドキドキしてた。
1人で部屋にいてふと思うと、梨華ちゃんのことを考えていて。


好きすぎて辛くなって、涙を流した時もあった。

89 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:21
こんなに辛い想いをするのなら、もう想いを伝えてしまおうと、
そう決めたあの夜。
相当迷った。迷惑になるんじゃないかって。
もし引かれたら、今までのように接する事はできない。
想いを伝える事は、あたしの欲求を満たすための単なるワガママ。
でもだからと言って、辛いままでいるのには耐えられなかった。


ごめん、梨華ちゃん。
今の関係を壊したくないけど、もう限界。


送信ボタンを、押す。



『あたしさ…、梨華ちゃんのこと、好きなんだ』
90 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:22
ぱた、と携帯を畳んでベッドに放り投げる。
美しい放物線を描く携帯。
普段はそんなこと気にしないのに、何故かじっと見てしまう。

本当に送信された?

不安ばかり湧き上がってきて、再び携帯を手に取る。
そこには『送信済み』のマーク。
それを確認したあたしの心は安堵感、そして後悔が混ざって。


これで、良かったのかな…。

91 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:22
数分後、携帯が鳴った。
ディスプレイには、『石川梨華』の名前。


返事を待っていたはずなのに、携帯さえ手に取ることができない。
着信音が鳴り終えても、受信を示すランプが光り始めても、手を伸ばせない。


こんなにヘタレだったっけ、あたし。


今受信したメールに何が記されていようと。

「…うりゃ!」

また笑顔で顔を合わせればいい。
92 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:23
Past
93 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:24
Now
94 名前:P−N−F 投稿日:2005/08/04(木) 01:24
Future
95 名前:240 投稿日:2005/08/04(木) 01:26
更新しました。
今回からは過去のお話です。

>84さん
レスありがとうございます。
ホント、この2人は特別って感じですよね〜。
恋人とか、そういうのを超えてるというか(w
96 名前:240 投稿日:2005/09/05(月) 21:40
もう少々お待ち下さい。。。
97 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:17
曖昧だった私の想いが
まるでウソのように高まっていく

私があなたをこんな風に思っているなんて
きっとあなたは気づいてない

けれどいつかあなたは
きっと気づいてくれると信じてる
このどうしようもない想いも
きっと受け止めてくれると信じてる
98 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:18
―――――


「はー、疲れた…」


仕事からの帰り道。
今日の仕事は雑誌の撮影とインタビュー。
いつもよくこなす内容のはずなのに、
珍しく1人での仕事で、メンバーは誰1人としていなかったから、
変に緊張して、それが疲れに繋がっちゃったのかも。



「うっ、さむぅ!」

突然、冷たい風が私を襲う。
めっきり寒くなってきて、街路樹の葉も色づき始めている。
やっぱり赤や黄色に染まった葉を見ると、秋が来たことを感じさせられるなぁ。


1人、帰り道の街路樹を歩いていると、

「いよっ!」
「わっ!?」

突然後ろから声を掛けてきたのはごっちんだった。
99 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:19
「ごっちん!どうしてここに?」
「やー、ごとーも今日この近くで仕事でさぁ。
 前の方に幸薄そうに歩く、どっかで見たような人が歩いてたから、
 もしかして!と思ったらやっぱり梨華ちゃんだったよー」

幸薄そうに歩いてたって…。
そんなに私の歩き方って幸薄そうなのかな…?


私とごっちんは、学年は違えども生まれた年が同じって事もあって、
ごっちんが脱退する前も今も、よく話す方だ。

「で、今仕事終わったの?」
「ん、今日はちょっと早めに終わってね、その後スタイリストさんとしゃべってたー。
 今度のツアーの衣装はどんな風になるかなーって」
「あぁ!ツアーもうすぐだよね!頑張ってね!」
「おうよ!まかせとけー」

ぐっ、と右腕に力を入れて誇らしげに笑うごっちんは、
これから長いツアーを控えている。
100 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:19
「梨華ちゃんだってそろそろツアーじゃない?」
「うん、そうだね」
「秋はツアーラッシュだもんね。よしこも気合入ってそうだなー」


よっすぃ〜。



私とごっちん、よっすぃ〜の3人は同じ年に生まれて、85年組って呼ばれていて。
よっすぃ〜とごっちんの所に私も一緒になる形でよくつるむようになった。
他のメンバーとも一緒にいるけど、
気がつけば3人集まって話してた、ってことも多々あった。
ごっちんが卒業してから、3人でいることが減って、
私とよっすぃ〜も他のメンバーといることが多くなったけど、
ガッタスが結成されてからまた、一緒にいることが増えてきた。


「今度3人でどこか行きたいー!それぞれ落ち着いたらぼちぼち計画始めない?」
「それいいね!楽しみ〜」

やっぱり気兼ねなく話せる間柄というのは落ち着く。
お互いに知ってるから、言おうとしていることがわかっちゃうというか。
101 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:20
「話変わるんだけどね、よしこってなんであんなに男前なのかね。
 この前ミスムンのPV観ててつくづく思ったのよ」

カバンからお茶を取り出し、飲みながら詩織が言う。


「あはは、つくづく思ったんだ?」
「そう、画面めっちゃ見ながらつくづくね。
 でもホント、よしこなら性別関係ないや!って思っちゃうよ」
「本当に?でもその気にさせちゃいそうだよね、よっすぃ〜は」


2人の笑い声が響いて、静まる。



「でもごとーはさ、よしこは梨華ちゃんの事好きなんじゃないかなーって思ってるんだけども」



よっ、という掛け声とともに、ごっちんが振りかぶる。
飲み干して空になったペットボトルが、美しい放物線を描いてゴミ箱に吸い込まれていく。
カコン、という気の抜けた音が辺りに響いて、また静まった。
102 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:21
「え…、どういうこと?」
「いや、そのまんま。よしこは梨華ちゃんの事好きかもよって。本気でね。
 まーあくまでもごとーの推測だけど」

突然のごっちんの言葉に立ち止まってしまった私を追い越して、
振り向きながらそう言うごっちん。
その表情は…、人をからかってるようで、けど本気だっていう表情。
仕事の合間の時間とかよく一緒にいたから、ほとんどの時間を一緒に過ごしてるわけで。
だからちょっとした表情の変化だけでわかってしまう。
…だからこそ、戸惑う。


「なんでごっちんは…そう思うの?」
「やーだってよしこの行動見てりゃわかるよ。
 自分で言うのもなんだけど、ごとーは勘がいいから気づいちゃうんだな。
 おそらく周りのみんなは気づいてないかもしんない」

立ち止まったまま、言葉を交わす。

「それは、…昔から?」
「いや、最近。ホント最近」
103 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:22
月の明かりに照らされているごっちんの姿はどこか幻想的で、
これは夢なんじゃないかっていう錯覚に陥りそうになる。
けれどそれはごっちんの言葉に驚いている自分が思っているだけで、
紛れもなくこれは現実だ。


その証拠に、私の胸が少しだけ早く鼓動を打っている。


「…で、これもごとーの推測だけど…」

俯き加減の顔を上げながら私に近寄り、胸をとん、と押す。



「梨華ちゃんもよしこの事、気になってる。本気でね」



一瞬真剣な表情、すぐ緩む顔。
その表情に、どきりとする。

「あくまでも推測だけどねー」

あはは、と笑いながら、また私に背を向けて、持っている荷物を振り回しながら歩き出すごっちん。

104 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:22
「あ、そうだ」

歩き出し遅れた私を尻目に、
ごっちんは振り返らずに立ち止まって、声高らかに言う。


「噂かもしんないけどさ、ガッタスの誰かがよしこを本気で好きらしくて。
 うかうかしてると獲られちゃうよん?」

にしし、といたずらっ子のように笑って、私を一瞥する。
そしてごっちんは、寄るところがあるから、と言って足取り軽く走り出した。



私は、と言うと…。

「…どうしろってのよ〜…」

ごっちんの言葉が信じられないのと、
その言葉で、動揺していることが信じられないのと、
よっすぃ〜のことが気になっていた自分がいたのかもしれない、と、
ごっちんに気づかされたのとで、その場に立ち尽くしていた。
105 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:23
今まで普通に接してきたよっすぃ〜。
ただの同年代の仕事仲間だって、同じグループで活動してる仲間だって、そう思ってた。
でももしよっすぃ〜に恋人ができたら?
よっすぃ〜が好きだってコに告白されて、付き合うことになったら?


…絶対嫌だって思ってる自分が、ここにいる。


それは今まで起こらなかった感情。
よっすぃ〜に昔、恋人がいたってことを知ってるけど、
相手が男だとしても女だとしても、その感情が湧いてくる事はなくて。
今よっすぃ〜はフリーだけど、だからその感情が起こってるのかって言われれば、


…それは違う。


「…好き、なのかな」


誰に答えを求めるわけでもなく、呟いた独り言。
なんとなく、空を見上げる。


夜空には、月が輝いてるだけだった。
106 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:23

Past
107 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:24

Now
108 名前:P−N−F 投稿日:2005/09/05(月) 22:24

Future
109 名前:P-N-F 投稿日:2005/10/20(木) 00:20


ドキドキした
ワクワクした
あなたといるだけで私の胸は高鳴っていた

110 名前:P-N-F 投稿日:2005/10/20(木) 00:20
―――――

それからというものの。

私は無意識に、よっすぃーを目で追いかけるようになって、
それをごっちんに指摘された。

「ドツボにハマっちゃった?」

イタズラっ子のように私の顔を覗き込んでくるごっちんは、
…絶対楽しんでる。
私とよっすぃーが話してると、にやにやしてるごっちんが視界に入ってくるし、
何かと絡んで来るようになって。

「…ごっちんは私をおもちゃにしてるでしょ?」
「そんなそんなー。ごとーはただ応援したいだけ」

笑いながら言われても、説得力ないんですよお嬢さん。
私の不満そうな表情を見ると、ごっちんの表情がふと、変わった。


「いや、ホントに。確かに反応見て遊んでる部分もあるけどさ、
 梨華ちゃんとよっすぃーにはぜひくっついて欲しいんだよ」
111 名前:P-N-F 投稿日:2005/10/20(木) 00:21
同年代でよく話す、2人の事を知ってるから。
だから、2人の相性が合うって事知ってるから。
理由を問えばそんな言葉が返ってくるんだろうけど、
きっとごっちんにとって愚問だろう。

「…なんでさ、そう思うの?」

それでも聞きたくなる私の好奇心。
ごっちんは待ってましたとばかりに私に顔を近づけて、口を開いた。



「理由なんてないよ。これは運命です、お嬢さん」



あの夜と同じ表情を見せ、同じように去っていく。
私は、と言うと…。

「私の運命なんてわかるわけないでしょ〜…」

同じように、ごっちんの言葉に驚いてその場に立ち尽くしていた。
112 名前:P-N-F 投稿日:2005/10/20(木) 00:21
前からごっちんは、人を驚かすのが大好きで、
いつも私は格好の餌食になっていた。
…でも、イタズラのためにウソも平気でつくけれど、
本当のことではウソを絶対つかない。そして的を得ていて。
その度に私はドキッとさせられるんだ。

あの夜も、今も同じ表情。
そして決まって最後に茶化す。
これは本当のことを言っている証拠だ。


「…ーい」


でもどうしてこんなに詩織は、
私の心をこんなに見透かしちゃうんだろう?
私がわかりやす過ぎるのか、
ごっちんが周りをケムに巻き過ぎなのか…。
113 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:22
「梨華ちゃんってば!」
「…え?あ、えぇ!?」


突然目の前に現れたのは、よっすぃーの顔のアップ。
あまりにも突然すぎて、思わずのけぞってしまった。

「な、そんなにあたしが嫌いですか?めちゃくちゃのけぞられたよー」
「ち、ちがっ…!」
「あはは、冗談だよ」

焦ってドギマギする私の目の前に、
よっすぃーが差し出したのは1枚の白い紙。

「ガッタスの練習計画のプリント。この前貰い忘れてたっしょ」


プリント…?


「あ!忘れてた!ありがとうよっすぃー」
「やっぱりね、そうだと思ったよ。ホラ」

心優しいよっすぃーにプリントを貰って、そっとバッグにしまう私。
そういやこの前の練習、早く上がったから貰いそびれちゃったんだっけ。
ホント、よく気がつくなぁ…。
114 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:22
―――――

「うりゃー!」
「どうしたの梨華ちゃん?今日荒れてるね」


次のガッタスの練習日。
本当はやっちゃいけないんだろうけど、
ボールに当たっていた私に柴ちゃんが話しかけてきた。

「あ、柴ちゃん!私はもうちょっとやってくから先帰ってていいよ?」
「うん、今日は用事があるから先に帰るね。…で、何があったのよ、梨華ちゃん」

…柴ちゃん…、話をずらそうとしたのに…。
蹴ろうとしていたボールを足元に止めて、柴ちゃんの方に向き直す。

「別になんでもないよー。どうしてそう思うの?」
「だって梨華ちゃん、普段ボール蹴る時に叫ばないし、
 それに今日の蹴り方は、ストレス発散してるように見えた」
「…ふ、ふーん」

柴ちゃんの大当たりな指摘に、思わず口ごもる。
やっぱり私ってわかりやすいのかな?
かと言って、どうしてボールに当り散らしていたかなんて言えない。
115 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:22
「お、大人の事情があるのよー」
「大人って…、梨華ちゃんと私じゃ、1つしか違わないじゃない」
「まぁそうだけど…」


よっすぃーの事を好きなのかもしれない、けどよくわからない…。
自分の心がよくわからない…。

はぁー、と1つ、深くため息をつく。


「梨華ちゃんも…いろいろあるんだね。あまり深く追求しないことにするよ」
「うん、それがいいよ、それがいい」
「悩むのもそれもまた人生だよ。じゃあ先行くね、お疲れ!」

私のため息の深さで、悩みの深さを測ったのか、
柴ちゃんはすんなりと引き下がってくれた。
てか、「それもまた人生」って…、オヤジか柴ちゃんは…。

116 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:23
―――――

広いフットサルコートに、ボールを蹴る音だけが響く。
残って練習していたみんなも1人、2人といなくなり、
コートには私1人だけ。


…あれ?

「よっすぃー?」
「よっ」

コートの入り口に見えた人影の正体は、
バッグを肩に掛けて立っていたよっすぃーだった。

「みんな帰ったのに、コートの方から音が聞こえて来てさ。
 もしかして…と思って来て見たらやっぱり梨華ちゃんだった」

キィ、とドアの開く音がコートに響いて、
すでに私服に着替えたよっすぃーが入ってくる。


「今日はずいぶんと長く練習してるね」
「うん…、なんかね、無性に蹴りたくって」

少しだけ声が震える。
普通に話そうとしているのに、上手くいかない。
よっすぃー、気づいてるのかな?そうだとしたら嫌だなって思ったけれど、
よっすぃーは同じように笑みを浮かべながら壁にもたれている。
117 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:23
「梨華ちゃん、あとどれくらいやってくの?」
「うーん、もう遅いから終わりにしようかなって思ってたとこ」
「じゃあさ、あたし待ってるから一緒に帰ろうよ」

少しだけ間が空いた後に、言われた言葉。
その言葉に胸が高鳴る。
これまでに一緒に帰ったことはたくさんあったのに、
今日の言葉は、違った。


嬉しい、けど、怖い。


「梨華ちゃん?」
「あ、うんわかった!じゃあ待ってて。
 私急いで着替えてくる」
「うん、わかった」

よっすぃーが出てきたドアの方を指差しながら、
蹴りっぱなしで転がっていたボールを集める私。
平常心、平常心と思えば思うほどドキドキしてきて、
せっかく集めたボールを散らかしそうになる。
118 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:24
集め終えたボールを片して、更衣室に戻ろうとする。
横から、よっすぃーが私を見ていた。
思わず、目が合う。

「…覗かないでよ?」
「だーれが覗くよ」

照れ隠しに茶化した言葉。
笑いながら答えてくれたよっすぃー。


もうダメかも、私。



ドキドキが止まらない。


119 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:24
「お、早いね」
「あんまり待たせるの、悪いなって思って」

私服に着替え終えて出てきた私に気づいて、
壁にもたれかかっていた体を起こす。
そしてバッグを開く姿に、私が不思議な顔をしていると…。

「ほら、ノド渇いたっしょ?あたしのオゴリ」

差し出したのはスポーツドリンクの缶だった。

「え…いいの?っていうか、いつ買ったの?」
「梨華ちゃんが着替えてる間に、ひとっ走りして買ってきた」

まだ冷たい青い缶を手に問いかけた私の言葉に、
バッグを閉めながら答えるよっすぃー。

「それでよかった?違うのもあったからさ」
「うん…てか、…ありがと」
「いえいえ、どういたしまして。
 残って練習頑張ってた梨華ちゃんへの、あたしからのごほうび。
 …それじゃ、帰りますか!」
120 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:25
そう言って歩き出したよっすぃーに、
もらったドリンクをカバンに閉まって私も一緒に歩き出す。

一緒に歩いている間、他愛のない話ばかりした。
いつも話しているはずなのに、会話が途切れる事がなくて。
普段と何か違うことがあるとすれば、それは…。



ずっと、ドキドキしてたこと。



私とよっすぃーが付き合うことは運命だって、
誰にもわかるわけがないけれど、


…私は運命だって、信じたい。




私はよっすぃーが…好き、なんだなって、そう思った。 
121 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:25

Past
122 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:25

Now
123 名前:P−N−F 投稿日:2005/10/20(木) 00:25

Future
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/21(金) 03:08
表現の仕方がすごく好きです。
今後も期待しています!
125 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 00:54


出会うべくして出会った私たちは
別れるべくして別れなければならないの?

出会いがあれば別れがあることが
あたかも必然であるように
126 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 00:55
―――――


それから数日後の事だった。

公園のベンチに1人腰掛け、ぼーっと空を見上げていた時、
暗闇の中で眩しいほどに光る私の携帯。
ディスプレイには、「吉澤ひとみ」の文字が表示されていた。

表示されたその名前に高鳴る鼓動。
少しだけ期待を抱いて、ゆっくりとメールを開く。


どくん、と心臓が大きく脈打つ。
自分でもはっきりと感じられるくらいに。


もう1度、空を見上げる。
漆黒の闇のような夜空に、たくさんの星が輝いている。

そういえば娘。に加入したての頃、
オーストラリアの小さな島でキャンプファイヤーをした。
その時に見た満天の星空を、今でもはっきりと覚えている。
よっすぃーと2人、砂浜に寝転んで空を見上げて。
星を見るたびに、その時の事を思い出すなぁ…。
127 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 00:55
思えば同期で娘。に加入して、
歳も近かったからよく2人で話してた。
ボイトレやダンスレッスンで上手くいかないときに励ましあったり、
悩みがあれば相談したり、逆に話を聞いたり。
けれど、近くにいたはずなのになぜか距離を感じてた。
手が届きそうで届かない。
お互い手を伸ばしても、届かない場所にいた。

その距離を縮められるのは…


今、この時。



メールを返して、携帯を畳む。
携帯は少しだけ私の顔を照らしてすぐ消えた。
消えたライトが、今立っている舞台は終わったんだと、
まるで私に次に進めと言っているようで。
暗闇の中辿りついた私を、照らすのは自分なのか、それとも…
128 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 00:55


「梨華ちゃん…?」


突然聞こえた声に驚いて、思わず声がした方を見る。
少しだけ乱れた息で、私の名前を呼んだのは…。


「よっすぃー…」


携帯を片手に、私の方をじっと見つめているよっすぃーだった。


「こんな夜中に、女の子が1人で歩いちゃいけないんだぞー」
「夜中って…、まだ8時だよー?それによっすぃーだって女の子でしょ」
「あはは、そうだったそうだった」

小学生のような口調でからかうよっすぃーは、
さっきの表情とは正反対に明るくて。
けれど、よっすぃーの声が心なしか震えていたように聞こえたのは気のせいかな?

…いや、気のせいなんかじゃない。
寒いからとか、そういう理由でもない。


緊張してるんだ、よっすぃー。
よっすぃーは緊張すると、決まって何事もなかったかのようにおどけてみせるから。
129 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 00:57
「隣…、いいよね」
「う、うん…」

よっすぃ〜が隣に座る。
さっきまでのおどけた口調はもはや消えた。
何気なく座っただけだろうけど、
少しだけ空いた間が、私たちの関係を表しているようだった。
これ以上近づけないけど、これ以上離れることも出来ない微妙な関係。
けれど、今はこの関係から一歩進めるはず。


でもどうしても、言葉が出ない。


「あ、あのさ」
「は、はい」

ダメだ。
顔を合わせられない。
思わず目を逸らしてしまう。


でもそれは、よっすぃ〜も同じだったみたい。


「えーと…、あ、あの星座!なんていう名前だっけ?」
「え?ど、どれ?」


次に続いた言葉は…、思ってもみなかった言葉だった。
想像もしなかった言葉に、私もどもってしまう。
130 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 00:59
「あの秋の大四辺形の…」
「あれ?あれは確か…ペガサス座だよ」
「あー!そうだった!詳しいなぁ梨華ちゃんは」

嬉しそうに空を見上げ、ペガサス座を指差すよっすぃーはまるで子供のようで。
前、一緒に星を見た時のよっすぃ〜を思い出して、思わず吹き出してしまった。

「何?なんで笑うんだよ〜」
「いや…、よっすぃー変わってないなぁって」
「そう?これでも大人になったと思うんだけどなぁ。
 そういう梨華ちゃんだって、全然変わってないよ〜」


お互いにこうして言い合って笑い合うことは、昔から全然変わってない。
変わったのは…、心に芽生えた、昔とは少し違う感情。


気づかれないように、深呼吸。
よっすぃーの顔を見つめる。



「好きだよ、よっすぃー」


好きだっていう、感情。


嬉しそうな顔をして空を見ていたよっすぃーが、とても驚いた表情で私を見る。
131 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:00
「梨華ちゃん…」
「ごめんね、『今近くの公園で星見てるんだ』、なんて返して…。
 返信しにくかったかなって思って」
「いや、大丈夫だよ」
「…メール読んだ時、すごく驚いちゃって…。
 どう返したらいいかわからなくなったの」
「うん」


「でもそれ以上に嬉しくて、さ。すごく会いたくなったの」


メールを送ってから、これ以上ないくらいの緊張に襲われ、
これ以上ないくらいの期待を、よっすぃーに寄せた。
本当に心臓が張り裂けちゃうんじゃないかってくらい、自分の鼓動を感じてた。


「こんなメールを返すなんて、ただのワガママに思われないかなって思ったけど、
 他に思いつかなくて…」

どうしても素直になれなくて、遠まわしの表現をついついしてしまう私。
昔から何度も何度も、本当の気持ちを悟られないようにそうしてきた。
けれどきっとよっすぃーは、こんな安っぽい表現は見破ってたんだろう。
132 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:01
「あたしも、会いたかったよ。すごく、会いたかった」

だからこそ、今ここにいる。
私の隣に座ってくれてる。


よっすぃーが放った言葉は、期待していた言葉だった。


「ホント言うと、メール送ってから後悔してたんだ。今のこの関係が壊れちゃうんじゃないかって。
 けれど伝えないままよりいいかなって思って…」
「うん…」



「あたしも好きだよ、梨華ちゃん」



少しの沈黙の後の、一言。
よっすぃーの、いつもより少しだけ低い声と共に、その一言が心に響く。

やっぱりそうだったんだ、っていう納得した気持ちと、
お互いに想ってたんだ、っていう嬉しい気持ちと。
2つの大きな気持ちが、私に安心感をくれた。



けれど。


何か違う。
133 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:01
「ねぇ、よっすぃー」
「ん?」
「これって変かもしれないけど…。私、よっすぃーとは付き合うことできないと思うの」
「え…?どういうこと?」

突然の言葉に目を丸くするよっすぃー。
そりゃそうだ、両想いだってわかったはずなのに。


でも違う。嫌いとか、そういうんじゃないけれど。


「なんだろう…、付き合うって感じじゃないんだ。今まで通りの関係でいたいの。
 今までと同じように、くだらないことで盛り上がったり、話し込んだり…」


付き合うってことは、今までと違う関係になること。
深く考えすぎなのかもしれないけど、今までの関係が消えちゃう、そんな気がして。


「私は…、お互いが想ってることがわかっただけで嬉しいの。
 心が繋がってるだけで、私は十分」
「梨華ちゃん…」
134 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:03
『友達』と『恋人』の間にある大きな壁を、越えようとすればきっと簡単に越えられるけれど、
大きな壁で隔てられたその先は未知の世界。
『恋人』になった途端、明るかった世界が一瞬で暗くなるような気持ちになってしまう。
そんなに恐れる事はないとわかっていても、そう考えてしまう。
別に呼び方が変わっただけで、関係自体は大して変わっていないはずなのに。



「…でもあたしも、そんな気がするんだ」


思いがけないよっすぃーの言葉に、私はただただ驚くだけで。
思わず顔を上げると、そこには柔らかい笑顔を見せるよっすぃ〜がいた。

「あたしも、梨華ちゃんと同じ気持ち。梨華ちゃんがあたしのことを想ってくれているだけで十分。
 付き合うとか付き合わないとか関係ないじゃん?
 うちらにはうちらなりの付き合い方があると思うし…」
「よっすぃー…いいの?」
「いいのって…、それはお互い望んでる事だし、ね?」

にっ、と笑って答えてくれたよっすぃ〜を見て、すごく安心した。
そして同じように考えていたってことがわかって、とても嬉しくなった。
135 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:03
「…とりあえず、寒いし…帰ろっか!」
「…うん!」

差し伸べられた大きな手を、しっかりと握って立ち上がる。
よっすぃーの手は…、とても暖かかった。




今は怖くて越えられない壁も、きっと2人ならいつか越えられる。
たとえ一寸先は闇だとしても、2人ならきっと進んでいける。
次のステージを照らすのは、自分でもなくよっすぃーでもなく、2人。

だからこの繋いだ手を離さないで。
ずっとこの幸せが続きますように。





―――――そう、願ったのに。



いつのまにか、いつも感じていた大きな手は、
私の手にぬくもりだけを残して消えていった。
136 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:04


Past
137 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:04

Now
138 名前:P−N−F 投稿日:2005/12/04(日) 01:04

Future
139 名前:240 投稿日:2005/12/04(日) 01:06
>124さん
更新めっちゃ遅くて申し訳ないです。
でも完結までは絶対に持っていきますので、
気長に待っていただけると嬉しいです!
140 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:36
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
141 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/12(日) 00:33
いやだーーーーー!!!
よっすぃ、梨華ちゃんを悲しませるなよ。
いしよしは永遠不滅です。
142 名前:240 投稿日:2006/03/25(土) 01:20
んー…、更新じゃない書き込みで申し訳ないです。
とりあえず生存報告です。
書いてるんですが思うように進まず…。
もうしばらくお待ち下さい。。。
143 名前:240 投稿日:2006/08/23(水) 01:27
とんでもない放置…申し訳ありません。
ホントひっそりとやっていきます。
自己満ですが更新します。
144 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:28
どうして人は自分の気持ちを
隠してしまうのだろう
もし自分の想いが届かないと知ったとしても
塞ぎ込んで傷つくのは自分自身なのに



想いを寄せるその人を守るつもりで塞ぎ込んでも
傷つくのは自分自身なのに

145 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:29
―――――


「ひー…、寒い!ありえない寒い!」


季節は冬。
いつのまにか街路樹は、色とりどりの紅葉の代わりに、
うっすらと白い雪を纏っている。
街行く人もマフラーに顔を埋め、心なしか歩を進める足も速くなっている。

「つーかありえないでしょ、この寒さ!
 肌がピリピリするよ〜もーやだー」

仕事が終わって帰る途中、
朝よりはいいけどそれでも寒い今日この頃。
はー、どっか寄ってあったまろうかなぁ〜。
ココアとか飲みたいな〜。

♪〜

すると、ごとーの携帯が突然鳴った。
ディスプレイには「石川梨華」の文字。

「んあ?梨華ちゃんだ。何かあったのかな?」

ぱか、と携帯を開いてメールチェック。
そこには「今日時間ある?」とそれだけが表示されていた。
146 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:29

「時間ある?って…、そりゃ大丈夫ではあるけどさ〜」


ごとーといるんなら、よしこといた方がいいんじゃないの?
そんな疑問が頭をよぎる。


学年は違えど、同じ85年に生まれたごとーたち。
始めにごとーとよしこが仲良くなって、それから梨華ちゃんとも仲良くなって。
ごとーが娘。を卒業してからは、スケジュールの都合で遊びに行く日も減っちゃったけど、
それでも会える日は会ってたわいもない話をして楽しんでた。
…でも、最近は2人がめっちゃ仲良くって。
ごとー、入る余地ないんですけど?って感じ。
ま、ごとーは2人がくっつけばいいなぁって思ってたから別にいーんだけどねー。


…でも、みょ〜に気になる、このメール。
何か話したい事があるに違いない。


メールじゃ面倒だから電話かけちゃえ!
携帯のメモリから梨華ちゃんの番号を探し出し、掛けてみる。
147 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:30
『もしもし…』


ワンコールもしないうちに通話に切り替わる。
うーん、メール送ってすぐとはいえ、この速さはありえないよねぇ。
スタンバってたのかな?じゃなきゃこんなに速く出られないよねぇ〜。
梨華ちゃんヒマ人?


…いや、違うかも。
ごとーの頭の中を駆け巡っていた数々の冗談が消えていく。
速く出たのは、ごとーからの電話を待っていたから、かもしれない。

「どうしたー?突然メールなんてして」
『あー…うん、ごめんね?今大丈夫なの?』
「うん、大丈夫だよー」

できるだけいつも通りに会話をする。
でもそれはごとーだけ。梨華ちゃんは明らかにいつもと違う。
どうしたどうした。いつものあの高音はどうした。

「なんか…元気ないね?ごとーの思い込みかなぁ」
『え?どうして?』
「んー、いつもより2オクターブくらい低いなーって思ってさ」
『うふふ、何よーそれー』
148 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:31
梨華ちゃんの笑い声がごとーの耳に届くけど、
きっと電話の向こうの梨華ちゃんは笑っていないんだろう。
ちょっとしたごとーの冗談に笑っている梨華ちゃん。
でもその笑い声は…どこか寂しい。


何があった…?


…そういえば。
よしこと梨華ちゃんは仲良くて、周りを寄せ付けないくらい。
でもここんとこ、…一緒にいるのを見てない。
避けてるっていうか…、一方的に梨華ちゃんが避けてるだけかもしれないけれど…。




梨華ちゃんの暗い声。
不自然に空く間。
作られた笑い声。


ごとーの推測を裏付けていく。



もしかして…。



『…あのさ、ごっちん』


ごとーは言いかけていた言葉を飲み込んで、梨華ちゃんの言葉に耳を傾ける。
聞こえてきた言葉は、予想通り。



『今から…会えるかな?』
149 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:32
―――――

「おーす、待ったー?」
「ううん、大丈夫。ごめんね急に呼び出したりして」
「あは、気にしないでー」


先に席に着いていた梨華ちゃんが、ごとーを見つけて手招きをする。
席に着いて、適当にコーヒーを頼む。
梨華ちゃんにメニューを渡されたけど、おなか減ってないし。
大丈夫、とメニューを返す時、ふと梨華ちゃんの腕に目が行った。

…相変わらず細いな、梨華ちゃんは。すっごく腕が細い。
見るたび折れそうだよって思うんだよね。
…でも、今日感じる細さは…なんか違う。
本当に痩せて細くなった感じがした。

ぱっと梨華ちゃんの顔を見ると…、少しだけ痩せた気がした。
ううん、痩せたと言うか…やつれた?
気のせいかもしれないけれど…。


「どうしたの?」
「いや別に…。ところで、話って…何?」
「あ…、うん…」


時間に追われてるわけじゃないし、
用事があるわけじゃない。けど…、
直感…ってやつ?
それがごとーに話を急がせた。
150 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:32
これから話されること…なんとなくわかってしまったから。
その確信を得たいから、ってのもあるかもしれない。


「あのね…」


話し出そうとする梨華ちゃんの表情が、ゆっくりと沈んでいく。
口を開いては閉じ、その繰り返し。
言いたくないんだろう。信じられないんだろう。
いや、信じられないんだろう。



「…好きな人ができたんだって、よっすぃー」
「…そ、か」



やっとの思いで放たれた言葉は、予想通り。

今までの疑問も、不可解な事も、予想も。
全て一致して心の中が確信で満ちていく。


できれば、そうあって欲しくなかったけれど。

151 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:33
「だから、今までのように一緒に遊ぶ…とか、そういう事はできないかもしれないって」
「うん…」

あらかじめ用意していたかのように話す梨華ちゃん。
いや、きっと考えてたんだろう。
何も考えずに話そうとすれば、…きっと壊れてしまうから。


けど、そんなんじゃ本心は聞けないよね。
結果、泣かせる事になっても…。
このまま聞かないのは、梨華ちゃんのためにならないってこと、本人もわかってるはず。


運ばれてきたコーヒーからゆらゆらと立ち上る湯気。
不安定に揺れ続ける湯気は、まるで梨華ちゃんの心を表しているよう。



信じられない、信じたくない。
けど、もう自分には心は向いていない。



砂糖もミルクも入れず、1口だけコーヒーを飲んで、一息。

152 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:34
「…それで、梨華ちゃんは何て答えたのさ?」
「『わかった』って、一言…。もうそれ以外言えなかった」


…果たしてその言葉は、本心か。
きっと、その答えは…NOだ。

あれだけ好きだったのに、納得できるはずがない。
納得できるような、そんな気持ちじゃない。
どれだけ苦難を越えて、2人は通じ合う事ができたんだよ?
近くで見てたごとーは…知ってるよ?


「…もう1度、好きだって伝えなよ?梨華ちゃん明らかに『わかって』ないじゃん」
「それは…できないよ…」
「どうして…?」
「きっと…、よっすぃーは困るから。迷惑だって思うよ」


…どうして?
どうしてそう思うの梨華ちゃん。

困るとか、迷惑とか、どうしてそう思うんだよ…?
153 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:34
「…じゃあ梨華ちゃんは、このまま終わるの?それでいいの?
 自分の気持ちはしまったまま辛い思いをしちゃうよ…。
 よっすぃーのこと、好きなんでしょ?」
「好きだよ!…だから、苦しめたくないんだよ…」


今までで1番強い声、けれど震えている声。
俯いていた梨華ちゃんが顔を上げる。
まるで張り詰めた糸がぷつりと切れたように、
目の前に座ってる梨華ちゃんの目から涙が溢れていた。


「…ごめん、ごっちん…。ごっちんは、私のために言ってくれてるのに…」
「や…、ごとーこそ…ごめん」


ちょっと言い過ぎたかな、と思いながら、
ぬるくなったコーヒーに口をつける。
やっぱぬるいコーヒーはおいしくない。余計に苦く感じる。
ごとーは一気に飲み干して、カップをゆっくりと置いた。


「あのね…、もう1つ、ごっちんに言わなきゃいけないことがあるの…」


ごとーがコーヒーを飲み終わるのを見計らったように、
梨華ちゃんが少しだけ震えた声で話し出した。
154 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:35
「言わなきゃ、いけないこと…?」
「うん、言わなきゃいけないこと…。
 きっとみんな勘違いしてる、私とよっすぃーのこと」



勘違い?


どういうこと?



「私とよっすぃーね、付き合ってるってわけじゃ、ないんだ」



…え?


「付き合っては、いないの」


それってどういう…?
155 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:36
「…で、でも梨華ちゃん、梨華ちゃんとよしこはもう誰の目から見ても付き合ってるとしか思えなかったよ?
 ホントいつも一緒にいたらしいじゃん…!
 それでも2人は付き合ってなかったって…、そう言い切っちゃうの?」
「だってそれは真実だから…。好きだとは言ったけど、付き合おう、とは言ってない」


梨華ちゃんの思いがけない発言にごとーは戸惑うばかりで。
娘。のメンバーや仲のいいスタッフさんからの話を聞いて、
てっきり付き合ってるもんだと思ってたから…。



…いや、でもおかしいよね…?
あれだけお互い好きで、一緒にいて…。



「…ねぇ梨華ちゃん。ごとーはさ、『好き』って言葉の表現はすごく難しいと思うんだ。
 友達への『好き』だったり、恋人への『好き』だったり…。
 ごとーはみーんな好きだよ!でもそれは友情としての『好き』なんだ」


一言一言、噛みしめるように梨華ちゃんに伝える。
そんなごとーを、梨華ちゃんは潤んだ目で見つめている。

156 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:36
「梨華ちゃんの、よっすぃーに対する『好き』は、ごとーのものとは違う、よね。
 恋愛感情としての『好き』だよね」


ごとーの問いかけに対して、こく、と頷く。
頷きと共に、涙もぽた、と落ちる。


「よっすぃーだって、梨華ちゃんに恋愛感情の『好き』を持ってた。
 お互いにその気持ちを確かめ合った…。
 そうじゃ、ないの?
 それは付き合ってるとは言えないのかな…?」




「『付き合う』っていう言葉に捕らわれ過ぎてるんじゃないかな…?」



確かに、『両想い』と『恋人同士』じゃニュアンスが違うけれど、
この2人はそんな言葉じゃ表せないような関係だし、
言葉1つで、全てが変わってしまうような関係じゃない。
157 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:37
「ごとーには…、梨華ちゃんは逃げてるようにしか見えない。
 『付き合う』っていう言葉を言ってないから恋人同士じゃない、なんて言い訳で、
 自分の気持ちを抑えてるようにしか見えないよ…。
 それでいいの?梨華ちゃんの気持ちは、そんなものじゃない。
 それじゃ梨華ちゃんだけ傷つく…」
「わかってるわよ!!」


悲痛の叫びが響く。
今まで聞いたことのないような大きな声で、梨華ちゃんは叫んだ。
そして…泣き崩れた。




「もう遅いんだよ…」




「もし私が『好きだよ』って叫んでも、その想いは伝わらない。
 よっすぃーの気持ちは、私の所にはないから…」
「梨華ちゃん…」
158 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:38
「一緒に居過ぎた。近くに居過ぎた。
 いつのまにか隣にいることが当たり前になってた。
 当たり前過ぎて…、だからお互いに好きだよって言った時も、
 これが普通なんだって思っちゃったの。
 これからも変わることないんだろうなって、そう思ってた。
 けど…、それは私だけだったみたい。
 気がつけばよっすぃーは隣に居なかったの。
 あんなに近くにいたのに、よっすぃーの気持ちが変わったことに気づかなかったんだよ…。
 そしてこんなにも私は、よっすぃーを好きだったことにも、気づかなかったんだよ…」



泣く事しかできない梨華ちゃんを、ごとーはただ見守る事しか出来なかった。
止め処なく溢れる涙は、まるで梨華ちゃんの気持ちのようで。
留まる先もなく、頬を伝って床へ落ちていくだけだ。
159 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:39
これだけの想いを封じ込めようとしたら、
もちろん自分が傷つく事は誰にだって察しがつくことだ。
それでもそうしようとした梨華ちゃんは、どれだけよっすぃーのことを想っていたんだろう。
予測しても予測しきれないくらい大きな気持ちなんだろう。



そんな梨華ちゃんの気持ちを知っていたよっすぃーは、
自分の気持ちをどんな気持ちで伝えたんだろう…
160 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:39

Past


161 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:40

Now


162 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:40

Future


163 名前:P−N−F 投稿日:2006/08/23(水) 01:42
>141さん
こんな結末…申し訳ないですorz
自分もハッピーないしよし書きたい…(;´Д`)
164 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/26(月) 23:08
待ってます

Converted by dat2html.pl v0.2