あんなぁ、うち幽霊やねん
- 1 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/03(火) 23:17
- 『あんなぁ、うち幽霊やねん』
- 2 名前:― 投稿日:2005/05/03(火) 23:18
-
これから登場するお話は全てフィクションです
実在する人物・団体などとは一切関係ありません
- 3 名前:― 投稿日:2005/05/03(火) 23:18
-
アンリアル設定。
実際の年齢設定とは若干違います。
まったり書いていきますので、宜しくお願いします。
- 4 名前:― 投稿日:2005/05/03(火) 23:19
-
街角の中にぽつんと存在するコインランドリ―。
大通りの雑踏さえ忘れてしまいそうな四角い異空間。
今日も寂しくて切なくて
何をするにもどうしようもない人達が
自分の僅かな温もりを確かめるためにここにやってくる。
『あんなぁ、うち幽霊やねん』
- 5 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:19
-
雨の匂いがする週末の昼過ぎ。
今日も『とある女性』がビニールの手提げ袋に洗濯物を詰めこんで
商店街の片隅にあるコインランドリ―へとやって来た。
「失礼しまぁ〜す…。って、さすがにこの時間じゃ誰もいないか。」
女性は中に入ると4台あるうちの右から2台目の洗濯機のフタを開けた。
実はこのコインランドリ―の両端2台はすでに壊れていて
スイッチを入れると洗濯ドラムがぐるぐる回転したままで
中身が取り出せなくなってしまうのだ。
この女性はそのことを知っているらしく
迷いなく壊れていない2台の内の1台の洗濯機を選んだ。
「もぅ…いい加減に直してよねぇ。いっつもそのせいで待っちゃうんだから。」
だからこの女性は人があまり来ない時間帯を狙ってランドリーに来ているらしい。
なるほど、確かにこの時間帯ならランドリーに来る人は少ない。
混むのは決まって夕方から夜にかけてだから余裕を持って洗濯ができる。
女性は洗濯物を中に突っ込むとコインを入れて、ぐぃっとレバーを回した。
すると
ガタガタガタ…
と大きな振動をたてて円柱のステンレスドラムが回り始めた。
この女性…
――― 名は、三好絵梨香という。
- 6 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:20
-
絵梨香は上京して1年。
大学に通うために長年住みなれた北海道の地を後にし、
花の都・憧れの大東京へと単独で出てきた。
元々、『高校を出たら就職をするように』と両親に言われた絵梨香だったが、
どうしても東京で勉強したい!
どうしても東京で就職したい!
と東京の大学を受験。なんとか合格を勝ち取った。
当然、親元を離れ、東京で独り暮らしを始めるわけなのだが、
遠い田舎出身の絵梨香にとって東京という街は全てがありえなかった。
土地の値段が高い。
物価が高い。
食費も必要以上にかかる。
人が多すぎる。
人に温もりがない。
などなど…。
そんな絵梨香が自宅に洗濯機がないことに気付いたのは
上京して3日目のことだった。
「どうしよう、洗濯物…。もう、お金ないし…。」
就職を勧めた親を押しきって上京した絵梨香にとって
親からの仕送りというもの微々たる物だった。
もちろん、その家庭状況が絵梨香に
就職を勧めた要因であることには間違いない。
当然、自分で稼がなければ東京で暮らしていけない。
自分の稼げるお金なんてものはさらに微々たるもの。
食べていくだけでせーいっぱいの絵梨香にとって、
洗濯機を買えば生活は出来なってしまう。
- 7 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:20
-
「う〜ん…何か良い方法は…。」
ちょっと考えたあげく、
駅から住んでいるアパートに来る途中にコインランドリ―があったことに気付いた。
当分はあそこでいいだろう。
お金を稼いで十分に貯まったら洗濯機を買えばいい。
そのときはそう思った。
そのときは…。
だが、お金というものはなかなか貯まるものではない。
ぎりぎりに食費を切り詰めても
おしゃれな服を買うのを我慢しても
貯金通帳は寂しいものだった。
つまり
そんなこんなで1年があっという間に過ぎ
すっかり絵梨香はこのランドリーの常連さんとなってしまったのだ。
たまにやってくるランドリーの管理人さんとも今では顔見知りだ。
- 8 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:20
-
さて、絵梨香はとりあえず洗濯が終わるまで
椅子に腰掛けて雑誌を読もうとした、まさにそのとき。
ガラガラガラ♪
扉が開き誰かが入ってきた。
コインランドリ―で他人と一緒になるとなんだかいつも気まずい。
特にそれが男に人ならなおさら。
以前、洗濯機の中から下着を取り出している途中に
「…ピンクなんだぁ…」
と見知らぬおっさんに言われたときはさすがに寒気が走った。
それ以来、下着は自宅のお風呂場で手洗いしている。
とにかく、あまりコインランドリ―で知らない人と一緒にいたくない。
それが絵梨香の正直な所だった。
チラッと入口の方へ目線を向けるとそこに女の子が立っていた。
少しホッとした。
年齢は絵梨香と同い年か、それより年下ぐらいだろうか。
その子は絵梨香に軽く会釈をすると1番奥の台、
つまり壊れている洗濯機の前に立った。
「あの…。」
「はぁ?」
「そこの洗濯機は壊れているんで、こっちの台を使った方が良いですよ。」
絵梨香の左側の洗濯機を勧める。
「ホンマに?ありがとぉ。」
女の子はにこっと笑うと壊れていない洗濯機の前に立ってごそごそやり始めた。
勢いよくフタを開けるとバラバラと持ってきた洗濯物を入れ始めた。
- 9 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:21
-
……が
シャツが落ちる。
少し(かなり)大きめブラが引っかかる。
かわいめのキャミソールがまた落ちる。
まさに『ドジ』という言葉がぴったりな人だと絵梨香は思った。
「あの…大丈夫ですか?」
「あんなぁ…大丈夫じゃあらへん。」
「手伝います。」
「おおきに。すんません。」
落とした服を拾ってその女の子に渡す。
全ての洗濯物を入れ終ってから、
絵梨香は洗濯機の回し方を教えてあげた。
「……それでここを押してから、これを回してみて?」
「うん。」
するとマニュアル通りに
ガタガタガタ…と相変わらずの轟音をたてて洗濯機が動き始めた。
思わず女の子の顔から笑みがこぼれる。
「親切にありがとぉ。」
「いえいえ、お互い様です。」
「東京に来て初めて優しくされた気がするねん。」
ということは
やはりこの女の子は上京したての子。
いわば去年の絵梨香と同じ状況だ。
- 10 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:21
-
「あの関西出身なんですか?」
「あれ〜?なんでわかったん?」
「いや、関西弁だから…。」
女の子は「そーかぁ。関西弁でかぁ。」と納得しながら
「あんなぁ、うち大阪から来たねん。」と照れながら言った。
東京の大学なんてものは地方出身者の集まり
というか東京の街自体が地方出身者の寄せ集めと言っていい。
根っからの東京人で山手線の内側に住んでいる人は極僅かだ。
当然、絵梨香の大学にも関西出身の人は何人もいるのだが、
絵梨香自身は関西出身の友達はいなかった。
「今年、大学生?」
「いや、そ―じゃないねん。」
「就職?」
「そ―でもないねん。」
絵梨香より年上には見えない。
となると大学進学か就職で上京する可能性が高いのだが、
そのどちらでもないらしい。
じゃあ、どうして東京に…?
しかし、絵梨香はあえて深くは追求しなかった。
「それより、近くでおいしいお店知らへん?上京したてで右も左もわからへんのよ。」
「おいしいお店かぁ…。パスタの店なら知ってるけど。」
「ホンマに?どこどこ?」
「えっとねぇ、そこの交差点をまっすぐ行って、パチンコ屋の角を……」
コンコン♪
と、話の途中でコインランドリ―のガラス戸を叩く音がした。
絵梨香が入口に振り向くと、そこには絵梨香の大学の友達が笑って中を見ていた。
- 11 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:21
-
「こらこらサボりかぁ?」
「ち、違いますよぉ。今日は1、2限だけだったんです!石川さんだってどうしてこんな時間にいるんですかぁ?」
「あたしも授業終わったんだもん。…てか、その前にまた三好ちゃん、あたしに敬語使ってる。使わないでいいって言ったじゃんっ。」
「…だって石川さん、ホントは先輩じゃないですか?一年間浪…」
「うるさい、うるさいっ。どうせあたしは現役で大学に行けませんでしたよ!」
この絵梨香の大学の友達で
プンスカプン状態の人物は ――石川梨華という。
大学で学年は絵梨香と同じなのだが、一浪しているので一応は絵梨香より年上。
しっかり者だけどちょっとおっちょこちょいの梨華と
大らかな性格の持ち主の絵梨香は自然と相性があったようだ。
まぁ、絵梨香と梨華はそれ以上の関係であるのだが……。
「それより、さっきからなに独り言言ってるの?」
「え?独り言じゃないですよ。大阪から来た女の子と……あれ?」
「誰もいないわよ。」
「あれれ?」
- 12 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:22
-
絵梨香が振りかえると大阪の女の子はいなくなっていた。
それだけではない。
ランドリーに入れたはずの女の子の洗濯物もなくなっていた。
「確かに私の隣にいたのに…。」
「あたしが外から見たときから三好ちゃん1人だったよぉ。」
「そんなことないですって。私ともう1人いたんですよ。」
「…いないじゃん。」
「いたんですよ。」
「どこに?」
もう1度、大阪の女の子が座っていた椅子を見るが
そこには人が座っていた形跡さえ残っていなかった。
「確かにいたんですよぉ!」
「もう三好ちゃんったら、お茶目♪可愛いっ♪」
梨華は絵梨香に抱きつき、頬に口づけした。
- 13 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:22
-
- 14 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:22
-
確かにいたはず。
確かにいたのだ。
だが、梨華と話している間に一瞬にして消えた。
時間にして1分もしてない。
その間に姿のみならず、洗濯物まで…。
果たして、こんなことがありうるのだろうか…?
「三好ちゃぁ〜ん。」
「え?…あ、はい…。」
「も〜ぉ、なにそれぇ。これから♪って時にぃ。」
梨華は絵梨香にすりすりしてきた。
なにも身につけていない絵梨香の肌にほのかな感触が伝わる。
「あの、ホントに私しかいなかったんですか?」
「うん。三好ちゃんが1番好きだよぉ♪」
おいおい…。そっちかい。
- 15 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:23
-
「…いや、そうじゃなくて、昼間のランドリーの時に。」
「ランドリー?」
「ほら、コインランドリ―で私が洗濯しているときです。」
「あぁ。うん、三好ちゃんだけしかいなかったよぉ。どうして?」
「……隣に女の子とかいませんでした?」
「いなかったけど…。」
「そうかぁ。おっかしいなぁ。」
「ねぇ。なんで昼間っからそんなこと気にしてるの?」
「いや、確かにいたんですよ。関西弁の可愛らしい女の子が…。それが突然、姿を消して…」
その『可愛らしい女の子』という言葉に
梨華の顔色が明らかに変わった。
「も、もしかして三好ちゃん…」
「ふぇ?」
「浮気でしょっ!あたし以外の女の子といたんでしょっ!」
「ち、違いますって!そんなんじゃ…」
「言い訳するのっ!」
「言い訳じゃなくて…」
「もぅ、梨華すねちゃうもんっ!」
プイッと向こう側を向いてしまった。
こうなると絵梨香も大阪の謎の女の子どころではない。
気まぐれな姫のご機嫌を取るのも楽ではないようだ。
- 16 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/03(火) 23:23
-
「石川さぁ〜ん?」
「……」
「石川さん。」
「……知らないっ。」
「梨華ちゃん…。」
「っ!?」
普段あまり呼ばない下の名前で呼んであげて
後ろからそっと抱きしめてあげる。
それだけで梨華の心臓の音はいつも以上に高くなるのだ。
「…絵梨香ぁ。」
「んー?」
「…ホントに浮気してない?」
「してません。」
「…ホントのホントに?」
「ホントのホントに。」
「…神に誓える?」
「誓えますよ。」
「もぅ…大好き♪」
「え?ちょっとぉっ、まだそんなぁ…ぁっ…」
夜はまだこれからです……。
- 17 名前:― 投稿日:2005/05/03(火) 23:23
-
- 18 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/03(火) 23:24
- 本日の更新はここまでです。
次回に続きます。
- 19 名前:名無し娘。 投稿日:2005/05/04(水) 09:34
- おもしろい。続きが楽しみです。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/05(木) 01:23
- 面白い
更新、待ってます
- 21 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/06(金) 06:59
- 更新お疲れさまです。 題名に惹かれてやってきました。 次回更新待ってます。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/08(日) 20:45
- おなじく、あげ! おもしろい
- 23 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/08(日) 23:39
- >>19 名無飼育 様
ありがとうございます。期待に添えるよう頑張ります。
>>20 名無飼育 様
まったり更新ですが、お付き合いのほど宜しくお願いします。
>>21 通りすがりの者 様
題名通りの展開になるかは『?』です。
>>22 名無し飼育 様
ありがとうございます。私の気持ちもあげで頑張ります。
更新を再開します。
- 24 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/08(日) 23:40
-
「…それでなによ?」
「いや、だからですね…」
翌日、絵梨香はコインランドリ―の管理人さんのもとで話しこんでいた。
コインランドリ―が開くのは午前9時。
毎日、その時間に管理人さんが鍵を開けることになっているので
逢おうと思えば9時前に行けば確実に逢える。
この管理人さん。
――― 名は保田圭という。
実は町内会長をやっていて、
この街のことならなんでも知っているという人物である。
当然、この街の住民にも詳しい。
どこに誰が引っ越してきたということも熟知しているのだ。
もちろん、絵梨香の知りたい人物とはあの人のことなのだが…。
「探したい人がいるんです。」
「勝手に探せばいいでしょ!」
「いや、だからですね。やっぱり、保田のおばさんの力をお借りしたいんですよ。」
途端に保田の顔色が変わった。
- 25 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/08(日) 23:40
-
「イヤよっ!」
「えぇっ!?」
「イヤよっ!教えないわっ!」
「な、なんでですかぁ?」
「あんた今、『おばさん』って言ったでしょ!だから、イヤよっ!」
思わず絵梨香は苦笑い。
誰がどう見ても外見はおばさんなのだが、
心はまだまだピチピチ若いらしい。
だが、ここは絵梨香も大人である。
「すみません…。保田…お姉さん。」
「……そうよ。それでいいのよ。言いなさい。お姉さんが聴いてあげるわ。」
「いいんですか?ありがとうございます、お姉さん♪」
「早く言いなさいよ。」
「はい。あの、この春に大阪からこの辺に引っ越してきた女の子なんですけど、歳は私に近いくらいなんです。…知ってます?」
「大阪から…?それであんたと同い年くらい…?それだけ?」
「いやぁ…えっと、その…。」
「なによ?」
「…その、お胸が。」
「胸が?」
「…ボンッ♪って感じな娘です。」
「私みたいなってこと?」
「…冗談は顔だけにして下さい。」
- 26 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/08(日) 23:41
-
「…やっぱり、あんた1人で探しなさい。」
「う、うそです、うそです。保田さんも可愛いです。巨乳です。ヨ!国民的アイドル☆ケメ子!」
「イヤミに聞こえるわよ!」
「…ま、冗談はここまでにしときまして…。」
「やっぱり、冗談だったのね!」
「当たり前じゃないですか!なに本気にしてるんですか!」
「今度は逆切れ!?」
「と・に・か・く!その娘、知りません?」
それ以外のことは本当に絵梨香も知らない。
なんせ昨日、ランドリーでちょっと一緒になっただけの娘である。
果たしてそれだけでわかるのだろうか?
保田はちょっと空を仰いだ。
が、答えはすぐに出た。
「わかったわよ!」
「ホントですか?どこに住んでるんです?」
この時、絵梨香は真剣に保田のことを尊敬した。
「その子はねぇ…。」
「はい!その子は…?」
「この街に…」
「この街に…?」
「いないわ!」
「はぁ!?」
絵梨香は保田への尊敬を即座に取り消した。
あまりにも呆気ない幕切れだった。
- 27 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/08(日) 23:41
-
「そんな女の子、この街にはいないわ!」
「そ、そんなはずないです。昨日だって、ここのコインランドリ―に来てましたし…。」
「とにかく、この街にはいないわ!他を探しなさい!」
そう言うと保田はそそくさとランドリーを出ていってしまった。
その後姿を見送りながら呆然とする絵梨香。
保田が知らないとなると困ったものである。
もしかしたらこの街の娘じゃないかもしれない。
その可能性だって十分にありうる。
「それじゃあ、範囲が広すぎるし…。」
もちろん、わかるわけがない。
が、絵梨香は少なくともこの街の娘だと信じたかった。
なぜなら、他の街にすんでいる娘が
はたしてこの街のコインランドリ―に来るだろうか?
「あぁ〜…。わかんないなぁ…。」
「何やってん?」
突然、絵梨香の近くから聞き覚えのある関西弁。
ゆっくり顔を上げるとやはり見覚えのある顔がそこにはあった。
- 28 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/08(日) 23:42
-
「あぁ!昨日の!」
「どうしたん、そんな声出してぇ?」
関西弁の女の子は絵梨香のあまりの驚き様に少し微笑んだ。
そう、まさしく昨日、このランドリーで逢ったあの女の子だ。
絵梨香がとにかく逢いたかった人物である。
「昨日はどうも。」
「『どうも』…じゃないよ。昨日はどこ行っちゃたのさ。急にいなくなっちゃったから心配したんだよ。」
「ホンマにぃ?」
関西弁の女の子は嬉しそうに絵梨香を見た。
どことなく人懐っこい顔をしている。
だから、余計に絵梨香の頭の中に鮮明に残っていたのかもしれない。
「昨日はちょっと都合があって…」
「洗濯物ごと一瞬に消えちゃうんだもん。あれ?って感じで。」
「ごめんなぁ。」
「まぁ、無事だったから良かったけど…あのさ、名前なんて言うの?」
「うち?うちはなぁ、岡田唯。」
「唯ちゃん?」
「そう。良い名前やろ?」
「…普通、自分で言わないよ。」
「まぁ、まぁ。」
- 29 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/08(日) 23:42
-
「えっとぉ、私はね…」
「絵梨香ちゃんやろ?」
「え?」
「絵梨香ちゃんやなかった?」
「そうだけど…なんで知ってるの?」
「まぁ、ええやん。」
唯はニコッと笑ったが、絵梨香は首を傾げた。
はて?いつ名前を言っただろうか?
記憶を遡っていくと……
昨日の梨華との会話に行きついた。
確かにあの時、梨華が自分の名前を呼んだのかもしれない。
そう考えればつじつまが合う。
が、普段梨華は絵梨香のことを『三好ちゃん』と呼ぶのだが…。
「今、どこに住んでるの?」
「大阪。」
「いや、大阪は実家でしょ?実家じゃなくて、東京ではどこに住んでるの?」
「東京には住んでへんよ。」
「へ?住んでない?」
東京に住んでないとなると…。
「じゃあ、ホテルとか?」
「違う。」
「親戚の家?」
「それも違う。」
「じゃあ、どこに住んでるのさ?」
- 30 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/08(日) 23:43
-
「あんなぁ…東京には家がないねん。」
「家がない?」
「そ、家がない。」
東京には住んでいない。
ホテルでもない。親戚の家でもない。
じゃあ、一体どこで唯は暮らしているのだろうか…?
「ねぇ、唯ちゃん。」
「んー?」
「家がないなら、どうやって暮らしているの?」
「……絵梨香ちゃんはさぁ、うちの言うこと信じてくれる?」
「うん。そりゃぁ、信じるよ。」
「ホンマにぃ?」
「うん。」
「……あんなぁ、うち幽霊やねん。」
- 31 名前:― 投稿日:2005/05/08(日) 23:43
-
- 32 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/08(日) 23:44
-
短めですが、本日の更新はここまでです。
次回に続きます。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/09(月) 01:05
- 突然の告白に、絵梨花ちゃんどうするんだろ?
- 34 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/09(月) 12:59
- 更新お疲れさまです。 三好ちゃんの反応や如何に! 次回更新待ってます。
- 35 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/12(木) 23:01
-
>>33 名無飼育 様
普通の人なら逃げますが、三好さんはどうでしょう?
>>34 通りすがりの者 様
更新を待っていただき、ありがとうございます。
まったり頑張ってまいります。
それでは、更新を再開します。
- 36 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:01
-
「……あんなぁ、うち幽霊やねん。」
「へぇ〜、幽霊なんだぁ。知らなかっ……って!ゆ、幽霊っ!?」
「そ、幽霊。」
そう言うと唯は再びニコッと笑った。
さっきまでその笑顔に人懐っこさを感じていたのに、
なぜかそれが急に肌寒さに変わっていた。
それはもちろん恐怖と戦慄のせい。
だって、幽霊だよ?幽霊。
…そもそも幽霊というものがどういうものか、
どんな存在なのかぐらいは絵梨香にだってわかる。
「幽霊って…あの『うらめしやぁ〜』の幽霊?」
「そう。『呪ってやるぅ〜』の幽霊。」
「へ、へぇ〜…。」
「足はちゃんとあるし、歩けるんやけどなぁ。ほら、服とかも昨日とそのまんまやろ? ……って絵梨香ちゃん、なんで少しずつ遠のいてんねん。」
「だって、だってぇ…」
- 37 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:02
-
半泣きだった。
そりゃ、昨日からずっと探していた人だけど…
一瞬で消えちゃったから心配していた人だけど…
まさかその人が『幽霊』だったなんて…。
「大丈夫やて…。」
「ど、どのへんが大丈夫なのさ!」
「うち、悪い幽霊に見える…?」
「そんなの悪い幽霊に逢ったことないからわからないよ!」
「うちは良い幽霊やん…。」
「良いも悪いも、残念ながら幽霊とは親交がないもので!」
「なぁ、絵梨香ちゃん。絵梨香ちゃぁん…。」
そう言って幽霊の手が肩まで伸びてきた。
それだけでもゾッとするのだが、
その手がまたヒンヤリ冷たくて…。
「キャ、キャー―――っ!……ん?…もごもご…」
「大声だしちゃ、ダメ。近所の人にめっちゃ怪しまれるやんか。」
「…もごもごもご…。」(そんなこと言ったって!)
「シー。静かに、静かに。」
- 38 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:02
-
絵梨香は、唯に手で口を塞がれながら
そっとランドリーの物陰に隠れさせられた。
よく外を見てみれば、悲鳴を耳にした保田が辺りを見渡している。
あの保田のお姉さん…
…じゃなかった保田のおばさんは執念深いから
しつこく辺りを探し回るに違いない。
「変に騒ぎになっても困るやん。」
「…もご…。」(うん。)
「そうじゃなくても、うちは幽霊なんやし。」
「…もごもごもご…。」(わかったから、とにかく手ぇ離して。)
「逃げへん?」
「…もごもご。」(逃げないよ。)
「ホンマに?」
「…もご。」(…多分ね。)
ようやく口を開放され新鮮な空気が入る。
すーっと息を吸いこんで、また吐いて。
その間も唯の横顔をなんとなく見てみるが
少なくとも幽霊っぽくは見えない。
絵梨香の頭の中で想像する幽霊はとにかく怖いイメージだけだった。
…ううん。待てよ。
もしかしたら、唯の本当の姿はもっと恐ろしいのかも…。
この世の物とは思えないような容貌で…。
- 39 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:02
-
「…今、逃げようと思ったでしょ?」
「そ、そんなことないよ。」
「ホンマにぃ?ちょっと離れてきてない?」
今は、どう見ても普通の女の子。
そりゃ、確かに手は凄く冷たかったけど
感じはそこらにいる女子高生となんら変わりない。
だけど、本当の姿はきっと…
…やめよう。変な想像すると身が持たない。
「あのさぁ…」
「んー?」
「幽霊って霊感のある人にしか見えないんじゃないの?」
「そーでもないみたいよ。うちのこと見えるの絵梨香ちゃんだけみたいやし。」
「えっ?私だけ?」
「ウン。今んとこ絵梨香ちゃん以外には見えてへんみたい。」
そういえば昨日。
梨華はランドリーで洗濯していたのは絵梨香しか見てないと言っていた。
つまり、梨華には唯の存在が見えていない…?
- 40 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:03
-
「でも…なんで私だけ唯ちゃんのこと見えるんだろ?」
「それがわからへんのよ。もしかしたら…」
「も、もしかしたら…?」
「絵梨香ちゃんのこと恨んで死んだんかもな、うち…」
「ふぇ!?」
「それで絵梨香ちゃんに復讐するために…」
「や、やめてよぉ!」
「わからへんよぉ…」
冷たい視線が走る。
冷たいものも背筋を走る。
「……なんてジョーダン♪」
「も、もぅ!」
「それになぁ。実を言うと、うちまだ死んでへんの。」
突然、変なことを言い出す唯。
「へっ?死んでない? でも、唯ちゃんは幽霊なんでしょ?」
「まぁね。」
「幽霊なんだから、唯ちゃんはもう死んでるはずじゃ…」
「ううん。厳密に言えば、まだ死んでへん。死んでへんから、幽霊じゃないって言うたら幽霊じゃあらへん。」
「…どういうこと?」
「あんなぁ、うちの本当の体は植物状態なん。」
植物状態…?
- 41 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:03
-
「だから、まだ体は大阪の病院にいるねん。」
「幽体離脱…ってこと?」
「そうとも言うなぁ。せやから病院から抜け出して、新幹線乗って…見えへんから『ただ』やんかぁ。1回東京に来てみたくて。それでもなぁ、誰にも見えへんからつまんなくて。…だから、昨日ここで絵梨香ちゃんがうちに会釈したときにすっごくうれしかったん。だって、初めてうちのこと見えた人やから」
「そうだったんだ…。」
誰にも相手にされないときほど寂しいものはない。
東京に来て、唯はずっと独りぼっちだったのだ。
泣きたくても泣けず、誰かを頼ろうにも誰にも頼れない。
それがどれだけ切ないことか。
「…でも。それじゃあ、こんなとこにいる場合じゃないじゃないの?」
「なんでぇ?」
「ほら、よく幽体離脱したら『戻れ』って強く祈れば元の体に戻れるっていうじゃない?」
「あぁ、よく言うなぁ。」
「じゃあ、大阪に戻って…。」
だが、唯はさらに寂しそうに首を横に振った。
それはまるで絶望の淵を経験したことのように。
「やったん…。2ヶ月間…。毎日、毎日…。でもなぁ…戻れへんかった…。」
- 42 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:03
-
2ヶ月間、唯は元の体に戻ろうと努力した。
だが、それは無常にも報われることがなかった。
月日だけがやけに早く流れていき、
どうすることもできない無力の自分がそこにいた。
そのうち、毎日毎日病院に来てくれる
両親の悲しげな顔が心をキュッと絞め付ける。
いつのまにか痩せてしまった2人に対し、なにもすることが出来ない。
それが嫌になって病院から出ていった。
「自分勝手って言うたら自分勝手かもしれへんけど、とにかく辛かったん。それでもなぁ、東京に来てからもなぁ、何度か大阪に帰ろうって思ったことがあるねん。」
でも、帰れなかった。
理由は1つ。
「もしもなぁ。もしまた元に戻れへんやったら、すっごく怖い…。やっぱり戻れへん、ってわかったときが怖いねん…。」
それで唯は東京の街をぶらぶらしていたらしい。
「なんか、うちアホみたいやけど、ここで絵梨香ちゃんに逢えたことはすっごくよかったと思ってん。」
「そっか。」
「ホンマにありがとぉ。」
唯は右手をそっと差し出した。
その小さな手を絵梨香はぎゅっと握り締めた。
さっきまでの警戒心はどこにもない。
今、まさに生死を越えた友情が……。
- 43 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:04
-
「…ところで絵梨香ちゃん。大学、いかへんでええの?」
「え? あっ!」
忘れてた。
感動的なシーンもずたずたになってしまった。
携帯の時計を見ると今から行っても授業には間に合わない時間である。
大学に行かなければならないのは山々だが、
目の前にいる幽霊のなりそこないのことも気になる。
「唯ちゃんは、どうするの?」
「『どうする』って言われてもなぁ…」
「うちに来る?狭いけど。」
「絵梨香ちゃんちに?」
「なんならしばらく泊めてあげるよ。」
「ホンマにぃ?…でもなぁ、悪いやん。」
「いいの、いいの。どうせ行くとこないんでしょ?」
「まぁ…。」
「はい。じゃあ、決まり。」
走ってもと来た道を引き返す。
ランドリーから絵梨香のアパートまで歩いて5分とかからない。
絵梨香の横には絵梨香しか見えない幽霊がいる。
幽霊にしておくにはもったいないほど可愛い幽霊が。
- 44 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/12(木) 23:04
-
「そーいえば、唯ちゃんって今まで何食べてたの?」
「んー?うち、別に食べなくても平気なん。」
「へぇ〜、そうなんだ。」
確かに幽霊で大食家がいたらかなり困る。
いくら誰にも見えていないとはいえ、
突然、食べ物が消えるのだから大事になるに違いない。
「…でも、絵梨香ちゃんが作ってくれるんなら食べてええよ。」
「贅沢な幽霊だこと。じゃあ、早速今晩作ってあげるね。」
「ありがとぉ。でも、うち結構好き嫌い激しいで。」
「…偏食の幽霊なんているんだ。」
「うち、もとは人間やもん。」
そう、幽霊だってもとは人間なのだ。
カレーライスが好きな幽霊がいたっておかしくない。
とにかく絵梨香と唯は足早に東京の街をかけぬけていった。
その足取りは、ほんの少しだけ軽かった。
- 45 名前:― 投稿日:2005/05/12(木) 23:04
-
- 46 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/12(木) 23:05
-
本日の更新はここまでです。
次回に続きます。
- 47 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/13(金) 21:00
- 更新お疲れさまです。 三好さん引き過ぎ引き過ぎ(^o^;{ナンテ事を言ってミタリなる程、そんな理由があったんですね。 実はなにを隠そう自分もr!(ry モニャモニャ・・・。 ´Д`{次回更新待ってます。
- 48 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/13(金) 23:23
- お疲れ様でございます。
絵梨花ちゃん、幽霊を家に置いておくなんて…
- 49 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/18(水) 23:19
- 更新、待ってます
- 50 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/21(土) 23:27
- まだかな、まだかな♪
- 51 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 09:30
- 続きが、めっちゃ気になる
- 52 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/29(日) 22:24
-
お久しぶりです。
只今、事情によりなかなか更新することができません。
待っていただいている方々、本当に申し訳ございません。
>>47 通りすがりの者 様
じ、実はそうだったんですか!?
ならば、岡田さんの気持ちも…。
>>48 名無飼育 様
良い幽霊の住む家だったら悪くないですよ。たぶん…。
>>49 名無飼育 様
まったり更新でスミマセン…。
これからも不定期な更新になると思います。
>>50 名無飼育 様
大丈夫です。もうすぐですっ♪
>>51 名無飼育 様
気にして頂いて、めっちゃありがとうございます。
それでは更新を再開します。
- 53 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:25
-
新緑の眩しい風が都会の街を吹き抜けている。
ほんの少し夏の匂いのする風は、きっとどこか懐かしい感じがしていた。
それはきっと子供のころ出会ったことのある風だから。
そんな風に吹かれながら、まるで恋人同士のような2人が
小さいアパートの階段を駆け登っていく足音が響いていた。
「はい、はい。上がって、上がって。」
「どーも。おおきに。」
その足音の主はもちろん絵梨香である。
一方、唯はいうと幽霊のくせに足があるのだが、足音はしていない。
この辺りがさすが幽霊と言うべきか。
さっきからふわりふわりと絵梨香のあとを歩いていた。
2人が着いたのは、街中にある絵梨香の住むアパート。
決してお世辞にも広いとは言えないが、
それなりに綺麗な外観をしている様子だった。
部屋の中もちょっと散らかっていたが、
絵梨香が手際良く片付けてくれたので、なんら心配はない。
- 54 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:25
-
「何にもないけど適当に寛いでいいから。」
「ホンマにありがとうなぁ。」
「お互い様だって。困った人がいたら助けるでしょ。」
「……まぁ、うちは『困った人』じゃなくて『困った幽霊』やけどな。」
「細かいことは気にしないの。えっと、なんかあったらここに連絡して。私の携帯番号、書いてあるから。じゃ、私は大学に…。」
と、玄関においてあったバックを掴んで大学に出かけようとする。
時計の針は絵梨香がとっている2限目の授業が
始まっている時間を若干過ぎていた。
それでも、急げば少しは授業が聴けるかもしれない。
根がマジメな絵梨香らしい考え方だった。
が、しかし…。
「ちょっと待ってぇ。」
自称『困った幽霊』に引きとめられる。
「なに?なにかわからないとこある?」
「あんなぁ…。」
「うん。」
「お昼ごはん…。」
「へ?」
「お昼ごはん食べたい…。」
確か、唯はお腹が減らないと言っていたはずだが…。
「なんかなぁ、安心したら急に食べたくなってん…。」
「そうかぁ…。なんかあったかな?」
- 55 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:25
-
唯のわがままに絵梨香は再び玄関から引き返し、
がさごそと台所の辺りで食べられるものを探す。
コーンの缶詰…。
マヨネーズの買い置き…。
お茶漬けのもと…。
ただし、ごはんがない…。
オイスターソース…。
…とてもじゃないが、すぐにお昼ごはんになりそうなものはない。
となると…。
「じゃあ、唯ちゃんが勝手に作るってことで…。」
「えぇ?」
そういうわけにもいかない。
要するに絵梨香が作るほかない状況なのである。
仕方なく再び台所の棚に目を向けると赤い縦長の袋があった。
この袋は確か…。
- 56 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:26
-
「…ねぇ、唯ちゃん。パスタ、茹でよっか?」
「パスタ?」
「ほら、昨日初めて逢ったとき、おいしいパスタのお店教えようとしたでしょ?で、またこうして逢えたんだから、逢えた記念にパスタがいいかなって思って。」
「パスタかぁ…。ええなぁ。」
「じゃあ、決まり。今日のお昼ごはんは、パスタに決定♪」
そう。先ほどの赤い袋はパスタの袋。
冷蔵庫を覗くと適当に野菜もあるし、ベーコンもある。
どうやら野菜とベーコンのパスタが作れそうだ。
「じゃあ、唯ちゃんも手伝ってくれる?」
「ええよぉ。…ところで絵梨香ちゃん、料理上手なん?」
「自分で言うのもなんだけど料理は上手いよ。私が作るパスタ、そのお店に負けないくらいおいしいんだから。」
確かに絵梨香の料理の腕は一流と言って良い。
そんじゃそこらのお店よりも
絵梨香が作ったほうがはるかにおいしいのである。
それにはもちろん理由があって
実は昔、絵梨香は料理店でバイトしていた経験があるのだ。
- 57 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:26
-
それに比べ、誰かさんの料理の腕前といえば…。
「…くっしゅんっ♪…あ〜、また誰か、あたしの噂してる。悪いですけど、あたしだって白玉っていう得意料理があるんですぅ。それにチャーハンだって作れます。…てか、なんで三好ちゃん、大学に来てないのよ。…って、あたし、誰に向かって言ってるんだろ…。」
…もちろんこれは、梨……じゃなかった、誰かさんの見栄っ張りに過ぎない。
一方、話は戻って、絵梨香は手際良く調理をしていた。
その腕前に思わず唯も見とれてしまう。
「うわぁ♪ホンマにうまいやん。」
「今日は特別だよ。絵梨香シェフが腕を振るってあげてるんだから。」
「やったぁ。ありがとう。」
もちろんこの時、絵梨香は2限目の授業をサボることを決意していた。
今日は、仕方ない。
唯にご飯を作るために午後の授業から出ることにしたのである。
- 58 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:26
-
- 59 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:27
-
大学では、午後の講義が始まろうとしていた。
キャンパスに漂うなんとなく眠たい空気。
そんな中を絵梨香は急ぎ足で講義が行なわれる教室へと向かっていた。
一方、その教室では、若干ご立腹の梨華の姿があった。
もちろんそれは、なんの連絡もなしに講義をサボった絵梨香が原因。
すっかりプンスカプンになっていた。
そこにようやく絵梨香が入ってきた。
窓側の席に梨華の姿を見つけて、そそくさとその場所に移動する。
「石川さん。」
「……」
返事がない。
「石川さん。」
「……知らないっ。」
「どうしたんですか?」
「……さっきの授業サボったくせに。」
「サボったんじゃないですって。」
「……じゃあ、なによ?」
「いやぁ、それは、ちょっといろいろ…。」
「……いろいろってなによ?今日、朝起きたらすぐ帰っちゃうし。どうせ、可愛い女の子から誘いでもあったんでしょ?」
完全にご機嫌斜めの姫。
なんとか機嫌を直してもらおうにも教授が入ってきて講義が始まってしまった。
ノートを取り出して、鉛筆を走らせ始めた梨華の姿を見て
とりあえず絵梨香もそれにならう。
…しかし、ものの10分で絵梨香に睡魔が襲ってきた。
- 60 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:27
-
町内会長の保田に逢うために早起きをしたり、
コインランドリ―で知り合った幽霊を家に連れて帰ったり、
通した部屋があまりも汚かったから少し掃除したり、
ちょっとしたお昼ごはんを用意してあげたり…
絵梨香にしてみれば
とにかく『わぁー…』といろいろなことをして、大学に滑り込んだのである。
眠くなるのも当然と言えば、当然。
根がマジメな絵梨香の瞼も徐々に重くなる。
そして、教授の声も少しずつ遠のいていった。
それはまるで小さい頃に聞いた母の子守唄の様に。
いつのまにか夢の旅路へ。
ZZZ…。
- 61 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:27
-
「……三好ちゃん。」
誰かが絵梨香の名前を呼んでいる。
「…三好ちゃんったら。」
誰かが絵梨香の体を揺すっている。
「三好ちゃん。」
「ん……んんっ。」
急に目の前が光に包まれる。
突然、強い光を浴びたものだから目が一瞬クラッときた。
それでもゆっくりと視界がはっきりしてきた。
「…石川さん?」
「もぅ、三好ちゃんったら、講義中ずっと寝てたんだよ。」
「え?…あれ?」
ようやく梨華の姿を確認すると
なぜか教室で2人っきりになっていることに気付いた。
- 62 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:28
-
「…もうみんな移動しちゃったよ。」
「そうなんですか…。」
「三好ちゃんが講義で寝ちゃうなんて珍しいね。」
そう言いながらくすりと笑った。
その仕草に絵梨香は「おやっ?」と思った。
見た感じだけだが、いつのまにか梨華の機嫌が良くなっている。
それだけではない。
やけに梨華の顔が近いことに気付く。
「石川さん…?」
「ん〜?」
「…もう、怒ってないんですか?」
「うん。怒ってないよ。」
確かに満面の笑みを浮かべている。
いつもの梨華に戻っている。
「…なんでこんなに顔が近いんですか?」
「見つめたいからかな♪」
「…なんで目を瞑ってるんですか?」
「決まってるじゃん♪キスされたいから♪」
はてな…?
授業中に一体何があった…?
- 63 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:28
-
「ねぇ、三好ちゃん。あたしのこと……好き?」
「ほぇ?」
「あたしのこと好き?」
「ど、どうしたんですか?」
「なんか急に聴きたくなっちゃの。」
「急にって…。ここで言うの、なんかはずかしいですヨぉ。」
「ダ〜メ。講義サボったんだから、言ってくれなきゃヤダ♪」
「そりゃ……好きですよ。」
「キャッ♪三好ちゃんったら♪梨華、嬉しい♪」
…明らかに壊れている。
もともと梨華はちょっと変わってる所があるが、今日は一段とおかしい。
なんと言っても
90分前まではプンプン怒っていたはずなのだが…。
「じゃあ、あたしがいなくなったら寂しい?」
「そりゃ、寂しいですよ。」
「どれくらい寂しい?」
「もう、一生泣きつづけちゃいます。」
今度は顔を赤らめて喜んでいる。
「じゃあさ…ここでキスして…。」
「ここでですか?」
「そう、ここで♪」
「はい…。」
- 64 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:29
-
お互い見つめ合う。
ゆっくりと梨華が目を閉じると絵梨香がそっと抱き寄せて…。
♪♪♪
「…あ〜ぁ、こんな所でぇ。」
「三好ちゃんもやるねぇ。」
突然、聞こえてきた声にハッとして、絵梨香は辺りを見渡す。
すると机の影から見たことのあるお馴染みの顔が2人ほど
カメラを持ってニヤついていた。
1人の名前は ―――柴田あゆみ。
通称、柴ちゃん。
梨華とは中学の時からの仲良しで本当は梨華と同級生。
つまり、今は3年生なのだ。
そして、もう1人は ―――吉澤ひとみ。
通称、よっすぃ〜、またはよっちゃん。
大学で友達になった男前の女の子でスポーツも万能。
この2人が絡んでいるとなると…。
どう考えてもはめられた可能性が高い。
- 65 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/05/29(日) 22:29
-
「2人っきりになるとホントに三好ちゃんって、積極的になるんだねぇ。」
「そ、それは違くて…」
「大丈夫。ばっちし、キスシーンはカメラに撮っちゃったから。」
カメラを誇らしげにかかげるひとみ。
しかし、ここで1つ疑問が浮かんだ。
どうして2人はこんなにタイミング良くここにいたのだろう?
しかも、カメラまで用意して。
どう考えたっておかしい。
どう考えたって…。
ということは…。
「……石川さん。」
「え?な、なに?」
「裏で絡んでましたね。」
「な、なんのこと?梨華、わからないわ〜♪」
「わからないわけないですよねぇ?」
嘘をつくときまばたきが多くなるのが梨華の癖。
絵梨香は、そのあたりは梨華のことを良く知っている。
「……だ、だって、柴ちゃんもよっすぃ〜も三好ちゃんとあたしがラブラブだってこと信じてくれないんだもん。自慢したかったんだもん。」
「だからって、ひどいじゃないですかぁ!」
「だ、だって…好きなんだもん!」
ずるい。
梨華は、ずるい。
その一言で絵梨香は、怒れなくなってしまったのです。
- 66 名前:― 投稿日:2005/05/29(日) 22:30
-
- 67 名前:ゆーたん 投稿日:2005/05/29(日) 22:30
-
本日はここまでです。
次回へと続きます。
- 68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/30(月) 04:08
- なんか和むなあ
主役二人の人徳か
次回楽しみ
- 69 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/05/30(月) 19:48
- 更新お疲れさまです。 三好サン、自業自得っていうか不可抗力というか・・・。 あの二人が絡むと今後が楽しみですね。 そうなんです・・・小さい頃に数時間ほど。 次回更新待ってます。
- 70 名前:ゆーたん 投稿日:2005/06/07(火) 23:30
-
>>68 名無飼育 様
(;T▽T)<あれっ?『主役の2人』って、もしかしてあたしは入ってないの?
>>69 通りすがりの者 様
今後、あの2人のうちどちらかが……モゴモゴ……。
いつかわかる時がきます。
それでは更新を再開します。
- 71 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:30
-
梅雨どきの天気予報ほどあてにならないものはない。
朝まで晴れだった予報も夕方になってみれば雨模様。
そんな天気図に振り回される日々がしばらく続く。
それはもしかしたら確実に夏に向かっている証拠なのかもしれないが、
このジメジメした時期が好きな人は少ない。
でも、絵梨香は意外にもこんな梅雨の季節が嫌いではなった。
そりゃ、晴れた日の方が好きなのは決まっている。
だけど、梅雨も悪くないなと絵梨香は思った。
もともと北海道にいた頃は梅雨なんてなかった。
『降るものといえは雪!』
と言うのは偏見だが、外に出られないのなら
それはそれで家でまったりすればいい。
雨空を眺めるとなんだかホッとする。
……なんだか、梅雨の天気は梨華の気分に似ているなと絵梨香は思った。
遅刻してきた絵梨香に怒った梨華は、あゆみとひとみにメールをした。
『3限目の授業終わったら、あたしと三好ちゃんのラブラブっぷり見せつけちゃうから』
- 72 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:31
-
あゆみもひとみも梨華と絵梨香の関係を知ってはいたのだが、
いかんせん絵梨香の敬語癖が取れず
いつもよそよそしい2人の関係に
『ホントは、三好ちゃんがあわせてるだけなんじゃないの?』
『梨華ちゃんが絵梨香ちゃんのこと恋人だって想い込んでるだけだよ。』
と言われていたらしい。
梨華としてはいつものラブラブっぷりを見せつけたい。
だからといって絵梨香は2人っきりのとき以外ベタベタしてこない。
それが『今回の件』に繋がったらしい。
女の恋心というものは、梅雨の天気のように難しいものである。
だけど、そんな梨華の姿が絵梨香にとって愛らしかった。
「…三好ちゃん、怒ってる?」
「もう怒ってないですよ。」
「…ごめんね。」
「ううん。元々は私が悪いんですし。」
「そんなことないよぉ。あたしが悪いんだよ。」
…さっきからこれの繰り返し。
もう何百回このセリフを聞いただろうか。
ネガティブな梨華を絵梨香はそっと抱き寄せた。
- 73 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:31
-
「…もう一度聞くけどさ。あたしのこと好き?」
「好きですよ。」
「あたしがいなくなったら寂しい?」
「寂しいです。本当に一生、泣いちゃうかもしれません。」
「絵梨香ぁ…。ごめん。」
「いいんですよ。もう終わったことですし…。」
「……。」
「それに石川さんが私のこと『好きなんだもん』って言ってくれて嬉しかったですし。」
「…うんうん。違うの。」
えっ?と絵梨香は梨華の方を見た。
ふと寂びそうな顔が目に入る。
それは今まで見せなかったような顔で…。
- 74 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:31
-
「石川さん…?」
「あのね、実はあたし…。」
♪〜♪〜♪♪〜♪
と、ここで携帯が鳴り出した。
梨華の視線が絵梨香のバックに注がれる。
どうやら着信は絵梨香の携帯らしい。
「…いいよ。出て。」
「ごめんね。」
絵梨香は慌てて鞄から携帯を取り出すと
ディスプレイに映し出される『お母さん』の文字。
それはまさしく、実家からの電話。
「はい。もしもし?」
携帯電話の向こう側から懐かしい声が溢れ出したが、
なにもこんな時にかけてこなくても…。
- 75 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:32
-
話の内容は今年も田植えが始まっただとか…
石狩川の水がまだ冷たいだとか…
散々、地元の話をした後に
『あと、仕送り送ったから』の一言で一方的に電話は切られた。
「…ごめんね、石川さん……って、あれ?」
そこにはもう梨華の姿がなかった。
さっきまでいたはずの梨華が消えてしまったのである。
脳裏に残るあの寂しげな顔…。
なにか言いたげな口…。
絵梨香は急に胸騒ぎがして梨華の携帯をかけてみた。
(…お客様のおかけになった電話番号は只今電波が悪いか、電源が入って…)
出ない。
こんな時に限って。
…ここでふと絵梨香は前にも同じようなことがあったことを思い出した。
- 76 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:32
-
さっきまでいたはずの人物が急に姿を消す…。
『実はあたし…』というカミングアウト的なセリフ…。
まさか…ねぇ?
まさかそんなはずないよねぇ?
あはは…。
あはは…。
絵梨香は少し眩暈を感じつつ、梨華の住む家へと足取りをはやめた。
空の向こう側には大きな入道雲がゆっくりこちらに動いてきている。
天気も下り坂のようだった。
- 77 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:33
-
梨華の家は、絵梨香のアパートから歩いて20分のところにある。
自転車を使えばもっと早く行けるのだろうけど、
絵梨香にはそれを買うお金さえもないのが現実という所だろう。
例え、もしそんなお金があったとしても
恐らく絵梨香は先に洗濯機を買うだろう。
貧乏生活は辛いのである。
そんな絵梨香の支えとなっているのが梨華といってもいい。
梨華の出身は、神奈川の海沿いの街。
確か昔の写真を見せてくれたときに
『子供の頃はよく海で遊んだの』なんて言っていた記憶がある。
家族とも仲が良く、絵梨香との何気ない会話の中に度々登場するほどだった。
そんな梨華も今は大学に通うために上京し、ここで一人暮しをしている。
絵梨香は、アパートの1階にピンク色の表札を見つけると
そっとインターフォンを押した。
- 78 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:35
-
ピンポーン♪
1回…。
ピンポーン♪
2回…。
出ない…。
さらに4、5回鳴らしてみたが、一向に出てくる様子がなかった。
すると絵梨香が鳴らすインターフォンに気付いたのか、
隣の部屋から管理人さんらしき人が出てきた。
「どうしたのかね?」
「あの…ここに住んでいる石川さんは?」
「石川さんかい?石川さんは昨日、部屋を出ていったよ。」
「で、出ていったんですか?」
「あぁ。昨日『お世話になりました』って、荷物まとめて出ていったよ。」
「そんな…。」
…聞いていなかった。
絵梨香は、梨華から部屋を出ていくという話など聞いていない。
- 79 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:36
-
「あ、あの。どこに行くとか聞いてませんか?」
「さあねぇ…。なにしろ昨日、急に出て行くって言い出したもんだから…。」
一体、何があったというのか?
梨華の家をあとにし、今度はあゆみの携帯にかけてみた。
前にも述べたように
あゆみは梨華と中学からの仲良しである。
何か違った話を聞いているかもしれない。
「…もしもし?」
(はい、もしもし。絵梨香ちゃん?)
「はい、そうです。」
(どうかしたの?ははぁ、さてはさっきのことで喧嘩したんでしょ?それで梨華ちゃんがぐれちゃって…。)
「違うんです。」
(違うの?じゃあ…)
「石川さんが部屋からいなくなったんです。」
(えっ?いなくなったぁ?)
「はい…。なんか昨日、部屋から荷物まとめて出て行ったそうなんですけど…。何か聞いてませんか?」
(私、何にも聞いてないよ。)
「そうですか…。」
(ちょっと、待って。なにがあったのかよくわからないけど、とりあえず詳しい話聞かせて。)
- 80 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/07(火) 23:36
-
絵梨香はここまでの経緯をあゆみに全部話した。
梨華が急に姿を消したこと。
…自宅へ行ってみたら、荷物をまとめて出ていっていたこと。
(…そっか。)
「はい。」
(私は何にも聞いてないなぁ。それにそんなに大事なことだったら、まず真っ先に絵梨香ちゃんに言うでしょ?)
「そうですよね…。」
(…わかった。じゃあ、私も心当たり探してみるね。あと、よっすぃ〜にも応援頼んどくから。)
「はい…。お願いします…。」
東京地方。
夕方から夜にかけての降水確率 80%
- 81 名前:― 投稿日:2005/06/07(火) 23:36
-
- 82 名前:ゆーたん 投稿日:2005/06/07(火) 23:37
-
本日はここまでです。
次回に続きます。
- 83 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/08(水) 09:29
- 更新お疲れさまです。 石川サンいったいどうしたんでしょう? こっちも一雨来そうです。 次回更新待ってます。
- 84 名前:名無し 投稿日:2005/06/08(水) 12:28
- 初めまして!
更新されたとこまで読みました!すぐ引き込まれました!
梨華ちゃんは一体どこへ・・・?
次の更新お待ちしてます!
- 85 名前:ゆーたん 投稿日:2005/06/16(木) 01:37
-
>>83 通りすがりの者 様
この時期の雨は嫌ですよね。
どうせならスコールみたいに一気に降ってほしいです。
>>84 名無し 様
ありがとうございます。
ホント、そういう言葉に励まされます。
それでは更新を再開します。
- 86 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:38
-
(石川さん?)
「三好ちゃん、ごめんね…。」
(な、何言ってるんですか。)
「ごめん…。あたし、もう逢えない…。」
(ま、待って!)
- 87 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:38
-
「ごめん…。もう行かなくちゃ…。」
(行くって…どこに行くの?)
「遠い場所…。」
(待ってよ、石川さん!待って!)
「さよなら…。」
(…待って!行かないでよ、石川さん!石川さんが行ったら私…私…。お願い!帰ってきて!石川さん…ねぇったら!石川さぁん!)
- 88 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:39
-
「お〜い、三好ちゃん。」
「んっ…?」
「家に着いたよ。」
絵梨香はあゆみの声で我に返った。
慌てて辺りを見渡すと車の窓の外に見慣れたアパートが目に入った。
紛れもない絵梨香の住みなれたアパート。
「夢……か。」
「なにが?」
「ううん、なんでもないです。」
心の動揺を隠す様に思いっきり体を伸ばす。
車の中、しかも変な姿勢で寝てしまったのだから体の節々が痛い。
……あのあと
ひとみも加わりいろいろ心当たりを探ってみたのだが
結局、梨華を見つけることが出来なかった。
――― ただ、気になることが1つあった。
- 89 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:39
-
あゆみが梨華の実家に電話してみたのである。
しかし、石川家の電話はずっと留守電だった。
夕飯どきの時間帯なのだから誰か出てもおかしくない。
なのに電話に出ない。
ということは外出している可能性が高い。
「とりあえず、もう一度電話してみるね。」
「はい…。」
あゆみの携帯から微かに車内に響く呼び出しコール音。
無常にも電話の相手は出る気配がない。
「……ダメだ。やっぱり出ないや。」
「そうですか。」
がっくりとシートにうなだれる。
- 90 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:39
-
「…とりあえず梨華ちゃんのことだから、明日になったらひょっこり帰ってくるって。」
「そうだといいんですけど…。」
「元気出しなよ。まだ失踪したって決定したわけじゃないんだから。」
「はい…。」
あゆみは絵梨香をなだめるが、絵梨香の気持ちはかなり重い。
「またなんかわかったら連絡するね。」
「…お願いします。」
「じゃあ、また明日ね。」
あゆみは軽く手を上げると車を走らせていった。
ライトが消えるまで車を見送るとトボトボと階段を上がっていった。
時計の針はもう10時を回っていた。
本当はもっと探したいのだが、
いなくなった理由もわからないのであまり大騒ぎも出来ない。
- 91 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:40
-
「ただいま…。」
いつもなら誰もいない部屋に向かって言っていた言葉だが、
今日からまた、誰かに言う言葉になっていた。
そうなのだ。
今日からこの部屋には、絵梨香以外にもう1人の住人がいたのだ。
住人…?
いや、住幽霊とも言うべきか。
…が、その幽霊からの返事もなかった。
「唯ちゃん?」
部屋に入ると絵梨香のベッドでぐっすりと寝ている唯の姿があった。
あまりに無防備な寝顔が可愛くて、思わず絵梨香の顔に久しぶりの笑顔が戻る。
「唯ちゃん。」
「…んにゃ?もう食べれへんよぉ…。」
「食べれへん?」
「…お腹一杯やねん…。デザートは別腹やけどなぁ…。」
…どうやら寝ぼけているらしい。
それでもほっぺをぷにっとつっついてあげるとようやく目を覚ました。
- 92 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:40
-
「おかえり。随分、遅かったんなぁ。」
「うん…。ちょっと、いろいろあってね…。」
「いろいろ?」
「まぁ、ちょっとね…。唯ちゃん、先、お風呂入る?それともご飯食べたい?」
「んっ? んーとなぁ。お風呂入りたい。」
「うん…。じゃあ、用意するね…。」
「 ? 」
絵梨香はそそくさと部屋を出ていった。
なんだか唯の顔を見ていると安心して泣いてしまいそうだったのだ。
頭の中に浮かぶのは梨華の笑顔、笑顔、笑顔…。
一体今ごろ、どこで何をしているのだろうか。
――― 絵梨香の心はそんなに強くない。
- 93 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:40
-
「雨…降りそうやね…。」
「うん…。」
「珍しいなぁ。夜に雷なんて。」
「そうだね…。」
お風呂が沸くのを待っている時間。
待っていると長く感じるこの時間。
遠くの方では、ごろごろと雷の音がしていた。
「絵梨香ちゃん?」
「うん…。」
「…なんでもない。」
それっきり絵梨香も唯も黙り込んでしまった。
どうやら唯も少し勘付いたらしい。
時計の針だけがやけに大きな音をたてて動いていた。
静寂。
時折、聞こえる雷の音。
…静寂を破ったのはお風呂が出来たのを知らせる電子音だった。
「…なぁ、絵梨香ちゃん。」
「なに…?」
「一緒に入らへん?」
「へっ?」
「ずぅっと、独りぼっちやったからぁ、寂しいねん。」
- 94 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:41
-
もともとアパートのお風呂というものは小さめに設計してある。
1人で入るには十分な大きさでも、2人で入るにはちょっと狭い。
それでも、そんなことはお構いなしと言わんばかりに
絵梨香は唯に背中を押されて浴室まで来てしまった。
「…ホントに2人で入るの?」
「うん。」
「狭くない?」
「狭くなんてあらへん。それにええやん、女同士やし。」
「それはそうだけど…。」
そりゃ、女同士だ。
だけど絵梨香はちょっと躊躇いを覚えていた。
梨華がいない間に唯と一緒にお風呂なんて入っていいのだろうか?
当然、裸で入るわけだし…。
と、悩んでいる絵里香を横に唯は
ポイっ、ポイっと服を脱いで浴室に入っていってしまった。
慌てて絵梨香もそれにならうことにした。
- 95 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:41
-
「絵梨香ちゃん、背中流してあげる。」
そう言って唯は嬉しそうにゴシゴシ始めた。
くすぐったくて、なんとも言えない感覚が背中から伝わってくる。
思えば…
梨華ともよくこーやって背中洗いっこしたっけ…。
脳裏をかすめるあの笑顔に再び心を痛めた。
「…絵梨香ちゃん、恋人いるやろ?」
「へっ?」
「恋人いるやろ。」
「な、なんで?」
なんでこんな時に…。
絵梨香の心を除いたような唯の言葉。
- 96 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:41
-
「なんでわかったと思う?」
「え…?」
「だってなぁ、ここにぃ…。」
「あっ……。」
慌ててタオルで隠してみるもすでに時遅し。
みるみるうちに顔が赤くなる。
そこに残っていたのは…。
そう、梨華が残したキスマーク。
「こ、これはね…。」
「ええやん、別に。愛されている証拠やんかぁ。」
……愛されている。
そう、愛されている。
愛されているはずなのにあの人はどこかに行ってしまった。
連絡もなしに…。
……絵梨香の胸に今まで我慢してきたものがどっと押し寄せてきた。
『止めなきゃ』と思っていても次々に止めど無く流れて出てくる。
「……っう……。」
「 ? 絵梨香ちゃん?」
「ううん。なんでもない、なんでもない…。」
絵梨香の大きな瞳から溢れるものは
やがてシャワーのお湯を混ざって排水溝へと流れていった。
- 97 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:42
-
この時期の天気予報は当てにならない。
…でもたまに当たる。
ちなみに今日は『当たる日』らしい。
窓の外は、いつのまにか強い雨が降り出していた。
梅雨入りを匂わすこの時期の雨。
さらに夜だというのに大きな雷まで鳴り始めた。
どうやらさっきまで聞こえていた雷がそのままこっちにきたらしい。
窓の外は台風の様な雨と風になっていた。
お風呂から上がって
絵梨香はちょっと落ち着きを取り戻していた。
泣き顔は唯に見られちゃったけど、逆にそれで安心した。
「うちは癒し系やから。」
冗談なのか、本気なのかわからない唯の発言だったが、
本当に癒されたのだから間違いないのかもしれない。
唯も詳しいことを聞き出そうとしなかったし、
絵梨香も自分から話そうともしなかった。
ただそれだけ。
それだけのこと。
- 98 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:42
-
「なんか雨激しくなってない?」
「そーやねぇ。」
「停電とかなりそうな予感…。」
「えー。めっちゃ、怖いやん。」
「大丈夫、大丈夫。私がついてるんだから。」
「…泣き虫絵梨香ちゃんやん。」
「言ったなぁ。」
「あ〜、嘘です。ごめんなさい、ごめんなさい…」
ガシャーーーーンッ!!
「キャッ!」
どうやら、近くに雷様が落ちたらしい。
物凄く耳鳴りがしている。
唯はあまりの凄まじい音に絵梨香の腕にしがみついて離れない。
「怖いなぁ…。」
「怖いねぇ…。」
ピンポーン♪
激しくなりつつある雷雨の中、突然、家のインターフォンが鳴った。
思わずビックと反応する唯。
- 99 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:42
-
(こんな時間になんの用だろう…?)
インターフォンに出ようと立ちあがる絵梨香に
唯がさらにきつくしがみついた。
「…ちょっと唯ちゃん。」
「行かんといて…。めっちゃ怖いねん…。」
「大丈夫、1人にはさせないから。」
震える唯をなだめて玄関に向かう。
大きな音がしている。
玄関の扉にまで激しい雨粒が叩きつけていた。
「はい?」
反応がない。
いや、雨粒が叩く音が強すぎて聞こえてないのかもしれない。
「あの!どちら様でしょうかぁ?」
「……石川です。」
なんともか細い声が返ってきた。
石川…。
- 100 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/16(木) 01:43
-
「い、石川さん!?」
慌てて玄関のチェーンを外し
ドアを開けると小さくうずくまっているびしょ濡れの梨華がいた。
「石川さん!」
絵梨香の声にようやく顔を上げる梨華。
「絵梨香ぁ…。」
梨華は絵梨香に泣きついてきた。
微かに震える小さな肩。
絵梨香も思わず抱きしめる力を強くした。
- 101 名前:― 投稿日:2005/06/16(木) 01:43
-
- 102 名前:ゆーたん 投稿日:2005/06/16(木) 01:44
-
本日の更新はここまでです。
次回へと続きます。
- 103 名前:名無し 投稿日:2005/06/16(木) 21:24
- 更新お疲れ様です!
唯ちゃんの心使いが優しい・・・そして梨華ちゃんが帰って来ましたね!
彼女は何で突然居なくなってたのでしょうか?
続き楽しみにしてます!
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/18(土) 02:01
- ほっとしたようなやばいような
安心して読めるから好き
- 105 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/18(土) 09:25
- 更新お疲れさまです。 いっ、いしかーサン!!(TДT) こんな雨の中でムリに帰って来なくたっていいのに・・・。 何かに導かれて・・・!? 次回更新待ってます。
- 106 名前:名無し読者 投稿日:2005/06/18(土) 22:38
- 更新乙です!
せっかくお風呂に入ったのに岡πには触れずじまいですか(爆
三人の関係がどうなってくか楽しみです。
- 107 名前:名無飼育 投稿日:2005/06/19(日) 04:13
- 岡πと言葉はアンチに匹敵する単語ですよ
解って言ってるんならアンチ同等ですね
自分の希望は書かずに作者様に全てを委ねればいい
作者様どうぞこれからも素敵な小説書いてください
- 108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/21(火) 00:24
- そんなに目くじら立てなくてもいいんじゃない?
大きな胸は岡田の魅力の一つなんだし。
岡πは岡田推しの人も使ってるよ。
作者様、スレ汚し申し訳ありません。
- 109 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/22(水) 01:45
- 俺も岡田推しじゃないけど好感は持ってるよ
岡πは大好きだ
見てるだけで癒される
- 110 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/22(水) 05:28
- >>108
>>109
ここは小説スレなので
そういう話はここですべきことでないと思いますよ
- 111 名前:関西男 投稿日:2005/06/30(木) 01:29
- 初カキコです。大阪在住の男です。タイトルに魅かれて、一気に読みました。唯と絵梨香に梨華のこれからが凄く楽しみです。それにしても関西弁ウマイなーー、めっちゃええわー。
- 112 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/30(木) 01:38
- >>111
sageでカキコしてくれ期待しちまったべ!
- 113 名前:ゆーたん 投稿日:2005/06/30(木) 01:54
-
暑くてジメジメした季節になりましたね。
それでも体力だけが自慢のゆーたんです。
>>103 名無し 様
ありがとうございます。
人に優しい幽霊です。→ 川 ´^`)< ?
>>104 名無飼育 様
これからやばくなるのか、ならないのか…。
まだ、その答えは作者の頭の中にしまっておきます。
>>105 通りすがりの者 様
なんせ石川さんは落ち着きのない性格のようです。
きっと愛に導かれて…。(*^▽^)<キャッ♪
>>106 名無し読者 様
触れずじまいです(爆
これからも3人の行く末を見守りください。
>>107 名無飼育 様
お心遣いありがとうございます。
少しでも素敵なお話が書けるように頑張ります。
>>108 名無飼育 様
ほんわかな関西弁も岡田さんの魅力の1つだと思います。
- 114 名前:ゆーたん 投稿日:2005/06/30(木) 01:55
-
>>109 名無飼育 様
岡田さんの人柄も癒されます。
>>110 名無飼育 様
そうですね。ごもっともだと思います。
>>111 関西男 様
実は関西出身の友達は多いのですが、
作者は関西出身ではないんです…。
うまいと言われて非常に嬉しいです。
>>112 名無飼育 様
丁度、更新する所だったのでそのまま期待したままでもいいかも…?
未熟な腕前の小説ですが、
ちょっとした感想レスでも作者は嬉しい気持ちで一杯になります。
案内板にあるマナーを守り、
これからもお付き合いのほど宜しくお願いいたします。
それでは更新を再開します。
- 115 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:56
-
夜中の雨はひっきりなしに強く降り続いている。
いっこうに止む気配はなかった。
扉を叩く雨粒も相変わらず同じリズムを刻んでいる。
それでもさっきまで聞こえた大きな雷の音は少しずつ遠のき始めている。
なんとも生ぬるい空気が部屋に漂っていた。
いや、それは雨のせいだけではないのかもしれない。
「とにかく、シャワー浴びて下さい。」
「うん……。」
昼間に突然姿を消した梨華が今、絵梨香の目の前にいる。
絵梨香の頭の中ではいろいろな想いが駆け巡るが言葉にするには至らない。
ただ、玄関で蹲っている梨華の震える肩を抱きながら浴室まで連れていく。
…いつもは大きく見える梨華の背中も今日は小さく見えていた。
「三好ちゃん…。」
声もいつもの高くて張りのある声じゃない。
どことなく弱々しい声。
- 116 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:56
-
「一緒に入ろ…。」
「えっ…?でも…。」
「…寂しいの。」
梨華はぎゅっと絵梨香の上着の裾を引っ張った。
さっきの唯も寂しいと言って一緒にお風呂に入った。
でも…
でも…
今、寂しいのは梨華だけじゃない。
絵梨香だって…。
「……遠慮しときます。」
「えっ?」
「……だ、だって石川さん、一緒のお風呂に入るとすぐ私のエッチなところ触ろうとするじゃないですか。」
「そ、そんなことないよ。」
「こないだだって、ベッドまで待ってって言ったのに…。」
「あ、あれは…。」
わかってる。
本当は絵梨香だって一緒に入りたい。
一緒に入ってなにもかも全て流してしまいたい。
でも、一緒に入ってすぐに話が出来ない気がしていた。
ちょっと時間が欲しかった。
- 117 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:56
-
だから、あえて明るく振舞って断った。
梨華の潤んだ視線を感じながらも強引に扉を閉めた。
しばらくして、浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
部屋のリビングに戻ると唯が心配そうに絵梨香の方を見ていた。
「絵梨香ちゃん、大丈夫なん?」
「うん…。大丈夫だと思う…。」
梨華は大丈夫。
大丈夫じゃないのは2人の絆の方。
「友達なん…?」
「うん…。ちょっと違うかな。」
「違うん?」
「うん…。ちょっと…。」
「じゃあ……恋人?」
「……うん。」
そっか、キレイな人やな
と唯のポツリと独り言のように言った。
(キレイな人だよ。まっすぐな人だよ。でも…。でもね、私たち恋人だよね……。)
- 118 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:56
-
急に姿を消しただけなら驚いたけど許せると思った。
落ち着きのない梨華のことだからすぐ戻ってくると思っていた。
でも、前触れもなしにアパートから荷物をまとめて
出ていってしまうことはあまりにもひどすぎる。
絵梨香がどれだけ心配したことか…。
絵梨香がどれだけ心を痛めたことか…。
絵梨香だけじゃない。
あゆみやひとみにも迷惑をかけた。
(恋人だったら教えてくれてもいいじゃない…。)
「なぁ、絵梨香ちゃん。」
「ん、ん?」
「今、ものすごく怖い顔してたでぇ。」
「そ、そんなことないよ。」
無理やり笑顔を作ろうとする。すると
随分引きつった笑顔やな
と唯がツッコミをいれてくる。
やっぱり唯には全てがお見通しらしい。
- 119 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:57
-
「……何があったかわからへんけど、あの人の気持ちはわからへんでもない。」
「え…?」
「恋人にだって、隠したいこともあるやん。」
「……そ、そんなの恋人の関係じゃないよ。」
「そうかなぁ?」
「こ、恋人だったら隠し事はダメだと思う。」
「そりゃ、隠し事はあかんけどなぁ…。」
唯はちょっと首を傾げた。
「あの人の優しさ……だとしたら?」
「優しさ?」
「恋人に心配をかけさせたくないという優しさ。」
それはとんでもない。
「こっちは十分心配してるよ!」
「それは結果論やん。多分、あの人は相当不器用なんやろうな。」
「な、なんで?」
「絵梨香ちゃんに心配をかけさせたくなくて、頑張って、頑張って、頑張りすぎてダメになってる気がするねん。」
「そんなこと…。」
頑張りすぎて空回り。
梨華はしょっちゅうそうだった。
だから、絵梨香がそっと助け舟を出してあげた。
その関係だからずっと今までやってこられた。
その関係が崩れたら…?
- 120 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:57
-
「とにかく、あの人のこと好きなんやろ?」
「……うん。」
「だったら何も言わずにそっと抱きしめて、抱きしめてなぁ…口づけと…そのあとはなぁ…………。」
な、なんの話?
見れば唯はイケナイ想像をしはじめたらしく顔を真っ赤にさせていた。
……案外、唯と梨華は性格が似ているのかも。
とにかく梨華の話も聞いてあげるべきだと唯は絵梨香を諭した。
なにかを話したげにしていた梨華の態度。
さっきの梨華の浴室での潤んだ瞳。
とにかくこの時間のおかげで絵梨香は頭の整理がついた。
- 121 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:58
-
やがて、浴室からバスタオルを巻いた梨華が出てきた。
リビングには唯もいるのだが、やはり見えていないらしい。
絵梨香の方へゆっくりと歩いてくる。
やがて目の前に座った。見つめ合う2人。
唯が気を利かせて、席を外し台所の方へ行ってしまった。
「石川さん…。」
「三好ちゃん…ごめん。」
絵梨香はなにも言わずそのまま梨華を抱きしめた。
「すっごく心配したんですよ…。」
「ごめんね…。」
「ワケは……話したくなかったら話さなくてもいいです…。ただ……戻ってきてくれてよかったです。」
「ホントにごめん…。」
「戻ってきてくれて…戻ってきてくれて…嬉しいです…。」
ちょっと泣き声になっちゃったけど、梨華をきつく抱きしめる。
もう二度と離れない様に。
解れた糸を繕う様に。
- 122 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:58
-
……おそらくさっきの置いた時間がなかったらこんな風にはなってなかっただろう。
お互い言い争いの喧嘩になって
泣いて、拗ねて、傷ついて、
2人の距離が離れていたかもしれない。
あれもこれも唯のおかげかもしれない。
「ねぇ…。」
「…はい?」
「あのね…ワケを話させて…。」
「……無理しなくてもいいですよ。」
「ううん。話させて。」
絵梨香は抱きしめていた腕をほどく。
「あのね……両親が夜逃げしたの。」
- 123 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:58
-
「え…?」
あまりに衝撃的な一言が絵梨香の耳に届いた。
「夜逃げって…。」
「前々から『結構苦しい』って聞いてたんだけどね……。」
絵梨香は愕然とした。
絵梨香も梨華にとって家族というものが
どれだけ心の支えになっていたかは十分承知している。
その梨華の家族が夜逃げした…?
「先月かな。両親が夜逃げして……。当然、仕送りも止まっちゃったの。それで、家具とか全部売って生活資金にしたんだけど……やっぱり限界だったの。それでね、もうアパートのお金が払えなくなって……。」
「そ、そうだったんですか…。」
「それで……お姉ちゃんは一人暮しているから連絡が取れたんだけど……パパとママと妹はまだ音信不通で。」
…あまりのも大きすぎる出来事だった。
こんな話だから、三好ちゃんにもなかなか話せなかったの
と梨華は寂しそうに言った。
…本当は泣きたかったろうに。
…途方に暮れて全て投げ出してしまいそうになったろうに。
だけど、梨華はずっと絵梨香の前で笑顔だった。
梨華は泣き言も言わず絵梨香の前では笑顔でいてくれた。
「それでね…。三好ちゃんにお願いがあるの。」
「はい…。」
「ここに……。このアパートで一緒に暮らしてもいいかな?」
- 124 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:58
-
「いいに決まってるじゃないですかぁ…。私たち恋人ですよぉ…。」
いつのまにか溢れ出した絵梨香の瞳の欠片。
今度は梨華が絵梨香を優しく抱きしめた。
「三好ちゃん、泣かないで。」
「石川さぁん…。」
わかっている。
絵梨香は泣いちゃいけないってことを。
それでも頬を伝う涙は止まることを知らない。
「……大学はどうするんですか?」
「うん…。奨学金制度ってやつがあるから…。社会に出てから払うシステムをお願いしてきたの…。」
「そうですか…。よかった…。まだまだ石川さんと同じ大学に行けるんですね…。」
「うん…。これからもよろしくね。」
- 125 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:59
-
それからどれくらい時間がたったのだろう。
いつのまにか雨はあがり、月明かりが窓からもれていた。
東京のビル街を吹き抜けたであろうそよ風がカーテンを揺らす。
ふと絵梨香は梨華の横顔を見つめてみた。
月明かりに照らされた梨華の横顔は妙に色っぽくて。
それだけで絵梨香は自分の心臓が高鳴るのを感じていた。
「石川さん……」
「ん…?」
「キスしたい……。」
「キス……だけ?」
キス……だけ?
その曖昧な言葉に少し頭を斜めにして考えていた絵梨香も
その言葉の意味がようやくわかり思わず顔を赤らめた。
「キスだけでいいの?」
「そのあとは……石川さんの好きにしていいですよ……。」
- 126 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 01:59
-
梨華はニッコリと笑うと胸の所で巻いていたバスタオルに手をかけた。
次の瞬間、重力でハラリと下方向に落ちる白い布。
もちろん梨華はバスタオル以外、何も身に着けていなかったので
絵梨香の目の前には梨華の生まれたままの姿が現われる。
綺麗な彼女の鎖骨。
豊かな胸の膨らみ。
艶やかな腰のくびれ。
そして、梨華の……。
絵梨香は体中の血液が雪崩のように一気に崩れて流れ始めたのを感じた。
梨華に手を引かれてベッドに並んで座る。
そして、お互いを確かめ合うような口づけ。
キスをしながら梨華がゆっくりと絵梨香の体を押していく。
ベッドにそのまま雪崩れ込む2人。
いつのまにか梨華の両手が絵梨香のパジャマのボタンに伸びてきて
絵梨香を覆っていたものを排除していく。
やがて確かめ合うキスが求め合うキスに変わって
絵梨香の体は厭らしくくねり始めた。
梨華の指がのび、舌が敏感な所を駆け巡っていく。
- 127 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 02:00
-
「あっ……はぁん……。」
梨華はちょっとずつ漏れ始めた絵梨香の声を確認すると
ふっと上肢を離れ、下へ下へと移動した。
絵梨香はその場所が自分の目で確かめなくたって
どうなっているのか知っていた。
その一番恥ずかしい場所の一番近くに梨華がいる。
「いやぁ…」
「何がイヤなの?」
「は、恥ずかしいですぅ…」
「こっちの絵梨香も可愛い。」
「ぁ…ダメぇ…。」
「いいじゃない。2人きりなんだしさ」
そう2人きりの世界。
2人きりなのだ。
ん……?
2人きり……?
2人きりじゃないよね、この一室は。
みるみる絵梨香の顔が青ざめていった。
- 128 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 02:00
-
(唯ちゃんが…。)
唯がいるはずの台所からリビング兼寝室は丸見え。
寝てしまったなら話は別が、もし見ているとなると……。
「やっ…ダメぇ…。もぅ…イヤぁ…。」
(ダメ…。唯ちゃんが見てるかもしれない…。)
「フフフッ♪すごい…。イヤって言ってるわりには、いつもより絵梨香のココ凄いよぉ。」
「あっ、あぁっ……いやぁっ…。」
出きるだけ声が出ないように絵梨香は唇を噛むが
それが逆に梨華の本能に火をつけていた。
「絵梨香の声、もっと聞きたいよぉ。」
「……くぅ…はぁぁ……。」
とうとう梨華の細い指が
潤みきった絵梨香の中に入っていくとその限界を超えてしまった。
「あぁあぁあぁぁぁぁっーー!」
あとはもう髪を振り乱し、
高い喘ぎ声とともに絵梨香の体はショートしていった。
- 129 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 02:00
-
- 130 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 02:01
-
生まれてから幾度となく訪れている新しい朝が今日もやって来た。
ベッドの上では裸の絵梨香と梨華が一緒に寝ている。
下に散乱しているのは脱ぎ捨てられた絵梨香のパジャマ。
そして、梨華を生身の体を覆っていたバスタオル。
その風景は甘い空間。
恋人たちの甘い朝を意味する。
そのうちのどちらか目を覚ましたらしい。
めーいっぱい体を伸ばした。
どうやら絵梨香らしい。
絵梨香はむくっと体を起こすと
まだ眠たい目を擦りながら意識をロードしていく。
欠伸をしながら部屋を見渡すと
……ベッドのすぐ横に唯がいた。
「ゆ、唯ちゃん…。」
「おはよ。」
「お、おはよう。」
唯はいたずらっぽい笑みを浮かべていた。
「なんか昨日は随分、燃えてたみたいやなぁ。」
「ゆ、唯ちゃん、やっぱり見てたのっ?」
「見てたのも何もすぐ目の前で繰り広げられるんやもん。」
だって、昨日のは今まで梨華と過ごしてきた中で一番……。
(「あぁん!突いてぇっ!もっと強くっ!梨華ちゃん、突いてぇっ!気持ちいいっ…」)
思い出すだけで恥ずかしい。
絵梨香の頭の中でフラッシュバックした映像を慌てて追い払う。
- 131 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/06/30(木) 02:01
-
「そ、そういえば、唯ちゃんはどこで寝てたの?」
「んん?ずっと台所におったんやけど、最後は結局そこのソファで寝た。」
リビング兼寝室のこの部屋には、ベッドの反対側にソファが置いてある。
どうやら唯はそこで寝ていたらしい。
「…じゃあさ、しばらくはそこで寝てもらっていいかな?」
「うん。ええよ。」
そう。
これからは、この1つ屋根の下で3人(うち幽霊1人)で暮らしていくのだ。
なんとも奇妙なこの3人だが、絵梨香の気持ちはちょっぴり楽しみでもあった。
梨華には見えなくても3人で仲良くやっていこう
絵梨香はそう決心しながら、また体を伸ばした。
「あっ…そういえば…」
大事なことを忘れていた。
「柴田さんと吉澤さんに梨華ちゃんみつかったこと連絡するの忘れてた…。」
- 132 名前:― 投稿日:2005/06/30(木) 02:01
-
- 133 名前:ゆーたん 投稿日:2005/06/30(木) 02:02
-
本日の更新はここまでです。
次回へと続きます。
- 134 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/30(木) 07:26
- 更新お疲れさまです。 ( ̄□ ̄;)・・・ギャー 岡田サン特権じゃないですか。ウラヤマシ・・・いやいや!!が、頑張ってください!次回更新待ってます。
- 135 名前:関西男 投稿日:2005/06/30(木) 22:44
- いやあ、すごいっすねえ。アッチの描写も。俺の下半身、反応してしまいました。現実の彼女達のイメージが無くてもすんごく楽しめました。今後に期待します(ってプレッシャーかけてるかも)。
>112さん
すまんです、sage方法忘れたもので。今後も共に楽しみましょうね。
- 136 名前:名無し 投稿日:2005/07/01(金) 13:56
- 更新お疲れ様です。
川´・`)ナイスフォローです!(GJ
あの時間が無ければ二人は誤解したまますれちがっていたでしょうね…。
そして後半は…グハァ!!
展開を予想してなかったのでいつもより吐血量が…
川´・`)またナイスw
- 137 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/12(火) 01:04
- 早く唯を元に...!!
更新待ち遠しいです
- 138 名前:ゆーたん 投稿日:2005/07/18(月) 17:11
-
大変、長らく更新が遅れましたゆーたんです。
>>134 通りすがりの者 様
川 ´^`)<見る気はないねんけど、見えてしまうねん。
>>135 関西男 様
期待に答えられるような内容ではないかもしれませんが、精進して頑張ります。
>>136 名無し 様
後半は作者もどうかしてました…。
ただ、今回の出来事を『新たな3人の転機点』としたかったので。
>>137 名無飼育 様
この物語の結末は…。岡田さんの運命は…。まだ言えません。
まったりお付き合いのほど宜しくお願いします。
それでは更新を再開します。
- 139 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:12
-
――― 三好絵梨香、石川梨華、岡田唯。
恋にときめく2人の大学生と関西弁を話すおっとり幽霊。
こんな3人の奇妙な共同生活がスタートして3週間がたっていた。
「保田さん。故障している2台、まだ直してないんですかぁ?早くしてくださいよぉ。」
「うるさいわね。こっちだって忙しいのよ。」
「……独身ですることなくて、昼間は煎餅にお茶しているくせに。」
「石川、何か言ったわね!」
「いいえ、言ってませんよぉ。」
「あんたは嘘つくと瞬きが多くなるのよっ。」
朝から絵梨香と梨華はお洗濯。
といっても前述した通り絵梨香の家には洗濯機というものがない。
だから、いつものように街角のコインランドリーにやってきて、せっせとたまった洗濯物を片付ける。
今日は時間が早かったので、コインランドリ―管理人兼町内会長の保田と出くわしていた。
- 140 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:13
-
「嘘じゃないですよぉ。ホントに保田さん綺麗だなって。」
「……。」
「あたし、保田さんに憧れてるんですよ。」
「……石川、これでなにかおいしいものでも食べなさいっ。」
「ありがとうございます。」
ちゃっかり一万円をゲットする梨華。
町内会長の保田は梨華のことは前々から知っていたし、
絵梨香と同じ大学、同じ学部ということまでもわかっている。
というより元々梨華が上京したての頃、
保田が梨華の世話をしていた経緯もあって、実は結構仲がいい。
もちろん絵梨香と梨華の2人が一緒に暮らし始めたということも既に知っていた。
さすが町内会長。この街のことなら情報入手が早い。
……ただ、そんな保田もまさか絵梨香と梨華が体を重ねる関係だということまでは知らない。
「梨華ちゃん、洗濯終わったよ。」
「うん、わかった。じゃあ、保田さん、バイバイ。」
「気をつけて帰りなさいよっ。」
キレイになった服を袋に入れ、仲良くランドリーを後にする絵梨香と梨華。
が、何かを思い出した様に梨華がひょっこりとランドリーの保田に顔を覗かせた。
- 141 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:13
-
「あと、一万円ありがとうございました。」
「いいのよっ。」
「さすが、保田のおばちゃん♪ケメ子♪」
「石川っ!やっぱり返しなさいっ!」
「キャッ♪ケメちゃんがキレた♪」
キャッ、キャッと逃げ出す梨華。
それを見て慌てて一緒に駆け出す絵梨香。
「ちょっ、ちょっと待ってよ、梨華ちゃん!」
「三好ちゃんも早くぅ!ケメちゃんに捕まっちゃう!」
「あんたたちっ!待ちなさいっ!」
追いかける独身女。
到底、逃げるお肌ピチピチ大学生には追いつくことはない。
- 142 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:14
-
それにしても慣れというものは恐ろしいもので、
絵梨香は何の違和感なくこの生活を楽しんでいた。
梨華も家族の夜逃げというショッキングな出来事があったものの
絵梨香との共同生活がよほど嬉しいのか、毎日笑顔が絶えない。
唯も相変わらずマイペースに幽霊生活を送っていた。
ただ、最近はふらっと街に出かけることが多くなり、度々絵梨香に心配をかけさせていた。
…とはいえ幽霊なので誘拐されるわけでもなく、
問題を起こすわけでもないのでその辺は手間がかからない。
なによりも季節は夏。恋の季節である。
絵梨香たちの大学も前期の試験が近づいていた。
試験さえ終われば大学の長い長い夏休みに突入する。
―――夏休み
大学生ともなるとめーいっぱいバイトして、めーいっぱい遊ぶ!
……が、普通なのかもしれないが、
絵梨香と梨華は、バイトに出る以外は特に予定を入れていなかった。
というよりむしろ、お金にゆとりがないのでどこにも出かけらない状況だったのだ。
そんな2人を哀れに思ったのか、あゆみが
「一回くらいはみんなで遠出しようよ。」
とささやかな小旅行を計画した。
メンバーはもちろん、この3人にひとみを加えた『いつもの4人組』。
とは言っても行き先も決まっておらず、低予算の旅行なので
今日、絵梨香の家に集まっていろいろ決めることになっていた。
- 143 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:14
-
「こんにちは〜。」
「あっ、柴ちゃん、いらっしゃい。」
あゆみも何度か絵梨香の家には来ているのだが、
2人が一緒に暮らし始めてからは初めての訪問となる。
「おじゃましま〜す。」
「はいはい、どーぞ。」
部屋に入った途端、あゆみの顔が歪んだ。
あれ……?
あれれ……?
「三好ちゃんの家って、こんなんだったけ……?」
「そーですよ。」
「こんなにピンク多かったけ?」
あゆみは不思議そうに部屋中を眺めた。
確かに元々絵梨香の家はこんなにピンクは多くなかった。
おそらく梨華と一緒に暮らすようになってからこうなってしまったのだろう。
「なんか、ラブホテルみたいだね……。」
「そうですかね……。」
おそらく10人中10人が言う言葉。
それでも絵梨香も梨華も気にせずに生活している。
改めて、慣れというものは恐ろしい…。
- 144 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:15
-
「……ま、まぁ、とにかくここが梨華ちゃんと絵梨香ちゃんの愛の巣ってわけね。」
「プー―っ!柴ちゃん、なにそれぇ。」
「そ―ですよ。柴田さん、変なこと言わないでくださいよ。」
「えぇ?だってそうでしょ?ここで愛が育まれてるんでしょ?」
「あ、愛というかぁ……。」
ポッと顔を赤らめる梨華。
「あたしたちのかけがえのない時間がカタチになったというかぁ…」
「はいはい。それ面白いよ。」
「ちょっ、ちょっと、柴ちゃん。まだ途中なんだからぁ。」
「梨華ちゃん、ドンマイ。」
「み、三好ちゃんまでぇ…。」
わいわいとくだらない話しているうちに唯もテーブルの横にちょこんと座ってきた。
そして、くりっとした目で絵梨香になにかを訴えている。
なになに……?
どうやらあゆみのことらしい。
そういえばあゆみの話は唯にしていたが、実際、会うのはこれが初めてだった。
し・ば・た・さ・ん
絵梨香は口パクで唯に伝えると
唯もなるほどという顔をしてしげしげとあゆみを見つめ直す。
- 145 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:15
-
「……そういえば、吉澤さんはどうしたんですか?」
「あぁ。よっすぃーは、ちょっと遅れてくるってさ。」
「ふぅん。」
「なんかね、10キロほど走りこみするんだって。」
「はい?10キロ?」
「ほら。こないだのフットサルの試合、惜しい所で負けちゃったじゃない?」
「そういえばそうでしたね。」
だから10キロの走りこみ。
いやいや、だからって10キロも走りこみしますか?
「まぁ、よっすぃーらしいといえば、よっすぃーらしいね。」
梨華の一言に一同頷く。
悔しさを心の奥に噛み締め、その雪辱を誓う姿。
その姿はまさにファイター
……って、一応ひとみもお年頃の乙女なんですが…。
そもそも、お年頃の女の子が集まれば当然話は恋愛の話になるもので。
「で、どうなのよ?最近の君たちは?」
「えー?とっても幸せに決まってるじゃないですか。」
「そうよ。」
「ホントにィ?」
「もう一緒にいられるだけで幸せというか…。梨華ちゃんがいない生活は考えられないです。」
「キャッ♪絵梨香ったら♪」
絵梨香の腕に絡みつく梨華。
「……なんか今まで以上にバカップルじゃん。」
半分、呆れ顔。でも半分、2人が羨ましいあゆみ。
- 146 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:16
-
「そーいえばさ。いつのまにか三好ちゃん、『梨華ちゃん』って呼ぶようになったよね?」
「え?ダメですか?」
「いやいや、なんでかなぁ?と思ったの。ちょっとした心境の変化なの?それとも新しい段階に入ったとか?」
確かに絵梨香は梨華のことを『梨華ちゃん』と呼ぶようになっていた。
なんで?と言われても理由は特にない。
以前までは、恋人だというのに2人きり以外では『石川さん』と呼んでいたのに。
ただ、もっと近い存在でいたいから……。
ただ、その名前を口にするだけでいとおしく感じるから……。
だから、『梨華ちゃん』と呼ぶようになったのかもしれない。
あれもこれもすべてはあの雨の日の出来事が
2人の距離を一気に縮めてくれたのである。
「…でも、夜は切ない声で『梨華…』って呼ぶもんね?」
「ちょっ、ちょっと、梨華ちゃん!?」
顔を真っ赤にさせる絵梨香。
だって、それは梨華ちゃんがいじわるするから…
なんてあゆみの前では口がさけても言えない。
- 147 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:16
-
「ところで柴ちゃんはどうなのよ?」
「え?なにが?」
「『なにが?』じゃないでしょ。気になる人とかいないの?」
「気になる人かぁ…。今はいないけど…。あ、そうそう、文学部の藤本君って知ってる?」
「藤本君?誰それ?」
「知らないの?超カッコイイんだよ。」
「……柴田さん、気になってる人いるじゃないですか。」
「違うの。この藤本君が問題なの。」
ニヤリと笑うあゆみ。
「……なんでも、あの藤本美貴の弟さんらしいよ。」
「へぇ〜…。って、藤本美貴って、あの藤本美貴!?」
――― 藤本美貴。
今や、日本中では知らない人はいないともいえる国民的アイドルである。
その藤本美貴の弟が同じ大学にいるという噂はあったが、どうやら事実だったらしい。
世の中広いようで狭い。
- 148 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:17
-
「あの藤本美貴の弟がねぇ…。」
「今度、一緒に見にいこっか?」
「いいですねぇ。」
「ちょっ、ちょっとぉ、絵梨香ぁ。浮気は許さないからねっ。」
梨華が慌てた様に絵梨香を睨むとタイミング良くインターフォンが鳴った。
ピンポーン♪
「はぁい。」
「吉澤ッス。」
10キロを走った乙女がようやく到着した模様。
梨華の視線を感じながら絵梨香はいそいそと玄関を開けに行く。
玄関を開けるみると爽やかな汗をかいているひとみが肩で息をしていた。
「いやぁ、走った、走った。」
「こんなに暑いのに良く走る気になるよねぇ。」
「だって、フットサル負けたの悔しいんだもん。あっ、三好ちゃん、シャワー借りて良い?」
「別にいいよ。」
「……一緒に入ろっか?」
「バカ言わないで下さい。」
「やっぱ、梨華ちゃんが怒るよなぁ。」
軽口を混ぜながら、とりあえずリビングに通す。
と、リビングに入って
テーブルの周り座る梨華とあゆみを見た途端、ポカンとするひとみ。
- 149 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:17
-
「ありゃ?」
「よっすぃー、お疲れ様。…どーしたの?」
「いや、あの……。こちらの女の子はどちら様ですか?」
「女の子って……私と梨華ちゃんと三好ちゃんしかいないじゃん。」
「いや、ほら、そこに座っている女の子は…?」
「だから、こっちに座ってるのは私と梨華ちゃんしかいないよ。」
「え?じゃあ、そこの巻き髪の女の子は?」
巻き髪…。
まさか…。
「えぇ?あたし、今日巻き髪じゃないよ。」
そういえば最近、梨華も巻き髪にしていたが
すぐに飽きっぽい性格が災いして髪型も元に戻っていた。
というわけで巻き髪の女の子といったら…。
この場所では唯以外考えられない。
「ちょ、ちょっと吉澤さん…。」
「ん?」
ひとみを部屋の隅に連れて行く。
- 150 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:17
-
「なに?やっぱ、シャワー一緒に入りたいの?」
「違います!」
「じゃあ…?」
「……見えるんですか?」
「へ? 何が?」
「……巻き髪の女の子。」
「あん。はっきり、くっきり、ばっちりと見えるよ。」
首を傾げながらこちらを見ている唯。
といっても幽霊の唯は、今まで絵梨香以外の人には見えることはなかった。
今までは……。
だけど、どうやらひとみにも見えるらしい。
「……あの子、結構、胸大きいよね。」
「ちょっ、どこ見てるんですか!」
「だって、そーじゃん。」
確かに唯は、豊かな胸の持ち主ではある。
でも、これで見えていることが確信できてしまった。
- 151 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/07/18(月) 17:18
-
「ちょっとぉ、なに2人でこそこそやってるのよぉ。」
ジロジロと絵梨香を睨む梨華。
さっきまで浮気なんて変な話していたから余計気になるらしい。
このままだと怪しまれる。
つまり手短に話すとなると…。
「あの…まじめに聞いてくださいね。」
「うん。」
「……あの女の子は、私の家にいる住みつきの幽霊なんです。」
- 152 名前:― 投稿日:2005/07/18(月) 17:18
-
- 153 名前:ゆーたん 投稿日:2005/07/18(月) 17:18
-
本日の更新はここまでです。
次回へと続きます。
- 154 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 02:07
- 更新キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
いろいろと動き出しそうな予感・・・
続きが楽しみです。
- 155 名前:名無し 投稿日:2005/07/19(火) 14:05
- 更新乙です!
( ^∇^)と(`.∀´)のやりとりにウケw
やっぱり梨華ちゃんが来ると部屋はピンクになるんですか〜しかもバカッポー度が増してるしw
そして初めて唯やんの姿がみーよ以外に見えましたね!
よっすぃ〜の反応や如何に?!
- 156 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/20(水) 19:15
- 更新お疲れさまです。 うぁー( ̄□ ̄;)!! 衝撃の新事実が!? 反応は? 次回更新待ってます。
- 157 名前:関西男 投稿日:2005/07/22(金) 00:49
- おわーーー、すごい展開になってきましたね。そして次回に続く・・・って感じの更新の終了タイミングも絶妙ですね。本当に連続ドラマを見てる気分になってます。ということで、次回の更新を待ってます。
- 158 名前:ゆーたん 投稿日:2005/08/07(日) 01:54
-
>>154 名無飼育 様
ありがとうございます。
ちょっとずつですが、物語も大きく動き出す予定です。
>>155 名無し 様
2人きりの時だけバカップルだったのですが、だんだんそれ以外の場所でも…。
完全にブレーキが利かなくなってる模様です。
川*´^`)ゞ<てか、ホンマに見えてるのかいな?
>>156 通りすがりの者 様
衝撃の新事実でしたか。吉澤さんのことなので反応は如何になるやら?
>>157 関西男 様
そう言っていただけると嬉しいです。これからも絶妙に物語を切っていきます。
それでは更新を再開します。
- 159 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 01:55
-
「……あの女の子は、私の家にいる住みつきの幽霊なんです。」
絵梨香の思わぬ一言にひとみの顔が一瞬だけ強張った。
「……はい?」
「だから、幽霊なんです。」
――― あんなぁ、うち幽霊やねん。
唯がカミングアウトしたときの絵梨香の衝撃的はハンパなかった。
まさか?の一言ではすまされない状況だった。
怖い怖いと思っていた幽霊が目の前でニコリと笑っていたのだから。
幽霊がこんなに可愛くて関西弁を話すなんて偉い教授さんでも教えてくれなかった。
はたして幽霊が見えてしまったひとみの反応はどうなるのだろうか?
思わず泣き出したりするのだろうか?
恐怖のあまり震えが止まらなくなったりするのだろうか?
……が、絵梨香の予想に反して
一瞬だけ強張った表情をしたひとみも
あとはポカ〜ンと絵梨香のことを不思議げに見つめるだけだった。
- 160 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 01:57
-
「…なに?幽霊って、『うらめしやぁ〜』の幽霊?」
「はい。『呪ってやるぅ〜』の幽霊です。」
もう一度、ひとみは幽霊といわれた唯を見てみる。
やがて何か確信めいたものがあったのか、いつも通りひとみの顔はニヤニヤし始めた。
「またまた〜。三好ちゃん、何言ってんのさ。」
「ホントですって!」
「そんなウソすぐにバレるよ〜。あんな可愛い幽霊いるわけないじゃん。」
「いるんですって!」
絵梨香の言葉を信じることなく、ひとみはずいずいとテーブルに近づいていった。
どうやら完全に絵梨香の発言はウソだと思っているらしい。
そして、ひとみはちゃっかり唯の隣に座り、ニコリと笑って唯の手を握りしめる。
女とはいえ、オトコマエのひとみに手を握られ、
唯はうれし恥かしさのあまりほのかに顔を赤らめた。
……てか、完全に『落とし』にかかってない?
「どっから来たの?」
どう答えたらいいのかわからない唯が絵梨香の方を見る。
といっても絵梨香も今のひとみに対処する模範解答はわからない。
- 161 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 01:57
-
「ねぇ、どっから来たの?」
「お、大阪から……。」
「へぇ〜…。大阪か。たこ焼きだね。」
「 ? 」
「たこ焼き有名じゃん。大阪の人って、一家に一台たこやき器とかあるんでしょ?」
「まぁ、あるけどな……。」
こんな調子で2人が話し始めたもんだから
唯が見えない梨華とあゆみにとってはひとみの行動が奇怪な光景にしか見えない。
「……ねぇ、よっすぃーがおかしくない?」
「まぁ、元々よっすぃーはちょっとおかしいけどねぇ。」
「でもさぁ、おかしいにも限度があるじゃん。なのに、さっきからずぅっと壁に向かって話しかけてるじゃん?」
「やっぱり10キロも走って、おかしくなっちゃったんじゃないの?」
2人とも言いたい放題。
「ちょっとぉ、よっすぃー?」
「ん?なに?」
「さっきからなに独り言言ってんの?」
「独り言?」
「さっきから一人でベラベラベラベラ……。」
「独り言じゃないよ。大阪から来た女の子と話してるんじゃん。」
「……誰よそれ?」
「誰って、ここにいるじゃん。」
ひとみが唯を指す。
当然、梨華に見えない。見えるはずがないのだ。
- 162 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 01:58
-
「……誰もいないじゃん。」
「いなくないでしょ。ここに座ってんじゃん。」
「そんな所には誰もいませんよぉ〜だ。」
「いるって!ほら!」
ひとみも必死に説明する。
だが、見えないものは見えないのだ。
「……よっすぃー、頭おかしくなった?」
梨華があまりに真顔で言ったものだから、ひとみも思わずムッとする。
「なに?みんな、グルで私のことハメようとしてるの?」
大きな目でギロリと梨華を睨む。
極端なほど負けず嫌いな梨華。
自分の正しい道を貫くタイプのひとみ。
普段、あまり喧嘩しない2人だが、ひとたび喧嘩になるとそこは戦場と化する。
以前、この2人が喧嘩したときは本当に壮絶だった。
このままだと多大な被害が出ることは必須だ。
- 163 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 01:58
-
「ちょっと、2人ともさぁ…。」
「絵梨香は黙ってて!」
いとも簡単に絵梨香は跳ね返される。
早くも2人の間には冷たい嫌な空気が流れていた。
何かが始まる、それを予感させる空気だった。
「し、柴田さんもなにか言ってやってくださいよ!」
「えぇ〜。無理だと思うよ。」
「そんなこと言っても……。」
「だって、あの2人融通きかないから。」
「それもそうですね ……って、そこをなんとかなりません?」
あゆみは力なく首を振った。
梨華のことを古くから知っているあゆみも幾度となくこんな場面に出くわしている。
うまく間に入って説得し始めることは出来ても、
梨華のブレーキを完全に踏むことが出来たことは一度もない。
成り行きまかせ、風まかせ。
それが梨華の性格だし、今の状況だった。
- 164 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 01:59
-
「仕方あらへんなぁ。」
仲良し4人組のピンチに見かねた唯がすっと立ちあがる。
「ほんならな、うちが幽霊だって証明してみせるわ。」
証明……?
絵梨香は、すこし困惑した。
証明するって言っても、どうやって証明するのか?
すると目の前の壁を指差して……。
唯はいとも簡単に壁をすり抜けて見せた。
まさに一瞬の出来事だった。
さすがのひとみもギョッと目を丸くさせた。
絵梨香も唯と知り合ってだいぶたつがこんなことが出来るなんて知らなかった。
今度はもう一度壁からニュッと顔だけこちらに覗かせた。
その姿はまるで生首女のようで……。
- 165 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 01:59
-
「う、うそだ!こんなのトリックだ!」
慌てて立ち上がり、壁を触ってみるひとみ。
もちろん、種も仕掛けもない。いたって普通の絵梨香の家の壁。
ただ、首だけこちらを覗かせて生首状態の唯がニヤッとひとみのこと見ているだけ。
「うそぉ……。」
「なぁ、本物やったろ?」
「ちょっと絵梨香。どういうこと?」
「……絵梨香の口からはとても言えないです。」
やっぱり幽霊が見えない梨華には今、どんな状況なのかわかっていない。
まさか、梨華の目の前の壁から生首がこちらを見ている、なんて知ったらどうなることやら……。
知らぬが仏とはこのことを指す。
「よっすぃ―。顔色悪いよ。」
あゆみが心配そうに声をかける。
「そ、そうかな……。」
「なんか、すっごく青黒いよ。大丈夫?」
「あ、あのさ…。その…り、梨華ちゃん……。」
「なによ?」
「ごめん、私が悪かった……。許して……。」
「へっ?どうしたの、よっすぃー……?」
「もうダメ……フゥ……。」
その言葉を残してひとみは気絶した。あまりの恐怖に勝てなかったみたい。
……所詮、ひとみも人間ですから。
- 166 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 02:00
-
「ん〜……ただ、気絶しているだけみたいね。」
あゆみはソファに横たわっているひとみの脈を取りながら
そんなふうにのんびりと言い放った。
実は、あゆみの母親は看護婦である。
子供の頃からある程度の身近な医療の知識は教え込まれていた。
「だけど、夜勤ばっかでほとんど家にいなかったけどねぇ。」
そのためか、妙に人見知りな子供だったらしい。
いつも頬を赤らめ『恥かしがりやのあゆみ』とまで言われていたそうな。
ただし、それも中学で梨華と出会うまでの話。
梨華と出会ってからはお姉さん的な立場で
今のように誰とでも気軽に話せるような性格に変わったそうだ。
人は出会った人と環境によって大きく変わるものである。
「で、どうする?旅行の行き先?よっすぃー、倒れちゃったけどうちらで勝手に決めちゃう?」
「決めちゃっていいんじゃないですか?」
「ウン。よっすぃー、どこでもいいって言ってたし。」
「んじゃあ、うちらで勝手に決めよっか?2人はどこ行きたい?」
「だって、柴ちゃんの車でしょ?なんか遠出は危ないよねぇ。」
「ハイ…危ないですねぇ…。」
「大丈夫だって。こうみえてもまだ無事故だから。」
「じゃあ、あたしたちが最初の被害者になるのぉ?」
その可能性は大いにある……。
あゆみは見かけによらず、かなりのスピード狂で、
制限30キロの所を120キロ出して落ちたという話も絵梨香は聞いていた。
とにかく旅の安全を祈らずにはいられない。
- 167 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 02:01
-
「梨華ちゃんはどこ行きたいのさ?」
「ん〜。あたしはどこでも良いけどぉ …温泉がいいかなぁ?」
「温泉?なんか、オバサンくさくない?」
「いいじゃん。健康に良いんだよ、温泉は。」
「でもさぁ、夏に行くんだよ。冬ならいいかもしれないけど、夏に温泉はねぇ……。」
あゆみの頭の中では、うだるような暑さの中の温泉を想像していた。
確かに夏の温泉は山とか高原とか涼しい所の方がありがたい。
「三好ちゃんは?」
「え?絵梨香は… 大阪に行きたいです。」
「大阪?なんで大阪なの?」
「え?なんでって言われても…。USJとかあるじゃないですか。それに食べ物だっておいしいし。梨華ちゃんの言ってた温泉も近くにあるし……。」
「まぁ、六甲の山奥に行けば温泉とかあるけどさ…。」
別に温泉はどこでも良かった。
絵梨香にとっては『大阪』という場所に意味があった。
……唯の体はまだ死んでいない。
『大阪』の病院に植物状態になっていると言っていた。
絵梨香は唯が元に戻れる手がかりが、もしかしたら大阪にあるかもしれない。
だから、大阪に行きたい。
(それに……唯ちゃんの両親にも逢いたいし……。)
絵梨香なりにちゃんと考えてのことだった。
- 168 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 02:01
-
「……でもまぁ、いっか。梨華ちゃんも大阪で賛成?」
「ウン。絵梨香が大阪って言うなら、あたしも大阪がいい。絵梨香とあたしは相思相愛だもん。」
「はいはい、それ面白いよ。 …とにかく、旅行先は大阪に決定ね。」
あゆみの運転ではたして無事なのかは疑問だが、旅先は大阪に決定した。
そういえば旅行中、唯はどうするのだろう?
本人はついて来たがるのだろうか?
やっぱり大阪だし、強引にでも一緒に連れて行くべきなのであろうか?
幽霊だからお金もかからず、『ただ』で行けるメリットはあるが…。
「……あっ、ちなみにお二人さんには残念だけど、部屋は一つしかとらないからね。」
「え?なんで残念なの?」
「だって、お二人さんお盛んな時期でしょ?」
――― 一方。
「んがっ……ん、んっ……。」
ようやくひとみの意識が戻ったようだ。
が、目を覚ましたとたん、目の前にいた人物は……。
「大丈夫ですかぁ?」
「ひっ!ひぃっ……フゥ……。」
この人には唯が見えてしまうのである。
はたしてひとみは幽霊の大阪同行を許してくれるのであろうか?
今回みたいに気絶(しかも何回も)してしまうのではないだろうか?
絵梨香の頭の中では、早くも旅行のことでいっぱいになりつつあった。
- 169 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 02:01
-
- 170 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 02:04
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日本の典型的な大学というものは、夏休み前に試験というものがある。
この出来、不出来で単位修得がかかっており、
留年か、学年が上がるかまでも決まってくるのだから学生たちは必死だ。
絵梨香たちの通う大学も典型的な大学に当てはまり、もうすぐ試験に突入するところだった。
試験と夏休み。
学生にとってはアメとムチに近いものがある。
しかし、そんなことよりも大学では、とある大きな『事件』が話題になっていた。
「レイプ事件!?」
「シーッ!声が大きいよ。」
講義中には、ちょっと激しすぎる内容のひそひそ話。
幸い、教授にまで声は届いてない。
「……なんかねぇ、あくまで噂らしいんだけどぉ、この大学の女の子が被害にあってるらしいよ。」
「うちの大学?」
「そう。空教室で無理やりだって。」
「でも、それならすぐに犯人が捕まるんじゃないの?被害にあった子だって、顔見てるんでしょ?」
「それが捕まらないから問題なのよ。犯人は、女の子になんらかの口止めをしていて、世間にバレないようにしているって話だよ。そうじゃなかったら、すぐに割り出されるでしょ。それに大学側からも犯人探しするじゃん。」
「……なんか、物騒だね。」
「あたしたちも気をつけなきゃね。」
- 171 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 02:04
-
「……というわけで今学期の講義は以上です。それでは皆さん、試験頑張ってください。」
教授の一声で一斉に大きな講義室がざわめき始める。
試験前最後の経済の授業が終わった学生達は三々五々、教室を後にし始めた。
サークル活動に向かう者。バイトに向かう者。家に帰る者。
その群集に紛れて絵梨香と梨華も外に出た。
「…だけど、本当にそんな事件があって、本当に被害者がいるのかわからないのよ。噂だけが一人歩きしているのかもしれないし…。」
「被害届が出てないってことだね。」
ことの発端は6月の初めごろだったろうか。
警備員のおじさんが夜9時すぎに校内の見まわりをしていると
廊下の片隅に、ブラウスが肌蹴たままぐったりしている女子大生を発見した。
「大丈夫か?」と声をかけると
「大丈夫です。すぐに帰ります。」と言って警備員の静止を振りきって走り去ってしまった。
警備員さんも暗闇だったのでその娘の顔もわからず、
何が起こったのかわからぬまま闇に葬られた。
ただ、その警備員のおじさんは1週間後、警備員を辞めさせられていた。
その後も、なんとなくの噂だけが流れ始めた。
「テニスサークルや軽音楽サークルの女の子も襲われたらしい。」
「可愛い子ばかりが狙われてる。」
「犯人は実は警備員なんじゃないか。」などなど。
どれもこれもあくまで噂どまりだった。
そう、ちゃんとした被害者が出ていなかったのである。
謎は深まる一方で、学生たちの間でちょっとした話題となっているのだ。
- 172 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/07(日) 02:06
-
「噂だけだといいけど……。」
「うん。」
「あの……。」
ふと後ろから声をかけられた。
絵梨香たちが振りかえってみると、すらりと背の高い男の子が立っていた。
「あの、三好さん。三好絵梨香さんですよね?」
「え? あ、はい。そうですけど……。」
「中澤教授からプリント預かっているんです。」
「中澤さんから?」
「えぇ。昨日、たまたま教授の部屋に行ったら、『三好って子に渡しといて』と言われて。」
中澤教授とは絵梨香たちにドイツ語を教えている教授だった。
はた目は金髪でヤンキーみたいな人に見えるが、根はかなりいい人なのだ。
絵梨香がドイツの文化についてもっと知りたいと言った所、
いろいろ資料を集めてそれをプリントにしてくれていたのだ。
恐らく、そのプリントを渡しに来てくれたのだろう。
「えっと……。 あれ?…… あ、すみません。家に置いてきちゃったみたいです。明日でもいいですか?」
「はい、別にいいですけど…。」
「本当にすみません。じゃあ、また明日渡しますね。」
長身の男の子は申し訳なさそうに謝ってから足早に行ってしまった。
なかなかカッコイイ人だったが……。
「……ねぇ、絵梨香。今の知っている人?」
「ううん。全然、知らない人。」
「なんで、絵梨香の名前知ってるんだろ?」
「中澤さんに聞いたんじゃん。」
「でもさ、名前はわかっても、普通、絵梨香の顔までわからないでしょ。」
「そう言われてみれば……。」
まさにその通りだった。
どうして絵梨香の顔まで知っているのだろうか…?
- 173 名前:― 投稿日:2005/08/07(日) 02:06
-
- 174 名前:ゆーたん 投稿日:2005/08/07(日) 02:07
-
本日の更新はここまでです。
次回に続きます。
- 175 名前:関西男 投稿日:2005/08/07(日) 06:14
- お、夏休みはナニワ旅行、唯にとっては運命の旅行、でも其の前に、絵梨香が心配、ドキドキしてます。暑い中大変でしょうが、更新待ってます。
- 176 名前:名無し 投稿日:2005/08/07(日) 07:48
- 更新お疲れ様です。
夏休みの旅先は大阪へ!唯ちゃんの地元であり、体がある場所。何か発見があるかも……?
よっすぃ〜が唯ちゃんを幽霊と信じずに口説き始めたのには笑いましたw
そして夏休み前に物騒な事件。更にはみーよの顔まで知ってる男子学生………何やら怪しい空気が……?
最後に……柴ちゃんの車には僕も乗りたくないですw
- 177 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/07(日) 08:15
- >>176さん、ネタバレにはお気をつけて。余計なお世話でごめんなさい。
よっすぃの反応に笑いました。物語もだんだん本格的に動き始めてきましたね。
次もすごく楽しみです。
- 178 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/07(日) 18:13
- 更新お疲れさまです。 夏の敵ですね(汗 旅行も気になりますがその前に大きな壁に激突。 無事乗り気ってほしいです。 次回更新待ってます。
- 179 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/17(水) 21:26
- お盆だったのに、幽霊は更新されなかったかぁ・・・
- 180 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/22(月) 22:58
- 作者さんもお盆で里帰りしてたから忙しかったんだよ・・・
- 181 名前:ゆーたん 投稿日:2005/08/23(火) 14:08
-
>>175 関西男 様
作者は大阪出身ではありませんが、大阪の街は大好きです(特に通天閣周辺)。
だるい暑さに負けないように更新していきます。
>>176 名無し 様
柴田さんの運転も怖そうですが、石川さんが免許取ったら……。
マナーの悪い車に大声で文句を言いながら運転してそうで……。
>>177 名無し飼育 様
現実では、吉澤さんと岡田さんは仲が良いそうです。さて、この物語では?
>>178 通りすがりの者 様
ムムム……夏の敵……。
この先、あの人が大活躍するような、しないような。でも、結局は?
続きをお楽しみに。
>>179 名無飼育 様
申し訳ないです。まったりペースで更新してます。
>>180 名無飼育 様
ご心配かけて申し訳ないです。
いいえ、いいえ。暑さでパソコンがイカれてしまっていただけです。
从=O ロ ^)<基本は2週間に1回更新ペースです。
遅いよぉ!>(^▽^ )(´^` 川<んー?
从=O ロ ^)<……も、もうちょっと頑張ってみます。
それでは更新を再開します。
- 182 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:09
-
夜だというのに、おそらく部屋の気温は30度近いのではないか。
そう言っても過言ではないくらい、じっとりとした重たい暑さだった。
さすがのこの暑さに日本の高性能電器機器も夏バテ気味のご様子で、
絵梨香の家の扇風機はよろよろと力なくリビングに風を送っていた。
そんな中、ここにも温暖化の原因とみられる熱い乙女が一人いた。
「誰だろうね、あの人っ。」
言うことは寒いが、ハートは誰よりも熱い梨華。
長葱と生姜を添えた冷奴を一口で食べながら、昼間の出来事を思い出していた。
「本当に絵梨香の知ってる人じゃないんだよね?」
「本当に知らないんです。」
「じゃあ、なんでだろぉ?なんで絵梨香のこと知ってるのっ?」
ぐいっとビールを飲み干す梨華。
もちろん成人は迎えているので、飲酒に問題はないが…。
- 183 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:10
-
「絶対、絵梨香のこと気になってるに違いないよっ!」
「そーですかね?」
「そうに決まってるっ。そうじゃなかったら、顔と名前なんて一致しないでしょ?ぜぇぇったい、絵梨香は渡さないんだからっ!」
梨華はさらに熱くなる。
どうやら
昼間、絵梨香に声をかけた男子学生は絵梨香のことが好きで、
それで上手いこと言いながら近づこうとしている!と考えているようだ。
もちろん必ずしもそうであるとは限らないが、
絵梨香大好きの梨華としては、とにかく気に食わない。
「絵梨香ぁ、ビールぅ!」
「ちょっと、飲みすぎですよ。」
「飲まなきゃ、やってられるかぁっ!」
空のコップを突き出す梨華。
しぶしぶビールをお酌する絵梨香。
洗濯機のない絵梨香の家だったが、冷暖房はきちんと完備している。
それでも電気代がもったいないのか、はたまた環境保護のためなのか
冷房が使われることはほとんどなかった。
扇風機だけの暑くじっとりとした部屋。
当然、よく冷えたビールが美味しいわけで。
お酒の強くない梨華でさえ、ビールを缶で5本開けてしまった。
- 184 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:12
-
「……うっ……。」
「梨華ちゃん、大丈夫?」
「ううん……。なんか、気持ち悪い……。ちょっと横になるねぇ……。」
ソファにごろんと横になった梨華だったが、
5分もしないうちに、スー、スーと寝息が聞こえてきた。
飲みすぎはよくないけど、きっと絵梨香のことを心配してくれてたんだ
と思うとなんだか照れくさいけど、すごく嬉しい気持ちになる。
ちょっとアルコール臭いけど、梨華の可愛らしい寝顔。
そんな寝顔を見ていたら、絵梨香は急にキスしたい感情にとらわれた。
(キス……してもいいよね。)
ソファのそばで、そっと顔を近づける。
別に起きている時でもキスぐらいする2人の関係だけど、
寝ているときにそっとしちゃうのはちょっといたずらっぽい。
(絵梨香の横で寝ちゃう梨華ちゃんが悪いんだからね。)
あと5センチ。
梨華のちょっぴりアルコールくさいの吐息までかかってしまうほどの距離。
少し消えかかった眉毛も、目の下に出来た薄い隈も全てがいとおしい。
もうちょっと…
- 185 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:12
-
……だったのに、ふと横から視線を感じた。
横から……
唯がニヤニヤと絵梨香のことを見ていた。
普段からいろいろなことを見られているけど、
こんな状況だといつも以上に恥かしくなって、絵梨香は梨華から離れた。
「あ〜ぁ、もうちょっとやったのに……。」
「キ、キスぐらいいつもしてるでしょ?」
「絵梨香ちゃんから石川さんへの秘密のキスやったのに……。」
「その場の雰囲気でしようと思ったの!」
「でも、してへんやんかぁ?」
「唯ちゃんがニヤニヤして見てるんだもん。雰囲気ないし…。」
「じゃあ……うちとする?」
「はぁ?」
「……せやから岡田とぉ、絵梨香ちゃんがキスする?」
「唯ちゃん…と?」
そう、と唯は笑ってみせた。
そのちょっとあどけない笑顔が妙に絵梨香の胸を締め付ける。
なんだろう、この気持ち。
好き……でもない。愛してる……でもない。
梨華へとは違った感情が絵梨香の胸を締め付ける。
- 186 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:14
-
「唯ちゃん……。」
「ふふふっ。冗談やんかぁ。絵梨香ちゃん、本気にせんといて。」
途端に緩む空気。
絵梨香も自然と頬が緩む。
「食べる?」
枝豆の残りを唯に差し出す。
「ありがと。」
梨華への感情は言葉にするのは簡単だ。
『愛してる』
その一言で十分。
でも、唯への感情は絵梨香自身でもよくわからない。
- 187 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:16
-
「ねぇ、唯ちゃん。絵梨香たち、試験終わったら大阪に行くんだけど、唯ちゃんも来るでしょ?」
「大阪?」
「そ、大阪。柴田さんの車で行くんだけど、唯ちゃん幽霊だから旅館のお金もかからないし。」
「……大阪でどこに行くん?」
「えーと…。USJとか……道頓堀とか……。あと……。」
「あと?」
「……唯ちゃんに逢いたいな。」
「今、逢ってるやん。」
「違うよ。唯ちゃんの本当の姿に。」
唯の本当の姿に。
大阪の病院で植物状態になっている唯に。
「そんなん、いやや。」
「なんで?」
「なんでもいやや。」
「だって、唯ちゃんはお父さんとお母さんに逢いたくないの?」
「……逢いたくない。」
「なんでさ?」
「だって、だって……。」
それっきり唯は黙り込んでしまった。
- 188 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:17
-
元の体に戻れない苦しみ。
両親に寂しい思いをさせてしまっている自分。
唯の気持ちを絵梨香はわからなくはない。
それでも、ただこうして待っているだけよりも何か行動したい。
それが唯への感情だった。
『愛してる』でも、『好き』でもない感情だった。
だから、この感情はわかりにくい。
絵梨香の胸をキュッと締め付けるだけで答えが出ない。
「ね、行こう?」
「……。」
「とりあえず、ついてくるだけでもいいから。」
例え、答えが出てもそれが正しいのかもわからない。
でも、大阪に行けば何かあるかもしれない。
「唯ちゃん、お願い。」
「……うん。まぁ、ええよ。」
まっ、絵梨香ちゃんのお願いやもんな
と照れくさそうに承諾してくれた。
- 189 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/23(火) 14:18
-
「行ってもいいんやけど、あの気絶した人は大丈夫なん?」
「吉澤さん?」
あの日以来、ひとみと唯は逢っていない。
「うちが行って、また気絶したりせえへん?」
「まぁ……なんとかなるでしょ。」
大丈夫。
唯は心優しい幽霊なのだから、ひとみもきっとわかってくれるはずだ。
「なぁ、絵梨香ちゃん。」
「ん〜?」
「絵梨香ちゃんのお願い聞いたんやから、うちのお願いも聞いてほしいんやけど…。」
「うん。なに?なんでも聞いちゃうよ。」
「あんなぁ、絵梨香ちゃんの大学へ行ってみたい。」
- 190 名前:― 投稿日:2005/08/23(火) 14:18
-
- 191 名前:ゆーたん 投稿日:2005/08/23(火) 14:19
-
本日の更新はここまでです。
次回は、またすぐに更新します。
- 192 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/24(水) 15:27
- 更新お疲れさまです。
アーそうでした、あの人が問題ですよねぇ(汗
まぁなんとななるでしょう(ェ
次回更新待ってます。
- 193 名前:ゆーたん 投稿日:2005/08/28(日) 00:12
-
>>192 通りすがりの者 様
そーですよね。なんたって、口説こうとしたぐらいですから。
それでは更新を再開します。
- 194 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:13
-
喧しいほどの蝉の大合唱が大学のキャンパスに響き渡っている。
こんな暑い日には海でも行って、思いっきり遊びたい!そう思う人は多いはずである。
が、ここにいる学生達にはそんな浮かれたことなど関係なかった。
なんせ、今日は前期試験の一日目だったからである。
朝早くからキャンパス内でノートを片手にした学生が行き交うし、
試験終了の鐘とともに青ざめた顔をした学生を見つけることも出来る。
きっと青ざめた学生さんは今宵、尾崎豊の曲を口ずさみ、夜空に泣くことだろう。
さて、ここにも試験終了とともに試験会場から出てくる女子大生4人組がいた。
もちろん、あのお馴染みの4人である。
「どーでした、試験?」
「んー、まぁまぁかな。」
「そんなこと言って、柴ちゃん余裕なんじゃないのぉ?」
「えーっ?そんなことないよ。今回、結構ヤバめだったし…。」
「前回もそんなこと言ってたのに成績良かったじゃん。」
試験後にいたってありがちな会話。
なんだかんだ言いながら4人は仲良く ……仲良くでもなかった。
3人から1人だけ遅れて歩いている人物がいた。
「よっすぃーはどうだった?」
梨華が後ろを振り返ると、
そこには1人ゾンビ化したひとみがふらつきながら歩いていた。
- 195 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:13
-
「よ、よっすぃー……?」
「……え?……なんか言った?」
「 あっ、な、なんでもない、なんでもない。」
あまりに絶望的な目をしているひとみ。死に目をしている。
空気が読めない梨華でさえ、あまりの負のオーラに寒気を感じたらしい。
すぐさま、隣の2人とこそこそ話を始める。
(よっすぃー、どうしちゃったんだろ?) ←梨華
(よっぽど、試験ボロボロだったんじゃない?) ←あゆみ
(あんまし頭良いほうじゃないしね…。) ←梨華
(き、きっと体調が悪いだけじゃないですかねぇ?) ←絵梨香
(それだけであんなゾンビに変身する?) ←あゆみ
(ね、熱が40度あるとか?) ←絵梨香
(そうかな?なんか幽霊にとりつかれてるんじゃない?) ←梨華
『幽霊』という単語に絵梨香はギクリとした。
実は、絵梨香のすぐ後ろに唯がぴったりくっついているからである。
大学に来たいという唯の願いを聞き入れて連れてきたのだが、
朝、ひとみにあった瞬間、ひとみはみるみるうちに青ざめてしまった。
- 196 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:14
-
――― 朝。
(「な、なんで、いるんだよっ!」)
(「いや、連れてくって約束しちゃったもんで。大丈夫ですよ。心優しい幽霊ですから。」)
(「そ、そういう問題じゃなくて……。」)
(「吉澤さぁ〜ん。うちのこと嫌いですかぁ?」)
(「ひ、ひいっ!」)
(「吉澤さぁん♪」)
唯が背中にしがみついたもんだから、ひとみは大慌て。
そこらじゅうを走り回り、鬼ごっこ状態。
唯が見えている絵梨香にとってはおかしな光景だが、梨華とあゆみは首を傾げるばかり。
(「ねぇ、またよっすぃーが壊れちゃった…。」)
(「やっぱ精神科で診てもらったほうがいいんじゃない?」)
こりゃ、大阪旅行までに慣らしておかなきゃね。絵梨香は密かに思う。
……でも、今回は気絶しなかっただけ、進歩はあった …と思う。
顔は青ざめて、試験どころじゃなかったみたいだけど…。
留年してないことだけをお祈りしております。
- 197 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:14
-
「三好さん。」
ひとみをほったらかしにしていると絵梨香を呼ぶ声がした。
ちょっと前に聞いたことのある鼻にかかった声。
後ろを振り返ってみるとやっぱり見たことのある顔だった。
「あっ、こないだの・・・。」
「はい。先日は、失礼しました。中澤教授のプリント、今日はちゃんと持ってきましたよ。」
すらりと背の高い男の子。
こないだ、中澤教授のプリントを絵梨香に渡しそびれた学生さんだ。
「昨日から鞄に入れておきましたから…。」
「ちょっといい?」
「え? はぁ…?」
梨華がずいっと前に出る。
「絵梨香は渡しませんからねっ。」
「……はい?」
「いや、なんでもないです、なんでもないです。」
「なんでもなくない!だいたい、絵梨香とあたしは……。」
「なんでもないです、なんでもないです。早くプリントください。」
「ちょっとぉ。絵梨香からもあたしとの関係を……もごもごもご……。」
梨華が出てくるとやっかいなことになる。
ただでさえ、梨華はこの男子学生のことを疑って止まないのだから。
絵梨香が梨華を取り押さえて、口を塞いでおくしかない。
「な、なんでもないですぅ。」
「はぁ…。」
「で、プリントを…。」
「あっ、そうでしたね。プリント、プリント……。」
- 198 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:15
-
一刻も早くプリントを頂き、お礼を言って、この場から立ち去るべきだ。
さもないと梨華がキレて暴れだす可能性がある。
キレたら何をするかわからない梨華のことだから、この男子学生の命も保障できない。
絵梨香はひやひやものだったが、男子学生はそんなこと知る由もない。
のんきに鞄の中をがさごそやっていたが……。
「……あれ? すみません。試験教室の机の中にプリントの入ったファイルごと入れっぱなしにしちゃったみたいで…。」
「えぇっ!? じゃあ、どうすれば…」
見かけによらず、この男子学生はかなりのおっちょこちょいのようだ。
「ほ〜ら、言わんこっちゃない。そーゆーだらしない人に絵梨香は……もごもごもご……。」
再び梨華の口を窒息してしまうのではないかと思うくらい強く塞ぐ。
絵梨香のことになると本当にブレーキが利かない。
「……どーすればいいですか?」
「あのぉ……すみませんが、ちょっと来てもらえます?」
「えっ、一緒に?」
「はい。試験教室にありますので…。」
試験があった教室はキャンパスの一番奥だったから、ここからかなり歩くことになる。
みんなで一緒に戻るわけにも行かないし、この男子学生だけ取りに行かせるのも気の毒だ。
知っている人だったら、
あなたの責任なんだから、あなたが取りに行きなさい
とでも言えるのだろうが、面識のない人にそんなことは言えない。
- 199 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:15
-
「…わかりました。じゃあ、行きましょう。」
絵梨香はちょっと考えてからそう答えた。
見た目も優しそうな人だし、大学内だから安全だと踏んだのだ。
「ちょっとぉ、絵梨香ぁ。あたしも行く。」
「り、梨華ちゃんはいいよ。」
少なくともこの梨華とこの男子学生は離しておいたほうがいい。
近づくととんでもない化学反応を起こしそうだ。
「梨華ちゃんは、いつものとこで待ってて。」
「えー…。なんか心配だよ…。」
「大丈夫ですって。それに……。」
「 ? 」
「 …絵梨香が愛しているのは梨華ちゃんだけなんだから。」
絵梨香がそっと耳打ちしてをしてあげると梨華は恥ずかしげに顔を赤くさせた。
たった一言でご機嫌になってしまうのだから、梨華も単純。
絵梨香も梨華ツボをしっかり把握しているところはさすがだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくるね。」
「うん。」
絵梨香と男子学生は来た道を引き返していった。
- 200 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:16
-
「……あ〜あ、行っちゃった。絵梨香一人で本当に大丈夫かなぁ?」
遠ざかる2人の後姿を見送りながら梨華がポツリともらす。
「心配性だね、梨華ちゃんは。」
「だってぇ……。あの男の人、絶対怪しいと思うよぉ?」
「恋人が大丈夫って、言ってるんだから信じてあげなくちゃ。」
「うん…。」
「それに向こうの身元もはっきりしているし。」
「柴ちゃん、あの男の人知ってるの?」
「知ってるもなにも、今の人が藤本美貴の弟さんだよ。」
「あっ、そうなんだ…。」
あの国民的アイドル・藤本美貴の弟がいることはあゆみから聞かされていたが、
実際大学のキャンパス内で見たのはこれが初めてだった。
そういえば、どことなく輪郭とか鼻のあたりとかが似ていた気がする。
藤本美貴の弟ならただでさえ目立つのだから、無茶な行動は出来ないだろう。
梨華はほんの少しだけ安心した。
「ところでいきなり顔赤らめてたけど、三好ちゃんになに耳打ちされたのさ?」
「 …知りたい?」
「そりゃねぇ…。」
「あのね…。 『愛してるのは梨華だけ』って言われたの。キャッ♪恥ずかしい♪」
「はいはい。見事なバカップルだこと。」
「でもねぇ。そう言うわりには最近、ご無沙汰なんだよぉ…。」
「へぇ…。そうなんだ…。」
そんなこといわれてもあゆみには一切興味がない。というか、興味がわかない。
- 201 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:16
-
「ねぇ、ちょっと聞いてよぉ。」
「はいはい、聞きますよ。どれくらいご無沙汰なわけ?1ヶ月?2ヶ月?」
「あのね…。 もう5日もないの。」
「はぁ!?たった5日!?」
一体、このカップルはなにをしでかしていやがるのだろうか?
『ご無沙汰』が5日前じゃ、通常はどのくらいなペースなのだろう?
あゆみにとって考えたくもないことだが、ついつい考えたくもなってしまう。
「…やっぱり朝の4時まで頑張っちゃったのがいけないのかなぁ……。」
「よ、4時まで?」
あゆみはさらに愕然とする。お盛んすぎる2人に完全に飽きれてしまった。
少しの尊敬とかなりの軽蔑が入り混じった感情で梨華を見つめる。
「よくお互い飽きないね?」
「だってぇ、絵梨香可愛いんだもん。」
梨華の頭の中が鮮やかなピンク色に染まっていく。
―――
お互いの肌と肌が擦れ合う感触。ベッドが激しく軋む音。
梨華が刻み込む指のリズムに合わせて、絵梨香の声が高ぶっていく有様。
やがて、絵梨香の体が頂点に達しようと梨華に全てを預けて ―――。
そして、梨華も ―――。
「ウフッ♪ウフフフフフ♪」
ピンク色の想像に梨華も思わずニタニタと笑い始めた。
- 202 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:16
-
「何、ニタニタしてるんだよ。気持ちわりーな。」
せっかく梨華の頭の中ではクライマックスにきていたのに、その一言で現実に戻される。
「なによっ。人がせっかく、妄想を楽しんでいるときに… …って、よっすぃー?」
「あん?」
さっきまでゾンビの存在と称されたものが普通に戻っている。
顔色もさっきまでの青白かったのが、いつもの状態に戻っていた。
「大丈夫なの?」
「なにが?」
「だって、さっき死んだ目をしてたから、体調が悪いのかなって。」
「んー?まぁ、幽霊の呪縛がなくなったからね。」
「幽霊?」
「まぁ、気にするなって。」
元に戻った理由は簡単。
絵梨香がいなくなったので、絵梨香にくっついていた唯もいなくなったからである。
恐怖でしか感じなかった唯がいなくなったので、いつのまにか体調も回復した。
梨華といい、ひとみといい、なんとも単純な連中だ。
「そういえばさ。梨華ちゃん、中澤教授に呼び出しされてたよ。」
「え? あたしが?」
「うん。あれ?掲示板、見てないの?」
梨華は『呼び出し』の言葉に心外だという顔をする。
- 203 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:17
-
「なんかやったんじゃないの?」
「えー。あたし、授業もさぼってないし、なにか問題起こしたわけでもないよぉ。」
呼び出しをされる心当たりはまったくない。
中澤教授はドイツ語の教授である。
もしかしたらドイツ語に関係したものかもしれないが、それもまったく身に覚えがなかった。
「じゃあ、なんだろ?」
「…梨華ちゃん、こないだ論文を見てもらってるとかなんとかって言ってなかった?」
「あれ? そうだったけ?」
「言ってたじゃん。なんかのコンクールに出すとかいうやつ…。」
「あっ、わかった、わかった。うん、コンクールに提出する論文を相談してたんだった。」
ぺろりと舌を出す梨華。
ちょっとおっちょこちょいなところはご愛嬌だ。
「じゃあ、ちょっと、あたし中澤さんのところに行ってくるね。」
「あっ、ちょっと三好ちゃんとの待ち合わせは… …あー、行っちゃた。」
あゆみが声を張り上げたそのときには、梨華は猛スピードでケヤキの角を曲がっていった。
- 204 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:17
-
絵梨香たちが通う大学の特徴は古い校舎と真新しい校舎があちこちに共存していること。
学部によって校舎も変わるが、古い校舎は古い校舎なりの良さがあって、
新しい校舎は新しい校舎で最新の設備が備えられている。
梨華は、古い赤レンガの商学部の校舎を右にまがると、見覚えのある後姿を確認した。
「なっかざわさぁ〜ん♪」
大声で呼ぶ梨華の声に、その後姿の女性もこちら側に振り向いた。
「おお、石川。 …って、だれが『中澤さん』やねん。あんた学生なんやから『中澤教授』って呼びなさい。私だって、一応大学の教授なんやから。」
――― 中澤裕子。
絵梨香の通う大学のドイツ語の教授である。
ただ、梨華をはじめ、
絵梨香もあゆみもひとみも彼女のことを『中澤教授』なんて硬い呼び方をしない。
なぜなら、裕子は絵梨香の街の町内会長・保田の従兄弟だからである。
面倒見のいい裕子は、何度か絵梨香たちを遊びに連れてってくれたので
すっかり顔なじみになってしまった。
だから、キャンパスの中でも『中澤さん』と気軽に呼んでいる。
「ちょうどよかったです。ちょうど中澤さんのとこに行くところだったんですよぉ。」
「…はて?なんの用? 今日なら、ダメやで。今日はデートの約束があるからな。」
「……デートなんて、うん十年もしてないくせに。」
「…石川。なんかゆーたか?」
「いえいえ。何も言ってませんよ。 てゆーか、中澤さんがあたしを呼び出したんじゃないですか。」
- 205 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:18
-
「…あれ?そうやったっけ?」
「そうですよ。掲示板で載せてたじゃないですか?」
と言いつつも梨華自身が大学の掲示板を見たわけではない。
「あー。そうやった、そうやった。あれや。論文なんちゃらとかゆーやつやろ?」
「そーですよぉ。ちゃんと覚えといてください。そんなに忘れっぽいと、コジワも増えちゃうんですよ。」
「…石川。なんかゆーたか?」
「いえいえ。何も言ってませんよ。」
「…コジワが何やって?」
「な、何にも言ってないって言ってるじゃないですかっ。優しい中澤さんなんだから♪」
「調子のええこと言いよって。」
以前も保田が梨華に言葉巧みに丸め込まれたが、やはり従兄弟である。
裕子も梨華の言葉巧みなトークに弱い。
「…でもね、中澤さんは本当に優しいって思いますよ。」
「またまたー。 …石川、これでおいしいものでも食べや。」
「ありがとうございます。」
しっかり裕子からも1万円札を頂戴する。
「中澤さん、絵梨香のプリントも作ってくれたんですよねぇ?」
「ん? 絵梨香って、三好か?」
「はい。 今、取りに行ってますよ。」
が、裕子の反応は薄かった。
むしろ、ポカンとした顔をしている。
- 206 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:18
-
「はて? まだ三好のプリントを作った覚えはないで。」
「えっ?だって、男子学生が中澤さんから渡すように頼まれたって…。」
ますます裕子は心外だという顔をする。
「ドイツ文化のやろ?まだ、作ってへんって。それに、私は頼まれたものはそんなええ加減なことせんで、ちゃんと私が渡すで。」
「え?」
裕子の言ってることが本当ならばあの男子学生は絵梨香のプリントなんて持っていない。
つまり、絵梨香を誘い出す口実を作っただけ。
――― 梨華は自分でも心臓が高鳴り始めたのがわかった。
「いやー。試験前でいろいろ忙しくてなー。作ってる時間がなかったんや。」
「…中澤さん。本当にプリントはまだ出来てないんですね?」
「そうやで。まだ製作途中や。」
「…ちなみに藤本美貴の弟って、知ってます?」
「藤本美貴の弟? あぁ、なんかここの大学にいるなぁ。一回見たことあるねんけど、担当している学科が違うから直接逢ったことはないなぁ。」
「…じゃあ、顔は知ってるんですね?」
「ああ、知ってるでぇ。」
さらりと言い放った裕子に梨華の心臓はさらに高鳴った。
- 207 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:19
-
「 ? …どした、石川?」
この嫌な予感。背中をつたう冷や汗。
大学での噂。…レイプ事件。
絵梨香が……襲われる?
まさか、あの藤本美貴の弟が……?
いてもたってもいられなくなった梨華は元来た道へ走り出した。
「ちょっと、石川!? どこ行くん!?」
「中澤さんも一緒に来てください!」
「えっ?」
「いいから、早く来てください!」
- 208 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:19
-
「本当にすみませんね。」
「いえいえ。」
絵梨香と背の高い男子学生は試験会場となっていた講義室に向かっていた。
試験はすでに終了しているので、キャンパス内ですれ違う学生はほどんといない。
「あの…。」
「はい?」
「三好さん、さっきの取り押さえてた女の子とはだいぶ仲が良いんですね。」
取り押さえてた女の子。まさしく梨華のことだ。
「はい。一緒に暮らしているんです。」
「一緒に?」
「はい。彼女の一家が夜逃げしちゃったので…。それで一緒に暮らしてるんです。」
「へぇ…。いいですね、楽しそうで。親友ならではですよね。」
しかし、梨華とは『親友』と呼べる関係ではない。
『親友』よりもっともっとさらに深い関係。愛し合う関係。
絵梨香のことを誰よりも考えてくれている人。誰よりも想ってくれる人。
(梨華ちゃん、すぐ帰るからね。)
- 209 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:20
-
やがて、2人は一つの講義室の前に立った。
「ここですね。」
記念館第一講義室。
さっきまで試験の緊迫した空気が流れていた場所。
古くて白い扉を力一杯押すとギーッと音を立て開き始めた。
教室に入ると夏の西日に照らされてやけに蒸し暑い感じが肌に伝わる。
男子学生は一目散に角の机に向かい、
机の中から一つのファイルを取り出すと絵梨香を手招きしてきた。
「ファイル、ありました?」
「はい、ありましたよ。」
早くプリントを貰って帰ろう、絵梨香はそれだけを考えていた。
だが、一向に男子学生は渡すそぶりを見せない。
「…あの…プリントは?」
絵梨香は男子学生の顔を覗き込んだ。
さっきまでの表情と違い、白く青ざめている。
まるで試験中のひとみのような顔色で。
その表情に絵梨香はギョッとした。
「あの…?」
- 210 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/08/28(日) 00:20
-
「三好さんっ!」
そう言ったかと思うと突然、男子学生は絵梨香に襲い掛かってきた。
予想もしてなかった状況に絵梨香は焦る。
ジタバタしたところで力では男性に勝てない。
やがて、絵梨香は背中をとられると首の後ろからロックをかけられてしまった。
「や、やめてっ!」
悲鳴をあげても誰にも届かない。
こんな時間にこの講義室の近くにいる学生はほどんといない。
そのまま、強引に口にタオルを当てられた。
すごく変な匂いがする。
(ク、クロロホルム!)
気づいたときにはもう遅かった。
すでに肺の奥までそれを吸い込んでしまっている。
絵梨香の視界はだんだんとぼやけていき、まぶたが重くなっていく。
あとはもう重力に任せるように教室の床に倒れていった。
ゆっくりと流れゆく景色のなかで男子学生の不敵な笑みだけが目に入った。
- 211 名前:― 投稿日:2005/08/28(日) 00:20
-
- 212 名前:ゆーたん 投稿日:2005/08/28(日) 00:21
-
本日の更新はここまでです。
次回へと続きます。
- 213 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/28(日) 10:46
- うわわわわ、大変だ!!
嫌な予感が的中!?
更新お疲れさまでした。次回も楽しみに待ってます。
- 214 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/28(日) 15:05
- わーっ!!!
まさかこうはならないよなぁと思っていただけに。。。
この先どうなるかドキドキです。
- 215 名前:名無し 投稿日:2005/08/28(日) 16:53
- 更新お疲れ様です。
>>177さん出来るだけ気を付けて書くように致します。
で、感想ですが、あぁやっぱりこういう展開に〜!!
梨華ちゃんは間に合うのか?!唯やんは何処に?!
次回更新が楽しみです!
- 216 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/28(日) 19:29
- 更新お疲れさまです。
ヤバい事に!
この先どうなるんでしょうか??
次回更新待ってます。
- 217 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/30(火) 02:03
- >>215
まだネタばれに近い
出来ないならいっそ書き込みは遠慮していただきたい
- 218 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/31(水) 23:09
- とりあえずネタバレ見えないようにしときますね
- 219 名前:ゆーたん 投稿日:2005/09/13(火) 00:36
-
>>213 名無飼育 様
あー…。やっぱり予感が的中してしまいましたか…。
>>214 名無飼育 様
見事にこうなってしまいました。
>>215 名無し 様
うっ…。痛いところをつかれましたね…。岡田さんは…。
>>216 通りすがりの者 様
うーむ、ちょっと内容が正直すぎましたかねぇ…。
>>217 >>218
マナーの厳守はもちろん必要ですね。読んでくださる方々が気持ちよく読めるように心がけていただければ幸いです。レスにつきましては、案内板にあるマナーをよく読むことをお勧めします。お心遣いありがとうございました。これからもお付き合いのほどよろしくお願いします。失礼しました。
しかし……。
( `▽´)<ものの見事なまでに読者に展開が読まれてるじゃないのっ!
(^ ロ ^§ク <絵梨香に言われても…。
(´^` 川 <知らんで。
…予想を覆すような内容を考えなくちゃ…と一人黄昏る作者です。
それでは更新を再開します。
- 220 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:38
-
――― 絵梨香は捨て猫のように教室の片隅でうずくまっていた。
すぐそばにある西側の窓からは、もう太陽の光は入ってきていない。
きっと、太陽なんてものはとっくに沈んでしまったのだろう。
あれからだいぶ時間が経つというのに
ただ脱力感にとらわれるだけでその場に立ち上がる力さえ湧いてこない。
もし仮に立ち上がったにしても、歩くことは出来ないであろう。
体は覆っていたものを全て剥ぎ取られ、健康的に焼けた肌がむき出しになっていた。
絵梨香は一筋の、真珠のようにきれいな涙を流した。
(梨華ちゃん……。)
愛しいその人の名前を呼ぼうにも声が出ない。
この自分の惨めな有様をどう説明しようか。
(大丈夫って、言ったのにね…。)
絵梨香の近くには、着ていた衣服が散らかっていた。
今日のコーディネートは梨華がしてくれたものだ。
朝、あんなにうきうき気分で選んでいた姿が瞼に残る。
その服も今や見るも無残なカタチになっている。
恐らく無理やり衣服を脱がしたためだろう、あちこちにナイフで切ったあとがあった。
- 221 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:39
-
もっと警戒しておけばよかった。
確かに少しはイヤな予感はしていた。
だけど、まさか本当にこんなことになるなんて夢にも思ってなかった。
もう梨華の想いに答えることは出来ないだろう。
こんな汚れた体を誰が愛するというのだろうか?
こんな惨めな自分を誰が慰めるというのか?
愛してくれる梨華がかわいそうだ。
すべてが終わっている。
その絶望感と悔しさで涙が止まらない。
「絵梨香ぁ!」
梨華の声がする。
きっと帰りの遅い絵梨香のことを心配してくれたのだろう。
だけど…。
やめて。
来ないで。
あなたに誰かに犯されたこんな体を見せたくないから。
「絵梨香ぁ!」
絵梨香の想いとは裏腹に梨華の声はどんどん近づいてくる。
- 222 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:39
-
「絵梨香ぁ。」
体を揺すられる感覚。
ダメだよ……。
もう立ち上がる力だって湧いてこないのだから。
「絵梨香、しっかりして。」
「ん、んっ…。」
絵梨香が薄っすら瞼を開けると、そこには愛する梨華の姿があった。
「梨華ちゃん……。」
「もう大丈夫だよ。」
「梨華ちゃん、私……。」
「なにも言わなくていいから。なにも言わなくて…。」
ギュッときつくきつく抱きしめられる。
確かな梨華の温もりがそこにはあった。
ほんの僅かな時間、忘れてしまいそうだった温もり。
安心したせいか絵梨香はまた涙を流した。
その涙が梨華の頬に触れ、絵梨香の背中に回された腕に力が込められた。
と、ここで絵梨香は変なことに気づいた。
- 223 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:40
-
背中に回された梨華の腕で気がついたのだが、直接絵梨香の肌に触れていない。
それは絵梨香がちゃんと服を着ていることを意味する。
だって服はすべて脱がされていたはずなのに…。
それに…… さっきまでの脱力感も消えていた…。
「ちょ、ちょっと待って。」
「 ? 」
梨華の腕を解いて自分の全身を見る。
やっぱり服を着ている。
それに…これといって乱された形跡さえもない。
これは一体…?
「はいはい、2人ともご馳走様。もうそんなラブシーン終わりにせい。」
裕子の声がすぐ近くから聞こえてきた。
声の方向を見てみると絵梨香の足元のほうで男子学生が倒れていた。そこに裕子もいた。
「ちょっとぉ、中澤さん!『ラブシーン』じゃなくて『超・ラブラブシーン』です。」
梨華が変な反論をする。
「なんやそれ?そんなんどうでもええわ。 ラブシーンがニャンニャンになる前に終わりにせい。 …そんなことより、三好は大丈夫か?」
「え? はい…。」
「何か変なことされたか?」
「いえ…わからないです。でも、服もちゃんと着ているし…された感覚もないです。」
「ほな、それならええわ。」
裕子は近くに落ちていたタオルを見つけると拾い上げて少しだけ匂いを嗅いでみた。
その匂いに裕子は顔をしかめる。
「うわっ。これ、クロロホルムやんけ。これやな、三好が眠らされていた原因は。」
「そうです。タオルで口塞がれました。」
「ほほう。で、こいつが犯人やな。」
裕子が倒れている男子学生を見る。
- 224 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:40
-
「中澤さん…?」
「ん?」
「私… 絵梨香は本当にされてないんでしょうか?」
絵梨香はさっきまでの光景が気になる。
あれは絶対されていた後の光景だった。
それともさっきまで夢でも見ていたのであろうか。
もちろん絵梨香としても夢であってほしいのだが。
「んー…。よーわからんけど、私と石川が来たときにはもう三好とこの学生さんが倒れていたんやで。」
「じゃあ……。」
「ん、んっ…。痛ってぇ……。」
「まぁ、詳しいことはこいつに聞いたほうがええな。」
裕子は咄嗟に身を屈めた。
どうやら男子学生が意識を取り戻したらしい。
男子学生は起き上がると周囲を見渡した。
当然、絵梨香たち3人の存在にも気がつく。
「…お前さんがレイプ魔の犯人やったんやな。」
裕子がドスの利いた低い声で尋ねる。
「…何の話ですか?」
「ほー。とぼけるつもりかい?三好だって覚えてるんやで。お前さんにタオルで口塞がれたって。」
「……。」
「…もう一度聞くで。お前さんやな。大学で噂になってるレイプ犯っちゅーのは。」
「…や、やだなぁ、ホントなに言ってるんですか?名誉毀損で訴えますよ。」
明らかに男子学生は動揺していた。
さらに額からは変な汗が流れ始めている。
「訴えてもらって結構。そのかわりお前さんのことも調べてもらおうや。」
「 ……そんなことさせるか。」
絵梨香はその顔を見た途端、あの時の顔に似ていると思った。
絵梨香を襲おうとしたあの青白い顔と。
男子学生はふらふらっと立ち上がると絵梨香たちのことを睨んだ。
「もう一度聞くで。お前さんがレイプ魔の犯人やな?」
「そうさ…。俺が犯人さ…。 この秘密を知ってしまった限りは、君たちをただで帰すわけにはいかないね…。」
男子学生は右のポケットに手を突っ込むと果物ナイフを取りだした。
- 225 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:41
-
「こんなことやって、ただですむと思ってん?大事になっても知らんで。」
さすがに刃物の登場で元ヤンキーという噂が絶えない裕子も一歩後ずさりした。
「大丈夫さ。あとは姉貴の事務所がうまく誤魔化してくれるからな。」
「事務所?」
「そうさ。姉貴の事務所さ。」
「そんなことできると思ってるん?」
「ああ、出来るさ。こないだまでここに警備員がいただろ。あいつも姉貴の事務所が辞めさせたんだぜ。」
確かに最初に倒れている女の子を発見した警備員は辞めていなくなっている。
辞めた理由まではわかっていないが、突然いなくなったといったほうが正しいのかもしれない。
「…あの警備員が事件のことを不審に思っていろいろ調べ始めたのさ。だから、邪魔になって消してやったんだ。」
「そんな…。」
「邪魔者は消える運命なんだ。そう、お前たちも同じようにな。」
男子学生はナイフをキラリと光らせて、絵梨香と梨華の方へ歩み寄っていった。
「やめんかいっ!」
「な、中澤さんっ!」
裕子が慌てて止めに入る。
「こんなことやったってなんにもならへんで!」
「うるさい!邪魔だ、どけっ!」
いくら負けん気の強い裕子といっても、20歳そこそこの男性の力にはかなわない。
あっという間に蹴り飛ばされた。
それでも裕子はあきらめない。
もう一度、男子学生の足にしがみついた。
- 226 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:42
-
「邪魔なんだよっ!」
「あんたのためを思って止めてるんやで!」
「そんなこと知るか!」
裕子も抵抗する。相手はナイフを持っている。
下手に激しく抵抗すると刺されてしまう可能性だってある。
それでも裕子は危険を顧みず止めに入る。
しかし、しばらく抵抗していた裕子の背中側に男子学生がまわった。腕で首を絞められる。
絵梨香も梨華もなんとかして助けたいが足がすくんでしまって動けない。
男子学生はタオルを取り出すと絵梨香のときと同じように裕子の口を塞いだ。
始めはなんとか逃れようとジタバタしていた裕子も徐々に勢いをなくしていく。
…やがてその場に力なく倒れこんでしまった。
本当に一瞬の出来事だった。
「ったく、余計な手間をかけやがって。」
男子学生
――― いや、もう男と言うべきだろう。
男は気を失った裕子の体をその場に放置すると
抱き合って震えている絵梨香と梨華のもとに一歩ずつ近づいていった。
果物ナイフが暗闇の教室に不気味に鋭く光っている。
この男 ――完全にキレている。
「次はお前らの番だからな。」
男がナイフを思いっきり振り上げたのを絵梨香は見た。
もうおしまいだと思った。
離れないように梨華を強く抱き寄せて瞳を閉じた。
- 227 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:42
-
「痛っ!」
絵梨香の予想に反して悲鳴をあげたのは男のほうだった。
一体何が…?
そっと目を開けてみると頭を抑えてうずくまる男の姿。
そして……その後ろからほうきで殴りかかった唯の姿が見えた。
「ゆ、唯ちゃん…。」
「2人とも逃げて!」
「でも、唯ちゃんは…。」
「うちは幽霊やねん!見えてへんから平気、平気!はよ逃げて!」
「う、うん。」
唯に言われるがまま、絵梨香は梨華の手を握りしめ出口に向かって走り出した。
なんせ、唯は一発では男をノックアウトさせるだけの力はない。
すぐに後を追ってくる。頭を抑えてうずくまっていた男もすぐに立ち直った。
「なんだ、このやろうっ!」
「ホイよっ!」
さらにもう一発、唯がめーいっぱいの力で男をほうきでぶん殴る。
しかし、今度は見るも無残にほうきが折れてしまった。
「あれま…。これだから安もんは使い物にならへん…。」
唯の最後の一発で再びうずくまった男もまた絵梨香たちを追いかけ始めた。
「ちっくしょうっ!お前らぶっ殺してやるっ!」
絵梨香と梨華は出口までたどり着いた。
だが、暗くてなかなかドアが開かない。
男はもうすぐそこまで迫っている。
「このやろうっ!」
「い、いやっ ―――― 。」
もうだめだ。
殺されてしまう。
- 228 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:42
-
――― そのときゆっくりとドアが開いた。
「ウィースッ♪ お客さぁ〜ん、お困りですかぁ???」
「よ、よっすぃー!?」
「呼ばれて飛び出せ♪じゃじゃじゃじゃーん♪どーもぉ、吉澤ひとみでぇす。」
いきなり教室の中に入ってきた見覚えのある人懐こい顔。
まさしくその人物はひとみだった。
ひとみは悠々と男の前に立ちふさがった。
「あまりも帰りが遅いからちょっと寄ってみたんだよねー。そしたら、こんな有様だもん。まったくやってくれるよねー。」
ひとみはニヤニヤしながら、男に歩み寄った。
だけど、絵梨香は思った。
――― 顔は笑っているけど、目が笑ってない…。
いつになく怖い目をしている。
こんなひとみを見たのはこれが初めてだった。
「おっとぉ、あんたかい?梨華ちゃんと三好ちゃんを泣かせたのは?」
「…誰だ、お前?」
「まぁまぁ、誰だっていいじゃん。」
さらに一歩、ひとみは男の方へ近づいていく。
「ほー。危ないもんまで持っちゃって。」
「……。」
「男なら、素手で勝負したらどうなんだよ。」
ひとみが蹴り上げた足が男の腕に命中しナイフが遠くに飛んでいった。
- 229 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:43
-
「お、お前…。」
「あ、そうそう、こんなこと知ってる? 吉澤ひとみってね、ものすごーく『友情』に熱い女だって。親友を泣かせた奴は絶対に許さないってねっ!」
言うが早いか、手が早いか。
おそらく手のほうが圧倒的に早かったのだろう。
あっという間にひとみの右ストレートが男の左頬に炸裂した。
「ぐふっ!」
ふらつく男にひとみは容赦しない。
今度はわき腹めがけてアッパーを入れる。
「なにをっ!」
「おりゃ!おりゃっ!」
続けざまにパンチを食らわせる。
もともと運動神経がよく、フットワークも華麗であるうえに
自宅にはサンドバッグがあるひとみだけのことはある。
そんじゃそこらでお茶している女子大生とは大いに違うのだ。
もちろんそんじゃそこらの男と戦えば勝てたかもしれない。
が、今回ばかりは相手が悪かった。
男もただ撃たれるだけではなく、動きを見切っていた。
ほんの一瞬、ひとみの右手が空を切ったところで反撃を開始。
ひとみの体が流れたところに男はカウンターを合わせた。
- 230 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:43
-
「っ…!」
見事にカウンターがお腹に入ったひとみは動きが止まる。
「よ、よっすぃー!」
「吉澤さん!」
すぐさま体勢を整えるところはさすがだが、そのときにはもう男が次の攻撃に入っていた。
「っう!ううっ!」
一度決まりだすと次々に決まりだすもので、あっという間に形勢は逆転。
ひとみの圧倒的不利な形になり、ついには壁際まで追いやられてしまった。
「おいおい、どうした? さっきの勢いはどこに行ったんだよ?」
「くっ…。」
男の蹴りがお腹に入る。
ひとみは苦しそうな声を上げて、倒れこんでしまった。
こうなると完全に男のペースになる。
床にうずくまり抵抗できないひとみを男は蹴り続けた。
(やめて…。もういいよ…。もうやめてよ…。)
絵梨果の願いも虚しく、男は狂ったようにひとみを蹴り続ける。
(吉澤さん…。)
- 231 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:44
-
「ぐげっ!」
突然、男の悲鳴が上がった。
それはもうスローモーションな出来事だった。
男がゆっくり、ゆっくりと倒れていく。
まるで映画を見ているかのような感覚で。
「ゆ、唯ちゃん!?」
にこりと笑う唯。
唯の両手には… ドリフのコントで使うような巨大な金だらいが持たれていた…。
「うわぁっ!これ、ホンマに痛いんやな。一撃で倒れはったで。脳震盪いってるんちゃう?」
まじまじと巨大金だらいを見つめる唯。
どうやらその金だらいで思っきり男をぶっ叩いたようだ。
てか、そんなもの大学のどこにあったの???
と、とにかく…。
「た、助かった? 助かったよ!やった、助かったよ!」
すると、警察官がぞろぞろと教室に入ってきた。
どうやら、あゆみが呼んだ警察官が今到着したのだ。
――――――――
- 232 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:45
-
「よっすぃー、ありがとう…。」
「いやぁ…。途中、やられまくってたけどねぇ…。」
「そんなことないよ。よっすぃーの勇気が奇跡を起こしたんだよ。」
梨華は目を潤ませて、ひとみの手を握っている。
めちゃくちゃ感動している梨華には失礼だが、絵梨香とひとみは笑いが止まらなかった。
警察側の見方は
『天井から突然金だらいが落下し、男に直撃した。』
となっている。
完全にドリフのコントじゃん、絵梨香じゃなくたってそう思う。
とはいえ、まさか幽霊がお手柄だなんて誰も信用しないしないだろう。
その事実を知っているのは幽霊が見える絵梨香とひとみだけなのだ。
「唯ちゃん、その金だらいどこから持ってきたの?」
「なんかなぁ、そこに落ちてたねん。」
そんなものが落ちているのだから、日本の治安も結構危ない。
日本中のどこの家庭でも金だらいが落下する可能性は否定できないのだ。
なにはともかく男は逮捕され、全ての事件が明るみになった。
なぜ、襲われた女子学生は被害届をださなかったのか?
それは男が薬を女子学生に飲ませ、淫らな行為をビデオで録画。
もし男の行為を明るみにしたら、そのビデオを全国に流す
と脅したのだった。
だから、被害届も出ず、噂だけが一人歩きしたのだ。
さらに自分が人気アイドルの弟であることをいいことに
事務所を巧みに利用していたことも明らかになった。
裕子の意識も無事に戻り一件落着。
さらに見事女の敵を捕まえたひとみらは後日、表彰されることになったのだ。
- 233 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:46
-
警察がいろいろ取り調べている間、ひとみが唯の所へやって来た。
「その…唯ちゃん。」
「うん…。」
唯の姿を見ただけで気絶したひとみなだけに絵梨香もちょっと驚いた。
「そのさ… 助けてくれて、ありがと。 …私一人だったら、もしかしら死んでいたかもしれないし…。」
「吉澤さん……。」
「あと… こないだは逃げたりしてごめんね。その…本当に幽霊とか苦手で…。でも、唯ちゃんとは友達になれると思うし…。」
唯はひとみの言葉に涙をためていたが…。
「吉澤さぁん♪」
嬉しさのあまりひとみに飛びつく唯。
「うげっ! 苦しいよぉぉぉぉっ……。」
苦しそうにしているひとみだが、唯の大きな胸が顔に当たってなんだか嬉しそう…。
絵梨香にとってもこの2人が仲良くなってなによりだった。
- 234 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/09/13(火) 00:46
-
警察の取調べが終わって、家に帰宅したころにはもう日付が変わっていた。
絵梨香と梨華はシャワーを浴び、ベッドに横たわると今日の疲れがどっと出てきた。
今まで緊張しっぱなしだったこともある。ようやくホッとできたのだ。
2人とも狭いベッドの上でただ白い天井を見上げていた。
「絵梨香…。」
「うん?」
「…終わったね。」
「うん。終わったんだよ。」
「絵梨香が無事で…よかった…。」
「うん……っくぅ…。」
「絵梨香…?」
「……怖かったよぉ…。すごく怖かった…。」
「絵梨香…。 …あたしの胸で泣いていいよ。」
「それだけじゃやだ…。」
「えっ?」
「絵梨香の心の傷も癒して…。今日の出来事、忘れちゃうくらい… 絵梨香のことめちゃめちゃにしてくれなきゃやだ…。」
「……うん。梨華、がんばる。」
ちょっと強引に重なり合うとあとはもう2人はシャットアウト。
梨華の『5日ぶりのご無沙汰』も解消されたそうな。
- 235 名前:― 投稿日:2005/09/13(火) 00:47
-
- 236 名前:ゆーたん 投稿日:2005/09/13(火) 00:47
-
今回はちょっと刺激的(?)な内容になってしまいました。
それでは本日の更新はここまでです。
次回へと続きます。
- 237 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/14(水) 19:56
- 更新お疲れ様です。
一件落着って感じですかね。
壮絶な一日でした。
次回更新待ってます。
- 238 名前:名無し 投稿日:2005/09/15(木) 00:07
- この感想でダメでしたら次回から消えます。
更新お疲れ様です!
読んでてハラハラしました!
とりあえず事は収まりましたか………にしてもヤツは卑劣ですね。
- 239 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/15(木) 01:46
- >>238
・・・頼む
もう少しここのルールを勉強してから書き込んで
- 240 名前:太平 洋 投稿日:2005/09/15(木) 23:35
- いやあ、ドキドキしました。それにしてもヨッシー、すごいし、
裕ちゃんのヤンキーぶりにビビリっぷりもリアル。
でも幽霊の唯ちゃんに奮闘振りも良かったです。
さあ、今後に期待。
あ、今回の事件以前の展開、事件が衝撃的だったんで、忘れちゃった。
見直してきます。
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/16(金) 01:51
- >>240
・・・頼む
もう少しここのルールを勉強してから書き込んで
- 242 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/16(金) 04:35
- >>238
>>240
不適切な書き込みですよ。案内板をよく読まれてから書き込みしてください
作者様スレ汚し失礼しました。
- 243 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/17(土) 09:41
- 更新乙。
- 244 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/18(日) 12:04
- 更新お疲れさまです
あーよかった
ご無沙汰も解消されたようで、何よりですw
- 245 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/26(月) 02:12
- 更新乙!
- 246 名前:ゆーたん 投稿日:2005/10/15(土) 18:00
-
>>237 通りすがりの者 様
一件落着のように思えますが…。三好さんの壮絶な日々は続くかも…?
>>238 名無し 様
ヴァー
( Т▽Т)<消えないでくださいよぉ……ひっく、ひっく…必ず帰ってきてください。
>>240 太平洋 様
ぜひ、事件以前の展開を思い出しながら次回を読んでいただけると嬉しいです。
>>243 名無飼育 様
小説読むの乙 …なんちゃって。これからも頑張って更新します。
>>244 名無飼育 様
(*^▽^)<久しぶりに…ね♪ ウフフ…。
>>245 名無飼育 様
更新は遅れましたが、出来る限り頑張ります。
それでは更新を再開します。
いよいよ(ようやく)大阪へと参ります。
- 247 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:02
-
……そもそも『運転免許書』というものは、車の運転が出来る証明書なはずだった。
例え薄っぺらなカードだとしても
それを持っているだけで鉄の塊を動かすことが出来るのだ。
少なくとも絵梨香も梨華もひとみも20年ほどの人生でそう考えていた。
なのに今この状況はどういうことだろう?
それがとても運転を許可された人のドライビングとは思えない。
アクセルをベタ踏みしたまま放そうとしない。というか、放れない。
――― 柴田あゆみ。
彼女が運転する車は弾丸となって風を切っていく。
「し、柴ちゃん、ぶつかるっ!!!」
4トントラックに向かって車が真っ直ぐ突っ込んでいく。
もうおしまいだと思った次の瞬間、寸前であゆみがハンドルを切った。
「おっと! スリップに入ったからスピードが予想以上に出ちゃったねー。」
おどけてみせるあゆみだったが、メンバーの顔は青ざめきっている。
さらに絵梨香が驚いたのは、あゆみが半笑いで運転していることだった。
スピードが増すにつれて楽しそうになるあゆみ。
あゆみがスピード狂といわれる由縁。
かなり怖い…。こんな恐怖とは初めてのご対面だった。
- 248 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:02
-
「し、柴田さん、もっとスピード落としてっ!!!」
「大丈夫だぁって。だって、私、シューマッハとF1のワールドチャンピョンを争ったこともあるんだよ。」
「ななななに、そのシュークリームって!!!」
もうシューマッハだろうとシュークリームだと
その場にいた人間にとってはどっちでもいいと思った。
とにかく一刻も早くこの状況から開放されたい、そう思った。
1人の幽霊を除いては…。
「えー? けっこー、楽しいやん。」
「そりゃ、唯ちゃんはもう死なないからいいけど!!!」
「もっとスピードでぇへんの?」
「やめてぇぇぇぇっ!!!」
「やっほうっ♪ あははっ、あははははっ♪」(←しばた)
一方、梨華は絵梨香の隣でもくもくとなにかを書いていた。
「り、梨華ちゃん、何書いてるの?」
「……遺書。」
「ふぇっ!?」
「『神様……あたしは地球上でたった一人の絵梨香と出逢えて、本当に幸せでした……。』」
どうやら梨華はマジらしい。
「ちょ、ちょっと梨華ちゃんっ?」
「『こうして絵梨香と一緒に逝けるなら本願です……。』」
「ま、まだ死んでないし……。」
「『パパ、ママ、今まで育ててくれて、ありがとう……。さよならも言えなかったね……。夜逃げしちゃったけど、もう一度逢いたかったな……。ありがとう。さようなら。 愛する絵梨香とともに。 梨華』 …さあ、絵梨香。最期は抱き合って迎えたいの…。」
「え? う、うん…。」
梨華がそっと絵梨香に抱きつく。
本当に死ぬのではないか?絵梨香の頭の中に20年間の人生が走馬灯のように流れ出す。
あっ、人間って、こんなにスローモーションに思い出が駆け巡るんだ…。
もうこの時点でお迎えの近い位置まで来ていた。
- 249 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:03
-
車はさらに加速している。
普通乗用車でここまでスピードは出ないはず。…このあゆみの車、改造してあったんだ。
…そーいえば、この車を追っかけてきていたパトカーもいつの間にかいなくなっていた。
あれ、多分スピード違反を取り締まっていたパトカーだろうな…。
絵梨香はスピード違反でも何でもいいからあゆみを捕まえてほしいとまで思った。
少なくとも絵梨香たちを拘束しているんじゃないかしら?
「ほら、ほら、新幹線より速いよ!フォー!!」
あゆみは嬉しそうに言うが、返事をするものはもうさすがにいなかった。
…およそ、2時間半。
死のラブワゴンに葬られた無実の3人(+幽霊1人)は奇跡的に生還を果たしていた。
500キロほどの東京―大阪間の道のりをわずか2時間半で来てしまった。
「ほら、もう大阪に着いたじゃん♪やっぱ、柴田の運転が良かったんだねぇ。 …あれ?なんでみんなぐったりしてるの?」
…あなたのせい以外なにものでもありませんよ。
- 250 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:03
-
「でさ、みんなどこに行く?」
「食い倒れ人形!」
「たこ焼き!」
「阪神タイガースオフィシャルショップ!」
「……じゃあ、最後の意見以外のところに行こうか。」
「えー!なんであたしの意見が通らないのよ!ひどいと思わない絵梨香?」
「……え、絵梨香もフォローの仕様がないです。」
プロ野球に興味がない女子大生。
当たり前といえば当たり前だが、絶対的な虎党の梨華としては憮然たるものだった。
「もう!どーしてみんなそうなのよ!」
「あっ、ほら大阪城が見えてきたよ。」
あゆみが声を上げる。
左前方から大きな大きな大阪城が見えてきた。みんな窓に釘付けになる。
もちろん唯も目を細めて懐かしい風景を眺めている。
もう梨華の虎党話などどっかに行ってしまった。
「大阪やなぁ…。やっぱ、ええなぁ…。」
目を細めながら、ポツリと唯が呟いた。
- 251 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:04
-
御一行は適当な有料駐車場に車を押し込むと道頓堀へと歩いてやってきた。
「あー、なんか見たことあるなぁー。」
ひとみが川沿いに建てられたグリコ人形を見ながら感嘆をもらす。
ここは東京に住んでいる彼女たちにとってある意味一番有名な場所でもあった。
「あー、なんかグリコしたくなっちゃったなぁ〜。」
「ちょっとよっすぃー、なに言ってるのぉ。」
「だってさー、グリコだよ。両手片足上げてるグリコだよ。カッケー。」
何がカッケーのか絵梨香たちにはいま一つわからないが、
ひとみにとっては黄金に輝くグリコポーズに見えるらしい。
ま、いくらなんでも恥ずかしいのでご遠慮いただいた。
「じゃあさー。阪神ファンなら梨華ちゃんこっから飛び降りてよ。」
またひとみが冗談とも本気ともつかないことを言う。
道頓堀の水はとてもじゃないが、飛び込むのに適している水には見えない。
「い、いやよ。なんであたしが飛び降りなきゃ行けないのよ?」
「…だって、阪神ファンじゃん。」
「それとこれは別でしょ。」
「よくあるじゃん。服脱いで飛び込む人とか。」
「なんであたしが服を脱いで飛び込まなきゃいけないの。 それにぃ…… あたしの服を脱がせられるのは絵梨香だけだもん♪」
「はいはい、梨華ちゃん面白いよー。」
あゆみに軽く流されて、しょげる梨華。
「えーん。絵梨香ぁ、この2人がイジメるのぉ。」
「よしよし、梨華ちゃん。いい娘、いい娘♪」
- 252 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:04
-
賑やかな通りを歩いていくとあの有名な人形が見えてきた。
するとまたこの人が、
「ヤベー、食い倒れ人形カッケー。この機械的な動きサイコー。」
ただ太鼓を叩いているだけなのだが…。
時々、ひとみの感覚がわからなくなる。
とはいえ、あくまで人通りの多い道にある人形なので
簡単にみんなで記念写真を撮っただけですぐあとにした。
しばらく行くと今度は梨華が近くにたこ焼きの屋台を見つけた。
「あっ、たこ焼き食べたーい♪」
「絵梨香もー。」
「じゃあ、半分こしよ。」
仲良くお金を出し合ってたこ焼きを買う。
やっぱり大阪のたこ焼きは東京のものとは違う。
しっとりとしていて、それでいて味も抜群に良かった。
唯もたこ焼きは好きなようで、ちゃっかりひとみからたこ焼きを頂戴していた。
さらに近くのお好み焼き屋に入りお腹を満たしたあと、
今度は地下鉄に乗って通天閣へとやってきた。
東京タワーにも似たナニワのシンボル的タワーである。
しかし、確かに観光名所ではあるけど、専らは高校の修学旅行生で、
若い女子大生が大阪旅行に来るには稀な場所かもしれない。
ただ、昔ながらの大阪の街並みが残っており、
初めて来たというのにどこか懐かしい感じがするのも魅力の一つだ。
- 253 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:05
-
4人は高い入場料を払って、エレベータで展望室へ上がる。
展望台とあって、ここからは大阪の街並みが一望できた。
「唯ちゃん、これ何?」
展望室の一角に変な像があったので、絵梨香は小声で唯に尋ねてみる。
「んーっ? これはな、幸運の神様『ビリケン像』やねん。」
「ホリケン?」
「ちゃう、ちゃう。それじゃあ、お笑い芸人もしくはサイボーグに出てくる人やん。ビ・リ・ケ・ン。ビリケン様。なんでも願い事を叶えてくれるらしいねん。」
「へぇー。じゃあ、お願いしなきゃね。」
絵梨香は手を合わせる。
「絵梨香、なにしてるのぉ?」
「ビリケン様にお参り。願い事なんでも叶えてくれるんだって。」
「そうなの?じゃあ、あたしもしよっと。」
梨華も並んで2人で仲良く参拝する。
「…絵梨香はなにお願いしたの?」
「ひ・み・つ♪」
「えー? なになに教えてよ?」
「願い事は言っちゃダメですよ♪」
実は絵梨香の願い事は2つした。
『これからも梨華と仲良く暮らしていきますように。』
そして、もう1つは……。
しばしの大阪の景色を楽しんだ後、
展望室から降りてくると唯が絵梨香に耳打ちする。
「近くにおいしい串かつのお店があるんやけど…。」
どうやらこの集団。かなりの食いしん坊が集まっているようだ。
見えない唯の代わりに絵梨香が提案し、もちろん4人は直行した。
先程、たこ焼きとお好み焼きを食べたのにもかかわらず。
- 254 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:05
-
「さーて、完全にお腹も一杯になったところで、次はどこに行こっか?」
時計の針はまだ2時を回るところだった。まだまだ十分遊べる。
やはり、大阪ということで。
「お笑い見に行こうか?」
「お笑い?」
お笑い好きのあゆみの目がキラキラと輝く。
あゆみが特に見たいだけらしいが、他に提案もない。
1人を除いては。
「あのさ、絵梨香ちょっと行きたいところがあるんだよね。」
「行きたいところ? どこどこ?」
「いや、行くのは絵梨香だけでいいからさ。」
「えー。お笑い見に行かないの?」
「うん。あとでまた合流するよ。」
絵梨香が目でひとみにサインを送る。
ひとみも了解サインを返してきた。
「えー。絵梨香が行くなら、あたしも絵梨香のとこへ行くぅ♪」
「り、梨華ちゃんは、ちょっと…。」
「なんでぇ?」
梨華は上目遣いで絵梨香を見る。
実はこの視線に絵梨香はめっぽう弱い。
「いや、その… ちょっと、大阪にいる親友に逢いに行くから…。」
「絵梨香の親友ならあたしも逢いたい。」
「いや… あの…。」
これは困った。どうすればよいものか…?
そもそもこれは大阪行きが決まってから絵梨香が密かに計画を立てたもので
一人で行くつもりだったからである。
- 255 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:06
-
「ねぇ、絵梨香いいでしょ?」
「えーっと…。」
「ね♪ おねが……っ!」
もうどうすることも出来なくて絵梨香は梨華の口を塞いだ。
ちょっと舌を入れてあげるサービス付きで。
…って、道の真ん中なんですけど…。
「…え、絵梨香ぁ。」
「ね? 一人で行かせて。」
「…うん。わかった。」
あゆみもひとみも口をあんぐり。
昼間っからこんなシーンを見せつけられては堪ったもんじゃない。
まぁ、こんなバカップルを連れてきた限り覚悟はしてましたが。
「じゃあ、うちも……。」
「唯ちゃんはこっちだよ。」
梨華たちについていこうとする唯を引き止める。
「えっ?」
「行こっか?」
「えー? 大阪にいる親友って…。」
「唯ちゃんに決まってるじゃん。」
目を白黒させる唯。
「病院に行こう。」
「…べ、別に行かなくてもええやん。」
「どうして?」
「うちがこうやっている限り、本当の体は元の姿には戻れへんやんか。」
「でも、行こう。なんのために大阪まで来たのさ。」
「でも…。」
「いいから。行こう。」
唯が入院している病院の場所は唯にしかわからない。
唯が断ってしまえばそれでおしまいである。
それでも絵梨香の決心は強かった。
- 256 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:06
-
さっきから唯は無言のままうつむきながら歩いている。
元々、大阪旅行が決まったときに唯がいる病院に行きたいとは伝えてはあった。
本人は、絵梨香ちゃんのお願いなら…、と承諾はしてくれたが、
いざ行くとなるとやはり心穏やかではないらしい。
なにせ、半年振りに『自分自身』と再会するのだから。
駅で一人分の切符を券売機で買うと唯の手を握り締めてホームに向かう。
タイミング良く電車が滑り込んできて、それに乗り込んだ。もう後戻りは出来ない。
電車はグラリと揺れると大阪の市内から南に向けて快調に走り始めた。
そう、唯のいる病院に向けて…。
「なぁ、絵梨香ちゃん。」
「うん?」
「病院に行ってなにすんねん?」
「唯ちゃんに逢うだけだよ。」
「ホンマにそれだけ?」
「うん。それだけだよ。」
唯はまたうつむいた。
「うちのこと、見捨ててったりせぇへん?」
「そんなことしないよ。なんでそんなこと絵梨香がするの?」
「だって… うち、絵梨香ちゃんに迷惑ばっかかけてるし、居候の幽霊やし…。」
「一度だって、唯ちゃんがいることが迷惑だなんて思ったことないよ。」
それどころか今まで以上に楽しい日々が送れたとさえ絵梨香は思っている。
「…絵梨香ちゃんが大阪に行くの、うちを帰すためやと思ったん…。」
「そんなことしないって。唯ちゃんが元に戻れるまで絵梨香が面倒見てあげるから。」
「……ありがと。」
電車が大きくブレーキをかけて、バランスを崩した唯が絵梨香の胸に飛び込んできた。
絵梨香はそっと抱きしめてあげると唯も目を閉じた。
- 257 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:07
-
抱きしめて胸の中にいる唯の横顔が陽に照らされている。
その顔はとても幽霊とは思えないほど可愛らしくて。
なんで唯がこんな目にあってしまったのだろう?
やるせない思いで絵梨香は窓の外を見た。
と目を離したその時、
一瞬、唯の体が消えた…。
するりと絵梨香の腕の中から姿を消したのだ。
「ゆ、唯ちゃん…?」
「んっ?」
思わずはっとして、問いかけてみると唯はちゃんと絵梨香の腕の中にいた。
- 258 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:07
-
「どうしたん?」
「な、なんでもない。」
慌てて平静を装う。
確かに唯の体は消えていた。
絵梨香の体に寄りかかっていた唯の重みが一瞬感じなくなっていた。
でも… 唯は今ここにいる。
「そろそろやで。」
唯が絵梨香の服の裾を引っ張る。
どうやら目的の駅に着くらしい。
電車を降りて、駅の近くのお花屋さんでお見舞いの花を買った。
なんだか、さすがの絵梨香も緊張してきた。
唯に出逢ったばかりの頃は、まさか大阪まで行くとは思っていなかったから。
ただ楽しく過ごせればいいのかな、そう考えた。
次第にその考えは『どうにかして唯を元に戻してあげたい』
そういう気持ちに変わってきていた。
「ここ… やね。」
白く大きなビルがそびえている。
『松浦総合病院』
この病院の中に唯の本当の体は存在するのだ。
- 259 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:07
-
絵梨香は携帯電話の電源をオフにしてから、入り口の自動ドアをくぐる。
綺麗なロビーを抜けると唯はエレベーターに乗るように促した。
「7階。」
無言でボタンを押す。
地球の重力に逆らいながら巨大な箱は上昇を始めた。
なんか…
なんか、手が震えてきた。
絵梨香はぎゅっと右手で左手を押し付けて震える自分を止めようとした。
だけど、なかなか震えは止まらなくて。
そんな自分と格闘しているうちに巨大な箱の扉は開いた。
7階。
エレベーターを降りるとすぐにナースステーションが目に入った。
病室は…そこを右に曲がった先にあるらしい。
もうすぐそこなのだ。
絵梨香はもう一度、震える手を押し付けると病室へと行こうとした。
しかし突然、前を歩く唯が立ち止まった。
「……唯ちゃん?」
「やっぱり、いやや…。」
「えっ…?」
「絵梨香ちゃんだけ… 行けばええねん。」
唯は絵梨香のほうを振り返った。
唯の瞳は… 涙でいっぱいになっていた。
- 260 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:08
-
「…そこ曲がって、2つ目がうちの病室やから。」
「唯ちゃん…。」
「…ここまで、案内したんやからええやん。」
「でも… どうして? せっかくここまで来たのに。」
「…怖いねん。あんな自分に逢うのが。」
「唯ちゃん…。」
絵梨香はもう一度、唯の手を握る。
唯の手も微かに震えていた。
植物状態のままベッドで眠るだけの自分。
2ヶ月間、何度も戻ろうとしたのに戻れなかった悔しさ。
どうすることも出来なくなった自分の無力感。
その全てが今の唯を襲っていた。
「うちは… ここで待ってるから…。」
唯は無理やり笑顔を作る。
仕方ない。とりあえず一人で行こう。
絵梨香はそう決心すると病室へ向かった。
「じゃあ、ちゃんとここで待っててね。」
ナースステーションを右に曲がると長い長い廊下が続いていた。
その両脇にいくつもの病室が並ぶ。
その2つ目の病室。
- 261 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:09
-
『 岡田 唯 』
ネームプレートを確認する。
確かにその名前はプレートに書かれていた。
ゆっくりと深呼吸をするとドアを叩いた。
コン、コン…
「……はい。」
「あの… 唯ちゃんの友達です。お見舞いに来ました。」
「どうぞ。」
冷たいドア棒を握り、横にスライドさせると大きなベッドと母親らしき人影があった。
病室はどうも一人部屋らしく、それが逆に静寂とした感じの雰囲気を作り出していた。
母親らしき人物は絵梨香のほうを見るとニコリと笑い、頭を下げた。
絵梨香もつられて頭を下げる。
「あの… 唯ちゃんの友達で三好絵梨香といいます。」
「わざわざ、ありがとうね。どうぞ、こちらへ。」
近くにあった椅子を取り出すと絵梨香に勧めた。
「あの、これお花です。」
駅前で買った花を渡すと勧められた椅子に座った。
目の前にはベッドで眠っている唯がいる。
その姿はとてもあの元気でお茶目な唯とは思えないほど静かに、そして白く存在していた。
体にはやたらたくさんの管がついていて、とても人間的であるとは思えない。
心電図の音だけがやけに耳に入ってきた。
「ここのところ、唯の同級生は受験で忙しくてねぇ…。寂しかったのよ。」
「そうなんですか…。」
そういえば、唯の年齢を聞いたことがなかった。
今年、受験生… つまり高校3年生ということになる。
よくよく考えると絵梨香よりも年下だった。
- 262 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/10/15(土) 18:09
-
「絵梨香ちゃん でしたっけ? あの、初めてお逢いしましたけど…。」
「はい。私は東京に住んでるんです。だから、なかなかお見舞いに行けなくて…。」
「東京? わざわざ、そんなに遠くから来ていただいて…。」
「いえいえ。」
絵梨香の買ってきた花を花瓶に移すと唯の母親も隣の椅子に腰をかけた。
前にささっていた花は随分前のものらしく、完全に萎れていた。
「唯がこうなって、もう半年以上が経つんです…。お医者さんは何も言わないけど、意識が戻る可能性は極めて低いみたいで…。それでも、必ず唯が帰ってくる日が来るって、信じてねぇ…。」
「…はい。私も信じてます。」
「ありがとうね。」
唯の母親は少し絵梨香に微笑んだ。
その姿は今にも途切れてしまいそうな命を懸命に繋いでいるようにも見えた。
「やっぱり、一人娘なんでね。可愛がってきたから…。 …唯がこうなって、最初の頃は私も毎日、泣いてばっかで。 でも、唯が頑張ってるのに、私だけがこんなに弱くちゃダメだって、言い聞かせたんです…。」
絵梨香は黙って、唯の母親の話を聴いていた。
強い信念を持った母親。そして、唯と同じく心優しい人だと絵梨香は思った。
唯の体は規則的な電子音を発生させている。
おそらく唯がこうなった日から何も変わってないんだろう。
唯が幽霊になったその日から。
「あの…。」
「はい?」
「…唯ちゃんの話、聞かせてくれませんか?」
- 263 名前:― 投稿日:2005/10/15(土) 18:09
-
- 264 名前:ゆーたん 投稿日:2005/10/15(土) 18:10
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 265 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/10/17(月) 10:45
- 更新お疲れさまです。
明らかになりますか。。。
知りたいような知りたくないような、ですがこういった日は来るのですね。
次回更新待ってます。
- 266 名前:名無し読者 投稿日:2005/10/21(金) 11:10
- 更新お疲れさまです
唯ちゃんが切なくて泣けます。・゚・(ノД`)・゚・。
- 267 名前:ゆーたん 投稿日:2005/11/17(木) 16:10
-
>>265 通りすがりの者 様
過去があるから今があって、今があるから未来があるものだと信じています(謎
>>266 名無読者 様
川 ´^`)<泣かんといて…。うちまで泣きたくなるねん…。
それでは更新を再開します。
- 268 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:11
-
「唯の話?」
「はい、なんでも構いませんので……。」
絵梨香の言葉に
唯の母親はゆっくり椅子から立ち上がると西日が差し込んでいる窓際へと足を進めた。
純白で少し疲れたカーテンから溢れてくる風を受け止め空を仰ぐ。
遥か高い空には一本の飛行機雲が出来ていた。
絵梨香も同じ空を見た。
「この娘は…。 唯は、この広い空の下でたった一人の我が子ですから、私の感情のままでうまくお話にならないかもしれませんが……」
それだけ言うとふぅっとため息をついた。
ため息はやがて風に流され、日差しに照りつく陽炎となった。
蝉の鳴き声がやたらと大きく聞こえるのはきっと気のせいじゃない。
多分それはこの病室が異常なほど静まり返っているから。
絵梨香はなにも言わなかった。
絵梨香はなにも言えなかった。
……いつのまにか空の飛行機雲は消えていた。
「あの日……。」
長い沈黙のあと、そう言いながら唯の母親は絵梨香の方を向いた。
「…唯が倒れた日のことです。あの日のことを、まるで昨日のことのように覚えてるんです。」
- 269 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:12
-
********
- 270 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:12
-
その日は寒冷前線の影響からなのか、前日の夜からやたらと冷え込んでいた。
テレビの天気予報でも夕方から雪になるとの話。
その日は特別な日だから
普段、天気予報を見ない人もおそらく今日の天気だけはチェックするはず。
――― 12月24日 クリスマス・イヴ
世界中の子供たちが楽しみにしている日。
いや、子供たちだけじゃなくて、大人だって年に一度の今日を楽しみにしているはず。
もちろん唯だって朝からソワソワしていた。
高校に行く準備を整えると、昨日何度も繰り返した言葉をもう一度言った。
「お母さぁん、ちゃんとクリスマスケーキ買うたってきてなぁ。」
「大丈夫、ちゃんと予約してあるから。」
「ホンマにぃ? お父さんも帰ってくるんやから、でぇーっかいケーキじゃなきゃあかんで。」
「でも、あんまり大きいのだと食べきれないんじゃない?」
「ええやん。食べ切れんほど大きくたって。なんたって、お父さんが帰ってくるんやからな。」
いってきまーす!と大きな声を上げて玄関から飛び出していく唯。
その姿だけを見たらきっとこのあとの出来事なんて誰にも予想できない。
少なくとも唯の母親には予想できなかった。
きっとその出来事は、神様だけが知っていたこと。
これから訪れる世界で一番不幸なクリスマス・イブであることを。
玄関には唯のマフラーが悲しげに置きっぱなしになっていた。
忘れものが多い唯らしい光景にすぎなかったのだが……。
- 271 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:13
-
唯の母親は元々東京生まれの東京育ち。
その夫、つまり唯の父親はバリバリの関西弁を話す大阪育ち。
東と西。
普段は逢うことのない者同士が夫婦になるのだから世の中面白い。
唯の父親は、出張で東京に来ていたときに唯の母親と出会った。
やがて、そのまま2人は結ばれる。
新居はもちろん夫の実家がある大阪。
初めのうち、唯の母親は慣れない関西弁と大阪のノリに圧倒されたが、
この人情の熱い街が好きになっていくまでにはそう時間はかからなかった。
そんな幸せいっぱいの2人に生まれたのが唯。
――― 岡田唯という一人娘だった。
子供が生まれて、2人の日常の風景なにもかもが新鮮に感じるようになっていった。
唯が初めて言葉を話した日のこと。
唯が初めて2本の足で立った日のこと。
当たり前の生活が幸せで溢れた。
すべてが幸せだった。
でも、そんな幸せなときに限って転機は訪れるもので。
父親の出張が決まった。
唯の父親の会社はまだまだ発展途中の会社ながらも
国内はもちろん海外にも進出を果たし、
まさにギアを切り替えてトップスピードで走ろうかという企業。
一家全員で引っ越すのも一つの手段だったのだが、
結局は父親だけの単身赴任というカタチに。
…もちろん離れて暮らすのは寂しいこと。
親子3人で暮らしていた家が母親と唯の2人だけになるのだから。
それでもこの家に寂しさを感じさせなかったのは、
唯が人一倍明るく元気だったからかもしれない。
- 272 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:13
-
父親は次々と異動を繰り返し、家のある大阪に帰ってくるのは稀なことだった。
そんな父親がいないも同然の家庭ながらも唯は立派に育っていった。
年頃の高校生だというのに父親を毛嫌いすることなく、
むしろたまにしか帰ってこない父が大好きな子に育っていった。
――― 12月24日。クリスマス。
親子3人がそろったことはもう10年以上もなかった。
だけど、今年は違う。
夫が半年振りにクリスマスの日に出張先のブラジルから戻ってくる。
もちろん唯は大喜び。
クリスマスの日の高校は午前中でおしまいだから、
唯は学校が終わると飛んで自宅に帰ってきた。
「なぁなぁ、お父さん、何時くらいの飛行機やねん?」
「2時過ぎには関空だって聴いてるけど。」
「えぇ? まだまだやん。」
時計の針はまだ1時をまわったばかり。
時計をじーっと見る唯の屈託のない表情。
それは父親と過ごせるクリスマスを心から楽しみにしている証拠。
いつも笑顔の唯よりももっともっと笑顔が輝いて見える瞬間だった。
そう、だったはずなのに。
- 273 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:13
-
「げほげほっ!」
突然、唯が咳き込み始めた。
今までに経験していないようなひどい咳だった。
その様子に驚いた母親も思わず唯の背中をさすってあげる。
「大丈夫?」
「へーき、へーき。」
「風邪でも引いた? そういえば、今日マフラー忘れてったでしょ?」
口を押さえながら頷く唯。
それでもせっかく親子3人が揃うクリスマスである。
唯は無理に、もう大丈夫と笑って見せた。
とても大丈夫そうには見えないので唯の母親はまだ背中をさすっている。
すると、今度は家の電話が響きました。
「ちょっと、待ってね?」
「うん。もしからしたらお父さんかもしれへんで。」
「うん、そうかもね。」
唯の期待を一身に受けながら急いで受話器を取る。
「はい、岡田です。」
案の定、声の主はまさしく唯の父親の声。
だけど、その声はどこか沈んでいて。
その声を聴いただけで母親はなにか暗い出来事を想像した。
「そう……。わかった。気をつけてね。」
何度かのやり取りの後、唯の母親は静かに受話器を置いた。
それはまさに受け止めなければならない悲しい事実であった。
- 274 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:14
-
「なになに? どうしたん?」
「ん? うん……。」
「もう関空に着いたって?」
「うん……。 あのね、唯……。」
母親はまるで癌の告知をするような気分だった。
だってそれを唯に伝えたら、確実に悲しみに落ちていくことだったから。
できることなら伝えたくない、唯の母親はそう思った。
けど、伝える以外に道はなかった。
「お父さん、帰って来れなくなっちゃったの。」
「えっ……?」
「向こうの飛行機が飛ばなくなっちゃったんだって。」
思わぬ母親の言葉に唯は小さく震えた。
瞳を大きく見開き、みるみるうちに真珠のような涙をためて。
まるでこの世の終わりを見ているような視線だった。
悲しみと軽蔑と落胆とが混ざり合って、
ごちゃごちゃになって、丸め込んだ屑紙のように。
「なんでぇ…?」
「でもね、あさってには帰れるって……」
「そんなん意味ないやん!クリスマス過ぎてるやんかっ!」
- 275 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:14
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- 276 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:14
-
「……唯ったら部屋に閉じこもってねぇ。」
唯の母親はもう一度、病室の窓の外を見た。
相変わらず病室は静まり返っている。
絵梨香はゆっくりと今までのことを思い返してみた。
そういえば、唯は一度も家族の話をしたことがなかった。
話す機会もなかったけど、話す気もなかったのかもしれない。
今日、初めて知った唯の過去。
それは決して口にはしなかったけど
唯の悲しくて切ないものが詰まっていた。
「お父さんと過ごせるはずだった、クリスマスですもんね…。」
思えば、絵梨香はいつも誰か愛する人とクリスマスを過ごしてきた。
北海道に居た頃は家族と。
東京に来てからは梨華と。
一つだけピースの抜けたパズルのようなクリスマスを過ごしてきた唯。
ようやく見つけた最後のピースは
無常にも手からマジックのように消えてしまったのだ。
- 277 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:15
-
********
- 278 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:15
-
唯はそれからずっと自分の部屋に閉じ篭ったまま。
何度も何度も母親が呼びに行ったが反応はなし。
唯のリクエストだった少し大きめのクリスマスケーキだけが
テーブルの上で寂しそうに置かれていた。
メリークリスマス。
本当は親子3人で過ごせるはずだったクリスマス。
メリークリスマス。
幸せいっぱいになるはずだったのに一瞬にして悲しみのどん底。
誰のせいでもない。
ただの運命のいたずら。
神様が書いた最悪のシナリオ。
だけど、そのシナリオはまだ序章にしか過ぎなくて。
- 279 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:15
-
「げほげほっ!」
唯の部屋からはひっきりなしにひどい咳込む声が聞こえてくる。
その咳を聞くたびに母親は心配そうに眉をひそめた。
もう夜の10時過ぎだというのにご飯も食べてない。
風邪なら薬を飲むためになにか口に通さなければならないのに。
母親は唯の部屋へとの続く階段を上っていった。
「……唯。」
「……。」
「……お腹空いたでしょ? なにか食べる?」
「……いらない。」
「けど、ひどい咳してるんだから、薬飲まないと。」
「……。」
無言の抵抗。
これでなにかが変わるわけではない。
突然、唯の父親が現れるわけでもないし、
日付が2日前に戻るわけでもないのだ。
「げほげほっ!」
「唯…。」
もうそろそろ日付も変わる。
きっと今頃サンタクロースは世界中の子供たちに
幸せを運ぶのに大忙しなんだろう。
だったら、ここには幸せを頂けないですか?
ほんの小さな幸せでさえ頂けないのですか?
- 280 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:16
-
「げほげほっ!」
きっとサンタクロースは通り過ぎていってしまったのだ。
今年のクリスマス。
サンタクロースでさえも存在を忘れてしまった家。
きっと唯よりもおっちょこちょいのサンタクロースのせいで。
「……。」
しばらくすると唯の咳がしなくなった。
ひっきりなしに続いていたひどい咳が聞こえなくなった。
母親は唯がきっと寝てしまったのだと思った。
泣いて、泣いて、泣き疲れて、
涙も全部枯れて、寝てしまったのだと。
そっと、唯の部屋の前まで行ってみる。
「……唯?」
返事がない。
本当に寝てしまったようだ。
「唯、入るわよ。」
母親はドアノブを回すとゆっくりと部屋の中に入った。
せめて、我が娘の寝顔を確認してから自分も床に着こうと。
- 281 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:16
-
部屋には電気がつけっぱなしだった。
どうやら電気を消すのも忘れて寝てしまったようだ。
そう、いつもどおりの唯の部屋。
なにも変わったことはない。
たった一つのことを除いては。
最初は唯の母親もなんのことだかわからなかった。
……唯が部屋の真ん中で倒れているなんて。
「唯?」
ピクリとも反応しない我が娘。
今度は揺すって声をかける。
…だけど、やはり反応がない。
「唯……?」
段々状況が飲み込めてくる。
今、確かに目の前で唯が倒れていること。
そして、
意識がまったくないこと。
- 282 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:16
-
唯が倒れてから2日後の12月26日。
唯の父親は日本に降り立った。
真っ直ぐに向かう場所は我が家ではない。
市内にある松浦総合病院。
ロビーで病室の確認をすると一目散にその病室を目指した。
一刻も早く。
父親が今出来ることはそれしかなかった。
力いっぱい病室のドアを開く。
「おい!」
「あなた!」
「唯は? 唯はどうした?」
父親の目の前に広がる視界。
信じられないような光景。
手にしていた荷物を思わず床に落とした。
……唯は白いベッドの上で静かに眠っていた。
そこにはあの元気な唯の姿はなく、
体に管がいっぱい繋がった唯の変わり果てた姿だった。
電子的な音だけがする植物状態の唯の姿だった。
神様がクリスマスに書いたシナリオ。
だとしたら、あまりにも残酷すぎるストーリー。
- 283 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:17
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********
- 284 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:17
-
「……唯はそれから一度も目を覚ますことなく、今までずっとこのベッドの上で過ごしてきたの。」
そこまで話すと母親はようやく窓際を離れ、
再び絵梨香の近くの椅子に腰をかけた。
その儚い後ろ姿に絵梨香はハッとさせられた。
きっと母親は今まで誰にも唯が倒れた日のことは口にしていなかったんだろう。
溢れてくる悲しみ。そして、訴え。
それがそのまま絵梨香に伝わってきた。
去年のクリスマスからずっとこのまま。
時間はこんなに忙しく流れていくのに、唯の体はあの日に止まったまま。
「主人も2ヶ月はこっちで唯の看病をしていたんです。でも、働かないわけにはいかないですから……。」
唯が倒れてから2ヵ月後、父親は泣く泣く大阪から仕事先へと戻っていった。
本当ならもっとそばに居てあげたかっただろうが、
一家の大黒柱として働かなければならない。
それは唯の為でも、母親の為でもある。
自らの本音を覆い隠すように唯が愛する父親は仕事先に向かった。
ここで絵梨香はある言葉を思い出した。
唯と街のコインランドリーで出逢って間のない頃。
唯は2ヶ月は大阪に居続けたと言っていた。
その間、なんども自分の体に戻ろうと努力していた。
(「やったん…。2ヶ月間…。毎日、毎日…。でもなぁ…戻れへんかった…。」)
唯が2ヶ月間、大阪に居続けた理由。
それはきっと父親がいたからに違いなかった。
久しぶりに逢えた父親。
ここにいれば毎日父親に会える。
なのに唯の姿は父親にも母親にも見えない。
結局、見えたのは… 絵梨香とひとみだけ。
- 285 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:17
-
「実はね、今日は久しぶりに主人が戻ってくるんです。」
「唯ちゃんのお父さんが?」
「はい。」
母親は少しだけ微笑んだ。
ようやく遠く離れていた家族が一つになる。
心はどこにいたって変わらないだろうけど、
近くにいてあげることがどれだけ意味を持つことか。
「主人が会社に直訴したんです。どうしても日本で、それも大阪で働かせてくれって。 …きっと大阪なら唯のそばにずっといていられると考えたんでしょう。 主人ったら、ダメなら会社も辞める覚悟だったみたいです。 なんとか会社はそれを受け入れてくれて…。 こんなこと特例なんでしょうけど、今まで会社を支えてきた主人だったからきっと…。」
自分の出世よりも
自分の娘のために生きることを選択した父親。
広すぎる空の下でたった一人の我が娘のために。
絵梨香は唯の話を聴いて、知らず知らずのうちに涙が溢れてきていた。
こんな姿唯に見られたら恥ずかしいな、絵梨香は密かに思う。
でも、溢れてくるものは止まらない。
人間が人間である証拠。
それが絵梨香が流す熱い涙だった。
- 286 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:18
-
病室の時計の針はもう夕暮れを指している。
もっと唯のことを聴きたいのはやまやまだが、
梨華たちを待たすわけにもいかないし、宿のチェックインもある。
絵梨香は母親にお礼を言って、席を立つ。
「あと、これ私の連絡先です。 …唯ちゃんの意識が戻ったら、私にも連絡していただけないでしょうか?」
「はい。絵梨香さん、本当にありがとうね。」
「必ずまた来ますから。」
母親に送られて静かに病室を出た。
もう太陽は沈みかけていて、西の空に恐ろしいほど綺麗に輝いていた。
絵梨香は涙をふくと来た廊下を引き返した。
来るときに歩いた廊下なのにやけに久しく感じる。
それだけ唯の母親の話にどっぷり浸かっていた。
ロビーのソファに唯を見つけると、その隣に座った。
意外にも先に話しかけてきたのは唯の方だった。
「……どうやった?」
「うん……。 唯ちゃんの体は生きてたよ。」
「そっか。」
例え、魂が抜けた唯の体でも母親が懸命に看病してくれている。
絵梨香には見えるのに、母親には見えない唯の体。
出来ることなら唯の母親と自分の体が入れ替わればいいのに、
絵梨香は真剣にそう思った。
- 287 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:18
-
「唯ちゃんさ…。」
「ん?」
「……今日だけお母さんのそばにいてあげたら?」
あれだけ唯のことを想ってくれている母親。
その愛情を一身に感じているはずだが、唯はあっさり絵梨香の提案に首を横に振った。
「なんで?」
「ええねん。そんな…。」
「だって家族でしょ?」
「そうやけど…。」
「それに… お父さんとも全然逢ってないんでしょ?」
「お、お父さんは関係ないやん…。」
「……唯ちゃんのお父さん、今日帰ってくるみたいよ。」
『お父さん』という単語に唯は明らかに動揺した。
しかも、今日帰ってくるのだ。
絵梨香たちも今日大阪にやってきた。
これは単なる偶然とは思えない。
「だって、ずっと逢ってなかったんでしょ?」
「……。」
「せっかく、大阪に来たんだし……」
「ええねんって…。」
段々、唯の動揺が激しくなる。
唯も一向に首を縦に振らないが、絵梨香もしつこく諭す。
絵梨香から見れば、なぜ拒絶するのかわからないのだ。
せっかく家族が揃うチャンスなのに。
- 288 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:18
-
「唯ちゃんだって、逢いたいんでしょ!」
「ええねんってばっ!」
ついに唯が声を張り上げる。
普段から声を張り上げることなんてめったにないので
絵梨香もちょっとびっくりした。
「でもさ!」
「もうほっといて、うちのことは!」
「唯ちゃん!」
「逢ったって、うちはどうせ幽霊やん!なんにもしゃべれへんやんかっ!」
それっきり、唯は口を閉ざした。
変なところで強情な唯。
両親の愛というものを感じないのか?
絵梨香も唯の態度に不満を感じた。
「じゃあ、勝手にすれば!」
それから2人は一度も口をきかずに病院を出た。
絵梨香と唯の初めての喧嘩。
ほつれ始めた2人の絆。
- 289 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/11/17(木) 16:19
-
あゆみの車が止めてある有料駐車場。
絵梨香が着くともう梨華たちがそこに待っていた。
あゆみとひとみはお笑いのパンフレットを見ながら談笑していたが、
梨華はすぐに絵梨香に事情聴取を始める。
「ねぇ、どこ行ってたの?」
「えっ? ちょっとねぇ…」
「もう、どーして教えてくれないのぉ!」
「ちょっと私用で。」
「へぇ…。 浮気?」
「ち、違いますって!」
梨華がちょっとからかいながら絵梨香を問い詰めていく。
なんともほのぼのとしたやり取りだったが、
一方で唯は片隅でムスッとしている。
いつもはにこにこしている唯なのに。
さすがのひとみも首を傾げた。
きっと病院に行っている間になにかあったに違いないと勘付いた。
「岡やん、どうかした?」
3人に気付かれないように唯に話しかける。
唯はやっぱり不機嫌そうにひとみを見た。
「なんでもないねん。ちょっと、喧嘩しただけ。」
唯はそれだけ言うと、ひとみの肩に身を寄せた。
ひとみはなんのことだかわからないまま、そっと肩を抱いてあげた。
- 290 名前:― 投稿日:2005/11/17(木) 16:19
-
- 291 名前:ゆーたん 投稿日:2005/11/17(木) 16:19
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 292 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/18(金) 00:20
- エエデエエデ
- 293 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/11/22(火) 22:22
- 更新お疲れ様です。
ウーン、なるほど、そんなことがあったんですか(汗
どうにかすることは出来ないんでしょうか?
気になりますねぇ。
次回更新待ってます。
- 294 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:59
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 295 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2005/12/18(日) 18:26
- 初めまして。初カキコです。
今日、最初から一気に読んでいったんですが、久々に読んでてドキドキする小説ですね、これは。
これはこれは、先が気になりますねぇ。
更新頑張って下さい。
- 296 名前:ゆーたん 投稿日:2005/12/29(木) 12:02
-
>>292 名無飼育 様
从,,^ ロ ^)<ええんかぁ? ええのんかぁ?
川*´^`) <絵梨香ちゃんが言うと変な意味になるからやめてや。
>>293 通りすがりの者 様
よくありますよね。何とかしたいのに、どうにもならないこと。
三好さんに期待するしかないです。
>>295 名無飼育 様
ドキドキしながら読んでいただけるとこちらも嬉しいです。
これからも読んでいただけると幸いです。
それでは更新を再開させていただきます。
- 297 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:04
-
絵梨香と唯。2人初めての喧嘩。
今まで触れそうで触れなかった部分に踏み込んでしまった痛み。苦しみ。
幽霊として、友達として。
愛すべき人として。
唯のことを一番愛してくれている家族。
唯と同じくらい悩み苦しんだ家族。
その愛情を絵梨香はないがしろにして欲しくなかった。
なのに。
なのに……。
一度ほつれたマフラーみたい。
毛糸に戻るのはあっという間。
- 298 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:04
-
「何で喧嘩したのさ?」
「唯ちゃんが強情だから。」
ひとみには、2人の喧嘩の原因がわからない。
「ちょっと三好ちゃん、冷たすぎない?」
「唯ちゃんの方がよっぽど冷たいよ。」
とうとうお手上げ状態。
2人の冷戦は、旅館へと向かう車の中でも続いている。
助手席にひとみが座っている。
1人分のスペースしかないのに、唯はひとみの膝の上に乗っかっていた。
行きの車内では絵梨香の隣に座っていたのに。
ただ黙ったままひとみの腕に包まれていた。
一方の絵梨香は、後部座席で梨華の頭を撫でていた。
梨華があゆみの無謀な運転により完全に車酔い。
今は一人、肩にぐったり寄りかかっていた。
言葉を交わすことなく神戸の山を登っていく。
誰かが持ってきたaikoのアルバムが入ったMD。
カーステレオから流れる歌声がやけにしんみりさせた。
♪ 変わらない街並み あそこのボーリング場
- 299 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:04
-
本日宿泊する旅館は、神戸の山奥に存在する。
ここは歴史のある温泉街で全国的にも有名なところ。
4人プラス幽霊御一行もなんとか無事に到着した。
「梨華ちゃん、大丈夫?」
「ダメかも……。うっ…。」
リバース寸前の梨華を抱えながら車を降りる絵梨香。
これでもまた帰りもあゆみの運転に頼らなくてはいけないとなると
少々ぞっとするものがある。
旅館は値段のわりになかなか風流があるところだった。
「へぇ。ここの温泉って豊臣秀吉も浸かったんだって。」
なんとなく、あゆみのそんな声を聞きながら部屋になだれ込む。
畳。さすが日本の心。
心が落ち着く。
荷物を置いて、座布団に座るとどっと疲れが出てきた。
みんな一休み。
いろんなことがありすぎた。
とりあえずお茶でも飲んで一休みしたかった。
「ご飯は6時半からだって。」
「ふ〜ん。」
時計の針はまだ5時半。
一時間ほど時間がある。
「どーする? 早速温泉行ってみる?」
「私はちょっと休んでからにするよ。」
梨華を見ると部屋の片隅で座布団を枕にぐったり寝ている。
あの様子からするとしばらくかかりそうだ。
あゆみとひとみが温泉に浸かりに部屋を出て行く。
部屋の中は一気に寂しくなった。
梨華の寝息だけが聞こえてくる。
「……唯ちゃんは、行かないの?」
「……まだいい。」
素っ気ない会話。
まだトゲの残る2人はそれっきり言葉を交わすことはなかった。
- 300 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:05
-
夕食は値段のわりに豪華なものが出てきた。
どうやらこの旅館は値段のわりには「当たり」のようだ。
「もう食べれないなのら〜♪」
……梨華はお酒がかなり弱い。
なのに結構な量を飲んでしまってこの状態。
完全に酔っ払い。飲みすぎ。
もう目がトロンとして顔が真っ赤。
「温泉♪ 温泉♪ 絵梨香ぁ、一緒に入ろ〜ぉ♪」
「えー。 飲んですぐは体に悪いですよ。」
「いいの、いいの。」
「う、うん…。」
半ば強引にお風呂に連れて行かれる。
はたして酔っ払いにお風呂に入らせていいのだろうか?
あゆみ達は後から2度目に浸かりに来ると言うのでお先に行かせてもらった。
唯は……まだ入らない様子。
「絵梨香ぁ、脱がせてぇ。」
脱衣所に入るなり両手を広げる梨華。
中に誰もいなかったからいいものの物凄い爆弾発言には違いない。
冗談なのか本気なのか、はたまた…。
「じ、自分で脱いでくださいよ。」
「えー。 いじわる……。」
言ってしまってから絵梨香は後悔した。
脱がしてあげればよかった、と。
お酒に酔って色っぽい顔をしている梨華を見ていると
普段以上にドキドキな気分になる。
おそらくこのとき絵梨香の顔はとんでもないくらい
エロ親父化していたに違いない。
- 301 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:05
-
中に入ると広めの浴場だった。
お湯はけっこう濁っていて、いかにも温泉という感じ。
お互いに背中を流し合って、檜の湯船に浸かる。
「絵梨香ぁ…。」
すぐさま甘えた感じで梨華が近づいてきた。
まだ酔っているのだろう。
お風呂に浸かっているうちに酔いも飛ぶだろうけど
このままブクブク湯船に沈まれても困る。
「気持ちいいね。」
「う、うん。」
すりすりと肌をこすり合わせてくる。
ただでさえ「脱がせて」なんて言葉を囁かれた絵梨香なのに
さらに変な気持ちになっていく。
「…もっと気持ちよくしてあげようか?」
梨華が不適な笑みを浮かべてこちらを見る。
「…どうやって?」
「…わかってるくせに。」
「…梨華ちゃんのえっち。」
「絵梨香だって、さっきからずっとあたしの胸元見てるくせに。」
「気付いてました?」
「もぅ〜、毎晩見せてるでしょぉ。」
イチャイチャがエスカレート。
もう目もつけられない。
でも、神様は時として酷く残酷である。
いよいよという時にあゆみとひとみが入ってきたのだ。
- 302 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:06
-
「お〜、バカップルがいるいる。」
「おぉ、湯船の中でもラブラブだねぇ。」
この2人の登場にあからさまなイチャつきは強制終了。
とても名残惜しそうな顔をしている梨華。
案の定、今度はお湯が濁ってるのをいいことに
そーっと右手が伸びてきた…。
「!?」
確かに湯船は濁っていて中は見えない。
だけど……。
「あっ…。」
梨華は絵梨香のことをよく知っている。
だってそれは恋人だから。
体に染み付いている感覚が確実に梨華の存在を示し始める。
ちなみに湯船の中で愛し合った経験はない ……はず。
- 303 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:06
-
「……三好ちゃん、大丈夫?」
「へ? な、なにがですか?」
あゆみはめざとく絵梨香の変化に気付いた
「なんかめっちゃ顔赤いよ。」
「そ、そんなことないですよっ。」
「もうのぼせちゃったんじゃん?」
そう、恋にのぼせている。
梨華がいじわるだから。
わざと中心をずらして誘ってくる。
こんな状態で焦らされたほうはたまったもんじゃない。
「早めにあがったほうがいいんじゃない?」
「っ……。」
そんなこと出来ない。
こんなに中途半端なカタチで終わらされたら。
とうとう絵梨香念願の梨華の細い指が中に入ってきた。
「や、やっぱりダメ…。お湯入っちゃう…。」
突然、漏らした甘い言葉にあゆみとひとみは顔をあわせる。
いとも簡単に現状が飲み込めた。
「「こらーっ! そこのバカップルはなにやってるのよ!」」
- 304 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:06
-
温泉からあがってしばらくしても、まだ体が火照っている。
なんたってあんな中途半端な状態にされたら限界を超えてしまう。
今夜、絵梨香はとても眠れそうにはない。
それでも絵梨香は気分が良かった。
温泉は体を健康にするが、どうやら心も健康にするらしい。
昼間、あれほど唯に抱いていた嫌悪感がすーっと消えてしまった。
よくよく考えるとお風呂はいつもいい気分転換になる。
梨華がいなくなって帰ってきたときも
シャワーと一緒に絵梨香の想いが整理できた。
あの時は…… 唯のおかげで大きな喧嘩にならずにすんだのだ。
今は、その唯と口喧嘩。
唯は本当にずっと黙ったまま。
なにも話そうとしない。
ご飯も食べようとしなかった。
温泉に浸かることもなかった。
いつもは食べるのも大好きだし、幽霊のくせに綺麗好きで
毎日お風呂に入っている唯が、である。
さすがに絵梨香も心配になってくる。
やがて時間は過ぎ、眠りの刻になる。
みんなが寝静まった夜だというのに絵梨香はそっと布団を出た。
ずーっと窓際の椅子に腰掛けている唯と話すために。
「唯ちゃん…。」
唯はちょっと絵梨香のほうを見たが、また窓の外に視線を戻した。
「寝ないの?」
やっぱり返事はない。
ため息をつきながらもう片方の椅子に腰掛けた。
- 305 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:07
-
もともと幽霊は何も食べなくてもいいし、寝なくても疲れないらしい。
絵梨香は唯からそう教えてもらった。
それでも絵梨香と一緒に暮らし始めてからは
人間と同じような生活をしてきた。
たまに朝は食べないときはあっても、それはそれで女子高生っぽいと絵梨香は思った。
夜もきっちり寝ている。
学校がないから早起きしなくていいから楽、とまで言っていた。
「……その…さ。昼間はちょっと言い過ぎたけど…。」
「……。」
「唯ちゃんの両親の気持ちもわかってほしかったから…。」
「絵梨香ちゃん。」
「うん?」
「うち、迷惑?」
「えっ?」
「うちが絵梨香ちゃんと一緒にいるの、迷惑?」
「そんなワケないじゃん。一緒にいて楽しいよ。」
「ホンマに?」
今更そんなこと…、絵梨香は思った。
今まで仲良く暮らしてきたのだ。
迷惑だと思ったことは一度もない。
だけど、唯はほんの少し震えていて。
- 306 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:07
-
「唯ちゃん……?」
「ごめん。」
「……。」
「ごめんな。」
「唯ちゃんは… 私の、絵梨香のかけがえのない人だよ。」
「うん。 ……わがまま言うて、ごめんなさい。」
唯は素直に頭を下げる。
「じゃ、仲直りだね。」
「うん。」
そっと絵梨香は右手を差し出す。
唯もそこに右手を重ねた。
「あ、あんなぁ、うち、絵梨香ちゃんのことがな……。」
「ん?」
「……やっぱりええわ。」
「えー、なんだべさ。途中でやめるなんてずるいよ。」
「絵梨香ちゃん、めっちゃ訛ってるで。」
「教えて、教えて。」
「んーとなぁ。その前に…… 仲直りのキスして。」
「キ…ス?」
一瞬、絵梨香は固まった。
キス?
キスって口と口を合せる行為のことだよね?
いつも絵梨香と梨華がしていることやつだよね?
「なぁ、ええやん。キスして。」
「でもねぇ、梨華ちゃんそこにいるし。」
「寝てるやん。」
寝ていても恋人は恋人。
しかも、こんなに近距離で他の誰かとキスするとなるとさすがに良心が痛む。
- 307 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:07
-
「……唯ちゃん、吉澤さんに言ったらダメだよ。」
「うん。」
満面の笑み。
まるで本当の恋人からのキスを待っているような純粋な乙女の顔。
「じゃあ、唯ちゃん、目つぶって。」
「うん。」
そっと口づけ。
ちょっとスリリングな口づけ。
お互いの唇が触れるだけのフレンチキス。
「……なぁ、絵梨香ちゃん。」
「んー?」
「絵梨香ちゃんがうちのファーストキスやで。」
「えっ!? そうなの?」
とたんに絵梨香は照れくさくなって自分の布団に戻った。
乙女のファーストキスを奪ってしまった。
その背中越しに唯がそっと「ありがと」と呟いて……。
「唯ちゃん。」
「うん。」
「ちゃんと寝なよ。」
今度は返事がなかった。
けど、もうそれで十分だった。
布団に入るなり絵梨香は突然睡魔が襲ってきて夢の中へと引きずり込まれていった。
パジャマな時間。
- 308 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:08
-
――― 翌朝。
パジャマを着替えながら、ふと唯がいないことに気付いた。
「吉澤さん、唯ちゃん見ました?」
「見てないよぉ。」
なんとも眠たそうな返事が返ってきた。
おかしい。
絵梨香が起きると唯の姿がなくなっていた。
「おっかしいな。どこにもいないんです。」
「温泉でも入ってるんじゃん。」
絵梨香もそうかもしれないと思った。
昨日はお風呂に行ってなかったから朝風呂にでも行ったのかもしれない。
だけど、その予想は見事に裏切られた。
温泉には誰もいなかった。
いくら探しても唯の姿はなかった。
その時、絵梨香の頭に『まさか』がよぎった。
その『まさか』とは……。
「絵梨香、行くよ。」
「う、うん。」
仕方なく出かける準備を始める。
今日は4人でユニバーサル・スタジオ・ジャパン、通称『USJ』に行くことになっていた。
- 309 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:08
-
「大丈夫だよ。岡やん、賢い幽霊だから。」
「うん……。」
ひとみは能天気にそう言ったが、絵梨香の心配は違うところにあった。
まさか……。
そんなはずがあるわけない。
必死に自分に言い聞かせる。
けど、唯はいない。
絵梨香の不安は大きくなる一方だった。
電車を乗り継ぎUSJに到着。
さすがに休み中とあって、人でごった返していた。
「ET行こう、ET。」
園内に入るなり列に並ぶ。
まだ開園してすぐだからそこまで長蛇の列ではない。
絵梨香以外の3人は楽しそうにおしゃべりに華を咲かせるが、
絵梨香はそれどころではなかった。
「絵梨香ぁ?」
「ん、ん?」
「どうしたの? なんか今日は朝から変だよ。」
梨華が心配そうに顔を覗いてくる。
と、ここで絵梨香の携帯が鳴り始めた。
「電話…?」
鞄の携帯を取り出すと
ディスプレイには見たことのない電話番号が並んでいた。
- 310 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:08
-
「はい……。」
(……。)
「もしもし?」
(……絵梨香ちゃん。)
「唯ちゃん?」
この呼び方。
この関西のイントネーション。
まさしく声の主は唯だった。
「い、今どこにいるの。」
(……。)
「心配したんだからさ……。あー、よかった。無事なんだね?」
(うん…。 あんなぁ… 伝えたいことがあるねんけど。)
「ん?なになに?」
( ……やっぱりこれ以上、絵梨香ちゃんに迷惑かけたくないねん。)
「え?」
(絵梨香ちゃん、ごめんな。最後の最後までわがまま言って。でもな、これで最後やねん。)
「ゆ、唯ちゃん?」
(今までありがとう。 …元気でね。さよなら。)
「ちょっ、唯ちゃん? 唯ちゃん?」
…電話は一方的に切れてしまった。
- 311 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2005/12/29(木) 12:09
-
「ねぇ、絵梨香は次に何乗りたい?」
「……ごめん。」
「うん?」
「絵梨香行かなくちゃ…。」
絵梨香は思わず集団を駆け出した。
まるでなにか取り付かれているように。
「絵梨香、どこ行くのっ? 絵梨香ぁっ!」
梨華の声を振り切って人並みを抜ける。
「さよなら」って、何?
なんで突然いなくなるの?
迷惑じゃないって昨日言ったじゃん。
絵梨香は無我夢中だった。
「三好ちゃんっ!」
突然、後ろに引っ張られる。
……ひとみだった。
ひとみが俊足を飛ばして、あとから追いかけてきてくれたのだ。
「なにがあったのさ!?」
「…唯ちゃんからの電話。」
「岡やん?」
「うん……。『さよなら』って。」
絵梨香の視界は徐々にぼやけていった。
- 312 名前:― 投稿日:2005/12/29(木) 12:09
-
- 313 名前:ゆーたん 投稿日:2005/12/29(木) 12:09
-
本日の更新は以上です。
次回に続きます。良いお年を。
- 314 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/12/29(木) 16:41
- 更新お疲れ様です。
なんだか凄い展開にへと持ち込まれましたねぇ。
どうなっていくのか気になります。
次回更新待ってます。
- 315 名前:バード 投稿日:2005/12/30(金) 01:35
- 更新お疲れ様です。
続きがめっちゃ気になります!
- 316 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2006/01/01(日) 17:00
- ふぉっ…こりゃまた大変な………どうなるか気になりますね。
途中の唯ちゃんのツッコミが面白かったです。
ではでは、更新頑張って下さいね。
- 317 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/08(日) 00:59
- パイズリしてくらさい
( ´D`)
- 318 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/09(月) 23:13
- 期待待ちしてます…
- 319 名前:名無しの読者 投稿日:2006/01/20(金) 17:55
- 全部読みました。とてもおもしろいです。
唯ちゃんがこれからどうなるかみものです。
- 320 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 19:33
- 恋を語らず何を語る?という世の中ですが、このコピペを必ず5つのスレに書き込
んでください。あなたの好きな人に10日以内に告白されます。嘘だと思うんなら無視してください。ちなみにあなたの運勢が良かったら5日以内に告白&告白したらOKされます。
- 321 名前:ゆーたん 投稿日:2006/01/24(火) 23:50
-
>>314 通りすがりの者 様
頑張って更新していきます♪
>>315 バード 様
めっちゃ気にしていただきありがとうございます。
>>316 名無募集中。。。 様
ツッコミ担当ですか!?
>>318 名無飼育 様
ありがとうございます。期待していただくと…。
>>319 名無しの読者 様
全部読んでいただいたのですか。ありがとうございます。
それでは更新を再開いたします。
- 322 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:51
-
「さよなら?」
「はい……。」
「なんで? どうして?」
だって、今までずっと仲良かったはず。
喧嘩をしたのだって、昨日が初めてだって言っていた。
なのに、なんで突然の「さよなら」になる?
そんなに砂の城のように簡単に崩れてしまうような関係だったの?
2人を知っているひとみには、全くもって心外なことだった。
「よくわかんないです。ただ『これ以上、迷惑をかけたくないって』とも……。」
「本当に岡やんが?」
「はい。確かに唯ちゃんの声だったし……。」
迷惑。
絵梨香は唯が現れてから一度も迷惑だなんて思ったことはない。
お互い一つ屋根の下ですごく仲良くやってきた。
そりゃ、唯が人間に戻れるようにはしてあげられなかったかもしれないけど。
- 323 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:51
-
「吉澤さん……。絵梨香、どうすればいいですかね……?」
絵梨香は涙を浮かべてひとみを見た。
どうすることも出来ない。なにも良い案が浮かばない。
さっきの電話から思考回路がうまく回らない。
なにがなんだか夢中で駆け出してきてしまった。
でも、わかってる。
このまま放っておいたら
もう唯のそばにいてあげられることも出来なくなってしまうことは。
「どうするって…… とにかく探すしかないじゃん。」
「探すって、どこをですか?」
「どこをって言われても……。 大阪をだよ。」
ひとみは曖昧な答えを返すだけだった。
「どこを?」と言われると難しい。
大阪は広い。それに人も多い。
この中から一人の幽霊を探すのは
もしかしたら、宝くじが当たるより難しいのではないかと絵梨香は思っていた。
しかも、大阪に必ずいるという保障もない。
第一、人に聴くことが出来ない。
唯が見えるのはわかっているだけで絵梨香とひとみだけ。
なんの手がかりもなく、2人だけで探さなくてはならない。
どんどんネガティブになる絵梨香。
それはまるでいつかの誰かみたいだった。
「唯ちゃん……。」
ぽつりとため息のように呟いた絵梨香にひとみは素早く反応した。
- 324 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:52
-
「なにネガティブになってんだよ!」
「だ、だって、だって……。」
「うちらが探さないと二度と会えなくなっちゃうんだよ!」
ひとみの言うことは正しい。
2人が動かないと唯から帰ってこない限り永遠に顔をあわすこともなくなる。
頼れるのは自分とひとみだけ。
信じられるもの。
わずかな可能性とほんの少しの勇気。
「三好ちゃん!」
「……うん、わかった。 唯ちゃんを探しに行こう。」
不安だらけだけど、今立ち上がらないでいつ立ち上がる?
行くしかないのだ。
それが例え答えのないことだとしても。
「吉澤さん。」
「ん?」
「……ありがとう。」
「んな、いいって。持つべきものは友達ではないか。」
そんなこと言うがそれはひとみの照れ隠し。
バシバシと絵梨香の背中を叩きながら駅へと向かった。
- 325 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:52
-
唯が行きそうなところ。
と、言っても絵梨香もひとみも大阪の街は初めてである。
「岡やんの高校とかは?」
「わからないです。」
「地元は?」
「唯ちゃんの母親に聴けば、一応わかりますけど……。」
地元を探すのが一番手っ取り早いのだろうけど、2人だとやっぱり無理がある。
なんせ、手がかりがゼロなのだから。
「とりあえず、岡やんが入院している病院に行ってみようか?」
もしかしたら父親が帰ってくるのを知ってる唯は病院に行ったのかもしれない。
そんな淡い期待を胸に電車に飛び乗る。
「もしいなかったら?」それはそのときに考えればいい。
とにかく一つでも手がかりが欲しかった。
「……ん? 待てよ。手がかりがまったくないわけじゃないな。」
「え?」
「ほら、岡やんから電話がかかってきたんでしょ。てことは着信履歴が残ってるってことじゃん。リダイヤルも出来るでしょ。」
それを忘れていた。
絵梨香は携帯を取り出す。
携帯電話というものは、ボタン一つで着信履歴を見ることが出来る。
ボタンを押すと過去の着信情報が出てきた。
が、それを見てぞっとした。
- 326 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:52
-
石川梨華
石川梨華
石川梨華
石川梨華
石川梨華
石川梨華
石川梨華
石川梨華
……
「石川梨華」の名前が延々続いている。
いきなり飛び出して行った絵梨香を心配して何度も電話したのだろう。
ただ、携帯をマナーモードにしていたし、
鞄の中に入れていたので気付きもしなかった。
背筋に冷たいものが走る。
ひょいっとそれを盗み見たひとみもさすがに苦笑いを浮かべた。
「あー、梨華ちゃんらしいね。」
「ど、どうすればいいですかね?」
「まぁ、帰ってから土下座して謝るしかないんじゃん。」
「それだけで済むといいんですけど……。」
絵梨香はまたひとつ不安を抱えてしまった。
帰ってからたっぷりのお仕置きを覚悟するハメになってしまったと…。
電話もリダイヤルをしてみたが、繋がることはなかった。
- 327 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:53
-
電車を乗り継ぎ、昨日も来た唯の病院に着いた。
ただ、昨日は唯と来て、今日は唯を探しに来たのだ。
エレベーターに乗り、7階の冷たいボタンを押すと機械的に動き始めた。
なんとも窮屈な空間。
昨日とは違った息苦しさ。
もちろんひとみも初めての訪問なのでいささか緊張していた。
コン、コン
「はい。」
返事があった。
今日も唯の母親は、病室にいるらしい。
「入ります。」
絵梨香が病室に入ると母親も顔を覚えたらしく優しく微笑んでくれた。
「あ、昨日の……。」
「はい、三好です。あと、友達の吉澤さんです。」
「こんにちは、吉澤ひとみです。はじめまして。」
あいさつをしながら病室を見渡す。
ベッド、椅子、棚、花瓶、カーテン、窓。
……しかし、幽霊の唯の姿はかなった。
ひとみの方をちらっと見るが、ひとみも力なく首を振る。
残念。
少ない手がかりを求めてやってきたのに、なにもなかった。
- 328 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:53
-
「今日も来てくれるなんてありがとうね。」
とは言っても、今日はお見舞いが目的ではなかったので手ぶらだった。
絵梨香は、なにかお菓子でも買ってくれば良かったと一瞬後悔した。
それでも、そんなことを気にする様子もなく唯の母親は笑顔だった。
「吉澤さんも東京からいらしたんですか?」
「はい。三好ちゃん… いえ、三好さんと同じ大学に通ってます。」
本来の唯の体は昨日と同じく静かに眠っている。
魂の抜けたヌケガラ。
幽霊の唯がここに戻らないと二度と目を覚ますことはない体。
ひとみも思わず唯のあまりに白い顔に驚きを隠せない様子。
「あの、今日はちょっと用があって来たんですけど…。」
「はい?」
「この電話番号ご存じないですか?」
唯の母親は首を傾げながら携帯のディスプレイを見た。
「……大阪の番号みたいだけど。……ごめんなさい。わからないわ。」
「なにか心当たりとかは?」
「ちょっとわからないですね。なんせ、今は電話に全部登録しちゃうから電話番号はなかなか覚えないし……」
なるほど。
絵梨香も思わず納得してしまった。
- 329 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:54
-
結局、病院での手がかりはゼロといっていい。
やはり簡単には見つからない。
病院を出てからもう一度リダイヤルをかけてみても繋がらなかった。
唯一の救いは、唯の母親から自宅の場所を教えてもらったことだろうか。
さっき出てきた駅を病院の反対側に行くらしい。
そこがいわば「唯の生まれ故郷」である。
「ここらへんなんですけどね。」
教えられた通りに鉄道を越え、商店街を抜け、住宅地にやってきた。
新しい住宅地というよりかは、
昔ながらの街並みに新たに家が建てられたという感じだろうか。
「で、どーする?」
「どーするって言われても… 唯ちゃんの地元には変わりないんですから、とにかく手分けして探してみましょう。」
絵梨香とひとみは二手にわかれた。
もしかしたら、ひょっこり唯が歩いている姿を見つけられるかもしれない。
狭い路地裏。角の公園。ベンチの下。道という道。
くまなく絵梨香は探していく。
こんなところにいるはずもないだろうという場所さえも。
ここにいるという保障はないのだけれど、とにかく探したかった。
何度も同じ道を行ったり来たり。
だけど、時間だけが刻々と過ぎていく。
いつまで唯を探す?
見つかるまで。
もし見つからなかったら?
見つかるまで。
見つかるまで。
- 330 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:54
-
「ん? んっ!?」
必死に探している絵梨香の瞳にある人物が映った。
唯… じゃなくて、ひとみ。
ひとみも絵梨香と同じように必死になって唯を探して ……いなかった。
ひとみはただ、制服姿の女子高生をニヤニヤと眺めているだけだった。
もう!必死になってこっちは探しているのに!
絵梨香は、ずいずいとひとみのもとへ走っていく。
「ちょっと! 吉澤さん。」
「ん?」
「女の子ばっかり見てないで、ちゃんと唯ちゃんを探してくださいよ!」
「んー。わかってるよ。」
わかってる、と言いながら
まだ制服姿の女子高生を見ている。
「吉澤さん!」
「まぁまぁ……。」
最近なんだか絵梨香も梨華に似てきた。
やっぱり一緒に暮らしていると似てくるのかな。
ましては恋人同士だし。
ひとみは密かに思う。
- 331 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:54
-
「ねぇねぇ、そこの彼女ぉ。」
「 ? 」
「そうそう、今こっち向いた彼女。一緒にお茶しな〜い?」
ポカーンとあんぐり顔の絵梨香。
ここまで来て、大阪まで来てナンパ?
あまりのことに言葉も出ないといった感じ。
そういえば昔、ひとみが「なんか関西弁の女の子ってそそるよね」
と言っていた記憶がある。
だからって、こんなときに…。
「なんや、ナンパかいな?」
そう言いながら、制服姿の女子高生もひとみの方に近づいてきた。
どうやら結構遊び人なのかもしれない。
「ナンパじゃないけどね。私オンナだし。」
「へぇ〜、女なんや? けど、結構カッコええやん。」
「まぁね〜。(キラッ♪)」
満更でもない表情でひとみは笑う。
この爽やかな笑顔と綺麗な顔立ちで男も女も確実に落ちる。
案の定、この女子高生もひとみの顔のその表情を見たとたん、
恋する乙女顔に変わっていた。
- 332 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/01/24(火) 23:55
-
「ほんなら、お茶行こ♪ うち、いい店知ってんねん。」
ぐいぐいとひとみの服の袖を引っ張る女子高生。
「ちょっと待って。お茶より先に聴きたいことがあるんだけど?」
「なんや〜?なんでも答えるで。」
「あのさ、『岡田唯』って知っている?」
「岡田唯? 唯やんのこと? 唯やんなら今入院中やで。」
そう、唯は入院中……。
ん?
「ゆ、唯ちゃんのこと知ってるの!?」
今度は、女子高生から突然出た「唯やん」というフレーズに絵梨香は思わず割って入る。
「知ってるも何も友達やもん。」
「本当に? 岡田唯?」
「せやで、岡田唯。うちらは『唯やん』ってゆーてるけどな。高校やって、同じとこやし。」
奇跡とは、このことをいうのだろうか?
大阪の広い空の下、たまたまひとみが声をかけた女子高生が唯の友達だったとは。
「あなたの名前、なんていうの?」
「うち? うちは、加護亜衣。『あいぼん』って呼んでや。」
「私は三好絵梨香。で、こっちが…」
「吉澤ひとみ。よろしく。」
「なに、2人とも唯やんと友達なん?」
亜衣は、じろじろと2人を交互に見る。
「そう。2人とも東京から来たんだけど、大阪は初めてなの。でね、唯ちゃんの家を訪ねてここまで来たんだけど…」
「唯やんの家ならうちの向かい側やで。」
……ビンゴ。
偶然もここまで重なると恐ろしい。
まさにテレビドラマか小説のような展開だった。
- 333 名前:― 投稿日:2006/01/24(火) 23:55
-
- 334 名前:ゆーたん 投稿日:2006/01/24(火) 23:55
- 本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 335 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 03:18
- エエデエエデ
- 336 名前:名無しの読者 投稿日:2006/01/25(水) 16:18
- 更新お疲れさまでした。とてもおもしろいです。
以前、sageるの忘れてました。すいませんでした。
- 337 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/26(木) 00:35
- >>336
またageてる・・・
お前わざとだろ?
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/27(金) 00:05
- おっぱいの描写を詳しく
- 339 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/28(土) 00:04
- ( ^▽^)<ハッピーちゃーみーの食料品屋さん
- 340 名前:通りすがりの者 投稿日:2006/01/29(日) 04:32
- 更新お疲れ様です。
おぉっ、この方ですか。
これは楽しみになってきましたねぇ。
次回更新待ってます。
- 341 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/30(月) 11:05
- ソラソウヨ
- 342 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/31(火) 04:41
- ( `◇´)<期待しとるで 他作品も詳しく
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/31(火) 20:41
- がんばってくらさい!
- 344 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/02(木) 00:10
- 川o・ー・)・・・
- 345 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 19:40
- おっぱい大きい人が好きですと
- 346 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/05(日) 19:03
- 温泉の描写いいですね
- 347 名前:ゆーたん 投稿日:2006/02/08(水) 00:16
-
>>335 名無飼育 様
从,,^ ロ ^)<……ええんかぁ、ええのんかぁ〜(低声)。
从;^▽^)<絵梨香、やめてぇ〜。これ以上、変態ユニットにしないでぇ〜。
>>336 名無しの読者 様
E-mail欄にsageと入れるとsageれます。
>>338 名無飼育 様
えっ……。い、一応考えておきます。期待はしない方向で。
>>339 名無飼育 様
从 ^▽^)<ハッピーちゃーみーのお料理教室。参加者募集中♪
>>340 通りすがりの者 様
場所が大阪なので、関西弁が喋れるこの人を採用してみました。
これからのキーガールになってくる ……のかはわかりません。
>>342 名無飼育 様
おぉ! ミッチャン。
実は短編しか書いたことがないので、長編は初めてでございます。
駄文ですが、短編は黄板にあります。
黄板:『星屑の唄』(ちょっとだけエッチな話になっているのでご注意を)
- 348 名前:ゆーたん 投稿日:2006/02/08(水) 00:16
-
>>343 名無飼育 様
頑張りま〜す。
>>344 名無飼育 様
ちょっとニヤッとしているコンコン…
無言のプレッシャー… ですか?
>>345 名無飼育 様
じゃあ、岡田さんも(ry
>>346 名無飼育 様
「温泉」というワードに妙な色気を感じる作者です(ヤバ)。
さてさて頑張りつつもまったり更新を続けます。
なにとぞよろしくお願いいたします。
それでは更新を再開します。
- 349 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:17
-
「へー。わざわざ、東京から来たんや。」
なんとも可愛らしい声を聞きながら、絵梨香とひとみは住宅街を行く。
ひとみがたまたま声をかけた女子高生の亜衣。
亜衣は、偶然唯と同じ高校に通い、そして唯の家のお向かいさんだった。
――― 奇跡的な出逢い。
まさにそうだった。
東京から来た2人を唯の家まで案内してくれることになり、こうして一緒に歩いている。
女子高生とはいえ、唯が大人っぽいからだろうか、
絵梨香には亜衣がちょっと幼い感じに見えてしまう。
「ねぇ、あいぼん。」
「んー?」
「唯ちゃんって、学校ではどんな感じの娘なの?」
「あー、それ気になるなぁ。」
「学校で? せやな……。めっちゃ明るくて面白かったで。あとな…」
亜衣はニヤリと笑みを浮かべた。
「『絶対アイドルになるんやー』って言ってた。」
「アイドル?」
「そ、アイドル。」
「うそ、唯ちゃんが?」
絵梨香は、頭のなかでフリフリの衣装を着た唯を思い浮かべた。
意外な唯の夢。
大阪に来て思ったが、やっぱり絵梨香は唯のことを知らなすぎていた。
- 350 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:17
-
「もうそこが唯やんの家やで。」
「え? もう?」
亜衣が指差す家を見る。
その家には、確かに玄関に『岡田』という表札が出ていた。
歩き始めて10分かからずに到着してしまった。
「多分、留守やで。おばさん、泊り込みで病院にいるらしいから。」
「そう…みたいね。」
家からはもちろん物音一つ聞こえてこない。
門扉もきちんと閉まりきっていている。
「……さて、どーする?」
「どーするって言われても……。」
唯の家に着いてからのことは考えてなかった。
果たして唯は、この家の中にいるのだろうか?
確かめようにも家に誰もいないのなら中に入ることもできないのだが。
- 351 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:17
-
「あいぼんは、もちろん唯ちゃんの家に遊びに行ったことあるよね?」
「うん、あるよ。」
「唯ちゃんの部屋って、どのへん?」
「んーと… 裏っかわのベランダのとこだった気がする。」
道のほうからはベランダを確認することは出来ない。
ベランダは反対側にあるらしい。
どうやら外から様子をうかがうことも出来ないようだ。
ますますどうにもならない状態になった。
「ところで唯やんの家になんの用があったん?」
「ん? いや、ちょっとね…。」
絵梨香は口を濁した。
とても唯を探しに来たなんて言えないだろう。
なんたって、唯の本当の体はまだ病院にあるのだから。
「ま、ここにいてもなんやし、家にあがってな。」
「え?」
「だって、『一緒にお茶しない』って言ったやんか。」
2人を押すように自分の家に連れて行く亜衣。
とりあえず唯探しは一時休戦となった。
- 352 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:18
-
亜衣は2人をリビングに通し、ソファに座らすと台所へとドタバタ走っていった。
どうやら見た感じ結構な世話好きらしい。
亜衣の後ろ姿を見送ると、絵梨香はため息を一つついた。
「はぁ〜…。」
「幸せが逃げるよ。」
「…それ、よく梨華ちゃんにも言われます。でも、ため息も出ますよ。これからどーするべきか、何にもわかんなくなっちゃたんですから。」
「…やっぱ、見つからないのかなぁ。」
「そんなことないです!絶対に見つけます。」
絵梨香はギュッと拳を握った。
「…あのさ、一つ聴きたかったんだけど。」
「はい?」
「なんでそこまで岡やんに必死なの?」
「え?」
「だって、三好ちゃんには、梨華ちゃんっていう恋人もいるのにさ。なんで岡やんの面倒まで見ようと思ったの?」
「それは……。」
まさかいきなりそんなことを聴かれると思ってもいなかっただけに絵梨香は返答に困った。
たまたま自分には幽霊になった唯の姿が見えてしまった。
ただ、それだけだったのに。
「…もしかして、好きとか?」
「ち、違います。私は梨華ちゃんのことを愛してます!」
「なぁなぁ、なんの話?」
突然、亜衣が台所からリビングに戻ってきたので絵梨香はびっくりした。
大声で『愛してます!』なんて言ったそばなのに。
- 353 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:18
-
「『愛してます』って聞こえたで?」
ニヤニヤっと亜衣は、絵梨香の顔に近づいてくる。
まさに興味津々といった感じ。
丁度、この年頃の女の子にはこういった恋愛話は大好物だ。
「三好ちゃんの恋人の話してたんだ。」
「ちょ、ちょっと吉澤さん!」
「なんや〜、三好さん、彼氏いるんや。」
本当は彼氏じゃなくて、彼女なんだけどね。
「そーいえば、岡やんって彼氏とかいなかったの?」
「いなかったなぁ。結構、あの娘、胸大きかったかのになぁ。」
「そうだよなー。あのおっぱいは良いよな。」
変な話で盛り上がるひとみと亜衣。
ちなみにまさかそのおっぱいが大きい唯のファーストキス相手が
絵梨香だなんて思いもしないだろうが。
「あっ、おっぱいで思い出した。」
亜衣がポンと手を叩く。
「2人ともお腹減ってない?昨日作ったアップルパイがまだあるんやけど。」
「アップルパイ…?」
ぐぅ〜
アップルパイの響きに思わず絵梨香のお腹が鳴る。
そういえば、朝飯以来何にも食べていなかった。
「…お腹は正直みたいやな。待ってて、今温めてくるから。」
また、亜衣は台所に戻っていった。
- 354 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:19
-
「あ、そうだ。携帯。」
ひとみは思い出したように言った。
「携帯だよ。もう一回、リダイヤルしてみたら。」
「あ、そうだね。」
絵梨香もその存在をすっかり忘れていた。
さっきはリダイヤルで誰も出なかったが、今度は誰か出るかもしれない。
淡い期待を胸に携帯のボタンを押す。
1秒、2秒……
電話が回線に繋がり、絵梨香の耳に呼び出し音が響いた。
と、同時に…
♪〜♪♪
「え?」
亜衣の家の電話が鳴り始めた。
台所にいた亜衣が慌てて電話を取りに行く。
(はい、加護です。)
「……三好です。」
絵梨香の携帯電話の向こう側からから亜衣の声が溢れてきた。
- 355 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:19
-
テーブルに置かれたアップルパイと紅茶の良い香りが鼻をくすぐる。
しかし、手際よく用意されたそれらよりも、もっと気になることが3人にはあった。
それはなにものでもなく携帯の液晶画面に映し出された番号。
「…この番号ってあいぼんの家の番号だったんだ。」
亜衣は、じーっと大きな目で液晶画面に浮かぶ数字を見ている。
「確かにうちの番号やもんなぁ。びっくりしたわ。電話に出たらいきなり『三好です。』って言うんやもん。さっき逢ったばっかりで、電話番号も知らんはずなのに…。」
しかし、とにかくこれで一つ謎が解けたのだ。
唯が絵梨香の携帯に電話にしたのは、亜衣の家からだということがわかったのだから。
「うちは共働きやから、昼間は誰もおらんわけ。」
なるほど。
唯はうまく頭を使ったようだ。
唯の自宅からかけてしまえば、病院にいる母親に聞けばすぐにバレてしまう。
だから、友達で家も向かい側の亜衣の家の電話を使ったのだろう。
そりゃ、まさか絵梨香たちが亜衣と偶然に出逢うとは思いもしていなかったのだから。
- 356 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:19
-
「となると、ますます岡やんは自分の家にいる可能性が大きくなるよな。…ん、うまい。」
亜衣お手製のアップルパイを食べながら、ひとみは言う。
「そうだね。」
「で、どーする? 岡やんの家の中に入ってみようか?」
「ダ、ダメですよ。それじゃ、不法侵入じゃないですか?」
「でも、もしかしたら岡やんがいるかもしれないんだぜ。」
確かにそうなのだが……。
進んで犯罪者になる勇気もない。
「なぁなぁ、何の話? 唯やんがどうのこうのって?」
亜衣には2人の会話がまったく読めない。
病院にいるはずの唯が家にいるだの、なんだのと、
目の前でまったく異次元の話をされてもチンプンカンプンなのだ。
「……この際、あいぼんに岡やんのこと話しちゃったら。」
「え…、でも…。」
「ここで逢ったのもなんかの縁かもしれないぜ。」
もしかしたら重要なキーを握るかもしれない亜衣。
もちろん絵梨香としては教えたいのはやまやまなのだが、
果たして信じてもらえるかが問題だった。
21世紀にもなって『幽霊が友達なの』で信じる人はまずいない。
- 357 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:20
-
「…あいぼんって、幽霊とかって信じる?」
「幽霊?」
亜衣は首を傾げた。
「せやな…。どちらかというと信じるなぁ。」
「本当?」
「うん。」
「えーとね。唯ちゃんなんだけど… 実は…」
絵梨香は今までの経緯をゆっくりと話していった。
去年のクリスマス、病院にある唯の体から霊が抜け出したこと。
幽霊の唯が絵梨香と東京で一緒に暮らしていたこと。
そして、今日の朝から唯がどこかに行ってしまったこと。
「それでね、唯ちゃんがあいぼん家の電話から私の携帯にかけたの。だから、私の携帯にあいぼん家の着信履歴が残ったの。」
亜衣は、始めは唖然としながら絵梨香の話を聴いていたが、
徐々に頷きながら、時折涙を浮かべながら絵梨香の話を聴いてくれた。
純粋な亜衣は、絵梨香の話をちゃんと信じてくれたようだった。
「じゃあ、唯やんは…」
「もしかしたら自分の家に帰ったのかもしれない……」
「じゃ、こんなとこでゆっくりしている時間はないやんか!」
「え?」
「早く唯やんのとこに行ってやらな!」
亜衣は、立ち上がると絵梨香とひとみの手を強引に引っ張った。
- 358 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:20
-
唯の家の前まで来ると亜衣はとっておきの策を教えてくれた。
「唯やんの部屋はな、結構簡単にベランダから入れるんやで。」
「でも、大丈夫? 怪しまれたりするんじゃないの?」
「大丈夫やって。唯やんだって、家の鍵忘れたときはいっつもここから入ってんから。」
強引に亜衣に進められるまま、
車庫のシャッターを乗り越えてそのまま庭に出た。
なるほど、手前にある低い屋根に上りさえすれば、ベランダまですぐに行ける。
たが、その低い屋根にどうやって登るかが問題だった。
「肩車するんや。」
「肩車?」
「そ。唯やんが鍵忘れたときは、いっつも私が下になって唯やんを持ち上げていたんやで。」
となるとひとみが下になって、絵梨香を持ち上げることになった。
「私、高所恐怖症なんだけどな…。」
「頑張りーや。これも唯やんのためやねん。」
ヨイショとひとみの賭け声とともに絵梨香の体が持ち上げる。
急に視界が1メートル上がり、すぐ目の前に迫った屋根に手を伸ばす。
が、必死に屋根に食らいついて登ろうとするのに、なかなか上がれない。
ジタバタしていると、最後は亜衣が絵梨香のお尻を押して這い上がることに成功した。
「ほんなら、あとは唯やんの部屋まですぐや。」
下から亜衣の声が響く。
屋根から落ちないようにベランダに移り、ようやく絵梨香も一安心した。
- 359 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:20
-
ベランダから見える部屋の中はなんとも可愛らしい部屋だった。
机が置いてあり、横の壁にはポスターが張ってあった。
それは絵梨香もよく知る人気アイドルのポスターだった。
(そういえば唯ちゃんはアイドルになるのが夢だって、あいぼんが言っていたっけ。)
壁には制服がかけてあった。
あれは確か亜衣の制服と同じもの。
おそらく唯が倒れた日からずっとかけっぱなしなのだろう。
本棚には所狭しと本が置かれていた。
よーく目を凝らしてみると映画化にもなった少女マンガだ。
そして、丁度ベランダから死角になってあるところにベッドがあった。
そのベッドの上に
ちょこんと座る人影。
それはまさしく
唯だった。
- 360 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:21
-
「唯ちゃん……。」
唯はベッドの上で目を見開いていた。
なんせここに来るとは思っていなかった人物がいるのだから。
「え、絵梨香ちゃん……。なんで、なんで…?」
唯は、急いでベッドから降りたと思ったら、
すぐに窓際に来たが、なぜかカーテンを閉めきってしまった。
「ちょ、ちょっと! 唯ちゃん!」
窓を叩いてもカーテンは開かない。
「ねぇ、開けて、開けてよ! 唯ちゃん!」
「さよならってゆーたやんかっ!」
「私はまだ『さよなら』って言ってないもん! お願い、唯ちゃん開けて!」
今度は部屋の中から反応はなかった。
それでもめげずに絵梨香は唯の名前を呼ぶ。
「唯ちゃん、お願い! 窓を開けて!」
やはり返答はない。
これ以上窓を叩いて騒ぐと面倒なことになる可能性もあるので
絵梨香はしかたなく叩くのをやめた。
「お願い…。唯ちゃん…。」
ただ、縋るように祈るように絵梨香は
部屋の中にいる唯に声をかけるのをやめなかった。
- 361 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:21
-
「…唯ちゃん、絵梨香がなにか悪いことした?」
カーテンの向こうはまだ黙ったまま。
聞こえているのか、聞こえていないのか。
そもそも、まだこの部屋にいるのかさえわからない。
それでも絵梨香は唯に声をかけ続けた。
「…あいぼんに教えてもらったんだ。ここの入り方。」
「…どうしても唯ちゃんに逢いたかったから。」
「…これじゃ、不審者だね、絵梨香。」
「…ねぇ、あいぼんも心配してるよ。」
それでもカーテンの向こう側からの反応はない。
- 362 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/02/08(水) 00:22
-
「……わかったよ。唯ちゃんの決心は固いみたいだね。」
「でもさ、最後にこれだけ聴いてくれる?」
「…唯ちゃんは、私に迷惑かけたくないって言ってたけど… 唯ちゃんがいるの、全然迷惑じゃなかったよ。 むしろ、すっごく楽しかった。」
「じゃあね… 絶対、人間に戻って絵梨香たちに逢いに来てね。」
絵梨香はいつのまにか頬を伝っていた涙を拭くと、ベランダから見える空を眺めた。
青すぎる空がやけにまぶしかった。
- 363 名前:― 投稿日:2006/02/08(水) 00:22
-
- 364 名前:ゆーたん 投稿日:2006/02/08(水) 00:23
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 365 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/08(水) 09:21
- 更新お疲れ様でした
ゆーたんさんの小説はついつい目頭が熱くなります
真面目な描写からギャグへ持っていくのもまたうまい
素敵な小説です
更新楽しみにしておりますね
- 366 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/08(水) 22:47
- 更新お疲れ様です。
たまたま見つけて読んできたのですが、すごい!!です。
ストーリーが面白いですね。こんな物語が思いつくなんて…
これからも楽しみにしてますので、よろしくです。
- 367 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/09(木) 22:02
- ( ‘д‘)y-~~~~<タバコうまいで 一本どや?
- 368 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/10(金) 02:22
- あんなぁ、うちおっぱいと作者さんが好きやねん
- 369 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/26(日) 00:47
- 元気してますか?
- 370 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/27(月) 00:41
- セコムしてますか?
- 371 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/28(火) 00:27
- マコム?
- 372 名前:名無しです 投稿日:2006/02/28(火) 23:42
- お元気ですか。とても楽しく読んでます。時にほろっともします。
更新待ってます。
- 373 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/01(水) 00:14
- おいらも読んでるよ〜
- 374 名前:ゆーたん 投稿日:2006/03/01(水) 19:25
-
>>365 名無飼育 様
ありがとうございます。最高の褒め言葉です。
どんどん書かせていただきます。
>>366 名無飼育 様
物語を書くのが好きなただの凡人でございます。
これからもよろしくお願いします。
>>368 名無飼育 様
えー… おっぱいは別として(笑)、とても嬉しい限りです。
>>369 名無飼育 様
元気です。なかなか更新できずにいて、すみませんでした。
>>370 名無飼育 様
してないですね……。
>>372 名無しです 様
ありがとうございます。ちゃんと生きていますよ〜。
>>373 名無飼育 様
これからも読んでくださいね。
それでは更新を再開いたします。
- 375 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:26
-
ベランダからたった窓一枚を隔てた唯の部屋。
こんなにも近くにいるのに凄く遠くに感じてしまう。
手に届かない、想いも届けることが出来ない悲しみ。
いろんなことがごちゃ混ぜになって、絵梨香のことを襲う。
唯の返事がないまま、もうどのくらいの時間がたったのだろうか?
絵梨香はその場から立ち上がることが出来なかった。
ベランダの窓に座り寄りかかったまま。
再び涙が溢れそうになるのをただただ必死に堪えていた。
だけど、それは無駄な抵抗に過ぎなくて
見る見るうちに大きな瞳から溢れ出す。
やがて、小さな嗚咽とともに
絵梨香の存在を惨めにしていく。
――― もう帰ろ……。唯ちゃんには嫌われちゃったんだ……。
あまりにも残酷な別れ。
せめて顔をあわせて「お別れ」をしたかった。
- 376 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:26
-
「さよなら……。」
せめてもの独りよがり。
絵梨香は擦れるような声で窓に向かって呟いた。
そして、ようやく立ち上がると
下で待っているひとみと亜衣のもとへ帰ろうとした
そのとき。
……ゆっくりとカーテンが開いた。
「ゆ、唯ちゃん……。」
驚きの言葉。
部屋の中から唯の姿が見せた。
何か言いたげな顔をしていたが、すぐにそのままうつむいてしまった。
そして、ゆっくりと鍵を開けて、窓を開けた。
「入って…。」
「……いいの?」
唯は無言で頷いた。
- 377 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:27
-
唯は絵梨香が部屋の中に入ると再び窓を閉めた。
その唯の後ろ姿に、絵梨香は我慢できなくなって思わず強く抱きしめた。
「ごめんね…。どうしても、逢いたかったの。」
「……。」
「ごめんね、ごめん……。」
「……絵梨香ちゃんは悪くない。うちやって…… 本当は逢いたかったんやもん。」
その言葉に絵梨香は再び涙を零した。
強く、強く。
もう二度と唯が遠くに行ってしまわないように抱きしめた。
それは
決して唯が絵梨香のことを嫌いになったわけじゃなかったから。
唯も絵梨香と同じ「逢いたい」という気持ちでいてくれたから。
だからこうして涙が頬を流れるのだし、
抱きしめたい想いでいっぱいになるのだ。
「……絵梨香ちゃん。」
「ん?」
「笑わないで聴いてくれる?」
「うん。」
絵梨香は抱きしめていた手を解き、
唯の顔を見つめた。
唯は心なしか頬を赤く染めている。
「なに?」
絵梨香の大きな瞳。
唯は初めてこんなに近くで絵梨香の瞳を見た。
吸い込まれそうな純粋な瞳。
それが逆に見えない緊張感を生んだ。
- 378 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:27
-
「……あー、やっぱりやめとくわ。」
「ちょ、ちょっと、そこまで言ったんだから最後まで言ってよ。すごい気になるじゃん。」
「ホンマに?」
「ホンマに。」
「…じゃあ、言うわ。」
「うん。」
「……絵梨香ちゃんのこと好きになってしもうた。」
「ふぇ?」
「せやから、絵梨香ちゃんのこと好き。」
絵梨香ちゃんのこと好き。
絵梨香ちゃんのこと好き。
一瞬だけ、絵梨香の思考回路が止まった。
エリカチャン ノ コト ガ スキ?
- 379 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:28
-
告白してしまったものだから、唯は恥ずかしそうに顔を赤らめてる。
絵梨香も突然の告白にどうしたらいいのかわからない。
そういえば旅館で、
(「あ、あんなぁ、うち、絵梨香ちゃんのことが……。」)
ここまで言って、肝心な所は言ってくれなかった。
あれはきっと唯が「好き」という気持ちを伝えたかったのかもしれない。
「で、でもさ。」
絵梨香は冷静を装いながら、唯を見つめる。
「なんで、私のこと好きなのに、さよならしようと思ったの?」
「それはな… 好きになったからこそ、さよならしようと思ったん。」
「な、なんで?」
好きにならばすぐそばにいたい。
それが普通の考え方のはずなのだが。
「……だって、絵梨香ちゃんには石川さんがおるやんか。」
「唯ちゃん…。」
確かに絵梨香の恋人は梨華である。
しかも、同棲までしている。
絵梨香と梨華の間に、幽霊とはいえ唯が住むのはあまりにも辛すぎたのだ。
二人が家にいる限りイチャイチャっぷりを見せつけられ
さらその上、夜には激しくお互いを愛し合うのだから……。
- 380 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:28
-
「うちがどんなに頑張っても石川さんには勝てへん。」
「そうかもしれないけど…。 梨華ちゃんのこと、嫌いなの?」
すると唯は大きく首を振った。
「うちも石川さんのことは好きやねんで。……だって、絵梨香ちゃんが愛してる人やもん。」
どうしても叶わない恋。
それが絵梨香とさよならを決意した理由だった。
「いつのまにか、絵梨香ちゃんのこと好きになってたん。絵梨香ちゃんのこと、好きになったらあの家にいるのが辛くなったん。」
「そんな……。」
「所詮、うちの片想いやねん。それに石川さんと一緒にいる絵梨香ちゃんは、すっごく幸せそうやったもん。絵梨香ちゃんが幸せなんやからそれでええねん。」
唯はちょっと寂しそうに言った。
「じゃあ、もう絵梨香の家には来ないの?」
「…わからへん。なんかな、自分自身の気持ちにも整理つかへんねん。」
「そう…。」
「だから、しばらくは大阪で… この家で考えさせて。」
「…うん。」
「それに…… お父さんもこの家に帰ってくるんやし。」
「え?」
昨日、あれほど嫌がっていたのに…。
「き、昨日はちょっと強がっただけやん…。」
唯の正直な気持ちはやはり父親に逢いたかったらしい。
愛情の表現の仕方は人それぞれ。
ちょっと不器用な唯の愛情表現。
- 381 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:28
-
突然、ベランダの窓がガラガラと開いた。
「!」
「あ、あいぼん!」
「絵梨香ちゃん、はよっ!誰か帰ってきたで。」
「え?」
慌てて絵梨香は立ち上がった。
確かに1階でガチャガチャッと玄関の扉の鍵が開く音が聞こえている。
見つかったら、不法侵入者扱いは確実だ。
「ど、どうしよう。」
「どうしようもなにも、はよ退散しな。」
「うん。でも……。」
まだ唯と話がしたいのに…。
「どうしよ…。」
「絵梨香ちゃん、大丈夫。気持ちに整理がついたら、必ず絵梨香ちゃんの家に戻るから。」
「唯ちゃん…。」
「そんな悲しそうな顔せんで。また逢えるんやから。」
「うん。」
しぶしぶ絵梨香はベランダに出る。
「絵梨香ちゃん。」
「ん?」
「好きやで。」
「…なんか唯ちゃんに言われると恥ずかしいな。」
「えー? 石川さんには毎日『愛してる』って言われてるくせに。」
唯の言葉に少し照れくささを感じながら、絵梨香はもう一度唯を見た。
「必ず帰ってくるんだよ。」
「うん。」
「バイバイ。またね。」
- 382 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:29
-
唯に見送られながら、ベランダから屋根に飛び移る。
絵梨香と亜衣は急いで庭に降り、そのまま裏を通って、道に出た。
そこにはひとみが待っていた。
「あれ? 岡やんは?」
「まだしばらくここにいたいんだって。」
「いいの?」
「いいの、いいの。」
ひとみに部屋の中で唯と話したことを伝えた。
亜衣も興味津々といった感じで、絵梨香の話を聴いていた。
…ただ、唯から告白されたことは胸にしまっておくことにした。
アレだけは絵梨香と唯との秘密。
「…じゃあ、うちらも帰りますか?」
「そうだね。亜衣ちゃん、いろいろありがとうね。」
「んなことええねん。唯やんのためやん。」
病院の唯に何かあったら、連絡をくれるよう亜衣にお願いする。
亜衣は快く了解してくれた。
「また逢おうな。」
「うん。バイバイ。」
亜衣に見送られながら、絵梨香とひとみは夕暮れの住宅街をあとにした。
- 383 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:29
-
********
- 384 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:29
-
絵梨香とひとみが神戸の宿に戻ったのはそれから1時間以上たってから。
帰り際、絵梨香は梨華に電話したのだが、一度も通じなかった。
そこで、仕方なくあゆみの携帯に電話すると……
(……三好ちゃん。梨華ちゃん、そーとー怒ってるよ。)
…覚悟はしていたものの、やっぱり梨華はお冠状態らしい。
なんでも、あゆみと梨華はしばらく2人でUSJにいたものの
つまらなくなって宿に帰ったらしい。
その上、部屋に帰ってきてから
散々、梨華の愚痴が延々続いたらしい。
聞き上手のあゆみもこれには参ったそうだ。
いざ、ご対面。
なんだか絵梨香は部屋の前で寒気が走った。
この部屋から冷たいものが流れてくるのを感じた。
それでも、入らないわけにはいかない。
恐る恐る部屋に入ると…。
「た、ただいま……。」
「お帰り〜。もうどこ行ってたのさ?」
あゆみがわざと明るく迎えてくれたが、問題は窓際の椅子にムスッとしている人物。
絵梨香は真っ先に梨華のもとに向かった。
「あ、あの、梨華ちゃん……。」
絵梨香の声にギロリとこちらを向く梨華。
いつもの可愛らしい梨華じゃなくて、動物が獲物を狙うような
まさに睨んでいる状態。
「り、梨華ちゃん?」
「……おかえり。」
あれ?
案外普通だぞ。絵梨香はこのときは一安心したのだが
それは大きな間違いであったことに気付くのに5秒とかからなかった。
- 385 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:30
-
「言い訳はしないでね。」
「え?」
「よっすぃーとデートしてたの?」
「ち、違います。そんなんじゃなくて……」
「だから、言ったでしょ。言い訳はダメだから。」
プンスカプンじゃ済まされない状況。
まさに目が怒りに満ちていた。
さっきまで感じていた寒気がいよいよブリザードに変わりつつある。
「……あたしの目の前であんなふうに2人で逃げちゃうんだ?」
「逃げるだなんて…。」
「浮気もあんなに大胆になると、飽きれちゃうよ。」
「だ、だから、浮気じゃありません。」
ここで梨華から目をそらしたら負け。
必死にブリザードと格闘する。
「じゃあ、2人でなにしてたのかな〜?」
「な、何って……。」
唯を探しに…
といっても、梨華には唯の姿が見えないのでどうにもならない。
「ふーん。言えないんだ?」
「だ、だから…」
「質問を変えようか。どこに行ってたの?」
「どこって… 大阪の…。」
「ホテル?」
「い、行ってないです!ホテルなんて!」
最大にして最強のモンスター出現。
絵梨香は心の底から恐怖を感じた。
- 386 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:30
-
「なに、ベッドの上で愛を語り合っちゃったりとか?」
「っ!? し、してません!」
完全に梨華の頭の中は暴走している。
誰も止められないフリーウェイ。
完全に形勢不利の絵梨香は、戦友に助け舟を求めることにした。
「よ、吉澤さんも何とか言ってくださいよ。」
「え?」
「え?じゃないですよ。梨華ちゃん、完全にうちらのこと怪しんでるんですから。」
「あー、そうなの。えーと……そのぉ……。」
「よっすぃー、どうなの?」
梨華の冷たい視線がひとみにも注がれる。
「どうだったって言われると…… おいしかったかな?」
そうそう、おいしかった。
……え?おいしかった?
その発言って意味深だし、
炎にダイナマイトを放り込んだだけのような…。
…そして、その巨大なダイナマイトはいとも簡単に大爆発を催す。
「…やっぱりそうだったんだ。しちゃったんだ。」
「してないって!」
「じゃあ、『おいしかった』ってどーゆー意味?」
「どーゆー意味って、言われても……。」
こんな状況でおいしかったの意味といえば…。
- 387 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:30
-
「絵梨香…。」
「だ、だから…。」
「言い訳はしないでって言ったでしょ?」
「でも…。」
次の瞬間、梨華の平手が絵梨香の頬に決まった。
「っ!?」
「最低だねっ! 絵梨香とはもう絶交! 大っ嫌い!」
「り、梨華ちゃん!」
梨華は走って部屋を出て行く。
「よ、吉澤さん!何が『おいしかった』ですか!あれじゃ、勘違いされますよ!」
「いや…。ほら、あいぼん家で食べたアップルパイかと思って…。」
「違いますよ!もうっ!」
絵梨香は部屋を飛び出した梨華のあとを追った。
- 388 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:30
-
温泉の宿のドタバタ劇。
走る梨華と追う絵梨香。
体力は梨華の方があるのだが、実は短距離は絵梨香の方が速かった。
なんとか宿の渡り廊下で絵梨香は梨華を捕まえることに成功した。
「梨華ちゃん!」
「離してっ!」
「梨華ちゃんっ!!」
「離してよっ!!汚い手で触らないで!!」
「汚くないです!!」
「簡単に浮気して寝ちゃう人なんて汚いに決まってる!!」
梨華は泣きながら叫んだ。
でも、泣きたいのは絵梨香も同じ。
「お願い!話を聞いて!」
「言い訳はしないでって言ったでしょ!」
「言い訳じゃないです!本当に吉澤さんとはなにもしてないですから!」
「……ウソ。」
「ウソじゃないです。」
とにかく梨華を落ち着かせなければ。
お客さんもこの騒ぎに何事かと集まりかけている。
「…とりあえず、場所を移しましょう。」
「移さなくたっていいよ。結論はわかってるもん。」
「いいから…。」
「離してよ!」
「離しません!」
まだ怒り心頭の梨華だが、
絵梨香になだめられながら歩き始めた。
- 389 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:31
-
部屋に戻ると思っていた梨華だが、その読みは外れた。
絵梨香は部屋に戻る道とは正反対へ向かい始める。
長い廊下を歩き、さらに階段を下った。
旅館の本館から長い連絡路を行く。
一体、絵梨香はどこに向かっているのか?
ようやく2人の目の前に赤い暖簾が見えてきた。
そこに書いてあった文字は…。
「家族風呂?」
「知ってました? ここの宿の家族風呂って、ちょっと離れにあるんですよ。」
絵梨香はポケットから鍵を取り出した。
「昨日、フロントで予約しておいたんです。」
鍵穴を回すとガチャリと音がして、先の道が開けた。
「どうぞ。」
「ちょ、ちょっと待って。なんであたしが入らなきゃいけないのよ。だいたい、絵梨香が…… っん……」
絵梨香は強引に梨華の唇を塞いだ。
ジタバタする梨華。
それでも絵梨香は唇を重ねたまま。
その様子にいつもキスはしているのに、なにかが違うのを梨華も感じた。
梨華はおとなしくエスコートされるまま中に入っていった。
- 390 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:31
-
脱衣所の机に2人は腰をかける。
それでもまだちょっと梨華の怒りは残っている。
「本当に吉澤さんとは何もしてないですから。」
「信用できない。」
「信用してください。」
「信用できないもん。だって、丸一日どっかいなくなっちゃたんだよ。怪しむのは当然でしょ?」
梨華の言うことは正しい。
特に滅多に遊園地なんて行く機会もなかった。
あゆみとひとみには悪いけど、
これはデートのつもりで、梨華はすごく楽しみにしていたのだ。
なのに、絵梨香はひとみとどこかに行ってしまったのだ。
あゆみならともかく、ひとみというところが怪しい。
「…ごめん。遊園地でデートしたことなかったもんね。」
「そうだよ。」
「本当にごめんさない。」
「……いいよ。」
「え?」
「ゆ、遊園地は今度、絵梨香に東京ディズニーシーに連れてってもらうからいいよって話。それより、よっすぃーとはどーなの?」
「本当に何もなかったですから。」
「…証拠は?」
「証拠?」
証拠と言われても…。
亜衣に電話する…ということしか浮かばない。
かと言っても、亜衣だけでは証明にならないだろうし…。
- 391 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:31
-
「絵梨香、脱いで。」
「え?」
「早く脱いでよ。」
「でも…。」
「じゃあ、あたしが脱がしてあげる。」
「え?」
梨華がジーンズのベルトを外した。
ちょっと強引に上着を剥ぐ。
なんだか抵抗する気のなく、されるがまま。
手馴れた感じで絵梨香を覆っていたものを次々と排除していく。
とうとう下着だけになった絵梨香。
当然、全部脱がされるものだと思っていたが、梨華は意外なことを言った。
「絵梨香、後ろ向いて。」
「後ろ?」
「いいから、後ろ向いて。」
なんだかわからないまま、後ろを向く。
「ふーん。」
「な、なにがですが?」
「本当にエッチしてないみたいね。」
「???」
絵梨香には何がなんだかわからない。
- 392 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:32
-
「今日の朝、覚えてる?」
「朝?」
「絵梨香のブラ、あたしが付けてあげたじゃん。」
そういえば。
なぜか、梨華が「ブラは付け合いっこしよう」とか言い出して
付けてもらった記憶がある。
「そのときにね、絵梨香のブラの紐のところを捩れたままつけちゃってたの。」
「そ、そうだったの?」
そう言われてみれば
絵梨香も今日一日はなんとなく背中の辺り違和感を感じていた。
「ホラ、あのとき付けようと思ったら、よっすぃーと柴ちゃんが朝風呂から戻ってきちゃって、急いで付けたじゃん。だから、捩れたままだったの。」
「じゃ、じゃあ…。」
「うん。今も朝と同じく、捩れたままだった。」
偶然だったとはいえ、その捩れがよかったのだ。
その捩れのお陰で絵梨香の潔白が証明される。
これでようやく絵梨香もほっと胸を撫で下ろすことが出来る。
- 393 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:32
-
「よかった…。」
「でも、今度からはナシだからね。」
「うん。」
「あと、ディズニーシーも約束ね。」
「わかったよ。」
ようやく梨華から笑みがこぼれた。
絵梨香もつられて笑う。
「じゃあ、改めて一緒に温泉入ろ。せっかく家族風呂で誰も邪魔されずに入れるんだから。」
タオルや浴衣も脱衣所にちゃんと用意されていた。
なによりも誰にも邪魔されずに入れるところがいい。
昨日みたいに、ひとみやあゆみや一般客はここにはいない。
「…ねぇ、絵梨香。」
「はい?」
「ここって、ちょっと離れじゃん。 …だから、大きな声出しても向こうには聞こえないかもね。」
「…ふぇ?」
ゆっくりと下着姿の絵梨香に近づく梨華。
そう、いつもの梨華。だけど…。
「だ、だって、ここ露天風呂……。」
「そうみたいね。なんか、野外でしてるみたいで燃えるかも…。」
え、えっ…。
戸惑う暇もなくブラの上から絵梨香の胸にそっと触れられる。
ふーっと耳元に息を吹きかけられるともう腰がへたり込んでしまった。
「……絵梨香のこと、メチャクチャにしちゃうけどいい?」
- 394 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:32
-
「ちょっと三好ちゃん、大丈夫?」
ようやく絵梨香と梨華が部屋に帰ってきた。
しかも、絵梨香は梨華の肩に掴まりながら。
「2人とも飛び出していったから心配したんだよ。それにしてもどうしたのさ?」
「うん。ちょっと腰が……」
「な、なんか、のぼせちゃったみたいなの。」
慌てて梨華がフォローする。
のぼせてはいない。
だって、温泉に入ったのはほんのわずかだから。
あとは絵梨香が立てないくらい、家族風呂でメチャメチャに……。
「本当に心配したんだぜ。」
「でも、良かった。仲直りできたんだね。」
ひとみもあゆみもホッとする。
いくらバカップルとはいえ、喧嘩している2人は見たくない。
- 395 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/03/01(水) 19:33
-
「あー、暑い…。」
絵梨香が胸元に風を入れる。
まだ体が火照ってる。
「温泉まで一緒に入ってきて、のぼせちゃうなんて…。はい、団扇。」
「ありがとう。」
ありがたく、あゆみから渡された団扇を使わせていただく。
と、あゆみがなにかに気付いた。
「あれ?」
「え? なに?」
首を傾げながら、絵梨香に近づくあゆみ。
やがて、それは確信に変わったようで。
「…本当は三好ちゃん、のぼせたんじゃないでしょ?」
「な、なんで?」
「のぼせたんじゃないでしょ?」
「そんなことないですよ。」
「…じゃあ、その首筋のキスマークは何?」
「あ…。」
絵梨香の首筋にしっかり残ったキスマーク。
いつも以上に張り切っちゃったから普段は付けないところに梨華が……。
「こ、これは…。」
「仲直りしただけじゃなくて、温泉できっちりそれ以上のこともしてきちゃったんだねー。」
あゆみのからかうような一言に絵梨香も梨華も顔を真っ赤にさせた。
- 396 名前:― 投稿日:2006/03/01(水) 19:33
-
- 397 名前:ゆーたん 投稿日:2006/03/01(水) 19:33
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 398 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/02(木) 01:27
- エエデエエデ
- 399 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/04(土) 03:57
- 川
*’ー’)<がんばて
- 400 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/05(日) 18:54
- ( ‘д‘)<あんなぁ、うち亜依やねん。
亜衣やないねんで。
- 401 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 00:15
- 川’ー’川<あんなぁ、あっしは愛やよ
作者さんも愛を育むやよ
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/06(月) 19:05
- 作者さんはどこのチーム応援してますか?
- 403 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/12(日) 17:10
- 応援しtるけの
- 404 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/14(火) 00:44
- yokosukadesuka?
watasdisukiyo
- 405 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/18(土) 11:55
- がんばてください
おうえんしtmsu
- 406 名前:名無し募集中。。。 投稿日:2006/04/09(日) 15:49
- 携帯壊れてて久しぶりに来ました。
いや〜やっぱりゆーたんさんは上手いですね。吸い込まれるように一気に全部読みました。
更新待ってます!
- 407 名前:ゆーたん 投稿日:2006/04/13(木) 18:34
-
>>398 名無飼育 様
从,,^ ロ ^)<ええんかぁ、ええのんかぁ〜。
川;´^`)从;^▽^)<……。
>>399 名無飼育 様
頑張るやよ〜。
>>400 名無飼育 様
すみません。『亜依』でした。
今後、気をつけます。
>>401 名無飼育 様
このお話で愛を届けたいと思います。
>>402 名無飼育 様
なんの競技のチームでしょうか?
ちなみに野球なら神宮が本拠地のチーム、
サッカーなら浦和が本拠地のチームが好きです。
>>403 名無飼育 様
ありがとうございます。今後もぜひ。
>>404 名無飼育 様
ヨコスカデスカ???
>>405 名無飼育 様
頑張りますよ〜。
>>406 名無募集中。。。 様
どうもありがとうございます。
こちらも久しぶりの更新です。
それでは更新を再開いたします。
- 408 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/04/13(木) 18:35
-
時間は誰にだって平等だ。
いつだって同じ早さで動いている。
世界のお偉いさんも映画界のビックスターもただの大学生も
みんな同じ間隔で区切られた時間の中で生きている。
それこそ、生まれて唯一平等に分け与えられたものが時間と言っていい。
ただ、時間の感じ方については人それぞれ違ってくる。
同じ時間をすごく長く感じたり、逆に短く感じたりすることがある。
もしかしたら歳を重ねるごとに変わってくるのかもしれない。
時間というものは単純なのに奥が深いもの。
絵梨香もこれと同じ感覚にとらわれていた。
カレンダーを見るたびにため息をついてきたが、
早い月日の流れにようやくため息も出なくなった。
「2ヶ月……か。」
絵梨香はポツリと呟くようにして言った。
――― 2ヶ月。
そう、大阪への旅行からもう2ヶ月がたっていた。
絵梨香にとってこの2ヶ月はあっという間の2ヶ月だった。
楽しいこともあった。
梨華とのかけがえのない時間も過ごしている。
だけど、やっぱり始めの頃は心の中にぽっかり穴が開いていた。
――― 幽霊の唯は今も絵梨香のもとに帰ってきていない。
- 409 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/04/13(木) 18:35
-
亜依からの連絡も特になかったし、唯本人から電話が来ることもなかった。
電話がないということは、多分うまくやっている証拠なのだろうけど
それでもやっぱり寂しい気持ちは隠せなかった。
もちろん梨華のことは愛してる。
だけど、だけど……。
愛しているのは梨華。
じゃあ、唯は?
愛している人がそばにいるのにどうしても満足できない。
人間はどうしてこんなにもわがままな生き物なのだろう。
唯がいない分だけ逆に唯に逢いたい気持ちが増幅してしまった。
こんな気持ちで梨華と同じ夜を越せるわけはない。
やや悲観的な絵梨香の感情は表情に出やすい。
どこか寂しげな絵梨香の表情に梨華も気付いていた。
だから、いつも以上、最大限の愛で絵梨香を抱きしめてあげた。
そんな梨華の優しさに触れ、また絵梨香は涙するのだ。
そんなことばかりを考えていたら頭が痛くなる。
どうしようもならない。
これは唯次第?
絵梨香はなにもすることができない。
2ヶ月。
唯のいないこの2ヶ月間、本当にいろいろなことを考えた。
絵梨香はほんのちょっとポジティブになろうと思った。
開き直ろう。
絵梨香には梨華がいる。
改めてそばにいる恋人に感謝した。
- 410 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/04/13(木) 18:35
-
最大限の愛で抱きしめてくれる梨華を
絵梨香も最大限の愛で抱きしめ返した。
「あれ?」
「どうしたの?」
「今日の絵梨香は積極的だね。」
「そうかな?」
「うん。最近、元気なかったから心配してたんだよ。」
「……ごめんね。」
恋人はいつだって優しい。
「梨華ちゃん。」
「ん、なに?」
「絵梨香、もっともっと梨華ちゃんのことが好きになっちゃった。」
唯のことを完全に忘れたわけじゃないけど、これが一番の幸せ。
********
- 411 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/04/13(木) 18:36
-
―――家族。
かけがえのない絆。
家族と一緒に過ごした2ヶ月。
久しぶりの家族水入らず。
もちろん、母親と父親には唯の姿は見えていない。
だけど、楽しかった。
食卓で他愛もない話をして笑う父親と母親。
その横にちょこんと座って一緒に笑う唯。
ほんの少しだけど、この家に笑顔が戻った。
「お父さん、それはちゃうやろ〜。」
「お母さん、またお魚焦がしてる。」
聞こえないのは分かってるけど、
こうやって言葉にして会話に参加する唯。
本当なら唯の体がちゃんとしているときに望んでいた家族のカタチ。
父親がいて、母親がいて、唯がいる。
当たり前の毎日。
それが本当の幸せだと気付くのに、時間はそうかからなかった。
- 412 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/04/13(木) 18:36
-
―――恋。
叶うはずもなかったこの想い。
「やっぱ告白せん方が良かったんかなぁ……。」
家族が寝静まったあと、唯は独り自分のベッドでため息をつく。
絵梨香のことを本当に好きになった。
いつも優しくしてくれる絵梨香に抱いたこの気持ち。
伝えても伝えなくても、結果ははじめからわかっていた。
絵梨香には梨華がいる。
どうせ叶わない恋なのだから、玉砕覚悟で告白してしまった。
でも、そのせいで逆に東京の絵梨香のもとに帰りにくくなってしまった。
「絵梨香ちゃんと石川さんはお似合いのカップルや……。うちなんていないほうが……。」
何度も電話しようと思った。
元気でやっていることを伝えようと思った。
けど……勇気がなかった。
「これでええんや。」
- 413 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/04/13(木) 18:36
-
久しぶりに通天閣に行ってみることにした。
幽霊だからスイスイとただで電車を乗り継ぎ、ただでエレベーターに乗る。
「なんで、こんなに大阪と東京はちゃうんやろ。」
展望室から見える大阪の街は慌しかった。
東京も慌しいけど、大阪の方が明るさがある。
唯はこの街が好きなのだ。
商店街でおまけしてくれるこの街。
みんな家族みたいに接してくれるこの街。
東京よりも明るすぎる大阪が好きなのだ。
けど、この街のどこを探しても絵梨香はいない。
唯の姿が見える人はいない。
「やっぱ東京に行こうかな……。」
ここに来るといつも、そんなこと思う。
思えば初めて東京に出ることを決心したのも通天閣に来たときだった。
さっきまでは絵梨香と梨華の間を邪魔したくないと思っていたのに。
「けど、なぁ……。行っても迷惑かもしれへんし……。」
優柔不断。
行くべきか、行かないべきか。
唯の心はやじろべぇのように揺れていた。
- 414 名前:― 投稿日:2006/04/13(木) 18:37
-
- 415 名前:ゆーたん 投稿日:2006/04/13(木) 18:37
-
短いですが、本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 416 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/15(土) 22:22
- いいなぁ〜この美勇伝。
いつも和みながら読んでます。
- 417 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/15(土) 23:22
- isikawa
- 418 名前:名な子 投稿日:2006/04/19(水) 21:43
- ゆーたんさんはいつもいい所で終わらせますね〜
楽しみにしてますよ♪
- 419 名前:関西の名無し 投稿日:2006/04/19(水) 23:28
- いやあ、待ってました。
今後の展開、もっと楽しみになってきました。
- 420 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/17(水) 04:09
- おいらも読んでるよ〜
◇^)
- 421 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/18(木) 06:34
- ♪ずっと待ってるぜ〜
- 422 名前:ゆーたん 投稿日:2006/06/18(日) 16:55
-
どうもお待たせしました。
最近、まったく更新できなくてすみません。
>>416 名無飼育 様
和みまくってくださいね。
>>418 名な子 様
いい所で2ヶ月も放置ですみません。
>>419 関西の名無 様
今後ともよろしくお願いいたします。
>>420 名無飼育 様
これからも読んでくださいね。
>>421 名無飼育 様
ありがとうございます。嬉しい限りです。
近日中に必ず更新しますので、もう少しお待ちください。
- 423 名前:ゆーたん 投稿日:2006/06/22(木) 00:54
-
それでは更新を再開いたします。
- 424 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 00:59
-
東京はいつも忙しそうにしている。
休むことさえも忘れて。
- 425 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 00:59
-
絵梨香と梨華。
2人ともバイトがない日は、家で夜ご飯を食べることが多い。
作るのは無論絵梨香の役割だが、たまには二人で仲良く作ることもある。
「梨華ちゃん、夜ごはん何食べる?」
「なんでもいいよぉ。」
「『なんでもいい』が一番困るんですけどー。」
夕飯のレシピはたくさんあれど、特に食べたいメニューもない。
「なんか食べたいものないですか?」
「えー? 絵梨香の好きなのなら何でもいいよ。」
「私が好きなものですか?」
頭をそっと傾けた。
絵梨香が好きなもの。
北海道と家族と ……あと一つ。
「じゃあ、梨華ちゃんにしよっかな♪」
「えっ?」
……微妙な空気。
「な、なんでもないです。」
慌てて訂正するも時既に遅し。
そんな甘い言葉を口にして慌てふためく絵梨香。
そんなに恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに。
「えーっ?なになに? よく聞こえなかったぞぉ?」
「もう言いたくないです。」
「もう一度はっきりと石川さんに聞こえるように言ってごらん?」
「そんなの恥ずかしいじゃないですか。」
その恥ずかしい言葉を言わせたい梨華。
だんだん体を、そして、顔をぴったりと近づけてくる。
只今、ちょっぴり悪だくみ中。
- 426 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 00:59
-
「なんか嫌な予感がするんですけど…。」
「絵梨香がちゃんと言ってくれないからだよ。」
「だって、だって…。」
「だってもなにもありません。」
「…ちょっと言ってみたかっただけです。」
「じゃあ、もう一度言ってみてよ。」
「それは嫌です。」
「…もう。そんな悪い子にはイジワルしちゃうぞっ。」
言うが早いが、行動が早いか。
案の定、絵梨香の上に強引に覆いかぶさる梨華。
「ちょ、ちょっとタイム!」
「認められません。」
「タイム、タイム!」
「ダ〜メ♪」
「く、くすぐったいっ!」
まだ外は明るい。
けど、そんなことお構いなし。
悪い方向へ調子に乗った梨華は止まらない。
2人はソファの上でこんなにイチャイチャ。
けど、こういうときに限って邪魔者が良く入ってくるのが物語の常。
ピンポーン♪
突然、鳴り響くインターフォンに2人の動きが一瞬止まる。
けど、それは大した障害にはならなかった。
- 427 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:00
-
「誰か来たみたいですよ。」
「別にいいよ。誰でも。」
「出ないんですか?」
「だって、今イイトコロなんだもん。」
「吉澤さんか柴田さんかもしれませんよ?」
「それなら、な・お・さ・ら♪」
本当にいいんですか?と言おうとした絵梨香だったが、梨華に口を塞がれてしまった。
こうなると絵梨香も訪問者どころではなくなってしまう。
完全に梨華のペース。
もう一度インターフォンが鳴ったが、
訪問者はそれで諦めて帰っていってしまったようだ。
が、今回の外的要因はかなりの強敵でまだまだ続いた。
♪♪♪〜
今度は梨華の携帯が鳴り始めた。
もう一度2人の動きが一瞬止まる。
テーブルに置かれた携帯はディスプレイまでしっかり見える。
『お姉ちゃん』の文字。
梨華の姉からの電話だった。
「梨華ちゃん。」
「ん〜?」
「お姉さんからですよ。」
「そーぉ?」
「出なくていいんですか?」
「さっき言ったじゃん。今イイトコロだって。」
しかし、電話はいっこうに切れる気配がなく、
いい加減、梨華は不機嫌そうに立ち上がると携帯を手に取った。
- 428 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:00
-
「はい、もしもしっ?なにお姉ちゃん?」
ちょっとトゲのある声で電話に対応する。
せっかくの2人の時間を邪魔されたのだから、機嫌が悪い。
案の定、始めはやや投げやりな態度で姉からの電話を聞いていた。
「なによ?」
「ふーん。あ、そう。」
「それで?」
「……え?」
と、ここで突然、声の調子が変わった。
そして、明らかに動揺している顔。
電話の内容が意外にも重要だったということがこちらまで伝わってくる。
「うん。わかった。また何かあったら電話かけてね。じゃあね。」
やがて会話も終わり、そっと携帯をテーブルに置いてため息をついた。
「……。」
「……。」
梨華は携帯を見つめたままじっとしている。
さっきまでの悪戯っぽい顔はどこにもない。
窓から差し込む光に映し出される横顔は信じられないくらい美しかった。
「梨華ちゃん…?」
目を潤ませた梨華はハッとした様に絵梨香を見た。
「どうしたんですか?」
「あのね… お姉ちゃんの携帯にね…。」
「はい…。」
- 429 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:00
-
「……パパとママから連絡があったんだって。」
梨華はようやく嬉しそうに微笑みかけた。
「えっ?」
梨華の両親は夏前に夜逃げしている。
その両親から連絡があったのだ。
「ほ、本当ですか?」
「うん。やっと連絡ついたんだって!」
「良かったじゃないですか。」
「うん。それでね、今月中にも会えるんだって。」
言いながら、梨華の綺麗な瞳から涙が溢れた。
そして、そのまま絵梨香に抱きついた。
「嬉しいっ!」
両親想いの梨華のことだからさぞかし嬉しいのだろう。
だが、抱きつく力がいつも以上に強い。
手加減なしで愛する人と一緒になろうとする。
- 430 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:00
-
「ぐ、苦しい…。」
絵梨香のか細い声は梨華に届かない。
梨華は抱きしめてるつもりかもしれないが、
絵梨香にはただ締められているだけのようにも思えていた。
「支えてくれてありがとね。」
「りがぢゃん、ぐるじいよぉ…。」
「あたし、アパートまで解約して、絵梨香と一緒に同居までさせてもらってさ。」
「りがぢゃん…。」
「これからもずっと一緒だよ。」
幸せな言葉を囁いた。
が、それと同時に絵梨香の首がカクンと垂れ下がった。
「絵梨香?」
もちろん、返事はありません。
「ちょっと絵梨香、しっかりしてっ!」
ほっぺたを思い切り3回ほど往復ビンタすると辛うじて息を吹き返した。
「あははは……。 もうちょっとで違う世界に行っちゃうところだったよ……。」
絵梨香は力なく笑った。
- 431 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:01
-
けたたましい携帯のアラーム音が部屋中に鳴り響く。
ベッドの上の寝ぼすけはなんともだるそうに手を伸ばした。
そして、携帯を手に取ると壁に思いっきり投げつけた。
壁に直撃した携帯は電池パックが外れ、アラーム音は強引に止まる。
おそらくこの寝ぼすけは、何度もこうやってアラーム音を止めているのだろう。
この携帯電話も大学に入って1年半で早くも4代目のものらしい。
ま、自業自得といえばそれまでだが。
――― 吉澤ひとみの朝は遅い。
- 432 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:01
-
ほとんど遅刻をしない絵梨香たちとは違い、ひとみといえば大学での遅刻はしょっちゅうだった。
とはいえ、絵梨香も本来はかなりの寝ぼすけで
梨華がきっちり朝の登校時間に起きてるおかげで遅刻せずにすんでいるにすぎない。
一人暮らしで朝が弱いタイプはこの辺りが非常に困るところだ。
「ハッ、学校!」
ガバッと起きて気付いた今日は日曜日。
サークルのフットサルの練習もバイトもない日だった。
「なーんだよぉ。びっくりさせるなよ〜。」
ちなみにひとみが起きた時間は、携帯のアラームがなってから悠に1時間はたっていた。
普通なら完全な遅刻。
日曜日が休みな国に感謝せねば。
「もうちょっと寝よ〜。」
と、もう一度布団に包まろうとしたが、なにやらいつもと違う違和感を覚えた。
昨日までは感じなかった妙な感じ。
どこからか視線を感じる。
ひとみはもう一度、布団から顔を出してみた。
……誰かいる。
……誰かいた。
髪の長い人が背中を向けて椅子に座っているのだ。
ひとみは混乱した。
なぜ? 泥棒? それとも、昨日お持ち帰りしちゃったとか?
いやいや、そんなはずはない。
昨日の夜までの記憶はちゃんとある。
そんな変なことは神に誓ってしていないのだ。
- 433 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:01
-
ひとみは恐る恐る声を出してみた。
「……あのお?」
くるりと振り返る人物。
どこかで見覚えのある顔。
「どこか」どころか完全に知ってる顔。
「お、岡やん!」
「おはよーさん。」
唯はニコリとしながらひとみを見た。
どうやら、ちょこんと椅子に座り、ベーグルを食べていた様子。
「どうしたんだよ?」
「んー、ベーグルがあったから食べてた。」
「えっ?」
口をモグモグさせながら唯は言う
確かに昨日の帰りに買ってきたベーグル。
大学の近くのおいしいパン屋で売ってるベーグル。
今は悲しいかな、中には何も入ってなく紙袋しか存在しない。
「そのベーグル、私の朝食だったのに…。」
「ホンマに?ごめん、全部食べてもうた。」
さらりと唯は言う。
ひとみの大好物を食べられてしまったのは残念だが、
それよりもっと大事な、大事な質問が存在した。
- 434 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/06/22(木) 01:02
-
「てか、なんでいきなり私の家にいるのさ?」
「なんかまずかったん?」
「そうでもないけどさ。普通に考えておかしくない?」
「そうかぁ?」
元々は、唯は絵梨香の家にいたのだ。
なのに、なんでわざわざひとみの家に来たのだろうか?
「なぁなぁ。せっかく東京に帰ってきたんやん。もっと温かく迎えてやぁ。」
唯は目をうるうるさせてひとみに擦り寄ってくる。
なんとも可愛らしい姿に思わずひとみの目じりも下がる。
「まぁ、岡やんの好きにしていいけど……。」
「ホンマに。ありがとう。吉澤さん、大好きやで♪」
またそんなこと言う。
甘い関西弁を使う女の子はかなりの武器になる傾向にある。
「ところでさ、三好ちゃんところには行ったの?」
「んー?まだ行ってへんよ。」
「行かなくていいの? 岡やんがいない間、三好ちゃんずっと心配してたよ。」
「……絵梨香ちゃんの家には行きにくいねん。」
「ふーん。まぁ、いいや。話はゆっくり聴きますわ。」
ひとみはもう一眠りすることを諦めて、
関西弁の幽霊と一緒に日曜日を過ごすことにした。
とりあえず、朝食のベーグルを買ってくることにして。
- 435 名前:― 投稿日:2006/06/22(木) 01:02
-
- 436 名前:ゆーたん 投稿日:2006/06/22(木) 01:02
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 437 名前:名な子 投稿日:2006/06/22(木) 01:42
- 更新キター!!!
また先が気になりますねぇ
ゆーたんさんは読者を引っ張るのがうますぎ!!!!!
- 438 名前:通りすがりの者 投稿日:2006/06/28(水) 19:38
- 更新お疲れ様です。
おぉ〜なんだか急な登場ですね。
次回更新待ってます。
- 439 名前:毎度!!の関西人 投稿日:2006/07/23(日) 21:45
- 唯はこれからどうするのか?
更新期待してます
- 440 名前:ゆーたん 投稿日:2006/08/23(水) 00:57
-
>>437 名な子 様
ありがとうございます。このまま気にしておいてください。
>>438 通りすがりの者 様
これから展開を迎える、かもです…。
あくまで作者の頭の中だけのことですが…。
>>439 毎度!!の関西人
さてさて、岡田さんは???
- 441 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/30(水) 22:05
- 通りがかりの読者です
がんばってください
がんばります
- 442 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/19(火) 00:21
- (^▽^)>今日も更新マッテマス
- 443 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/20(水) 00:04
- >>442
HPに移転されましたよ
- 444 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/20(水) 06:52
- ずっと更新待ってる者の一人ですが
>>443のHPの件どなたか詳しく教えていただけませんか?
- 445 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/25(月) 08:51
- 期待アゲ。
- 446 名前:関西人 投稿日:2006/09/30(土) 00:39
- 444に同意
- 447 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/30(土) 04:29
- 自分でスレ立てておいて、このスレ捨ててホームページに移転って…
随分読者の気持ちを無視した作家だな
無責任過ぎる
だったら最初からHPでやれよ
何も知らないで待ってる奴らもいるんだから放置してないで作家出て来い
ここで続けるか続けないかはっきりしろ
- 448 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/30(土) 17:11
- >>444-447
h ttp://w ww.g oogl e.co .jp/
- 449 名前:ゆーたん 投稿日:2006/09/30(土) 17:39
-
>>441 名無飼育 様
頑張りますよ〜。
>>442 名無飼育 様
川 ´^`) <ありがとうございまーす!
>>443 名無飼育 様
え?そんなことはないです。
仮にHPに移転することがあっても、必ずここで連絡いたします。
>>444 名無飼育 様
ずっと待たせてしまったようですね。
申し訳ございません。
>>445 名無飼育 様
期待どうもです。
>>446 関西人
迷惑をかけてしまったようですね。本当にすみません。
>>447 名無飼育 様
どこで「HPに移転した」という情報が流れたのかはわかりませんが、私はそんないい加減な人間じゃないです。必ずここで最後まで書き続けます。厳しいご指摘、心に留めておきます。
大変お待たせいたしました。
それでは更新を再開します。
- 450 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:40
-
なんの予定もない日曜日の朝。
こんな日はやっぱりベッドからあまり動きたくない。
特に普段から朝が遅いひとみにとっては、願ってもない朝寝坊のチャンスなのだ。
出来ることなら昼過ぎまで枕を抱きしめて、夢の世界に浸っていたい。
しかし、現実は悲しいかな。
思うようにならない。
大阪にいるはずの関西弁の幽霊が、なぜか今ひとみの前にいたりする。
おまけに昨日買ってきたベーグルまで食べてしまっている始末。
ひとみはとりあえず唯の話を聴くことにした。
「それで、なんで上京する気になったの?」
「え?なんとなくやけど…。」
「なんとなく?そんなわけないっしょ?」
何もなしに2ヶ月ぶりに上京するはずがない。
きっと唯はワケあるに違いないとひとみは思った。
思い当たる節は……あの人か。
「三好ちゃんに逢いたくなったんじゃないの?」
「そりゃ、逢いたかったけど…。」
「けど?」
「……逢いたいような、逢いたくないような。」
「どっちだよ!」
「わからへん。うちにもわからへん。」
相変わらずマイペースな唯だが、
2ヶ月前と変わらない唯にちょっとだけホッとした。
- 451 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:40
-
「なんで三好ちゃんに逢いたくないのさ?」
「そりゃ、いろいろあんねん。」
「喧嘩したとか?」
首を振る唯。
「顔をあわせられない理由があるの?」
「……ちょっとな。」
「『ちょっとな』じゃ、わかんないよ。」
「なんて言うか〜、…恥ずかしいねん。」
「恥ずかしい?だって、それまで三好ちゃんと一緒に暮らしてたのに。」
それに誰よりも唯は絵梨香のことを信頼していたはずだ。
「いや、その…。」
モジモジしだす唯。
ひとみにとってはなんともじれったい。
「はっきりせんかい!」
「ハイッ!」
ちょっと声を張ると唯はギョッとしたふうにひとみを見る。
それからボソボソと呟くように言った。
「……告白しちゃったから。」
「はい?…告白?」
ワンテンポ遅れてひとみが反応する。
「うちがその… 絵梨香ちゃんのこと好きって。」
「へ?」
驚き。
なにを言いだすか、この幽霊は。
- 452 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:40
-
「ちょっと待って。ソレ、どーゆー意味?」
「ふぇ?」
今度は唯が目を丸くして驚いた。
「え、絵梨香ちゃんから聞いてはるんやないんですか!?」
「いや、全然聞いてないし。」
ひとみが首を振る。
思ってもみなかった返答に、唯の顔が一気に赤くなる。
絵梨香は告白されたことを胸の奥に閉まい込んでいたから
ひとみには一切合切そんな話をしていなかった。
「ほ、ほんなら、今のことは聴かなかったことにしてください!」
そんなこと言ったって聴いちゃったものはしょうがない。
タイムマシンでもあれば過去に戻れるのだろうけど、
残念ながら、今の科学技術では不可能だろうし。
「へぇー、岡やんがねぇ。」
ちょっと含みをある言い方をしながら唯を見る。
仲が良いとは思っていたが、まさかそんな感情を抱いていたとは。
幽霊でも恋はやっぱりするらしい。
「そんなふうに言わんといてください!恥ずかしいです。」
顔を赤くしたままバシバシとひとみの背中を叩く唯。
自分の気持ちを伝えたから、絵梨香に逢いにくい。
ひとみもようやく理解した。
- 453 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:41
-
「ちょっと待って。ソレ、どーゆー意味?」
「ふぇ?」
今度は唯が目を丸くして驚いた。
「え、絵梨香ちゃんから聞いてはるんやないんですか!?」
「いや、全然聞いてないし。」
ひとみが首を振る。
思ってもみなかった返答に、唯の顔が一気に赤くなる。
絵梨香は告白されたことを胸の奥に閉まい込んでいたから
ひとみには一切合切そんな話をしていなかった。
「ほ、ほんなら、今のことは聴かなかったことにしてください!」
そんなこと言ったって聴いちゃったものはしょうがない。
タイムマシンでもあれば過去に戻れるのだろうけど、
残念ながら、今の科学技術では不可能だろうし。
「へぇー、岡やんがねぇ。」
ちょっと含みをある言い方をしながら唯を見る。
仲が良いとは思っていたが、まさかそんな感情を抱いていたとは。
幽霊でも恋はやっぱりするらしい。
「そんなふうに言わんといてください!恥ずかしいです。」
顔を赤くしたままバシバシとひとみの背中を叩く唯。
自分の気持ちを伝えたから、絵梨香に逢いにくい。
ひとみもようやく理解した。
- 454 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:41
-
翌朝の月曜日。
ひとみは通勤ラッシュに揉まれていた。
人ごみをかき分け、ようやく駅前を抜けるとホッとしたのかあくびが出た。
昨日は唯がベッドで寝たせいで、
ひとみは冷たくて硬い絨毯の上で毛布に包まって寝るはめになってしまった。
おかげで体の節々が痛い。
せめて座布団ぐらいは敷けばよかった。
そんなことを考えながら歩いていると後ろからいつもの声が聞こえてきた。
「よっすぃー、おはよ。」
「吉澤さん、おはよーございます。」
振り返らなくても誰だかわかる。
梨華と絵梨香。
2人暮らしをしているのだから当たり前だけど、今日も仲良く一緒に通学している模様。
しかし、実はひとみがこの時間帯に2人に逢うことは滅多にない。
「おはよ。」
「今から学校ってことは、またフットサルの朝練サボったんでしょ?」
「え?んー、まあね。」
「また寝坊ですか?」
「寝坊じゃねぇって。ちゃんと大学の時間通りじゃんか。」
普段はもっと早い時間に大学に行って、フットサルの朝練をやるか、
もしくは完全に寝坊してもっと遅い時間に大学に来る。
それがひとみの朝のお決まりパターン。
しかも、どちらかというか後者のパターンが多いので
ひとみが定刻どおりに大学にいることはほとんどないと言っていい。
「よっすぃー、本当に朝弱いよね。」
「弱いんじゃなくて、日本がおかしいんだよ!みんな午後から仕事とか授業にすればいいのに。」
そんなことは絶対無理。
だが、ひとみは真剣にそう考えている。
私が総理大臣になったら絶対そういう制度にしてやると本気で考えている。
……ひとみの大学での勉強は役に立っていないようだ。
- 455 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:41
-
翌朝の月曜日。
ひとみは通勤ラッシュに揉まれていた。
人ごみをかき分け、ようやく駅前を抜けるとホッとしたのかあくびが出た。
昨日は唯がベッドで寝たせいで、
ひとみは冷たくて硬い絨毯の上で毛布に包まって寝るはめになってしまった。
おかげで体の節々が痛い。
せめて座布団ぐらいは敷けばよかった。
そんなことを考えながら歩いていると後ろからいつもの声が聞こえてきた。
「よっすぃー、おはよ。」
「吉澤さん、おはよーございます。」
振り返らなくても誰だかわかる。
梨華と絵梨香。
2人暮らしをしているのだから当たり前だけど、今日も仲良く一緒に通学している模様。
しかし、実はひとみがこの時間帯に2人に逢うことは滅多にない。
「おはよ。」
「今から学校ってことは、またフットサルの朝練サボったんでしょ?」
「え?んー、まあね。」
「また寝坊ですか?」
「寝坊じゃねぇって。ちゃんと大学の時間通りじゃんか。」
普段はもっと早い時間に大学に行って、フットサルの朝練をやるか、
もしくは完全に寝坊してもっと遅い時間に大学に来る。
それがひとみの朝のお決まりパターン。
しかも、どちらかというか後者のパターンが多いので
ひとみが定刻どおりに大学にいることはほとんどないと言っていい。
「よっすぃー、本当に朝弱いよね。」
「弱いんじゃなくて、日本がおかしいんだよ!みんな午後から仕事とか授業にすればいいのに。」
そんなことは絶対無理。
だが、ひとみは真剣にそう考えている。
私が総理大臣になったら絶対そういう制度にしてやると本気で考えている。
……ひとみの大学での勉強は役に立っていないようだ。
- 456 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:42
-
翌朝の月曜日。
ひとみは通勤ラッシュに揉まれていた。
人ごみをかき分け、ようやく駅前を抜けるとホッとしたのかあくびが出た。
昨日は唯がベッドで寝たせいで、
ひとみは冷たくて硬い絨毯の上で毛布に包まって寝るはめになってしまった。
おかげで体の節々が痛い。
せめて座布団ぐらいは敷けばよかった。
そんなことを考えながら歩いていると後ろからいつもの声が聞こえてきた。
「よっすぃー、おはよ。」
「吉澤さん、おはよーございます。」
振り返らなくても誰だかわかる。
梨華と絵梨香。
2人暮らしをしているのだから当たり前だけど、今日も仲良く一緒に通学している模様。
しかし、実はひとみがこの時間帯に2人に逢うことは滅多にない。
「おはよ。」
「今から学校ってことは、またフットサルの朝練サボったんでしょ?」
「え?んー、まあね。」
「また寝坊ですか?」
「寝坊じゃねぇって。ちゃんと大学の時間通りじゃんか。」
普段はもっと早い時間に大学に行って、フットサルの朝練をやるか、
もしくは完全に寝坊してもっと遅い時間に大学に来る。
それがひとみの朝のお決まりパターン。
しかも、どちらかというか後者のパターンが多いので
ひとみが定刻どおりに大学にいることはほとんどないと言っていい。
「よっすぃー、本当に朝弱いよね。」
「弱いんじゃなくて、日本がおかしいんだよ!みんな午後から仕事とか授業にすればいいのに。」
そんなことは絶対無理。
だが、ひとみは真剣にそう考えている。
私が総理大臣になったら絶対そういう制度にしてやると本気で考えている。
……ひとみの大学での勉強は役に立っていないようだ。
- 457 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:42
-
「話は変わるんだけどさ。岡やんから何か連絡あった?」
「唯ちゃんからですか?特にないですけど……。」
絵梨香はけげんな顔をした。
どうやら本当に唯は絵梨香に上京したことを伝えていないようだ。
唯に口止めされているから、絵梨香に知らせることは出来ないが、それでも大切な友達だ。
きっと、唯が上京していることを話せば、絵梨香は喜ぶに違いない。
でも、これは2人の問題。
ひとみはただ見ているしかないのだ。
「……急にどうしたんですか?」
「いやぁ、その、なんとなくね。岡やん、元気にしているのかなって…。」
「たぶん、元気なんじゃないんですか?」
かなり素っ気ない答えが返ってきた。
これには、ひとみもちょっと驚いた。
もっと心配しているはずと思っていたのだが。
「……なんか随分、他人ごとだね。」
「なにかあったら、向こうから連絡来ますよ。それに……。」
「それに?」
「唯ちゃんのことだもん。元気に決まってますよ。」
そうは言うが、本当は唯ちゃんの今を知りたいのではないだろうか。
言いたくてたまらない。
唯がひとみの家にいることを。
でも、余計な心配をかけるとまたややこしくなりそうなので
ひとみはぐっと堪えた。
- 458 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/09/30(土) 17:42
-
「……ところで吉澤さん。さっきの話って本当なんですか?」
「え?なにが?」
「ホラ… その…さっきしてた話ですよ。」
「……何の話してたっけ?」
「……女の子同士で。」
「あー、女同士で赤ちゃんが出来たって話?」
「声デカイですって!」
ひとみの声が講義室中に響いたのは言うまでもない。
- 459 名前:― 投稿日:2006/09/30(土) 17:42
-
- 460 名前:ゆーたん 投稿日:2006/09/30(土) 17:44
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
尚、今後もHPに移転する予定はございません。更新はかなり遅いですが、これからもよろしくお願いいたします。今回はご迷惑をおかけいたしました。申し訳ございません。
- 461 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/01(日) 07:16
- 待ってました!
これからどんな行動起こすか楽しみです♪
- 462 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/01(日) 18:22
- 続きを待っているたくさんの読者がいるということを忘れないで下さい
そして放置せず必ず書き上げて欲しいと願っております
何ヶ月も放置されると不安になるので
時々は顔を出しに来て下さいね
続き楽しみにしております
- 463 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/02(月) 14:39
- ガセレスに踊らされて批判してその上に上から目線のレスはどうかと。
作者さん次回更新も楽しみにしてますよ。
- 464 名前:関西人 投稿日:2006/10/04(水) 00:49
- いやあ、安心しました。ガセに踊らされずにじっくりと楽しみに待ってます。
- 465 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/04(水) 04:32
- >>463
上から目線で言ったつもりはない
はっきり言わなければガセなのか本当なのか真実がわからないままだったと思う
何ヶ月もストーリが進まずあげくHPに移転の話が来て、不安になったから
>>444->>447のような反響があったんだろ
作者も度々スレに来てるから、批判があってすぐに書き込みした
ガセならガセだと話が出た時にすぐにリアクションして欲しかったのが本音
- 466 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 01:50
- >>465
おつかれー
どんまい
- 467 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 05:50
- なにがどんまいなんだよ
- 468 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 13:37
- かわいいなぁ
ここ読んでると、美勇伝がますます好きになります
ところで462はそれほど上から目線とは感じないけど、465は明らかにおかしいよ
今回の更新は批判とはどう見ても無関係でしょ?
作者さんはたまたまこのタイミングで更新しに来ただけだよ
何でも悪い方にばっか解釈するからガセネタに踊らされるんじゃないか?
「待つ」ってことを学んでくれ頼むから
- 469 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/05(木) 14:07
- とりあえず465はドンマイ!
これでこの話題は終わり、と
- 470 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/06(金) 04:18
- まあ結果的に作者が説明しに来てくれたから良かったんじゃね
ガセネタに踊らされてすいませんね
- 471 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/06(金) 14:13
- うんうん、おつかれー
どんまいどんまい
- 472 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/07(土) 17:17
- おっ!久しぶりの更新ですね。
首を長くして待ってましたよw
とりあえず、間違って倉庫逝きにならない程度のペースでお願いしますねw
続きお待ちしてます。
- 473 名前:ゆーたん 投稿日:2006/11/09(木) 11:28
-
>>461 名無飼育 様
今後もお楽しみください。
>>462 名無飼育 様
大丈夫です。必ず完結いたします。
まだまだ続くので先の話ですけど…。
>>463 名無飼育 様
今後も読んでくださいね。
>>464 関西人
安心してください。頑張ります。
>>468 名無飼育 様
ありがとうございます。
さらに美勇伝が好きになれるようなお話を書いていきたいです。
>>472 名無飼育 様
はい。気をつけたいと思います。
えー、今更ですが、投稿の間違いに気付きました(遅っ)。
>>454-456は同じものを書き込んでしまったようです。
話が続かなくなってしまうので、454-458の部分をもう一度書き込ませていただきます。
本当に申し訳ございませんでした。
- 474 名前:454 投稿日:2006/11/09(木) 11:29
-
翌朝の月曜日。
ひとみは通勤ラッシュに揉まれていた。
人ごみをかき分け、ようやく駅前を抜けるとホッとしたのかあくびが出た。
昨日は唯がベッドで寝たせいで、
ひとみは冷たくて硬い絨毯の上で毛布に包まって寝るはめになってしまった。
おかげで体の節々が痛い。
せめて座布団ぐらいは敷けばよかった。
そんなことを考えながら歩いていると後ろからいつもの声が聞こえてきた。
「よっすぃー、おはよ。」
「吉澤さん、おはよーございます。」
振り返らなくても誰だかわかる。
梨華と絵梨香。
2人暮らしをしているのだから当たり前だけど、今日も仲良く一緒に通学している模様。
しかし、実はひとみがこの時間帯に2人に逢うことは滅多にない。
「おはよ。」
「今から学校ってことは、またフットサルの朝練サボったんでしょ?」
「え?んー、まあね。」
「また寝坊ですか?」
「寝坊じゃねぇって。ちゃんと大学の時間通りじゃんか。」
普段はもっと早い時間に大学に行って、フットサルの朝練をやるか、
もしくは完全に寝坊してもっと遅い時間に大学に来る。
それがひとみの朝のお決まりパターン。
しかも、どちらかというか後者のパターンが多いので
ひとみが定刻どおりに大学にいることはほとんどないと言っていい。
「よっすぃー、本当に朝弱いよね。」
「弱いんじゃなくて、日本がおかしいんだよ!みんな午後から仕事とか授業にすればいいのに。」
そんなことは絶対無理。
だが、ひとみは真剣にそう考えている。
私が総理大臣になったら絶対そういう制度にしてやると本気で考えている。
……ひとみの大学での勉強は役に立っていないようだ。
- 475 名前:455 投稿日:2006/11/09(木) 11:32
-
「あ、そうだ。あたし、購買に用があるの。絵梨香とよっすぃー、先に教室行ってて。」
そう言うと梨華は早歩きで駆け出した。
が、何歩か行った後、なにかを思い出したように立ち止るとこちらに戻ってきた。
「よっすぃー、あたしの絵梨香にヘンなことしないでね。」
「そ、そんなことしねーよ!」
「わかんないよ〜。よっすぃー、エッチだから。」
「うるせぇ!
……ちょっと触るくらいだよ。」
「なにか言った?」
「いいえ!何も言ってません!触りません!」
「ホント〜?」
梨華はちょっと疑いの目でひとみを見たが、
やがて、ルンルン♪とスキップをしながら購買へ向かっていった。
「なんかキショいな。」
「えぇ〜。そうですか?可愛いじゃないですかぁ?」
その発言にひとみはギョッとして絵梨香を見た。
絵梨香は目を細めて愛おしそうに梨華の後姿を見ている。
バカップルはこれだから困る。
「それにしても、なんか今日の梨華ちゃん、テンション高くなかった?」
「イイコトがあったんですよ。」
「イイコト?」
絵梨香が笑みを浮かべている。
恋人同士が考えるイイコトといえば……。
- 476 名前:456 投稿日:2006/11/09(木) 11:32
-
「赤ちゃんが出来たとか?」
「な、何言ってるんですか!」
唖然する絵梨香。
そんなことを真面目な顔で言うもんだから、この人頭おかしい。
そう思ったに違いない。
「いや、過去にあったらしいよ。女同士なのに赤ちゃんが……。」
「そんなんじゃありません!」
「へ?違うの?」
残念。
オメデタではございません。
「梨華ちゃん、家族と連絡取れたんですよ。」
「え、マジで?」
「今月中にも逢えるみたいです。」
「へー、よかったじゃん。だから、あんなテンション高いのか〜。」
ひとみも梨華の両親が夜逃げしたことはもちろん知っている。
と同時に梨華が家族を大切にしていたことも。
妊娠ではないにしても、良い知らせには変わりない。
それにもう一つ。
絵梨香に良い知らせがあるのだが……。
- 477 名前:457 投稿日:2006/11/09(木) 11:33
-
「話は変わるんだけどさ。岡やんから何か連絡あった?」
「唯ちゃんからですか?特にないですけど……。」
絵梨香はけげんな顔をした。
どうやら本当に唯は絵梨香に上京したことを伝えていないようだ。
唯に口止めされているから、絵梨香に知らせることは出来ないが、それでも大切な友達だ。
きっと、唯が上京していることを話せば、絵梨香は喜ぶに違いない。
でも、これは2人の問題。
ひとみはただ見ているしかないのだ。
「……急にどうしたんですか?」
「いやぁ、その、なんとなくね。岡やん、元気にしているのかなって…。」
「たぶん、元気なんじゃないんですか?」
かなり素っ気ない答えが返ってきた。
これには、ひとみもちょっと驚いた。
もっと心配しているはずと思っていたのだが。
「……なんか随分、他人ごとだね。」
「なにかあったら、向こうから連絡来ますよ。それに……。」
「それに?」
「唯ちゃんのことだもん。元気に決まってますよ。」
そうは言うが、本当は唯ちゃんの今を知りたいのではないだろうか。
言いたくてたまらない。
唯がひとみの家にいることを。
でも、余計な心配をかけるとまたややこしくなりそうなので
ひとみはぐっと堪えた。
- 478 名前:458 投稿日:2006/11/09(木) 11:34
-
「……ところで吉澤さん。さっきの話って本当なんですか?」
「え?なにが?」
「ホラ… その…さっきしてた話ですよ。」
「……何の話してたっけ?」
「……女の子同士で。」
「あー、女同士で赤ちゃんが出来たって話?」
「声デカイですって!」
ひとみの声が講義室中に響いたのは言うまでもない。
- 479 名前:― 投稿日:2006/11/09(木) 11:35
-
- 480 名前:ゆーたん 投稿日:2006/11/09(木) 11:36
-
>>454-458の部分は以上です。
これで話が繋がると思います。ご迷惑をおかけしました。
続きは近日中に更新しますので、またよろしくお願いします。
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/10(金) 01:46
- eeyo
- 482 名前:ゆーたん 投稿日:2006/11/19(日) 01:31
-
それでは更新を再開します。
- 483 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:32
-
♪♪〜♪
遥か遠くの向こう側からやや重低音が強調された鐘の音が聞こえてくる。
それがチャイムだということはすぐにわかったが、意識がなかなかはっきりしてこない。
ただ、それが淡い記憶に留まるどこか懐かしい音色であることは間違いない。
思えば中学生の頃、遅刻寸前のひとみはいつもこの音色と追いかけっこをしていた。
バレーボールに夢中だったあの日々。
そんなあの頃の様子が走馬灯のように……
ん、中学生?
……って、ここは大学じゃん。
遠い記憶から急に我に帰った。
「んんっ!」
ガバッと起き上がった次の瞬間、今度は物凄い勢いで服を引っ張られ席に戻された。
引っ張った方を見ると梨華が小声で注意してきた。
「ちょっとよっすぃー、いきなり立ち上がらないでよぉ。」
ハッとして周りを見る。
確かに今のチャイムは講義終了の合図だが、
講義自体はまだ続いているらしく、まだ誰も席を立っていなかった。
自然と痛い視線がこちらに集まってくる。
ひとみは恥ずかしそうに出来るだけ体を縮めた。
- 484 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:32
-
「寝るつもりは無かったんだぜ。」
「そんなこと言っても、授業始まって2分で寝てましたよ。」
講義が終わってからのやり取り。
とはいえ、寝るつもりはなくても体は正直なのだ。
ひとみは長かった90分間をほとんど睡眠時間にしてしまった。
ま、いつものことと言えばいつものこと。
「もぅ、よっすぃーは何しに大学に来てるのぉ?」
「何って、決まってるジャン!」
もちろん勉学 …ではなくて。
「フットサルしに来てるんだよ!」
ひとみはいたって真面目だ。
でも、そんなひとみが梨華と絵梨香には面白く映るらしく
2人で顔を合わせて笑い出した。
とにかく本日の講義は終わったのだ。
学生たちはそれぞれ家路につく者もいれば、サークル活動に臨む者もいる。
つまり、これからがひとみのための時間なのだ。
「二人はこれからバイトだっけ?」
「そうですよ。」
「よっすぃーもフットサル頑張ってね〜。」
仲良く歩いていく二人を見送りながら、ひとみは一人フットサルの屋外練習場へと向かった。
練習場は大学の構内にあって、最近のフットサル人気のおかげでサークル活動も活発だった。
そもそもひとみは大学に入るまでフットサルに興味はなかった。
なんとなく体を動かしたいと始めたこのスポーツだったのに、
今では生活の中に欠かせないものになるほど好きになっていった。
スポーツなんてそんなもの。
ひとみは青春をこのボールに傾けていた。
- 485 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:33
-
講義では眠かった体も、練習場に来るとシャキッとする。
サークル棟の更衣室でジャージに着替えるとコートに出た。
「まだ、誰もいないのか…。」
更衣室には誰の荷物もなかったし、
季節は寒くなるいっぽうのためか練習に来ている人はいなかった。
北風は容赦なくコートを駆け抜けている。
ひとみも寒気を感じたが、とりあえず壁に向かってボールを蹴り始めた。
だけど、スポーツは大勢いたほうが楽しいに決まっている。
しばらくは一人でボールを蹴っていたが、20分ほどで飽きてしまって隅のベンチで仰向けに寝っころがった。
……
仰向けになると目の前には大きな空が現れる。
東京のど真ん中とはいえ、緑に囲まれた大学構内から見る空はちょっと違って見えた。
空にはオレンジに染まったちぎれ雲が物凄いスピードで流されている。
そんな独りぼっちのちぎれ雲を見ていたら、ふと唯のことが気になった。
「今頃、岡やんも独りぼっちだもんな……。」
ひとみの家で留守番をしているであろう唯のことが気になる。
彼女は一体、どんな決心をして大阪から出てきたのであろうか。
余計な心配をかけても仕方ないが、少しでも自分が唯の力になりたかった。
それでも、障壁があった。
絵梨香の恋人・梨華もひとみの親友なのだ。
友情に厚いひとみにとって、親友を裏切ることは出来ない。
単純に唯の絵梨香への恋を応援するわけにはいかない。
それじゃあ、誰が唯の味方になってあげる?
このままでは唯は独りぼっちになってしまう。
ひとみは葛藤した。
- 486 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:33
-
ひとみには幽霊の唯が見える。
だから、唯はひとみの家に来たのだ。
話し相手にもなれるし、相談にものれる。
「でもなぁ…。」
そもそも恋愛関係の相談は苦手なのだ。
ひとみの脳みそをいくら捻ったところで100点満点の模範解答は出てこない。
散々迷って出てくる答えは…
「とにかく、唯はせっかく東京に出てきたのだから、絵梨香と逢うべき。」
という当たり前すぎること。
当たり前だが、これはこれで厄介だ。
まず、どうやって唯と絵梨香を逢わせるか。
本当は唯も絵梨香もお互い逢いたいはず。
ただ、2人の間に梨華がいると話がしにくい。
なんせ幽霊の唯が梨華には見えないのだから。
せめて、絵梨香が一人でいるときの方がいいんだろうけど…。
実はそこのところが一番難しい。
絵梨香は常に梨華と一緒にいる。
長時間離れることは滅多にない。
「待てよ。…そっか。」
人生は水晶玉。
あんなに透き通っているのに、覗き込めば逆さまに見える。
結論は簡単だった。
梨華がいないときに唯が絵梨香に会いに行けばいい。
つまりは梨華が両親のもとに帰ってるときに行けばいい。
幸い、梨華は夜逃げした両親と連絡が取れたそうだから、近いうちに逢いに行くはず。
その日を唯に教えてあげればいいのだ。
とはいえ、強制はしない。
行くかどうかは唯が考えればいいこと。
親友の梨華のことも幽霊の唯のことも考えた配慮。
それが今のひとみが出来ることだった。
- 487 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:34
-
家に帰って誰かが迎えてくれることは本当に嬉しいものだ。
一人暮らしをしていると尚更だった。
絵梨香も唯が来た時はそう思ったが、ひとみも同じ。
「ただいまー。」
「おかえりー。」
返事が返ってくる。
これが一人暮らしには本当に嬉しい。
そこまでは良かった。
……が、玄関に入ったと同時に、何か独特の匂いも漂ってきた。
焦げ臭いような、なんというか…。
「……なにしてたの?」
「料理作ったんです。」
「へぇー。」
「うちが作ったんですよ。」
「マジで?」
確かにテーブルには料理が並んでいた。
いや、料理と呼ぶべきなのか。
数時間前までは食べ物だった物体と呼ぶべき。
とりあえず、真ん中に置かれていた肉じゃがらしきものを一口入れてみる。
味の方は…??
「……岡やん、料理したことある?」
「ありますよ〜。どうですか?おいしいですか?」
「……。」
無言。
「なんでですか〜?答えてくださいよ〜。」
つまりその…。
今までに食べたことのない味がする。
「うん、未知の味がする。」
ホンマですかーと喜ぶ唯。
いや、褒めてないから。
だけど、もうそれ以上はあえて言わなかった。
- 488 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:34
-
「一応、ホカ弁買ってきたけど…。」
「弁当じゃ、栄養ないやないですか〜。うちの手料理なら栄養満点ですよ。」
どうやら完食の義務が生じたらしい。
栄養満点どころか、殺人道具になる危険性もある。
お腹はペコペコだが、拷問にしかならない。
「食べる前にちょっといい?」
「んー?」
「とりあえず、座って。」
ちょっぴり真剣な顔をしたひとみに、唯はけげんな顔した。
「なんやぁ、改まっちゃって。」
「いいから、いいから。」
唯と向かいあわせで座る。
「まず一つ。」
「はい。」
「なんで料理なんて作ろうと思ったの?」
さっき肉じゃがを一口食べただけだが、
普段からとても料理なんてやっているようには思えない。
「それはな…、絵梨香ちゃんの真似をしてみただけやねん。」
「三好ちゃん?」
「絵梨香ちゃんはな、石川さんのために毎日料理してんねんで。」
確かに絵梨香は料理が上手。
いつも美味しい料理を作ってくれる。
「その肉じゃがも絵梨香ちゃんが作ってたのを見てたから作ってみたんやで。」
「でも、作ったことはなかったんでしょ?」
「作ったことはないけど、いっつも作ってるところ見てたから大丈夫やって。」
料理は見ているだけじゃ上手にならないのに。
食べる身にもなってほしい。
ひとみは軽いため息をついた。
- 489 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:34
-
「……やっぱり本当は今すぐ三好ちゃんに逢いたいんでしょ?」
「えっ?」
「うちなんかにいるよりも今すぐ三好ちゃんに家に行きたいんでしょ?」
突然の展開。
ひとみの言葉に唯は驚きを隠せない。
「そ、そんなことないです!」
「そんなことあるよ。ただ、三好ちゃんには梨華ちゃんがいるから行きたくないだけっしょ?」
すぐに逢いたいけど、逢えない。
逢っても、梨華がいるからゆっくり話も出来ない。
「昨日は教えてくれなかったけど、今日はなんで上京してきたか教えて?」
理由もなしに上京してくるはずなんてない。
「……ホンマは …ホンマは確かめにきたんです。本当に絵梨香ちゃんのことが好きなんか。」
「で、どうだった?」
「そんなん、まだ絵梨香ちゃんに逢ってへんからわからへん……。」
「そんなことないでしょ。」
ひとみは優しく微笑んだ。
「東京に出てきて、一晩考えても、まだ三好ちゃんのことばっか考えてたんでしょ。だから、料理なんて作る気になったんじゃないの?そーゆー風に三好ちゃんのこと想ってるんだったら、自分自身で三好ちゃんへの気持ちくらいわかるっしょ。」
誠心誠意のひとみの言葉だったが、唯はもじもじしている。
この優柔不断な大阪娘の背中をひとみは思いっきり押してあげようと思った。
- 490 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:35
-
「よし!岡やん!」
何かを思いついたようにひとみはいきなり立ち上がった。
「ヨッシャ!三好ちゃんに逢って来い!」
「えぇ!?」
「行って、話してこい!」
「そんなことゆーても絵梨香ちゃんには石川さんがおりますわな。石川さんがおったら話も出来へん。」
「だから、梨華ちゃんがいないときに逢いに行けばいいじゃん。」
「そんなん、あの二人いつも一緒やないですか。」
その通り。
絵梨香と梨華はびっくりするぐらいいつも一緒。
でも、大丈夫。
今回はチャンスがある。
「……梨華ちゃんがね、夜逃げした両親が見つかったんだって。」
「ホンマですか?よかったやないですか。石川さんの両親、うちが絵梨香ちゃんの家に来たときにいなくなったんですよ。」
「で、ここで提案があるんだ。」
ひとみがキリッと唯を見た。
「梨華ちゃんが両親に逢いに行ってる間は当然、三好ちゃんは家で留守番するはずじゃん。そのときに三好ちゃんの家に行ってみたら。」
「そうやけど…。」
「三好ちゃんが梨華ちゃんと一緒にいるときは逢いたくないんでしょ?だったらこの時しかないじゃん。」
これが絵梨香と2人っきりになれる数少ないチャンス。
このチャンスを逃せば、次はいつになるかわからない。
- 491 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/11/19(日) 01:35
-
「……吉澤さんって、優しいんですね。」
「へ?」
「うちのこと、そんなに真剣考えてくれはって。」
「そんなことないって。」
ひとみは友情に厚いだけ。
幽霊の唯だって、ひとみにとっては親友。
困っている親友をただ助けてるだけ。
「あっ。でも、悪いけど岡やんの応援はしないよ。梨華ちゃんも私にとっては親友だからね。」
「えー、応援してくださいよー。」
「あくまで私は岡やんにアドバイスするだけだから。行くかどうかは、岡やんが自分で考えな。」
ちょっと冷たいようで
本当は凄く暖かいひとみの心遣いだった。
- 492 名前:― 投稿日:2006/11/19(日) 01:35
-
- 493 名前:ゆーたん 投稿日:2006/11/19(日) 01:36
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 494 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 00:16
- 乙。
次回期待。
- 495 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/20(月) 00:38
- おつかれさまです。
今日は美勇伝コンを観てきましたが、作家の方がこのお話を読んでいるのでは…とふっと思う場面がありました。
期待して次回を待っていますよ。
- 496 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/20(水) 16:58
- ゆーたんどんまい!
- 497 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/21(木) 23:00
- お待ちしております。(´∀`)
- 498 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/22(金) 00:45
- ( ´ Д `)ノ<勃起待ち! 作者さんがんばってアッー!
- 499 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/23(土) 15:07
- 健気待!
作者闘気奮発!
塵礼羽!
- 500 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/24(日) 04:16
- ( ^▽^)<華麗に500!
- 501 名前:ゆーたん 投稿日:2006/12/31(日) 18:08
-
>>494 名無飼育 様
次回もよろしくお願いします。
>>495 名無飼育 様
そうですか。もし読んでいただけているなら嬉しいことです。
>>496 名無飼育 様
はい、よろしくです。
>>497 名無飼育 様
すみません。お待たせいたしております。
>>498 名無飼育 様
頑張ります。
>>499 名無飼育 様
うーん… 読めないです。
>>500 名無飼育 様
从,,^ ロ ^)<キリバン、オメ!
それでは更新を再開いたします。
- 502 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:09
-
明くる日。
ひとみは何気なく絵梨香に、梨華が両親に逢いに行く日を聴きだしていた。
「あのさ。梨華ちゃんって、いつ両親に逢いに行くの?」
「えっ?急にどうしたんですか?」
「ホラ、梨華ちゃんの両親が夜逃げしたときに梨華ちゃんもいなくなったじゃん。あの時からずっと気になってたからさ。」
普通はそんなデリケートな質問を直接本人に聴く人はいない。
あまり他人が割り込むべき話題ではないのだ。
でも、梨華がいなくなったとき、確かに絵梨香はもちろん、
ひとみやあゆみも巻き込む大騒動になった。
ようやくの感動の再開なのだから、気にならないといえば嘘になる。
「やっぱり心配したしさ。梨華ちゃん、いつ両親に逢えるのかなぁって思って。」
「なんで本人に聴かないんですか?」
「えー。なんか悪いじゃん。」
絵梨香ちょっと不思議がっていたが、
それでも快く今度の週末だということを教えてくれた。
「そっか。やっと逢えるのか。」
梨華は、両親が夜逃げした寂しさを微塵も感じさせないほど今まで明るく振舞っていた。
けれど、本人は相当悩んだのだろう。
それが今度の週末にようやく逢えるのだ。
そして、もう一つ。
もしかしたら、もう一つの再開もこの週末に起こるのかもしれないのだが、それはまだ先の話。
梨華が今週末に両親に逢いにいくことはわかった。
しかし、ここから先は唯が自分で決めることなのだ。
家に帰ると今日のことを唯に伝えた。
「……吉澤さん、ホンマにありがとう。」
「結局、行くことにしたんだ?」
「うん。やっぱり、逢いたいねん。」
唯は照れながら言った。
- 503 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:09
-
あっという間に時は土曜日。
唯は昼を過ぎても寝ているひとみを起こさないようにそっと家を出た。
近くの駅から電車に乗ると、唯は自分が緊張していることに気付いた。
気分を落ち着かせようと、車窓から流れる景色を背に目をつぶる。
まず何から話せばえんやろか?
元気でいるのだろうか?
そんなことが次から次へと頭の中に浮かぶ。
気がつくと目をつぶったままニヤニヤしていた。
電車を降り、改札をくぐると懐かしい街並みが広がっていた。
ほんの2ヶ月前まではいた街。
駅前の雑踏を抜け、商店街沿いの小道を行く。
そして、コインランドリーの角を曲がる。
そう、このコインランドリーは絵梨香と初めて出逢った場所。
ひとみには本当のことを言わなかったけど、
実は今回東京に来て、最初にこの道を歩いていたのだ。
でも、唯は絵梨香のアパートまでは行かなかった。
行けなかったのだ。
- 504 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:09
-
もうちょっと歩けば絵梨香のいるアパート。
けれど、唯はこれ以上進むことを躊躇った。
急に怖くなった。
絵梨香に逢うことは嬉しい。
と、同時に怖い。
心臓をきつく締め付けるような苦しさが唯を襲った。
唯は、ランドリー内の椅子に腰掛けた。
もしかしたら絵梨香がここを通り過ぎるかもしれない。
そんな淡い期待をしながら、ガラス張りの扉の外を見ていた。
しばらくして知ってる顔が一人通った。
町内会長でこのランドリーの管理をしている保田だった。
ちょっと残念(本当はとても残念)な気持ちと
絵梨香とも仲の良い人が見られた喜びとが混ざり合う。
当然、保田には唯の姿が見えないのですぐに通り過ぎてしまった。
「人生って、そんなもんやな……。」
結局、そのときに絵梨香がランドリーの前を通ることはなかった。
もし絵梨香が通ったとしても、自分はどんな顔で逢えばよかったんだろうか?
勝手に絵梨香の家を出て行ったのに、また勝手に戻ってきてしまった。
そんな勝手な自分を絵梨香はどう迎えてくれるのだろうか?
考えても仕方がないことを一人で悩んだ。
悩んで、悩んで、コインランドリーの片隅で泣いてしまった。
- 505 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:10
-
「やっぱ、大阪に帰ろうか……。」
弱い自分がふと顔をのぞかせた。
そんな弱い自分が唯は嫌いだった。
ぶるんぶるんと首を振って、自分を奮い立たせた。
絵梨香に逢えなくても、せめて東京に居ようと思った。
そして、逢いたくなったら絵梨香に逢いに行けばいい。
その結果、唯のことが見えるひとみの家に居候することにしたのだ。
「あの頃よりちょっとは大人になったはずや。」
あの頃。
唯は今でも幽霊になって初めて東京に来たときのことを思い出す。
もちろん誰も唯の姿が見えるものはいなかった。
東京ディズニーランドにでも行こうかと思ったが、なんせ初めて東京。
場所もわからないし、何よりも一人じゃつまらないと感じた。
軽い気持ちで来た東京で唯は途方に暮れた。
街をひたすら彷徨い、やや古びた商店街に辿り着いた。
どこか大阪に似た雰囲気を持つその街を、唯は好きになった。
ちょっとここに居よう、そう思わせる街だった。
街角にちっぽけなコインランドリーを見つけた。
一応、着替えは持ってきてあったので、寄ってみることに。
外からコインランドリーの中を見ると一人の女の子が座っていた。
ショートカットで目が大きめのボーイッシュ。
別に一目惚れをしたわけじゃないけど、とにかくその人のことが気になった。
- 506 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:10
-
コインランドリーのガラス張りの扉を開くと、その女の子はこちらを向いた。
唯の心臓はドキドキしていた。
この人は、自分のことが見えるんやろうか。
まさか。
幽霊が見える、自分のことが見える初めての人……?
軽く会釈をしてみたが、反応なし。
やっぱり、見えてない。
唯は一番の奥のランドリーに向かった。
「あの…。」
「はぁ?」
突然、声をかけられたので憮然な態度を取ってしまった。
けど、本当にびっくりしたのだ。
(この人、うちのことが見えるんや…。)
嬉しかった。
その人だったから尚更嬉しかった。
それが、絵梨香だったのだが…。
- 507 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:10
-
コインランドリーを見ると様々な想いが交錯する。
もう初めての出逢いから、何ヶ月もの月日が経っていた。
今日は前へ進める。
今日は前回みたいにランドリーで立ち止まることはない。
まっすぐ。
まっすぐ絵梨香の住むアパートへと足を進めた。
「この先や……。」
唯の視界には小さなアパートが見えてきた。
そこはまさしく絵梨香と梨華、そして唯が住んでいた場所。
目指すものが見えたせいだろうか、再び唯は緊張してきた。
「あかん…。」
またドキドキしてきた自分を落ち着かせようと、手に「人」という字を書いて飲んだ。
深呼吸を一つして、電柱越しからそっと絵梨香のアパートの方を見る。
何も変わったところないアパート。
まだ梨華はいるのだろうか?
さすがにここからではちょっと距離があるのでわからない。
もうちょっと近くに行こうと、何歩か歩いたとき、
突然、絵梨香の玄関の扉が開いたのだ。
- 508 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:10
-
「じゃあ、行って来るねぇ。」
「いってらっしゃーい。」
唯は慌てて物陰に隠れた。
玄関から出てきたのは梨華。
トントンっと軽やかに階段を降りて、こちらの方へ歩いてくる。
梨華には唯が見えないはずなのに、なぜか唯は隠れたまま。
じっと通り過ぎるのを待っていた。
梨華はすぐ脇を通り、スタスタと駅の方角へ歩いていった。
唯は見えなくなるのを確認してから再び道に出た。
「石川さん、全然変わってへんかったなぁ…。」
変わり続ける時代の中に変わらないものを見つけるのは難しい。
変わらない梨華の姿に嬉しく思いつつ、ちょっとしたジェラシーも感じた。
それは幽霊ならではというか、女ならではというか。
唯はくるりとアパートの方に向きなおす。
「ほな、行きますか。」
アパートの階段を上がっていく。
すぐに「みよし」と書かれた表札を見つけた。
表札の下にはハートマークがくっ付いていて「石川梨華」とも書いてあった。
相変わらずのバカップル。
唯は思わず吹き出しそうになりつつもニヤリと笑ってしまった。
さぁ、いよいよだ。
心を落ち着かせ、深呼吸を3回した。
ゆっくりと中に入ろうとしたそのとき…。
- 509 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:11
-
「あれ?」
駅の方から猛然と走ってくる姿を目撃した。
それは紛れもなく梨華の姿だった。
いきなり梨華がアパートに走って帰ってきたのだ。
何度も言うが梨華には唯が見えない。
なのに、唯メッチャ慌てる!
「ど、どないしよ?」
急いで隠れるところを探す。
と、言ってもアパートの廊下で隠れる場所なんてない。
ならば幽霊の特権を使うしか他ない。
唯はお腹に力を入れると、スーッと壁の中に入った。
「ごめーん。絵梨香、忘れ物しちゃったぁ!」
ドタバタと玄関から入っていった。
そして、1分も経たないうちに再び梨華が飛び出していく。
「もぉ、気をつけてくださいよ。」
「うん、ごめんね。じゃあ、いってきまーす。」
また梨華は駅の方へ走っていった。
- 510 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:11
-
………
しばらく時間をおいて、壁からニュッと唯が顔を出した。
キョロキョロと周りを確認する。
どうやら梨華はもう行ってしまったようだ。
「ホンマ、慌てんぼうさんやからな。」
唯も梨華の性格は知っている。
しっかり者だけどちょっとおっちょこちょい。
やれやれと思いつつ、壁から全身抜け出すと
もう一度「みよし」と書かれた表札の前に立った。
今度こそ。
チラッと駅に続く道を見た。
大丈夫。
梨華が走ってくる様子もない。
唯がドアノブに手をかけようとしたそのとき。
ゆっくりと扉が開いた。
「っ!?」
隠れようとしたけど無駄だった。
ばっちり目が合ってしまった。
大きな瞳でショートカットの女の子。
- 511 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:11
-
「……ゆ、唯ちゃん?」
大きめのビニール袋を持った人。
そう、あのときと同じ。
コインランドリーに行くときに持っていく大きめのビニール袋。
まさしく絵梨香だった。
「あ、あの、その……。」
ヤバイ。
心の準備をする前にいきなり現れたもんだから、次の言葉が出てこない。
言葉より先に、
立ちすくんでいる絵梨香に抱きつくことしか思い浮かばなかった。
「絵梨香ちゃんっ!」
絵梨香の肩が震えているのがわかる。
こんなに近い距離は久しぶりだから。
久しぶりだから、しばらくこうしていても良いような気がした。
「……ごめんなぁ。」
「ううん、お帰りっ!」
「その……、ただいま。」
唯は照れながら言った。
絵梨香と顔を合わせて笑いあった。
- 512 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:11
-
それからいっぱい話をした。
大阪での話。
唯の両親の話。
絵梨香の近況。
それはまるで2ヶ月の空白を埋めるように。
「それでな。」
「うん。」
「うち、今でも絵梨香ちゃんのこと好きやで。」
「…そっか。ありがとう。」
絵梨香はまた笑いながら、唯の頭をなでなでした。
それで答えは十分わかった。
聴くまでもなかったんだろうけど、やっぱり気持ちは変わらない。
絵梨香は今でも梨華のことを愛している。
でも、自分の気持ちに嘘をついても仕方がない。
なによりも今日は逢えて嬉しかった。
「また、うちで暮らすんでしょ?」
「ううん…。まだ決めてないねん。」
「だって、他に行く場所ないでしょ?」
「まぁ…そうやけど。」
唯は、かなり前から東京に来ていて、
ひとみの家でお世話になっていたことはあえて黙っておいた。
「そうだ。今夜は私がご馳走作ってあげるね。」
「ホンマにぃ?絵梨香ちゃんの作った料理食べるの久しぶりやわ。」
絵梨香は張り切って台所に向かった。
多分、こーゆーことのを幸せっていうのだろう。
- 513 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:12
-
久しぶりの一緒の晩御飯はとても豪華なものとなった。
テーブルには所狭しと絵梨香お手製の料理が並ぶ。
「うわ〜、メッチャ凄いやん。」
「凄いでしょ。これが絵梨香の才能だから。」
「……。」
「ちょっと、なんで黙るのさー!」
「……はよ、食べよ。」
自慢げにしている絵梨香を尻目に唯は早く食べたい。
椅子に腰掛けて手を合わせる。
「「いっただきまーす。」」
次々と料理に箸をのばす。
美味しい。
ひとみは料理をしない人だったから、この料理は唯にとって格別な味だった。
「絵梨香ちゃん、良いお嫁さんになれるわ〜。」
「そ、そうかな?」
エヘヘと照れるコック絵梨香。
本当に梨華が羨ましい。
この料理を毎日食べている梨華が羨ましい。
カップルとはいえ、羨ましすぎる。
そう考えるとなんだか無性にムシャクシャしてきて
唯の食欲はさらに増幅していった。
- 514 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:12
-
「ねぇ、唯ちゃん。お酒飲む?」
こう絵梨香が切り出したのは食べ始めて10分くらいたったころだろうか。
「え?うち未成年やで。」
「いいじゃん。幽霊に未成年も大人も関係ないでしょ?」
そう言いつつコップを取り出してビールを注ぐ絵梨香。
仮に生きていたとしても唯は18歳だ。
そりゃ、ちょっとはお酒というものに興味はあるかもしれないけど、
まだ踏み入れたことのない未経験分野。
唯は勧められるがまま、コップを持つと、中のビールと絵梨香を交互に見た。
絵梨香が楽しそうに見ている中、恐る恐る飲んでみることに。
ぐびっ。
その瞬間、口の中にふわーっとアルコールが広がる。
そして、鼻に抜けていく感覚。
答えは簡単だった。
『無理』。
思わず咳き込んでしまった。
「唯ちゃんは子供だなぁ〜。」
ちょっとムッとした。
「大丈夫。ちゃんと唯ちゃん用のも買ってあるから。」
そういって、絵梨香は立ち上がると冷蔵庫の扉を開けた。
中から取り出したのは唯の大好きな甘い炭酸飲料。
「これね、唯ちゃんがいつ帰ってきてもいいように、いっつも冷蔵庫に入れてあったんだよ。」
今の唯にはビールよりもこっちの方が魅力的だった。
- 515 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:12
-
絵梨香はビール、唯は炭酸で乾杯した。
それから料理をつまみつつ、尽きないおしゃべりをした。
特に絵梨香はアルコールが入ったせいか、やたらよく話す。
実は、絵梨香はそれほどお酒に強くない。
むしろかなり弱い部類に入る。
それでも、酔っ払うことはなかった。
そもそも今までの人生で酔っ払うまで飲まなかったのだ。
理由は簡単。
梨華もお酒に弱いのに、絵梨香まで飲んでしまうと収拾がつかなくなるから。
でも、今日は梨華がいない。
しかも、久しぶりに唯との再会とあって、ビールがすすんだ。
「んふふふっ♪」
さっきから熱っぽい視線を送ってくる。
「大丈夫?」
「え〜、なにがぁ?全然、大丈夫だよ。」
「ホンマかいな?」
「大丈夫だって。んふふっ♪」
当然、唯はここまで酔っ払った絵梨香を見るのは初めてだった。
ロレツが回ってないし、さっきからなんかボディタッチが多い。
「そうだぁ♪」
絵梨香はニヤリとした。
それがなにか唯には嫌な予感にしか思えない。
「唯ちゃん、一緒にお風呂は入ろぉー。」
「ふぇ?」
- 516 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2006/12/31(日) 18:12
-
「絵梨香ちゃん、完全に酔ってるやんか。お風呂とか入らないほうがええんちゃう?」
「酔いを飛ばすだけだってぇ。」
「でも、止めたほうが…」
「いいから、いいから。」
そう言いながら立ち上がっても、なんだかフラフラしている。
酔っているときにお風呂に入るのは危ない気もするが、大丈夫なんだろうか?
浴室に着くとさらに絵梨香はおかしくなってきた。
「んふふふっ。唯ちゃんのおっぱい、おっきい♪」
ツンツン♪
「ちょ、ちょっと!」
明らかにいつもの絵梨香ではないのだが、
なぜだか唯の心臓は高鳴っていた。
(なんやろ。この感覚。)
なんだかワクワクする。
ジェットコースターに乗るときのような、危ない領域に踏み込んでいく感じ。
手を離してしまえば、あっという間に落ちていきそう。
それは絵梨香のせい?
恋人がいる絵梨香と2人っきりだから?
イケナイ恋に落ちた自分に胸高鳴っているのだろうか?
「……唯ちゃん。」
「へ?」
「入らないの?」
もうとっくに湯船に浸かっていた絵梨香が
脱衣所でモジモジしている唯を不思議そうに見ていた。
- 517 名前:― 投稿日:2006/12/31(日) 18:13
-
- 518 名前:ゆーたん 投稿日:2006/12/31(日) 18:13
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
そして、来年もよろしくお願いいたします。
- 519 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/02(火) 21:32
- あけましておめでとうございます。
なんとも続きが気になる展開ですね!
岡田ちゃんはもちろんですが、全員が幸せになってほしいですね。
楽しみに待ってます!
- 520 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/05(金) 17:27
- アッー!
アッー!
四つん這いになれば別の展開にしていただけるんですね?orz
今年もよろしくおねがいします
- 521 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/08(月) 23:54
- うわあ何やってんのこの人オイ!
…突っ込みつつニヤケてる自分が不満ですが明けましておめでたくよろしくお願い致します
- 522 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/10(土) 00:51
- ゆーたんさんの我愛美勇傳(美勇伝大好き)
なんで続きマッテマス(^▽^)
- 523 名前:ゆーたん 投稿日:2007/02/12(月) 17:38
-
>>519 名無飼育 様
気になったまま続きをどうぞ。
ハッピーなエンディングになるかは…???
>>520 名無飼育 様
残念ながら、別の展開にはならないです。
予想通りの展開になるとは限らない…かも。
>>521 名無飼育 様
今年も突っ込みつつニヤケながら、おつき合いください。
>>522 名無飼育 様
お、台湾影響で中国語ですね。感想も
从 ^▽^)<マッテマス
それでは更新を再開します。
- 524 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:39
-
別にハダカを見られるのが嫌というワケじゃない。
前に一緒に入ったこともあるし、それにオンナノコ同士だし。
けど、好きな人の視線を感じながらお風呂に入るのはかなり恥ずかしい。
「……そんなに見んといて。」
そう言ってもお構いなし。
絵梨香は尚もニヤニヤと唯への視線を向けている。
「いいじゃん。見たって。」
「……恥ずかしいねん。」
「大丈夫だって。唯ちゃんのことならなんでも知ってるし。」
そんな言葉にさらにモジモジ。
恥ずかしがる唯を絵梨香はさらにジロジロ。
モジモジ。ジロジロ。
モジモジ。ジロジロ。
なんともじれったい時間が流れる。
ふと唯は今の絵梨香の表情が誰かに似てると思った。
物凄く近い存在で、今の絵梨香にそっくりな人物。
(石川さんに似てきたんかも。)
ちょっとため息。
なんか複雑な気持ち。
一緒にいる人の影響によって、人間は変わる。
だからといって、梨華に似なくても良いのにと唯は思ってしまう。
- 525 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:40
-
「早く入って。」
「う、うん。」
言われるまま急いで湯船に浸かった。
出来るだけ見られる時間が少ないように。
湯船に入ってしまえば少しは恥ずかしさがなくなる。
唯はそう思ったのだが、今日の絵梨香は積極的だった。
2つの肩が並ぶと、それを待ってましたとばかりに体を密着させてきた。
「ねぇ、唯ちゃん♪」
「ちょ、ちょっと!」
浴槽はかなり狭い。
ただでさえあまり身動きが取れない状況なのに、絵梨香はさらに近づいてくる。
絵梨香の胸が唯の腕に当たる。
むしろ押し付けてきているかのように。
柔らかい感触に唯は顔を赤らめた。
「えへへっ♪ 唯ちゃん♪」
「な、なにぃ?」
「なんでもなーい。」
「なにぃ?」
「んふふっ。」
もう絵梨香の目はトロンとしていて、視点が定まっていなかった。
なんか危ない感じ。
(ホンマに大丈夫やろか?)
いよいよ本当に心配になってきた。
このままだと湯船で倒れてしまいそうにも思える。
- 526 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:40
-
「絵梨香ちゃん、もう上がったほうが…。」
「えっ?」
「上がったほうがええんちゃう?」
首をブンブン横に振る絵梨香。
「このまま浸かってたら確実に倒れるで?」
また首を横に振る。
誰に似たのか頑固者の絵梨香。
けど、顔は赤くなってきているし、
体も湯船の中でフラフラしてきている。
「…やっぱ出たほうがええよ。」
「だって、やっと唯ちゃんと一緒に入ったんだからまだここにいたいの。」
「そんなん言っても…。」
これは無理にでも上がらせたほうがいいのではないだろうか。
絵梨香の体ぐらいなら、唯でもなんとか運べそうな気がした。
が、絵梨香からの次に発せられた言葉は想像の範囲内を超えていた。
「……我慢できないの?」
「は、はい?」
「我慢できないんでしょ?」
今度は何を言っているのだろうか?
唯はけげんな顔をした。
酔いとのぼせで、完全におかしくなったのだろうか。
- 527 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:40
-
「もぉー、仕方ないなぁ。」
「え?なに?」
「そんなに我慢できないんだったら、お姉さんがいろんなコト教えちゃう♪」
「ま、また、そんなこと言って……っ!?」
唯は絵梨香を見たときにハッとした。
さっきのトロンとした眼差しから
ちょっと真剣なものに変わったような気がした。
気がしただけかもしれないが。
それが何を意味するのか、その時の唯はわからなかった。
次の瞬間、体をひょいっと持ち上げられる。
いきなりのことだから驚くのと同時に
酔っ払いの絵梨香のどこにそんな力があったのかがわからない。
「え?えぇ?」
「じゃあ、行こっか?」
「ちょ、待って!どこに?待って!」
待ってと頼んで待ってくれるほど、今の絵梨香は親切じゃなかった。
裸のまま抱えられ、お風呂場を出て体も拭かずにリビングへ。
その姿はまるで王子様とお姫様。
けど、お姫様はここで、このあとの運命を知ることになる。
リビングの先にあるのはピンク色のシーツのベッド。
……ベッド?
つまり……。
唯はそれに気付くにはあまりに遅すぎた。
- 528 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:40
-
「え、絵梨香ちゃん、アカン、アカンてっ!」
唯の叫びも空しく、そのまま放り投げられた。
ベッドのクッション力で体が弾む。
スローモーションのように裸の唯が宙に浮び、またベッドに墜ちる。
「ちょ、ちょっと…!」
ゆっくりとベッドに墜ちた唯の体に絵梨香が覆いかぶさる。
お酒の匂いの吐息を鼻先に感じた。
前に東京にいた頃は毎晩のように梨華と絵梨香の深夜の秘め事を見せられてきたが、
まさかそれが自分の運命になろうとは。
「やっ!やめて!」
唯も必死だった。
いくら好きな人だとはいえ、こんな形でこんな日は迎えたくなかった。
だって、今の絵梨香はどう見ても唯の好きな絵梨香じゃない。
「え、絵梨香ちゃんには石川さんがおるやないか!」
最後の抵抗。
唯の叫びにキョトンとする絵梨香。
そう、絵梨香の恋人は梨華。
このまま唯を抱くこと、イコール浮気。
よく考えればわかること。
けど、酔っ払いの思考回路は完全にショート。
考えた結果、絵梨香が導き出した答えは。
- 529 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:41
-
「んふふっ。今日はいないじゃん♪」
「い、いない、けど……。」
そういう問題じゃなくて!
そういう問題じゃ……ないけど。
今度は絵梨香の吐息が唯の耳にかけられる。
体中に電気が走るような衝撃。
初めて味わう大人の快感。
なぜだか、妙に艶っぽい絵梨香に心臓は高鳴るわけで。
逃げようと思ってももう逃げられない。
(石川さん。今夜だけは許して。)
そっと梨華のことを想いつつも、唯はそっと目を閉じた。
- 530 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:41
-
********
- 531 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:41
-
ベッドの中で蠢く影。
もがくように布団から顔を出すと、
今度は頭を叩かれたような痛みに襲われた。
「痛ーぁ。」
三半規管がおかしくなったかのように、
どちらが上で、どちらが下かわからなくなる。
スイカ割りのバットでぐるぐる回ったときのような感じだった。
完全なる二日酔い。
絵梨香は今まで経験したことのない頭痛と闘いながら、それでもなんとか視線を定めていく。
ぼんやりとした天井が次第にはっきりするのを確認すると、
自分の喉がカラカラになっていることに気付いた。
「…喉渇いた。」
絵梨香は息を吐き、そしてベッドから降りた。
と、ここでようやく自分が裸であることがわかった。
一瞬だけ驚く。
けど、別になんてことはない。
いつもは梨華と裸のまんま朝を迎えることが多い。
だから、当たり前といえば、当たり前。
でも、当たり前じゃないこともこの世の中にはあるわけで。
いつも隣にいるのは梨華。
だけど、今日は何かが違う雰囲気。
ふと、隣で寝ている人影に目をやった。
長い髪がむき出しになっている肩にかかる。
ちょっと長めの髪でくるくると巻いてあるのが特徴的。
つまり……梨華じゃない誰かであるわけで。
- 532 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:42
-
「……ゆ、唯ちゃん?」
え?
えぇ?
なんで唯が裸で隣に寝ているのか絵梨香には理解不能。
「んっ…。」
色っぽくベッドの中で寝返りをうつ。
唯はこちら側を向いたので、もう丸見えだった。
完全に産まれたまんまの格好。
「う、そ……。」
目の前にある現実が信じられない。
どうして唯と一緒に裸で寝ていたのだろう。
絵梨香の頭の片隅にあることが浮かぶ。
『酔った勢いでヤッちゃった……?』
自己嫌悪に陥りそうなときに、唯の目がパチリと開いた。
お互いの目があう。
「いや、あの、その……。」
絵梨香はかなり慌てた。
なんて言葉で説明すべきが思いつかない。
「……おはよ。」
「え? あ、おはよ。」
唯のちょっと恥ずかしそうな笑顔に絵梨香の動揺は隠せない。
心臓が急に締め付けられるように苦しい。
- 533 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:42
-
「絵梨香ちゃん、昨日何したか覚えてへんとちゃう?」
ギクリ。
「お、覚えてないけど…。」
絵梨香は唯への視線を逸らせてから言った。
もう言い訳は出来ない。
正直にいくしかなかった。
「そうやろーと思った。」
唯はシーツを顔まで引っ張ってみせた。
その仕草が可愛かった。
「うちはちゃんとゆーたんやから。「絵梨香ちゃんには石川さんがおるのにいいの?」って。」
「そ、そんなこと言ったの?」
「言った、言った。そしたら絵梨香ちゃん「今日はいないじゃん」って。」
「そ、それから……?」
問題なのはそれから先。
聴いてしまうのは物凄く怖い。
でも、聴かないことには始まらない。
「それからはぁ …秘密♪」
「えぇ!?」
秘密。
意味深過ぎ。
というか、それはもう決まってるような言い方の秘密。
- 534 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:42
-
「まだ眠いなぁ。」
「そ、そう?」
「せやから、もうちょっと寝かせて。」
「う、うん。」
思い出せ、思い出せ。
けれど、どんな記憶の糸を辿っても思い出せない。
あぁーっ!!
一緒におしゃべりをした。
夕飯を食べた。
それから、それから、絵梨香はお酒をいっぱい飲んだ。
そこで記憶は途絶えてるのだ。
そして、絶望の淵に立っている絵梨香を
底に突き落とすようなことを唯が呟いた。
「……うち、初めてだったんやで。」
「ふぇ?」
「……初めてだったのに覚えてへんのやろ?」
「……。」
「絵梨香ちゃん、もうええよ。寝かせて。」
しばらくして、呆然とする絵梨香をよそに
唯の静かな寝息だけが聞こえてきた。
- 535 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:43
-
慣れないお酒なんて飲むものではない。
後悔。
酒は飲んでも飲まれるな。
ここでどんな慰めの言葉をかけてとしても、今の絵梨香には効かないだろう。
「私、最悪だ…。」
やりきれない気持ち。
梨華という恋人がいるにも関わらず、自分は…。
今にも泣き出しそうな絵梨香。
裸のまま、もうどうすることも出来ない。
しかも、今日はさらに悪いことが起こるのだから。
バタン!
「えっ?」
「ただいまぁ♪」
この声は…
「り、梨華ちゃん……。」
- 536 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/02/12(月) 17:43
-
なんで?
なんで梨華が?
両親と逢っているはずの梨華なのに。
夕方に帰ってくるはずが、こんなに早い時間に帰ってこようとは。
「絵梨香ぁ、帰ったよ…… え?」
梨華が部屋に行った瞬間、
視界に飛び込んできたのはベッドの上で裸の恋人。
もちろん隣で寝ている唯は見えないはずだから良いかもしれないが、
これはどう考えても怪しすぎる状況。
「ど、どういうこと?」
どういうことと言われても、
もうこっちが聴きたいくらいな訳で。
「……エヘ♪ お、お帰り。」
もう絵梨香は笑うしかなかった。
- 537 名前:― 投稿日:2007/02/12(月) 17:43
-
- 538 名前:ゆーたん 投稿日:2007/02/12(月) 17:44
-
本日の更新は以上です。
次回へ続きます。
- 539 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 00:28
- ( ^▽^)<ゆーたんノリさん?
- 540 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 16:33
- 絵梨香のバカー!!!
といいつつ終わり方にちょっとウケてしまったし前半はニヤケてしまった
- 541 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/15(木) 01:10
- がんばってください!
私達には 無理だな!
- 542 名前:ななしかんさい 投稿日:2007/03/02(金) 01:05
- いやあ、スゴイ展開。三角関係・・・・っていうのかな?
今後に大いに期待
- 543 名前:ゆーたん 投稿日:2007/03/19(月) 16:06
-
>>539 名無飼育 様
川 ´^`)<ノリさんちゃうで。
>>540 名無飼育 様
人間、酔うと何するかわからないものです。
>>541 名無飼育 様
無理ですか?そう言わずに…。
>>542 ななしかんさい 様
今後の展開に期待してくださいね。
それでは更新を再開します。
- 544 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:07
-
梨華には幽霊である唯の姿は見えない。
だからこの状況でも慌てる必要はないのだ。
なのに、絵梨香は冷静を装おうと必死になっていた。
「なんで裸なの?」
「いや、あの、そのぉ……。」
口ごもる絵梨香をじっと見つめる梨華。
まさか「酔った勢いで幽霊と寝ちゃった」とは口が裂けても言えない。
絵梨香にとって、昨夜の出来事は墓場まで持っていくしかないのだ。
とりあえず思いついた言い訳は…。
「急に裸で寝たくなっちゃって。裸で寝たほうが開放感あるし……。」
「ふぅ〜ん。」
「それに梨華ちゃんと…… その…『する』ときは、いつも裸でしょ?」
「昨日はあたしいなかったじゃん。」
「そ、それは…。」
うろたえる姿が逆に怪しく映る。
堂々としていれば良かったのだろう。
こんなに慌てふためく姿に梨華の不信感は増すばかりだった。
なにやら不穏な雰囲気が流れていた。
梨華は視線を絵梨香から枕を移した。
「な、何見てるの?」
「髪の毛……。」
髪の毛を手にとって見ている。
幽霊でも髪は抜けたらどうなるのだろうか?
もちろん、そんなこと絵梨香にはわからない。
もし唯のだったら……。
絵梨香はごくりとツバを飲んだ。
- 545 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:07
-
「……この髪はあたしのか。」
「あ、当たり前じゃないですか。梨華ちゃん以外の髪の毛がここにあるわけないじゃないですか!」
ほんのちょっと安心した。
唯の髪の毛ではなかった。
しかし、今度は、梨華は絵梨香の体をジロジロ見てきた。
「な、なに?」
「変な跡とかないかなぁって。」
変な跡?
梨華は絵梨香の体の隅々を入念にチェックし始める。
また絵梨香にとって生きた心地のしない時間が訪れた。
首筋、胸、おへそ…
怪しそうな部分を見られていく。
「……ないみたいねぇ。」
「当たり前じゃないですか!」
「ふぅーん。」
梨華は、まだ疑い深げに見ている。
が、やがて深いため息をついた。
どうやら諦めたようだ。
- 546 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:08
-
それを見て絵梨香はようやくホッとしたが、
その安心感は間違いだと気付かされることとなる。
梨華の方を見るとなんだか頬が紅くなっているのだ。
なぜに急に頬を紅くしているのか、わからなかった。
それになぜか上目づかいしながら、絵梨香のことを見ているし。
「梨華ちゃん?」
「……ヤバイ。絵梨香のハダカ見てたら、なんかムラムラしてきちゃった。」
「へ?」
こんな状況でムラムラとか言い出しますか?
やがて、このムラムラがとんでもない結論に結びついた。
「あ〜、わかったぁ♪」
「なにがですか?」
「絵梨香もぉ、昨日の夜はムラムラしちゃって『ひとり』でしちゃったんでしょ?」
絵梨香の目がテン。
ひとりでしちゃった?
「だから裸なんでしょ?」
「そ、そんなことないです!」
「もぅ、絵梨香ったらエッチなんだから!」
絵梨香にとって、まったく想像のしない方向に話が進みつつある。
梨華は時にとんでもない妄想にふけるのだ。
「そうだよねぇ。お年頃の女の子だもんねぇ。独りぼっちの夜にそーゆーこと考えちゃうよね。」
勝手に答えを導き出して満足したのか、
梨華は絵梨香のいるベッドに近づいてきた。
上着のボタンを外しながら…。
- 547 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:08
-
「梨華ちゃん?」
「ん〜?」
「な、なにしてるの?」
梨華は赤らめた顔に笑みを浮かべていた。
確実に何か企んでいる表情。
「だってぇ、火照っちゃったんだもん。」
「ふぇ?」
「絵梨香のせいだからね。」
あんなに絵梨香のことを疑いの目で見ていたのに
いつの間にか体が火照ってしまったらしい。
梨華は服を一枚ずつ脱いでいく。
お世辞にも白くとはいえないが綺麗な体があらわになっていった。
絵梨香も思わず見とれてしまう体。
何度も見ているはずなのに、なぜだか見惚れてしまう。
でも、見惚れている場合じゃなかった。
「抱いてよ。」
ドキッとするような梨華のちょっとかすれた声。
その言葉が早いか、行動が早いか
そのまま口を塞がれた。
ここまでの行動はなんとか予想出来たが、絵梨香は逃げ腰になってしまった。
すぐそこで唯が寝ているし、
それに昨晩のこともあるので素直に梨華を受け入れることが出来なかった。
愛しき恋人であっても。
しかし、そんな絵梨香の態度はお構いなしに梨華は強引に求めてくる。
- 548 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:08
-
「やぁ…。」
梨華の舌が指が敏感なトコロを攻めてくる。
弱い部分を知っている梨華。
絵梨香はいつも通り簡単に理性の範囲を超えてしまった。
情けない。
だけど、気持ち良い。
自分の感度の良さにちょっと驚きつつも愛する梨華を受け入れ、
いつものようにベッドの上で絡み合い始めた。
キスを繰り返すうちに大胆になっていく。
絵梨香は夢心地のまま枕の中で薄目を開いた。
梨華の顔が見える。
なんだか凄く楽しそう。
「絵梨香ぁ、なに笑ってるの?」
「んー、なんとなく。」
恋人は嬉しそうにもう一度口づけをしてきた。
絵梨香にとって至福のとき。
すぐ隣で唯が気持ち良さそうに寝息を立てているというのに……。
- 549 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:09
-
求める梨華。
それに応える絵梨香
何にも知らずに寝ている唯。
3人は物凄く密着している。
今までこんなに密着したことはなかったのに。
「んん……。」
ところが突然、隣の枕から声が聞こえてきた。
途端に絵梨香は夢心地から引き戻された。
唯が寝返りをうったのだ。
今がイイトコロの絵梨香とはいえ、さすがに嫌な予感がしてきた。
「ま、待って。」
「なに?」
「やっぱり朝からはやめません?」
絵梨香は改まって提案する。
その言葉に梨華はふくれっつらを作ってみせた。
「な〜にぃ?ここまで来て、あたしのこと抱けないっていうの?」
「そうじゃないですけど…。」
そりゃ、一緒に暮らしてたときは何度も唯に見られた。
羨ましそうに見ていた。
それは梨華と絵梨香が恋人同士だから仕方のないこと。
だけど、こんなに近くで、
しかも昨晩の過ちがあって半日も経ってないのに。
- 550 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:09
-
絵梨香は呼吸を整えながら梨華を見てみた。
潤んだ瞳。
乱れた髪。
艶っぽい裸。
これはどう考えても愛さずにはいられない。
抑えようとする気持ちが湧いてこない。
(愛したい。)
単純で不器用な人間の本能ままの行為。
親友である唯よりも恋人である梨華を。
昨日の過ちは過ちとして記憶の片隅に。
結局、人間は欲張りなのだ。
目の前にある欲望から逃げ出すことが出来ない。
一瞬だけの嫌な予感は全てゴミ箱に。
絵梨香の脳はあるがままを選んだ。
「…梨華ちゃん。」
「なに?」
「声出しちゃダメですからね。」
「…なに?そんなプレイなの?」
「違います!」
隣で寝ている唯を起こさないためなのだが、梨華は違った風に捉えたらしい。
けど、もうそんなことはどうでもよかった。
愛するままにカラダを求める。
人間として。
動物として。
体を入れ替えて下になる梨華。
上になる絵梨香。
隣で寝ている唯。
もう後戻りは出来ない三角ピラミッド。
やめればいいのにと思ってしまうが、もうここまで来たら止まらない。
絵梨香は梨華に優しく触れていった。
- 551 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:09
-
「あ、あんっ……。」
切なげな梨華の声。
声を出さないなんて当然無理な話。
絵梨香は近くにあったタオルを梨華に噛ませた。
「んぐぐっ。」
「これで我慢してくださいね。」
ちょっと涙目になっている梨華は首をぶんぶん縦に振った。
まるでこれから拾われようとしている子犬のように。
絵梨香はそっと指でなぞっていく。
自分の知っている梨華の気持ち良い場所を気持ち良い強さで。
髪を乱して徐々に壊れていく梨華。
「ん、んっ!」
不規則なリズムで上下に軋むベッド。
愛する人が本能のまま体を撓らせる。
徐々に速くなっていく呼吸。
汗ばんでくるお互いの肉体。
だけど、全ては絵梨香に委ねられている。
そのまま一気に昇らせるのも、回り道するのも絵梨香次第。
と、絵梨香がそっと指を中心へと伸ばしたその瞬間。
まさに突き刺すような冷たいものを感じた。
- 552 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:09
-
それが何なのか。
絵梨香には本能的になにかを察知していた。
それが最低最悪の事態だということも。
唯が大きく目を見開いてこちらを見ている。
寝ていたはずの唯が。
恐らくベッドがあまりに激しく軋むので起きてしまったのだろう。
唯は梨華とは違った意味で涙目になっていた。
おそらく悲しみと怒りとを含んだ涙。
ヤバイ。
やがて、唯の頬へ悲しみと怒りの涙が一気に溢れ出す。
こうなることは絵梨香自身も分かっていた。
だけど、自分では止められなかったのだ。
「なんで……?」
ポツリと唯が呟いた。
とても小さく、震える声で。
「昨日のはなんだったん?」
もちろん、絵梨香の耳にもそれは届いていたが、
返す言葉もなかったし、仮にあったとしてもこんな状況で返せないだろう。
- 553 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:10
-
絵梨香は硬直したまま視線だけを梨華の方へ逸らした。
梨華は突然動きが止まった恋人を怪訝そうに見ている。
「絵梨香?」
梨華からの問いにも絵梨香は黙ったまま。
黙ったままただ梨華を見つめていた。
「……どうせ、絵梨香ちゃんにとってうちなんてちっぽけな存在なんやろ。」
唯が心に突き刺すような言葉を言い放った。
そう言われても仕方なかった。
昨日の夜は唯を。
今日の朝は梨華を。
絵梨香自身もわかっている。
自分が最低な女だということは。
だけど、唯は決してちっぽけな存在ではないのだ。
大事な親友の一人として。
心配もいっぱいした。
一緒に大笑いもした。
ちっぽけな存在じゃない。
むしろ絵梨香の心の大きな存在だった。
ただ、一番を占めていたのが梨華だっただけ。
「絵梨香、どうしたの?」
「……え、いや。」
絵梨香が梨華に気を取られているうちに、唯は裸のままベッドから出た。
そして、絵梨香のことを睨んだ。
「さよなら、絵梨香ちゃん!今度こそもう二度と逢わへんと思うけど、石川さんとお幸せに!」
――― もう二度と逢わない?
なにも言い返さない絵梨香を尻目に、
唯は裸のまま玄関の方へと走り出した。
- 554 名前:あんなぁ、うち幽霊やねん 投稿日:2007/03/19(月) 16:10
-
この状況に絵梨香は思わず大きな声を出した。
「ちょ、ちょっと待って!」
呼び止める声もむなしく、ドンと扉が閉まる音が響いた。
追わなくちゃ。
追いかけて連れ戻さなくちゃ。
また唯がどこかに行ってしまう。
絵梨香はベッドを抜け出そうとした。
しかし、今度は絵梨香の思う逆方向に腕を引っ張られた。
「絵梨香?」
「え?」
「どうしたのよ?」
梨華だった。
そう、まだ行為の途中なのだ。
梨華は突然豹変した絵梨香を心配そうに見つめている。
絵梨香は迷った。
追うべきか、追わないべきか。
唯を失うのは怖い。
でも、もし追ったら梨華はどうなる。
梨華だって絵梨香のこと不審に思うに決まっている。
ただでさえさっきまで疑惑の目で見られていたのだ。
急に両方を失う怖さが絵梨香を襲った。
そう考えた途端、追いかける勇気がなくなってしまった。
- 555 名前:― 投稿日:2007/03/19(月) 16:10
-
- 556 名前:ゆーたん 投稿日:2007/03/19(月) 16:10
-
本日の更新は以上です。
次回へと続きます。
- 557 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/19(月) 16:58
- 待ってました!!
これはまた予想外な展開で・・・
この先どうなるのか全く予想がつかないです。
気になる今後に期待してます!
- 558 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/05(木) 10:18
- 作者さんのストーリーの展開力に脱帽です。
一体どーなってしまうやら(汗
- 559 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/05/13(日) 01:56
- マダかなぁ〜(´Д`)
- 560 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/29(金) 03:30
- まだ待ちます。。
- 561 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/19(木) 00:26
- まだ待ちつづける。。
- 562 名前:関西人 投稿日:2007/07/27(金) 23:27
- ひたすら待ってます
- 563 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/01(水) 13:25
- あちらで連載を再開されたということはこちらは放棄ってことですか?
- 564 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/02(木) 15:46
- わしは待つ作者を信じて
- 565 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/07(火) 01:29
- 563さん>あちらってどちら??
作者様スレ汚し申し訳。
- 566 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/09(木) 00:47
- 作者's HP
- 567 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/10(金) 23:34
- それってどこ?
- 568 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/17(金) 11:37
- >>566
もったいぶらないでアドレス教えてくれないかのう
- 569 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 00:31
- >>1
なら俺に憑依してみろ?
- 570 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/08/26(日) 01:47
- 堕ちれ
- 571 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/07(金) 01:48
- 作者様が戻ってくるのをひたすら待ってますよJ~~
- 572 名前:ななしかんさい 投稿日:2007/09/23(日) 14:11
- >>566さん
こんなこと以前もありました。
あえて作者自身の反応を待ちます
作者さん、くじけないでがんばって下さい。
- 573 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/09(火) 22:32
- 作者さんいつまでもお待ちしてます^^
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