DREAMER2
- 1 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:12
- 前作の続きで、ミキティ主演の学園物語です。
前スレはこちらになります。
http://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1090602454/
ではでは、よろしくです。
- 2 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:13
- ハイハ〜イ、久ぶりの登場、藤本美貴で〜す!
とうとうこのDREAMERも2スレ目に突入です!
ここからも美貴は大暴れでいきますので、応援よろしくね♪
さって、ここからはまだ出てきてない人達も登場するよ。
王道やら超マイナーやら懐かしいCPも出るってことで
そちらもお楽しみにね。
もちろん、メインは美貴とあの子です!
全然進展してない?いやいやこれからが美貴の見せ場ですよ〜。
まぁ、美貴の話しはここら辺にして、第二章スタート!
- 3 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:15
- 夏も中盤となって、暑さもピークに達していた。
絵里、さゆみ、れいなの三人は、ライブハウス、タンポポの楽屋の大掃除をしていた。
タンポポの経営者である圭織は、ある一つのルールを作っており、それは月に一度、
ライブをするバンドに掃除をさせることにしていた。
掃除代をケチっているわけではない。
確かに圭織は、7年も前から同じ服を着ているくらいセコイらしいが、
現に経営は順調で客足も良好だ。
ただ、音楽を愛する圭織は、自分の使う楽器などを大切に使ってもらいたい、
それは楽屋も同じこと、そう思っているためだ。
そして、つい二日前の練習中に、突然圭織にそう言われたのだ。
圭織の頼みとなると、絵里達は断ることができない。
しかし、美貴と愛はバイトが入っているためにくることができなかった。
そのために、絵里達は三人で朝から掃除をしていた。
楽屋の床を一通り磨いたれいなは、額に浮かんだ汗を拭ってモップを壁に立てかけた。
- 4 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:16
- 「う〜、暑すぎっちゃよ・・・。」
れいなは、近くに置いてあるロッカーに張り付いた。
「れいな、何してんの?」
隣でロッカーの整理をしている絵里は、れいなを見上げて聞いた。
「ひんやりして気持ちよか。絵里もやると?」
「絵里はいいよ・・・。」
「それにしても、美貴姉達がいないときに限って大掃除やけん、
飯田さんもタイミング悪かよ。」
「仕方ないよ。今日くらいは我慢して、絵里達だけで終わらせようよ。」
絵里は、軽く笑ってれいなを慰める。
「ったく、美貴姉達には今度奢ってもらわんと・・・ん?」
そこでれいなは、さゆみが机の前で突っ立っているのに気付いた。
さゆみは、何かを手に持ってじっと見つめているようだ。
鏡でも見つけて自分に見惚れてるのかと思ったが、どうやらそれも違うらしい。
- 5 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:17
- 「さゆ、何見てると?」
「どうしたの〜?」
れいなと絵里は、さゆみに近づいていく。
さゆみが見ていたのは、一枚の写真だった。
「あ〜、ごめん。ちょっと懐かしかったもんでね。」
そう言って、さゆみは二人にも写真を見せる。
写真には、まだ美貴のいない四人のhigh bredgeが写っていた。
絵里、さゆみ、れいなの三人は、愛を囲って楽しそうに笑っている。
愛だけは、小さな笑みを浮かべているが、カメラからは視線が外れていた。
「机の中を整理してたら見つけたの。」
「これって確か・・・。」
「うん、初めて高橋さんと一緒に歌った時のだよ。」
「へ〜、随分昔に感じるっちゃね・・・。」
- 6 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:18
- 一年程前、
「ちょっと無理だね〜。もう少し大きくなったらきてよ。」
あるライブハウスの管理人にそう言われて、絵里達三人はため息をついて外に出た。
「ハァ、ここもだめだったか・・・。」
「もう最悪〜。」
「何で中学生だとだめっちゃ。ここでもう何件目とよ・・・?」
絵里達は、スタジオを借りるために様々なライブハウスを回っていた。
しかし、決まって言われることは、今はだめ、もう少ししたら、とのことだった。
やはり、中学生、しかも女の子だと実力を甘く見られるようだ。
また、中学生相手では金銭面でも問題になってくる。
確かにさゆみもれいなも、バイトができない現状としては厳しいと言えば厳しいが、
生活費をやりくりすれば払えないこともない。
それでも、中学生相手にスタジオを貸してくれるところはなかった。
- 7 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:19
- 「実力だけなら、問題ないはずなのにね。」
「っつうか、メンバー募集のポスターすら貼らせてもらえんて、
どういうことっちゃ?」
「全くだよね〜・・・。」
絵里達のバンドとの出会いは、さゆみとれいなが中学生になって
少ししてからだった。
ある日、れいなは親戚に届け物をしてほしいと、母親にお使いを頼まれた。
本当は面倒だったので嫌だったのだが、先ほど興味のある話しを聞いたので、
お使いを引き受けることにした。
親戚の家は、昔はライブハウスだったそうだ。
しかもそれがまだ残っていると聞いて、れいなはお使いついでに
見せてもらうことにした。
- 8 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:22
- なんでも、潰すのは名残惜しいとのことで残してあるとのこと。
絵里とさゆみも、その親戚とは仲がよかったし暇だったのでついていった。
頼まれた物を届けたれいなは、親戚の叔父に頼んで地下室を見せてもらった。
探検混じりに地下に降りて、奥へと進んでいくとステージがあって、
そこにはドラムとベースが二本立てかけられていた。
その他には、全て撤去されていて何もなかった。
絵里達がぼーっと突っ立ていると、親戚の叔父が入ってきた。
「あれってまだ使えると?」
れいなは、ドラムを指差して叔父に聞いた。
「ああ、まだ使えるよ。たまに整備したりしてるから、音はちゃんと出るよ。
あそこに置いてあるベースもね。他のは痛んでたから捨てちゃったけどね。
なんだったら弾いてみてもいいよ。」
それを聞いたれいなは、興味津々といった感じで叔父を見上げる。
- 9 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:23
- 「いいの?」
「ここは防音のままだから、いくら音を出しても平気なんだよ。
とは言っても、スピーカーも何も無いから、音が出るだけなんだけどね。」
叔父の言葉を聞いて、れいなはドラムに近寄っていく。
ドラムの後ろにある折りたたみ式の椅子を置いて、ドラムの前に座る。
「えっと、これっちゃね・・・?」
立て掛けてあるスティックを二本手に持って、適当にドラムを叩いていく。
タンタンタン
「へ〜、れいなカッコイイじゃん!」
「ねぇ、さゆ達もやってみようよ!」
絵里とさゆみは、ベースまで駆け寄っていく。
- 10 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:23
- 「よっと!」
「これって、以外と重い・・・。」
さゆみは何とか片手でベースを持って、指で弾こうとする。
ベンベンベン
「あれ?」
触ったことがないのだから、自分でまともに弾けないのはわかっている。
それでも、ちゃんとした音が出ないことにさゆみは首を傾げていた。
「さゆ、違うよ。確かね・・・あった!」
絵里はベースのあった辺りを見渡して、落ちていたある物を拾った。
小さい三角状の、プラスチックのような物だ。
- 11 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:27
- 「絵里、何それ?」
「"ピック"って言うんだよ。これを指で持って・・・。」
絵里は左手で弦をつまんで、簡単に弾いてみる。
すると、それらしい音が出てきた。
「へ〜、絵里すごいじゃん!さゆもやりたい!」
さゆみもピックを探すが、周りには落ちていなかった。
さゆみが泣きそうな顔をしていると、叔父がさゆみに近づいてきた。
「はい、これだろ?」
叔父はポケットの中を探ると、さゆみが欲していたピックを差し出した。
「わ〜、ありがとうございます!」
「いつも持ってるんですか〜?」
隣で見ていた絵里が、叔父に聞いた。
- 12 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:28
- 「昔は私もベースなんかを弾いたりしていたからね。ライブハウスをやめた
今でも持ってないと、落ち着かないんだよ。」
「そうなんですか〜。」
「やった〜!これでさゆも弾けるよ。絵里、音合わせてみよう!」
「うんっ!」
叔父が指導しながら、絵里とさゆみはベースを弾いていく。
それからしばらくして、音を合わせることはできなかったが、
弾くだけならばなんとかできるようになった。
「やっと弾けた・・・ベースって難しいね。」
「そうだね〜。」
「叔父さん、ドラムもできるとね?」
それまでドラムを叩いていたれいなが、難しそうな顔をして叔父に聞いた。
- 13 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:30
- 「それなりにはできるけど、どうかしたかい?」
「同じように叩いてるけん、音がたまにずれるのは何でかなって・・・。」
「それはね、叩く位置によって違うんだよ。ちょっと貸してみて。」
叔父がドラムを叩くと、安定したリズムで音が鳴り響いていく。
れいなは感心して叔父を見ている。
「まぁ、こんな感じかな。そういえば、こんな時間までいて平気なのかい?」
叔父の腕時計を見せてもらうと、時刻はもう六時を過ぎていた。
近くとはいえ、どれだけ早く歩いても30分はかかる。
「もうそんな時間なんだ〜・・・。」
「もっとやりたかったね。」
「またきなよ。家内には言っておくから、いつでもきてもいいよ。」
叔父の言葉に、絵里達は目を輝かせる。
「いいんですか!?」
「うん。三人ともセンスあるから、練習すればもっとうまくなるよ。」
絵里達は、叔父にお礼を言ってその日は帰路についた。
- 14 名前:konkon 投稿日:2005/05/04(水) 03:30
- 今日はここまでです。
- 15 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:33
- それからは、時間があれば絵里達三人は、親戚の家に練習にきていた。
本を読んで勉強したり、叔父がいる時には指導してもらったりしていた。
少しづつうまくなっていく自分達が、とても嬉しかった。
今となっては、まともに一曲弾けるレベルまでに達していた。
いつかは人前で弾いてみたい、いつかは最高のバンドを作りあげたい、
そう思うようにまでなっていた。
しかし、上達すればするほど、知ってしまうこともあった。
それは、叔父の古びたスタジオでは設備が悪くて、音がまともに出ないこと、
ここでいくらうまくなっても、身内以外の誰かに聞かせることはできないこと、
さらには、ギタリストもボーカリストもいないことだった。
絵里もさゆみも、それほど歌がうまいとは言えない。
三人の中で一番歌唱力のあるれいなが歌うと、ドラムの音が
ずれてしまうことが多々あった。
両方やりこなせるほど、れいなは器用なわけではなかった。
- 16 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:34
- 三人が出した結果、どこかのライブハウスを探してライブをやらせてもらうこと、
ついでにギタリストとボーカリストを探し出すことにしたのだ。
それからというもの、何の進展もなしに今に至る。
「ここら辺一体は、全部行ったよね?」
「今日なんか、色々調べまわってけっこう遠いとこまできた挙句に
断られて、あとどっかあると?」
「そうだね〜・・・ん?」
絵里が立ち止まったので、さゆみとれいなも立ち止まった。
絵里が見ている道路の先、そこにはライブハウス、タンポポと書かれていた。
さゆみとれいなも、そこを凝視して見ている。
「あんなとこにもあったんだ・・・。」
「絵里、行ってみようよ!」
絵里達は、そのライブハウスに駆け込んでいく。
階段を降りていくと、受付に一人の女性が立っていた。
- 17 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:37
- 「お客さん、今日は5時からですけど?」
その女性は、優しい口調でそう言った。
「あ、あの〜・・・。」
少しして、絵里が緊張しながら口を開いた。
「はい?」
「あの、スタジオって・・・借りれませんか?」
「・・・あなた達が?」
「はい・・・。」
女性は三人を少し怖い目つきで見渡していく。
「あなた達、今いくつなの?高校生?」
聞きなれた質問に、絵里は小さくため息をついた。
「絵里、私は高一で、あとの二人は・・・中三です。」
「中学生か・・・。」
女性は難しい顔をして、絵里から視線を外す。
どのように断ろうかと考えているのだろう、絵里達には容易くわかった。
- 18 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:38
- 「えっとね〜、悪いんだけどあなた達だけだと貸せないね。せめて、
お父さんとか、保護者がついてればいいんだけど・・・。」
「どうしても、親がついてなくちゃだめってことですか?」
それまで黙っていた、さゆみが口を開いた。
「っていうかね〜、中学生だと年齢的にちょっと問題がね・・・。
ご両親に頼んで、一緒にいれば・・・。」
「れいな達は、自分達の力で夢を掴み取りたかとです。確かに今は
お母さん達に世話になっとるけん、自分のやりたいことは自分達で
叶えたかとです!」
れいなは、真剣な表情をして女性に言った。
「う〜ん・・・。」
「いいんじゃないの?やらせてみなよ。」
受付の奥の方から、そんな声が聞こえた。
奥の方から出てきたのは、サングラスをかけている一人の女性だった。
- 19 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:39
- 「圭織が面倒見てあげればいいじゃん?」
「圭ちゃん、そんな無責任なこと言わないでよ。」
「圭織は難しく考えすぎなの。そんなこと言ったら、私と一緒にいる
"あの子"だって、中学出たばっかだったんだよ?」
「そうは言ってもね〜・・・。」
お互いを圭、圭織と呼び合う女性達は、真剣な表情をして話し合っている。
「もしさ、あの子達が天才的技術を持ってたら、もったいなくない?」
「あのね〜、圭ちゃん達と違うんだから・・・。」
「だから、聞いてみる価値はあると思うけどね。あんな小さい子達が
バンドをやろうとしてるなんて、私からしたら嬉しい限りだけど。」
「まぁ、それも一理あるけどさ・・・。」
いくつか言い合った後に、二人は同時に絵里達を振り向いた。
- 20 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:40
- 「とりあえず、あなた達の曲を一度聴いてみることにします。それによって、
圭織達が認めた場合はあなた達にスタジオを貸すことを約束します。」
「本当ですか!?」
絵里達は、嬉しそうにして顔を見合わせる。
「だけど、認められる実力がなかった場合には、心も体も成長して、
大きくなってからということで今回はあきらめてもらいます。
それでもいい?」
「「「はい!!!」」」
絵里達は、大きな声で返事をした。
「ライブまでそう時間があるわけじゃないし、早く聞かせてもらおうよ。」
「あっ、そうだったね。そういえば、あなた達は何ができるの?」
「えっと、ベースとドラム・・・です。」
「へっ?じゃあ、ボーカルやギターはどうするの?」
「それは・・・ここで探そうかなって思ってまして・・・。」
「う〜ん・・・。」
圭織はどこか納得いかない感じで、神妙そうな顔をしている。
- 21 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:41
- 「いいじゃん、別にさ。ドラムはもうステージに置いてあるから、
あと二本ベースがあればいいんだよね?」
「は、はい!」
「んじゃ先に行っててよ。今から持っていくからさ。」
圭は首を振って、先にスタジオに行けと合図を出す。
絵里達は、周りを見渡しながら会場の中へと入っていった。
「何で圭ちゃんが決めるのよ〜?」
「私はね、やる気があるならやらせてあるべきだと思うんだ。
年齢が子供でも、性別が女であったとしても、そんなのは
関係ないんだよ。私にも同じような経験があったからね。
あの子達は、いい目をしてると思うよ。」
「ん〜、まぁ、聴いてみてから考えることにするか。」
圭織は一息ついてから、受付から出ていった。
- 22 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:41
- 「何か・・・すごいね。」
「うん・・・。」
絵里達は、スタジオを何度も見渡していく。
叔父の家にあったスタジオと全然違っていた。
整備や環境なんかは当然だとしても、どこか空気を重く感じていた。
れいなはステージに置いてある、ドラムの椅子に座る。
スティックを手に持って、ドラムを適当に叩き始める。
「(全然違う・・・同じやけど、違うっちゃ・・・。)」
ドラムの音が、すごく新鮮に感じられる。
ライブなどには行ったことがないので、本物のドラムの音がどのようなものかは
知らなかったが、今れいなは叩いているドラムの音に、ものすごく感動していた。
「へ〜、いい音出してんじゃん。」
ステージ脇の通路から、圭がベースを持ってきた。
- 23 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:42
- 「はいよ。ピックは持ってるの?」
「大丈夫です。持ってますよ。」
「ありがとうございます!」
絵里とさゆみも、嬉しそうにベースを弾き始める。
少しして、圭織が会場の中に入ってきた。
「さあ、始めていいよ。好きな曲でいいからさ。」
圭と圭織は、客席の方で立って見ている。
「やばい、やばいよ!さゆ、すごい興奮してるんですけど〜!」
「でも、すごい面白そうっちゃ!」
「うん、いくよ。絵里達の初めてのライブだよ。」
絵里の合図で、三人は同時に弾き始める。
絵里、さゆみのベースの音と、れいなの激しいドラムの音が響き渡る。
- 24 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:43
- 「(どうしよ〜、すごい楽しい!)」
「(気持ちいい〜♪)」
「(思った以上にやば、これって最高っちゃね!)」
絵里達が弾いている曲は、何度も何度も練習した曲だった。
その努力が実ったのか、絵里達は初めてまともなスタジオであったにも
関わらずに、一度もミスをすることなく弾いていく。
「どう、圭織?やる気がある人間は違うっしょ?」
「ねぇ、圭ちゃん、この曲って・・・。」
「そうだね。まさか、この子達が"これ"を弾くなんてね・・・。
それにしても、すごい楽しそうに弾いてるよね。」
「そうだね・・・。」
「まるで、楽器と心を通わせてるみたいだよ。」
圭と圭織は、楽しげに絵里達の曲を聴いていた。
- 25 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:43
- ゆっくりと曲が終わっていき、圭織は絵里達に近づいていく。
まだ結果も言い渡していないのに、三人共すっきりとした表情をしていた。
「さっそくだけど、圭織の答えを言わせてもらうね。」
「は、はい!」
絵里達は、すぐに表情を引き締める。
「ボーカリストとギタリストがいないんじゃ、話しにならないね。」
「・・・。」
「だから、圭織も探すの手伝ってあげるよ。あなた達に合ったメンバーをね。
圭織はあなた達のことを認めます。とってもよかったよ。」
圭織は、ウインクして三人に言った。
しかし、三人の反応はない。
「・・・?」
10秒、20秒、30秒たっても、絵里達は微動だにせずに固まっている。
- 26 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:44
- 「・・・絵里達受かったんですか?」
「さゆ達もここで弾いていられるの?」
「ここでライブをやれるってこと?」
三人の表情が、少しづつ緩んでいく。
「「「やったーっ!!!」」」
絵里達は、大声を上げて手を叩き合わせていく。
「それでね・・・ねぇ、圭織の話しを聞いてよ・・・。」
全く話しを聞こうとしないので、圭織が呆然としていると後ろから圭に肩を叩かれた。
「随分と面白い子達だよね。圭織も気に入った?」
「そうだね、すごい伸びると思うよ。あの子達はね。」
「うん、私もそう思うよ。んじゃ、私は先に部屋に戻ってるよ。」
そう言って、圭はスタジオから離れていく。
「(それにしても、あの"雰囲気"を持つ子達がまだいたなんてね・・・。
私も負けていられないね。)」
そう思いつつ、圭は口元を緩めて部屋へと戻っていった。
- 27 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:46
- 「やったね。やっとライブができるね!」
「まぁ、もうちょっと成長してからだって言われたけどね。」
あの後、次にきた時に細かいことを話すと圭織に言われて、
絵里達は帰り道を歩いていた。
今の三人は浮かれすぎていて、話しを聞かないとでも思ったのだろう。
「あっ、そういえばさ、明日うちの学校にくるんでしょ?」
「あ〜、そうだったかもね。」
「もちろん、絵里が案内してくれるとね?」
「別にいいけど、二人とも迷わないでよね。」
さゆみとれいなが通う中学では、夏休みに一度でいいから自分のいきたい
高校の見学に、行かなければならなかった。
そこで、さゆみとれいなは絵里の行っている朝比奈学園を、案内して
もらうことに決めていた。
雑談をしながらそれぞれの家に近づくと、その日は解散した。
- 28 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:47
- 次の日、絵里はさゆみとれいなを引き連れて、朝比奈学園の中を歩いていた。
朝比奈学園はとにかく広くて、案内するだけで一時間以上も歩き回っていた。
「ふぅ、少し疲れたね。」
「何でここはこんなに広いっちゃ・・・少し休まん?」
「あっ、じゃあね、休憩するならいいところがあるよ。ついてきて。」
絵里が連れていくところは、どうやら屋上のようだ。
階段を上るだけで、さゆみとれいなは疲れきった表情をしていた。
「何で休憩するのに、こんなに疲れなきゃいけないのよ・・・?」
「まあまあ、ここからの景色って綺麗なんだよ。絵里達の家とかも見えるしね。」
絵里はそう答えて、屋上の扉に手をかける。
その時、今まさに入ろうとしていた屋上から、歌声が聞こえてきた。
絵里は音をたてないように、ゆっくりと扉を開ける。
そして、空いた隙間から顔だけを覗かせる。
そこには、一人の少女が歌っていた。
- 29 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:47
- 絵里と同じ制服を着ているので、朝比奈学園の生徒なのは確かだった。
リボンの色から、どうやら絵里より一つ上の二年生らしい。
「絵里、どうしたと・・・。」
「静かにして。」
さゆみとれいなは不思議そうな顔をして、絵里と同じように隙間から顔を出す。
二人も同じようにして、その少女を見つめる。
少女の歌声は美しく、それでいて響き渡る力強さがあり、全てを包み込むような、
そんな優しさを醸し出していた。
絵里達は、ただ呆然と見つめていた。
いや、見惚れていたと言ったほうが正しいのかもしれない。
少女の綺麗な歌声、容姿の可愛らしさもあるが、何よりも歌っている表情が
とても楽しそうだった。
- 30 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:48
- そして、これが一番の要因だったのかもしれない。
絵里達が出していた雰囲気に似ている、それを肌で感じ取っていた。
絵里達と同じように、何よりも歌が好きなのだろう。
それは誰もが見てわかるような、柔らかい表情をしていた。
「(あの人、すごい上手だな〜・・・。)」
絵里が感心しきっていると、
「え、絵里、もう少しそっちに行ってよ・・・。」
さゆみに軽く手で押された。
曖昧な体制で少女を見ていたために、バランスを崩しそうになっていた。
「絵里だって無理だよ・・・。」
「ちょっ、れいなもきついって・・・。」
ガタンッ!
三人はバランスを崩して、前に倒れこんだ。
- 31 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:49
- その拍子でドアを強く押してしまい、ドアが壁に強くぶつかってしまった。
少女が歌うのをやめて、三人を振り向いた。
歌うのをやめた少女の表情は、先ほどとは一転してほとんど無表情のようだった。
少女は何も言わずに三人に歩み寄っていく。
「え、えっとですね、その・・・。」
少女が目の前まで近づいてきていて、立ち上がった絵里は何て謝ろうかと
考えていたが、少女は絵里達を気にもせずに屋上から出ていった。
さゆみとれいなは、ポカンと口を開けて少女の後ろ姿を見ていた。
「あ、あのっ!」
階段を下りようとした少女の背中に、絵里は呼びかけた。
少女は首だけ振り向いて、絵里を見据える。
「え、えっと、隠れて聞いてて、すいませんでした。」
絵里は、大きく頭を下げて謝った。
- 32 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:50
- 「歌、すごい上手なんですね。絵里達、感動しちゃって・・・。」
「・・・用件はそれだけ?」
その言葉に、絵里は何も言えなかった。
少女の表情は、別に嫌がっているという感じではなく、絵里達に全く興味がない、
そんな風に絵里には思えた。
「じゃあ、私は行くから。」
それだけ言って、少女は階段を下りていく。
「す、すいません!もう一つだけいいですか?」
少女は、また肩越しに絵里を見上げる。
「お名前、教えてもらってもいいですか?」
「・・・何であなたに教える必要があるの?」
「えっと、それはですね・・・えっと〜、あの・・・。」
絵里との話しに疲れたのか、少女は軽くため息をついた。
「・・・高橋愛。」
簡単にそう答えて、高橋愛は階段を下りていった。
これが、愛と絵里達の初めての出会いだった。
- 33 名前:konkon 投稿日:2005/05/08(日) 13:51
- 更新しました〜。
- 34 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/05/09(月) 15:16
- お疲れ様
3人が行ったライブハウスにはあの人も
いたんですか?
初めの頃の愛ちゃんちょっお怖いですね
- 35 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:29
- 場所は変わって、絵里達三人はれいなの家にきていた。
愛と出会った後、学校を周る気にはなれなくなって、そのまま三人は帰ってきた。
「朝比奈学園、広すぎっちゃよ。あんなんじゃ迷うのが普通ばい。」
「けど、さゆは朝比奈学園に入りたいな。」
「なして?」
「だって、制服が超可愛かったんだもん!あの制服を超可愛いさゆが
着たら、超超超可愛い女子高生って感じじゃない?」
「「・・・ん?」」
普段なら、さゆみの可愛い発言に対抗してくるはずの絵里だったが、
今日に至ってはクッションを抱えて、何やら考え事をしているようだ。
「絵里?」
「どうかしたと?」
さゆみとれいなは、不思議そうな表情で絵里を見つめる。
- 36 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:30
- 「絵里、あの人とバンドやりたい。」
「あの人って、さっき歌ってた人のこと?」
「うん。うまく説明できないんだけど、絵里達とすごく合ってたと思うんだ。
一緒にやったら、とっても楽しいライブができるんじゃないかな?」
絵里の言葉に、さゆみとれいなは考え込む。
「ねえ、あの高橋さんって人、絵里達のバンドに誘ってみてもいい?」
「・・・れいなは別に問題なかよ。」
少しの沈黙の後、れいなは軽く笑ってそう答えた。
「あの人、めちゃ歌うまかったけん、別にいいと思うっちゃ。」
「・・・れいな。」
少しトーンが下がった声で、さゆみが呼んだ。
- 37 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:30
- 「その高橋さんって人が、可愛かったからっていうわけじゃないよね?」
「な、何いうとや!?確かにめちゃ美少女やったけん、見惚れなかった、
っつうのは嘘になるばい。けど、それ以上にれいな達に合っとるっつうか、
あの醸し出す雰囲気が、どこかピッタシって感じだったとよ。そう思わん?」
「ん〜、ならいいけどさ〜。」
「大丈夫、さゆの方が可愛いし、れいなは好きばい。」
「・・・れいな〜!」
ベッドの上に座っているれいなに、さゆみは飛びついた。
今では、れいなの上にさゆみが乗っかってる状態になっている。
「ちょっ、さゆ!」
「あ〜、んじゃ、邪魔者は消えるとするかな。」
そう言って、絵里は立ち上がって鞄を手に取る。
- 38 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:31
- 「絵里、さゆもよかったと思うの。歌もうまいとは思ったしね。」
「なら決まりだね!今度会った時に誘ってみるね。」
絵里は、いかにもやってやるという目をしている。
「んで、いつ誘うっちゃ?学校始まるまで待つと?」
「そっか〜、でも、今日いたってことは明日もいるかもしれないからさ、
絵里、明日学校で探してみるよ。」
「ん、絵里にお任せるばい。」
「じゃあ、ごゆっくり〜。」
絵里が部屋から出ると、何やら二人の甘い会話が聞こえてきた。
それを聞かないように、絵里は足早に家から出て行った。
- 39 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:32
- 次の日、
「ん〜と、どこにいるのかな〜?」
絵里は、朝比奈学園の広い校舎の中をうろついていた。
昨日愛に会ったのは屋上だったが、そこに彼女はいなかった。
一通り校舎の中を見渡していたが、結局愛には会えなかった。
「そこで何しとんのや?」
絵里が廊下で突っ立っていると、後ろから声をかけられた。
振り向くと、一人の金髪の教師が近寄ってきていた。
「えと、中澤先生・・・。」
絵里は、苦笑いをして裕子を見据える。
「確か、亀井やったな。こんなところで何しとんのや?」
「何で絵里の名前を知ってるんですか〜?」
「それは、今年の一年で一番の秀才やからな。知らん教師はおらんやろ。」
裕子は笑って答える。
- 40 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:33
- 絵里は初めての期末テストで、学年一位をとっていた。
学校行事などでは目立つことのなかった絵里だが、やはり学業で
目立つ生徒には、教師達からは期待の眼差しで見られているようだ。
「んで、夏休みやってのに、学校で何しとんのや?部活にでも
入ってたんか?」
「い、いえ・・・人を探してるんです。」
「誰を探しとるんや?」
「あの、高橋愛さんという人なんですけど・・・。」
絵里の言葉に、裕子は首を傾げる。
「高橋愛・・・って、あの高橋か。」
「知ってるんですか?」
「ああ、うちのクラスやもん。あの子も頭ええんやで。紺野あさ美っていう
もう一人の子と、いつも一番を競っとんのや。」
裕子は、自慢げにそう話す。
- 41 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:35
- 「高橋さん、どこの部活に入ってるか知ってますか?」
「ん、確か入ってなかったはずやで。」
「えっ?でも、昨日学校で会いましたけど・・・。」
「ああ、あの子はいつも図書室で勉強しとるんや。勤勉な子やろ?」
「そうなんですか〜。ありがとうございます!」
絵里は一礼して、図書室へと向かって歩き始める。
「何で高橋を探しとるんやろ?珍しい子やな。」
裕子は絵里を見送ると、職員室へと足を向けた。
- 42 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:35
-
ガラガラガラ
ゆっくりと図書室の扉を開けて、絵里は中へと入っていく。
夏休みのためか、中は静かで何かが動く気配すら感じない。
そんな中、ただ一人机に向かって参考書を読んでいる生徒を見つけた。
髪が長めで、まだ少し幼い感じの可愛らしい横顔、そこには昨日ほんの
わずかにだけ顔を合わせた、愛の姿があった。
絵里は音を立てないように、一歩一歩気をつけて近寄っていく。
「あの、こんにちわ・・・。」
愛の背後から、小さく呼びかける。
愛はゆっくりと振り返る。
- 43 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:37
- 「・・・誰?」
「一年の亀井絵里っていいます。よろしくお願いします。」
「何を?」
「えと、そう言われちゃうと、なんとも言えないんですけど・・・。」
愛は、一息ついて絵里を見据える。
「私に何か用?」
「た、高橋さん、この後、用事があったりしますか?」
「・・・別にないけど。」
「高橋さんにお願いがあるんです。絵里達のバンドを、一度でいいから
聞いてもらえませんか?」
絵里の言葉に、愛は顔を顰める。
- 44 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:38
- 「どうして私に聞かせるの?」
「・・・昨日、高橋さんの歌を聞いて、絵里はすごい身震いをしました。
高橋さんの歌のうまさに、楽しそうに歌っている雰囲気に・・・。」
「・・・。」
「絵里達のバンドで、高橋さんに歌ってほしいんです。お願いします!」
絵里は大きく頭を下げる。
どこか難しい顔をしている愛は、何も言わずに絵里を見ている。
「一度だけでいいんです、絵里達の曲を聴いてもらえませんか?」
「私は・・・。」
ガラガラガラッ!
突然、勢いよく扉が開かれて一人の生徒が入ってきた。
- 45 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:39
- 「愛、一緒に帰ろう・・・って、あれ?」
中には愛しかいないと思ってたのか、その生徒はきょとんとした顔で、
扉の前で固まっていた。
「あさ美・・・。」
「んと、愛の友達・・・かな?」
愛と絵里をしばらく見ていた紺野あさ美は、嬉しそうな表情で
二人に歩み寄っていく。
「愛、そっちの子は?」
「えっと、初めまして、一年の亀井絵里です。」
「そうなんだ〜、愛の友達?」
「違う。」
愛はきっぱりとそう言って、自分の荷物を片付けて立ち上がった。
- 46 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:39
- 「あさ美、帰るよ。」
「えっ、ちょっと、愛!」
「亀井さんって言ったね。私は歌うつもりはないよ。歌なんて、
大嫌い・・・だから、もう私には関わらないで。」
愛はスタスタと図書室を出て行ってしまった。
「愛・・・ごめんね。ちょっと、難しい子でね。」
「い、いえ、気にしてませんから・・・。」
「それじゃ、私も帰るけど、できればまた、愛と話してあげてね。」
「は、はい。」
あさ美は軽く手を振って、走って愛を追いかけていった。
「高橋さん・・・。」
絵里はしばらくの間、愛が出て行った扉を見つめていた。
- 47 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:39
- 更新です〜。
- 48 名前:konkon 投稿日:2005/05/14(土) 15:40
- >名無しの荒らしさん
あの人はそのうちまた出てくると思いますよ♪
まぁ、愛ちゃんにも色々とあるんでしょうね〜。
- 49 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/05/15(日) 01:41
- お疲れ様
へぇ〜〜亀ちゃんって意外に・・・
確かに愛ちゃん訳ありって感じですね。
人を近づけないようにしてますね
- 50 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 12:50
- 次の日、
ガラガラガラ
昨日よりも少し早い時間、絵里は図書室の中へと入っていく。
夏休みのため、人の姿は全くない。
そんな中、一人で勉強をしている愛の姿を見つけた。
絵里は、愛の前の席まで歩み寄る。
「こんにちわ。」
絵里が声をかけると、愛はゆっくりと顔を上げた。
「・・・まだ何か用なの?」
愛は少し不機嫌そうにそう言った。
- 51 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 12:51
- 「いえ、夏休みの宿題をやりにきたんです。」
絵里は、笑顔で答えて愛の前の席に座る。
「何で私の前に座るの?」
愛の言うとおり、他にもいくつもの机が空いている。
それでも、絵里は愛の前の席を選んだ。
「あの、邪魔ですか・・・?」
「・・・別に、そういうわけじゃないよ。」
「じゃあ、絵里、ここにいてもいいですか?」
「好きにすれば。」
愛は、絵里から視線を外して参考書に目を向ける。
絵里は鞄から宿題の問題集を取り出して開く。
それからしばらくの間、シャーペンの音だけが図書室の中に響いていた。
絵里はたまに愛に顔を向けるが、愛は特に気にした様子も見せずに、
ひたすら問題を解いている。
- 52 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 12:52
- そして、昨日と同じくらいの時間に、
ガラガラガラッ!
図書室の扉が開かれ、あさ美が入ってきた。
愛と絵里に気付いたあさ美は、昨日と同様に笑顔で近づいていく。
「こんにちわ。確か、亀井ちゃんだったよね?」
「はい。こんにちわ。」
絵里は座ったまま頭を下げる。
一方の愛は、今まで解いていた問題集を鞄に閉まって立ち上がる。
「愛、もういいの?」
「何が?」
「亀井ちゃんと一緒に勉強してるっていうなら、私一人で帰るけど?」
「・・・そういうわけじゃない。帰るよ。」
愛は一度だけ絵里を振り向いた。
- 53 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 12:56
- 絵里と目が合うとすぐに視線を外して、図書室を出て行った。
「亀井ちゃん、愛と何か話しでもしてたの?」
「いえ、ただ勉強してただけで・・・。」
「そうなんだ〜。愛は勉強教えるの上手だから、色々と聞くといいよ。」
「教えてくれますかね〜・・・?」
「う〜ん、愛も不器用な子だからね、できれば嫌わないであげてね。
人とコミョニケーションをとるのが苦手なだけなんだ。」
あさ美はフッと笑って、遠くを見つめる。
「あの〜、いいんですか?高橋さん、行っちゃいましたよ?」
「あっ!それじゃ、また今度ね。」
そう言って、あさ美は図書室を出て行った。
「ん〜、高橋さんって、紺野さんとは仲がいいんだよな〜。
今度、紺野さんに色々と聞いてみよっかな〜。」
絵里はキリがいいところまで終わらすと、問題集を閉まって立ち上がった。
- 54 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 12:56
- それから一週間が過ぎた。
その日も、図書室で二人だけで勉強をしていた。
絵里は毎日のように図書室に行って、愛の前の席で宿題をやっていた。
少しでも愛の傍にいたい、愛と話しをしたい、そう思いながらも、結局何も
話すことができずにその日が終わっていく。
あさ美に聞いてみようにも、バスケの練習が忙しくて話すことができない。
元々人見知りな絵里には、気軽に人に声をかけることは難しかった。
どう話しかければよいか、そう考えて愛に視線を向ける。
その時、偶然にも顔を上げた愛と目が合った。
「何?さっきから何度もこっちを見てるよね?」
「えっ?そうでしたか・・・?」
ただ考え事をしていただけのつもりだったが、無意識のうちに何度も
愛の顔を見ていたようだ。
- 55 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 12:57
- 「何を悩んでるの?わからない問題でもあるの?」
「えっと、はい、あのですね・・・。」
愛と話せるにはどうしたらいいか悩んでた、とは言えるわけもなく、
絵里は先ほどわからなかった問題を愛に見せる。
「ここの問題なんですけど・・・。」
「・・・この問題はね、XとYに代入すると解けるんだよ。
この値をXに変換して・・・。」
愛は、自分のノートが絵里に見えるように問題を解いていく。
絵里は何度も頷きながら聞いている。
あさ美の言っていたように、愛の解説はわかりやすかった。
それ以上に、愛が自分に勉強を教えてくれていることが嬉しかった。
- 56 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 12:58
- 「・・・っていうことだよ。わかった?」
「はっ、はい!よくわかりました。本当にありがとうございます!」
絵里は大きく頭を下げる。
「高橋さん、教えるのすごく上手なんですね。将来は教師とかを
目指してたりするんですか?」
その言葉に、愛は悲しげな表情をする。
「私は・・・政治家になる。」
「政治家ですか!?すごいですね〜。」
「そんなんじゃない。ただ・・・それがお父さんの命令だから。」
「えっ・・・?」
それを聞いて、絵里は不思議そうな顔で愛の顔を見つめていた。
- 57 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:01
- 同じ頃、
「あ〜、もう、図書室ってどこばい!?」
「だからさっき言ったじゃん!事務の人に聞こうって!」
朝比奈学園の一部の廊下で、そんな声が響き渡っていた。
周りには誰もいないために、特に二人を注意する者はない。
朝比奈学園に入ったさゆみとれいなは、道に迷っていた。
一度しかきたことなかった上に、全く下準備もしていなかった。
そして、目的の場所に到達できずに、ついには口げんかをしていた。
「えっと、どうかしたの?」
二人が言い合っていると、横から声が聞こえた。
振り向くとそこには、バスケの練習が終わって愛を迎えに行こうと
していたあさ美が立っていた。
- 58 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:01
- 「うちの生徒じゃないよね?こんなところで何してるの?」
「えっとですね、友達に会いにきたんですけど道に迷ってしまって、
図書室ってどこにあるかわかりますか〜?」
さゆみは瞬時に笑顔に戻し、あさ美に聞いた。
「図書室?愛、なわけないよね。亀井ちゃんの友達かな?」
「絵里を知ってるんですか?」
「知ってるってほどじゃないけどね。私もこれから図書室に向かう
ところなんだ。一緒に行こうか、案内してあげるよ。」
「はい!ありがとうございます。」
「・・・お願いします。」
さゆみは笑って、れいなは恥ずかしそうにしてあさ美についていった。
- 59 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:03
- 「なりたくてなるわけじゃない。なるしか、ないんだ・・・。」
「・・・どういう意味ですか?」
絵里は、愛の顔を見つめてそう聞いた。
「高橋家の、政治家の娘として政治家になれって言われてるのよ。
だから、そうするしかないの。」
「じゃあ、高橋さんの夢って何ですか?」
絵里は、呟くように聞いた。
「それは、今言って・・・。」
「違います。高橋さん自身の夢って何なんですか?」
「私の・・・夢?」
「高橋さんのように歌が上手な人なら、やっぱり歌手を目指してたり
しないんですか?」
「それは、この前言ったでしょ。私は歌なんて嫌い・・・。」
「嘘です!」
突然の絵里の大声に、愛は思わず目を見開いて驚いた。
- 60 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:04
- 「だって、あんなに楽しそうに歌ってたのに、歌が嫌いなんて嘘ですよ。
高橋さんの歌を聴いて、絵里達すごい感動したんですから。」
「・・・私だって、一時期は歌手を目指してたよ。歌が大好きだから。
でも、それをお父さんが許してはくれなかった。私は、歌いたいよ。
ずっとずっと、大好きな歌を歌って生きていきたいんだよ。それでも、
私にはどうすることもできないの。歌さえなければ、私もこんなに
悩まずにいられたのに・・・だから、歌なんて嫌いだよ・・・。」
愛は消えるような声でそう答えた。
愛の目は、ものすごく悲しそうに見えた。
「所詮、私は籠の中で飼われている鳥なの。あなたみたいに、
自由に空を飛んで、行きたいところへ行けるわけじゃない。
私のことは、もうあきらめてよ・・・。」
「れいなやったら、籠を突き破ってでも自分の道を進むけんね。」
図書室の扉の方から、そんな声が聞こえた。
- 61 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:05
- そこにはあさ美と、後ろからついてきたさゆみ、れいなの姿があった。
「さゆは〜、可愛いから出たい時にすぐに出してもらえるかな〜。」
「さゆ、れいな・・・どうしてここに?」
「絵里を迎えにきたの。それと、高橋さんに会いにきたの。」
絵里の問いに、さゆみが答える。
「私に・・・?」
「話しは、ごめんなさい。立ち聞きしちゃいました。でも、さゆ達と
一緒にバンドをやってほしいんです。高橋さんにどんな事情があろうと、
さゆ達と一緒にバンドやってほしいな〜って思って、来ちゃいました。」
「絶対に無理っつうなら、れいな達も強制はせんつもりやけん、
れいな達には高橋さんの歌が必要なんです。他の人ともやっては
みたっちゃ。でも、やっぱり合わんとですよ。れいな達は、
高橋さんに歌ってほしかです。」
さゆみの言葉に、れいなが続く。
- 62 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:06
- 「・・・。」
愛は、何も言わずに黙り込む。
「あの、そろそろバンドの時間なんで、さゆ達は失礼します。」
「絵里、行くっちゃよ。」
さゆみとれいなは、軽く会釈して図書室を出て行く。
絵里は自分の鞄から何かを取り出して、愛の前に差し出した。
それは、数枚の紙とカセットテープだった。
「高橋さん、これ、絵里達が作った歌です。機会が合ったらで
いいですから、聞いてもらえませんか?」
「わ、私は・・・。」
「いらなかったら、捨てても構いません。でも、もし興味を持って
もらえたら、今日は無理だと思うので、来週の月曜日の5時から、
ライブハウス、タンポポというところで絵里達は練習してますから、
よければ来てください。それでは、失礼します。」
絵里は軽く頭を下げて、図書室を出て行った。
- 63 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:07
- 「愛、どうするの?」
今まで黙っていたあさ美が、口を開いた。
「やってみたらどうかな?愛だって、歌いたいんでしょ?」
「・・・あさ美、私はどうしたらいいのかな?」
愛は下を向いたままあさ美に聞いた。
「今までのことを考えると、やっぱり・・・。」
「愛は優しすぎるからね。お父さんのことを考えて、政治家を
継いでいこうって思ってあげてるんだよね?お父さんの期待に
答えるためにさ。」
「・・・。」
「私は違うと思うな。愛が本当にやりたいことをやるべきだと思うよ。
娘の幸せを願わない父親なんて、いないはずだよ。」
あさ美は、優しく愛にそう言った。
- 64 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:08
- 「もっと素直になりなよ。愛は歌いたいんでしょ?だったら、
今の話しを断る理由はないと思うけどね。あの子達も、
けっこういい子達だったよ。」
「・・・わからないんだ。私が本当にやりたいこと、それはわかってる。
でも、今までこんなに人に必要とされたこと、なかったから・・・。」
「そっかな〜?私はすごく嬉しくて、すぐにでもOKを出すかな。
私だって、そんなに必要とされたことなんてないもん。まぁ、
来週だって言ってたし、考えてみたらどうかな?」
「・・・そうだね。」
愛は小さく頷いた。
それ以上会話が続くこともなく、二人は帰路についた。
- 65 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:08
- 更新です。
- 66 名前:konkon 投稿日:2005/05/21(土) 13:10
- >名無しの荒らしさん
何か亀ちゃん主演になってるような・・・w
愛ちゃんにも色々とあるんでしょうね〜。
- 67 名前:konkon 投稿日:2005/05/28(土) 23:56
- 月曜日、タンポポではドラムとベースの音が響き渡っていた。
弾いているのは、絵里、さゆみ、れいなの三人だ。
時刻は4時55分、絵里はベースを弾きながらも、何度も時計を確認していた。
「絵里!」
「あっ・・・。」
絵里のパートに入ったのだが、絵里は反応できなかった。
さゆみとれいなは、軽くため息をついて絵里に近寄っていく。
「絵里〜、しっかりしなよ。高橋さんのことが気になるのは
わかるけど、ぼーっとしちゃだめよ。」
「そろそろ時間やけん、いったんやめるっちゃ。」
「うん、ごめん・・・。」
絵里はベースを置いて、その場に座り込んだ。
- 68 名前:konkon 投稿日:2005/05/28(土) 23:58
- 予定では、あと5分で愛がここにくることになっている。
予定といっても、絵里の勝手な考えを愛に言い渡したまでなので、
愛が絶対にくるとは限らない。
絵里はテープを渡したその日から、愛とは会っていない。
絵里は、愛が歌が好きだと言ったことを、信じていたから。
さゆみとれいなも、絵里の前に座り込む。
時間はあっという間に過ぎていく。
「(あと1分・・・。)」
愛がくるように、絵里はそう願ってスタジオの扉を見つめる。
だが、時計の針が5時を差しても愛の姿は現れない。
それから5分ほど待ったが、やはり愛は現れなかった。
「絵里、水分補給しに楽屋に戻らん?」
れいなは、立ち上がってから絵里にそう言った。
- 69 名前:konkon 投稿日:2005/05/28(土) 23:59
- 「・・・そうだね。」
絵里は深いため息をついて、二人についていく。
「(高橋さん、きてくれなかったな〜・・・やっぱり、
絵里達のバンドに・・・。)」
「「あっ!」」
楽屋を開けて、中に入ろうとしたさゆみとれいなの声が重なった。
絵里も気になって楽屋を覗き込む。
そこには、楽屋の奥の方の椅子に、愛が座って俯いていた。
「高橋さん・・・。」
「・・・。」
愛は何も言わずに三人を見つめる。
愛がきていてくれたことには嬉しかった。
だが、それ以上に驚きの方が大きくて、絵里達は呆然として愛を見ている。
- 70 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:01
- 「どうしたの?」
「・・・あの、高橋さん、今日、歌ってもらえるんですか?」
絵里は緊張しながら愛に聞いた。
「あなた達の歌を?」
「は、はい。」
「見るだけじゃなかったの?」
「えっと、それでもいいんですけど、高橋さんの歌う歌に、
ちょっと合わせてみたいんで・・・。。」
「・・・歌うだけならできるよ。全部覚えたから。」
「全部・・・ですか。」
絵里が愛にカセットを渡したのは、先週の水曜日だ。
収録曲数は5曲、そうなると、愛はたったの5日間で5曲もの歌を
覚えたということになる。
1日1曲ペースでも、そんな簡単に覚えられるようなものでもない。
- 71 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:03
- さらに、愛は絵里が見ていなかったこの5日間でも、勉強を怠るような
ことはせずに、図書室でずっと勉強をしていただろう。
そんな短い時間の中で、歌を覚えた愛に絵里は感心していた。
一曲だけでも、歌詞を見ながらでもいいから、歌ってもらえれば
いいと思ってたから。
「お話し中に悪いんだけど、中に入れてくれないかな?」
「「「!?」」」
突然背後から声をかけられて、絵里達はすごい勢いで後ろを振り向いた。
そこには、苦笑いを浮かべている圭織が立っていた。
「何で扉の前で突っ立ってんのよ?あ、高橋さん、ごめんね。
この子達が練習中なの忘れててさ、楽屋で待たせちゃったね。」
「いえ、気にしてませんから。」
「・・・?」
絵里は、愛と話し始めた時から、どこか違和感を感じていた。
- 72 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:05
- そこでようやく絵里は気付いた。
愛の声が、普段よりも少し擦れていたように聞こえていた。
「・・・トイレ借ります。」
そう言って、愛は楽屋から出て行った。
絵里は、出て行く愛をずっと目で追っていた。
「やっぱり頭いい人は違うよね〜。さゆだったら、こんな短時間に
5曲も覚えられないな〜。ん、絵里、どうしたの?」
「高橋さん、風邪でも引いたのかな・・・?声が擦れてた。」
「違うよ。」
絵里の言葉を、圭織が簡単に否定した。
- 73 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:06
- 「あの声は、風邪のせいじゃないよ。歌いすぎて喉を痛めちゃった時の
擦れた声だったね。あまり歌うことに慣れてない人が歌い続けると、
あんな風に喉が枯れちゃうんだよ。」
「えっ・・・?」
「あの子、ずっと練習してたんじゃないかな?練習して練習して、
それであんな声になっちゃたんだよ。それに、さっきさゆが
言ったように、短時間で5曲も覚えるなんて、そんな簡単には
できないよ。だから、ずっと練習してたんだと圭織は思うな。」
「高橋さん・・・。」
絵里達は、圭織の話しに感動して聞いていた。
「あれ?飯田さんは、高橋さんの声を知らんはずですとね?」
「そんなことないよ。この間も話したからね。」
圭織の言葉に、絵里達は口を開けて驚いた。
- 74 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:11
- 「どっ、どういう意味ですか!?」
「確か3日前くらいだったかな。あの子がずっとタンポポの前で、
立ち尽くしてたんだ。だからね、声をかけたの。どうしたのって。
そしたらね、あなた達に誘われたから、どうしようかって考えて
たんだって。色々と聞かれたよ。あなた達がどんな子なのか、
あなた達に必要とされた今、自分はどうしたらいいのかってね。」
「・・・飯田さんは、何て答えたんですか?」
「何も答えてないよ。ただね、自分で見て聞いて、それで答えを
出してみなって、そう言ったんだよ。」
圭織は笑って答える。
- 75 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:13
- 「三人とも、前に圭織は言ったよね?人間には才能も必要だけど、
それ以上に努力した人間だけが、階段を上っていけるってね。
もちろん、才能は人によっては異なるけど、上手くなるには
努力するしかないんだ。努力することが才能を凌駕できるんだ。
その点では、あの子はプロになる器を持っていると思うよ。」
そこで、楽屋の扉が開いて愛が戻ってきた。
「それじゃ、そろそろ始めてみようか。圭織も聞かせて
もらうけど、いいかな?」
「えっと、高橋さん、大丈夫ですか・・・?」
「問題ないよ。」
愛は淡々とした口調で答える。
そして、愛達は楽屋を出てスタジオへと向かっていった。
- 76 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:13
- 絵里とさゆみは、ベースを持って音の調整を始める。
れいなはドラムを叩いて、リズムの確認をとっている。
それを、愛と圭織は客席から聴いていた。
「高橋さんから見て、あの子達はどうなの?」
「どう、とは?」
「気に入ったか、まだまだ足りないか、ってとこかな。」
圭織の言っている意味がわからずに、愛は顔を顰める。
「えっとね〜、わかり易く言うなら、あの子達の曲が
好きか嫌いかって感じだね。で、どうかな?」
「・・・上手いかどうかは別として、雰囲気は好きですね。」
「雰囲気?」
「・・・しばらくの間、あの子達の曲を聴いてました。あの子達には、
他にはない、特有の雰囲気を見つけました。どこか歌の楽しさを
教えてくれるというか、私は好きですね。それは、私も認めます。」
圭織は呆然として愛の話しを聞いていた。
- 77 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:14
- 少し前に、圭も同じようなことを言っていたからだ。
ただ、それが一体何を意味するのか、今の愛が知るよしもなかった。
「・・・それが、私が入ったことで壊してしまうかもしれませんけどね。」
「ううん、そう悲観的になることはないと思うよ。あの子達が
あなたを必要としているんだから、あなたはあなたで、やれるだけの
ことをやってみなさい。それがあの子達のためにもなるからね。」
「高橋さ〜ん!」
絵里が大きな声で愛を呼んだ。
「ほらっ、呼んでるわよ。がんばってね。」
「・・・はい。」
愛は軽く頷いて、絵里達に向かって歩き始める。
- 78 名前:konkon 投稿日:2005/05/29(日) 00:18
- 「私、ずっと考えてきた・・・。」
愛は呟くように話し始める。
「何で産まれてきたのか、何で政治家を目指していたのか、
自分の夢は何なのか、今ここに立っている理由もね・・・。」
「高橋さん・・・。」
「私は、答えを見つけるために、答えを知りたいがために、
ここにきた。その答えによっては、あなた達の力に
なれないかもしれない。それでもいいの?」
「・・・それは、高橋さんが見つけることですから、絵里達は
口出ししませんよ。まずは、一緒にやってみませんか?」
「そう・・・わかった。始めて。」
愛は一度大きく息を吐き出して、観客席を振り向いた。
- 79 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:41
- 「高橋さん、何から歌いたいですか〜?」
「・・・何でもいいよ。あなた達に合わせる。」
「は〜い。」
絵里は、さゆみとれいなに視線を向けて、顔を頷ける。
そして、弾き始める。
少しづつ、愛の歌うパートに近づいていく。
歌が始まる直前で、マイクを口に近づける。
愛が歌い始めた瞬間、
「(すごい・・・。)」
「(えっ!?ちょっ、これって・・・。)」
「(高橋さん、うますぎっちゃ・・・。)」
絵里達は曲を弾きながらも、愛の歌声に感動していた。
- 80 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:42
- 全てを破壊し尽くせるような力強さに、綺麗なハーモニーを奏でる
透明な歌声だった。
体を揺らしてリズムをとり、会場全体に愛は歌を響かせている。
初めて歌うはずのこの場所でも、愛は緊張するどころか、まるで
プロのように歌を完璧に歌いこなしている。
そして、愛の表情は他ではまず見られないだろう、無邪気で
楽しそうな笑顔だった。
愛の歌声を聴いて、絵里達は背筋が凍りつくような寒気を感じた。
今までに感じたことのない興奮と、胸を締め付けるような高揚感、何よりも
自分達と同じ雰囲気を醸し出していることに、絵里達は絶頂を迎えていた。
愛の歌が終わり、曲も次第に終わっていく。
- 81 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:43
- たった一曲しか弾いていないのに、もう何も言いたいことはなかった。
ただ、愛がバンドに入ってくれることだけを望んでいた。
曲が終わって、その場で立ち尽くしていた愛が絵里達を見渡していく。
「・・・次の曲は?」
「えっ・・・?」
「私が聴いた5曲、全部歌ってみたいの。だめかな?」
「いっ、いえいえ、全然大丈夫です!ねっ!」
絵里は慌ててさゆみとれいなを振り返る。
さゆみとれいなは、何度も首を頷けている。
今の興奮を味わえるなら、この三人はいくらでも弾いていられるだろう。
そうして、愛は残りの4曲を歌い続けていった。
- 82 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:44
- 全ての曲が終わって、絵里達はじっと愛のことを見つめる。
愛は立ち尽くしたまま動こうとしない。
「高橋さん・・・。」
「れいな達、どうでしたか・・・?」
さゆみとれいなは、ゆっくりと愛に近づいていく。
その後に続いて、絵里も近寄っていく。
「あの、高橋さん・・・?」
さゆみが愛の肩に手を置いた。
その時、
ドスンッ!
倒れるような勢いで、愛が尻をついて座り込んだ。
「高橋さん!」
「どうしたとですか!?」
さゆみは愛の背中を支えて、れいなは前から愛の顔を覗き込む。
- 83 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:44
- 「・・・腰が、抜けたみたいやわ。」
「「「・・・はっ?」」」
「ほやから、腰が抜けた言うとるんやわ。立てないんやよ。」
一瞬の沈黙の後、絵里達は大声で笑い始めた。
「高橋さん、最高っちゃよっ!マジ面白いばい!」
「しかも訛ってたしね。どこの方便ですか〜?」
「クールにしてるけど、意外と可愛いところがあるんですね〜。」
「・・・うるさい。」
愛は、顔を赤くして呟いた。
「高橋さん、立てますか?」
愛が顔を上げると、絵里が笑顔で手を差し出していた。
愛は黙って手を取ると、絵里とさゆみに肩を借りてステージを降りていく。
少し先から、圭織が手を叩いて近づいてきた。
「最高のバンドだったよ。圭織もすごい楽しかった。」
「・・・どうも。」
「あとは、高橋さん次第だよ。よく考えて決めてね。」
「はい・・・。」
圭織と簡単に話しを済ませてから、愛達は楽屋へと戻っていった。
- 84 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:45
- 「もう、めちゃやばかったっちゃよ!れいな、こんなに
興奮したん、初めてばい!」
「さゆもそうなの!何か、今までの何倍も楽しかったの!」
さゆみとれいなは、先ほどのライブについての感想を話し合っている。
愛は、椅子に座って上を見上げていた。
そんな愛を、絵里は黙って見つめている。
答えが出たのかどうかはわからない、それでも、今後の絵里達の活動が、
愛の答え次第で決まってくる。
絵里は決心をして、声をかけようと立ち上がる。
「高橋さん。」
絵里の声で、愛は絵里に顔を向ける。
さゆみとれいなも話すのをやめて、二人に視線を向ける。
「答えは、見つかりましたか・・・?」
愛は、さゆみとれいなに視線を移し、もう一度絵里に戻す。
- 85 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:46
- 「・・・今は、みんなで歌えるのは、週に一度が限界かな。」
「えっ?」
「お父さんを説得するのに、まだ時間がかかると思う。それに、
歌にばかり時間を割くこともできないかもしれない・・・でも、
今日歌ってみて、わかったよ。私、ずっと歌っていたい。」
「じゃあ・・・。」
「あなた達と歌ってみて、すごく楽しかったよ。また一緒に歌いたい。
・・・こんな私でよければ、よろしくお願いします。」
愛は立ち上がって、絵里達に頭を下げる。
「そんな、こちらこそよろ・・・。」
「最高のボーカリスト、ずっと待ってたんですとよ!」
「高橋さん、こちらこそよろしくお願いしま〜す!」
絵里より先に、さゆみとれいなが愛に飛び込んで、愛の手を何度も振っていた。
完全に出遅れた絵里は、軽く頬を膨らます。
- 86 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:48
- 「おめでとう。よかったじゃない。」
楽屋の扉が開いて、圭織が入ってきた。
「飯田さん、立ち聞きしてたっちゃね?」
「まぁまぁ、それよりもさ、あなた達のバンドに新メンバーが
加入した記念に、一枚撮ってあげるよ。」
そう言って、圭織は持っているカメラを愛達に見せる。
「私は、もう帰るから・・・。」
「可愛く撮ってくださいね〜。」
愛が逃げようとしたところで、後ろからさゆみが両肩を押さえた。
さらに、左にれいな、右に絵里が、愛と腕を組んでポーズをとっている。
- 87 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:48
- 「ほらっ、高橋、もう少し笑いなよ。」
「・・・。」
愛は軽く笑みを浮かべるが、カメラからは視線が外れている。
「(写真を撮られたりするの、あまり好きじゃないのかな?)」
圭織の思いとは少し違い、愛は写真を撮られるのが苦手だった。
写真を撮られた記憶にあるのは、小さな頃だったのであまり覚えていない。
友達のいない愛は、一緒に写真やプリクラを撮ることもまずあり得ない。
慣れないことをしようとしているために、愛は落ち着かなかった。
「まぁ、仕方ないか。それじゃ、ハイ、ポーズ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・
- 88 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:49
- 「高橋さんが入って、初めてhigh bredgeが完成したんだよね。」
「どこの誰のバンドかってのを世間に教えるために、高橋さんの
名前をバンド名にしたっちゃよね。」
「もう一つ意味があったよね。誰よりも高いところに橋をかけるってさ。
そして、世界一のバンドになろうって、あの日に誓ったんだよ。」
絵里達は、写真を見つめながら当時の思い出話しをしていた。
その時、
♪〜
ポケットに入っている、れいなの携帯が鳴り始めた。
携帯を取り出して開くと、ディスプレイには美貴姉と写っていた。
- 89 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:50
- 「もしもし。」
「ヤッホー!れいな、掃除がんばってる?」
「夕方までには終わるとよ。美貴姉、今日バイトじゃなかったんと?
もしかして、掃除をサボりたいからって言い訳したわけじゃなかよね?」
「やばっ、バレてたか〜って、んなわけないでしょ!」
「おおっ、さすがは美貴姉ばい。ノリつっこみっちゃね。」
「まぁね♪れいな、いくら美貴だって、そこまで横着者じゃないよ。
今はバイトの休憩中なの。」
「お疲れ様っちゃ。それで、いきなりどうしたと?」
「ああ、そういえばさ、今日れいな達って夜は空いてるかな?」
「まぁ、特にはないけん・・・。」
「ならさ、晩ご飯食べに行こうよ!バイトとはいえ、さすがに
れいな達には悪いと思ってるし、今日は美貴達が奢ってやるぜぃ!」
れいなは、絵里とさゆみを振り向いた。
二人にも会話が聞こえていたらしく、笑顔で首を頷けた。
- 90 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:52
- 「美貴姉、よろしくっちゃ!」
「任せとけっ!それじゃ、愛ちゃんも5時頃に終わるらしいから、
6時に駅前集合ね。あっ、もう時間だから切るね。またあとで!」
一方的に話すだけ話して、美貴は電話を切った。
「あっ、さゆ。その写真、れいなが持ってってよかと?」
「別にいいけど、どうするの?」
「美貴姉にも、この時の話しをしてあげようと思ったっちゃね。」
そう言って、れいなはさゆみから写真を受け取った。
「よっし、さっさと終わらせて、美貴姉に奢ってもらうばい!」
れいなはモップを手に持って、再び床を磨き始める。
絵里は雑巾でロッカーを拭いて、さゆみは机の整理を始める。
一年以上経つこの時にも、絵里達にはまだ気付いていなかったことがある。
写真の裏の隅に、"NON STOP!"と小さく書かれていたことを。
それを書いた当事者は、愛だということも。
そのことを三人が知るのは、数時間後の夕食時のことだった。
- 91 名前:konkon 投稿日:2005/06/03(金) 21:53
- 更新しました。
過去話は終了です。
次から次章へと進んでいきたいと思います。
- 92 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/06/04(土) 17:15
- お疲れ様です
愛ちゃんも3人も楽しそうですね。
次回からも楽しみに待ってます
- 93 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:43
- 夏休みも下旬に入った、ある日のことだった。
「それでね、モグモグッ、後藤さんがね、言ってくれたの。」
「・・・あさ美。」
「やっぱりね、ングッ、後藤さんってすごいな〜って、
改めてそう思ったんだ。」
「・・・あさ美。」
「ん、どうかしたの、愛?」
あさ美は、口の中を動かしながら愛に聞いた。
「食べながら話さないの。」
「は〜い、恐縮です。」
あさ美は紅茶を口に含んで、口の中を消化させた。
そんなあさ美を、愛は優しい笑みをして見ている。
今、愛とあさ美は、美貴の家で夕食を食べていた。
- 94 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:44
- 美貴は用事があるとのことで出ていて、真希は親戚の家に行っていて、
夜まで帰ってこない。
そこであさ美は、久しぶりに愛の顔が見たくなり、この日はバンドもバイトも
休みで暇していると電話で聞いて、遊びにきたのだ。
あさ美は、普段は着ることのない浴衣姿だった。
真希が帰ってきたあとに、一緒に花火大会に行くらしい。
愛はバンドとバイト、あさ美は夏期講習があるのでなかなか会うことができず、
この日二人は約二週間ぶりに会うことができた。
二人がこれだけの時間に会えなかったのは、今回が初めてである。
それまでの出来事を、二人はそれぞれ話していた。
そして、話しをしているうちにすっかり日も暮れて、愛があさ美に
夕食をご馳走していたところだった。
愛達の隣では、トレインもえさにがっついて食べている。
- 95 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:45
- 「それにしてもさ、愛って料理がすごく上手になったよね〜。」
あさ美は美味しそうに、愛の作ったナポリタンを口に入れる。
ナポリタンは、昔から愛の大好物だった。
「それって、いつの話しと比べてるの?」
「ん〜っと、確か中学三年生だったかな?調理実習の時間にさ、
愛ったら目玉焼き焦がしちゃったじゃん。」
「それは、あさ美が料理している途中で私を呼んだからでしょ。
あさ美が鍋を溢れさせちゃって、泣きそうな顔で私のことを
呼ぶから、仕方なかったんよ。」
「あれ、そうだっけ?」
あさ美は不思議そうな顔をして、首を傾げて思い出そうとする。
同時に、愛も中学時代を思い出していた。
- 96 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:46
- 初めて会ったときには、愛に懐いてくるあさ美のことを、
邪魔だとしか思わなかった。
だが、しばらく付き合っているうちに、あさ美といることが当たり前になっていた。
お互いにいなければ落ち着かない、そのような関係にまでなっていた。
愛は、あさ美のコロコロと変わる表情を、羨ましく感じていた。
自分とは違い、嘘をつくこともできないほど単純で、純粋な表情ができる
あさ美に、憧れを抱いていた。
それと同時に、一つの疑問が頭に浮かんでいたのだった。
愛は決心して、あさ美に顔を向ける。
「私って、昔から愛に頼ってばっかだったんだな〜・・・。」
「あさ美、今更なんだけど、一つだけ聞いていい?」
「ん、何でも聞いていいよ〜。」
あさ美は嬉しそうに愛に顔を向ける。
- 97 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:47
- 「どうして・・・今まで、私と一緒にいたの?」
「・・・どういう意味?」
「あんたみたいに、純粋で優しい女の子なら、他にもたくさんの
友達が作れたと思う。それが、人付き合いの悪い私といたことで、
周りからもあまりいい目で見られなかったと思う。それとも、
それがあんたの優しさだったのかな・・・?」
「愛・・・。」
あさ美は少し考えると、すぐに愛に向き合った。
「簡単なことだよ。私が愛と一緒にいたいから。それだけだよ。」
あさ美は愛に優しく笑いかける。
- 98 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:48
- 「中学二年のときにさ、私って北海道から転入してきたじゃん。
それから一ヶ月くらい経っても、私はクラスに馴染めずにいた。
そんな時に、学校行事でキャンプに行くことになって、山に
登ったでしょ。私は、歩いている途中で山の景色に見惚れちゃってて、
クラスメイト達とはぐれちゃってさ、迷子になってたの。
もうどうしたらいいかわからなくて、泣きそうになってた時にさ、
愛は助けにきてくれたよね。覚えてる?」
「それは・・・何か、気になって・・・。」
「他のクラスメイト達はさ、私のことなんてどうでもよかったのか、
誰もきてくれなかったよ。愛だけは、私のことに気付いてくれた。
声をかけてくれた。戻った時にも、先生達に一緒に怒られてくれた。
私、すごく嬉しかったんだ。その時に決めたの。絶対に愛だけは、
何があっても信じていこうって。」
愛は黙って話しを聞いている。
- 99 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:49
- 「あさ美・・・。」
「愛はさ、ちょっと他の人よりも不器用なだけなんだよ。それが、
他の人はわかろうとしなかった。愛は本当はすごく優しいってことを、
私は知ってるよ。今も私のことを考えて言ってくれてる。一言で言えば、
私は愛のことが大好きなんだよ。それが一緒にいる理由かな。」
あさ美は笑って答える。
あさ美の笑顔を、愛はただぼーっと見つめていた。
「でもさ・・・他にも友達が欲しいとか、思わなかったの?」
「友達ならたくさんいるよ〜。バスケ部の人達や藤本さんや・・・。」
「そういうことやなくて・・・。」
愛の言葉を遮って、あさ美は笑顔で人差し指を立てる。
- 100 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:50
- 「愛の言いたいことはわかるよ。でもね、たくさんの友達が
いることよりも、たった一人でも親友と呼べる、本当に
信頼できる友達がいることのほうが、私は幸せだと思うんだ。」
「そう・・・。」
「だから、私は愛と一緒にいたかったんだ。それじゃ理由にならないかな?」
「・・・あんたもばかだよね。」
そう言った愛の目から、一粒の涙が零れていた。
「私のこと、そこまで・・・。」
「愛・・・。」
あさ美は愛の隣まで移動して、優しく抱きしめる。
- 101 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:51
- 「愛、これからも一緒にいてね。」
「・・・うん。ありがとう、あさ美・・・。」
少しの間抱き合っていたが、ふいに壁に掛かっている時計が、愛の目に入った。
夜から始まる花火大会に、あさ美は真希が帰ってきたら一緒に
行く約束をしていたらしい。
それを思い出した愛は、あさ美に伝えようと思って顔を上げる。
「あさ美、そろそろ時間じゃないの?」
「あっ!もうこんな時間だっ!」
「おわっ!」
あさ美は、愛を突き放して慌てて帰る準備を始める。
「(こいつ、本当に私のことを大事に思ってるんかな・・・?)」
ソファから転がり落ちた愛は、あさ美を軽く睨みつけた。
- 102 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:53
- 「そんなわけで、もう行くから・・・って、何でそんな怖い顔してるの?」
「別に・・・。」
愛の心境に気付いてないあさ美は、不思議そうに愛の顔を見つめている。
「愛、一緒に行かない?」
「・・・私はいいや。見たいテレビがあるから。美貴ちゃんが
帰ってきたら、行くかもしれないけどね。」
「そっか。それじゃ、また今度ね!ナポリタン、
すごく美味しかったよ。ご馳走様でした!」
あさ美は、愛に手を振って家を出て行った。
愛は玄関から軽く手を振り返して見送った
見たいテレビがあるというのは嘘だった。
愛は、あさ美と真希の関係に気付いていたわけではないが、ただなんとなく、
二人っきりにしてあげた方がいい、そう直感で感じたのだ。
- 103 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:54
- 「あさ美、ありがとね。」
愛はそう小さく呟いて、リビングの中に戻っていった。
そこで愛は、ソファにあさ美が髪飾りを置き忘れていったことに気がついた。
真希と花火大会に行くために買った物だ。
「やれやれ、相変わらず抜けてるわ・・・。」
愛は、あさ美を呼び戻そうと携帯に手を伸ばす。
その時、
ピンポーン
チャイムの音が家の中に響き渡った。
あさ美が戻ってきたんだと思い、愛は髪飾りを持って家のドアを開ける。
「あさ美、忘れ物・・・。」
愛は、言葉の途中で口の動きを止めた。
愛の目の前に立っていたのは、あさ美ではなく、愛と同じ年くらいの
可愛らしい少女だった。
- 104 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:55
- 「(あれ、どっかで見たことあるような・・・。)」
そう思いつつ、愛は少女の顔をじっと見つめる。
「えっと、美貴ちゃんの友達ですか?」
「いえ、親戚みたいなとこですね。」
「あの、生憎なんですけど、今は不在でして・・・。」
「そうでしょうね。」
「!?」
突然、少女がハンカチのようなもので、愛の口を押さえつける。
「(なっ・・・美貴ちゃ・・・。)」
愛は、少女に抵抗することもできずに意識を失った。
あさ美の髪飾りが、愛の手から離れて落ちていく。
「フフフッ、悪いんだけど、あなたには人質になってもらうね。」
少女は怪しげな笑みを浮かべ、倒れている愛を見下ろしていた。
- 105 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:55
- 更新しました。
- 106 名前:konkon 投稿日:2005/06/11(土) 14:57
- >名無しの荒らしさん
とりあえず、話しは現実に戻りました〜w
まだまだ話しは長いので、できればこれからも
見てやってください。
- 107 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/06/11(土) 21:27
- お疲れ様
えっ?愛ちゃんはどうなってしまうのでしょう?
そして愛ちゃんの前に現れたのは・・・
あぁ気になりますぅ。次回を待ってます
- 108 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:02
- 「ハァ・・・。」
この日何度目かのため息をついて、美貴はマンションの階段を上っていた。
美貴は、昼過ぎ頃からある少女と会う予定だった。
だが、何時間待っても少女が来る気配がなく、携帯に電話を
してみても繋がらなかった。
そして、美貴は仕方なしにあきらめて、家に帰ることにしたのだった。
「結局会えなかったか・・・。携帯も繋がらないし、どうしたんだろ?
やっぱ、美貴に会う気はないのかな・・・。」
美貴は、肩を深く落として自分の家に向かう。
「ただいま〜。」
「にゃ〜。」
美貴が家に上がると、トレインが奥から出迎えにきた。
- 109 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:06
- 「ただいま、トレイン。」
美貴はトレインを抱き上げて、リビングへと向かおうとした。
その時、玄関に不自然に落ちている髪飾りが目に入った。
「あれ、愛ちゃんってこういう髪飾り持ってたっけな?」
髪飾りを手に取って、リビングの中へと入っていく。
しかし、電気はついていたのだが、愛はそこにいなかった。
風呂にもトイレにもいないようだ。
「どこ行ったんだろ・・・?」
愛は決して戸締りを怠って外に出るようなことはしない。
不審に思った美貴は、携帯を取り出して愛からの着信やメールが
入っていないか確認する。
着信はなかったがメールは一件だけ入っていて、それは真希からのものだった。
その内容は、もし早く帰ってこれたら一緒に花火を見に行かないか、という
お誘いのメールだった。
- 110 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:07
- 「行きたいとこなんだけど、愛ちゃんがいない・・・ん?」
そこで美貴は、テーブルの上に一枚の紙が置かれていることに気がついた。
その内容はというと、たったの一行でこう書かれていた。
『彼女は預かったよ。花火がよく見れる、あの場所で待ってる。』
「まさか・・・でも、この字は間違いなくあの子の字・・・。
彼女ってもしかして・・・愛ちゃん!?」
美貴は、持っていたかばんを乱暴にソファの上に放り投げると、
勢いよく家から飛び出していった。
- 111 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:09
- 美貴の家から歩いて十五分ほどの距離で、海に面したある廃墟ビル、
そこに美貴は足を向けていた。
「懐かしいな・・・こんな形で、またここにくるなんてね・・・。」
ビルに近づいていくと、十数人の男達が入り口を塞ぐように
立っていることに気付いた。
男達が美貴を囲むように寄ってくる。
「・・・どいてくれない?」
美貴は、低い声で男達に言った。
「そう言われて、どくと思うか?」
「それは・・・あの子の命令なんだよね。わかったよ・・・。
やるしかないんだろ。だったら、全員まとめてかかってきなよ!」
そう言って、美貴は前にいた男に猛スピードで飛び出して、
顔を殴り飛ばした。
- 112 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:11
- 「ガッ・・・。」
殴られた男は、数メートル吹き飛んで地面を激しく転がっていった。
「こいつっ!」
男達は、一斉に美貴に襲いかかっていく。
「うぉぉぉっ!」
回し蹴りで、近づいてきた男を三人一気に蹴り飛ばす。
さらには、そこから飛び上がって反転し、後ろに近づいてきていた
男を突き飛ばした。
「うらっ!」
男の一人が、美貴の横顔を殴りつけた。
美貴はすぐに振り向き、男の顔を殴り返す。
一人は腹を殴られ、一人は顎を打ち上げられ、一人は顔を膝で蹴りつけられる。
美貴は、三分もしないうちに周りにいた男達全員を倒した。
- 113 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:13
- 唾と一緒に口から血を吐き出して、ビルに向かって歩き始める。
ビルの手前で一度立ち止まり、愛の前では滅多に吸わない煙草を、
ポケットの中から取り出して口元にくわえる。
ライターで火をつけて、肺の中にニコチンを取り入れる。
そして、そこから見える屋上に向けて、白い煙を吐き出した。
「・・・。」
どこか遣る瀬無い表情で見上げたあと、美貴は再び歩き始めた。
ビルの中は真っ暗だったが、美貴は気にせずに階段を上っていく。
屋上まで辿り着き、美貴は短くなった煙草を大きく吸い込み、煙を吐き出す。
煙草を地面に落として踏みにじり、ゆっくりと扉に手を伸ばす。
- 114 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:14
-
ガチャッ
扉を開けた。
そこには、先ほどの仲間と思われる数人の男達と、一人の少女が立っていた。
そして、その少し後ろには、愛を抱えている男がいる。
「お〜、下の人達を倒してきたんだ〜。相変わらず強いね、美貴たん♪」
「久しぶりだね・・・亜弥ちゃん。」
美貴は、嬉しそうに笑っている少女、松浦亜弥を見てそう呟いた。
「そうだね〜。遊園地以来かな。久々にあの遊園地に行ったら、
美貴たんがいたんだもん。あの時はびっくりしたよ。」
美貴は亜弥に近づいていく。
亜弥まであと十歩ほどというとこで、男達が美貴の周りを取り囲んだ。
正確には、美貴と前に立っている亜弥を取り囲んだ状態だ。
- 115 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:15
- 「亜弥ちゃん・・・こいつらは?」
「ニャハハッ、私の可愛さに惹かれてナンパしてきたきたやつがいてさ、
うざかったからそいつを殴り倒したんだ。そしたらそいつは暴走族の
頭だったみたいでね〜、だから私が代わりにこいつらの頭をやってあげてるの。
要は部下ってとこだね〜。」
亜弥は笑って答える。
「強くなったのは、美貴たんだけじゃないよ。美貴たんが強くなるなら、
私も強くなって、美貴たんを見返してやろうって、鍛えてたんだよ〜。」
「そう・・・でもさ、美貴がこの程度のやつらにやられると思ってんの?」
「何っ!?」
美貴の言葉にキレて、男達は美貴に襲いかかろうとする。
それを、亜弥が手で制する。
- 116 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:16
- 「そうだろうね〜、でもね・・・。」
亜弥が後ろの男を振り向くと、その男が愛の首筋にナイフを当てる。
「愛ちゃんっ!」
「この子が大事でしょ?なら、わかるよね〜。」
亜弥が一歩づつ美貴に近づいていく。
その時、
ドーンッ!
海の奥の方で、大きな花火が上がった。
さらに、次々と花火が打ち上げられていく。
- 117 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:17
- 「思い出の場所ってだけで、美貴たんがここにきてくれてよかったよ。
だって、ここは私と美貴たんだけの特別席だもんね。」
「亜弥ちゃん・・・。」
「小さい頃、美貴たんがここなら花火がよく見えるよって、
教えてくれて、毎年ここで見てたんだよ。美貴たんが
いない時もね。」
亜弥は美貴の目の前で歩みを止めて、美貴の顔を覗き見る。
「でも、あの優しかった美貴たんはもういない。なら・・・。」
ガッ!
「ぐっ・・・。」
亜弥が美貴の顔を殴りつけた。
美貴の口から、血が垂れていく。
- 118 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:18
- 「裏切った美貴たんなんていらない。パパの、私の思いを踏み躙った、
美貴たんなんて大嫌い。許さないんだからっ!」
亜弥は、叫びながら美貴を殴り続ける。
対する美貴は、全く抵抗せずに殴られている。
美貴の体から、血が地面に飛び散っていく。
それでも亜弥は殴るのをやめようとしない。
「ガッ、うぐっ、ぐぅぅ・・・。」
亜弥に数十発と殴られ、美貴の体が崩れ落ちる。
「どう?これが今の私の気持ちよ。美貴たんにわかる?」
亜弥は、倒れている美貴の顔を踏みつける。
「亜弥・・・ちゃ、ん・・・美貴、は・・・。」
「もういいよ。何も言わなくて。どうせ美貴たんなんかに、
私の気持ちなんてわかるわけないんだから。」
また美貴の顔を踏みつけようと、亜弥が足を振り上げる。
- 119 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:19
- その時、
ドドーンッ!!
今までにない大きな花火が、夜空に高く打ち上がった。
その音に反応して、亜弥を含む全員の視線がそちらに向けられる。
「(今だ!)」
美貴はそのほんの一瞬の隙をついて、素早く立ち上がり、
愛を捉えている男に飛び込んだ。
「なっ!?」
男はすぐにナイフを構えようとするが、それより先に
美貴が素手でナイフを掴んでいた。
美貴の手から、ぼたぼたと血が垂れていく。
「愛ちゃんを放せっ!」
美貴は男の顔を殴り飛ばし、愛の体を抱き寄せる。
- 120 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:24
- 愛を両手で抱えると、美貴はすぐに屋上の端の方まで走り出す。
今の状態では、亜達を相手にすることも、屋上から逃げ出すことも不可能だと咄嗟に思ったからだ。
「やっぱり美貴たんはすごいね。でも、そこから先はどうするわけ?」
亜弥と男達が、ゆっくりと美貴に近づいてくる。
愛を寝かせて庇いながら戦うのは危険だ。
その理由は、ここの屋上にはフェンスがないからだ。
もし無理をして、愛がこの屋上から落ちてしまうようなことがあれば、確実に死を迎える。
美貴は一息ついて、ある一つの決心をする。
「亜弥ちゃん・・・美貴が誰だかわかってる?」
美貴の言葉に、亜弥はキョトンとして美貴を見ている。
「美貴を、藤本美貴をなめるなーっ!」
美貴は、なんと愛を抱えたまま屋上から飛び降りた。
- 121 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:26
- 「!?」
亜弥と男達は、一斉に美貴のいた元へと駆け寄った。
ドボーンッ!
下の方で、大きな水飛沫が上がっていた。
美貴は海の中へと飛び込んだようだ。
だが、このビルの高さは10階建てである。
その屋上から飛び込んだのだとしたら、コンクリートに
叩きつけられるようなものだろう。
それも、一人の人間を抱えて飛び込んだのだ。
普通の人間なら、死んでいてもおかしくないはずだ。
男達が戸惑う中、亜弥はしばらくの間、座って美貴が落ちた辺りを
じっと見つめていた。
- 122 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:27
- 「そうだったね・・・相手はあの藤本美貴だった。」
亜弥は軽く頷くと、立ち上がってその場から離れていく。
「あんた達も準備をしておきなさい。美貴たんは、またすぐに
ここに戻ってくるよ。」
「この高さだと、もう死んでるんじゃ・・・。」
男の一人が、困惑した表情で亜弥にそう言った。
「何回同じこと言わせるの?美貴たんはくるよ。絶対にね。」
亜弥は薄ら笑いを浮かべて、打ち上がっている花火を見つめていた。
- 123 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:28
- 更新です。
- 124 名前:konkon 投稿日:2005/06/19(日) 17:29
- >名無しの荒らしさん
愛ちゃんはどうなるんでしょうね〜?
登場したのはこの方でしたw
今後どうなるかは・・・これから決めます(汗)
- 125 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/06/19(日) 18:02
- お疲れ様
ミキティといえば・・・この人しかいませんもんね
強いし怖い雰囲気ですね
今後のことは・・・ゆっくり考えてくださいね、待ってます
- 126 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:06
-
ピンポーン
「ん、こんな時間に誰だろ?」
夜の九時頃、家でテレビを見ていたなつみは、チャイムの音に気付いて
玄関へと向かっていく。
「はい・・・美貴つぁん!?」
「ハハッ、どーも・・・。」
ドアを開けたなつみの前に立っていたのは、体中が傷だらけになっている美貴だった。
猛暑のために、海に飛び込んだにも関わらず服はほとんど乾いていた。
そのために、体中の傷が露になっているもんだから、やけにはっきりと血が見える。
特に、左腕には見ているだけでも痛々しいほどの、大きな痣がある。
恐らく、落ちた際に愛を庇ったことで、左腕に大きな負担がかってしまったのだろう。
美貴の背中には、寝ている愛が背負われている。
- 127 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:07
- 「どうしたんだべさっ!?こんなぼろぼろの姿で・・・。」
「・・・安倍さん、すごく迷惑な話しだと思いますけど、一晩だけで
いいですからこの子のこと、預かってもらえませんか?今だけは、
一人にさせたくないんです・・・。」
そう言って、美貴は愛に視線を向ける。
「それはいいけど・・・何があったべ?」
「・・・美貴にとって大切な人が、美貴のせいで道を踏み外そうとしている。
だから、美貴は行かなきゃいけないんです。その子を助けに・・・。
その子は、美貴の家族のようなものだから・・・。」
美貴は愛を下ろして、なつみの腕に預ける。
「ちょっ、そんな傷で行く気なの!?」
「今、行かなきゃいけないんです。愛ちゃんのこと、お願いします。」
「じゃあ、最後に一つだけ聞かせて・・・どこに行くの?」
その言葉で、美貴はなつみに視線を向ける。
美貴は、とても悲しそうな目をしていた。
- 128 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:09
- 「・・・第四倉庫の近くの、海沿いにある廃墟ビルです。」
「なるほどね〜。」
「!?」
突然、美貴の背後からそんな声が聞こえた。
美貴が振り返った先には、真希とあさ美の姿があった。
「ごっちん・・・。」
「久しぶりに会えたと思ったら、こんな姿とはね〜・・・。」
真希は軽く笑って美貴の元へと歩み出す。
「どんな事情があろうとも、後藤としては今の状態のミキティを、
行かせたくはないんだけどね。」
「ごっちんが止めようと・・・美貴は行くよ。」
「そう言うと思ったよ。でもね・・・。」
美貴の肩に、歩み寄った真希の手が置かれる。
- 129 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:10
- その時、
ドンッ!
真希が美貴の腹を殴りつけた。
「ご、ごっちん・・・何、を・・・。」
美貴は意識を失って倒れ込み、真希が腕で支える。
「家族の絆がどれだけ大切なのか、それは後藤にもよくわかるよ。
だからね、後藤がミキティの代わりにその子に教えてあげるよ。
怪我してるミキティを放っておくわけにはいかないからね。」
気を失った美貴に、真希は優しくそう言った。
- 130 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:10
- 「真希、行くんだね・・・?」
「うん。親友が困ってるんだ。なっち、二人をお願いね。」
「任せといてよ。」
なつみは笑顔で頷いた。
「紺野、悪いんだけどなっちと一緒に、ミキティと高橋の
傍にいてあげてくれないかな?」
「もちろんですよ。後藤さんも、気をつけてくださいね。」
「わかってるよ。」
真希は美貴を玄関に寝かすと、すぐに外に出ていく。
「じゃあ、行ってくるね。」
あさ美の頭を軽く撫でて、真希はマンションの階段を下りていった。
- 131 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:11
- 亜弥は空を見ていた。
その方角は、今まで花火が上がっていた方向だ。
花火大会が終わって、今は空には星しか写っていない。
それでも亜弥は、微動だにせずにじっと夜空を見上げていた。
男達は、亜弥の醸し出す雰囲気に何も口に出せず、ただ立っていることしかできなかった。
そんな時、
「おっ、ここで合ってたみたいだね。」
屋上の扉が開かれ、場の空気に合わない声が屋上に響いた。
亜弥は、ゆっくりと声の方を振り向く。
そこには、物珍しそうに周りを見渡している真希が立っていた。
「なんだ、てめぇは!?」
男の一人が、真希に詰め寄った。
- 132 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:12
- 次の瞬間、
バキッ!
真希が男の顔を裏拳で殴り飛ばした。
「邪魔。」
「こ、こいつ!」
男達は、次々と真希に飛び掛かっていく。
真希は男達を一瞥して、素早く動き回り、全員一撃で殴り倒していく。
「ガハッ・・・。」
最後の一人が、真希の拳を腹に喰らって地面に崩れ落ちた。
真希は歩調を変えることなく、真っ直ぐに亜弥に近づいていく。
亜弥まであと5メートルというところで立ち止まる。
- 133 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:12
- 「・・・あなたは?」
亜弥は、呟くような声で真希に聞いた。
「後藤真希。ミキティ、藤本美貴の親友だよ。」
親友という言葉に、亜弥は少し表情を顰める。
「親友ねぇ・・・。どうせあなたも、いつかは美貴たんに
裏切られるのよ。私みたいにね。」
「さってね、先のことなんて後藤にはわかんないし、別に興味ないよ。
でも、後藤は何があってもミキティを信じてるよ。あんたのことだって、
ミキティはちゃんと考えてる。まぁ、今はそんなことどうでもいいんだ。」
真希は、鋭い目つきで亜弥を見据える。
「あんたがミキティとどんな関係なのかは、後藤は知らない。
ただ、ミキティを痛めつけたあんただけは許せないんだよ。」
「ふ〜ん、つまらない友情ごっこね。でもいいや。美貴たんが
こない代わりに、あなたに私の痛みを教えてあげる。」
そう言って、亜弥は真希に飛び出した。
- 134 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:13
- 真希は、亜弥に向けて拳を振り上げる。
パンッ!
「えっ・・・?」
真希より先に、亜弥の拳が真希の顔を捉えていた。
「くっ、このっ!」
少し遅れて、真希が拳を突き出したが、亜弥は飛び引いて真希の拳を避ける。
「(速い・・・。)」
「フフン、どうしたの?そんなもんなの?」
「ちっ、まだまだだよ!」
今度は、真希が亜弥に向かって飛び出した。
- 135 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:15
- だが、
パパパパパンッ!
真希の拳は避けられ、逆に亜弥が真希の体中を殴りつけた。
「ぐっ・・・。」
「ちょっと強いくらいで、私に喧嘩を売るからこうなるのよ。」
亜弥は怪しげな笑みを浮かべる。
それを見て、真希は口元を拭って鼻で笑う。
「くっ、フンだ。全然、痛くないもんね。」
「・・・何を強がり言ってるの?」
真希は唾と一緒に血を吹き出してから、口元に薄く笑みを浮かべる。
- 136 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:16
- 「あんたの攻撃は、ただ速いだけだよ。後藤にとっては蚊に
刺されたようなもんだよ。」
「ふ〜ん、いつまでそういうこと言っていられるかしらね。」
亜弥は、さらに真希を殴りつける。
真希は腕で防御しながら耐えている。
「くっ、このっ!」
攻撃の合間を縫って、亜弥に向けて真希が手を伸ばす。
それすらも亜弥はかわして、真希の顔を殴りつけた。
「ぐぅ、ハァッ、ハァッ・・・。」
「私に勝とうなんて、あんたじゃ無理な話しだよ。」
再び亜弥の猛攻が始まる。
- 137 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:17
- どのくらい経ったのだろうか?
亜弥は何十発と真希に向けて拳を放っている。
それを真希は、ひたすら耐え続けていた。
しばらくして、亜弥の動きが少しづつ鈍くなっていく。
亜弥は手を膝について荒い息遣いをし、真希のことを睨みつけている。
逆に真希は、足を震えさせ、傷だらけになりながらも
表情には笑みが零れている。
「ハァッ、ハァッ、何で・・・倒れ、ないのよ・・・。」
「・・・どうしたの?もう終わり?」
「こっ、のーっ!」
亜弥が走り出す。
- 138 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:18
- 直後に、
バキッ!
真希が絶妙のタイミングでハイキックを出し、亜弥の側頭部に決まった。
あまりの威力に、亜弥は激しく地面を転がっていく。
「ぐっ、ぅぅ・・・。」
「ふぅ、うわっ・・・。」
倒れている亜弥に向かおうとした真希は、足に力が入らなくなって地面に膝をついた。
「まだ・・・私は、負けられない・・・。」
亜弥は震える足でなんとか立ち上がる。
「へぇ、思った以上に根性あるんだね。」
真希も足に力を入れ直して立ち上がる。
- 139 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:19
- 「うわーっ!」
亜弥が真希に向かって走り出した。
だが、先ほどのハイキックが効いているのか、それほど速くは動けていない。
真希は亜弥の拳を弾くと、亜弥の腹に拳をめり込ませる。
「ゴフッ!」
腹に入っているもの全てが吐き出されるような、そんな重い一撃だった。
「もう、終わりにしよう。」
真希は亜弥の下がった顎を肘で打ち上げ、顔を殴り飛ばした。
亜弥は大きくバウンドして地面に倒れた。
「うぐっ、ぅぅ・・・。」
亜弥は、体を震わせて立ち上がろうとする。
激痛のためか、目には涙が溜まっている。
真希は倒れた亜弥の傍まで歩み寄る。
「もうやめよう。後藤の勝ちだよ。」
亜弥の前に座り込んで、真希は亜弥の顔を覗き込む。
- 140 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:19
- 「な、何で・・・あなたは、倒れないの・・・?あれだけ・・・
私が殴っても・・・何でなの?」
亜弥は上から見下ろしている真希の目を見て、そう聞いた。
「後藤だって、すぐにでも倒れたかったよ。でも、今の後藤は
ミキティの意思を継いでここにきている。だから、絶対に
あんたに負けるわけには、いかなかったんだよ。」
真希の言葉を聞いて、亜弥は軽くため息をついた。
亜弥のすぐ後ろは、屋上の端だ。
亜弥は、ゆっくりと立ち上がって後ろを向いた。
「・・・どこ向いてるの?」
「もうね、私、疲れちゃったよ・・・。」
「・・・まさかっ!?」
真希は、亜弥に手を伸ばして飛び出した。
「やめろーっ!!」
「バイバイ。」
亜弥は真希に笑いかけて、屋上から飛び降りた。
- 141 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:20
- 更新です。
- 142 名前:konkon 投稿日:2005/06/28(火) 23:22
- >名無しの荒らしさん
ミキティ=あややの公式はもはや当たり前ですからw
雰囲気は怖いですけど、まぁ、色々と事情があるものと
思われます。
そこら辺は、次回更新ということで♪
- 143 名前:ひろ〜し〜 投稿日:2005/07/02(土) 17:16
- ぇ。
ぇ?ぇ??どぅなっちゃぅのあやや?!
ごっちんと美貴ティが恐ろしくカッケェ!!!
激しく続きが気になります!
- 144 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/07/02(土) 18:29
- お疲れ様
ミキティ生命力高いっすね
あやや、なんかミキティと会ってたときの元気がないですね
しかもあややそんな・・・
- 145 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:44
- 「(これで、楽になれるよね・・・。)」
一瞬、昔の思い出が頭を過ぎる。
それは、美貴と亜弥が二人で笑いながら話しをして、町の中を
歩いている場面だった。
「(あの時の美貴たん、優しかったな・・・いつも私の面倒を見てくれて、
我がままを聞いてくれて・・・でも、もうこれで終わり・・・。)」
ガシッ!
突然、亜弥の落下が止まる。
亜弥が上を向くと、真希が屋上から飛び降りていて、亜弥の腕を
片腕で掴み上げ、片腕で屋上に手をかけていた。
- 146 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:45
- 「な、何を・・・。」
「うるさい・・・話し、かけるな・・・。」
真希は必死になって自分の体を屋上に上げて、亜弥を引き上げた。
亜弥は、地面に座ったまま呆然としている。
少しして、亜弥は真希を振り向いて睨みつける。
「何で助けたのよ・・・どうして死なせてくれなかったの!?
私なんて、もう生きている意味なんてないのに・・・。」
パンッ!
亜弥の言葉の途中で、真希が顔を引っ叩いた。
- 147 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:46
- 「簡単に死ぬなんて言うな。」
そう言って、真希は亜弥の前に座り込んだ。
亜弥は叩かれた頬を押さえ、虚ろな目で下を向いていた。
「世の中にはね、生きたくても死んでしまう人だっているんだ。
先のことが楽しみで、それでも不慮の事故に遭ってしまって、
死んでしまう人もいる。後藤の両親も、そのうちの二人だった・・・。」
「えっ・・・?」
その言葉に、亜弥は顔を上げた。
「後藤の両親はね、事故に遭って死んじゃったんだ。後藤だけは、
運よく軽傷で済んだみたい。そのあとの後藤は、気が狂いそうで
仕方なかったよ。病院で何度も暴れて、医者達に取り押さえられて、
退院してからも心の傷が癒えることはなかった。」
「・・・。」
亜弥は黙って真希の話しを聞いている。
- 148 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:47
- 「後藤にも、あんたみたいに死にたいって思ったことが何度かあるよ。
何で後藤だけが生き残ったんだろって、後藤が生きている意味なんて
あるのかなってね。でもね、そんなことをミキティに話したら、
こう言ってくれたんだ。」
『今死んだらさ、これから先にある幸せを感じることはできないよ。
今はお互い苦しいし、傷が癒えることはないかもしれない。でもさ、
がんばって生きていこうよ!いつになるかはわからないけど、必ず、
幸せだって感じる時がくるはずだよ。それまで一緒にがんばろっ!』
「そう言ってくれたんだ。だから、後藤はやれるとこまで、一生懸命に
生きていこうと思う。大切な人達と一緒に、生きていたい。」
「・・・所詮は、慰める言葉でしかないわよ。」
亜弥は小さい声で呟いた。
- 149 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:48
- 「大体、美貴たんに何がわかるっていうの?何の不自由もない生活を
している美貴たんが、何で苦しいのよ?」
それを聞いて、真希はため息をついた。
「ハァッ、ミキティ、やっぱあのこと言ってないんだな・・・。」
「・・・あのこと?」
「ミキティ、お父さんに虐待受けてたってこと、あんたは知ってた?」
「!?」
亜弥は目を見開いて驚いている。
「うっ、嘘よ!そんなの絶対嘘だよ!あの優しいパパが、
そんなことするはずない・・・。」
「嘘じゃない。思い出してみなよ。あんたがここ数年でミキティに
会った時、ミキティはどんな服装してた?」
そう言われて、亜弥は以前に美貴に会った時を思い出す。
- 150 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:52
- 前回会った時は去年の夏で、その日は年一番の暑さだった。
だが、美貴の服装は猛暑にも関わらず、長袖のブラウスに
足首まであるジーパンを穿いていた。
どれだけ汗をかこうとも、袖を捲ることは一度もなかった。
その前も、そのまた前を思い出しても、美貴は一度も肌を曝け出したことはない。
それと同時に、毎回顔に傷があったのを思い出した。
そこら辺の不良とケンカしたとか、階段で転んだと言っていたが、
特に気にすることもなかった。
それが何を意味していたのか、今更亜弥は気付いたのだった。
「そんな・・・まさか、美貴たんは・・・。」
「思い出した?ミキティがどうして肌を見せなかったか・・・。」
昔の美貴を思い出し、真希は少し顔を顰める。
- 151 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:53
- 「そう・・・体中についている傷や痣を隠してたんだよ。誰にも
見られないようにね。中学の時もそうだった。衣替えをした時も、
ミキティはいつも長袖を着てた。体育の時だって、後藤は一度でも
一緒に着替えた覚えはない。いつもトイレとかで着替えてた。
もちろんジャージだったよ。でも、一度だけミキティの背中を、
ふいに見ちゃったことがあるんだ。その時は驚いたよ。背中全体が
黒く見えるほど、痣だらけだった。どれだけ殴られたか、想像も
できないほどにね・・・。」
亜弥は信じられないといった表情で、真希の話しを聞いている。
「人にはさ、事情があるんだよ。それでもミキティは、あんたには
お父さんのことを好いていてほしかったんだと思う。このことを
あんたに話してなかったんだからさ。」
何も言わない亜弥を、真希はじっと見つめる。
- 152 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:54
- 「何で、そんなにミキティを恨むの?」
「・・・私は、パパの愛人の娘なの・・・。」
少しして、亜弥は呟くように話し始める。
「私と美貴たんが出会ったのは、十年くらい前だった。その時は
まだパパも離婚してなくて、それでもママと付き合ってたみたい。
私の本当のパパは、私が産まれる前に離婚しちゃったの。それから
しばらくして、美貴たんを紹介された。年が近かったからか、
美貴たんとはすぐに打ち解けられた。ちょっとしてから、パパは
離婚した。パパはママとは結婚せずに、愛人のままの関係だった。
パパは、たまにうちにきてお金を置いていくだけ。それでも、
その時のパパは私に優しくしてくれた。そんなパパが私は好きだった。
美貴たんは、一緒にパパのあとを継ごうって言ってくれた。だから私は、
ここまでがんばってこれた。でも・・・。」
「ミキティに裏切られて、復讐しようとした、ってことだね。」
亜弥は黙って頷いた。
- 153 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:55
- 「パパはたまにしかこなくて、ママはお酒を飲んでばかり。
私には、美貴たんしか頼る人がいなかった。でも、美貴たんは
変わっちゃった・・・私のことなんて、もう・・・。」
「・・・夏休みに入ってね、ミキティとこんな話しをしたことがあるよ。」
真希は上を見上げて、思い出しながら話し始める。
『ミキティ、この日にバイト休み取れない?花火大会があるんだって。』
『あ〜、ごっちんごめん。この日だけは無理なんだ。』
『んあ?何かあるの?』
『まあね。どうしてもさ、会う必要がある子がいるんだ。
まあ、美貴的にはあまり会いたくないんだけどね。でも、
仕方ないけど会わなきゃいけないんだ。』
「ほらね・・・美貴たんは、私に会うのが嫌だったってことでしょう?」
亜弥は表情を変えずに真希に聞いた。
- 154 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:56
- 「まぁまぁ、話しは最後まで聞いてよ。それでね・・・。」
『ふ〜ん。なら何で会わなきゃいけないのさ?断れば?』
『そういうわけにもいかないんだよ。会いたくないっていうのは、
会ったら真相を言わなきゃいけない。その時の亜弥ちゃんの顔、
見たくないんだよね。きっと、悲しむから・・・でも、なんとか
説得してみせるんだ。美貴のせいで、亜弥ちゃんが傷つくのだけは
絶対に嫌なんだ。亜弥ちゃんにはずっと笑っていてほしいから。
美貴にとって、たった一人の大切な妹だからさ。』
「そんな・・・。」
亜弥の目から、次々と涙が零れていく。
- 155 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:56
- 「私は・・・なのに、何も知らないで、美貴たんを傷つけて・・・。」
「・・・今からでも遅くないよ。ミキティとやり直してみなよ?」
真希は軽く笑ってそう言うと、立ち上がって歩き始める。
「ねえ、私はこれから、どうしたらいいの・・・?」
亜弥の涙声が、真希の背中に届いてきた。
「・・・ミキティはきっと、昔から何も変わってないんじゃないかな。
強さも優しさもね。それは、あんたに対したって変わってないはず。
ミキティの生き方、見てみたら?そうすれば、ミキティのことが
少しはわかるんじゃないかな。」
それだけ言って、真希は屋上から出て行った。
「美貴たんの・・・生き方、か・・・。」
亜弥は地面に寝転んで、しばらくの間、夜空を見上げていた。
- 156 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 22:57
- 更新しました〜。
- 157 名前:konkon 投稿日:2005/07/05(火) 23:00
- >ひろ〜し〜さん
ありがとうございます。
そう言ってもらえると嬉しいです。
今後はあややはどうなるんでしょうかね〜?
これからもカッコイイミキティ&ごっちんを
書いていきたいと思います。
>名無しの荒らしさん
ある意味本当にすごいですよね・・・。
あややにはあややの、まぁ、深い事情があるわけなんですよw
そんな感じで進ませて頂きたいと思います(謎)
- 158 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/07/05(火) 23:45
- お疲れ様
うぉー!!ミキティ&ごっちんカッコイイっすよ。
これで亜弥ちゃんも分かってくれましたよね
- 159 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/06(水) 15:17
- うん、ミキティもごっちんもカッコ良い!!
次回待ってま〜す
- 160 名前:闇への光 投稿日:2005/07/06(水) 22:00
- お久しぶりです。
遊園地の人はあの人でしたか…
てっきり…(メール欄)かと…。
しかし、和解したら大変そうだなあ。
二等辺三角関係かなあ…(笑)
- 161 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:44
- 「ん・・・。」
美貴が目を覚まして、体を起こす。
いつもと違う、だけど見慣れた風景、そこで美貴は真希の家にいることに気付いた。
「おっ、起きたみたいだね。」
「ごっちん・・・あっ、美貴は・・・。」
美貴が大声を出すより先に、真希は人差し指を立てて自分の口に当てた。
そこで、真希の視線の先にある存在に目を向けた。
「愛ちゃん・・・。」
美貴の寝ていたベッドで、愛がうつ伏せて寝ていた。
「高橋、起きてからずっとミキティの面倒見てたんだってさ。」
そう言って、真希は隣のベッドで寝ているあさ美の元へと向かう。
「あとで高橋と紺野にお礼言いなよ。それと、そっちのソファで
寝ているなっちにもね。」
「ごっちん・・・亜弥ちゃんは?」
その言葉に、あさ美の毛布をかけ直した真希は顔を上げる。
- 162 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:45
- 「・・・ミキティが伝えたかったことは伝えられたと思う。
でも、大丈夫だと思うよ。あの子も強いからね。」
「そっか・・・ありがとう。」
「んあ、んじゃ後藤も寝るから。」
「寝るって、どこで寝るの?」
「ソファ。」
「いいよ!だったら美貴がそっちに・・・。」
「ほら、大声出さないの。怪我人は大人しく寝てなさい。おやすみ〜。」
真希の顔も赤く腫れ上がっていたが、美貴は何も言えなかった。
真希は眠そうに大きな欠伸をして、部屋から出て行った。
「結局・・・ごっちんに迷惑ばっかかけてるな〜。」
美貴は、寝ている愛の頭を軽く撫でる。
そこで、愛は目を擦って頭を上げた。
- 163 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:45
- 「あ、ごめん。起こしちゃったかな?」
「いや、もう起きようと思ってたから。」
愛は一度伸びをしてから答える。
「傷・・・痛くない?大丈夫?」
「痛くないって言えば嘘になるけど、まぁ慣れてるからね。」
美貴は軽く笑って答える。
美貴の顔には、いくつもの絆創膏が貼られていて、腕には包帯が巻かれていた。
「愛ちゃん・・・ごめんね。」
「何のこと?」
「美貴のせいで・・・美貴、愛ちゃんのこと守るって言ったのに、
こんな危険な目に合わせちゃって・・・。」
美貴は体を震わせてそう呟いた。
「・・・そうかもね。でも・・・。」
愛は優しく美貴のことを抱きしめる。
- 164 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:46
- 「愛ちゃん・・・?」
「美貴ちゃんは守ってくれたよ。約束を守ってくれた。私のことを、
身を挺して助けてくれた。だから、私は美貴ちゃんを信じるよ。」
「でも・・・。」
「美貴ちゃんは優しすぎるんだよ。けど、その伝え方が不器用だから、
たまに相手を困らせてしまうんだと思う。相手のことを考えすぎて、
自分の本当の気持ちを伝え切れないから。」
「・・・。」
「でも、私は美貴ちゃんのそういうとこ、好きだな。」
愛は笑顔でそう言った。
「きっと、松浦さんにも伝わるよ、美貴ちゃんの気持ち。」
「ありがとう、愛ちゃん・・・。」
愛の言葉が、美貴の心に重く、優しく響いていた。
亜弥に自分の気持ちが伝わっている、美貴もそう信じていた。
- 165 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:46
- 夏休みもあっという間に終わり、また学校が始まった。
美貴と愛は、教室に向かって廊下を歩いている。
「あ〜、だるい。さっさと冬休みにならないかな〜。」
「・・・あと何ヶ月あると思ってんの?」
「ハァ、美貴、頭痛いから帰ろうかな〜。」
「サボるんだったら、家事を全部済ませといてね。」
「愛ちゃん、それは厳しいわ・・・。」
美貴と愛は、笑いながら教室の中へと入っていく。
自分の席に目を向けた瞬間、美貴は目を見開いて驚いた。
「あっ、亜弥ちゃん!?」
美貴の席には、真希と笑って話している亜弥の姿があった。
亜弥は、なぜか朝比奈学園の制服を着ている。
他のクラスメイト達も、亜弥の可愛さに目を奪われていて、
全員がそちらの方に注目していた。
- 166 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:47
- 「あっ、亜弥ちゃん、どういうことなのさ!?」
「おっ、美貴たんおはよ〜。」
少し前に、あれだけ自分のことを殴ったとは思えないほどの笑顔で、
亜弥は美貴に手を振った。
「私、今日からこの学校に転入したから。ちなみに隣のクラスだよん♪
そんなわけでよろしくね〜。」
「ハァッ!?」
美貴は声を上げて驚いた。
「ちょっ、どういうこと!?」
「だってさ〜、"ごっちん"が美貴たんの生き方を見てろっていうからさ〜。」
「ごっちん!?」
「"まっつー"、見てろじゃなくて、見てみたらって後藤は言ったんだよ。」
「まっつー!?」
二人がいつの間にここまで打ち解けたのか、美貴は口を開けて
呆然とするしかできなかった。
- 167 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:48
- そんな美貴も知らずに、亜弥は愛の前へと歩み寄る。
「高橋さん、あの時は本当にごめんなさい!」
亜弥が愛に大きく頭を下げる。
「えっ、えっ、あの・・・。」
「美貴たんの本心が聞きたいがために、あなたまで巻き込んでしまった・・・。
心から反省してます。本当にごめんなさい・・・。」
「いやっ、もう気にしてないから、頭を上げて・・・。」
愛は戸惑いながら、亜弥を宥める。
「じゃあ、許してくれるの?」
「・・・うん。あなたにも何かわけがあったんだろうし、
もうなんともないから。」
「・・・ありがとう。これからよろしくね!」
亜弥は嬉しそうに愛に手を差し出した。
愛は、軽く笑って手を握り返した。
- 168 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:49
- 「何かあったら、美貴たんじゃなくて私に言ってね。美貴たんよりも、
絶対に力になれるから。」
「そうかもね。その時はよろしくね。」
「うん!」
「(美貴って一体・・・。)」
美貴は大きくため息をついた。
愛の手を離した亜弥は、今度は美貴に視線を向ける。
「美貴たん、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「・・・いいよ。」
亜弥の言葉の意図を理解した美貴は、歩き始めた亜弥についていった。
- 169 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:50
- 亜弥が連れてきた場所は屋上だった。
美貴と亜弥は、少し離れた場所からお互いを見据える。
「美貴たん、いくよ?」
亜弥は、腕を振り回しながら美貴に聞いた。
「いつでもどうぞ。」
美貴は軽く手首を振って答える。
一瞬の沈黙のあと、亜弥が美貴に向かって飛び出した。
「ほっ!」
亜弥が高速の拳を次々と振るっていく。
美貴は目を細め、亜弥の拳を手で弾いたり、紙一重で避けていく。
「(は〜、ミキティ、あれを避けられるんだ・・・。)」
真希は美貴達のことが気になって、こっそりとあとをつけていたのだ。
屋上の扉の影に隠れて、二人の動きを目で追っていた。
- 170 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:50
- 「ハッ!」
亜弥の攻撃が途切れたあと、美貴が足を振り上げる。
「くっ・・・。」
亜弥は身を引いて、美貴の足を避ける。
美貴が足を振り下ろした隙を狙って、亜弥が飛び込んだ。
次の瞬間、
ゴゥッ!
美貴の逆足の鋭い回し蹴りが、亜弥の頭を掠めた。
あと少しでも頭を上げていたら、確実に致命傷になっていただろう。
バランスを崩して倒れ込んだ亜弥は、すぐに立ち上がって一旦美貴との距離を置いた。
「もう終わりなの?」
「まさかっ!まだまだいっくよーっ!」
それからしばらくの間、二人の攻防が続いていた。
- 171 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:51
- お互いになかなか致命打を与えられないでいる。
だが、
「(なんか、楽しそうだな〜・・・。)」
二人の表情を見て、真希はそう思っていた。
真剣に戦っているのだが、美貴と亜弥の目は笑っているように見える。
「これでっ!」
「もらったよ!」
美貴と亜弥が、同時に拳を振り切った。
二人の拳は、お互いの顔の目の前で止められていた。
「美貴たん、本気出してた?」
「当たり前じゃん。亜弥ちゃん相手に、手加減なんてできないよ。」
「嘘ばっかり・・・。」
亜弥は小さくため息をついて、屋上から出て行こうとする。
- 172 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:52
- 「絶対に、美貴たんよりも強くなってやるんだからね!」
屋上の扉から、亜弥は美貴を振り返ってそう叫んだ。
「フフッ、美貴よりも強くなれると思ってんの?」
「・・・なれるよ。」
亜弥は、再び前を向いて歩き始める。
「私は・・・美貴たんの妹だからね。」
亜弥はそこまで言い切ると、走って屋上から出て行った。
美貴は、亜弥の言葉を聞いて立ち尽くしていた。
亜弥が自信家なのは昔からよく知っていた。
だが、まさかそのように言われるとは思ってもなかったからだ。
- 173 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:53
- 「亜弥ちゃん・・・。」
美貴は、感動して涙が出そうになるのを耐える。
それを振り切って、今度は屋上の扉を睨みつける。
「こらっ!そこで隠れているやつ、出て来い!」
「(やばっ!ばれてた!)」
真希は慌てて階段を駆け下りていった。
「ったく。・・・でもごっちん、ありがとね。」
美貴の中で、一つの不安は消え去った。
それが真希のおかげであることには、美貴は感謝している。
ただ、これから先に亜弥の身に何が起きるかはわからない。
それがどんな状況であろうとも、今度こそは自分が亜弥を助けるんだと、
美貴はそう強く決心した。
- 174 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:53
- 更新です。
- 175 名前:konkon 投稿日:2005/07/12(火) 22:56
- >名無しの荒らしさん
そうですね〜。
今回の件で仲良くなれたと思われ・・・ます(謎)
まぁ、なんとかなるでしょうw
>名無し飼育さん
まだまだカッコイイ二人が出てくると思います。
それがいつになるかは・・・どうでしょう(汗)
>闇への光さん
お久しぶりですね。
遊園地の彼女は彼女でしたw
二等辺三角形・・・考えてもなかったです・・・。
- 176 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/07/13(水) 22:13
- おつかれさま
何やってるんですか!!?屋上でそんなことして・・・
二人が強いことはよく分かりました。
二等辺三角形・・・はじまりますかね?
- 177 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:39
- 「ってなことがあったのよ〜。面白いでしょ?」
「ハハハハッ!マジで!?ミキティ、そんなことがあったんだ〜。」
「・・・。」
学校の昼休み、教室の一角で笑い声が響いていた。
そこにいるのは、美貴と愛、真希、あさ美のいつものメンバーに、
隣のクラスからきている亜弥の姿があった。
美貴は、頭を押さえて俯いていた。
「美貴たん、暗いぞ〜。何か悩みでもあるのかい?」
「・・・理由知ってて聞くな。」
次の日に学校があるにも関わらず、美貴はバイトの仲間達と
夜遅くまで飲んでいたらしい。
そして、二日酔いで頭を押さえていた。
動くたびに頭痛が響くため、美貴の選択肢に逃げるという文字はなかった。
美貴は、愛と一緒に静かに昼食を取ってすぐに寝たかったのだが、
亜弥がきたおかげで寝れずに話しに無理やり入れ込まれていた。
- 178 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:40
- 「・・・何で亜弥ちゃんがここにいるの?」
美貴は鋭い目つきで亜弥を睨みつける。
「うっ、ごっち〜ん、美貴たんが怖いよ〜。」
「知ってるでしょ?これがミキティの本性だよ。」
「あっ、そうだったね。美貴たん、私のこと大切な妹だって言ったのに・・・。」
「・・・それとこれとは別だよ。」
美貴は痛みに耐え切れず、机にうつ伏せる。
「ありゃりゃっ、寝ちゃったよ。そういえばさ、少し離れたとこだけど
おいしいかぼちゃのお店があるの。今度みんなで一緒に行かない?」
「かぼちゃのお店!?」
大声を上げたのはあさ美だった。
あさ美は、いもやかぼちゃなどの穀類に目が無いほど好きらしい。
- 179 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:40
- 「うん。友達に聞いたら、とってもおししいんだってさ〜。」
「本当に!?うん、みんなで行こうよ!早く行こう!後藤さん、愛、
いつにしましょうか?」
「あんたって、本当に食べ物になると目が輝くね。」
「もちろん!あ〜、かぼちゃのお店・・・何ていい響きでしょう。」
あさ美には、すでにかぼちゃのことしか頭にないようだ。
そんなあさ美を見て、愛は苦笑している。
「ごっちん、面白い子が傍にいてくれて羨ましいね〜。」
「まぁね。こっちの根暗よりは全然いい子だよ。」
そう言って、真希は親指で美貴を指した。
「ホントだよね〜。これだったらごっちんの妹の方がよかったな〜。」
「その方がいいよ。ミキティよりも、頼りになること間違いなしだよ。」
真希と亜弥は、顔を見合わせて大笑いをした。
- 180 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:41
- 愛はあさ美のかぼちゃについての話しを聞いているため、
二人を止めることはできない。
真希達の笑い声によって、さらなる頭痛が美貴を襲う。
「(あ〜、もう誰か助けて・・・。)」
美貴は天に祈りを込めるように、頭の中で助けを求めた。
ガラッ
教室の扉が開かれた音に反応して、美貴はゆっくりとそちらに視線を向ける。
美貴の教室の中に入ってきたのはれいなだった。
れいなはゆっくりと扉を閉めて、美貴を探し出す。
美貴を見つけたれいなは、緊張しているのか、周りを気にしながら美貴に向かっていく。
- 181 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:42
- 「美貴ねえ、机に突っ伏しちゃって、どうしたっちゃ?」
「・・・どうしてもないよ。れいなこそ、どうしたの?」
「フフン、すごくいい話しがあるばい!」
そう言ったれいなの顔は、とても嬉しそうだった。
「・・・何?つまんない話しだったら怒るよ。」
「なっ、何でそんな不機嫌そうな顔してると・・・?」
美貴の怖い形相を見て、れいなは一歩たじろぐ。
「さっきから周りがうるさいから、もう頭痛くて大変で・・・。」
れいなに愚痴ろうとしたその時、
ガラガラッ!
れいなの時よりも勢いよく扉が開かれた。
- 182 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:42
- 「絵里の方が可愛いもん!」
「何言ってるの?さゆより可愛い子なんか、世界中のどこ探したっていないよ!」
「だから、さゆの目の前にいるじゃん!」
「絵里よりさゆの方が、ぜ〜〜〜ったいに可愛いよ!」
教室に入ってきたのは、れいなについてきた絵里とさゆみであった。
どうやら二人は、どちらが可愛いかということで言い合いをしているようだ。
愛や美貴にはすでに見慣れた光景で、普段ならどうということはなかった。
だが、今の美貴にとっては頭痛の種が増えたために、さらに顔を顰めていた。
「あっ、藤本さん。さゆより絵里の方が可愛いですよね〜?」
美貴に気付いた絵里は、美貴に駆け寄ってそう聞いた。
「違いますよね。さゆより可愛い子なんて存在しませんよね?」
さゆみも美貴に向かって聞いてきた。
- 183 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:43
- 「違うもん。絵里の方が可愛い!」
「さゆだもん!」
二人は美貴の前で口論をし続ける。
「れいな、またあの二人は言い合ってんの?」
「そうみたいです。まぁ、どっちも自分が一番可愛いと思ってますとね。
二人とも頑固だから、当分の間は続くんじゃなかですかね。」
愛に聞かれたれいなは、軽く肩を竦めてそう答えた。
「・・・愛ちゃん、れいな、この二人を止めて・・・。」
「「無理。」」
二人は同時に答える。
それを聞いた美貴は、再び机にうつ伏せた。
「ちょっと、二人ともやめなさい。」
美貴は驚いて、ゆっくりとだが声の主を振り返った。
絵里とさゆみの言い合いを止めたのは、美貴にとって全くの
予想外の人物である、亜弥だった。
- 184 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:44
- 「(亜弥ちゃん・・・美貴のことを思って・・・。)」
美貴は亜弥の行動に感動したところだが、その想いはあっさりと
打ち砕かれることになる。
「あなた達に教えてあげる。一番可愛いのは、そう、この私よ。」
亜弥は自信満々といった感じで、自分に親指を立てて向けた。
「・・・絵里ですよ〜!」
「違う、さゆが一番だもん!」
絵里とさゆみ、さらには亜弥も加えて、騒々しさが倍増する。
もう、この状況を止められる者はいないだろう。
「・・・れいな、話しって何?」
美貴は、泣きそうな顔でれいなに聞いた。
この三人を少しでも頭から切り離すために、れいなの話しに集中しようと思ったのだ。
- 185 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:45
- 「あっ、美貴ねえ・・・あの、これ、プレゼントばい。」
れいなは、恥ずかしそうにポケットから二枚のチケットを出して、美貴に見せる。
「・・・何のチケット?」
「聞いて驚け見て驚け!あのバンドのライブチケットばい!ほらっ!」
れいなは美貴の目の前までチケットを近づける。
そのバンド名を見た瞬間、
ダンッ!
美貴が思い切り机を叩きつけ、その反動で立ち上がったのだ。
その音で、教室の中は一瞬にして静寂に包まれる。
先ほどまでうるさかった亜弥達も、今は黙って美貴を見ている。
- 186 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:45
- 「そっ、そんな驚かんでもよかね・・・。」
「れいな、それ、どうしたの?」
「あ〜、テレビの懸賞で試しに出してみたら、当たったんばい。
確か、このバンド美貴ねえが好きだったってのを思い出して・・・。」
「・・・本当に美貴がもらっていいの?」
「もちろん!そのつもりでここまできたっちゃ。まぁ、二ヶ月くらい
先の話やけんね。二枚あるから、愛ちゃんと一緒にでも・・・。」
「れいなーっ!」
美貴が思い切りれいなを抱きしめた。
「ほっほ〜う。」
「おわ〜・・・。」
その光景を真希は楽しそうに、あさ美は口を開けて見ていた。
- 187 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:46
- 「あんた、本当に最高の妹だよっ!」
「い、いや、美貴ねえにはいつも世話になっとうし、この間も
さゆとの話しを真剣に聞いてくれたけん・・・。」
「ん〜、マジ嬉しい!最高な気分!」
見たことのないほどに、美貴は嬉しそうな表情をして笑っている。
それを見て、れいなは軽く笑みを浮かべる。
「何よ、れいなったら!藤本さんに抱かれてにやついちゃって!」
「べっ、別ににやついてなんか・・・。」
「もういいや。絵里、帰ろう。」
れいなを一睨みして、さゆみは教室を出て行った。
「それではごきげんよう〜。」
絵里は笑顔で美貴達に頭を下げると、さゆみのあとを追っていった。
れいなもさゆみの後を追いかけたかったが、さらに美貴に
きつく抱きしめられて動けない。
- 188 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:46
- 「あっ、さゆっ!待って・・・もう、痛いって、バカッ!
美貴ねえ、いい加減に放すばい!」
「そう照れんなって!ほらっ、亜弥ちゃん、妹っていうのは、
こういう優しい子が相応しいんだよ。」
「やれやれ、物につられちゃって、やな感じ〜。」
亜弥はそれだけ言って、弁当箱を持って教室を出て行った。
「ミキティ、超浮かれモードに突入してんね。」
「・・・何ですか?そのなんとかモードって?」
「今のミキティ。」
真希の意味深な答えに、あさ美はさらに首を傾げる。
「はぁ、そうなんですか。まぁ、たまにはいいんじゃないですか?」
「まぁね。ミキティは笑ってる方が、後藤も落ち着くしね。」
真希とあさ美は、美貴の機嫌が直って安心した表情をしている。
- 189 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:48
- 「あ〜、さゆ・・・。」
「そう気にするなって!美貴があとでラブラブにしてやるからさ。」
「絶対っちゃよ!っつうか、れいな、いいことしたはずとね・・・?」
「そうだよ!よ〜し、れいな、今日は飲みに行くぞ〜!」
「・・・学校で言う言葉じゃなかね。」
美貴は笑ってれいなの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「(・・・まだ飲む気なの?)」
今さっきまで二日酔いで机にうつ伏せていたのに、すぐに酒を飲む気に
なっている美貴を見て、愛は軽くため息をついた。
だが、楽しそうにしている美貴の顔を見ていると、自分も嬉しくなるのがわかる。
それが恋愛感情なのかどうなのかは、今の愛にはわからなかった。
それでも愛は、口元に小さな笑みを浮かべていた。
ただ、このバンドのあるメンバーと美貴には、深い繋がりがあること、
そして、このバンドとの出会いが美貴達に大きな影響を与えること、
それを美貴達が知るのは、もう少し先の話しであった。
- 190 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:48
- 更新です。
- 191 名前:konkon 投稿日:2005/07/21(木) 23:49
- >名無しの荒らしさん
何やってんでしょうね〜w
まぁ、スキンシップってやつですかね♪
一年経ってもまだ中盤、終わるかな・・・(汗)
- 192 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/07/22(金) 08:21
- おつかれさま
いいですねぇ〜、ほのぼのした感じ。
れいなも微妙な位置に居るんですね
あのさゆえりにあややまで・・・
- 193 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:39
- それは、その日の一週間程前に遡る出来事だった。
九月も半ばに入った頃、美貴は近くに新しくできたスーパーで買い物をしていた。
「ありがとうございました〜。どうぞ、こちらをご利用ください。」
買い物を済ませた時、レジの店員からくじ引き券をもらった。
どうやら、開店特別イベントということで、店の外でくじ引きをやっているらしい。
金額によって券をもらえるようで、美貴の手には十枚あった。
一回くじ引きをやるのに必要な枚数は十枚らしく、ちょうどいいと
思った美貴はくじ引きに並んだ。
前に数人の人達が並んでいたが、全員ティッシュしかもらえなかったようだ。
「次の人、どうぞ〜。」
二人の店員が、美貴を笑顔で迎え入れる。
「(まぁ、別に期待してないけどね・・・。)」
前の人が何かに当たっていたのなら、美貴にもチャンスはあったかもしれない。
しかし、さっきまで当たってない人達を見ていて、美貴の期待度は薄まっていた。
- 194 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:40
- ただ、美貴にとってはティッシュも必需品であり、本人曰くティッシュが切れると
落ち着かない性格をしているので、もらっておいて損はないと思っていた。
箱の中に手を入れて、適当に一枚のくじを引いて店員に渡す。
「おっ、おめでとうございます!一等賞です!」
「えっ!うそっ!マジですか!?」
美貴は目を見開いて驚いている。
「(何だろ〜?DVDプレイヤーだといいな〜。あっ、大型テレビも
欲しかったんだよな〜。やっぱ日頃の行いがいいからだね〜♪)」
美貴は、期待に胸を膨らませて店員の次の言葉を待つ。
「おめでとうございます!一等賞は二泊三日のペアでご招待、
北海道の温泉旅行特別券です!」
「あ、ありがとうございます・・・。」
美貴は店員に渡された封筒を手に取って、自分の家へと向かっていく。
「(とはいってもね〜・・・。)」
美貴は、封筒を見つめながら歩いている。
「(バンドもあるしバイトもある現状じゃ、行く暇なんてないし・・・
どうしたもんかね〜。ん、そういえば・・・。)」
そこで美貴は、自分の携帯を見て今日の日付を確認する。
「よしっ、まだ間に合うよね。あ〜、面白くなってきたっ!」
美貴は自分の計画を考えて、顔に笑みを浮かべていた。
- 195 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:40
- 次の日の昼休み、
コンコン
「失礼しま〜す。」
美貴は職員室の中へと入っていく。
周りを見渡して、目的の人物を探し出す。
「あっ、矢口先生!」
美貴は、嬉しそうな表情をして真里に駆け寄っていく。
「おう、藤本じゃないか。勉強について聞きにきたのか?」
「いや〜、天才の美貴がわざわざ昼休みに勉強を聞きにくる必要なんて、
あるわけないじゃないですか〜。」
「・・・お前、教師を侮辱しにきたのか?」
真里は、怖い目つきで美貴を睨みつける。
それでも美貴は、笑顔のまま真里を見ている。
- 196 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:41
- 「そんなんじゃないですよ〜。矢口先生にプレゼントを持ってきたんです。」
その言葉に、真里は目を輝かせて美貴を見上げる。
「ってことは、新しいなっちの写真か?」
「違いますよ〜。もっといい物です。ハイ。」
美貴は真里に一枚の封筒を差し出す。
「・・・これは?」
「温泉旅行、ペアでご招待だそうです。たまには温泉にでも行って、
ゆっくりしてきたらどうですか?」
「温泉?何でこれをおいらにくれるんだ?」
「ハァッ、矢口先生、何でわかんないかな〜。」
美貴はため息をついて、大げさに肩を竦める。
- 197 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:42
- 「これは矢口先生にとって、大きなチャンスなんですよ!次の連休に、
安・倍・さ・ん、誘って行ってくればいいじゃないですか〜。」
「なっ、ななな、なっちと二人で旅行!?」
真里は大声を上げて、驚きすぎて思わず立ち上がった。
「でっ、でも、そんな休みなんてないから・・・。」
「だから言ったじゃないですか。この日の祝日と土日が繋がってるから、
二泊三日も不可能じゃないですって。」
「そっ、そうだけど・・・。」
「矢口先生、ここで決めないと、次のチャンスはないかもしれないんですよ?
ごっちんがこの学校を卒業したら、安倍さんと矢口先生が会う機会も、
全然少なくなるんですよ。それでもいいんですか?」
「うぐっ、それは困る・・・。」
真里は下を向いて考え込む。
少しして、真里は真剣な目で美貴に振り返る。
- 198 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:42
- 「わかったよ!おいらはやってやるぜっ!藤本の気持ち、
おいらは絶対に無駄にはしない!」
「その意気ですよ。でも・・・。」
美貴は顔を下げて、真里に顔を近づける。
どこか怖い笑みを浮かべている美貴を見て、真里は一歩下がる。
「やるからには、絶対に行ってくださいね。でないと、美貴の計画が
崩れちゃうんですから。頼みましたよ。」
「わっ、わかった・・・。」
「あっ、安倍さんには予め聞いておきましたから。その日は何もないって。
結果は今日中に返してくださいね。では、失礼します。」
真里に笑顔でそう言うと、美貴は職員室を出て行った。
真里は、呆然として美貴が出て行った職員室の扉を見ていた。
- 199 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:43
- 9月22日、真希はその日もいつも通りに学校へ向かっていた。
教室に入ると、美貴、愛、あさ美の三人が、一箇所に固まって何やら
話し合いをしているようだ。
「いい、明日は美貴がこれを持っていくから・・・。」
「あさ美、時間に遅れないようにね。」
「うん、絶対に遅れないよ。それで・・・。」
美貴達はよほど真剣なのか、真希が教室に入ったことに気付いていない。
真希は驚かしてやろうと思い、そ〜っと三人の傍まで歩み寄る。
「おはよーっ!」
真希は、大きめな声で三人に挨拶をした。
次の瞬間、
「おわーっ!」
「うひゃっ!」
「あっ、わわわわっ・・・。」
三者三様、そこから飛び引くほどすごい驚き方だったので、
逆に真希が驚いていた。
- 200 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:44
- 「ごっ、ごっちん!驚かさないでよ・・・。」
「いや、そこまで驚かなくてもね・・・。ところでさ、
何の話しをしてたの?」
「あ〜・・・あ、明日のライブについての話しだよ!ね、愛ちゃん?」
「う、うん・・・。」
愛はまだ驚いているのか、普段以上に目を見開いたままだった。
「そっか・・・ミキティ達、明日はライブなんだ。」
真希は、少し寂しそうに頷いた。
「じゃあ、後藤も見に行く・・・。」
「その件なんだけどさ〜、ごっちんには悪いんだけど、チケットはもう
全部売り切れちゃったんだってさ。それに、明日は他のバンドの人達と
一緒に打ち上げをやるから、帰りも一緒に帰れないと思うんだ。飯田さんが
どうしても出ろっていうからさ・・・。」
「ん、わかったよ・・・。」
真希は、今度はあさ美に視線を向ける。
- 201 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:44
- 「紺野、明日暇だったらさ、後藤と・・・。」
「あの、ごめんなさい。明日はちょっと法事がありまして・・・。」
あさ美にも断られ、真希は大きなため息をついた。
「でもさ、ごっちんが明日空いててよかったよ。」
「・・・どういう意味?」
美貴の言葉に、真希は首を傾げる。
「明日はね、なんと、美貴の大好きなバンドがテレビに出るんだ!
そういうわけで、六時から絶対に家で見るように!」
「えっと・・・。」
「いい、六時からだからね!絶対に覚えててね。」
「・・・わかったよ。」
真希は軽く笑って了承した。
「(ミキティ・・・まぁ、仕方ないか。)」
真希の想いもむなしく、この日もいつも通りに終わっていった。
- 202 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:45
- 更新です。
- 203 名前:konkon 投稿日:2005/07/29(金) 23:46
- >名無しの荒らしさん
たまにはほのぼのもいいかな〜って感じですね♪
全員集合、たぶんそのうち出しますw
- 204 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/07/30(土) 10:18
- お疲れ様
おっいつか全員集合しますか
楽しみですね
3人はなにを企んでいるのでしょう?
この感じはもしかして・・・?
- 205 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:24
-
ドタドタドタッ!
その音で真希は目を覚ました。
9月23日、時刻は昼過ぎ、この日は祝日で真希の誕生日でもあった。
真希はベッドから降りて、リビングの中へと入っていく。
リビングでは、なつみが慌しく部屋の中を駆け回っていた。
「・・・なっち、何してんの?」
「あっ、おはよーっ!真希、なっちのコート知らないかい?」
「タンスの中にしまいっ放しでしょ?」
「あっ、そうだった!」
なつみは乱暴にタンスの中を探っていく。
なつみは、これから真里と一緒に旅行に行くのだ。
その準備を中途半端にしていたために、今更準備をしていた。
- 206 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:25
- 「だから昨日のうちにやっておけって言ったのに。二時に空港でしょ?
今から行かなきゃ間に合わないよ?」
「わかってるよ〜・・・。」
なつみはタンスからコートを取り出したのはいいが、今度はコートを
取り出した際に出した衣類がタンスに入らなくて、悪戦苦闘していた。
「いいよ、なっち。あとは後藤がやっておくから。」
「ごめんね。あっ、そうだった!」
なつみは、今度はテーブルの上にある袋から何かを取り出して、
真希に寄っていく。
「真希、ちょっと屈んでくれないかい?」
「?」
真希は言われた通りに頭を下げる。
すると、なつみが真希の首に手を回して、何かを取り付けた。
それは、真希によく似合う綺麗なネックレスだった。
- 207 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:26
- 「真希、誕生日おめでとう。」
「なっち・・・ありがとう!」
真希は嬉しそうになつみの顔を見つめる。
「じゃあ、これからなっちは行くけど、一人で大丈夫?」
「うん。なっちもやぐっつぁんと楽しんできてよ。」
「ありがと。それじゃ、何かあったら電話するんだよ?」
「なっち、携帯置きっ放しで、後藤はどこに電話すればいいのさ?」
真希は、テーブルに置いてあるなつみの携帯に視線を移す。
「あっ!忘れるとこだったよ。」
「後藤より、自分の心配した方がいいかもね。」
「う〜、そんなこと言わないでよ・・・。」
なつみはふてぐされながら携帯を手に取る。
- 208 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:26
- 「なっち、ちゃんと日付は今日で合ってるよね?北海道には
パスポートはいらないんだよ。持ってないよね?」
「あっ・・・。」
なつみはかばんをごそごそとあさり出し、パスポートを引き出しにしまう。
「あはははっ、なっち、てっきりパスポートも必要だと思ってたべさ。」
「(マイペースすぎる・・・本当に大丈夫かな?)」
「それじゃ、行ってくるね。」
「あっ、うん。行ってらっしゃ〜い。」
真希は、玄関から手を振ってなつみを見送った。
そして、すぐに携帯を取り出して目的の番号を探し出す。
何回目かのコールで、相手の声が聞こえてきた。
- 209 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:27
- 「もしもし、やぐっつぁん?今なっち出て行ったから。そう、
本当になっちのこと任せたよ。もう心配で仕方なくてさ・・・
今日で合ってるよね?・・・そう、よかった〜・・・。
うん・・・またね。楽しんできてね〜。バイバ〜イ。」
真希は、安堵のため息をついて電話を切った。
転勤をすることに嫌気がさした真希は、本当は一人暮らしをしたかった。
だが、真希の両親が亡くなったために、真希には精神的障害が発生する可能性が見られていた。
そのためにも、叔父達も真希に一人暮らしはさせずに、なつみの元で真希を
保護してもらうつもりで、ここに送り届けたはずだった。
だが、もしかしたら二人で生活するに当たって助かっているのは、
なつみの方かもしれない。
それだけ、真希はしっかりとした妹となっていた。
真希はタンスの中の衣類を整理すると、ソファに寝っ転がる。
- 210 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:28
- 「どうしようかな〜・・・そうだ。」
以前、あさ美から借りたバスケのビデオを思い出し、それを棚から探り出す。
ビデオを設置して、真希は先ほどと同じようにソファに寝っ転がって、
テレビを凝視している。
そのビデオとは、真希達が目標としている日本代表の試合だった。
「(すごい・・・あんなことできるんだ・・・。)」
真希は選手達の華麗なプレイを、感心して見ていた。
あっという間に試合は終わり、二試合目が始まろうとしていた。
しかし、真希はテレビを消して、今度は仰向けになって寝転んだ。
「(誕生日なのに、後藤は何してるんだろ・・・。)」
美貴、愛、あさ美に断られ、真希はこれから何をしようかと考えていた。
このメンバーで、たまには派手に遊びに行こう、昨日までそんなことを
考えていた自分が空しく感じた。
「昔は、お父さんもお母さんも仕事を休んで、後藤を祝ってくれたっけな〜。」
大きくため息をついて、天井を見上げる。
「(寂しいな・・・。)」
結局、考えているうちに睡魔に襲われて、真希はまた眠りについた。
- 211 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:29
- ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「誕生日おめでと〜!!」」
三年前の8月10日、美貴、真希、なつみの三人は、真希の家でなつみの誕生会をしていた。
なつみの大学は夏休みだったので、なつみは帰省していた。
両親は仕事のために、夜まで帰ってこないらしい。
そこで夏休みだった美貴と真希は、なつみのために誕生会を開いたのだった。
「二人ともありがと〜。」
なつみは嬉しそうに笑っている。
「このケーキ、美貴とごっちんで焼いて作ったんですよ〜。」
「おいしいから食べてみてよ。」
二人に勧められて、なつみはケーキを一口食べる。
「本当だ・・・すごいおいしいよ!」
「イエーイ!」
「やったねっ!」
美貴と真希は、笑って手を叩き合わせる。
- 212 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:29
- 「次の誕生日は、ごっちんかな?その時は美貴がすごいことやってやるぜぃ!」
「何、すごいことって?」
「それはその時のお楽しみってことですよ♪」
なつみの質問に、美貴は自慢げに答える。
「でも、後藤達は、この夏休みが終わったらまた転勤するかもしれないって、
叔父さんがそう言ってたよ・・・。」
「そっか・・・でも、またごっちん達と出会えるかもしれないじゃん!
もしその時がきたらさ、美貴はごっちんと一緒にパーッとやってると
思うよ。いや、絶対やってるね。うん、やってるやってる。」
「何だべ、そりゃっ?」
「クスッ、ミキティらしいね。」
「いや、本当だって!約束するよ!」
その後も、三人は楽しく一日を過ごしていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
- 213 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:30
- 更新です。
- 214 名前:konkon 投稿日:2005/08/05(金) 01:31
- >名無しの荒らしさん
全員集合、いつのなることやら・・・(汗)
さって、何が起きるやら何を起こすやら、
そこら辺はまた次の回ということで(謎)
- 215 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/08/05(金) 15:56
- お疲れ様
おっと・・焦らしますねぇw
なっちはほんとにマイペースで面白い人ですね
ごっちんたちの方となちまり楽しみにしてます
- 216 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/07(日) 15:16
- 一気に1から読ませてもらいました。とてもおもしろいです。
次回の更新、楽しみにしてます。
- 217 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/07(日) 17:56
- なちまり楽しみっす。頑張って下さい。
- 218 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:43
- 「ん、寝ちゃったんだ・・・。」
真希はゆっくりと身を起こす。
どうやら、昔にやったなつみの誕生会の思い出を見ていたようだ。
「後藤も女々しいね・・・。」
真希は、軽く笑って今の時刻を確認する。
時間は5時55分、美貴との約束を守れることで真希は一安心して、
テレビを付けようとリモコンに手を伸ばす。
その時、
ピンポーン
「・・・誰だろ?」
テレビを見るために、少し早足で玄関に向かっていく。
- 219 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:44
- 真希がドアを開けた瞬間、
パーンッ!パーンッ!パーンッ!
突然、クラッカーの音が鳴り響いた。
「ごっちん、誕生日おめでと〜!」
「おめでと〜。」
「おめでとうございま〜す!」
真希の前に現れた三人は、用事があると断られたはずの美貴、愛、あさ美の三人だった。
真希は、ハトが豆鉄砲を食らったように目を丸くして驚いている。
「ハハハッ、今のごっちん、愛ちゃんよりも目が見開いてるよ。」
「それ、どういう意味よ?」
愛は美貴を睨みつける。
- 220 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:44
- 「冗談だよ♪ところでごっちん、いつまで驚いてんのさ?この荷物、
けっこう重いんだから早く中に入れてくれない?」
「えっ、ああ、うん・・・。」
美貴達は、それぞれショルダーバッグやスーパーの袋などを持っていた。
真希はドアを大きく開けて、美貴達を家の中に上げる。
「えっと・・・みんな、用事があったんじゃないの?」
三人が荷物を置いたところで、真希は疑問に思っていたことを聞いた。
「そうだよ〜。今日のライブは昼からだったんだ。それで、打ち上げは
簡単に顔を出して、美貴達はすぐに帰ってきたんだ。」
「・・・紺野は?」
「私も法事だったんですけど、夕方までに帰ってこようと思って、
途中で抜けてきたんです。」
あさ美は笑顔でそう答える。
- 221 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:45
- 「えっ?でも、みんな、それでいいの・・・?」
「当たり前じゃん!今日はごっちんの誕生日なんだからね。これから
ごっちんの誕生会の始まりだよ♪ちなみに、誕生会の発案者は愛ちゃんです。」
「・・・そういうことは言わなくてもいいの。」
「そうなんだ・・・ありがとう、高橋。」
愛は少し恥ずかしそうに頷いた。
「さってと、ごっちん、キッチン借りるね。愛ちゃん、いくよ。」
「うん。」
「あの、私はどうしたら・・・。」
「紺ちゃんは、美貴のバッグからホットプレート出しておいてよ。
あとは、ごっちんの相手してやっててね♪」
そう言ってから、美貴はスーパーの袋を二つ手に持って、愛を連れて
キッチンへと向かっていく。
今、リビングには真希とあさ美が向き合って座っている。
- 222 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:45
- 「紺野、抜け出しちゃって平気なの?」
「あ、当たり前じゃないですか!別に問題ないですよ。」
「クスッ、優等生の紺野の発言とは思えないね。」
「そ、そんなことないですよ。それに・・・私も、後藤さんに
会いたかったし・・・。」
真希は一瞬呆けた顔をしたが、すぐに笑ってあさ美を見つめる。
「ありがとう。後藤も同じ気持ちだったよ。」
「後藤さん・・・。」
「あの〜、お楽しみ中に悪いんですけど・・・。」
二人が振り向くと、リビングの扉の前で苦笑いを浮かべている、
美貴と愛が立っていた。
「紺ちゃん、確かにごっちんの相手をしててとは言ったけど、
やるべきことをやってからにしましょう!」
「あっ、そうでした!ごめんなさい!」
あさ美は慌ててバッグからホットプレートを取り出す。
- 223 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:46
- 真希はホットプレートのコードを、近くの電源にコンセントを付けて、
あさ美の隣に座る。
「あさ美、美貴ちゃんにあんなこと言われたらおしまいだよ。」
愛は野菜が積まれている皿をテーブルの上に置いた。
「いやいや、愛ちゃんそれはひどすぎるから。」
「ハハハッ、高橋も言うようになったね〜。」
美貴は軽くふてぐされて、真希は大笑いしている。
「さって、焼肉大パーティ、始めようか!」
「後藤さんの誕生会でしょ。」
愛の突っ込みも気にせずに、美貴はスーパーの袋から次々と肉を取り出していく。
飲み物は、ジュースもあったがビールやチューハイも置かれている。
「紺ちゃんは、飲めるかな?」
「まぁ、少しなら飲んだことはあります。たぶん、大丈夫です。」
美貴の問いに、あさ美は曖昧に頷く。
- 224 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:47
- 「それにしてもさ、ミキティって本当に焼肉好きだよね。」
「何言ってんの?美貴から肉を取ったら何が残るの?」
「・・・何も残らないかな。」
「そうそう、美貴から肉を取ったら何も・・・って、おい!」
美貴のノリ突っ込みに、真希は再び大笑いをした。
愛とあさ美も笑っている。
温まったホットプレートに、油をひいてどんどんと肉をのせていく美貴。
その横から、当たり前のように野菜を入れていく愛。
「ごっちんてさ、ベジタリアンだったよね?」
「まぁ、そうだね。」
「だからさ、ごっちんはたくさん野菜を食べていいよ。
肉は美貴が食べてあげるから・・・。」
ガンッ!
ホットプレートの蓋で、愛が美貴の頭を殴りつけたのだ。
それを見て、真希とあさ美は口を開けて驚いていた。
- 225 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:48
- 「いった〜、愛ちゃんいきなり何すんのさ〜?」
「ばかなことを言ってるからだよ。後藤さん、美貴ちゃんの肉も
全部食べていいから。」
「いや、ごめんなさい!それだけは勘弁してください!」
美貴は大きく頭を下げて、愛に謝る。
真希とあさ美は、一度顔を見合わせて笑い合った。
「愛、何か変わったよね〜。」
「そう・・・かな?」
「うん!すごくいい感じだよ!もう可愛い〜♪」
あさ美は愛の隣に座り込んで、愛を抱きしめる。
愛は手で撥ね避けようとするが、全く意味を成していない。
なんとなく複雑な心境の美貴と真希。
真希は、二人の邪魔にならないように美貴の隣に移動する。
- 226 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:48
- 「高橋、本当に変わったよ。初めて会った時とは全然違うよ。」
「そっかな?これが本当の愛ちゃんだと、美貴は思うよ。」
美貴は、真希の顔を振り向いてそう答える。
「そうかもしれないけどさ、一番の理由はやっぱり、ミキティが
傍にいるからでしょ。」
「それなら紺ちゃんも同じだよ。紺ちゃんもごっちんがきてから、
すごい活き活きとしてるもん。」
「美貴ちゃん、お肉焼けてるよ。」
「あっ、そうだった!ごっちんもたくさん食べなよ!」
「へ〜、ミキティが他の誰かに焼肉を勧めるなんて、珍しいね。」
「大丈夫。財布の中身がなくなるくらいまで、買い込んであるから。」
美貴は、焼けた肉を自分と真希の皿に、次々と乗せていく。
さらには、肉が減っていくとまた肉をホットプレートの上に足していく。
- 227 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:49
- その目で追えないほどのスピードに、真希は心の中で感心していた。
こうなりたいとは、全く思わなかったが。
美貴は、口の中一杯にまで肉を詰め込んでいる。
「ひゃいひゃん、ひょっちひょひくひょって!(愛ちゃん、そっちの肉取って!)」
「ん、わかった。」
愛は肉の乗った皿を美貴に渡す。
「ひゃいひゃんはひーふふぉふ?(愛ちゃんはビール飲む?)」
「私はチューハイでお願い。あと、食べてから話しなよ。」
美貴からチューハイを受け取って、愛はそう言った。
「さすがは愛だね。私には、藤本さんが言ってること全然わかんないよ。」
「そうでもないよ。慣れればわかる。」
「フフフッ、本当にいいコンビだよね、二人はさ。」
それから、四人は焼肉を食べながら、思い出話しを始めた。
- 228 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:49
- 美貴と真希は昔はどうだったとか、愛にかまっていたはずのあさ美が、
いつの間にか愛に面倒を見られていたなど、色々なことを話した。
酒を飲んで酔ったのか、どこか四人はぐだぐだとしながら話している。
焼肉をあらかた食べ終わったところで、美貴はあさ美を振り向いた。
「紺ちゃん、"あれ"を忘れてはいないよね?」
そう言って、美貴は持ってきたバッグに視線を移す。
あさ美は、美貴の視線にあるバッグを漁っていく。
そして、その中から包装紙に包まれた一つの箱を取り出した。
「はい、ごっちん、起立!」
「えっ?あ、うん・・・。」
真希は恥ずかしそうに立ち上がり、あさ美は嬉しそうに真希に箱を差し出した。
- 229 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:50
- 「後藤さん、誕生日、おめでとうございます!」
「「おめでと〜!!」」
真希に手渡すと、美貴と愛は大きな拍手を送った。
「ありがとう。開けてみてもいいかな?」
あさ美は笑顔で頷く。
箱の中から出てきたのは、柄のかっこいいバッシュだった。
それも、真希が今一番欲しがっていたバッシュだ。
「これ・・・高かったんじゃないの?こんなにいい物、
後藤がもらっちゃっていいの?」
「えっと、三人でお金を出し合いましたから、大丈夫ですよ。
どうしても、後藤さんに履いてもらいたかったから・・・。」
真希は、あさ美、美貴、愛と、順々に見渡していく。
- 230 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:51
- 「みんな・・・本当にありがとう!」
少し涙目になって、真希は頭を下げた。
「さって、プレゼントも渡し終わったから、今度は二十四時間耐久、
人生ゲームを始めるよ!」
「そんなに長い時間、私はやれないよ。」
美貴と愛がバッグから取り出したのは、ゲーム機本体とゲームソフトだった。
愛は随分とやり慣れた手つきで、テレビに配線を繋げていく。
「一つコードが足らないかな。後藤さん、ビデオのコード抜いてもいい?」
「ん、別にいいよ。」
「あっ!ビデオ撮り忘れた!」
「私が撮ったよ。」
「マジで!?あ〜、よかった〜。さすがは愛ちゃん、愛してるぜ〜!」
美貴は心底嬉しそうにそう言った。
「もう、バカなことは言わないの!」
愛は、酔った顔をさらに赤くして、美貴の腕をペチペチと叩く。
その光景を見て、真希とあさ美は楽しそうに微笑んでいた。
- 231 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:52
- 更新しました〜。
- 232 名前:konkon 投稿日:2005/08/12(金) 23:55
- >名無しの荒らしさん
焦らしますよ〜(爆)
なっちは逆パターンでいってみました♪
自分で書いてて意味わからん・・・。
>216 :名無飼育さん
ありがとうございます。
そう言っていただけるのは本当に嬉しいんですけど、
もし次回レスをいただける時はsageでお願いしますね。
>217 :名無飼育さん
なちまりですか〜。
どうなることやらって感じですね(謎)
まぁ、やるだけがんばりたいと想います。
- 233 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/08/13(土) 23:22
- お疲れ様
いいですね〜!!
やっぱりミキティがいると一段と盛り上がりますね
ごっちんもとても楽しそうにしていますね。
- 234 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 21:57
- 「このっ!負けるか!」
「おっ、美貴ちゃんやるね〜。」
食後のケーキを食べながら、美貴達は人生ゲームをしていた。
今は、美貴と愛のキャラがぶつかり合い、バトルを始めたところだった。
「あっ!うそでしょっ!?負けた・・・。」
「フフン、私の勝ちやよ。」
落ち込んでいる美貴に、愛は嬉しそうに微笑んだ。
結果は愛の圧勝で、美貴は一回休みとなった。
「育て方の問題やざ、藤本君。」
「愛ちゃん、強すぎ・・・。ちょっと外の空気でも吸ってくるよ。」
そう言って美貴は立ち上がり、ベランダの外に出る。
ポケットの中から煙草と携帯用灰皿を取り出して、それを手摺の上に乗せる。
ライターで火をつけて、煙草を大きく吸って、吐き出した。
煙草を吸っていると、真希がベランダに出てきた。
- 235 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 21:58
- 「な〜にをしてるのかな、不良少女。煙草は体に悪いよ。」
「不良じゃないもん。どうかしたの?」
「高橋に負けた。あの子、強いね〜。」
真希は美貴の隣まで歩み寄る。
「ミキティ、後藤にも一本ちょうだい。」
「注意しといてそれかよっ!まぁ、いいけどね。」
美貴は煙草の箱から一本取り出して、真希に渡す。
真希がくわえたところに、ライターで火をつけてやる。
「いいの?スポーツマンが吸っててさ。」
「よくないね〜。けど、こういうのも人間には必要なんだよ。人の動く
定義は一定じゃないんだからさ。今日はそんな気分なんだ。」
真希は、煙を吐き出してそう答えた。
- 236 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 21:59
- 「わざわざ難しく言わないの。要は、その一本で終わりにするってことでしょ?」
「そんなとこだね。後藤はミキティに付き合ってあげてるの。」
「それはどうも。」
美貴は短くなった煙草を灰皿に入れて、次の煙草を取り出す。
「ごっちん、このままでいいの?」
「ん〜、何のこと?」
「紺ちゃんと、付き合ってるんでしょ?」
新しい煙草に火をつけて、美貴は手摺に寄り掛かる。
「・・・まあね。よくわかったね?」
真希は、灰皿に煙草を入れてから美貴を見つめる。
「見てればわかるよ。距離が縮まった気がするから。でも、
美貴には教えてほしかったな〜。」
「ごめん・・・なかなか言い出しにくかったもんでね。」
「でもさ、まだ何も始まってないんでしょ?このままじゃだめだよ。」
美貴は、真希から視線を外して夜空を見上げる。
- 237 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:00
- 「紺ちゃん、きっとごっちんのことを待ってるよ。ごっちんが
"怖い"と思うのはわかるけど、それだけじゃ何も変わらない。
一歩一歩でしか進めない人生なんだから、立ち止まらないで
・・・って、おい!」
真希に視線を戻すと、真希は手摺に伏せていた。
「ごっちん、寝るなよ〜。今、美貴すごくいいこと言ったんだからさ〜。」
「ん〜・・・聞いてた聞いてた・・・。」
「ほらっ、ごっちん、こんなところで寝るな。」
美貴は一つため息をついて、真希に肩を貸して中へと入っていく。
「藤本さん、後藤さんどうかしたんですか?」
あさ美が心配そうな顔で近寄ってきて、真希の顔を覗き見る。
- 238 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:00
- 「大丈夫だよ。ただ寝てるだけだからさ。」
「後藤は、寝てない、よ・・・。」
「ハイハイ。そういえばさ・・・。」
美貴はソファの上に真希を寝かせて、愛に視線を向ける。
愛は、呆然とした表情をしてテレビを見ていた。
「愛ちゃん、どうかしたの?」
「あさ美に負けた・・・あさ美に負けた・・・。」
愛はぶつぶつと小さな声で、その言葉だけを復唱していた。
「えっと、私のキャラが愛に勝ってしまって、それで・・・。」
「・・・。」
確かに美貴も、愛に一度でもゲームで勝てたことはなかった。
それだけ愛はゲームがうまかった。
だが、素人同然のあさ美に負けたのがよほど悔しかったのか、
愛の目は死んでいた。
「・・・やれやれ。美貴の周りって、本当に面白い子ばっかだよ。」
そう言った美貴の表情にも、笑みがこぼれていた。
- 239 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:01
- ゲームを始めて二時間ほどが経ち、時刻は十一時を差していた。
今、美貴達はどうしているかというと、
「愛ちゃん、大丈夫?」
「・・・だめ・・・。」
トイレの中から、だるそうな愛の声が聞こえてきた。
美貴は、ため息をついてリビングに入っていく。
「愛の様子はどうですか?」
「全然だめみたい。」
美貴は、あさ美にお手上げといったゼスチャーをして見せる。
真希は真希で、ソファに寄り掛かって熟睡している。
「さって、美貴達はそろそろ帰るよ。」
「えっ?今日は泊まっていくのでは・・・?」
「うん、紺ちゃんだけね。」
美貴の言葉に、あさ美は口を開けて驚いた。
- 240 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:02
- 「愛ちゃんはこんな状態だから、ここに置いておくわけにはいかないよ。
そんなわけで、ごっちんのことは紺ちゃんに任せます。」
「えっ!?えっと、あの・・・。」
「紺ちゃん、ごっちんのこと、よろしく頼むね。きっとさ、
ごっちんのことを救えるのは、紺ちゃんだけだから。」
美貴は、真剣な表情をしてあさ美に言った。
「それって、どういう・・・。」
「そうだ、紺ちゃん、いい加減に美貴に敬語使うのやめない?」
あさ美が聞き出す前に、美貴はすぐにいつもの調子に戻って、
話しを切り替えた。
「年齢は上でも、立場的には同じ位置にいるんだからさ。そうでないと、
美貴もちょっと悲しいんだよね。」
「ん・・・それじゃ、私もみ、ミキティって呼んでもいいかな?」
「もちろん!それでよろしく〜♪」
「美貴ちゃん・・・。」
美貴の後ろから、愛がふらふらと部屋に入ってきた。
- 241 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:12
- 「・・・重症だね。んじゃ、荷物は明日取りにくるから。ごっちんにも
そう伝えておいてよ。じゃあね。ほらっ、愛ちゃん帰るよ。」
美貴は愛の手を引いて、家を出て行った。
部屋には、あさ美と寝ている真希だけが残った。
あさ美は真希の隣のソファに座る。
「後藤さん、ちゃんと布団で寝ないと風邪ひきますよ。」
真希の肩を軽く揺さぶる。
すると、真希の体が倒れてきた。
ちょうど、あさ美が真希に膝枕をしているような状態になった。
「えっ、えっと、どうしよ・・・。」
真希を起こそうとも思ったが、気持ちよさそうに寝ている上に、
起こしたくないというあさ美の欲望が勝ってしまい、このままに
することにした。
- 242 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:12
- 真希はタンクトップに短パンという、身軽な服装をしている。
そこから露になった真希の体つきに、あさ美は見惚れていた。
カモシカのように細い脚。
キュッと引き締まっている腰。
それでいて、コンパクトでありつつ豊満な胸。
美貴と同等の腕力を持つ、だが、もしかしたらあさ美よりも細いかもしれない、
綺麗でしなやかな腕。
無邪気に笑うととても可愛くて、普段はクールで大人びてカッコイイ、端整な顔立ち。
もし自分が男であったなら、この状況に耐えられることはまずありえないだろう。
女である現時点であっても、真希を欲している自分がいることに気付いた。
それだけの美貌を真希はもっていた。
さらには、成績優秀、スポーツ万能というレベルを、はるかに超えた力を持っている。
- 243 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:13
- 「・・・完璧です。」
あさ美はつい口癖である言葉を口に出した。
この言葉を使うのは、自分に自信を持たせる時以外では、
真希に対してだけだろう。
「ミキティは、何が言いたかったんだろう・・・?」
あさ美は再び真希の顔を見つめる。
先ほども思ったとおり、真希には完璧という以外の言葉は思い当たらない。
美貴の言葉が何を意味するのか、あさ美は考え始めた。
自分が必要なことなどあり得るのだろうか、そう考えると少し悲しくなったが、
結局あさ美にはわからなかった。
少しして、真希に異変が起こった。
苦しそうな表情をして、唸り始めたのだ。
- 244 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:14
- 「後藤さん?・・・どうかしたのですか?後藤さん?」
あさ美は真希のことを揺すり起こそうとした。
その時、
「うわーーっ!!!」
大声と共に、真希が勢いよく起き上がったのだ。
「後藤さん!?大丈夫ですか・・・?」
真希は大量の寝汗を掻いていた。
あさ美はポケットからハンカチを取り出して、真希の顔を拭いていく。
「紺、野・・・?」
「大丈夫ですか・・・?」
「うん・・・もう大丈夫だよ。ありがとう・・・。」
真希は片膝を立てて、そこに肘をついて、手で自分の顔を覆った。
- 245 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:15
- 「ミキティ達は?」
「あの、愛の体調が悪くなったので、帰りました。」
「そっか・・・。」
それから少しの間、沈黙が続いた。
「こんな日にまで、"あんな夢"を見たくなかったな・・・。」
「"あんな夢"・・・?」
「紺野はさ、天才的な頭脳って欲しいと思う?」
あさ美の問いに答えずに、真希はそう聞き返した。
「えっ・・・?」
「一度でも見たり聞いたりすれば、何でも覚えていられるってことだよ。」
あさ美は少し悩んだあと、真希を振り向いた。
「そうですね〜、難しい方程式とかを覚えたりするときには、
欲しいな〜って思うときがありますね。」
「・・・後藤は、こんな力、いらなかったよ。」
真希は悲しげな表情でそう呟いた。
- 246 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:16
- 「少しくらい覚えられないなら、努力して覚えてやる。
全然覚えられないなら、いくらでも努力して覚えてやる。
その方が、どれだけ楽だったのかな・・・。」
「後藤さん・・・?」
「忘れられないんだよ。あの時のことが、あの凄惨な事故の光景が、
今でも鮮明に頭の中に思い浮かぶんだよ。夢であったとしても、
後藤はもう耐え切れない・・・。自分の目の前で、お父さんと
お母さんが、苦しみながら死んでいく・・・後藤の大切な人達が、
みんなみんな消えていくんだ・・・後藤を残して、みんな・・・。」
「後藤さん!」
あさ美は力強く真希の体を抱きしめた。
- 247 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:18
- 「もういいですから、やめてください・・・。」
「・・・。」
「(ミキティの言っている意味が、わかった気がする・・・。
後藤さんだから、絶対に忘れることはないんだ。それが、
後藤さんを強く縛り付けている・・・。後藤さん、辛いんですよね?
悲しいんですよね?後藤さんの心の隙間、私が少しでも埋めて
あげたい・・・。)」
最後の方は言葉にならなかった。
あさ美は大粒の涙を流して泣いていた。
「私は消えませんから、私はここにいますから・・・。ずっと、
あなたの傍にいますから・・・。」
「紺野・・・。」
「後藤さん一人で、そんなに苦しまないでください・・・。」
「・・・ありがとう。」
真希は少しだけ離れて、あさ美の涙を指で拭う。
- 248 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:20
- 「紺野、泣かないでよ。後藤なんかのために泣かないで。」
「そ、そんなこと、ないです・・・。」
「・・・紺野と出会えて、本当によかったよ。」
真希はあさ美の両肩に手を置いて、あさ美の顔をじっと見つめる。
「紺野、大好きだよ。」
「・・・私もです。後藤さん・・・。」
真希は、優しくあさ美の口唇に口付けた。
少しして、真希は顔を離すとあさ美の体を抱きしめる。
「ずっと、紺野とこうしていたいな。」
「わ、私も、です・・・。」
「紺野、好きだよ。愛してる。」
真希の言葉に、あさ美の表情が徐々に赤くなっていく。
そんなあさ美が愛しくて、真希はもう一度口付けた。
- 249 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:20
- 更新です。
- 250 名前:konkon 投稿日:2005/08/20(土) 22:21
- >名無しの荒らしさん
ごっちんの誕生日編です♪
ある意味ミキティらしい感じでいきましたw
- 251 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2005/08/21(日) 14:12
- 初めまして。更新お疲れさまです。
がんがって下さい!応援してます。
- 252 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/21(日) 18:16
- お疲れ様です
ごっちんと紺ちゃんの距離がグッと縮まった感じがしました
愛ちゃんゲーム強いんですねぇ
次回も楽しみにしてます
- 253 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/21(日) 19:44
- 上げます。
- 254 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/08/21(日) 20:16
- お疲れ様です
いいですね、ほのぼのした感じ・・・
そしてあの時のことって何なんでしょう?
気になりますよ〜かなり
- 255 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 22:50
- 「美貴ちゃん、あれでよかったんやけ?」
美貴と愛は、帰り道を歩いていた。
愛の体調は先ほどとは変わって、スキップするように浮き足が軽かった。
「うん。上出来だったよ、愛ちゃん。」
美貴は優しく愛の頭を撫でる。
普段の愛なら突っ撥ねたところだが、酔っているせいか、
嬉しそうに笑っていた。
美貴と愛は、ある計画を練っていた。
それは、真希とあさ美を二人っきりにすることだ。
そのために、愛はわざと体調を崩す役を演じたのだった。
「やけん、二人っきりにするのって、別にうちらがせんでも、
そのうちくっ付くんやないの?」
口にこそ出さなかったが、愛も二人の関係に薄々とは気付いていた。
それに美貴が気付かないとは思わない。
だからこそ、美貴が二人をくっつける意図がわからなかった。
- 256 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 22:52
- 「たぶんね。でも、それにはけっこう時間がかかると思うんだ。
ごっちんは紺ちゃんのことが好きだけど、愛することに戸惑いを
持ってたからね。美貴達がきっかけを作る必要があったんだ。」
「どういう意味?」
愛は不思議そうな表情をして、美貴の顔を下から見上げる。
「五年くらい前だったかな?美貴ね、昔にインコを飼ってたんだ。
名前はファミリア、可愛かったんだ〜。親父に隠れて飼ってたの。
友達も先生も、信頼できる人が傍にいなかったから、いつも話しを
聞いてもらってたんだ。美貴の唯一の友達だったの。」
「う、うん・・・。」
突然話しが切り替わって、愛は難しい顔をしている。
- 257 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 22:55
- 「でもね、風邪引いちゃったみたいでさ、いきなり死んじゃったの。
親父に殴られても泣かなかったけど、その時だけは号泣してたの
覚えてるんだ。つまりはそういうことだよ。」
愛は黙って美貴を見つめる。
酒のせいで思考が回らないのだろう。
答えを教えろとい言っているように美貴は感じた。
「ごっちんはね、どれだけ人と接していても、氷の壁を作ってるんだ。
美貴にも愛ちゃんにも、紺ちゃんにすら見せない、本当のごっちんが
眠ってるんだ。だから、本当の自分の表情は見せない。いつもどこか
一歩だけ引いてるんだよ。それ以上、自分に近づかせないように、
できるだけ人と関わらないようにね。愛ちゃんは感じたことなかった?」
それは愛も不審に思っていたことである。
皆で楽しく話している中、真希だけは深く入ってこようとせず、
寂しそうな表情をしているのを幾度か見たことがあった。
- 258 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 22:57
- 「ごっちんはさ、愛する人を二人も失っている。自分にとって、
本当に大切な人達をね。だから、怖かったんだと思うんだ。
紺ちゃんを失うことが、とてつもなく怖かったんだよ。」
「・・・。」
「愛さなければ、失うものは何もないからね。だけど、それじゃ
だめなんだ。確かに失うことはないかもしれない。けど、何も
得ることもできない。ごっちんにはさ、もう一度思い出して
ほしいんだ。愛する尊さと、愛される喜びをね。それに、紺ちゃんなら
ごっちんを支え続けててあげられる。きっと、ごっちんの氷の壁を
優しく暖めて溶かすことができる。美貴と違って、二人は同じ道を
歩んでるから、これからもずっと、一緒にいられるからさ。」
そこまで聞いていた愛は、美貴に抱きついた。
- 259 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 22:58
- 「美貴ちゃん、優しい〜♪」
「ちょっ、愛ちゃん!?」
「そういうとこ、大好きやよ。」
愛はニッと笑って、美貴から離れて歩き始める。
突然の出来事に、美貴の心臓は激しく暴れている。
「なるほどね、酔うとこうなるのか・・・。また酔わせて、って!」
愛の足がふらついて、前に倒れそうになる。
そこで、美貴は猛スピードで飛び出して、愛の体を支えた。
「愛ちゃん、危ないよ。」
「んにゃ〜、大丈夫〜です!」
「れいなじゃないんだから、猫の真似なんかしなくていいよ。」
「れいにゃが猫・・・キャハハッ!確かに似てるわな〜。」
愛は、美貴の腕に掴まって歩いていく。
足がふらついていて、完全に酔っ払い状態だ。
- 260 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 22:58
- 「愛ちゃん、少し休んだほうがいいね・・・。」
少し先に公園が見えてきたので、そこのベンチで休むことにした。
公園に入ると、美貴はベンチに愛を座らせる。
「ちょっと飲み物買ってくるから、そこで大人しく座っててね。」
「は〜い。」
普段の愛では信じられないほど、気弱でだらしない返事だった。
美貴は足早に自動販売機まで歩いて、財布を取り出した。
そこで美貴は思い出した。
「残り、150円・・・。」
美貴は、言葉通り、財布の限界まで大量の食材を買い込んでいた。
そのために、残り残金が少ないことに、今更になって気付いたのだった。
少しの間固まっていたが、一本だけお茶を買ってベンチに戻ることにした。
- 261 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 22:59
- 「愛ちゃん、飲みなよ。」
愛にペッドボトルを渡して、美貴は愛の隣に座る。
「ありがと〜。・・・あれ?」
蓋を外そうとしているようだが、開けられないらしい。
美貴はペットボトルを愛から取ると、蓋を開けてから愛に返した。
「お〜!さすがは美貴ちゃんやね♪」
「いや、誰でもできるから。」
「美貴ちゃんは飲まないの?」
「美貴はあんまり酔ってないからいいよ。」
お金がないから、とは言えるわけもなく、美貴は煙草を取り出して口にくわえる。
「(そういえば、一日で二本以上吸うのって、初めてかな?)」
そう思いながらも、美貴はライターで火をつけた。
- 262 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:00
- その時、隣から視線を感じた。
見ると、愛がじーっと美貴の煙草を見つめていた。
「美貴ちゃん、私にも一本ちょうだい。」
「だめ。」
美貴は即答した。
「えーっ?何でやよ?」
「愛ちゃんはボーカルでしょ?喉を痛めてどうするの。それに、
愛ちゃんじゃたぶん吸えないよ。」
「む〜・・・。」
愛は美貴の顔を睨みつける。
しばらくは無視していたが、仕方なしといった感じで、
自分の吸っていた煙草を愛に渡した。
- 263 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:00
- 「ほらっ。」
「アハッ♪スーッ・・・ゲホッ!ゴホッ、ゲホ・・・。」
予想通り、愛は噎せた。
愛はお茶を飲み込んで、なんとか落ち着かせようとしている。
「だから言ったじゃん。ほらっ、返しなよ。」
「ん、平気やよ。」
美貴が右手を伸ばすが、愛は煙草を持つ手を伸ばして遠ざける。
「いや、平気じゃないでしょ。返しなって。」
美貴は愛の肩を引き寄せて、左手で煙草を奪った。
「あの、美貴ちゃん・・・。」
「うん?・・・あっ!」
成り行きをはいえ、美貴が愛の体を抱いている形になっていた。
美貴はすぐに手を離して、愛から離れる。
- 264 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:01
- 「えっと、ごめん・・・。」
「んでなくて、はい。」
愛がペッドボトルを美貴に差し出した。
ちょうど半分くらいの量が残っていた。
「もういいの?」
「私だけってのもあれやし、美貴ちゃんも酔ってるもんね。」
「別に美貴は酔ってないけど・・・ありがと。」
普段の愛とは違うとはいえ、優しさをもっていることには変わりなかった。
それが嬉しくて、美貴はお茶を勢いよく飲み干した。
「そういえばさ、愛ちゃんの誕生日はいつなの?」
美貴は煙草を灰皿に捨てて、愛に聞いた。
- 265 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:02
- 「ん〜っと、今何時?」
「えっとね、十二時を過ぎたとこだね。」
腕時計を確認して、美貴は答えた。
「じゃあ、ぴったし10日前やね。」
「へ〜、10日前ね〜、って、ええっ!?」
「おっ、ノリ突っ込ミキティだ。ちょっち語呂が悪いやな・・・。」
「そういう問題じゃないでしょ!何で言ってくれなかったの!?」
美貴は、公園中に響くほどの大声で聞いた。
「ちょっ、美貴、何も愛ちゃんにあげてないじゃん・・・。」
「・・・もう、もらったよ。」
「えっ?」
その言葉に、美貴は呆然として愛の顔を見つめる。
- 266 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:03
- 「美貴ちゃんに、たくさんの元気をもらったよ。」
「・・・?」
「たくさんの勇気をもらったし、たくさんの優しさをもらったよ。
たくさんの希望や、たくさんの愛情をもらった。それ以上の
ものなんてないよ。私は、十分すぎるものを美貴ちゃんに
もらったよ。本当にありがとう。」
「愛ちゃん・・・。」
愛の言葉に、美貴の目が少し潤んできた。
「大好きだよ。私、美貴ちゃんのことが好き・・・。」
愛は、美貴の顔を見てそう言った。
「美貴ちゃんが私のことをどう思っているかは知らないけど、私は・・・。」
「美貴も愛ちゃんのことが好きだよ。」
愛の言葉を遮って、美貴は真剣な表情でそう答えた。
- 267 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:03
- 「えっ・・・?」
「たぶん、一目惚れなんだと思う。初めて会ったときから気になってて、
high bredgeで歌っている愛ちゃんを見てさ、美貴のハートは一気に
突き刺されたよ。愛ちゃんに愛されたくて、美貴、がんばってきたんだもん。」
「・・・冗談とかやなくて?」
「冗談なんかでそんなこと言えないよ。第一、好きでもない子と
一緒に住みたいなんて思わない。愛ちゃんが好きだから、美貴は
誘ったんだよ。愛ちゃんといたかったからさ・・・。」
美貴と愛は見つめ合う。
「大好きだよ。愛ちゃん・・・。」
「私も、好き・・・。」
少しづつ、二人の顔の距離が縮まっていく。
愛の顔が目前まで迫り、美貴は目を閉じる。
- 268 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:04
- その時、
ポフッ
「へっ?」
美貴の胸に何かがぶつかった。
目を開けると、寄り掛かるようにして、美貴の胸に愛の顔が当たっていた。
愛は寝てしまっているようで、小さく寝息が聞こえている。
「そんなのって、ありかよ・・・。」
大きなため息を吐き出して、美貴は愛を背中に背負う。
そして、愛を起こさないようにゆっくりとした足取りで、
自分の家に向かって歩き出した。
- 269 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:05
- 次の日の土曜日、
「ん・・・。」
朝九時頃、愛が目を覚まして起き上がった。
「おはよ〜♪」
「ん・・・おはよう。」
返事を返して視線をソファに向けると、美貴がトーストをかじっていた。
「愛ちゃんも食べる?」
「ん、私はまだいいや。」
「そういえばさ、明日どこかに遊びに行かない?」
「・・・どこに行くの?」
「愛ちゃんの好きなところでいいよ。」
美貴は笑顔でそう言うが、愛は訝しげな表情をしている。
- 270 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:06
- 「どうして?」
「美貴、愛ちゃんの誕生日に何もしてあげなかったからさ、
ちょっと遅いけど、何かしてあげたいなって思ってね。」
「私、自分の誕生日のこと、美貴ちゃんに教えたっけ?」
「・・・えっ?」
美貴は、口を空けたまま固まった。
「昨日、私どうやって帰ってきたの?後藤さんの家を出てからの
記憶が、全くないんだよね・・・。」
「って、ことは・・・覚えてないの?」
「・・・何のこと?」
「・・・。」
「ごめん、頭が痛いから、もう少し寝るね。」
そう言って、愛はまた寝てしまった。
- 271 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:07
- 先日から何度目かの大きなため息をついて、美貴は寝ている愛に近寄っていく。
愛は完全に寝てしまっているようだ。
愛の髪をそっと撫でる。
すると、愛はくすぐったそうに笑みを浮かべる。
「(まぁ、いっか。)」
愛の寝顔を見て、美貴はフッと口元を緩ます。
今は愛の傍にいられるだけでもいい。
それでも強く想うことがある。
いつか必ず、それがどんな形であったとしても、
自分の本当の気持ちを愛に伝えようと。
- 272 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:07
- 更新しました。
- 273 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:09
- 仕事の都合上、しばらくDREAMERは休載させていただきます。
読んでくれている方、本当に申し訳ないですm(_ _)m
完結はさせるつもりですので、また会いましょう!
- 274 名前:konkon 投稿日:2005/08/28(日) 23:14
- >哀さん好きの名無しさん
初めまして、こんな駄文でも読んでくれてありがとうございます!
ちょっと時間はかかりますけど、またお会いできるように
がんばります。
>名無し飼育さん
ようやく二人がくっ付きました〜♪
確か愛ちゃんはゲームをするとかって聞いたことがあるので
強くしてみましたw
>名無しの荒らしさん
紺ちゃん=ほのぼのでしょうw
あの時とは・・・えっと、わかりにくくてごめんなさい!
とりあえず、ごっちんの昔の事故のことです、ハイ。
- 275 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/29(月) 22:37
- 作者さん自分でネタバレしちゃいけねえや。
今後の展開を気長に待ってます。
- 276 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2005/08/30(火) 00:39
- お疲れ様です。
哀さんキャワワ(*´д`)
いつまでも待ってますよ〜
お仕事がんがって下さい。
- 277 名前:名無しの荒らし 投稿日:2005/08/30(火) 15:58
- お疲れ様
そっかぁ交通事故のことだったんですね
そーいえば、ミキティとの出会いの時に言ってたアレですね
お仕事ですか・・・頑張って!!
次の更新を首を長くして待ってます
- 278 名前:A 投稿日:2005/09/11(日) 03:59
- 落ち着いてからの再開を待ってま〜す!
- 279 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:35
- ある日の昼休み、真希とあさ美は職員室へと向かっていた。
朝のHRで、話しがあるから職員室にこいと、裕子に言われたのだ。
「ねえ紺野〜、後藤、何か悪いことやったけ〜?」
「どうでしょうね?少なくとも私も呼ばれるということは、悪いことでは
ないはずなんですけどね〜。」
「・・・紺野、なかなか言うようになったね。」
「いえいえ、後藤さんほどではないですよ〜。」
よくわからない褒め言葉を交わしているうちに、職員室に辿り着いた。
「「失礼します。」」
二人は職員室の中に入っていく。
「お〜、後藤に紺野!こっちだよ。」
職員室の隅の方にある来客用のソファから、真里の声が聞こえてきた。
二人はそちらの方に歩いていく。
- 280 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:37
- 「どうしたの、やぐっつぁん?中澤先生は?」
「まぁ、いいから座れよ。」
真里に促されて、真希とあさ美は首を傾げながら前のソファに座る。
座った直後に、二人の前に資料が渡される。
その資料の表紙を見て、二人は呆然としていた。
「美勇伝、大学・・・?」
「矢口先生・・・これって、もしかして・・・。」
「ああ、推薦取ってきたんだよ。」
真里は嬉しそうに答えた。
美勇伝大学は、受験がなく、美勇伝高校からのエスカレーター式でしか
入ることはできない。
中でも、バスケには一番力を入れている大学なのだ。
美勇伝高校以外の生徒は推薦でしか入れないのだが、
その推薦を受けられるのは日本でほんのごく僅かに過ぎない。
推薦ではテストが行われ、技術や運動能力はもちろん、知識や一般常識などの
成績も高い者しか、受かることができないのだ。
- 281 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:38
- 真希とあさ美は、美勇伝大学を狙っていた。
美勇伝大学で絵里香や唯といった、あらゆる最強達を倒して、
レギュラーを奪い取る。
それがプロになる一番の近道と踏んだからだ。
「ったくさ〜、そこの学園長、頭おかしいんだぜ!あれだけインターハイで
活躍したってのに、ぼけちまってて後藤達のこと忘れてやがった。
説得しなきゃわかってもらえないなんざ、それで大丈夫なのかって感じだよ!」
「やぐっつぁん・・・。」
「さっき小川と里田には話したから、あとはお前達だけだ。うちから四人も
美勇伝に入ったなんてことがあったら、美勇伝に入れたっつうおいらの
武勇伝が今後も・・・。」
「矢口先生、それってギャグですか?」
「・・・紺野、推薦下ろされたいのか?」
「いえいえいえいえ!そんなことないです!とっても面白いですよ!」
あさ美は慌ててそう答えた。
- 282 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:39
- 「本当にそう思ってんのか?全然心が籠もってねぇぞ。」
「やぐっつぁん・・・ありがとう。」
「・・・後藤、紺野、がんばってこいよ!勝負は来週だからな。
その間、怪我だけはするなよ。」
「「はい!」」
そのあと、真里との会話を終えた二人は、職員室から出て行った。
「後藤さん。」
「うん?」
「絶対にがんばって受かりましょうね!」
「当然!思いっきり暴れてやろうね!」
「はい!」
真希とあさ美は、笑いながら教室へと戻っていった。
- 283 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:39
- 「藤本さん、そっちお願い!」
「はいは〜い!」
その日の夜、美貴はパチンコ店で忙しなくバイトをしていた。
時刻はそろそろ九時を差そうとしていた。
あと少しでバイトが終わる、そう思ってた美貴の足取りはどこか軽い。
客のパチンコ玉の清算を終えて、次の客へと向かおうとしたところ、
前を通りかかった一人のバイトが突然倒れた。
「ちょっ、どうしたの!?」
美貴は慌ててそのバイトに駆け寄って、体を起こして顔を覗き込む。
顔が赤くて息が荒い。
美貴はそっと手を額に触れる。
「熱あるんじゃない!?早く帰った方がいいよ!」
「で、でも、私、今日は11時までだから・・・。」
「そんなの美貴が代わってあげるから、今日は早く帰りなよ。」
「・・・ごめんね。」
そのバイトは、ふらつきながら更衣室へと向かっていった。
美貴はそのバイトを見送ってから、バイトリーダーに今の件の報告をするために歩き始めた。
- 284 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:41
- 「美貴ちゃん。」
報告を終えてから歩いていると、後ろから声をかけられた。
いるはずのない彼女の声に、美貴は慌てて振り返る。
「あ、愛ちゃん!?何でここにいるの!?」
美貴に声をかけたのは愛だった。
先日18歳を迎えたし、制服を着ているわけではないからパチンコ店に
いても問題はないのだが、愛がここにいることが不思議で仕方なかった。
愛がバイトをしているコンビニは、ここのパチンコ店と美貴の家の中間辺りにある。
だから、美貴がコンビニに寄ることはあっても、愛がここにくることはなかった。
「愛ちゃん、どうしてここにきたの?」
「まぁ、たまには一緒に帰ろうかなって思ってね。あと少しで終わりでしょ?」
「そのはずだったんだけどね・・・。」
先ほど起きた出来事を、美貴は簡潔に話した。
- 285 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:41
- 「ってなわけでさ、美貴、今日は帰りが遅くなるんだ。ごめんね。」
「なら、仕方ないね・・・。うん、じゃあ、がんばってね。」
愛は、美貴に背中を向けて歩き始める。
美貴は美貴で、大きなため息をついて反対方向に歩き始めた。
しかし、美貴の思惑とは違って、愛は帰らずに店内を周り始めた。
美貴が働いているところにある、パチンコというものがどういうものか、
なんとなく興味があったのだ。
愛は適当に見て周ってから、ある一つの台に座った。
それは、店内で一番多く見られる魚が絵柄の台だった。
やり方は見て覚えた。
あとは実行するのみ。
財布から千円札を取り出して、それを機械の中に入れる。
「(一回だけなら、別にいいよね・・・。)」
少し戸惑いを持ちながらも、愛はパチンコ玉を弾き始めた。
- 286 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:42
- 周りでルーレットが周っているのを見て、面白そうだと思った。
だが現実は違う、全然玉が入らなくて、どこか空しさを感じた。
すぐにやめたくなった。
そんな時、玉が一個だけ入賞した。
ルーレットが周り始めて、愛はじっとそれを見つめる。
ルーレットはリーチ絵柄で止まり、たくさんの魚達が背景に出てきた。
「(おっ、おっ、おっ・・・。)」
愛がぼけっと見ていると、さらに女の子が出てきてルーレットを止めようとする。
そして、当たり絵柄で止まった。
「(お〜〜〜っっ!!)」
「何ぼーっとしてるの?入れないと終わっちゃうわよ?」
「へっ?」
隣のおばさんにいきなりそう言われた。
- 287 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:43
- 「えっ、入れるって、何をですか?」
「・・・あなた、初めてやったの?」
「はい。」
「あのね、ここに玉を入れるのよ。でないと玉が出てこないわよ。」
少し言い方が荒いものの、そのおばさんは丁寧に指を指して教えてくれた。
「それにしても、初めてで確変を引くなんて、運がいいわね〜。」
「確変、ってなんですか?」
「う〜ん、まぁ、簡単にいうなら次も必ず当たるって意味よ。」
その言葉に、愛は感心しながら玉を弾き始める。
「(ん〜、次も当たるっていうなら、もう少しやってみよっかな。)」
本当はすぐにやめるつもりだったのだが、愛は続けてやることにした。
- 288 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:44
- 次に美貴が時計を見ると、時計の短針がちょうど11を差そうとしていた。
「藤本さん、今日は帰っていいよ。」
「えっ?でも・・・。」
「代理でこの時間までがんばってたんでしょ?藤本さんまで倒れたら大変だからね。
あとは俺達でやっておくから、今日はもう帰りなよ。」
「あっ、はい。じゃあ、お疲れ様でした〜。」
バイトリーダーにそう言われて、美貴はすぐに更衣室に向かった。
確かに、学校が終わってからのバイトはさすがに疲れる。
その疲れが溜まって次の日に学校に行くのも、正直けっこう辛い。
そう考えると、バイトリーダーの配慮は素直に嬉しかった。
「お疲れ様で〜す!」
私服に着替えた美貴は、店内に残っているバイト達に声をかけながら、
店を出て行こうとした。
- 289 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:45
- 「・・・ん?」
出て行こうとしたのだが、一つのある奇妙な光景を見て立ち止まる。
美貴が見た奇妙な光景、それは愛がパチンコを打っていたことだ。
しかも、愛の席の後ろには、十箱近く玉の入ったケースが積まれている。
「愛ちゃん・・・何してるの?」
「あっ、美貴ちゃん!当たったんやざ!すごくない!?」
近寄ってきた美貴を、愛は嬉しそうにして見上げる。
「でなくて、何で君がパチンコしてんのさ?」
「気分、やね。」
「あ、そう・・・。」
愛らしいと言えば愛らしい、美貴には理解できない答えが返ってきた。
「愛ちゃん、もうすぐ終わりだよ。そろそろ帰ろう。」
「あっ、そうなの?これ、どうしよ・・・?」
「あとは美貴がやっておくから、愛ちゃんは先に外で待っててよ。」
美貴は呼び出しボタンを押して店員を呼んだ。
愛は、少し寂しそうな顔をして玉の入ったケースを見つめたあと、
店から出て行った。
- 290 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:46
- 「愛ちゃん、はい。」
清算を終えて店から出てきた美貴は、愛に何枚かの万札を渡した。
「えっ、何、このお金・・・?」
「何って、愛ちゃんが稼いだお金だよ。あの玉数分だと、それくらいになるんだ。」
「は〜、すごいね・・・。」
愛は呆然として手渡されたお金を見つめる。
「でもね、もうやめときなよ。一度当たったからって次も当たるわけじゃないし、
飲まれたら最後、有り金全部使っちゃうからね。」
「・・・そうだね。もうやめとくよ。」
「そんなわけで、明日は焼肉でも食べに行きますか!」
「どんなわけやよ。」
それでも、大金が入ったために愛は笑って頷いた。
- 291 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:46
- 二人は美貴の家へと歩き始める。
途中、人通りの少ない裏道に入った。
愛は滅多に通ることのないのだが、美貴は近道ということでそこを利用している。
しばらく歩くと、三つの影が見えてきた。
どうやら、一人の少女が二人の女に絡まれているようだった。
その少女は制服姿で、美貴達と同じ朝比奈女子学園の生徒のようだ。
「愛ちゃん・・・。」
「美貴ちゃん、行ってあげて。」
「うん!」
美貴は、足早に女達に向かっていく。
「うちの生徒に何してんの?」
「ああっ?」
二人の女は美貴を睨みつける。
少女は座り込んで泣いている。
美貴の経験上、明らかにこっちが悪いとすぐに判断した。
- 292 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:47
- 「その子、あんた達に何かしたの?」
「金が欲しいから譲ってもらおうと思ってただけだよ。」
「それとも、あんたが私達に金を貢いでくれるってのかい?」
それを聞いて、美貴は大袈裟といっていいほどの大きなため息をついた。
「てめぇ、何ため息なんかついてんだよっ!?」
「あんた達のバカっぷりを見てに決まってんじゃん。」
「ふざけんじゃねぇっ!」
片方の女が美貴に殴りかかる。
美貴は一歩引いてそれを避けると、足を捻って回し蹴りを放つ。
それを女は腕で受け止める。
「(美貴の蹴りを受け止めた?こいつ、できるな・・・。)」
「いって〜な。幸、右から回り込め。」
「わかったよ、美記。」
そう言ったと同時に、美記と呼ばれる女が飛び出した。
- 293 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:48
- 鋭い拳や蹴りで、次々と美貴を攻める。
美貴はそれを冷静に弾いていく。
美貴でなければ、大抵の人は攻撃を喰らって倒れていただろう。
それだけ美記の攻撃は速かった。
「何、あんたも"みき"って言うわけ?なんかやな感じ〜。」
「っざけんなっ!」
美記は、美貴の挑発に乗ったために、拳を大きく振るおうとする。
「(もらった!)」
美貴はカウンターを当てようと前に飛び出した。
その瞬間、横から幸の蹴りが飛び込んできた。
それを避けようとして、美貴は前にバランスを崩す。
- 294 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:48
- そして、
パンッ!
美貴の顔に美記の蹴りが入った。
美貴は後ろに下がって、口から滲み出る血を腕で拭う。
「・・・マジキレた。」
「死ねっ!」
美記の前蹴りが美貴の腹を襲う。
その直後に、
タンッ!ゴッ!
なんと美貴は、美記の蹴りに飛び乗って、さらには回転して脳天に
踵落としを喰らわせた。
- 295 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:49
- 「がっ・・・。」
美記は前に倒れ込んでいく。
「このぉっ!」
「邪魔なんだよ。」
幸の拳を受け止めると、それを捻って強引にも投げ飛ばした。
幸は背中から倒れて蹲る。
「うぐっ・・・。」
「弱い者いじめするようなやつが、美貴は一番嫌いなんだよ。」
「このっ、覚えてやがれ!」
そう言うと、幸は美記を抱えて逃げていった。
「何で悪者ってのは、あんな言葉を残していくのかね〜?さて、大丈夫?」
美貴は座り込んで少女と顔を合わせる。
- 296 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:50
- 「えと、あの・・・よ、よかった、んですか?」
「何が?」
「い、いえ・・・ありがとう、ございました。でも、私は関係ないですから!」
少女は立ち上がると、すぐに走ってどこかへいってしまった。
「・・・変なの。」
美貴は不思議そうな顔をして、その少女の後姿を見送った。
少ししてから立ち上がると、頬に何かが柔らかい物が当たった。
美貴がゆっくり振り返ると、愛がハンカチを当てていた。
「大丈夫?」
「このくらい、なんてことないよ。ありがと。」
美貴は笑ってそう言った。
しかし、愛はどこか浮かない表情をしている。
- 297 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:51
- 「愛ちゃんも心配性だね〜。全然平気だってさ!」
「うん・・・。」
愛は美貴に並んで歩き始める。
一度だけ、愛は美記達が逃げた方向を振り返る。
「(何か、嫌な予感がする・・・。気のせいだといいけど・・・。)」
「愛ちゃん、本当にどうしたのさ?美貴の傷なら、愛ちゃんが
キスしてくれれば治る・・・。」
「・・・傷、増やしてあげようか?」
「いえいえ、冗談です!」
愛が拳を握ったのを見て、美貴は逃げ出した。
今の不安をかき消そうと、何度か首を振るってから、
愛も美貴を追って走り出した。
- 298 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:52
- 「んぐっ・・・。」
「おっ、気が付いた?」
肩を貸している美記の顔を、幸は笑って覗き見た。
「くそっ、あいつ、絶対許さねぇ!うちらを舐めやがって!」
「そういえばあの制服ってさ、朝比奈学園とか言ってたよね。
うちの生徒とか言ってたから、そこのやつなんでしょ?」
「私達に逆らったらどうなるのか、教える必要があるね。燻りだしてやる。」
愛の不安は、悲しくも当たってしまうことになる。
それを美貴達が実感するのは、それからしばらくしてのことだった。
- 299 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:52
- 久々に更新です〜♪
- 300 名前:konkon 投稿日:2005/09/14(水) 23:56
- 愛ちゃん誕生日おめです!!!
これが言いたいがために更新しました(爆)
次の更新は、早ければ来週の連休・・・あるかな?
まぁ、仕事がなかったら更新したいと思います。
川’ー’川<早く更新するやよ!
川VvV从<他の小説書いてないで、美貴達を出せやこら〜!
- 301 名前:konkon 投稿日:2005/09/15(木) 00:02
- 何か言われてるけど、レス返しに入ります(汗)
>名無し飼育さん
申し訳ないです・・・書くべきか悩んだのですが、
説明下手で結局ネタバレになってしまいましたね(超汗)
これからは気をつけます。
>哀さん好きの名無しさん
ありがとうございます。
できるだけ仕事と両立できるようにがんばります!
>名無しの荒らしさん
あの時、って言い方が悪かったみたいですね〜。
もっと読解能力を身につけねば・・・。
それが仕事と無縁なことが悲しいとこです・・・。
>Aさん
きっぱり言って、全く落ち着いてないです(汗)
今日は早めに帰ってこれたんで、書けましたが、
次はどうなることやら・・・次のごっちんの誕生日までには
書きたいですねw
- 302 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:12
- 「ねぇ、今度は二棟の子がやられたらしいよ。」
「怖いよね・・・。もう一人で歩けないよ。」
朝、真希とあさ美が廊下を歩いていると、そんな話しを聞いた。
「紺野、今の話し知ってる?」
真希はあさ美を振り向いて聞いた。
「はい、何かうちの学校の生徒が、先週から誰かに襲われてるらしいんですよ。
殴られたり、財布や高価な物を取られたりしてるそうです。」
「何で?」
「さあ、理由はわかりませんけど、私達も気をつけなければいけませんね・・・。」
「大丈夫だよ。紺野のことは、後藤が守るからさ。」
真希は、あさ美の肩を抱き寄せてそう言った。
「はい・・・ですけど、推薦は今週ということを忘れないでくださいね。」
「分かってるよ。無闇に手を出すようなことはしないって。約束する。」
あさ美は嬉しそうに頷いて、真希と共に教室に向かった。
- 303 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:13
- 一方、裕子と貴子は校長室で話し合いをしていた。
「貴っちゃん、ほんまにやばいで。これでもう五件目や。学校のイメージとか
そんなん言ってる場合やないって。」
「分かっとるって。けどな〜、誰がやったかもわからんし、時間も場所も一致しない。
ここら辺にいるようなやつでもなさそうやし・・・。」
「つまり、他んとこからきたやつで、しかもグループで集まっとるってことか。」
「そういうことや。」
裕子と貴子は同時にため息をついた。
「とりあえず、今日は午前中で授業を終わらして、警察には一応連絡入れとくわ。」
「そうやな。んじゃ、授業始まるからうちは行くで。」
裕子は扉に向かって歩き始める。
裕子が出て扉が閉まった時の音が、やけに部屋に響き渡ったような感じがした。
- 304 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:13
-
ガラガラッ
二時限目の休憩時間に、美貴の教室に亜弥が入ってきた。
いつものような笑顔はなく、真剣な表情で美貴に近づいていく。
「美貴たん、それと愛ちゃん、ちょっときて。」
「亜弥ちゃん、どうかしたの?」
美貴は笑顔で対応するも、亜弥の表情は変わらない。
「いいからきて。」
亜弥は、美貴と愛の手を両手で引っ張って教室から連れ出した。
何かあったんだと思い、美貴も愛も何も言わずについていく。
しばらく歩いて亜弥が連れてきた場所は、保健室だった。
亜弥が中に入り、美貴と愛も続いて中に入る。
その瞬間、二人は言葉を失った。
- 305 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:16
- ある一つのベッドの前で、さゆみとれいなが泣きそうな顔で立っている。
そのベッドの上には、顔中が傷だらけの絵里が寝ていたのだ。
「亀ちゃん!?」
美貴と愛は走って絵里の元に近づいた。
顔には何発も殴られたあとがあり、髪は一部切られていた。
絵里は痛みに顔を引き攣らせて、苦しそうな表情をしている。
美貴は絵里から目を離し、憮然とした表情で立っている亜弥の元に寄っていく。
「亜弥ちゃん、どういうこと?何で亀ちゃんがあんなことに・・・。」
「美貴たん、少し落ち着きなよ。」
怒りの表情を醸し出している美貴を、亜弥は優しく宥めた。
- 306 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:17
- 「今日さ、学校行くのがだるくてね、行くつもりはなかったんだけど、
家にいても暇だったから、遅刻でいいやと思って学校に行くことにしたんだ。
その途中にさ、そこの亀井ちゃんだっけ?公園で4人くらいの集団に殴られてたから、
私が助けたんだよ。病院に行くより、こっちの方が近かったからここに連れてきたの。」
「・・・そうだったんだ。ありがと。」
「美貴たんにお礼を言われる筋合いはないよ。それでね、そいつらの
うちの一人に聞いたんだ。何でこんなことするのかってね。そうしたら
こう答えたんだよ。"うちの学校の生徒に手を出したやつがいる。
そいつは朝比奈学園の生徒だから、そこのやつらを襲え"って言われてたらしいよ。」
亜弥の話しを、美貴達は黙って聞いている。
「自分達の邪魔をされてむかついたんだとさ。んで、一応首謀者は
誰かって聞いたら、川島幸とかってのと、是永美記って言ってたかな。」
それを聞いて、美貴は漠然としていた。
以前に朝比奈学園の生徒を助けた際に、そのかつあげをしていた
連中の名前と一致したからだ。
- 307 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:18
- 「美貴のせいだ・・・。」
「・・・美貴たん?」
「亜弥ちゃん、その高校はどこにあるの?」
「美貴たん、何があったか知らないけどさ、ここは手を出さない方がいいよ。」
美貴は首越しに亜弥を振り返る。
「これは美貴が撒いた種なんだ。美貴がケリをつけないと・・・。」
「士鬼面高校、って知ってる?」
美貴は首を横に振る。
「元は極悪高校って言われてて、その名の通り悪いやつばっかなんだよ。
昔なんか、やくざと暴動を起こしたこともあるとか言われてるくらい、
やばいんだってさ。最近は落ち着いてたみたいだけど、ここは警察に任せて・・・。」
「う・・・ん。」
絵里が目を覚まして起き上がった。
さゆみとれいなは心配そうな表情で絵里の顔を見つめる。
- 308 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:19
- 「絵里、大丈夫?」
「・・・うん。まだ痛いけど、平気だよ。」
絵里はいつもの笑顔でそう答えた。
微妙に口元が引き攣っているのが、やけに痛々しく見える。
絵里は絆創膏をしている頬を左手で押さえ、そこで初めて気付いた。
自分の左手の小指が折れていて、添え木がされていた。
同時に、指にいつもと同じ感覚がないことにも疑問を感じた。
「ねえ・・・れいなさ、絵里の指輪、持ってる?」
絵里は普段から小指に指輪をはめていた。
その感覚が全くなくて、れいなに聞いた。
少しして、れいなは首を横に振った。
「じゃあ、さゆが持ってるの?」
さゆみは涙目をして、れいなと同じように首を振る。
- 309 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:20
- 「じゃ、じゃあ・・・。」
「たぶん、取られたよ。」
そう言ったのは亜弥だった。
その場にいた全員が亜弥の方を振り向く。
「私が見た時には、亀井ちゃんの指の骨は折れてたし、何もついてなかった。
たぶん、私が来る前に他の共犯者に持ってかれたんじゃないの?」
「そう・・・ですか。なら仕方ないですね。」
一瞬だけ悲しい顔をしたが、絵里はすぐに笑ってそう答えた。
「あ〜あ、取られちゃったんだ〜。まあ、いっか。」
「絵里・・・。」
「あ〜、気にしないでくださいね。別に安物だし問題ないですよ。
さゆ、れいな、まだ痛いからもう少し寝てるね。」
そこからは沈黙となり、しばらくして絵里の寝息が聞こえてきた。
- 310 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:20
- 「絵里の指輪、亡くなったお婆ちゃんの形見だったんです・・・。」
さゆみが小さく呟いた。
「絵里、お婆ちゃん子で、すごく仲がよかったそうなんです。それで、
夢を叶えられるようにって、お婆ちゃんがおまじないをかけて指輪を
絵里にあげたんです。だからこの子、いつも大事につけてたのに・・・。」
最後の方は涙で言葉にならなかった。
亜弥は無表情のまま、美貴は怒りの表情で、愛はただ何も言えずに、
れいなはただ絵里の顔を見つめていた。
「亜弥ちゃん、その士鬼面高校ってどこにあるの?」
それまで黙っていた美貴が口を開いた。
「誰が相手だろうと、美貴の仲間に手を出すやつは絶対に許せない。
警察が動いたら亀ちゃんの指輪の行方もわからなくなっちゃう。
だから、美貴は行くよ。」
「美貴ねえ、れいなも行くっちゃ。」
その言葉に、美貴はれいなを振り向いた。
れいなは体を震わせて、それでも目は真っ直ぐに美貴を向いている。
- 311 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:21
- 「美貴たん、先に出てるね。」
それだけ言って、亜弥は保健室を出て行った。
「絵里にこんなことするやつ絶対に許せんと!やけん、れいなも・・・。」
「れいながきて何になるの?」
美貴は冷徹な声でそう言った。
「れいながきてどうなるの?一緒に行ったところですぐにやつらに捕まって、
逆に美貴達が動けなくなる。れいながきたって、返って邪魔になるだけだよ。」
「そ、それは・・・。」
「藤本さん、そんな言い方ないじゃないですか!」
彼女にしては珍しく、さゆみは声を荒げて美貴を睨んだ。
「れいなだって、絵里を思ってそう言ったんです!それくらい、
藤本さんなら・・・。」
「分かるよ。だからこそ言ってるんだよ。きても足手まといだってね。」
今度こそはさゆみもれいなも何も言えなかった。
- 312 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:22
- れいなは泣きそうになった。
気持ちが収まらない、それでも力になれない自分が悔しかった。
それを美貴に言われたことが、尚更れいなは辛かった。
苦しくて、歯痒くて、それでも下を向いて泣かないように耐えていた。
「れいな、適材適所って言葉知ってる?」
突然そう言われて、れいなは美貴を向いた。
いつの間にか美貴はれいなの目の前まで近づいていた。
「美貴がここにいたって、亀ちゃんの心を癒してあげることはできない。
でもね、指輪を取り戻すことはできると思う。逆に、れいながついてきたって
たぶんやられちゃうけど、亀ちゃんを慰める役にはなれると思うんだ。
一番長く一緒にいた、れいなと重さんならね。」
「美貴ねえ・・・。」
「れいな達ができることは二つあるよ。一つは、亀ちゃんが起きた時に
一緒にいてあげて。目を開けたときに誰もいないと、寂しくて
泣いちゃうでしょ。それともう一つ、美貴ねえを信じて待っててよ。
すぐに帰ってくるからさ。」
美貴は笑ってそう言った。
- 313 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:23
- 「・・・うん!」
「重さん、れいなと亀ちゃんのこと、よろしくね。」
「はい!」
美貴の意図を知って、さゆみとれいなは大きく首を頷けた。
そのあとに、美貴は保健室を出て行こうと扉に手をかける。
その時、
ポフッ
背中に何かが当たった。
愛が美貴の肩を掴んで頭を背中に乗せていたのだ。
「愛ちゃん・・・。」
「今日、さ、この間、パチンコで勝った分でさ、焼肉、食べに行こうよ。」
「・・・うん。」
「だから・・・無事に帰ってきてね。待ってるから・・・。」
「うん・・・ありがとう。行ってくるね。」
美貴は愛の頭を軽く撫でてから、保健室を出て行った。
- 314 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:24
- 保健室を出てすぐ先の廊下で、亜弥は壁に寄り掛かって待っていた。
亜弥は美貴に合わせて歩き始める。
「亜弥ちゃん、その士鬼面高校ってどこにあるの?」
「隣町だよ。私も一緒に行くから、場所の心配はすることないよ。」
それを聞いて、美貴は立ち止まる。
「こなくていいよ。亜弥ちゃんまで危険な目に合わせるわけにはいかない。
これは美貴が・・・。」
「例え美貴たんが原因だったとしても、別に美貴たんが悪いことしたわけじゃないでしょ?
それとも、悪いことしたの?」
「・・・してない。」
「それに、私だって亀井ちゃんを助ける時に手を出したんだからさ、
きっと私も狙われる。だったら、これを機会に美貴たんと一緒に
やっつけちゃう方が簡単でしょ?」
亜弥は笑ってそう答える。
- 315 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:24
- 「亜弥ちゃんってさ、バカだよね。」
「何よそれ〜!ひどくない?」
「でもさ、そんな亜弥ちゃんのこと、美貴は大好きだよ。ありがとね。」
美貴は優しく亜弥の頭を撫でる。
それを亜弥は手で弾く。
「別に、そんなことないもん。ただ都合がいいから一緒に行くだけ。」
「はいはい。そういうことにしといてあげるよ。」
「それよりもさ、亀井ちゃんってわかんないよね〜。」
「どうして?」
「だってさ〜、自分の大事な物取られちゃったんでしょ?何であんなに
ヘラヘラと笑ってられるわけ?私には理解できない。」
少し怒った口調で亜弥はそう言った。
- 316 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:25
- 「・・・亀ちゃんは強いよ。」
「はあ?どこが?」
「美貴の仲間には、亜弥ちゃんを含めて弱い子はいないよ。亀ちゃんには
亀ちゃんの強さがあるんだよ。まぁ、亜弥ちゃんにはまだわかんないかも
しれないけどね。」
「わけわかんない。美貴たんの考えもね。それよりさ、本当に行くの?
どうなっても知らないよ。」
「当然、誰がどう言おうと美貴は行くよ。その前に、やること済まさなきゃいけないけどね。」
「えっ?」
美貴と亜弥は昇降口に近づいていく。
そこで待っていたのは、真希とあさ美だった。
美貴に気付いた真希は、軽く笑って近寄ってきた。
逆に美貴の表情は険しくなっている。
- 317 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:26
- 「ミキティ、行くんでしょ?」
「・・・誰から聞いたの?」
「さっき新垣がうちのクラスにきてね、同じクラスの亀井ちゃんが
やられたから、気をつけてくださいって言われたの。その子って
確かミキティの友達だよね?ミキティの性格上、これから悪いやつの
とこに行くんじゃないかなってね。だから、後藤も一緒に・・・。」
「何美貴のこと知ったかぶってんの?バッカじゃない?」
思いも寄らない言葉に、真希は言葉を失った。
「美貴の何を知ってんの?何でごっちんがそんなことを言えるわけ?
それで一緒に行く?意味わかんないんですけど。」
「ミキ、ティ・・・?」
「っつうかさ、そろそろ友情ごっこも終わりにしよ。どうせごっちんは
遠くの大学に入るんだし、一緒にいてももう美貴にメリットはないもんね。
うん、その方が楽だ。」
真希はもう何も言えなかった。
- 318 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:27
- なぜ美貴が自分に対してこのようなことを言ってくるのか、
さすがの真希にも理解できなかった。
あさ美は入り込む余裕がないほど混乱している。
「大体何なわけ?自分がいることが美貴のためになってるとでも
思ってるわけ?自惚れるのもいい加減にしてくれない?亜弥ちゃんの
時だって、美貴一人でも説得することできたし、ライブの時だって
美貴一人で十分なんとかなった。別にごっちんがいたからどうだって
わけじゃない。他の誰でもよかった。それくらいわかんないの?
天才だとか言われてても、そっちがバカだから騙されるんだよ。」
「騙される・・・?」
「何、今まで気付いてなかったの?一人で落ち込んでるのがいたから
気まぐれに声かけて、こうすれば喜ぶ、こうしたら悲しむって人間の
行動をただ把握したかっただけ。将来役に立つかもしれないと思ってたけど、
もう美貴にあんたは必要ないんだよ。"後藤さん"。」
「ミキティ!」
今のは真希にとって最も痛い言葉だった。
- 319 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:29
- 初めてお互いをあだ名で呼べる相手だった美貴。
その美貴が、真希のことを苗字で呼んだこと、それは友達では
なくなるという意味であったからだ。
真希は左手で美貴の襟首を掴み、右手を振り上げた。
真希はなんとも言えない表情で美貴を睨み、美貴は薄ら笑いをしている。
殴りたい、けど殴れない、殴りたくない、どうしたいいのかわからなかった。
様々な感情が真希の中で渦巻いている。
「どうしたの?殴りなよ。美貴、さっさと済ませて早く行きたいんですけど。
もしかして進路の心配してるとか?だったら心配しなくていいよ。この心の
優しい美貴ちゃんが、一発だけなら殴られてあげるからさ。ほらっ、後藤さん、
どうしたのさ。後藤さん?」
「・・・もういい。」
真希は美貴を突き飛ばした。
そして、美貴を横切って歩いていく。
- 320 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:29
- 「"藤本さん"がどう考えているのか、よく分かったよ。
後藤はもう、いらないんだよね・・・。」
「うん。」
「そう・・・絶交ってやつだね。さよなら。」
真希は何も言わずに先へと進んでいった。
それまで固まっていたあさ美が、真希を気にしながら美貴に近寄っていく。
「ミキティ、何で、あんなことを・・・?」
「あんたに答える必要ないでしょ。早く行きなよ。」
「・・・。」
あさ美は泣きそうな顔で走り去っていく。
その姿を、美貴は目に涙を溜めて、体を震わせて拳を強く握り締めながら、
じっと見つめていた。
- 321 名前:konkon 投稿日:2005/09/27(火) 23:31
- 更新しました。
随分と遅れてしまったけど、これだけは言わせてください。
川o・-・)<後藤さん、二十歳の誕生日おめでとうです!
これからも応援してますので、がんばってください!
- 322 名前:ひろ〜し〜 投稿日:2005/10/01(土) 17:41
- なんか
すごいことになりそうな予感・・・。
藤本さんがそう言ったのにも理由があるんですよね?
何となくわかるような・・・わからないような・・・。
次回、楽しみにまってます!
- 323 名前:闇への光 投稿日:2005/10/01(土) 22:43
- お久しぶりです。
なるほど藤本の言動からして歌舞伎の演目の1つかな。
次回の更新も楽しみに待っています。
- 324 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:33
- 真希と言い争いをしたあと、美貴は靴に履き替えて外に出ていく。
亜弥は何も言わずに美貴のあとをついていく。
そっと横から美貴の顔を覗く。
美貴はほとんど無表情に近かった。
「ねぇ、美貴たん。」
「・・・何?」
「あれで、本当によかったの?」
美貴の口元が少し引き攣る。
「"ごっちん"ってさ、何で自分のことを"後藤"って言ってるか、
亜弥ちゃんは知ってる?」
「・・・何で?」
亜弥は首を傾げて聞いた。
- 325 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:35
- 「ご両親が亡くなって、後藤の名を持つ者が自分だけになったからなんだよ。
自分だけが後藤の家の子だってことを、忘れないためなんだって。
ごっちんが忘れることなんて絶対にないんだろうけど、それでも、自分自身の
誇りにしたいからなんだってさ。」
「そうなんだ・・・。」
「そのくらい、ごっちんはいいやつなんだよ。自分にとって大切な人のためなら、
自分の身を投げ出してでも守るような、そんな子なんだ。美貴が何を言ったとしても、
ごっちんは美貴を助けるためについてくる。そうでなければ自分で解決しようとする。
美貴とごっちんが友達でいる限り、ごっちんは一緒にきちゃうんだ。だから、
これで、いいんだよ・・・。」
最後の方はほとんど涙声だった。
それでも泣かないのは、美貴のプライドにようなものが邪魔するから。
泣いても先に進めないのは、誰よりも美貴が知っているからだ。
- 326 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:35
- 「そっか。じゃあ、これが終わったら私があとで説明して・・・。」
「しなくていい。ごっちんの思い出したくない傷に、美貴は触れちゃったんだ。
許してもらうことなんてできないよ。」
「・・・私より、美貴たんの方が断然バカだよね〜。」
「ん〜、そうかな?亜弥ちゃんよりはマシだと思うけど。」
「バカだよ。本当にバカ。まあ、私は嫌いじゃないけどね。」
そう言って、亜弥が足を速めて先を歩く。
「亜弥ちゃん・・・ありがとう。」
亜弥に聞こえないようにぼそっと呟く。
校門を出て歩いていると、突然後ろから何台ものバイクが二人に近づいてきた。
五台ものバイクが、美貴達を逃がさないように取り囲む。
「ようやくはっけ〜ん!」
「っつうか、二人とも超可愛くねぇ?」
バイクに乗った男達がニヤニヤとしながら美貴達を見ている。
- 327 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:37
- 「亜弥ちゃん、知り合い?」
「そんなわけないでしょ。士鬼面の連中だよ。」
「へ〜、私服だからわかんなかったよ。で、美貴達に何か用?」
「知ってんだろ?朝比奈学園狩りだってよ。」
「そう言われて私達が・・・?」
亜弥の口を美貴が塞いだ。
亜弥は美貴に視線を向けて、口を閉ざした。
美貴は、不気味なほど不自然な笑みを作っている。
「君、何で笑ってんの?」
「ん、気にしないで。それで、美貴達をどうするつもりなの?」
「痛めつけろって言われてるんでな、怪我の一つや二つでもして
もらうつもりだった。さっきまではな。」
「どういう意味?」
「二人とも可愛いからな。もったいないから俺達についてこいよ。
たっぷりと可愛がってやるからさ。」
「痛いのは最初だけだって。あとは気持ちよくなれるよ〜。」
男達は笑いながらをそう言った。
- 328 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:38
- 「一つ聞かせて。もし美貴達が断ったら、その時はどうするの?」
「逆らってもいいけどな、その時は二度と人前に出せない顔にしてやるだけだ。」
「なるほどね〜。」
美貴は横に止めているバイクに近寄っていく。
「そうそう、素直が一番だよ。」
何を言われても、美貴は笑ったままだ。
亜弥は黙って美貴を見ている。
(私、知〜らない。)
この時の表情を、亜弥は一度だけ見たことがある。
以前に美貴と遊びに行った時、亜弥が待ち合わせ場所で美貴を待っていたところ、
一人の男にナンパされた。
男が何を言おうとも亜弥が反抗するために、怒って一発顔を叩いた。
- 329 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:40
- それを偶然にも見てしまった美貴。
そして、
ドゴンッ!
「なっ・・・。」
男が乗っているバイクを蹴り飛ばした。
信じられないほどの威力に、バイクは宙に浮かび、派手な音を立てて地面に倒れた。
その衝撃をまともに受けた男は、壁に顔から激突して血が噴出した。
「いい加減、うざいんだよ。」
美貴の表情が先ほどとは一転して、鬼のような形相をしていた。
亜弥の時にも、公の場にも関わらず、美貴はそのナンパした男を殴り飛ばした。
完全に美貴がキレている時の状態だった。
- 330 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:40
- 「なっ、お前、こんなことしてどうなるか・・・。」
「うざいって言ってんだよ!」
次の瞬間、美貴は猛スピードで飛び出し、後ろにいた男二人を
次々と殴り飛ばし、横にいた男を飛び蹴りで蹴り飛ばした。
「ぐっ、くそがっ!」
一人残った男は、エンジンを掛けなおして逃げ出そうとした。
アクセルを一気に全開にして、バイクを走らせていく。
「(何てやつだよ・・・こいつが、是永さん達が言ってた・・・。)」
「美貴から逃げられると思ってんの?」
「!?」
男は驚いて後ろを振り向いた。
なんと、美貴は走っているバイクの助手席に、平然として立っていた。
- 331 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:41
- 「さっさと降りろ。まだ話しは終わってないんだよ。」
「くっ・・・うわぁぁっ!」
美貴に引きずりおろされて、男は地面を転がっていく。
一方の美貴は、軽々と飛び降りて華麗に着地した。
ドライバーを失ったバイクは、バランスを崩して電柱に激突した。
美貴は倒れて蹲っている男の腹を踏みつけ、顔を睨みつける。
「今から美貴の言うことを聞くこと。抵抗したら殺す。何もしなければ
ぼこぼこ、言うことを聞いたら見逃がしてやる。分かった?」
美貴の目を見て嘘じゃないと判断した男は、ゆっくりと首を頷けた。
「是永と川島、だっけ?そいつらは今どこにいるの?」
「が、学校に、いる・・・。」
「んじゃ、今から電話して。番号くらい知ってんでしょ?」
「分かった・・・。」
男はポケットから携帯を取り出し、いくつかボタンを押して電話をかける。
それを美貴が奪い取る。
- 332 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:43
- 「何?」
「は〜い、お元気ですか〜?」
美貴はわざと明るい声を出してそう言った。
「あん?誰だよ?」
「あれ〜、もしかして忘れちゃったの?」
「だから、誰だって聞いてんだろ?」
「何で忘れるかな〜?確か5日くらい前に、路地裏で会って
ぼこぼこにしてやったはずなんだけどね〜。」
「・・・お前、あの時の・・・。」
「ようやく思い出してくれたようだね。嬉しいよ。だからね・・・
今すぐそっちに行ってやるから、首洗って待ってなよ!」
バキバキバキッ!
あまりにも力を込めすぎたために、携帯が粉々に砕け散った。
美貴は男から足を放して辺りを見渡した。
その直後に、男は逃げ出した。
- 333 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:45
- 美貴は倒れている一台のバイクを引き起こす。
そして、他のバイクからはヘルメットを二つ取り出した。
そのうちの片方を亜弥に放り投げる。
「亜弥ちゃん、後ろ乗りな。制服じゃ動きにくい。一度帰って着替えてくるよ。
時間ないから美貴の貸したげる。」
「えっ、美貴たん、運転できんの?」
「よく原チャリ乗り回してたから平気だよ。ほらっ、行くよ。」
「・・・りょ〜かい。」
ヘルメットを被って、恐る恐る助手席に乗る亜弥。
その瞬間、美貴は猛スピードでバイクを走らせた。
美貴の運転レベルがどれほどなのかは知らない。
ただ、美貴についていくと言ってしまったことに、少し後悔していた亜弥だった。
- 334 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:46
- 着替えを終えて20分ほどバイクを走らせると、目的の士鬼面高校が見えてきた。
亜弥が思っていた以上に、美貴の運転は安全で上手かった。
美貴は高校の門の前にバイクを止めて、そこで降りた。
「美貴たん、このバイクどうするの?」
「ここの生徒のなんだから、ここに放っておいても問題ないでしょ。」
そう言って、美貴は学校に向かっていく。
亜弥は慌てて美貴の隣に並ぶ。
「ちょっ、美貴たん!まさか正面から中に入る気なの!?」
「それ以外に何かある?」
「でもさ〜・・・何人待ち構えてるかわかんないんだよ。
どっか裏口を探すとか・・・。」
「邪魔するやつは倒すだけだよ。怖いなら帰っていいよ。」
「こ、怖くなんかないもん!美貴たんのバカ!」
二人は昇降口の中に入っていく。
そこで、美貴は一人の見知った生徒を見つけた。
- 335 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:46
- 川島幸だ。
幸も美貴達に気付いて逃げ出した。
「あっ、待て!」
美貴と亜弥も走ってついていく。
全力で走っているのだが、なかなか追いつくことができない。
「ちっ、逃げ足だけは速いんだな・・・。」
「み、美貴たん、今の誰なの!?」
「あいつが亀ちゃん達を襲わせたうちの一人なんだよ。」
美貴は振り向かずに答える。
途中、幸は廊下を曲がって階段を上り始める。
美貴達もあとに続く。
階段を上り続け、ついには屋上に辿り着いた。
- 336 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:47
- 扉を開けて外に出て行く。
すると、
ガチャッ
内側から鍵をかけられたようだ。
前の方には、先ほどまで追いかけていた幸と、是永美記、その後ろには
いかにも悪そうな顔をした、数十人もの生徒が立っていた。
中には女子の姿もある。
「ハハハッ、バッカじゃないの。こんなとこまでくるなんてさ。」
「まぁ、そのおかげで殺せるんだからいいじゃんよ。」
美記と幸は大声で笑い声を上げる。
美貴も亜弥も、全く表情を変えることなく周りを見渡している。
- 337 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:49
- 「60、いや、70ってとこか。亜弥ちゃんどのくらいいけそう?」
「そんなこと聞かないでよ。半分は持ってあげる。」
「上等じゃん。途中でヘバったりしないでよ。」
「当然。史上最強亜弥美貴コンビ、見せてやろうよ。」
「(美貴が後ろなのね・・・。)」
美貴と亜弥は真っ直ぐに美記達に視線を向ける。
「ちょっと、そこでバカ笑ってるバカ共。」
「な、何だと!?」
「こっちには時間がないんだ。さっさとかかってきなよ。」
「こ、こいつ・・・やっちまえっ!」
何十人もの生徒達が、一斉に美貴達に向かってくる。
「亜弥ちゃん、いくよ!」
「OK!」
美貴と亜弥は、一度拳を合わせてから前に飛び出した。
- 338 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:50
- 一方、真希とあさ美は朝比奈学園の中をうろつき回っていた。
真希は特に何かするでもなく歩き回り、あさ美は黙ってついていっている。
他の生徒達は、午前中で授業を終えて帰宅している。
士鬼面高校の影響によって、部活で残っている生徒もいない。
残っているとしたら、事務作業に追われている教師くらいなものだろう。
適当な教室や体育館などを見て周り、それでも真希は帰ろうとしない。
徐々に階段を上り始め、屋上に着いた。
誰もいないと思われた屋上には、金網に掴まって外を見ている一人の生徒がいた。
「高橋・・・。」
「愛・・・。」
遠くからでも分かる、その生徒は愛だった。
真希はゆっくりと愛の傍まで近寄って、金網に寄り掛かった。
- 339 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:51
- 「こんなところで何してんの?」
「・・・。」
愛は何も言わない。
「後藤さ、ミキティと絶交しちゃったよ。友達って、何なんだろうね?」
「・・・。」
「今まで信じてた後藤がバカだったのかもね。まさかミキティに
裏切られるなんて思ってもなかったよ。いいように思われてたと
思ってたけど、結局のところさ、ミキティにとって、後藤はただの
玩具でしか・・・。」
「・・・それ以上言うと、いくら後藤さんでも、本気で怒るよ。」
その言葉に、真希は愛を振り向いた。
愛は泣きそうな目で真希を睨んでいた。
- 340 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:52
- 「私・・・その話し、聞いてたよ。でも、後藤さん、本気でそう思ってるの・・・?
美貴ちゃんが、本気であんなこと言ったなんて思ってるの?後藤さん、
美貴ちゃんの気持ちを知って、だからここにいると思ってたのに・・・。」
「高橋・・・?」
「美貴ちゃん、後藤さんの誕生日のこと、半月も前からどうしようか
考えてた・・・。後藤さん達がインターハイに行った時、毎日のように
気にしてて、それでも邪魔だけはしたくないって、連絡も取らないで、
勝てるようにずっと祈ってた・・・。ライブにきてくれた時には、
本気で嬉しそうに笑ってた・・・。美貴ちゃんと話す時だって、後藤さんの
話しばかりするんだよ。それでも、美貴ちゃんは友達じゃないの・・・?
後藤さんにとって、美貴ちゃんはそんなに軽い人だったの?ねぇ、答えてよ・・・。」
愛は涙を零しながら、それでも真希の顔を見つめる。
- 341 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:55
- 「美貴ちゃんはね、後藤さん達には大学の推薦があるから、怪我させないようにって、
わざとあんなこと言ったんだよ。後藤さんは優しいから、それでも美貴ちゃんに
ついていくって分かってるから、友達っていう繋がりを、誰よりも手にしたくて、
一番大切にしていた友情の絆を、自ら手放したんだよ・・・。それが美貴ちゃんに
とって、どれだけ辛いことだったか、いつも一緒にいた、後藤さんならわかるでしょ・・・?」
「・・・。」
「本当は、言いたくなかったの・・・。でも、私には、後藤さんのような力がない、
美貴ちゃんの力に、なれないの・・・。美貴ちゃんに、無事に帰ってきてほしい・・・。
後藤さんしか頼れる人がいないの・・・。美貴ちゃんに、力を貸してあげて・・・。
お願い、します・・・。」
愛は深く頭を下げる。
真希はどうしたらいいのかわからず、その場で体を震わせていた。
- 342 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:56
- 「後藤さん。」
横からあさ美に呼びかけられ、真希は振り向いた。
「考えてたんですけど、美勇伝大学に入るのって、つまらなくないですか?」
「えっ・・・?」
「やっぱり、適当に強い大学に入って、そこから上まで這い上がっていく方が、
注目されやすいと思うんですよね。どうでしょうか?」
あさ美はどこか嬉しそうにそう言った。
「後藤さん、行ってください。ミキティの力になってあげてください。
大学なんかよりも、"友達"の方がずっと大切ですよ。」
「・・・そうだよね。ごめんね、高橋。それと、ありがとう。
後藤がバカだったよ。自分にとって一番大切なことを失うとこだった。
紺野、行ってくるね。」
「はい。」
あさ美が笑顔で頷くと、真希は猛スピードで走り出した。
- 343 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:58
- 「後藤さん、気をつけてくださいね・・・。」
真希を見送ったあと、愛の傍まで近寄っていく。
「ごめん、ごめんね・・・あさ美、私・・・。」
「愛、謝らないで。むしろ愛のおかげで思い出せたよ。ありがとう。」
「あさ美・・・?」
「ミキティは、私にとっても大切な友達で、恋の恩人でもあるんだったよね。
ミキティのこと、信じてあげることができなかった。私もあとでミキティに
謝ろうと思うんだ。だからさ、それまで信じて待ってようよ。きっと三人とも
すぐに帰ってくるよ。」
「・・・うん。」
あさ美は、まだ泣き止まない愛の体をそっと抱きしめる。
今はただ信じて待つだけ、どんなことでもいいから、早く無事に
帰ってきてほしいと、二人は心からそう願っていた。
- 344 名前:konkon 投稿日:2005/10/11(火) 23:58
- 久々に更新です〜。
- 345 名前:konkon 投稿日:2005/10/12(水) 00:02
- >ひろ〜し〜さん
すごいことが起こってますね〜。
こっからはいよいよ他のメンバーも・・・どうしよ(汗)
まぁ、美貴の言葉にはこんな意味があったような、
そんな感じですw
>闇への光さん
歌舞伎・・・?
見たことないのでわからないのですが(汗)そうなのかも
しれませんね・・・(大汗)
適当ぶっこいてごめんなさい!
またそのうち更新しますのでその時にでも・・・w
- 346 名前:闇への光 投稿日:2005/10/12(水) 07:58
- ご存知ありませんしたか。
実は全回のメール欄にキーワードを隠しておきましたので
yhaooあたりで検索して調べてみてください。
多分、言いたいことは分かりますから。
11月27日はそれが見れますが・・・
- 347 名前:初心者 投稿日:2005/10/24(月) 17:40
- 読ませていただきました
友情に恋に夢に喧嘩?に一生懸命でいいですね
次回更新待ってます
- 348 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:11
- 三年前、美貴と真希は教室で授業を受けていた。
授業を行っているのは、今年入ったばかりの新米教師だ。
一流の大学を出ているらしいエリートで、プライドが高いらしい。
その分説明も分かりやすく、教え方も上手いのだが、美貴は適当に聞いてて、
前の席の真希はぼーっと外を眺めていた。
「次の問題はね、高校生レベルだからちょっと難しいかな?では・・・。」
教師が次々とクラスメイトを指していくが、誰も答えられない。
「やっぱり分からないかな。じゃあ、答えを・・・。」
そこで、教師の目にやる気のなさそうな真希の姿が目に入った。
全く自分に気付かない真希に対し、少し表情が険しくなる。
「後藤さん、この問題解いてもらえないかな?」
真希はゆっくりと教師に目を向けてから、黒板に書かれている問題を見つめる。
- 349 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:12
- 「・・・X=5.6、Y=7.2。」
ほんの数秒ほど考えてから、真希はそう答えて再び窓の外に視線を向けた。
「・・・正解。」
教師は口唇をかみ締めて解説を始めた。
真希が転入してきてから、何度も同じような光景が繰り返されていた。
教師の質問に対し、全て当たり前のように答えている。
そんな真希の姿が気に食わないのか、この教師もよく難しい問題を出すのだが、
天才の真希にとっては何でもなかった。
しかし、真希を快く思っていないのは教師だけではなかった。
「またあの人答えたよ〜。」
「勉強する必要ないなら、学校こなけりゃいいのにね。」
「どうせ人を見下しにきてんでしょ。やなやつ〜。」
真希の耳に、クラスメイトの小言が聞こえてきた。
教師の質問攻めはいいとして、こればかりにはさすがに慣れることができないでいた。
- 350 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:13
- 胸が苦しくなって顔を顰める。
その時、後ろから美貴に背中を軽く叩かれた。
振り向くと、美貴は苦笑いをして真希に自分の教科書を見せる。
「ごっち〜ん、美貴の生涯一度の頼み事です。ここの問題教えてくれ〜。」
「・・・確か、この間も同じようなこと言ってなかった?」
「むぐっ・・・お願い、教えてよ。たぶん、次に指されるのは美貴だから。」
「その根拠はどこから出てくるの?」
「美貴の感がそう言っているのだ。ってなわけで、やり方だけでいいから教えてよ。」
真希はすらすらと説明し、美貴はフンフンと頷いている。
「なるほどね〜、さすがはごっちん、頭いい〜!」
「別に、そんなことは・・・。」
「周りの言葉なんて気にしないの。みんな受験前だからピリピリしちゃって、
ジェラシー溢れまくりなだけだってさ!ごっちんに嫉妬しちゃってるだけだよ。」
周りにも聞こえるくらいの大きさで、美貴はそう言った。
- 351 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:15
- 「ごっちんの説明ってあの先生よりも上手なんだから、みんなも聞けばいいのに・・・。」
「藤本さん、次の問題を読んで答えなさい!」
教師は美貴を鋭い目で睨みつける。
「お〜、怖い怖い。ほらね、美貴の感って冴え渡ってるっしょ?」
「それは、ミキティが悪いからじゃない?」
「藤本さん、早く読みなさい!」
「はいはい。え〜っと・・・ごっちん、これ何て読むの?」
一度は前を向いた美貴は、再び真希に体を向けた。
「・・・フフッ、数学以前に国語の勉強が必要だね。」
「ごっちん、笑うな!あっ、先生、これって何て読むんですか〜?」
「・・・もういいです!私が読むから、あなたは問題を答えなさい!」
教師は顔を赤くして怒鳴りつけた。
真希は薄く笑みを浮かべて笑っている。
クラスメイトが言うように、あまり学校にくる意味はないのかもしれない。
問題集でも読んでいれば、高校にだって余裕で入れるだけの知識を持っているのだから。
それでも学校にくるのは、美貴に会えるからだ。
美貴といる時だけは笑っていられる、本当の自分を曝け出すことができるからだ。
自分が自分でいられるこの時間が、真希は一番好きだった。
- 352 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:15
- また、体育でバスケットの授業があった時の出来事だ。
体育館の中で暑いとはいえ、やはり美貴はジャージだった。
パスやシュート練習が各自で行われて、何人かに分かれて試合をすることになった。
自ら動こうとしない美貴と真希は、当然のように余った。
他の生徒が体育教師に言われて、渋々二人を誘いにきた。
実習をしないと成績が付けられないからだそうだ。
美貴と真希は別々のチームに入って、直接対決することになった。
「ごっちん、手加減しないからね!」
「うん・・・。」
真希からの返事が弱い。
理由はなんとなく分かっていた。
あの事故が原因なんだということを。
- 353 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:16
- バスケをすると、嫌でも昔の思い出が蘇ってしまうからだろう。
それも、鮮明かつ完璧に脳裏に浮かんできてしまうのは、真希ならではだから。
美貴は何も言わずに定位置につく。
ジャンプボールで始まって、チームメイト達がボールを追いかけて、
シュートをしていく。
美貴や真希にはパスが回ってこないので、美貴は自分から動いて
ボールを取り、パスを回す。
だが、真希はその場から動こうとはしない。
途中、真希の元にボールが跳ねてきたが、真希は何度かドリブルをして、
すぐにパスを出した。
どこからでもシュートが打てて、中に切り込むのだってできるはずの、
一時期は金髪の妖精とまで言われていた、あの真希がである。
バスケットをやるつもりがないのだろう。
あからさまにやる気が感じられなかった。
真希が悪いわけではない。
ただ、はっきりとしない真希に対する怒りが、美貴の中で徐々に込み上げてきた。
- 354 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:18
- 試合終了間際、美貴の陣地のゴールにボールが当たって跳ね返る。
それを、美貴はこの日初めて本気を出して、超人的なジャンプ力でボールを取ると、
真希のところまでドリブルしていく。
「ごっちん、止めてみなよっ!」
「・・・。」
美貴は真希に真っ直ぐに突っ込んでいき、あっさりと抜き去った。
真希は結局手を出そうともしなかった。
レイアップシュートを決めた美貴は、口唇を噛み締めて真希を睨みつけた。
撥ねているボールを掴み取り、それを真希に投げつける。
パシッ!
ボールの衝撃が真希の手を痺れさせる。
- 355 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:19
- 「ミキティ、何する・・・。」
「いい加減に甘えてんなよ。」
美貴は真希の前に立ってゴールに背を向ける。
他のクラスメイト達は訝しげな目をして美貴達を見ている。
「何、中学NO.1の実力ってこんなもんなの。これじゃ、
天国にいるお父さんも浮かばれないね。」
「!?」
「むしろ可愛そうだよね〜。せっかくここまで強くしてあげたのに、
それを捨てようとしてるんだもん。宝の持ち腐れってやつだね。」
「ミキティ、それ以上言うと、本気で怒るよ。」
真希の目が、美貴を鋭く捉える。
「違うの?だったら証明してみせなよ。最強と言われてた金髪の妖精の力を、
美貴に魅せてよ。」
「・・・後悔しないでね。」
真希が何度かボールをバウンドさせる。
美貴はじっくりと真希の動きを見ている。
- 356 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:20
- 次の瞬間、
「!?」
美貴は抜かれていた。
二回まではフェイクを入れたのが見えた。
しかし、それ以上は分からなかった。
他の生徒には何をしたかすら分からなかっただろう。
美貴が振り向いた時には、真希はフリースローラインから飛び上がり、
ドガッ!
ダンクシュートを決めていた。
「すっごいな〜・・・本当にごっちんは凄いや。」
美貴は嬉しそうにそう呟いた。
- 357 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:22
- 試合が終わり、同時にチャイムが鳴り響いて、昼休みとなる。
他のクラスメイト達は教室に戻っていくが、美貴はボールを取って真希に渡す。
「ミキティ?」
「ごっちん、もう一回やろうよ!今度こそは止めてみせるからさ!」
「・・・いいよ。何度でも抜いてあげるよ。」
それから、二人の1 ON 1が始まった。
もう一回と言いながら、そのあと二人は三十分ほど動き回り、
何度も息を吐き出しながら倒れ込んだ。
「ハァッ、ハァッ、ごっちん、凄すぎ・・・。」
「ハァッ、ハァッ、ミキティ、こそ、よく動くよね・・・。」
真希は笑いながらそう答えた。
しばらく寝ていたあと、美貴がすっと上半身を起こす。
「ごっちん、バスケ続けなよ。そんなに強いのに、もったいないよ。」
「・・・。」
真希は何も言わずに美貴に視線を向ける。
- 358 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:23
- 「ごっちんの気持ちが分かんないでもない。でも、美貴に分かるわけないんだから、
同情はしないよ。けどさ、美貴はごっちんにバスケしてほしいな。ごっちんが
バスケやってる時って、すごい生き生きとした表情してるんだよね。」
「・・・後藤が?」
「うん。本当はさ、大好きなんでしょ。バスケ、やりたいんだよね?」
真希はじっと美貴の顔を見つめる。
「今すぐやれなんて言わないよ。落ち着いてから、やりたい時にやればいいと思う。
その時にはさ、また美貴が相手になってやるぜぃ!」
「・・・ミキティじゃ話しにならないよ。」
「うわっ、その言い方ひどくない?美貴だってがんばってんだぞ!」
「だったら、もっと強くなってから後藤に挑みなよ。その時には、
後藤が相手になってあげないこともないよ。」
「こいつ〜・・・覚えとけよ!」
「覚えてるよ。後藤はずっと、この日のことを忘れないから。」
真希が忘れるということはまずありえない。
ただ、真希自身が忘れたくない思い出となったことには、違いなかった。
- 359 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:24
- それ以上に忘れられない思い出があった。
真希はいじめられていた。
本人はそのような自覚を持たないようにしていたが、
いじめを受けていたのは確かだった。
陰口を叩かれたり、教科書を破られたりしたこともあった。
陰口を聞いても、美貴以外の人間が自分をどう思っているのか、
なんとなくは分かっていたから、気にしないようにすればなんとかなった。
教科書は買った時に一通り読んでいるので、授業に絶対必要あるわけではない。
ただ、買ってくれた叔父や叔母に対して、申し訳ない気持ちが残ったことはある。
何よりも、美貴だけには心配をかけたくなかった。
美貴も同じような位置にいるが、親の権力を知っているためか、
美貴に手を出そうとする生徒はいない。
そこで、全く抵抗をしようとしない真希が、いじめを受けるはめになっていた。
- 360 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:26
- ある日、真希が登校している途中に美貴と出会い、一緒に教室に入った。
そこまではいつも通り、しかし一つだけ異なる事態が発生していた。
真希の机と椅子が無くなっていた。
「えっ・・・何で、ごっちんの机と椅子がないの?」
「・・・。」
美貴と真希が呆然としていると、前の扉から教師が入ってきた。
例のエリート教師だ。
「そこの二人、何してるの?席に着きなさい。」
「あの、ごっちんの机と椅子が無くなってるんですけど・・・。」
「机と椅子?誰か心当たりある?」
誰も答えようとしない。
ヒソヒソと話している生徒が何人かいたのを、美貴は見た。
- 361 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:27
- 「誰も知らないようだから、仕方ないわね。もういいかしら?」
「えっ、そんな・・・。」
「別に教科書とかがなくなったって、後藤さんならなんとでもなるでしょう。
頭がいいんだしね。家で勉強して事足りるなら、学校に来る必要だってないものね。」
教師はニヤついた表情でそう言った。
その言葉に、笑い出すクラスメイトもいた。
真希の体が震えている。
真希は鞄を持って振り返り、教室を出て行こうとした。
その時、美貴に腕を掴まれて止められた。
「さあ、授業を始めるわよ。今日は・・・キャァッ!」
教師はすぐにその場にしゃがみ込んだ。
- 362 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:28
- 直後に、
ガッ!
飛んできた椅子が黒板にぶつかり、激しい衝撃音が鳴り響いた。
その椅子は美貴が投げた物だった。
もし避けなければ、確実に教師に直撃していただろう。
「ふざけたこと言ってんじゃねぇっ!」
今度は机を上に蹴り上げる。
蛍光灯にぶつかって、粉々に散った破片が教室に降り注ぐ。
「あ、危ない!」
「キャァァッ!」
クラスメイト達は、美貴から逃げるようにしてその場から逃げ出していく。
美貴と真希、教壇の下でガタガタと震えている教師を除いては、
全員が教室から逃げ出したようだ。
- 363 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:28
- 美貴は空いた席の机や椅子を、次々と蹴りつけたり、投げ飛ばしていく。
壁に穴が空き、床は凹んで、ついにはガラスまでも叩き割っていく。
教室が無残にも廃墟と化していた。
「ミキティ・・・もういいよ。もういいから!」
机を投げ捨てようとしている美貴を、真希は後ろから抱き止める。
美貴は掴んでいる机を床に置いて、真希に視線を向ける。
「ごっちん、帰ろうか。こんなんじゃ授業にならないしね。」
「・・・うん。」
美貴は、真希を引き連れて教室を出ようとする。
そこで美貴は教壇を振り向いた。
「先生、そこにいるよね。いるなら返事してよ。」
「・・・は、はい。」
教師がゆっくりと顔を出す。
- 364 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:29
- 「三日あげるからさ、それまでにこの教室を元の状態に戻しといてね。」
「み、三日でって、そんな・・・。」
「美貴の親が何してんのか知ってるよね。もしできなきゃ、分かってるよね?」
美貴に睨みつけられた教師は、ただ黙って頷くことしかできなかった。
「それと・・・。」
ドゴンッ!
美貴が扉を蹴り飛ばし、廊下に派手な音を立てて倒れた。
廊下には、美貴のクラスメイト達が怯えた表情をして立っていた。
「もし今度同じようなことをしたら、誰が相手だろうと美貴が絶対に許さない。
本気で殺すからね。それだけは覚えておきなよ。」
美貴はそう言うと、真希の手を引いて歩き出した。
美貴の凄みに誰も何も言えず、まるでモーゼの海のように
道を開けることしかできないでいた。
- 365 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:31
- 学校から出たあと、美貴は大きく伸びをして真希を振り向いた。
「いや〜、めちゃくちゃ爽快だったね。ごっちんもやればよかったのに。」
「・・・よくないよ。あんなことしたら、ミキティが・・・。」
「別にいいんだって。美貴だってこの学校にいたいわけじゃないし、
美貴が学校にくるのって勉強するためじゃないもん。ごっちんに
会うためにきてるんだよ。勉強は家庭教師で十分だって。」
真希は驚いていた。
同じような想いを持っていてくれればいいと思っていたが、
真希と全く同じ理由だった。
お互いに会いたい人、分かり合える人に会うために学校にきていたのだ。
「今日のことは気にするなって。っつうか、美貴に相談くらい
してほしかったな。美貴達は友達っしょ。」
「ミキティ・・・。」
「ってなわけで、その友達の頼みを一つ聞いて欲しいんだけど、だめかな?」
「何?後藤にできることなら何でもするよ!」
真希は嬉しそうにそう答えた。
- 366 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:32
- 「んじゃ、お言葉に甘えて、これからごっちんの家で遊ぼう!」
「へっ・・・?」
「今から帰ったら、絶対にうちの家政婦さん達に怪しまれるし、
今日はお金持ってないんだよね。それじゃ暇だからってことで、
ごっちんの家に決定!」
「でも、今日はなっち、お姉ちゃんが帰ってきてるから・・・。」
「おっ、ならちょうどいいじゃん!美貴も挨拶しておきたいし、レッツ・ゴー!」
「ちょっ、ミキティ・・・。」
美貴は真希の肩を抱いて歩き始める。
どう言おうと押し切られていたと思う。
それでも、真希の表情には笑みが浮かんでいた。
- 367 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:32
- 次の日、真希は普段通りに登校した。
クラスメイト達は、真希を見た瞬間に逃げていく。
別にそれでもよかった。
自分には美貴がいてくれるから。
教室の中は、ほとんど修復されていた。
よほど美貴が怖かったのだろう。
しかし、肝心の美貴がいなかった。
携帯にも繋がらない。
真希は不安になって担任に聞くと、昨日の話しを聞いたのか、
担任は震えながらポツポツと答えた。
それを聞いて、真希は愕然とした。
美貴は大怪我をして病院にいるとのことで、真希はすぐに学校を飛び出した。
- 368 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:33
- 一度家に帰ってから、目的の病院まで直行した。
病院に着いてから、受付で美貴の部屋を聞いて、その部屋へと向かう。
部屋の中は静かで、物音一つ聞こえなかった。
少し緊張しながらも、真希は軽くノックをした。
返事はない。
扉に手をかけると鍵はかかってないようで、真希はゆっくりと扉を開けた。
「失礼します・・・。」
真希は恐る恐る部屋の中へと入っていく。
奥の方にベッドがあり、その上で美貴は着替えをしているようだった。
美貴の背中を見て、真希の表情が凍りついた。
「ミキ、ティ・・・。」
「!?ごっちん・・・きてたんだ。」
美貴は、普段よりも弱弱しい表情で真希を見上げた。
- 369 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:34
- 「ごっちんにだけは、見られたくなかったんだけどね・・・。」
「・・・ごめん。」
「ごっちんが謝るようなことじゃないから。誰かがうちのくそ親父に
報告しちゃったみたいでね、だから気にしないでよ。ごっちんが悪いわけじゃない。」
今の美貴の上半身は、下着と包帯以外は何も身に付けていない状態だ。
美貴の体は、下着と包帯で隠れている部分を除いては、体中が痣だらけだった。
特に背中の痣は、一日や二日でできるようなものではないほど、
全体的に青黒く染まっていた。
美貴の顔もひどいもので、左目は腫れているようで眼帯がされてあり、
いくつもの絆創膏が何重にもなって貼られている。
そうでないと隠しきれないのだろう。
「ミキティ・・・ごめんね。」
「ごっちん?」
「後藤が、後藤のためにあんなことしたから、ミキティが・・・。」
真希の目から涙が零れていく。
美貴はじっと真希を見ている。
- 370 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:36
- 「何で、ミキティがこんな目に合うの!?後藤のせいで、ミキティを、
傷つけて・・・後藤なんか、いなけりゃよかったのに・・・。」
「ごっちん!」
パンッ
本気ではない、そう強くもない力で、真希の頬を叩いた。
そして、優しく抱きしめる。
「二度とそんなこと言わないで。ごっちんがいてくれたから、
今の美貴がいるの。ずっと孤独だった。寂しかった。でもね、
ごっちんがここにいるんだよ。それが今の美貴に繋がってるの。
自分の存在を否定しちゃだめだよ。美貴達さ、生きてるんだよ。
せっかくさ、出会えたんだから、友達になれたんだから・・・。」
「うん・・・ふぐぅ・・・。」
「もう、ごっちんは泣き虫だね。」
美貴はそっと真希の涙を指で拭い取る。
- 371 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:37
- 「ごっちんさ、友達として頼みを聞いてくれるって言ったよね。」
「うん・・・。」
「ならさ、美貴の頼み、聞いてくれるよね?」
「うん。もちろんだよ。」
「ごっちん、笑ってよ。ごっちんが笑ってくれないと、美貴まで悲しくなる。
美貴に笑顔を見せてよ。それが、今の美貴に何よりも力になるからさ。」
美貴は真希の頭を撫でながらそう言った。
「・・・ミキティさ、中途半端にロマンチックだね。」
「何を言ってる、美貴はいつでも夢見る女の子だもん♪」
「・・・キショ。」
少しして、真希はぼそっと呟く。
- 372 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:37
- 「うるさい!似合わなくたってやってみたいことってあるの!
じゃあ、ごっちんがやってみなよ。」
「んと、後藤は夢見る女の子だもん♪」
真希はウインクまで付けて美貴に対抗した。
「ぐっ・・・可愛い。」
「うん、知ってる・・・クッ、ハハハッ!」
「アハハッ、ごっちんらしくな〜い!」
その後も二人はずっと笑い合っていた。
そして、真希はこの時に誓った。
何があっても、自分の身にどんなことが起ころうとも、
この最高の友達だけは自分が守るんだと。
- 373 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:38
- 「(なのに、なのに後藤は・・・最低だ!)」
階段を一気に飛び降りて、また走り出す。
ずっと信じていた。
簡単に壊れるものではないはずだった。
だからこそ、疑ってしまった自分に、真希はもの凄く苛立ちを感じた。
「(ミキティ、無事でいてね!)」
心の中で祈りつつ、真希はさらに走るスピードを上げた。
- 374 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:38
- 更新です。
- 375 名前:konkon 投稿日:2005/10/26(水) 18:41
- >闇への光さん
すいません、こちらの世界には疎いものでして・・・。
でもなんとなくは合ってると思いますよ♪
>初心者さん
色々と混ぜ合わせているもので、なかなか更新が先に進まず・・・。
欲は持っちゃいけませんねw
一生懸命な彼女達がこれからどうなるか、ご期待くださ〜い!
- 376 名前:初心者 投稿日:2005/10/28(金) 23:45
- 更新お疲れさまです
それぞれの環境は大変だけど二人は理想的な関係ですね
これからの展開が楽しみです
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 12:16
- 最初から一気に読みました!ハマりました!泣きました!続き待ってます!
- 378 名前:タケ 投稿日:2005/11/19(土) 02:48
- パート1から一気に読みました。
すばらしい!
乗り込んでいったあとが気になります。
更新期待して待ってます
- 379 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:49
- 「おりゃぁっ!」
美貴の回し蹴りが、男の体を蹴り飛ばす。
「やぁっ!」
亜弥が一瞬にして男の顔にいくつもの拳を当てて倒す。
どれだけ倒したか分からない。
美貴達の周りには、まだ何人もの士鬼面の生徒達が囲んでいる。
それでも、二人は怯むことなく、向かってくる敵を倒していく。
「このっ!」
横から襲ってきた男に裏拳を叩きつける。
だが、倒れずにまた美貴に突っ込んでくる。
「さっさと倒れろよっ!」
向かってきた男を、美貴がもう一度殴りつけた。
- 380 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:50
- その時、
ガッ!
「っつ・・・。」
横に注意を向けていたせいで、他の攻撃に気付かなかった。
鈍器なようなもので横から顔を殴られたようだ。
見ると、後ろにいた男がバットを振り被っていた。
「いったいなっ!」
バットを蹴りで横から弾き飛ばし、すぐさま髪を掴んで引き寄せて、
膝蹴りを顔にめり込ませた。
男は血を噴出して倒れていく。
「ちっ、あと何人いるんだよ・・・!?」
周りに注意を向けていると、亜弥が一人の男に腕を掴まれ、
別の女に木刀で殴られている光景が目に入った。
美貴は勢いよく走り出し、亜弥を掴んでいる男の顔を蹴り飛ばしてから、
女の木刀を避けて腹を殴りつけた。
- 381 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:51
- 「亜弥ちゃん、大丈夫!?」
「ん、美貴たん、危ない!」
亜弥は美貴を横に突き飛ばして、別の方から襲ってきた生徒を投げ飛ばす。
「ハァッ、ハァッ、これで借りは無しだからね。」
亜弥は、額から垂れてくる血を拭って、笑顔でそう言った。
「・・・そんだけ無駄口叩けるなら、まだいけそうだね。」
美貴は血を唾と一緒に吐き出して、周りを見据える。
一通り見渡したあと、美貴は亜弥に背中をくっ付けた。
「美貴たん?」
「亜弥ちゃん、背中合わせにして。そうすれば、少なくとも後ろからはやられないから。」
「・・・なるほど。いいと思うけどさ、やられないでよね。」
「それはこっちのセリフだよ。いくよっ!」
美貴と亜弥は、向かってくる士鬼面の生徒達に向けて構え直した。
- 382 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:52
- 美記と幸は、後ろの方からじっと美貴達の戦いを見ていた。
圧倒的な数、それも喧嘩の精鋭達を集めたにも関わらず、
倒れていくのは士鬼面の生徒だった。
美貴達のあまりの強さに、幸は鳥肌がたった。
「美記、どうする?あいつら、思った以上に強いよ・・・。」
「・・・分かってる。ここで使うとは思ってなかったけど、
切り札を使った方がよさそうね。」
美記は不気味な笑みを浮かべてそう言った。
「切り札・・・ああ、"あの人達"を使うってことか。でもさ、
うちらのやり方に文句ばっかつけるのに、動いてくれるの?」
「やってくれるよ。私の言うとおりにすればね。ほらっ、いくよ。」
ここの学校の屋上には、美貴達が入ってきた出入り口とはまた別に、
通路越しにもう一つ出入り口が存在する。
そこに向けて、二人は歩き出した。
- 383 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:53
- 士鬼面高校のある教室で、二人の生徒が向き合って座っていた。
他に生徒の姿は見当たらない。
その容姿は、身長が低く幼い表情をしているので、高校生ではないようにも見える。
持っていたトランプから目を離し、二人の視線がぶつかり合う。
「のん、覚悟はええか?」
「あいぼんこそ、今度こそこれで決めるよ!」
お互いにのん、あいぼんと呼び合う少女達、辻希美と加護亜衣は、
持っていたトランプを机の上に置いた。
「Aのフォーカード!のんの勝ちだ!」
「のん、全然甘いわ。これ見てみ。」
亜衣は自分の手札を希美によく見えるように放り出した。
「・・・ロイヤルストレートフラッシュ?」
「そういうこと。これで明日の昼飯はのんの奢りや。」
「ぐっ、ずるい!イカサマしたでしょ!?」
「イカサマっつうのは、バレなきゃイカサマやないんや。うちの勝ちや。」
「くっそーっ!」
希美は悔しそうに天を仰いだ。
- 384 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:54
-
ガラガラッ!
突然、勢いよく教室の扉が開かれた。
「辻さん、加護さん、大変です!」
入ってきたのは、先ほどまで屋上にいた美記と幸だった。
二人は希美達に駆け寄っていく。
「是永に川島やないか。何をそんな慌てとるんや?」
「変な二人組が、うちの学校に乗り込んできたんですよ!」
「そいつら、すごい強いやつらでうちらじゃ敵わないんです。手を貸してくれませんか?」
亜衣はじっと二人の顔を見つめる。
「ま〜た何かやらかしたんとちゃうか?喧嘩を売ったとか、暴走族に手を出したとか。」
「そんなんじゃないですよ!いきなり襲われて、他の生徒達も無差別に殴られているんです。」
その言葉に、希美が立ち上がった。
- 385 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:54
- 「あいぼん、行こう。」
「・・・行くんか?」
「当然じゃん。うちの生徒がやられてるんでしょ。
黙って見てるわけにはいかないじゃん。」
「それもそうやな。んじゃ、いったるか!」
亜衣も大きく伸びをしてから立ち上がる。
「で、そいつらは今どこにいるんや?」
「はい、屋上で他の仲間がやりあってます。」
「本当にお願いしますよ。報酬は出しま・・・うぁっ!」
幸の言葉の途中で、希美が襟首を掴んで持ち上げた。
幸の体を片手で軽々と持ち上げられるほど、もの凄い力だった。
- 386 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:55
- 「前から言ってるはずだよ。のん達はお金のために行くんじゃない。
仲間のために行くんだ。」
「まぁ、そういうことや。」
希美は幸の服を離し、亜衣と共に教室から出て行った。
幸が何度も大きく息を吐き出しているのを、美記は冷徹な目で見ている。
「バカね。余計なことは言わなくていいのよ。あの二人は、
妙に正義感が強いとこがあるんだからね。」
「ゲホゲホッ・・・ったく、先に言ってよね。それにしても、
面白くなりそうじゃない?」
「フフッ、バカと鋏は使いようってね。あいつらがあの二人に
勝てるわけないものね。なんたって、あの二人はここのNo3に
入る実力をもってるんだもん。楽しくなってきたよ。」
美記と幸は、笑いながら屋上へと向けて歩き始めた。
- 387 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:57
- 屋上では、何人もの人が倒れている中、立っていたのは美貴一人だけだった。
亜弥は疲れて足にきているようで、完全に座り込んでいる。
「ハァッ、ハァッ、亜弥ちゃん、立てる・・・?」
「ハァッ、ハァッ、もうちょい、待って、よ・・・。」
二人は何度も荒い息を吐き出している。
それもそのはず、ただでさえ喧嘩に自信のある士鬼面の生徒、
しかも何十人も相手にしてきたのだ。
美貴や亜弥には致命傷はないものの、いくつもの殴られたあとがついていた。
美貴はポケットから煙草を取り出して、口にくわえて火をつける。
「・・・美貴たん、煙草吸ってる暇なんかあるの?」
「だったら、早く立つんだね。亜弥ちゃんを待ってあげてるんだからさ。」
大きく煙を吐き出して、美貴はそう答えた。
「もう、美貴たんの、バカ・・・。」
亜弥はゆっくりと立ち上がろうとした。
- 388 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:57
- 次の瞬間、
「こんなところで煙草を吸うなーっ!!!」
「!?」
突然、大声が響き渡った。
建物の影から一人の少女が出てきて、そう怒鳴ったのだ。
美貴と亜弥は慌てて声のした方向に目を向ける。
「のん、大声出すなや。」
いきなり怒鳴った希美を見て、亜衣は苦笑いを浮かべる。
希美と亜衣は、周りの現状を見てから美貴達を見つめる。
美貴達と希美達の視線が絡み合う。
「それにしても、随分とやられとるわな。」
「皆をやったの、お前達か?」
「・・・そうだよ。っつうか、あんた達、誰?」
美貴は不思議そうな表情で希美達を見ている。
- 389 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:58
- 「仲間達をやったこの罪は重いぞ!」
「だから、美貴の質問に答えろっての・・・。」
美貴は煙草を地面に落とし、踏みつける。
「ここまで倒すとは、久々に強そうな相手やな。燃えてきたわ〜。」
「あいぼん、いくよっ!」
希美達は同時に走り出す。
「美貴たん!」
「大丈夫だよ。美貴一人で十分だ、よ!」
パンッ!
拳を振り上げて向かってくる希美に、先に拳を突き当てた。
だが、希美は一瞬揺らいだだけで、すぐに美貴に殴りかかってくる。
- 390 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 03:59
- 「ちっ、一発でだめなら何発でも・・・っておわっ!」
横から飛んできた亜衣の蹴りを、美貴は後ろに下がって避ける。
「あいぼん、全力でいくよ。」
「ああ、あれを避けるなんて、相当強いみたいやな。どうやら本気でいった方がよさそうや。」
希美は低い位置から、亜衣は飛び上がって上から攻める。
これ以上ないといっていいほど、二人の絶妙なコンビネーションに、
美貴は押され始めていた。
「ほらほらっ!どないしたんや?」
「くっ!こいつら・・・。」
希美の拳を避けて、亜衣に向けて拳を振るう。
しかし、それを横に弾かれて避けられる。
直後に、
「もらったわ!」
ガッ!
「っつ・・・。」
不意をつかれ、亜衣に膝を蹴られた。
- 391 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:00
- 痛いってほどでもないのだが、美貴はバランスを崩して動きが止まってしまう。
その隙に、希美が美貴の懐まで入り込む。
「喰らえっ!みんなの仇だ!」
ドゴンッ!メキメキメキッ!
希美の拳が美貴の腹にめり込んだ。
美貴は大きく吹き飛ばされたあと、血を吐き出しながら腹を押さえて蹲る。
「あがっ!うぁぁっ、ぐぅ・・・。」
亜弥は自分の目を疑った。
美貴が血を吐いて蹲っている姿なんて、想像すらできなかったからだ。
- 392 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:01
- 「美貴たん!」
亜弥は力が入らない足を殴りつけ、無理やり走り出す。
横からきた亜弥に気付いた希美は、大きく拳を振り上げる。
「こっのーっ!」
希美の拳を体を沈めて避けると、希美の腕を掴んで投げ飛ばした。
希美は背中から地面に倒れこむ。
「いつつ・・・。」
「美貴たんはやらせない・・・。」
「あんたもやるわな。」
「!?」
気付いたら、すぐ目の前にまで亜衣が飛び込んできていた。
- 393 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:01
- 亜衣は亜弥の右腕を掴み、そして、
ゴキッ!
「うわぁぁぁぁっっ!!!」
亜弥の右肩を外した。
あまりの痛みに、亜弥は泣き崩れる。
「あんまり調子に乗っとると、今度は左も・・・どわっ!」
後ろから飛んできた美貴の蹴りを、亜衣は後ろに大きく下がって避ける。
美貴は、口から血を垂らしながらも、震える体で亜弥の前に立ちはだかる。
「亜弥ちゃんに、手を、出すな・・・。」
「その体で立てるなんて、あんたすごいわな。」
「(くっ、アバラの何本か、イッてるみたい・・・。こうなったら・・・。)」
美貴は後ろを向いて、亜弥の外れている右肩に手をかける。
- 394 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:02
- 「美貴たん・・・。」
「亜弥ちゃん、ちょっとだけ、我慢してね。」
ゴキッ!
「っっっ!!!」
力技で亜弥の肩を入れ治した。
まだ痛みに震える亜弥に、美貴は顔を近づける。
「亜弥ちゃん、ここから逃げて。あとは美貴がやるから。」
「えっ・・・?」
「さっきの言動から、あの二人が最初からここに隠れてたとは思えない。
だから、きっと他にも出口があるんだよ。そこから逃げて。」
美貴は、希美と亜衣を気にしながら話し続ける。
二人ともぼろぼろの体で、体を震わせている。
その姿は、見ているだけでとても痛々しく感じた。
- 395 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:04
- 「なぁ、のん。もう、ええんとちゃう?」
「・・・そうだね。これで許してあげよっか。」
「何を言ってるんですか、お二人さん。」
希美達が振り向くと、いつの間にか後ろまで近づいていた美記と幸が立っていた。
「うちらはあいつらに殴られたんですよ。それに、こんなにたくさんの
仲間達を傷つけた。」
「何よりも、うちの学校に攻め込まれたんです。そんなこと、
許されるわけがありませんよ。」
「お二人がもう終わりなら、あとはうちらがもらいます。いいですね?」
美記達が歩いていくのを、希美達は何も言わずにじっと見ていた。
美貴達は近づいてくる二人にまだ気付いていない。
- 396 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:05
- 「美貴が引き付けておくから、そのうちに・・・。」
「何、言ってんのよ。このくらい、へっちゃらだよ!美貴たんを置いて、
私だけ逃げるなんて、そんなことできない・・・。」
「どうせ逃げられないんだよ。お前達はね。」
美貴が振り向いたと同時に、美記の蹴りが痛めている腹にめり込んだ。
「ぐぁっ!ぅぅ・・・。」
「美貴た、キャッ!」
起き上がった亜弥を、幸が殴りつけた。
「情けない姿だね。土下座して謝るんだったら、まだ考えないこともないけど?」
「・・・。」
「ねぇ、なんとか言ってみなよ!」
美記が拳を振り上げる。
そこで、美記の体がピタリと止まる。
怪我人とは思えないほどの獰猛な双眼で、美記と幸を睨みつけていた。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、美貴の目に圧倒されて二人とも体が動かなかった。
- 397 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:06
- 「こんなの、全然痛くないね。」
「ぐっ、な、何を粋がってるんだよ!?どうせだから教えてやるよ。
まだ外にいる連中も、ここに向かってきてるんだよ。お前達はここで終わりなんだよ。」
それでも美貴の目が変わることはなかった。
その時、
ガチャガチャッ
屋上の扉から音がした。
ここの鍵は両穴式のようで、内側にいる者は鍵を開けることができないようだ。
「ほら、うちの援軍がきたんだよ。私に喧嘩を売ったこと、たっぷりと後悔させてやるよ。」
まだ内側からドアノブを廻す音がしている。
それに苛立った幸は、ポケットから鍵を出して扉に向かっていく。
- 398 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:07
- 「ったく、鍵持ってないんだったら、周ってくればいいのに・・・。」
幸が鍵穴に鍵を差し込んだ。
その瞬間、
ドゴンッ!
内側から屋上の扉が吹き飛んだ。
扉に強く叩きつけられた幸は、地面を転がりまわって気絶した。
「随分と楽しそうだね。」
「なっ、何で・・・。」
中から出てきた人物を見て、美貴は口を開けて驚いた。
出てきたのは、最も大切な親友を守るために、仲を引き裂いたはずの真希だった。
- 399 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:07
- 久々に更新です。
- 400 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:09
- 気付いたら三週間以上更新してなかった・・・。
仕事とスランプが続いてて、なかなか更新する意欲が
わかなくて書けませんでした・・・(汗)
今後はもうちょいペースを上げて書いていきたいです。
それではレス返しに戻ります。
- 401 名前:konkon 投稿日:2005/11/20(日) 04:13
- >>初心者さん
自分にとって最も理想的で大好きな二人ですw
これからまた新たな展開を生み出していきたいですね。
>>名無し飼育さん
ありがとうございます!
そう言っていただけるとまた書く気になれます♪
今後もがんばっていきたいのでまたレスよろしくです!
>>タケさん
すばらしいと言っていただけるなんて・・・(泣)
期待していた以上の働きができるのが理想なんですけど、
自分の力ではどこまでいけるのか・・・(汗)
やるだけやってみるんで、また読んでやってくださいね。
- 402 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 04:39
- 更新されてるぅ!!
意外な二人が出てきましたねぇ。
ごっちんが来てくれたことでこの後どうなるんだろ?次回も期待してます
- 403 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 12:14
- 美貴たんも亜弥ちゃんもボロボロだぁ。
ごっちん助けてあげてぇ〜
- 404 名前:闇への光 投稿日:2005/11/20(日) 21:24
- 拝見しました。
はてさてどうなるか。
次回を期待しています。
P.S.27日の8時よりNHKで前の書き込み(323、346)の内容が見れます。
- 405 名前:みきみき 投稿日:2005/11/22(火) 16:35
- 更新サンキュー!!
早く続きを
- 406 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:02
- 「やれやれ、派手にやってるみたいだね〜。」
真希は、普段と表情も口調も変えることなく歩き始める。
美貴と亜弥は、ただ呆然として真希を見ている。
「誰だよ、お前は?ここの生徒じゃないね?」
美記が訝しげな表情をして真希に聞いた。
「違うよ。」
「じゃあ、こいつらの仲間か?どうやってここまでこれたのよ?
外にいた仲間達は?まさか、全部倒してきたわけじゃ・・・。」
「そうでなかったら、後藤はどうやってこれたと思う?」
「そんな、だって外にはまだ何人もいるのに、全くの無傷でここまでこれるなんて・・・。」
「な〜んてね。倒したのは一人だけだよ。後藤は誰かさんと違って、
無鉄砲ではないんでね。ほらっ。」
真希が美記に何かを放り渡した。
それは、この学校の生徒だと表す校章だった。
- 407 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:03
- 「それ付けてれば、誰にも何も言われずに簡単に入れたよ。
後藤みたいな知能を持たない限り、生徒全員を把握するのなんて
不可能だろうからね。」
真希は笑みを浮かべてそう答えた。
「さてと、さっさと用事済ませて帰るよ。」
「こいつっ!」
美記が走り出して、真希に向けて拳を振るった。
パシッ!メキメキッ!
真希は軽々と掌で受け止めると、美記の拳を握り潰していく。
「うあぁぁぁっっ!!!」
「あんたじゃないね。この程度の力で・・・がやられるわけないしね。よっと!」
ゴッ!
美記の顔を、裏拳で横に殴り飛ばした。
美記は派手に転がっていき、完全に気を失ったようだ。
- 408 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:04
- 「そうなると、あっちの二人か・・・。」
真希はやはりいつも通りの表情をして、美貴に歩み寄っていく。
「何しにきたの?ごっち・・・後藤さん。」
「・・・。」
睨みつけてくる美貴に、真希は何も答えない。
「邪魔なんだよ。これは、美貴の喧嘩なんだよ。あんたなんか必要ないんだよ。」
それでも真希は、何も答えずに近づいていく。
そして、希美達との間に立ちはだかる。
「どうして、きちゃったんだよ・・・ごっちん・・・。」
「・・・やっとその名前で呼んでくれたね。ミキティ。」
真希は嬉しそうにして、美貴を振り返る。
「今からでも遅くない。ごっちん、帰ってよ!取り返しのつかないことになったら、
そんなことになったら、美貴は・・・。」
美貴は震える声でそう言った。
- 409 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:06
- 「ミキティ、勘違いしてない?後藤はミキティ達のために
きたわけじゃないよ。」
「えっ・・・?」
「後藤は、大切な親友を失いたくないからここにきた。後悔しないために、
ミキティと出会ったことで、たくさんのことを知ることができた大きな"借り"を、
少しでも返したいからね。別にミキティのためじゃない、後藤のためにきたんだよ。
何もミキティが負い目を感じる必要はないよ。」
「・・・バカ。」
「後藤が後藤でいられるためにここにきた。それだけだよ。」
真希は、前にいる二人に視線を向ける。
「だからね、後藤の大切な人を傷つけるやつは許せないんだよ。」
先ほどまでの表情とは変わって、真希の目は怒りに満ちていた。
- 410 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:06
- 「ふ〜ん、そんで次は姉ちゃんがやるんか?」
「言っておくけど、後藤はミキティと同じくらい強いよ。」
「ミキティって、そっちでへばってる姉ちゃんのことやろ?
なら、うちらに勝てるわけないやん。」
「こんだけの人を相手にしたあとで、あんた達とやったんでしょ。
初めから本気でやれば、ミキティがやられるもんか。」
周りで倒れている士鬼面の生徒を見ながら、真希はそう言った。
「それで、あんたがうちらに勝てばそのミキティも負けるわけがないと。
泣かせる話しやね〜。」
「だったら教えてあげるよ。のん達の強さをね。あいぼん!」
「おう!いっくで〜!」
希美と亜衣が走り出す。
同時に真希も向かっていく。
- 411 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:07
- 「ほっ!」
「やぁっ!」
希美の拳を避けて、亜衣の蹴りを防御する。
二人は、美貴の時と同じように、上下から真希を攻めていく。
真希は特に反撃することなく、ひたすら避けたり守っていた。
「あいぼん、このまま一気にいくよっ!」
「お、おう・・・。」
亜衣は考えていた。
どれだけ攻撃していても、真希は一度も膝を地面につけていない。
何かがおかしい、何で真希はまだ立っていられるのか、途中からそう思い始めていた。
二人の最も効果的な攻撃は、亜衣が引き寄せて隙を作り、希美の驚異的な
破壊力のある拳をぶつけることである。
防御したところで、その防御した両腕を粉々にできる。
- 412 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:08
- では何がおかしいのか、亜衣が攻撃した時、真希の顔を見た。
真希の口元は笑っていた。
そこで、なぜ真希が倒れていないかを理解し、背筋に寒気を感じた。
「これでっ!」
「のんっ!避けろ!」
ドゴッ!
真希の強烈なハイキックが、希美の側頭部を捉え、大きく蹴り飛ばした。
足を踏み込んだと同時に、今度は亜衣を肩で弾き飛ばした。
「ぐっ、つぅぅ・・・。」
「ケホッ、のん、大丈夫か?」
「ん、なんとか・・・。」
希美は頭を、亜衣は腹を押さえながら立ち上がる。
- 413 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:09
- 亜衣が導き出した答え、それは、真希は希美の攻撃を一発も受けていなかったことだ。
亜衣の攻撃を喰らって、希美の攻撃を見て、真希は全てを理解した。
美貴を倒したのは亜衣ではなく、希美であることを。
美貴ほど強い人が、何発も同じ箇所を攻められるわけもない。
なら、一撃でやられたということだ。
だから、一撃でも希美の攻撃を喰らうことなく、
わざと攻められているように見せていたのだ。
「どうしたの?もう終わりかな、おチビちゃん達?」
真希は腕を振り回しながら希美達にそう言った。
立ち上がった希美と亜衣は、先ほど以上に真剣な表情をして、
真希を睨みつける。
「うちらをなめとったらあかんで。」
「このくらいで、やられるかーっ!」
再び、希美と亜衣が怒涛の攻撃で真希を攻める。
それでも、真希は冷静に攻撃を受け流し、拳を振り上げた。
- 414 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:10
- 「のん!防御!」
腕の角度から、瞬時に希美へ振り下ろすと認識して、亜衣は声を上げた。
ズバンッ!
希美の防御した両腕に、真希の拳が突き刺さる。
「いたっ・・・。」
「ちぇっ、外した・・・!?」
「まだまだ甘いでっ!」
真希の振り下ろした右腕に、亜衣が絡みついた。
そして、体重をかけて真希を前にバランスを崩させる。
「これで決めるっ!」
真希の腹を目掛けて、希美が思い切り左拳を振り上げる。
- 415 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:11
- 「やばっ!」
バシッ!ビキビキッ!
瞬時に左手で押さえるも、アバラを折られることはなかったが、
代わりに指に強烈な痛みを感じた。
「ぐぅぅ・・・。」
指を押さえる間もなく、気付いたときには希美が右腕を振り上げていた。
ドゴッ!
拳が真希の顔にめり込んで、地面を激しく転がっていく。
「のんの攻撃を喰らった。もう終わりや。」
「ごっちんっ!」
亜弥が立ち上がって真希に駆け寄ろうとした。
それより先に、真希がゆらりと立ち上がる。
- 416 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:12
- 真希の表情は、痛がるわけでも怒っているわけでもなく、無表情だった。
そして、まるで動物のように、フーッ、フーッ、と荒い息を吐き出している。
真希はゆっくりと希美達に歩み始める。
「美貴たん、立てる?ごっちんを助けなきゃ!」
「・・・美貴、し〜らない。」
美貴は煙草を取り出して、口に咥えながらそう言った。
二人が話している間にも、希美と亜衣が真希に駆け出していく。
「どういうこと?」
「久しぶりに見るな〜。あのごっちんの姿・・・。」
「えっ?だから何のことなのよ!?」
「簡単に言うならね・・・。」
ドゴッ!ガッ!
希美を殴り飛ばし、亜衣を片手で掴んで投げ飛ばした。
- 417 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:13
- 「キレちゃったんだよ。今助けに行ったら、逆に殺されるよ。」
美貴は煙を吐き出してから、そう答えた。
亜弥は、真希の姿をじっと見つめる。
一度だけ戦ったことがあるが、その時とは別人のように怖い。
希美の攻撃を受けながら、それでも引くことなく、指が折れているにも
関わらずに殴りつける。
「ゴホッ、くそ、喰らえやっ!」
亜衣が飛び蹴りで真希の顔を蹴りつけた。
真希は一瞬揺らぐだけで、亜衣の足を掴み取り、
ダンッ!
「あがっ・・・。」
地面に罅が入るほどの、もの凄い勢いで叩きつけた。
亜衣は動くこともできずに体を震わせている。
- 418 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:14
- 「あいぼんっ!このーっ!」
ズンッ!
希美の拳が真希の腹に埋まりこんだ。
いや、完全に埋まりこんだわけではなかった。
驚異的な反射神経で、真希は喰らう寸前で後ろに飛んで、
ダメージを軽減させていたのだ。
希美が下がるより先に、真希は希美の頭を掴んで引き寄せる。
「うわっ・・・ゴフッ!」
真希の膝蹴りが希美の顔を打ち抜いた。
さらには、真上から振り下ろした拳が、希美の体を地面に強く叩きつける。
「あう、あぅぅ・・・。」
涙を流しながら、血を吐き出しながらも希美は立ち上がろうとしていた。
- 419 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:14
- 完全に勝負はついている。
それでも納得がいかないのか、希美に向けて真希は踏みつけようと足を振り上げる。
「ごっちん!そこまでだよっ!」
美貴の声で、真希の動きがピタリと止まった。
真希は、ゆっくりと美貴を振り返る。
「ミキティ・・・うぁっ!」
元の真希に戻った瞬間、真希は地面に膝をつけて苦しみだした。
美貴と亜弥は、急いで駆け寄っていく。
「いつっ・・・くぅぅ・・・。」
「当たり前だよ。ほらっ、見せてみな。」
真希の頬は大きく腫れていて、中指と薬指の骨が折れていた。
- 420 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:17
- 「何で、今更になって痛むの?」
「アドレナリンの多量分泌ってやつだよ。体がマヒして痛みを感じなくなるんだ。
それがあとになって一気にきちゃったってわけ。ごっちん、肩貸そうか?」
「別に、いらないよ。ミキティ達だって重症じゃん・・・。」
「ったく、素直じゃないね。人がせっかく・・・。」
「まぁまぁ、勝ったんだし、別にいいでしょ。あとは用件済ませて、
さっさと帰ろ・・・。」
「あっれ〜、何があったんだ?」
「!?」
美貴達は、声がした出口の方を振り返る。
そこには、男か女か判別付かない綺麗な顔立ちをしている、
校章からして一人の士鬼面の生徒が立っていた。
- 421 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:18
- 更新しました〜。
- 422 名前:konkon 投稿日:2005/11/26(土) 00:22
- >>402:名無し飼育さん
意外ですかね〜?
まだまだ出てきてない人達も出てきますので、
今後もお楽しみに〜♪
>>403:名無し飼育さん
本当にぼろぼろですね〜。
ごっちんは・・・どうなっちゃうんでしょうw
>>闇への光さん
どうなるんでしょうかね〜?
どうしたらいいんでしょうか(汗)
まぁ、ゆっくり見てやってください。
>>みきみきさん
初めまして〜ですよね?
そうですね、ようやくノリに乗ることができてきたので、
もうちょい更新ペースアップでやっていきたいと思います。
今後もまた見てやってください!
- 423 名前:タケ 投稿日:2005/11/26(土) 06:46
- 更新されてるぅ!
待ってましたぁ!
ごっちんカッコええなぁ〜
でもまだ敵がいるの?
3人とも頑張って!
次回も期待してます
- 424 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/28(月) 00:45
- 続きめっちゃ気になります!
期待しまくりで待ってます
- 425 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 21:54
- 秋に入って肌寒くなってきたにも関わらず、出口にいる生徒はTシャツに
ジャージ姿といった軽装で、マジマジと周りで倒れている生徒達を見ている。
「合宿が終わって久しぶりに学校にきて、み〜んな屋上にいるっつうからきてみれば、
何してたんだ・・・ん?」
そこで、その生徒は美貴達に気付いてじっと見つめる。
「あんたらは?見たところうちの生徒じゃないっぽいけど。」
「・・・。」
美貴達は何も答えないでその生徒を見ている。
「ミキティ、どうする?」
「やらずに済ますのが一番いいんだけどね・・・。」
「でもさ、何かあの男の人、すごい強そうに見えるんだけど・・・。」
「そこの可愛い姉ちゃん達、人の質問に答えなさい!それと、うちは男じゃない。
吉澤ひとみ、れっきとした女だよ!」
ひとみと名乗る女は、自分を親指で指してそう言った。
それを聞いて、美貴達は首を傾げる。
- 426 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 21:54
- 「本当に女なの?」
「そうだよ!」
「思い違いとかじゃなくて?」
「違うっつうの!」
「じゃあ、ニューハーフとか・・・。」
「だ・か・ら、女だって言ってんだろうがーっ!」
ひとみは、屋上全体に聞こえるくらいに大声で叫んだ。
「いや、まぁ、冗談だからさ、そんな怒らないでよ。」
「そうそう、あまりにもカッコイイから男に見えちゃっただけだって。」
「ボーイッシュな女性って憧れるよね〜♪」
「いや〜、それほどでも。あんたらはよくわかってるね〜。」
美貴達の言葉に、ひとみは何度も首を頷かせる。
「ミキティ、この調子なら戦わなくても平気そうだよ。」
「そうだね。すごい単純っぽいもんね・・・。」
美貴と真希は、聞こえないように小さな声で話していた。
- 427 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 21:55
- その時、
「んで、のの、あいぼん、何があったんだ?」
ひとみがいきなり真剣な表情をして、倒れている二人を呼びかけた。
「よっすぃ・・・。」
「この、姉ちゃん達に、やられたんや・・・。」
「へ〜、お前達がやられるなんて、そんなにつぇぇのか。それは楽しみだ。」
ひとみはどこか嬉しそうに拳を握る。
「さってと、誰からでもいいからかかってきな。なんなら三人まとめてでもいいぜ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あんたとやり合う理由は・・・。」
「あるんだよ。うちは、これでも一応ここの番長ってことになってんだ。
落とし前はつけないと、ここに倒れてるやつらは認めないだろ?」
「ちっ、結局はやることになる・・・?」
美貴が前に出ようとしたところを、真希に手で止められた。
- 428 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 21:56
- 「ここは後藤がやるよ。」
「何言ってんのさ。ごっちんだって怪我してんでしょ。
ここは美貴が・・・。」
ドンッ!
「うぁぁっ!」
真希が美貴の怪我をしている脇腹を殴ったのだ。
美貴は呻きながらしゃがみ込む。
「ご、ごっちん、何を・・・。」
「ほらっ、ミキティの方が重症じゃん。すぐに終わらすから、
そこで見てなよ。」
「ごっちん・・・。」
「まっつー、ミキティのこと頼むね。」
真希は軽く笑いかけて、ひとみに向かって歩き出す。
- 429 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 21:57
- 「まずはあんたからか。かかってきな!」
ひとみは真希を見据えて構える。
そして、小さく飛び跳ねるようにステップを踏み始める。
形からしてボクシングの構えのようだ。
真希は大きく拳を振り上げ、それをひとみの顔目掛けて放つ。
「おいおい、そんなの当たらねぇって。」
ひとみは軽々と後ろに飛んで避ける。
「くっ、このぉっ!」
折れた指が痛むも、今度は左腕で横に振り払う。
それもひとみは首を振って避けた。
「違うって。パンチっていうのはな、こういう風にするんだよ!」
パパパンッ!
咄嗟にガードした両腕に、いくつかの鈍い痛みを感じた。
- 430 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 21:58
- 「っつ・・・。」
亜弥並に目で追えないほどの速さだった。
しかし、決定的に違うとこがある。
何よりも、一撃一撃が重かった。
防御している両腕が、ひとみのパンチを食らう度に悲鳴を上げていく。
「よっ!ほっと!」
横から振るわれた右腕が真希の右腕を弾き、すぐさま振るわれた左腕が左腕を弾いた。
その際、真希の折れた指にひとみの拳が突き当たってしまう。
「うぁっ!」
「喰らいなっ!」
ゴッ!
腕を弾かれ、ノーガードとなった真希の顎を、
ひとみの振り上げた拳が打ち抜いた。
- 431 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:00
- 真希の体が一瞬だけ浮き上がる。
その次の瞬間には、地面に殴り落とされていた。
「ゴホッ、あぐぅぅ・・・。」
真希は地面に血を吐き出して倒れている。
起き上がろうにも足に力が入らない。
ひとみは何をするわけでもなく、ただ真希のことを見下ろしていた。
「ワーン、トゥー、スリー・・・。」
突然、ひとみが数え始めた。
ひとみはボクサーだ、恐らくはカウントをとっているのだろう。
- 432 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:00
- 「こっ、の・・・。」
真希が体を震わせて立ち上がる。
「セブーン、エーイト、おっ、起き上がるとは、やるね〜。」
ひとみは嬉しそうに頷いたあと、すぐに猛スピードで真希に向かっていく。
真希は、ひとみの猛攻を防御していることしかできないでいた。
腕がまともに動かない。
先ほどの攻撃で、足が震えて前に踏み出すことすらできない。
それでも、真希は立っていた。
負けられないという強い気持ちだけが、今の真希を奮い立たせていた。
- 433 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:01
- 「ごっちん・・・。」
亜弥は不安そうな表情で真希を見ていた。
自分だけでなく、美貴も大きなダメージを負っていて、
起き上がることすらできずにいる。
それでも、今やられている真希を助けたくて、亜弥は飛び出そうとした。
だが、それより先に美貴に腕を掴まれた。
「亜弥ちゃん、一つお願いがある。」
座り込んでいる美貴が、亜弥を見上げてそう言った。
美貴は膝立ちのまま、その状態から起きれないでいた。
「何?」
「美貴の顔、思いっきり殴って。」
「えっ・・・?」
亜弥は口を開けて驚いている。
美貴が何をしたいのか、全くわからなかった。
- 434 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:03
- 「な、何で私が美貴たんを・・・。」
「美貴の足、全く動こうとしないんだよ。ごっちんがやられてるっていうのに、
力が入らないんだよ・・・。だから、殴って。ここで動けないで、
何が親友だっていうんだよ・・・。」
「美貴たん、でも・・・。」
「いいから、早くっ!」
「・・・やぁっ!」
ガッ!
美貴の体が横に崩れる。
体に痛みという刺激が伝わる。
「ぐっ、うぉぉぉっ!」
刺激と同時に足の震えを振り切って、美貴は勢いよく起き上がった。
- 435 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:04
-
ガガガッ!
「ぐっ、くぅぅぅ・・・。」
ひとみの猛攻が鳴り止まない。
真希は両腕を前に出して、ひたすら耐え続けていた。
普通なら確実に倒れている。
何もできないはずなのに、なぜ真希は立っていられるのか、
ひとみには理解できなかった。
「なぁ、そろそろ負けを認めろって。うちには勝てないからさ。」
「や、やだね・・・。」
真希は、口元を薄くにやけさせてそう答えた。
- 436 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:05
- 「そっか・・・ならばもう容赦しねぇぞっ!」
ひとみが拳を振り上げる。
真希は両腕で守る。
次の瞬間、ひとみは真希の折れている指に目掛けて、拳をぶつけた。
メキメキメキッ!
「っっっ!!!」
真希が声にならない声を上げる。
あまりの痛みに防御を解いてしまう。
「弱点を狙うのはうちの性分じゃないけどな。まだ後ろにも残ってるから、
さっさと終わらせてもらうぜ!」
ひとみの渾身の一撃が、真希の顔に振るわれる。
- 437 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:07
- 「やらせるかーっ!」
ドゴッ!
ひとみの拳が当たるより先に、美貴の飛び蹴りがひとみの顔にめり込んだ。
ひとみは勢いよく後ろに転がっていく。
「ごっちん、交代だよ。下がってな。」
「ミキ、ティ・・・。」
美貴は、真希に優しい笑みを向ける。
その直後に、今度は起き上がるひとみを睨みつけた。
ひとみは口から血を吐き出して、美貴の視線に対抗する。
「うちを蹴りつけるなんてね。面白いじゃん!」
「ごっちんをやったあんただけは許さない・・・次は美貴が相手になってやるよ!」
折れている骨を気にすることなく、美貴はひとみに向かって駆け出した。
- 438 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:07
- 続きます!
更新中に地震が・・・(汗)
- 439 名前:konkon 投稿日:2005/12/02(金) 22:10
- >>タケさん
ごっちん、かっこいいですよね〜♪
まだまだ敵はいるみたいです・・・。
今後もどうぞご期待ください!
>>名無し飼育さん
そう言っていただけると、本当に嬉しいです。
ブランクも吹っ飛びますねw
また早めに更新しますので見てやってください。
- 440 名前:闇への光 投稿日:2005/12/02(金) 22:12
- リアル更新にめぐり合えました。
ああ、出てきたのはやっぱりあの人だったのね。
はてさてどうなることやら。
次回更新も楽しみに待っています。
追伸:前回の義経見ましたでしょうか?
そして私の問いかけが分かりましたでしょうか?
- 441 名前:タケ 投稿日:2005/12/03(土) 05:08
- いやぁ〜待ってましたよぉ!更新乙です
まだ戦いは続くんですね゜・(>_<;)・゜
しかもよっちゃんかぁ
強敵だぁ
次回も期待して待ってます
- 442 名前:初心者 投稿日:2005/12/03(土) 23:44
- 更新お疲れ様です
よっすぃー強いですね
でも待っている人のためにも頑張ってほしいです
次回更新楽しみにしてます
- 443 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:39
- 「うりゃーっ!」
美貴のストレートをひとみは首を振って避ける。
「そんなの当たらないって・・・!?」
「ハッ!」
体制を乱すことなく、反転をして回し蹴りを放つ。
ブォンッ!
ひとみは寸前でしゃがみ込んで避ける。
起き上がって間を置いたひとみの頭から、パラッと数本の髪が落ちていく。
あまりの威力に、ひとみは背筋に寒気を感じた。
- 444 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:39
- 「あんたすげぇな。こりゃうちも本気にやらなきゃね。」
「当たらなかったか・・・。」
今の蹴りが当たらなかったのは、美貴にとって大きな痛手となっていた。
ひとみは、美貴が今までに喧嘩した相手の中で、トップクラスに入るほど強い。
そのひとみが警戒心を強めてしまい、これから先に手を緩めることはなくなっただろう。
さらには、美貴はアバラの骨を痛めている。
腹に爆弾を抱えたようなもので、一撃でも喰らえば終わりだ。
あまりにも分の悪すぎる戦いだ。
それでも美貴は引かない。
何よりも引けない理由があるから。
「あんたみたいな強いやつを待ってたんだ。いくぜっ!」
「ちっ、こっちはやりたくないんだっつうの・・・。」
向かってくるひとみを見て、美貴は拳を握り直した。
- 445 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:40
- 「ごっちん、大丈夫・・・?」
美貴達から少し離れたところで、亜弥は真希の手当てをしていた。
手当てといっても、ハンカチで傷口を止めることしかできない。
それでも何もしないよりはいくらかマシなはずだ。
最後に、折れた指にハンカチを巻きつけて固定する。
「ミ、ミキティを、助けないと・・・。」
「だめだよ!動いちゃだめ。」
立ち上がろうとする真希を、亜弥が手で押さえる。
「私がいくよ。ごっちんはここで・・・?」
どこからかいくつもの足音が聞こえてきた。
音がする方、先にある建物の影から、何人もの士鬼面の生徒が出てきた。
恐らくは、先ほど美記の言っていた援軍が、別の出入り口からきたのだろう。
- 446 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:41
- 「あ、吉澤さんが戦ってるぞ!」
「あいつがみんなをやったのか?加勢にいこう!」
亜弥は小さく舌打ちをして立ち上がる。
そして、美貴達との間に入って、士鬼面の生徒達の足を止める。
「何だ、お前は?」
「ここから先は、この松浦亜弥・・・。」
「と、後藤真希が行かせないよ。」
いつの間にか、真希が亜弥の隣まできていた。
「ごっちん、休んでた方がいいって。ここは私が・・・。」
「まっつー、後藤を誰だと思ってんのさ?」
真希は、傷だらけでありながらも不敵な笑みを浮かべて、亜弥にそう聞いた。
- 447 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:41
- 「・・・そうだったね。ごっちんは美貴たんの親友だった。」
「どういう意味?」
「類は友を呼ぶってことよ。」
「ハハッ、言ってくれるね〜。」
「おい、何のん気に話してやがるんだよっ!」
二人の男が、真希と亜弥に向かって走り出す。
ドゴッ!パパパンッ!
真希の重い蹴りと、亜弥の素早い拳が男達を弾き飛ばした。
「ここは通さないって言ったでしょ。」
「邪魔はさせない。」
ぼろぼろの体でありながらも、真希と亜弥は士鬼面の生徒達の間に立ち塞がっていた。
- 448 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:42
-
ゴッ!
「ぐぅぅ・・・。」
ひとみのフック気味のパンチが、美貴の側頭部を捉えた。
脳が揺られて眩暈がする。
普通の人なら確実に倒れていたところを、美貴は気力を振り絞って立っていた。
「まだ立ってられんのか。いいね〜。」
「うるさい、バカ・・・。」
荒い息を何度も吐き出して、ひとみを睨みつける。
先ほどからずっと押されている。
士鬼面の番長と言うだけあって、ひとみは本当に強い。
なおかつ、美貴はアバラを痛めているので、そこを攻められないように
戦わなければいけない。
そうなると、どうしても上半身、特に顔面が空いてしまう。
先ほどのフックを喰らったのもそのためだ。
さすがの美貴も、今の状態ではまともに戦うことができないでいた。
- 449 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:43
- ふらつく頭で対抗策を生み出そうと考える。
ひとみは構えて綺麗なステップを踏んでいる。
「(ったく、ターンッ、ターンッ、って、さっきからうるさいな・・・。
れいなのドラムじゃあるまいし・・・。)」
「そろそろ決めてやるよ!」
ひとみが前に飛び出す。
一方の美貴は、構えもとらずにひとみを見ている。
「(ドラムか・・・なら、その音に合わせればいいってことかな・・・?)」
ひとみが地面を踏み込んで拳を振るう。
その瞬間だけ、ひとみのステップが止まる。
「(ここか・・・。)」
ヒュッ!
美貴が首を振って拳を避けた。
- 450 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:44
- 「避けた?まぐれに決まってる!」
バババババッ!!!
いくつもの拳を振るうも、美貴は全て避けていく。
「何で、当たらないんだ?うちの拳が、避けられるわけがない・・・。」
ひとみがステップを踏んだその瞬間に、美貴は動き始めていたのだ。
音に対する敏捷性が高い美貴だからこそ、全てを感じ取ることができていた。
「(なるほどね・・・言うならば音楽みたいなものか。合わせてやればいいんだね。)」
「こいつっ!」
「(ならば、その音の元を絶てばいい。・・・ここだっ!)」
バシッ!
「っつ・・・。」
タイミングを合わせて、ひとみの左足に美貴のローキックを叩きつけた。
初めて、ひとみの体がぐらついた。
- 451 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:45
- 「もういっちょ!」
今度は右足にローキックが炸裂する。
「くぅぅ・・・。」
「まだまだっ!」
「あんま、調子に乗るなよ!」
バシッ!ガゴッ!
左足にローキックが当たった直後に、ひとみの拳が美貴の額を打ち付けた。
「ぐっ・・・。」
「いっ、たいな〜・・・。」
美貴は数歩後ろに下がるも倒れず、逆にひとみは地面に膝をつけていた。
額から流れる血を舌で舐めとり、美貴はひとみを見下ろしていた。
- 452 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:46
- 「ワーン、トゥー、スリー・・・。」
「なっ!?」
美貴がカウントをとり始めた。
先ほどのひとみの真似だろう。
「フォー、ファーイブ・・・。」
「っざけんな、よ!」
ひとみは体を震わせて立ち上がる。
だが、ダメージは完全に美貴の方が上だ。
ひとみが膝をつけている時点で攻めていれば、美貴が勝者で終わっていたかもしれない。
それでも美貴が攻めなかったのは、自分の強さに誇りを持っているから。
真希がやられたことを、ひとみに返したのだ。
「てっめえ、絶対倒してやる!」
「それはこっちのセリフだよ。美貴をなめんなよ!」
ダメージを負っているとは思えないほどのスピードで、美貴は飛び出した。
- 453 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:47
- 向かってくる美貴に合わせて、ひとみが拳を振り上げる。
その瞬間、美貴のスピードが上がった。
そして、ひとみが振り下ろそうとした右腕を掴んだ。
「なっ!?このっ!」
「先に止めちゃえばいいんだよね。」
さらに振り上げた左腕を、右手で掴み取った。
美貴はその体制のまま飛び上がり、
ゴッ!
自らの額を、ひとみの額に打ち下ろした。
「ぐあっ・・・。」
「っつ、まだまだーっ!」
倒れかけたひとみの体を引き寄せて、腹に痛烈な膝を打ち込む。
それでも止まらずに、鳩尾に肘、さらには裏拳で殴り飛ばした。
ボクシングでいうならば、反則技のオンパレードだ。
- 454 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:49
- 「ハァッ、ハァッ、あんたの弱点、教えてあげるよ。ボクシングで
身に付けた技をすごいけど、喧嘩では使えないよ・・・。これは、
ボクシングじゃない、喧嘩なんだ・・・。」
美貴は小さく笑みを浮かべてそう言った。
「ゴホッ、ぐっ、くそっ・・・。」
ひとみはよろよろと起き上がる。
「何で、あんたはそんな体で、うちとやり合えるんだ・・・?
普通なら倒れてんだろ?」
「美貴は、負けられないんだよ。仲間の笑顔を取り戻したいから・・・。」
「・・・クッ、ハハハハハッ!」
突然、ひとみは笑い出した。
「仲間だとかって、そんな甘いことよく言ってられるな。人は一人で生きてんだよ。
どうせお前だって、いつかは裏切られるんだよ。人は人を利用して生きてるんだ。
使えない、邪魔になるんなら切り捨てる、そんなもんなんだよ。」
「・・・あんたってさ、悲しい人だね。」
「ああっ!?お前に何がわかんだよ!?うちの何を・・・。」
「わかるよ。美貴も、ずっと一人で生きてきたから。」
美貴の言葉に、ひとみは言葉を止めた。
- 455 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:52
- 「誰かに心を開こうとしても、誰も知ってくれようとしなかった。
悲しかった。苦しかった。辛かったよ。でもね、こんな美貴でも、
受け入れてくれる人達がいる。美貴の気持ちを知ってくれようと
してくれる人達がいる。その人達のためにも、美貴は絶対に負けられないんだよ。」
「・・・ハッ、過去にそういう目にあったってのに、まだ信じるつもりでいるのか?
言ってるだろ、いつかは裏切られるんだってな。」
「過去や未来なんてどうでもいいんだよ。大切なのは"今"なんだ。たった今、
あの子は悲しんでるんだ。美貴はあの子に泣いてほしくなんてない。
笑っていてほしい。だから戦うんだ。あんたにはないの?信頼とか、
守りたい気持ち、強い想いを持ってないの?」
『どうして・・・?何でだよ!?うちは守りたかっただけなのに、
何か間違ったことしたのかよ!?みんな、うちを置いていかないでよ・・・。
一人にしないでよ・・・。』
一瞬だけ、ひとみの脳裏に今の美貴の姿が重なった。
ひとみは何度も大きく首を横に振った。
- 456 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:54
- 「うるさい!うるさーいっ!そんなこと、知らねぇよっ!人なんて
信じられるかよ!うちはうちのやりたいようにやる、それだけだ!」
自らの足を殴りつけて立ち上がると、美貴に向かって走り出す。
「あんたに何があったかなんて、美貴にはわからないよ。でもね、
自分の信条を持たないあんたに、強いやつと戦いたいって思うだけの、
娯楽で戦ってるあんたなんかにっ!」
ドゴッ!
カウンターでひとみの顔を殴り飛ばした。
ひとみは、激しく地面を転がって倒れた。
「美貴が負けるわけない。」
倒れているひとみを見て、美貴はそう呟いた。
- 457 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:54
- 更新しました〜。
- 458 名前:konkon 投稿日:2005/12/07(水) 14:58
- >>闇への光さん
やはりバレてましたかw
どう書こうにもあのお方は分かってしまうのね・・・。
んと先々週の日曜の件ですが、仕事で見れませんでした・・・(汗)
>>タケさん
強敵ですね〜。
さて、喧嘩の方はとこういう結果となりました〜!
もう少しだけこの話しは続きます♪
>>初心者さん
待っている人のため・・・すごい好きな言葉ですね。
想いが強さになるって何かどっかの小説でも書いた記憶が・・・
まぁ、まだまだ続きますw
- 459 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/08(木) 13:15
- 美貴さん怖いよ美貴さん。
次回更新も楽しみにしてます。執筆頑張って下さいね。
- 460 名前:タケ 投稿日:2005/12/09(金) 01:31
- 美貴たんかっこいいし強すぎだよ!
負けるなよっ!
亜弥ちゃんにごっちんも頑張って☆
次回期待してます!
- 461 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:10
- 「勝った・・・。」
美貴は、力が入らずにその場に座り込んだ。
「ミキティ!」
「美貴たん!」
真希と亜弥が、美貴に駆け寄っていく。
士鬼面の生徒達は、ひとみがやられたのを見て呆然としている。
「ミキティ、お疲れ。」
美貴に向けて、真希が手を差し出した。
美貴はすぐに手を取ろうとするも、手を下ろして俯いた。
「・・・ミキティ?」
「美貴、ごっちんの手を取って、いいのかな・・・?」
「どうして?」
真希は不思議そうな表情をして聞いた。
- 462 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:10
- 「だって!美貴、ごっちんを傷つけたんだよ・・・。絶対に思い出したくないはずの、
思い出を呼び起こして・・・。ひどいこと言っちゃったんだよ・・・。そんな美貴が、
ごっちんといられるわけがない・・・。」
ひどく落胆している美貴を見て、真希は大きくため息をついた。
どう説得しようと、美貴の性格からして断るだろう。
「わかった。じゃあこうしよ。」
「えっ・・・?」
「後藤と今まで通りの関係でいるならこの手を取る。もし取らなかった絶交。
制限時間は5秒、いくよ。5・・・4・・・3・・・。」
「・・・。」
「2・・・1・・・ゼ。」
パシッ!
ぎりぎりになって美貴が手を取った。
真希は嬉しそうにして美貴を引き起こす。
- 463 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:11
- 「深く考え込みすぎだって言ったの、どこの誰だっけ?」
「それは、そうだけど・・・。」
「ミキティ、そんなこと言ったら後藤の方が重罪だよ。ミキティがあんなこと
言うはずがないのに、後藤は最後まで信じることができなかった。
だから・・・。」
「ああ、もうっ!」
パンッ!パンッ!
亜弥が二人の背中を叩いた。
「亜弥ちゃんっ!痛い・・・。」
「後藤、怪我してるんですけど・・・。」
二人は背中をさすりながらそう言った。
- 464 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:12
- 「もう、二人ともバッカみたい。いちいちこだわる必要がどこにあるの?
今まで通りに戻って、仲良くすればいいだけのことでしょ。まだ納得が
いかないなら、お互いに謝って終わりにしようよ。」
「・・・そうだね。ごっちん、ごめんね。」
「後藤の方こそごめん。それと、これからもよろしくね。」
「うん!」
美貴と真希と亜弥の三人は、顔を見合わせて笑い合う。
このまま終わりだと思っていたのだが、それに納得がいかない者達がいた。
「ふざけんな・・・このまま帰せるか!」
「士鬼面の名にかけて、負けられないんだよ!」
まだ立っている士鬼面の生徒達が、美貴達に襲い掛かる。
それを見た美貴達も、最後の気力を振り絞って構える。
- 465 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:12
- その時、
「やめろ。」
そう言ったのは、いつに間にか起き上がっていたひとみだった。
士鬼面の生徒達はピタリと止まる。
「よっすぃ、大丈夫?」
希美がひとみに駆け寄っていき、体を起こすのを手伝う。
「悪い、ちょっと肩借りるわ。っつか、あいぼんはどこ行った?」
「・・・わかんない。」
「まぁ、いいや。それより、うちはどのくらいイッてた?正直に答えてくれ。」
「たぶん、一分くらいだと思う・・・。」
「そっか・・・この勝負、あんたの勝ちだ。」
ひとみは、一度ため息をついて美貴を見据えた。
- 466 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:13
- 「でも、吉澤さん、そんなことしたら士鬼面の名が・・・。」
「負けは負けだ。仕方ないだろ。」
ひとみはどこかすっきりしたような表情をして、士鬼面の生徒にそう言った。
「ところでさ、あんた達は何しにここまできたんだ?」
「何しにって・・・ああっ!」
美貴は、倒れている美記に駆け寄って、強く体を揺さぶる。
「おい、起きろよ!亀ちゃんの指輪返せ!」
どれだけ揺さぶっても美記は起きない。
「くそっ、だったらもう一人の方を・・・。」
「あんたが欲しがってんのって、これのことか?」
声がした方を振り返ると、亜衣が紙袋を持って立っていた。
「是永達が何やら大事そうに持っとったからな。たぶんそれやろ。」
亜衣から紙袋を受け取って、美貴は中を覗く。
中には、財布やイヤリングといった、金目の物がいくつか入っていた。
- 467 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:14
- さらに掻き分けていくと、見慣れた指輪が見つかった。
それを確認した美貴は、真希と亜弥の元へと戻っていく。
「美貴たん、あったの?」
「うん。亀ちゃんの指輪に間違いないよ。あとは、他の生徒から取ったものだろうね。」
「よかった♪今回の勝負は、"ごまっとう"の勝利だね!」
「ハァッ?」
「まっつー、"ごまっとう"って何?」
美貴と真希は、不思議そうな顔で聞いた。
「んと、私達の名前を足したらそうなるじゃん。松浦の松でしょ。」
「後藤の後に・・・。」
「藤のとう、って、美貴はとうかよ・・・。」
美貴は小さくため息をついた。
- 468 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:14
- 「どうでもいいや。んじゃ、帰ろっか。」
「「うん。」」
美貴達は並んで歩き始める。
屋上から出ようとした時、
「ああ、ちょっと待ってくんない?」
後ろからひとみが声をかけた。
美貴はゆっくりと振り返る。
「・・・何?」
「のの、この姉ちゃん達のこと、外まで連れてってやってくれ。
でないと、他の連中にやられちまうかもしれないだろ。」
「う〜ん、まぁ、よっすぃがそう言うなら・・・。」
「どういうつもりなの?」
ひとみの言葉に、美貴は目を細めて聞いた。
- 469 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:15
- 「うちに勝っちまったやつを、他のやつらにやらせたくないだけだよ。」
ひとみは少し笑ってそう答えた。
確かに、今の状態で他の生徒に襲われたら、抵抗もできずに終わるかもしれない。
そういった意味では、素直にこの好意を受け取ることが最善なので、
美貴はこれ以上何も言わなかった。
「そうだ!あんたさ、何て名前なの?」
「・・・藤本美貴。」
「藤本美貴ちゃんね、覚えとくよ。またやろうな!」
「(絶対断る・・・。)」
美貴はその言葉を口に出さずに、心の中でそう呟いた。
「行くよ。ついてきて。」
希美が歩き始めたので、美貴達もついて歩き始める。
こうして、美貴達の長い戦いは幕を閉じた。
- 470 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:16
- 「ん・・・。」
美貴達が屋上から出て少ししてから、美記が目を覚ました。
真希に殴られた顔を押さえながら、地面に拳を打ちつけた。
「あの女・・・絶対に殺してやる。もう一度体制を取り直して・・・。」
「もうやめとけよ。」
美記は声の方を向いた。
「吉澤さん!?あなたも、負けたんですか・・・?」
「ああ、あいつら強かったわ。」
「このままでいいと思ってるんですか!?士鬼面が負けるなんて・・・。」
美記は立ち上がって屋上から出て行こうとする。。
「だから、やめとけって。」
「私は認めませんよ。今度こそはぶっ殺して・・・。」
「"あの人"に見つかってもいいのか?」
「!?」
その言葉に、美記の表情が凍りついた。
- 471 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:18
- 「バレたらマジ殺されるだろうから、この辺にしとくんだよ。今回の件は、
うちが黙っててやるからさ。」
しばらくして、美記は小さく首を頷けて屋上から出て行った。
「藤本美貴、ね。本当に面白いやつだな・・・。」
ひとみは、寝っ転がってそう呟いた。
体中が痛くてまともに動けない。
喧嘩で負けたのも久しぶりで、なぜかはわからないけど嬉しかった。
「まさか、士鬼面"No2"のうちを倒せるやつがいるなんて、
世の中捨てたもんじゃないか。またやりてぇな。」
ひとみはそのまま目を閉じて眠ってしまった。
今のひとみの呟きを、美貴達が聞いていなかったのは幸せと言えるかどうかはわからない。
そして、その士鬼面高校No1の生徒が美貴のよく知っている人物であることもまだ知らない。
だが、運命の歯車は確実に二人を近づけることになる。
- 472 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:19
- 更新しました。
- 473 名前:konkon 投稿日:2005/12/11(日) 13:21
- >>名無し飼育さん
想像すると、マジで怖いかも・・・(汗)
まぁ、それも友達を思ってってことでして、
許してやってくださいねw
>>タケさん
ん〜、自分の中ではミキティかっこよすぎですw
今後のミキティ達にも注目です♪
- 474 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:44
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 475 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:30
- バスから降りて、よろよろの体で歩いて約十分、美貴達は朝比奈学園へと戻ってきた。
本当はタクシーで帰ってきたかったのだが、血に濡れている人は乗せたくないのだろう、
どのタクシーも止まってくれなかったので、仕方なくバスで戻ってきたのだった。
病院に行く必要があるにも関わらず、ここまできたのは大切な用事があるから。
一刻も早く絵里に指輪を返してあげたかったからだ。
美貴達が中に入ったあと、美貴は亜弥に紙袋を預けた。
「亜弥ちゃん、美貴は用事があるから、亀ちゃんに届けてあげて。」
「えっ?ちょっ、何で私が・・・。」
「美貴は愛ちゃんに会いに行くから。あとよろしく〜。」
そう言って、美貴は階段を上っていってしまった。
屋上が好き、と愛から聞いたことがあるので、恐らくそこへ行ったのだろう。
- 476 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:31
- 「美貴たん・・・ねぇ、ごっち〜ん・・・。」
「後藤も用があるから、あとはまっつーに任せるね。」
真希は、保健室とは反対方向へと向けて歩いていく。
「もう、どこに行くのよ?」
「体育館。そこに紺野はいると思うから。」
真希は振り向くことなく手を振って行ってしまった。
しばらくは固まっていた亜弥だが、仕方なく保健室に向かって歩き始める。
保健室が見えてくると、そこにはなぜか、扉の前でさゆみとれいなが立っていた。
亜弥に気付いた二人は、慌てて亜弥に駆け寄っていく。
「松浦さん!?傷だらけ・・・大丈夫ですか?」
「まぁ、ね。それよりさ、何でそこで立ってたの?」
「それは・・・でも、手当てしなきゃいけないから、早く入ってください。」
さゆみに手を引かれて、保健室まで歩いていく。
- 477 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:31
-
コンコン
「絵里、入るよ。」
さゆみがドアをノックして、小さく声をかけてから中に入っていく。
すると、
「ふぐっ、ううう・・・。」
絵里のいるベッドから、泣き声が聞こえてきた。
カーテンがかかっているので、表情や様子はわからない。
亜弥は近くにあった椅子に座って、じっと絵里のいるベッドの方を見ている。
その間に、さゆみとれいなが亜弥の手当てを始める。
「ねぇ、何であの子泣いてんの?」
一通り手当てが終わったあと、二人に聞いた。
- 478 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:32
- 「・・・絵里の指輪が取られちゃったからですよ。」
「えっ?だって、さっきまであの子笑って・・・。」
「みんながいなくなってからは、ずっとあんな状態だったとですよ。
でも、心配、かけたくなかったから、それまでは笑ってたんですと。
絵里、見た目は弱いけど、心は強いけん・・・。」
れいなの言葉を聞いて、先ほど美貴が言っていたことを思い出した。
絵里が笑っていたのは、決して指輪がどうでもいいからではなかった。
本当はすぐにでも泣きたかった。
それでも笑っていたのは、美貴達をよく知っているから。
美貴が必ず自分のために士鬼面高校に乗り込むことを、理解していたから。
誰にも傷ついてほしくないから、笑って誤魔化そうとしていたのだ。
結果的にはこのようになったが、それが絵里なりの気遣いなのだと、
亜弥は初めて気付いた。
- 479 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:32
- 「ぐすっ・・・おばあ、ちゃん・・・ごめんなさい・・・。」
「(なるほどね・・・強い子だな。)」
亜弥は椅子から立ち上がって、絵里のいるベッドに近づいていく。
「ま、松浦さん!まだ・・・。」
シャッ!
さゆみの言葉も聞かずに、亜弥はカーテンを勢いよく開いた。
絵里は、驚いた表情で亜弥を見上げる。
「あっ、えっと、松浦さん・・・。どうしましたか?」
零れ出る涙を拭って、絵里はすぐに笑顔を見せる。
- 480 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:33
- 「松浦さん・・・その怪我・・・。」
「亀井ちゃん、右手と左手の小指、サイズ違ったりする?」
「えっ・・・たぶん、同じだと思います・・・。」
「ならよかった。右手出して。」
「は、はい・・・。」
亜弥の言っている意味がわからなかったが、絵里は素直に右手を出した。
亜弥は紙袋をあさったあと、絵里の右手の小指に何かをつけた。
それは、絵里が取られた指輪だった。
「左手が治るまで、今はそっちで我慢しなよ。」
「こ、これ・・・松浦さん達が・・・?」
亜弥は少し頬を染めて、何も言わずに視線を外した。
「べ、別に私は、その・・・。」
「ふぐっ・・・ありがと、ございます・・・。」
絵里は涙を流して何度も頭を下げる。
そんな絵里を見て、亜弥はどうしたらいいのか考えていた。
- 481 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:33
- 甘えることは得意としても、甘えさせる術は持ち合わせていない。
それでも、泣いてほしかったわけではないので、絵里の肩を掴んで頭を上げさせる。
「亀井ちゃん、何で私達が無理してまでこんなことしたかわかってる?」
亜弥は、絵里の涙を指で拭ってそう聞いた。
「あなたに泣いてほしくないから、悲しんでほしくないから取り返してきたの。」
「はい・・・。」
「いい、もう泣かない。わかった?」
「・・・はい!」
絵里は嬉しそうに首を頷けた。
「そう・・・わかって、くれたなら・・・それで・・・。」
ポフッ
突然、亜弥が絵里の胸に倒れ込んだ。
絵里の笑顔を見て、安心した途端に極度の疲労に襲われ、
眠ってしまったのだ。
- 482 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:34
- 「(松浦さん・・・。)」
寝ている亜弥に見ていると、二つの視線に気付いて顔を上げる。
「さ、さゆ、れいな、どうしよ・・・?」
さゆみとれいなは、顔を見合わせて首を頷けた。
「れいな、帰ろうか?」
「そうっちゃね。松浦さんのことは絵里に任せてもよかね。」
「ええっ!?ちょっと、二人とも・・・。」
「あんま大声出すと、松浦さん起きちゃうっちゃよ。」
「お幸せに〜♪」
二人は手を振って保健室から出て行ってしまった。
亜弥の顔をじっと見つめる。
「・・・まぁ、いっか。」
自分の大切な物を取り返してくれた恩人を、このまま起こすのは申し分ない。
そう思った絵里は、亜弥の髪をそっと撫でながら、起きるまで亜弥の顔を見つめていた。
- 483 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:34
- 連休明けの月曜日、普段よりも30分ほど早い時間に、真希とあさ美は登校していた。
前日、電話で真里に呼び出されたからだ。
理由はわかっている。
士鬼面と喧嘩したために、その次の日にある美勇伝の推薦試験に行かなかったのだ。
行かなかったというよりも、行けなかった。
美勇伝の推薦試験では、知識だけでなくバスケの技能テストも行われる。
さすがに指の骨が折れていては、ボールを持つことすらままならないので断念した。
あさ美はというと、仮病を使って行かなかった。
「失礼します。」
二人は職員室の扉をノックして、中に入っていく。
「おっ、きたか。二人とも、こっちだ。」
以前のように来客用のソファから真里が呼んだ。
真希とあさ美は、少し険しい表情をして真里のいる元へと歩む。
- 484 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:35
- 「それにしても、ひっでぇ顔してやがるな。」
傷だらけの真希の顔を見て、真里は苦笑いを浮かべる。
「やぐっつぁん、あの・・・。」
「いいから座れよ。」
二人は恐る恐るソファに座り込む。
「一昨日の土曜日、美勇伝に行かなかったらしいな?」
「・・・。」
「その前日には、士鬼面高校と大喧嘩、前代未聞だな。」
「ど、どうしてそれを・・・?」
「なっちから聞いた。」
真里の言葉に、真希は顔を俯かせる。
- 485 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:36
- 「美勇伝の人達はめちゃくちゃ怒ってたよ。せっかく推薦枠を作ったのに、
二人がこないってな。うちからは二度と取らないってよ。」
「・・・ごめんなさい。」
真里は立ち上がって真希達の前まで近寄っていく。
そして、腕を振り上げた。
殴られたって大して痛くは無い。
それ以上に、仲間のためとはいえ、真里の期待を裏切った自分が許せなかった。
真希とあさ美は咄嗟に目を閉じる。
次の瞬間、
ポフポフッ
「よくやったな。」
二人は頭を撫でられた。
真希は勢いよく顔を上げる。
真里は笑っていた。
- 486 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:37
- 「やぐっつぁん、何で・・・?怒ってるんじゃないの?」
「怒る?何で怒らなきゃいけないんだよ?」
「だって、後藤は・・・。」
「逆に聞くけどさ、後藤は自分が間違ったことをしたのか?」
「・・・してない。」
少しして、真希はポツリとそう言った。
「ならいいじゃん。っつうかさ、友達を捨てて自分の夢を掴む方が、
おいらはやだな。でもさ、友人のために自分の夢を捨てるなんて、
そんなかっこいいことできる方がすごいよ。後藤は間違ってないって
思ってるなら、それでいいと思うよ。」
「やぐっつぁん・・・。」
「紺野もよく耐えたよな。偉いよ、本当にさ。二人ともかっこいいよ。」
「矢口先生・・・。」
真里は二人を交互に見据える。
- 487 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:37
- 「正直なとこ、おいら的には美勇伝なんてどうでもよかったんだよな。
後藤や紺野の力が、あそこに合わせられるとは思ってないし。」
「えっ?ちょっと、やぐっつぁん!」
「そんなことないですよ!私達だって、がんばって美勇伝に追いついて・・・。」
「追いつく?何言ってるんだ?」
真希とあさ美はその場で固まった。
「お前達が追いつくって、どういう解釈してるんだ?」
「後藤達が、美勇伝まで力が及ばず・・・。」
「違うって。わざわざお前達が美勇伝レベルに合わせる必要がないってことだよ。」
「えっ・・・?」
「お前達の力は、美勇伝なんかよりも数段上、プロのレベルに達してると
おいらは思うけどな。だから、お前達には美勇伝なんかに縛られずに、
自由にバスケを楽しんでほしいと思う。まだまだ若いんだからさ、
色んな経験をして、たくさんのことを知ってからでも、プロになるのは
遅くはないと思う。急ぐ必要なんてないんだからさ。」
二人は黙って真里の話しを聞いている。
- 488 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:38
- 「次の世代のやつらには、推薦させてもらうんじゃない。推薦させてくださいって、
頼ませるくらいにおいらが強くしてやるよ。だから、お前達は何も心配するな。
おいらから言うことはこれくらいかな。他の大学の推薦とか受けたかったら、
いつでもこい。お前達なら、どこでも拾ってくれるだろうからな。」
「やぐっつぁん、ありがとう!」
「ありがとうございます!」
「おう。」
その後、いくつか真里と話しをして真希達は職員室から出た。
「紺野、どうしよっか?」
真希は、あさ美を振り向いて聞いた。
「そうですね。もう少し考えてみましょうか。私達のこれからを。」
「うん、焦る必要はないからね。後藤達は後藤達でやればいいんだ。」
「ゆっくりでいいから、たくさんの経験をして前へ進んでいきましょう。」
「それが後藤達の未来に繋がる、か。やっぱマイペースにいく方が
後藤達には合ってるかもね。紺野、がんばろうね。」
「はい。」
真希は、あさ美と手を繋いで歩き始める。
これからの自分の姿を考え、新しい自分達の未来を信じて。
- 489 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:39
- 普段通りの時間に、美貴と愛は登校していた。
学校に入る前に、見覚えのある後姿を見つけた。
「亜弥ちゃん、おはよー!」
「おはよ。」
その声に気付いて、亜弥は後ろを振り向いた。
亜弥の顔には、まだいくつもの絆創膏が貼られていた。
「おはよー。美貴たん、愛ちゃん。」
亜弥は、少しだけ笑って返事をした。
まだ傷が痛むようで、上手く笑えないようだ。
「亜弥ちゃん、元気ないぞ。どうしたの?」
「・・・美貴たんが元気すぎるんだよ。」
美貴にもまだ傷はあるのだが、特に気にしている様子はなかった。
毎日親に殴られ続けていた美貴は、痛みを感じることに慣れてしまっているのだ。
それを伝えるようなことはしたくなかったので、美貴は笑って誤魔化した。
- 490 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:39
- 「おはよーございまーす!」
聞き覚えのある声に、美貴は振り向いた。
「おはよー、亀ちゃ・・・!?」
美貴は、目を見開いて驚いた。
絵里の姿には間違いなかったのだが、絵里は髪をショートにして、
少し茶色に染めていた。
これには、それなりに長い付き合いをいている愛も、口を開けて驚いていた。
「絵里・・・髪、切ったんだ。」
「はい。けっこう乱れてたし、いい機会だったんで切っちゃいました♪
松浦さ〜ん、似合ってますか〜?髪が長いのと、どっちがいいですか〜?」
「ん・・・それでもいいんじゃないの?少なくとも、薄幸そうなのは消えたからね。」
「え〜、ひどいですよ。絵里、そんなに不幸じゃないです。」
「だから、似合ってるって言ってるのよ。」
「うへへへへ〜。」
美貴は固まってしまっているので、亜弥と絵里は先に歩いていく。
- 491 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:40
- 「亀井ちゃん、笑い方キモイよ。」
「む〜、そんなことないです。それより松浦さん、絵里のこと
絵里って呼んでもらえませんか〜?」
「まぁ、気が向いたらね。」
二人が笑っている姿を見て、美貴の思考が働きだす。
「何かさ、いい感じの二人だよね。」
「そうだね。」
「いつかは美貴も、愛ちゃんと・・・。」
美貴の呟きに、愛が首を傾げる。
「何か言った?」
「いや、何でもないよ・・・美貴達も行こう。」
「うん。」
美貴と愛も並んで歩き始める。
昔とは別の意味で、亜弥はすごく変わったと思う。
少しづつでも成長していく妹を見て、美貴は安堵感と喜びに浸っていた。
- 492 名前:konkon 投稿日:2005/12/17(土) 11:40
- 更新です。
士鬼面編終了〜。
- 493 名前:闇への光 投稿日:2005/12/17(土) 14:30
- 更新お疲れ様です。
まさか士鬼面のNo.1って…(今気付いた)
予想が当たっていたら・・・めったに見ないと思うけど面白そうですな。
さて今回はハズレがアタリ(失礼)を引いたのかな?
なかなか見ない組み合わせだけど・・・
相変わらずもいますが(笑)
この後は如何なることやら。次の更新も楽しみに待たせていただきます。
- 494 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/17(土) 22:53
- よかったぁ!
指輪取り戻せて!
亜弥ちゃんと亀ちゃんもちょっといい感じになっちゃってるしぃ。
次回も期待してます
- 495 名前:774飼育 投稿日:2005/12/20(火) 14:47
- 士鬼面・・・しきめん あぁ!!なるほどね・・・
ということはNo1はあの人ですか・・・
続き楽しみにしてますよ
更新お疲れ様でした
- 496 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:02
- 士鬼面との戦いからしばらくしての休日、朝比奈学園の最寄り駅から
一駅ほど離れたファミレスで、れいなは朝からバイトをしていた。
朝比奈学園ではバイトは禁止されているので、バレないように
少し離れたところで働いていた。
絵里とさゆみはウエイトレスで、れいなは厨房で料理を作っている。
本当は三人揃って同じ仕事をしたかったのだが、三人も雇ってもらえるところは
そうはなく、せめて同じ仕事場でやろうと探しているうちにここが見つかった。
ウエイトレスに二人、厨房に一人と言われた時に、迷うことなくれいなが厨房に入った。
絵里はあまり器用な方ではないし、さゆみは料理がどがつくほどの下手だからだ。
以前、絵里と二人でさゆみの作った夕食を食べてみたけど、
絵里は最後まで口にすることができないほどだった。
残った料理は、仕方なしにれいなが我慢して食べた。
そのような苦い思い出があるためだ。
- 497 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:03
- また他にもいくつか理由もあるのだが、何よりも二人は、ウエイトレスのような
可愛い服が似合うのも一つの理由だ。
れいなも元々料理をするのは嫌いではないので、特に問題はなかった。
時刻は二時頃、昼食時という客のピークを過ぎた辺りで、
れいなは近くにいたバイトを呼んだ。
「すいません、休憩入ります。」
「お疲れ様〜。そういえばさ、田中さんは聞いた?」
「何のことですと?」
「今日ね、新しいバイトが入るんだってさ。その人も厨房らしいよ。
昼過ぎからくるっていうから、そろそろじゃないかな。」
「そうなんですか〜。」
別に大して興味があったわけではないので、軽く相槌を打って話しを終えた。
- 498 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:04
- れいなは適当な材料を揃えて、自分の昼食を作り始める。
ここでは一定の料金を払うことで、自分の好きな料理を作って
食べることができるのだ。
普段なら、絵里やさゆみもこの時間に合わせて休憩に入り、
二人の分も作って一緒に食べたりしているのだが、
絵里は親戚の家に行っていて、さゆみは風邪をひいて休んでいる。
そのために、れいなは焼肉定食を一人分だけ作って、休憩室へと向かっていった。
休憩室は、長机を挟んで五、六人くらい座れそうなソファが二つ置かれている。
中ではウエイトレスであろうバイトが二人、奥の方で座って話しをしていた。
れいなは離れたところに座って、ゆっくりと昼食を食べ始めた。
他のバイトと話しをすることは滅多にない。
決まって、話しているのは絵里とさゆみの二人だけだ。
だから、新しいバイトが入ったところで、特に話すことなどないだろう。
その時はそう思っていた。
- 499 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:06
-
コンコン
休憩室のドアがノックされて、店長が入ってきた。
れいなは口を動かしながら顔を上げる。
「おっ、田中さんもここにいたんだ。ならちょうどいい、新しい仲間を紹介するよ。」
店長の後ろから一人のバイトが入ってきた。
「ングッ!?」
その人物を見て、れいなは口に入っている焼肉を噴出しそうになった。
その入ってきたバイトも、少し驚いた表情をしてれいなを見ている。
「じゃあ、自己紹介してくれるかな。」
「はい、新しくここで働くことになりました、後藤真希です。
よろしくお願いします。」
真希が大きく頭を下げる。
れいなは慌てて口の中のものを飲み込んで、じっと真希の姿を見つめる。
- 500 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:07
- 他のバイトは真希を見て騒いでいる。
真希がかっこいいやら可愛いやら、そんな話しはどうでもよかった。
なぜここに真希がいるのか、それがれいなには理解できなかった。
「えっと、後藤さんも厨房だから、田中さんに教育係を頼みたいんだけど、いいかな?」
「ええっ!?れ、れいなが、ですか・・・?」
「そんなに嫌がらなくても・・・。」
「い、いえっ!嫌とかじゃなくって、その・・・大丈夫です。」
少し困り顔の店長を見て、れいなは立ち上がって首を何度も横に振った。
「うん、よろしくね。あとで入ってもらうから、その時は田中さんに聞いてね。」
「わかりました。」
「じゃあ、次は更衣室を・・・。」
真希は、店長について休憩室を出て行った。
れいなはただ呆然として、その場に立ち尽くしていた。
- 501 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:07
- 後藤真希、れいなにとって最も憧れている先輩、藤本美貴の大親友だ。
美貴からも何度も話しを聞いている。
才女のあさ美ですら敵わないほどの頭脳を持つ、才色兼備の女子高生。
喧嘩では美貴に匹敵するほど強いらしく、高校バスケット界では最強とまで
言われるほどの、運動能力を兼ね備えている。
そんなすごい人物が、今目の前に後輩として立っている。
美貴を経由してだが、何度か話したことはあるものの、いつ見ても
惚れそうなくらいに端整な顔立ちをしている。
自分とは正反対だ、そう思ったれいなは小さくため息をついた。
「あの、田中さん・・・?」
白の調理服を着た真希が、心配そうな表情でれいなを覗き見る。
「は、はい!」
「後藤は、じゃなくて、私は何からすればいいでしょうか?」
真希の言葉に、れいなは苦笑いを浮かべる。
- 502 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:09
- 「あの、後藤さん。学校にいる時みたいに、普通に呼んでもらえませんか?
あと、敬語はやめてくださいよ・・・あとで美貴ねえに何言われるか
わからんっちゃ・・・。」
「う〜ん、でも、ここでは後藤が後輩なわけだし・・・。」
「じゃあ、先輩命令です。いつも通りにお願いします。」
「ん・・・わかったよ。田中ちゃん。」
それを聞いて、れいなはようやく落ち着くことができた。
「それより、指は平気ですと?確か折られたとかって聞いて・・・。」
「ああ、もう平気だよ。けっこう綺麗に折れてたみたいだし、
昔から治るのは人一倍早いんだ。」
そう言って、真希は指を振って見せる。
「それにしてもさ、まさかここで田中ちゃん達がバイトしてるなんてね。
運命みたいなものを感じるよね。」
「・・・それ、紺ちゃんが聞いたら泣いちゃいますよ?」
「ハハッ、そういう意味じゃないよ。それに、そんなに紺野は弱くないよ。」
真希は笑顔で答える。
- 503 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:09
- 「そうですね。さて、話しはあとでもできるし、仕事に入りますか。
えっと・・・何から教えればええっちゃろ?れいなに何を教えろって
言われました?」
「一通りのことは教わったから、料理の作り方を聞いてくれって言ってたよ。」
「そうですとね、ん〜、何にしよっかな・・・。」
れいなは、カウンターの上に置かれている注文票を色々と眺めてから、そのうちの一枚を手に取った。
「んじゃ、簡単なものからやってみましょう。チョコレートパフェから作ってみます。
まず、冷蔵庫からバナナを取り出して・・・。」
「はい。」
れいなは様々な場所から食材を取り出し、説明しながらパフェを作り上げていく。
「・・・それで、最後にチョコシロップをかけて完成です。」
「はい。わかりました。」
恐る恐る真希の顔を見上げる。
れいなの作業を、真希はじっと見つめていただけだった。
- 504 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:10
- 「あの、メモとか取らんでわかるとですか?」
「うん、全然問題ないよ。」
れいなは以前に美貴から聞いたことを思い出す。
たった一度だけ見たり聞いたりするだけで、全て覚えられる天才、それが真希だった。
そのあとに同じものを作ってもらったが、一度も迷ったり立ち止まったりすることなく、
れいなが作ったものとほとんど同じものが完成した。
包丁を使うのも手馴れたもので、飾りつけも完璧だった。
「(すごか・・・本物の天才っちゃね、後藤さん・・・。)」
「次はどうすればいいかな?」
「あ、はい!ではですね・・・。」
れいなは慌てて注文表を調べて、次の料理を教え始めた。
- 505 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:11
- 「お疲れ様でした〜。」
薄暗くなってきた時間に、れいなは次のバイトと代わって店を出た。
新しく入ってきたバイトを思い出して、深いため息をついた。
「後藤さん、反則っちゃ・・・。」
今日一日だけで、大体の料理は教えた。
そして、真希はそれら全てを覚えた。
普通の人なら一週間はかかるだろう量を、たったの一日だけで覚えてしまったのだ。
自分も覚えるのに苦労しただけあって、かなり落ち込んでいた。
れいなが駅に向かって歩いていると、後ろから走ってくる足音が聞こえてきた。
「田中ちゃん、お疲れ様。」
走ってきたのは真希だった。
- 506 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:12
- 「お、お疲れ様です・・・後藤さん、何でジャージ着てると?」
「ああ、少しでも体動かしてないとさ、ブランクになっちゃうでしょ。
だから、後藤は家から走って通うことにしたんだ。」
「そ、そうなんですか・・・。」
自分達の住む町の駅からここまで、少なくとも5キロはあるだろう。
れいなより短い時間だったとはいえ、仕事のあとにそれだけの距離を
走ろうと思う真希に、れいなはただ感心していた。
「ところでさ、大きなため息ついちゃって、何か悩み事でもあるの?
後藤でよければ相談に乗るよ?」
「いえ、悩みってわけじゃなかです・・・。」
「んじゃ、どうかしたの?」
真希はれいなに顔を近づける。
いきなり真希の顔がドアップで写って、れいなは顔を赤くして離れた。
- 507 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:13
- 「いや、その・・・後藤さんって何でもできて羨ましく思って・・・。」
「そんなことないよ〜。後藤だってできないことたくさんあるもん。
例えばね〜・・・空を飛んだりとかね。」
「バフッ!」
思いがけない言葉にれいなは噴出した。
「消えたりなんかできないし、水の上を走ったりするのも無理だな〜。」
「・・・ククッ、ハハハハハッ!」
「田中ちゃん?」
「ご、後藤さん、面白すぎっちゃよ!」
れいなは大声で笑っている。
それを真希は不思議そうに見ている。
- 508 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:14
- 「そんなことできるわけなかよ。」
「でしょ?後藤にだって、できないことたくさんあるよ。」
「でも、そんなこと言う人だとは思ってなかったとです。美貴ねえに聞いた感じやと、
もっとクールで知的な感じやったけど、面白い人だったんですね。」
「その捉え方もどうかと思うけどね。でも、田中ちゃんはミキティの
言ってた通りの子だね。」
「えっ・・・?」
今度はれいなが不思議そうな表情をする。
「ミキティね、よくバンドの仲間の話しをしてくれるんだ。
田中ちゃんのことも聞いてるよ。」
「美貴ねえが、ですか?れいなのこと、何て言ってたとです!?」
「聞きたい?」
「はい!すごく聞きたいっちゃ!」
れいなは身を乗り出すようにして、真希の顔を凝視する。
- 509 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:15
- 「教えてくださいよ。何て言ってるとです?」
「んっとね、バカでドジで単純。心配、不安そのもので、目つきが怖くて
見た目不良っぽくて・・・。」
ガンッ
前を見てなかったれいなは、頭を電柱にぶつけた。
「だ、大丈夫?」
「美貴ねえのバカ・・・。」
泣きそうなれいなを見て、真希はおろおろとしてどうしたらいいか考えていた。
頭が痛くて泣きたいのではなく、美貴にそう言われたことが悲しかった。
- 510 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:16
- 「ごめんね、もう少し偏見を交えて言うべきだったかな・・・?」
「もうよかです・・・。」
「ん〜・・・けどね、そう悪く捉えることもないよ。」
真希は、優しい笑みを浮かべてそう言った。
「どういう意味ですと?」
「それだけ田中ちゃんのことを知ってるってことだよ。田中ちゃんのことを
知ろうとしないと、そんなこと言えるわけないじゃん。ミキティは見てるんだよ、
田中ちゃんのことをね。何よりもね、田中ちゃんの話しをする時、
すごい楽しそうに話すんだ。気に入られてる証拠だよ。」
「・・・。」
「見かけとは裏腹に、根は優しくてしっかりしてるとも言ってた。
後藤もそう思うな。」
「そ、そげんことなかです・・・。」
「フフッ、謙遜することないよ。それが君の武器なんだからさ。」
それからも適当な話しをしているうちに、二人は駅に着いた。
- 511 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:17
- 「じゃ、後藤は走って帰るからさ、気をつけて帰ってね。またよろしくね。」
「はい、お疲れ様でした〜。」
真希は手を振ってから走り出した。
走り去っていく真希の後ろ姿を、れいなはじっと見つめる。
全てを持っている真希に、嫉妬していた部分もあるかもしれない。
けど、意外な一面を知ることもできた。
思っていた以上に優しくて、頼もしいとも思えた。
それが嬉しくて、表情に笑みを浮かべる。
「よし、れいなも負けてられんとね!がんばるっちゃ!」
れいなは、周囲の目も気にせずに大きく手を振り上げて、
駅のホームに向かって歩き始めた。
- 512 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:17
- 続きま〜す。
- 513 名前:konkon 投稿日:2005/12/22(木) 01:21
- >>闇への光さん
その予想を言うのはよそう(爆)
くだらなすぎるギャグはともかく、2レス目に書いた通り
珍しいCPになるかもですね。
>>名無し飼育さん
果たしてここはCPとなりえるのか・・・が、今の自分の
コンセプトなんですよね〜。
がんばらなきゃです!
>>774飼育さん
やっぱりバレますよね〜(汗)
意外?なところでそのうち出てくると思うので、その時まで
楽しみしていてください。
見事に期待を裏切ってみせますw
- 514 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/22(木) 02:34
- なぜか美勇伝に一人だけいなかったんですよね
- 515 名前:774飼育 投稿日:2005/12/22(木) 23:37
- おぉ 更新されてた・・・
更新お疲れ様です
あの人が出てくる場面楽しみにしてます
次回更新待ってます。
- 516 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:20
- 次の日の朝、美貴は学校までの道のりを一人で歩いていた。
正門に差し掛かったところで、真希の姿を見つけた。
「ごっちん、おはよーっ!」
美貴は嬉しそうにして真希に駆け寄っていく。
「んあ・・・ミキティ、おはよ。」
真希は、いつも通り眠そうな顔で返事をした。
「あれ、高橋はどうしたの?」
「愛ちゃんは委員会の仕事で先に行ってるよ。紺ちゃんもそうでしょ?」
「あ〜、そんなこと昨日言ってたね。それにしても、眠い・・・。」
「おっはよーっ!」
突然、美貴と真希の間に誰かが挟まってきた。
見るまでもない、飛び込んできたのは亜弥だった。
- 517 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:20
- 「亜弥ちゃん、おはよ。」
「ふわっ、まっつーは朝から元気だね。」
「そういうごっちんも、朝から眠そうだよね〜。」
亜弥はケラケラと笑って、二人の腕を掴んで歩き始める。
昇降口に入って下駄箱の中を開ける。
ドサッ
美貴の下駄箱から、いくつもの封筒が落ちてきた。
ラブレターと言われるものだ。
美貴は小さくため息をついて、封筒を全部鞄の中に入れ込んだ。
真希も同じような状況で、二人は顔を合わせて苦笑いを浮かべる。
- 518 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:21
- 亜弥も含めて三人で歩いていると、周囲の様子が一変する。
美貴達を見て、騒ぎ始める者や見つめてくる者が出始める。
決して悪い意味ではなく、むしろ尊敬や憧れといった意味でだ。
「何か、こういうの苦手だな〜。」
「後藤も同感。」
「そっかな?目立つのって最高じゃない?」
「それはまっつーだけだよ。」
「ったく、どこの誰のおかげだか・・・。」
周囲の生徒達が美貴達を気にするようになったのは、士鬼面との抗争が終わってからだ。
美貴達が取られた物を取り返したことから、朝比奈学園では英雄扱いとされている。
美貴は、警察が取り返したことにでもするつもりだったのだが、現実は甘くなかった。
美貴や真希は、階段から転げ落ちたことを怪我の理由にしていた。
- 519 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:22
- それを不審に思われるも、隠し通せるだけの自信はあった。
だが、同様に怪我をしていた亜弥は、簡単にクラスメイト達に
真実を伝えてしまったのだ。
そこから朝比奈学園内全体に伝わっていったために、今に至る。
ただでさえ、美少女三人が並んでいる歩いているのだから、目立たないわけがない。
亜弥は、自分を見ている生徒に笑顔で手を振って歩いている。
さもアイドル向きだと美貴は思った。。
「んじゃ、私は教室に行くから。ほなね〜♪」
亜弥はさっさと自分の教室に向かっていった。
美貴と真希も自分の教室に入って、自分の席についた。
周囲の目から逃れて、美貴はようやく大きなため息をつくことができた。
「全くさ〜、悪い気はしないんだけど、あれだと愛ちゃんといにくいんだよな〜。」
「そうなの?」
「ごっちんはいいよ〜。紺ちゃんはあのバスケ部のキャプテンだったから、
ごっちんと対等の扱いされてるからいいけどさ、愛ちゃんは・・・。」
「何かさ、随分な言い方だね。高橋が可愛そうだと思わない?」
真希のきつい視線を受けて、美貴は机の上にうな垂れる。
- 520 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:23
- 「そうじゃなくてさ、美貴を今まで通りの平民として見てくれないかなって。」
「それは無理っぽいけどね。もしくは逆なら可能だけど。」
「どういう意味?」
「高橋が学園のスターになれば、ミキティと一緒にいたって不思議はないでしょ?」
「スター、ね・・・。」
美貴は上を向いて考えていると、突然真希に顔を近づけた。
「ごっちんごっちん!こういうのどうかな!?」
「み、ミキティ、顔近いって・・・。」
「いいから聞けっての。あのね・・・。」
美貴は、真希の耳元でゴニョゴニョと話す。
「・・・なるほどね、それは面白そうだね。」
「でしょ!?あとで先生達に相談してみよっと。これだったら間違いなく、
愛ちゃんは学園のスターになれるっしょ。」
「それと、田中ちゃん達もね。」
美貴の言葉に、真希がとって付け足した。
- 521 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:23
- 「そうそう、そのれいなから聞いたよ。ごっちん、バイト始めたんだって?」
「まあね。卒業するまでに、色々と経験しておきたいからね。
田中ちゃんから聞いたの?」
「そうだよ。昨日の夜に電話があってさ、ごっちんから美貴がひどいことを
言ってたって、ずっと文句言われてたんだから。」
「自業自得でしょ。」
「む〜、ごっちんの意地悪。まぁ、でも、れいなはいい子だよ。」
「うん。それはよくわかるよ。」
「たぶんね、ごっちんはまだ知らないよ。れいなの本当の強さをね。」
「?」
「そのうちわかるよ。楽しみにしてなさい♪」
そう嬉しそうに話す美貴の顔を、真希は不思議そうに見つめていた。
- 522 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:24
- それから一週間後、ファミレスの厨房で真希とれいなは働いていた。
「後藤さん、ハンバーグ定食お願いします。」
「は〜い。」
れいなの言葉に応じて、真希はすぐに作業に取り掛かる。
ここでの仕事はもう大体は教えた。
つまり、真希はほとんどの仕事をこなせるということである。
ほんの一週間、バイト日数としてはたったの三日でここまでできる人なんて、
恐らくは真希だけだろう。
それでも、れいなは以前のように嫉妬をすることはなくなった。
真希が思った以上に付き合いやすく、バイト以外にも信頼できる
先輩だとわかってきたためだ。
何よりも、料理を作る真希は生き生きとした表情をしていた。
「後藤さん、料理作るのって好きですと?」
自分の隣でサラダを盛り付けている真希に、それとなく聞いてみた。
- 523 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:24
- 「どうして?」
「後藤さん、料理作ってるとき、何か嬉しそうやけん・・・。」
「そうだね。今はお姉ちゃんと二人で生活してるんだけど、お姉ちゃんは
働いてるから後藤がご飯作ってるんだ。だから、何を作るか色々と
考えるうちに好きになっちゃったね。」
真希は笑ってそう答える。
「けどさ、そういう田中ちゃんもいつも一生懸命だよね。仕事だからってのいうのも
あるとは思うけど、愛情込めてるって感じがするよ。」
「ん〜、後藤さんはやっぱわかってくれるっちゃね。」
れいなは嬉しそうに頷く。
「れいな、両親がいないんです。」
「えっ・・・?」
真希は口を開けて驚いた。
- 524 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:27
- 「やっ、死んだとかそういうわけじゃなかですと。ただ、うちのパパって
忙しい人で、今年から他のとこに住んでるとですよ。パパの体調が心配だからって、
みんなで行くつもりだったんですけど、れいなはさゆや絵里と一緒にバンド
やりたかったから、一人で生活しとるんですよ。」
「・・・そうだったんだ。寂しかったりしない?」
「別に一人が嫌いなわけやないし、さゆ達が一緒にいてくれる。
あの子らの家族もよくしてくれると、そんな寂しくはなかです。
パパ達もたまに帰ってきたりしますんで。話しは戻るんですけど、
家族で食べる料理って美味しく感じるやないですか?ファミレスって
けっこう家族連れが多いけん、やっぱもっと美味しく食べてほしいっちゃね。
れいなは無理やから、その分みんなに食べてもらいたいって思っとったりしますね。」
「・・・ミキティが言ってた以上にすごいね。田中ちゃんはさ。」
真希はフッと口元を緩めてそう言った。
- 525 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:27
- 「そんなことなか!後藤さんの方がすごすぎですと。後藤さんが
いてくれれればたくさん料理作れるけん、これからもずっと
ここにいてくださいね。」
「ハハッ、そんなに期待されても困るけど、やれるだけやってみるよ。」
そう言うと、れいなはニっと嬉しそうに笑った。
れいなと話しをして、真希もどこか元気付けられた気がする。
美貴に似ている、なんとなくそう思った。
「後藤さん、ミートスパゲッティ一つお願いします。」
「は〜い。」
真希は材料を取るために冷蔵庫に視線を向けた。
その時、
「おい、ふざけんなよ!」
そんな大声が店内から聞こえてきた。
見ると、さゆみが一人の男に腕を掴まれていた。
- 526 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:28
- 男は顔を赤くして、見るからに酔っているようだった。
もう一人の連れの男は、座って面白そうにその状況を見ている。
「っちゃ〜、運が悪かよ。さゆがあいつに掴まるなんて・・・。」
れいなは渋い顔をしてそう呟いた。
「田中ちゃん、知ってるの?」
「・・・あいつは、ここの店舗の社長の息子なんですと。そんで、
色んな店とかに周って文句つけまくっとるんです。こんな日に限って
店長もリーダーもおらんもん、本当に運が悪かね。」
れいなの言うとおり、この日は店長が休みだった。
その下についている次長も店を出ていて、バイトリーダーも休みだ。
他のバイト達は、手を出したらどうなるかわからないので、
ただ見ていることしかできない。
れいなは真希を振り向いて、一枚のレシートを渡した。
- 527 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:29
- 「後藤さん、すいませんけどスパゲッティ以外の他の料理もお願いします。」
「えっ?田中ちゃん、後藤がいくよ。何されるかわからないし・・・。」
「これは先輩命令です。後藤さんは心配せずに、料理作るの任せます。」
れいなは真希の目を見てそう言った。
調理室から出て行ったれいなは、全く迷いのない目をしていた。
「いきなり叩くなんて、いい度胸してんじゃねぇかよ。」
「だって、先にお尻触ったのそっちじゃないですか・・・。」
「は〜、よく俺にそんな口聞けるな。俺が誰だかわかってんのか?」
男の言葉に、さゆみは何も言えずに俯いた。
「おい、なんとか言ってみたらどう・・・。」
「お客様、どうかなさいましたか?」
横かられいなが入って話しを止めた。
- 528 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:29
- 「さゆ、中に入っとって。」
「でもれいな・・・。」
「いいから。ここは任せんしゃい。」
小声でさゆみにそう言って、肩を押してその場を離させる。
周りの客達は、そこで顔を合わせている二人だけに視線を向けていた。
「おい、俺はあの女に用があるんだよ。さっきの女呼び出せ。」
「それはできません。先に私が話しを聞いて、あの子に非があるようでしたら、
すぐにでも謝罪させます。」
「はぁ?お前うざいよ。いいから出せっつってんだろ。邪魔なんだよ!」
れいなが男に突き飛ばされる。
それでも、れいなはすぐに立ち上がって男の前に出る。
- 529 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:30
- それからもずっと罵声を浴び続けられる。
時には、なぜかれいなが謝っている。
何でそこまでして耐え続けているのか、真希にはわからなかった。
バシャッ!
男がれいなに酒をかけた。
れいなは呆然として立ち尽くしている。
そこで真希の我慢が切れた。
先ほどからずっと持っていたスパゲッティの束が、握り潰れて
地面に落ちていく。
- 530 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:31
- 「ふざけんじゃねぇよ。こんなくそまずい店に食いにきてやってんのによ。」
男はれいなを突き飛ばしてから、横切って店を出て行こうとする。
それより先に、真希が飛び出した。
「ふざけてんのはお前の方だ。」
「あっ?何だよ・・・。」
ドゴンッ!
真希の強烈な拳が、男の顔を殴り飛ばした。
男はテーブルを巻き込んで地面に倒れ込む。
「お、お前わかってんのか?この人に手を出したら・・・。」
座っていた男が真希にそう言うも、全く気にせずにその男の胸倉を
掴み取って睨みつけた。
- 531 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:31
- 「知らないよ。そんなことより、さっさとこいつを連れてここから出て行け。
そして、二度とこの店に近づくな。」
真希が手を離すと、その男は倒れている男を抱えて、慌てて店を出て行った。
しばらくの間は、客もバイトも誰一人として、声を発せずにいた。
「後藤さん・・・。」
顔にかかった酒を拭って、れいなが声をかけた。
真希は、ゆっくりと振り向いて力なく笑う。
「ごめんね。田中ちゃんとの約束、守れそうにないや。」
ぽんっとれいなの頭を撫でて、真希は裏へと歩き去っていく。
れいなは何か言おうとしたのだけど、どうしたらいいのかわからず、
何も言えなかった。
遠ざかっていく真希の背中が、寂しさを漂わせているように感じていた。
- 532 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:34
- 久々の超速更新です!
眠・・・仕事終わりに書くものじゃないですね・・・。
クリスマス含む三連休が仕事なんて・・・orz
それはともかく、少し遅れたけど亀ちゃん誕生日おめです!
今回は出なかったけど、まぁ次の次辺りで主役っぽくする
つもりなんで、今回はご勘弁を・・・。
レス返しに入りま〜す。
- 533 名前:konkon 投稿日:2005/12/24(土) 02:37
- >>名無し飼育さん
それはそのうちわかりますよ♪
あの人も色々と理由のあるうちの一人だったりしますので、
そこら辺は後に出てきます。
>>774飼育さん
今回はあの人の誕生日記念ということで、
超スピード更新させてもらいました!
と、いいつつ出番がなかったりして(マテ
まぁ、今年中にあと一回は更新したいものですね。
- 534 名前:初心者 投稿日:2005/12/25(日) 17:15
- 更新お疲れ様です
最近ごっちんは仲間のために頑張りすぎてちょっと可愛そう
でもそれがごっちんのいい所なんだろうなって思います カッコイイ
れいなも(さゆだったからかな?)かっこよかったです
次回更新楽しみに待ってます
- 535 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:37
- 次の日の昼休み、美貴達はいつものメンバーで話しをしていた。
いつも通りの光景、いつものくだらない話しをしているのだが、
真希の表情は暗い。
心ここにあらずといったところで、話しに加わろうとしない。
真希のことが気になった美貴は、何か話しを振ろうと話題を探した。
「んと、ごっちん、バイトはどんな感じかな?」
バイトという言葉に、真希は美貴に視線を移す。
「バイトは・・・やめちゃった。」
「そうなんですか・・・?」
あさ美が心配そうに真希の顔を覗いた。
あさ美の顔を見て、真希は苦笑いを浮かべる。
- 536 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:38
- 「まぁね。ちょっとやらかしちゃって・・・。」
真希は、昨日の出来事を美貴達に的確に話した。
「・・・っていうわけだからさ、やめたんだ。」
「大変だったんですね・・・。」
「後藤は別にどうでもいいけど、田中ちゃんが心配だよ。あとで謝りに
行くつもりなんだけど、何かすごい悪いことしちゃったからさ、
どうしたらいいのかなって・・・。」
「そ、そんな、田中ちゃんならきっと許してくれます!」
あさ美は必死に真希を励ましている。
一方で、美貴と愛は何か言うわけでもなく、じっと真希を見ていた。
「愛・・・?ミキティまで、どうしちゃったの・・・?」
「わかってない、れいなのことわかってないね〜。」
美貴は、わざとらしくため息をついてそう言った。
- 537 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:39
- 「その程度のことで落ち込む子じゃないよ。ねっ、愛ちゃん。」
「うん。あの子は最後まで突き進むからね。後藤さんが思ってるよりも、
れいなは弱くないよ。」
ガラガラッ
教室の扉が開いて、れいなが入ってきた。
れいなは少しきつい目をして、全く怯むことなく美貴達に向かっていく。
「噂をすれば、きたみたいだよ。」
「うん・・・。」
愛の言葉に、真希は小さく頷く。
美貴は笑顔でれいなに寄っていく。
「ヤッホー、れいな。今日はどうしたの?寂しくって美貴に会いに・・・。」
「別に、美貴ねえに用はないっちゃよ。」
れいなはあっさりとそう言って、近づいてきた美貴を横にどかした。
- 538 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:40
- 「・・・愛ちゃ〜ん、れいなが冷たいよ・・・。」
「はいはい・・・。」
泣き真似をしている美貴の頭を、愛は仕方なしに撫で付ける。
その間にも、れいなは真希に近づいていく。
れいなが目の前まで近づくと、真希は俯いた。
まともに顔を合わせることができなかった。
「後藤さん!」
れいなは大声で真希を呼んだ。
その声に、クラスメイト達は驚いて二人に視線を移した。
美貴と愛も黙って見ている。
「は、はい・・・。」
真希は、体を震わせながら顔を上げる。
「話しがあるけん、少し付き合ってもらえませんか?」
「・・・うん。」
真希は小さく頷いて、歩き始めるれいなについて教室を出て行った。
- 539 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:41
- れいなが連れてきた場所は屋上だった。
屋上に出て、立ち止まったれいなが真希を振り向いた。
緊張が高まって心臓の鼓動が聞こえてくる。
真希は怖かった。
怒られたり、殴られることが怖いわけではない。
せっかく仲良くなれたれいなに嫌われることが怖かった。
「後藤さん、何であの後帰っちゃったとです?」
れいなが言っているのは、あの事件の話しのことだろう。
「体調不良で早退したって、みんなには伝えときました。でも、
どうして帰ったとです?」
真希は、決心をして真っ直ぐにれいなを見つめる。
- 540 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:42
- 「後藤は、バイトをやめることにしたの。後藤のせいで、田中ちゃん達に
迷惑をかけたんだ。だから、責任をとるならやめるしかないから・・・。」
「その話しなんやけど、店長、喜んでましたよ。」
「えっ・・・?」
真希は口を開けて呆然としている。
嫌われることはあっても、喜ばれるようなことをした覚えはなかったからだ。
「あの後、話しを聞いた店長が慌てて店にきたんですけど、すごい喜んでたっちゃね。
誰も手を出そうとしなかったのに、新人の後藤さんが殴ったけんね。その話しを
店長が他の店の人達にも話して、そこから一気に話しが周って、みんなもあいつに
抵抗するって言ってたらしいとです。やけん、後藤さんがやめる必要なかですと。」
「でも、後藤は・・・。」
「後藤さん、いつれいなに迷惑かけたっちゃ?迷惑かけてたのはあの男で、
後藤さんじゃなかよ。むしろ後藤さんが殴ってくれて、れいなもすごい
せいせいしました。今までの恨みを返せて、マジ嬉しかったけん。」
れいなは楽しそうにそう話した。
- 541 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:43
- 「・・・田中ちゃん、一つだけ、聞かせてくれないかな?」
「何ですと?」
「あんなにひどいことをされてたのに、どうして耐えていられたの?」
「ひどいことって・・・あいつから文句言われてたことですか?」
真希は首を頷ける。
れいなは少し唸りながら考え始める。
「ん〜、あえていうならば、あそこはれいな達にとって、かけがえのない場所ですから。」
「かけがえのない場所・・・?」
「high bredgeは、れいな達が音楽を始めたときから始まって、
愛ちゃんと出会ったことで再発進した感じですと。その時って、
れいな達はまだ中学生で全然お金を持ってなくて、月に一回くらいしか
スタジオを借りることができんかった。やけん、れいな達の生活は、
あそこで働くようになってからガラリと変わったとですよ。
一生懸命っていう言葉の意味まで覚えたし、色んなCDを買って勉強を
したりできるし、high bredgeでもがんばれるようになった。
れいなにとって大切な場所なんですよ。」
れいなの話しを聞いて、真希は少し考える。
- 542 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:45
- 「他のところで、バイトするとかって考えは無かったの?」
「それもそうかもしれません。まぁ、ぶっちゃけるとれいな達は
三人で一緒に働きたかったから、面接の時に店長に頼みまくったんですと。
店長は渋々やけど雇ってくれて、色々と教えてくれて、せめて店長に
対する恩ってほどのもんでもないけん、守りたかったとですね。」
れいなは、少し恥ずかしそうにそう言った。
「それに、後藤さんが入ってくれたから。」
「えっ?」
「後藤さんが入ってくれて、あの場所をれいなはもっと好きになった。
後藤さんがいてくれればたくさん料理作れるし、後藤さんから学べることも
たくさんあると。後藤さんがどうしてもやめたいっていうんなら、
れいなはもう止めません。でも、れいなは一緒にバイトしたい・・・。」
れいなの言葉はそこで途切れた。
真希にきつく抱きつかれたからだ。
- 543 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:46
- 「ご、後藤さん・・・?」
真希はまだ離さない。
れいなは特に抵抗するわけでもなく、体を抱きしめられている。
しばらくして、真希は体を離した。
「ごめんね。急に抱きついちゃってさ。」
れいなは顔を赤くして首を横に振る。
「田中ちゃんは強いね。後藤なんかより、ずっと強いよ。」
「そ、そんなことなかです!後藤さんより全然力もないし、
あの時も何もできんかったし・・・。」
「強さってね、力だけじゃないと思うんだ。恐怖心に打ち勝って
前に踏み出す勇気、どんな相手であろうと立ち向かう意思、
何よりも道重ちゃんを守ろうとする想い、全部田中ちゃんの強さだよ。」
「え、えっと・・・ありがとう、ございます・・・。」
れいなは恥ずかしそうに頭を下げる。
- 544 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:47
- 「田中ちゃんに比べて、後藤はすごく弱いね。見ていることすらできなかった。
力は使い方を間違えると、ただの暴力になる。後藤のは暴力に近いね。
だから・・・その、もっと田中ちゃんを見習ってがんばらなきゃね。」
「えっ・・・?」
「後藤、もう少しあそこで働いてみるよ。これからもよろしくね。」
真希は、スッと自分の右手を差し出した。
「はい!お願いします!」
れいなは両手で真希の右手を握り締める。
手を離したあと、真希は自分の腕時計に視線を向ける。
「そろそろ授業が始まるから、もう行こうか。」
「んと、れいなはもうちょっとしてから行くんで、先に行ってください。」
「そっか。じゃ、またね。」
「はい。」
真希は手を振って屋上から出て行った。
れいなはフェンスに寄り掛かって、屋上の扉を見つめる。
- 545 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:49
- 「話しは終わったと。さゆ、まだ出てこんの?」
上を見上げてそう言った。
少しして、扉が開いてさゆみが出てきた。
さゆみは普段と変わらない表情でれいなに近寄っていく。
「れいな、いつから気付いてたの?」
「屋上に出るちょっと前、かな。」
「どうしてわかったの?」
「さゆはいつもポケットの中に鏡を入れとるけん、音がしてすぐわかるわ。」
さゆみは、ポケットから折りたたみ式の鏡を取り出した。
相当使い込んでいるのだろう、それは凹みの部分が潰れていて、
少しずれるだけで音がカチャカチャとなるようになっていた。
- 546 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:50
- 「新しいの買わんの?」
「れいなが誕生日にくれた物だから、大事に使ってるの。」
「さよか・・・。」
「でも、やっぱり捨てちゃおっかな〜。れいなったら、後藤さんに
抱きつかれてニヤけてたしね。」
「ち、違うっちゃよ!あれは、後藤さんが、その・・・。」
れいなはなんとか否定しようとしたものの、なぜ抱きつかれたかすら
わかっていなかったので、必死に言葉を探していた。
「フフッ、冗談だよ。」
さゆみは飛びつくようにしてれいなに抱きつく。
「さゆ?」
「後藤さんはね、きっと嬉しかったんだよ。れいなに必要とされて、
認めてもらえて、すごく嬉しかったんだよ。だから抱きついたの。」
「そうなん・・・?」
「れいな、強くなったよね。」
さゆみは顔を離してれいなの口唇にキスをした。
れいなは少し恥ずかしくなって顔を外す。
- 547 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:51
- 「今のれいな、世界一かっこいいよ。世界一可愛いのはさゆみだけどね♪」
「・・・なんいうとや。」
さゆみはもう一度れいなを抱きしめる。
「さゆ、もう授業が始まるっちゃよ。行かんでええの?」
「ん〜、たまにはさぼるのもいいと思うの。」
「・・・風邪ひいたばっかやろ。秋風が冷たいけん、平気なん?」
「うん。だって、れいなが暖かいもん。」
「そか。なら、何も言わん。」
れいなは、力を抜いて体を預ける。
抜いたというよりも抜けたというほうが正しい。
知り合いの友人とはいえ、自分の気持ちを人に伝えることは、
あまり他人を寄せ付けないれいなからしたら、ものすごく勇気が必要だった。
それが、さゆみに抱かれたことで緊張から解放され、落ち着くことができた。
「れいな、お疲れ様。でも、あまり心配かけさせないでね。」
「ん・・・。」
自分に寄り添ってくるれいなを、さゆみは優しく抱きしめていた。
- 548 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:52
- 真希が階段を下りていくと、美貴が壁に寄り掛かっているのに気付いた。
美貴は、真希に並んで歩き始める。
「こんなところで立ち聞きしてたの?趣味悪いね〜。」
「ひどい言い方しないでよ。ごっちんのことが心配になったクラスメイト達を、
ここから先に行かせないために守ってたんだよ。」
「・・・そっか。ありがと。」
「どういたしまして。それよりどうだった?うちのれいなはさ?」
美貴は楽しそうに真希に聞いた。
真希は、フッと笑って美貴を振り向く。
「いい子だよね。あの子が妹なんて、ミキティにはもったいないよ。」
「そんなことないよ。美貴だってがんばってるもん。」
美貴は笑顔でそう言った。
- 549 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:53
- 「わかんないな〜・・・。」
「わかんないって何だよ!?後藤さん、美貴の何が気に食わないんですかね?」
その言葉に、少し怒った口調でそう言った。
対する真希は、真剣な表情をして何か考え込んでいるようだ。
「・・・ごっちん?」
「わかんないんだ。ミキティや田中ちゃんは、後藤が知らない強さを持っている。
力とかじゃなくって、どうしてそこまで強くなれたのかな?」
「ごっちん、別に美貴達は強くなりたかったんじゃないよ。」
「えっ・・・?」
美貴の言葉に、真希は首を傾げる。
- 550 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:54
- 「強ければそれに越したことはないけど、強くなりたかったわけじゃなかった。
ごっちんはさ、バスケを上手くなるために鍛えてたでしょ。でもね、
美貴達は違うの。一人で生きていく強さを得る必要があったから、
強くなるしかなかったの。親父から離れるために、普通の生活がしたかったから、
強くなりたかった。れいなもそうだよ。あの子には守ってくれる人や、
大切にしてくれる人がいた。けど、甘えてばかりではいられない。
だから、強くなるしかなかったんだ。」
「・・・。」
「一人で生活するのってさ、想像以上に寂しかったんだ。美貴もね、
愛ちゃんがくるまでは寂しくて仕方なかった。辛くって泣きたかった。
誰かの温もりが欲しかった。そんな苦しみを感じた人って、きっと
他人の気持ちをわかることができるんだ。辛くて、苦しんだ分だけ
優しくなれると思うの。特に、れいなは純粋だからね、人一倍相手の気持ちを
解ってあげられる。それがきっと・・・。」
「ミキティ達の強さなんだね・・・。」
真希は呟くようにそう言った。
- 551 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:56
- 「でもね、今は違う。美貴達は自分の意思で強くなろうとしている。
少しづつでも未来に向かって進むために、夢を掴み取るために。
誰にも負けたくないからね。強くなりたいって願ってる。」
「そっか・・・なら、後藤は勝てるわけないかな。ずっと誰かに
甘えて生きてきたからね。」
「ごっちん・・・。それは、わかんないけど・・・。」
「かと言って、負けっぱなしは性に合わないからね。後藤は後藤で強くなるよ。
たくさんの経験を積んで、自分の強さを見つけるんだ。後藤が後藤で
いられるように、今度は後藤が田中ちゃん達を守ってあげられるように、
もっと強くなる。」
「うんっ!」
美貴は力強く頷く。
- 552 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:57
- 「だ・か・ら、あんまり調子に乗らないことだね。」
ビシッ!
美貴の額を指で弾いた。
「った〜、何するのさ!」
「あっ、もう授業が始まっちゃう!急がなきゃ!」
真希は走って先に行ってしまう。
「こらっ!待ちやがれ!」
真希が元気を出したのは嬉しいが、今の行為には釈然としない。
階段を一気に飛び降りると、駆けていく真希を追いかけて走り出した。
- 553 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:57
- 今年の最終更新でした〜。
- 554 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 21:59
- 気〜が〜つけばすでに、一年半、いつ終わる〜?
本来ならば今年中に終わったはずなのに、次々とネタが増えたあげくに
全く書く時間がないという、そんな繰り返しです・・・(汗)
来年からはもっと効率よく進めていきたいと思いますので、
読んでいてくれている皆さん、また来年お会いしましょう!
- 555 名前:konkon 投稿日:2005/12/29(木) 22:02
- >>初心者さん
ごっちんはごっちんでがんばってますよね〜。
それに伴ったいい経験ができているはずだと、作者はそう思いたいです(汗)
来年初めには書きたいと思いますので、よろしければまた読んでやってくださいね♪
ありがとうございました〜!
- 556 名前:初心者 投稿日:2005/12/31(土) 02:59
- 更新お疲れ様です
いろんな強さの形 いいですね
でもその前にさゆれなハァ━━━━━━ *´Д`* ━━━━━━ン!!!!!
2人のやりとりがよすぎてかわいすぎて・・・・
来年も楽しみにしています
- 557 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:37
- ライブハウス、タンポポで激しい音が飛び交っている。
high bredgeの五人が曲を弾いているのだ。
つい先日、圭織につんくからの電話が入ってきた。
それは、オーディションを開催するので、そこにhigh bredgeを推薦したとのことである。
日時はこの日から数えて10日後、それを聞いて、美貴や愛、絵里、さゆみ、れいなの五人は、
今まで以上に気合を入れて、弾いて、叩いて、歌っている。
曲が終わって歌い終えた愛は、汗を拭って美貴達を振り向く。
「そろそろ時間だから、帰る準備しよう。」
「うん。それにしてもさ、いい感じになってきたね。」
美貴は愛に近づいてそう言った。
「さゆやれいなも同じ空気を作れるようになってきたしね。」
「やっぱり、一番それがでかいよね。」
美貴は何度も首を頷ける。
- 558 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:38
- 以前に生み出した愛の雰囲気、それに合わせることができた美貴。
さらには、さゆみとれいなも徐々にこの雰囲気を作り出せるようになっていた。
美貴と愛よりも関係の深い二人が慣れるには、そんなに時間はいらなかった。
high bredgeは、また一つ進化を遂げようとしていた。
しかし、オーディションを目の前にして、まだ遂げているわけではない。
「あとは・・・。」
二人は、後ろで何度も弾き直している絵里に視線を向ける。
絵里一人だけが、他のメンバーに合わせることができないでいた。
弾いては唸って、また弾き始める。
その繰り返しだった。
美貴はゆっくりと絵里に近づいていく。
- 559 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:39
- 「亀ちゃん、もう時間だからさ、今日はもう終わりにしよう。」
「あっ・・・えっと、絵里はもう少し残りますんで、先に帰ってください。」
「でもさ、もう時間が・・・。」
「飯田さんには、絵里からお願いします。帰ってください。」
「・・・そっか。なら、美貴も付き合う・・・。」
「いいから、帰って!」
絵里の声がスタジオに反響する。
初めて聞いた絵里の怒った声に、美貴は呆然として立ち尽くしていた。
「分かったよ。さゆみ達は先に帰るけど、無理はしないでね。」
そう言って、さゆみは美貴の腕を掴んで楽屋へと歩いていく。
れいなも愛を連れて先を歩く。
「重さん、亀ちゃんのこと放っておいていいの?」
楽屋に着いてからさゆみに聞いた。
- 560 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:40
- 「亀ちゃん、困ってるんでしょ?だったら、美貴達も一緒に・・・。」
「これはさゆみ達が解決できる問題じゃありません。絵里自身の問題です。
絵里は今、一つの壁を乗り越えようとしている。それはさゆみやれいなも
通った道です。さゆみ達ができることは、あの子を信じることだけです。」
「重さん・・・。」
「藤本さんの言いたいことを誰よりもよくわかっているのは、絵里なんです。
絵里のやりたいようにやらせてあげてください。」
「美貴ちゃん、帰ろう。」
愛が後ろから優しく肩を叩いた。
「絵里はね、このくらいで立ち止まる子じゃないよ。学校であさ美以外に
初めて私に声をかけた子だし、high bredgeに強引にも引き入れたんだからね。
それに、あの子達には私達が知らない絆があるんだよ。信じてあげて。」
「・・・そうだね。」
愛の言葉に、美貴は小さく頷いた。
そして、絵里を信じてその日は帰ることにした。
- 561 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:42
- それから二時間後、絵里はタンポポから出てきた。
結局、どれだけ練習しても美貴達と同じ空気を作れなかった。
「どうしよ・・・どうしたらいいの・・・?」
帰り道をとぼとぼと歩きながら、絵里は小さく呟いた。
絵里は恋愛をしたことがない。
小さな頃にいじめを受けたことから、異性どころか同性にもあまり心を開かないので、
本当に親しい仲間にしか興味を示すことがなかった。
だから、恋をする気持ちが理解できない。
今までとは違う、high bredgの雰囲気を作る意味がわからない。
だが、何よりも恐れているのがさゆみの成長速度だ。
初めてベースを手にして曲を弾いたときから、上手く弾けないさゆみをリードしてきた。
さゆみに合わせて弾いてきた。
しかし、今ではライバルといえるレベルまで腕が上がってきている。
それが今度は置いていかれそうな立場にある。
- 562 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:43
- さゆみ特有の雰囲気を出せるから彼女は必要だ。
その雰囲気を出すために自分がいたといっても過言ではない。
さゆみにとって自分がいらないのなら、絵里がいる意味がなくなる。
それどころか、バンドで足を引っ張ることになってしまう。
仲間に必要とされないことが怖かった。
解らなくて、悔しくて、苦しくて、どうしようもなかった。
「本当に、絵里、どうしたらいいの・・・?」
通りがかる人々も気にせずに大声で泣きたかった。
それでも泣かないのは、少し前に約束したから。
プライドとは違った、もう一つの想いがあるからだ。
絵里が落ち込んだ表情で歩いていると、後ろから肩を叩かれた。
「ヤッホー、亀井ちゃん。」
「松浦さん・・・。」
絵里は、咄嗟に笑みを浮かべて亜弥を見つめた。
- 563 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:44
- 「あ、あの、松浦さんはこの時間に、何してるんですか・・・?」
「私はバイトの帰りだよ。少し先の喫茶店で働いてるの。」
「そうなんですか〜・・・。」
「亀井ちゃんは・・・ああ、バンドの練習してたんだね。」
絵里の肩に掛かっているベースを見て、亜弥は大きく頷いた。
「あと少しでオーディションだったね。それで、どうなの?順調?」
「ええ、まぁ・・・。」
絵里は力なく笑う。
「で、本当のとこは?」
「えっ・・・?」
「何かあったって顔してるよ。どうしたの?」
「え、絵里は、その・・・。」
絵里の体が震えている。
顔を沈めて、今にも泣き出しそうな雰囲気だった。
- 564 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:45
- 「こんなとこじゃなんだから、うちにおいで。」
「ま、松浦さんの、家ですか・・・?」
「人から注目を浴びるのは好きだけど、こんな街中で泣かれて振り向かれても、
全然嬉しくないからね。ほらっ、早くいくよ。」
「あっ・・・。」
亜弥に手を引かれて、絵里は歩き出した。
手を振り切ろうとは思わなかったが、足取りは重い。
嫌なわけではなく、行ってみたい気持ちの方が強かった。
ただ、今だけは素直に喜べなかった。
歯痒くて、自分自身に苛立ちを感じていたから。
十分ほど歩くと亜弥の住むマンションに着いた。
エレベーターで五階まで上り、出てから三つ目のドアの前で亜弥は止まった。
鞄から鍵を取り出してドアを開ける。
- 565 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:47
- 「入っていいよ。」
「お邪魔します・・・。」
絵里は恐る恐る中に入っていく。
「うわぁ・・・。」
部屋の大きさは美貴の住む部屋と同じくらいだが、華やかさが違っていた。
所々にぬいぐるみが置かれ、部屋にはちゃんと色のついた模様が成されていて、
少し香水の匂いがする。
美貴や愛の住む部屋とは大違い、むしろ自分の部屋に近いように感じた。
「紅茶入れるから、座って待ってて。」
「はい。」
頷いたものの、興味を持ち出して適当に見て周る。
- 566 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:48
- そこで、タンスの上に置かれている一枚の写真立てに気付いた。
写真には、今よりも少し幼い亜弥と美貴が、顔をくっ付けて笑っていた。
「座って待っててって言わなかった?」
振り返ると、亜弥がカップを二つ乗せたトレイを持って立っていた。
亜弥は、自分と絵里の分のカップを、テーブルに乗せて座った。
「す、すいません!」
絵里も慌てて亜弥の前に座る。
「美貴たんとの写真がどうかした?」
「あっ、いえ、ちょっと羨ましいなって思って・・・。」
「何、美貴たんと写真撮りたいの?」
「藤本さんとでは、ないです・・・。」
亜弥は少し首を傾げて考える。
- 567 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/02(月) 21:49
- 「じゃあ、私と撮りたいってこと?別にいいけど、今の亀井ちゃんと
撮る気にはなれないな。」
「どうして、ですか・・・?」
「だって、今の亀井ちゃん、可愛い顔できないでしょ?
そんな子と撮りたくないね。」
その言葉に、絵里は俯いた。
「・・・あのね、別に責めてるわけじゃないのよ。亀井ちゃんが
笑えるようになったら、今度一緒に撮ろうよ。それは約束するよ。」
「本当ですか?」
「うん。だからね、話してみてよ。何か思い悩んでるんでしょ?」
「はい・・・。実はですね・・・。」
絵里は、先ほどまで悩んでたことを亜弥に話し始めた。
- 568 名前:konkon 投稿日:2006/01/02(月) 21:50
- 今年初更新でした〜♪
あけおめ!ことよろ!ではでは、またですw
- 569 名前:konkon 投稿日:2006/01/02(月) 21:52
- >>初心者さん
年末にまで読んでもらえて光栄です。
さゆれなはまたそのうち出ますよ・・・たぶん(汗)
今年こそ終わらせるつもりですので、またよろしくです!
- 570 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 13:37
- ちょっと溜めて読んでしまったw
作者さん、今年も宜しく!
- 571 名前:初心者 投稿日:2006/01/05(木) 18:37
- 更新お疲れ様です
バンドもいい方向へ向かいつつあってホッと一息
絵里もきっと大丈夫 と信じています頑張れ
次回更新楽しみに待ってます
- 572 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:50
- 「・・・っていうわけなんです。」
「そうなんだ・・・。」
亜弥は何も言わずに、絵里の話しを黙って聞いている。
「絵里、どうしたらいいのかわからなくて、でもどうしようもなくて、
絵里が止まってる間にもさゆは先に行っちゃうし・・・。このまま、
必要とされなくなりそうで、怖くって・・・high bredgeやってて、
いいのかなって・・・思い始めて・・・。」
絵里は泣きそうな顔で亜弥を見つめた。
そこで、亜弥は立ち上がって絵里の隣に座る。
「絵里。」
「えっ・・・?」
初めて自分を名前で呼ばれて、絵里は驚いた。
- 573 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:51
- 「泣きたい時には、泣けばいいじゃん。今のうちに泣いておきなよ。
一人で泣くよりは楽になれるよ。私は美貴たんからそう教わったよ。」
「でも、松浦さん、泣くなって・・・。」
「泣きたい時ってね、自分でどうしようもない時と、どうにかできる時があるんだよ。
前者は士鬼面に指輪を取られた時の絵里、後者は今の絵里だよ。意味わかる?」
絵里は何も答えずに、首を横に振った。
「あの時には、私達が指輪を取り返す時まではどうしようもなかったから、
絵里は泣いてた。取り返したから泣くなって言ったの。でもね、
今は違うでしょ。泣けばすっきりして、次に繋げることができる。
絵里自身で取り返すことができるの。high bredgeに対する絵里の想いをね。
だから、泣いてもいいよ。」
「・・・んぐ、んわーっ!松浦さーんっ!」
絵里は亜弥に抱きついて大声で泣き始めた。
- 574 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:52
- 亜弥はそっと抱いて絵里の頭を撫でる。
どれだけ経ったのか、しばらく泣き続けた絵里が顔を上げて笑った。
「松浦さん、絵里、がんばってみます。ありがとうございました!」
「その点で一つ聞いておきたいんだけどね、絵里にとってhigh bredgeって何?」
突然の質問に、絵里は首を傾げる。
「high bredgeは、絵里にとって大切な場所です。」
「何で始めたの?」
「それは・・・バンドをやりたいからです。」
「そこが絵里の居場所なんだよね?」
「はい・・・あの、質問の意味がわからないんですけど?」
その言葉のあと、亜弥はじっと絵里の顔を見つめる。
絵里は少し恥ずかしそうにして亜弥を見ている。
- 575 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:52
- 「絵里がやりたいって想ってる場所なのに、やりたいことを
やっているように見えないのって、私の気のせいかな?」
「・・・どういう意味ですか?」
「前に一回だけ見たことあるんだけどさ、道重ちゃんに合わせて弾いてるから、
絵里の個性が見えてこないんだよね〜。絵里が本当にやりたいことって、
道重ちゃんに合わせて弾くことなの?」
「それは・・・。」
「絵里、あなたはあなたでやりたいようにやってみたらどうかな?
絵里は絵里でできることが、たくさんあるはずだよ。それを
美貴たん達が許さないとは思わないし、道重ちゃんに巣立ちの時が
きたのなら、絵里も一緒に飛べばいい。そうやって、人ってどんどんと
成長していくと思うんだ。殻を破らないと先には進めない。あなたには
それだけの力がある。私はそう思う。」
絵里は真剣な表情をして俯いている。
- 576 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:53
- 「私から言いたいのはそれだけだよ。あとは絵里の自由に・・・。」
「わかりましたーっ!」
いきなり絵里が叫んだ。
亜弥は驚いて後ろに仰け反った。
「ど、どうしたの・・・?」
「絵里、自分でやってみたいって思ってることがあったんです。
今度の練習で、それをやってみようと思います。松浦さん、
本当にありがとおうございました!絵里は絶対に負けませんから、
見ててくださいね。お邪魔しました〜!」
絵里はそう言うなり深く頭を下げて、鞄を持って家から出て行った。
絵里が出て行くまで、亜弥は口を開けて見ていることしかできなかった。
「・・・美貴たんの言ってた通り、本当に面白い子だね。さてと、
楽しみに待ってるとしますか。」
先ほどの元気な絵里の表情を思い出し、亜弥は嬉しそうに笑みを浮かべた。
- 577 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:54
- それから四日後、オーディションまで残り一週間を切った。
high bredgeのメンバー達は、バンドの準備に取り掛かっている。
ギターの調整を行いつつ、美貴はチラッと絵里を見る。
前回とは違い、全く悩んだ表情はしていなかった。
むしろ生き生きとしていて笑っている。
美貴には何が起きたかわからなかったが、これ以上考えるのはやめにした。
絵里も気になるけど、それ以上に自分のことをしっかりしなければならない。
本番はすでに目の前にまで迫っているのだから。
「始められる?」
「愛ちゃん、こっちはいいよ。」
「さゆみも大丈夫で〜す。」
「れいなもいけると。」
美貴、さゆみ、れいなの順で答える。
- 578 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:54
- 愛は絵里を見つめる。
その視線に気付いて、絵里はニコッと笑う。
「絵里もOKですよ。」
話し方、表情はいつも通りだ。
愛は一息ついて前を向いた。
「じゃあ、まずはLove Revolutionからいくよ。」
美貴達が音を出そうとした時、
ガチャッ
スタジオのドアが開く音がした。
入ってきたのは亜弥だった。
- 579 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:55
- 「亜弥ちゃん?どうしたの?」
「ん、ちょっと聞いてみたくなってね。新しくなったhigh bredgeをね。」
「?」
亜弥の言葉に、美貴は首を傾げるもすぐにギターを弾く準備をした。
客が一人でもいると、感想なども聞けるしテンションが大きく変わる。
そう考えると、亜弥がいてくれることはありがたい。
美貴達が弾き始め、愛が歌い出す。
途中まではいつも通り、しかし、サビに入ったところで音楽の流れが変わり始めた。
聞いたことのない、それでいて曲自体が変わることなく、新しい音が生まれていた。
どこか新鮮で和やか、かつ心に衝撃を与えるかのような雰囲気。
美貴達と似ているが違う、それでも感じさせる暖かさは同じだ。
- 580 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:55
- 美貴は音の音源を辿る。
それは絵里のベースから生み出されていた。
「(本当の愛って何ですか・・・?きっと辞書にだって載ってないし、
絵里には答えられません。だから、今だけは許してください。
いつかきっと、人を愛する意味を覚えますから・・・。)」
絵里の指から、次々と新しい音が導き出される。
「(絵里は・・・絵里のことを想ってくれた、松浦さんのために弾きます。
これが絵里の出した答えです。しっかりと聴いていてくださいね!)」
さゆみとは違うパートを弾く絵里。
その姿を、亜弥はじっと目に焼き付ける。
「(いい表情してんじゃん。がんばれ・・・。)」
歌が終わるまで、亜弥はhigh bredgeの歌に心を酔わせていた。
- 581 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:56
- 曲が終わったあと、愛は絵里を振り向いた。
「絵里、見つけたんだね?」
「いえ、まだまだ愛ちゃん達には追いついてません。でも、
絵里にもできることがあるってこと、わかりましたから。
すぐに追いついてみせます!」
絵里は嬉しそうに親指を立てる。
そして、次にさゆみに視線を向ける。
「そういうことだから、さゆにだって負けないからね。」
「さゆみだって負けないよ。さゆみももっともっと凄くなるんだもん。」
「うへへ〜、二人ですんごいベーシストになろうね!」
「当然!」
さゆみも胸を張って頷いた。
- 582 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:57
- 「(絵里、違うよ・・・私はそんなに強くない。いや、人を愛する気持ちを
知ろうとしている、絵里の方が強いよ。なら、私はどうなのかな・・・?)」
愛は、れいなと楽しそうに話している美貴を見つめる。
「(美貴ちゃんが好き・・・?わからない。でも、愛したい気持ちは
私も負けられない。歌を愛する気持ちは、誰よりも強く想っているから。)」
ずっと歌いたかった。
歌っていたかったけど、それができなかった。
深い闇に落とされて、そこから手を差し伸べてくれたのが絵里達だった。
心を開いて、音楽への道に希望を持たせてくれたのが美貴だった。
「(私は、このメンバーでずっと歌っていたい。・・・いくよ、高橋愛。)」
胸に手を置き、上を見上げて改めて心に誓う愛だった。
- 583 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:58
- 「それにしても、絵里すごかよ。さゆとは違うパート弾いてたっちゃ。」
「でも、亀井ちゃんの存在感がすごく出せてたよね。普段は重さんに
合わせてるから、一歩引いた感じだったんだけどね。また新しくなったね。
high bredgeもさ。」
「やけん、何が絵里を変えたと?この間まで悩んでたのに・・・。」
「それは、あの子が手をひいてあげたからだと思うよ。」
「松浦さ〜ん!」
絵里はステージから飛び降りて、亜弥の元へと駆け寄っていく。
「どうでしたか〜?絵里のこと、見ててくれました?」
「見てたよ。亀井ちゃん、楽しそうに弾いてたね。」
「え〜、何で絵里って呼んでくれないんですか〜?」
「いや、その・・・だって、人前で言うのって、なんか恥ずかしいじゃん・・・。」
赤くなった亜弥の顔を見て、絵里は面白そうに笑った。
- 584 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:59
- 「松浦さん、可愛い〜♪」
「・・・それは知ってるけど、あなたに言われるとちょっとむかつく。」
「えへへ〜。」
「ほらっ、愛ちゃんが呼んでるよ。いきなさいよ。」
「は〜い。じゃあ、最後まで聴いていてくださいね。」
絵里は手を振って自分の定位置まで走っていく。
「やっぱり、美貴たんの友達って変な子が多いな。でも・・・
ちょびっとだけかっこいいかもね。」
再び美貴達の演奏が始まる。
久しぶりに聴く最高の音楽に、亜弥は静かに、楽しく聴いていた。
革命が起こったhigh bredgeの、新たなる幕が上がる瞬間だった。
- 585 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 03:59
- 更新しました〜♪
- 586 名前:愛する意味 投稿日:2006/01/07(土) 04:01
- >>名無し飼育さん
いくらでも溜め込んじゃってくださいw
今年もよろしくお願いします。
>>初心者さん
ここからがある意味本番ですからね。
high bredgeは面白くなるはず・・・です。
また読んでやってくださいね♪
- 587 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/08(日) 13:47
- 更新乙です
亀ちゃんよかったですねぇ
なんか亜弥ちゃんかっこいいなぁ!
続き待ってます☆
- 588 名前:初心者 投稿日:2006/01/08(日) 23:58
- 更新お疲れ様です
バンド内での協調はもちろん大事だけど
やっぱり今回のさゆえりの発言のように競い合うのもいいなぁとしみじみ
このままオーディションも頑張ってほしいです
次回更新楽しみに待ってます
- 589 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:01
- 10月下旬、朝比奈学園では他の高校よりも少し遅めの文化祭が行われていた。
生徒数が3000人を超えるだけあって、来客数も数え切れないほど多い。
「こちら見ていってくださ〜い!」
「美味しいたこ焼きいかがですか〜?」
生徒達は色々な場所で、様々な催し物を開いて、客をあの手この手と客を引きつける。
ガヤガヤと騒がしい中、ものすごい長蛇の列ができているクラスがあった。
一号棟の三階、美貴のクラスだ。
美貴のクラスでは、真希を中心にスパゲッティを作っていた。
三つある調理実習室の内の一つを借りて、スパゲッティを茹でてソースを作り、
それを教室に運んで真希が盛り付ける形である。
真希を見ようと、真希の料理を食べようとする生徒達、そしてその絶品の味が
学校中で噂となって、今では数え切れないほどの客が並びつつある。
教室の中は満席が続く。
- 590 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:02
- 「あ〜、もう忙しすぎだよ。」
スパゲッティに素早くソースをかけて特製のスパイスを振って、
それをクラスメイトに渡す。
この極僅かな量も許さない味を作れるのは真希にしかできないので、
全て真希が盛り付けていた。
「紺野、ソースが切れそうだよ!」
「後藤さん、食材も切れたようです。今は買出しに行っているようです。」
「そうなの?んじゃ、これだけあとよろしくね。」
「は〜い。」
あさ美は用意していた整理券を、クラスメイトに並んでいる客達に渡すように指示を出す。
真希の人気、料理の実力を知っているために、予め作っておいたのだ。
「20分後にまたできますので、少しだけお待ちください。」
整理券をもらった客達は、悔しそうな表情で散っていく。
- 591 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:04
- 「はい、ありがとうございます。」
最後の客に、笑顔でスパゲッティを渡した。
その客は教壇で唸っている小さい教師に向かっていく。
「ったくよ〜、何も文化祭の日に経費の計算しなくたってさ〜・・・。
裕子のやつ、別に明日までじゃなくたっていいじゃんかよ・・・。」
本来ならば前日に家で終わらすつもりだったのだが、帰りに偶然にも昔の
友達に会って、飲みに行ってすぐに寝てしまった。
そのために、真里は教壇で経費の計算をしながら、ぶつぶつと呟いている。
横から教壇の上にスパゲッティが二皿置かれた。
「おっ、サンキュ・・・!?」
「お疲れ様だね、矢口。」
スパゲッティを置いた最後の客はなつみだった。
- 592 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:05
- 「な、何でなっちがここにいるの・・・?」
「真希が楽しいからこいってさ。それに・・・矢口と色々と見て周りたいなって思ってね。」
「なっち・・・分かったよ。さっさと済ませるから、少しだけ待っててね!」
「うん。がんばってね。」
二人が楽しそうに会話しているのを見ていた真希は、一息ついて椅子に座り込んだ。
だが、今度はたくさんのギャラリーに囲まれる。
「後藤さん、握手してもらえませんか?」
「私もお願いします!」
「えっと、たはは・・・。」
真希は苦笑いを浮かべて周りを見渡した。
誰もがみんな真希に視線を集中させている。
「あっ、行かなきゃいけないとこがあったんだ!ごめんね。」
「えっ、どこに行くんですか?」
そう言って、真希はギャラリー達に背を向けて窓に手をかける。
- 593 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:06
- そして、
「キャーッ!」
「後藤さん!?」
窓の外に飛び降りた。
ギャラリー達は一斉に窓の下を覗く。
タンッ
スカートを腿で挟んで捲れることなく、三階から飛び降りたとは思えないほど
綺麗な着地をして、真希は歩き出した。
「(後藤さん、上手く逃げましたね。)」
真希を追いかけて教室から飛び出していくギャラリー達を見て、
あさ美は冷静にそう思っていた。
「愛は今頃どうしてんのかな〜?」
これから行われるイベントの主人公達を思い出し、その光景を想像しながら、
窓から見える澄んだ空を眺めていた。
- 594 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:07
- 中央棟の昇降口、最も人が集まるところでれいなはビラを配っていた。
ビラのタイトルにはhigh bredge、次にイベントの開始時刻、
それと五人の少女が描かれている。
絵を描いたのは圭織だ。
愛やれいなの絵では個性が強すぎて、他の三人は驚くほどに絵が下手だ。
美貴は自称ピカソと言っているが、何が何だか解らないために圭織に頼んだのだ。
「お、お願いしま〜す・・・。」
向かってきた客にビラを出したが、素通りされてしまう。
先ほどから同じようなことが続いている。
他にもビラを配っている生徒が何人もいる上に、れいなは口下手だ。
なおかつ、れいなの目つきに怖がる者まで出てくる。
配る枚数は手持ちで100枚ほど、プラスして同じくらいの量が隅に置かれている。
れいなだけで約200枚もの枚数を配るには無理がありすぎた。
- 595 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:09
- 「ハァッ、どうすりゃええんと・・・?」
れいなは大きくため息を吐き出して、壁に寄り掛かった。
その時、
「こらっ、何をサボってんの?」
階段から美貴が駆け下りてきた。
「ん、まだこんな残ってるの?間に合わないじゃん。」
「やって、こんなの無理があるとぅよ。美貴ねえこそ何してたっちゃ!?」
「おっ、今度は逆切れかい。美貴は飯田さんと一緒に機材を運んでたんだよ。
それとも、れいながやりたかった?」
「・・・ごめんなさい。」
「うん、素直でよろしい。ほらっ、貸してみなよ。」
れいなが持っていた大量のビラを取って、通路で固まっていた女子生徒達に近寄っていく。
- 596 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:09
- 「そこの彼女達、あとで楽しいイベントがあるからよろしくね〜。」
美貴は一人一人にビラを渡していく。
「これ、藤本さんが出るんですか。」
「うん。美貴も出るよ。」
「本当ですか!?絶対見に行きます!」
「何をするんです?」
「それは見てのお楽しみだよ♪」
同じような手順で、美貴は次々とビラを渡していく。
ほんの数分で100枚近くあったビラを配り終えた。
「ほらね、簡単でしょ。」
「それは美貴ねえだからっちゃよ・・・。」
誇らしげに胸を張る美貴に、れいなはまたため息をついた。
- 597 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:10
- 「れいなも残りをがんばって・・・やっぱいいや。れいなはさ、
美貴のクラスに行って紺ちゃん達に配ってもらってよ。
スパゲッティ配るついでにってね。それが終わったら、
さゆのとこに先に行ってて。美貴はもう一仕事してから
行くからさ。んじゃ、またあとでね!」
美貴は猛スピードで階段を駆け上っていく。
「もう一仕事・・・?」
美貴の計画は、一切れいな達に知らされていない。
知っていることは、これから何をするべきかというだけだ。
美貴が昇っていった階段を、れいなは呆然として眺めていた。
- 598 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:11
- 昼を過ぎようという時間、リクエストから選ばれた曲がスピーカーから流されていた。
放送室では、委員の生徒が次の曲を流そうと準備をしていた。
『・・・を聴いてもらいました。では次の曲に・・・キャッ!?』
突然の悲鳴に、学校にいた全員がスピーカーに耳を向けた。
『放送の途中ですいません。今ここにいる皆さん、少し話しを聞いてください。』
『放送室ジャックで〜す!』
『誤解を招く言い方するな!少し借りただけだっつうの。えっとですね、
一時から体育館で超最高のイベントを行います!』
『見に来てくれなきゃいじけちゃう〜。』
『勝手にいじけてろ!あの〜、とにかく、見なきゃ損だってくらい面白いことやるから
ぜひぜひ見に来てください!以上、high bredgeの藤本美貴と・・・。』
『エリザベス・キャメイがお送りいたしました〜。』
『ハァッ?エリザベスって何?』
『ほらほらミキティ、時間がないから急ぎますよ。』
『絵里、美貴の質問に答えろっての!こら待てっ!』
ドタバタとした音がスピーカーから流れていく。
学校にいる誰もが、ポカーンとしてその場で固まっていた。
- 599 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:12
- 「あのバカ・・・。」
「キャハハハッ、超ウケるんですけど〜!」
今の放送を聞いて、愛はどうしようもない遣る瀬無さに体を震わせていた。
愛の隣では、亜弥が大爆笑している。
「二人とも、漫才やってるみたいだったの。」
「さゆ、感心してる場合じゃ・・・。」
「愛ちゃん、動いちゃだめだよ。」
亜弥にそう言われて、愛はその場で止まる。
愛達は、体育館にある控え室の一つを使って、ライブの準備をしていた。
愛は一日染めで髪を染めている途中なので動けない。
その間に、亜弥とさゆみが愛のメイクをしていた。
自分の顔が別人のように綺麗に変わっていく。
亜弥の手つきもかなり慣れた様子で、パッパと次の段階に仕上がっていく。
- 600 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:13
- 「亜弥ちゃん、上手だね。普段から化粧とかしてるの?」
「ん〜、この間ごっちんに教わったんだ〜。愛ちゃん、
自分の顔を見てどう?」
「・・・まるで自分じゃないみたいだよ。」
「愛ちゃんは素でも可愛いよ。私と同じくらい可愛いんだから、
自信持った方がいいって。」
「そ、そんなこと・・・。」
「そうですよ。さゆみの次に可愛いですよ!」
「そうだね。じゃあ、道重ちゃんはメイクする必要ないよね。
よかった〜、これで楽できるわ。」
最近では絵里と一緒にいることが多いため、ナルシスト対決には慣れてきた。
相手にするとしつこいので流すこと、それが最善だと亜弥は気付いた。
- 601 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:14
- 「道重ちゃんは世界一可愛いもんね〜。」
「・・・宇宙一可愛くしてください!」
「はいはい、わかりました〜。」
亜弥は口元を緩めて笑みをこぼした。
美貴の仲間達と一緒にいると、すごく楽しい。
今までに会ったことのない個性的なメンバー、遠慮も何もいらずに
真っ向から本音を言える、何よりも信頼し合える大切な仲間達だ。
今までの生活から考えると、この中に入っている自分が少し不思議に感じる。
美貴以外に心を開いたことがなかったのに、つくづく変わったと亜弥は思う。
「亜弥ちゃん、ごめんね。こんなことやってもらって・・・。」
「いいのいいの。うちのクラスは愛ちゃん達の次だからそれまで暇だったし、
愛ちゃんも可愛くしてみたかったんだよね〜。美貴たんに貸しを作るのも
悪くない。よしっ、完璧だよ♪お姫様、どうですか〜?」
亜弥は、さゆみの大きな鏡を愛の顔の前に見せる。
- 602 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:15
- 「ほらっ、そこにいる誰かさんみたいに一言どうぞ。」
「うん・・・すごく可愛い。ありがとう。」
亜弥は嬉しそうに頷く。
ガチャッ
「ただいま〜。後藤さんからの差し入れだっちゃ。」
控え室にれいながトレイを持って入ってきた。
れいなの持つトレイの上には、いくつかのスパゲッティが盛られている皿が乗っていた。
「れいな、お疲れ様〜♪あっ、さゆみ明太子スパゲッティもらっていい?」
「何でもよかよ。松浦さんもよかったらどうぞ。」
「ありがと〜。」
「亀井絵里、ただいま戻りました〜!」
「美貴達の方は終わったよ。こっちの準備はどう?」
れいなのすぐあとに美貴と絵里が入ってきた。
- 603 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:16
- 「あっ、れいな、美貴の分も残しておいてよ!」
「わかっとるっちゃよ。何がよか?」
「えっとね〜、美貴は・・・?」
後ろから亜弥に肩を叩かれて振り向いた。
亜弥は、自分の肩越しに親指を立てる。
「何、亜弥ちゃ・・・!?」
美貴は目も口も全開に広げて驚いた。
亜弥の親指の先、そこには今までのライブとは比較にならないほど、
綺麗にメイクを仕上げた愛が立っていた。
美貴はゆっくりと愛に近づいていく。
「どう、かな・・・?」
「愛ちゃん・・・最高に可愛すぎだよ。」
美貴は抱きつきたい衝動を抑えつつ、愛を凝視する。
- 604 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/12(木) 21:17
- 「フフッ、ありがとう。でもね・・・。」
「でっ!いひゃひゃひゃっ!!」
突然、愛に頬を抓られて美貴は声を上げる。
なんとか愛の手から逃れて、美貴は涙目になって愛を見つめる。
「愛ちゃん、ひどい・・・何するのさ?」
「さっきの放送は何?全く聞いてないんだけど。」
「当たり前じゃん。言ってないもん。まぁ、あれだけでっかいことを
言っちゃったんだ。これで美貴達はもう、逃げることはできないよね。」
「そんな無責任な・・・。」
「無責任じゃないよ。美貴はやり遂げる自信があるから。愛ちゃんにはないの?」
美貴の言葉に、愛の目つきが鋭くなる。
「上等だよ。元から逃げるつもりなんてないよ。」
「さすがは愛ちゃんだね♪んじゃさ、早くスパゲッティ食べよう。
腹が減っては戦はできぬってね。」
美貴は嬉しそうに愛の手を取って、れいな達のところへと向かっていった。
- 605 名前:konkon 投稿日:2006/01/12(木) 21:18
- 更新しました〜。
- 606 名前:konkon 投稿日:2006/01/12(木) 21:21
- >>名無し飼育さん
そうですね〜。
この小説のあややは可愛さよりもかっこよさが引き立つかもですね。
ちょっと珍しいかな?
>>初心者さん
協調性とライバル心、ちょい前に娘。にもあったような・・・。
さてさて、オーディションはどうなるんでしょうね〜w
簡単に言うなら波乱な状況になるかと思われ・・・(謎)
- 607 名前:sage 投稿日:2006/01/12(木) 21:23
- 更新乙れす、リアル更新はじめてなのれす!
次も期待してます!!
- 608 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/12(木) 21:25
- ↑名前ミスったですorz
- 609 名前:ハラポワ 投稿日:2006/01/12(木) 22:04
- 一昨日から読み始めましたが、ようやく更新に追いつけたみたいですね。
先日はレスありがとうございました!
みきあいにつられて読み始めたら止まらなくなっちゃいましたよ。
ごまこんもあまり読んだことがなかったのですが、ここで読むことができて良かったです。
これからも更新楽しみにしてますね。
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/13(金) 02:12
- 学園祭でライブかぁ!
続きめっちゃ気になるなぁ
- 611 名前:konkon 投稿日:2006/01/15(日) 23:19
- 今から約二週間前、絵里、さゆみ、れいなの三人は、
美貴に放課後に図書室まで呼び出された。
この日はライブも練習もないので、三人は不思議に思いながらも図書室に入っていく。
中ではすでに美貴と愛が待っていた。
「藤本さん、今日は何の話しですか〜?」
「まぁ、いいから座ってよ。これから話すからさ。」
美貴は周りに誰もいないことを確認してから、絵里達を椅子に座らせた。
「早速だけど本題に入ります。再来週の文化祭で、high bredgeが
歌うことが決定しました〜!」
「ええっ!?」
絵里達は声を上げて驚く。
「ほらほらっ、誰かに聞こえちゃうから声を出さないの。」
「美貴ちゃん、どういうこと?」
愛は、目を細めて美貴に聞いた。
- 612 名前:konkon 投稿日:2006/01/15(日) 23:20
- 「愛ちゃんも聞いてなかったんですか?」
さゆみの言葉に、愛は小さく首を頷ける。
さゆみは不思議に思う。
最も近くにいる愛にすら話さなかった美貴の真意がわからなかった。
「オーディションまであと僅かしかないんだ。少しでも練習は多い方がいいでしょ?」
「何で文化祭でやる必要があるんですか?」
「タンポポでの練習量を増やせばいいんじゃなか?」
「理由はいくつかあるんだけど、まず一つ目に、ここの体育館はすごく広い。
集客人数は、余裕で3000人を超えることができる。飯田さんには悪いけど、
タンポポよりも断然広いんだ。これから先は、そのようなところでも
簡単に弾けるくらいの力は必要になる。オーディション対策にも、
うってつけだと思うんだよね。美貴、何か間違ってる?」
絵里達は何も言わずに話しを聞いていた。
- 613 名前:konkon 投稿日:2006/01/15(日) 23:30
- いや、言えなかった。
美貴の言っていることはまさしく正論だったから。
「二つ目に、美貴達のライブって大体同じファンの人達が、毎回見にきてくれてる。
どれだけ新しい人が見に来てくれたとしても、せいぜい三割くらいってとこでしょ。
それじゃだめなの。誰もが認めるバンドにならなきゃならないの。美貴達は、
誰よりも上を目指すんだからね。負けられないんだよ・・・。」
「美貴ねえ・・・。」
「いつもと同じ客、普段通りの環境、それだけじゃ成長できないんだよ。
ここで美貴達を認めさせなきゃ、美貴達に先はないよ。」
「でも、何も文化祭でやらなくても・・・。」
「れいなも同感っちゃ。こんなとこでやらんでもね〜。」
「さゆみ、どうせならもっと別のところで・・・。」
「絵里!れいな!さゆみ!」
名前で呼ばれた三人は、美貴の顔を見て驚いている。
特に、絵里とさゆみは初めて名前で呼ばれたものだから、
どう返事したらいいのか戸惑っていた。
- 614 名前:konkon 投稿日:2006/01/15(日) 23:31
- 「学校って何をするところかわかってる?」
「勉強じゃなかと?」
「違う。その考えは間違ってるんだよ。っつうか、れいなが
そう答える時点で間違ってる。」
「どういう意味っちゃよ!?れいなやって・・・。」
「話しは最後まで聞く。」
一息ついて、仲間達に視線を向ける。
「学校はね、新しい自分を見つけることができるとこなんだよ。
ごっちんと出会って、そしてここでみんなと出会って、美貴は
すごい変わったと思うんだ。一緒にいられる仲間を見つけられる、
出会いの場なんだよ。れいな達もきっと、たくさんの出会いを
見つけることができるはずなの。自分の居場所を見つけられるはずなんだ。
愛ちゃん、君はどう思うかな?」
今度は愛だけに視線を送る。
- 615 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/15(日) 23:32
- 「・・・間違ってはいないと思うよ。」
「どうしても無理っていうなら、やらなくてもいいよ。あとで委員の人に謝って
断っておくからさ。んで、どうかな?」
「絵里は・・・賛成します。」
「面白そうだから、さゆみもで〜す。」
「美貴ねえが珍しく考えとるけん、れいなもそれでよかよ。」
「珍しくって何さ!美貴はいつでも真剣だよ。んで、愛ちゃんはどうかな?」
美貴達に見つめられて、愛はフーッと息を吐き出した。
「私もやるよ。」
「よ〜し、high bredge、気合入れていきましょ〜!」
「お〜っ!」
「(たぶん、これが成功するか否かで、high bredgeは
また大きく変わるんだろうな・・・。)」
絵里達が騒ぐ中、美貴はそのようなことを考えていた。
- 616 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/15(日) 23:33
- さらに半月程前の出来事だった。
士鬼面との喧嘩でアバラを怪我した美貴は、病院に寄っていたために学校に遅刻した。
教師に連絡は取ってあるものの、教室に入るのが恥ずかしくてそっと中を覗いた。
中では、文化祭についての話し合いがされているようだ。
その中心にいたのは真希とあさ美だった。
技術担当と計画担当という点では、この二人なら妥当だろう。
二人はクラスメイト達と色々と話しをしていた。
誰もが文化祭について盛り上がっている中、愛だけは自分の席から動かずに、
窓の外を見つめていた。
愛自身は動こうとしない、いや、動くことができないでいた。
どうしたらいいのかわからないのだ。
- 617 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/15(日) 23:33
- クラスメイトも誰も話しかけようとしない。
見ているだけで胸が痛んだ。
美貴やあさ美がいなければ、愛は孤独という立場から離れることはないようだ。
絵里達の教室に行ったときも、同じような光景を目にしたことを思い出す。
「(こんなんじゃ、絶対にだめだ!)」
思い立ったらすぐ決行、それが自分の信念だ。
美貴は教室には入らずに、その場から駆け出した。
向かった先は職員室だった。
「失礼します。」
目だけを左右に動かして目的の人物を見つけ、早歩きで近寄っていく。
近づいてきた美貴に気付いて、裕子と真里が目を向けた。
- 618 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/15(日) 23:34
- 「お早うございます。」
「おお、藤本、おはよ。」
「体の方は平気なんか?」
「はい、遅くなってすいません。それより、お願いがあるんです。」
美貴は真剣な表情をして二人を見つめる。
「今度の文化祭、三十分、いえ、二十分でいいんです。美貴達に
舞台でライブをやらせてもらえませんか?」
「ほ〜、藤本、あんたそんなことできるんか?」
「友達に聞いた話しだと、めちゃくちゃすごいらしいよ。けど、
この時期に舞台を取れるかな〜?かなり厳しいと思うよ。」
たった一日の文化祭、それも体育館の舞台は一番目立つ場所であり、
もちろん人気も一番高い。
文化祭まで一月を切った今、いくら美貴でも取れるかどうかは解らない。
- 619 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/15(日) 23:34
- 「ライブをしたいっつうあんたの気持ちもよくわかるわ。だけど、
何も文化祭でやらなきゃいけないわけや・・・。」
「それじゃだめなんです!文化祭でやることに意味があるんです!」
美貴は大声でそう言った。
珍しく感情的になっている美貴を見て、裕子と真里は驚いていた。
「愛ちゃんや美貴の仲間達は、ちょっと訳ありで心の中を閉じ込めている。
このままだと、愛ちゃん達にとって学校にきている意味がなくなってしまうんです。
あの子達のことを、たくさんの生徒達に知ってもらいたいんです。
美貴もこの学校でいい思い出を作りたい。だから、お願いします!」
美貴は大きく頭を下げる。
真里は戸惑いの表情で美貴と裕子を交互に見つめている。
- 620 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/15(日) 23:35
- 「・・・あんたはいい子やな。」
少しして、裕子が椅子から立ち上がる。
「目つきはちょっち怖いけど、仲間のことをよく思っとるんやな。」
「中澤先生ほど怖くないけどね・・・。」
「何か言うたか!?」
「いえいえ、何も言ってませんよ。」
小声で言ったのに、と思いつつ、美貴は慌てて首を横に振った。
「まぁ、そこはうちがなんとかしたる。任せとき。」
「本当ですか!?」
「その代わり、最高のライブを見せてくれんと困るで。それが条件や。」
「おいらもできる限り協力するよ。」
「はい!ありがとうございます!」
美貴はもう一度大きく頭を下げた。
- 621 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/15(日) 23:35
- 「裕ちゃん、何かいい方法でもあるの?」
「な〜に、いざとなったら貴っちゃん脅してでも奪い取ったるわ。」
「(怖・・・。)」
美貴と真里は、同時にそう思った。
「それにな、恥ずかしいことに高橋の笑ってる顔って、うちも見たことないんや。
藤本、あんたならあの子のことを笑わせられるって信じてる。その代わり、
うちらはうちらでやれることをやってみせる。そのくらいできんで、
教師なんてやっとられんわ。だから任せとけ!」
「はい!お願いします。」
美貴は嬉しそうにして職員室を出て行った。
「(よしっ、藤本美貴、いくよっ!)」
自分自身に勇気付けるように、美貴は心の中で握り拳を上げていた。
- 622 名前:konkon 投稿日:2006/01/15(日) 23:36
- 更新しました。
途中まで名前間違えた〜(汗)
- 623 名前:konkon 投稿日:2006/01/15(日) 23:40
- >>608:名無し飼育さん
ドンマイですw
リアルタイムでまで読んでくれてありがとうです!
>>ハラポワさん
あいみき、こんごまLoveで生きてます(爆)
こちらもよくご利用させてもらってますよ〜♪
ハラポワさんの愛絵里も大好きです。
今後もがんばりましょ〜!
>>610:名無し飼育さん
今回は過去編ですね。
次回からはライブ編にいきますので、お楽しみに〜♪
- 624 名前:774飼育 投稿日:2006/01/15(日) 23:49
- うはぁ〜〜〜
かなり続きが気になります
次回更新まってますよぉ〜
- 625 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/01/16(月) 23:49
- 遅くなりましたが新年明けましておめでとうございます
作者様の哀さんはいつ読んでも可愛らしいですね(´д`*)
ライブ編とても楽しみです。更新待ってますね
- 626 名前:ハラポワ 投稿日:2006/01/17(火) 00:47
- ミキティ良いなー。仲間思いでカッコイイ!
次回はいよいよライブ編ですね。
早くhigh bredge のライブでみんなをビックリさせてやりたい!とこっちまで意気込んじゃってますよ。
ワクワクしながら待ってます。
- 627 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/18(水) 23:57
- 一時十分前、真希は時計を気にしながら盛り付けをしていた。
「(そろそろ切り上げなきゃまずいかな。)」
真希は一通りのスパゲッティの盛り付けが終わったあと、あさ美に近づいていく。
真希に気付いて、あさ美もクラスメイト達に料理を終わらせるように指示を出す。
「紺野さん、もう終わりにするの?」
「今の昼の時間帯が一番の稼ぎ時だと思わない?」
「えっと、そうなんだけどね・・・。」
「今から暇な人は全員体育館集合ね!」
真希は教室全体に聞こえるように、大声でそう言った。
客達もそれを聞いてざわついている。
「並んでいる人達には申し訳ないんですけど、ここで一時終了します。
一度切り上げるだけで、またあとで作ります。これから面白いものが
見れますので、興味のある方は体育館に足を運んでみてください。」
その場で固まっている人達に笑顔でそう告げて、真希はエプロンを外した。
「紺野、行くよ。」
「はい!」
あさ美は嬉しそうに頷いて、真希について歩き始めた。
- 628 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/18(水) 23:58
- 同じ頃、美貴達は控え室で準備をしていた。
今は他のクラスが舞台で催し物をやっているので、一通りの準備が
終わった美貴は、時間までゆったりとして待っていた。
一度、他のメンバーを見渡していく。
絵里は、苦笑いを浮かべながらそこら辺を歩き周っている。
さゆみは、鏡を見ているのはいつものことだが、自分のことを褒めようともせずに
見つめているだけだった。
れいなは、挙動不審に目を泳がせている。
今までのライブとは違う、自分達の本当の姿を、学校で知っている人達に
見せることから、普段以上に緊張しているようだった。
「(あれ、愛ちゃんは・・・?)」
先ほどまで傍にいたのに、いつの間にかいなくなっていた。
美貴は気になって控え室の外に出た。
- 629 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:00
- 舞台に近い通路先、そこに愛は立っていた。
髪を染めてメイクをして、メンバーで揃えた黒い衣装に身を包んだその姿は、
可愛さよりもかっこよさが際どく目立つ。
しかし、今の愛にはそれを感じさせない。
体を震わせ、息が荒い。
極度の緊張に覆われているようで、美貴が近づいても気付かないようだ。
「愛ちゃん、大丈夫?」
前から愛の顔を覗き込む。
やはり愛は反応しない。
「愛ちゃん。愛ちゃ〜ん。」
肩を叩いたり、頬を指で押しても反応はなかった。
- 630 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:01
- 美貴は背後に周ると、
ムニュッ
後ろから愛の胸を揉んだ。
「ッッッッッッ!!!!!」
その瞬間、愛の思考が急速に働き出す。
それ以上の速さ、まさに本能が体を動かした。
ガッ!
ものすごい速さで振り返り、美貴の顔を殴った。
- 631 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:01
- 「いた〜い!愛ちゃん、ひどいよ・・・。」
「ひどいやない!何するんやざ!この変態!痴漢!スケベ!バカ!アホ!」
「言いすぎだっての。無防備すぎる愛ちゃんが悪い。」
愛が振り回した拳を、美貴は軽々と避けた。
人を殴った経験が皆無に等しい愛に対し、喧嘩慣れしている美貴は
余裕で避けていく。
腕を振り回して疲れた愛は、膝に手をついて荒い息を吐き出している。
「どう、少しは元気出た?っつうか、本番前に疲れちゃだめだよ。」
「うるさい・・・誰のせいやと、思っとるんやけ・・・。」
楽しげに見つめている美貴を、愛は恨めしそうにして睨みつける。
「どうしかしたんですか〜?」
愛の声に気付いた絵里達が、控え室から出てきた。
笑っている美貴と疲れきっている愛を見て、三人は不思議そうにしている。
- 632 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:03
- 「愛ちゃんの胸を揉んじゃった♪」
「えっ、愛ちゃんの胸を・・・?」
「触ってみてどうでしたか?」
「思った以上に柔らかくて気持ちよかったよ〜。ただ残念なことに、
やっぱり美貴より大きかったね。」
「何を今更、そんなん誰が見てもわかると。」
「こらっ、れいな!」
れいなは素早くさゆみの後ろに隠れて美貴の手から逃れる。
「美貴より小さいれいなに言われたくないね!」
「なっ!?れ、れいなはまだ成長期やと!美貴ねえはもう終わっとるっちゃ!」
「何を!?」
美貴とれいなが睨み合う。
- 633 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:05
- 「二人とも五十歩百歩ですね〜。」
「絵里に言われたくない!」
「さゆ、五十歩百歩ってどういう意味と?」
「れいな、そんなこともわかんないの?五十歩進んだら、
次は百歩進むってことなの。」
「いやいや、違うから!」
ギャーギャーと騒ぐ美貴達を見て、愛は小さく息を吐き出した。
先ほどまでの沈黙はまるで嘘のように、いつも通りの光景となっている。
その中心にいるのは美貴だった。
「(ほんまに不思議な人やよ・・・。)」
いつの間にか体の震えが消えていた。
- 634 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:05
- ライブ前の心地よい緊張感が胸を鳴らす。
喪失された自信も取り戻しつつある。
今なら歌える、そう確信していた。
「いつまで騒いでるの?」
その言葉に、美貴達は話しをやめて愛に近寄っていく。
「美貴ちゃん、この"カリ"は高くつくよ?」
「イヤン、胸を貸すならいくらでもよくってよ。」
ポフポフッ
美貴の胸を軽く叩いた。
「あの、愛ちゃん・・・?」
「フーン・・・借りるまでもないから、やっぱいいや。」
愛はどこか勝ち誇った顔をしてそう言った。
- 635 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:07
- 「愛ちゃん、ひどいよ・・・。」
美貴は大きくうな垂れて俯く。
絵里達は大笑いしている。
「ほらっ、いちいちうじうじしない。やり遂げてみせるんでしょ?」
「・・・もちろんだよ。最後までやってみせるさ。」
美貴は自信を持った笑みで愛を見据える。
絵里達の表情も、真剣なムードを醸し出している。
そこで、愛は前に手を差し出した。
「こんなこと、やったことないんやけどね。気合入れるがし。」
美貴達は、愛の手の上に手を重ねていく。
- 636 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:07
- 「いつも通り、楽しくいこう。」
「絶対に負けられない戦いがそこにあるっちゃ!」
「俄然強めでいきましょ〜♪」
「可愛さと音楽だけは誰にも負けないの。」
「体育館をぶっ壊すくらい、最強のライブを見せてやろうね!」
美貴達は目を合わせて頷いた。
「high bredge、いくで!」
「おーっ!」
前のクラスが終わり、歓声や拍手が聞こえてきた。
まもなくhigh bredgeの出番がやってくる。
愛を先頭に、美貴達は舞台へと歩き始めた。
- 637 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/19(木) 00:08
- 更新しました〜。
- 638 名前:774飼育 投稿日:2006/01/19(木) 00:12
- 更新お疲れ様です
ついに次回はライブでしょうか?
楽しみにしてますよぉw
- 639 名前:konkon 投稿日:2006/01/19(木) 00:12
- >>774飼育さん
そういっていただけると嬉しいです♪
続きはこんな感じになりました〜。
いかがでしょ・・・?
>>哀さん好きの名無しさん
あけおめです!
自分の中ではかっこ可愛いを基準にやってみたいな〜みたいな
感じでやらせていただきますw
これよろです!
>>ハラポワさん
ライブは次回にもつれこみました(汗)
まぁ、ライブ前の緊張感やら和みやらも出そうかと・・・
次こそは暴れさせますよ(謎)
- 640 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/19(木) 00:14
- ライブどんな感じになるのかみんなの反応が気になります
次回も期待してまってます
- 641 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/01/19(木) 19:18
- 更新お疲れ様です。
ライブ成功することを願っています!
次回がとても楽しみw
- 642 名前:ハラポワ 投稿日:2006/01/21(土) 23:03
- ライブ前の緊張感やら和みやらでこっちまでドキドキしてきましたよw
無事に成功すること祈って、更新楽しみにしてます。
大暴れさせてやって下さい!
- 643 名前:初心者 投稿日:2006/01/23(月) 02:23
- 更新お疲れ様です
ライブが成功するのか、それとも・・・・・気になります
さゆの五十歩百歩の説明面白かったです
あと愛ちゃんの反撃なかなかやりますね
次回更新楽しみに待ってます
- 644 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/24(火) 23:58
- 『次は、high bredgeによるライブが行われます。』
放送が聞こえたと同時に幕が上がり始める。
さすがの美貴も、これ以上はないというほどに緊張している。
その緊張感も素直に楽しめるし喜べる。
父親に強制的に勉強させられていたので、今まで文化祭に出たことのなかった。
手に届きそうで届かない普通の生活、文化祭を見ていることすら
できなかった過去が思い浮かぶ。
それが今、このような大舞台でライブをしようとは、去年までの美貴では
想像もつかなかった。
自分がここにいることに嬉しさを隠せず笑みを浮かべる。
それもこれも、愛達に出会ったおかげだ。
だからこそ、絶対に成功させたいと心から願う。
大切な仲間達に楽しい学園生活を送ってもらうためにも。
- 645 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/24(火) 23:59
- 幕が上がって、美貴達の姿が観客達に露になる。
美貴達の前には、数え切れないほどの客が自分達を見ている。
恐らくは二千人ほどはいるだろう。
同時に聞こえてきたのは、歓声とどよめき。
前者は美貴のファンや美貴に興味を抱いている生徒達、
後者は愛達を知っている者達だ。
美貴は、真希と五分の運動神経を発揮した1 ON 1や、士鬼面からの奪還、
明るく活発で綺麗な容姿から、学校中で噂されるほどの人気だ。
それに対し、愛達はほとんど他の生徒と話さない、いわば一人がちに
なりやすいタイプだ。
絵里は幼少時代のいじめから、さゆみはマイペースに生きているので
他人に合わせるようなことはせず、れいなは目つきや口調からして怖がられている。
愛は、美貴がくるまで絵里達を除くと、あさ美以外に心を開いたことがない。
そのために、美貴と愛達が一緒にいることが不思議で仕方の無いのだろう。
- 646 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:00
- 様々なところからヒソヒソと話している者が見える。
中には、美貴といる愛に対して疑問を持ったり、嫉妬したりする者もいる。
けれど、今の愛達はそのようなことも気にならない。
歌って、踊って、弾きまくる、いつも通りにすればいいだけだ。
愛達は美貴に視線を送る。
「(まぁ、予想通りかな。)」
美貴は適当に周りを見渡したあと、三本の指を立てた。
それを見て、愛達は前に顔を戻した。
美貴はいくつかの客の反応パターンを考えていた。
一つ目に、最初から大きな歓声が上がること。
その時はまずはじっくりと愛の歌声を聞かせるために、
ゆったりとした恋愛系を歌わせることにしていた。
二つ目には、全くの無反応だった時。
それはそれで楽しませればいいと思い、明るくテンポのいい曲から
入ろうと思っていた。
- 647 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:01
- そして三つ目、まずは美貴のギターの音から入る。
観客達は美貴に黄色い声を上げる。
次の瞬間、
「まずはMY DEAR BOY!いっくでーーーーっっ!!!」
ドォンッ!!!
愛が声を上げ、同時に絵里達も爆発したような衝撃音を走らせる。
声援は一瞬にしてかき消された。
美貴が出した三つ目の答え、それは今のような現状を黙らせることだ。
声援ならともかくとして、例え美貴に対してでなくても、どよめかれたって嬉しくない。
だったら、リセットして初めからやり直すまでである。
美貴だけでなく、high bredgeを好きにさせる。
それが美貴の選んだ道だった。
- 648 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:03
- 観客達は、ただ呆然として見つめている。
何よりも驚いていたのは、クラスメイトや愛を知る生徒達だ。
愛がこのような場で声を上げるなんて、誰も予想だにしていなかった。
観客達の反応は徐々に変わっていく。
愛の迫力のありつつ、心に響く歌に、綺麗な踊りに胸を締め付けられる。
絵里とさゆみの音の違う、それでいて息の合ったベースに、れいなの激しいドラム、
そして美貴の鮮やかなギターに、誰もが心を躍らせた。
歌が終盤となった頃には、誰もが美貴だけでなく、一つのバンドとして聴いていた。
曲が終わって、愛も最後の踊りを決める。
普段のライブでは歓声が聞こえてくるも、観客達は誰も反応できない。
high bredgeの音楽に、愛達の真の姿にまだ戸惑いを隠せないようだ。
そんな静まり返った体育館に拍手の音が聞こえてきた。
拍手していたのは、真希やあさ美といった彼女達の中身をよく知る者達だった。
- 649 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:04
- 真希達の拍手を聞いて、他の生徒や観客達も拍手をし始める。
歓声は聞こえてこない。
まだ納得がいかないのか、対応できていないのか、どちらにせよ
時間もあまりないことなので、次の曲の準備に取り掛かる。
「あまり時間がないんで、次の曲にいくがし。心を込めて歌うので、
聴いてください。Home。」
先ほどの激動的な曲とは対照的に、今度はゆっくりとした流れの曲が始まる。
そこに、愛の綺麗な歌声が重なっていく。
黙らせた次にすべきことは、愛の歌声を認めさせることである。
歌う愛をベースにすることは当然であり、なおかつ愛にはそれだけの実力がある。
体育館全体に聞こえるくらいの大声にも関わらず、心を癒すような、
透き通る優しい歌に、誰もが酔いしれる。
弾いている美貴達も愛に合わせて雰囲気を広げていく。
- 650 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:05
- 曲が次第に終わっていき、愛がマイクを下ろした。
その瞬間、全員とはいかないが、いくつもの歓声や拍手が沸き起こった。
先ほどよりも多くなっていて、愛は少し頬を緩める。
愛は隣にいる美貴にマイクを放り渡した。
美貴はマイクを取って、観客達に笑顔を見せる。
「初めまして、high bredgeで〜す!」
ここから少しの間だけ美貴の話しが始まる。
ちょっとした休憩を挟むついでの余興として、美貴が話しをすることしていた。
その間にも、体育館に人が入ってくることに美貴は気付いた。
携帯などで美貴達を見に来るように誰かが呼び寄せているのだろう。
「まだ続くので、最後までお楽しみください!では、次の曲にいきます。」
美貴が愛にマイクを投げ渡した。
- 651 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:06
- 愛は、飛んでくるマイクを見ようともせずに、腕を上げて掴み取った。
観客達は驚きの声を上げる。
これを見せるために、愛が何度も頭をぶつけたことは、美貴達以外には誰も知らない。
少しでもパフォーマンスを上昇させようと、日々考えて努力していたのだ。
「聴いてください。Victory。」
実力を知らしめたあとには、楽しむことである。
音楽は楽むものだ、と圭織から聞いた美貴達は、まさにその通りだと思った。
だから、今度はみんなで楽しもうとしてこれを選んだ。
テンポのよく明るいこの曲では、愛は楽しそうに、嬉しそうに歌っている。
その姿は、まるで一緒に躍ろうとでも語っているようで、観客達の中でも
口ずさんだり体を揺らせる者も出てきた。
中には、愛の踊りを真似て躍ろうとしている生徒もいる。
美貴達も楽しそうに弾いている。
- 652 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:07
- 曲が終わると、体育館全体からといっていいほどの、壮大な声援が響き渡っていた。
タンポポよりも大きいこの体育館の声援に、美貴の心臓がバクバクと躍り狂っていた。
予想以上の客の反応を見て、美貴は笑顔で手を振っていた。
楽しくて仕方がなかった。
たった20分という時間に、少し残念な気持ちが出てくる。
「次でラストとなります。最後まで楽しんでいきましょ〜。There is Here!」
れいなの軽快なドラムから始まって、美貴達もすぐに続いて弾き始める。
歌に入る直前で愛は跳びあがる。
愛が最も興奮している時の証拠だ。
楽しそうに歌って、独特のリズムで躍って、観客達を楽しませる。
ステージの端まで駆け寄って手を振ったり、時には美貴達の隣まで近寄って一緒に歌ったりと、
愛は学校では見せたことのない満面の笑みで歌っている。
2サビが終わって間奏に入ったところで、愛は一度躍りをやめて観客達を見渡した。
- 653 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:09
- 「ここで、high bredgeの仲間達を紹介します!
まずは、ドラムの田中れいな!」
愛がれいなに手を向ける。
その時、美貴、絵里、さゆみは手を下ろして音を止める。
なんと、れいなはスティックを捨てて、手で叩き始めた。
れいなの激しいドラムに、誰もが唖然として、同時に感激していた。
「次に、ベースの亀井絵里!道重さゆみ!」
れいなが音を止めて、絵里とさゆみが背中合わせにベースを弾きだした。
全く性質の違うパートを弾く二人なのに、息はぴったりと合って
一つの音楽を作り出している。
「ギターの藤本美貴!」
美貴のギターの音だけが体育館に響き渡る。
- 654 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:09
- 素早くも丁寧、かつ、よく響かせるという力技は、美貴でなければ難しい。
一つ一つの音に感情を込めて弾く、これは絵里達に習ったものだ。
愛達と出会うまで一人で弾いていたギターも、このような場では
一人で弾いても寂しくない。
誰かに見せられる、聴かせられることに喜びを感じていた。
「最後に、ボーカルの高橋愛がお送りしました!いっくでーっ!」
再び四人での音が混じり合い、愛が歌い始める。
サビの部分が終わるあとに、愛が手を振るパートでは、
何人もの観客達が愛に合わせて一緒に手を振るっていた。
一人、また一人と次々と手を振る者が出てくる。
体育館全体が一つになった気分だ。
- 655 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:10
- 歌が終わると、これまでにないほどの声が上がってくる。
愛達は手を振って裏へと去って行く。
だが、最後に歩いていた美貴が突然振り返ってステージに立つ。
「(やばやば、飯田さんとの約束忘れるとこだったよ。)」
マイクを持って観客達を見渡した。
「皆さん、聴いてくれて本当にありがとうございました!美貴達はライブハウス、
タンポポというところでよくライブしているので、よければきてくださいね♪」
美貴の言葉に、再び歓声が鳴り響いていく。
美貴は笑顔で手を振ってステージから降りていった。
誰もいないステージにも関わらず、その後も歓声は鳴り止むことはなかった。
- 656 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:12
- 美貴達がいない今でも、ステージに向けて声を出してくれている人達がいる。
それを美貴達は嬉しそうにして聞いていた。
「美貴ねえ、最後のはなん?」
「ああ、飯田さんに機材を借りる代わりにさ、タンポポの
宣伝してくれって頼まれたんだよ。」
「そうなんですか〜。それにしても、何か思った以上に楽しかったですね!」
「すっごい興奮したっちゃよ!」
「最後までちゃんと弾けて、みんなが聴いてくれててよかったよ〜。」
「ね、やってよかったでしょ?」
美貴の言葉に、愛を除く絵里達は大きく頷いた。
愛はというと、先ほどから下を向いたままだった。
「愛ちゃん、どうしたの?」
美貴が下から覗き込んで聞いた。
「うあーっ!」
愛は勢いよく首を振り上げると、美貴に抱きついた。
- 657 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:13
- 「あ、愛ちゃん!?」
「ヒュ〜、美貴ねえ熱いっちゃね〜。」
「こんなところで大胆なの。」
「できれば、絵里達のいないところで・・・って?」
美貴から離れた愛は、今度は絵里に抱きついた。
同じようにして、さゆみ、れいなと順々に抱きついた。
「あの〜、愛ちゃん・・・?」
愛の突然の行動に誰も理解できない。
「終わったやよー!やっばいわ、緊張しすぎてやばかったがし!
でも楽しかったし、本当に気持ちよかったー!」
愛は子供のように無邪気に笑って、周りを跳びはねている。
「・・・愛ちゃん、どうしたんでしょう?」
「たぶん、興奮しすぎてタガが外れたんだろね。放っておいてあげよう。」
嬉しそうにはしゃぐ愛を、美貴達は優しい目で見ていた。
- 658 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:14
- それからしばらくして、愛の興奮も収まり、美貴達は自分達の教室に戻っていった。
歩いている途中に、ライブを見ていた人達に色々と声をかけられた。
高校の中ではこのような経験のない愛は、恥ずかしそうにして
頷くことしかできなかった。
それでもずいぶんと成長したと美貴は思う。
絵里達も同じようにして声をかけられているのを見た。
これならきっと、学校で上手くやっていけるはずだ。
美貴達が教室に戻ると、クラスから歓喜の声が上がった。
「ミキティ、こっちは終わったよ。」
机の上でうな垂れていた真希が、美貴達に近づいてそう言った。
- 659 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:16
- 「そうなんだ。思った以上に売れたんだね。」
「売れたなんてもんじゃないよ。予定の倍以上売れてさ、
すごい疲れた。」
「そっか、お疲れ様だね。美貴達のこと見ててくれた?」
「もちろん。面白かったよ〜。」
愛が二人の話しを聞いていると、後ろから肩を叩かれた。
そこには、クラスメイトが二人立っていた。
話したことはなく、一応知っている程度だったので、
愛は不思議そうにその二人を見つめる。
「高橋さん、このあと空いてたら打ち上げにいかない?」
「えっ・・・私が?」
「そうだよ。一緒にいこうよ!」
愛は口を開けたまま固まった。
- 660 名前:アイデンティティ 投稿日:2006/01/25(水) 00:19
- 「色々と話し聞かせてよ。ライブの話しとかさ。」
「高橋さん、訛ってたんだね。その方が可愛いのに。」
「すっごい歌上手なんだね〜。私、感動しちゃった!」
周りからも囲まれて、愛はキョロキョロと首を動かして戸惑っている。
初めて話すクラスメイト達に、どう対応したらいいのかわからなかった。
愛が気付いた時には、美貴も同じようにしてクラスメイト達に囲まれていた。
そんな中、一度だけ美貴と視線が合う。
美貴は笑顔で首を頷けた。
「・・・うん。あーしも行くがし。」
興奮しているわけでもなく、愛は訛って返事をした。
「本当に?じゃあ、高橋さんも参加でよろしくね〜。」
たくさんのクラスメイトと話している愛を見て、美貴は口元を緩める。
これからもこんな日々が続くといい、そう心から想っていた。
- 661 名前:konkon 投稿日:2006/01/25(水) 00:20
- 更新しました〜。
文化祭編終了!
次回は体育祭に突入で〜す♪
- 662 名前:konkon 投稿日:2006/01/25(水) 00:26
- >>774飼育さん
ありがとうです!
ライブはこんな感じになりました〜。
いかがなもんでw
>>名無し飼育さん
ん〜、まぁ、いい感じだと思いますよ(謎)
こんなペースで続けていきたいと思います。
>>哀さん好きの名無しさん
そう言っていただけるととても嬉しいです。
そのように思われるような話しを今後も書いていける、か、な・・・(汗)
>>ハラポワさん
high bredge大暴れですw
ライブとかの本番前って緊張ばっかだと大変ですからね〜。
ミキティが緩和剤ですw
>>初心者さん
五十歩百歩ですね〜。
さ、作者はもちろん知ってますよ!
そこまでバカでは・・・orz
愛ちゃんも負けてばかりじゃいられませんからね♪
- 663 名前:774飼育 投稿日:2006/01/25(水) 00:52
- 良かったですよぉぉ
マスマス続きが読みたくなりました
更新お疲れ様でした
- 664 名前:桜娘 投稿日:2006/01/25(水) 02:16
-
更新お疲れ様です
文化祭大成功でよかったです。
これからの愛ちゃん・亀ちゃん・重さん・れいなが
どうなっていくのか楽しみです。
これからも待ってま〜す
- 665 名前:ハラポワ 投稿日:2006/01/26(木) 01:31
- 1曲歌うごとにボルテージが上がっていく観客の様子が最高でした!
自分も同じようにワクワクしちゃってましたよ。
high bredgeのみんなはこれから慌しくなりそうですね、ファンクラブとかできちゃったりしてw
- 666 名前:初心者 投稿日:2006/01/26(木) 02:35
- 更新お疲れ様です
よかったです、メンバーの頑張りはもちろん
先生やごっちん紺ちゃんの協力は素晴らしいなぁ
でも今回の終わり方がちょっと気になります・・・・
次回更新楽しみに待ってます
- 667 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/01/28(土) 11:01
- 更新お疲れ様です。
high bredgeはうまくバランスがとれていて微笑ましいですw
これもメンバーや周りの人達のおかげでここまでこれたんですね。
次回も楽しみにしてます!
- 668 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:04
- 文化祭から二日後の朝、愛はいつも通りの時間に目を覚ました。
一日休んでこの日は体育祭である。
天気予報では、気温は少し暑くなるも一日晴れのようだ。
今まではどうでもいいと思っていたが、今の環境から考えると楽しみで胸が弾んでいる。
それも全部、隣で寝ている美貴のおかげだ。
そこで、愛は異変に気付いた。
美貴の寝息が普段よりも荒い。
「美貴ちゃん・・・?ねぇ、美貴ちゃん!」
美貴の体を揺さぶり起こす。
「ん〜、もう朝か・・・愛ちゃん、おはよ。」
眠そうな表情で美貴は起き上がる。
愛はじっと美貴の顔を見つめる。
- 669 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:05
- 「愛ちゃん、美貴が好きだからってそんなに見つめなくても・・・。」
「体調、悪くないんか・・・?顔が赤いやざ。熱でもある?」
美貴の額に手を伸ばそうとしたが、直前で手を掴まれる。
「そりゃ赤くなるよ。愛ちゃんが目の前にいるんだもん。」
「ちょっち待ってて。体温計持ってくるけ。」
愛は立ち上がって救急箱を取りに行った。
「もう、愛ちゃんも少しは突っ込んでくれないかな〜?美貴がれいな達に
いつも突っ込んでるんだから、美貴には愛ちゃんがやってくれないとさ。」
「はいはい。」
「軽く流したね・・・それにしてもさ、やっぱり愛ちゃんが
訛ってると落ち着くね。その方が愛ちゃんらしくて可愛いよ♪」
愛は文化祭が終わってから、標準語で話すのをやめた。
ありのままで自分でいることに、自信が持てたからだ。
- 670 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:06
- 「別にそんなこと・・・何しとるんや?」
救急箱から体温計を取り出して、美貴のところへと戻ろうとしたのだが、
美貴はいつの間にか冷凍庫を開けてそこに立っていた。
「暑いから涼んでるの。気持ちいいよ〜。」
「ほらっ、こっちにくる。熱を測るやよ。」
美貴はソファの上に座って、愛の差し出した体温計を口にくわえる。
「あいひゃんほひんはいひょうひゃね。ひひはひゃいひょふはっへ。
(愛ちゃんも心配性だね。美貴は大丈夫だって。)」
「だめや。熱があったら体育祭にも出さんよ。」
「ひょんひゃ〜・・・。(そんな〜。)」
誰もが楽しみにしていた体育祭、その中でも最も楽しみにしているのは美貴だろう。
この数年間、文化祭同様に出たことのなかった体育祭、今年が最後のチャンスで
あることから美貴ははりきっていた。
- 671 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:07
- それをわかってはいても、愛は止めるだろう。
美貴のことが心の底から大切だと思っているから。
体温計の音が鳴る。
愛は美貴の口から体温計を取って、それを調べる。
「35度4分・・・。」
「ほらね、大丈夫だって言ったでしょ。」
美貴は嬉しそうにそう言った。
「でも、寝息が荒かったがし、顔色やって・・・。」
「昨日の夜も、ごっちん達と遅くまで練習してたからね。
ちょっと疲れてただけだよ。心配してくれてありがとね、愛ちゃん。」
美貴は優しく愛の頭を撫でた。
愛は恥ずかしそうにして顔を反らす。
それから、二人は学校に行く準備をして家を出て行った。
- 672 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:08
- 朝比奈学園では、1〜3号棟ごとに三日間に分けて、クラス対抗で行われる。
まず第一日目となるのは、1号棟にいる美貴達だった。
一年から三年まで合同で、8つあるクラスごとに分けられ、
種目ごとの得点合計で優勝が決まる。
各種目は人数規定だが自由意志で決まり、何回出ることも可能だ。
美貴と真希は全ての競技に参加する。
真希もまた、美貴とはまた別の理由だが、体育祭に出ることが
なかったためにやる気を出していた。
朝のSHR、開会式と終わり、美貴達は競技の準備に取り掛かる。
最初の競技は100M走、前の列には一、二年、美貴のクラスからは後ろから順に
真希、美貴、愛と並んでいる。
あさ美は長距離には絶対の自信はあるものの、短距離は苦手なので出ないようだ。
- 673 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:09
-
ドンッ!
最初のスタートの合図が鳴って、各走者が一斉に走り出す。
それなりに足の速い生徒が走っている中で、群を抜いてゴールした生徒がいる。
美貴の隣のクラスにいる亜弥だった。
「イエーイ!」
亜弥は嬉しそうにして飛び跳ねている。
周りから歓声が沸く。
さらに、亜弥のクラスであるあさみ、まい、みうなの三人も、
次々と一位をさらっていく。
「やばいね、こりゃ・・・。」
「そりゃ、あの三人はバスケ部の中でも足が速い方だもん。当然でしょ。」
「ごっちん、何を胸張って言ってるのさ!今は敵なの。
愛ちゃん、美貴達もがんばろうね!」
「うん・・・。」
美貴の言葉に、愛は苦笑いを浮かべて頷いた。
- 674 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:10
- 「ほらっ、自信のない顔しないの。紺ちゃんから聞いたけど、陸上部から
スカウトされたことがあるくらい、速いんでしょ?」
「それほどでもないんやけどね・・・。」
愛は隣に座る生徒に目を向ける。
その生徒は、愛に気付いてとびっきりの笑顔を見せる。
「愛ちゃん、どうかしましたか?」
「絵里が相手なんて、運が悪いやよ・・・。」
愛は小さくため息をついた。
美貴と真希は、不思議そうな表情をして絵里を見る。
前の走者が走り終えて、いよいよ愛の番となる。
周りから大きな声援が聞こえる。
文化祭のライブ以来、美貴達のファンが急増したために、愛と絵里が出る
このレースには、何人もの生徒達が興味を示していた。
- 675 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:11
-
ドンッ!
各走者が一斉に走り出した。
愛は好スタートを切ったはいいが、絵里がぴったりと愛の隣についていた。
他の生徒とはレベルが違う二人だけど、途中で絵里のスピードがさらに上がり、
愛を突き放した。
そして、絵里が一位でゴールを通過した。
少し遅れて愛が二位となる。
「ハァッ、ハァッ、絵里、速い・・・。」
「・・・ふぅ、まだまだ愛ちゃんには負けませんよ〜。」
絵里は笑顔を崩さずにそう答えた。
- 676 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:11
- 「やばっ、愛ちゃんまで負けちゃったよ・・・。」
「亀井ちゃん、足速いんだね。バスケ部に誘ってみるかな。」
「バカッ、絵里にはhigh bredgeがあるんだから、余計なことしないでよ。
それより、絵里も亜弥ちゃんと同じクラスだからけっこうやばいね。
せめて、美貴とごっちんだけでも勝たなきゃね。」
そう言って、美貴はスタートラインに向かっていく。
その姿を愛はじっと見つめている。
美貴達の相手の何人かは、陸上部だとあさ美から聞いている。
スタートの合図と共に、美貴が猛スピードで走り出した。
「お〜、藤本さん速いですね〜。」
「・・・そうかな?」
絵里の言葉に、愛は小さく呟く。
- 677 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:12
- 「(美貴ちゃんは、もっと速いはずなのに・・・。)」
その呟きが絵里に聞こえることはなかった。
陸上部達を相手にしても、美貴はその一歩先を走ってゴールした。
それでも愛の心に不安が残る。
「愛ちゃん、見ててくれた?美貴、一位だったよ!」
「うん・・・おめでとう。」
「もっと嬉しそうにしてよ〜。美貴だってがんばったんだよ。」
ドンッ!
ピストルの音で美貴達は振り向く。
そこには、陸上部達を大きく引き離し、圧倒的速さでゴールまで
駆け抜けていく真希の姿があった。
生徒達は歓声を上げようにも、むしろあまりの速さに驚いて静まっていた。
- 678 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:13
- 「今の後藤さんのタイム、誰か測った・・・?」
「わかんない・・・でも、プロ並の速さだよね。」
少しして、ようやく盛大な歓声が沸き起こった。
真希は小さく笑って周りに手を振っている。
自陣に戻った真希は、クラスメイトからいくつもの褒め言葉をもらったあと、
美貴達のいる元へと近づいた。
「後藤さん、お疲れ様です。」
「さっすがだね〜、真希ちゃん♪」
「変な呼び方しないの。それにしても、ミキティはどうしたのさ?
あれがミキティの全力だっけ?」
「美貴は誰かさんと違って、周りを楽しませる方法を身に付けてるの。
だからわざと接戦してたのだ。」
「悪趣味だね〜。」
愛は黙って楽しそうに話している美貴を見ている。
美貴の言葉が真実であることを信じて、気にしないことにした。
- 679 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:13
- 次の競技は玉入れだ。
それぞれのクラスの生徒達が、籠に向けて玉を放り投げていく。
どのクラスも玉の入れ数は似たようなものだろう。
ただし、それではいけなかった。
亜弥のクラスには100M走でかなりの差をつけられているので、
少しでも多く入れなければならない。
『残り時間、1分です。』
アナウンサーの言葉と同時に、真希は美貴達を振り向く。
「紺野、ミキティ、高橋、作戦決行だよ!」
「はい!」
「OK!」
「わかったがし!」
美貴と愛は走り出し、落ちている玉を拾っては真希達の元へと放り投げていく。
一方の真希とあさ美は、放り投げられた玉を交互に積み重ねる。
- 680 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:14
- 「紺野、いける!?」
「いけます!」
二人は、積み重なった玉をフリースローの要領で投げ入れた。
シュッ!ドサッ!
玉の積み方を俵積み、そしてフリースローに似た投げ方は拝み投げと呼ばれるものだ。
プロも使っているこの技を使えるのは、バスケで生きている二人がいるからこそだった。
それを見た周りの生徒達は、感嘆の声を上げている。
同時に、美貴達と一緒に玉を真希の元へと運んで積み上げる。
真希達は玉を次々と籠の中に入れていく。
時間終了時には、ほとんどの玉を入れていた。
- 681 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:15
- 「ちょっと〜、ごっちん達ずるくない!?」
亜弥が不満そうな表情で近づいてきた。
「玉入れの大会では使われてるんだから、問題ないよ。」
「む〜、ごっちんは絶対に私が倒してやる!」
亜弥は頬を膨らませて自陣へと戻っていった。
「ごっちんも大変だね〜。」
「やれやれ・・・。」
玉入れの結果では、美貴のクラスが大量得点を決めて、亜弥のクラスに追いついた。
それから綱引き、障害物走と続いて昼休みとなった。
美貴達はお馴染みのメンバーでシートに座る。
この日の弁当は、真希が作ってくれるということで美貴達は何も持ってきていない。
真希は大きめな弁当を二つ、自分達の前に差し出した。
弁当箱を開くと、あさ美は目を輝かせて中身を凝視した。
- 682 名前:どんなときも 投稿日:2006/01/28(土) 21:16
- 「うわ〜、美味しそう・・・。」
「フフッ、遠慮せずに食べてよ。」
「いただきま〜す!・・・うん、美味しいです!」
「ほらっ、ミキティと高橋も食べてよ。」
「うん・・・。」
美貴は苦笑いをして頷いた。
「どうかしたの?後藤の料理を食べたくないわけ?」
「そんなことはないんだけどね、思った以上に疲れちゃって・・・。」
「あーしも・・・。」
愛も美貴と同じように食が進まないようだ。
「食べすぎも悪いけど、午後からも動くんだから少しでも食べなきゃだめだよ。」
「後藤さんのお弁当、すごく美味しいよ。」
「それはよく知ってる・・・うん、そうだね。」
「後藤さん、いただきます。」
美貴と愛もゆっくりと弁当に手をつける。
それでも、普段よりも食べなかった二人を見て、真希は少し落ち込んだ。
勝負は後半戦へと移る。
- 683 名前:konkon 投稿日:2006/01/28(土) 21:16
- 更新しました〜。
- 684 名前:konkon 投稿日:2006/01/28(土) 21:23
- >>774飼育さん
よかったですよね〜(爆)
まだまだ続きます♪
ご期待を・・・。
>>桜娘さん
今後もいろいろと活躍してくれるはずです・・・(謎)
P.S.できればミキティも入れてあげてくださいw
>>ハラポワさん
自分もライブとかに行くとそんな感じですね。
徐々に上がっていくテンション、たまったもんじゃねぇw
忙しくなってきましたよ、俺の仕事が・・・(泣)
>>初心者さん
周りが助けてくれるから自分がいるそう想うとかっこいいですね。
今までのミキティ達からすると嬉しいでしょうね〜。
終わり方・・・なんか、気になる点でもありましたか・・・(汗)
>>哀さん好きの名無しさん
愛六は最強だと想ってるんでw
何気にバランスのいい五人ですよね〜。
惚れちゃいます(爆)
- 685 名前:ハラポワ 投稿日:2006/01/29(日) 01:20
- 愛ちゃんが自然体で居られるようになって良かったです
玉入れでのごまこんはさすがですなw
ミキティは大丈夫なんでしょうか ドキドキしながら待ってます
- 686 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/01/29(日) 14:12
- 更新お疲れ様です。
役割が自然と決まっていますね。
落ち込んだ真希ちゃんキャワワ(´д`*)
毎日このスレを見るのが日課になってます〜
次回も楽しみにしてます!
- 687 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/02(木) 23:51
- 午後の最初の競技は、騎馬戦である。
各クラスから騎馬を5つ、校舎の中心からクラスを二つに分けて、
計120もの騎馬が激突する。
美貴達のクラスは東側で、亜弥や絵里、さゆみ、れいなのクラスは西側である。
あさ美達の騎馬では真希、美貴達の騎馬では愛が乗っている。
予定では美貴が上に乗るつもりだったのだが、
『騎馬戦か・・・あーしもやってみたいわ。』
愛のこのたった一言で、美貴は即座に代わったのだ。
美貴にとっては愛の言葉が最優先、何よりも前日の文化祭で認められているので、
クラスメイト達も納得した。
- 688 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/02(木) 23:53
- 今回の騎馬戦では、各クラスの担当教師も参加することになっている。
美貴のクラスからは、
「おっしゃ〜!どっからでもかかってこいよ!」
裕子は体育祭のまとめ役を引き受けているために、真里が出ることになっていた。
「愛ちゃん、緊張しないでどんどん攻めようね!」
「わかっとる。美貴ちゃんこそ、よろしく頼むね。」
「任せてよ!」
美貴は嬉しそうに腕を振り上げた。
愛は真剣な表情ではちまきを絞め直し、前にいる敵を見据える。
美貴達の隣では、真希達が話し合っている。
「後藤さん、まず頭に入れなければいけないことは、私達が誰よりも
狙われやすいということです。そこを理解してくださいね。」
「そうなの?それだけ甘くみられてるってこと?」
下を向いている真希に、あさ美は静かに首を横に振って真希を見上げる。
- 689 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/02(木) 23:53
- 「いいえ、その逆です。ミキティが馬になっているために、一番強いのは
後藤さんだと思われているでしょう。だから、一番強い騎馬を落とせば
士気が格段に下がり、倒しやすくなる。それは恐らく現実です。」
「なるほどね。んで、後藤達はどうする?」
「私が早い段階で指示を出します。その通りに動いてください。」
「OK、それでいこう。」
真希とあさ美は、顔を合わせて頷き合う。
各自それぞれ動きやすい場所へと移動する。
『位置について、よーい』
ドンッ!
ピストルの音で一斉に飛び出し、まるで地震のような地鳴りが響く。
- 690 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/02(木) 23:54
- あさ美の予想通り、真希達に三騎ほど向かってくる。
あさ美はじっと周りと向かってくる騎馬を見つめる。
「後藤さん、まずは右側に味方がいるので、そちらに逃げ込みます。
最初に向かってくる騎馬を倒しつつ、他の二騎は周りと協力して
順々に倒しましょう。」
「了解!」
あさ美は向かってくる騎馬を、振り切らない程度のスピードで逃げ始める。
真希に追いつこうと三騎の騎馬は向かってくる。
しばらく逃げていると、周りからの援護が始まる。
その隙にあさ美は振り返り、向かってくる騎馬に前を向ける。
現状では一対一、他の二騎は仲間達と戦っている。
「後藤さん、顔に傷つけてはだめですよ。」
「大丈夫、ちゃんと手加減するよ。」
あさ美は敵騎に向かって走り出す。
- 691 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/02(木) 23:56
- ぶつかる瞬間、相手側が真希に手を伸ばす。
その手を真希が掴み取り、少しだけ引き寄せる。
敵がバランスを崩した隙に、真希ははちまきを奪い取った。
「やりましたね、後藤さん!」
「うん!まだまだいくよ!」
知能においては真希の右に出る者はいないが、戦略という点では
あさ美に敵う者はいない。
「後藤さん、後ろからきてます!」
「OK!」
すぐに後ろを振り向いて、真希がはちまきを奪う。
どの位置に敵がいるか、あさ美は一定の間合いであれば
きちんと把握している。
- 692 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/02(木) 23:58
- バスケにおける参謀、バスケットコートレベルの範囲なら、
全てを見極められる洞察力、それに加えて真希の力と動体視力があれば、
まさしく最強の騎馬だった。
真希達は次々と敵のはちまきを奪っていく。
一方で美貴達はというと、
「愛ちゃん、いい加減前向いてよ!」
「やって・・・怖いんやもん。」
敵騎から追われて逃げていた。
最初の威勢はどこへいったのか、愛は怯えた表情でそう答える。
初めて対峙した敵騎は、亜弥のクラスのあさみだった。
彼女のなりふりかまわぬ攻撃に恐怖を覚え、その馬であるみうなに追いかけられ、
愛の戦意が失せていた。
そこからは混戦の中、ずっと逃げ続けている。
- 693 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:00
- 「あ〜、もう!逃げてばっかじゃ勝てないでしょ!」
「そんなこと言われても・・・。」
横から一騎、美貴達に向かってくる。
「美貴を殴る気力はどこいったのよ!負けてもいいから、戦ってよ!」
美貴は逃げるのをやめて敵騎を振り向く。
「えっ、ちょっ、美貴ちゃん・・・。」
「一人で戦ってると思わないで。美貴も力になるから。」
「そうだよ、高橋さん!」
「がんばって倒そうよ!」
後ろの二人も美貴に続く。
愛は、震える腕を握り締めて敵を向く。
敵の腕が伸びてくる。
- 694 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:01
- 「美貴ちゃん!」
「OK!」
普段なら避けられない位置だ。
しかし、美貴は咄嗟に左に動き、愛もまた信じられないほどの柔軟で体を捻り、
伸びてきた腕から逃れる。
そして、下から腕を上げてはちまきを取り上げた。
「ハァッ、ハァッ、ハァッ・・・。」
「愛ちゃん、やったじゃん!体すごい柔らかいんだね。」
「うん、昔に少しだけバレエやっとったからね・・・。柔らかくなきゃ
ダンスも踊れんし・・・。」
「愛ちゃん、美貴達がついてるからさ。一緒に戦うよ。」
「・・・うん。期待しとるよ。」
愛は少しだけ笑みを浮かべて、小さく頷いた。
- 695 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:02
- その後、少しづつ騎馬の数が減っていく。
三分の一を超えた辺りでも、美貴達はまだ勝ち残っていた。
「ヤァッ!」
愛は上手く体を押し込んで、敵騎からはちまきを奪い取る。
「やった・・・美貴ちゃん、これで三つ目・・・。」
「愛ちゃん!前見て!」
愛が下を向いている隙に、目の前から敵が迫ってきていた。
このままでは間に合わない。
その時、敵のはちまきがスルリと取られた。
「高橋、油断は禁物だよ。」
さらに敵の後ろ側には、真希達の騎馬が立っていた。
- 696 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:03
- 「ごっちん!助かったよ〜。ごっちん達はいくつ取ったの?」
「んと、今ので十個目だね。」
「へ〜、さすがだね・・・。」
「おりゃーっ!」
聞き覚えのある声に、美貴達は振り向いた。
そこでは、真里とれいなの一騎打ちだった。
「田中!少しは先生に気を遣って、負けてくれてもいいんじゃないのかよ!?」
「英語の点数上げてくれたら、考えんこともなかよ。」
「んなことできるか!このっ、生徒の見本である教師が、絶対負けるか!」
「関係あるとね、そんなこと・・・。」
「可愛い方が勝つって決まってるの。」
れいなの馬になっているさゆみがそう言った。
- 697 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:04
- 「だから、矢口先生に負けるなんてありえないの。れいな、がんばって!」
「はいよ。」
「こいつら〜、なめんじゃねぇぞ!」
真里は怒った表情でれいな達に突っ込んでいく。
「(やぐっつぁん、大人気ないよ・・・。)」
「(矢口先生は味方だけど、今回ばっかはれいなに勝ってほしいな・・・。)」
戦っているれいな達を見て、美貴達はそう思った。
「さてと、後藤達は右に行くけど、ミキティ達はどうする?」
「愛ちゃんがけっこう疲れてるからね、少し休ませてからいくよ。」
「そっか。んじゃ、がんばってね。」
そう言って、真希達は右の方へと向かっていった。
- 698 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:05
- 「愛ちゃん、まだいけそう?」
「平気やよ・・・それより、くるよ。」
愛が見ている方を向くと、何度も息を吐き出しているれいな達が立っていた。
どうやら真里との戦いはれいなが勝ったようだ。
れいなの睨みつけるような視線に、愛は目を反らすことなく受けている。
「愛ちゃん、勝負っちゃよ!いくらバンド仲間といえど、手加減はせんと!」
「れいな、受けて立つよ。美貴ちゃん、行って。」
「大丈夫?れいなは運動音痴だけど、騎馬戦だけは得意だって言ってたよ。」
「あーしは平気やよ。美貴ちゃんこそ自信ないんか?」
「あるっちゃあるけど・・・正直やりにくい。」
美貴は顰めた表情をして呟いた。
- 699 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:06
- 「やりにくい?」
「だってさ、れいなの馬ってさゆだよ。もしぶつかったりして
さゆの顔に傷つくようなことがあったらさ、どうなると思う?」
「・・・殺されるかもね。いや、確実に殺されるわな。」
愛は苦笑いをして答える。
「短期決戦でよろしくね。」
「やってみるがし。いくよ!」
美貴達は、れいなの騎馬に向かって走り出した。
同じ頃、
バババババッ!
もの凄い乱打戦を打ち広げている二つの騎馬があった。
- 700 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:07
- ぶつかっているのは、真希と亜弥だ。
亜弥の光速の腕が真希に向かって伸ばされる。
それを横に弾いて手を伸ばす。
亜弥は真希の手を避けて、今度は反対の腕を伸ばしてきた。
真希は後ろに体を引いて避ける。
周りには敵味方両軍の騎馬がいるが、誰一人として近づくことができない。
それほどまでに、騎馬戦とは思えないほどの覇気で二人は戦っている。
「後藤さん、一度引いて下さい!」
「ちっ・・・。」
真希が手を止めると、あさ美は後ろに騎馬を下げた。
「あとちょっとなのにな〜・・・。」
「亜弥ちゃん、落ち着いて。ごっちんはそう簡単には落とせないからね。」
亜弥の馬になっているまいが亜弥を抑える。
あさ美とまいは向き合って、真剣な表情をして考え込む。
- 701 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:07
- 「(まいちゃんか・・・やっぱり力で押してくるかな?)」
「(紺ちゃんならどうくる・・・?あの子の発想は思いがけないから
気をつけなきゃ・・・。)」
お互いの心情を探る中、あさ美は一つの決断をした。
「後藤さん、私が隙を作ります。あとはお願いします。」
「・・・わかった。頼むね。」
真希と亜弥の騎馬がぶつかり合う。
再び、二人の攻防が続くと思われた。
だが、次の瞬間、あさ美は力強くまいにぶつかった。
「キャッ!」
「えっ!?ちょっと・・・。」
予想外の行動にまいはふらついて、亜弥のラバンスも崩れる。
今ならば取れる、そう思った真希は、亜弥のはちまきに手を伸ばす。
- 702 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:08
- 「まっつー、もらったよ・・・!?」
「エイッ!」
あと少しというところで、真希のはちまきが後ろから取られた。
驚いて振り向くと、そこにはニコニコと笑っている絵里がいた。
「えへへ〜、取っちゃいましたよ♪」
「いつの間に・・・。」
真希は全く反応できなかった。
辺りに注意を配っているあさ美ですら気付かなかった。
亜弥との戦いに集中しすぎたというのもあるが、何よりも存在感が薄かった。
近くにきても気付かないほど、絵里に気配を感じなかった。
- 703 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:09
- 「イエーイ!後藤さんのはちまき取りましたよ〜。」
絵里は笑顔で亜弥と手を合わせる。
「よくやったよ。それにしても、幸が薄いだけじゃ止まらずに、
存在感も薄いなんて絵里にしかできないよね。」
「え〜、髪型変えたら明るくなったはずなのに〜。」
「もっと明るめの色にしたら?今度私がやってあげるよ。」
騎馬から降りた真希は、遠ざかっていく亜弥達の姿を呆然として見つめていた。
一方、真希達ほどではないが、愛とれいなも手を出し合っていた。
ドラムをやっているれいなに、力では勝てない。
かといってスピードで勝とうにも、思った以上に素早い反応で避けられる。
頭を使わないれいなの戦い方は、単純かと思いきや逆にがむしゃらで読めない。
援護をしたい美貴も、目の前にさゆみがいると無茶ができずに自由には動けない。
- 704 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:10
- 「愛ちゃん、そろそろ終わりですと!」
「ハァッ、ハァッ、言ってくれるね・・・まだまだやられんわ!」
れいなの腕を横に弾いて、すぐに腕を前に出す。
それをれいなに掴まれて引き寄せられる。
振り解こうにも振り解けない。
「やばっ・・・。」
「これでっ!」
避けられない、そう思った瞬間、美貴の体が沈んで愛の体が前に倒れる。
「えっ・・・?」
予想もできない行動に、れいなの腕がすり抜ける。
逆に愛は、掴んでいるれいなを利用して、バランスをとって
れいなの頭に手を当てる。
- 705 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:11
- 「もらったやよ!」
「あっ・・・。」
れいなのはちまきが愛の手に渡る。
愛は嬉しそうに笑って拳を握り締める。
「美貴ちゃん、やったね・・・!?」
美貴の体が前に沈んで倒れ込む。
美貴に身を寄せていたために、愛は地面に降り立ってしまった。
ルール上、失格である。
「ごめん、やっちゃった・・・。」
美貴は渋い顔をして愛に笑いかける。
「美貴ちゃん・・・どうしたの?」
「いや、れいなをどうやったら倒せるかな〜って考えてたらさ、
ついぼーっとしちゃってね・・・本当にごめん!」
地面に頭をつけるような勢いで、美貴は頭を下げた。
- 706 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:11
- 「・・・気にせんでええよ。美貴ちゃんに何事もなくてよかったわ。」
「愛ちゃん・・・あとで挽回するからさ、見ててね!」
「うん。待ってるよ。」
美貴達は自分の陣地へと下がっていく。
「あ〜あ、愛ちゃん思った以上に強かったな〜。仕方ないか。
れいな、戻ろう。」
「・・・。」
「れいな、どうかしたの?」
さゆみが話しかけても、れいなはじっと美貴を見つめたまま動かない。
「美貴ねえ、何かあったんやろか?いつもと違う感じやと。」
「そう?さゆみにはわかんなかった。気のせいじゃない?」
「・・・そうやとね。あの人に何かある方がおかしいっちゃ。」
れいなは自分の言葉に少し笑い、さゆみと手を繋いで陣地に戻っていった。
- 707 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:12
- 更新しました〜。
- 708 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/03(金) 00:15
- >>ハラポワさん
こんごまは最強ですからw
ハロモニでやってた感じで圧勝ですね♪
自分もドキドキして更新してます(爆)
>>哀さん好きの名無しさん
お〜〜〜!
ありがとうございます!
そのようなことを言われるとは、自分も精進して
がんばらなきゃいけませんね!
続きご期待ください!
- 709 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 00:24
- 美貴たんどーしたんだぁ?
何があったんだ?
気になるよー
- 710 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/02/04(土) 13:18
- 更新お疲れ様です。
存在感薄い絵里キャワワ(´д`*)
ミキティ大丈夫かな?
次回も楽しみに待ってます!
- 711 名前:ハラポワ 投稿日:2006/02/06(月) 00:08
- 騎馬戦でも最強じゃないですか、こんごま!w
ミキティ大丈夫なんですかねー
さゆれなの会話が結構好きだったりします
- 712 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:03
- 騎馬戦が終わり、次にフットサルの試合が始まった。
試合方法はトーナメント方式で、今は準決勝の試合が行われている。
美貴のクラスは一回戦を突破し、最大の難関、亜弥のクラスと激突している。
この試合で勝たなければ、美貴達の優勝は消えてしまう。
亜弥のクラスには、美貴に並ぶ運動能力を誇る亜弥に、バスケをやる前は
フットサルをやっていたというあさみ、まい、みうなの三人がいる。
対する美貴、真希、キーパーのあさ美の三人は、フットサルの経験はない。
他に二年からも二人ほど出ているが、それほど上手いわけではなさそうだった。
それでも、美貴や真希の頑張りによって、勝負は互角に展開している。
ボールをもった美貴の元に、みうながディフェンスに入る。
「このっ!」
「よっと!」
美貴はボールを跨いでフェイントをかけて、みうなの横を抜いていく。
- 713 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:04
- 「もらった!」
美貴の強烈なシュートがゴールに向かう。
バシッ!
ゴールとの間に亜弥が割り込んで、ボールを弾き返した。
「美貴たん、やらせないよ!」
「ちっ、けどチャンスはまだこっちにある。」
跳ね返ったボールは真希の足元へと転がっていく。
そこにまいが立ち塞がる。
「ごっちん、ここは通さないよ。」
「それは困るんだな〜。悪いんだけど、先行くよ。」
真希が前にボールを転がす。
そこにすかさず、まいが足を出す。
- 714 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:05
- 次の瞬間、
フワッ
足の甲と踵でボールを挟み込み、真上に放り上げる。
同時に、真希はまいの横を駆け抜けていく。
ボールは扇状を描いてまいの後ろに落ち、そこに走り込んだ真希が拾う。
ヒールリフトと呼ばれる高度なテクニックだ。
まいは全く反応できなかった。
真希は、突っ込んできたキーパーまでも華麗に飛び上がって避けると、
シュート体制に入る。
「渡さないって言ったでしょ!」
「まっつーっ!?」
横から出てきた亜弥の足と、真希のシュートとぶつかった。
- 715 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:06
- 力勝負では真希に分があったようで、力でシュートをねじ込んだ。
だが、その分コントロールができなかったようで、
ガンッ!
ボールはゴールポストに跳ね返された。
「このボール、誰か・・・!?」
打ち上がったボールの正面に舞い上がる一つの影。
美貴のボディシュートがゴールネットに突き刺さった。
周りで見ていたギャラリーから歓声が起こる。
美貴はというと、背中から地面に落ちて倒れた。
「いった〜・・・。」
「ナイスシュート。けど、最後が絞まらないね。」
「ハァッ、ハァッ、ヘヘッ、入ったんだからいいじゃん。」
上から覗き込んだ真希を見て、美貴は嬉しそうに笑って起き上がる。
それでも、肩で息をしている美貴を見て、真希の心に不安が過ぎる。
- 716 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:07
- 「ミキティ、ずいぶんと疲れてない・・・?」
「ハハッ、前半飛ばしすぎちゃったみたい。でもまだまだいけるよ!」
「そう?ならいいけど・・・。」
「ほらほらごっちん、どんどん攻めていくよ!」
美貴の言葉で現実に戻る。
真希は頭をかいて自分の陣地へと下がっていった。
「すごいよね!後藤さんも藤本さんもかっこいいね!」
「やっぱり二人とも天才だよ!」
周りから聞こえる言葉に、あさ美は小さく頬を膨らます。
「(天才って一言で終わらせてほしくないな。後藤さんもミキティも、
すごいがんばったんだから。)」
あさ美はつい先日までの練習を思い出す。
美貴や真希は、この間までサッカーボールに触れたことすらなかった。
- 717 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:08
- そこで、フットサルに出るためにボールを借りて、公園で自主練習をしていた。
最初は全く蹴れなかった二人だが、時間がある時には夜遅くまで、
朝早くから練習に励んでいたために、ボールの扱いにも慣れてきた。
限りある時間の中で、ずっと練習をしてきた二人だからこそ、
ここまで成長してきたといえる。
努力なしの天才などはいない、あさ美はそう考える。
能力に差はあるものの、努力しようとしない人間が天才などと呼ばれることはない。
だから、身勝手に天才と一言で終わらせてほしくなかった。
「(みんな努力して強くなったんだ。そして、私だって!)」
まいのロングシュートを、横に跳んで弾き返す。
詰め込んできたみうなより先に、飛び込んで体を張ってボールを守る。
「紺野、よくやったね!」
「紺ちゃん、ナイスセーブ!」
あさ美は微笑んで頷いた。
- 718 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:09
- 美貴が手を上げてあさ美を呼んだ。
そこへあさ美はロングスローで投げ飛ばす。
ボールは美貴の元へと落ちる直前で、一陣の風がボールを奪い取った。
「亜弥ちゃん!」
「今度はこっちの番だよ。まいちゃん!」
亜弥はまいにボールをパスすると、ゴール前まで走り出す。
ディフェンスは亜弥のスピードについていけず、まいのロングパスが送られる。
亜弥の元にボールがきたときには、あさ美との一対一の状況だ。
あさ美は瞬時に考える。
「(右からはみうなちゃん、亜弥ちゃんならどう動く・・・?
味方は間に合わない。ここは一か八か、飛び込んでみるしかない!)」
あさ美は亜弥に向かって突っ込む。
しかし、亜弥は柔らかくボールを蹴り上げた。
- 719 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:10
- 亜弥の放ったループシュートは、あさ美の体を超えてゴールに向かっていく。
今から振り向いても間に合わない。
「ああっ!」
「これで同点、もう一点・・・!?」
ボンッ!
猛スピードで飛び込んだ美貴が、ボールをヘディングで外に弾いた。
勢い余って美貴はゴールに突っ込んだ。
「また美貴たんに邪魔された〜!」
「ミキティ、ナイスセーブ!」
あさ美は嬉しそうにして美貴に向かう。
- 720 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:11
- 「惜しかったね、まっつー・・・。」
「後藤さん!ミキティが・・・。」
あさ美の方を向くと、美貴が倒れたまま動かない。
真希と亜弥はすぐに美貴の元へと向かう。
美貴は何度も荒い息を吐き出しているが、完全に意識はないようだ。
周りで見ていた生徒達がざわつき出す。
真希はそっと美貴の額に手をつける。
「このバカ・・・。」
「ごっちん、美貴たんは!?」
「・・・悪いんだけど、まっつーとの勝負はまた今度ね。」
そう言って、真希は美貴を背中に背負う。
「どうしたんや!?」
事態に気付いた裕子と真里が駆け寄ってきた。
- 721 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:12
- 「やぐっつぁん、救急車を呼んで。中澤先生は、このまま体育祭を
続けられるように、他の生徒達にミキティは大丈夫だって呼びかけて。」
「藤本、どうかしたのか・・・?」
「ミキティ、熱があるんだよ。これは激しく動いたからじゃない。
ものすごい高熱だよ。後藤も似たような経験があるからわかるんだ。」
「マジかよ・・・。」
「紺野、あと頼むね。後藤は救急車がくるまで保健室に行ってるから。」
「・・・わかりました。ミキティのこと、お願いします。」
真希は校舎に向かって歩き始める。
そこに、愛が心配そうな表情で駆け寄ってきた。
「ご、後藤さん、美貴ちゃんは・・・?」
「高橋・・・ミキティは大丈夫だからさ、心配しないで・・・。」
「あ、あーしも一緒に行く!」
「・・・わかった。ついてきて。」
美貴にとっても愛が傍にいた方が落ち着くだろう。
そう思った真希は、愛と一緒に歩き出した。
- 722 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:13
- あさ美が病院に到着したのは、5時を過ぎた辺りだ。
本当はすぐにでも駆けつけたかったのだが、真希に任された以上、
無事に体育祭を終わらせる義務があった。
体育祭が潰れて一番悔やむのは、他の誰でもない美貴だから。
それをわかっているからこそ、あさ美は冷静にクラスメイトや
他の生徒達に状況を説明して、なんとか体育祭を続けることができた。
コンコン
美貴の病室をノックして、ゆっくりとドアを開ける。
病室では、寝ている美貴の前で不安そうにじっと見つめている愛と、
傍で立ち尽くしている真希がいた。
- 723 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:14
- 「後藤さん・・・。」
「紺野・・・お疲れ様。悪かったね・・・。」
「いえ・・・。」
あさ美はそっと真希の近くに寄る。
「ミキティの具合はどうですか?」
「寝てれば大丈夫だと思うよ。極度の疲労と寝不足だってさ。
それに加えて40度を超える高熱、よくこれで体育祭に出れたもんだよ・・・。」
美貴のこの一月ほどの生活は凄まじかった。
バイトにバンドの練習、自分は手伝えないからと文化祭の準備にも
頻繁に出ていたし、早朝から夜遅くにまで、真希達に付き合って
フットサルの練習もしていた。
顔には出さないものの、初めて自分が参加するイベントに楽しみで緊張しすぎて、
寝れない日もあった。
どれだけ疲れても学校を休んだ日はなかった。
充実している"今"という時間を、一秒たりとも無駄にしたくなかったから。
- 724 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:17
- 「どうして・・・?」
愛は小さく呟いた。
「高橋?」
「あーし、美貴ちゃんの体調悪そうやったから、ちゃんと熱測ったのに、
熱なんてなかったのに、何で美貴ちゃんが倒れとんのや・・・。」
「・・・体温を測る前に、ミキティ何してた?」
その言葉に、愛は朝の様子を思い出す。
「美貴ちゃん、冷凍庫で、顔冷ましてた・・・。でも、それくらいで・・・。」
「・・・違うと思う。たぶん、氷か何かを口の中に入れてたんじゃないかな?
その時って、何度だった?」
「確か、35度4分・・・。」
「ミキティは低温じゃないよ。健康診断の時に見たことあるから、
間違いないよ。」
「そんな・・・。」
愛は悔しそうに自分の手を強く握る。
- 725 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:17
- 「そこまでして体育祭に出たかったんだと思う。でも、一番の理由はわかるよね?
自分が出ないと高橋も出ないだろうから、それが嫌だったんだろうね。」
「み、美貴ちゃん・・・。」
「わかってあげて。ミキティが望んだ結末じゃないかもしれないけど、
この子がやりたいようにやっただけだからさ。高橋が負い目を
感じることはないよ。」
愛の目から涙が零れていく。
体を震わせて、力なく美貴の手を握る。
しばらくして、ドアが開いた。
入ってきたのは、真里、亜弥、絵里、さゆみ、れいなの五人だった。
「後藤・・・藤本の様子は?」
真里に聞かれて、真希は簡単に状況を説明した。
- 726 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:19
- 「後藤さん・・・美貴ねえ、大丈夫なんですか?」
れいなが泣きそうな顔で真希に聞いた。
絵里とさゆみもじっと真希を見つめる。
初めてみるれいなの表情に真希は戸惑う。
「うん。この子はそんなにやわじゃないでしょ。」
「そうですとね・・・美貴ねえ、何してるっちゃね・・・。」
「どうして、無理してたんですか・・・?オーディションなんかより、
藤本さんの方が大事だもん・・・。」
「出れなくてもいいから、早く起きてほしいの・・・。」
亜弥もどこか寂しそうな雰囲気を出している。
部屋の中は沈黙したまま時間が過ぎていく。
結局、美貴が起きることもなく、その日の面会時間が終了した。
- 727 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:19
- 「ミキティならすぐ起きるだからさ、元気出してよ。」
真希が明るくそう言うが、絵里達はまるで死人のように表情は暗かった。
「まっつー・・・みんなのこと、送ってあげてくれないかな?」
「うん・・・。」
亜弥もまた元気のない返事をして、絵里達と一緒に帰っていった。
「愛、よかったらうちに泊まらない?」
「なんなら後藤の家でもいいよ。」
二人の言葉に、愛は小さく首を横に振った。
「大丈夫・・・トレインにご飯をあげなきゃいけんから・・・。」
「そう・・・。」
真希達とは病院で別れ、愛はとぼとぼ歩いて家へと向かう。
家に入るとトレインが急ぎ足で寄ってきた。
- 728 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:20
- 「にゃ〜。」
「・・・ごめんね。ご飯、遅くなっちゃったね。」
トレインを抱き上げてリビングに入っていく。
容器に缶詰の中身を入れると、よほど腹がすいていたのだろう、
トレインは勢いよくえさを食べ始めた。
愛は一息ついてソファに座る。
時刻は9時を周っている。
それでも、全く食欲がない。
普段バイトがない日なら、美貴と夕食を食べている頃だ。
美貴がいないだけで寂しさが付き纏う。
愛は何をするわけでもなく、ただソファの上で膝を抱えて座っていた。
- 729 名前:どんなときも 投稿日:2006/02/06(月) 21:21
- 美貴と出会い、美貴と共に過ごしてからの日々が頭の中を過ぎる。
どんなときにも笑っていた彼女の顔が思い浮かぶ。
気付いた時には11時を周っていた。
美貴は帰ってこない。
バイトや友人との付き合いで帰りが遅いときでも、
日付が変わるまでには帰ってきた。
だが、12時を周っても美貴はいない。
自然に涙が頬を伝う。
「ふぐっ・・・ぅぅ・・・。」
美貴の存在がどれだけ自分にとって大きいかが身に染みる。
愛のすすり泣く声だけが、部屋の中に響いていた。
- 730 名前:konkon 投稿日:2006/02/06(月) 21:23
- 更新したっちゃっちゃ〜!
早めに仕事が終わってはしゃいでるバカがいますw
そういえば、投票見た感じだとあいみきってあんまり人気ないのかな?
まあいいや(爆)
going my wayで突っ走ります!
レス返しにいきます。
- 731 名前:konkon 投稿日:2006/02/06(月) 21:27
- >>名無飼育さん
ミキティにはこんなことがありました・・・。
自分には到底できそうもないですな(汗)
>>哀さん好きの名無しさん
なんとなくエリリンはこういうキャラですねw
髪型変える前に出した方がよかったかな・・・?
やっぱり彼女こそ薄幸NO1です(藁)
>>ハラポワさん
こんごまは最強ですから♪
何度も言ってるような、他のCPでも言ってるような、
まぁ気にしないでください(汗)
さゆれなもまったりゆた〜りでいきたいですね〜。
- 732 名前:タマ 投稿日:2006/02/07(火) 12:28
- タマはみきあい大好きですよぉ☆
この作品も大好きです♪
更新待ってます☆
- 733 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/07(火) 20:32
- 美貴ちゃ〜ん!!愛ちゃ〜ん!!
おろろ〜〜ん!!!ナゾイ)
更新乙亀ちゃんです☆
続き待っちょります♪
- 734 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/02/07(火) 21:30
- 更新お疲れ様です。
今回もよかったです(´д`*)ポワワ
哀ちゃんは優しい子だから自分を責めちゃうんですね。
次回も楽しみにしてます!
- 735 名前:桜娘 投稿日:2006/02/08(水) 00:40
-
更新お疲れ様で〜す
ミキティ大丈夫なのかな・・・
愛ちゃんも大丈夫なのかな・・・
続きが待ちどうしいです
- 736 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:41
- 次の日の昼頃、真希とあさ美は美貴のいる病院に着いた。
午前中は大学の推薦入試だったので、着いたのがこの時間となった。
美貴のことが気になって仕方なかった二人だが、なんとか冷静を装って
試験を終わらせることができた。
美貴の部屋を開けると、そこには愛が美貴の前に座っていた。
「高橋、ミキティの様子はどう?」
「愛・・・。」
愛はゆっくりと振り向いた。
その顔を見て、真希とあさ美は顔を顰める。
たった一日も経っていないのに、愛の顔は随分とやつれていた。
目の下には隈ができていて、顔色も青白い。
「まだ、起きてないよ・・・。」
ぼそぼそっと呟いて、愛は再び美貴を見つめる。
真希達は一度顔を合わせ、愛に近寄っていく。
- 737 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:41
- 「高橋、あれからご飯食べたの?」
愛は小さく首を横に振る。
「じゃあ、昨日は寝れた?」
同じように首を振る。
ただでさえ、前日にあまり慣れない競技をした上に、
昼食も僅かにしか口にしていなかった。
体調が悪くなるのも当然だ。
「高橋、帰って寝た方がいいよ。」
「そうだよ!でないと、愛まで倒れちゃうよ。」
愛は返事をしないまま動こうとしない。
「・・・仕方ない。紺野、ミキティのこと頼むね。」
そう言って、真希は愛の腕を掴んで引っ張った。
「ちょっ、離してよ!あーしは、美貴ちゃんの傍にいるの!」
「いいから行くよ。」
「いやっ!離して・・・。」
真希に力で敵うわけもなく、愛は引きずられるようにして部屋を出て行った。
あさ美はフーッとため息をついて、愛が座っていた椅子に腰を下ろした。
「ミキティ、早く起きてさ、愛を安心させてあげてね・・・。」
美貴の寝顔を見つめて、あさ美は優しくそう言った。
- 738 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:42
- 真希が連れてきたのは待合室だった。
まだ愛の腕を離さない。
話しを終える間もなく、愛は美貴の元へと駆け出そうとするからだ。
「高橋、座って話しを聞いて。」
「いや・・・あーし、美貴ちゃんの傍にいる・・・。」
「きっぱり言う。今の高橋がミキティの傍にいても、何にもならないよ。」
そこで愛の力が急激に抜ける。
愛を椅子に座らせて、真希も隣に座る。
「やって・・・あーしにできること、これくらいしかないのに・・・。」
「紺野とミキティが逆の立場であったとしたら、後藤も傍にいようとするだろうね。
けれど、ミキティはきっと後藤を止めてくれるはず。」
「・・・?」
「高橋にできること、ちゃんとあるよ。」
真希はニコッと笑って愛と目を合わせる。
- 739 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:43
- 「ミキティが起きたとき、高橋が笑っていてくれることが一番の幸せだと思うんだ。
今の高橋がミキティと顔を合わせたら、きっとミキティは後悔する。高橋を
心配させた自分を悔やむと思う。だからさ、ミキティのことを想うのなら、
ちゃんとご飯食べて、ゆっくりと寝て、笑顔で迎えてあげて。そんな顔で
傍にいたって、ミキティは喜ばないよ。」
「後藤さん・・・。」
「そうだ、いいものあげるよ。」
真希は鞄の中から弁当箱を取り出した。
「ミキティが起きてたら食べてもらおうって作ったんだけど、
まだ寝てるみたいだからね。高橋が食べちゃってよ。」
「あーしが、もらってええの・・・?」
「もちろん。その代わり、家に帰ってそれ食べたらさ、きちんと寝るんだよ。
ミキティが起きたらすぐに教えてあげるからさ。」
少しして、愛は嬉しそうに笑った。
- 740 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:44
- 「うん・・・後藤さん、ありがとう。」
真希も笑って愛の頭を撫でる。
一度美貴の部屋に戻ったあと、愛は家に帰った。
「後藤さん、愛をどうやって説得したんですか?」
「この部屋で紺野とイチャつきたいから、帰ってくれって言ったんだよ。」
「ご、後藤さん!」
あさ美は顔を赤くして声を上げた。
「冗談だよ。後藤も時と場所を考えるよ。」
「そういう意味ではなくて、ですね・・・。」
「フフッ、ミキティ、早く起きろ〜。あんなに可愛い子を泣かすもんじゃないよ。」
真希は美貴の頬を軽く突いてそう言った。
ほんの少しだけ美貴が笑ったような気がしたのは、あさ美には言わなかった。
- 741 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:44
- 美貴が倒れて二日目の昼過ぎ、愛は病院の食堂で昼食を食べていた。
先ほどまで一緒にいた真希とあさ美は、一度家に帰るそうだ。
愛は食べ終わった食器を片付けて、美貴のいる部屋へと歩いていく。
部屋のドアを開けて、同時に固まった。
いつの間にか美貴が起きて、窓の外を向いて立っていたからだ。
「美貴、ちゃん・・・。」
その声に反応して美貴が振り向く。
「愛ちゃん・・・おはよう、かな。」
美貴は頭をかきながらそう言った。
愛は美貴に駆け寄って抱きついた。
愛の目から零れる大粒の涙が、美貴の肩を濡らす。
- 742 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:45
- 「美貴ちゃん・・・美貴、ちゃん・・・。」
「愛ちゃん・・・?」
「美貴ちゃんが倒れて、ずっと、心配してたんやから!美貴ちゃんが起きんで、
ずっと・・・寂しかったんやし・・・。美貴ちゃんがいないだけで、心の中が
空いちゃったみたいで、美貴ちゃん・・・。」
「・・・ごめんね。心配かけちゃったね。」
美貴も優しく抱きしめる。
「ヘヘッ、久しぶりに風邪ひいたもんだから、免疫がなかったんだろうね。」
「そうなの・・・?」
「まあね。でも、もう大丈夫だよ。」
「・・・本当のとこは?」
「えっ?」
「美貴ちゃんの嘘なんて、すぐにわかるがし。本当に大丈夫なの・・・?」
愛にじっと見つめられて、美貴は顔を反らす。
- 743 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:46
- 「はは、えっと、その、正直なとこ、ちょっとだるいかな・・・。」
「じゃあ、まだ寝てなきゃだめや!ほらっ、寝てて!」
「あ、愛ちゃん、美貴は・・・。」
「言い訳は治ったら聞く。それまでは寝てること。」
愛は押し倒すようにして美貴をベッドに寝かした。
美貴は抵抗することなく愛の言うことに従った。
これ以上彼女を泣かしたくなかったから。
それだけ思われて、嬉しく思う自分がいるのも確かだった。
「本当によかったよ。美貴ちゃん、二日も寝てたんやよ。」
「二日・・・!?」
美貴は勢いよく体を起こした。
- 744 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:47
- 「美貴ちゃん、まだ寝てなきゃ・・・。」
「愛ちゃん!オーディションはどうしたの!?」
「えっ?」
「今日ってオーディションのある日だよね!?どうしたの?」
「オーディションは・・・棄権した。」
「棄権・・・。」
「美貴ちゃんのいないhigh bredgeは、high bredgeやないから・・・。
今回は仕方ないけど、またそのうちチャンスが・・・。」
「オーディションが終わるまであと一時間半か・・・よし、まだ間に合う。
愛ちゃん、れいな達は?」
「参考にオーディション見に行くって言ってたけど・・・。」
「家に帰って五分、そこから飛ばせば・・・美貴の着替えはある?その鞄の中?」
「ちょっと、美貴ちゃん・・・。」
美貴は愛の鞄に手をやって、上着を脱ぎ始めた。
- 745 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:47
- 「あーしは認めないよ。まだ寝てないとまた倒れちゃうよ。」
「別に倒れたって構わない。」
素早く着替え終えた美貴は、ドアを凝視したあと愛の手を掴んだ。
そして、なぜか窓の方に向かっていく。
「愛ちゃん、行くよ!」
「そうやけど行くって言っても、何でこっちに・・・キャッ!?」
美貴が愛の体を抱え上げた。
美貴は二階の窓から身を乗り出して、
ダンッ!
愛を抱えたまま地面に降り立った。
「バレたら捕まっちゃうでしょ。急ぐよ。」
美貴は愛の手を引っ張って走り出す。
- 746 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:48
- 「・・・どちらにせよ、あとで怒られるよ。」
「終わったらいくらでも怒られてあげるよ。美貴の携帯貸して。」
「う、うん・・・。」
美貴は走りながら器用にもボタンを押して、携帯を耳に当てる。
「もしもし、れいな?うん・・・もう大丈夫だよ。それより、
あんた達にやってほしいことがあるの・・・。」
どうやら美貴が電話しているのはれいなのようだった。
美貴の方が少し先にいるので、内容までは聞き取れない。
「うん・・・頼むね。美貴もすぐに行くから・・・あとよろしくね。」
電話が終わる頃に、ちょうど美貴の家が見えてきた。
「愛ちゃん、そこで待ってて。すぐに戻るから。」
美貴の走るスピードが上がったと思うと、なんと美貴は大きく飛び上がって、
二階の通路の手摺に掴まって着地した。
そして、すぐに家の中に入る。
- 747 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:50
- 何をしているのかは、愛にはわからない。
今からタクシーを呼んでも間に合わないだろう。
ならば美貴はどうするつもりなのか、そこまで考えたところで美貴が出てきた。
地面に飛び降りて愛の元へと駆け寄っていく。
美貴はジャケットを一着、そして、ヘルメットを二つ持っていた。
そのジャケットを、愛の手元に渡す。
「それ着て、こっちきて。」
美貴が向かうマンションの裏、そこは駐車場となっている。
その中の一つ、カバーが掛けられている物に駆け寄っていく。
それは、まだ新品ともいえる、一台のバイクだった。
- 748 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:52
- 「美貴ちゃん、それって・・・。」
「美貴のバイクだよ。愛ちゃんには黙ってたけど、少し前に買ったんだ。
本当は愛ちゃんを後ろに乗せたかったんだけど、練習する必要があったから、
内緒にしてたんだよね。」
鍵をつけてアクセルをふかす。
美貴は片方のヘルメットを愛に渡す。
愛は不安そうな表情でそれを受け取る。
「愛ちゃん、美貴を信じて。美貴はあきらめたくないの。」
「美貴ちゃん、免許は・・・?」
「朝比奈学園に入る前に時間があったから取ったんだよ。」
「け、けど、場所がわからんで・・・。」
美貴の気持ちもよくわかる。
それでも、これ以上美貴に無理をしてほしくなかったので、
必死に言い訳を探していた。
- 749 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/11(土) 21:54
- 「この間、下見してきたからわかるよ。お願い。これが終わったら何でもする。
愛ちゃんの言うこともちゃんと聞くから。今回だけは美貴のお願いを聞いて。
美貴を信じて。」
美貴は真剣な表情で、懇願するような想いで愛にそう言った。
何を言っても無駄だと観念した愛は、ヘルメットを頭にかぶる。
「今回だけやよ。」
「OK!愛ちゃん、ちょっとだけ我慢してね。」
美貴はズボンからベルトを抜き取って、それを後ろに乗った愛の背中に回して、
自分と密着するようにきつく絞める。
「それじゃ、飛ばしていくよ!」
美貴がバイクを走らせる。
不安がないと言えば嘘になるが、美貴の想いを踏みにじるわけにもいかない。
愛は美貴を信じて腕を回す腕を強めた。
- 750 名前:konkon 投稿日:2006/02/11(土) 21:55
- んあ〜。
更新です〜。
- 751 名前:774飼育 投稿日:2006/02/11(土) 21:57
- 次はついにオーディション編ですかね?
楽しみです ドキドキワクワクですなw
次の更新楽しみにしてます
- 752 名前:konkon 投稿日:2006/02/11(土) 21:58
- >>タマさん
初めまして〜ですかね?
ありがとうございます!
そう言っていただけると、更新ペースが上がります(爆)
>>名無し飼育さん
おろろ〜んw
どうなってしまうことやら、今後の二人に注目ですね♪
>>哀さん好きの名無しさん
責任感の強い子ですからね〜。
全部自分のせいにしてしまうような優しい子ですね。
こんな感じで進ませていただきます(謎)
>>桜娘さん
そうですね〜。
またこのあとも大丈夫とはいえない展開に・・・
これ以上はネタバレなんで言えませんけど、どうしましょうw
- 753 名前:ハラポワ 投稿日:2006/02/12(日) 02:02
- しばらくPCから離れてた間に色々進んでてちょっと慌てましたw
このあとも大丈夫とはいえない展開なんですか!?
この際愛美貴がラブラブなら良いです、もう(笑)
- 754 名前:konkon 投稿日:2006/02/15(水) 20:51
- 絵里達は、オーディション会場で様々なバンドを見ていた。
会場は2000人ほど入る広さで、その観客は各地から推薦されたバンドとスタッフ、
記者が数人といったところで、人数は500人ほどである。
絵里達は棄権はしたが、推薦されていたことから中に入ることはできた。
さすがに選ばれただけあって、どのバンドもレベルが高い。
圭織のライブハウスにいるバンド達とは比較にならないほどである。
参加はできないが、きてよかったと思う。
それでも、この場所で弾いてみたいと願う気持ちから、れいなの体が震えていた。
「れいな、どうしたの?」
「ん、武者震いってやつやと。いつかはこんなとこででやってみたいっちゃね。」
「絵里達ならできるよ。きっとね・・・。」
「さゆみ達なら、もっと上手くやれるの。」
三人とも気持ちは同じだった。
この場にいる誰もが驚くような、すごいライブをやりたいと思っていた。
- 755 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:52
- れいなはぼそっと呟く。
その時、れいなの携帯が震えた。
ポケットから携帯を取り出し、画面に映し出された名前を見て驚いた。
「れいな?」
「美貴ねえからっちゃ!」
「えっ?藤本さん、起きたの?」
さゆみに答えるより先に、れいなは会場の外に飛び出した。
「美貴ねえ!」
『もしもし、れいな?』
「美貴ねえ・・・起きたっちゃね・・・。」
美貴の声を聞いて、れいなは少し涙声になった。
- 756 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:53
- 『うん・・・もう大丈夫だよ。それより、あんた達にやってほしいことがあるの。』
「何をすると?」
『いい、よく聞いてね。high bredgeの棄権を取り消してほしいの。』
「取り消す・・・?」
『オーディションが終わるまでに、美貴達もそっちに着くようにするから。
美貴達の番を最後にしてもらってくれないかな?』
「・・・わかったっちゃ。頼んでみるとね!」
『うん・・・頼むね。美貴達もすぐに行くから・・・あとよろしくね。』
「了解!美貴ねえも気をつけてくると!」
電話を切ると、絵里とさゆみが傍に寄ってきた。
「藤本さんから?」
「うん。美貴ねえ達がこれからこっちにくるとね。今からじゃ無理やけん、
順番を最後にしてもらうっちゃよ。」
「そうなんだ・・・。やってみようか!」
「おーっ!」
絵里達は、先ほどの内容を受付に話して頼んだ。
- 757 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:53
- だが、
「変更も何も、棄権した人達にそのようなことを言われてもね・・・。」
「そこをなんとかお願いします!」
「だめよ。これはもう決定事項なんだから、あなた達は帰りなさい。」
「・・・もう、あんたじゃ話しにならんとね!」
れいなは、通行禁止の通路に走り出す。
「ちょっと、あなたどこへいくの!」
受付が叫んだ時には、絵里とさゆみもれいなのあとを走っていた。
れいなが通路に入ろうとすると、近くにいた警備員に前を拒まれた。
「ここは通行禁止だよ。戻りなさい。」
「通して!美貴ねえから、頼まれたっちゃ!」
「少し落ち着いて。この先は通れない・・・!?」
警備員の両側から、絵里とさゆみが腕を掴み取った。
- 758 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:54
- 「絵里!さゆ!」
「れいな、先行って!」
「さゆみ達もバンドやりたいの!」
「こらっ、離しなさい・・・。」
「・・・わかったっちゃ!」
れいなは口唇をかみ締めて先へと急ぐ。
目的はプロデューサーのつんくに会うことだ。
会場内にはいなかった。
だとすると、どこかの部屋でカメラを通して見ているということだ。
その部屋はこの先にあるはず。
階段を昇って、角を曲がったその時、
ドンッ!
誰かとぶつかって、れいなは尻餅をついた。
- 759 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:54
- 「痛いわね〜。何するのよ?」
れいなの前には、一人の女性が立っていた。
その女性はサングラスをしていて表情は読み取れない。
「すいません。急いでたので・・・。」
れいなはすぐに立ち上がって走り出す。
しかし、その女性に腕を掴まれた。
「どこ行くの?ここは立ち入り禁止のはずだけど?」
「いたっ・・・。」
女性に力強く掴まれて、れいなの腕に激痛が走る。
必死に振り解こうにも全く動じない、細腕とは思えないほどの力だ。
「石川、何してるの?弱い者いじめ?」
石川と呼ばれる女性、石川梨華の後ろから、また二人の女性が歩いてきた。
- 760 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:56
- 「何したかは知らないけど、離してあげな。」
「は〜い。わかりましたよ、保田さん。」
腕の力が弱まり、れいなは腕を押さえながら女性達を見据える。
あとからきた二人もサングラスをかけているが、一人は口調からして
れいなの目の前にいる女性よりも年上のようで、一人はどこか幼い表情をしている。
れいなよりも年下かもしれない。
三人ともどこかで見たことのあるような気もするが、今はそれどころではない。
早急につんくに話すことがあるのだ。
「それで、あんたは何してるの?」
「あ、あの、つんくさんに会わせてほしいんです。」
「つんくさんに?色仕掛けでもして落とそうとでも?」
「ち、違います!棄権を取り消して、れいな達のバンドを聴いてほしいんです!」
「棄権・・・ああ、一人熱で倒れたって言ってなかったっけ?無理じゃん。」
れいなは大きく首を横に振った。
- 761 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:57
- 「違うと!さっき起きたっちゃよ!今すぐにくるって言ってました。
美貴ねえは、藤本美貴は約束を絶対に守る人っちゃ!」
「藤本、美貴・・・?」
年上の女性、保田圭の眉が僅かに吊り上る。
「いいわ、連れて行ってあげる。」
「ちょっと、いいんですか〜?」
「何かあったらあんたが止めればいいでしょ。ついてきなさい。」
そう言って、圭は先を歩き始める。
そのあとに他の二人、そしてれいなもついていった。
「失礼します。」
奥にある部屋を圭がノックをして、中へと入っていく。
そこには、一人の男が座ってテレビをじっと見ていた。
- 762 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:57
- 雑誌などで見たことのある、プロデューサーのつんくだ。
つんくは、会場で歌っているバンドから一切目を離さずに、その場から動かなかった。
「あ、あの・・・。」
「無駄よ。終わるまで待ってなさい。」
れいなが声をかけようとしたが、圭に止められた。
徐々にバンドの歌が終わって、そこでようやくつんくはれいなを振り向いた。
「ん、呼んだか?」
「つんくさん、この子が話しがあるそうです。」
つんくはまじまじとれいなを見つめる。
「何の用や?」
「初めまして、high bredgeの田中れいなといいます。」
れいなは背筋を伸ばして大きく頭を下げる。
- 763 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:58
- 「high bredge・・・あのバンドか。んで、何の用や?」
「熱で倒れていたうちのメンバーが起きて、こちらに向かっています。
ですから、私達にもう一度チャンスを頂きたいんです。」
「っつっても、お前達の時間は終わっとるんやないか?きたところで何もならんぞ?」
「そ、それは・・・最後に回してもらえないかと・・・。」
「ほ〜う。んで、そいつはいつくるんや?」
「オーディションが終わるまでには、間に合わせるって・・・。」
それを聞いて、つんくは腕を組んで考え込む。
「芸能界において最も大切なことが二つある。わかるか?」
「・・・?」
「一つ目に、挨拶をしっかりとすることや。田中はきちんと挨拶ができとるし、
敬語もよく使えてた。そこら辺はよしとしとく。二つ目だけど、時間や。
そうやな、二時十五分前までに間に合えば、その時は聞いてやる。」
れいなの表情がパーッと明るくなる。
- 764 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 20:59
- 「本当ですか!?ありがとうございます!」
「間に合わんかったら聞かんからな。」
「はい!よろしくお願いします!」
れいなはもう一度大きくお辞儀をして、部屋を出て行った。
「つんくさん、ずいぶんと優しいんじゃないですか〜?」
「面白そうやから。それ以外に理由なんていらんやろ。」
「そうですか〜?」
次のバンドが始まっていたために、つんくはテレビ画面を凝視する。
こうなったら曲が終わるまでつんくは動かない。
「(藤本美貴・・・本当にあの美貴なの?)」
圭は、心の中でそう小さく呟いた。
それは、圭しか知らない、美貴の過去に繋がることになる。
- 765 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:00
- 国道を走らせていた美貴は、途中でコンビニに入ってバイクを止める。
ポケットから携帯を取り出し、それをじっと見つめる。
「どうしたんや?」
愛は後ろからそっと覗く。
どうやらメールを見ているようだ。
「・・・十五分マイナス、ってことはあと四十五分か・・・。」
自分の予定と大幅にずれて、美貴は小さく舌打ちした。
「誰から?」
「れいなからだよ。時間に間に合えばオーディションには出れるけど、
このままだと高速でも使わなきゃ間に合わない・・・。」
美貴は考える。
高速を使えば間に合わないこともないが、あまり走ったことがなかった。
- 766 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:01
- それも、二人乗りでは初めてのことである。
愛に危険を感じさせることなく走れるかどうか、自信があるわけではなかった。
「(どうする・・・でも、愛ちゃんを連れて高速は・・・?)」
愛の回す手が強くなった。
美貴はヘルメットを外して愛を振り向く。
「美貴ちゃん、飛ばしてもええよ。」
「でも、愛ちゃん・・・。」
「あーしは美貴ちゃんを信じるがし。やから・・・怖くない。」
美貴は一度目を閉じて、自分の両頬を叩きつけた。
「(弱気になるなよ、藤本美貴・・・いくよっ!)」
ヘルメットを被って再びバイクを走らせる。
制限速度を超える速さで街中を走っていく。
途中で高速に乗り換えて、さらにスピードを上げていく。
- 767 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:03
- 愛の回す腕がずっと震えている。
それを直に感じて少し戸惑いが生まれてくる。
無理もない、周りの風景が一瞬で変わっていくほどの速さだ。
だが、美貴はスピードを落とさない。
少しでも早く会場に着くこと、それが最善だと思ったからだ。
どのくらいか乗り続け、いくつもの車を抜かして、目的の場所で降りた。
ここからならそれほど遠くない。
信号のない裏道を使えば、十分時間に余裕が持てる。
あと少しで会場に着く。
想いが先走り、周りに人も車もないのでスピードを出してしまう。
その油断が危機を呼び起こすとは、この時は思いも寄らなかった。
- 768 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:03
- 次の瞬間、美貴の目の前を猫に飛び出してきた。
「やばっ!」
美貴は即座にブレーキをかけてハンドルを捻った。
ドンッ!
ぎりぎりで避けられたものの、ガードレールにぶつかって美貴達は空中に弾き飛ばされる。
「くっ・・・。」
美貴は瞬時にベルトを外して愛を抱きしめる。
ダンッ!
愛が傷つかないように体を捻り、美貴は背中から地面に叩きつけられた。
ヘルメットをしていたとはいえ、後頭部を打ち付けた衝撃に美貴は顔を顰める。
- 769 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:04
- 「っつ・・・。」
「み、美貴ちゃん・・・。」
愛は泣きそうな表情で美貴を見つめる。
「あ、愛ちゃん、怪我はない?」
「あーしは別に・・・でも、美貴ちゃんが・・・。」
「そう・・・よかった。」
美貴は笑って起き上がる。
「美貴ちゃん・・・病院、行こう。」
「・・・何言ってんの?」
「やって、痛そうや・・・。」
「これは別に大したことないよ。」
ふらつく頭を押さえて、美貴は逆の手で愛の頭を軽く撫でる。
- 770 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:04
- 「愛ちゃん、先に行っててよ。すぐそこを曲がったとこにあるからさ。
美貴はバイク置いてから行くから・・・。」
「・・・いやや。」
「えっ・・・?」
「美貴ちゃん、怪我しとるんやよね・・・?なのに、オーディション出たくない。」
「だから、美貴は平気だって。時間もないんだよ・・・。」
愛は一向に首を頷けようとしない。
「あのさ、オーディションまで時間がないの。話しはあとで聞くから・・・。」
「言ったやろ!美貴ちゃんの嘘はすぐわかるがし!オーディションなんて、
どうでもええよ!美貴ちゃんが怪我しとんのに・・・。」
「愛ちゃん。」
パン
左手で愛の頬を叩いた。
- 771 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:05
- 決して顔が赤くならない程度だが、今まで何があっても手を出さなかった美貴が、
愛の顔を叩いたのだ。
美貴は愛の体を優しく抱きしめる。
「叩いちゃってごめんね。でもね、これは美貴達だけの夢じゃないの。
れいなや絵里、さゆ達は美貴達よりも前からずっと夢を見てるの。
あの子達の夢を、美貴は潰したくない。愛ちゃんが先に行ってくれれば、
美貴がきた証明にもなるでしょ。」
「で、でも・・・。」
「美貴の心配をしてくれるのは嬉しいよ。これが終わったら何でもする。
だからさ、早く歌って帰ろうよ。愛ちゃん、行ってくれるよね?」
溢れ出る涙を拭って、愛は立ち上がる。
「美貴ちゃん・・・待ってるから。」
「うん。すぐに行くよ。」
愛は背を向けて走り出した。
- 772 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/15(水) 21:06
- 角を曲がったところで、美貴は壁に手をついて立ち上がる。
美貴が手をついた壁には、血でできた手形ができていた。
煙草を取り出して口にくわえるが、力が入らずにポトリと落としてしまう。
「愛ちゃん、頭の傷はね、別に問題ないんだよ・・・。」
ポタッ
だらりと下げた右腕から血が垂れ落ちていく。
頭に受けた衝撃よりも、二人分の全体重がぶつかった右肩の方がひどかった。
ジャケットを着ているので傷口は見えないが、力を抜くと今にも意識が
飛んでしまいそうなくらいの怪我だ。
他に、体の何箇所にも痛みが走る。
それでも、美貴はフラフラと歩き始める。
「行くんだ・・・みんなで、夢を掴むんだ・・・。」
約束した想いを果たすためにも、会場に向けて進みだした。
- 773 名前:konkon 投稿日:2006/02/15(水) 21:09
- 更新しました〜。
- 774 名前:konkon 投稿日:2006/02/15(水) 21:10
- >>774飼育さん
ついにオーディションですね〜。
いつでもドキドキ、心はワクワク、それが俺です(爆)
>>ハラポワさん
慌てずに、マイペースにいきましょう♪
なぜかこんな大惨事に・・・ラブラブになるつもりではありますので、
もう少しお待ちを・・・(汗)
- 775 名前:774飼育 投稿日:2006/02/15(水) 22:50
- ついにきましたか・・・
私の予想では石川さんはミキティの・・・
あぁ当たってたらネタバレっぽくなるのでやめときます
続きどうなるんでしょうかねードキドキw
次回更新楽しみにしてます
- 776 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/16(木) 03:49
- やば!!
美貴ちゃんやばっ!!
てかどーなるんだぁ?
美貴ちゃんは大丈夫なんだろうか?
血がポタポタって・・・
ギター引けるの??
めっちゃ気になるしぃ〜
ん〜気になるなぁ
続き待ってます!
- 777 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/02/17(金) 11:35
- 更新お疲れ様です。
ミキティ頑張れ!
作者さんのミキティ大好きさが伝わってきます。
次回も楽しみに待ってます!
- 778 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/19(日) 20:17
- 美貴ちゃん痛そうだっちゃ!!
うぅ〜どーしよ…泣きたい。
頑張って!!
続き待ってます!
- 779 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:05
- オーディション会場の控え室で、愛達は美貴を待っていた。
二人が到着したことを受付に告げて、愛は絵里達の元へと辿りついた。
美貴がきていないのは、トイレに行っているとだけ伝えてある。
美貴がくることを信じているから。
ライブの時間まではまだ時間があるが、れいなは落ち着かずに部屋をうろついていた。
「美貴ねえ、遅いっちゃよ・・・何してると?」
「れいな、もう少し待っててよ・・・美貴ちゃんはすぐにくるよ。」
「やって、愛ちゃんがきてから、けっこう経ってるんですと。
もしかして、熱が治ってなくてトイレで倒れてたりとか・・・。」
ガチャッ!
「ヤッホー!久しぶり、って言い方もおかしいかな。」
美貴が勢いよく部屋に入ってきた。
- 780 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:05
- 「藤本さん!」
「大丈夫なんですか?」
「もう、心配かけさせんとね!」
絵里達は涙目になって美貴にそう言った。
「遅れてごめんね。それと、三人ともありがとね。」
美貴は順々に絵里達の頭を撫でていく。
「本当はね、みんなの声が聞こえてたんだ。寝ていても、想いが伝わってきたの。
美貴を呼ぶ声が力になったんだよ。だからね、もう大丈夫。絶対に成功させようね!」
「おーっ!」
三人は元気に手を上げた。
美貴は嬉しそうに笑ったあと、不安そうな表情をしている愛に近づいた。
- 781 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:06
- 「美貴ちゃん・・・。」
「愛ちゃん、あと少しでいいからさ、何があっても美貴のことを
信じてくれないかな?絶対にオーディションに受かりたいんだ。
あの子達のため、美貴のため、そして、愛ちゃんのためにもね・・・。」
「えっ・・・?」
「美貴、ここにこれてよかったよ。大切な仲間達ができて、楽しく笑えて、
最高の日々を送れたもん。みんなに出会えて、本当によかった。
後悔して終わらせたくないんだ。」
愛は呆然として聞いていた。
美貴の言葉は、どこか自分が遠くに行ってしまうような、そのように聞こえた。
「美貴ちゃん、何を言って・・・。」
「愛ちゃんは信じてくれるよね?」
美貴の真剣な目に見つめられ、愛は口唇を噛みしめた。
- 782 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:07
- どう答えたらいいのかわからない。
美貴の望む言葉はたった一言でいいのに、それが口に出せない。
「・・・ないから・・・。」
「へっ?」
「何かあったら、絶対に許さないから。無事に終わらせるんやよね・・・?」
「もちろん!愛ちゃんの足を引っ張るようなことはしないよ。」
「そ、そうやなくて・・・。」
コンコン
扉がノックされる音が聞こえた。
美貴が返事をすると、一人のスタッフが入ってきた。
「そろそろ時間ですので、私についてきてください。」
「は〜い。みんな、いくよ!」
スタッフのあとに続いて美貴が出る。
それに続いて絵里、さゆみ、れいな、少し遅れて愛がついていく。
- 783 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:07
- 「(大丈夫・・・きっと、大丈夫・・・・。)」
不安が心をかき乱す中で、愛はぎゅっと手を握り絞めて前を向いた。
ステージ裏へと着いた時、ちょうど美貴達の前のバンドが終わったようだ。
『high bredgeの人達はステージに上がってください。』
アナウンスに呼び出される。
美貴はスーッと大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出していく。
気を引き締めた表情をして、後ろにいた愛を見つめる。
「愛ちゃん、この間のやつやろうよ。」
「・・・うん。」
愛が手を差し出して、その上に美貴達も手を重ねる。
その時、美貴だけは左手を出していたことに、愛は気付かなかった。
「これで受かるかどうかは考えない。いつも通りでいくよ。」
その言葉に美貴達は首を頷ける。
「high bredge、いくでっ!」
「おーっ!!!!」
美貴達は元気よくステージへと上がっていった。
- 784 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:08
- 「つんくさん、いよいよですね。」
「そうやな。」
先ほどれいなが入った部屋では、テレビをじっと見つめているつんくと、
その後ろに三人の女性がソファに座っている。
「どうしたんですか〜?お二人ともあのバンドに執着して・・・。」
「そうでもないよ。ただ、ちょっと気になることがあってね。」
「気になることですか〜?」
圭の言葉に、梨華は首を傾げる。
一方の圭はテレビ画面を凝視する。
カメラを通して写されているステージに、五人の少女達が出てきた。
「(藤本美貴・・・間違いない。あの子だ・・・。)」
圭の視線が美貴一点に集中される。
それを梨華はつまらなさそうに見ている。
- 785 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:08
- 「何ですか〜?石川よりその子の方が可愛いっていうんです?」
「そうよ。」
「え〜!ちょっと保田さん、ひどくないですか〜!?」
梨華の高い声が部屋に響く。
「冗談よ。いちいち声を上げないの。」
「だって、保田さんが・・・。」
「二人とも静かにせえ。始まるで。お前達も聴いておいた方がええ。
さて、あいつらはどこまで成長しとんのや・・・。」
つんくは楽しそうにそう言った。
いつでも公平にバンドを見る彼からしたら、珍しい光景だ。
それだけ興味のあるバンドなのだろう。
「(・・・誰なんだろ?)」
ただ一人、何も言わずにソファに座っている少女は、
興味半分でテレビを見つめていた。
- 786 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:09
- 美貴達は急いできたので、何も準備をしていない。
それは、出るためにきたわけではなかった絵里達も同じことだ。
借り物の手馴れないギター、飾り付けの何もない私服、メイクも施していない素の顔、
この場にいるにはありえない状態だ。
スポットライトの光が熱くて眩しい。
想像以上に響くボリューム。
自分達に向けられた幾台かのカメラ。
オーディションに受けにきたバンドや、数人の記者、スタッフ達といった
知人の一人もいない観客達。
全てが初めてのことなので戸惑いを感じる。
唯一救いがあるとすれば、文化祭で大人数の前で演奏しているので、
少しは態勢がついていることである。
不利なのは承知の上だ。
- 787 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:10
- 「聴いてください。Love Song。」
この歌は愛の語り口調から始まる。
そのすぐあとに一斉に音を出すのだが、美貴のピックを持つ右腕が震えている。
「(動いてよ・・・あとほんの少しの間でいいから、動いてよ!)」
右腕に必死に力を込めて、ギターの音を出す。
初めて使うギターとは思えないほど、正確に、滑らかに、
それでいて激しく音を弾けさせる。
絵里やさゆみ、れいなの三人も、最大限に気合いを入れて音を混ぜ合わす。
愛は曲に合わせて踊りつつ、大きく息を吸い込んで腹から声を出し、声を響かせる。
リズム、歌詞の感情、そして、雰囲気を醸し出して、会場全体に広げていく。
自分達の最大の武器を使えれば問題はないはずだ。
- 788 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/19(日) 21:10
- つんくに認められるかどうかは別として、いつも通りの歌を届けること、
それが自分達の使命だから。
曲が次第に終わっていき、観客から拍手が沸き起こる。
「(終わったんだ・・・。)」
美貴は荒い息を吐き出して上を見上げる。
その瞬間、全くといっていいほど力が入らなくなった。
体が前に倒れていく。
「(やばっ・・・。)」
手を出そうとしても動かない。
頭の中が白くぼやけてきた。
「(愛、ちゃん・・・美貴、やったよ・・・。)」
地面に倒れたと同時に美貴の意識はなくなった。
真っ白な世界が頭に浮かぶ中、自分を呼ぶ愛の声が聞こえてきたような気がした。
- 789 名前:konkon 投稿日:2006/02/19(日) 21:16
- 更新しました。
- 790 名前:konkon 投稿日:2006/02/19(日) 21:16
- >>774飼育さん
大丈夫ですよ。
ネタバレになるようなことはないと思いますけど、
適当に予想しておいてくださいw
>>776:名無飼育さん
かな〜りまずい状態ですね〜。
今後の彼女が・・・う〜ん、気になるw
まぁ、なるようになれってことでwww
>>哀さん好きの名無しさん
ミキティ大好きですよ〜w
それ以上に愛ちゃんが好きですけどね(爆)
がんばってほしいものです。
>>778:名無飼育さん
泣いちゃってくださいw
たぶん、泣いてもいい場所だと思われ(ry
- 791 名前:774飼育 投稿日:2006/02/20(月) 00:32
- ヤバス・・・ ミキティヤバス・・・
というか続きが気になってる俺がヤバス・・・orz
適当どころか徹底的に予想しておきますw
更新お疲れ様でした
次回も楽しみにしてます
- 792 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/02/21(火) 22:12
- 更新お疲れ様です。
なんとしても演奏する、という根性がカッコイイですね。
哀ちゃん好きですか(゚∀゚)私も名前の通り哀さん大好きですw
次回も楽しみに待ってます!
- 793 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/22(水) 01:37
- 正しくは愛ちゃんですよ
好きなメンバーの漢字変換くらいは気をつけた方が良いと思います
- 794 名前:konkon 投稿日:2006/02/24(金) 10:28
- 愛達四人は、手術室の前の椅子で座っていた。
美貴が倒れたあと、すぐに救急車が呼ばれて病院へと向かった。
美貴の怪我はひどいもので、美貴が倒れたステージは血で赤く染まっていた。
傷口を無理やりハンカチを巻いて止血していただけであって、意識を失ったことにより
筋肉が緩んで一気に血が噴出したのだ。
「(どうして・・・あーしは、どうして美貴ちゃんを止めんかったんや・・・?)」
愛は顔を伏せて泣いていた。
わかっていたはずなのに、止めることができなかった。
自分が歌わなければ美貴が倒れることなどなかった。
それを美貴が否定するとしても、自分を責め続けていた。
絵里やさゆみも声を押し殺して泣いている。
れいなだけは、体を震わせながらも手術室の前で立ち尽くしていた。
美貴が戻ってくると信じているから、泣くことから耐えていた。
- 795 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:29
- 「あっ!」
れいなの声で愛は顔を上げる。
手術室のランプが消えた。
扉が開いて、出てきた医師に愛達は駆け寄っていく。
「せ、先生!美貴ねえはどうなるとですか!?」
「落ち着いて。あとで説明するから・・・。」
手術台に乗せられた美貴が、医師達に押されて出てきた。
意識はまだないようだ。
愛達を抜いて奥の方へと連れていかれる。
「美貴ねえ!起きてよ、美貴ねえ!」
「君、離れなさい。」
れいなが一人の医師に止められる間に、美貴は遠ざかっていく。
- 796 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:29
- 「美貴ねえ・・・。」
「れいな・・・。」
振り向くと、さゆみが立っていた。
れいなは涙を流してさゆみに抱きつく。
「うぐぅ・・・。」
美貴は絶対に起きるから泣かないと決めていた。
だが、美貴の姿を見た瞬間に、れいなの我慢が切れてしまった。
「先生・・・美貴ちゃんは、どうなるんですか・・・?」
愛は一人だけ残っていた医師に聞いた。
「手術は成功したが、まだ危険な状態だね・・・。血を流しすぎている。
あとは彼女が目を覚ますまで待つしかない・・・。」
「そう、ですか・・・。」
その医師も美貴が連れていかれた方へと向かっていく。
静寂の中で、四人はただ泣いていることしかできなかった。
- 797 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:30
- それからしばらくして、愛達は美貴の部屋の前にある椅子に、
座って待っていた。
休憩室で寝ているように勧められたが、それを断った。
医師が診断を終えるまで部屋には入れない。
美貴の部屋の扉が開いて、医師が出てきた。
「先生、美貴ちゃんは・・・?」
「そうだね・・・少し話しをする必要もあるから、中に入って。」
そう言われて、愛達は部屋の中に入る。
美貴の体にはいくつものチューブが付けられていた。
右腕にはギブスがされている。
「話しをしても、いいかな?」
医師はベッドの横にある椅子から、愛達を見上げてそう聞いた。
愛は静かに首を頷ける。
- 798 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:31
- 「彼女の肩の傷は相当深いものだった。そこは手術で傷口を塞ぐことは
可能だったが、先ほども言ったように出血が激しすぎた。肩の骨には
罅が入っていた上に、他の箇所にもいくつもの損傷が見られた。
余りにも体に負担が大きすぎたんだ。今は眠っているが、いつ起きるかは、
正直なところはわからない・・・。」
「そんな・・・。」
「二、三日は起きることはないだろう。体力が戻ればいいのだが、
あるいは・・・。」
「そんなこと聞きたくなかっ!」
れいなが大声で叫んだ。
れいなは美貴のベッドに近づいて、腕を掴んで揺すり始めた。
「美貴ねえ、何してるっちゃよ!?起きるっちゃよ!」
れいなに続いて、絵里とさゆみも近寄る。
- 799 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:31
- 「藤本さん、起きてくださいよ!」
「さゆみ達を、置いていかないで・・・。」
「こらっ、君、離しなさい!」
医師はすぐにナースコールを押した。
それを聞いた看護婦達が駆けつけて、絵里達は押さえられる。
「れいなは美貴ねえに、まだ教えてもらうこといっぱいあると・・・。」
「藤本さん、起きるの・・・話したいことたくさんあるの・・・。」
「一緒に最高のバンドするって、言ってくれたじゃないですか・・・。」
医師達は必死になって近づこうとする絵里達を押さえている。
ただ一人、愛はそっと美貴に近づいて右手を握った。
「バカ・・・やっぱり、無茶してたんやね・・・。」
愛は小さく呟いた。
- 800 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:32
- 「(あーし、美貴ちゃんがいればもう何もいらんから、何でもするから、
目を覚ましてよ・・・。まだ、何も伝えとらんよ・・・あーしの本当の気持ち、
何にも伝えとらんのよ・・・。神様、お願いします・・・どうか、美貴ちゃんを、
助けてください・・・。)」
愛は目を閉じて手の甲に頭を乗せる。
初めて心から神に祈った。
美貴だけは失いたくないという一心で、ずっと祈り続けた。
ピクッ
「えっ・・・?」
美貴の手がかすかに動いた。
- 801 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:33
- 「美貴ねえっ、いい加減にせんと怒るとよ!ねえ・・・。」
「れいな、うるさい。」
暴れていたれいなの動きがピタリと止まる。
今聞いた言葉は他の誰でもない、美貴の声だった。
美貴が目を開けて起き上がる。
「せっかく寝てたのに、そんなに大声出されたら誰でも目を覚ますって。
それに、ここは病院、かな?他の患者さんに迷惑だよ。」
「藤本、さんが、起きたの・・・。」
「ようやく、お目覚めですね・・・。」
「美貴ねえ・・・美貴ねえ!」
絵里達は美貴に抱きついた。
「藤本さん!起きたんですね!」
「ちょっ、痛い痛い!怪我してるんだっての・・・。」
美貴の苦しそうな表情を見て、絵里達は美貴から離れる。
- 802 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:34
- 「ふ、藤本さん・・・うわ〜ん!」
「ふぐっ、み、美貴ねえ・・・生き、生きてた・・・。」
「藤本さ、ん・・・よ、よかっ・・・。」
「心配かけて、ごめんね。美貴はこのくらいじゃ死なないからさ、
まぁでも、こうして生きてるんだから、泣かないでよ。あ〜ったくもう、
バカやっちゃったもんだな〜・・・。」
美貴は自分の傷ついた右腕を見てそう言った。
「ああ、バカは死ななきゃ治らないってやつですね。」
「たぶん、死んでも治らんっちゃよ。」
「藤本さん、やっぱりバカなんですね。」
「あんた達、言いすぎだよ。しかもさゆ、やっぱりってどういう意味よ?」
美貴に軽く睨まれるも、さゆみは泣きながら笑っている。
「それは、愛ちゃんに聞くのが一番なの。」
「へっ・・・?」
自分の手を握っている愛に視線を向ける。
愛は美貴の顔をじっと見ていた。
- 803 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/24(金) 10:35
- 「愛ちゃん・・・。」
「もう、バカ・・・。」
「うぇっ、愛ちゃんまでバカっていうか・・・。」
「どうしようもないほど、バカやよ・・・。」
愛は美貴の胸に蹲って泣いた。
「美貴ちゃんが、必要、なんやから・・・勝手に、あーし達の前から
いなくなったら、許さないんやから・・・ 本当に、よかったやよ・・・。」
「・・・ごめんね。それに、みんな、ありがとね。」
美貴は愛の頭を撫でて、絵里達を見渡してそう言った。
美貴が鍛えていた、痛みに慣れていたということも一つの原因かもしれないが、
何よりもせっかく出会えた大切な仲間達と、最愛の人と離れたくないという強い想いが、
美貴を目覚めさせたのだった。
医師達は呆然としていた。
目覚めるはずのない意識が、突如回復されたのだから。
そんなことも気にすることなく、美貴達は笑い合っていた。
- 804 名前:konkon 投稿日:2006/02/24(金) 10:36
- 更新です〜。
- 805 名前:konkon 投稿日:2006/02/24(金) 10:38
- >>774飼育さん
ぬぐっ、徹底的にときますか・・・(汗)
ならばこっちは別の手を考え(ry
予想もまた小説の楽しみの一つですよね♪
>>哀さん好きの名無しさん
何よりも必要なのは根性ですからw
安倍さん曰く体力らしいですけどねwww
愛ちゃん好きなら負けませんよwwwww
- 806 名前:774飼育 投稿日:2006/02/24(金) 15:24
- 更新お疲れ様です
そうですよね。楽しみの一つです
予想が良い意味で裏切られてばかりですがw
これからもがんばってくださいな
- 807 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/25(土) 19:14
- 更新乙です
美貴ちゃんはやっぱり超人ですね
それに愛ちゃんが可愛いです
そういえばいつの間にか夢板になっていたんですね
ちょっと迷っちゃいました
- 808 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:47
- 数日後、美貴は食堂で昼食を食べていた。
絵里達に頼んで買ってきたもらった焼肉弁当だ。
右腕がギブスで固定されているので、顔を弁当に近づけて手首だけを利用し、
女性とは思えないほどの勢いで食べている。
それを愛達は呆然として見ていた。
「美貴ねえ、よく食べるっちゃね・・・。」
「もう、三杯目なの・・・。」
「ありえない食欲だよね〜。」
弁当を食べ終えた美貴は、大きく息を吐き出して椅子に寄り掛かった。
「プハーッ!ご馳走様でした〜!」
「美貴ちゃん、そんなに食べて平気なの?」
美貴は大きく伸びをして愛を見上げる。
- 809 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:48
- 「な〜に言ってんの。焼肉ならいくらでも食べられるよ。それに、
血をたくさん流したんだからさ、その分取りいれなきゃやばいでしょ。
確か、肉は血液を作るのにいいんだよ。病院食じゃ体力復活しないって。」
「そういう問題ですか・・・?」
「まぁまぁ、ご飯も食べたし部屋に戻ろう。」
美貴は満面の笑みでそう言った。
数日前には瀕死の状態に陥ったとは思えないほどの回復力だ。
倒れてから次の日には、普通に歩き回れるところまで回復したので、
三日後に美貴の家の近くの病院に搬送されたのだ。
美貴は洗面所で歯を磨いて部屋に戻ると、自分のベッドの上に座り込んだ。
「それにしても、お風呂入りたいな〜。ねえ、愛ちゃん・・・。」
「だめや。体は拭いてあげるから、お風呂はまだ入れんよ。」
「・・・仕方ないか。んじゃ、よろしく〜。」
ギブスを付けているにも関わらず、美貴は器用にも服を脱いだ。
- 810 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:49
- 「ちょっ、美貴ねえ!」
「何?」
「藤本さんには羞恥心ってものがないんですか?」
「だって、美貴達しかいないんだから、別にいいじゃん。下着は付けてるでしょ。
さっきまで寝てて汗かいたから、気持ち悪いんだよ。」
美貴がそう答えた時には、愛が濡れたタオルを持ってきていた。
「愛ちゃん、さすがですね〜。いいお嫁さんになれますよ。」
「え、絵里!何言うとんのやが!」
赤くなった顔を赤くして、愛は美貴の背中を拭き始めた。
それを絵里達はにやついた顔をして見ている。
「美貴ねえ、焼けるとね!」
「愛ちゃんとお似合いですよ〜♪」
「フフン、ありがとう、二人とも。」
「もう、知らん・・・。」
四人が笑い合う中、さゆみはじっと美貴の体を見つめる。
- 811 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:50
- 「(ん〜、藤本さんの肌ってけっこう綺麗なの・・・。)」
感心しながら美貴の体を見渡して、唯一見えない背中に周る。
「あっ、さゆ・・・。」
「!?」
美貴の背中を見て、さゆみは思わず目を伏せた。
体が自然に震えだす。
「愛ちゃん!ちょっといいですか?」
さゆみに手を引かれて、愛は部屋の外に出る。
「藤本さんの背中、どうしてあんなに黒いんですか?」
その言葉に、愛は俯いた。
「さゆみ、テレビで見たことあります。あれって、虐待とかでできる
痣なんですよね?愛ちゃん、どうなんですか?藤本さん、もしかして・・・。」
「さゆ、そういうことは本人に聞くもんだよ。」
部屋の中から美貴の声が聞こえた。
さゆみはそっと扉を開けて中に入る。
- 812 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:51
- 「・・・聞こえてたんですか?」
「美貴の耳に聞こえないものなんてないよ。知りたがってること、
教えてあげるからこっちにおいで。」
さゆみは渋々美貴の元へと近づいていく。
その後ろから、不安そうな表情をしている愛がついていく。
「美貴ねえ、何の話しと?」
「美貴の背中が黒いって話しだよ。」
「・・・どうしてですか?」
「実はね、中学の時だったかな?美貴の周りで刺青が流行っててね、
けっこうかっこよかったんだ〜。それでね、友達と話し合ってさ、
どうせだからメチャクチャでかいの付けようってことになって、
背中全体にやってもらったの。けど、付けたはいいけど今度は
消すのが大変でね、しかもその消した医師がヤブ医者だったんだ。
結局まともに消えないで傷だけ残っちゃったってわけ。そゆことだよ。」
美貴の話しを、絵里達は口を開けて驚いた。
同時にあきれていた。
- 813 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:52
- 「いつかはライブで儲けて、どっかいいとこで消してもらうつもりだけどね。」
「そんな昔っから藤本さんって、あっ、何でもないです。」
「美貴ねえってどうしてそう、ん、何でもなか。」
「おい、言うことあんならちゃんと言えよ〜!」
「言ったら怒らない?」
「怒らないよ。その前に殴ってると思うからね。」
「怖っ!じゃあ言わな〜い。」
美貴達は楽しそうに笑っている。
それを見て、さゆみも考え直して話しに混ざる。
「藤本さん、可愛い刺青ってあるの?」
「やめときなよ。入れる時ってけっこう痛いからね。そういえばさ、
そろそろバイトの時間じゃん?」
美貴は壁に掛かっている時計を指で指した。
- 814 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:53
- 「やばっ!絵里、さゆ、急がんと間に合わんと!」
「そうだった。急ごう急ごう!」
「藤本さん、お大事に〜。愛ちゃん、あとはお願いしますね〜。」
「うん。がんばってね。」
絵里達は慌てて部屋を出て行った。
愛は一度息を吐き出して、美貴の隣にある椅子に座り、顔をじっと見つめる。
「愛ちゃん、どうかした?」
「本当のこと、言わなかったんやね・・・。」
「・・・話す必要ないよ。あの子達にまで、美貴の過去を背負う必要なんてないんだ。
もし本当に話さなきゃならない時になったらさ、聞いてもらうことにするよ。
今はまだ時期じゃない。それに・・・。」
「それに?」
見上げる美貴と視線が絡み合う。
- 815 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:54
- 「美貴には愛ちゃんが傍にいてくれるから、わかってくれるからね。
愛ちゃんも一緒に背負ってくれてるから、美貴はこうして生きていられる。
れいな達には重すぎるよ・・・美貴はあの子達まで縛りつけたくない。」
「・・・美貴ちゃんは優しいね。」
一息ついて、愛は美貴の顔を覗き見る。
「約束といえば、オーディションが終わったら、何でもするって
言っとったよね?」
「えっ、と、そうだったかな・・・?」
「美貴ちゃん、目を閉じてくれんかな。」
愛は右の拳を左手で包み込む。
表情は少し怖い笑みを浮かべている。
「何でもするんやろ?ほらっ、目を閉じて、口も閉じる。」
「・・・はい。」
美貴は仕方なしに目を閉じた。
- 816 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:54
- 何かやらされるとは思ってたが、まさか殴られるとは思わなかった。
心配かけたことは確かだけど、せめて完治してからにしてほしいと願う。
覚悟して、愛に殴られるのを耐えようとした。
その瞬間、
「!?」
何か口唇に柔らかい、暖かいものが触れた。
美貴は驚いて目を開ける。
美貴のすぐ目の前には、愛の顔があった。
口唇と口唇で繋がっている。
愛は顔を赤くして美貴から離れていく。
ほんの一秒でも経ったかどうかも、わからないほど短い時間だが、
二人にしてはとても長く感じられた。
- 817 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:55
- 「あ、愛ちゃん・・・?」
「こ、今回だけやざ!み、美貴ちゃん、頑張っとったし、
戻ってきて、くれたから・・・ちょっとした、ご褒美やよ・・・。」
「えっ、あの・・・。」
「あ、あーし、ジュース買ってくるがし!」
愛は部屋を飛び出して行った。
美貴は、先ほど触れた口唇を指で触る。
「キス、したんだよね・・・?」
まだ信じられなかった。
愛と口付けた事実を受け止められない。
ただ、昼食を食べた後に歯を磨いておいてよかったと、どうでもいいような、
とても大切なようなことを思っている自分がいた。
- 818 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:56
-
コンコン
「は、はい!どうぞっ!」
愛が戻ってきたんだと思い、美貴は慌てて返事をした。
だが、入ってきたのは愛ではなくて真希だった。
「ミキティ、具合はどう?」
「ごっちん・・・。」
真希は先ほどまで愛が座っていた椅子に座ると、持ってきた果物の籠から
りんごを取り出して、持参の果物ナイフで皮を剥き始める。
「どうしたの?紺野みたいにぼーっとしちゃってさ。」
「そ、そんなことないよ。そういえば、紺ちゃんは?」
「ああ、さっき高橋とすれ違ってね、一緒に飲み物を買ってくるってさ。」
「そう、なんだ・・・。」
名前を聞くだけで心臓が飛び跳ねそうだった。
それほどまでに、胸が高鳴っている。
- 819 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:56
- 意識したことは何度もあるが、まさか一度口付けただけでここまで
胸が痛くなるとは、想像もできなかった。
「ま〜た大怪我しちゃって、よく生きててくれたもんだよ。」
「ずいぶんな言い方だね。怪我はそのうち治るけど、バイクどうしよ・・・。
保険ってどのくらいきくのかな?お金かからなきゃいいけど・・・。」
「まぁ、命があるだけよかったと思いなよ。そういえばさ、
オーディションはどうだったの?」
「結果は、年末になるって聞いたよ。あ、愛ちゃんから・・・。」
「そっか。ミキティ、食べる?」
一口サイズに切ったりんごを紙皿に乗せて、美貴に差し出した。
「ん、美貴は、まだいいや・・・。」
真希はりんごを一つ食べて首を傾げる。
- 820 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:57
- 「あ〜、なるほどね。口元が寂しくなったんでしょ?」
「!?」
美貴の心臓がまた激しく揺れる。
「ご、ごっちん、どうしてそれを・・・?」
「・・・何のこと?これが欲しかったんじゃないの?」
真希は鞄から煙草を取り出して、美貴に放り渡した。
「言っておくけど、後藤が買ったんじゃないからね。なっちに
買ってもらったんだけどさ、なっちって童顔じゃん。だから、
職務質問されたらしくてね、しかもその日に限って証明書を
持ってなかったみたいだし、後藤が行かなきゃどうなってたんだかね〜。
それでね・・・。」
真希の話しに頷くも、美貴の耳を左から右に流れただけだった。
衝撃が強すぎて何も頭に入らない。
- 821 名前:夢の翼 投稿日:2006/02/27(月) 23:59
- 「ミキティ、聞いてる?」
「・・・どうだかな。」
「本当にどうしたの?」
「・・・ちょっとした病気、かな。」
恋の病、とは言えなかった。
それには真希も気付いているはずだから。
その意識が以前よりも強くなっただけだ。
「ねえ、ごっちん・・・。」
「何?」
「ごっちんがさ、紺ちゃんと、付き合う時って、その・・・。」
「んあ、どうかした?」
「・・・やっぱいいや。何でもない。」
「変なミキティ。」
まともに話しができそうもないので、真希はそっとしておくことにした。
美貴はただ、窓の外に見える風に流れていく雲を、ぼーっと見つめていた。
- 822 名前:konkon 投稿日:2006/02/28(火) 00:01
- >>774飼育さん
板が変わりました〜w
これからもいい意味で裏切り続けていきたいと思います!
>>807:名無飼育さん
愛ちゃんはキャワワッ!!!ですよ♪
今の推しは完全にこの二人ですよwww
自分の小説を探すのにすごい時間が・・・(ry
- 823 名前:konkon 投稿日:2006/02/28(火) 00:03
- 逆だ!!!
更新です・・・orz
ちょうどきりがいい、というより容量が切れそうなので、
次辺りから別スレを立てようと思います。
また今後もよろしくです!
- 824 名前:konkon 投稿日:2006/02/28(火) 00:04
- 訂正です。
もう少しいけそうなので続きます・・・(汗)
- 825 名前:konkon 投稿日:2006/02/28(火) 12:22
- ミキティ誕生日おめです!(遅!)
- 826 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/28(火) 19:24
- 更新乙です
急展開というかやっとというか
愛ちゃんから動きましたか・・・ミキティがどうでるか楽しみです
- 827 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/04(土) 06:44
- 更新おつかれさまです
みんなが幸せになれそうな展開でほっとしました。
これからも応援していますので作者さんのペースで頑張ってください
- 828 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:41
- ある日の休日、美貴と愛は三つほど離れた町に来ていた。
以前にれいなからもらったライブチケットで、ライブを観に来たのだ。
病院を退院したのはいいが、同棲しているためにあのキスをして以来、
お互いを意識しなかった日はない。
この日も愛は時々美貴を見つめていることがある。
昨日までは美貴も同じような感じだったが、今日に至っては違っていた。
会場前にいる見たことのないほどの客達を見渡して、まさに興味津々といった表情をして、
感心したように眺めている。
「愛ちゃん、すごいよ!ここにいる人達、みんなあのバンドを見に来てるんだよ!」
愛の肩を掴んでガクガクと揺さぶる。
触られただけで意識してしまう愛は、恥ずかしそうにして頷いた。
- 829 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:41
- 「まだ時間もあることだし、ちょっと周りも見てこない?」
「ん・・・あーしは、ちょっとトイレに行ってくるから、見てきてええよ。」
「そっか。んじゃ、またあとでね!」
よほど嬉しいのだろう、美貴は足早に人ごみの中へと消えていく。
愛は一息ついて歩き始める。
周りでは祭りのように騒いでいる。
まだ開演まで一時間以上もあって、開場すらしていない。
ライブが待ちきれなくて、今から聞くバンドの歌が楽しみで仕方なくて、
会場を前にして騒いでいる。
「(いつかは、こんなアーティストになりたいな・・・。)」
そんなことを思って歩いていると、一枚の紙が風に乗って飛んできた。
それは、今まさに始まろうとしているライブチケットだった。
- 830 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:42
- チケットを拾って周りを見渡してみる。
人が多すぎて誰が落としたのかもわからない。
じっと耳を澄まして声を聞く。
美貴ほどではないにしろ、音楽をやっていて音を聞き分ける能力を身に付けている。
しばらくして、叫ぶような声が聞こえてきた。
そこへ向かうと、一人の少女が泣き叫んでいて、もう一人の少女が宥めていた。
「あいぼん、どうしよ〜!チケットがないよ〜・・・。」
「のん、落ち着いて、もう一回かばんの中を探すんや。」
辻希美と加護亜衣、二人が士鬼面の生徒であり、美貴と喧嘩したことのある
二人だということを、愛は知らない。
まるで双子のような、どこからどう見ても普通の少女なのだから、
わからないのも無理はない。
愛はゆっくりと二人に近づいていく。
「どうしたの?」
声をかけると、希美が涙を零しながら愛を見上げる。
- 831 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:43
- 「チケットが、なくなっちゃったの・・・。」
「やから、落としたりせん限りなくなるなんて・・・。」
「もしかして、これのこと?」
愛は先ほど拾ったチケットを見せる。
二人はそこに飛びついた。
「あいぼん!席どこだっけ!?」
「うちの隣やから・・・うん、これや!これに間違いないわ!」
「風が強いから、きっとかばん開いた時に飛ばされちゃったんやよ。
これからは気をつけてな。」
「うん!お姉ちゃん、ありがとう!」
希美は何度も愛の手を握って振ったあと、亜衣と一緒に歩いていった。
お姉ちゃんと言われたことに、少し頬を緩める。
「あっ、いたいた!愛ちゃん、こんなとこで何してんの?」
いくつかの荷物を抱えた美貴が駆け寄ってきた。
「ん、別に何もしとらんよ。」
「・・・何で笑ってんの?」
「フフフッ、何でもないがし。ほらっ、そろそろ開くから行こうよ。」
美貴は不思議そうな表情をして、愛と一緒に会場へと向かっていった。
- 832 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:44
- 約一万人も入る広い会場、美貴達は前から数えて50列目といった辺りの席だ。
それなりに視力がよくなければ見えないが、美貴ならば余裕で見れる。
テレビで見たことはあるが、実際の中の広さに愛は感心していた。
美貴は先ほどから椅子に座って、じっとステージを見ながら体を揺すっている。
もう楽しみで仕方のないようだ。
「やばいくらい心臓震えてるよ。どうしよ〜。」
「まぁ、最初なんやったら仕方ないやろ。うちらやって未だにそうやしね。」
「そんなもんかな?それにしても、かっこいいな〜。こんなとこでライブやるなんてさ。」
「全くやな。尊敬するわ。」
「「ん?」」
愛とは反対の向き、目を合わさずに話しをしていた相手に目を向ける。
その瞬間、美貴は愛の方へと飛び引いた。
話しをしていたその相手も驚きの表情を見せる。
- 833 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:44
- 「あんた、確か・・・。」
「・・・久しぶりやな。ミキティっていったっけね。」
そう言ったのは亜衣だった。
どうやら美貴の隣の席だったようだ。
「美貴ちゃん・・・?」
愛は美貴の豹変ぶりを見て、どうしたらいいのか戸惑っていた。
美貴は亜衣を睨みつけたまま動かない。
逆に、亜衣は顔に笑みを浮かべている。
「そう怖い顔すんなや。別に喧嘩しようなんて思っとらんから。」
「あいぼ〜ん!買ってきたよ〜。」
ジュースを両手に持った希美が駆け寄ってきた。
美貴は希美と亜衣を交互に見据える。
- 834 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:44
- 「・・・やっぱり二人揃ってかよ。」
「おっ、のん。この人覚えとるやろ?」
「・・・誰だっけ?」
「「って、忘れるな!」」
美貴と亜衣は、声を揃えて声を上げた。
「いい突っ込みやな〜。」
「大きなお世話だよ。」
「えっと・・・あっ、親切なお姉ちゃんだ!さっきはありがとう!」
「いいよ、気にしなくても。」
希美は愛に駆け寄って話し始める。
美貴はどうしたらいいのか考えていたが、その間に亜衣が顔を近づけてきた。
- 835 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:45
- 「さっきも言ったやろ。うちらは喧嘩しにここにきたんやないわ。
大体喧嘩する理由もないし、あんたも彼女にやなとこ見せたくないやろ?」
「べ、別に彼女のわけじゃ・・・。」
「どちらにせよ、うちらやって楽しみたくてここまできたんや。
喧嘩なんてこっちから勘弁してほしいわ。何もせんから安心しとき。」
顔を顰める美貴に、亜衣はウインクして見せた。
愛に視線を向けると、希美と笑い合って話している。
士鬼面の時とは違う希美のあどけない笑顔に、愛も心を許しているようだ。
何もしないという亜衣の言葉も信用はできる。
事実、美貴達が無事に士鬼面から出られたのは、ひとみの言いつけ通りに
希美が守ってくれたからだ。
少し落ち着かない感じはするが、美貴は小さくため息をついて、
まだ誰もいないステージを見つめていた。
- 836 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:45
- 時間になって、会場中が真っ暗になる。
観客達は総立ちしていくつもの歓声を上げる。
美貴と愛も立ち上がるが、まだ周りについていけなくて声を出せない。
ステージの真ん中に二人の姿が現れ、スポットライトが当てられる。
「会場の皆さん、こんにちわ〜!」
「今日も張り切っていきましょ〜!」
観客達は腕を上げて声を上げる。
miracle charmy key、それがこのバンドの名前だ。
ステージに立つ二人の名は保田圭と石川梨華、今最も注目を浴びているバンドだ。
圭は黒のコートに身を包み、梨華は圭とは対照的にアイドルのような、
ピンクの衣装を着ている。
最初の挨拶が終わって、圭はギターを、梨華はベースを手にしてライブの準備する。
- 837 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:46
- 「それでは聞いてください。summer night town。」
圭がギターを弾きながら歌い始める。
それに合わせて梨華もベースを響かせる。
初めて聞くからか、もしくは圭の生の歌声を聞いてなのか、
愛は体を震わせていた。
CDで聞くのとは大違いだ。
全てを飲み込むような、圧倒的な破壊力のある歌声だった。
それでも飲み込まれることに躊躇いを感じないのは、
力強くも暖かい雰囲気を感じていたからだ。
二人の放つ雰囲気は、どこか自分達と似ているように感じていた。
美貴も真剣にステージを見ている。
曲が終わると、周りから歓声が巻き起こる。
「美貴ちゃん・・・。」
「ん〜?」
「胸が、痛い・・・。」
「美貴も同じだよ。すごすぎて、わくわくしてきた・・・。」
美貴は苦笑いを浮かべてそう答えた。
- 838 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:47
- 胸が締め付けられるような痛みが、徐々に体を熱くさせる。
たった一曲で、肌で感じ取っていた。
本物のアーティストの持つ力を、雰囲気を、そして、実力を。
圭がスタンドマイクから顔を離すと、今度は梨華がマイクに近寄った。
「みなさ〜ん、ハッピー!」
両手を前に広げて大声でそう言った。
美貴達は動けなかったが、観客達も同じようにして返していく。
「うんうん、いい感じですね〜。では、次は私がいっちゃいま〜す♪
first happy birthday!」
梨華が歌い始めると、愛は首を傾げて美貴を見る。
愛は圭の歌しか聴いたことがなかったからだ。
「美貴ちゃん・・・。」
「うん?」
「今度は耳が痛い。」
「えっと、それは、慣れ、かな・・・。」
初めて梨華の歌を聴く愛には、まだ合わないようだ。
- 839 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/04(土) 14:47
- それでも、彼女を知る他の観客達は梨華に声援を送っている。
これだけの客を沸かせる梨華の力を知ったのは、それからしばらくしてのことである。
「ところで、どうして一人で歌ってるんやよ?」
「あれ、知らないの?このバンドは一人一人交互に歌ってるんだよ。
つい最近まではね。」
「最近まで?」
「そのうちわかるよ。」
美貴の答えは、さらに頭を混乱させるだけだった。
ただ、きちんと聴いておこうと思う。
圭の綺麗な歌声を、梨華からは歌というよりも盛り上がらせるためのポジティブ的な
パフォーマンスを、しっかりと勉強しておくことにした。
- 840 名前:konkon 投稿日:2006/03/04(土) 14:47
- 更新です。
- 841 名前:konkon 投稿日:2006/03/04(土) 14:50
- >>826:名無飼育さん
ついに動きましたね♪
さって、どうなるかはまぁ・・・そのうちわかりますよw
>>827:名無飼育さん
ありがとうございます!
お言葉に甘えて、マイペース気味でいかせてもらい(マテ
次回でこのスレでは最終更新とさせていただきますので、
今後もよろしくです♪
- 842 名前:哀さん好きの名無しさん 投稿日:2006/03/05(日) 17:35
- 更新お疲れ様です!
ヤバイです。哀ちゃんキャワワ(*´д`)
もどかしい雰囲気がなんとも言えなくて好きですね。
別スレ立てる前に来れてよかったです!
次回も楽しみに待ってます。
それと哀は態とですよ。
- 843 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 19:56
- 曲を順々に終えて、二人が三曲づつ歌い終えたあとだった。
「それでは、ここで新しい仲間を紹介します。」
「久住小春ちゃんで〜す!」
ステージ脇から一人の少女が走ってきた。
圭がマイクを彼女に渡す。
「イエーイ!久住小春です!よろしくお願いしま〜す!」
観客達は、これまでにないほどの歓声で彼女を呼びかける。
愛よりも大分年下であろう。
それなのに堂々とした小春の姿に、愛は感心していた。
「美貴ちゃん、あの子は・・・?」
愛は目だけで美貴を見て聞いた。
- 844 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 19:56
- 「久住小春、この間入った新人だよ。まだ中学生だってさ。今までは十位内を
ふらついてたんだけど、あの子がデビューしたら一位を取って、それからは
ミラクルだって言われてるんだよ。バンド名もそれに則ったんだってさ。」
「へ〜、すごいんやね。」
「感心するのはこれからだよ。見ててみなよ。」
「私のデビュー曲です。聞いてください。amorous and irritating。」
小春の語り口調が始まる。
それが終わって曲が流れた瞬間、愛の体を寒気が襲った。
圭と梨華、この二人が楽器だけに集中した時の雰囲気の領域は、
重く、深く、まるで深海にでも飲み込もうとしていた。
まだ飲み込んではいない。
飲み込まれたのは、小春の歌が始まってからだった。
- 845 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 19:57
- 小春は、愛と同じようにして踊りながら歌っている。
まだ素人のようで上手いとはいえない。
ただ、聞かずにはいられない柔らかい歌声が、先ほどの寒気を和ませる。
ずっと浸かっていたいと思わせる空気を出している。
「愛ちゃん、どう?」
美貴が前を向いたまま愛に聞いた。
「信じられんよ・・・こんな世界が、あったなんてね・・・。」
自信はあったし、経験もたくさん積んだ。
自慢できるほどではないけど、自負していた部分もある。
だが、壊された。
久住小春というヴォーカルに、miracle charmy keyというバンドに、
今までの世界を壊された。
- 846 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 19:58
- 「あれで中学生だもんね。本当にすごいよ。」
「こんなにも、世界って広いんやね・・・。」
「・・・愛ちゃん?」
「あーし、もっと強くなる。もっと上手くならんと、追いつけんから。」
「そうだよね・・・。」
美貴は一度だけ愛を見て、嬉しそうに頷いた。
ここにきてよかったと思う。
彼女達の歌声を聞けたから。
同時に、高みを目指すための目標にもなったのだから。
その後、二人は決してステージから目を反らすことなく、
真剣に歌声に耳を傾けていた。
- 847 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 19:59
- ライブが終わってから、美貴達は駅に向かって歩いている。
それぞれの感想を話していると、聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
「あっ、愛ちゃん発見!」
立ち止まった美貴達に希美が走り寄ってくる。
「お、のんちゃん。」
「愛ちゃん達も一緒に帰らない?」
「おう、ええよ。」
先を歩く愛と希美を見て、美貴は苦虫を噛み潰したような表情をする。
「ほらほら、彼女を取られたからってそんな顔するなや。」
「彼女じゃないって言ってるでしょ。」
あとからきた亜衣を、美貴は怖い目つきで睨みつける。
- 848 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 20:00
- 「美貴はあんた達を許した覚えはないよ。」
「仕方ないやろ。あの時は是永達に唆されたんやからさ。」
「そんなこと言って、美貴に信じろって言うの?士鬼面にいるあんた達を・・・。」
「なら聞くけど、仲間達が今やられてる、無差別に襲われてるから
助けてくれって言われたら、あんたならどうする?」
「そ、それは・・・。」
美貴は何も言えずに俯く。
「過去に問題のあった高校やから、何人もの悪がいるからって、
全員が悪やって決め付けるんか?」
「・・・。」
「まぁ、そういうことや。うちらやって喧嘩したかったわけやない。」
美貴はまだ納得がいかなくて、亜衣と顔を向き合わせようとしない。
- 849 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 20:01
- 「じゃあさ、あんた達は何で士鬼面に入ったの?」
「自分ちょっと勘違いしとらんか?士鬼面は別に悪の養成学校なわけやない。
授業は少ないし確かに悪もおる。けど、あんまり学校とかに行けない子や、
問題のある生徒でも入れるような学校や。うちらみたいにね。」
「・・・あんた達にも、何か問題でもあるわけ?」
「・・・うちとのんは、施設で育ってきたんや。」
「えっ・・・?」
美貴は口を開けて亜衣の顔を向いた。
「昔に親に捨てられたようでな、そこでのんと知り合ったんや。
同じ年で気が合って、何をするんでも一緒で、そのうち二人で
でっかいことでも始めるつもりなんや。そのためにバイトして、
金を集めとるんや。やけど、普通の高校は授業料や制服代も
けっこう高いし、かといって奨学金がもらえるほど頭もよくはない。
やから、士鬼面を選んだってわけや。」
「ちょっと待って・・・あんた達、自分のお金で高校に行ってるの?」
予想外の話しに驚き、つい声を上げて亜衣に聞いた。
- 850 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 20:02
- 「あんまり迷惑もかけてられんからな。でも、学校には行っておきたいんや。
バイトだけの生活ってのもつまらんしね。今日やって、知り合いから
チケットもらえんかったら、見にこれんかったんや。」
亜衣の言葉は、美貴の心に深く突き刺さった。
もし自分が奨学生になれなかったら、彼女と同じ運命を辿っていたのかもしれない。
「うちらにやって理由があるんやわ。まぁ、あんたにはわからんかもしれんけどね・・・。」
「ううん、わかるよ。美貴も似たようなもんだからさ・・・。」
「ん〜、さっきまで憎んでた相手を信じられるんか?」
「もし嘘だったらボコボコにしてやるから、覚えておきなよ。」
「うぉ〜、怖!いよいよ本音が出よったか?」
二人は顔を見合わせて笑った。
- 851 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 20:02
- 「そういえばあんたは・・・。」
「ねぇ、あんたってのやめにしない?美貴にも名前があるの。」
「んじゃミキティやな。そう呼ばれとったろ。えっと、その・・・
ミキティ達と、友達になれへんか?」
亜衣は恥ずかしそうにそう言った。
「いいよ。同じバンドが好きだって仲間も欲しかったしね。」
「ほんまか?ミキティはええやつやな〜。もしかしてミキティなら、
"あの人"の心も溶かせるかも・・・。」
「あの人?」
「ああ、何でもないわ。こっちの話しや。」
「あいぼ〜ん!電車がきちゃうよ!早く早く〜!」
前を見ると、愛と希美が並んで手を振っていた。
- 852 名前:輝きを胸に 投稿日:2006/03/06(月) 20:03
- 「急ごっか。あいぼん。」
「そうやね。ミキティ。」
名前を呼び合うことがなんとなく可笑しくて、二人はまた笑っていた。
亜衣は先を急ぐも、美貴は一度だけ会場を見上げた。
「(miracle charmy key・・・いつか追い抜いてみせる。)」
自分達を知らない相手に向かって、美貴は心の中で呟いた。
愛達を振り向くとずいぶんと先の方へと進んでいる。
絶対に負けないという、想いという強い輝きを胸に秘めて、
美貴は走りだした。
- 853 名前:konkon 投稿日:2006/03/06(月) 20:03
- 今回こそこのスレでの最終更新です〜。
- 854 名前:konkon 投稿日:2006/03/06(月) 20:04
- 容量の都合上、続きは新しいスレで書こうと思います。
それではまた新スレでお会いしましょう!
- 855 名前:konkon 投稿日:2006/03/06(月) 20:05
- >>哀さん好きの名無しさん
まだまだ新鮮な二人なだけにポワワッっとねw
続きは新スレになりますので、またどうぞご利用ください♪
- 856 名前:ミッキーティ♪ 投稿日:2006/03/06(月) 21:34
- お疲れ様です!3楽しみにしてます!!
辻加護と仲良くなれて良かった〜(^∀^)
- 857 名前:konkon 投稿日:2006/03/10(金) 23:27
- >>ミッキーティ♪
3に行きましたw
辻加護コンビもまた出せたらいいですね〜♪
- 858 名前:konkon 投稿日:2006/03/10(金) 23:28
- >>ミッキーティ♪さん
すいません、さんを付けるのを忘れてました(汗)
申し訳ないです・・・。
- 859 名前:konkon 投稿日:2006/03/10(金) 23:29
- 次スレです。
今後もどうぞよろしくです。
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