回転木馬
- 1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/16(月) 01:13
- お初にお目にかかります。
ありきたりに学園物を85年組+αでやってみたく思いまして。
目指すは完結、更新速度は…。
よろしくお付き合い下さい。
- 2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/16(月) 01:15
- ・・・・・
・・・・・
・・・・・
- 3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/16(月) 01:17
-
桜の花びらがちらちらと舞う中、あたしとよっすぃーはちょっとした段差に座り込んでしみじみと語っていた。
「やー、うちらもとうとう三年になっちゃったね」
「そうか・・・どうりで年を取るわけだ。見てよあの新入生たちの初々しいこと」
ぽかぽか陽気の中、入学式が終わったばかりの新入生たちが体育館から吐き出されてくる。
ちょっと前までは中学で最高学年だったあの子たちも、今日この日からは一番下の学年に。
新たに決意を秘めてる顔があれば、既にかったるそうな顔をした子も何人かいる。
そう言えばあたし、高校の入学式の時って何考えてたっけ?
「ねえ、あたし入学式の時って何考えてたんだっけ?」
「知らない。ってか、ごっちん入学式出てないじゃん」
よっすぃーに訊いたら彼女は眠たそうな声を出した。
それから、くあ、と欠伸を一つ。
ああ、暖かいもんねえ。よっすぃーじゃなくても眠たくなるよ。
「入学式かあ・・・。そうだよ、今日は入学式なんだよ。他の生徒は休みなのに、どうして学校に来なくちゃいけないのさ!」
眠たげな声から一変、よっすぃーは声を荒げて手に持っている竹箒で地面をばしばし叩いた。
「多分昨日うちらが圭ちゃんの車にボールをぶち当てたからじゃない?」
「駐車場でテニスって無理があったのかなあ」
「どこに行くか分からないのが面白いのにね」
昨日入学式準備をサボって駐車場でテニスをしていたら、白熱する余り勢いのついた打球が何度もそこら辺に止まっていた車に当たったのだ。
なんでだか、保田先生の車にばかり。
やっばいよどうしよう、なんてこそこそ話してたら本人に見つかって、おまけに準備をサボってたのもばれて罰掃除を言いつけられる始末。
あー、今年一年、幸先悪いなあ・・・。
- 4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/16(月) 01:18
-
「だー! 掃いても掃いても終わらねー!」
とうとうよっすぃーがキレた。
お腹の底から出したような大声で叫ぶ。
掃いても掃いてもって言う程はまだやってないけどね。
それにしても、この桜の花びらをきれいにするのは確かにしんどい。
桜の樹自体がたくさんあるせいで、花びらはすごいことになっている。
・・・ま、綺麗なんだけどね・・・。
「桜ってのは散り行く姿も美しいんだからほっときゃいいのに。ヤッスーめ」
ぶつぶつと掃除を命じた保田先生への恨み言をこぼしながらもよっすぃーは立ち上がると、かったるそうに箒を動かし始めた。
よっすぃーは色々サボったり適当だったりするけど、根が真面目だから自分に割り振られた最低限のことはきちんとする。
今みたいに、ぶつぶつ言いながらも何かやってる姿をよく見る。
だから、確かに問題児ではあるけど先生ウケは悪くはない。
もう一人の問題児であるあたしも、心証を少しでも良くするためによっこらせと立ち上がった。
と、よっすぃーの背中の方に女の子が歩いているのが見えた。
多分新入生だ。
まだ型崩れしていないブレザーに、テカってないスカート。だけどしっかり丈は短くしてある辺りが抜け目無い。
へえ、と思って顔をよく見ると結構可愛い。
意志の強そうな形の眉とくりっとした目。
薄く茶色に染められた髪が桜の花びらと一緒に風に揺れていた。
- 5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/16(月) 01:19
-
- 6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/16(月) 01:20
- 今日はここまで。
- 7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/17(火) 04:24
- ほー、なんか面白そうなヨカーン
続き期待してまっせー
- 8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/18(水) 00:36
- >名無し飼育さん
レスありがとうございます。
期待に添えられるよう頑張ります。
- 9 名前:回転木馬 投稿日:2005/05/18(水) 00:38
-
「お掃除、大変そうですね」
「―――そうなんだよ、大変なんだよ。だからお願い邪魔しないで」
近付いてよっすぃーの後ろからその子が声を掛けると、振り向いたよっすぃーは変な間を置くとすぐにまた背中を向けた。
そして必要以上にせわしなく箒を動かし始めた。
「あの」
ざっざっ。
「あのお、もしもし?」
ざっざっざっ。
「・・・よっすぃー、呼ばれてるよ?」
「いいのいいの。あれは悪質なキャッチセールスと同じで、一度相手にしたらいつまでもくっついてくるから。ごっちんも関わらない方が賢明だよ」
あくまでも女の子を無視するよっすぃー。
だけどその子は気にすることなく薄くほほ笑みすら浮かべて、言った。
「ひどいですね、吉澤先輩。可愛い後輩に向かってその言い草。返事してくれないと中学時代の先輩との思い出をうっかり喋るかもしれませんよ?」
「やあ松浦久し振り! 入学おめでとう!」
女の子の言葉に弾かれたように振り向いたよっすぃー。
そして。
「ありがとうございます」
至極満足そうに女の子は笑った。
- 10 名前:回転木馬 投稿日:2005/05/18(水) 00:42
-
「同じ中学?」
「うん、まあ」
「初めまして、松浦亜弥です。いつも吉澤先輩がお世話になってます」
げんなり、といった感じのよっすぃーの隣で、あたしに向かって深々とお辞儀をする松浦亜弥ちゃん。
おお、中々礼儀正しい良い子じゃないか。若いのに感心だね、なんて思ってたらよっすぃーが。
「待て。その挨拶はおかしいぞ」
無機質な声で突っ込んだ。
「え〜、だって先輩と一緒にいる人なんだからきっと苦労が絶えないだろうなと思って」
「・・・松浦、お前あたしをどんな目で見てたんだ?」
「こんな目です」
マツウラさんはそう言いながらそのくりくりした目に力を入れてよっすぃーを見つめた。
二、三秒程松浦さんと見つめ合ったよっすぃーは片目を細めると彼女の顔を押し退けた。
「分かったから、ほら。教室行かなくていいのか?」
よっすぃーが促す。
確かに、あれだけいた新入生の数がまばらだ。
「あっ」
「はい行った行った。怒られるぞ」
軽く背中を押されて数歩進んだ松浦さんは、そのまま行こうとして、また止まった。
「先輩、今日一緒に帰りませんか?」
「すまない、松浦。掃除が済んだら速やかに下校するようにとのお達しを受けているのだ。優等生のうちらは先生に逆らうことなんて出来ない」
「またまた。先生の言うこと聞かなかったから今日来てるんでしょう?」
変な口調でお断りしたよっすぃーに、鋭い突っ込みを入れる松浦さん。
ああでも、中学からの後輩ならよっすぃーが決して優等生じゃないことはお見通しか。
それに結構親しげだし、突っ込み慣れてる感じがする。
「そうとも言える。って、実際問題、おばさんと帰るんじゃないの?」
「あ、忘れてた」
「自分の母親忘れんなよ・・・」
呆れたのか何なのか、よっすぃーは力なく呟くと盛大に溜め息を吐いた。
松浦さんは中々ボケたところもあるようだ。
今度こそお辞儀をして小走りに去っていく松浦さんを見送ると、よっすぃーはその場に座り込んだ。
- 11 名前:回転木馬 投稿日:2005/05/18(水) 00:44
-
「疲れた・・・」
「良い子みたいじゃん、松浦さん。可愛いし」
「何だろ、アイツがテンション高いのって、あたしから何か吸い取ってるからな気がする」
「苦手?」
「いや? 一番仲良かった後輩だし。あたしも歳かな」
まだ十七なのに、と思ったけど、そういやよっすぃーは明日で十八だ。
この歳でそんなこと言ってたらうちらより年上のお姉さん方に怒られちゃうよ。
「んじゃ、さっさと終わらせて帰りましょーかね」
「だね」
大きなゴミ袋がいっぱいになってようやく保田先生からお許しを貰うと、二人して「疲れた」「だるい」を繰り返しながら校門を出た。
帰り道、松浦さんのことを聞こうかなとも思ったけど、何を聞こうか思いつかなかったから止めておいた。
また校内で会うだろうから、名前だけはしっかり覚えておこう。
あたしは心の中で「マツウラアヤ、マツウラアヤ」と唱えながらよっすぃーと並んで帰った。
- 12 名前:回転木馬 投稿日:2005/05/18(水) 00:45
-
□ □ □ □ □
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/18(水) 00:48
- 本日はここまで。
こんな感じに少しずつ更新予定。
- 14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/18(水) 12:18
- いい感じですね。期待してます。
- 15 名前:ぱっち 投稿日:2005/05/21(土) 00:22
- 雰囲気かなりイイです
期待してます
- 16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:44
- >14 名無飼育さん
ありがとうございます。頑張ります。
>ばっちさん
雰囲気を持ったままいけるようがんばります。
- 17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:44
-
- 18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:46
- まっつーは、あ、まっつーってのは亜弥ちゃんのことね、一応。絶対可愛いと思うのに、なぜかあたし以外はそう呼ばない。
まあ、中学から知ってるよっすぃーは間違ってもそんな呼び方しないだろうけど。
それにしても、みんな亜弥ちゃん亜弥ちゃんって。そのまんますぎて面白くないと思うんだけどな・・・。
で、そのまっつーは入学式の日の出会い以来あたしたちとよく行動を共にしている。
あたしたちが三年に、まっつーが入学して一ヶ月が経った。
三年のあたしたちにいつもくっついてる一年生というのはかなり目立つらしく、まっつーは三年の間でかなり有名人になっていた。
それは、良い意味でも悪い意味でも。
よっすぃーやあたしは学校で結構目立ってるみたいなのね。
特別何かしたわけじゃないのに色々騒がれて、まあみんなから割と好かれてる方だと思うよ。
よっすぃーのファンの中にはマジで惚れてる子もいるくらい。
女子校故に、ってやつかな。
ま、よっすぃーは愛想がいいからさ。
そういう子たちからしたら、まっつーはかなりイレギュラーな存在なのだろう。
だけど持ち前の愛嬌からか、今のところイジメとかには遭っていない。
まったくもって、大したやつである。
- 19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:47
- そのまっつーは入学してからずっとよっすぃーにべったりだ。
よっすぃーも逃げてはいるけど、残念、まっつーには協力者がいる。
「よっちゃん、自販行こう」
この人、藤本ミキティ。いや、美貴。
ミキティっていうのはあたしとよっすぃーだけが呼んでる彼女のあだ名。
彼女は素の表情がおっそろしく恐いせいで、周りの人たちに一歩距離を置かれてる。
本人は「もう慣れたよ」なんて言いながらも、その表情は少し寂しそう。
それでもまっつーはそんなミキティのことを気に入ったらしく、知り合ったその日に携帯の番号とアドレスをゲットしていた。
ミキティはと言うと、
「美貴末っ子だから妹が出来たみたいで可愛い」
なんて言ってそりゃあもう甘すぎるくらい甘やかす。
まっつーがちょっかい出されない理由には、ミキティが可愛がってるからってのも少なからずあるとあたしは睨んでる。
- 20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:50
-
昼休みになるとミキティがよっすぃーを誘う。
トイレ行こうだのジュース買いに行こうだの、とにかく何かと用事を作っては誘い出す。
で、よっすぃーはアホみたいに毎回付いていくのだ。そこにまっつーが待ち構えてるとも知らずに。
「せーんぱーい」
ジュースを買って戻る途中、ミキティがトイレに行きたいと言い出した。
なので、通り道にある、あたしたちの階よりも二つ下の階のトイレに着くと、鏡の前に陣取っていた生徒が振り向いた。
語尾にハートマークが付いてるような、そんな甘ったるい声と共に。
「ミキティ、あたし先に戻るね」
「先輩、一回くらい目を合わせてくれてもいいんじゃないですか?」
「ごめんね松浦。松浦の目を見ると石になるんだよ。あたしはまだ石にはなりたくない」
大袈裟に悲しそうな演技をしだすよっすぃー。
まっつーは、メデューサじゃない。
そんなよっすぃーの頭をまっつーはがっしり掴むと無理矢理目を合わせた。
「先輩、話をする時は目を見て話しましょうって習ったじゃないですか」
「知らなかったの? 松浦限定で特別条例があるんだよ」
「なるほど、私が可愛すぎるからですね」
「・・・何でもいいから、いいかげん放してくれる?」
―――はい、よっすぃーの負け。
大抵の場合、よっすぃーとまっつーのこのおかしなやりとりはまっつーの自分大好き発言で幕を閉じる。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:53
-
よっすぃーが引くと、それに満足したまっつーは大人しく手を離した。
「それじゃあ先輩、また放課後に会いましょう」
「じゃあね、亜弥ちゃん」
よっすぃーに代わってミキティが返事をした。
みきたんもまたね、なんてにこにこ手を振る松浦亜弥ちゃん十六歳、いや、まだ十五歳か。
誕生日が六月だからあと一ヶ月あるんだった。
プレゼント、用意しないとなあ。
まっつーはあたしにとっても可愛い後輩で、数少ない友達だからね。
やっぱりお祝いは盛大にやりたいもんね。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/23(月) 23:53
-
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/24(火) 00:24
- 更新終了。
何かpc具合悪かった…
そしてまたタイトル入れ忘れました。
- 24 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/05/24(火) 11:03
- エロ期待!
- 25 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/05/25(水) 00:25
- 吉澤さんと松浦さんの駆け引きがいいですね。引き続き期待。
- 26 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 02:01
- >24 名無し飼育さん
エロ…は未定ということで。
>25 名無飼育さん
ここの吉澤さんと松浦さんはこんな感じで。
- 27 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/01(水) 02:02
-
- 28 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/01(水) 02:03
-
教室に戻りながらよっすぃーはミキティに突っ掛かった。
「ミキティ、騙したな!?」
「ごめんねよっちゃん。亜弥ちゃんには敵わないよ」
聞いた話によるとミキティは、まっつーからよっすぃーと会う機会を作るよう協力を要請されたらしい。
『吉澤先輩を一年のトイレまで何とか連れてきて?』
『って言われても…』
『無理かなぁ…?』
等という流れで捨てられた仔犬のような目で見られたらしい。
「あんな目で頼まれたら断るなんて美貴には出来ないよ」
ミキティはヘタレ全開でそう言ってのけたのだった。
- 29 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/01(水) 02:05
- それにしても、よっすぃーもいいかげん気付かないものかな。
こう毎度だとさすがに気付くだろって感じなんだけど。
「多分、気付いてると思うよ」
プツリとジュースのパックにストローを注すミキティ。
よっすぃーが席を外した隙に彼女に話すと、意外な答えが返ってきた。
「え、どうして?」
「だってよっちゃん、美貴がいない時は捜しに来るもん」
「何のために?」
「亜弥ちゃんの所に連行されるためじゃない?」
「じゃ、まっつーのことを嫌がってるのは演技ってこと?」
「それはわかんないけど」
そこまで話したところでよっすぃーが戻ってきた。
ここからが重要だったのに。
「ん? 何の話?」
二人してよっすぃーの顔を見ていたからか、目を少し大きくして問い掛けてくる。
「球技大会で何に出るかって話」
ナイス、ミキティ。
ごく自然な様子でさらりと話題を変える彼女に感謝。
- 30 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/01(水) 02:06
-
春先に行われる球技大会は親睦を深める意味を込めてのクラスマッチだ。
三年のあたしたちにしてみれば今更って感じだけど、一年生にとってはやっぱ大事な行事の一つなわけで。
そして、あたしたちだって机にじっと座って勉強するより体を動かす方が好きだから、こういう行事は燃える、燃える。
勉強より運動が好きな筆頭かもしれないよっすぃーは疑うことなくその話に乗っかってきた。
「あんなの適当に決めてくれていいのに」
「バスケとバレーは人気あるからねー。あと、グループって固まるから」
「そんなもんかねぇ」
「どうでもいいから、早く帰りたいなあ」
「三人とも真面目に考えてよ」
言いたいことを口々に言っていると、あたしの上から声がした。
「いいじゃん、どうせ遊びなんだし」
「ダメ! やるからには、勝つの!」
「熱いねぇ、委員長は」
ミキティはそう言うと飲み干したパックをごみ箱に放った。
「入らない」
「入る」
その瞬間同時に反対のことを言うあたしとよっすぃー。
パックは回転せずに孤を描くときれいにごみ箱に収まった。
「んじゃ、明日のジュースね」
「りょーかい」
よっすぃーの言葉に小さく手を上げてあたしは返事をした。
- 31 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/01(水) 02:07
-
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/01(水) 02:07
- 本日分終了。
- 33 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/07(火) 14:07
- まったりとした感じがいいですね。
- 34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/09(木) 01:43
- >33 名無飼育さん
ありがとうございます。
まったりをベースにやってます。
- 35 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/09(木) 01:44
-
- 36 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/09(木) 01:45
-
「ねえ、ちゃんと聞いてる?」
小さな賭を終えたあたしたちに、言葉とは違い全く非難めいた様子のない声がかかる。
彼女はあたしたちのマイペースぶりをよく知っているのだ。
クラス委員にしてあたしたちの世話係兼オモチャ、石川梨華。
被害者と言ってもいいかもしれない。
「聞いてるよー」
「今日中だったよね?」
「梨華ちゃんも大変だね。委員長なんて」
「誰のせいよ?」
梨華ちゃんが唇を尖らせると、無言でよっすぃーに視線を送るあたしとミキティ。
- 37 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/09(木) 01:46
-
「あ、何それ。あたしのせいだって言うの?」
「だって元々よっすぃーがなるはずだったのに。なによ、本なんか読まないくせに図書委員がいいなんて言い出して」
「馬っ鹿、あの時は図書館があたしを呼んでたの」
「はぁ? 意味わかんない」
「もう三年だしさ、勉強しようと思って」
「嘘ばっかり」
よっすぃーからクラス委員を押し付けられた可哀相な梨華ちゃんは、そう言い放つとよっすぃーのジュースを勝手に飲み干した。
そして、歩いて捨てに行く。
まっつーとのは違う、だけどやっぱりコントのようにおかしな梨華ちゃんとよっすぃーのやりとりが無事に終わった。
今のジュースのことと言い、この二人は独特の呼吸がある。
おかげで一部の人達には関係を疑われているんだから面白い。
- 38 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/09(木) 01:46
-
よっすぃー曰く、
「マジ勘弁。どうせ噂になるならごっちんがいい」
―――らしい。
あたしは、喜んでいいのだろうか。
梨華ちゃんは梨華ちゃんで、
「よっすぃーと噂になるくらいならまだ美貴ちゃんの方がいい」
だって言うんだから、ある意味相性はいいのかも。
てか梨華ちゃん、その言い方は何気に失礼だよ。
- 39 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/09(木) 01:48
-
「んじゃ、さっさと決めましょうかね」
さらさらとペンで残った枠を埋めるよっすぃー。
一応あたしたちに見せてくれる。
うん、まあいんじゃないかな。
「ちょっと、ちゃんと考えたの?」
「大丈夫大丈夫。梨華ちゃんのお望みの勝利をプレゼントしてみせるよ」
ファンが見たら溶けそうなくらいの男前っぷりを無駄に披露するよっすぃー。
梨華ちゃんには全く効果はないので「はいはい」なんて流されてた。
- 40 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/09(木) 01:48
-
でもね、あたしはよっすぃーが本当に勝つような気がするよ。
何て言うんだろう、例え無理なことだとしても出来るかもしれない、そんな気になってくるのがよっすぃーの魅力だと思う。
もちろん、そこに努力もあるけど。
- 41 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/09(木) 01:49
-
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/09(木) 01:50
- 更新終了。
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/09(木) 21:05
- 初めて読みました。
ここの85年組面白いですね。
大好きなメンバーなので、楽しみにしてます。
- 44 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/17(金) 13:04
- >43 名無飼育さん
ありがとうございます。頑張ります。
- 45 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:05
-
- 46 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:06
-
晴れ渡る青空、降水確率は0%、そんな清々しい朝だと言うのに、更衣室を兼ねている教室の一角には二日酔いのおじさんみたいな人の姿があった。
「絶好のクラスマッチ日和だねぇ」
「クラスマッチなんかどうでもいいよ・・・」
「どした?」
「昨日からやり始めたゲームがさ、すっげ面白いの」
あとちょっとでクリアできるのにー!と叫ぶよっすぃーの目の下には濃い隈が。
これは徹夜でやってたな・・・。
何のゲームか知らないけど、着替え終わってもずっと気にしていた。
往生際悪いなあ。
- 47 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:07
-
そんなよっすぃーを引っ張って外に出る。
参加種目毎に集まる場所が違っていて、あたしはソフトボールで、よっすぃーは卓球だ。
「そういやミキティは?」
「嘘、まだ来てないの?」
今は集合時間10分前。ミキティの家から学校まではどんなに頑張っても10分じゃ来れない。
いくらミキティでもサボりはしないだろうと話しながら外に出ると、前方を当の本人が歩いていた。
声をかけようかとも思ったけど、そうしなかったのにはとてもとても深い理由があった。
- 48 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:08
-
ミキティは、えっちらおっちら卓球台を運んでいた。
―――今声をかけたら間違いなく手伝わされる。
始める前から疲れたくないってことで、よっすぃーとアイコンタクトで隠れることにした。
だけど。
- 49 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:09
-
「そこのでかい二人ー!」
100メートル先の人すら振り返るんじゃないかってくらい大きな声でミキティが叫んだ。
でかい二人? どこどこ?
わざとらしい動きできょろきょろしたら、今度はフルネームを叫ばれた。
「吉澤ひとみと後藤真希ー!」
あぁ、ミキティ・・・何てことをするんだ。
名前で呼ばれちゃ知らんぷり出来ないじゃん。
- 50 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:10
-
諦めて手伝いに行くと。
「人が呼んでるのに無視するしね!」
「だってあたしでかくないもん」
「美貴よりはでかい。あと態度も」
態度ぉ!?
あたし、そんなに大きな態度をとった覚えないんだけど。
「いやー、中々の物ですよ」
「ねえ」
よっすぃーにまで言われた。
あたしから見れば、そういうよっすぃーやミキティたちの方がどっちかって言うと大きな態度のような気もするんだけどな。
- 51 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:11
-
「あのね、普通の生徒は保健室にマイ枕なんか置かないし雑誌を常に三冊キープもしないの」
「アレみたいだよね。長期入院してる患者のベッド」
ミキティがそう言うと二人はケラケラと笑った。
中々失礼なんじゃないかな、キミタチ?
そもそも、保健室の枕が硬くなかったらあたしだって枕は持って来ないし、置いてある本が怪我や病気のことだけじゃなければ雑誌だって持って来たりしないのだ。
だから100%あたしだけのせいじゃない。
多分、いや絶対。・・・きっと。
- 52 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/17(金) 13:12
-
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/17(金) 13:13
- 更新終了。
- 54 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:03
-
それじゃー健闘を祈る! と元気よく散っていったよっすぃーたちの背中を眺めて、さてあたしも行くかーと歩き出す。
ソフトはグラウンド全部を使って二試合同時にやるから、最悪端っこまで行かなくちゃいけない。
歩いてるとチームメイトが既に集まっているのが見えて、ちょっとゆっくりし過ぎたかなと思わず反省した。
あ、やばい、先生たちもぼちぼち来てる。
走らないとマズイかなぁとか思ってたら、背中を誰かに叩かれた。
「ごっちん!」
「んあ、柴ちゃん」
「相変わらず眠そうだねー」
「いやいや。今日のよっすぃー程じゃないよ」
隣のクラスの柴ちゃんは梨華ちゃんと仲良しさんで、あたしも会えば話をする。
目鼻立ちのキレイな子で、何となくお姉さんぽい感じがする。
「柴ちゃんもソフト?」
「うん。ピッチャー」
「かぁっこいー」
外野手のあたしがそう言うと、柴ちゃんは何故か苦笑い。
なんか、あったのかな?
「それがさー、マサオにクラスマッチでソフトのピッチャーやるって言ったら『特訓だー!』って」
成る程、だから柴ちゃんは疲れ気味なのか。
まあ、あの人にしごかれた日にはねえ・・・。
- 55 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:04
- ああ、マサオって言っても男の人じゃなくて、大谷雅恵さんていうれっきとした女性のあだ名。
だけど、あたしは呼ばない。
いや、呼べないんだ。
あの人のことをマサオって呼べるのはごく親しい人、つまり柴ちゃんか、大谷さんと同級生だった斉藤さんと村田さんぐらいなものだろう。
大谷さんはあたしたちの二個上、つまりこの学校の先輩である。
どうして柴ちゃんが大谷さんと仲良しかと言うと、当時生徒会長だった村田さんに捕まったことがそもそものきっかけらしい。
すわナンパか宗教勧誘かと思うくらいの強引なアプローチを受けて柴ちゃんが根負けした。
現在柴ちゃんは生徒会会計の職に就いている。
―――で、村田さんがお気に入りの柴ちゃんをあっちこっち引っ張り回した時に大谷さんともう一人、斉藤さんっていう人と知り合ったんだって。
村田さんは一癖も二癖もある人だったから、その友達の大谷さんと斉藤さんは一体どんな人なんだ、ってあたしはよく想像してたなー。
村田さんの迷言の一つを紹介すると、
「眼鏡は知性とモエの必須アイテムである!」
と豪語していた。だから生徒会長である自分は眼鏡をかけているのだ、とか。そのことで他の二人と激しく論争してたけど。
あたしにはよくわかんないな、うん。
- 56 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:05
- 色んな意味で激しい人たちだったから、その活躍振りは当時一年だったあたしたちもよく知っている。
お祭り行事には率先して参加して、数々の逸話を残している人たちだった。
中でも強烈だったのは文化祭でライブをやった時。
興奮のあまりかステージから客席にダイブした事件だ。
柴ちゃんも(引きずりこまれて)出てるからということで、頑張って前の方で盛り上がってたちょうどあたしたちのところに大谷さんが降ってきたのだ。
あの時は、かなりビビった。
それに触発された斉藤さんまでがダイブしたものだから、あの空間はホントにものすごいことになってしまった。
そんなはちゃめちゃな行動をやるだけやって、先輩たちは卒業していった。
翌年からライブ禁止という置き土産を残して。
- 57 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:06
-
「先輩たち、元気?」
「うん。卒業して落ち着くどころか、パワーアップしてる感じ」
柴ちゃんによると、何かある度に何故か柴ちゃんの家で会合を開くらしい。
誰かの試験が終われば打ち上げして、誕生日ならパーティして、恋の予感があろうものならそれはもうお祭り騒ぎらしい。
嫌じゃないんだけどね、って笑う柴ちゃんの笑顔は、苦笑い。
そりゃそうか。次の日も朝から学校がある高校生にしてみれば、しょっちゅう朝まで騒いでたら体がもたないよ。
でも。
ちょっと、羨ましい、かな。
柴ちゃんには秘密だけど、先輩たちが卒業する前、あたしとよっすぃーと梨華ちゃん、それにミキティはしっかり言われたんだ。
「うちらの可愛い妹になんかあったら、あんたたちだからって容赦しないから」
もちろんあたしたちが柴ちゃんに何かするわけないし、そんなのは先輩たちも分かってはいたんだと思う。
だけど、そういう形で示されたのは凄く大きな愛情で、本人に直接伝えない辺りが「らしい」と言えば、「らしい」。
毛布にくるまれているような、そんな暖かい愛情に囲まれてる柴ちゃんがあたしは羨ましい。
だってそれは、あたしには到底手に入れられない物だから。
「じゃあ柴ちゃん、お手柔らかに」
「こちらこそ」
―――さて。
楽しいクラスマッチ、張り切っていきますかぁ。
- 58 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:07
-
- 59 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:08
-
試合して、応援して、気がつけば昼休みが近かった。
予想以上に燃えたおかげであたしは結構疲れ気味。
まだ午後も試合があるんだけど、だるいなぁ・・・。
とりあえずお昼を食べようと思ってよっすぃーたちと合流すべく歩いていると、横からまっつーに話し掛けられた。
「後藤先輩」
「おー、まっつー。今暇なの?」
「はい。後は昼からです」
「ってことはベスト4だ。すごいじゃん」
「ありがとうございます。先輩の方はどうですか?」
「さっきやっと一回戦に勝ったとこ」
確かまっつーはバレーに出るって言ってたはず。
バレー部やバスケ部がその種目に出ちゃ駄目っていう決まりはないからバレー部の子もいるだろうに、ベスト4進出とは大したものだ。
その点あたしは楽だ。
うちの学校にはソフト部はないから、本職はいない。みんな素人。
ソフトボールをやるのは初めてだったから、一番めんどくさい種目かもと思ってたけど、これが中々面白い。
バスケみたいにずっと動きっぱなしってわけじゃないから、体力が余ってるみんなは力一杯応援する。
試合するより応援で疲れきってしまいそうだ。
ルールも、基本的なことは残して後は何でもアリって感じ。
一回戦をなんとなく勝ったあたしたちのチームは現在二回戦待ち。
ちなみに、柴ちゃんチームはジャンケンで勝ったのでシードチームなのだ。実に羨ましい。
- 60 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:10
-
さっさとよっすぃーたちに合流してご飯にしようと歩いていくと、異様な人だかりが見えてきた。
「何? あの人だかり」
「卓球・・・のスペースですけど・・・」
卓球って、あんなに人が群がるスポーツだっただろうか。
もう少し近付くと原因が判明した。
黒山の中心に、台風の目みたいな感じでいたのはよっすぃーとミキティだった。
丁度試合中のようだ。
「―――このギャラリーって有り?」
「美貴たんと吉澤先輩ですから」
「あーね・・・。どうする? もっと近くに行く?」
「やめときましょう。後藤先輩も有名人ですから」
まっつーは迷いもせずにそう言った。
ナニソレ、と思わず笑ってしまった。
どっちみちあの人だかりを掻い潜って応援するのは難しそうということで、どこか適当に座れる処を探し始めるあたしとまっつー。
全校生徒が外に出ているので、どこを見ても人がいる。
と、あたしは丁度いい場所を思い出した。
「まっつー、いいとこあった。こっち」
あたしはきょろきょろしていたまっつーを促して歩き出す。
辿り着いた先は、体育館の裏手だ。
「ここ、ですか?」
「うん。そこの階段上がって」
体育館の裏手には体育教師が利用する教官室に続く階段がある。
この階段ってのが絶好の穴場スポットなのだ。
扉一枚隔てた向こうに教師がいると思うと流石に寛げやしないらしく、普段からここは生徒がいない。
「大丈夫なんですか、ここ」
「ん? 平気平気」
そして、誰も来ないのをいいことにあたしとよっすぃーはしょっちゅうやってきてまったり寛いでいる。
ミキティも誘ったことあるけど、彼女は先生が気になるから嫌だと言って一度も来たことはない。
別に授業サボるわけでもないし、ここで煙草を吸うわけでもないから全然気にすることなんてないのにな。
- 61 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:12
-
「あ、来て来てまっつー。卓球の試合が見えるよ」
胸の高さまである壁から覗くと、上からの目線のおかげで人だかりの中の様子もよく見える。
あたしはまっつーを手招きで呼ぶとひょこひょこと顔を覗かせた。
得点は・・・1対0。で、よっすぃーたちが負けてる。
「あらー、負けてるよ」
「先輩たちの相手ってうちのクラスの子なんですけど、卓球部ですよ」
中学じゃ全国大会に出たとか、と補足してくれるまっつー。
ふうん、そんなに凄い子たちなんだ。それじゃ今回はよっすぃーたちに勝ち目はないかもな。
いくら運動神経良くたって、本業の人相手にはねえ。
瞬殺されたらおしまいだ。
そう思いながら見てたら、ミキティが上手くサーブを決めた。
1ポイント。
だけどすぐによっすぃーが有り得ないミスをしてしまい点差は元に戻った。
何やってんだかと思ってたら、この辺から徐々によっすぃーの動きが変わった。
それまではホームランとかしてたのに、少しずつ相手に返し始めた。
「やっとエンジンがかかってきたみたいだね」
「エンジン?」
「よっすぃーさあ、ノッてくると強いんだけど、それが遅いんだよね」
卓球みたいに軽くて小さい球を扱う競技はその感覚に慣れるまで本当に時間がかかる。
だけど、一度ノッたよっすぃーは本当に強い。
今だって、卓球部の子らと遜色ない動きでプレーしている。
少し動きが大きいけど、そんなのはパフォーマンスの一つみたいなものだ。
「へえ・・・」
「へえ、って。中学の時はどうだったの?」
「そうですね・・・例えばこういう行事ならバスケかバレーみたいに屋内の競技を選ぶでしょうね。それから、補欠登録だけして更衣室かどこかで寝てますね」
まっつーによる分析におもわず納得するあたし。
有り得る。
よっすぃーは、張りきるか無気力か、そのどちらかな気がする。
- 62 名前:回転木馬 投稿日:2005/06/28(火) 00:14
-
「「あ」」
あたしとまっつーが同時に声を上げた。
よっすぃー・ミキティ組がとうとう追いついたのだ。
二人は腰の辺りで軽くタッチした。
あの輪の熱気が離れたこっちまで伝わってくる。
対戦相手の一年生には悪いけど、ギャラリーは完全によっすぃーたちの味方だ。
波に乗る、ってホント、こういう状態を指すんだな。
猛攻を続ける二人はあっという間にマッチポイントを迎え、ミキティが勝利を決めた。
今度はハイタッチをし、抱き合って喜ぶ二人。
クラスの子たちも輪の中から出てきて喜んでいる。
―――と、一人スマートじゃない動きで人混みを掻い潜って姿を現した人が。
梨華ちゃんだ。
梨華ちゃんは押されながらもよっすぃーたちに近付いていく。
その姿によっすぃーが気付いたみたい。
すっごい笑顔で、何とも自然な動きで、梨華ちゃんを抱き締めた。
梨華ちゃんも笑顔で抵抗なく抱擁を受け入れる。
勝利の喜びを分かち合うクラスメイトたちの姿。いいねえ、青春だねえ。
卓球の試合も一段落したみたいだし、と、あたしは本来の目的を思い出した。
まっつーを振り返ると彼女は少し離れたところで違う方向を見ていた。
- 63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/28(火) 00:15
-
- 64 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/28(火) 00:15
- 更新終了。
少し間が空いたので気持ち多め。
- 65 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/29(水) 00:27
- すげぇ、いいかんじ。
明るく微妙に暗いものを隠し持ってるかんじが好きです。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/29(水) 16:49
- いい雰囲気ですね
- 67 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:21
-
- 68 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:21
-
- 69 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:22
-
「まっつー、降りよう?」
「・・・・・・」
話しかけても返事がない。
・・・なんだぁ?
「・・・今行ったら邪魔じゃないですか」
「へ? 邪魔?」
一体何の、誰の邪魔だと言うのだろうか。
もう一度よっすぃーたちを見るけど、よっすぃー、ミキティ、梨華ちゃんが並んでジュースを飲んでる姿があるだけだ。
「吉澤先輩と、石川先輩ですよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
頭がフリーズした。マジで真っ白になった。
それはとんでもない誤解だよ、と思うと同時にどうやら声に出ていたみたい。
- 70 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:23
-
「ないないない。それは絶対ないよ」
普段のあたしからは想像もつかないくらいの速さで否定する。
いやだって、よっすぃーと梨華ちゃんだよ?
ミキティが焼肉を食べなくなるくらい有り得ない。
「あのさ、良い事教えようか?」
「?」
「よっすぃーね、高校入ってから今まで、誰とも付き合ってないんだよ」
・・・・・目が疑ってるよ・・・・・。
あーもう、どうしたら信じてくれるんだろ。
まっつーは口を真横に結んだまま少しの間あたしを見てたけど、結局何も言わずにフイっと階段を降りて行ってしまった。
- 71 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:24
-
あーあ・・・。
だけど、そんない信じにくいことじゃないとあたしは思うんだけどな。
まっつーを追うべきかどうしようか葛藤して、結局空腹が勝ったのでひとまずよっすぃーたちと合流することにした。
ベンチで寛ぐ三人に近寄ると、梨華ちゃんが真っ先に立ち上がって手を振ってくる。
「ごっちーん!」
ひらひらと手を振り返しながら、さっきのまっつーの言葉を思い出す。
- 72 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:25
-
よっすぃーと、梨華ちゃんねぇ・・・。
黙って並んでればそりゃあおかしくはない。いや、むしろお似合い?
だけど、やっぱり違うんだよなあ。
万が一そんな関係になったとしても、絶対すぐに別れるはず。
まっつーにはそう感じられないってことは、あたしだけが思うのかな?
自分の勘を信じてるあたしとしては、もしそうなったらショックだな。
「お疲れー」
「ごっちん、卓球ペア、優勝したよ!」
自分のこと以上に嬉しそうな梨華ちゃん。
うんうん、見てたから。しっかり。
「おめでとー」
ひとまず二人を労い「それで」と続ける。
「梨華ちゃんとこは?」
あたしが尋ねると、横で顔をしかめるよっすぃーとミキティ。
―――もしかして・・・
「・・・・・・・・・・一回戦負け」
ぼそっと、聞き取れるかどうかのボリュームで梨華ちゃんは答えた。
あちゃー、訊かなきゃ良かった。
- 73 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:26
-
「で、でもさ、卓球は団体戦もいいとこ行きそうだし、バスケも勝ち上がってるじゃん」
「そうだよ。総合優勝は十分狙えるよ」
どんどんネガティブになって負のオーラを撒き散らし始めた梨華ちゃんを慌ててフォローしだす卓球ペア。
そんな二人をチラ、と見て、今度はあたしをチラ、と見て。
「・・・・・ごっちんは?」
あたしに話を振ってくるの?
やだよぅ、ネガティブ梨華ちゃんは厄介なんだから。
だけど答えないわけにもいかず、正直に白状した。
「一回戦は、何とか・・・」
「じゃあ負けたのってあたしだけなんだ・・・」
益々落ち込む梨華ちゃん。
相手を聞いたらバレー部員が三人もいたチームだって言うんだから、そんなの勝てなくて当然だ。
あたしだってそんなチーム相手ならコテンパンにやられるだろう。
三人で食事もそこそこに宥めて、やっとネガティブモードから抜け出してくれたけど、変わりにとんでもないことを約束させられた。
すなわちソフトボールの優勝を。
- 74 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:26
-
- 75 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:27
-
午後の部、第一試合に柴ちゃんが出る。
応援、応援とみんなで移動。
みんなは純粋に応援出来るけど、あたしはこの試合に勝った方と当たる可能性がある。
観察も兼ねて、じっと見守る。
「おおぅ、柴ちゃんの球はえー」
柴ちゃんのピッチングによっすぃーが感心している。
あたしも、口には出さないが驚いた。
さすが、大谷さん指導なだけあるなー。
柴ちゃんチームは運動出来る人を集めたみたいで、みんな動きがいい。
もし当たったら、勝てるのかなあ・・・。
- 76 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:28
- ちらりと過ぎったあたしの不安を他所に、柴ちゃんチームはあっさり勝利。
あたしは二回戦のために体を動かしに行く。
頑張れ、なんて声援は普段だったら嬉しいけど、今だけは嬉しくない。
特に、梨華ちゃんのは。
- 77 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:28
-
ああもう、どうしてこんな約束をしてしまったのだろう――――
バッターボックスに向かいながら、後悔の渦に浸ってみた。
分かってる、分かってるんだ。
チームのため、クラスのため、梨華ちゃんのため、そして、よっすぃーとミキティのため。
痛いくらいに分かってるけど、勝ち目のない試合を勝たなくてはいけないプレッシャーは相当な物だと、今更ながら思い知った。
マウンド上の柴ちゃんと目が合った。
強い意思を感じる目。
場違いかもしれないけど、綺麗だなと見惚れそうになる。
この試合に勝ったら決勝進出。
得点差、2点。柴ちゃんチームがリード。
カウント、1アウトランナー二塁、2ストライク2ボール。
―――はっきり言ってチャンスだ。それも大チャンス。
勝ちたいのはどっちも同じ――――。
- 78 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:29
-
「もうタイムはいい?」
「あ、はい。いいです」
主審の先生に訊かれ、はっとして顔を上げた。
別に緩んでなかった靴紐を結び直す振りをして取ったタイムも、あたしをプレッシャーから解放するには至らなかった。
腹を括ってバットを構える。
―――大丈夫、柴ちゃんとの対戦成績は五分だ。
―――速い球は、当たれば飛ぶんだ。
あたしはそう自分に言い聞かせながら柴ちゃんを見据えた。
これまでのタイミングから想像してバットを振る。
―――――――が、
「!!??」
今までの球より、若干スピードが遅い!?
しまった、と思った時は既に遅く、あたしのバットは止まらない。
これ空振ったらアウトじゃん!
ちょっとでいい、当てればボール・・・。
よっすぃーたちが何か言ってるけど、さっぱり聞き取れない。
カキン!! と小気味のいい音がして、ボールの行方を追った。
ライト方向に飛んでいくあたしのボール。
―――ああこりゃ駄目だ。ファールだな。
ひとまず首の皮一枚で望みを繋いでほっとしていたら、会場がどよめいた。
- 79 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:30
-
「入った――――!?」
「ごっちん、ホームラン!!」
色んな人が叫んでる。
・・・ホームラン?
よくよく見ると、外野の端の方、ホームランのライン付近に立った先生が合図をしている。
ってことはやっぱり間違いないのだろう。
恐る恐るベースを周るあたしに称賛の声が降りかかる。
マウンド上から柴ちゃんまで「ごっちん、ナイス」と声をかけてくれた。
敵だと言うのに、清々しいなあ。
ホームまで戻ってよっすぃーたちの方を振り向くと、恥ずかしいくらい盛り上がっていた。
「流石、ごっちん!」
「かぁっこいー!」
・・・なんか、あんまり手放しで誉められるとおちょくられてる気もするな・・・。
だけどツーランホームランを打って気分がいいあたしはそれに乗る。
「見たかぁー!」
声を上げてVサイン。
続いてチームメイトとハイタッチ。
- 80 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:31
-
この回はあたしの後はアウトになって、チェンジ。
守備に向かう途中でミキティが声をかけてきた。
「ごっちん、美貴たち、亜弥ちゃんのバレーに行ってくるね」
「んあ、ごとーの分も応援よろしくー」
「任せなさい」
やかましかった三人は走って体育館に向かっていく。
正直あたしはホッとした。
梨華ちゃんに見られながらのプレッシャーから、ようやく解放されたのだ。
ホッとしたって罰はあたらないでしょ。
柴ちゃんとすれ違いざまに言葉を交わす。
「さっきの借りは返すから」
「いつでもどーぞ」
うはは、とわざとらしく笑う。
―――この裏の回、守りきったら決勝進出だ。
- 81 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:31
-
- 82 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/13(水) 23:31
-
- 83 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/13(水) 23:37
- 更新終了。
更新間隔が伸びている…
>65 名無飼育さん
そのうち明らかに出来れば、と。
>66 名無飼育さん
ありがとうございます。
- 84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/16(土) 06:45
- 青春ですね。
あやや、よっすぃ、梨華ちゃんの関係も気になります。
- 85 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:54
-
- 86 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:55
-
まっつーの試合はどうなった。
あたしは整列もそこそこに体育館へ急いだ。
- 87 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:55
-
チラ、と得点ボードを見ると今は4セット目。
だけど得点は3対15。
何だかえらく差がついてるな、と心配になって会場をぐるりと見回した。
――よっすぃー、発見。
おかしなことに、一人だけだ。ミキティと梨華ちゃんはどうしたんだろう。
またまた視界を巡らせると、よっすぃーよりもコートから遠い場所で人込みに見え隠れしている姿を発見。
どっちに行こうかと迷って、結局近い場所にいるよっすぃーの方に向かう。
「どう? まっつーは」
「お、ごっちん。・・・あいつ駄目だ。全然集中してない」
- 88 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:56
-
複雑な表情をしてよっすぃーは言う。
コート内のまっつーを見ると、今は後衛に回っている。
ローテーション制だからいずれは前衛に行くんだけど。
相手チームの強烈なジャンプサーブが飛んでくる。
ちょうどまっつーのところに来て、体は反応出来ているのに、うまく合わせられなかったみたいでボールは明後日の方向へ飛んでいく。
「・・・相手の人、あれ多分バレー部だよね? 体が動くだけすごくない?」
「松浦ならあれぐらい余裕で受けきるよ」
「何で? まっつー中学は帰宅部でしょ?」
「中学の時、あたしのサーブを一番上手にミート出来てたのは松浦だから」
―――――え、何それ。あたし初耳。
まっつーは中学の時帰宅部で、でもよっすぃーのサーブを受けてた?
どういうことだろう。全然わかんないんだけど。
- 89 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:57
-
「松浦ぁー!!」
うおっ!?
3対20になったところで、我慢出来なくなったよっすぃーが叫んだ。
びっくりして眉が動いちゃったよ。
「しっかりしろよ!」
コートの中からぼうっとこっちを見つめるまっつー。
「お前、あたしのサーブが取れてたんだぞ!」
「そんなサーブ、取れないわけないだろ!」
ずばずばと相手チームのバレー部さんに失礼なことを言うよっすぃー。
そういやよっすぃーって、中学の時バレーでいいとこまで行ったとかいう話があったな。
普段ののらりくらりとした様子からはとても想像出来ないからすっかり忘れてた。
- 90 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:58
-
一向に反応がないまっつーだが、審判が笛を吹いたために前に向き直る。
だけど、それでもよっすぃーは声を出す。
「負けたら承知しないぞ!」
ピクリ、とまっつーが体を動かした。
腰をやや深く落とし、構える。
相手がサーブを―――これまた強いサーブを、打ってきた。
スッと右に動いたかと思うと、上手く体を使ってボールの勢いを殺す。
レシーブが、上がった。
「よしっ!」
よっすぃーもガッツポーズ。
そのままトスを上げ前衛の子が上手く相手コートの空きスペースにボールを落とした。
もしかして、まっつーのチームにもバレー部がいるのかな。
- 91 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:59
-
「んー、現役じゃないと思うけど」
「ほう。何故に」
「見覚えがない」
全校生徒の顔を覚えているのだろうか。
流石にそれはないと思うけど・・・。
「この前松浦に付き合って部活見学したじゃん」
「したね」
「その時はいなかったから」
結構記憶力いいな、よっすぃー。
あたしなんて誰一人思い出せないのに。
よっすぃーがすごいのか、あたしがヘボいのか。
あーだこーだと言う間もまっつーチームは盛り返し、流れを完全に掴んでこのセットを終える。
次のセットで勝負がつくらしい。
- 92 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 00:59
-
「勝てるかなぁ、まっつー」
「さあ・・・・・」
少しの休憩を挟んで再びコートに散っていくまっつーの後ろ姿を見ながら話を振ってみたけど、よっすぃーの答えは何とも素っ気無い。
さっき一度大声で応援しただけで、後は大人しいし。
応援してるのか、そんなに応援してないのか。
- 93 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:00
-
まっつーはあたしたちを見ることなくプレーする。
そういえば、まっつーが真剣な顔してるのって初めて見るな。
隣りにいる、このいつも笑っている(薄ら笑い含む)よっすぃーもバレーをしてた時は真面目な顔をしていたのだろうか。
ちらっと隣りを盗み見て、どうだろなあと結論付ける。
そのまんまのよっすぃーがあたしは好きだよ。
よっすぃーに真面目な顔されたらきっとあたしは疲れちゃう。
- 94 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:00
-
- 95 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:01
-
わっ、と体育館がどよめいた。
まっつーチームが先にマッチポイントに辿り着いたのだ。
サーブはまっつー。
あたしが打つような、下で打つのとは違って、バレー部が打つような上からの打ち方をした。
――――だけど力が入りすぎて、アウト。
「バカ」
よっすぃーが短くぼやく。
相手にサーブ権が移って、こっちは綺麗に入れてきた。
それを拾って、打ち損ねた弱いボールが相手に返る。
例のバレー部が、バックアタックを打ってきた。
クラスマッチでそこまでやらなくてもいいのに、と思ったら、まっつーが拾った。
そして、まっつーたちのチームの前衛がフェイントをかけてネット際からボールを押し込むと、あっさりと勝負はついた。
- 96 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:02
-
ベスト3進出を決めて喜ぶ一年生たちが引き上げてきた。
つと、まっつーと目が合う。
「おめでと、まっつー」
にっこり笑って、まっつーは「ありがとうございます」と返す。
よっすぃーも普段はふざけたやり取りしてるけど、こんな時くらいはお祝いするかと思いきや。
「この、アホ」
―――――それはないだろう。
「あたしがアホなら先輩もアホです」
「じゃ、松浦は大アホか」
「なら先輩は大アホアホですね」
―――――――――。
ばちばち、っと火花を散らせるアホ二人。
- 97 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:02
-
――――――――でも。
正直、ほっとした。
午前中のまっつーの様子があまりに変だったから気になってたけど、今のやり取りを見る分にはいつもと変わらない。
あたしはそれ以上深く考えるのを止めた。
――――――大したことじゃなかったんだろう。うん。
- 98 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:03
-
**********
- 99 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:04
-
帰り道。
あたしは梨華ちゃんにひたすら謝っていた。
「優勝出来なくてごめんなさい」
結局あたしたちソフトボールは、あの後柴ちゃんのチームに負けて結果三位。
優勝は柴ちゃんたち。
ちなみに、卓球は総合一位。まっつーのバレーも一位。
クラス成績は最終的には四位だった。
ってゆーかさ、十分すごいと思うのよ。
全クラス中で四位って、かなり頑張ったよね。
だけど負けず嫌いなあたしたちの委員長はそれじゃ不満な様子。
「まーまー。ごっちんだって頑張ったじゃん」
「そうだよ。MVPだよ?」
- 100 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:04
-
―――そうなのだ。
優勝は出来なかったけど、なんとあたしはMVPを貰ったのだ。
理由は、なんでも打率が一番良かったとか。
貰った賞状を広げて梨華ちゃんの目の前にかざす。
友人たちのフォローもあってか、ちらりと一瞥した梨華ちゃんは渋々納得してくれた。
「そうだよね・・・頑張ったよね・・・。ごめんね、ごっちん。優勝しろなんて言って」
「ううん、気にしてないよ」
- 101 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:05
-
梨華ちゃんを宥めるので忙しくて、不思議にも思わなかった。
今日に限って、まっつーが一緒に帰ろうと言って来ないことなんか。
- 102 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:05
-
********
- 103 名前:回転木馬 投稿日:2005/07/26(火) 01:06
-
- 104 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/26(火) 01:12
- 更新終了。
やっとクラスマッチ終了。
>84 名無飼育さん
青春。自分はあまりしなかったやつです。
あの3人の関係はもう少し先ですっきりさせる予定です。
- 105 名前:tio 投稿日:2005/08/01(月) 20:17
- こんな良スレがあったとは!!見落としてた(ノД`)
私の好きなメンバーずくしな上、雰囲気も良い!!
これから更新頑張ってくださいね、待ってますから!
- 106 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:36
-
クラスマッチが終わって二日が過ぎた。
いつもの毎日に元通り、と言いたいけれどちょっとそれは難しい。
校門をくぐったあたりからよっすぃーの動きが怪しくなる。
あっちこっちに視線を遣って、明らかに何かを警戒している。
何か、とはもちろんまっつーだ。
が、そんなよっすぃーの努力空しく何事もないまま教室に辿り着いてしまった。
「気持ち悪い」
自分の机に鞄を置くと真っ直ぐあたしの席に来る。
開口一番がそんなセリフだった。
気持ち悪いって何なのさ。
「―――吐く?」
「や、そういうのじゃなくて。松浦がやかましく言って来ないのが気持ち悪い」
―――そう、クラスマッチの疲れを残しながら一昨日からはいつも通りの時間割りだ。
なのにまだ一度もまっつーに会っていない。
- 107 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:36
-
恒例の昼休みにも来なかったし、そうなるといよいよ会わなくて。
二日姿を見ないなんて特に騒ぐことでもないかと考えてメールも何もしなかったのだが、まっつーがいないと想像以上に静かになる。
それを気持ち悪いって。二ヶ月前まではこれが普通だったのに。
しかしついによっすぃーもまっつーの心配をするようになったのかな。
「何企んでるんだろ・・・」
違った。心配なんかしてなかった。
やたら真面目くさってとんちんかんなことを言う友人の頭を叩く。
叩かれた理由が分からないよっすぃーが少々恨めしげな視線を送ってきたけど、華麗にスルー。
クラスマッチの時、急に様子が変わったまっつー。
あの時何の話をしてたんだっけ、と記憶を辿る。
大して時間もかからず思い当たった。
そうだ、そうだ。あたしがよっすぃーはまだ誰とも付き合ってないって言った時だ。
これは紛れも無い事実だし、もし今までによっすぃーが誰かと付き合っていたとして、まっつーがそこまで態度を変える理由はないはずだ。
- 108 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:37
-
「あ、ごっちん」
・・・・・・いや、待てよ?
あたしは恋愛感覚は人並みに持ち合わせているつもりだ。
「ごっちんてば。聞いてる?」
こういう時って考えられる可能性は限られてくるんですけど。
・・・いや、でもなあ・・・。
「ねえってば」
「何? あたし今考えごとしてるんだけど」
横から何度も呼ばれてついに集中出来なくなり、声の主であるよっすぃーを見ると、彼女は携帯電話の画面を開いてあたしの目の前に突き付けた。
「メール? ミキティ?」
受信メール画面の一番上には差出人が『藤本美貴』と表示されている。
よっすぃーってフルネームできっちり登録してるんだ。
で、本文はと言うと。
『ごっちん今すぐ一階奥のトイレに集合』
・・・シンプルだなぁ。
てゆーか何でミキティはわざわざよっすぃーの携帯にあたしの集合をかけるんだろ。
自分の携帯を見ると、見事に電池切れ。
「ありゃ」
「意味ないじゃん。しょーがないなぁ・・・」
よっすぃーが呆れたように笑って自分の鞄を漁っている。
やがて、ほい、と携帯用の充電器を渡してくれた。
「ありがとね。じゃ、ちょっと行ってくる」
「ん」
- 109 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:38
-
教室を出る際にちらりとよっすぃーを見たら、椅子に凭れて少し俯いていた。
どうやら一眠りする気のようだ。
―――――平和だなあ。
不意にそんなことを思ってあたしはミキティの元へ向かった。
- 110 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:38
-
- 111 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:38
-
一階奥というのは特別教室がある棟のことで、こっちのトイレは始業前は誰も来ない。
わざわざこんな場所に呼び出すなんてどうしたんだろう。
ご丁寧に閉められたドアをノック。
「ミキティー?」
廊下に声が響く。
すごいな。たった十数メートル離れた校舎なのに、廊下は繋がってるのに、まるで違う場所だ。
ドアはすぐに開けられて、中からミキティが滑り出てきた。
「? 中に誰かいるの?」
「・・・実はさ、亜弥ちゃんがいるんだけど」
「まっつー?」
良かった、学校には来てるんだ。
で、そのまっつーがどうしたのだろうかとミキティの言葉を待つと、彼女は頭を掻いたり鼻を触ったりと落ち着かない。
「亜弥ちゃんがさ、ちょっと変なんだけど」
困り顔のミキティ。そうか、やっぱりまだ変なんだ。
「美貴どうしていいかわかんなくてさ。ごっちんなら上手く話聞き出せるかと思って」
・・・どうしてそんな難しいことにあたしを指名するの、ミキティ・・・。
あたしなら、ってどういう規準なの?
- 112 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:39
-
ミキティに押されるように恐る恐る中に入る。
後ろでドアが閉まった。
・・・ミキティ、自分はちゃっかり外に居る気だよ・・・。
まっつーは壁の一部に凭れて立っていた。
「おはよ、まっつー」
「・・・どうも」
まっつーは素っ気なく返すと一瞬だけ合わせてくれた視線をさっと外して宙を睨む。
これはまた、随分と手強いと見た。
ここはまあ、世間話でもしてみるのがいいかな。
「そういや最近昼休み来ないね」
「あ・・・ちょっと行きそびれて」
「昨日も会わなかったからよっすぃーが気にしてたよ」
割とさらりと流すように言ったけれど、まっつーは意外にも大きく反応した。
「そんなこと、あるはずないじゃないですか」
聞いたこともない冷たい声で低く呟いた。
- 113 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:40
-
「本当だよ。さっきも言ってた」
「・・・信じろって言うんですか?」
言って唇をきゅっと引き結んだ。やがてゆるゆると開くと一つ大きく深呼吸した。
「あたし、中学に入ってすぐ吉澤先輩と仲良くなったんです。一年間しか一緒じゃなかったけど、殆ど毎日一緒でした」
すらすらと言うとずずっと壁を伝って座り込む。
ああもう。ここ、トイレだってこと忘れてるのかな。
思わず伸びたあたしの手にも、汚れるスカートの裾も気にせずまっつーは言葉を続けた。
「だから断言出来ますよ。・・・石川先輩といる時の吉澤先輩の顔、あんなに柔らかい表情をする人じゃなかった」
・・・思わぬ告白だなあ、これは・・・。
- 114 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:41
-
行き場をなくした伸ばした手を何と無く気まずいと感じながら引っ込める。
それから、まっつーのつむじを見ながら思考を巡らせる。
あたしは高校に入ってからもう二年、よっすぃーとつるんでいるけど、よっすぃーは最初からあんな感じだと記憶している。
梨華ちゃんと仲良くなり始めたのは二年生になってからだったから、まだ一年しか経ってないけどやっぱり最初からあんな感じだった。
その様子がまっつーには特異に映るというのは、単にまっつーの気のせいであってほしい。
「中学の時にはいなかったタイプなんじゃないの? 梨華ちゃんが」
徐々に下がっていく頭をつと上げて、まっつーはあたしを見た。
「―――あたし、先輩たちに迷惑かけてませんか?」
いつでも青信号なまっつーと同じ人とは思えない程弱々しい態度を見て、あーやっぱり年下なんだなぁと妙に納得してしまった。
「まっつーってさ、よっすぃーが好きでしょ」
素直に答えてくれるかは分からない。
これは賭けだ。もし答えてくれなかったらあたしもお手上げだ。
気持ちは分かりきっていても、まっつー自身がそれを認めない限りどうすることも出来ない。
- 115 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:41
-
「別に、あたしと付き合ってほしいとかじゃないですよ。ただ誰か一人の吉澤先輩になるのが嫌なんです」
・・・あー、ヤバイ・・・。めちゃくちゃ可愛いこと言っちゃってるよ、この子。
よっすぃーは幸せ者だね。こんな近くにこんな風に想ってくれる人がいて。
誰かに想われるのは、決して簡単なことじゃない。
未だにしゃがみ込んだままのまっつーの目線に合わせてあたしも膝を折った。
「ねえまっつー。そういうの、独り占めしたいってことだよ」
「違う・・・」
「じゃあさ、このままよっすぃーが誰とも付き合わなくて、だけどまっつーを見なくなったら?」
「それは・・・」
言葉を詰まらせて膝に顔を埋めるまっつー。
・・・・・反応なくなったけど、まっつーが自分の気持ちを認めたと思ってもいいのかな・・・?
- 116 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:42
-
「まっつー」
「―――――あはっ」
「?」
突然まっつーは笑い出した。
笑うところじゃなかったと思うんだけど。
まっつーは肩をひくひくさせてくぐもった笑い声を上げ続ける。
少し不気味に思って恐る恐る再び彼女を呼ぶと、ぱっと顔を上げた。
「はぁっ。あーすっきりした」
「へ?」
「先輩のおかげで、ちょっと吹っ切れました。ありがとうございます」
「うん」
「あたし、今まで通りしますから」
「うん」
「だから、後藤先輩も今まで通りでお願いします」
「うん」
- 117 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:43
-
本当に晴れ晴れとした表情でまっつーは笑った。
あたし何にもしてないんだけど、まっつーの表情が明るくなったから良しとするかな。
これからどういう風にするかはまっつー次第、あたしはそれを見守るだけ。
こんな短時間で気持ちの整理が出来てしまうまっつーを見てると、さっきは年下だなぁとか感じてたのに、こうなってみるとまっつーの方が年上みたい。
一段落したな、と外に出ると、少し離れた場所にミキティが座り込んでいた。
「あれ、待っててくれたの?」
「一応ねー」
そっとあたしの後ろにいるまっつーの様子を覗き見るようにして、ミキティは生返事を返してきた。
それに気付いたまっつーがミキティに突進した。
「美貴たん、おはよう」
「あっ・・・おはよ・・・」
ミキティ、動揺しすぎ。きょときょとして、すっごい怪しい人になってる。
ギャップに驚くくらい心配してたんだって考えたら、こんな反応も有りなんだろうな。
ミキティの腰にしっかり腕を回して、にゃははって楽しそうに笑うまっつー。
その顔を見たら何も言えなくなったミキティは結局一緒になってはしゃぎ出した。
―――――二人とも、一時間目がとっくに始まってるって気付いてないのかなぁ・・・・・
- 118 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:43
-
一時間目の授業が保田先生じゃないように祈りながら、あたしはケータイを取り出した。
よっすぃーにぷちぷちメールを作る。
『無事にしゅーりょー。でも一時間目は休むから、ノート見せてくれー』
送信完了を確認してから、欠伸を一つ。
ひんやりした廊下に座り込んで、二人の笑い声を聞きながら、あたしはすぐに眠りに落ちた。
- 119 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:44
-
******
- 120 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:45
-
その日の昼休み。
よっすぃー、ミキティと共に移動してたら廊下でばったりまっつーに会った。
「あ」
そんな一言を零して立ち止まるよっすぃー。
どう反応しようか悩んでるみたい。
まっつーは少し首を傾げていたけど、すぐにいつもの笑顔を浮かべてよっすぃーの腕を叩いた。
「吉澤さん、お久し振りですね!」
「うん、ああ、久し振り」
おお・・・。本当に「今まで通り」だよ・・・。
ってか、あれ? 今何かいつもと違ったよね?
あたしの疑問にミキティが答えをくれた。
「よっちゃんとうとう先輩って言われなくなったんだ?」
あ、そうか。今まで「吉澤先輩」って呼んでたんだ。
その変化にどういう違いがあるのかは分からないけど、きっといい変化なのだろう。
- 121 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:45
-
「こら。何でいきなり”先輩”を取る」
「吉澤さんに”先輩”って勿体無い」
「勿体無いぃ? 実際あたしは先輩だろー?」
「いいじゃないですかぁ。何なら中学の時の呼び方でもいいんですよ?」
「”さん”でいいです」
手の平を返すようなよっすぃーの態度に、ぴくんと反応するあたしとミキティの耳。
「何、中学の時は何て呼んでたの?」
「実はですねー・・・」
「馬鹿、言わなくていい!」
「よっちゃん五月蝿い」
ミキティが羽交い締めして、よっすぃー拘束。
あたしはまっつーにもう一度訊いた。多分この時、すっごいキラキラした目をしてたと思う。
- 122 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:46
-
「ひーちゃん、って呼んでたんですよ」
「ひーちゃん?」
思わずミキティと目を合わせた。
それから、そっぽ向いてるよっすぃーには悪いけど、二人して吹き出した。
「よっちゃんが、ひーちゃん!?」
「可愛すぎて似合わなーい!」
ミキティと二人でひーひー言って笑い悶えてたら、よっすぃーがぶすっと抗議した。
「っつってもそう呼んでたのは最初の頃だけだよ」
「でも呼ばれてたんでしょ?」
「う」
よっすぃーを除く三人でひとしきり笑って、ふと、まっつーを見た。
まっつーがどう出るかは分からないけど、こんな風にずっと笑っていられたらきっと一番素敵なことなんだろうな。
- 123 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:46
-
- 124 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:47
-
それから数日したある日、この日は食堂で食べることにしたあたしたちが連れ立って赴くと、入口に近い場所にまっつーがいた。
友だち数人と食事中のようで、あたしたちに気付くと手を振ってきた。
あたしは食券の販売機に列んでぐるりと空いてる席を探すけど、昼休みが始まったばかりなのでどこも満席な様子。
「どー? 席あった?」
同じく列んでいたよっすぃーもキョロキョロしながら聞いてくる。
うーん・・・なかなか、四つは空いてない・・・。
と、まっつーたちの横にいたグループが立ち上がった。
ラッキー。今のうちに確保だ。
「まっつーたちの横が空いたからさ、ちょっと席取ってくる」
「あたしも行くー。梨華ちゃん食券買っといて」
「ええ? ちょっとぉ」
不満そうに唇を尖らせた梨華ちゃんと、メニューを見ながら迷っているミキティを列に残してあたしとよっすぃーはさっさと席を取りに行った。
- 125 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:48
-
「横、座らせてもらっていい?」
「あ、どうぞー」
あっさりと承諾してくれたまっつーとお友だちに笑顔でお礼を言って、四つの席を確保。
荷物を残してカウンターに行って湯呑みとヤカンを持って来る。ここの食堂はお茶はセルフサービスで置いてあるのだ。
お茶を飲んで一足先に寛いでいたら、あたしたちの分もトレイに乗せた二人が帰ってきた。
「ありがとー」
「もう、取りにくらい来てよねー?」
文句言いながら自分とよっすぃーの分が乗ったトレイを置いて、よっすぃーの隣りに腰を下ろす。
それを見てあたしはちょっと疑問を口にしてみた。
「ねー、なんでよっすぃーと梨華ちゃんてそんなに仲いいの?」
そう訊くと二人は食事の手を止めて怪訝そうにあたしを見た。
ミキティは気にせず生姜焼き定食を食べ続けている。
- 126 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:49
-
「別に、普通じゃない?」
「そうだよ。ごっちんの方が仲いいじゃない」
息の合った返事が返ってきた。
「なんかさ、あたしとかミキティとはまた違った空気出てるよね」
「あ、それ美貴も思った。時々熟年夫婦みたいな感じがするよね」
お茶を飲んで一息ついたミキティが会話に参加した。
やっぱりミキティも思ってたんだ。
すると二人が一斉に猛抗議。
- 127 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:49
-
「ぜっっったい、無い!」
「冗談でも止めてよ!」
「梨華ちゃんとあたしって徹底的に正反対だから、反応が新鮮なだけだよ」
「恋愛対象には間違いなくならないから」
熱く否定されて、あたしとミキティは思わず引いてしまった。
ちらっと斜め前に座っているまっつーに視線を向けると、ばっちり目が合った。
こちらの会話が気になっていたようで、箸でおかずを摘んだまま固まっている。
そんなまっつーに、目だけで笑って見せた。
あたしはまっつーの恋路を見守るだけと決めたけど、このくらいは大目に見てもらおう。
元はと言えばよっすぃーと梨華ちゃんが妙に息が合ってるのが発端なんだから。
ちょっとした老婆心、ってやつだ。
まっつーも目だけで笑い、漸く箸を口に運んだ。
- 128 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/15(月) 01:50
-
- 129 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 01:51
- 更新終了。
またーりまたーり…
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 01:53
- >tioさん
熱いレスありがとうございます。
盆休みの更新ラッシュに紛れて少し多めに更新しました。
- 131 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 15:04
- 淡々と進んでいく雰囲気がなんとも言えず心地よいです。
またーりまたーり頑張ってください。次回も期待してます。
- 132 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:02
-
(番外編 吉澤)
- 133 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:03
-
中間テストがやっと終わったかと思ったのに、何故か居残りでテストを受けているごっちん。
彼女は信じられないことに、最終日である今日のテストを全部爆睡して白紙のまま提出したと言うのだ。
本来ならば再テストなんて有り得ないのだが、それはあまりに可哀想だと試験監督だった圭ちゃんが情けをかけてくれたのだ。
で、あたしは特に急ぐ用事があるわけじゃないので、この後ごっちんと遊ぼうと思って残っている。
「よっすぃー、ごめんねぇ」
ごっちんの声に顔を上げると、さっきまでやっていたテストを提出し、次の教科のプリントを手にした彼女の姿が。
「ん? 別にあたし暇だし」
「あんたも元気ねえ。どうせ一夜漬けだったんでしょうに」
「ぶー。二日漬けです」
得意顔で言ったあたしの言葉を圭ちゃんは「ハイハイ」と軽くスルー。
ひっでえ・・・・・。
とりあえず大人しくマナーモードにした携帯で遊んでたけど、音がない北斗ってつまんないな・・・。何か眠たくなってきた。
- 134 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:04
-
十分の休憩時間を終えてテストに取り掛かるごっちんの姿を見て、この時間は寝ようと目を閉じた。
だけど、閉じたはずのあたしの目はすぐに開けられた。
「ぅあ?」
「?」
変な声の主を探すと、ごっちんが窓の外に目を遣ったままじっとしている。
何見てんだろ。
「よっすぃー、傘持ってる?」
「は? 傘?」
つられて外を見ると、ポツポツと雨が。
「あー・・・持ってないや」
「今日は夜まで雨らしいわよ」
横から圭ちゃんの天気予報。
夜まで雨かあー。
窓の外を睨みながら、さてどうしようかなと悩んでいたら、心配そうな表情でこっちを見るごっちん。
「先に帰る? 今ならそんなに濡れないかもよ」
「ごっちんは傘あるの?」
「圭ちゃんに借りるからだいじょーぶ」
「聞いてないわよ、後藤!」
喚く圭ちゃんは置いといて。
うーん、これ以上雨が強くなったら、傘があっても濡れるだろうしなぁ・・・。
濡れたら遊びに行けないなあ。
よし。
「じゃ、先に帰るね」
「うん。ごめんね、後でメールする」
頑張れよーと励まして、あたしはゆっくり教室を後にする。
- 135 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:04
-
テスト最終日、おまけに終わって二時間も経ってる校舎には人の気配がなかった。
廊下からちらりとグラウンドを覗くと、部活をしている姿すら見当たらない。
雨だからかテスト上がりだからか、練習が軽かったんだろう。
上履きのゴムが擦れる、キュ、という音がやけに寂しく響く。
あたしは下駄箱まで来ると、わざと大きな音を起てて靴を履き替えた。
最近ずっと賑やかなおかげで、シンとした空気はちょっと苦手になっていた。
電車通学のあたしは駅まで十分、走れば五分。
この距離なら、少々の小雨じゃたいした被害はない。
ごっちんの言う通り、先に帰って正解だったな。
少ししっとりした感触の制服を軽く叩いて、駅横のコンビニに入る。
最近はコンビニでもそこそこ大きい傘が売ってるから、ホントに便利な世の中になったもんだと一人で感心してみたり。
- 136 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:05
-
「あ」
「あ」
雑誌のコーナーで立ち読みしてるうちの学校の生徒がいた。
彼女とあたしは奇しくも同じ言葉を発したが、その表情は正反対だったはず。
彼女は目をキラキラさせて。
あたしはしかめっ面をして。
「吉澤さん帰るの遅いですね」
「・・・・・」
「あ、居残りで補習か何かですか?」
「・・・・・」
「あの、目の前にいるのにシカトは止めてもらえませんか?」
少し黙っているだけでどんどん話を進めていく。
確かに居残りは居残りだけど、あたしは北斗をしてただけだ。
松浦め、好き勝手言いやがって。こいつホントにあたしをどんな風に認識してるんだ?
―――なんて頭の片隅で考えていると、あたしが返事をしないので不満そうにしている松浦の姿。
ふう、とほんの少し息を吐いて仕方なく松浦に話しかけてみる。
- 137 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:06
-
「松浦こそ何してんの?」
「それがですねぇー、実は松浦ー、家の鍵を忘れまして」
「あ?」
「今日夜まで一人ぼっちなんですよ」
「ああそう」
傘コーナーから一本適当に引き抜いてレジに持っていく。
会計を済ませながら松浦の相手をしてやる。
「こちらすぐお使いになりますか?」
「はい」
店員さんがビニールを取って穴がないか開いて確認して、それからあたしの手に渡る。
「ありがとうございましたー」
出口に向かいながら、くるりとまだ店内に残る松浦を振り返った。
「それじゃ、頑張って誰か帰ってくるの待てよ」
駅までの短い距離だけど、バッと傘を開いて一歩を踏み出そうとしたあたしの鞄を後ろからぐいと掴まれた。
- 138 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:07
-
「うおっ」
「置いてくなんてひどいじゃないですか!」
「・・・危ないなあ、松浦・・・。一緒に帰ってたってどうせ家に入れないんだろ?」
「だから、吉澤さんの家で待たせて下さい」
「嫌だ」
「いいじゃないですか。うちと吉澤さんの家、そんなに離れてもないし」
「距離の問題じゃない。松浦がうちに来たら何するか分かんない」
「大人しくしてます」
むう、と睨み合うこと数分、松浦が最悪の切り札を切ってきた。
「・・・・・・ぐすっ」
―――来た。松浦得意の泣き真似。
別にあたしは松浦に泣き落とされたりはしないけど、如何せん人の目が気になる。
これじゃどう見てもあたしが泣かせたようにしか見えない。
中学の頃も同じ手でやられてるあたしとしては、今回こそガツンと言ってやらねばならない。
・・・ならないんだけど・・・。
「・・・あーもう、分かった。来ていいよ」
みるみる顔に笑みを広げていく松浦を見て、あたしは軽く自己嫌悪に陥った。
- 139 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:07
-
*****
- 140 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:08
-
「ほれ、着替え貸してやるから風呂入って来い」
家に帰りつくなりそう言って松浦にタオルを放る。
言われた本人は「は?」って顔してこっちを見る。
・・・あたしだって鬼でも何でも無いんだから、濡れてる人に風呂くらい勧めるっての。
変な目をしてじっとこっちを見てくる松浦をあたしは脱衣所に押し込んだ。
濡れた制服にドライヤーを当てていると、風呂から上がった松浦が顔を覗かせた。
「お前、長風呂な」
カチリとドライヤーを止めて風呂上りの松浦に先に仕上げておいた彼女の制服を指し示す。
「ブラウスは今洗濯してるから。どうせ夜までいるんだろ?」
風呂から上がってからまだ一言も話さない松浦に、あたしは不審な眼差しを送った。
それに気付いた松浦が漸く口を開く。
「・・・吉澤さんって結構家庭的なんですね」
「結構って・・・失礼なこと言うな」
何に驚いているのかと思えば、そんなこと。
あたしは面倒臭がりだけど、ずぼらじゃないんだぞ。
自分の制服もある程度乾いたので、ドライヤーを松浦に渡した。
「やって下さい」
「アホ、自分でやりなさい」
ケチーと言いながら自分で髪を乾かし始める松浦。
その姿を見ながら、あたしはゴロリとベッドに横になった。
- 141 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:08
-
- 142 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:09
-
目が覚めると、外は随分暗くなっていた。
そういや松浦はどうしたんだろうと探すと、床でぐっすりと眠りこける姿を発見。
少し考えて抱え上げる。
・・・うお、重たい・・・腰いてー・・・
二苦労くらいして松浦をベッドに運んだはいいけど、おかげであたしはすっかり目が冴えた。
寝息がさっぱり聞こえない松浦を、ほんの少し恨めしげに見る。
このやろう、人んちで爆睡しやがって・・・・・・
あたしは如何にごっちんたちに今日の苦労を伝えようかと、携帯を開いて知恵を搾ることにした。
- 143 名前:回転木馬 投稿日:2005/08/20(土) 01:09
-
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 01:11
- 更新終了。
今回は番外編。吉澤さんのある一日。
- 145 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 01:14
- >131 名無飼育さん
ありがとうございます。
折角褒められたので「淡々」が「だらだら」にならないように気をつけていこうと思います。
- 146 名前:Li 投稿日:2005/08/21(日) 00:16
- 吉澤さんのさりげない優しさに惚れてしまいそうですww
- 147 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:31
-
夜遅くに学校の制服を着て大きなスポーツバッグを持ってる姿は、どんなに客観的に見ても怪しいだろう。
警察に見つからないように、なるべく目立たないように歩き続ける。
・・・嫌でも目立つんだけどね。
お目当ての場所の前に辿り着き、スポーツバッグを地面に下ろし。
先に電話をするべきか考えたけど、それはやめて。
ここは一つ驚かせてやろう。
ピン、ポ―――ン。
指をゆっくり離す。
ややあって、ドアの向こうに人の気配。
ガチャリ、とドアが開き、顔を出した彼女が何か言うより早くあたしは先制パンチを繰り出した。
「こんばんはー。でもって暫くお世話になりまーす」
「―――え」
玄関を開けてひょいと顔を覗かせたよっすぃー。
ジャージ姿で大変寛ぎモード。
そんな恰好で、口をぽかんと開けて。
「―――――」
「―――――」
お互い、無言。
よっすぃーは、状況の理解のために。
あたしは、よっすぃーの反応を見るために。
で、結局。
「えーと・・・とりあえず、中、入りな・・・?」
- 148 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:31
-
- 149 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:32
-
二階建ての吉澤家。
その二階部分にあるよっすぃーの部屋で、あたしはクッションに、よっすぃーはベッドに腰掛けた。
いつものポジション。
違うのは、あたしの大荷物とよっすぃーの困惑顔。
「ごっちん、どうしたのさ」
「だから、暫く泊めて?」
「や、泊めるのはいいんだけどさ、暫くって」
「家出してきたから」
何でもないことのように告げると、よっすぃーは一際大きな声で「はあー?」と叫んだ。
「家出? 何で?」
「弟と揉めてさー、ちょっと帰れないんだわ」
ポリポリと首の辺りを掻いて苦笑い。
「小母さんたち明日から旅行でしょ? よっすぃーが寂しくないように一緒に留守番するだけだからさあ」
お願いしますどーかこの通り、と土下座せんばかりの勢いで頭を下げる。
「あーもう分かったから」
- 150 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:32
-
半笑いして、よっすぃーは承諾してくれた。
泊めてもらえる自信はあったけど万が一ってこともあるし、内心ひやひやしてたんだ。
小母さんたちとは遊びに来る度に泊まっていくよう勧められるくらい仲良しだし、後で挨拶すれば多分大丈夫だろう。
「ありがと、よっすぃー」
えへ。
精一杯可愛く笑って見せる。
よっすぃーが両親にあたしが暫く厄介になる事実だけを告げに行く。
後をついて行ってあたしもご挨拶。
小母さんからは「いっそウチの子になればいい」とまで言われた。
それもいいよね、なんて冗談を言いながら布団を借りる。
よっすぃーのベッド横に敷いて、寝る準備は万端。
「落ちてこないでよ?」
「そこまで寝相悪くないし!」
軽口を叩いて、就寝。
無事に寝床を確保出来た安心感から、あたしは夢も見ないでぐっすりと眠った。
- 151 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:33
-
*******
- 152 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:33
-
「そうだよっすぃー、今日の夕飯何がいい?」
「んー・・・揚げ出し豆腐」
「おっけ」
居候のあたしが何か役に立つべく引き受けた食事作り。
よっすぃーの家に転がり込んではや一週間なあたしは、今日も夕飯の希望を訊いていた。
電車を降りると、隣りの車両から降りてきたまっつーと出くわした。
「あれ? 後藤先輩、この駅じゃないですよね?」
はいまっつー正解。
あたしの家からの最寄駅はもう一つ先だ。
「あ、あたし今よっすぃーんちに泊まってるからさ」
「ごっちん!」
よっすぃーに短く窘められてはっと口を噤むも、時既に遅し。
案の定、反応してキラキラした目を向けてくるまっつー。
「吉澤先輩が、オッケーしたんですか?」
「え・・・うん、まあ・・・」
引き攣った顔で返事するあたし。
どれだけまずいことを言ったかは、よっすぃーの様子を見れば分かる。
眉間に皺がぐっと寄って、それがみるみる消えていく。
そして、細く、長く、静かな溜め息が吐き出された。
- 153 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:34
-
「吉澤先輩ずるい! まつーらが中学の時どれだけ頼んでも泊まらせてくれなかったのにぃ」
「ずるいって何だ。それにお前、あの頃ずっと寝顔狙ってただろ」
「あ、ばれてました?」
「それだけじゃない、人の写真売り捌いて稼いでたろ」
「ナンノコトデショウ?」
珍しくよっすぃーが優勢で会話が進む。
って。まっつー・・・・・そんなことしてたの?
可愛らしい表情を作って片言でとぼけるまっつー。
写真売買の話を力任せに遠くにやって、本題に舞い戻ってきた。
「まつーらも泊めて下さい」
「駄、目! あたしの平穏を奪わないでくれ」
「後藤先輩はよくてあたしは駄目なんて不公平です」
「ごっちんは料理してくれるから」
「料理ならあたしも出来ますぅー」
「それでも駄目。大体学校の荷物はどうする気だ」
学校の荷物。
教科書やらノートやら。
それら全てを学校に置きっぱなしのあたしと違い、律義にも持ち帰っているまっつーは確かにそんな大荷物を移動させるわけにはいかない。
よっすぃーに痛い所を突かれ、まっつーは、ぐぅと詰まった。
そろそろ反論もネタ切れなのだろうか。
- 154 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:34
-
うう、と少し俯いて考え込むまっつーの目が潤んでいく。
よっすぃーも気付いたらしく、ぎょっとしてまっつーを覗き込む。
え? って感じにあたしを見るけど、あたしにもどうすることも出来ない。
オロオロするよっすぃーが声を掛けようと意を決して口を開いた、ちょうどその時。
「じゃあ、週末だけ! 一泊二日!」
顔を上げて再チャレンジ。
至近距離で迫られたよっすぃーは面食らったように僅かに身を引いた。
そして、はー、と溜め息をついて。
やっぱり甘いよっすぃーは実に素っ気なく言った。
「好きにして」
途端、表情を明るくして笑顔を見せるまっつー。
さっきの涙はどこに行ったのか。
くるりとあたしに向き合うと、翌朝の食事を作ると高らかに宣言してくれた。
- 155 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:34
-
- 156 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:35
-
その日の夕方。
帰り道の途中で。
チャリチャリン。
「結局まっつーも泊まることになったね」
ウィーン。
「しょうがないじゃん、あいつ言い出したら聞かないんだから」
ウィーーン。
「んはは、優しいねぇ」
ウィンウィンウィンウィン。
「・・・別に。ただ・・おっ」
ウィンウィンウィン、ウィ――ン。
- 157 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:36
-
「よっしゃゲット!」
話してる途中でよっすぃーがガッツポーズ。
クレーンに挟んだぬいぐるみが綺麗に穴へ落ちていった。
「おめでとー・・・って、何個穫るつもり?」
彼女の腕にはストラップサイズから30センチくらいまで、大小様々なぬいぐるみが詰まった袋が下がっている。
ちなみに、あたしも一つ馬鹿でかいぬいぐるみを抱えさせられている。
「ゲーセンに来るとどうして欲しくもないこんなのやっちゃうんだろうねー?」
「さあ。あたしいらないからね。全部よっすぃーが持って帰ってよ」
「持って帰って、って・・・帰る場所は同じなのに」
「よっすぃーの部屋に飾るから」
それから更にいくつかよっすぃーはぬいぐるみを獲り、15分後ようやくあたしは大きな赤い服を着た黄色いクマのぬいぐるみを抱え直し、ゲーセンを後にした。
- 158 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:37
-
信号待ちで、小さい子にびっくりされた。
・・・ごめんね。悪いのはそこに居る歩くぬいぐるみ屋みたいな人だから。
そのぬいぐるみ屋は懲りずにあたしにキーチェーンのついたマスコットを揺らして見せる。
「ごっちん、一番小さいコレとかどう?」
「いらない」
「・・・・・・」
- 159 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/16(金) 16:37
-
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/16(金) 16:41
- 更新終了。
>>Liさん
実はあんまり優しくないかもですがw
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/17(土) 01:29
- やばい、話の雰囲気とか登場人物とかすごく好きです
楽しみにしてます
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/17(土) 07:36
- 後藤さんの失言で大変なことに・・・。
更新楽しみにしてます
- 163 名前:名無し読者 投稿日:2005/09/17(土) 14:05
- 楽しいなあこの話。早くも次の更新が楽しみ。
- 164 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:07
-
- 165 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:08
-
あたしがよっすぃーの家に転がり込んで十日、まっつーが泊まりに来た翌朝。
宣言通り、まっつーは朝食を作ってくれたようだ。
「はい先輩、朝ご飯」
ものすごく嬉しそうにテーブルを示すまっつー。
視線を移すと、真ん中に置かれたボウルに盛られた大量のゆで卵。
他は―――――マヨネーズと塩以外の物は、残念ながら発見出来なかった。
うーん、まっつー、実にダイナミック。
「先輩、ゆで卵好きでしたよね」
にこにこ。
まっつーは屈託ない笑顔でよっすぃーを見つめる。
そっとよっすぃーの様子を見ると、どこか焦点の合ってない目で卵をじっと眺めている。
そして。
「謝れ。全ての料理人に謝れ」
低い声でまっつーに告げた。
- 166 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:09
-
- 167 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:09
-
「何が『あたし料理出来ます』だ!」
「ゆで卵だって料理じゃないですか!」
「絶っ対認めない」
言い争う二人を尻目に、卵の殻を剥く。
薄い皮まで綺麗に剥けてあたしはちょっぴりご機嫌。
塩とマヨネーズのどちらを使おうか悩んでいると、よっすぃーがあたしを巻き込んだ。
「ごっちんも何か言ってやってよ」
「うーん、醤油もあった方が良かったねえ」
「って、そーゆうことじゃなくてぇ」
率直な感想を述べるとよっすぃーは脱力した。
- 168 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:10
-
「そもそもこれじゃ量、多すぎ」
「好きな物は沢山食べるだろうと」
「いくら好きでもこんなに食べれるわけないだろ」
「えー? あたしケーキならいくらでも食べれますよ」
「それが本当ならお前の胃は異常だ」
「ホントですって。何なら今度一緒にケーキバイキングに行きましょう」
「いい。結構。遠慮します」
「・・・見事なまでの否定の仕方ですね」
―――相変わらずよく続くものだ。
二人とも口が立つから、何てテンポの良い会話だろうか。
話してる内容がくだらない分聞いていていっそ心地良い。
・・・だけどそろそろ止めないとキリがない。
「二人とも食べないのー? 全部食べちゃうよ」
パキパキパキ、ペリペリ。
殻を剥く手を休めないで言ってやると、二人は同時に口を閉じお互いを見合って、それからテーブルについた。
- 169 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:10
-
- 170 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:11
-
「あたし夕飯の買い出し行ってくるからさ、二人で留守番しててよ」
「えぇ? あたしも行くよ」
「洗濯頼まれてたじゃん。そっちやってよ」
「しょーがないなあ・・・」
朝食っぽいものを食べ終えて洗い物を済ませるとあたしは買い物の準備をする。
と言っても着替えて財布を持つくらい。
よっすぃーが一緒に来たがったけど、洗濯しなければならないのは事実だし、それに何より一緒に来られるとやりにくい。
二人が出かけるとなるとまっつーも一緒に来るだろうし、そうなると困るのだ。
今日は、まっつーの誕生日なのだ。
まっつーが泊まりに来る前によっすぃーと話して段取りを決めてある。
あたしは買い出しで外に出たらミキティと梨華ちゃんに連絡。で、ミキティの家に集合してケーキ作りを行う予定。
よっすぃーにはその間まっつーの相手をしてもらう。
だからさっき買い出しについて来るなんて言い出した時は少し焦ったけど、それもよっすぃーなりの演技だったんだろうな。
あくまでも自然に見えるように。
よっすぃーが自ら「じゃああたしは洗濯してるよ」なんて言い出したらきっと不自然さはMAXだ。
- 171 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:12
-
「じゃ、まっつー。よっすぃーをよろしく」
「はい。行ってらっしゃい」
出かけ際に言い残すとまっつーはにこにこ。
その隣りに立つよっすぃーは何か言いたそうにあたしを見るけど、頭を一掻きして奥に引っ込んだ。
そうそう、今日は姫の御機嫌を取っとかないと。
あたしはケータイを取り出すとのんびり歩き出した。
- 172 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:12
-
- 173 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:12
-
「遅いよごっちん」
「んー、ごめん。ちょっと買い物長引いた」
藤本家の近所であたしはミキティと落ち合った。
場所は何となく分かるけど、実は初めて来る。
迎えに来てくれたミキティはジャージ姿でコンビニの駐車場の車輪止めに座り込んで待っていた。
・・・一瞬地元のヤンキー姉ちゃんかと思ったのは黙っとこう。
「もうさ、梨華ちゃんがすごいはしゃいでんの。何がそんなに楽しいの、ってくらい」
「梨華ちゃんいつ来たの?」
「十時にはもう美貴んちにいたね」
早っ。
あたし「昼過ぎ」って連絡してたのに。
・・・ま、張り切る気持ちはわかんなくも無い。
クラスマッチでまっつーにあらぬ誤解を受けた梨華ちゃんは、あれから数日してその誤解をきれいさっぱり取り除いた。
今ではすっかり良いお友達になっていて、まっつーと楽しそうに話をしている姿がちょくちょく見られる。
そんな時に、まっつーの誕生日が来たものだから、それはもう気合いを入れているようだ。
- 174 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:13
-
ミキティの家に着いてキッチンに行くと、梨華ちゃんが不思議な物に囲まれていた。
梨華ちゃんの肌よりも黒いそれは、香ばし過ぎる中にほんのり甘さを含んであたしの鼻を悪戯に刺激する。
「・・・それ、何か聞いてもいい?」
「・・・聞かないで」
がっくりとうなだれる梨華ちゃん。
一緒にキッチンに入ったミキティは消し炭に手を合わせて冥福を祈っていた。
- 175 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:14
-
「・・・じゃあ最初に梨華ちゃんにクッキーの作り方を教えます」
「よろしくお願いします」
先程の炭を片付けて、後藤真希のお菓子教室を開校する。
生徒は一名。充実のマンツーマン指導です。
「まずは生地を作ります」
この際シンプルなやつでいい。
よくある、「見た目はちょっとアレだけど味はイケてる」というやつを目指そう。
材料を分量別にしている段階で、あたしは驚くべき光景を目撃した。
砂糖を量っていた梨華ちゃんは、手元もよく見ずにひょいひょいスプーンを動かした。
「待って梨華ちゃん、量見てる?」
「大丈夫。大体合ってるよ」
「駄目だよ、お菓子はきっちり量らなきゃ」
やり直しを告げると梨華ちゃんは不服そうにあたしを見て、砂糖を元に戻し始めた。
何度か駄目出しをしながらようやく生地が出来、冷蔵庫に入れて数時間ねかせる。
あー・・・疲れた・・・。
- 176 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:14
-
時計を見ると既に二時半。
急いでケーキに取り掛かる。
「バースデーケーキって言ったら、やっぱりデコレーションケーキだよねー」
飾りに使うフルーツをカットしながら楽しそうにミキティが言う。
事前にプレゼントを買ってある彼女はあたしのアシスタントをしてくれることになった。
本当は梨華ちゃんを手伝って欲しかったけど、梨華ちゃんが頑として手伝わせてくれなかったのだ。
何か手伝おうとあたしの回りをうろうろする梨華ちゃんを交わしながら手早く材料を混ぜ、型に入れたらオーブンへ。
焼き上がり、熱を取る間にあたしはよっすぃーにメールを送る。
『ちょっと時間かかりそう。引き続きまっつーの相手よろしく』
手早く作って送信すると、すぐに返信が来た。
『無理。やることない。早く帰ってきて』
・・・やることないって、そんなこと言われても・・・。
『何かDVD借りてきたら?』
『そっか。ありがとう』
携帯を閉じてぼんやり考える。
よっすぃーっていつもどうやって暇潰ししてるんだろ・・・。
- 177 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:15
-
- 178 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:16
-
ぼちぼち生クリームを作ろうと用意していると、梨華ちゃんが相変わらずやりたそうに覗き込んでくる。
その梨華ちゃんにはクッキーを焼く指示を出す。
特に、温度はしっかり確認した。
「一回目が焼けたらちょっと待ってね。すぐ次焼いちゃ駄目だよ」
「はーい」
返事はやたらいい梨華ちゃんをちょっぴり不安に感じながら、手早く生クリームを作り、二つに切ったスポンジに塗っていく。
間にフルーツを挟み、全体に厚めにクリームを塗って、上にも乗せていく。
その間に梨華ちゃんのクッキーが焼けたので取り出すよう指示を出す。
ちょっと確認すると、うん、色はいいな。
問題の味はどうかなと内心ドキドキしてたら、ミキティが焼きたてを一枚摘んだ。
モゴモゴ口を動かすミキティを、緊張の面持ちで見つめる梨華ちゃん。
そして。
- 179 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:16
-
「―――うん、美味しい」
「ホント!?」
「サクサクしててマジ美味しいんだけど」
信じられないといった表情で感想を述べるミキティ。
サクサクか・・・。
あれだけ捏ね回してたのに・・・・・・奇跡だ。
講師役のあたしはそれでも失敗しなかったことに安堵の息を吐いた。
ホワイトチョコのプレートにチョコペンで文字を書いて、真ん中に飾って完成。
冷蔵庫に入れて冷やす間に梨華ちゃんのクッキーの二度目を焼いてしまおう。
・・・・・・しかし、なんだ。
こんなに疲れるお菓子作りは初めてだな・・・・・・。
- 180 名前:回転木馬 投稿日:2005/09/24(土) 13:16
-
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/24(土) 13:21
- 更新終了。
前回と今回分に誤植発見…
>>161 名無飼育さん
ありがとうございます。
>>162 名無飼育さん
作者もうっかりしてました。
>>163 名無し読者さん
ありがとうございます。ちょっと早めに、更新更新…
- 182 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:52
-
- 183 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:53
-
「ミキティ急いで〜。肉なんかもうどれでもいいじゃん」
「何てことを! 肉だって人間と同じだよ。一切れ一切れ違うんだよ」
一切れ一切れ、って・・・。
一頭毎に違うならまだしも、切った後まで個性を求めるなんて。
ミキティが焼肉にうるさいのは知ってたけど、まさか肉選びの段階からうるさいとは思わなかった。
出来上がったケーキとクッキーを持って、途中夕飯の材料を買いにスーパーに寄った。
時間も遅いし、今夜は人数も増えているしということで、夕飯は焼肉にした。
野菜を取って、後は肉だけという時、焼肉奉行が待ったをかけたのだ。
「ミキティ〜〜〜」
時間をちらちら確認しながらミキティを急かす。
それを気にせず彼女は肉を見つめる。
パックを取っては戻し取っては戻し、とうとう対面ケースの前に立った。
- 184 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:54
-
「ごっちん、美貴ちゃん高いお肉買うつもりだよ」
「・・・だね。いくらの買う気なんだろ・・・」
ひそひそと囁き合うあたしと梨華ちゃんに気付く素振りもなく、ミキティは腕組みして肉を睨む。
そしておもむろに腕をすっと上げ、ある一点を指し示した。
そして。
「これ、一キロ下さい」
――――――――・・・・・・。
「はぁっ!? ちょっと待ったミキティ!」
「何、ごっちん?」
「何、じゃないよ! それグラム980円の肉じゃん!」
「美味しいだろうね」
「そりゃ美味しいだろうけどさ!」
肉にうっとりとした視線を投げながらミキティは言う。
冗談じゃない、そんな高い肉買ったら明日よっすぃーママに怒られる。
断固阻止するべくミキティを説得するあたし。
- 185 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:54
-
「しかも一キロって多くない?」
「え? 美貴余裕で食べるよ」
「・・・・・・」
この肉狂いをどう丸め込もうかと頭を抱え、チラッと梨華ちゃんに援護を求める。
途端、ぶんぶんぶんっと首を横に振る梨華ちゃん。
・・・使えない。
「・・・あー、でもさ。豚バラとかタンとかも買うでしょ?」
「あ、そうか。すいませーん、今の500グラムにして、後豚バラ200とタン300下さい」
結局一キロ買うのか・・・。
あたしは店員さんに目で合図を送る。
やめてやめてやめて・・・・・・。
- 186 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:55
-
ここは心を鬼にしよう。後でミキティに何と言われようと、甘やかしてはいけないんだ。
「あ、ミキティ。タレ取ってきてよ。足りないと困るから」
「何でもいいの?」
「うん。ミキティの好きなのでいいから」
「オッケー」
「うちらレジに並んでるから」
「はいはーい」
肉を注文し終えてご機嫌なミキティを遠くにやる。
確かタレはこちらから見えない棚に置いてある。
あたしは今のうちに店員さんに注文し直す。
「すいません、今の肉、こっちのグラム580円のにして下さい」
「・・・いいんですか?」
「いいんです。てか、早くして!!」
- 187 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:55
-
よっすぃーの家への道中、ミキティは上機嫌だった。
・・・肉のことがバレたら、一体どうなるんだろう・・・。
梨華ちゃんと目配せして、あたしはバレないことを神に祈った。
- 188 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:56
-
- 189 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:56
-
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
玄関から声を掛けても返事はなかった。
居ないってことはないだろうけど、おかしいなと思いつつ、冷蔵庫に荷物を入れる。
「ごっちん、よっちゃんたちは?」
「さあ? あ、リビングでDVD観てるかも」
「ふーん。おーい、よっちゃーん? 亜弥ちゃーん?」
呼び掛けながら奥へと進んでいくミキティ。
あたしと梨華ちゃんは野菜を切り分けていく。
そのあたしたちの耳に、もの凄い悲鳴が聞こえてきた。
「ッキャ―――――!!!」
「!!??」
- 190 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:57
-
驚いて肩がビクッと動き、思わず包丁を落としそうになった。
何事かと駆けつけると、ミキティがリビングに繋がる扉を開けたまま突っ立っている。
「どうしたの?」
「あ、いや・・・」
困惑したようにこっちを見るミキティ。
部屋の中を覗き込むと、暗がりの部屋の真ん中でタオルケットを被って抱き合うよっすぃーとまっつーの姿があった。
いや、正確には抱き合ってるんじゃなくて、まっつーがしがみついてるって感じか。
「・・・・・・何してんの? 二人とも・・・」
「あ、ごっちん・・・おかえり・・・」
パチンと電気を点けた部屋のテレビには、『本当にあった』とかタイトルにつきそうなホラー物が再生されていた。
怖いなら、見なきゃいいのに・・・・・・。
ってか、何で沢山あるDVDの中からそんなの借りてくるかな・・・・・・。
- 191 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:58
-
DVDを止めて、やっとごそごそ動き出した二人が軽く弁解をしてきた。
「違うのも借りてきたんだよ。ほら」
そう言って示した先に、三つのDVDのケースがある。
一つは今さっき流れていたホラーで、後の二つは何だろと手に取る。
・・・セカチュー? タイタニック?
何でまたそんな、今更感漂うセレクトなんだろう。
無言であたしはそれらをそっと戻す。
何かもうコメントしにくいことこの上ない。
結局言葉が見つからず、一緒に様子を見に来ていた梨華ちゃんの背中を押して、キッチンに戻った。
- 192 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:58
-
- 193 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:59
-
ホットプレートを出して肉と野菜をスタンバイして、焼肉の用意が整ったところで、合掌。
せーの。
「いただきまーす」
早速野菜を焼き始めるあたしとよっすぃーに対し、菜箸の取り合いを始めるミキティと梨華ちゃん。
「あたし焼くから、美貴ちゃん食べてよ」
「いいよ、美貴自分の肉は自分で焼くから」
「いいから、ほら」
・・・一見よく見る譲り合いの光景のようだが、そうじゃないってことをあたしは知っている。
なんと言ってもミキティは焼肉奉行なのだ。
「いやマジいいから。美貴好みの焼き加減があるの」
菜箸を奪って肉を焼き始めるミキティと、その隣で何とも言えない顔をしている梨華ちゃん。
あーあ、やっぱりこうなった。
すかさず野菜を一通り入れ終えたよっすぃーが、梨華ちゃんに使っていた菜箸を渡した。
「じゃあ梨華ちゃんはあたしたちの肉焼いてよ」
ね、と笑顔でよっすぃーがお願いすると、徐々に梨華ちゃんの表情が明るくなった。
「うん! 亜弥ちゃんもどんどん食べてね!」
ミキティに対抗するように肉を焼き広げていく梨華ちゃんを見て、ほっと一安心。
まっつーも梨華ちゃんにタンがいいだとか頼んでいる。
何とか無事に焼肉が始まった。
- 194 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 01:59
-
「ミキティちゃんと野菜も食べなよ?」
焼き上がる端から肉を口に運ぶミキティ。
一応一言釘を刺しておかないと、きっとひたすら肉だけ食べ続けるに違いない。
「うん、食べるよ。・・・あのさ」
答えて丁度焼けていたピーマンを取りながら、ミキティは言った。
「この肉、値段程は美味しくないよね」
「なっ、何言ってんの? 美味しいじゃん」
ぎくりとした。
焦って箸を落としかけて、変な風にお手玉してしまった。
梨華ちゃんにもしっかり聞こえていたようで、彼女は小さく咽ていた。
- 195 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:00
-
「そうかなぁ・・・。980円にしちゃ、固いって言うか・・・」
「そんなことないよ。ミキティ焼き過ぎてるんじゃない?」
「えー? 美貴、肉焼くのに失敗したことないんだけどなー」
「じゃあ気のせいだよ」
我ながら苦しいなと思ったけど、どうにかミキティを誤魔化してみせる。
彼女は首を傾げながらも、「まあこれも美味しいからいいけど」と言って肉を食べ続けた。
何も知らないよっすぃーとまっつーが、不思議そうにあたしたちの攻防戦を眺めていた。
- 196 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:01
-
「そう言えば、昨日亜弥ちゃん泊まったんでしょ? どうだった?」
まっつーのお皿に焼けた肉を載せながら梨華ちゃんが訊いてきた。
「聞いて下さい! 吉澤さん酷いんですよ!」
箸をぎゅっと握って昨夜の怒りを思い出すまっつー。
昨日の夕方、荷物を持ってやって来た彼女は実にすんなりと吉澤家に馴染んでいた。
よっすぃーの話からてっきり初訪問かと思いきや。
少し前に一度来たことあるとかで、家族の皆さんとにこやかに会話をしていた。
吉澤家プラスあたしとまっつーという大人数で食卓を囲んだ後、よっすぃーの部屋に三人で戻った。
相変わらずしょうもない話をした後、まっつー、あたし、よっすぃーの順でお風呂に入り、さて寝るかという時にそれは起きた。
- 197 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:01
-
「で、誰が何処で寝る?」
ベッドは一つしかないし、布団も一組しか敷けないから、どちらかに二人寝ないといけない。
よっすぃーのベッドはセミダブルだから、二人寝るならベッドだろう。
「ジャンケンしようか?」
「やっぱ、布団が勝ち?」
三人とも可愛げのないジャージ姿で顔を突き合わせてみる。
それじゃ、とグーを作ったところでまっつーが申し出た。
「あたし、ベッドでいいですよ」
「駄目だよまっつー。平等にジャンケンしよう」
「そうそう。つっても負けないけど」
よっすぃーと二人で無理矢理まっつーの腕を掴み、ジャンケン開始。
「ジャーンケーン・・・」
ホイ。
出された手は、まっつーがチョキ。あたしとよっすぃーがパー。
「うええぇぇぇ」
「一発負けかよー・・・」
あまりの呆気なさに思わず脱力。
「すいませんね、先輩方。でも勝負ですから」
さっきまで遠慮してたけど、勝った途端にこにこと勝ち誇るまっつー。
いいけどね、うん。まっつーらしくて。
ここまでは良かったんだ。
寝る場所を決めるまではいつも通りにわいわいやってたんだ。
問題なのは、どうやら寝てる間に起きたらしい。
- 198 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:02
-
「吉澤さん、あたしの上に落ちてきたんですよ!」
身を乗り出して梨華ちゃんに訴えているまっつー。
危ないなあ。そんなに乗り出したら焼肉についちゃうよ。
「だからあれは不可抗力だって」
説明し飽きた、と言わんばかりにうんざりした口調でよっすぃーが一言口を挟む。
あたしは朝までぐっすり眠っていたから一体何が起きたか知らなかったんだけど、朝になって二人から話を聞いた。
・・・どうやら、あたしが悪いらしい。
「・・・よっすぃーってそんなに寝相悪いの?」
「だからぁ、違うの。あたしは落とされたんだって」
意外そうな表情をした梨華ちゃんに、朝と同じ説明を繰り返すよっすぃー。
「あたしが寝てたらね、ごっちんがいきなり暴れ出したんだよ。すごい勢いで蹴飛ばされたらそりゃ落ちるでしょ?」
- 199 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:03
-
・・・あたしは全く覚えがないんだけど、被害者であるよっすぃーが言ってるんだからそうなんだろうな・・・。
あたしそんなに寝相悪かったかな?
朝起きた時よっすぃーは隣にちゃんと居たから、まさか一回落ちていたなんて。
まさか寝言なんかは言ってないよね・・・。
- 200 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:03
-
「でもその後すぐ退いてくれたらよかったのに、しばらく動かなかったじゃないですか!」
「半分寝てたんだから、そんなすぐ動けるわけないだろ」
「苦しかったんですけど」
「あーハイハイ、悪かった」
「心が篭もってないです」
「篭めようがないだろ! あたしが悪いんじゃないのに!」
よっすぃーとまっつーのやり取りを、ほんの少し小さくなって聞くあたし。
ミキティはこの会話に一度も入ることなく、ただひたすら食事を続けていた。
- 201 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:03
-
- 202 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:05
-
「苦しいー。久し振りにこんなに食べたー」
お腹いっぱい食べて、ごろりと横になるまっつー。
そりゃそうだ。まっつーは、止せばいいのにミキティに張り合って肉を食べていた。
おかげであたしとよっすぃーは殆ど野菜しか食べてない。
「食べ過ぎだよ亜弥ちゃん。太るよー?」
苦しそうにしているまっつーよりも沢山食べた筈のミキティは余裕の態度で笑いながら言う。
「美貴たん何で平気なのー?」
・・・ほんと、何で平気なんだろ。太りもしないし。
ぺたんとしたミキティのお腹を見ながら、軽く考え込む。
- 203 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:05
-
「ごっちん、何ミキティのことじっと見てるの?」
「何でミキティってあんなにぺったんこなのかなーと・・・」
「は? 何言ってんの?!」
「いやだから、ミキティってぺったんこ・・・」
隣にいたよっすぃーの、何故か慌てた言葉に再度答えかけて、あたしは失言に気付いた。
冷ややかな視線を投げかけながら、ミキティがゆっくり立ち上がる。
「違うよミキティ! お腹だよ、お腹!」
「ほう?」
「だから、決して・・・」
「問答無用」
- 204 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:06
-
つねられた頬がひりひりする。
くそう、ミキティめ・・・。
そもそも、ミキティは気にしすぎだと思う。
そりゃあ梨華ちゃんより小さいし、まっつーより控え目だし、あたしよりも目立たないかもしれないけど、ミキティはあれくらいが一番バランスいいと思うのに。
絶対、つねられ損だ。
「ねえ、ほら、あれ出そうよ!」
少々乱れた場の空気を取り繕うかのようにテンション高い声で梨華ちゃんが言った。
遅いよ、ねえ。
「あー、そうだね、お腹も落ち着いたし」
よっすぃーが繋ぐ。
きょとんとしたまっつーを見て、ミキティが動いた。
- 205 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:06
-
ホットプレートを片付け、空いた場所にケーキの大きな箱を置く。
「うわ、何これどうしたの?」
びっくりしてるまっつーの目の前で、そっと箱を開ける。
出てきたケーキを見て、まっつーはもう一度「何これ」と驚いた。
じっとケーキに見入っているまっつーに気付かれないよう、三人でタイミングを図る。
「誕生日おめでとう!」
声を揃えて言うと、まっつーは一瞬目を丸くしたけど、すぐに破顔した。
- 206 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:07
-
「嘘、後藤先輩の手作り? 天才!」
ひとしきりケーキの出来を褒められてちょっとくすぐったい。
梨華ちゃんとミキティもプレゼントを渡す。
「亜弥ちゃん、おめでとう! あたしも手作りしたんだよ!」
「見た目はあんまりイケてないけどね」
嬉しそうに差し出す梨華ちゃんの横からミキティが一言添えると、まっつーは「えぇ?」と笑いながら受け取った。
早速取り出して食べると、「うん!」と唸って目を見開いた。
・・・良かった・・・。主役にも満足戴いたようだ。
「あたしはこれー。ネイルセット」
「嬉しいー。美貴たんありがとう!」
キラキラした瓶たちを眺めながら、まっつーご機嫌。
その視線がある一点に移り、そこで固まる。
- 207 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:07
-
「―――――はい」
「何、その手」
「吉澤さんは?」
「ないよ」
よっすぃーに向かって両手を差し出したまっつー。
それを一蹴したよっすぃーに、なおも食らいつく。
「この流れでプレゼント無しって、それはないんじゃないですか?」
「分かった分かった。じゃ、昨日泊めてやったのがプレゼントってことで」
「あたし潰されたりでいい思いしてなくないですか?」
バチバチっと睨み合う二人。
よっすぃー、プレゼント用意してる素振りなかったけど、本当に何も用意してなかったんだ。
流石と言うか、何と言うか。
- 208 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:08
-
腕を組んで眉を顰めていたよっすぃーだが、ゆっくりと眉間の皺を取ると大きく息を吐いた。
「じゃ、あたしの部屋にあったぬいぐるみ全部あげる」
先日よっすぃーが馬鹿みたいに取りまくったぬいぐるみたちは、あたしの言葉通りに全てよっすぃーの部屋に飾ってある。
ベッドにも多数置いたせいで、正直寝てたら枕かぬいぐるみか分からなくなるくらいだ。
それを、全部? よっすぃー、単に処分したかっただけなんじゃないだろうか。
「持って帰れません」
「何回か分けて運べばいいじゃん」
「・・・また、お邪魔してもいいんですか?」
「しょうがないだろー」
- 209 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:09
-
あたしは見逃さなかった。
よっすぃーがそう言った時、まっつーが今日で一番嬉しそうな顔をしたことを。
計算なんか一つもしてないだろう、そんな結果オーライなよっすぃーの行動であんなにいい顔をするまっつーがひどく可愛いと思う。
まっつーにとっていい誕生日になったんじゃないだろうか。
ミキティと梨華ちゃんも楽しそうに笑っている。
今日のことでいつでも話が盛り上がることが出来るんだろうなと思うと、あたしも笑みが浮かんできた。
- 210 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/11(火) 02:09
-
- 211 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 02:10
- 更新終了。
- 212 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/11(火) 13:03
- このお話の雰囲気がとても好きです。
まっつーかわいいですね。
- 213 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/12(水) 21:35
- 初めて読みました。
文章もストーリーも凄く好みです!
85年組+αはやっぱりいいですね(w
もっと好きになれた気がします。
- 214 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:13
-
- 215 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:14
-
あたしたちの学校は学祭と文化祭が交互に行われる。
で、今年は文化祭の年だ。
夏休みの間に準備が出来るようにってことで、七月になったら学祭ムード一色。
七月最初の全校朝礼の後。
各クラス委員が残って一箇所に集まりだす。
「三年一組」
「は、はいっ」
いつもより甲高い声を出して梨華ちゃんが進み出る。
机に置かれた箱の前で、お祈りのポーズなんかとってるし。
- 216 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:14
-
あたしの右肩にはよっすぃーが、左肩にはミキティがそれぞれしがみついている。
三人で頭を並べて梨華ちゃんの一挙手一投足を見守る。
「頼むよ〜梨華ちゃん〜・・・」
ミキティが梨華ちゃんと同じようなポーズで祈っているのが横目に確認出来た。珍しいことだけど、祈りたくなる気持ちも分からないではない。
深呼吸でもしたのか、梨華ちゃんの肩が上下に一度大きく動いた。
箱の穴に入れた腕をそろそろと引き抜く。
皆の視線が梨華ちゃんの手元に集中する。
今日は、運命の日。
- 217 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:15
-
*****
- 218 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:16
-
「それじゃ先輩たちのクラスは劇なんですね」
まっつーの言葉に、集団の最後尾を冴えない顔をして歩いていた梨華ちゃんがピクンと反応した。
「今年も展示がよかったなぁ」
ああ、と盛大にミキティが溜息をついた。
梨華ちゃんがしゅんと小さくなった。
- 219 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:16
-
今日の抽選会の結果、今年のクラスの出し物は劇に決まった。
抽選箱の中には「劇」「展示」「飲食」「芸」の四種類のピンポン玉が入っている、らしい。
どうして「らしい」のかというのも、抽選が終わった後もいつも箱にまだピンポン玉が入っているからだ。
あたしはその四種類しか知らないから、「らしい」。ミキティは前回は展示だったから非常に残念がっている。
確かに、展示のクラスの子たちは当日遊び放題だから何気に展示は人気がある。
だけど手を抜くわけでもなく、去年のミキティたちは男子校顔負けの物を作ってみせた。
高さ三メートルばかりの「日本の城シリーズ」。
これがまた教師と保護者に非常にウケて、金一封が出たっていう話だ。
- 220 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:17
-
ちなみにあたしたちは一昨年は「芸」。
一月半徹底的に特訓して、琴と三味線による演奏で日舞を披露した。あたしは踊って、よっすぃーは三味線だった。
別にお笑い系でもよかったんだけど、あたしたちの学校の学祭はレベルが高いと評判らしいのだ。期待されてると分かってて手抜きなんて出来ないじゃん?
梨華ちゃんは柴ちゃんと同じクラスで「飲食」を引いた。
メイドチックな衣装でサービスする姿は傍目から見ても可愛くて、色んな人が写真を撮りまくっていた。
- 221 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:17
-
「まっつーのとこは何だったの?」
「えーと、飲食系、です」
なんか、微妙にひっかかる言い方だな。
飲食系? 何だろ・・・?
抽選は三年から始めたし、今年は面倒臭そうな劇に当たったから騒いでて他のクラスの引いた物に目がいかなかった。
「どんなのやるの?」
「それがですねー、担任命令で内緒なんですよ」
ますます分からん。
まあ内緒にするって言ってるのを無理に聞き出すのは野暮ってものか。
それに、狭い学校内、どうせ情報はいつか漏れてくるだろう。
とかあたしが大人な態度でいたら、子供なよっすぃーがまっつーを小突いた。
「吐け。松浦」
「ヤ、ですぅ。吉澤さんには絶対教えませーん」
「ちっ。可愛くないな」
無敵のスマイルを浮かべてよっすぃーを断固拒否するまっつー。
- 222 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:18
-
悪態をついてまっつーに白状させることを諦めたよっすぃーが後ろのあたしたちを振り返った。
「何やるかって、いつ決めるんだっけ?」
「明日一時間LHRあるんでしょ? その時じゃない?」
ねー梨華ちゃん、と隣を見るも、彼女はずっと負のオーラを撒き散らしている。
「・・・梨華ちゃん?」
梨華ちゃんは俯いているために髪が顔にかかって表情が分からない。
それが、怖々と名前を呼ぶと髪の隙間から目を覗かせた。
・・・かなり怖いからやめてほしい。
「みんな劇は嫌だったんでしょ? なのにあたしが劇なんて引いちゃって・・・。最後の学祭なのに・・・」
自分で言いながら更に落ち込む委員長。
底無しの落ち込みようだ。
- 223 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:19
-
「そんなことないよ。当たったことないやつの方が楽しみじゃん」
「えー? 面倒臭、痛っ」
あたしが必死にフォローするすぐ側から余計なことを言うミキティの脇腹を、まっつーがつねった。
まっつーグッジョブ。
・・・だけど今のは痛そう・・・。
「ね、よっすぃー。楽しみだよね」
「え? あー、まあ、だね」
歯切れの悪い返事のよっすぃー。
嘘でもはしゃいで見せて欲しいものだ。これじゃあたし一人で浮かれてるように見えて、何だか恥ずかしい。
よっすぃーの微妙な返事を聞いた梨華ちゃんがそうっと顔を上げた。
「本当に・・・?」
上目使いだけど、甘えっ子モードではなくていじけモード。
梨華ちゃんと目が合ったよっすぃーの口元が引き攣るのが見えた。
やっと梨華ちゃんのネガティブっぷりに気付いたか。
「も、勿論。劇も楽しそうだよね」
- 224 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:19
-
よしよし、それでいい。
面倒臭いと思ってるのはあたしも同じだ。「劇」は所謂ハズレクジ。
責任感があるのはいいことだけど、ありすぎるのも困り物だ。
梨華ちゃんにはいつも明るく空回ってもらわないと面白くない。
「美貴ちゃんも?」
「え!? あ! うん! 楽しみだね!」
自分にも同意を求められるとは思ってなかったらしいミキティが、まっつーにつねられながら答えている。
それを聞いてやっと気を取り直した梨華ちゃん。ぱあっと明るくなってあたしの手をぶんぶんと握ってきた。
- 225 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:20
-
「良かったぁ。頑張ろうね、みんな」
あは、あはと三人で引き攣った笑いを返す。
あたしは梨華ちゃんに腕を上下に振られてカックンカックン。
あは、は、はぁ・・・。
裏方に回ろう、絶対・・・。
- 226 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/19(水) 00:20
-
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/19(水) 00:25
- 更新終了。
>212 名無飼育さん
ありがとうございます。そろそろ何か起こるかもですが。
>213 名無飼育さん
作者がDDなもので。文章とストーリー、もっと精進せねば、と思ってます。
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/25(火) 23:59
- ミス発見。
>>215 × あたしたちの学校は学祭と文化祭が交互に行われる。
○ 学祭と体育祭
恥ずかしい…
- 229 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:52
-
- 230 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:53
-
抽選会の翌日、午後の授業を潰して演目決めをすることになった。
・・・なったんだけど。
「みんな、聞いてー!」
教壇に立って一人、孤軍奮闘している梨華ちゃんの姿がある。
クラスのみんなは授業が潰れたおかげで気持ちがハイになってるのか、ざわざわと落ち着きがない。
ぐるりと視線を動かして何気なく教室の様子に目を向けると、あたしとほぼ対角線上にいるよっすぃーが目についた。
一番奥のよっすぃーは席の近いミキティと遊んでいる。
・・・いいな。早く席替えしたいな。
- 231 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:53
-
あたしたちのクラスはまだ一度も席替えをしてないので、未だに出席番号順に列んでいる。
ついでに言うと梨華ちゃんはあたしの隣の列の一つ前。
別にみんなこのままでも困らないんだろうけど、個人的には窓際の後ろがいい。ちょうど今よっすぃーが座ってる席だね。
二学期になったら席替えを提案してみるか。
梨華ちゃんの必死な声をBGMにして色々考えを巡らせていると、段々瞼が下りてきた。
「だからー! 劇をやることに決まったのでー・・・・・・」
梨華ちゃんの声が遠のいていく。
もう駄目だ。
後藤真希、限界です。
おやすみなさい。
- 232 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:54
-
*****
- 233 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:54
-
結局何一つ決まることなく終わった話し合いは二日後に持ち越されることになった。
どういう話をしていたかはちっとも覚えてないあたしだけど、起こしに来た梨華ちゃんの顔だけははっきり覚えている。
―――梨華ちゃんて、笑顔で人を刺せるタイプだと思った。
「劇ねえ・・・。どういうのがいいんだろうね」
帰り道、ミキティが呟いた。
嫌がってたけど一応考える気はあるみたいだ。
それを受けてよっすぃーが答える。
「昔話とか、童話とか、古典とか?」
- 234 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:55
-
それを聞いて「昔話、童話、古典ねえ・・・」と反芻するミキティ。
いくらもしないうちに「あ」と何か思いついたようだ。
「梨華ちゃん主役でさ、『みにくいアヒルの子』演らない?」
「駄目だよミキティ、あれって成長したら白鳥になるんだよ。梨華ちゃんじゃ黒いままじゃん」
「白い全身タイツでも着る?」
アホな会話にあたしも加わって、三人で大爆笑。
「それかさー、コメディーにして、実は成長しても黒いままでした、っていうのは?」
「それイイ! 最高!」
再び大爆笑。
まっつーと一緒に前を歩く梨華ちゃんに提案してみると、彼女は顔を真っ赤にして異を唱えた。
- 235 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:55
-
「嫌よそんなの! あたしが主役ならお姫様物しかないでしょ!?」
「えー、でもさ、お姫様ってたいてい色白美人でしょ」
「何が言いたいのよ」
「色黒のお姫様なんて『アラジン』くらいじゃん。やっぱりイメージって大事だよ」
くくくっ、と笑いを堪えながら告げるよっすぃーを、梨華ちゃんが睨みつけている。
隣で聞いているあたしたちも笑いを堪えるので必死だ。
「松浦だってそう思うよね?」
「はい!?」
「そんなことないよねー、亜弥ちゃん」
「えぇ!?」
突然双方から同意を求められ、傍目にも分かる程まっつーはうろたえた。
- 236 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:56
-
さっきから肩を震わせて笑いを堪えてたから、まっつーがどう思ってるのかなんてバレてるんだけど、一体どう答えるんだろう。
後ろを見ればよっすぃー、隣を見れば梨華ちゃんが。
視線に込められた意味は多分全く正反対。
そんな、皆が興味深々で様子を見守る中、まっつーはゆっくりと口を開いた。
「・・・石川先輩だったら、何やっても可愛いと思いますけど・・・」
瞬間、明暗が別れた。
お世辞をお世辞と思わない梨華ちゃんは素直に喜んでいる。
- 237 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:57
-
あたしはミキティと共に二歩程下がると、小声で会話する。
「亜弥ちゃん、やるね・・・」
「うん・・・。質問をはぐらかしながら、且つおだてて気付かせないなんて・・・」
「しかもそれを梨華ちゃんに合わせてやるってあたりがよく分かってるよね」
「だね。もしよっすぃーの味方になったらどうしよう、ってちょっと思ってたけど」
意外と策士なまっつーの後姿を見ながら感心する。
まあ劇の内容を抜きにしても、最後の学祭だし、楽しめたらそれでいいや。
ってか、この面子で楽しくない筈ないだろうけど。
- 238 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:57
-
七月に入ったばかりなのに、もうどこかで蝉が鳴いていた。
- 239 名前:回転木馬 投稿日:2005/10/30(日) 23:57
-
- 240 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/30(日) 23:59
- 更新終了。
228以外にもミスがあったりして、見苦しい文章になってること、お詫びします。
- 241 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/31(月) 00:20
- 更新お疲れ様です。
なんとも言えない良い雰囲気です。
目を細めながらほほえましく読んでます。
- 242 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/05(土) 00:22
-
- 243 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/05(土) 00:23
-
翌日。
いつものように少し残ってくだらない話をしてから帰ろうとした放課後、昇降口で私服姿の人があたしとよっすぃーに気付いて声を掛けてきた。
―――いや、正確にはよっすぃーに反応したんだろう。
「久しぶり、よっすぃー」
「安倍先輩! どうしたんですか?」
「受験に必要な書類取りに来たんだー。卒業証明書? とかゆーの」
「・・・無くしたんですね」
「いや、なっちはちゃんと取っといたつもりなんだけどねえ?」
目尻を下げて笑うその人、アベ先輩は、何だかとっても親しげによっすぃーと言葉を交わす。
あたしはそれが誰だか分からずぼけっと二人のやり取りを眺めていた。
「そういやもうすぐ学祭なんだって? さっき先生から聞いたよ」
「そーなんすよー。あ、先輩見に来ます?」
「どうかなぁ。模試とかなかったら来れるけど。ねえ、よっすぃーのクラスは何するの?」
「ウチらは劇らしいんですけど、配役はまだまだ」
「ふぅん。ま、時間あったら来るね。後輩の晴れ姿を見に」
- 244 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/05(土) 00:24
-
ししし、と悪戯っ子のように先輩が笑った時、資料室から顔を出した教師が彼女を呼んだ。
「ありゃ、呼ばれちゃった。じゃまたね。そっちのお友達も、今度ゆっくり話そうね」
ばいばーい、と手を振りながら立ち去る先輩に、よっすぃーも手を振り返す。
まだぼーっとしていたあたしは、ただアベ先輩の後ろ姿を眺めていた。
アベ先輩の姿が見えなくなって、我に返ったあたしはよっすぃーに尋ねた。
「よっすぃー、今の人誰? なんか可愛い人だね」
「・・・ウチらの二個上の安倍さんだよ。知らなかったの?」
「そんなに有名だったの?」
- 245 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/05(土) 00:25
-
あたしの問いに、よっすぃーが口篭った。
よほど言いたくないのか、いつまで待っても話し出そうとしない彼女に痺れを切らしてせっつくと、ようやくよっすぃーは口を開いた。
「・・・中澤先生と付き合ってた生徒の噂、聞いたことない?」
「―――ああ、あの、一年の時のやつ?」
「そう、それ」
あたしたちがまだ一年生だったその夏、校内には保健医の中澤裕子先生が同じ学校の生徒と付き合っているという、まことしやかな噂が水面下で広まっていた。
一年の間にも広まっていたのだから、それはかなりの広範囲の物だった。
だけど、はっきり言って、馬鹿馬鹿しい類に入る噂だった。
- 246 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/05(土) 00:25
-
「へえ、あれ本当だったんだ」
「・・・なんかごっちん、あんまり驚かないね」
「いや、結構驚いてるよ。それよりなんでよっすぃーがそんなこと知ってんの?」
噂が真実だったことよりも、あたしと同じく、人の噂話に首を突っ込まないタイプのよっすぃーが知っていることの方が驚きだったりする。
「あたし一年の時保健委員で安倍先輩と一緒だったから」
―――中澤先生もね。
そんな呟きも聞こえた。
- 247 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/05(土) 00:26
-
「よっすぃーそんな話一度も出さなかったじゃん」
「だってごっちん、興味ないでしょ。それに、先輩から口止めされてたから」
確かに。あたしは噂話に興味はないし、それを吹聴して回る人種には嫌悪感さえ持つ。
「あ、じゃあいいの? 口止めされてたんでしょ?」
いくら先輩が卒業しても、中澤先生はまだ学校に残っている。
無理矢理口を割らせたとは言え、よかったのだろうか。
―――そんなことを考えてたら。
「・・・別れたんだよ」
なぜか本人でないよっすぃーが辛そうな表情で言葉を紡いだ。
その様子に気圧され、あたしは、それ以上何も聞けなかった。
- 248 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/05(土) 00:26
-
- 249 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/05(土) 00:29
- 短いですが、更新終了。
>241 名無飼育さん
ありがとうございます。
これからほのぼのばっかりでもなくなるかもですが。
- 250 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 00:10
- 何かが動き出しそうな気配…続きが気になります。
- 251 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:23
-
- 252 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:24
-
夜になってあたしはベッドにひっくり返って考えごとをしていた。
ここはあたしの部屋だ。
まっつーの誕生日の後、家出の原因でもあった弟が迎えに来たことをきっかけに自分の家に戻ったのだ。
安倍先輩と中澤先生の恋愛の間に、一体どうよっすぃーが絡んでいたのだろう。
一年生の頃、あたしは今と変わらずよっすぃーと一緒にいた。
だけどその頃よっすぃーが、あんなに辛そうな表情をするようなことに関わっていたなんて、思いもよらなかった。
もやもやした感情が、じわじわと胸に広がってくるのが分かった。
ただ、一体何にそんな思いを感じるのかは分からないけど。
くるりと身体を反転させて枕に顔を埋めると、控え目なノックが聞こえた。
- 253 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:25
-
「真希ちゃん」
ノックの音と共に顔を覗かせる弟。
あたしは起き上がりながら文句を言う。
「返事があってからドア開けてよね」
「ごめん。今日、紗耶香さんとシフト重なったから話しといた」
「・・・市井ちゃん、なんか言ってた?」
「良かった、って」
「あ、そ・・・・・・」
一体どんな風に、どんな顔でそう言ったのか容易く想像出来た。
黙りこくるあたしを前にして居心地が悪くなったのか、弟は早口で捲し立てた。
「じゃあ俺明日は朝からだから・・・おやすみ」
そそくさと立ち去る弟の背中に、小さく「おやすみ」と返して再びベッドに横になる。
目を閉じ、その上から手で被う。
―――――市井、ちゃん。
相変わらず、だね。
- 254 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:25
-
弟が出て行った後はもう考え事をする気になれなくて、あたしは早々に寝てしまおうとタオルケットを被った。
早く睡魔が訪れればいい。
それだけを願ってきつく目を閉じた。
- 255 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:26
-
*****
- 256 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:26
-
「ねえ、昨日の、安倍先輩の話だけどさ」
珍しく二人きりでの教室移動。
始業のチャイムが鳴ったけど、どうせ次の時間は視聴覚室で何かのビデオを観るだけなので特に急がない。
周りに人がいないのを確かめてからよっすぃーに切り出した。
「? ・・・なに?」
「安倍先輩て、どんな人?」
よっすぃーや中澤先生がひどく気にしている人。
一度だけ会ったことのある、笑顔の可愛い先輩。
何故だかひどく気になった。
「どんな人、って訊かれても・・・」
- 257 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:27
-
答えに困るよっすぃーを見て、自分でも「しまった」と思った。
どんな人、なんて、曖昧過ぎて答えに困って当然だ。
じゃあどんな風に訊けばいいかと考えかけた時、よっすぃーが回答を捻り出した。
「見た目は可愛いでしょ、で、優しいし・・・あ、成績はあんまり良くなかったみたいだった」
指を折りながら安倍先輩の特徴を挙げていくよっすぃー。
昨日の会話から先輩は大学受験するみたいだったから、成績が良くなかったっていうのは意外だな。
・・・・・・頑張ってるんだなぁ。
- 258 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:27
-
階段を上がって角を曲がり、視聴覚室のある廊下に差し掛かる。
よっすぃーから見た安倍先輩ってどんな人だったんだろうと訊こうとして、「ねえ」と発したあたしの声に被るように違う声がした。
「後藤、吉澤! チャイム鳴ってるわよ!」
「げ、圭ちゃん!?」
「担任じゃないの!?」
静まり返った廊下に響く保田先生の怒号。
露骨に嫌がるあたしたちに、にっこりと微笑む先生。
唇が有り得ないくらい曲線を描いている。
・・・・・・怖いよ、圭ちゃん・・・。
「後で感想提出あるんだから、早く入んなさい」
「はぃ・・・・・・」
怒られるよりも精神的に効く保田先生の笑顔にすっかりびびったあたしたちは、そそくさと視聴覚室に入る。
- 259 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:28
-
安倍先輩のことがうやむやになったけど、そんなに気にしない。
タイミングが合わないってことは、今は無理に訊くべきじゃないんだろう。
後になって、この時もっとしっかり訊いておけばよかったのかもしれない、なんて思うなんて。
考える由もなかった。
- 260 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/13(日) 23:28
-
- 261 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/13(日) 23:31
- 更新終了。
>250 名無飼育さん
動きそうな、動かないような。
高校生にとっては一事が万事な気もします。
- 262 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/14(月) 00:58
- 更新お疲れさまです。
なかなか意味深ですねぇ(レス返しも)。
- 263 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:18
-
- 264 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:19
-
女子校の特徴の一つとして、運動部のエースだとか、顔立ちが中性的、もしくは少年系の所謂「かっこいい」女の子は人気者となる。
よっすぃーも例に漏れずそんなタイプの人間だ。
上級生下級生を問わず、その人当たりの良さと真面目にしている時の凛々しい表情や子供のような笑顔が人気の元となっている。
と、梨華ちゃんから聞いた。
その時彼女は本当に不思議そうに首を傾げていたのだが。
そういえばよっすぃーはよく先輩たちに可愛がられていたっけ。
三年になってからは直接声を掛けられることは減ったけど、校内を一緒に歩いていたら後輩の子たちと目が合う、目が合う。
- 265 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:20
-
よっすぃーの傍は落ち着くから。
ああ見えて何気に癒し系なんだよ。
他の人も、無意識にそれを感じ取ってるんじゃないかな。
だからよっすぃーの周りには人が集まってくるのかも。
そんな人気者なよっすぃーが文化祭の劇で男役を務めるとなると、当然周りの反応は敏感になる。
―――そう、相手役の、争奪。
- 266 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:20
-
話し合った結果、あたしたちのクラスは「棘姫」を上演することに決まった。
やっぱり襲ってきた睡魔に勝てず、目を覚ましたあたしの視界に入ってきたのは、黒板に書かれたタイトルと配役の文字だった。
真っ先に目に付いたのは、脚本のところにあったミキティの名前。
その次に、「王子」の横に名を連ねるよっすぃーの名前。
・・・まさか、立候補したのかな、これ・・・。
- 267 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:21
-
他にも、衣装班や道具班、サブキャストの方もごちゃごちゃと名前が書かれている。
梨華ちゃんは衣装とサブキャストの両方に名前があった。
―――こっちは確実に立候補だろうな、うん。
寝起きの目をこしこし擦って肝心の自分の名前を探すも、何処にも後藤真希の名前がない。
・・・あれぇ? 寝てたから、飛ばされたのかな?
まだ決まってないキャストは、姫と魔女。それから、衣装と道具は何人でもOKと書かれているのが見える。
ぼんやり黒板を眺めていたらミキティがちょうど通りかかったので、捕まえて話を聞くと。
- 268 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:22
-
「あー、姫? 最初は梨華ちゃんが立候補したんだけど、皆で却下したんだよ。美貴が脚本書くんだから当然だね」
「ふぅん・・・。じゃ、魔女は?」
「それなんだよねー。演劇部がいたら良かったんだけどな」
「よくよっすぃーが王子役引き受けたね」
絶対、絶対こんな面倒臭い役引き受けないだろうに。
一体何が起きたのかと思ったら、ミキティが苦い顔をした。
「・・・いや、まだ本決まりじゃないよ」
「?」
「よっちゃんさ、面倒臭いから絶対嫌だって言ってるんだよ」
でも他に名前が上がらないし、取り敢えず、ってことで名前を書いたらしい。
まあ、仕方ないだろうな。
よっすぃーがもし王子役を引き受けたりしたら、それだけで三ヶ月はネタとして引っ張れそうだ。
- 269 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:23
-
姫役が決まらない理由も、実に分かり易かった。
まだよっすぃーが正式に王子役に決まった訳でもないのに、例え演技でもよっすぃーの恋人役が出来るのなら、と、多くの人が立候補したのだ。
しかし。
よっすぃーの相手役の座をゲットしたのは、およそ立候補なんて考えられない人物だった。
「引き受けるのはいいけどさ、相手はごっちんにしてよ」
何をトチ狂ったのか、彼女はそんなことを言い出した。
それは、あたしを道連れにしようとする悪魔の提案だった。
- 270 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:24
-
「はぁっ!? ヤダよ、そんなメンドクサイこと」
「そんなこと言わないでよ。真希じゃなきゃよっすぃーも引き受けてくれないんだから」
「じゃ、やらなきゃいいじゃん」
頑なに拒み続けるあたしに、クラスメイトは「お願いします!」と手を合わせて懇願してくる。
その様子に、困った視線を向ける。
脚本のミキティでもなく、クラス委員の梨華ちゃんでもないクラスメイトが頼みに来るなんて、なんか狡い。
「真希とよっすぃーが二人で主役やってくれたら絶対見栄えいいしさぁ」
最後だし、派手にやろうよ―――そう盛り上がる彼女に、まだ渋った表情をするあたし。
- 271 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:24
-
だって、ねえ・・・。派手にやりたい気持ちは分かるけど、自分が中心になってやりたいかと訊かれたらそれはノーだ。
楽しめるなら、例え端っこでもあたしは全然構わない。
何時まで待っても色よい返事が引き出せず、クラスメイトは悲しそうに目を伏せた。
―――――よかった、諦めてくれたみたい。
ホッとしてふと時計を見ると、もう昼休みが半分過ぎている、
よっすぃーを待たせているあたしが空腹を宥めながら教室を出ようとした時。
背後からさっきまで説得を続けていたクラスメイトが何か呟いた。
「・・・じゃあこれいらなかったな・・・」
「?」
肩越しに見ると、鞄から何かを出そうとしている彼女の姿が見え、つと足を止める。
- 272 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:25
-
―――――何が出てくるんだろ・・・。
やけに自信たっぷりなその表情に軽く興味を惹かれ、思わず教室内に二歩戻る。
―――彼女の鞄から出てきた物は、紙袋に入った何かだった。
しかし、袋に印刷されたロゴを見て、あたしの目が釘付けになる。
お腹が減っていたのもあるが、それだけじゃない。
茶色の紙袋に印刷されているそのロゴは、少し遠くの団子屋さんの物。
- 273 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:26
-
一つ説明するなら、この団子屋は特別なのだ。
美味しいと評判なのだが一日に限られた数しか販売しないため、午後には売り切れてしまう。
おかげであたしは一度しか食べたことが無いのだが―――――。
あのみたらし団子の味は忘れない。
柔らかく素朴な味の団子に、甘辛いたれがとても合っていた。
しかも嬉しいことに、値段も安い。
「真希が引き受けてくれると思って、お礼に用意してきたんだけど・・・」
チラリと覗くパックの中には、みたらしの他に海苔と餡子も見える。
- 274 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:26
-
――――――どうする。
どうする、あたし。
団子は食べたい。でも劇には出たくない。
究極の選択を前にしてあたしは唇を舐め、唾を飲み込んだ。
- 275 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/20(日) 23:26
-
- 276 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/20(日) 23:29
- 更新終了。
>262 名無飼育さん
意味深…風呂敷は小さくしていこうと思いますw
- 277 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:19
-
- 278 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:19
-
「・・・・・・で、団子に釣られて引き受けたんだ?」
「うぅ・・・」
昼休みも残り十分あるかないかという頃、漸くあたしはよっすぃーの待つ屋上に行くことが出来た。
律儀にも食べずに待ってくれていた彼女には本当に申し訳ないと思い、正直に一部始終を話すと、よっすぃーの感想は何とも脱力したものだった。
首を竦めたあたしに、よっすぃーはがっくりと頭を垂れて力無く呟いた。
「ごっちんなら絶対断ると思ったのに・・・」
「や、でも団子がね、六本もあったんだよ?」
「もうすぐ夏休みじゃん。普通に買いに行けるよ・・・」
「あ」
よっすぃーの指摘に思いっきり固まる。
ヒュウ、と風が吹いてあたしたちの昼食の入ったコンビニ袋がカサカサ音を立てた。
貰った団子を無言で一本差し出すと、同じく無言で受け取るよっすぃー。
団子はやっぱり美味しかった。
- 279 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:20
-
*****
- 280 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:21
-
翌朝学校付近で鉢合わせたあたしたちは、仲良く登校しながら軽い疑問をぶつけていた。
「ねー、劇ってどんな風になるんだろうね?」
「さあ? ミキティのやつ、教えてくれないんだもん」
「・・・あんまり台詞多くない方がいいなぁ」
「ああ・・・どうだろうねえ・・・何せ脚本はミキティだから。どうする? 『渡鬼』みたいのだったら」
「もしそうならあたしは一ヶ月旅に出るね」
朝っぱらからテンションの上がらない会話をして、ようやく校門が見えた頃よっすぃーは足を止めた。
「どしたの? 学校は目の前だよ。登校拒否でもする?」
「中澤先生だ・・・」
ぽつりと呟くよっすぃーの視線の先には車が一台停まっている。
そして、助手席から降りてきたのは確かに中澤先生だった。
「何々、重役出勤ってやつ〜?」
羨ましいなあとこぼすあたしの横で、よっすぃーはただじっと視線を向けている。
中澤先生を降ろした車がUターンしてあたしたちの横を通り過ぎようとする、その時。
よっすぃーは弾かれたように振り返って目を見張った。
どうしたんだろう、よっすぃー。
そんな怖い顔して。
険しい表情でその車を見送ったよっすぃーは、車が角を曲がって姿が見えなくなって、ようやく力を抜いた。
- 281 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:21
-
―――どうしよう、かな。
今のよっすぃーの顔、かなり険しかったよ〜、と冗談めかして言った方がいいのかな。
場の空気を結構気にするあたしには今のこの空気はちょっとしんどい。
結局、「早く行かないと一時間目も遅れちゃうよ」と言って立ち尽くすよっすぃーを無理矢理学校へと引っ張った。
- 282 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:21
-
- 283 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:22
-
その日のよっすぃーはずっとぼんやりしているか、すごく怖い顔をして何かをじっと考えていた。
いつもの彼女とは全然違って、あたしやミキティはちょっとつまらなかった。
- 284 名前:回転木馬 投稿日:2005/11/27(日) 01:22
-
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/27(日) 01:23
- 物凄く短いですが、更新終了。
- 286 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/28(月) 11:47
- ドキドキしてきました
- 287 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/29(火) 00:07
- ワクワクしています
- 288 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/04(日) 23:58
-
- 289 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/04(日) 23:58
-
「ねえ、今日のよっすぃー何か変じゃない?」
その声は着替え終わってじゃあ外に行こうかという時に後ろから近付いてきた。
今日の午後一が体育だから、まっつーの所によっすぃーを連れて行く役目のミキティは心底ホッと
たようだった。
五時間目が体育だと着替えたりしないといけないから、この時だけはお休みなのだ。
まあね、あんな状態のよっすぃーを連れて行っても気まずいし。
まっつーだって困るだろう。
- 290 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/04(日) 23:59
-
「梨華ちゃん」
髪をオールバックにして上の方で纏め、全開にしたおでこにハチマキ巻いて、やる気一杯な彼女は少し眉を顰めた。
「梨華ちゃんにもそう見える?」
「だって、今日はまだ一度もあたしにキショイとか言ってこないんだよ?」
そんなのおかしいよねぇ、と彼女は言う。
キショイって言わないからって・・・、判断基準がそんな所の梨華ちゃんのがおかしいよ。
そう思ったけど言わない。
どうせ、「ひどぉいごっち〜ん」とか何とか言うに決まってる。
大体梨華ちゃんはそんなこと言いながらも嬉しそうだし。きっとマゾなんだろうな。
で、あたしはサドじゃない。
だから言わない。
- 291 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/04(日) 23:59
-
「ん〜、そう?」
「そうだよ。朝からおかしいもん」
「まあまあ、よっすぃーだって機嫌が良くない時くらいあるよ」
「嘘っ、そんなことあるの!?」
相変わらずよっすぃーに対しては失礼なことを言う梨華ちゃん。
よっすぃーだって人間なんだし、感情の起伏くらいあるだろうに。
だけどこの日、よっすぃーはどんなフォローもきかないほどのミスをやらかしてしまった。
- 292 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:00
-
今日の体育はハンドボールで、よっすぃーはミニゲームでキーパーをしていた。
相手チームのミキティが放ったボールを、ぼーっとしていたよっすぃーはうまくかわせなかった。
顔面に直撃こそ避けれたけど、口元に当たるボールは避けれなかった。
「よっちゃん!」
「大丈夫!?」
慌てて駆け寄ったミキティとあたしとは対称的に、よっすぃーは口元に手をやるとそこについた血をただ眺めていた。
「何やってんの。保健室行くよ」
「・・・保健室」
「そうだよ、手当てしなくちゃ」
全体的に体に力が入っていないよっすぃーを引っ張って歩かせる。
「美貴が付き添うよ」
「いや、あたしのが力あるし。よっすぃー支えなきゃ」
ボールを当てた責任を感じたミキティがそう言ってくるけど、あたしはやんわりと、きっぱり断った。
今の状態のよっすぃーをあんまり人に見せない方がいいような気がしたのだ。
あたしだけなら、「体調が良くなかった」とか、どうとでも誤魔化せる。
- 293 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:01
-
保健室に着くと、主である中澤先生は暇そうに椅子に座っていた。
「いらっしゃーい」
今にも両手を広げそうなくらい愛想がいい。
保健室に来る生徒なんて少ないに越したことはないだろうけど、誰もいないのも仕事にならないのかもしれないな。
「先生、よっすぃーが怪我したの。消毒お願いします」
「吉澤ぁ? 何や珍しいなあ」
まあええわ、と呟くと中澤先生は薬品棚からいくつか瓶を取り出してよっすぃーの前に座った。
口をゆすがせ、傷を見て、消毒液を脱脂綿に染み込ませると意外と優しい手つきで処置をする。
- 294 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:01
-
「大したことないな。ただ、刺激のあるモンは飲み食いせん方がええよ」
瓶を棚に戻しながら、中澤先生。
「・・・・の人」
ほっとして授業に戻ろうとしたあたしの耳に、よっすぃーの低い声が聞こえてきた。
中澤先生にも聞こえたらしく「ん?」と聞き返していた。
「今朝の人。あの人が、みっちゃん?」
「――――――――」
震える声でよっすぃーが問うと、中澤先生が絶句した。
目を見開いてよっすぃーを見る。
- 295 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:02
-
「・・・・・・・・吉澤、何を」
「送られてきたの見たから。女の人だったからもしかして、と思ったんだけど」
中澤先生の言葉を遮って捲し立てるよっすぃーは、握った拳に力を込めたのか、わなわなと震え出す。
「・・・今する話やないやろ。後で」
「いいじゃん。ごっちんだって知る必要があるよ」
「え?」
あたしと中澤先生の声が被った。
今の話はどう考えてもよっすぃーと中澤先生の間での話であって、あたしはまるっきり無関係なものと思っていた。
それがいきなり自分の名前を出されるとは。
- 296 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:02
-
「―――なっちが聞いてもいいって言ったんか?」
「それは・・・・・・」
口ごもるよっすぃーに、中澤先生は優しい眼差しを向けた。
「―――吉澤、ありがとな。なっちのこと、いっつも心配してくれて」
それはあたしが初めて見る先生だった。
あたしの知っている中澤先生は、何時も生徒とふざけているか、しかめっ面をしているかで、とてもそんな優しい顔をするイメージはなかった。
だけど今先生が見せた顔。
事情を知らないあたしにも、中澤先生が安倍先輩を大切に思ってることが分かる。
- 297 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:03
-
―――――あぁ、まっつーと同じ顔だ。
つい最近、まっつーが今の先生と同じような目をしたことがあった。
その時はたまたまよっすぃーがいなくて、あたしとまっつーの二人で話をしてたんだ。
- 298 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:03
-
*****
- 299 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:04
-
「あれ? まっつー、携帯のストラップ変えた?」
ブレザーのポケットから見えるストラップは、以前にはなかった物だ。
だから何の気無しに尋ねると、まっつーは携帯を取り出してそのストラップを掌に乗せた。
「あ、これですか?」
「そうそう」
「これですねー・・・」
そっと。シャボン玉を捕まえるかのように指で触れると、まっつーはその大きな瞳を細めた。
「これ、吉澤さんがくれたぬいぐるみの一部なんです」
てっきりあの大量のぬいぐるみに紛れてよっすぃーが仕込んでいたのかと思ったけど、そうではなく本当にぬいぐるみの一部がストラップになるやつがあったらしい。
それを大事そうに扱うまっつー。
ああ、この子は本当によっすぃーが好きなんだ。
その穏やかな視線の先に映るのは、きっと想い人の姿なんだろう。
そんなことをぼんやり思った。
- 300 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:04
-
*****
- 301 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:04
-
よっすぃーにも伝わったのか、彼女は小さくかぶりを振った。
「いえ・・・あたしは別に」
力なく、ふらりと立ち上がり戸口に向かうよっすぃーの姿と、さっきの様子と打って変わって無表情な中澤先生を交互に見た。
これ以上先生を問い詰めても、何も出てこないだろう。
よっすぃーにさえ、話すことは無いとでも言うように寄せ付けないのだ。
あたしに何か話すとは到底思えない。
あたしは先生に向かってぺこりと小さくお辞儀をすると、よっすぃーに駆け寄った。
扉にぶつけそうになっているよっすぃーの頭を、寸前で助ける。
そのまま振り返ることなく保健室を出て、後ろ手に扉を閉めるあたしの背中に中澤先生の声が当たった。
「お大事に」
- 302 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:05
-
*****
- 303 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:05
-
「よっすぃー・・・大丈夫?」
廊下を歩きながら尋ねると、思ったよりもしっかりした顔つきでよっすぃーは笑った。
「・・・ごめん、カッとなった」
「一つだけ聞いてもいい?」
「何?」
「さっき。どうしてあたしにも関係あるって言ったの?」
尋ねると、ちょっと考え込むようによっすぃーは俯いた。
暫く廊下を歩く二人分の足音だけが響いた。
靴を履き替えるために昇降口まで来ると、よっすぃーは靴箱の蓋を開けたままぽつりと呟いた。
「ごっちんが、誰かのことを聞いてくるのは初めてだったから」
聞き逃しそうな位小さな声で、だけどはっきり言葉にした。
- 304 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:06
-
言われた意味が分からず少し考え込み、やがて思い至った。
―――――そういえば、今までよっすぃーに誰かのことを尋ねたことなかったな。
そりゃあ名前くらいは聞くことはあっても、深いところまでは聞いたことがなかった。
あたしが訊くより先に紹介してもらうことや、訊くまでもなく仲良くなったりしてたから、訊く必要がなかったんだ。
今回は何故か尋ねたけど、よっすぃーにとって触れられたくない話ならあたしはこれ以上詮索しない。
普段はしない、傷ついたような表情をさせてまで知りたいわけじゃない。
ちょっとした好奇心。
そうに違いないんだから。
まっつーとは違う意味でも、あたしはよっすぃーが大好きだ。
本当に。
- 305 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/05(月) 00:06
-
- 306 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/05(月) 00:11
- 更新終了。
>286 名無飼育さん
どきどきはあまり続かないかもです。
>287 名無飼育さん
わくわく、はあまり頂かない感想なので新鮮です。
ありがとうございます。
- 307 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/05(月) 00:15
- さらにドキドキしました。
後藤さんがなんだかとても好きです。
- 308 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/05(月) 00:25
- 意味深になってきましたね…どのように人間関係が絡まっているのか、楽しみです。
- 309 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:16
-
- 310 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:17
-
夏休みまでなんて、あっという間だ。
学祭の準備として、必要な大道具や小道具を全員で制作する。
衣装はなんと、一からの手作り。
服飾の専門学校目指してる子が何人かいるから、その子たちが指揮を取りながら急ピッチで作業が行われる。
あたしたち役者サイドも、ミキティの脚本が上がるとすぐに練習に入った。
セリフの暗記、動き、溜め等は勿論、姿勢や発声の仕方からやるから、中々ハードだ。
ってか、ミキティだ。
普段からは信じられないくらい厳しいんですけど・・・。
その合間を縫うようにして小道具作りにも参加しなくちゃだし、日に日に体力が削られていく。
- 311 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:17
-
追い打ちをかけるように期末テストもやってくる。
テスト前は学祭の準備は禁止だが、代わりに成績の芳しくない生徒には補習が課せられる。
やっぱり呼ばれたあたしとよっすぃー。
普段赤点ギリギリか見事な赤点しか取らないからなぁ・・・。
成績はそこそこ、教科によっては高得点を取るミキティや梨華ちゃんはお呼ばれされなかった、と言うか、クラスで補習組はあたしとよっすぃーだけ。
進学クラスじゃないのに、おかしいな。
おかげでまっつーともしばらく一緒に帰ってないし。
昼間校舎内や食堂で会うことはあるけど、向こうは学祭についてノーコメントだしテストがあるのは同じだしで、イマイチ明るい話題が無い。
・・・うーん、中々、きついなぁ。
ぐだぐだと文句を言っても時間は確実に流れ、散々な期末テストが終わった。
全く勉強しなかったわけじゃないけど、中間の二の舞にならないようにするだけで手一杯だった。
きっとテスト用紙からは睡魔を誘うフェロモンが出てるんだ。
わあセクシー。
・・・・・・。
しょうもないことを考える自分に、ちょっとだけ落ち込んでみた。
- 312 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:18
-
*****
- 313 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:18
-
「夏だねぇ」
「そーだねぇ」
夏休みに入ったというのに、相変わらず行動を共にしていたあたしとよっすぃーは呟いた。
休みの間もほぼ毎日ある学祭準備も今日は休みということで、正しい夏休みを過ごしてみようということになったのだが。
クーラーの効いたファミレスの一番奥のボックス席で、ドリンクバーのみで既にニ時間は粘っている。
おまけに、暑い暑いと口にするよっすぃーの腕には、これまた暑さを増長させる要因が纏わり付いていた。
- 314 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:19
-
「あああっ! ちょっと離れろよ松浦ぁ!」
「えー、なんでですかぁ?」
「暑いんだよ!」
「ヤです。松浦は寒いです」
よっすぃーの腕にべったりとくっついて、まっつーが甘えた声を出す。
暑がるよっすぃーの正面に座ったあたしは、そんな二人を笑いを堪えて眺めていた。
「よっすぃーさあ、こうなるって分かってたのに何で連れて来てんの?」
「ちっがうよ! 松浦がついてきたの!」
「あー、ひどい吉澤さん。そんな、松浦が勝手に来たみたいじゃないですかぁ」
「違うのかよ!」
よっすぃーの絶叫虚しく、まっつーはにこにことしたまま離れようとしない。
いつになくじゃれつくまっつーと、暑さのせいもあってか怒りっぽいよっすぃー。
何だか久し振りな気がする馬鹿騒ぎが楽しくて、あたしは一切手を出さないでいた。
- 315 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:20
-
その時、自由になっている方の手で頭を抱えるよっすぃーの元に、救いの手が差し延べられた。
「寒いんならここだけ冷房切ったげようか、亜弥ちゃん?」
声のした方を見るまでもなくそれが誰だか三人とも分かっているのだが、あたしたちは同じタイミングで振り向いた。
「美貴たん!」
「元気いいねえ、相変わらず」
このファミレスの制服に身を包んだミキティが、感心したように笑う。
「ちょうどいいとこに来た! ミキティ、こいつどっかに連れてって」
ぐい、とまっつーの体をミキティに押し付けるよっすぃー。
引きはがされたまっつーは、大袈裟に頬を膨らませるとミキティの方を向いて、何とかミキティを味方にしようと企んだ。
- 316 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:20
-
「美貴た〜ん、吉澤さんがあたしのことイジメるぅ」
「あ、キタネーぞ松浦! いつあたしがイジメたよ!?」
「ほらぁ、そうやって怒鳴るしぃ」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ様子を眺めていたミキティは、そんな二人から少し離れ、ツツッとあたしに近寄ってきた。
「・・・夏休み中もこんな感じ?」
「うん」
「大変だねえ、ごっちんも」
「・・・そうでもないよ」
同情するかのようなミキティの発言に、あたしは少しだけ考えて、それから口元を綻ばせて答えた。
あたしの言葉に、ミキティはハテナ? と小首を傾げたが、新しい客が入って来たのを見て接客モードに切り替える。
「じゃあ美貴もう仕事するから」
そう残してあたしたちのテーブルから離れようとした時、後ろから袖を掴まれていた。
- 317 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:21
-
「ミキティ、あたしを見捨てんの!?」
「・・・見捨てるって言うか、美貴にはどうにも出来ないし」
「そんな、あっ、ちょっと待ってよ」
「美貴たん、仕事頑張ってね〜」
追い縋るようにミキティの手を取ったよっすぃーだが、すげなくあしらわれて軽くへこむ。追い打ちをかけるようにまっつーが、
「吉澤さん、美貴たんの仕事の邪魔しちゃダメですよぉ」
まるで子供に言い聞かせるように言うおかげで、すっかり意気消沈してしまったようだった。
- 318 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:21
-
- 319 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:21
-
「まっつーはホントに可愛いよね」
「いやーん、ありがとうございますぅ!」
「げ、ごっちん目が悪くなったの?」
何気なくあたしが言った一言に、これでもかというくらい二人は反応した。
怖いって、二人とも・・・。
「何ですか吉澤さん。その、げ、って」
「何ってそのまんまだよ。松浦が可愛いって、目が悪くなったとしか考えられない」
「あーヒドイ! 松浦のどこが可愛くないって言うんですかぁ!?」
「松浦はうるさい」
「明るいって言ってください!」
小気味よく応酬する二人を見てとうとう我慢せず声に出して笑う。
やはりこの二人を見るのは面白い。
- 320 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:23
-
「そろそろ出る?」
「うん。あ、服買いたい」
「オッケー」
「あたしも服買いたかったんですよぉ!」
「まだ一緒に来るのかよ・・・」
口々に言いながら席を立つ。まっつーのパワーに押されっぱなしで疲れきったよっすぃーがボソッと零した言葉をやはりまっつーが聞き付け、ぶー、と口を尖らせた、その時。
「あー、また吉澤さんはそんなこと言―――キャッ!?」
テーブルの角に体をぶつけ、突然のことで大きく体が傾ぐ。
が、まっつーの体が倒れることはなかった。
「――何やってんだか」
「あ・・・ありがとうございます・・・・・」
まっつーのすぐ後ろにいたよっすぃーが、よろけたまっつーの体をしっかりと後ろから支えていた。
抱き留められたまっつーの顔は真っ赤だが、抱き留めた本人はそれに気付かず背中を押して体勢を整えさせた。
その一連の様子をしっかり見ていたあたしはこっそりと含み笑いをした。
- 321 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:23
-
ファミレスを出ると、むわっとした熱気が絡みついてきた。
店を出てすぐは体が冷房で冷えていたから良かったけど、三歩進むとすぐに不快な物に変わる。
―――――さあ、どうやって一日羽を伸ばそうか。
まずは買い物、とあたしたちはショップの入った近くのビルを目指して動き出した。
- 322 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/12(月) 01:24
-
- 323 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 01:28
- 更新終了。
>307 名無飼育さん
後藤さんを好きだと言ってもらってありがとうございます。
>308 名無飼育さん
…引っ張ったらほどける位な絡まり方、かも。
- 324 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 01:42
- 更新お疲れ様です。
まっつーは可愛い(断言
- 325 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:29
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 326 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 07:29
- もう吉澤主役でいいんじゃないですか?この話
- 327 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/13(火) 01:10
- 吉澤が主役だと思っていたんだが>>326は何が言いたいんだ
- 328 名前:名無し飼育 投稿日:2005/12/16(金) 21:28
- >>327
多分物語の語り部と主役をごっちゃにしてるんだと思うよ
- 329 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/17(土) 09:08
- 語り部は石川でも藤本でも安倍でも誰でもよかったんだよ
ここの主役はモテ吉1人だ、よく読め>>326
- 330 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:20
-
- 331 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:21
-
学祭の準備の為に登校するあたしと、受験勉強の為の課外授業を受けに登校する進学クラスの子たちというのはそんなに変わらないと思う。
目的があって来てるんだから、どっちもそりゃ立派なもんでしょ。
もっとも、用も無いのに学校に行くわけもないけれど。
「・・・・・・だけど、ちょうど陽が高くなる時間からってのは勘弁してほしいよ・・・」
自分の靴箱から上履きをボトリと落としてそのまま突っかけながら独りごちる。
午前中は課外授業、学祭準備はその後から。
課外は日程が決まっているけど、学祭準備は自由参加。
だけどあたしは主役の責任を果たす為にほぼ毎日出動だ。
今日の練習場所は体育館だが、一旦自分のクラスに行き、ロッカーからジャージを取り出す。
さすがに、制服じゃ練習出来ない。
いや、出来なくもないが、やりたくない。
授業中のクラスの横をぺたぺた歩いていく。
廊下側の生徒が一瞬向ける視線を感じながら、歩く。
- 332 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:22
-
「おはよーぅ」
体育館に入ると、ほぼ全員が揃っていた。
もう昼だけど「おはよう」と交わしながら更衣室に向かう。
女子高生が夏休みに遊びに行かず、高校三年生だというのに勉強せずに学校行事に力を入れるというのはもしかしたら一般的じゃないかもしれない。
しかし「一般」の対義語は「特殊」だから、そう考えると違う気もする。
あなたは一般的ですか?と聞かれてノーと答えるのと、あなたは特殊ですか?と聞かれてイエスと答えるのは印象が違う。
零か百しか無い場合ではそれでもいいだろうけど、実際問題それでは極端だ。
ニュアンス。
上手に活用すれば、これほど他者に自分の意思を伝えられるものはない。
――――それを汲むことが出来なければ、全く意味を成さないけど。
つまりは相互の歩み寄りか。
- 333 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:22
-
――――――・・・・・おぉ、今日のあたしはまるで哲学者のようだ。
普段は考えないようなことをただぼんやり考える。漠然と思う。
明確な答えを探しているわけではない。
更衣室を出てステージに近付く。その間も、考える。
回りくどい考え方は一体何の影響なのか、はて、と首を傾げた時に舞台監督ミキティが声を張った。
「皆おはよー。今日から音楽も入るのでー、より本番に近い練習が出来るようになりましたー。今日も一日、お願いしまーす」
ミキティの口上にあちこちから挨拶が上がる。
動き出す皆に合わせてあたしも台本を丸めて持ち、役者グループの元に向かった。
- 334 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:23
-
*****
- 335 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:23
-
四時間近くが過ぎた頃、今日は終了となった。
各々帰り支度をしていると、よっすぃーが思い出したように話を振ってきた。
「ごっちん、花火大会行く?」
「いつあるの?」
「明日ー」
そうか、今年ももう花火大会があるのか。
毎年八月、一週目の日曜日に近くでそこそこ大きな花火大会がある。
去年はよっすぃーと二人で屋台制覇を目論み、見事に惨敗した。
「行くつもりだけど―――よっすぃー、都合悪い?」
「うん―――その祭りに出す屋台の店番頼まれたんだよねー・・・」
「休憩とか、無いの?」
「や、それはあると思うけど、何時か分かんないからさ」
「ああーそっかぁ」
- 336 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:24
-
さて、どうしよう。
去年のリベンジをしたいのはやまやまだが、一人じゃ無理だ。
そもそも一人でそんなことしても楽しくない。
「あ、じゃあさ、ミキティとか誘って、休憩になったら合流しようよ」
「いいね。じゃ、聞いてみるか」
きょろ、と見渡してミキティを探す。
程なく見つかる彼女に明日の予定を尋ねると、一瞬だけ渋い顔をしたがすぐに笑顔を浮かべた。
「夜だよね。行く行く」
まず一人確保。
他に誘うとしたらまあ妥当なところで梨華ちゃんだな。
そう思って声を掛けるも。
「あ、ごめ〜ん・・・柴ちゃんと行く約束してるから・・・」
あう。
それは残念。
手を合わせて「ごめんね」と申し訳なさそうに繰り返す梨華ちゃんに「いいって」と笑い掛ける。
しかし困ったな。
もう一人くらい一緒に行きたかったけど、あたしもよっすぃーもミキティも仲良くて学校の外でも遊ぶ人ってあんまりいない。
・・・・・もしかして、友達少ないかも。
- 337 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:24
-
携帯のメモリーをスクロールさせて適当な人を探していると、一人の場所で指が止まった。
『まっつー』
どうだろうなぁと思いながら通話ボタンを押してみる。
コールが数回あって、やがてテンションの高い声があたしの耳を刺す。
『もしもーしっ!?』
「・・・・・・あ、まっつー?今大丈夫?」
『はい、大丈夫ですよ!』
「明日の花火大会行かない?」
『明日?』
「そう、明日」
言って、考え込むようにふと黙るまっつー。
やっぱり急だったかな。お祭りだし、友達と約束あるだろうな。
それにしてもまっつーは今何処にいるんだろう。
周りの音がかなり煩い。
多分カラオケかゲームセンター辺りだろうけど、いいね。若いって。
『もしもし先輩? 後は誰が行くんですか?』
「あたしとミキティと、後からよっすぃー」
例の如くいつもの顔ぶれ。
- 338 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:25
-
『後から?』
「うん。屋台でバイトがあるんだって」
『へぇー・・・。じゃ松浦も行きます』
「ん。じゃあまた後で連絡するね」
『はーい』
ぷつり。
通話を切ってよっすぃーに報告。
「―――てことで、ミキティとまっつーも行くから」
「了解」
まっつーの声は外におもいっきり洩れていたようで、説明要らず。
応えるよっすぃーはくつくつと笑っていた。
- 339 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:25
-
五時近いというのにちっとも暗くならない帰り道、コンビニで買ったアイスを噛りながら明日の計画を立てる。
ちなみに、ミキティはバイトに向かい、梨華ちゃんは何か用事があるとかで一緒に帰っていない。
「何の出店?」
「かき氷。ほら、いつも屋台が出る並びのとこで」
「ああ・・・」
頭の中に会場となる広場の地図を描き、よっすぃーの言っている場所を何となく理解する。
「ごっちんたち浴衣着るの?」
「んぁ〜・・・」
どうしよかなあ。去年は食べたら苦しくなるから着なかったけど。
「後で二人と話してみるよ」
「そっか」
お腹や背中を伝う汗を感じながら、昨日見たテレビの話とかしながら、駅まで歩いた。
食べていたクジ付きアイスはハズレだった。
- 340 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:26
-
- 341 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/18(日) 02:27
- 更新終了。
>324 名無飼育さん
可愛いままでいてくれたらこれ幸い。
>325 名無飼育さん
見てます。企画が実現出来るよう影ながら応援しています。
>326-329
フォロー等、ありがとうございます。
吉澤さんを軸にした、後藤さん視点です。
作者にもっと実力があればどんな展開方法でも納得してもらえたのでしょうが…。
最後に「ああそうだったのか」と思ってもらえるような物を目指してます。
- 342 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/19(月) 04:36
- なんとなく素敵な予感がしゅる
- 343 名前:konkon 投稿日:2005/12/19(月) 15:17
- 初めまして〜ですね
最強カルテットの学園物で楽しいです
これからもがんばってください
- 344 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 01:57
-
- 345 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 01:58
-
夜、ミキティのバイトが終わっただろう時間を見計らって電話をかけた。
「ミキティ? あのさー、明日浴衣着る?」
『んー着たいんだけどさ、明日夕方までバイト入ってるんだよね。直で行こうと思ってるから無理っぽいなあ』
ふむ。それじゃ仕方ない。
時間と場所だけ決めて、次にまっつーへ。
「まっつーは明日浴衣着るー?」
『もちろんですよ! まつーら新しい浴衣買ったんですから!』
「あ、そうなんだ」
やる気が満ち満ちてるね。あたしなんて二年前から買ってないよ。
あ、でも高一で買ったなら同じになるのか。
「着付けは大丈夫?」
『お任せ下さい』
「じゃ六時半に広場横のコンビニで」
『了解です』
電話を切り、まっつーが着るならあたしも着るか、と立ち上がる。
押し入れをごそごそ探って、和紙に包まれた浴衣を発見した。
濃紺の地に黄色い縁取りの夕顔が散っている。
ちょっと珍しいのと色のバランスが気に入っているこの浴衣も、思えば二回しか着ていない。
今年は何回着れるかな。
他に必要な小物を探し出して並べ、わくわくしている自分に気付いて笑ってしまった。
―――――まっつーのこと言えないな、これは。
- 346 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 01:58
-
*****
- 347 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 01:59
-
左右に並ぶ様々な出店を横目に人込みの中をゆっくり歩いていると、まっつーが「あ」と半音高い声を出した。
まっつーと同じ方向を向くと、接客中のよっすぃーがちらっと見えた。
近付くと小学生くらいの子が三人ばかり、セルフサービスにしてるコンデンスミルクを大量にかけている。
その子たちが店の前から退くと、やっとあたしたちも少し広い場所に出られた。
「よ〜っすぃ〜、ちゃんと仕事してるー?」
声をかけながら、自分がニヤつくのが分かる。
友達が働いてる姿なんてただでさえどこか愉快なのに、それがよっすぃーだなんて尚更だ。
すぐに気付いたよっすぃーはそれまで貼り付けていた愛想笑いを引っ込めた。
「こらこら、愛想がないぞー」
「少しくらい休んだっていーじゃん」
「お客さん多いの?」
「結構ねー」
よっすぃーの格好は、紺の甚平。足元は見えないけど、多分サンダルか雪駄だろう。
最近髪の色をまた少し明るくしたせいでヤンキーに、下手したらおじさんぽくも見えるその姿も、何故かよっすぃーだと似合ってしまう。
それって得なのか損なのか。
- 348 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:00
-
「休憩あるんですか?」
「花火の一時間前から休憩くれたから、それは大丈夫」
まっつーの問い掛けに、携帯で時間を見ながら答えるよっすぃー。
釣られてあたしも時間を見ると、六時過ぎ。
花火が七時半からだから、よっすぃーの休憩まで後少しか。
「どうする? 裏にいてもいいけど」
裏。そう言って示したのは、屋台の裏手。
あたしたちは顔を見合わせ、とりあえず店先だと邪魔になるのでぐるりと回り込んだ。
後ろからよっすぃーの仕事ぶりを眺める。
濡れた所を拭き、整理してきちんと前を向く。
すぐにお客さんはやって来た。
今度は中学生くらいの女の子が四人。
なかなか注文が決まらないが別に急かすことなく、それどころか雑談を始めている。
・・・・・・よっすぃーの好きなシロップなんて聞いて無いって。
- 349 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:00
-
わーわー言いながら女の子たちが離れると、ミキティが感心したようによっすぃーを褒めた。
「よっちゃん接客出来るんだ」
「当たり前じゃーん」
「どう? 美貴と一緒にバイトする?」
「あのファミレス? ヤダよ、あそこスカートミニじゃん」
「だからだよ。よっちゃんのミニスカ姿なんて超レアじゃん」
「・・・それ、冷やかす気満々じゃない?」
「勿論」
あっけらかんと言い放つミキティに「勘弁してよ」と肩を落とすよっすぃー。
どうやら相当お疲れのようだ。
黙々と仕事をするよっすぃーの後ろで、バイト勧誘の標的をまっつーに変えたミキティが「亜弥ちゃんどう?」なんて誘ってる。
・・・あれ? あたしには声かけないの?
そりゃするつもり無いけどさぁ。
一応聞いてくれてもいいんじゃない?
イマイチ納得いかないが、文句を言うでもなく目の前を行き交う人たちを眺める。
限られた幅に大人数が詰まっていて、こうして屋台の側から見ると、何だか人酔いしてきそうだ。
- 350 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:01
-
人の群れから目を背け、つと時間を見ると六時二十分。
よっすぃーの休憩時間が迫ってきていた。
そろそろ休憩だよ、と教えると、交替準備をしようとしていたよっすぃーが軽く唸った。
「どうかしたの?」
「小銭が足りないかも」
ほら、と箱を見せてくれたので覗き込むと、お札ばっかりで確かに小銭はあまりない。
どうするんだろ。銀行なんてとっくに閉まってるけど。
「どっかで両替してくるかー。ミキティ、一緒に来てよ」
「美貴?」
「屋台の人には両替してくれなかったりするんだよ。だから一応」
「ああ、成る程ね。いいよー」
またあたしには声がかからなかった。
・・・そういう理由なら仕方ないけどさ。
一万円札を二枚持って、今度こそあたしにも声がかかった。
- 351 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:02
-
「ごっちん、店番頼んでいい? すぐ戻るから。かき氷作れるよね」
「大丈夫任せて」
やっと呼ばれたことが何だか嬉しくて、あたしは意気揚揚と応えた。
今なら目を閉じててもかき氷を作れるような気がする。
・・・・・・いや、それは言い過ぎか・・・?
「吉澤さん、まつーらも付いて行きます」
今日はまだそんなによっすぃーと会話のなかったまっつーが頬っぺたを膨らませながらそう言う。
しかしよっすぃーは一瞥くれるとはっきりきっぱり却下した。
「駄目。急いで行ってくるから浴衣だと危ない」
「えぇー」
「綺麗に着れてんだから崩れたら勿体ないだろ」
「ごっちんの手伝いでもしてなさい」と小さい子に言い渡すようにして、よっすぃーはミキティと共に足早に出て行った。
- 352 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:02
-
さて、こっちは店番をしっかりやるかと色々場所を確認し、とは言っても大したことはないけど、営業に備える。
お客さんが来るかどうか、どきどきしていたあたしだが。
「・・・・・・まっつー、顔緩みすぎ」
「え、そうですか?」
いかんいかん。そう言いながら頬っぺたをぺちぺち叩くまっつー。
・・・言っちゃ何だけど、全然意味ないから。それ。
「だって今日初めて浴衣のこと言ってくれたんですよー? しかも綺麗だって!」
よっぽど嬉しいのか、まっつーにしては珍しく締まりのない笑顔を見せる。
あたしはまだ何も言われていない。
あ、いや、ミキティとまっつーからは待ち合わせ場所で「可愛い」って言ってもらったけど。
ミキティなんかは浴衣二人を見て「やっぱり美貴も浴衣着ればよかった」なんて残念がっていたし。
だけどよっすぃーはまだ何も。
あたしの浴衣姿、二年振りなんだからさー、ちょっとくらい触れてくれてもいいのにね。
- 353 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:03
-
少し不貞腐れてまた人込みに目を向けると、一点に視線が吸い寄せられた。
人込みに埋もれてしまいそうなくらい見えては隠れる頭。
流れに乗って段々近付いてくる。
あれは、多分。
「・・・・・・安倍先輩?」
呟き、前を通る時に呼び掛けると先輩はほんの少し怪訝そうな表情をしたが、すぐに笑顔を浮かべて寄ってきた。
「前によっすぃーと一緒にいた子だよね?」
「はい。よく、覚えてましたね」
「何となくだけど」
へへっ、と素直に白状する先輩はまっつーを見て、「こっちの子は初めましてだよね?」と確認する。
「あ、はい。一年の松浦です」
頭の回転が速いまっつーはすぐにピンときたのか、的確な自己紹介をする。
「彼女よっすぃーの後輩なんですよ」
「そうなんだぁ」
- 354 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:04
-
あたしの補足に安倍先輩は親しみ易い笑顔を向けた。
そして丁寧に自己紹介を返す。
「安倍なつみです。よっすぃーとは三年の時同じ委員会だったんだ」
「そうなんですかー」
「先輩、かき氷どうですか? 御馳走します」
あたしがそう言ってみると、ちょっと考え込む先輩。
何? 何かまずかったかな。
かき氷、嫌いなのかな?
「これから予備校なんだよねー・・・」
「あ、そうなんですか・・・」
時間がないのかな。
だとしたら仕方ないか。
がっかりしているあたしの耳に、「だけど」と声がして。
「ちょっと欲しい、かな?」
小さく先輩が笑った。
- 355 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:04
-
「ちょっとですね。了解です」
つられた笑顔であたしは氷を削る。
カップの半分より少し少な目にして、シロップに手を伸ばす。
「何にします?」
「じゃあねぇ・・・イチゴミルク」
「らじゃ」
短く答えてシロップにミルクを慎重にかける。
出来上がったかき氷はまるで見本のような出来映えで、思わずうっとりするくらい。
それを渡すと本当に嬉しそうにする安倍先輩。
・・・先輩、なんだよね、この人。
二つ上とは思えない、そのくらい可愛らしい。
- 356 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:05
-
「二人とも浴衣似合ってるねー。可愛い」
「来年着ましょうよ。きっと似合いますよ」
「あはは。なっちはもう着れないよー。今日はよっすぃーは一緒じゃないの?」
「ちょうど両替しに行ってるんですよ。もうすぐ戻ってくると思うんですけど」
隣でまっつーが「電話してみましょうか?」と言うと、安倍先輩はパタパタ手を振った。
「いいよいいよ。なっちもう行かないといけないし」
ああそっか。勉強があるんだよね。
残念。
御馳走様、と先輩は立ち去ろうとして、一旦足を止めてあたしを見た。
「えっと、名前、何だっけ?」
「へ? あ、後藤です!」
「後藤さんね。じゃあ後藤さん、今度会ったらかき氷のお礼するね」
「そんな、いいですよ」
「まあまあ。―――あ、時間だ。じゃあね」
- 357 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:06
-
顔の横で手を振って去っていく安倍先輩を笑って見送るも、内心恥ずかしくてしょうがなかった。
名乗ってなかった上に、焦って声が上擦ったし。
これは絶対何か言われると思ってそろそろとまっつーを見る。
―――――案の定。
「後藤先輩、テンパり過ぎです」
・・・・・・ごもっとも。
返す言葉もございません。
- 358 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:06
-
よっすぃーとミキティはそれからすぐに、安倍先輩が歩いていったのと逆方向から戻ってきた。
実に惜しい。
安倍先輩が来たよと告げるとよっすぃーは一瞬何とも言えない表情をした。
がっかりしたようなホッとしたような。
それは見間違いかと思うくらい本当に一瞬の出来事で、すぐに「学祭で会えるかもしれないからいいよ」と笑って流していた。
- 359 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:07
-
*****
- 360 名前:回転木馬 投稿日:2005/12/27(火) 02:07
-
- 361 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/27(火) 02:12
- 更新終了。
季節外れ街道爆走中。
>342 名無飼育さん
あまり期待せずにいてくださいw
>konkonさん
はじめまして。ありがとうございます頑張ります。
- 362 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/27(火) 13:36
- まっつー可愛いなぁ
- 363 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:35
-
- 364 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:35
-
「美貴たんアレ、アレ!」
「任せて―――よっ」
射的を楽しむミキティとまっつーの後ろで串焼きに噛り付くあたしとよっすぃー。
因みに、豚バラの塩。
「白いご飯が欲しくなるね」
「なるなる」
去年と変わらない会話をしていると、まっつーの歓声が上がった。
何が獲れたのかな。
振り向いたまっつーの手を見てもただ軽く握られていて、何処にも戦利品は見当たらない。
あれ? と思っているとその手が広げられた。
人差し指の先に人形が嵌っている。
あんな小さいの獲ったのか。
やるなあミキティ。
ってかまっつー、そんなの欲しかったんだ?
- 365 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:36
-
「吉澤さん、さっきから食べてばっかりですね」
「朝からロクに食べて無いんだからいーじゃん」
今度は箸巻きを食べているよっすぃーに、少々呆れた口調でまっつーが突っ込む。
ぶらぶら歩いていると、先頭を行くまっつーの足が止まった。
「ぅん?」
何かと思えば、そこは金魚すくいの店の前。
・・・やるのかな?
ってか、出来るのかな?
しかしそこは流石のまっつー。
くるんと振り向くとあたしたちに向かって甘い声を出す。
「金魚欲しい」
可愛い顔でおねだりしてきた。
さあ誰がいく。
てっきりミキティが挑戦するかと思ったら、彼女は一つの提案をしてきた。
「誰が一番すくえるかやろうよ」
「ええー?」
不満そうに異を唱えるよっすぃーとあたしに、「負けたらジュース奢り」と告げてさっさとお金を払うミキティ。
別にそんな勝負したくないんだけどな。
自信ないし。
だけど押し切られ、結局箸巻きを食べ終えたよっすぃーとあたしも倣ってお金を払う。
第一回金魚すくい大会は半ば強引に開催されたのだった。
- 366 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:36
-
- 367 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:36
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しゃがみ込んで金魚たちを目で追うと、まあどれも元気良く泳いでいる。
結構深いところ泳いでるぞぉ?
こんなのとれるかなあ・・・。
一番小さそうな金魚に狙いをつけて、恐る恐る水につける。
淵にかかったと思って焦って引き上げたら見事に破れて金魚はするりと逃げていった。
「あぁ〜〜〜・・・」
がっかりして溜め息と共に声が洩れる。
嫌々始めたものの一匹もすくえないなんて、それはそれで嫌なものだ。
お店のおじさんが「好きなの選んでいいよ」って言ってくれたけど、とても貰う気になれず断った。
おじさん、情けは無用です。
残りの二人を見ると、どっちも二匹ずつすくっている。
器用だな。
「吉澤さん、おっきいのとって下さい」
「無茶言うな」
横から注文つけるまっつー。
ポイを片手によっすぃーは金魚から視線を外さずそう返し、次のターゲットを追いかける。
紙が破れるのと同時に金魚がお椀に入る。
これでよっすぃーも終了、後はミキティだけ。
- 368 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:37
-
そのミキティも三匹目を追いかけ、引き上げようとした時に敢え無く紙は破れた。
「―――ってことは、よっすぃー優勝ー」
「いぇー」
中途半端に手を上げて興味なさ気に喜ぶよっすぃーと、音も出さず拍手するあたし。
流石に、ミキティからツッコミが入る。
「リアクション薄っ! もっと盛り上がろうよ」
「いやもうこれが限界」
「うんうん」
おじさんによっすぃーとミキティがとった金魚を一緒にしてもらったまっつーが戻ってくる。
あたしたちのリアクションにまだ不満があるらしいミキティは「よし」と腰に手を当てて一つ大きく頷いた。
「とりあえず約束通り、ごっちん」
「んぁ?」
「ジュース買って」
ぴっと指差す先にあるジュース売り。
カップが凝っててその分お値段も高くなってるやつだ。
「ぅえぇ〜? 何であたしが・・・」
「あれ? ごっちん金魚何匹だったっけ・・・?」
くっ・・・・・・。
痛いところを突いてくる。
わざとらしく腕組みなんかして首を傾げるその様子が軽く憎たらしい。
仕方なしに店の前に行き、財布を取り出して。
「好きなの選んで下さい」
痛む懐を想いながら告げる。
・・・・・・あたしもバイトしようかなあ・・・。
- 369 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:38
-
ミキティが選び、後の二人は何にするかと尋ねると。
「そんな、あたしが奢ってもらう理由ないですよ」
「まっつーにだけ御馳走しないなんてこと、あるわけないじゃん。いーから選びなさい」
手と頭を横にふるふると振って遠慮しているまっつーの肩を押し、一歩店に近付ける。
そこでようやく観念したのかジュースを選ぶ。
「よっすぃーは何にする? お茶とかのがいい?」
「あー・・・それよりラムネがいーな」
「ラムネ?」
どこにあるのかと探せば、斜め向かいに威勢のいいラムネ売りがいる。
「いらっしゃいらっしゃいらっしゃーい!」
「ラァームネいかあっすかぁー?」
―――――なんか、市場みたい。
行ったことないけど、イメージ的に。
ちょっと怯んだけど他にラムネを売ってるところも見当たらず、恐る恐る近付くと。
「いらっしゃいまっせー」
「まっせー」
ラムネ売りの女の子二人が声をかけてきた。
あたしの後ろからついてきたよっすぃーも顔を出す。
途端、売り子の表情が変わる。
眉をひそめて小声になる。
・・・・・・なんだぁ?
- 370 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:38
-
「あ、かき氷の人」
「まさか仕返しに来たの?」
「何でそんなことしなきゃいけないんだ。ラムネ買いに来たんだよ」
「なあんだ」
「毎度ありぃ!」
―――おや、知り合いかな?
見たとこラムネ売りの女の子たちは小学校高学年か中学生みたいだけど。
「何本?」
「あ、二本頂戴」
「へい」
クーラーボックスからラムネを二本取り出し水を拭うとよっすぃーに渡される。
あたしが奢るはずなのによっすぃーがお金を払おうとしたから慌てて五百円玉を女の子に渡すと、その子はお釣りを渡してくれながら盛大な溜め息を吐いた。
―――え?
そんな、溜め息吐かれるようなことしたっけ?
「こらこら、彼女に払わせたらいかんでしょー」
「へ?」
- 371 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:39
-
彼女、って何のこと?
まさか、あたし? ねえ?
よっすぃーを見ると、目を丸くしてあたしを見ている。
多分あたしの目も丸いんだろうな。
「あれ、違うの? てっきりサボってデート中かと思ったのに」
「サボってないし。ってか何で彼女って思うかな」
「なんかねぇ、オーラ? が出てた」
「アホらし。あんまりしょうもないこと言うと次はシロップ抜きにするぞ」
「あぁ、それはご勘弁!」
二人の女の子と交互に会話をするよっすぃー。
「ねえ、仕返しとか何のこと?」
「あー、こいつら昼間店に来てシロップ混ぜるわミルク零すわで滅茶苦茶やってったんだよ」
うんざりしたようにラムネ売りを見ると、反論するように彼女たちは唇を尖らせた。
- 372 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:39
-
「子供のかわいい行動じゃん」
「そうだよ。小さいこと言ってると彼女にフラれるよ」
「だから彼女じゃないっつーに」
本気で言い合ってるわけじゃないのは顔を見ればすぐ分かる。
だけど会話の内容が内容なだけに、おもわずまっつーをちらりと振り返った。
彼女はミキティと笑い合っていて、こっちの様子を気にしていないようだった。
―――――よかった。
それを確認して、あたしは何故かほっとした。
- 373 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:40
-
*****
- 374 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:41
-
花火が見易い場所を探して歩き回って、結局人込みを避けた場所に落ち着いた。
ミキティとまっつーは「本当にここから見えるの?」と疑ってたけど、あたしとよっすぃーが自信たっぷりにしているから大人しく空を見上げて待つこと数分。
ヒュウと音がしたと思うと夜空に花火が舞い上がった。
わっと歓声が上がる中、ニ発目三発目と次々に花火が上がっていく。
建物に邪魔されることなく目の前で花火が上がるこの場所は、去年偶然発見した。
食べ過ぎて苦しくて、どこかで横になりたくてさ迷った結果この脇のベンチに酔っ払いよろしく横たわったあたしとよっすぃー。
二人して唸っていた時、突然花火が上がったのだった。
寝転がって見上げる花火は初めてで、頂点まで行った光の筋がまるであたしたちに降りかかるようになるのが印象的だった。
轟音も衝撃も気にならない、瞬きするのも惜しいくらいの花火だった。
今年もその花火を時々歓声を上げながら見上げる。
浴衣のことも学祭のことも、進路のことも。
気になってたことや考えなくちゃいけないことを何もかも忘れて、ぼうっと。
- 375 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:41
-
*****
- 376 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/04(水) 01:41
-
- 377 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 01:43
- 更新終了。
新年明けましておめでとうございます。
>362 名無飼育さん
松浦さん、微妙にほったらかしですいませんw
- 378 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/04(水) 10:29
- やっぱりいいですね、このマッタリ感。
今年も楽しみに読ませていただきます。
- 379 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/06(金) 00:34
- 明けましておめでとうございます。
今年も遅れないようついて行きますので、頑張って下さいね。
ごっちんの視点がすっごく好きです。和むなぁ〜
- 380 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/01/08(日) 02:33
- 初めてレスします。一つ一つの事柄がとても丁寧に書かれて、読んでいると物語に引き込まれます。
どのように展開していくのかも気になるところですが、ずっとこのまったりとした85年組+αの日常を見ていたいなという気持ちもあります。
- 381 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/16(月) 01:52
-
- 382 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/16(月) 01:53
-
何だかんだとそれなりに遊んだ夏休みも、気がつけば残り三日になっていた。
学祭の準備はほぼ完成し、後は衣装の仕上げのみになっていた。
なので、その作業は二学期が始まってからやることになった。
暑くてだるくて何もやる気が起きないあたしだが、ふと思い出して学校の鞄をゴソゴソ探る。
あたしは進学組じゃないからてっきり宿題はないだろうと思っていたら、プリントが数枚出てくるから驚きだ。
・・・・・・もしかしたら勘違いかも、と思っていただけにがっかりだ。
さっと目を通して内容を確かめる。
数学のプリントと――――――課題図書ぉ?
- 383 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/16(月) 01:54
-
小学生じゃあるまいし、何でこんな物が・・・と思って隅々まで目を通すと、提出先が保田先生になっていた。
――――――まずい。
一気に思い出した。
期末テストの補習時に、例え点数が取れなくても夏休みに保田先生が出す課題をクリアすれば最低点をくれると言っていた。
あたしの点数は補習を受けて少しは勉強したにも関わらず散々な物で。
「・・・やるしかないか〜・・・・・・」
呟き、のそのそと動き出す。
課題図書に指定されている本は生憎我が家にはない。
買うのもなあ、と思い、図書館へ向かう。
去年のベストセラーらしいから、きっと置いてあるだろう。
騒がしい街中を歩きながら、陽射しから少しでも身を守ろうとキャップをぐいと被り直した。
- 384 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/16(月) 01:55
-
- 385 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/16(月) 01:55
-
図書館に着いたはいいけれど、何をどうすればいいのか分からない。
座るのってどこでもいいのかな?
本ってどうやって探せばいいんだろ。
あ、ここ二階もあるんだ。
入り口付近で壁に掛かった案内を読むけどさっぱりだ。
普段から縁がないとやっぱり駄目だなぁ。
自力で解決することを諦め職員に尋ねようと館内を見渡した。
夏休みの図書館利用者は意外と多く、誰か手が空いてそうな人を、と思っても中々捕まらない。
うろうろしていたら後ろからトントンと肩を叩かれた。
「?」
内心ビクッとして振り向くと。
「どうしたの? こんなとこで」
ちょこんと首を傾げた安倍先輩がいた。
- 386 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/16(月) 01:58
-
シンプルなパンツスタイルに夏の陽射しを避けるためか、図書館の冷房対策か、薄手のカーディガンを羽織っている。
手にした本は問題集のようだ。
―――勉強、頑張ってるんだな。
「夏休みの宿題?」
「はい。読書感想文とかあって慌ててここに来たんですけど・・・」
言葉に詰まる。
まさか「図書館の利用の仕方が分かりません」なんてカッコ悪くて言えないし。
「何の本?」と安倍先輩が訊いてくるから答えると、「それならあっちにあるよ」と案内してくれ、あっさりとあたしの問題は解決した。
ベストセラーに感謝感謝。
- 387 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/16(月) 02:00
-
- 388 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/16(月) 02:04
- すいません、ちょっとPCの調子が良くないのでここで区切ります。
レス返しも次回に持ち越させていただきます。
先週に引き続き作者、自宅に帰れないので更新が遅くなるかもしれませんが…
ごめんなさい。
- 389 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:47
-
- 390 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:48
-
本を持って空いた席を無事に確保する。
レポート用紙とペンを出したところで安倍先輩が痛いところを突いてきた。
「宿題って他にもあるの?」
う、と短く唸って自分のバッグを見た。
この中にはまだ名前すら書いていない数学のプリントが入っている。
「・・・後は数学のプリントがあるんですよ。もうさっぱりですけど」
バッグから取り出して苦笑いしながら見せると、先輩はふんふんと頷きながら問題に目を通し、そして。
「良かったら教えようか?」
え、と先輩の顔を見る。
目が、合った。
「でも、先輩も勉強があるんじゃ・・・」
「いいよ、少しくらい。かき氷のお礼だと思って」
それこそ別にいいのに。
そう思ったけど先輩の申し出は願ったり叶ったりなので口には出さず、笑顔でお願いしますと頭を下げた。
- 391 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:48
-
最初のニ問を一から教えてもらい、三問目から自力で解いてみる。
先輩の説明を思い出しながら式を立てる。
ミスをしないように慎重に計算し、答えを書くと安倍先輩が「うん」と頷いた。
「出来たじゃん!」
「安倍先輩のお蔭ですよ〜」
「いやいやいや。じゃあ忘れない内に次も解いちゃおう」
「はーい」
あたしが問題を解くと凄く嬉しそうに先輩が笑う。
糸目になって、頬っぺたに皺を作って。
見てるあたしが恥ずかしくなるくらいの笑顔で。
それから違うタイプの問題をやっぱり教えてもらいながら解くと、あっという間に三枚のプリントをやり終えた。
- 392 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:49
-
「ホントに助かりました。先輩教えるの上手ですね」
「やだな、なっちはまだ下手くそだよ」
先輩は照れ臭そうに指を組み替え、鼻の下を擦った。
「・・・でも、そう言ってもらえるのは嬉しいな」
「え?」
「なっちね、学校の先生を目指してるから」
ちょっと、驚いた。
別に教師を目指す人なんて珍しくないけど、それが安倍先輩だったから。
聞いた瞬間、失礼だけどあたしは中澤先生を思い出した。
「・・・駄目かな?」
あたしが反応しなかったからか、先輩はちょっと声のトーンを下げて訊いてきた。
全力で首を横に振るあたし。
「いいえっ。そんなことないですっ。・・・ただ、先生って大変だろうなと思って」
それは中澤先生のことなんか抜きにしても本心だ。
あたしだったら絶対に選ばない職業だね。
だけど、安倍先輩は。
- 393 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:50
-
「大変かもしれないけど・・・なっちね、すごく尊敬する先生がいるんだ。その人になっちも後藤さんみたいに勉強教えてもらって、それから教師って職業に興味持ってね」
きゅっと両手を握り締めて話してくれる。
握り締めた両手を時々少し緩める仕草が、まるで大切な物をそっと見せてくれてるように思えた。
話している間の表情は穏やかでとてもいい顔をしていたはずなのに、あたしは胸が苦しくなった。
―――尊敬する先生って、中澤先生?
随分前のように感じる保健室でのやり取りから察するに、そんな綺麗な想い出じゃないと思うんだけど。
それとも、それはあたしの先入観のせいなのだろうか。
どうにかして話題を変えたくなって、あたしは慌てて荷物を纏めると席を立った。
「そうだ、先輩、お腹空きません?」
「お腹? そう言えばもう昼過ぎだね」
じゃあどこかで軽く食べましょうと半ば強引に連れ出し図書館を後にする。
本は先輩に借り方を教えてもらって結局持ち帰ることにした。
・・・読めるかどうかは別だけど。
- 394 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:50
-
*****
- 395 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:51
-
近くのカフェの奥の席で向かい合って座っている、あたしと安倍先輩。
・・・・・・どうしよう、会話が続かない。
頼んだ物が来るまでの時間が有り得ない位長く感じる。
このままじゃやっぱりマズイと思って「あの」と顔を上げた時、店員さんがトレイを持ってやってきた。
ベーグルサンドとアイスティー、それに生ジュース。
お互い無言でストローを咥えた。
普段だったら噛り付くベーグルサンドを無意味に手で千切って口に運んでいると、安倍先輩から言葉を発した。
「後藤さん、恋人は?」
「―――――え?」
唐突な質問に一瞬思考が遅れる。
「いや、休みだとカップルが目立つからさ。それに後藤さん可愛いし」
「あぁ・・・・・・」
- 396 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:52
-
確かに街中には若いカップルが目立つ。
日焼けなんて気にもしてなさそうな程肌を露出させた女の子や、半裸に近い男の人。
夏になるとそんな派手な人たちや、暑い中しっかりと手を繋いでいる人たちを見る。
安倍先輩は本当にただの話題のために訊いてきたんだと思うけど、あたしは少し間を取った。
「いないですよ。・・・先輩こそ一人や二人いるんじゃないですか?」
言った瞬間、しまった、と口を閉じた。
何も悟られないようにさり気なく先輩の顔色を窺うと、相変わらずの笑顔だった。
「なっちこそいるわけないよー。浪人生だよ? 勉強第一だもん」
・・・・・・やってしまった・・・・・・。
笑顔なんだけど、目を見てしまった。
ゆらゆらと揺れる、丸い瞳を。
- 397 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:52
-
*****
- 398 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:53
-
どちらも笑顔を上手に使いこなしその話題を遠ざけた。
最近あった出来事や、街中で目につく物で会話を繋ぐ。
グラスの中身を飲み干し、残った氷がきれいに溶けてからちょっとした時、あたしは次の会話のために話題を振った。
「そういえば先輩」
「ねえ、さっきから言おうと思ってたんだけどさぁ」
何か怒られるのかと思わず身構える。
安倍先輩はストローで遊びながら身を乗り出した。
「その、先輩ってのさ、やめない? 何かくすぐったくってさー」
「や、でも先輩だし・・・」
「よっすぃーにも言ったんだけどさ、あの子絶対無理とか言うし。苦手なんだよね、そういうの」
- 399 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:54
-
「なっちなんて童顔だし、あんまり年上に見られないし・・・」と困ったようにしている先輩を見て、あたしは考える。
―――正直、敬語をずっと使うのは疲れる。
今まで仲の良い年上の人にはタメ口だったせいか、時々舌が回らない時あるし。
だけど幾らなんでもそれじゃ失礼だと、結構気をつけていた。
「それにさ、後藤さんってそういうの苦手でしょ?」
見事に心の中を見透かされ、びっくりして固まった。
目の前には、やっぱり、って感じでイヒヒと笑う先輩がいる。
「・・・・・・じゃあ、お言葉に甘えて」
「うん。なっち、でいいから。その変わりなっちも『ごっちん』って呼ぶね」
「・・・おっけー」
- 400 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:54
-
ですます調じゃなくなったのは楽だけど、「なっち」と呼ぶことには慣れないせいか少し照れ臭い。
そんなあたしを時々からかい、時間はゆっくり過ぎていく。
やがて宿題がまだ残ってるあたしを気遣ったなっちがそろそろ帰ろうかと言い出した。
それまですっかり忘れていたが、バッグを持つと僅かに感じる重みで思い出した。
そういやこれ、読まなきゃいけないんだった。
図書館の前で別れる。
どうやらなっちはこの後閉館時間まで勉強していくようだ。
「またね」
次の約束をしたわけでもないけど、そう言って家路につく。
- 401 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:55
-
歩きながら、自分が笑っていることに気付く。
不思議と、充足した時を過ごせた。
なっちの人柄のお蔭か、あたしの失言の後でも嫌な空気にならなかった。
―――すごいな、なっちって。
童顔でもやっぱり年上だからかな。
そう言うときっと彼女は怒るんだろうけど。
- 402 名前:回転木馬 投稿日:2006/01/21(土) 23:55
-
- 403 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/22(日) 00:03
- 更新終了。
>378 名無飼育さん
うちの85年組は少々マッタリしすぎですねw
>379 名無飼育さん
今年もゆるく見守ってください
>380 名無し飼育さん
はじめまして。丁寧なレス、ありがとうございます。
偶には喝を入れてやらないと、と思ってたりなかったり
- 404 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/28(土) 23:34
- 更新お疲れ様です。
なっちとごっちんの関係が、これからどうなっていくのか楽しみです。
よっすぃーが二人をどう感じているのかも、気になりますが。
- 405 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:45
-
- 406 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:45
-
二学期が始まって、学祭までいよいよラストスパートだという時。
なっちからメールがきた。
これまでそんなにメールをしたことがなかったので、画面に出ている名前がひどく新鮮に感じられた。
『宿題、大丈夫だった?』
たった一言の短いメールだけど、やっぱり人の好さを感じてしまう。
気にしててくれたんだ。
そんな小さなことだけど、あたしはすごく嬉しかった。
急いで返信すると、またすぐにメールが届く。
それにまた返事を作りかけて、電話した方が早いんじゃないかと気付く。
大丈夫かな、と時間を見て、まだそんなに遅くないからいいだろうと勝手に判断して通話ボタンを押した。
ワンコールで電話が繋がるとあたしはほっとして声を出す。
- 407 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:46
-
「もしもし? 今良かった?」
『大丈夫だよ。良かったね、点数貰えて』
「ホントに良かったよ〜。あれ貰えなかったら留年するとこだったもん」
『それはごっちんが普段勉強しないからでしょー?』
なっちは中々容赦無い。
だけどそんなキツイ攻撃を受けながらも声が聞けて喜んでいる自分がいる。
なっちの声って聞いてるとリラックスして、眠たくなるんだよね。
話している途中に、よっすぃーと中澤先生のことが浮かぶ時もあるけど、それでもなっちが笑顔ならあたしも笑顔が自然に浮かぶ。
楽しさが伝染するんだって初めて知った。
- 408 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:47
-
あまり長電話をせずに切ってベッドに寝転ぶと、あたしは長々と息を吐いた。
あんまり久し振りで忘れていたけど、この高揚感。
緊張したり、手に汗かいたり。
―――――あぁ、あたし、もしかしなくても恋しちゃってる?
自分で自分に疑問を投げかける。
あたしにも許されてる?
一人の人を特別に好きになることを。
―――――――・・・・・・まだ、怖いんだよ。
―――――――ねえ、市井ちゃん・・・――――――――
- 409 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:47
-
*****
- 410 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:48
-
まだまだ夏の厳しさが続く日々の中で。
いよいよ前日に迫った学祭の準備でざわつく校内から逃げ出して、主役を演じる(無理矢理)あたしたちは屋上に続く扉を開けた。
微かに吹く生温い風に乗って、ブラスバンドの練習音が耳に届く。
焼け付くような陽射しから唯一逃れられる日陰に逃げ込んで、あたしは親友に胸の内を晒した。
「あたし、なっちが好きだよ」
「・・・・・・本気?」
突然の告白に、よっすぃーはいつもより更に目を大きくさせ、あたしを見つめて問い掛けた。
うん、まあ驚くと思ってたよ。
あたしだってかなり悩んで、迷って、それでもやっぱり好きだと認めざるを得なくて。
声が聞きたくて笑顔が見たいと思ってしまったんだから仕方ない。
だからこそ、誰よりもよっすぃーに知って欲しい。
- 411 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:48
-
あたしが否定しないのを見て、ちらちらと視線をさ迷わせた。
その沈黙の後、よっすぃーが思いがけないことを言った。
「・・・言いたくないけど、安倍先輩は止めた方がいいよ」
「どうして?」
そんなことを言われるとは思っていなかったあたしは、当然訳を尋ねた。
よっすぃーは、知らず知らず強くなっていたあたしの視線から顔を背けた。
「ごっちんが傷つくだけだよ」
優しいよっすぃー。
だけど。
「傷つくとか、そんなのはあたしが決めることだよ、よっすぃー」
いつになく真剣ではっきり自己主張するあたしに、よっすぃーは目を伏せ、一度こちらを見て、また目を伏せた。
それから、言葉を選んでいるのか、静かに切れ切れに言葉を吐く。
- 412 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:49
-
「先輩、まだ先生のこと、好きだと思う」
「・・・どうしてそう思うの? なっちがそう言ったの?」
これにはあたしもびっくりした。
思わず声が高くなる。
「いや。でも、一学期に先輩を見た時思った。ねえ、ごっちんはどうして先輩が浪人生なんかやってるか知ってる?」
急に違う話題を振られ、面食らった。
「? 三年の時受からなかったからでしょ?」
ごく一般的な答えを口にする。
しかし、よっすぃーはそれを否定する。
「違う。先輩、一校以外受けたとこ全部合格してたんだ」
一校以外。
それは、つまり。
「その落ちたとこって、中澤先生の母校でもあるんだ」
いきなりの情報量の多さにあたしの頭は混乱した。
- 413 名前:回転木馬 投稿日:2006/02/03(金) 00:49
-
- 414 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/03(金) 00:52
- 更新終了。
忙しいのと疲れてるのとで遅れがち。
>404 名無飼育さん
消化不良を起こしそうな更新量で申し訳ないです。
- 415 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/23(木) 18:25
- 久々に読み返しました。
なんか、少しずつ進展しているようで。
これから、二人がそしてよっすぃーがどうなっていくのか楽しみです。
- 416 名前:回転 投稿日:2006/03/02(木) 23:03
-
- 417 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:03
-
沈黙を破ったのは梨華ちゃんの甲高い声だった。
「衣装合わせ、後二人だけなんだからね!」
もう、と、重たい扉を片手で押さえ、もう片方の手は腰に当てて分かり易く怒りをアピールしてくる。
先に動いたのはよっすぃーだった。
「ごめんごめん。今行くよ」
扉の向こうに消えていくよっすぃーの背中をあたしはじっと見ていた。
ごっちんも早く、と急かす梨華ちゃんの声でようやくあたしものろのろと動き出した。
- 418 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:04
-
「遅い!!」
「すみません」
「申し訳ありません」
教室に戻ると怒れる魔人、ミキティが待ち構えていた。
怒ったミキティに触れるべからず。
あたしたちは機械的に謝るとせかせかと衣装に袖を通し始めた。
「すっごい、こんなの一生着ることないと思ってた」
着替え終わった自分の格好を見下ろして、思わずあたしは笑ってしまった。
ひらひらのドレスを摘んで、バサバサ扇ぐ。
「ごっちんはまだいいよ。あたしの方がありえねーって感じ」
「わお、よっすぃー、モロ王子様じゃん」
最早諦めに満ちた表情でよっすぃーが言う。
カボチャパンツに白タイツではないにしろ、よっすぃーの格好は御伽噺に出てくる王子様そのものだった。
- 419 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:05
-
「二人とも、サイズどう?」
「ごとーのはウエストがちょっと緩いよ?」
「あたしのは袖が余るー」
すっかりお針子さんなミキティがあたしたちの言葉を参考に針を当てる。
「よっちゃんのは後、袖飾りを付けるから」
「ほーい」
王子の衣装の袖を折り返し、仮縫いしてピンで留めるとミキティは携帯を見た。
途端、蒼ざめる。
「ヤバイ、遅れる!!」
そして、慌てて帰り支度を始める。
呆気に取られてるクラスメートたちを残し、鞄に荷物を詰め終えたミキティは片手を上げた。
- 420 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:06
-
「じゃ、美貴今日帰るから!」
「ちょっとミキティ!? ごとーのは?」
「ああ、ごっちんは梨華ちゃんにでもやってもらっといてよ」
「んええ!? そんな、ミキティ!」
「うっさい! 元はと言えば、二人が遅れてこなけりゃ間に合ってたの! 美貴がバイトに遅刻したらごっちんのせいだからね!」
すうっと目を細めて一睨み。
その瞬間、あたしは己の敗北を認めた。
採寸に遅れたのは二人でも、バイトに遅れるのはあたし一人のせいなのね・・・。
「ってーかミキティ、何を急いでるのかと思えばバイトか」
「夏休みだけじゃなかったんだね」
さっき物凄い形相で出て行ったけど、あんな顔してウエイトレスさんやるのかな・・・。
だとしたらそんなお店、行きたくない。
- 421 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:06
-
怒り顔のミキティのウエイトレス姿を想像しようとして、どうしてもモザイクがかかることに頭を悩ませていたら横腹に不快な痛みを感じた。
「痛っ。痛いよ梨華ちゃん、さっきから」
「ごめーん」
ミキティから残りの仕事を押し付けられた、基、引き継いだ梨華ちゃんはさっきからあたしのドレスと格闘中。
だけど、状況はやや劣勢のようだ。
あたしの横に膝立ちでドレスのウエストを詰めようと針を持つが、上手くいかず指を刺している。
それだけならまだいいが、下手したら自分の指ばかりかあたしのお腹を指す始末。
「だってやりにくいんだもん」
ぷくっと可愛らしく頬を膨らませるが、そんな顔したって痛いものは痛い。
と、どこかで携帯が鳴った。
多分よっすぃーの携帯だな。
よっすぃーの携帯が鳴るとすぐ分かる。
女子高生にしては珍しい部類に入るだろう、着信音が初期設定のまま。
- 422 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:07
-
「誰か携帯鳴ってるよ?」
梨華ちゃんも気付いてそう言うと、何人かが自分の携帯をチェックしだす。
ちょっと音が小さかったから、鞄の中じゃないかな。
それからややあって鞄をごそごそやっていたよっすぃーが「あ、あたしだ」と呟いた。
サブディスプレイをチラリと確認して、事もあろうに鳴り続ける携帯をあたしに向けて放り投げてきた。
「え、あ、ちょっ」
「ごっちん動かないでぇー!」
キャッチしようとバタバタ動くと、梨華ちゃんがすさまじい悲鳴を上げた。
何だろうと振り向くと同時に、脇腹に鋭い痛み。
・・・・・針、刺さった・・・・・。
- 423 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:07
-
薄っすら浮かんだ目尻の涙を指で拭い、どうにかキャッチ出来たよっすぃーの携帯を見ると通話中の表示。
「もっ、もしもし?」
『・・・後藤先輩? すごい悲鳴が聞こえましたけど、大丈夫ですか?』
「あ、まっつーかあ。大丈夫だよ。どうしたの?」
慌てて電話に出たら疑問と心配が入り混じったまっつーの声が聞こえてきた。
これよっすぃーの携帯だもんね。不思議に思って当然か。
『あたしたちのクラス、今日はもう終わるんですよ。良かったら一緒に帰ろうと思いまして』
「あ、そーなの? うちらもうちょっとかかりそうなんだよね。待つなら教室おいでよ」
『はーい』
電話を切って小さく笑う。
ほんと、分かり易い子だなぁ。
- 424 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:08
-
「松浦、何て?」
「一緒に帰ろうってさ。こっち来るみたい」
「ふうん」
「ってかよっすぃー、いきなり携帯投げないでよ。針刺さったじゃん」
暢気なよっすぃーに一応文句を言ってみる。
痛かったんだからね。
だけどそこはよっすぃー。
「ああ、駄目だよ梨華ちゃん。危ないなあ」
「あたし悪くないでしょ!?」
きっちり梨華ちゃんに責任を押し付ける。
相変わらず、見事。
けたけた笑っているところにまっつーが現れた。
「お邪魔しまーす」
ちょこんと扉の前でお辞儀してから入ってくるまっつー。
クラスのみんなも「いらっしゃい」なんて言って歓迎してる。
おお、まっつー何気に人気者。
―――まあ、まっつーのことを良く思っていないのは主に二年生だって言うし、三年の、特にうちらと同じクラスの子たちはまっつーとは親しいからね。
- 425 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:09
-
「後藤先輩、かわいー」
ドレスを身に纏ったあたしを見て、どこから出してんだって思うような声を上げるまっつー。
でも、うん。褒められて悪い気はしないな。
「いーでしょー。って言っても、仕上がるか分かんないけど」
「大丈夫、ちゃんと出来るもん」
さらっと梨華ちゃんに牽制球を投げるとすかさず反論してくる。
頼もしい・・・・・・のか・・・・・?
ドレスから視線を動かしたまっつーはすぐによっすぃーをロックオン。
「あれ、吉澤先輩は衣装着ないんですか?」
「あたしもう終わったから」
「えー? なーんだ・・・」
- 426 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:10
-
心底残念そうな声を出すまっつー。
唇を僅かに尖らせて、さっきの梨華ちゃんとは大違いな可愛らしさだ。
「松浦に見せたら減るから」
「減りませんよっ」
「じゃ、勿体無くて松浦には見せらんない」
「ひどいです。松浦差別はんたーい」
近付いて抗議するまっつーの頭を、腕を突っ張って遠ざけるよっすぃー。
周りの皆もその様子を笑って見てる。
屋上での話は一旦おあずけだな、と胸に仕舞い込んだ。
- 427 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:10
-
- 428 名前:回転木馬 投稿日:2006/03/02(木) 23:15
- 更新終了。
気がつけば一ヶ月も開いてしまい密かにショック。
板も統合されてたし。お疲れ様です。
>415 名無飼育さん
亀の速度で進行中です。
またしばらくすると幾らか進む、かもです。
- 429 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/03/25(土) 14:30
- 更新お疲れ様です。
松浦さんが可愛い。可愛すぎてツボです。
静かに流れて行く感じがとても心地良いです。
- 430 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/04/21(金) 13:20
- 待ってます。
- 431 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/05/21(日) 16:25
- 続き待ってます
- 432 名前:ななし 投稿日:2006/05/23(火) 11:35
- 続き待ってます
- 433 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:27
-
- 434 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:28
-
一夜明けて、学祭当日。
朝もう一度衣装を合わせてみて、小道具や演出の確認といった最終チェックも済んであたしたちは時間までフリーになった。
梨華ちゃんは仕事があるらしいので、よっすぃー、ミキティと一緒にパンフレットを覗き込む。
やっぱりまっつーの所から覗きに行ってやれと意気込んで一年の階に着くと。
「すっごいよ、これ・・・」
フロア全体の電球一つ一つにセロファンを張って、窓には薄いカーテンを引いてある。
それだけだったら特に驚くこともないけど、その廊下にずらりと並んだ浴衣姿の一年生。お祭りの時の風景がそっくりそのまま広がっている。
「すっげぇー。気合い入ってんね」
「当たり前でしょ。アタシのクラスなのよ?」
後ろから掛かる声に振り向けば、そこには生徒同様に浴衣を着た保田先生が仁王立ちしていた。
まっつーたちのクラスが引いたのは、実に四年振りの「祭」だった。
言葉の解釈は各クラスの自由で、だから何が出てくるかはそのクラスのセンス次第になる。
今回、保田先生にしてはセンスいい趣向を凝らしてるなあ。
「考えたのは全部生徒たちだから」
あ、そうなんだ・・・。
- 435 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:28
-
「圭ちゃーん、松浦ってどの辺?」
「松浦は・・・あぁ、そこ。四組の教室」
示された方に向くと、「金魚すくい」「焼きそば」の紙が垂れている。
「それじゃアタシは巡回に行くから、羽目外すんじゃないわよ!」
「はーい」
三人で返事して、まっつーが居るらしい教室を覗き込む。
家庭用ビニールプールの前に座ってどうも接客中の様子のまっつーを発見。
ちょこんと座るその姿につい感想が漏れる。
「おぉ・・・浴衣着てるよ・・・」
「何あれ、可愛すぎじゃない?」
「や・・・それよりあたしは焼きそばのとこに居る人のが気になるんだけど・・・」
まっつーの浴衣姿にときめいてるあたしとミキティの横で、よっすぃーが一人違う方向を見ながら言った。
誰が居るのかと視線を移すと。
「柴ちゃん!?」
甚平姿でクラスメイトと焼きそばを作っている柴ちゃんがそこに居た。
- 436 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:29
-
まっつーに声を掛けるのも後回しにして柴ちゃんに近付くと、彼女は「いらっしゃーい」と笑顔を見せた。
「何で柴ちゃんが?」
「あたしたち今年は飲食でさー、保田先生が合同の話出してきたの」
そうか・・・。「祭」って言っても飲食クラス以外は食べ物は駄目だし、飲み食い出来ない祭じゃ物足りない。
そこで考えたのが、余所の飲食クラスとの合同か。
なかなか考えたなぁ。
衣装も一年の浴衣に合わせて、柴ちゃんたち三年は甚平で。
いつもは恐らく浴衣を来ている女の子たちの甚平姿がこれまたなかなかいい感じ。
「そっちは何時から?」
「二時半」
「集合は二時だけど」
二時には衣装を置いてある教室に行って着替え、舞台袖にスタンバイするようになっている。
「見に行くからね」
「・・・いいよ、恥ずかしい」
やたら楽しそうに笑う柴ちゃん。
あたしとよっすぃーが主役を張ることはクラスのみんなの宣伝の甲斐あってか周知の事実だ。
- 437 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:30
-
「そこの先輩方、寄っていきませんか?」
柴ちゃんと焼きそば談義をしていたらまっつーに話し掛けられた。さっきのお客さんは帰ったのかな。
三人でしゃがみ込んで早速まっつーに絡む。
「一年はみんな浴衣なんだね」
赤い浴衣を着たまっつーは楽しそうに袖を振って応える。
「あれ? 亜弥ちゃん、前着てたやつと違う?」
「あ、気付いた? これねー、中学生の時の浴衣」
ミキティの何気ない問い掛けに、くるくる小さく袖を振って、まっつーは答える。
言われて思い返せば、お祭りに行った時のまっつーの浴衣は赤ではなく黒だった。
黒も大人っぽくて似合ってたけど、赤も可愛くていいなあ。
「金魚すくい、やって行きます?」
紙を張ったポイを三つ、扇状に広げてまっつーが言う。
きっちりアピールしてくる辺り、なかなか商売上手じゃないか。
「よし、勝負しよ」
そう言ったのは、意外と勝負事にムキになるミキティ。
「負けないけどね」
「一番ドンが後で奢りってことで」
あたしとよっすぃーも乗って、まっつーにお金を払ってポイとお椀を受け取る。
全員が構えたところで、今年の第二回金魚すくい大会が幕を開けた。
- 438 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:30
-
- 439 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:30
-
三人の真ん中でしゃがみ込むあたしは、じっと水面を見つめる。
どれもこれも活きがいい。その中から、なるべく水面近くにいるやつに照準を定める。
―――――あれだ。
数分間睨み付けるように金魚たちを追っていたが、一匹に狙いをつける。
そうっと、そうっと紙を水に浸し、一旦引き上げる。端っこに寄った小さめの金魚の横からポイを差し入れ、手早くお椀に入れた。
よし、まず一匹。
お祭りの時の借りを返す、いいチャンスだ。
両脇の二人の様子を見ると、よっすぃーが一匹、ミキティが0匹。
勝てるかもしれない。
ごくりと唾液を溜飲するとあたしは再び金魚たちと対峙した。
- 440 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:31
-
――――――十分以上、経っただろうか。
紙が破れたあたしとよっすぃーの見守る中、ミキティだけがまだ頑張っている。
いつもより眼光鋭く金魚を睨み付けるその姿に、あたしは同情を禁じ得ない。
・・・・・・金魚よ、可哀相に・・・。
と、スッとミキティが動いた。
一匹に狙いを付け、そっと入れたポイを引き上げようとした時、いい加減耐え切れなくなった紙が破れた。
「あ」
四人の声が重なった。
結果発表、とお椀を動かそうとしたら、ミキティが「まだ!」とぴしゃりと制した。
え? と思って出しかけた腕を引っ込めると、信じられない光景を目撃することが出来た。
なんと、残った枠だけで金魚を掬おうとしている。
- 441 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:32
-
―――ミキティ、それは無理だよ。
誰も口には出さないけど、そう思っているのは間違いない。
目は口ほどに物を言う、なんて諺は今のミキティには通じない。
あたしたちの諦めた視線なんてちっとも気にせず、枠を水に付けて金魚を待つ。
どの位待ったか、実際はそんなに待ってないだろうけど、ひどく長く感じられた時間が過ぎた頃、ミキティが動いた。
それは、掬うと言うには荒過ぎる動きだった。
例えるなら、熊が川で魚を捕る動き。
勢い良く跳ね上げられた金魚は短い空中飛行の末、無事にミキティの持つお椀に収まった。
- 442 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:32
-
- 443 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:33
-
「美貴たんすごーい!」
「いやいや、美貴はまだまだだよ」
「充分すごいって! 普通枠だけで捕れないよ!」
興奮するまっつーに、謙遜するミキティ。
結果、あたし三匹、よっすぃー二匹、ミキティ七匹で、ミキティの圧勝だった。
・・・ミキティって、妙に勝負強い時があるよね。
「じゃあよっちゃん、焼きそばよろしく」
「ごとーにはクレープ〜」
「・・・ハイハイ」
捕った金魚を戻そうとお椀を傾けた時、よっすぃーの金魚が目に入った。
さっきはあまり気にしなかったけど、二匹の内、一匹がすごく大きい。
「よっすぃー、そんな大きいの捕ったの?」
「だけどそのせいで破れちゃったんだよね」
あーあ、と残念がるよっすぃー。
そんなよっすぃーに、売り子のまっつーはポケットを探り飴を取り出した。
- 444 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:33
-
「はいお客さん、残念賞」
「サイズだったら優勝してたっつの」
「吉澤さん、吉澤さん。そーゆうの、何て言うか知ってます?」
「ぁん?」
飴の包みを破りながら返事をしたよっすぃーに、可笑しそうに含み笑いをしたまっつーが言う。
「そーゆうの、負け犬の遠吠えって言うんですよ」
モゴ、と口に飴を含みながらよっすぃーが目を見張った。
だけど言われたことは間違ってないので上手く反論出来ず、眉を潜めるだけだ。
ゴリゴリと飴を噛み砕くよっすぃー。
その唇が軽く尖っているのを見つけ、可愛らしさに思わず吹き出した。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
ミキティに不思議がられあたしはごく自然に誤魔化した。
腹筋を微かに震わせ、胸の内で破顔する。
―――――あたしもうっかり惚れそうだよ、よっすぃー。
まっつーに交代時間を聞き、後で合流しようと約束してからあたしたちは賑やかな校内に繰り出した。
- 445 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:34
-
- 446 名前:回転木馬 投稿日:2006/06/04(日) 00:39
- 更新終了。
・・・・・・。
>429 名無し飼育さん
静かに流れすぎて早一年orz
>430・431・432さん
待ってくれていてありがとうございます。
大変お待たせしました。
- 447 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/07(水) 12:41
- うっかりしちゃえよ、ごっちん
- 448 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 16:22
- >>447
全面的に同意
更新乙です
なんだか金魚すくいやりたくなりました
次回も楽しみに待ってます
- 449 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/11(日) 17:00
- 更新されてる!
雰囲気いいな〜
そしてまっつーキャワ
- 450 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/30(土) 23:12
- ho
- 451 名前:名無し飼育 投稿日:2006/10/29(日) 07:42
- お待ちしてますよ
すごく面白いですw
- 452 名前:作者 投稿日:2006/11/30(木) 22:02
- 携帯からテスト。
更新止まったままで申し訳ありません。
完結はさせたいと思ってます。
- 453 名前:けん 投稿日:2006/12/23(土) 19:03
- たのしみだな!
- 454 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/02/05(月) 15:02
- 待ちます
- 455 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/04(日) 06:05
- 信じてます
- 456 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/04/15(日) 08:54
- 待ってます。
- 457 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:36
-
- 458 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:37
-
二時二十分に控えの教室に入ったあたし達を見て、半泣き状態の梨華ちゃんが駆け寄ってきた。
あーあ、衣装の裾、踏んじゃった。
「ちょっとぉ! 何満喫してるのよ!」
言われてお互いの姿を見合うあたし達。
あちこちの出し物の景品や食べ物を手にしている姿は、成る程、満喫している風に見えなくもない。
・・・まあ、満喫してるんだけどね。
「梨華ちゃんも食べる?」
「いいから! 早く着替えて!」
よっすぃーがタコ焼きの一つに竹串を刺して持ち上げるも、梨華ちゃんは悲痛な声で退ける。
全体的にソース臭いあたし達は梨華ちゃんのテンパり具合を見て思わずちょっと笑ってしまった。
- 459 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:38
-
「了解了解」
笑いながら返事をして、制服を脱ぐ。
同じく着替えなければいけないよっすぃーに振り向いたあたしは、びっくりする行動を目の当たりにした。
「んじゃ松浦、あーん」
タコ焼きを持ったままのよっすぃーが隣にいたまっつーにそんなことを言った。
「はっ!?」
「早く、あーん」
「あ、あーん」
驚きながらも言われるがまま口を開けたまっつーに、ホイとタコ焼きを放り込むよっすぃー。
むぐむぐと口を動かすまっつーの手に残りを押し付けると、ようやく自分の衣装の元へ向かう。
まっつーの気持ちを知っているからか、あたしはかなりびっくりして見ていたのだが他の人は特に気にとめた様子はなかった。
・・・・・・結構、珍しいことだと思うんだけど。
みんなそれどころじゃないのだろう。
普段人前で演技をするなんてこと無いから、緊張しているのがびしびし伝わってくる。
特に、今は開演五分前だし。
- 460 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:38
-
ミキティは各担当の子たちと最終確認してるし、梨華ちゃんは何かぶつぶつ言ってるから近寄りたくない。
自然、よっすぃーに近付くあたし。
よっすぃーはさっきまっつーに渡したタコ焼きの残りを食べていた。
「緊張してる?」
「どーだろ? あんまりしてないかも」
口の周りを汚さないように気を使いながら食べているよっすぃーは気負いの無い口調で答えた。
それもそうか。本番直前にタコ焼き食べてるような人は、どう見ても緊張してるとは思えない。
あたしも一つ貰おうとしたら、全員の用意が終わったのかミキティから体育館へ移動するよう指示が出る。
「ああっ、タコ焼きまだ食べてないのに・・・」
「衣装が汚れたらどうすんの!」
タコ焼きに後ろ髪を引かれているとミキティに怒られた。
セットした髪が崩れないようにわざわざおでこを選んで叩かれるというオマケ付きで。
- 461 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:39
-
「先輩方、行ってらっしゃい」
「じゃ亜弥ちゃんまた後でね」
「行ってきまーす」
ミキティや梨華ちゃんの他にも何人かがまっつーに応えていく。
あたしも小さく手を振ってみた。
しかし彼女の視線はこちらに無い。
分かりきっているけど一応確認すると、そこにはやっぱりよっすぃーがいる。
今日のよっすぃーは王子様だもんね。
恋する乙女は王子様に熱い眼差しを向ける―――かと思いきや。
やけに複雑な表情をしている。
不機嫌なような、泣きそうな、でも嬉しそうな。
どうとでも取れるその様子に眉を顰めたところで、首根っこを掴まれた。
「ごっちん、ぼーっとしないで!」
「イタ! はいっ、すいません藤本さん!」
あたしは泣きを入れながらミキティに連行されてしまった。
- 462 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:39
-
*****
- 463 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:40
-
幕袖で監督のミキティが声を出す。
「みんな、本番頑張っていこー!」
それぞれが「おー」と呼応した。
この場にいない音響や照明の子たちにも携帯を使って連絡を取る。
みんな、準備万端だ。
照明が全部消え、観客が息を潜める。
舞台演目のトリ。
お祭り体質のあたしたちの本日最大のイベントが、五分遅れでブザーと共に幕を開けた。
- 464 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:40
-
*****
*****
*****
- 465 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:41
-
ミスは殆どなかったと思う。
あたしは舞台に出てる間の九割は目を閉じていたので、誰かが間違えても進行に支障がなければ気付かないけど。
だけど途中の歓声の大きさや、最後の拍手の大きさから判断すると、非常にウケていたとみてまず間違いないだろう。
袖に下がり幕が降り、会場が明るくなると、みんな、壊れた。
「おぉお疲れぇー!」
「最高ー!!」
「イェイ!!!」
・・・・・・・・・何と言うか、まあ、元気である。
- 466 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:41
-
「お疲れ様」と声を掛け合っていると監督が、いや、ミキティが近付いてきた。
「ごっちんお疲れ。上手くいったね」
「あたし殆ど寝てただけだよ。ミキティこそお疲れ」
「いやいや、主役があってこそだし」
褒められるとくすぐったい。
照れ隠しに耳の後ろを掻いて曖昧に笑う。
照明係の子が、お客さんが全部出たことを告げに戻ってきた。
やっとあたしたちも退場だ。
最後尾を歩いていたあたしの名前が呼ばれ、ふと視線を遣ると前の方で一際目立つ衣装を身に纏ったよっすぃーと目が合った。
流れに逆行してあたしのところまでやってくると欠伸を一つ、噛み殺した。
- 467 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:42
-
「この後クラスで写真撮るんだって」
「あ、やっぱり?」
「恥ずかしいのにねぇ」
「あは。でもよっすぃー似合ってるよ」
あたしが言うと彼女は肩にあるモールを弄って軽く溜息を吐いた。
目立つこと、本当は好きじゃないもんね。
「まあいっか。ごっちんの方が派手だし」
「えぇ? そんなことないよ。よっすぃーの方が絶対目立つ」
「いやいや、お姫様には敵いませんよ」
軽口を言い合いながら前を行くクラスメイトたちに続いて外に出た途端、あたしとよっすぃーは包囲された。
あちこちからフラッシュが光る。
眩しい。
一瞬目が眩む。
- 468 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:42
-
見覚えのない顔ばかりだから、殆ど下級生なのだろう。
その内の一人が「一緒に写真撮ってください!」と申し出てきた。
ああ成る程、そういうことか。
写真はいつでも撮れるけどこんな姿は今日しか撮れない。
小声でよっすぃーに相談すると、意外にも彼女はあっさり頷いた。
「ま、しょうがないんじゃない? どうせもうやることもないし」
拒否してこの場を切り抜けるのは非常に困難であろう。
よっすぃーの言う通り、この後に予定もないことだし、あたしも腹を括るとしよう。
――――――そんな訳で、俄か撮影会が始まってしまった。
- 469 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:43
-
*****
- 470 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:43
-
色々とポーズを要求されたりしながらの撮影会が終わったのは一時間程経った後だった。
最後の二人組を笑顔で見送ってからあたしはよっすぃーにもたれ掛かった。
本当は座り込みたかったけど、ドレスじゃ出来ないので代わりに杖になってもらう。
「疲れた・・・・・・」
「当分、笑えないかも・・・・・・」
二人して頬っぺたをマッサージしながら深々と息を吐く。
そろそろ終了時間のはずで、その証拠にあちこちに後片付けを始めている生徒がいる。
「・・・・・・着替えようか」
「ん・・・」
返事をするのさえかったるい。
ちょっと背中を丸めるようにふらふら歩いて教室に帰ると、クラス全員が勢揃いしていた。
なんだ、みんなまだ着替えてないのか。
- 471 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:44
-
「遅いよ二人とも!」
机を寄せ、その上にお菓子を広げた集団から声が上がる。
チョコレートの甘い匂いに体が反応したあたしは自然とそちらに近付く。
「みんなまだ着替えてなかったの?」
「衣装のまま写真撮ろうって言ったじゃん」
「あ、そうだった」
ミキティが差し出してくれたポッキーをくわえながら頷く。
自分の中で写真撮影はもう終わっていたのでうっかりしていた。
気を持ち直して何枚か撮り、着替えて帰ろうとしていた時。
忘れ物に気付いた。
「メイク道具置いてきた」
「体育館?」
「だと思う。取ってくる」
鞄を何度探っても見当たらない。
一緒に行くよと言うよっすぃーの申し出を辞退して携帯だけ持つとあたしは体育館へ向かった。
- 472 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:44
-
*****
- 473 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:45
-
校舎内はまだ熱気が残っていた。
ちょっとした非日常の余韻に皆まだ浸っているような。
それでも体育館は流石に誰も居なくてひどく静かだった。
ここだけは空気がひんやりとしている。
客席にしていたパイプ椅子を横目に舞台袖に行く。
長机の上にぽつんと置かれたポーチを見つけてほっとした。
化粧品って結構高いからね。
買い直すとなると痛い出費になるとこだった。
急いで戻る途中、渡り廊下の先に、チラリと人影が見えた。
私服姿だったので、遠くからでも視界に残る。
人影が消えた廊下の突き当たりは保健室だ。
―――まさか、ね。
一瞬浮かんだ可能性を、急いでいたあたしは安易に否定すると、教室へと駆け出した。
- 474 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:45
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- 475 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:45
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「お帰りー。さっき安倍先輩が来てたよ」
「え、ホント?」
「ごっちんのこと褒めてたよ。可愛かったって」
「そういうのは直接聞きたいよ〜・・・・・・」
戻るなり聞かされた思いがけない言葉に軽くショックを受けた。
やっぱり、さっきの人影はなっちだったのかもしれない。
って言うか、間違いなくなっちだったんだろう。
ああ、あたしの馬鹿。なんで確認しなかったんだろう。
―――だけど。
ふと、違う考えも同時に浮かぶ。
- 476 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:46
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もしあの人影が本当になっちだったとして、追いかけなくてある意味正解だったのかもしれない。
あの人は保健室の方へと消えていった。
もちろん、実際に保健室へ入るところを目撃した訳ではないから、そうとは限らないんだけど。
けれど、なっちが保健室―――中澤先生の所へ―――入る場面を目撃していたら、あたしはきっと、平静ではいられない。
見なくて正解。
そう、無理矢理自分を納得させた。
最後に先輩に会ったのはいつだったか。
ふと思考を巡らせて、夏休みの終わりに図書館で会ったきりなのを思い出すと少しばかり落ち込んだ。
とうに卒業したそれまで知りもしなかった先輩と、加えて言うなら浪人生の彼女とおいそれと偶然出くわすはずもないのだが、それでも生活圏が同じだと期待を持ってしまう。
ファーストフード店に行けば勉強している人をつい目で追ったり、意味もなく本屋に行ったことも一度や二度ではない。
- 477 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:46
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好きだと覚った時に会えない。
中々思い通りにはいかないけれど、そんなもどかしさすらも何故かわくわくする。
―――駄目だ。あたし、完全に嵌っちゃってるよ。
- 478 名前:回転木馬 投稿日:2007/07/18(水) 01:47
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- 479 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/18(水) 01:49
- 更新終了。
生存報告も兼ねて、今回は敢えてあげてます。
てっきり倉庫行きになってると思っていたので、まだ残っていた事に驚きました。
ありがとうございます。
- 480 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/18(水) 01:53
- >>447-456間のレス&保全して下さった皆様
大変お待たせいたしました。作者はまだ生きてます。
大分時間が空いたので、話の空気が変わっていやしないかと冷や冷やですが、更新しました。
こんな話を辛抱強く待って頂いて恐縮です。
次回更新からはまたおちます。
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/18(水) 17:51
- 更新お疲れ様でした!!!
もうダメなのかなと思いつつ、首を長くして
待っていました。
やっぱりこの雰囲気いいですね〜
460>の最後の行が良かったですww
- 482 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/19(木) 06:51
- よかったョ〜!
もう〜待ってたョ〜ゥワァ〜ン…嬉しいよう!。
ほんとうに有難う。
- 483 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/08/18(土) 18:16
- 続きを待ってました。
次回もまたーりと待ってます。
- 484 名前:名無し飼育さん 投稿日:2007/10/15(月) 20:50
- 待ってます。このお話大好きです。
- 485 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/10/20(土) 23:34
- もう書かないのかな…
飼育で一番好きな話なんで、更新ずっとまってます
- 486 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/09(水) 10:13
- あけましておめでとうございます
作者さん元気ですか?ゆっくり待ってますよ
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