どぉやらうちらばからしい
- 1 名前:みょん 投稿日:2005/06/10(金) 02:53
- 皆さんの作品を読んでいたら自分も書いてみたくなってしまいました。
卒メンがメインの話です。
CPとかはでないと思います。
ありがちな話ですが読んで頂けたら幸いです。
よろしくお願いします。
- 2 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 02:54
-
Vol.1 どぉやらあたしだけらしい
- 3 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 02:55
- 2005年9月23日
記念すべき20回目のバースディ。
ハタチになったら何をしようとか、例えば普通の19歳の女の子なら多少は考えたかもしれない。
・・・だけど。
13歳にしてこの世界に入って、後は考える暇もなくただアクセクと、あたしは人に好かれようとした。
そうして好かれた人たちがまるで引き潮のように引いていった。
どこまで引いていくのかな・・・なんて近頃は自嘲気味にそんな自分と自分の古巣を見ていたりして。
- 4 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 02:55
- かつての親友に言わせると『趣味が悪い』そんな自分ウォッチングな今日この頃。
だから、ハタチの誕生日が来たからといって、あたしはたぶんファンに囲まれて
『ごっち〜んおめでとぉ〜!!』
『ありがとぉ!』
な〜んて言いつ言われつしながらも、いつこの人たちが引いていくんだろう・・・って趣味の悪いことを思ったりしてるんだろうなって。
そんな風に考えてた。
だけど。
- 5 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 02:56
-
デジャビュ・・・。
既視感。ってゆうんだっけ?
確か3年前?
17歳の誕生日。
そのときみたいな感じがしてるのはなんでだろう。
こう言っちゃ失礼だけど、つんくさんに驚かされることはもうないなって、もう随分前に見限ってたのに。
何かあったとしてもそれは予定調和の範囲内で。
少し前に話題になった某社長さんの言葉を借りるなら
『想定の範囲内』
誰かの卒業?古巣の解散?新人発掘オーディション?あ、そうかシャッフルユニット?じゃなきゃ誰かなんかやらかした?
所詮そんなもん。
そんなもんでしょって。
どっかでタカを括ってた。
まぁ、実際それはそれで多少の経済効果を生むって事くらいはあたしだって分かる。
だけど一体あたしが古巣を離れてから、何回それがあった?
回数を重ねてくごとに、当事者たちは擦り切れて、ファンは離れて、世間はまたか・・・って。
慣れってこわいね。
当事者じゃなくなったあたしは、かつての仲間には申し訳ないが、やっぱ世間ってやつに分類されたんだと思う。
だんだん、何も、感じなくなった。
- 6 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 02:57
- だから、今回の緊急ミーティングってやつも、招集されたはされたけど、大した緊張感も期待感もなく、どぉせ『また』でしょ?って。
そう思ってたから。
ごめん、そぉ〜とぉ〜驚いた。
だから、他のみんなが結論を渋ってたけど、あたしは真っ先にGOサインを出したんだ。
ま、ネーミングは気に入ったわけじゃないけど。
- 7 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 02:59
- 「じゃ、今日のとこはこれで解散やけど、各自来週までには腹決めとってや!」
あたしたちの反応を見てしてやったり顔のつんくさんは、このプロジェクトへの流れをあらかた説明すると、慌しく会議室を出て行った。
残されたあたしたちの手元には“極秘”と書かれたレジュメ。
その表紙には自信満々にこんな文字が。
新プロジェクト立上げ『Dejavuプロジェクト』
言いづらいよね。実際。
二枚目には参加ユニットとして『古娘。(仮)』
・・・コムスメ?フルムスメ?フルッコ?
読み方を気にしてたら、つんくさんはココマルって読んでた。
相変わらずてきと〜な人だ。
さすが美勇伝とか名づけた人だ。
ありえない、あたしだったら泣いて詫びるから許してくれって言うと思う。
予定メンバーは、
「ごっちん!」
っと、いけないいけない、またしても自分ウォッチングに入るとこだった。
隣に座った梨華ちゃんの甲高い声でやっと周りを見回す。
いつの間にか説明をうけてしばらく考え込んでたみんながあたしの周りに集まってきてた。
なんだか、こんな感じもホント久しぶりで、やっぱりOKして良かったって思う。
- 8 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 03:00
- 「って、あれ?なんで梨華ちゃんそんな顔してんの?」
眉毛が八の字に下がって、なんだか困ってる?
「もぉ、なんでじゃないよ、ごっちん。ほんとにこれやる気なの?」
“これ”ってのはたぶんココマルのことなんだろうけどさ。
美勇伝よりは口に出しやすいとおもうんだけど、ごとー的には。
やっぱ当事者は違うのかな?
「うん。なんかピンと来たんだよね。梨華ちゃんは?」
「ごっちん、趣味悪っ。」
聞こうとした梨華ちゃんじゃなく、なぜかあたしたちの机の前まで集まってきてたよしこに言われる。よしこ心なしか顔がふてくされてるし。
「名前にピンと来たんじゃないってば。てゆうかみんなは何で迷ってるの?」
あたしがそう言うと、みんな一瞬黙りこくった。
なんだよ。ごとーが空気読めてなかったのか。
どおやらみんな、それぞれの出方を気にしてるらしい。
そりゃそうだよね、みんながみんなごとーみたいに今までの自分を嘲笑してこの世界に残ってるわけじゃないもんね。
ちょっと反省。
- 9 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 03:01
-
「・・・あたしはやりたい。」
- 10 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 03:03
-
初めに口を開いたのは以外にも圭織だった。
髪をバッサリと切ってすっきりした彼女は、もうグループには未練がないのかと思ってただけに以外。
「なんかさ、目の前にリセットボタンが置かれたんだよね。押すかどうかちょっと迷ったのはまた同じゲームになるんじゃないかって思ったから。でも今までの自分も嫌いじゃないからさ、それでもいっかな・・・ってカオ思ったんだよね」
ちょっと興奮気味に、でも言葉を選んで言うのはやっぱ圭織らしくて、なんとなく周りの張り詰めた感じが取れてくのを感じる。
「そっか、そやな。ウチも押してみるかな?リセットボタン。まぁ、年は変らんけどな。」
「・・・裕ちゃん。」
リセットボタンという言葉はリーダーに効き目があるのかないのか、圭織の言葉につられるように裕ちゃんも乗ってきた。
元リーダー二人が参加。
当然現リーダーにみんなの視線が行く。
「よしこはどうすんの?あんな形で急にリーダーなんかなっちゃって、一番リセットしたそ・・・」
「ちょっ、ちょっとごっちん!」
たぶん咎められるだろうな・・・って思ったけどあえて勢いつけて言った言葉はやっぱ止められた。
しかも、なっちに。
- 11 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/10(金) 03:06
- 「じゃあなっちは?そういうとこ、変えたいとか思わない?
今度のプロジェクトだったらなっち優等生やんなくていいかもよ?」
「ごっちん!今あたしに聞いてたんでしょ?安倍さんに当たんないでよ、らしくない。
あたしは、まだ決めてないよ。来週まで時間あるんだしゆっくり考えるよ。」
らしくないな、と自分でも思ったけど。
古巣に居た時、ちょっとだけ思ってたんだ。
もし、なっちとあたしが逆の立場だったら。
ごとーがオリメンで古巣の顔でちょっと落ち目のところに、なっちが入ってきて
グループの方向性自体がガラッと変えられちゃったら・・・。
ごとーはなっちにみたいに笑顔でいられるかな。
入ってきたばかりのなっちは、ごとーみたいにマイペースでいられるのかなって。
なっちはごとーみたいに調子こいたりするのかなって。
「優等生がみんなに頭下げさせたりするべか?あはっ、ごっちん面白いこというねぇ。」
そう笑ったなっちはやっぱご立派すぎて、あたしは思わず目をそらした。
あははは・・・
今のってやっぱなっちの捨て身の自虐ギャグだったみたい。
みんな笑ってるけど、絶妙すぎてごとーは笑えないよ。
え・・・もしかしてあたしだけですか?
- 12 名前:みょん 投稿日:2005/06/10(金) 03:08
- 改行とか怪しくなっちゃってすみません。
今日はここまでにします。
感想とか批判とかもらえたらうれしいです。
- 13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/11(土) 00:37
- なんかおもしろそうな予感!
次の更新待ってます!
- 14 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:36
- >>13名無し飼育さん様
ありがとうございます!
がんばります!
- 15 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:42
-
なっちの捨て身のギャグの後、あたしひとり、乾いた笑いも
浮かべられずにいたら。
ふぅ・・。
なんてため息ひとつ吐いて、圭ちゃんがなっちの肩に手を掛けた。
「なっちも言うようになったわねっ、後藤も絡まないの。
それより、一人ひとりに聞くのも時間かかるし、いっそ全員で確認しない?
今夜ちょっと待ち合わせしてるから早く帰りたいのよね。」
「え〜、保田さんデートですかぁ?」
「石川、あんたも一緒に来るのよ!それから吉澤も。」
「だめですよ〜、あたしとよっすぃ〜これからデートですもん。ね?」
コロコロと石を転がすように笑いながら梨華ちゃんがよしこに上目遣いで
同意を求める。
こんな時になんだけど、この二人ってどぉなの?実際のところ。
「・・・ごめん、何だっけ?」
ガクッ・・・
期待を込めて見てた分だけ、梨華ちゃんとほぼ同時に脱力。
よしこ・・・それはわざとですか?天然ですか?
「吉澤、GJ!」
なぜだか知んないけど圭織が親指立てて『ねぇ、笑って』な表情してるし。
「恐縮です」
まるで紺野か梨本かって言うようなセリフを冷や汗交じりで言うよしこ。
・・・わかりません。
あなたがた一体何の修行中ですか?
周りを見ても誰も不思議顔してないし。
- 16 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:43
-
ねぇ、またあたしだけですか?
- 17 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:44
- 「あ〜、じゃあ、めんどくさいから取り合えず採決とっとこうか、
えぇか?ごっつぁん。」
裕ちゃん・・・めんどくさいって。
しかも採決って。
ごとーはただみんなの気持ちを知りたかっただけだってば。
「ごっちーん、おーい。聞いてる?」
あの、梨華ちゃん?
聞いてますから、そんなベタな少女漫画みたいに目の前で手ひらひらさすの
やめてくれませんか?
「いいからやっちゃお。鉄は熱いうちに打たないとダメって言うし。」
圭織・・・いつからそこまで遠い人になったんですか?
「んじゃぁ、いくでぇ。みんな一回は手上げてな?矢口も帰らんと採決してってや。」
急に話を振られたやぐっちゃんはこっそり帰ろうとして手をかけたドアノブから、
ビクッとはじかれるように手を離した。
でも、振り返らない。
そう言えば今日はやぐっちゃんの顔、見てないな。
声も。
「・・・分かった」
このか細い声が初めてだった。
- 18 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:46
- 「ほな、参加・不参加・保留、選択肢はこの3つで今現在の気持ちで答えてな。」
あ〜、なんか不安になってきた。
だってさ、さっき勢いで圭織と裕ちゃんが参加するって言ってたけどさ。
なんか流れがおかしくない?
さっきの圭織のGJって何のこと?
よしことなんか打ち合わせしてる?
裕ちゃんの言った『採決』って表現も気になる。
上層部とコネクションがある裕ちゃんのことだから、たぶんあたしたちよりは
かなり情報を持ってるはず。
採決って言ったのには裏があるんじゃ・・・。
例えばこの場で参加が過半数に満たなかったらこのプロジェクトはなかった
ことに・・・とか。
んあ“〜!なんであたしさっき空気読まずに参加するなんて言ったんだろ。
「ごっちん、大丈夫?」
なっちのこの笑顔も怖い。
何か知ってるの?なっち。
圭ちゃんと梨華ちゃんもこの後たぶん何か打ち合わせする風だし。
やっぱり、あたしだけですか?
- 19 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:47
-
「参加する人!」
- 20 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:47
-
ちょっと早口な裕ちゃんの声で、とにかく腹を決めなきゃと目を閉じる。
あ〜、もうっ、いいや。
とりあえず、伸るか反るかだ。
目をつぶって、勢いつけてまっすぐ手を上げた。
まるで一年生の初めての授業参観みたいに。
- 21 名前:みょん 投稿日:2005/06/11(土) 02:57
- すみません。
今日の更新分、名前欄間違えちゃいました。。。
- 22 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:21
-
我ながらまったくキャラじゃないけど、手を高く上げたまま恐る恐る目を開ける。
上がった手は・・・。
いち、に、・・・さん。
「不参加の人!」
・・・さ、さんにん?
- 23 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:22
- 「じゃあ保留はふたりか。ま〜、そんなとこかな。ほな、今日は解散っちゅ〜ことで。
お疲れさん!」
はぁ・・・一気に脱力感。
ガクッと机にうなだれモード。
なんだか知んないけどえらいこと疲れたよぉ。
「じゃ、ごっつぁん行こか?この後うなぎでも食べよ。」
やけに優しい声で、裕ちゃんが誘ってきて、うなだれモードから一気に覚醒だよ。
だってさ。
今日は解散なんてやけにさわやかに言ってたけど裕ちゃん。
このまま帰っちゃって、過半数いってないんだよ?
いいの?
それにそれに!
お疲れさんって言いつつ裕ちゃんと圭織が一瞬目配せしたの見たんだからごとー。
なに?なにが起こってんの?
あたしにうなぎおごってくれるのはやっぱなんかあるから?
んも〜!わっかんないよぉ。。。
- 24 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:23
-
「じゃあね〜ごっちん、お先〜。」
梨華ちゃんはなんだかんだ言ってたくせに当然のように圭ちゃん達と帰るみたいだし。
「なっち、今日飲み行かない?」
「え〜、なっち飲めないべさ。」
「たまにはカオに付き合ってよ。いいっしょ?」
どさんこコンビもいつもどおりだし。
「あ、よっすぃ〜。大丈夫?疲れてない?ほんと、ごめんね、矢口が・・・」
「だ〜いじょうぶですって!ヨシザー、体力だけが取り柄っすから。」
ここの師弟愛もしかり。
で。ごとーの横には底冷えのする・・・もとい、満面の笑みの裕ちゃん。
ねぇ、ごとー何かしましたか?
ひょっとして、今年からエイプリルフールが変わったとか?
ごとーにだけ内緒で。
- 25 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:24
-
「ん?ごっつぁん今日都合悪いんか?」
まだまだ笑みの裕ちゃん(どアップ)
こ、これは・・・。
きっとそうに違いない。
どぉやらあたしだけらしい。
「うわ---ん!神様がごとーだけに特別な意地悪してるよー!!」
ピキピキ・・・
「っ何バカゆうてんねんっ!!どーいう意味やっちゅうねん!ほんま気ぃ悪いわ。」
怖っ!!
思わず立ち上がろうとしたら、
ゴンッ☆
覗き込んでた裕ちゃんの額に頭を思いっきりいっちゃった。
「いいぃ痛ったいなあ、もう!ごっつぁん!!呆けてんとはよ行くで!」
- 26 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:27
-
キーキー言いながら手を引っ張る裕ちゃんに引きづられて、あたしは取り合えず
机に置いたまんまの極秘レジュメとかばんを引っつかむ。
早足の裕ちゃんにせかされるように会議室を後にして、事務所の廊下を抜けて、
外に出るともわっとむせかえる夏の夜。
「裕ちゃん」
「ん?」
「デコ赤いね。」
「まだ痛いねん。」
「あはっ、デコ出てるからじゃない?」
「うっさいわ!」
「うなぎおごり?」
「知らん!!」
真っ赤になりながら怒る裕ちゃんとの掛け合いは久々で、ちょっと泣きそうになった。
なんか知らないけど、いいかなって思えてきた。
とりあえずこのプロジェクトの真偽とか、なっちのこと、やぐっつぁんのこと、梨華ちゃん
とよしこのこと、さっきまでの疑問符ぜんぶ、どっちでもいいかなって。
どっちにしろサイは振られたんだ。
こぉなりゃ楽しませてもらうよ。
- 27 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:27
-
「なんや、ごっつぁん、ニヤニヤして気色悪い」
さっそく乗り込んだタクシーの中で目を細めた裕ちゃんにそんなことを言われる。
「あはっ、楽しみだよね〜。」
「うなぎがか?おごらへんで。」
呆れ顔の裕ちゃん。
すっとぼけててもいいけどさ。
裕ちゃんだって楽しみなんでしょ?
知ってるんだから、去年のシャッフルでHPAやった時、ダンスレッスン張り切りすぎて
次の日サロンパス臭かったの。
その後のハロコン紅組の時だって、恋レボのふり、あたしたちの誰よりも完璧だった。
そうだ、裕ちゃんはお祭り好きの娘。好き。
さっきは変に勘ぐったけど、そぉ考えればすべて合点いくじゃん。
なんだよ、ごとー、ばかじゃんごとー。
「・・・ごっつぁん・・・頼むから独りで笑うのやめてくれへん?」
やば・・・。
あきらかに目が怯えてるよ、裕ちゃん。
「あはは・・・、裕ちゃんも笑っとく?」
「笑ろとけ笑ろとけ〜♪ってか?なんや、怖なってきたわ、ごっっつぁん。」
そお言いつつ、ちゃんとかしましのフリ付けてるととこらへん、外さないね。
「いいねぇ〜、かしまし裕ちゃんバージョンでも考えてみる?
えぇ〜っとぉ・・・あっ、そだっ。三十路と言われては〜や三年♪」
ゴンッ
「三年も経ってへんわ!そや、ごっつぁんだったらこうやで?
毎日睡眠じゅ〜うご時間♪
ひ〜るでも寝ているゴ・マ・キ!」
「ゴマキゆうな!そんなに寝てないし。
ね〜んねん小じわが増えていく♪
き〜づけばと〜っくにみ・そ・じ!」
「また三十路ネタかい!少しはひねらんと。」
・・・結局このあとタクシーの中はカラオケ大会になったことは言うまでもない。
- 28 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:28
-
・・・だけど、このプロジェクトの内容に隠された思惑をしらないのは、
どぉやらあたしだけらしい、ってことにごとーが気づくのは、これから3時間も経ってからだった。
- 29 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:29
-
- 30 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/12(日) 04:31
-
Vol.1 どぉやらあたしだけらしい はここまで。
- 31 名前:みょん 投稿日:2005/06/15(水) 00:44
-
次からは中澤さん目線で語ります。
- 32 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:45
-
Vol.2 負け犬
- 33 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:45
-
「え〜っ!なぁんでうなぎ食べんのにわざわざ新幹線乗るのぉ〜??」
タクシー降りて、新幹線乗り場のホームに着いたとこでやっと疑問に思ったらしいごっつぁん。
・・・なぁ、普通東京駅に入った時点で気づかん?遅すぎやで、自分。
「うなぎゆうたらひつまぶしやんか?せっかくやし本場もんの方がええやろ?」
おもろいからも少しからかったろ。
「別に本場じゃなくてもいいし、ごとー明日買い物行くつもりだったのに・・・」
あはは・・・
唇とんがらせてるわ。
ほんともうすぐハタチなる子か?あんたは。
辻や加護かて今のはおあいそで喜んでくれるとこやで。
すっかり見た目は大人やのに、この子はこういうとこが可愛いねんな。
似たような家庭環境やって言うのに、子供時分ですらウチにはできんかった。
こればっかは天性のもんやろな。
ちょっと悔しなって、見た目はすっかり大人な、自分より気持ち高めにある明るい栗色
をくしゃっとかき混ぜて、わざと大人な顔作った。
「なんや、もうすぐハタチやし、せっかく裕ちゃんが大人の楽しみ方を教えたろ思てたのに、ごっつぁんは買いもんの方がええんか?」
言われたごっつぁんは、子ども扱いされてふくれっつら。不服そうな表情。
ふん、ざまぁみろ、や。
大体その表情自体ガキのするもんやし。
「ど〜せごとーはお子様ですから。・・・新幹線は禁煙席にしてくださいね、大人の中澤さん。」
ほーぉ、逆切れですか、お子様は。
でも、ま。
そーやってピンヒールなんか履いて、早足でさっそうと髪なびかせて一人歩いてるとこなんて
実際大人のええ女にみえないこともないで。
言っても、ウチには負けるけどな。
「ゆ〜うちゃん!行くんなら早くしよ!ごとーお腹すいた!」
・・・あ〜あ、台無しや。
- 34 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:47
-
結局、あの後からかいすぎたごっつぁんは座席に座るなり不貞寝を決め込んだらしく、
ウチは一人さっきまでの会議のレジュメを鞄から取り出し、この後のもう一仕事に向けて
気つけのビールを流し込む。
窓の外はもうすっかり夜のとばりが落ちて、景色は光線に変わってた。
「結局このザマかい?」
レジュメを見た瞬間に頭に湧いた言葉はつんくさんへの言葉やった。
おそらくあの場にいた全員の脳裏に掠めた言葉やろう。
目の前で不貞寝しとる幼すぎるもうすぐハタチの反応は以外やったけど。
おそらくこの子なりのささやかな抵抗なんやろな、もともと読めんとこあったし。
ウチと圭織、なっち、圭ちゃんは会議の前に呼ばれて、この事を出席できなかった子
に伝えてくれなんか言われたけど。
その時ですらこんなあからさまな事やなんて、想像できなかったで。
- 35 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:50
-
左上に“極秘”と書かれたレジュメ。
表紙にはえらそーに太字ゴシック体中央ぞろえで大きく
新プロジェクト立上げ『Dejavuプロジェクト』
の文字。
・・・中央ぞろえとか出てしまう自分が嫌やけど、OLやってたんやか
ら仕方ないやろ。
ちなみにフォントは20ってとこやろ。
なんとか頭んなかではぐらかそうと考えながら読んだそのたった一行。
この時点で嫌な汗がぶわーっと出た。
ま、百歩譲ってここまでは許す。許してもええ。
ほんまはこんな紙後生大事に持っとんのも嫌やけどな。
問題は、二枚目以降や。
・・・あかん、ビール飲んどるのに、手震えてきたわ。
禁煙席で良かった。
煙草吸えてたらこの紙、燃やしてたか知れん。
燃やしたからってこのプロジェクトが反故になる訳違うんやけどな。
怒りで震える指先で、表紙をつかんでめくると、やっぱりさっき
みたのと同じ、馬鹿げた決定事項がズラズラと並んでおった。
一口分残ったビールを流し込んで、ため息をひとつついた後、
脱力感とともに改めて読み返してみる。
何度読み返しても、内容が変わる訳やないのにな。
どうやらウチも夢見がちなお子様やったみたいやな、ごっつぁん。
- 36 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:54
-
1.プロジェクト概要
プロジェクト名:『Dejavuプロジェクト(デジャヴュプロジェクト)』
・・・ハロープロジェクト現旧メンバーによる新プロジェクト。
ハロープロジェクトの枠から外れての新しい試み、新しいスタイルの
プロジェクト。
名前の由来は(Dejavu=既視感)どこかで見たような懐かしさと
どこにもない斬新さを兼ね持つ。
ハロー(こんにちは)と対極し(再会)という意味も込められて
いる。
プロジェクト参加ユニット:古娘。(仮)
2005年9月23日デビュー&記者発表
当日告知のゲリライベント開催。
マスコミはもちろん、関係者以外(ハローのメンバーやこのプロジ
ェクトに関らないスタッフも含む)には秘密裏に準備。
100%娘。卒業メンバーの新ユニット。
該当者にはきちんと説明を行ったうえで参加・不参加は当人の意思
に一任する。
【記者発表内容は以下の5点とする】
1.9月23日より、1年間の期間限定プロジェクト発足の発表。
それに伴う該当メンバーのユニット活動の一時凍結を発表。
2.プロジェクト所属新ユニットの参加メンバー・プロデュース含む
コンセプトの発表。
3.デビュー曲発売&PV発表、デビュー曲発売記念ゲリライベント
の告知。
4.吉澤ひとみ(モーニング娘。)の卒業発表。
5.藤本美貴(モーニング娘。)のソロ活動再開(10月上旬シング
ル発売)、高橋愛(モーニング娘。)のソロデビュー(10月下旬
シングル&アルバム発売)、新垣里沙・田中れいな・久住小春(モ
ーニング娘。)による新ユニット発表。
- 37 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:56
-
【新ユニットについて:以下オフレコ】
表向きには1年間のみの期間限定ユニット。
その間それぞれのソロ活動、ユニット活動は一旦白紙に戻し、ハロ
ープロジェクトとしての活動も凍結。
もちろん、ハロコン、ハロモニにも出ない。
つんくもプロデューサーから外れる。
新ユニットのコンセプト・方向性などについては今後のメンバーを
含めた会議で検討していく予定。
新ユニット・及び新ユニットに属するメンバー個人は、これまでの
既存のユニット・ソロ活動におけるイメージ、UFAの所属タレン
トとしてのイメージは白紙に戻すこと。
新ユニットのプロモーションは一通りの音楽番組でのお披露目以降
はUFA及びハロープロジェクトとしては干渉せず、専任のプロモ
ーター・メンバー個人のコネクションを活用し独自のプロモーショ
ン展開が可能。
プロモーションに掛かる費用は、参加人数×2000万円をUFAより
割り当てられる。
1年間で3枚のシングル(曲は外注の予定)と1枚のアルバム発売。
来春と夏にコンサートツアー開催、それぞれのツアーDVD発売。
写真集1冊発売。
シングル売り上げが累計で100万枚達成すれば来年の9月23日
付けで正式に活動開始し、ハロープロジェクト、UFAから独立。
別会社として芸能活動を行う。
未達成の場合はプロジェクト終了と同時にユニット解散。
それぞれに合った活動へとシフトする。
- 38 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:58
-
【Dejavuプロジェクト及び新会社について】
独立の際に、それぞれを担当するスタッフはそのまま新会社に移行
し引き続きマネジメントを行う。
UFAより営業譲渡として、現娘。5期メンバー加入以前にリリー
スされたモーニング娘。、たんぽぽ、プッチモニ。のシングル曲に
限り、版権、歌唱権が譲渡される。(ミニモニ。に関しては上記の
限りではない)
会社の方針、マネジメント方針などについてはUFAは新会社には
なんら干渉しない。
新会社の人事については現在数人の候補者の中から選考中。
今後動きがあり次第、メンバーには随時報告する。
なお、ハロープロジェクトからDejavuプロジェクトへの所属タレン
トの移動は、2006年9月23日の新会社設立時を最後に以後行
わないものとする。
同時に、Dejavuプロジェクトからハロープロジェクトへの移動も禁
ずる。
- 39 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:59
-
【プロデューサーつんくについて】
プロデューサーつんくは、今後もハロープロジェクトのプロデュー
スを行い、今回のプロジェクト・新ユニットに関しては召集、説明
を除いては一切関与しないものとする。
- 40 名前:どぉやらうちらばからしい 投稿日:2005/06/15(水) 00:59
-
【Dejavuプロジェクト該当参加予定者】
福田明日香
石黒彩
市井紗耶香
中澤裕子
後藤真希
保田圭
安倍なつみ
加護亜依
辻希美
飯田圭織
矢口真里
石川梨華
(吉澤ひとみ)※モーニング娘。卒業予定
以上13名
- 41 名前:みょん 投稿日:2005/06/15(水) 01:03
-
本日の更新はここまでです。
またしても改行がおかしなことになってしまい申し訳ございません。
自分の学習能力のなさに凹み中です。
- 42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 06:26
- 面白いです。ちょっとリアルだしw
期待して待ってます!
- 43 名前:みょん 投稿日:2005/07/03(日) 23:06
- >>42様
ありがとうございます。
ご期待にそえるかどうか分かりませんがよろしくお願いします。
- 44 名前:みょん 投稿日:2005/07/03(日) 23:07
-
ちょっとだけですが更新します。
名前にサブタイトル入れることにしました。
- 45 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/03(日) 23:09
- 何度読んでみたところでそれが変るわけもなく、ウチはこれを
どうやってこれから会うあの子らに伝えたらええんか、頭を抱
えるしかなかった。
実際、今日召集された子らももちろん、こんな内容、ウチだっ
て未だに消化しきれんのが正直なとこや。
なんやかや御託並べてみたとこで結局、文面から伝わるのは、
ていの良いリストラ。
大体、なんやねん、記者発表内容のまで決定しといて参加は
自由意思って。
よく大企業でやってる早期退職者募集とかそんなノリやん。
今なら退職金としてこん位なら出せるけど、今後は出せるか
わからんし、お前らどうする?
そのリストにうちらの名前が挙がったってことや。
建前としてはそこに辞めてった明日香や彩っぺ、紗耶香の名
前混ぜてやんわりリストラ風味隠したってとこか。
あほか。
見たらわかるっちゅうねん。
しかも、ちゃっかり5つ目の発表内容では主力商品宣伝しとるし。
ほんまはそっちの発表がメインちゃうん??
- 46 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/03(日) 23:12
- はぁ・・・。
ため息ついて、レジュメを座席の前の簡易テーブルに投げ置く。
と。
カン、コッココ・・・・・・
さっき飲み干したビール缶が、そのわずかな風圧でバランスを崩し、
テーブルから落ちて甲高くも鈍くもない、アルミ缶独特の中途半端
な音を立てて床に落ち、転がるでもなく、通路側の座席のウチのつま先
に当たって止まった。
夜の新幹線車内とあって、そんな中途半端な音でも妙に響いて、
前の席の乗客が振り返った。
出張帰りのサラリーマンと思われる30代後半男性は、眠りを邪魔
されたんやろう、繭を潜めてウチを見て、その後一瞬ハッとしたみたいに
軽く頭をさげた。
変な人やな、頭下げんのはウチの方なのになぁ・・・。
思いかけてすぐに、そうか、ウチが中澤裕子やって気づいたからか
と変に納得した。
そんな風に思う自分に嫌気も感じながら。
「うるさくしてすみません。」
声を潜めて、サラリーマンにそれだけ伝えて、足元のアルミ缶を拾
おうと身を屈める。
拾い上げようと手を伸ばしかけて、ふと、足元のアルミ缶がまるで
あたしらみたいに思えてきて、鼻の奥がツンとした。
飲み干されたビール缶。
中身があれば、こんな風に簡単にバランス崩すことも、倒れること
もないのに。
中身飲み干されたからな。たった数枚の紙が起こす風圧ですら、
耐えられんようになってもうた。
落ちても、スチール製と違うて、中途半端な音しか出ん。
ガラスみたいなきれいな音も、金属みたいな派手な音も。
リサイクルかなんかの都合で、音も、重さも、軽い。
中途半端な・・・。
あかん、なんや感傷的になって圭織みたいなこと言い出しそうやわ。
- 47 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/03(日) 23:14
- しかし今日一日で何回ため息ついたんやろ、ウチ。
確実に幸せ逃げってるでほんま。
しゃーないわなぁ、負け犬やもんな。
今日確定したようなもんやで。ほんま勘弁してほしいわ、こんな役割。
ウチや圭ちゃん、なっちに圭織。
おそらく今日集まった面子の中でも、いつ肩叩かれるんやろって、
さすがにそれぞれ覚悟はしてたと思う。
・・・それでも、動揺してんねやで。
ごっつぁんも・・・もしかしたら覚悟あったんかも知らん。
やから今日、みんなが動揺してる中、あんな潔く参加の意思を
見せたのかも知らん。
けどな、見たやろ?よっさんや石川の反応。
よっさんなんか、紙みたいな顔色して黙りこくって。
石川は目に涙ためてつんくさん睨みつけとった。
そりゃそやわ、石川は事務所のお気に入りや。
今まで娘。ん中でも仕事に一番熱心だったんは石川やしな。
実際プロ意識高いんで現場でも評判のいい子だったんよ。
それが娘。卒業していざ美勇伝リーダーとして張り切ってる時に、この話や。
あれだけ事務所に貢献してきて、その仕打ちがこんなんじゃやってられんわな。
キレんのも無理ないねん。
ぶりっこキャラだいじめられキャラだって言うても、実際のあの子は見た目
よりも数倍負けん気が強くて、しっかりした子やから、ホンマ許せんかったんやろうね。
- 48 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/03(日) 23:17
- よっさんにしてもそうや。
矢口からあんな形で急遽リーダーなって、やっと落ち着いてリーダー
シップ発揮し始めた矢先や。
実際自分も経験者やから言えるねんけど、自分でリーダーいう立場
受け入れんのに時間かかんねん。
最初は何やっていいかわからんし、周りのことばっか考えてもうて
自分一体なんのためにおんねんって。
それをあの短期間で消化して、自分なりにリーダーとしてやってく
心構えできたんは、よっさんの強さだと思うんよ。
しかも、今のメンバーん中だとどうしても知名度がよっさん頼みに
なるから、今までのリーダーみたいにサポート的な役割以外に、
自分が真ん中に立ってみんなを前にひっぱらなあかんっちゅう神業
やってのけてんで。
それを新メンバー入って、これからっちゅう時にこんな形で自分の
卒業知ってしもて、その上余計なことまで考えなあかんなんて。
入ったばっかの頃からあの子見てるけど、そんなん耐えられるような
図太い子やないで。
一見気弱そうに見える石川なんかより、ずっと繊細な子や。
- 49 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/03(日) 23:18
-
・・・それでも、あの場では二人とも取り乱さんと、ごっつぁんや
圭ちゃん茶化したりなんかしてごまかしてくれたんが救いやった。
あの場では救いやったけど、今考えると昔からあの二人はそんなとこあったな。
同期の辻や加護が子供やったからな、その分二人は一生懸命大人の振りしとった。
・・・なんであの子らにあんな癖つけてもうたんやろな。
こんな時まで大人ぶるなんて悲しすぎるわ。
今更こんなこというズルイリーダーでごめんな。
せやからせめて、二人がそうまでして守りたかった同期には、
ウチはちゃんと、取り乱しても付き合うつもりやで。
あの子らが泣いてもわめいても、ちゃんと最後まで、面倒見るつもりやで。
でもな。
あの子らに説明なんか、なんて言うたらええねん。
残酷すぎやで、ほんま。
- 50 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/03(日) 23:20
- 身内の贔屓目なしに、あの子らはハロプロの稼ぎ頭や。
娘。におるときも、あの子ら目当てに番組やCMのオファーが
ぎょうさんきた。
それを極力集中せんように、娘。本体や、他のハロプロメンバーに
割り振って。
娘。本体が下り坂になっても、あの子らの市場価値は下がること
なかったからな。
卒業していよいよWで活動が決まったときにはオファーが殺到した。
そらそうや、あの子らは、ハロプロが誇る子供のプロやからな。
結局、事務所も二人にオファーが集中してるのを利用してベリーズ同行させたりして。
そんな二人やから、まさか事務所もこの二人にはこんな仕打ちせんと
思てたんやけどな。
あの子らの不安定なとこは事務所もようわかっとるはずやのに。
ホームシックで笑顔をなくした加護。
なっちの卒業発表後、過呼吸を頻発した辻。
セット扱いに傷ついたり、子供でいなきゃならんことに抵抗したり、
お互いがお互いに置いてかれることに怯えたり。
そんなことを乗り越えた上に築き上げたWの笑顔やってこと、
分からんようなことないはずやのに。
確かにあの子らはウチが娘。におった時から比べれば格段に大人になった。
でもな、ウチにとったらいつまで経っても手のかかる末っ子やねん。
いくら後輩が入ってきたって、キッズがいたって、やっぱりウチにとっては
あの子らが一番ちっちゃな末っ子なんよ。
ちっちゃい子が絶望するとこなんかみたないやろ?
だからといって、てきとー言ってうまくごまかせるほどあの子らも
バカじゃないんよ。
5年っちゅうキャリアがあれば、自分の周りでなにが起こってるかは
すぐわかるんよ。
特に、一線で活躍しつづけたもんなら尚更や。
- 51 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/03(日) 23:21
-
せやから、気づいたらこの幼すぎる子を、道連れにしとった。
・・・ほんま堪忍やで。ごっつぁん。裕ちゃん大人やけど、大人やから怖いねん。
あの子らに一人でこの事、よう伝えられへんねん。
うなぎおごるから、堪忍してや。煙草も今夜は吸わんから。
せやから今日だけ裕ちゃんに付き合ったってな。
今だけ泣かしたってな・・・。
- 52 名前:みょん 投稿日:2005/07/03(日) 23:22
-
本日はここまでです。
なかなか更新できなくってすみません。
- 53 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 23:35
- おおー、すっげー。
久々にわくわくしてきた。嬉しい。
もうみんな頑張れ。作者さん応援してます。
- 54 名前:みょん 投稿日:2005/07/09(土) 14:57
- ありがとうございます。
彼女たちともどもがんばります。
- 55 名前:みょん 投稿日:2005/07/09(土) 14:58
-
またまたちょっとだけですが更新いたします。
- 56 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 14:59
-
『矢口が帰っちゃった。どうしよ、なっちもやっぱ引きずってるみたい。』
圭織から泣きの電話が入ったのは、ちょうど列車が名古屋駅に着いた頃だった。
「ごめん。すぐ掛けなおすわ。」
とりあえず一旦電話を切って、さっき起こしたごっつぁんの手を引いてホームへと
急ぐ。
さっきの様子だと、圭織はだいぶ混乱してたし、なにより圭織はどうもみんなを説得しよう
としてる風だった。
- 57 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:01
-
こっち側へこい、と。
そしてうちらのことも、たぶん、これから説明じゃなく説得しにいく
のだと、そう思ってるに違いない。
圭織は変なことだけ体育会系やから。
でもな、こんなん無理に説得するもんちゃう思うねん。
どうみたってリストラやって分かってるのに、なんで仲間を誘えるん?
赤信号 みんなで渡れば 怖くない?
怖ないかも知れんけど、死ぬかもよ。
死にたないけど死ぬかも知れんで?ええんか?道連れにして。
そうゆうことやろ。
圭織はそれを分かった上で説得したいんやろけど、ウチにはどう
しても納得いかへんねん。
今までのようにはいかなくても、それでも細々とでもハローで、
この世界でやってける子がおるんならさせてやりたい。
そう思うんはウチのエゴなん?
- 58 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:02
-
「裕ちゃん。」
「ん?」
「誰?電話」
「圭織。なんかパニくってた。」
「あはっ。なっち説得できなかったんだぁ、圭織」
ぴょん、とデッキからホームにはしゃいで飛び降りたごっつぁん。
ちょい待ち。
この子もなんか?説得って。
「ごっつぁん、説得って?」
思わず真顔で聞き返す。
「え〜、だって圭織はなっちを説得しに飲みに行ったんでしょ?
で、うちらは辻加護の説得に名古屋に来たんでしょ?あれ?違った?」
寝起きのボケ顔で、とんでもないことヌカシおった。
ん〜っ、なんて伸びしてからに。
「・・・辻加護って。なんで・・・」
「だっておかしいでしょ、裕ちゃんがあたし誘って名古屋まで
ひつまぶし食べにだけ行く?」
今度はしたり顔で、人差し指をウチの鼻先に持ってきて言った。
けどその目はどこか淋しそうで、ホントに理由もなく自分を誘う
なんてないでしょ?って責められてる感じがした。
- 59 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:03
-
「そんなことないで。ごっつぁんと二人で来てみたかったんよ。」
だからできるだけなんてことない風装って、軽く言うてみた。
辻加護のことは図星やってんけどな。
けどな、ウチが今日この状況でごっつぁん誘ったのはごっつぁんが
プロジェクトに参加するからでも加護の教育係やったからでもないで。
もしそうやったら同じ条件で圭織という選択肢もあったし、矢口のこと
だって心配やったしな。
なんて言うたらえんやろ。
例えば圭ちゃんが石川や吉澤をほっとかれへんように、
ウチもごっつぁんのことほっとかれへんねや。
「・・・それに説得やないで。説明や。
そこかなり意味違うから間違えんといてな。」
照れくさくて胸ん中で思ってたことはよう言われへん。
けど知っといて欲しい気持ちは込めて、あえて間を空けて言ってみた。
当のごっつぁんは、相変わらず読めない表情でやったけどな。
2・3秒黙りこくってその後
「ふ〜ん・・・。まっ、そぉいうことでもいいけどねっ!」
ねっ!
のとこで、鼻先に持ってきてた人差し指でウチの鼻をピンッと軽く
はじいて微笑んで。
「・・・目、赤いよ?前の席のおじさんが心配してた。」
反則な大人顔でウチの目を覗き込んだ。
- 60 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:05
-
ちっ・・・。
バレとったか。
「何てことない。タバコの煙が目にはいっ・・・」
ただけや。
言おうとして、目の前の勝ち誇った顔のごっつぁんと目が合って
言葉を飲みこむ。
あ〜あ。
さっきとは逆やな、この展開。
「禁煙席。」
言うと思ったで。
ウチもいつもの癖で出た言い訳やし。途中で気づいたやん。
「あくびや。」
「ずっと起きてたのに?」
「乗り物酔い。」
「ほぉ〜、新幹線で?」
「ウチはデリケートなんよ。」
はぁ・・・。
ため息ついたんはごっつぁん。
ため息つくと幸せ逃げてくで?
言おうとしたら、いきなり腕引っつかまれて引き寄せられて、
ウチはごっつぁんの腕の中や。
「なんやねん!いきなりっ。」
ウチら遠恋カップルやないねんで?
さすがに場所が場所やし、ごっつぁんの腕をつかんで離そうと
もがいたけど、なんやねんこのバカ力は・・・。
・・・忘れとった。ごっつぁんのマッチョな腕のこと。
そら腕力で勝てる見込みないわ。
観念して、無駄な抵抗はやめたるわ。
- 61 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:06
-
「なぁ、ごっつぁん。」
気持ち高めにある顔を見上げようと話しかけた。
けど。
「裕ちゃん。ごとーだって胸くらい貸せるんだよ?言ってよ、
何がそんなに不安なの?今回のこと、ワクワクしてるのはごとーだけなの?」
そう言ったごっつぁんの声が震えてたから、やっぱりズルいウチは
ごっつぁんの顔見上げれんくなった。
辻加護だけやない、ごっつぁんにも、リストラの意味、説明しなあかんことに
気づいたから、ウチはそのまま動けなくなった。
- 62 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:09
-
「今回のことはどういい風に考えても、リストラやと・・・思う。」
ウチがやっとこのことを口に出せたんは、あれから数分後。
フリーズしたウチを不審に思ったごっつぁんが、駅のホームまでウチの
手を引いて座らせてくれた直後やった。
『思う・・・』なんてにごらせたんは、ウチもまだ信じとうない気持ちが
あるからなんやろか。
それでも口に出してしまえば、言えなくて悩んでた時よりはだいぶ落ち着けた気がした。
言われたごっつぁんは、ホームに腰掛けたウチをしゃがんだ姿勢で
覗き込んだまま、まばたきを一度したきり、その後は表情を変えなかった。
驚いたわけでもなく、悲しんだわけでもなく、まして呆れたわけでもなく、
相変わらずウチの顔を心配そうに覗き込んだままやった。
その、ガラス球みたいな目には何が映ってるん?
思わず聞いてしまいそうなほど、綺麗な目やった。
刹那、視線があった後、いつものようなふにゃっとした笑いを
浮かべるまで、ウチはその目から目が離せなくなった。
たぶん、この子の生命力というか、オーラというか、とにかくそんな
科学で証明できへん引力みたいなものに、ウチは目を奪われてた。
否、おそらく心ごと。
- 63 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:11
-
「そっか。みんなそれ気づいてたんだ〜。なるほどね〜、みんなおかしいな
とか思ってたんだよ、ごとー。そっかそっか。
あれっ?じゃあなんで裕ちゃん参加することにしたの?」
あはは。
なんて笑いながら頭をかくごっつぁんは、もういつもの調子に戻っていた。
さっきまではこのプロジェクトを、この子は楽しみだと言った。
おそらく、見た目の派手さ、インパクトに魅せられたんだろう。
それが今、うちの言葉で全く逆の意味を持つ計画だと知らされた。
なのに。
何でこの子は絶望せえへん?
まばたき一つ見せただけで笑い飛ばした。
まるで書道の筆払いみたいな、潔いしなやかさ。
「裕ちゃん?大丈夫?お水買ってこよっか?」
覗き込んでくる目は、もうウチのことを心配してる。
そうだ、加入した時からそやったはずや。
娘。メンバーの顔と名前も一致せんくせに、たった一人で合格して
どんどん実力を発揮していった。
矢口の名前読み間違った時も、普通なら気まずくなるとこを今みたいに笑っとった。
そしてメンバーが卒業する時にはウソみたいに大泣きして。
忘れてたわけやないんやけどな、こういう時に一番大切な
しなやかさと潔さを持ってたんはごっつぁんなんやわ。
だから、立ち上がって自販機に向かおうとしてたごっつぁんの手を掴んだ。
そして振り返ったごっつぁんの目をも一度見つめて言った。
「ごっつぁん。さっき会議室で参加するて宣言した時のごっつぁんの目、
ウチ見たんよ。そしたらな、このまま辞めることなっても、
この目と一緒にやりたい思たんよ。」
あぁ、まるでプロポーズみたいなこと言うてんな、ウチ。
けど、あの時あの目に引き込まれたんはホントやから。
- 64 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/09(土) 15:13
- 「あはっ、うちら今日やばくない?抱き合ったりクサイこと言ったり。」
笑うごっつぁん。
つられて吹き出すウチ。
「ま、こういうんも悪ないやろ?たまには。」
「ま〜ね。たまにならね。」
「なんや、つれないな。」
「裕ちゃん男作りなよ。」
「余計なお世話や!」
結局うちらにはこのノリが合ってるらしいわ。
けどな、おかげで辻加護にどう切り出すかとか悩んでたことが
晴れた気するで。
大人ぶることないやん。
ありのままを、ありのまま伝えて受け止めればええんやん。
確かにあの二人には酷かも知れん。
けど、ウチもごっつぁんもついてる、なんとかなる。そう思うことにした。
「あっ!!」
「なんやねん!」
「裕ちゃん、圭織に電話しなくていいの?」
あ〜・・・。
忘れとった。もひとつあったんや。
かばんから携帯を取り出すと、さっき圭織の電話を切ってから、
30分も経ってて。
あ〜あ、圭織パニくってるやろな・・・。
支離滅裂なことを興奮気味で話し出す圭織を想像してちょっと噴出しつつ、
発信ボタンを押して携帯を耳に当てた。
さっき泣いたカラスが・・・
そんなことを自分で思いながら、コール音が鳴るのを聞いていた。
- 65 名前:みゅん 投稿日:2005/07/09(土) 15:15
-
本日はここまでです。
なかなか話が進まないですね・・・orz
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/12(火) 17:59
- 楽しく拝読しました。
続きを楽しみにしてます!
- 67 名前:みゅん 投稿日:2005/07/15(金) 01:33
- >>66様
ありがたいお言葉嬉しいです!
実は関西弁がいまいち自信なくて、中澤さんっぽくなかったらどうしようって
結構不安だったのです。
イメージとは違うかもしれませんがこれからもよろしくお願いします!
- 68 名前:みゅん 投稿日:2005/07/15(金) 01:34
-
大変短いですが、区切りの部分まで更新します。
- 69 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:37
-
駅ビルの中で手土産のケーキとシュークリームを買って、一応テイクアウトで
ひつまぶしも5人前(辻とごっつぁんがおるからな)買って、ウチもごっつぁ
んも両手ふさがったまんまタクシー乗り場まで急いだ。
予想外に新幹線ホームに長居してしもたからか、タクシー乗り場は人がまばら。
さっき事務所を出た時よりも少しだけ涼しく感じる夜風が心地よかった。
さして待つこともなくタクシーに乗り込めたウチは、ドライバーに辻加護のいる
ホテル名を告げると、シートに深く体を沈めた。
なんだか今日はやけに夜が長く感じる。
それもそのはずや。
一年間で考えるようなことをたった数時間であれやこれや考えあぐねたりしたんやからな。
とにかく、ホテルついたらケーキ食べた後に辻加護に説明して、その後ビール。
あー、その前にシャワー浴びたいわ。
ほんま変な汗かいたで、今日。
- 70 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:37
-
あ、ちなみにさっきパニくって電話よこした圭織は、掛け直したら
すっかりご機嫌に酔っ払ってて話にならんかった。
大方、合流した奴らに飲まされたんやろけど、たった30分の間に
あれだけ酔っ払う圭織っちゅうのも珍しい。
もっと大人な飲み方しとるからな、ウチと飲むときは。
ま、なんにせよ一仕事終えて羨ましいわ。
- 71 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:40
-
「ねーねー、二人はうちらが来んの知ってんの?」
いつの間に買ったんだか、たこ焼きの用事をくわえながらのんきな
声のごっつぁん。
この後ケーキとひつまぶしがあるって事、忘れとんのか、こいつは。
いや、言うまい。
きっと何事もなかったように食べるはずや・・・。
・・・胃下垂って恐ろしい。
どうもウチはこのペースに引きずられてる気してきたわ。
「いや、知らんよ、たぶん。」
二人は今日が名古屋でのコンサートで、明日から2日間のオフやって
聞いた。
いつもなら地方コンサの後は、そのままその足で東京帰るんがパターン
やけど、今日こっちのホテル泊まるってのは事務所の手回しかなんか
なんやろな。たぶん。
そやけど、このプロジェクト自体が極秘やからな、コンサスタッフまで
こん事知っとるってのはまず考えにくい。
「ふーん・・・。じゃあさ、どーすんの?二人寝てるかもよ?」
時計をみると・・・もうすぐ10:30ってとこか。
「いくらなんでも早すぎやろ。あー見えて17と18やで。
んな小学生やあるまいし起きてるやろ」
「あ・・・そか。もうそんな年かぁ。なーんかごとー、まだ12,3歳
の気でいたや。妹みたいなもんだからね〜。そっかそっか。」
そう言って頭掻くごっつぁんも、ウチからしたらまだまだ、
後藤真希13歳です、のまんまやで。
- 72 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:43
- ふぅ・・・。
「裕ちゃんはさ、さっきリストラだって言ったけどさ。ごとーはやっぱ
そうは思えないんだよね。」
いきなりの話題転換に、思わずごっつぁんを見ると、ごっつぁんも
いつになく険しい顔でウチを見つめとった。
視線がかち合うのを確認すると、一瞬目を閉じて、意を決したみたい
に話しだした。
「どっちかって言うと、ごとーは今までの方がリストラって感じする。
ごとーの卒業決まったあの日から、今日までの1連の事全てが。『いーんだよ、
つまんないなら辞めても』って、事ある毎に無言で言われ続けたような気がして
ならないんだよね。・・・こんな事、卒業させてもらった身で言うべきじゃないし、
出さないようにはしてたけど。」
ふふ・・・
いいよね、もう。裕ちゃんになら言っても。
そう笑って、ごっつぁんは閉じた目を開いた。
「だから、今回のことはごとーにとっては再生のチャンスなんだ。」
「ごっつぁん・・・。」
ここに来てやっとごっつぁんの本音に触れたウチは、アホみたいに
返す言葉が見つからなかった。
再生のチャンス。
リストラやって聞いてもなお、そう思えるごっつぁんの強さが羨ま
しくて、そして少し悲しかった。
- 73 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:47
-
「ま、ごとーが負け犬だからそーいう風に思うのかも知んないけどさ。
要は売れれば勝ちでしょ?!事務所は介入しないんでしょ?!
もっとシンプルに考えようよ、裕ちゃん。」
「負け犬やなんて、頼むから言わんといてよ。」
ごっつぁんの口から出た『負け犬』の言葉に、脊髄反射起こしたように
ウチは情けない声が出た。
そんなん、ハタチ前の子に言わせたんは、さっきのウチの言葉やな。
「だから、一回負けてるからこそ、今回のはチャンスだって思えるの、あたしは!」
みなまで・・・言うしかないんかなぁ。
言いたくないんよ、ウチだって。
悪思わんでな、ごっつぁん。
「けどな、事務所の介入ないってのは、要は事務所はうちらを売る気
ないねんで。事務所としたら、1年間でうちらが売れようと売れなかろうと、
もううちらには何もする気ないんや。要はお払い箱やねんで?」
あかん、自分で言っといて凹みそうやわ。
けど、ごっつぁんは表情を変えることなかった。
むしろ、そんなこと知ってるけどそれがなんやって感じで、珍しく饒舌に
言い放った。
「上等だよ。どっちにしろうちらが要らないって事ははっきりしてるよね。
だったら何でもありでしょ?どっちに転んでも同じなら、好きなようにするよ、
あたしは。決定事項に一喜一憂してる暇ないし、悩むほど頭よくないしね。
決めたからにはうまくいくように努力する。・・・違ってるかな?あたしの言ってる事。」
- 74 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:49
-
・・・・・
そこに迷いはないんやね?
なんや、いちいち凹んでる自分がアホみたいやな。
安定した生活なんか、OL辞めた時点で捨ててんのにな、ほんまアホやね。
「間違うてへんよ。」
「・・・そか。よかったぁ。二人に会う前にここは確認しとかなきゃって
思ってたんだぁ。」
とたんにふにゃ〜っと気の抜けたような笑いを浮かべるごっつぁん。
そやね、ウチも考えなしに説明して、後はそれぞれに任せる、
なんてええ人ぶってその実無責任やんね。
事務所とやってること変らんわ。
伝えるヤツがハッキリした態度じゃないと、聞いた方やって
どう反応したらええかわからんやんな。
- 75 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:51
- よっしゃ。
パンパンッ!
両手で自分の両頬を二回叩いて、その後姿勢正して。
気合入れ直しや。
「ウチも腹決めたわ。守りに入るのはやめにするわ。一年後笑うためにな。」
「やったぁ!!そぉこなきゃだよ〜!」
狭いタクシーの後部座席。
思いっきり抱きついてきたごっつぁんの勢いに負けて、
後頭部したたか窓ガラスに打ち付けたんやけどな。
なんだか、
『しっかりせい!』
て、言われてるみたいで、ウチはそのままごっつぁんを抱き返した。
はは。
しっかりせい、中澤裕子。こんな幼いハタチに教えられてんやないっ。
そうや、ウチはあの、国民的アイドルだったモーニング娘。の初代リーダー
やったんやで。
こないなことでしょぼくれてたら笑われてまうわ。
こうなったら天下取る気で行くで!
ウチも負け犬返上で仕切りなおしや。
一年後笑うために、それからウチの大好きなこの子らを守るために。
ごっつぁんに・・・二度と負け犬なんて言葉使わせんために。
- 76 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:52
-
とりあえず、きゅう〜って抱きついてきたごっつぁんの口元にさっき
食べたたこ焼きの青海苔が付いてたのは見なかったことにした。
- 77 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:53
-
Vol.2 負け犬 はここまで。
- 78 名前:Vol.2 負け犬 投稿日:2005/07/15(金) 01:54
-
- 79 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/15(金) 10:36
- 続き、楽しみです
- 80 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/17(日) 22:47
- 初代リーダーとエースのコンビは最高です
- 81 名前:みゅん 投稿日:2005/07/24(日) 21:49
- >>79様
レスありがとうございます。
励みになります。
>>80様
ありがとうございます。
私もこのコンビ気に入ってます!
- 82 名前:みゅん 投稿日:2005/07/24(日) 21:50
-
間が空いてしまって申し訳ございません。
更新いたします。
- 83 名前:みゅん 投稿日:2005/07/24(日) 21:51
-
今回から加護さん目線になります。
- 84 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 21:52
-
Vol.3コントラスト
- 85 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 21:53
-
最近、ののの様子がちょっとおかしい。
おかしいって言っても、それはうち以外は気づいてないと思う。
うちもののも、どうやったら周りが心配するか、どこまでなら大丈夫か、
そんなラインをよく知ってるから。
ののはその、ギリギリのラインで、確かにおかしかった。
- 86 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 21:54
-
コーヒーにお砂糖もミルクも入れなくなった。
オフの日でも、しょっちゅうメールをくれてたののが、近頃は仕事以外
では携帯の電源を切ってる。
コンサのケータリングにも、めったに近寄らなくなった。うちが持って
きたものを、2,3口つまむだけ。
控え室でも何か考え込んでるのか、ボーっとしてることが多くなった。
ちょうど18歳の誕生日を迎える頃から。
たぶん、あの人と友達になってから。
どっかでのののボタンが掛け違ったんだと、うちは思う。
なにがあったん?
何度となく聞いてみたけど、それはいつもの
大丈夫大丈夫!
ではぐらかされて。
危ういラインを歩き続けるののを、うちは隣でアホなコト言いながら
見てるしかなかった。
今日までは。
- 87 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 21:56
- 「今夜、たぶんおばちゃんか中澤さんだと思うけど、ホテルに来るから。
来たら内線して?」
朝、コンサのリハでMCのネタを考えてたら、唐突にののがそう言った。
もうしばらく、ののとは一緒に寝起きしてない。
仕事以外のことを話したのはこれが今日初めてだったかも、なんて思ったりする。
「え!おばちゃん?メール来てたん?」
梨華ちゃんや安倍さんならともかく、その二人がののとうちのどっちか
だけにそんな連絡するってのはありえへんのにな。
アホみたいに聞いてから、そんなことを思った。
「ん〜ん。勘。のん最近やたら勘が冴えてんだよね〜。」
ポニーテールのリボンを気にしながら、久しぶりにニマニマ笑う
ののを見てたら、なんだか嬉しくなった。
「あ〜、あれか。 頭悪い子が実はエスパーだったりする例のあれか。」
こんな憎まれ口を叩きつつも。
「うっさい!バカバカ言うんじゃね〜よ!」
わはは、それ既にネタになってるやろ?
「バカとは言うてへんも〜ん。それより、MCど〜する?」
「あ〜・・・そだなー、アドリブ入れよーよ。昨日と同じじゃつまんないし。
なんならのん、歌っちゃう?アカペラで。」
「おぉ?じゃ〜うちそれに合わせて踊るわ、即興で!」
「ぎゃははは!うちらバカっぽくね?」
「えぇやん。うちらっぽくて」
- 88 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 21:57
-
そんな打ち合わせをしてたにも関わらず・・・
実際、問題のMCでののがアカペラで歌いだしても、うちは即効で踊られへんかった。
ずっとののを見てたから。
どんな未来が訪れても
それがかなり普通でも
一歩一歩でしか進めない人生だから
立ち止まりたくない
Do it! Nowのこの1フレーズだけ。
なんでののがこのフレーズを選んだかは分からへんけど、それをマイクなし
のアカペラで歌うののの横顔は、何かを決意したような、何かを吹っ切った
ような、恐ろしく綺麗やった。
- 89 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 21:59
- 会場にいたファン達も、そんなののの雰囲気に気づいたのか、MC前の
歓声がウソみたいに静まり返った。
その間、うちはと言えば、そんなののの横顔を、金縛りにでもあった
ようにただただ見つめる他なかった。
歌い終えると、ののは一瞬だけうちに視線をくれて、その後また前を
向いて今度はマイクで話し始めた。
今思えば、何で視線をくれた時、うちは何もできなかったんやろって。
あれはののがくれたチャンスやったのに。
「突然歌っちゃってごめんなさい。この曲を出した頃は・・・え〜と
何年前になるのかな。その頃はまだ、歌詞の意味が正直恋愛の歌だな
位にしか分からなかったんですけど。・・・最近、特にさっきのフレ
ーズのとこが、のんの心境とすごく似てて。」
- 90 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 22:01
-
静まり返った会場が、ののの言葉にどよめく。
『ののた---ん!!!』
悲鳴に近いような、そんな声が聞こえて、うちはやっと気づいた。
ののが、辞める気なんだってことを。
まだきっと、誰も気づいてないはず。
今ならまだ、冗談にできる。
(のんもあたしもおこちゃまやったからね)
(え〜!?うちは分かってたよぉ。)
(ま。色気より食い気だったから〜)
いくらだってごまかす言葉は出てくるのに。
だけど、喉まででかかった言葉が出てくる前に、ののはその先を続けた。
「どんな未来が訪れても・・・もし近い将来にWの辻希美がいなくなって、
辻希美としての人生を歩むことになっても、ちょっとづつでもいいから
前に進む人生を生きたいなって・・・最近立ち止まって考えることが多く
なってきて、それでそう思ったんです。」
- 91 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 22:02
-
「・・・だから・・」
『のの!!』
うちは思わず、マイクも当てずに叫んでた。
・・・だって、近い将来やなんて。
そのまま続けたら、きっとのの、辞めるとか言う。
そんなん、ないやろ?のの。
うち、何回も聞いたやんか。
どないしたん?て
なんかあったんならうちに言うてなって。
なんでうちに一番に相談してくれへんの?
頼りにしとるんはうちの方だけやの?
マイクを持ち替えて、隣にあるののの手をキュっと握った。
うちが隣にいるって、ののに気づかせたかったから。
ののは一瞬だけ視線を落として、うちの手を見て、手を握り返した。
そのあと、一旦マイクを外して
『・・・ゴメン』
てうちにだけ聞こえる声でつぶやいて、いつものののに戻った。
- 92 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 22:06
- 「で、今日はあいぼんとMCの打ち合わせした時に、のんがアカペラで
歌う!って言ったら、あいぼん即興で踊る!ってなって〜。なのに
あいぼん踊んないんだも〜ん!」
「だ〜って、Do it! Nowじゃん!スローだし、しかもアカペラでど〜して
いいか分かんなくなっちゃったよ!」
「あいぼんポカーンとしてたもんねぇ〜ポカーンて。ハハッ、ポカーン!」
「だってさぁ、のののことだからあややかな?とか思うじゃ〜ん?」
「ま、今歌っておかないと歌う機会ないかな〜っと思いまして・・・」
そんな感じにいつものののに。
・・・最後の一言を除いては。
それでもその後はいつものコンサのはじけたののに戻って、会場もいつもの
ように盛り上がって昼の部を終えた。
終わるとすぐにののはマネージャーから長〜いお説教をくらい、うちはうち
で軽く小言を言われた。
ののはアドリブ苦手なんだからMCはちゃんと打ち合わせしろとかそんなこと。
ちゃうやろそれ?
そう思ったけど、とりあえずはスタッフさん達はのののあの発言をそんなに深く
考えてないことにちょっとだけホッとした。
とにかくうちはののと二人で話せば、なんとかなるて信じてたから。
大事になる前に、ちゃんとののは話してくれる、て思てたから。
- 93 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 22:08
-
「ごめんね?あいぼんまで怒られちゃって。のんなんかテンパっちゃってさぁ〜」
控え室に戻ってきたののの最初のひと言はこれ。
てへてへ・・・なんて頭掻いて、ここ数年見せないような困ったような笑いで。
どうなん?それ。
ごまかしてるつもりなん?
「ごめんやないやろ?のの、どうしたん?ちゃんとうちに話して、ののが思ってること」
なんだかここまで来てののがうちにごまかそうとしてる事が、無性に腹立ってきたわ。
ずっと一緒にやってきたんやろって。
それとも、うちがまだ気づいてないとでも思とんのか、アホ。
「え〜、やっぱ怒ってんじゃん。ごめんよ〜あいぼ〜ん。」
申し訳なさそうに手を合わせながら、近づいてくるのの。
まだ言うか。こいつは。
「謝れ言うとんやないわ!のの、ホンマどないしたん?なんで辞めたがってるん?」
カッとなりつつも、一応ののに気遣って、優しく聞いたつもり。
- 94 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 22:09
-
なのに。
ののは一瞬驚いたように目を見開いて、その後すっとんきょうな声で
こうのたまった。
「辞めたがってる?!のんが?えぇぇえっ!!ナイ!ナイ!ナイ!
ナイって〜!あ〜いぼん考えすぎだってぇ〜」
プチン
うちは初めて堪忍袋ってやつが切れる音ってのを聞いた。
もちろん自分の。
「もういい。勝手にしぃ。」
気づいたら控え室を出て、どこに向かってるのか早足で歩いてた。
真っ白になった頭のなかで、そういえば昔親戚のおっちゃんの結婚
式に出た時、スピーチで『結婚生活で大切な3つの袋の話』しとっ
たなぁ、なんてワケ分からんこと思い出した。
確か、胃袋・お袋・堪忍袋やったっけ?
- 95 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 22:10
- 早足で歩いてたら、怒ってるはずなのに涙が出てきた。
頭も真っ白で、視界までぼやけてきたわ。
あかん、頭冷やさないと・・・夜もあるし。
そう思って外に出ると、中よりずっと暑い7月下旬の午後だった。
「あ〜あ・・・うちらどうなるんやろ。」
カラカラに乾いた喉で呟いて、見上げた太陽は眩しすぎて。
ますます溢れてくる涙はそのままにしといた。
太陽が乾かしてくれるといいな、なんてアホみたいなこと考えながら。
- 96 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/07/24(日) 22:11
-
- 97 名前:みゅん 投稿日:2005/07/24(日) 22:11
-
本日の更新はここまでです。
- 98 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/25(月) 10:18
-
こういうの、読みたいと思ってました
今後の展開が楽しみです
- 99 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/25(月) 22:31
- 迫ってくるなあ
これでこそリアルものというか
すげえ
- 100 名前:みゅん 投稿日:2005/08/01(月) 01:19
- >>98様
ありがとうございます。
楽しんでもらえるようにがんばりたいです。
>>99様
すげえなんて言ってもらえて嬉しいです。
ありがとうございます。
- 101 名前:みゅん 投稿日:2005/08/01(月) 01:19
-
更新します。
- 102 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:21
-
「ごめん。夜公演終わったら、ちゃんと話すから。」
ブチ切れて控え室を出て、通用口出たとこで泣きながら太陽見上げて呆けてたうちに、
追ってきたらしいののがそう言った。
だけど
「なんで部屋におらんねん!!!」
結局、夜公演が終わっても、ののがうちに話しかけてくることはなかった。
部屋で話すんかな、と思ってホテルの部屋に戻ったけど、やっぱりいつものように
ののはあの人の部屋に行ってるらしく、今のうちの独り言は虚しく一人の部屋に
響いただけだった。
- 103 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:22
- ののにとっては、うちなんてどうでもいいんやろか。
悩んだ時、迷ってる時、相談するのはもう、うちじゃないんかな。
いつから、うちには言いたくなくなったん?
いつから・・・うちにホントの顔、見せなくなったん?
二人でやってくこと、嬉しかったんは・・・うちだけなん?
はぁ・・・
ベッドにダイブして、枕に顔を埋めて、うちはちょっとだけため息をついた。
壁側のベッドには、昨日ののが追いてったバッグが放り出されたまま。
窓側は怖いからって、よく昔ベッドの取り合いで喧嘩したっけ。
ののが戻んなくなってからもうち、一人で窓側のベッドでのののこと、
待ってるんよ。
なんで、こんなんなってしもたん?
うちら、喧嘩しとるわけやないのに。
喧嘩じゃないから、余計に・・・元に戻るのにどうしたらいいか、
わかんないよ。
- 104 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:23
-
ののはどう思ってるんやろ。今のうちらの関係。
なんとかしたいて、思ってくれてるかな?
けど。
今ここに来てくれないって事は・・・たぶん、その逆なんじゃないか。
きっと今頃、ここより下の階で、あの人とテレビでも見て笑ってるんじゃないか。
昼間、うちと約束したことなんか、忘れてるんじゃないか。
うちのことなんて、どうでも良いんじゃないか。
「って。ああぁぁぁ〜っと!!もう!悪い癖悪い癖!・・・・はぁ。やめよ、テレビでも見よ。」
ぷちっ・・とな。
とりあえず、起き上がってテレビのスイッチを入れると、ちょうど
ダウンタウンさんの番組で。
特に興味があるわけでもなかったけど、なんとなく関西弁を聞いて
たら気持ちが静まるような気がした。
- 105 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:24
-
よく考えたら、もう11時やん。
うちもずいぶんと長いことのののこと考えてたんやって、我ながら
あきれてしまう。
考えてみたら、まだ、ののの口からちゃんと聞いてへんやん。
もしかしたらうちが勝手に早合点して、切れてしまったから、ののも
引っ込みがつかなくなったんかも。
そうやん、きっとそうやん。
「そうそう、ポジティヴ!ポジティヴ!」
・・・て、梨華ちゃんやん。
あ〜、そういえば梨華ちゃんのこのセリフ、しばらく聞いてないな〜。
よっすぃ〜最近すっごい大人っぽくなったなぁ。
ごっちんもすごく女らしくなった。
そういや、二人とも二十歳になったんだ、あ、ごっちんはまだか。
安倍さんの作ったクリームシチュー美味しかったな。
かおりんのオヤジギャグ聞きたいな。
おばちゃん彼氏できたかな。
中澤さんとデート企画、楽しかったな。
ののとぶりんこうんこで新曲作ってあげなきゃ、「サーティスリー」で。
・・・あかん、うち、戻りたがってる。
良かった頃のうちとののに。
こういうんもホームシックって言うんかな・・・ののはどう思う?
ののは今、何を思ってますか?
- 106 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:25
-
コンコンッ
そんなことを思ってたらノックが聞こえて、うちは一瞬ののが来て
くれたのかと思って泣きそうになった。
「ハイッ」
ちょっとだけ言葉に詰まりそうになりながらも、元気に返事したつもり。
でも。
「あいぼ〜ん!差し入れ持ってきたよぉ〜。」
てゆう、さっき思い浮かべた、けどここには居ないはずの人の声が
聞こえて出そうになった涙も引っ込んだ。
なんで?なんでここにおるん?
- 107 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:26
- そんな気持ちを抱えながら、でも急いでドアーを開けると、今二番目
に会いたかった人たちのちょっと汗ばんだ笑顔。
「えぇ!?ごっちーん!中澤さん!どーしたんですか?こんな時間に。」
「こんな時間で迷惑やったか?二人の顔見にな〜。」
中澤さんの『二人に』って言葉に、一瞬ドキッとする。
ののが居らんこと、なんて説明したらいい?
おそらく、この部屋がWとしてののとうちに当てられた部屋やってのは、
スタッフさんと話して知ってるはずや。
中澤さんはともかく、ごっちんには口が裂けても言えない。
たぶん、今のうちにはのののためにできることって、今のののと
うちの状況を二人に感づかせないことくらいしかできないから。
それに、のののことは、うちら二人の問題、Wの問題やから。
うん、あいぼんがんばるからな、のの!
「・・・どしたん?ぼぅっとして。」
「あっ、すいません。ど〜ぞど〜ぞ、入って入って。外暑かったでしょう?」
ヤバイ、ちょっと不審に思われたやろか。。。
そのまま、サササッと部屋の中に後ろ向きのまま入っていく。
目が合った中澤さんが、昼間のうちみたいに、ポカーンとうちを見てる。
あれ?うちなんかしましたっけ?
- 108 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:27
-
「・・・あんた、おばちゃんみたいなリアクションやめぇや・・・。」
ガ----------ンッ!!!
「ひっどいなぁ〜、中澤さんにだけは言われたないわ!」
「だけはってのはどういう意味やねん!だけはってのは!」
おっ!久々の青筋ですか?
「そのまんまの意味だよねぇ?あいぼん。」
ボワンって、のののベッドに弾みつけて座りながらごっちんが言う。
さすが師匠!
とどめはうちが!
・・・って違うか。
「だって中澤さんうちのおかんと変らんもん。そんなんにおばちゃん
言われたないわ。」
「うはは、そんなんだって!裕ちゃん今日は散々だねぇ。泣いても
いいんだよ?なんならごとー胸貸すよ?」
「うっさい!そんなショボイ胸借りたないわ!」
「しゃーないなぁ、じゃぁ、あいぼんさんが胸貸してあげようか?
高いですよぉ〜。」
うちのベッドに腰掛けてる中澤さんの前にわざと胸突き出してみる。
我ながら、キャラじゃないな〜と思いながらも、このやりとりが結構
面白くなってきた。
それに、まだ二人はのののことに触れてない。
もうちょっと時間稼いで、ジュース買ってくるとか言って、のの呼び
に行けば大丈夫かも。
- 109 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:28
- そんなこと思ってたら。
「・・・アホゥ、子供がそんなこと覚えなくてええの!」
ポヘッて頭叩かれたと思ったら、そのまま抱きしめられて、一瞬
さっき引っ込んだ涙がまた出そうになった。
・・・なんか、今日の中澤さん、おかしい。
ごっちん、さっき、『裕ちゃん今日は散々だね』って。
なんやろ?なんかあったんかな?
!!
ハッとした。
- 110 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:29
- さっきまでのののこと考えてたけど、そのせいですっかり忘れてた。
朝、のの、なんて言った?
そうやん、朝からおかしかったやん。
『今夜、たぶんおばちゃんか中澤さんだと思うけど、ホテルに来るから。来たら内線して?』
たしかに、朝ののは唐突にそんなことを言った。
特に連絡もなかったのに、勘、って言って。
勘なんかやない。知ってるんだ、ののは。
中澤さんがなんで様子がおかしいのか。
中澤さんとごっちんが何のために今夜、ここに来たかってことを。
だから、夜ちゃんと話すって・・・。
昼公演でのことも、たぶんそのことに関係してるんだ。
- 111 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:30
- そんなことに今更気づいてしまったうちは、すっかり混乱したみたいで。
だから、
「裕ちゃ〜ん、結局あいぼんの胸借りてんじゃん。」
「バレた?」
「もぉ〜、あいぼん固まっちゃってんじゃん!セクハラだよ〜。」
「あれ?どしたん、加護初めてやったんか〜?胸に顔埋められんの。」
「あ〜あ、あいぼん可哀相。」
ごっちんと中澤さんのそんなやりとりも、ただ耳を通って抜けていく
だけだった。
右から左って・・・こういうこと言うんやな〜。
なんて・・・またしてもアホなコトをぼんやり考えてた。
- 112 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/01(月) 01:30
-
- 113 名前:みゅん 投稿日:2005/08/01(月) 01:31
-
本日の更新はここまでです。
- 114 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 00:31
- 面白い。
続きまだかなあ。
- 115 名前:みゅん 投稿日:2005/08/23(火) 00:44
- >>114様
レスありがとうございます。
大変間が空いてしまって申し訳ございませんでした。
- 116 名前:みゅん 投稿日:2005/08/23(火) 00:44
-
更新します。
- 117 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:45
-
「んも〜、うちの可愛いあいぽんを困らせちゃだめじゃん、裕ちゃん」
ごっちんに腕を引っ張られて、中澤さんから開放されて、そのままごっちんの
ひざの上に座らされたとこで、やっとうちの意識が戻ってきたのが分かった。
気、失ってたとかじゃない。
だけど、今日あったことと今の状況と、さっき感じた直感に、頭と心が着いて
いかなくって。
もともと、勘は鋭い方やってん。
やから、色々先回りして考えて落ち込んだりもする。
けどな。
なんや、今回のは・・・先回りも何も、明らかにみんなおかしいのは分かってんのに、
それが何かってことがまったく分からへん。
のの、中澤さん、ごっちん。
3人に共通することがごめんやけど浮かばへんねん。
もぉ、うちの頭ん中はショート寸前やで。
- 118 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:47
-
「中澤さん、どないしたん?なんかあったん?」
考えても答えが出ん時は、人に聞いてみる。そしたらその人がヒント
をくれるかも知れん。
だから、その人が答えを教えてくれなくても、それが厳しい言葉でも、
その人の言葉と表情を逃さんように目と気を配る。
話してくれた言葉と表情を大事に自分の中で反復する。
そうすると自分が知りたかったことのヒントが見えてくるはず。
これはうちがこの業界に入ってから学んだこと。
ごっちんが挨拶の次に教えてくれたこと。
聞かれた中澤さんは、一瞬だけ左の眉を上げた後、ニヤッとした。
うちをひざの上に乗せてるごっちんは、うちのお腹に回してる両腕
に、一瞬だけ、力を籠めた。
やっぱり、何かあったんだ。
- 119 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:48
- 「・・・相変わらず鋭いんやね、この子は。」
そう言って、カバンからタバコを取り出して、口に咥えかけ。
「あ、今夜は吸わんつもりやったんだっけ・・・」
って一人ごと言って、苦笑いしてタバコを箱にしまって。
中澤さんはうちの後ろのごっちんに一瞬だけ目配せをした後、真剣な
表情をした。
「そやね。何かあったんよ。んでうちらはその事を加護と辻に説明しに
来たんや。二人一緒の方がええと思うんやけど、辻呼んでくれへん?」
「えっ・・・」
思わず声が出た。
・・・だって・・・ののは知ってるんちゃうの?
「あれ?そぉ言えばここってWの部屋だよね〜?つ〜じ〜はぁ?」
ごっちんののほほんとした声が、なんだか今はうちの胸に突き刺さる
みたいに聞こえてきた。
そうや、のののこと、うちしか知らへんの、一瞬忘れかけてた。
さっき、がんばるって、思ったのに。
考えなあかんことがたくさん押し寄せてきて、忘れてもうた。
きっと今日のののも、こんな感じやったんやろな。
なのにうち、切れてしまって・・・。
・・・ごめんな、のの。
けど、任して。うち、割とこういうの得意やから。
ダテに連ドラレギュラー持ってるわけやないっちゅうこと、見といてや。
- 120 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:49
- 「あー、ののは今出かけてて・・・。」
何てことなさそうに言いながら・・・、ごっちんのひざの上で気持ち
ソワソワしてみる。
・・・この際、中澤さんの目は、見ない。
今はまだ、見たらあかんねん。
「こんな時間に?あの子が一人で?おかしないか?それ。」
明らかに不審がった声。
うん、つかみはよさそう。
「どうしたの?ケンカでもした?」
うしろのごっちんも心配そうな声・・・。
俯いて、首を左右に振って・・・。
涙目でゆっくり中澤さんを見上げる。
いつの間にか、ベッドから降りてうちの前にしゃがみこんだ中澤さん
が正面からうちを見つめていた。
「・・・なんか、隠してるんか?」
まっすぐに見つめられて、静かに中澤さんに聞かれると。自然に肩が
震える。
それでいい。それは分かってたことだから。
だからさっきは目見ないようにしてたんだから。
- 121 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:50
- 「・・・どしたん?別に怒ってる訳ちゃうよ?二人に大事な話が
あんねん。それにせっかくケーキも買うてきたから 辻にも食べ
させたいねんけどな。」
優しく言われると、涙が出そうになる。
それも分かってたことだから。
「ご・・・めんなさい・・・。のの、今日、コンサでミスしちゃっ
て・・・。今、別の部屋で反省中で・・・。」
ののには悪いけどこれはいずれ伝わることやから・・・。
それよりもあの人の部屋にいることだけはごっちんに知らせたくない。
「なぁ〜に、あいぼん。そんなこと隠すことないのに〜。」
うちの頭をポンポンと優しく叩いてるごっちんにだけは。
だから。
「だって!・・・ののはWのリーダーやから。ミスしたとか・・・
言いたくないし。」
立ち上がって、ごっちんを見た。
突然立ち上がったうちに、ごっちんは一瞬目を見開いて、そのあと
ふにゃっと笑った。
「あいぼんは優しいねぇ〜。うん、いい子だ。」
「優しいとか、違うし・・・。これはWのプライドの問題やもん。」
「うん、そうだね。ごとーが間違ってたね。」
うんうん、って何回か頷きながら、ごっちんはうちの頭をまたポンポン・・・。
分かってくれたんかなぁ・・・、うち、うまくやれたんかな?
- 122 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:51
-
そう思ってたら、
「分かった。加護!うちはなぁ〜んも聞いてへんで?ごっちんも今
加護に会ったばっかでなぁ〜んも聞いてへんよな?」
って中澤さんの声。
「うん。つーじーはジュース買いに行ったんだよね?」
「そや。辻には何も言わんから、とりあえず呼んでくれたらいいから。」
・・・どうやら、うちの一世一代の大芝居は成功したらしい。
「中澤さん、ごっちん、ありがとう。」
それから・・・ごめんなさい。
- 123 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:52
-
ピッ・ポッ・パ・・・
とにかくなんとかうまくのののことを誤魔化しきれたと思った。
だから、いそいそと備え付けの電話からののの部屋(あ〜、正しくは
あの人の部屋やけど)へ内線を掛ける。
どうにか、朝ののに頼まれたことはできそうやって。
結構ほっとして気が抜けてたかも知れん。
呼び出し2回ほどで
『はい。』
って、あの人が出た。
うちはかまう事無く、まるで一人芝居みたいにしゃべり倒した。
- 124 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:54
- 「あ〜、のの?中澤さん達来てくれたから、戻ってきて〜。ケーキ
持って来てくれてん。大事な話あるとかで〜。」
『希美今電話中。なんかややこしい話してるからちょっと時間かかるよ?』
あの人がそんな事言っても、うちはとにかくののと話してるあいぼんを演じ続けた。
「早く来ないとののの分も食べちゃうよ〜。・・・え?デブ言うなや!うっさいわ!」
『あのさ〜、聞いてる?』
「・・・いいから早くきなよ〜。つーか、のの知ってたんやろ?」
『希美は、今つんくさんと電話中。込み入った話みたい。聞いてる?
伝えとくから、もう少しかかるよ?』
だから今あいぼんさんはののと会話中やってば。
「んじゃ〜早よ来てや。なんかあったみたいやし。」
『・・・ちょ、待って。誰か来たみたい。・・・ガタッ・・・・・・
ガチャッ・・・・んであんたがここにいんのよ?!!』
「・・・え?・・・ごっちん?」
なぜか受話器からごっちんの怒鳴り声が聞こえて、後ろを振り向くと、
さっきまでベッドに腰掛けてたごっちんはそこにはいなくて、代わり
に中澤さんが腕組みして真後ろに立っていた。
「え・・・なんで?」
うちはと言えば、アホみたいに受話器を右手に持ったままその場に
立ち尽くすしかできなくなってた。
- 125 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:55
-
ふっ・・・
中澤さんが勝ち誇ったように微笑んで、うちの手から受話器を取って
電話を切ると『絶体絶命』なんて四文字熟語がふっと頭を掠めた。
「辻は、誰と居ったん?」
あぁ・・・のの、ごめん。
やっぱ大河女優には勝てへんかったなぁ、うち。
- 126 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:56
-
- 127 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/23(火) 00:56
-
- 128 名前:みゅん 投稿日:2005/08/23(火) 00:57
-
本日の更新はここまでです。
更新が遅くて申し訳ございませんでした。
- 129 名前:114 投稿日:2005/08/23(火) 01:20
- 更新お疲れ様です。
何か急かしてしまったようで申し訳ないです。
すごく楽しみにしています。
またーり待っていますので、
どうぞお気になさらず頑張ってください。
- 130 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/24(水) 01:04
- この話今一番楽しみにしている話です!!
更新お疲れ様です。
次回もまたーり待ってます。
- 131 名前:みょん 投稿日:2005/08/31(水) 01:23
- >>114様
こちらこそ気を遣わせてしまいまして申し訳ないです。
自分でもちょっと空きすぎたなぁと思いつつズルズル時間が経ってしまってたので。
レス励みになりました。ありがとうございます。
>>130様
ありがとうございます。
すごく嬉しいです!
前回更新分、自分の名前を間違ってました。
すみません。。。
- 132 名前:みょん 投稿日:2005/08/31(水) 01:23
-
更新します。
- 133 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:25
- 「・・・ま、座り」
呆然と立ち尽くしてたうちは、中澤さんに手を引かれ、言われるままにののの
ベッドに腰を下ろした。
ほんとは、あの人の部屋で今どんなことが起きてるかとか、のの大丈夫かなとか、
いろいろいろいろ頭に浮かんで、すぐにでもごっちんの後を追って駆けつけたい
気持ち。
けど、真向かいのベッドに腰を下ろした中澤さんの表情を見たら、まるで金縛り
にあったみたいにうちはそこから動けなかった。
・・・だって、中澤さん、泣きそうな顔してるから。
「ごっつぁん、すごい勢いで出てったで。あぁ見えて心配性やからな。」
ふふ・・・
無理に笑おうとして、泣き笑いみたいな顔でうちの髪をくしゃっとやった。
「・・・なんで?」
分かったん?
怒らへんの?
泣いてるの?
聞きたいことはたくさんあったけど、言葉にならへん。
本当に口に出さなきゃいけないことはこんな言葉じゃないのに。
すぐに出てこないから、息が吸えへん。
- 134 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:27
- 「部屋番号、このフロアやなかったやろ?・・・それにあんたの様子が
おかしいんは、最初から分かってたしな。・・・試すみたいにして堪忍な。」
「・・・あたしこそ。・・・嘘ついてごめんなさい・・・。」
言わなきゃいけなかった言葉が、思いがけず中澤さんの口から出たことで、
やっとうちは呼吸の仕方を思い出した。
それから、ついでに泣き方も・・・。
あー、こんな時に泣くやなんて、ずるいな、うち。
けど。
止まらへんもん、なんか知らんけど。
そんなうちを見て、中澤さんはまた泣き笑いみたいな顔で、ベッドサイド
のティッシュボックスからティッシュを2〜3枚乱暴に取るとうちの手に
握らせてくれた。
「・・・ええよ。けどな、ちょっと寂しかったわ。ごっつぁんも同じ気持ちやで?」
うぅぅ・・・。
もらったティッシュをそのまま目に押し付ける。
「・・・ごめんなさい。」
「加護を責めてるんと違うよ。・・・これはあたしらの感傷やから。
・・・な?泣かんと。とりあえず話してくれへん?」
中澤さんの柔らかい口調の関西弁が、ちょっとだけお母さんを思い出させて、
うちはいつのまにかゆるゆるとずっと心に閉じ込めてたののとうちの間の
不安を吐き出してた。
- 135 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:29
-
ののが最近様子がおかしかったこと。
一人で考え込んでたり、あんまり前みたいにはしゃがなくなったり、
お菓子も食べなかったり、メールもしなくなったこと。
一度口を開いたら、次から次へとそれはまるで溶け出した雪が雪崩れ
ていくようにと止めることができなかった。
そんなうちの言葉を、中澤さんは黙って聞いててくれた。
いつもの突っ込みもダメ出しも入れずに、ただ黙って。
それが、心地よかったんかも知れん。
まるでちっちゃい子が駄々こねるように、うちは中澤さんにいままでの
不安をぶちまけてた。
今朝、珍しくいつものののに戻ったかと思ったら、まるで辞める気みた
いなことを突然MCで言ったこと。
そのことを問い詰めたけど、うちには何にも言ってくれなかったこと。
うちが切れたら、夜公演が終わったら話すって言ったのに、そのまま
になってること。
それから・・・
- 136 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:31
-
「・・・のの、今ユウキ君の部屋に居んねん。あの人と友達になってから、
ののおかしいねん。ののは多分、うちと居るよりあの人と居るほうがいい
んやって思ってる。うちには言わないこともきっとあの人には相談してる。
ののにとってはうちは単なる相方で、相棒やないねん。それにもう相方で
いるのも嫌になってんにちがいないわ!だから今日コンサであんなことっ!
うちだって何回もどうしたんって聞いたのに・・・きっとうちには言いた
ないねん。うちはっ・・・・」
バンッ!
「加護っ!」
両肩を強く叩かれて、うちはようやく自分が途中から泣きながら叫んで
たことに気づいた。
涙でぼやける目を正面に向けると、さっきと同じ、泣き笑いの優しい目で
中澤さんがうちのことを見てた。
急に恥ずかしくなったうちは、ティッシュで乱暴に涙をぬぐった。
- 137 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:34
- 「・・・・ごめんなさい。」
・・・中澤さんに当たってしまって。
「ええよ。いくらでもうちに当たったらええ。・・・でもな、一人で
抱え込むことないねんで?いくらWで二人でやってる言うたって、二人
で何でも解決せなあかんわけやないよ?・・・何のためにうちやごっつぁん、
それになっちや圭ちゃん、圭織がおるんよ?石川や吉澤だってあんたらのこと
は心配してるんやで?」
「・・・のっ・・・ののとだったら、何が起こっても大丈夫だって・・・
思ってた。のののこと、一番分かってるのはうちやって思ってたから。
・・・だから、言えへんかった。誰にも・・・うっ・・・うちがっ、分か
らんくなったのののことっ・・・誰にも相談なんかしたなかったぁぁ!」
ふわっ・・・
中澤さんの髪がうちの濡れた頬に触れて、気づいたらまた、抱きしめられてた。
あぁ、もぉ。
うちってほんと、お子ちゃまやなぁ・・・。
そう思いながらも、思いのほか心地いい腕の中で、またちょっとだけ、泣いた。
ううん。ほんまは声を上げて泣いた。
久しぶりに。
- 138 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:36
-
「・・・辻のこと、な。たぶん今の辻の気持ち、卒業メンバーみんな
分かるで。」
「えっ?!」
ひっくひっく言いながらも、中澤さんの腕の中で落ち着いてきた頃、
うちの髪をなでながら中澤さんが言った言葉に思わずしゃっくりも
止まりそうになった。
「伊達に年取ってるわけやないねんで?うちらかていろんな事悩み
ながら人並みに年重ねてる訳や。」
「・・・のののことは、『そういう年頃』とかそういう問題なん?」
一応、うちもタメなんやけどな。
「おおざっぱに言うたらな。・・・ま、辻の場合は他にもあるか知れん
けど、人生の節目って言うかな?そうやって悩んだりおかしなったり
する時期っちゅうんが多かれ少なかれ誰にでもあるんよ。」
「ののが人生の節目に立ってるってこと?18になったから?うちかて
ののとタメやのに?」
うちもあと半年もしたら、節目ってやつになるん?
「あんな・・・、みんながみんな同じときになるってないから。たとえば
・・・そやな。生理が始まったり、胸大きなったりする時期あるやろ?」
はぁ・・・。
いきなり下ネタ行くんですか?
思いながらも頷く。
「そん時みんな同じ時になってへんやろ?早い子も居れば、中学入っても
まだな子とか居ったやろ?」
・・・確かに。
早い子は恥ずかしがって見つからんようにしとったわ。
「それと似てるかな。誰にでも節目はあるけど、それがいつかは人それぞれ
なんや。胸と一緒でおっきい悩みもあればちっさい悩みもあるってことや。」
・・・後半適当やろ。中澤さん。
でも、なんかちょっと安心した。
ののがその節目ってやつなら、みんなが通る道なんだもんね。
- 139 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:38
- 「のののやつ、胸ちっさいくせに節目でかすぎやで。」
「あはは、あいつ筋肉質やからなぁ。」
いや、関係あらへんやろ、それは。
タケカンムリしかあってへんし!
「ま、辻のことはごっつぁんに任しとき。弟もついでに説教できて
効率ええやろ。」
うわっ!
また忘れてた、ごっちんさっきめっちゃ怒鳴ってたやん。
のの大丈夫かなぁ。
「ごっちんさっきすっごい怒ってた。」
「ま、そやろな〜。」
「のの、ごっちんに嫌われたりしない?」
「そらないわ。ごっつぁんなぁ、さっきタクシーでホテル向かってるとき、
あんたらのこと妹みたいに思ってる言ってたからなぁ。なんやかや言って
できの悪い妹や弟ほど可愛いもんなんやで。」
妹かぁ・・・なんかうれしいかも。
うち長女やから、お姉ちゃん欲しかってん。
「だからな、加護ももっとごっつぁんのこと頼って甘えなあかんで?
辻に妹の座占領されんようにな。」
わしゃわしゃと頭をなでられてたら、たぶん中澤さんもごっちんと
同じ気持ちなんだろな・・・って何となく気づいた。
- 140 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:39
- だから、ちょっとだけ毒づいて言ってみた。
「じゃ、中澤さんはお母さんだ!お母さ〜ん、ケーキ食べた〜い!」
小突かれるかな?
って思ってたのに、中澤さんは一瞬ふって笑って、その後うちの背中を
軽くポンって叩いてにっこり笑った。
「元気なったみたいやね。じゃ、先にうちらだけでケーキ食べとこか?
辻には内緒やで?」
そう笑った中澤さんの顔はホントにお母さんみたいで、うちはまた金縛り
に遭ったみたいに呆然とケーキの箱をあける中澤さんを見ていた。
ぼぉっとしていたら、中澤さんがモンブランとフォークを渡してくれて。
『馬鹿な子ほど可愛い』
しばらくはこれを座右の銘にしようかと思った。
- 141 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/08/31(水) 01:40
-
- 142 名前:みょん 投稿日:2005/08/31(水) 01:41
-
本日の更新はここまでです。
- 143 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 01:56
- 想定の範囲外でした。だがそこが(・∀・)イイ!
名前の間違いで吹いちゃいました。
- 144 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/02(金) 01:51
- 初めて読んで一気にここまで読みましたがとってもおもしろいですね!
恋レボまでの娘ヲタとしては興味あるキャラが多くて嬉しいです
- 145 名前:みょん 投稿日:2005/09/14(水) 02:13
- >>143様
ありがとうございます。
ちょっと迷ったとこだったので、そう言っていただけてホッとしました^^;
>>144様
ありがとうございます。
私もASAYAN〜恋レボあたりの娘。がドラマチックで一番好きです。
- 146 名前:みょん 投稿日:2005/09/14(水) 02:13
-
更新します。
- 147 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:14
- 「ケーキ食べながらでええから、話聞いてくれるか?」
そんな風に切り出した中澤さんの話は、到底うちの想像の範囲を超えたもので。
思わず、最後に食べようと取っておいたモンブランの頂上の栗を、口に入れ損ねて
落とすほどだった。
- 148 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:15
-
卒業メンバーでユニット?
参加したらハローに戻れなくなる?
別会社ってなんなん?
なんで売り上げにノルマみたいのつけられとんの?
もうミニモニ。歌えへんの?
Wも・・・なくなる?
ちょっと待って。
なんやねん、それ?
あの卒業コンサートはなんやったん?
じゃあ、うちらのこの数年は一体なんやったん?
・・・・だって。
- 149 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:16
- 「これって・・・リストラやん。・・・そうなんやろ?中澤さん。」
口に出したけど、不思議と涙は出てこなかった。
案外こんなこと冷静に言ってる自分に嫌になっては来るけど。
だけど事務所がやる人事ってやつに、今更泣いたりするのは違うって・・・
ののと卒業したあの日からそう思うようになった。
決められたことにジタバタするよりは、それまでをどう過ごすか、それからを
どうしていくか、そっちを考えるのに忙しいからだ。
正直、会社の上の方が思ってることとか、大人の社会のこととか、難しいこと
よう分からん。
けど、自分が置かれてる立場くらいは分かってるつもり。
今中澤さんが話してくれたことって、つまりはうちらはもう売り物
にならんって言われたようなもんやろ?
一か八かで大勝負に出るか、慎ましく消えていくか・・・
終わり方を選べ、そう言われてるんだって、そのくらいは短い芸能
生活の中で分かるようになってん。
「そやな。うちも最初そう思ってん。」
最初は?
意味分からんで、中澤さん。
最初も何も、それ以外ないやん。
中澤さん、うちのこと子供扱いしてぼやかして言わんでもええよ?
もう、栗が落ちたくらいじゃ泣かへんよ、うちは。
そりゃさっきは泣いたけどさ。
あれは、ののが・・・。
- 150 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:18
- ・・・って・・・!
「ちょっと待って!中澤さん、この話いつ聞いたん?あと誰が知ってんの?」
思わず、フォークをテーブルに叩きつけて聞いた。
だって、だってさ。
「なんやねん、急に大きい声だして、ビックリしたわ。」
「いつ?ねぇ、いつ聞いたん?」
「・・・今日の午後、緊急ミーティングがあってな、そこではじめて聞いたんや。
たぶんまだ、この紙にある該当メンバーと一部の事務所の上の人しか知らんはずや。
・・・どないしたん?そんな興奮して。」
今日の・・・午後やて?
・・・じゃあなんでのの、朝あんなこと言うたん?なんでその緊急ミーティング
やってる時間にDo it! Now歌って、あんなこと言うたん?・・・いつから、知ってたん?
あかん・・・また頭こんがらがってきた。
- 151 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:19
-
落ち着こう思ってふと、視線を上げると中澤さんの、神妙?な顔。
「・・・どういうことや?」
声のトーンが明らかに低いし。
ちょっとだけ、怖いかも。
「辻が、こん事知ってるんか?」
・・・え・・・。
うち、今、考えてたこと・・・口に出してた?
けど、確信はうちにもないし。
だから、確かめたかってん。
うちだけが知らんことだったんか、それともののだけが知ってしまったことなんか。
それを確かめられたら、今日のののの行動に理由が付くような気がして。
ののが選択したことが何なのか、分かるような気がして。
ううん、違うわ。
分かってしまったから、だから。
違う可能性をちょっとでも見つけたくて、うち確かめたかってん。
ののが居なくなること・・・否定できる何かの事実を。
- 152 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:21
- 「加護!大事なことやねん、どうなんや?辻は知っとるんか?」
ぐいっ
って腕をつかまれて、自分がずいぶん黙り込んでたんだって事に気づいた。
目の前の中澤さんは、さっきのお母さんみたいな笑顔じゃなく、すっかり癖
になった眉間に皴のよった険しい顔。
あぁ・・・、中澤さんにも分かってしまったんや。
でも、でもっ。
「っ知らんっ!うち知らんもん!」
こんなこと分かりたくなんかなかった。
こんなこと知らずに、ののと二人していつまでもアホなことしてたかった!
「加護っ!ちゃんと言い!辻は知ってるんやろ?」
両手首をつかまれて、グッと引き寄せられて、うちと中澤さんの距離は
10センチもない。
キッと目を見つめられると、うちは口にしたくないことを口走ってまう。
口に出したら全てがホントになってしまいそうで。
「いっ嫌やぁ!うち何も知らんもん!知らん!知らん!知らぁぁんもん!!」
気づいたら叫びながら、中澤さんを振り倒して、テーブルを何度も叩いて・・・。
床に倒れこんだ中澤さんに、起き上がりながらキッと睨まれたとこで、うちの涙腺は決壊した。
- 153 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:23
- 「・・・っく、そんな顔されたってうち知らんもん。・・・なんでうちに
言わすん?・・・しっ知らんもん、言えへんもぉん!・・・うわぁ〜ん、
うち知らんもぉん・・・」
「泣いたってわめいたってな、許してもらえる時とそうでない時があんねん。
・・・なぁ、加護。あんた位賢い子やったら分かるやろ?辻のこと知ってるん
はあんただけなんよ、裕ちゃんに教えてくれへんか?」
いつの間にかうちの正面に倒れてたはずの中澤さんが、うちの隣に来てた。
許してくれるとかそんなん、知らんもん。
うちアホやし。
「・・・っわ、わからんもぉんっ」
「加護!」
ガシッっと肩を強く抱かれる。
そんなんされても、
「ううぅ、わから・・・へんもぉん!なっ中澤さんのアホ、バカ・・・っいじわる、
わからんちん!・・・なかざ・・っわさんなんかっ・・・」
「嫌いでもええで。」
「ぅぅうっ・・・」
「嫌いでもええから、ちゃんと話して。あたしらにもあの子の心配させてくれ
たってええやろ?」
「・・・のっののはいつもうちと一緒やもんっ」
「そやな。そやから加護に聞いてるんよ?」
「こっ・・・これからもずっと一緒やもぉん」
「そうや。これからも一緒に居たいんやろ?みんなあんたらにはいつまでも
一緒で居ってほしい思てるわ。」
「だっ・・だからうちはなんも言わへん!言いたないぃ!」
「加護!!うちが信じられへんか?!」
「ぃ嫌やぁぁ!!もういやぁやぁぁあ!!」
中澤さんが怒鳴って。
うちが叫んで。
泣いて泣いて、泣いて・・・。
- 154 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:25
-
これは悪い夢なんだ。
目が覚めたらいつもの朝が待ってて、隣のベッドにはののが布団をずり落とした
まま寝てて、うちはののの布団を直しながら、モーニングコールがかかるまで
ののの寝顔を見てすごすんだ。
そうや、よく考えたら夢以外ありえない展開やん。
なんで今更卒業したメンバー集めてユニット作らなあかんねん。
だったら卒業した意味ないやん。
しかも、福田さんとか引退してるねんで?石黒さんや市井さんなんて子持ちやし。
よっすぃ〜が抜けた娘。なんて一般人誰も分からんメンバーばっかやし、美勇伝
やって梨華ちゃん抜けたら三好ちゃんと岡田ちゃんどうしたらええねん。
ごっちんと安倍さんがハロプロ抜けたら、後浦なつみどうすんねん。コンサの
動員どうすんねん。
おばちゃん居なくなったらうたばんのネタなくなるし、矢口さん居なく
なったらTVで観れるのはあややだけやで?
中澤さん居なくなったらエリック潰れるし、大体ハローのリーダーどうすんねん。
うちとのの居なくなったらベリーズどうす・・・
ガチャッ!
「あいぼん!どうしたの!?」
- 155 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:27
-
うちを引き戻したのは皮肉にもそんなののの声で。
ドアを開けるなり泣いてるうちに駆け寄ってきたののの左頬についた紅葉の
ような赤い跡を見た時、・・・ああやっぱりこれは現実なんや・・・って、
ますます泣けてきた。
・・・それから後は、よく覚えていない。
ただ、泣いてるうちを抱きしめながらも真っ直ぐ中澤さんを見つめて、
「あたしはこのプロジェクトには参加しない。」
そう言ったののの横顔だけは、なんでか目に焼きついてる。
今日のコンサでDo it! Nowを歌った時のあの顔。
その顔で言い切ったののの目は、うちとは対照的に涙ひとつなかった。
そんなののの腕に抱かれながら、うちは涙が止まらなくて。
しゃくりあげる呼吸の中、何も言えずにののが話すのを見てた。
話の内容は覚えてない。ただただ、ののの横顔だけを見てた。
- 156 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:28
-
うちとののは隣り合った駅みたい。
同じ方向を向いてる時は一番近いのに、逆の方向に進み始めると一番遠い。
ずっと同じとこに行くと思ってたんやけどなぁ。
どこで道が違ったんやろ。
隣駅のことだから、よく知ってるつもりやったのに。
・・・せめて路線が山手線ならいいな・・・
そしたら一周回ってまた会えるのに。
ののの腕の中、そんなことを思ってた。
- 157 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:28
-
- 158 名前:Vol.3 コントラスト 投稿日:2005/09/14(水) 02:30
-
Vol.3 コントラスト はここまで。
- 159 名前:みょん 投稿日:2005/09/14(水) 02:31
-
本日の更新はここまでです。
- 160 名前:名無し飼育 投稿日:2005/09/24(土) 22:26
- これから各自どんな風に動いていくのかすごく楽しみです
本当に現実で起こりそうなリアルさにドキドキしています
応援してるので頑張ってください
- 161 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/07(金) 01:37
- すんごくつらくなったです
だから続き読みたくなりました
- 162 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/25(金) 00:34
- 放置ですか?
- 163 名前:みょん 投稿日:2005/11/25(金) 02:05
- 申し訳ありません。
レスを下さっている方がいるのに、3ヶ月近く放置してしまいました。
本当に失礼な事をしてしまって反省しています。
今月中には更新したいと思いますので、今しばらくこの場をお貸しください。
すみませんでした。
- 164 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/25(金) 08:59
- あみん(・∀・)
- 165 名前:みょん 投稿日:2005/12/01(木) 02:41
- 大変間があいてしまってすみませんでした。
しかもすでに12月に入ってしまいました。
更新いたします。
今回から辻さん視点になります。
- 166 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:43
-
Vol.4 午前10時の気持ち
- 167 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:43
-
『辻加護の加護ちゃんじゃないほう』
あたしの芸能人としての位置づけは良くも悪くもその一言で表せる。
だからって別にあいぼんを妬んだり、恨んだりとかはしてない、今は。
そりゃあね、一時は一緒にされるのが嫌で反発したりもしたし、なんであいぼん
だけ〜って思った事も確かにあるよ。
そのくらいずっと一緒だったし、うちらも比べられてなんぼみたいな気持ちはいつ
も持ってたからお互い。
これからもずっと一緒なんだろうな・・・って本気で信じてた時期だってある。
運命、とかね信じたりしたい年頃だったんだ。
不安だったから。
ずっと二人で・・・なんて夢みたいな事本気で思ってた。
- 168 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:43
-
だけど、運命とかそういうロマンチックなものに逃げ込める時間はそう長くないん
だなって気づき始めたのは今年の年明けあたりから。
別に何がきっかけって訳じゃない。
ただ、このままでいいのかな?
・・・って疑問がふとした瞬間に浮かんで、それからは毎日のように自分の今ま
でとこれからを振り返って、考えて〜、みたいな繰り返しで。
まぁ、その前にエッセイとか出したし、なんか自分自身を振り返ることがちょっと
クセみたいになってたのかもしんないけど。
なんせ、割と影響されやすい性質なんで。
- 169 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:44
-
同級生やお姉ちゃんがママになったり、カオリンが卒業したり、もっと後になる
けど矢口さんが脱退したり、よっちゃんが娘。のリーダーになったり・・・。
とにかく周りがめまぐるしく変化してく中で、あたしはこのままでいいのかなって
思いが時間が経つごとにどんどん強くなってって、自分でもヤバイかなって思っ
た時、偶然ユウキに会った。
ちょうどその頃、あたしはちょっとでも自分を変えたくて18歳の誕生日の2ヶ月
前から通える教習所に事務所には内緒で通い始めた頃だった。
なんで車の免許なのか、あたしのことだからそんな深くは考えてなかったけど。
とにかく普通の18歳がすることをしたかったんだと思う。
それから、車を運転して、どっかに自分で行ってみたかった。
自分の思うままに(まぁ交通ルールは守るけどね)計画立てないドライブとか、
してみたかったから。
- 170 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:45
-
「あれ?久しぶり。」
学科教習室の一番後ろの席に座ってたあたしに、気の抜けたような声をかけ
て隣に座った男の人。
内心、『ナンパかよっ!』って三村さんばりにツッコミながらも、実はここの生徒
に初めて声かけられてちょっと嬉しかったりもしたことは内緒だけどね。
だってなんかみんなあたしがプライベートで来てるって気を遣ってくれちゃって、
すっごく視線は感じるんだけど話しかけてこないんだよね。
ありがたいような寂しいような、すっごく複雑。
「ちょうどよかった。教本忘れてきたんだ、見せて?」
相変わらず悪びれる風もなく、気の抜けた声でそう言った横顔をちらっと見て、
ビックリした。
「うわ・・・」
思わず小声でつぶやいた。
ホントに久しぶりに見る顔だったから。
「・・・うわっ・・て。相変わらず変なリアクションなんだ、あんた。」
ククッ・・・って笑った顔はやっぱり相変わらずごっちんにそっくりで、あ〜、やっぱ
人ってそう簡単には変わんないんだなって、なんか妙に納得した。
そしたらなんか笑えてきた。
ちょっとでも自分を変えたくてとか言ってこんなとこ通ってる自分とか、そんでもっ
てこんなとこ来てまで同業者(元だけど)に遭遇してる自分とか、なんかおかしいじゃん。
- 171 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:46
- 「てか、ユウキ君なんでここにいんのさ?」
「・・・なんでって、あんたと同じ。免許取りに来るとこじゃないの?ここって。」
「そうだけど・・・なんか意外で。・・・あ、あたしがいるのも意外か。こんなとこで
会うと思ってなかったし。」
意外・・・そうだ。
大体ここの生徒さんたちも、教官も、芸能人が通ってるって事よりも、あたしが
免許を取りに来る歳だって事が意外みたいで、直接は言われないけど、ちらほ
らとそんな噂が耳に入ってくる。
まぁ、普段TVで観てるあたしってよほど子供っぽいし、実際普通の17歳より
幼いから仕方ないんだけどさ。
けど。
「別に。だってあんた俺の1個下じゃん。」
なんてことないって感じで流されて、なんだかちょっとそれが癇に障った。
数年ぶりに会ったってのにそりゃあんまりにも無関心すぎない?
子供な自分。
あたしの中では最近の考え事の大半を占める関心事だってのに。
もう何ヶ月も悩んでることをこうもサラッと流されては、拍子抜けどころかちょっとムカつく。
「なんか周りは意外みたいよ。子供だと思ってたのに!とかさ。」
意味なく愚痴ってみたりして。
ふぅ・・・
隣でため息が聞こえて、その後彼が言った言葉は色んな意味で一生忘れないと思う。
- 172 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:47
- 「・・・あのさ、俺が言うのもなんだけど、自分が特別だとか思ってんなら止めた方が
いいよ、それ。まわりからしたら全然特別じゃないから。だからって言って普通だと
思ってるのも間違い。俺もあんたも普通にはなれないから、普通じゃないから。」
単純にショックだった。
あたしは特別な存在になりたくて、オーディション受けて娘。に入って。
それで少なくともファンの人たちにとっての“特別”になれたと思ってた。
でも最近このままでいいのかなって・・・、自分はあいぼんと二人でいるから特別なのか
とか、じゃああたし個人が“特別” になるにはどうしたらいいのかとか、そんな事考えてて。
歳相応じゃない自分のキャラと、普通の17歳としての辻希美をなんとかしたくて。
普通の歳相応の事を経験してみたら、キャラの方も何か変えられるのかなとか思ってここにいる。
それが一瞬で全否定された。
言い返せなかったのは、芸能界を追われる形でやめてった彼が言った言葉は、
あまりにも説得力があったから。
特別にも普通にもなれないってことを突きつけられたはずなのに、なぜか笑えてきた。
こんな時に笑っちゃうからあたしはダメなのかな・・・ってちょっと自虐的な気分になりかけた時。
- 173 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:48
- 「ま、普通じゃないもん同士なら、特別にも普通にもなれるってのもあるけどな。」
って声が隣から聞こえてきて、見たらちょっとバツ悪そうな顔でニッって笑った。
その顔があんまりにも幼くって、まるでさっきの言葉を吐いた人間とは思えなかった。
なるほど。
きっとあたしにもそんなとこがあるんだろうな、きっと。
妙に子供で妙に大人・・・仕方ないか。
「同士がいるだけマシってことか。・・・てかさ、さっきから気になってたんだけど
あんた呼ばわりやめてくんない?」
「じゃ〜、なに?辻ちゃん?」
「やだ。」
なんか、それってイヤミかよ?
特別で普通になるって言っといてそれかよ!
「なんだよ、わがままだな。つ〜か、そっちこそユウキ君とかやめろよ、キモイ!」
「じゃあユウキで。」
キモイ言うなら呼び捨てだコンニャロメ。
「おっし!じゃあ希美で。」
「じゃそういうことで!」
名前を呼び捨て合う友達なんて、そういやいなかったなぁ。
なんて。
仕方ないか、中学からまともに学校行けてないし、アイドル同士の付き合いで
呼び捨てってのもおかしいし。
あたしらだけの普通で特別な関係はそこから始まった。
- 174 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:49
- ユウキとは教習所で会うたびに色んな話をした。
仕事の事、家族の事、もっと深い話も。
未だにどこに行っても『ゴマキのできの悪い弟』として見られるユウキは、ひどく
傷ついてはいたけど、それでも『真希ちゃんのことは好き、これ以上真希ちゃん
には迷惑かけたくない』って笑う。
それはどこか『辻加護の加護ちゃんじゃないほう』のあたしの心境に似ていた。
話をすればするほどに、あたしらには似たところが多くて、共感してるうちに
どんどんどんどんお互いに惹きつけられた。
二人で居る時だけは、お互いに歳相応でいられた。
子供っぽく振舞う事も、大人ぶることも何も必要なかった。
ユウキはあたしを甘やかさなかったし、あたしもユウキに甘えることはなかった。
そういう関係が心地よかった。
ユウキもあたしも、不安定なとこが良く似てて、あたしはよく泣き言を言って、
ユウキはよくイラついてた。
だけどお互いに抱えてる事を吐き出せる関係でもあった。
もともとが二人ともかっこ悪い同士だったから。
- 175 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:50
- こんなこというとまた夢みたいなこと言って・・・って馬鹿にされるかもだけど、
この同士との出会いからあたしは変わったと思う。
仕事への意識が前向きになったし、それまで休みがちだったフットサルの
練習も暇を見つけてはできるだけ参加するようにした。
Wの将来のことももっと真剣に考え始めた。
あいぼんとあたし、お互い合わせるんじゃなくて、それぞれの個性を出したほう
がユニットとしておもしろいんじゃないかとか、Wの何年後かを見据えて今自分
が何をするべきなのかとか、いろいろ考えたり。
・・・たぶん、吐き出せるとこ、自分をさらけ出せるとこを見つけたら軽くなれたんだと思う。
気持ちも、フットワークも。
だけど。
なにもかもがいい方向に行きそうな6月のある日、一通のメールが届いた。
- 176 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:50
-
『極秘新プロジェクトの件』
それは誤送信だったんだと思う。
そう、かしましのあたしのとこの歌詞のまんま。
まさにこれ→『送っちゃいけないあの子に送信したらしい(凹む〜)』
凹むのはこっちだよ!
というか、実際は凹んでる暇なんかなかった。
とにかく考える事がありすぎて。
それに、これを勘のいいあいぼんに秘密にしておけるかどうかが自分の中で一番不安だった。
あいぼんのやる気をそぐような、そんな話題は出したくなかったから。
あたしはともかく、あいぼんには、このプロジェクトに参加して欲しい。
その思いはこのメールを見たときから今まで変わらなかった。
- 177 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:51
-
- 178 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2005/12/01(木) 02:53
-
- 179 名前:みょん 投稿日:2005/12/01(木) 02:54
-
本日の更新はここまでです。
- 180 名前:みょん 投稿日:2005/12/01(木) 02:59
- >レスくださった皆様へ
せっかく続きを期待していただいてたのに、更新が大変遅くなってしまいまして
申し訳ございませんでした。
今後はできるだけ定期的に更新していきたいと思っています。
これからもよろしくお願いします。
- 181 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/03(土) 00:01
- 更新お疲れ様です。
実は更新あるかなーと一番にチェックするのはこの話です。
いつも楽しみにしているので、
定期的に更新があるとすごくうれしいです。
応援してます。
- 182 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:52
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 183 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/09(月) 02:58
- 更新まだぁ〜??
- 184 名前:みょん 投稿日:2006/01/17(火) 00:00
- >>181様
あたたかいお言葉ありがとうございます。
それなのにまた間が空いてしまって本当にすみません。
もう少し早く書けるようにがんばります。
>>183様
本当に遅くなってしまってすみません。
待ってていただいたようでありがたいやら情けないやらです。
- 185 名前:みょん 投稿日:2006/01/17(火) 00:00
-
更新します。
- 186 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:03
- その事を知ってからのあたしは、とにかくあいぼんのこと以外考えられなくなってた。
それまでの半年くらい、自分のことばっか考えてたってのにね、変なの。
なんかね、そのプロジェクトの存在を知ってからは、そのユニットの真ん中にいる
あいぼんを見たくて見たくて仕方なかったんだ。
だから、真っ先に。
次の日の教習所からの帰り道、バイクで家まで送ってくれるって言ったユウキと、
地元のカラオケに寄って、歌も歌わずにこのことを話した。
ほんとは会ったらすぐにでも話したかったけど、さすがに事が事だけに教習所で
話すわけにはいかないし、かと言って電話やメールで話せるような内容でもなかったし。
念のため、カラオケをBGMにしては大きいくらいの音量で流しながら、マイク使わずにこっそり話した。
そこまでするあたしはばかみたいだけど、そのくらい重大な秘密事項だって思ったから。
「・・・で?その隣に自分は居るんだろ?」
ユウキは相変わらず飄々として、さして驚いた様子もなくって、あたしとしては
結構な秘密を打ち明けたってのに全くの拍子抜けで。
まぁ、だから話す相手に選んだのかも知んないな。
だってさ・・・『え〜!!マジでぇ!?』とか言われたら、結構引くもんな。
そんなハイテンションになられたら、あたしの思ってる事半分も言えないまんま、
一緒にギャーギャー言って気持ちとか意思とかどうでも良くなっちゃいそうだもん、あたしなら。
そう、あたしの気持ち。
- 187 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:04
- 「ん〜・・・。それが不思議なんだよね。その中に居る自分がまったく想像できない
んだよね。とにかく、あいぼんには真ん中でがんばってほしいってのあるんだけどさ〜。」
カラカラ・・・
プラスチックのグラスのコーラをストローでかき混ぜながら、昨日から『こりゃどうした
もんかね』って思ってた事を口にする。
「へ〜、あんたらセットじゃないの?冷たいねー希美さんは。相棒にはそのリストラ
ユニットでがんばれ、自分はどうしようか迷い中?」
ニヤニヤ笑いながらユウキが意地悪っぽく言った。
ま、そうなの。そうなんだよね〜。
「やっぱそう思う〜?だよね、冷たいよね。うあ〜っ!もぉ!あたしサイテー!サイテーだぁ!!」
ガンッ!ぐわっ
グラスをテーブルに置いて、そのままソファに仰向けになって、両手で頭抱え込む。
はぁ・・・ホント最低だよ。。。
「・・・あ〜、やけに素直だね。」
「だってさ〜!・・・あいぼんとはずっと一緒にやってきたし、これからも一緒だと思ってたんだよ?
これはホント。マジでそう思ってWの将来のこととかも考えてたわけ、あたしなりに。けどさ・・・。」
「いざ昔に帰れみたいなことを言われたら急に未来が見えなくなった?」
・・・それなんだよな〜。
「なんで言おうとすること先に言うかな、ユウキは。」
「だって分かりやすすぎ。」
「・・・悪かったね、単純で。」
- 188 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:04
- でもさ。
ちょっと違うとこもあるんだよ。
ま〜、これはあたしとあいぼんの間でしかわかんない事なんだけどさ。
これをユウキに分かれって言ってもね・・・こいつは途中で投げ出した奴だからな〜。
チラ見したら、タバコなんか吸ってるし。
あんたまだ未成年だろ〜、ばーかばーか。
「あ、今コイツに言ってもわかんね〜だろって顔してたろ。」
・・・ばれてら〜。
「ま、バカだからな、わかんね〜かもな。まぁ、ラディの希美さんからすれば?
俺なんかまだまだひよっこですから〜?ぷぷっ・・」
噴出してんじゃないっつの!
しつこいなー!
さっきここ入ったときにトイレ探してて、あたしが『LADYS』ってのを読み違えたの
まだバカにしてんだよ。
お前は小学生か!さっきもさんざん笑ったくせに。
「うっさい、ハゲ!」
「ハゲ言うな、チビ!」
「チビ言うな、シスコン!」
「シスコン言うな、バカ!」
あぁぁ〜もぉぉぉおお〜!!
こんなくだんないことしにきたわけじゃないのになぁ。
末っ子同士だからかなんか知んないけど、うちらは時々こんな馬鹿げたことを言い合っちゃう。
シリアスな話をすることも多いけど、そんな時にはなおさらこんな言い合いになりやすくって。
それがうちらの弱さなんだろうな、あいぼんとはこんな言い合い、もう何年もしてないもん。
・・・あいぼん大人だから。
- 189 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:05
-
バフッ
「はぁ〜。・・・で?俺がわかんない話って何?」
向かいのソファにうつぶせに寝転がったユウキが呆れたように言う。
「聞くんだ?やっぱ。」
仰向けのあたしはそのままヤニで黄色く染まった天井を見ながらつぶやく。
「聞いて欲しかったら言えば?」
ちぇ・・・。
「愛想ないなぁ。」
「お生憎様。愛想は一生分振りまいた後なんだよ。」
「あそ。しけてんね、一生分にしては。ま・・・いいけどさ。」
それからあたしは、ふぅっと溜め息をひとつついた後、あいぼんとあたしのことを話し出した。
それは、もしかしたら誰にも言った事がないことかもしれない。
でもみんな気づいてた事かもしれない。
だけど、それをはっきりと誰かに打ち明けた事はない。
あたしの口からこの事を話す事でここから何かが変わってく事だって、ずっと思ってたから。
それが独りよがりの思い込みだとしても。
変わっていく事がずっと怖かったから。
いつか、時が来たらあいぼんに話せたらいいな。
けど、それはまだ今じゃない。
根拠はないけどそう思う。
- 190 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:07
-
あたしとあいぼんが娘。に入ったのは5年ほど前。
ちょうど小学校卒業した時で、あいぼんはともかく、あたしはホント何も考えて
ないただのガキんちょだった。
オーディションの時から、あいぼんはとにかく歌も上手くて、ダンスもできて・・・
必然的に同い年のあたしはあいぼんに勝手にライバル意識みたいなのを持ち始めた。
初めはすごく怖かった。
あいぼんができる事があたしはできない。
そのうちあたしは娘。にいらない子になっちゃうんじゃないかって、すっごく焦った。
ほんとはあいぼんだけじゃなくて、よっちゃんや梨華ちゃんにも負けちゃだめって
思わなきゃいけないんだけどね、同期なんだし。
だけど初めのその思い込みが強かったのか、あたしは加入から今まで、あいぼん
しか見えてなかったみたいで。
だから、とにかくあいぼんといつも一緒に居た。
同い年だからとか、気があったからとかじゃなくて。
あたしはあいぼんと一緒に居れば、娘。に居続けられる・・・そう思って一緒に居たんだ。
今になってみればそれはすごく楽しかったし、同い年の二人が一緒に居るのは
自然な事だし。
初めはそんな感じで声をかけたけど、二人で居ることの居心地のよさや、
自分があいぼんのこと好きだなってことすぐわかった。
だけど仲良くなればなるほど、セット扱いで番組や仕事に出るたびに、無邪気な
顔してそんなことを考えてた自分に、ずっと、後ろめたさを感じてた。
- 191 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:08
-
あいぼんは優しいから。
こんな気持ちで近づいたあたしとも仲良くしてくれたし、『たんぽぽよりミニモニ。が好き』
とか言って、干され気味なあたしにいつも気を遣ってくれた。
あいぼんが推されるのは、実力があるから。
あたしが干されるのは、実力がないから。
あたしはわかってるのに、それをひがんだりもした。
あいぼんはいつもすまなそうな顔をしてた。
『ののと遊びたいのになぁ・・・。うちこれから仕事やねん、ごめんな〜。』
そんなあいぼんの優しい言葉も、その頃のあたしは嫌味にとったりした。
後輩が入ってきても、あたしはやっぱりあいぼんしか見えてなくて。
あいぼんが誰と仲良くなるか、あいぼんより先に誰と仲良くしようか、そんなことばっかり。
そのうち二人で居る時間も少なくなって、事務所的にも新しく入ったメンバーと
あたしたちを絡ませる事が増えていった。
あいぼんと居る時間が少なくなって、初めてあたしは自分の置かれてる状況を
少し考え始めるようになった。
あいぼんとの実力の差は縮まってないし、周りには同年代の歌もダンスも得意な後輩達。
同期の梨華ちゃんやよっちゃんはすでにセンター経験者になってた。
中澤さんもごっちんも、おばちゃんも卒業して、なんとなくみんなうっすらと危機感を感じ始めていた。
こんなこと言うのもどうかと思うけど、娘。に入って初めて、とにかく必死で練習した。
いらない子になりたくなくて。
同じ気持ちであいぼんに声かけたことを思い出して、ますます素直にあいぼんに接する事ができなくなった。
- 192 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:08
- それからだいぶ経って、あいぼんと一緒に卒業して、W結成が決った。
すっごく嬉しかった。
あたしはやっとあいぼんと一緒になれるんだ、あいぼんの相棒としてやっていくんだって。
だけど、Wで居る時のあいぼんは娘。の時とはやっぱり違って。
それもそのはずだよね。
あたしと二人だとどうしても子供を演じ続けなきゃいけない。
一気に5年前までリセットされた気分だった。
それでも一緒に居ることで、あたしたちなりにWとして二人のキャラの棲み分けとかそういう
のを考えるのは楽しかった。
ちょっとづつ、ちょっとづつマイナーチェンジして、オトナになってこうよ、なんて相談したりして。
そうやってずっと二人なら、いろんな未来が見えてきていた。
- 193 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:09
-
ずっと思ってた事がある。
あたしが娘。に入れなかったら。
4期がよっちゃん、梨華ちゃん、あいぼんの三人だったら。
あいぼんは今どんな風なんだろう?
たぶん。
いや、きっとごっちんみたいにセンターやって、ソロデビューして、セクシーで
ちょっと小生意気ないい女になってたはず。
絶対に、子供キャラをいつまでも要求されたりしてないよ。
あいぼんは優しいから。
初めからずっとあたしに合わせてくれてる。
それにずっと甘えてるのはあたし。
自分が作ったような二人のキャラを、今更投げ出そうとしてるのもあたし。
Wになってから忘れかけてたけど、今回のプロジェクトを知った時にあらためて
そんな思いが強くなった。
ほとんど確信と言ってもいいかもしれない。
- 194 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:11
- あたしはこのプロジェクトに参加するべきじゃない。
二度目のリセットは、あいぼん一人で。
今のあたしじゃ、あいぼんの隣にはいれない。
また繰り返す事になっちゃうから。
あたしはもっと自分を持たなきゃだめだし、もっと成長しなきゃいけない。
一人でやっていけるだけの何かがないと、あのプロジェクトのメンバーにはなれない。
今のまんまでプロジェクトに参加したとして、見える未来のあたしはいつまでも年不相応に甘えてて。
その隣であいぼんはあたしに付き合っていつまでもオトナになれない。
・・・かと言ってあたしに付き合ってあいぼんまでプロジェクトに参加させないわけには行かない。
だってあたしにはあたしが居なかった場合のあいぼんを想像できるから。
甘えた自分を捨てきれないと、またあいぼんを道連れにしてしまう。
それだけはもうしたくないから。
だから、モーニング娘。の、Wの“辻ちゃん”をぶっ壊すことに決めた。
これから、新プロジェクトの発表の9月まで、3ヶ月かけてちょっとずつ、でも確実に、
“辻ちゃん”を壊してくことに決めた。
“辻ちゃん”が居なくなれば、“加護ちゃん”はもっと自由になれる。
もっともっと輝けるはず。
あんなずるい考えで近づいて、あいぼんを子供キャラで縛ったあたしができる
初めてだけど、たぶんこれが最後の恩返し。
こんなことで、失った大事な時間が戻るわけじゃないけど、でもまだ今なら間に合う気がした。
これが最後のチャンスだと思った。
あいぼんと、あたしの時計をもう一度動かし始めるための、最後のチャンスだって。
- 195 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:11
-
あいぼんはすごく大事な相棒で、あたしにとってかけがいのない戦友。
思えばあたしはずっとあいぼんに憧れていたのかも知れない。
あはは、そうか。きっとあたしはあいぼんの大ファンだったんだ。
それは今も変わらないし、これからもずっと、変わらないって言い切れる。
だからこそあたしは、あいぼんにはこのプロジェクトの真ん中で歌ってて欲しいって思う。
たとえ、隣にあたしがいなくなっても。
- 196 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:13
- 「それって単に独りよがりの罪悪感なんじゃん?」
一通り話し終えたあたしに、眠たそうな目をしたユウキが問いかけた。
独りよがりって・・・まぁ正直否定しないけどさ。
「分かってるけど実際そうなんだからしかたないじゃん。」
あいぼんはオトナ。あたしはコドモ。
あいぼんはオトナだからコドモにひきづられちゃう。
「俺から見たら両方ガキだけどね、こまっしゃくれたガキとハナタレのガキ」
「あたしハナタレだろ?」
「さぁね〜?」
「ムカツク、ユウキのクセに。」
お前はいけ好かないガキじゃん。
つーかさ。
「とにかくあいぼんはオトナなんだって、のんと違って!」
「ハッ!のんと違って、ね〜。」
くっそ、また“のん”とか言っちゃったじゃんよ〜!
馬鹿にされるからやめてたのに〜。
「む〜か〜つ〜く〜。」
ソファに寝転んだまんま、バタバタ・・・って、ほんとあたしってばガキだよ〜。
マジ凹む。
あ〜やだやだ。
- 197 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:13
- 「・・・で?どうやってぶっ壊すの?辻ちゃん。」
宝探しみたいな目で見てるし・・・絶対楽しんでるでしょ?
まぁ、いいけどさ・・・。
「一度、一人になって自分に何ができるか試してみたい。自分が何をしたいのかも。」
はぁ・・・自分で言っといて何言ってんだかとつっこみたくなる。
つか、質問と答えあってくね?
この場に美貴ちゃんが居たら絶対そうつっこまれてるな、うん。
だけどユウキはつっこまなかったし、笑いもしなかった。
「引退、とか、考えてる?」
妙に区切りをつけてそう言った。
なんだよ、なんでユウキがそこでビビるんだよ、自分じゃないのに。
そう思ったけど、あたしもそれは口に出さなかった。
「ん〜・・・。引退とかはないと思う。あたし歌好きだし、ダンスも。でも、ハローは抜ける。」
「なんで?」
「あたし生まれ変わりたいんだ。このままだったらきっとあたしダメになる。それだけは
分かってるから、一回ゼロに戻ってやり直したいんだ、いろんなこと。」
ハロー抜けたら、所属がなくなるから、たぶんもうCDとか出せないだろうし、テレビにも
出らんないだろうけど。
それでもインディースでもストリートでもいいから歌は歌ってたいし、ダンスも続けたい。
それで何かが見えてくるような気がする。
- 198 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:14
- 「・・・なんか、紗耶香ちゃんも同じ様な事真希ちゃんに言ってた、モー娘。辞める時。」
紗耶香ちゃん・・・?
!って!市井さん?!
「ちょっとぉ〜、不吉な事言わないでよ〜!」
結局できちゃった結婚で引退とか・・・そんなの嫌だって!
「うわっ!ひで〜!一応先輩だろ〜?」
ユウキがなぜかバカうけしながら起き上がって、指差してるけどさ。
「初めっからそんなの想定したくないもん〜。そりゃ〜ね、いいよ?それが自分の
見つけた道だったらさ。市井さんがどうとかじゃなくってさ・・・」
あたしはもっと自分に自信をつけたくて、自分を見つけたくってやり直したいのに。
・・・そう言おうとした言葉が切れちゃったのは、寝転んでいるあたしの前髪を、
思いがけなく優しく、ユウキがなでたからで。
「・・・希美は大丈夫だよ。」
なんて、全くユウキらしくない優しい言葉をちょっと笑顔で言うもんだから。
なんだ、こいつこんな表情もできるんだ・・・なんてちょっと見とれてしまった。
目が合うと、いつものユウキみたくフッ・・て鼻で笑って
「まぁ〜、もしそうなってもその時はしょうがないからもらってやるよ。」
そう言いながら顔を近づけて目を閉じ・・・
- 199 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:15
-
って、おい!
ゴンッ!!!
「調子に乗るな!てかお前の子かよっ!やだよ!絶対!!」
「痛ってぇ〜!!頭突きかよ!ガキ!」
額押さえてキレてるし〜!
ふん!ガキはどっちだよ、まったく。
お前は中学生かよ、やることばっか考えて〜!!!
ったく、こっちだって頭痛いんだって。
一瞬でも見とれてた自分に腹が立つ。
「だいたいね〜、もし無人島にあんたと二人になっても絶対嫌だから!」
「あのね〜、無人島トーク今時流行んないよ?」
はぁ?!
「流行るとか流行んないとかじゃなくて、とにかく無理!」
「真希ちゃんには抱きつくくせに・・・。」
なんだこのウザイの。
「ごっちんのこと好きだもん。」
あ〜別に恋愛とかじゃなくてね・・・ってあたし誰に弁解してんだろ。
「あ、そか。俺髪伸ばして〜・・・そだ、胸パットとか入れとく?」
もうやだ・・・どうにかして、この人。
「ば・・・」
「ば?」
「・・・・っかじゃないの?ごっちんの弟とそんなことできるわけないじゃん、
やめてよそういう冗談。」
冗談。
そう、冗談。
たぶんあたしはユウキに惹かれてる。そしてたぶんユウキも。
だけど、いつもうちらを冷静にしてくれるのはごっちんの存在で。
お互いに一歩を踏み出せないうちらを時々こんな性質の悪い冗談で笑おうとするのはユウキ。
・・・はぁ。
- 200 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:17
- 「そんなことになったら、ごっちんマジで怒るだろうね・・・。」
「真希ちゃんキレたらマジ怖いよ?」
あの逃亡劇の後のマジギレしたごっちんを知ってるユウキには相当なトラウマらしい。
もう結構経ってる上に、ユウキ自身もすでに19になってるってのに、やっぱり
未だにごっちんが怖いってまるでコドモみたいに言うから。
いつもはここで笑っちゃうんだけど、今日は笑えなかった。
その後ユウキがまた笑えない冗談を言うもんだから。
「まぁ、“辻ちゃん”ぶっ壊すのにはちょうどいいネタなんだけどな、スキャンダルとか。
その役やってやってもいいけど、暇だし。」
「な・・・に、言ってんの?」
そんなことしたらユウキが・・・また叩かれるよ?
やっと、世間からは忘れられたっていうのに。
また、“ゴマキのできの悪い弟が”って、言われちゃうよ?
思わず床に座ってあたしを見下ろしているユウキを見上げた。
- 201 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:17
-
あ・・・、また。
さっきの表情。
「ま、俺はもうすでに恥ずかしいヤツだからさ、今更何が加わっても大して変わんないし。」
「・・・でも・・。」
関係ないユウキをこんな事に巻き込めないよ。
「もう普通にはどっち道なれないんだし、たまには特別な人のためになにかしたっていいかなって」
特別、か・・・そうだったね。
うちらは友達でも恋人でも家族でもない、普通で、特別な・・・同士。
それから・・・今からは共犯者、か。
・・・ごっちんを怒らせちゃうかもしれないなぁ。
そんなことを考えながら、ゆっくりと目を閉じた誕生日前夜。
あいぼんに言えない秘密がまた増えたことにちょっとだけ泣いた。
- 202 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:18
-
- 203 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/01/17(火) 00:18
-
- 204 名前:みょん 投稿日:2006/01/17(火) 00:19
-
本日の更新はここまでです。
・・・なんだか話がなかなか進まなくてすみません。
- 205 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/17(火) 01:29
- 更新お疲れ様です。
うーん。やっぱこの話いいですね。
深いです。
続き楽しみにしてます。
- 206 名前:みょん 投稿日:2006/02/22(水) 01:46
- >>205様
なかなか進まない話にお付き合いいただいて
いつもありがとうございます。
- 207 名前:みょん 投稿日:2006/02/22(水) 01:47
-
更新します
- 208 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:48
-
「なんであんたがここにいんのよっ?!」
突然部屋から聞こえたごっちんの怒鳴り声に一瞬、頭の中が真っ白に
なった。
左耳に当てた携帯からは『おい、聞いてるんか?』なんてつんくさんの声
がまるで充電切れを知らせるアラームみたいに無意味に聞こえてて。
そっか、ごっちんが来たんだ、予想外かも。
ってどこかで無関心ぶる自分もいたりして。
とにかく、もう後には引けない、逃げ場はないって事だけはすぐに分かった。
・・・やっぱ怒らせちゃったね、ごめんねごっちん。
心の中で一人ごちて、それから、バスルームのドアに手をかける。
ノブを引く前に、ポニーテールのゴムを解いて、髪の毛を片手で適当に
撫で付けて、とりあえずの儀式は済んだ。
「つんくさん、すみません。最後のわがままだと思って、さっきの件おねが
いします。じゃ、中澤さんきたみたいなんで切りますね。」
つんくさんにそれだけ告げて、携帯の電源ごと電話を切った。
- 209 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:48
-
ドアを開けると、さっきより大きいごっちんの声が聞こえて、一瞬だけ、
その本気さ具合に謝って許してもらおうなんて甘えた自分が出てきそ
うになる。
ここが、ユウキの部屋でよかった。
ユウキをつれてきててよかった。
じゃなかったらたぶんあたしはまたいつもの“辻ちゃん”に逆戻りするとこ
だった。
あたしはユウキが好き。
あたしとユウキは愛し合っている。
さっきつんくさんに電話する前に何度も自分に言い聞かせた、少しだけ
真実に近い嘘を呪文のように唱える。
だいじょうぶ、あたしは立ち止まったりしない。
あたしたちの未来のために、こんなとこで迷ってたって始まんない。
- 210 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:49
- 意を決して、脱衣所のドアを開けた。
目に飛び込んできたのはユウキに馬乗りになって、両手で襟元を掴ん
でるごっちんの姿。
「何やってんのよ?!つーじーはあたしの妹みたいなもんなんだよ?
なんであんたが・・・なんで?!なんであたしの周りばっかこんなっ・・・」
ごっちんは目の周りが赤くなってて、なんだか今にも泣きそうで。
「・・・真希ちゃん」
いくらごっちんの腕力があるからって、どう考えても男のユウキの方が力
があるに決まってる。
・・・だけどごっちんにごっちんに馬乗りされてるユウキは、まったくの無
抵抗で、ただただごっちんを見上げてるだけだった。
左頬には真っ赤な手形。
「・・っ、あんたなんか、あんたなんかっ!」
馬乗りになってるはずなのに苦しそうな表情のごっちんが、右手を振り
上げた時。
体が、勝手に動いた。
「ごっちんやめて!!」
バ・・・チン
腕を振り下ろしたごっちんが目を見開いて、わなわなと震える唇が『つ・じ』
って動いたのを見た時、左頬のじんじんする痛みの理由がわかった。
- 211 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:49
-
「希美!」
ユウキの声が聞こえて、後ろからあたしをかばうように抱き寄せられた。
その腕が、抱き寄せるって行為とは矛盾して、微かに震えてた。
かばうっていうよりもまるで、小さな兄妹が、片寄せあうみたいな。
あたしをかばいながらもあたしに頼ってるユウキを背中に感じた瞬間、
あたしの中で何かが吹っ切れた。
ふふ、やっぱあたしら似た者同士だ。
臆病で、弱虫で、ちょっとだけ、卑怯。
今だってお互いに逃げ道探してるんでしょ?
だいじょうぶ。
それはあたしが塞いであげる。
あの日、埃っぽいカラオケ屋であたしの逃げ道を塞いでくれたのは
あんたなんだから。
あの日のキスは、共犯者の証。
それ以外の意味を持たないし、持たせちゃいけない。
あの日、あのキスであたしたちは恋心を封印した。
だから、たとえあの日のキスが無駄になったとしても、あの日のあたし
たちには悔いは残したくない。
- 212 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:50
- まるでそうすることが自然なみたいにあたしの口はさっき唱えた呪文
を繰り返してた。
「ごっちんごめん。・・・あたし、ユウキが好きだ。」
・・・あ、はは。あたし演技もできるじゃん。そりゃそうか、最初にあいぼん
に近づいたときもこんなだったのかな、あたし。
なんて、趣味の悪い事をどこかで思いながらも、まるで頭と口が連携して
ないみたいなことを、次から次へと口にしてた。
「あたしが、勝手に好きになったの。」
言われたごっちんは、しばらく放心した後、やっとあたしを見て、すごくど
こかが痛そうな表情。
「・・・本気、なの?」
あたしを見つめながら口にした言葉はそんな一言で、あたしはごっちんの
目を見てその後頷いた。
目を見て嘘つくなんて、あたし詐欺師の才能あるんじゃないだろうか。
・・・いらないけどさ、そんな才能。
「ごっちんに内緒にしてたのは悪いと思ってる。でも、あたしユウキが好
きなの。言ったら反対されるってわかってたから、だから言えなくって・・
・ごめんなさい。」
- 213 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:51
-
なんだか胸がひりひりした。
「・・・ねぇ、つーじー。本気で言ってんの?」
ひりひり。
ごっちんの、感情を映さないその目も、だらんと力の抜けた腕も、急に低
くなったその声も。
ごっちんが本気で怒ったって事なんだろうって。
分かってるんだけど、ひりひりする胸があたしを後押しして。
「本気。」
途中でやめる何で事はできなかった。
「そっか・・・。」
無表情のまま、ごっちんが立ち上がって馬乗りになってたユウキの上か
らどいた。
あたしを後ろから抱いてたユウキの腕が緩んで、あたしも立ち上がろうと
した時、うちらを見下ろしてたごっちんの低い声が聞こえた。
- 214 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:51
-
「じゃ、もう忘れて。」
一瞬、何を言われてるのか分かんなくて、ユウキと二人そのままの姿勢
でごっちんを見上げた。
ごっちんの表情は室内灯の陰になっててよく分かんなかった。
「弟の事はもう忘れてくれないかな。」
ごっちんの言いたい事が分かってしまった。
「弟にはせめて平凡な人並みの幸せを味わって欲しい。」
「・・・真希ちゃん。」
後ろでつぶやいたユウキにも分かったみたい。
確かに、巻き込んだのは、あたしだ。
特別な人だと言って、協力してくれる事になったけど、むしろユウキにとっ
て何かしてあげなきゃいけない特別な人はごっちんだし。
あたしのわがままにこれ以上付き合わせて、一番悲しむのはごっちんだ。
「弟の事、本気で想ってくれてるなら忘れてやって。・・・ユウキの姉として、
お願いします。」
ごっちんはそう言うと、膝をついて、正座して、頭を下げた。
これって・・・土下座ってやつだよね。
そんなことを場違いにも思いながらも、あたしはその場から金縛りにあった
みたいに動けなくなった。
- 215 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:52
-
「真希ちゃんやめろよ!」
声と同時にあたしの背中に合ったぬくもりがなくなって、ごっちんの頭をあ
げさせるユウキをただただ見てるしかなかった。
ユウキに抱き起こされふるふると震えながら顔を上げたごっちんは、静か
に左目から泪を流してて。
きっとそれはあたしが流させた涙なんだ。
あたしが嘘で、ごっちんを泣かせたんだ。
「あたしが、この世界に入ったから、ユウキは傷ついたの。それをまた繰
り返したくないの。つーじー、お願い。もうそっとしといてくれないかな?」
あぁ、ごっちん、ちゃんとユウキのこと見てたんだね。
それがちょっと嬉しくもあるし、苦しくもある。
・・・やっぱり、こんな嘘、ついちゃだめだったんだよ。
『あたしとユウキは付き合ってないよ、これからも付き合うことはないよ。
あたしのわがままに付き合ってもらってただけ。それももうやめるよ。』
・・・そう言おうとした時だった。
- 216 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:52
-
「真希ちゃんにそんなこと言われたくない。」
今まで沈黙してたユウキの声だった。
その声は少し怒ったみたいな声で、あたしの知らない声だった。
「別に俺は真希ちゃんのせいで傷ついたり、バカな事やったわけじゃな
い。うぬぼれんなよ真希ちゃん。」
「ユウキは黙ってて!ね、つーじー一生のお願い。」
「そっちこそ黙れ!!」
突然、ユウキが怒鳴って、ごっちんの体がびくっと震えた。
ユウキはごっちんのことすごく好きで、慕ってて怖がってて、だからたぶん
ユウキがごっちんを怒鳴るなんて事、今までなかったんだと思う。
・・・あたしのせいだ。
だけどあたしは止めることもできなくて、バカみたいにそこに突っ立ってる
しかできなかった。
- 217 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:54
-
「なんで俺に言わないで希美に言うんだよ。真希ちゃんが言うあたしの
せいでとか、希美といるとまた繰り返すとか・・・、なんなんだよ!俺に
おこる事はみんな俺以外のせいなのかよ?・・・あんまバカにすんなよ。」
「あたしはもうあんたの悪口を知らないヤツに言わせたくないの!」
「・・・なんだよそれ。俺だって真希ちゃんの悪口なんか聞きたくないし。だ
からって真希ちゃんゲーノーカイ引退すんのかよ?そういうことだろ?」
「だってあんたはもう、一般人なんだよ?」
「だから?俺が一般人だからってなんで希美が悪いみたいになるんだよ?
俺だってもう自分のやることの責任とれるし、大切な人の事はちゃんと自分
が守るつもりだし。」
「・・・ねぇ」
ふと、ごっちんが顔を上げてユウキを見上げた。
それまでの言い争いとは場違いな、薄っすらとした笑みで、震える声で
言った言葉。
「ユウキの大切な人って・・・あたし?それとも・・・辻?」
その言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。
誰よりも家族を大切にしてきたごっちんにこんな言葉を言わせるまで追
い詰めたのはあたしとユウキの嘘だ。
だけど、あたしはその時、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ思っちゃったから。
- 218 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:54
-
“あたしって言って”
・・・って。
- 219 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:55
- だから。
「真希ちゃんいいかげんにし」
「っもうやめて!!」
それを打ち消すように、叫んだ。
だけどユウキの目を見ちゃったら、絶対あたし分からなくなる。
ごっちんを傷つけた。
理由はそれで十分だよ。
だから、うつむいたまま言った。
「バイバイ、ユウキ。」
ホントの気持ちはあたしにも、誰にも解らない。
隠したつもりの気持ちはどこかに忘れて。
だから、そんな事を言ったあたしは顔を上げて、薄く笑った。
・・・アイドルやっててよかった。
- 220 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:57
- そのまま静かに部屋を出た。
ユウキやごっちんの声が聞こえたけど、ごめん、振り返れそうにないや。
“辻ちゃん”は作り笑いが苦手なんだ、そう長く笑ってる自信ない。
あぁ、なんだか景色がぼやけてるよ。
やっぱり泣くのかな、弱いな。
廊下を歩きながら、涙が出ないように奥歯をかみ締める。
とにかくここは空気が薄い気がするよ、すごく息苦しいし。
廊下の突き当たりのドアを開けると、むっとする夏の夜の空気で、夜中
にしてはやけに明るい空を見上げた瞬間、自分の恋が終わったんだっ
て実感した。
・・・体中の力が、抜けた。
- 221 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:57
-
「ははっ・・・はははは・・・。」
埃っぽいカラオケボックスで封印したつもりの恋。
それがホテルのこんな薄汚い非常階段で終わったってのもなんだかな〜。
「・・・なにやってんだろ、あたし。」
今夜が正念場だとか言って、今朝から計画通りに行ってたはずなんだ
けどな・・・。
非常階段の手すりに寄りかかって、へたり込んでるなんて。
あいぼんに会う前に、力尽きそうだよ。
強くなりたくて、一人前になりたくてやってたのに、どうやら恋は人を弱く
するものらしい。
「ばかだよ〜!もう!」
こんなことしてる場合じゃないのに。
あいぼんが部屋で待ってるのに。
なのにどうしたものかな、体に力が入らない。
けっこうキツイんだね、失恋って。
今なら梨華ちゃんを尊敬できる気がするよ、うん。
あたしは梨華ちゃんみたいな完璧な笑顔できなかったもんなぁ・・・。
はぁ・・・
偉いよ、梨華ちゃんはさぁ・・・。
- 222 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 01:58
- 本格的に手すりに頭を預けて、座り込んだ。
ゴリッ・・・
何かが砕けた感触がして、カーゴパンツのお尻のポケットの中を探る。
ケータイだったらもうこりゃ笑うしかないな・・・。
と思ったけど、出てきたのはレモン色の包装の飴ちゃんで・・・。
今朝、今夜の事でいっぱいいっぱいで朝ごはんがほとんど喉を通らなか
ったあたしに、あいぼんがむりやり握らせてくれた飴ちゃん。
『のの夏バテ〜?酸っぱいもの食べたら食欲でるんやておばあちゃん言
ってたから。』
そう言って握らせてくれたのを、あたしそのままポケットに入れっぱなし
にしてたんだ・・・。
- 223 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 02:03
-
ピリッ・・・
包装を指で開ける。
薄黄色の飴ちゃんは見事にあたしのお尻で細かく砕けてて、だけど、
その分レモンの香りが強く感じた。
砕けた欠片を口に入れたら、甘酸っぱい味が一気に広がって、なんでか
涙が止まらなかった。
「・・・ありがとう、あいぼん。・・・ごめんね。」
これが溶けたら行くから、だから今だけ弱い子で居させて。
きっとこれ食べたら、いつもの辻希美に戻れるはずだから。
こんな時ですらあいぼんに救われてる自分がホントちっちゃく
感じた。
- 224 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 02:03
-
- 225 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/02/22(水) 02:04
-
- 226 名前:みょん 投稿日:2006/02/22(水) 02:05
-
本日の更新はここまでです。
月1ペースになっちゃってすみません。
- 227 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/22(水) 22:23
- 更新お疲れ様です。
月1でもいいのです。
放置っぽくなると、続きが読めなくなるのではと怖いのです。
でも催促するのもなんとなく怖いのです。
楽しみにしてますよ〜。
- 228 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/23(木) 00:20
- ここののんちゃんが既存のキャラとは違ってて好きです
- 229 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/03(月) 23:09
- 更新まだですか?
- 230 名前:みょん 投稿日:2006/04/05(水) 01:35
- 年度末でバタバタしていてなかなか更新ができなくてすみません。
なんとか今週中には更新したいと思っております。
ほんとごめんなさい。
- 231 名前:みょん 投稿日:2006/04/09(日) 23:55
- 更新が遅くなりすみませんでした。
更新いたします。
- 232 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/09(日) 23:56
- ガチャッ・・・
「・・・ここに居たんだ?」
非常階段に座り込んでたら、ドアが開いて、一瞬、ユウキがきたのかと思って
顔を上げてしまった。
「・・・ごっちん・・・。」
なんだか、すごくバツが悪くて、それでいて泣いてた自分を見せたのがごっちん
でよかったとどこかでほっとした。
左手でとりあえず流れたまんまだった涙をぬぐって、ハァ・・・と情けないため息を
ついたあたしの顔はたぶん眉毛が下がってるんだろうなぁ・・・。
もっときっちり眉描いとけばよかった。
コンサの後だもんなぁ・・・そりゃナチュラルメイクに戻すよ。
「ごめんね。」
ほら、こうやってごっちんがあたしの前にしゃがみこんで、目を合わせて優しい
言葉かけたりしたら、あたしもっと情けない顔になりそう。
- 233 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/09(日) 23:57
- いつからだろう、怒られるより、優しくされると涙が出るようになったのは。
なぜだか、こんな時の涙は人に見られたくない。
やきそばや極楽さんにさんざん泣かされた時のとは違う。
誰かの卒業の時の涙ともナンか違う。
なんだろう・・・自分の一番奥を覗かれるみたいな気がして。
いつものじゅもん。
いつものお調子者に戻れるおまじない。
しっかり眉毛を描いて、白のラインを入れて、この言葉を言えば、こんな時あたしが
泣きそうになってるなんて誰も気づかない。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。」
ぶんぶん首を振って唱える。
やっぱり眉毛が下がってるから、ちょっと効き目は薄いかも・・・でも、だいじょうぶ。
「だいじょうぶだよ、ごっちん。もう、終わったから。」
「つーじー。」
ごっちんの目があたしを心配してるように揺らいでるのはきっと気のせい。
だいじょうぶだいじょうぶ、もう、笑えるはず。
ほら。
「だいじょぶだよ?ありがとね、ごっちん。」
「ん?」
「あたしのために、ユウキのために、言ってくれたんだよね?妹みたいって言って
くれたの、嬉しかった。ユウキのこともごっちんがあんなに思ってくれてて、なん
か嬉しかったんだ。だから、ありがと。」
「あぁっ!!もうっ!つーじーのばかっ!!!」
急に、至近距離で叫ばれて、一瞬びくっとしてしまう。
「ごっちん?」
おそるおそるごっちんの顔を覗き込もうとしたら、
ガッ・・・
っていきなり肩を掴まれて、身動きできなくなってしまった。
- 234 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/09(日) 23:58
- 「ユウキもね、怒りながら泣いてたよ。なんで希美が一番大変な時に一緒に苦労
してやれないんだって。それで辻のことがね、気になって来てみたら、こっちも泣い
てるし。・・・なんなの?」
その体勢のまま顔を上げたごっちんは、さっきまでの心配そうな表情じゃなくって。
うん、そうだ、このごっちんは今、怒ってる。
でもね、違うよね、ごっちん。
そこでごっちんが怒るのはおかしいよね。
大体『なんなの?』ってなんなの?
「わかんない。」
なんだか投げやりな答えしか浮かばない。
自分の感情の名前が、恋だったのはわかってる。
だけどそれはつい今さっき終わらせたんだし、今のあたしたちの関係がなんだっ
て言われたって、わかんないよそんなもん!
- 235 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/09(日) 23:58
-
「あたしはね、怒ってるわけじゃないんだよ。ただ、なんなんだろうと思ってね、
二人の関係って。さっきは頭に血が上ってて気づかなかったんだけどさ。たと
えばだよ?あたしが二人が付き合うのを止めなかったとする。そしたら、あん
たたちはそのまま付き合ってたんだろうか?いや、そもそもあの時点で付き合
っていたんだろうか?って。」
難しげな顔で、まるで古畑さんみたいなことをぶつぶつと言い出したごっちん。
あはは。
さすがごっちんだね、ダテに恋愛の場数は踏んでないね。
やっぱり今日ここにごっちんが来たのは正解だよ、中澤さんナイスチョイス〜!
って、そんなこと言ってる場合じゃないか。うん。
「・・・なんで?」
考えるのに時間が欲しかった(だって“ののちゃんは考えるのに時間がかかる”
んだよ、※フジテレビ公認)
だから、逆にごっちんに聞いてみた。
「二人ともさ、泣くぐらいなら・・・なんで一緒にいたいって言わないの?なんで
一緒にいてあたしも納得する方法を考えないの?普通付き合ってる二人なら
そうするでしょ?それに、あんたたち一度もあたしに認めて欲しいって言わな
かったし。」
う〜ん。
以外にすんなりとごっちんに答えられちゃったし。
あたし古畑に出たら一時間でオムニバス10本はいけるんじゃないだろうか・・・。
しかたない・・・。
というか、これ以上ごっちんに嘘つき続けるのも嫌だし、それに早くあいぼんの
ところに行きたかった。
日付が変わってしまう前に、小細工じゃなく本題に入ってしまいたかった。
決意を口にしないと今のあたしはそれを覆しちゃいそうだったから。
- 236 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 00:06
- 「ユウキとあたしは、特別なんだ。」
「はぁ?なにそれ。あたしの読み違い?ノロケ?」
あからさまにがっくりしたような顔のごっちん。
「ノロケかも。ごっちんが言ったとおり、うちらは付き合ってないし、これからも
付き合うつもりないよ?ごっちんに言われたからとかじゃなくて。これはもう前
から決めた事だし。」
「ちょっと待って、つーじー。何言ってるかわかんない。」
前髪を掻き上げながら、その場に座り込むごっちん。
「うん。でもお互い大事に思ってるのは本当。」
「好き同士ってわかってんのに付き合わないってこと?なんで?」
ごくり。
つばを飲み込む。
息を吸い込んで一気に言った。
「あたしが恋より夢を選んだから。ユウキはそれに協力したかったから。お互い
封印したの、恋とか愛とかそういうのは。」
それはなんだか、ヘタな告白とかよりも勇気がいるくせに、言葉にしてしまうと
すごく薄っぺらで、言った自分が恥ずかしくなるようなセリフで。
ごっちんの反応をすごい気にしてた。
ごっちんは、しばらく黙ってあたしの言った言葉を頭の中で繰り返してるみたい
に、口を動かして、その後なんかどっかのドラマのひとみたいなありふれた言葉
そ返してくれた。
「・・・なんか分かるかも。ごとーもそうやって別れた彼氏いたし。」
・・・なんだかちょっとだけ、気持ちが軽くなった。
- 237 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 00:10
- 今ならほんとのこと、ちゃんと言える気がする。
この、ごっちんになら。
「うちらは初めっから付き合ったりしてなかったけど。なんか、いい同士って感じ。
似てるの、すごく。」
「似てる〜?そういやつーじーとあたしの声とか顔似てるってよく言われるもんねー。
ユウキとも似てるのかもね、だったら。」
・・・って、ごっちん。
あたしごっちんと似てるなんて言われた事ないって。
「いや、そうじゃなくって中身だよ。」
「あは、そっかそっか・・・てか中身とか、つーじーのが全然しっかりしてんじゃん!
あいつプーだよ?」
そう、今、言わなきゃ。
「うん、弱いとこがね・・・やんなるくらい似てんの。だからね、ユウキ利用してごっちん
のこと、騙したんだあたし。・・・ごめんね。」
そのまま、頭を下げたら、ふわっ・・・てごっちんの手があたしの後ろ頭に。
「あはは、あたしつーじーに騙されて涙まで流しちゃったんじゃん。アホだね〜。
おっかしいなぁ、あいぼんの嘘はすぐ見破ったのになぁ・・・。」
ポンポン・・・って軽く頭を叩きながらあっけらかんとしてるし。
あたしはと言えば、ごっちんの言った言葉が、気になって仕方がない。
- 238 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 00:12
- 「あいぼんの嘘って?」
「つーじーがユウキといること隠すのに、なぁ〜んか変な小芝居してた。さすがWだね、
二人して同じことして。」
「・・・あいぼん・・・」
あたしのことかばって、そんな嘘ついてたなんて。
自分の事ばっかりで、『後で話す』って言った約束も、破っちゃってるあたしのことかばっ
て、大好きなごっちんと、怒ったら怖い中澤さんに嘘ついてたなんて。
「あいぼん今頃裕ちゃんにお説教食らってんじゃない?つーじーの夢がなんなのか、
あいぼんが知ってるのかどうか知んないけどさ。」
「ごっちんごめん!」
あいぼんのとこ、行かなきゃ。
再びごっちんに頭を下げて、顔を上げると・・・
「ん?あたしはこれからユウキお説教しなきゃなんないし。・・・いいよ、あいぼんのとこ行
きたいんでしょ?」
そんな言葉と、何もかもお見通しのお姉さんなごっちんの笑顔。
- 239 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 00:12
-
立ち上がって、もう一度、最後に頭を下げる。
あいぼんが、ごっちんに教わった、謝るときのお辞儀の角度で。
あいぼんの受け売りだけど、ごっちんの教育、ちゃんとあたしも受けたんだよ。
だから。
「ごっちん、ごめんなさい、ありがとう。」
「んあ〜、いいってことよ。あたしも手加減なくひっぱたいちゃったしね〜おあいこ。
ほらほら、早く会いあいぼんとこ行ったげて!」
お辞儀した格好のまま、景気よくベシッなんてお尻を叩かれて、それでやっと
あたし一歩が踏み出せた。
あいぼんへの一歩。
ありがとうね、ごっちん。
これで全速力で走れそう、あいぼんが待ってるあの部屋まで。
- 240 名前:みょん 投稿日:2006/04/10(月) 00:16
-
だいぶ間があいてしまってすみませんでした。
実はまだ今回分途中なんですが、とりあえずきりのいいところまであげました。
出来次第更新します。
- 241 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:33
- とにかく、あいぼんのことが気になって部屋に戻った。
自分でそうするように仕向けといて、今更気になる・・・なんてのも虫が良すぎる
なって思ったけど。
それでも勘の良すぎる相棒がすべて気づいてしまった時、そばで抱いていて
あげるのは自分でありたい、そんな身勝手な気持ちを抑える事ができなくて、
あたしは思いっきり勢いつけてドアを開いた。
ドアを開けると、飛び込んできたのはあいぼんの泣き叫ぶ声。
床にへたり込んで、子供みたいにわんわん泣いてるあいぼん。
思えば、こんなあいぼんを見たのは初めてだったかもしれない。
今ほど、あいぼんが自分を必要としてるって感じられた事は皮肉にもなかった
かもしれない。
- 242 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:34
-
「あいぼん!どうしたの!?」
気づいたら駆け出して、ぎゅっとあいぼんを抱きしめてた。
あたしの腕をぎゅって掴んで、震えながら泣き続けるあいぼんは、なんだか
すごく弱い女の子みたいで、いつもあたしが追いかけてた背中よりもずっと
ずっと小さく感じた。
・・・あぁ、あたしずっとこうしたかったんだな。
あいぼんの体を抱き支えながら、こんな状況にしといて、そんな事を思った。
一瞬だけ・・・一瞬だけこのままで居たいと思った。
そう思ったとたん、グラっと視界が転回しそうになる。
胃液がこみ上げてきて、今朝の決心がぐらつきそうになる。
いつもそう。
なんであたしは、こうも気分に影響されるんだろう。
こんな時は・・・そうだ、声、出さなきゃ。
声を出して、言葉にしないと弱い自分に負けそうになる。
じゃなきゃ、あたしのためにごっちんに怒られてるユウキにもわらわれる。
目の前であたしたちを切ないものを見る目で見ている中澤さんをじっと見つめる。
だいじょうぶ。
きっとだいじょうぶ。
すっ・・・っと息を吸い込んで、あとは言葉をのせるだけ。
自分で決めた事を、そのまま伝えればいい。
- 243 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:35
-
「あたしはこのプロジェクトには参加しない。」
自分が口にしたこの言葉だけが、この部屋の中で浮いてる感じがした。
そのくらい、しばらくの間、あたしも、中澤さんも、あいぼんの泣き声さえもしんと
静まり返っていた。
しばらくの沈黙のあと、あいぼんがうぅっと嗚咽をもらして、それを合図にしたみたい
に中澤さんが口を開いた。
「あんたも、あんたも矢口と同じなんか?」
矢口さん・・・彼氏と別れる事を事務所に言われて、娘。を去った矢口さん。
あたしも、それと同じ事するのかって・・・。
同じじゃない、矢口さんのは純粋な気持ちだけど、あたしのは違う。
あたしはこの腕の中に居るあいぼんと離れたいがために、ユウキを使ってみんな
を騙して・・・。
目を閉じる。
罪悪感に押しつぶされないように。
ホントの理由はあいぼんだけには気づかせちゃいけない。
嫌われても、軽蔑されても、あいぼんにだけは。
- 244 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:36
-
目を開いて、中澤さんの目を見つめる。
すごく悲しそうな色をした目。
ごめんなさい。あたしこれからもっと悲しませる。
「そう思ってくれても構わない。」
「・・・あんたこのプロジェクトのこと前から知ってたみたいやな?うちらより長い
時間かけて考えた答えがそれなん?なぁ。」
「あたしなりに、十分考えた。考えたらこれが一番いい方法だって、思った。
中澤さん達とは一緒にやれないけど、娘。で一緒だった時間はすごく・・・」
「ちょっと待ちいや!!あんた何一人で話締めようとしてんねん!あんたはそれ
で納得したかも知れんけど加護はどうなるんや?あんたのことずっと心配しって
てんで!心配して心配して、この子がどんだけあんたの居ないこの部屋で泣いた
と思てんねん!」
わかってる・・・わかってるよ。
あいぼんが心配して、泣いてたって。
それに、今だってありえないくらい泣いてる。
それがあたしのせいだってことくらいわかるよ。
でも、そうするしかないんだよ。
あたしたちはいつかお互いを離れて、一人で立たなきゃいけない。
それがあたしには今で、あいぼんには違かったってこと。
「うん。あいぼんには話せなかった。それは悪かったと思ってる。でも、言える
わけないでしょ?こんなこと。なんて言えばいいの?あたしはハロー抜ける
けど、あいぼんは中澤さん達と頑張ってって?・・・あんまりでしょ、こんなの。」
そうだ、あんまりだ。
- 245 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:37
- 「・・・ハロー抜けるってどういうことなん?なんでそうなるん?男できたからって、
今までの事、あんたはみんな捨ててしまうんか?」
ぽろぽろ・・・
中澤さんの目から涙がつぎつぎにこぼれてく。
あぁ、あいぼんも中澤さんも、あたしのためにこんなに泣いてくれるんだね。
あたしがこんなに泣かせたんだね。
「あんたは、うちらを捨ててくんか?」
・・・捨てるつもりなんてない。
でも、もしかしたらつもりがないだけでそうなのかもしれない。
「なぁ、辻ぃ・・・。あんた、歌好きやったろ?ダンスも、みんなとワイワイ過ご
すんも、あんた一番好きやったんちゃうん?・・・それともそんなんも、好き
な男ができたらどうでもよくなるんか?」
中澤さんがあたしの手首をつかんで、一生懸命振りながら、訴えかけてくる。
なんだか、その姿はすごく悲しすぎて、苦しすぎて。
この人に嘘を突き通すなんて無理、分かってたけど、改めて好きだなぁって
思った。
- 246 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:37
-
「中澤さん、あたし一度一人で一からやり直したいんだ。ユウキのことは関係
ないよ。今、愛とか恋とか、考えてる余裕ないし。ただ、このプロジェクト知っ
たら一人で何ができるか、考えてみたくなったんだ。」
「だったら、なんでそれを加護に言わんかったん?この子があんたの事心配
してるんはあんただって・・・」
「知ってたよ!でも、あたしがそんな事言ったら、あいぼん絶対自分も一緒
にプロジェクト参加しないって言うから!・・・だからずっと知らない振りしてた。」
だからずっと、ユウキのとこに逃げてたんだ。
あいぼんの瞳から逃げてたんだ。
「なぁ、そこまで思ってくれてる相棒がいんのに、あんたはあくまでも一人でやり
たいってゆうんか?」
手首を掴む中澤さんの爪が食い込んできて、なんとなくさっきからぼやけてた
あたしの輪郭がはっきりし多様な気がする。
この痛みが、あたしを後押ししてる感じ。
「だからこそ、一人じゃなきゃって、あいぼんまであたしのわがままに巻き込み
たくない。」
- 247 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:38
-
フッ・・・
一瞬、鼻で嗤って、それから、掴んでた手首をポイッと返された。
「・・・青っ臭いなぁ、辻。一人でやってみたいねぇ・・・そんなん言ってたやつ
ぎょうさん知っとるわ。そんで相棒はじゃまだから巻き込めないって?誰や、
こんな甘やかしたんは。やってられんわ。」
吐き捨てるように言って、テーブルに置いてあるタバコに手を伸ばす。
うぅ・・・
腕の中のあいぼんが嗚咽をもらした。
「邪魔なんて言ってないよ!」
どっちに言ってるのかわかんないけど、慌てた。
「そぉか?結局自分じゃ相棒にちゃんと説明出来へんから、うちら来るの待って
言ったんちゃうん?うちらが加護に一緒にやろうって持ちかけるの利用しようと
してたんちゃうか?正直そう聞こえたわ。」
・・・図星だった。
それが甘えとは気づかずに、あたしは中澤さんにあいぼんの説得を期待してた。
「なんも言わんとこ見ると図星やね。大体な、自分で説得も説明もできんことや
ろうとしてもそら無理や。まぁ恋愛ならそれもあるか思って慌てたけど、青臭い
こと考えてんならまず加護に納得してもらってからやろ。」
そう言ってタバコに火をつけた。
- 248 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:39
- 「青臭いって・・・」
今中澤さんはヤニ臭いけど。
どういう意味?
「あんなぁ・・・」
そう言ってふ〜っと息を吐き出す。
ケホケホ・・・
モロに煙を顔に吹きかけられて、思わずむせってしまう。
「伊達に長生きしとるわけやないで〜。あんたみたいな“ひとりでやってみたい”
とか“自分がどこまでできるかためしたい”とかな、そんなん耳にタコできる位聞
いとんねん。だいたいな、そういうやつらは自分を一番必要としてるやつにその
こと言わんと、勝手に自分で結論だすねん。うちはな、そんなん認めん。身内一
人にちゃんと説明できんで、お前一人で何できるっちゅうねん、そやろ?」
「でも!」
言ったらあいぼん傷つくし、巻き込んじゃうし、また泣かせちゃう。
「でもやない!あんたが言う巻き込むってなんなん?もうな、この時点でうちら
かて巻き込まれてるやろ?どうしたって巻き込むんは仕方ないんよ。あんたの
性格やから傷つけたくないとか甘いことぬかしそうやけど、何も言ってもらえん
で勝手に決められて、その方がよっぽど傷つくっちゅうねん。」
「そうかも知れないけど、でも!あいぼんはあたしと違って繊細だし、立ち直れ
ないほど傷ついたらどうするの?あたしはもうそばに居てやれないんだよ?」
あいぼんが笑顔をなくしたとこなんか、もう見たくないのに。
「あほぅ。そばに居てやれないかどうかは加護が納得するかどうかや。なんにし
てもあんたが腹割って話した結果なら、うちらが加護のことなんぼでもフォロー
するわ。そういう時のうちらやろ?ただな、あんたが加護に嫌われたくないっ
て理由で話さなかったんなら、そんなアホ臭い希望捨てや?」
- 249 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:40
- 最後の一言だけ、真剣な目で言った中澤さん。
言い終えると、鼻歌歌いながら冷蔵庫を開けてビールを取り出してる。
しかも、ザ☆ピース!だし。
さっきの号泣から、鼻歌まで、あたしの話のなにがそんなにテンションをあげさせ
たのかわかんない。
思わず一緒にピースしてしまいそうなのをぐっとこらえて、さっきの問いに答える。
「嫌われたくないなんて、最初から思ってないよ。あいぼんが傷つかなくて済むん
なら、あたしは嫌われた方がずっといい。」
「そんなら加護にちゃんと話し。あんたが黙ってる事が一番この子傷つけてんの、
わかるやろ?二人で話しつくまでこん話は保留にしとくから。」
くしゃくしゃ・・・
って、両手であたしとあいぼんの頭をそれぞれなでて、にっこり笑って、ベッドに
腰掛けてプシュっと缶ビールの栓を開けて。
そんな一連の動作はまるで娘。のリーダーだったあの頃の1ページを切り抜い
たみたいで。
あぁ、ほんとこの人にはかなわないな。
あたしが1ヶ月以上考えに考えた結論も、“青臭い”の一言で一蹴されたけど。
なんだかそれほど悔しくもない。
自分が幼稚で未熟なのは分かってたはずなのに、指摘できる大人がいなかっ
ただけであたしはすぐに天狗になってしまう。
あいぼんにも青臭いって言われるかも知れない。
もしかしたら怒るかもしれない、泣くかもしれない。
でも、とりあえず言ってみる事にしよう。
あたしの腕の中で、まるでひきつけを起こしたみたいに、ひっくひっく言ってるあいぼん。
抱きしめた腕をちょっとだけ緩めて、そっと耳元に問いかける。
「あいぼん、今日久しぶりに一緒に寝よっか?」
あいぼんは一瞬だけ、息が止まったみたいにあたしを見上げた。
今日のステージの時の顔と同じ、黒目がちな目に涙をためたまま口をポカーンと開いて。
その後、キュッと口を結んで、ゆっくりうなずいた。
- 250 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:41
-
「あ〜、しっかし今日はホンマ疲れたわ〜。厄日なんちゃう?今日。」
ベッドの上にはビール飲んでちょっとくだけた中澤さん。
久しぶりにからかってみたくなる。
「厄日じゃなくて厄年でしょ?」
「そうそう、数えで33やからな〜・・・って、あんたなぁ誰のせいで疲れた思ってんの?」
ぺシっ
頭を軽く叩かれた。
「・・・ごめんなさい。」
やっぱあたしのせいだよね、ハハハ。
「まぁええわ。しかしなぁ、あんたと真面目な話するようになるとはね、そら年もとるわな。
辻が年相応に大人になったんやもんね〜。なんや感慨深いなぁ。」
「あ〜、なんかオトナになれてないって、わかりました。」
中澤さんと話してたら自分の幼さとか甘さとかすんごいわかったし。
「そう思うことがオトナになったってことやろな。嬉しいような悲しいような・・・でもま、幼い
時からこんな仕事してて、素直に年相応に育ったちゅうんは喜ぶべきとこなんやろな。」
「・・・なんかよく分かんないけど。」
「アハハ!そら真っ只中のあんたにはわからんやろな〜。今な自分ら一番いい時やで。
いっぱい悩んで、いっぱい苦労して成長し〜。あ、そや、ひつまぶしとケーキあるから
食べ〜。ごっつぁんも呼ばんとな、あの胃下垂女。ひつまぶし多目に5人前買ってきて
よかったわ、あんたの彼氏も呼んでやらんとね。」
なんだか中澤さん急に上機嫌になってきたけど。
「彼氏じゃないし。呼ばなくっていいよ。」
ここにユウキとか・・・正直気まずい。
「アホ、一人だけ呼ばなかったらうちがケチやと思われるやろ。」
そういう問題?
「見栄っ張り。」
「うっさいわ!オトナの女はな〜、見栄張ってなんぼやの、覚えとき〜。ほら、呼ぶ
から部屋かたして!」
- 251 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:42
- 意味わかんないし。
てゆうか、今気づいたけど何なのこの部屋の荒れ方は。
テーブルは変なとこに斜めに置いてあるし、うわっ、何これ。
お茶のカップは床に転がってるわ、ケーキ・・・だよね?この銀紙とクリーム・・・。
「ちょっとなんでこんなに部屋が荒れてんの〜?」
床に落ちたケーキをコンビニ袋に入れて、ティッシュを取り出しつつ聞いてみる。
あいぼんは、ひっくひっく言いながらも、テーブルにこぼれたお茶をふきんでふいてる。
「あ〜それな、加護が抵抗してな。」
はっ?!
それってまさか・・・
「抵抗って何?中澤さん、あいぼんに何したの?なんであいぼんこんな泣いてんの?」
思わずベッドの上の中澤さんに掴みかかった。
だってだって、斜めになったテーブル、床に落ちたお茶とケーキ、ありえないほど泣
いてるあいぼん、それにセクハラの代名詞中澤裕子だよ!
「アホ!何考えてんねん!誰がセクハラの代名詞や!・・・ったく、これだから色ボケ
は困るねん。」
あ、聞こえてたんだ。
おかしいなぁ、古畑は無理でもコナンくらいはいったと思ったのに。
じゃ、やっぱりあいぼんの抵抗って、あたしをかばっての事なのかな・・・。
ちょっとしゅんとしかけた時。
ぷっ・・・
噴出すような声が聞こえて。
「あはは、のの(ひっく・・・)何想像して(・・・ひっく)んの?あははは・・・」
振り返ると、テーブルを元に戻したあいぼんが笑ってた。
ひっくひっくいうのが直んなくてかなり苦しそうではあったけど、笑ってた。
- 252 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:44
- 「あいぼん!」
駆け寄って、また抱きしめた。
なんか、泣き声以外のあいぼんの声を、もっと聞きたい、そう思った。
それから、これだけは今、言っときたかった。
「あいぼんのこと、邪魔になったんじゃないからね?あいぼんのこと、大好きよ。」
あいぼんは、急に抱きつかれて、一瞬びっくりしたような顔になって、そのあと??
?な表情。
だから、も一回。
「大好き」
今度はそれだけ言った。
長年一緒にいた相棒に、仕事以外でこんなこと言うのはほんとに久しぶりで、
だけど今だからこそ、言わなきゃ、そう思った。
「わかってるよ、そ(・・ひっく)んなん。さっきも、ずっとののが(・・ひっく)こうして
てくれたやろ?話はなんか聞こえ(・・ひっく)なかったけど、あったかかった。」
「聞こえなかったって?」
どういうことだろう、耳を押しつぶすほど強く抱きしめたわけじゃないし、あたした
ちの声だって小さかったわけじゃないのに。
「わかんないけど、(・・ひっく)聞きたくなかったからかも知れん。・・・けど(・・ひ
っく)、ザ☆ピース!が聞こえて、それ(・・ひっく)で、聞こえるようになって、
ののが一緒に寝ようって、言ってくれた。」
そう言って幸せそうににっこりするあいぼん。
あたしは今まで、なんてひどい事をあいぼんにしてたんだろう。
一緒に寝ようって言った事、それだけであいぼんをこんなに幸せにできるなら、
もっと一緒に寝ればよかった。
一緒に居られる時間がもう残り少ないってことは、あたしが一番知ってたはず
なのに。
「うん、ごめんね。今まで一人にして。」
「いいよ。のの、約束守ってくれたし。夜・・・話してくれるんでしょ?」
「うん。でも、あいぼんをまた泣かせるかも知んない。」
ほんと、ごめんね。
「うちは、のののこと分からへんのが一番悲しい。だから、話してくれるんやったら、
どんな話でも嬉しいねん。(・・ひっく)・・・話してくれるってことが嬉しいねん。」
- 253 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:45
-
あぁ、ホントに。
あたしってバカ。
バカバカバカバカ大バカだ。
ずっと近くにいたのに、一番近くにいたのに。
あいぼんのことしか見えてなかったって、思ってたのに。
こんな事すら分からないで空回ってたあたしは、本当にホントの馬鹿女だったね、
あいぼん。
- 254 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:46
-
- 255 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/04/10(月) 03:46
-
- 256 名前:みょん 投稿日:2006/04/10(月) 03:47
-
本日の更新はここまでです。
長く間があいてしまってすみませんでした。
これからもよろしくお願いいたします。
- 257 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/12(水) 00:43
- ののとあいぼんこっちもあっちも先が気になる
- 258 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/21(金) 11:01
- 辻と加護の心情背景に何度グッ…っときたことか
続き楽しみに待ってます
- 259 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/26(水) 12:59
- イイ!
次回更新マッタリ待ってます!
- 260 名前:みょん 投稿日:2006/06/01(木) 00:06
- >皆様
いつも温かいレスありがとうございます。
更新遅れててすみません。
今週末には更新する予定です。
- 261 名前:みょん 投稿日:2006/06/05(月) 00:01
- >257様
レスありがとうございます。
現実の二人、すごく気になりますね。
>258様
ありがとうございます。
なんか辛いところでとめてしまってすみません。
>259様
ありがとうございます。
マッタリしすぎてすみません。
- 262 名前:みょん 投稿日:2006/06/05(月) 00:01
-
更新します
- 263 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:02
- その後、中澤さんに呼ばれて、ごっちんとユウキが部屋にやってきて、二人が買
ってきてくれたひつまぶしとケーキを食べた。
なんだか普段ではまずありえない5人での食事で、あたしは気まずさから無口
になって、ごっちんはなぜかハイテンションだった。
あいぼんはまだひっくひっくしながらも、ケーキをほおばって、中澤さんはしきりに
ユウキに絡んでた。
ユウキは居ずらそうにしながら、中澤さんにひつまぶし渡されてスイマセンスイマ
センって言いながらかっこんでた。
今日一日で、ここにいる全員を泣かせてしまったあたしは、みんなの気遣いに涙
を我慢するのが精一杯だった。
食事もすでに12時を回ってたこともあって、30分ほどでお開きとなった。
ごっちんと中澤さんは、今夜あたしがあいぼんと話をするって言うんで、ユウキの
部屋にとまる事にしたらしい。
スタッフさんに言えば部屋を都合してくれたかも知れないけど、もともとあたしたち
の部屋に泊まるつもりなのを言ってあったし、今更真夜中に無理を言うのも気が
引けたとのこと。
なんだかこの部屋割りはユウキに悪いことしたなぁ、と思ってたら、部屋から出て
行くとき、ユウキがあたしを呼び止めて、
「俺希美のストーカーになるから。」
って言う謎の捨て台詞を吐いた。
「え?どういう意味?」
すぐに聞き返したけど、ほろ酔いの中澤さんに、
「ホラホラ、こんなとこでいちゃいついてんと、寝るで!」
って茶化されて、結局答えは聞けなかった。
ひょっとしてユウキも答えるつもりがないのかな。
なんだか今夜はそれでいい気がした。
何もかもがありすぎた今日だったから。
- 264 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:03
- ごっちんたちが出て行って、あたしとあいぼん二人きり。
こんな夜は本当に久しぶりで、なんだかお互いに話し出すのが照れくさい。
話さなきゃいけないのに、久しぶりのこの雰囲気を味わっていたいのかな。
しばらく二人とも黙って、ベッドに腰掛けていたら、沈黙を破ったのはひっくひっく
が治まったあいぼんだった。
「おふろ、入ってくる。」
洗面用具と、パジャマを持って、バスルームに入ろうとしたあいぼん。
なんか、初めてのツアーでホテルに泊まったときのことを思い出した。
あの時もたしか、あいぼんが先に『おふろはいってくる』って言って、あたしが追
いかけて一緒に入ったんだっけ。
そう思ったら居ても経ってもいられなくなって、あいぼんの後を追ってバスルーム
のドアを開けてた。
「うわっ!なんなん、のの急に開けて〜。」
ちょうど服を脱ぎかけてたあいぼんが、脱ぎかけの服で胸を隠した。
あはは、やっぱ反応がオトナになってる。
「一緒にはいろ。」
あえて、昔と同じセリフを言ってみた。
「・・・いいけど、うちの胸見て落ち込むのナシな。」
返ってきたセリフも昔のまんま。
思い出をなぞりたいとか、そんなんじゃないんだ。
でも、なんか絆みたいなのを今、確認したかったのかもしれないな。
臆病なあたし。
「あいぼんこそ。」
「誰がお前のない胸見て落ち込むねん!」
「ないってゆ〜な!」
- 265 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:04
-
ぷっ・・・
「ハハ・・・のの結局ないままやったなぁ。」
こらえきれずあいぼんがジョブ。
「あいぼんはいろいろ育ったね。」
とりあえず応戦。
「うっさいわ。まさか5年後もこんな会話してるなんてな〜」
「そりゃ18にもなれば多少大きくなるとは思ってたよ、のんは。」
「はは、うちもくびれると思ってたわ」
服を脱ぎつつ自虐的。
なんだかこんなのも悪くない。
いつから一緒にお風呂に入らなくなったのか、今になってみると思い出せないけど、
いつか今夜のこの会話を懐かしく思うことになるんだろうか。
「またシャワー半分個やらへん?」
「え〜、あいぼんのが面積多いからな〜。」
「うわっ、気にしてる事をズケズケと・・・」
「ごめ〜ん!!」
こんなやりとりを。
結局、シャワーを半分個して、お互い洗いっこして、それから、昔やってたみたいに
ベッドを二つつなげた。
話始める前に、寝てしまわないようにコーヒーを飲んで、それから二人でベッドに
寝転んだ。
- 266 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:05
- 「あんな、ののが話す前に言わして。」
寝転んですぐ、あいぼんが切り出した。
「うちな、今夜は聞き役になるから、とりあえずののが言った事聞くだけにする。
けどな、今夜聞いた事、考える時間ほしいねん。それまで、結論ださんで欲しい。
うち、真剣に考えるから、だから。」
目に涙をためたあいぼんの言葉に、思わずうなずいてしまう。
結論を急ぎたくなるのは、あたしが自信ないからなのかな。
そう思いながらも、今夜は聞いてくれるって言ってくれるあいぼんに素直に感謝した。
「何からはなせばいいのかな・・・のんね、すごくあいぼんのこと好きだし、娘。に入った
時からずっと、あいぼんみたいになりたいって思ってたの。これだけは信じて?」
向かい合わせに寝転んだあいぼんに、面と向かってこんなことを言うのはちょっと照
れたけど、これだけは言っておかなきゃって思った。
「うん。・・・ありがとぉ」
照れくさそうにあいぼんもうなずいてくれた。
「・・・昼間のことから話すね。約束したのに夜すぐ話せなくてごめん。」
「それはもうええて。で?なんでやめたがってるん?って、うち聞いたんだよね?」
そうだ、あいぼんはもうあたしがやめたがってる事に、気づいてた。
だからあの時、すごく慌てた。
なぜかって聞かれるのが一番怖かった。
でも、今ならちゃんと話せる気がする。
それであいぼんが傷ついても、さっきみたいにあたしはあいぼんを抱きしめる事が
できるから。
- 267 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:06
-
「うん。・・・のんね、この新プロジェクトのこと知った時、みんなの真ん中にいるあい
ぼんが見えたんだ。頭の中に。今でも想像できる。みんなの真ん中であいぼんが
歌ったり笑ったりしてるとこ。それがすごく本当に見たくて、仕方なかったんだよね。」
「そのことと、ののがやめる事は関係ないやん。うちのとなりにはいつもののがおるやろ?」
ぎゅ・・・
ってあたしの右手をあいぼんが握った。
いつものWの時と同じ、右手。
「居ないんだ。いくら想像しても、そこにはのんは居ないの。その中に居る自分が全く
想像できないんだ。」
「だからってそんなん、やってみな分からんやん。そんな予言みたいなこと言われたってさ」
予言かぁ・・・
あいぼんなかなか面白い表現するなぁ。
でも案外そうかも知んない。
娘。に加入してからずっと、想像してたこと。
このプロジェクトの予言だったのかも知んないな。
「のんさぁ、娘。に入ってからずっと、思ってたことあるんだ。」
「なに?」
「うん。もしね、四期のオーディションで、つんくさんが4人目の名前を呼ばなかったら、
もし、予定通りに3人増員だったらどうだったかなって。いつも思ってた。」
「なんやのそれ?そんなことずっと考えてたん?美貴ちゃんや、まいちゃんや、他にも
落ちた子たくさんおんのに。最低や、そんなん考えんの。」
そうだね、最低だ。
ホントなら、受かった以上は自信持って頑張んなきゃないのに。
「最低だよ、最低だけど、今でも分かんない、なんでのんが受かったのか。梨華ちゃん
みたいに声に特徴があったわけでもない、よっちゃんみたいに可愛くもなかったし、
あいぼんみたいに歌も歌えなかったのんが、なんで受かったのか、何に期待されてた
のか今でも分かんない。」
「のの・・・」
「初めの頃はそれでも娘。に入れたことが嬉しくって、はしゃいでた。でも、だんだん
このままだったらのん、娘。にいらない子になるんじゃないか・・・ってすごく怖かった。」
- 268 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:07
- はぁ・・・
息を大きく吐き出して、ずっと言えなかったことを吐き出す準備。
きっとこれを言ったらもう、あいぼんの笑顔はあたしに向けられる事は一生ないんだろうな。
それでも、これはあの時のあたしの、真実だから。
伝えないで逃げるのはやっぱりずるいんだと、思う。
「初めて一緒にレコーディングの帰りに原宿行ったこと、覚えてる?」
「ガラスの指輪、買った時の?覚えてる!ののが、『亜依ちゃん、原宿行ったことある?』
って言って誘ってくれて、すごい、嬉しかったもん。」
ズキン・・・
胸が、痛んだ。
「あの時、のんさ、あいぼんと一緒にいれば、娘。にいられる、そう思って誘ったの。のん
一人じゃ、いつかいらない子になっちゃう、だから、あいぼんと一緒にいれば、って。
・・・ごめんね。最低だよね。」
「・・・そっか・・・」
「ごめん。」
「聞いても、いい?」
握った手に、ぎゅっと力がこもった気がした。
「うん?」
「うちといたら、いらない子にならないから一緒にいたん?それは今までずっとそうなん?」
ずずっ・・
って鼻を啜る音が聞こえて、あたしはまたあいぼんを泣かせたんだと気づいた。
「違うよ、ずっとじゃない。初めのきっかけがそうだったけど、その後はそんなの関係なし
に一緒にいたかった。」
「じゃあなんで今更別々になろうとしとんの?うちに利用価値がなくなったからちゃうん?」
「そんなんじゃないよ!」
思わず、起き上がった。
だって、そんなんじゃ、ない。
「あいぼんとずっと二人なら、二人きりなら、のん死ぬまでだって一緒にいるよ!だけど
今回の事、聞いた時に、のん思い出したんだ。5年前からずっとつっかえてたこのこと。
のんがいなかったら、あいぼんは子供キャラなんかやってないし、きっとごっちんに次ぐ
エースになってるだろうなって。」
「意味分からん!ののが仮に居なくたって、あの時点ではうち最年少やで?子供キャラ
やってたっておかしくないし、エースとか、そんなんなりたかったわけちゃうし。大体なん
でののが居なかったらなんて仮定の話で今ののがいなくならんとあかんの?意味分か
らんやん!」
「のんは、二人だからこんなに子供キャラが定着したんだと思う。のんが引きずり込んだ
んだと、そう思ってる。あいぼんはのんよりオトナで、だからコドモなのんに今まで付き合
ってくれてたんでしょ?」
- 269 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:08
-
パーン
予測はしてたけど、ホント今日はよくビンタされるなぁ。
ごっちんのバカ力よりは痛くないけど、だけどなんでか胸が苦しいよ。
「・・・あんまりうちを買いかぶらんといて。コドモだよ?ののよりずっと。ののが娘。にいら
れるかどうかで悩んでた時、うちは東京で友達できるかとか、地下鉄の乗り方とか、先輩
達に嫌われへんかとか、そんなことで悩んでた。ののがうちに声かけてくれた時は全部
解決した気分だった。ののは先輩にかわいがられてたし、東京の子だから電車とか乗り
なれてるし、ヤッター・・って。」
「・・・あいぼん。」
目の前のあいぼんは涙流しながら、わざとおどけたようなしぐさで。
「・・・だから、子供キャラがどっちがどうとかいうのやめてや。うちのほうが何も考えてへ
んガキやったんやし。おあいこやろ?それにあれはあれでうち好きなんやから悪く言わ
ないでよ。」
- 270 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:08
-
あいぼんがあたしよりコドモだなんて、思ったことなかったけど。
なんだか目の前に居るあいぼんはすごく幼く見えた。
あたしは今まであいぼんの何を見てたんだろう。
何でもそつなくこなすから?
しっかりしてるように見えるから?
セリフ覚えが早いから?
オトナな歌が歌えるから?
物分りが、いいから?
そんなことであたしは、自分よりあいぼんがオトナだって・・・そう思い込んでた。
けどそれは違ってたのかも知れない。
あたしは実家にいて、二人姉妹の末っ子で、周りに甘える術を知ってた。
あいぼんは親元から離れてて、長女で、しっかりする事が癖になってた。
だから、二人で居るとあたしがコドモだって、思ってたけど、本当は違うのかもしれない。
コドモで居たいって、強く思ってたのは、しっかりしてなきゃいけなかったあいぼんの方
だったんだ。
今だってほら、ちょっぴり口を尖らせて、すねたような視線であたしを見てる。
あたしはそんなあいぼんをぎゅっと抱きしめる。
双子じゃないけど双子みたい
そんなWのキャッチフレーズが、なんとなく頭をよぎった。
本物の双子の姉妹でも、どちらかが先におままごとをやめちゃったりするのかな?
あたしたちのそれはおままごとでもおにごっこでもないけども。
ごめんね、あいぼん。
先に、行くね。
本当はもう少し一緒にいたかったけど。
- 271 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:09
-
抱きしめたあいぼんの耳元で、あたしはあいぼんに今日何度目か分からない残酷な
言葉を囁く。
「・・・ごめんね。もうのん無理なんだ。あそこに戻ったら、またのん甘えちゃう。
・・・今行かなきゃ、大人になれない。」
・・・あたしも、そしてたぶんあいぼんも。
あたしの首に、ぎゅっと腕を絡ませて、またひっくひっく言い始めたあいぼん。
ごめんね、こんな赤ちゃんみたいなあいぼんをあたし置いてくんだ。
「・・っだったらうちも行くぅ〜。」
あいぼんのくぐもった声が聞こえて、息が出来ないくらい胸が苦しくなった。
だけど、ダメ。
あいぼんまで道連れにしちゃ・・・そんなのダメ。
だから、言った。
あたしは本当に最低な人間だと思った。
「あいぼんとのんは違う。のんは一人になりたいんだよ。」
あたしの首に絡みついてたあいぼんの腕の力がフッとゆるんで、かと思ったら急にす
ごい勢いでTシャツの胸倉を掴まれた。
「何、言うとるん?一人になりたいて、のの何言うとるん?」
あいぼんの黒目がちな小さな目で、キッと睨まれた。
いつも穏やかで優しいあいぼんの目が嘘みたいに厳しくあたしを責め立てる。
そしてたぶん、あたしも。
あいぼんが見たことない表情をしてると思う。
- 272 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:10
- 「ハロー抜けて一人でゼロからやり直したい。これがのんだってもの、見つけたいの。」
「一人でゼロから?やり直したいってなんなん?!今まで二人でやってきたんやろ?
それをやり直したい言うんか?!」
そうだよ、ずっと二人で。
10人だって9人だって13人だって16人だって、さくらと乙女に別れたって!
あたしたちはいつだって二人でやってきたんだよ。
分かってるよ。
だからこそ。
「一人でやってけるだけの何かがないと、あそこには入れない。このまま入ったら、きっ
とだめになる。」
・・・あたしも、あいぼんも。
「なんでのの一人がやめるん?うちも一緒にこのままWやってたらええやろ?なんで
一人になりたいなんて言うん?」
「・・・もし、このプロジェクトのことがなかったら、のんはあいぼんとWやりながら、お互
いちょっとずつ大人になってこうって、思ってたよ。」
「だったら!プロジェクトなんか参加しなきゃええやん、そうやろ?」
掴んだあたしのTシャツをぎゅっと引き寄せたあいぼん。
ねぇ、あいぼん。
もう、わかってるんでしょ?
- 273 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:10
-
掴まれた格好のまま、ゆっくり首を横に振った。
「・・・あいぼん。このプロジェクトが最後のチャンスだって、分かってるでしょ?のんたち
がW続けるって言ったって、それは事務所が許してくれない。」
「そんなのっ・・・やってみんとわからんやん」
ちょっと勢いがなくなった声で、あいぼんがわかってること、わかるよ?
「わかるよ。それにね、のんたちの時計、ずっと止まったっきりなの。それをもう一度
動かすのも最後のチャンス。・・・のんはちょっと大人になったあいぼんがあのグル
ープの真ん中にいるとこが見たいんだ。」
「・・・うちはっ、ののと離れてまで大人になんかないたないぃ!!大人なんかならんで
も、ののと一緒に居りたいぃ」
あたしのTシャツを掴んだまま、ポロポロと涙を流したあいぼん。
反射的に、あたしの声も大きくなった。
「無理なのっ!もうこれ以上、あいぼんにおんぶにだっこのお荷物になりたくないの!」
Tシャツを掴んでたあいぼんの手が、一瞬ビクッと震えた。
「・・・お荷物なんて・・・ののはそういう風に思ってたんだ。」
その後ゆっくり、掴んでた手を解いた。
- 274 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:11
-
「・・・ごめんね。」
そのまましばらくじっと俯いたまま何も話さなくなったあいぼん。
謝ったのはいたたまれなくなったあたし。
あたしが言った“お荷物”って言葉が、あいぼんをことさら深く傷つけた。
「謝らんでよぉ・・・ごめんなんか聞きたない。」
「うん、ごめん。」
だって、これしか言えない。
「謝らんでよ、そんな謝るのずるいわ。」
ズズッ・・・
鼻を啜りながら、顔をやっと上げてくれたあいぼん。
「もう、決まってるから謝るんやろ?うちが何言っても、変える気ないから。分かってんね
ん。うちの周りのオトナ、みんなそうやし。“ごめんな、ごめんな”って・・・そんなんずるい
やん。“ええよ”って言うしか、こっちに選択肢くれへんのやもん。そんなんずるい。」
その目は涙で濡れていたけど、明らかに怒ってて。
あいぼんの言ってること、合ってた。
あたしはあいぼんに認められなくても、やっぱり決めた事に進む。
ただそれをあいぼんに知っててもらいたい、できれば認めて欲しいっていう身勝手な希
望で、今あいぼんと向かい合ってる。
・・・ホント、あいぼんの言うとおり。
あたしはオトナの振りをして、こんな卑怯な言い回しをしてる、大事な相棒に。
だからあたしは分かっててもまたずるいオトナの言葉を吐くしかなかった。
「ごめん・・・」
- 275 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:11
- 「もうやめてや!ごめんで何でも済まそうとすんなや!あほ!」
ボゥン!
枕で横っ面を思いっきり叩かれて、一瞬くらっときてベッドの上にまた横になった。
横になったところを上からあいぼんが覆いかぶさってきた。
気づいたら、マウントポジションとかいうやつになってて。
「あんな、言っとくけどうちの怒りはそんなもんじゃないからな、のの。・・・それから、お
荷物なんて二度と口にすなや?うちにとってののは生涯唯一の相棒で恩人なんや。
それ以上でも以下でもない。いくらののでも、うちの相棒悪く言ったら許さんから。」
あたしの首に手を当てて、ギューっと締め上げながらそう言ったあいぼんの表情は小さ
く付けたルームライトの陰になってよく見えなかったけど、あたしの頬に落ちてきたしず
くがそれを教えてくれた。
ごめんね、あいぼん。
あいぼんになら、このまま殺されてもいいな。
そう思ってまぶたを閉じたら、首にこめられた力が緩んで、あたしの上にあったあいぼん
のぬくもりもふっと離れた。
急に肺に流れてきた空気に、ちょっとだけむせた。
- 276 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:12
-
「なんで抵抗せんの?」
冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきてくれたあいぼん。
不思議そうな寂しそうな顔でむせてるあたしに水をさしだした。
「・・・ケホッ・・・あいぼんになら殺されてもいいかと思って。」
水を受け取りながら素直に答えた。
「あほちゃうん?死んだら終りやん。」
呆れ顔のあいぼん。
「プッ・・・、そだねアホかもね。」
「あほやで、のの。そんなんでうちと離れて一人でやってけるん?むっちゃ心配やわ〜。」
大げさにおどけながら、ベッドに腰掛けて、ニッて笑顔を見せたあいぼん。
ありがとう。
だからニッて笑って見せて、水を飲み込んだ。
ウェッホ・・・
むせてたもんだから豪快に噴出しちゃったけど・・・。
「あ〜あ〜、もう、マジで大丈夫なん?」
あたしの背中をさすりながら、あいぼんが声をあげて笑った。
- 277 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:12
-
「もうとりあえず今日はもう寝よ?うちもう頭パンパンやし。ののも昨日寝てへんやろ?」
息の落ち着いたあたしをぎゅっと抱きしめて、あいぼんがポンポンと背中を叩いた。
なんだか全てを受け入れてもらった気がした。
そのままふたり横になって、あいぼんと抱き合ったまままぶたを閉じた。
あまりにも久しぶりの心地よさに、あたしの意識はどんどん薄くなって。
窓の外が薄明るいのと、鳥の鳴き声と、新聞配達のバイクの音。
そしてあいぼんが言った言葉。
「叩いたり首絞めたことは謝らんけどな〜。おあいこやろ?のの。」
それ以降はすっかり何も覚えていない。
- 278 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:13
-
目が覚めたら、隣を見てもあいぼんがいなかった。
そのかわり、テーブルの上にピンク色の便箋。
特徴のある丸い字と象のイラスト。
『DEAR.のの
おはようさん。
朝っぱらからちょっと長くなったけどかんにんな。
♪メモは少し長いけど〜でも最後まで読んでよね〜♪・・・なんつて。。。
昨日はいっぱい話してくれてありがとう。
いろいろまだ整理がつかないこともあるけど、ののが決めた事なら応援しようと思う。
ののがうちに言えなかったのはうちのこと思ってだってこと、ののと話しててわかった
し、ユウキ君や中澤さんにも聞いたよ。
でも、これからは一番にうちに相談して欲しい。
力にはなれないかも知らんけど、うちにとってののは一番大事な人やから、のののこ
と分からないのが一番つらいから。
ののにお願いがあります。
ののが一人でやりたいって気持ち、応援しようと思うけど、これだけは守って欲しい。
お願いします。
1.一年以内に必ず戻ってくる事(←これは絶対よ!!)
2.毎日連絡する事(←無理なら週2回でもいいから!)
3.一人で活動する時、ユウキ君をスタッフとしてつける事(これはごっちんに許可もら
っといた!!)
この3つを守ってくれたら、うちは心配なくののを送り出せます。
お願いだから一人で無茶しようとしないで、周りを見回してください。
もしののが戻ってこないつもりなら、うちは引退することも考えてる。
脅すわけじゃないよ?
この先ののと一緒に仕事ができないのなら、この世界に何の未練もないんだ、それだけ。
一緒に帰れなくてごめんね。
ちょっと用事ができたので中澤さんとユウキ君と先に東京に帰るね。
ごっちんが残ってるのでごっちんと一緒に帰ってきてね。
東京でまってるわ。
Aibon』
- 279 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:13
-
便箋を持ったまま、金縛りみたいに動けなかった。
あたしのわがままを認めてくれたあいぼん。
あたしのわがままを応援するって言ってくれたあいぼん。
きっと用事っていうのもあたしのためなんだろう。
昨日はあんなに泣きじゃくって、それでもあたしが起きる前に結論を出して、中澤さん
やユウキと話して。
優しくて、強くて、繊細で・・・。
やっぱりあいぼんにはかなわない。
だけどそれが誇らしく感じられた午前10時。
ここからあたしたちの時計は動き始めるんだ。
再び1年後に針を合わせることを目指して。
- 280 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:14
-
- 281 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/06/05(月) 00:15
-
Vol.4 午前10時の気持ち はここまで。
- 282 名前:みょん 投稿日:2006/06/05(月) 00:16
- 本日の更新はここまでです。
次回からは安倍さん目線になります。
- 283 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/05(月) 02:21
- 更新お疲れさまです。
少し大人になった二人がまぶしいです。
安部さん目線楽しみにしてます。
- 284 名前:みょん 投稿日:2006/07/12(水) 22:21
- >>283様
大人になった感じに見えましたでしょうか、ありがとうございます。
なんかこの二人をシリアスに書いてみたかったんです。
そしたら長くなっちゃいましたが・・・。
これからもよろしくお願いします。
- 285 名前:みょん 投稿日:2006/07/12(水) 22:28
-
更新いたします。
- 286 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:29
-
「なっちはなんか落ち着いちゃったね。」
コトン・・・
カウンターの向こう側からオレンジ色のカクテルを、なっちのコースターの上に置いて、
なんだかちょっと困ったような笑顔で福ちゃんが言った。
それはさっき、この店に来て、圭織が潰れて、彩っぺがお手洗いに立った後すぐに言
われた言葉で。
言われてからもう一時間は経ってるっていうのに、数時間前にごっちんに言われた言
葉と一緒になっちの頭の中をぐるぐるぐるぐる回ってる。
- 287 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:30
-
あれから・・・
緊急ミーティングってやつが終わってから、なっちと圭織と矢口とでバーに行ったんだ。
圭織の行きつけのこじゃれたとこ。
なっちと圭織はミーティング前に呼ばれて、それは裕ちゃんや圭ちゃんも一緒だった
けど、ミーティングに出られない子にこれから話すこと伝えるように言われてて。
そんなこと言われるの初めてだったから、話聞くまではなっち、自分の引退かと思ってた。
・・・ううん。自分たちの。
圭織や裕ちゃん、圭ちゃん。
三人には悪いけど、たぶんそうなんだろうなって、その時思っちゃったんだ。
だから、ミーティング入る前に、圭織に言ったんだ。
一人じゃ不安だから、一緒に伝えに行こって。
覚悟は、できてた。
十分なくらい。
でも、諦めたくない自分が居て。
それに、コンサートで名古屋にいるののやあいぼんには、今度こそ自分で伝えようって、
そう思ったから。
圭織もなっちも、あの子達の事はなんか特別で。
あの子達が泣くとこは、できればもう一生、見たくないんだよね。
たぶん、同い年で同期で、ずっとライバルで、大人になれなくて素直になれなかった自分
たちと重ねてる部分が、なっちにも圭織にもあったからだと思う。
だから、二人で一緒に二人に伝えたかったのかな。
- 288 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:31
- だけど、ミーティングの内容は幸か不幸か、想像してたのとは違くって。
対象者は卒メン全員とよっちゃん。
内容は、とてもじゃないけどののやあいぼんに分かるように説明するには、なっちと圭織
では役不足な微妙なニュアンスを孕んだものだった。
・・・ボケが4人集まっても話にならんやろ。
たぶん、裕ちゃんはそう思ったんだろうな。
自分が名古屋行っちゃった。
ごっちん連れて。
圭ちゃんは梨華ちゃんとよっちゃん連れてたぶん作戦会議。
あそこの師弟関係にはほんと感心する。
教育係経験ないなっちだからそう思うのかな。
あ、でもよっちゃんの教育係は圭ちゃんじゃないか。
じゃあ、プッチつながり。
どっちにしろユニットなかったなっちには分かんないけどね。
で、残ったなっちと圭織はさっさと帰ろうとしてた矢口を捕獲して、彩っぺの合流を待つ
ことにしたんだ。
今の矢口の気持ち、一番分かるのは彩っぺだと思うから。
- 289 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:32
- だけど、矢口は『自分の気持ちはもう決まってるから』・・・って。
それだけ言って、引き止める圭織を振り払って、モスコミュール一杯だけ飲んで帰っち
ゃった。
彩っぺが合流する前に。
気持ちが決まってる・・・って、どういうことなんだい?
そりゃ、あの採決とった時に矢口が不参加に手を上げたのは見たから知ってるけど。
そうじゃないよ?
圭織はどうか知らないけど、なっちは矢口のその気持ちを聞きたかったんだ。
今の、矢口の気持ち。
元モーニングの矢口じゃなくて、矢口真里っていう一人の、22歳の女の子の、気持ち。
だって、今日のミーティング中の矢口のあの態度を見てたら、気持ち聞いてなにかして
あげられることないかな?って、思うよ。
なっちや圭織だって、ないわけじゃないんだ、矢口みたいな気持ち。
そりゃ、圭織にも、なっちにもあったさ、普通に、恋に溺れたいって思った時期が。
それを表に出せたかどうかは別として。
普通に、あるよ?アイドルしてたって、みんなのものじゃなく、誰か一人のものになりた
い、とかさ。
わかってあげられるって、思ったんだけどな・・・。
矢口が帰っちゃって、なんだかぷしゅ〜っと気が抜けた。
だって圭織もなっちも、矢口にとっては恋バナする相手にはなんないって・・・なんだか
すごく寂しいっていうか悔しいっていうか。
なんだか女として失格ってハンコ押されたような気分だった。
- 290 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:32
-
圭織はね、どうやら矢口となっちを参加させたくって・・・って方が強かったんだね。
矢口が帰ってすぐ、なっちに『また一緒にやろうよ〜』なんて言ってきたけど。
いつもなら、やろっか?
って軽く言っちゃうのがなっちなんだろうけど。
なんだか胸の辺りがもやもやして、なかなかはっきり答えが出なかった。
そうこうしてる間に、彩っぺが来て、なんだか昔話に花が咲いて、盛り上がってるうち
に圭織は彩っぺにだいぶ飲まされてて。
福ちゃんのお店についたころにはもうほとんど千鳥足だった。
結局、例のプロジェクトの話を彩っぺや福ちゃんにする前に、圭織はテーブル席のベ
ンチを占領して夢の中・・・。
「あっは、圭織ってば夢の中だ、強く抱きしめて 離さないで〜♪・・・懐かしいなぁ。」
お手洗いから戻ってきた彩っぺが、そんなことを呟いたり、福ちゃんがおつまみを出
してくれたり、彩っぺの育児話に聞き入ったりで。
肝心なあの話にはまだ、触れてない。
だって、なっちだってよく分からない。
今まではよく分からないけど、進んでいけたんだ、あの5万枚手売りだって、アイドル
だって・・・だから、今回だって。
そう思うけど、あの時みたいにがむしゃらに頑張れるって、自信が持てない。
- 291 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:34
- 「おーい、なっちどした?眠くなった?」
隣の彩っぺが、わざとなっちの目の前に、手をかざして振って、やっと自分がしばらく
の間考え込んでたって気づいた。
「もう、違うよ。」
こども扱いしないでよ〜って、言いながらオレンジ色のカクテルを一口飲み込んだ。
「おー、なっち飲めるようになったね〜。」
横でタコわさ摘みながら言うなよ、彩っぺ。
「おっさんみたい。」
なんか裕ちゃん?いや、圭ちゃんか、とにかくあっち方面になってきたね、彩っぺ。
「失礼な。お姉さんと言いな、お姉さんと。・・・って、明日香まで笑うな!」
「いや、子供3人も産んどいて今更お姉さんはねぇ・・・。」
くくくっ・・・
さすが福ちゃん、相変わらず切れ味鋭いね。
「ったく、相変わらず生意気なんだから。言っとくけどあたしはね〜、カリスマママ目
指してんだからね〜。ポスト黒木瞳はこの山田彩ですから!」
カリスマママ・・・噛みそうだな。
「うわ・・・大きく出たね〜。てかさ、彩っぺって、まだゲイノージンやるの?」
うっ!うっわぁ〜!
福ちゃんすごいとこ突くな、それは福ちゃんじゃなきゃ聞けないわ。
「はぁ?!何言ってんの明日香。あたし今も芸能人ですけど。テレビ見てないの?」
「・・・知らない。あたし歌番組とニュースしか見ないし。なっちがゲイノージンなのは
知ってるよ。」
・・・・・・・・
「可愛げない子。・・・ま、いいわ今子育てメインだしね。」
・・・あー、もう。
あーもう!怖かったぁ、今、今一瞬気温下がったよ、マジで。
「福ちゃんのばか、寿命が縮まったべさ。」
「はいはい、彩っぺからかうのはやめるよ、もう。・・・で?なっちは今日なんの話が
あったの?」
「そうだよ、圭織はあの調子だし。どした?なんかあったんでしょ?」
・・・だよね、ばれてるよね。
- 292 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:35
- そりゃそうだ。
二人が卒業してから、改まって集まったのなんか、紗耶香の卒業の時と、裕ちゃん
の卒業の時と・・・そうだよね、数えるくらいしかないもんね。
今日急に、『久しぶりにみんなで会おうよ〜』なんて圭織のメールに、すぐ返信くれ
たのだって、たぶんその時から気づいてたからなんだ。
「うん、あのね・・・。」
言いながら、二人分もらってきたレジュメを、カバンから出して手渡した。
「なっちも圭織も今日初めて聞いた話で、なっちはまだ、どうするか決まってないん
だけど・・・」
言い訳みたいに二人に言う自分がおかしくて、なんか笑えてきた。
なっちが考えたプロジェクトじゃないのに。
だけどなんか、すでにそれぞれの道を歩き始めてる二人を、今更こんなことに巻き
込むみたいで。
よく分かんない後ろめたさがあった。
「・・・これ、うちらも対象なんだ?」
レジュメを真剣な目で見てた彩っぺが呟く。
「・・・うん。」
その後にごめんねって言葉が続きそうなのを必死でこらえた。
「へぇ。」
なんでか福ちゃんは笑いながらレジュメに目を通してて。
それがなっちには何か見透かされたみたいで、なんだかすごく怖かった。
- 293 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:36
- 二人がレジュメを読み終わるまでの間、まるで判決を待ってる見たいな気分で、息を
吸うのも忘れた。
こんな時になんで圭織は寝てるのよ、信じらんない!
とか、
福ちゃんや彩っぺの答えを聞いて自分はどうするんだろう、どっち側に落ちるのかな
とか、
なんでこんなに怖いんだろう
とかとか・・・そんなことを考えてた。
そしてそんなことを考える自分を、やっぱりごっちんや福ちゃんの言うとおりだな、って
なんとなく思った。
優等生、やってるもり・・・ないんだけどなぁ。
それに、落ちついた・・・ってのも、どうなんだろう。
そう思うんだけど、今、こうやって、周りの出方伺って、自分の事なのになぜか他人事
みたいに感じちゃってるのは・・・たぶん『そういうこと』なんだなって。
いつからこんな風になったんだろう。
気持ちを置き去りにして、頭で考えようとしてる。
苦手なのに、ホントは。
こんな風に考えても、答えなんかないのに。
- 294 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:37
- なっちには永遠にも思えた沈黙を破ったのは、福ちゃんの明るい声だった。
「ふ〜ん?・・・やってもいいよ、これ。」
「えぇぇぇえ!!」
「マジで言ってんの、明日香。」
まず想像してなかった答えに、思わず彩っぺと同時に突っ込みが・・・。
って、なんで?
だって福ちゃんは、モーニング嫌で辞めたんだよね?
それがなんで?
アイドル、やりたくないんじゃないの?
「マジだけどなにか?」
レジュメを右手に持って、ヒラヒラさせてるけどさぁ。
ちゃんと読んだ?中身。
まさに福ちゃんが嫌いだったアイドルグループなんだよ?それ。
「明日香さぁ、性質の悪い冗談やめなよ。なっち固まっちゃってるじゃん。」
福ちゃんがヒラヒラさせたレジュメを、すごい勢いで取り上げて、カウンターの上にポンっ
と投げおいた。
福ちゃんはなんだか怒ったみたいに髪をかき上げた彩っぺに目配せをして、カウンター
に置かれたレジュメをまた手にとって読み返して。
2〜3枚めくったところで、顔を上げてなっちをじっと見た。
なっちは彩っぺの言葉通りそのまま動けなくって、瞬きするのも忘れて、そんな福ちゃん
を見てた。
- 295 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:38
-
「冗談なんか言わないって。やってもいいかなって。」
やってもいい・・・って。
すぅ・・・って、血の気が引いた。
なに言ってんの?福ちゃん。
今更、何言っちゃってんの?
うちらとやってた時、イチ抜けしたのは福ちゃんじゃんか。
あの時と、今と、何が違うっていうのさ。
それとも・・・うちらと居たあの頃より、ごっちんや4期が入った娘。に、今更入りたくなった
のかい?
辞めたこと、後悔してるなんてまさか言わないでよね。
そんなこと、聞きたくないかんね。
ダメだ、なっち。
言っちゃうかも。
そんな軽く言われたらなっち言っちゃいそうになる。
だめ、それはだめ。
だめ。
でも、
押さえらんない。
すっかり乾きかけた唇を、一瞬かみ締めて、もう一度口を開いたら、言葉が。
「・・・な・・・」
- 296 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:40
- ・・・に言ってんの?
♪♪♪〜♪
言おうとした言葉は、突然鳴り出した圭織の携帯で途切れた。
ベンチでトドみたいになってた圭織が急にビクッと起き上がって電話に出て、相変わらず
酔っ払って支離滅裂なことを裕ちゃんにまくし立ててるのを、なんだか万引きを見逃され
た子供みたいな気持ちで見てた。
「あれっ?かお寝てた〜?」
なんて、電話終わってフラフラと立ち上がってカウンターに来た圭織。
「寝てた?じゃないわよ、この酔っ払いが〜。」
圭織を酔っ払いにした張本人の彩っぺにからかわれながら、なっちのとなりに座ると、
カウンターに置かれたレジュメに気づくとカラっとした声でなんでもなさそ〜に言い放った。
「あ、これなっちもう説明したんだ?もちろんみんなやるっしょ?」
ほんとあっけらかーんと言われたもんだから、さっきまで厳しい顔してた彩っぺも、血の気
が引いてたなっちも、それからカウンターの福ちゃんも同時に噴出した。
「も〜!やるっしょじゃないよ、圭織は〜!」
久しぶりにユニゾンしてしまった。
「なんだよ、ノリ悪いな〜。」
ちぇっ・・・って頭をかく圭織。
ちぇってなんだそりゃ?いつの悪ガキだい?
「圭織のノリがおかしいんだって!」
またしてもユニゾンしてしまい、3人そろってヒーヒーばか笑い。
彩っぺなんか、カウンターバンバン叩いてるし。
- 297 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:41
- 「なんだよ、なっちまでクールぶってさ。」
パーにした左手に、右手の人差し指ぐりぐりしてるぅ・・・。
もう、頼むからやめてよ圭織ぃ・・・わ、笑い死ぬ。。。
「・・・く、クールって、できることなら今クールになってみたいよ、ホントにさぁ。」
笑いすぎて、顔真っ赤なんですけど、3人そろって。
「なんでみんなそんな笑ってんの?おかしくない?・・・あ!さては明日香の店、なんかおか
しなきのことか置いてんの〜?それ、偽者だよきっと。笑い茸つかま・・」
ガンッ!!!
「物騒な事言うな、酔っ払い。」
カウンターから出てきた銀色のお盆が圭織の頭を直撃して、うちらの笑いは最高潮を記録
した。
叩いた福ちゃんもお腹抱えて大笑い。
彩っぺとなっちは、カウンターの椅子からそのまま落ちそうになるくらいのけぞった。
叩かれた圭織は・・・
「いた〜い!舌噛んだぁ!」
「そっちかよ。」
最後のユニゾンはやたらビブラートが効いてた。
- 298 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:41
- 涙目で舌を出してる酔っ払い圭織にちょっとだけ感謝した。
ほんのちょこっとだけね。
危なくホントの顔、見せるとこだったからさ。
なっちはホントの顔、見せるのが怖いんだ。
それがいつからなんだか、なんでなんだか分かんないけど。
すごく、すごく怖いんだ。
- 299 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:45
-
- 300 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/07/12(水) 22:45
-
- 301 名前:みょん 投稿日:2006/07/12(水) 22:46
-
本日の更新はここまでです。
- 302 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/15(土) 01:07
- オリメンいいですね
なっちのホントの顔ってのが気になります
次回更新も楽しみにしています
- 303 名前:古賀 投稿日:2006/07/27(木) 06:25
- 切なくなりました
- 304 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/23(水) 22:24
- ののとあいぼん。。。
これには泣きました。。。
数年前、いつかは、
と、オタ達が危惧していた事でしたからね。
まだまだ先は長いようですが、
気長にお待ちしております。
- 305 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/26(土) 00:43
- 正直、新計画の方が良くね?
- 306 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/27(日) 17:29
- >>305
シーッ!
わかってても言っちゃダメ
- 307 名前:みょん 投稿日:2006/08/29(火) 02:51
- 302様
ありがとうございます。
安倍さん、すごく真面目な人に見えるんです。
すごく真面目にアイドルをやってるイメージなんですよね。
古賀様
ちょっと切ないモード続きになっちゃいましたね。
ちょっとずつ救いが見えてくる予定ですので。。。
304様
ののとあいぼん、書いて置きながら切なかったです。
これからを見守っていただければと。
305様
この話でいうとごっちん派ですね!
当事者の中にもいろんな考えが出てくる予定です。
306様
フォローありがとうございますm(_ _;;m
- 308 名前:みょん 投稿日:2006/08/29(火) 02:52
-
更新します
- 309 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 02:53
- 「で?冗談はおいといて、みんなどうするの?やるの?やらないの?」
それはひとしきり笑った後。
息を整えてるうちら3人に、さっきまでのぼけっぷりとは別人の顔をした圭織が、これまた
別人みたいな落ち着いた声で言った。
お酒のせいでちょっと潤んでた瞳はいつもの、いや、まるでリーダーしてた頃の真剣な
まなざしにいつの間にか変わってて、それにちょっとふらついてた上体も、スッと背筋が
伸びてて。
つまり、全く酔っ払いなんかじゃない、むしろいつもより冴えてる感じの圭織がそこに居た。
いきなり真顔で話を振られた彩っぺと福ちゃんは、ちょっとど〜したの?なんて顔を見
合わせてたけど、なっちはたぶん、こんな表情してたと思う。
・・・なんだよ、圭織大根じゃなかったんだ。
10年近く一緒にいた、一番近くに居た同期の演技力に改めて驚かされた。
「酔っ払ってなかったんだ・・・。」
思わず、口に出た。
「・・・どうだろ。酔っ払ってたと言えばそうだし、しらふだったって言えばそうかもね。
・・・ただね、なっちがこの件をどんな風に伝えるのか聞きたかったんだ。」
全く悪びれる様子もなく、サラリとそんなことを言ってのけて、ホントに圭織は。
「なんでそんな試すようなこと・・・」
圭織はなっちの何を見たかったの?
言葉にならなかった質問は、なぜか答えが返ってきた。
これも一番長い同期のなせる魔法かな?
「・・・さぁ?なんだろ。なっちの熱いとこかな・・・。」
寂しそうに少し笑って、圭織がなっちのオレンジ色のカクテルに口を付けた。
なぜだか、耳鳴りがした。
- 310 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 02:54
-
「熱いとこって?なにそれ。なっち別にもともとそんな熱いタイプじゃないっしょ。だいたい今
日初めて聞いて、内容もそんな理解してないのに熱くなれるわけないから。ほら、なんだろ
裕ちゃんとかさ、圭織とかはさ、頭の回転速いし、やっぱ元リーダーだから?そういうの結
構熱く語れちゃったりとかできるかもだけどさ、なっちはさ。なっちはそう、もともとみんなの
後ろをついてってさ、忘れ物だとか落し物だとか、迷子がいたら声かけてさ、ほら、そうい
う役目だったっしょ。だから率先してとかそういうのはなっちじゃないっしょ。」
左耳の奥から聞こえる、鈍い、だけど甲高いような耳障りな音、それを消したくって、わざと
冗談みたいにしゃべり続けた。
なんだか何かに急き立てられてるみたいに、通常の3倍速くらいで。
それは、身振り手振りも加えてどんどんどんどん加速してって、壊れた機械みたいにどんどん。
彩っぺや福ちゃんが、驚いたようになっちを見てるけど、そんな驚く事じゃないっしょ。
なっちの言ってる事、おかしくないっしょ?
「いつもそうだったっしょ?みんなを引っ張ってくのが裕ちゃんや圭織の役目。んで、仕切っ
てくれんのが圭ちゃんや矢口に梨華ちゃん。そんでののとあいぼんが賑やかしてくれて、
ごっちんや高橋が真ん中で決めてくれてさ、まこっちゃん、紺ちゃん、亀ちゃんが天然ボケ
担当で、重さんと藤本がチョロっと毒吐いて、がきさんと田中ちゃんは何気に常識人で。
そういう役目だったっしょ?なっちとよっちゃんは声かけ担当だったっしょ?そりゃ、久住ち
ゃんはまだなっち分かんないけどさ。う〜ん・・・どうかなぁ、卒業して空いたポジションある
からなぁ。引っ張ってくのがよっちゃんになって、仕切りが藤本とがきさんかなぁ、んで真ん
中高橋は残ってるから、賑やかしはまこっちゃん亀ちゃんかなぁ・・・んで毒舌重さんで常
識人が田中ちゃんだから、久住ちゃんは紺ちゃんと天然かなぁ・・・あ、そうすると声かけ
担当が居ないか・・・う〜ん、後継のよっちゃんがリーダーなっちゃったからなぁ・・・困った
べさ・・・まこっちゃんかがきさ・・・」
「なっち!」
- 311 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 02:55
- 気づいたら、両目見開いた圭織に両肩を掴まれてて、はぁはぁとなんだか息が上がっちゃ
ってて。
自分でもびっくりするくらい、追い詰められるように話してたんだ。
そんななっちを確認して、ふっと圭織があのやらかい笑みを浮かべた。
「・・・話がずれてってるよ。」
はぁ・・・。
上がった息を整えながら、自分の言った言葉を思い出す。
確かに、最後の方はさ、今のモーニングの事だし、ずれてるかな、やっぱ。
でもさ。
「うん、なっちの燻ってるとこ、ちょっとはわかったかな。」
やらかい笑みを浮かべたまま、うんうん、って何度か頷いてる圭織。
・・・そっか、やっぱ圭織には分かっちゃうんだな。
しょうがないか、しょうがないっしょ、そりゃ一番長く一緒に居たし。
圭織がこのプロジェクトに乗り気なのも、なっちはちょっとだけわかる。ちょこっとだけね。
けど、知られたくなかったな。
なっちの裏側はたぶんきっと、圭織のそれよりずっとどす黒い。
誰にも、誰にも悟られたくなかったなぁ。
- 312 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 02:56
- 「ビックリした・・・。なっち壊れたかと思った。」
珍しくポーカーフェイスを崩して、苦笑いの福ちゃんが、水の入ったグラスを置いてくれた。
・・・壊れた?そうかもね。
ずっと小箱に入れて蓋してたのに、その箱に亀裂が入った感じかな。
でも、まだ中までは見えてない、たぶん。
「ホント、なっちがあんな早口で噛まないなんて普通じゃないよ。」
彩っぺも、わざと冗談めかして話に加わる。
普通じゃない。そうかもしれない。
あんなに急き立てられるように、自分の中の事を話したのは初めてだった。
本心を、悟られないために言った事が、結局は本心だったみたいに。
自分でも予想外に、高ぶって余計な事まで言っちゃった。
それで圭織に悟られたっていうマヌケぶり。
「ま、たまにはなっちも腹割って話さないとさ、息、詰まるでしょ?」
・・・そりゃ、ね。
圭織が言うように、息詰まる、そんな時もあったさ。
時もあった、うん、認める。
今は、どうなの?
今は・・・
- 313 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 02:57
- 「なっちは息、したくないのかも知んないけどさ。うちらはたまにはなっちの息してるとこ見
たいわけ。」
「・・・簡単に言わないでよね、圭織。」
そうだ、今は圭織の言うとおり、息しないことに慣れちゃって、息の仕方を忘れちゃった。
だからほら、今だって、亀裂を塞ぐのに必死。
ハハ・・・
「圭織がなっちのこと言えんの?」
茶化して言ったつもりが、亀裂を塞ごうとセメダインのチューブを押したら勢いあまって飛
び出しちゃった。
そんな状態。
こういうのは苦手。
完璧な仮面をかぶるのは得意だけど、中途半端な補修は。
そういうのはなっちの役目じゃない。
「・・・また、役目とか言っちゃう?」
ふぅ、とちょっと大げさにため息をついて、なっちの前におかれたグラスを差し出した圭織。
透明な水越しの圭織の大きな瞳は、なんだか不安に揺れているようにも見えた。
たぶん、手に持ったグラスの中の水が揺れているせいでそう見えたんだろうけど、そんな
ことはどうでも良かった。
いつもどおり。
これが圭織の役目だから。
飛び出たセメダインを外から平らに均してくれる。
「なっち軽〜く酔っ払ってるかもね、なまら弱いし、お酒。なんか顔熱くなってきたべさ。」
圭織が差し出してくれたグラスを受け取り、ごくごくごくっとのどを鳴らすみたいに飲みこんだ。
これがただの水でも、透明な何かだとしても、きっとなっちの頬は今赤くなってるはず。
うん。大丈夫。
これでいいはず。
これで亀裂はなくなったはず。
いつものように笑った。
- 314 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 02:57
- 「何、今の。」
なっちの横で、ずっと圭織とのやり取りを見てたらしい彩っぺが、何か見ちゃいけないもの
を見たみたいな目で言った。
彩っぺの視線を横顔に受けながら、ちら、と圭織を見る。
圭織は、ふぅ、と一息吐いて、いつもの優しい笑みを浮かべた。
「まぁ、なっちのことはいいじゃない?しばらく悩んで結論出せばいいし。」
サンキュ、圭織。
とりあえず今は、見逃してくれるんだ。
「いや、なっちがどうとかじゃなくって、あんたたちいつからそんな表情でケンカするように
なったの?なんなの?今のやりとりは。」
ケンカねぇ・・・そういう風に見えたんだ、彩っぺには。
ふふっ・・・、そうか、ケンカかぁ。
なっちと圭織の間ではたまにあった、これは本心の探り合いで、ケンカとかよりよっぽど慎
重で冷静で。
彩っぺにはケンカに見えたってことがなんだか無性におかしかった。
そのくらい、離れちゃったんだなぁ・・・って。
時間も、環境も、何もかも。
「ちょっとなに笑ってんの?二人とも。」
ガンッガンッ
さっき圭織の頭に直撃した銀色のおぼんが、再び圭織と、そしてなっちの頭に降ってきて、
福ちゃんもやっぱり、彩っぺと同じ、離れちゃったんだなぁって。
ますます笑えてしまった。
- 315 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 02:59
- 「ごめん、でもね明日香。そういうことだよ。アイドルやるってことは。・・・さっき、やってもい
いかなって言ってたけど、明日香わかってる?」
思いがけず、さっきなっちが思ってたことを圭織が言ってくれたことで、何かがスコーンと抜
け落ちた。
「最高の笑顔で最低の嘘吐くことができる連中と、一緒にやるってことだよ?その覚悟が、
明日香にはあるの?」
圭織はわざと嫌な言葉を選んでる、最高の笑顔で。
でも、その言葉は大げさなわけじゃなくって、アイドルってそういう事。
そういう一面もあるってことだ。
たとえ自分の意に沿わない事でも、自分の身になにがあっても、笑顔でいなきゃいけない。
元気に、明るく、愛らしく。
笑顔がうちらの言葉に説得力を与えてくれる。
それは、もちろん涙も同じ意味で。
そこに自分の意思なんてものはないんだ。
私達は、そういう意味でよくできた人形だ。
そうなるのが嫌で、辞めた福ちゃんが今更やりたいって思う意味がわかんなかった。
デビューとかしなくても、ライブハウスとかで歌ってるって聞いた。
自分の気持ちや伝えたい事を歌にして、伝えたい人に伝えてる福ちゃん。
それは、すっかり人形になっちゃって、この間の件で創作活動も封じられたなっちにはひどく
贅沢な事に思えた。
だから、福ちゃんがやってもいいって言った時、福ちゃんをすごく、傲慢だって思ったんだ。
- 316 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:00
- さっき閉じ込めた気持ちが、圭織の一言でムクムクと湧き上がってきた。
ううん、圭織が聞いてくれた事で、気持ちが軽くなった。
きっと圭織はさっきのやり取りで、なっちのことをほとんど見透かしちゃったんだろうな。
やだね、付き合い長いと。
こうやってなっちが話しやすいような雰囲気を作ってくれてる。
せっかくこんな夜にこの4人が集まったんだから、聞いても、いいよね?
「ねぇ、福ちゃんはさ、なんでこのプロジェクトやってもいいって思ったの?」
圭織に詰問されて、珍しく即答できない福ちゃんに聞いてみる。
「そうだよ、明日香あんたさ〜、あんまり軽く言っちゃうから圭織怒っちゃったじゃん。やっぱ
さ、アイドルは甘くないんだって、あたしらあんま経験ないからわかんないけどさぁ。」
細ーいグラスからマドラーを出して、そのマドラーで福ちゃんを指差して呆れ顔の彩っぺ。
まぁ、圭織は怒ったわけじゃないんだろうけどさ。
「何?みんなして。怖いなぁ、お姉さん達は。」
いたたまれなくなったのか、グラスにビールを注いで、カウンターで一口飲み込む福ちゃん。
お姉さん達って、そっか。
福ちゃん年下だったんだねぇ、そういえば。梨華ちゃんと同い年だっけ。
「いいからいいから、言ってみそ?」
「・・・なっち、死語だから。」
圭織、あんたには言われたくないよ、ダジャレ王が。
- 317 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:01
- 「理由って言われてもさ、はっきりしたものなんかないよ。さっき初めて知ったことだし。ただ、
やりたいって思っただけ。そういうもんじゃない?こういうのって。」
な・・・。
そういうもんじゃない?
って言われたってさ、絶句だよ、絶句。
「明日香あんたさぁ、いい加減ふざけるのやめなよ。あんたにとっちゃそんな程度のことなの
かも知んないけどさ、圭織やなっちにとったら今までの活動がどうとか、とにかく一大事な
んだよ?あたしだってそんなには軽く考えらんないよ。」
バチン
持ってたマドラーをカウンターテーブルに叩きつけるように置いた彩っぺ。
彩っぺがどうするのかはまだ聞いてないけど、彩っぺだって今の仕事や家庭がある、簡単な
決断はできないだろう。
けど、福ちゃんのその目を見たら、なっちは何にも言えなくなった。
『なんかピンときた』って言ったごっちんと、おんなじ目、してたから。
「あたしにとって何かを決める時ってこんな感じなの。あぁ、やってみたいなって。直感なん
だ。・・・辞める時はその逆。すごく迷う、悩む。辞めてしまっていいのか、辞める他にないの
かって。モーニングの時もそう、やるって決めたのは直感。運命を感じた。辞める時はその
逆にこう見えて半年もうじうじ悩んだ。みんなそうじゃない?きっとみんなが悩むのはこれ
を決める事で辞めなきゃないことがあたしより多いからよ。理由付けなんて辞める時にする
もんでしょ?」
- 318 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:03
- 時々福ちゃんはとても年下とは思えないような深いことを言う。
“理由付けは辞める時にするもの”
そっかぁ、そうかも知んないね。
なっちがさっきからぐるぐるぐるぐる考えてる事は、辞める時の言い訳かも知んない。
だけど何を?
なっちは何をどうやって辞めるつもりなんだろう?
「明日香が今の生活を辞める理由は?」
「圭織、それ答えなきゃダメ?恥ずいんだけど。」
「ふふっ・・・何今更クールぶってんのよ。散々クサイこと今言ったばっかのくせに。とにかく
ほら、それ聞かないと一緒にやってけるかわかんないでしょ?同志よ、どうなのよ。」
「同志とか・・・圭織いくつよ?」
「あーもうっ!彩っぺ茶々入れないで!」
「一緒に歌いたい子がいるから。それじゃ理由にならない?」
照れくさそうに言った福ちゃん。
今の生活を捨ててまで一緒に歌いたい子がいるって・・・それって、誰?
「誰よ?」
「誰?」
「誰だべさ?」
- 319 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:03
-
ガンッ
銀のおぼんが三度。
今度はなっちの上だけに降ってきた。
「・・・ばか、なっちだよ。」
真っ赤な顔でそう吐き捨てるように福ちゃんは言って、そのままカウンターの奥に歩いて
いってしまった。
突然降ってきた銀のおぼんが痛すぎて、涙が出た。
- 320 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:04
- 「明日香照れちゃって、かーわいいっ!」
「ちょっとぉ、そこは嘘でも圭織って言うとこでしょうが〜!」
「うるさいなぁ!もう、これ食ったら帰れもう。」
戻ってきた福ちゃんがドカッとカウンターに大皿に乗ったジャークチキンを置いて、圭織と
彩っぺの頭を軽く小突いた。
なっちは涙が止まらなかったけど、福ちゃんが置いてくれたジャークチキンを必死で頬張った。
ちょっぴり辛くて、食べるほどにまた涙が出てきたけど、すっごくあったかい味がした。
きっと私達のために、こんなに用意してくれたんだろう。
「これ食ったらって・・・明日香、こんなに大盛りでどんだけ時間かかるんだよ。」
ふふって彩っぺが笑った。
「あはは、すっごい量だし。今日ここ貸切でしょ?」
齧りつきながらも圭織が笑う。
「うるさい客だなぁ、もう。」
ブツブツ言いながらも、飲み物を補充してくれる福ちゃん。
「あいがと。・・・おいひいよ、福ちゃん。」
「泣くか笑うか食べるかどっちかにしなよ、なっち。」
圭織に頭をわしゃわしゃと撫でられ、彩っぺにはおしぼりを渡された。
「役割・・・とかさ、考えなくていいよなっち。慣れた習慣を崩すのには勇気いると思うよ?
けどさ、今回の事はいいチャンスだと思うんだ。どっちを選んでも、もう今までのお仕着せ
のイメージは捨てなきゃならない。あと3ヶ月もすれば、捨てなきゃならないんだ。ほら、
時にはこうやって明日香みたいな子がさ、料理でなっちを泣かせたりするんだからさ。」
「明日香みたいな子ってどういう意味よ、圭織。」
「まぁ〜、この中じゃ一番料理とかモテナシとかからは縁遠いイメージよね明日香は。」
「彩っぺに言われたくないよ。」
「あたし一応主婦やってますから〜?」
「まぁそういうことにしといてもいいけどさ。」
- 321 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:06
- 「と・に・か・く!なっち!もうニコニコ仮面つけなくていいから、もっとわがままになってよ。
悔しい顔とか、弱音とか、吐いてよ。」
圭織のばか。
さっきは仮面を繕ってくれたのに、今になって急に外させないでよ。
苦しい・・・って。
そんな急に、空気吸い込ませないで。
「そうだよ、あの手売りの時だって、真ん中でみんな引っ張ってたの、なっちじゃん。」
福ちゃんまで何言うんだべ。
あれはスタッフさんから言われて真ん中にいただけでなっちは・・・。
「生放送にお邪魔してPRした時だって、うちら緊張してテンパっててさ、なっちだけだよ、
ちゃんとしっかり喋れたの。」
だから、それはあの時は必死だったからで。
・・・彩っぺだってそうだったっしょ?
「そうそう!ほら、ぷぷっ・・・室蘭市長に会いに行ったりしてさぁ・・・」
って、おい!
「なんだべ圭織!室蘭バカにすんのかい?そんなことなっちが許してもいがらしゆみこは
許さないかんね!」
ったく、これだから札幌もんは気が抜けないっしょ。
自分だって生まれたのは室蘭のクセに都会ぶってさ。
- 322 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:07
- ぶっ・・・
「わはは!やっぱなっちはそうでないとさぁ!」
「くくくっ!結局今も昔も食いつくのは田舎ネタって・・・」
「も〜!!なんだべさぁ!ちょっと県庁所在地だからって〜!!」
「あたしは逆にうらやましいけど、室蘭。」
ん?
福ちゃんまで。
「それは東京もんのイヤミかい?」
「違うよ、ホントに羨ましいんだって。あたし東北に親戚がいてさ、ちっちゃい頃夏休みとかに泊まりに行ってたんだけどさ。そこ漁村って感じで、夏なんか家からそのまま水着で走って浜辺まで行って泳いだりできるとこで。よくいとこに連れてってもらってさ。小さい集落だったから、近所の子とか、みんな幼馴染って感じで中学生とか小学生もみんな一緒になって泳いで、夜になると近所のお兄ちゃんが来て花火に誘ってくれたりしてさ。あたしとか、よそ者なのに妹みたいに可愛がってもらって。いつもお盆が終わって帰る時になると泣いてたな〜。その頃にはあたしも方言が移っちゃっててさ。・・・けど次の年の夏休みになるとあたしまた方言忘れてて。・・・なんかね、そういうこの土地の者にしか話せない合言葉、みたいなのすっごく憧れて。夏休みの始まりはいっつも寂しい思いしてたんだよね。」
「都会もんには都会もんの悩みがあるってことかい?」
なっちはどっちかって言うとそのいとこ側だから、都会から田舎に遊びに来た子の寂しい気持ちとか、考えたことなかったな。
「そうそう、都会もんには都会もんの、センターにはセンターの悩みってあるわけだ。」
???
圭織が何を言いたいのかわからない。
- 323 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:08
- 「う〜ん、飛躍しすぎだな、圭織。たとえば先日こんな事がありました。うちの玲夢、今年5歳になるんだけどね。来年から幼稚園に入るから、一日入園なるものに行ってきたわけさ。そこで何人かお友達ができて遊ぶようになったんだけど、どうも最近様子がおかしい。どうしたの?って聞いてみたら『うちのパパとママは芸能人だから玲夢はみんなと違うの?』と来た。さてはいじめられたのかと思って更に聞いてみたら『違うの、みんな玲夢に優しいの。みんなアイドルになりたいから』ってさ。他の子からしたらたぶん玲夢の環境ってのは羨ましくて仕方ないわけだ。でも、玲夢にとってはそれが悩みだったりもする。そういうこと。」
なんとなく彩っぺの言いたい事がわかってきた。
さっきから3人で、なっちに遠まわしに言ってくれてることが何なのか。
だけど、言えないよ、玲夢ちゃんだってお友達には言えないでしょ?
「それで?それで彩っぺは玲夢ちゃんに何て言ってあげたの?」
なっちはマネージャーにも社長にも、つんくさんにだって言われた。
“お前は真ん中でニッコリ笑ってればいい。弱みを見せるな。”
って。
「もちろん、お友達お家に連れといでって。ママもパパもみんなに優しくしてあげるよ、玲夢の大事なお友達だからねって。」
「玲夢ちゃんの大事なお友達だから?」
「そう、玲夢の父親と母親が芸能人してるのは事実なんだし。それが大した事ないとか子供に説明したって仕方ないじゃん。その代わり普通の親ができることをあたしたちもしてあげることで、子供なんてのはすぐ成長するんだし、そのうち玲夢が打ち明けられるような親友もできるかも知んないじゃん。娘の社会との第一歩だからね、援護射撃。ま、うちのダンナの顔見たら芸能人のイメージも吹っ飛ぶだろうし〜。」
「・・・なんか、彩っぺ変わったね。」
すっごく、優しくなったし余裕がある。
5年半の月日を、改めて感じた。
この5年半で、なっちはいくらか成長できたのかなぁ。
- 324 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:10
- 「そりゃ、母だからね。・・・けどさ、みんな大人になったよね。圭織もなっちも昔はしょっちゅうピーピー泣いてたのにさ。明日香は・・・変わんないか。」
「はいはい。」
ビール片手にブーイングポーズの福ちゃんは、確かにあまり変わんないように見えるけど。
でも、さっきなっちに大事な言葉をくれた。
あの、シャイな福ちゃんが。
ミニスカート履くのもふて腐れてた福ちゃんが。
それはすごく勇気のいることだったのかも知れない。
なっちも、踏み出さないといけない。
「嘘だよ。だからさ、みんな大人になったし、いいんだよ?なっち弱み見せても。少なくともあたしらには。あの頃だってお互い言い合ってたじゃん。今更テレビの中のなっち、ここでやんなくたっていいじゃん。」
・・・彩っぺわかったよ、もぉ。
「そうだよ、なっち。もっと感情的になってよ、圭織かまわないよ?」
・・・もう、わかったから。
「そうやって溜めてるとまたブクブク太るぞなっち。」
わかったってば!
「もぉ・・・なっちだって好きで太ったわけじゃないよ。」
・・・わかったから本当に。
- 325 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:12
- 「・・・怖かったんだ愛想着かされるのが。事務所にも、みんなにも、世間にも・・・。だから誰にも弱音なんて吐かなかった。みんなの悩みは聞いても、自分の悩みは・・・怖くていえなかった。」
ずっとお腹の奥底にあったその言葉を吐き出したとき、息苦しさがなくなってるのに気づいた。
息を吸いたくないって思ってたけど、ずっと吐き出したかったんだ。
なっちの中のどす黒いもの。
事務所に見放されたくない。
たくさんのファンに囲まれていたい。
みんなに嫌われたくない。
でもセンターは譲りたくない。
ごっちんに負けたくない。
でもそんなとこ見せたくない。
みんなにはわからない。
でもわかってほしい。
けどホントの自分を知られたくない。
この場所から動きたくない。
後輩から慕われたい。
友達はなくしたくない。
歌を歌いたい。
自分の思いを伝えたい。
干されたくない。
変わりたくない。
でも成長したい。
・・・・・・
自分の・・・歌を歌いたい。
- 326 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:14
- 次から次へとそれは湧き出てきて、人間の煩悩が108個って言うけどまったくそれでは収まらないくらい。
なっちはなんて欲深い人間なんだろう。
自分でもちょっと引いてしまう。
でも、いいや。
こんなどす黒いものを吐き出してるのに、なっちの目の前の同期の表情はどれも優しく笑ってくれてるから。
「おかえり、なっち。」
隣で微笑んでた一番付き合いの長い同期が、そう呟いて両手を広げた。
黙って腕を広げた彼女はまるで天女みたいに見えた。
だからそのまま吸い寄せられるようにそのままその腕の中に体を預けた。
「ただいま。」
- 327 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:15
- あぁ、なんかいいな、こういうの。
やっぱり同期って温かい。
久々に会ってもそれは変わらなくて、さっき離れてしまっただなんて思った自分を恥じた。
なっちも、こういう温かさを与えられるような人になりたいと思った。
それにはまだ、破らなきゃない殻がいくつもあるけど。
- 328 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:15
-
- 329 名前:Vol.4 午前10時の気持ち 投稿日:2006/08/29(火) 03:16
-
- 330 名前:みょん 投稿日:2006/08/29(火) 03:17
-
本日の更新はここまでです。
読みづらい文になってしまいすみませんです。
- 331 名前:みょん 投稿日:2006/08/29(火) 03:40
- すみません、名前欄のタイトル間違ってました。
正しくは『Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 』です。
更新遅れた上に間違うとか・・・恥ずかしすぎる。。。
申し訳ありませんでした。
- 332 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/29(火) 18:33
- なんか目から熱いものが零れました
心が暖かくなりましたよ
- 333 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/30(水) 00:11
- それぞれの立場、それぞれの悩み、それぞれの・・・。
皆それぞれに幸あらん事を祈りたくなります。
- 334 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/08/30(水) 22:05
- 通りがかりの読者です
がんばってください
がんばります
- 335 名前:みょん 投稿日:2006/10/20(金) 00:04
- >>332様
暖かいコメントありがとうございます。
すごく励みになりました。
>>333様
ありがとうございます。
みんな悩んでも幸せになってほしいですね。
>>334様
ありがとうございます。
お互いがんばりましょう。
- 336 名前:みょん 投稿日:2006/10/20(金) 00:05
- いつもいつも更新が滞りがちで申し訳ありません。
更新いたします。
- 337 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:08
- 神様・・・・
弱みを見せない自分は、すごく強い人間。
そう思ってたなっちは、今まで神様なんて信じちゃいなかったけど。
だけど、素顔を見せれたこんな夜は神様にお願いしてみたくなってしまう。
誰よりも弱かった自分を受け入れてくれたそんな仲間に再会できたこんな夜だから。
「ばかだなぁ、なっちは。」
「ほんとにね〜、ばかだよ。」
「うん、ばーかばーかばかなっち。」
なんだかなぁ・・・。
口は悪いけど、圭織も、彩っぺも、福ちゃんも・・・。
なんだかその“ばか”って言葉に愛を感じちゃったんだ。
おかげでなっちの中で9割方、傾いた。
あとの1割は・・・うん。
すっごく重い。
重いんだけども、なんだか今夜ならそれを考えられる気がした。
それでたとえその1割に押しつぶされても、それはそれでいいや。
またここに愚痴りにくればいい。
なっちが今ある場所を動けなくたって、それはそれで後悔しないと思える。
きっとまた“ばか”って言って優しく笑ってくれる仲間がいるから。
「ありがと」
「ばーか。」
ほら、ね。
なんだか知んないけど、なっちの中でクタクタの皺くちゃになった夢が、もしかしたら
どうにかなるかも・・・なんて、そんな都合のいい希望が湧いてきちゃったんだ
- 338 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:11
- 「じゃ、とりあえずなっちも落ち着いたみたいだし、そろそろ帰るね。耀ちゃん真矢くん
に任せてきたからちょっと心配でさ。」
ちら・・・と時計を気にしながら彩っぺが申し訳なさそうに席を立った。
そっか、耀太くんまだ1歳にもなってないんだったね。
「あの・・・ごめんね、彩っぺ。」
なんだかそんなちっちゃい子をダンナさんに預けてまで来てくれて、こんな時間まで。
とたんに申し訳なさがこみ上げてきて、思わず席を立った。
「ばかなっち、いいんだよ。息抜きできたし。たまにはダンナにも子守させないと。」
コツン・・・
軽いゲンコツを額にもらった。
「・・・でもさぁ、もう12時だよ?怒られるんでない?なんならなっち一緒に行って謝るよ。」
「なっちが行ったら余計迷惑でしょうが。」
ハハハって福ちゃん笑ってる場合かよ。
というかどういう意味だべさ。失礼しちゃうよまったく。
「いいって。この件はあたしも当事者みたいだし。・・・圭織、これ1週間後にアップフロ
ント行けばいいの?」
カバン肩にかけつつ、レジュメをヒラヒラさせて、彩っぺが圭織にたずねた。
「ん、そう。1週間後の午後3時にミーティングあるから、そん時までにはどうするか
決めてってつんくさん言ってた。」
「りょーかい。・・・てかこれうちの事務所話通してんの?」
「どーだろ?極秘プロジェクトだからねー、たぶん通ってないんじゃん?」
「・・・マジかよ!ったく、相変わらずムチャすんなぁ。・・・ま、いいやとりあえず考えとく。」
「ん、よろしくー。あっ、なっちももうちょっと悩むでしょ?」
- 339 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:12
- 急に圭織に話を振られてビクッとしちまったじゃないさぁ。
「え?!」
話ほとんど聞き流してたし。
「だからぁ、なっちもうちょっと悩むでしょ?てか、やることあんでしょ?」
「あ・・・うん。」
圭織、怖いよ。
いつもは外れる事の方が多い圭織の直感・・・っていうか妄想っていうか。
やけに今日はキレキレでちょっと怖いよ。
「じゃあさ、なっちも今日はもう帰んな。彩っぺタクシーっしょ?なっちがタクシーチケット
持ってるから一緒に帰りなよ。」
「・・・え、圭織は?なっち帰っちゃっていいの?」
だって圭織さっきまでなんか説得モードだったのに。
「参加するって言うまで帰さねーぞ!とかいうと思った?カオそんな悪徳地上げ屋みた
いなこと言わないって。とりあえず一人でちょっと考えたいんじゃないかなって思ってさ。
今夜はとりあえず明日香とさしで飲みながら作戦練るよ。」
「・・・なんかちょっと怖いんだけど。」
「何だって?明日香。」
「え、ちょっと待って、なっち、この酔っ払いつれて帰ってよ。」
- 340 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:13
-
ぷっ・・・
本気でちょっと怯えた表情の福ちゃんと、福ちゃんの首根っこ捕まえてしてやったり顔
の圭織が妙に不似合いでおかしくって。
だからわざと満面の笑顔で言ってやった。
「い・や・だ・べ・さ。・・・じゃ、彩っぺ帰ろっか。」
「なんだよー、悪なっち!」
悔しそうな福ちゃんの声を後ろに聞きながら、バックを持ってドアーに向かって歩き出した。
うん、なんだか悪くないな、悪なっち。
- 341 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:14
- 福ちゃんちのお店を出て、少し広い通りまで彩っぺと歩いた。
東京の夏特有の、むわっとするような湿気を含んだ風が、エアコンで乾いた頬をちょっと
汗ばませて、だけど不思議と今夜はそれが心地よく感じた。
この水分を多分に含んだ風が、なっちをまたあの熱かったあの頃に運んでくれそうで。
通りまで歩くとすぐに客待ちのタクシーを捕まえる事ができた。
珍しくこの蒸し暑さに名残惜しさのようなものを感じながらも、キンキンに冷えた車内に
乗り込んだ。
「あ、先に彩っぺのとこ送るね。なっち近いからさ。」
「いいって、明日早いんじゃないの?」
「明日はオフだもん。・・・てかさ、明日オフとかいつから決まってたんだろ?」
「気前いいじゃん、アップフロント。じゃあ、なっちに送ってもらうかなぁ。母にはオフない
からさぁ。」
たぶん、このプロジェクトが決まって、うちらに伝える日を決める時に一緒に決めたんだ
ろうな。
一応、事務所の気遣いってやつ。
さっき緊急ミーティングに集まったみんなは、娘。のよっちゃんを除いて全員明日はオフ
だって。
ののとあいぼんだって、コンサ上がりで明日はオフなはず。
・・・できすぎてるよね。
- 342 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:15
- 「なっちさぁ、さっき明日香のこと、羨ましいって思ってたでしょ。」
運転手さんに行き先を告げて、タクシーが走り出してすぐ、彩っぺが切り出した。
もうなんだかすっかりどす黒いものを吐き出したなっちは、その意味を考える事もなく、
そのまま答えた。
いいっかなって、思った。
散々さっきぶちまけといて、今更いい子になる事もないかなって。
「うん。羨ましいよぉ。羨ましいっていうか嫉ましかったよ。」
あはは!
そうまさに「あはは!」ってマンガみたいに笑った彩っぺが、なっちの頭をポンポンっ
て軽く叩いた。
「だってなっち夢だったから。自分の思いを、言葉にして、歌にして、届けたかったん
だもん。人数なんか関係ないんだ。受け止めてくれる人がいれば。ほんとは憧れて
たりもするんだ、福ちゃんみたいな生き方・・・ってなっちがばかだから叶わない夢に
なっちゃったけどさ。」
あはは!
とりあえずなっちもマンガみたいに笑った。
笑えないけど笑っとけ、みたいな。あはは!
- 343 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:16
- 「あたしはさぁ、最初ロックがやりたかったわけじゃん、まぁあたしらみんなそうだった
けどさ。でも服飾もやりたくなったり、真矢くんと結婚もしたかったわけじゃない?欲
張りなんだよね〜あたしたち。なっちだってアイドルとしちゃあ大成功の部類じゃない?
けど、別の夢があって、それでも今の仕事もしたくって。」
「はは・・・そうだね、欲張りだ。」
どっちも捨てらんない、どっちも手放したくないなんて。
「けどさ、生きてくんだもん、無理っぽい夢って持っててもいいと思うんだよね。叶わ
ないとか諦めたらもう意味ないけどさ、どんなに皺くちゃになっても、どんなに擦り切
れても、手放さなかったら、それって本物になる。それが生きてく糧になると思うんだ。」
「生きてく・・・糧」
「そのために今がんばろうって、思えるでしょ?思ってきたんでしょ?」
思って・・・きた。
思ってきたけど、なっちはもう・・・
「簡単に叶わない夢とか言わない!へこたれない!手放さない!」
バチン!バチン!バチン!
言葉のリズムに合わせるように、平手で背中を叩かれた。
ジンジン熱くなった背中が、さっきの夜風みたいになっちの中の熱を再び呼び覚ま
してくれたような、そんな感覚。
「これ、うちの教育方針だから。」
ニッ・・・て笑った彩っぺ。
いいお母さんだなぁ・・・素直にそう思った。
「なっちは彩っぺの子供じゃないべさ。」
・・・口ではこんなこと言いながらも。
- 344 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:18
- 「はっきりと言えるんじゃん、なっちの夢。あんなハッキリキッパリ誰が聞いても分か
るように言える夢なら、叶わないなんて言うのはばかだよ。言葉にしたら本当になる
んだから。ハッキリ夢を語った後に叶わないなんて言う奴は一生後悔して過ごすよ。」
「怖いこと言わないでよ、一生とか。」
冗談めかして言った彩っぺの言葉が、その言葉自体も言葉にしたから本当になるよう
な気がしてきた。
「本当だって。あの時こうすればよかった、とかさ。そんなこと言ってるといつまで経っ
てもその時の事悔やんで、そこから抜けらんないでしょ?それの繰り返しだよ。」
確かにそんな風に悔やむ事はあるけどさぁ。
人生っていうものがそれだけの繰り返しになっちゃうのはどうかなぁ。
「そんなんつまんないじゃん。」
つまんないよ。
「そう思うんなら、もう叶わないなんて思わないで、どうやってそれを手に入れるかを
考えないと、行動しないと。・・・あのね、なっち。知ってると思うけど、棚からぼた餅な
んて降ってこないからね?」
棚からぼた餅・・・思いがけない幸運ってことだよね。
「オーディションに落ちたうちらが、娘。になれたのは棚からぼた餅って言わない?」
だって普通なら落ちたらハイ、サヨウナラじゃない?
「言わない。」
「・・・なんでさ?」
「あたしたちは努力した。あの頃の自分が普通じゃ考えらんないくらいの努力、した
でしょ?15歳のあんたが、あんなに必死になって人に頭下げて何か買ってもらった
ことある?人に認められるために、自分を磨いたり鍛えたりした事ある?」
・・・そうだった。
あの時は必死で。
デビューできなかったら死んでもいいとさえ思ってた。
- 345 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:20
- 「・・・そういうこと。ぼた餅食いたかったら、棚よじ登ってでも、棚ぶっ壊してでも、
とにかくぼた餅を棚から落とすか、自分が棚の上行くかしかないの。ぼた餅は
自分からなっちの開いた口の中に入ってきてくれないよ。」
棚よじ登って、ぶっ壊してって・・・
「あはは・・・ののみたい。」
なんだか棚よじ登ろうとして棚を倒しちゃったののがぼた餅を頬張ってる顔が浮か
んで、笑えてきた。
「のの?」
・・・って彩っぺ、後輩だぞ愛称くらい覚えてくれよ。
仕方ない、子持ち主婦向けな愛称を言ってあげるか。
「辻ちゃん」
「あぁ、辻ちゃんね。あの子いいよね、なんか足掻いてるとこすごい伝わってきて
応援したくなる。」
・・・そうなんだ。
でも・・・うん。分かるかも。
ののはいつもがんばってるもんね、時々空回りするけど。
人一倍悩んでるのに、誰かのせいにしたり、事務所のせいにしないで。
カメラの前であんなにライバル意識だせた娘。って、あの子位かも知れない。
それでもとがった感じはしなくって、一生懸命足掻いてるとこが逆に微笑ましかったり。
・・・だからかな、なっちがののに惹かれるのは。
羨ましかったんだ、感情を出すことを恐れないってこと。
アイドルのなっちと、もう一人の安倍なつみがいたとして、一方ではののに、もう一方
では福ちゃんに・・・矛盾するようだけど、あたしは確かに憧れてた。
どっちがどっちにかとか、そんなこと置いといても、とにかくあんなふうになってみたか
ったんだ。
- 346 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:22
- 「・・・あ〜あ、なっち何やってんだろ。もうすぐ24歳だってのに。」
笑えてくるよホント。
なっちより幼いはずの二人のが、よっぽど立派に見えて仕方ない。
「なっちはさぁ、まずは欲しいものは欲しいって、態度で、言葉で伝えるとこから始めなよ。」
「みんなを巻き込んじゃうかも知んないけど、いい?」
傾いたシーソーの、残り1割。
すっごく重〜い1割、今夜なっちは押しつぶされる覚悟だったけど。
「みんなに、背負わす事になっちゃうかも知れないけど、なっちそれ持って行ってもいいの?」
「それはみんなに聞いてみなきゃ。嫌だって言われたら説得すればいい、そうでしょ?」
そう・・・なの?
なんだかさっきから彩っぺがくれる言葉は、なっちにとっては目からウロコで。
やっぱり母になるって事はすごいことなんだなぁ・・・って漠然と思った。
引退してからは一度も会っていない紗耶香もこんな感じなのかなぁ・・・とか。
「まぁ、もしあたしが参加することになったら、もちろんあたしはなっちの持ち物、一緒に
背負ってあげるよ。」
なんでもなさ気ににサラっと言って、カラッと笑う彩っぺの言葉。
お母さんの顔で言った彩っぺ。
「ありがとう。」
今度は素直にお礼が言えた。
- 347 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:24
- 「お互い様。あたしはまだ向かい合わなきゃない家族とか、事務所とかあるからさ。
なっちだってそうなったら、あたしの荷物、一緒に持ってくれるでしょ?みんな一緒だよ。」
彩っぺの背負ってるもの、大事な家族。
「もちろん!もちろん背負うよ。なっちちっちゃい子とお年寄りには好かれるんだ。」
まぁ同年代女子には割りと嫌がられるけどさ。
「でしょ?だから自分の荷物だけ重いって思わないことだよ。みんなで持ったら
案外軽いかも知んないじゃん?・・・あ、すいませんそこ右曲がったとこで一人降
ります。はい、その角右で。」
すっごく暖かいこと言ってもらってるうちに、いつの間にか彩っぺのお家に着きそう
なとこまで来てたらしい。
急に運転手さんに向かって身振り手振り入りで説明しだした彩っぺ。
「ここでよろしいですか?」
「はい、そこ右入ってちょっと行ったとこで止めてください。」
「・・・この辺で、大丈夫ですか?」
「あ、はい、ここで。ありがとうございます。」
ドアーが開いて、降りる前に思い出したようになっちの方振り返った。
「じゃあ、なっちありがとね、送ってもらって・・・・・・ってなに笑ってんのよ?」
「だって相変わらず身振り手振りおっきいんだもん。」
ラブマシーンの時の振り思い出しちゃったじゃん。
「・・・ったく人が心配してたらこの子は。」
「ごめん。なんか今日なっちのことばっか聞いてもらっちゃって。」
ホントにお母さんに甘える子供だよね、なっち。
「あ〜、いいって。でもさ、あたしが参加できなかったとしてもなっち・・・」
「うん。叶わない夢とか言わない!へこたれない!手放さない!・・・だよね?」
彩っぺの言葉を遮って、とびきり大きな声で宣誓した。
彩っぺは一瞬目を見開いた後、バチンって思い切り1回だけなっちの背中を
叩いて、車を降りた。
- 348 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:25
- そのままドアーが閉まって、タクシーが走り出す。
最後に1回だけ叩かれた背中がジンジンして、今度はなっちの中の熱が冷め
ないようにしてくれてるみたいに感じた。
5分ほど走ったところで、カバンの中の携帯が光ってるのに気づいた。
ディスプレイには彩っぺの顔。
慌ててメールを見て、一人吹き出した。
『悪なっち、深夜に近所迷惑だぞ!怒られないように気をつけて帰るんだよ!』
「そっか、住宅街だったかぁ・・・って誰に怒られるんだよ。」
誰に言うでもなく一人ごちながらも顔は笑ってしまう。
・・・夜中にこんな客乗せたくないだろうなぁ、運転手さん。
すまない気持ちはあるものの、結局降りるまで笑いは止めなかった。
今まで燻っていた自分の中の熱が、パチパチと音を立てて温度を上げていくような。
そんな気配を感じた。
なんだか自分の内側からふつふつと沸いてくる熱に浮かされて、いつもならマンシ
ョンの近くのコンビニ前で降りるのに、今夜はマンションを通り過ぎて二つ目のコン
ビニまで乗せてもらった。
外に出るとさっきより幾分涼しい夜風が心地よくて、コンビニには寄らずにそのまま
遠回りしたその道を歩く。
見上げると淡い藍色の空にまん丸な大きな月。
- 349 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:27
- いつもなら顔を伏せて歩くその道を、上だけ見上げて歩いた。
鼻歌なんか歌っちゃて。
それがなんでかおとめ組の歌だったりして自分でもおかしい。
Now! Touch My Heart!
1000年経って 宇宙で暮らしても
私は変わらないわ 愛の園
あー、こうやって自分の心境と似てる歌を浮かべちゃったりするからなっちばかなん
だよなぁ。
自分の言葉にする前に歌、浮かんじゃうんだもん。
そんなこんなで書き溜めたノートが今もまだクローゼットの奥に数冊。
家に着いたら処分しなきゃ・・・なんて思いながら。
Now! Touch My Heart!
明日になって 私が邪魔ならば
良い子の私は bye bye
明るすぎる東京の夏の夜空は、あんまりキレイとは言えなかったけど、お月さん
がまん丸だからそれでいっか・・・なんて。
- 350 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:28
- ばかみたいに上を見上げたまま、歌いながらマンションのエントランスに入ろうと
した時。
「安倍さんっ!!」
って突然声が聞こえて。
「ぎゃーっ!!」
かなりビックリした。
ナニナニナニ???
えっ・・・てか今夜中だよね?こんな時間に何やってんのさ!
ゴンッ!
振り向こうとしたら、後ろから体当たりされて、見事に顔面からエントランスのガラス
の扉に衝突してしまった。
「いっ・・・たいなぁ・・・もぉ。」
- 351 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:29
- 突然の展開に、頭が着いてかなかったけど今の一撃で急に意識が覚醒した。
今度こそ振り返ると、体当たりしたモノが後ろから腰にぎゅーって抱きついてて、
その後ろに申し訳なさそうな顔がソワソワしながら小走りで近づいてきてた。
「何時だと思ってんだべさぁ!」
近所迷惑も顧みず、怒鳴った。
別に、頭に血が上ったとかじゃない。
冷静に考えて、ここは怒鳴った。
うちらの仕事はイメージを売ってるようなものだ。
こんな夜中にフラフラと出歩いて、もし何かに巻き込まれでもしたらそれでジエンドだ。
その辺を分からせないといけない。
そう思った。
- 352 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:30
-
- 353 名前:Vol.5 擦り切れてもキレイな夢 投稿日:2006/10/20(金) 00:30
-
- 354 名前:みょん 投稿日:2006/10/20(金) 00:31
-
本日の更新はここまでです。
- 355 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/20(金) 02:51
- 色々と近所迷惑 w
いつも更新を楽しみにしていますよ
がんばってください
- 356 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/21(土) 00:17
- 誰!?
なんかジーンと来てたところに…
次回を楽しみにしてます
- 357 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/21(土) 01:43
- 通りがかりのファンです
応援してください
応援します
- 358 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/31(日) 01:03
- 始めて読みました
出てきてる一人一人の個性がスゴく出ていて画が浮かびます
なんで今まで気付かなかったんだろ…orz
続き楽しみにしてますね
- 359 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/01/15(月) 15:26
- なんかじわっと来ますね
いいなぁ・・・
次回楽しみにしてます^^
- 360 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/13(火) 02:25
- 続き気になってしまった
- 361 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/14(水) 00:11
- >>360
11月頃移転したよ
- 362 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/08(木) 20:49
- >>361
どこに移転したんですか?
- 363 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/09(金) 12:54
- HP
- 364 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/03/10(土) 01:27
- HP検索するのでヒントお願いします
- 365 名前:みょん 投稿日:2007/03/11(日) 21:15
- 作者です。
すみません。
だいぶ放置してしまったせいでご心配おかけしております。
移転等はしていません。
できるだけ近いうちに更新したいと思っております。
申し訳ありませんでした。
- 366 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/06/13(水) 03:59
- 更新待ってます
- 367 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/09/24(月) 22:38
- 待ってます
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