ピンクのまくら

1 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/17(金) 23:28
辻さん誕生日記念で辻さん主役です。
初小説なので至らない点などあると思いますがよろしくお願いします。
2 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/17(金) 23:30
「じゃあ、おやすみのん」
 「うん、おやすみ、亜依ちゃん」
部屋の前で亜依ちゃんと別れ、自室に入って
腕に抱えた沢山の荷物をとりあえずベットにおいてため息をついた。

3 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/17(金) 23:32
実は今日はのんの18回目の誕生日だったんだよね〜。
今日はWのお仕事で地方に来てるから亜依ちゃん以外のハロプロのメンバーに会えなかったんだけど、みんな

わざわざマネージャーさんにプレゼント預けててくれたんだ。
へへ〜、なんか幸せ。
4 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/17(金) 23:34
さてさてみんななにくれたんだろ?
「♪マイハッピーバースデーカム。ついに来たわ〜夢に描いていた うまくいえないけれどじゅうじつのマ

イハッピーバースデーカム♪」
口ずさみながらみんなからもらったプレゼントをチェ〜ック!
まずはさっきもらったばかりの亜依ちゃんのから
「……!指輪だ〜!かわい〜♪」

よく見てみると指輪の内側には

I  LOVE NON
って彫ってある。
 「へへ〜、なんかてれくさいよ〜」

 早速はめて眺めて見る。
「うん、ぴったり。ずっとはめてよ〜」
 しばらくニマニマしながら眺めてたけどまだまだプレゼントあるからとりあえずみんなみてみないとね。
5 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/17(金) 23:36

……まあ、いろいろあった。
いやさ、嬉しいんだけどさ、さすがと言うか、なんというか・・・。普通にアクセサリーだったり香水だっ

たりする人もいるんだけどさ
紺ちゃんのほしいも、みきてぃからのバストアップの本(効き目ないじゃん!!!)重さんの生写真ときた

ら頭が痛くなってきた。

「いや、まだだ。麻琴と梨華ちゃんがいる。
二人なら大丈夫だよね。…大丈夫だよね。」
のんは自分に言い聞かせながら二人の包みを開けたんだ。
6 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/17(金) 23:38
麻琴は・・・ジグソーパズル?
麻琴にパズルのこと話したっけ?ラジオ聞いててくれたんだ〜!ありあとー麻琴。
で、梨華ちゃんは
「…………」
期待したのんがバカだったんかな?いや、確かにバカ女だけどさ。
 一際大きな包みから出てきたそれはピンクの枕だった。

「……と、とりあえずみんなにお礼のメールしなきゃだよね」

紺ちゃんにもらったほしいもをひとつ口に放り込んで
 ケイタイを手にとった。
7 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/17(金) 23:40
」あれ?梨華ちゃんからめーるだ」

『のの誕生日おめでとー。プレゼント見てくれた?
なんかね、夢の中で願い事がかなう枕なんだって。
どんな夢みたか後で教えてね』

ふぇ〜それで枕なんだ?いつものこととは言えバカにしてごめんね梨華ちゃん。
のんは心の中で誤りながらみんなにメールを打ち始めた。

「さってと、寝ますか」
 のんはどんな夢を見るか楽しみにしながらピンクの枕に頭を乗せたんだ。
8 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 16:39
9 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 16:43
「……んちゃんん!!のんちゃん!!!」
ふぇ?なんだ?あれ?
気がつくと目の前にはなんか西洋のよろいを着た格好の飯田さん。

「ろうしたんれすかいいらさん」
「のんちゃん、またカオのお話ちゃんと聞いてなかったでしょ?
カオはカオじゃなくってアテナなの」
いまいち状況が分からない・・・
確かのんは梨華ちゃんにもらったまくらで寝て・・・

(ああ、これはきっと夢れすね。それにしても…)

「いってることが矛盾してるのれす」
「口声たえしないの!!」
(逆切れれすか)

「とりあえずのんちゃんにはこれからメデューサ退治にいってもらわなきゃいけないの」
10 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 16:45
思いもよらないことをいわれて驚いたけど
とりあえず話を聞いてみることにした

「メデューサってなんれすか?」
「メデューサってのはね、髪が毒蛇、いのししの歯、銅の腕、黄金の翼をもっ

てて、顔を見た人を石に変えてしまう恐ろしい〜…ってのんちゃんどこいくの

?」
「そんな化け物ごめんなのれす」
「待ちなさい!!!」
さっさと逃げ出そうとするのんの腕を掴んで飯田さんがつづけた。

「安心して、のんちゃんが安全にメデューサ退治するためにちゃんとカオが良

いものもってきたんだから」
(いいもの?
それをはやくいうのれす。いいものならもらっとくのれす)
のんの力なら余裕で振り払えたはずなんだけど
良いものって言葉につられてついつい話を聞いてしまった。

11 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 16:48
「いいものってなんれすか?たべものれすか?」
「もう、のんちゃんはくいしんぼうなんだから〜!
良い物って言うのはこの盾と剣です」
見ると表面が鏡のように磨き上げられた盾と、彎曲した剣だった。

「この鏡にメデューサの顔映して、この剣で首を落とせば大丈夫よ」
最初は危ない目に会いたくないと思ってたんだけど話を聞いてるうちに、
どうせ夢なんだしと思い、だんだん乗り気になってきていた。


12 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 16:51
「へい、わかりました。れもメデューサってろこにいるんれすか?」
「ああ、それは佐渡島」
「!!!?な、なんれ神話のばけものが佐渡島なんかにいるんれすか?」
「ああ、でも船や飛行機なんかないから自力で海渡ってね。
それとメデューサにはお姉さんが二人いるらしいから気をつけてね。
じゃあ、のんちゃんよろしくね〜」
都合の悪い質問は無視し、さらに無責任な言葉を残し
飯田さんの姿は空に溶け込むように消えていった。

「……海渡れってのんに泳げっていうんれすか?」
のんは途方にくれて、飯田さんが消えたあたりの空を見つめながら一人呟くし

かなかった。

13 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 17:43
 
14 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 17:44
そうしてどれくらいたったころだろう
突然耳慣れた声が入ってきた

「のんつぁん困ってるっちゃね?」
後ろからかけられた声に振り向くと、
見慣れた女の子がたっていた。

15 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 17:45
「田中ちゃん!」
「のんつぁん、れいなは田中じゃ中、ヘルメスたい」
「…………」
田中・・・お前も課・・・お前もなのか・・・そんなことを思い反応できないでいると

「のんつぁんどうしたと?飯田さんの病気でもうつった?」
とキョトンとしたカオで覗き込んできた。
のんは病気が移ってるのはお前の方だと言いたかったけど、
そこはこらえて話を戻してみた。

16 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 17:48
「で、田中・・・じゃなかった、ヘルメスはなにしにきたんれすか?」
すると田中ちゃんはさも今思い出したように手を叩き

「そうそう、のんつぁん海越える方法さがしてたんやろ?」
「そうらけろ、なんれしってるんれすか?」
「まあまあ、それはおいといて、れいなが良いもの貸してあげるっちゃ」
飯田さんに続き田中ちゃんも
都合の悪い質問は無視して
どこからともなく踵に羽のついたサンダルをとりだした。
17 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/19(日) 17:51
「これは空を飛べるサンダルっちゃ。
これで佐渡島まで飛んでいけばあっという間たい」
「すごいのれす!空とべるんれすか?!?
ろうやってとぶんれすか?」
興奮して矢継ぎ早に問いかけるのんをちょっと困ったように見ていた田中ちゃんは
頭をかきながらちょっと気まずそうに口をひらいた

「さあ?れいなにも分からないっちゃ。
まあ、サンダルやし履けばなんとかなるっちゃよ」
そう言うと、田中ちゃんも飯田さんと同じく逃げるように空に消えていっ田。

18 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/21(火) 22:34

「おー!なかなか快適れすね〜!!」
どうせ夢なんだからなんとかなるだろうと
田中ちゃんがおいていったサンダルを履いてみると
案の定簡単に空を飛ぶことができた。

「それにしても気持ちいれすね〜
のんは一度空を飛んれみたかったのれす」
自分で口に出してからはたと気がついた。
19 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/21(火) 22:36

『なんかね、夢の中で願いがかなうまくらなんだって』

20 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/21(火) 22:36

眠る前に届いていた梨華ちゃんからのメール。

「のんの願いってこれだったんかな?
それにしても寝る前のこと覚えてるなんて変な夢なのれす」

なんか考えれば考えるほど不思議な気持ちになったけど
どうせ考えたって分かんないし、せっかくなので空の旅を楽しむことに決めた。
21 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/21(火) 22:38
しばらく飛んでいるとやがて岩場の海岸が現れた。

「おー、なんかすごい眺めれすね〜。」
岩場に叩きつけるように打ち寄せる波を眺めながら飛んでいると
海に突き出している岩の一つに人影を見つけ近づいてみることにした。

「!!!?」
地被いてみるとそれは岩場で鎖に縛り付けられた女の子
それものんにとって大切な、掛け替えのない人だったんだ。

22 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/21(火) 22:39

「亜依ちゃん!!!」
のんはいてもたってもいられず駆け寄った。

「のん?のんなん?助けに来てくれたん?」
「ろうしたの?こんなところで」
安心したような笑顔でこちらを振り返った亜依ちゃんに駆け寄りながら質問を続けた。

「うちな……生贄にされそうになってんねん」
23 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/21(火) 22:44
「……!!!!な、なんれれすか?」
「あんな〜、なっち姉ちゃんがな〜、
うちが海のニンフ達より可愛いって自慢してもうてん」
「そっ、そう」
「うん、それでポセイドンの怒りをかってもうて、生贄にされそうになってんねん」
「そんなことぐらいでれすか!?」
驚くのんを尻目に亜依ちゃんは
一気に緊張が解けた安心感からか
興奮状態でまくしたてた。


24 名前:ぱせり 投稿日:2005/06/21(火) 22:45

「うちが誰より可愛いなんて、そんなん分かりきったことやけど、
そんなこと言ってポセイドン怒らせたらまずいやんってうちは思っててんけど〜」
「…………」
「でもな〜、やっぱり姉ちゃんとしては可愛い妹自慢したいのも分かんねん」
「…………」
「だからな〜、最初は可愛過ぎるうちが悪いんやと思って諦めようか思っててんけど〜
のんの姿みたら……
ってどこいくね〜ん!!!の〜〜〜ん!!!
助けに来てくれたんちゃう〜〜〜ん!!!?帰ってきてや〜!!!」
当座駆る亜依ちゃんの悲痛な叫び声を聞きながらのんは思った

のんの判断は間違ってないよねって。

25 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:44
 
26 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:45

そうしてまたしばらく飛んでいると目の前に小さな島が見えてきた。

「あれが佐渡島れすね」
そうは思うもののあまりにも小さすぎる気がする。
なんか森ばかりだし、現代の日本にこんな島はないと思う。
と言ってものんは佐渡島がどこにあるかも知らないし、
どんな島かもよくは知らないんだけどね。
そう考えて見ると、何であの島を佐渡島だと思ったんだろう?
とりあえずほかに島も見当たらないし、直感を信じて行くしかないと思いその島に向かった。

27 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:48

「おーい!メデューサさ〜ん!ろこれすか〜!!!?」
森の中を歩くこと1時間あまり
メデューサどころか誰にも出会わないことに焦れて
のんは半ばやけくそで名前を読んでみた。

「よんだ?」

突然の声に振り向きかけたけど、顔見ちゃまずかったのを思い出して
飯田さんからもらった盾を後ろに向かってかざしてみた。

「!!!」
「あれ〜?のんじゃ〜ん」
その間延びしたような声と喋りかた―――そして何よりも盾に映る顔
盾には頭にいっぱい蛇をぶら下げ、いのししの牙が生えた麻琴の顔が映っていた。

28 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:50

「ま……麻琴!?」
「どうしたの〜?こんなとこまで?」
「ろうっていわれても〜……」
正直こまった。
いくら夢でも麻琴を退治なんかできないもん。

「あれ〜?のの〜?」
のんが困惑してしどろもどろになってると
また麻琴とは違うのんきな声が聞こえてきた。

「よ、よっすぃ〜……」
さすがにここまでくるといくらのんがバカでも分かる。
声のした方向に盾をかざして確認する。
(ははは〜やっぱりそうだ)
盾に映ってたのは麻琴と同じく蛇の髪といのししの牙をつけたよっすぃー。

29 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:51

『それからメデューサには二人のお姉さんがいるらしいから……』

飯田さんの言葉を思い出す。
(ってことはもう一人……誰だろう?)
と可能性のありそうなメンバーを考えてると
騒がしい声が聞こえてきた。
30 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:52
「なによっ!うるさいじゃないのっ!!寝れないじゃないのよっ!
夕べは裕ちゃんと飲み明かしたから眠いのよっ!ってあんた辻、辻じゃないの

っ!?」

(いや、のん達より絶対おばちゃんの方がうるさいよ)
と、声に出すと怖いので心の中で突っ込んでおきながら
(なんだかこの三人が姉妹ってのも分かるような気がするな〜)
なんて現実逃避をし始めていた。
31 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:53

「ところで辻っ、あんたなにしにきたのよ!?」
やっぱりその質問に答えられず困ってるとおばちゃんが切り出してくれた。

「まあいいわ。せっかく来たんだから一緒にお茶でもしようか」
そして奇妙な格好の3人とのお茶会が始まった。

32 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:56

お茶会の間、のんは人に頼まれて(飯田さんとは言わなかった)
メデューサを退治に来たこと。
来て見るとメデューサが麻琴だったので止めたことを伝えた。

「辻っ、それは懸命な判断だったわね。
小川を退治するんなら私たちが容赦しなかったところよ!」
のんはそう言ういつも以上に怖い顔のおばちゃんを見て
最良の判断をした自分に心から感謝した。

「え〜、あたしはべっつに麻琴退治してもらってもかまわないよ〜。
むしろ付きまとわれずにすむから退治してほしいかも〜?」
ベーぐるを加えたままニヤニヤしながらそう言って麻琴をからかうよっすぃー


それに情けない顔で絡んでいく麻琴にその場の空気が和んで
その後は楽しいお茶会になった。
33 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:57

「で、辻。あんた加護はどうしたのよ?
一緒じゃないの?)
お茶もおやつも粗方片付いて
お茶会も終わりに近づいたころおばちゃんが尋ねてきた。
のんは海で亜依ちゃんに会ったことを一部始終話した。

「あんたっっ!!!なんで加護おいてくるのよ!!!?
危ないじゃないの!!!いけにえってわかってるの!!!?
加護がデッカイ魚にたべられちゃうってことなのよ!!!」
「なんらよ!!!亜依ちゃんがいつもじぶんばっかりかわいいみたいなこと言

うからいけないんじゃんか!!!」
なんか無性に腹がたったのんは怒鳴り返して空え飛び立った。
34 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:57
 
35 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:58

(なんだよ、おばちゃん亜依ちゃんの見方なんかしてさ。
どうせ夢なんだから大丈夫だし……)
(大丈夫だよね……)
(……気になるわけじゃないけど……帰り道だもんね)
(……帰り道じゃしょうがないよね)
のんは自分に言い聞かせつつ足を速めた。

36 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 20:59

「あっいた」
岸壁を人影を探しながら飛んでいると鎖に縛られたままの亜依ちゃんを見つけ

た。

「あ、亜依ちゃん……ら、らいじょうぶ?……」
恐る恐る声をかけてみると
目に涙をいっぱいに浮かべた亜依ちゃんが顔を上げた。

37 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:00

「のん……帰ってきてくれたん?」
「うん、さっきごめんね。」
「……うちこそごめん」
「待っててね、今鎖はずすから」
のんは悪戦苦闘しながら亜依ちゃんの鎖をはずし始めた。

「亜依ちゃん、手の所はもう外れるよ」
のんが声をかけると亜依ちゃんは自由になったばかりの手でのんのことを突き飛ばした。
38 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:01

「……亜依ちゃん?」
突き飛ばされたままの体制で見上げると亜依ちゃんは引きつった顔で海の向こ

うを凝視していた。

「のん、早く逃げて!!!」
亜依ちゃんの視線を追ってみると巨大な魚がゆっくりこちらに向かってきていた。
39 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:02

「なにしてんねん!!!
早く逃げて!!!」
「でも亜依ちゃんも一緒に……」
「もう間に合えへん!
のんだけでもはようにげて!!!!」
確かに亜依ちゃんの下半身はまだ鎖に縛られたままだった。
40 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:03

「はよう、はよう逃げて!!!」
「亜依ちゃん待ってて。
今のんが退治してくるから」
「な、何言うてんねん!?いったらあかん!!!?」
亜依ちゃんの言葉を無視してのんは魚向かって飛び出した。
41 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:04

「亜依ちゃんはわたさねーのれす!!!」
魚に向かって剣を振りかざすと、思いもよらず魚から人語が発せられた。

「んあ、じーつーじゃん?なんでじゃますんの〜?」
(この声ってまさか……)
「あ、亜依ちゃんはわたさねーのれす」
悪い予感に動揺しながらものんは同じ言葉を繰り返した。

「んあ〜、生贄って加護ちんなんだ〜。楽しみだな〜」
「あ、亜依ちゃんを食べるなんてゆるさねーのれす!!!」
もうこの際魚がだれだろうと亜依ちゃんは守ってみせる。
そう思い剣を構えなおした。

42 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:06

「やだな〜、じーつー。そんな物騒な物もって。
けんかすんのもめんどいから私加護ちんいいや。あきらめるよ」
そう言うと巨大な魚は沖に向かって泳いでいった。

「あ、亜依ちゃんは?」
突然のことに驚いてしばらく魚の去った方を見つめていたけど、
亜依ちゃんのことを思い出して岸壁に急いだ。

43 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:07

「亜依ちゃん!!もうらいじょうぶらよ!!」
のんは亜依ちゃんに駆け寄って早速鎖をはずしにかかった。

「亜依ちゃん、ほらはずれたよ」
「…………」
5分ほど格闘してやっと亜依ちゃんを自由にできたけど亜依ちゃんからの返事は

ない。
「ろうしたの?」
「……ほ」
「え?何?」
「……あほ、のんになんかあったらどうしようって、怪我したらどうしようっ

て……
もしも、もしも死んじゃったらって……ほんとに心配やったんゃから〜」
突然号泣しながら抱きついてきた亜依ちゃんに驚いたけど、
のんはやさしく抱きしめて言った。
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49 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:49

「のんらっておなじらよ。亜依ちゃんおいていけるわけないじゃん」
「のん……」
ふいに顔を上げた亜依ちゃん――うるんだ瞳がキラキラしていて――
その瞳にはのんが映って――
「のん、ありがとう。大好きよ」
その亜依ちゃんの瞳に映るのんがドンドン近づいて――亜依ちゃんが目を閉じて――

50 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:49
 
51 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:50

「!!!」
のんは布団を跳ね除け目を覚ました。

「今の……夢?」
その日、一日中ずっとぼうっとしてしまっていたのは言うまでもない。
52 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/07(木) 21:52
読みにくくてすみません。
こんな作者ではありますが、お付き合いいただけると嬉しいです。
また叱咤激励などいただけると幸いです。
53 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/15(金) 19:56
 
54 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:00

「あ〜、なんか今日は疲れたな〜」
今日は6月18日。
今朝の目覚めがあんなんだったから今日は一日中なんか落ち着かなかった。

「ふ〜、もう寝よっ」
今日はなんだか何もやる気が起きずシャワーもそこそこに
ベットに横になるとすぐに深い眠りに落ちていった。
55 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:01
 
56 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:02

(ん〜、なんか頭ぼーっとする〜)
のんは時間を確認しようと、まくら元のケイタイを
しばらく手だけで探していたけど
なかなか見つけられないのでしぶしぶ目を開けた。

(え?何ここ?)
覚めきらない目をこすりながら周りを見渡して驚いた。
広い部屋、敷き詰められた毛足の長い絨毯、シャンデリア、
何よりのんが寝てるのはふかふかのベット、それも天蓋付のベットだった。

(まるでお姫様みたい。。。
でもこれって……また夢?)
のんが考え込んでいるとノックもせずに、突然部屋に人が入ってきた。
57 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:04


「あれ?気がついたん?」
そして部屋に入ってきたのは

(亜依ちゃん!!!)
それは御伽噺に出てきそうな王子様の格好の亜依ちゃんだった。

「もう大丈夫なん?
おぼえてる?自分浜辺に倒れてタンやデ」
(え?浜辺に倒れてたって?のんが?)
「どないしたん?」
亜依ちゃんが心配そうにのぞきこんできた。

「自分しゃべれへんの?」
(え!!!?
そうだ。何で気づかなかったんだろう?
のん、声が出てないよ。
これからどうしたら良いんだろう?)
混乱したのんはただ涙を流すことしかできなかった。

「ごめん、泣かんといて。
大丈夫、うちがずっと傍におるから」
そう言うと亜依ちゃんは、優しくのんの涙をぬぐってくれた。

58 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:07

それから亜依ちゃんはいっぱいお話をしてくれた。
ここはハロプロ王国のハロプロ城ってこと。
ハロプロ王国はツンク♂って言う王様が収めてて、亜依ちゃんはそこの王子様ってこと。
亜依ちゃんには裕ちゃんってお姉さんがいるんだけど、いつも飲んだくれていて、セクハラ大好きで、
お嫁さんの貰い手がなくってこまってるってこと。。。

「それはそうと自分のことなんて読んだら良い?
……って答えれへんのやもんな〜」
そう言われてしゃべれないことを思い出してまた悲しくなった。

「あぁ、ごめん。そんな顔せんといて。
うちも悲しなってまうから。
……じゃあうちが考えても良い?」

のんは力なく頷いた。
59 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:07


「……そうやな〜。

亜依ちゃんはしばらく腕を組んで考え込んでいたけどふと顔を上げると言った。

「……のん!のんでいい?」
(!!!やっぱり亜依ちゃんだ!
ちゃんとのんのことのんって、のんって呼んでくれたよ!!!)
のんは嬉しさのあまり亜依ちゃんに抱きついた。

「うぁ〜のん急にどうしたん!?」
亜依ちゃん驚いてるけどそんなのかまわないや。
だってこんなに嬉しいんだもん。

60 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:09


それからのんは亜依ちゃん専属のメイドと言うことになり
お城に住むことになった。
メイドと言っても実際は名目だけで、主従関係って感じではなく
給事はするけど、王家のみなさんと同じ物を同じ食卓でとるし、
豪華な部屋は与えられるし、のんのお世話をしてくれる人なんかもいて
実際はちょっとお姫様気分だった。
そして毎日のように亜依ちゃんと馬で遠乗りに出かけたり、狩に出かけたり、ダンスをしたり
プリクラ撮ったり、カラオケにいったり……
幸せにすごしていた、そんなある夜
食事の後いつものように亜依ちゃんがのんの部屋に遊びに来た時だった。
61 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:10


「のん、明日のんのドレス作ってもらうから」
のんはあわてて首を横にふった。
だってここに来てから何着も可愛い服をいっぱい作ってもらってたから。

「遠慮せんでええんやで。
それに……こんどのはパーティー用のドレスやし」
パーティー用のドレスと聞いて心は弾んだけど、
一瞬曇った亜依ちゃんの笑顔の方が気になった。
のんは亜依ちゃんの手を握り、じっと顔を見つめた。
62 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:11


「のん、どうしたん?」
笑顔を崩さない亜依ちゃん。
のんに隠し事するの?
のんじゃ頼りにならないの?
言いたいことはいっぱいあるけど、今ののんは何もしゃべれない。
だから思いを込めて亜依ちゃんの目をじっとみつめて―――
そのうちに鼻のおくがツンとしてきた。
そして見つめる亜依ちゃんの顔が滲んできたころ

「は〜……やっぱりのんには隠し事できへんな〜」
諦めたように笑顔を崩すと亜依ちゃんは話し始めた。

63 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:11


「あんな、うち結婚することになってん」
(亜依ちゃんがけっこん!)
思わず亜依ちゃんの手を握っていた手に力が入る。
亜依ちゃんは大丈夫と言うようにもう一方の手を優しくのんの手に重ねると続けた。

「相手は隣のモーニング国のお姫さんなんや。
所謂政略結婚ってやつなんやけどな。
ちっちゃいころあったきりやけど、悪い子ではなかった思うねん。
でもな、うちまだ結婚したないねん」
そう言うといつもの悪戯っぽい笑顔になって続けた。

「だってのんといる方が楽しいもん」
その笑顔につられてのんも笑顔になった。
その夜はなんだか離れたくなくって一緒のベットで手をつないで眠った。
64 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:12
 
65 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:13


そして亜依ちゃんの婚礼を一週間後に控えた日、
モーニング王国からお姫様がやって来る日になった。

のんは華やかなドレスを身にまとい、ツンク♂王や裕ちゃん
そして正装した亜依ちゃんと一緒に広間でお姫様の到着を待っていた。

「姫様のおな〜り〜」
待ちくたびれたころ要約広間の大扉が開き
モーニング王国のお姫様が入ってきた。

(!!!)
のんはその姿、
上品な足取りでゆっくりとこちらに近づいて来るそのお姫様を見て固まった。

「モーニング王国第一王女あさ美でございます。
これからはハロプロ王国の王妃として亜依様をお助けし、
このハロプロ王国をより良い国にしていきたいと思います。
不束者ではございますがどうぞよろしくお願いいたします」
そう、のんたちの前で深々と頭を下げ
丁寧に挨拶したのは紛れもなく紺ちゃんだった。

66 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:14


「おう、あさ美姫、よう来てくれはった。
亜依のことよろしゅう頼むデ〜」
「はいっ、完璧です」
「うちの亜依バカやさかいよろしゅう頼むな」
「いえ、お姉さまこちらこそよろしくおねがいいたします」
ツンク♂王と裕ちゃんと挨拶を交わす紺ちゃん。
そして亜依ちゃんの前に立つと頬を染めて

「……あ、亜依様、あの……
あの……たいへんご立派になられまして
……い、いえそうではなく……あ、あの……よ、よろしくおねがいいたします」
「いや、昔のようにあいぼんでかまわないから……それよりあさ美ちゃんもなんと言うか
……ずいぶん綺麗に……い、いやこちらこそよろしくね」

(なんだよ。亜依ちゃんまで顔赤くしちゃってさ)
照れてしどろもどろになる二人を見ながら、なぜかのんはいらいらしていた。

67 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:14
 
68 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:15


あれから六日
亜依ちゃんと紺ちゃんの婚礼を明日に控えた日
のんは一人デッキで暗い海を眺めていた。
亜依ちゃんと紺ちゃんの婚礼は船上で行われることになり、婚礼の前日である今日、
関係者や招待客を乗せた船はハロプロ港を出港していた。

69 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:16


『あいぼん、オムライスにケチャップかけてさしあげますね』
『あいぼんお変わりはいかがですか?』
『も〜あいぼんったら、またこぼして〜』

紺ちゃんが来てからと言うもののんがしてた亜依ちゃんのお世話は
みんな紺ちゃんにとられてしまっていた。
(……のんの居場所なくなっちゃったよ)
そう心の中でつぶやいた時、海の中から五人の人影が現れた。

70 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:17


「ののー」
「のんちゃん」

口々に呼びかけて現れたのは上半身裸の女の子たち。
波間からちらちら見える下半身には魚のうろこのような物が見えた。

「のの、もう帰ってくるべさ」
(なちみ)
「のんちゃん、このナイフであいぼんの胸を刺しなさい。
そして返り血を浴びたらのんちゃんは本の体に戻れるから」
(カオリン)
「んあ、じゃないとつーじー泡になっちゃうよ〜」
(ごっちん)
「つらいけどポジティブにがんばるのよ」
(梨華ちゃん)
「ブスーっとやってかっけーところ見せてよ」
(よっすぃー)

どういうことだろう?考え込んでいると忘れていた記憶が蘇ってきた。
71 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:18
 
72 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:19

「行きたいのれす!行きたいのれす!行きたいのれすー!!
地上に行って亜依ちゃんと遊びたいのれす!!!」
「そんなこと言う手もやな〜」
のんの前にはアフロのでっかい頭の魔女がニヤニヤしながら駄々をこねるのんを見つめていた。

「ま〜、うちも〜鬼やないさかい〜?
あんたの願い聞いたらんこともないねんけど〜?
それにはやっぱみ・か・え・りってもんがないとな〜」

もったいをつけて話す魔女にいらだちながらのんはたずねた。

「みかえりってなにをあげればいいんれすか?」
「そうやな〜、普通は人間の足やる代わりに声もらうねんけど〜……
なんやじぶんえらいしたったらずやもんな〜」
「なにいってるれすか?のんの美声をバカにしちゃいけねーのれす。
とっとと声の変わりに足よこせなのれす!!」
「分かった分かった。でもな、これだけは言っとくで。
その亜依ちゃんとか言う子にあんたより大事な子ができたら、次の夜明けにはあんた泡になってまうからな」
「うるせーのれす!のんと亜依ちゃんの仲なめんじゃねーのれす!
さっさと足よこせなのれす」
73 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:21


(そうだった、のんは人魚だったんだ)
「のの、しっかりするべさ」
「のんちゃん、タイムリミットはあさっての夜明けよ」
「んあ、がんばってね〜」
「ポジティブポジティブ」
「やらないとののが死んじゃうんだからな」

そしてみんなは激励の言葉とナイフを残し、海の中え消えて行った。

74 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:21


(のんはどうすれば良いの?)
五人の消えた波間を見つめながらら考えていた。

『のんちゃん、このナイフであいぼんの胸を刺しなさい。
そして返り血を浴びたらのんちゃんは本の体に戻れるから』
『「んあ、じゃないとつーじー泡になっちゃうよ〜』
『やらないとののが死んじゃうんだからな』

(死ぬのはやだな。でもやっぱり亜依ちゃん殺すなんてのんにはできないよ)

のんは覚悟を決めると最後に亜依ちゃんとお話をしておきたくって
亜依ちゃんの部屋に向かった。

75 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:22


亜依ちゃんの部屋の前に立ち、ノックしようとした時、部屋の中から話し声がするのに気がついて
こんな時間に誰だろうと思い、思わず聞き耳を立ててしまった。

「あいぼん、私小さいころからあいぼんのことお慕いしてたのです。
明日はれてあいぼんの妻となれると思うと幸福すぎて怖いくらいです」
「あさ美ちゃん、うちもあさ美ちゃんみたいな子と結婚できて幸せだと思ってる」
「ほんとうですか?」
「うん、ほんとにあさ美ちゃんで良かったと思ってるよ」
「いやです。あさ美って呼んでください」
「……あさ美」

そこまで聞いてのんは逃げ出した。
76 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:23


(なんだよ、紺ちゃんなんかといちゃいちゃしてさ!
のんとの付き合いの方がずっと長いのにさ!
いつも一緒だったじゃないか!
そりゃ喧嘩もしたけどさ、
いつも隣で笑っててくれたじゃないか……)

のんは部屋にかけ戻るとベットに突っ伏して泣いた。

『大丈夫、うちがずっと傍にいるから』
『でもな、うちまだ結婚したないねん』
『だってのんといる方が楽しいもん』
(……亜依ちゃんのうそつき)
止め処なく流れる涙と共に、のんの心からは
冷静な判断まで流れ出していった。

77 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:24


(そうだ、亜依ちゃんを殺そう。
そしてのんも一緒に死ぬんだ。
亜依ちゃんが誰か一人の物になるなんて
……のん以外の人のモニなるなんて耐えられない)

のんが顔を上げると、いつの間にかカーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。
姉たちが残していったナイフを抜いてその朝日にかざして見る。

(明日の夜みんな寝静まったら、このナイフで亜依ちゃんを刺す。
そしてそのままのんも同じナイフで……そうすればまたずっと一緒だよね?亜依ちゃん)
ナイフを鞘にしまうと泣きつかれたのんは
ナイフを抱いたまま眠りに落ちて言った。

78 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:24
 
79 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:27


楽しげな音楽、ホールのあちこちで舞い踊る人たち。
そこからのんだけが取り残されていた。

亜依ちゃんを見ると、次々に訪れるお祝いの挨拶にくる人たちと談笑している。
その合間にも時折紺ちゃんと顔を見合わせて、幸せそうに微笑み会ったりしてる。

(良いよ亜依ちゃん。今は許してあげる。
だってもうすぐ亜依ちゃんはのんだけの物になるんだもんね)
80 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:27
 
81 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:28

パーティーも終わりもう明け方近くになったころ
のんは足音をしのばせ亜依ちゃんの部屋に向かった。
懐にはあのナイフを忍ばせて。

そっとドアを開けベットに近づく。
左手に持ったランプでベットを照らして見ると
その光の中に亜依ちゃんの顔が浮かび上がった。

(……亜依ちゃん)
伏せた長いまつげ、白い頬
幸せそうに眠る亜依ちゃんの寝顔を見つめていると
瞬く間に視界がゆがんできた。
82 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:29


(……やっぱりできないよ。
……亜依ちゃんを殺すなんてできないよ)
のんの目から一滴の涙が、亜依ちゃんの頬に落ちた。

(ごめんね亜依ちゃん。のん自分かってだった。
……ほんとは亜依ちゃんの幸せ考えなきゃいけないのにね。
……紺ちゃんと幸せになってね)

のんはその思いをそこに残して亜依ちゃんの部屋を後にすると
そのままデッキに向かった。
83 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:30


デッキに出て見ると夜明けにはまだ少し時間があるようだったので
のんは手すりに持たれてしばし亜依ちゃんとの思い出にふけっていた。

『一緒にたこ焼き作ろう?』
たくさんの材料を抱えエプロン姿で微笑む亜依ちゃん

『なあなあ、今度のネールどんなんにする?』
雑誌のネール特集を広げ楽しそうに話しかける亜依ちゃん

『のんは笑顔でいて。のんの笑顔、なんかほんま癒されんねん』
落ち込んだ時優しく微笑みかけてくれた亜依ちゃん
いろんな亜依ちゃんの笑顔を思い出していた。
84 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:31

空が白みかけたのに気づき、覚悟を決めると
のんは手すりから身を乗り出した。

(!!!?)
そのときいきなり後ろから暖かい物に抱きとめられた。

「あかん!!」
(……亜・依・ちゃん?)
振り向いて見るとのんを抱きしめていたのは瞳を潤ませた亜依ちゃんだった。
85 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:32


「何してんねん!」
亜依ちゃんに抱きとめられているのを脳が理解し始めると、のんの目にも涙がたまってきた。


「なんか胸騒ぎして部屋行ってみたら、のんおれへんし
……探しタンやデ」
(違うの、だめなの、もう一緒にいられないんだよ!
それに……のんは……のんは亜依ちゃん殺そうとしたんだよ!!)
のんは心の中で叫びつつ、波だが飛び散るるのもかまわず、
ただただ首を横に振り続けていた。
86 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:34


「ごめんのん。のんをここまで追い込んでしもて。
うちがもっとはようじぶんの気持ちに気いついていたら……」
(えっ!?)
その言葉に壊れた機械仕掛けの人形のように、首を振り続けていたのんの動きは止められた。

「うちものんを失いそうになって初めて気いついたんや。
のんの代わりなんてどこにもおれへん!
のんじゃないとあかんのや!」
(…………)
「……一緒になってくれへん?」
のんは小さくうなずくと力いっぱい亜依ちゃんを抱きしめ返した。
「ありがとうのん、大好きよ」
そう言うと亜依ちゃんが優しく微笑んで―――
ゆっくりのんの顔を少し上げさせて―――やわらかそうな亜依ちゃんの唇が近づいてきて―――
87 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:34
 
88 名前:第二夜 投稿日:2005/07/15(金) 20:35


「!!!」
のんはまたベットから跳ね起きた。

「……また……ゆめ?」
なんだかその日一日亜依ちゃんの顔をまともに見れなかったのは言うまでもない。
89 名前:パセリ 投稿日:2005/07/15(金) 20:52
第二夜終了です。
今回は一気に一話終わらせてみました。
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/17(日) 00:58
面白い!
続き期待
91 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:13
 
92 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:14

「あぁ〜なんかもうやだ」
のんは帰ってくるなりベットに腰を下ろし呟いた

今日は一日中夕べの夢に動揺して亜依ちゃんと目が合うとなんだか恥ずかしくって
すぐに目をそらしてしまった。

『なあ、のん?元気ないみたいやけど大丈夫?』
今日はそんな感じだったから、そう心配してくれる亜依ちゃんにも照れから

『なんでもない、亜依ちゃんには関係ないよ』
なんてそっけない態度をとってしまった。

『そう、それなら良いけど……なんかあったら言うてな?』
でもそんなのんに亜依ちゃんは、暖かい言葉とやわらかな笑みを送ってくれたんだ。

93 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:15

「明日……亜依ちゃんに誤ろー。
理由は深く言えないけど」
のんは梨華ちゃんにもらったピンクのまくらを抱え込ん見ながら呟いた。
94 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:16

『なんかね、夢の中で願いが叶うまくらなんだって』
95 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:17

「!!!」
突然思い出した梨華ちゃんからのめーる。

「のんの願いってまさか……」
腕の中のまくらを見つめる。

「二日続けてあんな夢見たのって……このまくらのせい?
でものん亜依ちゃんをそんな風に……だって、だって亜依ちゃんは
……Wのパートナーで……同期で
……いやそうじゃなくって、ただ掛け替えのない友達なだけで……うそ……だよね」
しばらく腕の中でまくらをもてあそびながら考えていたけど

「……偶然かもしれないし……確かめてみるしか……ないよね」

そう呟くとちょっと迷ってから、のんは恐る恐るピンクのまくらに頭を乗せた。
96 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:17
 
97 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:19

「のんちゃん?大丈夫やざ?」
「ふぇ?愛ちゃん?」
突然のんに声をかけてきたのは頭に妙なわっかをつけた愛ちゃん。

「のんどうしたの〜、ぼうっとして?」
そう言ってきたのはクマデを担いだ麻琴。

(のん夢の中に来たの?
今度はどんな夢なんだろう?)
と思い、自分の姿を見てみると
御伽噺に出てきそうな王子様の恰好。
しかも白馬に乗って鬱蒼とした森の中を進んでいる。
そして周りには三人のお伴。
さっきのんに声をかけてきた二人以外になんだか青白い顔のおまめちゃん

(これって……どういうこと?
のんたちどこに向かってんのかな?)
疑問に思ったのんは、とりあえず一番まともな返事が期待できるおまめちゃんに聞いて見ることにした。
98 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:20

「ねえねえ、これからろこいくんらっけ?」
「は〜!?もう、のんつぁんしっかりしてくださいよ〜。
これから天竺までありがたいお経をいただきに行くんじゃないですか〜」
り目的と目的地をしっかり説明してくれたおまめちゃんだったけど、
情けなさそうに頭を抱え込んでしまった。

(そんなこと言われても来たばっかりなんだからしょうがないじゃん!
……でもてんじくにお経って……てんじく……
てんじく……それからこの三人の恰好って……)
99 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:21

「西遊記!!!?」
のんはあわてて自分の頭に手をやった。

「はあ〜〜〜よかった〜〜〜」
西遊記で馬に乗ってると言えばお坊さん、
のんは坊主頭かとあせって確認してみたんだけど……
無事いつも通りふさふさだった。

(いくら三蔵法師が美人女優がやるって言っても坊主頭じゃね〜
だって〜いくら美人でものんが坊主頭だったらどうしても辻休になっちゃうもんね)
なんて安心してるとのんのすぐ前から声が聞こえてきた。
100 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:23

「あの〜、のんつぁん私の上で暴れないでもらえます?」
「ふえ?」
そう間抜けな声で聞き返してしまったのも無理はない。
だってそれはのんが乗ってる馬から発せられた声だったんだから。

 「それに私が馬なのも納得できません。のんつぁんは私になにか恨みでもあるんですか?」
そう言う細い声、さらに良く見てみると馬の癖にふっくらほっぺ。
(紺……ちゃん……?確かに夕べはちょっと恨んだけど……)
「そんなわけないじゃん。やっぱり色白で、優美で、
気品あふれるこんこんしか白馬は似合わないよ、うん」
「そうですね〜!やっぱりのんつぁんは良く分かってますね!完璧です!!」
のんの思いつきのおだてが効いたのか、紺ちゃんは機嫌を直すと
嬉しそうに気勢を上げて、足取りも軽やかに
のんを乗せ、森の中を進んでいった。
101 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:23
 
102 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:24

「……れ?」
「で?って言われても〜……」
不機嫌そうにたずねるのんに、困ったように顔を見合わせる三人と一頭。

「らってみんなが自信満々で歩いてたんじゃない?」
あれから歩くこと2時間あまり、のんたちの前では道がぱったりと途切れていた。
そう、のんたちは道に迷っていたんだ。
103 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:26

「ああしはまこっちゃんが道知ってると思ってたがし」
「え〜?私はがきさんが知ってると思ってたよ〜」
「なーに言ってるんですかっ?私はこんこんが知ってると思ってたんだから〜」
「……ごめんなさい。……愛ちゃんが知ってると思ってた私がバカだったんです」
「「「そ、その言い方は〜……」」」

「大丈夫、あさ美ちゃんが悪いわけじゃないやよ。元気を出すがし」
困惑するのんと麻琴それにおまめちゃんを尻目に
愛ちゃんは優しく微笑むと紺ちゃんの鬣をなでながら言った。

(……本人が気づいてないなら……良いよね?)
視線で問いかけるのんに麻琴とおまめちゃんは小さく頷いた。
104 名前:第三夜 投稿日:2005/07/23(土) 22:27

「とりあえずみんな、ああしに任せるがし」
そう言うと愛ちゃんは耳に手を当てて集中してるようだった。
「あっちから人の声が聞こえるがし」
愛ちゃんは左側の森の中を指を指す。

「行ってみるしかないよね」
のんの言葉にみんなは頷くと森の中へ入って行った。

105 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/23(土) 22:37
本日の更新終了です。
前回のように一気に一話上げるのと
今回のように分けるのはどちらが良いでしょうか?
ご意見聞かせていただけたら幸いです。
106 名前:ぱせり 投稿日:2005/07/23(土) 22:40

>>90さん、レスありがとうございます。
面白い物が書けるようにがんばります。
よろしければ最後までお付き合いください。
107 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:01

「あ、なんか聞こえてきたよ〜」
麻琴の言う通りしばらく歩くと何か人の声が聞こえてきた。

そして程なく薄暗い森を抜けるとのんたちの目に眩しい日の光が飛び込んできた。

「あそこに誰かいますよ」
おまめちゃんの言葉に目を凝らすとそこには

「矢口さん!!!」

いまさらそこにいるのが誰だろうと驚くことではないんだけど
のんを驚かせたのはその人数だった。
そう、そこにいたのはなにかを取り囲むように
半円上に座りこむ7人の矢口さんだったんだ。
しかもその矢口さんは婦警の矢口さんを皮切りに河童の矢口さん、
羅武羅武隊の月影の矢口さん、エコクラブレッドの矢口さん、
ぴょ〜ん星人の親びん、リリモニのマリッペ、さらにハムスターのぐっちゃんまでがそこにいた。

「……どういう……こと?」

のんたちがその異様な光景に固まっていると
一人の矢口さん、月影の矢口さんがすごい形相で迫ってきた。
108 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:04

「お前らー!!いつからいた〜!!」
「ああしらは怪しいものじゃないがし」
「怪しいやつほど怪しくないっていうんだ!!」
愛ちゃんが話をしようとするけど、月影の矢口さんは
頭に血が上ってるらしく、話を聞いてくれない。
そして気が長いほうではない愛ちゃんも

「あ〜も〜ちっちゃいくせにごちゃごちゃうるさいがし」
なんて言うもんだから月影の矢口さんもますますヒートアップして収拾がつかなくなってきた。

「ちっちぇいっていうな!」
「うるさいちっちゃい忍者」
「ちっちゃいって言うな」
「あ〜、ちっちゃいちっちゃい、ちっちゃくってどこにいるか分からんがし」
「ちっちゃいって……ちっちゃいっていうな〜」
とうとう号泣しだした月影の矢口さんとそれをからかう愛ちゃんを尻目に
のんは7人の矢口さんが取り囲んでいた物に目を奪われていた。
109 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:06

それは日の光を受け、キラキラしているガラスの箱
そしてその中には色とりどりの花たちに飾られた

「……あ、亜依ちゃん?」
のんはその一種幻想的な光景に心を奪われていたけど、ただならない物を感じて
紺ちゃんから飛び降りると亜依ちゃんに向かって駆け出していた。

「あ!待てー!!」
月影の矢口さんがのんを羽交い絞めにしようとしたけど、
そんなもの今ののんに振り払うことはなんでもないことだった。

「放せ!!!亜依ちゃんが!亜依ちゃんが!!」
「落ち着きなさい!!どうしたんですか!?」
のんは立ちはだかった婦警の矢口さんの冷静で射るような
視線に足を止められた。

「どうしたんです?私に話してごらんなさい」
婦警の矢口さんの冷静な声に落ち着きを取り戻したのんは
亜依ちゃんがのんにとって掛け替えのない友人であることを話した。
110 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:07

「で、亜依ちゃんはろうしたんれすか?
なんれ亜依ちゃんをとじこめてるんれすか?」
そう問いかけるのんに芝居がかった口調で説明してくれたのはまりっぱ姉ちゃんだった。

111 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:10
 
112 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:10

あれはさむ〜い冬の夜、
私たち7人姉妹が一日の仕事を終え家に帰ると
一人の少女がレッドのベットで寝ていました

「お前はだれだっ!どこから入った!!!」
血の気の多い月影が詰め寄るのにもひるむこともなく
その少女はベットから降り立つと丁寧に頭を下げて言いました

「ここはあなたたちの言えなんですね?
うち、道に迷う手しもうて、少しだけ休ませてもらおうと
ついお邪魔してしもうたんです。ごめんなさい」
そしてその少女は少し恥ずかしそうに俯くと話を続けました。

「……それでうち……ずっと森の中歩き回ってお腹すいててん
……そやからテーブルの上のご飯、少しずつ食べてしもうてん
……それからベットまでかってにつこうてしもうて……ほんとごめんなさい」
私たちは恥ずかしさに頬を赤らめながらも、必死に誤る少女を見て
何か急に可笑しくなり噴出してしまいました
113 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:13

「ほんとごめんなさい。うち……」
そうすると少女は耳まで赤くして俯いてしまいました。

「困ってる時はお互い様です。
帰り道が分かるまでしばらくここにいたらどうですか?」
矢口婦警の言葉に顔を上げると少女は嬉しそうに微笑んでくれました。

「ありがとうございます!うち、みなさんのためにお役にたちます!」
そう、聞きなれないイントネーションで言うと深々と頭を下げました。

それから私たち8人は食卓を囲むと少女の話を聞きました。

少女はあいぼんと言い、ハロモニ城のお姫様だったこと。
あいぼんのお母さんはずいぶん前になくなっていたこと。
最近王様が若いお后様を迎えたこと。
そしてそのお后さまがあいぼんを疎んじて狩人に森の中で殺すように命じたこと。
でもその狩人のよっすぃーはあいぼんに同情して逃がしてくれたこと。。。

私たちはその話を聞いて、お后様に対する憤りと
あいぼんえの同情を覚え、ぜひあいぼんにここにとどまるようにいいました。

114 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:23

それからあいぼんはこの家の家事全般を引き受けてくれました。
最初は今まで何もしたことがないだろうお姫様が家事ができるのか不安に思ってたものの
あいぼんはどじはするものの、お姫様とは思えないほど献身的に私たちに尽くしてくれました。
最初は同情からあいぼんをとどめた私たちでしたが、仕事を終え、疲れて帰って来た時に迎えてくれる
あいぼんの暖かい食事と、無邪気な微笑みは私たちの心を癒してくれていました。
いつの間にかあいぼんは私たちにとって掛け替えのない存在になっていたのです。
115 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:24
そんな時でした。
いつものように仕事を終え帰宅すると
あいぼんがドアの傍に倒れていました。
近くには食べかけのりんごが転がっています。
胸騒ぎを覚えあいぼんに駆け寄ってみると……すでに息はありませんでした。

「「「あいぼん!!!」」」
私たち7人はあいぼんに取りすがってただただ泣き続けていました。
「こうしててもしょうがないわ。
あいぼんのお弔いしましょう」
レッドが涙を拭きながら言います。

「……あいぼんをお花で飾るプニ」
私たちはマリッペの言う通りあいぼんを花で飾り
あいぼんの愛した森が見えるようにこのガラスの棺を
作り、ここにおきました。
しみるね〜。
116 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:24
117 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:30

のんはまりっぱ姉ちゃんの話を聞きながらいつの間にか泣いていた。

「誰が亜依ちゃんをこんな目にあわせたんれすか?」
「ぐっちゃんが森の動物たちに聞いて周ったところ
りんご売りに化けたお后様だったようです」
「りんごには毒が塗ってあったぷに」
「……アイちゃん……」
のんは涙を流しながら、ガラスの棺に近づいて言った。

「……亜依ちゃん……亜依ちゃあん!」
のんは棺を開くと愛ちゃんを抱きしめて号泣した。

「……けほっけほ……のん何するん?苦しいやん?」
亜依ちゃんは口からりんごのかけらを吐き出すと、のんの腕の中でもがき始めた。

118 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:33

「うん?のんどうしたん?何で泣いてんのん?」
「……亜依ちゃん?亜依ちゃん気がついたんだね!?よかったー!!!」
のんはまた亜依ちゃんを力いっぱい抱きしめた。

「だからのん、苦しいってぇ……なんやよう分からんけど……
大丈夫やから。な?大丈夫やから泣かんといて」
そう言うと亜依ちゃんはのんの頭をなでてくれた。

「「「あいぼーん、よかったー!!」」」
いつの間にかのん達の周りには、7人の矢口さんと
麻琴達が集まって歓声をあげていた。
119 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:34

「で、なんでのんここにいるん?」
落ち着きを取り戻したところで亜依ちゃんが尋ねてきたので
今までの経緯を話して聞かせた。
「そうやったんや。ありがとなぁのん
うちが助かったん、のんのおかげやで」
「てへぇ、そんなこといいよ〜。
……それよりのんのお城に一緒に帰ろうよ?」
「いいの!?」
のんが誘うと亜依ちゃんは嬉しそうにして問い返してきたが
さっと表情を戻すと、ばつが悪そうにあたりを見回した。
120 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:35

「……でも〜……」
「あいぼん、私達のことなら気にしないで」
「そうだっぱ、寂しくなるけどみんながいるから大丈夫だっぱ」
「幸せになるんだっぴょ〜ん」
「こんどみんなでお城に遊びにいくぷに」

亜依ちゃんの視線に気づいた矢口さん達が口々に言ってくれた。

「みんなありがとう、みんなのこと絶対忘れないから」
亜依ちゃんは一人一人と名残惜しそうに挨拶をすると
のんと一緒に紺ちゃんに乗るとお城に向かった。
121 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:35
 
122 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:37

「そう言やあさあのん、天竺いかなくていいの?」
しばらく歩くとのんびりと麻琴がたずねてきた。

「あぁっ!そうじゃないですかあ!のんつぁん天竺っすよ天竺!
天竺行かなきゃいけないじゃないですかぁ!」
「そんなのどうらっていいのれす」
「なぁにいってるんですかぁ!?
みんなのためにありがたいお経もらってこないといけないじゃないですかー!」
「ああ、もうおまめちゃんはうるさいのれす!のんがいいていったらいいのれす!」
「でもですねー!」
「あぁも〜、二人ともよすがし。ほら、あいぼんもこまってるがし」
その愛ちゃんの言葉にヒートアップし始めた
のんとお豆ちゃんは少し落ち着きを取り戻した。

123 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:38

「そうですね、かあちゃんも病み上がりですしいったんお城に帰りましょう」
「そうそう、それがいいがし。それにお経ぐらい
ああしがキントンウンにのってちゃちゃ〜っと天竺まで言ってとってくるがし」

「「「愛ちゃん!」」」
「え?みんななに?」
「なぁんでそう言う事早く言わないかなぁ?」
「ほぇ?聞かれなかったし……」
「「「は〜」」」

森の中にのん達のため息が響いた。

「じゃぁ愛ちゃんおねがいするのれす」
「のんつぁん任せとくがし」
そう言うと愛ちゃんはキントンウンを呼び出し、あっという間に飛んで言ってしまった。
124 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:39

「ところで、かあちゃん、また狙われたりしないのかな〜」
「そや、うちおったらのん立ちに迷惑かかってまう」
麻琴の言葉に、あわてて紺ちゃんから降りようとする亜依ちゃんを押えてのんはいった。

「らいじょうぶ。亜依ちゃんはのんが必ず守るから」
「でも……」
「のんを信じて。考えがあるんら」
のんは渋る亜依ちゃんを無理やり納得させると
お城に向かった。

125 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:40
 
126 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:41

それから一週間後、お城ではパーティーが開かれていた。
そうこれはただのパーティーじゃない。
ハロモニ城にも使者を送り、お后も招いたんだ。

のんの前には次々とお客さんが来て挨拶をしていく。
そして少し疲れを覚えたころ、のんの目の前にはピンクのドレスを纏った
かわいらしい少女が立った。

「本日はお招きくださいましてありがとうございます。
私がハロモニ城の歴史上いちば〜ん可愛いお后の
道重さゆみでっすっ♪」
のんははっとしてその少女の顔を見つめた。

127 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:42

「いやですよ〜、さゆがいくら可愛いからってそんなに見つめないでください」
「……しげさんらったんら」
「え?」
「……しげさんらったんらね」
「……言ってる事がよく分からないです〜」
……亜依ちゃん!入ってきて!」
のんが声をかけるとのんの後ろ側のドアから
着飾った亜依ちゃんが入室して来た。

「!!!」
その時の、亜依ちゃんを見つけた時のしげさんの表情は忘れられない。
128 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:43

「鏡が、さゆの鏡がまたへんなこと言い出したからおかしいとは思ってたの!
さゆより可愛い子なんていないの!!!
いるはずないの!!!!!
いる分けないの!!!
さゆの前から消えて!!
さゆが一番可愛いの!!!!!」
そう言うとしげさんは隠し持っていたナイフを取り出し亜依ちゃんに飛び掛っていった。

「亜依ちゃんには指一本触れさせねーのれす!」
のんはあわてて亜依ちゃんとしげさんの間に割ってはいると剣を抜いて身構えた。
129 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:44

運動が苦手なしげさんと、特異なのん、
決着はすぐつくかと思ってたけど、しげさんは死に物狂いで襲い掛かってきた。

「もうかんねんするのれす!」
のんはすごいスピードで襲い掛かって来るナイフをもった
しげさんの右手を、左手で掴みとると言った、その時だった。

「のん右っ!!」
その亜依ちゃんの言葉に思わず身をひねると
自分の真横を銀色の光が通り過ぎるのが見えた。
のんはそのしげさんの左手を残った右手で払うと、
しげさんに当身を食らわせた。
130 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:46

「亜依ちゃん、もうこれでらいじょうぶらよ」
「大丈夫やあれへん!」
そう言うと亜依ちゃんはハンカチでのんの右の頬を押えた。

「いたっ」
そう、交わしたと思ってたナイフはのんの頬を薄く切っていた。

「……うちのために無理せんといて」
のんは微笑むと涙ぐみながらのんの
手当てをする亜依ちゃんに言った。

「やら、らって亜依ちゃんのことらいじなんらもん」
「……ありがとう、のん」
そう言うと亜依ちゃんがのんの頬を両手で優しく包んで―――
亜依ちゃんの涙を浮かべた瞳が近づいてきて―――
そして優しく微笑んで―――
131 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:47
 
132 名前:第三夜 投稿日:2005/09/14(水) 20:48

「……やっぱり……夢?
のんはゆっくりベットから身を起こすと呟いた。

「……のん……やっぱり亜依ちゃんのこと……」

のんはその日1日中、そのことばかり考えて
何も手につかなかった。




133 名前:ぱせり 投稿日:2005/09/14(水) 20:53

第三夜終了です。
前回の更新からずいぶん開いてしまいました。
話の流れはできていたのですが、
書き直しばかりしてなかなか話が進みませんでした。
次回はなるべく早く更新しようと思います。
134 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/25(日) 02:02
矢口の登場の仕方にわらた
135 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/01(火) 23:07
更新いつまでも待ってます!
136 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:30

「はぁ……」
もう何度目だろう、のんはケイタイを開いてはメールが来てないか確認する。
ずっと手元に置いてるんだから、見なくたって亜依ちゃんからへんじが来てないのは分かってるはずなのに……。

今日のんは、今朝の夢で、亜依ちゃんへの気持ちに気づかされて、
でもそれを認めるのが怖くって、亜依ちゃんと二人っきりになるのが
気まずくって、亜依ちゃんを避けるようにしていたんだ。
そして昼食の時間、楽屋でのことだった―――
137 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:30
138 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:31

「どうした〜?のん、元気ないぞ〜!
へへ〜のん、最近元気ないからあいぼんがのんが元気になるように
良い物作って来てんやんか〜」
そう言ってバッグから可愛いピンクのチェックのランチボックスを取り出しながら、亜依ちゃんはのんに嬉しそうに話しかけてきた。

「ほ〜ら、のんの好きなもんいぃっぱい作ってきたんやで」
楽しそうに蓋をとって見せる亜依ちゃん
のん、嬉しいんだけど、やっぱりなんだか照れくさくって

「いらない」
「えっ?なんでなん?」
良いからほっといて!」
勢いよく立ち上がって外に出ようとするのん。

「あっ、ちょっと待っ」
そののんを引き止めようと、亜依ちゃんがのんの前に回りこんだ時
139 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:33

「「あっ」」

のんが体当たりするような形になって、バランスを崩した亜依ちゃんの手から
ランチボックスが鈍い音を立てて床に落ちた。

「ごめ」
「のん……うちのんになんかしたん?」
しばらくの沈黙の後、のんが誤ろうと口を開きかけた時、亜依ちゃんは言った。

「そんなこと」
「のん、最近うちのこと避けているみたいやし……
のんが最近元気なかったん……うちのせいやったんや」
「ちがっ」
「ううん、無理せんで良いよ。……でも
お仕事ん時は……今まで通りに……な」
亜依ちゃんは今にもこぼれそうな涙をこらえてそう言うと
無理やりに笑顔を作って

「ごめん……ちょっと出てくる」
と言い残し楽屋を後にした。
140 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:34
141 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:35

『今日はごめんね。亜依ちゃんいつでもいいんで返事ください』
留守電もメールもいくら送っても
いくら待っても返事は来ない。

「なんてことしちゃったんだろう」
瞼を閉じると悲しそうな笑顔の亜依ちゃんと罅割れたランチボックス、そこから散らばったおべんとうが
交互に現れのんの心を苛んだ。
のんは居た堪れなくなってケイタイを抱きしめたまま
ベットに突っ伏し、いつの間にかそのまま眠りに落ちて言った。
142 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:35
143 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:37

「……ここは」
のんはまた豪奢な部屋で気がついた。

「辻、何ぼうっとしてんねん」
「なかざーさん?」
「まったくなかざあさんやないで?
ちゃんとお母さんか裕ちゃんって呼び」
「お、おかあさんれすか」
「なんなんじぶん?
あぁ、愛しのお姫様のことでも考えてたんやろ?」

「おひめさまれすか?」
「とぼけんでもええて。
こんな幸せな日はそれで当然やって」
中澤さんはのんが思わず引いてしまうほどにやけて、のんのほっぺをツンツンしながら言う。

「裕ちゃんもほんま嬉しいねんで〜。
これで、この乙女国と桜国が一つになるんやさかい」
144 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:38

(二つの国が一つにって……やっぱけっこんだよね?
乙女と桜?……乙女と、桜……まさか?)
のんは口元が緩むのが押えられなかった。
桜国のお姫様で、のんと結婚するなんてあの子しかいないじゃないか。

「まったく、デレデレしおって」
そう言う中澤さんも嬉しそうに微笑んでいた。

「さあ、早く支度してきぃ」
「うん」
のんは満面の笑みで頷いた。

145 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:39

「まられすかねぇ」
「ちょっとは落つ着い」
 のんは中澤さんや、乙女組みのみんなとお姫様の到着を待っていた。

「お姫様のおな〜り〜」

その声と共に入室してくるお姫様。

どこと無く和を感じさせるドレスを身に纏い、
桜組みのみんなと入室して来たお姫様をみてなんだか胸が熱くなった。

「中澤さん、いえ、お母さん、
不束者ですが、よろしゅうお願いします」
「あぁ、こちらこそ。
あんたもこれから裕ちゃんでかまわんで」
「はいっ!裕ちゃんよろしゅうおねがいします」
そして、のんの目の前に来て、少し頬を赤らめて

146 名前:( ´D`) 投稿日:( ´D`)
( ´D`)
147 名前:( ´D`) 投稿日:( ´D`)
( ´D`)
148 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:46

「のん……これからもよろしゅうな」
「亜依ちゃん……のんこそ」
なんだろ?なんか、視界が歪んでる。
そして、一瞬視界がふさがれ、次に目に映ったのは
白いハンカチをもって微笑む亜依ちゃん。

「もう、泣き虫さんやねんから」
へへ、ちょっと恥ずかしい。
でもねあいちゃん。
のんは亜依ちゃんの手からハンカチを抜き取ると
亜依ちゃんの目元をぬぐった。

「亜依ちゃんだって」
「あらあら、お若い子ぉ達にはかなわんな〜」
その中澤さんの一言にのん達はカアット顔が厚くなるのを覚えた。

「さあ、結婚式を始めまっしょーう!!!」
麻琴の一言に一気に場があわただしくなった。

149 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:46
150 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:47

チャペルに流れる荘厳なパイプオルガンの音色。
のんと亜依ちゃんの前には頭が禿げ上がった神父様。
(なんだか緊張してきちゃったよ)
そんなのんを他所に神父様は技とらしく咳払いをすると口を開いた。

「汝ハ今何時?」
そう言って一人バカ受けする神父様。

(く、くだらねー!でも少し気分が楽になったかも?)
落ち着いたのんは隣の亜依ちゃんの横顔をのぞいて見た。
(あれ?亜依ちゃんも緊張してるのかな?)
ベールの下の亜依ちゃんの顔は、心なしか曇って見えた。

151 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:49

「シツレイシマシタ。デハ気をトリナオシテハジメマァス」
一通り笑い終わった神父様はもっともらしく咳払いをすると言った。

「汝ハバンバンジー」
また一人バカ受けする神父様。

「……はげ、いいかげんまじめにやるのれす」
「ハゲ、違ァッウ!コレハ元々生エナカッタンダ!」

「良いから早くやれ!なのれす」
冷たい視線ののんに臆したのか、神父様はやっと真面目に指揮を始めた。

「汝、辻希美ハやめるトキモォ、健やかなるトキモォ加護亜依を愛スルコトヲヲ誓イマスカ?」
「はいっ!!!」
満面の笑みで力強く返事をする。

「ヨロシー。汝、加護亜依ハやめるトキモォ、健やかなるトキモォ、辻希美を愛スルコトヲ誓イマスカ?」
「…………」
「ドウシマシタ?」
怪訝な顔で問いかける神父様にも返事をしない亜依ちゃん。
「亜依……ちゃん?」
「なあのん?……のん、のんはうちのどこが好きなん?」
152 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:50
「それは……かわいいところとか」
「とか?」
「とか……」
「それ……だけ?それだけなん?」
落胆したような顔の亜依ちゃん。
(え?何か言わなきゃ……早く言わなくっちゃ)

「え?えっと……ほかには……ほかには……」
「……もういい!」
亜依ちゃんは震えた力ない声でそう言うと、戸惑うのんを置いて、走り去ってしまった。

153 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:52

「のの!!!」
耳を劈く超音波。
振り返らなくても分かる。

「梨華ちゃん」
「梨華ちゃんじゃないでしょ!なんてこと言うのよ!?)
「…………」
「あいぼんがなんで怒ったか分かってる?」
「……わからないれす」
鬼のような梨華ちゃんの形相に押され俯き答えるのんに今度は優しい声で続けた。

「普通どこが好きって聞かれて、可愛いところだけってしか
でてこなかったら女の子はみんな怒るわよ」
「そんなことないですぅ!さゆはぁ、かわいいって言われるのがいちばんですぅ」
不服そうに会話に割り込んできた重さんをさくっと無視して、のんは梨華ちゃんに尋ねた。

154 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:53

「でもなんれ急に亜依ちゃんはあんなこと……」
ふそれを聞くと梨華ちゃんは少し呆れた様にふうっとため息をつくと言った。

「一生ついて行こうとする相手だもん。
女残ってね、相手がどれだけ自分のこと思ってくれてるか不安になってしまうものなのよ」
胸の前で両手を組んで、どこか遠くを見つめ瞳を潤ませながら話す梨華ちゃん。

「梨華ちゃんって相変わらずキショいよねえ」
梨華ちゃんもミキティの突っ込みを無視すると
項垂れるのんの顔をのぞきこんでたずねてきた。

「で?ののはあいぼんのどこが好きなの?」
「……どこっていわれても分からないれす。
どことかじゃなくって……いっぱいありすぎて分からないのレス。
なんて言うか……亜依ちゃんといるとあったかい気持ちになれるんれす。
一緒にいるとしあわせなんれす。」
「そう、それを伝えればいいのよ。
ほら、早く追いかけな?」
優しく微笑む梨華ちゃんに力強く頷くと
のんはかけだした。
155 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:54
156 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:55

「あれは?」
のんが馬を走らせ亜依ちゃんの後を追っていると
森の中に蹲る数人の人影を見つけた。

「ろうしたの?!」
馬を下り、駆け寄って見るとそれは桜組みのみんなだった。

「みんならいじょうぶ?」
みんな酷い怪我を負っている。
かろうじて意識があるのは矢口さんとよっすぃーぐらいだった。

「ののごめん。あ、あいぼんが、あいぼんがさらわれた……」
「え!?なに?ろういうこと?」
「辻、気をつけて……見た目に騙されちゃだめだ……」

そう言うとよっすぃーと矢口さんまで意識を牛なってしまった。

のんは桜のみんなを無事桜国に送り届けると
亜依ちゃんの行方を捜させ、のん自身は剣や弓の練習を始めた。
157 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:55
158 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:57

数日後、亜依ちゃんの行方はいっこうにつかめないままだったが、
のんは麻琴と森で夜遅くまで訓練を積んでいた。

「あれ?のんあれみて。
こんなところで白鳥なんて珍しいね〜」
麻琴が指し示す方向を見て見ると
1羽の白鳥がこちらをじっと見ていた。

『辻、見た目に騙されちゃだめだ』
脳裏を掠める矢口さんの声。
のんは弓に矢を番えると白鳥に向けて放った。
159 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 18:59

「のん、なにしてんのさ!」
非難めいた麻琴の声と白鳥の羽音が重なる。

「矢口さんが言ってたの、これらったんら」
「へ?」
「可愛い見た目に騙されてたまるもんか!」
のんは叫ぶと次の矢を番えながら、白鳥の後を追いかけた。
のんは足に自信はあるけど、なかなか追いつけない。
何本か矢を放ってはみるけど、全て夜空に消えていく。

「くそっ、見失うもんか!」
喉の奥から血の味がするけど、そんなのかまってられない。

しばらく白鳥を走っていると視界が開けた。
森の中の湖にでたんだ。

(やった!これで狙いやすくなる)
のんは新しい矢を番え、白鳥に狙いを定めた。
ゆっくり高度を下げてくる白鳥。
その白鳥が湖に着水した瞬間。
乾いた音を立ててのんの手から弓矢が落ちた。
160 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:01

「な……んで?」
湖の畔に月明かりを浴びてたたずむ少女。
「のん」
「亜依ちゃん!?無事で良かった!?)
駆け寄って亜依ちゃんを抱きしめる。
 
「のん、ここまで来てくれてありがとう」
「そんなこといいよ。早くのんと一緒に帰るのレス」
だけど、亜依ちゃんは俯いて答えた。

「それがあかんねん。うちな、魔法かけられてんねん」
「魔法?」
「うん、この湖に月が出てる間しか人間に戻れへんねん」
「そ、そんな……魔法解く方法はないのれすか?」
詰め寄るのんに亜依ちゃんは少し逡巡してから頬を赤らめ言った。

「のんが……のんが、みんなの前でうちに永遠の愛を誓ってくれたら……」
「そんなの分けないのれす!明日の夜、お城で舞踏会開くのれす。
そして、そこでみんなの前で誓うから。だから必ずお城に来て」
「うん」
安堵と喜びと恥ずかしさの入り混じった笑顔で亜依ちゃんはうなずいた。

「じゃあ、早く準備しないと間に合わないから」
のんはそう言うと、後ろ髪を引かれる思い出湖を後にした。
161 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:01
162 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:02

翌日

「なあ辻、重大発表ってなんやねん?」
「へへ〜、楽しみにしてるれすよ〜」
「まあええわ。良いしらせなんやろ?楽しみにしてんでえ」

広間に続々と集まるお客さん。
そして最後に現れた女の子を見て広間は静まり返った。
それはそうだろう。
多くの人は亜依ちゃんの生存を諦めていたんだから。

「亜依ちゃんこっちへ」
のんは亜依ちゃんの手をとると、みんなの前に進み出ていった。

「のんは、辻希美は、この加護亜依を
どんな未来が訪れても、それがかなり普通でも、
死が二人を分かつまで、いや死が二人を分かとうとも
替わらぬ愛を皆さんの前で誓います!!!」

のんが高らかに宣言した時だった。
勝ち誇った悪意に満ちた笑い声が会場十二響き渡った。

163 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:03

「誰れすか!?出てくるのれす!!!」

「辻、よーくその女をみな!」
はっとして、亜依ちゃんを見る。

「そ、そんな」
のんの目に映ったのは土色の人型。
亜依ちゃんだと思ってたのはただの土人形だったんだ。

「もうこれで終わりね!加護の命はもうすぐ尽きるわ!
私を出し抜こうとした罰よ!」

「そんなバカな!!」
のんが外にかけだすとふらふらしながら空を飛ぶ白鳥を見つけた。

「亜依ちゃん待って!!」
のんは全力で追いかけた。
「なんで、なんでこうなるのさ!」
のんは森の中を走りながら叫ぶ。
164 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:05

亜依ちゃんはドンドン高度が下がって真っ直ぐにも飛べないみたいだった。

そして、あの湖に何とかたどり着いて人間の姿に戻ったけど、
湖畔に倒れたまま動かない。

「……亜依ちゃん!亜依ちゃん!!!」
「……の……ん……なん?
途切れ途切れの亜依ちゃんの言葉。
半ば閉じられた目にも力がない。

「そう、分からないの?亜依ちゃん」
「……ごめん……な、うちの……ために」
「何言ってるのさ、のんが、のんのせいで
……折角亜依ちゃんに愛を誓ったのに」
「……もう……泣き虫さん……やねんから」
そう言って指でのんの涙をぬぐうと
優しく微笑んでゆっくり瞼を閉じた。

「亜依ちゃん!亜依ちゃーん!!!」
のんの絶叫が響き渡った時、後ろから嘲笑を含む冷徹な声が聞こえた。
165 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:09

「あらあら、良かったじゃない?
最後にはお別れできたんだから」
「何でこんなこと、何でこんなことしたんれすか!おばちゃん!!!」
のんは腰の剣を抜いて振り返った。

「なによっ!私だってあんな衣装着たかったのよっ!!」
そう叫ぶとおばちゃんは、5mはあろうかと言う巨大な狛犬に姿を変え、襲いかかってきた。

「無理ありすぎなのれす!三人祭りの時といい
人の迷惑も考えるれすよ!!!」
「なによっ!私だってアイドルなのよ!!!」
振り下ろされる右のつめを剣で払い腹を蹴り上げる。
その直後左のつめが眼前を通り過ぎた。
蹴るタイミングが少しでもずれてたら危なかった。

『辻、見た目に騙されちゃだめだ』
矢口さんの言葉がよみがえる。

(そうか、姿は変わろうとおばちゃんはおばちゃんなのれす。
のんに体力で叶うわけねーのれす)
のんは小柄な体を生かし、
一気に懐に飛び込む。
飛び込んだ瞬間、ひねったおばちゃんの体からほとばしるケメ子汁が目に入った。
166 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:10

(しまった!)
のんはおばちゃんのつめで吹き飛ばされ、背中を地面に叩きつけられ息が詰まる。

「止めよ!!!」

倒れたまま無意識に突き出した右手に手ごたえを感じ目を開けると
おばちゃんの姿は煙のように消えていった。

「やった……の?」
そしてすぐ立ち上がり、亜依ちゃんの下へ向かった。
167 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:11

「亜依ちゃん」
月明かりの中力無く横たわる亜依ちゃんを抱きかかえる。

「なんでそんなに幸せそうに笑ってるのさ。のんが悪いのに……
のんがあの時ちゃんと気持ちを伝えてればこんなことには……」
のんは泣きながら亜依ちゃんの手をとった。
その時、二人のピンキーリングが触れ合い、のんと亜依ちゃんは眩い光に包まれた。

「……のん?」
その光が終息すると亜依ちゃんがうっすらと目を開いた。

「亜依ちゃん、気がついたんらね。良かった……本当によかっ」
のんはもう言葉にならなくって亜依ちゃんを力いっぱい抱きしめた。
168 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:13

「亜依ちゃん、ごめん、ごめんね。
もう離さない。世界中で誰よりも亜依ちゃんのこと好きだから……亜依ちゃんの全部を……愛してるから」
「ありがとうのん、うちも誰よりものんのことが……好き」
そう言って瞳を閉じる亜依ちゃん。
のんは、亜依ちゃんの頬に手を当てて―――
少し顔を上げさせて―――ゆっくり顔を近づけて―――
169 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:13
170 名前:第四夜 投稿日:2005/11/20(日) 19:15

のんは目が覚めてもしばらくベットの中で今見た夢を思い出していた。
そして、ベットから抜け出し、顔を洗い、
鏡に映る自分の顔を見つめうなずいた。

「そうだよね、後悔しないためにも。
誤って、そして……気持ちを伝えて見よう」

のんはその日、一つの決意を胸に仕事へ向かった。
171 名前:ぱせり 投稿日:2005/11/20(日) 19:18
第四夜更新しました。
ご無沙汰して申し訳ありません。
体調不良などあり、気がつけば二ヶ月も放置してしまいました。
プライベートも落ち着いたのでこれからはもう少し更新ペースがあげれると思います。
172 名前:ぱせり 投稿日:2005/11/20(日) 19:23
レスのお礼です。
>>134さん、ありがとうございます。
ネタが滑ってないか不安なのでそう言っていただけて安心してます。
>>135さん、お待たせして申し訳ありません。
まだお待ちいただけてるでしょうか?
残すところ三夜プラスエピローグなので
年内には終わらせたいと思ってます。
173 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/21(月) 02:50
更新乙です!二ヶ月ぶりということで最初から読み返しましたが、やっぱり面白いです。
Wの二人もかわいくて良いですね。続き楽しみに待ってます。
174 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/23(水) 15:54
復帰してくれて嬉しいです。最後まで楽しみにしています
175 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/26(土) 14:02
あいののサイコーです。
続きマッテマス!
176 名前:ぱせり 投稿日:2005/11/27(日) 19:26

こんばんわ、作者です。
皆さんレスありがとうございます。
ほんとに励みになります。
>>173さん、読み直していただいたんですね。ありがとうございます。
Wの二人を可愛く書くと言うのを目標の一つとしてたのでそう言っていただけて嬉しいです。
>>174さん、そう言っていただけて私も嬉しいです。
最後までがんばります。
>>175さん、はい、最高です。
続きもがんばります。

で、遅筆なくせに申し訳ないのですが、一つ短編を書かせていただきました。
第五夜の下書きの最中に妄想が暴発してしまい、書き上げないと落ち着かなかったもので。。。
ただ話の根幹ががここと似てるんですよね。。。
もしそれでもよろしければお付き合いください。
こちらは加護さん主役でやはりあいののです。
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/grass/1133083479/l50
こちらの続きもなるべく早く更新しますので、引き続き応援よろしくおねがいします。
177 名前:ぱせり 投稿日:2005/11/27(日) 19:28
更新してないのに上げちゃった。。。
ごめんなさい。
178 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:32
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
179 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:32

「…………」
のんは自室に戻ると何も言わずにベットに腰を下ろした。

のんは今朝、亜依ちゃんに昨日のことを誤って、思いを伝えようと思っていたんだけど……
今日は結局何も言えなかったんだ。
それと言うのも今日は亜弥ちゃんとのお仕事で、亜依ちゃんはずっと亜弥ちゃんにべったりで、
のんとは目も合わせてくれなくって……しかも昨日のことなんか何もなかったように楽しそうで。。。

「亜依ちゃんはのんのことなんて……
昨日も酷いことしちゃったし……もう許してくれないかもしんない」
のんは梨華ちゃんにもらったまくらを抱きしめ、それに顔を押し付けて泣いた。
180 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:33

『なんかね、夢の中で願いが叶うまくらなんだって』
181 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:40

「!!!」
突然梨華ちゃんからのメールをを思い出し、のんははっとして顔をあげた。

「このまくらのせいじゃん!このまくらのせいで気づかなくてもいい事に気づいちゃったんじゃない!!
それで、それで亜依ちゃんとも……」
最後の方は言葉にならなかった。

「こんなもの!!!」
のんは壁にまくらを叩きつけるとベットに突っ伏して再び泣いた。

「……もう寝なきゃ」
しばらくそうしていたけど、寝なくちゃ明日のお仕事に差し障ると思い、
前まで使ってたまくらを引っ張り出してきてそれを使うことにした。
182 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:42

「…………」
それでも目を閉じて眠ろうとしても、浮かぶのは亜依ちゃんの顔ばかりで。
そしてそのほとんどが笑顔で。それが二度とのんに向けられないかも知れないと思うと怖くって。。。

「……亜依ちゃん。お話したいよ」
でもいくらのんがそう思っても、電話にも出てくれないし、今日はまともに目を合わせてもくれなかった。
もう、お仕事以外でまともに話すことなんてないのかもしれない。
そんなネガティヴな思考に支配されているとふとある考えが脳裏に浮かんだ。

「せめて夢の中だけでも……」
壁際に落ちてるまくらを見つめる。

「いや、だめ!あれのせいで亜依ちゃん怒らせちゃったんだから」
のんはその考えを振り払うように首をぶんぶん振ると、布団に潜り込んだ。

「…………」
だけど、眠ろうとしても寂しさと不安で一睡もできなくって。。。

しばらくすると結局ベットから抜け出し、
壁際に落ちているまくらを拾ってベットに戻った。

そしてたったそれだけのことで安心したのんは、すぐに眠りの世界に落ちて言ったんだ。
183 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:42
184 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:44

「のの様、のの様っ!」
「……なちみ?」
「のの様ぁ、ぼうっとしてたらだめっしょ?」
のんの前には執事姿のなちみ。
のんはと言えば……今日もまた王子様。

「ごめんごめん」
「早くお召し替えしないと間に合わないっしょ?」
「お召し替え?なんで?」
そう問いかけるのんになちみはちょっと呆れたようにため息をついてから言った。

「なぁに言ってるべさ?
今日はのの様のお后様を決める大事な舞踏会っしょ?」
(……そっか。今日はそこで亜依ちゃんに出会えるんだね)
そう思いながら、のんはなちみに答えた。
185 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:46

「あぁ、そうらったのれす。
じゃあ早速着替えるれすよ」
「わっかりましたぁ。それでは」
なちみはいったん言葉を区切ると

「出逢え〜!キノコ達〜!!」
(キノコ!?)まさか……

「「わ〜〜〜」」
元気よく現れたのはやっぱり矢口さんとよっすぃーで
「それではのの様っ、お召し替えしましょっ」
「は〜い、ののちゃぁん、それではあんよあげまちょうね〜。
あばれちゃだめでちゅよ〜。
あらあらおしっこいっぱいでまちたね〜」
「それはおしめ替えだろ!?」

「……そんなんじゃのんでも笑わねーのれす」

のんはさっさとキノコ達をあしらうと着替えを済ませ、舞踏会に向かった。
186 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:47
187 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:52

のんが会場に入ると、そこには美しく着飾った
何百人と言う女の子達が押し寄せていた。

(こんな沢山の女の子の中から亜依ちゃんを探さなきゃいけないんだ)
のんが唖然としていると

「それではただいまより、のの様のお后を決める舞踏会を始めるべさー!!」
なちみの宣言と、それに呼応した華やかな音楽に彩られて、舞踏会が始まった。

(亜依ちゃんはどこなんだろう?)
舞踏会が始まるとすぐに、のんは居並ぶ女の子達には目も繰れず、
亜依ちゃんを探し始めた。
188 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:53

「のん様ぁ」
「……え?」
甲高い声に振り返ると、そこには見知らぬおばさんが
……と思ったらよく見て見るとそれは紺ちゃんだった。

「のん様ー、私と踊ってください」
「ごめんなさい。今いそがしいのれす」
「え〜踊ってくださ〜い。
のん様、マ〜イラブっ♪」
のんはそのキショい行動にため息をつくと、なちみを呼び命じた。

「なちみ、つまみ出して」
「はいはいは〜い、分かったベさ」
のんはつまみ出されていくこんちゃんを見送るのもそこそこにまた亜依ちゃんを探し始めた。

(亜依ちゃんはどこだろう?一秒でも早く会いたいよ)
のんはそう思い必死で亜依ちゃんを探していた。
それなのに―――
189 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:54


「えへ、えへえへ、私、タ・ラ・コって言います
私とぉ、踊ってくださいっ」
「断るのれす」
「なぁんでですか〜!?こう見えてもわたし〜、
地元では〜、モ〜テモテなんですぅ。
な〜んでそんなことまで知ってるんですか〜!!?」
「……なちみー!」
「はいはいは〜い」

「なあ、辻ちゃぁん、
裕ちゃんと踊ってぇなぁ。結婚してぇなぁ」
「なかざーさんは必死過ぎなのれす」
「なんで〜な、裕ちゃん結婚したいねん!幸せになりたいねん!!玉の輿に乗りたいねん!!!」
「……なちみー」
「はいはいはーい」

190 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:55

「ね〜、王子様ぁ、美貴と踊ってくださいよ」
「え?ミキティ?」
「ごめん、のんは今ちょっと人探してるんれす」
「え〜?そんなのほっといて美貴と踊ろうよ〜」
「美貴ちゃん往生際悪いがし。
のんちゃんは美貴ちゃんみたいな貧乳は好みじゃないんやよ」
「はぁ!!?愛ちゃんいま美貴に言っちゃいけないこといったよね!?
猿顔の癖に!」
「何言ってるがし?あぁしはコウモリ顔やよ!」
「はぁ!?そっちの方が悪くない?」
「それよりのんちゃん、あぁしと踊るがし」
「美貴は無視かよ!?」
「二人ともごめん」
「「え〜?なんで〜?」」
「美貴ちゃんがしつこいから悪いがし」
「はぁ!?美貴のせいにしようっての!?」
「……なちみー!」
「はいはいはーい」
191 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:56

「あんた!ずばり言うわよ!
あんた、私と踊りなさい!」
「断るのれす」
「私は泥水すすってここまで来たのよ!あんたに泥水すすれんの!?」
「うるせーのれす!コンやハよっすぃー率高すぎなのれす!
なちみー!」
「はいはいはーい」
「あんた地獄に落ちるわよ!」

……こんな風に邪魔ばかり入って、なかなか亜依ちゃんを見つけることができなかったんだ。

192 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:58

「のの様、疲れたっしょ?
コーヒー持ってきたからちょっと休憩するべさ」
「なちみありがとう」
のんはなちみからコーヒーを受け取ると一口飲んだ。

(ん?)

「ねえなちみ、これ薄くない?」
「え〜!?そんなことはないっしょ?
なっちはこれぐらいがちょうど良いべ」
「え〜、嘘ー!?なちみ薄いよ〜!」
「そぉんなことないっしょー?」
「なちみうすいってぇ!」
その時だった。

193 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 22:59

広間に響き渡る鐘の音。
それと共に現れた二人の少女。

「こんばんわ。幸、うす子です」
「こんばんわ。さち、うす江です」
「いま、呼びましたよね?」
「よ、呼んでねーのれす。
なちみ薄いって言っただけなのれす」
のんはあまりの不気味さにやや引き気味に答えた。

「あ、それ私の名前だ」
なぜか嬉しそうな亀ちゃん。

「違うのレス!良いから帰るれすよ!」
「うす江、行くわよ」
「はい、お姉さま……あっ」
突然倒れる亀ちゃん

「お姉さま……私、お腹が空いてもう歩けない」
「無理もないわ。今日はまだお城の食料庫空にしただけですもの」

「え!?のんの食料返せなのれす!!!」
のんがあわてて追いかけようとした時
194 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:03

「あのー……良かったら踊ってくれへん?」
後ろから声を掛けられ、振り返ると

「亜依ちゃん!」
そこにはずっと探し求めていた笑顔があった。
のんは嬉しくって亜依ちゃんに駆け寄るとすぐに手をとり、ホールの真ん中へエスコートした。

それからのんと亜依ちゃんは時間を忘れて踊り続けた。
愛の意味を教えて!も、恋のフウガも、ロボキッスも、
ああいいな!も、恋のバカンスも。ぶりんこう○こ……はさすがに踊らなかったけど。。。

「亜依ちゃん楽しいね」
「うん、うちも楽しい」
のんの目の前には亜依ちゃんの笑顔。
のんの大好きな笑顔。
のんはこれ以上ない幸せをかみ締めていた。
195 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:05

そして音楽は、今までとは売って替わったゆったりとしたワルツに替わった。
のんと亜依ちゃんは自然に向かい合うと、どちらからとも泣く手を取り合った。

「……なんか照れてまうね」
「……うん」
「……ねえ、亜依ちゃん」
「……ん、なに?」
「……亜依ちゃん、の、のんは亜依ちゃんが」
「うん」
「のんは……のんは亜依ちゃんのことがね……」

のんが口を開きかけた時、広間の時計がなり始め、その瞬間亜依ちゃんが動きを止めた。
そしてその鐘の音が九つ目で終わった時
亜依ちゃんの顔から笑顔が消えた。

「のん、ごめん!」
叫び走り出す亜依ちゃん。

「え!?亜依ちゃん待って!!!」
のんは必死で追いかけ、広間を出たところ、
ちょうど長い下り階段の手前で追いついた。

「待ってよ!行かないれよ!!置いてかないれよ!!!」
のんの伸ばした指先が亜依ちゃんのドレスに触れた時
196 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:06

「キャー!うわ〜うぉぁ〜わ〜あ〜ぁ〜ひやぁ〜」
奇妙な叫び声とどドタドタと言うものすごい音と共に
亜依ちゃんが一瞬でのんの視界から消えた。

「亜依ちゃん?」
しばしあっけにとられて会談を見つめていたけど、すぐに気を取り直して会談を駆け下りた。

(亜依ちゃん、大怪我してたらどうしよう?)
だけど、そんなのんの心配とは裏腹に、階段をおりきると、
亜依ちゃんの姿はどこにもなかった。

「……亜依ちゃん」
「ののさま!」
のんが呆然としてると後から追いかけてきたなちみが声を掛けてきた。

「のの様、階段の途中にこんなものが落ちてたっしょ」
「ガラスの……靴?」
「これ、あの子を探す手がかりになるっしょ」
のんはなちみのことばに小さくうなずいた。

197 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:07
198 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:08

―――
それから1週間。
国中にお触れを出しても、みんなに探させても亜依ちゃんの所在は一向につかめなかった。
もう、のんはただ待ってるだけなんてもどかしくって、
一人お城を抜け出し亜依ちゃんを探すことにした。

「のの様!どこ行くべ!?」
でももう少しで城門を出ようと言う時、のんはなちみに見つかってしまった。

「なちみ、のんは……」
「分かってるべさ。なっちも一緒に探しに行くべ」
「いいの!?」
「のの様だけいかすわけにはいかないっしょ」
そう、お日様のような笑顔で言うなちみにのんは抱きついた。

「なちみありがとう」
そしてそれからのんとなちみは、国中の家を片っ端から一軒ずつ
ガラスの靴を持ってる少女を知らないか聞いて回った。
そして何の手がかりも掴めないまま、数週間が立った―――


199 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:08
200 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:10

「あそこが最後の家だべ。
あそこで見つからなかったら、可愛そうだけど諦めるしかないっしょ」
「……うん」
のんとなちみは国外れにある、最後の家に向かって歩いていた。

そしてのんとなちみがその家の前に立った時、
中から数人の女の子が言い争うような声が聞こえてきた。

「はぁ!!?美貴レバサシ5人前っていったよね!!!?」
「ごめんなさい。もう3人前しか残ってへんかったもんで」
「あ!!?なにこれ!!!?」
「カ、カツ丼……なんやけど」
「こんな卵乗ったのなんかカツ丼じゃないがし!!!」
「……でもそれしか売ってへんかったもん……」
「ちょっと!美貴たちに口答えするっての!!!?」
その中に聞き覚えのある声を見つけたのんは
あわててその家のドアをノックした。

「こんにちは、開けてれす」
「新聞なら間に合ってるよ」
「違うっしょ。のの様がお后候補探しに来たんだべ」
「「えー!!!」?」
甲高い嬉しそうな叫び声と、しばしの沈黙の後、内側からドアが開かれた。

201 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:11

「王子様、やっと美貴を迎えに来てくれたんですね」
「違うがし、あぁしを迎えに来たがし」
そう言い争い始めた二人にのんは問い掛けた。

「ここにもう一人女の子いなかったれすか?
加護亜依って言う子れす」

「……そんな子知りません」
一瞬言葉に詰まりながら、ミキティが不機嫌そうに答えた。

「そうやよ。うちにいるのはあいぼんやもん」
「バカ!!」
ミキティが愛ちゃんを怒鳴ったが、そんなことにはかまわず、のんは二人に迫った。

「いるんれすね!?亜依ちゃんを出すのれす!」
「だからそんな子はいませんって」
「そうがし、だから居るのはあいぼんだけやって」
「愛ちゃんは黙ってな)

その喧騒が届いたのか、奥から一人の少女が現れた。

「何かあったんですか?」
その姿を見てのんは息を呑んだ。

202 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:13

その少女、亜依ちゃんは薄いボロボロの着物に草履履きで、
顔も酷く汚れていてその姿はまるで……。

「亜依ちゃん、のんは亜依ちゃんを迎えに来たんらよ」
でも亜依ちゃんは駆け寄りそう言うのんから目をそらすと言った。

「……人違いやないですか?」
そう言う亜依ちゃんに続けてミキティも言う。

「王子様は舞踏会で見初めた子を探してるんですよね?
この子がそんな所に言ってるわけないじゃないですか?」
でものんはミキティには取り合わず、亜依ちゃんの目をじっと見つめて言った。

「なんれそんなこと言うの?
のんが嫌い?」
「…………」
亜依ちゃんはただ俯き、頑なに首を横に振るだけで何も言ってくれない。

「ほら、この子は舞踏会なんか行ける訳ないんですから」
「のんには分かるれす!」
のんは必死だった。

203 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:16

「あの時の子もこの子も亜依ちゃんれす!」
「でもですねー」
「じゃあ、たしかめて見れば良いっしょ」
のん達が言い争っているとなちみが仲裁に入ってくれた。

「このガラスの靴履いてみるべさ。
今までこれ履けた子いないんだべ」
のんはそのなちみの言葉に頷くと、近くのいすに亜依ちゃんを座らせ、
靴を履かせるために亜依ちゃんの前に跪いた。

「ほら、足上げて」
のんの言葉に亜依ちゃんは顔を背けながらも渋々足を上げる。
のんはゆっくり優しく亜依ちゃんの足に靴を履かせた。
靴はまるで吸いつくように、すっぽりと亜依ちゃんの白くかわいらしい足に収まった。

204 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:18

「ほら、やっぱり亜依ちゃんだ」
「…………」
「何で隠そうとするの?
そんなにのんのこときらいなの?
のんが好きなの……迷惑?」
「違う!」
顔を上げた亜依ちゃんの目からは涙があふれ始めていた。

「のんに……のんにこんな姿見られたなかってん
……のんに嫌われるのが……怖かってん」
のんはその亜依ちゃんの告白を聞くと、安心してふっと微笑んで言った。
205 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:20

「のんは亜依ちゃんの外見だけが好きな分けじゃないよ。
亜依ちゃんの全部が好きなんらよ」
のんはハンカチを取り出し、亜依ちゃんの涙と、顔の汚れを優しくぬぐった。

「ほら、これでいつもの可愛い亜依ちゃんらよ」
のんが微笑むと亜依ちゃんも弱弱しくデハ会ったが、微笑み返してくれた。

「亜依ちゃん、ず っと一緒に生きて行こう」
のんは亜依ちゃんを抱きしめて言った。

「……いいの?」
「あったりまえじゃん……だから一緒に……ね?」
「……うん」
のんははにかみ頷く亜依ちゃんをもう一度強く抱きしめると
亜依ちゃんの瞳をじっと見つめて―――
亜依ちゃんに優しく微笑み掛けて―――
亜依ちゃんの唇にそっと唇を―――
206 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:20
 
207 名前:第五夜 投稿日:2006/01/06(金) 23:21

「……亜依ちゃん」
のんはなんだかホワンとした気持ちで目を覚ました。

「……今日は……がんばろ」
少し元気を取り戻したのんは小さく呟くと、お仕事に出かける準備を始めた。
208 名前:ぱせり 投稿日:2006/01/06(金) 23:22
第五夜更新しました。
209 名前:ぱせり 投稿日:2006/01/06(金) 23:23

まずはミキティと愛ちゃんならびに二人のファンの方ごめんなさい。
ちなみに愛ちゃんの顔のネタは某ラジオ番組で自己申告されてたネタです。
210 名前:ぱせり 投稿日:2006/01/06(金) 23:25

 皆さん遅ればせながらあけましておめでとうございます。
よろしければ今年もお付き合いください。
前回更新時に2005年中には完結したいなどといってましたが更新もできませんでした。ごめんなさい。
と言うことで、更新の目処などの名言は避けさせていただいて、地道にがんばらせていただきたいと思います。
 今年もよろしくおねがいします。
211 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/07(土) 02:58
連日更新お疲れ様です。
私はずっと完結しないで「―――ゆっくり顔を近づけて――― 」が続いて欲しい位なんですが・・・
ただ、のんちゃんには早く幸せになってほしいという気持ちもあり・・・
とにかく私が言いたいことは、これからも楽しみにしているので作者さんのペースで頑張ってくださいということです。
212 名前:名無しさん 投稿日:2006/01/11(水) 10:50
ぱせりさんの書くあいのの大好きです。更新お待ちしています!
213 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/21(土) 04:29
この後二人がどーなるのか気になる!更新いつまでもまってます!
214 名前:ぱせり 投稿日:2006/02/10(金) 00:32
 みなさんこんばんわ。作者です。
 暖かいレス感謝しております。
それぞれお返事したいところですが、ちょっと今私がお返事できる状況にありません。
 もちろん放置したくはないのですが、この先の彼女の動向によっては・・・。
 その際には改めてご挨拶に伺います。
 
 ぜひ彼女の復帰が叶い、この小説の続きを
書けることを切に願ってます。
215 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/15(水) 22:36
大変なことになっちゃったけどそれでもやっぱりあいぼんが好きでののが好きであいののが大好きです。僕も復帰を信じてるんで作者さんもそのときは頑張ってください!応援してます
216 名前:ぱせり 投稿日:2006/03/28(火) 23:54
 みなさんご無沙汰しております。作者です。
 ただ今第六夜の下書きをしております。
 近日中にこの「ピンクのまくら」を再開させていただきたいと思っています。

 前回のレスでは取り乱し、レスのお礼もせず失礼しました。
 遅ればせながら改めて
>>211さん、最初はその予定だったんですが・・・
二人の今後を見守ってやってください。
>>212さん、そう言っていただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます。
>>213さん、二人の今後はデスね・・・
>>215さん、応援ありがとうございます。私も二人が大好きです。
がんばって書いて行きますんでこれからも読んでいただけると嬉しいです。

 それでは近いうちに更新したいと思いますのでよろしくお願いします。
217 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/03/29(水) 01:42
本当に嬉しいです。1から読み直して待ってます
218 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/16(日) 01:37
再開予告ありがとうございます!
お待ちしております。
219 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:51

 「♪♪♪」
夜、のんが部屋でぼうっとしていると、ポケットの中のケイタイが震えた。

「はい」
「げんきですかーーー!!!」
ケイタイのディスプレイには画面いっぱいに広がる猪木の物真似をする麻琴の顔。

「……うん」
「なにさぁ?のりわっるいなぁ」
「……ごめん」
今ののんは麻琴のテンションについていける気分じゃなくって

「で?かあちゃんとの喧嘩の原因は何?」
「なっ……何で知ってるの?」
「あのねぇのん、二人とも元気がないんだよ。
そんなの見てりゃ分かるって」
「そんなことない!だって、亜依ちゃん、あさ美ちゃんや愛ちゃんと楽しそうにしてたじゃんか」
そう、今日も亜依ちゃんは楽しそうにみんなとはしゃぎまわっていたはずだ。
220 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:52

「何言ってんの?かあちゃん、全然目笑ってなかったじゃん」
「そんなこと……」
「あるんだって。そんなのみんな気づいてるよ」
そうなんだろうか……人のことをよく見てる麻琴のことだから本当かも知れない。
でもただ落ち込んでるのんを励まそうとしてるのかも……

「で?だから原因はなんなのさ?」
「それは……」
「どうした?言い難いこと?」
「うん……でも聞いて」

 それからのんは、麻琴に今まで見た夢のこと、
けんかのいきさつ全てを打ち明けた。
221 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:53

「ふ〜ん、そんなこと?」
「そんなことって!」
「あ〜、怒んないでよ。
っつうかさ、さっさと告っちゃえばいいんじゃん」
「人のことだと思って簡単に言わないでよ!
女の子同士なんだよ!お仕事ずっと一緒なんだよ!
だめだったらこの先どうすんだよ!」
「大丈夫だって。私は大丈夫だったし」
「へ?」
「ひとみさんに告白してもなぁんにもかわんないし」
「え?え、ええ〜!?よっすぃーにってあれマジだったん?」
「マジもマジ」
「で、どうなったのさ」
「振られたよ。それでも替わらないし、まだアプローチし続けてるし」
ほんとに驚いた。
麻琴のよっすぃーへの気持ちが本気だったこともそうだけど、
振られても替わらない二人の関係。
そして振られてもめげずにアプローチし続ける麻琴に。
222 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:54

「……でも亜依ちゃん、よっすぃーほど大人じゃないよ」
「大丈夫だって」
「…………」
「ねっ、明日さ、仕事の後で作戦練ろうよ。焼肉やカどっかでさ」
「……うん」
「もちろんのんの奢りでね♪」
「……うん……えっ?」
「きっとうまくいくようにしてあげっからさぁ♪」
「……うん」

「まぁこの小川えもんにっどーんと任せときなさぁい!」
「……うん」
 納得できない部分もあったけど、一人で悩んでるよりは
麻琴と話したほうがいい方法も思い浮かぶかと思い、頷いた。

「じゃあ、また明日、早く寝ろよ♪」
「……うん、麻琴ありがとう」

 のんは電話を着ると、すぐにベットに潜り込んだ。
 もちろんあのまくらと共に―――
223 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:55
 
224 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:57

「……ここは」
のんが気がつくとそれは綺麗な森の中、一人ぼっちで木陰に佇んでいた。

「え?どうしたら良いんだろう?」
一人ぼっちなんて初めてだったから、のんはしばらく途方にくれてたんだけど、
こうしてても仕方がないと思い、あたりを散策することにした。

 「あれは?」
 しばらく歩くと木々の間から何か高い建物が見えた。

(あそこに誰かいるかもしんない)
 そう思ったのんはその建物に向かって歩を早めた。

 歩き出して分かったんだけど、その建物はかなり高い塔のような建物だった。

225 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:58

 「……郷のあの人の、あの人の足元に♪」
 塔に血被くと、聞き覚えのある柔らかな歌声が聞こえてきた。
 のんは嬉しくなり、あわてて塔の入り口を探した。
 でも塔の周りを探しても、なぜか入り口は見つからない。
  
「青空の澄んだ色は、初恋のいろ♪」
 のんが入り口を探し続けてる間も歌声は続いていて。
 すぐ傍に亜依ちゃんがいるのに会えない事が寂しくって

 「亜依ちゃあん!ぁ依ちゃあん!!!」
 のんが叫ぶと歌声はぱったりと途切れ、それから何の物音もしなくなってしまった。
 
(なんで亜依ちゃん答えてくれないの?)
 のんは悲しくなり、近くの木陰に腰を下ろした。
226 名前:第六夜 投稿日:2006/05/07(日) 23:58
 
 どれくらいたったころだろう?
 のんがぼうっと、塔の周りに植えられているバラを見つめていると
がさがさと言う草を踏み分ける音を立て、近づいてくる足音に気がついた。
 のんが思わず木の影に身を隠し、様子を伺っていると、
金髪で細身の女性が現れ、おもむろに塔の上に向かって叫びだした。

 「あーいぼん!あーいぼん!お前の髪下ろしたってや!!」
 そうするとロープのように長い三つ編みの髪が
塔の上からするすると下りて着た。
 
「よっこらしょ」
 するとその女性はおばさんくさい言葉を口にしながら
その髪につかまって塔に上って言った。

 (そうか、ああやって上るんだ?)
 のんは塔を上る方法が分かり、嬉しくなって、
わくわくしながらその女性が再び下りてくるのを待った。
227 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:00

 「あーいぼん!あーいぼん!お前の髪下ろしたってや!!!」
日も暮れ、女性が変えるのを見届けた後、
のんはあの女性を真似て塔の下で叫んで見た。
 するとすぐにするすると、塔の上から三つ編みの髪が下りてきた。
 (これ亜依ちゃんの髪なのかな?のんが掴まって痛くないのから?
大事な髪なのに抜けちゃったりしないのかな?抜けたらまた落ち込んだりしないのかな?)
いろいろ心配にはなったけど、のんは髪に掴まると塔を上って言った。

「裕ちゃぁんどないしたん?忘れも……の?」
 塔を上りきったのんを見て、亜依ちゃんが驚いてる。

 「亜依ちゃん」
「のん、どうしてここに?)
「そんなことどうらっていいよ。」
 のんは亜依ちゃんに抱きついた。
 そう、そんなことどうだっていい。
のんは亜依ちゃんといれるだけで。
228 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:02

 それからのんは亜依ちゃんのお話を聞いた。
 亜依ちゃんは生まれてすぐ、なんとかって野菜と引き換えに中澤さんに引き取られたんだって。
そしてそれからずっとここに閉じ込められていて、中澤さん以外とは会えないんだって。
塔に入り口を作ってないのも亜依ちゃんを誰にも合わせないためなんだって。

 「のんの亜依ちゃんを独り占めにするなんて許せねーのれす!」
「ちょっ、ちょっ、のん……何言ってんのん」
 亜依ちゃんは顔を真っ赤にしながらのんの腕を引っ張った。
 それで自分が興奮して、口走ってしまったことに気がついたのんも
なんだか恥ずかしくなり、顔を赤らめ俯いてしまった。

 「花びらの白い色は恋人のいろ♪」
 その気まずい空気を和らげるように、亜依ちゃんの唇から静かにメロディーがこぼれ始めた。
 のんが大好きな声。
 大好きな亜依ちゃんの声。
癒されてなんだか眠たくなっちゃう優しい声。
229 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:02

「「故郷のあの人の、あの人の足元に咲く白百合の♪」」 
なんだか安心したのんは亜依ちゃんと手を繋ぎ、肩に頭を乗せ、
亜依ちゃんに合わせ歌い始めた。
 亜依ちゃんのやわらかい声とのんの張りのある声。
二つの声が、二つのメロディーが溶け合って森の中へ流れていく。
いつまでもこうして歌っていたい。
いつまでも二人で。
そんな願いを乗せて。
230 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:02
 
231 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:03

 「あーいちゃん!あーいちゃん!髪下ろして!」
 あれからのんは毎晩この塔に通っている。
 毎晩亜依ちゃんが脱出するためにこっそり作っている
縄梯子の材料を持って。
 そして亜依ちゃんとお話をしたり、歌ったりして夜明けまで過ごして痛んだ。

 「ようきたなー、辻!」
いつものように下りてきた髪に掴まり上ってきたのんを待っていたのは
すごい形相でのんをにらみ着ける中澤さんだった。
232 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:04

 「え?なんで?亜依ちゃんは?」
 混乱しているのんをあざけるように中沢さんは続けた。
 
 「あんたの愛しい愛しい亜依ちゃんは、もうここにはおらんで」
「亜依ちゃんをどうしたんれすか!?」
「ふん!あんな恩知らず!南の砂漠に放り出して来たったわ!!
長い間可愛がって着たオンを忘れおって!こんな貧乳のちび引っ張り込んで着てんやもんな〜!」
「貧乳だけはなかざーさんには言われたくないのれす!!」
「うるさいどちび!」
「ばばー!亜依ちゃんをかえせなのれす!!!うぁ〜!」
 逆上して中澤さんに掴みかかっていったのんだったが
冷静さを欠いたのんはあっさり買わされ
軽く背中を押されただけで、開け放たれたままの窓から落ちてしまった。

233 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:05

 「う、うぅ……」
 のんは鼻をくすぐるバラの甘い香りで目覚めた。
暗くてよく分からないんだけど、 幸いバラ畑に落ちたようで、
かすり傷はおったものの怪我はたいしたことがないようだった。
 
「それにしても……」
 それにしても亜依ちゃんを失ってのんはこんなに悲しいのに
お日様はいつものように穏やかにのんを照らして……
(!!!)
 確かにお日様のぬくもりを感じる。
なのに今は新月の夜のように真っ暗で……
 
顔に手を当てるとぬるぬるとした感触。
この頬に伝わるもの……涙だけじゃなかったんだ。
そう、のんはバラの刺で目に傷をおってしまっていたんだ。
234 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:06

 それからのんは亜依ちゃんを探し始めた。

『ふん!あんな恩知らず!南の砂漠に放り出して来たったわ!!』
あの時の中澤さんの言葉を手がかりに南へ。
 日が出ている間、太陽の位置で凡その見当をつけ、ひたすら手探りで。
時間なんか分からないから、太陽の位置だって参考にしかならなくって。
きっと東や西にふらふらしながら歩いてるんだと思う。
それでもただ、ひたすら南を目指して歩き続けることぐらいしか
のんには考えられなかったんだ。
 
 「うぁっ!」
 再び訪れる浮遊感。
 踏み出した足の先には地面がなかった。
235 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:06
 
236 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:07

 「……ここは?」
   のんは意識を取り戻してあたりを見渡したけど、
やっぱり何も見えない。
 ただ体には布団だろうか、柔らかな布がかけられてるみたい。
 
「気づかれました?」
  (この声って……)
「うへへへ〜よかったです〜、絵里が営業から帰ってきたらがけの下に倒れてたんですもん。
死んじゃうかと思いましたぁ」
 「あ、亀ちゃんが助けてくれたんら、ありがとう」
「うへへへ〜、絵里だけじゃないんですよ。
それよりおなか空いてません?
絵里がマンゴープリン作ってあげますよ〜」
237 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:08

「絵里、そんなもの食べさせたら辻さん死んじゃうの」
「そうたい、れいなの肉サラダの方がよか」
「可愛いさゆが作ったホットケーキの方が元気になるの」
「二人とも失礼ね!
もうちゃんと作れるんだから!!」
突然入ってきて悪口をつく二人に
亀ちゃんは少々ご立腹のようだったけど、
のんは久しぶりの人との触れ合いに嬉しくなった。

 「ありがとう、みんないたらくよ」
「そうですよ、それでこそ辻さんです♪」
「マンゴープリンだけは止めといた方が良いと思うの」
「絵里のはパパイヤプリンやけどね」
「だからもう失敗しないって!!」
 がやがや部屋を後にする三人を見送ると
のんは再び眠りに落ちた。
238 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:09

 「で、のんつぁんはどうしてあんな所で倒れてたと?」
食事を終え一息つくと、田中ちゃんが尋ねてきた。

「のんは亜依ちゃんを探してるんレス。」
「あいちゃんですか?」
のんは亀ちゃんに答えた。

「うん、色白で可愛くって歌が上手な子なんれす。
のんにとって掛け替えのない子なんれす」」
「「「!!!」」」
「辻さん運がいいの。あいちゃんならこの町に住んでるの!」
一瞬息を呑んだ後重さんが嬉しそうに言った。
239 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:10

「ほんと!!?」
「ほんとうっちゃ」
「どこれすか!?どこにいるんれすか!?」
のんは興奮して思わず立ち上がって叫んでいた。

「辻さん落ち着いてください」
「今夜はもう遅いから明日案内してあげるの」
のんは亀ちゃんと重さんになだめられ、その晩は就寝した。

240 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:10
 
241 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:13

「辻さん足元気をつけてくださいね」

 次の日、のんは三人に案内され、亜依ちゃんの下へ向かった。

(もうすぐ亜依ちゃんに会えるかと思うと、のんは逸る気持ちを押えるのが大変だった。

「のんつぁんついたっちゃ」
「おはようなの!可愛いさゆがお客さん連れてきたの!」 
重さんが声をかけると、家の中から人が出てくる気配を感じた。

(やっと亜依ちゃんに会えるんだ。
亜依ちゃん元気かな?
亜依ちゃん、のんが会いに着たの喜んでくれるかな?
亜依ちゃんに最初になんて声かけよう)
いろんな思いが巡る。

「おはよう♪さゆ、れいな、亀ちゃんにぃ……のんつぁん?」
  
 その声を聞いた瞬間、のんの頭の中は真っ白になった。
242 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:14

「うっ、うぅぅぅ……」
「ちょっ、ちょっとのんつぁんどうしたやざ?」
戸惑う愛ちゃんの声も耳に入らない。
のんはその場に泣き崩れた。

「のんつぁん、おちついたやざ?」
「……うん、愛ちゃんごめんね」
「そんなん気にすることないやよ」
愛ちゃんは優しくそう言うとのんの手を握ってくれた。

「さゆ達から話し聞いたんやけど、のんつぁんはあいぼん探してるんやろ?」
のんは力泣く頷く。

「あぁしはあいぼん、どこにおるんか分からんのやけど、神様に聞いてあげるがし」
「……神様?」
「そうや、これでもあぁしら巫女なんやで?」
 愛ちゃんはわざとらしく、ちょっとおどけて楽しげに言った。

「愛ちゃん、ありがとう」
のんはその愛ちゃんのさりげない心遣いに感謝した。
  
243 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:16

「払いたま〜え〜、清め〜たまえ〜♪」
のんは見えないから、愛ちゃんが何し照るかよく分かんないけど、
節回しとばさばさと言う音からすると、神社で神主さんがやってるあれだと思う。
「かきたま〜のり玉〜、ソースカツ丼♪
あいぼんがどこにいるか教えたまえ〜」
(愛ちゃん……真面目にしてくれてる?)

のんがそんなことを思っていると
やっぱり聞き覚えのある声が耳に入ってきた。

「なによ?またお告げ聞きたいの?
まったくあんた達は神使いが荒いわね」
(え?この声って……まさか……)
244 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:16

「はい、あいぼんの居場所をお教えいただきたいのです。
保田大明神様」
(や、保田大明神って……)
困惑するのんを他所に二人は続けた。

「なぁに、そんなことぐらいお安い御用よ♪
それより高橋……」
「はい、ナンコツにホルモン、白子にビールにございます」
「ほほほ、分ってるじゃない。さすがね」
嬉しそうな声に続き、プシュッって音や
ぷはぁって声、ぼりぼりって音が聞こえてくるところをみると
愛ちゃんが持ってきたお供え物?食べてるんだろうなぁ、たぶん。

245 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:18

「あ、あの〜」
しばらくして痺れをきらせたのんが声をかけた。

「なによ辻?あんたも食べたいの?
白子ならあげないわよ、ナンコツならちょっとはあげてもいいけど」

「い、いや、亜依ちゃんの居場所を教えてくらさい」
「あら、そうだったわね。
加護ならここから南へ二ヶ月ほど歩いた所にある砂漠の中の街に住んでるわ」
「ほんとうれすか!?」
「嘘なんか言わないわよ」
「のんつぁんよかったっちゃ」
「可愛いさゆのおかげなの」
みんながのんに抱きついて喜んでくれた。

「じゃぁ、早速あいぼんのとこまでみんなで行くがし」
「絵里、たびの準備してきます」

「何言ってるの?辻!あんた一人で行くのよ」
246 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:19

「「「え?」」」
みんなの動きが泊まった。

「でものんつぁん、目みえないっちゃ」
「あぶないですぅ、また怪我しちゃいますよ〜」
「そんないじわる言うの可愛くないの」

「あんた達は黙ってな」
おばちゃんは一括すると、のんの前まで来て、諭すように行った。

「辻、あんた加護のこと大切なんだよね?」
「はい」
「本当に大切なものなら自分の力で取り戻すんだ」
「……はい」
「そして二度と離しちゃいけないよ。いい?」
「……はい!」
247 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:20

「高橋、杖とコンパス持たせてあげて」
「はい」
「それから水と食料ね。この子いっぱい食べるから
たくさん持たせてあげるのよ」

「ありがとう、おばちゃん!」
のんはそのおばちゃんの厳しさの中にある優しさに感謝して
思わず抱きついた。

「あんたって相変わらず天然で失礼よね」
「へへへ、おばちゃんらいすっき」
「……まぁいいわ」
ほんとにおばちゃんありがとう。
248 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:21

「のんつぁん、気をつけて行っての」
「このコンパスの鍼が手前に来るようにして歩いて行ってくださいね」
「応援してるっちゃ」
「今度は加護さんと二人で遊びに来るの」

のんは町外れでみんなに見送られ再び亜依ちゃんを探すため旅立った。
249 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:21
 
250 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:22

あれから二ヶ月―――
のんは砂漠の中にいた。
最初は順調だったたびも砂漠に入ると一転した。

 砂に足をとられ思うように進めないし、
 昼は太陽が照りつけ、のんの体力と手持ちの水を奪って行った。
夜は逆に凍えるほどに冷え込み、のんに追い討ちをかけた。


「……亜依ちゃん」
のんは見ずも底をつき、朦朧とした意識の中呟いた。

「……もう……駄目かも?」
『のんつぁんがんばるがし』
『しっかりしてください』
『ここで諦めたら女がすたるっちゃ』
『可愛いさゆが応援してるの』
みんなの声が聞こえる。

「……ごめんね、みんな協力してくれたのに」
のんは熱い砂に横たわり呟いた。
251 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:23

「花びらの白い色は恋人の色♪」

遠い所で亜依ちゃんの声が聞こえて来る。

「……ごめんね亜依ちゃん……見つけ出してあげれなかったよ……」

「懐かしい白百合は恋人の色♪」
「へへへ、幻聴でもいいや、亜依ちゃんの歌声聞けて嬉しいな」
「故郷のあの人の、あの人……♪」
「……止めないれよ……せめて最後に……せめて最後まで……」
のんが力なく呟いた時
252 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:25

「のん!!!」
サクサクと砂を踏みしめかけてくる足音と叫び声が聞こえた。

「のん!のん!しっかりして!!」
「……亜依ちゃん……なの?」
「そうや、分らへんの?」
「……のん、見えないんだごめんね」
「そんな……なんで?」
亜依ちゃんがなきながらのんを抱きしめた。

「へへへ、どじっちゃった」
「……うちのせいで……ごめんね、ごめんね」
「ううん、それよりね、のんね、ずっと亜依ちゃん……探してたんらよ」
「ありがとう、ありがとうな」
亜依ちゃんが力いっぱいのんを抱きしめた。
亜依ちゃんの暖かさとやわらかさがのんを包む。
のんも亜依ちゃんを力いっぱい抱きしめ返す。
亜依ちゃんの香りを、頬に伝わる柔らかさを、
胸に伝わる鼓動を二度と離さないように。
253 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:27
やっと……やっと再会できたんだ。
もう二度と離さない。
二人の涙が溶け亜依頬を流れていく。
そしてのんを抱きかかえるようにしている亜依ちゃんの涙がのんの目に落ちてきた瞬間

「うわっ」
のんの目に強烈な光が飛び込んできて、
のんは手で目をふさぎ蹲ってしまった。

「のん!」
のんが恐る恐る目を開けるとそこには
心配そうにのぞきこむ、涙でぐしゃぐしゃな亜依ちゃんの顔が合った。

「亜依ちゃん!亜依ちゃん見えるよ!!!」
のんは跳ね起きると亜依ちゃんを再び抱きしめた。
254 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:28

「ほんま?ほんまなん?」
「うん」
「よかった……よかった……」
もう一度のん達は強く抱きしめあった。

「亜依ちゃん……のんと……これからものんとずっと一緒にいてくれる?」
「うん」
亜依ちゃんは力強く頷いてくれた。
そしてそれを確認したのんは亜依ちゃんの涙を手の甲でぬぐって―――
亜依ちゃんの瞳をじっと見詰めて―――
頬に軽く手を添えて―――
255 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:29
 
256 名前:第六夜 投稿日:2006/05/08(月) 00:29

「……目、覚めちゃった……」
のんは夢に未練を残したまましばらくベットに潜り込んでいたけど、

『きっとうまくいくようにしてあげっからさぁ♪』
麻琴の言葉を思い出し、思い体を引きずって
出かける準備を始めた。
257 名前:ぱせり 投稿日:2006/05/08(月) 00:30
更新終了です。
258 名前:ぱせり 投稿日:2006/05/08(月) 00:32

( ´D`)<それにしても下書きしてるって言ってから講師まで遅くないれすか・
   ( ‘д‘)<ぱせりさんもがんばってるんやさかい、そないなこと言ったらあかんって
( ´D`)<なんれれすか!?一ヶ月以上も先を近日中とでもいうんれすか!?
   ( ‘д‘)<だからあかんって
   ( ´D`)<なんれれすか?
   ( ‘д‘)<のんの未来派ぱせりさんの手にかかってんやで?   
(; ´D`)<……ぱせりさんすてきなのれす!!!
   川o・-・)<替わり身の早さ、完璧です
259 名前:ぱせり 投稿日:2006/05/08(月) 00:37

   ( ‘д‘)<それにしてものん、レスで字間違えてどないすんのん?   
(; ´D`)<……どうせのんはバカ女なのれす
   ( ‘д‘)<そんなに落ち込まんでも……
260 名前:ぱせり 投稿日:2006/05/08(月) 00:37

レスのお礼です。
>>217さん、すばやいレス、ありがとうございました。
お待たせして申し訳ありませんでした。
最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
>>218さん、お待たせしました。
遅筆ではありますが、またお付き合いいただけると嬉しいです。
261 名前:ぱせり 投稿日:2006/05/08(月) 00:39

更新の途中で日付変わっちゃいましたが、紺野さん誕生日おめでとう!
ずっと応援してます。
262 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/08(月) 08:38
更新乙です。
求め合う二人にときめきながらも泣けた・・・
263 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/27(土) 00:33
やっぱりあいののは最高や。・゚・(ノ∀`)・゚・。
264 名前:第七夜 投稿日:2006/06/17(土) 23:01

「のーん!」
仕事が終わり、待ち合わせ場所の焼肉矢に入ると、
麻琴がもう一人の少女とひらひら手を振って手招きしていた。

「のんつぁん、ごめんね。私も急に」
「紺ちゃん?」
「いやぁ、あさ美ちゃんがさぁ、のんとかあちゃんのことで相談あるっつうしさぁ、
それにあさ美ちゃんが見方になってくれた方がうまく行くかと思ってさぁ」
困惑気味ののんの表情を怒ったと勘違いしたのか、
麻琴はキショい身振り手振りを交えて言い訳を始めた。

「うん、あさ美ちゃんなら全然いいよ」
のんは少し笑って言うと、安心した麻琴は
早速網に肉を乗せながら嬉しそうに尋ねてきた。

「で、昨日もまくら使ったんでしょ?
どんな夢見た?」
「……えっとー……それは……」
流石に面と向かって話すのが恥ずかしくってのんが言いよどんでいると、

「まくらとか夢と買ってなに?」
あさ美ちゃんが麻琴の袖を引っ張りながら尋ねた。
265 名前:第七夜 投稿日:2006/06/17(土) 23:04

「……それはね……」
のんはあさ美ちゃんに梨華ちゃんにもらったまくらのこと、
そのまくらの不思議な力で見た夢のこと、
そしてそれを意識したせいで亜依ちゃんと喧嘩してしまったことを話した。

「ふうん、そうなんだあ」
「でさぁ、のん昨日はどんな夢見たのさぁ?」
「麻琴、ただ楽しんでない!?」
きらきらお目目で尋ねてくる麻琴に、のんがちょっと怒って言うと、

「でも私も聞いてみたいな。なにか参考になるかもしれないし」
あさ美ちゃんが真面目な表情で言うので
のんは渋々今までの夢の話をした。

「……のんつぁん」
のんが話し終わるとあさ美ちゃんが、何か考え込みながら
重々しく口を開いた。

「なに?」
「急いだ方がいいかも?仲直り」
「……それは分ってるけど……」
「違うの」
「違うってなにが?」
麻琴が尋ねる。

「あのね、これは私の勘違いかも知れないんだけど……」
あさ美ちゃんはウーロン茶を一口飲むと、ゆっくり話し始めた。
266 名前:第七夜 投稿日:2006/06/17(土) 23:07

「あいぼんと喧嘩した日の後の夢、思い出して見て。
のんつぁんがあいぼんと離れ離れになった後、
あいぼんに再開できるまでの時間、だんだん長くなってるの。
それが現実の二人の心の距離と比例してるとしたら
……急がないと取り返しのつかないことになっちゃうかも知れない……」
それを聞いてのんはぞっとした。
もしもあさ美ちゃんの言う通りだったとしたら……
今も亜依ちゃんの心がのんからどんどん離れて言ってるとしたら……
そして、夢でも会えなくなった時、のんと亜依ちゃんは……

「ねっ、ねーっ、のん、どうしたらいいのっ!
ねーっ、あさ美ちゃんっ!」
「のん、落ち着いて!」
「大丈夫」
掴みかからんばかりの勢いで尋ねるのんと、
それをなだめる麻琴にあさ美ちゃんは優しく答えた。

「大丈夫だよ。あいぼんも自分がのんつぁん怒らせちゃってるって思ってるだけだから。
のんに嫌われちゃったどうしようって、
でも何で嫌われちゃったか分んないって、悩んでタから」
267 名前:第七夜 投稿日:2006/06/17(土) 23:08

「でも……」
でものんの亜依ちゃんへの好意と
亜依ちゃんののんへの好意はきっと違う。
そんな思いを察したのかあさ美ちゃんはまた少し微笑んで
優しく言った。

「きっと大丈夫だよ」
「……私も大丈夫だと思うなぁ」
麻琴も続ける。

「でもやっぱり急いだ方がいいと思う」
「……うん」
のんは二人に小さく頷いた。
268 名前:第七夜 投稿日:2006/06/17(土) 23:12

―――

部屋に帰ったのんは、ベットでピンクのまくらに顔をうずめ
あさ美ちゃんの言葉を思い出していた。
『……急がないと取り返しのつかないことになっちゃうかも知れない……』
本当にそうだろうか?
ただの偶然かも知れないし……
だって亜依ちゃんにのんの気持ち伝えるの……
やっぱり怖いよ。

 そして、東の空が明るくなり始めたころ、
のんはやっと眠りに落ちていった。
269 名前:第七夜 投稿日:2006/06/17(土) 23:12
 
270 名前:ぱせり 投稿日:2006/06/17(土) 23:18
更新終了です。
短くてすみません。
今日はどうしても更新したかったんできりのいい所まで。
ほんとは今日までに完結したかったんですが。。。
271 名前:ぱせり 投稿日:2006/06/17(土) 23:19

レスのお礼です。
>>262さん、ありがとうございます。
もう少しですが、二人を見守ってあげてください。
>>263さん、同感です。
272 名前:ぱせり 投稿日:2006/06/17(土) 23:19
のんちゃん誕生日おめでとう!
273 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/18(日) 08:06
更新ありがとうございます
小説でも現実でも早くふたりがならんで笑ってるところがみたいです。
274 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/19(月) 02:20
更新乙です。1周年だったんですね。作中では1週間のようですが・・・
もっと続きが読みたいけど完結まで楽しみにしています。
275 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:42

(……えっとここは……)
見渡して見ると今日、のんがいるのは黄色い花が絨毯の様に敷き詰められた
丘の上のタンポポ畑だった。

「……ーん……のーんってば」
「ふえ……」
「なんやの?ぼうっとしてぇ……うちとおるのそんなにつまらんのぉ」
その声に顔を上げると、ぷーっと頬を膨らましてちょっとすねた亜依ちゃんの顔があった。
「そんなことないよ!のん亜依ちゃんといれてね……亜依ちゃんといれるのがね……」
「……っぷ」
必死に弁解するのんを見て亜依ちゃんが噴出した。

「むぅ、亜依ちゃんひろいよ!」
今度はのんがすねる番。
亜依ちゃんに背中を向けて、足元のタンポポをいじりだした。
でも亜依ちゃん、のんがすねてるのにそんなの無視して一人でなにかしてるみたい。
276 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:43

(なんだよ、自分の方がのんのことどうでもいいんじゃんか)
そんなこと思って本格的にのんがすねだした時、
ふいに後ろから肩にふわりと何かが掛けられた。

「なに?」
振り返って見ると亜依ちゃんが悪戯っぽく微笑んでる。
のんが不思議に思い胸元でゆれているそれを手にとって見るとそれはタンポポで編まれた首飾りだった。

「……亜依ちゃん?」
「よう似合ってるやん」
「亜依ちゃぁん」
微笑む亜依ちゃんにのんは抱きついていった。
277 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:44

 そうして、ひとしきりじゃれあい、疲れを覚えたのん達は並んで腰を下ろし、
夕日に染まるタンポポの丘を見つめていた。

「……亜依ちゃんってタンポポみたい……」
のんはふと思いついたことを呟いた。

「……どう言う意味なん?」
「なんかね、ちっちゃくって、可愛くって、でもしっかり根をはってて……」
「ありがとう……でもそんなこと……あらへんよ……」
そう言い、優しく手を握ってくれた亜依ちゃんだったけど、その横画をはなぜか憂いを佩びて見えた。

「亜依ちゃん?」
それに不安を覚えたのんは亜依ちゃんの手を強く握りなおす。

「どないしたん?のん」
でもそう問い返し、こちらを見た亜依ちゃんはもういつもの笑顔だった。

(そうだよね、のんの勘違いだよね?
きっと夕日が作った影でそんな風に見えちゃったんだよね?)
のんはそう思いなおすことにした。
278 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:45

「それよりさぁ、あいぼんが怖い話ししたろか?」
突然悪戯を思いついた子供のような笑顔で、亜依ちゃんが話しかけてきた。

「え〜、やらよ」
「まあええやん」
「……うん」
のんが亜依ちゃんの勢いに押され、渋々頷くと、亜依ちゃんは楽しげに話し始めた。

「あんなぁ、この世界のなぁ、北の端になぁ、氷のお城があるんやて。
 でな、そこの女王様ってのがな、背が高くてめっちゃ綺麗な人なんやて。
だけどな、その女王様ってのは時々世界中を回って気に入った女の子見つけるとな、寒い駄洒落聞かすんやて。
そしてこうやってなぁ、じーっと見つめて……」
279 名前:( ´D`) 投稿日:( ´D`)
( ´D`)
280 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:47

『ねぇ、笑って』
281 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:48

って言うんやて」

「ひぇ〜」
のんはその光景を想像して、鳥肌を立てながらも聞いた。

「……れ?ろうなるの?」
「なんかな、それで身も心も凍りつかせて、自分のお城に連れて帰っちゃうんやて」
「なんかやら!それ怖いよ」
「そうやな、のんも気いつけるんやで?」
「え?なんれ?」
「なんや、のんって女王様に好かれそうやん」
亜依ちゃんは笑いながら立ち上がり、ぽんぽんとお尻をはたくと

「もう遅いし帰ろ?」
と言い、のんの手を引いて立ち上がらせた。
 のんはさっきのこともあって亜依ちゃんと分れるのが不安だったんだけど、それを言い出すことができなくって

「じゃあのん、また明日なぁ」
「……うん」
元気よく手を振り、かけてく亜依ちゃんを見送ってしまった。
282 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:49

そしてその日を境に亜依ちゃんはタンポポ畑に来なくなった。
のんは必死で亜依ちゃんを探して回った。
だけどどこを探しても、誰に聞いても亜依ちゃんの消息はつかめなかった。

それでものんは毎日タンポポ畑に出かけた。
きっと亜依ちゃんは来てくれる、のんに会いに来てくれる。そう信じて。

「……亜依ちゃん」
あれから何日立ったころだろう?
のんは一面真っ白になったタンポポ畑で一人呟いた。

『亜依ちゃんってタンポポみたい』
あの日言った言葉とその後の亜依ちゃんの横顔をを思い出す。
あの時、のんが亜依ちゃんを傷つけてしまったんだろうか?

 その時一陣の南風がふき、のんの視界が真っ白になった。
気がつくと、のんの足元の白はまばらになり、
風の去った北の空を見ると、靄がかかったように白くかすんでいた。
283 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:50

『亜依ちゃんってタンポポみたい』
『亜依ちゃんってタンポポみたい』
『亜依ちゃんって……』
284 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:51
「やー!」
のんは叫び、タンポポを抱え込むように蹲った。
タンポポを風から守るように。
全ての綿毛が消えた時、もう二度と亜依ちゃんが帰ってこないような気がして怖かったんだ。
285 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:52

「のんつぁ〜ん!!」
のんがそうしてしばらく蹲っていると、街の方から
おまめちゃんが息を切らせてかけてきた。

「やっぱりここだったんですね」
「……おまめちゃん?」
「かあちゃんの情報が入ったんです」
「え!?ほんと?」
「はい!なんかモデルみたいな綺麗な女の人と船で革を下っているのを見たって人がいるんです!!!」
「川を?
「はい、なんだかかあちゃん、らしくなく無表情でその人の話し聞いていたとか」
その言葉を聞き終わると同時に、のんは革へ向かって掛けだしていた。

「ちょっ、ちょっとのんつぁんまってくださあい!
かあちゃんの居場所、分ったんですかー!!!」
(亜依ちゃんはあそこだっ!きっとそうだっ!
女王様に北の国のお城に連れてかれちゃったんだっ!!!)
のんはそう思いながら、全力で走っていた。
286 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:55

 のんは川岸に着くと、繋いで会った小船に乗り込み、川を下り始めた。
だけど小船はしばらく川を下ると、急に川岸に着き、その場で動かなくなってしまった。
 仕方なくのんが船から下りて見ると、そこは一面の花畑だった。

「……何ここ?」
その花畑は、桜やチューリップ、ひまわりや朝顔、
コスモスや山茶花などありとあらゆる季節の花が満開だった。

「あーら、お客さんなんて久しぶりだべ」
のんが声のした方を見やるとなちみがニコニコして立っていた。

「……なちみ?」
「あーら、なんまらめんこいでないかい?なっちずうっと一人で寂しかったっしょ。ゆっくりしてくべ」
「あ、ごめんなさい……のん、ゆっくりしてられねーのれす」
「なぁんでだべ?なっちのところでゆっくりしていくといいっしょ」
「……ごめんなさい」
それからのんは女王様に攫われた亜依ちゃんを取り戻すために旅に出たこと。
だから、先を急いでいることを説明した。
287 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:56

「……そうだったべかぁ……」
なちみは残念そうに肩を落とし呟いた。

「でもここはまだ北の国の最南端だべ。北の端のお城まではなんまら遠いっしょ。
少し休んでいかないと体もたないべ」
「……そうらね」
「なっち腕によりをかけるから、い〜っぱい食べて力つけてくべ」
「ありがとう」
のんは微笑むなちみに頷いた。

「あらあら、髪、ぼさぼさになってるべ。
ご飯の前になっちが梳いてあげるっしょ」
そう言うとなちみはのんをいすに座らせ、ブラシで髪を梳いてくれた。

「なんらか気持ちいい……」
「そう?」
「……うん」
なんだかのん、ぼうっとしてきて―――

「……ごめんね……やっぱりなっち寂しいんだべ」
そう寂しそうに呟くなちみの声はのんにはもう届いていなかった。
288 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:56
 
289 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:57

「なぁちみっ♪」
ののはベットでまだ爆睡してるなちみに抱きつく。
なちみと暮らしだして半年、これがののの毎朝の日課。

ののはなちみと暮らす前のことは覚えていない。
どうやってここまできたか、どこでどう暮らしていたか。
なちみの話しだと、川岸に倒れてるののを見つけたなちみが助けてくれたんだって。

「ほうらぁ、もうご飯れきてるってば〜」
ののがどんだけゆすっても、なちみはむにゃむにゃ言っておきてこない。
まったくも〜!

……へへぇ、でもなちみのこう言うとこ可愛いんだよねぇ。
なんだかのの、悪戯したくなっちゃって、まだ目を覚まさないなちみのほっぺに尖らせた唇を―――

「…………」
なんだろう?なんかのの、すっごく嫌な気分になってあわててなちみから離れたんだ。
お母さんに頼まれた、お使いのおつりをごまかした時のような、
つまみ食いをお姉ちゃんのせいにしちゃった時のような……そんな罪悪感。
でもそんなの比べ物にならないくらい、胸を絞めつけられる様な感じで―――
290 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 20:59

「どうしたぁ?のの元気ないぞぉ?」
その夕方、ののがぼうっとしてると、なちみがいつものお日様のような笑顔を浮かべ、
ののの頭を撫でながら尋ねてきた。


「……なんれもないよ……」
とは言ってみたものの、ののは朝からのなんだか分け分らない、もやもやとした気分を抱えたまま、
ぼんやりと庭の花畑を眺めていた。

 この庭には秋だと言うのに、相変わらず季節関係なく、さまざまな花が咲いている。
コスモスはもちろん、ひまわりも、朝顔も、アジサイも、バラも、百合も、それから……
ののは名前も知らない、黄色の小さな花がなんだか気になって近づいて言った。
291 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 21:00

「……この花……見覚えがある気がするんだけど……」
ののは花の前にしゃがみこみ、その花に触れる。
そう、確かに見覚えがある。
いや、見覚えあるなんてもんじゃないはずなんだ……
この花はののにとって大切な花だったはずなんだ……
でもなかなか思い出せない……

「ぁっ!」
ののがふと花から視線をあげると、夕日で庭一面が真っ赤に染まっていた。
その瞬間、ののの脳裏に断片的な映像が浮かんできた。
292 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 21:01

黄色い小さな花が咲く丘―――
この花で作った首飾り―――
それをののに掛け、微笑む少女―――

(貴方は誰?ののにとって貴方は……)

夕日に染まる丘―――
夕日を受けた少女の横顔―――
優しく握ってくれた手のぬくもり―――

(そしてののもその少女の手をしっかり握り返したんだ)

立ち上がりお尻をはたく少女―――
ののに手を差し出し立ち上がらせる少女―――
少女がゆっくり口を開く―――

『……じゃ……ま……あし……ぁ……』
(え?何?聞こえないよ?」
ののは一生懸命少女の言葉を聞こうとした。

『じゃぁのん、また明日なぁ』
(のん?のんってなに?のののこと?)
手を振り、かけてく少女―――
それを見送るのの―――

(だめ!いっちゃだめ!!!)
そうののは心の中で叫んでいた。
ののは知っている。少女がその日からいなくなってしまうのを。

(待って……亜依ちゃん!行かないで!!いっちゃいやー!!!)
293 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 21:02

「亜依……ちゃん?」
のんは顔を上げ、小さく呟いた。

「……のの……」
声に振り返るといつの間にかなちみがすぐ後ろに立っていた。

「……なちみ」
「……思い出しちゃったんだべか……」
なちみは俯く。

「……うん」……全部……思い出しちゃった
……亜依ちゃんのことも……それから……ここに来た日のことも……」
「ごめんねー!ごめんねののー!!!」
のんがそこまで言うとなちみが子供のように泣きじゃくりながら、のんにしがみついてきた。

「なっち……寂しかったんだべ……ずっと一人ぼっちで寂しかったんだべ……だからののを……
だからののを……ごめんねー、ほんとにごめんねー」
「……もういいよ……らから……泣かないで」
のんはしばらくの間、なちみの背中を優しく撫で続けた。
294 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 21:02
 
295 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 21:03

「のの……体に気をつけてね……」
「うん、またくるからね……今度は亜依ちゃんと二人れくるから……待っててね」
「……のの」
「じゃぁ、またね……なちみ」
のんはなちみが用意してくれた荷物を抱えると、なちみの家を後にした。
296 名前:第七夜 投稿日:2006/06/25(日) 21:04
 
297 名前:ぱせり 投稿日:2006/06/25(日) 21:06
今日の更新終了です。
第七夜はまだまだ続きます。今までの倍ぐらいになりそうです。


298 名前:ぱせり 投稿日:2006/06/25(日) 21:11
レスのお礼です。
>>273さん、同感です。
小説ではもう少しです。
( ´D`)<たぶん
>>274さん、そうなんです。作中ではまだ一週間です。。。
大変嬉しいお言葉ありがとうございます。
最後までがんばります。
299 名前:ぱせり 投稿日:2006/06/25(日) 21:13
あやや誕生日おめでとう!
从‘ 。‘从<私出てないやん
・・・忘れてた、ごめん。
300 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/28(水) 00:12
花咲く丘の情景描写が切なくてヨカタ。・゚・(ノ∀`)・゚・。
301 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:11

「亜依ちゃん……待っててね……亜依ちゃんん……」
のんが呟くたび、白い吐息が暗い夜空に吸い込まれ、溶けて消える。

 月明かりがぼんやりと雪道を白く浮かび上がらせた森の中を、のんはふらつきながら歩いていた。
のんはここ一週間、ろくに休みをとっていない。
のんがなちみの家を出ると、そこは既に一面の銀世界で、
なちみの家で過ごした時の長さを実感し、のんはあせっていたんだ。

「……亜依ちゃん……今……行くから……」
なんだか体中が重い……
おかしいな……
のん、もうナイスバディなのに……
って言っても胸はないけど……
ってほっとけ……
そんなこと思っていると、突然視界が真っ白になった。

「へへへ……こけちゃった……冷たいはずなのに、なんか気持ちいい……
少し……眠い……な……
亜依ちゃん……起きたらすぐ行くから……少しだけ……
少しだけ……眠らせ……て……ね……」
ほてった体を雪に横たえ、のんは目を閉じた。

「奥様ー!人が!人が倒れてます!!!」
のんは薄れ行く意識の中でそんな声を聞いたような気がした。
302 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:12
 
303 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:14

「!!!」
のんは目を覚まして驚いた。
のんの目の前には、目のとこが真っ青で、なんだか鏡餅のような顔の……婦人。

「まぁ、お気がつかれまして〜ぇ!?」
「……はい」
「それはようございましたわ、おーっほっほっほっほ!おーっほっほっほっほ!おーっほっほっほっほ!!」
「…………」
「奥様、お客様にお食事をお持ちしました」
のんが困惑していると、銀のトレイに何かを乗せた、ふっくらほっぺのメイドが入ってきた。

「んまっ、お疲れ様、こちらにちょうだい」
婦人はメイドからトレイを受け取ると、のんに向き直り言った。

「起きて食べれます?」
「……はい」

「当家自慢のミルク粥ですのよ。沢山お召し上がりになってね」
「……ありがとうございます」
のんが半身を起こすと、トレイを手渡してくれる。
304 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:15

「ところで、貴方はどうしてあのような場所にお倒れになってたんですの?」
「それは……」
のんはミルク粥を口に運ぶ手を止めると、婦人に氷のお城の女王様にさらわれた
亜依ちゃんを探すために旅していることを話した。

「んま〜!んま〜!んま〜!なんてことですの?」
婦人は顔を覆って泣き出した。

「なんてお可愛そう。私も若いじぶん、愛する方と引き離されたことがありますのよ。
貴方の苦しみ、痛い程分りますわ」
「奥様!」
その時、今まで黙ってのんたちの様子を見ていたメイドが、突然大声を上げた。
「まあ!なんですの?突然大声など出して」
「奥様、大変でございます。
私、聞いたことがございます。氷の城の女王に連れて行かれた少女は、1年たつと完全に心を奪われ、
次期女王になるのだとか」
「まー!それは本当ですの?」
「はい……ここから氷の城までまだ遠おございます。
急ぎませんと取り返しのつかないことになってしまうかもしれません」
その言葉を聞いて二人の顔が別の二人の顔と重なった。
305 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:16

『……急がないと取り返しの着かないことになっちゃうかも知れない……」
306 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:17

「……あさ美ちゃん……麻琴……」
のんは呟いて、そしてはっとした。

「急がなきゃ!亜依ちゃんの所へ行かなくっちゃ!!」
「そうですわね、お急ぎになったほうがよろしいですわ。
馬車を用意させますので急いでお発ちになって」

のんは婦人の言葉に甘え、すぐに旅立った。

「それでは一徹さん、よろしくお願いしますわね」
「わしに任せなさい」
気難しそうな御者が重々しく返事をする。

「その方とお会いになれること祈っておりますわ」
「それでは、お気をつけて!」
「ありがとう!このご恩は一生忘れません!」
のんは見送ってくれる二人に大きく手を振ると、馬車に乗り込み、婦人の屋敷を後にした。
307 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:18
 
308 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:19

「やってまえー!!!」
のんが婦人の家を発って何日目かの夜、突然馬車が襲われた。
馬が打たれ、馬車が転倒する。

「盗賊か、ここはわしが何とかする!早く逃げなさい!」
「でも!」
「良いから早くいきなさい!」
「でものん一人で逃げるなんてれきないよ!」
「うるさーい!お前には行かなければならないところがあるんだろう!!!」
のんはそう叫ぶ御者さんの、優しく力強い目をみて、かけだした。

(ごめんね……ごめんね……ありがとう……とうちゃん)
のんは泣きながら一生懸命走った。
だけど

「うわ!!」
ふわりと体が浮く感覚がしてあっと言う間に縛られてしまった。

「とったどー!!!」
そう、のんは盗賊の一人に掴まってしまったんだ。
309 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:21

「のんをどうするつもり!?」
のんは縛られたまま、盗賊のアジトに連れてこられ、5,6人のおっさんに取り囲まれていた。

「とったもんはな、おいしくいただくにきまってんやろ」
のんを捕まえた、なぜか肩に鶏を乗せた、ぼんやりした顔のおっさんが言う。
のんはそう言うぼんやり顔のいやらしい目を見て、とてつもなく怖くなった。

「離せ!離せ!!」
のんは抵抗しようとするけど、縄は解けそうにない。

「あんな、じょうちゃん、せっかくつかまえたんやんか?おっちゃんな、いくらバカでもな、
けんやくせいかつできなくてもな、せっかくつかまえたもんにがすほどバカじやないねん」
「いやだ!離せ!のんは、亜依ちゃんのとこいくんらもん!!!」
のんは涙を滲ませ叫び暴れる。

「ごちゃごちゃうっせーガキだなー!盗賊に掴まって泣くぐらいなら旅なんか止めちまえ!!!」
のんはそう怒鳴られ、こらえていた涙があふれ出してしまった。
310 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:23

「まぁまぁ、これから楽しむんだからさ、あんまり泣かせなくてもいいじゃん」
「お前、なんで捕まえた女に気使わなきゃいけねーんだよ!!」
「いやさぁ、せっかく楽しむんだからさぁ、仲良くやろうよ」
「うるせー!お前になんでそんなこと言われなきゃいけねーんだよ!!」
「だから、俺はせっかくだから楽しくやりたいなって言ってるだけだろうが!!」
のんに怒鳴ったおっさんは、隣の太ったおっさんと喧嘩をし始めた。

「お前ら、なにしてんだ!!」
その時、のんの聞き覚えのある、澄んだ張りのある声が部屋中に響き渡った。

「「「お、お嬢さん」」」
その声を聞くと、盗賊達はびしっと姿勢を正した。

「お前らなにやってるんだ?」
「あの……バカがこいつ捕まえてきましてん」
それまで黙っていた男が口を開く。
311 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:25

「おいっ!ジャンボバカ!女捕まえたら美貴の所へ最初に連れてこいっていっただろ!!!」
「……でも……ぼくがとったんです」
「はぁ!?」
「す、すみません」
反論しようとしたぼんやり顔だったけど、ミキティににらまれただけですぐに誤った。

「でもお嬢さんばっかりずるいやないですか!僕だって芸能人と寝たいんです!!!」
ジャージのちっさいおっさんが叫ぶ。

「はあ!?意味分んねーこと言ってんじゃねーよ、さる!
それよりお前らはさっさとどっかいけ!!!」
一括されおっさん達はぶつぶつ言いながら部屋を出ていった。

「ありがとうミ」
「あんた、子供化と思ったけどなかなかかわいいじゃん」
のんが助けてもらったお礼を言おうとすると、ミキティがのんの顎を持ち上げ、顔をのぞきこんで言う。

「ミキティ?」
「……決行美貴のタイプかも?……おいしそう……」
そう言って唇をなめ、にやりと微笑んだミキティをみて、のんは絶望し、難く目をとじた。
312 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:27

「なぁんてね♪」
「ほえ?」
のんは麻琴のようにぽかんと口を開けて、ミキティを見上げた。

「おどろいた?んなことするわけないじゃん♪
だいたいそんなことしたら美貴も亜弥ちゃんに殺されるしね♪」
ミキティは一転して無邪気に微笑むと、のんの縄を解いてくれた。

「ありがとう……でもミキティ盗賊なんれしょ?
のん助けてらいじょうぶなの?」
「いいのいいの。たまたま盗賊の家に生まれただけだしさぁ。
だいたい美貴、盗賊って嫌いなんだよね〜」
ミキティはお茶を煎れながら楽しげに話し続ける。

「でさぁ、あんた、旅してるんだろ?どこまで行くわけ?」
「のんはこの国の北端にある氷のお城まで行くんれす。
そのためにずっとこの国を旅してきたのれす」
「はぁ!マジ!?お前北端までってどれくらいかかると思ってるんだよ?
ここはまだ北の国の真ん中らへんだぜ」
「ほんと!?急がなくっちゃ!!!」
それを聞くと、のんは立ち上がり部屋を飛び出そうとした。
313 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:28

「待てって、なんかすげーあわててるみたいだけど、なんか理由あるのか?」
ミキティに聞かれ、のんはあせりながらも今までの経緯を離した。

「……来な!」
真剣な顔で聞いていたミキティは、いきなりのんの腕を掴むと、部屋の外に連れ出した。

「ミキティろこいくの?」
「…………」
ミキティはのんの腕をぐいぐい引っ張って黙って歩く。
そしていえの裏手に回り、馬小屋のような所へ入ると言った。

「これやるよ」
「!!!」
のんが見てみると、それは馬じゃなくって

「ト、トナカイ!?」
「ああ、去年の年末にさ、赤い服着たひげ面のじじーから取り上げたんだ」
「……それって……いいの?」
「大きな荷物担いでたし、きっとあいつ空き巣だぜ!いい気味さ!」
「…………」
「急いでんだろ?こいつめっちゃ早いんだ、どこへでもあっと言う間だぜ」
「……ありがとう」
ちょっとためらいもあったけど、瀬に腹は代えられないし、のんはその言葉に甘え、
そのトナカイを借りて旅立つことにした。
314 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:29
 
315 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:32

「す、すごい」
そのトナカイはほんとに早かった。
あたりの景色はどんどん後ろに流れて行き、のんは白い光の中を飛んでいるような錯覚を覚えた。

「……あれは?」
やがてのんの視界に月明かりを受け、青白く光る氷のお城が現れた。
トナカイは目的地が分っていたのか、徐々にスピードを落とし、氷の城の前に静かに止まった。

「ありがとう」
のんはトナカイから下りると頭を撫で、お礼を言うと城門に向かって歩き始めた。

「待っててね亜依ちゃん」
のんは、城門に近づくたび、亜依ちゃんとの再開への期待と、女王に対峙した時の不安が高まる。

「亜依ちゃんは、のんが、必ず、取り戻すんだ!
亜依ちゃんは、のんが、必ず、取り戻すんだ!!」
のんは自分に言い聞かせるように、一歩一歩力強く雪を踏みしめ、不安を追い払うように繰り返し、決意を固める。
316 名前:第7夜 投稿日:2006/07/02(日) 22:32

そしてのんが城門に着いた時、突然あたり一面を淡いピンクの光が包み込んだ。

「え?なに?なんなの?」
予想していなかった事態にのんはあわてた。
そして光が終息すると、

「辻さん、氷のお城へようこそ」
そこにはいつの間にか一人の少女が立っていた。
317 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/02(日) 22:33
本日の更新終了です。
318 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/02(日) 22:35
レスのお礼です。
>>300さん、ありがとうございます。描写など自信がないので嬉しかったです。
本当に後少しですが、どうぞお付き合い下さい。
319 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/02(日) 22:36
次回「ピンクのまくら」最終回の予定です。
320 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/04(火) 06:01
どっかで見たようなおっさん達がw
次回最終回ですか…あぁ楽しみだけど終わって欲しくない
321 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:10

「辻さん、お待ちしておりました」
少女はあどけない、でもどこか無機質な微笑を浮かべて言う。

「女王様を出してくらさい!」
「女王はもうここに刃いません。
世界中に冬をもたらすため、旅に出ました」
「じゃあ、亜依ちゃんも!?」
「いいえ、加護さんはこちらにいます。
でも、少々遅かったようです」
少女はその微笑に似合わない、落ち着いた声で淡々と答える。

「遅いってどう言うことれすか!?」
「加護さんをこのお城から救い出すには、加護さん自身が氷のパズルで”永遠”と言う文字を完成させなければなりません」
「じゃあ!」
「しかしそのパズルは凍りついた心の人間では決して完成させることができないのです。
ですが加護さんの心は既に……」
「…………」
「辻さん、貴方は遅すぎたのです」
「……そんなことない!
のんは少女の言葉に髪突く。
322 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:12

「のんが来たんだもん!
亜依ちゃんはきっと帰ってくる!亜依ちゃんの心のんが溶かしてみせる!」
「それができますか?辻さんに」
「できる!してみせる!必ず亜依ちゃんはのんが取り戻す!!」
「いいえ、それは無理です」
少女は冷たい声で断定する。

「な」
「奇跡でもおきないかぎり、加護さんは辻さんの下へ戻ることはありません」
「…………」
「それとも辻さんは奇跡など期待してるのですか?」
「…………」
少女は言葉に詰まるのんに畳みかける。

「奇跡とは起こりえないことだから奇跡と言うのですよ」
のんは少女の言葉を俯いて聞いていたけど、
顔を上げると静かに、力強く言った。
323 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:15

「……奇跡なんか期待してない。
……のんと亜依ちゃんが出会ったのは必然だから……偶然なんかじゃないから
……だからこれからも亜依ちゃんと生きてくのは必然だから……奇跡なんか起きなくても亜依ちゃんが帰ってくるのは当然で
……だから……だから……のん、バカだからうまく言えないけど
……のんは亜依ちゃんを信じる!……のん自身を信じる!
……のんと亜依ちゃんの絆を信じる!」
「えへへへ、よかぁったぁっ♪」
のんが言い切ると、少女はそれまでと一転し、無邪気な笑顔でぴょんぴょん跳ねだした。

「そうですよ、はじめからきせきなんかきたいしてたらなにもかなえられませぇん♪」
「…………」
324 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:16

「でもぉ、そんなつじさんにきせきのおすそわけでぇっすぅ♪」
のんがあっけにとられていると、少女は胸の前で手でわっかを作り

「ミラクルビ〜ム♪」
手を伸ばし、そこからピンクの光線を放った。

「うわっ」
のんは驚き、買わそうとしたけど、その光線をまともに浴びてしまった。
そしてのんが恐る恐る目を開けると、

「つじさぁん、がんばってくださいね〜」
そこにはもう少女の姿はなく、まるで春のような暖かい風に乗って
少女の声だけが、のんの耳に届いた。

「ありがとう」
のんは少女がいた辺りに微笑みかけ、頷くとお城の中へ入って言った。
325 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:16
326 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:17

 のんがお城に入ってみると、中は明かりもなく、氷の壁が淡く発光しているだけの、薄暗い所だった。

「亜依ちゃん……こんなさびしいところに一人で……」
のんはそれを思うととても悲しくなり、急いでお城の奥へと歩を進める。
道は分れ、部屋もいっぱいあったけど、のんは迷うことなく、
何かに導かれるようにお城の中を進んでいった。

「……きっとここだ」
のんはお城の奥深くの重厚な扉の前に立った。
のんは一つ深呼吸をして、気持ちを落ち着けるとゆっくり扉を開く。

「亜依ちゃん!」
やはりそこには亜依ちゃんがいた。
でも亜依ちゃんはのんの声に振り返ることもなく、一人大広間で、
床に散らばった氷の欠片を並べていた。
でもそれはただ体の動くに巻かせ、氷の欠片を動かしていると言うだけで、
何か目的を持っているようには見えなかった。
327 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:18

「亜依ちゃん!」
のんは居た堪れなくなり、亜依ちゃんにかけ寄ってその冷え切った体を後ろから抱きしめる。

「……のん……来てくれたん……」
亜依ちゃんは抑揚のないか細い声で、呟くように答えるだけで、のんの方をみようともしない。

「そうらよ!のん、迎えに来たんらよ!だから一緒に帰ろう!」
「……うん……だからパズル作ってんねん
……作らんとここから出られへんねんて……」
亜依ちゃんは無表情のまま、ただ無意味に手を動かし続ける。

「じゃあ、のんも手伝うから!」
「あかんねんて……うちが作らんと……あかんねんて……」
その亜依ちゃんの呟きを聞いて、のんは少女の言葉を思い出した。
328 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:18

『加護さんをこのお城から救い出すには、加護さん自身が氷のパズルで”永遠”と言う文字を完成させなければなりません』
『しかしそのパズルは凍りついた心の人間では決して完成させることができないのです』
329 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:19

(のんはどうすれば……のんはどうすればいいの?)
のんが考え込んでいる間にも亜依ちゃんは、無表情のまま
うつろな目をしてただ手を動かし続けている。
すると、少女の声がのんの頭の中に響いてきた。

『つじさぁん、じぶんでいったこと、もうわすれちゃったんですかぁ?』

(自分で言ったこと?のんが言ったこと……)

『……そんなことない!のんが来たんだもん!亜依ちゃんはきっと帰ってくる!亜依ちゃんの心のんが溶かしてみせる!』

(そうか!)
のんは亜依ちゃんの前に回りこむと、亜依ちゃんを抱きしめ、
その瞳をしっかり見つめた。
330 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:21

「……のん……うちパズル作らんと帰れへんねん……」
平坦なトーンの亜依ちゃんの抗議を無視してのんは亜依ちゃんに語り始めた。

「ねぇ、亜依ちゃん覚えてる?始めて会った日のこと」
「……のん」
「のんね、最初亜依ちゃん見た時、ドキドキしたんだ……すっごく可愛いなぁって」
「…………」
「でもね、よく考えてみたら差、オーディションのライバルじゃん?だからすっごく嫌だった
……だってさ、年も一緒だし、片方受かれば、片方は落ちると思ってたから」
「…………」
「でもさ、一緒に合格できてほんとに嬉しかった」
「…………」
なんの確証もなかったんだけど、のんとのこと思い出したら
きっと亜依ちゃんは帰って着てくれる、のんはそう思ったんだ。

「……娘。に入った時ってさ、二人とも子供でさ、よく喧嘩したよね?」
「…………」
亜依ちゃんの反応はないけど、それでものんは話し続ける。
331 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:23

「あのころはお風呂や寝るのも一緒でさ……いつごろからかなぁ?そう言うのなくなったの」
「…………」
「やっぱり、乙女と桜に分かれたころかな?……のんね、平気な顔してたけど、
ほんとは亜依ちゃんと分れるのすっごくいやだったんだ……そりゃぁ、麻琴や梨華ちゃん、飯田さんのこと、
乙女のみんなのこと大好きだけど……亜依ちゃんと離れるの嫌だった」
「…………」
「でもさ、二人一緒に卒業決まってさ、一緒にWやることになって
……のん、すっごく嬉しかった」
「…………」
「だってさ、ずっと亜依ちゃんと一緒にいられるんらもん」
「…………」
気のせいか、亜依ちゃんの体は徐々に体温を取り戻しているように思えた。

「……のん、……ずっと気づかないふり、してたんだ
……亜依ちゃんのこと大好きだって……本当は気づいてた……
亜依ちゃんのこと大好きだって、離れたくないって……離したくないって」
「…………」
そして感極まったのんの目からは涙が溢れ出し、
のんはそのあふれ出す涙を
その思いを押さえつけるように亜依ちゃんの首筋に顔をうずめた。
332 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:23

「亜依ちゃん、のん、亜依ちゃんのこと大好き!誰よりも!
亜依ちゃんが大好き!だから……だからのんを一人にしないで!
戻ってきて!これからは絶対のんが守るから!亜依ちゃんのこと守るから!」
でも思いは言葉と共に溢れ出して―――
そしてその時、のんの肩にぱらぱらと何か難いものが当たった。

「……のん」
顔を上げると、亜依ちゃんの無機質な瞳からも涙が溢れ出していた。
そしてその涙は溢れ出すと、氷の粒になり、亜依ちゃんの頬をころころと転がり、
キラキラ光りながら床に落ちていく。

「……亜依ちゃん?」
「……のん……うちも……」
涙はドンドン溢れ出し、その量が増すと共に、
亜依ちゃんの瞳にも光が徐々に戻り始める。

「……のん……うちも……のん……うちものんのことがずっと好きやった」
声も段々普段の明るさを取り戻して行く。
333 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:26

「……うちものんのこと……ずっと大好きやった」
「亜依ちゃん!」
「のん!」
そしてのんたちが難く抱き合った、その時、
のん達の足元から、やわらかく、でも力強い白い光が広がった。
そして、その光はまた徐々に足元へ終息して行く。
のん達がその光の源を見て見ると、そこには亜依ちゃんの涙の氷の粒が並び、
”永遠”
と形作っていた。
334 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:27

「のん、ほんとうにありがとう」
「ううん、そんなこといいよ」
「でもうち、いつものんに迷惑かけて」
「そんなこと言わないで」
のんは亜依ちゃんの言葉をさえぎり抱きしめる。

「のんは亜依ちゃんのことだいすきだから……一緒にいてくれるだけで幸せだから
……だからそんなこと言わないで」
「……ありがとうのん」
のんは微笑む亜依ちゃんの瞳をじっと見つめて―――
亜依ちゃんに微笑み返して―――
そして、桜色の亜依ちゃんの唇に―――
335 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:27
336 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:28

「……よかった……本当に……よかった」
のんは目を覚ますと泣いていた。
亜依ちゃんに出会えたと言う喜びで。
もしかしたら今日の夢ではもうあえないのかと思ったんだ。
それほど長い夢だった。
もしもあさ美ちゃんの言う通り、亜依ちゃんと会えるまでの時間が現実の二人の心の距離と比例していたとしたら―――
もう本当に時間がないのかも知れない。
でもそう思いながらも、まだのんはベットの中で、布団を抱きしめたまま、うじうじしていた。

『♪カッチョイイゼ!カッチョイイゼ! カッチョイイゼ!カッチョイイゼ!♪』
そうしてどれくらいたったころだろう。
突然梨華ちゃんから電話がかかって来た。
337 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:29

『ののおはよう』
「あ、おはよう」
『ののも今日オフだったでしょ?』
「うん、梨華ちゃんもだっけ?」
『そうなの、だから手作りピザ作ろうと思ってるんだけど、ののも一緒にどうかなって思って』
「……オフとピザ何の関係があるの?」
『なんかお料理ってまとまった時間がないとさぁ』
「あぁ、そうだね」
『どうした?元気ないぞ?悪い夢でも見た?』
「!!」
そう言われて気が着いた。
なんで今まで気づかなかったんだろう?
まくらのこと梨華ちゃんに全部聞けばよかったんだ。
なんてったってプレゼントしてくれた張本人なんだもん。

「梨華ちゃん!聞きたいことあるの!!」
『どうしたの、急に大きな声出して』
「ううん、とりあえず今から梨華ちゃんち行くから!」
「……まあいいわ。おっけー、じゃあ、ピザ作って待ってるね」
のんは電話を切ると、急いで身支度して、家を飛び出した。
338 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:29
339 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:30

「ののいらっしゃ〜い」
のんが梨華ちゃんの家に着くと、梨華ちゃんはピンクの明細のジャージにピンクのひらひらのエプロンと言う、
いくら家の中でもありえないだろうって恰好でのんを出迎えた。

「ちょうどピザも焼けたよ」
梨華ちゃんの言う通り、ダイニングに入ると、香ばしい臭いが部屋中に広がっていた。

「さあ、いっぱい食べてね」
のんがテーブルに着くと、梨華ちゃんはピザをとり分けてくれる。

「おいしそう、いただきまぁす」
朝起きてまだなにも食べてなかったのんは、とりあえず腹ごしらえをすることにして、ピザにかぶりつく。
一口食べて見ると、これがなかなか美味しくって

「すごいよ梨華ちゃん!美味しい!!」
「へへへ、よかった」
「昔トイレ臭い焼きそば作った人とは思えないよ」
「なによそれぇ!焼きそば食べれなくて泣いた人にいわれたくありませぇん」
「むむむ」
のんが反撃されて口ごもると梨華ちゃんは楽しそうに笑う。
それにつられてのんも久しぶりに心から笑った。
340 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:31

「ねえ梨華ちゃん」
そうして他愛もないおしゃべりをしながら1枚ピザを平らげ、
お腹も落ち着いたのんは、そろそろまくらのことを聞いてみようと、
新しく焼き上がったピザを、オーブンから取り出している梨華ちゃんの背中に問いかけた。

「なあに?」
「梨華ちゃん、のんの誕生日にまくらくれたじゃん」
「あぁ、あれ?使ってくれてる?」
「うん」
「どう?寝心地は?」
「いや、寝心地のことはいいんだけど、
それよりあのまくらの不思議な力のこと聞きたいんだ」
「不思議な力?」
「そう、夢で願いが叶うってやつ。
他にも不思議な力とかあったりする?」
「え?なに言ってるの?」
梨華ちゃんはキョトン顔で問い返す。

「なに言ってるの?ってなに言ってるのさ?梨華ちゃん、メールくれたじゃん、ほら」
のんは携帯を開いて誕生日に梨華ちゃんがくれたメールを見せた。
341 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:31
『のの誕生日おめでとー。
プレゼント見てくれた?
なんかね、夢の中で願いがかなうまくらなんだって。
どんな夢見たか後で教えてね』

342 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:32

「あ〜あ〜、」
それを見てやっと思い出したのか、梨華ちゃんはぽんと手を打ち、大きく二度頷く。
そして驚愕の言葉を口にしたんだ。
343 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:33

「あ〜、これ嘘よ」
344 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:33

「う、嘘ぉーーー!!!!」
「嘘って言うかぁ、願望?
ののがいい夢見れますように、願いが叶いますようにって
あたしが願いを込めて一生懸命作ったんだもん」
「…………」
「で?いい夢見れた?」
「…………」
「見れたよね」
「…………」
怒りに震えるのんに気づくこともなく、梨華ちゃんは天然ヘリウムボイスで、
のんの苛立ちを煽る様に恩着せがましく聞いてくる。
345 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:35

「あたしが願いを込めて作ったんだもん、みれたよね?」
「…………」
「ね〜ね〜、どんな夢みたの?教えてよ」
「梨華ちゃんのぉ」
「え?」
「梨華ちゃんのぉ、バカー!!!」
のんは震える手でピザをとると、そのピザを―――
オーブンから取り出したばかりのそのピザを梨華ちゃんの顔をめがけ、投げつけた。

「キャー!!!あ、熱い!熱い!!!とって!とってーーー!!!」
のんはべったり張り付いた、ピザを顔からはがそうともがく梨華ちゃんをおいて、家を飛び出した。
346 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:35

(梨華ちゃんのバカ!
梨華ちゃんの真っ黒!
梨華ちゃんの超音波!!
梨華ちゃんのせいで、勘違いしちゃったんじゃんか!
で、亜依ちゃんとも喧嘩しちゃって―――
みんなみんな梨華ちゃんのせいだかんね!)
のんは心の中で梨華ちゃんを罵倒しながらかけた。
亜依ちゃんの家を目指して。
亜依ちゃんに謝らなくっちゃ、その一身で。
347 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:35
 
348 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:36

「……で、話ってなに?」
のんの前には水色のキャミに黒のホットパンツと言う、部屋着の亜依ちゃん。
のんは梨華ちゃんの家を飛び出した勢いで、亜依ちゃんの家に上がり込んだまでは良かったけど、
落ち着いて亜依ちゃんと面と向かうと、なにから話していいか分らなくって
不審者のようにきょろきょろと部屋の中を見回していた。

「……のん?」
あいちゃんはなかなか話しださないのんを、不安そうに見つめる。

「……あのね……」
「……うん」
「……最近のん……亜依ちゃん避けるみたいにしちゃってたじゃん……」
「……うん」
のんは亜依ちゃんのその様子を見て、ためらいながらも話し始めた。
349 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:37

―――

「……でね、なんかそんな夢ばっかり見ちゃうから、なんだか意識しちゃって……」
「…………」
「……でもね、それ嘘だったんだ……梨華ちゃんの……」
「…………」
「……だから……のんが悪いんだ……ごめんね……」
のんは説明を終えると、伏せた顔を上げ、
今まで黙って聞いていた亜依ちゃんの様子をうかがった。

「…………」
「…………」
「……ぷっ」
「…………」
「キャハハハハ!」
「あ、亜依ちゃん!」
「ご、ごめんのん……でも……」
亜依ちゃんは引付けを起こさんばかりに、おなかを抱えて笑い転げてる。
350 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:38

「亜依ちゃん!そんなに笑わなくてもいいじゃん!」
「……だってぇ……だってぇ……」
むくれるのんにかまうことなく、亜依ちゃんは笑い続ける。

「…………」
「はぁ、はぁ……ごめん、ごめん」
亜依ちゃんはやっと収まると、涙を拭きながら言う。

「……だってそんな話し真に受けてんやもん」
「……だって……」
「梨華ちゃんの話し真に受けるなんてありえへんやん」
「……それはそうなんだけど……」
言われてみれば確かにその通りで―――
のんは恥ずかしくなり俯いてしまった。
351 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:39

「でもさぁのん、ほんまにうちのこと好きなんちゃうん?」
いつの間にか亜依ちゃんが隣にきて、のんの腕を抱え込んで嬉しそうに尋ねる。

「な、なに言ってるのさ」
のんはその肘に伝わる弾力にどぎまぎしながら尋ね返した。

「だってさぁ、別に不思議な力も何もない、普通のまくらやってんやろ?」
「……うん」
「不思議な力がないまくらで、毎晩同じような夢見るんやもん。
それだけのんが強く願ってるってことちゃうん?」
「え、えぇぇ?」
そうなの?
言われてみればそうなのかな?
そうなのかもしれない。
352 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:40

「うち……のんやったら……ええよ」
亜依ちゃんはのんの顔をのぞきこんで、潤んだ瞳で囁く。

「…………」
その亜依ちゃんの表情は今まで見たことないもので―――
なんだかとってもエッチっぽくって―――
のんは思わず視線を落とした。
でもそこには薄い布地を押し上げて主張する二つのふくらみがあって―――
またあわてて落とした視線の先には黒いホットパンツから伸びる白い太腿が―――
のんがそうして、せわしなく視線を泳がせていると
353 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:41

「なぁんてねっ♪」
亜依ちゃんがぱっとはなれて、悪戯っぽく微笑み

「そんなことある訳ないやんなぁ」
くすくす笑う。
でもそんな亜依ちゃんを見ててのんは気づいちゃったんだ。
ううん、今の亜依ちゃんの悪戯で―――
いや、ほんとはきっともっと前から―――

「……のん?」

くすくす笑い続けている亜依ちゃんの両肩を掴み亜依ちゃんを見つめると、
亜依ちゃんは不安そうに尋ねる。

「……のん……どうしたん?……怒ったん?」
「……亜依ちゃん……のん、亜依ちゃんのこと……」
「…………」
「亜依ちゃんのこと……ほんとに好きみたい」
354 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:43

「…………」
「ううん、ほんとに好き!大好き!」
のんはこんどは亜依ちゃんをしっかり抱きしめる。

「……それ……ほんまなん?……本気で言ってんのん?」
「うん、大好き!ほんとに大好き!……だから……だから……」
のんがそこまで言うと、亜依ちゃんの腕がそっとのんの背中に回された。

「……亜依ちゃん」
「……のん」
亜依ちゃんはゆっくり瞳を閉じると、心持顔を上げる。
のんは亜依ちゃんを抱きしめる手に力を込め―――
のんの大好きな亜依ちゃんをしっかり見つめ―――
そしてそっと唇を―――
355 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:43
 
356 名前:第七夜 投稿日:2006/07/17(月) 22:44

「!!!」
のんは掛け布団を跳ね除け目を覚ました。

「え?なに?なんで?え?え?なに?なんなの?」
混乱したままきょろきょろしていたのんは、まくら元の携帯を拾い上げて固まった。
そう、そこには
”6/18(土) 7:35”
と表示されていた。
357 名前:エピローグ 投稿日:2006/07/17(月) 22:45
 
358 名前:エピローグ 投稿日:2006/07/17(月) 22:46

 のんは今ホテルの亜依ちゃんの部屋の前にいる。
あのピンクのまくらと一つの作戦を胸に。
のんは一つ大きく息を吸うとノックした。

「はい」
「のんだけどいい?」
「のん、どうしたん?」
すぐにのんを迎え入れてくれた亜依ちゃんだったけど、もう寝てたらしく、ちょっと不機嫌そうに尋ねてきた。

「うん、一緒に寝ようと思って」
「はぁ!?」
のんが言うと、亜依ちゃんは、寝ぼけ眼を見開き驚いてる。

「……駄目ぇ?」
「……別にええけど……どうしたん?」
のんが寂しそうに尋ねると亜依ちゃんは困ったように答える。
実は亜依ちゃん、のんのこの顔に弱いこと知ってるんだよね。
359 名前:エピローグ 投稿日:2006/07/17(月) 22:48

「へへへ、ちょっとね」
「もう、のんはぁ……どうせ怖い夢でも見たんやろ?
一緒に寝るんはええけど、変なことしたらあかんよ」
のんが笑顔になると、亜依ちゃんも冗談を返しながらベットに潜り込む。

そしてのんもピンクのまくらを持って亜依ちゃんの隣に滑り込んだ。

「おやすみのん」
「おやすみ亜依ちゃん」
そしておやすみの挨拶をすると、のんは寝たふりをした。
しばらくして、亜依ちゃんの寝息が聞こえ始めると、のんは身を起こし、
自分のピンクのまくらと、亜依ちゃんの使ってるホテルのまくらとをそっと取り替えた。
そう、のんの作戦ってのは亜依ちゃんがどんな夢を見るか確認することだったんだ。

だって、うまく行けば亜依ちゃんの気持ち、分るかも知れないって思ったから。 
そしてのんはしばらく亜依ちゃんの寝顔見てたんだけど、幸せそうに微笑んでいるだけで、
なんの変化もないからそのうち退屈して、のんも眠りに落ちていってしまった。
360 名前:エピローグ 投稿日:2006/07/17(月) 22:49

「んぅ……あ、亜依ちゃん」
のんが明け方目を覚ましてみると、亜依ちゃんはまだ眠っていた。
のんが亜依ちゃんの顔をのぞき込んで見ると―――
亜依ちゃんの目元には涙がいっぱい溜まっていた。

(どうしよう……怖い夢でも見てるのかな?
起こしてあげた方がいいのかな?)

「「!!!」」
のんが考え込んでいると突然、亜依ちゃんが目を覚まし、
のぞきこんでいたのんの視線とぴったり合った。
亜依ちゃんは声も出せないくらい驚いたらしく目を見開いたまま硬直してる。
361 名前:エピローグ 投稿日:2006/07/17(月) 22:50

「……亜依ちゃん?だいじょうぶ?」
のんが声をかけてやっと気がついた亜依ちゃんは、
みるみるうちに、頬も耳も赤く染めていく。

「亜依ちゃんどうしたの?」
のんはその亜依ちゃんの反応を見て、なにがあったかだいたい分っていたけど、
まだ自信がないのもあって、わざといじわるして聞いてみた。

「……………」
すると亜依ちゃんは黙ったまま、むこうを向いてしまう。
362 名前:エピローグ 投稿日:2006/07/17(月) 22:51

「ねぇねぇ、亜依ちゃんどうしたの?」
「なんでもあらへん」
のんは後ろからじゃれ付きながら尋ねるけど、亜依ちゃんはそっけなく答える。

「え〜、じゃぁ、こっち向いてよ」
「ええやん、うちがどっち向いて用途」
「やだよ。こっち見て。それとものんなんか悪いこと下?」
のんの攻撃に観念した亜依ちゃんは渋々こっちを向いた。

「へへへ」
「なんなん?」
「可愛いなって思って?」
「……知らへん」
のんが冷やかすと、亜依ちゃんはさらに頬を紅潮させ、瞳まで潤ませていた。
それを見てのんは確信した。
亜依ちゃんものんの夢を―――
亜依ちゃんものんのことを―――

「亜依ちゃん」
「…………」
のんは亜依ちゃんを抱きしめると、驚いて顔を上げた亜依ちゃんに―――
363 名前:ピンクのまくら 投稿日:2006/07/17(月) 22:52
   ピンクのまくら お わ り
364 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/17(月) 22:55
レスのお礼です。
>>320さん、こんなおっさん達まで出してしまいました(笑)
嬉しいお言葉ありがとうございました。
365 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/17(月) 22:56

 これにて「ピンクのまくら」完結です。
 1年以上もかかってしまいましたが、無事完結させることができました。
これも、場所を提供していただいている顎さんを始め、読んでいただいたみなさんのおかげです。
ありがとうございました。

 当初はどれだけ続けられるか分らなかったので、ネタ満載の1話完結で
いつでも終われるようなバカ話にしようと思ってたのですが、
第二夜で、のんちゃんがかってに?本気になってしまったので、
こんな話になりました(笑)。
366 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/17(月) 22:57

 のんちゃんが夢で体験した話しは、なるべく有名なものを選んだつもりですが、
第6夜、第7夜当たりは分らない人も多いかも知れません。
大分アレンジしてある話もありますが、アンデルセンやグリムの童話集を読んでみると
作者の表現力不足を補ってくれて、よりこの作品を楽しめるかもしれません(笑)。
 とりあえず、娘。メンバーが全員出せて良かったなと思ってます。
 また感想などお聞かせいただけると嬉しいです。
367 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/17(月) 22:58

   第一夜   >>2-51
   第二夜   >>54-88
   第三夜   >>92-132
   第四夜   >>136-170
   第五夜   >>179-207
   第六夜   >>219-256
   第七夜   >>264-356
   エピローグ   >>358-363
368 名前:ぱせり 投稿日:2006/07/17(月) 22:59
ほんとうにありがとうございました。
369 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/07/18(火) 01:13
完結おめでとうございます。
泣けて笑えてキュンとくる1番更新が楽しみな作品でした。
最終回も涙とハァハァが入り混じって最高でした!また作者さんの作品が読みたいです。
370 名前:ぱせり 投稿日:2006/08/06(日) 22:41
>>369さん、レスありがとうございます。
大変嬉しいお言葉ありがとうございました。
次回作もお付き合いいただけると嬉しいです。
次回作は、飯田さん主役2期タン中心の漫画っぽい作品、
あいののシリアスの2本を予定しております。
ただ、両方ある程度の分量書き溜めてからスレ立しようと
思ってますので、秋口になってしまうかも知れません。
よろしければ、それまで草の方ものぞいてやってください。
ちなみに草の次回作はほのぼの あいののの予定です。
371 名前:ぱせり 投稿日:2006/08/18(金) 23:02
 こんばんわ、作者です。
 上のレスで草の次回作にあいののを書くとお知らせしましたが、
シリーズ化したく思い、新スレを立てさせていただきました。
よろしければこちらものぞいてやってください。
笑顔のデート のんとのデート
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/dream/1155651475/l50
アンリアル、ほのぼのあいののです。
372 名前:ぱせり 投稿日:2006/08/18(金) 23:03
更新もないのに上げてしまったのでochi

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