空越えて
- 1 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/06/26(日) 23:23
- 初めてスレを立てます吉よしメン後というものです。
色々わからないことはたくさんありますが、頑張って書いていきたいと思ってます。
更新は週一ぐらいを目標に。
時々本編とは全然関係ない短編とか入ったりします。
放置は絶対しません。
感想はいつでもお待ちしてます!!!
ではよろしくお願いします。m(_ _)m
- 2 名前:始まりの唄 投稿日:2005/06/26(日) 23:26
-
雪が降っていた。
白い雪が舞うかのように。
どこからか、唄が聞こえてくる。
−綺麗なものほど、危険なもの。
−気をつけないと、体ごと連れてかれるよ。
−桜に魅せられたら桜に、雪に魅せられたら雪に。
−美しいものは、美しいものが好き。
−だから・・・、
唄が一時やむ。
気をつけないとね。よしこ?
−くすっ、ふふっははは、あははははは。
それを詠っていたのは一人の少女だった。
−待っててね。今、迎えに行くから。
その少女の声は、雪に吸い込まれるように消えていった。
- 3 名前:最後の普通の学園生活 投稿日:2005/06/26(日) 23:31
-
−ごとー、必ずよしこのとこに帰ってくるから。必ず迎えに行くから。
−絶対だよ。ごっちん、あたし待ってるから。ずっと、ずーっと。
・・・すぃー。よっすぃー。よっすぃーってば。
自分の名前を呼ぶ声、それと背中への衝撃で吉澤は目覚めた。
まだ眠そうに欠伸をし、顔を上げる。
「吉澤っ!!!」
「は、はいっ。」
顔を上げたその先に、その人はいた。古文の中澤裕子先生である。中澤の一喝により、
さっきまでの眠そうな表情は吹っ飛んでいた。
「あんた、あたしの授業で居眠りとは・・・。いい度胸してんなぁ。」
「いやぁ、眠くなっちゃて。すみませんでした。」
時計を見ると、自分の意識が机に吸い込まれてから結構な時間が経っていた。
吉澤はヤバイと思い引きつった笑いを返す。背中を冷や汗が伝った。
その時、後ろの石川梨華から言葉が掛かる。
「よっすぃーてば起きないんだもん。何回も呼んだのにー。」
あの名前と背中への衝撃は石川のようだった。大方、あまりにも熟睡している吉澤に
我慢できずに背中を叩いたのだろう。
- 4 名前:最後の普通の学園生活 投稿日:2005/06/26(日) 23:32
-
キーンコーン・・・
終了の鐘に吉澤は一息ついた。まだ睨まれていたが中澤は休憩時間を潰してまで説教する教師ではなかった。それを証明するかのように中澤が言った。
「あーぁ、吉澤のせいで鐘鳴ってもうた。今日はここまでや!」
今日最後の授業も終わり放課後に入る。吉澤と石川は部活に行くための準備を始める。
他のクラスメイトも友達同士で集まってがやがやと話をしていた。
「梨華ちゃん、部活行こう。」
石川は頷き、体操着とタオルを持って教室を出た。
部室に行く道すがら、今日の予定を話す。
「今日って矢口さんたちが来てくれる日だっけ。大学、忙しそうだけどいいのかなぁ。」
ここ私立羽露学園は中学から大学まであるかなり大きな学校である。受験もない。
だから外部受験でもしない限り高三になっても部活はずっと出来る。
「そうだね、でもやっぱ矢口さんたちがいたほうが楽しいじゃん。矢口さんと安倍さん
で漫才見れるし。」
「いや、よっすぃ、たぶんあれは違うよ。」
「えぇ〜、絶対違うよ。あれは漫才だYO!That’ right!」
体育館までの道のり。これが最後の平穏な学園生活だった。後に吉澤はそう言った。
- 5 名前:動き始めた物語 投稿日:2005/06/26(日) 23:35
-
「矢口―、講義終わったんしょ?なら早く部活行こっ!」
「なっち、そんな急がなくても部活もよっすぃーも逃げてかないから・・・。
だから、止まれー!走んなー!手、離せー!」
大学の敷地を走っていく人影があった。大学一年の矢口 真里と安倍 なつみである。
矢口は準備もそこそこに安倍に引きずられて来たらしく、コートも着ていない。
「大体、圭織はどうすんの?置いてきちゃったじゃん。」
「大丈夫、用があるってさっさと帰っちまったべさ。」
矢口は心の中で圭織に文句を言った。この北海道凸凹コンビはほんとにいい迷惑だ。
毎回付き合わされる矢口の身になって欲しい。そう考えていたらため息まで出てきた。
「高校の部活なんだからそんなに急がなくていいんだよ。別に行かなくてもいいんだし。」
「甘い、矢口は甘すぎて糖尿病になるべさ。そんなんじゃよっすぃーをとられちまうしょ!」
安倍の言葉につい苦笑いをしてしまう。
「いや、べつに、ねぇ・・・。」
矢口は非常にコメントしづらい内容になってきて、言葉に詰まる。
「矢口、嘘はいけないっしょ。何のためになっちが身を引いたんだい。矢口はうちの学年代表みたいなもんなんだから、いつもみたいに積極的に行かないと!」
「学年代表って、いつそんなのに矢口がなったんだよ・・・。」
結構むちゃくちゃなことを言われている。そのことにまたため息が出そうになったが、これ以上不幸を呼んでも困ると我慢した。
そんな話をしているうちにもう高校の体育館は目の前だ。反対方向から来る人影が見えた。
体育着を着終えた吉澤達だ。
- 6 名前:動き始めた物語 投稿日:2005/06/26(日) 23:38
- 「よっすぃー、梨華ちゃーん。」
矢口たちが吉澤達のそばに寄る。
吉澤は微笑み、それを見た三人が顔を赤くさせる。
(あれどうにかなんないの、梨華ちゃん。)
(そうだべ、あんな笑顔振りまいてたら甘いものに寄ってくる蟻みたいによっすぃー好きが増えてくっしょ。)
(そんなこと言われてもよっすぃーのあれは天然なんです・・・。)
(まーた暗くなって、駄目だべ、梨華ちゃん。)
小声で素早くやりとりをしている三人。そんな傍目から見たら非常に怪しい人たちに普通に話しかける吉澤。
「矢口さんたちもこれから体育館に行くとこですよね?」
「そうだよ、早く行くっしょ。ほら矢口、早く。」
安倍がすかさず対応する。なんというか人間離れした切り替えの速さだ。
いつの間にか少し離れたところにいた矢口は駆け足でこっちに来ようとした。
- 7 名前:動き始めた物語 投稿日:2005/06/26(日) 23:42
-
―そのとき
「っ矢口さん、危ない!!」
吉澤の声が響いた。ほかの人はわけのわからない顔をしている。
吉澤は矢口の腕を掴み、思い切り引っ張った。腕の中に矢口の小さいからだが入ってくる。
いきなり腕を引っ張られた矢口は痛みに顔をしかめながら吉澤を見上げる。
「・・・ごっちん。」
吉澤は中庭のほうを見て、ぼそっとつぶやいた。自然と吉澤に集まっていた視線が中庭に
向く。そこは学校の中庭では既になかった。
- 8 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/06/26(日) 23:53
-
ここまで見て大体の人がわかったと思いますが、
これはアンリアルの学園ものです。
結構いろんな人が出てくるので、ぜひこの人は出してみたいな人が
いたら教えてください。
出来る限りで対応します。
でもキッズはちょっとわかんないで無理です。
すんません。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/27(月) 00:55
- 面白そうな予感が。。よっすぃー大好きなので、これから期待してます!!
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/27(月) 04:32
- こういう感じ大好き。期待してます。
- 11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/27(月) 07:01
- 期待してるよ〜。
- 12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/01(金) 00:13
- キャーよしやぐ!?よしやぐかな!?
- 13 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/03(日) 01:11
-
10,11>>名無飼育さん
ありがとうございます!!
期待に応えられるように頑張りたいと思います。
12>>名無飼育さん
実はまだ決めてません。何個か候補があるんですけど、
まだまだ迷い中です。(苦笑
皆さんレスありがとうございます。
これからもどんどん感想お願いします。
- 14 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/03(日) 01:14
-
−よしこ、迎えに来たよ。一緒に行こう?
雪が静かに舞っていた。その中でどことも知れない場所のなんの木かもわからない木の側にその少女は立っていた。綺麗な少女であった、しかしあまりにも生を感じなかった。
吉澤と静かに見詰め合う。吉澤の表情も抜け落ちているかのように、無表情に見つめる。
「・・・だれ?」
誰かの呟いた言葉が、吉澤の表情を取り戻した。
「なんで、ごっちんが・・・いるの?」
吉澤以外誰もごっちんと呼ばれたその少女のことは知らず、皆疑問を顔に貼り付けていた。
少女が吉澤に話しかける。
−よしこを迎えに来たの。よしこ、あたしに会いたかったんでしょう?伝わってきたよ。
−だから迎えに来た。一緒に行こう、よしこ。あたしたちは離れてちゃ駄目なんだよ。
不思議な響きを持ってそれはみんなに聞こえた。
- 15 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/03(日) 01:22
-
「よっすぃ、あの子誰?」
吉澤の腕の中にいた矢口が自分の体により強く力がこめられたのを感じて、意を決して聞いた。声が少し震えていた。
その問いに答えたのは吉澤ではなかった。
−あはっ、初めましてだよね?よしこの先輩。
明るく後藤が言う。昔と何も変わってなどいないことを示すように。
だが吉澤は後藤の様子に違和感を覚えていた。
−あたしは後藤真希。よしこの片割れ。
矢口にそう言うと、後藤は再び視線を吉澤に合わせてこう言った。
−時間になっちゃったみたい。よしこ、また来るから。それまで準備してね。
言い終わるとすぐに風景がぼやけてくる。まず周りの世界がぼやけ、元の世界に戻っていく。最後に木と後藤の姿がかき消されるようにして消えた。
しばらく、誰も話せなかった。今の事態を飲み込めないものがほとんどで、吉澤だけが
事実を知っているようだった。
- 16 名前:動き始めた物語 投稿日:2005/07/03(日) 01:24
-
しばらく、誰も話せなかった。今の事態を飲み込めないものがほとんどで、吉澤だけが
事実を知っているようだった。
「よっすぃー、今の・・・何?なんなの迎えに来たって。」
石川が今にもこぼれそうな涙を目に留めながら聞く。
「ごっちんは、あの子はあたしの幼馴染だよ・・・。行方不明になってた。」
再び沈黙が続く。そのとき廊下の向こうから生徒が集団でやってくるのが見えた。
それにいち早く反応したのは矢口だった。
「とにかくここ、移動しよう。矢口達、生徒会とかしてたから目立つし。」
「なら吉澤の家にしましょう。・・・ごっちんのこと、説明しますから。」
この言葉に皆が黙って従った。
- 17 名前:・・・の独白 投稿日:2005/07/03(日) 01:26
-
−あはっ。
−無駄なのに、よしこはあたしが連れて行く。
−よしこはあたしの。昔から、そうずっと昔からあたしのなんだから。
−綺麗に咲くものほど、壊れやすい。だから人は儚さを好く。そして儚さを
美しさだと思う。
−全然違うものなのに・・・。人はひとつしか持てない。持っちゃ悪い。
−でもよしこは違う。よしこはふたつ、ふたつのものを持ってた。
だから・・・。
−ふふっ、しゃべりすぎたな。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
いっぽん、にほん、さんぼん。
鎖につながれ、人になったものがいる。
それは、昔・・・の話。
- 18 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/03(日) 01:28
-
澤の部屋についてからも誰も話さなかった。吉澤家の人々は何も言わずに帰ってきたひとみたちを見て大体の事情がわかったらしく、何も聞かずに部屋へと通した。
「ごっちんは、後藤真希はあたしの幼馴染なんです。ずっと前に行方不明になった。」
吉澤の声に静かに耳を傾ける。
しかし吉澤自体が混乱しているらしく、言葉が続かない。
それを見て、安倍がゆっくりと話し出す。
「なんか、・・・なんかやだよ。あの人。」
安倍の突然な話の切り出し方にびっくりしたように安倍を見る。
「わかんないけど、なんかすごくやな感じがした。」
安倍もそこで黙って俯いてしまう。再び重い空気が部屋を支配する。
今度それを破ったのは吉澤だった。
- 19 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/03(日) 01:30
-
「あのですね、今から話すことは結構ヤバイことなんですよ。もしかしたら、矢口さんたちの命にさえ関わってくるかもしれないんです。それでも、あたしと・・・一緒にいてくれますか?」
切なそうに微笑する吉澤に、見惚れ、そして自分まで切なくなってきた矢口達。
「あ、当たり前だよ。矢口はよっすぃーの師匠だぞ。いつでも、何があっても味方だから。
だから、お願い・・・話して。」
矢口が言い、確認するように周りを見回す。安倍と石川が頷く。
「よっすぃー、私、よっすぃーのこともっと・・・知りたい。」
「なっちだって覚悟は出来てるよ。よっすぃーはなっちの大切な後輩だべ。」
石川は涙をにじませて、安倍は笑って言った。
「ありがとう・・・ございます。皆大好きです。」
その言葉にやはり真っ赤になる三人だった。
- 20 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/03(日) 01:33
-
吉澤家は羽衣伝説とかに出てくる家なんです。
当時つまり平安時代は苗字とかなかったらしいんですけど、
発展するにしたがって吉澤となったそうです。
いわゆる、天女の血筋が吉澤家なんだそうです。
天女って言っても、姿はほとんど人と変わらないし能力だって人と交わるうちに極わずかになったそうです。
でも千年ぐらい前に天女総家で予言が発せられたんだそうです。
千年後、天女総家は混乱を極め各家は役割を果たせなくなりその結果、異界への橋が架かるだろう。
そうなれば世界のバランスは崩れ世界はなくなる。
この予言は天女総家に衝撃を与え、各々の対策を子孫に残したと吉澤家には伝わっています。
- 21 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/03(日) 01:35
-
「で運がいいのか悪いのか、吉澤家がその中枢になることがわかったんです。
・・・あたしが生まれたことによって。」
吉澤は苦笑して、そう言った。
周りはあまりに突然な展開と内容の重さに呆けていた。
「あたしは生まれた瞬間から、いえ生まれる前から今までに類を見ないくらい大きな魂をしていることがわかったんだそうです。
時期を同じくして羽衣の加護、辻両家の消息がわからなくなり天女総家の混乱が始まったんです。」
- 22 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/03(日) 01:42
- 今日の更新はここまでっす。
結構多く更新したつもりです。
自分は筆が遅いんで・・・。
何とか週一に滑り込むことが出来ました〜!
日が近づくにつれ、ハラハラしてました。
次はもう少し早く出来たらいいな〜〜。
駄文ですが見守っててください!!
- 23 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/03(日) 02:29
- 更新乙です。不思議な展開になって来ましたね。これからも、作者様のペースに合わせて頑張って下さい(^^ゞ
次の更新待ってます!!
- 24 名前:名無し読者 投稿日:2005/07/06(水) 18:24
- はじめまして!
珍しい展開ですごいおもしろいです。
続き、楽しみにしてますね。
・・・よしごまだったら、うれしいな・・・。
- 25 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/07(木) 23:21
- 23>>名無飼育さん
レス、ありがとうございます。
本当に他の作者さんと比べると更新の量が少なくて、少なくて・・・。
早く、大量に更新できる皆さんをとても尊敬してます。
遅くて少ない自分ですがこれからもよろしくお願いします!!
24>>名無し読者さん
はじめまして、こんな駄文を読んでくださってありがとうございます。
結構意外性だけで勝負している所があるんで、
そう言ってもらえると凄く嬉しいです!!
よしごま・・・自分もよしごま大好きなんですけど、今回はちょっと迷ってます。
展開を考えるとよしやぐのほうがいいのかなとか思ったりしてて・・・。
感想ありがとうございます。
すごく励みになります。ころからもこんなペースですがよろしくお願いします。
- 26 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:23
-
「ちょ、ちょっと待ってよっすぃー。まず天女総家って何?羽衣って?それに魂の大きさ?」
疑問の声を上げた矢口を始め皆分けがわからないという顔をする。
「それは「ちょっと待ったぁー!!」
吉澤の言葉をさえぎって乱入してきた人物がいた。
「ここからはうちが説明するでー。いいやろ?吉澤。」
いるのが当たり前のように話を進めるその人物。吉澤はその人を見てから軽く頷く。
- 27 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:26
-
「ってなんで裕ちゃんがいるんだよ。」
「いつからいたんだべ?」
「中澤先生?」
いろんな言葉が中澤にぶつけられていく。
「うっさい、それが天女総家を取り締まっとる中澤家現当主に言う言葉か。」
その一言にまた固まった矢口達を無視して中澤が声を発する。
「えー、それでは今から天女総家関東地区臨時総会をはじめます。神妙に聞くように。」
口調を変えまじめに話し出した。
「まず現状をまとめる。今日、天女の血を引く吉澤 ひとみが魂分け後、十二歳で行方不明になっていた後藤 真希に遭遇、一緒にいた矢口、安倍、石川と
共に家に無事帰還。今に至る。また、十七年前に消息をたった加護、辻両家ともまだ発見されておらず、至急に他の羽衣家に応援を要する。」
そこまで一気につらつらと文章を述べる。矢口達はもう現状についていけず、ぽかんとしていた。
- 28 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:27
-
「ここに中澤家現当主中澤 裕子が天女総家の招集をかける。至急吉澤家に集まるように。」
この呼びかけに聞こえるはずのない返事が聞こえた気がした。
「さて・・・、質問を聞くかぁ?」
中澤がまた軽い口調で尋ねる。それにいち早く反応したのは安倍だった。
「な、なんなんだべ?天女ってそんなにいるんだべか?っていうか裕ちゃんもなの?」
みごとに?で一杯だ。だがそれは矢口達全員の心理状態を表していた。
「そうやな、天女に関係する家は大まかに分けて三通りあるんや。一つ目が天女の家系、吉澤家やうちの家や。ふたつ目が天女の羽衣といわれる家系、行方知らずの加護家や辻家。
最後の三つ目が、魂分けの家系・・・後藤家。関東の天女総家はこんなもんや。」
薄く笑いを顔に浮かべながら穏やかに言う。
- 29 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:29
-
「裕ちゃん、もうちょっとわかりやすく説明してよ。全っ然わかんないよ。」
「仕方ない奴やなー、天女の家系ってのはずばりそのまま天女の血を引いてる家、ふたつ目の羽衣の家系は天女の家系のサポートをする家、天女の魂の抑制が主やな。三つ目の魂分けの家系は大きすぎる魂をもった天女の家系の魂を分け合い受け取る家系や。」
矢口の疑問にすらすらと答える。矢口を含め、今まで天女という存在自体を信じてなかった三人は頭を抱える。
(ねぇ、意味わかった?)
(わかんないです・・・。)
(だよね・・・。)
上から矢口、石川、安倍である。中澤に説明してもらったのはいいが結局ほとんどわからなかった。
- 30 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:34
-
「まだわからんのかぁ。まぁしょうないな。あとはそれぞれの家から聞いたらいい。」
その様子をみて少し呆れ気味にいい、視線を吉澤に移す。吉澤はうつむいて、何かを考えているようだった。
「それで吉澤はどうするんや?後藤の様子は一番わかるやろ。」
「あたしはもとのごっちんを取り戻したい、もとはあたしの性ですから。」
うつむき加減でそれでもはっきり言う。そこには決意が込められていた。
「吉澤、カオ、それはすごく危ないと思うの。」
いつの間にか、吉澤の側にいる飯田。さっきまでは気配は微塵もなかった。
「カオリ、何でいるの?」
中澤に続く突然の出現にまた驚き、もう諦めが入ってきていた。こういう人たちなのだという。
(天女って変人が多いのかなぁ。)
- 31 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:36
-
「呼ばれたから来たの。カオが一番早かったの。」
飯田のこの言葉に力が抜ける三人。
「はぁ、てことはカオリも関係者?」
「当然、カオは魂分け神社の巫女だから。後藤家の分家だよ。」
矢口と飯田が話してるところに吉澤が言葉を返す。真剣に、返す。
「それでもあたしは自分の片割れを助けたいんです。あたしの魂を分け合ったごっちんを。」
「吉澤がそう思うなら止めやせん。けどうちらは世界の消滅を第一に防がなあかん。それはわかっとるよな?」
今までの話を大体知っている中澤が言う。そう天女総家が第一に考えとるのは世界の救出。
いざとなったら後藤は処分されてしまうかもしれない。
「・・・はい、わかってます。」
それだけは防ぎたい。吉澤の目にそんな色が浮かぶ。それはとても強い色であった。
- 32 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:40
-
「ま、後藤のことはまだ調査中やから、取り戻すいい方法があるといいんやけどな。」
中澤だって後藤を殺すことにはなりたくなかった。かわいい妹分、世界の消滅の一端を担うことになってしまった可愛い、かわいい妹なのだ。
「天女の中でも暴走しやすい吉澤家が羽衣のいないときに魂分けしたのがいけなかったのかもしれんなぁ。」
でも・・・中澤は心の中で言葉を続けた。あれ以上待っていたら、二人とも危なかった。そうなれば世界は消えていた。
あの時はあれが最善の策だった。その場に中澤家次期当主として座っていた中澤はそう思った。
「天女の羽衣は、どこいったんやろな。」
中澤の言葉は天井へと消えていった。
- 33 名前:“吉澤”の秘密 投稿日:2005/07/07(木) 23:41
-
「でさ、矢口達はどうすればいいの?ここにいても邪魔なだけじゃん。」
自分たちの到底ついていけないレベルの話をされ、蚊帳の外にいた矢口が言った。
「いや、矢口たちには修行をしてもらうで。今から来る羽衣の家系と一緒に。」
にやりと笑って中澤は言い放った。
「で、出来ないです。そんなこと、私には無理です。」
「なんや石川、大丈夫、お前ら三人にならできる。加護か辻のどちらかが見つかるまででいいんや。」
その言葉に三人は押し黙り、顔を見合わせる。
「いいよ、矢口は。矢口はするよ。修行だってなんだって。」
最初に言ったのはやはり矢口だった。
「なっちもがんばるっしょ。世界がなくなっちゃやだかんね。」
次に安倍が。
「私も、頑張ります。よっすぃーのために。」
最後に石川が決意を表し、そこにいた一同が心をひとつにした。
「よしそれならこれから一緒に頑張っていこうな。あれやるで。」
『がんばっていきまっしょいっ!!』
- 34 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/07(木) 23:57
- 〜加護と辻の用語説明〜
( ‘д‘)<加護やで、ここでは作者の文才では書ききれなかった用語の
意味の説明をするでー。
( ´D`)<あいぼん、何であたしたちが説明するの?紺ちゃんとかのほうがよくない?
( ‘д‘)<うちらはしばらく駄文に出てこんのや。
コンコンは次らへんからでるらしいでー。
さて最初は“天女総家”の説明からや。
( ´D`)<えーと、全国の天女に関係する家系のことだよね。
関東のほかに、北海道、福岡、新潟にあるんだっけか?
- 35 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/08(金) 00:08
-
( ‘д‘)<大体そんな感じやな。大まかに分けて三種類の家系から成り立っとる。
それが天女の家系、魂分けの家系、羽衣の家系や。
詳しい家系の内容は後でな。
( ´D`)<辻達は羽衣の家系だよ。
代々天女総家は中澤家がまとめてきたらしいよ。
( ‘д‘)<今は中澤さんが当主やな。え?苗字だとわかんない?
それぐらいは駄文にも書いてあるで。中澤裕子(おば)さんや。
( ´D`)<まぁ、全国の天女の総称みたいなものらしいよ。
- 36 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/08(金) 00:17
- ( ‘д‘)<次は“天女の家系”についてや。
これはそのまんまやろ。天女の血筋の家や。
( ´D`)<羽衣の家系や魂分けの家系は天女の血は引いてないよ。
( ‘д‘)<天女の家系のみ個人個人で使える能力が違うで。
これは生まれつきの能力だからなや。
( ´D`)<のの達は修行とかして能力をつるけるから、家で大体同じ能力だよね。
( ‘д‘)<話が進むと色々天女の力が出てくるから、あとはその時にな。
- 37 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/08(金) 00:41
-
( ‘д‘)<特徴は魂の大きさが人によって変化することやな。
これがものすごい厄介なことなんや。
( ´D`)<魂は血の濃さに比例するんで、天女の血が濃いとその分魂も大きくなるんだよ。
( ‘д‘)<魂が大きいと当然能力も高いわけや。けど高ければ高いほどコントロールが難しいんや。
だから力が暴走しないように魂分けをして、ちょっと魂分けの家系に肩代わりして貰うんよ。
( ´D`)<それにプラスしてのん達羽衣で暴走しないようにするんだよ。
天女の魂の暴走は凄いことになるらしいからね。
( ‘д‘)<ちなみになぜか吉澤家は暴走しやすい体質らしいで。
( ´D`)<関東に羽衣の家系がふたつあるのはそのせいらしいよ。
ひとつで足りないときは補えるように。
( ‘д‘)<つまりよっすぃーみたいな人のためやな。暴走しやすくて魂も大きい。
- 38 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/08(金) 00:57
-
( ‘д‘)<これ以上はネタばれ含みそうやから、次や。
“魂分けの家系”
( ´D`)<ごっちんの家だね。
( ‘д‘)<上の天女の家系の説明で大体わかるんとちゃう。
魂分けして、その分けた魂を預かる家なんやけど・・・。
( ´D`)<すっごく大変なんだよね。魂の定着。
( ‘д‘)<そうなんや。他人の魂を自分の魂とくっつけるわけやからな。
魂の相性とかが凄く関係してくるわけやな。
( ´D`)<例えばごっちんとよっすぃーの魂の相性って抜群なんじゃなかったっけ?
( ‘д‘)<そうや、ほぼ同じ性質だったらしいで。
( ´D`)<豆知識として、飯田家は魂分けの家計に分類されるんだよ。
( ‘д‘)<魂分けは飯田さんの家でしかできんで。だから魂分けの必要がある人は
必ず関東の魂分け神社のこんといかんのや。
( ´D`)<普通の魂分けの家系とは別扱いされるよ。
- 39 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/08(金) 01:21
-
( ‘д‘)<やっと今日のラストや。“羽衣の家系”
( ´D`)<のん達のことだよ。
( ‘д‘)<これも天女の家系の説明を見ればわかると思うで。
( ´D`)<天女の魂の暴走を防ぐのがのん達の役目なんだけど、守ることもそうかな?
( ‘д‘)<一が暴走を防ぐ、二が天女の家系を守るってとこやな。
さっき言い忘れたけど魂分けの家系も同じ様な役目も持っとる。
( ´D`)<一番能力にバラつきがあるよね。家によって全然違うね。
( ‘д‘)<うちんとこは符術を使うし、のんは召喚士ってかんじやな。
( ´D`)<あとなぜか天女の能力強化なんて家もあるし・・。
( ‘д‘)<あー、福岡の。あれは不思議やな。
抑制しているはずなのに能力だけ上がるんやもんな。
( ´D`)<羽衣にも相性はあるよ。天女と羽衣もだけど、羽衣同士でもある。
( ‘д‘)<相性がよければ暴走しにくい、それに自分の能力も上がるで。
( ´D`)<羽衣はいるだけである程度の抑制効果があるんだよ。
( ‘д‘)<それだけで足りなくなったときに、符術やら召喚やらして押さえ込むんや。
( ´D`)<これで全部?
( ‘д‘)<長かったなぁ。これも作者のせいや。
( ´D`)<少しはわかったかな。わかんなかったら作者にどんどん言って。
( ‘д‘)<しばらくはうちらが質問に答えるで。今日みたいな用語説明もするし。
( ‘д‘)<ここまで読んでくれてありがとさん。では、
( ‘д‘)( ´D`)<またねー。
- 40 名前:hedwig 投稿日:2005/07/09(土) 00:38
- 世界観面白いですねぇ。
こういうの好きなんですよ。
次回更新、マターリとお待ちしております。
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/15(金) 03:54
- 更新お疲れ様です。
おもしろうそうな話ですね。
続き楽しみにしてます!!
- 42 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/17(日) 08:07
-
週一更新が目標だったんですが・・・。
思ってたよりも忙しくて更新できませんでした。
こんな駄文でも待ってくれてる人がいるのにすみませんでした。
まずレス返しです。
40>>hedwigさん
ありがとうございます!!
更新の遅い自分ですがなるべく早くしたいと思ってます。
これからも良かったら読んでやってください。
41>>名無飼育さん
いろいろ面倒くさい設定のある文ですが、
それを楽しんでもらえたら嬉しいです。
もともとこういう設定があったら面白そうだなから
始まった話なので。(笑
レスありがとうございます!!
こんな駄文でも感想をくれる人がいると思うとすごく創作意欲が湧いてきます。
これからもどうぞよろしくお願いします。
- 43 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/17(日) 08:09
-
あれから数日が経ち、矢口達は吉澤家に再び来ていた。季節は冬休みに入るころだった。
吉澤から連絡を受け、来てはみたもののまだ不安が拭いきれなかった。自分はなにが出来るのだろう三人の心のうちは一緒だった。
「がんばろうね。なにができるか、わかんないけど。」
安倍の言葉に静かに頷く。なにができるかはわからない、けど頑張ろう。自分が後悔しないように、世界がなくならないように。冬の寒空が真っ青に染まっていた日だった。
- 44 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/17(日) 08:12
-
「おっ、来たな。まっとたでぇ。」
中澤の声に続いて部屋に入ってきたのは明らかに自分たちより年下の女の子だった。
ぱっと見おとなしそうな感じを受けるその少女はこう言った。
「こんにちは、紺野 あさ美です。新潟より羽衣として参りました。」
にこっと笑う顔はどことなく後藤に似ているような気がした。
吉澤は天女総家の総会で会ったことがあるのかすぐに話しかけた。
「あれ、紺野って魂分けの家系じゃなかったっけ?」
不思議そうに聞く吉澤に、紺野ではなく中澤が答える。
「そうや、今回は特例や。羽衣の家系は今手の空いとる者がおらんね。だから天女総家で唯一暇だった紺野にきてもらったん。魂分けの家系でもいないよりはよっぽどましやで。近寄ってくる邪魔なやつはおっぱらえるし。」
紺野もその言葉に頷く。しかし、吉澤はもうひとつ疑問を思い浮かべた。
紺野もそれに気づき、吉澤のほうを向く。
- 45 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/17(日) 08:15
-
「麻琴は今から来ます。わたしは中澤さんから緊急召集されたんで、一足先に来たんです。
それに他の人たちのことも報告しないといけなかったんで。」
麻琴のことを話す時は華が咲いたように微笑み、次に真面目な顔になり、最後に苦笑する。
なんとも表情豊かになったと思う吉澤だった。
麻琴に会う前の紺野を知る吉澤の感想だった。後藤がまだいた頃吉澤が見たときとは全然違う。嬉しく思う、その変化を。
「そっかぁ、また騒がしくなるな。」
あの頃のように。吉澤の苦笑に隠された悲しみにどれだけの人が気づいただろう。
自分がいて後藤がいたあの頃、とてつもなく楽しかった日々。
高校生とは思えぬ表情であった。
「じゃ、その報告を聞くとするか。紺野、頼む。」
中澤が紺野と吉澤を見て言う。
この中で一番年長なだけあって吉澤の表情が何を思ってか理解し、そしてそこから連れ戻すための言葉だった。
- 46 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/17(日) 08:18
-
「はい、まず中越地区天女の家系小川家は今こちらに向かっておりもうすぐ着くと思われます。
また現当主小川麻琴は魂分けの必要はなく、魂分けの家系紺野家がいなくとも大丈夫だと判断しました。」
しかし・・・と言葉に詰まる紺野に中澤が声をかける。
その顔には仕方ないというような笑みが浮かんでいた。
「わかった、けど万一があるといかん。紺野は小川と一緒に行動しぃ。」
驚き顔を上げる紺野の目に優しい顔をした中澤が映る。
見透かされたことを恥ずかしく思いながらも嬉しくてしょうがなかった。
「ありがとう、ございます。次に北海道の松浦家、藤本家、高橋家ですが、安定していて何の問題もないと思います。
暴走の危険もほぼありません。現当主の松浦亜弥は力が強く、魂分けの家系である藤本家現当主藤本美貴との相性もよく、
羽衣の高橋愛もずば抜けた才能をもつとのことです。一番の戦力になると考えられます。
今日、明日中には到着する見込みです。」
- 47 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/17(日) 08:20
-
紺野の報告に皆耳を澄ますが、矢口達三人にとってはよくわからないことのほうが多かった。
この報告に今報告された三人を知っている者は苦笑をもらす。
北海道地区の天女総家の顔を思い浮かべ、その最強ぶりがありありと思い出した。
飯田さえ苦々しく笑っていた。
(あそこはあらゆる意味で最強だろ・・・。)
皆、吉澤のこの考えにいちもにもなく賛成した。
- 48 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/17(日) 08:21
-
「最後に福岡の亀井家、田中家、道重家です。ここも安定はしていますが、現当主三人ともまだ若く戦力としては未知数です。到着はまもなくかと。」
全部の報告が終わってほっとしている紺野に中澤はご苦労さんと言い、改めて矢口たちを紹介した。
「紺野、この三人がちょっと稽古つけてもらいたいもんなんやけど。」
矢口、安倍、石川の背中をポンと押し一歩前に出させる。目で自己紹介を促す。
「矢口は矢口真里、なんか語呂がおかしい・・・。まいいや。羽露学園大学一年。これからよろしくお願いします。紺野でいい?」
すっと手を差し出し、握手をする。人見知りしない矢口だけあってすぐ仲良くなるだろう。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。」
お互いに笑みを浮かべあう。このあとも自己紹介は問題なく行われた。周りの吉澤達も新たな仲間の誕生を見守っていた。
最後の石川が名前を言い終わったときリビングにチャイムの音が響いた。
皆特に矢口たちの間に緊張が走る。吉澤の母が玄関に向かい、新たな天女を迎え入れた。
- 49 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/17(日) 08:22
-
「次は誰やろな?」
紺野の報告からすると、小川か亀井たちである。廊下を歩く音が聞こえる。そして部屋の前で止まった。
部屋にいる全員が戸を見つめる。
−カチャ
「北海道より、松浦家当主松浦 亜弥、到着いたしましたー!」
「同じく藤本家当主藤本 美貴、今到着しました。」
「高橋 愛、到着したよ。」
そこにいたのは何故か北海道組みであった。
元気一杯という感じの松浦、冷たい感じのする藤本、他の地方のなまりで話す高橋。なんともちぐはぐな三人だった。
それからぞくぞくと到着し、松浦たちが到着してから一時間が経つ頃には全員が集合していた。
- 50 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/17(日) 08:31
-
これで今日の更新分は終わりなんですが・・・。
遅くなったのにこの少なさじゃさすがにヤバイだろうと思い、
短編を載せることにしました。
よしごまです。
こっちもやばい短いですが好きな人に楽しんでもらえたらいいなと思ってます。
それでは、どぞ。
- 51 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:33
-
- 52 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:33
-
よしこ、愛してる。
この言葉を最後に聞いたのはいつだっただろう。
久しく言われてない、言葉。
- 53 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:34
-
―永遠?―
- 54 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:36
-
彼女と付き合いだしてから、もう結構な時間が経っている。
あたしにとっても珍しいが、やはり彼女にとっても珍しかったようだ。あたしがここに加入して、できた絆。
加入、脱退、加入。
この輪に組み込まれたあたしと彼女。あたしから奪うばかりの輪。彼女を奪い、同期を奪い、矢口さんを奪っていった。
「ごっちん・・・。」
愛してる。
その言葉は二人の間を行き来しなくなって、あたしの胸で落ち着いている。
あたしの口からはすぐにでも飛び出していきそうなのに、たぶん出たら最後、帰ってこない。
- 55 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:38
-
「ごっちん・・・。」
出て行くことのできない言葉の代わりに、目から涙が出てきた。
あたしはまだ誰もいない楽屋で一人ぽつんと座り込む。膝に顔埋めて涙を閉じ込める。
―かちゃ。
戸の開く音がした。まだ集合時間にはだいぶ早い。いつもの癖と、結構な予感であたしはここに来た。
「よしこ?・・・びっくりした。誰かいるとは思ってなかったから。」
その声で、いや現れた瞬間からあたしの予感は当たっていたことがわかった。
モーニングの輪は切れないのに、あたしとごっちんを繋ぐ輪は切れようとしている。
いやな、もの。それだけが残る。
- 56 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:39
-
「・・・よしこ?どうしたの?」
泣いてるのと聞いてくる声にさらに涙あふれた。そして言葉は奥に隠れる。
「ごっち・・ん。」
あいしてる、言えやしないのに喉元まで出てくる言葉。今でも愛してる。
終わりになんて、したくない。
顔を上げたあたしの目に最初に飛び込んできたのは、心配そうな彼女の表情。
- 57 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:40
-
ねぇ、ごっちんあなたの胸に、あたしの言葉を置く場所は残っていますか?
前のようにとまでは言わないから、ほんの少しでも一言でもそれをそこに受け止めてくれますか?
- 58 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:40
-
「ごっちん・・・愛してる。」
- 59 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:41
-
この言葉だけでいいから、その胸に一生残して置いてください。
あたしの胸にはもう置く場所が残ってないから。
- 60 名前:―永遠?― 投稿日:2005/07/17(日) 08:42
-
―永遠?― 終
- 61 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/17(日) 08:47
-
よしごま短編でした。
どんどん悪いほうに考えてしまうネガティブよしこさん。
好きな組み合わせなのに書くのは難しいです。
特に後藤さんの話し方がわからない・・・。
こんなもんですが楽しんで頂けたら幸いです。
では次はなるべく早くここに来たいと思ってます。
- 62 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/17(日) 08:51
-
加護と辻の用語説明は今回はお休みです。
次は絶対に出てやるとの伝言が入っておりますので
次回にご期待下さい。
- 63 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 18:27
- 更新お疲れ様です。
これから矢口達どのように関わっていくんでしょう。
楽しみです。
次の更新待ってます。
- 64 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/23(土) 23:53
-
またもや遅い更新です。
量も増えてませんがどうか見捨てないで見てやってください。(汗
63>>名無し飼育さん
唯一の一般人である矢口達はまだまだこれからが大変になると・・・。
自分もまだ細かいところは決めてないんでどうなるんだろうなぁと思っちゃてます。
でも、がんばってもらいたいと思って書いとります。(笑
感想ありがとうございます。
まだまだ終わりの見えない話ですがこれからも見守っててください。
それでは今週の更新です。
- 65 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/23(土) 23:58
-
「さて、これで全員やな。突然集まってもらった訳は知っとると思う。今、中澤で現状を調べてる所や。
解決策が見つかり次第実行に移す。それまで、多くなると考えられる怪異に対処してもらいたい。
世界のため頑張ろうな。」
しんと静まりかえった部屋に中澤の声が響く。皆真剣な顔をしていた。
まだ実戦経験のない九州組みは特に緊張で顔を強張らせていた。
吉澤も中澤の隣で話を聞いていた。天女の役目は世界のバランスを保つこと。
幼い頃からずっと聞かされていたことだ。
しかし吉澤は戸惑っていた。その役目を果たすとき必ず自分の隣にいるはずだと思っていた人がいないことに。
頭の中でぐるぐると色々なことがまわる。思考回路はシェイクされ考えがまとまらない。
ふと顔を上げ窓の外を見つめる。雪がしんしんと降っていて真っ白だ。
・・・雪で外が見えないほど?
吉澤はそのことのおかしさに気づき、感覚を研ぎ澄ます。
後藤がいるような気がした。
- 66 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:00
-
「ごっちん!」
突然あがった吉澤の声に全員が振り返る。そして皆窓に目を向けた。
すぐに異変を感じ取ったのは、中澤と北海道組、紺野だった。
「紺野、吉澤は矢口達のそばにおれ!カオリは外の雰囲気を探ってくれ。」
- 67 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:01
-
―あはっ、遅いよ。裕ちゃん。
- 68 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:02
-
吉澤の前に後藤がいた。
後藤は吉澤の頬に手を滑らせ、愛おしそうに撫でる。その時の後藤の表情は元来の穏やかな優しい表情だった。
だが吉澤は思った。
ごっちんの中にごっちんがいない。あるのは異界へ戻りたいという思いだけ。
そう思うと怒りが沸々湧き上がってきた。
絶対にごっちんを取り戻す。吉澤の中で何かが固まった。
―よしこ、綺麗になったね。ごとーが思ってた通りだ。
- 69 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:04
-
「ごっちんは、何がしたいの?」
吉澤は後藤と目を合わせ、はっきりとそう言った。
この時後藤の変化に気づいた者はどれだけいたのだろう。
すっと表情がすり変わった。それは同じ笑顔のはずなのに、全く異なって見えた。
まるで人が変わったかの様に。
―ごとーはただよしこが欲しいんだ。一緒にいたいの。
吉澤の心臓がドクンと一回大きく高鳴る。
- 70 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:04
-
ねぇ、それが本音だったならあたしはどれ程喜んだんだろう。
ごっちんはあたしが欲しいんじゃない。必要なんじゃない。
あたしの力が欲しくて、必要なんだ。
- 71 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:06
-
それでも鼓動は止まらない。さっきよりも早く、強く。
吉澤の様子がおかしいことに気づいた周りが声をかける。
吉澤ほどの魂が暴走したときのことを考えるとぞっとした。どうなるかわからない。
「よっちゃん!落ち着いて、暴走するよ。」
「よっすぃー、力使っちゃだめだよ。鎮めて。集中だよ!」
吉澤にはちゃんと周りの声は聞こえていた。
しかし久方ぶりの魂の暴走にしかも今までとは比べ物にならないくらいのそれに対処できずにいた。
―いいよ、よしこ。そのまま力を抜いちゃいなよ。そんでごとーとこれから過ごしてこう。
天井が回る、周りの景色が歪み、吉澤は一人誰もいない世界でみんなの声を聞きながらさまよう。
「ごっ・・・ちん。」
力が溢れる。限界だと吉澤は思った。
- 72 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:07
-
パンッと白い光が弾けた。
光が収まったとき世界は変わると思っていた。
だけど、実際は何も変わらなかった。
- 73 名前:―現代の天女たち― 投稿日:2005/07/24(日) 00:09
-
「よっすぃー。しっかり、皆ここにいるから。ここで負けんな。後藤さんを助けるんだろ?」
矢口が吉澤の世界に現れた。
それにより吉澤は急速にもとの世界へ戻っていく。気づくと矢口が吉澤を後藤から庇う様にしっかりと抱きついていた。
矢口の緩やかな鼓動が伝わる。吉澤の鼓動がそれにシンクロするようにして穏やかになっていく。
―あんたはやっぱり邪魔するんだ。あと少しだったのに。
後藤が悔しそうに吐き捨てる。
そこに含まれたわずかな本当の後藤の気持ち。
それを感じたとき後藤はまだとり返せると思った。
吉澤の意識はそこで完全に消えた。
- 74 名前: 投稿日:2005/07/24(日) 00:10
-
- 75 名前:―加護と辻― 投稿日:2005/07/24(日) 00:11
-
吉澤は暗い住宅街の道を歩いていた。
しばらく歩いていると街灯に照らされた、少し寂れた感じのする公園が見えてきた。
中からキーコ、キーコとブランコをこいでる音がした。吉澤はこんな遅くに誰がいるんだろうと思い公園に入ってみた。
するとそこにはまだ少女といっても良いくらいの女の子が二人いた。背格好が同じくらいの二人で、楽しそうに遊んでいた。
「こんな時間に何してるの?」
ブランコに近寄り尋ねる。活発そうな子がのんびりしてそうな子と目を合わせてから、吉澤に言い返す。
- 76 名前:―加護と辻― 投稿日:2005/07/24(日) 00:13
-
「人を待ってるんよ。いや、待ってたんよ。」
「そうだよ、のんたちはずっと待ってるんだよ。」
ブランコから飛び降りて、二人の少女が吉澤の側に寄ってくる。
二人ともどこかの学校の制服に通学鞄を持っていた。そして両方の鞄に同じキーホルダーのようなものがついていた。
吉澤はふーんと相槌を打ちながら再び聞いた。
「誰を待ってるの?友達?」
街灯によりそこだけが照らされているブランコの周辺はまるで別世界のようで吉澤は少し寂しくなった。
それと同時にこんな場所でずっと待っていたという女の子たちは寂しくなかったんだろうかと思った。
- 77 名前:―加護と辻― 投稿日:2005/07/24(日) 00:14
-
「ううん、ちゃうよ。知らない人、やけど・・・
「「大切な人。」」
- 78 名前:―加護と辻― 投稿日:2005/07/24(日) 00:15
-
声をそろえて、そう言う二人を不思議に思いながら、吉澤はこれは夢だとふいに感じた。
夢だと気づいてしまうとあっけないもので、急速に二人が公園が遠ざかっていく。
「二人とも、ばいばい!またね。」
夢なのになんで挨拶返してんだろと思いながら、でもまた会う気がしていた。
「またな、よっすぃー。はよ、会いに来てな。」
「またね、よっすぃー。のんたちは結構近くにいるからね。」
- 79 名前:―加護と辻― 投稿日:2005/07/24(日) 00:16
-
ここで吉澤は相手の名前も知らないことに気づいた。
どうやら相手は自分の名前を知っているようだ。なら一回は会ったことがあるのだろう。
「ねぇ、名前はなんていうの?また会いに来るからさ!」
いつの間にかとても離れてしまった公園に向かって声を張り上げる。
すごく重要なものの様な、そんな感じがした。
「加護だよ、加護 いだよ。忘れんといてよ!」
「のんは辻、辻 の み。今日は楽しかったよ!」
途中聞き取れないところがあったが、吉澤はそこまで聞き取ってからまた暗い夜道の中に逆戻りした。
- 80 名前:―加護と辻― 投稿日:2005/07/24(日) 00:16
-
そしてしばらくすると朝日のような光が見えてきて、完全に夢から覚めた。
- 81 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 00:23
-
〜加護と辻の用語説明〜
( ‘д‘)<出た、ついに出たでー。
( ´D`)<のん達初登場ー。
( ‘д‘)<うちらの華麗な登場見てくれはった?
( ´D`)<のん達に注目しててね。
( ‘д‘)<これからどんどん活躍するで。作者に言い聞かせとるからなぁ。
( ´D`)<のん達を見とけばおっけぇだよん。
- 82 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 00:35
-
( ‘д‘)<さて、今回はそれぞれの地区の家系の説明と雑談やで。
( ´D`)<まずは北から。どぞっ。
( ‘д‘)<北海道地区。
( ´D`)<松浦家、藤本家、高橋家。
从‘ 。‘从
川VvV从 <<<どうもー。
川’ー’川
( ‘д‘)<ここは・・・最強やな。説明いらんとちゃう?
( ´D`)<んと、亜弥ちゃんが天女の家系で、ミキティが魂分けの家系で、愛ちゃんが羽衣の家系。
( ‘д‘)<能力も高いし、喧嘩も強いし、訛りも激しい。
( ´D`)<いろんな意味で最強。
( ‘д‘)<まぁ、うちらには負けるかもしれんけどな!
- 83 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 00:53
-
( ‘д‘)<ええと、天女総家中澤家編集によると、亜弥ちゃんは高二、能力の高さはbQやな。
この能力極秘ってなんやねん。教えんてことかい。
( ´D`)<あー、そこは出てくるまで秘密にしたいんだって。だからもう少し待っててね。
愛ちゃんは亜弥ちゃんとクラスメイト。歌声と舞で魂を鎮めるって書いてある。
( ‘д‘)<でも暴走しそうになったことないから使ったことなしやて。
( ´D`)<ミキティは十八歳、喧嘩強しって・・・。これ能力じゃないよね?
( ‘д‘)<能力は打撃系やろな、たぶん。亜弥ちゃんのことには滅法敏感。
( ´D`)<総合bPだよ。能力のバランスが取れてる。
- 84 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:06
-
( ‘д‘)<次、中越地区。
( ´D`)<中越っていうか新潟じゃん。
( ‘д‘)<いいん、代表や。代表。
( ´D`)<じゃ、小川家と紺野家。
∬∬´▽`)
川o・-・) <<こんにちは。
( ‘д‘)<まこっちゃんは天女の家系やけどほぼ能力なしや。
( ´D`)<魂分けするほど魂が大きくなかったんだって。
( ‘д‘)<でもここも能力極秘ってことはなんかあるんだとおもうで。
( ´D`)<つぎは紺ちゃん。魂分けの家系で系統は後藤家に近いらしいよ。
( ‘д‘)<高一でまこっちゃんと同じ学校やって。
( ´D`)<ここは皆のサポートが主になってくると思う。
( ‘д‘)<矢口さん達の修行とかを見とるで。
- 85 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:13
-
( ´D`)<関東地区。
( ‘д‘)<ここはわかるやろ。吉澤家、後藤家、加護家、辻家。それに中澤家。
( ´D`)<中澤家は取り締まってる家で、本家は関西にあるよ。
( ‘д‘)<うちらは本文で何回も言ったからなしね。
( ´D`)<よっすぃーが能力bPなんだけど、魂分けの家系もうちらもいないから
能力が全然発揮できてないんだよ。
( ‘д‘)<うちらとごっちんがいれば総合bP間違いないなぁー。
- 86 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:25
-
( ‘д‘)<最後はかなーり南にとんで九州地区や。
( ´D`)<一番若い子たちだね。亀井家、田中家、道重家。
ノノ*^ー^)
从 ´ ヮ`)<<<よろしくお願いします。
从*・ 。.・从
( ‘д‘)<えーと、亀ちゃんが中三、田中ちゃん、重さんが中二って書かれとる。
( ´D`)<若いね。
( ‘д‘)<時代はどんどん進むちゅうことやな。
( ´D`)<亀ちゃんは天女の家系、れいなは魂分けの家系、重さんは羽衣の家系。
( ‘д‘)<ここも安定しとる。ちゅーっか、関東ぐらいしか不安定になりようがない。
- 87 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:35
-
( ‘д‘)<亀ちゃんの能力はっと、極秘やなくて不明。わかっとらんみたいやな。
( ´D`)<珍しいね、魂分けするぐらいの大きさでまだ能力わかんないって。
( ‘д‘)<まぁ、いいとして、田中ちゃんか。
( ´D`)<れいなは剣道が強いってさ。
( ‘д‘)<ていうか、田中ちゃんち道場やろ。
( ´D`)<あー、そっか。魂分けの家系は体術か剣術使うもんね。
( ‘д‘)<それで守るんやろ、天女の家系を。
( ´D`)<羽衣の家系とはちょっと違った守り方なんだよね。
( ‘д‘)<そうや。さいごに重さん。
( ´D`)<重さんが前のん達がいってた強化能力の家だよ。
( ‘д‘)<本編でも出てくる予定やから待っといてな。
- 88 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:40
-
( ‘д‘)<また、長くなったなぁー。
( ´D`)<でもこれで今回は終わりだよ。
( ‘д‘)<ここまで読んでくれたあんたはえらいで。
( ´D`)<これからものん達のこのコーナー見逃さないでね。
( ‘д‘)<じゃぁな、本編でうちらが活躍するのも遠くないで。
( ‘д‘)( ´D`)<また、おいでやす。
- 89 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:41
-
- 90 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:42
-
- 91 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/24(日) 01:45
-
今日の更新はこれで終わりです。
学校が夏休みに入ったのでこれからはなるべく多めにできたらいいなと
楽観的希望を持っております。
これからも進み具合はこんな感じですがよろしくお願いします。
- 92 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/07/26(火) 21:57
- 更新お疲れ様です。
後藤さん・・・こわ・・・・。
今吉澤さんの力かなり不安定な面があるみたいですね。
よしごまなのかよしやぐなのかも気になります。
- 93 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 21:16
-
Mステを見た後の更新でーす。
早く更新したいと言っときながら全然変わらなくってすんません。
92>>名無し飼育さん
後藤さんは大好きなんですけど何故か書くとひどい役になってしまいいます。(泣
吉澤さんは安定してそうで安定してないのが自分のイメージなんですw
よしごまとよしやぐ、自分の中で吉絡みのトップ争いをしとります。
相変わらず下手な文ですが読んでやってください。
どうでもいい話ですが作者吉絡みで三番目に好きなのはは吉亀です。
やっぱマイナーなんすかねぇ・・・。
- 94 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:18
-
夢を見た。とても大切で懐かしい夢だった。
- 95 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:20
-
「吉澤、起きや!吉澤!朝やでー!」
中澤の声が吉澤の意識を、眠りから引っ張り上げた。
中澤の声は威力抜群だ。これで起きない生徒はいないだろうとさえ思った。
「ふぁ〜、中澤先生おはようございます。・・・できればもう少し優しく、いえなんでもないです。」
起きた途端に中澤にギロリと睨まれ、吉澤は言葉を止めた。
寝起き特有のぼやけた感じの頭を回転させ、今の状況を考える。
(ごっちんが来て、ちょっと言い合って、力が溢れそうになったところに矢口さんが止めてくれて・・・。)
そこで吉澤の記憶は途切れている。
「あの、あたしどうしたんですか?」
- 96 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:22
-
やっとはっきりしてきた頭で、中澤に尋ねる。中澤は一瞬呆れたような顔をしながら、説明してくれた。
「あんた覚えてらんのか?後藤が来て、力を暴走させそうになったあんさんは矢口に助けられて、その後意識を失ったんや。
吉澤の意識がなくなったとわかった後藤はそのまま消えたで。それで・・・あれはあんたの能力やな?」
その問いに吉澤は答えなかった。中澤は天女総会の総括をしている家だ。吉澤の能力を知らないはずがない。
天女の中でも珍しい、嫌われている力。
- 97 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:24
-
「まぁ、ええ。体の調子は大丈夫そうやな。皆下でまっとる。はよ、降りてこいや。」
吉澤の様子に中澤が言葉を返す。中澤は吉澤の頭を撫でてから静かに部屋を出て行った。
中澤の手は温かく、吉澤は不覚にも泣きそうになってしまった。手の甲で乱暴に涙を拭い、ベッドから降りた。
窓の横にある机に飾ってある写真を見る。それには今より五、六歳幼い吉澤と後藤が写っていた。
仲が良さそうに肩を組み笑う姿は幸せを体現しているようだった。
吉澤はその笑顔を脳裏に焼きつけ、一階に下りていった。
- 98 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:24
-
- 99 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:25
-
時間は少し戻って中澤が吉澤を起こす前、吉澤以外の人たちは全て客間に集まっていた。中澤を上座に円を作る。どの顔にも真剣な様子が取って見えた。
「こんな早くから集まってもらったのは、昨日の後藤を見ての皆の意見を聞くことと、これからの対策、それと矢口達の今後を決めるためや。」
全員を見渡しながら中澤が言う。客間の窓から見える外は昨日と同じように雪がシンシンと降っていた。誰も何も言わずしばらくの時間が経った。そして強い風が窓を揺らしたとき、すっと一人が手を上げた。
「カオ、昨日後藤の気配を探ってたわけだけど、後藤はなんかされてるんじゃないかな?自我を封じ込められてるとか、能力を封印されてるとか。」
「美貴もそう思います。美貴はごっちんと同じ魂分けの家系だから特に理解できたのかしれません。けど、ごっちんが普通にしていて天女の魂を抑えられないはずがないです。いくら羽衣がいなくても、分けられた魂が大きくても、ごっちんは定着させれる、逆に操られなんかしない。」
- 100 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:29
-
中澤も二人の意見は賛成であった。吉澤ひとみが天女の家系の奇才であったならば後藤真希は魂分けの家系の鬼才であった。
その能力から恐れられていた二人はどうしても冷たい視線で見られたり、影口を言われたりしていた。
だから二人は自然に二人だけとなり周りと距離を保っていた。
誰もが言った。
―あの子達が、世界の破滅をもたらす。
―あの子達こそが、予言にでてきた『混乱』だ。
二人はますます二人だけの世界に閉じこもるようになった。
特に人見知りの激しかった後藤は小さい頃は周りと口をきこうとさえもしなかった。
十歳を超えたあたりからはだんだんと話すようになったが、それでもやはり吉澤への態度とはかなり違った。
- 101 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:31
-
「そうか、やっぱりなぁ。うちも後藤が操られるなんておかしいと思ってたんや。
それで、うちの家に調べさせたらな、後藤は操られとるというよりも二重人格のようになってもうたとわかったんよ。
後藤の中では元の後藤と吉澤の天女の魂に奪われた人格が争っとる。だから昨日のように後藤は短時間しか居られん。
元の後藤が吉澤を傷つけることを許さへんからな。」
中澤の説明にそれぞれが納得する。
元の後藤の実力を知っている者は何故あの後藤が天女の魂に操られているのだろうという疑問を少なからず持っていたし、
矢口達はあまりにも短い時間しか吉澤に関わらないことが不思議だった。
「あのー、後藤さんってそんなに凄い人だったんですか?」
最年少の田中が尋ねる。隣の亀井、道重もぽかんとした顔をしていた。
―福岡の三人は未だ戦闘経験がなく、天女の力についてわかっていない。
紺野が全員集合してから再び中澤に報告した内容だった。
- 102 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:32
-
「後藤はな、なにがすごいってわけやなかった。」
事実であった。
確かに後藤は他の魂分けの家系、藤本や田中、紺野と比べて特に身体能力が秀でているというわけではなかった。
なのに後藤は物心ついたときには既に魂分けの家系の鬼才と言われていた。
「ただあまりにも魂がわかってしまう子やった。妖怪、怨霊、もちろん天女の魂、あの子には全て見えてしまうんや。」
それは魂を扱う魂分けの家系のなかでとてつもない武器になった。
魂の構造、弱点、そしてときには感情までも後藤には丸見えだった。
- 103 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:34
-
「後藤、昔はよく神社に遊びに来てた。ほら神社の中には余計なモノは入ってこないじゃん。
だから安心して歩けるって。きっと、もう魂の色なんて見たくなかったんだよ。」
飯田は昔を思い出しながら言った。
その時の後藤と昨日見た後藤は思えばそっくりだったかもしれない。
安定してない、存在が揺らめいているような感覚。魂分け前の後藤。
「魂の色が見える・・・。」
田中はそのことの凄さがよくわかった。
魂分けの家系は、魂分けをしたら常に分けられた天女の魂と付き合っていかないといけなくなる。
ひょんな事から暴走しないように、ゆっくり定着させていく。何年も何十年もかけて。
その途中魂の色が見えれば暴走なんてするわけがない。限界がわかるのだから。
- 104 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:35
-
「なんで、そんな人があんな風になるんですか?」
田中の問いに苦笑して中澤が答える。見れば飯田も藤本も笑っていた。
「だから不思議だったんや。後藤の能力をもってすれば魂の暴走なんて起こるはずがないからなぁ。まぁ、あまりにも早かったかもしれんと言われればそうやけど。」
「ごっちんとよっすぃーって何歳で魂分けしたんですか?まつーらとみきたんはまつーらが十歳のときでしたけど。」
松浦が藤本に知ってる?と聞く。だが藤本もそれは知らなかった。
子供のときは他の地区の情報はほぼ入ってこないし、藤本が吉澤と後藤に初めて会ったときにはすでに魂分けをしていた。
田中たちも興味津々といったかんじで中澤をみている。ちなみに田中達は十二歳で魂分けを終えていた。
魂分けの必要な人は大体それぐらいの年の内にしてしまうのが普通だった。
魂が大きければその分早くなるがそれでも松浦達のように十歳や九歳くらいであった。
- 105 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:37
-
「後藤と吉澤は、吉澤が六歳のときや。後藤は確かまだ五歳やったわ。」
中澤のありえない答えにその場のほとんどが絶句する。
「あいつらよっぽどませたガキどもでなー、魂分けの儀式でキスしよったんや!いくら体くっつけなあかんいっても、普通手繋ぐとか抱きつくとかそんなんやろ。やのにあいつらはキスやで、キ・ス!」
この言葉にまたその場のほとんどがはぁ?といったような表情になる。
注目すべき点がずれている中澤に藤本はそこじゃないだろと心の中で密かにつっこんだ。
「まぁ、いい。それで後藤の状態がわかった今何をするとええ?田中。」
こほんとひとつ咳払いをして中澤が脱線していた話を元に戻す。
- 106 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:38
-
「今暴走している魂を鎮めて、本来の後藤さんを出してあげればいいんじゃないでしょうか。」
田中への問題に、羽衣の道重が答える。亀井も笑って、田中と手を繋いだ。
二人で目を合わせて笑いあう。答えがわかった。
「そうすればあとは後藤さんが完璧に制御してくれる。」
道重のあとを亀井が繋ぎ言う。道重が後ろから二人に抱きつく。そして最後の一言。
「羽衣を見つければいい。」
その答えに中澤は満足そうに笑った。くしゃくしゃに田中の頭を撫で回す。
消えかけていた希望がまた見えてきたような気がした。
「その通りや。皆もわかったと思う。加護と辻さえいれば後藤は戻ってこれるはずや。うちのほうでも調査してみるから、日々ちょっと注意してみてくれ。記録だと同じ年に女の子が両家ともに生まれとる。この二人だけは消息不明、つまり生きてる可能性が高いからな。」
- 107 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:39
- ◇
あとは全滅やった。あんなむごいもんもう見とうないわ。
中澤は昔見た、その事件を思い出してひとつため息をついた。
加護家、辻家は十七年前に突如何者かに襲われて消滅した。殺し方、残した形跡から獣にやられたのだろうというのが天女総会での意思になっていた。獣といっても普通のものではない。念の塊。怨念とか怨霊とか呼ばれる類だ。今までも天女総家は何度か狙われたことがあった。しかし家全部が滅ぶなどこの事件が初めてだった。
この事件で天女総家は予言にあったように天女総家の混乱が始まったと確信せざるを得なかった。
◇
- 108 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:41
-
「で最後に矢口達のことなんやけど、自分の身を守れるぐらいにはしてもらいたい。こっちで修行の組み合わせとか決めておくから、それぞれ結果を教えてな。」
矢口はずっと黙って聞いていた。
昨日吉澤は矢口の見ている前で気絶した。その時の吉澤の消えそうな存在感。
矢口は感じたことのない恐怖に襲われていた。後藤が現れてから吉澤はどこか不安定になったような気がする。
安倍も石川もそれは感じていた。学園にいたときの吉澤は底抜けに明るい好青年という感じだった。
そんな雰囲気が学校での吉澤人気を作り出した。だが今思うとそれは違うのではないだろうか。
吉澤は本当の自分のほかにもうひとつ人格を作っていたのではないだろうか。
矢口達三人は吉澤について話すことが多かったがその中で出た結論がそれだった。
- 109 名前:―始まりの朝― 投稿日:2005/07/29(金) 21:42
-
「昨日の矢口達を見て思ったんやけど、矢口は羽衣、安倍、石川は魂分けの家系につくといいんちゃう?」
中澤がどうや?と視線を矢口達に向けてくる。
矢口達はその問いにしっかりと頷き返した。
矢口にしても石川にしても安倍にしても吉澤がいなくなることは嫌だったし、このまま引っ込むことも嫌だった。
世界がなくなるという現実感のないことよりも身近な人がいなくなる現実のほうが怖かった。
- 110 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 21:51
-
( ‘д‘)<今日も始まりました、このコーナー。
( ´D`)<加護と辻の用語説明ー。
( ‘д‘)<そうは言っても説明する用語がないんよ。
( ´D`)ノlカンペl<あ、なんかカンペがあるよ。
( ‘д‘)<えーと、『魂分けの儀式についての説明をしてv』
ハートとかキショいからつけるんやない!!
( ´D`)<まぁいいとして。魂分けの儀式について〜。
- 111 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 22:02
-
( ‘д‘)<魂分けの儀式はまたの名をそれぞれの馴れ初めって言うんや。
(;´D`)<いや、あいぼん違うでしょ。
(#‘д‘)<なにいっとるんや、のん。天女総家のカップルはほぼここで決定するんや。
これを見てみい。田中ちゃんとこや、ミキティのとこがいい例や。
( ´D`)ノ|ほ|ん|<(天女総家の秘密:中澤家編集)をじーっと読む。
(;´D`)<ほ、ほんとだ。魂分けの儀式によるカップル決定率90%・・・。
( ‘д‘)<(あの本ほんまになんでも書いとるんやなぁ。さすが中澤さんやな。)
- 112 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 22:28
-
( ‘д‘)<これでわかったやろ。それで内容何やけど・・・。
( ´D`)<飯田さんの神社で体の一部をくっつけて、飯田さんが呪文を唱えると終わりだよ。
( ‘д‘)<どこかがくっついとればいいんやから、手握るとか抱きつくとか何でもいいんやで。
( ´D`)<これは性格がでるらしいよw
( ‘д‘)<(ただ単に作者のイメージなんやけどな・・・。)
( ´D`)ノ|秘|密|<ほら、ほら。あいぼん!ここに歴代の魂分けの儀式の仕方がのってるよ。
(;‘д‘)<うわ、あの人はほんま、こういうとこだけは細かいんやなぁ。
( ‘д‘)ノ|秘|密|<どれどれ、よっすぃーんとこはキス。まぁ、これは本編でも書かれとるな。
( ´D`)<亜弥ちゃんのとこが、ほっぺにちゅっと。田中ちゃんが亀ちゃんにキスされる。
まこっちゃんが・・・。
( ‘д‘)<なんでまこっちゃんもあるんや?!魂分けしてないやろ。
( ´D`)ノ|秘|密|<あー、こっから普通の馴れ初めも書いてあるみたい。
(;‘д‘)<ほんとに、中澤さんはいったい何しとるんや・・・。
- 113 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 22:40
-
( ‘д‘)<なんか魂分けの儀式は番外編で書く気らしいで。
( ´D`)<本編も全然終わってないのによくそういうこと言うよねぇ。
( ‘д‘)<まぁ、まだまだ先や思うて油断しとるんやろ。
( ´D`)<楽しみにしてる人はいないかもしれないけど、もしいたら待っててあげて。
作者、番外はラブラブを目指すらしいから。
( ‘д‘)ノ|秘|密|<ちなみにこれ(天女総家の秘密:中澤家編集)はこれからうちらの話に良く出てくるで。
皆、買ってや。
( ´D`)ノ|秘|密|<税込み4120円。ページ数は千以上の中澤さんの力作だよ。
( ‘д‘)<プライバシーなど全く関係なし。これを読めばこの物語は完璧に分かるで。
( ´D`)<宣伝はここまで!!
( ‘д‘)( ´D`)<<じゃ、またねー。
|∀~#从<買ってや。
- 114 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 22:46
-
- 115 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 22:47
-
- 116 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/07/29(金) 22:52
-
今日は多めなはず。
なんかもう本編よりも加護と辻に時間がかかってるていう・・・。
駄目やん、自分・・・。
ていうかあれ見てる人いらっしゃいますか〜?
いて欲しい。(結構切実に思ってます。)
じゃ、今度こそは、今度こそは早めに!!
- 117 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/07/29(金) 23:04
- 更新お疲れ様です。
初めてリアルタイムで読めて感激です。
謎がひとつ解ければ、また新たな謎が。
めっちゃおもしろいです!!
加護と辻の用語解説も読んでますよ!
吉亀はマイナーかもしれないけど私も好きです。
- 118 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/01(月) 19:48
-
ふっふっふ、今回は早い更新やー!!
自分でも結構奇跡的に思えてます。
や、これが当たり前の作者さんもいらっしゃるんですけど・・・(汗
でも自分的にはやはり奇跡!!ミラクルナイト!!
117>>名無し飼育さん
ありがとうございます!!
めっちゃおもしろいっすか・・・。
もう感激で、感激で言葉が出てきません!!(涙
それに吉亀好きとは、いいですよねー吉亀。
でもこの作品は田亀なんです。
吉澤さんはあの人たちで精一杯ということで。
どうも微妙に雑食ぎみな作者でした。
- 119 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:50
-
「のん、もうすぐここに来るで。」
少女は布団に横になっているのんと呼ばれた少女に声をかけた。まだ太陽さえも昇っていない早朝ゆえにその子はまだ眠そうにしていた。
板の間の上に直に敷いてある布団以外は何もない部屋に二人は住んでいた。物心がついたときにはこの生活をしていたので不便とは感じない。
「あいぼん、早いよ。のんは、・・・まだ眠い。」
そのままもう一度布団に潜っていく少女から、布団を引っぺがす。冬の朝に最初こそ震えていたが、すぐに慣れついでに目も覚めた。
「もう朝や。それより、のんも見たんやろ。よっすぃー。」
質問というより確認だった。あの時一緒に吉澤を見たことをちゃんと確認したかった。なぜならそれはこの生活が終わる合図だったから。夢で会えたということはもうすぐ会えるということだった。
「見たよー、よっすぃー。優しい人っぽかった。」
目と目を合わせてにっこり。飾らない笑顔で二人笑いあった。今までの二人っきりの生活も楽しかったがしばらく経てばもっと大人数で暮らしていける。期待に胸躍った。
「もう少しだね。」
「もう少しやで。」
- 120 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:51
-
よっすぃーが来たら何しよっか?
大勢で遊びまわるのもいいけどこうやってのんびりダベるのもいいよね。
・・・たぶんしばらくできないから。
- 121 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:51
-
- 122 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:53
-
「「神社―?!」」
中澤の言葉に全員が叫んだ。
ことの発端は中澤がもしかしたら神社かもしれんなぁとぽつんと漏らしたことだった。
「加護と辻はそういう家系なんや。カオリのとこみたいなちゃんとしたのやない。
隠れ家みたいな取引だけの場や。中澤にもその数は把握できとらん。」
「つまり、もう、完全にどこにいるかはわかんないってことやねー。まずいことなったなー。」
あちゃーと高橋が顔をしかめる。この場に松浦と藤本だけが、外出していていなかった。
高橋の隣には道重が満面の笑みで座っていて、ちょくちょく話しかける。高橋も楽しそうに対応する。
「どうするんですか?加護さんと辻さんを見つかんないと大変ですよね。」
「んー、たぶん大丈夫やで。・・・そや、一つ試してみるか?」
中澤がにやっとした笑みを浮かべ、道重を見る。高橋としゃっべっていた道重はその視線に気づかずにいた。
その様子を見た田中がぎゅっと亀井の手を握り締め自分の中に湧いた不安を晴らそうとした。
「れいな、どうかした?」
亀井が心配そうに田中の顔を覗き込む。だが田中は首を振るばかりで何も言わない。否、言えなかった。
その様子はまるで頭を振ることによってその思考を振り払おうとしているようだった。
- 123 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:55
-
「本当にするんですかぁ?」
藤本と共に学校の屋上に連れてこられた松浦が言う。
中澤は松浦達が帰ってきてすぐにここに連れ出した。
その場にいなかった松浦達には何がなんだかわからなかったが、道すがら説明された。
用は松浦の能力を道重の能力で強化させ、手っ取り早く探してしまおうという作戦だった。
「美貴はこの方法にあまり賛成できないんですけど、危ないですって。暴走したらどうするんですか?」
中澤に藤本が突っかかる。藤本は松浦に危険なことはさせたくなかった。自分でも過保護かなと思うほどに。
作戦と呼べるほど大したものでもないが、その間はずっと松浦の側にいることに決めた。
「ちょっとでもわかったらそれで止めるから、加護と辻の存在を探って欲しいんや。」
そんな藤本を軽くスルーして松浦に話しかける。屋上には松浦と藤本、高橋と道重、田中と亀井がそれぞれ固まっていた。
中心に松浦と藤本、そこから少しはなれたところに道重、それを見守る田中達。
作戦の流れはまず道重が結界を張る。その中で松浦が能力を使い、関東一帯を調べてみる。
暴走しそうだったら高橋が鎮める。何の問題もない作戦だった。
それで加護と辻の居場所がわかれば幸いであり、実際中澤はそれよりも道重達の今の実力を知りたいだけだった。
「さっ、やってみる、やってみる。」
中澤の声で作戦が実施された。
- 124 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:56
-
- 125 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:57
-
「うちらを探しとるみたいやな。」
粉雪が舞い始めたのを縁側から眺める。
空を見つめると、自分達の存在を隠してきた透明な膜がずっと上のほうで張っている。
そこにさっきから光の輪が当たっては消えていく。サーチ、探査の能力だった。
キラキラと輝いて消えていく光はとても綺麗で見惚れていた。
「あれさ、かなり強い力だよね。・・・ばれちゃうかな?」
普通の探査なら絶対に見つかることはない。
だがその能力者、いや天女はかなり強い力の持ち主らしくこの場所に何かあることぐらいすぐにわかってしまうだろう。
「ばれるやろな。でものんもわかってるんやろ?」
縁側から下駄を履いて境内にでる。二人とも浴衣を着ていた。真ん中でくるっと一回転して周りを見やる。
木々に囲まれた古い建物、石でできた鳥居、そして今たっている石畳、この十七年間生きてきた世界を目にしっかりと写す。
「それが、のん達の運命。」
二人そろってくすくすと笑いをこぼす。お互いの手を繋いで空を見上げる。
ちらちらと落ちてくる氷の結晶は冷たかったが二人はそんなことは気にせずにしばらくそのままでいた。
十七年待っていた、運命のときが近づいてきていた。
- 126 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 19:58
-
- 127 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:00
-
中澤の作戦は完璧だった。
道重によって能力が強化された松浦を藤本が助け見事に加護と辻の居場所を探し出した。
皆が喜び笑いあっているなかで田中はまだ一人不安に包まれていた。
収まらない胸の動悸に嫌な予感が立ち上がった。
「・・・絵里?」
ついさっきまで道重と一緒にはしゃいでいた亀井が屋上のフェンスに寄りかかって座り込んでいた。
―カシャン
その姿に田中は世界が崩れるような不安定な感覚を覚えた。
すぐに駆け寄り、傍にしゃがむ。俯いている顔を下から覗き込むようにして見る。
「どうしたっちゃ?具合悪いん?」
「れいなぁ、絵里、なんかおかしいよ。」
震えを治めるように自分の肩を抱く。田中もその上から軽く抱きしめる。
亀井の体は細かに震えていて、熱があるかのように熱かった。
- 128 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:01
-
―カシャン、カシャン
またも世界がぶれる。世界が揺れる。
「力、溢れてきちゃう。」
焦点の合っていない目で田中を見つめる。田中の後ろでこっちの様子に気づいた人たちが騒ぎ始める。
―カシャン、カシャン、カシャン
カメラのシャッター音が聞こえる。
世界が切り取られ、また動き、切り取られる。
「絵里、大丈夫と。れながずっと一緒にいるっちゃ。」
その言葉に亀井が軽く頷いた。田中が亀井を抱きしめなおす。亀井が田中の背中に手を回し、肩に顔を埋める。
そして田中に亀井の後ろに広がる白い空が見えたとき、世界が動きを止めた。
―カシャン。
シャッター音が止んだ。
- 129 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:03
-
「っーーーーーーー!」
それは声にならない叫び声だった。力の具現だった。
亀井の体から瞬間的に凄まじい力が発せられた。
田中も体ごと吹き飛ばされそうになったが、なんとか踏みとどまる。
巻き起こった風が収まって衝撃に閉じていた目を開けると、そこには大きな黒い犬らしきものが立っていた。
真っ黒な毛並みに、隆々とした筋肉。
その背は人、三人くらいなら楽に乗せて走ることができそうだった。
「・・・召喚、や。また、凄いもんを。」
田中の腕の中にはぐったりとしている亀井がいた。
かろうじて意識はあるようだが言葉を話すこともできそうにない。
亀井の側にその犬が近寄ってきて、鼻を寄せる。近寄ってくる気配に微かに亀井が反応する。
そして亀井と田中の頬を一舐めしたかと思うとすぐに消えていった。
「ここからが物語、本番なのかもしれんなぁ。」
- 130 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:03
-
- 131 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:05
-
「あぁー、最後の合図だ。」
「迎えなんて待っとらんで出ちまうか?」
二人とも待つのは苦手だから。
さっきの探査で場所はばれたし、その後の力の発生で膜は破れて綺麗になくなってしまった。何も行く手を阻むものはない。本当は迎えが来るまで待ってないといけないがそれではもったいない気がした。残された時間は少ないから、なるべく楽しみたい。
悪戯に笑って、そこを飛び出す。これからが二人の本番だった。握られた手は離さずに終わりまで。
「驚くで、きっと。」
「いいよ、驚かせよ。」
のん達は自由な羽衣なんだから。
- 132 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:06
-
- 133 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:07
-
吉澤はそれを遠い空の下で聞いていた。
亀井の能力の発現による力場の乱れは凄く、空間を操る能力である吉澤にはとても敏感に感じ取れた。力を感じ取った瞬間は何か事件でも起きたのかと心配になった吉澤だったが、その後には何も大きな力は感じ取れず取り敢えず大丈夫だったのだろうと思っていた。
吉澤は矢口たち一般人組みと、小川、紺野の新潟組と共に郊外の森に来ていた。飯田も一緒に来ないかと誘ったが家の用事があったらしく断られた。
小川達は今矢口達の体術の訓練をみている。身を守るのならまずは体術ということで、もう一週間ほど毎日体術の練習をしている。この頃は三人とも慣れてきたようで結構ましな動きが出てきた。もう少ししたら簡単な術も教えてみて、素質があるかどうか見ることになっていた。
一時間ほど前から降り出した雪は今も止むことく降っていて吉澤たちを寒さに震えさすのだった。
- 134 名前:―交差する運命― 投稿日:2005/08/01(月) 20:08
-
吉澤はひっそりと雪に隠して涙を流す。
矢口は雪にそっと思いを託す。
安倍は雪に願いをかけて、石川は弱音を雪に紛れさせる。
小川は自分の無力を雪に嘆いて、紺野はそんな小川を雪のなかでそっと支えていた。
雪は色んな想いを見ながら、この少女たちを隠すことでしか助けられなかった。
運命に負けるな、運命に立ち向かえと。
運命の交差。
それぞれの運命が交差して物語が動き出す。
運命を知っていた少女たちと、流される少女、受け止める少女、そして抗う少女。
交差した道の行方は誰も知らない。
願うのはその先に光があること。
望みがあること、そして終わりがあること。
少女たちは信じて前に進む。
- 135 名前:MIRAI 投稿日:2005/08/01(月) 20:20
- 更新お疲れ様です!!
読む度に、物語に引き込まれていく・・・。
加護と辻が、これからもっと活躍かな?
次回も、楽しみにしています。
あ。魂分けの儀式に番外編楽しみにしてます。
是非よしごまでvv
- 136 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/01(月) 20:20
-
( ‘д‘)<うちら大活躍やなー。
( ´D`)<のんたちは色んなところで活躍できる羽衣です。
( ‘д‘)<さて、今回の用語は『獣』やって。
( ´D`)<獣ねー。加護家と辻家が滅んだ原因ってのは書いてあるよね。
( ‘д‘)<なんやろなぁ。念て言うんかな。負の念。
( ´D`)ノ|秘|密|<のん達の家の仕事は恨みとかを受け易かったから、獣によって滅んだ。
って書いてある。
(;‘д‘)<またそれかい。断定口調が逆に怪しい・・。
( ´D`)<でもそういう仕事だったのは事実だし、どうなんだろうね。
- 137 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/01(月) 20:30
-
(#‘д‘)<ていうか、これ以上どう説明しろと!あの作者め。
( ´D`)<説明の仕様がないから。この単語。
( ‘д‘)<人の念が襲ってくるってことやな、つまり。
( ´D`)<んでそれを退治するのが、のん達天女総家の仕事のひとつ。
( ‘д‘)<一番怖いのは人ってことやな。
( ´D`)<そこらへんがこれから重要になってくるかも、らしいよ。
( ‘д‘)<恋愛事が一番念が強いってのはよく言われとることやしな。
( ´D`)<まぁ、これからもみてやって。
( ‘д‘)<今回は短いけどこれでうちらのコーナーは終わりや。
次回からはもっと長くするように言っとくから楽しみにしといてや。
( ‘д‘)( ´D`)<<それじゃ、またねー。
- 138 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/01(月) 20:31
-
- 139 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/01(月) 20:32
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- 140 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/01(月) 20:32
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- 141 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/05(金) 19:42
- 更新お疲れ様です。
加護&辻も見つかり、これからがますますたのしみです。
次回も楽しみしてます。
- 142 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 22:17
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今回も何とか早めにできました〜。
気がついたらこのスレ立ててからもう一ヶ月。
ここまで来れたのも読者の皆さんのおかげです。(感涙
135>>MIRAIさん
レスありがとうございます!!
加護と辻は天女総家のキーパーソンとなっとります。
これからも色々やらかしてくれるでしょう。
番外編は今のところ、関東、北海道、九州を予定してます。
小川と紺野をどうしようか迷ってます。
141>>名無し飼育さん
感想ありがとうございます。
加護と辻、やっと見つかりました。
でも一筋縄ではいかない様な気がします。
これからもよろしくおねがいします。
では今回分の更新です。
- 143 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:20
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「いやー、ほんまに良かったなぁ。加護、辻の居場所はわかったし、亀井の能力は発現するし、いいことばかりやったな。」
亀井を背負っている田中を見ながら中澤が言った。亀井はあの後疲れすぎで眠ってしまった。
いきなり能力が発現した原因はまだはっきりとはしていなかったが、今の状況でそれは良いことだった。
段々とずり落ちてくる亀井を上に直しながら田中は歩いていた。
自分より大きい亀井を負いながら歩くのはなかなか大変だったが穏やかな寝息を立てている亀井を起こすのもかわいそうだし・・・とそのままにしていた。
「れいな、大丈夫?」
「大丈夫、慣れてるから。ほら剣道してるといろいろ鍛えられるから。」
少し赤い顔をしている田中を見て、道重は微笑んだ。
田中は亀井のこととなると昔から本当に一生懸命になる。本人はたぶん、気づいてないけど。
道重は田中のそういう所が好きだった。
「そう、がんばって。まぁ、絵里を離すわけないか。」
その瞬間に一気に全身が赤くなる田中がおかしかった。
昔から変わらない大切な幼馴染たちを見ながら、これからもこの日常が変わらないといいなと思った。
- 144 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:22
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「遅いでー、なんでうちらより来るの遅いねん。」
「そうだよー、のん達迷って、迷って、やっと着いたんだよ。」
吉澤家の目の前に二人の女の子が立っていた。
その子たちは帰ってきた中澤達に対して堂々と文句を言った。
田中や道重はもちろん、高橋に松浦や藤本、中澤も知らなかった。
二人とも制服を着ていたし通学鞄を持っていたので仲良し高校生二人組みの様に見えた。
「あんた達、誰?」
藤本が得意のガン付けをしながら聞く。
松浦に近づく奴をこれで追っ払ってたことは内緒だが北海道では大方これですんだ。
「あー、なんやその言い方は。そっちが探してたみたいやから、わざわざこっちから来てやったのに。」
「のん達家の場所も知らないのに頑張ったんだよ。」
「だから、どなたですか?」
藤本の後ろから松浦が恐る恐る聞く。
その途端二人とも怒っていた表情を緩め、ほくそ笑んだ。
「加護や。加護 亜依。探してたやろ?」
「のんは辻、辻 のぞみだよ。」
「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」
全員の叫び声が冬特有の高い空に吸い込まれていった。
加護と辻はいつもの悪戯な笑みを浮かべていた。
- 145 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:23
-
***
- 146 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:24
-
吉澤は目の前の異常事態にどう対処したらいいのかわからなくなっていた。
見たことのない二人の少女を囲んで中澤さんたちが怖い顔で黙りこくっている。
これってなに、いじめ?いやいや、わざわざ人ん家に連れ込んでまでいじめないだろ普通。
それにいじめするような人たちでもないし、真ん中の女の子たちは余裕な感じだし・・・。
固まったまま延々と思考の輪にはまってしまっている吉澤に渦中の少女二人が声をかけた。
- 147 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:25
-
「あ、よっすぃーや。なぁなぁ、この人たちに説明したってぇな。全然うちらのこと信じようとせぇへんのや。」
「よっすぃー、久しぶりー。のん達のこと覚えてる?」
いきなりずずぃっと顔を近づけられて少し仰け反ってしまう吉澤であった。
しかし吉澤はその子達の顔に全くといっていいほど見覚えがなく、自分の名前が呼ばれたことが逆に驚きだった。
「えーと、・・・誰?」
その瞬間ますます顔を近づけられ、ますます仰け反る吉澤。
もう限界まで反っている背中は背筋がぴくぴくしてしまっている。
「この顔に見覚えあるやろー。ほら夜の公園や。」
「古いブランコに乗ってるのん達。」
「よっすぃー、うちらに『何してるの?』て聞いたやん。」
「あー、もうそろそろ思い出してよ。のん達めっちゃ疑われてるんだから。」
- 148 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:26
-
夜の公園、ブランコ。
その言葉に何か引っかかった。あれと思って頭をひねってみる。
夜の公園、ブランコ、夜の公園・・・。
ぶつぶつと思考の渦にその単語を投げ入れて、思い当たる所がないか思い出してみる。
くっつきそうなほど近くにある顔をもう一度見る。そしてちょっと離れて全体を見る。
見たことないけどどこかの制服を着ていて、通学鞄を持っている。
制服の上の顔が焦ってくる。
「じゃ、これでどうやさすがに思い出すやろ?うちは加護や。加護 亜依。」
「なんで思い出さないかなぁ。のんは辻。辻 希美。」
既視感を覚えながらもなぜか思い出せない。もう一度二人の全身を見回してみる。
制服、通学鞄、そして光るおそろいのキーホルダー。
その様子は二人の仲のよさがありありと感じられた。
ん、今の前にも言った気がする。
制服、鞄、キーホルダー。夜の公園、ブランコ。加護、辻。
- 149 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:27
-
「あー、あーわかった!あれだ、なんだ、そう、夢!夢で見た。夢で真っ暗な夜道歩いてたやつだ。
そんで公園で遊んでる二人がいて・・・。あーよかった。すっきり、すっきり。」
吉澤の中で何かがやっと繋がって全てを思い出した。
吉澤は引っかかってたものが綺麗サッパリなくなって安堵のため息をついた。
「お、思い出した?よかったぁ。のん達どうなっちゃうかと思ったよ。」
「そやそや、なんかこの人たちすっごい疑ってくるんやもん。食われてまうかと思ったで。」
加護と辻も自分の身の安全が確保されたことに胸をなでおろした。頬を緩めて吉澤に抱きつく。
もともとかなり近い位置にあった体に思いっきり二人の人間が抱きついたらどうなるだろう。
答えは簡単で倒れる。
吉澤も重力には敵わなかったらしくそのまま床に後頭部を強打しそうになるが、そこは訓練を少なからず受けてきた人間だ。
受身をとって、怪我するようなことはなかった。
- 150 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:28
-
「ていうか、君ら加護と辻だったの?全然知らなかったなぁ。」
吉澤が今の今まで忘却の彼方にあった夢を思い出して言う。
実際自分でも不思議なほどに吉澤は夢のことを忘れていた。
吉澤は知っていたのだ。加護と辻が生きていることを。それどころか近くにいることさえも。
吉澤は自分が夢の内容を覚えてなかったこと、いや夢を見たことさえ忘れていたことをかなり悔やんだ。
「・・・運命か。」
- 151 名前:―現れた二人― 投稿日:2005/08/05(金) 22:29
-
今まで加護と辻を見つけられなかったこと。
魂分けしてからは一回も暴走したことがなかったのに、暴走しかかったこと。
その時、加護と辻の夢をみたこと。
そして、・・・加護と辻を今みつけられたこと。
吉澤にはどれも運命が起こしたものとしか思えなかった。
全てが重なって今に続いている。平安の時代からの予言も後藤のことも全て。
吉澤の呟きは誰にも聞こえず、そのまま消えていった。
あとには空を見上げた吉澤と吉澤に抱きつく二人が残っていた。
運命という渦がいろんな事を巻き込んでぐるぐると回っていた。
- 152 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 22:39
-
( ‘д‘)<もう定番になっとるこのコーナーの時間やで。
( ´D`)<加護と辻の用語説明〜。
( ‘д‘)<えーと、今回はまたまたカンペが届いておるで。
( ´D`)ノlカンペl<『次回から大活躍の他の地域の皆さんのことを紹介して差し上げて・・・。』
( ‘д‘)<なんやその微妙な敬語は。
( ´D`)<ほら、あいぼん。あれだよ。ほっかいd・・・。
( ‘д‘)ノ<のん言うたらあかん!作者が出番のない人に脅されてもうたなんて。
- 153 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:05
-
( ´D`)ノ|秘|密|<てことで皆、これ出して。
( ‘д‘)ノ|秘|密|<うちらがもう一回詳しく、説明するで。
( ´D`)<前は極秘だった能力のところもちゃんと中澤さんから貰ってきたよ。
( ‘д‘)<今回は北海道と九州組のみやけど、また別に関東と新潟は説明するからな。
( ´D`)ノ|秘|密|<さてとまずは北海道組〜。
( ‘д‘)ノ|秘|密|<北海道のページはっと。(まくる
( ´D`)<えっと、総合力bP。これは前にも言ったから・・・。
( ‘д‘)ノ|秘|密|<のん、その下や。『北海道組の性格』って欄や。
( ´D`)<『松浦亜弥 高二 十七歳。天女の家系。松浦家当主。
好きなもの:美貴たん。
嫌いなもの:邪魔するもの。
能力:探査、結界、圧力。
魂分け年齢:十歳。
補足:藤本が好き。言葉にできないくらい藤本がすき。
高橋とは幼馴染でクラスメート。藤本は恋人兼幼馴染。』
(;‘д‘)<補足がぶっ飛んでるやんか!90%ミキティのことやん。
(;´D`)<しょうがないよ。亜弥ちゃんだもん。
(;‘д‘)<(ちなみに噂だとブラックあややも存在するらしいで・・・。)
(;´D`)<(亜弥ちゃんといるときはミキティの扱いには注意。)
(;‘д‘)<(中澤でも怖かったつう感想が出とる。)
(;´D`)<とにかく注意で!!
- 154 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:17
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( ‘д‘)ノ|秘|密|<気を取り直して次、ミキティ。
( ´D`)<『藤本美貴 十八歳。魂分けの家系。藤本家当主。
好きなもの:亜弥ちゃん、焼肉。
嫌いなもの:ネギ、その他諸々。
能力:気を使える。体術。亜弥ちゃんの能力。
魂分け年齢:十二歳。
補足:松浦の扱いが違う。ありえないほど違う。
当社比三倍。 』
(;‘д‘)<またか。しかしほんまどないせぇーちゅうねん。
(;´D`)<中澤さんがあそこの調査だけはしたくないって言ってる意味が分かった。
( ‘д‘)<まぁ、実力は本物や。
( ´D`)<強いです。めっちゃ。
- 155 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:26
-
( ‘д‘)ノ|秘|密|<なんか疲れてもうた・・・。やけどまだまだあるんや。
( ´D`)<『高橋愛 十七歳。高二。羽衣の家系。高橋家当主。
好きなもの:歌うこと
嫌いなもの:訛ってるって言う人。
能力:歌と踊りで魂を鎮められる。少々体術。
補足:道重と仲が良い。本人が言うには妹みたい。』
( ‘д‘)<まともや。
( ´D`)<まともだ。
(;‘д‘)<なんか嬉しくて涙がでてくるわ。
( ´D`)<嫌いなモノはちょっとおかしいけど・・・。
( ‘д‘)<そんくらい目つぶらなあかんで。亜弥ちゃんとミキティに比べたら。
- 156 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:30
-
( ‘д‘)<こっからはやっと九州組や。
( ´D`)<もう北海道はいいね。したくないや。
( ‘д‘)<(作者を脅した人はわかるやろ。北海道の肉好きや。)
( ´D`)<(あとブラックあやや。からませろって文句が・・・。)
- 157 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:38
-
( ‘д‘)ノ|秘|密|<よし気合入れていくで!まず亀ちゃん。
( ´D`)<『亀井絵里 中三 十五歳。天女の家系。亀井家当主。
好きなもの:れいな、隙間。
嫌いなもの:誕生日とクリスマスを一緒にされること。する人。
能力:召喚?
魂分け年齢:十二歳。
補足:まだまだ未知数なところが多い。田中を好き。
道重とも仲が良い。』
- 158 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:50
-
( ‘д‘)<『田中れいな 十四歳 中二。魂分けの家系。田中家当主。
好きなもの:みきねぇ、焼肉。・・・一応絵里。
嫌いなもの:ポッキーの日。
能力:剣道、剣術。絵里の能力も使えるはず。
魂分け年齢:十一歳。
補足:好きなものではあんなこと言ってるが亀井が好き。
亀井を傷つけるやつはゆるさんらしい。道重にはよくからかわれる。』
( ´D`)<『道重さゆみ 十四歳 中二。羽衣の家系。道重家当主。
好きなもの:高橋さん、鏡、自分。
嫌いなもの:好きなものを馬鹿にする人。
能力:天女の能力の強化。抑制もちゃんとできるもん。
補足:亀井の相談によくのってる。なにげに一番考えが大人。
怒らせると怖いから怒らせるのは厳禁。』
- 159 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:55
-
( ‘д‘)<つっこみどころが満載すぎて、つっこめへんわ・・・。
( ´D`)<作者の好みがまるわかり。
( ‘д‘)<とりあえず、言うだけ言ってみました。
( ´D`)<これで文句もこないはず。
( ‘д‘)<いきなり話し変わるんやけど、分からない単語募集中。
( ´D`)<なんていっても作者才能ないから分かんなかったらどんどん言って。
( ‘д‘)( ´D`)<それじゃまたね。ばいばーい。
- 160 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:55
-
- 161 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:56
-
- 162 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/05(金) 23:59
-
今回の更新はこれで終わりです。
マイナーから有名なのまでいろいろな組み合わせのある話ですが
これからもみてあげてください。
このごろ、まこあいにはまってたりする吉よしメン後でした。
- 163 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/09(火) 04:56
- 更新お疲れです。
加護&辻行動早いですね〜。
用語説明の亀井の好きなものにおもわず笑ってしまいました。
次回も楽しみにしてます。
- 164 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/09(火) 19:39
-
長編の神様は降りてこないのに、短編の電波はどんどん受信してしまう吉よしメン後です。
短編が二、三本できてしまったので取り敢えず載せときます。
内容は一本目よしごま、二本目まこあい+よしごま、三本目れなえりって感じです。
163>>名無し飼育さん
たぶん同じ人だと思うんですが、違ってたらごめんなさい。
毎回レスありがとうございます。
更新ごとに見てくれて人がいるとわかるのはとても心強いです。
次からは少し加護と辻には休んでもらって、今まで出てこなかった人たちが
活躍する予定なので気長にお待ちください。
では一本目 よしごまです。
- 165 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:41
-
なんか、あたし達すっごく遠回りしてきたよね。
そだね、そぅとぅしてたよ。
―遠回りの分・・・―
「後藤、ちょっと来て。」
スタッフさんに呼ばれてスタジオから抜ける。
こういうちょっとした瞬間にあなたがいないことを悲しく感じる。
もうソロになって約三年、彼女と一緒にいた時間よりも既に長くなっている。
―いい加減、慣れるんだ。後藤真希。
自分に言い聞かせて足を進める。彼女はオフだと言ってたから今日も誰かといるんだろう。
あたしはいつになったらあなたの隣にいれるんだろう。また。
- 166 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:41
-
- 167 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:42
-
収録も終わり、そそくさと帰る準備を始める。周りに適当に挨拶しながら建物を出る。
いつまでこの思いに振り回されてればいいんだろう。
気づいたら好きになってましたなんて、相変わらずモテモテの彼女に言えるはずがない。
今日も答えは出ないまま自分の家に着き、部屋に向かう。
彼女と一緒に帰ってきた日もあったと思うと、とても懐かしかった。
「ごっちん、お帰り。」
部屋の戸を開けた瞬間に聞こえた声に一瞬で思考が止まる。
今のは彼女の声。なんでここにいるんだろう。
嬉しさよりも疑問が溢れてくるのはあなたのせいだからね。
「よっすぃー、なんでいるの?今日オフだったんでしょ?」
「オフだからいるんだよ。ごっちんに会いたくなっちゃって、来ちゃった。」
軽いノリで明るく言うよっすぃーについ頬が緩む。帰ってきて好きな人がいたら仕方ないじゃん。
変なごっちんって言われたけど、いいや。
―あたしはその日一日中ご機嫌でした。
- 168 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:43
-
彼女があたしの部屋に来てくれてから一週間経った頃、彼女の師匠に聞かれた。
「ごっつぁんってさぁ、好きな人いる?」
ここのところあなたが教育した人にずっと片思いです。
なんて言えるはずもなく、あたしは言葉を詰まらせた。
「あ、あはっ、いるといえばいるような、いないような。」
自分でもそうとう意味わからない言葉がやぐっつぁんに伝わるはずもなくて、
どっちなんだよーと突っ込んでくる声にあたしはごまかすように笑ってその場を後にした。
「ごとー、トイレ行ってくる。」
慌てて出てきたはいいけど、実際はトイレになんて行きたくなくてそこらへんをブラブラしていた。
自販機のとこに出て、ちょうどいいから休んでいこって椅子に座った。
- 169 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:44
-
うつらうつらしていたら、どうにも聞きなれた声が聞こえてきて、寝ぼけ半分な頭にその言葉は飛び込んできた。
「・・・よっすぃー・・・に、告れ。絶対・・・だから。」
「でも・・・矢口・・・、マジで・・・好き・・・す。」
んぁ、よっすぃーにやぐっつぁん?
よっすぃーが告る、誰に?好きな人?
あたし、失恋決定?
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
んぁ!
そ、そんなの納得できるかぁー!
あたしが何年片思いしたと思ってるんですか?
このままぽっとでの誰かにとられてやるかぁ、絶対あげない。
- 170 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:45
-
寝起きの悪いあたしにしてはありえない速さでおきて、よっすぃーたちを探す。
頭の片隅でんぁ、人生で一番いい寝起きかもって思った。
「よっすぃー!」
「ごっちん?!どうしたの、そんなんなって。」
焦りまくってるよっすぃーにそのまま抱きつく。
絶対、みきてぃとか小川とか高橋とかにはやらない。
あたしは人生の約四分の一を片思いに費やしてきたんだから。
「あたし、あたし、よっすぃーが好き。だから付き合ってください!!」
「ご、ごっちん?」
あたしを見つめたままよっすぃーが固まる。
いつもはよっすぃーといるなら沈黙さえ心地いいけど、さすがにこれは居心地が悪い。
「な、よっすぃー、大丈夫だって言ったろ。」
そんなあたし達の様子を見てやぐっつぁんが言う。
その言葉によっすぃーが赤い顔して頷いている。
ちゃんと答えてやれよ。といってよっすぃーの背中をたたくとすぐにいなくなった。
- 171 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:45
-
「よっすぃー?」
「ごっちん。あのさ、よしざーも好きだから・・・付き合ってください!!」
へぇ?!
「よっすぃー、これからコクリに行くんじゃないの?」
普通に玉砕覚悟だったから、今いいって言ったよね?
「そうだけど、先にコクラちゃった。」
「それって・・・。」
「そうだよ。ごっちんに告るつもりだったの。」
「じゃ、両思い?」
「そ、両思い。」
嬉しくてよっすぃーの肩にぎゅーと顔を埋める。
よっすぃーも抱きしめ返してくれた。
- 172 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:46
-
- 173 名前:―遠回りの分・・・― 投稿日:2005/08/09(火) 19:47
-
「ね、いつからごとーのこと好きだったの?」
「んー、わかんない。気づいたときには好きだったってとこかな。」
「えーごとーは入ったときから好きだったのに。」
「あんま変わんないよ、たぶん。ずっと好きだったし。」
すっごい遠回りした恋だったね。
三年分くらいは余裕で無駄遣いしてたみたい。
だけどその分、これから取り戻したいよね?
これからはずっと一緒で、ずっと大好きだよ。
―遠回りの分・・・― 終
- 174 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/09(火) 19:50
-
最後がしっかりしてないのは見逃してください!!
終わりのほうが難産で、難産で(泣
電波なんです・・・。電波だから仕方ないんです(号泣
次はまこあい+よしごまです。
まぁその他いろんなものが混ざってます。
- 175 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 19:52
- ―キスマーク―
「麻琴、麻琴。」
小声で愛ちゃんがあたしに話しかけてきた。
愛しい彼女の視線を辿ってみるとそこには吉澤さんがいた。
今日もかっこいいなぁ。
少し眠そうな吉澤さんは今も小さく欠伸を零している。
じっと見ていたら愛ちゃんからばこっというほどの力で殴られた。
「痛いから、愛ちゃん。普通に痛いから。愛ちゃんがみろっていったんでしょ。」
「麻琴は見すぎやざ。いいから首んとこ見てみ。」
愛ちゃんのその言葉に吉澤さんの首筋を見る。
相変わらず真っ白な肌でまたもや見とれそうになった時、あたしはそれを見つけた。
赤い丸い痕。赤黒いと言ったほうがいいようなそれは所為キスマークという奴だった。
- 176 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 19:53
-
「あれってキスマーク?」
「相手は後藤さんやろな。昨日はオフだったし久しぶりに会ってたんに違いないやざ。」
相も変わらずひそひそと小声で話すあたしたち。
別にそうする必要はなかったんだけど、雰囲気ってやつでそうなった。
首筋にキスマークがあるってことはつまりそういうことで。
後藤さんと吉澤さんは付き合っているのだからそういうことをしたとしても全然おかしくないんだけど。
だけどあの二人がしてるかと思うと・・・。
「麻琴、顔赤い。何考えとるんや。」
愛ちゃんに冷たい視線で見られた。
でもなんか、あのお二方はリアルっていうかぶっちゃけちゃうとエロいじゃん?
あたしはその思いをこめて愛ちゃんを見つめる。
伝われ〜、伝われ〜。
- 177 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 19:54
-
「わかった、わかったから。そんな目でみんといて。」
ふうとため息をつく愛ちゃんを見て、呆れられたかなと思いつつ耳元でささやいてみた。
愛ちゃんにも着けてあげようかって。
そしたら湯気が出そうなくらい一気に真っ赤になっちゃって、可愛いなぁ〜。
あたしが第二段を発しようとしていると楽屋の戸が開いて渦中の人が入ってきた。
「よしこー、おはよー。朝なんで起こしてくれなかったの?ごとー遅刻するかと思ったじゃん。」
ぷくぅーっと分かりやすいほど頬を膨らませながら吉澤さんに文句をつける。
そしてそのまま吉澤さんのひざの上に直行。
ここまで甘えている後藤さんなんて見るのは卒業してからなかった。
んー、わかりやすいですねー。六期の子達は見たことのない後藤さんの姿に呆然って感じ。
愛ちゃんも後藤さんの余りの堂々とした甘えぶりに開いた口が塞がらないようだ。
あたしは開きっぱなしだから問題なし
- 178 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 19:56
-
「ごっちん、おはよう。だってあんまりにも気持ちよさそうに寝ているから起こしたらかわいそうかなって。
あたしのほうが楽屋入りする時間早かったし。」
後藤さんをひざの上に乗せたままでそう言い訳する吉澤さん。
おはようの挨拶がキスって日本人じゃないですよね?
平然と口付けを交わす二人を見ていると国籍が分からなくなる。もともと吉澤さんは外国人ぽいし。
鼻の下とか完全に伸びちゃって、・・・男前がだいなしですよ。
楽屋の状態なんか気にせずにいちゃいちゃし始めた二人を呆れながら見ていたら、
くいくいっとあたしの袖が引っ張られた。
んっ?っと引っ張られた先を見ると当然愛ちゃんへと繋がっていて、
愛ちゃんは顔を真っ赤にして俯いていた。
- 179 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 19:57
-
「どうかした?愛ちゃん。」
可愛いなぁ、あなたほんとに年上ですか。
あたしは溢れ出てくる煩悩を押しとどめながらいたって冷静に愛ちゃんに尋ねた。
そうするとゆっくりと赤い顔を上げて上目遣いでこう言った。
「あーしも、・・・して欲しい。」
「ひざに乗りたいって事?」
たぶんそうだろうなぁとは思ったけど一応確認してみる。
まだ耳まで赤い愛ちゃんはそれでもしっかりと頷いてくれた。
年は上だけど愛ちゃんはあたしより小さいし、体重だって軽いだろうからひざ上に乗せるのは全然苦じゃないだろう。
ひょいっと横抱きにしてひざの上に乗せる。
うわー、軽そうだなとは思ったけどここまで軽いとは。
愛ちゃんの軽さは本当に半端なくて。ちょっとあたしの体重との差を考えたら鬱になった。
- 180 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 19:58
-
「これで満足ですか、愛ちゃん。」
にこっと笑って聞いたら、「当たり前やざー。」って抱きつかれた。
横抱きにしたから顔と顔が思ったより近くてあたしはちょっとしたいたずらを思いついた。
恥ずかしがりやの愛ちゃんが驚く事決定のいたずら。
あたしは目の前にある吉澤さんに負けず劣らず真っ白な首筋に吸い付いた。
愛ちゃんが叫んでるけど気にしない、気にしない。
唇を離すとそこにはくっきりと赤い痕ができていた。
「麻琴、これどうするんやー?!今日、収録やってのに。」
「大丈夫だよー、愛ちゃん、髪長いし。あんま目立たないとこに着けといたから。」
今のあたしの顔は吉澤さんに負けない位緩んでいるに違いない。
すっと顔を上げると視界に吉澤さんたちが入ってきた。
ちなみにあそこは横抱きではなくて吉澤さんの上にそのまま後藤さんが座っているような状態だから傍目から見て非常に密着度が高い。
今だって凄い幸せそうな顔した吉澤さんが後藤さんの肩に顔を埋めている。
- 181 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 19:59
-
その仕草はするほうもされるほうも本当に幸せそうで見てるほうが自ずと視線を外したくなってくる。
むう、なんだか負けた気分になってきた。
二人の間には見えない絆みたいなものがびんびん感じられて、それは卒業とか色々なことを乗り越えたあの二人だからこそのものなのだろう。
残念ながらキャリアの違うあたしたちではまだ、太刀打ちできそうにない。
「後藤さんって吉澤さんにだとあんな風に甘えるんやな・・・。」
「吉澤さんだってすごく甘えてる感じがするよ。」
お互いが凄くお互いを信頼しているのが伝わってきて、羨ましかった。
そこまで信頼できる相手がいる事だってそうだし、そんなに信頼されることもそうだった。
吉澤さんはもともと自分の中に抱え込む人だったから、あたしたち年下メンバーには不満とかを零さない。
それを後藤さんには普通に出していることへの後藤さんへのちょっとした嫉妬とかも含まれていた。
- 182 名前:―キスマーク― 投稿日:2005/08/09(火) 20:01
-
「麻琴、うちらもあんな風になりたいのぉ。」
愛ちゃんがまたまた顔を赤くしながら言うのであたしは愛ちゃんを抱いている腕に力を込めた。
愛ちゃんの一言で、愛ちゃんへの愛しさが溢れてきた。
照れてる顔もやっぱり可愛い。
「なろうよ、絶対。」
あたしと愛ちゃんは顔を見合わせて笑いあった。ひそかに吉澤さんとも目が合ってウィンクされた。
今日のキスマークに誓った、二人で幸せになるって。
―キスマーク― 終
- 183 名前:―キスマーク― おまけ 投稿日:2005/08/09(火) 20:03
-
「なんか、美貴、亜弥ちゃんに会いたくなってきた。」
「れいな!絵里たちも負けないでラブラブしよう!!」
「れいなは絵里とじゃなくてさゆとラブラブするんです!!」
「れなは誰ともあんな恥ずかしいことはせん!」
「あたしたち、同じ五期なのに扱いが違いすぎるぅ。」
「しょうがないよ、麻琴と愛ちゃんがくっついて、吉澤さんと後藤さんもくっついたら私たちに相手はいないでしょ。」
「あっ、小春ちゃんは見ちゃだめだよ。汚染されちゃうから。」
「はい、わかりました!」
「これは入れへんな。」
「ごっちんもよっすぃーも、麻琴と愛ちゃんも人目考えなさすぎ。折角のん達が遊びにきたのに。」
「諦めるか、のの。よっすぃーとごっちんは二人の世界に入ったら戻ってこん。」
「麻琴と愛ちゃんだってどっこいどっこいだよ。」
「うちらも帰ってラブラブしよか?」
「絶対に負けないんだから!行こ、あいぼん。」 ほんとに終
- 184 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/09(火) 20:08
-
これはもう言うまでもないと思うんですが、作者の完全なる妄想です。
こんくらいラブラブだったらなぁ。という思いからできている作品です。
だから少しぐらい人格が変わってても、話かたが変でもスルーしてください。
すべては電波が原因です。
暗い話書きすぎた反動ともいえます。
さいごはれなえり、アンリアル、看病ネタです。
- 185 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:11
- ―側にいて―
久しぶりに熱を出した。
測ってみたら結構な高熱であたしは見るんじゃなかったと思いながら寝床に寝転んだ。
- 186 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:12
-
眠っていたようで時計を見るとすでに放課後の時間だった。
幼馴染である彼女は当然あたしが今日学校を休んだことを知っている訳で、あたしはひそかにお見舞いに来てくれることを願った。
「寂しい・・・。」
ちょっとガラでもないことを言ってみる。
風邪を引いたときの特有の心細さというのだろうかすごく誰かに居て欲しかった。
人肌が恋しいとは言うけれど、自分がそうなるとは思わなかった。
天井を見てぼーっとしていると、階段を上ってくる足音がして、あたしは彼女だと直感でわかった。
「れいなー、大丈夫?」
やっぱり彼女だったようで、あたしは待ちに待った人の登場に微かに微笑んだ。
- 187 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:13
-
「絵里、ちょっときつい。」
そっと額に触れてくる絵里を見ながら言った。ひんやりとした手が気持ちよかった。
彼女が思っていたよりも熱の高いあたしを、心配そうな目で見た。
あたしはその表情に心配するなと笑いかけてからゆっくりと目を閉じた。
暗闇に包まれる視界に、それでも確かに存在している絵里の手が嬉しかった。
「れいな、本当に大丈夫?何かして欲しいこととかある?」
まだ心配そうな声に耳を傾けながら、ここに居て欲しいと思った。
今日はとことんおかしな日らしく、さっきからいつもなら思わないことや感じないことが一杯出てくる。
「・・・側にいて。」
ぼそっと言ってみる。絵里が来る前に一人で言ったときより何倍も恥ずかしかった。
言ってから恥ずかしさに襲われたあたしは急いで取り消そうと思ったがそれより先に絵里が答えてしまった。
- 188 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:15
-
「いいよ、れいなが好きなだけ一緒にいる。」
目をつぶっていて見えなかったが、雰囲気から笑ったんだろうと思った。
額からすっと手が離されたかと思うと、するすると布団の中にその手は入ってきてあたしの手を掴んだ。
ぎゅっと強く、だけど優しいその感触にあたしはなんだか泣きそうになってしまった。
「れいなってさぁ、昔からだよね。風邪引くと甘えたになるの。」
くすくすと微笑みながら言う声にあたしは押し黙ってしまう。
彼女はいつもは年上だなんて信じられないのに、こういう時は不思議なほど頼りになってあたしのして欲しいことをしてくれる。
そういえばあたしが今日のように休んだ日はいつも彼女がお見舞いに来てくれた。そしてそのまま泊まっていくなんてのも普通だった気がする。
- 189 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:16
-
「・・・今日、泊まってく?」
いくらおかしい日だからと言ってもやはり恥ずかしいモノは恥ずかしいわけで。
本当は泊まっていってと言いたいけどもともと恥ずかしがりなあたしには言えるはずなくて、言葉を濁した。
そんなあたしの素直じゃない会話でも絵里はしっかりとあたしの言いたいことが分かったらしく、片方の手であたしの頭を撫でながら即答してくれた。
「うん、泊まってく。れいな、一人じゃ嫌でしょ。」
あたしはその言葉に目を開けて、絵里の顔を見る。そこにはさっきまで想像していた通りの絵里の優しい笑顔があった。
ベッドの側に膝間づいてあたしの顔を覗き込んでいる様子にあたしは思わず笑みがこぼれた。どうやら彼女はとことん甘えさせてくれる気らしい。
「絵里、ありがと。」
ありがとのあとでごほごほと咳き込んでしまったあたしを見て、わたわたとする彼女。
その焦りようがおかしくて、ますます咳き込んでしまう。背中をさすってくれる彼女の手がまた気持ちよくて仕方なかった。
- 190 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:18
-
「あ、絵里ね、一回家に帰るね。明日の準備と着替えだけはしないと。」
咳も大体収まったあたしに向かって彼女が言う。
あたしはその途端にまた寂しくなってしまって彼女の制服の袖を掴む。
頭ではそんなに大したことではないとわかっていても、ほんのちょっとの間さえ一人になることが嫌だった。
絵里の家は隣だし、着替えとかぐらいなら十分も掛からないだろうとも思った。
袖を離さないあたしの様子に彼女はちょっとだけ困った顔をした。
「れいな、すぐ来るから。ね、手離して。」
いやいやするように頭を横に振る。
彼女はますます困ったような顔をしたけど、すぐにしょうがないという様な表情になって元の位置に座りなおした。
袖を掴んでいた手を逆に握られた。
- 191 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:19
-
「ほんと、病気のときだけ甘えんぼだよね。れいなって。」
少しだけ呆れたような声で言われた。
でもこの年になっても直らないのは結局は側にいてくれる絵里のせいでもあると思う。
それを口に出すのは面倒くさくて視線に想いをこめて見つめてみた。
すると絵里は苦笑してあたしに目を向けた。
「寝るまで、いるから。寝たら家に行ってくるね。」
その言葉にあたしは頷き、右手に絵里の手の感触を確かめながら眠りにつこうと再び目を閉じた。
- 192 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:20
-
- 193 名前:―側にいて― 投稿日:2005/08/09(火) 20:21
-
次に目を開けると夜中だった。
「あちー、だるー、あちー。」
熱は下がったようだったが、代わりにだるさが倍増していた。
ふと自分の手が繋がれたままなのに気づくあたしの右側には絵里が寝ていて、穏やかな寝顔に目を奪われた。
約束を守ってちゃんと一緒にいてくれたことが単純に嬉しかった。
月明かりに照らされる彼女の綺麗な輪郭を手でなぞる。
こうして寝ていると本当に自分より年上なのかと疑ってしまう。
だけど愛しい彼女であることには違いなくて、幸せな気分になってくる。
「ありがと、絵里。」
今日一緒にいてくれて、そう呟いてからベッドに潜り込む。
そうしてふとまた思い出したのは小さい頃から続く二人の思い出で、
その中に今と変わらず一緒に寝ている二人がいて、
しかもあたしはしっかりと次の日には直ってて今も昔も一番の薬は絵里なんだと苦笑した。 終
- 194 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/09(火) 20:27
-
実は自分いつもは強がってるのに風邪とかそういう時は
絵里に凄く甘えるれいなが好きですから・・・。
書いといて自分でなんてマニアックなんだと思いました(笑
最後が弱いのはもう吉よしメン後の短編の特徴と言っていいかもしれない。
最初はすらすら書けても落ちで詰まります。
- 195 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/09(火) 20:27
-
- 196 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/09(火) 20:28
-
次は必ず長編の更新をします!!
皆さん、見捨てないで・・・。(泣
- 197 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 00:06
- どの短篇も甘くて、読んでいてにやけそうになりましたww全部大好きです!!
これら短篇の続きなどまた読みたいです(^^)
- 198 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/11(木) 23:07
- 更新お疲れ様です。
よしごまいいですねぇ〜。
弟子に頼りにされてる矢口さん。さすが師匠ですね。
自分田亀は範囲外だったんですが・・・作者さんのを読んで田亀もいいなぁと。
次回更新まってます。
いつも似たような感想ですみません・・・。
- 199 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/18(木) 23:16
-
す〜み〜ま〜せ〜ん!
帰省のせいでどうにもこうにもうpできませんでした。
持ってったノートPCは繋がらないし、携帯も圏外だし・・・。
今までで一番遅れたにも関わらず量はちっとも変わってません。
待ってくれていた読者さんほんとうにすみません。
197>>名無飼育さん
短編、良かったですかね?!
すたすら甘くをモットーに書いた奴なんでそう言ってもらえると嬉しいです。
続きは・・・また電波が降ってきたときか、長編が終わったときになると思います。
それまで長編で我慢してください。
電波の神様(カオリン)にお願いしときます。
198>>名無し飼育さん
よしごま、頑張りました。
推しカプなのに書くのが苦手・・・。
よしごまは難しいです。雰囲気とかが。
それに比べて矢口さんは動かしやすくて助かります。
あそこの師弟愛は永遠です。
好みが分かれる三つだったと思うんですが、どれも気に入ってくれたようでよかったです。
いつも感想ありがとうございます。
貰えるだけですごく舞い上がってます。
さて二週間ぶりくらいの更新です。
どぞっ!
- 200 名前:吉―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:21
-
加護と辻は結局吉澤の家に居候することになった。
もともと吉澤家のための二人の家系だったし、加護と辻は二人とも吉澤と一緒にいることを希望していた。
疑いの晴れた二人はどんどん周りと仲良くなっていった。二人の人懐こい性格は大いにそれに貢献していた。
それに加護と辻の能力の高さに誰もが舌を巻いていた。
羽衣の家系の中でも特に特殊な家系であった両家は能力を使うので精一杯という人もかなりいたのだが、この二人は教えてもらったわけでもないはずなのに完璧に使いこなせていた。
- 201 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:23
-
「のんちゃん達って何であんなに力強いんや?」
「不思議ですよね〜。羽衣の家系は普通抑制に力を割くから戦闘能力はそんなにないはずなのに。」
高橋と道重はとくに加護と辻の能力の高さに驚いている人物だった。
同じ系統の家系というせいもあって二人の戦闘能力の高さは信じられなかった。
その力は高橋と道重の上を軽く越えていた。
加護と辻は戦闘能力を重視する魂分けの家系と比べても謙遜ないくらいだった。
それで抑制の能力も完璧というのだから最初知ったとき、高橋と道重は本当に絶句した。
今だって加護と辻は田中と亀井の相手をしている。
普通だったら、例えば高橋と道重の二人が田中達と、加護達がしているように試合をしたらどうやっても勝てはしないだろう。
それなのにあの二人は易々と勝ってしまう。
- 202 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:24
-
「加護さんはれいなと絵里には実戦経験がないから勝てるって言ってましたけど、さゆにはどっちみち無理な話です。」
「そうやなー。あーしも無理っぽいなぁ。っていうか勝てるほうがおかしいんやで、重さん。」
羽衣の家系の最大の役割ははっきり言って魂の抑制だ。極端にいうならそれさえできていれば特に問題はない。
あとは天女と魂分けの家系が何とかしてくれる。だから羽衣に戦闘能力はそれほど求められない。
- 203 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:25
-
「だから勝てなくたって全然平気なんやよ。」
おそろいだーと喜んでいる道重に対して高橋が説明する。
それでも道重の顔は緩んだままで、にこにこと高橋を見ている。
「おそろいには変わりないじゃないですかー。高橋さんも喜んでくださいよ。」
その様子にちょっと呆れながら、高橋は自分よりも十センチ近く高い道重の頭をなでる。
結局は道重が嬉しそうな顔をしていると高橋も嬉しいのだ。
「はいはい、うれしいがしー。重さんと同じやよー。」
「気持ちが入っていませんー。」
加護と辻がやってきてからの短い安息はこうやってのんびりと過ぎていった。
- 204 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:25
-
- 205 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:26
-
「加護さんたち、強すぎっとー。全く歯が立たんかったっちゃ。」
田中は隣で一緒にばてばてになっている亀井に話しかける。
昼からぶっつづけで行われた田中達の訓練はつい先ほどまで行われていて、亀井はその時間でかなり力の出し方を学んだ。
今までは亀井が力を発揮できていなかったため、戦闘には繰り出されなかった田中達もとうとう次から戦闘についていくことになった。
その為にもう一度訓練のしなおしを中澤から言い渡されたのだ。
「れいな、訛り完全に出ちゃってるよ。」
「いいとー、絵里しかおらんし。こげん疲れたの久しぶりたい。」
亀井がくすくすと笑って、田中の傍による。といっても二人とも布団に寝転んでいたのでくるんと一回転しただけなのだが。
田中は目だけで亀井の動きを追う。
今までそこまで厳しい訓練の必要のなかった亀井のほうが断然疲れているはずなのだが亀井の表情にそれはあまり浮かんでいなかった。
- 206 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:28
-
「しょうがないよ。だってれいな特に動き回ってたもん。」
亀井が田中に覆いかぶさる。
思いっきり上から乗ったせいか田中はぐぇっと、ちょっと年頃の乙女とは思えない声を上げた。
かなり痛かったのか目は潤んでいて、今にも水滴が零れ落ちそうだった。
「ちょ、絵里。思いっきり乗りすぎと。」
「そういえばさー、なんでさゆは訓練しなくて良かったの?絵里たちが加護さんたちに追い掛け回されてる間ずっと楽しそうに高橋さんと話してたじゃん。」
羨ましいと不満を漏らす亀井に田中は仕方ないなぁと思いながら周りを見渡す。
魔が差した田中はいつも驚かされてばかりの亀井にちょっとした仕返しをしようと思ったのだ。
ここは九州地区の三人に割り当てられた部屋だったが、今は道重が不在のため田中と亀井の二人きりだった。
- 207 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:29
-
ここは不意打ちで、ほっぺぐらいならいいっちゃよね。
絵里が聞いてきたら疲れで朦朧としているとかで誤魔化そう・・・。
「絵里、こっちむくっちゃ。」
亀井が振りむく瞬間にちゅっと。
田中の予定ではそうなっていた。これで亀井の機嫌もよくなり、よって変に要求されることはなくなるはずだった。
しかしこういう事にはとことん運のない田中のたくらみが成功するはずがなかった。
「何ー?」
亀井が振り向く。今だっと田中は顔を近づける。
ちゅっと音がして田中の唇が触れる。
・・・亀井の唇に。
- 208 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:29
-
田中がしまったと思ったときにはもう遅かった。亀井の目が輝きだす。
それはもうお肉を前にした藤本のように、完全に獣の目だった。
「れいなー、はじめてじゃん。れいなからキスしてくれるなんて。」
満面の笑みに恐怖を感じるのは何故なんだろう。田中は引きつった笑いしか出なくなった。
これはただでは済みそうもない。
その日、道重は結局高橋の部屋に泊まったため帰ってこなかった。田中にはそれだけが救いだった。
- 209 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:30
-
- 210 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:31
-
田中にとって厄日以外のなんでもなかった日の次の日、藤本と松浦は中澤からの依頼で加護と辻が今まで住んでいた神社の調査に来ていた。
調査といってもなにか残っている資料はないか見てくるだけのもので危険性も低そうだったため羽衣の家系の高橋は残してきた。
こういった調査などは普通小川と紺野でしてきたのだが今回は矢口達のことで手が離せない為藤本達に回ってきたのだ。
そして今鳥居をくぐって、藤本は高橋を連れてこなかったことをものすごく後悔していた。
- 211 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:32
-
「亜弥ちゃん、大丈夫?持ちそう?」
犬なのか狼なのか定かではないが普通ではないものに囲まれていた。
天女総家の中で獣と言われているやつだった。加護家と辻家を滅ぼしたとされているものたちだ。
「なんとか・・・。でもたんこそ大丈夫?」
鳥居をくぐった瞬間にまるで最初からそこにいたかのように現れた獣。
一匹では力も弱く大したことないのだが集団で来られるととても厄介な相手だった。
そこに高橋がいないという悪条件が重なるとますます危うくなる。
高橋がいなければ全力を出せない。
特に松浦は能力を使うのに高橋の存在が必要になってくる。
藤本は魂分けされた魂からの力を使わなくても自分の能力だけでも十分闘えたが。
定着のために少しでも力を残さなければなかった。
- 212 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:34
-
「だてに最強は名乗ってないから。」
拳に力を乗せて近寄ってくる獣を思いっきり殴る。吹っ飛ばされていくのを見ながら藤本はどうしようかなと少し考えた。
鳥居をくぐった瞬間に現れたのなら召喚系の術だったのだろうか。それならこれ以上は数が増えることはないだろう。
しかし逃げることもできない。
そこまで考えて自分の中で分け魂が不安定になっていることに気づく。
―この揺れ方ってちょっとやばいよね。亜弥ちゃん、限界だ。
藤本の背中を冷や汗が伝う。
松浦は吉澤の影で魂の大きさはそんなに注目されなかったがそれでも通常よりはかなり大きな魂を持っていた。
その松浦が羽衣なしでこんなに力を使えば当然負担も大きくなる。
―取り敢えず休まないと。
藤本は周りを見渡す。
何か隠れるモノはないか探すが神社にそんなものがあるわけもなく、藤本と松浦の取れる道は一つだけだった。
- 213 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:35
-
「亜弥ちゃん!こっち。」
松浦の手を取り、一緒に駆け出す。松浦は呼吸が荒く、走るのもかなり辛そうだった。前を獣で塞がれるたびに殴り蹴り進んでいく。
もちろん松浦には能力を使わせない。そして獣の壁を突破し、目の前が開けたら松浦を藤本が背負う。
「きゃっ、美貴たん?あたし、走れるよ。」
「こんなに分け魂が不安定になってる人を走らせられるかっての!」
一目散に戸を開けて中に飛び込む。鍵を閉めて、急ぎに急いで藤本が結界をはる。
これは松浦の能力だったので当然松浦のほうが得意なのだが今の松浦にそんなことはさせられなくて、それに不安定な分け魂の能力を使うのも結構危ないのだが松浦にさせるよりはましだった。
- 214 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/08/18(木) 23:37
-
「はぁっ、これでしばらくは大丈夫そうだね。」
藤本が松浦の傍に行って横に座る。松浦の様子はさっきに比べれば凄く楽そうになっていた。
外からはドンッとかガリガリッとか不吉な音がしていたが松浦さえ安定して張りなおせば破られることはないだろうと藤本は思っていた。
「さて、どうしよっか。取り敢えず連絡つけるね、愛ちゃんを送ってもらう。」
藤本は携帯を取り出して電話をかける。
松浦は探査、結界、圧力の能力を持っていた。
高橋がいれば結界の能力で獣全ての動きを止め、それを藤本が倒せばいいことなのだが、やはり高橋を置いてきたのがまずかった。
これからは仕事に行くときは必ず高橋を連れてこようと思った藤本だった。
- 215 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/18(木) 23:52
-
( ‘д‘)<加護と辻の用語説明〜!
( ´D`)ノパチパチ<ドンドン、パフパフ!!
( ‘д‘)<今日はこれ!!『分け魂』の説明やで。
( ´D`)<ヒューヒュー!
( ‘д‘)<早速ですが〜、のん!!これなんて読む?わからんなんてことないよな〜。
(;´D`)<そ、そんなわけないじゃん。わかるよ。
( ‘д‘)<そか、そか。じゃ、読んでみ?
( ;D;)<う、うわ〜ん。あいぼんがいじめるぅ〜。
(*‘д‘)<わかった、わかったから。泣きやまんかい!!(泣くと誰だかわからん・・・。)
( ´D`)<あ、そう。んでなんて読むの?
(*‘д‘)<嘘泣きかよ!まぁ、ええとして。これはなぁ、『わけたま』って読むんや。
( ´D`)ノ\メモメモ<へ〜、そうなんだ。
- 216 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/19(金) 00:08
-
( ‘д‘)<羽衣の家系なんやから、これぐらいはしっとこな。
( ´D`)ノ<は〜い、わかりました!
( ‘д‘)<分け魂は魂分けの家系が天女の家系から分けられた魂のことや。
魂分けの儀式のあとは常に魂分けの家系と一緒や。
(?´D`)<あいぼん、質問!ミキティが「分け魂が揺れる。」って言ってたけど・・・。
( ‘д‘)<いい質問や。分け魂ってのは本体の魂、つまりミキティだったら亜弥ちゃんの魂と
繋がってるんや。
( ´D`)<うん、うん。それはわかる。分けられても元は同じ魂だもんね。
( ‘д‘)<そや。やから本体の魂が不安定になると分け魂にも同じ現象が起こる。
(;´D`)<不安定になるってこと?でも定着させてるときは大丈夫なんじゃ・・・。
( ‘д‘)<定着させてるから本体の不安定さにより敏感になるんや。
魂分けなんて暴走させないためのもんやからな。
( ´D`)<なるほどねー。分け魂は暴走探知機みたいなものかぁ。
( ‘д‘)<おっ、うまいこと言うな。その通りで、魂分けの家系はこれで暴走を知るんや。
- 217 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/19(金) 00:17
-
(?´D`)<でも、田中ちゃんは亀ちゃんとき分かってなかったよね?
( ‘д‘)<あれは特殊な例って奴やな。まず暴走じゃないし。
( ´D`)<そっかー、そうだよね。あれは力の発現だったんだけか?
( ‘д‘)<普通は能力が分かってから魂分けなんやけどな・・・。
亀ちゃんは魂の大きさの割には能力の発現が遅かったみたいやな。
( ´D`)<ふーん、でも分け魂って便利だよねー。
( ‘д‘)<確かになぁ。定着とか色々面倒くさい所もあるけどその分使える。
( ´D`)<天女の能力も使えちゃうんだもんね。凄いよ。
(川‘д‘)<でもな、のん。分け魂を使うのは危険性も潜んでるんやで。
- 218 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/19(金) 00:31
-
(;´D`)<えっ、どんな?
( ‘д‘)<まず、負担は天女の家系にいく。分け魂やから本体が能力を使うよりは軽いんやけど、
それでも負担は掛かる。
(;´D`)<じゃあ、ミキティが分け魂が揺れてるのに能力を使ったのは、かなり危険?
( ‘д‘)<あれは長年の経験やな。どこが本体の、分け魂の限界か。それがわかっとらんとできん。
今まで多くの戦闘をしてきたミキティと亜弥ちゃんやからできたんや。
( ´D`)<凄いじゃん。ミキティたち。
( ‘д‘)<だから最強や。あと本文でも言ってる通り、分け魂の能力は少し弱くなる。
所詮、人の能力やからな。
( ´D`)<魂分けの家系は独自の能力を持ってるからね。ほとんどそっちなんじゃないかな?
( ‘д‘)<能力にしても、道具にしても使い慣れてるのが一番や。
( ´D`)<今日はこのくらいかな?
( ‘д‘)<分け魂のことわかってくれはった?
( ´D`)シ( ‘д‘)シ<<それじゃあ、また次回!!ばーいばーい。
- 219 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/19(金) 00:31
-
- 220 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/19(金) 00:32
-
- 221 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/08/19(金) 00:34
-
次回はなるべく早くに。
休みが終わっちゃいましたが頑張ります。
最後に一言、感想下さい(泣
- 222 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/19(金) 02:03
- 更新乙です。ミキティの実践慣れしてて、かっこよかったですwwいいな亜弥ちゃんは(笑)
またあいぼん達の用語の説明も面白かったです。
- 223 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/19(金) 15:42
- 更新お疲れさまです。 最後の用語説明でかなり分かりやすいです!Ь 次回更新待ってます。
- 224 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 23:35
- 更新お疲れ様です。
藤本さんかっこいい!
そして、田亀最高!!最近すっかりハマってしまいました。
次回更新待ってます。
- 225 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/03(土) 22:20
-
休みって偉大ですね・・・・。
あれよあれよという間に二週間が過ぎていました。(泣
お待ちになっていた方、すみませんでした。(ボソっ いるのか?
222>>名無飼育さん
ミキティにはヘタレないように頑張ってもらってます。
藤松はどうしてもまっつーが強くなりそうで。
松浦さんには今回恋人を立たせてもらいました。
用語は本編で重要人物にもかかわらず目立たない二人の見せ場です!!
好きな二人なので結構力入れてる・・・はずです。
223>>通りすがりの者
楽しんでもらえたなら良かったかとw
待っていてもらえたのに遅い更新ですみません。(泣
224>>名無し飼育さん
藤本さんはまっつー以外には最強です。最恐?
二人が一緒だと最高です。えぇ、藤松も大好きです(爆
おぉ、初めて自分の趣味に人を引きずりこんでしまいましたw
田亀は色々な形があって楽しくて仕方ありません。
ではでは、前回の続きです。
窮地に追い込まれた藤松、まっつーはどうなってしまうのか!?
なんだこのフリ・・・。
- 226 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:23
-
「はい、はい。中澤姉さんやでー。おっ、藤本。仕事はどや?」
小川の耳にそんな会話が入ってきたのはちょうど三時のおやつを食べようと紺野と一緒に居間に出てきたときだった。
そのときは小川も紺野ものほほんとして買っておいたかぼちゃのタルトを目の前にして幸せに浸っていた。
「これおいしいねー。やっぱ高いだけあるよ。」
「そうだね。新潟じゃ売ってないようなものも売ってて、本当にここに来てよかった。」
食べてみたらやっぱりおいしくて、ふたりは頬を緩めた。
そしてねーと二人で頷きあっていたところに中澤の焦ったような声が聞こえてくる。
その様子から何か問題があったなと感じた二人はお互いに目配せあって、ちょっと残念に思いながらも大好物のそのお菓子をさっさと食い上げた。
「小川、あんた吉澤と亀井を呼んできい。あと紺野は高橋とそやな羽衣に集まれって言うてこい。」
「「はい。」」
- 227 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:24
-
- 228 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:25
-
「緊急事態や。今日、松浦と藤本が加護と辻の神社に行っとるのは知っとるよな?」
中澤が全員を前にして言う。
小川と紺野は指示されたとおりに人を集めていた。
吉澤に用件を伝え、小川が今度は亀井を呼びに行ったときに亀井と一緒に田中もいて緊急で集まれとの中澤の言葉を伝えた。
そうしたら一晩で随分やつれたように見える田中も亀井と共に行くと言いここに来ていた。
亀井は逆に元気が有り余っているという感じなのにどうしたんだろうと小川は不思議に思った。
紺野のほうは高橋の部屋に行ったら道重が、加護の部屋に行ったら辻がいたので楽に呼び集めることができた。
- 229 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:28
-
「そこで獣に襲われとるゆう連絡が来た。至急高橋を寄こしてくれとのことやった。
だから高橋、九州地区の三人を吉澤の能力で神社に送る。九州の三人は初戦やからがんばれ、まぁほぼ見とるだけになると思うで。
一人やときつい思うから吉澤は小川と協力で、加護と辻も側でしっかりと抑制したってや。」
矢継ぎ早に出される指示に全員が少し混乱しかけたが、それぞれの役目をちゃんと頭にいれた。
田中、亀井は昨日の訓練がいきなり現実になってしまったように感じられてどうにもこうにも緊張した。
道重も初戦というのは変わりなかったが自分の役割はいつもと変わらないので他の二人よりは緊張していなかった。
高橋は着いていかなかった自分を責めていた。
今まで戦闘があるときは自分も必ず着いていっていたのだが、こっちに来てからは大規模な戦闘もなく油断していた。
あの二人なら大丈夫だという思いがなかったわけでもないが、それでも羽衣がいるのといないのでは戦闘力にかなりの差が出ることを高橋は知っていた。
- 230 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:28
-
- 231 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:30
-
「すぐ寄こしてくれるってさ。」
藤本が携帯電話を切り松浦に言う。
吉澤の能力は空間を繋ぐことだ。離れている場所と場所をワープできるように繋いでしまう簡単に言えばそういう能力だった。吉澤の作った穴を通れば誰でもそこに行く事ができる。
何処へでも繋げられるし、誰でも、何でも飛ばせられた。距離があればあるほど操作が難しかったが他の制約は何にもなかった。空間も時間も世界さえも関係がなかった。
ただ一つの難点は想像ができない場所には繋げられないことぐらいだった。
「美貴たん、ごめんね。能力使えないと何もできなくて。」
松浦が少し落ち込んだ顔をして告げる。だが藤本は松浦に苦笑しながら答える。
- 232 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:31
-
「いいよ、亜弥ちゃんを守るのは美貴の仕事。」
―逆にそれ位させてもらえないと、美貴がいる理由がなくなっちゃうじゃん。
松浦には恥ずかしくて言ったことはないがそれは藤本の魂分けの儀式のときからずっと変わらない思いだった。
松浦の能力はほぼ万能に近く相手の距離に関係なく対処することができる。
はっきり言って高橋さえいれば松浦は誰にも負けることはないのだ。
しかし藤本は誓った。
あの魂分けの場で、松浦にそしてなにより自分自身に松浦の側でずっと守り続けていくと。
それは松浦の望んだことでもある。
二人とも壁に寄りかかったまま体育座りをして手を強く絡ませる。
そうやって言葉少なに話していると気分が落ち着いてきて、絶対大丈夫だって気持ちになってくる。
これは二人の以前からの、魂分けする前からのおまじないだった。
- 233 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:33
-
天女の魂も大分安定してきたがそれだけでこの状況をひっくり返せるはずがなく、しかも外の状況は全然変わっていなくてむしろ酷くなっているような感じさえ受ける。
戸や壁がみしみしと軋み今にも獣たちの侵入を許してしまうかと思われた。
そこに救世主が現れる。
突如開いた真っ暗な穴からなだれ込むように人が出てくる。
初めて見るその現象に最初は目を見張った二人だったが吉澤のことを思い出して納得する。
「いっつぅ〜。もう少ししっかりと着地できんもんやの?!大体、皆背中によっかかりすぎや。」
「すみません高橋さん。だってさゆ高橋さんと一緒がいいんでv」
「あのさ、絵里、そろそろどいてくれる?下の人が起きられないよ。」
「えー、ここまでくっつくの珍しいのに〜。もうしょうがないなぁ。」
- 234 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:35
-
高橋の上に道重がぴったりとくっついていて、そこに少し重なるように田中と亀井が倒れている。
その場で出た言葉は戦場の真っ只中にしてはいささかのん気すぎた。
さきほどまで後悔とか緊張をしていた人たちの姿はもう既になく、皆が自然体そのままだった。
その様子に唖然としていた松浦と藤本だったが、ますます激しくなってきた体当たりの音に我に返り高橋の側による。
もう立ち上がりかけていた亀井と亀井に起こされた田中、そしてその下で未だにひっくり返っている高橋と道重を起こす。
「愛ちゃん、間に合ってよかった。もうここ限界なの。」
「すぐに亜弥ちゃんが結界を張りなおすから、抑制してくれる?歌わなくても大丈夫だから。」
高橋がこの場所に来たことにより松浦の能力の操作が断然しやすくなった。
松浦は高橋が来るまでのまるで錘がついたような感覚からやっと開放されて、のびのびと能力を使うことができた。
松浦は破られそうだった結界をすぐさま張りかえる。
その瞬間にさっきから響いていた家鳴りがぴたっと止んだ。松浦も藤本も成功した様子にほっと息をついた。
- 235 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:36
-
「さて何でれいな達までいるかはわかんないけど、これで外の奴らを思いっきり殺れる。」
「まつーらも思いっきりできる!やっぱさきのままじゃやだね。」
松浦が本当に嬉しそうに声を上げる。
押されたままでいることは自分自身のプライドが許さなかった。
今までの訓練や実戦をしてきて、天女総家最強と呼ばれてきたのは魂の大きさだけのおかげではなくて根底にはいつも松浦の努力があった。
藤本も高橋も松浦が影で努力していることは知っていた、だから自分達も負けないぐらい努力してその結果が北海道地区の最強という称号だった。
- 236 名前:―巻き込まれし者― 投稿日:2005/09/03(土) 22:38
-
「あの、絵里達は何すればいいんですか?」
亀井がちょっと怖がりながら聞く。松浦も藤本も目が爛々と輝いていて怖かった。松浦の口が開く。
亀井はそこから出てくる言葉が自分たちには太刀打ちできない重さを帯びていることを感じて体を震わせた。
「見てて。終わるまで、しっかりと。」
松浦が結界から飛び出した。
ぽんと田中の肩を叩いて藤本が松浦に続く。最後に高橋が道重に目をやってすぐに松浦の側に走っていった。
それぞれがそれぞれを見ていた。田中は藤本、亀井は松浦、道重は高橋を。
「凄いね。」
「・・・そうっちゃね。」
「あれが、『最強』なんだね。」
最強の名を持つ彼女らは、彼女たちを追いかけ始めたものから見ると手が届きそうもなかった。
いつか自分たちも登る高みはこの頃、何よりも遠かった。
獣たちはほんの数秒で塵に返った。
- 237 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/03(土) 22:41
-
- 238 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/03(土) 22:42
-
- 239 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/03(土) 22:47
-
今回は特に少ないかもしれない・・・。
加護と辻の用語説明はお二人が多忙のためお休みですw
なんとか!やっと!!自分のほうで終わりが見えてきました。
まだ長く掛かりそうな予感がしますが、今しばらく付き合っていただけたらと。
更新速度のまちまちなスレですがよろしくお願いします!!!
- 240 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/04(日) 00:16
- 更新お疲れさまです。
難を逃れましたね(フゥ
この先どうなるか楽しみです。
次回更新待ってます。
- 241 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/12(月) 12:00
-
またもや遅い更新・・・。
しかも短編です。
長編が詰まって、詰まってどうにもなりそうにない〜。(泣
もう少し、お待ち下さい。
今週末には、どばっと・・・。
うん、今週末には大量に更新するはず、です。はい。
240>>通りすがりの者さん
感想ありがとうございます。
今まで目立たなかった人たち大活躍編でした。
のろのろなスレですがこれからもよろしくお願いします。
まず一本目です。まこあい微妙にれなえり。
- 242 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:02
-
―好きな人―
「愛ちゃん、ごめん。ごめんって。わざとじゃないんだよ。」
「知らん。麻琴なんてもう知らんって。」
必死に謝る麻琴を置いて、愛はどんどん歩いていってしまう。
麻琴はどうしてこうなったんだろうと少し前、楽屋での出来事を思い返していた。
- 243 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:04
-
今日の仕事は写真撮影で一人ひとり順番にスタジオに入ったり、インタビューに答えていたりしていた。
それでたまたま楽屋で麻琴とれいなが一緒になった。麻琴はれいなと話したり、雑誌を見たりして過ごしていた。
そして麻琴が写真撮影に呼ばれたときそれは起こった。
―ガタッ
「うわっ、た、田中ちゃん。あぶなっ」
「ちょ、ちょっとまこっちゃん。」
チュっと可愛らしい音が響いた。
あっと思い麻琴が離れた時には既に遅かった。
麻琴が椅子に足を引っ掛けて座っていたれいなに倒れていってしまった。
その勢いで田中の口にキスしてしまったのだ。
- 244 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:05
-
((ヤ、ヤバッ!))
「ごめん、ごめんね。怪我ない?」
「いや、大丈夫です。れなの方こそすみません。」
二人そろってお互いにペコペコと頭を下げている様子はかなり間抜けだった。
―ガタッ
また音がした。だが今度は誰もつまずいてないので、二人とも首を傾げる。
そして戸のところに立っている二人を見つけた。見た瞬間にそろって青ざめる。
「あ、愛ちゃん。」
「え、絵里。」
「麻琴(れいな)のあほぉ(ばか)ー。」
・・・。
そしてそのまま誤解は解けずに今に至る。
- 245 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:06
-
- 246 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:07
-
彼女のことは大好きなのにヘタレな自分をどうにかしてしまいたくなる。
今だってもうちょっとで手が届くのに、手を伸ばすことさえできない。
「麻琴なんて、結局あーしのことなんてどうでもいいんや。」
泣き出しそうになっている彼女を見て、また自己嫌悪する。
・・・だって一番泣かせたくない人なのに。いつも彼女が泣くのはあたしのせいで。
- 247 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:08
-
「なんでそんなこと言うの。あたし愛ちゃんが一番なのに。」
「嘘や。麻琴は吉澤さんが好きなんや。休憩時間だって、あーしのとこには全然こんし・・・。」
「そりゃ、吉澤さんのことは好きだけど、それは憧れっていうか。」
あー、なんであたしは彼女に好きだって言えないんだろう。
喉元まで出掛かっているのに、彼女に伝えられなくて。
その一言でこんな喧嘩はすぐに終わらせることができるのに。
あたしが何も言わないのを見て、彼女がとうとう泣き出す。
下を向いてしゃくり上げる姿はこんな時だけどとてもかわいくて、綺麗で。
そんなに想ってるなら伝えてやれよと吉澤さんにも言われた。
なのにやっぱりあたしは彼女を抱きしめることができなくて、肩に手を置くだけで精一杯。
- 248 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:10
-
「泣かないで、愛ちゃん。」
ありきたりな言葉しかかけられない。
彼女は泣いてくれるほどあたしを好きでいてくれるのに、なんであたしはこうもダメダメなんだろう。
「麻琴が、好きや。麻琴が好きなんやぁ。ぐすっ、麻琴のぉ、一番やなくっても好きや。」
泣いてるのにそれでも気持ちを伝えてくれる彼女。
愛ちゃん、違うよ。
あたしの一番はずっと愛ちゃんなんだ。
あたしも愛ちゃんが一番好きだよ。
伝えられない気持ち。
だけどここで言わなきゃ、彼女は本当に離れていってしまいそうな気がした。
神様、あたしに勇気を下さい。
「愛ちゃん。あたしも・・・・一番好きだよ。」
- 249 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:10
-
- 250 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:12
-
「愛ちゃん、落ち着いた?」
あの後、なぜかもっと泣き出した愛ちゃんをあたしは必死に慰めて、今やっと落ち着いてきたところだった。
泣いたせいでまだ赤いほっぺとか、少しはれてる瞼とかにときめいてしまったあたしはかなりやばいんではないだろうか。
「うん、大丈夫や。・・・それより、麻琴?さっきの言葉ほんとなんやろ?」
「うん、ほんと。愛ちゃんが一番だよ。」
神様がくれた勇気はその場限りのものだったようで、あたしはまたもや好きという単語を口に出せなくなる。
それでも愛ちゃんは微笑んでくれた。
- 251 名前:―好きな人― 投稿日:2005/09/12(月) 12:13
-
「愛ちゃん、ごめんね。」
「いいって仕方なかったやよ。分かってたんけど、やっぱ嫌やった。」
彼女の表情は久しぶりに見た気がする満面の笑顔に変わってて、これまでどんなに不安にさせてたか気づいた。
でも愛ちゃん忘れないで。
あたしの好きな人リスト、一番上に載る名前は常に変化しないから。ずっと大好きだから。
それを今度はいつか伝えたいと思った日だった。
終
- 252 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/12(月) 12:19
-
なんか今読み直したら、かなり甘かった?
いや、何が書きたかったかって言うとラブラブヘタレ風?
むしろヘタレ風ラブラブ?
れいなのほうはどうなったとかは自己完結で。
お願いしますw
きっと負けないぐらいラブってるでしょう(遠い目
二本目はマイナーです。
れなさゆ。
れな受け風味。
- 253 名前:―足りないモノ― 投稿日:2005/09/12(月) 12:21
-
手を握りたいのも、くっついていたいのも、好きなんだから仕方ないでしょ?
だからそれができないあたしは今結構欲求不満。
―足りないモノ―
- 254 名前:―足りないモノ― 投稿日:2005/09/12(月) 12:22
-
楽屋で周りをきょろきょろ。
いつもは鏡に向かっているあたしの視線は部屋の中を動き回っている。
「れいなぁ?」
あたしより先に収録を終えた彼女は普通ならこの場所にいるはずで。
―話したいのに。なんでいないかな、れいなは。
あたしの彼女は照れ屋で、そこもかわいいんだけど、もうちょっと積極的になって欲しい
- 255 名前:―足りないモノ― 投稿日:2005/09/12(月) 12:24
-
「さゆ?何しとると。」
「れいな。」
れいなはいつものちょっと不機嫌そうな顔で楽屋の入り口に立っていた。
もうちょっと、喜んでもいいんじゃない?
こんなに可愛い彼女が楽屋で待ってたんだから。
とことこと歩いて、れいなの手を握る。
「な、何すっとー。」
「れいなの手、にぎっちょる。」
真っ赤になってあたしを見上げてくるれいなの頭をもう片方の手でよしよしと撫でる。
かわいい。
自分以外でかわいいって言葉使ったことなかったけど。
- 256 名前:―足りないモノ― 投稿日:2005/09/12(月) 12:25
-
「れいな、大好きー。」
今度は抱きついてみる。
あたしより小さい体はすぽっとあたしの腕の中に収まってしまう。
ふわっとれいなの匂いがして、あたしは安心する。
「さゆ?」
やばい。
こんなかわいいあたしには似合わない言葉だけど、やっぱやばい。
かわいすぎる。
心臓がどきどきしてくる。
楽屋でなんて絶対させてくれないだろうけど今とってもしたい。
- 257 名前:―足りないモノ― 投稿日:2005/09/12(月) 12:26
-
れいなの手を握ったままトイレまで引っ張っていく。
後ろかられいなのあせった声が聞こえてくるけど、取り敢えず無視で。
だって今、さゆちょっとおかしいから。
トイレの個室に入って鍵を閉める。
「ちょ、さゆ?どうしたと。」
「れいな。」
唇を無理やり奪う。
れいなの軟らかくて温かいそれはあたしの箍をはずすのに十分だった。
「・・・ふぁ、んっ、さゆぅ、やばっ。」
「ごめん、止まらないよ。」
- 258 名前:―足りないモノ― 投稿日:2005/09/12(月) 12:27
-
この後、あたしは自分の欲求不満を解消できるまでれいなと個室にこもっていました・・・。
「さゆのあほぉ。」
「だって、欲求不満だったんだもん。」
終
- 259 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/12(月) 12:34
-
すんません、すんませんすんませn(ry
さゆがさゆじゃなくなってる・・・?!
うちのさゆはこんなんになっちゃいました。
いけいけなさゆとおされてるれいなが好きです。(ドーン
れなえりとはまた違う感じで大好きです。
さゆがすこーし訛ってますが、訛りも好きです。
むしろそれが好きですv
好みの合う方、楽しんでやってください。
では今日はこれだけですけど終わりです。
次回を乞うご期待。(え
- 260 名前:翡翠 投稿日:2005/09/18(日) 18:48
- 更新お疲れ様です♪
本編の続きも楽しみに待ってますね〜☆
- 261 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/23(金) 18:20
-
約束の週末から既に一週間たってます・・・。
待っていて下さった皆様、すいませんでした。
今日は約束通りどばっと(自分的には)大量更新します!!
260>>翡翠さん
ありがとうございます!!!!!
遅くてすみません(泣
更新速度がすっかり二週間に一度になってしまいましたが
これからも見てやってください。
ではでは、後藤生誕スペシャルバージョンをお楽しみ下さい。
- 262 名前:―むかし、むかし・・・。― 投稿日:2005/09/23(金) 18:22
-
周りは真っ赤だった。
炎。
轟々と燃える炎の中で幼い少女は一人立っていた。
そこは少女が見たことのない場所だった。
自分の家ではない。しかしよく遊びにいく幼馴染の家でもない。
「ここどこ?」
不思議なことに息は全然苦しくなく、炎も触れても熱くはなかった。
段々と見覚えのない場所に不安を感じてきた少女は取り敢えずまっすぐに進む。
しばらく歩いていると、まだ炎に囲まれていない区域に出た。
背後では今にも火の粉が降りかかってきそうな位に勢いよく炎が燃えていた。
しかしそこではむしろ冷え冷えするほどの空気が流れていた。
- 263 名前:―むかし、むかし・・・。― 投稿日:2005/09/23(金) 18:23
-
「あれ、赤ちゃんが泣いてる・・・?」
微かな声だったが確かに赤ん坊の泣き声が響いていた。
少女は周りを見渡す。
すると大掛かりな仏壇のようなところの前から聞こえてくるようだった。
近づいて見るとまだ生後一年たったのかわからないような赤ん坊だった。
手を伸ばしてその柔らかそうな頬を触ろうとする。
―バチッ
青白い光が手を弾いた。
静電気が走ったかのような、しかしそれよりは強い痺れが手のひらに残った。
「触れない?」
不思議そうに自分の手のひらを見る。
何度触ってもまるでそこに壁があるように赤ん坊まで手が届かない。
- 264 名前:―むかし、むかし・・・。― 投稿日:2005/09/23(金) 18:25
-
「なんでー?」
ちょっとイライラしてきた。自分はただ泣いている赤ちゃんを泣き止ませたいだけなのに。
なんで。なんで拒絶するの。
その強い思いは青白い光さえ怯えさせた。
今度こそと思い再び手を伸ばす。
「あっ、触れたぁ〜。」
片手が壁の中に入ることができたのでもう片方の手も入れて抱きあげる。
よしよしと見よう見まねで赤ん坊をあやす。
それは不思議な光景だった。
少女の背景には赤々と燃える炎が今にもこの部屋に侵入せんとし、普通なら恐怖で泣き出すような幼子はにこにこと笑顔で自分より更に小さい赤ん坊をあやしている。
赤ん坊も自分以外の存在を見つけたのが嬉しいかのように段々と笑顔になってくる。
「お前も寂しい?一人はやだよね。」
少女はそう言って炎に包まれた部屋を抜け出した。
炎から離れるにつれ夜の暗闇が少女たちを隠していく。
けれども少女の足取りに迷いはなく、やがて闇に飲まれるように消えていった。
- 265 名前:―むかし、むかし・・・。― 投稿日:2005/09/23(金) 18:25
-
- 266 名前:―むかし、むかし・・・。― 投稿日:2005/09/23(金) 18:26
-
大変だ
加護家と辻家が
夜襲で一夜のうちに
家も全焼
子供が見つかってない
全滅だった
とうとう始まったのか
混乱が
おお、恐ろしい
吉澤の家の子が
後藤家の子も
関東の天女総家はどうなるのじゃ
羽衣が全ていなくなるとは
あそこの子の魂分けは・・・
吉澤だぞ
羽衣なしではとても、とても
しかしもう待てない
時間がない
- 267 名前:―むかし、むかし・・・。― 投稿日:2005/09/23(金) 18:27
-
やはり、生まれたときに殺しておけば
もはやどうにも
燃えろ、燃えろ、空越えて
魅せろ、魅せろ、美しい
「・・・今日は始まり。終わりの始まり。」
- 268 名前:―むかし、むかし・・・。― 投稿日:2005/09/23(金) 18:27
-
- 269 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:29
-
「吉澤、あんたかてわかってるんやろ。自分の魂の性質。」
「何のことですか?あたしは知りませんよ。」
吉澤は高橋たちを藤本のもとに送った後一人外に出て空を眺めていた。
その顔は目の前に広がる空のさらに向こう側を眺めているようだった。
「・・・吉澤。異界への橋なんて普通の人間じゃ到底無理な話や。なのにあんたはそれになることができる。これが何を意味してるかわかるやろ。」
「知っています。だからごっちんは呑まれた。あたしの魂に。人は一つしか持てない。」
吉澤は自分の後ろに立っている中澤へと視線を移す。
吉澤の目には何が映っていたのだろう。
まるでガラスのように透き通ったそれは綺麗だが、怖かった。
吉澤が恐れられた理由。
後藤はその力の強さのため恐れられた。今まで誰も持ったことのない力だった為に。
しかし吉澤は違った。珍しい能力ではあったが今までないわけではなかった。
- 270 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:30
-
「あたしは限りなく天女に近い性質を持っている。生まれてきたときの魂の性質は二つ。」
吉澤は全く正反対の魂の性質を持っていた。普通だったら生きていられない。普通の人間だったら。
だが天女は違った。天女は二つの性質からなっていた。
「あたしは、・・・・人じゃない。」
吉澤から搾り出されたような声が漏れる。
中澤は吉澤が人であるということを肯定してやりたかったができなかった。
中澤の目には同じ事を悩む吉澤と吉澤の側で違うと否定する後藤の姿が見えていた。
今中澤が同じようにすることは吉澤と後藤の関係を崩してしまうような気がしたのだ。
中澤は結局そのままその場を去った。
- 271 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:31
-
- 272 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:35
-
後藤真希は暗闇の中でうずくまっていた。
十二のときに分け魂に人格を奪われてから段々とだが分け魂の力が増してきていた。
それにより前は保てていた自我もこの頃は危うくなっていた。
そんな後藤には時折見える外の様子だけが救いだった。
ぼんやりと光るそこはこの暗闇の中で唯一もとの世界を感じさせてくれる。
吉澤の姿も最近になってみることができるようになっていた。
―よしこ・・・。
最初、見たとき余り変わっていない様子に安堵したが同時に少し悲しくもなった。
- 273 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:36
-
分け魂が吉澤を傷つけようとしたときは全力で対抗した。
後藤の中では昔から吉澤が一番なのだった。
分け魂になんかやらない。吉澤は絶対に誰にも渡さない。
十二のときは吉澤を思う気持ちが大きすぎて分け魂に隙をつかれてしまったが、吉澤を守る気持ちは何より強かった。
加護家と辻家が滅んだときから後藤は決心したのだ。
吉澤の魂の性質の一つを制御すると。
あの事件で一番傷ついたのは他ならぬ吉澤だったから。
優しい本来の性質と真逆の性質に操られて苦しんだのは吉澤だった。
だからそれで自分が苦しい思いをしたとしても良かった。後藤は吉澤のためにいろんなことを巻き込む覚悟を決めた。
- 274 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:38
-
―よしこは優しすぎるんだよ。誰でも救おうとするのはよしこらしいけど、それで自分を傷つけないで欲しい。
でもそれがよしこだから。
後藤の顔に苦笑が浮かぶ。そこまで含めて全部が愛しかった。
後藤はそんな自分をも笑いながら最終決戦への意志を固めた。
- 275 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:39
-
- 276 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:41
-
吉澤はその発表を静かに聞いていた。
矢口達が中澤に自分たちも連れて行けと文句を言っているがその要望は呑まれることがないのを吉澤は理解している。
中澤が事の運びを急にしたのは日々増加する獣の出現が原因だった。どう考えても自然に発生する量ではなくなってきたのだ。
このままではやがて対応できなくなると考えた中澤は吉澤の転移能力を使って後藤に総力戦を仕掛けるという大胆な作戦にでたのだ。
―獣だって、たぶんごっちんの仕業。会いにこいって事か。
後藤の元に向かうのは矢口達と小川、紺野、中澤を抜かした全員だった。
居残り組みには今も出現している獣の処理を任せることになっていた。
- 277 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:43
-
「いいか、もう一回言うで。後藤と会って、天女の魂を抑制する。そしてもう一度吉澤のなかに戻すんや。加護と辻がいる今の状況なら大丈夫なはずや。後藤がしっかりと意識を取り戻すまで吉澤には踏ん張ってもらうで。」
後藤を取り戻すためには分け魂を一回は完全に引き離さなくてはいけなかった。
それはつまり吉澤に戻すということである。
加護と辻がいなかったら絶対にできなかった作戦であろう。
はっきり言って、うまくいくのだろうかという思いがなかったわけではない。
吉澤は魂の制御が苦手だったし、半分でも苦労している魂をどうやって暴走させないでおくか、今もない頭を使って考えていた。
- 278 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:44
-
下手すれば予言の通りに世界のバランスは崩れ、この世界は終わりを迎えてしまうだろう。
それがどんな終焉かはまだ誰にも分かっていなかったが・・・。
ふと加護と目が合う。
にこっと笑いかけられて、そこに後藤の面影を見た。
顔は全然似てない、雰囲気も似ているとは言いがたいのだが重なった。
それはあの吉澤を知っているということにおいて重なったのだが、この時の吉澤にそれがわかるはずもなかった。
変わりなく降る雪は何もかも隠していった。
- 279 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:45
-
守りたいモノは同じものだった。
取り留めのない日常。
それが二人の求めるものだったが二人にとっては得ることの難しいものだった。
自分の能力や家柄、いろんなものに縛られて
いつも生きてきた。
- 280 名前:―異界への橋― 投稿日:2005/09/23(金) 18:47
-
- 281 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/23(金) 18:57
-
ここで一端区切らせてもらって、次に後藤真希お誕生日おめでとう短編です。
内容はよしごまです。
本当に祝ってんのかぁ?!
と疑問に思うような話ですが作者はごまヲタのよしごまヲタのよしヲタです。
本気で祝ってます!
しかし何故か暗い話に仕上がってしまったんだよぅ。(汗
それでもよい方は読んでやってください。
- 282 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 18:59
-
カチッと音がしてタバコに灯がともる。
真っ暗な中でそこだけが明るく真希の目に映った。
「二十歳・・・か。」
出会った時は十五歳だった。
いつの間にか五年という月日が二人の間には流れていて、それは二人を囲む環境をも目まぐるしく変えていった。
最初は同じグループだった二人は片方はソロに、もう片方はそのグループのリーダーになった。
- 283 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:00
-
「あたしはまだ十九だよ。」
真希はひとみに言う。
ひとみが真希を見て微笑む。真希には見えたわけではないがタバコの火がそれを教えてくれた。
「あたしも大人の仲間入りか。」
まるで真希などいないようにひとみがぽつんと零す。
ひとみの目は何を映しているのだろう。前から変わらない綺麗な眼には闇が蠢いていた。
- 284 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:01
-
ああ、ひとみは失われてしまったのだ。
- 285 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:01
-
真希は唐突にそう思った。
子供のときから誰よりも大人っぽかった容姿。だけど実は誰よりも子供っぽい性格。
真希はそれが二十歳という大人の境界線を越えてしまったことによりなくなってしまったことを知った。
シーツの中から抜け出してひとみに抱きつく。
熱帯夜のなかでひとみの素肌はひんやりとしていて気持ちよかった。
- 286 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:03
-
「真希、楽に・・・なりたい。」
漏らされたひとみの要求を聞きながら真希はぎゅっとひとみの体を抱きしめる。
何故か涙がこぼれてきた。
真希の涙はひとみの体をきらきらと伝って、やがてシーツに吸い込まれていった。
ひとみの願いを叶えるのは真希の役目で、真希の最大の喜びだった。
なんでも背負い込んでしまうひとみのささやかな希望を叶えることで真希はひとみを助けてきたつもりだったし、それによって二人の関係は続いてきたのだ。
- 287 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:04
-
「うん。楽に、なろうよ。」
だがもうその関係も終わりに近づいてきていた。
真希が二十歳になればまた二人の関係はがらっと変わってしまう。
そうなる前に止めてしまおう。
真希はひとみの側でいつまでも荷物を背負っていたかった。
真希がひとみに口付ける。
口の中にひとみが吸っていたタバコの煙が入ってきたがそれさえも一緒にかき混ぜた。
- 288 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:05
-
ひとみの手からタバコが落ちる。
白いシーツの上にできた赤い火はどんどんと大きくなっていく。
火はベッドの上だけに止まらず、壁に、床に広がっていく。
二人が口を離す頃には部屋は炎によって明るく輝いていて、二人の肌をじりじりと焼いた。
- 289 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:06
-
「真希は良かったの?」
何を今更と真希は思った。
大人のわがままに子供は黙って従うしかないのだ。たとえ数ヶ月の違いでも。
真希はそっとひとみと出会ってからを振り返ってみた。
次々と思い出される自分とひとみの楽しい思い出は現実の赤にじわじわと侵食され、やがてひとみと赤しか分からなくなる。
それはとても幸せなことだった。
- 290 名前:一夜のあやまち 投稿日:2005/09/23(金) 19:07
-
「ひとみ、愛してるよ。」
炎は二人を包んで何処までも大きくなっていった。
それは明日大人になってしまう二人が起こした、最後の子供としてのあやまちだった。
終
- 291 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/23(金) 19:08
-
- 292 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/23(金) 19:08
-
- 293 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/23(金) 19:08
-
- 294 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/23(金) 20:05
-
とまぁ、こんな感じで本当に生誕おめでとう小説なのかは微妙な気がしますが!!
誕生日は関わってたしいいかな〜とも思っております。
更新の遅いスレですが、これからもごま愛、よし愛、よしごま愛で頑張りますので
どうぞ、よろしくお願いします。(選挙風)
- 295 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/09/23(金) 20:07
-
ごっちん、誕生日おめでとうございまーす!!!!
- 296 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/09/23(金) 23:11
- 更新お疲れ様です。
もしかして、辻・加護家が滅んだのは・・・・・。
続きがものすごく気になり、いろいろと勝手に妄想しております(爆
次回更新待ってます。
後藤さんお誕生日おめでとうございます。
- 297 名前:翡翠 投稿日:2005/09/24(土) 21:30
- 更新お疲れ様です!!
そして、後藤さんお誕生日おめでとうございました!(一日遅い)
最近、よしごま小説がめっきり?減ってしまったので、
嬉しいです♪
次回も、まったり待ってますね〜。
- 298 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/13(木) 15:23
-
二週間が…、二週間がぁー(ガク
いやむしろ三週間ですかね。時が経つのは早いです。(汗
お待ちしていた方すみませんでした。
川#V−V从ジー →→→→グササッ( ;◇)
す、すみませんでした。視線が痛い…。
これからは、気を取り直して頑張ります(グハッ
296>>名無し飼育さん
更新遅くて申し訳ありませんでしたー!!
加護、辻には頑張ってもらってます。
これからもいろいろ二人には出てもらいます。
どうぞ、どんどん妄想してください(笑
297>>翡翠さん
まったりしすぎた感ありありですが、お許しを。
よしごま減りましたよね〜。
でも少ない分良作が増えた気がします。
このスレも少しでも良作に近づけたらなと思っとります。
では更新です。
- 299 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:26
-
「「や〜ぐちさ〜ん。」」
中澤に置いていかれる事が決定した矢口は肩を落としながら廊下を歩いていた。
加護と辻はそんな矢口を見つけて駆け寄って来たのだ。加護と辻はなぜか矢口に懐いていた。
安倍や石川とも仲が良かったが矢口とは取り分け仲が良かった。
「加護と辻じゃん。どうかした?」
「えへへ〜、矢口さんにお願いがあって来ました〜。」
「来ました〜。」
にこにこと年よりも無邪気な笑顔で二人が矢口に話しかける。
矢口はその二人の様子にちょっと怯えながらも普通に対応する。
この二人がこういう笑顔のときに起こる悪戯の被害は大体矢口に降り注いでいた。
- 300 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:28
-
「何だよ〜。悪戯ならもう受け付けられないっての。」
何故だか、たぶん悪戯ではないだろうと思った。
それは二人の表情から分かったのか、それとも声のちょっとした変化から分かったのかは矢口には分からなかったが。
その予想は正解だったようで加護と辻はすぐに初めて見せる顔で話し始めた。
「うちらになんかあったら、後を頼んます。今度の戦いでたぶん、うちらは帰ってこれへん。」
「のん達は終わらせないといけないから。全力で、終わらせないといけないから。」
優しい笑顔と真剣な大人っぽい顔。知り合ってから加護と辻は色々と彼女たちのことを教えてくれた。
好きなものも、嫌いなものも、彼女たちの能力も、本当にたくさんのことを年下のまるで妹のような二人に教えてもらった。
だけどそれは初めて知る二人の新たな部分で矢口は戸惑ってしまう。
その顔も、声も自分よりずっと大人な気がして、大人になった二人がどこかに行ってしまいそうで怖かった。
- 301 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:31
-
「おう!まかせとけ、オイラたちで加護辻がいない間はしっかりと守ってやる。」
だからちゃんと戻って来い。
矢口にはその一言が言えなかった。
なぜなら邪魔をしてはいけなかったから、二人の死ぬ気の決意、覚悟。
それを鈍らせるようなことはしてはいけない。
明日のために今まで生きてきた二人だから、自分の役割を熟知した二人だから。
だから、矢口は微笑んで見送るしかできなかった。
ついこの間までこんな世界があるとはしらなかった自分が口を出していいことではなかった。
それが矢口のできる精一杯の大人だった。
- 302 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:36
-
「お願いします、矢口さん。なんや辛い役目残してしもうて、すんません。」
「でもこの戦いの後多かれ少なかれ世界は不安定になるから、任せられる人がいないといけなかったんですよ。
それならってあいぼんと二人で決めたんです。」
「「矢口さんには言っておこうって。」」
二人の手はいつの間にか繋がっていて、矢口にはそれが無敵の証のように見えた。
―二人だったら何も怖くない。
何度か耳にした台詞だったがまさにその言葉通りだと思ってしまった。
「矢口は・・・大丈夫。矢口は大丈夫だから、二人とも明日はヘマすんなよ。」
なんでこんなにこの二人は優しいのだろう。
明日、より危険な目にあうのはどう考えても二人のほうなのに。人のことを心配している。
自分のいなくなった後の世界の心配ができるのは凄いことだと思った。
- 303 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:38
-
「うちらは大丈夫だもんねー?あいぼん。」
辻の問いかけに加護が静かに頷いて答えた。穏やかな微笑みは歳よりずっと大人っぽく見えた。
辻と目を合わせてから、次に矢口に視線を回してきた。自然と絡まる目と目。
「矢口さん、知っとりますか?想いは空をも、世界さえ越えられるんや。だから、うちらのことずっと想っててください。必ず届きますから。」
「想いは空越えて!!のん達の好きな言葉。」
辻はにーっと男の子のように笑い、言葉を付け加えた。
- 304 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:45
-
想いは、空越えて。
そのフレーズがなんとなく気に入った矢口は、その言葉を教えてくれた二人に焦点を合わせて尋ねる。
加護と辻の言うことによると、そもそも『空越えて』というのは天女総家の昔の資料にも載っているほど天女の間ではよく使われる言葉だったらしい。
天女のいた世界は空を越えたところにあるらしく、空を越えたところにある自分の故郷を懐かしむ和歌とか逆に人間に恋した天女がこの空越えたところにいる貴方が好きですみたいな内容の文とか、後者はちょっと疑いたくなるがそういうものがあって、本当に様々なところで使われていた。
それで神社に有った資料でそれを見た加護と辻も空越えてという言葉を好きになった。
そしてその中でもこの『想いは空越えて』が一番加護と辻には好ましく感じられたのだそうだ。
- 305 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:47
-
「想いはどんなところにも届くって感じが好きなんだよね。」
「世界の違いさえ越えられるほどの想いの強さを感じられる言葉やからですかね。」
小学校の中学年ぐらいのときに見つけてからずっと大好きな言葉だと言う二人はさっきよりは子供っぽく感じられた。
でも芯の強さというかそういうものも感じることができた。
矢口は二人の原点を見たような気分になった。
「そっか、矢口もなんかわかる気がする。この言葉、矢口も好きだな。」
「そですかぁ、よかったぁ、なー?のん。」
「うん。・・・矢口さん、明日はこの言葉忘れないでくださいよ?」
「当たり前だろぉ、ずっと、ずっと、想っててやるよ。想いは空越えて二人に届くんだろ?」
ありったけの想いをこめて矢口は加護と辻に言う。
- 306 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:50
-
オイラができるせめてもの応援。どこに行ってても、想っててやる。忘れないでいる。
『想いは空越えて』ならこの言葉も届いてるんだろ。なぁ、加護、辻。
―生きて、帰って来い。
想いは空越えて。
いえない言葉も想っていたら必ず届く。
空を越える勇気があるなら、この世に不可能はないんだよ。
天女が伝えた勇気の言葉。
- 307 名前:―矢口と加護と辻― 投稿日:2005/10/13(木) 15:51
-
- 308 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/13(木) 15:58
-
( ‘д‘)<いやー。めっちゃ感動的やったなぁ。
( ´D`)<うちらいい仕事してるぅ!!
( ‘д‘)<さて、新たに始まりましたこのコーナーは!!
( ´D`)<のん達による次回予告!!!
( ‘д‘)ヒューヒュー
( ´D`)ワァーイ オメデトウ
( ‘д‘)<終わりも近いってのに何やらさせんねん!
( ´D`)<全くだよ。
- 309 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/13(木) 16:08
-
(#‘д‘)σ<まぁ、うちらはこれさえもらえばある程度しまっせ。
(;´D`)<ま、まぁ、まぁ、まぁ。あいぼん、落ち着いて。次回予告だよ!!
( ‘д‘)ノ|カンペ|<ついに闘いも決戦へ!!
( ´D`)ノ|カンペ|<よっすぃー達はそこでなにを得、何を知るのか?!
( ‘д‘)ノ|カンペ|<そしてごっちんの決意とは?
( ´D`)ノ|カンペ|<次回―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶―
( ‘д‘)ノ|カンペ|<よろしく!!!
そんなに大そうなものではございません・・・。
- 310 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/13(木) 16:09
-
- 311 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/13(木) 16:09
-
- 312 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/13(木) 16:10
-
- 313 名前:翡翠 投稿日:2005/10/21(金) 13:16
- 更新お疲れ様です(遅いって)
辻と加護の次回予告・・・めっちゃ気になる!!
ごっちんにもよしこにも、幸せになってほしいけど・・・
どうなるんでしょう??次回も、楽しみにしてます。
- 314 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/23(日) 22:31
-
うん、まだ一週間くらいでの更新になる?はずです。(開き直り
気を取り直してとか言ってた割には遅くて、毎回のことですがすんません。
313>>翡翠さん
感想ありがとうございます!
今回から山場になりますがどうぞ、最後まで読んでやってくだせぇ。
辻加護による次回予告は誇大表現ありですので・・・。
後藤もよしこも主役なはずなのに目だってないですよねぇ。
おかしいなぁ。
主役さえ危ういスレですがよろしくです。
- 315 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:33
-
とうとうここまで来たかと吉澤は思った。
吉澤の隣には加護と辻がいて緊張等少しもしていない風に喋っていた。その後ろには九州組、北海道組と続いていた。
吉澤の能力で後藤の元に飛んでは来たものの、そこは古い日本家屋のような所で後藤の姿はどこにもなかった。
いないからと言って引き返すわけにもいかず、結局中に入ってみようということになった。
そして今、一歩一歩板の間を進むごとに吉澤は奇妙な違和感を覚えていた。
来たことがある?いや来たことなんてあるはずがない。
心の中で何度も首を傾げながらも違和感は募るばかりだった。
- 316 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:34
-
―本当に?
その声に皆の足がぴたっと止まる。
長い廊下の先に今まで見えなかった何かが見えた。
段々とあらわになっていくそれは小さい幼児の姿をしていた。
四歳、大きく見ても五歳になったばかりといった感じの子供に吉澤は見覚えがあった。
短いが綺麗な黒髪に、彫りの深い顔。そして身にまとっているのは少年のような短パンにTシャツ。
- 317 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:34
-
「あ、たし?」
口からこぼれ落ちたというように呟いた一言は確実に皆に伝わっていた。
静まり返っていた藤本たちの間から一気に喧騒が広がる。
周りの様子を気にすることなくその小さい吉澤は吉澤に再び同じ事を問いかける。
- 318 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:35
-
―本当にこの場所がわからない?
無表情に問う。
吉澤は戸惑いながらも頷き返す。
認めたくなどなかった。もしこの場に来たことがあるとしたら、それは良いことのはずがない。
吉澤のなかで恐怖が広がる。自分の根本をひっくり返されそうな怖さ。
竦んでしまった吉澤の両脇に加護と辻が立ち、吉澤を支える。
その様子に小さい吉澤が笑い出す。笑いを抑えてなお響く声は不気味であった。
―嘘つき。
その言葉と共に廊下全体が一気に炎に包まれた。
揺ら揺らと揺れる炎の様に小さい吉澤が宙に浮く。
熱くない幻影の炎に包まれながら藤本たちが臨戦態勢に入る。
- 319 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:36
-
―来た事があるのに、わからない?それなら見せてあげるよ。
パチンと指を鳴らす。
小学生にもなっていない子供がするには余りにも大人びた様子であった。
―これがあたしの、貴方の正しい記憶。
炎に包まれた。赤が目の前に氾濫する。
声を上げる間も無く吉澤たちの意識は失われたのだった。
- 320 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:36
-
- 321 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:38
-
えっく・・・ひっく、怖いよぅ。ひっく、うっ・・・ま・・・っき。
暗闇に響く幼い泣き声。
後藤の体はすぐにでも側に行って慰めて上げようと動くのに、足を地に縫い付けられたかのようにある一定の距離から先に進む事ができない。
その間もずっと自分の耳に届いている聞き間違えることのない声。
泣き止んで欲しいのにできない。
後藤はそこにとてつもないジレンマを感じていた。
泣かないで、よしこが泣くとごとーも悲しい。どうしたの?いじめられた?ごとーがやっつけるから。
よしこを守るから。・・・だから泣かないで。
自分の声。だけど自分が言ったものじゃない言葉。
動かない足にイラついていた後藤が気づくと泣いている吉澤の側には幼い自分がいた。
うずくまる吉澤の側で吉澤の背を撫でながら同じようにうずくまっている。
まだ魂分けもしていなかった位の年齢の二人。
一生懸命吉澤を慰めている自分の姿を見て微かに思い出される記憶があった。
- 322 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:39
-
「最初の、暴走の・・・後?」
そうだ。
吉澤の始めての暴走。
それは後藤しか知りえない事実であった。
切欠は魂の色だった。
後藤はその稀な能力によってその日の吉澤の異常に気づいていた。
普通のときの吉澤は魂が二色にきっぱりと分かれていた。
日ごとで色が違ったり、どちらかの色が多かったり少なかったりする事はあった。
それは吉澤の調子とか感情とかに左右されていたのだが幼い子供にそんな事が理解できるはずもなく、後藤は余り気にせずにいた。
- 323 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:40
-
だがその日の吉澤はおかしかった。魂がほぼ一色に染まっていたのである。
普通の人は一色が普通だったのだが吉澤に限ってはそれが異常だった。
吉澤の異常を感じ取った後藤だったがそれが何を意味するのか等分かっていなかった。
普通に遊んで、普通に一緒にいて、普通に同じ部屋に泊まった。
夜吉澤が抜け出して、明け方近くに帰ってきた事も知っていた。
そのことがいかに大事なことだったのかに気づいたのは十になる位だった。
- 324 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:41
-
翌日後藤が目を覚ますとどうにも周りが騒がしかった。
加護が、辻がと似たような単語ばかりが飛び交う中で後藤は大体の事情を察知した。
昨日の夜に羽衣の家系が二つともなくなったということだった。
後藤の中で線が繋がった。
そしてそれを証明するかのように吉澤はそれからしばらく夢でうなされる様になったのだ。
余りにも怖そうな様子に起こしてみると必ず泣いていて、それを慰めるのが後藤の役目になっていた。
それが今目の前で繰り返されている場面。
この時から、いや吉澤を苦しめる原因が分かったときから後藤は魂分けを望むようになった。
―よしこを苦しめる奴は許さない。
幼心に強く、強く思った。
- 325 名前:―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/10/23(日) 22:41
-
- 326 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/23(日) 22:51
-
( ‘д‘)<とうとう、敵さんの本拠地に乗り込んだなぁ。
( ´D`)<でも最初から、ピンチの予感?
(;‘д‘)<ちびよしこは思ったよりつよかったな…。
(;´D`)<抵抗する暇もなく、炎に包まれちゃったね。
(;‘д‘)<・・・・・・・。
(;´D`)<・・・・・・・。
(;‘д‘)<ま、まぁ。なんとかするやろ。
(;´D`)<そ、そうだよね。
( ‘д‘)<そんなこんなでますます目が離せない次回は!!
- 327 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/23(日) 22:58
-
( ´D`)ノ|カンペ|<炎に包まれ、たどり着いた先には?
( ‘д‘)ノ|カンペ|<離れ離れになった仲間達!加護と辻の葛藤。
( ´D`)ノ|カンペ|<ついにごっちんが動き出す。
( ‘д‘)ノ|カンペ|<目の前の真実によっすぃーは何思い出すのか。
( ´D`)ノ|カンペ|<次回、うちら大活躍!!
( ‘д‘)ノ|カンペ|<乞うご期待!!
- 328 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/23(日) 22:59
-
- 329 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/23(日) 22:59
-
- 330 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/23(日) 22:59
-
- 331 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/29(土) 19:52
-
今日は小川の麻琴さんの誕生日と言うことで地味ーに短編をあげたいと思います。
まこあいバカップル風味一本。
れなえりヘタれいな風味一本。
よしごま…
載せたかったけど間に合わなかったので麻琴生誕祝いはこの二本でお送りします。
…れなえり関係ないじゃんとか思わないようにお願いします。
ではどぞ。
- 332 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 19:54
-
チッ、チッ、チッ、チッ
目の前の時計は軽快に進んでいく。
その中であたしこと田中れいなの心臓は負けないくらいの勢いで高鳴っちゃってます。
- 333 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 19:55
-
―眩しい夕日―
- 334 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 19:56
-
さて、この状況をいったいどうしたらいいのだろうか。
机に突っ伏して穏やかな寝息を立てているのはあたしの一つ上の幼馴染。
亀井絵里。
あたしに対してはありえないほどわがままで、
年上のくせに年下のように駄々をこねたりもするのに
他の人には専ら品行方正、優等生、真面目というような評価がつけられている女の子。
あたしから見れば皆どうかしていると思う、特に最初の品行方正は誰が言い出したのだろう。
なぜなら絵里は時々素で思いもよらない言動―所為天然と呼ばれるもの―をするのだ。
これは同じクラスになった人や、親しい友達の間では当然の事実だ。
- 335 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 19:57
-
まぁ、そんな所を除けば確かに絵里は任された仕事はきちんとするし、
授業だってサボったりしないのでその評価は間違っていないだろう。
そしてその真面目で優等生で少し堅物・・・こほっ、こほん。
つまりあたしから見たら信じられない評価を受けている絵里のせいで今、
この非常に対応しにくい事が起きているというわけだ。
- 336 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 19:58
-
「絵里、起きんしゃい。もう帰ると。」
絵里の体を軽く揺すってみる。
しかし長年の幼馴染としての経験から言わせて貰えばこの程度では絵里は絶対に起きない。
毎朝起こしているあたしが言うのだから間違いない。
「絵里ー、もう下校時刻寸前っちゃ!学校が閉まる!!」
今度はもう少し声を大きくして、さっきより強い力で揺さぶる。
絵里の短い髪がさらさらと揺れて、ふいにシャンプーのいい香りが漂う。
ここは学校の放送室なわけで防音対策もしてあれば廊下からは見られないようにもなっている。
- 337 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 20:01
-
―完全に密室?
頭をよぎった単語に一斉に顔が熱くなってくる。
そうだ、考えてみればもうこの校舎に残っているのは見回りの先生と放送当番であった絵里、
そして部活が終わって絵里を迎えに来たあたしぐらいしかいないのではないか。
遅くなりそうな体育関係の部活はグランドや体育館または校外で活動しているだろうし、
他の部活はこの時期にこんなに遅くまで残っていることはないだろう。
―何してもばれない?
くるくるとあたしの周りを悪魔が回り始める。
- 338 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 20:02
-
奪っちゃえ、奪っちゃえー。今の絵里だったらキスぐらいで起きやしないって。
ほらぶちゅっと、ぶちゅっとしたいんだろ。しちゃえよー。
行け!へたれいなの名を挽回せよ。
あたしの顔の前三十センチくらいで止まったそいつは絵里のほうを指差し得意げに胸を張る。
確かにあたしはずっと前から、といっても気づいたのは中学生のときだけど、絵里が好きだった。
もちろん今現在も好きなんだけど・・・。
―告白もしていないのに、いいのかなぁ。
すると今度はお約束のごとく天使が回り始める。
- 339 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 20:03
-
だめ、だめったらだめっちゃ!
いくら本人が寝ていようと、いくら気づかれなさそうでも告白してからキス。
それが物の順序ってやつと。
告白せずに寝ている絵里にキスなんてしたら、あんたはずっとへたれいなっちゃ!!!
そんなあたしの葛藤を全く知らぬ顔で時計の秒針は進んでいく。
この部屋の唯一の窓から半分沈んだ夕日が赤い光を飛ばしてくる。
その光に包まれ余りの眩しさに目を細めると机の上には未だに起きる気配の無い絵里。
・・・先生が見回りに来るまで後推定五分。
- 340 名前:―眩しい夕日― 投稿日:2005/10/29(土) 20:03
-
―眩しい夕日― 終
- 341 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/29(土) 20:08
-
優等生な亀ちゃんとヘタレてるれいなの話でした。
書いてて思ったのは…
若いね、れいな。青春中。
そして歳よりくせぇな自分。
まぁ、そんなことはいいとして次がメインのまこあいっす。
お馬鹿な話なので何も考えずにお読み下さい。
- 342 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:10
-
窓に映る私 凄く可愛くないわ わざと嘘ついたりしたから
「麻琴なんか嫌いやって。」
◇
- 343 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:11
-
「あーしのばうぁかぁぁあああぁぁぁぁぁ。」
「まぁ、まぁ、愛ちゃん。落ち着いて。」
「だって、だって麻琴に嫌いって言って、言って・・・うあぁああああぁぁぁん。」
絶対嫌われたと続けて叫ぶ一つ上の高橋愛ちゃん。
喧嘩したと言っては泣きつき麻琴と遊んだといっては惚気、
いくら幼馴染で寛大な私、紺野でも呆れてしまいます。
大体後悔するくらいなら言うなって感じですよねぇ。
- 344 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:12
-
そりゃ愛ちゃんのことですからまた何か勘違いして、麻琴に一方的に聞き取れない日本語で話しかけ、
そしてうろたえる麻琴の表情を見て勘違いを真実と確信して捨て台詞を吐いてここに来たのでしょう。
よくそんな細かい所まで分かるって?
私だって知りたくありませんでしたよ、そんなの。
だけど毎度、毎度同じように喧嘩して相談されて仲直りさせて、
その後中てられれば嫌でも分かりますって、はい
- 345 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:13
-
「あさ美ちゃん、ちゃんと聞いとる?!」
「聞いてるよ?それで今回はどうしたの。」
「麻琴がなぁ、麻琴がぁ、うわああああああああん。」
「愛ちゃん、泣いてちゃわからないよー。」
…助けて、愛ちゃんよりむしろ私がヘルプミー。
腰に手を回され私は少しも身動きが取れません。
何でこの二人の幼馴染はこんなにも大変なのでしょう。はぁー。
この苦労は麻琴を担当しているもう一人の幼馴染しかわかりませんかねぇ。
◇
- 346 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:14
-
「理沙ちゃーん、愛ちゃんに嫌いって、嫌いって言われたー!!!」
「まこっちゃん、また?…前も、っていうか三日前にも同じこと言ってなかった?」
あたしの言葉にこくこくと頷きながら涙を拭く。
まこっちゃんと愛ちゃんの喧嘩、というかじゃれ合いなんていつものことなので放っておきたかった。
だけど!しかし!
悲しいかなまこっちゃんの訴えかける視線を無視できるほどあたしは神経が太くなかった。
なんであたしが年上の先輩の面倒なんて見ないといけないのだろう。
愛ちゃんのほうは泣き叫んでその対応に大変そうだったけどこっちだってなかなか大変なんだよ…。
- 347 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:15
-
まこっちゃんはすぐ泣き止むけど目で何か訴えてくるし。
ぐずぐずといつまでも自己嫌悪にはまってすっごく女々しいし。
まこっちゃんの周りだけ低気圧発生中って感じになるんですよ、紺野さん。
お分かりですか?
そっちは本人で苦戦かもしれないけど、
こっちはまこっちゃんの被害にあわないように周りを非難させることに苦労しまくりなんです!!
だから早く愛ちゃんを泣き止ませて、こっちに連れてきて。お願い。
唯一頼りになる年上幼馴染よ。
- 348 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:16
-
「理沙ちゃん、ねぇ、何がいけなかったのかな?」
「悪くない、まこっちゃんは悪くないから!だから離してー!」
低気圧を侮るなかれ、低気圧といっても熱帯低気圧から温帯低気圧まで様々。
麻琴台風多分五十号くらいは只今あたしに接近中。
この台風の嫌な所は一年中ほぼ毎日のように発生することと、
惚気なのか愚痴なのか良く分からない話を延々聞かされる事。
それでも自分以外の人に被害を被らせていないのは褒めて欲しいです…。
◇
- 349 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:17
- 数十分後。
「麻琴、あれ嘘やからね。麻琴のことあーしが嫌いなはずないやん。」
「あたしも!だから浮気なんて絶対しないから。」
「すまんの、あーし、また早とちりしてもうたみたいで。」
「いいよ、いいよ。勘違いさせるようなことしたあたしが悪いし。」
「いいや、麻琴は悪くない。あーしがもっとしっかりしてれば…。」
「ううん、それを言うならあたしがちゃんと愛ちゃんの言葉を聞き取れれば問題なかったんだよ。」
口々に褒めあう二人。
それをバックに机にべとーっとだらしないほどにくっつき脱力している二人。
ここは理沙の部屋であった。
あの後結局いつものように泣き止んだ愛をあさ美が連れてきて仲直り。
そしてこれまたいつものように二人は散々ラブラブしている。
理沙とあさ美は机の上にあごを乗せたままで話す。
- 350 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:18
-
「あたし、真面目に引越しを考えようかな…。」
「賛成です。だけどむしろあのバカップルをどこかに送りつけたほうが。」
「あーいいね。勝手に同棲でも何でも始めろってか。」
この二人の間ではもう幼馴染であったことが全ての原因であった。
つまりは住居の物理的近さである。
せめて一駅分ほど離れていれば喧嘩の愚痴を聞くのだって電話で済むだろうし、
何より家に飛び込んでくることなどできるわけがないのだ。
だが現実はあさ美、愛、麻琴、理沙の順に横一列にそれぞれの家は並んでいる。
一駅分どころか百メートルの範囲に余裕で入ることができる。
カール・ルイスなら九秒台だ。
常人でも二分もあれば余裕で歩いてこられる。
そしてこの二人が何よりも嫌なのは、あふぉっぷる二人組みがいつ家に飛び込んでくるか分からないからだ。
- 351 名前:ウソ?ホント? 投稿日:2005/10/29(土) 20:20
-
休日さえゆっくりと家をあけることができない。
さすがにいつものことであっても喧嘩して泣いている幼馴染を放っておくことは忍びなかった。
だからかこの二人にはこの頃愛センサーとまこレーダーを身につけてしまった。
愛と麻琴がいつ飛び込んでくるかわかるという欲しくもない機能を身につけてしまったのだ。
便利といえば便利なのだが三日に一度は必ず反応するセンサーやレーダーではあまり意味がない。
「あさ美ちゃん、これからも頑張ろうね。」
「理沙ちゃん、これからもよろしく。」
力ない握手をした二人はあふぉっぷるに負けないくらい強い絆で結ばれていた。
たぶんこの二人が救われる日はきっと来ない。
ウソ?ホント? 終
- 352 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/29(土) 20:20
-
- 353 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/29(土) 20:20
-
- 354 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/10/29(土) 20:21
-
- 355 名前:名無飼育 投稿日:2005/10/31(月) 18:37
- 更新お疲れ様です。
今日初めて見つけて読みました。
本編は、先がわからなくて続きがきになります。
次回更新も、楽しみにしてますね。
- 356 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/11/07(月) 15:14
- 更新お疲れ様です。
短編楽しく読ませて頂きました。
ヘタレ最高!
本編も楽しみにしてます。
- 357 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/11/16(水) 23:24
-
11月がもう半分も過ぎているっ!!
…ということで本当に久しぶりな感じの更新です。
申し訳ないっす_| ̄|O
355>>名無飼育さん
ありがとうございます!
こんな駄文スレですがこれからもよろしくお願いします。
本編は亀のような話の進み方で…。
それでも良かったら楽しんでください。
356>>名無し飼育さん
短編楽しんで貰ったようでよかったです。
ヘタレが好きなもんで、主人公もヘタレてます。
そのせいで目立たなすぎっす!
書いてる本人も時々誰が主役か分からなくなります…。
でもヘタレLOVEですw
では一ヶ月ぶりくらいの本編です。
どぞっ!
- 358 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/11/16(水) 23:26
-
- 359 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:28
-
妙に赤い光と昔から変わらない温かい声が自分の体を包んでいたように感じる。
全ての感覚があやふやな中で最初に戻ってきたものは触覚で、頬を軽くはたかれていた。
次に感じたのはさっきも感じていた愛しい声。
たん、たんとあだ名のはずなのに名前が入っていない彼女特有の呼び方を泣きそうな声で呼ばれた。
泣かせないように細心の注意を払ってきたのに、今泣いて貰っては困る。
藤本は松浦に関してだけは人一倍弱い。
本人に自覚はないがそれは周知の事実として存在していた。
- 360 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:30
-
ぐっと体全体に力をいれる。
自慢じゃないが体を操ることに関しては人一倍自信が有った。
急速に覚醒してくる五体の感覚が手に取るようにわかる。
「亜弥、ちゃん。」
目を静かに開けると予想していた通りに泣きそうな顔がすぐ側にあった。
心配するなとそっと頬を撫で、ぶつからない様に体をずらしておく。
そしてこれ以上心配をかけないようにと少し勢いをつけて体を起こす。
元気だということを松浦に少し多めにアピールしながら、ついでに周りの様子も観察する。
田中と亀井、道重と高橋、そして自分たち。怪我をしているような人は誰もおらず少し安心した
- 361 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:31
-
しかし何回確認しても吉澤たち関東組の姿だけがどこにもなかった。
拙い状況になったかもしれないとひそかに思う。
「美貴たん!大丈夫?怪我とか・・・してない?」
「うん、美貴は大丈夫だけど・・・。よっちゃんたちは?」
関東組のみいないという事は明らかにわざと離されたということだろう。
あの小さい吉澤はどう見ても吉澤、加護、辻を意識していた。
残りの自分たち等おまけのおまけという感じさえあった。
「この部屋にはいないみたいです。」
「それにここなんかおかしい…。」
亀井と道重が周囲を見回しながら言う。
- 362 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:32
-
一番先に目が覚めたのは亀井だった。
その亀井が近くの道重を起こして更に田中と高橋を起こした。
その間に松浦は独りで起き、藤本のもとに駆け寄っていたのだ。
そこから今までの短時間にできるだけ多くの情報を得ようと思い辺りを探った。
結局わかったのは吉澤達の不在と部屋を包む変な空間。
―絶対に普通じゃない。
見た目から受ける印象は先ほど、ここに飛ばされる前と何も変わっていない。
長い年月を耐えてきた、思わず凄いと目を見張ってしまうような古い日本家屋だ。
だが何かが違う。
「取り敢えずここを出よう。よっちゃん達と合流しなきゃいけないし・・・。」
藤本の提案に全員が頷き、亀井たちはこの部屋を出ることにしたのだった。
- 363 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:32
-
- 364 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:34
-
―運命の刻・・・。頼みましたよ、運命の子ら。
加護は知っていた。
この家がかつて自分の家であったことを。
一年にも満たないであろう短い期間だったがここは加護にとって生家だった
- 365 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:35
-
「のん。うちは、見とうない。…見とうないんや。」
「あいぼん。」
繋いだ手から伝わってくるのは熱さ、心が震えている熱さ。
辻も知っていた。
ここは加護の家で、今目の前で再生されている映像は加護家の滅亡を映したもの。
それはつまり加護の肉親が死んでいくものであることを。
「なんで、二回も。二回も、見んとあかんねん。こんなん、一回で・・・十分や、わ。」
「・・・あいぼん。」
顔も知らない、声もしらない、ともすれば本当にいたのか疑ってしまうような人物。
加護も辻も家族の存在なんて分からなかった。自分達にはいない、とてもあやふやな存在。
何をしてくれるのか、何をしてあげるのか、何を一緒にするのか自分達には皆目わからない。
でも大切なものであることは理解できた。
- 366 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:38
-
無いなら無いで構わない、今までだって二人はずっと二人だったから。
だけどそれでも微かに面影の分かる人たちが死んでいくのを、
いなくなるのを見るとわかってしまう。
自分達は独りになったのだということが。
加護家はもう存在しないのだということを改めて認識させられる。
初めから無いなら気にならない、でもあったものが無くなるのは寂しい。
辻にもそれは理解できた。辻家も加護家と共に滅んだのだから。
だから、なおさら辻は加護を今ここから連れ出すことができなかった。
自分達にはしなければならない使命があってその時が刻一刻と迫って来ていようとも。
この瞬間だけは加護をそのままにしておきたいと思った。
側にいて、手を繋いでずっとそのままでいることが辻の最善だった。
- 367 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:39
-
悲しまないでとは言えない。
けど忘れないで、貴方の側にはあたしが、あたしの側には貴方がいるってことを。
二人でしないといけない事がある。
託された運命があたしたちにはあるから、次に進もう。
託された、生かされた二人として生き抜こう。
この運命の刻を。
- 368 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:39
-
- 369 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:41
-
藤本たちが部屋を出て目にした光景は正に地獄絵図と呼ばれるものだった。
逃げる人、追う獣、逃げ道を塞ぐ大火、そして溢れる赤、緋、紅。
聞こえてくるうめき声に耳を塞ぎたくなった。
「何これ・・・。」
誰が呟いたともわからない言葉が全員の心境を如実に表す。
助けを求める声に差し伸べた手は体に触れずに床に着く。
恐る恐る触った指先にはここら辺一体に溢れる液体は付着していなかった。
全てが幻。
「ごとーの力だよ。」
バッという効果音が付きそうな程勢いよく振り返る。
- 370 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:42
-
全ての視線の先には彼の人、後藤真希が立っていたのだった。
後藤はその場にいる藤本たちを一通り見まわしてからへにゃっと力の抜けるような笑みをこぼした。
「久しぶり、美貴ちゃんにまっつー。他は、初めましてだよね?」
呆気にとられて固まったままでいる事に気づいていないように話を進める。
「これはごとーの記憶の中の映像。あの日の真実。
美貴ちゃんたちは飛ばされて来たんだね、あいつに。」
すっと目を細めて藤本たちを見つめる。
後藤の目に見つめられると体の奥の奥まで見透かされそうな気がして、
藤本の背に冷や汗が伝った。
後藤はすぐに表情を変え、元より少し寂しそうに微笑んだ。
「…本当だったら知らなくてよかった事なのに、ごめん、巻き込んで。」
そして後藤は語り始めた、物語の始まりを自分の知った事実と共に。
- 371 名前::―吉澤の記憶・天女の記憶・後藤の記憶― 投稿日:2005/11/16(水) 23:44
-
流れるのはあの日の映像。
後藤の記憶と天女の記憶。
幼い後藤の不思議そうな笑顔。
綺麗な月夜。
その下に立つ幼き日の吉澤。
炎で赤く染まる月、赤に染まる小さな手のひら。
空間を繋げて出された多くの獣達。
そして一瞬にして訪れた破壊、破滅、消滅。
助け出された二つの命。
垣間見た映像は一瞬だったが全てを知るには十分だった。
「うそだ、・・・うそだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
- 372 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/11/16(水) 23:45
-
- 373 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/11/16(水) 23:54
-
(*‘д‘)<くーっ、泣ける話やな!!
( ´D`)<皆無事みたいで良かったね。
( ‘д‘)<ごっちんも登場してほんまに終わりが近くなった気がするわ。
( ´D`)<ここまで読んでくれた人たち〜、あと少しですよ!
( ‘д‘)<で次回や!!
- 374 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/11/17(木) 00:03
-
( ´D`)ノ|カンペ|<衝撃の事実!!
( ‘д‘)ノ|カンペ|<事実を知ってしまった吉澤はどうなってしまったのか?!
( ´D`)ノ|カンペ|<後藤と吉澤、二人を中心とした物語の結末は…?
( ‘д‘)ノ|カンペ|<物語りも大詰め!
( ´D`)ノ|カンペ|<次回、―終局の終極―
( ‘д‘)ノ|カンペ|<見逃したらあかんで!!
- 375 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/11/17(木) 00:05
-
一ヶ月ぶりの割には量が少ないです。
…まぁ、しょうがないわなw
頑張りました。
がんばった…だよ。
もうおいらは駄目だ(爆
- 376 名前:名無飼育 投稿日:2005/11/19(土) 15:08
- 更新お疲れ様です!!
痛いですね〜(泣)
でも、カップリング関係なくこの話に引き付けられます。
ゆっくりで全然いいので、無理しないで下さいね。
- 377 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/10(土) 14:02
-
師走、さすが師走。
忙しいぞ師走。
…意味が分かりません。
つまりは忙しくて遅すぎですみませんってことです。
月末になれば休みになるのでそうなったらばしばし更新したいです。
こんな遅筆スレにもレスを下さる方ありがとうございます!!
レス見るたびにメン後は喜び飛び跳ねておりますんで。
376<<名無飼育さん
またもや遅くなってしまい申し訳ないです。
加護の回はなぜか大体シリアスっちくに…。
ギャグ要員なはずなのに、変だな〜。って感じです。
しばらく遅い更新が続きますが楽しんでくださったら幸いです。
- 378 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:03
-
- 379 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:04
-
彼女の生きていない世界に意味など無かった。
望んだものはもう、ない。
後藤と藤本たちが吉澤のもとにたどり着いた時にはすでに遅かった。
吉澤と対峙した後藤の目から涙が頬を流れ落ちる。
なんで自分と彼女はこうもすれ違ってしまうのだろうか。
なんでもっと早くこの場に来ることができなかったのだろうか。
なんで…。
- 380 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:05
-
「…守れなかった。」
後藤が漏らした小さな呟きは誰の耳にも届かない。
握り締められた拳が小刻みに震え、込められた力に手のひらはなすすべもなく血を流した。
後藤には全てが見えている。
吉澤の魂が一色に染まってしまっていることも、それが何を意味するかも分かっていた。
あの時とは全く逆の立場。
だが全く同じ状況。そして全く違うであろう結果。
自分がのっとられる事と吉澤がのっとられる事ではその意味はとてつもなく変わってしまう。
自分達の違いは天女の家系と魂分けの家系であるだけだったのに。
そのたった一つのことにより何よりも遠くに引き離されてしまう。
相違点は常にそれだけであったのに。
後藤の足音が響いた。
一歩、二歩と吉澤との距離を詰めていき最後には体が触れそうな所まで歩く。
そして未だに流れ続けている雫をそのままに後藤は吉澤を抱きしめた。
「ちゃんと、一緒にいてあげるから。…これからは。」
すっと少し高い位置にある吉澤の耳に口を寄せる。
二人の姿はまるで神聖な儀式のようでその雰囲気に気おされた藤本たちは動けなかった。
「だから、・・・・・・。」
その瞬間、物が叩きつけられたような音が聞こえ眩しいほどの光が網膜に焼きつく。
一秒がまるで五秒にも十秒にも感じられた。
- 381 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:05
-
- 382 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:06
-
田中が気づくとまるで当然のようにそこには青空が広がっていた。
一瞬何が起こったのかわからなくなってそのまま青い空を見続ける。
何の変哲もない空だった。
青を背景に白い雲がすいすいと進んでいく。
日常の一部とかしたいつもの変わりない空はこの場においては非日常だった。
「ここ、どこ?」
一言で言い表せば何もない場所。
空と地平線の彼方まで続く赤茶けた大地しかない。
田中はふと結構前にヒットしたドラマを思い出した。
そのドラマで使われていた場所は確か―。
- 383 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:07
-
「…オーストラリアみたい。」
目を細めて遠くまで見渡す。
日本では滅多に見られない地平線までの平地とその平らな境界線から分けられる蒼い空。
そこにいるといかに自分が小さいかがわかってしまうような、そんな場所だった。
―…ん?
遠くを眺めていた田中の視界にポツリと黒い影が入ってくる。
それはぐんぐんと近づいてきて、田中の目の前に降り立った。
「加護さん?辻さん?」
―何で泣いてると?
加護と辻の目には今にも溢れんばかりの涙があった。
加護と辻は戸惑う田中に構いもせず田中の両隣に立つと歩き始める。
その雰囲気に気おされた田中は黙って二人の後を着いて行く。
- 384 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:08
-
「田中ちゃんは天女の昔話、知ってる?」
「昔話…ですか?」
「そうや、言い伝えでもいい。」
そう聞かれ、田中は頭の中を見直してみる。
普通の昔話なら聞いたことがある。
桃太郎とか浦島太郎とか、童話と言われるものだ。
だがこの二人が言っているのは天女の昔話。
田中が天女と昔話で思い浮かぶことは羽衣伝説くらいしかなかった。
むかし、むかし、ある男が羽衣を拾って…。
田中は脳裏にその話を思い浮かべながらもう一度加護と辻の顔を見る。
どうやら少しニュアンスが違うようだ。
「しょうがないなぁ〜。うちらが教えたる。」
「とっておきの昔話だよ。」
- 385 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:09
-
田中から二人の顔は見えない。
しかしその声音にはさっきのような悲壮とも言える空気はちっとも入っていなくて肩の力が抜けた。
そして田中は二人の声に耳を傾けた。
++++
- 386 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:10
-
むかしむかし、まだ天女が空を越えた自分達の国にしかいなかったころの話。
天女の国でも人の国に近い所に仲の良い二人の天女がおったんや。
二人は特別裕福なわけでもなければ高い地位に就いていたわけでもなかったんだ。
毎日一緒に仕事場に行って一緒にご飯食べて一緒に帰ってきてたんだって。
仲のいい友達と学校に一緒に行ったり昼ご飯一緒に食べたり放課後一緒に遊んで帰るのと同じだね。
やけどある日片方の子が忘れ物したんや。仕事場に。
忘れた方はすぐに取りに戻った。
もう一人に先に行ってて言うて。
いつもだったら一緒に取りに戻るか待っているかだったんだけど、今回はもう家の近くだったの。
一緒に戻るには遠いし、待つには長かった。
だからその子の言うとおり帰っていることにしたんだ。
…それが最後だって気づかないで。
- 387 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:10
-
それで別れて急いで戻ったんやけどその忘れ物が無くなっとった。
少女は焦った。
そりゃそうやな、忘れた物は自分の羽衣やったんだから。
天女が羽衣なしではいられないのは昔からや。
仕事場中を探してないことに気づいたその子は次に周囲を探し始めた。
探して探してずーっと探し続けて見つけたのはもう日が落ちる直前だったの。
羽衣は仕事場から少し離れた余り人は近づかない場所に落ちていたんだ。
いや正確には引っかかってたんや。
木の梢に。
そしてその木は運の悪いことに人間界と天女界の境界にあった。
- 388 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:11
-
羽衣を取ろうと梢に向かってジャンプした女の子はおちちゃったんだ。
人の世に。
今まで頑張って探していた羽衣も取れずに人の世に落ちてしまったの。
次の日かえって来ていない少女を不思議に思ったもう一人の子は辺りを探しまくったそうや。
昨日羽衣を探した子と同じように探して、探してやっと見つけた。
自分の友の羽衣を、木に引っかかった状態で。
それで気づいた。
自分の親友は人の世に落ちてしまったんだと。
もう会うことも出来ないんだと。
そう思ったら悲しくて、悲しくて、羽衣を抱いたまま泣き崩れちゃった。
こうして羽衣を失った天女は帰って来れず人の世で暮らしましたとさ。
++++
- 389 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:12
-
「それって…。もしかして、天女総家の…。」
「始まりの話。天女側からの昔話だね。」
「人に伝わるのは人から見た側だけや。なんで地上に来たかなんてわからん。」
加護は驚く田中に構わず話を続ける。
辻はそんな加護を少し辛そうな目で見ていたのだがこの時それに気づく者はいなかった。
そしてそのまま加護、辻、田中の三人は徒歩で何も無い世界を進む。
「だけど、この話には続きがあんねん。今に続く物語が。」
「さっきのが天女総家の始まりだとしたら、次は天女総家の出来るまでの話。」
「……悲しい話や。」
ぼそりと呟かれた一言は誰にも聞こえなかった。
それゆえなのか田中には話の繋がりが分からなかったし、
それがまさか自分達と関わってくるとは予想もできなかった。
- 390 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:12
-
- 391 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/10(土) 14:20
-
\( ‘д‘)ノ<うちら、大活躍や!!
( ´D`)シ<重要な役目だよね、うちらって。
(*‘д‘)ノ<ほんまやな〜。
(#‘д‘)ノ<しかしなんでうちは泣いてばっかなんや!!
(;´D`)<しかたないよ、あいぼん。
(#‘д‘)ノ<もっと幸せにせぇ。でないと…。
(;´D`)<(あいぼん、こわいよ。)
- 392 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/10(土) 14:29
-
( ´D`)ノ|カンペ|<次回予告!
( ‘д‘)ノ|カンペ|<昔話に隠された真実、天女総家の成り立ち。
( ´D`)ノ|カンペ|<ののとあいぼんの正体とは…?
( ‘д‘)ノ|カンペ|<全ては運命なのか?
( ´D`)ノ|カンペ|<よっすぃーとごっちんの行方は?
( ‘д‘)ノ|カンペ|<次回乞うご期待!!
- 393 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/10(土) 14:30
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- 394 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/10(土) 21:23
- 更新お疲れ様です。
すごくせつないですね・・・。
これからどうなるのか目が離せません。
- 395 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:13
- 突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 396 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/22(木) 19:10
-
いつの間にかクリスマスが近づいていたっ!!
十二月は本当にいろんな事があって自分に関連性が薄いものから忘れちまいます。
まあ、そんなこんなで更新です。
394<<名無し飼育さん
レスありがとうございます!
もう最後までこの雰囲気が続く予定です。
本当はこんなに切なくならないはずだったんですけどね〜(苦笑
予定は未定。
素敵な言葉だと思いますw
- 397 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:16
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- 398 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:18
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++++
それは昔の話。
羽衣を失った天女は地上で人として暮らしておりました。
名は、そうですね。ひとみとでもしましょうか。
彼女は悲しみながらもせっせと働いて、やがて村の若い男と結婚しました。
そしてひとみは子供を身ごもりました。
自分の子供ができたと男は大層喜びましたが、ひとみは不安が拭いきれないでいました。
「この子は天女と人間の子。力の制御もままならないだろう。
だけど羽衣も無いあたしじゃ何もすることはできない。」
ひとみの不安を他所に腹はドンドン膨らみ、やがて臨月を迎えます。
さて、そんなひとみの様子をずっと見ていたものがいます。
それはひとみの親友、名前は真希ということにしましょう。
真希は一人羽衣もなしで地上へと落ちてしまったひとみのことを心配していました。
だから時々神様に頼んで人の世の様子を見せてもらっていたのです。
そんな真希ですからひとみの妊娠にも気がつきます。
真希はひとみの不安を感じ取りました。
あのときのことをずっと後悔していた真希はせめてひとみの不安をなくそうと神様に頼み込みます。
- 399 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:20
-
「神様、神様。お願いがあります。ひとみの子、人間と天女の子が力を制御できるようにしてください。」
「承知した。人と天女の合いの子、その不完全な力が暴走しないようにしよう。」
神様は真希の要望を聞き届けました。
そして生まれたのが羽衣の家系と魂分けの家系です。
真希の願いによりひとみの子は自らの力に振り回されること無くすくすくと成長しました。
ひとみはそれから三人の子を設けましたが全員が立派に成長しました。
月日は流れ、やがてひとみにも死ぬときが訪れます。
普通天女は人より長い月日を生きますがひとみは人の世で人と全く同じ生活をしていたので、
人とほぼ変わらぬ年月しか生きられませんでした。
ひとみは自分の死を恐ろしく思いながらも嬉しく感じていました。
なぜなら人の世にある物は死ぬと必ず天女の世界、天国に帰れるからです。
懐かしい故郷に帰れると思うと死への恐怖も薄まります。
しかしひとみの魂が真希のいる戻ることはありませんでした。
- 400 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:22
-
ひとみを人の世に引き止めるもの。
それは皮肉なことに自分の子孫と真希がひとみのためを思って作ったシステムでした。
真希の願いによって作られた羽衣の家系と魂分けの家系がひとみの魂を血に縛り付けるのです。
自分の血、魂を分けた子供の中へと。
ひとみの魂は子孫へ散り散りに分けられ永遠に循環することになってしまいました。
真希はそれを知り悲しみました。
自分の願いがひとみを人の世に縛り付けてしまっている。
真希は再び神様にひとみのことを頼みに行きました。
「神様、神様。ひとみをどうかこの地へと帰してやってください。」
「それはできぬ。ひとみの魂はもう分けられてしまった。」
「では、では!ひとみが寂しがらぬように私を人へとお変え下さい。そしてひとみの側に。」
「…承知した。お主を人に変え、ひとみの側に転生させよう。」
「ありがとうございます。神様。」
こうして真希も人となり人の世へと降りてしまいました。
真希がいなくなった後、神様はある一つの約束を言い残しました。
「時が来たら、迎えを遣わそう。」
それは既に人になってしまった真希にも、
他の天女たちにも誰にも聞かれることはありませんでした。
時とはひとみの魂が一番集まるときのこと。
神様はその時にひとみと真希を再び天へと戻すことにしました。
++++
- 401 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:23
-
- 402 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:25
-
「それから何回も魂は転生し続けとる。まあ、本人にそんな自覚はないんやろうけど。」
「そして、ついにその時が来た。…それが、今。現世に“ひとみ”と“真希”が生まれた。
天女の血を、魂を一番多く受け継ぐ子供とそれを分け合う魂分けの家系の子供として。」
「…だからとうとう神は迎えを遣わしたんや。」
加護が俯いたまま呟く。
小さい一言だったがそれは何故かみんなの間に染み入っていた。
いつの間にか田中は皆と合流していた。
いや、多分加護と辻が田中に気づかれぬように誘導していたのだろう。
物語の結末を教えるために。
「それってどういうこと?迎えって何?あの後一体どうなったの?」
松浦が矢継ぎ早に問う。
他に質問する者はいないがそれは松浦が全員の気持ちを代弁しているからに他ならない。
皆程度の差はあれ困惑していた。
「…………死んだ。」
加護の言葉に皆が息を呑む。
最初言葉の意味を理解できなかった、分かっても頭の中であの二人に繋がらなかった。
やがて完全に飲み込めると全員が辻に目を向ける。
一筋の祈りをこめて。
だが視線の先には期待した辻の姿はなかった。
辻も辛そうに下を向き、目を合わせようとしない。
- 403 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:29
-
「あの二人は死んだんや。あの時、あの光で。」
加護が俯いたまま手に力を込める。
強く込められた力は握りこぶしを震わせた。
辻がそっと側によりその手に自分の手を重ね合わせる。
いつも繋いでいた手。
「……勝手な二人やわ。ほんまに。」
「あいぼん。」
加護の言葉に皆が顔を上げる。
辻は少し困ったように名前を呼んだ。
「結局自分達しかいないのに。広がった世界にさえ、自分達二人しかいない人たちやったのに。
何であの二人はすれ違うん?!」
「…あいぼん。」
辻が静かに首を横に振る。
それ以上は言うなと。
それは拒絶ではなく寂しさ。
置いていかれた、残されたことに対する寂しさ。
- 404 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:30
-
「お互いに気を遣いすぎて、回し過ぎてすれ違う。しかもお互いの中で勝手に完結しよる。
迎えに来た人たちさえ置いてって。…幸せそうに死なれたら、周りはどないせぇちゅうねん。」
加護の涙交じりの声に促され、辻は思い出す。
あの光の中の二人の表情を。
後藤が最後に言った言葉は吉澤に届いたのだろうか。
「いつも、一緒だったのにね。」
あの二人、と辻は言った。
本人達は気づいていなかったけれど常に一緒だったのだ。
それこそ魂の単位で。
神様が決めた、運命と呼ぶに相応しい絶対的な確立。
“ひとみ”の側には必ず“真希”が。
「だから、幸せだったんだと思うよ?」
辻の一言に加護が本格的に泣き始める。
辻に抱きつき肩に顔を埋め子供のように泣く。
肩に沁みてくる水滴を感じながら辻はどこかぼうっとしていた。
- 405 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:31
-
「ねぇ、結局どういうことなの?よっちゃんの血が濃いことは知ってる。だからなんとなく、
転生だとかのとこはわかる。だけど、迎えって?神の遣いとか意味がわかんないよ。」
しばらく加護の嗚咽だけが聞こえていた空間に少しきつめの声が響く。
『神の遣い』
加護と辻の説明によれば吉澤と後藤を迎えに来た者。
それなのに置いていかれた者。
藤本たちは後藤が見つかってから吉澤とほぼ一緒にいたがそのような者を見たことはなかった。
加護の泣き声がいつの間にか止んでいた。
ふと見ると何故か苦笑している辻の顔が見える。
「物語はもう終わっちった。置いていかれた迎えは勝手に帰った二人を追いかけるしかない。」
「…なぁ、美貴ちゃん。不思議に思わんかった?何もできん赤ん坊がたった二人で生きとるなんて。」
加護が鼻を啜りながら藤本に問う。
それはひどく根本的な疑問であった。
今まで誰も尋ねなかったのがおかしく感じるほどに。
- 406 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:32
-
「えっ?」
「普通に考えてみい。歩くことさえままならない赤ん坊が、誰の世話もなしで生きられるか?」
生きられんやろ?と加護は笑った。
今更ながら喜怒哀楽の激しい子だなと藤本は思う。
それは半ば現実逃避の意味合いを含んでいたのだが誰もそんなことには気づかない。
「のんたちね、本当はあの時死ぬはずだったの。
だけどよっすぃの気まぐれと神様の配慮によって条件付で生きられることになった。」
「条件?」
「そう。…条件は神の遣いに成ること。」
辻が淡々と告げる。
これで疑問は一つ解消された。
しかしもっと重要な疑問が残されている。
「それで、神の遣いは何をするの?」
たぶん一番重大なこと。
藤本にはそう感じられた。
失われるはずの命と引き換えになった条件。
ならばかなり大変なもののはずだ。
「さっき言ったとおりだよ。神の遣いの仕事は迎え。“ひとみ”と“真希”の。」
「つまり、うちらの命はよっすぃとごっちんの命の期限と一緒になったってことや。」
圧し掛かった沈黙に重さを感じた。
- 407 名前:―終局の終極― 投稿日:2005/12/22(木) 19:32
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- 408 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/22(木) 19:34
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- 409 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/22(木) 19:34
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さらし上げ
- 410 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/29(木) 12:30
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予定していたより随分と長くなってしもうたこの小説もやっとラストッス。
途中色々ありましたがなんとか終わらせることが出来て良かったー。
勝手に死亡させてしまった四名の皆さん、すんません。
では最後です。
- 411 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:31
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- 412 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:32
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ちらちらと目の前を雪が舞う。
それは冬の到来を告げていた。
矢口はそれを見ながらあの時の事を思い出す。
―想いは空越えて。
その言葉を残してあいつらは行ってしまった。
今も矢口の想いは届いているのだろうか。
加護と辻が言ったように空を越えて。
「早いもんですね。」
いつの間にか後ろにいた藤本が矢口に声をかける。
振り返ると藤本と松浦が白い息を吐きながら寄り添っていた。
矢口はそれを見てからもう一度ちらりと後ろを向く。
視界に花束が映った。
- 413 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:33
-
「…一年か、信じられないよ。おいらは。」
「そう、ですね。」
吉澤と後藤、そして神の遣いであった加護と辻が消えてから一年が経った。
四人がいなくなってからも時間は着々と進んだ。
石川はそのまま羽露学園の大学に上がったし、矢口たちもまた一つ学年が上になった。
吉澤の訃報は学園中を騒がせたが段々とその話をする者はいなくなった。
後藤や加護、辻に至っては学校にさえ行っていなかったためそれを知るのは天女総家だけだった。
「あいつら、元気にしてるかな。」
「してるんじゃないですか?きっと向こうでこっちの様子を見て笑ってますよ。」
- 414 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:34
-
矢口と藤本が話している間に松浦がまた一つ花束を捧げ、
その内の何輪かを空に向かって投げた。
花は重力など受けていないように空へと吸い込まれていく。
松浦はそれを見届けると目を閉じた。
後ろではまだ二人の話し合いが続いていた。
「…寂しがるからなんて勝手な理由だよ。あいつら。」
「放っては置けなかったんでしょう、たぶん。優しい子達でしたから。」
松浦の閉じられた瞼の裏に一年前の出来事が浮かび上がってくる。
- 415 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:35
-
++++
- 416 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:35
-
「もう、行っちゃうの?」
「いかんと駄目なんや。これが条件でもあったし…。」
「あの二人を放っておけないっしょ。」
辻が苦く笑う。
加護は少し眉を顰めて、怒ったような顔をした。
「あの二人には、他の世界を知ってもらわんといかん。絶対に。」
「いつまでも二人だけじゃ寂しいじゃん。」
世界はこんなにも広がっているのに。
周りにはすばらしいものがたくさんあるのに。
それを知ろうとしないのは損だと辻と加護は声を合わせて言った。
「…根が寂しがりな二人やから、側にいんと。
いつまでも二人しか見えなくて勝手なのも困るしなぁ。」
「それにこれはのんとあいぼんで決めたことだから。」
- 417 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:36
-
対照的な二組だった。
一方は確りと一人で立っているように見えて実はお互いにべったり。
片方はお互いにべったりな様に見えて、一人ひとり独立している。
どっちが二人組みの究極の形なのだろうとその時松浦は疑問に思ったほどだ。
―周りが見えないほどお互いを求める二人組みと二人で外の世界を見る二人組み。
松浦にはわからなかった。
「んじゃね!空越えてまた会おうよ!」
「それまでにあの二人の性格もきちっと直しとくでぇ〜。」
あっさりとそう言って二人は消えたのだった。
何の痕跡も残さずに空気へと透けていった。
それと同時に松浦たちも元の場所へ、元の世界へと戻っていたのだった。
- 418 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:37
-
++++
- 419 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:38
-
空越えて。
空を越えた先にあるという世界。
そこに広がっているのはどんな世界なのだろう。
矢口は一人、四人の一応の墓標の前に立って考えていた。
加護家の跡地に建てられたそれの前には沢山の花束が積まれている。
先ほど来た藤本と松浦が天女総家の中では最後だったようだ。
ちらちらと止まずに降り続ける雪は花と墓の上に積もっていき、
当たり前だがそれに温もりがないことを矢口に教えた。
「空を越える勇気があれば何も怖くない、か。」
今でも矢口の目に焼きついているのは手を繋いで怖くないと言い切った二人の姿。
二人はいつも楽しそうだった。
思いっきり遊んで、悪戯して、闘って。
それも残り時間が少ないことを予感していたからなのだろうか。
- 420 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:39
-
「本当に越えちゃったんだから、怖いものなんてあるわけないよな。」
矢口は俯いていた視線を上げ、空を見上げる。
その瞬間、冬の冷たい風が一気に吹き荒れた。
マフラーと帽子が飛ばないように押さえると、寒さに身を縮ませる。
「…さよならじゃなくてまたね、だよな?」
ゆっくりと目を開け、口を開く。
矢口の目の前で雪が風に舞い、矢口を取り巻いた。
風が吹く音に紛れた声。
『いつかまた空越えて。』
風は気ままに吹き荒れる。
それはこの物語に関わった全ての人たちの想いを載せてやがて届くのだろう。
一つの物語は終わったが、世界にはまだ多くの物語が溢れている。
- 421 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:40
-
―空越えて― 終
- 422 名前:―終わった物語と続く物語― 投稿日:2005/12/29(木) 12:40
-
- 423 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/29(木) 12:44
-
ここまで読んでくださった皆さんありがとうございました!!
所々文体が変わったり、内容がおかしくなったりした作品でした。
でも初の長編を無事書ききれて安心しておりますですw
スレも余っている事だしこの後には短編とか中篇とかを
のんびりと載せていこうと思ってます。
ではでは本当にありがとうございました。
- 424 名前:吉よしメン後 投稿日:2005/12/29(木) 12:45
-
完結上げ
- 425 名前:MIRAI 投稿日:2005/12/29(木) 15:19
- 完結おめでとうございます!!
なんというか・・・凄い感動しました。
感情移入してしまい、ところどころ泣けてしまったし・・・。
短編と中篇楽しみにしてます♪
あと、以前言っていた魂分けの儀式の様子も是非vv
それでは、お疲れ様でした☆
- 426 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/12/29(木) 21:58
- 完結お疲れ様です。
更新が楽しみな作品の一つだったので
ちょっと寂しいです。
短編・中編も楽しみにしています。
- 427 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/01/15(日) 16:36
-
二週間ぶりに来て見て、こんなスレでも見てくれてる人がいたんだなぁと
感激しております。
レス、大変ありがとうございます。
これからもこんなペースですがどうぞよろしく!
425>>MIRAIさん
最後まで見てくださってありがとうございます。
これから、魂分けの儀式のときの様子三組を載せたいと思ってるんで、
楽しんでくださると嬉しいです。
426>>名無し飼育さん
レス、ありがとうございます。
『空越えて』はこれから番外編を何個か載せたら完全に終了です。
ですが番外編は明るくしたいと思っているんで楽しんでください。
ではまず番外編―魂分けの誓い―よしごま編です。
- 428 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:38
-
よしごま編。
- 429 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:39
-
「ごとーね、難しいことは良くわかんない。だけど、よしこのことならわかるよ。」
そう言って真希は微笑んだ。
綺麗な微笑みは幼さを含んでなおひとみの心に焼きついた。
まだ小さい幼稚園くらいの頃。
魂分けをすることが決まったくらいの頃。
ひとみの最初の記憶。
「これで、ごとーとよしこはずっと一緒だね。」
魂分けの儀式が終わった直後の真希の照れたような笑顔。
結婚式じゃないけど結婚式のような誓いにひとみも恥ずかしいけど、嬉しかった。
ひとみの二番目の記憶。
ひとみの記憶には最初から真希がいた。
そしてそれはいまも変わらずに続いている。
- 430 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:40
-
―永久の誓い―
- 431 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:41
-
ピピピッという無機質な電子音でひとみは夢の中から放り出された。
布団から手だけを伸ばしボタンを止める。
「んーっ、はぁ、…今、何時。」
手以外が完全に布団の中に埋まっていた。
亀のように顔を布団から出す。
短い髪には寝癖が、大きな瞳はやっと半分ほど開いた所だった。
寝ぼけたまま時計の針の位置を確認する。
「十時……半?」
正確に言うと十時二十七分だったのだが、今のひとみにとっては余り関係がない。
だんだんと覚醒していく頭に真希との約束が思い出される。
- 432 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:42
-
―ごっちんと約束したのは……確か、十時?
「って十時?今は十時半。ひょっとして遅刻?」
ひょっとしなくても遅刻であった。
今日は真希の十二歳の誕生日。
ずっと前から、それこそひとみの誕生日のときから、
今日遊びに行くことは決まっていた。
ひとみは布団を跳ね除け立ち上がると、慌てて服を着替えだした。
―うわ、ごっちん怒るよな〜。
家を飛び出て、全力で走る。
歩いて五分もしない所にある真希の家へと。
なぜ真希の家に向かっているか。
それは、真希はひとみが起こさないと起きないからである。
ちなみに一人で起きたことは一回もない。
つまりまだ自分の家で寝ているはずなのだ。
- 433 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:43
-
ひとみは真希の家に一応の挨拶をしながら駆け込み、
真希の部屋にノックもなしに入った。
そして案の定未だにベッドの上で快眠している真希に叫ぶ。
「ごっちん!ごっちん、起きてっ。
十時過ぎてる。もう十一時のほうが近いくらい!!」
叫びながら肩を掴み強く揺さぶる。
途中軽く頬をはたいてみたり、引っ張ったりしてみるが余り効果はない。
ひとみは必死に、そんなに必死になることはないんじゃないか
と思うくらい必死に真希を起こす。
やがて五分たったくらいだろうか、やっと真希が反応を見せた。
「よ…しこ?…焦り、すぎだよ。
ごとぅ、まだ眠い。…れに、分け魂が、揺れるから。」
「あーもう、分かってるから。分かってるから、分かってるんなら早く起きて。」
ひとみは真希の言葉にイライラする。
感情を必要以上に高ぶらせると魂の制御が難しくなる。
それくらいひとみでも知っている。
ひとみは真希がそれを知っていながらも、
いや見ることが出来ながらも起きないことにイラついている。
- 434 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:44
-
「ごっちん、本当にやばいんだって。…もう十一時なんだよ。」
「んぁーっ。十一時?!」
今度は真希が跳ね起きる。
ひとみは真希のその様子を少しあきれて見ながら言った。
「だから言ってるんじゃん。早く起きてって。」
真希は部屋のなかを走り回る。
服を脱ぎながら着る服を取って着ていく。
ひとみには真似出来そうにない器用な技だった。
このあとひとみは真希の髪を整えてやって、二人で外へと出かけたのだ。
- 435 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:45
-
++++
- 436 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:46
-
「朝はどたばたしちゃったけど、ごっちん、
誕生日おめでとう。これでまた同い年だね。」
「ありがとう、よしこ。これでまた同い年だよ。」
お揃いの指をはめて、その手を絡ませて道を歩く。
二人とも幸せそうに、本当に幸せそうに笑っていた。
真希は悪戯を思いついたかのように笑みを変化させる。
「はやいもんだねー。もう魂分けしてからの時間の方が、
分け魂と一緒の時間の方が、長いなんて。」
「…分け魂の制御ってやっぱ大変?」
少し気まずそうに聞かれる。
真希はそんな質問をされるとは思ってなくて思わず言葉に詰まった。
だけどそれは本当に驚いただけで、分け魂の制御は苦でもなんでもなかった。
真希の能力はそういうことを得意としていたし何よりひとみのため。
真希は分け魂の制御をすることが
ひとみとずっと一緒にいられる証かのように考えていた。
- 437 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:48
-
「そんなことない!そんなことないよ。
…よしこ、覚えてる?魂分けのとき約束したこと。」
「もちろん、覚えてるよ!」
「なら、もう一回ここで同じこと誓ってくれる?あの時と同じように。」
真希は知っていた。
分け魂の制御が一番難しくなるのは魂分けの儀式をしたときの年齢、
それの二倍の年だということを。
つまり真希にとっての今年であることを。
その年さえ越えられればまず分け魂の制御に問題がでることはない。
だから真希はひとみともう一度誓い合うことで気を引き締めなおしたかった。
ひとみがゆっくりと近づいてくる。
そして真希と向かい合い手を握った。
- 438 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:48
-
「離れないで、ずっと一緒にいよう?」
ひとみと視線がぶつかる。
真希は嬉しかった。
ひとみが確りと覚えていてくれた。
それだけで良かった。
真希は笑って頷く。
「うん!」
ひとみに飛びつくようにキスをした。
繋がったままの手も、誓いの言葉も約束のキスも全てが同じ。
真希とひとみは繋いでいる手をもう一度握り直し、家へと帰っていった。
真希の消える一ヶ月前のことだった。
- 439 名前:―魂分けの誓い― 投稿日:2006/01/15(日) 16:49
-
―永久の誓い― 終
- 440 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/01/15(日) 16:53
-
あっけない感じですが、これでよしごま番外編は終わりです。
この長編の二人の幸せの絶頂の時期を書いてみたくてこんな話になりました。
あまり魂分け関係ないじゃんという突っ込みはなしで願います。
では、たぶん次はあやみき編になると思います。
メン後でした。
- 441 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/01/15(日) 16:54
-
更新上げ
- 442 名前:MIRAI 投稿日:2006/01/20(金) 12:11
- 更新お疲れ様です♪
よしごま、やっぱりいいですね〜。
読んでいて、なんだか微笑ましく思いました。
でも、最後の一文が・・・(泣)
次回のあやみきも楽しみにしてます☆
- 443 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/01/29(日) 23:31
-
のんびり載せていくの言葉通り、二週間ぶりとなってしまいました〜。
予定では魂分けの儀式番外編2北海道の場合を載せる事になってたんですけど…。
あやみきが思いのほか長引き、何故かもう一方のほうが先に出来てしまったので
そっちあげます。
442>>MIRAIさん
よしごまはほのぼのとしているのが一番だとw
まぁ、本編でほのぼのとかけ離れたものを書いたやつが
どの口で言うのかって感じですけど(爆
なんかこういう思い過ぎっちゃった系はあやみきが一番似合います(断言
北海道編を待っていてくれた方すみません。
今回はれなえりを楽しんでいただけたらいいなぁと思っています。
というかあやみきだけ妙に長くなるのはまっつーの呪いとかなのか?
本編で活躍させなかったから祟られた?
ああ、あやみきって恐ろしいw
- 444 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:34
-
れいなは困っていた。
今日は小学校に入学してからやっと一週間たったくらいの日だ。
そう、まだ一週間しかこの学校にいないのにれいなはイジメを発見してしまったのだ。
- 445 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:34
-
―運命?―
- 446 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:35
-
れいなは強い。
子供っぽい過信とかじゃなく実際に普通の子供と比べたら何倍、何十倍は確実に強い。
軟弱な普通の一般人だったら大人でも勝ててしまうかもれないくらいに。
家は剣術を教えている家だし、素手でもある程度は戦える。
全てはまだ見ぬ、下手したらいないかもしれない魂分けの相手のためだ。
れいなはそこまで考えてから、さてどうしようかと現実を見つめなおした。
取れる選択肢は三つ。
そのまま見逃す、助ける、先生に報告に行く。
取りあえず最初の選択肢はなくす。これはれいなの良心が痛んだからだ。
次にれいなが力ずくで助けるか、先生の力に頼るか。
手っ取り早いのは力ずくだが、それは余りにも目立つうえに面倒くさい。
ここは普通の人が取る後者にしよう。
そう結論付けて職員室へ行こうとしていたれいなの耳に、
聞き捨てならない一言が入ってきた。
- 447 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:37
-
「――――――――エリちゃんって―――。」
「カメイ家だからって―――。」
―エリ?カメイ?カメイってここらへんやと、天女総家の亀井以外いないはずやなか?
天女総家の亀井。
つまりれいなの相手がいるかもしれない家。
もしいじめられている女の子が本当にれいなの思っている亀井なら助けないといけない。
変な義務感に駆られてれいなはもう一度、その集団に目を向けた。
「違いますっ。そんなこと思ってません!」
その子が叫んだとき、れいなの目に一瞬黒い影が見えた。
気づいたときにはもう何もなくなっていたが、それはとても嫌な感じがした。
あれを出してはいけない。
見間違いだとは思えなかったれいなは目を凝らし今度は確りと見る。
- 448 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:38
-
「ホントに…違うんですぅ。」
―あ、泣くと。あの子。
れいなの目にはその子の瞳が潤んできいて、
それが零れ落ちそうな所まで手に取るようにわかる。
と、その刹那また見えた。
今度はさっきよりハッキリと。
大きい、凄く大きい黒い犬のような形をしている。
そしてそれを見たその時にれいなの身体は走り出していた。
先生を呼びにいくとかそう言う悠長なことは言っていられない。
あれは直ぐに止めなければいけないものだ。
たぶん、彼女が泣き出したら完全にあれが出てきてしまう気がれいなにはした。
- 449 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:39
-
―あの子、亀井と。
それと同時にあの少女が天女総家天女の家系の亀井だと確信する。
天女の家系以外であんなものを出せる家はいない。
天女の血は膨大な力を生む。
それを知らずに人に出してしまったら、よく言う暴走だ。
「こらっ!あんたら何してるっちゃ!先生が今来ると!」
集団に割り込んで、エリと呼ばれた少女の前に立つ。
突然入ってきたれいなに全員が驚く。
れいなは早く行けとばかりに睨んだ。
―あんたら怖いもの知らずにも程があるっちゃ。
よりによって亀井の人間、しかも魂分け前を刺激するなんて。
れいながいなかったらあのいじめっ子たちはいなくなっていたかもしれない。
エリと呼ばれた少女の望む、望まないに関わらず。
れいなの睨みに怯えたのか、れいなの言葉に反応したのかは
分からないが集団は足早に去った。
れいなはそれが見えなくなるのを見届けると、
間一髪で泣き出さなかった少女のほうを向いた。
- 450 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:41
-
「ふぇ。」
「…別に、怒ってないと。」
元から目つきが悪いと言われるれいなである。
それにプラスして少し機嫌が悪かった。
当然れいなと初めて会う少女は怒られると思い、
れいなの出現に引っ込んだ涙が出てきそうになる。
「あんた天女総家の亀井っちゃね?」
「な、なんで…知ってるの?」
「あたし、田中れいなっていうと。
魂分けの田中家っちゃ、相手の家くらい知ってて当然やと。」
れいなの言葉に目を見開く。
それから嬉しそうに顔を綻ばせて笑った。
それはまるで桜の花が満開になったような笑顔で、今度はれいなが驚く番だった。
―この子、可愛いと。
顔に血が集まってくるのが分かった。
少女はそんなことなど気にせずにこう自己紹介をしたのだった。
「エリ、絵の具の“絵”に、〜里の“里”で絵里。亀井絵里。」
こうしてれいなと絵里は出会った。
しばらくするとれいなの幼馴染であるさゆみを加えた、
三人でいることが当たり前になるのだった。
- 451 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:42
-
++++
- 452 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:43
-
「明日かー。」
絵里と出会ってから既に五年の歳月が経とうとしていた。
れいなは春から六年生へと進級し、絵里は中学校へと進学する。
絵里の能力はまだ発現していなかったが数年前北海道であった急な能力の発現被害を踏まえ、
能力がいつ発現するか分からない状態の絵里も魂分けをしておくことになったのだ。
「あれ、見間違いだったやったと?」
椅子に思いっきり体重をかけると、椅子が軋んだ。
れいなは一度絵里の力と思われるものが発現しそうになったのを見たことがある。
忘れもしない最初の出逢い。
あの時絵里の背後に見えたのは確かに力だった。
恐ろしいほどに強い力。
だがあの後絵里の能力は欠片として出ることはなく、れいなは不思議に感じていた。
「…まぁいいっちゃ。」
明日の為にも早めに寝てしまおう。
れいなは椅子から立ち上がるとベッドへと入った。
魂分けの儀式が明日に迫っていた。
- 453 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:44
-
「絵里、本当にれいなでよかったと?」
「いいの。絵里はれいながいいんだから。」
絵里は穏やかに微笑むとそう言った。
田中家の道場で二人は向かい合っていた。
れいなは床に胡座をかいて絵里を見上げる。
絵里の顔は格子から入ってきた夕日の光によって濃い目の陰影がついていた。
「れいな、絵里と初めて会ったときからずっと一緒にいてくれてるよね。
そんなれいながならないなら、絵里は一体どんな人と魂分けすればいいの?」
自信満々といった様子で絵里は更に言葉を続けた。
「絵里にはれいなが一番なんだよ。だってれいながいるとすごく安心するもん。」
―だかられいながいいの。れいな以外考えられないの。
そっと抱き寄せられて耳元で囁かれた。
ぎゅっと身体にかかる圧迫感。
そして背筋がぞくっというような感覚。
- 454 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:46
-
れいなは目を開けた。
「なんだ、夢か〜。」
朝日が窓から差し込んでいる。
れいなは半身を起こしながら呟いた。
―リアルな夢だったと。
まだ少し鳥肌が立っている。
絵里の声はそれほどまでにれいなに影響を与えていた。
人魚が歌声で心を奪うというなら、天女にも出来るのだろう。
そう思ってしまうほどさっきの声は凄かった。
あれは絵里ではない。
天女だ。
「……緊張してたんちゃ。そうに決まってるっちゃ。」
れいなは怖かった。
絵里と魂分けすることがではなくて、絵里が絵里でなくなってしまうことが。
たぶんれいなは絵里が変わってしまっても絵里に逆らうことはできない。
止める事ができない。
それは酷く無責任なことにれいなは感じた。
「絵里は絵里だっちゃ。」
天女の血で変わってしまうというのなら、変わらない様にすればいいだけ。
これからする魂分けはそのためにするもの。
れいなは改めて決心した。
- 455 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:47
-
目の前には飯田神社の関係者だと思われる人たちがずらっと並んでいた。
その中心にはたぶん今回の魂分けの儀式を仕切るのであろう女の人が。
れいなが所在無げに視線をうろうろさせていたらばっちりと目が合ってしまって、
少し恥ずかしかった。
隣に座っている絵里も同じような感じで、れいなは少し安心した。
「えり、れいな、前に出なさい。」
「「はい。」」
れいなが立つと絵里の手を引っ張った。
これははっきり言って癖のような物だったのだが、れいなは皆に見られているのに気づく。
その途端に恥ずかしくなった。
だが握られた手を絵里は離してくれそうになかったし、離す必要もない。
なぜなら魂分けの儀式ではどこかをつないでいないといけないから。
周りが何か言葉を唱えだした。
何を言っているのかは声が重なりわからない。
「れいなでいいと?」
ここに来てから聞くことではなかったがれいなは正面に立つ絵里に小声で聞いた。
絵里はその問いにびっくりした顔をすると、直ぐに笑った。
- 456 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:48
-
「れいながいいの。」
握られた手に力が入る。
周りの呪文も佳境にはいったようだ。
絵里の体から光が発せられる。
それは明滅しながら段々れいなのほうへと伝わってきた。
最初にその光が触れたのは指先。
それは絵里の体温と同じ熱を持っていた。
まるで絵里と一緒に日向ぼっこをしているかのような感覚にれいなは心地よさを感じた。
やがてれいなの身体も光に包まれる。
その瞬間、絵里がれいなを引っ張った。
呆けていたれいなが対応できるはずもなく。
そのまま絵里のほうへと倒れこんだ。
「ずっと、ずっとれいなと一緒がいいの。忘れないでね、れいな。」
「れなだって、絵里と一緒のほうがいいっちゃ。」
その言葉と同時に頬に柔らかい感触が。
初めれいなはそれが何か気づけなかったが、ちゅっと音を立て離れたそれに赤面した。
くすくすといつの間にか光が消えた絵里が笑う。
- 457 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:49
-
「約束。」
「……絵里の馬鹿、恥ずかしいやろが。」
どくんと心臓が跳ねた。
それと同時に自分の鼓動のほかに何か別のものが感じられた。
穏やかで温かいそれはいつもそばにあった気がする。
「あ、これがそうなんとね。」
分け魂。
今確かに自分の中にその存在が感じられる。
れいなの言葉に絵里は不思議そうな顔をした。
そんな絵里にれいなはなんと説明していいか分からなくて首を困ったという風に傾げた。
「分け魂の存在、わかるか?」
「はい、まだよくわかりませんけど。でも、絵里だってわかります。」
そうかと頷いた中澤の当主は次に絵里に向かった。
「何か楽になった感じとかそういうのはないか?」
「確かに言われると分かりますけど、そんなに実感はできません。」
ちょっと困惑した顔をする絵里。
れいなはそんな絵里を見て安心した。
- 458 名前:―魂分けの誓い― 福岡の場合 投稿日:2006/01/29(日) 23:50
-
―夢の続きかと思ったっちゃ。
先ほどの絵里の言葉。
夢と全く同じものだった。
だから言われた瞬間にまさかという想いがれいなを襲った。
でも…。
―絵里は絵里。やっぱりそうっちゃ。
夢と現実は違う。
夢でなんの言葉も返せなかったれいなが確りと絵里に言葉を返せたように。
絵里の言葉がれいなの心を温かくさせたように。
れいなは願う。
これからもこの日常に変化がありませんようにと。
ずっと絵里の側にいれますようにと。
そして絵里が絵里でありますようにと。
―運命?― 終
- 459 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/01/29(日) 23:51
-
- 460 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/01/29(日) 23:52
-
更新したよ上げ
- 461 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/01/29(日) 23:57
-
とこんな感じでれなえりは終わります。
今、少し見直してみたられなえりも十分長かった……。
そして一番番外編のテーマに沿っているかも。
ちなみに、あやみきは初一人称ですんで。
文体ががらっと違います。
鳴れない書き方のせいで益々長く。
もーなるようになれ!という心境で書いています。
ではたぶん次の更新も二週間後くらいに。
メン後でした〜。
- 462 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/02/02(木) 20:52
- 更新お疲れ様です。
吉後は本編をみてからだと切ないですね。
田亀・・・ニヤニヤしながら読ませていただきました!
- 463 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/12(日) 17:05
-
462>>名無し飼育さん
感想ありがとうございます!
吉後を書くと甘くしようとしても、どこか切なくなってしまいます。
吉後はほのぼのが一番!!とか断言してるのに…。
田亀はそれにくらべてどんな風にも書きやすくて助かってます。
にやにやしていただけたなら良かったです!
では今回のお話。
番外編のトリを飾るあやみき!
どうぞ!!
- 464 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:07
-
- 465 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:07
-
美貴と亜弥ちゃんの馴れ初め?
なんでそんなこと聞くの?
まぁ、いいけどさ。教えてあげる、美貴と亜弥ちゃんの馴れ初め。
- 466 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:08
-
―変化―
- 467 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:09
-
美貴が亜弥ちゃんと初めて会ったのは、美貴が二歳くらいの頃。
松浦家に子供が生まれたって事は魂分けの相手は大体美貴ん家、藤本家の人間になるわけじゃん。
吉澤に後藤、亀井に田中みたいな感じで。
だからその子と最も年の近い美貴は当然行かないといけなかったわけ。
お母さんに手を引かれた美貴は直ぐに亜弥ちゃんと会わせられた。
「美貴、この子が亜弥ちゃんよ。可愛いねー。」
「…亜弥ちゃん?」
美貴は目の前に突然現れた自分より小さい存在に驚いたんだ。
それまで美貴の周りは自分より大きい人は沢山いても小さい子っていなかったから。
亜弥ちゃんは美貴が珍しがって顔とか手とかを触るのを凄く喜んでさ、物凄い笑顔だったよ。
普通赤ちゃんって、そんなに触られたら泣くのにね。
- 468 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:10
-
「亜弥ちゃん、可愛い。」
美貴の指をまだ小さい手で一生懸命に掴んでさ。
とにかく凄く笑顔だったの。亜弥ちゃんは昔からよく笑う子だったから。
その様子に思わず美貴も口が滑っちゃって。
たぶん顔も緩んでいたと思う。
だーとかうーとか言葉になってないことを話す亜弥ちゃんを見てたら自然とね。
でね、その時美貴思ったの。
あー、美貴この子と魂分けしてずっと一緒に生きていくんだろうな。
って。
そう、美貴の中ではもうこの時から亜弥ちゃんは大切だった。
あれが相性って奴なんだろうね。むしろ運命?
一目でずっと一緒にいてもいいなって思えるんだから。
それは美貴の中では当たり前のことだったから、
亜弥ちゃんにそんなこと言わなかったんだ。
そのせいでちょっと問題が起きちゃった。
ま、これは後でもいいね。
そんなこんなで美貴はこの時から松浦家に通う日々が始まったと。
次に関係が変化したのは美貴の小学校卒業のときだね。
これは亜弥ちゃんから聞いたほうがいいと思うから、代わるね。
- 469 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:10
-
++++
- 470 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:12
- 美貴たんが小六、松浦が小四のときですね。
美貴たんがさっき松浦の家に通う日々が始まったって言っていたじゃないですか。
だからだと思うんですけど、松浦、
美貴たんがいないときを思い出すほうが難しいってくらい何ですよ。
いつも側には美貴たんがいて、それが普通で。
隣にいないって言うだけで悲しくなるのに、
学年が違うからクラスも違う、同じ階にさえいない。
最初松浦にとっては異次元でしたね、美貴たんがいない空間って。
それでもまだ休み時間とか登下校は一緒なわけで。
それがまして中学校と小学校になったら校舎も違えば敷地も違う。
松浦にとって寝るとき以外、
下手すると寝るときも含めてそんなに離れたことなかったんです。
それにその頃は自分が美貴たんにとって何なのかが分からなくて不安で。
自分が魂分けの儀式の相手候補だから優しいのじゃないかとか、
ごちゃごちゃ考えてました。
今考えると逆なんですけど。
だって美貴たんが松浦に運命感じていたなんて聞いていませんでしたから。
- 471 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:14
-
で、プッツンと。
能力がいきなり発現しちゃったわけですよ。
卒業式の夜に。
それまで、家で自分の魂を暴走させないようにする訓練はしていても
力の制御の仕方なんて少しも知らないじゃないですか。
どんな能力なのかどうかさえ現れてからじゃないとわからないんですから。
よっすぃーに比べればかなり小さいほうなんですけど、
それでも二番目に大きい天女の魂を持っていたので結構被害が出ましたよ。
家とか物は特に。人はかすり傷ぐらいだったんですけど。
分かりやすく言うと亀井ちゃんの能力の発現時に衝撃波が出たじゃないですか。
あれの三倍くらいだと考えてくれれば。
それでも暴走までいかなかったのは美貴たんのおかげだと思います。
能力がいきなり発現しておろおろするしかなかった松浦を
美貴たんはずっと抱きしめててくれたんですよ。
- 472 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:14
-
「大丈夫、大丈夫だから。」
そう言いながらずぅーっと。
松浦より美貴たんのほうが怪我しているのに、ですよ。
すごく嬉しかったです。
美貴たんの声を聞いているうちに段々と魂も安定してきて、能力も収まったんです。
感情が落ち着いたからなんだと思うんですけど。
松浦はそのまま寝ちゃって、起きたら魂分けの儀式をすることが決まっていたんです。
そりゃ、あんなに被害が出たし当然そうなるだろうなとは思ってましたけど。
余りにも決定が早くてびっくりしました。
じゃあ、ここからは美貴たんの方が分かると思うので松浦の話は終わりです。
- 473 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:15
-
++++
- 474 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:15
-
んーとね、どこから話せばいいのかな?
取りあえず美貴の卒業式の夜、亜弥ちゃんの力が発現したことは分かったよね。
美貴はその時、何でいきなり亜弥ちゃんの力が出ちゃったかその理由がわからなかったんだ。
亜弥ちゃんが美貴の卒業のことにそんなに不安を感じているなんて思ってなかったし。
それに美貴にとって亜弥ちゃんが大切なのは最早決まっていることだったから。
その事で悩んでたんだって聞いて、すっごく驚いた。
大体さぁ、美貴が自分と魂分けする相手の最有力候補だからって理由で優しくなるわけないじゃん。
美貴は大切だから優しくするんだし、大切だから魂分けの候補になったんだよ。
亜弥ちゃんの考え方って本当にまるっきり逆だったんだよね。
それで亜弥ちゃんが落ち着いた後、美貴は天女総家の北海道支部に呼ばれたんだ。
寝ている亜弥ちゃんを置いていくのは嫌だったけど、魂分けのことだと予想がついたから行かなきゃいけないよね。
美貴が中に入るとそこにはもう既に松浦、藤本、高橋のそのときの当主の人たちが揃ってた。
そして異口同音に美貴に言った。
- 475 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:16
-
「亜弥の魂分けが決まった。相手は……。」
「美貴がなる。美貴以外にはさせない。」
美貴はその人たちの話を遮って叫んだ。
普通ならここで揉める。
魂分けの相手に誰が相応しいか―相性とか分け魂の制御力とか諸々―を全部考えて決める。
でも亜弥ちゃんの魂分けの相手を美貴以外にさせるわけにはいかないでしょ。
美貴は最初から、亜弥ちゃんが生まれたときから決めてたことだし。
だから美貴は一歩も譲らなかった。
相性はばっちり、問題なし。
分け魂の制御だって亜弥ちゃんが魂の制御を訓練しているときに一緒に練習した。
他の体術、身体能力の面だって良いほう。
- 476 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:17
-
「だが美貴。お前が亜弥の魂分けの相手になったら即藤本家当主になるんだぞ。そこの所分かっているんだろうな。」
「…分かってるよ。美貴だって。生半可な覚悟で言っているんじゃないんだよ!」
この時も当主になるって事の大変さは分かっているつもりだった。
だけどやっぱり実際になってみると違うね。
天女総家の役割とか結構重くなってくる。
ほら、よっちゃんの時みたいな例外以外のとき美貴達って妖怪退治が専門じゃん。
妖怪って括っていいかわからないけど。
ほとんどが亜弥ちゃんの魂狙いだけど、時々は一般の人にも被害がいきそうになって。
そうするとその人たちの生活って美貴達に懸かってくるわけで。
ほんと当主になってから凄く実感した。
現場に出るようになったのが一番の理由かもしれないけど。
- 477 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:17
-
で、そんなこんなで何とか説得して魂分けの儀式をすることが決定された。
亜弥ちゃんが起きる前に決まってて、起きたら驚くだろうなと思ってたらやっぱ亜弥ちゃんは驚いた。
まあ、美貴も魂分けを明後日やるよ〜なんて軽く言われたら驚くだろうけど。
魂分けの儀式の様子は教えたくないんだけど…。
聞きたい?
そう、そんなに聞きたいならしょうがないな。
教えてあげるよ。
- 478 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:17
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++++
- 479 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:18
-
美貴と亜弥ちゃんは手を繋いで立っていた。
昨日の今日で飛行機に乗って東京まで来て、魂分けをする飯田神社までついた。
亜弥ちゃんは勿論緊張していたけど、美貴もやっぱり緊張してた。
だからかもしれない、次の日に魂分けって日の夜。
亜弥ちゃんにあんなことが言えたのは。
「ねぇ亜弥ちゃん。」
「何?みきたん。」
「美貴が亜弥ちゃんのこと大好きなの知ってた?」
亜弥ちゃんは美貴の言葉に目を丸くすると「…え?」と声にならないような声を上げた。
美貴は言葉が出ないほど驚いている亜弥ちゃんを見ながら自分の思っていること、全部言った。
…照れ屋の美貴にしてはかなり珍しいんだけど。
- 480 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:19
-
「美貴ね、亜弥ちゃんが小さい頃から、ううん、生まれたときから大好きなの。」
「だからそれまで興味のなかった家の事だって考え出して、自覚を持って身体を鍛えたりしたんだよ?」
「―――亜弥ちゃんに会ったときから、魂分けの相手は美貴がなるって決めてたから。」
「亜弥ちゃんは美貴にとって大切な人。美貴以外に守らせてなんかやんない。」
「美貴が一生守るって、一生側にいるって、ずっと思ってた。」
「……みきたん。」
絶対このとき美貴赤面してたね。
言ってからやばい恥ずかしかったし。
亜弥ちゃんは途中から俯いてしまって表情が見えなかった。
「みきたん、みきたんみきたん。」
「何?亜弥ちゃん。」
「大好き、大好きっ、…大好き。」
- 481 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:20
-
亜弥ちゃんが顔を上げてそう言った瞬間、世界が明るくなった。
美貴には本当にそう思えた。
だって亜弥ちゃん可愛すぎるし。
その後美貴に抱きついてきてしかも泣かれた。
何で泣かれたのか分からなかった美貴はひたすらおろおろしてたと思う。
亜弥ちゃんに教えてもらったことには、この時の美貴の言葉は亜弥ちゃんの不安にピンポイントで命中しちゃっていたらしく。
この言葉で亜弥ちゃんのもやもやが綺麗サッパリ消え去ったということだ。
で残った美貴への感情が爆発したと。
亜弥ちゃんってホント可愛いよね。
- 482 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:20
-
こうして何の憂いもなくなった亜弥ちゃんと美貴は無事に魂分けすることができました。
亜弥ちゃんが美貴の額にちゅっとキスしてくれてね。
もう、すっごく嬉しかった。
もちろん美貴もしたよ。
他のところみたく誓いの言葉とか言っちゃって。
まぁ、この日の言葉が一番誓いの言葉ぽかったけど。
じゃあ、美貴と亜弥ちゃんの魂分け話は終わり。
本当はもっと話してもいいんだけど
これ以上は教えてあーげない。
だってもったいないもん。
―変化― 終
- 483 名前:―魂分けの誓い―北海道編 投稿日:2006/02/12(日) 17:20
-
- 484 名前:羽衣インタビュー 投稿日:2006/02/12(日) 17:22
-
―ということで高橋さん聞いていてどうでしたか?
「全然足りん。本当はあれの五割り増しくらいやで。ひたすら、毎日いちゃラブ!あーしは毎日恋愛系のドラマを見ているような日々やった。時にはラブコメ、時には修羅場、時には純愛。やけど結局お熱ーく収まるんやから、やってられんざ。」
―話の中に少しも出てきませんでしたが高橋さんは何を?
「あーしもしっかり存在しとるわ!ただ単にあの二人がほかの人間に疎すぎるだけやざ。大体、卒業式のときとかあーしのほうが明らかに亜弥ちゃんと近いのに。小中高全部一緒のクラスやで?!それなのになんでこんなに出てらんのかこっちが聞きたいわ!」
- 485 名前:羽衣インタビュー 投稿日:2006/02/12(日) 17:23
-
―ではこの話のほとんどに高橋さんはいると?
「おるに決まっとるがし!さすがに亜弥ちゃんが生まれたときにはおらんけど…。美貴ちゃんが亜弥ちゃんの家に通うとき半分くらいはあーしも一緒に通ったし、訓練だって一緒にしとったわ!魂分けやってあーしが羽衣に本決まりしたから付いていったし。卒業式だって亜弥ちゃんをなだめたのは美貴ちゃんかもしれんけど、あーしがいなかったらたぶん卒業式のときにすでに暴走しとったわ!」
―えーと、他にコメントがあればどうぞ。
「これ見てる人、よーく聞いて頭の仲で補完しといてや!魂分けの話なんやから、羽衣の家系も漏れなくいるんやざ。美貴ちゃんたちにはあーしがいたし、田中ちゃんのとこには重さんがいたんやで!そこらへん忘れんでおいて。天女総家は三つの家系からできとるんや!羽衣の家系だって加護さんのところ以外目立っておらんけど重要なんやよ。」
- 486 名前:羽衣インタビュー 投稿日:2006/02/12(日) 17:23
-
―道重さんはどうでした?
「さゆのとこはそんなに激しくなかったの。といか見ているこっちがじれったくなるほど進展が遅い二人で、逆に困りましたー。絵里の相談に乗らせられた回数は数え切れないし、絵里が中学に上がる時のれいなの心配ぶりもかなり凄かったの。」
―田中さんは下手惚れだと?
「二人ともなの。そのせいでさゆが少しも出てこない。さゆらしくない言い方をすれば、二人とも奥手すぎて展開がおそいんや!どんな見方をしたってあんたらは両思いやろが!!ってかんじなの。」
―最後に一言どうぞ。
「無理だってわかってるけど、さゆと高橋さんの話も欲しいの。羽衣の家系が加護さんたちに偏りすぎなの。」
- 487 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/12(日) 17:24
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- 488 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/12(日) 17:24
-
- 489 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/12(日) 17:31
-
まぁ、最後のは余りに不憫すぎた人たちの番外編ということで。
これで予定していた番外編三つも終わり、スレタイにもなっていた
「空を越えて」は本当に終わりです。
今まで読んでくださった皆さん本当にありがとうございました!
これからは前にも言ったとおり何の関係もない中篇や短編をあげていくつもりです。
もうまこあいの中篇が半分ほど出来ているので、
また二週間後くらいには更新したいと思います。
ではこれからもどうぞよろしくお願いします!!
- 490 名前:某まこあいヲタ 投稿日:2006/02/18(土) 20:03
- >まこあいの中篇
期待してますよ。ワックワック
- 491 名前:翡翠 投稿日:2006/02/26(日) 13:18
- 更新&「空越えて」の完結お疲れ様です♪
凄いはまってしまい、また最初から読み返してました。
次回は、まこあいなんですね。楽しみにしてます。
出来れば、またよしごまも読んでみたいなぁ、なんてw
- 492 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/26(日) 20:13
-
490>>某まこあいヲタさん
期待に応えられるかは微妙な線です。
相も変わらず、普通にラブっている話ではないんで…。
最後のほうまで少々我慢して下さい。
だぶん熱々になります…?
491>>翡翠さん
ありがとうございます。
今回は主にまこあいですが、よしごまもあるんで。
というか半分くらいよしごまな話になってしまったので。
気に入っていただけたらいいなと思っとります。
どうも自分が長めのを書くとなぜか、
どうしてもよしごまが入ってしまうようです。
では二週間ぶりで予定通りまこあいです。
―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・―
どぞ。
- 493 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:14
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- 494 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:15
-
屋上に寝転がって夏らしい青い空を眺めてみる。
バサバサいうスカートやブラウスがうるさいがそれより気持ちよさが先立ってしまう。
「風、強いなぁ。」
- 495 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:15
-
第一話 青い空
- 496 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:16
-
今はお昼休みで、夏のこの暑い時期にわざわざ屋上に来る物好きはいない。
少し耳を澄ませばこの下に自分と同じ人間が山ほどいるのに気づく。
風の音しか聞こえないここでは生徒たちの喧騒はやけに響いた。
ぼんやりとこのままでいたら焼けるのかなと考えてみたが、
他の同級生のように予防に精を出す気にもならない。
―夏になちゃったか・・・。
階段を上ってくる音が聞こえた。風が麻琴の耳にその聞きなれた音を運んでくる。
自分のなかで大方の予想をつけて、物好き二号の登場を待つ。
「まこっちゃん、ここにいたの?」
まこっちゃん―小川 麻琴を探しに来たらしいその人物をしたから寝たままで見上げる。
麻琴の同級生である新垣 理沙は呆れたように麻琴を見下ろしていた。
ギィッと少しさび付いている扉を閉めて麻琴のいる給水塔の近くにやってくる。
風の強い屋上では理沙の長い髪は流され、風になびいていた。
- 497 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:17
-
「ガキさん、今日も愛ちゃん関係?」
毎日ご苦労さまと言いたい。
彼女は、毎日麻琴に会いに来る愛の伝言を届けに昼休みになると麻琴のところに来る。
貴重な昼休みを伝言に費やす理沙のことも良くわからなかったが、
毎日会いに来る愛のことはもっと良く分からない。
―愛ちゃん、私用で後輩を使うのは止めた方がいいと思うよ。
理沙は愛の友人のようなものだから別にいいのだろうか?
麻琴にはその微妙な境界線が理解できなくて、だがすぐにどうでもよくなり理沙に再度尋ねる。
「今日はなんだって?愛ちゃん。」
大体が夜遊びするな、次が家に寄れ、
あとは日替わりでご飯はしっかり食べろ、さぼるな等が続く。
よくこれだけ書くことがあるよなと思いながらも、伝言の書いてあるメモには目を通す。
見ないと後で会ったときに何かとうるさいからだ。
「顔見せろ、集合場所は喫茶ごま吉。」
理沙がメモの内容を読み上げてから、麻琴にメモを手渡す。
麻琴の指先で摘まれた紙には今理沙が言った通りのことが少し癖のある丸字で書かれている。
- 498 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:18
-
―ごま吉でかぁ。
さてどうしたものかと麻琴は考える。
喫茶店には麻琴がお世話になった先輩である吉澤 ひとみとその恋人後藤 真希がいる。
料理もおいしいし、値段もお手ごろなので麻琴もほぼ常連さんとかしている。
ただ麻琴しかいないと惚気てくるのにちょっと困っていたがごま吉に行くことは別に嫌ではない。
―愛ちゃんとどれくらい会ってないっけ。
指折り数えてみる。
そうして数えてみると一週間くらい会ってない。もう少しすれば夏休みも始まる。
夏休みの間、麻琴は捕まらないだろう。夏の間中麻琴は愛と会わないように最善を尽くす。
愛にはそれが分かっていたから今日会おうとしているのだ。
―夏に愛ちゃんと会うのはなぁ。
麻琴の顔が勘弁して欲しいと歪む。
麻琴は夏が苦手だった。それに夏に愛と会うのはもっと苦手だった。
時期が近づくほどに気を使ってくる愛と会い、話をする事は否応なくあの事を思い出させた。
背中の火傷がひりひりと痛み始めている気がした。
- 499 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:19
-
++++
- 500 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:20
-
夕方になっても暑さに余り変わりはなく、むしろ夕焼けの真っ赤な空が暑さを倍増させる。
麻琴にはそう感じられてならなかった。
うるさいほどに鳴く蝉もそれに拍車をかけているような気がした。
―愛ちゃん、元気かなぁ。
毎日学校にも来ているし、
ましてやあのような文面のメモを書けることから十分に元気な様子は推測できるのだが、
麻琴はそんなことは考えてはいない。
麻琴にとっては何事も自分の目で見なければ信用できなかった。
あの後、そのまま授業をサボった麻琴はぼーっと屋上から向かい側の校舎を見ていた。
麻琴のいる校舎は一年から三年までの全てのクラスが入っている東校舎で、
麻琴が見ている西校舎には特別教室と職員室が入っていた。
その中の音楽室に愛がいた。
風に乗ってくる歌声を子守唄にしながら麻琴は眠ったのだ。
愛の歌声に包まれながら眠ることは麻琴の一番の熟睡法だった。
- 501 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:22
-
―今日も歌、上手だったから大丈夫だと思うけど。
会いたくはないが愛の状態は何よりも気になる。
そんな複雑な気持ちを抱えながら麻琴は喫茶ごま吉に向かっていた。
カランコロンと昔ながらの鈴の音がして、麻琴はすぐに真希を見つけた。
真希も麻琴を見つけるとにこっと綺麗な笑顔を投げかけた。
麻琴も満面とはいかないまでも笑顔を返す。
「まこっちゃん、今日は何にするの?」
水の入ったコップを麻琴の前に置きながら真希が尋ねた。
麻琴はいつも座るカウンターの席に座りながら、自分の目の前に立つ真希にいつもと同じものを頼む。
冷たそうなガラスのコップを露点に達した水蒸気が滑り落ちていく。
「ホットケーキとアイスココア、お願いします。」
「オッケー、すぐに作ってくるからねー。」
- 502 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:23
-
真希は腕まくりをして奥の厨房に入っていく。
真希は麻琴の先輩であるひとみを通して仲良くなった。
ひとみは短大に通っているのでここにはまだいないが、
麻琴にとってひとみと真希は命の恩人のようなものだった。
麻琴が一番荒れていたときに出会ったのがひとみだった。
ひとみも髪は金色だし、タバコは吸わないが酒は飲むしで結構な不良だったのだが、
面倒見はよくて多くの人から慕われていた。
真希はそのひとみの恋人で高校に入ったときにひとみから一目ぼれされて付き合うことになったのだそうだ。
真希も面倒見はよくて、一時期ひとみにべったりだった麻琴とも嫌な顔一つせずに色々お世話してくれた。
そして高校を卒業した今もこうして二人が働いている喫茶店で
時々はおごって貰ったりしながらご飯を食べに来ている。
「今日はね、ひとみがサークル活動で遅くなるみたいだから一人で寂しかったんだ。」
「そうなんですか。」
「うん、やっぱいつもいる奴がいないとね〜。」
だからまこっちゃんが来てくれて嬉しいと言う真希に麻琴は少し照れながら料理を受け取る。
カウンター越しにホットケーキとアイスココア。
麻琴がここに来ると頼む定番料理だった。
夏に近づくほどこれを頼む回数は多くなっていることに麻琴は気づいていた。
- 503 名前:―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と・・・― 投稿日:2006/02/26(日) 20:24
-
―麻琴、姉ちゃんがうまいの焼いてやるがし。―
ふっと麻琴の頭によぎったのは小さい頃の夏の思い出で、自分がまだ夏を大好きだった時の会話。
そこには大好きな笑顔と、それから大好きになった食べ物が浮かんでいた。
―今でも大好きなんだよなぁ。
何を、今でも大好きなのかハッキリしない気持ちに麻琴は苦笑した。
でも好きなのだ。
麻琴はそう考えてから、止めた止めたという風に頭をかいた。
そして目の前のホットケーキを食べ始める。
真希も皿を拭きながら、そんな麻琴を見ていたり、ひとみの話を麻琴としてみたり。
いつもはそこにひとみもいて、それが麻琴の日常だった。
第一話 青い空 了
- 504 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/26(日) 20:25
-
- 505 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/26(日) 20:25
-
- 506 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/02/26(日) 20:30
-
と、こんな感じの学園物。
まこあいと銘打っているのに出てくるのは小川と後藤と新垣。
しかも今がガキさん初書きだったかもと気づく。
基本よしごまとまこあいとれなえりですから。
……そのわりに、加護とか辻とか松藤とか書いてますけど。
ではまた来週〜。
たぶん再来週〜。
- 507 名前:翡翠 投稿日:2006/03/03(金) 12:54
- 更新お疲れ様です♪
新作も、凄いよくて大好きな感じです(*>▽<*)
次回更新も、楽しみにしてま〜す!
- 508 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/03/14(火) 22:47
-
507>>翡翠さん
ただでさえ遅い予定よりさらに遅れてしまってすみません…!
新作気に入ってくれたようで、良かったです。
この頃自分が明るいだけの話がかけないことに悩み中です。
ではではまこあい中篇続きです。
- 509 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:50
-
―…台風十五号が接近中です。関東地域は・・ザッ、暴風……。今夏、最大規模の模様です。
愛用のボロいラジオが告げた予報は麻琴にも今年、
いや生涯でも最大規模の台風をもたらした。
1.曇り空
今年も無事に夏が終わろうとしていた。
例年通り麻琴は愛に会わなかったし、愛はそんな麻琴に近づかなかった。
そして夏休みも終わるという八月下旬、それは突然麻琴に襲い掛かった。
低いモーター音が部屋に響いた。
それと共に流れるのは流行に後れないかどうかくらいの着信メロディー。
麻琴はカーテンを閉め切っている為真っ暗な部屋の中で唯一眩しく光る携帯を手に取った。
ちらりと見た時刻は昼前、いつもならまだ寝ている。
着信は新垣理沙。
麻琴は心の中で数秒葛藤してから電話を取った。
- 510 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:51
-
「もしもし?」
―思いっきり睡眠妨害なんですけど。
欠伸をかみ殺して響いてくる音に耳を集中させる。
電話口の向こうの彼女はどうやらとても慌てているらしかった。
『もしもしっ?まこっちゃん?あのさ、重大ニュース!たぶんまだ知らないだろうから。』
「何かあったの?あたし、まだ寝てたんですけど。」
『えぇ!まだ寝てたの?もうお昼だよ。』
「あたしにとっては明け方。まだ部屋も薄暗いし。」
カーテンの向こうからは夏らしい太陽光が溢れている。
だがさすがの太陽も遮光カーテンには適わない。
麻琴の部屋は言葉通り薄暗く、自然の時間帯に合わせればまさに明け方だ。
- 511 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:52
-
「で、何?緊急の重大ニュースは。」
『そう、それなんだけど!愛ちゃんがね、結婚するって。』
「…は?」
―なんですと。
『だから愛ちゃんのお母さんが再婚するんだって。それで妹もできるらしいよ。三つ下の。』
「あ、あぁ。そうなんだ。」
―愛ちゃんのお母さんね。
『でね、でね。その妹がなんと田中れいななんだって。まこっちゃんも分かるでしょ?』
「田中って、田中ちゃん?ふーん、そっか。もう、田中ちゃんって呼べないね。」
『いや、そんなことないと思うよ。多分愛先輩の名字が変わるんじゃない?普通。』
がらがらと音を立てて何かが崩れた。
- 512 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:52
-
「…そっか、そうだよね。」
麻琴は後の会話はろくに聞かず、理沙との通話を終わらせた。
ベッドからほぼ飛び降りのように降り窓際まで歩く。
そして麻琴お気に入りのカーテンを思いっきり開けた。
夏の日光がガラス越しに麻琴の目を焼く。
眩しさに細めた目を静かに開くとそこには大嫌いな夏があった。
「…暑い。」
暑い、暑い、熱い。
背中が焼けるように熱い。
ジュウッと言う普通ではありえない音を出す自分の肌。
麻琴っ!
耳に残っているあの時の声。
目に焼きついているあの時の顔。
大好きな、大好きな姉。
あの日も今日のように蒸し暑くてしょうがない日だった。
あの日を切欠に切れた姉妹の縁は今別の所に結び着こうとしていた。
麻琴が恐れていた日だった。
いつかこうなるんじゃないかと思っていた。
―やっぱ、夏最悪。
- 513 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:53
-
2.雨模様
昼過ぎから振り出した雨は容赦なく麻琴の体を濡らす。
夏の雨は生ぬるくてまるで体に絡まっているように感じられる。
理沙からの電話の後、麻琴は愛に電話を掛けごま吉へと呼び出していた。
走るたびに染み込む水にいい加減嫌気が差してくる。
靴はもちろんのことなかの靴下さえもう水浸しだった。
―最悪。
何もかも嫌だった。
夏も、水も、義母の再婚も、何もかも。
嫌なときに嫌なものが重なることはもう体験済みだったがこれ以上は御免被りたい。
心も体も最悪の状態で麻琴は店へと飛び込んだ。
- 514 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:55
-
カランコロンといつもと変わらない鈴の音が響く。
喫茶店の扉を破りそうな勢いで開いた麻琴は荒い息を整えようとした。
大体の息が整い、よしと前を向こうとした麻琴の目の前に突如白い壁が現れる。
「な、なんですか?!」
「なんですか?じゃねーよ。お前はっ!全く、こんなに濡れて…。」
白い壁もといタオルが取り除かれ、すぐ近くにひとみの整った顔が見えた。
少し乱暴だがひとみは手際よくタオルを扱って水分をどんどん吸い取っていく。
濡れた前髪の間から盗み見ればその顔は心配そうに歪んでいて、麻琴は涙が出そうになった。
粗方ふき取ったのであろうか、ひとみは最後に麻琴の頭にタオルを乗せるとそのまま抱きしめた。
- 515 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:55
-
「何があったかは知らないけど、抱え込むなよ。ここにはあたしも真希もいるから。」
「ひとみさん、…ありがとうございます。」
「いいってことよ。分かったんならシャワー浴びてきな。」
「でもあたし、愛ちゃんと待ち合わせが。」
「高橋だってお前のそんな姿見たらそう言うよ。待たせとくから、早く行く。」
ぽんぽんと頭を軽く叩かれると前に押し出された。
その先には真希がいて「こっちだよー。」といいながら麻琴を風呂場へと連れて行く。
麻琴はひとみと真希にお礼を言いながら風呂場へと向かった。
- 516 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:57
-
「まこっちゃん、どうしたんだろうね?」
「さあ?あたしにはさっぱりわからん。けどこれ以上あいつに嫌な事が起こらないといいけどな。」
ひとみと真希は麻琴をお風呂場へと送った後、麻琴について話していた。
真希にはひとみが言葉以上に麻琴を心配していることがわかった。
元々真希が麻琴と知り合ったのはひとみを通してだったし、
ひとみが麻琴を兄弟のように思っていることも知っている。
姉妹じゃないのがひとみらしいなと思いながら今まで麻琴を見守ってきたつもりだ。
だからその真希が知る中で誰よりも麻琴のことを理解しているひとみが
心配していることが何よりも気がかりだった。
―ただ事ではない予感がした。
「そうだね。…何も起こらないといいんだけど。」
- 517 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:57
-
++++
シャワーから出た麻琴の目の前にその人、高橋愛はいた。
夏にこうして会うのは一体何年ぶりなのだろう。
その期間以外ならばそれこそ一週間のうち一日も会わないという週はなかった。
いや、毎日届くメモと伝言それにサボってみる愛の姿がそう感じさせないだけなのだろうか。
七月に入ってからの記憶に自信が持てない。
長期休暇でなければ学校で会う。
夏休み以外の長期休暇なら愛が必ず麻琴の家に来た。
そう夏休み以外なら。
つまりこうしてこの期間に愛と会うのはあの姉妹の縁が切れたとき以来なのだ。
麻琴はシャワーから出たばかりなのに喉の渇きを感じた。
何を言えばいいのか。
- 518 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:58
-
「…愛、ちゃん。」
「何や、麻琴。」
麻琴は一つ息をついた。
そうしないと窒息してしまいそうだった。
愛の目を見る。
綺麗な瞳だった。
麻琴の守りたかった汚れを知らないような目。
「愛ちゃんのお母さん、再婚するって、本当?」
刹那、愛の目が逸らされる。
愛の性格は本当に真面目で、今時珍しいくらい真っ直ぐだ。
―ウソをつくことなど出来るわけがない。
「そっか。…本当なんだ。」
「でも、麻琴。あのな。」
「これで!これで終わりだね。」
- 519 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/03/14(火) 22:59
-
麻琴は故意に愛の言葉を遮った。
麻琴にとってそれ以上聞く必要はなかった。
愛が自分の姉でなくなる、今度こそ完全に。
それだけで十分だった。
麻琴の濡れた髪から雫が落ちる。
肩に染む込むそれはとても冷たい。
「愛ちゃんは田中ちゃんのお姉ちゃんになるんだから。だからもう、あたしに構ってちゃ駄目だよ。」
「麻琴、聞いてや!」
「やだ!!……あたしをこれ以上夏嫌いにさせないで。」
麻琴は愛の顔を見ることが出来ない。
下を向いたまま愛の隣をすり抜けて出口へと向かう。
―あたし、今絶対ヒドイ顔してる。
麻琴は後ろであの昔ながらの鈴が鳴るのを聞いた。
そして、そのまま再び雨の世界へと戻っていった。
シャワーで温まった身体がぬるい雨で冷えていく。
それは真希とひとみの優しさまで冷やしてしまうようで麻琴は酷く悲しかった。
- 520 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/03/14(火) 23:00
-
- 521 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/03/14(火) 23:01
-
- 522 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/03/14(火) 23:05
-
暗いよー。
何でこんなに暗くなったのかは書いた本人にも不明です。
っていうかこの第二話長すぎです。
今日大量に(メン後的に)載せたのにまだ半分…。
中篇と銘打っている割には長くなるかもしれません。
どうか最後までお付き合いを。
ではまた再来週。
- 523 名前:名無し読者。。。 投稿日:2006/04/03(月) 12:48
- 次の更新も、楽しみにしてます
- 524 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:32
-
3、雷空
「…麻琴。」
愛は一人ごま吉に取り残されていた。
麻琴が自分の話を何も聞いてくれなかった。
その事実は愛を傷つけた。
麻琴は不良なので、先生の話などまともに聞かない。
だが愛が理沙を通して伝えてもらう言葉は一応なりとも目をとしてくれているようだったし、
愛が麻琴に話しかけるときちんと聞いてくれる。
内容まで確り守ってくれるわけではないが、自分の話は聞いてくれるということが愛は嬉しかった。
呆然と麻琴の出て行ったドアを見つめる。
外はずっと続いている激しい雨だ。少し雷も鳴っている。
ポンと愛の肩に手が置かれた。
「愛ちゃん、取りあえず座ったら?」
真希だった。
その顔には人を安心させるような笑みが浮かんでいた。
愛は真希に従ってカウンターの席に座る。
そこは偶然にもいつも麻琴がごま吉に来ると座る席だったのだが、愛はそんな事は知らない。
- 525 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:33
-
「愛ちゃん、何か食べていきなよ。お腹が減ってちゃ何も考えられないでしょ。」
ここはごとーのおごり。と言う真希の言葉に甘えて愛は頭に浮かんだものを頼む。
そういえば何時だったか麻琴に作ってあげたことがあった。
まだ麻琴と自分が同じ名字だったときの話。
麻琴が今とは違い夏が大好きだったときの話。
「……ホットケーキとアイスココア、お願いします。」
その注文に笑みを真希が深める。
愛にはその訳が分からなかったが、嫌な感じはしなかった。
外では未だに雨が降り続き、時々雷さえ聞こえるような天気へと変化した。
真希が店の奥に入って料理を作る音が聞こえてくる。
愛はそれを聞きながら、麻琴のことを考えていた。
元々、麻琴は夏の好きな子供だった。
特に泳ぐことが大好きで夏休みは二人でプールや時には海に行ったものだ。
麻琴と愛が姉妹になったのは愛が小学三年生のとき。
姉妹でなくなったのは愛が中学二年生のとき。
その時、麻琴は中一。
「……もう、四年かぁ。」
―お母さんも懲りんでようやるわ。
- 526 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:34
-
姉妹でなくなる切欠は、つまるところ父親の酒癖の悪さだ。
年に何回か発作のように暴れる人であった。
いつも通りならひどい怪我もなく、父親が寝付くのを部屋の隅で二人固まって待つのが普通だった。
だがその時は運悪く、暴力が愛たちのほうに向いてきた。
よりによって熱湯をヤカンから愛にかけようとしたのだ。
その時の恐怖を愛は覚えている。
身体は震え逃げることなど出来なやしない。
ヤカンが傾き中から湯気を伴ってお湯が出てこようとする。
ギュッと目をつぶり熱さに耐えようする愛。
ジュウッとまるで焼けたかのような音がした。
「うあぁ。」
「麻琴っ。」
目の前に麻琴の身体。
そっと背中を覗き込んでみると、湯気を立てて真っ赤になっている肌。
愛は血が引いていくのが分かった。
ヤカンの熱湯を全部かけおわった父親はやっと気が治まったらしく寝に入る。
それを見て、愛は麻琴の身体を支えながら、すぐに病院へと向かった。
- 527 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:35
-
―まだ痕は消えんざ。身体も、心も。
結局麻琴はその時の火傷が原因で水に入ることを止めてしまった。
そして愛と母親はその年が明ける前に家を出た。
麻琴はそれから家に寄り付かなくなり、たぶんその頃ひとみたちと出会ったのだろう。
「後藤さん。」
「ん、何?愛ちゃん。」
「麻琴はあたしのこと恨んでるんでしょうか?」
料理を手に持ちこちらに来た真希に問いかける。
真希は愛に料理を手渡すと少し眉をしかめた。
愛は料理を受け取った後も食べずに真希の答えを待つ。
「ごとーには、わからないよ。だけど……。」
「だけど?」
真希は愛になんでもないという風に首をふってみせ、今度は苦笑した。
「愛ちゃんは何でまこっちゃんに構うの?」
「何でって…。」
「愛ちゃんが同情とか、憐憫でまこっちゃんに構うなら止めたほうがいい。」
真希の顔から表情が消えた。
いつもほんわかとした空気を纏っているだけに真希の無表情には迫力がある。
真希と愛の間に揺れる湯気だけがおかしく感じられた。
- 528 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:36
-
―麻琴は、麻琴はっ!
姉妹?
いや、もう何年も前にその関係は終わっている。
先輩後輩?
学校で会うことはほとんどないし、愛と麻琴の所属するもので被っている所は何もない。
友達?
その形には当てはまらない。
「あたしは、ただ麻琴が心配で。」
「どうして?言っちゃ悪いけど、愛ちゃんってもう麻琴と何も関係ないよね。」
「でも、心配なんやもん。確かに麻琴とあたしはもうなんの関係もないかもしれん、
けどあたしは麻琴が好きやからっ。好きやから心配するんやよ!」
その言葉に真希が微笑む。
「なら、大丈夫だよ。」
「え?」
「まこっちゃんに伝えればいいんだよ。好きだから心配してるんだって。
同情とか、傷を負わせちゃった責任とかじゃない。だから、これからも何も変わらないって。」
- 529 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:37
-
―結局まこっちゃんが心配しているのはそれだけだから。
真希はそう言って愛の頭を撫でた。
愛は黙々とホットケーキを食べ進める。
その手は温かくて、愛の脳裏に浮かんだあの夏の日の嫌な暑さを溶かしてくれるように思えた。
麻琴は愛にとっていつも大切な存在で、それは出会ったときから一度も変わらない。
彼女の力の抜けるようなへらへらした笑い方が好きで仕方なかった。
勿論今でも好きなのだが。
それを見るためにいろいろなことをした。
―ホットケーキも最初そのためやったもんなぁ。
暫し手が止まってしまった愛を見て、真希が悪戯に笑って言う。
「愛ちゃん、知らないみたいだから教えてあげる。まこっちゃんね、ここで一番多く頼むのはホットケーキとアイスココアだよ。
ま、もっとも誰かさんが作ってくれたのには敵わないみたいだけど。」
愛はその言葉に顔を上げ真希を見た。
するとそこには、にやにやとまるでひとみが乗り移ったかのような真希がいた。
ばっちりと目が合ってしまい愛は赤面する。
まるで自分が考えていたことを見透かされていたかのような言葉とタイミング。
―恥ずかしいわぁ。…やけど嬉しい。
愛はそのあと食べ終わるまで顔を上げることが出来なかった。
- 530 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:38
-
4、台風の目
- 531 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:38
-
麻琴は公園にいた。
思わず出てきてしまったが家に帰る気にもなれず、ふらっと側にあった公園に入ってしまったのだ。
ブランコに乗って眺める雨の公園は静かで麻琴に昔のことを思い出させる。
ほとんどが愛と遊んだ記憶で麻琴は更に憂うつになった。
俯いく麻琴の耳に、ガチャという鎖の擦れる音がして麻琴は隣を見上げる。
そこには息を切らせたひとみがタオルと傘を持ったままブランコに腰掛けていた。
「…ひとみさん。」
「お前っ、たくっ、それじゃあシャワー、浴びた意味、ないだろう。」
よほど急いできたのだろうか。
言葉は途切れ途切れで、雨の音に混ざって更に聞きにくい。
ひとみは息を整えながら麻琴に傘を手渡した。
走るのに邪魔だったのかひとみの分の傘も閉じられていて、ひとみも同じくらいびしょ濡れだった。
二人とも何も話さない。
ただ隣同士のブランコに座って、ただ一緒に雨を眺めた。
ひとみが持ってきた二つの傘も所在無げに二人の手の中に収まっていた。
「たぶん、愛ちゃんが好きなんです。きっと、ずっと昔から。」
「高橋もお前のこと好きだと思うけど?」
ひとみの言葉に麻琴は黙って頭を振った。
それと一緒に髪の毛から水が飛び散り、すぐに雨粒に溶かされていく。
麻琴は雨により顔に張り付く髪の毛を邪魔に思いながら言葉を続けた。
- 532 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:39
-
「……愛ちゃんはあたしが火傷したのを気に病んでいるんです。だから、構う。
自分のせいで人が怪我をしたからその人が直るまで心配する。」
麻琴は口の中で愛ちゃんは優しいからと呟いてまた曇天の空を仰ぎ見た。
愛は今何をしているのだろう。
勢いであの店の中に置きっぱなしにしてしまったからもう帰ってしまっただろうか。
愛に新しい姉妹が出来る。
そのことはつまり麻琴と愛の関係が完全に切れてしまうことを意味していた。
愛はもう麻琴に構わなくなるだろう。
―もうとっくに麻琴の傷は治っているのだから。
ここが良い区切りだと分かっていた。愛にも麻琴にも。
元から違う人間だった麻琴と愛が完全に違う道を歩く。
それはとても自然なことに思えた。
―愛ちゃんは上の道。あたしは下の道。それでいいじゃん。
なのにこんなにも寂しく感じるのは何故だろう。
別れていた道が重なってまた別れたあとも微妙に重なっていた部分がなくなる。
それだけだ。
頬を温かいものが伝う。
それは雨だったのかもしれないし、別のものだったのかもしれない。
「麻琴。いいか、お前は高橋のことをうちなんかより一杯知っている。
下手したら麻琴しか知らない高橋もいるかもしれない。
でも、だからって全部分かるわけじゃないんだぞ?」
雨の中果敢にも立ちこぎをはじめたひとみが言う。
麻琴は段々と早くなっていくひとみの姿を目で追った。
- 533 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:40
-
「自分じゃないんだから、いや自分のことだってわかんない時あるだろ?なら他の人のことなんて判るはずがない。違うか?」
「……いえ。」
今度はブランコから飛び降りた。
隣で鎖ががちゃがちゃとうるさく騒ぎ立てる。
だがひとみの声は少しもかすれたりしなかった。
「うちとごっちんだって他人よりは何倍と分かり合える。だけど全部は分からない。分かっても不安なときだってある。」
ひとみが麻琴の前に立った。
麻琴が見上げたその顔はいつしか見た笑顔。
ひとみと初めて会ったときもひとみはこの表情をしていた。
明るい、自信があるような、人を何かに駆り立てるような笑顔。
力強い笑顔。
「だからあとは本人に聞くしかない。麻琴は高橋にちゃんと聞いたのかよ?自分に構う理由。」
「聞いて、ないです。」
ぼそっと呟くような声が出た。
ひとみの顔を直視することが出来なくてまた俯いた。
目に入った水溜りには先ほどよりは少なくなった波紋が浮かぶ。
雲間から太陽が覗くのも、もう少しだ。
- 534 名前:第二話 台風の空 投稿日:2006/04/09(日) 17:42
-
「よし、まずそっからだ。高橋に聞いて、もし、万が一、ありえないけど麻琴が思っているような答えが返ってきたら、その時はうちらがいるって。」
「…ぃ、はいっ!」
何故かひとみは麻琴を助けてくれる。
いつも困ったときには必ず現れる救世主。
ひとみは麻琴にとって何よりのお助けマン、まさしく“英雄”なのだ。
「じゃ、帰るぞ。」
「はい!」
もう傘の差す必要のないような小降りの雨。
だけど麻琴は少し出てきた晴れ間に覆いかぶせるように傘を広げた。
麻琴とひとみ、二人分の傘の花は仲良く寄り添って来た道を帰っていく。
第二話 了
- 535 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/04/09(日) 17:50
-
かなり予定よりも遅くなってしまいましたが、まこあい中篇です。
今後はこんなには遅くなりませんがやはり亀のように二週間に一回くらいの遅い更新になります。
話もやっと明るくなりそうな予感です。
ではレス返しです。
523>>名無し読者。。。さん
本当に遅くなってしまってすんません。
これからは今までどおり二週間に一回の更新になると思うのでまた見てやってください。
では今度こそ二週間後に。
メン後でした。
- 536 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/04/09(日) 17:51
-
- 537 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/04/09(日) 17:51
-
- 538 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/10(月) 21:54
- よしごまみっけ!
二人とも、頼れる先輩ですね。
- 539 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/04/23(日) 23:27
-
- 540 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:28
-
「あーし、そろそろ麻琴のこと迎えに行かんと。」
「大丈夫だよ、今ひとみが迎えに行ってるから。だから愛ちゃんはここで待ってて。」
カウンター席から腰を上げた愛に真希が声をかけた。
愛はそう言われて初めてひとみの姿がないことに気づく。
何時の間に、いなくなったのだろう。
「ひとみはね、まこっちゃんのことになると少し敏感になるんだよ?なんでかね。」
「そ…うなんですか。」
自分は知らない。
自分はわからない。
麻琴がひとみとどう知り合って、どうやってそんな絆を結んだか。
愛が気づいたときにはすでに麻琴はひとみにべったりだった。
そして確実にひとみのほうが愛よりお姉さんらしいことをしていた。
―お母さん、恨むで。
これは八つ当たりだ。
麻琴が一番大変なときに側に入れなかったことに対する。
分かっていた。
分かっていたがどうしようもなかった。
愛はまことの一番側に常にいたかったのに、できなかった。
それが今とても悔しい。
とても、とても。
「愛ちゃんとまこっちゃんって不思議な姉妹だよね。」
「そうですかね?」
「不思議だよ。誰よりも姉妹の絆を切りたくないって思ってるのに、お互いに向けてる感情は姉妹じゃない。」
- 541 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:29
-
おもしろいねと言って真希は笑った。
愛は真希の言葉に何も言い返せない。
なぜなら愛にとって麻琴は大概において妹ではなかったからだ。
愛が麻琴と初めて会ったのは小学生のとき。
その頃の麻琴はいつも笑っていた。
愛はその落ち着くような、気の抜けるような笑顔を一目で好きになった。
―笑っていて欲しい。
それが愛の麻琴に思った最初のことで、だから妹と言うよりは大切な人。
姉妹という響きに違和感を感じていた頃の話。
そして姉妹と言う関係に慣れてくると麻琴は愛にとって妹以前に好きな人へとなっていた。
好意は何においても邪魔にはならない。
愛の母親も、学校の皆も、自分達さえも、この好きという感情は姉妹に向いているものだと思った。
誰も仲の良い姉妹をわざわざ引き離したりなどしない。
実際離れたことなどなかったあの時までは。
- 542 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:32
-
「姉妹っていう絆じゃなくて、好きっていう絆を結べばいいんじゃないかな?」
愛と真希の視線がぶつかった。
真希は念を押すように愛にもう一度笑いかけると言葉を続ける。
「あたしはよしこと好きっていう絆しか結べなかった。
友達とか、親友とか、そんなのじゃ物足りなかった。
だからそれ以外の絆を持てた愛ちゃんたちが少し羨ましい。」
ほんのちょっとだけど、と指で示す真希は綺麗だった。
それは今の関係に絶対的な自信を持っているからいえる言葉で、
その関係はたぶん愛と麻琴の関係よりさらに強いものなのだろう。
―あーぁ、どうにも敵わない。
無理だ、これには。
こんな二人には、まだ遠く及ばない。
真希の愛は分かりづらくて、そして酷く深かった。
ひとみの愛が表面化しているのとは全く逆に。
- 543 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:33
-
「あーしもいつか麻琴と後藤さんたちを追い抜いて見せますっ。」
「……期待してるよ。」
真希はそれだけ言うと不意に視線を戸に向けた。
愛もそれにつられたように目を向ける。
―カランッコロンッ
戸が勢い良く開け放たれた。
そしてずぶ濡れと言っていいような格好をした二人が飛び込んでくる。
「ごっちん。」
「はいさ。」
名を呼ばれた真希がいつの間にか用意していたタオルをその人物達、ひとみと麻琴に投げる。
ひとみは二人分のタオルを器用に片手で掴むと、一枚を麻琴に手渡す。
愛はそこに至ってようやく真希がこの二人の帰ってくる時間を予測していたことを知った。
- 544 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:34
-
―本当に、しばらくは追いつけそうにないがし。
愛は心でため息をつくと、気合を入れなおして麻琴に向かう。
一時間ぶり、くらいだろうか真希と話していた時間は愛にとって余りに実感がなかった。
十分だったかもしれないし、二時間だったのかもしれない。
でも時間が流れていることは確かで、目の前のずぶ濡れの麻琴がそれを証明していた。
「麻琴?」
「何、愛ちゃん。」
「あのな、姉妹じゃなくなってもあーしは麻琴に会いたいんよ。」
その言葉に麻琴表情が厳しくなった。
静寂が空間を覆う。
麻琴が頭を拭いていたタオルから目だけで愛を見て言った。
「…それは、あたしがかわいそうだから?」
自嘲気味に言われた一言に愛は思わず息を詰まらせた。
- 545 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:35
-
―後藤さんの言う通りやんか。
麻琴は愛が『好き』という感情以外で自分に接することが嫌だったのだ。
同情とか、憐れみとかは麻琴にはいらなかった。
それでも麻琴が愛の同情かもしれない世話を受けていたのは『姉妹』だったから。
姉が妹の世話を焼くのは当たり前という形式めいた想いがあったから。
つまりはそういうことなのだと愛は思った。
「違う、それは違うがし。あーしは麻琴が、妹とか関係なく好きなんよ。」
「……本当に?」
「ホントやって。信じてや、麻琴。」
「じゃあ、愛ちゃん高校卒業したら一緒に住んでくれる?」
- 546 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:38
-
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
だって麻琴は愛と一緒にいることをあまり好まない。
今まではそうだった。
だから愛は必要以上に麻琴と一緒に過ごそうとはしない、特にこの時期は。
「い、いいん?」
「卒業しても、田中ちゃんのお姉ちゃんになっても一緒にいてくれたら信じてあげる。
愛ちゃんがあたしのこと好きで世話焼いてくれたんだって。」
「でもあーしと一緒にいたら、麻琴あの時の事思い出すやろ?」
麻琴があの火傷を負ったときのとこを、麻琴の顔を愛はしっかりと思い出せる。
それは麻琴があの時のことを思い出す一番の鍵が愛の顔だということを意味している。
- 547 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:41
-
「大丈夫だよ。」
麻琴は確りと頷いた。
「確かにあたしは愛ちゃんの顔を見てあの時のことを思い出すかもしれないし、
火傷がひりひりしてくるかもしれない。」
「ならっ。」
「でもあたしが痛がってるのを助けられるのも、
あたしが安心して痛がれるのも愛ちゃんの側だけなんだよ。」
麻琴が笑った。
愛が好きな笑顔。
久しく見ていなかった暗さも自嘲も入っていない笑顔。
それは愛が最後に見たときから少しも変わっていなかった。
麻琴がタオルを首に掛けなおして、今度は確りと愛を見た。
「だから一緒に住もうよ?」
「………うん!」
愛の顔にも満面の笑みが浮かんだ。
真希とひとみも笑い合う二人を見て笑う。
ここに絆は結ばれた。
第三話 了
- 548 名前:第三話 雨上がりの空 投稿日:2006/04/23(日) 23:41
-
- 549 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/04/23(日) 23:42
-
- 550 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/04/23(日) 23:51
-
……こんな感じになりました。
何が書きたかったのかというと、つまりよしごまは分かりにくい。
見えないけど繋がっているんじゃ、きっと。です。
まぁ、もとがよしごまヲタですから。
今のよしことごっちんも見えないところで絆があることを祈って。
そんなことを書いてます。
まこあいの話なのに。
538>>名無飼育さん
頼れる先輩どころか主役にいつのまにか成り代わっていそうで怖いですw
でもそれもよしごまのオーラということで。
次で最終話なのですがそこにも当たり前のようにでているので。
どうぞよしごまも見てやってください。
では上でも書いたとおり次でまこあい中篇は終わりです。
こんなに短くて中篇と言っていいのか分かりませんが…。
また二週間後に。
- 551 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/25(火) 23:35
- このスレだいすき。
わかりやすいようで素直じゃないまこっちゃんが可愛かったです。
- 552 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/05/07(日) 22:49
-
まこの卒業に憂鬱になりながらも、まこあい中篇最終話更新です……。
- 553 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/05/07(日) 22:49
-
- 554 名前:第四話 台風一過 投稿日:2006/05/07(日) 22:51
-
今年最後の台風も過ぎ、空には雲ひとつない。
まだ茹だるような暑さが残る九月の十四日、麻琴は喫茶ごま吉へと急いでいた。
―遅れるっつーの!!
第四話 台風一過
カランコロンっ。
何時しか聞きなれていた鐘の音が麻琴の耳に響いた。
家からここまで全力で走ってきた麻琴に今聞こえるのはその音と荒い自分の息遣いだけ。
「麻琴、おっせーぞ!」
「す、すみません。」
ひとみがからかい半分に麻琴を野次る。
麻琴は言い返したかったのだが、どうにも息が整わない。
しばらく呼吸しか出来そうになかった。
- 555 名前:第四話 台風一過 投稿日:2006/05/07(日) 22:52
-
―体力ないなー、自分。
「お前、相変わらず体力ないなー。」
「ひとみ、さんが、有り過ぎるんですよ。」
「だってうち、昼も夜も頑張らないといけない事が沢山あるもんで。
麻琴も愛ちゃんと暮らし始めれば体力くらい直ぐにつくさ。」
何だろう。
これは変な意味ではないはずだ。
ひとみは実際、昼は学校、夜は仕事という生活をしている。
麻琴のように朝は寝坊、昼はお昼寝、夜は夜寝なんて生活の軸を持っている自分とは違うのだ。
そう麻琴は自分に言い聞かせる。
だがひとみがいうとどうしてもエロい雰囲気が拭えない。
よってノーコメント。
- 556 名前:第四話 台風一過 投稿日:2006/05/07(日) 22:53
-
「はいはい、よしこー、そんな話はいいからまこっちゃん連れておいで。」
軽く固まってしまった麻琴を救ったのはやはり真希だった。
真希の前には少し赤くなっている愛の姿も見えて、やはり愛にもそういう風にしか聞こえなかったようだ。
麻琴はひとみに促されて愛の横に座る。
隣に座るとき気恥ずかしさで愛の顔を見られなかったのは麻琴一人の秘密だ。
「よし、これで主役もそろったことだし始めるぞ!」
「えーそれではごとーとよしこプロデュース『愛ちゃん十八歳おめでとう会―やっとくっついたかこのやろー!―』を開催します。ちなみにサブタイはよしこだから。」
いつもより少し無表情なのはそのタイトルが気に入っていないからなのだろうか。
麻琴は真希の表情を見て苦笑した。
横をチラッと伺うと愛も同じように苦笑していて、麻琴は少し嬉しかった。
「……そういえば、家のほうは大丈夫そうだった?」
- 557 名前:第四話 台風一過 投稿日:2006/05/07(日) 22:54
-
目の前で麻琴たちを無視して口げんかを始めた大人たちには構わず、愛に声をかける。
あの時一緒に住もうとは言ったものの問題は山積みで。
第一の難関は再婚したばかりの愛の家のことだった。
連れ子同士の結婚だった麻琴の父親と愛の母親。
だからかは分からないが麻琴に愛の母親のイメージは余りなく。
普通のお母さんだったとしか言えない。
いや、もしかしたら凄くいい母親だったのかもしれない。
だが麻琴はどうしても置いていかれたという思いが先にたってしまう。
だから嫌いにはならないが好きにもなれない。
「うん。あーしももう高校卒業やし。それに今お母さんはお母さんで大変やから、あーしになんて構ってられんと思う。」
そう言って笑う愛の姿は麻琴の目には複雑そうに見えた。
愛になんて言ったら分からなくて麻琴はそっかとだけ返すとまた目を伏せる。
無言の二人。
しかしその空気を許さないような人が此処にはいる。
- 558 名前:第四話 台風一過 投稿日:2006/05/07(日) 22:55
-
「暗い!暗いぞ、お前ら。誕生日なんだからもっとぱーっといかないと!」
「そうだよ。まだ始まっていないことで悩むなんて馬鹿げてるのさ。始まってから悩めばいい。」
実際に高校を卒業してから一緒に暮らし始めた人が言うと非常に説得力がある。
ついさっきまで目の前で痴話げんかをしていたとは思えない変わり身だった。
麻琴はひとみと真希の言葉に頷く。
今日は愛の誕生日で、しかも付き合うことになってから初めての誕生日。
これを祝わずして何を祝えと言うのか。
- 559 名前:第四話 台風一過 投稿日:2006/05/07(日) 22:56
-
「…愛ちゃん、誕生日おめでとう。」
「ありがとう。麻琴。」
その言葉だけで愛はとても嬉しそうに笑ってくれた。
麻琴はそれを見て何故か一気に恥ずかしさがこみ上げてきた。
去年までは何もしなかった日、今年から特別な日。
そしてたぶんきっとこれからずっと大切な日。
麻琴がそう思ったのは夏も終わりに近づく綺麗な秋晴れの空の下であった。
台風が過ぎた後の空には澄んだ空気が漂っている。
第四話 了
―真面目なお姉ちゃんと不良な妹と…― 完
- 560 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/05/07(日) 22:57
-
- 561 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/05/07(日) 22:57
-
- 562 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/05/07(日) 23:04
-
まこあい中篇完結!!
ここまで付き合ってくださった皆さん、あっとうございました!!
まぁ、最終話の前にあんなニュースが入ってくるなんてちっとも思いませんでしたわ。
どうせなら八月までにもう一本くらいまこあいを書こうかとも思ったんですが、
書くのが遅い自分には到底無理な話です……。
予定としてはこの中篇の流れを汲んだれなえり中篇を一ヵ月後くらいに載せようかなと。
それまでにも何か短編を載せるかもしれませんが
あくまで予定は未定っす。
ではまた。
メン後でしたー。
- 563 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/05/07(日) 23:25
-
うっかりレス返しを忘れる所だった……。
まこの卒業で混乱中なのでお許しを。
551>>名無飼育さん
いやー、大好きなんてもったいないお言葉ですよー。
うちの麻琴は捻くれてますから、色々大変でした。
それにまこあい二人とも、ヘタレで。
話が進まないったらありゃしない!
でもそんな麻琴を可愛がるよしごまがかけて少し嬉しかったです!!
では今度こそさよーならー。
- 564 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/16(火) 22:48
- れなえり楽しみ!
- 565 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/07(水) 21:40
-
こそーりと更新。
れなえりのはずでしたが、煮詰まっているので
今載せなきゃ永久に出せなくなるネタをアップ。
ある意味初めて書くほぼキャプものじゃない同期者。
もちろんあのネタです。
- 566 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/07(水) 21:44
-
564>>名無飼育さん
もう少しお待ちを。
今頑張って書き上げてるところなんで。
れなえりは甘くしようとテンパルほど頑張ってますw
- 567 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:45
-
- 568 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:45
-
与えられたのは事実だけ。
―与えられたのは事実だけ―
彼女に与えられたのは事実だけであった。
彼女の彼女が夏にはいなくなる。
ずっと一緒だった仲間と一緒に。
しかも彼女の彼女は留学なんかを希望していて、会えなくなることは明白であった。
- 569 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:46
-
「……思ったより早かったわぁ。」
愛が情けない顔をして唯一、残る仲間に話しかけた。
理沙はそんな愛に苦笑して返し、だがどこかでこうなるような予感があったことを振り返る。
彼女達が二人一緒ということ。
それは考えれば入った当初からであったし、当たり前のことでもあった。
「本当だよ、全く。」
―愛ちゃんが残ることになる。
愛は抜けることができない。
絶対の、絶対の絶対に。
今このグループが愛というピースなしで形作られるのは難しい。
麻琴とあさ美が抜ければそれはさらに顕著になる。
- 570 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:47
-
「………あーしが麻琴といきたかった。あーしが……。」
愛が俯く。
理沙は愛になんの言葉もかけることが出来ずに首を横に振った。
出来ない。
今のモーニングでは無理だ。
ぼんやりと理沙は考える。
- 571 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:47
-
今のモーニングは色が薄い。
存在感、雰囲気、威圧感、目立ち具合、全てが薄い。
オリジナルメンバーは正に原色であった。
赤、黒、紫。
きつい濃いだけの目にあまりよくなさそうな色。
だがその分、目に残る。
そこに原色を中和するような二期が入れられた。
彼女達が入ってきついだけだった色は華やかさを増し、幅も広がる。
青、黄、黄色。
鮮やかな色合いだ。
だが足りない。色を印象づけるものが。
- 572 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:51
-
そして三期、後藤真希。
彼女は正に金だった。
パステルカラーの中に突如現れた金色。
それは周りの単調な絵の具に引き立てられ益々異端さに目立つ。
ラメが入った、キラキラ光る色。それが後藤真希だった。
金を中心に鮮やかな沢山の花が画面を彩る。
それがモーニング絶頂期の始まりであったのだろう。
金に負けない色を持った四人が四期だ。
金という色を汚くすることなく目立たせ、自分達はその隣に強調する。
四期はそれまでのメンバー全ての色を潰さずに入り込める貴重な色であった。
吉澤ひとみは白をイメージさせるような肌を持ち、石川梨華はそれと反対の黒を持つ。
二人がいることでバランスが取れていたと思う。
加護亜依と辻希美はオレンジだ。暖色系といったほうがいいかもしれない。
いるだけで騒がしくなる、あったかくなるそんな二人。
四期が入ったことでモーニングのバランスは完成された。
だがどんなに綺麗に染められた色でも飽きられることはある。
- 573 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:52
-
そのために入れられたのが五期だ。
完成された絵の上に塗られる透明絵の具の役目。
全体像は余り変わらないのに雰囲気が変わり新しく見える。
実際少し新しい箇所も出てくる。
そんないらないようでかなり大切な色。
そこに重なる薄い絵の具たち。
他の色を潰しているようでその下には確りとした厚塗りの絵の具が存在する。
だから塗っても、塗っても出てきてしまう原色たち。
それを白が出来るだけ背負って他のメンバーはその上に色を重ねる。
そうすることでようやく自分の色を見てもらえるようになる。
- 574 名前:―与えられたのは事実だけ― 投稿日:2006/06/07(水) 21:52
-
理沙はそこまで考えてから苦笑した。
自分がこんなことを考えていたとしても何もできやしない。
愛にも理沙にも与えられたのは事実だけだった。
何かを変えていく力や、まして卒業を止める力などありもしない。
自分達に残されたのは事実だけ。
仲間の卒業と今までの実績と。
それだけが残されて蓄積されていく。
やがてだんだんと活動すること自体が苦しくなっていく。
残されたのは自分達。
残されたのは今までの実績。
つまり、残されたのは事実だけ。
終
- 575 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/07(水) 21:57
-
とこんな感じのわけ分からん話でした。
とうとう五期まで卒業するようになって微々考えたことです。
まぁ、これに関しては色々な個人個人の考えがあると思うんで何もいえません。
実際自分もごまヲタだし、よしごまヲタだし、まこあい、れなえりヲタだし。
偏ってしまうのは仕方ないと思って書きました。
- 576 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/07(水) 21:59
-
さぁ、今度こそれなえりをっ!!
遅くても二週間後には載せます。
それまで待っていてくださる方がいたら幸いです。
- 577 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/07(水) 22:00
-
- 578 名前:名無し読者 投稿日:2006/06/18(日) 11:25
- れなえり、楽しみに待ってます。
- 579 名前:名無し読者 投稿日:2006/06/18(日) 11:27
- ごめんなさい、あげちゃった・・・(>_<)
- 580 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/25(日) 23:24
-
まっつー、誕生日おめでとう!!
推しではないけどメン後の地方で唯一定期的に見れるハロメンだから応援してるよー。
あやみき好きでもあるから頑張れ〜。
グレート亜弥&美貴って名前がグレートだよね。
意味がわからなくなりましたが、まっつーおたおめ。
今日はやっとこされなえり中篇を上げます。
そして何時ものとおり最初で主要人物が揃いません。
気長に甘くなるのを待ってください。
そのうち発酵して甘くなるはずですw
- 581 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/25(日) 23:24
-
- 582 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/06/25(日) 23:26
-
第一話
田中れいなはよく不良と間違えられる。
これは私服の趣味と口下手なせいであるとれいな自身は認識していた。
それ以外は至って普通だからである。
髪の毛だって今時の女子高生にしては珍しく少しも染めていない。
勉強だってよく出来るというわけではないがいつも平均に届かなくて悩む程度にはできる。
しかしその風貌のせいで友人は余り居ない。
それが高校一年生になったれいなの悩みであった。
―昼休みに一人ご飯とか、ありえんと……。
はぁと口からため息が漏れる。
今は昼休み。
部活もしていないれいなにとっては一番友達と騒げる時間である。
そんな時間にれいなは一人お弁当を持って屋上に来ていた。
ぼんやりとおかずを口に運ぶ。
れいなの目に映るのは屋上から見える青い空とグランドで早くも遊んでいる生徒だけだった。
- 583 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/06/25(日) 23:26
-
『れーなぁ。』
ふと名前を呼ばれた気がして後ろを振り返る。
だがそこには誰もいなくて、れいなはまたため息をつく。
ここに幼馴染の彼女がいるはずがない。
ここにれいなの名前を呼んでくれるような人は居ない。
彼女のように親しげに名前でなんて。
れいなは今違う学校で友達とわいわいやっているだろう幼馴染を空越しに睨んだ。
「田中ちゃんじゃん。何やってんの?」
そんなれいなに今度こそは確りと声がかかった。
れいなは下に落としていた目を上げその人を見つめた。
もっとも誰かなどすぐに分かった。
れいなのことを田中ちゃんと呼ぶ人なんて数えるほどしかいないのだから。
- 584 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/06/25(日) 23:27
-
「……小川さん。」
「まこっちゃんでいいってー。」
ひらひらと手を振りながら麻琴は降りてくる。
屋上にある物置小屋みたいなものの屋根から。
れいなはまさかそんな所に人がいるなんて思わなかったが、
思えば屋上は麻琴のテリトリーである。
麻琴がどんな場所にいても驚く必要はない。
れいなは愛から屋上が麻琴のお気に入りの場所であると聞いていた。
「ここさー、いい場所だと思わない?」
麻琴がれいなの隣に座り言った。
れいなは麻琴が何を言いたいのか分からずに困惑する。
首をかしげて固まってしまったれいなを見て麻琴は噴出すと一人話し始めた。
- 585 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/06/25(日) 23:28
-
「一人になりたいときに来るんだけど下には人の気配が感じられる。
一人でいながら一人じゃないみたいにあたしには思える。」
それって良くない?
とまた尋ねられ今度はれいなも頷いた。
れいながここでお弁当を食べているのも似たような理由からだ。
教室で一人ご飯を食べるのはつまらない。
周りで友達と食べている女子が見えて益々自分が惨めに思えてくる。
そういうときに屋上に来ると麻琴が言ったように人は来ないが気配が確かに感じられ、そんな気持ちが和らぐ。
高いだけあってよく見える町並みもいい感じだ。
今日みたいに晴れた日は特に。
弁当を口に運びながらちらりと麻琴を見る。
すると麻琴は気持ちよさそうに微笑を浮かべながら景色を見ている。
―なんか雰囲気が柔らかくなったと。
- 586 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/06/25(日) 23:28
-
麻琴とは中学校のときからの知り合いだ。
れいなの憧れの人、藤本美貴の友人の後輩が麻琴という関係。
ぴよぴよと美貴の後ろを付いていって会ったのが最初。
そのときの麻琴はやる気のない空気のなかにぴりぴりとしたものが詰まったような、
触れると爆発しそうな不発弾みたいな感じであった。
その麻琴がこんな風になるなんてとれいなは密かに驚いていた。
そしてその原因が愛であることは自明なことで、それにもれいなは驚いたのだ。
まさかこんなところで出来ると思わなかった関係。
自分の現姉の元妹。
今は一緒に暮らしている二人。
「あ、愛ちゃんは元気ですか?」
「変わんないよ。いっつもやよやよ騒いでる。」
「そうですか。」
それは良かった。
れいなは音にせず口だけでそれを伝えた。
何かいろいろと拗れていた二人が綺麗な形に納まって、それは誰にとっても嬉しかったと思う。
- 587 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/06/25(日) 23:29
-
「田中ちゃんこそ、絵里ちゃんとはどうなってんの?」
「な、別にいつもと変わりませんって。」
ぽろっとおかずを落としてしまった。
―今思い出したくない名前を……。
絵里。
それはついさっきまで空越しに睨んでいた相手であり、田中家の隣に居を構える亀井家の一人娘。
つまりれいなを名前で呼ぶ貴重な友人兼幼馴染であった。
今、隣にいない幼馴染。
中学までずっと一緒で高校も一緒だと思っていたのに違うところを選んだ絵里。
元々れいなより勉強が出来た絵里が選んだ学校は
れいなが一年頑張った程度でどうにかなるレベルではなく、れいなはこの高校に進学した。
「家に帰って隣を見ると絵里がいるって感じです。」
最後のおかずを口に運びれいなは弁当の蓋を閉めた。
それと同時に自分の中で何かが閉じ込められる。
- 588 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/06/25(日) 23:30
-
『れーなぁ。』
頭の中に響くのは生まれてからずっと聞いてきた甘ったるい女の子の声。
絵里のいない生活がこんなに堪えられないことをれいなは初めて知った。
まるで家で絵里の顔を見るまでは一日が始まってさえいないような感覚。
「あー……。田中ちゃん、ずばり無理してるでしょ。」
「そんなことないですよ?」
「いや、無理してるって。まぁ、気づくまで分からないもんだけど。」
麻琴の苦笑がれいなの目にハッキリと映った。
そのまま麻琴はれいなの頭を撫でると制服のことなど気にせずに横になる。
風がスカートを捲り上げるがそれにさえ反応せずに麻琴は言った。
「今日、ごま吉に藤本さんが来るらしいよ。久しぶりに行ってみたら?」
第一話 終
- 589 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/25(日) 23:34
-
何も始まっていない感じですが始まりました。
前のまこあいも微妙に出てますが今日だけです。
一回違う話なんだけど世界観が同じという奴をしてみたかったw
ただそれだけのために、まこ出てます。
まだれなえりも始まったばかりでこんな事言うのもなんですが、
実はこの世界観三部作です。
まこあい、れなえりと来て最後にもう一つ同じ世界での話が入ります。
それが終わったらこのスレも終わりになるかと。
まぁ、まだまだ先の話です。
気長に見てってください。
- 590 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/25(日) 23:37
-
578,9>>名無し読者さん
れなえりやっとです(汗
長く待たせてしまいすみませんでした。
上げはそんなに気にしてるわけでもないので、全然平気ですよ。
ではこれからも見てやってください。
- 591 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/06/25(日) 23:39
-
更新したよ、上げ
- 592 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/26(月) 00:31
- 新しい話が始まりましたね。どのようにれなえりにみんなが絡んでくるのか楽しみです。
- 593 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/29(木) 22:28
- よしごま出してね
- 594 名前:翡翠 投稿日:2006/08/06(日) 12:58
- 続き楽しみに待ってます♪
- 595 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/08/07(月) 17:50
-
592〜594の皆さんレスありがとうございます!!
そして遅くなってすみません(汗
相変わらずこんな感じのスレですが見捨てずにお願いします。
ではれなえり中篇二話目、やっとの更新です。
- 596 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/08/07(月) 17:52
-
第二話
キーンコーンカーンコーン。
と鐘が鳴ってクラス中がやっと来た放課後に色めき立つ。
れいなは最低限の挨拶をすると素早く荷物をまとめて教室を出た。
自然と早くなる歩調に苦笑しながらどうしようかと考える。
帰るか、ごま吉に行くか。
れいなの心はほとんど決まっていたがもう一度確認する。
爽やかな風がれいなの脇を通り抜けていった。
れいなはポケットから携帯を取り出すとひとつ年上の隣の家に住む幼馴染に電話を掛けた。
―今日はごま吉に寄っていくから遅くなる。
そんな主旨のことをなるべく機嫌を損ねないように言う。
だがそれはれいなが遅くなることから無理な話のように思われた。
携帯電話を片手で持ちながら桜並木を眺める。
れいなの学校は正門から真っ直ぐに続く桜並木がとても有名で、今はもう葉桜になってしまったが
咲初めから散るまでの期間にれいなもそれなりにピンクの花に心癒されたものだ。
ピンクは彼女が好きだから。
それが理由の一部だったのかはれいなにもわからない。
れいなのばーぼぉー。というちょっと意味の分からない捨て台詞を最後に電話は切れた。
耳元で大きく響いた切断音に少々イラつきながらもれいなは歩みを進める。
- 597 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/08/07(月) 17:53
-
絵里がいないことでストレスを受けているのはれいなだって同じなのに。
なんで絵里はれいなを怒るのだろう。
側に居たいなら居ればいい。
離れていったのは絵里のほうだ。
「絵里の馬鹿。」
―れいなは側にいて欲しくないなんて一回も言った事なかと。
逆に側にいてと言ったこともない。
その事実にれいなは気づいていなかった。
ましてそれがひとつだけだが確実に年上の絵里にどんな影響を与えるか。
そんなことれいなには分からない。
幼馴染だから
家が隣だから
学校がおなじだから
ずっとれいなの隣にいた絵里。
いるのが当たり前でいないとおかしい。
そんな事実にれいなが気づいたのは高校に入ってからだったのだから。
- 598 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/08/07(月) 17:54
-
ぶらぶらと目的意識が低いままれいなは足を進める。
久しぶりに美貴に会えると思うと心が軽くなるがそれも一時だ。
どうせ直ぐに帰らなければならない。
美貴とまともに話せるかさえあやふやだ。
だが帰ることもれいなはしたくなくていつの間にか目の前に来た扉をため息と共に開けるのだった。
「………ちわー。」
心持そっと目立たないように押す。
中には美貴と真希とひとみともう一人人影が見える。
―見たことない人やね。美貴ねぇの知り合いと?
今まで美貴が人を連れてくることなどなかった。
美貴はひとみと真希の先輩であり友達であったから。
わざわざ別の人を連れてくるなんて事はなかったのだ。
- 599 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/08/07(月) 17:55
-
「いらっしゃいませー。」
「おー、れいなじゃん。久しぶり。」
真っ先に気づくのはやはり店主である二人で。
れいなは少し困ったようにお辞儀をした。
にこにこと笑いかけてくれる二人には悪いが余り目立ちたくなかったのだ。
勿論こんな風に声をかけられれば美貴も気づくわけで。
「れいな、久しぶりじゃん。」
「美貴たん、誰〜?」
間に知らない人の言葉が入ったが美貴と話せるのは本当に久しぶりで、嬉しかった。
美貴がれいなのことを見知らぬ人に説明するのを頭の端で聞きながられいなは笑う。
そうしたら意識せずに昔の口調になっていた。
「久しぶりと、美貴ねぇ。」
「……元気そうで良かったよ。」
「ありがとう。」
「ねぇ、ねぇ。いい加減誰か教えてよ。」
「あぁ、ごめん。亜弥ちゃん。れいなは美貴の後輩名字は……。」
「田中のままっちゃ。」
言いよどむ美貴に苦笑してあとを継ぐ。
美貴とそんな前から会っていなかったのかと思うと少しの間愕然とした。
- 600 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/08/07(月) 17:57
-
「田中れいなちゃん?」
知らない目がれいなを貫く。
だがその目はれいなのことを知っているように感じられれいなは不思議に思う。
ぴったりとその人と目が合い、れいなは少し気まずくなる。
「亀ちゃんの幼馴染の田中れいなちゃん?」
「……絵里の知り合いと。」
ぼそっとれいなは呟く。
全くなんて運のない日なんだ。
絵里のことで切羽詰ってここに来たというのに、出る話題は絵里がらみ。
れいなは自分をのろった。
「あたしは松浦亜弥。亀ちゃんとは学校が一緒だったの。」
「なんでその松浦さんがれなのこと知っとるんですか?」
- 601 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/08/07(月) 17:58
-
「だって亀ちゃん、会うたびに田中ちゃんのこと話してたから。」
にっこりと笑って言われた言葉はれいなにとってまさに青天の霹靂。
思いもしない言葉だったのだ。
美貴と会うために寄った喫茶店で絵里の話を余りよく知らない人とする。
それはとてもおかしなことの気がしたが、今のれいなはそんなことに構って入れなかった。
「絵里がれいなのこと、話しとったん…ですか?」
「うん、それはもう会うたびに。よっぽど亀ちゃんって田中ちゃんのこと好きなんだね。」
そんな。
そんなことれなは知らなんちゃ。
それがれいなの正直な感想だった。
絵里がそんなふうに思っていたなんて知らない。
だって一回だって、絵里がれいなのことを話してくれたことはなかったから。
れいなは思わず後ずさりし、挨拶もそこそこに店を飛び出していた。
- 602 名前:―ひとつ上の幼馴染― 投稿日:2006/08/07(月) 17:59
-
「ちょ、田中ちゃん?」
「れいな?」
亜弥と美貴は顔を見合わせると、お互いに首を傾げる。
亜弥はなんでれいなが飛び出していったか分からず。
美貴はれいなの普通じゃない様子に驚いてた。
そんな二人をわき目において、ごま吉の二人はれいなの出て行った扉を見つめていた。
「うちの喫茶店から飛び出すのが流行ってんのかな?」
「まさか。しかし、あたしらの周りって鈍い人が多いって言うか……。」
「田中ちゃんと亀井ちゃん。まっつーと美貴ちゃん。高橋とまこっちゃん。」
そこまで名を挙げ、確かにひとみの言うとおりだと真希は苦笑した。
二人顔を見合わせ笑いあう。
その笑みの中にはれいなたちなら大丈夫だろうという意志の疎通も含まれていた。
―とりあえず、保留で。
真希とひとみはそう決めた。
第二話 終
- 603 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/08/07(月) 17:59
-
- 604 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/08/07(月) 18:02
-
うーわー、誤字発見。
601>>そんなことれなは知らなんちゃ。…誤
そんなことれなは知らんちゃ。…正
お目汚し失礼しました。
方言って間違いやすいよね……。
- 605 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/08/07(月) 18:07
-
えー、待っていてくださった人には大変申し訳ありませんでした。
私事でごちゃごちゃしてまして、更新できなかったっす。
これからもメン後は
よしごま、れなえり、まこがいなくなっちゃうけどまこあい
の三点セットでお送りすることになると思います。
まぁ、雑食気味なんで他のも多々混ざりますが……
だらだらお付き合い下さいw
- 606 名前:Monokuro 投稿日:2006/09/07(木) 02:40
- れなえり、いいなぁぁ...
次の話しも待ってます.^^
- 607 名前:名無し飼育さん 投稿日:2006/09/09(土) 19:06
- れなえりやっぱいいですね。
次回も楽しみにしてます。
まこあいもおもしろかったです。
- 608 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/09/15(金) 23:14
-
すっかり月一ペースになってしまいました……。
待っていてくれる皆さん、ありがとございます。
遅いながらも続けていくので見てやってください。
606>>Monokuroさん
お待たせしてすみません!!
れなえりいいっすか…気に入ってもらえてよかったです。
まだしばらく、れなえりが続くんで楽しんでくださると嬉しいです。
607>>名無し飼育さん
れなえりは唯一実際に高校にいっている年齢なので想像しやすかったです。
リアルの絡みが少ないのは悲しいですが
妄想で補っていきたいですw
まこあいはまこの卒業により更に妄想による補充が増えています。
では今日の更新です。
どぞ。
- 609 名前:第三話 投稿日:2006/09/15(金) 23:14
-
ごま吉を飛び出しれいなは走っていた。
絵里のところに行かなければならない。
その気持ちだけが先走って、何も分からなかった。
絵里がどんな気持ちでれいなを見てきたのか。
絵里が何で急に志望校を変え、れいなと違う学校に入ったのか。
れいなは何も知らなかったのだ。
―れいなは絵里とずっといっしょがいい?
―別に、どっちでもいいと。絵里の好きにするといいっちゃ。
あの時に一緒にいて欲しいと言えばよかったのだろうか。
そうすれば絵里は今もれいなの隣で笑っていたのだろうか。
意味もないことが止めどなく溢れる。
―そっかぁ……。
あの時の絵里はどんな顔をしていたのだろう。
泣きそうな顔?
苦く笑っている顔?
困っている顔?
恥ずかしさからまともに顔を見られなかったれいなは知らない。
ただ、あの場面がリピートされるだけだ。
- 610 名前:第三話 投稿日:2006/09/15(金) 23:15
-
―絵里、えりえりえりっ。
まるで叫びたいような気分にれいなは駆られた。
もうすぐ家に着く。
だがれいなは何を絵里に言うべきか、何を聞いたらよいのかさえわかっていなかった。
ただ絵里に会わなければならないことだけは分かって。
自分の家にさえ寄らずにれいなは隣の絵里の家へと走りこんだ。
挨拶もそこそこに階段を駆け上り絵里の部屋へと向かう。
二階に上がるとすぐそこが絵里の部屋だ。
れいなが間違えるはずもない。
れいなの部屋の隣で、今まで何回もお互いに行き来していた。
早く着いたほうが相手の部屋で待っている事だってれいなたちには普通であったし、
そのことに何の違和感もなかった。
バンと大きな音がして戸が開く。
部屋の中に目を大きくして驚いている絵里がれいなの目に映った。
その表情が嬉しそうに変わり、怒りに染まり、最後に訝しげにれいなを見るまで。
すべてれいなは確りと見ていた。
- 611 名前:第三話 投稿日:2006/09/15(金) 23:16
-
「……れいな?どうしたの?そんなに息切らせて。」
「何で、違う学校にいったと?」
「え?」
「…何で、れいなと違う学校にいきなり変えたんちゃっとれなは聞いとる!」
それしか言えなかった。
何を言おう、何を聞こう。
そう迷っていたれいなに最後まで残っていたのはその疑問だけだったからだ。
絵里が困ったように眉を顰める。
ベッドの上かられいなを見つめるその視線は今にも別のものに代わりそうで。
携帯電話をぎゅっと握り締めた。
だがれいなはそんな絵里の様子にも気づかず、絵里に詰め寄る。
慣れた床を歩き、ベッドの上に膝立ちになる。
そうするといつもは少し上にある絵里の顔がれいなより下に来た。
「それは……。」
「今日、松浦さんって人と会ったとっ。」
「そん人は絵里が学校で楽しそうにれいなのこと話しとったって言ったっちゃ。」
ピシリと音さえ聞こえそうなくらいぴたっと絵里は動きを止めた。
固まった表情は無表情で、普通の人なら彼女が何を思っているか分かるまい。
だがれいなは絵里の幼馴染で毎日顔を突き合わせている相手だ。
分からないはずがない。
- 612 名前:第三話 投稿日:2006/09/15(金) 23:17
-
「図星っちゃね。」
れいなははぁと軽くため息をつくと、ベッドの縁へと腰を下ろす。
未だに頭の中は混乱していた。
―学校で嬉しそうに話すくらいならなんで違う学校に行ったと…。
れいなの後ろでやっと動き始めた絵里はぎこちない動きでれいなの隣に座る。
表情は硬く、困惑しているようで、また何といったらよいのか迷っている様子にも取れた。
俯き黙り込むれいなの隣で絵里は恐る恐る口を開く。
「……れいなは、絵里のこと好きじゃないから。」
「…………はぁ?!」
れいなは一度右から左へと通り抜けていった言葉をもう一度耳の中に通し、
やっと意味を理解した。
そして理解した瞬間にますますわけが分からなくなった。
れいなが顔を上げて絵里を見る。
するとそこには怒っている様な、半分泣きそうな絵里の顔があって
れいなは言葉を詰まらせる。
- 613 名前:第三話 投稿日:2006/09/15(金) 23:18
-
「れいな、絵里のこと好きじゃないでしょ?!」
「なんで、そういうことになるとっ。」
「だって、絵里にとってはそれが全部だもん!」
「なっ……。」
何が、とか。
何で、とか。
れいなは突っ込むことが出来なかった。
たまたま合ってしまった目には怒りがはっきりと表れていて、
しかも瞳からは涙がこぼれていたからだ。
れいなはその事にたじろぎ慰めることも言い返すことも出来なくなってしまった。
絵里はそんなれいなに構わず、鋭い視線でれいなを睨む。
そして今まで溜めていたもの全てを吐き出すかのようにれいなに怒鳴った。
「絵里にとって、れいなが絵里をどう思ってるかはずっと、ずーっと、最重要事項なのっ。
れいなはそんなこと知らなかったかもしれないけど、絵里はずっと……ずっ……とっ。」
「…絵、里。」
- 614 名前:第三話 投稿日:2006/09/15(金) 23:19
-
絵里の声は言葉にならず嗚咽に消えていく。
れいなはそんな絵里を見てどうしたら良いのかわからず、呆然としていた。
何もいえないれいなを絵里が視線で追い出す。
一人にしてくれと言っている目にれいなは耐え切れず自分の部屋へと逃げ帰った。
歩調は最初こそ速くなかったが自分の部屋に近づくにつれ速くなり、
最後にはほぼ全力疾走になっていた。
普通の日なら帰って真っ先に開けるカーテンもそのまま。
少し薄暗い部屋に一人座り込む。
その耳にはついさっき聞いた絵里の言葉がぐるぐるとリピートされながら残り。
目は何も映さずに、ただ大きく見開かれていた。
絵里がいないだけで暗くなる心は、閉められたカーテンで暗くなった部屋のようだった。
『田中ちゃん、ずばり無理してるでしょ。』
「してませんって……。」
何故か聞こえてきた麻琴の声にれいなは昼間と同じように、しかし力なく返したのだった。
第三話 終
- 615 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/09/15(金) 23:20
-
- 616 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/09/15(金) 23:20
-
- 617 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/09/15(金) 23:23
-
相も変わらずすずめの涙のような更新量ですみません(汗
これからものんびりと書いていきますんで
時々見に来てください。
感想くれたら画面の前で喜んで跳ねておりますw
では今度こそとおもいつつ。
メン後でした。
- 618 名前:名無し作家 投稿日:2006/09/16(土) 02:47
- れいな…素直になってぇ〜!!!
そんなれいなも好きな私ですがw
作者さんのペースで頑張ってくださいね♪
次もまったりとお待ちしてます!
- 619 名前:Monokuro 投稿日:2006/09/22(金) 10:35
- 更新、お疲れ様でした!
絵里。。どうしよう。。。
れいなも早く自分の気持ちに率直になればいいのに。。。。
次の話しも楽しく待ってます。
- 620 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/10/02(月) 00:20
-
この頃、娘。をテレビで見ていないと思うのはヲタとしてヤバイでしょうか?
でも映してくれるテレビ局がないんです!!
投書を出そうかと真剣に考えるような田舎に住んでますメン後です。
618>>名無し作家さん
このれいなは鈍いのかへそ曲がりなのか書いてる自分にも分かりませんw
ハッキリしてるのはれなえりの意地っ張り加減です。
でも名無し作家さんの言うとおり素直じゃないれいなは萌えますw
素直になってくれたら話も進むのに……。
619>>Monokuroさん
亀ちゃんピーンチ!!
でも一歳年上な分精神年齢上なので持ち直してくれるかと。
れいなはこの中では一番子供ですw
レスあっとうございます。
では更新です。
- 621 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:00
-
ブブブブブブという鈍いバイブレーターの音が部屋に響く。
その音にベッドに寝たまま手を伸ばすと、ちらりと名前を見る。
カーテンを閉め切り薄暗い部屋で携帯電話のディスプレイは明るすぎる。
少し目を細めた所で見えた名前に、やっと枕から顔を離すと電話に出た。
「もしもし、れいなー?」
『あ、さゆ?聞きたいことがあるんだけど。』
その切り出し方に部屋の主―道重さゆみ―は長くなりそうだ、と思った。
しぶしぶとカーテンを開け、綺麗な夕焼けに染まる空を見る。
寝始めてからそんなに時間が経ってはいない。
文句の一つでも言ってやりたいところだったが、そこは親友だ。
我慢してあげようと思った。
- 622 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:00
-
「ふーん……。絵里のことでしょ。」
『…何でわかると?』
「れいなからの電話だから。」
くすりと一人笑う。
れいなからの電話で絵里の話が出ないことはなかった。
電話の向こうでれいなが照れている様子が容易に想像できる。
この薄情な親友は絵里のことになるとさゆみに電話してくるのだ。
『さゆしか絵里と同じ学校の友達おらんから仕方ないっちゃ。』
あくまで仕方なくということを強調したがるれいなに突っ込んでやろうかとも思ったがやめる。
これ以上睡眠時間を削られるのは嫌だったからだ。
睡眠不足はお肌の大敵であると心の中で呟きれいなに先を促した。
- 623 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:01
-
「で、何を聞きたいの?」
『……絵里がれいなについてなんて言ってるか。』
「何で?」
また、変なことを聞いてくるなとさゆみは思い、苦笑する。
今までれいなからこの手の質問を受けたことはなく、何かあったなとさゆみは考えた。
例えば絵里がとうとうれいなに告白したとか。
さゆみはそうだったらいいのにと思いながら、多分違うんだろうなと予測をつけていた。
- 624 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:02
-
『れな、今日絵里になんで違う学校にしたのか聞いたっちゃ。』
「それで?」
『よくわからんけど、れいなが絵里のこと好きじゃないからやって。
それで、最後に絵里はれなにどう思われているかが一番大切なんだって言われて。
れなはその意味が知りたいと思ってさゆに電話したと。』
「れいな、鈍い。」
そこまで言われれば幼稚園児でさえ分かりそうなものだが。
さゆみは苦笑するとれいなに向かって言い放った。
さゆみが絵里やれいなと知り合ったのは小学生になった頃だったろうか。
れいなも小学校に上がる際に福岡から引っ越してきたのだから、
時期的にはそんなに大きなずれはないはずだった。
だが、さゆみが気づいたときにはすでにこんな風な関係となっていたのだ。
- 625 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:04
-
―……全く、手のかかる幼馴染なの。
れいなの話に呆れたさゆみは欠伸をかみ殺し、伸びをする。
こういう話には飽き飽きとしていた。
親友兼幼馴染の電話でなければとっくに切っている所だ。
「……れいな、さゆは今眠いの。」
『またこんなに早くから寝てたと?寝すぎは身体によくないっちゃ。』
さすが親友兼幼馴染兼近所の人。
さゆみの行動なんて完璧に見通されていたらしい。
それでも電話を掛けてくる辺りやはり薄情な人物だ。
- 626 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:04
-
「さゆはいいの。朝は早く起きるもの。……で、切って良い?」
『だ、駄目っちゃっ!絵里が言ったことの意味を――――。』
「だから、そのまんまでしょ?絵里はれいなを世界の中心にしてるんだよ。」
後は自分で考えろという意味をこめてさゆみは電話を切る。
もう一度、カーテンを閉めベッドに潜り込む。
あれでもれいなが分からなかったら。
その時はもう少し丁寧に教えてあげよう。
さゆみはそう思うと素早く夢の世界へと旅立った。
++++
- 627 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:05
-
「分からんから電話したっていうに……。」
これでは意味がない。
ツー、ツーとむなしい音を響かせる機械が恨めしいと思った。
れいなは自分の携帯電話を机の上に放り出すと寝床に寝転がる。
そしてふと思い出す。
れいなのベッドは普通のより柔らかいらしい、少なくとも絵里のよりは。
それはここに来てベッドに上がる絵里がたびたび口にする文句だった。
だから、れいなは覚えていた。
- 628 名前:第四話 投稿日:2006/10/02(月) 17:06
-
ごろんと半回転し横になる。
こんなときでも結局考えるのは絵里のことだ。
そんな自分がおかしくてれいなは少し自嘲するように笑った。
そして自分の世界だって同じようなものだと密かに思う。
―絵里の世界の中心はれいなってことだよ。
さゆみの声が妙にれいなの意識中をさまよう。
だがれいなは見ない振りをして、目を閉じた。
まだ認めたくはなかった。
外では夏至間近になった夕日が未だに赤々と空を照らしていた。
第四話 終
- 629 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/10/02(月) 17:06
-
- 630 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/10/02(月) 17:06
-
- 631 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/10/02(月) 17:10
-
更新しますって投稿した瞬間に更新をやめている罠w
ちょっとした手違いってやつなのでほんとすみません(汗
この中篇はまだ終わりが見えません。
本当はまこあいと同じくらいの長さで終わらたかったんですが……。
もうちょっとお付き合い下さい。
- 632 名前:名無し作家 投稿日:2006/10/03(火) 03:55
- 更新お疲れ様です!!
あぁ〜!!!!!もうっ!れいなったらw
あのぉ、1回頭を叩いてやっていいですか?ww
ここのれいなさんは、めっちゃツボです!
次の更新も楽しみに待ってます〜♪
- 633 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/03(火) 09:57
- 更新お疲れさまです!!
待ってましたo(^▽^)o
れいながもうちょいがんばればめちゃめちゃいいことが待ってるのにね(*^-^)b
鈍感れいなはさすがですね☆
- 634 名前:Monokuro 投稿日:2006/10/08(日) 21:49
- 更新、お疲れさま!
ま〜全く鈍感なれいなだね。
いつごろ自分の感情を悟るようになるんでしょうか。
次のことも楽しんでますよ〜
- 635 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/11/18(土) 13:01
-
こんな遅いスレを待っていてくださってあっとうございます。
これからも疎らな更新になりそうですが、待っていて下さい(笑
632>>名無し作家さん
この鈍さはありえませんw
どぞ、れいながきれない程度に叩いてやってください。
れいなは鈍感が一番です(爆
633>>名無飼育さん
お待たせしました!!
いいことがあるのに踏み切れないのがウチのれいなです。
でも流石にそろそろ前に進んでもらわないと困りますw
634>>Monokuroさん
まぁ、これ位鈍くなってくると普通には気づきませんよ(笑
遅くて本当にすみません。
ぜひ待ってやってください。
では更新です。
- 636 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:03
-
朝日が昇りまた新しい日がやってきた。
れいなの心とは関係なく、清々しいほどに晴れた朝だ。
絵里と会わずに過ごした数日間。
今までこんなに会わなかったことはない。
第五話
- 637 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:03
-
「れいなー?いるなら、返事しー。」
「……愛ちゃん。」
階下から聞こえてきた声にれいなは嫌々ながら体を起こした。
滅多に帰ってこない義姉―麻琴と共に暮らしているんだから仕方がない―が
わざわざれいなを名指しで指名する。
それはれいなに嫌な予感しかさせなかった。
―絵里のこと……っちゃね。
少し顔をしかめる。
余り今話したいことではなかった。
だが無情にも愛の階段を上る音が聞こえ、足音が部屋に近づく。
軽いため息をつき、れいなは久しぶりの義姉との逢瀬に身構えた。
- 638 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:04
-
―トントン。
「……入っていいと。」
ベッドの縁に腰掛けて開けられる戸をじっと見つめる。
そこから入ってきたのは変わりない様子の義姉だった。
いや、少し大人っぽくなっただろうか。
愛と目が合ってれいなはすいっと目を逸らした。
「亀となんかあったんか?」
別にとれいなは答える。
自分で答えておきながら、これでは何かあったと言っている様なものだと思った。
そんなれいなの様子を見て愛は困ったように息を吐き出した。
- 639 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:05
-
「麻琴がいっとったよ。れいなが無理してるみたいやって。すんごい心配そうな顔で。」
「……無理なんかしとらんと。」
「でも亀と会えんくて、塞ぎこんどるやないか。」
「それは………。」
会いたいけど会えなくて。
何をしたら絵里が笑ってくれるか分からなくて。
れいなはどうしようもなくなって立ち止まってしまったのだ。
絵里とこのままでいるのは嫌だ。
しかしれいなには絵里が離れていった理由が未だに分からなかった。
「なんで、なんで絵里は違う学校に行ったんちゃろ?」
「ん?」
「わからんと。れいなには絵里が怒ってる理由も、学校を変えた意味も何もわからん。」
- 640 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:06
-
ぼそぼそと呟くような声だった。
そしてそれが紛れもないれいなの本音だった。
あの日、絵里に理由を聞いた。
絵里は答えてくれた。
だがれいなには分からなかった。
「なぁ、れいな?人のことが全部分かるなんてないんやよ。」
優しい、諭すような声にれいなは少し顔を上げて愛を見る。
視線がぶつかると愛がれいなに微笑みかけてきた。
「麻琴が吉澤さんに言われたんやって。人のことを全部わかるのは無理だって。
大切なのは分かることじゃなくて行動する事だって。」
「行動すること?」
「そうや。理解しようとするんは大切なことやけど、
もっと大切なことは自分が人に何をするか。」
- 641 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:06
-
愛の中であの雨の日のことが思い出される。
自分も麻琴も相手のことを考えすぎて、行動できなくなっていた時。
感情が先走り、思考の糸が絡まって絆が切れそうだった時。
この言葉が麻琴たちを繋ぎとめた。
れいなはその時のことを知らない。
自分と愛はその時まだ他人であったし、踏み込める仲でもなかった。
しかし愛の表情から大切なことなのだろうと知る。
そのくらい優しい表情を愛はしていた。
「一緒にいたいんなら一緒にいたいって、仲直りしたいなら仲直りしたいって言わんとだめや。」
- 642 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:07
-
愛の言葉にれいなは絵里のことを思い起こす。
何をあんなに怒ったのかとかわからないことは沢山あったが、することは決まっている。
もう一度絵里に会うこと。
絵里と離れていることがきついのはここ数日で十分にわかっていたから。
絵里はああ見えて中々頑固だから自分からいかないと会えないということも。
れいなはそう決心した。
黙り込んでしまったれいなを見て愛はぽんぽんと頭を撫でてやった。
自分にもこんな事があったなと思いつつ。
あのときの真希たちの役目を自分がしていることを愛は不思議に思った。
そして脳裏に浮かぶのはやはり麻琴の顔。
心配そうに現妹の様子を見てきたらと進めた恋人の顔。
思い出したら何故か可笑しくて、愛は笑顔を浮かべる。
- 643 名前:第五話 投稿日:2006/11/18(土) 13:07
-
―あーしらも年取ったんやなぁ。
相談する側がされる側に。
そのちょっとした変化が、愛に時の流れを感じさせた。
でもそれは嫌な変化ではなくて嬉しいもの。
自分たちが前に進んでいる証拠。
いずれかれいなが相談に乗る日がやってくることが少し楽しみになった。
第五話 終
- 644 名前:吉よしメン後 投稿日:2006/11/18(土) 13:13
-
短いですがここまでです。
ホント、もう中篇とはいえないんじゃないかなぁーと思ってますw
かなり間が空いてますがゆっくり待っててください。
- 645 名前:名無し読者 投稿日:2006/12/19(火) 15:55
- 師走でお忙しいと思いますが、更新待ってます。
- 646 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/10(土) 14:17
-
自分の周りも落ち着いてきたのでかなり久しぶりの更新です……汗
お待たせしてしまい申し訳ありません。
645>>名無し読者さん
師走も過ぎて二月になってしまいましたorz
更新を待っていただきありがとうございます!!
これからも見てやってください。
では更新です。
- 647 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/10(土) 14:18
-
- 648 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:19
-
―絵里にもう一度会いに行く!
そう決心はしたものの、結局行けないまま数日が経った。
れいなと絵里の家は直ぐ隣だから行こうと思えば行けないはずがない。
しかしれいなはどうにも決心がつかなかった。
れいなの中のごちゃごちゃが解決していないのもその理由の一つだが、何よりも絵里の泣き顔が心に引っ付いて離れない。
自慢じゃないが、あそこまで泣かせたことはれいなにはなかった。
むしろ絵里を笑わせることがれいなの役目であったし、泣かせるようなモノは排除してきた。
絵里を泣かすモノ=敵
- 649 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:20
-
それは半ば刷り込みのようにれいなの心のうちにある方程式だ。
だからこの場合、絵里を泣かせたれいなはれいなにとって敵である。
そしてそれを排除するには会わなければ良い。
はっきりしていること、しかしできないことだ。
絵里に会わないなんて。
れいなはその葛藤を胸に今日も重い足を学校に向けた。
一目でも見れたら良いというちょっとストーカーのような乙女心を持ちつつ。
- 650 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:20
-
キーンコーンカーンコーン……。
今日も昨日と変わらない鐘で学校が終わる。
いつもの通り、さっさと一人教室を後にしたれいなは家路についていた。
今日の昼も麻琴が現れなかったため一人だった。
別にクラスの女子と少しも話さないわけではない。
わけではないがやはりお昼と放課後をどう過ごすかは交友関係に大きく影響してくるわけで。
そのどちらともほぼ一人といえるれいなにはやはり余り仲の良い友達はいないのだった。
どうしようかと思う。
ごま吉に寄ろうか、家に帰ろうか。
絵里の家に行かなければならないという思いはある。
しかし絵里は部活に入っている。
今行っても絵里はいないはずと自分に言い訳しながられいなはぶらぶらと時間を潰していた。
そしてごま吉に行こうとしたその時、ポッケに入っていた携帯が震え始める。
- 651 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:21
-
「……誰っちゃ?」
マナーモードにしてあった携帯をとり名前を見る。
ちなみにれいなは携帯のマナーにはうるさいほうである。
電車では電源を切るし、授業中はマナーモードにして鞄に入れておく。
放課後になった今もそのままにしていたのはただ面倒くさかったから。
―着信:さゆ
そう書かれた画面をれいなは訝しげに見つめる。
さゆみは余り電話してこない人であった。
夕方はこの前のように早くから寝ている。
起こせばとてつもなく機嫌が悪く、だから用件は専らメール。
そんなさゆみからの電話。
れいなはゆっくりと通話ボタンを押した。
- 652 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:22
-
「もしもし?」
確かめるように声を出したれいなの耳に届いたのは珍しく焦ったようなさゆみの声だった。
電話口でさゆみが早口にまくし立てる。
最初は何を言っているのか分からなかった。
それは早口ということよりもれいなの脳がその事実を認めたくなかったからかもしれない。
『あ、れいな!絵里が事故ったらしいのっ。』
「はぁ?!絵里がっ?」
―事故?
省略された言葉がれいなの頭の中をくるくると回る。
何で、今の時間帯に。
絵里はまだ部活のはずで。
聞く前にさゆみが答える。
- 653 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:23
-
『そう、部活の移動途中だったみたいでっ。絵里と同じ部活の子がさゆにメールしてくれたの!』
「で、絵里は?」
病院に運ばれたのだろうか。
だとしたらどの病院に?
大きな総合病院のようなところから、小さな開業医までれいなの頭の中に何個か候補が上がる。
自然と携帯を握る手には力が入っていた。
『わかんない。けど、絵里の家に連絡が行ってるはずだから……。』
「分かった!!ありがとっ。」
最後まで聞かずにれいなは電話を切る。
さゆみには少し悪い気がしたが構っていられなかった。
さっきまで頭の中にあったものなど吹っ飛んでいた。
ただ、絵里の家に行かなければならないという思いだけが刻み付けられていた。
- 654 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:23
-
学校かられいなの家までは歩いて二十分かかる程度の距離だ。
ごま吉は学校から五分で着く距離にある。
そしてれいながいたのはその角を曲がればごま吉という場所。
とてもじゃないが走ることが速いとは言えないれいなでさえも十分あれば絵里の家に着く。
いつもの道をいつもではありえない速さでれいなは走った。
―馬鹿っ。
絵里がなのか。
れいながなのか。
もう判断はつかない。
だがいくら会い辛かったとしても会っておくべきだったとれいなは自分を恥じた。
++++
- 655 名前:第六話 投稿日:2007/02/10(土) 14:24
-
「……ほんっとうに手のかかる幼馴染なの。」
さゆみは呆れ半分に呟いた。
最早右手に持つ携帯電話は誰とも繋がっておらず、れいなの焦りが如実に分かった。
―話の途中で突然切るのは失礼だって注意しなくちゃ。
さゆみはそう思いつつも、れいながそうすることは分かっていた。
むしろ切って欲しかったのかもしれない。
それくらいは急いでもらわないと困る。
適当に役目を果たした機械を鞄に仕舞う。
絵里の家に着いたときのれいなの顔が見ものだとさゆみは思う。
自分がそこにいないことが非常に残念だった。
さてこれでもあの二人が仲直りしなかったらどうしようか。
れいなの電話があってから数日待ってみた。
しかしれいなが言葉の意味を理解した様子はないし、会ってもいないようだった。
絵里はそのせいか学校でも不機嫌だったし、どこか心ここに在らずだった。
だから滅多に怪我などしないのに脚を挫くなどという失敗をするのだ。
さゆみには分かっている。
結局離れられない二人なのだと。
自分は傍観者、一番身近な。
そこまで考えてからさゆみは家への道を歩き出した。
面倒な役目だなぁと小声で呟いて。
第六話 終
- 656 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:26
-
息が切れてきた。
どうも走ることは得意じゃない。
それに比べて彼女は、絵里は走ることが得意だった。
今だって陸上部なんてれいなからしたら寒気のする部活に所属している。
―正反対っちゃ。
足の速さも、頭のよさも、趣味も、考え方も。
だかられいなには絵里のことが良くわからない。
長いこと一緒にいたから、表情くらいは読める。
怒っているとか、嫌がっているとかそういうことは分かる。
ただなんでそうなっているかが分からないのだ。
「……絵里っ!」
- 657 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:26
-
今はこの遅い足が酷く恨めしいだけだった。
早く絵里のところに行きたいのに、だから絵里の家に向かっているのに。
少しも進んでないような気がする。
速く早く、早く速く。
―絵里のもとへ。
こんなに絵里のために必死になっているのにれいなは気づいていない。
どうして絵里のことになると敏感すぎるほど敏感になってしまうのか。
足を動かす理由を少し考えれば分かるだろうに。
れいなはそれに気づかない。
さゆみがその事を知ったらきっとこういうだろう。
「いい加減、それが好きっていうことだって気づくべきなの。」と。
- 658 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:27
-
いつかのようにれいなは全力で亀井家の玄関に上がった。
そして靴を脱いでる間に何事かと思ったのか絵里の母親が出てきた。
「あら、れいなちゃん。いらっ――」
「こんにちはっ、あのっ絵里は……?」
慣れない全力疾走に完全に息が上がってしまっていた。
だけどれいなは早く確認したい一心で尋ねる。
「絵里?絵里なら上にいるけれど。」
「ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げると再び急いで絵里の部屋に向かう。
後ろでは母親がどうかしたのかしらと一人首を傾げていた。
この時母親の様子を少しも可笑しいと思わないのがれいなの鈍さである。
- 659 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:27
-
「絵里っ。」
大丈夫と続けようとしたれいなは思わず言葉を止めた。
ベッドに絵里はいた。
静かに横たわっている。
目はきちんと閉じられていて、ぴくりともしない。
「……絵、里?」
まさか。
まさかそんなことあるはずがない。
絵里がいなくなるなんて、ありえない。
学校で会えないだけでも苦しかったのに、もう話すことも出来ない。
そんなこと認められない。
絵里がまたれいなから離れてしまうなど、あってはならない。
れいなは今までの勢いが嘘のようにゆっくりと絵里に近寄る。
近づくのがこわかった。
まさか、万が一という言葉がれいなの頭のなかを回る。
- 660 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:28
-
「絵里。」
ベッドの傍らに着くとれいなは立ち尽くした。
触るのが怖い。
走ったせいでかいた汗が冷えて酷く冷たかった。
もう一度名前を呼ぼうとして声が出なかった。
絵里の姿がぼやける。
嗚咽に言葉が飲み込まれていく。
―死んだ?
―事故で?
―誰が?
―絵里が?
―嘘だ。
- 661 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:28
-
「起きて…ぇ、絵里。」
決心がついたのかれいなはそっと手を伸ばす。
頬に触れる寸前に絵里の瞼が反応した。
「…ぅ……れいな?」
ごしごしと目を擦る。
先ほどまでの作り物めいた、死人のような雰囲気は失せた。
れいなはベッドに身を起こす絵里を呆然と見つめる。
そして起こされた半身の頭の先から布団に入っているところまで何度も視線を往復させる。
「絵里?」
「なぁに、れーな。」
眠そうな声で返されれば、れいなの目から一気に涙が零れ落ちた。
それは凄い勢いだった。
あっという間に頬を伝い、ベッドに落ち、色を変える。
- 662 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:29
-
「れ、れいな?どうしたの?」
え?え?と慌てふためく絵里。
絵里にしてみれば意味がわからない。
足が痛いから寝ていて、目覚めたられいなが号泣しだしたという混乱せざるをえない状況だった。
「絵里がっ……っく……」
「絵里が?」
「死んだ、かとぉ…思ったぁ。」
「………へ?」
なんでと絵里は不思議に思った。
だがとりあえず泣きやんでもらうのが先だとれいなをベッドに腰掛けさせる。
自分も布団から出て捻挫した足に注意を払いつつ並ぶ。
巻かれた包帯を見ると痛さが増すようだった。
- 663 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:30
-
「ほら絵里ならこの通り生きてるから。泣かないで、れいな。」
足は痛いけどと付け加えれば、れいなが確認するように絵里の全身を見た。
えりは大げさに手をひらひらさせたりして元気をアピールした。
―何?一体なんでこの状況?
余りにもれいなが泣くので絵里の頭もうまく働かない。
頬に触れようとしてそれだけじゃ足りないことに気づく。
そして一瞬迷ったがれいなを自分の腕で抱え込んだ。
「絵里の心臓動いてるでしょ?」
「………っん。」
「だから、れいなが泣く必要はないんだよ。」
体温が伝わったのか、れいなの嗚咽は段々と収まってきた。
じんわりとパジャマが濡れて冷たかったが絵里は気にしない。
やがて完全に嗚咽が収まると、れいなは赤い顔で絵里から離れた。
- 664 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:30
-
「絵里のばか。…心配したと。」
ぷいとそっぽを向かれた。
だが確かに心配してくれたことが絵里には嬉しかった。
「というか、なんでそんなに焦ってたの?」
絵里の怪我は捻挫である。
どんなに頑張っても死ぬことは出来ない。
きょとんとした風に絵里が聞き返せば、逆にれいなが顔をしかめた。
「事故って聞いたっちゃ。」
「誰から?」
「……さゆから。」
言ってかられいなは気づいた。
はめられた、と。
さゆみはこういった気回しが妙にうまいのだ。
- 665 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:31
-
「とにかく心配したっちゃ。」
そして更に気づく。
自分は絵里から離れることなどできないのだと。
絵里が死んだ、いなくなったと思った時れいなは駄目になった。
絵里がいない世界なんて意味がない。
「もう、離れないで欲しいと。」
「れいな?」
弱い声でれいなが言えば絵里は驚いたように目を見開いた。
隣にある袖をそっと握る。
その動作に更に困惑したように絵里が自分の袖とれいなの顔を見比べた。
「れな、絵里がおらんと駄目みたいっちゃ。」
「……れいな。」
「ずっと誤魔化してたと。絵里がいなくても大丈夫って。」
でも誤魔化しきれんもんたいね。と自嘲するようにれいなは言った。
今日のことで思い知らされたのだ。
いかに絵里が大切な存在だったかを。
- 666 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:32
-
「れいな、それって告白だよね?」
「側にいて欲しいって言っただけと!」
それを告白というのとれいなの心の片隅でさゆみが顔を出した。
れいなの顔は真っ赤になっていた。
「ずっと側にいていいの?」
絵里は言葉の意味を理解し喜びがどんどんにじみ出ていた。
れいなから告白。
本人は認めていないけど告白。
それは絵里が長い間、求めていたものだった。
嬉しいくて仕方がない。
れいなが、あの奥手で、恥ずかしがり屋のにぶチンのれいなが言ってくれた。
「だからさっきからそう言っとるっちゃ。」
隣に座っていることさえ恥ずかしくなったのかれいなは立ち上がった。
そしてもう一度絵里の体に捻挫以外怪我がないことを確認するとドアまで下がる。
- 667 名前:第七話 投稿日:2007/02/10(土) 14:33
-
「絵里は元気そうやから、れいなはもう帰るっちゃ!じゃ、無理したらいかんと。」
そういって返事も待たずに帰ってしまった。
絵里は声をかける暇もなく帰ってしまったれいなに呆気にとられる。
しかし直ぐに喜びがでてきて、笑顔にさせた。
ひとりでに笑みが漏れてきて絵里は口元を押さえつつ笑う。
「れいなったら、あせりすぎー。」
痛みより何より嬉しかった。
明日からまた楽しい日々が送れそうだと思った。
第七話 終
- 668 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/10(土) 14:33
-
- 669 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/10(土) 14:36
-
多めに更新しましたー。
この話は次で最終回になる予定です。
物凄く間が開いてしまいましたがどうぞ最後までお付き合い下さい!!
つぎは一週間後くらいの予定です。
では。
- 670 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/10(土) 14:36
-
- 671 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/11(日) 03:13
- 更新乙です。れいながとても可愛いくてイイですね!!
- 672 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/21(水) 13:40
-
更新です。
671>>名無飼育さん
おまたせしましたー。
いきなり可愛くなったれいなに書いた本人も驚いております(爆
最初からこんなに素直だったら、もっと展開が速かったでしょうw
ではれなえり最終回です。
- 673 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:41
-
第八話
れいなと絵里がやっとくっついて数日後。
さゆみは一人ごま吉に来てパフェを食べていた。
他に客がいないことを良いことにひとみと真希相手に散々愚痴る。
「もー、れいなの鈍さったら考えられないと思いません?」
「あは、重さんも大変だね。」
「本当ですよー。鈍いだけならまだしも、れいなはそれに加えて素直じゃないですから。」
一言文句を言ってから、一口食べ。
また一言愚痴ってから、もう一口食べ。
さっきからさゆみはその繰り返しであった。
真希はさゆみの話が楽しいのか、食べっぷりが嬉しいのか笑って聞いている。
ひとみが苦笑しているのはれいなに同情しているからだろうか。
- 674 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:42
-
「でもあの二人が納まるところに納まってくれて良かった。」
「れいなも飛び出したきり一回も来ないからどうしたんだろうなーとは思ってたんだ。」
重さんが教えてくれて助かったよ。とひとみは礼を言った。
さゆみも綺麗な笑顔でどういたしましてと返す。
「まぁ、いずれくっつく二人だと思ってましたから。逆にくっついてもらわないと困りますー。」
「てことは、あの二人昔からあんな感じだったの?」
「大体あんな感じです。二人とも進歩してないから。」
ぱくぱくと食べ続けていたパフェはもうなくなりかけていた。
しかしさゆみが呆れたような口調で語るれいなたちのことは尽きず、
食べ終わった容器を脇にどかすと真希たちをみて更に続けた。
- 675 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:43
-
「小さい頃からけんかの多い二人で、しかも毎回さゆが間に入んないと仲直りしないんですよ。」
「意地っ張りだからねー、二人とも。」
真希がなんか飲む?と尋ねればイチゴミルク!!と大きな声で言った。
頼むもの可愛さと勢いのギャップが真希の笑いを誘う。
ヤケ酒している親父みたいだと思ったことは絶対に内緒だ。
ひとみがさゆみの注文を受けて厨房に入る。
すぐに戻ってくるだろうと真希は予想した。
「ほんっと、二人ともいい加減さゆの大変さを理解して欲しいの。」
「んー、でも重さんはそんな二人が好きなんでしょう?」
- 676 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:43
-
ぷんぷんと怒っていたさゆみの表情が一瞬固まる。
それは自覚しているから。
くっつきそうでくっつけなかった二人から自分も離れられないことを知っていたから。
解りにくい子だなと真希は思った。
可愛く作ってある表の裏できっと誰よりも大人びた考えを持っていたのだろう。
この子は。
「そうですね。好きじゃなかったら側にいません。」
「それもそうだねー。」
けらけらと真希は笑い返した。
鋭い人だとさゆみは思った。
ぼんやりしているのに何故か深い所を読み取られる。
人の感情に敏感で表面の空気を綺麗に読めるひとみとは違う鋭さ。
わからない人だとまたさゆみは思った。
- 677 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:44
-
「でも実を言うと、あの二人がくっついちゃったことは少し寂しいんです。」
さゆみにしては珍しく苦く笑う。
昔から間に入れなかったがそれが更に明確になってしまったような気がした。
同じ幼馴染でも意識が違った。
最初かられいなは絵里を気にしていたし、絵里だってそうだった。
「ジェラシーってやつ?」
仲の良い友達が自分だけを残していってしまう。
そんな女の子らしい嫉妬。
そう言った真希にさゆみはちょっと困ったように首をかしげてからゆっくりと否定した。
「いえ、たぶんどっちかと言えば娘を嫁に出すような心境です。」
- 678 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:45
-
その例えであってるいかわかりませんけど。とさゆみは付け足した。
さゆみの言葉に真希は大きく頷いた。
確かにそっちの方がさゆみらしい。
ずっと二人を見守ってきた彼女らしい感情である。
同い年くらいの三人なのにっその差が面白くて思わずくすりと笑みが漏れる。
「手のかかる子供が独り立ちした、みたいな気分なんだ?」
「絵里の一人ノロケ話や、れいなからの寝ているときの電話が無くなる事は素直に嬉しいんです。
でも全然なくなるのかと思うとそれも変な感じがして……。」
微妙な感じ。
真希はなんとなくわかる気がした。
そしてそれは全く心配する必要がないということも。
- 679 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:46
-
「でもさー、心配しなくて大丈夫だと思うよ。それは。」
「そうですかー?」
「うん、だってあの二人きっとまた喧嘩するだろうし。」
誰よりも二人の事を見てきたさゆみが気づかないのは変化に慣れていないからだ。
あの二人はさゆみのことを間違いなく必要としている。
残念なことに絵里のノロケ話やれいなからの電話も減ることはないだろう。
―むしろ増えたりして。
真希はそう思っていた。
「そう、ですね。性格まで変わったわけでもないですし。」
「そうそう。元々けんかする二人なんだから。」
- 680 名前:第八話 投稿日:2007/02/21(水) 13:46
-
真希がそう言った所でひとみがちょうど良くイチゴミルクを持ってきた。
淡いピンクはさゆみによく似合う。
―きっとこの三人は変わらない。
変な自信とさゆみのイチゴミルクを飲む姿が可愛くて真希は一人笑う。
ひとみと目が合って更に笑うと、不思議そうな顔をしつつも笑い返してくれた。
―幸せだなぁ。
しみじみと真希が思った瞬間であった。
第八話 終
- 681 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/21(水) 13:52
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蛇足のような最終話でした(汗
大切な役割ながら不憫だった道重さんに活躍してもらいましたー。
ついでに最初のほうで放って置かれたお二人さんも。
次は、あやみき中篇の予定でございます(笑
一ヶ月もあればはじめられると思うので、もう少しだけお付き合い下さい。
- 682 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/21(水) 13:53
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- 683 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/02/21(水) 13:53
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- 684 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/02/21(水) 17:47
- お疲れさまです
ほのぼのしててよかった
重さん可愛いよ重さん
- 685 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/04/04(水) 22:38
-
一ヶ月ぶりさー。
今日からあやみきっす。
いつもの如く中篇。
前二つの時間軸の間の話です。
ではレス返し〜。
684>>名無飼育さん
この頃重さんが好きなんですw
れなえりより可愛い重さんが書きたかった(爆)
てことでメン後の中で微妙に腹黒のお二人に対話していただきました。
気に入ってもらえたら良かったです。
ではあやみき編のはーじーまーりー。
- 686 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/04/04(水) 22:38
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- 687 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:39
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―本能的な彼女達―
- 688 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:40
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第一話
直感で生きてきた美貴だから。
見た瞬間に大体分かっちゃってたんだ。
亜弥ちゃんのこと好きになるって。
でもさ、そんなの恥ずかしいじゃん。
出会った瞬間に好きになるなんて、一目惚れなんて美貴のキャラじゃないし。
だから、実は言えなかっただけなんだよ。
- 689 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:41
-
ばしゃばしゃ飛び跳ねる水が気に食わない。
頭に乗せた鞄で防げる雨なんて高が知れていた。
制服に泥が飛ぶから本当は走りたくなどなかった。
だが傘を持たない亜弥にしてみれば走らずにはいられない。
―最悪。
急に振り出した割りに中々止まない雨が。
何処か雨宿りできる場所はないかと周りを伺う。
駅から結構走ってきたがまだ亜弥にとってはよく知らない場所だった。
ここら辺は隣の高校のテリトリーみたいなもので亜弥の通う高校は更に先であった。
ちなみに亜弥の家は二つの高校の真ん中くらいの位置にあって余りこちら側の駅は使わない。
今日は本当にたまたま用事があっただけなのだ。
それなのに、そういう時に限って土砂降り。
何か恨みでもあるのかと雲を睨みつけてやりたくなった。
可愛くないからしないが。
- 690 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:41
-
「……あれ?」
雨音が止んだ。
代わりに聞こえるのはビニール傘に雨粒が当たる音。
微かに目線を上げれば透明で見慣れた傘が水を遮っていた。
「傘、ないの?」
後ろから聞いたことのない声が聞こえた。
この傘の持ち主だろう。
少し鼻声のようなそれは何故か心地よかった。
思えばこの時から亜弥は分かっていたのかもしれない。
自分にとってこの人がただの人じゃないことを。
だからか優しい声が出た。
「ないんです。」
- 691 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:42
-
困ったように苦笑いの表情を作り後ろを振り返る。
背格好は亜弥とさほど変わらない女性がそこにはいた。
亜弥のほうに傘を傾けながら、少し寒そうにしている女性が。
―かわいい。
鼻がぐすぐすしていて、寒さからか頬はうっすらと赤くなっている。
愛想が良いわけではない。
むしろ目つきは鋭かった。
だがその年上らしい人物に亜弥は何故か可愛らしさを感じていた。
自分以外の誰かには余り使わない形容詞なのに、素直に思ってしまうほど。
「なら、この傘貸してあげる。」
「え、でも……。」
亜弥は差し出された手と雨に濡れた自分より寒そうな彼女の顔を交互に見つめる。
率直に言えば貸して欲しい。
だけどこの人から傘を取り上げることはできない。
- 692 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:43
-
―……っていうか、雨が冷たい。
雨の冷たさが身に沁みた。
さっきまでは走っていたおかげで感じていなかったのに。
一つ身震いした亜弥に気づいたのか、傘を差しかけたまま口を開く。
「美貴なら大丈夫だから。」
ぐいっと更に傘を押し付けられる。
そのせいで美貴といった彼女は傘からはみ出し、濡れ始める。
少し俯いた顔からは表情を読み取ることが出来ない。
それでも亜弥は目の前にある柄を握ることが出来なかった。
困った。本当に。
- 693 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:43
-
「友達の喫茶店が近くにあるから、遠慮なく借りてってよ。ほら、持って。」
何時までも動かない亜弥に焦れたのか美貴は亜弥の手をとると無理やり傘を持たせる。
亜弥は戸惑いつつも抵抗することは出来なかった。
そして亜弥が傘を持つのを見ると、美貴はひょいと身軽な動きで傘から出た。
そのまま走り去ろうとする人影を見つめ、亜弥は叫ぶ。
「あのっ!お礼したいので名前、聞かせてください!」
必死だった。
ちょっと大きすぎたかなと自分で思うほど大声だった。
走り出そうとした人影は亜弥の声に反応してくるりと振り返る。
答える声は土砂降りの雨音のせいで全ての音にスモークがかかったようだ。
- 694 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/04/04(水) 22:44
-
「藤本、美貴だよ。そっちは?」
でも亜弥の耳にその声ははっきりと聞こえた。
藤本美貴と心の中で一度呟いてから、亜弥は笑顔を浮かべ答える。
「松浦亜弥です。」
見えにくい雨の中で確かに目が合った気がした。
そして亜弥の心に残ったのは一つの予感。
亜弥が人生で初めて感じた予感。
―ああ、きっとまた会うんだろうな。
美貴が貸してくれた傘の下で亜弥は微笑む。
名前を聞いてすぐに美貴は走り去ってしまった。
電話番号も、何も聞いていない。名前以外は。
だが亜弥は気にしない。
なぜならきっと会うから。
――それが運命だから。
これが本能的な彼女達の出逢いであった。
第一話 終
- 695 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/04/04(水) 22:45
-
- 696 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/04/04(水) 22:51
-
あやみき、実を言うとちゃんと書くのは初めてです。
だって難しいんですもの。
パワフルすぎてこの二人はかけませんでした(苦)
メン後にはれなえりのテンションがしっくり来ます。
よしごまは逆に低すぎるときが……w
一押しなのに(爆)
コンセプトは初期あやみき+擦れ亜弥。
ちょっと背反している気がするけど。
そんな感じでまっつーは逝きます!
では、またの日まで〜。
- 697 名前:名無し読者。 投稿日:2007/06/06(水) 00:19
- 続き、待ってますよ〜。
頑張って下さい。
- 698 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/06/17(日) 14:09
-
ちょっとショックが抜け切らなくてこんな時期になってしまいました……。
でも、このあやみきだけは完結させたいと思いますorz
まぁ、どうせ妄想だ!!
というのが根底なので頑張りたいでっす。
697>>名無し読者。さん
ごたごたリアルで続いていますが頑張ります!
幸せになってくれればそれはそれで満足です。
でもちょっとミキティの脱退は頂けません。
では更新っす。
- 699 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:10
-
第二話
百メートルもない距離だったが、あっという間に濡れ鼠になっていた。
あの女の子―亜弥といったか―の濡れ方も納得だった。
傘を貸して良かったと美貴は思う。
あれ以上雨の中を走っていったら間違いなく風邪を引くだろう。
戸を開けて、一言叫ぶ。
「よっちゃん、悪いけどシャワー貸して。」
張り付く前髪を鬱陶しそうに払う。
美貴の声に反応して奥からひとみがひょっこりと顔を出した。
ずぶ濡れの美貴の様子を見て目を見開く。
美貴はそんなひとみを気にしていない風で店を見回した。
客のいなさ加減から多分休憩時間だったのだろう。
真希もカウンターに立ってはいなくて、ちょっと珍しく感じた。
だが客の大半が学生のこの喫茶店はもしかしたら放課後以外こんな感じなのかもしれない。
- 700 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:11
-
「そんなに濡れちゃって、傘持ってなかったの?」
「貸した。」
「は?」
一言事実だけ告げる。
奥から美貴のほうに歩いてきたひとみは美貴の答えに本当に驚いた顔をした。
信じられないとその目が言っていた。
その視線に美貴はむっとした顔をする。
「何、美貴が傘貸すのがなんか可笑しい?」
「いや、ただ珍しいなぁと。」
片手に持っていたタオルを美貴に渡しつつひとみは言った。
ありがと、とだけ言って美貴はとりあえず髪の毛を拭き始める。
美貴だってひとみに言われるまでもなく珍しいことは百も承知である。
ただあの子だから、亜弥だからこそ美貴は傘を貸したのだ。
亜弥でなかったら美貴は気にも留めなかっただろう。
そのまま通り過ぎていたに違いない。
だが美貴はその事実に気づかない。
- 701 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:12
-
「美貴より、ずぶ濡れの子がいたから。」
だから貸した。
美貴はとりあえずそう理由付ける。
きょろきょろと周りを見渡す様子から雨宿りする場所を探しているのは分かった。
そしてそれを探すという事は目的地までまだ距離があるのだということも。
秋も過ぎて冬に向かうこの季節は寒がりに美貴には辛い。
本当なら家に真っ直ぐ帰りたいところだった。
しかしそんな中、亜弥が目に付いてしまったのだ。
人通りの少ない道で鞄を雨避けに一人立っている少女。
美貴が貸さなければあのまま濡れて帰ることになっただろう。
だから貸した、と美貴はもう一度心の中で呟く。
それ以外別の理由はないのだと言い聞かせるように。
- 702 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:12
-
「お風呂準備できたよー。」
黙ったままでいると真希が奥から声をかけた。
ひとみがわかったと返事をすると美貴はそのままお風呂場へ連れて行かれる。
「ちょっ、美貴シャワーでいいって言ったじゃん。」
「まぁまぁ、沸かしちゃったものはどうにもならないし。温まってきなよ。」
笑顔でそう言われれば美貴に反論することなどできない。
途中真希に会ってとりあえず頭を下げると、真希も笑顔で返してくれた。
- 703 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:13
-
―そう言えば付き合ってるんだよなー、この二人。
ひとみに言えば何を今更と笑われるだろうか。
一緒に働いて、同棲さえしている二人だ。
昨日今日の付き合い出ないことも美貴は良く知っていた。
だがなんと言うかカップルっぽくないのだ。
付き合っているということを忘れるくらい二人とも自然な空気だから。
ひとみと仲の良い美貴が遊びに来ても嫌な顔一つしない。
客だと割り切られているのだとしたら話は別だが。
とそこまで考えた所で美貴は脱衣所に押し込まれた。
「ちょ、ちょっとよっちゃん?」
「いいから、いいから。んじゃ、着替えて。」
「は?」
- 704 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:13
-
首を傾げる。
着替えろと言ったのに脱衣所から出て行く気配はない。
友達だからそこまで気にするわけでもないが、やはりこの人物の前で脱ぐのは気が引ける。
―よっちゃん、基本スケベだから。
じとりとした視線を向ければひとみは少し身をすくませる。
顔は未だに笑顔を保っているが、目は泳いでいるのがばっちりとわかった。
「ほら、濡れた服乾かさないといけないからさ。早く脱ご。」
「いや、よっちゃんがいるとこで着替えられるわけないし。」
その提案は嬉しいが、着替えは別物だ。
しっしと手で追い払うような仕草をする。
その美貴の様子に「えー。」とひとみは不満げな声を出す。
- 705 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:14
-
「無理なものは無理だから。さっさと誤解される前に出る。」
怒った所を見たことはないが、逆にだからこそ怒ると怖そうである。
それに巻き込まれるなんて考えただけでぞっとする。
そろそろ本当に身体が冷えてきた。
先ほどからくしゃみは出そうだし、鼻だっていつもより更にむずむずしている。
「美貴の身体が見たーい。」
「見せるかっての!!」
「そうそう、よしこになんか見せたら妊娠するよ。」
「……へ?」
- 706 名前:―本能的な彼女達― 投稿日:2007/06/17(日) 14:14
-
間抜けな声と共にひとみが後ろを振り返る。
いつの間にか真希が入ってきていた。
扉に背を向けているひとみはもちろん、美貴も気づかなかった。
にっこり笑顔の真希を見てひとみの表情が固まる。
「ごめんねー、今連れてくから。ゆっくり入っていいよ。服は入った後に乾かしておくから。」
「あ、うん。」
呆気にとられたまま頷く。
「じゃ、ごゆっくりー。」と一言残して真希は脱衣所から出て行った。
もちろん、手にはひとみが捕まえられている。
顔色が悪くなっているひとみが面白かった。
「めっちゃ、尻に敷かれてるじゃん…………。」
友の意外な一面を知って、少し呆然とする美貴だった。
その姿に自分とさっき傘を貸した女の子が重なって見えたのは、
もしかしたら予知だったのかも知れない。
第二話 終
- 707 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/06/17(日) 14:15
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- 708 名前:吉よしメン後 投稿日:2007/06/17(日) 14:16
-
とりあえずテンション低いまま更新。
妄想ネタが切実に欲しい……。
ではまたの日までー。
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