【春の歌】

1 名前:なまっち 投稿日:2005/06/29(水) 01:17

黄色の下にある短編から中編中心の【麗しき"ナ"と、"ナシ"の華】の途中から始まっている中編【春の歌】の続きです。

題名はもちろん【第六感】の中の歌ですね(にがわら…ぱくりかよっ

主な登場人物は、石川梨華さん、田中れいな、後藤真希さん、藤本美貴さん、高橋愛ちゃん、
紺野あさ美ちゃん、亀井絵里、道重さゆみ、嗣永桃子ちゃん、この9人がメインです。
さぶキャラクター的なメンバーとして、安倍なつみさん、飯田圭織さん、中澤裕子さん、
加護亜依さん、辻希美さん、吉澤ひとみさんの6人です。

アンリアルで(リアルも若干入りつつ?)、2005年のこのメンバーの春休みを描いています。
>>2->>4にこれまでのあらすじを書きましたので、初めてこのすれを覗こうかなぁと思われました方は、
そちらで少しあらすじだけでも読んでやってください。
で、興味を覚えていただけましたら、下に沈んでいる【麗しき"ナ"と、"ナシ"の華】を読んでやってください。
そして、このすれをヨロシクお願いいたします。

それでは頑張って行きたいと思います。

2 名前:【春の歌】〜第1話。田中れいな 投稿日:2005/06/29(水) 01:18

☆第1話。田中れいな☆

 この春から高校生になるごく普通の女のコである田中れいなは、春休みが始まった日に、
 街中でカッコいい女のヒトに声を掛けられた。
 そのヒトの名前は、藤本美貴。
 不審に思いつつも、カノジョの容姿に惹かれ、逃げずに話を聞いてしまったれいな。
 美貴の話の内容は、アルバイトの誘い。
 それは、女の人とキスをするだけでお金を貰えるというとても簡単なアルバイトであった。
 その誘いを安易に受けてしまったれいなだったが、そのときに1人のキレイな女性に出逢ってしまった。
 そして、そのヒトとの出逢いが、れいなの運命を変えてしまったといっても過言ではなかった。
 それは、一目惚れ。
 そのヒトの名前は石川梨華。

 本当であれば、ほんの1時間程度のコミュニケーションで終わるはずだったのだが、
 このまま別れたくないと感じたれいなは、別れ際、梨華に対して衝動的な行動に出る。

 そのれいなの行動に対して、梨華は…?

 春休みが始まった初日の一日だった。(2005/3/22(火))

3 名前:【春の歌】〜第2話。石川梨華 投稿日:2005/06/29(水) 01:19

☆第2話。石川梨華☆

 国民的アイドルである後藤真希のシンユウである石川梨華は、普通の大学生であった。
 普通にアルバイトをし、普通に大学に通っているごく普通の女のコ。

 ただ、1つだけ"ある秘密"を持ちながら暮らしていた。
 その秘密とは、アイドルである真希と同棲をしているということだった。
 そして、真希のさらなる秘密に胸を痛ませながら生活もしていた。

 2人が高校生の頃から真希の保護者のような存在となっている梨華が、
 世間でいう春休みの一日に、ある1人の美少女と出逢った。
 その美少女の名前は田中れいな。

 成り行きから連絡を取り始めた梨華は、カノジョへの不思議な感情に疑問を感じながら、
 バイト先に来たいと言ったれいなを自身のアルバイト先へと招いたのだが…?

 梨華の生活と、不思議なアルバイト先の個性あるメンバーの登場と、
 そして、大学生である梨華と、中学生であるれいな、5歳も年齢に差のある2人の関係はどのように…?

 春休みが始まって3日後の一日だった。(2005/3/24(木))

4 名前:【春の歌】〜第3話。姉妹 投稿日:2005/06/29(水) 01:19

☆第3話。姉妹☆

 田中れいなのシンユウである道重さゆみと、カノジョが姉のように慕う亀井絵里は、
 れいな同様ごく普通の中高生である。
 普通に学生生活をし、普通に春休みも過ごしていた。
 そして、このまま差し当たりなく新学期を迎える予定だった。

 2人の春休みが始まってすぐに寝込んでしまったさゆみは久しぶりに元気になり、
 えりと一緒にれいなを遊びに誘ったのだが、やんわりと断られてしまった。
 しかし、れいなの行動を不思議に思った2人は、カノジョの後をつけることにした。

 れいなを見た瞬間に、明らかにこれまでとは違うカノジョの様子にショックを受けつつも、後をつけ始めた2人。
 すると、れいなはある不思議な場所へと足を踏み入れた。
 ためらうことなく、同様に足を踏み入れるえりとさゆみ。

 れいなの行動の真相を知った2人は、そこで出逢った個性あるヒトたちに惹かれ、
 自然とれいなと行動を共にすることに。

 3人の久しぶりの会話と、これからの3人、さらに、えりとさゆみのこれからの関係は…?

 春休みが始まって7日後の一日だった。(2005/3/28(月))
 
5 名前:【春の歌】〜第4話。お願い 投稿日:2005/06/29(水) 01:20
 
☆第4話。お願い☆

 石川梨華の後輩である高橋愛は、アルバイトのある日に珍しく寝坊をしてしまった。
 しかし、その日に限ってとんでもないごたごたが起こっていたのだ。

 明らかに様子のおかしいれいなと、同じく愛のシンユウであるあさ美。
 朝のおかしなあさ美からの電話にも、遅刻前、簡単に切ってしまった愛だったが…

 そして、これまでに一度も見たことがなかった梨華の"行動"。

 春休みが始まって10日後の一日は、みんなの【春休み】を一変させるキッカケの一日である。(3/31(木))

6 名前:【春の歌】 投稿日:2005/06/29(水) 01:21




 ☆第4話。お願い☆




7 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:21




 1 〜




8 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:22

 近くに大学が多く点在しているこの地域は、昔から学生の居住率の随分と高い場所であった。

 色々な地方の学生が東京に胸を躍らせながら出てくるこの街は、
 まさに夢への第一歩の場所と言ってもいいだろう。

 そのため、この春休みの時期になると、いたるトコロで引越しの会社のトラックが止まっているのが目に入る。
 ある意味この街の風物詩といってもいいくらいだ。
 
 高校生になると同時に福井から東京に出てきて、この風物詩を味わった高橋愛も、
 この場所で母親と二人暮しをし、母親と2人、当時から小さな胸に夢を膨らませていた。


 ただ、今では少し寂しく1人で胸を膨らませているのだが。


9 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:23

 当初から、母親と一緒に住むというのは、高校の3年間だけとの約束だったため、
 今では1人暮らしとなっている。
 そう、母親も約束どおり、愛の大学への進学が決まった2月下旬には、
 意外なほどすんなりと福井の方に帰ってしまった。

 普通の母親なら、可愛い娘を心配して、一緒にいたがるものだと、愛自身そう思っていたのだが、
 あまりにも簡単に帰ってしまったことに呆気に取られてしまった感覚が今でも残っている。

 とくに、愛親子は頻繁に買い物などに出かけ、友達からは"本当に仲がいいね"と言われているくらいだったから、
 友達にでさえ、不思議がられてしまったくらいだった。

 愛も、3年間だけの約束とはいえ、なんだかんだ一緒に住み続けるものだと思っていたのに。
  
 そのため、最初の頃は随分と寂しく、毎日のように電話をいれたりしていたのだが、
 最近はバイト先のシンユウであるあさ美がよく泊まりにきたりしてくれ、寂しさも随分と減ってくれていた。

10 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:23

 そして、1人になってちょうどひと月になる今日も、普通の学生では住まない1LDK、
 学生にしたら少々大きなトコロで、1日の愛の生活が始まった。

 ただ、いつもの朝ではないその様子。

 普段の愛の朝は、コーヒー、ヨーグルト、スクランブルエッグにトーストやらをテーブルの上にならべ、
 優雅に朝食を楽しんでいる。
 時間に余裕を持たせ、バイト先にも余裕で到着するのが、愛のポリシー。

 の、はずなのだが、今日ばっかりは少々違った。
 ショーツのみを身につけた愛。
 キレイにツンと上を向いた胸を惜しげもなくさらしながら、
 随分と慌しくパンとヨーグルトをお腹の中に収めると、ミルクを飲み込む。
 ぐびぐびと美少女らしからぬくらいに一気にそれを飲み込むと、コップから口をはずし、ぷはぁと一声だした。

 まるでお父さんがお風呂上りにビールを一気に飲み、おいしく声を出すみたいに。
 そう、これまた顔の美少女ぶりに似合わず、少々豪快。

 ただ、今の愛の感情は、お父さんの"おいしい"ではなく、単に声に出しストレスを解消させているのだ。

11 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:24

「もぉっ」

 そして、1人声をあげ、微妙に湧き上がるストレスをさらに解消させると、歯ブラシを口の中に突っ込んだ。
 大きくきりりとした瞳がより目の前の空間を睨み付ける。

 随分とご機嫌斜めだが、歯磨きの間に、壁に張られている男装の麗人のポスター、
 いわゆる"タカラヅカ"のポスターやら、愛お気に入りのアイドルのポスターやらを目にすると、
 少し表情が綻ぶ。

 歯ブラシをごしごしと動かしながら大きな目を細め、黒目がちな目を作ると一瞬キモチに余裕が生まれるも、
 テレビの画面に見える時刻を認識すると、再び不機嫌な表情へとなる。


「どぉーして鳴らんよぉ」


 そう呟くと、捲くれ上がった布団を、恨めしげに見つめる。
 愛の視線の先、その布団の中、時間を見て思わず脱ぎ捨てててしまったパジャマやTシャツに埋もれるように、
 微かに目覚まし時計が見え隠れしていた。


「ぁ゙ぁ゙ぁぁ
 ふどんだたま゙なきゃ」


12 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:24

 几帳面な性格の愛は、毎朝必ず布団をたたんでいる。
 たたむとはいっても、ベッドの上でたたみ、そのままキレイに整頓するだけなのだが。
 少し雑に掛け布団がめくれているのが、性格的に許せなかった。

 とは言うももの、次の瞬間には"もぉ時間がなぃゃ"と呟いていた。
 諦めモードなのか、がっくしと肩を落とす。

 もともと朝は強かったこともあり、高校生活、遅刻をしたことがなかった愛。
 ま、たんに母親が起こしてくれていただけが正解なのだが。

 それでも、朝に準備で焦るなんてことも経験したことがなかったくらいだから、
 今日みたいに遅刻寸前の対応というのが不慣れであるというのが正しいのだろう。

 慣れている人間なら、歯磨きの間にも色々と準備ができようもの。
 例えるなら、布団をたたむとか。


 しかし、慣れない愛は、ただ歯磨きだけに没頭するのみ。


 歯磨きを普段の半分で済ませると、口をゆすぎ、洗顔を済ませる。
 そして、軽くメイク。

 と、その時、部屋の中にスローテンポの曲が流れ始めた。

13 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:25

 メロディだけではなく、若干崩れてはいるが、しっかり歌声ものっている携帯での着信を知らせる音。


「だぁぁぁぁぁ
 忙しいのにぃ」


 とは言っても、愛の大スキなアイドルの発売したばっかりの着うたに、自然と口ずさんでいた愛。

 愛のカッコいい歌声が、携帯から流れ出しているアイドルのしっとり聞かせる歌声とキレイに交わり、
 少しの間、雰囲気をいっぺんさせる曲へと変化させる。

 携帯の前に立ち、しばらく歌う。


「ゃべっ」


 着うたに変えてからは、どうしても携帯に出るまでに時間が掛かるようになってしまっていた。

 一度、あさ美にその様子を見られたときに、呆れ返られ、"早く出てあげないとカワイソウだょ"って、
 たしなめられたことがあった。
 とは言っても、あさ美も愛と一緒に歌っていたことは言うまい。

14 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:25

 それはさておき、そのときは反省をし、さすがにそれ以来、出るまでの時間は短縮したのだが。
 つい最近発売したばっかりの新曲の着うたに変えてから、これまで以上に長くなってしまった。

 今までで一位二位を争うくらいに気に入ってしまったから、仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが、
 電話を掛けてきている人間にとってはいい迷惑である。


「ぅん」


 満足をした愛が、携帯を手に取る。


「ぉ」


 その携帯の画面を見た愛の目に入ってきた名前は、"あさ美ちゃん"。


「どーかしたんかなぁ」


 今日お互いアルバイトに入っているから、電話を掛けてくるということは、それなりの理由があるのだろう。
 少し心配になった愛は、ぴっとボタンを押した。


「はょぉ
 どーなぃしたん?」

『はょ…』


 愛の耳に聞えてきたあさ美の声は、心配した通りとても沈んでいた。

15 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:26


「だぃじょぉぶ?」
『ぅぅん…』


 大丈夫じゃないのかよっ

 一瞬ツッコミを入れてしまいそうになった愛だが、予想以上に沈んでいるあさ美の様子が余計に心配になった。


「どーしたん?」

『ん…ちょっと今日はお休みを貰ったの…』


 その言葉だけで、愛の中、いろいろな疑問がただ一つの結論に行ってしまった。
 そして、もう愛の中では、安心をしてしまっていた。
 
 あさ美がただ"病気"で休むのだろうと判断をしたのだ。
 何かあさ美に精神的にショックを受ける出来事が起こったのではなく、風邪を引いてしまったのだろうと。

 それならば、今日一日休めば大丈夫。

 遅刻ぎりぎりの愛は、深く考えることはなかった。

 普段の愛なら、今話しているあさ美の口調や様子から、それを病気ではなく、
 精神的なショックだと判断するのだろうが、今日ばっかりは、
 まさに遅刻をしてしまいそうな状況への焦りから、あさ美への第六感を働かせることが出来なかったのだ。

16 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:26


「そっか…」


 そう安心したように呟くと、次には少し焦ったように声を出す。


「ちょっと遅刻なんょ
 じゃ、また時間があいたら連絡入れるからー」

「ぁ…ぁ…ぅん…」


 愛の余りにも忙しそうな口調に、あさ美は少し寂しそうに返事をするも、
 愛は特に気にした様子もなく、"おだぃじにぃ"とだけ言うと、携帯を切った。

 そのまま"いそがぁんと"と呟くと、もうメイクは完全に省略する。
 とは言っても、メイクをしなければ外にも出れないなんてコトはまるでない。

 むしろすっぴんでもメイクをしてもほとんど関係ないのだ。

 単純に紫外線を防ぐためと言ってもよかった。
 高校生になりはじめてから、そっちの方が心配になっているのだ。

 だから、少々時間のない今日は、諦めることにした。

 "後でしっかりビタミンを取ればだぃじょぅぶ"と言い聞かし、ブラジャーも昨日決めていたセットのモノではなく、
 つけやすいフロントホックのモノを適当に選ぶと、これまた簡単に服を着て、家を飛び出した。

17 名前:1 〜 投稿日:2005/06/29(水) 01:26


 〜 ☆


18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/06/29(水) 18:14
ほぉ〜…初めてスレを覗かせていただきました。
これから作者様についていきますw
19 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/06/30(木) 06:58
更新お疲れさまです。 こっちに続きがあるということは、続スレとなるんですね。 期待十分です。 次回更新待ってます。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/02(土) 03:29
そっか〜愛ちゃんはフロントホックなのか・・・
21 名前:なまっち 投稿日:2005/07/03(日) 01:22

>>18 名無し飼育さん
 ありがとうございます^^
 作戦せいこぉ(にやり
 これからも頑張りますのでヨロシクお願いします^^

>>19 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 そ、です。題名はこっちに変えちゃいました(にがわら
 ホントは他にもしたい題名があったのですが…ネーミングセンスゼロなんで(にがわら
 最近のつんくにぃさんみたく、いいネーミングセンスつけたいもんですね…
 べりときゅーとはへぇ〜って関心しましたね…
 これからもヨロシクお願いします〜

>>20 名無飼育さん
 そうなんです。脱がせやすいフロントなのです(ばく
 でも、自分的には、前から抱きしめるようにして後ろに手を回し、
 んでもってホックを外している女のコ2人の図もスキですがだめですか?(ばく
 と、とにかくこれからもよろしくおねがいします〜

22 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:23




 2 〜




23 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:23


 暖かい春の日差し。
 とてもキモチのいい朝なのに、愛には全く関係なかった。

 少々足早に街を駆け抜ける。
 携帯の時計を見ると、入らないといけない時間を50分は過ぎていた。


「ゃばぃ…」


 一応アルバイト先には家を出た後に遅れますと連絡を入れて、それほど怒られる雰囲気ではなかったのだが。
 それでも、本人のマジメな性格から、少しでも早くという思いはあった。

24 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:24

 そして、少し汗ばみはじめた頃、ようやくアルバイト先に到着をした愛。
 表から回り、"あいてるょ"のプレートを確認すると、"がぁ"と妙な声を出し、裏に回っている時間はないと、
 表から直接入った。

 おそるおそる入る。
 誰か出迎えに来てしまうと、遅刻したことに気まずかったのだが、しかし、不思議と誰も出てこなかった。
 少しほっとなるも、考えてみれば、すごく不自然。


「そんなに忙しいんゃ…」


 愛は、余計に遅れたことに罪悪感を感じてしまった。

 そして、そういえばと、思い出す。
 今日の入る予定になっているメンバーは、自分を除いてあさ美と梨華。
 後、つい最近入ったばっかりのれいなとさゆみとえりが"見習い"として来る予定であった。
 あさ美は休むと連絡を入れていることから、ほとんど梨華が1人と言ってもいいのだろう。

 さすがに1人だと辛い。

25 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:24

 レジの隣、植木鉢に植えられた針葉樹の道を通り過ぎると、フロアーに入る。


「ぁれ…?」


 と、少し不思議そうな声をあげた愛。
 目の前で接客をしていた人物と鉢合わせになる。


「ゃ…」


 小さく悲鳴をあげたその人物は、マスターであるなつみ。
 そして、不思議そうに瞳を大きくしている愛に気付いたなつみが、大きく声をあげた。


「おっそいよぉ〜」
「ぁ…す、スミマセンです」


 そう、普段ならバーカウンターで料理などの準備をしているなつみが接客をしていたのだ。
 まわりを見回すと、れいなとさゆみとえりがそれぞれ、昨日から着始めたまだまだ着慣れない衣装で、
 ぎこちなくも、一生懸命接客をこなしていた。

 ただ、そんな中、梨華の姿だけが見えなかった。 

 すると、愛の疑問に気付いてか、なつみが"梨華ちゃんもさっき休みたいって…"と口を開いた。

26 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:25


「ぁ…そーなんですか?」
「そ…カオリに慌てて連絡を入れたのだけど…」


 そう呟くも、"早く準備して"と愛のおしりをぽんぽんと叩くと、カウンターの方に足早に向かった。

 梨華も休んだとなると、この時間まで新人で見習いであるれいなとさゆみとえりだけでしていたことになる。
 そうなれば、なつみが接客までしていたことに納得だ。

 それでも、次の瞬間には別の疑問も浮かんでいた。


 梨華である。

 愛がここでアルバイトを始めてからこれまで、当日に突然梨華が休むと連絡を入れたことはなかったのだ。
 少々体調が悪いと、必ず前の日には一言連絡を入れたりするし。
 また、なかなか体調管理の方はしっかりしていることから、
 風邪などで当日に突然休むといったこともこれまでなかったから、尚更不思議だった。


 しかも、あさ美まで。


27 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:25


 2人が一緒に休むなんて…


 そんな日が重なってしまうなんて…と少しため息を零した愛。
 とはいっても、本当にため息をつきたいのなつみであろう。

 れいなとさゆみとえりが研修を始めて今日で3日目。
 ようやく接客などのマナーを一通りは教え込んだものの、まだまだぎこちなく、
 何を言ったらいいのか分からなくなってしまう瞬間が多いのだ。

 そんな時は"笑顔で乗り切っちゃぇ"が教育係である梨華の教えだったが…

 えりは普段からそういう性格なのか、お客さんに失礼なことをしてしまったとしても、
 その人懐っこそうな笑顔で乗り切ってしまっている。

 逆に、意外とマジメな性格であるれいなは、何を言ってイイのか分からなくなると、黙り込んでしまい、
 カノジョのもともとのその顔立ちから、お客さんに怒っているように感じさせてしまっている時があった。

 そして、そんな自分に気付くと、次の瞬間には明らかに動揺してしまうのだ。
 ほっぺから瞳のラインにかけてが引きつるのが遠くからでも分かってしまうくらいに。

 その時は、真っ先に梨華が飛んでいって、フォローをするのだが、
 昨日の夕方から、なつみが梨華のその行動に対して注意をし始めたのだ。
 "助け過ぎだから、自分で解決させないと"って言葉に、梨華は不服そうな表情も浮かべるも、
 れいなの成長のためと割り切ったのだろう。

 それ以来は遠くから心配そうに見つめるだけでガマンをしている。 

28 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:26


 そんな2人とは違い、一番精神年齢が幼く、全員が心配していたさゆみが随分と性にあっているのか、
 意外と失敗もなく、そつなくこなしていたのだ。
 着こなしも3人の中では一番上手で、本人の性格や容姿にも一番似合っていた。


 ま、3人ともそうは言っても、まだまだ見習いであるからして、
 少々のミスもお客さんから簡単に許してはもらえるのだが。

 カワイイ女のコの特権と言ってもいいのだろう。
 ただ、いつまでも甘えてばかりはいられないのが現実。


 梨華がいない今日は、愛自身が教育係をしないといけないから、人を教育することが"初"となる愛にとって、
 そう思うだけでも、遅刻をしたことプラスでココロを重たくさせてしまいそうだった。


「はぁ…」


 着替えながら、自然とため息も零れた。

29 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:26


 普段のようなてきぱきした動きが少々影を潜めながらも、準備を終えると、表に出る愛。
 すると、もうすでに忙しさもひと段落してしまったのか、えりが1人定位置に緊張した面持ちで立っていた。
 れいなとさゆみは、なつみのそばで料理などの準備の手伝いをしていた。
 
 愛はえりのすぐ隣に立つ。


「ごめん」


 両手を顔の前で合わせ、とりあえず遅刻したことへの謝罪をいれる。
 にっこり"ぃぇ"と笑顔で返すえり。

 その笑顔にほっと胸を撫で下ろすと、スタンディングチェアーに腰を掛けた。


「3人で大丈夫ゃった?」
 

 愛の言葉に、えりは"なんとか…"と苦笑いを浮かべるも、次の瞬間には"でも"と顔を曇らせた。
 明らかに、何かあったかのような反応。
 "怒らないょ"と笑顔を見せる。
 
30 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:27


「ん…?
 どーしたの?」
「まぁ…」


 そう口を噤むと、バーカウンターの中でなつみの手伝いをしていた2人の方を心配そうな表情で見つめた。

 おそらくその原因である人物なのだろう。
 愛も同様、顔を向ける。
 
 すると、愛の目に入ってきたれいなの姿、表情には、あきらかに昨日までの力強さがなかった。
 それは、まだ出会って数日の愛にでさえ分かるくらい。
 
 さっきのえりの顔に浮かんだ曇りの原因の人物であろう。


「れーな?」


 愛の指した人物に、えりが小さく頷く。
 言っていいのかと悩んだのだろうが、しばらくすると申し訳なさそうに口を開いた。

31 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:27


「お皿を2枚も割っちゃって…」
「ぇ…」

「お飲み物も零しちゃうし…」


 そのえりの言葉に、"昨日、一昨日とそんな失敗は一度もなかったのに"と、驚きを隠せない愛。

 一番緊張する初日でさえ、れいなにそういう失敗はなかったのだ。
 えりは初日に1枚割ってしまい、"その"洗礼は受けたのだが。

 それとも、緊張しての失敗ではなく、手馴れてしまったための失敗なのか…

 とはいっても、れいなの様子だと、慣れるのに1、2週間は掛かりそうな気がしていたから、
 その理由では、少し物足りないかもしれない。


「なにかあったん?」


 えりは、首を横に振る。
 えりでも分からないものは、まだまだ日の浅い愛にとってはまず分からないと言ってイイだろう。

32 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:28


「ん…」


 思案顔の愛とは対称的に、愛の様子に笑顔を浮かべるえり。
 先輩のおかしな表情を楽しんでいるかのようだ。


「分かるわけないっか」
 

 しばらく考え込むも、やっぱりと、笑顔を浮かべたとき、フト昨日までと違う"ココ"に気付く。
 しかし、気付いてすぐ苦笑いを浮かべながら自分の中で否定。


「まさかぁ」
「ん…
 なんですか?」


 えりの言葉に、"ぃしかーさんがいないからなんてないょねぇ"と呟く。


「へ…?」


 間抜けな声をあげたえりは、目をまるくして愛を見つめる。
 しかし、次の瞬間には、"一応それも理由だと思いますょ"と声を出して笑った。

33 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:28


「へ…」


 今度は愛が間抜けな声をあげる番だった。
 単純に思いついた理由が、まさか原因の内のひとつだなんて。

 しかも、ものすごく単純な理由。

「でも、イシカワさんが休むって聞く前から結構凹んでましたから…」
「ぁぁ…」

「聞いたら、余計に凹んじゃったんですょぉ」

 そう言うと、少々大げさに肩を竦める仕草で"困ったコだぁ"と。

 梨華の欠席が確かに原因の内のひとつであることは、確実であった。


 なるほど…


 えりの仕草に笑顔を浮かべつつも、思わず小さく呟いていた愛。
 納得の表情を浮かべる。

 しかし、これでまたれいなが尚更可愛らしく思えてしまったことは確実だった。


34 名前:2 〜 投稿日:2005/07/03(日) 01:28


 〜 ☆


35 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/03(日) 23:21
更新お疲れさまです。 田中チャンの異変は石川サン? でもまだ他にも理由が? あの二人はもしかして・・・(モニャモニャ 次回更新待ってます。
36 名前:なまっち 投稿日:2005/07/06(水) 01:24

>>35 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 おっと、なんだか想像された通りのような気が…
 とかいいつつ、この更新で答えが大体…(これ以上は…
 それでは↓どうぞ^^
 と、これからもヨロシクお願いします。
37 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:24




 3 〜




38 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:25


「はぁ?」


 思わず間抜けを声をあげてしまった愛。
 しかもアルバイトの最中に。

 近くにいたお客さんの視線が、もの珍しげに愛を捕らえる。
 そして、その隣にいるれいなにも。

 しかし、当事者である2人は、その視線を気にする素振りを全く見せずに、再びお互いの空間に入っていった。
 
 こんなことは珍しい。
 今はアルバイトの最中であるのに、真面目な愛が仕事も忘れ、れいなの言葉に耳を傾けていることは。

 バーカウンターの中にいるなつみが、心配そうな表情でれいなと愛の方をちらちらと見ていた。
 また、すぐ近くでスタンバイをしているさゆみとえりも。

 そんな3人の視線にも気付かない愛は、再びれいなに"ぅそぉ?"と聞き返した。

39 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:25

 昼時前、もうすぐしたら忙しくなるであろう時間になった頃、
 なつみの仕事から開放されたれいなが、愛の隣にきたのだ。

 今日初めて話すれいなに、笑顔で挨拶をするも、れいなのその表情は全く冴えずに、
 愛の笑顔にも軽く会釈をするだけだった。

 やはり、朝、えりと話していたとおり、れいなの様子は随分とおかしく感じられた。
 
 そして、少し心配した愛が"どぉしたの?"と聞こうとしたとき、れいなが寂しそうに先に口を開いたのだ。


『"ごっちん"の話、聞きました?』


 お互いに"後藤真希"のファン同士であることを、れいなが初めてココに来た日にあさ美の出した話題から知り、
 それ以来、あさ美を含めた3人の中で、よく盛り上がっているアイドルの話である。

 しかし、今のれいなの口調は、昨日までの楽しそうに話をするものとは明らかに違った。
 どこかで"後藤真希"に関して"何か"を聞いたのだろう。

 全く思いつかない愛が、"なに?"と聞きかえすと、れいなは"ちょっと凹んじゃって"と、
 カノジョらしからぬ口調で、小さく呟くと、大きくため息をついた。

40 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:26


 "後藤真希"の話。


 れいなによると、一昨日の夜からネットの"掲示板"で"みっつのウワサ話"が広がっていたそうだ。

 実際にれいなが知ったのは、昨日の夜、"ジャニーズ系"が好きで掲示板をよく見ている学校の友達から聞き、
 どうしても気になり足を踏み入れてしまった"2ちゃんねる"の掲示板の中であった。

 愛自身、普段からネットはするものの、世間一般でいう"掲示板"系の場所には行かないようにしていた。

 いいトコロだと、別に気にすることはないのだが。

 ある時、れいなが見たという"2ちゃんねる"というトコロに到着してしまい、
 その時に、あまりにも衝撃を受け、それ以来、ネット上で掲示板の形式をとっているサイトには、
 自分から足を踏み入れないようにしていた。

 そう、初めて"2ちゃんねる"を見たときの感想。


 "もし、一日そこで掲示板を見続けたら、確実に"後藤真希"のことをキライになれそう"
 "もし、一日そこで掲示板を見続けたら、タカラヅカの印象を最悪にしてしまいそう"


 やっぱりその二つは大スキだったし、愛の性格的にかなり真面目な部分があるのだろう、
 全ての話を真に受けてしまうのだ。

41 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:26


 愛の友達は、全く気にせず全てを"ネタ"と見て、面白いと言っているのだが…
 愛はダメだった。

 "その中"で、れいなが見たというのなら、あまり信用できないと思えた愛だった。
 れいなの口から"その場所"の名前が出た瞬間は、吹き出してしまったくらいに。
 

 そう、実際にれいなも、最初は全く信用していなかったらしい。

 しかし、それぞれの独立したスキャンダル的な話が、全てが1つに繋がっていて、
 そして、昨日から実際に起こっている出来事から、それが今では随分と信憑性が増してしまい、
 その"後藤真希のウワサ話"がほとんどの一般的なサイトでも話されてしまっているそうだ。

 今では、れいなもほぼ信用してしまっているくらいに。
 落ち込んでしまっているくらいに。

42 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:27


 まず一番最初にあがったウワサ話は、"恋人とのデート現場をスクープされた"とのことだった。
 実際に、今週の金曜日に発売される週刊誌に載ることが、昨日の夜、公に分かったらしい。


 二つ目は、"後藤真希はノイローゼぎみで、精神病院に通院している"と、昔からあったウワサ。
 そのウワサが、今回の熱愛発覚のスキャンダルからさらに発展したのだ。
 事務所に"別れるように"と言い渡されて、激しく拒否をし、ノイローゼを悪化させ、
 精神病院への通院回数が激増したらしいとのウワサに。


 最後は、"今週末の広島で行われるコンサート公演が中止になるかもしれない"というウワサだった。
 
 そして、それは、実際に今日の朝、事務所から正式に発表されたのだ。
 事務所の発表によると、インフルエンザの為とのことになっているのだが、
 掲示板では、違った。


 これらのみっつのウワサ、今ネット上で広がっている"ソレ"が1つに繋がってしまったのだ。


 つまり、今回の熱愛発覚のスクープで、昔から精神状態が不安定だった後藤真希が、
 事務所からの"別れろ"の通達に、極度のノイローゼを招き、そこから歌えない状態になってしまい、
 今週末の公演が中止となってしまった。

 そして、別れることにも拒否をし、結婚を考え、このまま"引退"の可能性もある、と。

43 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:27


「はぁ…?」


 しっかりと理解をすると、再び大きな声あげる愛。

 はっきり言って、"ノイローゼ"とは、到底信じられる話ではなかったのだが、
 確かに週末に記事が載ってしまい、公演が中止になってしまうと、
 しょせん"ウワサ"だったにすぎなかったものが、真実だったということにもなってしまい、
 他の"ウワサ"も、随分と真実味を帯びてしまう。

 現に、実際に昨晩見てきて、そして朝に事務所からの発表を聞いてしまったれいなは、
 その真実味に、これだけショックを受けているのだし。

 今だに信じられない愛だって、少なからずショックを受けている。

 熱愛のスクープはまだしも、"引退"の文字はかなり辛く愛の胸を襲っているのだ。
 おそらくれいなもそうなのだろう。

44 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:27


「ぅそゃぁ」


 そう呟くも、愛に残っている力は、れいな同様ずいぶんと感じられなくなっていた。
 まだ"ウワサ"とはいえ…


 ウワサ…?


 もう何がウワサだったのか分からなくなるくらいに、愛の頭の中が混乱してきていた。
 整理をしようとしても、自分ひとりでは無理な状態。

 信じられない愛の頭の中、どうにかして情報における"穴"を探そうを懸命になる。
 

「ってかぁ、まず、熱愛?
 相手って…だれ?」


 もう一度れいなに話を振る。
 熱愛の相手の話が全く出てこないのも、不思議だった。
 案の定、れいなの口からは、"はっきりとは…"と、なんとも曖昧な言葉が聞かれた。


「ただ…
 ハーフっぽい感じのイケメンって…」


 その後に、""ジャニーズ系"のサイトの中でも相手を探しとーって…友達が…"というれいなに、
 愛はきっぱりと"じゃ、ホントか分からんよ"とにっこりと笑顔を浮かべた。
 少しほほが引きつっているが、今の段階では、精一杯の笑顔。

45 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:28

 その愛の笑顔に、れいなは微かに微笑みを浮かべ"、ぅん…"と頷く。


「通院だってわからんよぉ
 ストレスだっていぃっぱい溜まっとぉんゃしぃ
 ネットであれだけ"ゃ"なこと書かれとぉし」

「ぅん…」
「ぅちやったら、まず凹む。
 それに、コンサートの中止やって、今はインフルエンザの季節ゃーょ」


 愛の中では、それら全ての要因が重なって、偶然、
 "ウワサ"に真実味を持たせてしまったとしか思えなくなっていた。

 いや、そう思おうとしていた。

 こもまま信じると、"引退"の文字だって…


「たぶん、"ただのウワサ"ゃからね…
 ぃしかーさんに聞いてみょぉゃ」
「何か聞いてるかもしれないですょね」


 そういうと、れいなは少し安心したのか、今日一番の笑顔を浮かべた。
 とは言っても、普段梨華に見せている笑顔からは、ほど遠いのだが。

46 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:28

 と、少し安心した愛が、ふと気付いたことが1つ。
 そう、今朝のあさ美からの電話だ。

「そっか…」

 思わず呟いてしまった愛。
 愛の何かに気付いたかの様子に、れいなが"どーしたんですか?"と聞く。

「今朝、こんちゃんから電話があって…」
「ぁ…なんか言ってました?」

 別の情報があるかもしれないと思ったのだろう。
 れいながカラダを乗り出す。
 しかし、愛は軽く首を横に振った。


「んーん…
 明らかにショック受けてたんゃけど…
 ぅち知らんかったし、遅刻しそうゃったから、何も聞かずに…」


 そこまで言うと、激しい罪悪感が愛を襲ってきた。

47 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:29

 あさ美は、愛やれいななんかとは比べ物にならないくらいに"後藤真希"のことがスキだったのだ。
 そう、それは、普通に男のコが擬似恋愛対象として"後藤真希"を見ているかのように。

 れいなや愛のように、"後藤真希"のカッコよさに憧れ、カノジョの歌が大スキで、
 自分もカノジョのようになってみたい、といった普通の女のコの想いではなく、
 あさ美の想いは男のコのような想いなのだ。

 いつか、"後藤真希"が"男に興味がある"ような発言を聞くだけでもショックを受けてしまうと、
 あさ美が言っていたこともあった。
 
 そのあさ美だから、今回のウワサにどれだけショックを受けているのだろうか。

 "熱愛発覚"だけでもショックだと思うのに、さらに"引退"のウワサまでとなると。
 おそらくショックを受けすぎ、どうしても話を聞いて欲しくて、愛に電話を掛けてきたのだろう。

 それなのに、勝手に"病気"って解釈して、"遅刻だから"ってさっさと切ってしまって。


 とにかく時間が空いたら電話を…


 今の愛は、そう思うしかなかった。



48 名前:3 〜 投稿日:2005/07/06(水) 01:29


 〜 ☆


49 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/06(水) 12:24
更新お疲れさまです。 さ、作者様、かなりアウトロードギリギリのところを突っ走ってますね(・・;) でもどこまでもお供しますよ。 次回更新待ってます。
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/06(水) 12:40
続きカナリ気になります!!!!
次回の更新も待ってますカラ頑張ってください!!!
51 名前:なまっち 投稿日:2005/07/09(土) 02:12

>>49 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 アウトロード、突っ走ってます?(にがわら
 一番最初のはなしも突っ走ってましたが(にがわら
 こんな作者ですが、ヨロシクお願いします〜

>>50 名無飼育さん
 れすありがとうございます^^
 ココロをぐっと掴めて嬉しいです(よしっ
 そのまま離さないように頑張りますんで、ヨロシクお願いします〜

眠いですけど…とにかくハロコン開始お祝いで(?)↓更新です
52 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:13




 4 〜





53 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:13

 昼時の忙しい時間も過ぎた頃、奥で休んでいたれいなが再び表に出てきた。

 出てすぐのスタンディングチェアーに腰を掛けていたさゆみとえりに笑顔で合図だけし、
 入り口で待機していた愛のそばにやってくる。

 しかし、シンユウには笑顔を見せたとはいえ、やはりその表情は引きつったものだった。
 そう、さっきまでと余り変わらない顔色に、収穫はなかったのだろう。

 あまり期待をこめず"どぉ"と聞く愛。


「ぃぇ」


 愛の予想通り、れいなは首を横に振るだけだった。

「紺野さんとイシカヮさんは連絡が取れなくて…」
「そっか…」

「ネットだと、何もまだ…」

 それだけ言うと、苦笑いを浮かべた。

54 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:14

 愛より先に休憩を取れたれいなが、その時間を利用して、あさ美や梨華に連絡を取ろうとしたのだ。

 あさ美は、電話をすることで元気付けようとして。
 そして、梨華は、何か情報を持っていないかと。


 また、今回のウワサの話を、れいなが一番最初に聞いたネットが大スキなれいなの友達にも電話をして、
 あれからまた新しく情報が出ていないかとも聞いてきたのだ。

 相手の男性の人の名前の続報。
 週末の公演中止についての続報。
 そして、一番2人にとって気になる"引退"の有無の続報。


 しかし、どれも空振りだっただろう。


55 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:14

 最後はともかく、最初の2つの、あさ美と梨華に連絡が取れないということは、少し心配にもなった愛。
 とくに梨華へ連絡が取れないのは…

 れいなもそれが一番不安に思ったのだろう。
 梨華の名前を出しているれいなの顔色が、さらに悪くなっていたから。

 そう、最初から梨華への連絡は、れいなにとっては休んだことへの心配が理由だったのだろう。
 "初めて"とれいなの隣で、愛となつみが話していたのを聞き、
 朝の間、ずっと電話をしたい様子が垣間見れていたから。

 梨華の話が出るたびに心配そうな表情を浮かべるれいなを見て、
 素直に梨華のことを羨ましく感じてしまったくらいであった。
 これだけ慕われているなんて、と。

 愛だって、高校だと結構後輩から慕われていた方だと思う。
 しかし、実際に近付いてくる女のコはほとんどいないのだ。
 それは、単に近付きにくい雰囲気を、愛がかもし出しているだけなのか、
 はたまた、そこまで慕っていないだけなのか。
 "憧れてます"やら、"大スキです"という手紙はたくさん貰うのだが。

 実際、卒業式の日に話しかけてきた同級生以外の女のコは、みんな卒業していった先輩。
 わざわざ愛の卒業式に来たってヒトまでいたくらいだった。
 それはそれで嬉しいのだが…

 たまには、後輩にも好かれたい。

56 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:15


 後者が理由のためではなく、ネットにおいて何も情報が出てこなかったことに、1つため息をつく愛。
 情報として最後の2つの続報は、今はムリとしても、相手の男性の名前くらい分かってもいいのにとも思えた。

 単純に考えると、今日の夜には店頭に並ぶのだから、そろそろ詳しい内容が広まってもおかしくないのだ。
 せめて名前くらいは。
 しかも、トップアイドルといってもいい"後藤真希"の熱愛のスクープとなれば。


 それなのに…


「ぅ〜ん…」

 再び大きくため息をつく愛。
 "もうアルバイトどころではない"といったほど落ち込んでいるのではないのだが、
 それでも、カラダの"やる気"は随分と下降してしまっていた。

 まさにあさ美もそうだったのだろう。
 そう思えば思うほど、今朝のあさ美には悪いことをしてしまったというキモチになってしまう。

57 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:15


 2人はそれっきり逃げるかのようにその話題からは離れた。
 そして、ちょうど昼時となり、忙しくなってくれたこともあり、少し"それ"を忘れることができた。

 こういうときは、このカフェの忙しさが少しありがたかったりもする。
 暇なトコだと、ぼぉっとしてしまう時間がなんかができ、やはり自然と考えてしまうから。

 その点ココは、何も考えずに仕事に熱中できるもの。



 そう、あさ美が顔を見せるまでは…だった。



58 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:16


 昼時の忙しい時間が過ぎた頃、その時間を見計らったかのようにあさ美が顔を見せた。
 少し驚いた表情を見せた愛たちだったが、そんなことを気にせず、
 あさ美は普段と変わらぬように愛たちに挨拶をしてきた。


「おはよぉ」


 そう声を掛け、笑顔をみせたあさ美。
 
 しかし、その目は充血し、クマが微かにみられた。
 たぶん、余り眠れていなかったのだろう。

 そう、"普段と変わらぬように"とはいっても、やはりいつものあさ美を知っている人間にとっては、
 その雰囲気は完全に違っていることが分かった。

 一番付き合いの深い愛には、あさ美が気丈に振舞おうとしているのが手に取るように分かった。

 目の前で笑顔で話をしているあさ美。
 元気に振舞おうとしているあさ美。

 痛々しささえ感じられてしまった。

 思わずため息をつく。

59 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:16


「コンノ、大丈夫なの?」

 なつみの言葉に、あさ美は"はいっ"と頷くと、続いて"ごめんなさぃ"と頭を下げた。
 マジメな性格らしいあさ美の行動に、なつみは笑う。

「今日は梨華ちゃんまで休んで、タカハシも遅刻で大変だったんだよぉ」
「えぇ?じゃ新人さんの3人だけで?」

「そっ」

 なつみはそう言うと、新人の3人の方に視線をやり、肩をすくめた。
 そして、さゆみとえりが苦笑いを浮かべ、お皿を割ってしまったれいなは、バツの悪そうな表情をした。

 さらに、その後ろで"眠かったんだもん"と、カノジョらしからぬ仕草で顔しかめているシンユウを見やった。

「かおりも結局ついさっききたばっかりだしぃ」

「突然すぎるよ
 たまの休みは、ゆっくり寝たいょ」

 圭織はさっきのなつみの肩をすくめる仕草をそっくりそのままマネをし、軽く抗議。
 すると、圭織の仕草に"若いぴちぴちのコが来てくれたから、帰っていいよ"というなつみ。

「な…
 そんなことゆーんだ。
 ぜってぇ帰らねぇ」

60 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:17


 そんな先輩たちの笑い合う様子に、あさ美も軽く笑顔を浮かべるも、ちょうど悪いときに休んでしまい、
 罪悪感が再び生まれたのだろう、"ごめんなさぃ"と頭を下げる。

 そして、なつみと圭織の"ぃぃょ"という笑顔に、"じゃ、さっさと準備してきますね"と奥へと入っていった。

 みんな、そのあさ美の後姿を心配そうな表情で見つめる。
 とくにれいなと愛。

 愛はもう少し声を掛けたかったこともあったのだろう。
 "行ってくるね"と目だけでれいなに合図をすると、あさ美の後について行った。

 途中であさ美が愛に気付き、振り返ると"ん、どーしたの?"と笑顔を浮かべながらも、そのまま中へと入る。

 そして、休憩室の中に入ると、大きくため息をつき、愛の方へと振り返った。
 とても心配そうな表情を浮かべた愛を見て、もう一度ため息をつく。
 
 これ以上心配を掛けるのは、さすがにイヤだったのだろう。
 少し強めの口調で愛に言葉を発する。


「もう大丈夫だょ」


 そうは言うものの、明らかに作っているその笑顔は、やはり痛々しく愛にはうつっていた。

61 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:17

 
 そんなあさ美を見ているうちに、自然と愛はあさ美の柔らかいほっぺに自分の手をそえると、
 優しくなぞっていた。
 そっと。

 少しびっくりした顔のあさ美だったが、愛の余りにも優しい仕草に少し表情が緩んでしまった。
 
 あさ美の自分を受け入れる様子を見止めると、愛は、そっと呟いた。
 "辛かったら…ガマンしなくてぃぃょ"と。

 不思議と優しい言葉というのは、簡単にヒトの殻を破ってしまうものなのだろう。
 そのように声を掛けられなかったら、ガマンができるはずなのに…

 そう、愛のその言葉を聞いた瞬間、あさ美の大粒の瞳に、じわっと涙が浮かび上がった。
 これまで必死にガマンしてきた防波堤が、1つの亀裂で簡単に決壊してしまうかのごとく。

 崩れてしまえば、もうあとの行動は衝動的だった。

 愛の胸に飛ぶ込むと、ほっぺを濡らし、声を押し殺し泣いた。

 あさ美の背中をさすってあげる愛。
 ゆっくりと。

 他人から見れば、きっと滑稽な理由で涙を流しているように思えるだろうが、
 カノジョがどれだけ"後藤真希"のことがスキなのかを表現している手段の内の一つであろう。

 "カノジョ"の言動に一喜一憂させるということは。

62 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:18


 愛は、あさ美が満足するまで、しばらくの間、抱きしめてあげることにした。

「まだ決まったわけじゃないょ」

 気休めの言葉だけど、愛にはその言葉くらいしか掛けられない。


「ぅん…
 そ、だね…」


 小さく頷いたあさ美。

 そして、涙を流し、愛に抱きしめてもらい、やっと安心したのだろう。
 愛からカラダを離すと、"見ちゃだめって言われてたトコ、見ちゃった…"と苦笑いを浮かべた。
 今にも舌を出して肩をすくめてしまいそうな、コドモっぽい仕草に、自然と笑顔の零れた愛は、
 "ばぁか"と、あさ美の額と小突いた。

「じゃ、元気つけるためにさ…
 今晩は一緒にどっか食べに行こ」

 落ち込んだときは、どこか食べ行くに限るとばかりの愛の言葉に、あさ美は快く頷く。
 食べ物に目がないあさ美は、強引に自分の興味を食べ物へと持って行き、そして、"辛さ"を押し殺した。
 とりあえず、今は忘れるため。

63 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:18


「んで、カラオケだね」
「そ、んで、お泊まりだね」

 2人は微笑みあった。

「タカラヅカのビデオ見よぉ」

 愛のその言葉に、普段なら冗談も込めて抗議の声をあげるあさ美だったが、今日ばっかりは素直に頷き、
 そして、"おぉ〜"とこぶしを上げた。

「一晩中見てやるぞぉ」

「ぁ…次の日、遅刻しない程度に…」

 気合をいれたあさ美の前で、小さくなり、そう言葉を発した愛は、
 今日の"遅刻の辛さ"が身に染みているのだろう。
 "もう遅刻はたくさん"といった様子が、簡単に伺えた。

 顔をしかめる愛のおかしな表情に、あさ美は自然と声を出して笑っていた。


64 名前:4 〜 投稿日:2005/07/09(土) 02:19


 〜 ☆


65 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/10(日) 00:32
更新お疲れさまです。 紺チャン・・・( ̄^ ̄゜) とりあえず一人は一段落ですね、でもあの人は? 次回更新待ってます。
66 名前:なまっち 投稿日:2005/07/11(月) 00:59

>>65 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 ひと段落でしょうか…(意味深…ぃぇ意味なし
 あのヒトは…↓にどうぞ^^
 結構ハイテンションなんで(?)
 これからは昔の更新速度に戻していきたいと思いますので、
 これからもヨロシクお願いします〜
67 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:00




 5 〜




68 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:00


 太陽も沈み、19時前になると、自然とお腹も空いてくるもの。

 あさ美と愛も、2人一緒になると自然に"終わってからドコに食べに行こうか"といった相談となり、
 そのことが余計に空腹感を生んでいた。

 そして、2人してお腹を鳴らす。
 17時を過ぎたあたりからずっとその繰り返しのような気もする。

 特に普段から慣れないこの時間になると辛い愛。

 ここ数ヶ月、たいてい愛は朝10時から、夕方の17時までの時間帯に入っている。
 そこからお店の閉まる21時までは、また別のヒトが入ることになっていた。

 ちなみに、最近は、愛と梨華がほとんど朝からの時間で入り、
 あさ美と桃子が残りの時間を回して入っているのだ。
 圭織はほぼ毎日。

 考えてみれば、当然人数的に少ないということは分かるだろう。
 それなのに、これまでアルバイトをしたいと言ってきた女のコを拒んできたということは、
 あまりなつみ好みの女のコではなかったというのが、単純な理由なのであろう。

69 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:01


 そんな忙しいココで働いていた愛たちにとっては、れいな、さゆみ、えりの3人が入ってきたことは、
 素直にありがたかったのかもしれない。

 とはいっても、やはり一番歓迎しているのが、なつみだ。

 あと2週間たてば、愛と梨華の大学が始まり、あさ美も受験生になる。
 すると、当然制限が増えてくるだろう。
 そのときに、16時くらいから門限ぎりぎりまで入ってくれることを期待して、3人を許したのだ。
 そう、この時間が意外とヤマなのだ。

 朝からはいっているコは、さすが18時までで終わらせてあげないと、
 疲れなどのことを考慮すると、やはり毎日は辛い。
 しかし、この後の時間だと、毎日入っても、それほど疲れは残らないし。 

 前者である愛は、これからの時間は、最近はほとんど経験していなかったから、
 もうすでに集中力は切れ切れになってしまっているくらいだった。

 普通なら、もう帰ってもいいのに…

70 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:01


 そう。
 今日ばっかりは、ココで言う"夜"の時間帯にも入らないといけなくなってしまったのだ。

 もともと圭織は終日休みの予定であったから、あさ美が出てきた後に"ラッキー"とばかりに帰ってしまったし、
 桃子も昨日から風邪を引いてしまい今日ばっかりはムリであり、当然今日休んでいる梨華もムリなぶん、
 自然とあさ美と愛が出なければいけなくなってしまっていた。

 さらに、れいなやさゆみやえりといった新人であり、中高校生でもある3人にも少し負担を掛けたくらいだ。

 17時までとのことだったが、こんな日に限ってヒトの波が途絶えることがなく、
 いつの間にか、なつみが強引にとどめて、せめて19時までと両手を合わせてお願いしてしまっていた。

 ただ、門限が基本的に19時となっているさゆみとえりはそろそろ帰らないといけなくなってしまい、
 れいなも、残れてもあと30分から40分くらいとなっていた。

 そして、さゆみとえりが帰る準備の為、休憩室に向かた後だった。
 扉がひらき、慌しく駆けて行ったれいなが、仕事中とは思えないくらいに嬉しそうな声をあげたのは。

71 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:01


「イシカワさんっ!」

 れいなの声に、お店の中にいた人間が"何ごとか"といわんばかりに、全員一斉に入り口の方に視線を向けた。
 ビックリした愛も、思わず仕事も忘れ、れいなの方を見る。

 するとそこには、普段より随分と地味なカッコをした梨華が笑顔を浮かべ立っていた。
 地味なカッコとは、カノジョの顔立ちとは合わないブラウン系の服装。
 そして、その後ろには、"ミキのことはどうでもぃぃのね"とばかりに、不機嫌そうな美貴。

 美貴には、"ごめんなさぃ"と言ったものの、れいなは待ちきれないとばかりに、すぐに梨華へと視線を移していた。

 しかし、当の梨華本人は、中のお客さんの視線が集中していることに気が付くと、
 次の瞬間には、顔を真っ赤にして小さくなり、"すみません"とばかりに頭を下げた。

 そして、れいなの手をひっぱるとフロアーを足早に駆け抜ける。
 そのまま裏へと、逃げるかのごとく入っていく。
 れいな本人は、ほっぺを真っ赤に染め、嬉しそうに自分の手とつながれている梨華の手、
 横顔を交互に見つめながらついて行っていたのだが。

 後ろから聞えてきたなつみの梨華自身を呼ぶ声は、あまり本人は気にならなかったのだろう。
 "すみませんっ"という言葉と、"後でっ"という言葉だけが愛の耳に残っていた。

72 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:02


 隣で、呆然としているあさ美と視線があうと、思わず吹き出してしまった愛。
 あさ美も"さすがイシカワさん"とばかりに声に出して笑った。

 そして、美貴が後ろから、"置いてけぼりかょ"と悲しそうに歩いてきた。
 そんな美貴に、2人で笑いあう。


「おひさ。みきてぃ」


 先にほほを緩めてあさ美が挨拶をすると、愛は一変、"ぉっす"と可愛らしく声を掛ける。


「みきちゃん、珍しーね」
「まーね」


 愛の言葉にそう返すと、"梨華ちゃんから相談ごとがあってね…"と、少し寂しそうに口を開いた。


「ぇ…?」


 美貴のその口調に、驚きが隠せない愛とあさ美。

 そう、普段からそれほど悲しいといった負の表情を見せない美貴にしては、珍しい感情表現だった。
 強気な美貴は、笑顔や怒り、自己主張といった表情はよく見せるものの、
 自分の弱い部分を見せるといったことはこれまで愛たちに見せたことがなかった。

73 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:02


 これ以上はあまり何も聞けそうな雰囲気ではなかったため、愛は話題を変えようと、
 "そうぃぇばぁ"と口を開いた。
 
「なに?」

「れぃなのシンユウの女のコが2人、新しく入ってきたょ。
 かんなりカヮィィコゃょ」
「ま、マジでっ」

 その愛の言葉に、美貴の表情が一気に変わる。
 もうおなじみになっている美貴の"カワイイ女のコ、大スキ"発言。
 
 そんな美貴に、苦笑いを浮かべたあさ美は、"まだまだ純粋だから、ャラシイことしちゃだめだょ"と、
 これから先、明らかに想像できるカノジョの行動をたしなめるように、言葉を発した。


「ぅ…」


 すると、表情を引きつらせた美貴。
 まさに考えていたことなのだろう。
 ぐうの音も出ない美貴に、再び愛とあさ美に笑い声が零れた。
 

「もぉ、お客さまなんだから、丁寧に扱ってょ」


 ある意味"逆切れ"でもあるこの言葉だったが、いつもの美貴らしい言葉に、少し安心した愛とあさ美。
 さっき一瞬だけ浮かべた寂しそうな表情を心配していた2人は、ほっと胸を撫で下ろした。

74 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:03


「じゃ、コーヒー"付け"でお願いね」
 
 美貴のその言葉を適当に"はぃはぃ"とあしらうと、不機嫌そうに"ぇろいことしてやる"と脅す美貴を放って、
 再び持ち場に戻った。

 とは言っても、やはり美貴は大スキな常連さんといってもいいくらいだから、愛はなつみに注文を届ける。
 そんな愛に美貴はにっこりと笑顔を振舞うと、自然と愛のほほには赤みが帯びていた。


「ゃばぃゃばぃ」


 手で顔を仰ぐ愛。
 さすがに美貴にああいう笑顔を見せられると、どきっと胸を高鳴らしてしまう。
 これは、"どんな女のコでも"と言ってもいいくらいだが。


「ん…どーしたの?」


 隣に近づいてきたあさ美の言葉に、"なんでもないっ"と大きく声を上げる。
 しかし、あさ美は、その大きな優しげな瞳で、じっと愛の大きな瞳を見つめてきた。
 まるで何かを探るかのようなあさ美の瞳。

 これ以上見られると、今のトキメキを悟られてしまいそうな錯覚を覚えた愛は、
 話をさっき奥へと入っていったれいなと梨華へと移した。

75 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:03


「ぃ、ぃしかーさん、なんゃろうね…」

「ん…そだね…何話してるんだろ…」


 ぎこちない愛の言葉だったが、愛の思惑通り話を逸らすことができると、
 もうあさ美の興味は、中のれいなと梨華へとうつっていた。

 そして、しばらくたつと、あさ美はすぐにお客さんに呼ばれ、愛から離れていった。
 ほっとなる愛。

 ただ、今度は、自分であさ美に振りながら、中でれいなと梨華が何を話しているかが気になってしまっていた。

 しかし、中で何を話していたのかは、数分後には中から出てきたれいなによって、自然と知ることとなった。

 とはいっても、れいなが出てきた瞬間には、嬉しそうな顔をしているカノジョの様子から、
 悪い話ではなかったのだろうということが、簡単に想像できてしまった。
 そう、随分と機嫌がよさそうなれいなによって。

76 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:04


"どーしたん、れーなぁ?"

 そう聞こうとした愛の言葉をさえぎるかのように、笑顔を咲かせ口を開いたれいな。


「"このあと一緒に食べに行かない?"って、イシカヮさんが」


 なるほど。
 れいなの機嫌の良さはこのためなのか、自然と納得してしまった愛だった。


「このあと?」
「そ、です。」


 すると、2人で話していたことが気になったのだろう。
 あさ美も2人のそばまでやってきた。


「どーしたの?」


 あさ美の質問に、愛が代わりに答えると、"へぇ〜"と不思議そうな表情を浮かべた。


「珍しいね」


 そのあさ美の言葉に、納得の表情を浮かべる愛と、きょとんとした表情のれいな。

77 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:04


 まだ日の浅いれいなは分からなくて当然だったが、
 これまで梨華は一度も"一緒に食べに行こう"と誘ってきたことがなかったのだ。

 こっちから誘っても、断ってくることが多く、一年に数度くらいしか一緒に食べに行ったことがなかった。


 その梨華から誘ってくるなんて…


 あさ美もそう思ったのだろう。
 愛と顔を見合わせると、"ほんとぉ?"と聞き返したくらいだから。


「ホントですってばぁ」


 笑いながら言うれいな。
 確かにれいながウソをついても意味はないものだ。
 
 愛はあさ美と再び顔を見合わせた。
 そう、今日は終わってから食べに行く約束をしていたのだ。


 どうしようか…

78 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:05


 と、普通なら悩むところだが、梨華からの誘いなんてこれまで一度もなかったことから、
 2人は自然と笑顔で頷いていた。


「ぇぇょ」


 2人の一緒に行くとの返事に、れいなはこれまた笑顔を咲かせる。


「ぁ…れぃな、門限はだいじょうぶなん?」
「だぁいじょうぶっ」


 と、親指をぐっと立てると"イシカヮさんがお母さんに電話してくれたとぉ"と、
 今度は嬉しそうになつみのそばへと駆けて行った。
 スカートのひらひらがいつも以上に可愛らしく跳ねる。
 まるで、今のれいなのココロの中を見せているかのように。
 
 そんなれいなの様子を見て、あさ美は今日一番のシアワセそうな笑顔で呟いた。


「ホント、嬉しそうだね…」


 愛も、素直に頷く。
 れいなの嬉しそうな姿を見ていると、こっちまで笑顔になってしまいそうだった。
 
 だから、続いて聞えてきたあさ美の疑問には、"ぃぃんじゃなぃ…"と答えていた。


「でも、どうしてなんだろ…」



79 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:05


 〜 ☆


80 名前:5 〜 投稿日:2005/07/11(月) 01:05


 〜 ☆


81 名前:なまっち 投稿日:2005/07/11(月) 01:11




ちょっとキモチを切り替えて…




めっちゃハイテンションなんで更新っ!
久々にみんな見れてさいこうっ!
久々に卒メンのラブマ見れてさいこうっ!(思わず涙でうるうる…あのラブマだけでもよかった(ほんわか

石川さんとれいなの髪飾りが同じ種類でもえー
応援席で石川さんがももちゃんに話しかけてめっちゃ嬉しそうしてたももちゃんにもえー
みんなかられす貰えまくってもえー
れぃなきゃゎぃぃ(*´ヮ`*)♪こんこんきゃぁぃぃ!さゆ&えりきゃゎ♪ごっちん足きれぃ(/▽\)。。。。。
こはる×さゆもえー

それ以上にもえたのが…美貴さまが左耳に今年めっちゃしちょる粒のピアスって…あれごっちんとお揃いなんだねっ!
びっくり!!今日ごっちんが右耳にしてたっ!絶対あややだと思ってたのにぃ(意外な組み合わせにもえ〜〜〜〜〜〜

もえ死にそうなんですけど…娘。と握手するまでは…石川さんと握手するまでは…

この話をはっぴーえんどにしない限りは…しねない…

もえハイテンションなんで更新速度を昔に戻せたらと思いつつ…失礼します。


82 名前:なまっち 投稿日:2005/07/11(月) 01:11


 〜 ☆


83 名前:なまっち 投稿日:2005/07/11(月) 01:12


 〜 ☆


84 名前:なまっち 投稿日:2005/07/11(月) 01:12


 〜 ☆


85 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/11(月) 21:44
更新お疲れさまです。 かなり作者様はもえすぎて暴走中の模様。 でも更新してくれるのはかなり嬉しいです(o^o^o) これからも頑張ってください。 次回更新待ってます。
86 名前:なまっち 投稿日:2005/07/13(水) 00:02

>>85 通りすがりの者さん
 毎回毎回どうもです^^
 まだちょっと暴走モードですが(にがわら
 これからも頑張ります(ぉしっ!
 ので、ヨロシクお願いします〜
87 名前:なまっち 投稿日:2005/07/13(水) 00:02


 夜も遅くなった街を歩く愛たち7人。
 なつみは後片付けやらで、もうしばらく時間がかかりそうだったこともあり、今回は辞退。

 結局は、梨華に美貴、愛とあさ美、れいな、えり、さゆみの計7人で一緒に食べに行くことになったのだ。


 愛の日常の生活から考えると、カラダの疲れは結構なものなのだろうが、今は、不思議とそれが少ない。
 おそらく、これから空腹感を満たしくれる料理への期待感によって、軽く消し飛んでくれているからだろう。

 若い女のコの特権といってもいい。


 隣を歩くあさ美も同様なのだろう。
 もう愛の話はほとんど聞こえていないと言ってもイイくらいに、目を輝かせている。

 そんな愛とは対称的なのが、普段からこれほど遅い時間に原宿の街を歩いたことがないと言っていた新人チーム。
 カノジョたちは少しほほを引きつらせながら、緊張した面持ちで歩いていた。

88 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:03


 ただ、一番先頭を歩く、お店の道案内も兼ねた梨華の隣にいるれいなだけは別格だった。
 
 朝の凹みだってなんのその。
 一日の疲れなんてなんのその。
 慣れない夜の街だってなんのその。

 自分には関係ない、とばかりに嬉しそうに歩いている。

 おそらく、いや、まず間違いなく、隣にいる梨華の存在だろう。
 2人の間に会話はそれほど多くはないものの、
 お互い"一緒にいれるだけでシアワセ"といった雰囲気が十分に感じられるくらいだから。


 そして、シアワセそうな2人の後ろには、何故だか、さゆみが美貴と一緒に歩いていた。
 こちらも夜の新人さんであるカノジョは、隣の美貴に対して少し緊張感を抱いているのか、
 微妙な距離を保ちながらも、さゆみにとって新鮮なヒトとなる美貴との会話を楽しんでいそうだ。

89 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:04


 そんな2人の後ろから、険しい表情でついて行っているのが、ある意味さゆみの保護者でもあるえり。

 愛のすぐ斜め前を歩いているのだが、普段のほんわかした雰囲気など微塵も見せず、
 また、愛やあさ美が話しかけても、返事はごく少し。

 美貴のことを全く信用していないのか、少しでもさゆみのカラダに触れようものならば、
 間に入って噛み付かんばかりの勢いに、さらに体当たりまで食らわせそうな気合の入れようだ。

 完全に美貴のことをケモノかなにかと勘違いしている。

 そう、最初、この3人が出会ったときのリアクションには、みんなで不思議がっていたのだが、
 本人たちの話を聞いてみれば、なんでもないことであった。

 むしろ、またまた美貴の仕事で声を掛けたとの理由に、愛は呆れかえってしまったくらいだった。

 中学生であるさゆみや、高校生であるえりに声を掛けたなんて。

 と、いうか、すでに中学生であるれいなにも声を掛けていたのだし。
 いつの間にか、そのことも、忘れかけていたところだったが、またまた思い出してしまい、
 あさ美と2人でなおさら呆れてしまった。

90 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:04


 そして、"そういえば"とれいなの方に視線を送った愛の目に入ってきたれいなの顔色は、
 かなり悪くなってしまっていた。

 そう、れいなとしては、アヤシイビデオに出てしまったという事実を、
 さゆみやえりにはどうしても知られたくなかったのだろう。

 その時のれいなの慌てぶりといえば、笑っては可哀想なのだが、見ていて面白かったのが素直な感想。
 さゆみやえりにバレルのではないかと、必死で美貴と目配せをし、話を変えようとしていた姿が可愛らしく、
 またカノジョの新鮮な一面として、愛にうつっていた。

 そして、その後ろで4人の会話に入ろうか入るまいかアタフタと迷っている梨華の姿にも、
 少し笑ってしまいそうになった。


 そう、まるで今のように。


 前を歩いている梨華たちの様々な感情表現を見ていると、自然と愛とあさ美の顔にも笑顔が浮かんでいた。
 これだけ一度に色々な表情を見られることは、余りないといっていいだろうから。

 コドモへの慈しみ。
 お姉さんへの憧れ。
 まだ知らないヒトへの不信感と興味の共存。
 大切なイモウトへの守護。
 突然の強敵への嫉妬。

91 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:05


「面白いね」

 あさ美の言葉に納得とばかりに頷く愛。

 さまざまな表情に面白さを覚えながらも、それを一緒に楽しめているあさ美の様子にも、少し安心感を覚えた。

 昼間の痛々しさは随分と消え、普段のカノジョと遜色がないくらいに回復をしている。
 笑顔もぎこちないものではなく、少し明るく。

 やはり、辛い"想い"を癒してくれるのは、近い存在のナカマなのだろう。
 
 ただ、あさ美も"あれ"を思い出してしまった時には、ふと悲しそうな表情を浮かべる瞬間もあり、
 愛としては、なんとかしてあげたいと感じることもあった。
   
 とはいっても、愛に出来ることといえば、他愛ない話で笑わせたりすることぐらいしか出来ないのだが。

「ぅ〜ん…」

 思わずため息をついた愛。

「どーしたの?」

 ふと気付いたあさ美が、愛の腕を取ると、カラダを寄せ、なにごとかと聞いてきた。
 "なんでもなぃょ"とにっこり微笑むと、あさ美のほっぺに赤みが帯びる。

 それを見て、無意識のうちにでた、あさ美をからかう言葉。

「こんちゃんが余りにもかぁぃぃからさっ」

 愛のその言葉を聞いた瞬間、明らかに動揺の色を見せるあさ美。
 そして、ほっぺをより一層高潮させると、"勘違いするからやめてょ"と、ぷいと顔を逸らしてしまった。

 いつものカノジョらしいリアクションに、表情が緩む。

92 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:05


 あさ美は、美貴とはまた違った意味で、カワイイ女のコが大スキな少女である。

 今では女のコのことをよくカワイイと口にもできるのだが、出会った当初は違った。
 あるヒミツも持っていたため、それを隠すために、自分のココロの底は見せていなかったのだ。

 当時のあさ美は、普通に、男のコや男性アイドルがスキといったことをよく主張していた。
 しかし、付き合いが長くなり、愛のマンションにも遊びにくるにつれ、
 次第に自分自身のことをあまり隠さずに話すようになっていた。

 つまり、ココロを開いてくれたということになるのだろう。

 あさ美の壁を崩した1つの要因が、愛の純真無垢な感情表現であろう。
 自分の思った感情を素直に言う。

 とくにあさ美を素直にさせたのが、愛としては全く意識をせずに言っていた発言であった。
 それは、女のコのことを平気でカッコいいやらカワイイやら大スキと言う言動。
 
 全く恥ずかしがる様子もなく、そう言える愛。

 また、タカラヅカが大スキな愛が、カノジョたちにコイゴコロを抱いているかのような発言をしていることにも、
 あさ美はココロを開いていった。

 そして、出会って1年も過ぎた頃、あさ美の勇気から、完全にココロを開かせることができたのだ。

93 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:06

 
 その日、愛の母親が実家の福井に帰らないといけなくなり、マンションに1人、
 寂しかった愛があさ美に"泊まりにきてょ"と初めて頼んだときがあった。

 普通の女のコなら、簡単に"ぃぃょ"と言えるものなのだろうが、あさ美にはヒトに言えないヒミツがあったため、
 その"お願い"に"ぃぃょ"とは簡単には言えなかったのだ。


 本心なら、素直に泊まりに行きたい…けど…"もし"…


 そう思い、断ろうとも一瞬思ってしまったあさ美だったが、愛になら、自分のヒミツについて語れる、
 いや、語りたいと思ったため、その時、あさ美は自分のヒミツについて話したのだ。

 "この日しかない"と直感で思ったのだろう。
 そして、愛なら、ケイベツの表情で自分のことをみないだろうと。



 級友とは違い。 



94 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:06


 あさ美は中学生の頃、1人の恋人がいた。
 またまだ中学生と幼かったのだが、本人たちは自分たちの関係を、イケナイものだろうとして認識していた。
 そう、同じ女のコ同士ということを。

 普通ならなんでもないシンユウとして見られるだけなのだが、カノジョたちはやたらと意識をし、
 ヒトに見られていない場所でしか一緒にいなかった。


 学校の放課後。
 誰もいない教室。
 誰もいない体育館。


 そんな場所でしか一緒にいなかったカノジョたちだったが、ある時2人で一緒にいるトコロを見られてしまい、
 さらに、恋人のように寄り添っている姿まで見られたのだ。

 普段から仲の良い女のコ同士なら、全く問題ない程度のことだったのだが、女のコ同士で抱き合い、
 フレンチキスをするという行為に対して、やたらと意識をしすぎてしまっていたため、
 ヒトに隠そうとしていたのだろう。



 本来なら、一緒にいてもアヤシイ関係などとは思われないのに。



95 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:06


 そして、その姿を見られた女のコに、翌日そのことに対して冗談のようにからかわれたのだが、
 あさ美の相手の少女が開き直ってしまい、逆ギレのように"なにが悪い"と認めてしまったのだ。
 
 あさ美としては、最近仲良くなったと言って、適当にあしらえるとおもっていたのに。

 それ以来、カノジョたちのことを、軽蔑の目で見つめ始めた級友たち。

 とくに男子の目が厳しかった。
 そう、共学の中学であったことが、より悪い結果を招いてしまっていた。
 差別用語を投げかけられ、卑猥な言葉も。


 多感な時期であったあさ美には、恥ずかしさのあまり死んでしまいくらいだった。


 高校への進学のとき、あさ美に迷いはなかった。
 東京へ逃げるように出て、そして、名門女子高へと入った。
 
 ただ、逃げられたことはよかったのだが、そのときから、自分のコトを自然と隠すしかなかった。
 女のコをカワイイとも言えなくなり、女性のアイドルがスキとも言えなくなっていた。

96 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:07


"わたし、女のコを恋愛対象としてみれるの"


 最初聞いたときは、愛自身びっくりはしたが、詳しく話しを聞くにつれ、むしろそのことに対して、
 軽蔑の目で見たあさ美の級友たちの言動の方に驚きが隠せなかった。
 当然のごとく、怒りも覚えた。

 一生懸命告白してくれたあさ美は、今にも泣き出してしまいそうなくらいな表情を浮かべ、
 俯いていたのだが、愛は自然と抱きしめていた。


 そして、"かんけーなぃょ"と。


"女のコって10%のコがそうだって聞いたし…"
"潜在的なコとかを含めたら30%オーバーなんだょ"
"アコガレも含んだら70%超えるんだょ"
"気にしないでぃぃょ"
"もしかしたら、ぅちだってね"


 愛は笑顔でそう言い、ぎゅっと抱きしめてあげると、あさ美は愛の胸の中、
 これまで暴言を浴びせ掛けられる毎に負けたくないと一心に押さえ込んでいた涙を、存分に流した。

 そのときから、あさ美との関係はトモダチからシンユウへと変わった。
 
 そして、当時はまだ"それ"しか出来なかった愛だったが、今ではフレンチキスなどをして、
 "仲間意識"を持って貰えるようになっていた。

「ぅちが恋愛に興味もったらぁ、まず真っ先に手ぇつけるくらいにかぁぃぃさ」
「な…
 もぉいいよっ!」

 あさ美の真っ赤なほっぺに、ちゅっと1つ親愛のシルシ。


97 名前:6 〜 投稿日:2005/07/13(水) 00:07


 〜 ☆


98 名前:【春の歌】 投稿日:2005/07/15(金) 00:40




 7 〜




99 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:41


 梨華お勧めのお店は、自分たちの働いているトコロから、歩いて10分、
 青山通りの、愛にとってなかなか馴染みとならないような高級なお店が立ち並ぶ通りから、
 少し中に入った路地にあった。

 西洋王宮のようなその外観を見ただけで、愛はあさ美と顔を見合わせてしまった。
 お互い同じ感想を抱いたのだろう。
 少し吹き出す。


「ゃぁ…」
「すごぃ…」


 そう、場所が場所なだけに、やはりそのお店もかなり高級な雰囲気をかもし出し、
 とてもじゃないが、愛1人では一生縁のないお店のように思われた。
 さらに、来てもイイ所なのだろうか、と。
 愛どころではなく、その場にいた全員が思ってしまっていた。
 こんなコドモのようなカッコで、中高校生である自分たちが。


「イシカヮさん…こんなトコによく来るんですか…?」


 れいなの少し恐々した口調に、"まぁ、ごくたまに…"と、少し恥ずかしそうに言う梨華だったが、
 本当はかなりの回数来ていることが想像でき、雰囲気に惑わされず、態度に余裕さえ感じられた。


「へぇ…すごか…」

100 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:41


 ひとしきりみんなのため息の合唱が終わると、次には、自然と全員が同じ心配をし始めたのだろう。
 お互い顔を見合わせると、バツの悪そうな表情をしはじめた。

 愛もあさ美を見る。

 "お金ありそぉ?"と目で無言の会話。

 少し肩をすくめるあさ美の返事は、当然のごとく"ゃばぃかも"。

 みんなのそんな雰囲気に気が付いたのか、梨華は"だぁぃじょぉぶだょ"とにっこり微笑んだ。
 そして、"入ろぉ入ろぉ"とすぐ隣にいるれいなの肩を抱き寄せるようにしてお店の中へ入っていった。

 心配していないのか、美貴も"にぃく♪にぃく♪"と嬉しそうに続く。

 その後を、"ホントに大丈夫?"という不安がいっぱいの雰囲気の中、おそるおそる他のメンバーが続く。
 お金を心配しているメンバーの中、ただ、れいなだけがとてもシアワセいっぱいのオーラを出していたのだが。
 当然のごとく、そのことに全員が気付いていたことは言うまでもない。


101 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:42


 予約はすでにされていたのだが、中に入った愛たちは少し待たされることになった。

 やはり梨華は普段からよく顔を見せていたのだろう。
 別のお客さんの案内を終えた年配の女性が、梨華の姿を見つけると、笑顔をみせた。
 そして、近付いてくると、"お世話になっております。梨華さま"と深々と頭を下げた。


「こんばんは。
 お世話になります。」


 梨華も、頭を下げる。
 そして、二言三言小声で何かを話すと、その人はそのまま下がっていった。


「ここのオーナーの人なの。」


 その言葉に納得の表情の愛。
 そう言われなくても、気品と自信に満ちた表情から、
 一般の従業員のヒトではないことはすぐにわかったくらいの女性だったからだ。

 そして、さっきの女性を見て、このお店の雰囲気に少し納得の表情を見せた愛たちだった。


102 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:42


 お店の中も、やはり外観と同じく、高級な雰囲気を感じることができた。
 少し落ち着く、大人のセレブが好むような照明に、内装、自分たちの姿がキレイに見える大理石の床。
 そして、出迎えてくれたお店の方の接客態度。
 普段の自分たちとは、また違う"それ"に、余計に緊張感に襲われしまっていた。
 
 そして、それらで、完全に萎縮してしまった愛たちは、他のお客さんと一緒の席につくのことに、
 羞恥心も覚えてしまっていた。


「一緒だと、恥ずかしいね…」


 あさ美の言葉に、こくと頷く愛。


「こんなカッコで来ちゃって大丈夫かなぁ…」


 さゆみの心配そうな表情に、えりが手を握ってあげる。
 と、同時に反対側から美貴が、"だいじょうぶだょ"と肩を抱いてあげた。


「ぁ…」


 2人に間を挟まれ、少々居心地の悪さを感じつつも、美貴に肩を抱き寄せられ、
 小さく声にならない声を上げたさゆみは、顔を赤らめ、そして、そのまま俯いてしまった。

103 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:43


「でたょ」


 美貴のおなじみのセリフと表情に、あさ美と愛は面白がる。
 まだ見慣れないれいなは少し不思議そうな表情を浮かべるも、梨華に耳打ちをされると、
 少し納得とばかりに、笑顔を浮かべた。

 そんな笑顔の部外者とは対称的に、美貴と挟んで反対にいるえりの表情は、明らかに不機嫌なものになっていた。

 今日、美貴と出会ってから、さゆみの横にはずっと美貴がいる。
 これまでは、えりの指定席だった"そこ"に、今日出会ったばかりである他人がいるのが面白くないのだろう。
 しかも、アヤシイビデオを撮るようなヒトに。

 しかし、当の本人であるさゆみは、お姉ちゃんであるえりの"不安"を気にする素振りもなく、
 "不安"とは別に余計な感情とまで葛藤しないといけなくなり、そのことに対してどうしようかと思案顔だ。


「かゎぃぃね、さゆ」


 耳元で囁かれ、またまたほほを染めるさゆみは、"はぁ…"としか言えず、
 そのままえりの後ろに、まるで照れてしまったコドモのように逃げ隠れてしまった。

 その瞬間のえりの勝ち誇ったような顔と、美貴の"面白くない"といった顔色は、
 さっきまでの2人とは正反対のそれ。

 この3人の"面白い関係"は、これからも愛たちを楽しませてくれそうだった。

104 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:43


「お待たせいたしました。」


 愛が、入り口から向かって右側に置かれていた絵を、興味津々といった表情で見ていたころ、
 先ほど奥に入っていった年配の女性、つまりオーナーの方が出てきた。
 最初に対応をしてくれたヒトではなく、じきじきにオーナーのヒトが案内をしてくれるとは、と少し感動の愛は、
 すぐ近くで陶芸の置物を眺めていたあさ美と腕を組み、オーナーのヒトと話しながら歩く梨華の後ろにつく。

 両側をプライベートルームで囲まれた廊下を進むと、いつの間にか、
 途中からまた一段と雰囲気の変わった場所を歩いていた。


「すごいね」


 思わず呟いていた愛の言葉に、あさ美は小さく頷く。


「大丈夫かなぁ」


 あさ美の独り言に、すごく納得の愛。
 確かに心配だった。

 一般のお客さんと一緒の場所で食べないといけないといった心配はなくなったものの、
 今度は別の心配を全員が抱いていた。

105 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:43


 その心配とは、やはりお金。
 明らかに高そうなお店の雰囲気は、一品数千円の"世界"のお店に感じられるくらいだったからだ。
 そして、そう思った1分後には、その心配をさらに増幅させるモノを見てしまっていた。

 そう、愛たちが通された場所は、最上級の個室。
 一般的なテーブルとは別に、奥にはテレビやふかふかソファーに、カラオケなどが完備された場所だったのだ。
 

「ひぇ…」


 まるで生まれて初めて旅行にいったコドモが、部屋の中を走り回って探検するかのような姿を、
 愛だけではなく、れいなやさゆみ、えり、あさ美といった面々が見せていた。

 美貴が、そんなコドモたちの姿を楽しそうに眺めている後ろで、
 梨華は、オーナーのヒトにメニューを指差し、何かを話していた。
 おそらく、何品か頼んでいるのだろう。

 まだ愛たちはメニューを見る間もなく、しばらく部屋を探検しつくした頃には、
 すでに飲み物がテーブルの上に並んでいたから。

106 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:44


 梨華と美貴が向かい合う形で入り口に一番近い椅子に座ると、
 れいなは自然と、ここ数日の指定席となっている梨華の隣に腰を掛ける。

 さゆみは、今日の指定席である美貴の隣。
 もう慣れてしまったのか、えりは寂しそうな顔をしながらも、さゆみ隣に腰を掛けた。

 あさ美と愛はれいなの隣に腰を掛ける。


「わたしのお勧めのモノを適当に頼んだから、じゃんじゃん食べちゃって。」


 その言葉に、めいめい顔を見合わせると、やはり心配そうな表情を浮かべた。
 お金の心配というよりかは、ここまでくると、梨華がおごってくれそうな雰囲気を見せていたからだ。


「ぁのぉ…」


 あさ美の心配そうな声に、梨華はにっこりと笑顔を浮かべると、"だいじょぉぶ"と頷いた。
 そして、"今日はおごりだょ"というと、それぞれのグラスにさまざまなジュースを入れ始めた。

 普段の梨華のことをよく知っているみんなだから、これ以上"断る"といったことをしなかったが、
 さすがに罪悪感が生まれたのだろう。

 お店の雰囲気だけでも、その料金は想像できたから。

107 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:44


 しかし、そんな心配は、梨華の"ここって知り合いのヒトのお店だからね"の言葉に和らぎ、
 さらに、食べ物が運ばれてくるまでだった。

 運ばれ始めると、"かんぱぁぃ"の掛け声と共に、もう何も関係ないとばかりに、
 全員がスプーンやホーク、ナイフを進めていた。

 これまでみんなが食べたことがないくらいに、おいしく、新鮮で、高価な西洋の料理類。
 イタリアンからフレンチなど、さまざまなジャンルの料理が楽しめるココは、最近急成長したトコロだ。
 専門高級店にはない、高級オールマイティ店だが、その目新しさから、ぐっと伸びたのだ。

 なかなか経験できないような場所と、料理に舌鼓を打つ。
 愛たちの間に会話はあるものの、もうそれは軽いもの。

 数分毎に運び込まれてくる料理類を、自分のお腹に納めることを楽しんでいた愛たち。
 カノジョたちが再び会話に興味を持ち、それを楽しむ頃には、時間はお店に入ってから1時間半近く経っていた。 

 そしてその頃には、テーブルから離れ、奥のコミュニケーションルームで、
 いつの間にか誰かが入れ始めたカラオケで楽しみ、また、飲み物やデザートなどでくつろいでいた。

108 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:45


「ぉぃしかったぁ」


 えりとさゆみのしっとりしたハモリをBGMに、愛の隣のあさ美は本当にシアワセそうな笑顔を浮かべていた。
 また、あさ美のその言葉は、全員の代表の言葉。
 梨華も、それぞれに感謝の言葉を貰い、嬉しそうだった。

 もっと長い時間楽しみたい。
 それが、全員の想いだったが、やはり入った時間自体が遅かったこともあり、
 これ以上はさすがに時間を取る事が出来なかった。
 もう11時に近くになっており、家に帰れない時間が刻々と近付きつつあった。

 そして、最後の一曲ということで、れいなが歌い終わり、みんながそろそろ帰りの準備をし始めた頃、
 "実はね…今日誘ったのはね…"と、梨華が口を開いた。

 緊張感で溢れているのが明らかに分かるくらいの口調で。

 そのまま、次の瞬間には、申し訳なさそうに"みんなにちょっと聞いて欲しいことがあるの…"と。 



109 名前:7 〜 投稿日:2005/07/15(金) 00:45


 〜 ☆


110 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/15(金) 11:10
更新お疲れさまです。 いよいよ石川サンの口から明らかになるんですね(ドキドキ それに石川サンって一体? 次回更新待ってます。
111 名前:なまっち 投稿日:2005/07/17(日) 23:14

今日のいしかわさんは髪の毛下ろしてて一段と…はぁ…御綺麗でした
ずーっと見惚れてた…
歌3曲聴けたし…
みよっちゃんが梨華ちゃんって呼んでてちょっともえたし…
おかぱいのぼけぼけぶりも見れたし…
あれだけ間近で見れて…行って良かった…応援し続けますょ(まじです

>>110 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 ここで明らかに…(もごもご
 …下どうぞ。
 なんだか随分とカプ話からはなれちゃってるなぁ…
 でも…これからもヨロシクお願いします〜

112 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:17




 8 〜




113 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:17


"聞いて欲しい事があるの"

 全員が一斉に梨華の方に視線を送る。
 
「お願いがあるの…」

 一瞬、誰もが不思議な表情をした。
 そして、そんな中、梨華の余りにも申し訳なさそうで、深刻な口調に、
 れいなが"どぉしたんですか?"と、そばに寄る。

 れいなの心配そうな表情に、梨華はにっこりと笑顔で応えると、頭を撫ぜてあげた。

「実は、今日はその"お願い"があって、みんなと一緒に食べに来たかったの」

 そして、全員の顔を一通り見渡し、周りの空気をしっかり理解すると、言葉を大事に大事に口にした。
 ゆっくと。

「お友達になって欲しい女のコが…いるの…」

114 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:18


 一瞬、その言葉の意味を理解するのに時間を要してしまった愛。
 しかし、なかなか聞き慣れない言葉は、確かに梨華の口から発せられたものだった。


「お友達ですか…?」


 梨華の様子に、さすがに真剣な表情へとなっているあさ美が、梨華に聞き返した。


「ぅん…」


 梨華がこんなことを言ってくるということは、その"お友達になって欲しい"という女のコは、
 なかなかトモダチが出来ないコと言ってもいいのだろう。
 でなければ、わざわざ愛たちに頼むことでもないのだろうし。

 そう、れいなみたいに自然と、いつの間にかといった形でアルバイト先に連れて来ればいいのだろうし。


 それなのに…


 不思議に思ったのは、愛だけではなかった。
 えりやさゆみも同様の表情で、顔を見合わせていた。

 そう、全員、明らかに"いや"ではないのだろうが、ただ腑に落ちないのだろう。

 腑に落ちない"お願い"。

 そんな雰囲気に、美貴だけは真剣な様子で、梨華ではなく、愛たちの様子を見つめていた。

115 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:18


「優しくて、ぃぃコなんだけど…」


 梨華は、とても慈しみを込めた表情で話す。

 そう、そのコのことを想いながらの言葉は、梨華の感情がしっかりと込められていた。


「あのコ、友達がほとんどできなくて…」


 そっと遠くに目をやる梨華。
 そして、"わたしにとってタイセツなコだから…"と呟いた。

 その言葉に、少し驚いてしまった愛。
 梨華にそんな存在のシンユウがいたことに。
 その事実を初めて知ったこともあり。

 そういえば、これまで梨華のトモダチとして知っているのは、美貴のみだった。
 しかも、梨華がトモダチの話をすることすら、聞いたことがなかったのだ。

 その梨華のトモダチ。
 いや、シンユウ。

 とても大切な、ある意味さゆみとえりのような関係なのだろう。
 こんな梨華はめったに見ないから。

 ある種、そのコに嫉妬さえ感じられるその梨華の口調。

116 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:19


 そして、やはり、その言葉に、明らかにショックを受けたのは、れいなだった。

 梨華の近くにいたカノジョは、最初こそ梨華の様子に心配そうな表情を浮かべていたのだが、
 カノジョの話している内容に、次第にその心配の矛先は違う方向へと向かっていっていた。

 そんなときに聞えてきた、梨華の告白。


"タイセツなコ"


 この言葉は、普通であれば口にするのは恥ずかしい言葉。
 ある意味、冗談でシンユウに"愛してる"の言葉を発する以上に、この言葉を使うのは、ためらわれるだろう。
 コイビトに使うように感じられるから。

 そう、その意味を感じることが出来る分、れいなにとってはかなり辛い言葉になってしまったのかもしれない。

 れいなの目から力が消えた。
 胸を押しつぶされるような不安が、押し寄せてきているのだろう。

 自然と俯いていた。

117 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:19


「お友達が必要なの…
 …なって欲しいの…」


 梨華は、本当にそのコのことが大切なのだろう。
 ココロのこもった言葉に、愛は自然と頷いていた。

 すると、愛に呼応するかのように、それぞれ笑顔で返事をし始めた。

 そう、それは当然だろう。
 みんな最初から"いやだ"なんていうことを、微塵も考えていなかったから。

 必然の結果かもしれない。


「ぁりがと…」


 みんなの笑顔に、ほっと胸を撫で下ろした梨華にも、笑顔が浮かんでいた。

 もともと、梨華だって、これだけココロの優しいコドモたちだから、断られるとは思っていなかったのだが、
 それでも、やはり心配なことは心配だっただのだろう。

 実際に笑顔で応えてくれる姿をみて、とても嬉しそうに微笑んだから。
 そして、美貴も。

 ただ、ただ1人れいなだけは、頷きながらも…笑顔を浮かべながらも…
 目だけは、不安と、悲しみと、寂しさが見えた。 

118 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:19


 帰り道、愛はあさ美と一緒に街を歩いていた。


「れぃな…悲しそうだったね…」
「わかった?」


 愛の言葉に、"気付いたの?"とばかりにあさ美は聞く。
 小さく頷く愛。
 

「けっこうイシカワさんのコト、慕ってるもんね」

「"あの言葉"は辛いゃょー」


 愛はそう言うと、少し顔をしかめ、"かぁぃそーゃった…"と、ホントに微かに呟いた。

119 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:20


「でも、イシカワさんが言う、その"タイセツな人"って…どんなコなんだろ…」


 少し首を傾げると、しばし考え込むあさ美。
 "かゎぃぃコかなぁ"と言うあさ美の口調には、少し期待感も感じられそうだった。


「期待しとぉの?」


 愛が浮かべたのは、イジワルそうな表情だったが、あさ美はそれほど愛の意図を理解しなかったらしい。
 きょとんとした顔で、愛を見つめると、"してるけどねぇ"と大きく頷く。

 余りにも素直に認めた愛は、あさ美がもう少し恥ずかしそうな仕草をすることに期待していた分、
 随分と拍子抜けしてしまうも、"ま、ぅちもね"と、本当は自分も期待していることを、素直に言葉にした。

 ただ、"タイセツなコ"に対する期待とは一変、相対するれいなの様子だけは、本当に心配だった。

 あの様子だと、"梨華のため"と受け入れるとは思うが、それでも梨華の"タイセツなコ"に対して、
 嫉妬などを強く感じていることが、安易に想像できたのだ。
 実際に会うと、どんな風に対応するのだろうか、と。  

 別れ際のれいなの様子を思い出すと、やはりその心配はあさ美にも、ふつふつと沸き起こってしまった。

120 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:20


 れいなは、さゆみとえりと一緒に、お店を出たトコロで別れた。
 梨華が、呼んだタクシーに、お金だけ渡して乗せたのだ。

 3人とも、電車でいいと言い張ったのだが、さすがに高校1年生1人と、中学3年生2人を、
 23時も過ぎた街に放り出すのは、心配だったのだろう。
 有無を言わせず、タクシーだけ呼び、自然と乗るようにミチシルベを作ってあげたのだ。

 ただ、れいなだけは、聞きたいコト、知りたいコトがたくさんあったのだろう。

 最後の"タイセツなヒト"について知りたかったのか、それとも心配だったのか、
 絶対に離さないとばかりに梨華の腕を手に取り、ほっぺを染め、梨華を見上げていた。


"いつもみたく、途中まで一緒に帰りましょうょ"

 
 そんなれいなの行動に、愛の胸に少し暖かいキモチが沸き起こっていた。
 そう、梨華の手を取るれいなの仕草を、愛は初めて見たのだ。

121 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:20


 普段から、梨華のことを完全に、先輩もしくは憧れの存在と見てしまっていたのだろうか、
 なかなか梨華に対してスキンシップらしきことをしているのを見たことがなかった。

 態度では、示しているものの、実際に梨華のカラダを何かが覆っているかのように、
 れいなは触れようとはしなかった。
 いや、出来なかったのかもしれない。


 そんなれいなの初めて見た"手を握る行動"。


 しかし、少し嬉しそうに表情を緩めてしまいそうになっていた梨華だったが、現実を考えると、
 タクシーに乗せることが賢明と判断したのだろう。

 最後は、梨華のぴしゃと言い放った"乗りなさい"のお母さんのような命令形の言葉に、
 寂しそうな表情を浮かべながらも、仕方がないとばかりに、乗り込んだ。

 ただ、梨華の言葉に、不貞腐れてしまったらしく、乗り込んでからは一度も梨華の顔を見ていなかったのだが。

 ま、明日にでも梨華が優しく声を掛けてあげれば、けろっとするだろう。
 それに関しては、愛もあさ美もそれほど心配はしていなかった。

122 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:21


 そして、大きくため息をついた梨華と、美貴、あさ美と駅まで一緒に歩き、そこからは別々に。


 その駅までの途中、話題も一段落ついたころ、"後藤真希"について情報が入っていないのかどうかを聞いたのだが、
 "心配しなくてぃぃょ"と笑顔で応える梨華は、何故だか自然と信用の出来る口調だった。

 ウワサについては梨華も美貴も知っていたが、最初から余り信用はしていなかったらしく、
 "インターネットだって信用できないからね"と、苦笑いを浮かべ、お互いに顔を見合わせていた。


 そして、"お友達になって欲しい女のコ"については、明日かあさってに実際につれてくるそうだ。
 どうせなら、今日のメンバーと、桃子が揃っているときがイイらしく、少し日にちの計算もしているとのこと。

 詳しい女のコについての情報は、"お楽しみに"と言って、全く教えてくれなかったのだが、
 ただ一言"かっこぃぃょ"の言葉には、愛の胸を少し甘くしてしまっていた。

123 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:21


 明日から4月。
 あと11日で大学生活が始まるのだが、それまで最後の春休みが随分と楽しめそうな予感も覚えた愛。


 そして、ふと思い出した、今晩のあさ美との約束。
 隣で一緒に歩くあさ美に腕を絡めると、"約束通りだょ"と笑顔を浮かべた。


「わかったょ」


 梨華のおかげで、随分と元気も回復したあさ美の笑顔が確認できると、
 愛はもう一度ちゅっとあさ美のほっぺに親愛のアカシをつけた。

 明日を想い。


124 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:26




                       ☆ 第4話 ☆




125 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:26




☆ お願い。 ☆




126 名前:8 〜 投稿日:2005/07/17(日) 23:26




                       ☆ おわり ☆




127 名前:なまっち 投稿日:2005/07/17(日) 23:48

↑しっぱい(あせ

☆第4話。お願い☆終わりました。
これまで読んでいただけましてありがとうございました。
次回からは第5話。に入りたいと思います。
久しぶりにあの芸能人の方の登場です(わら
ただ本編的なんでこれまでのストリーごとの主人公というわけではありませんが…

最近ちょっとさゆはる(さゆのおねえさんっぷりと、こはるのさゆを見つめる目に)
の師弟コンビにもえもえな作者ですが、これからもヨロシクお願いします。

128 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/18(月) 18:52
更新お疲れさまです。 ついにあの方が登場ですか!?( ̄◇ ̄) 田中チャン複雑ですねぇ(汗 でも気持ちも分かんなくは無いんですよね。 次回更新待ってます。
129 名前:なまっち 投稿日:2005/07/20(水) 01:20

>>128 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 そうです、随分久しぶりですが、登場です。
 んでもって、ここから数回の更新で今回のスキャンダルのことが
 ある程度分かる手はずに(おおげさ
 じわじわと進んでますが、これからもヨロシクお願いします〜

 
130 名前:【春の歌】 投稿日:2005/07/20(水) 01:22




 ☆ 第5話。 かっとう ☆




131 名前:【春の歌】 投稿日:2005/07/20(水) 01:23




 1 〜




132 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:23


 東京の都市の夜は、完全に漆黒の闇で覆おうとする。
 まるで夜の街で行われている事実を隠すかのように。

 一般の都市では、夜は上空に瞬く星によって街は癒され、次の日にまた元気を取り戻すのだが、
 闇に覆われている都市である東京は、星によって癒される間もなく、ただただ廃れるだけだった。


 そんな廃れた東京の都市を眺める少女がいた。
 超高層マンションの1つのテラスから、街を。

 寂しげな憂いを感じる横顔は、彫刻美女のように整っている。
 ある種、男女関係なく、誰もが見惚れてしまいそうなくらいにキレイな顔立ちの美少女だ。

 そして、ラフなTシャツの袖と、ショートパンツからは、すらっとした白い手足が惜しげもなく曝されていた。

133 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:24


 1つにアップにした髪の毛を時折風に揺らしながら、その美少女は東京の街の何を見つめているのだろう。
 少し疑問に想われても仕方がないのかもしれない。

 しかし、ずっとこの街を見続けてきた少女にとっては、コドモの頃には辛い想い出しか残っていないものの、
 それでもタイセツな生まれ故郷になるのだろう。

 探せば良いトコロだってあるのだ。


 例えるなら…


 そう、電飾で覆われた街。

 少女の今住んでいるマンションから、都心のイルミネーションが見事なほど一望できるのだ。

 少しキモチに余裕のある日、もしくは、キモチに余裕が欲しい日などは、
 テラスからそのイルミネーション輝く街並みを眺め、日々の忙しさや、
 ストレスに廃れたココロを癒してもらうのだ。

 それはまるで少女の保護者的な存在である同居人が癒してくれるかのように。

134 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:26


 しかし、その保護者は今日はいない。


「はぁ…」


 テラスの手すりにひじをおき、街を見つめる少女、後藤真希の口から、大きくため息が零れた。
 そう、その少女は、"後藤真希"。
 梨華のシンユウであり、イモウト、コドモのような存在である真希だ。


 真希は、ココロを癒して欲しいのか、街並みを眺めていた。

 しかし、大きなストレスの爆弾を抱え込んでいる今の真希には、東京の廃れた街並みのイルミネーションでは、
 ココロを癒しきれないようだった。

 やはり、これだけのココロのキズを癒してくれるのは、母親のような梨華だけであろう。


「まだかなぁ」


 普段の仕事場におけるしっかりした口調からは程遠い、今の真希のコドモのような寂しげな様子。
 普通なら、これだけカワイイ女のコをほったらかしにするなんてと、思えそうなほどだったが、
 事実、この少女はほったらかしにあっている。

 晩御飯も1人。

135 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:26

 
 料理が得意なカノジョは、1人でも何かを作り、夜のご飯とするのだろうが、
 今日はそれさえしようというキモチにはなれなかった。

 動かないカラダ。
 動かないココロ。
 ただただキズを負ってしまっているココロ。


 晩御飯は、インスタントのラーメンのみだった。
 しかも、普段なら、もやしと豚肉を炒めたり、煮卵を作り、ねぎを切ったりして、
 例えインスタントラーメンとしても、ある程度豪華にして食べるのだが、今日は、ただラーメンのみだ。

 おいしいと感じることが出来なかったのだが、ただお腹の足しにと強引に放り込んだ。
 "余り健康によくないなぁ"と感じつつ、普段から美容にと食べているサプリメントをより大目に口に押し込むと、
 紅茶を作り、テラスへと出たのだ。


 眺め始めてから、かれこれ1時間は経っていた。
 もうとっくの昔に紅茶はなくなり、ただただそこには東京の濁った空気が溜まっていた。

 自分のストレス同様。


136 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:27


 保護者のような存在である梨華とは、今日の昼過ぎまでは一緒に行動を共にしてた。
 しかし、その後は、アルバイト先に行ったきりなにも連絡はない。
 
 カノジョと別れるまでは、早朝から事務所の方に呼び出され、昨日の続きとばかりに、ずっと話を聞かれていた。

 そう、ここ数日、インターネットを騒がさせている"あのウワサ"について、こっぴどく聞かれていたのだ。
 そして、実際に週刊誌を賑わせてしまっている事実関係についても。

 昨日は真希1人だったが、今日は梨華も呼び出され、一緒に色々と聞かれていた。

 チーフマネージャーである中澤も常にそばに居て、あとはプロデューサー、会社の取締役の面々が、
 立ち代り入れ替わり真希たちの前に座り、尋問みたいなことをしてきた。

 途中からは、梨華1人となり、外に1人出された真希は、イライラしてしまっていたが、
 出てきた梨華の表情を見て、それほど厳しく言われていないことが想像でき、安心もした。

137 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:27


 しかし、その後に中澤から聞かされた言葉には、かなりショックを受けてしまった真希。


"週末は、オフにしてあげたから、しっかり休みぃな"


 普通なら喜んでもよい話なのだが、さすがにこればっかりには驚きを隠せなかった。
 そう、週末は広島の方でコンサート公演が開かれるはずだったのだ。
 このツアーの地方のラスト公演。

 オフの話を聞き、真希のココロの中、"ツアーさえ中止にするほどのことを自分はしたの?"と、
 自問自答を繰り返すしかなかった。


 納得がいかなかった。


 ただ、トモダチと一緒に夜の街を歩いていただけなのに。
 相手は男ではなく、一般人である女のコなのに。

 一般人である相手のコの名前を言わなかっただけで、こうなるの?
 自分への罰?

138 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:28

 
 真希自身、コンサートツアーは大スキだった。
 年に2回あるこの期間は、毎週、疲れとは別に、自分の"存在価値"を認識できる日であったから。

 来てくれる人は、必ず自分のコトを見に来てくれるヒト。
 自分だけを見に来てくれるヒト。

 その瞬間だけは、疲れとは別に、癒される感覚も覚えるくらい。


 それなのに…


 事務所だって、一度の公演をキャンセルするだけで、どれだけの損害が出るのか。
 そういう部分に疎い真希でさえ、分かるくらいだ。

 お金に関してシビアになっている今、この決定を本当に上の人間が下したのか。
 それさえ不思議に感じてしまった。  

139 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:29


 しかし、真希のキモチを理解してくれているはずの梨華は、"よかったね"と笑顔で真希の肩を抱くだけだった。
 しかも、"ゆっくり休もぉ"と自分のコトを普段よりより一層腫れ物でも扱うかのように接してきたのだ。
 
 その優しさが、余計に真希の素直さを閉ざしてしまった。
 わがままだとは分かっていても。

 ただ梨華が自分のココロを理解してくれていないと感じたから。


 そこから先、家にタクシーで到着するまでは、梨華とは気まずい空気となった。

 普段だと、何も考えなくても自然と会話が生まれたり、会話がなくても、梨華との空間は居心地のいいものなのに、 その日に限っては、梨華も何かを考え込んでいるのか、外を向いたっきり何も話してこようとはしなかったのだ。

 ため息をついても、"どぉーしたの?"と聞いてこない。

 真希から話し掛けても軽く相槌を打つだけで、すぐさま外を向き、再び考え込んでしまう。

140 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:29

 
 もう完全に梨華の視界に真希は写っていないように感じられた。
 むしろ自分は邪魔のようにすら感じられたのだ。


 こうなれば、とことん自分だって…と、ばかりに、真希も口を噤む。


 コドモのような思考とは分かっていたものの、梨華への対応はどうしてもこうなってしまうのだ。
 梨華は、それでもやさしく接っしてくれるため、真希は不貞腐れた後には、いつも後悔が残る。

 しかし、今日は不機嫌なキモチを持ち越しながらも、少し優しさを見せる。
 そう、家に到着した後は、"遅くなるかも"という梨華に、"地味なカッコしていきなょ"と。

 ただ、少し笑顔で返してくれた梨華は、しっかり言う事を聞いてくれたはいいものの、すくに出かけてしまった。
 そして、何もすることのない真希は、部屋でごろごろしていた。

 もともと、外出を禁止されていたこともあり、日々の疲れたカラダを休めるように、夕方まで。

141 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:31




 再び大きくため息をつくと、真希は少し冷えた腕を擦るようにして、部屋へと戻った。

 時間はすでに21時半を過ぎていた。
 しかし、真希にとっては"まだ"21時半といった感覚を覚えてしまった。

 そう、普段なら梨華と何か他愛のない話などして、楽しめるのに、今日ばっかりは何をして過ごそうかと、
 ただ思案するだけだった。

 テレビではおいしそうな料理が作られている様子が映し出されていたのだが、今は興味を覚えない。


「どーしょ」


 と、そう呟いたその時、ダイニングに置かれたパソコンが目に入ってきた。
 思わず惹かれる。

 今回の自分のことは、インターネットだとどんな風に言われているのだろうか、とか、
 そのウワサによって、ファンのヒトはどう思っているのだろうか、とか。

142 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:31


「やろっかなぁ…」


 普段、真希はほとんど使わない。
 もともとは梨華が買ったもので、真希も"使ってぃぃょ"とは言われているのだが、
 使ったことがあるといえば数回といったところだろう。 

 たいてい梨華が使い、後ろから覗き込むといったカタチだが、それでも日々使っている姿を見ているから、
 使い方だけは分かる。


 さて…


「たしか…ここかなぁ…」


 横にある箱の一番大きなボタンをグイと押し込んだ。
 すると、電源が入り、モーターの回る音がし始める。

 にっこりと微笑む。

143 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:32


 さて、ここからが問題かなぁ…

 
 とは言うものの、心配する必要は全くなかった。
 やはり梨華の手の動きというのは覚えているものだ。
 一度も使ったことがなかったのだが、それでも、一番の目的であったインターネットをすることが出来たのだから。


「へぇ、結構テンサァィかも」


 自画自賛の真希。

 最初に表示されたトコロは"Yahoo"と書かれたホームページだった。

 インターネットに関しての知識は疎いものの、それでもその名前くらいは知っていた。
 そこから自分の知りたいことを"検索"して、色々なホームページへ行くのだろう。
 梨華が確かそう教えてくれたはず。

 いつもいつも後ろから覗き込み、あまり興味はなかったものの、"どーするの?"と聞いていたのだ。
 そのことが、今の暇つぶしに役立っているとなると、不思議な気分だった。

144 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:32


 試しに打ってみる。


"後藤真希"

"ゴマキ"

"熱愛記事"

"ウワサ"


 思いつくものをざっと打ち込んだ真希。
 しばし他にもないかと考え込むも、あまり浮かばない。


「これくらいなかぁ」


 そう呟くと、"検索"のボタンを押した。
 一瞬白くなる画面。

 そして、次に画面にサイトが表示されたときには、その検索のヒット件数は10000件を超えていた。

145 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:33

  
「げ…」


 思わず絶句。
 なんだか見る気がなくなってしまいそうになるくらいに多い件数だったが、
 やはりヒットしたものは見るしかない、とばかりに、律儀に一番最初のページから見ていくことにした。

 最初の方は、真希の興味があまりない、ほとんどがニュースを扱った一般的にあるようなサイトばっかりだった。
 記事のみであり、ファンのサイトではないものばかりが、ずっと並ぶ。


「はぁ…」


 最初こそ、一つ一つ中まで見ていった真希だったが、数十件を超えたあたりから、面倒とばかりに、
 ヒットした記事の部分のみを読み飛ばしていった。
 1つの検索ページを終えると、次の"10件"をクリックすることを繰り返す。

146 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:33


 しかし、百件を超えたあたりから、いとも簡単に飽きてきてしまった真希。

 小さくあくびをすると、手持ち無沙汰にマウスをくるくる回す。


 そのとき、少し眠くなってしまったそんな真希の目に、ふと"お気に入り"というボタンが入ってきた。
 そして、それに気付いた真希は、梨華の言葉を思い出した。


"自分がスキなページを残しておくトコロなの"


 確かそう言っていたはず。
 そこをクリックしたら、使っているヒトが、いつでも自分の見たいページを見ることができると言っていた記憶が、
 真希の頭の中に残っていた。

 つまり、今"お気に入り"に残っているアドレスは、梨華が見たいページということになるのだろう。


「へぇ」


 すでに先ほどのことに興味を失った真希は、次のアソビとして"お気に入り"のタブをクリックした。

147 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:34


 そこには数十件のページが登録されていた。
 それを見て、思わず笑顔の浮かぶ真希。
 
 そう、どれもが真希関係のものだったのだ。

 真希の出したシングルの名前から取ったホームページ。
 真希のことを崇拝するかのような名前のホームページ。
 直球である真希の名前そのもののホームページ。

 などなどが数十件登録されていた。

 その中で一番下にあったページに興味を覚えた真希。


"ごっちんの掲示板"


 掲示板といえば、今では一般的にある流行りのものであり、真希でさえ知っていた。

148 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:34


「どんなトコなんだろ…」


 梨華が見るのであればそれほど本人が見ても不快感を覚えるものではないだろう。
 そう思った真希は、自然とそこを開いていた。


「ぅゎぁ…」


 画面に表示されたモノを見て、一瞬視点が大きく狂う感覚を覚える真希。
 余りにも小さな文字の羅列を見て、だ。


「ちっちゃ」

 
 なんだか読む気さえ削ぐような、文字の小ささだった。
 しかし、一番上にあった文字に興味を覚え、真希は自然とマウスを動かしていた。


"熱愛の相手発覚PartV"




149 名前:1 〜 投稿日:2005/07/20(水) 01:37


 〜 ☆


150 名前:名無し読者 投稿日:2005/07/20(水) 14:46
ごっちんやめといたほうが・・・
151 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/20(水) 16:57
更新お疲れさまです。 かなりヤバそうですね(汗 次回更新待ってます。
152 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 18:18
カナリ気になります・・・
153 名前:なまっち 投稿日:2005/07/23(土) 02:02

>>150 名無し読者さん
 確かに…
 自分もあそこは2、3回しか見たことがないんですけど…
 これからもヨロシクお願いします

>>151 通りすがりの者さん
 ありがとうございます。
 どうなったか…↓どうぞ〜
 これからもヨロシクお願いします

>>152 名無飼育さん
 気になってください(はぃ
 って、もう2回くらいの更新で一応全部が分かるようになってますので、
 これからもヨロシクお願いします

154 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:05




 2 〜




155 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:07


 夜を23時も過ぎると、さすがに女のコにとって人通りが少ない夜の道は怖い。
 特に最近は余りよくないニュースが多いことも、その一因であろう。

 なるべく夜の道では、ヒトとは出遭いたくないものである。
 かと言って、逆に夜の道でヒトとすれ違うというのもイヤなものであろう。

 それ自体に恐怖を感じてしまうという女のコもいるのであろう。


 ヒトを信用できない世界。


 冷たい大都市、東京の真ん中となるこの辺りは、とくにヒトのココロを奥に閉じ込めてしまう。

 今、まさにその恐怖を味わっている真っ最中であるこの美少女もまたそうだろう。

 足早に掛け抜ける美少女は、誰もが目を見張るくらいにキレイで、清楚なお嬢様といった顔立ちだ。
 そして、その中に自分に対する自信と気高さを十分に感じるコトが出来そうだ。
 プライドは随分と高いであろう。

 しかし、その目は今の自分を取り囲む状況に恐怖を感じているのか、慌しく周りに視線を送っている。

156 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:08


 また、その服装は美少女のキレイな顔立ちとは一変。
 ヒトから視線を集めないかのように、わざと地味な服装をしているように感じられた。

 事実、この美少女は、出てくる前に同居人に言われた、"地味なカッコしていきなょ"の言葉を、
 しっかりと守って出てきたのだ。

 そう、この夜道を足早に歩いているのは、真希の保護者でもある梨華本人であった。

 街灯の多い夜道を歩きながらも、梨華は真希の優しさのこもった忠告に素直に感謝をしていた。

 まさに、自分の服装で、普段よりうんと一目につかなかったからだ。

 実際、いつもなら一度街を歩くと、二桁以上のヒトに声を掛けられるのだが、今日は一桁で済んだのだ。
 そのことから、今の自分は不審者に怯えることはない、と妙な確信を持っている梨華。

 ある意味、とてもポジティブなのかもしれない。
 いや、そう思おうとしているだけなのだろう。
 
157 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:09


 そう、完全には拭えない恐怖を感じているからなのか、気を紛らわせようと鼻歌交じりに歩く梨華。

 手に持っているコンビニの袋を、普段より余計に前後に振りながら。
 中に入っているプリンが1つ、可愛く跳ね続ける。

 夜の街の怖さを感じている梨華のココロのように。

 夜の街の怖さ。

 梨華は、それを人一倍感じている。

 それもそのはず。
 梨華は、生まれてこのかた、この時間まで出歩くことはまずなかった。

 自身のマジメな性格も災いし、中学生の頃は、トモダチと遊ぶ場合でも必ず18時の門限は守り、
 高校生で真希と暮らし始めてからも、真希がいつ帰ってきても大丈夫なように、と、19時前には家に居たのだ。

 そして、大学生となってからも、同様に真希のため、アルバイトは遅くても19時までで、
 家には19時か20時にはいて、真希のために晩御飯の準備をして待っていた。

 そんな梨華であったから、23時のこの時間に、まだ家にいないということは、
 これまで一度もなかったといってもよかった。

 人生の初体験と言ってもよい。

158 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:11

 
「電話しよっかなぁ」


 一瞬浮かぶ同居人の顔。
 しかし、次の瞬間には、もうすでに眠ってしまっていたら悪いし、とばかりにかぶりを振る。


「みきちゃんについて来て貰えば…ょかったかも…」


 今更、先ほどの"家まで送ろっか"と、珍しく梨華へ親切心をみせた美貴の言葉を思い出す。

 今日に限ってか、随分と優しかった美貴。
 
 不思議に思いながらも、梨華も今の愛称の"みきてぃ"ではなく、
 自然と、昔よく呼んでいた愛称である"美貴ちゃん"と"ちゃん"付けで呼んでしまっていたくらいに。

 美貴にあれだけの優しさを見せられると、普通の女のコなら、
 ころっとココロをなびかせられてもおかしくないくらいの優しさだったのだ。

 "キモぃ"と遊んでもよかったが、それで照れて優しさがなくなるのは残念だったから、それは言わずじまい。

159 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:11


「ぁぁ…こわっ」

 と、思わず呟いた瞬間、どきっと心臓が大きく跳ね上がった。
 自分の肩に掛けたバックが揺れたのだ。

 "きゃっ"と小さく悲鳴をあげる梨華。
 そのまま、きっと睨み付けるように振り返る。

 しかし、梨華の目には誰の姿も入ってこなかった。
 そして、依然揺れている、いやバックの中で跳ね回っているモノを感じて、
 次には原因が想像できてしまい、誰もいないのに思わず顔を赤らめる。

 原因は、携帯。
 余りにも単純な理由に、どきどきさせてしまった自分に呆れつつ、バックの中から携帯を取り出すと、
 画面を見た。

 名前には【中澤さん】と出ていた。
 真希のマネージャーである中澤の名前に、一瞬"何かあったのだろうか"と不安がよぎる梨華。


"ごっちんは今、家なのに…"


 そう思いつつも、慌てて携帯に出た。

160 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:12


「もしもし?
 どうしたんですか?」
『あ?イシカワ?』

 中澤の声は、案の定、少々不安が混じった声だった。


 やっぱり…


「ごっちんですかっ?」

 思わず大きく声を出してしまったあとに、はっと口元に手を当てる。
 別に知り合いがそばに居るわけではなかったから、問題があるわけではないのだが、
 日々の習慣から"しまった"と慌ててしまったのだ。

『まー』

 しかし、そんな梨華の慌てぶりを感じた中澤の口ぶりは、一気に普段のものへとなった。
 一気に抜ける力。

『たださっき、ごとぉに電話したら、出なかっただけなんやけど…
 眠っとっただけかな…』

 独り言のように呟くと、一瞬の間を置き、"まだ外なんや?"と聞いてきた中澤。

「ぁ、はい。
 もうすぐ家です」
『遅かったんやなぁ…
 お疲れさん。』
「お疲れ様です。」

 梨華の言葉に"うんうん"と頷くと、"でな"と、早速、自分が電話を掛けてきた本題を切り出してきた中澤。

161 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:13


『ごとぉの休み、水曜まで取れたから』
「水曜までっ!?」


 驚きの余り、思わず大きく声を出してしまった梨華。

 それもそのはず。
 月曜と、火曜には真希のテレビとラジオのレギュラー番組の収録を固めておいてあるのだ。
 それを休みにしてしまうなんて、と。

 確かに梨華は"休みは長ければ長い方がイイ"と言ってはいたのだが。
 本当にここまで長い休みにしてくれるとは、思ってもいなかったのだ。

 さすが中澤の行動力と、説得力なのだろう。

 結局、明日土曜日から、来週の水曜までは真希は休みとなる。
 カノジョの忙しさをみると、なかなか考えられないコトだ。

162 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:13


「ホントにぃぃんですか?」
『ぇぇょ
 ま、週末のラストにはしっかりと元気になってもらわな』

「そぉですね…」

『旅行とか連れて行ったりぃ』
「ぁ、はぃ」

 中澤の言葉に、思わず表情が緩む。

 旅行。

 やはり嬉しい言葉である。
 なかなか真希と一緒に旅行に出かける機会なんてないものだから。

 真希と旅行に行ったことがあるとなると、デビューして次の年の春にあった初ツアーで、
 そのときに北海道の方に一緒に連れて行って貰ったときくらいであった。
 それ以外は、旅行はもちろんのこと、遊びにさえ一緒に行ったことがなかった。

 そう、真希が休みのときでも、梨華が忙しかったりと、スケジュールが合わないのだ。

 真希との外出になると…

 梨華にとって、思い出せないくらいだった。 

163 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:14


『でな、あれ…どうやったん?』

 中澤の言葉には、主語がなかったが、電話を掛けてきた中澤のもう1つの理由を暗に理解した梨華は、
 "ぇぇ"と頷くと、今日の結果報告に入った。 
 
「マスターには全て話してまして…了解は貰えましたし…」
『全て?』

 中澤も、話が早いとばかりに、そのまま会話を続けるも、実際に話された内容が心配なのだろうか、
 少し不安げな声となっていた。

「もちろん"あれ"は言ってないですけど…
 わたしとごっちんの関係を全て話して…」
『そっか…なら今度挨拶にでも行っとこか…』

 少し考え込むように、小さく言葉を出す中澤。

「お願いします。
 で、マスターには、それを話してから本題を…
 ちょっとストレスが溜まりすぎてるから、遊びに連れて来て、友達を作ってあげたいって…カンジで…」

『うん、そやなぁ』

「あと、みんなには名前は出してないですけど…
 "トモダチになって欲しいコがいるの"って話して…
 "ぃぃょ"とは言って貰えました…」
『明日?』

 その内容に少しホッとしたのか、中澤の声もさっきよりは随分の安心したものへとなっていた。

「いちぉぅ…
 でも、最年少のコが1人、熱だしてて、明日いるかどうか分からないんで…
 いなかったら…明後日かも…」
『明後日かぁ…』

164 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:14


 梨華の言葉を聞き、中澤は大げさにため息をついた。
 明らかに何かまずいことがあるのだろう。

「どぉしたんですか?」
「ん…?」

 しばらく考え込んだ中澤は、梨華に対して言っていいのかどうか迷っていたのだろう。
 しかし、数秒後には"仕方がないっか"とばかりに、口を開いた。

『日曜に、病院に連れて行こぉ思って…』
「ぇ…」

 その言葉を聞いた瞬間、思わず言葉を失う。
 そして、次には強い悲しみに襲われる梨華。
 そう、これまでも何度か中澤から聞く言葉なのだが、聞くたびに胸が締め付けられるように、
 辛さを覚えてしまうのだ。

 言っているコトはすぐに分かる。
 精神病院に真希を連れて行くのだ。

 ただ、ただ、やはり実際に言われると辛い。
 真希のことをそのように言われるが。

 中澤の言いたいことも確かに分かるのだが。

165 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:15


 つい数日前だった。

 これまで、家、梨華がそばにいるとき以外に真希の別人格である"真希ちゃん"が出てきたコトはなかったのだが、
 ついに梨華のいない場所で出てしまったのだ。

 ただ、その時は仕事も終わった後で、中澤が車で真希を家まで送っているときだったから、
 周囲の人間にバレルことはなかったのだが。 
 
 その原因は、つい先日発売になったばっかりの真希のシングルのオリコンチャートだった。

 そう、これまで確実に初登場は5位以内を確保していた真希だったが、
 デビューしてから初めて5位を割ってしまったのだ。

 プロモーション費を掛けなかったことや、2週連続の発売ということもあり、
 2枚目は初登場14位という散々たる結果だった。
 1枚目の4位、これまでの5位圏内からの急降下に、あまりにショックを受けてしまったのだ。
 真希のスキなバラード系で、歌っている内に特に愛情のこもった曲となっていただけに、なおさらだった。

 また、"次、頑張ろなぁ"という中澤の言葉にも、少し胸を熱くしてしまったのだろう。

 そのまま泣き出してしまい、さらに、人格が"真希ちゃん"へと変わってしまったのだ。

166 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:15

 
 梨華はその話を聞き、驚きを隠せなかった。
 自分の前ならまだしも、中澤の前で出たことに対して。
 

 さらに、その日まで、ここ10日の間に、自分の前で5度も出てしまっていたという事実にも。
 
 その理由は全然分からなかった。
 ふと梨華が姿を消した後、再び真希の前に戻って来た時には、
 すでに泣いていたりということがたびたびあったのだ。


 そして、中澤の前で6度目となった。

 つまり今、真希のココロはかなり不安定になっている証拠。
 そう、真希のショックを与えた原因はそれだけではなかったのだろう。

167 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:16


 週刊誌に取られてしまったという、トモダチとのツーショット写真を熱愛記事のように発表されてしまった事実。

 自分の精神状態がおかしいというインターネットを騒がしているウワサ。

 引退するかもしれないというインターネットを騒がしているウワサ。

 そんなときに出てしまった、自分のこの世界での"ちから"を判断する材料といってもいい、オリコンでの順位。


 今、真希のココロの中は、かなり不安定であろう。


 しかし、中澤と梨華にとっては、真希の精神状態も心配であったが、それ以上に心配なこともあった。

 それは、中澤の前で出てしまったということ事実から考えても、
 "真希ちゃん"がいつどこで出てもおかしくないと思えたからだ。

168 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:16


 そのことが絡んで、今朝から、梨華は真希と一緒にカノジョの事務所に足を運んでいた。

 主に真希の居ない空間での、中澤との話し合い。
 そして、真希が中心になっての、事務所の上の人たちとの話し合いも。

 ただ、真希の二重人格の性格を知らない事務所の取締役の人との話し合いは、
 主に、週刊誌に載ったという記事についてだった。

 そのことについて、昨日に引き続き真希がいろいろと聞かれていたのだが、本当は熱愛とは程遠い事実なのだ。

 真希が撮られたことを、意識することもなかったくらいに、日常の瞬間を撮られた感覚。
 そんな瞬間。

 そう、職業柄、普通なら恋人と歩いていたりすると、意識したりするから。

169 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:16


 相手のヒトは、真希の高校生の時のクラスメート。
 ほんの1年の高校生活の中で、ただ1人だけと言ってもよいクラス内のトモダチであった。

 そのコは周りにシンユウやトモダチが多かったのだが、真希とも仲がよかったのだ。
 正義感が強かったこともあり、孤立している真希のコトを放っておけなかったのだろう。

 真希が梨華や美貴と一緒にいないときは、できるだけカノジョのそばに居てくれたのだ。

 そのことから、梨華としては、そのトモダチにすごい感謝をしていた。

 ただ、梨華もトモダチと言えばトモダチであったのだが、真希が忙しくない時、放課後、
 4人で一緒に遊んだりしたコトが数度あったぐらいの関係であったため、
 それほど深い付き合いとなったわけではなかった。

 しかし、一応今でも、時々今の自分の環境など、何をしているかといった連絡だけは取っていたのだが。

 そんな梨華や美貴とは違い、真希だけはそのクラスメートの女のコと頻繁に連絡は取っていたのだ。
 今回撮られた写真のように、一ヶ月に数回は一緒に食事に行ったりするくらいに。

170 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:17


 女のコ。 

 そうである。
 女のコなのだ。


 しかし、女のコなら熱愛の記事になるはずもない。


 ただただカノジョの容姿が問題であったのだ。
 カノジョは外国人とのハーフっぽく、キレイな顔立ちをし、さらにショートヘアに軽くウェーブ掛けてからは、
 随分と女性の顔立ちから離れてしまい、一瞬見るだけだと、誰が見ても第一印象はイケメンと思えるくらいの、
 カッコいい女のコなのだ。

 当然のごとく、カノジョは普通の大学生だったため、真希は"一般人の女のコ"と言い張って、
 名前だけは決して言わなかったのだ。

 そのため、事務所としては出版社には"相手は女のコ"とだけ言い、詳しいことには答えなかったため、
 結果、大きな"?"つきの誇張記事として、載せられるそうだ。

171 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:17


 どうみても、一緒に写っている相手のコは美少年のように見えるのだろう。
 出版社も、一度は国民的なアイドルにまで上り詰めた真希の、"いわくのありそうな写真"だったため、
 確認の結果を待たずに、その週の記事に載せる決断をしたのだ。
 
 もしかしたら、"バイ"のコやら、"ビアン"のコやらと書かれているかもしれないし、
 "おなべ"のコとも書かれているかもしれないのだ。
 どのように書いたらよりスキャンダラスに思われるのか、思案した結果だろう。

 ただ、今日の夜には店頭に並び始めるのだが、未だに記事の本当の内容は梨華は知らない。
 真希の熱愛の記事が載るとのことだけだった。

 そのことが、余計に真実を知らないヒトたちにとっては気になる記事となっているのだろう。
 ここ数日で、かなり煽られたカタチで、話題に上がっていたから。

 とにかく記事を売りたい出版社の意図が見えるくらいだった。

172 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:18


 結局そのことから、梨華自身も、当日に事務所の上の人間に厳しく言葉を掛けられることはなかった。
 保護者として、キツク言葉を浴びせられるかと、戦々恐々としていたのだが、
 梨華にとっては拍子抜けといってもよいくらいだった。
 
 途中から、後に控えていた中澤との相談事の方に気を奪われたくらいだったから。


 そして、その後に、中澤と梨華は2人で話し合ったのだ。
 当然真希のこと。

 そう、今日梨華がココに出てきた本当の目的は、中澤との話し合いだったのだ。

 真希の別人格が、中澤の前で出てきてしまったことについての。

 しかし、所詮素人である梨華と中澤にとって専門的な治療法など分かるはずもなく、
 専門医からの治療法なども、今の仕事から身を引いて、長期入院させるというあり得ない要求だったこともあり、
 2人の間では、すぐに却下となっていた。

 そんな中、精神的不安定、ストレスの溜まっている真希にとって、今何が必要なのか、
 ということに話の中心がもっていかれた。


 コドモの頃の辛い記憶。
 今の、忙しい生活。
 これまでの真希の人生。


173 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:18


 そして、それらを考えたあげく、梨華の中に1つの"考え"が浮かんだ。
 "考え"が浮かんだというか、真希に自分がしてあげられる"コト"が浮かんだといってもよかった。

 それは、トモダチ。
 真希にとって今一番必要なのは"トモダチ"ではないのかという結論。

 中学生のころ、虐待をうけ、梨華以外の人間にはココロを開かず、
 ヒトとヒト、同級生との触れあいが極端に少なかった真希。
 もちろん自分を慕ってくれる後輩なんて存在もいなかった。

 昔は、後輩、年下に対して苦手意識があるとも言っていた。


 そして、それはアイドルである今でも同じ。

 回りの人間は、仕事として真希に接している人間のみ。
 みんな真希の存在で生活をしているヒトたち。


 そして、オトナ。


 真希は、高校になると同時に、その環境の中に埋もれてしまったため、トモダチとの会話なんてものもなかった。

 自分よりも随分と年の離れてしまっているヒトとの、仕事の話や、世間話。
 さらに、アイドルという自分の立場から、同じ業界のヒトとの会話も随分と押さえ込んでいた。

174 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:20


 そう、真希には極端にトモダチがいない。

 携帯に入っている電話番号、アドレスでトモダチといえる存在として登録されている人数は、一桁前半。

 梨華、美貴、週刊誌に撮られたクラスメートのトモダチ。
 そして、同じ事務所であり、同じオーディションで準グランプリを獲得し、
 同時期にデビューをしたデュオの女のコが2人。

 合計5人。
 余りにも少なすぎるその人数である。

 常に回りをオトナ、自分を監視している人間に囲まれている真希にとって、
 同級生、もしくは自分を慕ってくれる後輩、そんな存在が現れることにより、
 ココロの持ち方を変えられるのではないのだろうかと梨華は思った。

 それは、今の梨華自身の経験からも。

 アルバイト先にいる後輩の存在は、梨華の意識を随分と変えられたのだ。
 もちろんそれはいい方向に。

 そして、今のれいなの存在も。

175 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:20


 ヒトに甘えられない真希は、梨華にしか甘えることができず、それはそれで受け止めてあげる必要はあるのだが、
 真希の近くに、年下のトモダチができたりしたら、"カッコ悪い姿を見せられない"という風に、
 真希が自分の意識を変えることが出来るのではないのだろうか、と。

 さらに、トモダチと一緒に、色々な場所へ遊びに行ったりすることで、
 ストレスが取れてくれるのではないのだろうか、と。

 だから、真希に必要なのは、保護者である梨華より、トモダチ。
 とくに後輩。
 その後輩の前に立つことにより、自分の意識を変えることができるのならば。


 その結論に至った梨華は、中澤に自分の考えを伝えたのだ。

 すると、中澤は"荒療治やけど…"と顔を曇らすも、しばらく考えた後には笑顔で"ぃぃかもな"と賛同。
 梨華も、中澤の笑顔に自信を持つと、さっそく白羽の矢を立てる人間を数名考えた。

176 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:21


 その時に浮かんだのが、当然のごとくアルバイト先のメンバーだったのだ。

 年齢的な部分。
 カノジョたちの性格も考慮に入れ。

 また、カノジョたちの真希へのキモチ。

 そう、愛やれいなやあさ美は、真希のことが大スキだし、えりやさゆみも真希のことはスキな方で、
 れいなと一緒にコンサートに行ったことがあると話していたし。

 ただ、れいなを紹介するに当たっては、少し罪悪感を感じる部分もあった。
 そう、"あのビデオ"だ。

 真希は、梨華とれいなが"あの"ビデオに一緒に出たという事実を知っていて、
 それを面白くないとも思っていたのだ。

 しかし、それ以上に、れいなたち、あさ美や愛と出会うことで、
 それ以上のモノを手に入れられるコトが出来ると考えると、
 少し真希にはガマンをしてもらうしかないと感じていた梨華だった。


 ほん少し、れいなとの最初の出会いをガマンするだけで…


177 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:21


 また、他の心配要因としては、あさ美。
 余りにも"スキ"なキモチが先行してしまわないかが、梨華にとって少し気がかりだったのだ。

 とはいえ、やはりあさ美を外すなんて考えは当然のごとく及びもしなかったし、
 あさ美ほどのストレートな感情を受けると、真希だって随分と変わると思うのだ。

 他のコだってしかり。

 そう、優しい性格的な点も考慮にいれると、このコたちは最適な人選のように思えた梨華は、
 その日の内に行動に移した。

 そして、当然のごとくカノジョたちに肯定の返事を受け取ったのだ。

 約束は明日。
 もし、全員揃わないようであれば明後日なのだが…

 現実を思い出す。

「わかりました…」

 中澤の言葉に声を沈ませながらも返事をした梨華は、その後に、具体的な日が決まれば、
 すぐにメールで連絡を入れるとのことだけ話し、携帯を切った。

 歩みが随分と遅まってしまった。
 さらに、気の持ちようなのか、普段見慣れた道が随分と小さく見えてしまっていた。



 〜☆



178 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:22


 深く考え込んでいた梨華が、いつの間にか自分のマンションの前に到着していたのは、それから数分後だった。


 いつもより輝きの少ないフロアー
 いつもより随分と遅く感じるエレベータ


 それらに出迎えられ、鍵が頑丈につけられた無機質な扉にも出迎えられた。


 しかし、ここまでくると、家の中には真希がいることもあり、自然と表情が柔らかいものへ、
 普段のものへとなってきた梨華。
 梨華は今日まる一日離れた我が家に久しぶり足を踏み入れた。

 随分と久しぶりに感じる同居人の笑顔を見るために…

 自分も笑顔で。

 ところが、入ってすぐに梨華の顔色が変わった。
 泣き声だ。


 真希の鳴き声。


179 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:23


 自然と足を速める。
 自分の部屋を通りすぎると、どたばたとダイニングキッチンへの扉を一気に開け放った。


「ごっちんっ!」


 顔面蒼白の梨華の目に入ってきたのは、パソコンの前で背中を丸め、目から零れ落ちている涙を必死で拭って、
 そして、コドモのように泣き声をあげている真希の姿だった。

 その姿を見止めると、梨華は慌てて真希に駆け寄り、しっかりと抱きしめた。


「まきちゃん…」

「ままぁ…?」


 梨華のコトバに、真希は梨華の背中に手を回すと、胸に顔を埋め、ぎゅっと抱きしめた。
 まるでママに抱きつく小さな小さな女のコのように。

 声をあげ、自分の胸を涙で濡らす自分のコドモをあやす。

 しっかりと…


180 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:23


 ひとしきり抱きしめてあげると、パソコンについた電源に気付いた梨華。
 それに気がつくと、真希の頭を左手で抱え、撫でてあげながら、
 右手でマウスを少し動かし、スクリーンセーバーを解いた。

 すると、パソコンの液晶の大きな画面に、所狭しと数多く開かれたウィンドウが映し出されていた。
 後ろに張られていた真希の壁紙が見えないくらいに。

 30個は開かれてしまっているウィンドウ。
 幾重にも折り重なった緑色のウィンドウ。

 驚きのあまり、目を見開く梨華。
 そして、その中、数枚の開かれた画像を見て愕然とした。

 カノジョだ。

 吉澤ひとみ。

 真希の高校時代唯一のクラスメートであり、トモダチであるカノジョ。
 そう、一緒に写真に撮られてしまった女のコだ。

 週刊誌では目にラインが入れられているはずだが、それを見て気が付いたカノジョの身近な人間が載せたのだろう。
 出てはいけないはずのカノジョの画像を。

181 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:23


 激しい憤りを感じる梨華。
 到底許されるコトではないのに。


 そして、次の瞬間には真希に対して強い罪悪感に襲われていた。

 どうして、"ここ"をブックマークに残してしまっていたのか、と。
 真希の目につくところに。

 ルールのない"ここ"を。

 ひとみの裸にコラージュされた画像。
 ひとみのコドモの頃の画像。
 今のひとみの画像。

 そして、ひとみのコトを中傷するような言葉も。

182 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:24


 また、それ以外にも真希自身を中傷するような言葉の掛かれたトコロが開かれていた。

 見てしまっていた。
 自分が裸になってしまっている画像も見てしまった。

 "SEX"の文字がやたらと乱れていた。
 "もう終わり"と書かれていた。
 "キモイ"と書かれていた。

 今回のシングルの批判が厳しくされていた。
 自分の"存在価値"を否定するような言葉を見てしまった。

 自分の"存在価値"を否定された。

 そう、ところどころに書かれてあった真希を中傷する部分だけが、真希のココロの中、
 幼いキモチの隙間に強く入り込んでしまったのだろう。

 そして、トモダチの卑猥な画像。

183 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:24


 梨華は目に涙を浮かべながら、それらのウィンドウを全て閉じると、ブックマークから"削除"をした。
 そして、ココロのキズを癒すように、真希をしっかりと抱きしめた。

 頭に手を回し。
 自分のコドモを。


 今日の見たコトを忘れて欲しい一心に…
 真希の記憶から消えて欲しい一心に…


 タイセツなヒトを抱きしめた。





184 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:24


 〜 ☆



185 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:25


 〜 ☆



186 名前:2 〜 投稿日:2005/07/23(土) 02:25


 〜 ☆



187 名前:みよっち 投稿日:2005/07/23(土) 18:30
ぁあ〜ごっちん。とうとう見てしまったか・・・
とても切ないですvv(泣)これからも頑張って下さい。
188 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/25(月) 20:14
 更新お疲れさまです。 やっぱりなってしまいましたか(・・;) かなり複雑な心境です。 次回更新待ってます。              >187サン なるべくメール欄にsageと書いた方が良いですよ。 見た方が「更新されてる」と見間違える事があるので。
189 名前:なまっち 投稿日:2005/07/26(火) 00:54

>>187みよっちさん
 れすありがとうございます^^
 ちょっとごっちんには辛いことばっかりさせちゃってますが…(ぅ〜ん…
 はい。これからも頑張りますんで(ありがとうございます^^

 あ…188の通りすがりの者さんが言われてますが…
 作者として、自分は全然気にしない方なんですが、気にされる作者さまや、
 言われましたとおり読者さまもおられますので…
 っていうか、自分が一番気になるのは、通りすがりの者さんのように
 優しく言わずに、キツイ言葉で言うかたが結構多いので、その時に結構ずきっと…
 これからはその点を気にして(?)れすをがんがん頂ければ大変うれしいです^^
 他の作者のかたも。
 >>188通りすがりの者さん、優しく言って頂けましてありがとうございます^^

>>188 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 複雑ですか…すみません申し訳ないです…
 書くか迷ってたのですが…
 とくに具体的にごっちんがどんな"もの"を見たのかは
 最初は書いてなかったのですが、やっぱり昔から思ってましたので…

 こんな作品ですが、これからも、ヨロシクお願いします。

190 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/07/26(火) 00:55




 3 〜





191 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 00:57


 ヌクモリがスキな真希は、朝の布団に埋もれているのがスキだ。
 特に冬の間は、それが顕著に出てしまい、起こしに来てくれた梨華を困らせてしまうくらいだった。

 まだまだ春。
 当分の間は、梨華を困らせてしまう季節が続きそうだ。

 そして、今日も。
 ヌクモリに包まれながら目が覚めた真希。
 
 しかし、今日は、日々の"それ"とは少々違った。
 普段よりも、うんと心地よいヌクモリ。
 まるでヒトのヌクモリのように。
 暖かいヌクモリに真希は覆われている。


 そう、梨華のように…


「ぁ…」


 目覚めた真希の目に入ってきたのは、普段見慣れた梨華のパジャマだった。
 真希は梨華に抱きしめられながら、眠りについていたのだ。

192 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 00:58


 起きて"なるほど…"と納得の真希。

 目の前にあるのは梨華の胸。
 そして、自分の頭と背中を抱きしめるように、優しく包んでくれる梨華のアタタカイ手。

 視線をあげると、梨華が不安げな表情を浮かべつつも、
 しっかりと真希のことを守るかのように眠りについていた。

 真希が目覚めたことには、気が付いていないようだった。
 かすかに聞こえる寝息。

 その梨華の寝息と寝顔に微笑む真希。

 いつもいつもお母さんぶっているが、眠りについているときはひよこみたいに可愛らしいのだ。
 本人は鳥類が大嫌いだから、あまり言って欲しくないらしいが。

 そんな梨華は、時々真希と一緒に眠ってくれる。

 しかし、眠ってくれるとはいっても、真希は一緒に寝ようと言った記憶は全くない。
 いつの間にか、真希がリビングなどでそのまま眠ってしまったときに多いのだろうか。

 翌朝、気が付けば梨華に抱きしめられていたことが多々。

193 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 00:58


 昨日もそうだ。
 記憶がないということは、リビングでテレビを見ながらうたた寝をしているうちに、
 そのまま熟睡してしまったのだろう。

 そして、帰ってきた梨華が、部屋まで連れてきてくれたのだろう。

 初めの頃は不思議に思っていたのだが、なんだか、梨華にそのことを言ってしまうと、
 これからは一緒に眠ってくれないような気もしてしまうため、一度も言ったことはなかった。

 そう、こっちからからかうと、いつもの保護者ぶりがどこへやら、顔を真っ赤にして"もぉ"と怒ったりするのだ。

 だから、"一緒に寝たいんだぁ?"と冗談でも言ってもいいのだが、それを言ってしまうと、
 もう二度と一緒に眠ってくれないような気もしてしまい、そんな冗談は言えなかった真希。


 もっともっと一緒に寝たいから…


 今みたく。


194 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 00:59

 
 自分の真上にある梨華の寝顔を、しばらく眺める真希。


「やっぱかゎぃぃゃ」


 思わず呟く。

 と、次の瞬間に、少々小さいながらも、自分のおなかがぐぅと鳴るのが聞えてきた。
 梨華に聞こえやしないかと心配顔になるも、幸いカノジョは目が覚める様子はなかった。

 ほっとなると、そういえば…と思い出す。
 昨日の晩は、早めに食べた以来何かおやつ的な夜食を食べた記憶がなかったのだ。
 普段より随分とおなかが減ってしまった感覚を覚える。


「へった…」


 小さく呟くと、名残惜しそうに梨華の手をどけ、起き上がった。
 そして、再び梨華に布団を掛けなおしてあげると立ち上がる。

195 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 00:59


 カラダの節々がミシミシと鳴るような錯覚を覚える真希。
 うんとカラダを伸ばす。


「はぁ…」


 満足すると、リビングへ続く方のドアを、音のしないように開け、そっと自分の部屋を出た。
 外を見やるも、まだまだ薄暗い時間。

 ダイニングへ入ると、明かりも灯し、壁に掛けてある時計を見やった。
 時間はまだ6時を過ぎたばっかりだった。


「まだ6時かぁ…」


 思わず呟いてしまった真希は、もう一眠りしようかなぁと思うものの、結構しゃんと目が覚めてしまったようだ。
 すぐに眠気より食い気とばかりに、冷蔵庫の前に立ち、扉を開けた。

 少々冷たい風が真希のほほに当たる。


「なにかあるっかなぁ」


 と、眺めるも、一目見て今すぐに食べれるようなものが何もないことに気が付いてしまった真希。
 少しでも調理しないといけないものばっかりだった。
 また、パンはあるものの、食パン。

196 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 00:59


 大げさにため息をつくと、がくっと首を前に倒す。


「なんもないゃ」


 しかし、そんな真希の目に、1つのプリンの甘そうな姿が飛び込んできた。
 上に乗った白いクリームに、底のチョコ色のキャラメルが誘惑の色を見せる。


「ぉ…」


 おそらく、いや確実に梨華のものだろう。
 そう、自分に買った記憶がなければ、確実に梨華のもの。


「ぉぃしそぉ」


 そう思った次の瞬間には、もうすでに行動に移す。

 そのまま食べてもいいかなぁと思った真希だったが、やはり食べモノの恨みというものは大きい。
 梨華だって普通の女のコなのだ。
 この点だけはいくら真希を自分のコドモのように思ってても、許されないことだろう。

197 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:00


 再び真希の部屋へ。
 まだ眠っている梨華に一声掛けに向かった。
 扉は一気に開け放ってもよかったのだが、そこは律儀に起こさないように開ける。

 少々おかしな事だが、やはり無意識の行動となるのだろう。


「りぃかぁちゃん」


 甘い声を出し、すぐ梨華の隣に膝立ちになると、梨華の柔らかい髪の毛に手串を通す。
 そっと撫ぜてあげると、そのまま柔らかいほっぺをなぞる。


「ねぇ…梨華ちゃん?」


 それでも目が覚めない梨華。
 
 隣で眠っているときには、守ってくれているように感じられた梨華の表情も、
 こうやって起きて上から見ると、やはり無防備に眠るただのカワイイ女のコ。

 つんつんとほっぺをツツクと、ほどよい弾力感に弾かれる。


「ゃわらかぃ」


 思わず呟いてしまった真希。

198 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:00

 
 と、次の瞬間、梨華のすぐそばから、ぶーんとモーターの重低音が聞えてきた。
 
 一瞬驚いた真希がそっちの方に視線をやると、梨華の頭下においてあった携帯が、
 少々大きく音を立て畳の上を跳ねているのが目に入ってきた。


「ぁ…」


 数秒後には、それも止まる。
 メールであろう。
 背面液晶になにやら文字がスクロールされていた。


「ふーん…」


 まだ薄暗い部屋の中、その光を惹かれるように見つめ続ける真希。
 少し気になってしまったのだ。

 液晶の光が消えると、余計に気になってしまう。

 しかし、さすがにヒトのメールを見るのは気が引ける。

 でも…こんなに朝早くに来るメールなんて…

 頭を抱え込む真希。


「ぅぅ…」


 なんとも言えない葛藤に悩んでしまっていたが、数秒後には"ぃっか"と、
 妙な声を出しつつも、自然と携帯に手を伸ばしていた。
 
 誘惑に負けたかのように、その瞳にはアヤシイ光を帯びている。

199 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:01


 しかし、携帯に指先が触れた瞬間、はっと何かを思い出したかのように、手を引っ込めた。


 そういえば…


 ふと不思議そうにそう呟くと、過去何度もこのようなことをしていた記憶が曖昧にだが、浮かんできた。
 しかし、そのときに、何を思い、その後にどのように行動したかといったコトは、全く覚えていなかったのだ。

 まるで、デジャヴのよう。


「ま、いっか」


 でも、やはり目の前のこの誘惑には簡単に負けたのか、さっきの疑問など適当にあしらうと、
 再び携帯に手を伸ばした。
 そして、背面にあるボタンを1つ押す。

 すると、再び背面液晶に光が帯びた。
 続いて"新着メールあり"と表示が映し出されているのが、真希の目に入ってきた。

 そのまま何かボタンを押すだけで、内容が読めることを普段の梨華の行動を見ていた真希は知っていたのだが、
 はやるキモチを抑えて、折りたたみ式の携帯を開いた。


"新着メールあり"


 表示された画面。

200 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:01


 しかし、その背景に目が行った瞬間に、真希の頭の中が真っ白になった。
 胸に痛みが走る。
 ぐっと締め付けられる心臓。
 なにも考えられない瞬間とはまさに今と言ってもイイのかもれしない。

 そして、次の瞬間には頭痛が襲ってきた。

 頭に針を刺すような痛みがじんじんと覆われる。


"ぃたぃ"


 思わず目を瞑りそうになった真希だったが、しかし、それは出来なかった。
 なぜだか分からなかったが、目を動かせないと言うのが正解だろう。

 背けたいのに出来ない。

 梨華と1人の美少女とのツーショットの待ち受け画面から背けたいのに…
 梨華の自分の娘を見守るかのように優しげな瞳。
 そして、緊張はしているものの、嬉しさの溢れている美少女の表情。

201 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:02


 会った事はない美少女。
 でも、確実に知っている。


"れいな"


 名前は知っている女のコ。
 梨華のコトを一目惚れしたといってもいいくらいの、少女。

 胸が熱くなる。
 そして、次第に意識が飛びそうになってきた真希。
 痛みをこらえて、携帯を閉じる。
 落とす。


"ままが…どっか…いっちゃう…"


 ぃたぃ…


 次第に遠のく意識。
 胸が熱くなる。
 指先でこめかみを押さえる。

202 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:02


「ごっちん…」


 と、その時、真希はふっと意識を取り戻した。
 梨華に呼ばれる声によって。


「ねぇっ!」


 ぐいっと肩を揺すられる。
 モヤの掛かっていた視界に、青ざめた顔色をした梨華が微かに映っていた。


「ごっちんっ!」


 もう一度揺すられると、さっきまでのぼやけていた梨華が、今度はしっかりした輪郭をかたどっていた。
 真希の視界にしっかりと見止めると、梨華が随分と青ざめていることに気付き、
 少し笑ってしまいそうになった真希。

 ほっぺが緩む。

 すると、そんな真希の笑顔にほっとしたのか、梨華も表情を緩めると、"ぉはょ"と挨拶をした。

203 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:03


「はょ」
 

 そう笑顔で朝のあいさつを済ませた真希に、さっきまでの不思議な痛みはスッと消えていた。
 そして、いつものようにココロに温かみが帯びる。


「おなか、すいた?」
「うん」


 少しクチビルをつき出し、おなかを押さえるフリをする真希。
 そして、もともとの目的を申し訳なさそうに口にした。


「ぷりん」


 真希の言葉に、一瞬不思議そうな表情になった梨華は、しっかりと意味を理解すると、
 笑顔を浮かべ、"あれ、もともとごっちんのだょ"と。


「わたし、昨日のうちに食べたから…ぃぃょ」

「そなの?」
「ぅん」


 梨華は頷くとほっぺを緩め、すぐ枕元に落ちていた携帯を拾いながら立ち上がった。


「じゃ、朝ごはんの用意するね」
「ぅん。ぁりがと」


 梨華の後ろをついて歩く。

204 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:03


 あれ…


 梨華が携帯を拾ったとき、胸に一瞬だけ痛みが走った真希。
 だが、その理由を考えようとしたが、それを思い出すことは出来なかった。


 そういえば…


 歩きながら携帯の小窓でざっと内容だけ確かめている梨華の後姿。


 同じようにごとぉも携帯を見ていたような気がしたのに…
 でも…


 そのように思うのもそのはず。
 真希自身、自分の携帯はキッチンテーブルに置いてあったはずで、
 今日は一度も手に取っていないという風に記憶が残っていたから。
 
 しかし、"気がしていた"だけなのだと、さして気にもしないようにした。
 もう忘れる。

205 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:04

 
 すると、梨華が何かを思い出したかのように"そだそだ"と声を出すと、歩きながら斜め後ろを見て、
 真希に話しかけてきた。


「今日、ドコか行くの?」


 その言葉に、考え込んでいた真希は一瞬虚をつかれた表情になるも、
 しっかりその意味を理解をすると、少し考える。

 だが、それは一瞬だけ。
 すぐに思い出した。


「なんも決めてないゃ」


 真希のふにゃとした表情に、梨華は笑顔を浮かべ、"じゃ"とカラダを止め、振り返った。
 そして人差し指をびしっと立てると、"わたしのバイト先に遊びに行こぅ"とにっこり微笑んだ。

 時刻はまだ、6時半前。
 朝日も昇っていない時間だけど、2人の充実するであろう1日の始まり。




206 名前:3 〜 投稿日:2005/07/26(火) 01:04


 〜 ☆



207 名前:なまっち 投稿日:2005/07/26(火) 01:06

ごめんなさい。
完全に自分の頭の中での日付を勘違いしている部分がありました。
今回のお話は4月1日(金)のお話なので、石川さんが中澤さんと電話で話していたときの

161>> 結局、明日土曜日から、来週の水曜までは真希は休みとなる。
161>> カノジョの忙しさをみると、なかなか考えられないコトだ。

の部分は"明日金曜から"となります。

164>> 『日曜に、病院に連れて行こぉ思って…』

の部分は"土曜に"となります。

自分の中で次の日のこのお話は4月1日("土")だとうっかり勘違いしておりました。
失礼しました。


208 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/07/28(木) 13:40
更新お疲れさまです。 ご指摘ありがとうございます。 いよいよ作戦開始ですね。 皆さんの反応が気になりますが、日付が(ry 次回更新待ってます。 そんな(汗       作者様からお礼なんて自分には勿体無いお言葉 自分も最初はそうでしたから、気になっただけなので言っただけですよ(汗
209 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 22:31
お、作戦開始ですか!楽しみに待ってますよぉ〜
210 名前:なまっち 投稿日:2005/07/30(土) 02:03
夏休みなのに手が全然進まない…(がぁん

>>208 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 ぃょぃょ(?)ですが…実はまだだったり…(わら
 日付は結構大事なので、しっかりと訂正させていただきました(にがわら
 これからもヨロシクお願いします^^

>>209 名無飼育さん
 ありがとうございます^^
 作戦開始…ってほどではありませんが(にがわら
 やっと本題に入ってきたかなぁってカンジです^^
 ので、これからもヨロシクお願いします^^
211 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/07/30(土) 02:03




 4 〜




212 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:05


 ヒトの朝というのは不思議なものである。

 機嫌がイイと目覚めもよく、すぐにでも起き上がり、窓をあけ新鮮な空気でも吸い込みたくなるし、
 不機嫌だとそのまま再び布団の中に逆戻りとなり、何も考えずにオネムの世界へと旅立つのだろう。

 まさに今のこの少女は前者。

 一緒に同じベッドで眠っていた美少女のシアワセそうな寝顔を簡単に壊してしまうくらいの勢いで起き上がると、
 カーテンを一気に開け放った。

 本人の気にしている癖っ毛も、カノジョの今の心情のように、元気よくあっちこっちに飛び跳ねている。
 普段なら憂鬱になる自分の"クセ"なのに、それさえ気にならないくらいの、ご機嫌な朝。

 もうずっとシンユウの部屋に置きっ放しになっているピンクのパジャマに身を包んでいる美少女。

 シンユウの部屋の壁に貼られていた"愛しの女性"の姿を見止めると、
 ほっぺを赤く染め、シアワセそうに笑顔を浮かべた。

213 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:06


「あいちゃんっ!朝だよっ!」

 窓の前で小さい声ながらハイテンションに、今だベッドで眠る美少女に呼びかける。

 しかし、呼びかけられた美少女は、まだまだ眠り足りないのか、枕元の時計で時間を見ると、
 ハイテンションの美少女に飛ばされた布団を再び被りなおし、
 "あさ美ちゃん…はゃぃ"とまた眠りの世界へと入っていってしまった。

 そう、このハイテンションな美少女はあさ美こと、紺野あさ美。
 昨日の落ち込みようはどこへやら、今はとてもご機嫌に、両手を腰にあて、愛の前で仁王立ち。

 そして、再び眠りについてしまったシンユウである愛の様子に、
 呆れ顔で小さくため息をつくと、窓の外に視線を送った。

 昨日とは明らかに違う今の景色。

214 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:06


 昨日の朝は、カーテンすら開けるのが面倒だったくらいだ。
 母親がカーテンを開けるのを"開けないで"と声を荒げてしまったくらいだから。

 そんな昨日のことを思うと、少々恥ずかしささえ覚えてしまう。
 それと同時に、単純な自分には、呆れてしまっていた。

 これほど、あのヒトのことがスキだなんて。

 あのヒトの噂話が随分と誇張されていたことが分かって。
 週刊誌の記事の相手が男じゃなかったことが分かって。
 週刊誌とはいえ、女のヒトと付き合っているかのように書かれたコトによって。

 それだけで、自分のココロの中には"晴れの日"と"雨の日"の両極端な感情を生んでしまったのだから。
 

「単純だなぁ」


 おかしくて笑ってしまいそうだった。

215 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:07




 昨晩、梨華たちアルバイト先のシンユウと一緒に晩御飯を食べた帰りに、
 "後藤真希"の記事が載っているであろう週刊誌を見るため、近所のコンビニに寄った2人。

 あさ美は寄ることすらイヤだったのだが、愛が"一応…イシカワさんの言葉もあるし…どうしても気になるから"と。
 それに、何かお菓子を奢るからとの言葉に、しぶしぶ一緒に立ち寄ったのだ。

 実際にあさ美は中に入って、1人我関せずとばかりにお菓子コーナーに直行した。

 ところが、数分後には愛の明るい声に呼ばれたのだ。

 そして、愛が"違ぅやん"と嬉しそうに"あるページ"を指差し、差し出す週刊誌を恐る恐る受け取ったあさ美。
 数分後にはほっぺを随分と緩めてしまっていた。

216 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:08


 そう、実際の中身の記事とは、あさ美が想像していたものはかけ離れたものだったのだ。

 表紙からして【?】で紹介され、中身はほとんど【?】のオンパレードといってもよかった。

 事実、熱愛発覚といった記事ではなく、写真を撮った記者の主観で書かれた記事は、
 ウワサを信じて張り込んでいたところ、みごとにその現場をキャッチしたという自慢話から始まり、
 記者自身が見た第一印象は、相手は明らかにイケメンの少年であったと、
 そのときの"後藤真希"の楽しそうに腕を組む様子が語られるといったものだった。
 
 そして、一緒に写っている写真。
 キャスケットを目深にかぶっていはいるものの、明らかに"後藤真希"と分かる美少女と、
 目には黒いラインが引かれているものの、ショートに軽くウェーブの掛かった相手が腕を組んで写っていた写真。

 一瞬見るだけだと、確実に美少年が想像できるその相手。
 記者本人も、事務所に問いかけるまでは絶対に男だと信じて疑わなかったと書いていた。

217 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:08


 そして、その次には相手の女のコの、男のコのような容姿の紹介が念入りにされていた。

 そう、相手が女のコという事実より、そのコの容姿が明らかに男のコであることに話の中心がおかれ、
 さらに、昔、雑誌で話した"後藤真希"の好みのタイプが中世的なコという事実から、"想像"と限定をして、
 そのコはバイではないかということを話し、真希の交際相手ではないかとの、
 なんとも無理のある記事へとなっていたのだ。

 もちろんトップ記事にはならずじまいだったということは言うまでもない。

 結局は、熱愛記事ではなかったのだ。

 ただ、"深夜に堂々とデート!?"と表紙に書かれていたから、これまでネットを騒がさせていた記事は、
 実際にはウソではなかったことになるのだが。

 それでも、おそらく煽るだけ煽ったあげくの記事となったのだろう。

218 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:08


 読み終えて笑っていた愛だったが、あさ美にしてはむしろ嬉しいといってもいい記事に思えていた。

 たとえ容姿が少年ぽくっても。

 そう、相手が女のコであるという事実と、2人がそんな記事を書かれるような様子をしていたという事実に、
 嬉しさを感じてしまったのだ。

 自分が"そう"だから。

 そのことから、これまで以上に"後藤真希"のことに親近感を感じていたあさ美は、
 思わず雑誌を手にレジに並んでしまったくらいにご機嫌になっていた。

 愛には"ライバルだょ"と冗談を言われ、笑われたのだが、
 "勝つょ"と返せるようになっていたくらいに軽くなったココロ。

 それは、今朝になってもまったく衰えないキモチ。

 もちろん、そんなことより、これまで騒がせていたネットのウワサが、
 ほとんどウソだったという事実の方が嬉しかったことは言うまでもないのだが。

219 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:09


 それは愛も同じ。

 実際、熱愛の相手が男であったのではなく、ただの友達であったことから、事務所が強引に別れさせようとして、
 そこから真希がノイローゼになって通院しているというウワサまでウソになるから。

 ほとんどがガセネタとなり、唯一真実だった週末の公演の中止のウワサだって、
 本当にインフルエンザという可能性が随分と高くなったのだ。

 そんなことから、歌えなくなって"引退"の話だってガセネタだったこととなる。

 "やっぱり、インターネットは信じなくていい話が多いね"というのが2人の結論だった。


 ヒトの想像の産物。
 ヒトの頭の中。
 現実ではない、機械の中で行われている夢。
 

 あさ美も愛も、これから"あそこ"は見ないであろう。

 帰り道にその話をした2人は、随分とテンションが高くなっていたのは言うまでもない。
 普段の自分からはかけ離れたくらいに騒ぎすぎてしまい、今思うと恥ずかしささえ感じてしまうくらいに。

220 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:10




 あさ美は、窓を少し開けると、テーブルの上に置かれた携帯を手に取った。
 昨晩のれいなとのメールのやり取りで、電池の残量が随分と減ってしまっている携帯。

 新たに一通着ているメールに1つ目を通すと"へぇ"と一声もらし、その内容に胸を躍らすと、
 軽く返信だけをした。

 しかし、その間に残り残量が1本になってしまっていた。

「ぁ〜ぁ」

 大抵は充電器などは忘れずに持ってくるものなのだが、愛の家のお泊りが決定したのが突然だったため、
 持ってこなかったのだ。

 普段ならもうそれだけで今日一日憂鬱になってしまうのだが、やはり今のココロのゆとりとは不思議なもの。
 "ま、いっか"とばかりに簡単に割り切れてしまうのだし。

「今日は使えないかなぁ…」

 そう呟くと、携帯の電源を切ったあさ美。
 日々のあさ美からは想像すらできない行動だが、これもまたココロの持ち様なのだろう。

 自分のバックに携帯をしまうと、愛の被っている布団をぐいっと剥ぎ、そのまま洗面所へ。

「ぃゃぁ」

 窓を開けてしまったため、随分と冷えてしまっている室内の空気に襲われ、ぎゅっと丸まった愛。

 小動物のように縮こまってしまった愛の姿を見て、笑顔を浮かべ"朝だょ"と一声掛ける。

221 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:11


 そのまま朝の準備を始める。
 洗顔や歯磨き、いつもより念入りにアイロン。
 前髪のストレート具合に満足すると、最後に毛先部分に軽めにウェーブをかけ"ょしっ"と小さく声を出す。
 ふんわり感がタイセツなのだ。

「カンペキ…かな…?」

 少々自信はないが、とにかく完了。
 気分がイイ日は、それほど毛先の乱れも気にならない。

 そして、キッチンへ。
 
 これまたまるで我が家のように、勝手知ったる様子にグラスを2つ持ち出し、
 零れないように、と注意しながらその中に豆乳を入れ始めた。

 それを冷蔵庫に戻すと、そのついでにと、昨日コンビニで買ってあった菓子パンを取り出した。
 さらに、ウインナーを取り出すとレンジでチンし、野菜を適当にちぎり、一緒にお皿に並べる。
 フレーク類もお皿に入れる。

 軽く準備を終えると、再び愛の元へと戻った。

「そろそろ起きないとダメだょ」

 まるでお姉さんのようなあさ美の言葉に、愛は"ぅん"と頷く。

222 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:11


 年齢では愛の方が年上になるのだが、普段の立場だと対等、もしくはあさ美の落ち着いた雰囲気から、
 コドモのように無邪気な話し方をする愛の方が年下に見えてしまうのだ。

 現に今も。

 あさ美に"ぉふとん"と手だけ差し伸べる。

「もぉ」

 こんな姿を見ると、アルバイト先に昨日まで一度も遅刻をしなかったというのが、信じられないのだが、
 やはり、今はあさ美がいるからなのだろう。

 あさ美がお泊りをする日は、大抵愛は目覚ましを掛けずに眠る。

 シンユウのことを随分と信用していることもあるのだろうが、"甘え"もあるのだろう。

 それに、つい一ヶ月前まで母親と一緒に暮らしていたこともあり、今が一番寂しい時期なのかもしれない。
 ある意味、あさ美が愛のお姉さん代わりで、愛の様々なわがままを聞いているのだろう。

 "年下のあさ美に"とは、おかしな話であるのだが。

223 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:11


「遅刻するょ」
「ぅ゙…」

 一番効果のある言葉。

 昨日を思い出したのか、しぶしぶながら起き上がった愛は、ベッドの上であぐらをかくと、
 眠そうに片手で目を擦りつつ、もう一方の手を使い、少々寝癖のついてしまった髪の毛を、
 手串で研いだ。

 そして、可愛くあくびを1つする。

 そんな無邪気なコドモのような仕草に、あさ美は母親のようなキモチで眺める。
 すると、あさ美の視線に気付いたのか、愛は小さくクチビルを突き出した。

「ねむぃ…」

 まるであさ美のせいとも言わんばかりの視線で投げかける愛の主張に、あさ美は舌を1つぺろっと出す。

「申し訳ありませんねぇ」

224 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:12


 ハイテンションになってしまったあさ美は、結局深夜3時までDVDを見続けたのだ。
 しかも、愛の主張していた"タカラヅカ"のDVDではなく、
 あさ美の主張が通され、当然のごとく"後藤真希"のライブDVD。

 これが愛の主張が通されていたら、逆の立場になっていたものだろう。

 とは言っても、愛だってスキなのだから、結局はあさ美に対してわがままを言っているだけなのだ。

「また今度ね」

 あさ美の言葉にしぶしぶ頷くと、枕元の携帯を手に取った。
 その仕草にあさ美は何かを思い出したかのように"ぁ"と小さく声をあげると、"そだそだ"と手をたたいた。

「イシカワさんから来てるでしょ?」
「ん…?
 そなんだ?」

「ぅん」

 時間は7時前だが、もうすでにメールが来ていることに驚いたのだろう。
 まだまだ眠気の残る愛が、今日一番と言ってイイくらいに瞳を大きくすると、折りたたみ式の携帯を開いた。

225 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:12


「今日連れて来るから、"早めに集合!"だってさっ」
「…」

 実際の内容を見る前に、言われたことに不服そうな表情を浮かべた愛。

「楽しみだね」

 そのままスルーをされたことに、さらにむっとした表情を浮かべる愛だったが、
 もう次には仕方がないとばかりに"そ、だね"と素直に頷いていた。


 事実そうなのだ。

 ココ数日で、アルバイト先で後輩が3人も出来たのだが、これがなかなかイイものだった。
 
 結果的に愛にとって随分と満足できる可愛いコが入ってきてくれて、性格的にも合いそうだし、
 話も合いそうだったし、容姿も愛ごのみでよかったのだ。

 中学生ということに初めは少々心配はしていたのだが、意外なほどしっかりし、
 結構人見知りせずに話しかけてくれ、アルバイト関係の用事以外でも随分とメールをくれたりと、
 これから先、さらに懐いてくれそうな予感さえ覚えるくらいに。

226 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:13


 そのことから、今日新たに梨華が連れて来る女のコにも、結構期待感が増しているのだ。

 いうなれば、れいなたち3人も梨華が連れてきたと言ってもイイような女のコであるからして、
 今日、本格的に梨華自身が連れて来るコとなると、尚更期待感が増してくれる。

「朝からなんゃぁ」

 先に内容を言われたため、愛はもう見ることは諦めると、そのまま携帯を閉じ、あさ美に尋ねた。

「そ。
 気合いれなきゃ」
「そ…ゃね…?」

 本当に気合を入れているあさ美を見て、少し笑ってしまいそうになった愛だったが、時計を見ると一変。
 その表情が寝起きのほんわかしたシアワセそうなものから、一気に凍りつく。

 そして、愛の特徴的な誰にも羨ましがられる大きな瞳が、さらに大きくなる。

「もう時間ゃんっ」

227 名前:4 〜 投稿日:2005/07/30(土) 02:13


 そうなのだ。
 なんだかんだしている内に、普段の習慣から分かってしまう、愛が起きてから用意し、
 朝ごはんを食べるといったコトをしている場合の遅刻ぎりぎりの時間、
 その時間となってしまっていたのだ。

「そだょ」

 あさ美ののんびりした口調に"もぉ起こしてょ"と声を荒げる愛だったが、実際には起こされているため、
 "起こしたょ"というあさ美の言葉に、"ごめん"と素直に謝ると、朝の準備を急いだ。

 ただ、昨日とは違い今日はあさ美がいる。

 愛が準備をしている間も、何かと用意や、片付けを手伝ってくれたこともあり、なんだかんだ言って、
 準備が終わってみれば、まだまだ普段のように出発まで余裕のある時間だったのだ。

 さらに自分で用意しなくて、出来上がっていた料理類。

 自分で準備をする必要もなく、おなかにおさめられそうなこともあり、
 さすがに感謝をしてしまった瞬間であった。

 時刻はもう7時半前。
 普段よりキモチにもユトリをもち、楽しく朝食を食べる2人の充実するであろう1日の始まり。 


228 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/07/30(土) 02:13


 〜 ☆


229 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/30(土) 15:10
とうとうですね。次回の更新も待ってます。
230 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/02(火) 14:37
更新お疲れさまです。 紺チャンよかったですねぇ(笑 でもこの後紺チャンの反応がかなり楽しみです。 次回更新待ってます。 >229サン ageに注意してください。 メール欄にsageと記入を。
231 名前:なまっち 投稿日:2005/08/03(水) 23:58

>> 229 名無飼育さん
 れすありがとうございます^^
 とうとう…(あせ
 まだお待ちくださいませ(あせあせ
 これからもヨロシクお願いします^^

>> 230 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 こんちゃんは後藤さんが大スキなんで(あはっ
 これからもヨロシクお願いします〜^^
232 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/08/03(水) 23:59




 5 〜




233 名前:5 〜 投稿日:2005/08/03(水) 23:59

 
 春の朝というものは、一番すがすがしいと言ってもいいだろう。
 夏場の朝の、これからぐんぐん気温が上がっていくことが予想できる憂鬱さ。
 冬場の朝の、肌をつく痛さを感じてしまう辛さ。

 そんな2つの朝とは違い、春の朝は秋と並んでよいものだ。

 空気まで澄んでいる。


 しかし、ある家の前で佇んでいるショートヘアの美少女は、少々ご機嫌が斜めなのか、
 その周りだけは、空気が少し濁ってしまっているようだった。

 普段ならイモウトに会える日は、今の周りの空気同様、笑顔が絶え間なく零れてしまうものなのに、
 今日ばっかりはそういかないようだ。

 相手の家の前で待つその姿も、普段の元気のよさはなく、健康的な褐色をした肌にも、ツヤが少なく感じられる。

 ミニスカートから覗くキレイなすらっとした足を交差させ、つま先でアスファルトの地面をトントンと叩く仕草も、
 湧き上がるイライラを抑えているかのように感じる。


 そして、1つ大きくため息。

234 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:00


 と、その時、美少女の目の前のドアが開き、左サイドトップで1つにアップにさせた可愛い美少女が、
 そのしっぽをぴょんぴょん跳ねさせ、元気よく出てきた。
 愛らしい表情を浮かべる美少女は、待っていた女のコとは全く正反対の表情であり、笑顔を咲かせている。


「えりぃ
 はよぉ」


 腕を組みながら一言、朝の挨拶。

 そう、家の前で表情を沈め、佇んでいた美少女は、えり。
 そして、当然のごとくえりが待っていたのは、カノジョのイモウトのような存在であるさゆみ。

 春休みに入ってからの習慣になりつつある、2人の朝のワンシーン。
 昨年までの春休みのお互いどちらかの家で出会う朝とは全く違うそのシーンである。
  
 ただ、えりにとって昨日までは毎朝毎朝楽しみにしている瞬間なのに、今日はどうも気分的に沈んでしまっていた。
 いつものさゆみの笑顔なのに、何故だか今日だけはその笑顔は本当に自分に向けられているものに思えないのだ。


「はょ…」


 軽く目を逸らしながら挨拶をする。


「ん…?」


 少し様子のおかしいえりに、不思議そうに首を傾げたさゆみ。
 しばし考える。

235 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:00


「体調、悪いの?」
「がぅ」


 さゆみの言葉にも軽く首を振るえり。

 体調が悪いというわけではないとなると、何が原因だろうか。
 再び考えるさゆみ。
 
 しかし、何でも分かるはずのお姉ちゃんの思考が、今のさゆみが理解するには少々困難だったようだ。
 思い当たるふしがないのだ。

 ただただご機嫌斜めなのだろうと。


「元気なぃよ?」
「そんなことなぃ」


 とは言うものの、明らかに元気のないえりの様子。
 そんなえりの様子に、さゆみは仕方がないなぁとばかりに小さくため息をつくと、何かを思いついたのか、
 顔に笑顔を浮かべ、"そだそだ"とぐいっとえりの腕を自分に引き寄せた。

236 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:01


「なに?」
「藤本さんが今度アヤシイビデオ一緒に撮ろうだってさっ」


 目を大きく見開くえり。
 驚きのあまり、声が出ないようだ。

 いや、それ以上に別の感情がえりの中を渦巻いていた。

 えりの驚く顔を見て、してやったりのような表情をしているさゆみを見て、その感情が余計に際立ってくる。

 そう、えりのココロの中では、どうして昨日から"あのヒト"の名前がこれほど頻繁に出てくるのだろうと、
 言い様のない不安と、不思議な痛みがココロを襲っていた。

 今、さゆみの言った内容は二の次と言ってもいいくらいだった。
 ただただ、また出てきた"藤本美貴"という名前。

 えりの胸に、熱いものが込み上げてきそうになる。
 何故だか分からないが。

237 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:02


 これまで一度もそんなことはなかった。

 生まれてすぐに出会い、そこからずっと常に一緒にいた2人。
 これまでさゆみは必ずえりのそばにいて、2人が一緒にいるのいうのは、ごくごく自然のコトだった。

 どちらか一方がいないと、片腕をどこかに持って行かれてしまったようなキモチを覚える。
 そのキモチの共有でさえ、暗黙の了解事と言ってもいいのだ。

 だから、えりは、今覚えているこのような感情を覚えたことはなかったのだ。


 れいなと出会ったときだって、ある意味同じクラスメートであるさゆみより、えりの方が先に仲良くなり、
 いつのまにかシンユウになっていたれいなだから、自然とさゆみがカノジョと仲良くしてても、
 こんな感情を覚えたことはなかった。


 しかし、今回は別。

 最初からさゆみのココロを奪ってしまった美貴に対して、強く嫉妬を感じてしまっていた。
 いや、えり自身はそう気付いていないのだ。

 ただただ不思議な感情に胸を痛めていた。

238 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:02


 じわっと目の前の視界、さゆみの笑顔が揺らぐ。


「ぇ…?」


 えりの瞳に光る何かが見えた瞬間、さゆみの表情が凍りついた。
 明らかに涙を浮かべている姿を見て。

 まさか、えりがこんな姿をみせるなんて、と。
 ただ自分は冗談を言っただけなのに、と。
 お姉ちゃんの涙を見るなんて。

 沈んでいるえりを笑わせようとして。
 沈んでいるえりを驚かせようとして。

 そう、今日は4月1日。
 エイプリルフールだから…

239 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:03


「ぇ、ぇりっ!?」

 立ち止まるさゆみ。
 腕を掴んでいるえりも自然と立ち止まる。

「ど、どしたの?」
「な、な…なんでも…なぃ」

 とは言うものの、声も震えているえり。
 とにかくさゆみが言った言葉が原因であることは、確実であった。
 そんなことは、さっき今日のえりの思考が分からないと思ったさゆみでも、簡単に分かった。

「ご、ごめんっ」

 とにかく謝る。

「ぅ、うそだよっ」
「ぅ…?」

「今日、エイプリルフールだよっ!」

「ぇ…ぃ…ゥ…ル…?」

 その言葉を聞いた瞬間、えりのくしゃくしゃになりかけた顔が、少し元に戻る。

「そっ!」

240 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:03


 そこからは必死で説明をするさゆみ。

 今日の朝に、お姉ちゃんにウソの時間を教えられたり、"えりちゃんはもう先に行った"とウソを言われたりと、
 本当のことを聞き"もぉ"を怒ったさゆみに対して、"エイプリルフールだから"と簡単に片付けられてしまい、
 "それならえりに"と単純に思ってしまったの、と。

 えりを驚かせよう、と。

 少し度が過ぎたみたいだけど、ゴメン、と。

 それを聞き、目を今だに涙で光らせながも、笑顔になったえり。
 余計に顔をくしゃくしゃにしてしまい、それはそれでさゆみはちょっと困ってしまった。


 しかし、ま、機嫌は直ってくれたみたいだから、と済ませることにしたさゆみ。


 そして、さゆみの中に1つだけ教訓を得た。
 それは、あまりアヤシイビデオのことは言わない方がイイということであった。
 "ぇりはダイキライみたぃ"と。



 〜☆

241 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:04


「れいな、今日は先に行くんだって。」

 もう少しで駅に到着しそうなところで、さゆみはフト思い出した。
 今朝の2つのメールのうちの1つ。

 一方の梨華からのメールは、さゆみとえりの2人にも着ていたこともあり、さっきまではずっとその話題だったが、
 一段落ついたときにえりから話が出ていないこともあり、思い出したのだ。

「そなんだ?」
「ぅん」

「やっぱりイシカワさんのメール通り?」

 梨華が連れて来る女のコが随分と気になるのだろうか、少し早めに来て欲しいと書いてあった通り、
 れいなは少しどころか、普段よりうんと早めに家を出たのだ。
 さゆみとえりだって、普段より30分は早めに出たのに、さらに30分は早めに家を出たれいな。


 それだけ気になる梨華が連れて来る女のコ。


242 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:04


「元気なかったもんね…」

 さゆみの言葉は、えりの言ったばかりの言葉とは、接続はしていないが、それでも内容ははっきりと分かった。
 昨日からの、れいなの様子のコトに繋がっているのだろう。

 えりは小さく頷く。

「大丈夫かなぁ」

 しかし、その言葉には、簡単に頷けなかったえり。
 さすがに、少々心配なのだろう。

 昨日のれいなの様子から窺い知れるのは、ただただ嫉妬の感情。
 タクシーの中では一言も口を開くことはなかった。
 ずっと梨華の言葉を考えていたのだろう。
 嫉妬の感情と葛藤しながら。

 そう、他人の嫉妬の感情は分かるのに、自分の嫉妬の感情は分からないというのは、少々不思議だが、
 思春期真っ只中の少女にとっては仕方がないのかもしれない。

243 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:04


 改札をくぐると、再び一緒に腕を絡める。


「…負けず嫌いだから…」
「そだね…」


 さゆみが頷くと、アップにさせた髪の毛の毛先がえりの視界に入る。
 それと同時に、柔らかいシャンプーの匂いが漂う。
 ある意味さゆみの香り。

 小さな頃からほとんど変わらないさゆみの家の石鹸の香りは、えりの静養剤といってもよかった。

 そして、えりの香りも、さゆみにとっての静養剤。
 そして、れいなにとって、梨華が静養剤。

 いや、これだけココロを掻き毟られているぶん、静養剤にはまだまだ程遠いのかもしれないのだが。

244 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:05


「もうついたかなぁ」
「たぶんね…」


 駅のホームに到着したその時、さゆみのバックの中、携帯が揺れる。


「ん…」


 家を出る前、携帯はマナーモードにしているさゆみ。
 そこはマジメな性格なのか、毎回毎回している。
 ある意味世間一般の常識的に当然のことなのだが。

 折りたたみ携帯を開け、受信ボックスを開けると、送り主の名前としてれいなが書かれてあった。


「れぃなだぁ」


 思わず嬉しそうに呟く。

 まさに"ウワサをすれば"である。
 さっきちょうどれいながアルバイト先に到着しているのかどうかを話していた矢先のメールに、
 思わずほぉとため息をつくえり。

245 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:05


「なに?」


 えりの言葉に、1つ頷くと、本文に目を通すため画面を開ける。


【ごっちんが目の前にいるっちゃよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜(*≧O≦*)/】
【はょコイ!!】


「…?」


 一瞬意味の分からなかったさゆみは、立ち止まる。
 当然といえば当然である。

 れいなの言う"ごっちん"というのは、カノジョが大スキなアイドルのコトである。
 テレビの中の世界のヒトなのだから。

 首をかしげる。
 どこかアルバイト先に行くまでに見かけたのだろうか、と。

246 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:05


 その様子に、えりが不思議そうにさゆみの後ろから携帯の画面を覗き込んできた。

「…?」

 同様の反応を示すえりだったが、次の瞬間には、さっきの出来事を思い出した。

「はっはぁぁぁぁん」
「ん?」

「エイプリルフールだょ」

「そっかっ」

 大きく頷くさゆみ。

 それと同時に少し呆れる。
 そういえばさっき自分がちょうどえりをワナに嵌めたトコロだったのに、と。

「じゃ、ノッテ返してあげる?」

 さゆみの言葉に、えりは嬉しそうに笑顔を零す。
 早速考える2人。

247 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:06


 ここはやはり同様のコトを返さないと…

 となると、答えはすぐに出てしまった。

 代わりにえりがさゆみの携帯を取ると、ぱっぱと打ち込んだ。
 2人が大スキなアイドルである2人組。

 まさに自分たちと同じような関係に思える2人組のカノジョたちが、さゆみとえりは大スキなのだ。


【こっちはあいぼんとのんちゃんとトモダチになれたょ〜】


 打ち込むとさゆみに"どぉ?"と手渡す。

「ぃぃね」

 そのまま送信ボタンを押すと、2人して顔を見合わせ表情を緩めた。

 時刻はもう8時前。
 楽しくシンユウの"遊び"に付き合う2人の充実するであろう1日の始まり。


248 名前:5 〜 投稿日:2005/08/04(木) 00:06


 〜 ☆


249 名前:なまっち 投稿日:2005/08/04(木) 00:07

さぼった訳ではないです(ばく
きちんと次回は少し時間を戻しますが(にがわら

それでは、失礼します。
250 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/08/08(月) 01:07




 6 〜




251 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:08


「ねぇいいの?」


 もう何度目だろう。
 この言葉が2人の間で交わされたのは。

 随分と久しぶりに乗る都営地下鉄の中。
 普段から地下鉄や公共機関にはほとんど乗らない真希。

 大抵は、マネージャーである中澤の送迎の車や、タクシー、事務所の車などなどが移動手段となっている。
 遠方には、家から近い東京駅、事務所から近い品川駅、はたまたさらに遠方になると、
 成田空港や羽田空港に車で直接乗り付けたりといったことをしていた。

 だから、こうやって大都会の金曜の早朝、いわゆる通勤ラッシュに近い時間帯に、
 公共施設である地下鉄を使ったのは随分と久しぶりだったのだ。

 その点は少し新鮮なキモチを味わえたものだし、梨華に感謝もしていた。

252 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:08

 
 冒頭でのセリフはその車内からずっと続いていたものだった。

 受けた梨華も、毎回毎回笑顔で"ぃぃょ"と答える。
 その言葉に真希は、"ぅーん"と唸る。
 会話が一段落するたびに行われる儀式のようなものになっていた。

 そう、昔から梨華は、自分のアルバイト先に真希を連れて行くのを極端に嫌がっていた。
 と、いうか、真希と同棲しているという事実、シンユウであるという事実、
 それらのコトすらバイト先のヒトに知られたくないと思っていたのだ。

 後者のコトは、実際には梨華から直接聞いた訳ではないのだが、一度行きたいと言った真希を、
 "だめっ"と一蹴してしまったことから、真希が勝手にそう思っているだけなのだが。
 
 前者の理由として、真希のファンのコがいるのが最大であるらしい。
 
 ただ、本当はそれだけではなく、小さな店内のそこに行くだけで、
 随分とお店のヒトに迷惑を掛けてしまうことも理由の内の1つであるそうだ。

253 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:08


 そんな真希を初めて連れて行くという梨華の言葉。

 最初はビックリしたが、常々行きたいと言っていた真希の"お願い"が聞き入れられたということから、
 単純に喜んでいいことだろう。


 しかし、人間というのは不思議なもの。
 行きたがっていたのに、実際に連れて行って貰える段階になると、急に心配になってしまうものだった。
 本当にイイのだろうか、と。

 ただ、今日は金曜日ということもあり、春休みとはいえ、昼間は結構暇な部分が多いとのこと。

 さらに、普段から金曜は、出来るだけ全員が集まり、顔合わせ的にコミュニケーションを取れたら、
 と言うコトで、なつみの提案から集まれる全員が集まることになっていたのだ。

 それが梨華に言わせればちょうどいいらしい。


 ただ、夕方からはかなり忙しくなり、真希がいることができるのは、そこまでだろうとのこと。

254 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:09


「本当にィィの?」


 会話が一段落するたびに出る真希の言葉。

 ついさっきまでの会話は、どんなコがいるかという軽い前情報だけだが、それを話していた。
 それが一段落すると、やはり同様のコトを聞いてしまった真希。

 原宿の街を歩く2人の歩みは普段通り、随分と速い。
 そして、キャスケットから少し覗く真希の瞳が申し訳なさそうに揺れている。


「ぃぃょ」


 苦笑いを浮かべながら頷いた梨華は、"そだそだ"とさっきの前情報の続きを話す。


「こんこんは、一番ごっちんのコトがスキだからね
 "毎回来てくれてアリガト"とか"いっつも気づいてるょ"みたいなコトを言ってあげたら、
 気絶しちゃうくらいに喜ぶかもょ」


 そう言うと、カノジョのまさにその姿を思い浮かべているのだろう、
 口元に手を持って行きおかしそうに笑った梨華。

255 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:10


 そうなのだ。
 実際、真希はあさ美の顔は知っている。

 その理由として、梨華から、あさ美が参加する公演は、その都度どこどこの席に座っているから、
 手を振ってあげてと頼まれていたのだ。

 しっかりと、あさ美と愛の写メを見せてもらい。

 実際にコンサートが始まると真っ先にカノジョたちを探し、そして頻繁に手を振ってあげていた。
 そのことから、愛とあさ美の顔は知っていた。


「さゆとえりは、れぃなと一緒に行ったコトがあるって言ってたから、
 もしかしたら、見たらどっか記憶に残ってるコたちかも」
「ぅーん…」

「ちょぉかゎぃぃコたちだから」


 ふむふむと頷く真希。


「ただ…あいぼんとのんの方がスキなんだょね…」


 梨華の言葉に、がっくしと首を垂れる。
 まぁ、姉妹のように仲がいい2人となると、"やっぱりそうだろうなぁ"と"納得しなきゃ"とうんうんと頷く真希。

256 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:10


 しかし、さっきから少し胸に引っかかるものが出ていた。

 やはりそれは"れいな"のこと。


 梨華はカノジョのコトには全く触れずに、"れいな"の名前を自然と出し、
 "あの時の女のコ"ということすら話していない。

 そして真希も、梨華の様子から、あまり深く聞くことが出来ないでいたのだが。

 だから、今梨華との会話に出てくる"れいな"という少女が、
 あのビデオで出てきた女のコと同じ人物であるという確証はなかった。

 もしかしたら、アルバイト先にいる全く別の女のコなのかもしれないのだし。

 ま、単純に考えれば、梨華が何も教えないというコトから、ビデオの女のコと同じ人物と考えていいのだろう。

 それ以外は何も分からない"れいな"。
 ただ、さっきの"れぃなと一緒に行ったコトがある"の言葉から、"れいな"も真希のファンであることは、
 安易に想像はできた真希だった。

257 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:10


 その点は、少し不思議なキモチを味わっている真希。

 実際、もうすでに"れいな"が"あの時"の女のコであるとして考えている真希にとって、
 カノジョの存在は少し胸にザワメキを呼んでしまう存在であった。

 そのカノジョが自分のファンであり、コンサートにも頻繁に顔を出しているとは。


「ぅーん…」


 思わず唸ってしまった真希を、不思議そうな表情で見つめた梨華。

 しかし、梨華の目に普段の見慣れた建物が目に入ってくると、もうすでにそのコトは忘れ、
 自分のアルバイト先をカノジョに紹介しはじめた。
 
 少々気恥ずかしい部分を感じながらも、癒しを与えてくれる少し自慢の外観の紹介。
 そして、いつの間にか、鼻高々、自信満々の表情での、中の紹介。

 嬉しそうに自分のアルバイト先を紹介する梨華は、やはりココがスキなのだろう。

 ココに入ってきただけで、いつもの保護者的な梨華の表情が、後輩を持つ先輩の、
 仕事をするヒトの表情へとなっていたもの。

 そのコトに少々嫉妬すら感じてしまった真希。

258 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:11


 それでも、目の前で、普段のコスチュームに着替えている梨華を、大きなソファに腰を掛けながら、
 嬉しそうに眺めていた。
 梨華が少々テレを感じてしまっていたくらいに。

 そして、ショーツを随分と重ねばきする梨華を見て、からかう様に声を出した。


「そんなに重ねるんだ」
「は、恥ずかしいよっ!」


 梨華らしい言葉に、思わず声に出して笑ってしまった真希だったが、
 続いて聞えてきた"ごっちんは慣れてるけどさっ"と言う梨華の言葉には、
 思わず納得の表情を浮かべてしまっていた。


「ま…確かに…」


 梨華の言う言葉の意味は、最近の真希のコンサートでの衣装のコトを言っているのだ。
 昔はそれほどではなかったのだが、最近のツアーでの衣装の露出の度合いは、水着と言ってもよかった。

 初めてその衣装を見た梨華は、"中澤さんに訴えるっ"と鼻息荒く捲くし立てたくらいだったのだ。

 真希自身も最初の頃は恥ずかしかったのだが、慣れとは恐ろしいものである。
 今では、ダンスにも邪魔にならず、動き易いうえに、暑くないから、結構気に入っているくらいであった。

 むしろ今梨華が着ているような衣装を着るコトの方が、真希にとっては恥ずかしく感じられるぐらいだった。
 最近ではこれほどふりふりの衣装を着ていないから。

259 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:11


 実際、自分が着ると似合わないだろうなぁとしみじみと感じるくらいだ。
 梨華が着るから、似合っているのだと1人納得の表情を浮かべる。
 思わず"似合ってるね"と口に出してしまったくらいに。


「でしょ?」


 真希の言葉に、本当に嬉しそうに目を細めた梨華は、ふわふわのスカートの裾を摘むと、
 軽く膝を曲げ、左足を後ろに下げつま先をちょんと地面に立てた。

 それはまさに"西洋"の挨拶。

 その姿が余りにも似合いすぎ、思わずほっぺを赤く染めてしまった真希は、照れ隠しのように笑顔を浮かべる。

 と、その時部屋がノックされる高い音が、部屋の中に響いた。
 思わずびくっとなり、表情を固くした真希と、同様に緊張の表情となった梨華。


「ちょっと待ってねー」


 梨華はそう大きく声を出すと、真希の方を見て、"ぃぃ?"と聞いてきた。

 ココまできて"ダメ"なんてコトは言えるはずもないのだが、梨華としてはココロの準備のコトだろう。
 真希はそう気付くと、大きく1つ深呼吸。

 そして、頷いた。

 真希の表情に、梨華はほほを緩めると、"ちょっと待っててね"と真希に一言だけ言い、立ち上がった。
 そして、扉に手を掛け、さっと開けると、自分のカラダだけを外に出すと、再び扉を閉めた。



 〜☆

260 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:12


 梨華の目の前には、緊張した面持ちをしたれいなが立っていた。
 ほほを引きつらせ、梨華を見つめる目も、不安でいっぱいに感じられる。

 余りにも普段からかけ離れてしまっているその表情に、梨華は笑顔を浮かべると髪の毛をそっと撫ぜた。


「ぉはよ」
「ぉはょございます」


 小さく頭を下げたれいなは、梨華の"緊張してるの?"の言葉に、素直に大きく頷いた。

 負けず嫌いであるれいなは、普段から余り自分の弱い部分を見せるのを嫌がるのだが、
 梨華の前では不思議とその負けず嫌いがでないのだ。

 おそらく先ほどの言葉をさゆみやえりに掛けられると、"しとらんっ"と答えるだろう。

 梨華もとびっきりの負けず嫌いというのもあるのだろうが、
 やはり梨華の言う事は素直に聞き、梨華に対しては素直に話すれいな。

 今も、緊張した面持ちで、梨華の言葉を待っていた。
 自分からは言葉を出さずに。

261 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:12


「もういるけど…」

「はぃ…」

「1つ、約束して欲しいコトがあって…」
「…?」

 梨華の言葉に、少し不思議そうに首を傾げたれいな。


「"普通のトモダチ"、もしくは"年上のセンパイ"として話して欲しいの…
 学校のヒトと同じように…
 特別扱いなしで…」

「ぁ…はぃ」


 少々疑問が残りそうな梨華の言葉だったが、今のれいなにはそれ以上深い意味を考える余裕はないようだった。
 梨華の言葉と思い、ただただ頷くのみ。

「普通の…」



 〜☆

262 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:13


 外で梨華が何を話しているのか、不思議に思っていた真希。
 別にそのまま"入ってぃぃょ"と言えば良かったのにと思っているのだ。


 それなのに…わざわざ…


 しかし、それ以上に心配を生む要因があった。


「"れいな"ちゃんだったら…どうしょ…」


 そう、トップバッターがあの"れいな"だったら、さすがにココロの準備は必要であろう。
 どちらか言えば、最初はあさ美や愛と言った、多少なりとも顔を知っているコであり、
 なおかつ自分のコトが大スキなコたちなら、ココロにも余裕が持てそうなのに、と思えた。

 ただ、実際には"れいな"も顔は知っていて、なおかつ真希のファンであるからして、
 相手としては同じなはずだから、矛盾しているとは思ってはいるのだが。
 やはり違う。

 ココロの持ち様だろう。


263 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:13


 と、その時再び扉がノックされた。
 そのまま扉が開かれる。

 そして、梨華が入ってくると、一緒に招き入れられるように中へ入ってきた美少女。


"れいなだっ!!"


 思わず顔が引きつる。
 そして、胸にも痛みが走る。


 "あの時"の女のコ。


 ただ、あのビデオで見て知っているれいなとは少々違い、少しオトナの顔つきにはなっていて、
 ヘアースタイルも"あの時"のサイドトップで1つアップにさせているものではなく、
 そのまま下ろしているものだった。

 そして、服装もイイ言い方をすればラフなカッコ、悪い言い方をすればコドモっぽいカッコ、
 そんな姿で映っていた"あのビデオ"とは違い、今の姿は随分と女のコっぽくなっていた。
 タイト系で明るい色の服とカワイイ派手なアクセサリを身につけ。

 この数週間でこれだけ変わったれいな。
 さすが思春期真っ只中。

 いつの間にか真希自身不思議と落ち着き、妙なことに感心することが出来ていた。

264 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:14


 ただ、そんな真希とは違い、れいなは、随分と混乱しているのだろうか、
 入ってきたときの緊張した表情からは随分と離れ、今では意味が分からないと言った様子で、
 ほほを引きつらせ、梨華の顔と真希の顔を慌しく交互に見ていた。


 首が疲れるんじゃ…


 ふとそんなコトを思ってしまった真希だったが、続いて、梨華がれいなの肩に手を沿え、
 そのまま抱くようにして自分のカラダに近づける姿を見て、再びずきんと胸に痛みが走る。

 頭にも鋭い痛みが走る。
 2人が並んでいる姿を見て。

 まるで今朝のように。


「ごとぉ、まきちゃん」


 梨華の自分の名前を紹介する言葉に、襲ってくる痛みを必死に堪え、にっこりと笑顔を繕う真希。
 職業柄、笑顔を作ることには慣れてはいるが、こんなときに役立つとは。

 そう、さすがに、初対面の女のコに対して、素の表情を見せるのは少々失礼に当たるものだし、と。

265 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:14


 そして、真希の笑顔にも、何も返せずに、ただただ呆然と真希の顔を見つめているれいな。
 やっと出てきた言葉は、地元の言葉。


「…し、知っとぉ…?」


 そんな呟きを聞き、梨華は苦笑いを浮かべると、ぽんぽんと肩を叩いた。


「ほらっ、れぃなっ」
「ぇ?」

「先に、自己紹介してあげて」


 余りにも混乱しているのだろう。
 れいなは完全に自分を忘れているのか、何も言葉が出てこないといった様子だった。 
 
 "ぇっとぇっと"と、ただただ真希の顔を見つめるだけ。
 それでも真希を見つめる瞳には、"憧れ"や"好意"などのプラスの感情を読み取ることが出来た。
 
 そして、そんなれいなの自分を見つめる瞳を見ている内に、不思議と頭痛が治まっていく感覚を覚えていた。

 その瞳を見つめ返している内に。

 カノジョの純真無垢な、まるで小さなコドモのようにキレイにキラキラした瞳に見つめられている内に。

 自分が慕われているように感じる内に。

 また、いつの間にか、さっきまで頭痛に襲われていたという事実も忘れてしまっていた真希だった。


266 名前:6 〜 投稿日:2005/08/08(月) 01:14


 〜 ☆


267 名前:ひろ〜し〜 投稿日:2005/08/08(月) 11:27
久しぶりに感想です。とうとう会っちゃいましたかw
なんか田中さん、可愛すぎw
ごっちんに会ったときの紺ちゃんの反応が物凄く気になるw
268 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/08(月) 16:55
"あのビデオ"というのが気になります。
次回の更新も待ってます。
269 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/08(月) 20:50
更新お疲れさまです。 一番手だとは・・・意外でした。 やっぱり混乱しますよねぇ、自分も(ry あまり不評な感じでも無いですね(それが少しホッと)次回更新待ってます。 >268サン もし頂上にageてたとしても最低限メール欄にsageと記入してください。
270 名前:6 〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:05

>>267 ひろ〜し〜さん
 れすありがとうございます^^
 とうとう会っちゃいましたけど…これからですよね…(にがわら
 ごっちんに会ったときのこんちゃんの反応は…(申し訳ありません(あせ
 これからもヨロシクお願いします^^
 
>>268 名無飼育さん
 ありがとうございます^^
 "あのビデオ"
 第1話から第2話の間で出てきたビデオのことなんです^^
 もし暇ができれば↓の部分を読んでいただければ(もうしわけありません

 ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/yellow/1109171950/301-400
 
 >>317から>>487の部分です。
 それでは、これからもお付き合い願えれば嬉しいです^^

>>269 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^(いろいろです
 混乱しますよ(しみじみ
 自分もごとぉさんと握手しただけで頭の中が真っ白で
 まともに見れませんでしたから…(はは
 娘の当たって欲しいなぁ…
 おっと、これからもヨロシクお願いします〜^^
271 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/08/12(金) 22:06




 7 〜




272 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:06


 完全に違う空気となっている今日の"この"場所。
 まるでこの場所のコンセプトのような雰囲気さえ感じられる場所となっていた。

 夢。

 そう。
 まるで夢の世界のように、ふわふわしたキモチを味わってしまっているそこの住人たち。
 普段なら、自分たちがお客様を夢の世界に誘う案内人であるはずなのに、
 今はまさに自分たちが味わっていた。

「絶対に"夢"だょね…」

 スタンディングチェアーで隣に腰を掛けている愛に、今日21回目の言葉を掛けるあさ美。

 普段だと、これだけ同じコトを何回も何回も言われたりすると、
 呆れ返って適当に答えてしまってもおかしくないのだが、
 同じ言葉を掛けられた愛も、夢心地な様子で、目がうっとりと、"そだね"と頷いていた。

「絶対に"夢"ゃょ」

 そして、さらに隣にいるれいなも。

「"夢"っちゃょ」

273 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:06


 夢の中にいるように、目がきらきら輝き、現実が見えてないなのは、愛、あさ美、れいな。
 ただ、接客となれば、話は別。

 カノジョたちをこんな状態にしてしまっているヒトに見られているかもしれないと、
 普段よりもうんと緊張感も割り増し状態で、精神力を使い果たして頑張ってしまうのだ。

 憧れのヒトの前で、カッコ悪い姿は見せられない、と。

 その分、休憩となると普段よりも気の抜けた表情、いや幸せそうな表情で、時間も多めに入ってしまっていた。

 れいなの、日々のキリっとした表情はどこへやら。

 愛の、ヒトをうっとりとさせる笑顔はどこへやら。

 あさ美の、ヒトを癒す雰囲気はどこへやら。

274 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:07


 しかし、今日一日は明らかに仕事に気が入らないであろうそんな3人とは違い、
 しっかりと"現実"と理解しているさゆみとえりは笑顔で、さらにハイテンションに接客をこなしている。

 時間が出来れば、夢心地の世界を味わっている3人の前で、2人はハモル。

 さらに、"次の休憩は何時ですか?"となつみに何度も聞き、困らせてしまったりの繰り返し。
 そして、なつみの答えを聞くたびに"何話そっかなぁ"と仕事以外の思考へと飛んでしまう2人。

 そのなつみの隣で準備の手伝いをしている梨華も、後輩たちの仕事に手付かずの様子に少し呆れ顔ながらも、
 そんな後輩たちの嬉しそうな顔に、自然と表情も柔らかいものへとなっていた。

 もちろん、カノジョたちをこのような状態へと導いてしまった原因であるヒト、
 真希の、新鮮な雰囲気を味わえ、新鮮なヒトたちの会話を楽しんでいる様子には、
 とても嬉しそうにカノジョの様子を眺めていた。

 そう、5人から少し離れた一番奥には、テーブルに座り、
 現在休憩中である圭織とお話に興じている真希の後ろ姿があった。

275 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:07


「さっき何話してたん?」

 愛の言葉に、あさ美は少し考えるフリをするも、"何も覚えてないゃ"と普段ののほほんとした笑顔を浮かべた。
 
「呆れたぁ」
「緊張して覚えてないょ」

 愛の呆れた口調に、むっとクチビルを突き出すと、抗議の声を上げるあさ美。

 事実、先ほど"休憩してもいいょ"のなつみの言葉に喜び勇んで真希のそばに行ったのだが、
 いざ目の前に行くと、何を話したらいいのか困り果ててしまい、もじもじしてしまったあさ美。

 待機の間は、真希を目の前、夢うつつの中、休憩できたら何を話そうと一生懸命考えていたのだが、
 やはり簡単に忘れてしまっていたのだ。

 結局、真希主導のトークになってしまい、途中から合間を見計らって話しかけてきた圭織や、なつみ、
 梨華に随分と話を持っていかれてしまった。

 ただ、ちょっと悔しかったけど、仕方がないようにも思えてしまっていたあさ美。

276 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:08


 普段のようにオトナのトークを繰り出せるなつみ、圭織の2人。
 コドモのように無邪気に質問攻めにできるさゆみとえりの2人。

 そんな4人とは違い、特に真希に憧れているあさ美や、愛、れいなはほとんどまともに話せない状態なのだ。 
 普段ならお店に来た初対面の女のコでも、簡単にお話ができ、むしろ相手のヒトが緊張してしまうくらいなのに、
 今日ばっかりは、やはり相手が悪い。

「愛ちゃんは?」
「んー?ぅち?」

 そうあさ美の方を見た愛は、にっこりと笑顔を浮かべ"同じく"と頷いた。

「はぁ?」
「話せるわけなぃゃん」

 さも当然のごとく言い放った愛の言葉に、さっきあれだけ呆れた声を出されたこともあり、
 あさ美は"一緒じゃん"と大げさにため息をついた。

「ま、そーゃね」

 胸の前で腕を組むと"ぅんぅん"と頷く愛。
 そのまま、"たかぁーし"となつみに呼ばれ、妙に納得顔のままお手伝いに借り出されていってしまった。

277 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:08


 そんなシンユウの後姿を呆れ顔のまま見送ったのだったが、ふと視線をずらすと、
 真希が自分の顔を面白そうに見つめていることに気がついてしまったあさ美。

 その瞬間、一気に熱くなるほっぺ。

"見られてるっ!"

 かっと頭に血が昇ると、目の前が真っ白になっていた。

 あの憧れのヒトが自分のコトを見ているということだけで、あさ美は"その"思考以外の動作が、
 完全に停止してしまったような感覚。 

 まさに、周りが見えないあさ美。

「ねぇ、コンノぉ」

 寄ってきて、呼びかけてきた梨華の言葉も聞えていないようだ。
 一直線に真希の輪郭をぼんやりと眺めていた。

278 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:08


 そして、自分の目の前で手をひらひらとさせている梨華の手を、うるさそうに"もぉ"と一蹴。

「なっ」

 まるで邪魔をするなとでも言いたげなあさ美の行動。
 みるみるうちに梨華の表情が不貞腐れたものへとなっていってしまった。

 センパイ、オトナらしからぬ表情。

「へぇ〜
 そんなことするんだ、こんこんは」
「ぇ…?」

 普段とはかけ離れた余りにも怖い声を出す目の前のヒトに、あさ美は"あれぇイシカワさん…"と、
 さも今気付きましたよといったように声を出すと、にっこりと笑顔を零した。

「…」

 あまりの変貌ぶりというか、真希以外が見えていないのか、しばし呆れるも、
 "ま、ごっちんに会って一日目は、仕方がないか"と割り切ると、梨華も笑顔を浮かべた。

279 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:09


「どぉ?」
「ごとぉさんですか?」

 とても嬉しそうにその言葉を発するあさ美。

 その"単語"すらスキなのかもしれない。
 本当にシアワセそうに、タイセツに発するあさ美のその様子から。
 
「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんとに」
「…」
「キレイですょねぇ」
「タメたね…」
 
 梨華の言葉に、"もちろん"と頷くと、ご機嫌に"しかも、目が合っちゃいましたょぉ"と嬉しそうに言った。

 近くにいるヒトにとってみれば、至極当然のことなのかもしれないのだが、
 やはり出会って一日目のあさ美となると、それだけでも嬉しいことなのだろう。

 不思議と、あさ美のそんな様子を見ているうちに、梨華まで自然と嬉しくなってしまうものだった。

 ヒトのシアワセな表情とは、周りの空気も温かくしてくれるもの。
 今のあさ美、いやココの空気はまさにそうなのだろう。

「ょかったね」
「ぇぇ」



 〜☆

280 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:09


"みんなにも後で1人ずつ話そうとは思うんだけど…"

 その言葉と同時にあさ美の隣で話し始めた梨華の内容は、あさ美にとってとても新鮮なものだったし、
 真希の新しい真実を知ることができて、単純に嬉しくもなった。

 もちろん、自分を信頼して話してくれたという事実に嬉しくなったというコトも、忘れてはならない。

「ごっちんとはね…」

 日々の梨華と真希の生活。
 自分と真希が家族のような存在であるコト。
 当時から"ひとり暮らし"をしていた真希と、デビュー前から同棲しているという事実。

 "ひとり暮らし"の事実に少しびっくりしたあさ美。

 そう、世間でも真希は中学生になる前に家族を亡くしてしまったという事実は、よく知られていたのだが、
 それにより、中学の頃から"ひとり暮らし"をしていたというコトは全く知らていない事実であったのだ。

 あさ美も、親のいない真希は、単純に親戚に預けられていたと思っていたのだが、実際は1人で暮らし続けたのだ。

281 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:10


 それを聞いたあさ美は、少なからずショックを受けてしまった。
 そして言いようのない怒り、寂しさも。

 真希の親戚はカノジョを預かろうと思わなかったのか、という怒り。
 さらに、カノジョの経験しているコトへの、寂しさ。
 
 自分が家族と一緒に、家族の温かみを味わえている中学時代に、真希は1人で寂しく思春期を過ごしていたのだ。
 それがどれだけ寂しいことか、実際に経験していないあさ美にとって、知ることすら出来ない経験である。
 思わず胸が熱くなってしまったあさ美。

 そして、そんな真希と中学生の頃からシンユウである梨華が、どんな経緯で同棲を始めたのかという事実。
 そのあたりは、少し羨ましささえ感じてしまっていた。

 また、他にも、明るい最近の小話的なネタから、昔のデビュー時期の苦労した話まで。

 さらに、2人の出会いから、中学、高校時代のコト。

 どんどん遡る過去。

 普通なら、そんな話にもココロに引っかかりや、あまり聞きたくないような話もあるのだろうが、
 梨華の話し方が上手なのだろうか、あさ美のココロにそんな負の感情は全く表れるコトはなかった。

 むしろ、新しい"後藤真希"に、あさ美の表情も自然と柔らかいものへとなり、
 ますますカノジョのプライベートなコトを知りたいと感じていた。

282 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:10


 ところが、そんなときに梨華の口から聞えてきた言葉に、少し驚きを隠せず、思わず聞き返してしまったあさ美。
 いや、実際は一度は耳にしていた言葉なのだが。

"トモダチが少ない"

 そう、昨日の梨華の言葉を思い出す。
 ただ、あさ美の中、その言葉は完全に忘れてしまっていただけなのだ。
 いや、真希と"その言葉"が結びつかなかったというのが正解なのだろう。

 普通は"そう"。

 真希の仕事柄、業界のトモダチはかなり多いと思えた。

 事実、インターネットだと男友達の多さがよく話題に上がっているくらいだったからだ。
 "普通のファンサイト"に行くコトの多いあさ美でも、心許ないファンの書き込みで、
 これまで数回は聞いたことがある話だった。 

 しかし、梨華の話し振りだと、それらは完全に違うようだった。

283 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:10


 連絡を取り合うトモダチ、もしくは携帯に入っているアドレスの数は一桁。
 その言葉に、改めて驚き、そして、次の梨華の言葉には、
 言い様のない不思議な感覚、胸に痛みまで覚えてしまっていた。

「わたしと、みきてぃと…」

「ぇ…」
「"W"の2人と…」

 最初の2人はあさ美も当然知っているヒト。
 もちろん、後者の2人も、真希と一緒にデビューをした2人であり、あさ美も知っているアイドル。
 "後藤真希"の次にスキな2人。

 これまで出てきたヒトに少なからず驚きは覚えていた。

 そして、そこまで言うと、少し間を置いた梨華。

「今回一緒に載った、高校時代のトモダチの女のコ。」

 詳しいコトは省かれたが、梨華の言っている相手は分かった。

 一瞬、写真の相手の顔が浮かぶ。

 そして、昨日、少し胸をざわめかしていた嫉妬心も思い出してしまった。
 しかし、その相手のコが、高校時代のトモダチであるという事実を改めて聞き、
 さらに梨華や美貴も知っているトモダチであるコトを聞くと、不思議とその嫉妬心は消えていた。

284 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:11


 そして、次の言葉を待ったあさ美だったが、"…だけ"と、梨華の言葉はたったそれだけだった。 

「5人…ですか…?」
「そ…」

 思わず絶句。
 国民的アイドルである真希の"現実"。

 驚きを隠せなかった。

 そして、次に梨華の話し始めた内容から、自分の中での意識が少し変わりつつあった。

 真希の日々のストレス。
 それを溜め込むしかない現状。

 周りからのプレッシャー。
 それをかわす術を持たない今。

「ここに連れてくることによってね…」

285 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:12


 梨華の呟きだけで、あさ美は梨華の意図を理解した。
 そして、自分の役割を。
 ある意味大役

 そう、真希とトモダチ。

 余りにも現実的ではないように感じられる出来事だが、あさ美の中、さっきの梨華の話を聞く内に、
 自分が今すべき役割のようにも思えてきた。

 これまで、真希によってシアワセなキモチを味わせてもらってきたぶん、
 これからしばらくの間は恩返しのようなカタチで、自分たちが真希のココロを癒せるならば。

 それはそれで、自分にとってもとてもシアワセなコトのようにも思えた。

 しかし、その一方で、不安も。
 それは、もし自分が、真希のココロに余計にストレスを与えてしまう存在となってしまったら…

 ううん。

 一瞬浮かんだネガティブな思考を一蹴するあさ美。
 "関係ない"と。

 今、自分の役割を精一杯こなせれば、と。

286 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:12


「そういえば…聞かないんだね」

 梨華の言葉に、フト今日一日ココロの奥底にしまいこんでいた事実を思い出してしまったあさ美。

 今日は金曜日。

 明日からは、ツアーで地方のラスト公演となる広島にいるべきなのに、今ココにいる真希。
 そして、明日は中止が決まっている公演。

 事務所の発表では、インフルエンザのためとなっていた。

 考えてみれば、至極不自然なコトである。

 ただ、あさ美の中、自然と"その"コトには気がついていたのだろうが、
 触れてはならないコトのように思えたし、聞こうとは思わなかったし、
 聞くという行動にすら結びつかなかった。

 そう、今の状況がシアワセ、自分にとっても、梨華、真希にとっても一番イイのだから、
 自分からその雰囲気を壊すことはない、という考え。

287 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:13


 そして、もし、梨華が"そのコト"について話してくれるのなら、そのときは自分のコトが必要なのだろう。

 今回のように、自分の家族のような存在である真希のコトを紹介してくれたように。

 自然と…自分が必要になれば。

「ぇぇ」

 にっこりとあさ美は微笑むと、"聞く必要はないですもの"と。

「そっか…優しいんだね
 こんこんは」

 "今頃気付いたんですかぁ"と冗談めかしていうあさ美に、梨華は真剣な表情で"ぁりがと"と言葉を口にした。

 梨華の本当に優しげでキレイな表情、そして温かい言葉には、少しほほを赤らめてしまったあさ美だったが、
 しばらくは真希のために、シンユウのように振舞えたらと、ぐっとキモチを込める。

 そして、しばしファンのキモチを捨てようとも改めて決意を込める。

 でも…できるのかなぁ…

288 名前:7〜 投稿日:2005/08/12(金) 22:13


 〜 ☆


289 名前:名無し読者 投稿日:2005/08/15(月) 21:32
ついにみんなと対面しましたね。
いい関係が築けるといいねごっちん。
290 名前:なまっち 投稿日:2005/08/17(水) 01:02

>>289 名無し読者さん
 れすありがとうございます^^
 いい関係がつくれればいいんですが…(さてどうなることゃら(ぉぃ
 って、こんなのろのろなお話ですがこれからもヨロシクお願いします^^

291 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/08/17(水) 01:03




 8 〜




292 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:04


 お昼も過ぎた今、れいなが感じているモノは、不思議な感情だった。
 少なくとも、朝、アルバイト先に来るまでの段階では、随分とマイナスで覆われていたのだ。


 強い嫉妬。
 強いジェラシィ。

 そして、大きな不安。
 大きな悲しみ。


 朝、れいなは"それ"でいっぱいだった。

 ココに来るのでさえ、憂鬱にも思えたくらいだった。

 哀しくて、憧れのヒトが"タイセツなヒト"と一緒に並んでいるのを見るのでさえ辛いと思えた、
 そして、どうして、自分がこれだけ悲しみに襲われるこの場所にわざわざ来ないといけないのか、と。


 ただただ、梨華の言葉の通りに来ただけといってもよかった。

293 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:04


 しかし、今、それらのイヤなキモチがなくなっていた。
 完全に。

 そのかわりに、何ともいえない感情が、れいなのココロの中で渦巻いていた。

 もちろん、自分にとって雲の上の存在であり、憧れの存在である真希に出会えた喜び。
 それは、これまでの人生でも一位二位を争うくらいに嬉しい出来事。
 梨華と出会ったコトと同じくらいに嬉しい出来事。

 今でも夢ではないかと思っているくらいである。

 ただ、しばらくはそのプラスのキモチでいっぱだったのに、ふと落ち着いて考えると、別の感情に襲われてきた。
 真希への"憧れ"とはまた違う"憧れ"のキモチを持っている梨華のコトを考えると…


 それは、"寂しさ"。
 それは、"敗北"。

 または、仕方がないという"諦め"。


294 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:04

 
 考えてみれば、昨日の梨華の言葉から感じ取れたのは、今日紹介する女のコへの、強い愛情。
 そして、実際に梨華の口から"タイセツなコ"という言葉が発せられたのだし。

 つまり、梨華にとって真希はタイセツなコであるのだ。

 それを考えると、真希と出会えた喜びと同じくらいに大きな敗北感を感じてしまっていたのだ。

 そう、相手は、到底勝つコトの出来ない相手。

 自分が真希より勝るものなど見当たらないのが現実。
 どう頑張ったとしても、思いつかないのだ。

 勝てるとすれば、梨華を"スキ"というキモチのみ。
 一方通行かもしれないそのキモチのみ。


 それ以外は、勝てる要素のない、戦い。


295 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:05


 繋がりだって負けている。
 まだ出会って"2週間"も経っていない2人。
 しかも、出会いなんて、本当の偶然が重なっただけの出会い。

 一方的に連絡先を聞いたのもれいな自身だったし。

 年齢だって5年も差がある。
 普通に生活をしていたのであれば、梨華くらいの年齢のヒトとの交流なんて有り得ないことだし、
 考えもしないコトなのだ。

 そして、梨華は、れいなのコトをただの後輩と思っているだけなのかもしれないし、
 よくても可愛いイモウトにしか思ってもらえていないだろう。


 それとは引き換えに、真希と梨華は出会ってからすでに6年は経っていると聞いた。
 しかも、現在は一緒に暮らしていると。

 深い深いキズナを感じることが出来る2人。

296 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:05


 ただ、1つ、梨華の話しを聞けば、真希とは一緒に暮らしてきた家族のような存在だと言っていた。
 つまり、昨日の梨華の言葉は、本当に家族に言える"タイセツなコ"とも、とらえられそうなのだ。

 そう考えると、2人の関係、つまり真希と梨華がお互いに感じているものと、
 れいな自身が梨華へ抱いている感情とは、全く異なるものにも思えてきそうなのだ。


 それなら…


 真希へ、嫉妬感じるコト自体がお門違いのように思えていた。
 2人は姉妹。
 まるでさゆみとえりのような関係…


 さゆとえり!?


 そこまで思考が行き経つと、自然と青ざめてしまったれいな。


 2人の関係は…


 確かに、それだけお互いがお互いを必要としない限り、
 これ程の長い期間一緒に暮らしていこうなどとは考えないだろう。

 そして、どれだけ2人がお互いにスキなのか。

 まるでさゆみがえりのコトを大スキなように。
 えりがさゆみのコトを大スキなように。

 2人がイケナイ関係であるように。


 そう…梨華だって…


297 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:06


「だめゃ…」


 思わず呟く。


「ん…どーしたの?」


 入り口近くで待機していたれいな。
 その隣にいたえりが不思議そうに下から覗き込んできた。


「ん…」 


 チラリと一瞥すると、なんだか無償に2人のコトが羨ましく思えてきてしまった。
 そのまま"別に"と俯く。

 そんなれいなの様子に、一層不思議そうな表情を浮かべたえりだったが、何かに気付いたのか、
 いたずらっコのように笑みを浮かべると、"ははぁん"とれいなの肩に手を回し、自分に抱き寄せた。

 ぐっと距離の短くなるえりとの距離。
 えりのさらさらの短い髪の毛の毛先が、れいなのホホに当たる。

 切れ長の美しい目に見つめられ、思わずどきっと胸を鳴らしてしまうと、ぷいっとあさっての方に視線をやった。
 全てを見透かされているように感じて。

298 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:06


「もしかして…ごとぉさんにじぇらしぃ感じてるの?」


 やっぱり…


「んでもって、ごとぉさんには勝てるわけがないって凹んでるんだ」


 ぐ…


 ぐうの音も出ないれいな。
 しかし、負けず嫌いなれいなは、素直に認めたくないのが本心。
 そのまま、黙り込んだまま俯く。

 隣で俯いたまま認めようとしないシンユウに、えりは1つため息をつくと、れいなの肩に回していた手をどけ、
 薄暗いカウンターの方に視線をやった。

 えりの視線の先、そこには、カウンター内でなつみの料理の手伝いを楽しそうにしている真希と、
 隣で真希の様子を、惚れ惚れと、さらに楽しそうに見ているあさ美、愛の姿があった。

 近くではさゆみと梨華と圭織がほのぼのと眺めている姿もあった。

 そして、そんな梨華の目は、とてもやさしげにイモウトである真希の姿を見つめていた。

299 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:07


「お似合いだょね…」


 思わず呟いていたえり。
 その隣のれいなも、自然と認め、頷いていた。

 テレビの中同様、クールにカッコいい真希と、目を細めコドモのように笑うカワイイ梨華。

 れいなが憧れている2人は、悔しいけど確実にお似合いだったし、
 一緒に立っているだけで絵になっているように感じられた。

 事実、れいなも今日2人が一緒に並んで立っている姿を見るだけで、
 結構シアワセにウットリと見つめてしまっていたのだ。

 余りにもキレイでカッコいい2人の姿に。


 それに引き換え…


 梨華と自分が一緒に立つと、でこぼこで、おねえちゃんと、
 そのおねえちゃんを愛してやまないシスコンのイモウト。
 
 かろうじて、センパイを慕う後輩に見えなくもない。

300 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:07


 どう見てもお似合いに見ぇン…


「はぁ…」


 イシカワさんに似合うくらい、もっとせくしぃになりたぃ


 なんだか、最近の口癖といってもいい言葉を、小さく呟くれいなは、もう一度しみじみとため息をついた。



 〜☆

301 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:08


「梨華ちゃん、食べてきてぃぃょ」


 なつみの明るい声に、梨華は"はぁぃ"と頷いた。
 そして、少し遠慮の入った声で、"れぃなもぃぃですか?"と、突然名前を出され、
 びっくりした表情で目を大きくしている当の本人の方に視線を送りながら、なつみに聞く。


「ん?ぃぃょ」


 なつみの答えを聞くと、れいなに向かって"ほらっ、行くよっ"と少々大きな声、
 カワイイ女のコの声でれいなに呼びかけた。

 その声に、びくっと反応すると、慌てて腰を上げるれいな。


「あっ、は、はいっ」


 こんなとき、れいなはさすがに嬉しさでいっぱいになってしまう。
 胸をどきどきさせながら、梨華の後をついて歩くときは一番シアワセかもしれない。

 れいなが自分のそばにくるのを確認し、にっこりとカワイイ自分を慕ってくれる後輩に笑顔を零すと、
 続いて、自分のシンユウに声をかけた。

302 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:08


「ごっちんは?」
「ん?
 ごとぉは…」


 しばし考えるも、ふにゃと笑うと、"いっぱい食べさせてもらってるから…まだ…ぃぃゃ"と首を横に振った。


「ぅん」


 "じゃ、行こっか"と言う梨華の後ろをついて歩くれいなだったが、
 フトさきほど見せた真希の寂しそうな表情が気になってしまっていた。


 寂しさ。


 イシカワさんがれぇなを誘ったからゃろか…


 もしそうだとすると、真希自身の梨華への感情が、さっきまでれいなが思い込もうとしていたものとは、
 違うコトになってしまうのだが。


 もしかして…
 ごとぉさんも…


 思わず唸ってしまったれいなだったが、梨華が振り返ってにっこりと微笑むと、
 すっと胸のしこりは消えてしまった。

303 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:08


「慣れた?」


 主語のない言葉だったが、梨華の言いたい主語は自然と分かったれいな。

 真希のことだろう。
 今日、朝から結構緊張した表情をしてしまっていたれいな。

 もちろん、あさ美や愛もそうなのだが、れいなは普段の強気で、さばさばした性格からは想像できないが、
 実はこのメンバーの中だと、一番と言ってもいいくらいに人見知りしてしまう性格なのだ。

 そんなれいなだったから、今日もどちらかといえば、まだ真希には慣れていないと言った方が正しいのだ。

 愛や、あさ美は昼前くらいからは、頻繁に真希に話しかけたりして、結構笑顔も零れるようになっていたのだが、
 れいなは、朝話したときと、その後に休憩の時に梨華と一緒に2回話しただけで、とても慣れたモノではなかった。

 しかも、れいな自身が1人で話しかけに行ったのではなく、梨華が誘って話しかけに行ったのが1回と、
 梨華と真希、さゆみが話している中に話しかけに行ったのが1回だけなのだ。

 やはり、1人で真希のそばに行くのは緊張してしまうれいな。

304 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:09


「キレイすぎなんですもん」
 

 もうどうしようもないといった悲壮感の感じられるくらいのれいなの表情に、
 梨華は口元に手を持っていくと、おかしそうに笑った。


「笑わないでくださいよぉ」


 そうは言うものの、もちろんれいなの口調は崩れたものだった。
 梨華が自分の言葉で笑ってくれるのは、それだけでシアワセになってしまう。


「ごっちんが聞いたら喜ぶょ」


 そう振り返ってれいなに言うと、梨華は控え室の扉を開け、中に入った。
 れいなが通るまで扉を手で支えると、招き入れる。


「ぁ、ぁりがとぉございます」
「ぅん」


 テーブルの上に並べられていたお弁当を手にとる。
 椅子に腰を掛けると、スカートのふわふわをつぶさないように、キレイに座る梨華。
 その仕草でさえれいなにとっては見惚れてしまうモノ。

305 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:09


「今度言ってあげるょ」
「ゃ、やめてくださぃょ」


 れいなの慌てたような口調に、お弁当のフタを開ける手を止めると、また声に出し笑った。


「そんなに笑わんでも…」
「ごめんごめん」


 "でもねぇ"とペットボトルのお茶のフタを開ける梨華。
 れいなも同様に開けると、口元に持っていった。


「ごっちんもねぇ、家だとコドモのようにワガママ言ってるんだょ」


 "ナイショだょ"と、ヒトのコトを言えないのでは、と思えるように可愛らしい表情で言う梨華。
 思わず見惚れてしまいそうになくらいのカノジョのこの表情。

 れいなはこの表情が大スキだった。
 そして、目を細めてコドモのように笑う笑顔も。

 この表情は、いつまでもたっても飽きずに、そして見ていたいと思ってしまうものだった。

306 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:10


 それくらいステキな梨華の笑顔だが、今は、さすがにその内容に興味が移っていた。
 いや、興味が移ったというか、またまた嫉妬心がむくむくと起き上がってきてしまったというのが正解だろう。

 そう、梨華の先ほどの言葉は、真希は、家だと梨華に甘えているということを言っているコトに他ならないのだ。


 嫉妬。


 梨華に甘えるコトができる真希へ。
 真希をコドモのに包んであげている梨華へ。
 2人の関係へ。


 おそらくそうであろう。


「想像できなぃですょ
 逆のように思えますもん…」

「うん。
 クチビル突き出してね」
「へぇ…」


 "羨ましい"が素直な感情。

307 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:10


 そう、れいなも梨華に甘えたいとは常々思っているのだが、
 どうしてもさゆみやえりがセンパイに甘えるように甘えるコトが出来なかった。

 それは自分の性格なのだろうが、やはりえりやさゆみがそばにいるコトが一番の原因なのだろう。

 昔から2人の前だとぐいぐい引っ張り、おねえさんのように2人の甘えを受け止めていたのだ。 
 
 そんなコトもあり、やはり梨華に甘えたいと思っても、
 自然と2人の視線を感じて、なるべく抑えるようにしているのだ。 


 でも、いつかは…


「羨ましかぁ」 


 思わず零れてしまったれいなの言葉。

 しかし、梨華は、れいなのその"対象"の意味が少し分からなかったのだろう。
 不思議そうにカワイイ後輩の顔を見つめながらも、目の前のおいしそうなダシ巻きタマゴを口にほおばっていた。


308 名前:8 〜 投稿日:2005/08/17(水) 01:10


 〜 ☆


309 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/17(水) 16:50
これからがとても気になります。
次回の更新も待ってます。
310 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/18(木) 11:09
更新お疲れさまです。 小さい頃はお姉サンに甘えたりしたいってコトを思うのはありましたねぇ でも田中チャンと自分はあまり年も変わらないし、そういったトコロを見ると精神年齢が(ry じ、次回更新待ってます。
311 名前:なまっち 投稿日:2005/08/20(土) 01:25

>>309 名無飼育さん
 れすありがとうございます^^
 これからも気になってもらえるようなお話を書いていけるように
 頑張りますので、ヨロシクお願いします^^

>>310 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 確かにここのれぃなは…ぅーん…たぶんここのみんな幼いですょね…(自分の理想かなぁ
 ただ、イシカワさんは本当はもっと幼いのかも…
 のののヒトに甘えている姿が羨ましいっていってましたもんね(甘えてょ
 これからもヨロシクお願いします^^

312 名前:【春の歌】〜第5話。かっとう 投稿日:2005/08/20(土) 01:26




 9 〜




313 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:27


「そろそろかなぁ…」

 お昼も3時。
 ティータイムも過ぎた頃。
 テーブルに座り、さゆみとえりとお話に興じている真希を見ながら、梨華が小さく呟いた。

 そんな梨華の言葉に、そばにいたあさ美が慌てたのか、真っ先に反応する。

「だ、ダメですっ」

 一瞬きょとんとした表情を浮かべた梨華だったが、あさ美が自分の呟きをしっかりと理解しているコトに気づくと、
 "はぃはぃ"とあさ美の頭を撫ぜてあげた。

「でも、忙しくなってくるからね」
「ぅ…」

 実際に、結構席は埋まり始めていた。
 それを言われると、何もいえないあさ美。

314 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:27


 まだまだ言いたいコトが山ほどあるのだろうが、クチビルを突き出し、軽く抗議だけを見せた。
 それ以上は駄々をこねない。
 
 素直な後輩に、梨華は"ょしょし"と再び頭を撫ぜてあげた。

「また連れてくるょ」
「約束ですよっ」
「もちろんっ」

 梨華の言葉に、真剣な表情で頷くあさ美は、名残惜しそうに真希のそばに行った。
 そんな後輩の寂しそうな後姿を見送ると、梨華はバーカウンターの中でれいなと一緒にいるなつみのそばへ。

「そろそろ帰らそうかと思うのですが…」
「ぁ、そーなの?」

「はぃ。ありがとうございました」

「ん?ぜぇんぜん」

 にっこりと微笑むと、"じゃぁ"と適当にサンドウィッチを小箱に詰め始めたなつみ。

315 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:28


「ぁ…すみません」

 なつみが何をしているのかを理解すると、申し訳なさそうに梨華はお礼の言葉を言う。
 "ぃぃょ"というなつみの隣で、こっちを見ていたれいなに視線を移すと、れいなはにっこりと笑った。
 
「また連れてきてくださぃね」

 れいなの本心から出ている言葉に、感謝も込め、梨華が"うん"と大きく頷いた。

「ありがとー
 仲良くしてあげてね」
「も、もちろんっ」

 慌てて頷くれいなを見て、自然と笑顔がこぼれる梨華。
 そして、この雰囲気に気付いた圭織と愛が3人のそばに近付いてきた。

「帰っちゃうんですか?」

 頷く梨華をみて、もうその意識は向こうでメンバーに囲まれている真希のそばに飛んでいった愛。
 自然とカラダも真希のそばへ。
 そんな愛に続き、れいなも同様に真希のそばに足を運んだ。

316 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:28


「意外といいコだょね」

 "手伝うよ"となつみを手伝い始めた圭織からの言葉に、素直に嬉しくなった梨華。
 "ぁりがとうございます"と自然と表情も緩んでいた。

「テレビの中の印象だと、クールなのかなぁって思ってたけどね」
「そだょね
 あんなに話すコとは思わなかったょ」

 圭織の言葉に同意するなつみ。
 
 そうなのだ。
 普段、テレビの中で映っている真希は、どちらかといえばクールでカッコいい女のコとして映っていた。
 それが真希のコンセプトになっているといってもいい程であり、
 女のコから人気を集めている理由の内のひとつと言ってもよかったくらいだった。

 しかし、実際に圭織やなつみが感じた印象だと、それほどクールではなく、
 結構、感情表現はしっかりしているように思えたようだ。

 事実、今日は梨華の目にも、普段家にいるように真希の笑い声も聞えてきたし、楽しそうに話す姿も見れた。
 そんな外での真希の様子に、少し驚いてしまった梨華だったが、素直に嬉しかったし、
 連れてきてよかったとも、単純に思えた。

317 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:28


 これまで梨華が外で真希を見た印象だと、ほとんど話している姿を見たことがなかった。
 一度連れて行ってもらったツアーでの、スタッフのヒトとのコミュニケーションでも、
 真希自身が極力避けているようにも思えるくらいだったのだ。

 近くにいた梨華の方が、せっかく真希の為に働いてくれているのに失礼じゃないかと、
 ハラハラしてしまったくらいに。

 それ以外に、テレビ局に連れて行って貰ったときだった。
 同じ業界のヒトとすれ違ったときでも、軽く会釈だけで、目も合わせない姿も見たことがあった。
 自分からは極力目を合わせないように。
 それも、3度ほど。

 そんな真希の今日の姿は、梨華にとって、カノジョと他人とのコミュニケーションを、
 初めて見たといってもよかった。

 そして今、目の前にメアドの交換をしている後輩たちと、真希。
 真希以上に嬉しいキモチでいっぱいな梨華なのかもしれない。

318 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:29


 自然と笑顔になっている梨華だったが、ふともう1つ大事なコトを思い出した。
 真希にとっても必要となる"コ"であろう。

 "そだそだ"と口を開く。

「なに?」
「ももこちゃん…体調、大丈夫ですか?」
「ぁ、ぅん。全然。」

 さも当然のごとく"大丈夫"と言ったなつみに、少々拍子抜けをしてしまった梨華。
 そんな梨華に、なつみは苦笑いを浮かべ、さっきまでせわしなく動いていた手を止めた。

 そして、圭織に任せる。

「もともと布団を蹴飛ばして寝ちゃってただけだったから」

 そう言うと、軽く肩を竦め、"仕方がないコだね"と。

319 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:29


「じゃぁ、明日は…」
「ぅん。来るよ」

「来させるでしょ」

 圭織の"さもなつみが強引に連れてくる"かのように話す口ぶりに、"なぁにいうべさぁ"と慌てるなつみは、
 そうはいうものの、その表情は圭織の言葉遊びを楽しんでいるかのよう。
 梨華も自然と声をだし、笑っていた。

 そんな雰囲気の中、なにか返り討ちにしたそうななつみだったが、
 何も言葉が出てこなかったのか、"もぉ"と声をあげただけだった。
 そして、なつみの様子に勝ち誇ったような表情の圭織。

 お土産のサンドウィッチを詰め込んだ箱を、悔しさいっぱいのなつみの前で、梨華に手渡した。

320 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:30


「ホント、ぁりがとうございます。」
「ぃぇぃぇ
 みんなも喜んでるしね」

「また連れてきてもいいんですか?」

 梨華の言葉に、何を今更と"もちろん"と頷く圭織と、なつみ。

「カノジョが来たいって言ってくれたらね」

 と、逆に苦笑いを浮かべ、"来て欲しい"と訴えかけるように肩を竦めた圭織に、2人は自然が笑い声が零れた。



 〜☆

321 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:31


 原宿の街を歩く2人。
 キャスケットから微かに覗く真希の表情も自然と柔らかいものになっていた。

 それはもちろん今日出会ったヒトたちとのコミュニケーションの余韻だろう。

「どぉだった?」
「ぅん?」

 梨華の言葉に、楽しそうに"面白いコたちだねぇ"と、そして、しみじみと頷く真希。

「気分転換になった?」
「そりゃもちろん」

 真希のとても嬉しそうに言う姿に、素直に嬉しくなった梨華だったが、
 そう言ったきり、黙り込んだ真希に、少し不安も零れてしまっていた。

 その横顔は、何かを言いたいけど言い出せない、普段のなんでもワガママを言う真希の姿からは、
 かけ離れたものだった。

 そして、一瞬、"どうしたの?"と聞こうとした梨華だったが、もしかしたら、今日のコト自体、
 "余計なコト"と思ってしまっていたのではないのだろうかと、考えると、聞こうにも怖くて聞けない今。

 もしかして…

322 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:31


 と、そのとき、真希の口が寂しそうに動かされた。

「羨ましぃ」
「ぇ…?」

 "もう行きたくない"といった負の感情が溢れているのだろうか、と、心配していたのだが、
 実際に聞えてきた真希の言葉は、まったく別の感情表現だった。

 "羨ましい"

「あんなに楽しいコたちと一緒に働けて…羨ましい…」

 真希の本当に羨ましげな様子、そしてそんなコトを言ってしまっている気恥ずかしさの感じられる様子に、
 梨華は自然と真希の腕を手に取った。


 そっか…
 寂しいんだね…


 表情を緩めて。
 イジケてしまっているカワイイ自分の娘の手を。

323 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:32


 原宿の駅を通り、山手線の上を跨ぐ鉄橋越え、そして線路沿いを歩く2人。
 繋いだ手を、自然とぶらぶらと揺らす。

 普段からなかなか人通りの少ないこの道。
 原宿から渋谷まで電車に乗ればすぐなのだが、時間のあるときは自然と歩いて渋谷まで行く梨華。

 少々時間を作りたいときや、何かゆっくりと考えたいときなど歩いて渋谷まで行くことが多い。
 今も、真希と一緒に歩きたいというのが本心。

 電車に乗ると、今の込み合っている時間では、話すコトなどほぼ不可能である。

 そんなこともあり、今、真希となにかしら色々と話したい梨華は、
 渋谷の街で一緒にショッピングをしたいといった真希に"歩こぉ"と誘ったのだ。

 真希も、梨華と同じなのか、拒むことなく"ぃぃょ"と。

 そして、下りが緩やかになり、人通りも多くなった渋谷の街並みに近付いた頃、
 真希の口から、梨華が一番聞きたがっていた"答え"が聞えてきた。

 それは…

324 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:34


「明日も…行っても…いい?」

 その言葉を聞いた瞬間、胸のつかえが一気に取れた梨華。

 そう、"羨ましい"とは言ったものの、梨華の胸の中ではずっとずっと不安でいっぱいだったのだ。

 もしかしたら、あまり行きたくないとか
 行ってずっと話しっぱなしで、疲れてしまったとか

 などなど、不安でいっぱいだったのだが、真希の答えは梨華のそれらの感情を一気に飛ばしてくれるものだった。
 むしろ、すぐにでも行きたいとのこと。

 その答えに、表情も自然と柔らかくなり、嬉しさのあまりか、目を細める。

「もちろん…」

 そして、ぐっと真希の腕を自分に引き寄せた。 

「ごっちんが来たいなら…みんな大歓迎だょ」
「ありがと…」


 連れて行ったのは…正解かな…


 嬉しさと、満足感、そして明日からのみんなとのコミュニケーション、それらの希望に胸を膨らませた梨華は、
 さらに、これから楽しめる随分と久しぶりの真希とのショッピングにも、胸を膨らませた。


 真希にアクセサリを買って貰えたり…
 買ってあげたり…


 真希との生活を。


325 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:35


                       〜 第5話。〜


326 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:36


                      〜 かっとう 〜


327 名前:9 〜 投稿日:2005/08/20(土) 01:36


                       〜 おわり 〜


328 名前:なまっち 投稿日:2005/08/20(土) 01:39


こんばんは。
これにて第5話。が終了いたしました。
読んで頂けました方、ありがとうございました。

そして、これまでれすを頂けました方、ありがとうございます。
れすがある度に読者さまがいると思い、モチベーションもあっぷしておりますので
とても感謝しております^^

着実に終わりに近づいておりますが、
そこで、今から書き始めているトコでカプ的要素(ただのじゃれあい?)が
大きくなってきてまして、結構悩みも…
わが道をゆくでもいいのですが、それよりやっぱり読んでいただいている
読者さまが少しでも面白いと思うお話をできるだけ目指して…

そこで、普段から読んで頂いてます読者さまは、このお話で何を一番楽しみに
読まれているのでしょうか?

やっぱり「石川さん×れぃな」ですか?
それとも…「石川さん×ごっちん」?「さゆ×えり」?「さゆ×みきさま」?
「らぶりぃ×こんこん」?「こんこん×ごっちん」?「イシカワさん×ももちゃん」?
番外で「えりVSみきさま」「ももちゃんVSれぃな」?…などなど…etc

はたまた上と関係なく、誰々が出てくるときがスキなど…

これまで手探りで色々と書きながら、反応を見ていたという状態ですが、
結局少ししか分かりませんでした(ぉぃ

自分の中にある話の各ポイントは変える事はできないと思いますが、
このアンケート(?)で小話的な部分を付け加えたり、さらに盛り上げられるコトが
できるかもしれないと思いますので…

だれだれの組み合わせがいいだとか、このコが出てくるときが楽しいとか…
もしお暇でしたら、これまでれすをいただけました方も、読者さまも、
アンケートだけでもいいのでお答え頂けますと嬉しいです。

それでは、次回から第6話。となります。
新しい(?)登場人物が出てきますし、新展開(?)となります(いちぉぅ…(ぉぉげさ?…(ぉぃ…(でも新展開だもん

それでは、失礼します。

329 名前:なまっち 投稿日:2005/08/20(土) 01:39


 〜 ☆


330 名前:なまっち 投稿日:2005/08/20(土) 01:39


 〜 ☆


331 名前:なまっち 投稿日:2005/08/20(土) 01:40


 〜 ☆


332 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 09:47
更新お疲れ様です。
この話にはいつも癒されてます。

うちは特にいしれなを楽しみにしてます。
ぶっちゃけDDだからどれも楽しみなんだけどw
333 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 11:37
第5話お疲れ様です!!全部読ませてもらいました。
私は「石川xごっちん」と「ごっちんxれいな」
を楽しみにしています。
これからも頑張ってください。
334 名前:名無し読者 投稿日:2005/08/20(土) 12:19
第5話終了乙です〜
自分は「石川さんxごっちん」と「こんこん×ごっちん」が好きです

第6話も楽しみにしてます
335 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 13:28
初レスさせて頂きます。
実は前スレからずっと読ませてもらってました!
すごく文章とか好きで、なにげに毎日チェックしてます。
自分はやっぱり【イシカワさん×れいな】がいいなぁって考えてたりして・・・。
今度のTVで放送される『猫の恩返し』は何故かこの2人がナビゲーター!!
やばいくらい飛び跳ねましたね、自分。
続きもすごく楽しみにしています♪
乱文、長文、失礼しました。
336 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 16:31
更新お疲れ様です。

ここは毎日チェックするほど、気になる小説です。
自分は「さゆ×えり」「さゆ×みきさま」
「らぶりぃ×こんこん」「えりVSみきさま」を楽しみにしています。
一番は決められません。

というか、物語の行方が一番気なっています。
作者さん、頑張ってください!
337 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/20(土) 21:16
更新お疲れさまですっ!

私が一番気になってるのは「梨華ちゃん×れいな」「愛ちゃん×紺ちゃん」です!
ミキティも気になるところですが(汗

とにかく続きがすっごく楽しみです!
これを気にまた書き込みさせてくださぃ♪
338 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/20(土) 22:51
更新お疲れさまです。 おぉっ( ̄▽ ̄) なにやら好評で第一歩を踏みましたね。 ごっちんの気持ちは分かりますねぇ、だって(ry CPはかなり迷いますねぇ(汗 わがままを言えば全部見たい(マテ でも限られているのであれば作者様の一押しなんかを更新してくだされば(笑 次回更新待ってます。
339 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/21(日) 00:14
いつも楽しく読ませて貰ってます。
アンケートということなので
「石川さん×れぃな」はもちろんのこと「石川さん×ごっちん」も好き
なんで読んでて、自分もかっとうしています(笑)
でも実は「さゆ×みきさま」が一番好きです。
340 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/21(日) 02:52
更新お疲れ様です。
いつも楽しく読ませてもらってます。
すっかりこのお話の世界に惹き込まれてしまってます。
自分は梨華ちゃんとごっちんが一番気になってます。
お姉さん梨華ちゃんと甘えるごっちんがとってもかわいいです!
あと、ごっちんと例の写真を撮られちゃった某さんとのその後も気がかりだったり。。。
341 名前:ひろ〜し〜 投稿日:2005/08/21(日) 10:46
こんにちわ。
甘えてるごっちんとお姉ちゃんな梨華ちゃんが可愛くて微笑ましいですw
っていうことで、
石×後を希望します。
あと高×紺と、絵里vs美貴ティも気になりますw

続き、楽しみに待ってます!
342 名前:ななし 投稿日:2005/08/21(日) 13:49
いつも楽しみに読んでます
この小説の後藤さんは石川さん無しだと壊れそうなので(^^;)
石川さんと後藤さん希望です
でも最終的には作者さんの判断におまかせですよ
343 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/21(日) 18:19
更新お疲れ様です。
毎回楽しく読ませてもらってます。
ちなみに気になってるのはりか×れな、高×紺、さゆ×みきです。
えりVSみきさまも気になりますが…
これからも頑張って下さい!
344 名前:なまっち 投稿日:2005/08/23(火) 01:02


たくさんのアンケートあんどレスありがとうございます。
まさかこんなに読んで頂いていたなんて…(びっくり…
これまでれすを頂けたヒトの数から6人くらいかなぁと思ってましたが…(にがわら
めっちゃ嬉しいです^^
みなさんを逃さないように頑張ります(ょし

イシカワさん×れぃな  ⇒ 6
イシカワさん×ごっちん ⇒ 7
ごっちん×れぃな    ⇒ 1

ごっちん×こんこん   ⇒ 2
ごっちん×某さん    ⇒ 1

らぶりぃ×こんこん   ⇒ 5

さゆ×えり       ⇒ 2
さゆ×みきさま     ⇒ 4

イシカワさん×ももこ  ⇒ 1

みきさまVSえり    ⇒ 4
れぃなVSももこ    ⇒ 1

みきさま        ⇒ 1

「イシカワさん×ごっちん」を楽しみにされている方がこれだけ多いのにはちょっとビックリでした。
っていうか、「イシカワさん×れぃな」より多いなんて(ぁせ
アンケート、参考にさせていただきます。

345 名前:なまっち 投稿日:2005/08/23(火) 01:02


他のメンバーの結果もとても参考になりました。
もともと一番悩んでいたのが、イシカワさんとごっちんとれいなの三角形以外なんです。

自分の中では「らぶりぃ×こんこん」「えり×さゆ」「さゆ×みきさま」を楽しみにされている方は
ほとんどいないと思っていましたので、極端な話、流すだけで、イシカワさんとれぃなとごっちんの
三角形の割合を大きくしようかなぁと思ってたんですけど、そうすると少し量が少なくなりそうで困っておりました。
でも、楽しみにされている方がいらっしゃるので、今回言って頂いたものはある程度書いていきます。
プラスいろいろと…
ただ…自分がこのお話のメインで書いている以外のかぶっているメンバーは、
アンケート結果の多い方で優先とさせていただきますが…(にがわら

「さゆ×えり」より「さゆ×みきさま」が多くて、「えりVSみきさま」も同じ人数だなんて…(ぉーぃ
どうしょ…

ま、ぉぃぉぃ考えるとしまして…(ぉぃ
これからもみなさんが面白いを思っていただけるようなお話を書いていきたいと思いますので、
よろしくお願いいたします。

集計の結果は次の次の第7話あたりからじょじょに入ってくると思います。

ので、また新しくこのすれを読んで頂けましたかたや、別の組み合わせも気になると思われましたかたや、
まだまだ悩まれておられます読者さまは、第6話の間は続けさせていただきますので、お気軽に答えて
いただけますと、嬉しいです。

今回答えていただけましたかた、アンケート本当にありがとうございました。

346 名前:なまっち 投稿日:2005/08/23(火) 01:03


>>332 名無飼育さん
 ありがとうございます^^
 癒されるなんて言われますとすごい嬉しいです^^

>>333 名無飼育さん
 ありがとうございます^^
 「ごっちん×れぃな」はいないと思っていたんで意外です(ぁせ
 でも、そういえば…
 れぃなって、一番最初のアンケート(?)で憧れてる(尊敬かな?)ヒトに後藤さんと石川さんをあげてましたね(もぇ

>>334 名無し読者さん
 ありがとうございます^^
 「こんこん×ごっちん」はもうちょっとおられると思っていたんですけど(ぁせ
 この2人も個人的に結構スキなんですょ(ぉぃ

>>335 名無飼育さん
 おはつです^^
 れす&アンケート&お褒めのお言葉&もぇぇぇぇ情報ありがとうございます^^

 まだ知らなかったんで、名無飼育335さんのれすを見て自分も飛び跳ねて喜んでしまいました(ぉぃ
 ツーショットだけでもャバィですね(ぉぃ
 なんで2人なのか分かんないですけど、とにかく久々にャバィ(ぉーぃ
 長文、もぇ情報大歓迎です^^

>>336 名無し飼育さん
 ありがとうございます^^
 物語の行方が気になっているといっていただけますと、かなり嬉しいです(ホントです
 いろいろと伏線をはっているつもりなんで(ぉぃ

>>337 名無飼育さん
 ありがとうございます^^
 みきてぃをもっと活躍させたいですね〜
 でも、この中じゃえろえろみきてぃなんで(にがわら
 がんがん書き込んでくださいませ

347 名前:なまっち 投稿日:2005/08/23(火) 01:03


>>338 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 一応第一歩は(いちおう…(おもわせぶり?…(ぃぇ
 全部ということで、全部に一票ずつ入れさせていただきました…
 ぇーと…自分の一押しとなると…もごもごもご…(ぉぃっ

>>339 名無飼育さん
 ありがとうございます^^
 それではますますかっとうして頂き…もごもご…
 「さゆ×みきさま」は自分の中でも結構熱いんで、結構多くて嬉しかったりして^^

>>340 名無飼育さん
 嬉しいお言葉ありがとうございます^^
 自分も一番スキな2人のキャラなんです(マジキャヮ
 某さん…
 最初次の第6話で出そうとしていたのですが、ちょっと苦労してましたので…
 出さないでおこうかなぁとか思ってましたが(おいっ!
 340名無飼育さんのお言葉で、なにかないかなぁと考えてましたら、
 他のメンバーと上手い具合に絡めそうなお話が浮かびましたので
 もうしばらくお待ちくださいませ。
 その部分は最初に考えていたお話より、いい感じになりそうなので、
 アンケートで出していただけまして感謝しております(ほんと

>>341 ひろ〜し〜さん
 ありがとうございます^^
 石×後のご希望に完全に添えるかわかりませんが、今のお話のポイントポイントで入れていけたらと思います^^
 「えりVSみきさま」が意外と人気ですね…(ぇりは不幸キャラ…?

>>342 ななしさん
 ありがとうございます^^
 たしかにここの後藤さんはそうですね…(はは…
 おまかせがご期待に添えますように頑張ります

>>343 名無飼育さん
 ありがとうございます^^
 高×紺もなかなか人気ですね
 上手に作れるかなぁ…

348 名前:なまっち 投稿日:2005/08/23(火) 01:03


みなさま、アンケートにご協力いただきましてありがとうございました。
新しくお話が浮かんだり、どの組み合わせが気になっているなどがわかり、
より書きやすくなりました(感謝です

↑でも書きました通り、本格的に入るのは次の第7話になる予定なので、
しばらくおまちくださいませ。

それでは、第6話。です。
しばらくの間、またお付き合いしていただけますと嬉しいです。



349 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/08/23(火) 01:05




 ☆ 第6話。ステキな関係 ☆




350 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/08/23(火) 01:05




 1 〜




351 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:05


 現在、日本の長距離移動の主となっている新幹線の発着駅であるここ品川駅は、
 開通して1年半が経過したばかりの駅である。

 新幹線が開通してからは、それを利用する乗客にとって随分とその利便性がよくなった。

 それまでは、新幹線の発着駅としては、横浜、そして終着駅である東京。

 遠距離を移動するビジネスマンにとっては、東京の各駅に行くためには、まず東京駅にいかなくてはならず、
 随分と遠回りをしないといけないといった不便な部分もあった。

 しかし、品川駅が開通することで、新宿というビジネス街にも、そして、そこからさらに海外、
 遠方に飛ぶために成田空港や、羽田空港にも利便がよくなった。

 そして、この駅により、普段より余計に働かなくてはならなくなってしまったヒトも。

 自分と同じくらいに大きなカバンを2人で半分ずつ持ち、一緒に歩く2人の美少女。
 明るい構内に、キレイな床。
 自分たちの姿を映し出すソコをてくてくと歩くその姿。

 この2人もその被害者の内の1人。

352 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:06


 キャスケットやキャップを目深に被り、その顔立ちは分からないが、明らかに美少女が想像できるくらいだ。
 2人とも、中学生だろうか。

 素顔はとても愛くるしいだろう。
 一生懸命、自分たちの荷物を運ぶその姿から分かるくらいに。

 その2人の前後には、数名の女性と、2人の男性が2人の美少女を守るように一緒に歩いていた。

「ほらっ、あれっ」

 2人の美少女のすぐ前を歩いていた女性が振り返り、少し指差す。
 その先には、2人がよく見慣れたバンが止められていた。

「づがれだぁ」

 舌足らずな口調で、そう声を出した美少女は、発した言葉同様、本当に疲れ切ってしまっているのだろう、
 思わず立ち止まる。
 しかし、隣でカバンの反対側を持っている美少女に頭を撫ぜられると、"ぅん"と頷き、再び歩き出した。

353 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:06


 週も空けた月曜日。
 そして、時刻は夕刻。
 ビジネスマンの街であるココでは、今が一番人通りの少ない時間帯であり、
 そして、そろそろ人通りが多くなり始める時間。

 2人の付添い人であるヒトたちは、さっさと車に乗せたいのだろうが、やはりそうはいかないもの。
 急かしたいのもやまやま、2人の体力を考えると仕方がないのかもしれない。

 土曜、日曜と体力を随分と消耗し、そして今日も朝から仕事。
 やっと戻ってきた地元に、オトナである自分たちでさえ疲れは隠せなかったのだから。

 ようやく2人だけをその車に乗り込ませ、車を運転してきた同じ会社の人間に2人を任せると、
 ほっと一安心なのか、めいめい公共の交通機関で、3人が目指した場所へとゆっくりと向かった。

 これで本日の仕事は終わったとばかりに。



 〜 ☆

354 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:07


「はぁ」

 奥に座り込み、大きくため息をつくと、キャスケットを被った美少女が、それを取った。

 黒目がちな目をし、誰もが可愛がりたくなるような愛くるしく幼げな顔立ちをした美少女が、
 "開放された"とばかりに表情を緩める。

 しかし、少々暖房の強い車内、先ほどまで重い荷物も持って早足で歩いてきたこともあり、暑過ぎるようだ。
 少し薄めのセーターの胸元をぱたぱたと仰ぐと、風を送り込む。

 ただ、それだけでは暑さを解消することは出来なかったようだ。
 そのヌイグルミみたいに愛くるしい顔をしかめる。

 ま、しかめるとはいえ、元々の顔立ちから、その表情でさえヒトに不快なキモチにさせるものではなかった。
 むしろ、それさえヒトをあったかいキモチにさせてしまう美少女。

 ペットボトルのお茶を取り出し、口に近づけ、それをノドに流し込むと、ほっと一息ついた。

 それら仕草はまさにコドモの仕草。
 ヒトの表情を緩める仕草。

355 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:07


 明るい色のラフなカワイイ服を身に包むそのカラダは随分と小さく、
 そのことからも、男女関係無しに誰からも愛されることが容易に想像できそうだ。

 そして、この4月から高校も卒業する年となるのだが、
 まだまだ中学生になる前の少女のような雰囲気を出しているのが印象的である。

 ただ、思春期に少女から女性に変化し始めた体型のように、少し肉付きがあり、
 女性を主張する柔らかな膨らみが、一般的な女性と比べると随分と目立つが、
 それが逆にこの幼げな少女に不思議とマッチし、魅力を与えているように思える。

 スレンダーな体型をしていても、それはそれで、より万人に愛される可愛らしい顔立ちが想像できる美少女だ。

356 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:08


 一方、もう1人の美少女は、疲れたとばかりに、隣のふわふわしたアタタカイ美少女にもたれるようにして、
 早速目を閉じてしまった。

 この美少女も、小さなカラダではあるが、隣の愛くるしい少女とは対称的に、
 とても運動神経がよさそうな、少年的な引き締まった筋肉質な体付きをしている。

 そして、同様に、幼げで、とても可愛らしい顔つきが印象の、まだまだ少女と呼べる女のコだ。
 目じりが下がっているコトがより幼く表情を作っていた。

 隣の少女のコトをとても信頼しているのだろう。
 その隣で目を軽く閉じている姿は、とても安心しきっていることが想像できる。

 さらに、その少女を自分のイモウトのように見つめる"愛くるしい少女"。
 お互いがお互いを必要としている様子が、手に取るように伺えそうだ。

357 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:08


 ゆっくりと動き出した車の動きに任せるかのように自分の隣で軽く目を瞑ってしまった少女。
 自分の"最愛のヒト"を優しげに見つめるたのち、再び暑さを思い出した"愛くるしい少女"は、
 手で自分の顔を仰ぐ。

 その仕草に、運転席に座ってた運転手が気付いたのか、空調を調節しながら"暑いんかぁ?"と、
 その"愛くるしい少女"にとって妙に懐かしいイントネーションで聞いてきた。

 東京に出てきてからは、余り聞くことのなくなった地元の言葉。
 そして、西方独特のイントネーション。

 しかし、そんなコトとは関係なく、とたんに、顔色をかえた少女。
 隣で眠ろうとしていた"スレンダーな少女"も飛び起きる。

「ゆぅちゃんっ!?」
「遅っ!」
「やぁーやっぱりぃ」

 とたんに"愛くるしい少女"は、後部座席から身と乗り出すようにして運転席に座っている女性に抱きついた。

358 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:08


「あぶなっ!」

 同様に抱きつこうする"スレンダーな少女"。
 しかし、"ゆうちゃん"と呼ばれた女性は、ぐいっと手を突き出すと"危ないっちゅぅねん"と2人をつき返した。

 派手な容姿、それに見合うくらいにキレイな顔立ち。
 また、その容姿プラス、口から出る口調と、関西弁に、
 第一印象は確実に"怖い"となってしまいそうな女性がハンドルを握っていた。

 しかし、そんな遊んでいる雰囲気とは対称的に、性格は意外とマジメで細かく、
 ヒトのコトを第一に考える女性である。

 カノジョの名前は中澤裕子。
 そう、真希のマネージャーである裕子。

 カノジョは、先週の金曜から休暇を与えている真希の残務、そしてスケジュール調整を全て済ませたところ、
 急遽、同じ事務所であり、真希と同期といえるこの2人の送り迎えを頼まれたのだ。

 別に他にもヒトはいたし、断ってもよかったのだが、それでも真希のチーフマネージャとなってからは、
 事務所でもほとんど会えなくなっていたコトもあり、久しぶりに顔を見たかったのだ。

 オトナの汚い世界で働き続けても、コドモのように無邪気なキモチを持っている2人を見ると、
 自然とココロも温かくなれるから。

359 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:09


 真希と同じオーディションで準グランプリを獲得した2人は、その似た容姿から、"双子"、
 さらに"アブナイ関係"というコンセプトでデュオとして、真希と同じ日にデビューした2人である。

 愛くるしい顔立ち、その仕草とは対称的に、女性的なステキなスタイルをしている美少女が加護亜依。
 そして、スレンダーで少年的な体型をした美少女が辻希美。

 真希とは違い、デビューしてすぐに人気が出たのではない2人。
 売り上げ的な部分では、スマッシュヒットの連発だったのだが、それ以上に、カノジョたち2人の容姿、
 さらにコンセプトや、キャラクター的な部分、ヒトのココロを癒してしまう存在などから、
 次第に世代関係なく人気を集めてきたのだ。

 とくに、小中学生の女のコのファンを獲得したコトが大きかった。
 そのことから、雑誌への露出も増え、キャラクター的な部分からメディアへの露出も増え、
 そこからさらにファンの層を広め、一気に国民的アイドルへの道を得た2人。
 そう、アイドルデュオとしてトップへと上り詰めた2人なのだ。

 CDの売り上げは、今では全盛期を随分と下回ってしまっているが、人気自体は今でも衰えず、
 休みも貰えずに働かされている2人である。

 これほど忙しいのに、ほとんど弱音を吐かない2人。

360 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:09


 裕子は、相手への気遣いや、ヒトを引っ張れるリーダー的な性格から、真希のチーフマネージャーとなったのだが、
 それ以前はこの2人にもデビューから1年半はマネージャーとして付いていたのだ。

 2人のデビュー後すぐ、マネージャーにつき始めた頃は、随分と叱り付けた思い出がたくさん残っている。
 いっぱい泣かれ、ときどき罪悪感にさいなまれたコトも多々。
 ただただ当時は、カノジョたちの為を思ってのことだったのだ。

 しかし、それが逆に、早くから汚い世界に出てしまうコトとなった2人にとってよかったのだ。
 そして、母親のように優しく包んであげる。

 そのアメとムチとも言える部分、さらにカノジョの性格から、1年も経つと随分と懐かれてしまった裕子。
 そう、マネージャーから離れた当初は泣かれたりもしたのだ。

 ま、しかし、今ではすれ違うたびに"おばちゃんおばちゃん"とからかわれっぱなしであるのだが。

 その当時が懐かしい裕子。

 それ以来、この2人とはほとんど出会えていなかった。
 会えても事務所ですれ違うか、真希と一緒のテレビに出演したときに、ほんの数分出会えるくらいだ。

 こうやって、これから事務所、そして各家までの数時間は確実に一緒にいれるといった保障された時間は、
 "何年ぶり"まではいかないが、それでも前回のこのような機会は覚えていないくらいだった。

361 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:10


「もぉ…」

 運転中だから仕方がないと割り切るも、名残惜しそうにクチビルを突き出す亜依。
 座りなおすと、"久しぶりゃぁね"と嬉しそうに口にした。
 同様に、うんうんと頷く希美。

「辻も、加護も元気そうやなぁ」
「あいぼんは、かなりへばってるよねー」
「のんだってさっき泣きそうな顔しとったゃンかぁ」
 
 地元の言葉が聞えてくると、"あいぼん"こと亜依も、自然と自分の慣れ親しんだ言葉が口から出てきた。
 その表情は、裕子に久しぶりに会えた喜びと、思う存分地元の言葉を話せる喜びが合わさっているのか、
 さっきまでの疲れにより沈んでしまっていたモノとはかけ離れたモノへとなっている。

 疲れなんて、なんのその。

 そして、隣にいる"のん"こと辻希美も。

「名古屋ゃろ?」
「うん」

 大きく頷くと、亜依は早速とばかりに、身振り手振りで、何を食べたとか、おいしいお店を見つけただの、
 そのときの味まで思い出しているのか、時折シアワセそうに笑顔を浮かべながら、
 つい数時間前までいた場所について話し始めた。

 そんな亜依の屈託のない笑顔、話し振りにうんうんと頷きながら、
 自分の娘が話すのを聞くかのように、笑顔で聞く裕子。

362 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:10


 亜依と希美は土曜、日曜と名古屋の方でこの春のツアーの、地方におけるラスト公演を行ってきたのだ。
 春休みというコトもあり、土曜日は2公演、そして日曜日は3公演と体力を考えずに詰め込まれた公演数の上に、
 今日月曜日は、朝一番から名古屋でのテレビ、ラジオの生番組の仕事を済ませ、やっと夕方に戻ってこれた2人。

 そして、品川駅ができ、事務所が近くなってしまったコトから、
 これから事務書類の提出の為だけに立ち寄らないといけないのだ。

 ときどきある今日のようなスケジュールは、本当に疲れてしまうものだった。

 しかし、普段なら疲れるだけなのだが、裕子が迎えに来てくれた今日ばっかりは、
 自然と2人ともそれを忘れることができた。

 ご機嫌に話す亜依。
 そんな亜依の上手な話し振りに希美は、自分の空腹感を思い出してしまったのか、
 おなかを押さえ少し表情を曇らせる。

「はらへったぁ」

 2人の間では、まるで1つの慣用句のように使われてしまっているコノ言葉。

 すると、さっきまで元気に話していた亜依まで、急にしゅんとしぼんでしまった風船のように表情を曇らせると、
 "お腹空いたぁ"と裕子の肩を突付く。

363 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:10


「車内で、なんも食べんかったん?」
「ぅん」
「寝とった…」

 大きくため息をついた裕子だったが、この2人に久しぶりに甘えた声を出されると、それはそれで嬉しくもなる。
 口では"しゃぁないなぁ"とは言うものの、しばし考えた裕子は、"じゃぁ"と口を開いた。

「事務所出てから、カフェに行こか」
「ほんま?」
「やったー」

 急に元気になる亜依、そして希美。
 少し呆れ顔の裕子だが、大きく頷くと、"ちょうど行かなあかんトコがあってん"と笑顔を零した。

「…?」
「まぁちょっと変わってるトコみたいやけど…」

 意味の分からない2人は顔を見合わせるだけだったが、それでも晩御飯前、
 少しおいしそうなものが食べれるとなり、そこからは、自然と口も滑らかなものへとなっていった。


364 名前:1 〜 投稿日:2005/08/23(火) 01:11


 〜 ☆


365 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/23(火) 03:29
 更新お疲れさまです。 ついにあの二人が来ましたね(^^) どうなっていくか楽しみです。 次回更新待ってます。
366 名前:名無飼育335 投稿日:2005/08/24(水) 00:44
更新お疲れさまです。
また書き込みさせて頂きました!
待ちに待ったあの美少女達が登場ですね♪
あっ!もしや、その場所って・・・!?
続きがすごく待ち遠しいです。
そしてあの二人がナビゲートするジブリ映画のテレビ公開まであと少し!
某ニュース番組でチラッとその様子を見ましたが、二人共可愛らしい制服姿でしたよ・・・やられた(爆
367 名前:なまっち 投稿日:2005/08/26(金) 00:53

>>365 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 ついに、です^^
 静養剤的なコたちなんで大スキなんですよねぇ^^
 これからもヨロシクお願いします^^

>>366 名無飼育335さん
 書き込みありがとうございます^^
 待ちに待ったですかっ(ょしっ(ぅれしぃ
 そうです…その場所は…もごもごもご…(ぉぃ

 明日ですね(くぅ〜〜
 新聞の切り抜きの画像は見ました^^同じくゃられました(ぉーぃ
 めっちゃ楽しみです^^
 もう2人でナビゲーターってだけでいろいろもぅそぅしてしまいましたょ(はは
368 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/08/26(金) 00:54




 2 〜




369 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:54


 ドコにこれほどの車が置ける場所があるのだろうか、と思えるほど多い東京の昼の国道。
 その鉄のおもちゃは日本全国から集まっているのかもしれない。
 そして、それを利用しているヒトも。

 地元の人間にとってはいい迷惑である。

 ま、渋滞すると分かっているならば、別の道を使えばいいだけではあるのだが。

 ても、目的地に行かなければならないヒトにとってはあまり関係ないのだろう。

 渋滞していても、その道を使う。
 何時間掛かっても。

 そして、それはこの3人も。

 東京の街。
 青山に向かう道。
 渋滞に巻き込まれてしまった裕子たち。

 初めからある程度の渋滞は予想していたが、それでもこの国道を通るしかないのだから、
 仕方がないのかもしれない。

370 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:55


 事務所を出てからかれこれ30分は経っていた。
 のろのろ進む車。
 後ろの座席にいる2人は、最初の頃の元気のよさはどこへやら、
 いつの間にかオネムの世界へと旅立ってしまっていた。

 急に静かになってしまった車内。

 少し寂しさも覚えるも、もともと2人の体力は限界に近いくらいだったのだから、ちょうどよかったのだ。

 毎日毎日働かされ、そして長距離を移動させられ。
 久しぶりとはいえ、自分と話すより、疲れを取る方がいいと。
 明日がオフとはいえ。

 真希以上に働いている2人だから。

 とはいえ、"2人"ということから、これだけ働かされていても耐えられるのだろう。
 そう、おそらく2人だから耐えられるこの仕事。
 1人だと、当の昔に泣き言を言っているはず。

 どれだけお互いが助けられているかというのは、2人のマネージャーについていて、一番理解し、
 そして、一番感じたコトだった。

371 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:55


 それを考えると、真希には余計に負担が掛かってしまっていることが容易に想像できる。

 ただ、真希も1人ではない。
 "梨華"という強い味方がいて、いつもいつも温かく包んでくれている。
 母親の代わりに。

 そして、家族を亡くした傷。
 中学生の頃に親戚に受けた虐待の傷。

 それらも癒してくれる存在である、梨華がいる。


 それでもやはり…


 いつもいつも真希を送り迎えし、車内の後ろで疲れから眠ってしまう姿を見ているから、
 余計に後ろから聞えてくる微かな寝息に"今の真希"を思い出し、自然とため息が出てしまっていた裕子であった。



 〜 ☆

372 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:55


「ゆぅちゃぁん」

 少し眠そうに目を擦りながら、のんびりとした声を出したのは、亜依だった。

「ん?起きたん?」

 裕子の言葉に、小さく頷くと、隣で自分の膝に頭を置き、眠ってしまった希美の頭を優しく撫ぜる。
 そして、ずっと気になっていたコトを口にした。

 ある意味タブーになっている言葉で、自分たちのマネージャーに聞いても、聞いてないと話すだけ。
 その言葉を聞くたびに、希美と2人で"オトナってウソつくのがスキだね"と、呆れ返ってしまっていた。


 でも、ゆうちゃんならきっとウソは言わなぃ


 亜依はそう信じているから。

373 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:56


「ごっちん…」
「!…」
「…大丈夫?」

 一瞬、大きく跳ね上がる裕子の心臓。
 そして、ルームミラーごしに見える余りにも心配げな雰囲気の亜依。

 自分を信じているように感じる亜依の様子に、普段ならなんでも言ってあげることが出来るのだが、
 こればっかりはすぐに口から言葉はでなかった。

 何を言えばいいのか。
 どこまで言えばいいのか。

 真希について聞かれることは、この2人を迎えに行くコトが決まってから分かりきっていたのだが、
 結局、ここに来るまでに考えをまとめるコトはできなかった。

374 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:56


 そんな裕子の様子に、亜依の表情がみるみる内に曇ってきた。

 亜依自身、真希の休みの原因がインフルエンザではないことは聞いていた。
 そして、ある程度は元気であることも。
 しかし、それ以上は何も教えてもらえない。

 そのコトが余計に"公演が中止になってしまった本当の理由"に不安を持ってしまっているのだ。

 今の自分たちの仕事から考えれば、余りにも長いオフにも。
 さらに、今の真希のオフは、裕子が強引に決めたとウワサできいた。

 と、いうことは、真希のコトを第一に考えている裕子の決断からして、
 余計に何かがあるのかもしれないと、不安になってしまうのだ。

 健康的な部分に関しての何か。
 精神的な部分に関しての何か。
 そして、ネットを騒がしている何か。

375 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:57


 真希に連絡を取りたくても、忙しさにあまり時間もなく、
 メールではどう声を掛けたらいいのかさえ分からなかった亜依。
 
 むしろ、出会うのが一番よかった。
 出会って抱きつく方が、亜依にとって一番シンプルであり、一番考えずにすむコミュニケーションであるから。

 この何日間で起こっている現実より、真希に出会い、その元気な姿を見るだけで。

「元気…ゃで」
「ほんまっ?」

 その言葉を裕子の口から聞くだけで、亜依はココロにあったしこりが取れてくれそうだった。
 思わず腰を上げる。

 しかし、希美の重みを感じると、慌てて腰を下ろした。

「会いたいん?」

 裕子の言葉に大きく頷く亜依。
 その姿を見て"しゃぁないなぁ"と呟くと、車を路肩にとめ、携帯を手に取った。

376 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:57


 思ってもいなかった裕子の言動に、亜依はその姿を呆然とみつめる。
 頷いたものの、裕子の言葉に全く期待はしていなかったのだ。

 そう、裕子の言葉だと、これから会えるかもしれないということに、必然的になるのだろうか。

 それはそれで単純に嬉しい。

 真希とゆっくりと出会える機会などほぼ皆無に近いからだ。

 いつもすれ違ったり、ほんの数分だけ話せたりという状況ばっかりだった。
 2週間前の再会もそうだった。
 ただただすれ違っただけ。
 前回出会ってゆっくりと会話をしたのは、1年は前になると思う。

 いや、1年だろうか…
 とにかく、覚えていないくらいだった。
 
 ただ1つ、裕子はこれから行かないといけない場所があると言っていた言葉が、亜依の中、少し引っかかっていた。
 大事な場所ではないのだろうか、と。

 それなのに、今電話しているということは、もし亜依が望んでいるコトが実現するのならば、
 裕子はどうするのだろか。

 裕子の考えていることが読めない亜依。

377 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:58


 少し不安げに、携帯とメモを見比べる裕子を見つめる。
 そんな亜依の視線を気にせず、メモを見ながら電話を掛ける裕子。

 と、いうことは相手は真希ではないのだろう。
 さらに、初めて掛けるコトが想像できそうだった。
 
 裕子が携帯を耳に近づけると、すぐに相手はでたのか、自分の名前を名乗ってから、
 丁寧に何かお店の名称らしき言葉を口にして、相手を確かめた。

 その名称はどこかで聞いたコトがあるような気もした亜依だったが、すぐには思い出すことが出来なかった。
 しかし、次に聞えてきた言葉は、亜依もよく知っている名前だった。

「石川梨華というものが働いていると思うのですが…」
「梨華ちゃんっ!?」

 思わず大きく声をあげてしまった亜依。
 ただ、次の瞬間には、はっと口元を押さえる。

 裕子が電話中であることと、希美が眠っているからだ。  
 自分の膝で眠っている希美が目覚めないのを確認すると、そっと自分の口元を覆った手をどけた。

378 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:58


 梨華。
 もちろん亜依も知っているヒトである。

 そして、意外と仲がいい。

 まだまだ忙しくないデビューしたての頃、真希の保護者的な存在であった梨華とは、よく遊んでいたのだ。
 真希は、すぐに忙しくなってしまったのだが、いいのか悪いのか、亜依と希美は忙しくなるまでに、
 結構時間が掛かってしまったこともあり、梨華とは仲良くなっていた。

 裕子はその梨華のアルバイト先に電話を掛けているようだ。
 裕子が口にした名称を、どこかで聞いたコトがあると思ったコトに納得。

 そして、そのお店の名称と、カノジョがしているアルバイトの内容が、亜依の頭の中、一致した。

 行ったコトはなかったのだが、どんなアルバイトをしているとかを聞いたコトがあったのだ。
 そう、カフェでアルバイトをしていたことを微かに思い出した。

 しかし、何故梨華に。
 そう考えると、再び頭の中が疑問でいっぱいになってしまった。

 真希が梨華のアルバイト先にいるようには思えなかった亜依だから。
 それは真希から聞いた事実、梨華が連れて行ってくれないという事実であり、
 今でも変わっていないと思えたコトだからであった。

379 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:58


 時々近くを車が通らない瞬間には、可愛らしい女のコの口調をした声が、亜依の耳に微かに届いてきた。
 しかし、やはりといっていいのか、内容ははっきりとは分かるはずもなかった。

 ただ、すぐに梨華が電話口に出たのだろうか、裕子の口調がさっきまでの他人に対する丁寧なものから、
 普段自分たちに話すざっくばらん的な話し方へとなっていた。

 最初は、真希のオフの間の様子を聞いていたのだが、特に変わったコトがないのか、
 しばらく聞いたあとに"そゃそゃ"と本題を切り出した。

「ごとぉはどこに行っとぉ?」

 その言葉に少々違和感を覚えてしまった亜依。
 そう、わざわざ梨華に電話をしたコトから、亜依の中、一緒に真希がいるのだろうと思い始めていたから。

 しかし、その後、裕子は、驚いたように"おるん!?"と少々大きな声を出した。
 その言葉は、まさに真希が近くにいるというコトをしめしている。

 続いて"今日はおらんっていったゃんっ"と不機嫌そうに声を出した。

380 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:59


 ただ、そんな裕子の口調も梨華の話の内容に、すぐにやわらかいものへとなっていた。

「そんなに気に入ったんゃぁ」

 そう嬉しそうに言うと、"まっ、ちょうどょかったゎ"と軽く笑顔を零した。
 そして、この後の亜依たちの行動をしめしてくれる言葉を口にした。

「じゃぁ、前言っとった通り、突然やけど挨拶に行くわ」


 あいさつ!?


 じょじょに話が繋がってきたのを感じた亜依。

 事務所に着く前に話していた"行かないといけない場所"、事務所を出てから寄ろうと言っていた"カフェ"。
 つまり、最初から梨華のトコロには行く予定だったのだろうか。

 亜依と希美には黙って。

 驚かせようとして。
 それはそれで裕子らしい。

 そして、"真希に会いたいと言った亜依のため"と、真希の居場所を聞いてくれたのだろう。
 みつかった急遽行き場所をかえ、亜依と希美だけでもソコに下ろすつもりだったと思えた。

 しかし、その結果は、なんとも都合のいい話。

 ただ、そこに挨拶に行くというのは、どういうことなのだろうか。

 それだけは、意味が分からなかった亜依だった。

381 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 00:59


 電話を切った裕子は"行こかぁ"と元気に声を出すと、再び車を発進させた。

 裕子ははっきりとは言わないが、とにかくこれから真希とひさしぶりに出会えることは、
 話の内容から確かなようだ。

 さっきまで亜依を覆っていた曇りが一気にとけたようなキモチになる。
 久しぶりの真希とのまったり再会。

 明日はオフなぶん、ゆっくりと話せそうだし。
 そうなると、もうさっきまで抱えていた真希への不安が一気に全て消えてくれた。

 ただただ嬉しいキモチ。
 さらに梨華とも会えるのだ。
 梨華との再会も随分と長い期間過ぎてしまっていた。


 久しぶりにからかってゃるっ


 今にも、梨華が泣きそうな表情で、亜依や希美の服の裾をつかむ姿が頭に浮かんできそうだ。

382 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 01:00


 にやけてしまいそうな亜依。
 思わず膝の上の希美を起こす。

 そして、一通りの話を聞いた希美は亜依と一緒に、渋滞もなんのその、
 2人のテンションは随分と高く、そして2人でマシンガンのように話し続けたのだった。

 少し緊張した表情の裕子の後ろで。



383 名前:2 〜 投稿日:2005/08/26(金) 01:00


 〜 ☆


384 名前:名無飼育335 投稿日:2005/08/27(土) 00:14
レス1番乗りっ!!
次はいよいよあの場所へ行くんですかね♪
あ、もしゃ、エイプリルフールについたあの嘘が・・・。
続きが気になって仕方ないです(汗
今日はイシカワさんとれいなが制服姿で映画のナビゲーターでしたね。
やばかったな・・・ずっとあの二人の会話にはドキドキされっ放しでしたよ(爆
何故あの二人なのかはすごく疑問でしたが、日本テレビさんグッジョブでしたね!!
385 名前:なまっち 投稿日:2005/08/28(日) 02:35

みきさま、ぇり、がきしゃんとあくしゅしてきました(ぅるぅる(少女漫画風
みきさまとんでもないくらいにキレイゃし、がきさん笑顔がステキゃったし…
でも、一番印象が変わったのがぇりりりりぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ
きゃゎすぎ…じぃっと見惚れてしまった…すたっふさんに押されてしまった…
輝いてた…(らめが?

ってコトでぇむなんでイジめたくなります…(ぉぃ(お話の中で…

ってコトで今日も更新。
随分と久しぶりに中1日です。

>>384 名無飼育335さん
 れすありがとうございます^^
 エイプリルフールのあのウソが…(へへ

 制服りかれにゃきましたね(ゃばぃ
 自分も2人が話してるだけでどきどきでしたょ(ぉぃ(でもれぃなはやっぱ黒髪の方が似合うんだけどなぁ

 確かに、あの2人ってのが疑問ですょね…

 でもどうせなら、そのままミュージックファイターでイシカワさんが言ってた
 "腹を割って話したぃ"って企画をしてほしぃ(ばく
 んでもってどっきりとかでれぃにゃにせまってほしぃ(ばく
 でもって断れなくてあたふたしてるれぃにゃがみたぃ(ばく
 って、それだけでもぅそぅしてた自分って…すごぃ…?

 あ、ハロショでオフショットとして今回のりかれなツーショットでないでかな…
 結構期待してもぃぃですょね…

 美勇伝とごっちんのショットみたく…(あれはイシカワさんがごっちんの肩?に手掛けてるのにもぇもぇです(ぉぃ
 2人ともめっちゃきれぃ…
386 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/08/28(日) 02:36




 3 〜




387 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:37


 不思議な光景だった。
 いつもとはかけ離れた景色。

 普段なら、ほんわかし、誰もが笑顔を浮かべてしまう空間なのに、今は対峙する2人。
 そして、若干せまい空間に、ひしめくヒト。

 入り口の近くに仁王立ちになり、険しい表情を浮かべている美女。
 いや、まだ美少女といえるだろう。
 ブランのストレートミディアムの幼げな少女のような顔立ちをした美少女が、腰に両手を置き、
 普段はとても優しげな表情なのに、その瞳を精一杯吊り上げている。
 シックなバーテンダー風の衣装に身を包んだその小さなカラダを精一杯大きくして。

 そして、カワイイ声を張り上げた。


「だめったら、ダメっ!」


388 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:37


 一方、その前には、普段はとてもほんわかし、優しげな雰囲気をだしている美少女なのに、
 今は同じく、目じりの下がった瞳を精一杯つりあげ、目の前の小さな女性と対峙している。
 そのカラダは、ワインレッドのブラウスとふわふわのスカート、
 そして、メイドのようなエプロンを身に着けている。

 ミディアムロングの髪の毛にウェーブを少しかけたヘアースタイルと、
 その顔立ちからとてもお嬢さま的な雰囲気をかもし出し、衣装にも似合っている。
 しかし、そんなカノジョの口から飛び出した言葉は、若干強め。


「どうしてですかっ!」


389 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:38


 その隣には、少し不安げに大きな瞳を揺らした、キレイに整った顔立ちで、大きな瞳が印象的な美少女が、
 怒っている美少女と同様の衣装を着て、あたふたと2人を見ていた。
 その姿でさえ、愛らしさを感じてしまう美少女。

 間に入りたいけど、入れない。

 まさにそんな雰囲気だ。


「あ、あさ美ちゃん…」


 その言葉に、きっと睨み付ける"怒っている少女"。
 そう、その少女は"紺野あさ美"である。
 あさ美が、普段からは想像できないくらいにきりっと表情を引き締めている。
 
 睨まれてしまった少女は、普段とはかけ離れてしまっているシンユウの様子に、たじたじとなっていた。

390 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:38


「なによっ、あいちゃんっ」


 そして、あたふたとしている美少女が、"高橋愛"である。

 普段、なかなかお目にかかれないあさ美の剣幕に、あたふたと"ぃぇ…なにも…"と、
 自分の後ろで呆れ顔で2人の様子を見守っていた美女の後ろに隠れた。

 優しげな瞳を、今は呆れた風に細めている。
 コドモのように見えるその表情は、とても可愛く感じられ、また、きりっとした表情を浮かべたときは、
 とてもキレイな顔立ちが想像できる美女だ。

 ふわふわしたミニスカートから伸びるキレイな褐色の足。
 スレンダーなスタイル。 

 誰もが羨むような美少女は、後ろに隠れた愛の肩を抱くようにして自分に近づけると、
 なおさらあさ美を呆れた表情で見つめた。

391 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:38


「ぃ、イシカワさん、な、なんですかぁ」


 その表情に、一瞬ひるんでしまったあさ美。
 そう、愛が後ろに隠れたのは"石川梨華"であった。
 普段は後輩をしっかりとたしなめたり、叱りつけたりとするのだが、今はどうもそうはいかない。

 ただ、呆れ顔というものの、はっきり言えばどっちに呆れてしまっているのかは、
 今の梨華にとっては忘れてしまっている状況であった。

 ある意味2人に呆れてしまっているようにも思えた。

 その表情のまま、"元はといえば"とばかりに、元来の原因でもある梨華のシンユウの方を見やった。

 テーブルの周りにある椅子に腰掛け、何とも言えず申し訳なさそうにクチビルを突き出し、
 今のこの状況に身を縮めているシンユウ。

392 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:39


 柔らかい短めの明るい色のスカートからすらっと伸びるキレイな足を交差させ、
 ゆっくりとカラダを前後に揺する。
 ゆりかごのように。

 ある意味、ここ数日のメインゲストとなっているカノジョは、髪の毛をアップにさせ、
 普段のようにメイクをしている。

 本当であれば、今日は、馴染みのネイルサロンや、ヘアーサロン、エステに行くだけで、
 そのまま家に帰る予定だったのだが、やはり自然とココに足が向いてしまったのだ。

 その顔は、いつもの担当のヒトにメイクまでしてもらったこともあり、
 メディアでも見るカノジョそのものだった。

 そう、この原因を作ってしまったのは"真希"。

 今のこの状況、あさ美、愛、梨華、そして、一番怒っているココのマスターであるなつみ、
 その4人に見られ、視線のやり場に困ってしまった真希は、すぐ隣にいたシンユウの内の1人であり、
 さらにこの状況を作ったキッカケを与えてしまったヒトを見やる。

393 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:39


 真希が視線を向けた女性は、女のコが見ると一瞬たじろいでしまうような表情をしたその美少女。
 しかし、ある意味女のコには随分とモテそうなくらいに、少年的でカワカッコイイ顔立ちをしている。

 そのヒトをみやる真希のその視線はまるで…


「な、なによっ、そのミキのせいとも言わんばかりの視線っ」


 真希の隣で、短めの柔らかいシックなスカートからダイタンに長い足を放り出し、
 その引き締まった白い足を組んでいるのは美貴。
 健康的な男子がいると、目のやり場に困ってしまいそうだ。

 ま、今は別に気にしないのだろうか、わざと見せつけるかのように大きく足を組みかえると、
 テーブルに肘をつき、少々不貞腐れた表情を浮かべる。

394 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:40


 その隣では、つぶらな瞳と愛らしい顔立ちの美少女が、美貴の仕草、表情に顔を赤らめてしまっていた。

 梨華たちと同様にメイドのような服に身を包むカノジョは、この中でも一番と言ってもいいくらいに、
 この服に似合っている少女だ。
 そして、その純粋な性格にも。

 しかし、その着こなしとは別に、まだまだ新人。

 ずっと会話の入る余地もなかったのか、この議論が始まってから、ずっと黙り込んでしまっていた。

 初めて見るといってもいいあさ美となつみの強気の表情。
 愛のおどおどした表情。
 美貴の怒った表情。

 それらのセンパイたちにおどおどと表情を泳がせていたのはさゆみ。

 そして、その7人の中央、テーブルの上には数冊の雑誌が広げられ、置かれていた。
 そう、元はといえば"それ"が原因であろう。



 〜 ☆

395 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:40


 始まりはスタッフルームで随分と遅いお昼ご飯を食べていたときに愛とあさ美がなにげなく話した一言だった。

 それは、つい先週、そうまだまだ"普通の生活"をしていた頃に約束した"タカラヅカ"を見に、
 春休みの間に一度は大阪に旅行に行こうという話。

 もちろん、確信犯ではない。
 いや、愛にとっては少なくともそうであった。
 "なにげなく"だった。

 しかし、あさ美はどうだろうか。
 もしかしたら、確信犯なのかもしれない。
 愛の提案を利用したカクシンハン。

396 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:41


 ココロの奥底で、大阪の街のグルメ雑誌を見せたり、観光地の雑誌を見せたりと、
 もしコノ話題を出したりしたら、憧れの"あのヒト"が興味を覚えないだろうか、と。
 あわよくば一緒に春休みの旅行に行けるのではないだろうか、と。

 もちろん、真希がその旅行に行くことによって、さらにストレスの解消になってくれたら、と、
 真希のコトを思ってのコトなのは、言うまでもない。

 そう、そして、あさ美の思惑通りになってしまったのだ。

 2人が話している内容に興味を覚えた真希が、"ドコに遊びに行くの?"とか、
 "どこどこのお店はおいしいょ"などなど、話を膨らませたのだ。

 もともとコンサートツアーなどで関西の方にはよく足を運んでいた真希だったから、
 自分が行っておいしかったトコや、スタッフのヒトに聞いて知っている絶品なモノが食べられる場所を、
 色々と知っていた。

 その内に、その話で随分と盛り上がってくると、美貴が"行きたいなぁ"と言い始めたのだ。

 そして、話の主になっていた真希に"行こぉ"と言い出してしまったのだ。

397 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:41


 まんざらでもない真希。
 さらに、待ってましたとばかりに強烈にプッシュするあさ美。

 愛は若干真希のコトを考えてか、控えめに"行きましょう"と。

 そんなときに、スタッフルームに入ってきてしまった梨華。
 当然のごとく、物凄い勢いでしがみ付くあさ美。

 何事かと聞いてみると、"大阪の方に旅行に行く話で盛り上がっているんですけど"と、
 "ごとぉさんも行きたがってるんですけど…"と、若干話し半分、誇張して話し始めたのだ。

 その話を聞いて、梨華もまんざらでない様子で表情を緩めた。

 もともと裕子には"旅行に行ってきたら"と言われていたのだから、確かにココにずっと連れてくるより、
 どこか遠く、さらに新鮮な場所に、新鮮なこのメンバーで遊びに行くなどすれば、
 真希にとってもいいだろう、と。

 "行こっか"とにっこりと当の本人に微笑みかけると、笑顔で大きく頷いた真希。

 そこからが大変だった。

398 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:41


 スタッフルームに入ってきたさゆみ、えりに声を掛けると、一瞬考えた後にお金の心配をするも、
 もちろん行きたいキモチの強い2人。
 家に電話をすると、半分は出してあげるとの返事に、笑顔で"行く"と言ったのだ。

 そして、れいなと桃子に声を掛けると、当然のごとく、聞くまでもないといった雰囲気で、
 "絶対にいくっ"と言い切ってしまった2人。

 結局メンバーは梨華、愛、あさ美、桃子をはじめ、さゆみ、えり、れいなの新人メンバーに、
 真希、美貴の部外者の計9人となってしまった。

 その人数とメンバーの面々に、一瞬、もしかしたらなつみに反対されるかなと思った梨華。
 すると、まさにその通り、"お店が営業できない"と猛烈に反対されてしまったのだ。

 優しいなつみだから、結局最後は許してくれるものだと思っていたのだが、
 意に反して真っ向から反対してきたなつみ。

 そして、そんななつみの言葉に、さらに真っ向から反対の意をとなえたのがあさ美だったのだ。

399 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:42


「いいじゃないですかっ」


 普段から温厚なあさ美とは思えないその口調。
 そして、普段は優しげにみんなを見つめているのに、その目を吊り上げてしまっているなつみ。


「お店のこと考えてっ」
「うぅ…」


 それを言われると少々辛いあさ美。

 しかし、ここで負けたら真希と一緒に旅行に行くコトができないと、必死で食い下がる。
 もうかれこれ40分はこの繰り返しだった。

 しかも、まだ営業中なのに。

 お店の方は、れいなとえりと圭織と桃子が出ているから、まだ大丈夫といえば大丈夫なのだが。

 意地の張り合いのようになってしまっているなつみとあさ美に呆れ顔の梨華。
 申し訳ないとばかりに情けない表情になっている真希。
 しぃ〜らなぃっとばかりにそっぽを向いてしまった美貴。
 どうしたらいいのか分からない愛とさゆみ。

 そして、今だに睨み合いの続くあさ美となつみ。

 なつみだって本当はいいといってあげたいのだが…
 いかんせん自分と圭織だけになってしまうと、お店は営業できないといってもいいだろう。


 それを考えると…

400 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:42


 と、そのとき部屋をノックする高い音が、部屋に響いた。
 一瞬緩む空気。
 入り口の近くにいたなつみが、そのままの姿勢で上体を伸ばしドアを開けた。
 すると、ソコには満面の笑顔を浮かべたえりが立っていた。

 そして、"ぁのぉ"と入ってくると、異様な空気に一瞬で"ぁれ?"と、引きつる。

 そう、余りにも普段とはかけ離れてしまっている部屋の空気。

 しかし、そんなえりの笑顔に、部屋の中にいたメンバーは、むっと睨み付ける。
 あまりにも部屋の空気とは違うえりの笑顔に対して。


「ぁ、ぁの…」
「…」


 誰も答えない。


「ぃゃ、ぁの…」


401 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:43


 しばらく続いたこの空気。
 そして、今にも泣き出しそうなえりに、梨華がふっと表情を緩めた。 
 "仕方がないなぁ"とばかりに"どーしたの?"と聞くと、ほっとしたのか、いつもの笑顔に戻ったえり。
 それと同時に一気に緩んでしまった部屋の空気。

 全員が溜めに溜め込んだ空気を、ため息とともに吐き出した。
 

「ぁ、イシカワさんに、ナカザワさんって方から、電話が…」
「えっ?」


 驚きの表情を浮かべる梨華。
 そして、真希。
 続いて、梨華が真希の方に視線を送ると、2人は一緒に不思議そうに首をかしげた。

 その様子にさらに意味がわからないといった雰囲気で2人を見つめる周りのメンバー。

 梨華は、"ぁ、でるでる"と小さく呟くと、えりに"ぁりがと"とすれ違いざまに一言言い、お店の方に出て行った。
 首を傾げながら。

402 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:43


 そんな不思議そうな表情を浮かべながら出て行った梨華と入れ替わるようにして、圭織が中に入って来た。
 そのままえりの肩を抱き、自分に引き寄せると、中のメンバーを見回す。

 そして、中の普段とは掛け離れ、妙な空気、更に、シンユウのいじけてしまっている様子に、
 今度は圭織が首を傾げた。


「なっち、どーしたの?」


 そのシンユウの言葉に、味方と言ってもいい人間がいなかたさっきまでの一人の"戦い"とは違い、
 水を得た魚、臨戦態勢オッケーとばかりに生き生きとなったなつみ。
 "ちょっと聞いてよぉ"と話し始めた。
 味方になってくれると信じているシンユウに向かって。

 しかし、そんななつみの話す様子を優しげに聞いていた圭織だったが、聞くにつれて、
 その表情がみるみる内に、まるで自分のコドモを見るかのように呆れてた表情へと変わっていった。

 そして聞き終わると、たった一言だけ呟いた。


「なっち…自分も行きたいんでしょ…」



403 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:44


 〜 ☆


404 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:51


 〜 ☆


405 名前:3 〜 投稿日:2005/08/28(日) 02:51


 〜 ☆


406 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/08/28(日) 18:44
更新お疲れさまです。
なんとなくどちらの言い分も分かりますが、最後のカオリの言葉にどう反論するか、気になりますね(笑
次回更新待ってます。
407 名前:名無飼育335 投稿日:2005/08/28(日) 21:05
更新お疲れさまですっ!!
あ、そんな必死に反論してたのはそう言うコトだったんですかぁ・・・カオリン鋭い、さすがですね。
でもみんなで行けるのなら、梨華ちゃんの親友さんはどれだけ嬉しいでしょうか♪
次回はそろそろその場にあの美少女達の登場ですかね?
りかれな2ショットはそのうち発売されてもおかしくない!・・・はず?
猫の恩返しでは梨華ちゃんが「れぃな」って呼ぶたびにニヤついちゃってました(爆
次回更新も楽しみに待っております。
408 名前:なまっち 投稿日:2005/08/31(水) 00:34

>>406 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 さて、どう反論するのかな…(ぁたふた
 ヒント…自分の中ではなっちはかなりコドモです(ゎら
 これからもヨロシクお願いします〜

>>407 名無飼育335さん
 ありがとうございます^^
 そう、かおりとなっちはシンユウさんなんで^^
 やっぱり旅行はみ…もごもごもご…

 りかれな2ショットは発売されてもおかしくないですよねっ(同士はっけん(一安心
 しばらくはそれを楽しみに飢えをしのぎます(ゎら
 イシカワさんの「れぃな」って呼んでるの、自分もにやついちゃてましたょ(ゎら
 ぁぁ猫の恩返しとミュージックファイターもっかい見ょ…

 ってことですが…(?)どれだけ話が進むのか心配ですが(にがわら
 これからもヨロシクお願いします〜

409 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/08/31(水) 00:35




 4 〜




410 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:35


 原宿の駅と青山と呼ばれる地域の中間地点。
 あまりコノ場所には来たコトがなかった亜依と希美は、
 視線をきょろきょろをさせながら、静かに裕子の後をついて歩いていた。
 そして、先頭を歩く裕子の手には、メモが握られている。
 
 3人は、梨華に教えてもらった地点付近で、車を駐車場に置き、そのまま歩いて探し始めたのだ。


 しかし、どうも先ほどから裕子の様子がおかしい。

 先頭を歩く裕子のメモを亜依が覗き込むと、雑に走り書きのような地図と、適当なメモ書きが目に入ってきた。
 はっきり言って亜依には読むことすら出来ないオトナの文字である。


「どこにあるン?」
「ん…ぃゃ…」


 少しイヤな予感がしてしまった亜依。
 やはり、と思いつつも、"迷ったんゃないンゃんね?"と恐る恐る言葉を口にした。


「はは…まさか…」


 そうは言うものの、明らかに動揺の色を隠せない裕子。

411 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:36


 その空気を悟ると、大げさにため息をつき、裕子からそのメモを取り、自分で見始めた。
 隣で自分の腕にしがみ付いている希美が、一緒に覗き込んでくる。


「きたな」


 希美の余計な一言に"うっさいっ"と裕子の鉄拳が飛ぶ。


「ってぇ」


 とは言うものの、久しぶりの鉄拳に心なしか嬉しそうな希美であった。

 しかし、そんな希美と裕子の笑顔とは反対に、亜依は真剣に地図を眺めている。
 ただ、やはり他人が書いた地図な上に、説明も受けていない人間にとっては、
 到底分かる訳のないメモであった。

 かろうじて分かるのはどこか分からない目印もない角を7回曲がるコトだけ。
 後は、お店の名前。

 ある意味そのお店の名前を誰かに聞いた方が早いのだが。


 しかし、一応と、しばし眺める亜依。

412 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:36


「わかるんだ…」


 希美の感嘆のため息にも、苦笑いを浮かべる亜依は、その言葉に、
 より一層考えるフリをするはめになってしまった。
 期待感を込め、自分を見つめるシンユウを裏切らないために。


 とはいえ、やはりいくら眺めても想像もつかない場所。
 
 自然と亜依はその地図を解読するコトを諦めてしまったようだ。
 地図を見つめていた視線は、いつしか周りのヒトを観察し始めた。

 その様子は、明らかに誰かに道を訊ねようとする"それ"。

 すると、希美も気付いたのか、このメモなら仕方がないとばかりに、自分もヒトを探し始める。

 ただ、裕子は、今だに亜依の持っている地図と、そのときの聞いた話を思い出そうとしているのだろうか、
 右斜め上に視線を持っていき、試案顔になっていた。

413 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:37



 と、そのとき、亜依の視線の片隅に、惹かれるように1人の美少女の姿が入ってきた。
 そして、その姿、容姿を目に止めると、思わず感嘆のため息が零れる。
 

「ぅゎ…」


 大きな瞳、キリッとした凛々しい表情、第一印象はキレイと感じるが、じっくりと見ると随分と愛らしく、
 亜依や希美と同じくらいに小さなカラダ、そして思春期前の少女のようにほっそりしたスレンダーなスタイル、
 それらから伺えるくらいに、とても幼く感じることができる美少女だ。
 その少女が、道の片隅、柔らかい艶やかな黒いストレートミディアムの髪の毛を揺らしながら、
 視線をきょろきょろとさせ、立っていた。

 立っているだけで、明らかに目を引く、美少女。


 しかし、それ以上に目を引くのは、カノジョの服装だった。

 ワインレッドのブラウスにふわふわのミニスカート。
 メイドのような純白のエプロン。
  
 あと、首にはピンクの細いリボンのついたカチューシャ、
 頭には大きなフリルのついたヘアバンドをつけていた。


 明らかに一般的に現在日本で着られているヒトの服ではなく、業界専用の服である。
 亜依も着たコトがあった衣装に似ている。

414 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:37


「かゎぃぃ」


 しかし、そんなコトは関係なく、亜依の口からは、カノジョの容姿に対する自分の感情が自然と零れていた。

 そして、そんな亜依の様子と、その少女に気付いた希美の口からも、"かゎぃぃね"と言葉が出ていた。
 そう、それは、お世辞でもなんでもなく、本当にココロの底から出た言葉であった。


「ホンマ、タイプゃ」


 ただ、亜依のその言葉に、ちょっと不機嫌になってしまった希美は、こつんと亜依の頭を叩く。
 そのまま"ぃたっ"と言う亜依を放って置いて、隣にいた裕子の方に視線をやった。
 あの女のコを少し見惚れてしまい、本来の目的を忘れてしまっているシンユウに代わり。

 隣では、さっきまで地図を見ていた裕子も、あの少女に気付いたのか、いつの間にか眺めていた。


「ゆうちゃん…あのコは?」


 希美の言葉に、"うん"と軽く頷く裕子。


「コスプレのコやなさそうゃから…」
「そだょね…」

「同業者に聞くのが早いゃろなぁ」


 と、裕子がそう呟いたとき、3人が熱い視線を送っていた少女が、こっちに気付いたのか、
 顔を3人の方に向けてきた。

415 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:38


 そして、明らかに変化する表情。

 口がぽかぁんと開くと、次の瞬間には"ホンモノ?"と言いたげにこっちを観察してきた。


「気付いたね…」


 希美ののんびりした口調に、裕子ものんびりと"そゃなぁ"と頷くと、"どうしょ?"と亜依の方を向いた。
 しかし、相変わらずカノジョの方を熱いマナザシで見つめている亜依。


「ぁかん。重症ゃ」
「ばかぁ」


 希美は隣のシンユウと組んでいた腕を解くと、哀しそうにその少女の方に歩み寄った。
 裕子も、"ぇぇ?話しかけるン?"とテレている亜依の手を引っ張り、希美の後ろに続く。

 そんな希美の動きに、"メイド服の少女"はビックリしたのか、最初の反応同様、口を開けてしまっていた。
 そして、きょろきょろと周りを見回し、自分だけしかいないコトを確認すると、再び希美の方に顔を向ける。

 そのときには、すでに距離が数メートルまで近付いていた。

416 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:38


 希美はキャップを少し持ち上げ、顔をしっかりと見せると、"ちょっとお聞きしたいコトがあるのですが…"と、
 カノジョにしては精一杯のしっかりした口調で、声を掛けた。


「ぇ?」


 どういう目的で近付いてきたのか分からなかった"メイド服の少女"は、小さく声を出すと、
 さらに理解不能といった様子で、希美たち3人を不思議そうに見つめていた。
 少しほほを引きつらせて。


「な、なんですか」


 その妙なイントネーション、震えている声に、希美は自然と優位に立ったコトを実感すると、
 自分よりも幼いと思える"メイド服の少女"にうんと近付いた。

 緊張している様子が簡単に伺える少女のそばに。
 そして、裕子のメモを受け取ると、少女に見せた。


「ここ…わかる?」


 見せたお店の名前に、一瞬で少女の表情が変わると、次の瞬間には何かに気付いたのだろうか、
 "もしかして…"と後ろの裕子の方に視線をやった。


「ナカザワさん…ですか?」
「へ…?」



 〜 ☆



417 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:39


 メイド服を着たカノジョの名前は"田中れいな"。


 なぜカノジョが裕子の名前を知っていたのかというと、なんてことはなかった。

 ただただれいなは梨華と同じトコロでアルバイトをしている女のコなのだ。
 そして、さっき裕子が電話をし、"行くから"と伝えたところ、梨華に"たぶん迷うから、お願い"と頼まれ、
 大通りに近いここで待ってくれていたそうだ。

 梨華も裕子の写メは持っていなかったこともあり、れいなはただ容姿を軽く説明してもらっていただけなのだが、
 運良く希美たちから声を掛けて、さらに自分たちのお店の名前を出してくれたこと、
 そして希美たちが真希と同じ事務所であるコトから、勘の良いれいなが、裕子たちを認識してくれたようだ。


 そして今現在、3人プラス、メイド服のれいなを加えた4人は、少々足早に目的地へと向かっていた。
 前を歩く3人と、後ろから3人を見守るようにしてついて歩く裕子。

418 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:40


「カワイイなぁ」


 そんな中、もう何度目か分からないくらいに亜依の口から発せられるその言葉に、
 希美は呆れ返ってしまっていた。

 確かに、確かにれいなはカワイイ。
 それは希美だってしみじみと感じるのだ。
 しかし、これだけ本人を目の前に、何度も何度もその言葉を言うと、相手だって照れてしまうだろう。

 現に今だって、そうやって亜依がれいなを見ると、れいなはほっぺを赤くして俯いてしまっているし。

 そんなれいなに対して亜依は、甘い言葉を平然と言ってのけ、出会ってまだ数分しか経っていないのに、
 もうすでに手まで握りしめ、それなのに自分もほっぺを染め、目が合えばれいな同様に照れて視線を外して、
 れいなの横顔を見れば笑顔満開。

 それはまるで、まだまだ付き合い始めたくらいに新しいカップルのように。


 そんなシンユウに、希美は心底呆れてしまっていた。

 いや、本当は、ただ単にシンユウを取られてしまったように感じ、嫉妬心を覚えているだけなのだろうが。

419 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:40


 しかし、そんなキモチを無理に押さえ込んでいる希美だったが、れいなへの印象は完全にベクトルが違った。

 色々と笑顔で、さらにフレンドリーに話しかけてくれるれいなに対しては、
 亜依への嫉妬とは関係なく、自分自身も不思議と表情が柔らかくなっていた。

 純粋に笑顔で話すれいなに対しては。
 2人に恋しているかのように、ほほを染め話しているれいなに対しては。

 そして、いつしか、亜依と一緒に笑顔が零れていた希美だった。



420 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:41



「あぃぼんとのんちゃんと会えるとなると、さゅとぇりが聞いたら驚くっちゃょ」


 出逢ったときかられいなは2人のコトを、メディア、そしてファンの間でよく呼ばれている愛称で呼んでいた。
 それはやはり、亜依や希美に、少し話しただけで親しみやすさを感じたからだろう。
 それはそれで、やはり嬉しいもの。

 普段から目上のヒトへの対応などをイヤほど勉強、そして教え込まれてきた亜依と希美にとっては、
 最初こそ少し気になったが、れいなの雰囲気、笑顔に、今では全く気にならないコトとなっていた。

 自分たちも"れぇな"と呼んでいることからも。

 そんなれいなの口から聞えてきた名前。


 "さゅ"と"ぇり"。


「れぇなのシンユウゃけん」

421 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:42


 そう言うと、自分のシンユウを紹介し始めたれいな。
 本当に2人のコトがタイセツなのか、その口調は随分と優しげで、そしてカワイイ2人を自慢に思っているのか、
 鼻高々にシンユウのコトを話していた。


 そして、その2人がどれだけ亜依と希美のコトがスキなのかと。

 2人の関係と自分たちの関係がとても近いように感じていたコトもあり、
 デビュー当時からずっとスキだったそうだ。

 部屋は2人のポスターが所狭しと並べられ、関東で開かれるコンサートには高確率で参加をする2人。
 そして、れいな自身も2人のコトはスキで、さゆみとえりに誘われ、行ったことがあったと話している内容には、
 少々不思議な感覚を覚えていた希美と亜依。

 こうやってファンの人とプライベートで一緒に話すなんて経験が少ない2人にとっても、とても新鮮なのだ。

 その感情は表現できないほど嬉しく感じられるものだった。


 そして、これだけカワイイ女のコが自分のファンと言ってくれるコトにも。
 どんなヒトにもファンであると言ってくれるコトは嬉しいのだが、やはり特別に嬉しくなってしまう。

422 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:42


 ただ、れいなが一番スキなのは真希という事実には、少々残念なキモチを覚えてしまった亜依。
 しかし、真希なら仕方がないとも思えた。
 それは希美も同じ。

 どんな少女でも、やはりカッコいい真希に憧れてしまうモノ。
 これまでも、どれだけその現実を感じてきたか。

 でも、そんな現実を感じてきたからといって、"悔しい"というキモチは全く感じることはなかった。

 そう、自分自身も真希のコトは大スキだったから。
 ある意味ファンであると言ってもよかったくらいなのだ。

 他のアイドルのコトがスキという話を聞くと、少々悔しさを感じてしまうものなのだが、
 真希がスキという話を聞くと、不思議と自分たちまで嬉しくなるものだった。

 自分たちがスキな真希のコトがスキだという話を聞くと。
 だから、今、れいなが真希のコトがスキという話にも、とても嬉しく、温かいキモチでいっぱいなのだ。


 そして、これから真希との久しぶりの再会前、れいなとの会話にも随分とテンションが上がっていた2人だった。




423 名前:4 〜 投稿日:2005/08/31(水) 00:42


 〜 ☆


424 名前:名無飼育335 投稿日:2005/08/31(水) 22:34
更新お疲れさまです。
ついにれいなと美少女2人組がっ!!
ホンワカしたあの子は早速口説きに入りましたか(爆
毎回の人物紹介と言いますか、可愛らしい表現の仕方が好きです。
そしてこの焦らされ具合がなんとも言えず、すごく良い感じです♪
次回更新、楽しみに待ってます。

追申・・・ミュージックファイターのあの【腹を割って話したい】メンバーに
梨華ちゃんがれいなを上げた時のれいなの嬉しさを隠してるような顔はたまらな(ry
425 名前:なまっち(はいてんしょん) 投稿日:2005/09/03(土) 01:55
♪DEF.DIVA♪ゃばぃ…ぃしごまだぁ…
よかったね、ごっちん。一緒にぉ仕事ができたらぉ酒が一緒に飲めるょ^^

ちょっと最近もぇもぇネタばっかり^^
ナイス事務所さん!…?

卒業フォトでのいしごまもりかれなも^^
イシカワさんが可愛いっていったの2人だけですよね〜しかもれいなには2回も^^
ごっちんには影響を受けたって(ぉぃ!!
おへそのそばのタトゥシールとか一緒に貼っててもぇてたなぁ
一昨年の紅白だったられなりかでおへそのそばに一緒に貼ってて激もぇだったなぁ

はぁ…

>>424 名無飼育335さん
 ありがとうございます^^
 人物紹介がスキだなんて…なんだか、めちゃめちゃ嬉しいお言葉を^^
 って、文字数を稼いでるだけじゃないんで(ぉぃ
 ぽんちゃんは手の早いキャラです…(にがわら
 
 焦らされ具合が良いだなんて…(てれ
 もっともっと焦らしてしまいますょ(はは

 ミュージックファイターのれぃなの顔はたまらなかってですょね^^
 もう、昔はあれだけ素直に話を聞いてくれていたれぃなが、美人せんべいにノッテくれなかった
 あのときの従順さはどこにいったの…?心配…やっぱり性格が正反対だから…?
 心配…腹を割って話してほしい…
 なぁぁんてもぅそぅしてのた打ち回ってました(ばか

 
 
426 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/09/03(土) 01:56




 5 〜




427 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 01:57


「会ってないねんなぁ…」


 亜依と希美の言葉に、少し驚いてしまったれいな。
 いや、実際には梨華から聞いた話と一致する2人の言葉なのだが、やはり実際に聞くと驚いてしまうものだった。

 亜依と希美は真希とは仲はいいのだが、やはり忙しさのあまりほとんど連絡がとれていないとのこと。
 そして、ある意味この4日間しか出会っていないれいなの方が、
 2人より今の真希のコトを知っているというコトにも不思議な感覚を覚えてしまった。
 明らかに自分より付き合っている期間の長いヒトから、当人のコトを色々と聞かれている今の現状というのは。

 しかし、そんな亜依と希美の話を聞いているうちに、ふと別のコトが頭の中に浮かんできたれいな。

 それと同時に、この前、梨華の話していた内容にほんの少しの事実と異なる部分があるようにも思えてきた。
 実際には、れいなの感じたコトなのだが。

 それは、真希にはトモダチが少ないという梨華の言葉。
 梨華は真希のコトをそのように話していた。
 そして、それがどれだけ寂しいコトかを。

 しかし、真希と出会ってから今日まで、ソレは気にするようなコトではないように思えていた。

428 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 01:57


 それは、真希のシンユウたちが、どれだけカノジョのコトを愛しているように感じられるコトから。

 そう、トモダチの多さなんかよりよっぽどステキなコトのようにも思える。

 梨華、美貴、そしてこの亜依と希美。

 この4人は、とても真希のコトをタイセツに考えているように思えるのだ。
 それだけでも、真希のコトがとても羨ましくも。

 たとえトモダチが多くたって、みんなが自分のコトを考えてくれている訳ではない。

 その中で、"自分のコトを真剣に考えてくれる"、"自分が悩んでいると、一緒に悩んでくれる"、
 "嬉しい出来事があったら、一緒に喜んでくれる"、"自分が涙を流せば、一緒に悲しんでくれる"、
 そんなトモダチがどれだけいるのだろうか。

 もし、仮に真希にトモダチが多いとしても、それはおそらくカノジョ以外の何かに営利を感じる人間。
 カノジョ自身に営利を感じる人間。

 そんな人間が多いと思える。
 
 真希のコトを真剣に愛しているヒトは、実際には、ほんの一握り。
 両側にいる人間だけだろう。

429 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 01:58


 真希の場合だったら、梨華がすぐ斜め後ろから真希を抱きしめてあげていて、すぐ両隣、両手を亜依と希美が握り、
 美貴が梨華の後ろから梨華たちを支えてあげている。
 そんな構図が想像できそうだ。

 そして、その周りに自分たちがいる。

 もちろん自分たちだって真希のコトを真剣に考えているが、
 いかんせん、梨華たちに比べたらまだまだ出会ってからの期間も短い。
 "支えている"とはまだまだ思えないのだ。

 ただ、"これから"なことは確か。
 これから、どれだけ梨華や亜依、希美の近くまで寄れるか。
 羨ましいテリトリーまで。


 真希の領域までに。


430 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 01:58


 自分自身はどうだろうか、と、ふと、そんなコトを思ってしまったれいな。


 自分の周りにいるヒト。


 もちろん家族は論外である。

 ごく当然のコトであるから、家族以外を考えると。


 やはり一番最初に浮かんできたヒト、そして、自分の両手を繋いでくれているヒトは、さゆみとえり。
 その2人に引っ張られて、歩いている自分。
 普段は、自分が引っ張っているように振舞っていたが、考えてみると、
 どれだけさゆみとえりの2人に引っ張られていたのか。

431 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 01:59


 また、自分の目の前には1人のヒトがいる。

 そう、梨華。
 背中を向けつつも、自分を引っ張ってくれている。

 そして、ときどき振り返っては、自分がついて来ているのかを確認し、
 しっかりとすぐ後ろについて来ているコトを確認すると、優しく微笑んでくれる。
 
 この笑顔にどきりと胸を高鳴らせている自分。
 すごい近い距離。

 ただ、近い近い距離だけど、実際に手を伸ばしても、全く届かない距離。
 自分はずっと背中を追いかけるだけ。
 少し離れてしまい、肩に手を掛けて、"待ってください"と声を掛けたい自分。
 しかし、必死で手を伸ばしても、それは空を切るだけ。
 梨華に呼びかけたいけど、声も出ない。

 しばらく経つと、梨華は真希と一緒に並び、そのシンアイなるヒトの腕を取り、歩き始めた。
 ショックのあまり少し離れる距離。
 そして、立ち止まりそうになる。

432 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 01:59


 でも、そんなときに自分の手を取り、梨華の手と繋げてくれる2人。
 自分の代わりに呼びかけてくれる2人。
 さゆみとえり。

 さらに、自分の背中を押してくれる美貴、愛とあさ美。
 ちょっと悔しそうな表情だけど、桃子。
 後ろから励ましの言葉を掛けてくれるなつみと圭織。


 考えてみれば、この春休みに入ってから、自分の周りには、そんなヒトが一気に増えてくれた。
 それがどれだけシアワセなコトか。

 そう、忙しさのあまり真希との距離が遠くなっている亜依や希美に比べたら、それがどれだけシアワセなことか。
 今、このメンバーと一緒にアルバイトが出来ている自分が。

 とてもステキなメンバーと。
 とてもステキな関係になれて。

 そんなヒトたちと毎日一緒に楽しめている自分がとてもシアワセ。



 〜 ☆



433 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 01:59


「ぁれっちゃょ」


 れいなが指差した建物を見る亜依たち。

 カフェとはいえ、もともと教えてもらっていたこのカフェのコンセプトを知っている3人にとっては、
 まさにその通りの建物がそこには建っていた。

 この付近に多い近代的なオシャレな建物とは一線を画したかのような建物。
 中世に一般的に見られたような"工房"と呼べそうな外観に、
 そして中では色々なモノを作り出しているように感じられる雰囲気。

 れいなの姿を見ていたこともあり、れいなたちがせっせと建物の中で働いているコトが、
 亜依たちにも安易に想像できるくらいだった。


 そしてその姿の愛らしさも。


434 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:00


「可愛らしいトコゃね」


 亜依の言葉に、れいなは笑顔で"ぁりがと"と頷いた。
 素直に嬉しい言葉。

 そして、笑顔のまま、後ろで3人を見守っていた裕子の方に顔を向ける。


「表からより、裏の方がいいですよね?」


 気のきいたれいなの言葉に"そやなぁ"としばし考えるも、すぐに頷き"ぁりがとな"と答えた裕子。
 れいなは裕子のその答えを聞き、頷くと、建物の隣の小さな路地へと向かった。

 そして、数メートル進んだところにあった小さな扉に手を掛ける。 

 小さな音がして開く。


「どぉぞ」
「ぁりがと」


 れいなににっこりと感謝を込め微笑んだあと、少し屈んで中へと入った亜依。

435 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:00


 そこは、亜依が想像していたよりもずっとキレイな場所だった。
 外観からみると、随分と古びた建物だったコトもあり、その内部もそのように想像ができそうな場所なのだが、
 実際に中に入るとその印象は一変してしまった。
 いや、古びたというのも、コンセプトのうちなのだろう。

 内部と外観との違いに驚きの声を出す亜依。
 一番最後に入ってきたれいなに、つい疑問に浮かんだコトを聞く。


「中は随分と新しいトコなんゃなぁ」
「ぅん。」


 そう頷くと、軽く説明を始めたれいな。

 つい最近リフォームを行ったココだが、内部のこの休憩室の周辺以外は、
 外観のコンセプト通りに改築をしたそうだ。
 耐震性などを考慮した建物内部の近代的な改築に、コンセプトを考慮した外観の中世的な改築。

 れいな自身はそのときはまだ働いてなかったから知らないそうだが、
 外観はここのスタッフのうちの1人のデザインでだそうだ。

 思わず唸る希美。

436 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:01


 そして、再び疑問が浮かぶ亜依。


「働き始めてどれくらいなん?」


 余りにもこの場所に溶け込み、そして衣装にも溶け込んでいるれいなだったから、
 さぞかし長いのだろう、と思った亜依だったのだが、さっき年齢を聞いたときには、
 この4月から高校生だと言っていたコトから、亜依が想像するキャリアから考えると、
 少々年齢にギャップが出てきてしまうコトになる。

 これだけ溶け込んでいるれいながいったい何歳から働き始めたのだろう。
 素直な疑問だった。

 しかし、そんな亜依の耳に届いてきたれいなの答えは、"まだ2週間経たないくらいかなぁ"。

 その言葉に、驚きを隠せない亜依たち。
 思わず顔を見合わせる。

 しかし、そんな2人の様子に少しだけ笑顔を零すも、"そんなコトより"と、
 れいなはすぐ近くにあった扉をノックした。

 その行動に、さらに別の意味で驚く亜依と希美。

 それはまさにココロの準備も出来てないな2人にとっては、
 心臓が跳ね上がってもおかしくないれいなの行動だった。

 おそらく、その中に真希がいる。



 〜 ☆


437 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:01


 れいなは、なつみの声ですぐに返事が聞えてくると、扉を開け、中を覗き込んだ。

 見ると、真っ先になつみのいつもの笑顔が飛び込んできた。
 それはいつもの笑顔。

 その笑顔を見た瞬間に、"今回のごたごた"の結論が出たと瞬時に悟ったれいなは、思わず笑顔が零れてしまった。
 そう、なつみのさっきまでのあの怖そうな表情とはかけ離れている今の様子に。


 みんなと行けそう…


 そして、なつみから少し視線を外すと、すぐ後ろに立っていた梨華が視界に入ってきた。
 れいなの顔を見ると、表情を綻ばせ、"ぁりがと"と"お疲れ様"と優しげに声を掛けてくれた梨華。

 それだけで嬉しく、ココロが温かくなってしまったれいな。
 少し熱くなるほっぺを隠すかのように"ぃぇ"とだけ言い、すぐに視線を外した。

 テーブルの周りの椅子に座っている人物に。


 真希。


438 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:02


 カノジョの"何も知らない"であろう表情に、思わず笑顔が零れる。
 
 そう、自分の後ろにいる人物たちと会うと、絶対に喜ぶであろうコトが想像できるから。


 まだ自分しか知らない秘密。


 さらに視線をずらしメンバーを探すれいな。
 しかし、他にはヒトはいないようだ。
 みんな外に出ているのだろう。

 メンバーの驚く顔が見れず少し残念に思うも、やっぱり真希と亜依、希美の時間の方がタイセツ。
 そう思うと、逆にこの3人だけでよかったようにも思えたれいなだった。

439 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:02


 扉の外に顔を出し、不安げな表情をしていた亜依ににっこりと笑顔を見せると、
 その後ろで同様に表情を曇らせている希美にも笑顔を。

 そして、亜依の肩を抱き寄せると、部屋の中へと押し込んだ。


「ぁ…」


 真希の小さな声が上がる。
 そして、梨華も。

 続いて、希美も押し込んだ。
 しかし、少し強かったのか、ちょっと躓くと、亜依と一緒になだれ込んでしまった。

 少々カッコ悪い再会となってしまったが、そんなコトは全く関係なかったのだろう。

 しばらくお互い遠くから見つめ合っていたが、数秒後には亜依は何も言わずに真希に飛びついた。
 一瞬びっくりしたように腰を浮かすも、亜依のカラダをしっかりと抱きとめた真希。
 ぎゅっと腰から抱きしめると、しばし見つめ合う。

 亜依の小さなカラダが、真希の胸にすっぽりつ埋まる。

 懐かしい真希のヌクモリ。
 真希の表情。
 真希との距離。

 全てが懐かしく感じた亜依。
 でも、ホンモノ。

 全く変わりないその姿。

440 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:02


 そして、その隣では希美が梨華に飛びついた。


「なにやっとぉねんっ」


 亜依の大きな声が部屋に響く。
 言葉自体は怒っているコトを表現するモノだが、全く正反対な感情であるコトは明らかにわかった。
 少し震えている声。
 亜依のカワイイ声。


「なによぉ」
「心配かけやがってっ」


 そして、見つめ合っている内にじわっと押し寄せてきた涙を隠すかのように、真希の胸に顔を埋めた亜依。

 本当に心配だったのだろう。
 インターネットを騒がしている、心許ないウワサに。
 本当に会いたかったのだろう。
 真希に。

 この一週間で起こっていた事実を全て否定して欲しかったのだろう。

 隣で梨華のヌクモリをしっかりと味わった希美は、今度は、亜依から真希を奪うと、その胸に顔を埋めた。
 真希がホンモノであることを、本当に確認するかのように。
 真希の体温を感じる。

 そして、取られた亜依も、隣で優しげに自分を見ていた"からかえるお姉さん"に抱きつき、ヌクモリを感じた。

441 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:03


 そんな2人の様子が、れいなの中、すごい新鮮に映っていた。
 テレビの中でみる2人はいつでも笑顔だった。

 どんなときでも、ヒトを温かくさせてくれる2人。
 どんなときでも、泣き言を言わない2人。

 そんな2人が、今は外見通りのコドモ。
 そう、これが本当の姿なのだろう。

 会いたいヒトだっている。
 会いたいシンユウが心配なコトだってある。

 でも、忙しいから会えない。
 なんだか、オトナがカノジョたちの友情を裂いているようにも感じてしまった。


 そして、何故だか、思わず目の前の視界が揺らいでしまったれいな。

 なつみが自分の肩に手を掛けてきたことに気がつくと、小さく頷いた。
 その仕草だけで、なつみの言いたいコトが分かったれいな。
 なつみと一緒に外に出ると、扉を閉めた。


 そして、そのまま、嬉しそうな表情をしていた裕子も一緒にお店の方に足を運んだ。


442 名前:5 〜 投稿日:2005/09/03(土) 02:03


 〜 ☆


443 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/03(土) 20:25
更新お疲れさまです。
なんだかうぃうぃしいですww
この後はいよいよ・・・
次回更新待ってます。
444 名前:ひろ〜し〜 投稿日:2005/09/04(日) 13:35
いやぁ、、、
微笑ましぃですねぇ。ホントに。
読んでて自然と笑みがこぼれましたw(かなり怪しい
次回もかなり楽しみに待ってます!
445 名前:なまっち 投稿日:2005/09/06(火) 00:59

>>443 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 そういえば…
 この4人はツアー先のホテルでよく一緒にいたって言ってましたょね…
 よっちゃんがいないのは意外でしたけど…懐かしいなぁ…
 この後は…いょいょ…?
 これからもヨロシクお願いします〜

>>444 ひろ〜し〜さん
 ありがとうございます^^
 嬉しいお言葉ありがとうございます^^
 これからも自然と笑顔になってもらえるようなお話を書けたらと思いますんで、
 ヨロシクお願いします〜

 
446 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/09/06(火) 01:00




 6 〜




447 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:01


 スタンディングチェアーに腰を掛けながら、お店の中に視線を漂わせたれいな。

 そこにはいつもの風景がいつも通りに流れていた。

 さゆみは、お客さんとして椅子に座っている美貴のそばで笑顔で何かを話していた。
 美貴の何気ない言葉に、嬉しそうに、そして、少し恥ずかしそうにしている。

 そのすぐ近くには待機中の2人。
 少し寂しそうな表情を浮かべつつも、隣にいる桃子の話に耳を傾けるえり。
 やはりさゆみが心配なのか、時折美貴とさゆみの方視線を向けている。

 入り口の近くでは、あさ美と愛がいる。
 旅行の話でもしているのだろうか、笑顔が零れていた。

 まだまだ亜依や希美が裏にいるコトを知らないメンバーたち。

 そして、一方、バーカウンター内にはなつみと圭織。

 そして、少し新鮮な景色として、なつみと圭織のすぐ前にいる裕子。
 なにやら真剣な表情ながらも、ときおり笑顔を見せ、話し込んでいた。

448 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:01


 これらは、自分にとっては普通の景色である。
 近くに話したいヒトがいるというのは。

 いつでも話したいヒトと話し、いつでもスキなヒトを見れる。
 それは、いわば普通の景色なのだ。

 今、望めば、シンユウであるえり、さゆみにも話せる。


 しかし、真希、亜依と希美は出来ない。
 制限がある。


 それを考えると、華やかな世界にいる3人だけど、無償に可哀相にも感じてしまっていた。
 亜依と希美に関して、いつも2人でいることができるのは、それはそれで楽しいのだろうけど。



 けれど…



 思わず零れてしまったため息。

449 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:02


 そんなれいなのそば、いつの間にか近付いてきたヒト。 

 一瞬で気付く。


 雰囲気。
 薫り。
 存在感。


「どーしたの?れぃなぁ?」
「イシカワさん…」


 顔をあげ、そのヒトの顔を見ると、自然と表情が柔らかくなるれいな。

 すぐ隣に梨華が腰を掛けてきた。
 肩が触れ合う距離に、一瞬胸をドキリとさせる。


「1人…ですか…?」
「うん」


 そう、梨華は1人だった。
 真希たちはまだスタッフルームの中だろう。

 梨華は1つ頷くと、"3人だけの方がイイと思うし…"と少しだけ寂しそうに微笑んだ。
 その表情は、これ以上自分では入り込めない空気になってしまったのだろうか、本当に寂しげだった。
 そして、自分から身を引いて出てきたのだろう。

450 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:02


「楽しそうでした?」
「ん?」


 一瞬考えるも、すぐに頷いた梨華。
 少しれいなの言った意味が理解できなかったのだろうか。


「休んでいた理由を問い詰められてたょ」


 そう言うと、そのときの真希の困った表情を思い出したのだろう、少しおかしそうに微笑んだ。
 れいなも自然と笑顔が零れる。


「心配そうでしたもんね…」
「来るまでに結構話したんだ?」

「はぃ」


 頷くと、れいなは来るまでに話した内容を、細かく梨華に話した。

 自分たちのコト。
 この場所のコト。
 そして、真希のコト。

 そんな自分たちのコトから、亜依や希美に質問したコトまで。

 亜依たちに聞かれたコト。
 確実に自分たちの方が付き合いが短いのに、真希のコトを聞かれたコト。

 不思議と全てを話してしまった。
 梨華には。

451 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:03


 さらに、亜依に手を握られてどぎまぎしてしまったコトまでも。

 それを聞き、声を出して笑い出した梨華。
 ひとしきり笑うと、れいなの手首を取り、目を細めた。


「そんなに緊張したんだー」


 さすがにそこまで笑われると、少々気恥ずかしさまで覚えてしまう。
 これほど笑うくらいに恥ずかしいコト話したのだろうか、と。


「かゎぃぃね」


 しかし、梨華のその言葉に、そんなコトは完全に飛んでくれた。


 胸があったかくなり
 嬉しくなり
 シアワセになり


 自分の手首をとってくれている梨華のヌクモリまでも忘れてしまいそうだった。

452 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:03


 やっぱり自分はシアワセ。


 これだけステキなイシカワさんと一緒に働けるなんて…


 ただ、そう感じた瞬間に、やはりさっきまで亜依や希美に感じた感情を思い出してしまった。
 とたんに曇るれいなの表情。


「どーしたの?」


 敏感に感じ取った梨華は、れいなの手首を放す。

 一瞬追いかけようとするヌクモリの消えてしまった自分の手だが、今は、ぐっと押さえる。
 そして、亜依や希美たちに対して感じた感情を素直に話し始めた。

 れいなの話す内容に、初めこそ少し驚いたような表情を浮かべていた梨華だったが、
 次第にその表情は優しげなものへとなっていった。

 いつも以上の優しさを感じる梨華の瞳。

453 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:04


 話し終えたれいなに対して梨華は、れいなの肩を抱き、そっと自分に抱き寄せた。
 ぐっと近付く2人の距離。

 そして、れいなのすぐ近くで囁いた。


「優しいんだね…」


 嬉しそうに。


「ぃぇ…」


 その言葉にも、優しげに微笑む梨華。


「確かに、華やかな世界だけどね…
 れいなの言うとおり、かなり厳しいと思うょ」


 れいなが感じたシンユウとの繋がり以外にも、どんどん梨華の口から出てくる言葉。

454 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:04



 毎日仕事の上に、時間があればレッスンやヴォイストレーニング。
 常に努力し続けなければいけない2人。


 メディアからのバッシングに、ファンからのバッシング。
 実力至上主義の世界。
 売れなくなったら終わりの世界。


 毎日が戦いの世界。
 立ち止まれない2人。
 たまりにたまるストレス。


 どんどん梨華の口から出てくる言葉は、確実にれいなの中に刻み込まれてしまった。

 そして、確実にカノジョたちに対する印象まで変わってしまうものだった。

 れいな自身、単純に羨ましいと感じていた時期もあった。
 カノジョたちの華やかな世界に生きることができる運命にも。

 そして、いつかカノジョたちみたいになれたらとも思っていた時期もあった。

455 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:05


 しかし、実際にカノジョたちと出会って、話を少し聞いただけで、その印象は変わってきてしまった。

 こっちの"世界"の住人でよかった…と。

 今がとてもシアワセだから。


 ステキな梨華に出会えて。


 美貴に出会えて。
 愛に出会えて。
 あさ美に出会えて。
 桃子に出会えて。
 なつみに出会えて。
 圭織に出会えて。


 さらに、真希、亜依、希美に出会えて。


 そして、真希、亜依、希美に少しでもこっちの世界のキモチを味わってもらえたら、と。
 少しでも年齢の近い自分たちと、普通の女のコとして。


 
 〜 ☆


456 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:05


 テーブルの上の片付けを終え、カップをバーカウンターに持ってきたれいな。

 すると、それを待っていたかのように、スタッフルームへはいる通路から、亜依が出てきた。
 その後ろにつづく、希美。
 手には、食べ終えたサンドウィッチや、チキン、ポテト、そして飲み終えたジュースやらがのったトレイがあった。
 それを、なつみに手渡すと"ありがとうございました"と深々と頭をさげる。

 そして、シアワセそうに"おぃしかった"と笑顔を零した。
 そんな無邪気な希美の笑顔に、自然となつみも表情を柔らかくすると、小さなコドモの頭を撫ぜてあげる。

 そう、キャップを取ってしまっている2人の表情は、とても嬉しそうに綻んでいた。
 もちろん、食べ物がおいしかっただけではない。
 真希との会話を存分に楽しんだのだろう。

 ゆっくりと話して、しっかりと安心感も貰ったのだ。


「ゆうちゃん、えぇょ」


 亜依の言葉に、裕子は頷くと、真希のいる部屋へと入っていった。
 そして、その後ろ姿、裕子が入っていったのを見届けると、
 れいなの方を見やり、にっこり、顔を近づけてきて、囁いた。


「みんな紹介してょ」


 その言葉に、大きく頷いたれいな。

457 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:06


 振り返ると、美貴が亜依たちに手を振っているのが目に入ってきた。
 その美貴の隣にいるさゆみは少し不思議そうな表情をしている。
 そして、近くにいるえりも。

 薄暗い店内、"いるわけのないヒト"の顔というのは分かりにくいもの。
 一方、シンユウ、もしくは普段から存在を確認しているヒトというのは、少々の暗闇でも分かってしまうのだ。

 今のさゆみ、えりもそうなのだろう。
 れいなの方を見つつ、"誰?"と目で聞いてきた。

 そんなさゆみの質問に答えたのは、隣にいた美貴。

 さゆみの腕を取り、ぐいっと自分に引き寄せると、そのまま頭に手を回し、自分のすぐそばに持ってきた。
 まるで自分のコイビトにする仕草のソレ。
 さゆみの顔に一気に動揺の色が走る。
 そばにいるえりは別の意味で顔色を変えた。

 しかし、美貴の言葉を聞くと、"うそぉ"と大きく声をあげたさゆみ。
 隣で別の意味で顔色を変えていたえりも、今度はさゆみと同じ理由で顔色を変えた。 
 そして、次の瞬間には、ばっと立ち上がると近付いてくる2人。

 疑心暗鬼のような表情の2人だったが、近付くにつれ確信してきたのだろう、
 その驚きの表情が手に取るようにわかってしまった。
 2人のリアクションに、れいなは思わず亜依、希美と顔を見合わせ、笑っていた。

458 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:06


「ぅそぉ…」


 すぐ目の前に来たえりは、口元に手をもっていき、その切れ長な瞳を大きく開いた。
 同様に、つぶらな瞳を大きくしたさゆみ。

 そんな2人を見ていると自然と普段のように強気の表情になってきたのはれいな。
 笑顔も零れる。

 しかし、笑顔だったのはれいなだけだった。

 驚きの表情をしていたさゆみ、えりと同様に、2人の顔をしっかりと見た亜依と希美も動揺を見せていた。
 れいなも2人の表情に、不思議そうに首を傾げた。


「ゎぁ…知っとぉ」
「ぇ…?」


 その言葉に小さく声をあげたれいな。
 さゆみとえりの方を見るも、2人はさっきのれいな同様に首を傾げていた。

 亜依は、希美と顔を見合わせ1つ頷くと、えりの手を握る。
 どぎまぎと胸を高鳴らせているえりの隣では、さゆみが希美に手を握られ、ほっぺを真っ赤に染めてしまっていた。

459 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:06


「去年の秋の横アリで…」


 亜依の言葉に顔色を変えるさゆみとえり。
 そして、亜依の後をついで、希美がさゆみの手を上下に振る。


「一番左端の五列目にいたよねっ」
「他にも…」


 亜依と希美の口からどんどん出てくる、さゆみとえりの行った公演の場所。
 そして、2人の座っていた場所。


「めっちゃ知っとぉもんっ」
「うんっ。顔分かるよっ」


 その中には、れいなも2人と一緒に行った公演も数回あったのだが、
 さすがに数多く足を運んでいるさゆみやえりの方に視線が行っていたのだろう、
 亜依と希美はれいなの顔は覚えていなかったのだ。

460 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:07


 しょぼんするれいなの隣で、嬉しさの余り小さく悲鳴をあげるさゆみ。

 しかし、そのさゆみのそばでは、いつの間にか、えりが目に少し涙を浮かべていた。
 もちろんそれは嬉しさのあまりの涙。

 その涙に、しょぼんとしていたれいなも、自然とえりの頭を"よかったね"と撫ぜてあげていた。
 やっぱり、自分が憧れているヒトに顔を覚えてもらっているというのは、嬉しいもの。

 そして、これだけ喜んでいる2人の様子を見ていると、それだけでもれいなはシアワセなキモチを味わえた。
  
 しかし、れいなの仕事はまだ終わらない。
 この様子を見ていた愛とあさ美、桃子が近付いてくると、今度はしっかりと紹介。

 シアワセなキモチに浸りながら。




461 名前:6 〜 投稿日:2005/09/06(火) 01:07


 〜 ☆


462 名前:名無飼育335 投稿日:2005/09/06(火) 01:33
更新お疲れさまです。
リアルタイムで見てしまいました(感涙
ようやくみんなとご対面ですね♪
れいなの優しさや、みんなの優しさが滲み出るようで、心が温かくなりました。
読んでるうちに気付けば顔が綻んでいた自分です。
そしてやっぱり、れいながイシカワさんへ想う気持ちが可愛らしかったです!
次回更新も楽しみに待ってます。
463 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/06(火) 07:18
更新お疲れさまです。
夢中になれるのはやっぱり計り知れませんね。
二人の心境が分かりますよ。

次回更新待ってます。
464 名前:なまっち 投稿日:2005/09/09(金) 00:13

>>462 名無飼育335さん
 ありがとうございます^^(リアルタイムも^^
 温かくなっていただけましたか(ょし
 ってか、こっちがめっちゃ嬉しいです^^
 れいなのキモチ→→⇒⇒⇒イシカワさんの可愛いキモチは
 これからもがんがん書いていけたらと思います(はぃ
 ので(?)次回もヨロシクお願いします〜

>>463 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 夢中になるのは、そうですよね…
 自分もこれだけ娘にハマるなんて思ってなかったなぁ…
 次回もヨロシクお願いします^^

 
 
465 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/09/09(金) 00:13




 7 〜




466 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:14


「ぁれ…?」

 ずっと裕子と話しこんでいたなつみは、ふと周りを見回すと、妙な景色に小さく声をあげた。

「ん…?」

 その声に対して不思議そうに声をあげる裕子。

「はい…?」

 さらに、これからお客さんのトコロに湯気の立ったキリマンジャロコーヒーと、
 ダージリンの入ったカップを運ぼうとしていた梨華も、聞き返す。

 一瞬、見つめあう3人の時間が止まるも、なつみが小さく吹き出すと、
 "ぃゃぃゃ"と、さっきの疑問の声の原因を口にした。

「みんなドコ行ったの?」

467 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:14


 なつみの言葉に"ぁ…"と小さく声を出した梨華は、一度お店の中を見回すも、
 その現状を理解すると、少々呆れ顔に表情を緩めた。

 そして、"そういえば、随分と前からですょ"と言おうとして、口ごもる。
 さすがに、これを言ったらあのコたちが可哀相だと感じてしまったから。

 今、すごい嬉しいだろうあのコたちのコトを考えると。

 そう、なつみの言葉の意味は、今このお店に出ているヒトの数であった。
 今日ココに来ているメンバーは、全員。
 つまりなつみ自身を合わせると、計9人はいるはず。

 そのはずなのに、今お店に立ち、仕事をしているヒトの数は、明らかにその人数を下回っているのが明らかだった。

 バーカウンター内にいるなつみ。
 今、接客の最中であるれいなと圭織。

 そして梨華。

 来ている人数の半分以下。

 さらに、今、奥で休憩していいのは2人のはずなのに、と。

468 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:15

 
 おそらく、今、奥のスタッフルームでは、真希や美貴、亜依、希美といったゲストと、あさ美や愛、
 さゆみにえり、桃子といったお店で働いている女のコたちの面々が、
 とても楽しそうにおしゃべりに興じているであろう姿が想像できた。


「ぃゃぁ…ぁの…」


 梨華の苦笑いとともに、奥のスタッフルームの方をちらりと見やったカノジョのその様子に、
 なつみが意味を理解すると、大きくため息をついた。


「まったく…」


 呆れ顔のなつみだったが、怒りたいのもやまやま、やはり仕方がないとばかりに少し表情を緩める。
 さすがに、亜依や希美がお店に来るという、このような機会などないのだから、と、
 "許してあげるか"と、今度は小さくため息を零した。

469 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:15


 ところが、なつみが仏の顔を見せたそんなとき、奥から小さく高い悲鳴に近い声が聞えてきた。
 さゆみの声。
 明らかにこのフロアにいるお客さんに聞えるくらいの声の大きさだ。


「…」


 なつみが下を向き、何かをガマンしているその様子を見て、梨華が"元気がぃぃですね"と慌てて繕う。

 続いて、明らかに亜依の高い声も。


「…」


 今度は、裕子が下を向いてしまった。


「ぃゃ、ぁ、あのコはいつも元気じゃないですか…」


 さすがに今日来たばかりのなのに、と申し訳ないのだろう。
 "ごめんなぁ"となつみに対して言うも、"こっちのコが悪いと思うから"と少々引き攣った笑顔で返すなつみ。

470 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:15


 そして、しばし続くどたばたとした音に、2人の表情は険しくなり始めた。

 と、そのとき、美貴の一際大きな悲鳴と、さらに高いグラスの割れる音、若干低い陶器の割れる音が、
 お店の中にまで響いてきた。
 それと同時に聞えてきた数人の女のコの悲鳴。

 お店の中も静寂に包まれる。
 顔を見合わせ、こそこそと笑うお客さんに対して、なつみは"申し訳ありません"と数回頭を下げた。

 そして、スタッフルームの方でも、一瞬の静寂の後、ばたばたと数人の駆ける音と、
 がちゃがちゃとガラスの破片が床の上を転がっている音がし始めた。


「ぁの…」


 顔を覆ってしまった裕子。
 静かに奥のスタッフルームを指差し、梨華に合図しているなつみ。

 そんななつみを見て、梨華は"行ってきます"と、とぼとぼと裏のスタッフルームの方へと入っていった。

 その後姿を眺める"今ただ1人だけの後輩"は、梨華の立場を"大変だっちゃ"と素直に感じてしまっていたのだった。



 〜 ☆


471 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:16


 20分後、梨華は、美貴と真希と一緒にお店の方に戻ってきた。

 そのまま3人はなつみのそばに行くと、頭をさげ、何かしら話しはじめる。
 そして、ひとしきり頭を下げたあと、美貴と真希は、空いていた場所に一緒に腰を掛けた。

 その様子を眺めていたれいなだったが、中で起こっていたどたばたよりも、気になったコトが1つ。

 それは、戻ってきた梨華の表情はあまり冴えないコト。

 いや、入っていったときも、随分と落ち込んだ表情をしているのだが、
 その顔色の悪さは先ほどよりも拍車が掛かり、青く、悪くなっていた。

 随分と落ち込んでいる様子が、手に取るように分かってしまうくらい。

 そんな梨華に、少し心配そうな表情を浮かべたれいなは、さすがにこれだけ落ち込んでいる梨華のそばにいって、
 "何かあったのですか?"とは聞けなかったこともあり、真希と美貴の2人のそばに寄って行った。

472 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:16


 れいなの顔を見ると、笑顔を浮かべた真希と美貴。


「なにかちょーだぃ」


 美貴のいつものおねだりはさておき、とばかりに、れいなは真希の方を見やった。


「イシカワさん…どーしたんですか?」


 れいなの言葉に苦笑いを浮かべると、カノジョの質問の答えを口にした。


「あぃぼんと、つーじぃにね…」


 それだけ言うと、そのときの状況を思い出したのか、表情を緩め、美貴の方を見た。
 美貴は美貴で、"仕方がなぃょね"とばかりに、肩を竦める。


「返り討ちにあったよーなもんだょね」


473 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:17



 美貴と真希の話によると、梨華がスタッフルームに入ってくる前、
 スタッフルームの中では、楽しくおしゃべりに興じている面々がいた。

 初めてきた亜依や希美を中心に、随分と盛り上がっていたところ、
 ふとした瞬間に希美が隣で立っていたさゆみのオシリを触ったのだ。

 希美としては、手馴れたイタズラ、そして初コミュニケーションとばかりにもみもみと触ったのだが、
 当然のごとく、"そういうコト"に対して免疫のないさゆみは驚きのあまり大きく声をあげてしまった。

 それを見たえりは、自分のイモウトが触られたコトもあり、仕返しとばかりに、
 自分のすぐ隣で座っていた、希美の姉妹である亜依のボリュームのある胸を触ったのだ。

 しっかりと揉まれてしまい、思わず悲鳴をあげてしまった亜依も、それをキッカケに、さらに仕返し。

 そんなみんなのスキンシップ合戦がしばらく続いた後、その混乱の中、希美が美貴の胸を触ったのだが、
 あまりにもボリュームがなかったことから"なんもねぇ"っと暴言を吐いてしまったが、後の祭り。

 すると、"なにぃ!"とばかりに椅子から立ち上がろうとした美貴。
 もちろん冗談だったのだろうが、思いっきりテーブルにカラダを当ててしまい、ひっくり返してしまったのだ。

 床に転がり落ち、そして派手に割れてしまったグラスやカップ、お皿。

 そして、慌てて片付け始めたのが、梨華が入ってくるまでの経緯。


474 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:17



 それを聞き、なんともいえない呆れてしまった表情をしたれいなだったが、
 最後の美貴がマジギレ、いや本人はそうはいっていないが明らかにソレっぽい、
 マジキレしそうになったキッカケについては、少々納得。

 そう、自分も完全にヒトのコトは言えないから…。
 一瞬、見慣れた…いや上からはあまり見えないけど、鏡を通して正面から見慣れた自分の胸を想像し、
 慌ててかぶりを振る。

 ま、それはさておき、そんなときに梨華が入ってきてしまったのだ。

 そして、"こらっ"とばかりに全員を叱り始めた。
 もちろん、お店のお皿やカップを割ってしまったコトに激しく反省をしていた面々だったが、
 希美が少し飽きてしまったのか、叱っている梨華に対して"おねぇさんぶってるっ"とからかったのだ。
 一瞬崩れる梨華の表情。
 すると、亜依も。

 そんな2人のいつものノリに、梨華は"なによぉ"と砕けた口調で応戦。


475 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:17



 最初こそ、言葉で遊んでいた3人だったが、いつの間にか、さっきまでの続きとばかりに、
 今度は梨華に対してセクハラを始めたのだ。
 希美と亜依が。

 そして、梨華のカラダやら胸やらを触った挙句、足や腕を見て"クロっ"とか、
 ふわふわのスカートをめくりあげ、オシリを触ったあげく、"ケツでかっ"と、
 随分とおとめゴコロを傷つける言葉を投げ掛けたのだった。

 その言葉に、久しぶりだったコトもあり、ココロにぐっさりと鋭い刃物を刺されてしまった梨華。

 さらに、後輩の前でコドモ扱いをされ、先輩の立場をぼろぼろにされてしまったコトにもショックを受けてしまい、
 とぼとぼと片付けたお皿だけ持って帰ってしまったとのコト。


476 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:18



「まぁ、いつものコトだけどね」


 と、苦笑いを浮かべ、このコトを日常の景色と言ったた美貴の言葉だったが、れいなにしては珍しい光景だった。

 いい言葉で"遊べる"。
 悪い言葉で"イジメル"。
 ある意味、梨華に対してそんなコトが出来るヒトと言えば美貴ぐらいであり、
 さらに、最近ではあまり見られる場面ではなかったからなのだ。

 とくに、れいなの前では、これまで見たコトがないと言ってもいいくらいの景色であった。

 いや、本当は、美貴がれいなの前で梨華をおちょくるコトに対して、遠慮をしていただけだったのだが。

 そう、美貴は、れいなの前で梨華をからかうコトに対して遠慮をしていたのだ。

 その理由として、ただ単に、カノジョが梨華に対して、甘い感情を持っているコトに気付いていたコトから。
 その感情を考慮してのコト。

 それは、実は、桃子の例もあったからなのだ。


477 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:18



 桃子は、美貴が梨華のコトをおちょくったりしている姿をみると、
 "なにしているんですかっ!"と、必ずといっていいほどかばいに入ってくるのだ。

 梨華が泣きそうな表情になると、小さなカラダで梨華を抱きしめてあげ、頭を撫ぜてあげたりして、
 すかさず美貴に対して言葉の攻撃を加えてきたりしてくる。

 梨華もそれにノッて、桃子に甘えた声を出したりするのだから、それが余計に桃子の中に、
 梨華を守ろうなんて感情へとなるのだろうか、その後の更にひどい仕打ちへと繋がってしまうのだった。

 その後に出してきた飲み物に、大量に塩やタバスコを入れるという仕打ちへと。

 ある意味このコトは、いつもの"おあそび"なのだが、
 最近では、結構ホンキで仕返ししているようにも美貴自身思えてきたコトもあり、
 少し控えていたのだ。


 梨華への"おあそび"を。


 ただ、さっき久しぶりに梨華の泣きそうな表情を見て、
 少しぞわぞわっとココロが波立ったのは…言えるはずもないコト。


478 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:19



「そんなコトだったんですか」


 珍しい光景、そして想像すると結構面白い光景に、少し笑顔が浮かんでいたれいなだったが、
 そう思った次の瞬間には、少々寂しさ、そして羨ましさも感じていた。

 それは、自分では到底出来ないコトを、亜依や希美が梨華に対してやってのけ、
 さらに楽しんでいるからに他ならない。

 とくに、そんなセクハラまがいのコトなんて出来るはずもなかった。

 自分はいつもいつも梨華に対しては、マジメにしか接するコトが出来ずに、
 最近では、自分といても面白くないだろうとさえ感じていたくらいだから。

 一緒にいても、それほど話が弾んでいるように思えないのだ。
 自分としては、隣に梨華がいるだけで、シアワセなキモチになれるのだが、
 梨華のキモチは知るはずもないコト。

 そんなコトもあり、梨華が感情を出している光景、楽しんでいる光景を見ると
 とても羨ましく感じてしまうれいなだった。

 カノジョの感情をころころと変えるコトの出来るヒトに対して。


479 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:19



 ただ、一方、別の感情も。
 それは、それだけショックを受けてしまっている梨華がとても可哀相にも思えてしまったコト。

 今、その梨華を見ていると、とくに最後の感情が、強くれいなの中、渦巻いていた。

 そのときは"言葉遊び"に楽しんでいたとしても、どこかショックを受けているだろう梨華に対して。


 とても可哀相。
 かまってあげたい。
 守ってあげたい。


 自然と、梨華のそばに足を運んでいたれいなだった。



 〜 ☆


480 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:19



「うらやましぃ?」


 美貴の言葉に、れいなの後姿と、シンユウのほっとしたような笑顔を見ていた真希は、
 自分に声を掛けてきたヒトの方を見やった。


「ん?」


 振り返ったものの、自分に声を掛けてきた本人は、いたってのほほんと、
 さっきまで自分が見ていた2人を見ていた。

 それを確認すると、真希も再び視線を戻す。
 そして、目を細めている自分にとってタイセツなヒトと、
 そのヒトをタイセツなヒトと思っている少女を見て一言、
 本心を呟いた。


「そだね…」




481 名前:7 〜 投稿日:2005/09/09(金) 00:20


 〜 ☆



482 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/09/11(日) 00:42




 8 〜




483 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:43



 小さな学校。
 まさにそんな空気を感じるコトができる、今の"ココ"。

 つい数分前、最後のお客さんを送り出すまでの"カフェ"という雰囲気から一変だ。


 いつものバーカウンターにいるなつみ。
 そして、すぐ隣にいる圭織。


 少し遠くから腕を組み、全体を見ている裕子。


 まるで先生のよう。


484 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:43



 一番最前列に座っているのは、梨華、美貴、真希の3人の最上級生。
 優等生の梨華を挟むように、不真面目な美貴と真希が足を組み、
 梨華の両側からステレオのように何やら話している。

 2列目に座っているのは、愛、あさ美。
 こちらは、2人とも優等生なのか、話もせずに勉強中である。
 旅行のパンフレットを見て。

 3列目には、新人であるれいな、さゆみとえり。
 一番最年少組であるコトからも、グルメ雑誌をがやがや見て、やはり少々騒がしい組。
 ときどきなつみに注意を受けている。

 少し離れて、亜依と希美が全体をほのぼのと眺めていた。
 いつの間にか、勝手知ったる我が家のようにくつろいでいる2人は、
 間に桃子を挟み、ときどきそのやわらかいほっぺをつまんで遊んだりしている。

 ま、桃子もまんざらではないのか、"やぁめてくださいょ"と言いつつも、表情は緩い。


 これらの雰囲気はまるで小さな田舎の学校のよう。


485 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:44



 営業を普段より1時間早めに切り上げたなつみは、全員を集め明日からのコトを相談しはじめたのだ。
 亜依と希美は"楽しそう"と、一緒に話を聞き、そして真希のマネージャーである裕子は"一応"と、監視。

 そして、実際に行くメンバー。

 門限が早いえりとさゆみも今日ばっかりはさすがに帰らない。
 もちろん亜依と希美がまだ残っているということもあるのだろうが、やはり、この空気を楽しんでいるようだ。

 そう、旅行に行く前、色々とみんなで相談しているときというのは一番楽しいと言ってもいいだろう。
 

 どこに食べに行くやら。
 どこに遊びに行くやら。
 どこに泊まるやら。


 旅行が実際に始まってしまうと、考える間もなく、その瞬間瞬間を楽しむだけで、
 それはそれでもちろん楽しいだろうが。やっぱり今の相談の時間が一番楽しいもの。

 みんなの表情も、明日からの旅行を思ってか、とってもシアワセそうだった。


486 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:44



「ごっちんは…」

 なつみはそう言うと、裕子の方を見た。

「木曜の11時に品川に着ぃとれば大丈夫ゃから…」

 そして、"朝8時前の"のぞみ"に乗ったら間に合うけどなぁ"と呟く。
 すると、その言葉を聞いた梨華が、"どぅする?"と隣の真希に聞いた。

 ただ、真希は、考えるまでもないのか、にっこりと"当日に帰るでいいよ"と大きく頷いた。

「そっか…」
 
 真希の笑顔に自然と表情が綻んだなつみは、カウンターのすぐ後ろに掛けられたカレンダーに目をやった。
 そして、つられるようにして全員がカレンダーに視線を向ける。

 今日は4月4日の月曜日。
 明日の朝一番に出発するのは決まっているコトである。
 つまり、さっきの真希のコトを考えると、5日の火曜日と6日の水曜日は大阪で泊まりとなる。

「2日かぁ…」

 なつみは小さく呟くと、普段から日々の売り上げの計算をするのに使っている電卓を取り出した。
 そして、再び全員の人数を数え、手馴れた様子でなにやら計算を始めた。

 しばしなつみの電卓を叩く音だけが響く。


487 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:45



「部屋割り決めないとね…」

 なつみが計算している様子を眺めながら、なにげなく思いついたコトを梨華が呟いた。
 しかし、なにげないその一言だったが、その場にいた全員が一気に表情を固くした。

 そう、さっき少し話していた内容だと、とりあえずホテル、宿泊先は1人一部屋ではなく、
 2人で一部屋となるようなのだ。
 やはり、そっちの方がお金も少なくて済むし、ヒトとのコミュニケーションが図りやすいだろうし、とのこと。

「く、くじですかっ!?」

 真っ先に声をあげたのは、あさ美だった。

 おそらく、この中でも一番と言ってもイイくらいに思惑でいっぱいのカノジョ。
 いや、ここのメンバーはほとんどがそうと言ってもいいかもしれないのだが。

 そんなあさ美の言葉に、"さすがにそれは…"と苦笑いを浮かべた梨華は、
 "うーん"とテーブルに肘をつき考え始めた。


488 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:45



 しかし、すぐにその答えとも言える言葉を、独り言のように話し始めた。

「ごっちんは、1人でしょ…」

 全員で11人なのだから、2人で一部屋の場合、必然的に1人は余るわけであり、
 それは真希が一番いいだろうと言いたいのだろう。

 その言葉にがっくしと首を垂れるあさ美。
 しかし、確かにそれが一番だろう、と、すぐに顔を上げた。 

「普通に考えると…」

 そう呟いた後、梨華は立ち上がり、カウンターにおいてあったメモ帳を手に、ざっと部屋割りを考え始めた。


489 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:46



 とりあえず真っ先に上がったのは、なつみと圭織が相部屋。
 そして、自然と近い人間が同じ部屋の住人となっていく。

 あさ美は愛と。
 さゆみはえりと。

 と、そこで手の止まってしまった梨華。

 そのまま"ぅ〜ん"と考え込んでしまった。

「どーしたの?」

 声を掛けたのは、まだ呼ばれていない美貴。
 すると、そんな美貴の方を見て、梨華は申し訳なさそうに呟いた。

「みきちゃん、わたしとで…ぃぃ…?」
「いやっ」

 考える間もなくびしっと答えられ、"やっぱし"と、俯いてしまった梨華は、
 悲しそうに"だっていないじゃん…"と呟いてしまった。

 まるでいじけてしまっているその仕草。

 普通なら、そんな梨華の仕草を見てしまうと、仕方がないと頷いてしまうものなのだろうが、
 やはり美貴には少々勝手が違うようだ。
 
 梨華に冷たい視線を投げかけた後、隣の真希を見て断言した。


490 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:46



「ミキ、ごっちんとがいい」
「だ、ダメですっ」

 しかし、そんな美貴の言葉が聞えてきたと同時に反対を唱えたのは、あさ美だった。
 立ち上がると、美貴たちのテーブルのそばに行き、"反対です!"と表情をきりりとさせた。

「どーしてよ」

 険しい表情になる美貴。
 そんな美貴の、普段自分に向けられたことのない視線に一瞬怯みそうになったあさ美だったが、
 ぐっとカラダを近づけると、びしっと言い切った。

「ごとぉさんが襲われますっ」

 一瞬、目が点になる美貴。
 そして、その隣の真希も。

 いや、その場にいた全員の目が点になっていた。
 それは、電卓で計算をしていたなつみも、


491 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:47



 ただ、その空気は一瞬。

 もう次の瞬間には、一気に笑い声が沸き起こっていた。

「ぇ…」

 自分としては、結構真剣に言った言葉なのに、と、みんなの笑っている反応に不思議そうな表情になるあさ美。
 しかし、みんなの笑いは止まらない。

「あさ美ちゃん、考えが飛んでる」

 愛にも笑いながら言われたことに、あさ美の不思議そうな表情が、
 みるみるうちに不機嫌なモノへとなっていってしまった。
 
 そして、しぶしぶながら愛の隣に座り直す。


492 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:47



 一方、自分のせいであさ美が不機嫌になってしまったのだろうか、と少々困ったような表情の真希を見て、
 "じゃぁ仕方がないっか"と、美貴が声をあげた。

 次のターゲットを探そうと、視線を動かすと、すぐ後ろに座っていたさゆみと目が合う。

「さ…」
「だめっ!!!」
「…」

 "まだ言ってないじゃん…"とジト目で、さゆみの隣で大きく声をあげた保護者を見つめるも、
 美貴のカワイイ表情はあまり効果がないようだ。

 いや、そもそもどんな風に言われたってえりに譲るつもりはなかったのだろう。
 いつもはやさしいその目を吊り上げ、手馴れた様子で怖い表情を作っている美貴に、必死で応戦している。

 火花を散らしている2人の間、さゆみは少々困ってしまったかのように視線をきょろきょろさせていたが、
 何を思ったのか、いや先輩を立てようとしたのか"藤本さんとでも…ぃぃですけど"と小さく呟いてしまった。

 その言葉を聞いた瞬間、えりの瞳が大きく揺れる。
 そして、その隣のれいなも。

「さゅ…」

 美貴も"本当にいいの?"とさゆみを見つめる。


493 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:48



 しばし3人の視線が交じり合っていたが、それを崩したのはえりのじわっと浮かんだ涙だった。

「ぅ…っく…」

 そんなえりを見て、一番最初、美貴の言葉でココロにぐさっとヤリを突き刺されてしまった梨華が、
 "みきちゃん、掻き乱さないっ"と声をあげた。

「ぅ…」

 目の前でれいなに頭を撫ぜられているえりを見て、大きくため息をつくと"ごめん"と言い、
 さも哀しそうに、桃子の方をみやった。
 
「ツグナガちゃんと一緒が、ぃぃゃ」

 そして、少々びっくりしてしまっている桃子の顔を見て、"ぃぃ?"と聞いた。
 "仕方がないですねぇ"と言う桃子の言葉にも、縮こまったままの美貴であった。

 これで、美貴は桃子と同じ部屋となった。

 "よしよし"とメモを取る梨華。
 そして、決まったとばかりにほっとなる全員だった。


494 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:48



 しかし、そんな中、1人顔色の悪いメンバー。
 普段の大きな瞳が、今は、少し泳いでいる。

 そう、それは、れいな。

 まだ自分の名前が呼ばれていないコトに気がついていたれいなは、
 自然と自分と一緒になるヒトを計算していたのだ。

 梨華が美貴と一緒の部屋と言ったときには、自分は桃子と一緒になることがわかってしまい、
 一瞬、2人の視線の間でライバルの稲光がばちばちと光っていたのだが、
 一転、美貴が桃子と同じ部屋となるコトが決まると、残っている梨華と相部屋となることが分かってしまった。

 そして、青ざめるれいな。

「れぃなは、わたしとだね…」

 梨華はれいなの方を見やり、にっこりと笑顔で"ぃぃ?"と聞いてきた。
 もちろん、断れるわけがないれいな。

 "断る"

 いや、少なくとも普段のれいなの思考の中なら、梨華の言葉、頼みを断るという方向にはいかないのだが、
 今は、一瞬だけでも"断る"という考えが浮かんでしまっていた。

 そう、憧れているから故に、梨華と同じ部屋だなんてコトは、考えるだけで顔が真っ赤になってしまっていた。


495 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:48


 
 気まずいっちゃ。
 絶対に気まずいっちゃ
 どう考えても気まずい


 何を話せる?
 そんなんより、寝れんっちゃょ


496 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:49



 長い長い一晩。

 思わず零れるため息。

 そう、最初は、自分は当然のごとくさゆみかえりのどちらか、もしくは3人一緒の部屋だと思っていたのに、と。

 もしくは、最後の選択でも美貴は自分を選ぶと思っていたのだ。
 いや、それより、梨華は桃子と同じ部屋になるものと思っていた。
 それはそれでちょっと悔しさを感じていたが。

 まさか、自分が梨華と同じ部屋になるとは。

「はぁ…」

 梨華の言葉に必死で笑顔を繕い頷くも、明るい場所で見れば簡単に分かってしまうほど青ざめているれいな。
 そんなれいなに気づかないのか、隣のさゆみと、機嫌を直したえりが"ちゃぁんすだょ"と肘でつついてきた。

 しかし、今はそんなことに構っている暇はなかった。

 しきりに考え込む。
 当日、梨華と何を話すか。

 2日もあるのだ。
 何を話せばいいのか。


497 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:49



 何かネタになるようなモノを持ってぃかんと…
 イシカワさん、ゲームすきト…?

「ぅ〜ん…」

 弟から何か借りていこうか、と思案するれいなの視界の片隅、美貴がこっちを向いたのに気がついた。
 そして、美貴が自分に対してウインクをしたコトにも。

 その瞬間に悟ってしまったれいな。

 ハメられた…

 さすがにこればっかりは恨んでしまいそうだったが、美貴としては親切心でしたコトなのだろうから、
 文句も言えそうになかった。

 はぁ…

 もう一度ため息。



 〜 ☆


498 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:50



 計算が終わると、"よしっ"と声をあげたなつみ。
 圭織に、自分が書いたメモを手渡し、みんなの方に顔を向け、さっきまで計算していた内容を話し始めた。

 なつみの話によると、今回の2泊の宿泊代、交通費に関しては8人分は会社のお金として出せるそうだ。
 それは、自分たち、なつみと圭織を含めた会社の正社員の数。
 ちなみに、アルバイトである梨華たちは入っていない。

 つまり、そのメンバーの数分を社員旅行として経費から落とすコトが可能であることから、
 実質、3人分のお金を11人で割り勘にするコトになるそうだ。

 他にもご飯などのお金を経費で落とせるかもしれないコトから、
 結局、お金は旅行が終わってから一括して徴収する方向になるとのこと。
 実際には、1人1万円くらいで済むそうだ。

 そのなつみの言葉に"ぉぉ〜"と拍手が起こった。

 やはりお金の心配は全員がしていたもの。
 普通に大阪の方に単純に2泊の旅行をするとなると、交通費と宿泊費だけでも1人4万円は越えてしまうだろう。
 突然だから、旅行のパックとかを使える暇もないのだから、最初はある程度の覚悟はしていたものの、
 それが、1万円で済むとなると、拍手も起こるもの。

 お金の心配はそれ程しなくて済みそうだ。


499 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:50



 そこからは、なつみの主導で、それぞれ行きたい場所、泊まりたいホテル、旅館などなど、
 あさ美が持っていた京阪神用の情報誌を参考に、大まかなスケジュールが決められていった。

 行きたい場所として、一番多かったのは、当然のごとくUSJ。
 これはほぼ全員からの意見となった。
 ただ、春休みということもあり、ヒトも多いだろうし、一度行くと1日仕事になりそうであり、
 さらに入場料が5500円であるから、全員から挙がった意見とはいえ、とりあえず保留となった。

 他には、真希と美貴の意見となる、単純に大阪の街を食べ歩く。
 梨華の意見として、アメ横。
 さらに、海遊館。
 あさ美の意見で、京都の街の観光。
 同じくあさ美の意見で、神戸の南京町の食べ歩き。
 愛の意見として、神戸の夜景を見に行く。

 などなどが挙がった。


500 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:51



 そして、とりあえず、この中から1日目の多数決をした結果、1日目は神戸の方に足を運ぶことに決定。

 北野の異人館周辺で異国情緒の街並みを楽しんだり、南京町で中国の街並みの中中華料理などを食べ歩き、
 ハーバーランドにメリケンパークを楽しんだり、単純に三宮の街でショッピング、
 旧居留地でのショッピングなどなど、その中から選択するコトで落ち着いた。

 また、自由にそれぞれが行動してもよいことになっているが、
 一応安全のため、3チームに分かれるコトに決定した。
 ただ、それは当日、それぞれが行きたい場所で固まるというコトになったのだが。

 その夜は、7時前に全員集合したのち、晩御飯を楽しむ。 
 食べ終わってからは、ホテルへ一度戻り、その後に再び全員一緒に神戸の夜景を楽しむコトに決定。

 ぽんぽんと決まっていくスケジュール。
 出てきた意見のまま、1日目の宿泊を決めようかとなったそのとき、カワイイ声が大きく上がった。
 甘えた声。


501 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:51



「うらやましぃ」

 それは亜依だった。

 おなかを押さえ、クチビルとつきだし、恨めしそうに裕子を見ている。
 そして、次の瞬間、亜依は、その場にいた誰もが自分の耳を疑うような言葉を口にした。

「あぃぼんも行くっ」

 その言葉に唖然となる裕子。

 しかし、一方の亜依は"1日目だけでも行くっ"とさらに声をあげ、希美の方も見やり、同意を求めた。

 そこはやはり双子。
 当然の如く、"のんも行くっ"と声をあげてしまった。

 2人の突然の言動だったが、真ん中にいた桃子が笑顔になると、自然と他のメンバーも笑顔になっていた。
 もちろん、"賛成"と一番大きな声をあげたのは、さゆみとえりだったのは言うまでもない。  


502 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:52



 困り果ててしまった裕子だったが、全員が目を輝かせてしまっているその場の空気に、
 しぶしぶながら亜依たちのチーフマネージャーに電話を掛けると、数十分後には了解の旨を取り付けてしまった。

 仕事は水曜の朝から週末のコンサートのリハーサルだったのだが、色々なトコロに電話をした結果、
 それを強引に昼からにしてもらい、亜依と希美は水曜日の朝に帰るコトで決定してしまったのだ。

 リハーサルなら、亜依と希美の2人の集中力で大丈夫、と。
 もう何年も経験しているプロだから、と。

 それを聞き、大スキと抱きつかれた裕子。
 "暑いっちゅうねん"とイヤそうに顔をしかめるも、まんざらでもないその様子だった。

 やはり、裕子としても亜依や希美には少しでもストレスを取って欲しいもの。
 日々、とてもじゃないが普通の女のコ、高校生がするようなコトが出来ないカノジョたちに。

 1日だけとはいえ。



 〜 ☆


503 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:52



 4月5日の火曜日の夜、神戸の夜景を見た後は、新神戸駅から徒歩数分にあり、
 夜景を一望できる高級ホテルに一泊することが決定した。
 
 そして、翌4月6日の水曜日は、多数決の結果、大阪の街でのショッピングと食べ歩きが決定。
 もちろん食べ歩きのほうが重要視されていることは言うまでもないのだが。

 ただ、2日目の詳しいルートはまだまだ決まっていない。
 しかし、真希がある程度詳しいことから、あまり誰も心配はしていないようだった。
 むしろ、詳しい行き場所が決まっていないぶん、当日の楽しみが出来てよかったといってもいいくらいなのだ。
 あと、もちろん自由に行動してもよいことにはなっている。

 そんな中、険しい表情だったのが亜依と希美。
 やはり、2日目からは自分たちは完全に参加できないのだ。

 1日目が参加できるぶん、余計に悔しかったのだろう。
 さっきとは比べ物にならないくらいに、泣きそうな表情でガマンをしている2人だった。


504 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:53



 そして、2日目の宿泊は、京都の方の旅館に宿泊することとなった。

 本当であれば大阪で宿泊でもよかったのだが、翌3日目は、京都の名所の観光後に帰京するコトもあり、
 どうせなら次の早朝に帰る真希のコトも考え、その日のうちに京都へ移動、そして宿泊がいいだろうと、
 真希に配慮されたものであった。

 ただ、そこで別の問題が1つおこってしまったのだった。

 1日目の宿泊場所となるホテルは、予定通りの数だけツインの部屋を取ることができたのだが、
 2日目の温泉旅館は、もうすでにいっぱいだったこともあり、4人部屋しか空いていなかったのだ。

 ま、それでも、さっきの部屋割りが変わるだけなのだが。

 しかし、さっき同様、思惑が咲き乱れてしまっているメンバーたち。
 今度はさっきよりもうんと長い時間が掛かってしまい、全員が満足したのは、さらに30分後となっていた。


505 名前:8 〜 投稿日:2005/09/11(日) 00:53


 〜 ☆


506 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/11(日) 18:55
えりVS美貴様
やっぱりおもしろいです
4人部屋の部屋わりも気になりますね。
507 名前:なまっち 投稿日:2005/09/13(火) 23:57

>>506 名無飼育さん
 れすありがとうござます^^
 えりVSみきさま、おもしろいですか?
 よかった(ほっ
 ちょっとおまけでしたが…(にがわら…また出そうかな…
 4人の部屋割りは…当日までのお楽しみです^^
 これからもヨロシクお願いします〜

508 名前:【春の歌】〜第6話。ステキな関係 投稿日:2005/09/13(火) 23:57




 9 〜





509 名前:9 〜 投稿日:2005/09/13(火) 23:58



 お店のテーブルと椅子を全部端によせ、いつも自分たちがお世話になっている"ココ"を、
 感謝を込めて掃除している少女たち。

 お店の店員である愛たちはもちろんのこと、
 ゲストであり、あまり掃除がスキではない美貴でさえ、意外なほど真面目にモップを持っていた。

 ここに来て数日である真希も。
 さらに、まだ来て数時間しかたっていない亜依や希美も。

 そして、出口近くにあるレジカウンターの台を布巾で拭きながら、
 そんな可愛い後輩とシンユウたちを微笑ましく見ていた梨華。

 フト手を休めると、奥のスタッフルームを掃除していた裕子が出てきて、
 自分に近付いてくるコトのに気がついた。

 そして、すぐそばまでくると、"さっき思い出したんゃけど"と渋そうに顔をしかめる。

「どうしたんですか?」
「ん…ごとぉの、関係者席しか取れそうになぃねん…」

 主語のない裕子の会話の初めだったが、梨華はすぐに意味がわかった。
 そう、自分だけではなく、自分の後輩たちがとても楽しみにしていることから。


510 名前:9 〜 投稿日:2005/09/13(火) 23:59



 裕子が話しかけてきた話の内容は、春休み最後の祝日となる今週末の、
 真希の春ツアーのラスト公演のことである。

 つい先週、あさ美と愛に頼まれたチケットのコトなのだ。


 今から考えると、少々不思議な感覚である。

 あのときは、今のこのような状況なんて想像もしていなかった梨華。


 真希を自分がアルバイトをしている"ココ"に連れてくるなんて、
 アルバイトを始めてからこれまで一度も考えたことがなかったからだ。
 真希が自分の後輩たちと話している姿なんて、なおさら。


 しかし、真希がいる。
 そして、あさ美と愛は、梨華に頼んできたあのときとは違った意味で公演に参加することになっている。


 それはそれで、素直に嬉しい梨華だった。


511 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:00



 裕子は、そのコトを言っているのだ。
 あのときから、ずっと裕子に頼んでいたコトであったのだが、どうやら関係者席しか取れないようだ。

「なぃのですか?」
「ん…」

 腕を組むと、ひとつ頷く。


 裕子の話によると、どうやら関係者に渡した一般席の類は、裕子の知っているヒトに関しては、
 ほぼあげてしまったそうだ。

 ほんの4枚か5枚くらいなら手に入るそうだが、梨華が頼んだ分の人数はさすがに難しいとのこと。


「関係者席でもかまわんかなぁ?」

 裕子の言葉に、梨華は当の本人たちの方に呼びかけた。


512 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:00



「関係者席しか取れなさそうなんだってっ」

 少々大きな声を出した梨華。

 その声に、一様に残念そうに表情を曇らせると、お店を掃除していた手を休めた面々。
 梨華の、同じく主語のない言葉にも、梨華の残念そうな表情、裕子の申し訳なさそうな表情に、
 意味は簡単に分かったのだろう。


 そして、床を掃除していた愛とあさ美は立ち上がると梨華たちに近づいてきた。
 その後ろには、れいなとえり、さゆみと桃子が、布巾片手に立ちあがる。

 さらにバーカウンターの中を片付けていたなつみと圭織も手を休め、こっちに視線を向けてきた。


 そう、梨華が裕子に頼んだ枚数は、実はこの人数分必要だったのだ。
 さらに、"久しぶりに行こっか"となった梨華と美貴のぶんも。


 つまりこのお店で働いている人間全員分プラス1枚の計10枚

 さすがにこの人数分の一般席をとるのは少々難しいかったのだ。


513 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:01



 当の本人である真希は少々気恥ずかしそうに、それでも、嬉しそうに立ち上がった。
 一方、隣にぴったりとひっついている亜依と希美は、同じ日にツアーのラスト公演を予定しているだけに、
 少々悔しそうだ。


「関係者席でも…いいでしょ?」

 梨華の言葉に、一様に笑顔で頷く。
 ないものは仕方がないと。
 それより、行けるだけでも嬉しいものだから。


 代表のかたちとして、裕子に"ありがとうございます"と頭を下げた愛。
 その隣では、真希の公演を立てて楽しめないコトに、少々残念そうなあさ美がいたのは、いうまでもない。



 〜 ☆


514 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:01



 全ての後片付けを終えると、見慣れない景色がそこにはあった。

 見慣れない景色。


 随分とさっぱりしている店内。

 普段から、ある程度次の日の準備をして帰っていたことから、これだけキレイに片付いてしまった店内は、
 みんなの目にとって若干見慣れない景色となってしまっていた。

 新人であるれいなたちにとってはもちろんのこと、
 梨華にとっても最後まで店内にいたことはなかったから余計に。


 キレイに片付けられてしまったバーカウンター。
 並べられていた全てのモノが、奥の部屋や、棚にしまわれた。

 各テーブルの上に置かれていた、キャンドル類も片付けられている。


 こうやって見ると、普段なら狭いくらいに感じていた店内が意外と広いように感じてしまうものだった。


515 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:02



 おそらく、今真希と2人で住んでいるトコも、キレイに片付けたりすると意外と広く感じるのだろう。
 とくにキレイに片付けている真希の部屋はともかく、意外と散らばってしまっている梨華の部屋は。

 そう、"マジメな性格"というものと、"部屋を片付ける性格"というのは、違うものなのか、
 梨華の部屋は意外なほどモノが広がってしまっているのだ。

 他の部屋はキレイに片付けているのだが、どうしても自分の部屋となると、後回し後回しになってしまう梨華。

 いや、本当は自分の部屋だから、片付けるときにはとことん片付けたいのが本心、
 どうしても時間がないと後回しになっているだけなのかもしれないのだが。


 人間とは不思議なものである。


 そんな梨華にとって、今の言葉をしみじみと、そして、余計に部屋の広さを感じてしまった瞬間であった。


516 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:02




 
 さっきコンビニで買ってきた紙に、簡単に3日ほどお店を閉める旨の内容を書いているなつみ。
 梨華は、カノジョのそばで、少し興味津々といった様子で、お店全体、さらにその中にいるメンバーを眺めていた。


 キレイに片付いてしまっている店内を、色々と歩き回っているれいなと美貴と真希。

 れいなは、出会った当日と比べると、随分と真希にも親しんでくれている様子が、簡単に垣間見れていた。
 笑顔で真希のコトを見ているカノジョ。

 それはそれでほっとなる。
 やはり、真希とれいなは仲良くなって欲しいもの。

 真希を連れてきた当日と、2日目は強引にれいなと真希を話させようと四苦八苦していた記憶が懐かしいくらいだ。


 そして、バーカウンターに座りお話に興じているのは、えりとさゆみと圭織。


 バーカウンターの中では、愛とあさ美。
 せっかく全て洗い終えたカップ類を再び今いるメンバーの人数分ひっぱりだし、
 さっきコンビニで買ってきた2Lのジュースを入れている。
 
 その様子に呆れ顔の圭織。
 おそらく、お店にある飲み物を使えばいいのに、と呆れているのだろう。

 しかし、自分たちのお金で買ってきてくれたコトに、少々感謝なのか、冗談で言ったその口調には、
 随分と嬉しさが滲み出ているように感じられた。


517 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:03



 そのすぐそばには亜依と希美と桃子。
 精神年齢では一番近い3人なのか、えりやさゆみが、2人に出会えた嬉しさの反面、少々緊張気味の中、
 桃子はすぐにカノジョたちに馴染んでしまっていた。

 いや、真希にも簡単に馴染めたコトから、桃子の特技なのかもしれない。
 考えてみれば、桃子が初めてココに来た当日から、梨華にも至極当然の如く抱きついてきて、
 クチビルを奪われた記憶が残っていた。

 そんな桃子にとって、ヒトとのコミュニケーションがスキなのだろう。
 少々、羨ましさを感じてしまうくらいに。


518 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:03



 梨華の視界には、そんな少女たちが映っていた。
 全員が掃除を終え、満足そうに表情を綻ばせている。

 ふと考えてみると、梨華の中、さきほどコノ空間自体に対して感じたコトとは別に、
 少々不思議な光景に映ってきてしまった。


 そう、真希がいる。
 亜依もいて、希美もいる。
 さらに、裕子がいる。

 また、つい2週間前にはいなかったれいなやえり、さゆみもいる。


 これまでいなかった7人。
 不思議である。


 つい数週間前までは、6人しかいなかったのが、今からでは考えられないくらいだ。
 そして、この今の状況が梨華の目にも随分と馴染んでしまっていた。

 この7人と一緒にいることが。


 ある意味、運命のように感じられるコト。
 でも、偶然とも。


519 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:04



 あのとき、偶然渋谷駅の前で待ち合わせをしているれいなを見なければ、カノジョを知り得なかった。
 れいなが美貴について来なければ、カノジョとは出会えなかった。
 れいなが梨華に連絡先を聞いてこなければ、れいなは梨華のアルバイト先にも来ることはなかった。
 れいなとの出会いがなければ、えりやさゆみとも出会えていなかった。
 れいな、えり、さゆみがアルバイト先にいなければ、真希をここに連れてきたのかどうか、分からなかった。
 真希をここに連れてこなかったら、裕子はこなかったし、亜依や希美もこなかったはず。


 そして、全員で春休みの思い出に旅行に行くのかどうかも分からなかったはず。


 あさ美と愛の2人だけで行ったのかもしれないし、裕子に言われていたとはいえ、
 梨華と真希の2人だったら、なんだかんだ旅行には行かなかったかもしれない。


 でも、実際には、真希、亜依、希美、れいな、さゆみ、えりに裕子、カノジョたちがいる。


 全員がいて…そして、裕子以外だが、全員で関西の方に旅行に行くコトが決定している。


520 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:04


 
 さらに、今では1人でも欠けると寂しささえ覚えてしまう。


 ある偶然だけの出会いで、ここまで繋がってきたのだ。
 れいなとの偶然の出会いだけで。

 2週間もたたないうちに。


 人間は、不思議な関係に思える。
 こうやって、知らなかったヒトとでも、簡単に仲良くなれるというのは。
 愛やあさ美、れいなにえり、さゆみを見ていたら、本当に感じてしまう。


 おかしな関係。


 でも、これだけココロを温かく、わくわくさせてくれるのは、ステキな関係。
 みんなはステキな関係に思えた。



 〜 ☆


521 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:05



 なつみが扉に鍵を閉め終え、明日の東京駅何時発の新幹線に乗るかの時間だけを最終的に確認したのち、
 めいめい帰宅の戸についた。


 時刻は23時を少し回ってしまっていた。
 さすがにコノ時間になる、ココのヒトの通りは随分と寂しくなるのだ。

 とは言っても、ほんの少し歩くだけで、その様相はがらりと変わってしまう場所なのだが。


 梨華は、真希と美貴と一緒にタクシーで。
 愛とあさ美も同じくタクシーを呼ぶ。

 なつみと圭織と桃子は地下鉄の駅へと足を運ぶ。


 全員がそれぞれ帰宅の手段を手に入れられたコトを確認したのち、裕子は車へと足を運んだ。


522 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:05



 エンジンが温められ、暖房も軽くつけられていたその車内では、
 もうすでに、亜依と希美がいつもの定位置に座わり、
 その後ろには、さゆみとえりとれいなが楽しそうに亜依や希美と話していた。

 亜依が意外と家が近いことや、梨華に頼まれたコトもあり、れいなたちも一緒に送ることになってしまった裕子。

 ま、やはり、年齢も意外と近いコトや、カノジョたちが自分たちのコトがスキというコトもあるのだろう、
 亜依や希美もかなり嬉しそうだ。
 普段2人でいるときとはまた違ったテンションになっていることから、2人の今の感情が簡単に伺えた。

 2人だけのときは、コイビト同士のようにまったりとしたり、シンユウ同士のようにおかしく笑ったり、
 そんな2人なのだが、今はその中間のようにみえる。

 亜依や、希美も、真希と同じくこの業界にしては意外なほどトモダチが少ないというコトもあり、
 新しくできたトモダチと、一緒に帰れるコトがとても嬉しそうだ。


 口も随分と滑らか。


523 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:06



 明日のコト。

 関西出身である亜依が、さっき意見としてでなかった面白い場所を次々と教えたり、
 自分にとって思い出の場所なんかを話したりして、随分と盛り上がっていた。


 そして、週末のコト。

 週末の亜依たちの春のツアーのラスト公演のコトだ。
 もともとえりやさゆみはチケットが取れなかったコトもあり、参加できなかったのだが、
 亜依と希美の熱い要望で来るコトになってしまった。

 一応、真希とは被らない土曜の夜と、日曜の昼間の約束なのだが。

 それでも、れいなたちも、もともとスキだったコトもあるのだろう。
 頼まれたとはいえ、とても嬉しそうに"ありがとうございます"と笑顔が零れていた。

 その笑顔に、自然と裕子も嬉しくなってしまったのは、言うまでもない。


524 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:06



 そして、カノジョたち3人に感謝もしていた。


 そう、裕子が想像していたよりも随分と元気な真希の姿が見れ。
 今日出会ったばかりであるのに、亜依や希美の楽しげな姿も見れ。


 ステキな関係になれたコトに。


 ステキな1日に。


 ステキなカノジョたちに。


 そして、明日からの自分のコドモが楽しめるコトに。




525 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:07


 〜 ☆ 第6話。


526 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:07


 〜 ☆ ステキな関係


527 名前:9 〜 投稿日:2005/09/14(水) 00:08


 〜 ☆ おわり。


528 名前:なまっち 投稿日:2005/09/14(水) 00:18

 第6話が終了いたしました。
 読んでいただけました方、れすをいただけました方、ありがとうございました。
 モチベーションも上がり、(内容はともかく)前回よりすらすらいけました(はぃ
 ありがとうございました。

 次回から第7話が始まります。
 しばらく…まぁ短いですがカノジョたちに春休みを楽しんでもらいます^^
 (まぁ2〜3話予定してるので、もしかしたらカノジョたちにとっては長いのかな…(にがわら)

 んでもって東京に帰ってきたら1つお話を挟みまして春休みラストのごっちんコンです。
 ながながやってきましたけど、今回の更新の最初でやっと終わりを読者さまにお見せできたと思います。

 とはいっても、ごっちんコンの次のお話が最終話の予定ですが(ながっ

 と、かすかぁ〜に先をお見せしつつ…

 あ、そうそう次回からのお話の舞台となる神戸、大阪というのはとくに意味はないのです(ぉぃ
 ただ自分の地元なので書きやすいだけです(ばく
 ので、ちょっと観光的なお話も混じってしまうかも…?

 それでは、もうしばらくだらだら続くこのお話をよろしくお願いいたします。


529 名前:名無し読者 投稿日:2005/09/16(金) 10:34
第6話乙です〜
次の春休み楽しみにしてまーす
530 名前:関西人 投稿日:2005/09/19(月) 01:25
はじめまして。前スレ読んでハマってしまいました。
神戸にみんなが来るのですか?!もぅヌハーってな感じですw
新神戸駅で待ってますw
531 名前:名無飼育335 投稿日:2005/09/21(水) 15:37
更新お疲れさまです!
みんなの願いが叶いましたね♪心の中で自分もガッツポーズしてしまいました。特に部屋割りとか(爆
ごっちんコン編も、今からすごく楽しみです。
そしてやはり物語全体が柔らかくて、文章が素直に心にすっと入ってくる感じがしてすごく好きですね。
次回更新、いまかいまかと待ち望んでおります♪
作者さんペースで頑張ってください!
532 名前:なまっち 投稿日:2005/09/23(金) 01:46

>>529 名無し読者さん
 ありがとうございます^^
 楽しんでいただけますようにこれからも頑張って行きたいと思いますので、
 ヨロシクお願いします^^

>>530 関西人さん
 れすありがとうございます^^
 前すれから読んでいただけましたか?
 ありがとうございます^^
 これから新神戸駅に下車しますので、お待ちを(わら
 ぁ、神戸の街を書いてますが、なにか間違いなどございましたら
 がんがんつっこんでくださいませ(ぁせ
 それではヨロシクお願いします^^

>>531 名無飼育335さん
 たいへん嬉しいお言葉の数々、ありがとうございます^^
 とっても嬉しかったです(気合がかなり入りましたょ
 自信も回復(元気も^^
 部屋割りもご期待に添えてられまして嬉しいです(ほっ
 ごっちんコン編も、期待に添えますように頑張ります(ょし
 それでは、これからもお言葉に甘えまして自分のペースで頑張りますので
 ヨロシクお願いします^^
533 名前:【春の歌】〜第7話。距離 投稿日:2005/09/23(金) 01:51




 ☆ 第7話。 距離 ☆




534 名前:【春の歌】〜第7話。距離 投稿日:2005/09/23(金) 01:51




 1 〜




535 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:52



 三都。

 1990年台初め、JR西日本のCMで流行に火がつき、いたるトコロで雑誌の表紙を飾った言葉であった。
 それは、今でもほぼ変わらず、関西地区を紹介するどの情報誌を見ても、
 必ずと言っていいほど使われている言葉である。
 
 神戸、大阪、京都。

 そのみっつの都市を表現するコトと共に、関西での小旅行の代名詞ともいえるまでに成長した時期もあったが、
 今ではその流行は少し落ち着いたものへとなっていた。


536 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:52



 その一角の神戸。


 1858年の日米修好通商条約により、当時鎖国状態だった日本が外国人に対して開かれてから、
 関西地区随一の国際港都と成長した神戸。
 そして、貿易の中心を他都市に奪われてからは、観光の都市へと発展していった都市でもある。

 そんな観光都市ともいえる神戸の最大の魅力は、何と言っても、
 女のコのココロを掴んで放さない甘いスイーツと、神戸の街の象徴である"夜景の美しさ"であろう。

 その美しさは、見た者でしか理解し得ないモノであり、誰もが感嘆のため息を零してしまうくらいのモノである。
 そして、その夜景の美しさは、誰もが一度は見ておいて損はしないと言ってもよいモノであった。

 高台、六甲山から神戸の港を背景として見る夜景。
 さらに、神戸の港から、六甲山を背景にみる夜景。

 神戸の街が宝石と例えられているくらいに。

 どちらも素晴らしい景色である。

 百万ドル、いや、随分と誇張されて千万ドルの夜景とも称している雑誌まであるくらいだ。
 それは誇張して紹介したがる日本人の気質なのかもしれないが。

 ま、とにかく世界一とも称されている香港の夜景を越してしまっていることに、地元の人間は少々鼻高々になる。


537 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:54



 当然のごとく、その恰好の餌食となっているカップルは多い。

 地元のカップルたちは、こぞって自分たちのお気に入りの場所を見つけ、
 暇があれば出かけることに惜しみない時間を掛けてたりもしていた。


 そして、その次に餌食となったのは、旅行者。

 雑誌で紹介されているデートスポット、もしくは夜景のキレイな場所と言われるトコロは、
 神戸に旅行にきた人間でいっぱいといえる。

 とくに春休みや、夏休みといった学生が休みの時期は、神戸は賃金的にも手ごろであり、
 これ程の夜景が見れるとなれば、学生たちの恰好の旅行場所となろう。

 お互いがスキなもの同士でくれば、それはそれで2人のキズナをより深いモノへと。
 ただの観光で来たヒトにとっても、それはそれで帰ってからの話の種にと。
 シンユウ同士でくれば、来ているカップを眺め、羨望のマナザシで見つめ、冷やかしも。

 色々なヒトがきて、そして満足感いっぱいに、シアワセな笑顔で帰っていく街、神戸。

 それは、この少女たちにとっても同様。



 〜 ☆


538 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:55



 薄暗いトンネルの中、徐々にスピードを緩める新幹線。
 そのままトンネルの中で止まってしまうのではないのだろうか、と、錯覚してしまうくらいにスピードを緩め、
 最後に窓の外が明るくなり、流れるようにしてゆっくりと停車した。

 そのまま、カワイイ音楽と共に、扉と安全柵が開く。

 そして、1人の女性が真っ先にホームに降り立った。
 ブラウンのストレートミディアムショートを揺らし、
 まだまだ少女ともいえるくらいに幼げな表情を浮かべている女性が。

 その小さなカラダを包んでいるのは、カノジョの顔立ちには似合わないくらいにラフなカッコ。
 普段着慣れたぴしっとカラダを包む服とは違い、随分とカワイイ服に少々居心地が悪いのか、
 しきりに手で服の裾を揃えている。

 ころころとキャスターのついたバックを転がし、ホームの真ん中で足を止めると、
 視界に入ってきた神戸の都市の景色に、感嘆のため息を零した。
 真っ直ぐに伸びた小さな川の先には、神戸の港が微かに見える。

「ひゃぁ…」

 その言葉は、より一層カノジョの年齢を不明にしているといっても過言ではなさそうだ。
 手を口元にもっていくと、しばしコドモのようにキラキラした瞳で眺める。


539 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:55



 続いて出てきたのは長身の女性。
 そして、最初にでてきた女性の隣で立ち止まり、カノジョに声を掛けた。

「どーしたの?なっち…」

 そう、一番最初にホームに降り立ったのは、"なっち"こと安倍なつみ。
 
 そして、なつみの隣に立ち止まった女性は、つい先日、
 生まれて初めてミディアムショートにまでばっさりと切ってしまった髪の毛に少々慣れないのか、
 しきりに、手櫛で自分の横髪をといでいる。

 カノジョの自慢でもあった髪の毛を切り、さらにブラウンに明るく染めてしまったときには、
 さすがにみんなに驚かれたのだが、意外と評判も良く、今ではほっとしているくらいだ。 

 そして、なつみとは違い、タイトなパンツとブラウスに身を包んだその姿は、
 まさにモデルのようにスレンダーなスタイル。

 こちらの女性は少し小さめのボストンバックを手にしている。

「見てょ…かぉり…」

 二番目に降り立ったのは、なつみのシンユウである"かぉり"こと飯田圭織。

 圭織は、なつみの向いている方に顔を向けると、同様に"へぇ"と声を零した。
 太陽の光がとてもキレイに海に反射し、圭織たちの視界の中にまで、反射している。


540 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:55



 2人でしばらく眺めていると、今度はやけに荷物の少ない美少女が出てきた。
 ブラウンとストレートミディアムショートのキレイな顔立ちの中、やたらと眠そうに目を擦り、
 そして少々不機嫌に周りをきょろきょろと見回している。

 少々ラフなジーンズに、シャツは、本人のスレンダーなスタイルを隠してしまい、残念に思えるも、
 当人にしては、自分のコトを"ヒトに見せる"というコトに"今"は興味がないのだろう。

 他の女のコからすれば、勿体無いくらいの美少女であるのだが。

「フジモトさぁ、ホントにそれだけなんだ」

 圭織が声を掛けるたのは、3番目に降り立った少女。
 そう、藤本美貴である。

 もともとさばさばした性格だからなのか、それとも面倒くさかったからだけなのか、
 それほど着替えを持ってこなかったようだ。

 その手はほぼ手ぶら、普段のその持ち物と変わりないと言ってもいいくらいだ。


541 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:56



 しかし、圭織に掛けられた言葉を聞いた美貴は、その表情を気まずそうにしかめると、
 次に降りてきた少女の方に視線をやった。 

 圭織となつみも視線を向けると、ブラウンのストレートミディアムに、
 優しげな瞳をしたお嬢様的な顔立ちをした美少女が、1人の小さな少女と共に少々お疲れぎみに降りてきた。

 まるで電車の中ではしゃぎ続けたコドモの相手をして、疲れ切ってしまったお母さんのように。
 いや、お姉ちゃんのように。

 それでもその顔立ちは、清楚なお姉さんの雰囲気を崩していない。

 しかし、そんな大人しそうな顔立ちとは対称的に、カノジョのカラダを包むのは、少々派手なモノ。
 そう、タイトなデニムがヒップのステキなボリュームを作り出し、
 随分と薄手のキャミソールが女性特有の膨らんだ曲線のラインを形成し、
 カノジョの女性的で凹凸のはっきりしたステキなスタイルを、惜し気もなくさらしていた。
 服の隙間から見える褐色の肌が、イヤらしく見えないのが不思議なくらいだ。

 この季節にしては、まだまだ薄着の部類に入るだろう。
 そのためか、その腕には、羽織れる薄手のジャケットが掛けられていたのだが。

 普段はこれほど派手な服は着ない方なのだが、さすがに久しぶりの旅行となると、
 結構着合いが入ってしまったカノジョ。

 美貴には"誰に見せんだよぉ"と"空回りしすぎ"、と笑われてしまったのは、さすがにショックだった。


542 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:56



 そして、カノジョの隣には、人懐っこそうな愛らしい笑顔をし、
 重そうに荷物を扱う女性的なスタイルをした少女を手助けしている美少女が1人、
 一緒にホームに降り立った。

 小さなカラダからは、まだまだ小学生のようにも思える少女。
 着ている服も、隣の"オトナのヒトの服"ではなく、まだまだコドモのように可愛らしいワンピース系の服である。

 小さなバックを手にしているのに、隣のヒトの荷物を一緒に引っ張ろうとしているその姿は、
 健気なイモウトと言ってもよさそうな雰囲気をしている。
 この中でも一番最年少である少女だ。

 2人は降りると、荷物を一緒に転がし始めた。 


543 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:56



「梨華ちゃん、はやくっ」

 美貴が呼びかけた少女、そう、自分の女性的なスタイルを見せ付けるかのような服を着ていたのは、
 石川梨華であった。
 珍しく、これだけ自分のスタイルを曝してしまう服を着て、さすがに後悔をしていた梨華は、
 1人にしては少々大きめの荷物をもっていた。

 いや、"少々"ではない、1人にしてはやたら大きい。
 1人にしても海外旅行並の荷物。

「ごめんね、ももちゃん」

 隣で一緒にコロコロと荷物を転がしてくれている少女、嗣永桃子ににっこりと"ありがと"と笑顔を零すも、
 美貴の顔を見ると、その顔をしかめ、不貞腐れたそうな表情を浮かべた。

 その顔に、さすがに慌てる美貴。
 感謝の言葉を掛けた。

「ぁ、ありがと、梨華ちゃん
 ツグナガちゃんも」


544 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:58



 そして、梨華の後ろからついてきた少女も、梨華に声を掛ける。

「お疲れー
 梨華ちゃん」

 キャップを目深に被り、少年的でラフなデニムをはき、少し大きめのシャツを着ている美少女。
 カノジョの顔立ちとはかけ離れているその服装であるが、この少女が着るとなんでも似合ってしまうのは、
 他の女のコからしたら、羨ましいこと限りなしといった感じであろう。

 ブラウンのさらさらのストレートロングの髪の毛が風に揺れている。

「ももこちゃんも、ありがと」

 一瞬見ると、誰もが見惚れてしまいそうなカッコいい美少女。

 にっこりを微笑まれてしまった桃子も、ほっぺを真っ赤にさせると、カラダをくねくねさせ、
 梨華の後ろに隠れてしまったくらいに。
 妙にキャップも似合っている。
 美貴とはまた違ったカッコよさを感じられるだろう。

 女のコにもモテそうなコだ。


545 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:58



 しかし、梨華にとってはあまり関係ないようだ。
 美貴に向けた表情同様、少しイジケタ視線を向ける。

「もぉ…一番かょわいんだょ…」
「ご、ごめんってばぁ」

 その仕草に、慌てる少女。

「今度はごっちんが持ってょ」

 美貴がそのように声を掛け、そして、梨華と桃子の後に続くように下りてきたのは、
 2人の一番のシンユウであり、タイセツな後藤真希。

 ただ、カノジョもほぼ手ぶらに近い状態である。
  
 そう、実は、3人の荷物は、一個にまとめられ、梨華が転がしてきたバックだったのだ。

 こんなときばっかり一番お姉さんである自分に渡して、と、少々ご機嫌斜めな梨華に、
 美貴と真希はご機嫌を取ろう思ったのか、"ねぇねぇ"と梨華の手を握り、
 さっきまでなつみと圭織が見ていた景色の前に連れて行った。


546 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:58



「ゎぁ…」

 女のコの扱いには慣れている美貴にとって、カワイイ女のコのご機嫌取りは手馴れたもの。

 簡単に機嫌を直してしまった梨華は、しばし目の前のきらきらと輝く海に見惚れていた。
 桃子も、隣で目を輝かせてている梨華と同じく、笑顔だ。

 そんな4人の隣、なつみが右の方を見て、"あれが今日の泊まるトコだょ"と指差した。

「へぇ」

 それぞれ、その建物が目に入ってくると、ため息をついた。

 超高層ホテル。
 今4人が立っている場所だとホテルの最上階が見えないくらいだった。

「あれの30階あたりに泊まるの」

 圭織の言葉に、それぞれが目を輝かせた。
 そう、おそらくとてもキレイな景色が、今この場でも想像できるから。


547 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:59



「へぇ…きれぃゃ…」

 6人の後ろから、4人とは別、神戸の景色を目にし、感嘆のため息をついたのは、
 誰もが羨むような大きな瞳をさらに大きくさせた美少女。

 転がしてきたバックをそのまま立てると、梨華の隣で動揺に目をキラキラさせた。

 梨華の女性的なスタイルとは違い、真希や美貴に近いスレンダーなスタイルをさせた美少女は、
 生まれて初めて髪の毛にふわふわのウェーブを掛け、普段の東洋お人形のように整ったキレイな顔立ちを、
 お嬢様的に清楚な西洋のお人形のようなモノへと変えていた。
 身につけている服も、カノジョにしては珍しいカワイイワンピース。
 意外と男のコ的な性格をしているからなのか、身につけるモノは結構パンツ系が多いのだが、
 今日ばっかりは特別。
 ウェーブを掛けたヘアースタイルに妙にマッチしていた。

 少し、自慢げに髪の毛を触る。

 実は、今日の朝に、シンユウにしてもらったヘアースタイルなのだが、意外と好評であり、
 結構気に入ってしまっていた。


548 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:59



「愛ちゃん
 ぁりがと」

 手で毛先のふわふわ感を作り直しながらも、
 目の前の、駅に降りて早速目に飛び込んできた景色に目を輝かせていた少女は、高橋愛。

 そして、カノジョの後ろに近付き、そう声を掛けたのは、愛とおそろいといってもいいヘアースタイルと、
 カノジョより、より一層少女チックなワンピースに身を包んでいる美少女だ。

「こんちゃんっ
 きれぃゃょ〜」

 愛がカノジョの存在に気がつくと、さっきまで見ていた景色を指差し、嬉しそうに声を掛けた。
 そう、愛の後から降りてきたのは、紺野あさ美。

 愛の言葉に、同様に視線を目の前に向けると、目の前の景色、シアワセそうに、
 カノジョの特徴的な優しげに下がった目じりを、さらにさげた。
 
 実は、あさ美も荷物は少量。
 梨華たち同様に、愛と2人で荷物を1つにまとめたのだ。
 それを、今日の朝、あさ美が愛のヘアースタイルを作ってあげたコトもあり、
 愛がずっと引っ張ってきたのだ。


549 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 01:59



 梨華、桃子、愛、そしてあさ美がならんで目を輝かせている後ろで、
 そんな3人をほほえましく見ていた真希が声を掛けた。

「こんこんもたかぁしも初めて?」

 憧れのヒトに声を掛けられたコトに、さっきまで景色に目を輝かせていたあさ美は、
 より一層ほっぺを真っ赤にさせると、瞳を輝かせ、大きく頷いた。 

「は、はいっ」
「そーなんだー」

 普段のきりっとしている表情もいいが、
 真希と"トモダチ"になれてからよく見られる"ふにゃっと砕けた表情"も大スキなあさ美。
 そう、まさに今の表情。

 普段のカッコいい真希とは違い、とても可愛く感じてしまうのだ。

 なんだか抱きしめてあげたくなってしまうような笑顔。
 いつもは自分のコトを抱きしめて欲しいと感じているのに。

 自然と笑顔で、真希を見つめていた。


550 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:00



 そんな真希に見惚れてしまっていたあさ美の横、少し遅れて降りてきた少女が2人立ち止まった。
 お互いにキャスケットをキャップを被っているが、桃子と同じくらいに小さなカラダから、
 まだまだ幼いコドモのように思われそうだ。
 また、その2人の顔立ちも。

 ただ、桃子に比べれば、少しオトナ。

 そして、2人で1つのバックを持っていることから、
 やはりこの2人も1つのバックに自分たちの荷物を一緒に収めたのだろう。

 とても仲がよさそうな2人は、まさに双子のよう。

 2人は長い旅に慣れているのか、先に降りて色々と周りを見回している他の少女たちとは違い、落ち着いていた。
 荷物を手身近なベンチに置くと、さっそくとばかりにそれぞれ自分のスキな行動に移った。


551 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:00



「あぃぼん、疲れてないんだぁね」

 真希ののほほんとした口調に、楽しそうにその腕にしがみついたのは、いつものより少女らしいミニスカートと、
 薄めのキャミソールを身に着けている加護亜依。
 少し自分のカラダのラインを出してしまっているコトに、気恥ずかしいのか、
 シンユウから即席に借りたスパンコールパーカーをしっかりと身につけていた。


 そして、少々寒いのではないのだろうかと思えるような、タンクトップと、
 デニムジーンズを身につけているもう一方少女は、当然のごとく辻希美である。

 希美は、さっそく売店の前に立つと、何かないかなと眺め始めていた。


552 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:00



 2人が降りた後、一番最後に降りたのは3人の少女。

 2人の少女は、亜依や希美と同じく、2人で1つのバックを片一方ずつ持つと、仲良く歩いて出てきた。
 そして、やはり同様に亜依たちのすぐ隣にバックを置くと、1つ大きく伸びをする。

 一連の行動がかなり似ている2人は、身につけている服も意外と似ているものであった。

 デニムのパンツに、薄めのシャツを身につけ、セーターを腕に掛け、あまりカラダを露出していないその姿は、
 ブラウンのショートの切れ長の目が美しい美少女にしては、普段とは少し違い、控えめのようにも感じられる。

 さらに、一方の、髪の毛の1つ右サイドでアップにしたお嬢様的なつぶらな瞳が印象の美少女にしても、
 カノジョの普段の少女のような服とは違い、ボーイッシュのようにも感じられた。

 普段見慣れているヒトにとっては、少し違和感を感じてしまいそうだが、
 当人たちにとっては、オソロともいえる服に身を包んでいるからなのか、意外とシアワセそうだ。

 ショートカットの美少女が、亀井絵里。
 そして、当然のごとく、もう一方のお嬢様的な美少女が道重さゆみである。
 
 家も隣同士であり、幼馴染である2人は、一緒の荷物で出かけることが当然のコトであった。


553 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:01



 一方、一番最後に降りた少女は、カノジョのカラダにしては少々大きめの荷物をころころと転がしていた。

 艶やかな黒い髪の毛、左サイドトップで1つにまとめ、少しふんわりとボリュームをつけ、
 そのしっぽを風に揺らしている。
 そして、大きなきりっとした瞳を、これから起こるであろう出来事に輝かせているその姿はまさにコドモ。
 カラダも亜依たちより一回りは小さく、スレンダーであることからも、桃子と同じくらいに幼く見える美少女だ。

 しかし、そのカラダを包んでいる服は、少々オトナのダイタンなモノ。

 柔らかい明るい色のミニスカートと、薄手のタンクトップに、デニムのジャケットを羽織っているその姿は、
 少々背伸びをしているようにも感じられる。

 ま、実際に、桃子とは2歳しか違わないのだが、これだけダイタンな服に身を包んでいると、
 実際の年の差以上に、外見的な年齢の差を感じられそうだ。


554 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:01



 この中で、桃子の次に幼いカノジョは、梨華のそばにくると、バックを立てた。

 そして、眩しそうに梨華の横顔に視線を送った。

 思わず見惚れてしまう少女。

 梨華の横顔から視線を落とし、カノジョの女性らしいカラダのラインが目に入ってくると、
 少々顔を赤らめ、慌てて視線を外した。

 普段はなかなか見れない梨華のカラダのラインが、
 まだまだ思春期真っ只中の幼い少女にとっては余計に艶かしく映ってしまっていたのだろう。

 そして、自分の少々ズンドウに近いラインと比較して少し落ち込みもする。


555 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:01



「れぃなぁ」
「ぁ、は、はぃ?」

 さっきまで見ていたコトに気がつかれたのか、と慌てて返事をするも、
 梨華の表情は笑顔でカノジョの荷物を見ていた。

 そう、一番最後に降りてきたのは、田中れいな。
 そんなれいなの荷物がやたらと大きなことに気付いた梨華が、少し屈んでバックに手を掛けた。

「結構おっきぃんだ」

 "ぅんしょっ"と掛け声とともに持ち上げると、次の瞬間には"ぉもっ"と笑顔を零していた。
 
「重いよー」

 梨華の言葉に、気恥ずかしそうに"ちょっと…"と苦笑いを浮かべたれいな。

「いっぱいお洋服持って来たんだね」
「はぁ…」

 まさか、"夜にイシカワさんとの気まずい時間を作らないために色々とゲームを持って来ました"なんて、
 言えるはずもないれいなであった。



 〜 ☆


556 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:02


 
 東京駅からはおよそ3時間の少々長い移動。
 
 疲れた表情を浮かべている面々もいるも、ほとんどのメンバーは、
 これからしばらくの間の続く休暇に、表情も期待感でいっぱいだった。

 ただ、これからのコトを考えるため、到着した状態のまま、しばし相談の時間となった。

 ま、"これからのコト"とはいうものの、すでに昨日の時点である程度の行き先分けは決めていたのだから、
 それぞれの面々が、一番最初に自分の行きたいトコロを決めるだけなのだが。

 とはいっても、その一番最初に行きたい場所によっては、本日共に行動するメンバーが決まってしまうコトから、
 ある意味タイセツな相談ともいえよう。


557 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:02



 計3パターン。

 一つ目は新神戸駅を出てすぐ目の前の通りを上り、北野辺りに広がる昔ながらの異国情緒溢れる街並みを楽しみ、
 その後は、トアロードを下り、センター街を回り、そして、旧居留地、
 メリケンパークやハーバーランドに回るルートである。

 これは、なつみや圭織の2人が一番行きたがったルートであった。
 ただ、他のメンバーには余り人気がないのか、今ひとつといった乗り気のしない表情を浮かべていた。
 
 それはやはり、このルートの目的が観光と、旧居留地でのブランドショップでのショッピング、
 その2つがメインといってもいいルートだからだろう。

 明らかにオトナのルート。
 当然のごとく、誰もが敬遠をしてしまっていた。

 "ぃぃょぃぃょ"といじけた風に言うなつみの頭を圭織が撫ぜてあげる。


558 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:02



 二つ目は、最初は一つ目のルートと同じ道を通るも、異人館の中を見学はせず、
 そのまま街並みだけを楽しんだあと、トアロードを下りながら雑貨などのショップを楽しみ、
 古いレトロな雰囲気とは対称的に、お買い得な品物が数多く並ぶ高架下から、三宮へ、
 そして神戸では一番といえるセンター街を神戸方面に戻り、南京町で食べ歩き、
 さらにハーバーランドの方へ、というルート。

 一つ目のルートとは違い、適度な値段のショッピングを楽しめ、
 そして、ソレに一番気合の入っているルートである。

 やはり女のコたち。
 美貴を初め、亜依や希美が参加を決めると、さゆみとえりも続いて表明。
 さらにハーバーランドを楽しみにしていた愛も"先に行ってもぃぃかも"と、
 ショッピングをたんと楽しめるコトもあり、このグループに参加を決めた。


559 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:03



 必然的に、最後に残ったメンバーは、三つ目のルートとなる。
 地下鉄で三宮まで下りた後に、軽く南京町まで歩く。
 そこで食べ歩きを敢行してから、ハーバーランドへ行き、遊びとショッピングを楽しんだのちに、
 メリケンパークを回り、そして、旧居留地から三宮へ戻り、ささやかにショッピング。
 お金の掛かりそうな一番目や、ショッピング重視の二番目のルートとは違い、
 一番学生の観光として適しているのかもしれないルート。

 このルートになったのが、梨華、真希、そしてあさ美にれいなと桃子であった。

 ある意味、あさ美は真希、そしてれいなと桃子は梨華の動向を探っていた結果、
 最後に残ったココになってしまっただけなのだが。

 それでも、一緒に行動できるとなると、嬉しいもの。
 ライバルがいたって、それは関係なし。

 自然と他のメンバーより表情が綻んでいたあさ美とれいなと桃子であった。


560 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:03



 こうして、行く場所と、その日に行動を共にするメンバーが滞りなく決定すると、
 新神戸の駅から数分の場所にある、今夜の宿泊場所の高級ホテルに荷物だけ預け、
 そして、めいめいグループに分かれて、神戸の街並みへと繰り出していった。

 "またどこかでね"

 その言葉をお互いに交わし。

 それぞれのふわふわしたココロをのせて。



561 名前:1 〜 投稿日:2005/09/23(金) 02:03


 〜 ☆


562 名前:なまっち 投稿日:2005/09/23(金) 02:07

ごっちん誕生日おめでと^^
二十歳だね(ぅんぅん
オトナだぁ…

あと、もちろん美勇伝も1歳おめでと^^

ってことで、おめでたい日に、第7話スタートです。

ちょっと今までよりペースは随分と落ちると思いますが、
これからもヨロシクお願いします。
563 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/23(金) 16:28
更新お疲れ様です。
いよいよですね(笑
さぁて、一体どんな割合にへとなるんでしょうか?
次回更新待ってます。


ごっちんお誕生日おめでとうございます!!
大人の女性ですね、お酒も飲めますよ(笑
これからも頑張っていってほしいです。
564 名前:なまっち 投稿日:2005/09/27(火) 00:53

>>563 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 いよいよです(わら
 でも、まぁったりと(わら

 ごっちん、ほんとそうですね^^
 いつまでも頑張って欲しいですよね(ぅんぅん

 あ、圭ちゃんと梨華ちゃんとお酒飲みに行くのほんと楽しみにしてるんですね(ほのぼの
 ほどほどに飲んでくださいね(わら
565 名前:【春の歌】〜第7話。距離 投稿日:2005/09/27(火) 00:53




 2 〜





566 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:54



 1868年に神戸が外国に開かれる港町として開港すると、外国人の治外法権が認められ、
 彼らの住む場所が創られた。
 それが、今の元町の駅から南に下った市役所あたり一帯であり、"旧居留地"と言われている場所であった。 

 現在でも昔ながらの西洋のその形跡は完全に現在のバージョンとして残っており、
 レンガ造りの街並みと、ガス灯は、しばし時間の概念を変えてくれる景色といえよう。

 当時も、歩道や車馬道などの大通りが形成され、
 その街並みは"東洋で一番美しい居留地"と呼ばれたほどであった。

 だが、そんな居留地も問題があった。


567 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:54



 それは、開港は居留地の完成前だったこともあり、開港と同時にやってきた外国人商人などは、
 住む場所がなく、ほとほと困り果ててしまったコトだそうだ。

 しかし、そのときに、国の許可がおり、そして彼らが望み、住み始めた場所が、神戸の山の手、
 つまり現在の"北野"あたりなのだ。

 そう、その周辺が"異人館"。

 そして、その完成と同時に、その外国人の居留地となった異人館と、
 船の発着場となっている"メリケン波止場"を繋ぐ大通りが整備されたのだ。

 それが現在の"トアロード"と呼ばれている通りである。

 居留地制度といわれるものは、1899年には解消されたものの、
 外国人たちが持ち込んできた西洋の衣食住なの習慣はその後もしっかりと残され、
 現在まで守られてきたそうだ。



 〜 ☆


568 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:55



「へぇ」

 愛の説明に感嘆のため息を零す面々。

 初めは興味なさそうに先頭を歩き、お店を見ながら歩いていた美貴も、
 いつしか愛の隣を歩き、カノジョの話に聞き耳を立てていた。

 えりもしかり。

 たしかに、なぜ北野あたりにこれほど西洋の建物が多いのか、
 愛の話を聞くまでは、観光的なヒトの呼び物という程度にしか思っていなかったのだが、
 聞くと、しっかりと歴史として繋がり、理解できるものだった。
 そして、この街並みの不思議な雰囲気も。

 また、日本でも一位二位を争うくらいに多いブライダルチャペルが並んでいる光景にも。

 余談として、日本で一番最初に建てられたチャペルが神戸にあるそうだ。

 ま、さておき、そこはやはり乙女。
 まだまだ関係はないものの、ブライダルチャペルという響きだけでさゆみと2人でえりは目を輝かせていた。


569 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:55



 そんなチャペルの景色が一段落した頃には、さらに西洋的な雰囲気をした建物が並び始めていた。

 そう、先ほど、異人館への入場チケットが買える売り場でなつみと圭織と別れたのだが、
 一緒に歩いていた街の景観は、さらに西洋的なモノだったのだ。

 少し中へと入る道はただただ曲がりくねり、狭いだけの道だと思っていたのだが、
 つまり、その道を進んでいった場所一帯が、その昔外国人の居留地だったのだ。

 そう思えば、さっきの場所を、なつみや圭織と一緒に観光してもよかったかな、と思ってしまったえり。

"神戸北野美術館"

 確かなつみは、一番最初に入ろうとしていた建物のコトを、そう言っていたような気がする。
 2人が興味深そうに入っていった建物を思い返してみると、さすがに少々後悔も。


570 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:55



 それでも、亜依や希美たちと一緒にいれるチャンスは今日だけなのだから、
 自然とこっちのルートを選んだことも、仕方がないといえば仕方がないことなのかもしれない。

 それに、もうすでに亜依や希美たちと一緒のビーズのアクセサリを買い、シアワセなキモチを味わえたのだから。
 隣を一緒に歩くイモウトと一緒に。

 そう、異人館の周辺と言われる北野通りを歩いているときも、やたらの雑貨などのお店が多く、
 6人は自然とどのお店にも入っていってしまったのだ。

 カワイイ雑貨や、アクセサリ小物、はてはアンティーク家具。

 女のコのココロをくすぐるものばっかりを見て、
 そこを過ぎるまでに1時間以上は経ってしまっていたくらいだった。

 本来なら、20分もあればトアロードまで抜けられたのに。



 〜 ☆


571 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:56



「愛ちゃんって、博識ゃね」

 同じ名前の亜依に言われ、少々照れてしまった愛だが、褒められるのは悪い気はしないとばかりに、
 "そうそう"と、もう1つ知識を出すことにした。

「どーして、トアロードって言うか知っとぉ?」

 自信満々の笑顔の愛。
 一同、今ずっと南に下っている道を眺めながら不思議そうに首を傾げる姿を目にすると、
 少し鼻高々にクチビルをつきだす。

 しかし、そんな中、"知ってるー"と手を上げた少女が1人。
 えりは自分の隣で手を上げたイモウトを驚きの表情で見つめる。

「へぇ…さゅ、知ってんだー」

 さっきまで愛の隣にいた美貴が、今度はさゆみの隣に並ぶ。
 そして腕を取ると、"なになに?"と興味深げに覗き込もうとした。


572 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:56



「ぁ…ぁの」

 ただ、そんな美貴の行動にココロをどぎまぎさせてしまったのか、少し目を泳がせるさゆみ。
 さらに、目の前を歩いていた亜依と希美も立ち止まり、振り返りさゆみの方を見る。

 これだけ視線を集め、ただでさえ美貴が隣にいて緊張するのに、と、さらに顔を真っ赤にさせてしまった。

「そんなに近付いたら、言えないじゃないですかっ」

 むっとしているえりの言葉に、美貴は"はぃはぃ"と少しカラダを離す。

 少し自分を緊張させる原因がなくなってくれたコトに、さゆみはほっとココロを落ち着かせると、
 気を取り直して、と口を開いた。

「ぇ〜っと…
 確かこのずっと上に…」

 これまで下りてきた道を振り返ると、少し上の方を指差した。

「"トアホテル"って言うのがあって、ソコと港町を結んで、昔の商人さんの通り道になってたから、
 "トアロード"って言うんですょね?」
「へぇ」

 美貴が愛の方を見ると、当の本人は瞳を大きくして、うんうんと頷いた。
 
「すごぃ、正解」


573 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:57



 愛の言葉と、美貴たちの尊敬に近いマナザシを受けると、再び照れてしまったが、
 "ぃぇぃぇ"と手を顔の前で振ると、"さっきイイダさんが教えてくれたんですょ"と、
 なんとも単純な種明かしをしてしまった。

 当然のごとく、全員が"なぁ〜んだ"と少し残念そうに表情を緩めると、再び歩き出した。

「ぁれ?」

 さっきまであれだ自分に興味を持ってくれていたみんなが、急にその対象を変えてしまったかのような行動に、
 少々残念なキモチを覚えるも、その理由が分からずに不思議そうに首を傾げる。

 すると、そんなさゆみの手をひっぱり、えりは歩き出した。

「言わなかったら、みんなに尊敬のマナザシで見られていたのにぃね」
「そなの?」

 大きく頷いたえり。

「イイダさんなら当然だもの」
「ぅ〜ん…確かに…」

 自然と納得の表情を浮かべていたさゆみだった。



 〜 ☆


574 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:57



 トアロードとはいえ、大分と街の中心に近付くと、その雰囲気は現在のものへとその様相を変えて行った。

 現在のお店が多く並び始め、そして、人通りも多くなる。

 やはり春休み。
 学生の観光客なのか、女のコ数人で歩いているグループや、2人組の女のコ、
 さらにカップルなどとすれ違い始めた。

「フジモトさーん」

 先頭を美貴が1人で歩いているコトに気がつくと、希美と話しているえりから離れたさゆみが、
 そばに駆けて行った。
 一瞬、いつものえりとのクセで腕を絡めようとするも、相手が美貴ということに、絡みかけた腕を引っ込める。

「ん?どーしたの?」

 そして、美貴がにっこりと笑顔を浮かべ自分の方を見つめてくれると、自然と顔が熱くなる。

「ぁ…ぃぇ」

 そのまま美貴に並んで歩き始めた。
 美貴も、さゆみの歩幅に合わせる。


575 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:58



「楽しい?」

 美貴の言葉に小さく頷くさゆみ。  

 少し自分の視線より下になる美貴の瞳。
 さらに、小さなカラダ。

 でも、存在感だけは、違った。

 とても大きな美貴。

 はっきりいって自分よりカラダは小さくても、とても頼もしく、とてもステキなヒトだ。

 最近はとても頼りなく、泣いている姿をよく見るようになってしまったけど、それでもひっぱってくれるえり。
 最近は梨華にぞっこんで、とても女のコになってしまっているけど、しっかりとひっぱってくれるれいな。
 そんな2人とは違い、いつでもカッコよく、しっかりとみんなをひっぱっている美貴。

 結構えっちな冗談を言ったり、すぐに女のコを口説いたりして、女のコのアヤシイビデオを撮るのが趣味だけど、
 それでもさゆみは初めて見たときから、不思議な感情に覆われていた。

 えりとは違う不思議な感情。
 ある意味運命さえも。


576 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:58



 えりは、一緒にいることが当然のコトで、それはそれでとても楽しいコト。
 とてもココロが落ち着いて、いつまでも一緒にいたいと思ってしまうヒトなのだ。

 しかし、美貴は違う。

 一緒にいたいとは思うものの、ずっと一緒にいると緊張して心臓がばくばくしてしまい、
 自分が壊れてしまいそうになるのだ。 

 まだ、その意味が分からないが、美貴の笑顔を見ていると、自然と顔が熱くなる。
 そして、見つめられると、見入ってしまうも、いつの間にか恥ずかしくなって自然と逸らしてしまう。

 そんな相手が美貴。


577 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:59



「フジモトさんは…楽しいですか?」
「そりゃもちろん」

 そう言うと、"来週からは、社会人で遊べなくなるしね…"と、少々残念そうに、顔をしかめた。

 考えてみれば、そうだった。
 普段はしっかりとひっぱってくれる美貴だったが、話しているとさゆみの年齢に合わせて対応してくれたりし、
 それほど年齢は変わらないように思えていたのだ。

 さらに、梨華と同い年、同じ大学でも短大の方である美貴とは違い、梨華は4年生の大学のため、
 まだまだ就職なんて話もでないのだから、全く頭の片隅にも残っていなかった話。

 美貴が来週から社会人というコトも少し不思議な感覚を覚えてしまっていた。

 そして、それと同時に自分との年齢の差を。

 社会人である美貴と、やっと高校生になる自分。

「そっか…」

 それを考えると、妙に寂しさを感じたさゆみ。


578 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:59



 ただ、たった1つだけ収穫があった。
 さゆみの中で。

 それは、れいなのキモチ。

 いつもいつもれいなが感じている寂しさを、自分も感じられたコトが、収穫のようにも。

 しかし、そんな寂しさとは別に、ポジティブな性格であるさゆみは、すぐに切り替えると、
 この残りの春休みをしっかりと美貴には楽しんで貰いたい、と、鼻息荒く決心したのであった。

 とりあえず、今日、明日、明後日の3日は絶対に一緒にいれるのだから、と。
 そして、春休み最後の日曜日だって一緒にいられるのだから、と。

 そんなさゆみの目に、電車の高架が見え、ヒトの通りが随分と多くなっている景色が目に入ってきた。
 それと同時に、再びショッピングが楽しめると、美貴へのキモチとは別腹のテンションも復活。

 自然と隣の美貴に腕を絡めていた。



579 名前:2 〜 投稿日:2005/09/27(火) 00:59


 〜 ☆


580 名前:なまっち 投稿日:2005/09/27(火) 01:01

これからしばらくはこんなカンジで一ヶ所につき一話で行きたいと思います。

それでは、まったりですがヨロシクお願いします。
581 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/27(火) 07:41
ほんわかしてすごくいいです
「涙が止まらない放課後」の歌詞がピッタリ合いそうな感じがします
582 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/29(木) 08:44
更新お疲れさまです。
こちらでも花が咲く予感ですか、この展開が早くもくるとはさすがですね。
次回更新待ってます。
583 名前:なまっち 投稿日:2005/10/02(日) 00:36

イシカワさんステキすぎです…
もう何も覚えてません…
スキですっ!って告白するつもりだったのに(ばか

あっ…明日は娘コンなのに…
石川さんが抜けてから初なんでどんなパート割になってるのか楽しみなのに…

思考がついてかなぃぃ

>>581 名無飼育さん
 れすととてもうれしいお言葉ありがとうございます^^
 ほんわか系(?)を目指しているので余計に嬉しい^^
 まぁ、ときにはぴしゃりと…(あせ
 これからもヨロシクお願いします^^

>>582 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 じわぁりと花が咲き始めてます^^
 まだまだ五分咲きくらいですが(はは
 でも、あんまり焦り過ぎるのも…
 難しいですょね…
 これからもヨロシクお願いします〜
584 名前:【春の歌】〜第7話。距離 投稿日:2005/10/02(日) 00:36



 長崎、神戸、横浜のみっつの中華街を称して、日本の三大中華街と呼ばれている。

 その内の1つである神戸の南京町。

 日本が鎖国から開かれ、それと同時に創られた居留地には、
 日本と条約を結んだ国しか入ることが許されなかった。

 そこで、当時、日本に居住しはじめた中国人が、自分たちの住む場所として、居留地の西に住居を構え、
 商売を始めた場所が、現在の南京町の始まりであった。 

 現在の雰囲気の元町商店街の南に位置する異国の雰囲気である南京町。
 町の真ん中に大きな広場を備え、東西200m、南北100mの大通りを中心に、
 中国の雑貨や、中華料理が所狭しと並べられ、
 そして、訪れるヒトのキモチや舌を随分と満足させてくれる町である。


585 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:37



 ついついお土産に、と買い込んでしまう中国ならではの雑貨、服。

 やはり、見ているだけで食べたくなってしまう、ほかほかの湯気の立った肉まん、豚まん、ちまき、からあげ。
 店頭に並んでいるラーメンや餃子の肉汁。

 1つのお店で多くのものを食べるのも、それはそれでいいのだが、南京町の醍醐味といえば、
 当然のごとく、少量のものを買い、それをたくさんのトモダチと食べ、またまた別のお店でも買う。

 それの繰り返しだろう。

 お店を構える店主のヒトも心得たものなのか、それほど1つの商品を大量にお皿に乗せないのだ。
 それがまた心憎い。

 とにかく、ここでの醍醐味は食べ歩き。

 若い女のコだって、歩きながら食べるのは行儀が悪いからダメだなんてコトは、
 全く気にせずに堂々と食べてもいい場所だ。



 〜 ☆


586 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:37



 新神戸駅から地下鉄山手線に乗り、神戸では一番のターミナル駅となっている三宮の駅で降りた梨華、
 真希、あさ美、れいな、桃子の面々は、平日の昼間なのに随分と人通りの多いセンター街を軽く歩き抜けた後、
 旧居留地の付近の雰囲気を楽しみ、南京町へと足を運んだ。

 とてもキレイで、オシャレな雰囲気をしていた旧居留地の付近は、
 本当はもう少しゆっくりと歩きたかったし、本職でもある自分たちでは、味わうコトのないオープンカフェで、
 神戸の町の空気を楽しんだりもしたかったのだが、どうせまた後で来る予定だったこともあり、
 簡単に見て通っただけで済ませた。

 そして、今、ある意味一番最初の目的地であるココ、南京町は、まだ昼前だというコトもあり、
 先ほどまで通ってきた場所と比較すると随分とヒトの通りは少ないが、
 むしろそのためだろうか、お店に立っているヒトはやたらと元気に声をだしていた。

 ただ、明らかに中国という街並みの中、流暢な日本語が聞えてくるというのは、
 少々不思議な感覚を覚えさせるものだった。

 ま、この際ココは日本と割り切って、あまり気にしないのがよいのだろう。


587 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:38



 しかし、その一方、所々に明らかに中国人ではない、東南アジアのヒトがお店を構え、
 片言の日本語で話しかけてきている姿もあり、それはそれで少し違和感を感じるコトも。

 南京町でも日本なのに、と。

 ただ、入る時に受け取った地図には、春休みの特別期間ということで、
 普段では並んでいないお店も並んでいると紹介がされていたコトから、
 このヒトたちがそうなのだろう。

 そのヒトたちが出している屋台で売られているのはトルコアイス。
 希美からかなりお薦めのモノとの言葉を貰っていたコトもあり、
 あとでしっかりと食べるコトにした。

 それまでのお楽しみに残して。



 〜 ☆


588 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:38



 長安門、一番、東に位置していた場所から西まで歩ききると、再び元来た道を逆戻りし始めた面々。

 真希とあさ美の2人を先頭に、その後ろには梨華が続いていた。
 梨華の左側にはれいな。
 右側には桃子が並んでいる。

 ライバル関係ともいえる2人だが、今日は不思議な程、ほのぼのな関係を保っていた。

 神戸一の繁華街とも言えるセンター街を歩いているときなんて、
 お互い時々手を繋いで、梨華が1人取り残されてしまったコトもあったのだ。

 少々寂しさも。

 ま、それでも普段はばちばちと火花を散らしている2人が仲良く手を繋いでいる様子を見ていると、
 とてもシアワセなキモチになれた梨華だった。


 そう、今も。


 ただ、今は、前を歩いている真希とあさ美がとてもイイ感じで話している様子が見れているから。

 2人のとてもシアワセそうな姿に。


589 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:39



 折り返してから、のんびりと"何を食べようかぁ"と話しつつ、そして時折店頭に並んでいるモノに目を奪われつつ、
 50mも進んだ頃、左手に大きな広場が見えると同時に、右手の方に1つのお店が見えてきた。

 店頭に並んでいる豚まんがとてもおいしそうに、ほかほかと湯気を上げている。

 まるでみんなに食べて欲しいかのように。

 そして、今の時間にしては珍しく、そこだけお店の前に人だかり、
 いや、人が列を作り、並んで、買うのを待っていた。

 そう、祝日だとさも珍しくもない光景なのだろうが、今日は平日であり、
 他の店ではときどき人が買っている様子が見れただけだったコトからも、
 少々珍しく感じられる光景だ。

 しかし、その様子から、やはり店頭に並んでいる実物から受ける印象通り、本当においしいのだろう。

 先ほど通るときも気になっていたのだが。


590 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:39



「雑誌に紹介されていたんでしょうか…」
「んー
 それっぽいね…」

 あさ美の言葉に、梨華が頷く。

「イイにおぃ」

 うっとりと呟くあさ美のココロは、もうすでにその豚まんに奪われてしまったそうだ。
 まだまだ距離はあるけど、そのニオイだけでココロをがっちりと。

 それでも、隣にいる憧れのヒトのそばを離れずに列に並ばない様子は、
 あさ美の中では豚まんより真希の方へのベクトルが大きいのだろう。

 ま、食べ物とヒトを同じ秤に掛けること自体おかしな話なのだが、
 食べ物と名のつくものに目のないあさ美にとっては、大きな葛藤である。


591 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:39



「おぃしぃんでしょうね…」

 そんなあさ美の言葉に、真希も自然と頷き、呟く。

「おぃしそぉ」

 みんなもかくかくと頷く。

 そう、それほど美味しそうなのだ。

 お店に並んでいるものといえば、一般的にコンビニでも売られているものなのだが、
 今目の前に並んでいるものは、全然違うものにさえ見えていた。

 そして、ほかほか湯気を立てている実物を見ている内に、次第に空腹感に襲われてきてしまった真希。
 まだ11時半過ぎで、さっきまではそれほどお腹が空いていなかったコトもあり、
 誰かのを少々貰おうかなとだけ思っていたのだったが、自然と後ろにいる梨華の方を向いていた。

 そして、指をさす。

「ぁれ欲しぃ」

 真希の言葉に、梨華はにっこりと笑顔を浮かべ"うん"と頷き、
 バックから自分の財布を取り出すと、真希に、お金を手渡した。

 真希は受け取ると、まるで小さなコドモのように表情を緩め"ぁりがと"と頷き、列の方に足を運んでいた。


592 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:40



 その様子を不思議そうに首を傾げ見ていたあさ美も、慌てて後に続く。
 そして、しばし"どうしようかなぁ"と思案顔だった桃子も、"まいっか"と呟くと、一緒に続いた。

 そんなシンユウたちをほのぼのと眺めていた梨華も、一瞬、自分も欲しいかも、と悩むも、
 全員が同じものを買っても、と結論に行き着くと、まだまだ時間が掛かるだろうとのコトから、
 すぐそば、この町を形成する一番中心の広場に"行こぉ"とれいなの服を裾をひっぱり、歩き出した。

 考え込んでいたれいなも、はっと気がつくと、"はいっ"と慌てて後をついて歩いた。
 


 〜 ☆


593 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:40



 れいなのココロの中は、今、先ほどの梨華の1つの行動だけでもやもやしたモノに覆われてしまっていた。

 1つの行動だけで。

 そんなれいなとは対称的に、広場のど真ん中、周りには屋台で買ったモノをおいしそうに食べているヒトが多い中、
 梨華は興味津々といった様子で、"中国ならでは"の像を眺めている。

 その隣で、ひとり物思いに耽っているれいな。

 本来なら、街中を歩いているときに梨華と2人で話せる機会ができたのならば、そのときは、
 夜のためにもできるだけ"話しやすい距離"を作ろうとするのが目標だったのだが、
 今はやはり勝手が違うようだった。


594 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:40



 "コレ何だろうね"と話しかけてきている梨華の言葉に対して、
 少々適当に答えてしまっている状態と言ってもいいくらいの今。

 性格的に、1つのコトが気になると、とことんそのコトを考え込んでしまうれいなだったから。

 とは言っても、隣のヒトの"ある行動"がれいなを深く考え込ましてしまったその理由であり、
 さらにココロを荒されている対象となる相手であるのだから、少々おかしな話ではあろう。

 そのヒトのせいで思考が飛んでしまっているのに、
 そのヒトが話しかけてきても気になるコトがあってあまり聞けない。

 ま、思春期真っ只中の少女なのだから、仕方がないといえば仕方がないのかもしれないが。


595 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:41



 "その"梨華の行動とは、とても単純な行動。

 それは、真希にお金を渡したコト。

 たったそれだけのコトだったのだが、れいなにとってはかなりココロに引っかかる行動となってしまっていた。


 そう言えば、と思い返すれいな。


 地下鉄の電車に乗ったときも、梨華は真希の切符を買い、カノジョに渡している姿を見ていたコトを思い出した。

 そのときは、ただたんに芸能人である真希に買い物をさせないように配慮をしているのだと思っていたのが、
 今のやり取りでそれは完全に"間違った考え"であるコトが分かってしまった。

 さっきよりも、よりヒトの目に触れるのに、真希は全く気にせず列に並び、梨華もお金を渡していたのだ。
 つまり、梨華の配慮ではなかったのだ。

 それを考えると、その2回の光景が、自然とれいなの中に世間でもよく見られる1つのモノと被って見えてきた。

 余りにも自然に真希が"あれが欲しい"という仕草をし、それに対して、
 梨華が"はぃ"と自分の財布からお金を渡しているその光景は、よくある景色。


596 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:41



 そう、それら一連の行動は、まるで親子。
 どこでも世間一般的に見られる親子同士の行動。

 れいなも両親、もしくは母親と出かけるときには、財布を持っていかない。
 それはれいなの中では自然の行動であり、とくに気にしたコトのない行動であった。

 自分の両親、母親にモノを買って貰えるというコトは。

 ま、当然のごとく買ってもらえないコトも多いのだが、
 それでも外出時、切符とか飲み物、食べ物となると全部出してもらうのが当然。

 それは世間一般的に普通のコトであろう。

 つまり、それを自然とやっている梨華と真希、
 2人の関係もそうであるコトに当てはまってしまうのではないのだろうか、と。
 真希が仕事で稼いだお金と、梨華がアルバイトで稼いでいるお金を梨華が全て一括で管理して、
 真希がお金を梨華から貰っている。

 そう、真希が稼いだお金は梨華が母親のように管理をして、
 真希に、いる時々でその都度渡しているのではないのだろうか。


597 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:41



 そのように思えてきてしまったれいな。

 考えれば考えるほど不思議に感じてしまうが、
 もし本当にそうであるならば、真希と梨華は家族のような関係なのだろう。

 まさに、さっきの2人の間の会話は、まったく梨華と真希のコトを知らないヒトから見れば、
 2人は姉妹なのだろうと思ってもおかしくないモノだったのだから。

 シンユウ同士でも、あれだけ自然とお金の貸し借りなんて有り得ないコト。
 そう、必ず"貸して"という言葉は聞えるはずだから。

 れいなも、えりやさゆみが2人の間でお金の貸し借りをしている様子は頻繁に見るのだが、
 梨華と真希のさっきみたいにどちらかが"あれ欲しい"と言ってどちらかが"はぃ"と渡す、
 そんな、親子のような会話を通しての貸し借りを見たことがなかったのだ。


598 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:42



 つまり、さっきの考えは合っているというコトになるのだろう。

 そして、これらの考えがまとまってくると、自然と落ち着いてきたれいな。

 これまで、真希と出会えてからずっとずっと感じていた"不安"とも"落胆"ともつかない感情の全てが、
 解消されそうなキッカケにもなり得そうだから。

 さらに、実際に梨華から"その話"の事実を聞けば、"2人が同棲をしている事実"から、
 "2人は甘い関係では?"というれいなの考えが、間違っているというコトにもなる。

 それはそれで当然のごとく一安心である。

 そう思った次の瞬間には、答えを聞きたい一心になってしまっていた。


599 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:42



 すると、きつねさんの石の像を携帯で撮り、満足気な表情の梨華が戻ってくると、
 "れいなは何も買わなくていいの?"と、財布を開けながら隣に並んできた。
 そして、真希たちが並んでいるのとは反対の通りに出ているお店を眺める。

 それをみて、チャンスとばかりに口を開くれいな。

「イシカワさんがお財布を握ってるんですかぁ」

 笑顔で、少し冗談っぽい口調で言うれいなの口調。
 ただ、本心には色々な思惑があっての言葉。

 "肯定の言葉を聞きたい"という思いが1つ。

 そんなれいなの口調に、一瞬驚いたような表情を浮かべた梨華だったが、
 それでも次には、"まぁそんなトコかなぁ"とハニカんだ。

「自然と…かな…」

 その言葉を聞いた瞬間、思わず笑顔が零れる。
 そして、まるで自分が主婦であるとは言わんばかりの梨華のその口調に、笑い声も。


600 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:43



「なによぉ」

 余りにも笑うれいなを見て"ひどぃ"と少し膨れっ面の梨華の言葉に"ごめんなさぃ"と言うものの、
 やはり表情はガマンしきれずに、綻んでしまっていた。

 "おごってあげないよぉ"とコドモのように拗ねた表情をしている梨華を、普段より余計に可愛く感じられる今。

 そう、"親子"。
 2人、真希と梨華は"家族"のような関係。

 憧れの真希を梨華に取られてしまっていた哀しみ。
 コイゴコロを抱いていた梨華を真希に取られてしまっていた悲しみ。

 でも、れいなの憧れの2人が"そんなアヤシイ関係"なら納得できそう。
 むしろ、嬉しい。

 そのように思い込もうとしていたれいな。

 ところが、さっきの梨華の言葉によって、これまで考えていた"その全て"が否定されてしまった。

 そして、れいなの中、スタートの号砲が鳴った音が聞えてきたのは確実だった。
 一度は止まってしまっていた歩みが、リスタートしたその瞬間。

「おごってくださいよぉ」

 随分と軽くなったれいなの口調に、梨華も自然と表情が柔らかくなっていた。
 さらに、自分の腕を握り、ほっぺを赤く染め自分を見上げてくる、恥ずかしげな小さなコドモに。



601 名前:3 〜 投稿日:2005/10/02(日) 00:43


 〜 ☆


602 名前:なまっち(目がうつろ) 投稿日:2005/10/02(日) 00:46

あぁしょっぱなに失敗…(あせあせ

今回は"3 〜"です(にがわら

それでは明日の最近激きゃわなこはちゃんのセリフを楽しみに…おやすみなせいませ。

603 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/10/02(日) 14:36
更新お疲れさまです。
田中チャンよかったですね。
これでもう少し前進出来ると良いのですが。
次回更新待ってます。
604 名前:初心者 投稿日:2005/10/05(水) 01:09
さゆ×えりは大好きなんだけど
さゆ×美貴様もとても好きです
これからどうなるのか楽しみです
作者さん頑張ってください
605 名前:なまっち 投稿日:2005/10/06(木) 00:07

こはるぅめちゃめちゃ可愛くなってますやんっ!
あんなに可愛くなってるなんて(ぅるぅる

ぁー、ザ☆ピ〜ス以外、イシカワさんのパートはほとんどえりが持っていったんだね^^
よかったよぉ(ぅんぅん…空回りきゃらが近いから?(ぉぃ
イシカワさんポジションはこはるかと思ってたけど、どっこいえりぃ?
ま、みんな成長しててょかったょ(よっちゃんが痛々しかったけど…

次の大阪が待ちきれなぃ…

ただ…ザ☆ピ〜ス…シャボン玉…AS FOR ONE DAY…ちょっと涙が零れちゃったんだけどね…
前の日にイシカワさん見てるだけにめっちゃ被って見えてた…自分だけだね…

でも…ふるさとでのがきさんが最後立ち位置センターで思わず?嬉しくなってしまった…
すっごい嬉しいと思う…なっちの歌だったから…
めっちゃキレイな笑顔だった…あれだけキレイになるなんて…

と、ひとりごとを言いつつ…

>> 通りすがりの者さん
 ありがとうございます^^
 ちょっとずつちょっとずつですね…
 恋は一気にいくより、この過程がいいのかもしれないですよねぇ(ちょぉ主観)

>> 初心者さん
 はじめまして^^ありがとうございます^^
 おっと…さゆ×えりがスキな方はっけん(おぉ
 でも、さゆ×みきさまもスキなんですね…両方に一票ずつ…と(めも
 これからもヨロシクお願いします〜


606 名前:【春の歌】〜第7話。距離 投稿日:2005/10/06(木) 00:08




 4 〜




607 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:09



 神戸一のターミナル駅となる三宮駅と、神戸駅の中間に位置する元町駅。

 その駅から、三宮駅に伸びる線路の高架下にある商店街を"ピアザ神戸"、
 反対の方向となる神戸駅の方を"モトコー"と呼び、地元のヒトに老若男女関係なく親しまれている空間がある。

 オトナ3人がやっと通れるくらいに狭い幅の道の両側に、たくさんのお買い得な品物が所狭し並んでいる空間。

 そして、とても昔ながらのレトロな空間の中、実際に並んでいる商品といえば、
 現在の品物からとても昔ながらもモノ、さらにお買い得なモノまでがたくさん並び、
 それがまたとても珍しい光景を生んでいた。

 地元のヒトにとっての、重要なお買い物のポイントの内の一つである、ココ"ピアザ神戸"。
 ただ、少し悲しいかな、地元のヒトにとっては"高架下"と言う名前の方が親しみがあるのか、
 あまり"ピアザ神戸"と言う名称を知っているヒトが少ないらしい。

 街を通っててもあまり、いや、ほとんど聞かない名前なのだ。


608 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:09



 ま、観光として他の場所から来たヒトにとっては、雑誌にも載っている名前が"全て"であるから、
 あまり関係がないと言えばないのだが。

 名前も知られていないココだが、とにかく、お買い得なモノに、珍しい品物が多い場所。
 自然と会話にも困らないし、足の進み具合も"人それぞれ"になってしまう場所。

 観光客にとっても、来て損はしないトコロといえよう。
 


 〜 ☆


609 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:10



 昔よく使用されたランタンの光のように、淡いオレンジ色の道。

 まるで自分たちのアルバイト先のように落ち着いた雰囲気を味わえるのは、
 やはり、似た雰囲気と、慣れた空気だからだろう。

 この場所も自分たちの働いている場所と同じコンセプトを元に作られたのだろうか、
 とお店を覗きつつゆっくりと歩く愛。

 その愛の前には、先頭を歩く美貴とさゆみがいた。
 2人は自分たちの世界に入ってしまっているのか、本当のコイビト同士のように楽しそうに、
 そして、嬉しそうに、さゆみのペースで歩いている。
 
 そんな2人にときどき視線を送りつつ、ほのぼのと眺めるも、若干早すぎる2人。
 さらに、ただでさえ細長くなる列。

 後ろでは、亜依、希美に絵里が興味深そうにお店の中を覗き込んだり、立ち止まったりして、
 ときどき前と後ろで、ぐんっと間があいてしまうときが多々あった。

 ま、そんなときは、愛が美貴の服の裾をつまみ、少し合図をしてあげるのだが。

 そう、今もまた。


610 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:10



 ぐいっとひっぱられるたびに"伸びぃる"と不平をあげる美貴だったが、その口調は楽しんでいる、そのもの。

 愛のくいくいっと指差す視線先、コドモたちの楽しげにお店の中を覗き込んでいる姿を見止めると、
 やっと立ち止まった。

「美貴ちゃん、はやぃ」

 その言葉に、抗議の声と言わんばかりに少しクチビルを突き出し、カノジョらしからぬカワイイ仕草の美貴だが、
 今の愛にはあまり効果はないようだ。

 "はいはい"と肩を叩かれ、簡単にあしらわれる。

 そのまま近くのお店を覗き込む愛を見て、"自分に構ってくれない"とさゆみに訴えるも、
 さゆみはさゆみで、愛と同様にカワイイ雰囲気をしたお店に興味を持っていかれていた。

「ちぇ」

 しぶしぶ2人と一緒にお店を覗き込むしかなかった美貴であった。


611 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:10



 小さな雑貨や小物が中心におかれたお店。
 女のコが好みそうなアクセサリがいっぱい並び、目を忙しく動かしてしまう場所だ。

 さゆみも小さく声を上げると、美貴の裾をひっぱったり、自分にコーディネートしてみたり、と大忙しだ。
 まさに、とても騒がしい女のコといった様子である。

 ただ、美貴もまんざらでもないのか、しっかりとさゆみの相談にのってあげている。
 お姉ちゃんである絵里がいない今の間だけでも、とばかりに。

 そんな2人に少々羨ましくも感じつつ、少しシアワセを感じていた愛も、お店を探索。

 すると、色々なアクセサリに混じって、少しこの場には不釣り合いなモノが愛の目に入ってきた。
 明らかに"このようなお店"には並んでいないような品物。

 それは、数個の"南京錠"だった。

「ぁれ…?」

 なんの変哲もない南京錠から、とても可愛らしいデザインの南京錠まで。
 さすがに雑貨のお店とはいえ、こんな場所に売られているのには、少々疑問が沸いてしまうモノだ。


612 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:11



 しかし、その南京錠の下に置かれた紙に書かれた説明書きを目にした愛は、
 思わず大きく声をあげてしまった。

「あぁっ」

 その声に気が付いた美貴が、不思議そうな表情で近づいてきた。
 さらに、美貴に1つアクセサリを選んでもらい、とても満足げに財布を取り出そうとしていたさゆみも、
 何事かと近づいてくる。

「なに?」

 美貴の言葉に愛は少しカラダをずらすと、さっきまで見ていた場所をあけた。
 そして"これっ"とにっこりと笑顔を零し、当の品物を指差す。

「なになに…」
「"愛の鍵"?」

 さゆみの言葉に"そぉ"と、大きく頷いた愛。



 〜 ☆


613 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:11



 ヴィーナス・ブリッジ。

 三宮の駅から車で10分くらいの距離にある諏訪山の山頂付近の別称のコトである。

 標高は160mほどなのだが、ソコから港に向かって、神戸の街並みが一望できる場所であった。
 場所の近さや、夜景の美しさなどから雑誌に紹介され、
 ここ神戸でのデートスポットとしては3本の指に入るくらいに有名なスポットである。

 しかし、それらとは別に"あるモノ"で有名な場所でもあった。

 "あるモノ"

 この夜景を一望できるヴィーナス・ブリッジをさらに有名にさせている"モノ"があったのだ。


614 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:12



 その始まりは、特別に最初から用意されたモノではなく、
 ある一組のコイビト同士の"行為"から火がついたものであった。

 自分たちの愛情とキズナを深める意味。
 ココから見た景色と、そのときの甘いキモチを繋ぎ続ける意味。

 それらの"想い"を込め、そしてそのときの"想い"を言葉に書き込んだ"南京錠"を、
 ココの手すりに取り付けたのが始まりだと言われている。

 そして、その"想い"に共感した多々のコイビトたちが自分たちも"想い"を込め、同様に取り付け始めたのだ。
 その数はいつしか3600個にも膨れ上がった。

 しかし、そんなコイビトたちの行為に、景観を損ねると市民からの苦情もあり、同じ場所に、市として、
 新たに"愛のモニュメント"という別の形で、きちんとした取り付けを許可した場所を設置したのだった。

 今では観光的な名所にもなり、彼らが取り付けた南京錠にも、他人の手が加わってしまったものもあったのだが、
 それでもコイビトたちの想いは受け継がれていた。

 その"南京錠"のコトを"愛の鍵"と呼ぶのだ。 



 〜 ☆


615 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:12



 愛の説明に、目を輝かせるのはさゆみ。
 そして、普段はそれほど"恋"というものに今は興味のない美貴も、その"響き"と"役割"にほっぺを赤く染めていた。

「そんなトコがあるんだー」
「そ、なんょ」

 "すっかり忘れとった"と可愛らしい口調で言う愛。
 そして、実際に置かれている南京錠を手に取り、眺める。

 今はまだ"ただの南京錠"なのだが、ここに"2人の想い"が書かれたときから、
 それは"愛の鍵"と呼ばれるものへと変わってしまうのだ。

 それを考えると、自然とココロにも甘いモノが広がってしまうものであった。
 "その響き"と、この南京錠の"役割"を思うと。

 愛もほっぺを赤く染めているそんなとき、さゆみがしみじみとした声を出した。

「こんなおっきなのもあるんだね」

 さゆみの手には、端の方に置かれてあった普通のサイズより大きな手のひらサイズの南京錠。

 それを見た愛は、今度はさっきの雑誌とは別、インターネットで見たコトを思い出した。

「愛の大きさってゃつ?」

 美貴の言葉に、"それもあるょ"と言いつつ、やんわりと否定。


616 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:12



"シンユウ同士の友情"

 大きな南京錠は、単純にたくさんの言葉を書けるコトから、多数のシンユウ同士、
 とくに女のコ同士の長い友情を込めて使われるコトがあった。

 何人かで"名前"と"想い"を書き、それを繋ぐという。

 カップルが行なう行為が有名過ぎるコトから、意外と知られていない事実なのだが、
 一部の地元の女のコの間では、それなりに知られている行為なのだ。

「へぇ…」

 さゆみは愛の言葉を聞きながら、先程とはまた別の意味で目を輝かせていた。

 そう、一番最初に愛から聞いたときには、恋人同士にのみに許された"特別な行為"と思い、
 ただただ羨ましさと、憧れのキモチがココロの中を占めていたのだ。
 しかし、愛の説明を聞いてからは、特別な行為ではなく、自分でも可能なコトであることが分かり、
 自然と、さゆみの頭の中でも、自分だと何を書こうかと、考えていたさゆみであった。


617 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:13



 そして、それと同時に浮かんできた身近なヒトの顔。
 自分の周りにいるヒトの顔。

 そのヒトたちとのキズナをさらに深めるため。

 それは美貴も同じだった。
 もちろん愛も。

 すると、3人は自然と顔を見合わせ、微笑んでいた。
 3人のココロの中には、その1つの考えだけが浮かんでいたから。



 〜 ☆


618 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:13



「ぁー」

 亜依の声に、隣で腕を組み、目の前の80円を切るピアスに目を奪われながら、
 思案顔のえりが"どーしたんですかぁ?"と、聞き返した。

 とは言いつつも、その注意は完全に目の前のモノ。
 しきりに考え込んでいる。

 やはり80円を切るとなると、どうしても買いたくなってしまう。
 とくにこうやって旅行に遠方に来てしまうと、それだけでキモチも変わってしまうもの。

 さらに、今回の旅行にあたって、新人であるれいなとえりとさゆみには、今朝、なつみから"特別に"と、
 これまで1週間働いたアルバイト代をカノジョのポケットマネーで前払い的に貰っていることから、
 普段より奮発して色々なモノが買えるのだ。

 それも予想だにしなかったくらいのお金の金額を貰い。


619 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:13



 そう、まだたった1週間しか働いていなかった3人だったのだが、
 なつみから貰ったお金の合計は、普段の親から貰っているお小遣いを遥かに上回り、
 毎年毎年貰っていたお年玉の総計のこれまで最高金額だった今年に迫る勢いで、
 貰ったときには思わず"こんなにですか?"と、3人で目を白黒させてしまったくらいだったのだ。

 あまりお金のコトで働き始めたのではない3人だったから余計に、だった。
 また、一応、最初にきちんとした契約書を書き、時給などの数字は知ってはいたものの、
 計算をしながら働いていなかったこともあった。

 時給は通常1300円のところを、見習い期間2週間の間は1000円。

 それを毎日、朝10時から夜17時まで入っていたさゆみとえりは、1時間休憩の6時間労働で日給6000円の、
 6日入って36000円プラス5時間の41000円、れいなにいたっては朝10時から夜19時まで入り、
 1日8時間労働で日給8000円の、毎日入り56000円プラス4時間の60000円となっていたのだ。


620 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:14



 春休みで毎日入れるから、という理由とはいえ、それでもかなりの金額に驚きを隠せなかったえりたち。
 
 学校のトモダチからアルバイトをしている話を聞いたときも、
 大抵一月働いても20000円くらいであり、夏休みをフルで働いたとしても、
 今回れいなが一週間で貰った金額を少しオーバーしたくらいの金額しか聞いたことがなかったからだ。

 さらに、自分たちはそこまでアルバイトをしたのだろうか、とまで思ってしまっていたくらいだったのだ。

 たった一週間だが"辛い"というキモチになったコトもほとんどなく、
 むしろ色々なヒトと話せたりして楽しいというキモチが大きかったのだ。

 失敗もあったけど、怒られたコトもなく。
 お皿を割っても、まず自分たちに怪我がなかったかどうかというコトをすごく心配され。

 そんな自分たちがこれ程の金額を受け取っていいのだろうか、とさえ。
 
 ただ、受け取りにくそうにしていた3人だったが、梨華に言われた"自信を持って貰ってぃぃんだょ"の言葉に、
 少し安心をすると、しっかりとしたキモチを持って受け取れたのだった。


621 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:14



 ちなみに、アルバイトでも能力制となり、最高の時給は2500円となるそうだ。
 一番昔からいる梨華で2200円。
 働き始めて2年となる愛が2000円となり、少し遅く入ってきたあさ美が1500円だそうだ。

 桃子はまだまだ中学生でもあり、さらになつみの親戚だからというコトで、低めで1200円。

 また、それぞれが月々の最高記録を記録したのは、昨年の夏、これは全員が記録して、8月の1ヵ月間で、
 梨華が手取りで31万円、愛が手取りで24万円、あさ美が手取りで18万円を記録し、
 桃子でも12万円を記録してしまったのだ。

 さすがにそのときは"働かせすぎ"と圭織と2人で随分と反省してしまい、
 そのときの教訓から、えりたち3人を入れたことにも繋がっていた。

 さすがにそれは今後は有り得ないそうだが、それでも、その話を聞き素直にすごいと感じていた3人に向かって、
 なつみから"自分たちだってそれくらいやってくれるコト、期待してるんだから"と言われ、
 少し身が引き締まってしまった3人だった。

 そして、お金を貰って、改めて働いているコトを実感したのであった。


622 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:14



 とにかく、今のえりは少々お金持ちなのだ。
 80円くらいのピアスなら少しは買っても大丈夫なのだが、
 日頃の習慣から、どうしても丁寧にお金を使ってしまおうとするえり。

 また、アルバイト代をたくさん貰ったことを親に連絡したときに、
 "ほどほどに使いなさいょ"と言われたこともあり。

 そのこともあり、今も目の前の77円のピアスと、"普段の自分のお金の使い方"とを、
 にらめっこ状態となってしまっていたのだ。

 さすがにそんなときに、自分に掛けられたかどうか分からない声に答えられるほど、
 えりには余裕がなかった。

 ま、とはいえ、やはり大スキな亜依に裾をくいくいと引っ張られると、
 自然と笑顔で亜依の愛くるしい顔へと視線を持って行ってしまうものだったのだが。

「どーしたんですか?」

 えりがやっと自分に興味を持ってくれ、さっきの疑問の続きをやっと口にできるコトにほっとなると、
 早速とばかりに、さっきの続きを口にした。


623 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:14



「みちしげちゃんたちは?」

 その質問に、えりは切れ長の目を大きく開くと、まわりをきょろきょろを見回した。
 そして、いないコトに気がつくと、"ほんとだ…"と、小さく呟き、指先を口元に持っていく。

 そのまま心配そうに、瞳を揺らした。

「そ、そんなに心配そうにせんでも…」

 余りにも表情を曇らせてしまったえりに、少々呆れ顔の亜依。

 ただ、それでも少し羨ましさも。
 本当にカノジョのコトを大切に思っているコトが、安易に想像できたから。
 これだけのコトで心配そうにしているえりを見ることによって。

 1つ小さくため息をつくと、今にも携帯で連絡をとらんばかりの勢いのえりの肩をぽんぽんと叩き、
 にっこりと笑顔を零した。

「隣のお店に入ってるだけゃと思うしぃ」

 小さく頷いたえりに服の裾を持たれると、そのまま手を握ってあげ、希美に声を掛けお店を出ることにした。



 〜 ☆


624 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:15



「もう一個買うの?」

 美貴の言葉に、にっこりと表情を緩めるさゆみ。
 そして、少し気恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに言葉を口にした。

「れぃなの分を買ってあげるんです」

 さゆみの手には、愛が今、レジのおばあちゃんに手渡しているものとは全く違う大きさの"愛の鍵"が、
 タイセツに握られていた。

 自分たち全員のぶんとして買おうとしたのは、13人が書いても大丈夫なくらいの手のひらサイズの南京錠。
 それとは違い、さゆみが持っているのは手のひらにすっぽいと入ってしまうくらいに小さく、
 カタチも丸みを帯びて随分と可愛らしく、梨華が好みそうなものだった。

 そう、確実にれいなと梨華のためのもの。
 さゆみのキモチに、自分のココロの中に温かいものが広がった美貴は、思わず笑顔が零れる。

 ところが、次の瞬間には1つの疑問が。
 
 それは、この"愛の鍵"は、先程の愛の話によると結構有名らしいことから、今日色々と回っている内に、
 れいなたちのグループもどこかで見かけて、知るのではないのだろうか、と。
 そして、そのまま買っているような気も。


625 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:15


 
「れぃなが買ってるかも…」

 思わず呟いていた美貴の言葉に、一瞬きょとんとした表情になったさゆみだったが、
 次の瞬間には"そっか…"と妙に落ち込んだ様子で、悲しそうにクチビルを突き出してしまった。

 そして、目の前の自分の手に握られていた"鍵"を見つめる。

 そんなさゆみの仕草に慌てる美貴。
 せっかくのさゆみの好意を少し傷つけてしまったように感じてしまい。

「ぃ、いや、これだけカワイイのは、ぁ、あんまり売ってなさそうだからねっ
 いいかもっ」
「そうでしょうか…」
「れぃな、喜ぶよっ」

 大きく頷く美貴。
 そして、にっこりと笑顔を繕う。

 その美貴の笑顔に、さゆみは"そーですよね"と、少し元気を取り戻すと、
 軽い足取りでお金を払っている愛の後ろに並びに行った。

「ほっ…」

 そんなさゆみの様子を見て、ほっと胸を撫で下ろした美貴であった。
 そして、イモウトのように可愛らしく、純粋なカノジョが、無性に愛らしく映ってしまっていた。



 〜 ☆


626 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:15



 お店を出てから戻らないといけないね、と相談していたが美貴と愛だったが、
 お店を出たところで、ちょうど亜依たちと鉢合わせとなった。

 これから探し回らないといけないコトを想像していたぶん、少し安心するも、
 ただ、えりの様子だけが普段とは違うことが少し気になった美貴。
 
 いつものハジケテイルようなテンションではなく、少々落ち込み気味。

 さゆみを自分がとったからだろうか、と、一瞬思うも、それなら気にせずにすぐに噛み付いてくるはず、と、
 ますます分からず、少し首を傾げる。

 しかし、そんなえりも、さゆみの"愛の鍵"の話を聞いているうちに、普段のカノジョへと戻っていた。
 とても甘いお話に、普段より更にさゆみにカラダを近づけ、腕をからめる。

 また、関西出身である亜依は少しは聞いた話だったが、すっかり忘れていたらしく、
 "ぁったんゃぁ"と、とても嬉しそうに表情を緩め、同様に希美も嬉しそうにその鍵を手にして眺めていた。

 そんなカノジョたちを見た美貴は、さっきまでのえりの様子をとくに気にするコトもなくなくなり、
 自然と表情を緩めていた。


627 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:16



 しばしその鍵について話に華を広げると、ちょうどお腹も空いてきたコトもあり、お昼にするコトにした。

 高架下を軽く歩き抜けると、最初の予定にはなかった三宮の地下へと下り、
 オシャレな雰囲気のお店が多い場所での昼食。

 予定外だが、旅行に予定外はつきもの。

 少し歩き疲れた足と、あがりっぱなしだったテンションを休め、
 さらに、これからのコトに期待をしつつ神戸の街並みを楽しむ"普通の女のコたち"。



628 名前:4 〜 投稿日:2005/10/06(木) 00:16


 〜 ☆


629 名前:初心者 投稿日:2005/10/06(木) 19:01
更新お疲れさまです
純粋なさゆが最高です
怖いミキティもいいけど優しいミキティもいい
絵里の心配するのがまた可愛いです
630 名前:なまっち 投稿日:2005/10/12(水) 00:13

愛ちゃんの男装(ひこまろさまだっけ?)にめろめろになってしまったなまっちですが、
文化祭でもみんなにめろめろに…
ぁぁ、演劇では胸を打たれましたょね…しみじみ…
ってか、2日目のイシカワさんのエコモニ。の代役(なんでいなかったの?)ってえりだったんですねぇ…
すごいなぁ…コンサートのイシカワさんのパートをいっきに覚えてこなすのも合わせてすごい(ほれぼれ
ってか、前もスキでしたけど、どんどん出てくるえりが自分の中でも急上昇中^^
でも、♪HELP!〜♪1番、れぃながセンターでかっこぃぃ!劇れなも。

>>629 初心者さん
 ありがとうございます。
 自分も怖いみきてぃもカッコよくてスキですけど、こんなみきてぃも^^
 えりが上昇中のなか、さゆえりとさゆみきで悩むヒトも続出とか(わら


631 名前:【春の歌】〜第7話。距離 投稿日:2005/10/12(水) 00:13




 5 〜




632 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:14



 神戸駅から南に下り、港に面している場所に、季節、老若男女問わずに楽しめる場所がある。
 その一帯のことをハーバーランドと呼び、数々のショッピングモールが立ち並ぶ地区である。
 
 その中の1つ、"神戸ガス燈通り"に沿った場所に、若い女のコがとても好み、そして目のない、
 神戸のシンボルともいえる甘いスイーツを、専門に扱ったフードテーマパークが存在する。

 "神戸スイーツハーバー"と呼ばれる場所で、日本最大級のスイーツのフードテーマパークである。
 
 スイーツの専門店から、イベントショップにミュージアム展示、レストランなどが、
 明治・大正のレトロな雰囲気をモチーフに立ち並び、とても地元の女のコに人気のある施設である。

 女のコなら、一度は足を運んでみたい場所。

 そして、もう1つ。
 きらきら輝くガラス張りの天井をしたアーケード街が特徴である"キャナルガーデン"。
 
 巨大なガレリアを見ることができるココは、複合的なショッピングモールであり、
 家具など生活用品の売られたデパートからスーパーに、小さな雑貨専門店、スポーツクラブなど、
 様々なお店が入っているトコロである。

 また、そのアーケード街には、さまざまなモニュメント像が立ち並び、天井にもつるされ、
 ヒトの目、とくに小さなコドモたちの目を随分と楽しませてくれる場所でもある。


633 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:14



 そのキャナルガーデンと長いエスカレーターで繋がっている1つの人気の施設があった。
 "モザイク"と呼ばれ、家族連れはもちろんのこと、カップルや学生たちで賑わっている場所である。

 一際大きな施設ではないのだが、内容が充実している場所。
 
 ショッピング、レストラン施設から、アミューズメント、神戸でも最新の設備を持った映画館などが存在し、
 平日でも学生たちの恰好のデート場所になっているトコロだ。 


 また、モザイクの中、海辺には小さな遊園地"モザイク・ガーデン"と呼ばれる場所があった。
 
 乗り物の数自体はごくごく少なく、小さなコドモ向けに作られた場所であるものの、
 恋人同士にとっては定番であり、はたまた、
 まだまだ恋人同士には至っていないヒトにとってもステップアップとなる乗り物、
 "観覧車"が人気の小さな遊園地である。

 祝日の夜になるとライトアップされた街並みやポートタワーを見ようと列が作られるくらいなのだ。
 コイビト同士にとって、確実にシアワセのひと時を味わえる場所。


634 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:14


 
 それらにも増して、なんといっても"モザイク"での一番の人気の秘密は、その景観にあろう。
 モザイク全体の建物から、そこから見渡せる景色まで。

 ウッドデッキの上に佇む、小さなお店の数々。
 とても可愛らしいお店の数々は、潮風を感じながら眺めているだけでも、シアワセなキモチを味わえそうだ。
 
 部屋に飾ると思わずほっぺの緩んでしまう小物の数々から、アクセサリを取り扱った小さなお店が、
 ウッドデッキの上に佇んでいるその景観は、時間を忘れさせてくれそうである。
 女のコにとって色々な意味で悩み続けてしまう場所でもある。


 さらに、"神戸ならではのモノ"から、"海辺の街ならではのモノ"まで、
 訪れたヒトの舌を満足させてくれること間違いなしのレストラン。
 
 もちろん、料理も最高だが、見える景色はさらに絶品である。
 とくに、夕暮れにかけて、隣のメリケンパークに存在するポートタワーがライトアップされる瞬間が人気であり、
 多くのヒトが料理に舌鼓を打ちながらココロをうっとりさせる場所でもある。


 そしてお腹もいっぱいになった後は、海を眺めながらゆっくりとした時間を過ごせる、オープンテラスカフェ。
 そこでは、たくさんのカップルが2人だけの時間を楽しめる場所であり、モザイクの中でも一番甘い場所だ。

 カップルは自分たちの時間を楽しむのもよし。
 トモダチ、シンユウ同士は、語り合うのもよし。
 飲み物を味わうのもよし。


635 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:15



 これらが人気のココは、たくさんの観光客から、地元のヒトまでが楽しめる場所であり、
 一度は訪れてみてもよい、お薦めのスポットである。

 家族連れからカップル、トモダチ同士、どのようなヒトでも訪れる場所。



 〜 ☆



636 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:15



 南京町を出た梨華たちは、すぐ北を東西に横切っている元町の商店街を通り、神戸の駅までを歩いた後、
 キャナルガーデンのガレリアの下を歩き、そして二番目の目的地ともいえるモザイクへと足を運んできた。


 そして、そんな5人を出迎えたのは、とても馴染みのモノであった。

 それは、モザイクの中に入って、目に入ってきた大きなゲームセンター。
 その中に、所狭しとならぶプリクラの機械。

 たくさんの種類の"それ"を見た瞬間に、大きく声を挙げたのはあさ美と桃子にれいなだった。

 そこはやっぱり若い女のコ。

 決して真希と梨華が若くないと言うわけではないのだが、余り興味なさそうにしていた真希と梨華の手を掴むと、
 ぐいぐいとコーナーにひっぱり込んでしまったのだ。


637 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:16



 そして、数多く撮り、満足気なれいな。


 また、3人のテンションの高さと、慣れない"プリクラを撮る"という行為に少々お疲れ気味の真希と梨華。

 そう、とくに梨華は、プリクラの機械で自分を撮ったことがほとんどないため、かなり疲れた表情を浮かべていた。
 写真に写るのはキライではなく、スキな方なのだが、あまりトモダチがいないため、
 プリクラで撮るという機会など、ほぼ皆無だったのだ。

 真希にいたってもそうであった。
 写真に撮られるのは仕事であるのだが、やはりプリクラとなると別。
 営業スマイルより、やはり自然の笑顔が、とは思うものの、慣れないこともあり、それだけで疲れてしまったのだ。
 普段なら、何時間も写真のフラッシュを浴び続けても大丈夫な真希も、プリクラには弱かった。


 一方、まだまだ撮り足りないと、真希の手をひっぱるのはあさ美と桃子。

 そんな2人に真希は、"ちょっと疲れたょ〜"とは言いつつも、カワイイ2人にまんざらでもないのか、
 "はぃはぃ"とおねえさんのように振舞いつつ、手を引っ張られて歩いて行く。


638 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:16



 そして、真希に手をふり"頑張れぇ〜"と送り出した梨華は、"よっこらしょっと"と大きく声を出し、
 近くのベンチに腰を掛けた。
 隣に一緒に腰を掛けたれいなは、梨華の仕草に、声を出し笑っていた。

「なによぉ」
「いえー別にぃ」

 "もぉ"と、明らかに自分をおばさん扱いしたれいなをジト目で見るも、その表情はすぐに緩む。
 隣でプリクラ帳にさっき撮ったばっかりのシールを、早速嬉しそうに貼り始めたれいなを見て。
 そして、さっき撮ったシールの中から、何を貼ろうかと、お気に入りを選別中のカノジョに。


 一方梨華は、プリクラ帳なるモノを持っていないこともあり、
 普段、真希のスケジュールを書いているタイセツな手帳に貼ることにした。
 あと、お気に入りのモノを1つ携帯に。


639 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:17



 まず、携帯。
 常に持ち歩くモノだから、特にお気に入りを貼りたいもの。

 自分の写りは特に気になるし、他のコだって。

「う〜ん…」

 しばし悩むと、手馴れた様子で全てを貼り終えたれいなが梨華の手元を覗き込んできた。

「携帯にも貼るんですかー?」
「ぅん…まぁ…何貼ろっかなぁって…」

 そんな梨華を見ると、れいなは"じゃぁ"と、1つのシールを選び、にっこりと笑顔を零した。


640 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:18



 5人で写っているモノ。

 あさ美と桃子が下の段に写り、その後ろ真ん中にれいなが写り、その両側に梨華と真希が写ったモノ。
 梨華と真希が真ん中のれいなの腰を抱き、寄り添うように写っている。
 とても笑顔がキレイな5人。

 そして、今日の日付"2005年4月5日"と、この場所、
 桃子とあさ美とれいなが書いた"はーと"が所狭しと写っているシール。

「コレ貼ってくださいょ」

 れいなの笑顔に、梨華は迷うことなく頷くと、携帯の電池の部分にとてもタイセツそうに貼った。
 そう、自分もかなりお気に入りのソレだったから。
 とてもシアワセそうに目を細めて。


641 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:18



 梨華が自分の選んだシールを貼ってくれたコトに満足をしたれいなは、
 本来ならそれだけシアワセを感じてしまうのだったが、今は少々違うようだった。

 1つの考えが浮かぶと、もう"それ"だけでは満足を出来なくなってしまっていたのだ。

 梨華の手を取ると、"少し歩きませんか?"と立ち上がった。

 そう、桃子がいない今のうちに、とばかりに。



 〜 ☆


642 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:19


 
 潮の香りが、より一層強く辺りに漂いはじめる。
 そして、建物の中の一角、吹き抜けのように天井のなくなった場所に抜けた梨華とれいなを、
 雲1つない快晴の青い空に、春の暖かい日差しが迎えてくれた。

 眩しそうに、手で日差しよけをつくるれいな。

「まぶしぃ」
「ぅん」

 大きく頷く梨華。

 しかし、次の瞬間には、梨華の興味は右手、その道の先に見える微かな海の景色の方に向かっていた。
 両側に立ち並ぶ小さなお店、露天に並んだアクセサリの隙間から見える景色に。
 左手には大きな観覧車も見える。


643 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:19



「れいなっ!」

 大きな声で呼ぶと、指で指し示した。

 目を細める梨華を見て、れいなも大スキなおねえさんの指の先を見つめると、声を出し、大きく表情を緩めた。

「ゎぁ…」

 大きな瞳をより大きくすると、次の瞬間には梨華の手を握り締めた。

「ぁ…」

 そして、"行きましょうょ"とぐいっと力強く引っ張り、歩き出したのだ。

「ぅ、ぅん…」

 ぐいぐいとひっぱるれいなに少々びっくりしつつも、しっかりとついて歩く梨華。

 れいなの左サイドトップで1つにまとめた髪の毛が、1回揺れる。


644 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:19



 普段、ここまで強く自分を引っ張る姿を見たことがなかったこともあり、
 そんな梨華の目に映る小さなカノジョの後姿が、今だけはやけに大きく、頼もしく見えてしまっていた。
 見慣れたカノジョの小さな姿が。

 そう、これまで余りヒトに引っ張られたコトがなかった梨華にとって、
 それはそれで新鮮な感覚であるし、少し嬉しくもなっていた。

 そして、ときどき振り返りつつ、2人の繋がれている手を見て、ほほを赤く染めるれいなに、
 自然と梨華も顔が熱くなっていた。

 まだまだ小さなコドモであるカノジョに。

 コドモ…5歳も年下となるコドモ、いや、梨華の中では"今は"その言葉は少し薄らいでいたのは、確実だった。


645 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:20



 小さな門を潜り抜けると、一気に開けた景色。

 左手の高さ50mの観覧車、その後ろに広がる景色。 
 その景色は、真っ青な海、そして雲ひとつない空。

 その瞬間に、大きく感嘆のため息を零すのは、2人の少女。

「ゎぁ…」
「すごぃ…」

 そのままカラダを手すりに預けるようにもたれ掛けた。

 と、そのとき、カラダの動きに合わせ、離れてしまった2人の手。
 一瞬、追ってしまいそうになるも、あまりにも積極的に行くのは気が引けてしまったれいなは、
 ぐっとガマンをすると、その手を手すりに置いた。

 梨華も手を手すりに掛ける。


646 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:20




 2人はしばらくその景色に酔うコトにした。
 随分と久しぶり、いや、ほぼ初めてと言ってもいいくらいの光景に。

 2人の生まれは神奈川県と福岡県であり、海に馴染みがある場所ではあったものの、
 本人たちに至っては、余り海辺に遊びに行ったコトがなかったのだ。
 コドモの頃に連れて行ってもらった記憶自体はあったのだが、そのときの印象などは、
 ほとんど思えていなかった。

 また、梨華は高校に入ると同時に東京に出てきて、れいなも中学生になると同時に東京に出てきたコトもあり、
 いつの間にか、海を見るコトもなく、内陸部の方に来てしまった2人。

 そんな2人にとって、この景色がとても新鮮なモノに映っていた。
 感動的な景色に。


647 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:21



 そして、これらの景色は、夜になると、これ以上、さらに感動の出来るモノになるようにも思えた。

 左手に見える観覧車が光を帯び、さらに左に見える神戸のシンボルのうちの1つである"ポートタワー"も。
 また、ポートタワーの奥に見える船の帆を広げたような大きな真っ白な建物も。

 梨華の視界には、それらの景色とともに、海をじっと眺めるれいなの横顔も見えた。

 思わず見惚れてしまうくらいに可愛らしく、そしてキレイな顔立ちのれいな。
 
 大きな瞳には青い海が映る。
 黒い艶やかな髪の毛が潮の乗った風に揺れる。
 ときどきほほに掛かり、小さな指でそっとどける。

 いつの間にか、そんなれいなに見惚れてしまっていた梨華は、はっと気がつくと慌てて視線を逸らした。
 コドモに見惚れてしまっていたコトへと恥ずかしさと、自分のプライドによって。


648 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:21



「イシカワさん…?」

 どれくらい、この景色、そしてこの空間に酔っていたのだろう。
 2人の空間に。

 突然聞えてきたれいなのカッコいい声。

 少し低めだけど
 少し訛りを感じるイントネーションの言葉だけど

 そのカノジョの声に呼ばれると、物思いにふけっていた梨華は思わず"なに?"と声を上ずらせた。

 普段聞いたコトのない、少々慌てた梨華の声に、れいなは少し笑顔を零すと、
 そのままカラダの向きを梨華の方に向けた。

 梨華は、カラダの向きは変えずに少し自分より下になるれいなの瞳を見る。
 自分を見上げるれいなと、視線がしばし交じり合う。

 いつものコドモのように愛らしいカノジョの大きな瞳ではない、今のれいなの"それ"。

 自分を見つめるれいなにしばし見惚れていると、一瞬、自分の瞳が揺れているコトに気がつく。
 そして、少し逸らしてしまい衝動に駆られてしまった梨華。

 しかし、いつものプライド、おねえさんとしてのプライドが"それ"をぐっと押さえ込む。


649 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:21



 ただ、れいなの瞳は強かった。
 いつもの弱いコドモのような瞳の光ではなく、とても強い力を感じるカノジョの"今の瞳"。

 まるで真希のような"それ"。
 真希のような強さを感じる"それ"。

「どーしたの…?」

 少し震えてしまった声に、恥ずかしさを覚えてしまった梨華は、いつの間にか自然と視線を外してしまっていた。
 普段なら、絶対に自分からは外さないのに。

 そんな梨華に気付いたのか、気付かないのか、れいなは普段のように、言葉を口にした。

「夜になったら…キレイですよね…」

 れいなの言葉に、梨華は"そうだね"と頷くと、もう一度視線を繋げた。

 しかし、今度は、れいながさっきまでとはまるで違う、弱さの感じる瞳に変わってしまっていた。

 とてもおびえ、そして不安を感じているその瞳。

 そのれいなの瞳を見ているうちに、自然と普段の落ち着きを取り戻してきた梨華は、
 カノジョに少しカラダを寄せると、再び"どーしたの?"と優しげに口を開いた。

「ぁ…ぁの…」
「…ん?」

 しばし続く沈黙。


650 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:22



 どれくらい続いたのか分からない。
 とても長い時間のように感じるも、しかし、本当の時間としては、
 ほとんど時を感じられないくらいの、"時の流れ"のようにも思えるくらいの、その時間。

 時間にしてほんの数十秒。

 そして、れいなは1つ大きく頷くと、意を決したかのように口を開いた。

「夜…もう一度きませんか…?」

 その後に付け加えた"2人だけで…"の言葉には、顔を真っ赤にさせていたれいな。
 このれいなは普段の梨華の前におけるコドモのように愛らしいカノジョだった。

 ともて可愛らしく、愛らしいカノジョのその仕草。

 梨華は自然と"ぃぃょ"と頷き、すぐそばにあったれいなの小さな手に、自分の手を重ね合わせた。
 可愛らしいイモウトのようにも感じられて、その行動も、"自然と"だった。



 〜 ☆


651 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:22



「あ〜〜こんなトコにいたー」

 露店に並んでいたアクセサリを眺めていた梨華とれいなは、声の主の方に視線を向けた。
 そして、2人して顔を見合わせると、気まずそうに顔をしかめた。

 そんな2人の目に入ってきたのは、目じりの下がっている瞳を少し吊り上げ、両手を腰に置いているあさ美。
 さらに、カノジョの後ろには、一緒に手を繋いで呆れた表情を浮かべている真希と、
 少々ご機嫌斜めの桃子の姿も。

「ごめん…なさい」

 さすがに悪いコトをしたかな、と思ったれいなと梨華は、素直に、気まずそうに小さく頭を下げた。

 しかし次の瞬間には、れいなはすぐに"これこれっ"と、さっき梨華と2人で見つけたブレスレットを指差し、
 "5人でお揃いのモノを買いましょう"と表情を綻ばさせていた。

 金色の花の刺繍の入っている布製のブレスレット。

 れいなの言葉に、あさ美たちも自然と表情が緩む。
 そして、れいなと梨華の2人が選んだモノを眺め、小さく声を挙げると、
 結局は、お揃いのモノを買い、5人してシアワセそうな笑顔を浮かべていたのだった。

 その後5人は、しばしハーバーランドを楽しんだ後、
 東側の岸から、海、ポートタワーの景色を楽しんだ。

 少し傾き始めた太陽が、少々長くなった5人の影をウッドデッキに落とす。


652 名前:5 〜 投稿日:2005/10/12(水) 00:22


 〜 ☆


653 名前:なまっち 投稿日:2005/10/12(水) 00:24


 以上更新終了です。

 次回でこのすれも書き込めなくなりそうかなぁ…
 次のすれかぁ…
 う〜ん…

 …



654 名前:初心者 投稿日:2005/10/13(木) 11:16
更新お疲れ様です

れいな頑張ってますね
これから夜にかけてそれぞれの思いと行動楽しみです
次回更新お待ちしております
655 名前:名無飼育335 投稿日:2005/10/13(木) 23:21
更新お疲れさまです。
あぁ、ドキドキが鳴り止みません。
れいな頑張って勇気出しましたね!夜がすごく楽しみです。
みんなもそれぞれに幸せいっぱいなんでしょうね♪
次回更新、今か今かと待っております。
656 名前:なまっち 投稿日:2005/10/17(月) 01:54
>>654 初心者さん
 ありがとうございます^^
 もうちょっとれぃなにが頑張って貰いたいですね^^
 これからもヨロシクお願いします〜

>>655 名無飼育335さん
 れすありがとうございます^^
 はいっれぃなには勇気を出してもらいました!
 夜は長いですけど、まぁ二日もありますんでまったりと(ぉぃ
 これからもヨロシクお願いします〜
 
657 名前:【春の歌】〜第7話。距離 投稿日:2005/10/17(月) 01:54




 6 〜




658 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 01:57



 日本の開国の明治時代、当時の面影を残している"旧居留地"と呼ばれる一帯は、
 三ノ宮駅と元町駅から南に下りた付近一帯のことである。
 
 さまざまな建築物が、ヒトの目を楽しませてくれる場所だ。

 その中の1つ、神戸の歴史を知るコトができる"神戸市立博物館"は、
 ヨーロッパ、ギリシャ神殿の雰囲気を味わえる円柱で構成された建物であり、
 その中に入らずとも、旧居留地を楽しめる場所のうちの1つと言えよう。

 また、ギリシャ神話に出てくるような西洋の像やモニュメントが楽しめる、
 旧居留地の東側に存在する"東遊園地"は、当時、運動場として外国人の人たちに開かれた場所である。

 基本的に、この2つ、そしてこの辺り一帯は、とくに中に入って楽しむというよりは、
 外からその景観を楽しめる場所でもある。


659 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 01:58



 一方、中と外の両方から楽しめる空間も数多くある。

 "元アメリカ領事館"である"カフェ・ド・神戸旧居留地十五番館"は、
 当時の面影を楽しめながら、少々高額な料理も楽しめる場所である。

 また、"海岸ビル"、"商船三井ビル"は"海岸通り"を代表する名建築であり、
 "仲町通り"には人気の高級ブランドショップが立ち並び、ショッピング、
 そして、レトロ、なおかつモダンでもある雰囲気を楽しめる場所であり、
 "乙仲通り"では、"海岸ビルヂング"という、お薦めの当時の建築物がある。

 他にも、イタリアの街角の空気を感じるコトができる大丸神戸店の"カフェラ"も人気の場所だ。

 これら、当時の西洋的な雰囲気を味わえるこの辺り一帯は、女性、
 とくにオトナの女性に人気のある場所であり、コドモだけで来るには、
 少々気後れをしてしまうトコロである。

 そして、地元のヒトにとっては、その景観を楽しむことより、
 セレブな空気を感じられるショッピングに中心を持っていってしまう場所でもある。
 


 〜 ☆


660 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 01:59



 全く対称ともいえる南京町の東側の通りを挟んだ向かい側から始まる仲町通りは、
 ブランドショップが軒を並べる通り。

 ごく普通の中学生や、高校生にとってはほとんど縁のないような場所でもあることから、
 今は春休みとはいえ、通りはれいなたち以外に中高校生がいる気配はなかった。

「へぇ…すごぃねぇ…」

 梨華の言葉に、かくかくと頷くれいなとあさ美。
 この通りを歩いていると、まるで場違いかのような空気さえ感じてしまっていたのだ。

 まるで、セレブの街。

 出歩いているのは、とてもキレイでオシャレなお姉さん。
 そして、そのヒトたちが楽しんでいるのは、れいなやあさ美にとってあまり馴染みのないブランド。

 そう、普通の女のコであるれいなとあさ美にとっては、手の届かない、
 いや、それほど興味を覚えるようなブランドではなかったのだ。

 どちらかのいえば、もう少しカワイイ服を扱っている一般的なブランドの方に興味を持っているから。

 逆に桃子は、まるで梨華と真希に付き添ってきたコドモのように振る舞い、
 興味津々といった様子で、そのブランドについて2人に色々と聞いていた。


661 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 01:59



 モザイクとメリケンパークを楽しんだ5人は、周りの景色が黄色くなり始めた頃になると、
 そこを北上し、すぐ近くにある旧居留地付近へと場所を移したのだった。

 そして、歩いて数十分もすると、すぐ目の前に大丸が見え、その空気の変わりように改めて驚きつつも、
 大丸神戸店にあるオープンカフェで、この街の空気を味わいながら、ティータイムを楽しんだのだ。

 普段は、コンセプトは違うものの、自分たちが接客をしないといけない立場から、
 これだけゆったりとティータイムを楽しんだコトがなかった梨華とあさ美と桃子は、
 余計に楽しめたものだった。

 また、れいなも。
 ただ、れいなにいたっては、これだけセレブな空気を感じたコトがなかったこともあり、
 そっちの方に気が取られてしまったのだが。

 そんな中、真希だけはそんな空気に慣れているのか、特に気にした素振り、気後れした素振りを見せずに、
 他の4人をリードして、街の空気を楽しんだのだった。

 そして、これまでずっと歩きっぱなしだった足を休め終え、空気に慣れた頃、
 再び街へと繰り出した5人であった。


662 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 01:59



 梨華と真希が先頭を歩き、その後ろにおこさまチームとなるれいな、あさ美に桃子が続いてた。

 とても不思議な空気を感じられるこの場所。

 モダンで、オシャレな建物が多いと思えば、明治時代の西洋建築も目に入っているその様は、
 一瞬、時間の概念を狂わせてしまうのではないのだろうか、とさえ思える様子だ。

 そして、その中に入っているお店といえば、高級ブランド。
 とてもモダンな現在の内装。

 たしかに、西洋建築とセレブな空気は、雰囲気としてはマッチしているといえば言えるのが。
 それでも特異な光景と言えよう。

 ま、1つだけ確かなことは、ここを歩いているだけで、
 少しお金持ちになったような感覚を覚えてしまう場所ということであろう。


663 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 01:59



 しばらく歩いていると、あさ美と桃子は随分とこの空気に慣れてきたのか、笑顔が零れるようになっていた。
 そう、性格的にも容姿的にもセレブの予備軍と言ってもいい2人だからだろうか。

 しかし、対称的な様子なのは、れいな。
 まだまだ目を泳がせつつ、隣のあさ美の腕にしがみ付いているのだ。

 どうもれいなにとって、このような固い、セレブな空気には、なかなか慣れないものだった。

 最近だと、梨華の影響で少しは女のコらしいカッコに興味を持ってはいるものの、
 つい最近まではラフで、どちらかといえば男のコに近くて、それでいて派手な服を着ていたのだから。

 今日のれいなが着ているカッコだと、それほど違和感を感じることはないのだが、
 やはりまだまだ慣れるには程遠かった。

 どうせショッピングをするなら、こんな固い雰囲気の場所より、
 朝に歩いてきたセンター街に連なっていた、誰でも気軽に入れそうなお店に入るほうスキなのだ。

 この面々で来ていなかったら、自然とため息も零れるくらいだった。


664 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:00



 そして、そんなれいなを含めつつ、歩いていたときだった。
 大きな三角形で構成された建物を見たあさ美が、口を開いた。

「はいってみません?」

 全くそのブランドのコンセプトや意味を理解していなかったあさ美だったが、
 どうせここまで来たら入っておきたいと思ったのだろう。

 何事も経験の為。
 ごく自然の言葉だった。

 そんなあさ美の言葉に、真希が"そ〜だねー"と"ぃぃかも"と同意。

 しかし、その言葉と同時に大きな瞳をさらに大きくさせたのはれいな。
 一瞬考え、2人の話している内容を理解をすると、真っ先に"えぇっ!?"と、
 まるで抗議の声をあげるかのように、大きく声をあげたのだ。

 そして、俯き、呟いた。

「れぇな…」

 とても困ったような顔。
 しかし、真希が賛成をしていることから、しっかりと言葉にして言うことに躊躇いを感じていたのか、
 少しクチビルを突き出し、軽く表情だけで反対を唱えたがっている。


665 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:00



「ん?れぃな、入りたくないの?」

 そんなれいなの様子を見た梨華が、カノジョのそばに近付くと、俯いている小さなコドモを下から覗き込み、
 にっこりと笑顔を零した。

「…」
「はいろ?」

 ここまで近くで憧れの梨華に"入ろう"と言われると、
 れいなにとって反対をする意味などなくなってしまうものであった。 

 そして、梨華に手を握られると、むしろ笑顔で"はぃ"と頷き、真っ先に飛び込んでいったあさ美と桃子の後姿を、
 少々恨めしげに、それでも感謝も込め、複雑な表情で見つめてしまっていた。

 隣のヒトの体温にシアワセを感じながら。



 〜 ☆


666 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:00



 一番最初に、とても明るいベージュ主体のオシャレなお店の中に足を踏み入れた真希の後ろ姿を見ていた梨華は、
 その向こうにやけに見知った顔を発見してしまった。
 そのまま、思わず間抜けな声をあげる。

「へ?」

 もういるはずのない、と思っていたヒト。
 そう、真希と話しているのは、もうすでに他の場所に移動したものと思っていた人物だった。

 そんな梨華とは対称的に、れいなは少し笑顔を浮かべて、
 前で真希たちと話している、少々気まずそうな表情を浮かべた"見知った顔"のヒトを見ていた。

 憮然とした表情を浮かべている梨華の隣で。

「ちょっとぉ」

 "見知った顔"の2人は、梨華の顔を見るとますます気まずそうに、そして申し訳なさそうに肩を竦めた。


667 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:00



「安倍さんにいぃださん、何してるんですかー」
「ゃー…ぁの…」

 そして、2人の両手いっぱいに持たれている"ニモツ"を見て、大きくため息をついた。
 明らかにブランドショップの紙袋と分かるソレを見て。
 名前だけなら誰でも聞いたことがあるその名前。

「教育に悪ぃんですけど…」

 その梨華の言葉に、一瞬顔を見合わせた真希とあさ美から大きな笑い声が零れていた。
 一方のれいなと桃子は、何が面白いのか分からなかったのか、少々不思議そうに首を傾げる。

「そんなコト言われてもねぇ」

 なつみは渋そうに顔をしかめると、圭織を見る。


668 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:01



「忙しいから、こんな機会しか買えないもん」

 まるでコドモように拗ねて言う2人に、"確かに…"と呟くと、ふっと息を抜き、表情を緩めた梨華。
 そのまま、重そうに持っていたなつみの紙袋を"持ちますょ"と、持ってあげる。

「ぁりがと」

 真希も圭織の紙袋を持ってあげる。

「送るんですか?」

 梨華の言葉に大きく、そして嬉しそうに頷くなつみは、仕事をしているときとは全く違う、
 普通の女のコだった。
 ショッピングを随分と楽しめた満足感でいっぱいの普通の女のコ。



 〜 ☆


669 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:04



 買ったばかりの服にカラダを通しているなつみ。

 今日着てきた服装とは全く違う系統の服、どちらかと言えば、さっきまで着ていたラフで明るい色ではなく、
 圭織の着ていた服のようにすっきりとしたパンツ系で、ブラウン色が強いモノになっていた。

 まだまだ着慣れないのか、何やらぶつぶつ呟きながら、しきりに服のあちこちを触っている。
 そんななつみの仕草は、社会人にはとても見えそうにない。

 なつみと圭織を含めた8人は、圭織が買った服をなつみと合わせて東京の方に送る手続きをしている間、
 近くのベンチで、しばし今日の話に花を咲かせていた。

 なつみの話によると、2人は、14時くらいまで北野のあたりで異人館めぐりをしたそうだ。

 街自体がとてもキレイで東京の街では到底味わうことのできない西洋的な雰囲気をし、
 そこをまわっているだけで、カラダがリフレッシュできたような感覚を味わえたとのこと。

 さらに、異人館への入館無料パスを購入したこともあり、スタンプラリーにある全ての異人館を制覇したそうだ。


670 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:04



 そして、このような雰囲気をすごく気に入ったのが圭織だった。
 今のアルバイト先の衣装を少し変えたいと言い出してしまったくらいに。

 西洋的なメイド系の衣装でも、現在の色、少し露出の高い今より、少し時代を遡らせたい、と。
 これにはなつみも少々呆れてしまったものの、とりあえず帰ってから再び要相談とのこと。

 当然のごとく、この言葉に目を丸くした梨華とあさ美と桃子。

 そう、確か思い起こせば、つい半年前に全く同じ理由から衣装を変えたばかりなのに、と。

 気に入ったから…

 そのときも圭織の独断と偏見。
 いや、しっかりとなつみの了解をとり、なつみも手直しをしたのだが。

 とにかく、まだ半年しかたっていないのに、と少々呆れ顔なのだ。

 やっと慣れ始めたのに、と、小さくため息をついたのは、梨華。
 可愛かったのに、と、ごくごく小さなため息をついたのは、あさ美。
 新しいモノは嬉しいとばかりに喜び勇んで、その衣装に想像を働かせているのは、桃子。
 "へぇ"と11回くらい自分の膝を叩いたのは、れいな。
  
 ま、それでも、新しいものは新鮮なキモチになれたりもするのだから、
 次の瞬間にはもうそれぞれのココロの中には楽しみも。


671 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:05



 なつみと圭織は、14時を過ぎてからは、もう当初の予定のトアロードやセンター街、
 旧居留地で"ある程度"ショッピングを楽しんでからメリケンパーク、
 ハーバーランドを楽しむというルートからは完全に外れ、
 梨華たちと同様に地下鉄で三宮の駅までおり、そのまま一気に旧居留地のこの辺りにまでくると、
 そのまま居座り続けたそうだ。

 そして、満足感いっぱいにショッピングを堪能しつくしたとのこと。

 もちろんかなり上機嫌ななつみ。
 さすがに値段は触れなかったものの、なつみが買ったモノに興味を持っているれいなやあさ美や桃子、
 真希が色々と聞いているのを、嬉しげに、そして自慢げに答えていた。

 それが原因だからだろうか、本日の夕食は、当初なつみと圭織の間で考えられていた場所ではなく、
 ショップのヒトに聞いて知った、この辺りでもとりわけ高級な神戸牛が食べられる場所となってしまっていた。

 ま、それにはみんなが両手を上げて賛成をしたコトは当然であろう。
 食べることに目のないお年頃の女のコにとっては。


672 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:05



 そんな中、表情をとろとろに溶かせてしまったあさ美は、まだ夕食までに時間的には余裕はあるものの、
 "もう待ちきれなぃ"と、もう1つ別に行動していた愛たちに連絡をいれようとしていた。

 そして、そんなあさ美の"本能の行動"に苦笑いを浮かべている真希と梨華の横では、
 桃子がなつみに"それだけ買ったなら買ってくださいょ"とおねだりし、
 その様子にさらに苦笑いを浮かべてしまったなつみがいたのだった。




673 名前:6 〜 投稿日:2005/10/17(月) 02:05


 〜 ☆


674 名前:なまっち 投稿日:2005/10/17(月) 02:14

 以上、更新終了です。

 このすれはこれにて終了ってカンジでしょか…
 さて…ふらげぇれぃな写真集でも見てもぇ死んできましょか…

 それでは〜

675 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/10/19(水) 21:15
更新お疲れ様です。
溜まっていた分を読み返していました。
思いっきり羽をのばす皆さんが良いですね。
ついに第一歩の兆しを見せてるようですね。

次回更新待ってます。
676 名前:初心者 投稿日:2005/10/20(木) 00:39
お疲れ様です
あさ美の"本能の行動"いいですね
あと愛の鍵も楽しみです

次回まってます
677 名前:なまっち 投稿日:2005/10/22(土) 00:53

>>675 通りすがりの者さん
 読んでいただいてありがとうございます^^
 もっともっとじっくりと羽を伸ばしている様子を書いていきたかったのですが、
 どうしてもはしょりつつってカンジになってしまってますね(ぁせ
 新しいすれもヨロシクお願いします〜

>>676 初心者さん
 ありがとうございます^^
 こんこんはどうしてもこんなきゃらに(ぁは
 愛の鍵もおたのしみにぃ^^
 それでは、次のすれでもヨロシクお願いしますね^^
678 名前:なまっち 投稿日:2005/10/22(土) 00:59

いしかわさんとさゅの写真集かぁ…
やばぃなぁ…
まだ一枚しか見つけてないけど…
1つのシャツに2人で入ってるのを、写真集が出るって知る前に見つけちゃって、
やばぃくらいにもぇてました(ぉぃ
あぁ…でもあれがれぃなだったら…
たぶん地べたをのた打ち回ったうえに、もぇ死んで、二度とここに戻ってこなかったかも…

2人一緒だったら水着はなしかな?
でも、2人一緒にとるってことはもっともっとアヤシイショットも期待してぃぃのかぁ?(ぉぃ

とか言いつつ(?)、次のすれに移りたいと思います。

それでは、これまでありがとうございました〜

679 名前:なまっち 投稿日:2005/10/22(土) 01:18

 黄色に新しいすれを建てました。
 これからは、そちらの方でよろしくお願いします。

680 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/10(木) 17:15

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