鮮やかすぎる、君がいない夏
- 1 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:12
- 小説初挑戦です。田亀の学園ものを書きます。
時々ミスするどころかミスだらけになるかと思いますが、温かく見守っていただければ幸いです。
『鮮やかすぎる、君がいない夏』
- 2 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:12
- 「ふぁ〜。今日から高校生たい。」
あたしは田中れいな。この4月から高校生になり、今日は入学式の日。
眠い目を擦りながら、新しく入る「モーニング女子高校」へ歩いている。
- 3 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:13
- 「モーニング女子高校」に着いて、クラス表を見ると、あたしは1年B組だった。教室へ向かう途中、どんな子がいるんだろうと思い、胸が高鳴る。
「あ、あったばい」
1年B組に着くと、話し声がドアの外まで聞こえてきた。うん、明るいクラスだ。
恐る恐るドアを開けた。まあ、別にお化けが出てくるわけでもないけれど。
座席表で自分の席を探すついでに、さっき見忘れた、同じクラスの人たちの名前もざっと見た。
…うわ〜、同じ中学の人はほとんどいない。数人いても、特に仲が良かったわけでもないけんね。
ま、友達はこれからつくっていこう。
席に座ってぼけーっとしながら、思い出していたのは「あの日」のことだった。
―――――――― 『あたし……さゆのこと……………ば、ばり好いとぅ……』
『れいなごめん…私、れいなのことは友達としてしか見れないの…』
「さゆ………」
思わずつぶやいた自分に苦笑してしまう。もう忘れたいのに、どうしても忘れられない…。
「さゆ」こと道重さゆみは、中学2、3年で同じクラスだった子だ。自分のことをかわいいと言っていたけど、さゆは本当にかわいかった。ほんわかした性格で、誰にでも―――見た目が不良みたいなあたしにでも優しかったんだ。あたしはそんなさゆにだんだん惹かれていき、卒業式のあとで勇気をふりしぼって告白した。その返事が「友達としてしか見れない」。
まあ、駄目だろうとは思っていた。臆病なあたしは、なかなかさゆに話しかけることができなかったから。時々さゆから話しかけてきてくれたけれど、アガってしまって気の利いた冗談の1つも言えなかった。
結局、告白してからさゆに会う機会も度胸もなく、さゆはあたしと違う高校に進み、今に至っているというわけ。思い出してみると、この1か月間、泣いてばかりだったっけ…。
- 4 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:14
- 「あの、どうしたの?みんな廊下に並んでるよ?」
回想していたら、前の席の見知らぬ子に声をかけられた。ふっと前のほうを見ると、担任の先生らしき女の人が「廊下に並ぶべさ〜」と言っていた。みんな席を立って廊下に行っている。
「あっ、ボーッとしてたっちゃ。ありがと。」
お礼を言うと、声をかけてくれた子はニコッと微笑んで廊下へ並びに行った。
- 5 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:15
- 入学式で校長先生の長話に耐え、教室に戻ると、簡単に自己紹介をした。まずは担任から。
「安倍なつみです。なっち、って呼んでほしいべさ。あ、なっちは北海道出身だからほんのちょっとだけ訛ってるけど、気にしないでほしいべ。」
ほー、先生も訛りがあるんだ。ちょっと嬉しかったりして。
その後は生徒の自己紹介をなんとなく聞いていたけど、気づいたらさっき声をかけてくれた子の番になっていた。
「亀井絵里です。勉強はあんまり得意じゃないので、わからない時は教えてください。1年間よろしくお願いします。」
亀井絵里さん、か。ほんわかしてるところがさゆに似てる。…だめだ、さゆのことは考えるな。
ちなみにあたしは自己紹介で、目つき悪いと思うけれど、別に不良じゃない、と言った。そして直後になっち先生がそっとつぶやいた独り言を、あたしは聞き逃さなかった。
「よかった、不良かと思ってたべさ…。」
- 6 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:15
- その後は親に渡すプリント類が大量に配られて、午前中で学校は終わった。
にぎやかになった教室で鞄にプリントを詰めていると、
「田中さん、じゃあね。」
驚いて横を見ると、亀井さんだった。1秒くらい固まった後で、
「じゃあね、また明日。」
苦手な笑顔を必死でつくる。…たぶん、笑顔になってない。
それに比べて―――亀井さんの笑顔は、「にこっ」と効果音がつきそうなくらいに完璧だった。
軽い敗北感を覚えるあたし。「笑顔」って授業、ないかな………。
- 7 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:16
- 家に帰って、両親と今日のことをいろいろ話した。その中で二人が口をそろえて言ったのは、
「勉強は後で困らん程度にやれば良かから、楽しく過ごすのを最優先にしんしゃい。」
こう言ってくれる親って、そういない。尊敬できる、自慢の親。
その両親に暖かく見守られつつ、高校生活が始まった。
- 8 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/05(火) 14:18
- 今日はここまでです。
更新のペースはコロコロと変わりそうですが、今のところは3〜4日に一回の予定です。
レス、お待ちしています。
- 9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/05(火) 18:24
- 某スレの報告を見て飛んできました。って事で
田亀キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!
タイトルも設定も面白そうで期待です^^
この後、二人の関係がどうなっていくのか今から楽しみです。
頑張って下さい
- 10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/05(火) 22:48
- わぁ〜おもしろそう↑たのしみにしてます☆
- 11 名前:石川県民 投稿日:2005/07/06(水) 11:55
- スレ創立おめでとうございます(ぱちぱちぱち)。
黄板のご報告を読んで、早速来ちゃいました。
担任の先生の最後の一言につい笑っちゃいました♪
また一つ楽しみが増えました(喜) 次回更新楽しみにしてます。
- 12 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/07(木) 13:34
- >>9 名無飼育さん様
一番乗りのレス、ありがとうございます。
タイトルは、ちょっと古め(2000年以前)な、ある曲の歌詞の一節です。その曲知ってるよ、という方はいらっしゃるでしょうか…?
小説に関しては全くの初心者ですが、これからも読んでいただけると嬉しいです。
>>10 名無飼育さん様
ありがとうございます。
楽しみですか!?期待されてしまうと嬉しさ半分、プレッシャー半分です。
ご期待に少しでも応えられるよう、精進していきます。
>>11 石川県民様
ありがとうございます。
一応、笑いあり、涙ありな小説を目指しています。恥ずかしいほどの駄文ですが、温かく厳しい目で見守ってやってくださいませ…。
読者の方のレスがこんなにも嬉しいものとは思ってもいませんでした(感涙)。とても励みになります。
さて、最初の宣言通り、さっそく失敗してしまいました。タイトルが「駆け出し作者」のままではありませんか。
_| ̄|○ バカバカ
こんな作者ですが、今後もよろしくお願いします。
それでは今日の更新です。
- 13 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/07(木) 13:36
- 憂鬱な毎日を過ごしたい、という人はまずいない。もちろんあたしだってそうだ。
それでも、高校に入学してからは憂鬱な日が続いていた。とは言っても、学校が嫌なわけではない。クラス全体が明るくて、むしろ好きなほうだと思う。憂鬱になる理由は、はっきりわかっていた。
…さゆ、だ。
失恋してもうすぐ1か月が経とうとしているのに、あたしはまだショックを引きずっていた。そして、そんな自分がまた嫌になって。今あたしのいる教室の空気に色があるとしたら、あたしの周りは真っ黒になっているに違いない。
「おはよ、田中さん」
どんよりしたままの顔を上げると、爽やかな笑顔の亀井さんがいた。
「おはよう」
気分が沈んでるあたしは、自然と声も暗くなる。
「どしたの、元気ないね。」
「まあ、ちょっといろいろあって。」
「私で良ければ、話聞くよ。話せば少しはすっきりするかもしれないよ?」
「…ありがと。でもごめん、今はまだ話せないっちゃ。」
「そっか。なんか、ごめんね。勝手なこと言って。」
「い、いや、亀井さんは何も悪くなかと。」
- 14 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/07(木) 13:36
- しばらく、気まずい沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは、亀井さんのほうだった。
「あ、あの…全然関係ないことなんだけど……」
「ん?」
「お互い、名字で呼ぶの、やめない?」
「ほぇ?」
思わず変な声を出してしまった。
「れいな、って呼んじゃだめかなと思って。」
「あ、全然よかよ。じゃああたしも絵里って呼ぶばい。」
「…れいな。」
「…絵里。」
「「 ………フフッ 」」
「「 アハハハハッ 」」
くすぐったいような気持ちになって、2人で笑った。
……なんだか、少し元気が出た。
- 15 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/07(木) 13:37
- その日の朝のホームルーム。
「みんな、入る部活は決めてるかい?今日から部活を自由に見学できるみたいだから、よく見て選ぶといいっしょ。あ、なっちは料理研究会の顧問だから、興味があったらなっちに言ってほしいべさ。」
部活かー。どうしよ。中学までは帰宅部で暇だったし、何か入ろうかな。
昼休みの時間になると、上級生が次々と教室に入ってきて、部活の紹介をしていった。テニス部、バレー部、合唱部………。あたしの興味を引くものは特になかった。
放課後。とりあえず、部活をいろいろ見てまわるあたし。
「ねえ、ちょっと見ていかない?」
声がしたほうを振り向くと、かなり真面目そうな雰囲気の人がいた。なんか頭も良さそう。
「何部ですか?」と聞くと、
「ほら、これ。」
―――――――――2時間後。
「あたし、入部します。」
- 16 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/07(木) 13:40
- 翌日。入部届を担任のなっち先生に提出した。
「ほぉ〜。田中ちゃんは囲碁部に入るべか。」
そう、あたしが入ることにしたのは囲碁部。
「囲碁やってたのかい?」
「いや、昨日初めてやったら面白かったからたい。」
昨日、囲碁部部長の紺野あさ美先輩に誘われて囲碁部を見学した。紺野先輩が言うには、
「囲碁ってね、無限の可能性を秘めてるんだよ。例えば、19×19の碁盤だと、一番最初に石を置ける場所は361。最初の5手の可能性だけでも、361×360×359×358×357通りあるんだよ。えっと電卓電卓………つまり、56兆710億2808万5840通りだね。」
「は、はあ。」
「まあ、数字は別にどうでもいいか。要するに、囲碁は奥が深いの。ルール教えてあげるから、ちょっとやってみる?」
どうやら囲碁はあたしの知ってるオセロゲームと似ていて、縦横に相手の石を囲めば取れるらしい。自分の石で囲んだ部分は自分の陣地になって、結果的に陣地が広いほうの勝ち、とのこと。
その他には細かいルールが少しあるだけで、あたしはすぐにルールを覚えた。そしてそのまま紺野先輩に挑戦。なぜか他の囲碁部員が観戦しに来た。先輩は「ハンデね」と言って、最初からあたしの石を9個、盤に置いた。
「む、これならいくらなんでも負けないっちゃ。」
―――――10分後。
「………参りました」
ボロボロに負けてるし。
「うん、田中ちゃん筋はいいよ。続ければ絶対強くなれる。」
「先輩強すぎたい…」
「あさ美ちゃんは初段の腕前だから。ちょっときつかったかもね。」
観戦してた1人が言った。
「あ、まこっちゃん。じゃあ次、まこっちゃんが相手してあげて。」
「わかった。あ、私、二年の小川麻琴。よろしくね。」
「よ、よろしく…。」
- 17 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/07(木) 13:40
- ―――――10分後。
「あ、あれ?負けてる?」
なぜか勝ってるあたし。
「まこっちゃん…囲碁部の面目が丸つぶれだよ。それに対局中ずっと口が半開きだったし…。」
いつの間にか、紺野先輩が携帯で対局中の小川先輩の顔を撮っていた。これを見て全員大爆笑。
―――なんか、囲碁もけっこう面白いし、先輩達も面白い。
「…というわけだっちゃ。説明がずいぶん長くなったけど、文句は作者に言ってほしいばい。」
「?何わけのわかんないこと言ってるべさ。まあとりあえず、田中ちゃんは囲碁部に入るんだね。一生懸命頑張るっしょ。」
- 18 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/07(木) 13:41
- その夜。いつの間にか散らかってしまっていた部屋を少し片付けることにした。
「あ…」
中学3年の時の生徒手帳が出てきた。生徒手帳には日記のようなものを書くスペースがあって、先生に提出すればコメントを書いて返してくれた。中3の時の担任だった中澤先生は、生徒からも他の教師からも人気があった。中澤先生なら信頼できると思ったあたしは、日記のスペースを使って恋の悩みを相談していた。中澤先生は自信の持てないあたしを励ましてくれたり、席替えであたしとさゆを近くの席にしてくれたり…。中澤先生がいなかったら、きっとあたしはさゆに告白する勇気も出なかったと思う。
とっておいていた中学の教科書は全部捨てることにしたけれど、生徒手帳は机の引き出しの中にそっとしまった。さゆのことを忘れたいと思う自分と、忘れたくないと思う自分の両方がいるのだろう。それに、中学校生活自体もかなり楽しかったから、それも忘れたくはない。
「もう1回、中学校に戻りたいばい…」
叶わないことだとはわかっていたけれど、そう願った。
- 19 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/07(木) 13:42
- その後、眠りについたあたしが見た夢の中で―――――中3のあたしは、さゆと楽しくおしゃべりをしていた。
- 20 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/07(木) 13:44
- 今日の更新は以上です。
田中さんの部活のことに関しては、ツッコミなどはご勘弁を…。
- 21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/07(木) 17:38
- 更新お疲れ様です。
田中さんの部活の部長さんがイメージと合い過ぎて笑ってしまいましたw
ある曲、気になって調べてみました。知ってる・・・かも?(どっちやねん
詩を読むと田中さんの置かれた状況と重なるような気が…。今度聴いてみます^^
次回更新楽しみにしております。
- 22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/07(木) 21:21
- 表題のネタ大好きです!某有名アニメのエ(ry でしたよね
内容も期待しています
- 23 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/09(土) 17:52
- >>21 名無飼育さん様
ありがとうございます。
>田中さんの部活の部長さんがイメージと合い過ぎて笑ってしまいましたw
部長さんの雰囲気を出したいがために、あんな部活にしました。なのでそう言っていただけると嬉しいです。
>詩を読むと田中さんの置かれた状況と重なるような気が…。
今気付きました(ぇ 歌詞のほうはあまり意識しなかったのですが、偶然重なっていました。
>>22 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
おっしゃる通り、某有名アニメのエ(ry です。内容のほうはサッパリですが、少しはまともなものを書けるように努力します…。
それでは続きをどぞ。
- 24 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/09(土) 17:53
- あたしは、高校へ通う目的がわからなくなっていた。部活は楽しい。けれども、他には何もない。なんとなく登校して、何となく授業を受けて、部活で少し息抜きして…。毎日、その繰り返し。
こんなにも毎日がつまらなくなったのはなぜ?と自問してみる。――――去年は毎日が充実していたのは、恋をしていたから?……そうなのかもしれない。格好をつけるわけじゃないけど、同じ教室にさゆがいるだけで、あたしは嬉しかった。
それに比べて、今のあたしはただの抜け殻のよう―――――。
- 25 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/09(土) 17:54
- 「えーっと、そろそろ前期の中間テストが近くなってきたべ。4月から今までやってきたところが範囲だから、しっかり復習するべさ。あ、そうそう。テストの1週間前から部活は禁止になるから、みっちり勉強すればいいっしょ。―――みんな嫌そうな顔してるけど、テストが終わったら球技大会やら文化祭やらがあるからね。頑張るべさ!」
朝のホームルームで、なっち先生がそう告げた。
「はぁ…テストかぁ」
ぼそっとつぶやいたら、前の席の亀井さん…じゃなくて絵里に聞こえていたらしく、絵里はあたしのほうを向いて「れいなもそう思った?やっぱりテスト嫌だよね〜」と囁いて笑った。
お互い名前で呼ぼうと決めたのはだいぶ前なのに、まだどこかくすぐったい。
それにしても…絵里って笑顔がとってもかわいい。優しくて柔らかい笑顔だ。
「れいな?どしたの?私の顔に何か付いてる?」
気付いたら、絵里の顔をじっと見ていた。
「いや、なんか絵里の笑顔ってかわいいなー、って思っとったばい。」
言い終わってから、とんでもなく恥ずかしいことを言ったと気付いた。絵里は「もー、からかわないでよ」と顔を真っ赤にして照れていた。
「亀井ちゃんと田中ちゃん、なーに騒いでるべか?」なっち先生に注意されて、
「「な、何でもないです!!」」
綺麗に声がハモった。そして、教室中が爆笑の渦に包まれた…。
- 26 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/09(土) 17:55
- 今日もなんとなく授業を受けて、部活の時間になった。学校生活の中での数少な
い楽しいことかもしれない。昼休みに絵里や他の友達とおしゃべりをするのもも
ちろん楽しいけど。
鞄に教科書を詰めて、さっさと部活に行くことにした。
「こんにちは…―――ッ!!」
部室に入ったあたしが見たのは――――キスをしている紺野先輩と小川先輩だった。
「ん…!!た、田中ちゃん!!」紺野先輩があたしに気付いて、慌てて小川先輩から顔を離した。
「あ、田中ちゃん。驚かせてごめんね。私とあさ美ちゃん、付き合ってるんだ。」小川先輩はのほほんとしている。
「そ、そうだったとですか。」
「そう言えば、田中ちゃんは好きな人、いないの?」
いきなり紺野先輩がこう聞いてきた。
「あたしは……いると言えばいるし、いないと言えばいないっちゃ…」
「むー、はっきりしないなー」
「中学の時に好きな人がいて、告白して振られたんです。ばってん、そん人のこと、ずっと忘れられんくて………」
最後のほうは声が震えていた。泣きそうになるのを必死にこらえる。
「あたし、自分が情けなくてしかたがなかです。いつまでも振られたショックを引きずって…」
「田中ちゃん…」小川先輩の声には同情がこもっていた。
「ごめんね、辛いこと言わせちゃって…」紺野先輩は本当に申し訳なさそうに謝った。
「でもね田中ちゃん。田中ちゃんはショックを引きずるのが情けないって言ったけど…それは決して悪いことではないんじゃないかな。」
「え…」
「ショックを引きずるっていうのは…それだけその子を本気で愛していたってことでしょ?それって、とってもいいことだと思うよ。卑下することはない。」
「先輩……」
紺野先輩の温かい言葉が、胸にしみた。
「あさ美ちゃんの言う通りだよ。もっと胸を張っていけばいい。……よし、じゃあ部活やろうか!」
「まこっちゃん、もう実力的には田中ちゃんに追い越されそうなんだから、しっかりしてよ?」
「だ、だって!田中ちゃん飲み込みが早すぎるんだもん!」
「小川先輩の飲み込みが遅すぎるんじゃなかですか…?」
「だあー!うるさいうるさいー!」
囲碁部はいつも、こんなふうにほのぼのしている…。それが結構好きだけど。
- 27 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/09(土) 17:56
- テストの1週間前になって、部活が禁止になった。つまらないけど、しょうがないから勉強に専念。
そして、テストの日。
テストは2日間に渡って行われる。この1週間でそれなりに勉強したから、まあ学年の平均点くらいは取れるだろう。両親の言う通り、困らない程度に勉強はしている。
―――――1日目の英語、国語、社会、2日目の数学、理科、世界史と無難にテストをこなした。最後の世界史の答案を提出すると同時に「やっと終わったー」という声があちこちから聞こえてきた。
「れいなー、一緒に帰らない?」絵里があたしのところに来て、一緒に帰ることにした。
- 28 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/09(土) 17:57
- 帰り道。
「れいな、テストどうだった?」
「うーん…まあまあやけんね。絵里はどうだったと?」
「結構ひどいかも。数学なんて、『2つのサイコロを投げて、目の合計が15以上になる確率は?』の問題で30分も悩んで、結局わからなかったんだから」
「…絵里、それは3秒あればわかる問題たい。どうやったってサイコロ2つで15にはならないけん、確率は0たい。」
「あっ、そうか。」
ちょっと抜けてる絵里がおかしくて、クスッと笑った。
「あー、れいな今私のこと馬鹿にしたでしょー!」
- 29 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/09(土) 17:57
- 「そういや、絵里って部活は何やっとう?」
「私?料理研究会だよ。れいなは…囲碁部だったよね。」
「そ。なんかやってみたら面白かったけん、入ることにしたっちゃ。」
「れいな、運動は得意?」
「まあ、苦手ではなかとよ。」
「今度の球技大会、何に出ようか。バスケか卓球かバレーボールか…」
「あたしはバスケに出ようと思っとるばい。」
「バスケかあ。じゃあ、あたしもバスケにしよっかなー」
「絵里、バスケできると?」
「わ、私だってドリブルくらいはできるわよ!」
……絵里、ドリブルだけじゃどうにもならんちゃ、と言いたかったけれど、やめておいた。
- 30 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/09(土) 17:58
- 家に帰ってから、あたしは変な気分だった。なんだろう、なんだか寂しい。絵里ともっといたい。
ほんの少しずつ芽生えてきたこの気持ちの名前に、あたしはまだ気付いていなかった―――――。
- 31 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/09(土) 18:02
- 今日の更新は以上です。少しずつ、動きが出てきました。
ネタが思いつか……ゴホンゴホン、都合により時間が速く過ぎている部分もありますが、作者に文才がないんだということで納得してやってくださいませ…。
- 32 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/09(土) 23:24
- 更新お疲れ様です
田中さんに少し変化が起こり始めてる?(ドキドキ
これからの展開に期待です。
そう言えば、リアルの亀井さんも球技は・・・w
次回更新楽しみにしております。
- 33 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/11(月) 13:14
- >>32 名無飼育さん様
ありがとうございます。ドキドキされているようで、作者としては嬉しい限りです。
レスの数を数えてみたところ、最初が3、次が2、そして前回が1でした。
まさか今回は… _| ̄|○
レスがなくても細々と更新していきます。
では、続きです。
- 34 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/11(月) 13:15
- テストから1週間後。今日は球技大会の日。結局、あたしも絵里もバスケに出ることになった。
バスケ部員は、球技大会ではバスケに出られないことになっているから、まあ頑張れば上位になれるかもしれない。
- 35 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/11(月) 13:16
- 実際、他のメンバーが実はけっこう上手くて、うちのクラスはあっさり勝ち進んでいた。あたしもバスケはそれなりにできたから、何本かシュートも決めた。
しかし、ただ1人―――絵里だけが活躍できずにいた。誰よりも一生懸命やってるのが見ていて伝わってきたけど、パスが渡っても相手チームに軽々と取られてしまう。
それでも他のメンバーがそれをカバーして、なんとか決勝に進出。相手クラスは、背の高いメンバーばかりだった。
- 36 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/11(月) 13:17
- 試合開始。手の空いているクラスメートが応援にかけつけていて、必然的に気合も入る。
試合は一進一退の大熱戦で、残り1分の時点で45対47。2点負けている。
「亀井ちゃん!!」
絵里にパスがまわった。汗をかきながら、必死にドリブルをして走る絵里。その時、
「とろいねー亀ちゃん!」
相手チームのキャプテンが、そう言って絵里からボールを奪った。
―――――その言葉を聞いて、あたしは頭に血が昇った。
残り10秒。
「れいな!!」
うちのチームのキャプテンがボールを奪い、あたしにパスを送った。ゴールまでの距離は遠い。必死に走るあたし。
「5、4、3、2…」
観客のカウントダウンを聞いて、あたしはスリーポイントゾーンからシュートした。入れば勝ち、入らなければ負け。
『スパッ』
ボールは弧を描き、スーッとゴールネットに吸い込まれていった。
「ピピーーーーッ!!!!」ホイッスルが鳴った瞬間、体育館が爆発しそうなほどの歓声が上がった。
チームメートが一斉にかけつけて来る。
「48対47で、B組の勝ち!」
審判がそう言うと、再び歓声が上がった。
- 37 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/11(月) 13:17
- 試合が終わって、優勝の余韻にひたりながらタオルで汗をふいていると、絵里の姿が見当たらないのに気付いた。
「絵里は?」と聞いても、みんな首をひねるばかり。
不安になったあたしは、絵里を探すことにした。
- 38 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/11(月) 13:18
- 絵里は、1−Bの教室で自分の席に突っ伏していた。教室には他に誰もいない。
「絵里?どげんしたと?」声をかけると、絵里はゆっくり顔をあげた。
絵里は泣いていた―――――
「え、絵里!?何で泣いてると?」びっくりしてそうたずねた。
「れいな……ごめんね……私…足引っ張って……ばっかりだったね…」
「絵里…そんなことなか。誰も絵里が足引っ張ったなんて思っとらんばい。」
「ううん…。みんなたくさんシュート決めてたのに……私だけが…役に立たなくてっ……」
「それは違っとーよ。絵里は他の誰よりも一生懸命にプレーしとったけん、ばり立派たい。あたしは絵里ば見とって、自分も頑張ろうって思ったっちゃよ。」
「れいな………れいなーーーーー!!!!」
絵里はあたしに抱き付いて、大声で泣いた。あたしはずっと、絵里の背中を優しく叩いてあげていた。
- 39 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/11(月) 13:19
- 「絵里、落ち着いたと?」
「うん。ありがとうね。」
「いいっちゃよ。」
「そういえば、スリーポイント決めた時のれいな、すごいかっこよかったよ。」
「あ、あれは偶然入っただけたい。」
絵里にほめられ、さらにドキッとするほどかわいい笑顔を向けられて―――あたしは、言葉では言い表せないような気持ちになっていた。
そして……もしかしたら、その気持ちの名前にも気付き始めていたのかもしれない――――。
- 40 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/11(月) 13:23
- 今日の更新は以上です。
嗚呼、なんという文章力の無さ…。
全体的に表現は下手ですが、今回のところは特に自信がないのです。もっと勉強が必要かと思われます。
- 41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/11(月) 19:49
- 更新お疲れ様です。
亀井さんに対する田中さんの気持ちがどんどんいい感じに・・・(ワクワク
必死に走る亀井さん素敵です。
ああ、そんな気を落とさないでください。
次回更新も楽しみにしてますよー
- 42 名前:22 投稿日:2005/07/11(月) 23:08
- 更新お疲れ様です
卑下するような内容ではないですよ
田中さん、囲碁は器用でもそっち方面は…、という感じでしょうか?
- 43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/12(火) 11:24
- 更新お疲れ様です。
今日はじめて読みました。田亀はたくさんあっても>>3の設定はありそうでなさそうなので…おって感じでした。
小説初挑戦の方みたいですが、ぜんぜん大丈夫ですよ。読みやすいです。
これからも楽しみにしてます。
- 44 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/13(水) 12:41
- >>41 名無飼育さん様
ありがとうございます。田中さんの気持ちが変化してきました。しかし今日…。
詳しくは今日の更新分で(w
>>42 22様
温かいお言葉、ありがとうございます(泣)。
作者は褒められれば小躍りし、褒められないと凹む、単純な人間です。
作者と田中さんの両方を見守ってくださると嬉しいです。
>>43 名無飼育さん様
ありがとうございます。これまた温かいお言葉(号泣)
>>3の回想シーンの田中さん、実は…中3の時の作者と酷似しています(w
先日、最初から構想を考えていたこの話のラスト部分を書きました。自分で書いて自分で目を潤ませました。(ぉぃ
そのラストにつなぐ部分を書けば、全て完成になります。
では、今日の更新です。今日が誕生日の彼女も、少し出てきます。
- 45 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/13(水) 12:42
- 球技大会が終わり、また普段の生活に戻ると、あたしは虚無感に襲われていた。
午後の授業を受けるだけの気力もなくなり、あたしは保健室に行ってサボることに。
前の席の絵里に「保健室行ってくるばい」と言っておいて、教室を出た。
廊下を歩いていると、なっち先生と会った。そういえば次の授業はなっち先生の英語だったっけ。
「先生、あたし保健室に行ってくるっちゃ。」と言うと、
「大丈夫だべか?あんまり無理しちゃダメっしょ。」と心配そうにしていた。良心が少し痛む。
- 46 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/13(水) 12:43
- 保健室に着いて、そういえばここに来るのは初めてか、と思いながらドアをノックし、中に入った。保健室の先生はあたしよりもずっと背が高くて、なかなか美人だった。
クラスと名前を告げると、その先生は1枚の紙を差し出した。その紙に病状や最近の生活状況などを書き込んで先生に渡す。
「田中れいなちゃんね。私は飯田圭織っていうの。よろしくね。」
「はあ、よろしく。」
「えーと、気分が悪いのね。ベッドで休む?」
「いや、座ってゆっくりしとれば大丈夫ですたい。」
「そう。じゃあ何かあったらカオリに言ってね。」
そう言ってあたしにお茶を出すと、飯田先生は窓際へ行き、そこから外をじっと見て動かなくなった。
- 47 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/13(水) 12:44
- イスに座ってボーッとしながら、あたしが考えていたことは。
―――最近なんだか、絵里のことが気になる。
―――なぜ気になる?いや、もう気付いてるんじゃなかと?
―――あたしは、絵里のことが好き?
―――じゃあさゆは?さゆのことだって忘れられない。
―――結局どっちが好き?
いくら考えても、答えは出てこない。でも、1つだけはっきりした。
―――あたし、絵里のことを好きになりかけてる…。
- 48 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/13(水) 12:44
- 飯田先生もあたしもずっと物思いにふけっていたせいで、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴るまで保健室はシーンとしていた。チャイムで二人とも我に返って、あたしは手をつけていなかったお茶を急いで飲んだ。
「先生、あたし教室に戻りますっちゃ。お茶、ごちそうさまでした。」
「うん。お大事にね。」
考え事をしたせいで授業と同じくらいに疲れながら、教室に戻った。
「あ、れいな。大丈夫?」教室に行くと、真っ先に絵里が声をかけてくれた。
まさについさっき、絵里を好きになりかけてると自覚したあたしは、妙に意識してしまって「うん。大丈夫たい」と言うのが精一杯だった。
その日は、1日中絵里のことが頭から離れなかった……。
- 49 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/13(水) 12:44
- 次の日。朝、いつも通りに起きて、いつも通りに朝ご飯を食べて、そしていつも通りに家を出た。
家から学校までの距離はだいぶ短いから、運動がてら歩いて通っている。
やはりいつも通りに通学路を歩いていると、道の向こうから、自転車に乗った高校生くらいの女の子が来た。特に気にも留めずにすれ違おうとした瞬間、「あ…」という声が聞こえた。何だろうと思ってその女の子を見るあたし。
同じようにあたしを見ていた女の子は――――さゆだった。
「れいな………」
さゆは何か言おうとしているけど、何と言えばいいのかわからない、というふうな様子だった。
あたしはと言うと―――頭の中が真っ白になっていた。心臓がバクバク言ってることだけがわかった。
お互いに言葉が出ず、沈黙が流れる。そして――――あたしは、なぜか走って逃げてしまった。
- 50 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/13(水) 12:45
- 学校に着いてからも、ずっと心臓はドキドキしていた。会ったのは告白した時以来だから、3か月ぶり。しかも、突然ばったり会ったから、思い切り動揺して逃げてしまった。
でも…さゆの顔が、頭から離れない。絵里のことが頭から離れないと思ったら、今度はさゆ。
―――自分自身の気持ちが、分からない……。
- 51 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/13(水) 12:45
- 1時間目の英語が始まっても、頭の中がずっともやもやしていた。なっち先生が教科書を読む声も頭に入ってこない。
―――あたしは間違いなく、絵里を好きになりかけてる。なのに……今朝、さゆに会った時、あんなにもドキドキした。嬉しいとさえ思った。
―――ワケガワカラナイ………。
「じゃあ、今読んだ部分の和訳を…田中ちゃ…」
「あーー、もうわけがわからんっちゃ!!!!」
思わず叫んでから、はっとした。教室中が静まり返って、あたしに視線が集中している。なっち先生は目を丸くしてぽかーんとしていた。
「あ、いや…その…す、数学の宿題をこっそりやっとって、それが全然わからんくて…すいましぇん…。」
それから慌てて英文を和訳したけれど、教室にはずっと微妙な空気が流れていた……。
その後はうっかり大声を出さないように気をつけて、授業を受けた。とは言っても、相変わらず先生の話は全く聞いていなかった。
- 52 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/13(水) 12:49
- 今日の更新は以上です。田中さん揺れています。
次回は、学校行事の中でも一番代表的なものを書きます。
- 53 名前:22 投稿日:2005/07/14(木) 00:36
- 田中さん相当悩んでますねwそして保健の先生GJ!
一番代表?なんだろ?
- 54 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/14(木) 14:36
- 更新お疲れ様です
ぬぉぉぉぉぁあぅぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ・・・・・・・・
よりによってこんな時に・・・w
保健室の先生と言えばやっぱりあの人ですよねぇ
次回更新も楽しみにしております。
- 55 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/15(金) 13:15
- >>53 22様
保健室の先生GJですか?ありがとうございます!作者の中のイメージ通りに描いてみました。
>>54 名無飼育さん様
ありがとうございます。
>よりによってこんな時に・・・w
ちょっと邪魔が入ってしまった格好でしょうか(w 田中さんが悩む様子をうまく表現できればと思います。
>>44で、「ラストにつなぐ部分を書けば、全て完成になります」と書きましたが、そのつなぎ部分がなかなか書けずに悶えております。時間にして約一月分なのですが…。
最終手段は「それから一ヶ月が過ぎた。」で済ましてしまうことでしょうか(殴
それでは続きです。作者の考える「一番代表的な学校行事」はこれでした。↓
- 56 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:16
- 球技大会が終わってすぐ、今度は文化祭の準備をする時期になった。
文化祭の大まかな内容は、1年の全クラスと3年の半分が食べ物や飲み物などの模擬店、2年の全クラスと3年の残り半分がゲームなどの模擬店を出し、一部の文化部が展示や発表をする、というものらしかった。
話し合いの結果、うちのクラスの模擬店は無難な「かき氷屋」に決まった。たぶん、かき氷なら楽だとみんなが考えたんだろう。
ちなみに、展示や発表のある部活の中には料理研究会も含まれていて、手作りのお菓子を売るらしい。料理研究会の人が作るんだから当然おいしいんだろうけれど、絵里いわく「先輩から聞いたんだけど、数年前に、トイレの味がするお菓子を作った伝説のOGがいるらしいよ」。
トイレの味……怖いもの見たさからか、一度食べてみたいと思った。
- 57 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:17
- 模擬店の準備は、材料と器具を揃えて、看板をデザインしたりするだけでオーケーだった。囲碁部のほうは展示も発表もないから、あたしが文化祭関連でしたことと言えば、かき氷用のシロップを買いに行ったことと、看板作りを手伝ったことぐらいしかない。
そうして、文化祭の日になった。
- 58 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:18
- うちのクラスの店は、全く普通のかき氷屋ながらそこそこ好評のようだ。
いや、1つだけ、どう考えても普通じゃないものがあった。
―――なんであたしだけ、猫の着ぐるみ!?
実は前日、あたしはいきなり着ぐるみを渡された。誰が考えたのか、「れいなに猫の着ぐるみを着せたら絶対似合う」という案が満場一致で採決されたとか。それで、あたしには内緒で着ぐるみを準備したらしい。頭が痛い……。
そして今日、実際に着てみたら。
「あはははははははっ!!!!れいな似合いすぎ!!!!」
何がおかしいのか、あたし以外の全員が笑いすぎて涙が出ていた。
- 59 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:18
- 午前中はずっと、かき氷の売れ行きは好調だった。仲良く手をつないで入ってきた紺野先輩と小川先輩は、着ぐるみを着たあたしを見てから、たっぷり5分間は笑い続けていた。
そんなにあたしの着ぐるみ姿は面白いのかな……。
しばらくすると交代の子が来て、あたしは自由時間になった。着ぐるみを脱いで、人でいっぱいの廊下に出た。
―――絵里のところにでも行くかな。
- 60 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:19
- 料理研究会のところに行くと、今はそんなに人がいなかった。それでも置いてあるお菓子の量は結構少なくなっていて、よく売れたことがわかる。売り子をしていた絵里に声をかけた。
「絵里、売れ行き良さそうっちゃね。」
「あ、れいな。かき氷のほうはどう?」
「こっちも好調やけん。」
「やっぱり着ぐるみ効果?」
「絵里までそげんこと言うと。だったら絵里も着ぐるみ着ればいいけんね。」
「や、私は今のままでも十分かわいいから大丈夫。」
絵里を軽く殴っておいて、あたしもお菓子を食べてみようと思った。
「どれにする?」
「うーん…じゃあ絵里が作ったのにするばい。お手並み拝見、てやつ?」
絵里手作りのクッキーを買って、その場で食べてみた。
「ん…おいしいとよ!」
「ホントに!?ありがとう!ああ良かったー。」
最高の笑顔になった絵里を見て、あたしまで嬉しくなった――――。
- 61 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:19
- 廊下に出てぶらぶらしていたら、思い切り人とぶつかった。
「すいません、大丈夫ですか。」
「こちらこそすいません…あ……。」
ぶつかった人を見て、心臓が止まりそうになった。
「さゆ………」
前に偶然会った時と同じように、驚いて2人ともすぐには言葉が出なかった。
「れいな、あの…」
「ふぇ?」
「今、時間ある?」
「え?あ、うん。」
「……少し、話さない?」
- 62 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:20
- 近くにあった、文化祭で使われていない教室に入って、置いてあった椅子に腰掛けた。
「れいな元気だった?」
「うん。さゆも元気そうやけんね。」
「ところでこの前会った時、どうして逃げたの?」
「…ごめん、あの時パニックになってたっちゃよ。」
「そっか。実は私もパニックになってたの。」
おかしくなって、2人ともクスッと笑った。
「あのね、れいな」
「なん?」
「その…3月にれいなが告白してくれた時、私れいなに『れいなは友達としてしか見れない』ってしか、言わなかったんだよね。」
「あぁ…そうだったけんね。」
「後になって考えたら、なんだかすごい素っ気なかったかなあ、って思ったの。ごめんね?」
「い、いや、別に謝らなくてもいいっちゃよ。」
「なんか、今になってからこんなこと言うのも変だけどね、れいなに『ばり好いとう』って言われた時、本当はすごく嬉しかったよ。」
顔が燃えるように熱くなるのを感じた。
「素っ気ない返事をしてれいなを傷付けちゃったかな、って思って。だから1回れいなと話したかったの。」
「さ、さよか…。」
「うん。でも、れいなが元気そうで良かった。今日ここに来て、良かった。」
そう言って、さゆはあたしをギュッと抱きしめた。頭の中が真っ白になる。
―――さゆは優しさから抱きしめてくれたんだろうけれど……あたしには、その優しさがあまりにも優しすぎて、逆に辛かった…。
- 63 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:20
- 「それじゃ…私そろそろ帰るね。」
「うん…。」
「じゃ……」
さゆが教室から出る直前、自然に言葉が出た。
「さゆ…ありがとうね。」
さゆはびっくりしたように振り向いて、それからフッと微笑んだ。
さゆが教室を出て行ってからも、あたしはしばらく動けなかった。
―――やっぱりさゆのこと、忘れられない………。
- 64 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/15(金) 13:21
- その後は、自分の教室に戻って(しっかり着ぐるみを着て)かき氷を売った。絵里も合流してにぎやかだったけれど、あたしは心ここにあらず、だった。
そして、気が付いたら文化祭も終わりの時間になっていた。
- 65 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/15(金) 13:26
- 今日の更新は以上です。
知らず知らずのうちに、笑いをとることを考えているような(w 最初に笑わせて最後に…になるかは作者の腕次第ですね。
次回、大きな動きがあります。というよりも、作者が無理矢理に動かします。
- 66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/16(土) 10:23
- 更新お疲れ様です。
あ"ぁぁぁぁぁ・・・またこんn(ry
代表的な学校行事なのに経験したことない自分って・・・
次回更新楽しみにしております。
- 67 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/17(日) 11:29
- >>66 名無飼育さん様
ありがとうございます。そして、じらしてごめんなさい。悲鳴を聞いて(見て?)いるうちに罪悪感が出てきました(w
何もない道を車で走るよりも、途中にバナナの皮やら落とし穴やらがあったほうが面白いかと考えたもので(w
さて今回の更新分ですが、これまた表現その他もろもろに自信が全くないところなので、2回に分けるつもりだったのを予定変更して1回で終わらせてしまいます。
他の作者の方々の田亀を読むたび、感動をもらう代わりに自信を奪われてゆく最近です。
自信のないところはさっさと流して、自信のあるところをじっくりやろうかと…。
- 68 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:30
- 文化祭の次の日は、振り替え休日。その次の日、あたしは体調を崩して学校を休んだ。さゆと絵里のことでかなり悩んで、精神的に疲れたんだろう。熱を出して1日中寝ている羽目になった。
それでも、ベッドで横になりながら考えるのは、結局同じことで…。
―――あたしが本当に好きなのは絵里?それとも、さゆ?
答えの出ない疑問を何度も何度も自分にぶつけて、余計に疲れる。それでも、また同じ疑問をぶつけてまた疲れる。その繰り返しだった。
- 69 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:31
- 次の日になると、熱は下がっていた。そのかわり………「ある気持ち」が、心を埋め尽くしていた。
朝ご飯を食べて部屋に行くと、あたしは身支度もせずにベッドに横になった…。
20分ほどして、あたしが部屋から出てこないのを不審に思って、お母さんが部屋に来た。そして、ベッドで横になっているあたしを見つけると、「まだ具合悪かと?」と聞いてきた。無言で首を横に振るあたし。続けてこうつぶやいた。
「あたしもう―――学校に行きたくなか……」
- 70 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:32
- 少し間があって、「なんで行きたくなかと?」と聞かれた。
「もう疲れたっちゃ…。。」
「じゃあ、れいなは学校へ行かんとどげんするつもりと?」
「……しばらく1人になりたいばい。どこかに一人旅でもしたいっちゃ。」
「れいな、とりあえず学校に行きんしゃい。行けば楽しいと思えるっちゃ。」
「お母しゃんにはどうせあたしの辛さなんてわからんばい!!!」
「…っ!れいな!いい加減にしんしゃい!!」
「………」
お母さんに背を向けながら、あたしは涙を流した。もう、何もかもがどうでもいい気分だった。
「……勝手にすればよか。」
そう言って、お母さんは部屋を出ていった。しばらくして、居間のほうから「もしもし、1‐Bの田中れいなの家の者ですが…れいながまだ体調が悪いと言ってまして、すいませんが今日もお休みさせて頂きます…。はい、よろしくお願いします。」という声が聞こえてきた。
あたしは、大きくため息をついた。
「……登校拒否、かぁ…。」
- 71 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:32
-
――――――――――
- 72 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:33
- あたしは、ずっと学校を休み続けた。たいていは家でゴロゴロして、たまに勉強を少ししたり、外をぶらぶら散歩したりした。正直、かなり退屈だったけれども、特に何かをしようという気にはならなかった。両親はそんなあたしにしばらくは何も言わなかったが、学校を休み始めてから1週間後、突然お母さんが「心療内科ってところに行くばい」と言い出した。なんでも、あたしみたいに精神的にストレスがたまっている人のための病院らしい。この1週間の間に両親が相談して、心療内科に行こうと決めたようだった。
あたし自身も、決して今の状態を望んでいるわけではないから、その心療内科とやらに行ってみようという気になった。
車で10分ほどのところに、「保田心療内科」の看板があった。お母さんと一緒に中へ――――
- 73 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:33
- 1時間後。保田心療内科を出て車に乗ったあたしの第一声は「さっぱり意味がわからんばい」だった。
院長の保田先生は顔がちょっと怖い上に、哲学者みたいなことばかり言って話の意味も全然わからなかった。さらに、どこからか「キリキリキリキリ…」とかいう音が聞こえてきて、余計に怖くなった。これが心療内科というものなんだろうか。あたしが理解できたのは、帰りに「気分を少し高揚させる薬」をもらったということだけだった。
- 74 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:34
- 家に戻っても、これと言ってすることはない。そんな時はいつも、2階の部屋のベッドに横になって物思いにふけるのがあたしの癖。
―――絵里、今ごろどうしてるかな…。そういえば学校の授業もだいぶ進んだんだろうな。もう1週間も休んでるし。
と言うか、あたしは一体何やってるんだか。何でいきなり登校拒否になるかな。最低………。
思考がだんだん悪い方向に向かっていた時、玄関のチャイムが鳴った。お母さんがぱたぱた走っていってドアを開ける音がした。そしてすぐに「あら、こんにちは」と言って、次にあたしに呼びかけた。
「れいな、安倍先生がいらっしゃったっちゃよ。」
- 75 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:35
- お母さん、なっち先生と3人で居間のテーブルを囲む。なっち先生は授業のない時間を利用して来てくれたらしい。
「田中ちゃん久しぶりだべさ。元気してたかい?」
1週間ぶりに会ったなっち先生は、いつものような笑顔だった。
「まあ、体はいたって元気ですたい。」
「そっか、それなら良かったべさ。田中ちゃん突然学校に来なくなったから、なっちびっくりしたっしょ。」
「先生、ご迷惑おかけして本当に申し訳ありません。」
「いえいえ大丈夫ですよお母さん。あまり心配なさらないでください。あ、それと配布物を色々持って来ましたので。」
配布物の中には宿題も含まれていた。ちょっと顔をしかめていると、「田中ちゃん、宿題は気が向いた時にやってもいいべさ。提出は別にしなくてもいいっしょ。」と言われた。
- 76 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:35
- なっち先生は次の時間に授業があるらしく、20分ほどで学校に戻っていった。
帰り際に「あと1週間もしないで夏休みだけど、なっちもクラスのみんなも、いつでも待ってるっしょ。来たくなったらでいいから、学校に来てみんなに顔見せてあげてほしいべ。」と言ってくれた。お母さんは「お忙しいのにわざわざありがとうございました」と言って深々と頭を下げた。あたしも軽く頭を下げた。
なっち先生が帰ってから、こう言われた。
「あんた、いい先生に恵まれとうね。心配してわざわざ家まで来てくれたっちゃよ。」
あたしは、黙ってうなずいた。
- 77 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:36
- 1学期終業式の前日、つまり夏休みが始まる2日前の放課後。あたしは、2週間ぶりに学校へ行ってみた。懐かしさがこみ上げる。入学式の日に初めて教室へ行った時のような、心地良い緊張感があった。
教室の前に来て、1つ深呼吸。そして、そっと戸を開けた。帰りのホームルームが終わってすぐの時間だったからか、教室にはまだたくさん人がいた。みんなあたしに気付いて、「あっ、れいなだ!」とか、「久しぶり〜!」とか、声をかけてくれた。1人1人に手を振ったりしながら、自分の席に向かった。
「れいなお帰り。」
「…ただいま、絵里。」
2週間ぶりに会った絵里の、以前と変わらない、柔らかな笑顔。しばらく見とれてしまったのは、内緒にしておこう―――。
- 78 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:37
- しばらく教室でみんなと話した後、部活にも顔を出してみた。
「こんちは。」
「こんにちはー…って田中ちゃん!!久しぶりだね!元気だった?」
紺野先輩が嬉しそうに駆け寄ってきた。小川先輩や他の先輩達も、あたしを見てニコニコしている。どうやら、「1年の子が不登校になった」という噂が結構広まっていたらしく、あたしが部活に来ないので紺野先輩がまさかと思って確かめてみたら、やっぱりあたしだと分かって心配していたとのこと。
「心配かけてすいましぇん。」
「いいのいいの。来てくれて嬉しいよ。さ、一局打とう?」
ひさびさの碁は、やっぱり面白かった。最初は初段の紺野先輩に置き石(ハンデ)9個でも勝てなかったのが、今では置き石4個でいい勝負になってきた。
紺野先輩との対局が終わって互いに一礼したあと、こう尋ねられた。
「いきなりだけどね、田中ちゃん、囲碁は楽しい?」
「もちろん。ばり楽しかとです。」
「よし、じゃあ特にどんな時楽しいと思う?」
「うーん…やっぱり勝った時ですたい。負けるとちょっと嫌になるっちゃ。」
「ふむふむ。まだまだだね、田中君。」
「にゃ?」
いきなり口調が変わった紺野先輩に驚いて、猫の鳴き声みたいな声が出た。
「あたしはね、難しい局面でうんうんうなって考えてる時が一番楽しいんだよ。勝ったから楽しいとか、負けたから楽しくないとかいうことはないのね。この気持ちがわかるようになれば、何倍も囲碁が楽しくなるよ。」
「はー…。先輩かっこよかとです。」
「でもさ、あさ美ちゃん大会で負けた後はいっつもふてくされて、お菓子ヤケ食いしてるよね。」
小川先輩のツッコミがはいって、部室中が笑いに包まれた。
- 79 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:37
- 部活が終わり、廊下を1人で歩いているあたし。ふと横のほうを見ると、家庭科室に電気がついていた。どうやら料理研究会のようで、顧問のなっち先生も生徒と一緒に談笑しながら後片づけなどをしていた。
そして、無意識のうちに探していたのか、絵里の姿も見つけた。あたしの知らない子と楽しそうにおしゃべりをしている。
………あたし、嫉妬してるかも。
- 80 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:38
- 家に帰って、いつものように部屋で考え事。
―――あたしはもう、嫉妬するくらいに絵里が好きなの?
―――だったら、告白すればいい…。
―――じゃあ、さゆは?
さゆのことを考えると、胸が痛くなる。中学の時、辛くなるくらい本気でさゆを好きだったから、絵里に対する気持ちに気付いてからは戸惑ってばかり。
今でも時々、さゆと他愛のない話でもしたいなと思うことがある。
―――さゆと絵里、二人とも好きで好きでしかたがなか…。
- 81 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:38
- 結局その後、1度も学校へは行かず、夏休みになった。
- 82 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:39
- 夏休み初日。実は学校で夏期講習のある日だったけれど、あたしはベッドに横になっていた。講習があることは親にも言っていない。
「れいな、朝からゴロゴロしてないで机の上でも片付けんしゃい。ずいぶん散らかっとーよ。」
お母さんが部屋に入ってきて、机の上に散乱しているプリント類を片付け始めた。
「…れいな、今日、講習あると?」
「あぁ、うん。」
そう言えば、夏期講習のお知らせのプリントもあったっけ、と思い出しながら返事をする。
「行かんと?」
「……うん。」
「………どうして…どうして学校に行きたくなくなったと?そんなに学校が嫌なら、もう辞めればいいっちゃ……。」
―――お母しゃん、泣いてると?
―――あたしのせいで?
お母さんが泣いて部屋を出ていったと同時に―――あたしも、こらえきれずに涙を流した。
半年前のあたしは、親を泣かすなんて夢にも思っていなかった。今までは、別に「悪い子」ではなかったから。そんなあたしが、今では登校拒否になって親を泣かせて。こんな未来を、一体誰が予想し得ただろう―――。
そう思うと自己嫌悪は強くなるばかりで、あたしはしばらく泣き続けた。
- 83 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:39
- それからは、毎日、本当に毎日のように、「説教」をされ続けた。
「高校ば卒業せんと大学に行くこともできんばい。働くにしても、中卒だとどこも雇ってくれんっちゃよ。」
「最低限、高校ば卒業せんと、将来に絶対後悔することになるばい。」
「とりあえず、でよかからまずは行ってみんしゃい。一歩をふみださんと、何も始まらなかとよ。」 こんなふうなことを、毎日1時間近くも聞かされた。最初のほうはそれでも聞いていたけれど、前に言ったことを繰り返し聞かされるころになると、さすがにうんざりしてきた。でも、あたしは反抗もしなかった。本当のことを言うと、心の中ではかなり毒づいていたけれども。毎回説教される度に、心の中で「結局、この人は何も分かっとらんばい」と毒づいても、口には出さなかった。反抗するのさえも面倒だったから。
それでも、お母さんが部屋を出ていった後はいつも涙が出てきた。怒り、悲しみ、罪悪感、自己嫌悪…。いろいろな感情が、せきをきったように溢れだしてくる。
- 84 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/17(日) 11:40
-
結局、あたしは講習にも出ず、友達と遊ぶこともせず…本当に何もしないまま、夏休みは過ぎていった。
- 85 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/17(日) 11:43
- 今日の更新は以上です。作者にしては大量更新でした。
繰り返しになりますが、本当に自信のないところなので…。軽く読み流していただければと思います。
次回は………とうとう、とうとう、本当にとうとう(w、彼女が動きます。
- 86 名前:22 投稿日:2005/07/17(日) 22:06
- 更新お疲れ様です
田中さん、人生ステップアップの第一段階ですね。形は違えど誰にでもこういうコトはありますよね。次回も期待しています。
- 87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/18(月) 01:15
- 楽しく読ませていただいてます。
ただ、もう少し、小まめに改行してあったほうが、
読みやすいのですが。。。
- 88 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/18(月) 17:01
- 自分はこの田中さんと同じことを経験しているので(学校の方)、
今回の話はすごく身につまされました。素晴らしいと思います。
これから彼女達がどう動いてゆくのかとても楽しみです。
- 89 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 08:57
- 更新お疲れ様です。
た、確かに落とし穴がありましたらスリルはありますねw
田中さん、悩んでますね
私自身も理由は違えど経験があるのでなんか染み入ります。
彼女がどういった結論を自分に出すのか楽しみです。
次回更新も楽しみにしてます
- 90 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/19(火) 13:48
- >>86 22様
ありがとうございます。
10代というのは難しい年頃ですよね。田中さんの応援、よろしくお願いします。
>>87 名無飼育さん様
ご指摘をありがとうございます。見直してみると確かに読みにくい…。
今後も、ここをこうすればどうかなどありましたら、どんどん教えていただきたいです。
ただし、もっとまともなものを書いてほしいというご要望にはお応えできません(w
>>88 名無飼育さん様
ありがとうございます。田中さんと同じ経験をされた方に読んでいただけると嬉しいです。
途中途中にメッセージのようなものを込めて書いていますので、読者の方に伝わればと思います。
>>89 名無飼育さん様
ありがとうございます。やはりメッセージらしきものを読み取っていただけると幸いです。
この小説は一応田亀ですが、道重さんにはバナナの皮や落とし穴になってもらっています(w
从*・ 。.・从<……
_| ̄|○ ゴメンヨシゲサン
最近、やや夏バテ気味です。作者の住んでいる地域は冬は大変に寒いので、暑さもさほどひどくはないと思いますが…。夏に沖縄へ行ったら、熱中症で倒れるかもしれません(w
夏の暑さに負けず、今日も更新していきます。
- 91 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:49
- 2学期が始まってから1週間ほどした日の午前中。家に電話がかかってきた。
「れいな、学校の保健室の先生から電話たい。」
- 92 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:49
- 「もしもし。」
「もしもし、田中?保健室の飯田です。」
「あ、どうも。」
「あのね、今から来ない?」
いきなりそう言われて面食らった。そして、怒りを覚えた。結局周りはみんな、学校に行けとか来いとかしか言わない。来いと言われてはいそうですか、で行けるんなら、最初から不登校になったりはしないのに……。
あたしがしばらく黙っていると、飯田先生がこう言った。
「教室で授業受けなくても別にいいからさ。保健室でお茶でも飲みながら、圭織とお話しない?」
- 93 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:50
- 「失礼します。」
「あ、田中。良かった、来てくれたんだ。」
お茶に惹かれたわけではもちろんない。授業をサボってもいいと言われたから、でもない。ただ直感で、この人はあたしの気持ちを無視して「学校に来い」としか言わない人ではない、と思った。
お茶を出してもらい、テーブルをはさんで飯田先生と向かい合って座った。
「単刀直入に聞くけど…学校で何か嫌なことでもあった?あ、言いたくなかったら無理に言わなくてもいいよ。」
「…覚えてる限りでは、何もなかとですね。」
「そっか。じゃあ、慣れない高校生活でちょっと疲れたのかな?」
「たぶんそうだと思いますたい。」
「授業についていけないことはある?」
「自分の中では大丈夫かと。」
「そっかそっか。……じゃあさ、しばらくの間保健室で過ごすってのはどう?」
「保健室で?」
「そう。8時から10時くらいの間の好きな時間でいいからここに来て。で、隣に空き部屋があるから、そこで少し自習して、ある程度やったらおやつでも食べると。たぶんだけど、多少のんびりやるのが田中のペースなんじゃないかな。」
「はあ…。じゃ、そうしますばい。」
「それじゃ、なっちと家の方にもそう伝えておくね。」
直感、当たってるかも。そう思った。
―――飯田先生なら、頼りにしてもいいかもね……。
- 94 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:51
- 次の日から、「保健室登校」が始まった。
10時頃、保健室に行って、隣の空き部屋で自習を始める。
……1人でやれば、結構集中できる。
元々あたしは、どちらかと言うと仲間とわいわい騒ぐより、1人でいるほうが好きだった。もちろん、友達と騒ぎたい時もあるけれど、大抵は1人でいると落ち着けた。
そんなわけで、自習は結構はかどった。当然、休んだ分だけ勉強は遅れているけれど、両親は「勉強のことは気にしなくても良かとーよ」と言ってくれている。
昼休みになるまで集中して勉強し、昼ご飯は保健室で食べた(飯田先生は昼ご飯も食べずに交信していた)。
たまには1人で昼休みを過ごすのもいいものだな、なんてことを考えていると、保健室とあたしのいる部屋とを仕切る戸がノックされた。
「田中ちゃん元気かい?」
「あ、なっち先生。」
「1人で寂しくないべか?」
「まあ、たまには1人もいいかな、って思っとったばい。」
「そっかい。あ、そうそう。今朝ね、ホームルームで田中ちゃんは保健室にいるから、時々会ってあげてって言ったら、亀井ちゃんに伝言頼まれたべさ。」
「絵里から?」
「うん。『話したいことがあるから、放課後になったら学校の裏にある公園に来て』って。亀井ちゃんが直接言えばいいんでないかい?って言ったら、泣きそうな顔になってたべさ。田中ちゃん、亀井ちゃんと何かあったべか?」
「いや、何もなかとですよ。」
「ふうん。ま、とりあえずそういうことだから。忘れたら駄目っしょ。」
そう言ってなっち先生は帰っていった。
―――話したいことって何だろ……。
- 95 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:52
-
その後、2時間ほど勉強して、こっちの世界に戻ってきた飯田先生とお茶を飲みながら世間話なんかをして。
そして、放課後になった。
- 96 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:53
- 学校の裏にある、ほとんど使われていない小さな公園。そこに行くと、すでに絵里がベンチに座っていた。
「絵里。」
呼びかけると、絵里は笑顔を見せてくれた。けれども、その笑顔はどこかぎこちなかった。
あたしは、絵里の隣に腰かけた。絵里と2人っきりだと思うと、どうしてもドキドキしてしまう。
「ごめん、遅くなったけんね。」
「ううん、大丈夫。」
そこで会話が途切れる。絵里は何も言わない。1分くらいの沈黙が、何十分にも感じられた。
「……それで、話したいことって?」
「………」
「………」
「…あのね。」
絵里はゆっくりと話し始めた。
「球技大会の日のこと、覚えてる?」
「あぁ、覚えとーよ。」
「なんだかね、バスケしてる時のれいな、すごく輝いて見えたの。かっこいいなあ、って思った。」
面と向かって「かっこいい」と言われ、恥ずかしくなった。
「そしたらね、何も役に立てない自分が情けなくなって……決勝戦が終わったらすぐ教室に行って、ずっと泣いてた。」
「でも…すぐにれいなが来て、慰めてくれたよね。あの時、言葉にできないくらいに嬉しかったよ。最初はれいなのこと、ちょっと恐そうだと思ってたけど、本当はこんなにも温かい人だったんだなあって。」
「たぶん、その時からなのかな。」
「……………れいなのこと、好きになってたの。」
- 97 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:54
- 「えっ?」
たった今、絵里に言われたことを理解するのに、しばらくかかった。
「ごめん、びっくりしたよね?でも……本気なの。れいなが学校に来なくなって
から、寂しくて寂しくて仕方がなかった。れいなともっと一緒にいたい。だから
……付き合って、ください。」
何か言わなければ、とは思った。けれども、言葉が出てこない。何回目かの沈黙が流れる。
「……絵里の気持ち、ばり嬉しかよ。」なんとか言葉を絞り出した。絵里は俯いている。
「ばってん……あたし今、自分のことが大嫌いだっちゃよ。何もかもが中途半端で…。だから、今の中途半端な気持ちで付き合っても、絵里に申し訳なかと。」
俯いている絵里の瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた……。
その様子が、あまりにも綺麗で、そしてあまりにも切なくて。あたしは、絵里をそっと抱きしめた。
「ごめん…。今はまだ、付き合うことはできないけん。でも……あたしも絵里のこと、好いとうよ。それだけは忘れないでほしいばい。」
あたしも、絵里のことは好き。それを聞いて安心したのか、絵里は本格的に泣き出してしまった。
そしてあたしは……球技大会の日と同じように、絵里を抱きしめながら、背中をポンポンと軽くたたいてあげた。
- 98 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/19(火) 13:55
- しばらくして絵里が落ち着いてから、あたしはゆっくり口を開いた。
「絵里…少しだけ時間が欲しいっちゃ。あたしが自分に自信を持てるようになるまで……それまで待っててほしか。」
「…わかった。ずっと待ってるからね。」
「ありがとう…。」
ただの自分勝手なワガママだった。それでも絵里は「ずっと待ってる」と、言ってくれた。
――――――「今はまだ付き合えない」。この選択が正しかったのかどうかはわからない。もしかしたら間違いだったのかもしれない。でも、あたしはこの選択で良かったんだと思う。例え、いつか後悔する時が来たとしても…………。
- 99 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/19(火) 13:59
- 今日の更新は以上です。なぜだかマウスの調子が悪く、メモ帳から本文をコピーしようとするとマウスポインタが動かなくなったりでイライラしました(w
ようやくここまで来ました。次回で前半は終了…でしょうか?展開が速くなっていくと思いますが、どうかお許しを(ペコペコ)
- 100 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 23:57
- 処女作とは思えません 素晴らしいです。
- 101 名前:22 投稿日:2005/07/20(水) 00:52
- 更新お疲れ様です
先生コンビがイイ味出してますね。こんなセンセーいたらなぁって思います。そして田中さん、しっかりと自分を見つめてる感じですね。トンネル抜けるまであとすこしかな?
次回も期待しています。
- 102 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/21(木) 13:11
- >>100 名無飼育さん様
ありがとうございます。手放しの褒め言葉に、PCの前で万歳三唱しました(殴
ぴったり100番おめでとうございます(w
>>101 22様
ありがとうございます。先生のほうまで評価していただけて嬉しく思っております。
やはり人はトンネルを抜けて初めて強くなれるんでしょうね。
作者はここ数日間、ろくなものを口にしておりません。麺類だったりお茶漬けだったり、時々1食抜いたりしています。
しかし、体は壊してもこの作品が完結するまでは死ねませんので(w、地道に更新します。
- 103 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:12
- 次の日も、10時ころ保健室に行った。飯田先生にあいさつして、隣の部屋で自習を始める。だけど……。
はかどらない。
どんなに集中しようと頑張っても、昨日のことが頭から離れない。
―――やっぱりあたし、絵里のことが大好きやけんね…。
正直、「付き合ってください」と言われた時、すぐに「よかよ」と言いたかった。でも、頭の片隅にさゆのことがあった。どちらか1人に決めることができない。そんな中途半端な気持ちで絵里と付き合っても、絵里を傷付けてしまう…。
そんなことを悶々と考えていた。
この日の自習時間全部をかけて解いたのは、英語の問題を1問だけだった…。
- 104 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:13
- 飯田先生とお茶を飲みながら好きな音楽だの映画だのの話をしていた時も、絵里のことを相談してみようかな、と思った。けれど、やめた。飯田先生は頼りになるけど、まだ百パーセント信頼しているわけではないから。それに、これは自分一人でなんとかするしかない問題だと思ったから。
それでも…あたしの心の中で、絵里の存在はどうしようもないくらいに大きくなっていた。
- 105 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:13
-
――――――――――
- 106 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:14
- ずっと続いた保健室登校の中で、ようやくあたしは自分の気持ちがわかり始めた。保健室登校が始まってからほぼ1か月が経った、10月の中頃だった。
―――絵里に会いたい…。
今まで気付かなかった気持ちが、抑えきれなくなって溢れてきた。
―――絵里に会いたくて仕方がなか。
―――じゃあ、4月以降、これくらいにさゆと会いたくなったことは?………ない。
―――さゆに対する気持ちと、絵里に対する気持ち……何かが違う。
―――さゆとは文化祭以来、3か月近く会ってなかと。でも、「寂しい」という感情はわいてこない。「元気にしていてくれればいい」くらいの気持ちやけんね。
―――ばってん、絵里は……。1か月会ってないだけで、不安で仕方がなか。
―――前は、自分に自信がなくて付き合う気になれんかったけど………そんなことがどうでもよくなるくらい、脳が「絵里が大好きだ」って悲鳴をあげてるっちゃね。
ようやく、本当にようやく……1つの答えを出すことができた。
- 107 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:14
- 「飯田先生、あたし明日から教室に戻りますたい。」
その日の帰り際、あたしがそう言うと、飯田先生は目を丸くして驚いていた。けれども、すぐに優しく微笑んで「そっか。戻る気になれたんだね。」と喜んでくれた。
「でも、辛くなったり、ちょっと休みたいと思ったら、遠慮しないでいつでもおいで。そのための保健室だからね。」
温かい言葉に、少し目頭が熱くなった。
「いろいろありがとうございました。」
頭を下げて、保健室を出た。
- 108 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:15
- 廊下を歩きながら、1か月前のことを思い返した。
何もかもが嫌だった日々。けれど、飯田先生がそっと手を差しのべてくれた。飯田先生がいなかったら、あたしは今頃家で廃人同然になっていたかもしれない。
それに、なっち先生もあたしのことをずいぶん気にかけてくれた。「学校に来るのは来たくなってからでいいからね」と言ってくれた。もしこれが「何をやっているんだ、早く学校に来い」だったら、間違いなくあたしは学校を辞めていた。
はっきりと口に出すのは恥ずかしいけれど、2人の先生は、あたしの恩人。
- 109 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:15
- 次の日。教室に入ってきたあたしを見て、みんな喜んでくれた。正直、「仲間外れ」みたいなことも覚悟していたあたしにとって、これはすごく嬉しかった。
―――あたし本当に、いい人に恵まれてるけんね…。
しみじみとそう思った。
- 110 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:16
- 最後に教室に来た時と、席は変わっていた。夏休み明けに席替えをしたらしく、あたしと絵里は少し離れていた。
自分の席に着くと、周りの席の子達が話しかけてきた。くだらない話をするのがとても楽しい。みんな、あたしのことを「昨日まで不登校だった子」ではなく、「クラスメートの1人」として接してくれている。何よりもそれが嬉しかった。
- 111 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:16
- 周りの席の子と少し話した後、あたしは「彼女」の席に歩いていった。ちょっと心臓がドキドキする。
「絵里、久しぶりやけんね。元気だったと?」
できるだけ気軽に聞こえるように話しかけた。
「う、うん。」
絵里の声には、どこかよそよそしさのようなものが含まれていた。たぶん、あたしと同じで妙に意識してしまっているんだろう。
「それで………今日の放課後にちょっと話があるけん。裏の公園に来てくれんと?」
絵里は驚いたようにこっちを見た。たぶん、「裏の公園」でだいたいわかったんだろう。
あたしは、絵里にうん、とうなずいて見せた。
「……わかった。」
緊張しているのか、絵里の声は少し震えていた。
「別に緊張せんでもよかとーよ。」
そう言って笑いかけると、やっと絵里も笑顔を見せてくれた。
- 112 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:17
- その後、ホームルームに来たなっち先生もあたしを見て、通称「天使スマイル」と呼ばれる笑顔を見せた。噂では、世界中の独身男性の72.3%を虜にしてしまう笑顔らしい。数字がずいぶん中途半端だけれど、あまり深く考えないことにした。
- 113 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:17
- ひさびさに受ける授業、当然ながらあたしはちんぷんかんぷんだった。でも、両親、なっち先生、飯田先生が口をそろえて「勉強の遅れはゆっくり取り戻せばいいから」と言ってくれていた。
―――ゆっくり、かあ…。
「じゃあ、現在完了形の和訳を練習してみるべさ。まず1番目の文を…田中ちゃ
ん。」
「にゃ?…は、はいっ!!」
ボーッとしていたら、いきなり当てられた。黒板を見ると、『Since when I met you first,I have loved you,Eririn.』と書いてあった。
突然当てられてあわてていたあたしは、英文の意味をよく考えもせずに、しかも訛らせて訳してしまった。
「えっと…『最初に会った時からずっと好いとうよ、エリリン』……あ。」
大爆笑が起こった。なっち先生は不敵に微笑んでいる。そっと絵里のほうを見ると、後ろ姿しか見えなかったけれど、耳が真っ赤になっているのがわかった。
「田中ちゃん、授業中に窓の外を見て交信してるからだべ。」
穴があったら入りたい、と思った。そして、それからはしっかり授業を聞くことにした。
- 114 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:17
- 「気をつけ、さようなら」
「「さよ〜なら〜」」
帰りのホームルームが終わり、教室が騒がしくなった。
………結局、朝に話してからは、絵里と会話することはなかった。
―――いよいよやけんね…。
さっさと鞄に荷物を詰め、気持ちを落ち着けるために、ゆっくりと歩いて公園に向かうことにした。絵里がまだ鞄に荷物を詰めている途中なのを確認して、教室を出ようとした。
「田中ちゃん。」
呼ばれて振り向くと、なっち先生が微笑んでいた。
「頑張るべさ。」
一瞬何のことなのかわからなかったけれど、すぐに理解できた。
―――そっか。きっと絵里は、なっち先生に相談でもしてたっちゃね。なっち先生は全部知ってたとね。…そうたい、英語の時あたしに訳させた英文だって。
なっち先生、あたし頑張るっちゃよ。その意味をこめて、大きくうなずいた。
- 115 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:18
- 公園に着いて、ベンチに座った。自然と、絵里に告白された時のことを思い出した。1か月前のことなのに、とてもなつかしく感じる。
―――今のあたしは……1か月前のあたしより、少しは強くなれたのかな………
ふと前を見ると、絵里が歩いてくるのが見えた。
1つ、大きく深呼吸。
心臓をドキドキさせながら待っていると、絵里はあたしの隣に腰掛けた。
「ごめんね、遅くなって。」
「大丈夫たい。」
「それで話って?」
ここでもう1度、深呼吸。
「1か月前に絵里が告白してくれた時……あたしは、『自分に自信が持てるようになるまで待っててほしい』って言ったけんね?」
「うん……。」
「今のあたしはきっと………まだ、自分に自信を持てないと思うばい。」
絵里は拍子抜けしたような顔になった。
「今、『自信を持てるようになったから付き合ってくれ』って言うと思っとったっちゃね?」
笑いながらそうからかってみると、絵里は「そ、そんなことないもん!!」と拗ねたように言った。
「ま、自信はまだ持てないけん、けど………絵里のことが大好きだって気持ちが、抑え切れなくなったっちゃよ。」
絵里の顔が今度は赤くなった。
「自分に自信があるとかないとか…そげんことがどうでもよくなるくらい、頭の中が絵里で一杯になるばい。だから…」
「あたしなんかでいいのなら………付き合ってほしか。」
- 116 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/21(木) 13:18
- 「……絵里!?」
恐る恐る、絵里のほうを見て、びっくりした。
泣いていた。
どうしていいかわからずにオロオロしていると。
「れいなのばかぁっ!!ずっと不安だったんだから!!」
絵里は大声で泣き叫びながら、抱きついてきた。
―――そっか。そうっちゃね。1か月も待たされて、不安にならないほうがおかしかね。
「ごめん、本当にごめんね、絵里。」
「グスッ…もう…不安な思い…させないでね…。」
「うん。約束するばい。」
「……大好き。」
2人、顔を見合わせて、恥ずかしそうに微笑んだ。絵里の泣き笑いの表情が、どうしようもない程愛しく思える。
そして…見合わせた顔が、どちらからともなく近づいて……唇が、そっと重なった。
よく漫画なんかである、見つめ合ったまま無言でキスをするシーン。あんなの都合よくいくはずがないと思っていたけど、実際はそんなことなかった。
長い間唇を重ねているあたしたちを、オレンジ色の夕日が優しく照らしていた―――。
- 117 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/21(木) 13:22
- 今日の更新は以上です。これで一つの区切りがつきました。
笑わせるところは笑わせて泣かせるところは泣かせる、が作者の一番大きな目標ですが…。果たして達成されているのでしょうか…?
最後の一文は詩人気取りですので、鼻で笑ってやってください。
- 118 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 16:49
- 更新お疲れさまです☆あったかい小説におもわず胸が熱くなりました。2人の、
相手を好きだという気持ちがひしひしと伝わってきて・・・でもなぜか何処かせつなくて・・・
作者様お体大丈夫ですか??無理なさらないで下さいね・・
- 119 名前:22 投稿日:2005/07/21(木) 17:11
- 更新お疲れ様です
ナッチ先生なかなか粋ですね。田中さんも自分なりの答えが出せたようで何よりです。
お体には十分御気をつけください
次回も期待しています
- 120 名前:石川県民 投稿日:2005/07/23(土) 00:07
- ぱちぱちぱちぱちぱちぱち……(静かに拍手中)
更新お疲れさまでございます。
えかったーえがったー。二人の未来に幸あれー。
>笑わせるところは笑わせて泣かせるところは泣かせる
大丈夫です!目標達成してますよ〜。
石川県民、甘いところは甘く、痛いところは痛く、エロいところはエ(ry するようにして話にメリハリをつけるように書いてますよ。同じです!
それとどうでもいいんですが、田中さんとナッチ先生の会話って難しくないですか?石川県民、黄板で書いてたときにこの二人の会話が一番難しかったですが・・・。
食事を抜くと、文章が書く気力も無くなる(経験談)ので、なるべく摂ってくださいませ。
食欲がないときこそ夏メシ。カロ○ーメイトを。
墜落した駄目師匠の分まで頑張ってくださいませ。
- 121 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/23(土) 01:32
- 更新乙です
やー、もー、すげぇいいっす・・・・
あ、一言だけ・・・
「〜やけんね」っていうのは標準語で言う「〜だからね」って自分らの地域はなってるんですよ
や、あの、生意気にスイマセンでした
- 122 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/23(土) 12:24
- >>118 名無飼育さん様
ありがとうございます。読者の方に感動していただけると作者も感動します。
2人の物語、どうか温かく見守ってください。
>>119 22様
ありがとうございます。
なっち先生の粋な英文は書いている途中に思いつきましたが、勉強のできない作者は「Yahoo!翻訳」の助けを借りました(w
田中さんにはここからもたくさん泣き、たくさん笑ってもらいます。
>>120 石川県民様
ひさびさのレスありがとうございます。
>田中さんとナッチ先生の会話って難しくないですか?
会話の部分は思いついたままに書いています。作者は会話の部分よりも、人物の心情や風景などの描写に苦しんでおります…。
同じ青板のスレを見ましたが……悪いことの後には良いことがあるはずです、きっと。一日も早い復帰を願っております。
それと、このスレが誕生するきっかけにもなった黄板の小説ですが、今でも時折読ませていただいてます。たいてい読んだ直後は何もしたくないような気分になるのですが、次の日くらいになると自分も執筆を頑張ろうという気持ちが湧くのです。
>>121 名無飼育さん様
ご指摘ありがとうございます。
一番最初に断りをいれておこうとしていたのですが、ずっと忘れていました。田中さんの方言は適当です(遅っ
〜やけんね、〜っちゃ、〜と、の使い分けが全くわからず、挙句の果てにはそれらをその時の気分で使い分けるというダメダメな作者なのでした。
田中さんの方言があまりにも滅茶苦茶な時は、また教えてください。
落ちていた食欲ですが、少しは戻ってきました。
最初は家で寝転がりながら携帯で下書きをし、PCにメールで送ってメモ帳にコピー、微調整という流れだったのですが、家で書くのは集中できないということで、今は公園や喫茶店なんかで携帯に書いております。
とは言っても、暇人の作者が集中できても1週間にワードで4〜5ページしか進みません。
残り1か月分の物語、早く書き終えたいと思う今日この頃です。
どうでもいいような近況報告はこれくらいにして、続きいきます。
- 123 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/23(土) 12:25
- 次の日の朝。目を覚ましたあたしは、まず左の手のひらを見た。
ボールペンで『あたしは絵里の恋人』と書いてある。
―――うん、間違いなく現実。
昨日の夜、寝る前に手に書いておいた文字。しっかりと残っていた。これが何も残っていなくて実は全て夢だった、なんてことになっていたら、しばらくは立ち直れない。
左手を見つめながら、しばらく幸せな気分に浸っていた。
- 124 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/23(土) 12:25
- 昨日までと今日は、何もかもが違っていた。いつも通りの朝ご飯がいつもよりおいしかったし、晴れ渡った空がとてもすがすがしかった。10月の少し冷たい空気さえも心地よい。
こんなにうきうきしながら登校したのは何年ぶりだろう。
それほど今のあたしは幸せだった。たぶん、表情は自然な笑顔になっている。
- 125 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/23(土) 12:26
- 教室に入ると、絵里はもう席に座っていた。他の子と挨拶をして鞄を机に置いたら、空いていた絵里の隣の席に一直線。
「おはよ、絵里。」
「れいなおはよう。…珍しく笑顔だね。」
「やっぱり?……って『珍しく』は余計たい!」
「だって珍しいもん。」
そう言って絵里はくすくす笑っている。
「あたしは絵里と付き合ってるんだ、って思うと嬉しくて仕方がなかとよ。絵里は嬉しいと思わんと?」
「わわっ、れいな聞こえちゃうよ!」
「あ……」
時すでに遅し。
「「「うそーー!!2人って付き合ってたの!?」」」
この後、あたしと絵里はクラス中のみんなに祝福された。さらに、ホームルームに来たなっち先生にも教えられることになり、なっち先生は「いやあ、青春っていいべさ」って言ってた。
…あ、でもなっち先生は昨日の時点でわかってたっちゃね。
みんなには秘密にしておくつもりだったけど、大勢で祝福してもらえてちょっぴり嬉しかった。
―――絵里、いったんつないだ手、絶対に離さんよ。他には何も望まない、ただずっと、絵里のそばに居たいけんね………。
- 126 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/23(土) 12:26
- 放課後。部活に行ったあたしは早速、紺野先輩と小川先輩に「恋人ができました」と報告。2人とも、自分のことのように喜んでくれた。
「で、相手の子の名前は?」
「絵里。亀井絵里です。」
「え、亀井ちゃん?」
「小川先輩、絵里と知り合いですと?」
「いや、知り合いってわけじゃないけど、中学が同じだったんだよ。かわいくてしかも優しいって、他の学年でも噂になってた。男の子とかにも結構告白されてたみたいだよ。」
それは知らなかった。
「でも、亀井ちゃんはみんな断ってたらしいよ。だから、ある意味田中ちゃんはすごいよ。ね、どうやって亀井ちゃんの心を掴んだのさ。」
「どうやって、って言われても…。入学式の日に絵里から声をかけてくれて、それから仲良くなっただけですと。特別なことは何も。」
「ふーん。ま、ともかく亀井ちゃんは田中ちゃんのことが超大好きだろうから、大切にしてあげなよ。」
「そうそう。それと、私のほうから『キスしたい』って言うまでずっとキスできなかった、誰かさんみたいなヘタレになっちゃダメだよ。ね、まこっちゃん?」
「……おっしゃる通りです、あさ美ちゃん。」
―――小川先輩、そんなにヘタレだったとね……。
- 127 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/23(土) 12:27
- 部活が終わって(囲碁は打っていないけど)下駄箱のところに行くと、先に部活が終わっていた絵里が待ってくれていた。一緒に帰る約束をしていたのだ。
「お待たせ。」
そう言うと、絵里は「そんなに待ってないよ」と言って微笑んだ。
- 128 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/23(土) 12:28
- 夕方でも少し暗い秋の道を2人、手をつないで歩く。絵里の手は温かくて、なんだか手をつなぐだけでドキドキしていた。
「そう言えば今日先輩から聞いたっちゃ。絵里って中学校でモテモテだったと?」
絵里は苦笑いをしながら答えた。
「まあ、何人かに告白されたりしたよ。でも、そのころはまだ恋愛のこととか、よくわからなかったから。」
「さよか…。」
「初めて人を好きになったのは、高校に入ってからかな。恐そうだけど、実際はすごく優しくて、かっこいい人。」
「それ、れなのことっちゃね?しかも『恐そう』っていうのが1言余計たい。」
「でもさ、ちょっと恐いかな、くらいだと、なんだか守ってくれそうで心強いと思うな。」
「…顔なんか関係なか。絵里に何かあったら、あたしが守るけんね。」
「…ありがと。」
不意に、頬に柔らかい感触。
してやったり、と言う顔で、でも恥ずかしそうに「えへへ」と笑う絵里。
嬉しくて、しかしちょっぴり悔しくて、あたしも絵里の頬にそっとキスをした。
この時、ちょうどあたし達の横を紺野先輩と小川先輩が通りかかったらしい。そのことに全く気付かずにキスをしていたあたしは、次の日の部活でたっぷりと冷やかされることになった……。
- 129 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/23(土) 12:31
- 今日の更新は以上です。
このあたりは、書いていて特に楽しかったような記憶があります(w
次回はお待ちかねのd(ry になります。
- 130 名前:22 投稿日:2005/07/24(日) 00:45
- 更新お疲れ様です
恋は盲目ってやつですかねぇw
読んでいて自然にニヤニヤしてる自分orz
体調も戻られているようで何よりです。次回も期待しています
- 131 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/25(月) 11:37
- >>130 22様
ありがとうございます。ニヤニヤしていただけましたか。
作者は、読者の方のレスを見て毎回ニヤニヤしております。
昨夜の出来事です。
知り合いの女の子から、突然電話がかかってきました。その子から電話がくるのは初めてなので「どした?」と聞くと、「遊びにいこう」と。
彼女いない歴=年齢の作者は嬉しさと戸惑いが半々でしたが、忙しかったので断りました。
するとその子がボソッと「2人きりになりたいのに…」とつぶやいたのです。作者の心臓はバクバク……
…という夢を見ました(w
なんちゅう夢を見てるんだ自分○| ̄|_
では続きです…。
- 132 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:38
- 「ね、れいな今度の日曜日空いてる?」
付き合い始めてしばらくしたころ、絵里にそう聞かれた。
「日曜日?うん、暇たいね。」
「じゃあさ、どこかに行かない?」
「それって…いわゆる『デート』ってやつ?」
絵里は恥ずかしそうにうなずいた。
「よかよ。どこ行く?」
「そうだなあ……。あ、れいなの家に行ってみたいな。ご両親にもちゃんと挨拶したいし。」
―――挨拶って……結婚みたいとね。
「それかられいなも私の家に来るの。こんな感じでどう?」
「うん。それでいくっちゃ。」
―――初デートかぁ。楽しみっちゃね。
ちなみにこの日、またしても英語の時間に交信していたあたしは、またしても突然なっち先生に指名されて、英文を訳すように言われた。しかし今度はしっかりと、黒板に書かれた『I cannot sleep well whenever I think about Eri.』(絵里のことを考えるといつも眠れなくなる)という文の意味を頭で理解して、冷静にスルーした。
―――て言うかなっち先生、あたしをイジメることに喜びを覚えてるかも…。
- 133 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:38
- そして日曜日。
10時に学校の前で待ち合わせだったけれど、20分近くも早く着いてしまった。
こういう時はだいたい物思いにふけるのが、あたしの癖。だけど…。
「おはよー。れいな早いね。」
すぐに絵里も来た。―――あたしも絵里も、恋人に早く会いたいのは同じか。
そう思うとおかしくなってきて、ふっと顔がゆるんだ。
「? れいな何で笑ってるの?」
「何でもなかよ。行こ?」
- 134 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:39
- 家までの道を歩きながら、改めて絵里の私服姿を見た。
地味ではなく、かと言って派手すぎることもない。「清楚」って言葉が一番当てはまるかな?
「絵里、私服かわいいっちゃね。」
「やっぱりかわいい?」
「……やっぱかわいくない。」
「何それー!」
こんなふうに、冗談みたいな会話をして笑うことができる幸せ。この小さな小さな幸せを、噛みしめていたい。そう思った。
- 135 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:39
- 10分ほどであたしの家に着いた。
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
居間からお母さんが出てきた。
「はいはい。あら、お友達?」
「いや、友達と言うか……実は恋人たい。」
「恋人と!?それはそれは。れいながお世話になってます。」
「初めまして。亀井絵里です。」
1通り挨拶が済んで、お母さんは「今夜はお赤飯を炊かないといけんね」とつぶやきながら居間に戻っていった。あたしは絵里と自分の部屋へ。
- 136 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:40
- 「さっぱりした部屋だね。」
あたしの部屋に入った絵里の第一声。
机、ベッド、本棚、CDとMDのプレーヤー、クローゼットの中にタンス。置いてあるのはこれだけ。
「れいなってどんな音楽聴いてるの?」
「んー、バラード系の曲が多いけんね。」
「へー。ちょっと聴いてみていい?」
「よかよ。それじゃあちょっと待ってて。飲み物でも持ってくる。」
- 137 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:40
- 居間からオレンジジュースとコップ2つを持って部屋に戻ると、絵里はヘッドホンをしながら目を閉じていた。
しばらくして曲が終わったのか、絵里はヘッドホンを外して「このMDの最初の曲、すごくいいね」と言った。
「ああ、それはあたしが1番好いとう曲ばい。『ニード』ってグループの曲やけん。最後のサビの部分、特に良くなかった?」
「うん、なんか鳥肌がたった。『鮮やかすぎる君がいない夏ー』っていう歌詞でグッときたよ。」
自分が一番好きな曲を、絵里も気に入ってくれた。それだけでも、あたしは嬉しくなった。
- 138 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:40
- 一通りの曲を聴いた後、オレンジジュースを飲んでしばし休憩。絵里は『ニード』の曲がよほど気に入ったのか、再生モードを「リピート」にして同じ曲をかけ続けている。
「聴けば聴くほど切なくなる」と絵里。
「ね、絵里。」
「なあに?」
「…キスしても、よかと?」
顔が熱く感じるのは、たぶん気のせいではないだろう。
絵里は―――何も言わずに目を閉じた。
あたしも目を閉じて、絵里の唇にそっと自分の唇を付ける。
絵里の唇の柔らかさ、オレンジジュースの香り、MDプレーヤーから流れる透き通った歌声。その全てが、とても心地良かった……。
- 139 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:41
- 甘〜い時間を過ごしていたらあっと言う間にお昼になり、家を出ることにした。
玄関に行って「昼ご飯食べに行ってくるー」と言うと、居間からお母さんが出てきた。
「ご飯食べたら絵里の家に行くけん、帰るの夕方くらいになると思うばい。」
「はいはい、楽しんでらっしゃい。絵里ちゃん、またいつでも来てね。」
「はい、ぜひ。お邪魔しましたぁ。」
「行ってきます。」
「行ってらっしゃーい。…………れいなにあんなかわいい彼女ができたとは…明日は大雪たい。」
- 140 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:41
- そのへんのファーストフード店で昼食をとり、そのまま絵里の家に向かった。
あたしの家から自転車で20分くらいの距離に、絵里の家はあった。どこにでもありそうなごく普通の家で、なんだか安心した。大豪邸とかだったら、かえって居心地が悪い。
「お邪魔しまーす。」
「どーぞ。お母さーん、れいな連れてきたよー。」
パタパタと足音が近づいてくる。
「あら、こんにちは。あなたがれいなちゃん?」
「あ、はい。初めまして。」
「れいなちゃんのことは絵里からいつも聞かされてますよ。もう耳にタコができるくらい。」
そう言って微笑むおばさんとは対照的に、絵里は恥ずかしいのか頬を膨らませて拗ねていた。
「もう、お母さん余計なこと言わないでよ。」
「あら、本当のことじゃない。嬉しそうな顔してれいなちゃんのことを話してるんですから。それじゃあれいなちゃん、ゆっくりしていってね。」
そう言っておばさんは颯爽と去っていった。
「…絵里?」
絵里の頬は膨らんだままだった…。
- 141 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:41
- 拗ねている絵里をなんとかなだめて、絵里の部屋へ。
絵里の部屋はあたしとは対照的な、いかにも女の子らしいものだった。
「れいな、ちょっと待ってて。」
そう言って絵里は部屋を出ていった。何かと思っていると、お盆にクッキーと紅茶をのせて持ってきてくれた。
「このクッキー、まさか…」
「そう。文化祭の時にれいなが食べたのと同じだよ。今朝早く起きて焼いたんだから。」
誇張とかそういうのはなしで、本当に涙が出そうなくらい嬉しかった。
「食べてみてよかと?」
「どうぞ、召し上がれ。」
1つ取って食べた。口の中全体に甘さが広がっていく。
「絵里…腕が上がっとうね。」
「ほんと?」
「うん。文化祭の時よりもさらにおいしいっちゃよ。」
「まあ、仮にも料理研究会に入ってるんだから、腕が上がってないと困るよね。」
「まあそうやけん、けどそれだけじゃなか…絵里の気持ちも込められてるから、さらにおいしくなったばい。」
かなり寒い科白だったけれど、あたしは本当にそう思う。
その寒い科白に対して、絵里は恥ずかしそうに微笑んでいた。
- 142 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:42
- クッキーを食べ、紅茶を飲みながらまったりしていると、絵里がおずおずと口を開いた。
「れいな、1つ聞いていいかな?」
「ん?」
「あの…答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど。れいな、私と付き合う前に好きな人とか、いた?」
「あー……」
「ご、ごめんね、こんなこと聞いて。どうなのかな、って思ったから…。」
「や、怒ってはなかよ。そうっちゃね…全部、話したほうがよかね。」
「実は…絵里が告白してくれた時……絵里の他にも気になる人がいたんやけん。」
絵里は目を丸くしていた。
「あたし、中3の時にさゆ、っていう子が好きだったとよ。で、卒業式の日に告白して振られたっちゃよ。でも、さゆのこと、ずっと忘れられなかったと。」
正直、話すのは辛かった。でも、これは話さないといけない。
「高校に入っても、さゆのことばかり考えてた。けど、しばらくしたら絵里のことも気になってきて……。」
絵里は真剣な表情で聞いている。
「さゆと絵里、どっちが好きなのか自分でもわからなかったばい。そんな時、タイミング悪く絵里が告白してきた。」
絵里は小さな声でごめん、と言った。
「あ、いや、責めてるわけじゃなかよ。ただ、その時はさゆか絵里の片方を選ぶことなんてできなかったと。そしてそんな自分も嫌になってたんやけん。」
「そのまま1か月悩んで、やっと気づいたっちゃよ。さゆのことは、『好き』なんではなくて『忘れたくない、記憶にとどめておきたい』だけなんだ、って。」
「そこでやっと、あたしが本当に好きなのは絵里のほうなんだってわかったばい。」
「あたしが大アホだったばっかりに、絵里に不安な思いをさせたけんね。本当にごめん。」
全てを話して、大きく息をはいた。
- 143 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:42
- 「……ありがとうね、話してくれて。」
そう言った絵里の声は、とても柔らかかった。
「告白のちゃんとした返事を待つ間、確かに私も不安だったよ。でも、れいなはもっともっと不安だったんだね。それを知ることができてよかった。」
絵里は優しく微笑んでいた。世界で一番、あたしが大好きな笑顔。
「絵里。」
「うん?」
「……大好きっちゃよ。」
そう言ったあたしを、絵里は優しく抱きしめてくれた。
「私も大好きだよ…。」
もうすぐ11月という時期なのに……顔だけでなく、体中が燃えるように熱かった。
- 144 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/25(月) 11:43
- この時間が永遠に続けばいい、とは思ったけれど、残念ながらそうはいかない。
外も暗くなってきて、帰ることにした。
お邪魔しました、と言って、外に出る。絵里も外まで見送りに来てくれた。
「絵里、今日は楽しかったと。」
「私も楽しかったよ。気をつけて帰ってね。」
「うん。それじゃ、明日また学校で。」
「あ、れいな待って!」
「ん?どげんしたと?」
「えっと…目、瞑って?」
「…何で?」
「いいから!」
言われた通りに目を瞑る。すると、一瞬だけ唇に何かが触れた。
目を開けると、絵里が薄暗い中でもはっきりわかるくらい顔を真っ赤にして、モジモジ、と言うよりクネクネしていた。
「ま、また明日ね!!」
照れ隠ししているのがバレバレな口調。でも、そんなところまでもが愛しい。
「うん、また明日ね。」
手を振って、自転車を走らせ始めた。
外の気温とは対照的に、あたしの心は暖かさで一杯だった。
―――いつでも隣には絵里が居てくれる。
そんな未来を、何の疑いもなく心に描いていた………。
- 145 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/25(月) 11:50
- 今日の更新は以上です。
タイトルの曲をちらっと出してみました。グループ名はちょっとした暗号のような感じで変えたのですが、メール欄でも本文でもいいので解答募集します(w
文中に「科白」という言葉がありましたが、ついこの前まで「かはく」と読んでいたなどということは口が裂けても言えません…。
次回ですが、本来なら明後日に更新するところですが、明後日から2、3日所用があるので、次回の更新は早ければ金曜日、遅ければ日曜日くらいになる予定です。
次回からちょっと暗く硬くなりそうです。
- 146 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/25(月) 15:39
- あぁー幸せってこうゆうコトをいうんですね・・・ よんでて胸がいっぱいになりました
- 147 名前:22 投稿日:2005/07/25(月) 17:14
- 更新お疲れ様です
いきなり恋人って紹介してる田中さんカッケーw 二人の甘甘な空気が伝わってきますね
作品中にでてきたニード(*EE*)ですけど、作者さんは詳しいんでしょうか?
次回も期待しています
- 148 名前:gung 投稿日:2005/07/26(火) 00:48
- 更新お疲れ様ですw
なんか爽やかかつ甘々な感じが好きです。
ちなみに私もこの歌大好きです。この時期よく聞きますよw
次も楽しみにしてます。
- 149 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/26(火) 01:31
- 更新お疲れ様です。
少し目をはなした隙にかえらく進展が進んでる・・・
作者様の更新の早さには毎度驚いてます^^
と言う事でおめでとうございますパチパチ>御二人
でも、今回の最後の部分にドキッとしている自分がいるのですが(苦笑
それと、”科白”ですが”かはく”でも間違いでは無いようですよ
歌・踊りの無い純粋にセリフと仕草だけの劇を「科白劇(かはくげき)」とも言うそうです。
御身体には気をつけて、夏バテなどしないよう確り食べて下さいね。
次回更新も楽しみにしております。
- 150 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/30(土) 10:46
- >>146 名無飼育さん様
ありがとうございます。いつまでも心に残るような作品になればと思っています。
>>147 22様
ありがとうございます。甘甘な空気が伝わったとのことで、安心しました。
「*EE*」については、作者はあまり詳しいとは言えないと思います(w タイトルの曲を初めて聴いて感動し、その後に他の曲を一通り聴いただけです。爽やかな歌声が気に入りました。
>>148 gung様
レスありがとうございます。前回の分はとにかく甘く書きたかったので、そう言っていただけると嬉しいです。
作者はタイトルの曲を冬でも聴いています(w
>>149 名無飼育さん様
ありがとうございます。作者は長期間更新を待つのも待たせるのもニガテなのです。最後の1文は……あまり気になさらないでください。
科白劇というのは全く知りませんでした。どんどんバカさ加減を晒し出していますorz
夏バテには気を付けます。
3日間の所用を昨日終え、肩の荷がようやく下りました。大舞台に立つような用事だったため、緊張しっぱなしでした。食欲不振もそれが原因だったのかもしれません。
ということで、これからはこちらのほうに集中できそうです。またちょぼちょぼと更新していきます。
今回はお堅い内容です。
- 151 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:47
- 家に帰って晩ご飯(本当に赤飯だった)を食べ、ベッドにゴロンと横になった。
―――なんか…今日が楽しすぎた分、明日学校に行くのが面倒たい。
結局……ささいなきっかけで、次の日からあたしは再び学校に行かなくなってしまった……。
- 152 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:48
- 「周りがどんなに励ましても、あんた自身が行こうと思わなければ行けないけん、お母さんもお父さんもれいなにはあえて何も言わんと。行く気になったら行きんしゃい。ばってん、家にいるんなら手伝いとかはしてもらうばい。」
再び学校に行かなくなったあたしに、お母さんはそう言った。
掃除や洗濯なんかを手伝って、あとは比較的自由。勉強はほとんどしないけれど、かと言って遊んだりする気にもならなかった。
することはいつもと同じ、ベッドに横になって物思いにふけるだけ。
―――2度目の不登校だけど、前の時とは心境が違っとう。前は精神的にズタボロだったと、でも今回はいい意味で開き直ってるっちゃね。
―――「不登校」って………無駄な時間を過ごしていることになる?
―――違う。不登校になって初めてわかったことが、山ほどあるばい。不登校の人の気持ちというものが、初めてわかったけんね。
今のあたしには、はっきりと断言できる。
「不登校」は、決して「無駄」にはならない、と。
- 153 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:48
- 休み始めてから3日目の夕方、なっち先生が家を訪ねてきた。家にはあたし1人だったから、2人だけで話すことになった。
配布物を渡されてから、「何か嫌なことでもあったのかい?」と聞かれた。
「や、特に。」
「ならいいんだけど。何か相談したいこととかがあったら、なっちにでも言ってほしいべさ。なっちが頼りないと思ったら飯田先生もいるし。」
「…そうしますばい。」
「それに、誰よりも田中ちゃんのこと心配してる人がいるんだから、その人のことも忘れちゃだめだべ。」
1秒足らずで、絵里の顔が浮かんだ。
「絵里、どうしてます?」
「うーん。田中ちゃんが休み始める前日が初デートの日だったんだよね?それで亀井ちゃん、『れいなが休んでるの、私のせいかも…。』ってすごい落ち込んでたべさ。」
「……じゃあ、絵里に『その通り、絵里のせいだ』って言っといてほしいですと。」
なっち先生が驚いたような顔でこっちを見たけど、かまわずに続けた。
「『絵里とのデートが楽しすぎたせいで、学校に行くのが面倒になった』って、そう言っといてほしいけん。」
冗談っぽく言ったけど、たぶん本心でもあるだろう。
なっち先生は一瞬ポカーンとした後、微笑みながら「伝えておくべ。」と言った。
- 154 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:49
- 帰り際、こう言われた。
「学校に来ることは強制はしないっしょ。気が向いたら行くくらいのつもりでいいから、まあ頑張るべさ。」
なっち先生が帰ってから、ため息をついた。
「頑張れ、か…。」
不登校になって学んだことの1つ。「頑張れ」という励ましの言葉は、逆にその人を苦しめることもある……。
「頑張れ」と言われる人の中には、ちゃんと頑張っている人もいるんだと思う。
そんな人に「頑張れ、頑張れ」と言うのは、例えば42.195キロのマラソンを走り終えたばかりの選手に「あと10キロ走れ」と言うのと同じようなこと。
命令するのは簡単でも、走る側にとってはあまりにも酷。
不登校になって、そんな考え方をするようになった。
自分自身が「弱者」の立場を経験することで初めて、「弱者」の気持ちを考えてあげたり、思いやってあげられるようになる……。
そんな気がする。
- 155 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:49
- なっち先生が来たさらに数日後の、やはり夕方。家のチャイムが鳴った。少しして、玄関のほうで声が聞こえてきた。
「あら、こんにちは。れいな、絵里ちゃんが来てくれたとよ。」
玄関に行くと、制服を着たままの絵里がいた。学校が終わってそのまま来てくれたんだろう。嬉しさで頬が緩みそうになるのをなんとか我慢して、とりあえずあたしの部屋にあがってもらった。
「れいな…ごめんね。」
いきなり謝られて驚いた。
「何で謝ると?」
「だって……れいな、私のせいで休んでるんでしょ?」
……なんだ、そんなことか。
「そうやけん、でもそれはデートが楽しかったからであって…。絵里が謝ることじゃなか。逆に心配かけたれなが謝らなきゃいけんとね。」
「でも…」
「大丈夫やけん、絵里は心配しないで?」
できるだけ優しくそう言うと、絵里は静かにうなずいた。
- 156 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:49
- しばらく雑談をして、絵里は帰ることになった。部活に行く前に家まで来てくれたらしい。こういうさりげない優しさが、本当に嬉しい。
いつもより少し長めに口付けをして、絵里を見送った。
絵里が会いに来てくれて、なんだか元気が出たような気がする。
―――もう、絵里なしでは生きていけないっちゃね…。
地味だけれど、確かな幸せ。それが今の状態なんだと思う。
- 157 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:50
- 1週間に1回は、なっち先生が家に来てくれた。でも、はっきりと「学校に来い」というようなことは決して言わない。「なっちもちょっと前まで高校生だったから、田中ちゃんの気持ち、よーくわかるべさ。」と言ってくれた。
なっち先生のそんな気遣いは、もちろん嬉しい。けれども、ほんの少し、疑問もあった。
―――コノヒトハホントウニ、アタシノキモチガワカッテイルノ?
きっと、いや絶対に、わかっていないんだと思う。でもそれは、なっち先生が悪いんではない。
なっち先生は、あたしの気持ちを考えてくれている。あたしの気持ちが、なっち先生が考えているものと違うだけなんだと思う。
あたしの気持ちを100%わかっているのは、他でもない、あたし自身だけ。どんなにすごい専門家の先生でも、90%までしかわからない。残りの10%は、自分自身しかわからない、とても複雑な感情……。
- 158 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/07/30(土) 10:50
- なっち先生が帰った後、お母さんが言った「安倍先生みたいに、わざわざ家まで来てくれる先生はそういないっちゃよ。不登校の子は、そのまま放っておかれることもあるんやけん。れいなは本当、いい人達に恵まれとうね。」という言葉にも、疑問をもった。
―――学校に来れない子がいたら、来れるように手を差しのべるのも教師の仕事じゃなかと?それをしないのは、『教師は勉強だけ教えていればそれでいい』って言うのと同じことやけん。不登校の子を放っておくなんて最低たい。
この頃から、「社会」そのものに疑問を持ち始めた。
例えば、中卒だと就職が難しいという現実にも納得がいかない。
―――中卒だと知識は足りない。でも、知識は勉強しだいでどうにでもなる。大事なのは人間性じゃなかと?中卒だから協調性がないとか、東大を卒業したから人を思いやれるとか、そんなふうに決めつけることはできないっちゃ。学校で教えるのは、9割は勉強のことばかりやけんね。
―――そうすると、学校だって間違っとう。勉強を教えるのも当然必要たい、でも、もっと大切なこともしっかり教えなきゃいけんと。
こんなことが、頭の中をぐるぐる駆け巡っていた。
- 159 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/07/30(土) 10:56
- 今日の更新は以上です。
展開が無理矢理やっちゅうねん!!読者の方に突っ込まれる前に、自分で突っ込んでおきます。
今回暗かった分、次回は甘くなります。
- 160 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/30(土) 17:35
- ぅーん難しいですね・・・ これからの田中さん気になります
- 161 名前:22 投稿日:2005/08/01(月) 09:13
- 更新お疲れ様です
田中さん、かなり難しいことを考えてますね。ド○ゴ○桜の影響でしょうか(マテ
こういう賢い面と亀井さんに対する甘い面とのギャップがイイですね
次回も期待しています
- 162 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/01(月) 12:14
- >>160 名無飼育さん様
ありがとうございます。田中さんが悩んでいることは、きっと正解のない問題です。田中さんなりの答えを出す道のりを見守ってあげてくださいませ。
>>161 22様
ありがとうございます。田中さんの悩みは本当に難しいです。
ド○ゴ○桜は面白いですね。でも作者はむしろ「ご○せ○」の影響を受けています(w
昨日の夕方に散歩中、書けずにいた「空白の1か月」の構想がようやくはっきりしました。この話の後に書く話もすでに考えているので、早くそちらに移れるようにしたいものです。
では今日の更新です。今回は甘甘な方向で…。
- 163 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:15
- 日曜日。午前中に突然絵里から「デートしよう!」とメールが来た。ちょうど暇だったし、もちろん断る理由はない。
相談した結果、最近話題の某恋愛映画を見に行くことにした。
前と同じように学校で待ち合わせして、映画館に向かった。もちろん、ボーイッシュな服装のあたしとは対照的に、かわいらしさ全開の絵里の私服姿に見とれてしまったのは、言うまでもない…。
- 164 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:16
- 映画館に着いて料金を払い、席に座るとすぐに映画が始まった。
いわゆる「オタク」の青年が、偶然知り合った女性と恋に落ちていく物語。最初は恋愛に対して臆病だった青年も、仲間の励ましを受け、女性をデートに誘う。
そして何回かのデートを重ね、ついに告白……というストーリー。
オタク青年を自分、相手の女性を絵里と重ねてみる。青年の臆病な性格は、あたしと同じ。そして、女性の柔らかな笑顔と優しさは、絵里と同じ。
そして、いよいよ告白のシーン。
『僕、ずっと……あなたのことが好きでした。』
『……私もずっと好きでした。いつまでも一緒にいてくれますか?』
緊張の糸が切れてどんどん涙が溢れてくる青年と、そんな青年を優しく抱きしめる女性。
本当、自分達に似ている。
隣の絵里を見ると、スクリーンの中の青年顔負けの大泣きをしていた。
- 165 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:16
- 映画が終わって、近くのファーストフード店で昼食。話題にのぼったのは、もちろん映画のこと。
「すごくいい話だったね。」
「うん。評判になるだけのことはあるっちゃね。」
「なんだかあの2人、私達みたいだったよね。」
「あ、れなもそう思ったばい。主人公がれなで、女の人が絵里で。」
「うんうん。あ、そうだ。1つ質問。」
「なん?」
「映画の女の人と私、どっちがかわいいと思う?」
「…は?」
いや、そんなニコニコしながら聞かれても……。まあ、正直に答えよう。
「そんなの、絵里に決まっとう。」
「ほんと?」
「当たり前たい。あたしにとっては、絵里が1番かわいい。」
そう言うと、絵里は大喜び。単純というか何というか……。
無性におかしくなってきて、あたしは大声で笑った。つられてか、絵里も声を出して笑いだす。
あんまり大声で笑ったせいで、気がつくと周りのお客さんから白い目で見られていた。恥ずかしい……。
しかし、絵里がそっと囁いた言葉を聞いて、さらに何倍も恥ずかしくなった。
―――私にとっては、れいなは1番かっこいいよ。―――
- 166 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:17
- 午後は、街をぶらぶらすることにした。
服を見たり、本屋で漫画やファッション雑誌を眺めたり。
しばらくして、絵里が「あ、れいなあれ見て。」と言った。指さした方を見ると、『ポッキーの日 ポッキー各種11円』と書かれた看板が。
―――そっか、今日は日付に1が並んでるから『ポッキーの日』か。
その店でポッキーとアイスコーヒー2つを買って、一休みすることにした。
- 167 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:17
- 人通りの多いところを抜けて、静かな場所にあったベンチに腰をおろした。
アイスコーヒーを飲んで一息ついていると、絵里が突然こんなことを言い出した。
「そうだいいこと思いついた!ね、ポッキーゲームしようよ!」
口に含んでいたアイスコーヒーを、見事に吹き出した。
「ポポポポッキーゲームって……な、なんば言うと!」
「一度やってみたいの。だめ?」
―――ぐ…上目遣いなんて反則たい。そんな目でじっと見つめられたら「だめ」なんて言えないけんね……。
「い、1回だけっちゃよ。」
「わあい、ありがとう。」
- 168 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:17
- ポッキーを取り出し、絵里がチョコレートの側を、あたしが逆のほうを口でくわえる。……心臓がバクバクいっている。
少しずつ、少しずつポッキーを食べていく。
だんだんと近づく唇。思わず目をギュッと閉じた。
サクッ…サクッ…サクッ……チュッ。
3秒くらいですぐに唇は離れたけれど、顔が燃えるように熱かった。
そして、ポッキーを飲み込んでから、今度は普通のキス。
もう1度唇を離して絵里を見ると、頬が紅潮していた。
- 169 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:18
-
夕方になり、外も薄暗くなってきた。
「そろそろ帰ると?」
「あ、れいな……ちょっと寄り道していいかな。」
絵里の表情が急に真剣になった。
「どこ行くっちゃ?」
「ちょっと、あの公園に。」
『あの公園』というのは、学校の裏の小さな公園のこと。2人にとって、思い出の場所でもある。
公園に行ってどうするんだろう、と思いながら、自転車を走らせた。
- 170 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:18
- 公園に着いて、いつものようにベンチに座った。ここに座ると、絵里に告白された時のこと、自分から絵里に告白した時のことを鮮明に思い出す。
「れいな、目を閉じて、それから手を出して。」
言われた通りにすると、しばらくして手に何かが触れた。
「いいよ、目開けて。」
そう言われて目を開けると、手に小さな箱が置いてあった。
「これは?」と聞くと、「いいから開けてみて。」
そっと箱を開ける。その中には―――――
指輪が、入っていた。
- 171 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/01(月) 12:19
- 「誕生日おめでとう、れいな。」と言って、絵里が微笑む。
そう。今日は11月11日。ポッキーの日であると同時に、あたしの誕生日でも
あった。
指輪には、小さな宝石のようなものが付いていた。
「その石ね、『トパーズ』っていう11月の誕生石なんだよ。」
さらに、指輪の裏側を見ると、小さく「Eri&Reina」という文字が刻まれている。
「安物だけど…私からの誕生日プレゼントね。」と言って照れる絵里の表情が、ぼやけてよく見えなかった。なぜなら……感極まって、涙が止まらなかったから。
ひしっと絵里に抱きついて、「ありがとう、ありがとう」と何度も繰り返しなが
ら、あたしはずっと泣き続けた。
絵里に突然誘われたデート。その最後に、絵里は心温まる「ドッキリ」を用意してくれていた。そしてそのドッキリは、いとも簡単にあたしの涙腺を崩壊させた。
夕日の光を受けて、キラキラと輝く指輪。その輝きは、きっといつまでも色あせない。そんな気がした――――。
- 172 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/01(月) 12:24
- 今日の更新は以上です。こういうところは、他の所以上に一生懸命書いております(ヲイ
さて、来週のサザエさんは…じゃなくて次回は、はっきり申し上げますと「修羅場」っぽくなります。甘いのと暗いのを交互に書いてますので…。
- 173 名前:< 投稿日:2005/08/01(月) 22:37
- ぁひゃーイイですねぇ↑頭の中が田亀でイッパイイッパイになりましたぁ☆
こんな気持ちはじめてですw・・・修羅場ですか 心してまってます。
- 174 名前:22 投稿日:2005/08/02(火) 07:53
- 更新お疲れ様です
亀井さん高校生なのにすごいものを…またまた甘甘の空気にニヤニヤしてしまいました
次回も期待しています
- 175 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/03(水) 11:18
- >>173 <様
レスありがとうございます。こんな作品で良ければこれからも読んでやってください。
>>174 22様
毎回のようにありがとうございます。励みになっています。
亀井さんが買ったもの、わざわざネットで調べたところ、安いものなら高校生にも手が届きそうな値段でした。
さて、前回の予告通り、今回は「修羅場」になります。いっっっっちばん最初にストーリーの構想を練った時、すでに考えていたシーンです。
では更新いきます。
- 176 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:19
- 感動の誕生日からしばらくした日。夕方になっち先生が家に来た。
「あれ、その指輪どうしたべか?」
「ああ、これ、昨日絵里がくれたとです。昨日あたしの誕生日だったんで。」
「はあー、誕生日プレゼントだべか。うらやましいっしょ。なっちも恋人がほしいべさ。」
―――あれ、なっち先生って恋人いないっちゃね。ちょっと意外。
- 177 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:20
- 「ちょっと暗い話になるけど……田中ちゃん、今までで結構休んでるから、そろそろ留年のこととかも考えなきゃいけないっしょ。」
留年……。そのことは、言われなくても頭にあった。
「田中ちゃんが留年したりしたら、みんな悲しむべさ。特に亀井ちゃんが。」
その言葉で、少しムッときた。まるで、絵里をエサにして学校に来させようとしているかのように思えた。
「だから頑張ってみるべさ。」
頭に、血が上った。
その後は、なっち先生の励ましの言葉に適当にうなずいた。
そしてなっち先生が帰ると、家の中に誰もいないのを確認して―――――
壁を、思いきり殴った。
- 178 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:20
- このままずっと学校に行かなければ、当然ながら留年になる。正直なところ、留年になったら学校を辞めようと思っている。1学年下の子達と一緒に勉強したりする劣等感に、自分が耐えきれるとは思っていないから。それでも学校に行こうという気にならないのだから、ただのわがままと言うしかない。
そんなあたしを心配して必死に励ましてくれる、周囲の大人達。でもその励ましは、あたしにとって苦痛以外の何物でもなかった。
学校の先生は、「頑張れ」としか言わない。両親はいい意味で放っておいてくれているけど、どこか頼りきることができない。囲碁部の先輩達はいい人だけど、
最近会っていないし、きっと学校に来ないあたしに愛想を尽かしているだろう。
あたしが完全に心を許しているのはただ1人、絵里だけ。極端な話、絵里以外は信用できない。
だから……もしも絵里がいなくなったら、あたしは独りぼっち。
不安な気持ちを押さえるように、左手の人差し指にはめている指輪を、右手でぎゅっと握った。
- 179 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:21
- 絵里は、3日に1回くらいの割合で家に来てくれた。本当は毎日でも来てほしかったけど、それだと絵里が大変になる。
あたしが学校に行くだけ……たったそれだけで毎日会えるようになるのに、あたしはそれをしない。
学校という1つの世界が、信じられなくなっていた。周囲の励ましが、かえって苦痛になったから。
一生懸命な先生達に対してそう思うのはバチ当たりかもしれない。でも、あたしは先生を、学校を信じることができない。ただその事実があるだけだった。
- 180 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:21
- 12月になると、両親からも留年がどうのこうのと言われるようになった。直接「学校に行きなさい」とは言わなくても、「このままだと留年になるってことは忘れちゃいけんとよ」というふうなことを言われた。
そして当然のように、あたしは気分的にも疲れていった……。
- 181 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:21
-
イライラが抑えられなくなった時は、夜になってから外を散歩した。ぶらぶらと歩きながら冷たい空気を吸い込めば、少しは気分が落ち着く。それでも、虚無感だけは消えない。
そんな日々が続き、ストレスは溜まる一方だった。
- 182 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:22
-
この頃のあたしは、どうかしていた。
12月の半ば、絵里が家に来てくれた日。
「れいなぁ。」
「ん?」
「寂しいよ〜…。」
「3日に1回くらいしか会えないから寂しかと?」
「うん…。あと1週間で冬休みに入るからいいんだけど…学校でもれいなと一緒にいたい。れいながいないと毎日つまんないんだもん。」
胸がチクリと痛んだ。
「無理にとは言わないけど……学校に来てほしい。」
そう言う絵里の声には、必死さのようなものが込められていた。
「ねえ、どうして学校に来られないの……。」
繰り返しになるけれど……この頃のあたしは、本当にどうかしていた。
普段のあたしなら、絵里を抱きしめて「寂しい思いをさせてごめん」と謝っただろう。でも、この日のあたしは、あろうことか―――
ドンッ!!
壁を殴りつけたのだった………。
- 183 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:22
- 壁を殴る音に、絵里はビクッとした。
あたしは、痛さと理由もない怒りで拳を震わせながら口を開いた。
「絵里は……あたしの気持ちがわかっとうと?」
「え………」
「いいや、きっとわかってなんかなかとね。…誰も、あたしの気持ちをわかって
くれないばい。」
「そんなことない!!れいなの気持ちはみんなわかってるよ!!」
「……誰だって、そう言うと。ばってん、結局誰もわかってなんかないけんね。」
「れいな…」
「帰って。」
「え…?」
「帰って。気持ちはわかる、なんて嘘をつかれるのはもうウンザリやけん。」
冷たくそう言い放つと、絵里の目から涙がこぼれた。
「ごめんね……。」
泣きながらそう言って、絵里は部屋を出ていった。
- 184 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/03(水) 11:23
- 絵里が出ていった後の部屋で、あたしは何もせずにボーッと佇んでいた。絵里とはもう終わりだな、ということだけは理解できたけれど、怒りも、悲しみも、後悔の気持ちもわいてこない。
部屋で放心状態になっていると、お母さんがドアをノックして入ってきた。
「れいな。絵里ちゃんが泣きながら帰ってたけん、ケンカでもしたと?」
首を横に振って答えた。
「ケンカよりもずっとひどか事たい…。」
それ以上は深く聞かれなかったけれど、もうすぐ晩ご飯ができるから、と言われて「何も食べる気がしないっちゃ」と答えたら驚かれた。
結局、夕食も食べず、お風呂にも入らず、テレビも見ずに、その日は眠ってしまった。
- 185 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/03(水) 11:28
- 今日の更新は以上です。このシーンは、書いている本人も感情がこもってしまいました。
次回は、この話全体の山場かもしれません(作者はそう思っています)。一言だけ予告しますと、亀井さんが悪い意味で暴走してしまいます……。
- 186 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 22:59
- どうなっちゃうんだろう・・・気になります。
- 187 名前:22 投稿日:2005/08/04(木) 00:30
- 更新お疲れ様です
田中さん、精神的にかなり追い詰められて疑心暗鬼……自分も他人を信じられない時期があったので余計に重く感じます。自分なりの道を見つけて欲しいです。
こんな素晴らしい小説を読ませてもらってて、こちらこそありがとうございます。これからも頑張ってください!期待しています
- 188 名前:名無しさん 投稿日:2005/08/04(木) 21:00
- 更新お疲れさまですm(_ _)m
どんどん追い詰められて疑心暗鬼になってきているれいな。
思わず大切な人まで傷付けて………これからどうなるんでしょう。
次回更新も頑張って下さい期待しております。m(_ _)m
- 189 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/05(金) 10:27
- >>186 名無飼育さん様
ありがとうございます。待っててよかった、と思っていただけるように頑張ります。
>>187 22様
ありがとうございます。
22様と同じように、作者にもこんな時がありました。当時は地獄のように苦しかったのですが、今こうしてこの小説を書いているのは、そういう経験をできたからこそだと思っています。
す、素晴らしいだなんてとんでもないです(焦。HNのとおり「駆け出し」ですので…。
>>188 名無しさん様
レスありがとうございます。
前回の部分は書いていても心が痛みました。ただ、作者が勝手に師匠と呼ばせていただいている方の小説に「泣いたり怒ったりするから、笑ったり喜んだりする時間が輝く」という言葉がありました。作者はその言葉に感銘をうけたのであります…。
昨日、ちょっとしたきっかけである曲を聴いたところ、作者の好みにジャストミートしました。今も聴きながらキーボードを叩いています。
いい曲を聴きながらお気に入りの小説を読むと、これ以上ないエネルギーになります。つっかかって書けなかった場面がすーっと書けました。
それでは続きです。
- 190 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:28
-
―――――色とりどりの花が咲いている、広い原っぱ。草の上に、絵里と並んで寝ころぶ。
『れーな。』
『なん、絵里。』
『大好き。』
『れなも、絵里のこと大好きっちゃよ。』
『じゃあ、キスしよ?』
『うん、よかよ。』
寝ころんだまま体の向きを変える。そして、目を閉じて顔を近づけていく……。
唇が触れた瞬間―――
目が、覚めた。
- 191 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:28
- 「……夢か。」
目が覚めると同時に、昨日のことを思い出した。
夢の中のような2人には、もう戻れない。そう思うと、昨日は出なかった涙がどんどん溢れてきた。
時間が経って、ようやく後悔の気持ちがわいてきた。でも、もう取り返しはつかない。
―――絵里を深く傷つけたあたしに、絵里の恋人でいる資格なんてないっちゃね……。
ふと、左手の指輪が目に映った。
―――……………外せるわけ、なかと。だって……絵里が嫌いになったわけじゃないんだから。
絵里があたしを嫌いになっても、あたしは変わらず絵里が好きだから……。
- 192 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:29
- 3日が過ぎたころ、家になっち先生が来た。
「田中ちゃん。亀井ちゃんと何かあったべか?」
「え?」
「亀井ちゃん、ここ何日か学校に来てないっしょ。電話したら、部屋にこもって出てこないってお母さんが…。」
「………」
しばらく言葉が出なかった。あたしがどれだけ絵里を傷つけたか、改めて思い知らされた。
なっち先生には「ちょっとケンカしただけですと、謝っておきます。」と言った。
―――もう、謝っても遅いけんね…………。
なっち先生が帰ってから、部屋でずっと泣き続けた。
- 193 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:29
- 絵里が最後に家に来てから、6日が過ぎた。当然ながら、あれから絵里は一度も家に来ていない。
今日は12月22日。2学期の終業式の日だった。
「やれる分だけでいいから」と冬休みの宿題を家に届けにきたなっち先生に聞くと、絵里は結局今日も学校に来なかったらしい。
それを聞いて、また胸が痛んだ。
- 194 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:30
- ベッドに横になって、今までのことを思い出した。
笑ったり、泣いたり、悩んだり。いろんなことがあったけれど、いつでも絵里が隣にいてくれた。
絵里の柔らかくて優しい笑顔も、からかわれて拗ねた顔も、全てが愛おしい。
なのに………幸せな日々を一瞬にして壊したのは、他でもない自分。溜まっていた不満やストレスを、全く関係のない絵里にぶつけてしまった。
あたしの誕生日に絵里がくれた、トパーズの指輪を見る。
―――あたしと絵里の絆は、この指輪のようにしっかりしていると思ってたけど………実際は、こんなにも脆かったとね……。
- 195 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:30
- 次の日。絵里と会えない苛立ちは、かなりのものになっていた。会いたいけれど、自分にはその資格もない。そんな状況も、苛立ちを強くする原因の1つになっていた。
夜。気分転換に、外を散歩することにした。
当てもなく歩いていると、ちらちらと雪が降ってきた。
静かに、桜の花びらが散るように降る雪は、いつもあたしを感傷的にさせる。去年まではそんな気分になるのがとても好きだったけれど……今の雪は、悲しみを深くするだけ。
タイミング悪く降り出した雪を恨めしく思いつつも、その綺麗さに見とれながら歩いた。
そうして、知らないうちに着いたところは――――
学校の裏、あの公園だった。
- 196 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:30
- 苦笑いするしかなかった。無意識に歩いてやってきたのが、絵里との思い出がギッシリつまった場所。
―――ダメっちゃ。ここにいたら、悲しくて気が変になるけんね…。
立ち去ろうとしたその時、公園の中に人の気配を感じた。
ゆっくりと顔を横に向けると。
絵里がいた。
思わず声をかけようとしたところで、信じられないものが目に入った。
絵里の手には―――
銀色に光る、ナイフが握られていた。
- 197 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:31
- 動くことも声をかけることもできずにいると……
絵里が、ナイフを持った手を大きく振り上げた。ナイフの切っ先は、絵里自身の手首に向けられている。
危ない――。そう思った瞬間に、思い切り叫んでいた。
「絵里!!!!」
絵里は振り上げた手を止めて、呆然とした表情でこっちを見た。ナイフが手から滑り落ちて、地面に転がる。
あたしは、急いで絵里のところに駆け寄った。絵里は驚いているからか、ピクリとも動かない。
「絵里、今何しようとしたと?」
「………」
「自殺?」
絵里はゆっくりと首を縦に振った。
「何で自殺すると?」
「……私……れいなのこと…何もわかってあげられなくて……それで…自分が情けなくなって……。」
そう言って、絵里は俯いた。
- 198 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:31
- 「絵里。顔上げんしゃい。」
静かにそう言うと、ゆっくり顔を上げる絵里。そして――――
パシンッ!!
全力で、絵里の頬をひっぱたいた。
赤くなった頬を押さえて目に涙を浮かべる絵里に、大声で怒鳴った。
「自殺しようとするなんて最低たい!!命を粗末にするんじゃなか!!」
「………」
「絵里が死んだら、家族だけじゃなか、絵里の知り合い全員が悲しむっちゃよ!!それに……もし、絵里を傷付けてまだ謝ってもいない恋人がいたりしたら、その人はどうすればいいとよ?」
絵里はその場にしゃがみこんで、涙を流し始めた。あたしもそこにしゃがんで、泣いている絵里をそっと、包み込むように抱きしめる。
「この前のことは、悪いのは全部れなやけん。絵里は全く悪くなかとーよ。だか
ら……死のうとしたりなんかしないで、ちゃんとれなに謝らせてほしいと。」
絵里を抱きしめたまま、言った。
「本当に、本当にごめんね。取り返しのつかないほどひどいことしたけん、あたしのこと、気の済むまで殴ってほしいばい。」
そう言って、目を閉じた。絵里が許してくれるまで、何回でも殴られようと思った。それだけのことをあたしはしたのだから。
そのままじっとしていると、頬に何かが当たった。でも、殴られたような痛みはない。
目を開けると――――
あたしは、絵里にキスされていた。
- 199 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:32
- 「え、絵里!?」
「そんなこと…できないよ。」
「え?」
「世界一好きな人を殴ったりなんか、できないもん……。」
「絵里……。」
一瞬、世界一好きな人を殴ってしまった自分を呪ったけれど、それ以上に絵里の言葉が嬉しかった。
「れなのこと、嫌いになってなかと?」
「…バカ。嫌いになんてなるわけないでしょ……。」
そう言って、絵里はふわっと微笑んだ。
ひさしぶりに見る、絵里の笑顔。気付いたら、目尻から涙がこぼれていた。
そして、さっきとは逆に――――涙が止まらないあたしを、絵里が優しく抱きしめてくれた。
「そうだ…絵里。」
「なあに?」
「今日、12月23日っちゃね。誕生日、おめでとう。」
「……ありがとう。」
雪が、地面に落ちているナイフを覆い隠すように……そして、2人を祝福するかのように、静かに降り続けた。
- 200 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/05(金) 10:32
- 絵里を傷付けて、後悔して、絵里の優しさに触れて……。「雨降って地固まる」のことわざのように、絵里を想う気持ちは強くなった。
今なら……どんなことでもできてしまうような気がする。
それくらい、絵里の存在は大きなものだから…………。
- 201 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/05(金) 10:39
- 今日の更新は以上です。
気が付いてみると、スレを立ててからちょうど1か月になりました。今の話は今月中に終わらせたいと思っているのですが、1回当たりの更新量は行き当たりばったりで決めているので、いつ終わるかわかりません…。
次回は平和に進むと思われます。
- 202 名前:22 投稿日:2005/08/05(金) 17:39
- 更新お疲れ様です
こんな風に考えてしまう亀井さんは、きっと田中さんを本当に大切に思ってるんでしょうね。田中さんはかなりの幸せモノですね。
次回も期待しています
- 203 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/06(土) 00:02
- あのシーンは涙なしではよめませんでした・・・
- 204 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/07(日) 12:38
- >>202 22様
ありがとうございます。1人の人を一生懸命に愛するって、素晴らしいですね。今まで意識して考えていませんでしたが、本当に田中さん、幸せですねぇ…。
>>203 名無飼育さん様
ありがとうございます。感動していただけて嬉しいです。改めて、小説を書いて良かったとしみじみ思っております。
夏真っ盛りでございます。昨日の夕方に外をブラブラしていると、東京の通勤ラッシュかと思うほどの人込みが。全国的にも有名な某夏祭りの時期だったのでした。30度近い気温と普段の10倍はあろうかという人の量に、リフレッシュのはずが逆に疲れ果てました(汗
疲れ果てつつも更新いきます。
- 205 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/07(日) 12:39
-
明日――クリスマスイブを2人で過ごす約束をして、家路についた。すぐに、なっち先生に「絵里と仲直りしました」とメールを送る。詳しいことまでは言わないことにした。
しばらくして、2件同時にメールが届いた。1つはなっち先生から、「よかったべ。これからは仲良くね。」という返信。もう1つは絵里から、「お母さんに、自殺しようとしたことを正直に話して謝りました。あの時止めてくれて本当にありがとう。今は、死んでしまわなくてよかったと思っています。こんな絵里だけど、これからもよろしくね。明日のクリスマスイブデート、楽しみにしてます
ノノ*^ー^)」というメール。
「止めたはいいけど、思い切りビンタしちゃって本当にごめん。反省してるm(__)mこちらこそ、これからもずっとよろしくね。
´ヮ`)人(^ー^*」と返信した。
窓の外を見ると、雪は降り続いていた。
絵里と仲直りする前はひどく冷酷に思えた雪。でも今は、いつものように、心地よい切なさに浸ることができる。
- 206 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/07(日) 12:39
- 翌日、クリスマスイブ。雪がちょうどいいくらいに降る天気だった。
家族でのクリスマスパーティーは昼に。そして夜は絵里と。日が暮れて外がすっかり暗くなった頃、家を出た。
冬の夜、それも雪が舞う外は当然寒い。でも、はらはらと舞う雪は、光輝いて幻想的だ。
白い息を吐いて歩き、学校裏の公園に着いた。よく見ると、絵里以外にも2人がいる。
「「あ、田中ちゃん久しぶり!!」」
「紺野先輩に小川先輩!!」
「あー、絵里のことは無視?れいなひどい!」
「…紺野先輩に小川先輩に絵里。」
「絵里は最後なの!?絵里はおまけ!?」
「…絵里に紺野先輩に小川先輩。」
このやりとりを聞いていた2人の先輩は吹き出した。
―――これじゃ、まるであたしが絵里の尻に敷かれてるみたい…。
「と、ところで、先輩達もデートですと?」
「うん。あさ美ちゃんと2人でここに来たら亀井ちゃんがいてびっくりしたよ。」
「さっきまで、亀井ちゃんがいかに田中ちゃん大好きかを聞かせてもらってたの。」
「そうそう。『田中ちゃんと付き合ってる亀井絵里ちゃんだよね?私達は田中ちゃんと同じ部活の先輩だよ』って言ったら、亀井ちゃんが『れいなと同じ部活ですか?いいなぁ…』とか『私、れいながいないともう生きていけないです』とか言ってたもん。ね、亀井ちゃん。」
「ちょっと小川先輩、それ絶対れいなには言わないって約束したじゃないですかー!!」
そう言って頬をぷくっと膨らませる絵里。
「あ、亀井ちゃんの膨れっ面かわいい。惚れちゃうかも。」
そう言った小川先輩は次の瞬間、あたしと紺野先輩に左右から同時に殴られて、「ゴフッ…冗談なのに…」と言って撃沈した。
―――ふん、自業自得たい。
- 207 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/07(日) 12:40
- せっかくだから一緒に食事しようということになって、気を失った小川先輩を置いて(あとで世界記録を越そうかという速さで追いかけてきた)近くのファミレスに入った。
「「「「メリー・クリスマス!!」」」」
とジュースで乾杯。
食事をしながら、話題はそれぞれの恋人についてのことになった。
「あたしとあさ美ちゃんは中学の時同じクラスになったんだよ。もう、一目見た瞬間に好きになっちゃって。」
「で、中3の時のクリスマスにまこっちゃんのほうから告白してくれたの。あの時はびっくりしたけど、でもすごく嬉しかったなあ。」
「小川先輩、何て言って告白したんですか?」
「う…それは内し…」
「『私にとってあさ美ちゃんがいない日々は、桜が咲かない春と同じだよ。』って。今考えるとかなりクサい科白だけど、言われた時は感動したよ。」
顔を真っ赤にして俯いている小川先輩と、にこにこしている紺野先輩。なんだか微笑ましい。
- 208 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/07(日) 12:40
- 「田中ちゃんと亀井ちゃんはどんな感じで付き合うことになったの?」
「…あたし恥ずかしいけん、絵里が説明して。」
「はいはい。れいなとは今年の春に初めて会ったんですよ。第一印象はちょっと怖かったですね。」
それを聞いて、絵里を軽く睨む。
「ほら、こういうところが。」
しょうがなく目の前の料理に再び手をつけた。
「でも話してみるとそんなことなくて。球技大会の日には活躍できなくて教室で泣いてた私を、れいなが慰めてくれたんです。その時に、れいなのこと好きだなって自覚しましたね。」
「へ〜。田中ちゃんって意外と優しいとこあるんだね。」
小川先輩がさらっと失礼なことを言う。
「そうなんですよ。それでどんどん好きになっていって、秋ごろに思い切って告白したんですけど、『自分に自信がないから今はまだ付き合えない』って言われて。でも絵里のことは好き、って言ってくれたんです。まあそれからもいろいろとあったんですけど、今この瞬間はすごく幸せかな。」
絵里は話をそう締めくくった。
「れなも今、すごい幸せですばい。」と、あたしも付け加えた。
- 209 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/07(日) 12:41
- いろいろな思い出話なんかをして、ファミレスを出たころには8時を過ぎていた。
「プレゼントの交換なんかもあるし、ここからは恋人同士の時間にしよっか。」ということで、紺野先輩、小川先輩と別れて、絵里と2人、再び学校裏の公園に行った。
実は昨日あの後、メールで「お互いプレゼントを用意しよう」と決めていた。でも、「モノを送るよりも、手紙で気持ちを伝えよう」ということになって、慣れない手紙を何時間もかけて書いた。
ジャンケンで手紙を読む順番を決めた結果、あたしが先に読むことになった。
「絵里へ。
絵里と付き合い始めて、2か月と少しが経ちました。この2か月間で、楽しいことも辛いこともあったけれど、1日1日がとても輝いていたと自信を持って言える。
綺麗な言葉はあまり多く知らないけれども、これだけは伝えたい。
これから先も、たくさん一緒にいて、たくさん笑い合って、たくさんケンカもしようね。ケンカをするほど絆は深まるし、ケンカをするからこそ、笑い合える時間がかけがえのないものになるのだから。
だけど、ケンカした時でも絶対に忘れないで。田中れいなは、世界で一番、亀井絵里が大好きだよ。」
- 210 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/07(日) 12:41
- 短めの手紙を読み終わった。長々と書くよりも、短い文章の中に気持ちを込めるほうをあたしは選ぶ。
絵里は優しく微笑みながら「ありがとね。」と言ってくれた。
「じゃ、次は私が読むね。」
「入学式の日のことを、れいなは覚えていますか?私が初めてれいなに話しかけた言葉は『どうしたの?みんな廊下に並んでるよ』だったよね。それから少しずつ仲良くなって、お互いのことも少しずつ知っていく中で、私はだんだんとれいなに惹かれていきました。球技大会の日には、泣いていた私をれいなが抱きしめてくれて、泣きながらも心臓がドキドキしたのを覚えています。
球技大会の時だけじゃない。文化祭で私が焼いたクッキーを『おいしい』と言ってくれた時。部活がない日に一緒に帰った時。れいなといる時はいつでも、ドキドキしていました。それは今この時も、そしてこれからも、ずっと変わらない。
私はいつまでも、れいなを好きでい続けるよ。れいなと2人で、歩き続けたい。れいなが隣にいてくれれば、どんな壁でも越えてゆけそうだから。私はれいなを支えて、れいなは私を支えて。そんな関係でいたいと願っています。」
絵里の手紙の一言一言が、心に染み渡った。
- 211 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/07(日) 12:42
- お互いに宛てた手紙は、きっと最高のクリスマスプレゼントになったと思う。
そして、互いの想いを確かめ合うように…あたしと絵里は、ぎゅっと抱き合って長いキスをした。
雪が静かに舞い落ちる、聖なる夜。絵里の温もりは、その寒さをすっかり忘れさせてくれた―――。
- 212 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/07(日) 12:47
- 今日の更新は以上です。季節外れも甚だしいですが、ご容赦くださいませ…。
ずいぶんひさびさに登場した方が2人ほどいますが、書いている時に「あ、この2人最近出てない」と思い出して急遽登場させたりなんかは決してしておりません(アタフタアタフタ)
次回も、今回と同じような雰囲気で進みます。その次は……。
- 213 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/07(日) 17:09
- この他では味わえないこそばゆい感じの2人の関係が大好きです。しかし小川さん
おもしろいですねw次回楽しみにまってます☆その次も・・・・・・w
- 214 名前:22 投稿日:2005/08/07(日) 22:09
- 更新お疲れ様です
田中さんと亀井さん、お互いがお互いをすごく大事に想っているのが伝わってきますね
そしてもう一組は小川さんのヘタレ具合がなんとも…紺野さんの苦労が偲ばれますw
全く余談ですが祭といえば自分のまちのお祭りに某男性アイドルが来まして軽く暴動になってましたw
次回も期待しています
- 215 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/09(火) 12:19
- >>213 名無飼育さん様
ありがとうございます。未熟な文章ですが、気に入っていただけて嬉しいです。
小川さんは、甘甘な田中さんと亀井さんに対するスパイスのような存在でしょうか。甘い物を食べた後は少し辛い物を食べ、また甘い物…という具合です(w
>>214 22様
ありがとうございます。それぞれの手紙の内容、必死になって考えました(汗
小川さんは紺野さんが完璧に引っ張っていってくれるでしょう(w
祭りで暴動とは大変ですね…。実はこちらの祭りでも毎年のように、大抵の方が嫌いな「あの」鳥にちなんだ名前の人々が騒ぎを起こしています。作者の住んでいる場所が特定できそうな発言でした(w
昨日、ついに今の話をオフラインで完成させることができました。ワードで約100ページの話を書くのに、ちょうど4か月くらいかかりました。遅いのか早いのかわかりませんが、死ぬ気でやれば2か月かからないで書けたかなというのが実感です。
改めて一通り読んでみると、所詮は駆け出し、と凹んでしまいましたが、こうなったら勢いだけで突っ走っていきます(w 続編と言いますか、次の話もすぐに書き始めます。
それでは今日の分です。
- 216 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:21
-
クリスマス以降は、のんびりとした時が流れた。宿題をわかる分だけ解いて、家の手伝いを少しして、あとは絵里と電話したり。年末の忙しさというのは、あまりなかった。年賀状は特に書かないで、絵里や小川先輩や紺野先輩にだけメールで新年の挨拶をすることにした。
- 217 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:21
- 雪が降っていて、なおかつ空が晴れていた日には、一人で学校裏の公園に来た。
雪が降って空は晴れ―――あたしが一番好きな天気。そんな中で、今までの絵里との思い出を振り返った。
特に、この公園にはいろんな思い出が詰まっているから。
絵里に告白された場所。二人が恋人として歩き始めた場所。誕生日に、今も左手の人指し指で輝くトパーズの指輪をプレゼントしてくれた場所。ついこの前、絵里とお互いの想いを再び確かめ合った場所。
楽しいことも、辛いことも見守ってきてくれた場所だから―――ずっと忘れずにいたいと思った。
- 218 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:21
- 12月31日。夜、家族そろって紅白歌合戦を見ていると、携帯にメールが届いた。画面には「絵里」の文字。
『もし良かったら、12時頃にいつもの公園で会えない?なんだか、れいなと一緒にいたい。』
「12時になったらちょっと出かけるばい」と言ったら、「絵里ちゃんとデート?」とからかわれた。まあ、当たってるけれども…。
『おっけー。テレビの時計で12時になったらすぐに出る。』と返信。
「れいな、何ニヤけとーと?気持ち悪か。」という言葉は、聞こえないふりをした。
- 219 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:22
- 12時きっかりに家を出て公園に行くと、絵里はすでに来ていた。
「明けましておめでとう」と、新年の挨拶を交わす。
「ごめんね、急に会いたいとか言って。」
「気にせんでよか。あたしも絵里に会いたかったと。」
「そっか。ありがとう。」
空を見上げると、ちらちらと雪が降ってきた。
「雪、綺麗っちゃね。」
「そうだね。儚くて綺麗。」
「あたし、こういう雪が降ると柄にもなくロマンチックな気分になるとよ。」
「うんうん、私もそういう気分になるよ。」
「じゃあ今……キスしたいばい。」
絵里は一瞬「へっ?」というような表情をしたけれども、すぐに柔らかく微笑んで目を閉じた。
あたしも目を閉じて…「大好きっちゃよ」と囁いてから、絵里の唇に自分のそれをくっつけた。
絵里の唇の柔らかい感触に、頭の中が真っ白になる。
唇を離した後、絵里が「今年最初のキスだね」と言って微笑んだ。
今年最初のキスは、「今年もよろしく」の印。
「そうだ、絵里。」
「ん?」
「実は……」
耳元でそっと囁いた言葉を聞いて……絵里は、ぱぁっと顔を輝かせた。
- 220 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:22
- 冬休みはあっという間に過ぎ去り、3学期の始業式の日。あたしは学校へ行った。2度不登校になって、2度目の復帰。
そして、あたしのせいで2学期最後の数日を休んだ絵里も、元気に登校した。
- 221 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:23
- 元旦の日、あたしが絵里に言った言葉は「れな、始業式の日から学校に行くばい。」だった。
不登校になって絵里に心配をかけて、さらには絵里を深く傷つけもして。絵里のためにも自分のためにも、学校へ行こうと決心した。学校が信じられないだの社会が信じられないだのというのよりも、少しでも長い時間絵里と一緒にいたいと思う。
- 222 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:23
- 前の時と同じように、クラスのみんなは復帰したあたしと、同じく休んでいた絵里を温かく迎え入れてくれた。
実際のところ、クラスのみんなの外見はとても良いとは言えない。茶髪の子がいたり、制服のスカートが短い子がいたり。何も知らない人が見れば、不良の集まりだと思うかもしれない。
でも、と思う。
外見とは裏腹に、心はみんな温かい。不登校の子がいても、差別もいじめもしないのだから。
学校でそんなに多くは教わらないこと、そして外見だけではわからないことが、実は一番大事なんだと思う。
- 223 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:24
- 今日は始業式の日だから、授業はなし。午前で学校が終わって、絵里と帰ることにした。
考えてみると、絵里と一緒に帰るというのも何ヶ月かぶりになる。
クラス公認のカップルなのをいいことに、教室の中でも堂々と手をつないで帰ろうとすると、なっち先生に呼び止められた。
「田中ちゃんも亀井ちゃんも休んだ時は心配したけど、元のラブラブな2人に戻れたみたいだね。なっち嬉しいっしょ。」
ちょっとからかってやろうと思って「なっち先生も『世界中の独身男性の72.3%を虜にする天使スマイル』で恋人つくればよかですと。」と言ったら、「うーん、なっち実はC組の矢口先生が気になってるべさ。今度食事にでも……って何言わすべか!!」と、勝手に言って勝手に赤面していた。
すかさず絵里が「先生、3学期の英語の成績がAじゃなかったら…うっかり矢口先生の前で口が滑っちゃうかも…。」とトドメをさす。
その場で○| ̄|_の体勢になってしまったなっち先生を置いて、しっかりと絵里の手を握って教室を出た。
- 224 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:24
- 外は晴れていてそれほど寒くもなく、自然と気分も良くなる。
絵里は「れいなと一緒に帰るのってすごい久しぶりだね。なんか嬉しいな。」と言ってニコニコしていた。
「あたしも。こうして絵里と並んで歩いてるだけで幸せっちゃ。」
それから2人とも無言になったけれど、それは気まずいものではなかった。手をつないでいるだけで心が通い合うから、言葉はいらない。そんな状態。
- 225 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:24
- 気づくと、絵里がこっちをじーっと見ていた。
「なん?れなの顔に何か付いとう?」
「ううん。れいなの横顔に見とれてたの。」
逆にこっちが恥ずかしくなるような科白。顔が赤くなりそうなのを隠すのと、ちょっとした反抗のつもりで絵里から顔を背けた。
「…嫌だった?」
やけに悲しそうな声に振り向いてみると、絵里の眉がハの字になっている。
……あたしその顔にすごく弱いけんね。
「い、嫌ではなかよ。」と言うと、絵里はいつものまぶしい笑顔になって、いきなり頬にキスしてきた。まあ、これも嫌ではない。むしろ嬉しい……かな。
- 226 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:25
- 絵里はあたしにいろんな「絵里」を見せてくれる。優しく微笑んで抱きしめてくれる、お姉さんみたいな絵里。同じ笑顔でもちょっとはしゃいだ感じの、無邪気な子供みたいな絵里。
口に出すのは恥ずかしいけれど……あたしは、どの「絵里」も大好きなんだ。
―――ね、絵里。絵里がいろんな素顔の「絵里」を見せてくれるのは、あたしにだけ。そう自惚れても、いいんだよね……?
- 227 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/09(火) 12:25
- 学校に復帰してからは、ずいぶんと色々なことが変わった。
何よりも、絵里と一緒にいる時間が増えたのが嬉しい。冬休み明けの席替えで絵里の隣の席にしてもらったおかげで、授業中でも隠れて「イチャイチャ」したりした。放課後は部活に行って先輩達とくだらない話なんかをして、土日には絵里とデートして。
とにかく毎日が楽しい。そんな日々が、2月の中頃までは続いた…。
- 228 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/09(火) 12:29
- 今日の更新は以上です。ほんの一瞬だけ亀井さんが黒くなりました(w
次回は、またしてもひさびさに登場する人がいます。そして事件が起きます(ぇ
- 229 名前:夏風 投稿日:2005/08/09(火) 14:36
- 初めまして。
金板で作者をしています、夏風と言います。
今日、初めてこの作品を読みました。
そして「いい!」と思わず叫んでしまいました(笑
作品の中で、揺れ動く田中さんと亀井さんの気持ちが
よく表現されていると思いました。
これからも頑張ってください。応援しています。
- 230 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/10(水) 00:04
- テレビとかで2人をみるとこの小説がシンクロ・・おもわずニタニタしちゃいますw
- 231 名前:22 投稿日:2005/08/10(水) 00:13
- 更新お疲れ様です
田中さんの決断…彼女の最優先はいつも「絵里とあたし」ですね。それも田中さんらしいです。
そしてナッチ先生…生徒におどされて凹て…この人のギャップもイイですね
次回も期待しています
- 232 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/11(木) 11:47
- >>229 夏風様
初めまして。レスありがとうございます。
金板のほう、探して読ませていただきました。読み終わっての第一声は「いやぁ……すげー…。」でした(w
駄文ですが、応援していただけるとありがたいです。
>>230 名無飼育さん様
ありがとうございます。作者にも時々そんなことがあります(w
>>231 22様
ありがとうございます。ここの田中さんはひたすら一途です。そこをうまく表現できればと思います。
なっち先生、前回は黒くなった亀井さんの餌食になってしまいましたね(w
昨日、6期絡みの小説を2つ(夏風様の作品含む)読みました。結果、見事な脱力感に襲われました。というのも、作者は「まあまあ良い」作品を読むとニコニコ(ニヤニヤ?)し、「良い」作品だと体が軽くなり、「良すぎる」作品だと逆に脱力感に襲われるのです(w
過去読んだ中で最高だと思っている作品の時は、脱力感が1日中続きました。そして自分自身の文章を読むと、別の意味で脱力してしまうのでしたorz
では今日の更新分をどぞ。
- 233 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:48
- 学校が休みの日の午前中。おつかいを頼まれて、近所のスーパーに歩いていた時のこと。
「さゆ……?」
さゆが、歩道の脇でうずくまっていた。
- 234 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:49
- 「れいな…」
顔を上げたさゆの目は、真っ赤になっていた。
「さゆ、どげんしたと?」
「ううん、何でもない…。」
「何でもないわけなか。」
近くに置いてあったベンチにさゆを座らせて、自分も隣に腰かける。
「何があったと?話したくなければ無理にとは言わないっちゃけど…。」と言うと、「れいなにこんなこと言っていいのかわからないけど…」と前置きして、ぽつぽつと話し始めた。
- 235 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:49
- 「実はね…この前付き合い始めたばかりの人と別れたの。同じクラスの人で、いい人だな、って思ってて。告白されてOKしたんだけど、付き合い始めたら突然優しくなくなったの。」
さゆに恋人ができたというのに少し驚いたけど、それ以前にさゆが可哀想だった。
「…あたしには、さゆの傷を癒してあげることはできないけど。でも、いつかきっといい人が見つかると思うばい。」
静かに、話し始める。
「あたしも今、恋人がおるっちゃよ。すごく大切な人。だから、さゆもいつかそういう人に出会えると。今辛い思いをすれば、いつかもっと嬉しいことがあるんやけん。だから今は、思い切り泣けばよか。」
- 236 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:50
- さゆはうなずきながら、おそらくこらえていたであろう涙を流していた。
「さゆならきっと、たいていの男は放っておかんばい。何て言ったって、れなが惚れるくらいかわいいっちゃから。」
冗談めかしてそう言うと、さゆはうっすらと笑顔を浮かべてくれた。
そして……。
「れいなって、優しい人なんだね。」
そう言って、頬にちゅっ、とキスをしてきた。
- 237 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:50
- 突然のことで驚いているあたしに、「ありがとう、おかげで元気が出たの。」と微笑みながら言って、さゆは走り去っていった。
買い物に行くのも忘れてボーッとしているあたしを、遠くから2つの目が見つめていた……。
- 238 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:51
-
翌日。一緒に学校へ行こうと絵里の家に行くと、もう学校へ行った、とのことだった。
教室に着いて机に鞄を置こうとしたら、机の上に紙切れが置いてあった。
「屋上に来て。 絵里」
妙に素っ気ない文。何だろうかと思いつつ屋上へ行った。
- 239 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:51
- 絵里はフェンスに寄りかかっていた。向こうを向いているため、表情は見えない。
「絵里。どげんしたと?」
「……」
返事がない。
「絵里?」
「……れいな。何か隠してること、ない?」
「え?」
「何か隠してない?って聞いてるの。」
普段からは考えられないほどに冷たい、絵里の声。
「隠してること、って言っても…何もなかよ?」
「……キス。」
「え…?」
「昨日、私が知らない子とキスしてたのは、何なの?」
「あ………。」
「昨日、ずっと遠くから見てたんだよ?何を話してたのかは知らないけど、他の人とキスするってどういうこと?」
氷のように冷たい声が、怖いとさえ思った。
「あれは……違うっちゃ。そんなつもりは…。」
「言い訳は聞きたくもないから。」
「っ……」
絵里が、こっちに向かって歩いてくる。いつもの、輝くような笑顔はそこにはない。
あたしの前で立ち止まる絵里。あたしは、金縛りにでもあったかのように、微動だにできない。
- 240 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:52
-
パアンッ!!
乾いた音が響きわたった。
左の頬がジンジンと痛む。
「サイテーだね…。」
そう言って、絵里は屋上を出ていった。
バタン、とドアが閉まる音と同時に……涙が、堰を切ったようにあふれだした――――。
- 241 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:52
- 絵里が出ていった後の屋上で、あたしは泣いて後悔することしかできなかった。
―――あたしがさゆにキスされてるのを見て、絵里はどれだけショックを受けた…?あたしが絵里の立場だったら……きっと、気が狂ってしまう。
―――――『絵里は……あたしの気持ちがわかっとうと?』
『え………』
『いいや、きっとわかってなんかなかとね。…誰も、あたしの気持ちをわかってくれないばい。』
『そんなことない!!れいなの気持ちはみんなわかってるよ!!』
『……誰だって、そう言うと。ばってん、結局誰もわかってなんかないけんね。』
『れいな…』
『帰って。』
『え…?』
『帰って。気持ちはわかる、なんて嘘をつかれるのはもうウンザリやけん。』―――――
あの後……もう二度と、絵里を悲しませないと心に誓った。それなのに……。
- 242 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:53
- あれこれ考えて、ずっと屋上で立ち尽くしていた。
もうずいぶん経ったかなと思ったころ、屋上のドアが再び開いた。入ってきたのはなっち先生。
「あ、いたいた。田中ちゃん、もう朝のホームルーム終わったっしょ。早く教室に戻るべさ。」
「ばってん……その…」
絵里が言ったわけではないだろうけれど、なっち先生はあたしと絵里に何かがあったというのがわかっているような雰囲気だった。
「…もうすぐ授業も始まるべ。」
「わかりましたばい…。」
あえて絵里のことには触れないなっち先生の気遣いに、心の中で感謝した。
- 243 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/11(木) 11:53
-
それから教室に戻って授業を受けた。でも、隣の席の絵里は授業中は前だけ見ていて、休み時間になるとすぐにどこかへ行ってしまった。予鈴が鳴って戻ってきても、目も合わせてくれない。
―――思いっ切り、避けられてるっちゃね………。
唇をぎゅっと結んでいる絵里の横顔を見るたびに、苦虫を噛み潰したような気分になった。
結局…帰りのホームルームが終わると絵里はさっさと帰ってしまい、話をすることもできなかった。
- 244 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/11(木) 11:57
- 今日の更新は以上です。
どこかのアニメではありませんが、「事件編」と「解決編」を2回に分けるか1回にまとめるか悩んだ結果、分けることにしました。
次回に関しては、あえて何も言いません(w
- 245 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/11(木) 21:10
- 亀井さん(泣・・・
- 246 名前:夏風 投稿日:2005/08/11(木) 22:25
- お疲れ様です。
何だか悲しい、というより切ない事件…(?)ですね。
「頑張れ」と二人にエールを送ります。
作品、読んでくださったのですか?!
ありがとうございます。ホントに駄作で駄作で……
精進しようと思う毎日ですよ(笑
- 247 名前:22 投稿日:2005/08/12(金) 01:31
- 更新お疲れ様です
亀井さんの言葉、こちらにまで突き刺さりました。でも田中さん、心はあなたを呼んでるんですよ。気付いてください。
そして先生今度はGJ!
次回も期待しています
- 248 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/13(土) 11:03
- >>245 名無飼育さん様
あわわ、ハンカチをどうぞ。
>>246 夏風様
ありがとうございます。二人ならきっと大丈夫です(決定権は作者にありますがw)
夏風様の作品を拝見して多くの勇気をもらい、わずかに自信を失いました。作者も精進していきます。
>>247 22様
ありがとうございます。突き刺さってしまいましたか…。誰か救急車を(殴
>でも田中さん、心はあなたを呼んでるんですよ。気付いてください。
す、鋭い(焦
小説、音楽、高校野球と、最近感動する機会の多い作者です。野球は地元の代表校が勝ち進んでいたりもします。
この「感動」が小説を書くための動力源になるわけで、気持ちは昂ぶっています。しかし気持ちが昂ぶっても、実際問題「次の話」の執筆で早速躓くダメ作者でした(号泣
では続きです。
- 249 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:04
-
「そっか。それは大変だね。」
その日の部活で、小川先輩と紺野先輩に昨日からのことを全部話した。
「つまり、キスは田中ちゃんからしたわけじゃないんだね。」
「なら、誤解なんだって亀井ちゃんに言わなきゃ。」
「そうですとね……。」
たぶん、話を聞いてもらうこともできないだろうと思う。絵里があんなに怒っているのは初めてだから。
- 250 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:05
- 家に帰っても、沈み込んだ気分は元に戻らなかった。
―――まさか、さゆにキスをされてこんなことになるなんて……。
一瞬、ほんの一瞬さゆを恨みかけて、すぐにやめた。
前にテレビで野球がはいっていた時、ボールをぶつけられたバッターがピッチャーに対してカンカンに怒っていたのを見て、「わざとぶつけたわけじゃないのに、何でそこまで怒るとよ?」と不思議に思ったことがあるけれど、それと同じ。
さゆだって、悪意をもってキスしたわけじゃないのだから、責めることはできない。
―――なんとかして、絵里に話を聞いてもらうしか方法はなかとね……。
- 251 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:05
- しかし、次の日も、その次の日も、状況はまるで変わらなかった。
朝学校に来てから夕方帰るまで、隣の席なのに一言も話さない。まるで、見えない壁が立ちふさがっているかのよう。
自分から話しかけようかとも考えたけれど、なかなか勇気が振り絞れなかった。
- 252 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:06
- 金曜日の英語の時間。
「じゃあ、このページの対話文を2人に読んでもらうべ。えーと……それじゃ、田中ちゃんと亀井ちゃん。」
あたしも絵里も、目を丸くしてなっち先生を見た。なっち先生はかすかに微笑みながら頷いている。
迷いながらも、立ち上がって教科書を読み始めた。
「Kumi,I think talking is very important.」
「I think so too,Ken. We can understand each other by talking.」
―――私達は話をすることで、お互いを理解できるのです。
教科書の英文が、心にしみた。
- 253 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:06
- 帰りのホームルームが終わって、なっち先生が教室を出ていった。
………結局、英語の時間に対話文を読んだだけで、今日も直接話をすることはできなかった。
絵里は昨日までと同じように、急いで帰る準備をしている。
―――今日は金曜日やけん……あと2日会えないとね。
―――今日を逃したら……もう二度と元に戻れないような気がしてしまう。
―――そんなの、耐えきれん……。
絵里が、鞄をもってドアのほうに歩いていく。
―――待って……
「絵里っ…」
小さな声しか出なかった上に、その声ははっきりわかるほど震えていた。それでも、絵里は振り向いてくれた。
「絵里……もう…もうこんなの嫌やけん……。死ぬほど辛か……。」
言いながら、涙が溢れてきた。視界がぼやける。
涙を手で拭って、絵里をまっすぐに見た。これで無視されたりしたら、諦めるしかないのかな、という考えが頭をよぎる。
いつのまにか教室は静かになっていて、あたしと絵里に視線が集まっていた。
「……屋上に行こう?」
絵里はそう言うと、あたしの手をとって教室を出た。
- 254 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:06
- 屋上は、2月の冷たい風が吹きつけていた。
「とりあえず……どうしてああいうことになったのか、聞かせてほしい。」
そう言う絵里の声は、前に屋上に来た時よりもいくらか柔らかくなっていた。
「あの時一緒にいたのが、中学の時に好きだったさゆって子やけん。おつかいに行く途中で泣いてるさゆを見つけて、話を聞いてたと。」
「さゆが恋人と別れたって言ってたっちゃから、慰めの言葉みたいなのをかけとったら……突然キスされたとよ。」
「それ以上のことは何もないけん……信じてほしか。」
- 255 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:07
- 「…れいな。」
「うん?」
「ムカつく…。」
「…ごめんなさい。」
「事情はわかったけどムカつく。絵里以外とキスするのはすごいムカつく。」
「ちょっ、れなからキスしたわけじゃなかよ!」
「でもムカつくの!!」
ムカつく、を連発する絵里。
―――あ…。今気づいたっちゃけど、普通に絵里と話してるとね。
そんなことを考えていると、絵里があたしの頬をじっと見つめてきた。
「なん?絵里。」
「キスされたのって、どの辺?」
「…はい?」
「答えて!!」
そんなの聞いてどうするんだろうと思いつつ、「確か…この辺。」と指さす。すると……
チュッ
指をさしたまさにその場所に、突然キスされた。そのまま数秒間、絵里の唇は離れなかった。
「これで、れいなはさゆって子にはキスされてないんだからね!!」
そう言い捨てて、絵里は屋上の出口にスタスタ歩いていった。慌てて後をついていく。
「絵里…。許してくれると?」
「……まだ許してない。」
「え…じゃあどうす…」
どうすれば許してくれると?と言おうとしたけれど、最後まで言えなかった。絵里に、唇を塞がれたから……。
10秒ほどのキスの後、唇を離した絵里は「これで…許してあげる。」と言ってくれた。
「それと……この前、勝手に怒ってひっぱたいたりしてごめんね…。」
「ううん…。怒らせたれなも悪いとよ。」
なんだか、目の前が明るくなったような気がした。
- 256 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/13(土) 11:07
- その後は、教室に戻って荷物をとって……しっかり絵里と手をつないで帰った。
いつもの、2人のように。
- 257 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/13(土) 11:13
- 今日の更新は以上です。
話の中ではいつの間にか2月です。3月まででこの話の95%以上は終わりになります。
次回はお約束?の展開になると思います。
- 258 名前:22 投稿日:2005/08/13(土) 20:16
- 更新お疲れ様です
亀井さんが感情をあらわにするのはもしかしてはじめて…田中さんもさぞ戸惑ったかと思います。女の子ってこわいですね。
そして作者さんの住んでる所が全く分からない自分orz
次回も期待しています
- 259 名前: 投稿日:2005/08/14(日) 00:14
- あー、いい・・・・
青春ですねぇ
あ、蛇足ですが
「言ってたっちゃから」は「言っとったけん」のがよかですよ
「から」は「けん」って感じです
- 260 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/14(日) 22:52
- やっぱり怒ってたぶんだけ好きなんですよねw素直な亀井さんかわいいです!
- 261 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/15(月) 11:10
- >>258 22様
ありがとうございます。確かに、亀井さんが本気で怒ったのは初めてですね。これで喜怒哀楽全てが揃いました(w
作者が住んでいる所は……今年の「全国高校総合○○祭」が開かれた県です。思いっきり答えになってますかね。
>>259様
ご指摘ありがとうございます。確か以前にも同じようなことを指摘された記憶が…。
「わいはー(英語でいう『Oh!』の意味)、わーなんぼばがだんだっきゃ(私はなんて馬鹿なんだろう)」と方言で凹みまくる作者です。
>>260 名無飼育さん様
レスありがとうございます。登場人物の亀井さんをめんこい(これも方言です)と言っていただけるのは、作者がハンサムだと言われるのと同じくらい嬉しいことです(w
実際ハンサムだと言われたことはないのですが(汗
作者の住んでいる場所が判明しそうなので、何となく方言を使ってみました(w。高橋さんの福井弁同様、ちょっと通じにくそうではありますが。
さて、前回の更新後、毎回の更新量の目安をつけました。結果は「わいはー、まだまだだと思ってだばって、あどわんつかしかねーべや」(w
タイトルがタイトルなだけに、できれば8月中に完結させたいと思っていましたが、余裕で終わりそうです。
では今日の更新分です。
- 262 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:11
-
「えっと、来週から1年生で最後のテストが始まるべさ。もちろん成績にも関係してくるから、しっかり勉強しなきゃいけないっしょ。」
もう2月も半ばを過ぎた。もうすぐテストがあること以外は、いたって穏やかな日々。
- 263 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:12
- 朝のホームルームが終わり、絵里と2人でなっち先生にテスト範囲のことなどを訊きに行った。
一通り教えてもらった後、絵里が口を開いた。
「そうだ先生、矢口先生とはどうなったの?」
そういえば以前、「C組の矢口先生が気になっていて、食事にでも誘おうかと思ってる」みたいなことを言ってたっけ。
絵里が質問すると、なっち先生はいきなりニヤニヤし始めた。『天使スマイル』とは違う、いたずらっ子のような笑顔。
「聞きたいべか?実はこの前食事に誘ったらOKもらえたんだべ。」
あたしと絵里は「おぉー!」と言って拍手。
「それだけじゃないべさ。その食事の途中で、矢口先生のほうから『おいら、なっちのことがずっと好きだったんだ』って言ってくれたっしょ。それに、『おいらのこと、矢口って呼んでよ。』って。あの時の矢口、顔を真っ赤にして可愛かったべ…。」
だんだん顔が崩れていくなっち先生に軽く引いていると、絵里が突然叫びだした。
「みんなー、先生にとうとう春が来たよー!!」
それを聞いたみんなはしばらくキョトンとしていたけれど、意味を理解するや否や、はやし立てたり口笛を吹いたりしていた。
「か、亀井ちゃん!!いいふらすなんてひどいべ!!」
「まあまあ気にしない。ほら、廊下で矢口先生待ってますよ?職員室まで一緒に行きたいんじゃないですか?」
矢口先生がいるのに気づいたなっち先生は慌てて教室を出ていき、ニコニコしている矢口先生と仲良く歩いていった。
―――なんだかあの2人、お似合いっちゃね。
そう思っていると。「れーなー。今度勉強会しよ?わかんないところ教えてほしいな。」
絵里が甘えたような声で言った。
「うん。よかよ。」
―――なっち先生といる時の矢口先生もかわいく見えたけど…あたしだけのお姫様は、もっともっと可愛かね。
- 264 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:13
- 次の日曜日。
「田中せんせーい、ここわかりません。」
あたしは絵里の家に「家庭教師」として来ていた。
あたしも勉強が特にできるわけではないけれど、絵里いわく「それでも絵里よりはできてるよ」。
それがはっきりとしたのが、数学をやっていた時のこの質問。
「ねえ、シン、コス、タン、って何だったっけ?」
そんな言葉あったかな、と思いつつ見てみると……「sin、cos、tan」だった。
「絵里…それ、サイン、コサイン、タンジェントやけん…。」
「あ、そうそう。」
こんな調子で大丈夫かと心配していると、すかさず、
「あれ…?サイン、コサイン、タンジェントってどういう意味だったかな…?」
- 265 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:13
- 「疲れたー!」
2時間後、絵里の集中力が続かなくなった。
「そろそろ終わると?」
基本は一通り教えたから大丈夫だろう。
「あ、お礼させて。」
「お礼?別にいいっちゃよ。ボランティアでやったことやけん。」
「いいから、いいから。」
そう言って絵里は――――あたしの唇に、自分の唇を触れさせた。
「……もう1回お礼して?」
唇が離れてからあたしがそう言うと、絵里は吹き出して「さっきまでいらないって言ってたのに。」と言いながらも、もう1度キスしてくれた。
- 266 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:14
- 帰り際、外まで見送りにきてくれた絵里に、「テストが終わったら、デートしたいばい。」と囁く。
絵里は、満面の笑顔でうなづいてくれた。
- 267 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:14
- そして、次の日から始まったテストを無難にこなしていき、最終日。
最後の教科、数学の解答欄を全部埋めて、名前順で前のほうの席になっている絵里をそっと見た。まだ鉛筆を走らせていたけれど、すぐに机に置いて伸びをしていた。
すると、視線に気づいたのか、絵里がこっちを振り向いて目が合った。
絵里は自分を指さした後に指でバツ印をつくり、苦笑い。つまり、出来が良くないということ。
あたしは自分を指さして、指で三角をつくった。つまり「微妙」。
そんな無言のやりとりが面白くて2人で笑っていたら、静かな教室に咳払いの声が響いた。なっち先生がこっちを見て怒ったような顔をしている。慌てて視線を答案用紙に戻した。
- 268 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:14
- しばらくしてチャイムが鳴り、テストが全て終わった。途端に騒がしくなる教室。
「れーな帰ろ。」
絵里もテストが終わってさっぱりしたのか、ご機嫌な様子だった。
- 269 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:15
- 帰り道。
「ねえれいな、約束覚えてる?」
「約束?何のこと?」
「……れいなのバカ。」
「わっ、嘘、嘘やけん!テストが終わったらデートするって約束っちゃろ!?ちゃんと覚えてるばい!」
「…れいな、絵里のことからかったの?」
「うん。」
「……れいなのバカ。」
すっかり拗ねてしまったお姫様。
「ごめん、絵里。」
優しくそう言って、絵里の頬にそっとキス。それでやっと、お姫様は機嫌を直してくれた。
- 270 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/15(月) 11:15
- 「明日のデート、どこ行くと?」
「んー…カラオケとか?」
「うん。じゃあ、そうするっちゃ。明日は絵里への愛を思いっ切り叫ぶけんね。」
冗談半分でそう言うと絵里は顔を真っ赤にして、今日何度目になるかわからない言葉を言った。
「れいなのバカ!!」
- 271 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/15(月) 11:19
- 中途半端な気がしないでもないですが、今日の更新は以上です。
やっぱり暗くなった後には甘いのが一番でしょう、たぶん。
次回は、中途半端になった今回の続きからです(当たり前だろ
- 272 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 11:22
- 更新乙です
あー、リアルタイムで読んでしまった(w
sin、cos、tanか・・・・去年必死で勉強した覚えが・・・あとはシータθとか
亀ちゃんかわいすぎっすよ
- 273 名前:22 投稿日:2005/08/16(火) 00:39
- 更新お疲れ様です
数学の授業=睡眠だった自分には亀井さんの気持ちが痛い程分かりますw
そして亀井さん、こころなし大胆キャラになってるような…田中さんの影響でしょうか?
それから、懇切丁寧な説明ありがとうございました(謝)
次回も期待しています
- 274 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/17(水) 10:09
- >>272 名無飼育さん様
ありがとうございます。リアルタイムですか、理由もないのに嬉しいです。
>亀ちゃんかわいすぎっすよ
作者の中で「作者ちゃんハンサムすぎっすよ」に変換しておきます(殴
>>273 22様
ありがとうございます。
>そして亀井さん、こころなし大胆キャラになってるような…田中さんの影響でしょうか?
最初は控えめな感じで書いていましたが、いつのまにかこうなってました。田中さんの影響ということで(w
作者の住んでいる地域に東京の人が来たら、高層ビル0な風景に仰天することでしょう。でも水道水がめちゃくちゃ美味いんですよ、とPRなんぞを(w
ベスト16まで進んだ高校野球の地元代表校ですが、とうとう敗れました。それでも、8回表に走塁で足を痛めた投手が8回裏に痛みをおしてマウンドにあがり、渾身の投球を見せたあたり、胸を打たれました。
で、熱戦の余韻に浸っていると突然地震が来て……大変でした(汗
それでは続きです。
- 275 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:09
-
次の日。
朝の10時、いつも通りの待ち合わせ場所、学校裏の公園に行くと、すでに絵里がベンチに座っていた。黒のコートにマフラーの姿がなんだか可愛い。もちろん、本人には恥ずかしくて言えないけれど。
絵里は下を向いていて、あたしが来たのに気付いていない。そこでちょっとしたイタズラを思いついた。
足音を立てないようにつま先立ちで歩き、こっそりと絵里の背後にまわる。
そして………
「わっ!!」
「きゃーーー!!!」
絵里はものすごくビックリしている。イタズラ大成功。
「もー、びっくりさせないでよ!!」
絵里は口調は怒っていても、顔は笑顔だった。
- 276 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:10
- まだ雪が少し残る道を、手をつないで歩く。ただ、いつもならいろんな話をして笑ったりするはずが、今日の絵里は口数が少ない。時折ため息もついている。
「絵里、何かあったと?」
「うん、ちょっと……昨日お母さんと喧嘩して。」
「へぇ…。」
絵里が喧嘩している図というのは想像しにくい。
「成績があんまり悪いようだと、デートに行かないで勉強しなさい、って言われたの。」
再びため息をつく絵里。
「なんで私、勉強できないんだろう……。」
- 277 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:10
- 「…別に、勉強できなくてもいいんじゃなかと?」
「えっ?」
あたしが言った言葉に、絵里は目を見開いて驚いている。
「たとえ勉強ができなくても、絵里には優しい心があるけん、それでよかやん。絵里より勉強ができて絵里より可愛くても、性格が悪ければれなは絶対好きにならん。」
勉強が少しくらいできなくてもいい。そう思えるようになったのは、学校に行かなくなって、いろんな人の優しさに触れたから。
去年までのあたしなら、「少しずつ勉強頑張ればよかよ」と言って、知らず知らずのうちに絵里を追い込むことになっていたと思う。
「絵里には勉強ができるようになるより、優しい心をずっと持っていてほしいばい。」
- 278 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:11
- 絵里はポロポロと涙をこぼし始めた。
周りの人の目を少し気にしながら、絵里を包み込むように抱きしめる。
「ありが……と…れ…いな。」
「ん。」
絵里の涙が止まるまでずっと、抱きしめてあげていた。
- 279 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:11
- それから少し歩いて、目的地のカラオケボックスに着いた。部屋に入って早速歌い始める。
2時間後。同じ曲で点数を競ったり、2人で一緒に歌ったりして、存分にカラオケを楽しんだ。
「そーだ。最後に1曲、れいなにプレゼント。」
絵里がそう言って、曲を入れる。流れ始めたイントロは―――
あたしも絵里も大好きな曲。ニードの「君がいない夏」。2月に歌うには季節外れだけど、そこは何も言わないでおいた。
- 280 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:12
- ―――辛い朝は うんざりするね
つまずいても 楽しく生きてゆくよ―――
目を閉じて、気持ち良さそうに歌う絵里。その透き通るような声に、聴き惚れてしまう。
―――鮮やかすぎる 君がいない夏
あの声 あの仕草が広がってく―――
爽やかなのにどこか切ないメロディーと、切ない歌詞。目頭が熱くなるのを感じた。
―――ahh もう戻れない時を 小さく祈っている―――
曲が終わってあたしは―――無意識のうちに、拍手をしていた。
「ばり上手やったと、絵里。」
「えへへ…」
清々しい気持ちで、カラオケボックスを出た。
- 281 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:12
- 時間はお昼時だったけれど、外はだいぶ寒い。
どちらからともなく手をつなぐと、絵里の手の温かさがあたしの冷たい手に伝わってきて、なんだか安心した。
「れいな、手、冷たいね。」
絵里はそう言うや否や、あたしの手を絵里の口の近くに持っていって――――
ハァー、ハァー。
温かい息を吹きかけて、両手であたしの手を擦りあわせた。
「な、なんばしよっと……!」
慌てて絵里の両手からあたしの手を引き抜いた。動揺して声は裏がえり、顔は熱くなり、心臓は早鐘のように鳴っている。
―――こぎゃん事…キスの何倍も恥ずかしかっ……
「ごめん……。」
絵里はあたしが嫌がっていると思ったのか、俯いてシュンとしていた。
- 282 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/17(水) 10:13
- 「あ、その…恥ずかしかっただけと…。嬉しいっちゃよ。」
それでも絵里は俯いたまま。
「絵ー里?」
下から絵里の顔を覗き込むと、今にも泣きそうな表情をしていた。
―――まったく、絵里は気が優しすぎるけんね。
あたしはそのまま両手で絵里の頬をはさみ、顔をくいっと前に向かせた。そして、唇にそっとキス。
「れなの手を温めてくれたお礼やけん。」
そう言うと、絵里ははにかんだように微笑んでくれた。
そして2人は、もう一度手をつないで歩きだした。
- 283 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/17(水) 10:17
- 今日の更新は以上です。どうも最近、終わり方が中途半端な…。
そして実は、もう既に完結へのカウントダウンが始まっているわけでして(焦
次回は、甘いわけでも暗いわけでもない話です。
- 284 名前:22 投稿日:2005/08/17(水) 22:38
- 更新お疲れ様です
田中さんええこというなぁ(泣)人間にとって一番大事なコト、知らず知らず忘れてしまうようなコト改めてを気付かせてくれた田中さん&作者さんに謝謝
また余談ですが自分は今年の甲子園で一番最初の敗退県の北部に住んでます。高層ビルのなさなら負けませんよ(w
次回も期待しています
- 285 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 00:42
- どんな曲かしらなかったのですが切ない歌詞にホロリときました。田中さんは
一番大切なことがなにだかわかってるんですね。自分じゃそう思ってなくても
言ったことで追いつめてしまう・・・ その点田中さんはしっかりしててかっこいい
と思います!
- 286 名前:夏風 投稿日:2005/08/18(木) 09:23
- 更新お疲れ様です。
ちょうど、歌詞のあたりを読んでいるときに
たまたまあの曲のあの件がが流れてきて、ちょっとびっくり。
田中さん、かっこいいです(笑
- 287 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/19(金) 10:59
- >>284 22様
ありがとうございます。謝謝されて照れております。作者がこの駄文を通じて読者の方に伝えたいことは、ほとんど田中さんに喋ってもらっています。それが少しでも伝わったのであれば、作者は泣いて喜びます(w
22様のところも高層ビル0ですか。でも、田舎には田舎の良いところもあるんですよね。
>>285 名無飼育さん様
レスありがとうございます。歌詞いいですよねぇ…。作者も初めて聴いた時は衝撃を受けました。
田中さん、しっかりしててかっこいいですか。なら作者も(ry
>>286 夏風様
ありがとうございます。ナイスタイミングでしたね(ぇ
田中さんかっこいいと言っていただけて、作者も鼻が高いです(w
1か月半前に始まったこの話も、いよいよラストスパートに突入します。
今回の分は、以前に言っていた「書けなくて悶えていた部分」です。悩んだわりには大したことない内容ですが…。
では更新です。
- 288 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:00
-
3月に入って少ししたある日。
「私ね、塾に行こうと思うの。」
絵里が突然こう言った。
「この前れいなが『勉強ができなくてもいいんだ』って言ってくれたのは、すごく嬉しかったよ。でも、モーニング大学に行けるくらいは勉強しなきゃいけないなあって思って。」
モーニング大学は、レベルは全国の中で平均的と言える大学。あたし達のモーニング高校で真ん中くらいの成績を取れれば、モーニング大学はそんなに難しくない。絵里はそこに受かれるくらいの成績になるために塾へ行くとのこと。
「でもね、その塾っていうのがハードなので有名らしいの。日曜日以外はほとんど毎日あるみたいだし、勉強時間も普通の塾よりずっと長いんだって。」
「へー。絵里、そんなところに行って長続きすると?すぐに音を上げるんじゃなか?」
「むー、大丈夫だもん。見ててよ、れいなより勉強できるようになってみせるんだから。」
「はいはい、なれるもんならなってみんしゃい。」
こんな調子であたしは気楽に考えていた。だから、この後の絵里の変化は全く予想もできなかったんだ………。
- 289 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:01
-
――――――――――
- 290 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:01
- 絵里が塾に通うと言ってから1週間。
本当にハードなようで、絵里は部活にも出ず、あたしと帰ることもできず、帰りのホームルームが終わるとすぐに教室を出ていく。唯一デートする時間のあった日曜日も、疲れている様子の絵里を見るとデートに誘う気にはなれなかった。
- 291 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:01
- 月曜日になると、絵里の様子の変化がはっきりとしてきた。
前までの優しい笑顔が少なくなり、目の下にはクマができている。さすがに心配になって、休み時間に話しかけてみた。
「絵里、大丈夫と?ずいぶん疲れてるように見えるっちゃけど。」
「ううん、大丈夫だよ。」
「ならいいけど…。あんまり無理しちゃいけんとよ?」
「うん。ありがとうね。」
そう言って微笑む絵里。だけど、明らかに無理して笑っているように見える。
- 292 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:02
- そしてもう1つの変化。授業中、絵里は真剣にノートをとるようになった。以前は、退屈な授業の時はみんなと同じように眠そうにしていたのに、今はどの授業でも真剣な表情。
―――何が絵里をこんなに変えたんだろう…。
もちろん絵里が決めたことだから、あたしに止める権利はない。だけどあたしは、目の下にクマをつくって真面目に授業を受けている絵里よりも、ふわふわとした優しい笑顔をしている絵里のほうが好きだ。
それに……推測にすぎないけど、絵里もきっと辛いはずだから。
- 293 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:02
- 次の日の放課後。
ここ何週間かと同じように、「また明日ね」というあいさつだけを交わして絵里は塾に向かった。
あたしは教室に残って、クラスのみんなと雑談。
「なんだか最近の亀井ちゃん、変わったよね。」
「だよね。ずいぶん勉強頑張ってる。何かキッカケでもあったのかな。」
「れいな何か知らない?」
「いや。ただ、モーニング大学に行けるように、って聞いとるだけばい。」
「あ〜、わかった!れいなと一緒にモーニング大学に行きたいんじゃない?」
「まさか…。それだけの理由でそこまで頑張れると?」
「それが乙女心ってもんでしょ。れいなはそういうの鈍そうだけど。」
「余計なお世話たい。」
結局、「ヒューヒュー!」とか「亀井ちゃんの乙女心をわかってあげなよ?」という声を背に受け、放課後の教室を出た。
- 294 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:03
- ―――でも…もし本当に絵里があたしのために勉強を頑張ってるとしたら……ばり嬉しかね。
そんなことを考えながら下駄箱のところに行くと、塾に行ったはずの絵里が下駄箱に寄りかかっていた。
「あれ、絵里、塾に行ったんじゃなかと?」
「あ…れいな……その…」
絵里の表情を見て、確信めいたものがあった。塾に行くのが辛いんだろう、と。
「絵里。今から…デートせん?」
「えっ…?」
「塾、ほんとは行きたくないっちゃろ?」
「……うん。でも……家族とかが励ましてくれてるから。頑張らなくちゃ、って思うの。」
つまり。絵里にとって、周囲の励ましはかえって逆効果になっている。いつかのあたしのように。
同じ立場を経験したから―――あたしには、絵里の気持ちが安らぐ「魔法の言葉」がわかる。
「あのね、絵里。」
絵里をそっと抱きしめ、「魔法の言葉」を言った。
「一生懸命頑張るのはもちろんいいことやけん。だけど……辛くなるまで頑張らなくても、いいっちゃよ?」
- 295 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:03
- 魔法の言葉は、ちゃんと絵里に効いた。流れだした涙がその証拠。
「辛くなっても頑張らなくちゃいけんのは、スポーツ選手くらいやけんね。絵里は、辛くなったら休めばいいとよ。休んで、また辛くならない程度に頑張ればよか。」
絵里はポロポロと涙をこぼしながら、何度もうなずいていた。そして。
「今日は…塾、サボるね…。」
そう言って、少しだけ微笑んでくれた。
- 296 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:03
- 公園でゆっくり話でもしたいという絵里のリクエストに応えて、いつもの公園に来た。
「なんだか……れいなってすごいね。」
「ん…?何で?」
「塾の先生に頑張れって言われてもそんなに嬉しくないのに、れいなの言葉を聞くと信じられないくらいやる気が湧くんだもん。」
「そうっちゃね……あたしも、今の絵里と同じことを経験したから。」
「そうなの?」
「ん。秋ごろ学校に来れなかった時に、何十回も『頑張れ』って言われたけんね。その時『言われなくても頑張っとーよ!』って思ったっちゃから。『頑張れ』って言葉がマイナスになるなんて、その時初めて知ったとよ。」
「そっか…。言われてみるとそうだね。私も『頑張れ』って言葉が負担になってたのかも。」
「でしょ?なんか、普通に学校生活送ってたらそげんこと、絶対考えなかったと思っとう。とにかくいつでも『頑張れ』の一言で済ましてたっちゃよ、きっと。」
「そうだね…。学校に行かなくなって初めて学んだってことなんだね。」
「うん。人生観、って言うのかな、ものの考え方がガラッと変わったばい。」
小難しいことだけど……こんな話を、2人でずっとした。
- 297 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:04
- 「絵里、本当は今日も塾だったっちゃね。なんかれなが無理矢理サボらせたみたいですまんね。」
「ううん、いいの。本当は絵里もサボりたくてしかたがなかったんだと思うし。自分の気持ちに素直になれたのはれいなのおかげだから、むしろ感謝してるよ。ありがとう。」
そして絵里は、あたしの唇に軽く触れるだけのキスをしてくれた。
「れいなに出逢えて、ほんとに良かった。」
そう言って微笑んだ絵里。何週間かぶりに見る、絵里の心からの笑顔に、ドキッとしてしまった。
- 298 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:04
- 次の日、絵里は「昨日、塾やめたんだ」と言ってきた。絵里のお母さんも塾の先生も説得したけれど、最後は絵里の気持ちを尊重してくれたらしい。
学校の帰りも2人で帰れるようになり、一緒にいる時間も増えた。そして何よりも―――元通りの、笑顔が可愛い絵里に戻ってくれた。
帰り道に「やっぱりそうして笑ってる絵里が一番かわいかよ。」と言ったら、ギューッと抱きつかれたりもして……。3学期の修了式までの間、本当に長い時間一緒に過ごすことができた。
- 299 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:05
-
――――――――――
- 300 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:05
- そうして、3学期の修了式の日になった。
「みんな、1年間本当によく頑張ったべ。2年生ではクラス替えがあるけど、楽しかったことも辛かったことも、このクラスでの思い出を忘れないでほしいべさ。なっちはみんなの担任の先生になれて幸せだったべ。本当にありがとね。」
誰からともなく、パチパチと拍手が起こる。なっち先生は少し涙ぐんでいた。
―――不登校になったあたしにも、他の子と同じように接してくれて…本当、温かいクラスやったとね…。
- 301 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:05
- このクラスで最後のホームルームが終わり、帰り際に全員がなっち先生と握手することにした。なっち先生は一人一人にとびっきりの「天使スマイル」をプレゼントしている。
そして、あたしの番。
「田中ちゃん。なっちはずーっと田中ちゃんを応援してるべさ。来年も田中ちゃんの担任になれるかどうかわからないけど、辛いことがあったらいつでもなっちに言っていいんだよ。愚痴を聞いてあげることぐらいはできるから。」
そう言って、あたしをギュッと抱きしめてくれた。
目頭を熱くしていると、視線を感じた。振り向くと、絵里がこっちを見て頬を膨らませている。
―――なっち先生があたしを抱きしめてるのが嫌なんちゃね…。
だけど、同じく視線に気付いたなっち先生は何を勘違いしたのか「亀井ちゃんもかい?」と言って今度は絵里を抱きしめた。勘違いされたものの、絵里も嬉しそう。「先生、矢口先生とお幸せにね。」とか、「亀井ちゃんと田中ちゃんもずっと仲良くね。」と言葉を交わしていた。
- 302 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:05
- 教室を出る時、入り口のところで教室の中のほうを向いて……一度、深くおじぎをした。
「どしたの?れいな。」
「ん。教室さん、1年間お世話になりました、って。」
「そっか。じゃあ絵里も。」
2人そろって、深々とおじぎ。
―――1年間、お世話になりました。
- 303 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/19(金) 11:06
- 帰り道。
「ね、明日デートしよっか。」
「オッケー。どこ行くと?」
「そうだねー……遊園地、なんてどう?」
「よかよ。楽しみにしとるばい。」
あたしと絵里はきっと今、世界一幸せな2人。
- 304 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/19(金) 11:11
- 今日の更新は以上です。「――――――――」でごまかしまくってます。
次回は……甘いのですが、相当にありえれいな、な展開になります…。
- 305 名前:がどー 投稿日:2005/08/19(金) 15:15
- 初めまして、本日こちらを発見し一気読みを試みた、がどーと申すものです。
田中さんの苦悩や、それからの復帰、
それを支える方々の優しさなどに触れ、思わず嘆息が漏れました。
あと、「頑張れ」といわれることが負担になる……
多くの人が経験したと思われますこの一文。。。
わたしも例に漏れず、深く共感してしましました(恥
乱文失礼いたしました。
次回以降の更新も楽しみにお待ちしています。
- 306 名前:22 投稿日:2005/08/19(金) 23:23
- 更新お疲れ様です
>294の田中さんの台詞、こちらまで涙ぐんでしまいました。亀井さんは真面目で力加減を知らないんでしょうね。そこを見抜いている田中さん…素晴らしい場面でした。
そうですね、田舎にもよいところは沢山あります。自分の住んでるところは米どころで有名です。
次回も期待しています
- 307 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/21(日) 10:21
- >>305 がどー様
レスありがとうございます。共感していただけて嬉しく思っております。
「頑張れ」って難しいですね…。作者のような怠け者にはガンガン使ったほうがいい言葉ですが、頑張りすぎて疲れてしまった人には「お疲れ様」とか「今までよく頑張ったね」をはさんで「これからも頑張れ」ならだいぶ楽になれるんではないでしょうか……と熱く語ってしまいました(w
もうすぐ完結の本編、そして続編と、引き続き読んでやってくださいませ。
>>306 22様
ありがとうございます。
>亀井さんは真面目で力加減を知らないんでしょうね。
実はこれ、作者も周囲から言われていたのでドキッとしました(w 真面目かどうかは別ですが。
涙ぐんでいただけて喜んでおります。
他の作者の方々の作品、音楽、そして読者の方のレスでエネルギーを補充し、続編の執筆をそれなりに急ピッチで進めている作者です。時間はあるのに遅筆なため、本編終了の2日後に続編を始める、というのは無理そうな状況であります(ペコペコ
どなたか作者に速筆の才能を……。
では続きいきます。
- 308 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:22
-
夢を見た。
絵里が、あたしから走って逃げていく。追いかけても追いかけても、絵里との距離は縮まらない。やがて、息が切れたあたしはしゃがみ込んでしまう。絵里は立ち止まって、あたしのほうを振り返るとこう言った。
「れいな…ごめんね。……さよなら。」
そして、絵里はスッと消えてしまった。
「絵里っ!!待って!!」
さっきまで絵里がいた場所を見ても、何もない。呆然としているあたしの頭の中に、絵里の声が響いた。
『いつかはこうなる時が来るの…。でも、れいななら1人でも大丈夫。大丈夫だ
よ……。』
「絵里ーーーー!!」
そこで、目を覚ました。
顔に触れる空気の冷たさとは逆に、体は汗びっしょりだった。
カーテンの隙間からは朝日が差し込んでいて、目がまぶしい。
―――ただの夢やけん、気にしちゃいけんと…。デートを楽しむことだけを考えればよか。
- 309 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:23
- 午前10時。待ち合わせ場所のいつもの公園に来た時、絵里はまだ来ていなかった。それからしばらく待ったけど、5分待っても10分待っても絵里は来なかった。
―――まさか事故にでも遭った…?
今朝の夢が頭をよぎる。そして、いよいよ不安が大きくなってきたその時。
「ごめーん。遅れちゃった。」
そう言いながら絵里が走ってきた。
その屈託のない笑顔を見て、たまらず絵里をギュッときつく抱きしめた。
「えっ!?れいな?」
突然のことに驚いている絵里に、小声でつぶやいた。
「今朝…絵里がいなくなってしまう夢を見たと…。それで今までずっと待ってても絵里が来んから…事故にでも遭ったんじゃないかって、ばり不安になってたと…。」
夢の中のことに怯えるあたしは、子供っぽいのかもしれない。でも、絵里は笑ったりバカにしたりはしなかった。
「そっか…。心配かけてごめんね。でも大丈夫だよ。絵里はどこにも行かないから…。」
そう言うと、唇にそっとキスをしてくれた。
抱きしめた体、そして唇から伝わってくる温かさで、絵里はここにいるんだと感じることができた。
- 310 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:23
- バスを乗り継いで、最近できたばかりという遊園地に着いた。
券を買って、まず最初はジェットコースターに乗ることにした。
並んで待っている間、絵里は怖いのかあたしの手をギュッと握っていた。なんでも日本最速のジェットコースターだそうだ。正直、あたしも怖い。
10分ほど列に並んで待ち、ジェットコースターに乗った。
いよいよ、ジェットコースターがゆっくり、ゆっくりと動き始めた。
最初は上り坂を上がっていき、そして
「「「キャーーーー!!」」」
一気に下る。
―――すごい迫力っちゃね…。
1周する頃には、汗びっしょりになっていた。
- 311 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:23
- 「すごかったとね。」
「うん。足がガクガクいってる。」
「同じく…。」
「あ、そろそろ12時だね。お昼ご飯食べよ?」
「そうっちゃね。この辺に食堂か何かあると?」
「えっと…実はお弁当作ってきたんだけど……。」
「えっ!?絵里が?」
「うん。あまり上手じゃないけど…。」
上手だろうと下手だろうと、絵里がお弁当を作ってくれたというだけで最高に嬉しい。
芝生のあるところに行き、食べることにした。
- 312 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:24
- 絵里がカバンから取り出した弁当箱を開けると、卵焼き、タコの形のウインナー、野菜など、何種類ものおかずが並んでいた。
いただきます、と言って、まず卵焼きを箸でつまんで口に入れる。
「…おいしい。」
言葉が自然に出た。
「ばりおいしいっちゃ。絵里も食べて食べて。」
2人で食べるお弁当は、最高においしかった。
- 313 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:24
- 食べ終わってのんびりしていると、絵里が大欠伸をした。
「ごめん…ちょっとだけ寝てもいいかな。」
「ん、よかとーよ。」
あたしは正座して、絵里の頭を無理矢理膝の上に載せる。
絵里は最初は恥ずかしがっていたけど、すぐにスースーと寝息をたて始めた。
―――絵里の寝顔……やばいくらいに可愛いっちゃね。
ドキッとするほど綺麗な寝顔を見ていると、無性にキスをしたくなった。
―――キスくらいなら……起きないよね。
少しずつ少しずつ、顔を近づけていき……絵里の唇に、そっと自分の唇を重ねた。
唇を離して、つぶやくように「愛しとーよ」と言う。
「そういうのはちゃんと起きてる時に言ってほしいなー。」
目を閉じたままで絵里がそう言ったものだから、かなりビックリした。
「のわあっ!!えええ絵里、いつから起きてたとよ!?」
「んー、キスされて目が覚めた。ね、さっきのもう1回言って?」
「む、無理っちゃよ。」
さっきは絵里が寝てると思ったから言えたけれど、「好き」と「愛してる」じゃ恥ずかしさが全然違う。
「あ、ほら、お化け屋敷があるとよ。行ってみるっちゃ。」
慌てて話題をそらし、頬が少し膨らんでいる絵里の手を引っ張って、お化け屋敷に入っていった。
- 314 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:25
- お化け屋敷は特に変わったところもなく、首が長かったり目が3つあったりするお化けが時折出てくるくらい。あたしは出てきたお化けさんに「いい天気ですね」と話しかけたり、世間話をしたりもした。
けれども、絵里はそうもいかないらしく、お化けが現れる度に悲鳴をあげ、あたしの腕にしがみついてビクビクしながら歩いている。絵里は本当の意味でお化け屋敷を楽しんでいるようだ。
あたしはと言うと―――絵里がしがみついてくるため、腕に柔らかい感触があってドギマギしていた…。
- 315 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:25
- お化け屋敷を出ると、あたりはもう夕暮れになっていた。
「ね、やっぱり最後は……。」
「うん、わかっとーよ。最後と言えばやっぱり……。」
「「観覧車!!」」
残り少ないデートの時間を惜しむかのように、観覧車はゆっくりと頂上に上っていく。
「夕日、綺麗だね。」
「観覧車から見ると何倍も綺麗に見えるっちゃね。」
「ね、頂上に行ったらキスしよっか。」
「…うん!」
そして、ゆっくりと上り続ける観覧車がついに頂上についたと同時に……夕日に照らされて、2人の唇は重なった。
- 316 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:26
- 重なった唇が離れたのは、観覧車が下り始めてだいぶ経ったころだった。
「絵里のこと……世界で一番、愛しとるばい…。」
さっきは恥ずかしくて言えなかった「愛してる」の言葉。今度はしっかり、絵里の目を見て言うことができた。
「絵里もれいなのこと……愛してる。」
そうして、お互いをきつく抱きしめ合う。これ以上、言葉はいらなかった。
観覧車が地上に着く直前まで……離すのが嫌になるほど、ずっと抱きしめ合った。
- 317 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:26
- 遊園地を出て再びバスに乗り、停留所で降りて今度は歩く。
「あの……れいな、これ…。」
絵里が何か差し出している。受け取って見てみると、手紙だった。
「恥ずかしいから……後で読んで。」
内容が気になったけど、絵里の言う通り家で読むことにした。
- 318 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:26
- 交差点にきて、信号待ちをする。
「春休み中はいっぱいデートしようね。」
「よかよ。毎日でもデートしてあげるけんね。」
「ふふっ。楽しみにしてる。」
信号が青になった。
幸せいっぱいの気持ちで、横断歩道を渡り始める。絵里は右側、あたしは左側で、あたしの右手と絵里の左手はしっかりと繋がれていた。
横断歩道の中程に来た時、絵里のほうを向いて話しかけた。
「そうだ絵里。」
「なあに?」
絵里も、あたしのほうに顔を向ける。
次の瞬間、絵里の目が驚きで見開かれたのに、あたしは気付かなかった。
- 319 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/21(日) 10:27
- 「今度のデートは…」
「れいな危ない!!!!!」
あたしは絵里にドンッと突き飛ばされた。
前につんのめってそのまま転んでしまった。
「イタタ…なんばしよっと絵里……」
振り向いたあたしが見たのは――――
たった今、あたしがいた場所に止まっているトラックと……その数メートル先で、血を流して倒れている絵里だった。
- 320 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/21(日) 10:30
- 今日の更新は以上です。……今までも何度となくありましたが、展開がこんなに急すぎていいのでしょうか。
次で最終回になります。作者自身が涙した、感動のラストです(殴
- 321 名前:夏風 投稿日:2005/08/21(日) 14:05
- 更新お疲れ様です。
次回、最終回ですか……なんか寂すぃですね…
えー?!の展開で、かなりびっくりしている夏風です。
- 322 名前:22 投稿日:2005/08/21(日) 14:11
- 更新お疲れ様です
愛を確かめあった二人なのに、なぜだぁ〜…と作者さんの思惑どうりになっている自分orz
最終回も期待しています!
- 323 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/23(火) 10:07
- >>321 夏風様
ありがとうございます。寂すぃですか?大丈夫です、続編があります。史上最高の駄作はまだ続くのです。
>>322 22様
ありがとうございます。お、思惑なんてないですよ(嘘)
最終回、ご期待に添えるようなものになっていればいいのですが…。
ようやく最終回までこぎつけました。最初にスレを立てたときの緊張感を思い出しながら更新したいと思います。
さて、亀井さんの運命はいかに(すぐに答えが出ますが)!?
それでは、最終回の更新です。
- 324 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:08
-
――――――――――
- 325 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:09
- 「できたばい……。」
そうつぶやいて、机の上にシャーペンを置いた。
今はもう8月。夏真っ盛りで、こうして部屋で黙っていても汗が流れる。
- 326 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:09
- あの後―――――病院に運ばれた絵里は、死亡が確認された。トラックにはねられて即死だったらしい。
その後のことはあまり覚えていない。
はっきりと覚えているのは、何日も何日も、部屋にこもって泣き続けたことだけ。
当然のように、あたしは自分を責めた。もしよそ見をして歩いていなかったら…。もし1分ずれてさえいたら…。そう思うとやりきれなかった。
けれど、絵里の後を追って…とは考えなかった。そんなことをしても絵里は喜ばないと確信していたから。死ぬことではなく生き続けることが、あたしをかばって死んだ絵里への償いになるのだと思う。
- 327 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:10
- 4月になった頃、最後に絵里からもらった手紙をまだ読んでいないのを思い出した。
読めばきっと辛くなるとは思ったけれど、手は自然に手紙を開いていた。
『大好きなれいなへ
早いもので、絵里とれいなが出会ってもうすぐ1年だね。たくさんデートをして、たくさんキスもして、時々ぶつかったりもしたけど、今はどれもいい思い出。
まずは、この1年間ありがとう。
もうすぐ2年生でクラス替えがあるけど、また同じクラスになれるといいね。2人の愛があればきっとなれるかな(笑)
この1年間は今までで1番幸せだったけれど、来年は今年よりも、再来年は来年よりも幸せな1年にしたいね。れいながずっと側にいてくれれば、きっとそうなると信じてるよ。
絵里は、死ぬまでれいなを好きでい続ける。だから、れいなも絵里のことをずっと好きでいてほしいと思っています。
絵里』
そして、その下に小さく、文字が書いてあるのを見つけたあたしは……それを読んで、涙が止まらなくなった。
――――『遠い将来、生まれ変わった絵里と生まれ変わったれいなが、また出逢うことができますように。』
- 328 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:11
- 春休みが終わって学校が始まっても、あたしは行かなかった。でも、以前のように何もしなかったわけではない。
あたしは、小説を書いていた。
絵里とのいろんな思い出や、学校に「行かない」ことで学んだものなんかを、1つの物語にして綴ろう。
手紙を読んだ数日後、突然そう思い立った。他の人に何かを伝えたいという思い
で、ひたすら書き続けた。
そして今、「できたばい……。」とつぶやいて、机の上にシャーペンを置いたところだ。
完成した小説のタイトルは、『鮮やかすぎる、君がいない夏』。
- 329 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:12
- 小説を書き上げてすぐ、学校の裏の公園に歩いて行った。
ベンチに座って目を閉じ、絵里との思い出を甦らせる。
―――ねえ絵里。最初に絵里と出会った時は、まさか絵里が将来恋人になるなんて夢にも思ってなかったとよ。
―――ねえ絵里。球技大会の日のこと、まだ覚えてる?誰よりも一生懸命にプレーして、悔し涙を流していた絵里、とっても輝いていたっちゃよ。
―――ねえ絵里。文化祭で食べた絵里のクッキー、今まで食べたクッキーの中で1番おいしかったと。もう1回、絵里が焼いたクッキーを食べたいけん……。
―――ねえ絵里。絵里が告白してくれた時、驚いたけどばり嬉しかったとよ。その場ですぐOKできずに1か月も待たせて、本当にごめんね。
―――ねえ絵里。あたしから告白した後にした、初めてのキス。いつまでも忘れないけんね。
―――ねえ絵里。初デート、楽しかったとね。私服姿の絵里、可愛かったとよ。
―――ねえ絵里。あたしの誕生日にくれたトパーズの指輪、今もあたしの指で輝いてるっちゃよ。この指輪を見れば、いつでも絵里のことを思い出せると。
―――ねえ絵里。時にはケンカしたり、お互いを傷付けたりもしたよね。今だからこんなことを思えるのかもしれないけど……ケンカして良かったと思っとるけん。
―――ねえ絵里。絵里がいた日々は、毎日が本当に楽しかったとよ…………。
- 330 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:12
- 絵里が生きていたら今頃はきっと、とろけるような甘い夏の日々を過ごしていたのだろう。
―――鮮やかすぎる、君がいない夏。あの声、あの仕草が広がってく………。
初デートの日に絵里が聞いて、気にいっていた曲。その詩は今のあたしにぴったりで、どうしようもなく切ない。
いつの間にか、涙が流れていた。でも、泣くのを我慢しようとは思わない。絵里のことを好きなら、泣くのは当たり前のことなのだから。
いつか絵里の死をしっかりと受け入れ、胸をはって生きていけるようになるまでは……泣きたい時に泣こうと思う。
- 331 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:13
- 見上げた空は、雲一つない青空だった。
もう一度、天国の絵里に語りかける。
―――絵里があたしをかばって死んだのは……あたしに生きてほしかったから、とね…?
あたしは、精一杯に生きるっちゃよ。精一杯生きた後、笑って絵里に会いに行くけんね。
絵里はきっと、天国からあたしを見守ってくれるとね?
だから……「今までありがとう」は、今はまだ言わない。
- 332 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:13
-
――――絵里。これからもずっと、よろしくね。
- 333 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:14
-
――――――――
- 334 名前:鮮やかすぎる、君がいない夏 投稿日:2005/08/23(火) 10:14
-
鮮やかすぎる、君がいない夏 fin.
- 335 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/23(火) 10:16
- 以上で、「鮮やかすぎる、君がいない夏」完結です。
今まで読んでくださった方、レスをくださった方全てに感謝いたします。
- 336 名前:後書き 投稿日:2005/08/23(火) 10:17
- 昨日のうちに考えた後書きです(w グダグダした内容なので、スルーしてしまって結構です。
確か、3月の半ば頃だったと思います。
何気なくCP分類板を眺めていると、「最近泣いてない方は読みませう」の紹介文が目に入ったのです。
泣ける話大好きな作者はその言葉に惹かれて読み始め、結果、小説で初めて涙を流すことになりました。その小説というのが、石川県民さんが書かれていた『舞い落ちる刹那の中で』です。この小説との出会いが、全てのきっかけになりました。
その後、「自分も小説に挑戦してみよう」と突然思い立ったのが4月の初め頃です。とにもかくにも、目標は『舞い落ちる刹那の中で』。冷静に考えるとハードルが高すぎです(w
大まかなストーリーは、すぐに決まりました。何年前かは伏せさせていただきますが、作者自身も登校拒否の状態になったことがあるので、それを題材にしよう、と。
書きながら特に意識したのは、「泣ける話にする」のと「何かを伝えられる話にする」でした。
具体的に何を伝えたいのか、と聞かれても、実は答えることができません。読まれた方によって違いはあっても、『何か』を感じ取っていただければ作者冥利に尽きます。
- 337 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/08/23(火) 10:23
- さて、次回作についてです。
今書いている続編というのは、「鮮やかすぎる、君がいない夏」の亀井さん視点です。だって書くのがら(ry
現時点で球技大会のところまで書き終わったのですが、ここで連載を始めるのは半分くらいまで書いてからにさせていただきます。遅筆なためいつ始められるかわかりませんが、どんなに進まなくても9月半ば頃には始めるつもりでいます。
続編もまた読んでいただけると嬉しいです。
- 338 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/23(火) 11:19
- ずっと読ませて頂いてました。が、初レスです
まさかの最後には感動しました
でもどこかスッキリした後味で・・・
細かい描写がとても好きな作品です
自分も一作者として参考にさせて頂きたく思います
次回作も心待ちにしておりますので無理なさらない様に頑張って下さい
- 339 名前:夏風 投稿日:2005/08/23(火) 13:18
- 完結、おめでとうございます。
また夏風は、例のごとく例の曲を聴きながら読み進め……
見事に感動しています。
でも、ただ漠然とした『悲しさ』ではなく
明るさ…と言っては語弊があるかもしれませんが
暗闇の中に光を見た、そんな作品だったと思います。
続編も楽しみに待っていますので、頑張ってください。
- 340 名前:22 投稿日:2005/08/23(火) 16:51
- 更新お疲れ様、そして完結おめでとうございます
田中さんの常に前へと進む気持ちと二人の優しさに何度も涙しました。本当にありがとうございました。
続編も期待しています
- 341 名前:wait 投稿日:2005/08/23(火) 18:56
- ずっと読んでいましたが、レスは初めて書きます。
完結、お疲れ様でした。
久しぶりに小説を読んでたくさん泣いてしちゃいました。
すべて読だ今、切ない気持ちが一杯なんですね。
こんなに良い小説を読めてよかったです。
本当にありがとうございました。
後で続編も期待していますが、あまり無理しないで下さい。
- 342 名前:アイサー 投稿日:2005/08/30(火) 15:32
- 初めてレスさせていただきます。
最初からずっと読んでいました。お疲れ様でした。
そして完結おめでとうございます。
甘々な中にもどこか切なさがあって、たくさんの感情があって、とても面白かったです。
続編にも期待しています。がんばってくださいw
- 343 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/31(水) 00:58
- 完結お疲れ様でした。
久しぶりに泣きました。ものすごく泣きました。
感動を、そして心に残る作者さんからの「何か」にも、ありがとうございます。
- 344 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/09/03(土) 19:18
- 一気に読まさせて頂きました。
ジンッと来ました(涙
かなりなんか・・・感想が出てきません。
視点の違った作品をいつまでも待たさせて頂きます。
- 345 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/11(日) 11:17
- >>338 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
>細かい描写がとても好きな作品です
作者的には一番自信のなかったところをほめていただけるとは……天狗になっちゃいます(w
>>339 夏風様
ありがとうございます。感動していただけたのは曲のおかげかと思われます(w
暗闇の中に光を見た……なんかいい表現ですね(感動
>>340 22様
ずっとレスしてくださって本当にありがとうございます。
泣いていただけましたか……作者はもうこのまま死んでもいいです(ヲイ
>>341 wait様
レスありがとうございます。
そ、そんな良い小説だなんて(照 もうこのまま(ry
>>342 アイサー様
レスありがとうございます。楽しんでいただけたようで本当に嬉しいです。
続編は……うーん(謎
>>343 名無飼育さん様
ありがとうございます。具体的に「これを伝えたい!」というものはないのですが、「何か」を感じ取っていただけたのなら作者はもうこのまま(しつこい
>>344 通りすがりの者様
ありがとうございます。感動していただけたようで何よりです。作者も嬉し泣きしそうです。
- 346 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/11(日) 11:24
- のこのこと帰って参りました。レスの多さに驚いています。改めてありがとうございました。
さて、本編を完結させてから今まで、2〜3日に1回は他の方々の小説で燃料補給しながら地道に続編を書いておりました。だいたい半分くらいまで書いたのですが……本当に「亀井さん視点」ということ以上のものが何もありません(泣
というのも、本編には出てこなかったシーンというのがほとんどないのですorz
なので相当つまらない話になりそうですが、それでも読んでやるよ、という心優しい方はどうぞ読んでやってください。
タイトルは『忘れないで。』です。
- 347 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:25
-
「んー……いい天気。」
目を覚ましてカーテンを開けると、朝日が部屋に差し込む。
私、亀井絵里の、今日から始まる高校生活を祝ってくれているかのよう。
- 348 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:25
- 買いに行った時以来、着るのは2度目の新しい制服。当たり前だけど、新鮮な気持ちになれる。お母さんもお父さんも「似合ってるよ」と言ってくれた。
- 349 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:26
- 家を出て、3人で学校に歩いて向かう途中、会話が弾む。
「絵里は部活と恋に燃えなさい。勉強は最初から期待してないから。」
「はっはっは、確かに勉強は期待しないほうがいいな。」
「なにそれ、2人ともひどーい!」
「でも絵里はお母さんに似て美人だからね。女子校でもモテるわよ、たぶん。」
「違うよ、私はお母さん よ り 美人なんだもん。」
こんな会話をしているうちに、「モーニング女子高等学校」の看板が見えてきた。
- 350 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:26
- 玄関で中靴に履き替え、クラス表を見る。「亀井 絵里」の名前は1年B組のところにあった。中学が同じだった人は何人かいたけれど、みんなクラスや部活が違う人達だった。「担任」の欄には「安部 なつみ」と書いてある。
―――名前の雰囲気は……若い人、かな。50歳とかの先生よりなら、友達感覚で話せる若い先生のほうがいいなぁ。
- 351 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:26
- お母さん達は保護者の控え室に、私は1-Bの教室に向かう。
教室に着いて、そっとドアを開けた。中にいる人達の視線が集まり、ちょっぴりドキドキしてしまう。私はペコッと軽く頭を下げ、そそくさと自分の席に向かった。
- 352 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:27
- ふと、さっきの会話を思い出す。
―――部活と恋、かあ…。部活はともかく、恋するのかな、私…。
中学校の時、同じクラスの男の子に「付き合ってくれ」と言われたことは何回かある。でも、全部断った。年頃だし、恋愛に興味がなかったと言うと嘘になる。だけど、実際に自分が誰かを好きになることはなかった。
―――恋って、無理矢理にするものじゃなくて自然にするもの、だよね…。
そんなことを考えながら教室の入り口に目を向け、入ってくる人を観察。
―――あの子は…明るくて楽しそう。
―――あの子は真面目だけど優しそうだなー。
―――あ、もう一人来た。……っ!!
私が見たその人は。
睨むような鋭い目つきの、いわゆる「不良」っぽい女の子だった。
- 353 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:27
- その子は座席表を確認して、私の近くの席に座った。
―――うわぁ、恐そう…。仲良くなれるのかな…。
周りとは少し違うオーラを放っているその子を見ているうちに、もう一人教室に入ってきた。童顔でかわいらしいなと思っていたら、その人が「入学式が始まるっしょ。廊下に並ぶべさー」と言った。
―――先生だったんだ。それに訛ってる…。
- 354 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:28
- 席を立ち、廊下へ出ようとした時。さっきの不良っぽい子が目に入った。椅子に座ったまま動かない。目は開いてるから寝ているわけではなさそうだけど…。
ただ声をかけるだけなのに、心臓が痛い。
―――声かけただけで「何いい気になってんだよ」とか言われたら嫌だし…。
それでも放っておくこともできず、恐る恐る声をかけた。
「あの、どうしたの?みんな廊下に並んでるよ?」
その子は私の声でこっちを見た。いつでも回れ右をして逃げ出せるように準備していた私は、その子のポケーッとした表情を見て気が抜けた。
その子は周りを見回して状況を理解すると……
「あっ、ボーッとしてたっちゃ。ありがと。」
そう言って、恥ずかしそうに笑った。
その第一印象とのギャップに驚いたけれど、不良ではなくて普通の人だったことに安心して―――自然に、笑顔が浮かんだ。
- 355 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:28
- 体育館に移動し、入学式。とは言っても、校長先生の式辞だったり先生の紹介だったりがあるくらいで、特別面白くも何ともない。
周りを見ると、少し離れたところでさっきの彼女が堂々と寝ていた。
- 356 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:28
- ようやく入学式が終わって教室に戻り、軽く自己紹介。
最初に先生で、次に名簿順。自分の番は無難にこなしておいて、「彼女」に注目する。
「田中れいなです。……えーっと、目つき悪いと思いますが、別に不良じゃなかですと。」
それを聞いて、クスリとしてしまった。
―――田中さん、かあ。
担任の『なっち先生』こと安部先生は、「不良かと思ってたべさ…。」と呟いていた。
- 357 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/11(日) 11:29
- その日はすぐに学校が終わり、帰れることになった。
鞄に荷物を詰め、教室を出る――――前に、さっき名前を知ったばかりの田中さんの席に歩いて行く。入学式の前に1言会話をしたから、今度はためらうこともない。
「田中さん、じゃあね。」
振り向いた田中さんは驚いたような表情。でもすぐに「じゃあね、また明日。」と返してくれた。
田中さんのはにかんだような笑顔は、素直にかわいいと思えた。
―――最初は仲良くなれるか心配だったけど……取り越し苦労だったみたい。
田中さんと話せたことで……1年間、楽しくやっていけるような気がした。
- 358 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/11(日) 11:32
- 今日の更新は以上です。書き込んでから気付きましたが>>356の「安部先生」→「安倍先生」でした。
内容がひどいので、せめて更新のペースくらいは最後まで保てるよう努力します…。
- 359 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/12(月) 23:51
- なんか新鮮でおもしろいです!最初からするりと読めました☆あのとき亀さん
なに考えてたんだろうって続きが気になります
- 360 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/13(火) 11:10
- >>359 名無飼育さん様
ありがとうございます。ご期待を裏切らないよう精進しますので、こらからも読んでやってくださいませ。
自宅のPC(WINDOWS9●)が寿命近くなったので買い換えました(買ったのは作者本人ではありません)。
最新のPCって素晴らしいですね(w 古いものとの差に唖然としました。もちろんメモ帳に書いていた作品の原稿も移動させましたが、こっちは性能(内容)が良くなるということはありませんでした(泣
気分を一新して更新いきます。
- 361 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:11
-
1週間もするとクラスの子の名前も覚え、ほぼ全員と「友達」と呼べる関係になった。担任のなっち先生(「安部先生」と呼んだら「なっちでいいべさ」と言われた)は優しくて話しやすい。
朝、教室に入り、みんなと「おはよー」とあいさつする。こういう何でもないようなことが、私は結構好き。
―――あれっ、田中さん、交信してる。
ボーッとしている様子の田中さんの席に行き、「おはよ、田中さん。」と声をかけた。
「おはよう。」
不機嫌なのか悩みがあるのか、田中さんの声は暗い。――――ついでに、いつもより表情も少し恐い。悪い人ではないと分かっていても、やっぱり恐いものは恐かった…。
- 362 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:12
- 「どしたの、元気ないね。」
「まあ、ちょっといろいろあって。」
「私で良ければ、話聞くよ。話せば少しはすっきりするかもしれないよ?」
「…ありがと。でもごめん、今はまだ話せないっちゃ。」
―――そっか、そうだよね。知り合って少ししかしてないのに、図々しかったかな…。
「そっか。なんか、ごめんね。勝手なこと言って。」
謝ると、田中さんは慌てて「い、いや、亀井さんは何も悪くなかと。」と言ってくれた。
- 363 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:12
- ―――亀井さん、かぁ。うーん……。
「あ、あの…全然関係ないことなんだけど……」
「ん?」
「お互い、名字で呼ぶの、やめない?」
「ほぇ?」
あ、今のほぇ?って声、かわいいな……じゃなくて。
「れいな、って呼んじゃだめかなって思って。」
恐る恐る訊くと、
「あ、全然よかよ。じゃああたしも絵里って呼ぶばい。」
とびきりの笑顔で、言ってくれた。
「…れいな。」
早速名前で呼んでみる。
「…絵里。」
れいなも、私を名前で呼ぶ。
「「………フフッ」」
「「アハハハハッ」」
なぜだかすごく面白くて、そしてすごく嬉しかった。
- 364 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:12
- 朝のホームルームで、なっち先生が部活のことを連絡した。先生自身は料理研究会の顧問をしているらしい。
―――部活どうしようかな。なっち先生が顧問やってるみたいだし、料理研究会とかもいいかな。
家に帰ってから「料理研究会っていうのに入ろうかと思ってるんだけど、どうかな。」と聞いたら、「いいわね。絵里が料理うまくなれば、お母さんも助かるわ。」
こうして、料理研究会に入部が決定した。
- 365 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:13
- 次の日、入部届を提出しに行った。
「あ、亀井ちゃん料理研究会に入ってくれるのかい?ありがとね。」
なっち先生の机の上に積まれた、入部届の山を見た。一番上にある紙にはれいなの名前と「囲碁部」の文字。
私の視線の先に気付いたなっち先生が、「田中ちゃん、昨日囲碁部の人に勧誘されてやってみたら面白くて、入ることにしたって言ってたべさ。」と説明した。
なんだ残念、と思いかけて、ふと気付いた。何が残念なんだろう…?
―――ああ、そっか。友達が同じ部活に入れば楽しいもんね。そういう意味で、れいなも料理研究会なら良かったのに、って思ったんだ。
―――あれ?でも、友達はれいな以外にもたくさんいるのに…。何で『れいなが』一緒じゃないと残念になるんだろう。……れいなとは特に仲がいいから?うん、そうだよね。
「亀井ちゃん?もしもーし、亀井ちゃーん?」
なっち先生が私の顔の前で手をひらひらしながら呼びかけているのにも、しばらく気付かなかった…。
- 366 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:13
- 数日して、初めての部活の日になった。放課後、部室である調理実習室へ行くと、すでに2人の人が来ていた。「あ、もしかして新入部員の子?」と、そのうちの1人に尋ねられる。
「あ、はい。亀井絵里です。」
ペコッと会釈すると、もう1人の人が「亀井だから亀ちゃんって呼ぼう」と早くもあだ名を決めていた。
「えーっと…先輩、ですか?」
「ごめんごめん、自己紹介してなかったね。私が新垣里沙、ガキさんって呼ばれてる。で、こっちが高橋愛ちゃん。どっちも2年生ね。」
「よろしくね亀ちゃん。」
「よろしくお願いします。」
ちょうどその時、なっち先生が調理実習室に入ってきた。
「あ、全員揃ってるね。」
「えっ、これで全員なんですか?」
思わず質問してしまった。
「あー、言ってなかったね。うちの部はこれで全員やよ。」と高橋先輩。
―――私を入れて部員は3人なんだ…。
「うーん、じゃ今日は亀井ちゃんの歓迎会を兼ねて、なっち達がごちそうするべ。3人がオムライスを作るから、誰のが一番おいしいか審査してほしいべさ。」
そして、高橋先輩、新垣先輩、なっち先生はそれぞれオムライスを作り始めた。
私は椅子に座って眺める。
―――すごい、手際がいい…。
さすが先輩や先生は違う、と思ってしまうような手際の良さだった。
- 367 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:14
- 3人ともオムライスが完成して、お皿に盛りつける。見た目的には……そんなに大差ない。どれも綺麗。
いただきます、とつぶやいて、まずはなっち先生作のものから食べてみた。………刺すような視線を3つ感じる。
「あ、おいしいです!」
卵は半熟でトロトロだし、中のご飯の味付けもちょうどいい。
なっち先生は「当然っしょ。」と胸を張っていた。
- 368 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/13(火) 11:14
- 高橋先輩、新垣先輩のオムライスもさすがにおいしく、ちょっと甲乙つけ難い。
「どれもおいしかったんですが…うーん……私的に一番おいしかったのは、高橋先輩のです。」
そう言うと、高橋先輩は「やった!」とガッツポーズし、敗れた新垣先輩となっ
ち先生はかなり凹んでいた。
「亀井ちゃん、こういう時は嘘でもなっちのが一番って言うべきだべ!亀井ちゃんの1学期の英語は5段階の1にするべさ!」
なっち先生がいきなりそう叫んだものだから、本当にびっくりした。
「ええっ!?本当にですか?ごめんなさいごめんなさい。」
必死に謝っていると、なっち先生が声をあげて笑いだした。
「嘘に決まってるべさ。なっちはそこまで心が狭くないっしょ。」
「だ、だって…。けっこう本気そうな言い方だったですけど…。」
「それにさ、本当にそれを理由にして成績1にしたりしたら、即クビでしょ。なっち先生にそんな度胸はないって。」
新垣先輩の言葉に、全員が笑う。
いつの間にか、楽しいなあって思えている自分がいた。
- 369 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/13(火) 11:18
- 今日の更新は以上です。ちなみに私、家庭科は大の苦手教科でした(w
このシーンの下書きを書いている時、「拙者、福井弁は『やよ』以外知りませんから……切腹!!」してました(殴
- 370 名前:22 投稿日:2005/09/13(火) 20:41
- 復帰おめでとうございます!待ってましたよ!
亀井さん、学校生活を満喫してますね。その心情描写が見事です。特に入部届のくだりはニヤッとしてしまいました。
それからなまりも特に違和感はないと思います。
次回も期待しています
- 371 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/15(木) 11:20
- >>370 22様
ありがとうございます。心情描写はいつも苦労しているので、ほめて頂けると踊りだしてしまいます(w
訛りは本編でかなり失敗してたので……福井弁は博多弁よりもっと心配だじゃー(津○弁
ようやく半袖が寒く感じるようになってきました。こっちのほうでは後2か月もすると、長袖でも寒くてしょうがなくなってしまいます…。
冬には雪がメートル単位で積もって本当に苦労するんです。以前ニュースで、東京の人が数センチの雪で雪かきしている光景を見た時は「嘘だろー!?」とか思いました(w
では続きをどぞ。
- 372 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/15(木) 11:20
-
6月に入り、高校最初のテストが近付いてきた。
「えーっと、そろそろ前期の中間テストが近くなってきたべ。4月から今までやってきたところが範囲だから、しっかり復習するべさ。あ、そうそう。テストの1週間前から部活は禁止になるから、みっちり勉強すればいいっしょ。―――みんな嫌そうな顔してるけど、テストが終わったら球技大会やら文化祭やらがあるからね。頑張るべさ!」
ホームルームでなっち先生がそう告げた。
―――部活もやらないで勉強かあ。やだなー…。
そう思っていると、後ろからも「はぁ…テストかぁ」とれいなが呟いているのが聞こえた。
「れいなもそう思った?やっぱりテスト嫌だよね〜」
後ろを振り返り、こっそり話しかける。
私勉強できなくてさー、と呟いたけれど……れいなは聞いていない。というよりも、私の顔をじっと見つめていた。
「れいな?どしたの?私の顔に何か付いてる?」
そう訊ねると。
「いや、なんか絵里の笑顔ってかわいいなー、って思っとったばい。」
顔が異常に熱くなるのが分かった。今まで「可愛い」と言われたことは何回もあったのに、今までにないくらい恥ずかしかった。
「もー、からかわないでよ。」
いつもなら「今頃気付いたの〜?」なんて軽口もたたけるのに、今はそう言うのが精一杯。
「亀井ちゃんと田中ちゃん、なーに騒いでるべか?」
あ…いつの間にか声が大きくなってた。
「「な、何でもないです!!」」
私とれいなの声がぴったりと重なり、周りはみんな笑っていた。
なぜだか、恥ずかしさと同時に嬉しさがあって…。その理由が、今はまだわからなかった。
- 373 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/15(木) 11:21
-
――――――――
- 374 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/15(木) 11:21
- 「えっと…『I was born to love you.』は……『君を愛するために、僕は生まれてきたんだ。』か。」
テスト1週間前で部活が休みになり、必死にテスト勉強中。
―――かっこいい言葉だなぁ…。
自分が「あなたを愛するために、私は生まれたの…。」と、れいなに言うところを想像してみた。
―――え!?ちょっと待ってよ!何でれいななのよ!?
あまりにも自然な流れでれいなが出てきたことに、自分自身驚く。
―――わー、顔が熱い…。この前「笑顔がかわいい」って言われた時といい今といい。何だろ、このムズムズするような気持ちは…。
この日、机の上に広がったノートがそれ以上埋まることはなかった……。
- 375 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/15(木) 11:23
- そんな調子で大して勉強もできず、テストの日を迎えた。
カリカリカリ、と鉛筆の音だけが聞こえる教室。その中でテストに集中できていないのは、たぶん私だけ。勉強中に違うことをあれこれ考え、さらには眠れなくなって睡眠不足だったから…。
- 376 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/15(木) 11:23
- キーンコーンカーンコーン、とチャイムが鳴り、世界史の答案を集めてテスト終了。教室の空気が一気に軽くなった。
「みんなお疲れ様。今日はゆっくり遊んで休んで、明日からも勉強を頑張ってほしいべさ。」
ホームルームが終わり、教室が賑やかになる。
―――そうだ、今日はれいなと帰ろう。
れいなとは部活が違うから、普段は一緒に帰ったりする機会がない。
「れいなー、一緒に帰らない?」
れいなの席に行って声をかけると、笑顔でうなずいてくれた。
―――普通に一緒に帰るだけなのに、どうしてこんなにワクワクしてるんだろ、
私……?
- 377 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/15(木) 11:23
- 帰り道。
「れいな、テストどうだった?」
「うーん…まあまあっちゃね。絵里はどうだったと?」
―――うっ、逆に聞き返されると苦しい…。
「結構ひどいかも。数学なんて、『2つのサイコロを投げて、目の合計が15以
上になる確率は?』の問題で30分も悩んで、結局わからなかったんだから。」
「…絵里、それは3秒あればわかる問題たい。どうやったってサイコロ2つで15にはならないけん、確率は0たい。」
「あっ、そうか。」
―――私のバカ…。サイコロなのに1と14とか2と13とか考えて混乱してた
のよね。睡眠不足で集中力が欠けてたんだ…。
1人落ち込んでいると、れいなが堪えきれずにクスクス笑っているのが聞こえた。
「あー、れいな今私のこと馬鹿にしたでしょー!」
口調とは裏腹に、本当は全然怒ってないんだけど、ね。
- 378 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/15(木) 11:24
- 「そういや、絵里って部活は何やっとう?」
「私?料理研究会だよ。れいなは…囲碁部だったよね。」
「そ。なんかやってみたら面白かったけん、入ることにしたっちゃ。」
「れいな、運動は得意?」
「まあ、苦手ではなかとよ。」
「今度の球技大会、何に出ようか。バスケか卓球かバレーボールか…」
「あたしはバスケに出ようと思っとるばい。」
「バスケかあ。じゃあ、私もバスケにしよっかなー。」
―――どれも同じくらい苦手だし…。それなら、れいなと同じのにしよ。
「絵里、バスケできると?」
―――たぶん、悪気はないんだろうけど…。グサッときたよ、れいな。
「わ、私だってドリブルくらいはできるわよ!」
精一杯に意地を張る。だけど……
―――なんか…れいなが哀れむような目で見てるのは、きっと気のせいだよね……。
- 379 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/15(木) 11:27
- 今日の更新は以上です。亀井さんの学校の英語の教科書には、とんでもない英文が載っているのです(w
次回は球技大会です。
- 380 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/17(土) 10:03
- あら、レスかない(汗
ひっそりと更新します。
- 381 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:04
-
「それでは、B組対D組の試合を始めます。」
「「「お願いしまーす!!」」」
今日は球技大会の日。クラスでそれぞれの出場種目を決めた結果、私もれいなも無事に第一希望のバス
ケに決まった。
それから、体育の時間を使ってパス、ドリブル、シュートなんかの練習をして、今日の本番に臨んでい
る。
- 382 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:04
- D組との1回戦。
開始早々、ボールを取ったれいなが敵陣に攻め込み、そのままランニングシュート。ボードに当たった
ボールは、跳ね返ってネットを通り抜けた。
応援に来ていた、他の競技に出る子達が歓声をあげる。れいなはそっちに手を振ってから、チームメイ
トとハイタッチをしていく。
「れいなすごい!」
ハイタッチする時にそう声をかけたら、れいなはキュッとウインクしてみせた。
それからすぐ、相手チームからボールを奪ってパスがまわり、自分にボールが渡った。ゴール下にれい
ながいるのを見つけ、精一杯にボールを投げる。しかし、相手チームの背が高い子がカット。
「亀井ちゃんドンマイ!!」
すぐにチームメイトが声をかけてくれた。
―――よしっ。頑張んなきゃ!
- 383 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:05
- それからも何度かパスがまわってきたけれど、シュートしても決まらず、パスをしてもカットされ、全
くいいところなしだった。
それでも、他のメンバーの活躍でチームは勝利。応援の子達の拍手に迎えられたけど、活躍できなかっ
た私だけはあまり気分が晴れなかった。
「絵ー里。落ち込むことなかよ。次また頑張ろ?」
たぶん、沈みこんでるのが顔に出てたんだと思う。れいながそう言って肩を2回、ポンポンと叩いてく
れた。
「…ありがと。頑張るから見てて!」
「その意気っちゃよ。」
- 384 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:06
- だけど……2回戦も、同じような内容だった。
私以外のメンバーはどんどんシュートを決めて、私だけは何もできなくて。他の人達は楽にシュートを決めているように見えるのに、私は一生懸命になっても全然だめ。
勝って決勝に駒を進めたB組チームの中で、私だけがシュートを1本も決めていなかった。
- 385 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:06
- そして、決勝戦。
急に、私にパスがまわる回数が増えた。
―――もしかして…。私が1本もシュート決めてないのを知ってて…?
自分のためではない。みんなのために、シュートを決めたいと思った。
ドリブルをしながら、必死に走っていたその時。
あっさりとボールを取られて、
「とろいねー亀ちゃん!」
視界の隅で、れいなの表情が険しくなったのが見えた。
- 386 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:07
- 45対47、2点負けているまま、時間は残り10秒。
「れいな!」
れいなにボールが渡ると、そのままゴールに向かって走り出した。
「「「3…2…1…」」」
スリーポイントゾーンから、れいながシュートする。
―――お願い…入って……。
ボールは弧を描いて……ボードにもリングにも当たらず、綺麗にネットを通り抜けた。……48対47で逆転。
ピピーッ、というホイッスルが聞こえないほどの大歓声。
れいながチームメイトみんなに抱きつかれているのを横目に………私は、体育館の出口に走っていった。
- 387 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:08
- 誰もいない教室で自分の席に座ると同時に、堪えていた涙が溢れだした。
―――シュート決めてないのは私だけ、か………。何やってるんだろ…。
―――きっと今頃みんなで「絵里は役立たずだったね」って言ってるんだろうなぁ。
- 388 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:08
- 「絵里?どげんしたと?」
声がしたほうを向くと、教室の入り口にれいなが立っていた。
「え、絵里!?何で泣いてると?」
「れいな……ごめんね……私…足引っ張って……ばっかりだったね…」
「絵里…そんなことなか。誰も絵里が足引っ張ったなんて思っとらんばい。」
「ううん…。みんなたくさんシュート決めてたのに……私だけが…役に立たなくてっ…」
「それは違っとーよ。絵里は他の誰よりも一生懸命プレーしとったけん、ばり立派たい。あたしは絵里ば見とって、自分も頑張ろうって思ったっちゃよ。」
―――どうして……どうしてれいなは、こんなにも優しいんだろう……。
張りつめていた糸は完全に切れて。
「れいな………れいなーーーーー!!!!」
れいなに抱きつくようにして、声を出して泣くことしかできなかった。
- 389 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/17(土) 10:09
- 「絵里、落ち着いたと?」
「うん。ありがとうね。」
「いいっちゃよ。」
れいなは、私が泣き止むまでずっと抱きしめていてくれた。れいなの体温がとても温かく心地良くて、
悲しさは全て涙と一緒に流すことができた。
「そういえば、スリーポイント決めた時のれいな、すごいかっこよかったよ。」
「あ、あれは偶然入っただけたい。」
そう言って照れるれいなは、さっきまでと正反対の、可愛いれいなで。
どうしようもない程、胸が高鳴った。
―――そっか……私はれいなのことが好きなんだ。部活が別だと知った時の残念な気持ちも、可愛いと
言われた時のドキドキも。すべては、れいなが好きだからだったんだね…。
ようやく気付いたこの想いを。今すぐは無理でも、いつかきっと伝えたい。そう思った。
- 390 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/17(土) 10:12
- 今日の更新は以上です。途中まで改行がうまくいってませんでしたorz
次回、亀井さんにライバル(?)が登場です。一瞬だけですが(w
- 391 名前:がどー 投稿日:2005/09/19(月) 10:25
- 遅くなりましたが、本編の完結おめでとうございます。
そして、続編更新おつかれさまです。
視点が変わると、同じシーンでも斬新ですねw
やはり、その心情が異なるから、なのでしょうか。
次回からも期待してお待ちしております。
- 392 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/19(月) 10:52
- >>391 がどー様
ありがとうございます。斬新と言っていただけて良かったです。今回は数少ない「続編オリジナルのシーン」が出てきます。本当に一瞬ですが…。
ほとんど本編の繰り返しみたいなものですが、これからも読んでやってくださいませ。
実は実は、本編完結後の中休み期間中に、次スレの構想なんぞを練っておりました。最初の一更新分だけ書いてみました。
2つのスレを同時進行できる器用さを持ち合わせていないので、続編完結のさらに何ヶ月も後になる予定です。
白状しますと、「鮮やかすぎる君がいない夏」は本編だけでスレが埋まるくらいの長さにしたいなーとか思っていたのですが、全く無理でした○| ̄|_
次スレこそは1つの話で埋めきりたいものです。ちなみに今回は田亀でしたが次はれなえりにするつもりです(殴
では更新です。
- 393 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:53
-
「そっかそっか。亀ちゃんも青春だねー。」
部活の時なっち先生が来るのを待つ間、2人の先輩に球技大会の時のこと、そしてれいなが好きなんだと気付いたことを話して、どうすればいいのか相談した。
「そうだ、もうすぐ文化祭があるよね?料理研究会はお菓子を作って売るんだよ。だから、亀ちゃんが作ったお菓子をれいなちゃんって子に食べさせればいいんじゃない?」
「それは名案やよ。好感度アップ間違いなし。」
「亀ちゃんそれでどう?」
「そうですね。それでやってみます。」
それから1週間、なっち先生や先輩にお菓子作りのコツなんかをいろいろ教えてもらった。ちなみに、なっち先生にはれいなが好きだということを内緒にしてもらった。……まさかとは思うけど、ばらされたりしたら嫌だから。
- 394 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:53
- そして文化祭当日になった。
午前は料理研究会のほうを手伝い、午後はクラスでやるかき氷の模擬店に合流する。なっち先生はかき氷のほうの手伝いに行っている。
文化祭が始まり、学校の生徒、先生、一般の人達で校舎の中が一杯になった。料理研究会手作りのお菓子もどんどん売れていく。
1時間後。いったん人足が途絶えた教室にまた1人、人が入ってきた。
「「「こんにちはー!」」」
よし、我ながら完璧な笑顔。
なかなか美人な高校生くらいのその人は、チョコクッキーを選んだ。
「100円です。」
そう言ったんだけど………
「私、可愛いですか?」
……はい?
- 395 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:54
- 私も高橋先輩も新垣先輩も、どう答えていいのかわからずに固まっている。
「可愛いですよね?」
―――こういうのって、正直に答えたほうがいいのかな…。
「私の次に可愛いと思いますよ?」
確かに可愛いけど、あくまでも私の次。これは譲れない。
「違いますよー。さゆが1番で、あなたが2番です。そうですよね?」
そう言って高橋先輩と新垣先輩に同意を求める、さゆとかいう子。
2人の間に火花が散っているのに見かねた新垣先輩が、「あーもう、2人とも同
じくらい可愛いよ!そういうことにしよ!ね!?」と半ば叫ぶように言って、丸
く収まった。
- 396 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:54
- さゆ、という子が100円を払って教室を出ていったと同時に、先輩2人がお腹を抱えて大笑いし始めた。
「いやぁ、亀ちゃんってそういうキャラだったんだ。おかしー!!」
「なかなか見物だったやよ。」
- 397 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:55
- それからも売れ行きは好調で、目が回るほど忙しかった。
そして、2度目の波が去って一息ついていたその時。
「あっ、れいな!」
れいなが、廊下から手を振っていた。クラスのほうに合流する時に私が作ったお菓子をこっそり渡そうと思っていたけれど、れいなのほうから来てくれた。
それを見た新垣先輩と高橋先輩は……「2人っきりにしてあげるね」と囁いて、急いで教室を出ていっ………て、陰から観察を始める。
- 398 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:55
- れいなが教室に入ってきて、陰からこっちをじっと見ている2人をいないものと
すると2人っきり。少しドキドキする。
「絵里、売れ行き良さそうっちゃね。」
「かき氷のほうはどう?」
「こっちも好調やけん。」
―――――そうそう。数日前に、「本人には極秘」でアンケートをとられた。『文化祭でれいなに猫の着ぐるみを着せるのはどうか。』
私はもちろん、そんなれいながかわいそうなことには………大賛成した。
「やっぱり着ぐるみ効果?」
「絵里までそげんこと言うと。だったら絵里も着ぐるみ着ればいいけんね。」
ちょっと拗ねたように言うれいなが、また可愛らしかった。
「や、私は今のままでも十分かわいいから大丈夫。」
冗談ではなく本気だったのに、れいなは笑いながら殴ってくる。本気だから殴るのかな?
―――でも…好きな人とこうやってバカみたいな会話ができるのって、すごく幸せ。
- 399 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:56
- 机の上に並んでいるお菓子を眺め始めるれいな。
「どれにする?」
まあ、どれを選んでも自分で作ったものをサービスするつもりだけど。
「うーん…じゃあ、絵里が作ったのにするばい。お手並み拝見、てやつ?」
心の中でガッツポーズ。でもちょっぴり緊張もする。
一生懸命に焼いたクッキーを、れいなが食べる。
「ん…おいしいとよ!」
それを聞いた瞬間、目の前がパッと明るくなったような気がした。
「ホントに!?ありがとう!ああ良かったー。」
好感度云々というのは、もうどうでもよかった。私が焼いたクッキーをれいなが食べて、おいしいと言ってくれた。それだけで十分。
れいなが出ていった瞬間に、陰で観察していた2人が教室に入ってきて……かなり、冷やかされた。
- 400 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/19(月) 10:56
- 昼食をとり、午後からはクラスのかき氷屋に参加。
れいなが猫の着ぐるみを着ている姿は最高にかわいくて、しかもポケーッとした表情をしているものだから、正直キスしたくなってしまうほどのかわいさだった。
結局、ボーッとしているような様子のれいなに見とれた私もまたボーッとして、時間は過ぎていった……。
- 401 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/19(月) 11:00
- 今日の更新は以上です。……なんぼ終わり方適当なんだっきゃ。
前回うまくいかなかった改行、メモ帳の「右端で折り返す」を解除したら解決しました。
次回は……本編を見ればわかります(w
- 402 名前:22 投稿日:2005/09/19(月) 14:29
- 更新お疲れ様です
先輩二人グッジョブ!!作者さんはサブキャラ描くのもうまいですね。
あの娘が遂に登場で次回は…期待しています
- 403 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/21(水) 11:09
- >>402 22様
ありがとうございます。
一見、気をきかせたように見える2人ですが、本編では亀井さん1人しかいないつもりで書いていた(当時は続編のことを何も考えてなかったので)のに気付いた作者が、辻褄を合わせるために教室から出ていってもらったというのが真相です。あははは……。
実際に小説を書いてみて初めて知ったことですが、山場のシーンや事件っぽいシーンよりも、普段の何気ないところを書くほうが時間がかかります。本編でも、いろいろ考えるかなと思っていたラストは意外なほどスラスラ書けて、逆にすぐ書けると思っていた日常のシーンが大変でした。
これって自分だけなんでしょうか。アンケートでもとりたい気分です(w
では更新です。
- 404 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/21(水) 11:10
-
文化祭の次の日は振り替え休日で休み。
その次の日。
学校がいつもよりつまらなかった。なぜなら、れいなが体調を崩して学校を休んだから。
れいながいない教室で受ける授業は、いつも以上に退屈で。
「それじゃ、教科書の70ページから…亀井、読んでもらえる?」
―――あーあ。つまんない…。
「亀井ー。」
―――れいな、今頃どうしてるかなあ。
名前を呼ぶ声や、反応がない私にざわつく声は、全く聞こえていなかった。
コツンッ
頭に鋭い痛みが走り、ようやく我に返る。
「亀井ー、さっきから何回も呼んでたんだぞー?」
顔を上げると、教科書の角をこっちに向けている、国語の矢口先生。普段と同じ笑顔が逆に怖かった……。
- 405 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/21(水) 11:11
- その日の部活前、雑談の時間。
「そのほうがいいんやよ、かえって。」
れいなが休んで寂しいとこぼした私に、高橋先輩はそう言った。
「え、でも…。好きな人とはいつでも一緒にいたいじゃないですか。」
「うーん…。でもさ亀ちゃん。」
新垣先輩が後を継ぐ。
「一緒にいるのが当たり前、って状態になったらだめだと思うんだ。一緒にいても別に嬉しいと思わなくなっちゃうから。たまに会えない時があれば、会える時2倍嬉しくなるじゃん。」
なるほど、と納得。
―――なら…明日はきっと、いつもの2倍楽しい日になるのかな……?
- 406 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/21(水) 11:11
- けれど……れいなは、それからもずっと学校を休み続けた。
1週間が過ぎた頃、なっち先生に「れいなまだ体調悪いんですか?」と聞いたら、「田中ちゃんは…精神的にちょっぴり疲れてるみたいなんだべ。だから、ゆっくり休めばまた学校に来れるようになるっしょ。」と言っていた。
- 407 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/21(水) 11:12
- その日の夜。
宿題を半分片づけて、休憩をとることにした。ベッドにダイブする。
無意識のうちに浮かんでくるのは、れいなの顔。
―――考えてみると……れいなが同じ教室にいるだけで、すごく楽しかったんだね…。
授業中も休み時間も、気付けばいつもれいなを見ていて。ただ見ていることしかできなくても、それだけで幸せな気持ちになれた。
そして、ずっと会えなかったこの1週間は、あまりにも辛かった。
―――れいな…会いたいよ………。
抑えきれない気持ちは、涙という形で溢れだした……。
- 408 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/21(水) 11:12
-
――――――――
- 409 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/21(水) 11:13
- れいなが学校に来たのは、夏休みが始まる2日前の放課後だった。
ホームルームが終わってなっち先生が教室を出ていき、鞄に荷物をつめていたその時。
「あ、れいな久しぶりー!」
前のほうで声がした。
ドアのほうを見ると――――ちょっぴり恥ずかしそうに笑っている、れいなの姿があった。
2倍なんてものじゃない、何十倍も嬉しかった。
れいなは、私の席のところまでゆっくりと歩いてきた。心臓がバクバクいっている私に、れいながニコッと笑いかけた。
「れいなお帰り。」
「…ただいま、絵里。」
ひさびさに見る、れいなの笑顔は……私の心に広がった雲を、あっという間に吹き飛ばしてくれた。
―――れいな。私ね、胸が苦しくなるくらい、れいなのことが大好きだよ…?
れいなに伝えたいその言葉を、心の中でそっと呟く。いつか本人に伝えられるよう、願いながら。
- 410 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/21(水) 11:13
- 夏休みが始まり、同時に夏期講習も始まった。
れいなは来ていないけれど……いつの日か来るのを信じて、待つことにした。
そして、れいなが来たら………自分の気持ちを伝えようと思う。
「好き」の気持ちは、胸の中にしまっておくのが辛いほど大きくなってしまったから。
- 411 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/21(水) 11:16
- 今日の更新は以上です。ちょっと切り所に迷いました(w
次回からは前半の山場……だと思います。
- 412 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/23(金) 10:05
- スレを立てた頃は暑い暑いと言ってましたが、昨日ストーブと毛布を投入しました。時が経つのは早いものです……。
では更新いきます。
- 413 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/23(金) 10:06
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――――――――
- 414 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/23(金) 10:06
-
『その日』がやってきたのは、2学期が始まって1週間が過ぎたころだった。
朝のホームルームでなっち先生が発した言葉に、心臓が跳ね上がった。
「田中ちゃんのことなんだけどね。ちょっと疲れちゃってて、教室で普通に授業を受けるのはしんどいみたいで、今は保健室で勉強してるみたいだべさ。よかったら時々顔を出してあげてほしいべ。」
教室ではないけれど、れいなが来た。
すぐに、決断した。
ホームルームが終わった後すぐ、なっち先生のところに行った。
「先生…れいなに伝言、お願いしていいですか?」
「伝言?何だべか?」
「えーっと……『話があるから、放課後になったら裏にある公園に来て』って。」
「わかったべ。…でも、亀井ちゃんが言いに行けばいいんでないかい?」
「あー、えっと、その………」
なぜだか、「話があるから公園に来て」と言うだけでも恥ずかしかった。
「まあ、事情がありそうだしいいべさ。」
「…ごめんなさい、お願いします。」
―――いよいよ放課後に告白かあ。ドキドキしてきた…。
- 415 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/23(金) 10:07
- 当然のように、授業中も頭の中は告白のことで一杯だった。
―――何て言って告白すればいいんだろ…?ストレートに「好きです」とか?うーん、もう少し気の利いたこと言えないかなあ…。
「よし、じゃあ今読んだところまでの口語訳を亀井、やってみて。……おーい、亀井?」
―――でも、かっこつけすぎるよりならシンプルなほうがまだマシだよね。
ゴツンッ!
頭に激痛。
顔を上げると、教科書の角をこっちに向けて爽やかな笑顔の矢口先生。……前にもこんなことあったっけ。
「絵里ちゃーん。昼休みに矢口とゆっくりお話でもしよっかぁ。」
いえ、結構です。………とは言えるような雰囲気ではなかった。
- 416 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/23(金) 10:07
- 昼休み。職員室で矢口先生と「お話」をして教室に戻ってくると、なっち先生が「あ、亀井ちゃん。伝言、確かに田中ちゃんに伝えておいたべ。」と言った。
「亀井ちゃん、田中ちゃんに大事な話でもあるのかい?」
―――うー…ま、言ってもいいか。
「実は…れいなに告白しようかと…。」
「ひょえー!?」
なっち先生の大声で、教室にいた全員の視線が集まる。
「あ、あはは…何でもないべさ。」
それから、「頑張ってね」と小声で囁いた。
- 417 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/23(金) 10:08
- 放課後。ホームルームが終わると同時に教室を飛び出した。
学校の裏にある小さな公園に着いてベンチに腰掛け、一度大きく深呼吸。
―――もし、れいなの返事が「ノー」だったら……今までみたいな友達の関係でい続けられるのかな………。
―――ふられるのが怖いよ……。
- 418 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/23(金) 10:08
- 考えるのは、マイナスのことばかりで。逃げ出してしまおうか、なんて考えが頭をよぎったその時。
「絵里。」
れいなが来た。もう逃げ場はない。
「ごめん、遅くなったとね。」
「ううん、大丈夫。」
「………」
「………」
私の言葉をじっと待つれいなと、言葉が出てこない私。
「………」
「………」
「……それで、話したいことって?」
「………」
「………」
「…あのね。」
もう一度深呼吸してから、ゆっくりと話し始めた。
「球技大会の日のこと、覚えてる?」
「あぁ、覚えとーよ。」
「なんだかね、バスケしてる時のれいな、すごく輝いて見えたの。かっこいいなぁ、って思った。」
「そしたらね、何も役に立てない自分が情けなくなって……決勝戦が終わったらすぐ教室に行って、ずっと泣いてた。」
「でも…すぐにれいなが来て、慰めてくれたよね。あの時、言葉にできないくらいに嬉しかったよ。最初はれいなのこと、ちょっと恐そうだと思ってたけど、本当はこんなにも温かい人だったんだなあって。」
「たぶん、その時からなのかな。」
ここでもう一度、深呼吸。自分が何を言っているのかもよく覚えていないほど、緊張していた。
「……………れいなのこと、好きになってたの。」
- 419 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/23(金) 10:09
- 「えっ?」
れいなは―――かなり驚いている様子だった。
「ごめん、びっくりしたよね?でも……本気なの。れいなが学校に来なくなってから、寂しくて寂しくて仕方がなかった。れいなともっと一緒にいたい。だから……付き合って、ください。」
これが今の私に言える、精一杯の言葉。
れいなは、目を閉じてじっと考え込んでいた。
息が詰まりそうなほど、重い沈黙。
私は手を組んで膝の上に置き、祈るようにすることしかできない。
「……絵里の気持ち、ばり嬉しかよ。」
やがて、れいながゆっくりと口を開いた。
「ばってん……あたし今、自分のことが大嫌いだっちゃよ。何もかもが中途半端で…。だから、今の中途半端な気持ちで付き合っても、絵里に申し訳なかと。」
―――こんな時でも、れいなは私のことを考えてくれてるんだ……。
本当なら……そんなの関係ない、私はれいなが好きなんだ、と言いたかった。けれど、そのワガママはれいなを困らせてしまうから。れいなの出した答えを受け止めるしかない。
れいなの優しさが嬉しかったからか、れいなの返事が「ノー」だったのが悲しかったからなのかは、わからない。気付いた時には、膝の上で組んだ手に、涙が落ちていた。
―――泣いちゃだめ…。泣いたら、れいなが困ってしまう……。
それでも涙が止まらない私を………れいなが、そっと包み込んでくれた。
「ごめん…。今はまだ、付き合うことはできないけん。でも……あたしも絵里のこと、好いとうよ。それだけは忘れないでほしいばい。」
たった今れいなが言った言葉の意味を理解するのに、しばらくかかった。
そして、その意味を理解した瞬間……止まりかけた涙が、再び溢れだした。
れいなの優しい言葉も、抱きしめてくれる腕の温もりも。簡単に涙が流れてしまうくらい、温かかった。
- 420 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/23(金) 10:09
- 私を抱きしめたまま、れいなが囁く。
「絵里…少しだけ時間が欲しいっちゃ。あたしが自分に自信を持てるようになるまで……それまで待っててほしか。」
「…わかった。ずっと待ってるからね。」
「ありがとう…。」
―――ねえ、れいな。れいなが私に言ってくれた「好き」の言葉。期待しても、いいのかな……?
- 421 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/23(金) 10:12
- 今日の更新は以上です。>>413タイトル入れ忘れました(汗
次回はちょっぴり切なく……なりますように(ぇ
- 422 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/25(日) 10:11
- 更新でーす。(「宅配便でーす」のトーンで…)
- 423 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:12
-
次の日の部活で、高橋先輩、新垣先輩、なっち先生に、告白したこととれいなの返事を報告した。
「微妙な返事や…。でも亀ちゃんのこと好きって言ったんなら、大丈夫だと思うけどのお。」
「うん、一応両想いだもんね。」
「あとは田中ちゃん次第だべ。亀井ちゃんは待つしかないっしょ。」
……本音では早くしてほしいけれど。やっぱり待つしかないかな。
- 424 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:12
-
――――――――
- 425 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:13
- ずっとずっと、れいなを待ち続けた。保健室に会いに行って答えを聞きたいのを我慢して、待った。
けれども―――れいなは、教室に一度も来なかった。
2週間が過ぎる頃には、授業に集中できなくなってきた。
3週間が過ぎる頃には、焦る気持ちが大きくなった。
そして1か月が過ぎる頃には、もしかしたられいなはずっと来ないのかもしれないという不安に押しつぶされそうになっていた。
- 426 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:13
- 部活を終えて家に帰り、ただいまも言わずに部屋で横になった。
―――れいな……れいなもきっと不安なんだろうけれど………私だって、同じくらい不安なんだよ…?
―――ねえ、私はどうすればいいの…?
「れいなぁ………もう……わかんないよぉ……。」
枕に顔を埋めて毛布を頭から被り、声を押し殺して泣いた。
「ちょっと絵里、帰ったならただいまくらい言い………」
そう言いながら部屋のドアを開けたお母さんは、私の様子を見ると何も言わずにドアを閉めた。
好きだと言ってもらって満足する気持ちと、ちゃんとした恋人関係になっていない焦りと、きっとすぐれいなは答えを出すという期待と、ずっとこのままかもしれない不安と、れいなに会いに行って催促したい衝動と、れいなが納得できる答えを出すまで待っていようという落ち着いた気持ちと。全てが複雑に絡み合って、でも最後に残るのは悲しみしかなくて。
いつしか私は、泣き疲れて眠ってしまっていた。
- 427 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:14
- 次の日の放課後。
ホームルームが終わるとなっち先生に呼ばれて、誰もいない教室に連れていかれた。
「はい。」
なっち先生が濡れたタオルを差し出す。
何だろうかと思いながら受け取ると、「亀井ちゃん、だいぶ目が赤いべさ。」と言われた。
タオルを目に当てると、「田中ちゃんのこと、やっぱり不安かい?」と聞かれる。
「そりゃあ……すっっっごく。」
「……明日、田中ちゃんが教室に戻ってくるって保健室の先生が言ってたべさ。」
「えっ!?本当ですか?」
微笑みながら肯くなっち先生。
「たぶん……田中ちゃんなりの答えが出せたんだと思うべ。」
霧は、すっかり晴れた。
- 428 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:14
- そして次の日。
いつもより10分以上早く学校に行き、席に座る。
れいなが来るのを今か今かと待っている自分に気付き、苦笑いしてしまう。自分がどれだけれいなを好きか、再認識させられた。
- 429 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:15
- しばらく待っていると、ついにれいなが来た。心臓が大きく跳ね上がる。気のせいか、1か月振りに見るれいなは、1か月前よりかっこよく見えた。
れいなは席に鞄を置き、周りの席の子と挨拶を交わし――――私の席に来た。
「絵里、久しぶりっちゃね。元気だったと?」
「う、うん。」
―――ああ、なんだかドキドキしてる。
「それで………今日の放課後にちょっと話があるけん。裏の公園に来てくれんと?」
ドキドキドキ、だった心臓が、ドクン、となった。
「……わかった。」
きっと、声も表情もビクビクしているのが丸わかり。
そんな私を察して、
「別に緊張せんでもよかとーよ。」
そう言って笑顔を見せてくれるれいなの、こういうちょっとした優しさが。一番、好き。
- 430 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:15
- 当然ながら、授業に集中なんてできるはずもなく。後ろの席に座っているせいで
姿を見ることができないれいなのことばかり、考えていた。
「じゃあ、現在完了形の和訳を練習してみるべさ。まず1番の文を…田中ちゃん。」
「にゃ?…は、はいっ!!」
どうやら、れいなも授業を聞いていない模様。
「えっと…『最初に会った時からずっと好いとうよ、エリリン』……あ。」
………今、何と?
黒板を見てみると、そこに書かれていたのは。
『Since when I met you first,I have loved you,Eririn.』
突っ込みどころ満載の文。しかもエリリンて何ですかエリリンて……。
「田中ちゃん、授業中に窓の外を見て交信してるからだべ。」
大爆笑しているみんなの中で……私だけは、顔が熱くてしょうがなかった。
- 431 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:16
- 放課後。
―――あードキドキする…。
鞄に荷物をつめ終わった時、すでにれいなは教室にいなかった。
後は、私が気持ちの準備をして公園に行くだけ。
教室を出ようとすると、なっち先生が両手の拳をぐっと握って「頑張れ」というようなジェスチャーをした。
- 432 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:16
- 少し早歩きで公園に行くと、れいなはベンチに座っていた。恐る恐る、れいなの隣にちょこんと腰掛ける。
「ごめんね、遅くなって。」
「大丈夫たい。」
「それで話って?」
ドキドキは、最高潮になっていた。
「1か月前に絵里が告白してくれた時……あたしは、『自分に自信が持てるようになるまで待っててほしい』って言ったとね?」
「うん……。」
「今のあたしはきっと………まだ、自分に自信を持てないと思うばい。」
―――あれっ?
「今、『自信を持てるようになったから付き合ってくれ』って言うと思っとったっちゃね?」
「そ、そんなことないもん!!」
図星だったことがなんだか悔しくて、意地を張る私。
「ま、まだ自信は持てないけん、けど………絵里のことが大好きだって気持ちが、抑え切れなくなったっちゃよ。」
また、大きく心臓が鳴った。不意打ちなんてズルいなあ、なんて思ってしまう。
「自分に自信があるとかないとか…そげんことがどうでもよくなるくらい、頭の中が絵里で一杯になるばい。だから…」
「あたしなんかでいいのなら………付き合ってほしか。」
- 433 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/25(日) 10:17
- 最初から、だいたいわかってはいた。でも、実際に言葉にして言われるのは、最高に嬉しくて。
「……絵里!?」
溢れだした涙を止める術なんて、どこにもなかった。
「れいなのばかぁっ!!ずっと不安だったんだから!!」
そうしてれいなにぶつけた感情は、ほんのわずかな怒りと、たくさんのありがとう。
「ごめん、本当にごめんね、絵里。」
「グスッ…もう…不安な思い…させないでね…。」
「うん。約束するばい。」
「……大好き。」
今の心の中にあるのは、れいなが好きだという、ただ1つの想いだけ。
その想いに突き動かされるように……れいなと、初めてのキスをした。ずっとずっと、何十秒も。
- 434 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/25(日) 10:19
- 今日の更新は以上です。前半終了ですか?(誰に聞いてる
次回はもう1つの恋が発覚する模様です。
- 435 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/27(火) 10:01
- レスがなくてわかりやすく凹んでいる作者です(ゴフッ
つまらないと思われた方は無理に褒めなくても結構ですので、「つまらないからこうこうこうしたらどうか」みたいなことでも書いていただければかなり嬉しいです。「つまらない」の一言だけではさすがにリアクションのしようがありませんが(汗
では更新です。
- 436 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:02
-
晴れてれいなと付き合うことになって、私自身はもちろん、周囲もかなり喜んでくれた。その日の夜はなぜか外食になったし、次の日の部活では「祝勝会」が開かれてすごいことになった。
でもやっぱり、一番嬉しいのは当然私のはず。何より――――辛い時期があった分だけ、喜びも大きかった。
- 437 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:02
- 部活が終わって、一緒に帰る約束をしていたれいなを下駄箱のところで待った。
「亀ちゃん、ニヤニヤしてどしたの?」
新垣先輩にそう言われてハッとする。
「えっ、ニヤニヤしてました?」
「かなりね。田中ちゃん待ってるの?」
「はい。一緒に帰る約束してたんです。」
「いいねぇラブラブで。羨ましいよ。」
- 438 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:03
- 「そういえば新垣先輩は好きな人、いないんですか?」
「あー……それがさ………料理研究会にいるんだなこれが。」
「え、それってつまり……」
「うん、そういうこと。」
「私のことが好きなんですか?」
「そうなんだよ……って違うから!!」
うん、ノリツッコミ、お見事です。
「でも、高橋先輩が好きなら告白しないんですか?」
「それがねー…愛ちゃんは他に好きな人がいるんだよ。田中ちゃんと同じ囲碁部の、まこっちゃんって子。でも、まこっちゃんにも付き合ってる子がいてさ。私も愛ちゃんも、叶わぬ恋をしてるってわけ。」
「……大変なんですねー。」
「うん。でも、そのうち愛ちゃんにしっかり告白しようと思ってるんだ。そうしないといつまでも後悔しそうだし。」
だから亀ちゃんは私の分までラブラブしちゃってよ、と言って、新垣先輩は帰っていった。
- 439 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:03
- 叶わぬ恋って辛いんだろうなあ、と色々想像を膨らましているうちに、れいなが来た。
「お待たせ。」
「そんなに待ってないよ。」
おどけたようにそう言うと、れいなはおかしそうに笑った。
- 440 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:04
- 薄暗いうえに人通りの少ない道は怖いけれど、繋いだ手がその怖さをなくしてくれている。
―――れいなの手、温かくて優しいなぁ……。
「そう言えば今日先輩から聞いたっちゃ。絵里って中学校でモテモテだったと?」
―――あー、そんなこともあったかな。あんまり自慢するようなことでもないけれど…。
「まあ、何人かに告白されたりしたよ。でも、そのころはまだ恋愛のこととか、よくわからなかったから。」
「さよか…。」
「初めて人を好きになったのは、高校に入ってからかな。恐そうだけど、実際はすごく優しくて、かっこいい人。」
「それ、れなのことっちゃね?しかも『恐そう』っていうのが1言余計たい。」
「でもさ、ちょっと恐いかな、くらいだと、なんだか守ってくれそうで心強いと思うな。」
「…顔なんか関係なか。絵里に何かあったら、あたしが守るけんね。」
―――なんか、言われた側も照れちゃうなあ…。
「…ありがと。」
そう言って、心なしか赤くなっているれいなの頬に、そっとキス。
こっちを向いたれいなの顔は――――トマトみたいに真っ赤。そんな顔もかわいいな、と思っていると……今度は、れいなのほうからキスをしてくれた。
この時、通りかかった人がジーッと見ていたけれど………幸せすぎて、どうでもよく思えてしまった。
- 441 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:04
- 「ね、れいな今度の日曜日空いてる?」
10月の終わり頃、思い切ってそう誘ってみた。
「日曜日?うん、暇たいね。」
「じゃあさ、どこかに行かない?」
「それって…いわゆる『デート』ってやつ?」
―――うぅ、デートっていう響きは恥ずかしい……。
「よかよ。どこ行く?」
「そうだなあ……。あ、れいなの家に行ってみたいな。ご両親にもちゃんと挨拶したいし。それかられいなも私の家に来るの。こんな感じでどう?」
記念すべき初デートだから、街に出かけるよりも、お互いの家に行って「思い出の場所」にしたかった。
「うん。それでいくっちゃ。」
―――あ、部屋の掃除しておかないとね………。
- 442 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:05
- そして日曜日。
朝早く起きて、文化祭の時に作ったのと同じクッキーを焼いた。もちろん、れいなに食べてもらうため。れいなが喜ぶ顔を思い浮かべると、自然に顔が緩んでしまう。
9時半頃に家を出て、待ち合わせ場所の学校に向かった。とは言っても待ち合わせは10時で、学校には歩いて10分くらいで着いてしまう。
ただなんとなく、早めに行こうという気分だった。
- 443 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:05
- 計算通り、10分ちょっとで学校に着いた。ただ、予想していなかったのは、れいなもすでに来ていたこと。
「おはよー。れいな早いね。」
れいなは少し驚いた様子で「おはよ。」と言ってから、突然ふっと笑顔になった。
「?れいな何で笑ってるの?」
「何でもなかよ。行こ?」
そう言って、私の手を取って歩きだしたれいな。
………手を取られた瞬間にドキッとしてしまったのは、ここだけの秘密。
「絵里、私服かわいいっちゃね。」
「やっぱりかわいい?」
「……やっぱかわいくない。」
「何それー!」
そして。甘い言葉や飾った言葉を交わすよりも、こんなやりとりのほうが、私は嬉しくなる。
- 444 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:05
- しばらく歩いて、れいなの家に着いた。
「ただいま。」と言うれいなに続いて「お邪魔します。」と言うと、れいなのお母さんが出てきた。
「はいはい。あら、お友達?」
「いや、友達と言うか……実は恋人たい。」
ぺこりと頭を下げる。
「恋人と!?それはそれは。れいながお世話になってます。」
「初めまして。亀井絵里です。」
自己紹介するとれいなのお母さんは、私のほうが恐縮してしまうようなお辞儀をした。
- 445 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:06
- れいなのお母さんは「今夜はお赤飯を炊かないといけんね」と呟いて居間のほうへ戻り、私はれいなに連れられてれいなの部屋へ。
れいならしい、と言えばいいのか、さっぱりとした部屋に、MDプレーヤーを見つけた。れいなが居間に飲み物を取りに行っている間、音楽を聴かせてもらう。
ヘッドホンをしてMDの最初に入っている曲が流れだすと、すぐにビビッときた。一目惚れならぬ「一聴き惚れ」。几帳面に曲のタイトルが登録されていて、「キミガイナイナツ」とある。
―――いい曲だなぁ。なんだか、心が洗われるような感じがする……。
そのまま目を閉じて聴き入っているうちに、れいながオレンジジュースとコップをお盆にのせて戻ってきた。
「キミガイナイナツ」が終わり、ヘッドホンをはずす。
「このMDの最初の曲、すごくいいね。」
素直な感想を述べると、れいなは嬉しそうに笑った。
「ああ、それはあたしが1番好いとう曲ばい。『ニード』ってグループの曲やけん。最後のサビの部分、特に良くなかった?」
「うん、なんか鳥肌がたった。『鮮やかすぎる君がいない夏ー』っていう歌詞でグッときたよ。」
一瞬、「鮮やかすぎる、れいながいない夏」を想像してみた。でも、できなかった。
だって………れいなと離れ離れになることなんて、あるわけがないと思ったから。
- 446 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:06
- 「キミガイナイナツ」をリピート再生にして、オレンジジュースを飲んで休憩する。
この状況でキスしたら、なかなかロマンチックだろうな、なんて思っていると……。
「ね、絵里。」
「なあに?」
「…キスしても、よかと?」
―――れいなも同じ事、考えてたのかな……?なんか嬉しい。
黙って目を閉じると、少しして唇に柔らかい感触。ほんのりとオレンジジュースの香りもする。
唇が触れた瞬間、頭の中は真っ白になった。
ただただ夢中になって、れいなの唇を求め続けた。MDプレーヤーから流れる「キミガイナイナツ」をBGMにして。
- 447 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:07
- 時計を見るともうすぐ12時。
れいなの家を出て、外で昼食をとり、そのまま私の家に行った。
「お邪魔しまーす。」
「どーぞ。お母さーん、れいな連れてきたよー。」
居間からお母さんが出てくる。……すごい笑顔で。
「あら、こんにちは。あなたがれいなちゃん?」
「あ、はい。初めまして。」
「れいなちゃんのことは絵里かいつもら聞かされてますよ。もう耳にタコができるくらい。」
―――わっ、ちょっ、れいなの目の前でそんなこと……!
「もう、お母さん余計なこと言わないでよ。」
「あら、本当のことじゃない。嬉しそうな顔してれいなちゃんのことを話してるんですから。それじゃあれいなちゃん、ゆっくりしていってね。」
「…絵里?」
「…………」
恥ずかしかったから、拗ねてるふりをして誤魔化した…。
- 448 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:07
- れいなを部屋に案内したところで、クッキーのことを思い出した。
「れいな、ちょっと待ってて。」
居間にクッキーを取りにいくと、お母さんがニヤニヤしながら私を見ていた。
―――いつか仕返ししたい……。
部屋に戻ると、れいなが目を丸くした。
「このクッキー、まさか…」
「そう。文化祭の時にれいなが食べたのと同じだよ。今朝早く起きて焼いたんだから。」
れいなの目が少し潤んでいる。……ここまで喜んでくれるとは思わなかった。
「食べてみてよかと?」
「どうぞ、召し上がれ。」
れいなはクッキーを1つ取り、パクッと食べた。
「絵里…腕が上がっとうね。」
「ほんと?」
「うん。文化祭の時よりもさらにおいしいっちゃよ。」
「まあ、仮にも料理研究会に入ってるんだから、腕が上がってないと困るよね。」
「まあそうやけん、けどそれだけじゃなか…絵里の気持ちも込められてるから、さらにおいしくなったばい。」
こういう嬉しい言葉をさらっと言えるれいなって、ちょっとすごい。
- 449 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:08
- ―――そういえば………れいなって、中学校でモテてたのかな。れいな自身は好きな人がいたのかな。……気になる。
「れいな、1つ聞いていいかな?」
「ん?」
「あの…答えたくなかったら答えなくてもいいんだけど。れいな、私と付き合う前に好きな人とか、いた?」
「あー……」
れいなは言葉に詰まっている様子。まずいこと聞いたかな……。
「ご、ごめんね、こんなこと聞いて。どうなのかな、って思ったから…。」
「や、怒ってはなかよ。そうっちゃね…全部、話したほうがよかね。」
そして、れいなが話し始めた。
- 450 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:08
- 「実は…絵里が告白してくれた時……絵里の他にも気になる人がいたっちゃよ。」
いきなりの衝撃発言。
「あたし、中3の時にさゆ、っていう子が好きだったとよ。で、卒業式の日に告白して振られたっちゃよ。でも、さゆのこと、ずっと忘れられなかったと。」
「高校に入っても、さゆのことばかり考えてた。けど、しばらくしたら絵里のことも気になってきて……。」
「さゆと絵里、どっちが好きなのか自分でもわからなかったばい。そんな時、タイミング悪く絵里が告白してきた。」
「あ…ごめんね…。」
とっさに謝ってしまう。
「あ、いや、責めてるわけじゃなかよ。ただ、その時はさゆか絵里の片方を選ぶことなんてできなかったと。そしてそんな自分も嫌になってたんやけん。」
「そのまま1か月悩んで、やっと気づいたっちゃよ。さゆのことは、『好き』なんではなくて『忘れたくない、記憶にとどめておきたい』だけなんだ、って。」
「そこでやっと、あたしが本当に好きなのは絵里のほうなんだってわかったばい。」
「あたしが大アホだったばっかりに、絵里に不安な思いをさせたけんね。本当にごめん。」
- 451 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:08
- ―――そっか……れいなも悩んでたんだね…。
「……ありがとうね、話してくれて。」
「告白のちゃんとした返事を待つ間、確かに私も不安だったよ。でも、れいなはもっともっと不安だったんだね。それを知ることができてよかった。」
自然に、私とれいなは微笑み合っていた。
「絵里。」
「うん?」
「……大好きっちゃよ。」
なんだか、「今はさゆじゃなくて、絵里が大好きっちゃよ。」と言ってくれてい
るようで……そんなれいなが愛おしくて、ぎゅっと抱きしめた。
「私も大好きだよ…。」
- 452 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/27(火) 10:09
- 夕方になり、れいなも帰る時間。
今日は、れいなとたくさん一緒にいて、れいなのことをまた1つ知ることができて、本当にいい1日になった。
「絵里、今日は楽しかったと。」
「私も楽しかったよ。気をつけて帰ってね。」
「うん。それじゃ、明日また学校で。」
―――何か足りないような気がする………。あ、そうだ。
「あ、れいな待って!」
背中を向けたれいなに、もう一度呼びかける。
「ん?どげんしたと?」
「えっと…目、瞑って?」
「…何で?」
「いいから!」
れいなが目を閉じたのを確認して………そっと、れいなの唇に口付けた。
唇が離れると、自分からしたくせに、恥ずかしくなる。
「ま、また明日ね!!」
れいなは穏やかな笑みを浮かべている。
「うん。また明日ね。」
自転車に乗ったれいなが曲がり角を曲がって見えなくなっても、幸せな気持ちはずっと、消えることはなかった。
- 453 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/27(火) 10:13
- ちょっと多めの更新でした。……単純に文章力不足がレス不足の原因だべや、と心の中で呟きました。精進します。
次回はまた微妙な雰囲気です(w
- 454 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/28(水) 00:37
- 初レスさせて頂きます。
さりげなく毎日更新されていないかと見にきていました。
気付けば作者さんの作品を見る目的でココに通っている自分に気付きました。
爽やかな青春ドラマを思わせる文章力には脱帽です。
初々しくもある可愛い二人がすごく良い味出していて好きですね。
次回更新、今か今かと楽しみにしています!
- 455 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/29(木) 10:06
- >>454 名無飼育さん様
レスありがとうございます。しかもダメ出しじゃなくてお褒めの言葉ばかり(感涙)3つくらいの意味で泣きそうです。
>文章力には脱帽です
この部分、作者が勝手に弟子入りした師匠に言った(書いた)言葉と全く同じです(wお褒めの言葉ありがとうございます。ヤリマシタヨシショウ……
レスのありがたみを再認識して、散髪もして(違、いろんな意味で初心に帰ることができました。感謝感謝です。
執筆のほうは現在、塾通いのところを書いています。あどわんつか(あとちょっと)です。最後の終わらせ方は2通り考えて迷っています。
では続きを。
- 456 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:06
-
初デートの次の日。
れいなが、学校を休んだ。
朝のホームルームでなっち先生はれいなが休みだとは言ったけれど、理由については何も言わなかった。つまり……精神的な理由なんだと思う。
昨日の初デートが、何か関係しているとしか思えなかった。
―――ねえ…。れいなが休んだのは、私のせい……?
- 457 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:07
- その日の部活前。
「亀ちゃんのこと嫌いっていうのだけは絶対あり得ないやよ。」
「そぉですかねー……。」
「そうだよ。じゃあさ亀ちゃん、私と亀ちゃんじゃどっちがかわいい?」
「それは私のほうがかわいいです。」
即答したら、高橋先輩が大笑いした。……だって本当のことだもん。
「田中ちゃんとのことも、それくらい自信持てばいいじゃん。ね?」
そう励ましてもらったけれど、やっぱり自信が持てない。
- 458 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:07
- それからしばらくして来たなっち先生にも、初デートの次の日である今日にれいなが休んだことを教えた。
「やっぱりれいなが休んでるの、私のせいかも…。」
「うーん……なっちが思うには、逆にデートが楽しかったからじゃないのかい?楽しかったから、学校が面倒になったとか。」
「んー………」
なんとなくだけど……れいなは、そんな理由で休むような人ではないような気がする。かと言って、本当の理由は予想もできない。
こういうちょっとしたことでも、不安でしかたがなくなってしまう。悔しいけど、私の頭の中はれいながほとんど占めている。
―――だから……いつでも側にいてくれないと、不安になっちゃうよ………。
- 459 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:08
- れいなが休み始めてほぼ1週間が過ぎた日。
放課後、れいなの家に行くことにした。
部活の前に行こうと思ってなっち先生に許可をとりにいくと、「わかったべ。」とあっさりOKしてもらえた。
- 460 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:08
- れいなの家までの道は、ついこの前に1回歩いたから迷うこともなかった。
インターホンを鳴らすと、「はーい。」と声が聞こえてきた。れいなのお母さんかな。
ドアを開けたれいなのお母さんは、私を見て少し驚いたような表情をした。
「あら、こんにちは。」
「あ、こんにちは。えーっと…れいな、いますか?」
「ええ、ちょっと待ってね。れいなー、絵里ちゃんが来てくれたとよー。」
すぐに、パタパタと足音が聞こえてきた。
ほぼ1週間ぶりに会うれいなは、当たり前だけど、以前と何も変わっていなかった。けれど、それがなんだか安心できた。
- 461 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:09
- れいなの部屋に入れてもらい、私の第一声は「れいな…ごめんね。」だった。れいなは目を丸くしている。
「何で謝ると?」
「だって……れいな、私のせいで休んでるんでしょ?」
「そうやけん、でもそれはデートが楽しかったからであって…。絵里が謝ることじゃなか。逆に心配かけたれなが謝らなきゃいけんとね。」
「でも…」
「大丈夫やけん、絵里は心配しないで?」
その口調には、れいなの優しさがにじみ出ていて……だけど、本当のことを言ってほしい気持ちもあった。
- 462 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:09
- それから、いろいろな話をした。暗い話は良くないかなと思って、主に部活や家での笑い話なんかを。
私のくだらない笑い話にも、れいなは楽しそうに笑ってくれて。その笑顔が、私にも元気を与えてくれた。
- 463 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:09
- 30分くらい話をして、帰ることにした。部活もあるし、あんまり長居しても迷惑だから。たぶん、れいなも1人になる時間がほしいんじゃないかと思う。
とは言っても、やっぱり名残惜しさもあったから……帰り際、長めにキスをした。胸の中で渦巻く不安が、消えてくれるように……。
- 464 名前:忘れないで。 投稿日:2005/09/29(木) 10:10
- 部活に戻ると、なっち先生が「亀井ちゃん、さっきまでより顔が明るくなったべさ。」と言った。
新垣先輩と高橋先輩には「ラブラブだね、このこの」とからかわれたけど……堂々と、「ラブラブですよー?」と言い返してやった。
―――だって…れいなと一緒にいると、どんな栄養ドリンクよりも元気になれるんだもの……。
- 465 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/09/29(木) 10:13
- 今日の更新は以上です。甘いのかシリアスなのか自分でもわかりません。
次回はポッキーです(謎
- 466 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/01(土) 09:57
- 既に最終回を迎えたはずのドラマ「電○男」ですが、こちらでは今日の正午からスタートするようです(遅 再放送とかではなく、テレビ欄にはちゃんと「新」の文字。
やっぱり田舎は違うなあ、と変に感心する作者でした。
では更新です。 …あ、今日の更新分にも「電○男」が名前を変えて出てきます(w
- 467 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 09:58
-
部屋のカレンダーを見ると、11月10日。……明日はれいなの誕生日。
明日は日曜日だから、デートができる。その時、急に誕生日プレゼントを渡してれいなを驚かせようと、前々から計画していた。
- 468 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 09:58
- 前日の今日、午前中に誕生日プレゼントを探しに、街のほうに出かけた。
―――何がいいかな……。どうせあげるなら喜んでもらいたいし…。
何時間も歩き、悩んで、やっと決まったプレゼントは――――11月の誕生石、トパーズがついた、綺麗な指輪。ラッキーなことに、私でもなんとか手の届く値段だった。
丁寧に包装してもらい、明日のことを考えて胸を踊らせながら、家に帰った。
「絵里、さっきからニヤニヤしてどうしたの?気持ち悪い。」
昼ご飯の時、お母さんにそう言われた。
気持ち悪いとは失礼な……。
- 469 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 09:59
- そして次の日。れいなに『デートしよう!』とメールを送った。すぐに『いいっちゃよ〜』と返事がくる。
『絵里はどこか行きたいところある?』
『映画観に行きたいかなー。』
『何の映画?』
『列車男が観たいんだけど…れいなはなんかああいうの苦手そうなイメージだね。』
『なっ、それどういう意味っちゃ!れなだってドラマみたいな恋に憧れるけんね!』
と、いうふうなメールの会話を経て、話題の映画『列車男』を観に行くことに決まった。
- 470 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 09:59
- 誕生日プレゼントの指輪をしっかり鞄に入れ、前回のデートと同じく学校で待ち合わせ。この「待つ」時間も、デートの醍醐味だと思う。
れいなが来て、早速映画館へ。
料金は、どちらかが2人分を出すということをせずに、自分の分を自分で払った。2人分を払ってもらったほうって、何か罪悪感のようなものが残ってしまうから。
- 471 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 09:59
- 席に着くと、何本かの映画の予告編が流れ、そして『列車男』が始まった。
1人のオタク青年が酔っぱらいから女性を守り、そして2人が結ばれるまでの物語。どこにでもありそうなストーリーなのに、なぜだか2人を応援したくなってしまう。
もちろん、2人が結ばれるまでには壁がいくつも立ちふさがる。その度に悩み、時には傷つき、それでも壁を越えていく。
形は違っても、れいなと私も同じようなことを経験したから……感慨深いものがある。
- 472 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:00
- 青年が女性に想いを伝えるシーンでは、思わず涙を流してしまった。
壁を乗り越えてたどり着いたゴールだからこそ、こんなにも人を感動させるんだと思う。
ふと、れいなと私のことを考えた。
『列車男』の2人と同じように、壁を乗り越えて恋人になった私達。その分、一緒にいられることがとても幸せに思える。きっと「一緒にいられるだけで幸せ」という気持ちがある限り、私達はずっと一緒に歩いてゆける。
『一緒にいるのが当たり前、って状態になったらだめだと思うんだ。一緒にいても別に嬉しいと思わなくなっちゃうから。たまに会えない時があれば、会える時2倍嬉しくなるじゃん。』
ずいぶん前、新垣先輩が言っていたこの言葉の意味が、やっとわかったような気がした。
- 473 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:00
- 映画が終わり、そのまま昼食。
映画の感想なんかを話しているうちに、ふと思ったことを聞いてみた。
「映画の女の人と私、どっちがかわいいと思う?」
ハンバーガーにかぶりついたまま固まってしまったれいな。でもすぐに答えてくれた。
「そんなの、絵里に決まっとう。」
「ほんと?」
「当たり前たい。あたしにとっては、絵里が1番かわいい。」
喜んでいたら、れいなはおかしくて堪えきれないといった様子で笑いだした。
―――何よぉ、そんなに笑わなくても。
ちょっと拗ねたくなったけれど、れいなの笑顔を見ていたら私まで笑顔になってしまった。
―――そうだ、かわいいって言ってくれたんだから、こっちからも言わなきゃね。
「私にとっては、れいなは1番かっこいいよ。」
そっと囁いたら、れいなは耳まで真っ赤になってしまって、その様子は全然かっこよくなんかなくて……そのかわり、ギューッと抱きしめたくなるくらい、かわいかった。
- 474 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:01
- 昼食を食べ終わり、午後は色々な店を見てまわった。
「あ、れいなあれ見て。」
見つけたのは『ポッキーの日 ポッキー各種11円』と書かれた看板。
そこでポッキーと飲み物を買い、静かなところに移動した。
- 475 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:01
- ベンチに座り、ポッキーを食べようとしたところで名案が浮かんだ。
「そうだいいこと思いついた!ね、ポッキーゲームしようよ!」
れいなが、飲んでいたコーヒーをプーッと噴き出した。……噴き出したコーヒーはだいぶ遠くまでとんだ。
「ポポポポッキーゲームって……な、なんば言うと!」
「一度やってみたいの。だめ?」
手を合わせてお願いすると、れいなは顔を真っ赤にしながら――――
「い、1回だけっちゃよ。」
「わあい、ありがとう。」
- 476 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:02
- れいながポッキーを1つ取り出し―――手が震えている―――チョコレートの側を私、逆のほうをれいなが口にくわえる。
そして、少しずつ少しずつ、食べていく。
2人の唇はだんだんと近づいていき………ついに、くっついた。
数秒で唇を離し、すぐにまたれいなの唇に自分の唇を軽く押しつけた。
―――ポッキーゲームでキスするのって、ちょっぴり恥ずかしいし……やっぱり、普通のキスが一番かな…?
- 477 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:03
- ポッキーを全部食べてコーヒーを飲み終わる頃には、辺りも薄暗くなり始めていた。
「そろそろ帰ると?」
「あ、れいな……ちょっと寄り道していいかな。」
「どこ行くっちゃ?」
「ちょっと、あの公園に。」
「あの公園」とは、私がれいなに告白した、そしてれいなが私に告白してくれた公園のこと。
―――メインイベントはこれから、なんだよね……。
- 478 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:03
- 公園に着いて、ベンチに並んで座った。
「れいな、目を閉じて、それから手を出して。」
れいなは不思議そうな顔をしながら目を閉じた。
鞄から指輪の入った箱を取り出し、れいなの手に握らせる。
「いいよ、目開けて。」
目を開けたれいなは、その箱をまじまじと見つめた。
「これは?」
「いいから開けてみて。」
ゆっくりと包装の紙を取り、箱を開けたれいなは……中身を見て、目を大きく見開いた。
「誕生日おめでとう、れいな。」
れいなは口をパクパクさせている。……言葉が出てこないみたい。
「その石ね、『トパーズ』っていう11月の誕生石なんだよ。」
「安物だけど…私からの誕生日プレゼントね。」
れいなの目が次第に潤んでいき………やがて、ポロポロと涙をこぼし始めた。そして、泣きながら何度も「ありがとう」と言ってくれた。
泣いて喜んでいるれいながとっても愛おしくて、なんだか温かい気持ちになった。
- 479 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/01(土) 10:04
- 今の私は、大声で叫ぶことができる。
「私は誰よりも幸せだー!」、って。
- 480 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/01(土) 10:06
- 今日の更新は以上です。こういうシーンや次回の分などは、かなりスラスラと書けるんです。
次回は物語全体で最もシリアスなシーンでございます。
- 481 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/01(土) 22:59
- ずっとROMってたんですが○車男が激しくツボにはいってどうしてもレスしたく
なっちゃいました☆ ・・・・やっぱりイイですね この話。大好きです!
何度読んでも感動します。これからも影ながら見てます☆
- 482 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/03(月) 10:25
- >>481 名無飼育さん様
レスキター!!(すぐに影響される) ありがとうございます。意外なところでツボにクリーンヒットさせてしまったようで(w ドラマのほうは第1話からすごかったです。
作者はレスの数=読んでる人の数だと勝手に思い込んでしまっているので、1人でも2人でも影から見守ってくれているとわかればすごく安心します。今後もよろしくお願いします。
土曜日の深夜に、オフラインで完結させることができました。作者の持っている文章力は全て注ぎ込んだつもりです。終わった瞬間、部屋で1人ガッツポーズしてました(w
一番最後に書くのが一番最後のシーンだと達成感もひとしおですね(本編の時はラストシーンを先に書いていて、一番最後に書いたのは>>303でした)
それでは続きです。
- 483 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:25
-
れいなはずっと学校に来なかった。
きっとれいなも苦しんでいると思ったし、何より私自身、ずっと会えないのは辛すぎるから、ちょくちょく家まで会いにいくことにした。
「私が来るの、迷惑だったらそう言っていいんだよ。」と言うと、れいなは必ず「恋人がわざわざ会いに来てくれて、迷惑なわけなかとーよ。」と言ってくれる。
その表情が本当に嬉しそうだったから……れいなの役に立てているんだと思って、とにかく嬉しかった。
- 484 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:26
- 11月の終わり頃、部活に行こうとした時のことだった。
家庭科室のドアを開けようとすると、中から話し声が聞こえてきた。高橋先輩と新垣先輩のようだ。
「里沙ちゃん、大事な話って何やが?」
「うん……えっとね……。」
高橋先輩が言った『大事な話』、そして新垣先輩の震えた声で、だいたいの予想がついた。
―――新垣先輩、高橋先輩に告白しようとしてるんだ…。
そういえば前に「いつか告白しようと思ってる」と言っていたのを思い出した。
確か、高橋先輩には他に好きな人がいて、つまり新垣先輩は「叶わぬ恋」をしているんだったっけ。
「あれ、亀井ちゃん。入らないべか?」
なっち先生が来た。
私は人差し指を口に当てて「シーッ」としてから、ドアに耳をつけた。なっち先生も同じようにする。
「愛ちゃんは……まこっちゃんのこと、まだ好きなんだよね…?」
「…うん。」
「それを知ってて言うのは自分勝手だけどね…………私……私……」
「愛ちゃんのこと……ずっと好きだった………。」
- 485 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:26
- 「………」
「………」
「………」
「………」
沈黙が続き、私となっち先生は顔を見合わせた。
「……愛ちゃんごめん。迷惑だよね……。忘れていいから……。」
「違う!!」
高橋先輩がこんなに大声で叫ぶのは、初めて聞いた。
「里沙ちゃん……ありがとう。」
「え……?」
「里沙ちゃんの気持ちに応えてあげることはできないけど……すごい嬉しかったがし。本当に、ありがとう。」
「……ううん。付き合ってくれっては言わないから……私が愛ちゃんのこと好きっていうのだけ覚えててくれれば、それでいいから…。」
相手に好きな人がいると知っていても自分の気持ちを必死に伝えた新垣先輩と、
新垣先輩を突き放さずに優しく受け止めた高橋先輩。2人とも本当にすごいと思った。
- 486 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:27
- なっち先生が「何も聞いてなかったふりして入ろっか」と呟いた。私はコクッとうなずく。
「いやー、ごめんごめん、遅くなったべさ。」
「ごめんなさーい、絵里も遅れちゃいました。」
「2人とも遅刻だよー。」
「そうやが。待ちくたびれたやよ。」
その日はケーキをつくったんだけど……高橋先輩と新垣先輩は仲良く一緒に作業していて、私となっち先生はその様子を微笑ましく見守っていた。
- 487 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:28
- れいなの家には、相変わらずちょくちょく通い続けた。けれど…12月に入ったころから、れいなの様子が変わり始めた。
なんだか、れいなが暗い。
「何かあったの?」と聞いても、笑いながら「何でもなかよ」と言うだけ。「やっぱり私が来るの迷惑?」と聞いても「来てくれないと寂しくて死んじゃうばい」。
何も言わないのは、私に心配をかけたくないという、れいなの優しさなんだと思う。けれど……私は、逆に辛くなる。悩んでいることがあるのなら、言ってほしかった。2人で一緒に悩んで、できることなられいなの力になりたかったから…。
- 488 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:28
- 12月の中頃。とうとう、決定的な出来事が起こった。
「れいなぁ。」
「ん?」
「寂しいよ〜…。」
「3日に1回くらいしか会えないから寂しかと?」
「うん…。あと1週間で冬休みに入るからいいんだけど…学校でもれいなと一緒にいたい。れいながいないと毎日つまんないんだもん。」
れいなが学校を休み始めて、約1か月半。その間、つまらないとまではいかなくても、寂しさというものはいつもあった。一緒にお弁当を食べたり、一緒に帰ったりすることができなかったから。
「無理にとは言わないけど……学校に来てほしい。」
我侭かもしれないけれど……。
「ねえ、どうして学校に来られないの……。」
学校でも、一緒に過ごしたい。
そんな私の願いは……
ドンッ!!
鈍い音―――れいなが壁を殴りつける音で、粉々に打ち砕かれた。
- 489 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:29
- 「絵里は……あたしの気持ちがわかっとうと?」
「え………」
今まで聞いたこともないような、暗くて冷たい声。
「いいや、きっとわかってなんかなかとね。…誰も、あたしの気持ちをわかってくれないばい。」
「そんなことない!!れいなの気持ちはみんなわかってるよ!!」
嘘ではない。れいなの苦しみは、れいなの家族も、なっち先生も、クラスのみんなも……もちろん私も、みんなわかっているはず。
「…誰だって、そう言うと。ばってん、結局誰もわかってなんかないけんね。」
―――目の前にいるれいなは……本当にれいななの…?れいなは……明るくて優しいはずじゃなかったの……?
「れいな…」
「帰って。」
「え…?」
「帰って。気持ちはわかる、なんて嘘をつかれるのはもうウンザリやけん。」
氷のように冷たくて刃のように鋭い言葉は、私の胸をザックリと貫いた。涙が次から次へと溢れ出してくる。
「ごめんね……。」
わけもわからず、れいなの部屋を飛び出す。玄関で靴をはくと「あ、ちょっと絵里ちゃん……」とれいなのお母さんが言うのが聞こえたけれど、頭の中が真っ白だった私は「お邪魔しました」も言わずに外へ飛び出した。
- 490 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:29
- どうやって家に帰ったのかも、よく覚えていない。
私は部屋に鍵をかけてからベッドにうつぶせになり、いつまでもいつまでも泣き続けた。
- 491 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:30
- 次の日からも、ほとんど部屋から出ずに過ごした。……当然、学校には行かずに。
たまに部屋を出た時にお母さんが「絵里、いったいどうしたの?」と聞いてきたけれど、何も答えたくなかった。言葉にすると、余計に惨めな気持ちになってしまいそうだったから。
- 492 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:30
- 12月22日――――2学期終業式の日の午後、部屋のドアがノックされた。
「亀井ちゃーん、元気にしてるかい?」
なっち先生だった。
私は……恥ずかしいやら情けないやらで、ドアを開けることも返事をすることもできなかった。
「この前田中ちゃんの家に行った時ね、亀井ちゃんが学校休んでること言ったら田中ちゃん、すごく辛そうな顔してたべさ。どういうふうに喧嘩したのかは聞いてないけど、亀井ちゃんは田中ちゃんが大好きなんだし、田中ちゃんは亀井ちゃんが大好きっしょ。だから仲直りすればいいべさ。」
愛ちゃんもガキさんもクラスのみんなも心配してるべ、と言って、なっち先生は帰っていった。
―――なっち先生……もう無理だよ………。
―――私は……れいなのことをわかっているつもりで、本当は何もわかっていなかったんだよね……。それでれいなの恋人だなんて、笑われちゃうよ。
―――私がれいなのことを好きでも…れいなはもう、私が邪魔だよね……。
- 493 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:31
- 次の日の昼。家族がみんな出かけた後、何か食べようと思って居間へ行った。
スプーンやフォークが入っている引き出しを開けると、なぜか最初に目に入ったのは――――
ナイフだった。
- 494 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:31
- 気が付くと、部屋に戻っていた。手にはナイフが握られている。
―――死んでしまえば?れいなに愛想を尽かされたんだから、生きててもしょうがないじゃん。
心の中の自分が、そう囁く。
―――違う…。まだわからないよ。それに死んだ後のことなんて、誰も知らない。ひょっとしたら、死んだ後の世界は今より辛いのかもしれないし…。
もう1人の自分も囁く。
心の中の『2人』の争いは、ずっと続いた。
- 495 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:32
- そして夜。
私は、学校の裏の公園へ歩いていた。コートのポケットには――――ナイフが入っている。
「雪……」
真っ暗な空から、静かに雪が落ちてきた。そういえば今日誕生日だったっけ、とぼんやり思い出す。
「………っ」
なぜだかわからないけれど……雪を見ているうちに、涙が流れだした。
- 496 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:32
- 公園に着いた。
ポケットからナイフを取り出し、れいなの顔―――大好きな、れいなの笑顔を思い浮かべる。
すると無意識のうちに、楽しそうに笑っているれいな……顔を赤くして恥ずかしがっているれいな……さらには優しく抱きしめてくれた時の感触までもが甦り、再び涙が頬を濡らした。
―――だけど……全て、今はもう手に入れることのできない幻……。
ありがとう。そしてごめんね。
「みんな」にそう言って、ナイフを振りかざす。
「絵里!!!!」
聞こえてきた声―――忘れ得ぬその声は、空耳なんかではないとはっきりわかるくらい、大きかった。
- 497 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:32
- れいなが駆け寄ってくる間、私は動くこともできなかった。
「絵里、今何しようとしたと?」
「………」
「自殺?」
ほんの少しだけ、首を縦に振った。
「何で自殺すると?」
れいなの声は…怒っているふうでも、悲しんでいるふうでもない。やっぱりもう、私のことなんかどうでもいいんだろうなと思ってしまう。
「……私……れいなのこと…何もわかってあげられなくて……それで…自分が情けなくなって……。」
説明して俯いた私に、れいなは―――
「絵里。顔上げんしゃい。」
言うとおりにすると。
パシンッ!!
頬に鋭い痛みが走った。
ああ、れいなにビンタされたんだ、とぼんやり思っていた。
- 498 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:33
- 「自殺しようとするなんて最低たい!!命を粗末にするんじゃなか!!」
「………」
「絵里が死んだら、家族だけじゃなか、絵里の知り合い全員が悲しむっちゃよ!!それに……もし、絵里を傷付けてまだ謝ってもいない恋人がいたりしたら、その人はどうすればいいとよ?」
れいなも後悔していた。それを理解した時には、涙が流れていた。
しゃがみ込んでしまった私を、れいながそっと抱きしめてくれた。その優しい温かさに、涙が余計に溢れてくる。
「この前のことは、悪いのは全部れなやけん。絵里は全く悪くなかとーよ。だから……死のうとしたりなんかしないで、ちゃんとれなに謝らせてほしいと。」
「本当に、本当にごめんね。取り返しのつかないほどひどいことしたけん、あたしのこと、気の済むまで殴ってほしいばい。」
私を抱きしめたまま……静かに、優しい声でそう言ってくれた。
でも………れいなを殴ることなんてできなかったから、かわりに、目を閉じているれいなの頬にそっと口付けた。
- 499 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:33
- 「え、絵里!?」
「そんなこと…できないよ。」
「え?」
「世界一好きな人を殴ったりなんか、できないもん……。」
「絵里……。」
れいなの顔が少し赤くなっている。
「れなのこと、嫌いになってなかと?」
「…バカ。嫌いになんてなるわけないでしょ……。」
ちょっとだけ呆れてそう言うと、今度はれいながポロポロと涙をこぼした。
お互いがお互いに嫌われたんじゃないかと思っていて……でも結局は、2人とも相手のことが大好きで。勝手に悩んで死んでしまおうなんて考えてたのはいったい何だったんだろう、とおかしくなった。
- 500 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/03(月) 10:34
- 「そうだ…絵里。」
「なあに?」
「今日、12月23日っちゃね。誕生日、おめでとう。」
「……ありがとう。」
ちゃんと私の誕生日を覚えていてくれたれいなが愛おしくて、やっぱり私はれいなが大好きなんだと改めて思った。
- 501 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/03(月) 10:37
- 今日の更新は以上です。気が付けば500。半分埋まりました。
そして先輩の2人、脇役みたいな扱いでゴメンナサイ…。いや実際にわk(ry
次回はもう2人の先輩が登場です。
- 502 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/05(水) 09:51
- (BGM) ヒロシです。(ヲイ
『あんこがギッシリ』と書いてあるアンパン……。
中身の九割は空洞でした!!
ヒロシです…。ヒロシです…。更新です…。
- 503 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:52
-
明日のクリスマスイブは一緒に過ごそうと約束して家に戻り、そして……お母さん、お父さんに全てを話して、「ごめんなさい」と謝った。2人とも私を怒ったり責めたりしないで、ただ黙って抱きしめてくれた。
それから、れいなにもメールで「ありがとう」を伝えた。
すぐに返事が来て、「止めたはいいけど、思い切りビンタしちゃって本当にごめん。反省してるm(__)mこちらこそ、これからもずっとよろしくね。
´ヮ`)人(^ー^」。
―――でもさ、れいな。あのビンタのおかげで目が覚めたよ。ありがとう。
心の中で、そっと呟いた。
それから明日のクリスマスプレゼントの話題になった。
相談の結果、お互いに手紙を書こうということに決まり、その日は夜遅くまで悩んで手紙を書いた。
- 504 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:52
- 次の日のクリスマスイブ。昼は家で簡単にパーティーをして、夜はれいなと、という予定。
日が暮れた頃、待ち合わせ場所の公園に向かった。
- 505 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:53
- 公園に着くと、中には誰もいなかった。ベンチに腰掛けて待つ。
しばらくすると、人の声が聞こえてきた。足音が近づいてくる。
公園に入ってきたのは、手を繋いだ2人の女の人。ふと目が会うと、2人が同時にあれっという表情になって、小走りで近づいてきた。
「あのー。亀井絵里ちゃん、ですよね?」
「はい、そうです。」
「あ、やっぱり。私達ね、田中ちゃんの部活の先輩なんだ。」
「れいなの?」
「うん。私が小川麻琴。この子が紺野あさ美ちゃん。」
―――あれっ、もしかして……。
『愛ちゃんは他に好きな人がいるんだよ。田中ちゃんと同じ囲碁部の、まこっちゃんって子。でも、まこっちゃんにも付き合ってる子がいてさ。私も愛ちゃんも、叶わぬ恋をしてるってわけ。』
―――新垣先輩が言ってた「まこっちゃん」って、小川さんのことなんだ。
「亀井ちゃんは田中ちゃんを待ってるの?」
「はい。一緒にごはん食べに行こうって。」
「へー。どこで食べるの?」
「二丁目の『ダスト』です。」
「ほんと?私達もそこで食べるつもりだったんだけど。よかったら4人で一緒に食べない?」
「あ、全然いいですよ。」
- 506 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:53
- れいなが来るまでの間、私とれいなのことをあれこれ聞かれた。
「亀井ちゃんといる時の田中ちゃんって、どんな感じ?」
「んー、かっこいいし、優しくて頼りになるんですよ、すごく。」
「あはは、もう田中ちゃん一筋?」
「もちろん。れいながいないともう生きてけないです。」
「じゃあさ、田中ちゃんが他の子と仲良くしてたりすると、嫉妬しちゃう?」
「あー、そうですね。というかお二人がれいなと同じ部活ってだけで、いいなあって思ってます。」
「そっかー。それじゃあ、今までのことは田中ちゃんに教えてあげよっと。」
「えぇー、ちょっとやめてくださいよー!内緒にしといてください。」
- 507 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:54
- 「あ、田中ちゃん来たよ。」
「「田中ちゃん久しぶり!!」」
「紺野先輩に小川先輩!!」
―――む…。
「あー、絵里のことは無視?れいなひどい!」
「…紺野先輩に小川先輩に絵里。」
―――むむむ…。
「絵里は最後なの!?絵里はおまけ!?」
「…絵里に紺野先輩に小川先輩。」
ちょっとれいなをからかっていると、小川先輩、紺野先輩が同時に噴き出した。れいなは恥ずかしそうに頬をポリポリ掻いている。
「と、ところで、先輩達もデートですと?」
「うん。あさ美ちゃんと2人でここに来たら亀井ちゃんがいてびっくりしたよ。」
「さっきまで、亀井ちゃんがいかに田中ちゃん大好きかを聞かせてもらってたの。」
―――わわっまずい。
………と思う間もなく、小川先輩にさっき言ったことをばらされてしまった。
顔を赤くしながらニコニコしているれいなが、ほんのちょっぴり、本当にほんのちょっぴり憎たらしい…。
「ちょっと小川先輩、それ絶対れいなには言わないって約束したじゃないですかー!!」
頬を膨らませて「怒ってます」状態をアピールしたんだけど……。
「あ、亀井ちゃんの膨れっ面かわいい。惚れちゃうかも。」
―――全然意味がなかった。
でも、「惚れちゃうかも」に反応したれいなと紺野先輩が小川先輩を左右から挟み込むように殴り、小川先輩はその場に崩れ落ちた。
ご愁傷様です…。
- 508 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:54
- 4人で『ダスト』へ行き、「メリー・クリスマス!!」と乾杯してから食事をした。食事中の話題はそれぞれの恋人のこと。
小川先輩と紺野先輩は中学校で同じクラスになり、一目惚れした小川先輩が中3のクリスマスに告白したらしい。告白の言葉は「私にとってあさ美ちゃんがいない日々は、桜が咲かない春と同じだよ」。むー、かっこいい。
- 509 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:55
- 「田中ちゃんと亀井ちゃんはどんな感じで付き合うことになったの?」
「…あたし恥ずかしいけん、絵里が説明して。」
「はいはい。れいなとは今年の春に初めて会ったんですよ。第一印象はちょっと恐かったですね。」
それを聞いたれいなが恐い顔で睨んできた。
「ほら、こういうところが。」
初対面の人が見たら怖くて泣いてしまいそうな睨みだけど、普段の優しいれいなを知っている私は全然怖くない。
「でも話してみたらそんなことなくて。球技大会の日には活躍できなくて教室で泣いてた私を、れいなが慰めてくれたんです。その時に、れいなのこと好きだなって自覚しましたね。」
「へ〜。田中ちゃんって意外と優しいとこあるんだね。」
「そうなんですよ。それでどんどん好きになっていって、秋ごろに思い切って告白したんですけど、『自分に自信がないから今はまだ付き合えない』って言われて。でも絵里のことは好き、って言ってくれたんです。まあそれからもいろいろとあったんですけど、今この瞬間はすごく幸せかな。」
「れなも今、すごい幸せですばい。」と、れいなも言ってくれた。
- 510 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:55
- 食事をし終わって時計を見ると、すでに8時過ぎ。紺野先輩、小川先輩と別れて、ここからはれいなと2人きり。
2人の思い出がたくさん詰まっている公園でまた1つ、思い出を作る。
クリスマスプレゼント――――お互いに宛てた手紙を読む順番は、じゃんけんで負けたれいなから。
「絵里へ。
絵里と付き合い始めて、2か月と少しが経ちました。この2か月間で、楽しいことも辛いこともあったけれど、1日1日がとても輝いていたと自信を持って言える。
綺麗な言葉はあまり多く知らないけれども、これだけは伝えたい。これから先も、たくさん一緒にいて、たくさん笑い合って、たくさんケンカもしようね。ケンカをするほど絆は深まるし、ケンカをするからこそ、笑い合える時間がかけがえのないものになるのだから。
だけど、ケンカした時でも絶対に忘れないで。田中れいなは、世界で一番、亀井絵里が大好きだよ。」
- 511 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:55
- 恥ずかしがりながらも、れいなは一生懸命に読んでくれた。
「……ありがとね。」
短い手紙だからこそ、綺麗な言葉ではないからこそ、伝わってくるものがあった。
「じゃ、次は私が読むね。」
- 512 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:56
- 「入学式の日のことを、れいなは覚えていますか?私が初めてれいなに話しかけた言葉は『どうしたの?みんな廊下に並んでるよ』だったよね。それから少しずつ仲良くなって、お互いのことも少しずつ知っていく中で、私はだんだんとれいなに惹かれていきました。
球技大会の日には、泣いていた私をれいなが抱きしめてくれて、泣きながらも心臓がドキドキしたのを覚えています。
球技大会の時だけじゃない。文化祭で私が焼いたクッキーを『おいしい』と言ってくれた時。部活がない日に一緒に帰った時。れいなといる時はいつでも、ドキドキしていました。それは今この時も、そしてこれからも、ずっと変わらない。
私はいつまでも、れいなを好きでい続けるよ。れいなと2人で、歩き続けたい。れいなが隣にいてくれれば、どんな壁でも越えてゆけそうだから。私はれいなを支えて、れいなは私を支えて。そんな関係でいたいと願っています。」
- 513 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:56
- 読み終わって……恥ずかしいけれども、どこか清々しい気分。
そして私とれいなは、初めてキスした時と同じように――――何も言わなくても、どちらからともなく、唇を触れ合わせた。
キスのおかげで火照った体に、ヒヤッと冷たい雪が心地良かった。
- 514 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:56
- クリスマスの次の日からは、年末のドタバタで時間はあっと言う間に過ぎ去った。
そして、12月31日。
紅白歌合戦を見ながら年越しそばを食べていると、無性にれいなに会いたくなってきた。理由なんてない、ただ好きな人と居たいだけ。
『もし良かったら、12時頃にいつもの公園で会えない?なんだか、れいなと一緒にいたい。』とメールを送った。
『おっけー。テレビの時計で12時になったらすぐに出る。』という返事が返ってきて、思わず顔がほころぶ。
「あら絵里、その顔はれいなちゃんと会うのかしら?」
「なっ……そ、そんなわけ……」
「そんなわけ……?」
「………そんなわけないわけないでしょ!!」
- 515 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:57
- 12時になって家族で「明けましておめでとう」と言ってから、すぐに公園へ向かった。
誰もいない公園のベンチに座る。
―――この公園で、いろんなことがあったなあ……。
お互いが相手に告白したのも、ファーストキスをしたのも、れいなに指輪をプレゼントしたのも、クリスマスに手紙を読み合ったのも、デートの待ち合わせをしたのも、れいなにひっぱたかれたのも、全部この公園での出来事。
どうかこれからも、私達を見守っていてください。心の中で、そう呟いた。
「絵里〜」
れいなが小走りでやって来た。
「「明けましておめでとうございます。」」
ペコッと頭を下げた後、なんだか面白くてしばらく笑い合った。
れいなの笑顔を見ていられる時間が、何よりも幸せな時間。
- 516 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:57
- 「ごめんね、急に会いたいとか言って。」
「気にせんでよか。あたしも絵里に会いたかったと。」
「そっか。ありがとう。」
何を話そうかとか、そういうのは何も考えていなかった。本当にただれいなと一緒に居たかっただけだから。
「雪、綺麗っちゃね。」
「そうだね。儚くて綺麗。」
「あたし、こういう雪が降ると柄にもなくロマンチックな気分になるとよ。」
「うんうん、私もそういう気分になるよ。」
「じゃあ今……キスしたいばい。」
その言葉に隣のれいなを見ると、頬を染めて恥ずかしそうにしている。
何も言わずに目を閉じると、「大好きっちゃよ。」と小さい声で囁かれた後、唇に柔らかい感触。
しばらくして唇が離れるまで、少しの間時間が止まった。
「今年最初のキスだね。」
笑いながらそう言うと、れいなも嬉しそうに笑ってくれた。
- 517 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/05(水) 09:58
- 「そうだ、絵里。」
「ん?」
「実は……れな、始業式の日から学校に行くばい。」
「ほんと?」
にっこりしながらうなずくれいな。
もう嬉しくて嬉しくて、たまらずれいなにギュッと抱きついた。
「今まで…寂しかったっちゃね?本当にごめん。」
「ううん、もういいよ。また来てくれるなら、それだけで十分だから。」
れいなは優しく微笑んで、もう一度キスをしてくれた。
―――もう、今年はおみくじなんて引く必要もないよね……?
- 518 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/05(水) 10:01
- 今日の更新は以上です。やっぱり暗い後は甘いのが一番です(たぶん)
前があまりにも暗すぎたので、甘いのは2回続きます。
- 519 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/07(金) 10:16
- とりあえず、毎回の更新量の目安をつけてみました。結果、完結の予定日が本編完結の日にちと同じになりました。わーいわーい(w
次の話も既に書き始めているのですが、やはり一から物語を紡いでいくのは大変です(汗
それでは続きです。
- 520 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:17
-
3学期の始業式。私もれいなも、久しぶりに学校へ行った。
教室に入ると、みんなは何事もなかったかのように「おはよう」と挨拶してきた。精神的な理由で休んでいたからといって特別扱いしないでくれたのが嬉しくて、笑顔で「おはよう」と言えた。
れいなも、周りの席の子達とわいわい騒いでいる。そのうち、れいなはいろんな子を抱きしめたり抱きしめられたりし始めた。
- 521 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:17
- 「あれー、亀井ちゃん、もしかして妬いてる?」
隣の席の子がニヤニヤしながら聞いてきた。
「……おっしゃる通りです。」
素直に白状すると、その子が「れいなちゃーん、お姫様が怒ってるよー。」と呼びかけた。慌てて私のところに来るれいな。
「えーっと……ごめん、絵里。」
あまり怒ってはいないけれど、なんだか悔しいからプイッとそっぽを向く。
周りが「亀井ちゃんのこと抱きしめてあげなよ。」と言うと、れいなは本当に後ろから私を抱きしめた。突然のことにドキッとする。
「その……さっきのは遊びみたいなものやけん。………本当の意味で抱きしめたいって思うのは絵里だけやから…。」
私にしか聞こえないくらいの小さな声で、そう囁かれた。
「暑いわね。」
「うん。あの2人の周りが特に暑いね。」
みんなにからかわれて、もともと赤かった私の顔はさらに赤くなった……。
- 522 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:18
- 体育館で始業式をし、教室に戻ってホームルームと掃除をしたら今日は終わり。
部活はどの部も明日からだから、すぐに帰れる。
れいなと手をつないで教室を出ようとしたら「田中ちゃん、亀井ちゃん」と、なっち先生が手招きしていた。
「田中ちゃんも亀井ちゃんも休んだ時は心配したけど、元のラブラブな2人に戻れたみたいだね。なっち嬉しいっしょ。」
れいなが「なっち先生も『世界中の独身男性の72.3%を虜にする天使スマイル』で恋人つくればよかですと。」とからかうと、なっち先生は「うーん、なっち実はC組の矢口先生が気になってるべさ。今度食事にでも……って何言わすべか!!」
何言わすべかって言われても、自分から言ったのに……。
「先生、3学期の英語の成績がAじゃなかったら…うっかり矢口先生の前で口が滑っちゃうかも…。」
ちょっと冗談めかして言ったのに、本気で凹んでしまったなっち先生。大丈夫、本当にうっかり口が滑らない限りは言いませんから……。
- 523 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:18
- 外は気持ちいいくらいにすっきり晴れている。
「れいなと一緒に帰るのってすごい久しぶりだね。なんか嬉しいな。」
「あたしも。こうして絵里と並んで歩いてるだけで幸せっちゃ。」
そして、隣には大好きな人。「晴れ+大好きな人=幸せ」なんて式が頭に浮かぶ。
- 524 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:19
- しばらく、2人とも無言で歩き続けた。繋いだ手の温もりに意識がいって、心まで温かくなる。
ちらっと、れいなの横顔を見た。
―――女の子だけど、かっこいいなぁ……。
少し鋭い目が、今はとても頼もしく思える。
視線に気付いたれいなが、こっちを見る。
「なん?れなの顔に何か付いとう?」
「ううん。れいなの横顔に見とれてたの。」
正直に言ったら、れいなは顔を背けてしまった。
「…嫌だった?」と聞くと、慌てたように「い、嫌ではなかよ。」と顔を赤くしながら言った。
―――あーもう、可愛すぎるよお。
少しかがんで、れいなの頬にチュッとキス。
雲一つない晴れ渡った青空が、今の私の気持ちを一番よく表していた。
- 525 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:19
- 次の日、席替えをした。新しい席で3月まで過ごすらしい。
今、私とれいなの席は少し離れている。だから、できれば今度は近くの席になりたかった。
「最後の席替えだから、隣同士になりたい子がいたらできるだけ希望通りにしてあげるべさ。ただし、授業中に騒がしかったりしたら席を替わってもらうこともあるから気を付けるべ。」
今までの席はくじで決めていたから、なっち先生の言葉に教室が少しざわめく。
「じゃ、希望がある子はいるかい?」
「「はーい。」」
真っ先に私とれいなが手を挙げた。
「田中ちゃんと亀井ちゃんかい?2人はまあそんなにうるさくはしないからいいっしょ。」
「でも先生、授業中にチューするかもしれないよ?」
どこからかそんな意見が出て、みんな大爆笑。
「うーん…。じゃあ田中ちゃんと亀井ちゃん、チューする時は先生に見つからないようにするべさ。」
なっち先生までニヤニヤしている。
―――いくらなんでも授業中にキスなんかするわけ……いや、わからないかもね……。
- 526 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:20
- その日の放課後。
久しぶりの部活にわくわくしながら家庭科室のドアを開けると、ニコニコしている新垣先輩と高橋先輩がいた。
「2人とも、何かいいことでもあったんですか?」
「亀ちゃんこそ、いつも以上にニヤニヤしてるじゃん。いいことあった?」
「はい、そりゃもう。」
「私達もいいことあったんだよねー。」
そう言って微笑み合う2人。
「何ですかー、教えてくださいよ。」
「亀ちゃんから教えてくれたら教えてあげる。」
「……」
「……」
「……」
「「最初はグー、ジャンケンポン!!」」
私はグー、高橋先輩がパー……。
「よし、亀ちゃんからやよ。」
「私はー、席替えでれいなの隣の席になれたんです。」
「なんだ、そんなことか。」
「むー、すごくいいことじゃないですか。先輩達のいいことは何ですか?」
「聞いて驚かないでよ?私と愛ちゃんね……」
「「付き合うことになりました!!」」
「………ええぇーー!?」
きっかり3秒後、私の絶叫が響きわたった。
- 527 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:20
- 「で、でも高橋先輩は……」
小川先輩が好きだったんじゃ?
「里沙ちゃんがさ、『今は片想いだけれど、愛ちゃんを振り向かせるから真剣に話を聞いて!』って言ったんよ。その通りになったがし。」
―――つまり、新垣先輩が高橋先輩にアタックし続けたら、高橋先輩の気持ちが小川先輩から新垣先輩に傾いた、と。
……にしても、「今は片想いだけれど、愛ちゃんを振り向かせるから真剣に話を聞いて!」って……微妙に聞き覚えがあるフレーズだなあ。何だったっけ………。
- 528 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/07(金) 10:20
- 「部活始めるべー。」
なっち先生が来た。
「せんせー、今日はお祝いだよー。」
「ん?何かあったべか?」
「私と愛ちゃんが付き合うことになったの。」
「ひゃー!本当かい!?」
「うん。だからこの場で恋人がいないのは先生だけやよ。」
わかりやすく凹むなっち先生。
「矢口先生をデートに誘わないんですか?」
「え、なっち先生って矢口先生が好きなの?」
「うぅ……デートに誘うだけの勇気なんてないべさ。」
「よし、それじゃあ今日はお祝いとなっち先生の激励会やよー!!」
それからケーキだのお菓子だのをたくさんつくって、食べながら4人でわいわい騒いだ。
……たまには、こんな日があってもいいよね。
- 529 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/07(金) 10:25
- 今日の更新は以上です。>>527のフレーズはクイズとして出題します(嘘)
ついでに、この場を借りて先輩2人に土下座して謝っておきます。なぜってこの後ほとんど出番が(ry
次回はThe・修羅場(前編)です。
- 530 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/09(日) 09:46
- 昨日の「ご○せん同窓会SP」、感動しました。ご○せんは「慎ちゃん」や「熊」の時から見始めて今ではすっかり大ファンです。
制作者でも何でもありませんが、現役の教師を含む教育に携わる全ての人、子供がいる人、色々な人にぜひ見てほしいと感じました。
では更新します。
- 531 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:47
-
――――――――
- 532 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:47
- 3学期が始まって、私とれいなは穏やかな―――穏やかで幸せな時間を過ごした。
いつのまにか、れいなと一緒にいる時間が当たり前のように思っている自分がいて……でも、それにも気付かないほど幸せで。
だから、あの出来事は神様の天罰―――いや、きっと警告。
『幸せ』の海に溺れた私を懲らしめるのではなく、助けだそうとしてくれたのだと思う――――
- 533 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:48
- 2月中頃の日曜日だった。
「お釣りで好きなもの買っていいから」という言葉につられて、おつかいに出かけた。
寒さに手を擦り合わせながら歩いていると、反対側の歩道に置いてあるベンチに、れいなが座っていた。声をかけようとしてためらったのは……隣に、女の子が座っていたから。
2人とも私には気付かずに話していた。会話の内容は聞こえてこないけれど、しばらくするとれいなの隣に座っている女の子が泣き始めた。
するとれいなは優しい―――本当に優しい笑顔を浮かべて、何か言った。泣いていた女の子が泣き止み、笑顔を見せる。
その光景を見て、胸がチクッと痛んだ。あの女の子は知り合いか何かだろうとは思っていても、れいなが笑顔を向けているのが気に入らなかった。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか……女の子が突然れいなの頬にキスをして、そのまま走り去っていった。
目の前が真っ暗になる。耐えられなくなって、スーパーのほうに全力で走った。
- 534 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:48
- スーパーで頼まれていたものだけを買って、帰りは行きと違う道をやはり全力で走った。
違う道を通っても、目に焼き付けられた光景は消えない。
悲しみや苦しみと同時に確かに存在したのは――――れいなへの怒りだった。
- 535 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:48
- 次の日。
いつもより早めに学校へ行き、れいなの机の上に『屋上に来て』と書いた紙を置いた、と言うよりも、ほとんど叩きつけるように置いた。
他の子が驚いた様子で見ていたけれど、かまわずに教室を出て屋上に行った。
- 536 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:49
- 屋上のフェンスに寄りかかる。
―――れいな……どうして?何で私以外の人とキスをするの…?
―――れいなのこと、信じられなくなっちゃうよ……。
屋上のドアが開く音がした。振り返らなくても誰が入ってきたのかはわかる。
「絵里。どげんしたと?」
「……」
「絵里?」
「……れいな。何か隠してること、ない?」
「え?」
「何か隠してない?って聞いてるの。」
「隠してること、って言っても…何もなかよ?」
「……キス。」
「え…?」
「昨日、私が知らない子とキスしてたのは、何なの?」
「あ………。」
「昨日、ずっと遠くから見てたんだよ?何を話してたのかは知らないけど、他の人とキスするってどういうこと?」
「あれは……違うっちゃ。そんなつもりは…。」
明らかに動揺している、れいなの声。
「言い訳は聞きたくもないから。」
「っ……」
本当は…れいなが最初からキスしたのを認めて謝ってくれたら、許すつもりでいた。けれども、れいなの口から出てきた言葉は言い訳にしか思えなくて。
自分の中で、何かが音を立てて切れた。
- 537 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:49
- 振り返って、立ち尽くしているれいなのところに歩いていく。れいなは動かない。
そして――――
パアンッ!!
加減をするほど気持ちに余裕はなくて……思い切り、れいなの頬を叩いた。
呆然とした目で私を見つめているれいなに、
「サイテーだね…。」
そう言って、屋上を出ていった。
- 538 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:50
- 廊下を歩いているうちに、いくらか冷静さを取り戻した。
ふと脳裏をよぎるのは、何か月か前に言った「世界一好きな人を殴ったりなんか、できないもん……。」という言葉。
―――世界一好きな人……殴っちゃったな………。
そう思うと、どうしようもないほどの自己嫌悪に陥った。
- 539 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:50
- 教室に戻ると、朝のホームルームが始まる少し前の時間。賑やかな教室の中、私は机に突っ伏した。
今はとても、いつものようにおしゃべりに興じる気にはなれない。
少しして、なっち先生が教室に入ってきた。
「あれ?亀井ちゃん、田中ちゃんはどうしたべか?」
「あ……たぶん屋上に…。」
「屋上?どうして屋上にいるべか?」
「まあ…その……ちょっと…。」
なっち先生はなるほど、というように何度か頷いた。ケンカしたってわかるのかな……。
- 540 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:50
- れいなは、ホームルームが終わってしばらくしてから教室に戻ってきた。
隣の席に座ったれいなは、一瞬私のほうをちらっと見たけれど、すぐに正面を向いて少し俯いた。
お互いに何も言わず、重い空気が流れる。
- 541 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:51
- 1時間目の英語の時。
「じゃあ、教科書72ページの3行目から……田中ちゃん、読むべさ。」
れいなは黙っている。後ろの子が「れいな、当てられたよ」と囁くと、慌てて立ち上がった。
「えっと……フォア エバー ユアスマイル…」
れいなと私以外の全員が笑いだした。
「田中ちゃん、For everじゃなくてForeverっしょ。Forever your smile だべさ。」
こんな調子で、1ページを読むまでにれいなは何回も間違えていた。
- 542 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/09(日) 09:51
- 1時間目が終わるとすぐに教室を出た。行き先も、目的もない。ただ、れいなとの間に流れる重い空気に耐えられなくなっただけ。
―――なんだか不思議な気持ち。れいなを嫌いになったか、って聞かれれば答えはノーなのに、なぜかれいなと話したくない。
そんな中途半端な状態を、ずっと引きずった。
授業中はずっと前だけを見て。授業の間の休み時間は教室を出てれいなと会わないようにして。昼は教室でお弁当を食べているれいなを避けて学食で。帰りのホームルームが終わったらさっさと部活へ。この繰り返し。
心は「本当はこんなことをしたいんじゃない!れいなを避けたくなんかない!」と叫んでいる。けれども体は無意識にれいなを避けている。
ただただ、辛かった……。
- 543 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/09(日) 09:56
- The・修羅場、前編でした。さて、>>541は完結した後にある鍵を握ることになります(謎 「541、541…」と覚えておきましょう(w
次回はなっち先生が活躍してくれるかもしれません。
- 544 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/09(日) 14:59
- 初レスです!!
いつもさりげなく覗きに来てました。
見ているうちに作者さんの書く文章に惹きこまれていました
うまいこと言えませんがいつも応援しています。
- 545 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/11(火) 09:47
- >>544 名無飼育さん様
レスありがとうございます。
>見ているうちに作者さんの書く文章に惹きこまれていました
白状します。文章はその場の思いつき+推敲は一切なしです。それでも惹きこまれていただけるのは嬉しい限りでございます(泣
うまいこと言えなくても大丈夫です。レス自体がとても嬉しいので。これからも温かく見守ってやってくださいませ。
体育の日を意識したわけではないのですが、ここ2、3日で結構運動しました。そして今は後遺症に悩まされています。肩、腕、背中、太腿、臀部、全て痛いのです(辛 叩けば腰も痛いし(ヒーン
体にムチ打って更新します。
- 546 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:48
-
木曜日の部活でのことだった。
ここ最近、部活でも私だけ元気がない。その上、料理をしていても失敗してばかりだった。
この日も、砂糖と塩を間違えるという漫画みたいなミスをした私。すると、昨日までは笑って見ていたなっち先生が突然言い放った。
「亀井ちゃん……。帰っていいっしょ。」
「え……?」
私だけでなく、高橋先輩と新垣先輩までもが驚いてなっち先生を見ている。なっち先生はいつものように笑っていなかった。
「帰っていいべさ。」
もう一度繰り返し言われた。
「亀井ちゃんが1人で暗くなったり失敗ばっかりしてると、みんなに迷惑だべ。部活はケンカして落ち込んだ人が気晴らしをするところじゃないべさ。」
材料やら何やらが入っているボウルの中に、ポタポタと涙が落ちた。高橋先輩と新垣先輩は固まっている。
「……田中ちゃんと仲直りするまで、亀井ちゃんは部活に来るのを禁止するべ。」
実際は10秒にも満たないけれど、何分にも感じられた重苦しい沈黙の後……私は鞄を掴んで、泣きながら家庭科室を飛び出した。
- 547 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:48
- 私が出ていった後の家庭科室で、
「先生、亀井ちゃんを帰らせた本当の理由って何やが?」
「…なんだか亀井ちゃん、ケンカして田中ちゃんのこと避けてたみたいだったから。ちゃんと向き合ってほしかったんだべさ。でもどうして嘘ついてるって分かったべか?」
「だって…なっち先生が本心であんなこと言うなんて信じられないから。」
こんな会話が交わされていたことは、もちろん知る由もなかった。
- 548 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:49
- 次の日も、状況は相変わらずだった。
けれど、英語の時間。
「じゃあ、このページの対話文を2人に読んでもらうべ。えーと……それじゃ、田中ちゃんと亀井ちゃん。」
驚いてなっち先生を見ると、いつもの優しい笑顔を浮かべていた。
私とれいなが同時に立ち上がり、教科書を読む。
「Kumi, I think talking is very important.」
「I think so too, Ken. We can understand each other by talking.」
―――ああ、これはなっち先生からのメッセージでもあるんだ…。
- 549 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:49
- 帰りのホームルームが終わった。金曜日の放課後ということで、休みの日の計画を話し合う声で教室はいつも以上に賑やか。
私は鞄に荷物を詰めながら考える。
―――土曜日と日曜日で頭を冷やして……月曜日、れいなに謝ろうかな。2日間会わないでいれば、きっと素直になれる気がするから。
鞄を持ってドアのほうに歩いていこうとした時。
「絵里っ…」
れいなに震えた声で呼び止められた。
「絵里……もう…もうこんなの嫌やけん……。死ぬほど辛か……。」
そう言って涙を流し始めたれいなを見て……今なら素直になれる。そう思った。
「……屋上に行こう?」
れいなの手をそっと握って、教室を出た。
- 550 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:50
- 屋上に行き、立ったままれいなと向かい合った。
風でぼさぼさになる髪を手櫛で整えながら、
「とりあえず……どうしてああいうことになったのか、聞かせてほしい。」
できる限りの穏やかな口調で、そう尋ねた。
- 551 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:51
- 「あの時一緒にいたのが、中学の時に好きだったさゆって子やけん。おつかいに行く途中で泣いてるさゆを見つけて、話を聞いてたと。」
れいなは、いつもより若干弱々しい声で説明を始めた。
「さゆが恋人と別れたって言っとったけん、慰めの言葉みたいなのをかけとったら……突然キスされたとよ。」
「それ以上のことは何もないけん……信じてほしか。」
- 552 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:51
- れいなの説明は本当だと思う。れいなが嘘をついて言い逃れするような人じゃないのは、私が一番よく知っているから。
「…れいな。」
「うん?」
「ムカつく…。」
「…ごめんなさい。」
「事情はわかったけどムカつく。絵里以外とキスするのはすごいムカつく。」
「ちょっ、れなからキスしたわけじゃなかよ!」
「でもムカつくの!!」
本当はもう許しているのに、素直になれない私。どうしようかと考えているうちに、名案が浮かんだ。
れいなの顔をじっと見る。
「なん?絵里。」
「キスされたのって、どの辺?」
「…はい?」
「答えて!!」
「確か…この辺。」
れいなが指さした場所めがけて、顔を―――正確には唇を、突進させる。
唇が着地すると同時に顔を真っ赤にさせたれいなに構わず、10秒近くずっとキスをした。
- 553 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/11(火) 09:52
- 「これで、れいなはさゆって子にはキスされてないんだからね!!」
唇を離してぶっきらぼうにそう言い放ち、早歩きで屋上の出口に向かった。後ろかられいなが追いかけてくる。
「絵里…許してくれると?」
「……まだ許してない。」
「え…じゃあどうす…」
れいなの言葉は、私が唇を塞いだせいで途中で途切れた。さっきは頬に、今度は唇に、10秒間のキス。
「これで…許してあげる。それと……この前、勝手に怒ってひっぱたいたりしてごめんね…。」
ここでやっと、素直に「ごめん」を言えた。
「ううん…。怒らせたれなも悪いとよ。」
そうして、お互いをきつく抱きしめ合った。
―――ね、れいな。もうこのまま、離しちゃやだよ……?
- 554 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/11(火) 09:55
- 今日の更新は以上です。やっぱりその場の思いつきで、こんななっち先生も書いてみようかと思いました。
次回は「なっち先生」に代わって「田中先生」ということで(w
- 555 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/13(木) 09:42
- 某スレにて、読者として励ます立場のはずが逆に作者様から励まされたので、微妙にハイテンションで更新いきます(ヒャッホウ(殴
- 556 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:43
-
「えっと、来週から1年生で最後のテストが始まるべさ。もちろん成績にも関係してくるから、しっかり勉強しなきゃいけないっしょ。」
2月下旬。憂鬱なテストも残り1回で、それが終われば好きなだけのんびりできる。
- 557 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:43
- ―――――あの後、家に帰ってからなっち先生に「れいなと仲直りできました」とメールしたら、自分のことのように喜んでくれた。さらには、なっち先生が教えたのか高橋先輩と新垣先輩からも「良かったね!!」とメールが届いた―――――
- 558 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:44
- れいなと一緒になっち先生のところにテスト範囲のことを訊きに行ったついでに、別のことも訊いてみた。
「そうだ先生、矢口先生とはどうなったの?」
「聞きたいべか?実はこの前食事に誘ったらOKもらえたんだべ。」
「「おぉー!」」
「それだけじゃないべさ。その食事の途中で、矢口先生のほうから『おいら、なっちのことがずっと好きだったんだ』って言ってくれたっしょ。それに、『おいらのこと、矢口って呼んでよ。』って。あの時の矢口、顔を真っ赤にして可愛かったべ…。」
だんだんノロケてきた、なっち先生。うん、恋人ができるのは嬉しいもんね。みんなにも教えてあげなきゃ。
「みんなー、先生にとうとう春が来たよー!!」
大声で叫ぶと、みんなはヒューヒュー言い始めた。祝ってあげてるのか冷やかしてるのかわからない。
「か、亀井ちゃん!!いいふらすなんてひどいべ!!」
「まあまあ気にしない。ほら、廊下で矢口先生待ってますよ?職員室まで一緒に行きたいんじゃないですか?」
廊下に矢口先生を見つけて、なっち先生は慌てて教室を出ていった。そして、2人ともニコニコ笑いながら歩いていった。
―――あっ、そーだ。れいなにテスト範囲のところ教えてもらおうかな。
「れーなー。今度勉強会しよ?わかんないところ教えてほしいな。」
「うん。よかよ。」
本当は勉強を教えてもらうことよりも、れいなと一緒にいるのが目的なんだけど……れいなには、内緒にしておこう。
- 559 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:44
- 日曜日。
「お邪魔しまーす。」
家庭教師の田中先生が、家に来てくれた。
「れいなー!!」
玄関先でキスしようとしたら、手で遮られた。
「今日はデートしに来たんじゃなか。勉強教えに来たとよ。」
黙って頬を膨らませている私に、れいなは笑いながら「勉強終わったら、いくらでもキスしてあげるけん。」と囁く。
これだけでやる気が出てしまう私って、単純なのかな…?
- 560 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:45
- それから2時間、私の部屋でみっちりテスト範囲の勉強を教えてもらった。れいなの説明はすごくわかりやすくて、授業の時の説明では訳がわからなかったところも全て納得できた。おかげで、
「cosAは?」
「2bc分のb2乗+c2乗−a2乗!」
「1−sin2乗θは?」
「cos2乗θ!」
スラスラ答えられるまでに。
- 561 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:45
- 「疲れたー!」
全ての教科を一通り教えてもらったところで体力は限界。でも、こんなに勉強がはかどったのは初めてかもしれない。
「そろそろ終わると?」
「あ、お礼させて。」
「お礼?別にいいっちゃよ。ボランティアでやったことやけん。」
「いいから、いいから。」
軽く触れるだけのキスを、れいなの唇に。
「……もう1回お礼して?」
わずか数秒で自身の発言を覆すれいなに、思わず吹き出してしまう。
「さっきまでいらないって言ってたのに。」
もちろん断る理由はなく、「もう1回」どころか何回もキスを繰り返した。
- 562 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:46
- れいなを外まで見送りに出る。
「れいな、今日は本当にありがとね。」
「どういたしまして。お互いテスト頑張ろ?」
「うん。」
「テストが終わったら、デートしたいばい。」
最後の言葉は、いたずらっぽく笑いながら言われた。
私もやっぱり笑いながら、首を縦に振ったのを確認すると、れいなは自転車に乗って帰って行った。
- 563 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:46
- 次の日から、テストが始まった。
れいなに基本からしっかり教えてもらったおかげで、普段よりも多く解答欄を埋めることができた。もちろん手応えも悪くない。
- 564 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:47
- 最終日の最後の教科は数学。
これも、れいなに教えてもらったことの応用問題が主。普段は半分埋められればいいほうなのに、今回はほとんど埋めることができた。合っているかどうかはわからないけれども……。
最後の解答欄を埋めたところで、先生に見つからないように後ろのほうを振り返った。もちろん、れいなを見るため。
振り返ると、れいなとばっちり目が合った。れいなも私のほうを見ていたみたい。
私は指でバツ印をつくってれいなに見せた。……書いた答えの何割かはきっと間違っているだろうし。
するとれいなは、指で三角をつくった。良くも悪くもないってことかな…?
指を使った会話が理由もなく面白くて、2人同時に笑みがこぼれた。
「ゴホン。」
咳払いが聞こえたほうを見ると、なっち先生がじっとこっちを見ていた。慌てて答えの見直しを始める。
- 565 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:47
- チャイムが鳴ると、あちこちから「フーッ」という溜め息が聞こえてきた。
答案を集めて、ようやくテスト終了。
「れーな帰ろ。」
自然と声も弾む。
- 566 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:47
- 帰り道。
「ねえれいな、約束覚えてる?」
「約束?何のこと?」
「……れいなのバカ。」
「わっ、嘘、嘘やけん!テストが終わったらデートするって約束っちゃろ!?ちゃんと覚えてるばい!」
「…れいな、絵里のことからかったの?」
「うん。」
即答されて、思い切り拗ねた。
「……れいなのバカ。」
「ごめん、絵里。」
さっきまで楽しげだったれいなの声が急に静かに、優しくなって、抱きしめられて頬にキスもされた。
それでもまだ拗ねて………いられるわけなかった。
- 567 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/13(木) 09:48
- 「明日のデート、どこ行くと?」
「んー…カラオケとか?」
「うん。じゃあ、そうするっちゃ。明日は絵里への愛を思いっ切り叫ぶけんね。」
最初ははしゃいでいて、次は優しくなったれいなは、再びはしゃぎモードに戻った。
「れいなのバカ!!」
―――はしゃいでるれいなも好きだけど………優しいれいなは、もっともっと好きなんだから……。
- 568 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/13(木) 09:52
- 今日の更新は以上です。暗かったり感動したりするのが合うこの季節に、作者は甘いのを読みたくなります(w 暗かったり感動したりの話は雪が降り始めるころ、でしょうか。
次回は暗くて甘い(どっちだよ)デートです。
- 569 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/14(金) 21:03
- ほんと作者さんはニヤけさせ魔っすね!!
自分ニヤけすぎでキモいです。
次回も期待してます。
- 570 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/15(土) 10:24
- >>569 名無飼育さん様
ありがとうございます。作者も他の作品を読んでいつもニヤニヤしてます(w
良く言えば感性で書いている、悪く言えば何も頭で考えていない文章でニヤニヤしていただいて恐縮です。
実は泣かせ魔になりたいと密かに思っているのは秘密です。
今日は作者にとって年に一度の記念日なので、夜12時に更新しようかと昨日少し悩みました(w
作者の処女作となるこのスレも、あと1週間で完結です。それまでどうかよろしくお願いします。
それでは続きです。
- 571 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:25
-
待ちに待ったデートの日。だったんだけれど……。
昨日の夜、お母さんに何気なく聞かれた一言がきっかけで、ケンカになってしまった。
―――――「絵里、テストはどうだった?」
「うーん…答案が返って来ないと何とも言えないけど。あんまり自信ないかも。」
「あまりこういうことは言いたくないけどね、あんまり成績が悪すぎるのはさすがにだめだよ?テストで1位になりなさいとは言わないけど、大学に行けるくらいの成績は取らなきゃ。じゃないとデートどころじゃなくなるわよ。」
「勉強ぐらい……ちゃんとやってるもん。」
「絵里は絵里なりに頑張ってると思うよ。それは立派。でも結果が出てないからね……。塾に行けばいいんじゃないかと思うんだけど……。」
「塾なんか行きたくない!」
「絵里…」―――――
今朝も気まずい雰囲気は変わらず、私は「れいなと約束あるから…」と言って、さっさと家を出てしまった。
- 572 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:25
- 勢いで家を飛び出してきたけれど、待ち合わせ場所の公園に着いたのは約束の30分も前だった。当然、れいなはまだ来ていない。
―――塾かあ……。行きたくないな…。塾に行く時間はれいなと一緒にいる時間にしたいもん………。
―――でも成績のこともあるしなあ……。
そんなことを30分間ずっと考えていた。
- 573 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:25
- 携帯の時計を見ると10時。約束の時間になった。
―――れいな、まだかな。
そう思った瞬間。
「わっ!!」
「きゃーーー!!!」
たぶん寿命が縮んだ……。後ろを振り返ると、してやったり顔のれいな。
「もー、びっくりさせないでよ!!」
朝から落ち込んでいた私は、ようやく笑顔になれた。
- 574 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:26
- とは言え、れいなと手を繋いでカラオケボックスへ歩きながらも、自然に溜め息をついてしまう。
「絵里、何かあったと?」
「うん、ちょっと……昨日お母さんと喧嘩して。」
「へぇ…。」
「成績があんまり悪いようだと、デートに行かないで勉強しなさい、って言われたの。」
もう一度溜め息が出た。今の私はきっと、最高にカッコ悪い。
「なんで私、勉強できないんだろう……。」
- 575 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:26
- 「…別に、勉強できなくてもいいんじゃなかと?」
「えっ?」
れいながそっと呟いたのは「そんなことなか。」というような中途半端な慰めでもなく、「頑張れば大丈夫っちゃよ。」というような形だけの励ましでもなく、全く予想だにしなかった言葉。
「たとえ勉強ができなくても、絵里には優しい心があるけん、それでよかやん。絵里より勉強ができて絵里より可愛くても、性格が悪ければれなは絶対好きにならん。」
「絵里には勉強ができるようになるより、優しい心をずっと持っていてほしいばい。」
それはきっと、今の私にとって何よりも嬉しい言葉。その温かさは、冷たく暗くなった私の心を温め、光りを灯してくれて……冷たさ、暗さは、全て涙となって溢れだした。
「ありが……と…れ…いな。」
「ん。」
そっと、優しく抱きしめてくれたれいなの温かさに包まれながら――――
この人を好きになって、本当に良かった。
心の底からそう思った。
- 576 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:27
- しばらく歩き、カラオケボックスに着いた。
2人で一緒に歌ったり、点数の低かったほうが高かったほうの言うことを聞くというゲーム(私は勝った時に「キスして」と言った)に興じたり。
れいなは予想以上に歌がうまくて、「愛してるの響きだけで強くなれる気がしたよ」とか「出会えたことから全ては始まった」とか、歌詞が心に響く歌を熱唱していた。
- 577 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:27
- そろそろ2時間になり、最後の曲。私がれいなにプレゼントすることにした。選んだのは、れいなが1番好きだと言っていた「あの」曲。
辛い朝は うんざりするね――――
私自身も歌詞を味わいながら、気持ちよく歌えた。
- 578 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:27
- 「ばり上手やったと、絵里。」
「えへへ…」
歌い終わると、れいなが拍手をしてくれた。
精一杯のプレゼント、喜んでもらえたみたい。
- 579 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/15(土) 10:28
- 外に出ると、冷たい風が吹き付けていた。自然に私とれいなの手が繋がれる。
「れいな、手、冷たいね。」
握ったれいなの手がひんやりしていたから、その手に温かい息をかけて両手で擦り合わせた。
「な、なんばしよっと……!」
大声でそう言われて、手を払われた。嫌だったみたい…。
「ごめん……。」
「あ、その…恥ずかしかっただけと…。嬉しいっちゃよ。」
必死にフォローしようとしてくれるれいな。それでも俯いて顔を上げられない私。
「絵ー里?」
両手で頬を挟まれて、顔を上げさせられた。そして、れいなの顔が近づいてきて……唇に、そっとキスされた。
「れなの手を温めてくれたお礼やけん。」
ニシシ、と、いたずらっ子のように笑うれいな。つられて私も笑ってしまった。
今日は何度もネガティブになって、その度にれいなに元気づけられて。
―――ほんと、れいなにはかなわないなあ……。
- 580 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/15(土) 10:31
- 今日の更新は以上です。絵里ママは「作者がぶん殴りたくなる母親像」にならないようにしました(ぇ
次回は新たな出会いがある模様です。
- 581 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/17(月) 07:22
- パリーグのプレーオフ第2ステージ、全試合をネットの動画配信で観ていたのですが、いやはや……。アウト1つに泣いて3勝目を逃したロッテとレギュラーシーズン文句なしの1位だったソフトバンク、どちらが負けても可哀想でしかたがないわけですが、これが勝負の厳しさなんでしょうか。両チームとも今日は悔いの残らない試合をしてほしいものです。個人的には、日本シリーズで藤川vs松中の対決が見たいのですが(w
それではいつもよりちょっと早めの更新です。なぜか早く目が覚めたので。
- 582 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/17(月) 07:23
-
「お母さん、私…塾、行ってみる。」
3月に入った頃、思い切ってそう言ってみた。
不思議なもので、「大学に行けるくらいの成績を取りなさい」と言われた時は塾に行きたくもなかったのに、「勉強ができなくても別にいいんだ」と言われたら行ってみようかという気になった。
行こうと思ったきっかけの1つに「れいなと同じ大学に行きたい」というちょっぴり不純な理由もあるのは、ここだけの秘密。
次の日から早速塾へ行くことになった。お母さん曰く「かなりハードらしいから、それなりの覚悟はしといてね。」らしい。
- 583 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/17(月) 07:23
- ―――信じられない………。
「体験入学のような感じで気軽に」と言われて受けた、塾の授業。それはとても「気軽に」というわけにはいかなかった。
黒板にささっと書かれた数式や英文は、やはりささっと消される。ノートをとるのに精一杯で、説明に耳を傾ける余裕は全くなかった。
- 584 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/17(月) 07:24
- 「どうだった?初日は。」
ようやく授業が終わってぐったりしていると、隣に座っていた女の子が声をかけてきた。
「考えてたより何倍もキツかったよー。これを毎日続けてるみんなってすごいね。」
「ふふっ、慣れれば大丈夫だよ。」
2人でもう完全に真っ暗になった外に出ると、「ちょっと待ってて」と言われた。側にあったベンチに座っていたら、しばらくして頬に温かいものが。……と言ってももちろん、キスされたわけではない。頬に触れたのは缶コーヒーだった。
「初日だし疲れたでしょ。奢りだよ。」
「あ、ありがとう。」
プシュッ、ゴクゴク、プハーと、3つの音はどれも2つずつ重なった。それがやけに面白くて、しばらく2人で大笑い。
何気なくその子の顔を見て、あれっと思った。
―――どこかで会ったことあるかな……?うーん…。
「あ、そういえば名前もまだ言ってなかったね。」
「そういえばそっか。私は亀井絵里って言うの。あなたは?」
「私は道重さゆみ。」
―――ミチシゲサユミ?サユミ……サユ……
「あああぁー!!!!」
頭の中にドッカーンと雷が落ちた。この前、れいなにキスをしていた人。れいなが中学校の時に好きだった人。……それに、文化祭でも会ったっけ。
- 585 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/17(月) 07:25
- 「どうしたの?大声出して。」
「えーっと………れいな…田中れいな、って知ってるよね?」
「え?亀井さん、れいなの知り合いなの?」
「知り合いどころか……付き合ってる。」
「ええぇー!!」
私は、れいなからさゆ――道重さんを昔好きだったと聞いていたことと、文化祭で私達がちゃっかり会っていたことを話した。……さすがに、キスのことは言わなかった。道重さんのことはもう恨んでいないし、わざわざ掘り返すこともないし。
「……1つだけ聞いてもいいかな。亀井さんもれいなも、お互い一緒にいて幸せ?」
「……うん。私もれいなも、幸せだよ。」
れいなに聞けばきっと「幸せに決まっとーよ。」と言うに違いないと思ったから、はっきりと言い切った。道重さんはそれを聞いて、にっこりと微笑む。
「良かった。亀井さんなら大丈夫だね。」
その言葉の裏には「れいなのこと、よろしくね」という気持ちが込められているような気がして……私は、大きく一度頷いた。
- 586 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/17(月) 07:25
-
――――――――
- 587 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/17(月) 07:26
- 道重さんと仲良くなれたのはいいけれど、塾のハードさは大変なものだった。
ホームルームが終わるとすぐに塾に向かい、終わるのは夜の10時近くにもなる。もちろん、部活に行く時間は1秒たりともない。
3日もすると、キツく感じるようになってきた。けれども、道重さんは「慣れるまでの辛抱だよ。頑張ろ?」と言ってくれるし、お父さんお母さんは「どうしてもだめだったら辞めてもいいから、やるだけやってみてごらん。」、塾の先生は「うちに通ってる子はほとんどみんな、最初はキツいみたいだよ。でも成績が上がってくれば、キツいのも気にならなくなるって言ってるんだ。亀井さんは決して頭は悪くないから、すぐ成績も上向きになるよ。」
周りの人みんなが励ましてくれているから、頑張らなければという想いが強くなった。
- 588 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/17(月) 07:26
- 「絵里、大丈夫と?ずいぶん疲れてるように見えるっちゃけど。」
学校でれいなにそう聞かれたのは、塾に通い始めて1週間が経った日の休み時間だった。
最近はれいなと話す時間もあまりなく、今のような授業の間の休み時間しかない。土曜日は塾、塾が休みの日曜日はほとんど1日中寝ていた。
「ううん、大丈夫。」
れいなが言った通り、本当はどうしようもないほど疲れていた。塾だけでなく授業も集中して受けるようにしていたから、気の休まる時間は昼休みと、塾が終わって家に帰ってからの何時間かだけ。
「ならいいけど…。あんまり無理しちゃいけんとよ?」
「うん。ありがとうね。」
強がってみせても、心は大声で悲鳴をあげる。
―――もう、疲れたよ……!
- 589 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/17(月) 07:29
- 今日の更新は以上です。「隣に座っていた子」は書きながら誰にするか悩んだ末、「そうだこの手があった」と思いつきました(w
次回は塾の後編です。
- 590 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/19(水) 10:37
- 昨日、「なまり亭」を始めて見ました。地元出身のN山さん、作者の倍以上訛ってましたよ(w それに祭りではお触りOKだとかorz イメージダウンが心配です。
方言全開のCMも紹介されていましたが、「サンロード裏 ザ・ビデオ屋」は家から自転車で20分くらいのところにあります(w
だば更新するはんでのー。
- 591 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:38
-
次の日も、帰りのホームルームが終わるとすぐに塾へ。
れいなに「また明日ね」と言って、急いで教室を出た。
- 592 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:38
- 下駄箱のところまで来て、ふと立ち止まる。というよりも、足を踏み出せなかった。
―――塾に行くの、嫌だよ………。
それは、小さな子供が注射や歯医者なんかを嫌がる気持ちと同じようなものなのかもしれない。
―――前みたいに……部活行ったり、れいなと一緒に帰ったりしたいのに…。
泣きそう、と思ったのと、目尻から涙が流れたのは同時だった。
下駄箱のところで泣いている私は当然奇妙なわけで、周りの人に不思議そうな目で見られていた。それに気付いて、慌てて涙を拭う。
- 593 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:39
- 「あれ、絵里、塾に行ったんじゃなかと?」
声がしたほうを振り返ると、ちょっと驚いた様子のれいながいた。どうやら今日は部活がない日だったみたい。
「あ…れいな……その…」
今日は休みたい。素直にそう言えたら、どんなに楽だろうかと思った。そんな素直さがない私は、口ごもるだけ。
そんな私を見て、れいなは真剣な表情のままで言った。
「絵里。今から…デートせん?」
「えっ…?」
「塾、ほんとは行きたくないっちゃろ?」
―――この前のデートといい、今といい。やっぱり、れいなにはかなわないね………。
「……うん。でも……家族とかが励ましてくれてるから。頑張らなくちゃ、って思うの。」
これが正直な気持ち。期待して励ましてもらっているのに弱音を吐いたら、申し訳ないような気がするから。
するとれいなは私をそっと抱きしめて、とても優しい声でこう囁いた。
「あのね、絵里。一生懸命頑張るのはもちろんいいことやけん。だけど……辛くなるまで頑張らなくても、いいっちゃよ?」
- 594 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:39
- その言葉は、例えるなら複雑に絡まった糸をほぐすように。太陽が、冷たい雪を少しずつ溶かしてゆくように。そうして私の心に染み込んでいった。それから『雪解け水』が流れ出すまで、さほど時間はかからなかった。
「辛くなっても頑張らなくちゃいけんのは、スポーツ選手くらいやけんね。絵里は、辛くなったら休めばいいとよ。休んで、また辛くならない程度に頑張ればよか。」
れいなの言葉はどうして、こんなにも胸に響くんだろう……。
やっと、本音を言うことができた。
「今日は…塾、サボるね…。」
- 595 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:40
- 2人で、いつもの公園に行った。
ブランコに座りながら話をする。
「なんだか……れいなってすごいね。」
「ん…?何で?」
「塾の先生に頑張れって言われてもそんなに嬉しくないのに、れいなの言葉を聞くと信じられないくらいやる気が湧くんだもん。」
「そうっちゃね……あたしも、今の絵里と同じことを経験したから。」
「そうなの?」
「ん。秋ごろ学校に来れなかった時に、何十回も『頑張れ』って言われたけんね。その時『言われなくても頑張っとーよ!』って思っとったけん。『頑張れ』って言葉がマイナスになるなんて、その時初めて知ったとよ。」
そう言えば。今までれいなに「頑張れ」と言われた記憶は一度もない。
「そっか…。言われてみるとそうだね。私も『頑張れ』って言葉が負担になってたのかも。」
「でしょ?なんか、普通に学校生活を送ってたらそげんこと、絶対考えなかったと思っとう。とにかくいつでも『頑張れ』の一言で済ましてたっちゃよ、きっと。」
不登校というマイナスの経験の中でプラスのことを得るれいなを、改めてすごいと思った。
- 596 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:40
- 「絵里、本当は今日も塾だったっちゃね。なんかれなが無理矢理サボらせたみたいですまんね。」
「ううん、いいの。本当は絵里もサボりたくてしかたがなかったんだと思うし。自分の気持ちに素直になれたのはれいなのおかげだから、むしろ感謝してるよ。ありがとう。」
そう言って、ちょっと照れているれいなにキスをした。
「れいなに出逢えて、ほんとに良かった。」
デートしている時も、キスしている時も、もちろん幸せ。でも、根本的にれいなと出逢えたことが、何よりの幸せなんだと思う……。
- 597 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:41
- それから家に帰って、お母さんに「塾、やめようかと思うんだけど…」と恐る恐る言った。まだ1週間しか通っていないから、怒られるだろうなと思っていた。
けれどもお母さんは怒らなかった。
「さっき塾の先生から、絵里が来ていないんだけど体調でも悪いんですか?って電話があってね。家にも帰ってきていませんって答えたら、何て言われたと思う?」
「……何て言われたの?」
「もしサボりだったとしても、怒らないであげてください、って。うちはやっぱりキツいところだから、辛い人に無理強いはしませんので、だって。なかなかいい先生じゃない。お母さんも、絵里が辞めたいって言うなら反対しないよ。」
「お母さん……」
塾の先生の優しさ、お母さんの優しさが胸に染みて、今日何度目かわからない涙が出てきた。
- 598 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:41
- それからすぐに塾へ向かうと、ちょうど終わったところらしかった。
先生に、辞めたい旨を伝える。
「そっか。…うん、わかった。亀井さんがキツく感じるなら、辞めることに関しては何も言わないよ。そのかわり、1つだけ約束してほしい。」
「何ですか?」
「辞めるおかげで部活に行けるようになったんだから、部活は精一杯楽しむこと。これを守れなかったら、辞めるっていうのは取り消しだからね?」
「…はい!」
元気に返事をしたら、先生はニコニコして頭を撫でてくれた。
- 599 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:42
- 外に出ると、「亀井さん。」と呼び止められた。
道重さんだった。
「辞めちゃうの?」
「うん…。ずるいかな、やっぱり。」
「亀井さんが決めたんでしょ?だったら、他人がずるいとか卑怯だとか言う資格はないと思うよ。」
「そっか。……最終的に決めたのは私だけど、きっかけをくれたのはれいななんだよね。」
「れいなが?」
れいなに言われたことを教えると、道重さんは「れいならしいね。」と言って微笑んだ。
- 600 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/19(水) 10:42
- 「あ、そろそろ帰らなきゃ。じゃあ亀井さん、今度の文化祭も行くから、その時また会おうね。」
「あ、ちょっと待って……。」
「どうしたの?」
「道重さん、もしかして…今はれいなのこと……」
なんとなく、道重さんが今はれいなのことが好きなような気がした。
「……亀井さん。れいなのこと、幸せにしてあげて。亀井さんも、れいなに幸せにしてもらって。それが一番私は嬉しいから。」
道重さんは優しく微笑みながら、同時に泣いていた。
「……任せといて。」
「ありがとう……。」
どちらからともなく手を差し出して……固く、握手した。
- 601 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/19(水) 10:45
- 今日の更新は以上です。前回と今回は取って付けたような設定ばかりでしたが、ほんのちょっとでも感動していただければ幸いです。
そろそろ「忘れないで。」もラストスパートに入ります。
- 602 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/21(金) 10:01
- 千葉ロッテマリーンズ、31年ぶりのリーグ優勝おめでとうございます(遅
日本シリーズで藤川vs松中が見たいと言っておきながら、プレーオフ最終戦では普通にロッテを応援していました(ヲイ 作者は巨人やソフトバンクなどの、「勝つのが当たり前」的な雰囲気のあるチームはどうも応援する気が出ない性格なんです。巨人ファン、ソフトバンクファンの皆様ごめんなさいごめんなさい。
それでは更新します。
- 603 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/21(金) 10:02
-
思い切って塾を辞め、穏やかな時間が戻ってきた。
――――「よし、それじゃあ『竹取物語』を口語訳していくか。まずは5行目まで…亀井。」
「zzz……んー……れーな大好き……zzz」
ツカツカツカ、ゴツン
「絵里のアホ…」――――
――――「亀ちゃん、それ砂糖じゃなくて塩やよ!!」
「あっ、間違えちゃった…。」
「わわわ、亀ちゃん、その黒こげの物体は何!?」
「亀井ちゃんは上手下手の前に、おっちょこちょいを何とかしなきゃいけないっしょ……。」――――
――――「あっ、絵里、あれ見るっちゃ!」
「え、何?」
チュッ
「あはは、絵里って単純っちゃね。」
「……あ、れいなUFOだよ!!」
「絵里、さすがにそれは誰もひっかからんけんね……。」
「むう……」――――
- 604 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/21(金) 10:03
-
そうして、短い3学期はあっという間に過ぎていった――――――――。
- 605 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/21(金) 10:03
- そして3学期の、1年生の、最後の日。
「みんな、1年間本当によく頑張ったべ。2年生ではクラス替えがあるけど、楽しかったことも辛かったことも、このクラスでの思い出を忘れないでほしいべさ。なっちはみんなの担任の先生になれて幸せだったべ。本当にありがとね。」
なっち先生が目を潤ませながらそう言うと、拍手が起こった。たぶん、なっち先生に対して、クラスのみんなに対して、そして自分に対しての拍手だと思う。
- 606 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/21(金) 10:04
- ホームルームが終わり、帰る前に1人1人がドアのところでなっち先生と握手することになった。
みんなは「先生ありがとー!」とか「来年も先生が私のクラスの担任になるように交渉してね?」と言って、中にはなっち先生に頭を撫でられながら泣いている子もいた。それくらい、みんなはなっち先生が大好きだということ。
れいなの番になって、なっち先生はれいなをギュッと抱きしめながら何かを囁いていた。
―――うぅー……ちょっぴり嫌かも……。
軽いやきもちを焼きながら見ていると、私の視線に気付いたなっち先生は「亀井ちゃんもかい?」と言って、今度は私を抱きしめてくれた。
―――何か違うような気がするけど……ま、いっか。
「先生、矢口先生とお幸せにね。」
「亀井ちゃんと田中ちゃんもずっと仲良くね。」
小指と小指を絡めて、懐かしの「指切りげんまん」。
- 607 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/21(金) 10:04
- れいなと一緒に教室を出ると、突然れいなが教室のほうを向いておじぎをした。
「どしたの?れいな。」
「ん。教室さん、1年間お世話になりました、って。」
「そっか。じゃあ絵里も。」
教室さん、1年間ありがとう。
そう心で呟きながら、私もおじぎをした。
- 608 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/21(金) 10:05
- 「ね、明日デートしよっか。」
「オッケー。どこ行くと?」
「そうだねー……遊園地、なんてどう?」
「よかよ。楽しみにしとるばい。」
空は、今の私達――――運命なんて知る由もなく、幸せを噛みしめている私達を象徴するように、晴れ渡っていた。
- 609 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/21(金) 10:08
- 今日の更新は以上です。個人的に>>603が気に入っていたりします。
次回、いよいよ最終回です。今回が短かったかわりに最終回はちょっと長めかもしれません。
- 610 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/21(金) 19:52
- 最終回…
楽しみのような楽しみじゃないような…
ハンカチ用意で待ってます。
- 611 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/23(日) 09:26
- >>610 名無飼育さん様
レスありがとうございます。ハンカチ、出番があればよいのですが……。
作者はいつの日か『涙のアーティスト』と呼ばれるのを夢見ています(殴
なんだか卒業式の日の朝みたいな気分です。これで晴れていれば完全に卒業式気分になれるのですが、外はどんより曇っていますorz
7月初めにスレを立ててから今までの約3ヶ月半、ただ淡々と更新してきたように思われるかもしれませんが、裏では結構いろんなことがあったのです。文章力、表現力のなさを痛感して凹んだことは数え切れないほどありましたし、私生活でもいろんなことがあって書く意欲まで失いかけたことも何度かありました。
それらを乗り越えて最終回までたどり着けたのは、間違いなく読んでくださっている方々のおかげです。どれだけ感謝してもし切れません。
それでは最後の更新、1レスずつ噛みしめていきたいと思います。
- 612 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:26
-
その日の夜。
「そうだ、れいなに手紙でも書こうかな。」
ふと、そう思い立った。
「今までありがとう」と「これからもよろしく」の気持ちを込めて。直接言うのは恥ずかしいから手紙で。
夜遅くまでかかってようやく完成した手紙は。
『大好きなれいなへ
早いもので、絵里とれいなが出会ってもうすぐ1年だね。たくさんデートをして、たくさんキスもして、時々ぶつかったりもしたけど、今はどれもいい思い出。
まずは、この1年間ありがとう。
もうすぐ2年生でクラス替えがあるけど、また同じクラスになれるといいね。2人の愛があればきっとなれるかな(笑)
この1年間は今までで1番幸せだったけれど、来年は今年よりも、再来年は来年よりも幸せな1年にしたいね。れいながずっと側にいてくれれば、きっとそうなると信じてるよ。
絵里は、死ぬまでれいなを好きでい続ける。だから、れいなも絵里のことをずっと好きでいてほしいと思っています。
絵里』
そして下の余ったスペースに、小さく、願い事を書いた。
『遠い将来、生まれ変わった絵里と生まれ変わったれいなが、また出逢うことができますように。』
- 613 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:27
- 翌朝。
手紙を書いてすっかり寝るのが遅くなったせいで、見事に寝坊した……。
トーストを口にくわえたまま急いで支度をし、急いで家を出て、トーストを飲み込みながら急いで走って、それでも待ち合わせ場所の公園に着いたのは約束の時間の10分後だった。
「ごめーん。遅れちゃった。」
立ち止まって呼吸を整えていると、突然れいなに抱きしめられた。それも、いつもよりずっと強めに。
「えっ!?れいな?」
驚いている私に、れいなはぽつぽつと呟くように言った。
「今朝…絵里がいなくなってしまう夢を見たと…。それで今までずっと待ってても絵里が来んから…事故にでも遭ったんじゃないかって、ばり不安になってたと…。」
普段では考えられないほど弱々しい声。私が来ないから、正夢になったのかと思って不安でしかたがなかったんだろう。
「そっか…。心配かけてごめんね。でも大丈夫だよ。絵里はどこにも行かないから…。」
私はちゃんとここにいるよ。それが伝わるように、抱きしめたままれいなの唇にそっとキスをした。
- 614 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:28
- 近くのバス停まで歩き、そこからバスに30分くらい揺られて遊園地に着いた。
まずは中をぐるっと一周してみて、それからジェットコースターに乗ることに。
列に並んで待っていると、『日本最速』の看板が目に入った。
―――うわぁ、日本最速って見たら2倍怖くなってきた……。
繋いでいたれいなの手を、思わずギュッと強く掴んでしまった。慌てて力を抜こうとすると、れいなも私の手を強く握る。
「大丈夫、れながついとるけん。」
「うん……。」
2倍に増えた怖さは、1.5倍くらいまで減ったような気がした。
- 615 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:28
- 日本最速のジェットコースターは流石で、真っ直ぐな道の速さだけでもその辺のジェットコースターの下り坂の速さといい勝負。私はただただ訳もわからず悲鳴をあげるだけだった。
「すごかったとね。」
「うん。足がガクガクいってる。」
「同じく…。」
座って休みながら時計を確認すると、ちょうどお昼時。
「あ、そろそろ12時だね。お昼ご飯食べよ?」
「そうっちゃね。この辺に食堂か何かあると?」
「えっと…実はお弁当作ってきたんだけど……。」
「えっ!?絵里が?」
「うん。あまり上手じゃないけど…。」
寝坊したせいで急いで作ったから、味の保証はできないんだよね……。
- 616 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:28
- 芝生のあるスペースに行き、お弁当箱を開けた。
いただきますと言って、れいなが卵焼きを口に入れた。私はその様子をじっと見つめる。
「…おいしい。」
「ばりおいしいっちゃ。絵里も食べて食べて。」
おいしいと言ってもらえて安心すると、私もお腹が空いているのに気付く。
好きな人と一緒に食べる昼ご飯は、格別のおいしさがあった。
- 617 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:29
- 食べ終わって、2人並んで芝生の上に寝転がる。そのうち、昨晩の寝不足と満腹なのもあって睡魔が襲ってきた。
「ごめん…ちょっとだけ寝てもいいかな。」
「ん、よかとーよ。」
れいなはそう言うと起き上がって正座し、私の頭を持ち上げて膝の上に乗せた。いわゆる「膝枕」の状態。
最初は恥ずかしくてドキドキしていたけれど、そのうち吸い込まれるように眠りに落ちていった。
- 618 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:29
- 夢を見た。
れいながいて、1-Bのみんながいて、なっち先生がいて、高橋先輩と新垣先輩がいて、小川先輩と紺野先輩がいて、道重さんがいる。そして、全員が笑っている。楽しそうに話したり、追いかけっこをしたり。
「絵里。」とれいなに呼ばれて振り返ると、優しく、そっと、唇にキスをされる。
- 619 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:30
- そこで息苦しさを感じて目を開けると、目を閉じているれいなのアップ。夢の中と同じように、唇にキスされていた。とっさに目を閉じるとすぐに唇が離れて、れいなが「愛しとーよ」と呟く。
「そういうのはちゃんと起きてる時に言ってほしいなー。」
「のわあっ!!えええ絵里、いつから起きてたとよ!?」
「んー、キスされて目が覚めた。ね、さっきのもう1回言って?」
「好き」は今まで何度も言ってくれたけど、「愛してる」は一度もないから。目を見て、ちゃんと言ってほしかった。
「む、無理っちゃよ。…あ、ほら、お化け屋敷があるとよ。行ってみるっちゃ。」
頬を膨らませて無言の抗議をしたけれど、れいなは赤い顔のまま、私の手を引っ張ってさっさとお化け屋敷に入っていった。
- 620 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:30
- 「きゃーーー!!!」
「あ、こんにちは。お仕事ご苦労様です。」
お化けが出てきた時の、私とれいなの反応。…この差は一体何?
悲鳴をあげてれいなの腕にしがみつく私に対して、れいなは笑顔で挨拶している。
「絵里は怖がりっちゃねー。」なんてからかったように言われるものだから、面白くない。
「もー、れいなのバカ!!私だって1人でも大丈夫だもん!!」
れいなを置いて走り出す私。でも……
「ぎゃーー!!」
にゅっと現れたろくろっ首に、腰を抜かした………。
- 621 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:31
- お化け屋敷を脱出!した時には、もう夕方。まだ遊園地のもの全ては楽しんでいないけれど、時間的に楽しめるのはあと1つが限界。
「ね、やっぱり最後は……。」
「うん、わかっとーよ。最後と言えばやっぱり……。」
「観覧車!!」
- 622 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:31
- 考えることはみんな同じなようで、観覧車のところにはカップルの行列。ようやく乗ることができ、当たり前のようにれいなと並んで、手を繋いで座った。
やがて、観覧車がゆっくりと動き出す。
「夕日、綺麗だね。」
「観覧車から見ると何倍も綺麗に見えるっちゃね。」
「ね、頂上に行ったらキスしよっか。」
「…うん!」
- 623 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:32
- 頂上が近づくにつれてドキドキする心臓。
そして、夕日に照らされて……目を閉じて、唇を重ねた。
視覚も、嗅覚も、聴覚も全て麻痺して、存在するのはただ1つ、唇の感触だけ………。
観覧車が地上に向かって降り始めるまでずっと続いたキスは、今までで一番温かくて、優しくて、切ないものだった。
「絵里のこと……世界で一番、愛しとるばい…。」
「絵里もれいなのこと……愛してる。」
そして、始めて交わす「愛してる」の言葉。その響きは麻薬のような心地良さがあった。
そのまま心地よさに身を委ね、お互いをきつく抱きしめ合う。もはや言葉も、BGMも必要ない。2人の中で、世界は止まった………。
- 624 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:33
- 遊園地を出てバスに乗り、学校の近くのバス停で降りるまで、2人の間に会話はなかった。観覧車の余韻がまだまだ残っていたから。
沈黙を破ったのは私のほうからだった。
「あの……れいな、これ…。」
れいなに昨晩書いた手紙を手渡す。
「恥ずかしいから……後で読んで。」
れいなは頷いて手紙をポケットに入れた。
- 625 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:33
- しばらく歩いて、交差点に来た。
「春休み中はいっぱいデートしようね。」
「よかよ。毎日でもデートしてあげるけんね。」
「ふふっ。楽しみにしてる。」
遊園地の次はどこがいいかな、なんてことを考えているうちに、信号が青になった。
- 626 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:33
- 手を繋ぎながら横断歩道を渡っている途中、れいなに話しかけられた。
「そうだ絵里。」
「なあに?」
れいなのほうを向いた瞬間……頭の中が真っ白になった。れいなの顔越しに見えたのは、猛スピードで迫ってくるトラック。
- 627 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:34
- 「今度のデートは…」
「れいな危ない!!!!!」
自分の命と恋人の命のどちらを選ぶか、などということを考える時間も余裕もなかった。私を支配していたのは、本能。ただ本能的に、れいなを前に突き飛ばした。
トラックと私の距離は、もう1メートルもない。
やがて、鈍い衝撃を受けた。
もう死ぬんだな、というのが何となくわかった。
その間際、たった1つだけ、強く願った。
―――れいな……。私のこと、いつまでも忘れないでね…?れいなの中で、ずっと生き続けたいから……。だから、忘れないで……?
強く強くそう念じて……私は、意識を手放した。
- 628 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:35
-
――――――――
- 629 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:35
-
―――『遠い将来、生まれ変わった絵里と生まれ変わったれいなが、また出逢うことができますように。』―――
- 630 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:36
-
――――――――
- 631 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:36
-
――――――――
- 632 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:36
-
――――――――
- 633 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:37
-
――――――――
- 634 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:37
- 「あーもう、入学式の日から遅れちゃう………あれっ、あの子も私と同じ制服だ。……あなたも遅刻?」
「えっ?ああ、うん。あなたも?」
「えへへ、私も。あ、私、亀井絵理っていうの。あなたは?」
「私は田中玲奈。……ところで、自己紹介してる暇はないんじゃない?入学式遅れるよ。」
「ほんとだ、急がなきゃ。それじゃあ校門のとこまで競走ね。よーいドン!」
「わっ、ちょっと待ってよ亀井さーん!!」
- 635 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:37
-
――――――――
- 636 名前:忘れないで。 投稿日:2005/10/23(日) 09:38
-
忘れないで。 fin.
- 637 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/23(日) 09:38
- 以上で「忘れないで。」完結、そして「鮮やかすぎる、君がいない夏」スレ完結です。
本当にありがとうございました。
- 638 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/23(日) 09:41
- 後書き
本編終了時にも後書きを書いていたので、今回は簡単に。…とその前に、>>634のところ、2人の名前の漢字はわざと変えました。変換ミスではありませんのであしからず。
たった1つ大声で叫びたいのは「楽しかったです。」
本編の時は「何かを伝えたい」とかっこつけていましたが、続編はただ純粋に「物語を書く」ということを楽しむことができました。もちろん、本編も書いていて楽しかったですが。
小説を書くために何より必要なのは、知識でも文章力でもなく、楽しいと思える気持ちなんじゃないかと思います。……またまたかっこつけたこと言っちゃいました。
- 639 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/23(日) 09:42
- 補足
・留年!?
実は実は、本編で小川さんと紺野さんは3年生にするつもりでした。>>16を書き込む時に「二年の小川麻琴」となっているのに気付いて三年に訂正したのですが、>>16と>>17を1レスにまとめて書き込んだところ「文字数オーバー」。
慌てて2レスに分けて改めて書き込んだら、今度は学年の訂正を忘れて「あ、やばっ……まあいいか。」ということになったのでした(w
留年させてごめんよ2人とも……。お詫びに大学は裏口(ry
・微妙な部活
田中さんの部活は、おそらく他の小説でもまずないであろう設定だと思います。部長さんの味を出したかったのもありますが、半分は適当です(殴
気付かれた方もいると思いますが、田中さんの部活の顧問の先生が一度も登場していません。顧問はいるけれども、部活には顔を出さないという設定なんです(実話に基づいています(何)。
ちなみに作者が田中さんの部活の経験者で何段を持っている、ということはありません。ルールしか知らない初心者です。作者はむしろ、それの兄弟分的なもので、新聞を見ても隣同士に並んでいる競技の有段者です(自慢げ)
・HN
HN「駆け出し作者」について。せっかくだから(?)コテハンで名乗ろうと思って考えたのですがなかなかいい名前が思い浮かばず、最初に考えついたのが「駆け出し作者」でした。
このスレが誕生する引き金となった某作品にレスしていた時も、名前が「名無飼育さん」→「464」→(この間に名前を思いつく)「464改め駆け出し作者」→「駆け出し作者」と毎回変えていました(w
名前の意味は全くそのままですが、何年間か小説を書き続けても「駆け出し作者」を名乗り、初心を忘れないようにしようという気持ちもほんのちょっぴり込めています。
- 640 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/10/23(日) 09:42
- 次スレについて
本編終了後の中休み期間中に、次回作の大まかな構想を考えました。これから読者活動をしながら少しずつ書き溜めていきます。
CPは懲りもせずれなえり、「笑顔」をテーマにするつもりです。タイトルは、「忘れないで。」の中のどこかでナッチ先生がうっかり口走っています(w 記憶力のいい方は「完結後に鍵を握ることになるレス番号」を思い出して一発で見つけられるはずです。
現時点で序盤の1、2話と、シーンやセリフの断片的なイメージが出来上がっている状態です。このスレが倉庫落ちする前に、レス返しと同時にそれらを組み合わせた予告編らしきものでも公開できればと思っています。
次回作の連載開始予定日は作者の中で既に決まっているのですが、それは予告編で。今は「●月1日に連載開始予定」とだけ言っておきます。板は未定ですが青が最有力です。
それでは、ここまでお付き合いしてくださった全ての方に心から感謝です。
一言だけでも感想を頂けると嬉しいです。
- 641 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/23(日) 22:01
- 完結お疲れ様です。
次スレも楽しみにしています。
- 642 名前:通りすがりの者 投稿日:2005/10/23(日) 22:13
- 最終更新、並びに完結おめでとうございます。
なんだか凄かったです。
ジンっとしたところもありましたが、それ以上に胸が締め付けられました。
また作品があるようですが、楽しみにお待ちしております。
本当にお疲れ様でした。
- 643 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 00:01
- 完結おめでとうございます!!!
いつも楽しみに読ませていただいていました
次の作品、また首を長くしてまっています!!!
- 644 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/24(月) 14:03
- 完結ほんっとにおめでとうございます!!
そしてお疲れ様でした。
すごく奥が深くて、体の底から涙がでました。
まじで作者さんは涙のアーティスト決定です!!
次の作品もすごく楽しみに待ってます
- 645 名前:wait 投稿日:2005/10/25(火) 09:41
- 完結おめでとうございます。そしてお疲れ様でした!
れいな視点のように絵里視点のもすごく感動しました。
完結は惜しいですが、作者さんが新しいれなえりの作品を準備していると言ったのに
楽しく待ってますよ。
- 646 名前:22 投稿日:2005/10/30(日) 00:51
- 完結お疲れさまでした
亀井さんの心の温かさに感動し、田中さんの言葉が絵里視点だと益々しみてきました。こんな素晴らしい作品を読ませていただきましてありがとうございました。
- 647 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/11(金) 14:22
- 完結おめでとうございます。最後の2人の所をよんで泣いちゃいました。作者さんの次の作品にも期待させてもらっています。
- 648 名前:17 投稿日:2005/11/11(金) 15:25
- 完結お疲れ様でした。読み終わった後になんだか得したような気分になりました。良い作品をどうもありがとうございますm(_ _)m
- 649 名前:闇への光 投稿日:2005/11/11(金) 21:38
- 完結おめでとうございます。
本当に悲しいものって感動させるって改めて思いました。
次回作もこっそりと待っています。
- 650 名前:駆け出し作者 投稿日:2005/11/15(火) 12:29
- どこからともなく現れた駆け出し作者です。こんなにもたくさんのレスをありがとうございます(感涙
長編の次回作を書き進めながらも、何日か前から短編を書きたい衝動に駆られて、草板にスレを立ててしまいました。
ttp://m-seek.net/cgi-bin/test/read.cgi/grass/1132023924/
暇つぶし程度にしかなりませんが、よろしければどぞ。
レス返しと次回作の予告編はスレ整理の1か月くらい前を予定しているので、もうしばらくお待ちくださいませ。
- 651 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/18(金) 19:13
- もう何百回も読みました!!
何百回読んでも読んでも感動します
こんな素晴らしい作品ありがとうございます(号泣
草板も読ませていただきます。
- 652 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:31
- 突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
- 653 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/01(水) 09:19
- 忘れられた頃に登場です。まずはレス返しを。
>>641 名無飼育さん様
ありがとうございます。次スレは期待を裏切られることを前提にお読みいただければ(殴
>>642 通りすがりの者様
ありがとうございます。少しは心に響く作品になってくれたようで、最高の幸せでございます。
>>643 名無飼育さん様
ありがとうございます。どうしよう、次の作品は死ぬほどグダグd(ry
>>644 名無飼育さん様
涙のアーティスト決定!ありがとうございます。次回作は誰も殺しません。死人なしで感動させるのが次の目標なんです。
>>645 wait様
ありがとうございます。惜しんでいただけるなんて最高に嬉しいです(号泣
- 654 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/01(水) 09:32
- >>646 22様
ありがとうございます。2人の想いや言葉、ずっと覚えていて頂ければ幸いです。
>>647 名無飼育さん様
ありがとうございます。最後で泣いた……よっしゃ(殴 期待は裏切られるためにあるのです(さらに殴
>>648 17様
ありがとうございます。文章下手すぎて首吊りたいくらいなんですが、良い作品と言っていただけて嬉しいです。
>>649 闇への光様
ありがとうございます。次回作、こっそりお待ちくださいませ。
>>651 名無飼育さん様
ありがとうございます。そ、そんなに読んでくださったのですか(泣
最後に。
>>641-649 >>651
本 当 に あ り が と う ご ざ い ま し た
- 655 名前:予告 投稿日:2006/02/01(水) 09:33
-
―――モー娘の亀井絵里……!?
「………れいなちゃん?」
思わぬ出会い。
「れいなちゃん、やっと笑ってくれたね。」
「今は、モーニング娘の亀井絵里じゃなか。だから無理して笑わなくてもよかと
ーよ?」
「知り合い」から「友達」へ。
「やっぱり私は恋愛しちゃいけないのかな?」
―――これはきっと……許されない想い。
揺れ動く気持ち。
「やだよぉ……行っちゃやだぁ……」
「お願い……笑って……?」
ずっと変わらないもの。
―――『Forever your smile』 2006年4月1日 連載開始予定
- 656 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/01(水) 09:39
- 自分を追い詰める意味も込めての予告。さあこれで逃げ道はなくなった(w
5割増しくらいでかっこつけて書いてますので、期待度も5割ほど落としていただければ(汗
板は青の確立が90%、森が10%くらいでしょうか。日付は守ります。この日にスレが立っていなかったら、きっと作者の身に何か起こったんだということです。
このスレの存在忘れられたかもと思ったので図々しくも上げさせていただきました。1週間晒したら落とします。
- 657 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/02(木) 06:41
- 死ぬほど楽しみ(((゜д゜;)))
- 658 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/07(火) 20:25
- うっひょ!!待ってました!!
正座でおとなしくしてます。
- 659 名前:駆け出し作者 投稿日:2006/02/08(水) 08:57
- >>657 名無飼育さん様
……プレッシャーかけちゃイヤン(殴
>>658 名無飼育さん様
待っててくださって感謝です。正座して書くことにします。
それでは、2ヶ月後新スレにてお会いしましょう。
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