運命という名の性

1 名前:ワクワク 投稿日:2005/07/06(水) 23:58
またも新スレそして初めての方は初めてましてっ!!今回は新作を書くためにここを立ち上げましたぁ(^O^)
もしよろしければ、お読みください♪
2 名前:プロローグ 投稿日:2005/07/07(木) 00:01





〜時は来たれり〜





3 名前:プロローグ 投稿日:2005/07/07(木) 00:05



太陽が月を照らし、


月が数々の運命を象る


そしてできた運命という道


それを辿る小さな小さな人間たち



4 名前:プロローグ 投稿日:2005/07/07(木) 00:08



人間が持って生まれた運命という名の道


しかし誰しもがその用意された道を真っ直ぐに進めはしない


なぜならそれは・・・





『人間』だから




5 名前:ワクワク 投稿日:2005/07/07(木) 00:10
かなりの少量更新です(-.-;)次はまたすぐ2、3日の間に更新しますっ!
6 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 00:54

キンキンキン!

ふたつの剣がぶつかり合い激しい音を鳴らす。

「このっ!」
「・・・」

ドン。

「うわっ!?」

ガシャン!!

ひとりが勢いに負け尻餅をついた。

ビッ。

もうひとりがその人物の首に剣をつきつけ、上から見下ろす。

「ま、まいりました。」

慌てて降参の言葉を発する。

スッ・・・

すると、首に当てられいた剣はいつの間にか相手の腰に収まっていた。

「やっぱり強いなぁ〜。」
「ですね♪」

一部始終を見ていた別の2人が声を合わせ言った。


7 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 01:09

「ちょっとは手加減してあげたらいいのに・・・。」

声を発した内のひとりがふとつぶやく。

「んなことしたら意味ないじゃん。」

さきほど戦いに勝った人物が小さなつぶやきに答える。

「まぁそうだけど。」

そしてその言葉に納得するつぶやいた人物。

「あ、麻琴!あんたそんなすぐにまいったなんて言うと敵になめられるよ。」

勝った人物が後ろを振り向き、負けた人物『麻琴』へアドバイスを送る。

「え?あぁ、はい。」

敗者、麻琴はビックリしながらも、慌てて首を縦に振る。

「だけど、今のは訓練でしょ?」

眉を八の字にしながら勝者に意見を言う人物、梨華。

「訓練だからこそだよ。訓練でできないことはぶっつけ本番じゃできないじゃん。」

梨華の意見に何事もなかったかのように涼しい顔をして答える勝者、美貴。


8 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 01:24

「はいはーい、2人ともそこまでにしなさい。」

背が高く、不思議なオーラを醸し出している人物が笑顔で近づきながら声をかける。

「「飯田隊長!」」

梨華と美貴は隊長と呼ばれた人物を確認すると背筋を伸ばし、敬礼をした。

「あぁ、2人とも楽にしてよ。あたしはただふらついてただけなんだしさっ!!」
「は、はい!」
「・・・」

梨華は圭織の言葉に返事をし、美貴は無言で敬礼していた手を下ろした。

「また訓練してたの?」
「はいっ!」
「剣術?」
「そーです。」

圭織の質問に梨華、美貴の順で交互に答える。

「今日もミキティが訓練つけたんでしょ?」
「はい。」
「で、結果は?」
「美貴ちゃんの圧勝で終わりました。麻琴が降参して・・・」

梨華は後ろで立ち上がっていた麻琴をチラッと見ながら言った。

「そっか。まことぉ!!」
「はは、はひぃ!!」

麻琴は隊長に呼び出されたことに驚きながらも、圭織に駆け寄った。


9 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 01:38

「な、なんでありますかっ!?」

麻琴は敬礼しながら圭織に尋ねた。

「ん、えっとね、キンチョーし過ぎ。」
「え?ははい?」
「だーかーら、堅い。麻琴はいつも堅すぎる。だから1対1のときも体が思うように動かないんだよ。もっとリラックスして?」

麻琴は自分の手をじっと見つめた。

「・・・はい!」

圭織は麻琴の笑顔にうんうんと頷きながらも、相手が相手なだけに仕方がないと思っていた。

「さゆみ!!」
「は〜い!」

次に圭織は梨華と一緒に2人を見ていたさゆみを呼んだ。

「なんでしょうか?」

さゆみが笑顔で圭織に問う。

「さゆみはふたりの戦いを見てなにを学んだ?」
「う〜んとですね・・・かわいいのは特だなって思いましたぁ♪」
「んなこと関係ないし。」

さゆみの場違いな発言に美貴が鋭くつっこむ。

「うん、まぁさゆみなりのポジティブな考えだからよしとしよう。」

また圭織が頷きながら微笑む。


10 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 15:30

「はぁ〜・・・」

美貴は圭織のマイペースさに思わずため息をついた。

「美貴ちゃん。」

美貴は自分の名前を呼ばれたほうへと振り返った。

「なに?」

美貴は相変わらず面倒くさそうに返事をする。

「あ、えーっと・・・」
「ん?」
「ごめんねっ!」

梨華が勢いよく頭を下げる。

「あ、うん。っていうか美貴は謝られるようなことをされてないけどね〜。」

美貴は柔らかな笑顔を見せた。

「もう、美貴ちゃんったら・・・」

梨華も美貴と同じように笑顔で美貴を見た。

「はい、仲直りせいりーーーっつ!!」

ガバッ!

「キャッ!!」

梨華は背後から覆い被さられた重りで前へとよろけた。

「っと。大丈夫?」

美貴はよろけた梨華を思わず抱き止めた。

「あ、ありがとっ!!」
「はいはい。」

梨華が美貴の腕から離れる。

「ちょっと!!のん!いきなりはビックリするでしょ!」
「美貴つぁん、おはよぉ〜。」
「おはよ〜。」
「無視しないでよ!」

梨華が美貴と希美の後ろですねる。


11 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 15:46

「あ、梨華ちゃんいたの?」
「えぇ〜!のんひどいよぉ〜!!」

希美がごめんごめんと笑いながら梨華を呼ぶ。

「んで、今日もミキティと圧勝れすか?」
「あぁ〜、いや、どーなの梨華ちゃん。」
「なんで私にふるのよ!美貴ちゃんの圧勝だったけどね。」
「そーれすか。」

希美は終始笑顔だ。

「相手は?」
「麻琴。」
「今日もまた麻琴れすか。」
「うん。」

希美は麻琴という名前を聞いてため息をついた。そして、一呼吸おくと走り出した。

「まーーこーーとぉ!!」

ガバッ!

「うわっ・・・のんつぁん!!」

麻琴は自分に走り寄って来た希美を見て笑顔になった。

「相変わらず辻ちゃんはすごいね。」
「あれだから麻琴も落ち込まずにいられるんじゃない?」
「だろーね。」

美貴と梨華は空を見上げながら微笑んだ。


12 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 21:55

ここは『ガールズ王国』

美貴たちが訓練をしているこの場所こそ、ガールズ王国の中心『ガールズ城』の城内にある訓練場なのだ。
そして、飯田圭織が隊長として率いるのがガールズ王国の精鋭隊、『オトメ隊』だ。
オトメ隊は強者ぞろいの兵士たちの中でもさらに選び抜かれたまさに『特別隊』なのだ。
さらにオトメ隊の中で負け知らずなのが何を隠そう藤本美貴だ。
彼女はまさに獲物を狙う王者ライオンのような存在。
オトメ隊2番手なのが石川梨華。
彼女はこれまでのあらゆる経験を生かし、工夫を凝らした戦いをする。


13 名前:第1章 投稿日:2005/07/08(金) 23:24

ここからはオトメ隊の兵士たちを紹介しよう。

まずは飯田圭織。
この人は若くしてオトメ隊の隊長になったいわゆるエリートだ。国の主からの信頼も厚い。

藤本美貴。
オトメ隊実力ナンバー1。一匹狼なところがあり、ツッコミも隊内で右に出るものはいない。

石川梨華。
オトメ隊ナンバー2。
基本に忠実な戦力や戦略で隊長、飯田とよく作戦をたてる。

辻希美。
オトメ隊ムードメーカー。技術はあまりないが力と速さは隊で美貴と同等。ただし、お腹が空くのが早い。

小川麻琴
とことんダメな人物。
しかし、明るさでは希美にひけをとらない。力も希美ほどあるが、いつもうまくいかない。

道重さゆみ。
自分が一番かわいいと思っているほどポジティブな人物。空気が読めない。新人。

田中れいな。
道重さゆみと同じく新人。ただならぬオーラを持つ。美貴を尊敬している。

以上がオトメ隊の隊員だ。


14 名前:第1章 投稿日:2005/07/09(土) 01:52

パカパカパカラ!

「オトメ隊!!」

馬にまたがった使者がやって来た。

「あ、圭ちゃんじゃん。」

圭織が笑顔でその使者を出迎える。

保田圭。
ガールズ王国の王女の使者であり、右腕でもある。右は保田、左は飯田というくらい2人は王女に信頼されているのだ。

「圭織!!王女が至急来てとのことよ。」
「えぇ〜。」
「しかも今日はオトメ隊全員召集よっ!」
「なにかあったの?」

飯田は怪訝そうな顔をした。

「ん〜、私にもわからない。だけどとりあえずオトメ隊関連なのわ確かよ。」
「わかった。みんな宮殿に行くから正装して!」
「「「「「「はい!」」」」」」

飯田の命令に一旦全員訓練所にある部屋へと入って行った。


15 名前:第1章 投稿日:2005/07/09(土) 02:06

オトメ隊のメンバーは部屋に入ると即座に自分の服を着、マントや剣を身につけた。
オトメ隊の正装の特徴は青々としたマントだ。
これはオトメ隊のために特別に作られたもので、普通の兵士たちは緑のマントをつける。

「よっし。オッケィ。」

美貴は自分の身なりをチェックすると最後に剣の杖をぽんっとたたいた。

「完璧なのれす!」
「小川もです!」
「石川準備万端です。」
「さゆも〜♪」
「れーなも大丈夫ですたい!」

全員準備が終わり石川、藤本、辻、小川、田中、道重の順に一列に並んだ。そしてその前に隊長の飯田がどんと構える。

「よーし。これから宮殿に行く。くれぐれも粗相のないように!」
「「「「「「はい!」」」」」」
「では行くよ。」

ガシャ。

飯田は剣と足が当たる音を響かせながら先頭を歩いた。そしてそれに続くオトメ隊メンバーの面々。

ガシャ。

ガシャン。

カシャ。

ガチャ。

ガチャガチャ。

ガチャン。

それぞれの足と剣がぶつかる音が静かな廊下に不釣り合いなほど大きく鳴り響いた。


16 名前:第1章 投稿日:2005/07/10(日) 00:06

ドカッ!!

「まだまだぁ!!」
「何回でもかかってこい!」
「うぉぉーー!!!」

ドコッ!

殴られた弾みで小さいほうの影が倒れる。

「いちちちち・・・」
「なんだよ。もう終わり?」
「あほか!!まだ参ったっていってないし!」
「威勢だけはいっちょまえじゃ〜ん」
「くぉの・・・」

バシ!!

小さい人物の足が相手の顔面にヒットした。

「にししし♪どーやこれで・・・」



!?



「ざーんねんでしたぁ。うちがそんな簡単に傷を受けるわけないっしょ〜♪」

なんと相手は小さい人物の蹴りを右手でガードし、かわしていた。

「あぁーー、やっぱ甘かったかぁ〜。」
「詰めが足りないよ、詰めが!!あ・い・ぼ・ん♪」

あいぼんの呼ばれた少女が頬をぷぅと膨らませる。

「えぇーー!それでも今のはいいとこでしょ?」
「最後決まったって油断してたじゃん。」
「ゔぅ゙ー・・・」

図星で少しすねるあいぼんこと加護亜依。


17 名前:第1章 投稿日:2005/07/10(日) 00:27

「だってカンペキに決まったって思ったんだもーん!!」
「そこがあいぼんはまだまだ甘い。」
「むぅ。」

加護は下を向き不適な笑みを浮かべた。

「あぁーー!!やぐっつぁんが水着!」
「うぉ!まじ!?ど、どこ?」
「隙有り!!」

バコッ!

加護は相手がやぐっつぁんという人物を探している隙にお腹に蹴りを一発入れた。

「いってー!!あいぼんずりーよ!」
「ふふふ、勝負の世界にズルいもなにもありませんよ。よ・っ・す・ぃ・♪」
「うわっ!!すっげぇムカつく!!」

よっすぃの呼ばれた大きな少女、吉澤ひとみは頭をガシガシとかいた。

「やっぱよっすぃは矢口さんに弱いんだねぇ!!」
「うるへ〜よ!」
「はいはい、吉澤さん、浮気するのはよくないですよ?」
「うちは浮気なんてしねーよ!ってかその前にあいぼんに言われたくね〜!」
「はい?わたくしには浮気なんて言葉存在しませんけど?」
「しらばっくれんな!」

吉澤は笑って逃げ出す加護を追いかけた。


18 名前:第1章 投稿日:2005/07/10(日) 01:17

「はぁ〜また始まったよ。」
「相変わらずあの2人は仲が良いんだべね。」

小さな影がふたつ、追いかけっこをするふたりを見つめていた。

「コォラァ!待たんかい!!」
「よっすぃに待てって言われて待つ人なんていないも〜ん。」
「なぁにぉーー!!」

2人はまた追いかけっこを始める。

「あらら、まただね。」
「あのお2人にはあれが日課ですから。」
「絵里も混ざりたい!」

さきほどとは別の3人も半分呆れ顔で2人を見ていた。

「うりぁーー!!」
「わぁぁぁ!」

ついに吉澤が加護を捕まえ、ものすごい形相で何かをしようとしていた。

「はい、ストーーーーップ!!」
「え?」
「ほ?あ、やぐっつぁん!!」

加護にやぐっつぁんと呼ばれた小さな人が2人に駆け寄る。

「あ、じゃねーよ!!だれが鬼ごっこしろって言った?」
「すいません。」

吉澤がやぐっつぁん、矢口真里に頭を下げる。

「だって〜、よっすぃが追いかけてくるからぁ!」
「加護!言い訳すんなぁ〜!」
「ほーい。」

加護はしかたなく手を上げて納得した。


19 名前:第1章 投稿日:2005/07/10(日) 17:06

「あいぼんもよっすぃも元気なのはいいことだけど、そこそこにだべよ〜。」

さきほど矢口と一緒にいた人物が笑顔で2人に言った。

「あ、あ、安倍隊長!」
「なっちぃ〜〜!」

吉澤は慌てて敬礼をし、それとは対照的に加護は安倍に抱きついた。

「お、おい!あいぼん!!」
「なにぃ〜?よっすぃもなっちに抱きついたいのぉ?」
「あほか!!そーじゃなくて、隊長に失礼なことするなよ!」
「よっすぃはなっちが嫌いだべか?」

隊長の安倍なつみが悲しそうに吉澤を見る。

「え?は?いや、んなことないっすよ!!」
「あはは、よっすぃ焦りすぎだろ!」

焦る吉澤の横で爆笑する矢口。

「だってよっすぃがあほかって・・・」
「それはっすね、あいぼんが隊長にいきなり失礼なことしたんで・・・」
「なーんだ。なっちはてっきりよっすぃに嫌われたのかと思ったべさぁ〜。」

安倍は安堵の表情を浮かべる。

「ぷ・・・ははははは!!まじ面白れぇ!おいら死にそう!!」
「や、矢口大丈夫だべか!?」

本気で矢口を心配する安倍。

「や、あはひははひゃ!!ま・・じ、なっちおもろ!!」


20 名前:第1章 投稿日:2005/07/10(日) 17:22

ガールズ王国とはまた別の国、『スプリング王国』

この国はガールズ王国と隣接しているにもかかわらず確執があり、ことあるごとに対立してきた。そしてまたこちらのスプリング王国にも精鋭隊が存在する。



『さくら隊』

こちらもオトメ隊と同様、エリート中のエリートだ。ただオトメ隊とひとつ違うところは全員家系が兵士なのだ。
オトメ隊は、農民の子、商人の子、皇族などさまざまな家系など関係なく優秀な人材を集めた。
しかしさくら隊は戦いをさせるならやはり家系からという考えで選ばれた人材。それでもやはり精鋭隊なだけはある。
どの隊の兵士たちと競っても必ずと言っていいほどさくら隊が上回っていた。


21 名前:第1章 投稿日:2005/07/10(日) 17:37

さくら隊メンバー

安倍なつみ。
この選び抜かれたさくら隊を仕切る隊長。
少し抜けたところがあるが、国民の信頼度ナンバー1。

矢口真里。
隊長、安倍なつみのサポート役。副隊長。
ツッコミ隊長でもある。

吉澤ひとみ。
さくら隊ナンバー1の実力の持ち主。どこを取ってもピカイチ。ただし、恋愛ではヘタレ。

加護亜依。
さくら隊のムードメーカー的存在で周りを明るくする。隊長と副隊長に懐いている。

新垣里沙。
さくら隊1の堅実キャラ。飛び抜けたところはそれほどないが努力でそれを補う。

紺野あさ美。
真面目で頭が良いが食べ物には目がない。
さくら隊の作戦はこの人物が中心でたてられる。

亀井絵里。
かなりのボケキャラ。
意味のわからない発言を多々する。しかし、ひょんとしたところで実力を発揮するとかしないとか。

以上がさくら隊のメンバーだ。


22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/16(土) 00:09
おぉ!期待!
23 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 00:51

ところ変わって再びガールズ王国。

ガシャ

ガシャン

いくつもの金属がものとぶつかるごとに音を発していた。

「ねぇ。」
「ん?なにさ梨華ちゃん。」
「なんだろうねっ。」
「なんだろうねってなにが?」

飯田の次に歩く石川が急に話しかけてきたので美貴は話が読めなかった。

「なにがって・・・この召集だよっ!」
「あぁ〜、そういうことね。」
「もうっ。で、なんだと思う?」
「またいつもの警備の話なんじゃん?」

石川が美貴をじっと見つめる一方で美貴は前を見ながら話している。

「でもさ、警備の話だけだったらわざわざオトメ全員呼ばいでいつもみたいに保田さんか飯田隊長に伝えるんじゃない?」
「言われてみれば・・・」
「ねっ?だからおかしいなって思ったの。」

石川は急に真剣な顔になった。

「もしかして・・・・」
「あー、それはない。」
「えっ?」

美貴は石川が言葉を発するよりも先に否定した。

24 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 01:01

「ないよ。美貴にはわかるし。梨華ちゃんもわかるっしょ?」
「まぁ・・・」
「だからない。」
「・・・」

美貴は驚いて立ち止まった石川をおいて飯田の後に続いた。

「りーーかーーちゃん!」
「えっ!?」

自分を呼ぶ大きな声で石川は自分がフリーズしていたことに気がついた。

「どーしたのれす?」
「ん、なんでもないよ。」
「ほんと?」
「うんうん!ほんっとに!!」
「ならいいんれすけど・・・」

心配そうにのぞく辻に石川は笑顔で言葉を返した。そして石川は辻の横に並んで歩き出した。

「のん。」
「なんれす?」
「美貴ちゃんって不思議だよね。」
「はい?」
「いや、不思議だなぁ〜って思ってね。」

石川の言葉に辻は首をかしげる。

「まぁわからなくもないれすけど・・・」
「でしょ?」
「あ、れも、それを言うなられーなも不思議れす!」

辻が言うと後ろを振り返った。それに続いて石川も後ろの田中を見る。


25 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 01:13

「あー、そうかも。」
「れしょ!」
「美貴ちゃんと似てるよね。」
「れすね。」
「あっ、でもどこか違うかも。」
「どこかって?」
「それは私にもわからないよ。」

石川のこの言葉に辻はうーん、どこれすかねぇと独り言のように小さな声でブツブツと言っていた。

「れーいーな♪」
「なん?」
「もー!!れーな冷たい!」
「さゆがハイなだけたい。」
「れーなの言う通りシゲさんはハイ過ぎだよ。」
「ガキさんはれーなの味方なんですかぁ?」
「いやいや、味方とかそんなんじゃないだろっ!」

道重の意味不明な発言にテンポ良くつっこむ新垣。

「はぁぁ・・・」

そんなふたりを見てひとりため息をつく田中。

「ため息つくと幸せ逃げちゃうぞ☆あは♪」
「シゲさん、普通にキモイよ〜!」

またも新垣が絶妙なツッコミを入れる。

「さゆ。」
「ん?なになぁに?」
「キモイっちゃ。」
「・・・もう、れーなったら照れちゃって♪」

やりとりを見ていた新垣は有り得ないから!とまたツッコミを入れ、田中はため息をついた。


26 名前:ワクワク 投稿日:2005/07/19(火) 01:16
すいません!ガキさんのとこを小川に変えて呼んでください!ほんっとにすいません(>_<)
27 名前:名無しの爽快者 投稿日:2005/07/19(火) 02:06
次回更新期待してます!
しかしさくら隊に愛ちゃんがいないのはなぜ?
28 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 15:53

「なーにやってんの。はやくいよ〜」

美貴が立ち止まって戯れる3人を呼ぶ。

「は、はい!!さゆ、まこっちゃん、はよいくと!」

いち早く田中が走り出す。

「れーなってさ、美貴ちゃんの言うことならなんでも聞くよねぇ〜」
「れーなは藤本さんのこと尊敬してますからねっ♪」

ふたりは田中の背中をじっと見る。

「なーにしとっと!ふたりともはよっ!!」
「おー!!シゲさんも行こ?」
「は〜い☆」

ふたりも田中や他のオトメ隊メンバーの後を追った。

「まーこーとーはやくっ!!」

辻が手招きする。

「シゲさんもおいで!」

辻の横にいた石川も笑顔でふたりを呼ぶ。

「「今いきまーす」」


29 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 16:17

しばらくしてやっと宮殿の大広間の前までついた。

「よし。それじゃみんな、粗相のないようにね?」
「はい。」

飯田は一息つくと、自分よりも遥かに大きい扉を開けた。


ギィーーーッ。


「オトメ隊、到着いたしました!」

飯田がお辞儀をしながら言う。

「おぉ、ちゃんと全員おるか?」
「はい。もちろんです。今回は新人も連れ参りました。」
「そーか。そんなら入り。」
「はっ!全員入って。」

飯田がオトメ隊全員に入るよう促す。

ザッザッザ!

全員入り、片膝で座りでひざまづいた。

「お、よーきたな!」
「はっ!」

飯田が代表で王女に言葉を返す。

「圭織、あんた堅苦しいっちゅうねん。」
「で、ですが・・・」

王女の言葉に飯田は少し動揺した。


30 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 17:50

「なんや、他人みたいやんっ!」
「・・・」
「前みたいに裕ちゃんって呼んでや?」

ガールズ王国王女、中澤裕子も昔は兵隊であり、飯田の上司であった。
しかし、ある日を境に中澤は王女という名の座についたのだ。

「・・・それはできません。あくまであなた様は私たちの国、ガールズ王国の頂点に立つ方です。そんなお方を私がちゃん付けなどで呼ぶとは・・・」
「はぁ〜・・・相変わらず真面目やな、圭織は。」
「私は真面目だけが取り柄でございますからっ。」

飯田の返事に中澤王女は少し悲しそうに笑った。

「まぁ、ええわ。今日はな、オトメ隊のメンバーがいまどんなやつがおるのか見ときたかってん!」
「さよーでございますか。」
「あぁ、新人もふたり入ったんやろ?」
「はい!新人!!」

飯田はふたりの新人を自分の元へと呼んだ。

「はい。」
「はぁい!」

飯田の左に田中、その田中の隣りに道重が並んでひざまづいた。


31 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 18:03

「私の隣りにいるのが田中、その隣りが道重でございます。」
「田中れーなですっ。」
「道重さ・ゆ・みです♪」

新人のふたりも自ら名乗る。

「また威勢のいいのが入ったなぁ。あ、このふたりの教育係りは?」

中澤王女が思い出したかのように手を叩く。

「はい、そのことなのですが・・・まだ決めかねておりまして・・・私がふたりを教育しようかと。」

飯田が途切れ途切れに答える。

「ん〜、それは大変過ぎるやろ。なぁ圭ちゃん?」
「はい。」

王女の隣りにいた保田は間を置かずに答えた。
そして中澤王女が笑みを浮かべる。

「圭織!」
「はい。」


「田中に藤本、道重には石川を付けて教育させ!!」


!?


一斉にこの場の空気が驚きに変わる。

「といいますと?」

飯田が思わず聞き返す。

「せやから、田中に藤本をんで道重には石川の教育係りをやらせるんや。」
「しかし・・・」
「これは王女命令や!!」
「は、はい!!かしこまりました。」

飯田は慌て、石川、藤本は驚き、中澤王女は笑った。


32 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 20:27

「よっしゃ、ほんならみんなさがってええで。」
「はいっ。」

オトメ隊全員が一礼をして扉に向かっていく。

「あっ、圭織と藤本はちょい残って。」
「はっ。」
「えっ?」

飯田の返事とはまったく逆で思わず疑問を投げかけた。

「美貴もですか?」
「そうや。」

王女の命令に飯田、藤本は再びひざまづく。

「実はな、ふたりに知らせておかなきゃあかんことがあってな・・・ほんまは全員に言わないかんのやろーけど、今回は隊長の圭織と藤本に知らせとくわ。」
「「はっ。」」

ふたりは同時に返事をした。そして王女の横に立つ保田も神妙な面もちに変わる。

「あんな、これはまだ噂でしかないんやけど、どうやらスプリング王国のスパイがこっちに乗り込んできてるみたいなんや。」
「なっ!?」
「えっ!?」

ふたりは予想だにしない王女の通告に声をあげた。


33 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 22:38

「スプリング王国のスパイ・・・」
「そうや。」

美貴のつぶやきに中澤王女が答える。

「もしその噂が真実なのであれば、あちらもスペシャリストをこちらによこしているでしょうね。」

と冷静な保田が一言。

「そうだね。向こうがそこら辺の兵隊をスパイによこすことはない。」

保田に続いて飯田も言う。

「そうなんや。ということはやな・・・」

中澤王女も顔が険しくなりつつも言葉を発する。

「そーなってくるとやはりサクラ隊ですね。向こうの国でオトメと張り合えるのはサクラにいるやつらしか無理ですし。」

藤本が王女の言葉に続く。

「うん。それしかあり得ん。だから一応あんたらの耳に入れとかなと思ってな。」

中澤王女は藤本の鋭さにうんうんとうなずく。

「わかりました。怪しい者がおりましたら、オトメ隊で対抗します。」
「そーしてくれ。あとな、少しあんたらで見回ってくれ。念のためってのも重要やし。ただ、他のもんにはこのことはまだ内密に・・・」
「わかりました。」

飯田がうなずく。


34 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 22:48

ふたりが大広間から出る。

「はぁ〜・・・また厄介なやつらが出てきたもんだね。」

飯田がうなだれる。

「ですね。でもあくまで噂ですから。」
「うん、まあそうだけど。一応今日から気をつけといてね、藤本。」
「わかってますよ。」
「じゃあ、圭織は石川たちの稽古つけてくるっ。」
「あ、はい。」

タッタッタッ。

そう言うと飯田は今まで疲れている表情がウソだったかのように軽快に走り去っていった。

「ふぅ・・・」

美貴も独特の緊張感で体が強ばっていたため、ひとつため息をついた。




「みきーーたん!!!」

美貴の背後から大きな声。しかし、美貴はそれに気づかないふりをして歩き出した。

「みーーきーーたん!!」


ガバッ!


「おわっ!!」

今度は声と共に後ろに何かがぶつかった衝撃。
美貴はしょうがないという顔でふり向いた。

「姫。なんでございますか?」

自分に抱きついている少女を優しく引き離す。


35 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 23:00

「んもう!なにじゃなくて・・・みきたんあたしが呼んでも振り向いてくれないんだもん!!」

姫がぷぅと頬を膨らませる。

「すいません。まさか姫だとは思いませんでしたので。」

美貴が笑顔で返す。

「ねぇ、みきたん?」
「なんでございますか?」
「その、『姫』ってやめてよ。昔みたいに『あやちゃん』って呼んで?」

この姫、松浦亜弥と藤本美貴もまた、飯田と中澤のように昔はあだ名で呼びあっていた。ただし、ふたりの場合は姫のことを姫だと知らずに美貴が遊んでいたから呼んでいたのであり、飯田たちとは少しわけが違う。

「いくら姫のお申し付けでも、できません。」

美貴は柔らかく断る。

「なんでよ〜。昔は呼んでくれてたのにぃ・・・」
「申し訳ございません。」
「じゃさ、まつーらのこと好き?」
「はい。大好きです。」

今度はなんの躊躇もなく美貴が姫に返す。

「そういう意味じゃなくて・・・///」

姫が顔を赤らめ、美貴は頭に?をいくつも浮かばせる。


36 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 23:11

「姫??大丈夫ですか?」

美貴が姫を心配して顔をのぞき込む。

「あ・・・・うん///」

姫はさらに頬を紅潮させる。

「ですが、お顔がさきほどよりも赤くなってますし・・・」
「たん、あたし大丈夫だから。」
「あ!姫、少々失礼します。」

美貴はなにか思いついたかのように声をあげると、姫の前髪を自分の手でまくりあげ、姫の額に自分の額を当てた。

「たん!?///」
「んー、熱が多少あるかもしれません。」

そう言うと美貴は姫の前髪を戻し元の格好にすると、失礼しましたと告げた。

「今日はお部屋でゆっくり休んだほうがよいかと。」
「・・・///」

姫は終始無言だ。

「姫??」
「ふぇ?」
「あの、姫、美貴はそろそろ行かなくてはなりませんので。」
「あ、うん///」

姫はうつむき、頬を赤らませながら小さな声でみきたんのバカとつぶやいた。しかし、そんなことを美貴が知るよしもない。


37 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 23:26

美貴は飯田に一言少し見てきますというとそのまま町の見回りに出た。

「はぁぁ〜、なんか今日は疲れてたかも。」

などと、美貴は独り言を言いながら歩いた。

町の人は美貴を見ると、青いマントだということもあり、すぐにオトメ隊の藤本美貴だとわかった。始めのほうで説明した通り、美貴はオトメ隊の中でも英雄というすごい部類の人物なので顔ですぐわかってしまう町人たちもいた。

「美貴さま!!」

そこへ1人の少女が駆け寄る。
そんな少女を止めようと親もついてきた。

「桃子!!失礼じゃない!だめよ!!」
「いや、いいですよ。」

美貴は親を軽く手で征し、子供に目を向けた。

「こんにちわ。桃子ちゃんだったよね?」
「はいっ!!」

少女は嬉しそうにうなずく。

「どーしたの?」
「あの、私・・・美貴さまにこれをあげたくて!!」

少女はそう言うと美貴の前にミサンガのようなものを持った手を突き出した。

「これを?」
「はい!!」
「も、桃子!!!」

親は子供にやめなさいと言いながらミサンガを取り上げようとする。


38 名前:第1章 投稿日:2005/07/19(火) 23:37

美貴はまたも親を優しく征す。

「ありがと、桃子ちゃん。」

そう言うと美貴は笑顔でミサンガを手にとり、自分の腕につけた。

「どーぉ?美貴に似合うかな?」

美貴はミサンガをつけた腕を子供に見えるようにしゃがむ。

「はい!とっても♪」

一方、子供も嬉しそうに美貴とミサンガを交互に見る。

「じゃぁ、桃子ちゃんには・・・」

そう言うと美貴はおもむろにポケットをあり、それを手のひらにのせた。

「これ、美貴が前に使ってた剣の飾りなんだけど・・よかったらもらって?」
「わぁ〜!!ありがとうございます♪」
「いえいえ。じゃあ美貴は見回りがあるから。」

美貴は立ち上がり、桃子という少女の頭を優しくなでて、親に近づく。

「み、美貴さま!!娘が大変失礼なことを・・・」
「いや、ありがたいですよ。それと・・・これ。なにかの足しにしてください。」

美貴は耳打ちをし、親の手に金貨を何枚か握らせた。

「あ、あ、あ、ありがとうございます!!」
「それでは。」

美貴は爽やかな笑顔で去って行った。


39 名前:ワクワク 投稿日:2005/07/19(火) 23:41
名無飼育さま>き、期待ですか!?あわわわ・・・笑 自分なりにがんばりますっo(^-^)o

名無しの爽快者さま>
更新しましたっ!!
ん?愛ちゃんがいないのはなぜかって?
そりゃあ・・・ね?笑
40 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 01:35

「ふぅぅ・・・ここでちょいやーすも。」

美貴は下に川が流れている小さな土手の草の上にねっころがった。

「はぁ〜ぁ。」

美貴は自分の手を空にかざした。

「空は高いなぁ・・・」

美貴は何を考えるわけでもなくただただ空を凝視する。
そして目をつぶった。



フ〜♪♪


どこからともなく聞こえてくる歌声。
美貴はそれがとても心地よく感じた。


ル〜♪


「・・・きーもちぃ・・・」

感じたことを思わず口に出す美貴。


・・・


しかし突如、心地よいメロディは鳴り止んだ。

「???」

美貴が疑問に思い、体を起こし、メロディの聞こえた辺りを見渡す。

「ん?」

美貴はなにかを見つけた。

「いやっ!!」
「なんでさぁ。俺たちと遊び行こうよ!」
「はなして!」
「いいじゃん。な?」
「いややっ!」

どうやら3人の男たちが少女を無理やり誘っているようだ。

「んだよ!いいからこい!!」

男が少女を無理やり引っ張る。


41 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 01:43

「やめて!!」
「うっせーよ。」

男が少女を殴ろうと右手をあげた。



バシッ!!


「な!?」

男は自分の右手を誰かに掴まれ、思わず声を出す。

「そのへんにしときな。」

男の手を掴みながら冷静に言う美貴。

「なんだよ!!じゃま・・・・み、美貴さま!?」

男は美貴だとわかりあわてて少女の手を放す。

「か弱い相手を無理やり連れてこーなんて卑怯なやりかただよ。」
「あ、その・・・」
「今回は今すぐ立ち去れば見逃す。ただし、次こんなことやったら・・・」

美貴はすごい形相で相手の男たちを睨む。

「も、申し訳ございません!!お、お前ら行くぞ!」
「おぅ。」
「あ、あぁ。」

3人はものすごい勢いで走って行った。

「ったく、最近のやつらは・・・あ、大丈夫??」

美貴は恐怖のあまり座り込んでいる少女に手を差し出した。


42 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 01:52

「あ、はい。」

少女は頭から布のようなものを被っており、顔ははっきり見えない。
そして、少女は美貴の手を取るがなかなか立ち上がらない。

「どーかした?」

美貴は疑問に思い、少女へ問いかける。

「・・・です」
「へ?」
「こ、腰が抜けちゃって立てないんです。」

少女が恥ずかしそうに言う。

「そりゃそうか。あんな目にあったら腰も抜かすよ。」

美貴は笑顔で言うと自分もしゃがみ込んだ。
少女は顔をあまり見せたくないらしく、下を向いたままだ。

「とりあえず道の真ん中じゃ危ないから・・・失礼。」
「ふぇぇ!?」

美貴は少女を軽々と持ち上げた。

「あ、あああの!」
「なんですか?あ、危ないから美貴の首に腕回しといてください。」
「・・・はい。」

美貴の言葉に動揺して少し暴れていた少女も素直に従った。


43 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 02:01

「ここなら平気かな?よっと・・・」

ドサッ。

美貴はさきほど自分がねっころがっていた辺りまで行くと少女を下ろした。

「あ、の、ありがとうございます。」

少女が深々と頭を下げる。

「いえいえ。大したことじゃないですよ。」

美貴も笑顔で返す。

「あ、さっき歌・・・唄ってました・・・よね?」

美貴は恐る恐る少女に聞く。

「あ、聞いてたんですか!?」

少女は美貴の質問に驚き、恥ずかしそうな仕草をした。

「あ、いや、さっきまでここで寝てたんだけど、耳に入ってきちゃって・・・すいません。」
「あやまらんとってください!別にいいんですっ!ただ・・・恥ずかしくて・・///」

美貴は布が透けているため、少女が顔を赤らめているのがわかった。

「上手かったですよ。」
「・・・///」
「名前・・・」
「はぃ?」
「名前教えてくれたらなぁって。」

美貴もまいったなといいながら頭を軽くかく。


44 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 02:08

「あ、この曲は・・・ハッピーサマーウェディングと言いまして・・・」

少女は慌てて美貴の質問に答える。

「あー、そうじゃなくて。」
「えっ?」
「君の名前。いやさ、さっきからなんて呼んでいいかわかんなくて。」
「あぁ、えっとあーしの名前はあ・・・」
「あ?」

少女が一瞬言葉を止めたので美貴が少女の顔をのぞき込む。

「あああ、ら、ら、ラブって言います!」
「ラブさんかぁ〜。なんか変わった名前だねっ。あ、美貴は藤本美貴。」

美貴は自分を指差し、笑顔で名乗った。

「藤本美貴・・・さん?」
「そ。藤本美貴。」
「はぁ。(どこかできいたような・・・)」

ラブの名乗った少女は美貴の名前を聞いて、過去にこの名前を聞いたことがあるのではないかとひとり疑問に思っていた。


45 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 02:25

46 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 02:35


その頃スプリング王国では・・・

「なっち!!」

サクラ隊の元に馬に乗ったひとりの少女が現れた。

「ごっつぁん。どーしたべさぁ?」
「た、大変なんだよ!」

少女、ごっつぁんこと後藤真希はスプリング王国の使者であり皇女の左腕でもある。右は安倍、左は後藤なのだ。

「おー、ごっつぁん久しぶり!」
「ごっちん!」

矢口と吉澤はあまり後藤と接触する機会がないので顔をあわせるのは久々であった。

「やぐつっあんによしこ。悪いけど今日は再会を楽しんでる場合じゃないんだ。」
「どーいうことだべか?」

安倍が馬に乗ったままの後藤に問う。



「実は・・・姫がいなくなったんだ。」



!?


後藤の言葉にサクラ隊全員が注目する。

「え?姫が?」

矢口も開いた口がふさがらないようだ。

「じょーだんきついよごっちん。」

冗談だと疑わない吉澤。

「ほんとに?」

さすがの安倍も驚きを隠せないようだ。


47 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 04:59

「ほんとだよ。今メイドや他の人たちが必死になって城内を探してる。」

いつもほんわかしたムードの後藤だか、今日はピリピリとしたオーラを放っている。

「城外は探してないんですか?」

サクラ隊の中でいちばん冷静な紺野が聞く。

「まだ。城外を探し始めると国民にバレちゃうからね。」
「それはまずいですよね。」
「ですね!」

新垣、亀井が後藤の言葉にうなずく。

「そ。だからごとーはここに来たんだよ。」
「だからごっちんが来た?」

加護の頭の上にはまだ?だらけだ。

「うん。まぁ簡単に話すと・・・」

後藤はサクラ隊だけ城外を探すこと、そしてその際にサクラ隊とバレると国が混乱するので市民の格好でバレないようにすることと全員に伝えた。

「わかったべさ!じゃあ、なっちと亀ちゃん、矢口とあいぼん、新垣とこんこんそれとよっちゃんの3グループで動くこと。それと姫を見つけたら1人はごっつぁんに報告!!いいね?みんな、今から支度してすぐ出発!!」
「はい!!」

全員着替えに一旦城内に消えた。


48 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 05:14

〜安倍・亀井ペア〜

「亀ちゃん、姫はどこにいるかわかるべか?」
「うぅ、絵里にはわからないです・・・」

ふたりはひそひそと話しながら大通りを歩く。

「なっちもさっぱりだべさぁ。」

安倍はお手上げというようにおどけて見せた。

「まず姫はなんでいなくなっちゃったんでしょ?」
「ん〜、いろんな可能性があるから一概にこれとはなっちも言えないけど・・・まず、誰かにさらわれた。次に呼び出された。最後は自分から抜け出した。のどれかだべね。」

安倍は自分の指を折りながら3つの可能性をあげた。

「でもね、なっちが思うにまず始めのさらわれたってのはないと思う。一応城内は警備は万全だし、なによりサクラ隊がいるからそんな怖いことしないだろうし。」
「そうですよね〜。絵里だったら怖くてそんなことしようとも思いませんもん。」

亀井が左右に首を振る。
「なっちでもそうだべさ。とするとあと2つの可能性。2つめの呼び出されたっていうのも可能性はなくはないけどかなり低いね。姫を呼び出すにはまず城内だろうし、伝令や、メイドたちが知ってるはずだべ?」
「言われてみれば・・・」


49 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 05:22

「ってことはやっぱり姫が自分で抜け出したってことですか?」
「うん。その可能性がかなり高いね。」

亀井はうぅんとまた悩む。

「でもなんで抜け出そうなんて考えたんでしょうね?」
「それはなっちも姫じゃないからわからないべさぁ。」

安倍は亀井の質問に苦笑する。

「だから姫といちばん年が近くて仲の良い新垣とこんこんを一緒にして探させようと思ったんだべ。あとはなっちと矢口にこれまたそこそこ仲の良い亀ちゃんとあいぼんにしたべさ。」

亀井は普段はあまりものを考えていなさそうな安倍がサクラ隊のメンバーの普段を把握し、そこまで考えているとは思っていなかった。

「それに見つけ出すためにひとつ強力な線を作っといたほうがへたにバラバラにするより意見がまとまって見つかりやすいべ?」
「ほぉ!!安倍さんすごいです!」

亀井はただただ安倍に感心して歩いていた。


50 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 05:25

51 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 05:49

〜矢口・加護ペア〜

「あぁ〜、矢口さぁん。姫はどこにいるのぉ?」
「おいらが知ってたら探すのにこんなくろーしねーよっ!!」
「そりゃそーだ。」

あはははと加護が笑い、なんじゃそりゃと矢口がこける。

「けどさ、まじで姫どこ行っちゃったんだろ・・・」
「ですね〜。でも前から姫は外ってどんな感じなのとかは良く聞いてきましたよ!!」
「はぁ?なんで加護がんな情報持ってんだよ!!」

今度は矢口がきゃはははと笑いながら加護の背中をバシバシ叩く。

「いたっ!いだ!ちょ、ちょっとやぐつっあん痛い!」
「ん?あ、ごめんごめん!つい面白くて。」

矢口はまだ笑いをこらえているようで小さくクククククッと声をもらす。

「なんでって言われても、よく聞かれたのは事実なんだもん!!」
「・・・まじで?」
「まじまじ!!チョー大まじ!!」

加護がガクガクと首を縦に振る。


52 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 05:59

「そっかぁ。姫も外の世界が気になってたんだなぁ・・・おいらてっきり姫は城だけで生きてくタイプかと思ってたよ。」

矢口が青々とした空を見上げる。

「あいぼんもです。でも話してみると姫は意外と興味深々なんですよねぇ〜。」

矢口に続き加護もまた顔をあげる。

「なんかさ、おいらたち姫のこと全然わかってないな?」
「うん。矢口さんもあいぼんもまだまだ姫のこと理解してない!!」

ふたりは笑って顔を見合わせる。

「なははは!」
「にししし!」

「そんじゃあ今日から姫のこといちばん理解しちゃう?」
「しちゃいましょ〜!!」

矢口のかけ声に加護は拳をつくりおーっと高々とあげる。

「よっしゃ〜!!おいらたちが姫を見つけるぜぃ!!」
「ぜぃ!!」

小さな小さなふたりは勢い良く前へと走り出した。


53 名前:爽快者 投稿日:2005/07/20(水) 13:06
おぉ更新されてるぅ☆

かなりおもしろくなりそうな予感(´∀`)

作者さん頑張ってください☆
54 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 22:13

〜吉澤・新垣・紺野〜

「とりあえず作戦を練りましょう。」

そう切り出したのはサクラ隊1の策略家、紺野あさ美だった。

「そーだな。紺野が言うなら・・・」

吉澤は紺野の提案に乗る。

「一応これから探す目安とかもつけといたほうがいいですしねっ!」

新垣も意義なしのようだ。

「では、まずどこから探すかですけど・・・みなさんの心当たりは?」

円になって座り込む3人。そして紺野は地面に小枝で表のようなものを書く。

「う〜ん、心当たり・・・心当たり・・・ってもなぁ・・・ガキさんは?」

吉澤が頭を抱える。

「あ〜、あたしも・・・あんまり・・・あっ!!」
「なに?なんか思い出した!?」

新垣の声に吉澤が期待の視線を送る。

「あ、役に立つかはわかんないんですけど・・・」

新垣がもぞもぞと言う。

55 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 22:24

「ガキさん、言ってみて?もしかしたらそれが関連してるかもしれないし・・・」

紺野は動かしていた手を止め、新垣を見た。

「あ、うん。あの・・・前に姫と話してたときに・・・」

話し出した新垣を2人はじっと見つめる。

「なんで・・・その・・・・『あれ』があるんだろうって・・・」

新垣は言いにくそうに言う。

「『あれ』???」

吉澤は新垣の言う『あれ』というものが思いつかずに、頭に?をいくつか浮かべていた。

「その・・・あれっていうのが『壁』・・・なんですけど・・・」


!?


新垣の口から出た『壁』という単語に2人はひどく驚いた。

『壁』とはスプリング王国とガールズ王国の境目に作られたまさに『壁』なのだ。これをスプリング王国では主に『スプリガール』と呼んでいる。

「か、壁ってスプリガールか!?」

吉澤が再度新垣に確認する。

「はい・・・」


56 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 22:35

「う〜ん・・・これは有力な情報ですね。」

紺野がまたなにかを書き出す。

「あ、あたし役に立った??」

新垣が紺野に問う。

「うんっ。ガキさんの情報のおかげである程度は絞れました!」

紺野が笑顔で答える。

「紺野。ほんとか?」
「はい。2人ともこれを見てください。」

そう言うと紺野はさきほどまで書いていた部分を指した。

「まず、姫がなぜいなくなったかですが・・・これはおそらく外に出てみたいという願望があったためだと思います。」

うんうんと2人は無言でうなずく。

「そして、その願望や自分の疑問をガキさんや私に話していました。たぶん外で暮らしている私の話しを聞きたかったんでしょう。」
「姫もいろいろ考えてんだな。」

吉澤が意外だと言う風に笑って見せる。

「重要なのはここからです。」

紺野の言葉に2人はゴクリとつばを飲んだ。


57 名前:第1章 投稿日:2005/07/20(水) 22:45

「ガキさんの『スプリガール』の話です。これは姫がいちばん気になっていたことだと思います。私にもなんであれあるんやろーっとつぶやいてましたしね。まぁ、その時私は『あれ』がなんなのかわかっていませんでしたが・・・」
「こんこんにもわかんないことなんてあるの!?」

新垣がビックリし、吉澤も密かに驚いていた。

「では、みなさんは気になったことを解決するにはどーしますか?」

紺野が2人に質問を投げかける。

「よしざーだったら・・・もっと知りたいって思うな。」
「あたしもです!だから・・・」

吉澤にの言い分に新垣も同意する。




「「その場に行ってみる!!!」」

吉澤、新垣の声が見事にハモった。

「はい!つまりは姫もそのような行動に出たのではないかというのが私の推測です。」

紺野はやりきったというような満足感溢れた顔だ。


58 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 22:28
面白そうなの発見!!
みきてぃかっけー!あやや、あいぼん、なっち可愛い!!
59 名前:第1章 投稿日:2005/07/22(金) 01:57

「ほうほう!姫はその場に・・・その場って?」

吉澤は納得して一度うなずくも、『その場』というのがわからずに再び首をかしげる。

「吉澤さんの言う通りだよ!その場ってスプリガールはすぐそこに見えてるじゃん!!」

新垣が自分たちのところから目と鼻の先にあるスプリガールを指差して言った。

「はい!でも姫はあそこなんです。」

紺野が言い切る。

「あー、あのさ、うち話がよくわかんなくなってきたんだけど・・・」

吉澤が混乱の表情を浮かべる。

「こんこん。だからスプリガールはすぐそこで、姫らしき人は・・・」

新垣が指差しながら続ける。

「あ、えっとですね。姫のいる場所なんですが、正しくはあそこであってあそこでないんです。」
「は?」
「え?」

ふたりは口をポカーンと開けて紺野を見る。


60 名前:第1章 投稿日:2005/07/22(金) 02:07

「詳しく言うとですね、姫はスプリガールの向こう側、つまりガールズ王国におられると思います。」

「あっ、よしざーにもやっとわかったよ・・・」
「そっか!姫はあっちにね・・・」



「「って、えぇ!?」」

ふたり同時にこれでもかというくらい目を見開く。

「ちょ、ちょ、ちょっと待て!!姫があっちに!?」
「はい。」
「姫がガールズ王国にいるの!?」
「そーです。」

慌てるふたりにあくまで冷静に返す紺野。

「まじかよ!!ありえねぇ・・・」
「姫が・・・ガールズに・・・」

どうやらふたりは動揺を隠せないようだ。

「姫はガールズ王国にいらっしゃいます。したがって、私はガールズ王国を捜索しなくてはなりません。」
「あ、あぁ。もしそれが本当だったら姫を早くみつけ出さないと!」
「姫が向こうのやつらにスプリングの姫だとバレたらどうなってしまうか・・・」

吉澤と新垣は落ち着くと今度は険しい顔つきになった。


61 名前:第1章 投稿日:2005/07/22(金) 02:18

「そうです。そして捜索するにあたって私たちの身も危険にさらされるかもしれません。お二人とも今のうちに覚悟を・・・」

紺野がふたりに忠告をする。

「んなもん必要ねーよ。」
「えっ?」

吉澤の否定に今度は冷静な紺野が驚く。

「そうですね!」

新垣も吉澤の言葉に笑顔でうなずく。

「お、お二人とも!言っておきますが、この任務はとても危険であり・・・」
「そんなの毎度のことじゃん!あたしだってだてにさくら隊じゃないよ?」
「新垣の言う通りだよ。うちらはいくつも危険な任務こなしてきたし、それをやるために集まったやつらなんだよ?それに姫を守るのが先じゃん。これは紺野もっしょ?」

新垣、吉澤が笑顔で紺野を見る。しかしその笑顔はいつもの冗談混じりな笑顔ではなく、なにか決意のこもったものだと紺野は感じた。

「そうでした。私としたことがすっかり忘れてましたよ。」
「そんなこともあるよ!」

新垣が紺野の肩をポンポンと叩いた。


62 名前:第1章 投稿日:2005/07/22(金) 02:27

「よしっ!で、これからどうするよ?」

ふたりのやり取りを見て吉澤が問う。

「はい。ガールズ王国にいらっしゃると言いましたが、姫はスプリガールからそう遠くには行ってないはずです。なにしろ向こうの土地勘は私たちスプリング王国の者にないですからね。」
「そりゃそうだ!っていうか向こうのことがなんでもわかるなら、あたしたちさくら隊も作る必要ないしねっ!」

新垣が苦笑しながら言う。

「うん。そこで・・・私たちはガールズ王国側のスプリガール周辺を捜索します。」
「おう!!」
「わかった!」

紺野の言葉に吉澤、新垣のふたりは大きくうなずく。

「しかし、危険が大きいことは確かなのでひとりひとりの役割を決めておきます。まずは吉澤さん。」
「はいよ。よしざーは何すりゃあいい?」
「吉澤さんはこちら側に残っていただきます。」
「え?」

先ほどまで乗り込む気満々だった吉澤は意表をつかれ、再び驚いた顔をしている。


63 名前:第1章 投稿日:2005/07/22(金) 02:38

「向こう側に乗り込むにはこちらの情報も必要ですし、なにより危険な状態になったときの隊出動要請、そして後藤さんへの伝達係りとしてこちらに1人残らなければなりません。」
「それはそうだけどさ・・・」

吉澤は明らかに不満そうだ。

「伝達は速くなければ意味がありません。危険な目にあった場合、早く助けを呼ばなければ命を落とす可能性もなきにしもあらずです。さらに姫を発見した場合、早く後藤さんに伝えなければなりません。そして、この中でいちばん足が速いのは吉澤さんです。よって吉澤さんがこちらに残るのがいちばんベストな対策なんです。」

紺野が吉澤を見つめ、吉澤は少し考えた。

「・・・わかった。それが今いちばんいい対策なら、よしざーはこっちに残るよ!」

吉澤が笑顔で言う。

「では伝達係りは吉澤さんで決まりです。」
「任しとけ!」

吉澤はバンと自分の胸を叩いた。


64 名前:第1章 投稿日:2005/07/22(金) 02:50

「次に、向こうに乗り込んでからですが・・・まずはふたりで姫を捜索します。」
「オッケィ!」

新垣が指で丸を作って見せる。

「姫を見つけてもまずは遠くから様子を伺います。もしかしたらあちら側の者たちに捕まってる可能性もあるので。そして、しばらくしたら1人がこちらつまり吉澤さんの元に戻ります。この役は私が引き受けます。」
「あ、あたしじゃないの!?」

新垣はその役割は自分ではないのかと主張する。

「私です。姫といちばん交流のあるガキさんが残るのがベストですし、その場の対処もガキさんがベストでしょう。もし危険を感じた時は私も残ります。」
「・・・了解!!あたし、がんばるよ。」

新垣がガッツポーズをする。

「吉澤さん、もし私が長い時間戻らなかったら援軍要請の合図と取ってください。」
「おぅ。」
「それではひとまずスプリガールの前まで行きましょう。」

紺野の一声で立ち上がり、歩き始めた。


65 名前:ワクワク 投稿日:2005/07/22(金) 02:54
少量更新です(苦笑)

爽快者さま>読者のみなさんに面白いと思っていただけるようがんばりますo(^-^)o

名無飼育さま>面白いですか!?そう思っていただけて良かったです!!そしてそのお三方はそれぞれ味のあるキャラにしてみました。どうですか?笑
66 名前:名無し@ 投稿日:2005/07/22(金) 14:48
微妙ー・・・まぁ、頑張ってくれや
67 名前:爽快者 投稿日:2005/07/22(金) 23:38
紺ちゃんナイス推理☆

次回楽しみに待ってますね☆
68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/23(土) 23:32
さくら隊いいね〜
次回も楽しみにまってます。
69 名前:星龍 投稿日:2005/07/24(日) 11:09
すごく面白いです。
さすが紺野さん・・。
この後の更新楽しみにしてます。
70 名前:名無し 投稿日:2005/07/28(木) 21:17
愛ちゃんがお姫様かぁぁ………
( ̄ー+ ̄)
それに、さくら隊が良い感じですねぇ。次回更新期待しております。
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/29(金) 22:45
>>70
だぁあ!ageるなネタバレすんなぁあ!
72 名前:第一章 投稿日:2005/07/30(土) 02:17

「んでさ、そいつがまた転んでんの!!」
「あははは!その子面白いですね〜!」

美貴とラブはいつの間にか仲良くなっていた。

「あ。やっと笑った!!」
「ふぇ?」

美貴の思いもよらない発言にラブは目を見開いていた。

「いや、ラブちゃんさっきから一回も笑わないからさ、美貴つまんないのかな〜ってちょっと思ってた。」
「あ、いや、あーしつまんないなんて・・・」

否定するためにラブが顔の前で手をブンブンと振る。

「ん、まあ今笑ってくれたから全然オッケィだよ!」

美貴が笑顔で言う。

「っていうかさ、ラブちゃんって天然でしょ?」
「あ、あーし天然じゃないがしっ!」
「真の天然は自分の天然さに気付かないんだよ〜?」

美貴がいつも梨華をからかっているときのような顔になる。

「むぅぅ〜。」

ラブが少し頬を膨らませた。


73 名前:第一章 投稿日:2005/07/30(土) 02:30

そんな様子を見て普段人をあまりかわいいとか綺麗とか思わない美貴がかわいいなぁなんて思っていた。

「アッ、そうや!」
「ん?どうしたの?」

美貴が上の空だったことに気付かずに、今度はラブが声を上げた。

「さっきから気になってたんやけど、なんで美貴ちゃんのネックレスは指輪が2つついてるん?」

いつも美貴の首にはチェーンに大小のふたつ、それぞれ何か小さく文字が刻まれているだけのシンプルな指輪がつけられているのだ。

「あぁ、これはね、まあ趣味みたいな?」
「そーなんや。かわいいねっ!」

ラブは美貴の首についている2つの指輪を見て無邪気に笑った。
美貴も笑ってはいるが、その顔はどこか寂しそうだ。

「あーしの趣味は歌うことなんやぁ!」

ラブが嬉しそうに言う。

「だろーね。ラブちゃんさっきも歌ってたし!そうだ!なんか歌ってよ!!」

今度は美貴が嬉しそうにラブを促す。


74 名前:ワクワク 投稿日:2005/07/30(土) 02:32
短い更新ですいません(__)
明日にまた更新しますんで、少々お待ちを!レス返しも明日しまっす!
75 名前:爽快社☆ 投稿日:2005/07/30(土) 11:59
いやぁラブちゃん可愛いぃですね(´∀`)
更新楽しみに待ってますね☆
76 名前:みきみき 投稿日:2005/07/30(土) 14:55
初めて読まさしていただきました!!
亜弥ちゃんどこいったんだ?
77 名前:第1章 投稿日:2005/07/31(日) 02:32

「あ、あーしがですか!?」
「そ。ここにはラブちゃんと美貴しかいないしさっ!」

美貴とラブの周りには人ひとりおらず、まるでこの世にふたりしか存在していないかのようだ。

「でも・・・」

それでもラブはためらう。よほど恥ずかしいのだろう。

「だめ・・・かな?」

美貴がラブの顔を覗きこみながら言う。

「美貴さ、その、なんていうーかさ・・・ラブちゃんの歌好きかも・・・って美貴なに言ってんだろ///」

美貴の顔がほんのりと紅くなる。

「あ、あの!あーしなんかでよければ・・・///」

美貴につられてラブの頬もこれでもかというくらいに紅く染まっていた。

「ホントに!?」
「はい///」
「やったぁ!!」

美貴は今まで誰にも見せたことのないくらいの笑顔で喜んだ。

「じゃあ・・・なんの歌がいいですか?」
「なんでも!ラブちゃんの好きな歌でいいよっ!」

美貴は子供のように目を輝かせていた。


78 名前:第1章 投稿日:2005/08/06(土) 02:12

「じゃあ・・・いいですか?」
「うん!」

ラブは大きく息を吸い込み、心を落ち着かせる。その横で美貴はまだかまだかと目を輝かす。

「さくら色〜片想いのひとぉ〜♪」
「・・・」
「さくら色〜目があえばほほそめぇ〜♪」

ラブの歌声に美貴は目をつぶり聞きいる。

「少しずつ〜おとなに近づくぅ〜♪」
「・・・」
「でもぉだめねぇ〜会話にならないのぉ〜♪」

ラブは歌に感情を込めているのか、どこか寂しそうで切ない顔だ。そのラブの表情が美貴をドキドキさせる。
美貴はその鼓動をどこか心地好いと思いながら目を開け、空を見る。

「あぁ〜さくら満開〜♪ねぇさくら満開〜胸のなか〜♪」


心地好い暖かい風がふたりに吹き付ける。


79 名前:第1章 投稿日:2005/08/06(土) 02:13


・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
80 名前:第1章 投稿日:2005/08/06(土) 02:26

「フゥ・・・」

ラブは一曲歌い終えた安心と、疲れで一度息をついた。

「あ、ああの、どうでしたかぁ?」

そして横にねっ転がっているたったひとりの観客、美貴に視線を合わせる。

「ん〜・・・」

美貴は少し間を空けてノビをし、体を起こした。

「・・・やっぱり。あーしの歌、だめでしたよね・・・」

ラブは美貴の顔から目の前の川に視線を移した。

「あーし才能ないです。歌好きなだけで・・・」

ラブは自信がなさそうに笑いながら言った。

「いいんじゃん?」
「ふぇ?」

美貴の思わぬ発言にラブはゆっくりと美貴に視線を戻す。

「いや、美貴専門的なことはよくわかんないけどさ・・・ラブちゃんは歌好きなんだよね?」
「はいっ!!」

美貴の歌が好きという言葉にこれでもかというくらい大きな声で答えるラブ。

「美貴はさ、好きってのも才能だと思うよ?」
「え?」
「だーかーら!歌を好きって思えること自体が才能なんじゃないかな。好きじゃないとやってても楽しくないし、なによりやろーと思わないじゃん?」

美貴が笑顔でラブに言葉を返す。


81 名前:第1章 投稿日:2005/08/07(日) 01:14

「そ、そーですか?」
「うん!」

疑問そうなラブに美貴が真剣に答える。

「美貴にはさ・・・そーいうのないから・・・なんか、羨ましいよ・・・」

美貴は寂しそうに笑う。

「あぁ!もう!なんかしんみりしちゃったけどさ、少なくとも美貴はラブちゃんには才能があると思う!!」
「美貴ちゃん・・・」
「この美貴がラブちゃんのファンだもん。」

美貴は少し照れくさそうに頭をかくと、そのまま視線を川へ戻してしまった。

「ふふふっ!美貴ちゃんって・・・ええ人やね!」

そんな美貴を見てラブは小さく笑う。

「はい!?」

ラブの言葉に美貴は驚いた。

「美貴ちゃんはあーしの記念すべきファン第1号やね♪」
「まぁ、そういうことにしといてあげてもいいよ。」

美貴の細やかな抵抗にまたもラブは笑う。今度は笑うというより微笑むのほうが正しいだろう。


82 名前:星龍 投稿日:2005/08/10(水) 00:50
久しぶりに来たら更新されてるじゃないですか。
お疲れ様です。
この2人良いですね。
これからが楽しみです。
作者様のペースで頑張ってください
83 名前:第1章 投稿日:2005/08/10(水) 23:29

その頃・・・

「二人とも気をつけていけよ。」

大きな壁の前に立つ二人、紺野と新垣に吉澤が神妙な面持ちで告げる。

「はいっ!!吉澤さん、見張り兼伝達役頼みます。」
「わかってるよ。紺野、わかってると思うけど今うちらに武器はない。向こうに行って危険そうだったらすぐに戻ってこいよ?」
「はい。わかっています。」
「うっし。」

吉澤が紺野と新垣の頭をガシガシと撫でる。

「わ!?ちょ、ちょっと吉澤さん!!痛いですよ〜。」

新垣が吉澤の手から必死に逃れようとしている。
しかしそれより先に吉澤が手を退けると今度は二人の肩に手を乗せ、グイッと自分の方へ引き寄せた。

「え?」
「なっ!?」

紺野、新垣もいきなりの吉澤の行動に驚く。しかしそんな二人をよそに、吉澤は常に真剣な顔だ。

「いいな!ぜっったい無事に帰ってこい!!もちろん姫もいっしょにな!でないといやってほど地獄のトレーニングやらせるぞ。」

最後の部分を言い終えてやっと笑顔になった吉澤。


84 名前:第1章 投稿日:2005/08/10(水) 23:41

吉澤の言葉に紺野と新垣は青ざめ、えぇ!やらそんな!やら抗議の言葉を数数発する。よほどその『地獄のトレーニング』とやらがいやなのだろう。

「あ。でも・・・」

新垣が何か気付いたかのように声をあげる。

「なんだよ。」

そんな新垣に吉澤が気付く。

「無事に帰ってこれなかったらトレーニング自体受けられませんよ。」
「そう言われてみれば・・・」

紺野もうんうんと頷いている。

「あ・・・まあ、細かいことは気にすんな〜!!あははは。」
「吉澤気付いてなかったんですか!?今あって言いましたよね?あって!」
「ん?よしざーそんなこと言った?ガキさんの聞き間違いじゃね?」
「いや、ぜっったい言いましたよっ!!」

とぼける吉澤に新垣がジリジリと詰め寄る。

「いやいや、よしざーは・・・」
「言いましたよね?っていうか言いました!!」
「まあまあ、そんな気にするなよ〜!そんな些細なことを気にするよーじゃ偉大な騎士になれないぜ?」

どさくさに紛れてちょっとかっちょいいこと言ったな、なんて思っている吉澤ひとみ。


85 名前:第1章 投稿日:2005/08/10(水) 23:53

「いや、全然かっこよくないっすよ!!」
「へ?なになに?ガキさんなんでよしざーが考えてることわかんの!?もしやエスパー!?そんなんですかい?エスパー新垣!」

吉澤が本気でびっくりしている。

「まぁ。あたしの家系は昔からエスパーの血が受け継がれてまして・・・・って違いますよっ!」

新垣流ノリツッコミが決まる。

「よっ!新垣流ノリツッコミ!あっぱれだぁ〜。」

ノリツッコミをさせた張本人、吉澤が笑顔でもり立てる。

「いやいやいや!そんなぁ///」

新垣は否定しながらも、そうなんですよね〜なんて呟いている。

「はぁ〜。早く干し芋が食べたい・・・」

騒がしい二人の横で一人食べ物を恋しく思う紺野。

「ちょいちょい!こんこん!帰っておいでぇ?」

見かねた吉澤が紺野の前でぶんぶんと手を振る。

「おーい!こんこぉん〜!」

吉澤に続いて新垣も紺野の名を呼ぶ。

「えっ?はっ!?あぁすいません。ついつい・・・」

二人のおかげでようやく紺野も気が付いたようだ。


86 名前:ワクワク 投稿日:2005/08/11(木) 00:06
度々少量更新ですみません(*_*)

68名無飼育さま>今のところさくら隊のほうが出演率多目な感じですが徐徐にオトメさんたちも出していきますので(*^o^*)

名無しさま>ネタバレは控えていただけるとありがたいです(^_^;)さくらはまだまだ活躍させちゃいますよぉ?(笑)

71名無飼育さま>ご注意ありがとうございますm(_ _)m

爽快者さま>カワエエカワエエですわ(笑)作者が書くとどーしてもこんな感じになってしまうのですf(^_^;)

みきみきさま>白板のほうではいつも感想ありがとうございます!亜弥ちゃんは…(笑)

星龍さま>いつもいつも感想ありがとうございますっ!作者ペースでよろしいんですかい?(笑)
87 名前:星龍 投稿日:2005/08/11(木) 13:02
更新お疲れ様です。
この3人面白いですねぇ(笑)
もちろん作者様のペースで良いですよ。
マイペースに頑張ってください!
88 名前:第1章 投稿日:2005/08/30(火) 00:45

紺野の意識が戻ってきたところで、新垣がよしっと一息ついた。

「じゃあ、出動しよっか?」
「そうですね。」

そういうと二人は目の前にでかでかとそびえ建つスプリガールの横でささやかだが、堂々と存在している木に手をかけた。
スプリガールにはきちんとしたスプリング王国専用に作られた出入口が存在する。もちろんその門は常に見張り番の兵士が何人かついている。
今回の任務はけして外部に漏れてはいけない任務なので、紺野はあえて木からの潜入を提案した。

「よしざー待ってるから。」

木に登り終え、壁をまたぐ二人にもう一度吉澤が言う。

「さくら隊新垣里沙!行って参ります。」
「同じくさくら隊、紺野あさ美行って参ります。」

二人が笑顔で敬礼をする。

「無事帰還せよ!」

吉澤も二人に敬礼を返した。
吉澤の言葉に「はっ!」と返事を返すと新垣、紺野の二人は壁の向こう側へと姿を消した。

「まじで無事帰還しなかったらただじゃおかないからな・・・」

吉澤は敬礼していた手を下げると空を見上げながらつぶやいた。

89 名前:第1章 投稿日:2005/08/30(火) 00:46

***

90 名前:第1章 投稿日:2005/08/30(火) 00:59

「よっと。」


バサッ。


一人の少女がキレイに地へと降り立つ。

「あ・・・」


ドンッ!


そしてもう一人は見事に尻餅を着いて着地。

「大丈夫?こんこん。」
「いたたた・・・か、完璧です。」

こんこんこと紺野あさ美は土の付いたオシリをさすりながら言った。

「やっぱ広いね。」

紺野が立ち上がるのに手を貸しながら新垣は辺りを見回した。

「そうだね。やっぱりこっちでもスプリガールには人を近づけないっていうことだよ。」
「まあ近づけって言われても近づきたくないけどねっ。」
「それもそうですね。」

二人の顔が少し和む。緩んだ顔を先に引き締めたのは紺野だった。

「ここからが要注意区域だから気を抜かないようにね?」
「わかってるよ。これは国をかけた任務だからね。」

紺野に続き、新垣も顔を一度パシッと叩いて気合いを入れた。

「で、どこから探す?」
「そうですね・・・まずはあっちのほうを探してみましょう。」
「了解。」

二人はついに歩き出した。

91 名前:第1章 投稿日:2005/08/30(火) 01:09

「あっ。ねぇラブちゃん。」
「なんですか?」

美貴とラブの二人は相変わらず会話を楽しんでいた。

「今度の日曜に祭りがあるの知ってる?」
「祭り・・・?」
「そう。ってわかんないか。これが結構盛大でさっ!」
「へぇ〜。」

ラブは興味深そうに美貴の話の続きを待つ。

「あ、でも祭りって言ってもただの祭りじゃないんだよ?この祭りにはいろんな催しがあるんだけど・・・」
「うんうん。」

美貴が身ぶり手ぶりを加えて話す。

「中でもメインなのが祭りの最後のほうにあるダンスパーティーなんだ!!」
「ダンスパーティー?」
「そっ!そのダンスパーティーが毎年一番盛り上がるんだよっ!」

ラブは美貴の表情を見て本当に楽しいのだろうと思っていた。

92 名前:ワクワク 投稿日:2005/08/30(火) 01:13
めっちゃ少量ですいません(^。^;)

星龍さま>初めてめずらしい三人の絡みに挑戦してみました。なので星龍さまに面白いと言っていただいてホッとしております(笑)
最近やたらと忙しい日々を送っておりまして更新が遅れております。どうもすいませんm(_ _)m
93 名前:第1章 投稿日:2005/08/30(火) 07:54

「前方確認。敵はなしっ。」

紺野が先を行き、それに新垣が続く。
ここら辺一帯は木が多く、誰にも見つからないよう隠れながら進むには絶好のポイントだ。近くには川が流れ、見渡しもそこそこ悪くはない。

サササササッ。

「よしっ。ガキさん。オッケーです!」

また木から木へと移った紺野が新垣に前方確認をし、合図を送ったその時・・・

「こんこん、あれ!」

新垣が川沿いの土手辺りに人影を発見し、指をさした。

「え?」

紺野は前方を確認していたため、前方より少しはずれたところにいる人影には気づかなかったようだ。
紺野が急いで新垣のいる場所まで戻り、指の先に目を向ける。

「あ・・・二人いますね。」

二人の視線の先には川沿いに座り、なにやら楽しげに話している人たちがいた。

「うん。あれさ、多分こっち側・・・姫だと思う。」

新垣が紺野に言うと、紺野はさらに目を凝らして新垣の言ったほうを見る。




「・・・姫発見。」

姫の確認をした紺野の第一声だった。

94 名前:第1章 投稿日:2005/09/09(金) 21:55

「姫と一緒にいるのだれだろ?」

新垣が紺野に問う。

「わかりません。ただ姫に危害を加えてないのは確かです。」
「へ?なんでそんなことわかる・・・」




『あははは!楽しそうやざぁ〜!』

新垣と紺野が顔を見合わせる。

「うん。なるほど。確かにあれは楽しいときに出る姫の声だね。」

その独特の声色に新垣は紺野の言葉は間違っていないと確信する。

「ねっ。よし、それじゃあ私は吉澤さんに姫を発見したことを連絡に・・・」
「えぇ!?コンコンもう行っちゃうの!?」

紺野の唐突な言葉に新垣は思わず顔をしかめる。いくら作戦だからとはいえここは敵地、さくら隊の新垣でもひとりでここに残されるのにかなり不安を感じた。

「ガキさん。これはあくまで姫を連れ戻すための任務です。もし私が長い間吉澤さんのところへ行かなければ吉澤さんはそれを援軍要請だととってしまいます。だから・・・」
「わかってる、わかってるんだけどさ・・・」

新垣はどうしても異国の不安に慣れないようだ。


95 名前:第1章 投稿日:2005/09/09(金) 23:07

「ガキさんなら大丈夫。さくら隊で一番がんばってるのガキさんじゃない。私は知ってるよ?みんなが寝てるときもひとりで特訓してるでしょ?」
「あ、そ、それは」
「ふふふっ。気付いてないと思ってた?でもああも毎日擦り傷が増えてたらだれでもオカシイと思うよ。まあたまたま私がその日の夜に読書してたから気付いたっていうのもあるんだけどね。」

紺野がだからガキさんなら大丈夫と得意気に言う。

「人一倍努力してるんだから。」
「・・・うん。ありがと、コンコン!」
「いえいえ。では私は吉澤さんのところに行きます。姫を頼みましたよ?」

紺野が元来た場所に戻りかけて、振り返った。

「壁の向こうでガキさんと姫が帰ってくるのを待ってます!」

新垣が笑顔でVサインを作る。

「この新垣に不可能はありませ〜ん!なんちゃって。ははは。」

走り出した紺野に最後のなっちゃってというのは聞こえなかったのだろう。
それでも新垣の顔からもう不安の不の字もなくなっていた。

「よーし。さくら隊新垣里沙、姫救出特別任務を遂行します。」

新垣はひとりやる気にみちあふれていた。


96 名前:第1章 投稿日:2005/09/09(金) 23:08

***

97 名前:第1章 投稿日:2005/09/09(金) 23:21

「ダンスパーティーはほんっとサイコーなんだよ?」

一方美貴とラブはまだ祭りの話を続けていた。

「盛大なんですか?」
「そりゃあね、なんてってたって国の一大行事だから〜!」

美貴の言う祭りとはガールズ王国内催される祭りの中で唯一国レベル、国をあげての盛大な祭りなのだ。
それ故、普段はこれといった休日がないオトメ隊にとってこの祭りは唯一の休日、安らぎの一時だ。
ただし、国レベルということもあり、ガールズ王国の選ばれし戦士たちオトメ隊はこの祭りの参加を断り、自室で休むというのは許されていない。いわゆる強制参加というやつだ。しかし、それでも休日のないオトメ隊の面々はこの祭りについての文句はひとつも言わない。
なんだかんだと言いながらオトメ隊の戦士たちもこの祭りを楽しみにしているのだろう。

「国をあげてやったらよっぽどすごいんやねぇ!!」

ラブは自分の頭の中で祭りの図を想像する。

「あぁ、うん。でもひとつ問題があるんだよね・・・」

美貴は昨年の祭りを思い出しているのか、多少笑顔がひきつった。


98 名前:第1章 投稿日:2005/09/09(金) 23:33

「問題?」
「そ。これがまた美貴とってかなーり重要な問題・・・なんだよ・・・」

美貴はあーぁやらふぅやらため息を漏らす。そうとう気にしているようだ。

「なんやの??」

ラブは不思議そうに美貴に尋ねる。

「・・・ナー・・・がさ・・・」

美貴の声が急に小さくなり、ラブは聞き取りきれない。

「ふぇ?」
「その・・・パ、パートナーがね・・・」
「パートナー??」

ラブの頭にはいくつもの?が浮かぶ。

「そう!ダンスパーティーはパートナーと一緒に行くことが義務付けられてんの。」

美貴が困ったように頭を抱える。

「え?でも美貴ちゃんやったらパートナー困らんのとちゃうん?」

ラブは美貴の容姿、性格の良さ、そして自分を助けだしてくれたときの強さ、なにを取っても非難しようのない美貴ならパートナーには困らないのではないか、いや困らないだろうと思った。

「いや、困らないちゃ困らないんだけど・・・その・・・毎年申し込まれる数が・・・すごくて・・・」

美貴なら誘うほうで困るのではなく、誘われるほうで困るのだと聞くとラブはなんだか妙に納得してしまった。


99 名前:第1章 投稿日:2005/09/09(金) 23:46

「またさ・・・その中でも断れないお方がひとりいて・・・結局いつもその方と踊ってるんだけどね。」

美貴の口から出た『お方』。ラブはこの美貴からお方と呼ばれるのだからよっぽどすごい人なのだろうと思った。

「そうなんやぁ・・・」

ラブは困った美貴の表情がなんだか面白くてついつい見いってしまった。

「・・・・ゃ・・・」

(ふふふっ。美貴ちゃんの困った顔ってなんだかあんまり見れんような気がするやざ。)

「・・・ちゃ・・・ん」

(困った顔でもきれいな人はきれいなんやね。)

「ラブちゃん!!」
「へ!?」

ラブが気が付くと美貴の顔がどアップで目に入る。

「なに?美貴の顔になんかついてる?っていうか美貴の話ちゃんと聞いてた?」
「き、き、聞いてたやよ!!あるお方からの誘いを毎年断れんくてやろ?」

美貴はやれやれといった感じでラブを見るとぼそっとつぶやいた。

「美貴が聞いてほしかったのその後だったんだけど・・・」

そんな美貴の囁きにラブが気付くはずもなかった。


100 名前:第1章 投稿日:2005/09/10(土) 00:17

「あのさ!ラブちゃん・・・」
「は、はい?」

急に美貴の声が大きくなったのにビックリしたラブは目を大きく見開いてじっと美貴を見た。




「おーーい!!お姉ちゃぁん!」

どこからともなく誰かが姉を呼ぶ声。

美貴とラブが二人してその声の主の方へ目をやる。

「まったく。だれだよ・・・こんな大事なときに。」

美貴は少しというかかなりタイミングの悪い声に少し飽きれ気味で見る。

「あ・・・え!?」

ラブは声の主を見た途端にまた目を見開く。今度は美貴の声が大きかったことよりもさらに驚いているようだ。

「ラブちゃん?どぉし・・・」
「ガキさん!?」

美貴が声をかける前にラブが名前を呼び、立ち上がる。

「お姉ちゃん!もう、どこ行っちゃったのかと思ったよ〜!」

少女はすかさずラブへと駆け寄る。
美貴は駆け寄った少女に呆気にとられながらラブと少女を交互に見る。

「お、お姉・・・ちゃん?」

ラブが不思議そうにガキさんと呼んだ少女を見る。

「もう!お姉ちゃん!!こんなところでボケないでよぉ〜。」

少女がケラケラと笑う。


101 名前:第1章 投稿日:2005/09/10(土) 00:29

「あ、あの・・・」

美貴は急に現れた少女に驚きを隠せなかったが、やっとのことでラブに話しかけた。

「その子・・・」

ただ、口を開けたといっても単語しか出てこない。

ガキさんと呼ばれた少女が美貴に気付かれないようにラブの肘をぐいぐいと押した。
ラブはそれであっ!となにかに気付いたかのようにそっかそっかと頷いた。

「あ、この子は・・・えーと、あ、あーしの妹の里沙って言うんですっ!」

ラブの横にいた里沙は美貴に笑顔を向けると会釈をした。

「妹の里沙です。」

美貴が慌てて立ち上がり、里沙の会釈に合わせて自分も挨拶をしようとする。

「あ、えっ、とあああ」

だが、あまりに急なことでうまく口が回らない。

「あ、えっとこちら美貴さん。」

ラブの助け船によって美貴はようやく自分の自己紹介をした。

「あ、藤本美貴です・・・どうぞよろしく。」

美貴も里沙に向かって軽く会釈をする。

「美貴ちゃんはあーしが連れて行かれそうになったときに助けてくれたんやよ〜!」

ラブが嬉しそうに里沙に説明する。


102 名前:第1章 投稿日:2005/09/10(土) 00:40

「えぇ!?そ、それはそれはありがとうございますっ!!」

里沙は再び美貴に深く頭を下げる。

「いや、か、顔あげて ください!美貴は当然のことをしたまでなんで!」

美貴は里沙の肩を持ち、頭を上げさせる。

「本当、ありがとうございます。」
「いえ。」

里沙があっ!と言い、ラブの手を取る。

「お母さんが早く帰ってきなさいってもうカンカンなんだよ。」

里沙が慌ててラブに言う。

「あ、そうやなんや・・・・でも・・・」

ラブは美貴をチラッと見る。

「あぁ、美貴はいいよ。まだこの後やらなきゃいけないことがいっぱいあるから戻らなきゃいけないし。」

ラブの心を読んだかのように美貴が答える。

「じゃあ・・・」
「本当ありがとうございましたっ!」

ラブがなにか言い終わる前に里沙が美貴にお礼を言い、ラブを引き連れて歩き出した。

「あ、あの!」

そんな二人を見送っていた美貴が声をかける。
そんな美貴にラブは歩きながら顔だけを美貴のほうへと向ける。


103 名前:第1章 投稿日:2005/09/10(土) 00:49

「祭りの日!!もしよければ、夕方の5時!今年はパートナーいないから・・・美貴、待ってるよ!!こ、ここで!!」

美貴が声を張り上げて言うと、ラブは笑顔を見せて前を向いてしまった。

「ま、待ってるから!!」

なんともぎこちない美貴の誘い。普段は誘うことのない美貴が今回だけはなぜかラブを誘っていた。しかし、なぜ自分がそんな行動に出たのか、それは美貴自身でさえもわからなかった。

「ふぅ・・・美貴なに言っちゃってんのさ・・・」

美貴は一人ぶつぶつと言いながら、ラブ、里沙に背を向けて歩き出した。

カシャン


カシャン。


剣のぶつかる音が川の流れる音と融合、いや、むしろ剣の音が川のせせらぎによってかき消されるほど穏やかな場所だ。
そんな場所に悠々と特徴のある青いマントをなびかせながら、美貴はパトロール再開しなきゃと妙に張り切っていた。


104 名前:第1章 投稿日:2005/09/10(土) 01:00

少し歩いたところで美貴が見えなくなったことを確認し、里沙こと新垣里沙が後ろを振り向く。

「姫、心配いたしましたよ。」

つかんでいた腕を離すとその場で膝まづく。

「さきほどはご無礼をお許しください。」
「ガキさんっ。それよりなんでここにおるんや?」

ラブは不思議そうに新垣を見る。

「はっ。それは姫を探すという任務をさくら隊が申し付けられたからでございます。」

新垣はそれが極秘任務だとは姫に知らせなかった。

「そーなんや・・・あーしがこっちにおるってようわかったね。」

ラブが笑顔で新垣に言う。自分を見つけだしてくれたこと、そしてそれが一番仲の良い新垣だったことが嬉しかったのだろう。

「はい。姫はいつもぼやいておられましたから。」

新垣が冗談めかして言う。

「もぅ。ガキさん!あーしのこと姫って呼ばんって約束したやろ?」

新垣が姫と呼ぶことをあまり良く思っていないようだ。

「あ!失礼しました。愛様。」

新垣もそれに気付き慌てて姫から愛へと呼び方を変えた。


105 名前:第1章 投稿日:2005/09/10(土) 01:12

「まだそっちのほうがましやよ。」

さっきのすねた顔はどこへやら、姫は笑顔で新垣に答えた。

「愛様、みなの者が心配しております。早く戻りましょう。」

新垣はそう言うと、今度は強引に引っ張ることをせず、姫に手を差し出した。

「うん。そうするやざ。」

そして姫も新垣に従って、自分の手を新垣の手に重ねた。

「あちらの森の木から戻りましょう。」

新垣はそういうと先を歩き出した。

「なんや、スプリガールの出入り口からやないんやね。」

姫がおかしそうに笑う。

「出入り口のほうは敵がいるかもしれませんので・・・こちらのほうが安全です。それに、向こう側にはコンコンが待機しておりますので。」

そう言って森を指さす新垣。

「あさ美ちゃんが?」
「はい。コンコンもあたしと同様、愛様のことをとても心配していました。」

姫が顔を真っ赤にして下を向く。
急に黙ってしまった姫に新垣は慌てて振り返る。

「あ、愛様。どこか具合でもお悪いのですかっ!?」


106 名前:第1章 投稿日:2005/09/10(土) 01:24

「ち、違うんやよ。その・・・ガキさんやあさ美ちゃんがあーしのこと心配してくれてるとは思わんかったから・・・嬉しくて・・・」

姫が新垣に握られているほうの手ぎゅっと力を入れた。

「な、なにをおっしゃられますか!あたしやコンコンだけではなく・・・」
「わ、わかってるやよ。だけど・・・あーしが仲良くしとる人たちが心配してくれたことが嬉しいんや。」

姫が顔を上げて新垣をじっと見つめる。

「ガキさん。」
「はい。」
「ありがと。」

姫の意外な言葉に新垣は思わず顔を赤くする。

「なっ///なんてことありませんよ。」

新垣はまた歩き出した。

「ガキさん、迎えに来てくれてありがと。」

新垣は姫の言葉に返事こそ返さなかったが、耳まで真っ赤にしていた。

「あーし、ガキさんを友達に持ってよかったやざ。」
「あ、あたしにとっては嬉しいお言葉でございますっ。」

前を見据えたまま姫に言葉を返す。

「あんな、ガキさん。」
「はい。なんでございますか?」


107 名前:ワクワク 投稿日:2005/09/10(土) 01:27
もう誰も読んでいないだろうなと思いつつのちょこっと更新(苦笑)さすがにこれだけ更新ペースが落ちるとやめようかなと思ってしまったりする今日この頃・・・(-_-;)
108 名前:爽快者 投稿日:2005/09/10(土) 02:46
私はいつも楽しみにしてますよ☆

更新は自分のペースで大丈夫です☆

楽しみにしていますので是非続けて下さい☆
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/10(土) 03:18
自分も読んでます。先が気になる展開で続きが楽しみです。
まったりお待ちしてますので、作者さんのペースでがんばってください。
110 名前:星龍 投稿日:2005/09/10(土) 10:42
更新お疲れ様です。
毎回更新を楽しみに待っていますよ。
次の展開も楽しみにしてます。
マイペースに頑張ってください。
自分はのんびりまったり待ってますので。
111 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 01:22

「あーしお祭り行きたい!」

姫が再び新垣に握られている手を力強く握り直した。

「わかりました。では来月開催されるスプリング祭に新垣がお供させて・・・」
「そーやなくて!」

姫の言葉に新垣は顔をしかめる。

「が、しかしですね、わが国での祭りは・・・」

新垣が続けようとしたが、それは姫の言葉によって妨げられた。

「あーしが行きたいのはここのお祭り。」
「・・・



えっ、えぇ?」

新垣は目の前にいるのが姫だというのにもかかわらず、その衝撃に耐えることができなかった。

「あ、あ、ああ愛様!ななななにをおっしゃっているのですかっ!」
「あーし、行きたいんや。ここのお祭りに!美貴ちゃんと行きたいんやよ!!」


ピクッ。


新垣の目がしらが一瞬、ほんの一瞬だが姫が気付かないくらいごくわずかに反応した。

「なりません。いくらスプリング王国の姫といえど・・・」
「お願いやよっ!!」

姫が必死で新垣にうったえる。


112 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 01:40

「・・・」

新垣が反応した理由、それは敵地の祭りに姫が行くということよりも、姫の口から出てきた『美貴ちゃん』という名前に問題があった。
先ほど新垣が姫を発見し、駆け寄ったさいに見えた相手の青々としたマント。それは敵地のガールズ王国が誇る精鋭隊『オトメ隊』の象徴である。
新垣は自分たちさくら隊と同じほど力のあるその象徴に見間違いは絶対にないと思った。それはなぜかというと、実力が同じ=ライバルであり、戦地でもよく対立をする相手だからだ。
戦の中では顔を気にしているヒマはない。
しかし敵の象徴はいやでも目に入ってくるほど高印象なのだ。
それはオトメ隊も淡いピンクのマントを見るとさくら隊だとわかるのと同様の現象だった。
そしてさらに問題だったのが、姫と一緒にいたのがよりにもよってオトメ隊の、あの『藤本美貴』だったのだ。藤本美貴の名前はガールズ王国だけに止まらず、スプリング王国にもその名を轟かせていた。

ガールズ王国では最強の『英雄』として。



そして



スプリング王国では最強の『敵』として。


113 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 01:56

新垣は最初に姫の言葉から『美貴』という名前が出てきてまさかとは思っていた。
しかし、直後の自己紹介でフルネーム『藤本美貴』を聞いて身体中に寒気が走った。
相手は万全の装備でしかも最強とうたわれている『敵』。
一方、自分の格好は一目見ただけでは騎士とはわからないほど完璧な庶民であり、武器を所持していない、いわゆる丸腰。ただでさえあまり大きくもない体がさらに頼りなく見せた。

新垣は初めて最強の敵の顔を見た。
今でこそ笑っていて少し和らいではいるが、目力はそうとうなもので、装備の中から見え隠れする腕や足も細いといえば細いのだが、それは鍛えられて引き締まった細さだった。


相手が悪過ぎる。


新垣の頭の中で弾き出された結果。

おそらくこの人には自分とコンコン、二人で対峙しても勝てないだろう。

もし勝てるとすれば・・・




それはさくら隊の中でも戦闘力の一番高い吉澤さんだけだ。

新垣はそう思った。

自分は直接戦ったわけではないが、これだけは確かだろうと新垣は確信した。


114 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 02:08

そして姫はその『藤本美貴』という最強の敵の存在は知らない。
姫は敵の精鋭隊がオトメ隊であることはわかっている。
しかし、戦場に自ら出向くなどということはないので個人個人の情報は得ていないのだ。

「なぁ、お願いや・・・」

姫の目が涙目になる。

そんな姫を見ながら新垣は悩んでいた。

姫にはできるだけ望むことさせてさしあげたい。しかし、敵地に一人乗り込ませるという危ないことをさせてしまってよいのか、姫を最も恐ろしい藤本美貴に渡してしまってもよいのか、もし、もしも向こう側の人間に気付かれたらどうする?

いろんな問題が新垣の頭の中をグルグルと回る。

「お願いやぁ・・・」

姫はついにひとつの雫を地面に落とした。

新垣はなにか決心したかのように姫を見つめる。

「姫・・・あたくしは姫の涙など見たくはありません。」
「うぅ・・・っ・・」

姫の目からは次々と涙がこぼれる。

「あたしは姫・・・愛様の笑顔が好きなのですっ。」

新垣が姫の涙を自分の洋服で拭う。

「なので・・・愛様のお望み、叶えてさしあげますっ!」

新垣は笑顔で姫に言った。


115 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 22:19

***

116 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 22:41

「美貴ねぇ〜!!」

一通りパトロールが終わった美貴に前方から走り寄る影。

「美貴ねぇどこ行ってたっちゃ!れーな、美貴ねぇ探してたとよっ!」
「あぁ、ちょっとその辺をフラっとしてた。」
「れーなも連れて行ってほしかったと!」

本当に悔しそうに美貴に話しかける、田中れいな。

「れーなは訓練があるじゃん。」
「そーですけど・・・」

「また今度連れてってあげるよ。」
「本当と?」
「本当本当。」

美貴の言葉に目をキラキラと輝かせて喜ぶ田中。

「よっし、そんじゃ訓練するかっ。」
「はいっ!」

やっと教育係りとしての役目を果たそうとしている美貴とその弟子田中。

二人の後ろ姿はどこか重なる部分がある。

田中れいなという少女は美貴の少女時代に似ている。育ってきた環境こそ違うが、お互いにどこか共通する部分を感じているのだろう。
田中は小さい頃から美貴に憧れていた。いつからと聞かれてもわからない。物心ついたときから田中は美貴を目で追い、憧れ続けてきた。

そして、今、やっと憧れての人と師弟関係になれるということが田中には信じられないほど嬉しいことだった。


117 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 22:59

ガチャガチャ

美貴が武器倉庫でなにやら探し物をしている。

「あ、あった。」

美貴が手にとったもの、それは一見なんのへんてつもない木製の剣二本だった。

「れーな、今日はこれで剣術の特訓。」

そういうと美貴は片方の剣を田中に投げた。

「剣術は学校でも・・・っと!?」

田中は言葉を続けようとしたが、美貴の投げた剣が自分のところにきたので両手でかかえこむようにして受け取った。

その瞬間、田中はガクンと膝を折り、膝を地面についてしまう。

「っつ!!な、なん・・・」

いくら立ち上がろうとしてもなかなかうまくいかない。
そこへもう一本の剣を持った美貴が歩み寄る。

「れーな、剣術つってもやり方は色々ある。学校で習ったのが全てだと思っちゃいけない。あれは基本中の基本だから。」
「は、はい。」

剣を杖にして汗だくになりながらやっとのことで立ち上がる田中。

「これは通常の剣の3倍の重さあるやつ。今日から訓練のときは必ずそれを使うこと。」
「はいっ・・・わっ!」

あまりの重さによろめく田中。


118 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 23:10

「それとすぐよろけない。そんなんじゃ、戦場ですぐやられるよ。まあ今日は初めてだからしょうがないけど。」
「は・・・いっ!」

倒れそうになるのをなんとかもちこたえる。

「しかもこれ木だから。まあまず剣術はこっからのスタートってことで、どんどんレベル上げてくけどそれはれーな次第だから。」

美貴が不適に笑う。

「が、がんばるとっ!」

美貴の笑顔に多少青ざめた田中だったが、ここはやるしかないと自分にいい聞かせた。

「ん。じゃとりあえず今日はこれを使って美貴に一発かますこと。」

美貴が自分を指差し田中に最初の指示をだす。

「み、美貴ねぇを!?」

田中は尊敬する美貴に傷をつけることにかなりの抵抗を感じた。

「そ、まあれーなが今日中にできるかどうかは別として、今は美貴を敵とすること。」
「で、でも・・・」

田中は割り切れず歯切れの悪い返事を返す。

「できないなら美貴は指導しない。それにこれくらいのことできないなら戦に出てもオトメ隊としてやってけないね。」

美貴が冷静に現実を田中に叩き付ける。


119 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 23:21

「・・・わっ、わかったとよ!」
少し考えた後、田中は意を決したように顔を上げた。

「わかればよし。じゃあいつでもかかってきなさぁい。」

美貴は嬉しそうに頷くとその場に座りこんだ。

「くっ・・・おわっ!!」

田中は座りこんだ美貴に剣で攻撃しようと考えたが、実際はそんなに甘いものではなく、田中が剣を持ち上げようとしたがうまくいかずに剣ごと後ろへと転がる。

「どーした?こんなんも持ち上げらんない?」

美貴はもう一つの剣を片手で軽々と空に向かってかざす。

「くっ・・・そ・・・」

田中が再び立ち上がる。今度はなんとか剣を前に持つことができた。

「美貴・・・ね・・・ぇを・・・なっ!?」

剣の重心がずれて、今度は右へと倒れこむ。

「ん?美貴がなんだって?」

美貴は呑気にあぐらをかきながら転ぶ田中を見つめる。

「つっ・・・」

田中が悔しそうに唇を噛み締める。


そこへ


「おーい、美貴ちゃん何やってんのぉ?」

石川と道重のこれまた異色な師弟コンビがやってきた。


120 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 23:41

「あ、梨華ちゃんとシゲさん。」

美貴がやあやあと手を振る。少し離れたところで田中が剣と奮闘中。

「れーな、梨華ちゃんとシゲさんがきたよ〜。」

美貴が田中に話しかける。

「あっ・・・い・・しかわ・・さん、とっ、さゆっ・・・ど、ど・・・も・・・のわっ!」

二人に挨拶をしたと思ったら、剣が重すぎて手から落ちる。田中も勢いで膝をついてしまう。

「えっ?れ、れーな大丈夫??」

田中を見た道重が驚いて近づこうとする。

「ストップ。シゲさん、これ訓練だから助太刀禁止ね。」

美貴が助けようとする道重を手で制する。

「さゆ、手出しはしちゃダメだよ〜。」

梨華も道重に忠告する。

「それにしても美貴ちゃん、いきなりスパルタだねぇ。」

石川が剣に悪戦苦闘する田中を見ながら美貴に言った。

「こんくらいフツーだし。あ、シゲさんにもやらしてみる?」

美貴が笑顔で自分が持っている剣を道重に向ける。

「ん〜・・・それは無理かな。だけど倉庫からもう一段階軽いやつでやらせるっ!」

石川が急いで倉庫に走っていった。


121 名前:第1章 投稿日:2005/09/11(日) 23:53

「だってさ。シゲさんもとんだとばっちりくらったね。」

美貴が向けていた剣を下ろす。

「さゆなんでもできますから♪」

道重がなんのためらいもなく美貴に答える。

「はははっ。シゲさんある意味あんたは最強だわ。」

美貴が自分のお腹を押さえながら笑う。

「さゆは最強のかわいさですから♪」

道重が鏡を取り出してしまうのではないかというところで息をきらして石川が戻ってきた。

「はぁ・・・さゆ、さゆはこれを使って。私を敵だと思って攻撃すること。」

そう言って石川が道重に一本の木製の剣を渡すために一歩前へ出る。

「梨華ちゃん、敵にすんの美貴でいいよ。どうせ・・ほら、れーなもあれだしっ。」

美貴が指差す田中を見るとまだ剣と格闘中だった。

「でも・・・」

石川は美貴の言葉に少しためらう。

「どーせ梨華ちゃんたちはこれの前に別の訓練してきたんでしょ?美貴たちはまだこれしかやってないから暇だしさ。剣術だったら美貴のが得意だし。ね?」
「うーん、じゃあお願い!」
「はいはい。ってことだからシゲさんも美貴を敵として攻撃すること。いいね?」
「はい♪」


122 名前:第1章 投稿日:2005/09/12(月) 00:04

「じゃあさゆ、これ。」
石川が道重に一本の剣を渡す。

「ありがとうござ・・・キャッ!!」

道重は剣を持った瞬間に尻餅をつく。

「あっ、これ普通の剣の2倍だけど頑張ってね♪」

石川がなんの悪びれもなく笑顔でエールを贈る。

「ちなみにれーなが使ってるやつは3倍だから。」

石川の言葉に美貴が続く。

「さ、3・・・」
「そう。だからシゲさんのが多少は楽なはず。まあ頑張って美貴を攻撃してよ。じゃないと美貴もつまんないし。」

美貴が自分の木製の剣をブンと一振り。

「あ、梨華ちゃんはもちろん美貴の話し相手になってくれんでしょ?」
「ん〜、まあ私も二人がどれだけできるか見ておきたいし・・・いいよ。」

美貴はラッキーとガッツポーズをすると再び道重を見た。

「あ、美貴が話しててもお構い無しに攻撃してきていいからね。」

美貴が道重に念を押す。

「は、は・・・い。いやっ!?」

道重が立ち上がろうとしてまた転ぶ。
それを見ながら石川は美貴の隣りに座った。


123 名前:第1章 投稿日:2005/09/12(月) 00:15

「なんか、この訓練見ると懐かしくなるねっ!」

石川は田中と道重が仲良く転んだのを見ながら美貴に話しかける。

「まあね。あんときは・・・美貴が4倍で梨華ちゃんが・・・」
「私が2倍。ちょうど今さゆが使ってるやつだったよ。」

美貴がそっかそっかなどと言いながら頷く。

「あの時、悔しかったなぁ〜!美貴ちゃん、私より2倍も重いの使ってたのにあっさり使いこなしちゃうんだもん。」
「そーだっけ?」
「そうだよっ!!体術でも美貴ちゃんのほうが上だったし・・・」

石川が田中、道重に自分達を重ねているかのように言う。
そんな石川の話に美貴はなにも言わず、耳を傾ける。

「馬術も、矢術もぜーんぶ美貴ちゃんが一歩・・・ううんもう見えなくなっちゃうくらい先を行ってて・・・」

石川は寂しそうに笑った。

「美貴は基本、なんでも得意だったからね。」
「あ、自分で言う?」

美貴の言葉に珍しく石川がツッコミに回る。


124 名前:第1章 投稿日:2005/09/12(月) 00:32

「でもさ、ここまでになったじゃん。」
「えっ?」

美貴の言葉に石川は目を丸くする。

「ほら、結局はさ、剣術のとき美貴と同じ重さまで出来るようになったし、矢術でも美貴と同じ距離飛ばせて、馬術だって最初は馬にも乗れなかったのにここまでになったじゃん。まあ体術は未だに美貴のほうがちょっと優るけど・・・それでもほんのちょっとだけだし。」
「そんなこと・・・」
「あるんだよこれが。美貴には分かるんだよっ。それに梨華ちゃんは昔っから誰よりも頭良かったし、なにより努力家だった。」

美貴があははと空を見ながら笑い、石川はそれを不思議そうに見る。

「いやさ、美貴は昔っから勉強タイプではなかったじゃん?だから今考えると美貴と梨華ちゃんはまったく逆だったんだなぁと思って・・・ぷぷ・・・ねっ?」

美貴がおかしそうに笑う。

「そう言われてみれば・・・」

石川も昔の自分と美貴を思い出す。

「よくケンカしてたよね。」
「うんっ。でもいつも勝のは・・・」
「美貴だったね。だけどいっつも謝るのは美貴が先で・・・」
「そうそう!私が説明すると必ず美貴ちゃんがごめんって。謝ってるのに美貴ちゃんいつも偉そうで・・・ふふふっ」


125 名前:第1章 投稿日:2005/09/12(月) 00:46

二人は顔を見合わせた。

「あの二人もそんな風に育ってくのかなぁ?」

二人が弟子の二人を見ると田中はやっと立ち上がれたことでやったぁと声を上げている。一方、道重はそんな田中を見ながら悔しそうに自分もなんとか立ち上がっていた。

「二人ともやるね。それさ、美貴たち次第かもよ?」
「そうだね。」

石川が嬉しそうに頷く。

「れーな立てたっちゃ!!」
「さゆだってできるも〜ん♪」

二人がさりげなく火花を散らす。

「おーい、二人とも美貴に攻撃しなきゃいけないってこと忘れてない?」

美貴が立ち上がり、大きく手を振る。

「「あっ・・・」」

二人は美貴の顔を見て、この訓練の主旨を思い出したようだ。

「っと・・・わっ!!」
「あああ・・・きゃ!」

そして二人同時に転倒。

「はぁ〜、やっぱ先長いんだけど。」
「ふふふふ、まあいいじゃない。育てがいがあるんだもんっ!」
「育てがいがあるって有りすぎだって。」

美貴は文句を言いながらも、その顔はどこか嬉しそうだった。

「あっ、美貴ちゃん。ちなみにそれ!」

石川が美貴の持っている剣を指差す。

「バレた?」
「バレバレ!で、何倍のやつ?」
「んっとね、10倍。」

美貴は笑顔でブンと一振りした。


126 名前:ワクワク 投稿日:2005/09/12(月) 00:51
更新しましたぁ( ^_^)/みなさま、感想ありがとうございます!

爽快者さま>レスありがとうございますっ!楽しみにしていただいているという言葉に作者感動です♪

109名無飼育さま>まったり過ぎる時がたたありますが今後ともどうぞよろしくお願いします(>_<)

星龍さま>いつも星龍さまにはお世話になってます!これからもどうぞ読んでやってくださいっ(^。^;)
127 名前:第1章 投稿日:2005/09/13(火) 01:12

***

128 名前:第1章 投稿日:2005/09/13(火) 01:23

「はぁはぁ・・・わっ!!」


ドサッ。


一人の少女がまたも尻餅をついて着地する。

「だ、だれだっ!」

物音に気付いた吉澤が身構える。

「吉澤さん。私です。」

木の影から華奢な少女が姿を現す。

「ん?コンコンか!?」
「はい。無事生還いたしました。」

紺野が笑顔で吉澤に敬礼をする。

「ご苦労!ガキさんと姫は!?」
「はい、先ほど姫を発見しまして・・・なので私が吉澤さんに報告に来ました。」
「コンコンが来たってことは・・・姫とガキさんは無事なんだな?」
「はい。おそらくガキさんが姫を連れて帰ってきてくれると思います。なので吉澤さん・・・」

紺野が吉澤に指示を出そうとすると、吉澤はそれがわかっていたかの様に屈伸をしていた。

「おっし。んじゃあよしざーちょっくらごっちんに報告してくるわっ!」

そう言うと吉澤はものすごいスピードで走り去って行った。

「よし、じゃあ私は二人が帰ってくるのを待ちましょう。」

紺野は自分の持っていた小さな鞄から本を取りだし、木の根元に腰かけて読み始めた。


129 名前:第1章 投稿日:2005/09/13(火) 01:40

紺野の愛読書。

それは最近手に入れた『数々の伝説』という名前の本だった。
この本は名前の通り様々な分野においての伝説が詳しく書かれている。
例えば、その昔この国、スプリングとガールズは一つの大きな国家であった。
しかしそれがいつからか分裂し、二つの異なった国家が誕生したというものだ。

この話は紺野自身も知ってるそう昔ではない話だ。確か自分が産まれて直後のことだっただろう。
ある日を境にスプリガールが建てられ、立ち入り区域を制限された。
そして自分が物心ついた時にはすでにスプリング王国、ガールズ王国として立派な二つの国がそれぞれ確立されていた。

「ん〜、これはまだまだ最近の話ですね。」

紺野は次のページをめくる。

電気発明家の伝説、優秀な馬の伝説、自然の雄大伝説などなど沢山の伝説が記されていた。

「はぁ・・・今回は選択ミスをしてしまいましたね・・・」

あまり自分の興味が湧くものが載っていないので落胆しながら次々にページをめくる読書家、紺野あさ美。


130 名前:第1章 投稿日:2005/09/13(火) 01:52

「・・・ん・・・?」

ふと紺野の手が止まる。

本の厚味からしてほとんどのページを読み流していたのだろう。どうやらこれが最後の題のようだ。

「これは面白そうですね。」

紺野の目の色が一瞬にして変わる。まるで水をえた魚だ。

紺野の見つめる先、そこには『呪術伝説』という題がでかでかと書かれていた。

「噂には聞いたことがありましたが・・・まさかこんなところでお目にかかれるとは思ってもみませんでした。」

紺野が本をマジマジと見る。

<その1、呪術の使い方>

どうやらこの分野は細かく区切られているようだ。

<呪術は選らばれし者によってしか使用することはできない。一般の者が使用しようとしても能力が存在しないためなにも変わらない。>

「う〜ん、様は呪術というもの自体存在するが、その呪術を操れる者が存在しないかもしれないということですね。」

紺野お得意の分析が始まったようだ。


131 名前:第1章 投稿日:2005/09/13(火) 02:09

<その2、過去の選らばれし者たち>

「過去にはその選らばれし者が存在していたわけですね。」

<現在では存在しなくなってしまった大国アリー帝国。そのアリー帝国の皇帝が呪術の選らばれし者だったという説がある。>

アリー帝国とは昔存在した地球上で最も大きな国だった。
この皇帝は元々は軍人でどうしたわけか皇帝まで登りつめたらしい。そしてその経緯は未だに謎のままだ。

「アリー帝国の皇帝が・・・これが本当なら皇帝に登りつめた説明がつきますね・・・」

<他にもかの有名な英雄ヘレズも呪術の使い手だったのではないかと言われている。>

紺野が目を止める。

「へ、ヘレズが!?あの・・・英雄が・・・呪術・・・の選らばれし者!?」

ヘレズとは昔昔、自国のピンチを一人で救ったと言われている英雄だ。言い伝えによると彼は頭が良く、体術なども秀でており、それでいて容姿もかなりのものだったとのことだ。

「まさか・・・彼は・・・そんなはず・・・」

紺野はヘレズが呪術を要していたことに驚きを隠せないようだ。


132 名前:第1章 投稿日:2005/09/13(火) 02:29

動揺しながらも紺野は先に読み進める。

<その3、呪術の種類>

「呪術の・・・種類・・・?」

紺野はこの題名に妙に引っ掛かりを感じた。なぜなら、噂では呪術は一つしか存在していないと言うことを前に聞いたからだ。

<『炎(えん)』の術。その名の通り炎を司る術。>

「炎の術かぁ・・・これは私の知っている噂のやつもですね。」

紺野はうんうんとうなずく。

<『水(すい)』の術。水を司る術。>

「水を司る・・・」

紺野は真剣に目を向ける。

<『風(ふう)』の術。風や雲など風に関連するものを操る術。>

「風まで操ることができるのかぁ・・・」

紺野は指で字を追う。

<『雷(らい)』の術。雷や電流などの類を使う術。>

「四大要素みたいですね・・・」

<以上が我々がわかっている伝説の呪術である。なお、これは『炎水風雷(えんすいふうらい)』という総称である。>

「炎水風雷、これは私の脳にインプットしておきましょう。」

そう言うと紺野はなにやら小さなメモに書き出した。


133 名前:第1章 投稿日:2005/09/13(火) 21:06

<これらのような伝説があるがすべて言い伝えを基として本書を作成したため、実在するかは定かでない。
特に最後に記載した『呪術伝説』は様々な言い伝えがあり、これといって断定できるものはない。しかし、それぞれ違った言い伝えから分析しても、どの『選らばれし者』でも炎水風雷はどれか一つしか会得できていなかったと思われる。これもあくまで我々作者の見解だ。読書の方々の予想とはまた違うかもしれない。

あなたの考えが真実かもしれないということだ。>

この本はそこまでつづられて終わっている。

「だから私たちの噂では炎の術しか出ていなかったというわけですか・・・それにしても・・・」



<あなたの考えが真実かもしれない。>

紺野は最後に記されたこの言葉に惹き付けられた。

「私の考え・・・か。これは良い本を読みました。」

読み始めとはうって変わって、その表情はどこか満足気だ。

「この本の作者は・・・」

紺野は表紙、背表紙、裏表紙の順で名前を探す。

「・・・作者不明ですか・・・」

その作者の名前はどこにも記されていなかった。


134 名前:第1章 投稿日:2005/09/14(水) 00:10


ガサガサ


ストン。


「さぁ、こちらへ。」
「わ、わかったやざ。」

姫が思いきって壁から飛び下りる。

「うわっ!」

姫がバランスを崩す。

「あ、愛様!!」

先に下りていた新垣が慌てて姫の落下地点に回りこむ。


ドサッ。


「いたたたた・・・」
「いったたた・・・愛様、お怪我はございませんか?」

姫は下からの声にビックリする。

「あ!あーしガキさんの上に!?」
「大丈夫です。それより愛様にお怪我がなければ・・・」
「あーしは平気やざ。」

姫が慌てて腰を上げる。

「ならよかったです!この辺りにコンコンがいるはずなんですが・・・」

姫に続き新垣も腰をさすりながら立ち上がり、辺りを見回すようにキョロキョロする。

「むっ・・・あそこに人?愛様、新垣の後ろに下がっていてください。」
「う、うん。」

新垣が姫をかばって前に出る。
前方の人影はこちらに気付いたのかどんどん近寄ってくる。

「愛様、ここは危険ですっ。そちらの木の後ろで待機を。」
「ガキさんは?」
「あたしは大丈夫です。一応さくら隊員ですからね。それより愛様、お急ぎ願います。」

「わ、わかったやよ。ガキさん気をつけるんやよ?」
「ご心配ありがとうございます。」

姫は近くの大木に身を潜め、新垣は体術の構えをとる。


135 名前:第1章 投稿日:2005/09/14(水) 00:25

「なにものだ!」

新垣が人影に叫ぶ。
そしてこの穏やかな林が一瞬にして緊張の空気に変わる。


シーン・・・


新垣の言葉に対して応答がない。
林を静寂が包む。


ザッザッザッ


相手がこちらに近寄ろうと歩く音が聞こえる。

「もう一度言う!何者だっ!名を名乗れ!」

新垣は構えながらもう一度見えない相手に威嚇をする。

「・・で・・・ぅ」
「ん?」

微かだか相手らしき声が聞こえてきた。
その途端、声のあったほうからハッキリと顔を現す。

「紺野ですよ。」

紺野が構える新垣にニッコリと笑いかける。

「コンコ〜ン!ビックリさせないでよぉ!」

新垣がほっと一息つく。

「あれ?姫は?」

紺野が心配そうに新垣の周りをキョロキョロと見る。

「あ、いらっしゃるよ。愛様!もう大丈夫です!」

新垣がそういうと近くの木から姫がひょっこり顔を出した。

「あ!あさ美ちゃんやぁ〜!!」

姫が嬉しそうに紺野に駆け寄る。

「姫、ご無事でなによりです。」

一方、紺野も笑顔で姫を迎える。


136 名前:第1章 投稿日:2005/10/01(土) 00:48

***

137 名前:第1章 投稿日:2005/10/01(土) 00:53


「美貴・・・お前はここにいなさい。」
「やだっ!!美貴も父さんたちと一緒に行く!」
「美貴。いいか、父さんたちは必ずかってくるから。」

父親が優しくさとす。

「そうよ。母さんもすぐ戻るから。」

隣の女性も終始笑顔だ。

「美貴にこれをあずける。大事にしなさい。」

そう言って首にかけられたネックレス。

「・・・じゃあ・・・」

前を向いて歩き出す。


138 名前:第1章 投稿日:2005/10/01(土) 01:05

「・・・ちゃ・・・」
「やだっ!行かないで!!」
「美貴ちゃんってば!」


バサッ。


「ん・・ハアハア・・・梨華・・・ちゃん?」

美貴が目を覚ますとそこには自分の顔を心配そうに見つめる石川の顔があった。

「大丈夫?うなされてたみたいだけど・・・」

石川に言われて美貴は初めて今起っていたことが夢だと気づく。

「また・・・」
「大丈夫?」

美貴は自分の額に手をやる。
するとそこに水滴が少量ついた。

「あ、いや、なんでもない。」

石川がじっと見つめているのに気づいた美貴が曖昧に返す。

「本当に?」
「うん。ちょっと悪い夢見ただけだから。」

美貴は額の汗を拭いながら答えた。

「ならいいけど・・・かおりんに美貴ちゃんを起こしてこいって言われてきたの。」
「なに?なんか事件?」

美貴が怪訝そうな顔を見せる。

「ううん。そうじゃないの。ただかおりんが美貴ちゃんを呼んでこいって。」

美貴は訳がわからなかったがとりあえず頷いた。


139 名前:第1章 投稿日:2005/10/01(土) 01:15

「着替えてすぐ行くって飯田さんに伝えといてくれる?」
「わかった!」

そう言うと石川は素早く美貴の部屋を去って行った。

「はぁ・・・一体今何時だよ・・・」

美貴はタンスの中にある自分の服をひっ掴みながら時計を見る。

「7時・・・本当ならあと1時寝れんじゃん・・・」

今日の美貴は9時任務開始の予定だった。
しかし、それを意外な形で変更されてしまった。

「美貴の貴重な睡眠時間を返せ・・・」

あの夢と起こしにきた石川、そして飯田に向けて文句をぽつんと言ってみる。がしかし当然その嘆きは誰にも届かない。

「あぁー・・・剣も疲れるよなぁ?」

誰にも届かないので思わず剣に向かって話しかける。

「・・・」
「しゃべるわけないっか。」

美貴は剣を腰にかけるとドアを出た。


140 名前:第1章 投稿日:2005/10/02(日) 15:55

「藤本!おそーい!!」

美貴が扉を開けると、そこにはジロジロの美貴を見て一喝する隊長の飯田、その横でまあまあとなだめる石川が待ち構えていた。

「すいません、美貴は今日9時から任務だと思ってて・・・」
「言い訳無用!」
「すいません・・・」
「っていいたいとこだけどまぁ仕方ないわね。最近藤本忙しくてあんまり寝てなかったみたいだし。」

飯田はとりあえず座ってと自分の前に向かって座るよう、促した。

「あ、石川は私の隣ね。」

飯田がポンポンと椅子を叩く。

「はい!」

梨華は返事をし、美貴は無言で指示された場所に座った。

「で、どうなの新人ふたりは?」
「あー、まだまだって感じですね。」

美貴はなんだそんなことかと思いながらめんどくさそうに答える。


141 名前:第1章 投稿日:2005/10/02(日) 16:04

「そんなことないよっ!重さんも田中ちゃんも頑張ってるじゃない!」

美貴の言葉に石川が過剰に反応する。

「いや、頑張ってるのは美貴だって認めるよ。たださ、頑張ってるからどーのじゃなくて戦に出れるレベルじゃないってことを美貴は言ってんの。」

美貴は石川を見て、また始まったとため息をついた。

「でもっ!ふたりは戦に出るために頑張ってる!それも事実でしょ!?」
「だーかーら!それを言ったらまだまだだってことも事実じゃん。」

熱くなる石川とは正反対で、妙に冷静な美貴。

「じゃあなに?美貴ちゃんや私は戦に出て通用するって保証があるの!?」
「あるよ。」
「そんな簡単に言わないでよ!誰にもそんな保証・・・」
「梨華ちゃんにはないかもしんないけど美貴にはあるよ。」

顔色ひとつ変えない美貴。


142 名前:第1章 投稿日:2005/10/02(日) 16:17

「うそ!そんなの口からでまかせじゃない!!口だけならだれだって・・・」

美貴の自信にどうしても納得できない石川。

「美貴は口だけなんかじゃない。それは梨華ちゃんが一番よくわかってんじゃないの?」
「そ、それは・・・」

美貴の突然の問いかけに一瞬、石川が怯む。


「はいはい、二人ともそこまで。まったく、なんであなたたちはこーいう話するとすぐにケンカになっちゃうの!」
「だって!美貴ちゃんが!!」

石川が悔しそうに反論する。

「あー、はいはい。わかった。わかったから!」

飯田が仕方がないと二人を見る。

「じゃあ今からオトメ隊対藤本で闘う。あ、ただし私は審判として抜けるけど。剣は木製限定とする。まぁ一種のシュミレーションみたいなもんね!それであなたたちのどっちが正しいか決着つけなさい。」

飯田の言葉に二人は無言で頷く。

「よし。決まり。じゃあ石川は他の子たちと訓練場に行ってて。」
「わかりました。」

さっきの熱さはどこへやら、石川はそそくさと部屋を出て行った。


143 名前:第1章 投稿日:2005/10/02(日) 16:31

美貴も席を立ってドアに向かう。

「待った。藤本はまだ話があるから。」

美貴が振り返ると笑顔で座ってという飯田がいた。

「まだ何かあるんですか?」
「うん。というか圭織的にはこっちのほうがメインかも。」

美貴は飯田の言おうとしていることに検討もつかなかった。

「あのね」
「はい。」

飯田は緊張しているのか、一呼吸置いてから発した。



「藤本は結婚しないの?」



「はい?」

あまりの突然さに、美貴はまだその言葉の意味が理解できない。

「だから、結婚しないの?」
「あの、飯田さんいくら自分がまだ結婚してないからって・・・」
「そーじゃなくて!圭織はただ藤本はモテるのにそんなそぶりないからさ・・・藤本を昔っから知ってる圭織としては心配なの。」

今でこそ藤本に変わってしまったが、飯田は美貴のことを初めて美貴ちゃんと名前で呼んでくれた人で、家族のいない美貴にとっては姉のような存在なのだ。


144 名前:第1章 投稿日:2005/10/02(日) 16:46

『結婚』

美貴は意識してもしなくてもそんなことは考えたことがなかった。ここら一帯では同性同士の結婚、恋愛は憲法によって認められている。
この憲法改正が行われたことによって他の国から移住してきた人々も少なくない。
それはガールズ王国だけでなく、隣国のスプリング王国もその一つだ。

「美貴そんなの考えたこともないですよ。」
「じゃあもし藤本と結婚したいって人がいたら?」

飯田が真剣な面持ちで聞く。

「そんなのわかんないですよ。」
「いいから答えなさい。」

ふと美貴は思う。

隊長はなぜ急にこんなことを聞きだしたのだろうか。

「なんで今美貴にそんなこと聞くんですか?」
「それは・・・」

飯田が初めて口ごもる。

「まあいいですけど。今美貴は結婚する気はありません。おそらく今後もね。」

きっぱりと言い切る。

「なんでそこまで言い切れるの?」
「それは」
「それは?」



「美貴は一匹狼ですから。」

美貴はそう言うと笑顔で立ち去った。


145 名前:第1章 投稿日:2005/10/02(日) 16:50

「はぁ・・・藤本は結婚する気ないのかぁ・・・報告しないとなぁ〜。」

飯田は困った困ったと言いながら美貴の固い意思にどこか嬉しそうである。

「あ、そーいえば今から対戦があるんだった!早く行こ〜っと。」

飯田の部屋から出る足取りは軽そうで重そうなどちらともいえない感じであった。


146 名前:第1章 投稿日:2005/10/06(木) 00:32

ザワザワザワ

どこからか噂を聞き付けた兵士たちが群がって円を作っている。

「あぁーあ、どっからこんなにわき出て来たのよ・・・」

その人の多さに入念にストレッチを行いながらため息をつく石川。

「はぁいはぁい〜!みなさぁん!!間もなく藤本対オトメ隊の名勝負が始まるのれすよぉ!!さぁさぁ賭けをするなら今のうちぃなのれすっ!」

人混みの中から独特な口調が聞こえる。

「ちょっとぉ!なにやってんのよ!!」

人混みをかき分けて声の主をひっつかまえる凄い形相でオトメ隊とはまた別に一際目立つ人物。

「わわわ!圭ちゃん!!なにしに来たのれすか!!」

声の主、辻が保田を見付けて顔をしかめる。

「なにって、こっちが聞きたいわよ!なんなのこの人だかりは!」

呆れたように人を指差しながら言う。

「これから美貴ちゃんとオトメ隊が対戦するのれす。もちろんののも出ますよ!」

嬉しそうに微笑みながら人混みをかき分けなんとか円の中心に出た辻とそれに続いた保田。


147 名前:第1章 投稿日:2005/10/06(木) 00:41

「もうっ!!ののはまたけしかけたの!?」

おかげで大事になっちゃったじゃないとアキレス腱を伸ばしながらブツブツと言う石川が辻の後ろにいた保田を見付けた。

「保田さぁん!!」

飛び付きそうな勢いで石川が走って行ったが、保田はそれを苦笑しながらなだめた。

「相変わらず元気ね。」
「はいっ!だってチャーミーですから!」
「はいはい。それよりこの騒ぎはすごいわね。で、藤本とオトメ隊が対戦するんだって?」

保田の一言で石川の顔色がガラッと変わった。

「えぇ、まあ。」

石川の歯切れの悪さにこれは何かあったなと直感で見極める保田。元々保田は新人石川の教育係だった。そういう意味で石川のことを一番理解しているのはおそらくこの保田であろう。

「昔からあんたと藤本はケンカばっかりしてたけど・・・またなんかあったの?」


148 名前:第1章 投稿日:2005/10/06(木) 00:51

「今回はいつもと訳が違うんです。じゃあ私はこれで。」

そう言うと真剣な表情をした石川は保田と辻に背を向け、ストレッチをしていた場所に戻って行った。

「確かにいつもと違うわね。」

保田はそう言いながら頭を抱えていた。

「けーいちゃん!そんなに悩んでもしかたないれすよ。」

珍しく辻が保田を慰める。

「辻があたしを慰めるなんて・・・ちょっとは成長したわね。」

何歳も年下の辻に慰められてちょっと苦笑いの保田。

「えへん!!これでもののには後輩がいっぱい出来たのれすからぁ!」

確かに保田にはまだまだ子供に見えるが、実際はオトメ隊の中でも飯田、石川、藤本そしてその次が辻という風に新人当初は一番年下だった子が今はオトメ隊の中でも丁度真ん中の位置にまでなっていた。

「ってあんたは準備しなくていいの?」
「あっ!しまったのれす!!圭ちゃん後でね!」

そう言うと辻も石川がいる辺りに走って行った。

「やっぱりまだまだ子供ね。」

保田は嬉しそうにその背中を見つめていた。


149 名前:第1章 投稿日:2005/10/06(木) 01:05

「美貴ねぇ〜、どうしてれーなたちと対戦することになったと?」

一人黙々と体を動かす美貴の隣で明らかに不満そうな表情をのぞかせる田中。

「美貴ねぇ!」
「あぁ〜もう!さっきっから美貴ねぇ美貴ねぇうるさいなぁ〜。」

美貴がやっとの事で口を開く。

「だって・・・」
「だってじゃないよ。いい?れーな。例えシュミレーションでも今、美貴とれーなは敵同士なわけ。わかる?だから気安く話しかけないで。」

今度は木製と剣を腰に刺す美貴。

「でも・・・」
「でももなにもない。じゃあなに?れーなは実際戦場で敵とぺちゃくちゃとおしゃべりするわけ?」

美貴がしかめっ面で田中を見つめる。

「それはないと。」

きっぱりと田中が否定する。

「だったら美貴に話しかけないで。さぁ、あっち行った。」

美貴は田中にシッシッとやると関節を伸ばし始めた。

「あ、れーな。」

何かに気付いたのか美貴が小さくなる背中を呼び止める。

「どげんしたとですか?」

田中の目がキラキラと光る。

「手加減するなよ。」

美貴は一言だけ言うと田中に背を向けた。


150 名前:第1章 投稿日:2005/10/09(日) 23:49

体の節々を伸ばしてみる。

「おっし。いい感じ。」

正面の少し離れたところに他の面々がチェックしているのが見える。その中でも一際目立つ人物。

「あーあ、梨華ちゃんは相変わらず熱い熱い。」

石川の熱気がこちらまで伝わってきそうで手をパタパタとしてみる。

「あんま意味ないか・・・」

扇いでみた自分の手を見つめて苦笑い。

「美貴間違ったこと言ってないから。」

なんとなくぼそっと呟いてみるが、誰も気づかない。

相手は・・・梨華ちゃん、辻ちゃん、麻琴、れーなにしげさん・・・か。

目で相手の人数を確認してみる。

1、2、3、4、5。うん、美貴の許容範囲。

「集中。」

戦に出る前にいつもしている。
一言発して目をつぶる。暗闇が広がった。

美貴の習慣。


『心を鬼にすること』


151 名前:第1章 投稿日:2005/10/10(月) 00:02

戦中に同情なんてしていたらこっちがやられる。それは例え訓練だったとしても変わらない。今までの経験でこれは確かだった。

「・・・」

ヒューーー。

風を感じる。

「なんですか?」

目をつぶりながら言う。

「あ、ばれたか。いや、あんた本当に一人でやるつもり?」

保田の声だった。風と共に気配を感じ取った。どうやら心配して様子を見に来てくれたらしい。

「問題ありませんよ。」
「もし石川とケンカして意地張ってるだけなら・・・」

さすがの保田もこっちの状況が明らかに不利だとわかり、なんとか丸く納めようとしていた。

「大丈夫です。保田さんも見てってくださいよ。多分面白いものが見れますから。」

目を開くと不満そうな保田の顔が目の前にあった。

こーいう顔、さすが元梨華ちゃんの教育係なだけあって似てるな。

ちょっぴりおかしかった。

「じゃあ・・・」

微笑んで決戦の場に向かった。


152 名前:第1章 投稿日:2005/10/10(月) 00:12

「集合。」

飯田が号令をかけると美貴以外の子たちも駆け寄ってきた。

「ルールは木製の剣を使うこと。あとは体術ね。それと、圭織が戦闘不能と判断したものからどんどん抜けさせるから。ケガは最小限にしたいからね。本当に戦場に出た場合に死と判断されるものも脱落とみなす。以上だけどいいね?」
「はい。」
「わかりました。」

ケンカの当事者二人が返事をする。

「よし。それじゃ・・・始めっ!!」

ザッ。

掛け声と同時にまずは相手から距離を取る。

こっちは一人だから様子を見て攻める。

自分の中ですでにシナリオが出来上がっていた。

「みんな、作戦通りだよ!」

石川が指示をだす。

「やっぱりか。」

石川が作戦を立ててくる。これは想定内だ。


153 名前:ワクワク 投稿日:2005/10/10(月) 00:13
続きは明日更新予定です(*_*)
154 名前:第1章 投稿日:2005/10/10(月) 22:32

だだっ広い訓練所。そんな簡単には手を出してこないな。

予想通り、石川たちは簡単には手を出してこなかった。なにか陣型を作っているようだ。

サッサッ。

構えながら相手を見回す。


1、2、3、4、5。よしっ。敵全員確認。だけど・・・囲まれたな。


気付くと前方に二人、後方に二人、そして左横に一人と明らかに囲まれている自分がいた。

「いけっ!」

石川の掛け声と同時に陣型が詰め寄ってくる。前方から道重と小川、後方から辻と田中、そして左横からは指揮をとっている石川が一斉に剣を抜いてやってきた。

「ワァーー!!」
「さゆならできるも〜ん!」
「いくれすよ!」
「美貴ねぇ覚悟!」
「・・・」

最初に攻撃してきたのは辻。この中でもスピードは一番だった。


155 名前:第1章 投稿日:2005/10/10(月) 23:30

「ミキティ覚悟なのれす!!」

ブンッ。

剣を一振り。

「まだまだ。」

なんの苦労もなくスッと横へ避ける。
すると辻が不適な笑みを浮かべる。

「にししし。ミキティ引っ掛かったのれす。」

背後に気配を感じる。

「とぉーーりゃ!」

先ほどは前方だった小川が美貴の方向転換によって後方に変わる。そして力いっぱい木製の剣を振りかざしてきた。

スッ。

「やった・・・あれ?」

仕留めたと確信した小川だったが、そこに美貴の姿はなかった。

「麻琴!!剣!」

辻に言われて初めて剣がやけに重くなっていることに気付く。

「油断はだめだよ、麻琴。」

剣の上にバランスをとりながら背筋を正した美貴がいた。

「なっ!?」
「覚悟。」

小川の肩を使って剣の上に跳んで宙返り。小川の背後につき、素早く剣を小川の首につきつける。


156 名前:第1章 投稿日:2005/10/10(月) 23:44

「はいっ、麻琴は脱〜落〜。」

遠くで見守っていた飯田が小川を手招きする。

「残り四人。」

なんだか楽しかった。普段は戦でしか味わえない緊張感を漂わせているオトメ隊メンバー。いつもは見ることのできない表情だ。

「くっ・・・麻琴がやれたのれす。」

悔しそうに地面を蹴ってもう突進してくる辻。

「しげさん、れーな、援護頼むのれす!」
「了解っちゃ!」
「わかりましたぁ〜。」

前方から走ってくる辻と田中が右と左、ふたてに別れる。それと同時に後方からは道重がこっちに向かってくる。

「まだだめ!」

石川が攻撃を止めようとするがもちろん三人には届かなかった。

「こぉのぉ!!」
「とりゃぁ!」
「えぇーい!」

3方向から勢い良く剣が降ってくる。
それでも美貴は一歩も動こうとしなかった。それどころか目をつぶっている始末だ。


157 名前:第1章 投稿日:2005/10/10(月) 23:55

フッ。

剣が起こした微かな風を感じる。

「きた。」

目を開けると同時にまずは自分の剣で道重の剣を払い除ける。

「きゃぁ!」

その勢いで剣を失いながら尻餅をついてしまう道重。
そんな彼女に剣を向ける。

「あ、道重もアウトっ!」

先ほど脱落してしまった小川と観戦していた隊長が言った。

「残り三人。」

今度は田中、辻のほうに再び振り返る。すると剣はすでにすぐそこにきていた。

ダンッ。

地を蹴って空に舞う。そこにちょうど良く先ほど払い除けた道重の剣がスポッと落ちてきた。それをキャッチすると下を見る。
二人は剣を振ると唖然こっちを見ていた。

スタッ。

その隙に着地する。


「うわっ!」
「むっ!」

二人がよろめく。
美貴が二人の剣をまたがって着地したのだ。

「甘かったね。」

両手の剣を二人の鼻先に当てる。


158 名前:第1章 投稿日:2005/10/11(火) 00:07

「ストーップストーップ!!田中と辻もだめ!」

飯田が少し残念という表情で二人を呼び寄せる。おそらくうまくいけば美貴にかすり傷くらいはつけられるとでも思ったのだろう。しかしそんな淡い期待も崩された。

「よし。残るは梨華ちゃん一人。」

自分の剣を腰にさし、道重の剣は地面に置く。それから石川を見た。

「サシで勝負か・・・」

石川とサシで戦うのは久々だった。お互い教育係という立場にまでなってきて手合わせすることはなかった。二人が稽古をつけてもらうのはもっぱら飯田。それ以外は自分が稽古をつける立場だった。


ザワザワザワ。


観衆もこの珍しい二人の手合わせに興奮気味のようだ。

「だからまだだって言ったのに・・・」

石川はよっぽど辻らの行動が不満だったのかボソボソと一人文句を言っている。

「梨華ちゃ〜ん!頑張ってやっつけるのれす!」

呑気に声をあげる辻。


159 名前:第1章 投稿日:2005/10/11(火) 00:20

「もう・・・ののはいっつも勝手なんだからっ。」

もう諦めがついたのか半分飽きれ気味にため息をついた。

「美貴さま〜っ!!」

外野は明らかに美貴の応援団と化している。一部の男どもは梨華さぁんと控え目に石川を応援していた。

「美貴の応援多いなぁ〜。」

腕を組んで辺りを見回すと必死でアピールする美貴応援団。

「はっ!!」

よそ見をしているうちに石川が顔面めがけて蹴りを加えてくる。

ヒュ。

「甘い。」

蹴りを紙一重で首だけ動かし、回避する。

「どっちがよっ。」

その足で回し蹴りを繰り出す。

ビュン。

「だーから甘いってば。」

今度はしゃがんで回し蹴りを避けきる。

「まだまだっ!」

石川が腰にさしてある剣を抜く。美貴がしゃがんだのをいいことに上から振りかざす。

カンッ。

美貴も自分の剣を手に持ってくい止める。


160 名前:名無し読者 投稿日:2005/10/11(火) 14:57
更新お疲れさまです
楽しく読んでますのでがんばってください
161 名前:星龍 投稿日:2005/10/11(火) 15:40
更新お疲れ様です。
すごいの一言で・・・。
すごく読んでて楽しいです。
頑張ってください。
162 名前:第1章 投稿日:2005/10/12(水) 21:48

「梨華ちゃんやるね。」

石川が思ったより成長していてうれしくなる。

「美貴ちゃんは相変わらず。」

剣を交えながらの会話。石川は美貴の強さを改めて感じる。

カンっ!

「それはどーも。」

石川の剣を跳ね返す。石川はその反動で体制を崩してしまったのでいったん間合いを取る。

「いい判断だね。」
「当たり前でしょ!美貴ちゃんこそそんなに余裕ぶってていいの?」

見えない火花がバチバチと散る。

「美貴だって余裕なわけじゃないし。」
「うそ。力加減してるくらい私にだってわかるんだから!」

バレたか・・・。

石川の実力を測るために力加減をしていたのは事実、そして少し余裕がなくなっていたのもまた事実だった。

「本気できてよっ!!私は・・・」
「わかった。だったらここからおしゃべり禁物。」

石川は明らかに顔付きが変わったのがわかった。


163 名前:第1章 投稿日:2005/10/13(木) 00:53

梨華ちゃん・・・いつの間にこんな力つけたんだよ・・・

さっきの剣の感触、それは少し前の石川とは比べものにならないくらい重く、力強かった。
そうとうきつい訓練を課したのだろう。足や腕は細いながら、筋肉をしっかりつけていた。

「いざっ!」

石川が叫んで一気に間合いをつめる。


カンカン!


お互いの剣が交差しあって木製独特の音を響かせる。

「やぁ!!」
「・・・・・」


ガシ、カンッ!


真剣な二人の表情に騒いでいた周りの観衆も思わず息をのむ。


カンッ。

カカカン!


「くっ!はっ!!」
「・・・」


カンッ!


段々と石川の攻撃するスピードが弱まってくる。

「このっ・・・くっ!」


カンッ・・・

ヒュッ。

石川の剣が空を切り始める。


164 名前:第1章 投稿日:2005/10/14(金) 14:45

梨華ちゃんの力は格段に上がった。



だけど・・・

「くっ・・・はっ!」

ヒュン!

石川が振り降ろした剣を避ける。

「はぁはぁ・・・」
「・・・」

だけどあまりの急激な変化に梨華ちゃん自身の体がついていってない。

「はぁ、な・・・んで・・・」

うつ向きがちに息を切らす石川。

「・・・」

それを見つめるだけで攻撃をしようとしない美貴。

「あんなに・・・訓練したのに・・・」
「・・・オーバーロードだよ。」

突然の返答に驚いて顔を上げる。

「えっ・・・?」
「オーバーロード。つまり梨華ちゃんは急激に体を鍛え過ぎた。それにより外面的には鍛えられているとしても内面的には痛手を負った。」

石川はじっと美貴の顔を見つめる。


165 名前:第1章 投稿日:2005/10/14(金) 15:33

「うそ・・・そんなの・・・うそよっ!」

動揺した石川が再び剣を振るって向かってくる。

「はぁぁぁ!!!」
「・・・」


バンッ!


迫ってきた石川を即座に避け、首を後ろから軽く叩く。


ドサッ。


「あ・・・し、試合終了っ!!藤本の勝ちね・・・誰か石川を医療室にっ!!」

遠くで見ていた飯田は石川がなぜ倒れたのかわからなかったので、慌てて大声で指示を出す。

「ののがやるのれ・・・す・・・」

辻が石川に向かって駆け寄ろうとしたときに目に入った光景。


「医療室に向かう道を開けさせて!!」

石川をおぶって道を開けさせようとしている。

「美貴ねぇ!」
「れーな。美貴が梨華ちゃんを医療室に運ぶ。だからとりあえず道を開けさせて。」

石川を背負いながら田中に言う。


166 名前:第1章 投稿日:2005/10/14(金) 16:10

「でも・・・美貴ねぇも疲れてるんじゃ・・・」
「いいから。早く道を開けさせて。」

なんとかしようとも考えるが、オトメ隊隊員全員と戦っていた美貴のことがとにかく心配でならなかった。

「れーな。美貴はなんともないし、梨華ちゃんも気を失っただけ。だけど念のため医療室に早く運んでやらないと・・・頼む。」
「石川さんなら辻さんたちに運んでもらって美貴ねぇも医療室に・・・」
「れーな、これは美貴からの頼みじゃない。田中れいなの教育係としての命令なんだ。わかったら早く道を開けさせて。」
「・・・わかりました。」

少し顔をしかめた田中だったが、倒れた石川と疲れている美貴を早く癒すのにはこれしかなかった。
そしてなによりもこれが一番の打開策だった。

「みなさんっ!!道を開けてください!お願いします!!」

道を塞いでいる観衆に向かって大声で叫ぶ。


167 名前:第1章 投稿日:2005/10/14(金) 16:40

田中が呼びかけても混乱しているためか、なかなか観衆は退かない。

「みなさんっお願いします!」

美貴が近付いてきているせいか、観衆の興奮は覚めやらない。
それどころか歓声を送っている者も多い。

「みなさーん!ほらほら、ここを開けてくださぁい!」
「はいはぁ〜い!こっちに寄ってくださぁい♪」
「ちゃんと従ってくれれば後からミキティと交流を持たせてあげてのいいのれすよぉ〜。」
「わかったらみんなここを退くっ!」

田中と他のメンバーが道を開けさせる。

「よし。」

その道を確認しながら前へ進む。

「藤本。石川は大丈夫なの?」

道を開けながら話しかけてくるのは隊長の飯田圭織。

「えぇ。ちょっと首を叩いて気絶させただけですから。」

飯田がホッとした顔を見せる。

「じゃあ行きます。」

やけに大きくなった美貴の背中とその背中に乗った石川を見守った隊長だった。


168 名前:ワクワク 投稿日:2005/10/14(金) 23:59
ちょい更新…(-_-;)

名無し読者さま>いつもいつも少量更新ですいません(;_;)今後は大量更新も考えておりますので(^O^)

星龍さま>いつもいつもこまめに感想ありがとうございます(>_<)
ほんっとに励みになりますっ!
169 名前:第1章 投稿日:2005/10/17(月) 00:50

***

170 名前:第1章 投稿日:2005/10/17(月) 00:56


『梨華ちゃん。』

「えっ?だ、だれっ!?」

『ひどいなぁ〜。わかんないの?』

声だけが聞こえて辺りは真っ暗で人一人さえいないようだった。

「・・・だれ・・・なの?」

不思議と懐かしく感じる声。しかし依然として姿はない。

『・・・』

「ねぇ・・・私・・・あなたのこと知ってる・・・」

『当たり前だよ。』

頭にガンガン響く声。クラクラした。

「いっ・・・たぁ・・・い・・・」



バタッ。


171 名前:第1章 投稿日:2005/10/17(月) 00:59

―――――――――
――――――――
―――――――
――――――
―――――
――――
―――
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172 名前:第1章 投稿日:2005/10/17(月) 01:07

「んぅ・・・・」
「梨華ちゃん?」

医療室のベッドに横たわる石川が一瞬顔を歪めて苦しそうにする。石川が苦痛のような顔をするのを久々に見た。

「んん・・・」
「梨華ちゃん!」

普段見ない顔を見たとき、人は不安になる。今の美貴もまさにこれに当てはまった。

「美・・・貴・・・ちゃん?」
「うん。」

石川の目がうっすらと開く。ちょっとホッとした。

「私・・・」

白い天井を見つめながら石川はさっきまでの出来事を思いだそうとしていた。

「美貴とやり合って・・・その・・・」

珍しく自分が躊躇した。それほど石川が真剣だったということを身にしみる。

「あぁ、私、美貴ちゃんに首やられて意識無くしちゃったんだね。」

意外とあっさり言ってのけた石川。


173 名前:第1章 投稿日:2005/10/17(月) 01:14

「あのさ、美貴・・・」
「美貴ちゃん。私さっき夢見てた。」

美貴が話そうとしているのを見事に遮られた。どうやら普段の梨華ちゃんに戻ってるみたい。

「夢?」
「うん。なんかね真っ暗な中に私だけいて・・・でも他の人の声がしたの。」
「声ねぇ。」
「しかもその声どこかで聞いたことあるなぁって思ったら頭が痛くなって・・・」
「今に至るってわけね。」
「うん・・・」

石川の夢は不思議だった。石川自身もどこからどうやってあの声が聞こえたのかわからない。ただわかるのはあの声は自分が聞いたことのある人の声だということだけだった。

「まぁそんな時もあるよ。」
「そうだね・・・」

なんとなく不に落ちない。

「考えてもどーせわかんないだろうし・・・声の本人に合えば気付くよ。」
「うん・・・」

美貴の言う通り、それしかなかった。


174 名前:第1章 投稿日:2005/10/17(月) 01:22

よしと言って座っていた美貴が立ち上がる。

「美貴ちゃん。」


クイッ。


「え?なに?」

立ち上がったはいいが石川に服の裾を掴まれて動けない。
いや、払い除けることもできたがあえてここではそうしなかった。

「あの・・・」
「なにさ。美貴、梨華ちゃんが目覚ましたって飯田さんに伝えに行きたいんだけど・・・」

ちょっと困る。
梨華ちゃんがこんなことをするのは珍しかったから。

心なしか石川の目がうるんでいる。



「行かないで。」
「へ?」

石川の言葉に耳を疑う。

「今何て・・・」
「行かないでよ。私・・・恐いよ。」

石川の目がうるんでいたのは見間違いではなかったらしい。

「・・・わかった。じゃあしばらくここにいる。」


ドサッ。


再びベッドの脇に用意された椅子に腰かける。


175 名前:第1章 投稿日:2005/10/17(月) 01:32

「ありがと。」
「いいえ、どーいたしまして。」

暗い雰囲気にしたくなくて、多少わざとらしく返事をした。

「ふふっ・・・」
「梨華ちゃん、キモい。」
「なによーー!」
「だって本当にキモいんだもん。」

案の定、石川は笑ってくれた。

「ひっどぉーい!!」
「ひどくて結構。」
「美貴ちゃんの意地悪!!」
「そんなの昔からだし。」

またいつもの口喧嘩。しかし言葉にトゲはなかった。

「美貴ちゃんなんてし〜らないっ!!」
「あーそうですか。なら美貴は飯田さんのとこに・・・」

また立ち上がる。


「だめっ!!」

今度はさっきよりも強い力で掴まれる。

「梨華ちゃん、やっぱキショイ。もうね、キモい通り越してキショイだよ。キショイ。」
「えぇ〜?なんでよー!!」


本当は・・・


可愛い、守ってあげたいと思ったけど・・・


絶対言ってやらないし。


しかも、そう思ったのはほーんのちょっとだけしね。


176 名前:名無し読者 投稿日:2005/10/18(火) 10:21
りかみきいいねぇ
177 名前:星龍 投稿日:2005/10/18(火) 16:15
更新お疲れ様です。
この2人の話している所いいですねぇ。
何か好きです。
これからも頑張ってください。
178 名前:第1章 投稿日:2005/10/19(水) 17:46

***

179 名前:第1章 投稿日:2005/10/19(水) 17:56

「これどこ〜?」
「あっ、それはこっちじゃなくて向こう!」
「えぇ〜。もういやれすよぉ。」

祭の準備で大忙し。
飯田と石川が設計図のようなものを見ながらなにやら相談事。
一方、美貴、辻、小川は荷物運び担当。
田中、道重は新人ということでとりあえず掃除担当。

「のの、これも向こうに。」

石川が顎で指示を出す。

「むぅ〜…ののはもうやれす。」
「ののっ!いいからやって!じゃないと明日までに終わんないの!」
「いやれす……」

辻は本当に嫌なのだろう。しゃがんで一歩も動こうとしなかった。

「のーのー。」

飯田が声をかけても無視。

「ののはぜっっったいやらないのれすっ!」

困った二人はどうしたものかと顔を見合わせる。


180 名前:第1章 投稿日:2005/10/19(水) 18:04

「これどこなんだっけか?」
「え?」

先ほど石川が辻に運んでほしいと頼んだ荷物を美貴がひょいと持ち上げた。

「え?じゃなくてさ。運ぶんでしょ?これ。」

持ち上げた荷物に目線を送る。

「あ・・・うん。それは向こうの机に・・・」
「はいはぁい。よっし。」

荷物を持って歩き始めるとすぐ横に辻がしゃがんですねていた。

「辻ちゃん。」
「ののはやらないれすよ。」

いくらこっちが目を見ていようとも目を合わせようとしない。

「うん、いいんじゃない?」
「へっ?」

びっくりして目を見る辻。

「でもね、これやんなかったら辻ちゃんが大好きなやきそばとか綿あめとか・・・そういう屋台のものにあやかれないよ?まぁ辻ちゃんがやらないって言うなら別にいいけど。」
「・・・」
「んじゃあ、美貴はこれ運んでくるから。」

荷物を持ってそそくさとその場を立ち去る。


181 名前:第1章 投稿日:2005/10/20(木) 00:41

「梨華ちゃぁん!!これはどこなんれすかぁ〜?」
「え??えっ?ののはやらないって・・・?」
「なに言ってるんれすか!ののはやる気満々れすよっ!」

後方から辻のやる気が表れている声がハッキリ聞こえる。

「さっすが藤本。あの辻をやる気にさせたね。」

横から飯田が話しかけてきた。

「美貴はなんもしてないですよ。」

実際美貴はなぁんもしてないし。
したと言ったら・・・今持ってる荷物を運んだくらいかな。

「ふふっ。藤本らしいわねー。」
「そりゃ美貴は美貴ですから。」

さすが隊長。美貴の考えはお見通し。

「藤本さ〜ん!!!これもこっちですか!?」

他の兵士に聞かれる。

「あぁ、うん。たぶんね。ちょっと待って。今行く。」

そういうと飯田と目配せして兵士たちのほうへと足を向けた。


182 名前:第1章 投稿日:2005/10/20(木) 17:38

***

183 名前:第1章 投稿日:2005/10/20(木) 18:28

パカラパカラパカラ。

「おっと。」

タズナを引く。

「ヒヒーン!!」

それに合わせて馬が勢いよく止まる。

「こんなところまでどうされたんですか?」

前に立つ女性が優しく微笑む。


「あ、あの・・・ちょっとお散歩をと思いまして・・・」
「姫、ここは警備が手薄です。どうぞ庭にお戻りください。」

姫、愛が笑っているのと対照的に顔を曇らせているたまたま居合たさくら隊の吉澤。

「でもよしざーさんがおるから安心やないですか!」

嬉しそうににこっと微笑む。

「・・・姫、いくらよしざーがいても安心はできません。それに・・・」
「それに?」

可愛く首をかしげ、キラキラさせた目で覗きこんでくる。

「それに皇女さまが姫を探しておいででしたよ?」
「ほ、ほんまですか?」
「はい。」

馬を降りつつ姫との会話を続ける。


184 名前:第1章 投稿日:2005/10/20(木) 18:48

「なんなんやろ・・・」

一人でうーんと悩み、眉間にしわを寄せる。

「ここからだと皇室まで少々時間がかかります。よしざーがお送りしますよ。」

馬のタズナを引いて姫に近寄る。

「ええんですか?」
「お安いご用ですよ。よしざーたちは姫や皇女さまのためにいるのですから。」
「へへへへっ///」

嬉しいのか頬を赤らめてさらに笑顔になる姫。

「ただし、お送りするさいに少し揺れますがね。あは、あはははは・・・///」

なんだか情けない。
だけど・・・
姫の笑顔がキラキラしてて、心から暖かくなれた。
よしざーって単純なのかな?

「よしざーさん??」

姫の顔をマジマジと見て動かない吉澤を不思議に思って姫が目の前で手を振る。

「あ・・・いや・・・では姫、こちらへ。」
「はい。やざ!」


185 名前:第1章 投稿日:2005/10/20(木) 19:41

姫が近寄る。

「ヒッ、ヒーンッ!!」

吉澤の乗っていた馬が暴れる。

「こらっ!!ブラスっ!どぉどぉ〜。」

愛馬ブラスの首元を撫でて、なだめる。

「大丈夫、大丈夫だから。このお方は姫なんだよ?」

ブラスの首を撫でながら言い聞かせる。

「ブルルルッ。」

それでもブラスはまだ興奮しているようだ。

「ひ、姫っ!!」

何を考えたのか姫が興奮気味のブラスに近付いてくる。

「姫、危ないのでお待ちを・・・」
「ブラスってこのお馬さんやったんですねぇ〜。」

姫がブラスに近付いてたて髪を撫でる。
すると、今まで暴れていたブラスがおとなしくなった。

「えっ・・・ブラス・・・?」

ブラスが自ら姫にすりよる。

「あはははっ!!くすぐったいやざ。」

たて髪が当たり、クスクスと姫が笑う。


186 名前:第1章 投稿日:2005/10/20(木) 21:47

「よしざーさん!この子、ええ子やね〜!」

ブラスを撫でながら姫がこちらを向く。
不意にブラスと目が合った。

『どーだ、この子は俺を気に入っている。俺にかかったらこんな可愛い子もイチコロだ。』

ブラスから伝わってくる言葉。

こいつ、うちの愛馬ブラスは馬の中でも最高馬だ。
そしてブラスはめちゃくちゃモテる。もう人間のよしざーが見てもわかるくらい。

「こいつ・・・」
『ざまぁみろ。』

またやけに冷静な馬だ。

「よしざーさん?」
「あ、はい。」
「皇室まで送ってください。」
「かしこまりました。」

慌てて相棒ブラスから姫に視線を戻す。

「では・・・・」


バサッ。


淡いピンクのマントをなびかせ、相棒の上にまたがる。

「姫。」

片手は手綱、もう片方の手を姫に差し出す。

「あの・・・」
「はい?」

姫がためらう。


187 名前:第1章 投稿日:2005/10/20(木) 21:58

「こ、怖い・・・かな・・・と思いまして・・・」

珍しく弱気な姫がおかしくて思わず笑ってしまう。

「クスクス・・・姫、大丈夫ですよ。よしざーがタズナを握りますから。」
「・・・はい。」

姫は渋々ながらも吉澤の手を握って、ブラスに乗った。

「大丈夫ですか?」
「はい・・・。」
「では、ブラス!行くよ。」

タズナをパチンと一振り。

「ヒヒーン。」

ブラスが一度鳴き、軽快に足を進める。


ぱかぱかぱから。


草の中をたて髪まで全身、見事なほど真っ黒のブラスと上に乗った吉澤、愛が駆ける。


パカラパカラパカラ。


心地好い風が全身にヒュウヒュウと吹き付ける。

「ん・・・気持ちえぇ・・・」

タズナと手の間にいる姫が気持ちよさそうに風に体を預けていた。


188 名前:ワクワク 投稿日:2005/10/20(木) 22:03
短い更新です・・・。

名無し読者さま>みきりかいいですか??(笑)自分的にこんなシュチエーションで二人を使ってみたかったんです(>_<)

星龍さま>この二人の会話ってめちゃくちゃ想像しやすいというか、タイミングよく進められるというか(笑)なんとなく書きやすいので使ってみました(^o^)/
これからも読んでやってください(笑)
189 名前:第1章 投稿日:2005/10/26(水) 02:44

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――――
―――

190 名前:第1章 投稿日:2005/10/26(水) 02:58

カタッ。


「皇女さま、姫をお連れいたしました。」

大きな扉の前で膝ま付いて中にいるであろう人物に話しかける。
そんな吉澤と後ろにいる姫をじっと見つめる扉の両側にいる見張りの兵士。


ギィィ・・・・


大きな扉がなんの前ぶれもなく開き始める。それと同時に見張りの兵士もお互い向き合う。

「どうぞ、お入りください。」

ひとりが吉澤と姫に言う。

「ありがとう。」
「ありがとーやざ。」

二人は見張りの兵士を通り過ぎて中に入る。すると、そこには皇女の前で膝まづくさくら隊の隊長、安倍と今日もまた、いつものように皇女の隣に立っている後藤がいた。

「おぅ、吉澤。ありがとさん。」

皇女の目は吉澤に向けられている。

「いえ、見回りをしていたらたまたま姫が歩いておられたのを見かけましたので。」

吉澤は皇女に話しかけられるより先に、安倍よりかなり後ろで立ち止まり、膝づいていた。


191 名前:第1章 投稿日:2005/10/26(水) 03:09

一方、姫は少し不満そうに皇女の座る席へと近づいて行く。

「愛、あんたどこ行ってたんや?」
「散歩に出てました。」

やけにそっけない。姫なりの散歩を邪魔されたことへの小さな抵抗なのだろう。

「まぁええわ。」

皇女はこの答えが返ってくるのがわかっていたかのように微笑み、頷く。

「姫、お座りになられますかぁ?」

後藤が優しく微笑む。

「後藤さんありがとーございます。やけど、あーしはここでええです。」

後藤には怒っていないのかこれでもかというくらいの笑顔を見せる。

「姫がそうおっしゃられるなら。」

後藤は用意しかけていた姫専用のイスをもとあった場所に戻す。

「ではよしざーは失礼いたします。」

膝まづきながら、一礼する。

「んぁ、よしこ、ちょっと待ったぁ!」

立ち去ろうとする吉澤を慌てて後藤が呼び止める。


192 名前:第1章 投稿日:2005/10/26(水) 23:55

「へ?なに?よしざーこれから見回りに戻りたいんだけど・・・」

自分の前に立ちはだかる後藤を不思議に感じながらも、一応話を聞こうとする。

「ヨッスィ、見回りは矢口たちに任せといたから。なっちの隣にくるべさ。」
「はい・・・」

隊長に言われたので、見回りが気になりながらも隊長の横に移動して再び膝まづく。

「今回の話はな、吉澤、あんたにも聞いててほしいんや。」
「はぁ・・・」

皇女が吉澤が膝まづいたのを確認すると話し始めた。

「これから言うことはな、愛はもちろん吉澤にもふかぁく関わってることやからよー聞くんやで?」
「わかりました、皇女さま。」

姫と自分に共通する話題、考えてみたが思い当たるものはひとつもなかった。

「まずは愛。あんたはこの国の姫でゆくゆくは国の将来をしょって立つ人間や。」
「そ、そんな大げさな・・・」
「アホか!大げさやない。それが現実なんや。」


193 名前:第1章 投稿日:2005/10/27(木) 00:13

「そうでございますよ、姫。あなた様はいずれ皇女の後をお継ぎになられるのです。」

皇女の横、いつもの定位置に戻った後藤が皇女に賛同する。

「あーし・・・そんなこと考えてなかったやざ。」

真っ直ぐ皇女を見据えていた姫の目は明らかに床に向かっている。

「姫、そんなに気を落とされることはございません。まだまだ先のことです、想像できなくて当たり前なのですよ。」

安倍がいつもの優しい笑顔で姫を慰める。

「やけど・・・あーしにそんな大役が務まるかどうか・・・」
「そのために今日はさくら隊のふたりと後藤を集めたんや。」


そのため?


さくら隊隊長の安倍、側近の後藤がここにいるのは納得できた。
しかし、このメンバーになぜ自分が含まれているのかまったくわからなかった。こういうことなら副隊長の矢口が妥当なところだろう。

「この国の将来がかかっとるからな。今からそこら辺のことを考えておかなアカンのや。」


194 名前:第1章 投稿日:2005/10/27(木) 00:30

「あの・・・」

吉澤が思わず隣にいる隊長、安倍に耳打ちをする。

「なんだべか?」
「あのですね、さっきから疑問に思ってたんですけど・・・よしざーはなぜここにいるんですか?」

今日の任務、見回りを突然の交代。後藤に呼び止められるわ、いつの間にか国の将来の話になるわで吉澤にはもうなにがなんだかわからなくなっていた。

「それはね・・・」
「安倍、そっから先はあたしから直接話すわ。」
「はい。お願い致します。」

皇女が座っていた椅子から立ち上がり、ふたりに近づいてくる。

「吉澤、あんたさくら隊に入って何年になる?」
「はい、今年の4月でちょうど5年になりました。」
「ちゅーことは・・・入隊は15のときか?」
「はい。」
「そうかそうか。あんたも20歳になったんやもんな。偉い成長したわ。」
「いえ、まだまだ修行が足りません。」

自分の入隊が国の将来、どう考えても関わっているとは思えない。


195 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 16:01

「吉澤、あんたホンマに一人前の戦士なったわ〜。今では国民が安倍とあんたを比較するくらいまでになってんからな。」
「そんな…隊長とよしざー比べるなんて。よしざーは隊長の足元にも及びません。」

びっくりした。
確かに自分の成長は自分が一番わかる。だが、まだ隊長の安倍や副隊長の矢口それに後藤。この三人は遠く及ばない存在だと認識している。

「そんなことないべさ。ヨッスィは強いよ。それは隊長として認めるべさ。」

安倍が吉澤の言葉に反論する。

「あ、ありがとうございます。そこまで皇女さまや隊長に言っていただけて幸せでございます。」

皇女はうんうんと一人頷く。

「吉澤はホンマに主戦力としてよーやってくれてると思うわ。」
「それがよしざーの役目でございますので。」

皇女の言葉に頭を一度下げて、一礼する。

「そして安倍、あんたもあの個性の中の個性が揃ったさくら隊をようけ引っ張ってくれてると思う。」
「はっ、なっちは皇女さまのご命令に従っただけでございます。」


196 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 16:30

「いや、いくらあたしが命令しても安倍やなかったらさくら隊がここまで頼りになることはなかったわ。」
「それはなっちではなく、さくら隊隊員それぞれが頑張った結果だと。」
「まぁな、でもそのさくら隊隊員にも安倍が含まれてるってことや。」
「ありがとうございます。」

いやホンマのこと言っただけやでとなぜか少し照れている皇女の顔を横からじっと見つめる。

「皇女、あの話をされなくてよろしいんですか?」

後ろに立っていた後藤に言われてやっと思い出したのか、そやったそやったと皇女が吉澤と安倍を見る。

「あんたらには感謝しきれんほど働いてもらってる。その分犠牲も多かった。それは皇女であるあたしの責任や。すまんかった。」

皇女が膝まづく二人に向かってピンと背筋を伸ばし、頭を下げる。

「お、皇女さま!?」
「皇女さま!!顔をお上げください!」

ただびっくりする吉澤と皇女に頭を上げて貰おうとする安倍。
そんな光景を見て、姫も絶句して声も出ない。冷静でいるのは、このことを予想していた後藤くらいだ。


197 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 16:44

「いや、ホンマにすまん。いくら戦士でも人間や。何かを犠牲にするっちゅことはめっちゃ辛い。それは軍人であったあたしがよーわかる。ホンマすまん!!」

皇女はかつて軍人だったからこそ、今戦士である安倍や吉澤、そしてもちろん他のさくら隊や、兵士たちの苦しみをわかっているはずだった。
それでも物事には犠牲が付きもので、皇女にはどうすることもできなかった。

「皇女・・・なっちたちはそんなこと気にしてません。」
「そーです。よしざーだってただ戦うことだけに必死でした。」
「なっちたちだけではございません。きっと他の者もみなそう思っているでしょう。」

安倍がいつものスマイルで皇女に話しかける。

「安倍・・・吉澤・・・」

皇女は静かに目をうるませる。

「すまん・・・あたしらしくないことしたな。」
「いえ、皇女がそこまでなっちたち戦士のことを思っていたとは・・・感無量でございます。」

安倍が頭を下げる。


198 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 17:14

「あんな・・・」

皇女が目にたまっているものを拭う。

「はい。」
「はっ!」

膝まづいたままの安倍、吉澤は嬉しそうに皇女の言葉に返事をする。

「明後日、ガールズ王国に奇襲をかけたいと思う。」
「えっ!?」

誰よりもいち早く驚いたのは吉澤や安倍。


ではなく、姫の愛だった。

「なんであんたがそんなに驚くねん。」
「や、やってぇ・・・」

明後日といえば、美貴と約束したあの祭り翌日だ。

「なんや?まぁええ。今回の戦いは今までよりもっと多くの犠牲が出るやろう。そやから・・・」

皇女が一瞬、言葉に詰まった。

「皇女・・・なっちたちは国のため、国民のため、そして平和のために戦います。」

安倍は皇女の気持ちを受け取ったのか、先ほど見せていた顔とは違い、戦士安倍としての顔をしていた。

「よしざーも隊長と同じ気持ちです。例え戦うのがよしざーだけだったとしても構いません。」

吉澤もいつもよりいっそう、真剣な顔だ。


199 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 17:24

「ヨッスィ、なっちも戦うべさ。なっちのこと忘れたっしょ?」
「んあ〜、ごとーもやるよ。よしこ、ごとーを忘れちゃ困るよ〜。」

横と前から不満そうな声が聞こえる。

「た、例えばっすよ、例えば!隊長とごっちんを忘れるわけないじゃないっすか。」
「本当だべか?」
「本当にぃ〜?」

明らかに自分の言葉を信じてない二人。

「ねぇ〜。」
「どうなんだべかぁ?」


「だぁぁー!もう!当たり前でしょーが!!」

思わず大声を出してしまう。

「吉澤うるさいな。」
「よしこ、声でかい。」
「ヨッスィ、もう耳痛いべさ。」

苦笑しながら三人から言われる。

「す、すいません。」

しょんぼりする吉澤。

「まぁそこまで言ってくれる三人がいるなら安心やわ。」

皇女は元気を取り戻したのか笑顔で三人を見る。

「しかし皇女。なぜ明後日なのですか?」

今までずっとそれを考えていたのか、安倍はふっと素朴な疑問を投げかけた。


200 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 17:39

「ん?まぁちょっとしたつたでな、明日はガールズ王国の祭りがあるって聞いたんや。祭りの日に攻めるんは流石に気が引けてな。そやから、祭りの片付け終わりくらいの油断してるときに奇襲すればええんやないかと思ってな。」
「そうでしたか。」

安倍がなるほど、と納得したのか頷いてみせる。

「明日の祭りがガールズ王国にとって最初で最後の楽しい祭りってことですね。」
「あぁ、まぁ明日はとことん楽しましてやろうや。」

吉澤の言葉に皇女は深く頷いた。

「どうした?愛。あんた顔色悪いで?」

皇女がずっと黙っていた姫を気にして見てみると顔が真っ青だった。

「あ・・・その、ちょっと気分が悪ぅなってしもうたみたいでして・・・」
「なんやて?はよ言わんかいな!!後藤!愛を部屋に!」
「はいっ!」

後藤が急いで姫に近寄る。

「大丈夫です。一人で部屋に行けますから。」

顔を真っ青にしながら後藤を制す。

「しかし・・・」
「なに言うてんねん!!あんためっちゃ顔色悪いやんか!」

心配で声が大きくなる皇女。


201 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 17:57

「じゃあ・・・ガキさんを呼んできてください。」

姫が壁に手を付きながら必死で訴える。

「ガキさんやったら・・・部屋まで一緒に行きます。」

後藤が皇女の指示を仰ぐかのように顔を見る。

「くっ・・・・しゃない!急いで新垣をここまで連れて来いっ!!」
「はっ!!」

後藤は皇女の命令を聞いたと同時に外へと姿を消した。

「姫!大丈夫でございますか!?」

吉澤が姫を両手で支える。

「なんやねんな!!」
「皇女、落ち着いてください。姫はご自分で部屋に戻れるとおっしゃいました。少し体調が優れないだけでしょう。」

一方、安倍がパニックになっている皇女を落ち着かせている。

「よしざーさん。大丈夫やざ、あーしちょっと具合悪いだけやから。」

自分の体を支えていた吉澤の両手を上から優しく包む。

「姫ご自身が大丈夫でもよしざーが気が気じゃないですよ。」

吉澤が姫を支える手にぎゅっと力を入れる。

「それはありがたいやざ。」


姫はよしざーが大好きな笑顔で笑いかけてきた。顔は真っ青だったけど。


202 名前:第1章 投稿日:2005/10/29(土) 18:08



バタンッ!!


「姫っ!!!」
「新垣を連れて来ました。」

すごい勢いで新垣と後藤が入ってきた。
新垣がすぐに姫に駆け寄る。

「姫!!!大丈夫でございますか!?」

自分の手を使って姫を支え、なんとか倒れないようにする新垣。

「ガキさん・・・いつも姫って呼ばんとってって言ってるやろ?」

「こんなときになにをおっしゃってるんですか!!」

新垣は吉澤から姫を受取りながら顔を真っ青にしながらも些細なことを気にしている姫に言った。

「こんなときやからやよ・・・。」
「・・・愛様、ご自分で歩けますか?」
「にしし。あーしを誰やと思ってんのや・・・」

新垣が愛と呼んでくれたのが嬉しかったのか、顔を真っ青にしながらも新垣に笑いかける。
新垣が姫の肩を支えた。

「皇女さま、姫をご自室にお連れしてよろしいでしょうか?」
「あぁ、頼んだで。新垣。」
「それでは。」

新垣は皇女の言葉に頷くと、姫を連れて部屋から出ていった。


203 名前:名無し飼育さん 投稿日:2005/10/30(日) 03:28
一気に読みましたよ〜
楽しいです、がんばってください
204 名前:星龍 投稿日:2005/10/30(日) 12:39
更新お疲れ様です。
みんなの運命はいかに・・・。
凄く気になる展開に・・。
これからも楽しみにしてます。
205 名前:第1章 投稿日:2005/11/02(水) 01:24



パン、パパン!!!

音が鳴り響くとともに、夕焼け空に火薬の白い煙がたっていた。

「あーぁ・・・」

美貴は独り、河原で座ってその煙が消えていくのを見ていた。

「始まっちゃった・・・・」

そう、今日は国民全員が待ちに待った年に一度の盛大な祭りの日だ。そして美貴もまた、この日をずっと待ち望んでいた。


サワサワサワ。


生暖かい風が頬をかすめる。

「まぁね・・・まだちょっとしか待ち合わせの時間過ぎてないし・・・来てないのは当たり前か。」

彼女の姿があると思ってダッシュでここまで来たが、その彼女はまだ来ていなかった。


ドサッ。


草原に体をあずけて目を瞑る。
生暖かい風が心地好く感じる。

「きもちぃ〜・・・・」

暗闇の中に光が差し込み、一つの顔を浮かびあがらせる。


206 名前:第1章 投稿日:2005/11/02(水) 01:35



ラブちゃん・・・。

彼女を心の中で呼んでみる。
するとそこにいる彼女は手を振って笑顔でこう言った。



『美貴ちゃん』


なんだか照れくさい。

そんな印象だった。
美貴ちゃんと呼ばれるのも、笑顔で話しかけられるのも、いつもみんなからされることなのに、彼女にかかるとそんな些細なことも嬉しく思えた。


『美貴ちゃん』

また彼女の口から名前が発せられる。


こっち来なよ。

美貴が呼びかけるけど彼女はなぜかその場から動こうとしない。
そして笑顔ではいるものの、どこか寂しそうだ。


ラブちゃん。

また彼女を呼ぶ。今度は彼女が名前を呼ばれて手を振る。

ラブちゃ・・・

『美貴ねぇ〜!!』

聞き覚えのある声が後方から聞こえてくる。


207 名前:第1章 投稿日:2005/11/02(水) 01:41



後ろを振り向く前にもう一度彼女を見た。
すると、彼女は背中を向けて歩き始めた。


ラブちゃん!!待ってよ!!!


必死で去ろうとする背中に向かって叫ぶ。


ラブちゃんってば!!


声が枯れるくらいに必死で叫ぶ。


ねぇ、美貴だよ?


追いかけようとしたが、なぜか自分の体がいうことをきかなくなっていた。


『美貴ねぇー!!』


後ろから名前を呼ばれているけど、そんなの関係ない。今は彼女を止めることが先だ。




しかし、彼女がこちらに振り返ってくれることはなかった。


208 名前:第1章 投稿日:2005/11/02(水) 01:52

「・・・・ぇ・・」

自分が目を瞑っていたことに気が付き、ゆっくりと開ける。

「美貴ねぇってば!」

目を開けたら、すぐに独りの少女が自分をのぞきこんでいることを知る。

「あ、れーな。なにやってんの?」
「なにやってんのじゃないっちゃ!美貴ねぇの姿が見当たらんかられーなが探しにきたとです。」
「あぁぁ、そっか。」

そういえば祭り会場を抜けてきたんだと改めて思い出す。

「美貴どれくらい寝てた?」
「わからんとです。れーなが来たときにはもう寝とったから。」
「ふーん。今何時?」
「えぇーと、何時かはわからんっちゃけど祭りはもう後半にさしかかってたとよ。」

後半。つまり、もうすぐメインイベントのダンスパーティーが始まるということなのだろう。

「そんなに経ったんだ。」

体を起こして辺りを見回してみるが、当然、彼女の姿はどこにもない。


209 名前:第1章 投稿日:2005/11/02(水) 14:24

「れーなさ、早く行かないとダンスパーティー始まっちゃうよ?」

隣りに腰かけている田中が去る気配がないので、一応言ってみる。

「美貴ねぇは行かないとですか?」
「あー・・・美貴はいいや。毎年踊ってきたし、久々に息抜きしたいんだよね。」


嘘だった。
本当は来るはずの彼女を信じて待っていたかったんだ。


「美貴ねぇの周りは毎年すごかったけん、れーなも覚えとーです。」
「れーなも見てたんだ。」
「はいっ!美貴ねぇはれーなの憧れっちゃから!」
「そっかぁ。」

毎年、美貴自身は意識しなくても人が集まってきていた。それも必ず美貴の周りは歳も関係なく、女の人、女の子ばかり。
そんな美貴と対称的なのが梨華ちゃん。
梨華ちゃんの周りも人が多かった。でも梨華ちゃんの周りは美貴と違って男の人とか、かっこいい女の子とか、歳関係なく男っぽい人が集まっていた。


210 名前:第1章 投稿日:2005/11/02(水) 15:21

「今年は美貴ねぇがいないからみんな探してたとよ?」
「あぁ、そーかと思った。」

さっきから遠くのほうで誰かを探している声が聞こえたり、灯りが行き交ったりしている。

「美貴ねぇもすごいちゃけど、石川さんもばりすごか。」
「あー、梨華ちゃんもかなりすごいからね。」


今年もまた梨華ちゃんは大変なことになってるらしい。


「んで、れーなはどーなの?」
「んへ?」
「んへじゃなくて。れーなは相手いないの?」
「あ、いや、その・・・」
「いるんじゃん。」

田中のわかりやすい戸惑いに、苦笑する。

「相手待ってんじゃない?」


こんなとこで美貴と油売ってる場合じゃないだろと思った。


「あ、でも美貴ねぇを探してること、あいつもわかってるとよ。」


211 名前:第1章 投稿日:2005/11/02(水) 15:48

「あいつ・・・?」
「あっ!!」

美貴の疑問でバレたと思ったのか、顔を真っ赤にする田中。

「べべべ、別にさゆとはなんにもないっちゃよ!?たたたたたまにはこいうのもいいちゃねって・・・」
「相手って重さんさんだぁ。」
「あっ・・・////」
「美貴はまだここにいるからさ、早く重さんとこ行ってあげな?」

「でも・・・///」
「はいはい、早く行く〜!!」

照れる田中の背中をポンと押してやる。

「行った行った!美貴はゆっく〜りしてくから。」
「じゃあ・・・先に行ってるとです。」
「ん〜。よい夜を。」
「美貴ねぇもよい夜を過ごしてくださいっ。」

田中は一礼するとその場を急ぎ足で去って行った。

「なんだ、やっぱ重さんに早く会いたいんじゃん。顔赤くしちゃってさ・・・」

嬉しそうに走って行く田中の後ろ姿を見つめる。


212 名前:ワクワク 投稿日:2005/11/02(水) 16:14
少しだけどこーしんです((((((((^_^;)

名無し飼育さま>楽しいと言っていただけて嬉しいです!!もしよろしければ今後も読んでやってください。

星龍さま>いつもありがとうございます〜!!今後も展開を考えて書きたいと思います。
213 名前:第1章 投稿日:2005/11/03(木) 01:03

「おーい梨華ちゃ〜ん!」
「石川さまぁ!どこに居られるのですかぁ?」
「是非私のパートナーに・・・」

遠くのほうから先ほどの集団とはまた別の声が聞こえてきた。

「今日はやけに騒がしいな・・・」

来ない彼女を頭に浮かべながらフッと呟いてみる。



バタバタバタ!



後ろからものすごい勢いで走っている足音が耳に入る。

「はぁはぁ・・・」

息遣いまで聞こえるほどの近さまで来た。

「はっはぁ・・・あ・・・」


どうやらそいつは美貴に気付いたらしい。


「よ。逃げてんの?」
「だ、だって、みんな断っても断ってもついてくるんだもん!」
「ふーん。まぁ座れば?」
「でも見つかっちゃ・・・」
「いいからいいから。美貴に任せなさい。」


ドンッ。


胸を張って手で叩く。


214 名前:第1章 投稿日:2005/11/03(木) 01:14

「じゃ、じゃあ・・・」

美貴の自信あり気な行動に渋々ながらも従う石川。

「石川さまぁーー!!」「いたかぁ!?」
「いや、そっちは?」
「こっちもだめだ!」

石川を探している集団の声がだんだんと近づいて来る。

「ほ、ほんとに大丈夫なの?」
「美貴を誰だと思ってんのさ?まぁ、梨華ちゃんが美貴の作戦に協力してくれなきゃ、あの追っかけ集団に連れてかれるだろーけど。」
「それだけは勘弁!」
「だったら黙ってること。これができればあいつらも諦めるだろーから。」
「わ、わかった!って諦める・・・?」

美貴の最後の言葉に何故か引っ掛かる石川。

「あ、石川さまだ!」
「ほんとに!?」
「あそこだ!」

石川を発見した集団がものすごいスピードでこちらに走ってくる。

「み、美貴ちゃん!」
「まだ。」

美貴はそんな状況でも冷静に、前を流れる川に視線を落としていた。

「私のパートナーを!」「梨華さまっ!」
「愛しの石川さまぁ〜!!」

ちょうどふたりの顔がハッキリ見えるくらいに集団がさしかかったその時だった。


215 名前:第1章 投稿日:2005/11/03(木) 01:24






ドサッ!!

「えっ?」

とっさのことでなにがなんだか全くわからなくなる。

「ちょっと失礼。」

そう言うと、美貴は石川の服に手をかけた。

「み、み、美貴ちゃん!?」
「シーッ!静かに。」

美貴が上に覆い被さって石川を見つめる。

「あ、梨華ちゃん。ちょっと美貴の首に腕回して。」
「え?え?あ、はい///」

困惑しながらも、先ほどから向けられている美貴の視線に従ってしまう。

「石川さま・・・え?」「愛しの・・・あ。」
「梨華さ・・・ん?」

やっと到着した全員がその場に立ち尽くす。

そして美貴は本当に目と鼻の先にある石川顔に一度微笑むと、そちらに顔を向けた。

「あ、なに?梨華ちゃんになんか用?」

微笑みとは全く逆のきつい目つきで集団を見る。

「あ、いや。」
「み、み、美貴さま・・・」
「そ、その・・・」

集団は美貴の顔を見た途端に言葉を失う。


216 名前:第1章 投稿日:2005/11/03(木) 01:32

「だったらさ、早く立ち去ってくれないかな?見たらわかるでしょ?美貴と梨華ちゃんは取り込み中なの。」

そう言ったかと思うと美貴は石川を再び見つめて「ねっ?」と同意を求めた。

「そ、そんな・・・」

集団のひとりが信じられないというように落胆する。

「あ、信じてない?ったくじゃあ見てれば?」

美貴はその言葉を集団に投げ捨てると、石川の服を持っていた手を石川のお腹辺りまで下げ、唇を石川の唇まで近づけていった。

「し、失礼いたしましたっ!」
「ご無礼をお許しください!」
「よ、よ、よい夜をお過ごしくださいっ。」


それぞれ美貴と石川に言葉を放つと、来たときと同じようにものすごいスピードで走り去っていった。


美貴がまた顔を上げる。

「ふぅ・・・やっと行ったか。」

すでに見えなくなった集団がいたはずの道を見つめる。


217 名前:第1章 投稿日:2005/11/03(木) 01:41

「あ、梨華ちゃん行ったよ。」

石川に視線を戻して教えてやる。

「・・・」
「梨華ちゃん?」

石川はジッと一点を見つめているようだ。

「りーかーちゃん!」
「え???」
「行ったよ。あいつら。」
「あ、うん。」
「良かったね。」

美貴が笑顔を見せる。いつもの優しい美貴だった。

「あ、あああの!」
「ん?」

石川の慌てっぷりがおかしくて、少し笑いながらもきちんと聞いてやる。

「手!!」
「手?」
「美貴ちゃんの手・・・・///」

顔を真っ赤にし、目をうるませて美貴を見る。

「あっ・・・」

ようやく石川の言いたいことがわかって、石川のお腹部分にあった自分の手を慌てて引っ込める。
しかし、その手をどこにやったらいいのかわからず、とりあえず石川の顔のすぐ横についた。

「ごめん・・・」
「え、う、ううん///」



218 名前:第1章 投稿日:2005/11/03(木) 01:50

心なしか、目の前にある石川の顔はいつもより赤く、色っぽかった。

「あ。いや、まじごめん。」
「気にしないで?美貴ちゃんは私を助けてくれたんだし///」

こんな会話にふさわしくない今の体制。
美貴が上にまたがっていて、石川が下で美貴の首に腕を回している。

「なんかさ、こんな体制でおかしいよね。」

「う、うん///」

会話もなんだかいつもよりぎこちない感じだ。

「あの・・・」
「美貴ちゃん///」
「な、なに?」

さっきよりもさらに顔を近づけてくる石川。

「なんかね。」
「は、はい。」


めったに近くで見ない梨華ちゃんの顔がすぐそこにある。
近くで見ると、いつもより数倍美人だなんて思っちゃうじゃんかよ。
あーぁ、おかげでちょっとどもっちゃったし。最悪。


「この距離・・・///」

「距離?」


219 名前:第1章 投稿日:2005/11/03(木) 01:59

「き・・・///」
「なに?聞こえないんだ・・・」





チュ。




「んだけ・・・ど・・・え?」
「キ、キスできちゃう距離だね///」


え?は?
いや、今のは・・?


「フフフ。美貴ちゃん固まってる。」
「は?あ、いや・・・え?」
「も、もう言わないよ///?」


いや、ハッキリ聞いちゃったんだけど。
梨華ちゃん、今キスできる距離って言ったよね?


恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、石川は美貴の首に回していた腕をほどいた。

「今のは助けてくれたお礼だから///」

そう言うと、石川は足早に立ち去ってしまった。

「・・・」

しばらくして、座り直して無言で川を見つめる美貴。



「・・・えぇ!?なにどーいうこと?」

どうやらガールズ王国の英雄、藤本美貴はそうとう鈍感らしい。


220 名前:第1章 投稿日:2005/11/11(金) 12:37

***

221 名前:第1章 投稿日:2005/11/11(金) 14:02

「愛様、大丈夫でございますか?」
「うん・・・」

部屋に着いてもなお、姫の顔は真っ青なままだ。

「愛様・・・なにかあったのですか?」

あまりにいつもの姫らしくない行動や表情に、不安を抱きながら姫の目線に合わせて問う。

「・・・」
「愛様。」
「明・・・日・・・」
「明日・・・ですか?」

姫の言葉で、自分の明日の任務を思い出す。

「明日は確か、見回りと訓練、それと・・・」
「予定変更やよ・・・」
「予定変更?愛様、いくらなんでも私が勝手に予定を変えることは不可能・・・」
「違うんや。予定を変更すんのはあーしやない。」
「じゃあ皇女ですか?」
「うん。」

姫は冷静だから声が低いのか、それとも怒って低いのかは今の新垣には見当もつかない。

「どのような任務に?」

ただなんとなくただ事でないことはわかった。


222 名前:第1章 投稿日:2005/11/11(金) 15:32

「・・・」
「愛様!」

ぼーっとしている姫の意識をなんとかこちらへと引き戻す。

「明・・・日・・・は・・・」


こんなに明らかに泣きそうな姫を見たのは久々だった。


「明日は・・・ガール・・ズ・・・王国を・・・攻めるん・・・やって・・・」

姫が両手で顔をおおう。

「え!?ガ、ガガールズ王国を・・・ですか!?」

思いがけない報告に頭が混乱する。

「も・・・うあーし・・・どうしてええか・・・」
「姫・・・」
「今日・・・お祭り・・・やった・・・のに。」

顔をおおいながら左右に首を振る。

「あ・・・今日・・・でしたね。」

新垣も姫が倒れたことで頭がいっぱいになり、ガールズ王国の祭りのことをすっかりわすれていた。

「・・・ふぇぇ・・・」
「愛様・・・お泣きにならないでください。」

姫の肩に手を置く。


223 名前:第1章 投稿日:2005/11/12(土) 10:31

「やってぇ・・・やってぇ〜・・ひっく!」

「愛様。」

姫が新垣の肩に顔を埋める。

「み・・・ちゃ・・・が・・・い・・・のに・・・」

姫が泣いているのと、顔を埋めているせいでうまく言葉が聞きとることができない。

「・・・」


ギュッ。


それでも自分が入隊してからの長い付き合いだ。姫が何を言おうとしているかは、心が痛むほどわかった。

「みき・・・ちゃ・・・が・・・」
「愛様、私も大変残念です。しかし・・・ガールズ王国とわが国は元々敵同士なのです。いつかはこうなるとわかっていました。そして・・・今がその時なのです・・・」


そう、いつかはこうなることがわかってたんだ・・・。
覚悟は出来てた。
出来てたはずなのに・・・


「グスッ・・・いやや!!あーしは・・・あーしは・・・」
「愛様・・・」


どうしてこんなに心が痛いんだろう。


「いややぁぁぁ!!」




どうしてこんなに怖いんだろう。


224 名前:第1章 投稿日:2005/11/12(土) 10:32


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225 名前:第1章 投稿日:2005/11/12(土) 10:32


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226 名前:第1章 投稿日:2005/11/13(日) 01:38







「あーしはなんの罪もない人を傷つけるんはいやや・・・」
「愛様・・・」
「国民や兵士だけやない。相手の国の国民や兵士にやってなんも罪はないんや・・・」


姫がここまで考えているなんて知らなかった。


「なんも罪のない兵士たちに・・・なんも罪のない国民たち・・・それに・・・それに・・・ガキさんや・・・よしざーさんや・・・」
「愛様、わかりました!わかりましたからっ!」


苦しい・・・姫のこんな顔・・・見たくないのに・・・。


新垣は姫を力強く抱きしめる。

「・・・ただの国民の・・・みき・・・ちゃ・・・やって・・・」

「もういいですから・・・私は・・・愛様に泣いてほしくないんです。」


こんな健気な姫に私はいったいなにができる?

なにをしたらいい?


「愛様には・・・涙は似合いません。」

そう言いながら、そっと姫の頬を伝う涙を指で拭った。


227 名前:第1章 投稿日:2005/11/13(日) 02:44

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228 名前:第1章 投稿日:2005/11/13(日) 02:53


ザワザワザワ・・・

「ん・・・」

体を起こす。昨日、風にあたっていたせいか少しダルい。

「うっさいな・・・」

廊下がやけに騒がしくて目が覚めた。

「あ・・・昨日このまま寝ちゃったんだ・・・」

自分の格好を見て、初めて昨日のままだと気付く。


あぁ、昨日・・・結局・・・こなかったんだよね・・・


ガチャ!!


「美貴ちゃん!!起きて・・・」
「なに?」
「あ、その・・・美貴ちゃんが起きてるなんて珍しいなと思って・・・」
「こんなに騒がしかったらいくら美貴だって目え覚ますっつーの。」

ドアを開けて、いつも以上に焦りながら石川が入ってきた。

「なにこの騒ぎ。」
「あ、そうだ!!王女さまからの招集命令がかかったの。」
「こんな朝っぱらから・・・なんでまた。」

「話は後!!とりあえず急いで!」
「はいはい。」

石川は美貴を急かすと、一緒に王女の間へと向かった。


229 名前:第1章 投稿日:2005/11/13(日) 03:02

「石川、藤本!!」

王女の間の前に着くと、そこにはすでにオトメ隊の面々が揃っていた。

「隊長。」
「藤本、話は王女さまから直接ある。さぁ、行くよ!」

美貴が何か言いたげな顔をしていたので、飯田はそれを察し、王女の間へと入って行った。他の面々も隊長の後に続き中へと入る。

「なんなのさ・・・」

何も知らないことが気掛かりだったが、間もなくその原因もわかると諦めて全員の後に続く。


「王女、オトメ隊全員招集いたしました。」


飯田が膝まづいて王女に一礼する。

「形式的な挨拶はいらん。今は緊急事態や!全員、心して聞くように!!」
「「「「「「「はっ。」」」」」」


王女の間にいる全員が王女のほうを向いた。


こりゃよっぽど深刻だな。


美貴は常にその場を客観的に見ていた。


230 名前:第1章 投稿日:2005/11/13(日) 03:11

「スプリング王国のやつらがもうすぐあたしらの領土に入ってくるという報告があった。」
「え?」
「うそ・・・」
「なんで?」
「本当れすか?」
「えぇ?」
「敵が・・・」
「いやぁん!」

オトメ隊全員が同じような反応をみせる。

「確かな情報や。もうそろそろやつらが攻めてくるころやと思っとったが・・・まさか今日とはな。」

王女はこの事態を予想していたのか、冷静を保っていた。

「どういたしますか?」

隊長の飯田が王女に指示を仰ぐ。

「うん、とりあえず圭ちゃんは亜弥をここへ。」
「承知いたしました。」

保田は足早にこの場を去って行った。

「あっちがその気ならこっちもこっちで考えがある。」
「といいますと?」
「人質や。あっちの人質をとればこっちが有利になる。」
「しかしこちらに攻めてくるものは下級の者がほとんどかと・・・」
「人質にするんはこっちに来るやつやない。向こうにいるやつや。」

王女と隊長飯田のやりとりが続く。


231 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 14:22

「向こうの・・・ですか?」

飯田が察しているのかそうでないのか微妙な表情を浮かばせている。

「そうや。重要人物をこっちが預かってしまえば、いっきに形勢逆転や。」


カタッ。


「王女、姫様をお連れいたしました。」

ちょうど姫を連れた保田が帰ってきた。

「お、圭ちゃんありがとな。」
「いえ、お安いご用です。」
「みんなを集めてなにやってるんですかぁ?」

いつもそこまで気にしない姫が、さすがに今日はオトメ隊や王女のただならぬ雰囲気を読み取ったのか、不思議そうにこちらを見ていた。

「あぁ、ちょっとな。」

王女はあえて言葉を濁す。

「王女様。」

飯田が王女の指示を待つ。

「うん、そこで・・・やな、その『やつ』を連れてきてほしい。」

「それは構いませんが・・・『やつ』とは・・・」

美貴は飯田の隣で眠さのあまり、目を擦った。


232 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 14:38

「向こうさんの重要人物といえばだれやと思う?」

王女の頭の中にはすでに、その重要人物が浮んでいるのだろう。嬉しそうに飯田に問う。

「重要・・・人物ですか・・・」

飯田は眉間にしわを寄せてう〜んと悩んでいる。
普段見ない飯田の表情に美貴は少しおかしくなった。

「王女様。」
「なんや?藤本。」

まだ悩んでいる飯田の顔をちらっと見て、姫に目をやり、王女に視線を合わせた。

「重要人物・・・それは向こうの『姫』でございますか?」

飯田ははっとこちらを見る。

「あーぁ、さすが藤本やな。飯田に出した問題やのにあっさり解いてしも〜た。」

王女が残念そうに、かつ嬉しそうに美貴を見た。

「申し訳ありません。」
「いや、どうせ頭の硬いかおりんにはわからなかったわ。」

王女と姫の座る椅子の間に立っている保田が口を挟む。


233 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 14:54

「なっ・・・圭ちゃんひど・・・」
「あら、本当のことでしょ?」
「むぅ・・・」

図星なのだろう。飯田は少し顔を赤くしながら、視線をほんの少し下げた。

「まぁまぁ、ええやないか。それよりその『姫』をどうやって連れ出すか、や。」
「「はい。」」
「え?え?何の話なんですか?」

この中で、唯一話の流れをわかっていない姫が保田に問う。
そのときに姫がちらっと美貴を見たが、すぐに保田へと視線を戻した。

「姫。これは今から実行する戦略なのです。」

保田は大まかにだが、姫に伝える。
そんな二人の横で王女が再び話し始める。

「そこで、あんたらオトメ隊に今回の特別任務を言い渡す。」
「はっ。」

代表して隊長の飯田が返事をする。
なんのへんてつもないいつもの光景だった。



「オトメ隊に城の警護、及び敵陣の人質を確保せよ。」


234 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 15:24

「かしこまりました。しかし・・・オトメ隊は王女がご承知通り少人数でございます。両任務を全員でこなすというのは困難かと思われます・・・。」


確かに隊長の言う通りだ。


別に王女の命令を否定するわけではなかったが、隊長の意見が最もだと感じた。
それは美貴だけでなく、隣に並んでいる石川の表情からも伺える。

「もちろんわかっとる。だ〜れも全員で両方をこなせなんて言っとらんっちゅうねん。」

「では・・・」
「そうやなぁ、人質確保には二人くらいで行ってもらう。残りのもんが警護や。」

びっくりして全員が固まる。



「え・・・えぇ!?」

さすがに王女の一言にどもらずにはいられない、オトメ隊の面々。びっくりして声を上げていないのは王女の隣にいて、どんな状況でも我を保つ保田、そして未だにあまりよくわかっていない姫だけだった。


235 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 15:45

「向こうに乗り込むんやからな、全員で行くと目立ち過ぎてかえって危険やろ。」

今まで笑っていた人とはまるで別人のような険しい顔の王女。

「・・・でしたら・・・私が向こうに・・・」
「あかん。」

飯田の提案に間発入れず否定する。

「圭織はこっち残らなあかん。軍を仕切るのはあんたしかおらんやろ?」
「指揮なら圭ちゃんでも・・・」

いつもなら飯田と保田、どちらかが指揮をとる役目が多かった。
しかし、今日に限って王女は飯田をあえて指名した。

「圭ちゃんは城内の警護指揮をとらせる。せやから圭織、あんたは城近辺の警護指揮者。」

飯田に指をさす。

「しかし・・・部隊の者を危険にさるわけには・・・」




「美貴がやります。」

美貴一人が勢い良く立ち上がる。


236 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 16:02

「藤本なに言って・・・」
「隊長。美貴がやります。」

飯田と真っ正面から向き合う。

「でも・・・」
「藤本、あんた本気で言ってんのか?」

飯田と美貴のやりとりを見て、王女が美貴を見つめる。

「はい。美貴がやります。やるなら見つからないやり方・・・つまり正式な出入り口からでは侵入しないほうがいい。なら・・・壁を越えるしかない。その壁を越えられるとしたら美貴の愛馬、スカイルしかいません。」

ガールズ王国での名馬と言えば美貴のスカイル。スカイルは他のどの馬よりも能力の高い、珍しい爪先から尾まで真っ白な白馬である。

「確かにな・・・。壁を越えられるんは藤本のスカイルしかおらん。」

王女が深く頷く。

「じゃあ私も行きます!!」

石川が手を上げて立ち上がる。


237 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 16:31

「王女。梨華ちゃんは一緒に連れて行けません。」

石川の申し出をすぐに否定する。

「美貴ちゃん?」
「王女様、梨華ちゃんは矢の名手です。外壁に迫ってくる敵陣を食い止めるには必要な人材だと思われます。」


美貴は石川の顔を見ずに、王女に告げた。

「うん・・・そうやな・・・石川、あんたは警護に就き。」
「そんな・・・」

よっぽど美貴の身を案じているのだろう。ガクンとその場に崩れる。

「しかしな・・・さすがに藤本を一人で行かすわけにはいかんし・・・かと言って必要なやつは残さないかんし・・・」

王女はあと一人を誰にするか、決めかねていた。




「王女様・・・ののが行くれす。」

またも、自分から行くと志願する者が現れた。


238 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 16:57

次に志願した者、それは・・・




「ののが・・・ののがやるれす!!」

メンバー1力自慢の辻希美だった。

「辻ちゃん・・・?」

意外な人物の申し出に美貴も思わず、その本人を見る。

「辻かいな。いいか?あんたな、これは重要任務やねんで?」

いつもふざけている辻が申し出たことで王女は少し疑問を抱く。

「わかってるのれす。ののは本気で言ってるのれす!壁を越えられるのはミキティのスカイルと圭ちゃんのダイマれす。」
「あ・・・」

保田は自分の愛馬の名前を出されて思い出したのか、微かに声をもらす。

「うん、確かに圭ちゃんのダイマは藤本のスカイルの次にすごいやつや。しかしな、辻。この二馬は絶対にご主人しか乗せんのや。」



239 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 17:06

昔、保田の愛馬ダイマが盗まれたが、ダイマはその盗人を背中に乗せることなく、代わりにその盗人を自分の足で蹴りあげた。
また、別の日。美貴の愛馬スカイルに飯田が乗馬しようとして、見事に振り落とされたこともあった。

「そーだよ、のんつぁん!例えダイマが壁を越えられたとしても、誰も乗れなかったら意味ない・・・・」



「ちょっと待った!そうでもないわ。」
「え?」

小川の言葉を遮ったのは、ダイマの主人、保田圭だった。

「なんや、圭ちゃん。いい案でも思いついたか?」

王女が期待の眼差しで保田を見る。

「いえ、いい案というわけではないんです・・・」
「なーんや。期待してしもたやないかぁ。」


そして王女はまた誰に行かせようか、頭を抱える。


240 名前:第1章 投稿日:2005/11/15(火) 17:15



「案ではないですが、今、いいことを思い出しました。」
「はぁ・・・まぁええわ。言うてみ。」

美貴を一人で行かせるか、美貴とだれかもう一人行かせるか、それとも別の二人に行かせるか、そればかりが頭の中をグルグルと回っていた。



「私以外でダイマに子がいます。」


「・・・はぁ。どうすれば・・・って圭ちゃんほんまか!?」

頭を悩ませている問題が、微かに解決の日差しを見せる。

「はい。昔、多忙な私の代わりにダイマの世話をしていた者がいます。その子ならきっと・・・」
「そうかそうか!!でもその子っちゅうんは民間人やないんか?」

「いえ、その子は軍の学校に通っていましたから。今はこのガールズ王国の為に戦士として任務を遂行しております。」

保田が王女に吉報を巡らす。


241 名前:初心者 投稿日:2005/11/18(金) 22:55
読ませていただきました
ラブちゃん可愛い、ミキティかっこいいですね
あとさゆれなも大好きです
更新楽しみに待ってます
242 名前:星龍 投稿日:2005/11/19(土) 14:58
その子って誰なんでしょう・・。
すごく面白いです。
これからの展開楽しみにしてます。
243 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 12:24


「それは・・・・」
「それは?」

全員が息を飲む。
なしにろ、保田しか知らない新事実だ。いや、ただしく言えば保田と『その子』の二人だが。



「辻希美・・・オトメ隊隊員の辻希美です。」
「・・・はぁ!?ほんまか?」
「はい。昔、辻がまだ軍に入る前の学生のころに・・・見習いの一貫として、ダイマの世話をなにかと引き受けてもらっていました。」
「はははは。圭ちゃん覚えてくれてたんれすね!」
「面影があんまりないから、言われるまで思い出せなかったけどね。」

そう、保田以外で唯一ダイマに乗れるのが、辻希美。彼女であった。

「・・・辻、これはホンマに危険な任務やで?」
「しょーちしてるのれす。ののもそこまれバカじゃありませんれす。」


244 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 14:17

「・・・わかった。そんなら潜入任務は藤本と辻、二人に任せる。」

「はい。」

「任せてくらさい!」

二人が決心を固めた表情で返事をする。


バッ!


「待ってください!」

オトメ隊の中から一人立ち上がる。
そして全員がその人物へと、視線を送る。

「私は二人だけ行かせるなんて・・・納得いきません!!」

立ち上がったのは、二人と同期で仲良くしている石川だった。

「石川・・・」

「私はっ!!二人だけで・・・美貴ちゃんとののを二人だけで行かせるなんて出来ません!!」

もう涙を流しそうな勢いの石川。

「なっ・・・なんで!!なんで二人なんですか!?他の部隊の者でも・・・」

王女も、石川の気持ちを察してか、一言も反論せず、じっと石川を見据える。


245 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 17:13

「梨華ちゃん。」

「美貴ちゃんもっ!!なんで・・・なんでこんな危険な任務を引き受けるのよっ!」

「梨華ちゃん・・・」

「だいたいね、美貴ちゃんはいつも無理しすぎなのよっ!!いっつも一人でなんでもできるって・・・」

「梨華ちゃん!」

石川の前に立ちはだかって、目を見ようとしない彼女の肩を掴んで、自分の方へと向かせた。

「ののもよ!二人していっつも無鉄砲で任務の重要さを・・・」

「わかってる。わかってるよ。美貴も辻ちゃんも。」

「つっ・・・・」

美貴の言葉に顔を歪める。

「だったら!!なんで・・・なんで!」

「誰かがやらなきゃいけないから。」

「誰かがやらなきゃいけないなら私が!」

「梨華ちゃん。梨華ちゃんは警護に必要な人材なんだよ?」

「わかってるわよ!!でも!よりにもよってなんで・・・なんで・・・美貴ちゃんと・・・のの・・・二人だけなのよ・・・」


246 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 17:23

石川は美貴を見ながら、涙を流していた。

「梨華ちゃん・・・」

「梨華ちゃん!!」

今度は少し離れたところから二人を見ていた辻が立ち上がった。

「グスッ・・・二人が・・・二人に・・・もしものことが・・・ったら・・・私・・・は・・・」

「梨華ちゃん、ののとミキティは無事に帰ってくるれすよ。」

「そんな・・・ズズッ・・・どこにも・・・」

「ないよ。だけど、辻ちゃんの言う通り、美貴たちはぜっったい帰ってくる。」

「美・・・貴・・・ちゃん・・・」

「だって美貴と辻ちゃんっていう最強のコンビだよ?やられるわけないじゃん。」

「そーれすよ!!ののたちは最強コンビだもんっ!!」

辻と美貴が一度見合わせ、笑顔で頷くと再び、泣いている石川を見た。


247 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 17:38

「ね?」

「ねっ?」

二人してなんの迷いもない笑顔を石川に向けていた。

「ズッ・・・うん・・・」

石川もやっと腹をくくったのだろう。二人の笑顔に泣き笑顔で答えた。

「よし。じゃあ、直に各自準備を始めてくれ!」

「はっ!」

決意を固めた面々が扉から射し込む光の中に消えていく。

「これで・・・これでよかったんか?」

誰に問うわけでもなく、ただ一人で自問自答する国を率いる中澤。

「あたしにっ・・・あたしには全員を戦わせない方法はないんか?」

自分の愚かさに頭を抱える。
今までは冷静を装って命令を下してきた。しかし、彼女もひとりの人間だ。命令の下す度に心を締め付けられていた。

「なんのために・・・あたしはここで指揮をとってる?」

彼女も彼女なりの苦しみを抱えているのであった。


248 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 17:39


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――――――
――――――


249 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 17:48

「じゃあとりあえず準備できたら裏庭に・・・」

辻と打ち合わせをする美貴。


「みきたん!!!」

背後から聞き慣れた声で、特徴的なあだ名を呼ばれる。

「あ、じゃあののは準備してくるれす。」

「うん。じゃまた後で。」

気を使ってくれたであろう辻の背中が小さくなっていくのをじっと見守る。

「はぁ・・・はぁ・・・みきたん!」

「姫。そんなに息を乱して・・・どうなさったのですか?」

「どうなさったのですかじゃないでしょ!!なんで・・・なんであんなの引き受けたの!?」

先程の石川と同じようなことを言う、姫。

「姫・・・」

「あたしは!!みきたんが良くても・・・あたしは良くない!!!」

「姫、美貴の話を・・・」

「やだっ!!みきたんの話なんか聞きたくないもん!!」

姫は両耳を塞ぐ。


250 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 17:58

「姫。」

姫の耳を覆っている手を退かそうと触る。

「やだやだやだっ!!やだよっ!」

目を瞑って、首を左右に激しく振る。

「・・・姫・・・」

「みきたんなんかっ!!みきたんの話なんか聞かないんだから!!」

さらにギュと力を込めて目を瞑る。
よほど認めたくないのだろう。

「・・・・」

あまりの聞きわけの悪さに諦めたのか、美貴は何も言わない。


シーン・・・


しばらく、二人しかいない廊下に静寂が続く。


「・・・みき・・・た・・・」


スッ。


あまりの静けさに我慢できなくなった姫が、固く閉ざした目をゆっくりと開いた。


コツン。


「みきた・・・ん////」

そこには、自分のオデコにぶつかる美貴のオデコと、目の前には美貴の顔。

「亜弥ちゃん。」

久々に聞いた美貴からの『ちゃん』付け。


251 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 18:07

「うん///ど、どーしたの?いつもは姫って・・・」

間近にある美貴の目は閉ざされていた。

「ん?久々に呼びたくなっちった。」

そういうと同時に、ゆっくりと開かれる美貴の瞳。

「んへへへ///久々に呼ばれた感想は?」

こんな状況での美貴の無邪気な笑顔。

「んもう!!なーに笑ってんのよぉ!」

「ははははっ。いつもの亜弥ちゃんに戻ったぁ。」

「へ?」

「さっきまでの亜弥ちゃん、いつもの亜弥ちゃんじゃなかったからね。」

常に絶やさないその笑顔は、姫の知る美貴、昔のままだった。

「みきたん・・・」

「はい、そんな悲しそうな顔しない。」

「だって・・・・」

「美貴はさ、強さでは誰にも負けてないつもり。」

にししとひと笑いする美貴。
その振動が姫のオデコまで伝わる。


252 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 18:13

「ん・・・でも・・・」

「亜弥ちゃんは美貴が負けると思う?」

「ない!!ないよ!みきたんはめっちゃめちゃ強いもん!!」

「ほ〜ら。なら、そんなに心配いらないでしょ?」

美貴の理屈は間違っていない。しかしながら、やはり姫は不安だった。

「でも・・・もし・・・」

「美貴が負けたら?」


ビクッ!


姫の肩が震える。

「みきたんが負けるわけない!!!ないけど・・・」

「亜弥ちゃん。そのもしもってことは絶対ない。」

先程の笑顔とは真逆のような美貴の真剣な顔。

「美貴には、みんながついてるから。」

「みきたん・・・」

「美貴の帰りを待ってくれる人が、一人でもいるなら・・・美貴は必ずその人の元へ帰る。」

美貴の瞳はキラキラと輝いていた。


253 名前:第1章 投稿日:2005/11/27(日) 18:22

「今回はその人がいっぱいいるからさ、美貴は何がなんでも帰ってこなきゃいけないわけ。わかるかなぁ?」

「もう・・・ふざけないのっ。」

「にししししっ。」

「みきたん。」


スッ。


姫の両手が美貴の頬に触れる。

「うん?」

「あたしにウソついたら許さないからね??」

「おー怖っ!」

笑顔で美貴が姫の顔を見る。

「みきたん。」


スッ。


今度は美貴が姫の手に自分の手を重ねた。

「わかってる。美貴は今までだって亜弥ちゃんにウソついたことないでしょ?」

「うん・・・」

姫もだんだんと笑顔になってくる。


ギュ。


美貴が姫の手を力強く握り、まっすぐ姫の目を見据えた。
あくまで笑顔のまま。

「大丈夫、大丈夫だから。」

美貴と姫はしばらくそのまま時を過ごした。


254 名前:ワクワク 投稿日:2005/11/27(日) 18:27
こちら久々の更新です(^_^;)

初心者さま>更新遅くなってしまいました(*_*)ちょっとネタを考えてました。(それなのに他の板は更新していた 苦笑)
今後はもうちょい更新できるよーがんばります(>_<)

星龍さま>そーんなに展開変わってないかも…ですが(苦笑)ついにあの子正体が!!って感じですかね?(笑)
255 名前:星龍 投稿日:2005/11/27(日) 21:20
更新お疲れ様です。
この子でしたかぁ。
いよいよですかね?
この最強コンビには頑張って欲しいです。
作者様も無理をなさらず他の板同様頑張ってください。
256 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/01(木) 21:32
初めて読んだんですが、凄いですね。
ここのミキティすごいキャラが良いですね。
がんばってください。
257 名前:初心者 投稿日:2005/12/04(日) 22:50
更新お疲れ様です
このコンビにはいろんな意味で期待できそうです
次回更新楽しみに待ってます
258 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:08

***

259 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:16

ダダダダダ。

こちら、スプリング王国も朝から騒がしい。

「あいぼん!それはこっちだべさ!」

隊長の安倍がいろいろと荷物を持っている加護を手招き。

「あらら、また間違たぁ〜。」

安倍が見ているだけでも、加護のミスは4回ほどあった。

「あいぼん、大丈夫かな?」

安倍の隣にいた矢口が問う。

「緊張してるんだべよ、ガールズ王国に攻めこむの久々だから・・・。」

ここ1年くらいはガールズ王国に攻めこむこともなければ、攻めこまれたこともなかった。
そう、久しぶりの『因縁の対決』なのだ。

「それに比べて・・・同期のアイツは緊張のきの字も見えないよ。」

矢口が頼もしいのかそうでないのか、と苦笑いする。


260 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:25

「ガキさ〜ん、よしざーの荷物知らね?」

「知らないですよ!」

さくら隊全体が緊張の糸を張りつめている中、ひとりへらへらと笑うヤツがいた。

「な〜な〜、紺野。」

「すいません、陣形を考えているので、後にしてください。」

「んだよー。たまにはよしざーに構ってくれてもいいじゃん。」

忙しそうに動く二人を後ろから見守る吉澤。

「それは無理な話だと思うけど?」

「うぉ!ごっちん!」

吉澤の背後からぬくっと、突然顔を出した後藤。

「みんな戦の準備で大変なんだよぉ〜。」

「わかってるけど・・・ってそーいうごっちんは?」

「んあ、ごとーは後、現場で指揮をとるだけだよ〜。」

後藤は、さくら隊不在で警備が手薄になるため、念のために警備の指揮をとることになっていた。


261 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:30

「よしこ。」

「どーった?ごっちんがそんな真剣な顔するなんて、めっずらしいじゃん。」

後藤とはだいぶ長い付き合いだか、これまで真剣な表情を見せたことはなかった。

「よしこさ、緊張とかしてない?」

「いーや、全然。むしろなんだかワクワクするっていうかなんつーか・・・」


言葉では表せないこの気持ち。
どーしたら伝わるだろう。


と吉澤は考えた。

「んあ〜、そっかぁ。」

後藤が空を見上げ、アハハハハと笑う。

「ごっちん。ついに頭おかしくなった?ナハハハハハ!」

吉澤も続いて豪快に笑う。


262 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:37


そしてまた真剣な顔に戻る。



「ごとー死ぬかも。」

「アハハハハ・・・っえ?」

後藤のいきあたりばったりな発言に耳を疑う。

「だってさ、戦だよ?」

「ごっちんは現場じゃないじゃんよぉ〜!!」

またいつもの冗談だと思って返してはみるが、後藤の表情が緩むことはなかった。

「現場には行かないよ。だけど・・・さくら隊のみんなが攻めこんでる間に敵が攻めてきたらどーにもならない。」

後藤の言葉にハッとする。


こちらが攻めるだけでは絶対に終わらないこの戦い。
当然、こちらに残った者にもなんらかの犠牲が出るやもしれない。

後藤の一言に気づかされた。


263 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:44

「ごっちん・・・」

「って言ってもよしこのほうが死ぬ確率大だけどねぇ・・・アハハハハ!」

いつもの絞まりがない後藤の表情に戻る。

「ニシシシ!そーれ冗談になってねーよ!!」

軽くつっこむ。

「んあ!よしこ暴走するなよぉ?」

「ごっちんこそ、警備の指揮中に寝たりすんじゃねーぞ?」

「いっくらごとーでも、任務中に居眠りしないからぁ。」

「へいへい。ならよしこは安心して先陣きって突入できますわぁ。」

二人は昔からのような会話をいくつも重ねる。
おそらく、これが二人にとっての緊張をほぐす要素にもなっているのだろう。

こわばっていた後藤の顔が、だんだんといつものみんなを癒す、あの笑顔になっていった。


264 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:50

「ねぇ、よしこ。」

「ん〜?」

後藤が戦の準備をする、さくら隊メンバーの顔を見渡す。

「怖いんだよ。みんな、きっと。」

後藤の確信をつく言葉。

「あぁ。」

吉澤もそのことに薄々ではあったが気づいていた。


いつもより多い加護のミス


周りが見えなくなっている新垣


忙しさのあまり冷静さを無くしそうな紺野


意味もなく、慌てふためく亀井


そして


そんなさくら隊を不安そうに見つめる安倍、矢口、後藤


だれもがみな、恐怖を感じている。


265 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 00:56

「よしこは怖くない?」

後藤の疑問にすぐさま返事をする。

「ぜんっぜん。」

吉澤には今のところ、緊張も恐怖もなかった。

「んぁ〜、よしこは余裕だねぇ。」

「余裕なんかないよ。たださ、これがあたしらの運命なんじゃんって思うんだよね。」

「運命?」

今度は吉澤の思いがけない言葉に後藤が驚く。

「そ、運命。こんなこと言うとみんなに縁起でもないって言われるかもしんないけどさ。」

「うん・・・」

「もし、この戦であたしが死んだとしても・・・それが運命なんだとか思ってる。」

「ほんっと縁起でもないねぇ〜。」

後藤が、吉澤のいつもの冗談だとアハハハハと笑いとばす。


266 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 01:04

「いやさ、マジで。あたしらって戦うために軍にいるわけじゃん?」

吉澤の付け加えになんだか妙に納得する。

「んぁぁ、確かに。」

「でしょ?それもフツーに軍いるわけじゃなくて、さくら隊って危険な任務ばっかじゃん?」

「まぁそのためにさくら隊が創設されたんだもんねぇ。」

「そっ。そうなんだよ!だから、ここに入るって決まったときからこういうのが運命なんだってそう思ってる。」

吉澤らしい、みんなが考えないような答えだった。

「ンハハハ。よしこらしーね。」

「そっかな?」

「そーだよ。ごとー、そんなこと考えもしなかったもん。」

「それって褒めてんの?」

「褒めプラスけなしかなぁ。」

「だめじゃん!!」

そして二人はまた笑い合う。


267 名前:第1章 投稿日:2005/12/05(月) 01:13

後藤がそろそろとここを立ち去ろうとする。

「じゃあね。」

「おう。」


コツコツ。


後藤の後ろ姿を吉澤がじっと見送る。

「あ、そーだ、よしこ。」

「ん?」

後藤がまた振り返る。

「よしこ的には死ぬってのは運命なんだよねぇ?」

「あぁ、まぁ。」

「じゃあさ・・・」


シュッ。


後藤が自分の腰にかけてあった剣を抜き、吉澤に向ける。



「無事に帰ってきて、ごとーともっかい一戦交えるって運命もありだよね?」

そんな後藤に吉澤も剣を抜く。

「とーぜんっ。むしろそっちのが可能性高い運命だな。」

二人とも笑う。

「よしこ、いいね。」

「ごっちんこそ。」

少し、沈黙の中、二人の間に風が吹く。



「よしこ、死ぬなぁ!!」

「ごっちんのほーが心配でよしざーはオチオチ死んでらんねーっつーの。ごっちんこそ、先立つなよ?」

「もちろんそのつもりだからぁ。」

後藤はその言葉を言い終えると、城内へと去っていった。


268 名前:ワクワク 投稿日:2005/12/05(月) 01:18
更新しんしししん♪(笑)

星龍さま>最強コンビの前にもう一つのコンビ話にしてみましたがいかがでしょうか?(>_<)

名無飼育さま>ミキティのキャラは自分自身もけっこー好きだったり(笑)
これからも読んでいただけるとありがたいです!

初心者さま>感想を読んでさっそく続きを更新いたしました!ごくごくわずかですが…お楽しみいただけるとよいかなと思っておりますo(^-^)o
269 名前:星龍 投稿日:2005/12/05(月) 14:04
更新お疲れ様です。
この2人はもう1つのコンビとはまた違った魅力がありますよね。
何かかっこいいって感じで。
すっごい良いです。
これからも楽しみにしてます。
270 名前:初心者 投稿日:2005/12/06(火) 23:02
更新お疲れ様です
おとめにもさくらにもそれぞれの想いがあって
この『因縁の対決』、楽しみのような怖いような
でも続きが読みたいです
次回更新待っています
271 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 04:14
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
272 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/01/25(水) 13:26
続きが気になる〜更新待ってます
273 名前:名無しの爽快者 投稿日:2006/01/28(土) 09:18
待ってますよぉ☆
274 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/02/20(月) 00:28
いつまでも
275 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 16:39

***

276 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 16:50


ザッザッザッ。


「いい?」


大群を率いている6人、そしてさらにその真ん中から指揮官が一歩前に出ている。


「うん。」


その指揮官の斜め後ろに立っている隊員がしっかりと頷いた。


「・・・悔いのないよう・・・全力で戦うべさぁぁ!!」


指揮官の安倍が自らの剣を高々と掲げる。


「ウォォォォ!!!」


それに答えるように、後ろに続く隊員、その他の兵士たちが次々と自分の剣や槍を掲げた。


277 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 16:57


「行くべさぁ!!」


意を決した安倍が先陣を切って馬を走らせる。


パカラパカパカラ!


その安倍にさくら隊、馬に乗った兵士、歩兵という順で次々に続いた。


「スプリング王国の名を掲げて!」


スプリング王国の大群がガールズ王国の城へと総攻撃を仕掛けようとしていた。


278 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:04


シュン!!


ザザザザザッ!


先頭で勢いよく馬を走らせていた安倍だったが、急に立ち止まった。


「・・・」


ヒュン!!


ヒュッ!


「ウワァ!」


ドサッ。


一人の兵士が奇声を挙げ、血を流して倒れた。


「くっ。隊長!」

「歩兵、前へ!」


吉澤の呼び掛けとほぼ同時に安倍が歩兵に前へ来るように指示を出した。


ヒュッ。


「ウァ!!」


その間にも、ガールズ王国の城からスプリング王国の軍隊に向けて矢が何本も放たれてくる。


279 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:12


「歩兵隊、最前列は前方に、それより後ろは頭の上に盾を構えるべさぁ!」


ザザッ。


安倍の指示に従って、前にいる歩兵隊は盾を構える。


「そのまま前進!」


ザッザッザッ。


今度は歩兵隊を先頭にして、その次にさくら隊、騎馬隊の順番にガールズ王国の城へと進んで行く。


キンッ!!!


ザッザッザッ。


安倍の指示で歩兵隊の盾が何本かの矢を防いでゆく。


280 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:14


「スプリング王国の名にかけて!」


少し怯み気味の軍隊に、安倍は怯むなというかのように、全体に叫んだ。



281 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:24


「まだまだ。」


城壁の上部で弓を構える弓矢隊。その中心でこの隊を率いる石川が狙いを定めながら、まだまだと呟く。


ザッザッザッ。


敵陣の軍隊が近付いてくる。


「石川さんっ!」

「まだ。まだよ。」


同じ弓矢隊の何人か挟んで並んでいる道重が不安そうに石川を見た。
しかし、石川は道重に見向きもせずに、まだだと敵陣を注視する。


282 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:33


ザッザッザッ。


敵陣が全体が目に見える位置まで勢いよく前進してきた。


「弓矢、準備。」


石川が指示を出すと、一列に並んでいる弓矢隊の隊員が一斉に弓を構える。


グググッ。


弓を引いて、いつでも放てるような準備をし、全員が次に出る石川の指示を待っていた。


283 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:39


「もうちょっと、あと少し・・・」


石川が敵陣の前進を見ながらぶつぶつと呟く。


ザザザザザッ。


そして、敵陣の最後尾がある一定の位置に足を踏み入れた。



「放てぇ!!!」



石川の一言で弓矢隊が一気に弓を放った。


スッ!!


ビュン!


ビッ。


すると、敵陣の何人かが面白いようにドサッと倒れていった。
そう、石川は矢が最後尾の人間まで届く位置に敵陣が侵入してから矢を放つように指示したのだ。


284 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:44


「放て!!なるべく多くの矢を放つのよ!」


ビュン!


ビッ!!


石川自身も敵陣に矢をどんどん放つ。


ビュッ!


かなりの数の矢を放つが敵陣の防御、自陣の矢の正確さを欠いてしまっていて、なかなか敵に当たらなくなってきた。


ビュッ!


「ぐわぁ!」


ビュン!


「ウゥゥ!」


それでも、石川と道重の放つ矢は敵に命中していた。


285 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 17:45

***

286 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 18:00


遡ること一時間前・・・


「じゃあ行きます。」


愛馬に乗った美貴がオトメ隊の面々に向かって言い、隣りにいる辻も笑顔で行ってきますと告げた。


「二人とも、無理しないようにね。」

「わかってますって。」


心配そうなオトメ隊メンバーをよそに、美貴と辻は行ったことない世界へ足を踏み入れることに、とてもわくわくしていた。


「お取り込み中失礼いたします!」


装備を身に付けた兵士が一人、飯田に駆け寄って膝まづいた。


287 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 18:07


「どーしたの?」


美貴たちを横目で見ながら、兵士が申し訳なさそうに口を開いた。


「はっ。ただ今入ってきた情報によりますと、敵軍が我が国に侵入してきたとのことです。」


兵士の報告に、オトメ隊メンバーが一斉に飯田を見る。


「どーやって?」

「はい。ガーリングの扉を蹴破って侵入したとの報告を受けております。」


兵士の言葉に飯田の表情が曇った。


「正面突破してきたわけか。」


何も言わない飯田に変わって、美貴が発した。


288 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 18:12


「やるわね・・・」


それに続き、飯田が腕を組ながら迷っていた。



すぐに対策を練らねば。しかし・・・



改めて美貴と辻を見る。



厳しい戦いに出て行く仲間をきちんと見送ってやりたい。



これが飯田の本音だった。


「飯田さん。」


そんな悩んでいる飯田に話しかけてきたのは、今から危険な任務に向かう美貴だった。


289 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 18:22


「・・・」


周りのメンバーや報告に来た兵士は黙って二人を見守っている。


スッ。


美貴が自分の剣を腰から抜き、兵士がやって来た方向を指した。


「行ってください。」

「え・・・?」


美貴の一言に、飯田がきょとんとしてしまっていた。


「オトメ隊の任務は国民、及び王国を守り抜くことです。仲間を見送ることじゃない。」


美貴は飯田の目をしっかりと見据えた後、再び自分の剣の先を見つめた。


290 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 18:33


「藤本・・・」

「美貴ねぇ!なに言っとると!!今は美貴ねぇと辻さんの一大事・・・」


美貴の一言に田中が素早く反応する。
田中的には今は戦闘よりも、自分の尊敬する美貴たちの無事を祈ることが大事なのだ。


「・・・みんな、行くよ。」


田中が言い終わった直後、飯田が美貴とアイコンタクトをし、背を向ける。


291 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 18:45


「ちょっ!!た、隊長!!」


美貴と辻に背を向けて足を進める飯田を後ろから引き止める田中。


「行くよ。全員急いで準備して。」


そんな田中に目もくれず、オトメ隊メンバーに告げる飯田。


「え?あ・・・」

「は・・・い。」


田中以外のメンバーも多少戸惑い、美貴と飯田を交互に見る。
しかし、戸惑ってはいるものの、隊長の命令を断れるはずもなく、返事をする。


292 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 18:54


「隊長!!」


全員が返事をする中で、田中だけは美貴を気にかけ、返事をしようとしない。


「れいなっ!!」


だだをこねる田中の後方から、一喝。
その声に、田中がビクッと体をこわばる。


「あ・・・の・・・」


びくびくしながら声のしたほうへと振り返る田中。


「れいな、いい歳してダダこねない。」

「で、でも・・・」


田中を一喝したのは、教育係である美貴だった。


293 名前:第一章 投稿日:2006/04/05(水) 19:06


「でもじゃない。れいな、訓練学校で習った教訓は?」

「え?あ・・・えっと・・・」


美貴の急な問に一瞬考えてしまったが、毎日毎日訓練の前に唱えていたので、すぐに思い出すことができた。


「一、敵を恐れず戦うこと。」

「うん。」

「一、仲間を信じること。」

「最後は?」

「一・・・隊長や目上の人には・・・従う・・・こと・・・。」


自分で言いながら、ハッと気がついた田中。


294 名前:ワクワク 投稿日:2006/04/05(水) 19:10
かなり遅くなってしまいました(-_-;)久々の更新です。もう読者さまもいないと思いますが・・・泣
295 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/04/06(木) 00:16
待ってましたよ!更新お疲れ様です
続きが気になっていたので本当にうれしいです
これからも楽しみにしています
296 名前:名無しの爽快者☆ 投稿日:2006/04/06(木) 01:33
更新待ってて良かった☆久々更新お疲れ様です♪

美貴が物凄くかっこいいです☆

スプリング王国とガールズ王国がどうなるかドキドキです♪
297 名前:星龍 投稿日:2006/04/06(木) 11:13
更新お疲れ様です。
藤本さんすっごくかっこいいです。
これからの展開楽しみに待ってますので、
作者様のペースで頑張ってください。
298 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/06/18(日) 18:13
まだまだ更新待つよ☆
299 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:29


***


300 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:33


「よし、こっち。」


うまく塀を乗り越えた二人は、なるべく姿をさらさないように、木陰を馬で駆ける。


ダダダッ。


美貴が先導し、その後に辻が続く。


「ストップ。」


美貴がここで愛馬を止める。
辻も慌てて、馬を止めた。


パサッ。


「よしよし・・・よくやった。」


美貴が着地し、馬の頭を数回撫でた。


301 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:36


「ここからは馬たちを置いていく。」


美貴の視線の先には、デカデカとそびえ立つ城壁。


ゴクッ。


辻はそのでかさに、一つ生唾を飲んだ。


パサッ。


「ありがとね。ちゃんとのんを乗っけてくれて。」


辻が背中を撫でてやると、馬が辻に頭をすり寄せた。


302 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:40


「お前たちは先に帰るんだ。いいな?」


美貴が話しかけると、馬はわかったかというように、小さくヒヒンと鳴いた。


「辻ちゃん。行くよ。」

「はいれす。」


二人は自分の腰にある、剣に手をかけながら、用心深く進む。


ササッ。


ササササッ。


「あそこの壁を登るんだ。」


木の陰に隠れながら美貴が言う。
その隣の木に隠れている辻が頷いた。


303 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:44


タタタタッ!


ダンッ!


美貴は勢いよく飛び出したかと思うと、地を蹴り上げ、少し低めの壁を越えた。


「辻ちゃん。」


美貴が合図を出し、今度は辻が壁に向かって走る。


タッタッタッ。


トンッ。


「わっ。」


辻が踏み切りどころを間違え、あと少しのところで、壁に手が届かない。


ダメだ。


辻自身もそう感じていた。


304 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:48



ガシッ。



「っと。大丈夫?」


しかし、間一髪のところで、先に越えた美貴が辻の手首を掴んだ。


「あ、はいれす。」


お互いにホッと一息付き、無事に壁を越えた。


「問題はこっから。」


うまく柱に二人で影を忍ばせるが、見張りの数がやたらと多い。


「まったれすね。」

「かと言ってほかに道があるわけじゃないしね。」


305 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:52


「ふぅ・・・やるきゃないってやつれすか。」

「まぁ。そういうことになるね。」


二人は、音をたてないために、重装備はわざと先ほど外しておいた。
ガールズ王国の象徴とも言える、青いマントと青い羽根の付いた帽子さえも、馬たちに積ませた荷物の中に入れて置いた。


カツカツ。


見張り番が巡回して、二人のほうへと向かってくる。


306 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 01:55


「はぁ・・・ったくついてねーよな。」

「んなこと言ってる場合かよ。いつ敵がくるかもわかんないんだから。」


美貴がそろりと覗くと、槍のようなものをもった見張り番が二人、会話をしながらこっちに向かっていた。


パッ。


コクッ。


辻と目を合わせた瞬間、同じことを考えていたのか、辻が頷いた。


307 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 02:00


カツカツ。


「ってかよ・・・」


ざっ!!


「なにやつ!?」


バンッ。


ドカッ!


バタッ・・・


「成功成功♪」


パンパン。


殴った手を少しはらう。


「意外と弱っちぃれすね。」

「まあこんなもんでしょ。っしょっと。」


倒れた二人を壁に寄りかからせ、座った状態にする。


308 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 02:03


「これ、なんか違和感あるれす。」

「文句言わない。」

「はぁい。」


スプリング王国の主張である、赤の羽根が付いた帽子を深々と被り、赤いマントを身に付けた。


「とりあえずこれで中に侵入するよ。」

「スリル満点な感じれす。」

「ほら。」

「あーミキティ待つれすよ!」


先を行く美貴を、辻は慌てて追いかけた。


309 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 02:07


「おい、なんか異常はあったか?」

「いや、こっちは何も。」

「そうか。じゃあお前らはあっちを頼む。」

「あぁ。」


カツカツ・・・


「はぁあ。ミキティ、上手いれす。」

「あんなもんでしょ。無駄口は叩かないのがイチバン。」


通りすがりの見張り番と出くわしたが、美貴の迅速な対処により、城内へと忍び込むことができた。


310 名前:ワクワク 投稿日:2006/08/03(木) 02:08
かなり久しぶりですいませんm(_ _)m
本日はとりあえずここまでです。
311 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 23:39


「急ごう。」


カツカツカツ。


見張り番とすれ違った後に、嫌な予感がしたのか、少し歩くペースを上げる。


「どこにいるんれすかね?」

「多分・・・見張りがやけに多いとこでしょ。だから見張りが増えてきてるってことは・・・」

「近づいてるってことれすね。」


辻が嬉しそうに頷いた。


312 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 23:44




「おい!!人が二人倒れてるぞ!!」

「なに!?」

「誰かきてくれ!」


見張りの何人かが、先ほど座らせておいた見張り番のところへと駆けてゆく。


クイッ。


「まずいな。」


他の見張りと逆流する美貴たちは、帽子を目深に被り直す。


「急ぐれす。」

「あぁ。」


313 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 23:48


カシャン。


カシャン。


揺れる剣を片手で抑え、もう片方の手で帽子を抑えながら、小さな人波を逆向きに歩いて行く。


「ミキティ、かなり人がこっち来てるれすよ。」

「でも、その分さ、見張りも少なくなるじゃん。」


あぁそうか、と辻が納得した表情を見せる。


314 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 23:53


「あ!あそこ。あの扉の前だけ、脇に二人立ってるれす。」


辻が指差すほうを見ると、確かに、長廊下の一番端の部屋の前に、見張り番が二人立っいてる。


「あそこだね。」


そう言うと、美貴はさらに足を速めた。


タッタッタッ!


315 名前:第一章 投稿日:2006/08/03(木) 23:58



「おい、お前ら!どこに行く!!」


逆流して行く見張りの最後尾にまで来たと思ったら、後ろに残り10人くらい残して、話しかけられた。


「いや、見回りで。」


なんとかごまかそうと、美貴が対応し、辻が後ろで何回も頷く。


「ここの見張り番は決まったヤツしかしないんだ!」


ヤバいな。


心中は緊張の色を隠せないが、あえて表情には出さない。


316 名前:第一章 投稿日:2006/08/04(金) 00:04


「うん?お前ら見たことない顔だな。」


違う兵士が下から覗き込んできた。


「こいつら!よそ者だ!!!」


また別の兵士が大声を出した。


「辻ちゃん。」

「よしきた!」


スッ。


カシャン!


二人が同時に剣を鞘から抜いた。


「敵だぞ!」


シャン!!


一方、敵の10人ほども剣を手に持ったり、槍を構える。


317 名前:第一章 投稿日:2006/08/04(金) 00:07


タンッ。


二人が背中を合わせる。


「殺すのはナシね。」

「いいんれすか?」

「うん。ただしばらくは起き上がれないように。じゃないと、帰りにやっかいだから。」

「了解れす。」


二人が背中合わせのところを兵士たちが円形に囲んだ。


318 名前:第一章 投稿日:2006/08/04(金) 00:11



「かかれぇ!!」


ガシャン!


二人に数々の剣が向いてくる。


「うぉ。」


キンッ!!!


「おっとと!」


カシャン!


美貴に二本の剣が振りかぶられてくる。


「・・・二本かよ・・・・」


ギーン!!


剣を横にし、左右二人から振りかぶられた剣を食い止める。


319 名前:第一章 投稿日:2006/08/04(金) 00:15


「はい、残念でした。うぉりゃ。」


ドカッ!


ボコッ!!


左足で一人を蹴り上げ、もう一人を右手でおもいっきり殴った。


「ぐはっ!」

「がぁ!」


その二人が勢いで壁にぶつかり、気を失った。


「よし。一丁あがり。」


後方で辻も奮闘している。


320 名前:第一章 投稿日:2006/08/04(金) 00:20


こちらは、一人が槍で辻を突こうとしている。


「やぁぁ!!」

「もー!槍は反則れすよ!」


キーン!!


愚痴をこぼしながら、剣で攻撃を防いでゆく。


スパッ。


そして、剣で槍の刃の部分を切り取った。


ガシッ。


棒と化した槍を掴む。


321 名前:第一章 投稿日:2006/08/04(金) 00:23


「先に反則したのはそっちれすからね。」


そう言うと、辻はおもいきり棒を前へと押した。


「ぐっ!?」


バタン・・・。


棒は、兵士のみぞおちへと食い込み、そのまま声もあげずに倒れた。


「反則なんかするかられす。」


自分でやっておきながら、痛そ〜と顔を歪めた。


322 名前:第一章 投稿日:2006/08/04(金) 00:27


キンッ!!


カシャン!


ギンッ!


円形の相手たちと剣を交えながら、美貴と辻がクルッと場所を反転し、美貴が辻の居た場所、辻が美貴の居た場所に入れ替わった。


「辻ちゃん!へーき?」

「こっちはあと三人れす!」

「美貴はあと二人。早いとこ迎えに行こう。」

「はいれす。」


二人はすごい速さで相手を倒していった。


323 名前:ワクワク 投稿日:2006/08/04(金) 00:28
今日はここまでとさせていただきます。
324 名前:たま 投稿日:2006/08/04(金) 10:18
うは〜待ってましたぁ♪
325 名前:星龍 投稿日:2006/08/04(金) 17:34
更新お疲れ様です。
更新されるのすっごく楽しみに待ってました。
これからも暑さに負けずマイペースに頑張ってください。
326 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:04


「くっ・・・そ!!」



―――ドサッ。



327 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:09


「ふぅ。とりあえず一通り完了れす。」


辻が自分の剣を鞘に戻し、一息つく。


「辻ちゃん、休憩してる場合じゃないから。」


美貴が剣で、先ほど兵士たちに囲まれていたドアを指す。


「あぁ、そうれすね。」


タッタッ!


カシャカシャ。


二人は剣を響かせながら、急ぎ足で扉の前まで行った。


328 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:11


「開けるよ?」

「はいれす。」


美貴が先頭で大きなドアに両手をかけ、辻が背後で剣に手をかけた。



ギィィ・・・。



329 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:15


一瞬、目の前が明るい光で包まれ、視界を阻まれる。


「う・・・」

「わぁ・・・」


しかし、いつもの成果か、少しすると、目が慣れ、辺りが鮮明に浮き上がる。


「広いれすね。」


部屋は三つに区切られており、一つはドアが開いて、ユニットバスだということがわかった。


330 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:19


美貴たちが入った部屋には、大きなソファーとテーブルがあり、壁には絵画が飾られている。


「あっちだな。」


美貴がずんずんとさらに中にあるドアへと近づく。


「・・・わ、わぁぁぁぁ!!」


ここで、窓に隠れていた男の召使いらしき人物が、背後から石像で美貴を殴ろうと襲いかかる。


331 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:23


「こらこら、邪魔しないれ。」


ドカッ。


「う・・・ぐ。」


パタッ。


辻に殴られ、呆気なく、召使いはその場で気を失った。


「ミキティ、わざとのんに敵を渡してくれなくていいれすよ。」


辻がブツブツと文句を言う。


「まあまあ。辻ちゃんは美貴より多めに対戦しといたほーがためになるじゃん。」


332 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:26


経験値で言うと、明らかに美貴よりも辻のほうが劣る。


「まぁそうれすけど。」


そのため、美貴は敵に気が付きながらも、わざと背後を取られるようにした。


「んなことより、さっさと任務終わらそうか。」

「うん。早く帰ってみんなを安心させてあげないと。」


辻が一瞬、笑顔になる。


333 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:30



そんな辻の言葉を聞いて、美貴は思い出す。



『美貴ちゃん!』

『みきたぁん!』



それはなぜか、同期の石川、小さい頃を知っている姫の亜弥、二人の笑顔だった。


「・・・」

「ミキティ?」

「あぁ、さっ行こう。」


ボォっとしている美貴を辻の一声で呼び戻し、任務に戻る。


334 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:32



カチャ。



ギーー・・・



美貴は、先ほどよりも力を入れ、小さな扉を開いた。



335 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:36


ヒュー・・・


美貴たちが扉を開いたと共に、開いていた窓から風が吹き込む。


ザワザワ。


木々が和やかに揺れ、風のせいで、ベッドのカーテンもフワリと揺れた。


「姫、お茶が入り・・・きゃあああああ!!」

「くっそ。」


中にいたメイドが悲鳴を上げ、慌てて辻が駆け寄る。


336 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:39


辻が背後に回り、メイドの口を抑えながら手を振り上げる。


「辻ちゃん!!」


それを制するように、美貴が辻の名前を呼んだ。


「女の人には・・・なるべく負担かからないように・・・」


美貴はベッドを見つめながら、辻に付け加えた。


パシッ。


そして、辻がメイドの首を軽く叩いた。


337 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:42


「はぁ・・・ミキティ、優しすぎれすよ。」


倒れたメイドをそのままにして、辻がやれやれと美貴に近寄る。


「・・・さ、早くずらかろう。」


二人でカーテンのなびくベッドへと足を向ける。


カツカツ。


タッタ。


もう美貴たちが目標にしているものは、ここ以外に有り得なかった。


338 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:45


ガサッ!!


辻が思いきりカーテンを避ける。


「さぁ、一緒に来てもらいましょうか。」


なるべく顔を見せないよう、帽子を深く被った美貴が彼女に言う。


「のんたちの言う通りにするれす。」


続いて、辻も言う。


339 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:49


スーーッ・・・


またも、部屋に爽やかな風が流れ込む。


「・・・」


初めて見たガールズ王国の姫。
美貴は風で流れる彼女の綺麗な髪にしばし見とれてしまう。


「誰?」


姫がおもむろに問う。


「・・・」


美貴は、なによりも彼女の美しさに釘付けになってしまっていた。


340 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:52


「のんたちは・・・ならず者ってとこれすかね。ね?ミキティ?」


辻が悪巧みをするときの笑顔で美貴に同意を求める。


「ならず者?」

「おーい。ミキティ?」


不思議そうに、美貴の目の前で手を振る辻。


「え?あぁ。えっと・・・」


美貴には珍しい戸惑いようだ。


341 名前:第1章 投稿日:2006/08/12(土) 23:56


「とりあえず、ちょっと付き合ってもらいますよ。」


あくまで冷静を装った態度で接する。


「嫌や。」

「は?」

「嫌やっ!あんたたちみたいなヤツらの言いなりになんかならん!!」


我が強い姫は、腕を掴もうとする二人を寄せ付けまいと、ジタバタと暴れ始めた。


342 名前:第1章 投稿日:2006/08/13(日) 00:00


「いやっ!!」

「このっ!」


力ずくで姫を押さえつけようと、辻が奮闘するが、なかなかうまくいかない。


「ごめんね・・・」


バシッ。


しかし、美貴が姫の首を叩くと静かになった。


「辻ちゃん、担いで。美貴は護衛するから。」

「はいれす。」


辻が、静止した姫を肩に担ぐ。


343 名前:第1章 投稿日:2006/08/13(日) 00:00


今度は辻が先頭で歩く。


タッタッ。


344 名前:第1章 投稿日:2006/08/13(日) 00:05


あ、なんかされたやざ。


首が痛い・・・


気を失いかけている姫は、虚ろな目で自分の部屋を見る。


あかん・・・


後ろに歩いているはずの美貴がいない。


あの人は?


必死に部屋を見渡す。


「ごめんね。」


美貴は、辻が倒したメイドを、姫のベッドへと運んでやっていた。


あーし・・・


どこ連れて行かれるんやろ・・・・


姫の意識は遠退いて、遂に気を失った。


345 名前:第1章 投稿日:2006/08/13(日) 00:05


――――
――――
――――


346 名前:ワクワク 投稿日:2006/08/13(日) 00:09
更新です!

たまさま>お待たせしてしまってすいませんでした!

星龍さま>いつも久々に帰ってきたら星龍さまの感想があって、かなり感謝&励まされてます!
頑張って更新しますので(>_<)
347 名前:たま 投稿日:2006/08/13(日) 23:39
いぇいぇ待ってた甲斐がありました☆

あの茶茶いれて申し訳ないのですが
>>339ってスプリング王国の間違いでは?
348 名前:星龍 投稿日:2006/08/16(水) 20:23
更新お疲れ様です。
自分なんかの感想がワクワク様の励ましになっていた様で
すごく嬉しいです!!

ワクワク様の書かれる話大好きなので
毎日暑いでですが無理をなさらず頑張ってください。
349 名前:第1章 投稿日:2006/08/21(月) 23:20


―――
―――
―――


だだだだっ!


タッタッタ・・・



350 名前:第1章 投稿日:2006/08/21(月) 23:34


二人は来たときとはまた逆方向へと、全速力。


行きとは違い、辻の肩には姫というオマケ付き。


辻の肩に担がれ、揺れるウェーブのかかった髪。


美貴は、そんな姫を見ながら、ひたすら走った。


351 名前:第1章 投稿日:2006/08/21(月) 23:41


ピタッ。


「ミキティ、ヤバいれすよ。」


辻が急に立ち止まり、振り返らずに後ろの美貴へと伝える。
その声から、普段はおちゃらけている辻が、真剣になっていることがわかる。


ザッ。


美貴は自らの剣に手をかけ、辻より一歩前に出る。


「・・・」


352 名前:第1章 投稿日:2006/08/21(月) 23:57


「全員、構え。」


指揮者らしき人物が、十数人に指示を出す。


「ミキティ、のんもこの子置いて援護するれすよ。」


担いでいる姫を下ろそうと、少し後ろに下がり、抱えている右腕とは逆の左腕を姫にかける。


「辻ちゃん。」

「ん?」


下ろそうとしている手を、ピタッと止める。


353 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 00:07


「美貴が・・・美貴が道を作るから・・・だから、先に行って。」


後方にいる辻に、今度は美貴が振り返らずに言う。


「え・・・?」

「美貴がこいつらを引きつけるから、そのうちに。」


美貴の言葉に辻の目がクリクリと動く。


「早く・・・行くんだ。」


354 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 00:24


辻が眉間にシワを寄せる。


「ダメれす。仲間を置いて行けません。」


当然と言えば当然の意見だ。
仲間の置き去りに加え、さらに敵地で敵と対峙している。
それもただの敵ではなく、普通の兵士というわけではなさそうな人物が一人いる。


「いいから。」

「のんは良くないれす!」

「いいから行くんだっ!任務を遂行するために。」


美貴は、剣に手をかけ、構える。


355 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 00:32


「・・・わかったれす・・・」


明らかに不満、心配が入り交じっている表情の辻だが、この場をうまく逃れるためには、姫を連れて先に行くしかないということがわかった。


「悪いけど、そう簡単には行かせらんないんだよねぇ。」


敵の指揮者がニヤリと笑った。


「意地でも二人は行かせる。」


対する美貴も、睨みつけながら剣を抜いた。


356 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 00:45


「辻ちゃん。」


美貴がまた、今にも走りだしそうとしている辻に語りかける。


「なんれすか?」


腕に抱えた姫を、走りやすいように抱え直しながら美貴に聞き返す。


「・・・伝えてほしいんだ・・・」

「伝える・・・れすか?」

「うん。」


あくまでも前を向き、敵と対峙しながら辻に伝える。


357 名前:ワクワク 投稿日:2006/08/22(火) 00:46
かなり短いですが…更新です。
358 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 11:54


美貴がゆっくりとまばたきをする。


「梨華ちゃんと・・・姫・・・いや、亜弥ちゃんに。」


辻は、美貴が姫と昔、とても仲良のよい姉妹のようだったのを知ってるので、姫のことを『亜弥ちゃん』と呼ぶ美貴になんの違和感も感じなかった。


「何・・・遺言みたいなこと言ってるんれすか。」


苦笑いしながら、美貴に言う。


359 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:04


「はは。まぁまぁ。」


辻の言葉に美貴も思わず苦笑い。


一方、敵陣も、間合いを見計らっているのか、会話をしている美貴たちに、だれも攻撃をしかけない。


「のんね。」


美貴が話すより先に、辻が語り始めた。


360 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:12


「ミキティに憧れてたんれす。でも・・・」


一度うつむき、また前を見据える。


「憧れてるだけじゃダメなんだってわかったんれす。」

「そっか。」


美貴は、前に比べて何となく辻がたくましくなった気がしていた。
そして、その理由がやっと今、わかった。


「ははっ。」


見ず知らずのうちに人は成長するのだ。


361 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:21


「だから今はライバルれす。」


辻があははと笑う。


「うん。」

「でも、梨華ちゃんを悲しませたりしたら容赦しないれすよ。」


一気に真剣な表情に変わる。


「・・・」


美貴は少し驚いたが、それほど動揺はしていなかった。


362 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:25


「二人にさ、伝えてよ。」


足に力を入れる。


「心配すんな、すぐ戻るってね。」


ダンッ!


美貴が言った途端に、敵陣へと走りだす。


「絶対れすからねっ!!」


辻も何歩か後ろについてくる。


「美貴は、約束を守る。」


剣を掲げる。


363 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:32


「かかれぇ!」


敵陣の指揮者も兵士たちに合図を出した。


「わぁぁぁ!!!」

「覚悟ぉぉぉ!」


兵士たちが、それぞれ口にする。
その言葉には闘志が現れている。


「・・・」


美貴は静かにその軍団へと紛れてゆく。


「うぉりゃああ!」


一人が剣を美貴に振り下ろしてきた。


364 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:37


「おっと。」


キィン!!


敵の剣を軽々と、自分の剣で受け止める。


「覚悟はさ、そっちがしとかないと。」


ドゴッ。


そのまま腹を、蹴り上げた。
敵の兵士は瞬く間に気を失ってしまった。


「このぉぉぉ!」


また別の兵士が二人やってくる。


365 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:42


キンッ!


ガシッ。


片方の剣を自分の剣で止め、もう片方のほうは敵の腕を掴んで止めた。


「邪魔。」


ガンッ!!!


二人の頭を掴んでぶつけさせる。
すると、またも簡単に兵士たちは倒れた。


それが何度も何度も続き、ついに敵は一人になった。


366 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:47


「辻ちゃん、行け。」


美貴は敵に向かいながら、言う。


「伝えとくれすよ。梨華ちゃんと姫に。」


そう言うと、彼女はまた走りだした。


バッ。


「姫は渡さない。」


最後に残った一人、指導者が剣を抜き、辻を横から切ろうとした。


「わっ。」


敵の速さに辻も対応しきれない。


367 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:48






もうダメだ。



やられる。



辻はそう思った。





368 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:53


辻は観念し、ゆっくりと瞳を閉じた。


「・・・」



キンッッ!!!



「仲間をやられてたまるか。」


剣がぶつかり合う音に、辻は瞳を開いた。


「んあ。」


指導者も距離的に離れていた美貴が間に合うと予想していなかったのか、間抜けな声を出す。


「辻ちゃん、今のうちにっ。」


369 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 12:57


剣を食い止める美貴の背中を見つめる。


「ミキティ。」

「早く。」

「・・・待ってますからね!」


その言葉を最後に投げかけ、行きに気絶させた兵士の中を駆けて行った。


「待ってる・・・か。」


美貴はうっすらの笑みを浮かべた。


370 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 13:04


キィィン!!!


お互いに剣で跳ね返し、一旦後ろに下がる。


「んぁ、よく間に合うねぇ。」

「オトメ隊をなめるな。」


敵の指導者はこの場にふさわしくなく、ニッコリと笑い、美貴はムスッとした表情になった。


「んあ、やっぱりオトメ隊なんだ。」

「あんただってさくら隊だろ。」


美貴はなんの疑いもなく、先ほどの動きから、相手をさくら隊だと認識した。


371 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 13:42


「んぁ?ごとーはさくら隊じゃないよぉ。」

「はっ?」


珍しく美貴が不意をつかれた。
そして、なによりもヘラヘラと笑って言うことが気に入らなかった。


「ごとーはね、さくら隊より立場上なんで〜。」


敵の指導者、基、スプリング王国の後藤真希がまた、アハハと笑いながら語る。


372 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 13:46



まさか・・・



美貴の頭にふと不安がよぎる。



さくら隊以外にもこんな手強いヤツがいるのか、と。



心してかからないと。



改めて心から油断をなくす。



373 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 13:53


「ところで・・・あんたの名前はなんてゆ〜のぉ?」


その技術には不釣り合いな、おっとりとした口調で美貴に名前を聞いてくる。


「あんたに名乗る必要ないし。」


ダッッ!!


タッ!


そう言うと、お互いにまた前へと踏み出した。


ギィン!!


そして互いの剣を再び交える。


374 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 13:59


「ごとーについてこれるなんて、やるね。」


今度は後藤がニヤリと不適な笑みを浮かべる。


「ごとーとやり合えるのは・・・なっちかよしこくらいだからなぁ〜。」

「何ブツブツ言ってんだよ。」


楽しそうに笑う後藤を、剣越しに睨みつける。


375 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 14:13


「だったら・・・真剣にいかないと。」


今まで終始笑顔で細まっていた目が、パッと見開かれる。


その瞳の奥には、メラメラと闘志がよぎっていた。


「・・・」


ググググッ。


交じえていた剣が、それと同時に後藤の剣が美貴の剣を若干だが、押し始めた。


376 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 14:21


「くっ・・・」


美貴は思わず驚く。
ガールズ王国で、美貴と渡り合えるのは隊長の飯田でも難しい。
そんな美貴を、今現在、後藤が少し力で勝った。


「・・・王国を守るのが、ごとーの使命。」


また後藤がブツブツと言いながら、美貴の剣を押す。


377 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 14:32


ギリッ・・・


美貴もなんとか耐えようとするが、徐々に二つの剣が自分の顔に近づいてくる。



くそっ!



キンッ。


思わず自分の剣を下げ、体を横に避ける。


「ふぅ。」


一度深呼吸をし、乱れた心を改善させようと試みる。


378 名前:第1章 投稿日:2006/08/22(火) 14:43



ブンッ!!!



しかし、間髪入れずに、後藤が容赦なく剣を振りかざしてくる。


キンッ。


それを美貴も軽々と防いでゆく。


「生きては帰さない。」


先ほどまでの笑顔はどこへやら、美貴にも寒気を味あわせるほどの目つきだ。


379 名前:ワクワク 投稿日:2006/08/22(火) 14:48
また更新。

たまさま>あぁ!すっかり気が付かずに間違えてましたー!!(><;)ご指摘ありがとうございます!

星龍さま>自分の作品を好きだと言って頂けて本当に嬉しいです!!
もっともっと好きになってもらえるよう、精進します(^O^)
380 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 00:58


ギィィン!!!


「しまっ・・・」


後藤の剣を余裕で弾き飛ばした、と思ったが、その浮いた剣を後藤が左手で素早く取った。


「おりゃ。」


その反動で後藤が美貴の背後を取った。



ブゥンッ!



「くっ・・・」



グォォン!!!



381 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 01:03

剣の鞘にでもあたったのか、変な音が響き渡る。


「チッ・・・」


仕留めたと思った後藤は、少し煙たそうな表情を浮かべる。



スッ――――



そして、突然、美貴が低い体制で構え始めた。


「やっと本気になった?」


美貴の構えを見て、後藤はチラリと歯を見せた。


382 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 01:07



ガシャンッ。



美貴が一歩前へと踏み出す。



きたな。



後藤は初めて対峙した相手に、なんだか満足感を味わっていた。



トンッ。



「な・・・」



こちらへと向かってくると思われた相手が、違うほうへとゆく。



383 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 01:13


「司令官!!」

「敵は!?」


そこへ、やっと加勢に来たスプリング王国の兵士たちがぞくぞくと集まってきた。



ジャラジャラ!!



「え!?」

「あっ!!!」


兵士たちが上を指差す。


「あそこ。」


後藤もわざと美貴を剣で指した。


384 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 01:19


後藤の剣が指す先には、シャンデリアにぶら下がり、腕の力でシャンデリアの上に上がろうとしている美貴がいた。


「っし。」


美貴は高台から、慌ただしい兵士たちを見回した。


その中で一人、じっと美貴を見つめている後藤。


「急がなきゃ。」


はっと思い出したように、美貴はシャンデリアからシャンデリアへと、次々に飛び移った。


385 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 01:26


「追え!!追うんだ!!!」


現場指揮官である後藤ではなく、別の兵士が、美貴を追えと言い、次々に兵士たちが追いかけようとする。



カツカツ。



しかし、後藤は先ほど美貴が立っていた場所に向かい、そこで立ち止まる。



カチャ――・・・



そしてそこでしゃがんだ。


386 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 01:33


「よせ。」


後藤が小声で言う。


「え・・・?」


それを数人の兵士たちが聞き取っていた。



スッ―――



「いいからほっとくんだ。」


立ち上がり、普段の後藤より数倍大きい声に、兵士たちはギョッとする。


387 名前:第1章 投稿日:2006/09/08(金) 01:37


「・・・ほっといても、こっちに危害を与えられるほど、体力残ってないよ・・・」


後藤は床をなぞった自分の指をじっと見つめた。


そして、美貴の去った方角を振り返った。


388 名前:ワクワク 投稿日:2006/09/08(金) 01:38
少ないですが、更新です!
389 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 22:45



――――
――――
――――



390 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 22:49


パカラッ!


パカラパカラ!!


「わぁぁぁ!!」


後ろから何人かの歩兵が襲いかかってくる。


シャキィン!


自らの剣を抜き、あっと言う間に敵がバラバラと倒れた。


ヒヒィーン!


馬が城の近くで止まる。


ドサッ。


馬から素早く降り、城内へと足を踏み入れた。


391 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 22:54


タッタッタ!


いつもよりも、速度は遅いが、周りにいる敵を確実に倒してゆく。


キィン!!


キンッ!!!


何人もの敵と剣を交えるが、どれもこれも、手応えのないやつらだ。


「くそっ。」


しかし、どこか納得いかない顔をしていた。


392 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 23:00


―――ダァン!


しばらく廊下を走り、ようやく敵がいないところまで辿り着き、扉を開けた。


「ハァハァ・・・」


扉を開けたところには、数人の見慣れた顔が並んでいる。


「・・・ただいま・・・帰りました・・・」


相当体力を使ったのか、言葉が途切れ途切れになる。


393 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 23:07


「辻っ!!!」


王座に座っている中澤が駆け寄った。


「へへっ。」


辻がかすり傷のある、鼻の頭をこすりながら、笑いかける。


「人質もこの通り。」


肩に乗せている人質、スプリング王国の姫をその場に下ろそうとした。


「辻。そいつを持って城壁のほうへと行ってくれへんか?」


疲れているであろう、辻にすまなそうに王女の中澤が言う。


394 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 23:12


「わかりましたれす。」


辻が、また、しっかりと姫を抱え、扉へと向かう。


タンタン・・・。


「辻。」

「はい?」


今度は、王女の隣りにいた保田が話しかける。


「その・・・」


次に出す言葉をためらっているのか、口をもごもごと動かし、辻の様子を見て、保田は話し出した。


395 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 23:17



「藤本は・・・どうした?」



それは、保田だけでなく、中澤も思っていることだった。


「・・・」

「藤本はちょっとばかし遅れてるだけやろ?アイツはアイツでこだわり性やもんな。」


無言の辻の変わりに、王女の中澤があはははと乾いた笑い声をあげる。


「・・・」

「ったくアイツは・・・」


396 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 23:23


「辻・・・?」


めったに見せない、辻が寂しそうな表情を見せたことによって、保田が不思議そうに彼女を見つめた。


「・・・辻、ちゃんと言いなさい。」

「ケーチャン、何いっとるんや。」


悪い予感を信じたくないのか、王女がまた、アハハと笑った。


397 名前:第1章 投稿日:2006/09/09(土) 23:27


「ミキティは・・・」


ゴクッ。


後ろで辻の言葉を待つ二人が生唾を飲んだ。


「ミキティは、ちょっとスカイルの散歩をさせてるだけれすよ。」


下を向いていた辻が、真っ直ぐに二人を見つめる。


「では、のんは城壁のところまで人質を連れて行ってくるれす。」


そう言うと、辻は即座にその場を去った。


398 名前:ワクワク 投稿日:2006/09/09(土) 23:30
またも少量ですいません(ρ_-)o
399 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/10(日) 01:40
更新乙です、ミキティ―――!!!!!!!
400 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/09/10(日) 05:48
連日の更新乙です。
どうなるんでしょう。続き楽しみにしてます。
401 名前:星龍 投稿日:2006/09/10(日) 17:52
更新お疲れ様です。
藤本さんは、おとめ組はどうなるのかすっごい楽しみです。
これからも応援してます。
402 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:02


――――
――――
――――


たったった。


城壁までの階段を足早に上がる。


肩の重りが今になってずしりと足に負担をかける。


「くっ・・・」


それでも、この戦いを早く終わらせたいという一心で、疲れた体に無理を言い聞かせる。


パァァァーー


やっとのことで、光が見えた。


403 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:13


「・・・はぁ、はぁ・・・」


ヒュッ!!


敵からの矢が何本か頬をかすめる。


「打てぇ!!」


それを見た飯田がすかさず反撃の指示を出す。


辻はその姿を後ろからじっと見つめていた。


「・・・」

「隊長!!向こうの指揮官らしき者が城壁のすぐそばまで!」

「なに?」


飯田が城壁から顔を出すと、そこには馬に跨ったサクラ隊らしき軍団がいた。


404 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:20


「くそっ!下に衛兵を送りこむんで・・・」


兵士のほうに、飯田が振り向く。


「・・・つ・・・じ?」


そこで、ようやく目の片隅に辻が入った。


「任務を果たした・・・れすよ。」


一旦息を整え、にっこりと笑う。


「肩のは・・・」

「はい。」


飯田が先を言う前に、辻が返事をして、言葉を遮った。


405 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:25


「よしっ。」


飯田が頷いて、すかさず辻に手を貸し、城壁スレスレのところまで連れて行く。



スーーーッ



思いきり空気を吸い込んだ。



「スプリング王国の者どもよ!!よく見よ!!!お前らの姫君は私たちが預かった!!!!」


大きな声で叫んだ。


406 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:33


・・・


飯田の声で、スプリング王国の攻撃が一旦止まる。


「姫がこんなところに居られるはずがない!!姫は城で厳戒態勢の中におられる!」


馬に跨っている安倍が、城壁にいる飯田を見上げながら言う。


それを見て、飯田がニヤリと笑った。


カツッ。


辻が前に身を乗り出した。


407 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:37


「では、ここにいる者はどなたかな?」


もはや、敵のスプリング王国だけではなく、味方もそちらへと視線を向けていた。


「ののっ!!!」

人質を抱えた辻を見て、石川は叫んだ。


「へへ。」


すり傷のある顔で、辻がにっこりと笑いかける。


408 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:44


「なっ!?」


人質を見て、スプリング王国の面々は我が目を疑う。


「どーだ!!!これでもまだ続けるかっ!」


飯田が思いのほか、さっきよりも大きな声で言う。


「ふん。誰が敵の言うことを聞くか。」


手を止めていたさくら隊の吉澤が再び剣を振り上げる。


409 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:52


「よっすぃ!!止めるべさ!」


敵を斬りつけようとした吉澤を、安倍がすぐさま止める。


「なっ。安倍さん!なんで・・・」


吉澤が振り返るが、そこには後ろ姿の安倍がいるだけだった。


「撤退!!全員国に戻るべさ!!!」


自分の国の兵隊たちに、馬を走らせながら知らせる。


410 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 15:59


くそっ。


なんで敵の言うことなんか聞くんだよ。


パカッ。


自分の頭の中でいろいろなことを考えながらも、隊長の判断に刃向かう気もなく、素直に馬を走らせた。


「くそ・・・」


吉澤は悔しそうに馬を進ませた。


パカラッ。


パカラパカラ!


411 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 16:00


――――
――――
――――


412 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 16:10


「よくやったで、辻。」


王室へと移動し、全員がひざまずく。
人質はおとめ隊以外の兵隊がはじで見張っている。


「はい。」


ひざまずいている辻が小さく頭を下げた。


「よかった・・・本当によかったよ。」


涙目になっている石川が、辻を見つめる。


413 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 16:17


「でも・・・藤本さんは?」

「・・・」


誰もが聞きたかった禁句を、田中が発し、一気に場の空気が沈む。


「藤本さんは・・・どこに・・・おると?」


ギロッ!!


田中が辻を睨みつける。
目つきのよくない田中が、さらに睨みをきかせるとは、相当なものだった。


414 名前:第1章 投稿日:2006/09/14(木) 16:23


「ミキティは・・・・ミキティは・・・」


終始にこやかだった辻も、さすがに戸惑ってしまう。


こんな田中の表情を見たのは初めてだったから。


「どうなんですかっ!!」


ピクッ。


田中の大声で、意識を失っていた人質が動いた。



415 名前:ワクワク 投稿日:2006/09/14(木) 16:29
またも少量です…。

339名無飼育さま>ミキティはどうなってんでしょ?笑
まぁそれは後ほど。

400名無飼育さま>今回も微妙な場面で終わりました。笑
構成、がんばって考えます!

星龍さま>お久しぶりです!笑
おとめ隊は…ああなってこうなって…そーなっちゃう予定です!!笑
416 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 02:56


――――
――――
――――


ガタン!!


暗闇の中へと放置される。


「なんやの!!!出せっ!!あんたらこんなことしたら、スプリング王国が許さんやよ!!」


意識を取り戻してすぐ、地下の牢屋へとぶち込まれたスプリング王国の姫、愛。
彼女は真っ暗な中、何度も何度も叫び続けた。


417 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 02:56

***

418 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 03:05


「ミキティは・・・」


泣きそうになりながら、辻がうつむく。


「のん、なんなの!?」


石川も気になり始め、思わず叫んでしまう。


「辻、なんなんや?」


そんな石川の言葉を制すように、王女の中澤が話し出した。


「・・・わかりましたれす。その前に、姫をこちらへお呼びくらさい。」


辻はその場で膝まづいた。


419 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 03:18


「わかった。けーちゃん、亜弥をここへ。」

「はい。ただ今。」


カシャンカシャン。


腰に付けている剣を鳴らしながら、保田が軽快に王室を去っていった。


「辻さん!!なんとか言ってくださいよっ!」


たまらず、田中が辻につかみかかる。


「わかってるれす。だけど姫が来てから話すれす。」


スッ―――


服を掴んでいる田中の手を、辻が優しくほどいた。


420 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 03:25


ーー――
――――
――――


「なんであたしがここに呼ばれたの?」

「辻からの要望です。」


イスに腰掛けた姫の質問に、保田が横からフォローを出す。


「辻、話してくれるか?」


亜弥が来たことで、王女の問いかけに、辻が無言で、ゆっくりと頷いた。


421 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 03:32


「のんとミキティは、先ほどの人質、スプリング王国の姫を連れてくるという任務を、ほぼ順調に遂行してたんれす。途中までは・・・」


周りにいるオトメ隊、王女、保田、姫がそれぞれ息をのむ。


「あのときまでは・・・」


辻が片手で顔を覆った。


422 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 03:37


「敵が来たんれす。ちょうどミキティとのんが帰る道の途中で。」


辻はあのときの状況を頭に浮かべ、さらに涙目になった。


「のんたちはそこで囲まれてしまったんれす。」


他の者たちは、誰も頷こうとも、相づちを打とうともしない。
ただ辻の話に耳を傾けた。


423 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 03:41


「のんは人質を抱えていたんれす。だから・・・ミキティは1人で先に行けって・・・。ミキティが道を作るからって・・・。」


辻は、ついに、耐えていた涙をポロポロと流し始める。


「なっ・・・なに言っとーと!?それじゃあ辻さんは美貴ねぇを置いてきたっちゃか!?」


今まで黙っていた田中が、またも興奮し始める。


424 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 03:47


ガバッ。


「よしなさい。」


身を乗り出している田中を冷静な飯田が取り押さえる。


「その隊を引きつれてるやつがすごく強かったんれす、多分。だけど・・・ミキティが道を作ってくれて、のんは任務遂行のために帰ってきました・・・。」

「そんな!なんで・・・・なんで美貴ねぇを置いてきたっちゃか!!」


田中が飯田の腕の中で暴れまわる。


425 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 04:02


「のんらって仲間を置いてきたくなかったれすよ!!!」


静かに話していた辻が泣き叫ぶ。


「らけど・・・らけど・・・ミキティはこう言ったんれす。『任務を遂行するだ』って・・・」


辻の言葉を聞いて、全員がさらに息をのむ。


「うそよ・・・うそよっ!!!」

「そんな・・・」


姫と石川の2人が涙を流す。


「ミキティから・・・姫と梨華ちゃんに伝言を頼まれたれす。」


辻がグイッと涙を拭いた。


426 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 04:11








『心配すんな、すぐ戻る』







427 名前:第1章 投稿日:2006/09/30(土) 04:14


辻が伝えた言葉を聞いて、姫と石川はさらに涙を流した。


「くっ・・・みきたん・・・いなくなっちゃやだよ・・・早く帰ってきて・・・」

「グスッ。美貴ちゃんのバカッ!!帰ってきてよ・・・」


そんな言葉も、美貴がいない今は、2人にとって、なんの気休めにもならなかった。


428 名前:ワクワク 投稿日:2006/09/30(土) 04:15
かなり極少量ですが、きりの関係で今日はここまでです。
429 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 14:44


――――
――――
――――



カタッ。



わずかな音だったので、王室にいる誰も気づかない。


430 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 14:45








「こらこら、勝手に・・・ころ・・・すなよ。」




431 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 14:53



バッ!!



一斉に全員が、声のほうへと振り返る。


「みきたんっ!」


姫が最初に立ち上がり、美貴に抱きついた。


「おっ・・・と。ただいま帰りました。」


美貴が片手で抱き止め、ニッコリと笑う。


「美貴・・・ちゃん・・・」

「ん。待たせたね。」


姫の邪魔をしてはいけないと、石川は抱きつきたい衝動をグッと抑える。


432 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 14:58


「王女・・・遅くなってしまって・・・すいません。」


ワンワンと泣く姫を抱きかかえながら、王女へと頭を下げる。


「無事でなによりや。」

「はい・・・」


美貴がははと少し笑みを浮かべる。


「みきたん、すごい汗・・・」


姫が美貴の額の汗を手で拭う。


433 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 15:04


「あ、あぁ・・・ちょっと・・・走ってきたので・・・」


先ほどから途切れ途切れの美貴の言葉に、なんだか違和感を感じる。


「あっつい・・・ですね・・・」


あまりにも不自然なので、姫が顔を歪めて、美貴を見つめる。


「・・・!?みきたんっ!!ケガしてる!?」


美貴の腕を見ると、肩より少し下から、うっすらの血が滲んでいる。


434 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 15:09


「あ、これ・・・ちょっとやられちゃいました。」


思わず苦笑い。


スッ――――。


姫をゆっくりと自分から離す。


「辻ちゃん、お疲れ。」

「お疲れ様・・・れす。」


美貴が帰ってきてほっとしているのか、とびきりの笑顔で美貴に対処する辻。


435 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 15:21


「藤本、辻。ほんまによくやってくれた。お前らに褒美をやろうと思う。」


王女に言われて、美貴と辻がひざまずく。


「お前らの望むもんをやる。」


王女がにっこりと微笑む。


「じゃあ・・・のんは、久々に梨華ちゃんと出かけたいれす。」


辻が控えめに言う。


436 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 15:28


「よし、じゃあ今日、この後は辻と石川、2人に休暇を与える。」

「ありがとうごさいます。」


辻が頭を下げ、石川もびっくりしながら、小さく頷いた。


「あの、王女。辻ちゃんが・・・連れてきた・・・人質は?」


美貴が控えめに聞く。


「地下牢獄や。」


王女がムスッとした表情になる。


437 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:07


「では・・・」


それでも美貴は話を続ける。


「人質を美貴に任せて頂けないでしょうか?」

「なっ!?」


驚いて、王女が目を見開く。


「王女、よろしいでしょうか?」


固まっている王女に、美貴が再び問う。


「藤本、お前、ほんまにそんなんでええんか?」

「はい。お許しをいただけるのなら。」


深々と頭を下げた。


438 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:16


「藤本がそう言うなら・・・衛兵!」

「はっ!」


扉に立っていた衛兵が1人、王女に駆け寄る。


「さっきの人質を藤本の部屋へ移せ。」

「仰せの通りに。」


衛兵がそそくさと部屋を去っていった。


「王女、ありがとうごさいます。」

「いや、こんなんでいいならお安いご用や。」


面倒な問題が美貴によって省かれたので、王女にとっては嬉しいことだった。


439 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:25



―――ガタン。



ある程度の話し合いが終わり、それぞれが王室を去ってゆく。


タッタッ。


美貴もそのうちの1人だ。


「みきたん!」

「姫?どうか・・・なさいましたか?」


後ろから呼び止められて、立ち止まる。


「ホントよかった。よかったよぉ。」


また姫が泣き出す。


「姫・・・亜弥ちゃん。」


俯いた姫の顔を、近づいて、片手で触れる。


440 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:31


「泣かないで。美貴、ちゃんと帰ってきたでしょ?」

「だってぇ・・・」


ウルウルとした目で、見上げてくる。



そんな目、するなよ。



反則だ。



美貴は、姫の可愛さに、一瞬、この子もこんな表情を見せるようになったんだなと、自覚した。


「大丈夫。もう行かないから。」


ただ安心させよう、とにっこり笑ってみせる。


441 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:35



実際はどうだかわからない。



そんなことは、心配している姫に言えない。
美貴はあくまでもオトメ隊の隊員だ。
危険な任務だらけで、本当のところはもうスプリング王国に乗り込まない、と言い切れない。


「・・・みきたん??」

「ん?」


姫が目で訴えかけてくるが、美貴にはそれがわからない。


442 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:41


「んーん。なんでもない・・・いずれ、母から言われるだろうから・・・」


姫がにっこりと笑い返した。


「そっか・・・。じゃあ、美貴、行きますね。」


幼なじみモードから、オトメ隊と姫の関係に戻す。


「うん。じゃあ、また明日。」

「失礼いたします。」


美貴は頭を下げ、その場を立ち去った。


443 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:41




―――タッタッ。




444 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:46


「いっ・・・」


歩いている途中に、顔を歪め、少し俯く。


カタッ。


壁に寄りかかっている足が見え、ゆっくりと顔を上げた。


「あ、梨華ちゃん・・・。」

「ハッピー。」


苦笑い気味に、石川が待っていた。


「何やってんの?」


自分の部屋にあと少しのところで、石川のために足を止める。


445 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:51


「挨拶よ、挨拶。」


彼女が歩くと、ブーツと剣がカタカタと音を鳴らした。


「姫とはラブラブ??」


石川がちゃかし気味に聞いてくる。


「まさか。姫は姫だよ。」


立場があるでしょ、と付け加える。


「でも、姫は美貴ちゃんを気にしてる。」

「それは美貴と幼なじみだったから。」


ないないと手を振った。


446 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:55


「ふーんっ。」


つまらなそうに、ぷっくりと頬を膨らませる。


タッタ。


「なに?もしかしてヤキモチ?」


石川に近づき、にやりと笑みを浮かべる。


「な・・・なに言って・・・」


あまりの顔の近さか、それとも美貴の言葉にか、石川が顔を真っ赤に染める。


447 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 16:59


「冗談だよ。」


カタッ。


美貴が再び廊下を歩き始る。


「・・・今日・・・久々に、辻ちゃんとゆっくり話ししなよ。」


美貴が去りながら、手を振った。


「ゆっくりね・・・」


もう一度小さな声で石川に言う。


しかし、それは石川の耳には届かなかった。


448 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:00

***

449 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:09



カチャ。



部屋の扉をゆっくり開く。



「美貴さまっ。」


護衛がすでに、美貴の部屋にいた。


「騒ぎ立てていたので、気絶させておきました。」

「ありがとう。下がっていいよ。」

「はい。何かあったらお呼びを。」

「ああ。」


護衛が2人、頭を深々と下げて、部屋を去る。


450 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:13


「ふぅ・・・」


ドサッ。


身に付けていた剣、鎧、マントを次々にソファーに置いて、身を軽くしてゆく。


「くっ・・・そ・・・」


美貴がまた、顔を歪める。


ガサッ!!


そのとき、ベッドから起き上がる音が聞こえた。


451 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:19


チャプ・・・。


入れ物に水を張り、洗面台からベッド近くの机に持ってゆく。


「あんた・・・だれ!?」


ベッドの人質、愛から問いかけられる。


「んー。あんたを連れ去った張本人ってとこ。」


帽子だけは取り忘たが、そのままにし、水に視線を向けながらその問いに答える。


452 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:24


「あんた・・・最低やっ!!!あーしの国の・・・スプリングの兵士たちを殺して!!!」


美貴の血を見て大声で叫ぶ。


チャプチャプ。


美貴は何も答えずに、血で染まった手を水で洗う。


「なんで何にも言わんのっ!?殺したのに罪悪感もないん!?」


帽子を取り、上に着ていたものを脱ぐ。


「な、なにする・・・」


それを見て、ベッドにいる愛が、危険を感じ、一歩後退りする。


453 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:29


「いっ・・・」


チャプ・・・


少し唸り声を上げ、水を片手ですくった。


「そのキズ・・・」


滲んでいた血は、愛の予想していた兵士たちのものではなく、美貴の腕、背中の数ヶ所に出来ているキズから流れているものだった。


「うっ・・・」


チャポ・・・


とりあえず、腕の血を入れ物の水で洗い流す。


454 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:33


「あなたのとこの護衛にやれましたよ。」


背を向けながら告げる。


「・・・」


愛はキズを見て、固まってしまっている。


「ごとーとか言う人にね。」


キズを洗い流しながら、悔しそうな表情だ。


「後藤さんが?」

「強いね、あの人。」


美貴の中で、冷静な分析結果だった。


455 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:39


「まぁ美貴には及ばないけどね。」


洗い流した腕を、今度はタオルで拭く。


「大したことなかったよ、美貴が殺す前にみんな惨めな顔してたし。」


美貴がははっと小さく笑い声を上げた。



「ウソや。」

「は?」


洗面台に行き、水を捨てながら彼女に聞く。


456 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:44


「あなた、あーしの部屋にいたメイドさん助けてくれとったもん。」

「それは・・・」


そんなとこを見ていたのか、と少し驚く。


「そんな人が人を殺せるわけない。」


愛が確認するかのように、1人で頷く。
それは、洗面台にいる美貴には見えなかった。


457 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:52


「ははっ。そんな優しいやつに見える?この美貴が。」


洗面台から美貴がベッドへと向かう。


カタッ。


「この美貴が!」


ついに美貴とスプリング王国の姫、愛が初めて顔を合わせた。


「あ・・・あ・・・」


愛が声を失う。


「姫さまにはわかんないだろーね。この手で人を斬ってる美貴のことなんか。」


美貴がふっと鼻で笑う。


458 名前:第1章 投稿日:2006/10/03(火) 17:56


新しく出した服を着る。


チャリン。


そのときに、美貴がいつも身に付けているネックレスの指輪2つがぶつかる。


「あなたは・・・」


愛が大きく目を開けながら聞く。


「美貴は藤本美貴。オトメ隊に所属してる。」


真顔で答えた。


459 名前:ワクワク 投稿日:2006/10/03(火) 17:57
久々にちょっと多めの更新です。
460 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/04(水) 03:03
ワクワクするな〜!!
美貴ちゃんカッコイイー!!!!
461 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:15


ガサッ。


愛の座っているベッドに美貴が近づく。


「あ、あの・・・」


明らかに美貴がこっちへ迫ってくるのがわかり、後ずさる。


「悪いけど・・・」


美貴が羽織っていた上着を1枚、脱ぎ捨てる。


ガシッ。


そして後ずさっていた愛の両腕を掴み、覆い被さる。


462 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:19


「あんたの思ってるほど美貴は良い奴じゃないから。」


そう言うと、美貴は愛の服を剥ごうと、手を伸ばす。


「・・・」

「バカだね、姫さまも。」


一瞬、動きが止まってしまう。


「なんで・・・なんで抵抗しないんだよっ。」


愛は、美貴に体を預けていて、抵抗しようともしていなかった。


463 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:23



「あなたが、悪い人やないってわかるから・・・」


美貴の顔を見て、悲しそうに笑う。


「こんな状況でも、まだ言うか。」


美貴も、あまりのことで呆れてしまっている。


「あなたは良い人や。絶対。」


疑いのない視線を美貴に向ける。


「あなた・・・メイドを助けてくれた人やから。」


またその話か。


思わずそう思ってしまう。


464 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:27


「きっとそーや。」


自分の置かれている状況を把握していないのか、強い意志を向ける。



パサッ。



「はぁ・・・バカだな、姫さまは。」


ため息をついて、姫の隣りへと寝転ぶ。
愛は不思議そうに美貴を見ていた。


「ほんっとバカだよ・・・ここ、いちおー敵地なんだから。」


465 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:30



美貴じゃなかったら、殺されるか、ヤられるか、どっちにしろ最悪な結果に終わってた。



心からそう思う。



「あの、ケガ大丈夫なんですか?」


寝転がっていた体を起こし、美貴を心配そうに見つめる。


「だから、美貴は敵なんだから、あなたにとっちゃラッキーでしょ。」


ホントに状況がわかってないのではないだろうか、そう感じずにはいられない。


466 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:35


美貴がケガを負っていれば、それだけ自分に有利なほうへと、事が動く。



逃げる。



殺す。



どっちにしろ、美貴のケガは、彼女にとって好都合なはずだった。


「でも・・・ケガしとるから・・・」


しかし、美貴の考えは、彼女の頭にはそんなことすらないようだ。


467 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:39


ピトッ。


「っつ!!」


腕のキズに愛が触れる。


「触るなっ。」


パシッ。


彼女の手を叩く。
それでも彼女は辞めようとしない。


「ケガ、痛そう。」

「ああ、痛いね。あなたの国の護衛さんのおかげで。」


イヤミたっぷりに告げた言葉。


彼女は怒ることもなく


泣きそうな顔をしていた。


468 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:44


ガバッ!


「・・・」


美貴が急に起き上がる。


「今日はそこで休んでください。美貴はこっちで寝るから。」


ソファーを指さし、そちらへと歩いてゆく。


「あのっ!み・・・藤本さん。」


なんだよ、という顔で彼女に振り返る。


正直、美貴は面倒くさいと思っていた。


469 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:45









「あなたは・・・幸せですか?」



470 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:47


愛は興味があった。


美貴がどんな人物で



どんな生活を送り



どう感じているのか。



ただそれだけだった。



471 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:48











「幸せに見えます?」



472 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:49



美貴もそう返すしかなかった。



自分は幸せなのか?



そうでないのか



そんなことは考えたこともなかった。



ただ、国のため。



それだけのために、己を捧げてきた。



それが彼女の人生だった。



473 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:50

***

474 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:53


―――チュンチュン。


カサッ・・・


ゆっくりと体を起こす。


「いたたっ・・・」


昨日の残りか、頭痛が少しした。


「あ・・・れ?」



いない。



あの人がいない。



どこを見ても、ソファーで休んでいた美貴はいなかった。



475 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:56


カチャ。


「起きたようだな。」


決まった時間に入ってきていたのか、手慣れた感じで、護衛が入ってきた。


「あの、あの人は?」

「美貴さまなら訓練だ。これを食えっ!」


ガチャンッ!!


床に荒々しく食料を置き、護衛は出て行った。


476 名前:第1章 投稿日:2006/10/10(火) 01:59



キンキンッ!



ベッドから出て、窓から音のするほうを見ると、1人で自主練をしている美貴の姿が見えた。


「すごい・・・」


自然と声に出してしまうほど、美貴の動きは速くて力強かった。


「よしざーさんみたいやざ・・・」


その姿がさくら隊の吉澤と重なった。


477 名前:ワクワク 投稿日:2006/10/10(火) 02:01
少量更新。

名無飼育さま>ワクワクしていただいてありがとうございます!笑
478 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/11(水) 00:45
ストイックな藤本さんカコイイです。
479 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:04

***

480 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:09



―――ガチャン!



「おい!!」


見張りの護衛に掴みかかる。



ガタンッ!!



軽々と持ち上げると、壁へとぶつけた。


「彼女に・・・なにをした!」


いつもより低いトーン。この声で、護衛がビクビクと震えた。


「おい!!!」

「お、王女さまからの命令で、情報をはは、吐かないので、ごご拷問をいたし、まました。」


かなり慌てている護衛。


481 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:12


「王女さまのご命令だと?」

「ははははい!」


美貴が、ゆっくりと護衛の首を掴んでいた手を離す。


「そうか。すまない。見張りを続けて。」

「ははいっ!失礼いたします!」


そう言い残し、護衛は再び配置へと戻ってゆく。



カチャ。



美貴も、再び部屋へと戻る。


482 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:16


「大丈夫?」

「はい・・・」


スプリング王国の姫が、ガールズ王国の人質となって、もう半月が経っていた。


「ちょっと待って。今薬を持ってくる。」


そう言うと、美貴は素早く薬箱を手に取り、また姫の向かい側に座る。


「腕、見せて。」


姫の腕をゆっくりと持ち、キズを確かめる。


483 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:19


「ヒドいな・・・」


白く細い腕に、ムチで打たれた跡が何カ所かと、切り傷もいくつか刻まれている。


「あーし、人質やから・・・仕方ないですよ・・・」


ははと、弱々しく笑う姫の愛。


「・・・」


キズの1つ1つに手当てを施してゆく。
このくらいのキズは、美貴もよくあるので、手当てなど朝飯前だった。


484 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:21



カタン。



手当てが終わり、薬箱を閉じる。


「ちょっと出てくる。護衛に連れて行かれないようにはするけど、なんかあったら叫べ。いいね?」

「は・・・い。」



カチャ。



「じゃあ。」


美貴がまた、そそくさと部屋を去ってしまった。


485 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:24


ここに来てから半月間、愛は不思議に思っていた。



なんで自分はここに?



彼女の疑問も最もだ。
なにしろ、普通、人質といったら牢獄にいれられてしまうのだから。
それが、今はこんな贅沢な部屋に居座っている。



それに・・・



あーし優しくしてもらってる。



486 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:27


そう、拷問室に連れて行かれ、拷問されることはあったが、食事は充分というくらいもらえているし、なにより部屋の主、藤本美貴にはキズ1つ付けられていない。
むしろ、拷問から守ってもらっているくらいだった。



なんでや?



その理由は、守られている本人もわかっていなかった。


487 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:27

***

488 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:31


「王女さまにお話がある。通せ。」


王室前にいる衛兵に告げる。


「申し訳ありません。只今、王女さまは保田指揮官とお話し中でございまして・・・いくら美貴さまでも・・・」



ガタンッ!!



衛兵が言い終える前に、槍を払い、王室のドアを無理やり開く。


「み、美貴さま!!!」


衛兵2人が止めようとするが、力で美貴に勝てるわけがなかった。


489 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:35


「何や、騒がしいな。」


美貴を止めようとする衛兵を、王女の中澤がいい、いいと追い払う。


「どーした?血相変えて。」


美貴の形相は、穏やかとはほど遠いものだった。


「お話中、申し訳ありません。」


まぁええわと気にしていないのか、保田を自分のイスの横に移動させ、美貴がよく見えるようにする。


490 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:39


「先ほど、部屋に帰りましたら、人質がケガをしていたので、護衛に聞いたところ、王女さまのご命令で拷問を行ったとの情報を耳に入れましたのですが。」


ひざまづき、あくまで無礼のないように振る舞う。
しかし、内心、それどころではなかった。


「ああ、そのことか。」


王女は案外あっさりと事実を認める。


491 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:43


「向こうの情報を少しでも得るためや。」


そんなんはいつものことやろ、と返してくる。


「しかし・・・お言葉のようですが、人質のことは美貴に任して頂けると・・・」


そう、人質のことは全面的に美貴が指導権を渡されたはずだったのだ。


「ああ、すまんな。藤本には伝えとらんかった。それより藤本。」


話が流されてしまったので、イラッとしたが、相手が王女なので、一応返事はする。


492 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:46


「はい。」

「飯田によると、お前は結婚する気ないみたいやな。」


いきなり何を言い出すんだ、とは思っていても、口には出せない。


「はい・・・」


美貴の反応を見て、王女がそーかぁと少し残念そうな反応を見せるが、すぐに笑顔になった。


「まぁ、でも気ぃ変わるやろ。」


王女が何を言いたいのか、美貴にはさっぱりわからない。


493 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:50


「そろそろね、王女さまの跡継ぎをって話をしていたところなのよ。」


今度は、王女の横にいる保田が口を出す。


「はぁ。」


ほとんど自分には関係のない話なので、聞いてはいるが、右から左に流れてゆく。


「跡継ぎ。つまり、亜弥の婿ってことや。」


あんなちっちゃかった子も、もうそんな歳か、と少し驚く。


494 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:53


「将来はこの国を治めることになるんや。そんなやつはな、やっぱり慎重に選ばんとな。」


まあ、自分が仕えるのが変なやつだったらヤだしな。


「そうですね。」


そんなことを思いながら、そして、国の未来を自分なりに想像し、曖昧に返事をする。


「で、決まったんや。未来の王がな。」


495 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 00:56



あぁ、もう決まったんだ。



どんな人だろ?



少なくとも将来の自分が仕える人物。


気にならないと言ったらウソだった。


「慎重な話し合いの結果よ。もちろん、王女と私、そしてかおりんのね。」


496 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:01



飯田隊長も?



まさか自分の直属の上司が、この件に関して、話し合っていたなんてと疑問を持つが、よく考えて見れば、彼女も王女が信頼の置いている人だと思い返す。


「そうですか。姫の気に入るお方だとよろしいですね。」


小さいころから知っている姫がもらわれてしまうのは、少し寂しい気もするが、仕方ない。


497 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:03


「あぁ、もう亜弥にも知らせてある。」

「姫にですか?」



姫は、理想の高い人だ。



それを思い出し、姫が反対をしないということは、できたヤツなのだろう、と少し安心。



まるで姉みたいな気分だな。



そう思わずにはいられない。


498 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:06


「とりあえず、今は言い名付けってことにすることにしたのよ。」


驚いた美貴を見てか、保田が付け加える。



あ、そっか。



なんだか『言い名付け』という言葉に、ミョーに納得してしまう。


それがなぜだかは、美貴自身がよくわかっていた。


499 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:10


「で、やな。藤本。」

「あ、はい。」


一瞬にして、話が切れたので、王女のかけ声に反応が遅れてしまう。


「お前に報告すんのが遅くなった。悪いな。」

「いえ・・・」


そんなに重要事項じゃないのに、なぜ王女直々に謝られているんだろう、と疑問に思うが、まぁいいかと、自分で自己解決。


500 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:12




一瞬、頭を下げている美貴を見ながら、王女と保田が視線で会話を交わす。






「藤本美貴、今から、お前を亜弥の言い名付けとする。」


王女の口から直々に告げられた。


501 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:15



「は・・・え?」



なんとなく、返事をしてしまいそうになったが、慌ててそれを止める。


「3人でな、お前がイチバンええと判断したんや。」

「姫も、藤本なら納得されるようだったしね。」


2人から交互にそう言われるが、頭が混乱していて、なかなか話の内容が掴み取れない。


502 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:17



ちょっと待て。



美貴が・・・



美貴が??



姫の・・・



言い名付け?



美貴が



王女の跡継ぎ??



503 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:19


「いや、ちょ、ちょっとお待ちください。」


自分の頭の整理も付かず、とりあえず、自分の目の前にいる発案者を見る。


「なんや?不満があるんか?」


王女が顔をしかめる。


「いえ・・・そういうわけではないのですが・・・」


なんや、と安心しきったように笑う。


504 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:22


「その・・・美貴・・・結婚とか、考えてないんです。まったく。」


ここは自分の意見をはっきり伝えなくては、と慌てて付け足す。


「藤本、あんた、もしかして・・・好きな人でもいるの?」


よかったですね、と王女に言っていた保田が、慌てて美貴に言う。


505 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:23



好きな人。



そう言われ、一瞬、美貴の脳裏に浮かんだのは



『ラブちゃん』



いつの日にか助けた彼女だった。



506 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:25



もう振られたんだ。



そう自分に言い聞かせても



浮かぶ、彼女の面影。



何度も思い出す



彼女の歌声。



美貴の頭から



あの日のことは消えない。



いや。



消せない記憶となっていた。



507 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:28


「藤本??」


保田に再び呼びかけられ、ハッと我に返る。


「いえ、ただ結婚を考えていない、というだけです。」


今度は先ほどよりもはっきりと伝えられた。


「そうやな、藤本はまだ若いから。」


無理もない、と王女が笑う。


「これからそういう気持ちになればええだけや。」


なっと保田に同意を求め、保田もはいと頷く。


508 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:31


「まぁとりあえず言い名付けや、藤本は。亜弥のこと、大切にしてやってくれ。」


言い名付けだ、と言いながらも、もう結婚も間近と視野に入れる、王女の発言。


「いや・・・」


反論しようと美貴が口を挟むが、頼むで、と念を押される。


「は・・・い。」


それを美貴は断れなかった。


509 名前:第1章 投稿日:2006/10/17(火) 01:33



『言い名付け』



美貴にずっしりとのしかかる。



大きな大きな言葉だった。



510 名前:ワクワク 投稿日:2006/10/17(火) 01:34
更新。

名無飼育さま>すごくストイックな場面が彼女には似合う気がして。笑
作者の勝手な想像ですが(-o-;)
511 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/17(火) 02:56
なんで美貴は愛ちゃんがラブちゃんだって事に気付いてないんですか?顔見てるのに…
512 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/17(火) 17:51
水を注すようでようで悪いですが・・・「許婚」じゃないですか?
513 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/10/18(水) 01:19
うわー美貴ちゃんどうする?
514 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:07



パカラッパカラパカラ!!



暗闇の中、白馬が駆け抜ける。


「なんで?なんでですか?」


一緒に乗った少女が問う。


「・・・」


美貴は何も答えず、ひたすら愛馬のスカイルを走らせた。



515 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:08

***

516 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:13



―――数時間前



ガチャ。



「今から出る。準備して。」


美貴が部屋に帰ってくる早々、そう告げた。


「なにかあったんですか?」


愛には、そう聞くことしかできない。


「・・・いいから、早く。できるだけ荷物は無くして。」


わけもわからず、そう急かされるので、とりあえず言う通りにする。


517 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:16


愛が準備をしている間、美貴も装備を始める。



軽い防具。



剣。



青いマント。



そして最後に、青い羽の付いた帽子。



いつも、出かけるときにする格好だった。



518 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:20



バサッ。



美貴が、青々としたマントをなびかせながら、振り向く。


「準備はできましたか?」


神妙な面もちで聞いてくる美貴。

それをまた、愛は不思議に思った。


「はい。」


準備ができたので、不思議に思いながらも、一応返事だけはする。


519 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:26



ガタン!



愛が答えたかと思うと、今度は美貴が窓を勢いよく開けた。


キョロキョロ。


窓を開けるとほぼ同時に、美貴が下の様子を伺う。


「よし・・・こっちへ。」


美貴が右手を差し出す。


愛がじっとその様子を見て、歩み寄る。


520 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:30


「なにをするんですか?」


少し怯えながら、愛が上目使いで聞く。


美貴が一瞬考え込んでうつむくが、パッと顔をあげた。



「美貴を・・・」


迷いながら、でも、2回目にはしっかりと告げた。




「美貴を信じろ。」


521 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:33



「・・・はい。」


その言葉を聞いて、愛がしっかりと美貴の手を取った。


美貴が一瞬、にっこりと微笑む。



ピューッ!!



美貴が、軽く口笛を吹くと、どこからともなく、美貴の愛馬スカイルが窓の下までやってきた。


「失礼。」


美貴が一言告げ、愛の腰に手を回す。


522 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:54



ヒュルヒュル。



そして、あらかじめ窓から垂らしておいた縄を、降りる。



スタッ。



縄の先にいたスカイルへと、うまく着地。
愛を前へと乗せ、自分がその後ろからタズナをつかむ。


「行け。」


パカッ!!


静かな闇の中、真っ白なスカイルが走り出した。


523 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 22:55

***

524 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:00



さらに数分前。



美貴が王室を出ようとした時、不意に王女が呼び止めた。



「藤本、あの人質にもう用はない。明日中に始末しといてくれ。」

「しかし・・・」



美貴も反論しようとした。
しかし、それをさせてもらえなかった。


「王女様の命令よ。」


保田が付け加える。


「はい・・・仰せの通りに。」


そう返事をするしかなかった。


525 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:02



どうする?



許嫁同様、もう1つ悩みの種が増える。


というより、美貴的にはこちらのほうが、かなり重要だった。



『人質を始末しろ』



つまり、愛を殺せということだ。


それ以外の何ものでもない。


526 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:05



しかし、そう言われても、考えてしまう。



彼女に罪はない。



そう思ってしまうのだ。


さらに、彼女はとても優しい人だった。



そんな彼女を失いたくない。



美貴の中に渦巻く感情。



527 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:07



どうする?



部屋に帰るまでの間、ひたすら考えた。



王女様の命令に背くわけにはいかない。



でも・・・



彼女を死なせたくない。



美貴にも、これがなんの感情かはわからない。


ただ、本能がそう言っていた。



528 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:08



「・・・・」



部屋のドアにゆっくりと手をかける。



ガチャ・・・



ゆっくりと開くと、そこには彼女の笑顔があった。



529 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:10



どうでもいいじゃないか。



彼女の笑顔を見た瞬間、そう感じる。



今まで迷っていたことが、すべてバカバカしく思えた。



530 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:11









彼女を失わなければいいんだ。




531 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:13


そう思い立った後の美貴の行動は、とても早かった。


愛に準備をさせ


自分自身も戦闘の覚悟で準備をする。



そして



窓に向かう。



532 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:14




「美貴を信じろ。」



怯える彼女にそう告げた。



533 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:15



震える彼女の手をしっかりと、握る。



美貴が守る。



キミを・・・



キミを死なせたりしないから。



534 名前:第1章 投稿日:2006/10/29(日) 23:17




キミを守る。




美貴が・・・




命を賭けて。




例え




美貴が命を落としても




キミを死なせたりしない。



535 名前:ワクワク 投稿日:2006/10/29(日) 23:22
更新です。

511名無飼育さま>えっと、本文に書いたと思いますが、最初の出会いは『薄い布のようなもの』がかかっていたので、ミキティは、はっきりと顔を見ていないのです。
説明不足ですみません。

512名無飼育さま>指摘ありがとうございます!作者が間違いに気づかずに更新しておりました。
今後、気をつけます。

513名無飼育さま>どうなるかは…まだ模索中です。笑
536 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 01:59


パカッ。


ヒヒーン!


美貴がタズナを引っ張ると、スカイルが一度、仰け反ってから、止まった。


「あの・・・」


確実に愛は、美貴のしようとしていることがわかってしまい、後ろを振り返ろうとしたが、先に、美貴がスカイルから降りてしまったので、その姿はない。


「手を。」


そう言われて、愛が手を差し出すと、引っ張られ、体勢を崩したところを、美貴に抱き止められた。


537 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:03


「・・・大丈夫?」


一瞬、間が空いたが、すぐに体を離すと、美貴が問いかけた。


「あ・・・はい。」


愛は、顔が赤らめているのを隠そうと、うつむき気味だ。


「・・・ははっ。そんな照れないでよ、美貴まで・・・なんてね。」


微笑みかけながら、美貴が愛の顔をのぞき込む。


538 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:06


「・・・ここからは、あなた1人で行ってください。」


カチャ。


美貴が後ろを向いてしまったときに、剣が小さな音を鳴らした。


「さすがに・・・ここからなら、わかるでしょう?」


美貴が、スカイルの首もとを撫でながら、言う。


539 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:08




美貴と愛、そしてスカイルがいるのは







『スプリング王国』



敷地内の、壁スプリガールの正面ではない、壁付近だった。



540 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:11


「あなたは、人質で人生を終わらせちゃいけない。」


今度は、ヨシヨシとスカイルの調子が良いのを確認し、再び乗馬する。


「でも・・・こんなことしたら・・・あなたが!!」


人質を故意に逃がしたということは、彼女の国でも、かなりの重罪だ。


541 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:14


「美貴なら、平気です。いちおーオトメ隊の隊員張ってますから。」


笑いながら、愛を馬から見下ろす。


「でも・・・」


愛は納得いかない。


彼女の国、スプリング王国では、人質を故意に逃がした時点で、サクラ隊もなにも無くなってしまう。
ひどい拷問にあった後、死刑に処せられるというのが、大半だった。


542 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:16


「あなたも知ってるでしょ。美貴は強いから、心配ないですよ。」


不安そうな愛を見かねて、美貴がそう付け加える。


「あ、それに、ウソは得意だから。うん。」


バレないから、心配なんてしなくていいですよ、とまた笑いかける。


しかし、そんな保証、どこにもなかった。


543 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:19


「早く行ってください。美貴は、あなたが立ち去ってから行くので。」


愛がよほど心配なのか、美貴が後で立ち去る宣言。


「・・・ありがとう・・・ございました。」


愛が、深々と美貴に向かって頭を下げる。


美貴はよしてくださいよ、と愛に言う。


544 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:21


それでも、愛はしばらくの間、頭を上げようとしなかった。


ようやく頭を上げたかと思うと、彼女はとびきりの笑顔だった。



人質のとき・・・



こんな笑ってなかったなぁ・・・。



やっぱり国に帰れるというのが嬉しいのだ、と彼女の笑顔を見て、実感する美貴。


545 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:24


立ち去る愛だが、何回も振り返り、何回も頭を下げる。


「ったく、あんなに頭下げるかね、ふつー。」


ははっと1人で笑いながら、ちょっとずつ小さくなる、愛の姿をじっと見つめる。


「あっ!そーだ!」


急に愛が大きな声を出して、勢いよく、体ごと振り返った。


546 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:27


勢いよく振り返った愛は、さらに笑顔だった。


美貴は驚きながらも、笑顔で愛の言葉を待つ。



「あーしね!!実はあなたのとこを・・・」




ヒュッ!!




その瞬間、愛のすぐ横を、素早く何かが通り抜けた。



547 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:29



トサッ。



小さく、鈍い音が微かだが、聞こえる。



ドサッ。



その直後、物が落ちたような、大きな音が、愛の耳にまで聞こえた。



548 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:32



カシャン!!



「え?」


一気に辺りが明るくなった。



『侵入者確認!!!』



スピーカーのような、大きな声。



その声は、紛れもなく、サクラ隊の吉澤の声だった。



549 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:34


姫が慌てて背後を見ると、遠くのほうに、サクラ隊らしき軍団が見えた。



「あ!」



そして、落下音が聞こえたのを思い出し、再び美貴とスカイルのほうを見た。



550 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:36



ヒヒッーン!!



そこには、仰け反った姿の、スカイルしかない。





「美貴さんっ!!!」


地にスカイルから落ちたのか、倒れた美貴がいた。


551 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:40


慌てて、愛が美貴の元まで走り、倒れている美貴を抱き起こす。



「なんで・・・もど・・・って・・・きちゃっ・・・た・・・んで・・・・すか。」



呼吸が整わず、途切れ途切れな美貴の発言に、違和感を覚える。



ツツッ――・・・



自分の手に、冷たいものが流れてきて、思わず、自分の指先を見てしまう。


552 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:42



「血・・・!?美貴さん!ケガしてる!!」


良く見ると、美貴のわき腹に矢が1本、半分くらいまで刺さっている。


今にも泣き出しそうな愛、その後ろからどんどん近づいてくる軍団を、朦朧としながら、確認する。


553 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:46


「・・・美・・・貴・・・・と・・・・い・・・っと・・・・まず・・・い・・・から・・・」


グイッ。


美貴が、今出せる精一杯の力で、愛を押し、自分から離そうとする。


「あかん。早く手当てせんと!!!」


どくどくと出てくる血を、手で抑えて、必死に止めようとする愛は、美貴から離れようとしない。


554 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:49


「・・・から・・・・いー・・・から・・・は・・・や・・・いっ・・・て・・・」


どんどん顔の血色が悪くなっている美貴だが、フラフラしながら、やっとのことで立ち上がり、スカイルの体に背中から持たれる。


「・・・やく・・・い・・・け・・・」


美貴がゆっくりとサクラ隊のほうを指さすが、愛は首を縦には振らない。


555 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:51


美貴が痛そうな顔をしながら、矢を自分で抜く。


すると、さらに血が流れた。


「み・・・き・・・が・・・・にげ・・・れ・・・ない・・・・っしょ・・・」


ハァハァと息を切らし、ツラいながらも、笑顔で愛に告げる。


556 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:53


すると、愛が顔をしかめて、困ってしまった。


「・・・やく・・・・い・・・て・・・・」


彼女が、美貴をもう一度見ると、美貴はゆっくり頷いた。


それを見て、愛が軍団のほうへと踏み出す。


557 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:55


「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


涙を流しながら、美貴のほうを振り返らずに足を進める。


彼女は、足を進める間、ずっと祈りの手をしながら、謝っていた。



558 名前:第1章 投稿日:2006/11/06(月) 02:59



「くっ・・・・」



彼女の姿がだいぶ小さくなったのを確認し、美貴がケガの部分を手で抑える。


強がってはみたが、実際は、今にも倒れそうだった。


「た・・・の・・・・むよ。あい・・・ぼ・・・」


美貴は言うと同時に意識を失った。


倒れた美貴を予想していたかのように、スカイルが姿勢を低くし、自分の背に乗せた。


そして、主人を乗せてスカイルは走り出した。


559 名前:ワクワク 投稿日:2006/11/06(月) 02:59
更新です。
560 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/07(火) 10:47
うぉー!!!!美貴ちゃんカッケー!!!!!!!!
561 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/11/30(木) 13:10
続きが、めっちゃ気になります♪♪
562 名前:sage 投稿日:2006/12/21(木) 01:26
更新が待ちどおしい…頑張って下さい!
563 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/12/21(木) 04:55
>>562
sageの位置間違っとる
564 名前:名無飼育さん 投稿日:2007/07/06(金) 17:09
めっちゃ続き気になるね
作者さんガンバ
565 名前:名無飼育さん 投稿日:2008/01/06(日) 23:41
ガンバ

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