在りし日の事など

1 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:38
何もせずただ見つめていたいと僕は思いました
2 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:39
◆ young girl eighteen sexually knowing
3 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:39
ダベる二人と猫一匹。

「今唐突に思ったんだけどさ、のん達ってもう18だよね」
「そうだね」
「なんか全然実感ないんだけど」
「私も二ヶ月18歳やってるけど実感ないよ、全然」
「そーだよね、そんなもんだよね」

丸まっていた猫がふいに立ちあがると、ぐいと伸びをし、欠伸をして、また丸くなった。
辻と紺野はそれを見て「気楽だよね猫は」「そうだよね」などと言った。
猫は不服そうに二人の方を一瞥すると、すぐに目を閉じて寝息を立て始めた。
4 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:40
「18っていうとさ、やっぱ大人って感じするよね」
「するする」
「でも具体的にはさー、何もないよね」
「具体的ってどういうこと?」
「えー、こんこんってば具体的って言葉も知らないの?チョーバカじゃん」
「そういう意味じゃないし、そんなことバカ女ののんちゃんに言われたくないんだけど」
「うっせー。それは言わない約束じゃん」
「そんな約束した覚えないもん」
「なんつーかさ、暗黙の了解?だっけ?自信ないけど、そういうのがあんじゃん」

紺野は「はいはい」と言ってそれを受け流すと「それで具体的には何も無いって何が?」と訊いた。
辻は「なんだよークソこんこん、あばずれ」などと言って紺野を侮辱したのだが、
紺野は顔色一つ変えず、また「何が?」とだけ返した。
5 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:40
「何がって何が?」
「いや、私はのんちゃんの質問に対して何がって訊いてるんだけど」
「もう忘れた」
「のんちゃんさー、もうちょっと自分の言葉に責任持った会話しなよ」
「あーそうだね、こんこんは偉いもんね、そうだよどうせのんはバカ女だし」
「ほらすぐまたそうやって、本心から思ってないこと言うでしょ」
「うるさいなー、いいじゃんか別に」
「まあ別にいいんだけど」
6 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:41
辻と紺野はしばらくぼんやりと中空を見つめていたのだが、辻が「あー」と叫んだので、
紺野がそれに「何?」と返し、また会話が再開した。

「18歳になった人間に対してね、何もこう象徴的なものがないよね、ってことがのんは言いたかった」
「象徴的?のんちゃん難しい言葉使うね」
「すげーだろ、英語でいうとシンボリックって言うんだって」
「誰から聞いたの?」
「忘れた」
「まー別にいいけど」
「そうそう、だから18って感じがしないんじゃないかなって思った」
「そのだからってどこに繋がるわけ?」
「ほら、18だからって何も無いよね、ってとこに繋がるわけ」
「ああなるほど」
「こんこん実はあんまり頭良くないでしょ」
「自分では悪くはないと思ってますけど」
「悪くないと良くないってどう違うの?」
「知らないよそんなこと」
7 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:41
紺野はむくれた顔をして、辻からぷいと顔を背けた。視線の先には猫がいた。
猫は紺野と目が合うと、面倒くさそうに目を逸らした。
辻は「何に怒ってんだよこんこん」と騒ぎ立てたが、
紺野は「別にー」とだけ言って、やっぱり猫の方ばかり見ていた。
猫は居心地が悪そうに腰を上げると、少し位置を変えて、そこでまた丸くなった。

しばらく会話が途切れた。辻は手持ち無沙汰になったので、足をブラブラさせたり、
下ろしている髪の毛を不必要に触ったりしながら、ブツブツと独り言を呟いていた。
紺野は怒っているようにも見えたが、実際には何か考え込んでいる風だった。
8 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:42
「18禁」
「え?」
「いや、18になったら出来ることって考えてたら、それが思い浮かんだ」
「18禁ってあれだよね、えっちな奴だよね、こんこんってそういうのが好きなの?」
「別に好きとか嫌いじゃなくって」
「こんこんえっちー、みんなに言ってやろ」
「言うって何をですか?」
「こんこんがえっちな本買ってたよって」

紺野は一瞬黙ると、冷たい口調で切り返した。

「のんちゃんさ、さっきから腹が立つんですけど」
「え?何が?」
「さっきから人のこと馬鹿にして、すごいムカムカする」
9 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:42
辻は「あーごめんごめん」と焦ったように返すと「18禁かー、のんもえっちな本買ってみようかな」
なんていうことをブツブツと呟いた。紺野は無言のままだった。
10 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/19(火) 19:42
猫は嫌な雰囲気を感じたのか、そっと腰を上げ、ぐいと伸びをすると、その部屋から出て行った。
そして、たまたまそこに通りかかったれいなの足にグルグルとまとわりついてニャーと鳴いた。
れいなは猫を抱き上げると、グシグシとその頭を撫でて「にゃー」と返事した。
猫はもう一度だけニャーと鳴いて、グルルンと喉を鳴らした。


おわり
11 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:31
◆詭弁家コミュニケーション
12 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:32
道重は亀井の姿を認めると「ねえちょっと絵理」と手招きして椅子に座らせ、
持っていた紙とペンを差し出した。

「何?これがどうかした?」
「この紙にこのペンで三角形を描いてください」
「何それ。あ、分かった、心理テストでしょ、いやーだ」

亀井は渡された紙とペンを片手で突き返しながら「嫌だ嫌だ」と言って片手をぶんぶんと振った。
道重は突き返されたそれを当然受け取らずに、亀井の目を見据えると言う。
13 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:32
「とにかく三角形を描けばいいの」
「何で?絵理そういうの嫌いなんだって」
「別に絵理の不利益になるようなことなんてないよ」
「心理テストでしょ?それで『絵理は自分勝手な人でーす』とかってやるんでしょ?」
「やらないよ。心理テストじゃないもん」
「ホント?じゃあなんで三角形なんか描かせるわけ?」
「理由は言えないけど」
「ほら、やっぱ怪しい」

亀井は「怪しい怪しい」と呟くと、紙とペンを机の上に置いて「絶対描かないもん」と言った。
亀井の強情ぶりに「じゃあさ」と言って道重は切り返す。
14 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:32
「どうしたら絵理は三角形を描いてくれるわけ?」
「なんでそんなに三角形を描かせたいのか教えてくれたら、描いてもいいよ」

道重は「えー」と言うとしばしの間逡巡して「分かった」と言い、
また一寸考える素振りをすると続けて「でも詳しいことは言わないから」と言った。
亀井は「じゃあ教えて、そしたら描くから」と道重の応えを促した。

「さゆは真実を語るために、絵理に三角形を描いて欲しいの」
「何それ。やっぱり心理テストじゃない?」
「ほら言ったよ、描いて」

道重は満足そうにそう言うと、机の上の紙とペンを亀井の方に押しやる。
15 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:33
「まさか約束を破ることなんてしないよね、絵理」
「なんかさゆズルい」
「ズルくなんかないよ、いいでしょ三角形ぐらい描いてくれたって」
「まあ、まあいいけど」

亀井は不服そうに唇を尖らせると、乱雑に一筆書きで三角形を描いた。
そして「はい、どうぞ」と言ってそれを道重に渡した。
道重はその紙に描かれた三角形をしばらくじっと見つめた後、静かにその紙を伏せた。
16 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:33
「絵理、良く聴いて」
「はいはい」

亀井はあらぬ方を見ながら返事をした。道重はそれを気にすることになく続ける。

「この世の中には三角形というものは存在しません」
「はあ?」
「普段我々が三角形だと思っている物は、三角形のようなものに過ぎないのです」
「どうしたの、さゆ?」
「我々がその三角形のようなものを三角形だと思うのには、認識の問題が絡んできます」
「ねえ、どうしちゃったの、さゆ」
「絵理」

道重は力強い口調でもう一度「絵理」というと、亀井の目を見据える。亀井は思わず「はい」と応える。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:34
「何故、我々は三角形のようなものをこれは三角形だ、と認識するのでしょうか」
18 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:34
亀井は道重が言葉を継ぐのを待っていたのだが、何も言わないので、一寸困った顔をした。
道重はまた力強い口調で「絵理」と言うと、亀井の目をしっかりと見据える。

「質問に答えて、絵理」
「わかんないよそんなこと」

道重は満足げな笑みを浮かべて「そうでしょう、そうでしょう」と言う。

「我々が三角形のようでありながら実は三角形ではないものを三角形だと認識する理由とは、
 我々の脳内に三角形の理想的な形、つまり三角形のイデアがあるからなのです」

亀井はポカーンとして道重を見つめている。道重は亀井が三角形を描いた紙をペラペラさせながら続ける。
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:35
「だから、先程絵理が描いた三角形のようなものも、実際には絵理の頭の中に、
 三角形のイデアというものがあって、それを脳から肩、肩から腕、腕から指先、指先からペン、
 ペンから紙へと伝えていく過程で、このように本来の理想的な形であるイデアから捻じ曲がった、
 三角形のようなものの図が出来あがるわけなのです」
「それで、さゆは何が言いたいの?」

道重はニッコリ笑うと「さゆのイデアは絵理の頭の中にあります」と言う。
亀井は「へあ」とよく分からない返事をする。

「同時に、絵理のイデアもさゆの頭の中にあります」
「うん」
「イデアというのは物事の理想的な形なわけです」
「うん」

道重は一呼吸置くと、これまでの長々としたイデア論の結論を提示する。
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:36
「だから、さゆと絵理が同時に世界一かわいいという命題は成り立つのです」

亀井は分かったような分からないような顔をしながら、しかし結論だけは理解できたようで、
「さゆってばすごい、かっこいい」と道重を賛美し、道重は「あー疲れた」と頬を緩ませた。
21 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:36
猫は以上のようなやりとりを机の下で丸まって聞いていた。
目を一寸上げると、道重が『ソフィーの世界』を膝の上に置いてるのが見えた。
猫はぐいと伸びをして、欠伸を一つすると、机の下からのそのそと這い出てニャーオと鳴いた。
道重は「あ、猫居たんだ」と言い、亀井は「おいでおいで」と言った。

猫は亀井が手招きしているのをチラリと見ると、顔を背け、のそのそと別の方向へ歩き始めた。
亀井は「もー、かわいくないな」と言ったが、心からそう思っているような言い方では無かった。
22 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/20(水) 03:36
猫の歩く先にはれいなが居た。れいなは机に突っ伏して寝ていた。猫はニャーと鳴いた。
れいなは起きなかったが、猫はもう一度ニャーと鳴いて、れいなの膝の上に飛び乗った。
「イテッ」と言って、れいなは目を覚ました。何食わぬ顔をして膝の上に居る猫を見て、
「なあんだ、あんたか」と言うと、頭をグシグシと撫でて、また机に突っ伏した。
猫はゴロゴロと喉を鳴らして、すぐに目を閉じたが、耳だけはピクピクと動いていた。

亀井と道重は「実際には絵理とさゆはどちらがかわいいのか」という話題でまた盛り上がっていた。


おわり
23 名前:ピアス 投稿日:2005/07/20(水) 21:59
面白くて、ビックリしました。
どんな世界が見られるのか、これからも楽しみにしています。
24 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:44
ありがとう
25 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:45
◆You make me feel so good.
26 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:45
不満そうな顔で飯田は熱心に安倍に話し掛ける。

「大体さー、矢口は舐めてんだよ」
「カオリがそこまで言うとはねー」
「言うよ、言いまくり」
「いいじゃん、矢口には矢口のやり方っていうかさ、思いがあるんだからさ」
「ダメ。そんな聞こえのいい言い方で矢口を許しちゃうなんて絶対にダメ」
「許すも許さないも、現実にさー、卒業したメンバーで一番成功してるのって矢口だし」

飯田は安倍の顔をじっと見つめると「あのね、なっち」と言い聞かせるように言う。
27 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:46
「矢口はね、その卒業って形式も通してないんだよ。脱退だよ脱退」
「いいじゃん別に」
「ダメ」
「カオリは何が嫌なの?」
「矢口は絶対舐めてる」
「カオリってばさっきから言ってることが飛び飛びなんだよ」
「ダメなんだよ。キチッとこうさ、スジってもんを通してくれなきゃ」
「カオリー、なっちの言うこと聞いてる?」
「そもそもさ、成功してるとか成功してないとか、何が基準なわけ?テレビに出れたらそれでいいの?」

安倍は半ばあきれたような顔をして、もう一度「カオリー」と言う。

「それってさ、ただの僻みなんじゃないの?」

飯田は一瞬ピタッと動きを止め「なっち酷くない?」と尻上りな調子で言った。
28 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:46
「矢口のことをなんやかや言ってるカオリの方が酷いって」
「でもそんな言い方なくない?僻んでるとかさ、私はただ純粋に矢口の行為の道徳性について怒っているだけで」
「あーもう分かった分かった」
「じゃあさ、じゃあ訊くけど、なっちはなんで矢口のこと許すわけ?」

安倍は「許すっていうかー」と言い、頭を掻くと、飯田から視線を外して「同情というか」とこぼした。
29 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:47
「あーそうだよね、なっちはあれだもんね、プレステとかあったもんね、まーそりゃ矢口を許さなきゃ、
 それは同時に自分も非難することになるもんね。そうだよ、なっち賢いじゃん。バカなりに」
「何よ。カオリだって臭そうなディナーショーとかやって、つんくさんにナイス谷間とか言われて、
 私は大人の女なのよみたいな顔してさ、何やってんだって話だよ」
「それは別に非難されるようなことじゃないし。なっちはあれじゃん、あれもあるじゃんあれ」
「何よ、言ってごらんよ。何のことか分かってるけど、それ言ったらなっち本当に怒るよ」
「とうさ」
「ストップ。怒るよ?なっち怒るよ?」

飯田は口元に嘲るような笑みを見せると、背もたれに身体を預けて言う。
30 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:48
「結局なっちは自分の身が一番かわいいんでしょ」
「みんなそうだよ。そんなの別になっちだけじゃないし、カオリだってそうじゃん」

安倍は口を尖らせて、手元にある携帯のストラップを不必要にいじっている。
飯田はそれを見て、鼻でフンッと笑うと「なっちってばさ、昔から変わってないよね」と言う。

「自分がこうなんだから周りもきっとこうだ、みたいな決めつけとかさ」
「あーうるさいな。人のことはいいんだよ。カオリだってそうでしょ」
「カオリは違うもん」
「どう違うのよ」
「カオリはどのメンバーよりも娘。のことを考えてる」
31 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:48
今度は安倍がそれを鼻で笑って言う。

「へー、まあそれは結構な元リーダーさんですこと」
「なっちにはわかんないんだよ」
「えーえーそうですよ、どうせ私みたいな自分勝手な人間にはわかりませんとも」

飯田は安倍がストラップをいじっているのを見ながら「違う」と言う。
安倍は飯田のその強い口調に、ストラップをいじる手を止めた。

「なっちみたいにずっと真ん中に居た人間にはさ、わかんないんだよ」
「何それ。どういう意味?」
「知らない」
32 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:49
飯田は吐き捨てるようにそう言い残すと、部屋から出て行こうとする。
安倍は「待ってよカオリ、言い逃げとかズルよ」と言い、飯田はそれに対して一瞬足を止め、
安倍の方を振りかえったが、すぐに向き直って部屋から出た。

窓際で目を半分閉じたようにして、今までの会話を聞いていた猫も腰を上げ、
トトトトと小走りに、飯田の後をついて行くようにして部屋を出た。
安倍はそれを見て「なっちを一人にしないでよ!」とおどけた口調で言ったが、
それは泣き出しそうな窓際のブルーだった。猫は振りかえりもしなかった。
33 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/21(木) 00:50
猫がトトトトと小走りに飯田に追いつくと、飯田は自販機の前のベンチに腰掛けて俯いていた。
猫はニャーオと鳴いた。飯田は猫の姿を認めると手ぶりでおいでおいでとやった。
猫は駆け寄るようにして飯田の足元に行くと、ゴロゴロと喉を鳴らして、足にまとわりついた。
飯田は笑いながら「慰めてくれるの?」と言い、猫を抱え上げると、高い高いをするようにして、
視線の上の方で猫を揺さぶった。猫はそれでもゴロゴロと喉を鳴らしていた。

飯田は猫を自分の顔の高さに持ってくると「大人になんてなりたくないよね」と言って軽く笑った。
瞳の奥に嘲った笑いが見えた。猫は「そうだよね」と言わんばかりにニャーニャーと2度ばかり強く鳴いた。


おわり
34 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:25
れいなは髪の毛をくるくるいじると、窓の近くに身体を寄せてため息をついた。
窓の外ではサンサンと太陽が照っている。きっと今日も30度ぐらいあるのだろうと、
窓から注がれる日光に目を細めながら思う。もう一つだけ深いため息をつくと、
窓から身体を離し、自販機のそばに置いてあるベンチに腰掛けようとする。
すると猫がニャーと鳴く。れいなはその猫をひょいと膝の上に置くと、
無闇にその猫の顔をいじくってはケラケラと笑った。
猫は迷惑そうな顔をしながらも、れいなの膝の上から動こうとはしなかった。
しばらくそうしていると、いい加減に飽きたのかれいなは猫の頭を優しく撫で始めた。
猫はここに来て初めて気持ちの良さそうな表情を見せると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
れいなはこの猫は本当によく喉を鳴らす猫だと思った。その分だけかわいいとも思った。
35 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:25
飯田はニコニコと微笑みながらその光景を見ていたのだが、ふいに「あっ」と驚きの声を漏らした。
れいなと猫は不思議そうに顔を上げた。顔を上げるタイミングがあまりにもぴったり一緒だったので、
飯田はブッと下品にふきだした。れいなはまだ不思議そうな顔をして「なんですか?」と飯田に問い掛ける。
飯田は「いや、ごめん」と、ツバが飛んだのをしきりに気にすると腰を上げて、れいなの髪にそっと触れた。

「田中ちゃん、髪染めたんだね」

れいなは「ああまたか」という顔をすると「高校生になったから染めたんです」と言った。
飯田は「なんで?」と質問した。れいなは少しイライラしながら「高校生になったので」と応えた。
飯田は首を横に振ると「違うの」と言って、れいなの髪の毛をまだ触っている。
36 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:26
「なんで高校生になったら髪を染めるの?」

れいなは一瞬戸惑ってから「なんとなく大人っぽいかなって」と言った。
飯田はれいなの髪を触る手を止めると「のんちゃんも昔同じこと言ってた」と言って、
寂しそうに笑った。れいなは視線を落として、猫の仰向けになった腹を撫でた。白い毛が手に柔らかい。
飯田はそれをしばらく見つめてから「じゃあ用事があるから」と言って足早に立ち去った。
れいなはそれに「はい」と応え、飯田の後ろ姿を見送ると「ごめんなさい」と呟いた。
37 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:27
部屋へ戻ると、丁度道重と亀井がれいなはどうだこうだ、という話をしていた。
二人はれいなが部屋に入って来たのをみると「れいなー」と同時に声をあげた。

「今ね、れーなって茶髪似合うよねって話してたんだ」

道重はれいなの方を見ながらウキウキとそう言うと、亀井も続ける。

「そうそう。でもれいな、絵理の真似したんでしょ」
「絵理の真似なんかせんもん」
「うっそだー。あっ、えりりんかわいい、私もやろってやったんでしょ?」
「どーしたらそんな考えが出てくるん?」
「だってー、絵理はかわいいからー」
「はあー?」
38 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:27
亀井は「れいなは絵理の真似をした」という主旨の台詞を何度も口にした。
れいなは亀井のしつこさに少し腹を立てて、乱暴に言う。

「別に真似なんかしてなか」
「あれ?れいな怒った?ごめんごめん。冗談だよ。怒ってるれいなもかわいい」
「そうだよ。れーなかわいい」

今度は二人して「れいなかわいい」と言い始めたので、れいなは悪い気はしなかったのだが、
この二人に「かわいいかわいい」と言われるのもなんだか不気味な気がした。
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:28
「れーなって、そんなに似合うのになんで今まで染めなかったの?」
「そうだよ、もっと早くに染めてれば良かったのに」
「はぁ?何言っとると?」

れいなは呆れた顔をして「中学生やったけん、髪染めれんかった」と応えた。
道重は不思議そうな顔をして「どうして中学生は染めちゃダメなの?」と質問した。
れいなはバカバカしいと思いながら「校則があるけん、髪染めたらダメって」と言う。
道重は納得したのか「あー、そっかー」と言ってうんうんと頷いていたのだが、
「でも変だよね」と言った。亀井も「うん、変だよ」と言った。
れいなは何が変なのか分からないという顔をする。
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:29
「中学生だから髪染めちゃダメって、変だよね。似合う人はそれでいいのに」
「そーだよね」
「でも、絵理って何で髪染めたの?」
「絵理はー、石川さんに『たまには髪型変えてみたらどう?』って言われたから」

亀井は「たまには髪型変えてみたらどう?」と、石川の真似をして道重に提案した。
道重は「絵理、その物真似全然似てない」と切り捨てると、自分の髪を触りながら、
「さゆはこのままでいいの」と笑って応えた。れいなはなんとなく何も言えなかった。
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:29
「さゆは、今の絵理も好きだけど、前の絵理の方が好きだったよ」
「えー、なんでー?絵理はいつもかわいいよ?」
「理由なんてないけど、なんだか絵理が遠くに行っちゃった感じがしたの」
「した、ってことは今は?」
「今はもう慣れたよ。どっちの絵理も好き」
「だよねー」

れいなは居心地が悪そうにもじもじすると、自分の髪の毛を何度も触った。
亀井は「絵理はいつもさゆが好きだよ」と言い、道重も「さゆもいつも絵理が好きだよ」と言った。
れいなは耐えられなくなって「れいなは?」と訊いた。二人とも笑顔で「もちろんれいなも好きだよ」
と声を揃えていった。それは偽りのようには聞こえなかったけれど、妙に揃っているところが不気味だと、
れいなは思った。でも思いきって「れいなも二人のことが好きです」と言った。
その台詞のイントネーションが妙だったので、三人は声を揃えて笑った。
特にれいなは、少しだけ涙を流しながら笑った。
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:30
猫は窓際で太陽の日差しを浴びながらくわーっと欠伸をして、尻尾をゆったりと左右に揺らした。
外の気温に反して寒過ぎる室内に、くだらない冗談を言って笑い合う三人の声が響いた。


おわり
43 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:31
題名入れ忘れ。>>34-42 ◆髪色ディスカッション
44 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/22(金) 00:52
猫がすごくいい感じ。
45 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:10
ありがとう。猫っていいよね
46 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:10
◆You can't always get what you want
47 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:10
机の上に無造作に置かれた写真集と雑誌の山と、それを見ながら思い出話に耽る二人。

「うわっ、この梨華ちゃんすげー若い、気持ち悪いぐらい若い」

吉澤は雑誌のあるページを指して言う。辻が「どれどれ?」と言って覗きこむ。
吉澤は「これこれ」と言って、雑誌を辻の顔に近づける。辻は「ほうほう」と言って「うーん」と唸る。

「若いねー、なんかもっさりしてる」
「ののはなんか幼いね」
「よっすぃー美人だね」
「あら、ありがとう」
「別に今のよっすぃーに言ったわけじゃないよ、この頃のよっすぃーがだよ」

辻は昔の吉澤の写真を指差して言う。そして言った後で悪戯っぽい笑みを浮かべる。
吉澤は嬉しくて仕方が無いというような顔をして、ニヤニヤしながら応える。
48 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:11
「まったくお前はいつからそんなに生意気になったんだか」
「結構前からだと思うよ」
「そういえばそうだったかもね、ののとあいぼんはさー、かわいかったのはホンの最初の内だけだったかも」
「今でもかわいいよのんは。しかもかわいいだけではなくてセクシーだよ、どうよこれ」
「あーそうだねー」
「何その気の無い返事」

吉澤は「いやー、まージョークジョーク」と適当なことを呟きながら、また別の雑誌に手を伸ばす。
辻も写真集を手に取る。吉澤の1st写真集だった。辻は2、3ページ捲るとすぐに閉じて、
別の写真集に手を伸ばした。吉澤はそれを横目で見て文句を言う。

「折角手に取ったんだから最後まで見なよ、私のプリティーな写真を」

辻は安倍の写真集を退屈しのぎという風にペラペラと捲りながら応える。
49 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:12
「なんかねー、その頃のよっすぃーの写真見るとなんとなくこう、ね」
「何がなんとなくこう、ね、なんだか」
「のんにだってね、色々あるんだよ」
「あっそ」
50 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:12
そうこうしていると突然扉が開いて、そこから石川が入ってくる。
石川は無言で二人から離れた席に座ると、無闇にカバンをゴソゴソとやった。

「梨華ちゃん何してんの?」

吉澤が訊いても、石川は何も応えない。辻が吉澤に耳打ちする「また梨華ちゃんなんかはぶててるんだよ」
吉澤は辻の言葉を無視して「梨華ちゃんってばさー」と、どうしても石川の気を引こうとする。
辻はちぇっと言って、今度は後藤の写真集をペラペラやる。
51 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:13
「私ね、怒ってるの。はぶててるわけじゃないの」

石川はコンパクトをしきりにパカパカやりながら、二人の方を振り向いて「あのね」と説明しようとする。
吉澤は「分かった分かった」と言ってそれを止める。石川は「何が分かったっていうのよ、何も言ってないのに」
と不服そうな顔をする。辻は「梨華ちゃん喋り出すとうるさいからいいよ」と追い討ちをかける。
「二人ともそういうこと言うんだ」と言って石川は涙ぐむフリをし、吉澤は「違うよ梨華ちゃん」と言って、
それを弁解するフリをする。辻はそのやり取りをまた始まったと思いながら見ている。
52 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:13
何度目かの「二人とも私のことバカだと思ってるんでしょ」と「違うよ梨華ちゃん」というやり取りの後、
急に写真集の山がドサドサッといって倒れた。三人とも驚いて写真集の方へ視線を遣ると、
いつの間に居たのか、猫が石川の写真集でカリカリと爪を研いでいた。
辻は「あー」とさして感情の篭らない声を発し、吉澤は「ありゃま」とバカみたいな声を発した。
石川は無言でコンパクトをパカパカとやると、席を立って猫の頭をそのコンパクトで思いきり殴った。
パコンと音がした。猫はニャーと鳴いて窓に走り寄ると、石川の方を見てフーッといった。
石川は猫のことなど構いもせず、ボロボロになった自分の写真集の表紙を悲しそうに撫でた。
吉澤は何か言おうとして、止めた。辻は興味無さそうに背中をボリボリと掻いて言った。

「ところでさ、なんで梨華ちゃんこの部屋に来たわけ?」

石川はまだ悲しそうに自分の写真集の表紙を撫でていた。辻が「ねえ、梨華ちゃん」と急かすと、
石川は辻を睨んで「別に私がどの部屋に行こうが私の勝手でしょ」と言った。
辻は「そんな喧嘩腰になられても」と言い、吉澤は「そういう言い方は無いんじゃない?」と言った。
53 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:14
「じゃあどういう言い方が良かったわけ?私はバカだからですよー、とでも言えばいいの?」
「梨華ちゃんさー、落ちつこうよ。何に怒ってんのか知らないけどさ」
「大体ね、あの二人がいけないのよ」
「あの二人って?」
「美勇伝の二人よ。絶対私のことバカにしてるんだから」
「岡田ちゃんと三好ちゃんだっけ?」
「そうよ、特に三好の方よ、絶対私のことバカにしてるんだから」

辻は「梨華ちゃんだからしょうがない」と小声で言ったのだが、
石川は「うるさいわね」と直ぐにそれに噛みついた。
吉澤は「ののも梨華ちゃんのこといじるのやめなよ」と少々疲れ気味の声で辻を制した。
辻は石川から顔を背けて、別の石川写真集で爪をガリガリと研いでいる猫を抱き上げると、
「まったく怖いよねー、梨華ちゃんはねー」と猫に向かって話し掛けた。
猫は頷きながらニャーと鳴いて肯定の意を示した、ように見えた。
石川はコンパクトを無駄にパカパカとやり、吉澤は深いため息をついた。
しばらくの間、辻は猫とじゃれあい、石川は机に突っ伏し、吉澤はぼんやりと中空を見ていた。
54 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:15
コンコンとノックがあって、後藤が扉から「梨華ちゃん居るー?」と顔を出した。
吉澤が「何?どしたの?」とそれに応える。

「いや、よっすぃーじゃなくて、梨華ちゃん」
「梨華ちゃんだったら居るよ、ほらあそこ、はぶてて寝てる」
「ホントだ。やっぱね、ここに居ると思ったんだよ」

吉澤は「梨華ちゃんがどうかしたの?」と後藤に問い掛ける。

「あのねー、さっき廊下で美勇伝の二人とすれ違って『後藤さん、石川さん知りませんか?』って訊かれてさ。
 何かあったの?って訊いたら『石川さんが怒ってどっかいなくなっちゃったんです』っていうことだったから。
 だからね、多分きっとこの部屋に居るだろうと思って来てみたら、やっぱ居たね」
「へー。それで岡田ちゃん三好ちゃんと梨華ちゃんは何があったの?」
「なんかね、自動販売機でジュース買おうとしたら、梨華ちゃんは財布家に忘れて来たみたいで、
 三好ちゃんがじゃあお金貸しますよって言ったら、梨華ちゃんが『あんたに借りなんか作らない』
 とか言って、怒ってどっか行っちゃったらしいよ」
55 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:16
吉澤は呆れ顔でその話に「へー」と相槌を打つと、石川の方をチラッと見た。
石川はむくっと顔を上げると「その話間違ってる」と不満そうに言う。
後藤は意外そうな顔をして「え?あってると思うよ。さっき聞いたんだから」と返す。
石川は「違うの、違うの」と駄々をこねるようにして言う。

「三好ちゃんはね、お金貸しますよ、じゃなくて、おごりますよって言ったのよ」
「あ、そういえばそうだったかも」

一旦そう納得はしたものの、後藤は不思議そうな顔をして「その違いがどうかしたの?」と言った。
56 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:17
「私はね、美勇伝のリーダーなの」
「うん」
「リーダーはね、他のメンバーをひっぱって行かなきゃいけないのよ」
「うん」
「だから、リーダーは他のメンバーよりも完璧じゃなきゃいけないし、理想的な人間じゃなきゃいけない」
「うん」
「それなのに、それなのによ。三好のバカヤローが『おごりますよ?』とか。上から目線でさあ?
 私はそれが許せなかった。おごるってのはさ、上の人間から下の人間にやる行為であってさ、
 下の人間がいくら好意から出たものであっても上の人間に『おごる』とかいうのはさ、
 こう、バカじゃない?っていうか、絶対私のことバカにしてるのよ、あの二人」
57 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 00:17
後藤はちょっと呆れたような感じで「うん」と相槌を打った。
吉澤は今となっては完全に呆れ返っていた。
辻は「バカじゃね?」と猫に問い掛けた。
猫はグシュンとクシャミをすると、まるで人間のようにズズズと鼻をすすった。
後藤は猫に「大丈夫?」と問い掛けた。
猫はノープログレムという顔をしてニャーと鳴いた。
石川はコンパクトをパカパカやると部屋を出て行った。
吉澤は「ちょっと梨華ちゃん」と言って石川を追いかけた。
猫はまたクシュンとクシャミをしてズズズと鼻をすすった。
後藤が「風邪かな?」と言った。猫は今度は何も言わずにしっぽをプルプルと振った。


おわり
58 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 21:39
今回、ネコが少しかわいそうだった
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 19:59
石川さんは本当に酷い人だと思います。そこが愛しくはあるのですけれど。
60 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 19:59
◆化け猫エクスペリエンス
61 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:00
れいなが本を読んでいると、亀井が「わっ」と言ってドアから顔を出す。
れいなは本から顔を上げ亀井の方を見遣ると「何?」と言った。

「あれ?れいな驚かないの?」
「何が?」
「ほら、今絵理が『わっ』て言ったのに」
「別にそんなんで驚かんもん」
「なんで?さっき矢口さんにやったらすごいリアクションしてくれたよ」
「あっそう」

亀井は「れいなってばつまんないのー」と言うと、机を挟んでれいなの向い側に座る。
机の上では猫が堂々とくつろいでいる。亀井が猫の顔を一寸見ると、猫は顔を背ける。
相変わらずかわいくない猫だなと亀井は思う。れいなは本へ目を戻す。
本の表紙には『バカの壁』と書いてある。
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:00
「あー、絵理これ知ってる」
「うるさいなー」

亀井はその返事を聞いてケタケタと笑う。れいなは訝しそうに目を細める。

「うるさいなー、だって、なんか変なの」
「何が?」
「だってれいながそういうさ、普通の言葉喋るのって変じゃん。うるさかね、でしょ?」
「いいじゃないですか別に」
「なんか気持ち悪い」
「絵理に言われたくないですね」
「止めてよ。調子狂うから」

れいなはフンッと鼻を鳴らすと何も言わずにまた本へ目を戻す。
亀井は不満そうに「れいなってばつまんないの」と言って、自分の髪をいじる。
猫はさも当然のような顔をして机の上に陣取っている。
亀井はすぐにまた口を開く。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:02
「あのねー、さっきさゆがね、アルケーって言葉について教えてくれたんだけど、れいな知ってる?アルケー」
「知らん」
「そうだよねー、普通知らないよね。さゆってばなんかこないだからやたらそういう話ばっかするんだよ」
「へー」
「なんかね、ギリシャ語?だったかな?それでね、根源って意味らしいんだけど、アルケーって。
 さゆが言うにはね、この世界のアルケーは水らしいよ」
「ふーん」
「でさー、それだったらどうなの?って訊いたら、それだからそうなの、
 って良くわかんないこと言うんだよね。絵理はさ、この世界の根源が水だとしたら、
 何かこう大変な事実が分かるとか、そういう結果がさ、伴わないと落ちつかないと思うんだけど、
 れいなどう思う?」
「そうだね」
「ちょっと、ちゃんと話聞いてる?れいな」
「知らん」
「まあいいけどさ。それでね、さゆが言うにはその、この世界の根源は水だ!って言った人の名前はね、
 えっとね、なんだったっけ、クリス?タリス?だったっけ?忘れちゃったけど」
「タレス」
「え?」
「タレス。高校の授業でやったよ。万物の根源は水である。タレス。水が垂れす」
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:03
亀井は一瞬の沈黙の後「そうなんだ」と言って、それっきり押し黙った。
れいなは黙々と本を読んでいる。猫は欠伸をしている。
亀井は髪をいじって、猫をじっと見つめる他にすることが無い。
猫は亀井から顔を背けたかと思えば、時折亀井の顔色を窺うような素振りをする。
亀井があまりにもじっと猫を見つめるので、猫は口も開けずに「にゃーお」と鳴く。
れいなは本から顔を上げると「あれっ?」と言って不思議そうな顔をする。
65 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:03
「今の絵理?」
「何が?」
「にゃーお、っていうの」
「猫でしょ?」
「ホント?だって口開いて無かったよ?」
「そりゃ猫だってたまには腹話術みたいなことしてみたくもなるでしょ」
「そんなわけなか」
「じゃあさ、また鳴くかどうか見とこうよ」

そうして二人がじっと見ていると、また猫は口も開けずに「にゃーお」と鳴いた。
れいなは「ほら、口開けてなか」と言い、亀井は「どうなってるんだろ?」と首を傾げた。
猫は二人の熱烈な視線に耐えかねて腰を上げると、トトトッと部屋の隅へ行き、そこに身体を落ちつけた。
66 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:04
「おかしなこともあるもんやね」

れいなはそう言って本へ目を戻そうとしたが、亀井が「ちょっと待ってれいな、何か聞こえる」
と言うので、二人で耳を澄ました。するとまた「にゃーお」と猫の鳴く声が聞こえた。
れいなは「猫じゃん」と言って軽くあしらおうとしたのだが、亀井は泣きそうな顔をしていた。

「違うもん、違うもん」
「何がね?」
「猫寝てるもん」

亀井にそう言われて、れいなが猫の方を見ると、確かに猫は両腕で頭を抱え込むようにして寝ていた。
67 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:04
「そりゃ猫だってたまには寝言で鳴いてみたくもなるとや」
「違うもん」
「じゃあ何ね?」
「絶対おばけだよ」
「おばけ?」
「そうだよ、絶対おばけだよ。夏だし、もう夜だし、絶対おばけだよ」

れいなは「なーにガキみたいな事言っとると?」と鼻で笑った。
68 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:05
「じゃあさ、この鳴き声は何なのか説明してよ」
「きっとアルケーが水のせいやけん」
「え?」
「この世界の根源が水やけん、にゃーおって聞こえると」
「何それ、意味わかんない」
「ニヒヒ」
「ニヒヒじゃないよ。れいなは怖くないの?」
「れいなは怖くなか」
「なんで?」
「れいなはそういう非現実的なもん信じんけん」

亀井が信じられないという目でれいなを見ていると、また「にゃーお」と鳴き声が聞こえた。
亀井はまた泣きそうな顔になる。れいなはそんな亀井の顔を見てにやにやと笑う。
69 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:05
「れいな、何がおかしいのよ」
「絵理の怖がり方がおかしいと」
「なんでれいなは怖くないの?」
「れいなはそういう非現実的なもん信じんけん」
「さっきからそればっかりじゃん、何か仕組んでるんでしょ、れいな」
「れいなは何も知らんと」
「ウソ、絶対ウソ」

れいなは「れいなは何にもしとらんとよ」と言って両手を上げて、バイバイするように手を振るった。
また「にゃーお」と鳴き声が聞こえる。亀井は「もう知らない!もうどうでもいい!絵理帰る!」
と怒ると、部屋のドアを開けた。ドアを開けると辻が居た。亀井は直感した。
70 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/02(火) 20:06
「辻さん、ここで何してるんですか」
「いや、えーっと、まあなんていうか、散歩?」
「そうですか、それはまたどういう散歩なんですか?」
「うん、なんていうかさ、ごめんね、亀ちゃん。だってさ田中ちゃんがさー」

辻と亀井がやんややんやと遣り合っているのを見ながら、れいなはニヒヒと小声で笑った。
いつのまにか目を覚ましていた猫は、れいなを非難するかのようにニャーと鳴いた。
れいなは猫をひょいと摘み上げると猫に向って「にゃーお」と言って、頭をグシグシと撫でた。

亀井は辻にしつこく食ってかかっているようだった。目を見張るしつこさだった。
辻は「田中ちゃーん!」と助けを求めたのだが、れいなはそれを無視した。
最善の言い訳を必死で考えながら、れいなはこのイタズラを少しだけ後悔し始めていた。


おわり
71 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:34
◆Drunken Hearted
72 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:34
後藤が「おっはー」と言ってドアを開けると、
部屋にいた藤本は深く考えずに「おっはー」と返し、
松浦は難しい顔をして「ごっちんもう夜だよ」と返した。

「あれ?よしこは?」
「よっちゃんだったら梨華ちゃんとどっか行ったよ」

後藤は一寸残念そうに眉毛を下げると「まあ、まあいいけどね」と言った。
松浦が「ごっちん、それなーに?」と後藤が提げているビニール袋を指差すと、
後藤は「ああこれ、これはあれ、お酒」と言って、机の上にドスンとそれを置く。
それと同時に猫が机の上へ飛び乗る。後藤は「ダメダメ」と言って、猫を机の上から下ろす。
73 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:35
「お酒って、ごっちんまだ19でしょ?ダメじゃん」
「19も20も変わんないって、まっつーも飲むでしょ?」
「えー、私はいいよ、飲まない」
「そんなこと言わずにさー」
「ダメだよ、アイドルが20になる前にお酒なんか飲んでたら問題だよ」
「だからさー、19も20も変わんないってば」
「ダメダメ。アイドルってのはイメージなんだよ。ダメだよそういうの」
「そんなこと言いながらさ、まっつーだって普段は飲んでるんでしょ?」
「飲まないよ」
「ウソばっかり」
「ごっちんが何と言おうと私は飲んでないよ、20になるまで飲まないし」
「へー」
74 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:35
後藤は松浦を疑わしそうな目で見る。松浦はツンとした顔でそっぽを向く。
藤本は勝手にビニール袋からオレンジのチューハイを取り出して飲みながら、
「おつまみは無いの?」などと言っている。猫も物欲しそうにニャーと鳴く。

「ごめーん。買うの忘れてたや、ちょっと買ってくるから、適当に飲みながら待ってて」
「いいよいいよ、よっちゃんに買ってきて貰おうよ」
「え?どうやって?」
「どうやってってそりゃ携帯に電話して」
「私よしこの携帯の番号知らないんだけど」

藤本は後藤と視線を合わせるとすぐに逸らして「あー、うん、そうだね、なんでもない」と言った。
松浦はソッポを向いたまま意地悪そうに少し笑った。後藤は眉毛を露骨に八の字にした。
藤本は慌てて言う。
75 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:36
「ミキが買ってくるからいいよ、ごっちんここで待ってて、すぐ戻ってくるから」
「お金は?」
「大丈夫。ミキが払うから、気にしないでよ。じゃ、行ってくるわ」

後藤は妙に慌てて部屋を出て行く藤本を情けない顔をして見送ると、袋から缶ビールを取り出して、
一口に半分ほど飲んで「ぷはー」と言った。松浦はそれをニヤニヤと面白そうに見ている。
後藤はチューハイを一本取り出して「まあいいから飲みなよ、まっつーも」と松浦の方へ突き出す。
松浦はニヤニヤしながら素直にチューハイを受け取ると「面白いねー」と言った。
後藤が不満そうに「何が面白いのさ」と言うと、松浦は「別にー」と鼻で笑い、
チューハイを開けると一口飲んで「うげぇ」と言った。
猫は物欲しそうな顔をして二人の顔を見つめている。
76 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:37
「あ、本当に普段飲まないんだ」
「だから本当だって言ったじゃん」
「でも20になるまで飲まないってのはウソになったね」
「飲ましといてそんなこと言うんじゃねーよ」
「んふ、めんごめんご」
「めんごめんごとか今更どこの田舎でも言わないよ」
「姫路でも言わないの?」
「何それ、姫路バカにしてんの?」
「別にそういうわけじゃないけど、私は一応東京出身なんだよねー」
「やっぱ姫路バカにしてんでしょ」
「別にそういうわけじゃないよ、まっつーも浅はかだね」

後藤はしれっとして残りのビールを飲み下すと、袋からもう一本ビールを取り出した。
松浦は「お前超むかつくー」と言いながら、手元のチューハイをちびりちびりと飲む。
飲んではまずそうな顔をして小さい声で「うげぇ」と言う。
猫はまだ物欲しそうに二人の顔を交互に見つめている。
77 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:38
「まっつーさ、そうやってちびりちびり飲むからまずいんだよ。一気に飲むんだよこういうのは」
「そんなこと言ってもさ、まずいものを一気に飲めってのは過酷だよ」
「味がいけなかったのかな、それ何味?」
「レモン」
「じゃあこっち飲んでみなよ、オレンジの方が飲みやすいかもよ」

後藤はそう言って藤本が飲みかけにしていたチューハイを松浦に勧める。
松浦は一口飲んで「あ、これなら大丈夫かも」と言って一気に飲み下した。
存外平気そうな顔をしている。後藤は「おっ、強いね」と言うと、
自分のビールをまた一口に半分ほど飲んでニヤニヤする。
猫はもう諦めたのかトコトコと松浦の後ろの方へ歩いていくと、そこへ腰を落ちつける。
78 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:38
「ミキティが口付けた奴だからすんなり飲めたね」
「何よ、別にそんなんじゃないし」
「どうだかねー」
「さっきからごっちん感じ悪くない?」
「まっつーのが感じ悪いんじゃん。見てたんだよ。私がよしこの携帯の番号知らないって言った時、
 笑ってたでしょ。なんかすごい意地悪そうな顔してたよ」
「あ、見てたんだ。めんごめんご」
「めんごめんごとか今更姫路ぐらいでしか使わないよ」

松浦は「むかつくー」と言って、レモンチューハイの残りをぐいと一口に飲むとゴホンゴホンとむせた。
後藤は「タバコじゃあるまいし、むせないでも」と言って、松浦の背中をさすった。
松浦は「変なとこに入った」と繰り返して涙ぐんだ。後藤は松浦の背中をしばらくさすっていた。
79 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:39
松浦がようやく落ちついたので、後藤はまたチューハイを一本松浦に手渡し、
自分はビールを飲み干して、袋からまたもう一本ビールを取り出したが、
蓋は開けずに、今度はズボンのポケットからタバコを取り出して火を付けた。

松浦はそれに驚いて「ごっちんタバコも吸うの?」と言う。
後藤は「まあ、吸いますよ」と変におどおどしながらそれに返す。
どことなく吸い慣れてない雰囲気だった。

「タバコってさ、アイドルっていうか、歌手としてどうなの?って話だよ」
「いやまあなんていうかあれだよね」
「何言ってんのごっちん」
「あれだよあれ」
「何よ」
「私ってさ、レズじゃないんだけどさ、何かあるじゃん、そういうのに似た気持ちが」

松浦は後藤が何を言っているのか分からないという顔をする。
後藤はタバコの灰をビールの空き缶にポンポンと落とそうとするが、
失敗してまだ長いタバコごと空き缶の中に落としてしまう。
80 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:40
「ごっちんどうしたの?」
「なんていうかさー、こんなこと人に言うの初めてだからさー」

そう言って後藤はまたもう一本タバコを取り出そうとするが、松浦はそれを制する。

「松ペン先生に話してごらんなさい」
「何それ?」
「ラジオでそういうコーナーがあるの」
「へー、まあ別にいいけど」
「で、何なの?」
「なんていうか、女友達に対する独占欲っていうかさ、そういうの無い?」

松浦は眉間にシワを寄せると「無い」と言う。
81 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:41
「えー、ウソだよ。絶対あるって、例えばさ、まっつーだったらミキティとかにさ、何かあるでしょ」
「別に何にもないよ」
「ウソウソ。普段あれだけ、みきたーんあやちゃーんとかやってる癖にさ」
「だって私達は相思相愛だもん」
「何?まっつーってレズなわけ?」
「違うけど」
「それだったら分かってくれると思うんだけど。ミキティがあんまりよしこと仲良くしてたら、
 なんかこう嫉妬じゃないけどさー、もっと私と仲良くしてよ!とか思わない?」
「別に思わないよ。だってそれは美貴たんの勝手でしょ」
「そりゃそうなんだけどさ、いつも一緒に居た人が他人と自分の知らない会話とかしてたらさ、
 なんとなく嫉妬みたいな気持ち感じるじゃん」
「私は別にそんなんないよ。一緒に居るときに楽しければそれでいいじゃんって思う」
「そんなもんかなー」
82 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:41
後藤は先程取り出したビールを開けもせずに両手の上でコロコロと転がして、
「私の独占欲が強いだけかな」ともらす。松浦は「そうなんじゃない?」とそれを支持する。
後藤は机にダランと上半身を投げ出すと、ふうとため息をつく。

「松ペン先生全然頼りになんないじゃん」
「何で?ちゃんと話聞いてあげてるじゃん」
「相談を受ける人ってのはね、相手の言うこと全てに同意するのが鉄則なんだよ」
「何?同意して欲しかったの?」
「この気持ちを共有して欲しかったわ、形だけでも」
「めんごめんご」
「あーあ、言わなきゃよかった」

後藤はつまらなさそうに机に突っ伏したまま汗をかいたビールの缶を指でなぞる。
松浦は腕を組んで難しそうな顔をする。猫は松浦の後方で猛烈に顔を洗う仕草をする。
83 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:42
「あのねー、私は思うんだけど、私とごっちんじゃ環境が全然違うわけね」
「うん」
「私はさ、デビューしてからずっとソロだから、仲良くなった子が、まあ美貴たんがね、
 傍にいなかろうが、誰と何していようが気にならないんだけど、ごっちんはさー、
 モーニング娘。に居たわけじゃん。それでまあよっすぃーと仲が良かったわけでしょ?
 プッチモニとかで。それで急に卒業とかいうことになって、ソロになったんだから、
 まあそういう気持ちになるのも分かるような気がするよ」
「お、やっと本気で考えてくれたね」
「松ペン先生の信頼を回復できたかしら?」
「ちょっとだけね」
「かわいくない奴」
「お互い様だよ」

後藤はフヘヘと笑い、松浦はウフフと笑った。
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/03(水) 19:43
「それにしてもミキティ遅いね、どこまでおつまみ買いに行ってるんだろ」
「そういえばそうだね」
「お酒無くなっちゃうよ」
「まだ飲むの?私もういいよ、酔っちゃった」
「ウソ。全然酔ってないでしょ。全然変わってないよ」
「そうかな?結構頭ぐるんぐるんしてるよ」

後藤は目を細めて松浦の方を見ると「おーい元気かーい!」と叫んだ。
松浦は「何よ急に」と言って変な顔をしたが、後藤は笑って「なんでもない」と言った。
猫はキョトンとした顔をして後藤の顔をしばらく見つめていた。松浦は「変なの」と言った。

藤本と吉澤と石川が「おまたせしましたー」と言って部屋に戻ってくると、
俄かにその場は盛り上がったのだが、猫は相変わらず誰にも相手にされなかった。


おわり
85 名前:ななし 投稿日:2005/08/13(土) 11:19
あやごまって意外と合いますよね
86 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:54
あやごまのANNは本当にたまりませんでした
87 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:55
◆スクールガール・カンバセーション
88 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:56
れいなと辻はやれやれといった顔をして廊下を歩いていた。
れいなは猫を大事そうに抱えている。辻は何度もため息をつきながら言う。

「亀ちゃんのしつこさにはビックリしたよ、いつもあんなんなの?」
「いつもあんなんです」
「それならさー、あんなことやろうとしなきゃよかったんだって」

れいなは少しむっとした顔で「やろうよやろうよって乗ってきたのは誰ですか」と言った。
辻は頭を掻くと「それを言われると弱いなあ」と笑った。れいなはまだ不服そうな顔をして言う。
89 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:56
「大体辻さんはもう18でしょ?れいなまだ15ですよ。そこらへんの責任は取ってくれないと」
「責任ねえ」
「責任ですよ。18って言ったらもう大人ですから」

辻はもう一度「責任ねえ」と呟くと「大人ってなんなんだろうね」と言った。
れいなは「そんなことれいなに言われても分かりません」と突き放した。
辻はそれを全く意に介さずに続ける。

「例えばさ、これは紺ちゃんが言ってたんだけどさ。18禁」
「18金?」
「そうそう18禁。これに手を出したら大人なのかななんてさ、紺ちゃんが言うにはだよ」

辻は少し照れくさそうな顔をして「いい?紺ちゃんが言うにはだよ?」と強調した。
れいなは難しい顔をして「18金と大人とどういう繋がりがあるっちゃ?」と言った。
辻は「そりゃだって田中ちゃん、18禁がOKになったら大人って感じがするじゃん?」と笑う。
90 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:57
「ゴージャスなのが大人ってことですか?」
「え?どういうこと?」
「だって18金って」
「18禁だよ?えっちな奴」
「えっちな奴?18金が?真珠じゃなくて?」
「田中ちゃん何言ってんの?」

田中は「だってアッチ系の人はあの、アソコに真珠埋めるとか言うじゃないですか」と言った。
それを聞いて、今度は辻が「アッチ系?アソコに真珠?」と難しい顔をした。
91 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:57
「なんていうか、ヤクザの人とかって、あのーアレに真珠埋めてるって言いません?」
「アレって何?」
「アレはアレですよ」
「何よ、具体的に言ってみて」
「ち」
「ち?」

辻はニヤニヤしてまた「ち?」と言った。れいなは赤い顔をして「ち、ちん」とどもると、
「ちんすこう!」と叫んだ。辻は「何それ、お菓子じゃん」と笑った。
92 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:58
「それはきっと陰茎のことですよ」

辻とれいながその声に驚いて振り向くと、そこにはニコニコした亀井が居て、
亀井はもう一度「陰茎のことですよ」と言った。
れいなは赤い顔をして俯くと、猫を撫でた。辻はそれを無視してれいなに話し掛ける。

「田中ちゃんさ、話は戻るけど、18禁ってあれだよ、エロ本とかアダルトビデオとか」
「はあ」
「まあだからさ、紺ちゃんが言うにはさ、そういうのを買ったら大人なのかなって」

亀井はまた愉快そうに「陰茎ですよ」と言う。二人はそれを無視する。
93 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:58
「でもそれだけで大人っていうのも変な話ですよね」
「まあのんもそれは思うけど、選挙権があるわけでもないし、そもそも18からはもう大人、
 っていう考え方自体がどうかなって思うんだけどね。特にアイドルやってるとさー、
 いつまで経ってもある意味で子どもで在り続けなきゃいけないしさ」
「まあ大変ですね」
「大変だよ、いいよな高校一年生、のんも何も考えてなかったその頃に戻りたいよ」
「れいなは何も考えてないわけじゃないですよ、一応こう自我の葛藤というか」
「難しい言葉使うね田中ちゃん」
「高校の授業でやりますから」
「のんはねー、数学は得意だったよ、エックスプラスワイイコールなんたらみたいな」
「連立方程式ですか?」
「えっ何それ?」
「いや、別になんでもないです」

れいなはそう言うと自販機の前にあるベンチに腰を下ろして、猫を膝の上に落ちつけた。
辻もその隣に座る。亀井は鼻歌を歌いながら自販機で力水を買う。
94 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:59
「いやでも、高校生っていう時期は不思議な時期だと思うよ」
「何がですか?」
「何にも考えていないような考えているような、大人でないような大人なような」
「れいなはまだまだ子どもですけどね」
「いや、そりゃ自分ではそう思うかも知れないけど、高校生になると責任が付きまとうからね」

れいなは「責任かあ」と言ってため息をつく。辻はそれを見て微笑ましそうに笑う。
亀井は力水をごくごく飲むと「陰茎に真珠ってどんな気持ちなのかなー」と言った。
辻はまずそうな顔をして田中に向って小声で言う。

「下ネタもね、ある程度は話せる方がいいとは思うけど、亀ちゃんみたいになっちゃダメだよ」

れいなは力強く頷くと「はい」と小声でそれに返した。
辻は今度は亀井の方へ振り向くと「亀ちゃん酔ってんの?」と言った。
亀井は「酔ってませんよー、ただちょっと陰茎」と言ってニヤニヤと笑った。
95 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/13(土) 23:59
「お酒は18になってからだよ」

辻はそう言うと自販機でお茶を買って亀井に渡した。亀井はそれを一気に飲み干した。
れいなは呆れてそれを見ていた。猫は人間とは実に愚なものだな、と思っていそうな顔をしていた。
辻はため息をついた。亀井はまだニヤニヤ笑いながら「陰茎」と言っていた。

廊下の向こうから威勢のいい声が聞こえてきた。後藤や松浦の声だった。
辻はまたため息をついてこの酔っ払い共めと思ったが、顔は笑っていた。
自販機でまた数本お茶を買うと、辻はその内の一本を開けて少しだけ飲んだ。
れいなはぼんやりと猫を撫でていた。亀井はまたお茶を一気に飲んでむせた。
猫は実に愚なものだと声に出して言いそうな感じのする顔をしていた。


おわり
96 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/29(月) 15:05
この空気感好きだな
97 名前:  投稿日:2005/08/31(水) 21:35
一気に読ませていただきました。みんなウザかわいったらありゃしない
ジーツー、いいらさんが特に良いです
98 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:49
ありがとう、辻ちゃんと飯田さんは僕も敬愛しています
99 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:50
◆It's up to you
100 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:50
吉澤は「あー気持ち悪い」と言いながら残っていたお茶をグイグイと一気に飲み、
後藤はそんな吉澤を見つめながら少しずつお茶を飲んだ。

「よしこってば案外弱いんだね」
「ごっちんが強過ぎるんでしょ、あー気持ち悪い、吐きそう。吐いていい?」
「いいけど、吐くならトイレでね。後で掃除する人大変でしょ?」
「なんか機械的な対応だな、泣いちゃうぞ」
「泣いてもいいよ、でも吐くならトイレね」

吉澤は空になった缶を手で転がしながら「まー、吐かないけどね」とつまらなさそうに言い、
「ごっちん最近ちょっと会わなくなったら冷たくない?」と拗ねたような目で後藤を見る。
後藤はそ知らぬ顔でまた一口お茶を飲む。
101 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:50
「大体本当に吐きそうな人って、吐きそうとか言わないんだよね。青白い顔しててさー、
 ねえ大丈夫?って訊くと、こっち向いていきなりドバッて吐く」
「うわっ、それは嫌だね」
「嫌でしょ。こないだ矢口さんにやられたんだよ、それ」
「ああまあ矢口さんだったら許せるけど」

後藤はぶっきらぼうに「誰だろうと嫌だよ」と言って、手に持っていたお茶の缶を横に置いた。
吉澤はちょっと気まずそうな顔をして、手に持った缶を不必要に撫でたり叩いたりした。
後藤は吉澤の方をくるりと向くと表情を変えずに言う。「ところでさ」
102 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:51
「最近どんな感じ?」
「どんな感じって?」
「ほらなんかさー、久住ちゃん?新しく入ったじゃん」
「ああ、小春はねー、まあいいんじゃない?」
「何それ」
「だって別に何も無いよ。いいんじゃない?としか言えない」
「もっとこうなんかあるじゃん、ダンスが上手とか、歌が上手いとか」
「そりゃまー、ミラクルエースと言われるぐらいなんだから、そこらへんはバッチリなんじゃない?」
「ホント?」
「嘘ついてどうすんのよ」
「そりゃまあそうだけど、他には?」
「他には、たってね、何も無いんだよこれが」
「何かあるでしょ、田中ちゃんとかさー」
「田中?田中はまあ頑張ってるよ。茶髪にしたりしてね、かわいくていいんじゃない?」
「さっきからよしこ、なんとかじゃない?ばっかじゃん。自分の主張はないのかね自分の主張は」
「リーダーというのは辛いもんでね、自分のメンバーに対する評価を断言はできないのだよ」
103 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:52
後藤は「ええー、そういうもんかなー」と言って、ベンチの背もたれに身体をあずけて仰け反る。
吉澤は立ちあがって、自販機の横にあるゴミ箱に空き缶を捨てると「それまだある?」と言って、
後藤のお茶を指差す。後藤は「うんまだある、大丈夫」と返し、缶を手に取って口につける。

吉澤は自販機の前に立って、ポケットをしばらくごそごそとやっていたが、後藤の方へ振りかえると
「ごっちん、100円持ってない?」と尋ね、後藤は待っていましたとばかりに100円玉を「はい」と
吉澤の顔に向けて突き出した。吉澤は一寸驚いたような顔をして「ありがとう」と言うと、
それでお茶を買い、出てきた缶を手に取ると「これヨン様が宣伝してる奴じゃん」と
少しはしゃいだ声を出したが、後藤はお茶の残量を確かめるようにプルプルと缶を振っていた。
吉澤は少し恥ずかしそうな顔をすると後藤の隣に腰掛けて、その缶のプルタブを開けた。
104 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:52
「お酒飲むと喉乾くよね、不思議に」
「そうかな、私はあんまり乾かないけど」
「ごっちんはお酒強いからね」
「いやまー強いとか弱いとか関係無いと思うけどね」
「ごっちんの家って居酒屋さんなんでしょ?やっぱ昔から飲んでたの?」
「飲むってほどじゃないけどね、小さい頃にビールの泡とか飲まされてたぐらいで」
「ビールの泡?美味しいの?」
「いや、まずい。でもねえ、なんか喜んで飲んでた。クラクラするんだよね。子どもながらに酔ってたんだねありゃ」
「へー、クラクラねえ。今もクラクラしてる?」
「ううん、今は全然。酔ってないし」
「でもごっちんビール5本ぐらい飲んでたでしょ」
「何本かは忘れたけど、飲んでもあんまり酔わないんだよね」
「うらやましーな。私なんかチューハイ2本で気持ち悪くなるのに」
「でも、気持ち良いでしょ?」
「いや、気持ち悪いよ」
「いやいや、その気持ち悪いとこに達する前に、ちょっとフワフワして気持ちいいとこがあるでしょ」
「ああ、あるねえ」
「私にはそっちの方が羨ましいよ、強くたってしょうがないもん」
「でもたくさん飲めば酔うんでしょ?」
「そりゃたくさん飲めば酔うんだけど、少し飲んでフワフワっていう感覚が一番いいのよ」
105 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:52
吉澤は眉毛をしかめてうーんと唸った後「よくわかんないな」と言った。
後藤は「まあわかんなくてもいいよ」と少し投げやりに応え、残っていたお茶をぐっと飲み干した。

その空き缶を後藤がゴミ箱に捨てようと立ちあがった時、急に吉澤の携帯が鳴った。
吉澤はポケットから携帯を引っ張り出して「梨華ちゃんだ」と呟くと、携帯を開きもせずに
ポケットにしまった。後藤は不思議そうな顔して「返信しなくていいの?」と訊いた。
吉澤は「梨華ちゃんのメールに返信すると長引くから、気付いてないフリすんの」と言って苦笑いした。
106 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:53
「そういえばよしこさ、携帯変えたでしょ」
「え?コレ?だいぶ前だけど」
「うん、そう、だいぶ前」
「うん」
「私さー、新しい携帯の番号とかアドレスとか教えてもらってないんだけど」
「え?そうだっけ?」
「うん」
「ごめんごめん、教えとくよ。えーとそうだな、ごっちんの携帯赤外線ついてる?」
「いや、今は携帯自体持ってないんだけどね」
「それじゃアドレス教えてよ、電話番号とアドレス送っとくから」
「それがさー、覚えてないんだよね、自分のアドレス」
「何それ、自分のアドレスぐらい覚えときなよ。そんな長いの?」
「長かったのかどうかすら覚えてない」
「そんなバナナ」

後藤は「えっ」と驚いて「今何か言った?」と吉澤の目を見た。
吉澤はしれっと「いや、何も言ってないよ」と言った。
107 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:53
二人がそれからしばらく無言で自販機を見つめたり叩いたりしていると、
廊下の向こうの方から誰か歩いてくるのが見えた。後藤が「誰かな?」と呟くと、
吉澤が「圭ちゃんだ」と言うので、後藤は「おーい、けーちゃーん」と叫んで手を振った。
その人物が近づいてくると、それは正しく保田だった。

「何やってんのあんた達?みんな向こうにいるのに」

保田は不思議そうな顔をしてそう言った。
吉澤は「いやまあ何もしてないけどね」と言って後藤の方を見た。
後藤は「まあいいから圭ちゃんも座りなよ」と言って、自分の隣をポンポンと叩いた。
保田は「この面子で話すのもなんか懐かしい感じ」と笑うと、後藤の導きに従って腰を下ろした。

「どうしたのこの猫?」
108 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:54
後藤は「猫?」と言って首をかしげ、吉澤も「どこに?」と言って首をかしげた。
保田は「ほらあそこあそこ」と言って自販機の上の方を指差した。
後藤と吉澤は揃って顔を上げる。
なるほど確かに自販機の上には猫が居て、迷惑そうな顔をしていた。
保田は立ち上がると背伸びして自販機の上から猫を下ろし、その毛についた埃をはらった。
猫は俺はあそこが気に入っていたんだとでも言いたげな顔をして保田を見つめている。
吉澤はそれを見て笑いを堪えた。その一方で後藤は露骨にケラケラと笑い「そっくり!」と言った。

保田は不思議そうな顔をして「何が?」と後藤の方を見る。
後藤はまだ笑いながら「圭ちゃんと猫が」と応える。
保田は「私と猫が?」と言って、猫の顔を見つめる。
猫はふてぶてしい顔をして、保田の視線から顔を背けた。
109 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:54
「似てるって言われても全然嬉しくないんだけど」
「別に誉めてるわけでもないしね」
「ちょっと!失礼じゃない」
「めんごめんご」
「何よめんごめんごって、大体ねー、私はこんな猫よりもうちょっと愛嬌があるわよ」
「いやーなんか別に顔が似てるとかそういうわけじゃないんだけど、妙に似てるんだって」
「そう?」
「絶対そうだって、よしこ携帯持ってたよね?ちょっと貸して」

吉澤は「別に誰かに電話して言うほどのことでもないんじゃない?」と言いながらも、
後藤に携帯を渡した。後藤は「違うんだって」と言って、携帯をカメラモードにすると、
「ちょっと圭ちゃん、その猫抱っこして、そうそう、自分の顔の下あたりに猫の顔を来るように、
そうそうそのポーズね、バッチリバッチリ、じゃあいくよ」などと言いながら、
保田と猫とのツーショット写真を撮った。
110 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:55
「ほらこれ、なんかそっくりじゃん」

後藤がそう言って差し出した携帯の画面を見て、吉澤は笑った。
保田はちょっと驚いた顔をすると「確かに似てるかもしれない」と言って腕を組んだ。
それがまた後藤と吉澤の笑いを誘った。その画面には、苦笑して口元を歪めた保田と、
苦しそうに口元を歪めた猫が映っていた。

しばらく後藤と保田がその画面を見たり撫でたりしていると、
吉澤が「あれ?猫は?」とキョロキョロと周りを見まわし始めた。
後藤は「ん?さっき圭ちゃんが抱いてたじゃん」と言い、
保田は「嫌がるからすぐ放したわよ、まずかった?」と返し、
吉澤は「いや別にまずくないけど、どこ行ったんだろうって」と自らの胸中を語った。
後藤は吉澤の携帯をパタンと閉じると「まあどっか行ったんでしょ」と身も蓋もないことを言った。
111 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:55
「ところであの猫どうしたの?」

保田がまたそう言って話を蒸し返したので、後藤と吉澤は揃って「知らない」と応えたが、
後藤は「そういえばさっき田中ちゃんが抱っこしてた」と思い出したように言った。
吉澤も「そういえばそうだったね」とそれに同調した。
それを聞いて保田は思い出したように「そういえば田中ちゃん探しに来たんだったわ」と
新事実を発表し「二人とも田中ちゃん知らない?」と二人に尋ねた。
吉澤は「うちらがここ来たのと入れ替わりにどっか行ったから、わかんない」と応えた。
後藤は吉澤の携帯をいじっている。保田は「後藤は?知らない?」と後藤に返事を促す。
112 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:56
「田中ちゃんとのの一緒だったから、ののが知ってるんじゃないの?」
「それが辻もいないのよ」
「そりゃあ大変だ」
「あんまり大変だと思ってないでしょ」
「うん」
「まあ私も別に大変だとは思ってないんだけど、ちょっとね、田中ちゃんには気になるとこがあるから」
「どういうとこが?」
「具体的に言えと言われると困るんだけど」
「まあでも分かる気がするよ、田中ちゃんはね、なんとなく気にかかるよね」
113 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/01(木) 22:56
吉澤は「ちょっとはののことも心配してあげてよ」と笑いながら二人の会話を遮る。
保田は「辻は辻だから、まあ大丈夫よ」と笑い、後藤も「まあののはののだからね」と笑った。
二人の言葉を聞いて、吉澤も「確かにそうだ」と笑った。

ひとしきり笑い終わると、三人とも同じお茶を買った。
今度は保田が「これヨン様の奴じゃん」と言い、
吉澤が「そうそう、本当にこれ温度で味変わるんすかね」と返し、
後藤は「お腹に入っちゃえば全部一緒だけどね」とオチをつけた。
三人とも猫とれいなのことなど忘れ去っていた。


おわり
114 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/09/20(火) 07:49
初めて読みました。
面白い!
次回も楽しみにしています。
115 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:34
ありがとう
116 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:34
「茜色の夕日」
117 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:44
れいなは外のベンチでぼんやりと、茜色の夕日が沈むのを眺めていた。
さっきまで一緒に居た辻は「ケメちゃんに用事を思い出した」と言ってどこかへ行ってしまった。
しかしその代わりにどこからともなく猫が現れて、れいなの膝の上に乗っかったから、
れいなは猫の頭を撫でた。ふんわりとした。

れいなが何も言わないので猫も何も言わない。これでいいのだと猫は思う。
一方でれいなは、日が沈むとそろそろ肌寒い季節になったのだなあと思い、腕をさする。
そして猫を胸にギュッと抱き寄せる。猫はあんまり嬉しく無さそうな顔をする。
そうでしょうそうでしょう、れいなのおっぱいは貧弱だからです。

れいながぼそりと「寂しいなあ」と呟いたので、猫がそれに応えるようにニャーと鳴いた。
れいなはそれを鼻で笑うと「お前に何がわかるのよ」そうして猫の顔をおもちゃにする。
ふと後ろから「田中ちゃーん」という声が聞こえたので、
声のする方を振り向くと、辻と保田が手を振ってこちらに向ってくるのが見える。
れいなは思わず笑顔になって、それに手を振り返す。
猫はそれを認めるとひょいとれいなの膝の上から飛び降りて、一目散に駆け出した。
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:45
れいなは思わず「あっ」という情けない声を出すのだが、
猫はそのあっという間に、茜色の夕日へ溶け込んで、どこへ行ったか分からなくなる。
れいなは名残惜しそうに夕日を見つめて、ただ一つため息をつく。

「どしたの田中ちゃん」という辻の問いかけに、れいなは笑顔で「何でもないです」と応え、
保田が優しい笑顔で「みんな向こうにいるよ」と言うのには「はい」と応えた。
そして三人でちょっと手をつないで歩き出したりしてみた。


おわり
119 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:46
ここまでで一区切り。以下は思いつくままに短い話を書くと思います。
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:47
「恋がしたい」
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:47
辻が頬杖をつきながら一言「恋がしたいなー」
それを聞いていた加護は「こないだ矢口さんのことがあったのに何言ってんの?」

「だって矢口さん羨ましくない?恋愛してさー、娘。辞めて仕事もいっぱい来るし」
「そりゃ少しは羨ましいとは思うけど、これ以上波風立てるとほんまあぶないで」
「あぶないで、とか」
「何?」
「いや別に、変なの大阪弁」
「ええやん別に」
「まあいいけどね」

辻は「あーあ」と言いながら机にうつ伏せになってゴロゴロ。
加護は「せっかくメイクしたのにそんなんしたらあかんやん」
122 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:48
「あいぼんさー、その大阪弁気になるんだけど」
「なんで?」
「なんていうかー、それが本当に本当のあいぼん?」
「意味わからへんで」
「絶対変だと思うんだけど」
「ウチの大阪弁より愛ちゃんの方がひどいやん」
「あれはね、いいのよ、だってあれが愛ちゃんでしょ?」
「じゃあこの大阪弁はあいぼんさんやん」
「なんかねー、なんか違うんだよね、今のあいぼんってさ」
「うるさいな、人間は変わるもんなんやって」
「まーそりゃそうだけどね。そういえば最近あいぼん痩せたよね」
「分かる?頑張ったんだよ」
123 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/10/10(月) 00:54
加護はニコニコ、辻はそれを胡散臭そうに見つめて「何かあったの?」と訊く。
加護が含みのある笑顔で「別にー」と言うので、
辻は「ああそう」と投げやりに返してそっぽを向く。

加護の携帯が聴き慣れない着信音を立てて鳴り響く。
嬉しそうに携帯を開いてメールを打ち返している加護の顔を見ながら、
辻はため息また一つ。

「まったく矢口さんも、あいぼんも、だよ」


おわり
124 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 05:01
突然失礼します。
いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。

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