お水の花道

1 名前:さくしゃ 投稿日:2005/07/24(日) 16:00
ボツネタUP板にてネタを頂きました。
結構早く終るぽ。
2 名前:登場人物 投稿日:2005/07/24(日) 16:01
*ホステス*


飯田圭織…『ムーンライト』のナンバーワンホステス。23歳、東京一等地に住む超大金持ちの令嬢。
     有名大学卒の才色兼備。趣味は誰かと交信。酒はあまり得意ではない。

石川梨華…ブリッコ、キショイと言われてもポジティブに我が道を進む20歳。
     飯田に憧れて高校卒業後ホステス嬢になるが、最近はポスト飯田を狙う。趣味はネイルアート。

後藤真希…天然のボケキャラで常連客に人気がある。比較的夜型人間で昼間は寝てばかりの19歳。常に眠そう。
     同じ街のホストクラブで弟が働いている。趣味は寝ること。

藤本美貴…20歳。際どいツッコミと、胸は無いが色気で客の注目の的。常にナンバーツーに入る程の人気。
     結構きつい性格だが気に入った客にはブリッコ甘々。歌がうまい。趣味は食べる事。

松浦亜弥…可愛らしい容姿と計算で客をメロメロに。最近『ムーンライト』にやってきた新米ホステス19歳。
     関西から上京してきて、藤本に憧れよく懐いている。自分大好きで趣味は鏡を見る事。

高橋愛…田舎から上京してきたばかりの新米ホステス19歳。福井弁がなかなか抜けず、客の前では標準語で頑張
    るものの口下手で酒を飲まされるとボロを出す。藤本と同じく歌唱力があり歌が上手い。趣味はファミコ
    ン。
  
3 名前:登場人物 投稿日:2005/07/24(日) 16:01


*その他*

つんく♂…『ムーンライト』の創業者。年齢は知られていないが結構イッてる。
     関西口調の金髪野郎で、時折とんでもないことを考えたりする。

小川麻琴…『ムーンライト』のバーテンダーを勤めるアルバイト店員。
     風俗ティッシュを配っている所つんく♂にスカウトされるものの、今ではホステスのおもちゃでヘタ
     レ。高橋の事が好き。

吉澤…飯田と同じく一等地に住むボンボンで19歳の青年。ハタチと誤魔化し甘いマスクと口説きでホステスの常  
   連客で人気者。
   基本的に浮かれ馬鹿でナルシストだが、本当に好きになった相手には一途。


4 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:03

外は行列、行列、大行列。
なんせここは巷でも一番の高級クラブ『ムーンライト。』
美人が勢ぞろいのこの店は、客の間で「天国に一番近い場所」と呼ばれ親しまれている。
青白い看板に照らされて、客が無意識に吸い寄せられて行く。

そんな魔法のようなクラブが、この『ムーンライト』である。
5 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:08
時間間際、化粧室ではずらりと鏡の前で並ぶホステス達。

「亜弥ちゃんどいてよっ、ここあたしの定位置だってば!」
「この角度が一番可愛くうつるんですぅー」
「あはは、まっつーも余念がないねぇ」
「あーもう眉書いて無いっ」
「もうはじまっちゃいますよ、早くしないと」
「「「「「「マジで!?」」」」」」


高橋の落ち着いたトーンで我に返った5人はドタバタとフロアに現れて身なりを整える。
6 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:09

従業員がずらりと並ぶ、一番端で何やらそわそわとする小川に気付いた藤本は悪戯な目でちょっかいを出す。


「ナニナニ、麻琴勃っちゃってるわけ?」
「はぁっ!?ふっ、藤本さん何を言うんですかぁ!」
「やだぁまこっちゃんってば、まつーら軽蔑ぅー」
「亜弥ちゃん傍寄っちゃだめだよ」
「ちっ、違います僕はただっ…」


藤本のセクハラ発言に松浦が怪訝そうな顔をして、一歩後退する。
すると慌ててカバーしようとする小川は言葉につまり、ちらりと横目で高橋を見た。

――かわいいなぁ。

そう思ってボーッとしていたせいで、藤本に余計な事を言われてしまうし。
おまけに想い人である高橋にまで引き笑いをされてしまっては、立場が無くなってしまう。
藤本は小川のその秘密を知っているため、余計にちょっかいを出したくなってしまったのだ。
にひひ、と笑う藤本を涙目で睨み、すごすごとバーカウンターへ戻ることにした。
7 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:09


6時30分 開店



「「「「「「いらっしゃいませ!」」」」」」


とびきりの笑顔で客を迎え、つんく♂もニコニコ顔である。
美人6人が並んでいるのも見て客達は騒ぎ、次々と指名表に名前を書き始めた。
その中でホステス達はそわそわとし始めて、行列の中から目立つ姿を発見した。
8 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:10
金にまで近く染めあげた頭髪に、後ろ髪を少しゴムで結んだ頭。
白い肌、白い歯に甘いマスクの容姿を持ち合わせたムーンライトの常連客だ。
年齢も若い為、その分若いホステス達の注目の的である。

若い輩の登場に年輩の客達はムッとし始めて素早く席に着く。
しかし、いくら待っても指名したはずのホステスがやってこないのだ。
吉澤が来店すると必ずこうなってしまい、他の客達のブーイングを買うのは毎度の事だ。
なんせ、ホステス達は吉澤に夢中。
9 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:11


「あ、あれ?俺、梨華指名したんだけど…」
「すいません、今梨華ちゃんちょっと席移動してて…あたしじゃダメですか?」
「い、いやいや!真希ちゃんでもじゅーっぶん楽しめるよ!さ、飲も飲も!」
「あはっ、ありがとうございまーす」

唯一手が空いているのは、後藤しか残されてい無かった。
後藤は吉澤に興味があるわけでもない。お客さんと話すのが、何より好きだから関係ないのだ。
残念がるお客を見ると少し心が痛むが、すこしでも楽しんでもらいたいと他のホステスよりも努力をしている。
飲もう、と言われても後藤はまだ未成年のため、ウ−ロン茶だけ。
早くお酒が飲めるようになりたいと、少しばかり願うのだった。
10 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:11


そして、吉澤の着く席では。


「もぉーよっすぃってばずるいー!なんで亜弥ちゃんばっかー!」
「そんな事ないよ、ほら、あーん」
「ダメよっすぃ、あたしだけって言ったじゃんっ」
「亜弥ちゃんは年下なんだからもういいでしょ。ねぇよっちゃぁん美貴にもして?」
「ナハハ、可愛いなぁ美貴は」
「みきたん無茶苦茶だよぉっ。ねーってばぁよっすぃ」


とびきり甘い声が揃うこの席では、まさに吉澤の争奪戦。
吉澤の隣をキープしている松浦と石川は勝ち組。その横にいる藤本達は今夜は負け組となってしまった。
一人一人に料理を口に運んでやる吉澤の顔はデレデレ状態で、酒も結構まわっている。
お気に入りのホステスなど選べない程、吉澤は幸せだった。
11 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:12

さて、飯田と高橋はと言えば。


「んー?カオリン今日はどったの?」
「飯田さん今交信中だから…それよりみきのことだけかんがえて?」
「んふふ、可愛いなぁ。ほんと可愛いよ美貴…」
「ちょっと美貴ちゃんっ、よっすぃの隣は私でしょ!」
「あーあー喧嘩しないで。皆は僕のものだよ?」


撃沈。

飯田は席に着いた途端交信を初め遠くを見る始末。全く使い物にならなくなり、従業員に運ばれて行った。
時折こんなことがあるため、他のホステスにとってはこれがチャンスである。
しかし、高橋は正常だ。だが元々口下手な性格のため、なかなか吉澤に話し掛ける事が出来ない。
そんな高橋に気付き、吉澤は膝の上で自分を取り合いをしている藤本と石川を置いて高橋の隣に座る。
間近で見る吉澤はとても美しく、見愡れてしまうほど。
12 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:13


「あっ…あの」
「君、お酒飲めないんだって?」
「あ…ハイ」
「じゃ、一緒にお茶する?今からでも構わないけど、いつがいい?」

口ごもる高橋の腰を抱いて、微笑みながら近付く唇。
顔が熱くなるのを感じて高橋はとっさに俯き、吉澤を拒む形になってしまった。
慌てて顔をあげてみると、変わらぬ笑顔の吉澤がいた。
ホステスを魅了する納得のビジュアルに、新米の高橋はただ硬直するばかり。
亜弥と同期なのだが、高橋はなんとなく消極的だった。
13 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:14


「あ、やばいそろそろ帰らなきゃ」
「もう帰っちゃうの?まだ来たばっかりなのにぃー」
「ごめんね、オヤジがうるさいんだ。また来るから」
「今度はあたし!あたし一人で楽しませてあげるっ」
「ふふ、亜弥ちゃん一人で?それは期待しちゃうなー。でも亜弥ちゃんお酒飲めないしね」
「じゃあ私!」
「梨華ちゃんの話つまんないじゃんっ。ねえよっちゃん、みきがいいよね?」


帰り際に迫り寄る藤本に吉澤は紳士的に微笑んで、華奢な身体を優しく抱いた。
それを見たホステス達は嫉妬心剥き出しになり口々に吉澤にダダをこね始める。
藤本は狙いを定めた瞳で胸元をゆるめ、吉澤の首に腕を回して額同士をくっつけた。
さすがの吉澤もこれには落ち着いていられずに、潤った唇を突き出す藤本の我侭を受け入――

14 名前:1、愛のビッグバンド〜6人の女達 投稿日:2005/07/24(日) 16:15



「おぼっちゃま。お迎えにあがりました」


受け入れる直前、あと数ミリで唇が重なるという所で吉澤の迎えが来てしまった。
藤本は肩を落として腕を緩めるが、吉澤の申し訳なさそうな笑顔に免じて今夜は諦める事にした。
あともう少しで…などとくやしがったが、チャンスはいくらでもある。

「よっちゃん!」
「ん?」
「こんどは、ちゃんとしてね?」
「…あはは、考えておくよ」

藤本のおねだりに吉澤は首をひねって特別仕様のベンツに乗り込んだ。
味をしめた藤本は瞳にハートを浮かばせて、店内へ戻って行った。
――これで皆より、一歩リード
密かに笑みを浮かべながら、藤本を待っていた客の元へ足を急いだ。
15 名前:おまけ 投稿日:2005/07/24(日) 16:16

*おまけ


「あああ愛ちゃんがぁぁぁぁぁ!!!!よよよ吉澤ぼっちゃんにぃぃ!!」
「まあまあ落ち着いてよ。そのうち美貴がよっちゃん仕留めるから安心して?」
「だだだだってききキス!!」
「あんなの冗談でしょ?よっちゃんの美貴のだもん」


つづけ。


16 名前:さくしゃ 投稿日:2005/07/24(日) 16:18
グダグダです。普段殆どROM専なので文章力は全くないのです。
可愛い子に囲まれてフラフラするよっちゃんが上手くかけません…
藤本さんのセリフが平仮名だとロリ声って事にしといて下さい。
ネタ提供して下さった方、感謝です。
17 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/24(日) 17:06
こういうの久々に読んだ。イイヨーイイヨーw
18 名前: 投稿日:2005/07/24(日) 17:50
うわ、うわわ!
すげぇいい!
期待
19 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/25(月) 00:24
はい、お気に入りに登録っと
ちゃいこーでございます
20 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 20:24
お気に入り登録2号!!
21 名前:さくしゃ 投稿日:2005/07/28(木) 22:37

レス、ありがとうございます。
こんなつたない文章について頂けるとは…
イラネな作品だとは思いますがこれから頑張ります。

>17 イイヨ−なんて言葉をかけてもらえるとは…ありがとゴザマス。

>18 期待しないで待ってて下さい。そのうちどうなるかw

>19 お気に入りだなんて滅相も無い…。がんがります。

>20 がんがります。どうなるやら分りませんが(マテ

22 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:38


「あーくやしい!みきたんに一歩越されるなんてぇー…」
「…でもなんか、しょうがないかも」
「なんでですかぁ?あたしだってみきたんに負けず劣らずなのに」
「よっすぃって割と年上好きなのよねー、甘えたい年頃じゃない?」
「…そ、そんな事言ったら梨華さんだって」
「フフ、私が素直に引き下がると思う?絶対、美貴ちゃんには渡さない!」


女がこぞって座談会を始める深夜の寮。
藤本がシャワー中なのを良い事に、二人は吉澤の話で持ち切りである。
23 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:38
ホステス達はつんく♂が用意してくれたこの女性寮で生活している。
大金持ちの令嬢である飯田はこの寮で生活はしていないが、たまにちょくちょくと遊びに来る事もある。
未成年である松浦達を監視するためでもあるけれど、監視と言えるほど厳しい環境でもなかった。
クッションを抱いて他愛もないおしゃべりをしたりと、寮で酒を飲む事は殆ど無い。
「店で付き合う位で十分」と割り切っているのだ。
24 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:38


「そっかぁ…年上好きなんだ…」
「まっつーが落ちてるー。久しぶりだよねこんなまっつー」
「気分屋なんでしょ。美貴によっちゃん取られちゃったもんねー?」
「ちっ、違うもん!よっすぃはみきたんのじゃないもん…」
「でも今日キスしちゃったしぃー」
「ミキティも嘘付かない。ちゃんとしてなかったくせに見栄はらないの」
「ちぇっ、ごっちん見てたのか」


めそめそぐずぐずと泣き出しそうな松浦の頭を撫でて、少しばかり大人な後藤。
物足りなさそうな顔をして藤本が足を組むと、ブツブツと何か唱え始める。
ツッコミ所もなく、吉澤をオトす作戦を立てているに違い無い。
その証拠に顔がニヤけていて不審な笑顔をつくり、そそくさと自分の部屋に戻って行った。
25 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:39


「んぁ…ミキティも末期だね」
「…みきたんのバカァ」
「あーほらほら泣かないの。よしよし」


唯一、吉澤に興味が無い後藤でさえ巻き込まれそうな争奪戦だ。
泣きべその松浦の背中をぽんぽんと抱いて、尤も大人な態度を見せるのだった。

ピンポーンと軽快な呼び鈴が鳴ったものの、今は手が離せない。
それは後藤だけじゃない。松浦は泣いて、石川は爪の手入れ、藤本は…知らない、高橋は…


「…もう寝てるか」


仕事が終るとすぐに寝てしまうのだ。
落ち着いた性格だが、就寝時間は一番早い。やはりそこは田舎丸出(ry
26 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:40


「しょーがないなぁ…」
「ふぇ…ごっちんどこいくの?」
「ん?誰か来たみたい。すぐ戻るよ」

まだぐずっている松浦を置いて、早足で玄関へと向う。
こんな深夜に、しかも女性寮に訪問する者は少ない。
不審気に覗き穴を見てみると、ションボリとしたちいさな小川の姿があった。

「まこっちゃん?」

チェーンロックを外して開けてやると、後藤だとは思わなかったらしく驚いて一歩さがる。
――珍しいなぁ
小川がこの寮に訪れる事は殆ど無い。
あったとしても、つんく♂にパシられて何かを届けに来る事くらいしかないのだ。
とっくに私服に着替えて帰る気満々なのに、なぜか肩を落として元気が無さそう。
27 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:40


「…どーしたの?」
「夜分遅くにすいません…あがってもいいですか?」
「え?い、いいけど…高橋寝てるから静かにね」
「…そうですか……」
「え?」
「いっ、いえ何でもないです…お邪魔させてもらいます…」
「うん…?」


ちなみに後藤は、小川が高橋に想いを寄せている事を知らない。
突然の訪問に戸惑いながらも小川を迎え入れ、いったい何があったんだろうと首を傾げた。
28 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:40


「で、どうしたの急に?」


温かいコーヒーを差し出して訊ねても、小川は黙ったまま膝を抱えて座り込む。
さっきまで泣いていた松浦は腫れた目をらんらんとさせて、どうやら元気になったようだ。

「…実は、家に帰れないんです」
「……なんで?」
「ママに、店で働いてる事がバレちゃって…」
「「マ、ママァ?」」
29 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:41
小川は資産家の息子であり、まあ置かれている立場は吉澤と同じである。
ボンボンのぼっちゃんではあるが、自分のやりたいことを自由にさせてもらえない家庭 ――共に親バカだ。
何故わざわざ、バーテンダーの仕事についたかと言えば後藤達もそれは知らない。
資産家の息子なら充実した道はいくらでもあるはずなのに。

「もう、どうすればいいのか…他に行く所も無いし」


今にも泣き出しそうなヘタレっ面に松浦はつまらなさそうな顔をして後藤に視線を移す。
このマザコンどうするわけ?
とでも言いたげな唇を手で制して、周りに誰もいない事を確認してから後藤は小川にそっと耳打ちした。
30 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:41


「じゃあここは?どうせ部屋ひとつ余っ…」
「冗談じゃないよごっちん。麻琴みたいなマザコンがこんな所でやっていけるわけないじゃん」


ででん、と大きく現れたのはさっきまで妄想に酔いしれていた藤本。
後藤の唐突なフォローに対し、猛烈に反対しているようだ。
ビールのプルタブをプシュッと開けて後藤の隣にどすんと座り込んだ。
31 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:42


「麻琴、いい加減自立しなよ?仕事の内容で子供左右するような親なんかクソくらえっつの」
「…で、でもママに嫌われるなんて」
「んな事言って、愛ちゃんに嫌われるのとどっちがヤなワケ?」
「そ、それは…えと」
「何何?まこっちゃんと愛ちゃんデキてんの?」
「亜弥ちゃんには関係ないのー。で、どうなの?」
「……愛ちゃん」
「だしょ?」


藤本に一喝され、小川はますます肩身の狭い思いをする。
松浦はクッションを抱きしめて後藤と目をあわせると、二人揃って大きな溜め息をつく。
あっという間にビール一缶を飲み干してしまった藤本は片手でぐしゃりとそれを潰してゴミ箱に投げ入れた。
カラン、という乾いた音でさえ今の小川にとっては心の奥底にズキンと響く。
32 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:42


「一人暮らしでもしたら?その方が愛ちゃんにとっても良いと思うけどー」
「亜弥ちゃん」
「…たんの意地悪…もう寝ますぅーだ」
藤本のこわい目に反応して、松浦渋々頬を膨らませクッションを抱えたまま部屋へ向った。
で、残されたのはこの三人。


「取りあえず、今日は家に帰れないんでしょ?」
「…はい」
「今日だけなら、置いてあげてもいいでしょ?」


うるさい松浦がいなくなり、湯気をたてるコーヒーをすすって小川は顔をあげた。
後藤の言葉に藤本はしかめっ面で反応するが、周りが思っている程鬼な女ではない。
はぁ、とひとつ溜め息をついてからずずいと小川に迫り寄り鋭い眼できっと睨んだ。
後藤はやれやれ、と立ち上がって小川の使用する部屋に枕を用意しにそそくさと小川の後を通りすがる。
33 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:43


「…ったく、今夜だけだからね?」
「は、はい…ありがとうございます」
「ただし!美貴達の部屋に入ったりしたら…どうなるか解るよね?」
「そそそそんな事は!!!」
「まして愛ちゃんに何かしたら、命無いと思えよ」
「………ハァ」

路上で寝た方が安全かもしれない。

そう呟きたくなる程の恐ろしさで藤本は小川に「流し目」を食らわせ、バタンと扉を閉めて部屋へ行ってしまった。
いくら想い人と一つ屋根の下で夜を共に出来ると言っても、何かをする勇気もない。
ぶるる、と背中を震わせていると、部屋の用意を終えた後藤の存在に気付く。
34 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:43


「す、すいません…突然」
「いやいや、一人も二人も変わんないよ」
「明日、仕事が終ったらママにちゃんと話をします。…やっぱり、甘えてたと思うんで」
「あはは、ミキティのが効いた?」
「まぁ…そうですね」


時々、小川が男だということを忘れてしまう。

このへたれっぷりを毎日見ていると、後藤も性別などどうでもよくなってしまうのだろうか。
藤本とは正反対で、気の優しい後藤は小川の頼りになっている。
今夜だけ、という約束でも、小川にとっては感謝の限りだった。
35 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:44
後藤の部屋にて。



コンコン


「はい?」


ドタバタな夜が終り、やっと眠れると思いベッドにダイブした直後部屋のドアを叩く音。
そっと扉を開いて現れたのはパジャマに着替えた松浦だった。
珍しい、と思ってキョトンとしていると、おずおずとこうお願いする瞳。

「い、一緒に寝ても良い?」
「…へ?どしたの急に…」
「んーん、何にもないんだけど…良い?」

自分より少し小柄な松浦とは同い年だけれど、はるかに後藤の方が大人である。
時々寂しがったりする姿からは、まだまだ子供だと思えてしまう。
36 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:44


「ん、いいよ」
「ホント?…へへ、やったぁ」


松浦が頼りにしているのは、小川と同じくやっぱり後藤で。
無邪気に笑う姿は後藤の眠りをさそって、ベッドに入った瞬間すぐに夢の世界へ。
同い年なのに、姉のような存在の後藤に寄り添って眠る松浦の寝顔はとても愛くるしい。
――しかし、ひとつ忘れていた。
37 名前:_ 投稿日:2005/07/28(木) 22:45

翌朝。



「…ンァ…」


ベッドから退かされ、ゆかに眠る後藤とベッドの上ですやすやと眠る松浦。
忘れていた事、とは松浦の寝相が酷く悪いということ。
眠っている途中何度か足で蹴られ、鈍い痛みを覚えたのは気のせいではなかった。



38 名前:さくしゃ 投稿日:2005/07/28(木) 22:46
愛ちゅんといいらさんには申し訳ない展開だなと。
藤本さんはサドかと。
次回交信は未定にてよろしくです。
39 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/28(木) 23:57
わー、更新キター
あー・・・この女子寮いいっすねぇ
つかホントまこと・・・・・
40 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/29(金) 00:09
いやむしろマコはヘタレでナンボw
作者さん更新乙です
次回もマターリ待ちます
41 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/29(金) 15:14
ごっちんいいやつだ〜
42 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/29(金) 23:49
普通に面白い
更新待ち
43 名前:さくしゃ 投稿日:2005/07/30(土) 10:42
予定していた事がすっかり空いたので更新しまつ。
取りあえず小川さんの災難編だけでもUP。

( ´Д`)<レスアリガト‐

>39 こんな女子寮あったら良いなと妄想して作りました。

>40 気紛れ更新なのでどうなるか未定。ヘタレマコも良いけどそのうちヘタレ人が増えたら良いなぁ。

>41 素でこんな感じかと。妄想だけど。

>42 滅相もないです。面白いのは作者の顔だけで十分です。

44 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:43
5人も暮らしているんだから、当然一つのものを取り合う事は日常茶飯事。
特に酷いのが、朝の光景。

テレビのチャンネル争いは年功序列で藤本か石川が奪い取る事が出来るが、問題は洗面所である。
それぞれの生活用品が散乱していたり、ドライヤ−の取ったもんがち争い。
それを知らずに、昨夜だけ泊まらせてもらっていた小川は洗面所に向うや否や女の戦いを目撃する事になってしまった。

45 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:43

「ああもう!朝シャンなんかしてるから水道代かさむんだよ!ほらどいてっ」
「美貴ちゃんだって昨日冷蔵庫開けっ放しで牛乳飲んでたじゃない!ていうかそんな事今関係無いでしょ?」
「言わせたのそっち!!早くドライヤー貸せっ」
「嫌よ、まだ使ってるのぉ!」

今朝は石川と藤本の論争だけで済んでいたが、小川にとっては初めての光景。
頬を引きつらせて後ずさると、それを目ざとく見つけた藤本が歯ブラシをくわえながらこちらに迫って来る。

46 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:43



「ミキ達より遅く起きるなんて良い度胸してんじゃん。え?」
「…すいません」
「謝るより先に言う事あるでしょ?あ?」
「おは、おはようございまふ…」
「よろしい。おはよう麻琴」

小川の肩先にドンッ拳をぶつけてにこりと笑う藤本に、苦笑して小さく頭を下げる。
――毎朝こうなのかなぁ
だとしたら、昨夜限りで良かったかもしれない。と、恩を徒で返すような事を想像するのだった。
47 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:44

今洗面所にずかずかと入ったら殺されかねない。洗面所に殺傷器具はいくらでもあるし(カミソリとか。
小川は静かに洗面所を後にして、リビングに行く事にした。


「おっはー」


リビングに入ると、キッチンから漂う良い匂い。そして、エプロン姿の後藤。

48 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:44

「あ、おはよぉございます」
「良く眠れた?」
「ハイ、おかげさまで。本当にありがとうございました」
「んにゃ、たいした事ないよ。もうすぐ朝御飯出来るから、ちょっと待っててねー」
「そんなっ…僕、手伝います!」
「ホント?それじゃ冷蔵庫から牛乳出してくれる?」
「はい!」


藤本とは大違いだ。
なんて口には決して出せないけれど、優しい後藤が神様か天使のように見えた。
店でテキパキとよく働く小川の手際は後藤も知っているので、安心して任せる事が出来る。
後藤に言われた通り、やけに広いキッチンに入るともう二人の姿が。
49 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:45


「おはよーまこっちゃん」
「おはようございます松浦さ…」


髪を三つ編みに結った松浦に挨拶をして、その横にいる高橋に目を奪われた。
――か、かわいい。
後藤と同じエプロンをしている筈なのに、全く違うオーラが小川には感じられた。
普段店で着ている鮮やかな服装では無いが、私服の方がどちらかと言うと好みである。


「おはよ、麻琴」
「おは、おは…おはよう…」
「なぁーにどもっちゃってんのまこっちゃーん?エプロン姿に萌えちゃった?」
「ちちち違いますよ!松浦さん余計な事言わないで下さい!」


朝からとびきりの笑顔を見れて、何て幸せ者なんだろう。

ぽわんとする小川の顔を伺ってニヤニヤする松浦。
藤本に高橋への気持ちをバラされてから、松浦は小川のことをいちいちからかうようになった。
何も知らない高橋に自分で想いを伝える前に、このミーハー女が余計な事をしないようにと願うばかりだ。
50 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:45


「いっただっきまーす!」
「わぁ…おいしそう」


見た目のわりに、後藤は料理上手だ。
やや不機嫌な藤本は顎に手をついて横に座る小川を意味も無く睨んだ。
ここでさらに苛立ちをヒートアップさせるような言動をしないようにと、小川は静かに呼吸をととのえる。

女子寮のテーブルに目玉焼き、フレンチトースト、サラダ、デザートまで並ぶなんて思いもしなかった。
後藤がいなかったら、きっとこの女子寮はやっていけないだろう。
そんな意に気付かれたのか、藤本がフォークを目玉焼きの黄身にぶっさした。
51 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:45

「ミキ今日亜弥ちゃんと買い物行くから部屋の掃除誰かよろしくー」
「あ、私も駄目。柴ちゃんと合コン行かなきゃいけないし」
「合コン?梨華ちゃんいつの間にそんな計画立ててたの?しかも昼間っから?」
「別にいいじゃない。店以外の出会いも大事でしょー?」
「ふーん…」
「なによ!」
「なんだよ!何も言ってないだろ!」


小川の予想に反して、今度は二人で喧嘩をする始末。
それを物静かに見送って他の三人は黙々と食事を続けている。
52 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:46
きっと毎日こんなことになってるんだろうなぁ、と小川も落ち着いてフォークを手に取った。
まだにらみ合っている二人を制し、落ち着かせたのはやはり後藤の役目。

「もういいでしょーが。悪いけど、あたしも今日はパスだよ」
「えーっ、ごっちんもどっか出かけるの?じゃあ誰が掃除すんのさ」
「そんなの知らないよ。ごとー、家政婦じゃないんだからね」
「ちぇっ…そんじゃー…あ」


藤本の目が、まっ先に小川へと向けられた。
自然に視線を逸らそうと顔を横に向けた瞬間、ニタァと笑う藤本の気配を感じてしまう。
53 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:46


「どうせ暇人だよねー?まことぉ」
「…ま、まぁ…」
「一晩泊めてやったお礼位して欲しいなー。ねえ皆?」
「そーだよね。まこっちゃん一応男の子だしぃ、結構あたし達のリスク高かったよね」
「やけど麻琴は何もせんかった訳やし…」
「甘いね愛ちゃん。ってなことで、掃除よろしく♪」


トホホ。


54 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:47
BY THE WAY…


「ねー、ごっちんはどこ行くの?」
「実家ー。久しぶりに帰ろうかなって」
「えー!?泊まりで?」
「いや、まったりしたらすぐ帰ろうかと思ってるけど。どうせ仕事あるし」
「そっか、良かったぁ」

松浦の不安な瞳を他所に、後藤は頭をナデナデしてやる。
根強い甘えん坊の松浦と藤本はショッピングらしいので、玄関で見送る。
それから寮まで迎えに来た柴田と合コンに行くと言う石川に手を振った。
柴田、というのは石川の古くからの親友らしく、この寮にもよく遊びに来る顔見知りである。

55 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:48


「さーてと。そろそろごとーも行かないと。高橋は今日何かあるの?」
「友達から遊びに行こうって誘われたんやけど…でも」
「でも、何?」
「麻琴ここに残すわけにもいかんかなって。掃除、手伝います」
「どぇっ?」


食器を洗っていた麻琴はそれを聞いてマヌケ面で反応する。
ってことは、愛ちゃんと二人っきり?
56 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:48

嬉しいような不安のような気持ちが入り混じって、小川に笑いかける高橋を見た。
――か、かわいいよぅ……


「だってさ。どうする?」
「…あ、愛ちゃんの…したいようにして頂ければ良いかなとでも掃除を手伝って欲しいかなというか」
「何、どっち?」
「て、手伝って欲しいです…」
「それじゃ、ごとー行ってくんねー。そのまま店行くから」
「はい、行ってらっしゃい」


バタン、と扉が閉まる。
これで、高橋と二人きりの空間になってしまった。
57 名前:_ 投稿日:2005/07/30(土) 10:48

そう言えば、こんな具合に二人でいることは初めてかもしれない。
思い返すと仕事の合間に声をかけてくれたり、遠くから微笑んでくれたりするだけだったから。
そんなさり気ない高橋の仕種で、今の片思いの状況になってしまったわけだけど。
何を喋って会話をすれば良いのかと、それが一番の壁である。

「んー…それじゃまず美貴ちゃんの部屋から」
「ゲッ」
「何か言った?」
「や、なんでもないよ…」
「美貴ちゃん、普段から掃除せんから汚いがし」
「……ああ、そうなんだ」

そんなこと、普段から見てて思うけど。
余計な事をまた考えながら、掃除の間だけだけど、二人の時間を満喫することにした。
小川の手を引っ張って藤本の部屋に案内する高橋に、またひとつ想いが募ってしまう。
――ああ、これからどうしよう。



58 名前:さくしゃ 投稿日:2005/07/30(土) 10:50
次回はやっとこでいいらさんとかそれの飼い犬とかが絡めると思います。
乞う御期待なんて言えないよ。
59 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/30(土) 14:46
ヤバい…マジおもろい
ボツネタをリサイクルでここまでとは・・・
60 名前:名無しレディー 投稿日:2005/07/30(土) 18:21
一気読みしちゃいました。
いーですね。ヘターレマコ美貴様やごっちんもいい味出してます!次回もまってます
61 名前:名無しさん 投稿日:2005/07/30(土) 23:23
さりげなく絡んでるあやごまがいいなぁ(^-^)
62 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/30(土) 23:42
あやごまかわいいです。
63 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/07/31(日) 20:51
ヘタレまこを応援したくなりますね。
64 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/15(月) 01:27
麻琴頑張れ〜☆
65 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/15(月) 13:51
更新
66 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:55

わんわん


「ん?どしたの?」
「真希がもう帰るから、寂しいんじゃない?」
「ははぁ、可愛いなぁこいつ」


実家に帰り、まったりした所であっという間に夕方近く。
飼い犬と戯れて、犬は名残りを惜しむように後藤の足下でパタパタと走り回る。
母がそれを抱きしめて玄関まで送ってくれ、久しぶりに休息を得られたのだった。
67 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:56
一日犬を寮で預かる事も出来るが、なんだか騒がしくなりそうなので
やめておくことにした。
だって、ねぇ。
ただでさえ、小川が一泊しただけではちゃめちゃだったのに。
犬なんて連れてきたらどうなるかわかったもんじゃない。
68 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:56
そう思って苦笑いを浮かべながら、信号が青に変わり横断歩道を渡った。
すると、見慣れたやけに大きいベンツが目に入った。
真っ黒の車体に銀色に光るパーツ。いや、気のせいではなかった。

金髪頭に白い肌。
店の常連客、吉澤。

気付いた瞬間に目を逸らしたものの、運転手はバッチリ気付いていた様だった。
今日は自ら運転しているようで、助手席にも後部座席にも誰にもいない。
おそるおそる再確認してみると、にこりと笑ってこちらに手を振っているではないか。
客を無視するわけにはいかない。他の客より断然高い金を払っている事は確かだった。
69 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:57


「…あーあ…めんどくさいなぁ」


もし、この事が藤本や石川にバレたりしたら。

とても面倒な事になると、後藤はがっくり肩を落とし作り笑顔で吉澤にぺこりと頭を下げた。
こんな所に好都合で誰かがいるとは思えないが、もしもの事を考えたら。
仕事中にボロが出ないように自分の肝に命じておく。
そそくさと早足でその場を去ろうとするが、何と吉澤は颯爽と近付いてくる。
「ギャ−」などと心の中で叫ぶものの、避けられない相手だ。
70 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:57


「やぁ、奇遇だね」
「…あはは…そうですねぇ」
「これから仕事?」
「あ、はい」
「そっか、もう夕方だもんね。残念」
「え?」
「もし昼間だったら、デートのお誘いでもしてるんだけど」


ぱちりとウィンクを投げ、相当自分に酔っているようだ。
今日はシックに黒で決めている吉澤の格好はまるでホストそのもの。
自分の弟よりも様になっているなぁなどと余計な事を考えてしまうのだった。

予め言ってはおくが、後藤は藤本達のように吉澤には全くと言って良い程興味がない。
第一キザな男は苦手である。
嫌いというわけでもないが、好んで選ぶタイプではないと思っていた。
でも、吉澤も決して性格が悪いわけではない。ちょっとヘラヘラしているだけなのだ。
71 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:58


「今日、お店行くね。皆に伝えておいてくれる?」
「え?ああ、もちろんです」
「真希ちゃんも。待っててね」
「…あはは」


最後にビシッと決め台詞を口にして、ベンツは遠ざかって行った。
――ああ、寒気がする。
心無しか鳥肌が立ってきて、暑い夏には似合わない人だと思った。
今まで吉澤に指名されたことが無かったため、別に好かれてはいないと思っていたが…そうでもないらしい。
所詮プレイボーイ吉澤の事だから、誰でもいいんだろう。
もちろんです、なんて言ってしまったものの皆には口が裂けても言えやしない。
後藤は冷や汗を拭って、まだ暑い夏の夕暮れを感じながら店へ急いだ。
72 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:58


「あ〜、今日はよっすぃ来るのかなぁ」
「梨華ちゃん合コン行ったくせに、厚かましいんだよ」
「何よ、別に良いじゃない。違う出会いを求めたってよっすぃはよっすぃだもん」
「キショッ」
「美貴、今日は気合い入ってるねー」
「当たり前じゃないですか。今夜こそモノにしますよ」
「むぅー…みきたんにそう言われると自信無くなっちゃうんだよぉ」
「………ははっ」


いつもの、化粧室での光景。
ズラリと並ぶ6人はずっと吉澤の話で持ち切りである。
ただ一人、後藤だけは違った。皆の賑やかな話を聞いて、どうかバレませんようにと願うばかり。
唯一後藤を信頼(正しくは頼りに)している松浦でさえ裏切ってしまうのではないかとビクビクしっぱなしだ。
73 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:59

気合いを入れて、でも濃すぎるわけでもない美貴のメイク。
元々綺麗な顔だちではあるが、これには吉澤もノックアウトだろうか。
そんな美貴を見てしょんぼりとする松浦の頭を後藤はぽんぽんとやって、落ち着かせてやるだけだった。


「あ、愛ちゃん!」


フロアでパタパタ犬のように走る小川は化粧室から出た高橋を見つけて、
今日のお礼を言おうと少しだけ早く店に来ていたのだ。
相変わらず小川の目には美しく見える高橋の姿に赤くなりながらもぺこりと小さく頭を下げる。
74 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 13:59


「き、今日はありがと…掃除」
「ええよ、いつもの事やし。それより麻琴、大丈夫?」
「へ…なにが」
「昨日、ほとんど眠れなかったんじゃ…」
「だ、ダイジョブダイジョブ!全然、ヘーキ、だから…」


――なんでいつも、僕に優しいんだろう。

ヘタレでバカでアホの小川に、高橋だけは呆れる事なく話し掛けてくれていた。
基本的に誰にでも優しい高橋だが、小川にとって自分に笑いかけてくれる事が一番幸せなのだ。
叶わぬ恋と思っていても、つまらない想いは募るばかり。
75 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:00


「お母さんと、話したん?」
「あ…うん。結局反対されたけど、もう、いいんだ」
「いいって?」
「ぼく、一人暮らしするよ。この仕事辞めたくないし、それに…」


愛ちゃんと、離れたく無いから。

そんなこと言える筈も無く、口籠りながらそそくさと雑用に戻って行った。
首を傾げながら、鈍感な高橋はメイクに時間がかかる先輩を呼んで、開店に向けて準備をするのだった。

76 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:01



「「「「「「いらっしゃいませー」」」」」」


今夜も客でいっぱいのフロアは、疲れた顔をしたサラリーマンやお偉いさんばかり。
そのなかで光る存在と言えば、吉澤しかいないわけである。
ニコニコ顔で、先程後藤にしたようなウィンクをすればホステス達もイチコロだ。
さて、今日指名されるのは一体誰であろうか。

77 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:01


「よっちゃん!来てくれたの?」
「うん、美貴に逢いたかったからね」
「もぉ、またそういう事言って…さみしかったんだよ?」
「ハハッ、ごめんごめん。なんか今日、いつにも増してキレイだね」
「ホントッ?」
「うんうん、かわいいよ」


先手を切ったのは藤本。
普段よりもっと色気を出して、必要以上に吉澤にくっつく戦略だ。
いつもと少し違った藤本に、案の定吉澤は目の色を変えて甘い言葉を囁く。
それを見た石川や松浦は唇を噛み締めて我先にと吉澤の席へやってきた。
しかし、藤本の鋭い眼にうまく手を出せない。
78 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:02


すると、予想外の展開に。


「あ、真希ちゃーん。こっちこっち」
「「「え!?」」」
「…へ?」


数人のサラリーマンと楽しく過していた後藤に、吉澤の手があがった。
びくりと反応した後藤は青ざめた様子で席を立ち、サラリーマン達に
笑顔で対応してその場から離れた。
――来たか…。
今日は何となくツイてない一日である。わざと遅い足並みで、吉澤の席へやってきた。
79 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:02


「ちょ、ちょっとごっちん!」
「…う…」
「よっすぃがごっちん呼ぶなんて、どういうこと!?」
「さ、さぁ…」
「……ごっちん、あたし達に隠してた事でもあるの?」
「ち、違うよまっつー…」


あっというまに囲まれてしまった。
そのくらい、吉澤が後藤を呼ぶことは珍しいのだ。
80 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:03


「今日はどーも。いやぁ、道でバッタリ会うなん…」
「いやいやいやいや!!そんなことより、あたしがいたら邪魔なんじゃ…」
「そんなことないよ、真希ちゃんとはあんまり喋った事ないし。こっちおいでよ」
「や…でも」
「おいでってば。オレの事嫌い?」
「そそそそんなことは…ないんですけど」


これはマズイ。周りの、特に藤本の視線が痛くて怖くてしょうがない。
さっきまで藤本の髪を撫でて甘えさせていた吉澤だが、突如後藤に狙いが行ったようだ。
藤本を退けて自分の隣を空け、後藤に座れと言う。
ここは拒否出来ない状況だ。一応常連客なので、断るのもかなり大変なのだ。
81 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:03


「真希ちゃん、3番テーブルお願いしまーす」
「…あぁ!ちょっと呼ばれたみたいなんで、失礼しますっ」
「えー、もう行っちゃうの?寂しいなぁ」

名残惜しそうに後藤の手を握っていた手を離す吉澤。
それを見逃さなかった他のホステス達は悔しがって、後藤を睨みつけた。
あー怖い怖い。ほっと胸を撫で下ろすのも束の間、この後の処理が面倒である。
危機を免れたのは良かったが、寮で何を言われるかわかったもんじゃない。

82 名前:2、後藤の災難〜プレイボーイに御注意 投稿日:2005/08/15(月) 14:04


「…あーしんど」
「何かお悩み?」
「あ、カオリン。悩みじゃないけどさぁ…で、カオリンは吉澤さんいいの?」
「フフ…実はよっすぃ、カオのお父様の御友人の息子さんなの」
「え」
「美貴達みたいにあんなことしなくてもね、簡単なの」
「……ああ、そうなんだ」


ある意味、藤本より怖い。


83 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/15(月) 14:12
うちの美貴様は結構タフですね。
見直してみると嫌な女だなぁと思いました(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
いいらさんごめんねいいらさん粗末すぎた扱いごめんね。

レス返し。


>59 いやはやネタを下さった方に感謝です。書く能力が無いので面白くならないんですよ。でもありがとね。

>60 個人的にまこあい書くのムズイっす。美貴様は妄想力がフルに働く何故だろう。

>61 無理矢理ですよ無理矢理。取りあえずハァ━━━━;´Д`━━━━ン!!!!!!してもらったみたいなんで嬉しいです。

>62 もういっそくっつけちゃおうかな。なんてまだ分りません。マターリ お待ち下さい。

>63 O!GA!WA! O!GA!WA!

>64 ヘタレマコ大好きです。頑張ります。


 
84 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/08/18(木) 14:59
よっちゃんは自分に興味のない子を落とすのに燃えそう(w
ここの設定とかかなり好きなんで頑張って下さい
次回更新期待してます
85 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/28(日) 22:54
更新
86 名前:_ 投稿日:2005/08/28(日) 22:55


「どういう事か、説明してもらおうか」


店の閉店後、後藤の予想通りの展開となった。

テーブルに足を乗せて腕を組み、眼光だけでズズイと藤本は後藤に詰め寄った。
今日こそはイケる!と確信していた藤本の思惑はあっけらかんと大失敗。その上、吉澤の興味は後藤に行ってしまったとなると、この藤本が黙っているわけがない。
せっかく懐いていた松浦でさえしゅんとしてしまい、罪悪感がぐるぐると後藤の頭の中で巡り続ける。

――別に、ごとーが何したって訳じゃ…

というような言い訳がこの女達に通用するわけもない。
本当にただ、道でバッタリ会って、一方的に声をかけられただけなのだ。
何度も同じ説明をしても、藤本は絶対に納得がいかないような目で後藤を睨み続ける。それに続いて石川まで唇を噛み締めて、悔しさを露にした。
87 名前:_ 投稿日:2005/08/28(日) 22:55
「あ、あの…そろそろ店閉めないと、ボク店長に叱られるんですけど…」
「そ、そーだよ。ね?このことは寮でゆっくりと…」
「うっさい麻琴」
「…ふぁい」
「そんな事言ってはぐらかしたってダメだよごっちん。ったく、今さら色目使ってよっちゃんオトそうなんて…」
「…だから、違うってば。全然、そういうの興味無いって言ってるじゃん」
「今更よっすぃの魅力に気付いたって言う事も有り得るよね?」
「……梨華ちゃんまで。もういい加減にしてよ、ごとー眠い…」
「ちゃんと説明しろっての!寝るなー!!」
88 名前:sage 投稿日:2005/08/28(日) 22:56

眠りに落ちてしまいそうな後藤の肩を揺らし、藤本が大声で覚醒させようとする。
小川が言った通りに、もうとっくに店を閉めなければいけない時刻にも関わらずまだ店内でたむろすホステス五人。ちなみに飯田は、さっきの謎の言葉通り余裕綽々らしいので、とうに帰宅している。
他の従業員は帰って、残ったのは小川のみ。藤本は目をいからせて怖いし、これ以上横から口出しすれば拳が飛んでくるに違い無い。
89 名前:_ 投稿日:2005/08/28(日) 22:56

「あたし、先帰ります。亜弥ちゃんも帰ろっせ」
「…ごっちんのバカァ、もういいもん…」
「ンァ…まっつぅー…」
「泣かんでもええがし。そんなに気にすることないざ」
「あれ、愛ちゃんよっすぃはもういいの?」
「もういいっていうか…」
「愛ちゃんは違うんだよねー?」
「…まあ」


少し顔を赤くして、俯いてしまう高橋。その隣にいた小川は藤本の言葉を聞いてポカンと口を開けた。
違うって、どういうことだろう。
以前吉澤に肩を抱かれて顔を真っ赤にしていた高橋が、藤本と同じように吉澤を狙っているわけではないという。
口下手な高橋故、客と話すのはイマイチ上手ではない。そんな高橋に気兼ねなく接してくれる吉澤に少し焦れていただけで、他よりも断然熱は低い。
それを聞いて小川は、みんなの見えない所で小さくガッツポーズをしたのは秘密である。
90 名前:_ 投稿日:2005/08/28(日) 22:57

「…な、なんだそーだったのかぁ…えへへ」
「…麻琴?どうしたん?」
「なっ、なんでもない!」
「笑顔がキモいんだよ。…ったく、今日はここらへんで勘弁してあげるよごっちん。愛ちゃんも帰るって言うし亜弥ちゃんは泣いちゃうし梨華ちゃんはキショいし」
「最後の関係ないでしょ!」
「とにかく、これで終ったと思わないでねっ。ミキのよっちゃんに何かしたら、只じゃおかないから」
「……だからごとーは何もしてないって…眠…」


やっとのことで諦めた藤本はポキポキと拳の指を鳴らし威嚇をして宣戦布告をする始末。そして寝ぼけ眼の後藤はへろへろしながら泣いてべそをかく松浦に弁解をする羽目に。
――ああもう、全部吉澤さんのせいじゃん。
あの時嫌でも必死に逃げておけばよかった。でもきっと追いかけてきたんだろう、あの黒いベンツで。
ハァと心底疲れた顔をして溜め息をつき、やっとこで松浦の笑顔を取り戻した所で、もう倒れそうだった。
91 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/28(日) 22:58
短過ぎてスイマセン。後日続きをうpします故。
登場人物増えるヨカーン。計画性無くてだめ作者だぽ。
92 名前:ダメさくしゃ 投稿日:2005/08/28(日) 22:59
>88の欄間違えました。落ちる所まで落ちてきたorz
93 名前:名無し読者 投稿日:2005/08/29(月) 12:18
ごっちんほんとに災難ですねー
あやごまが仲直りしてくれて良かったです
94 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/30(火) 22:30
更新。もうすったもんだだよorz
95 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:33


「ああ…やっと帰れる」

藤本達の尋問が終り、仲介側の小川は大きく溜め息をついて指で鍵をくるくると弄んだ。
今度からさっさと帰っちゃえばいいんだ。そう後悔して肩を落とすと、なにやら背後から視線を感じる。

96 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:33


「それはこっちのセリフだバッキャロー」
「す、すいません…って、大谷さん!?」
「耳元で大声出すなよー」


大谷マサオ。
小川と同じく、このクラブで働いている派手目なバーテンダーである。
最近は店に顔を出さず店長のつんくも心配していたのだが、閉店後に顔を出すとは一体どういうことだろうか。
ケラケラと笑いながらチャームポイントのメッシュを撫でて、突然小川の手に持っていた店のキーを奪い取った。

「バーカ、これ倉庫の鍵だっつの」
「え゛っ!?」
「ホントにドジだねーマコラッチョも。オレがしばらく来ない間に増々ヘタレ度アップって感じ?」

と小川の髪をぐしゃぐしゃと撫でて、チャリンと大谷の掌にある鍵を押し付けた。
ぱちん、とウィンクをする姿はどこかで見たような姿である。
97 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:34


「な、何してんですかこんな所で!しかも店が終った後ノコノコ現れるなんて…」
「うるせーな有給取ったの!こんな所でって、オレ一応ここのバーテンだから。しかもお前より先輩だから」
「有給って…どうせまた自己的にさぼっただけのくせに。っていうか何してんですかホント」
「店に顔出そうと思ったら、もう閉まってやがんの。閉店時間忘れちゃってさーあはは」
「アハハって…」


自由気侭に生活している大谷のことだ、長期に渡って仕事を休むのはしょちゅうである。小川はそのことを承知で渋々後輩になったのだ。
でもわざわざクラブに顔を出してきたのは、何か意味でもあるのだろうか。
倉庫の鍵でなく、正真正銘の店の鍵を渡された小川はやっと家に帰る事が出来ると思い、ホッと胸を撫で下ろす。
ホステス達はとっくに店の外で小川を待っているはずだ。
――…やばい
98 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:35


「とっ、とにかく詳しい事は明日話しましょう!早く店閉めないと…」
「…なーマコラッチョ」
「はいっ?」
「オレ、結婚するかもしんない」
「はぁっ!?」
「この事誰にも言うなよ。みんなに心配かけたくないから」


てへへ、と照れるように笑った大谷は身軽そうに階段を登り、唖然とする小川を放って、裏口から出て行ってしまった。
今の笑顔は、いつもの笑顔じゃなかった。いつもの、大谷マサオじゃあなかった。
一足先に行ってしまった大谷を追いかけて、もっと詳しい事を聞きたかったけれど。

――本気で言ったのか?
引きつった大谷の微笑みが、気になってしょうがない。
99 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:35



『この事誰にも言うなよ。みんなに心配かけたくないから』


――そんな事言ったって…


100 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:36

「麻琴?」
「…ハァ」
「おい、麻琴」
「…え…?あ、なんだ藤本さんか…」
「なんだって何だ。ビールちょうだい」
「ちょうだいって、お客さんの所行かなくていいんですか?」
「いーの。今日は雑草しかいないし」
「…ざ、ざっそう…」


心無いというか、客を神様と崇めている他のホステスとは大違いの態度である。
『所詮女のケツ追っかけてるだけのジジーだよ』
だったら吉澤はどうなんだ。客を放ってビールを飲む藤本に、小川は心の中でボソリと呟いた。
101 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:37

考え事をしていた。それはもちろん、大谷の事。
仕事に帰って来た早々結婚宣言をされても、こっちは動揺するばかりだし、今夜は店に来ないし。
もっと詳しく話してくれるのかと思えば、小川が心配して電話をかけても出る事はなかった。
ただ単に自分をからかっていただけなのだろうか。
――でも、心配かけたくないって…

ぼうっと口をあけてグラスを磨いていると、横でくすくすと笑い声が聞こえた。
我に返って振り向くと、そこには高橋の姿が。
今のアホ面を見られたかと思うと、今さらながら恥ずかしいものがある。
102 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:37


「どしたの、口開けてボーッと」
「…あはは、ちょっとね…」
「麻琴、熱でもあるん?」
「なっ、ないよ…わ…


心配そうな顔をして、そっと小川の額に手を当てる高橋。
願ったり叶ったりな小川だったが、顔を赤くして硬直するばかりである。


「なあ、熱いんやけど…」
「そそそんなことないよ!大丈夫、だから…」
「顔も赤いやよ。奥で休んでれば?」
「ホント大丈夫だからっ…あはっ、あはは…」


額に触れられた時点で、大丈夫なわけがない。しかも、想い人に。
わざわざ話し掛けてくれたのにも関わらず、誤魔化して自分からフロアに向ってしまう始末。
せっかくのチャンスをこうやっていつも無駄に費やしてしまうのだ。
じつにヘタレだ。
103 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:38

大谷のことは、やはり黙っていられるわけがなかった。
皆には言えなくても、せめて店長――つんく♂だけには報告しておかなきゃ。

104 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:38


「そんなん、知っとるけど」
「えぇぇ!?」


派手目なスーツを身に纏ったつんく♂の個人室はやはり派手。
そのなかで一人浮いた小川は、口をあんぐりと開けてつんく♂の一言に固まった。


「し、知ってるって…大谷さんが自分から言ったんですか?」
「そらそうや。黙って長期休んですんませんでしたーつって、そしたら急に結婚する言うて」
「…休んでる間どこ行ってたんだか…」
「それが、彼女の実家らしいで。父親説得しとったとかなんとか」
「……はぁ?」


――そこまで話が進展してるんだ…

というか、つんく♂もよく許したものだ。黙って休んでいたにも関わらず。
仕事を倍に増やされた自分の身にもなって欲しいと小川は文句を言いたい気分だった。
105 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:39

「急に電話かかってきた思たらそないな話でなぁ。何時頃すんのか聞いたら誤魔化されてん」
「…そう、ですか」
「もしかしたらやけど、まだ父親に許しもろてへんのとちゃうかな」

第一、大谷に彼女がいたということすら知らなかった。
つんく♂にはしっかりと報告していながら、ぬけぬけと今夜は仕事を休むとは。
――大谷さんにしちゃ、真面目だな。
大雑把で女遊びの激しい大谷が、わざわざ実家まで挨拶に行くなんて。

106 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:39


「えー!マサオくん来てたの!?」
「ハイ、昨日の夜顔出して来ただけですけど」
「麻琴、何で黙ってたん?」
「い、いや…なんか言いそびれちゃってさ…」


仕事の空き時間、小川は大谷が店に来ていたという事のみ報告した。
結婚どうのこうのなんて口にしてしまったら、ややっこしいことになるに決まっている。
ましてホステス達にうっかり言ってしまえば根の葉も無い事を噂にして、小川の身が危険だ。
頬杖をついて松浦は大きい溜め息をつく。松浦にとって大谷は良い兄的存在であり、後藤と同じように頼れる存在なのだ。

107 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:40


「でも何で今夜は来ないの?もしかしてお店辞めちゃったとか?」
「い、いや…そうじゃないみたいですけど…何ででしょう…」


それは小川にも、分からない。
ただの気紛れで遊びに来ただけなのかもしれないし、あれが最後の言葉だったとか。
でも、結婚すると言っただけで消えるなんてことは…

――大谷さんが、店を辞める?だって、戻って来たばっかなのに?

108 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:40


大豪邸、吉澤宅。

「おぼっちゃま、何処かお出かけでございますか?」
「…じい、いたの?」
「ええ。御主人様の言伝で、おぼっちゃまの監視でございます」
「……監視って、動物じゃないんだから」


――あー、だりー。


大きな屋敷の、大金持ちの資産家息子 吉澤。
自分で染めた大雑把な金髪と長身、甘いマスクでクラブのホステス達を魅了する人物である。
今夜もクラブ『ムーンライト』へお気に入りのベンツと一緒に向おうと部屋を出た瞬間、仕えている世話係に捕まってしまった。
最近夜遊びが激しいからと父親のきつい仕打ちである。吉澤は肩を落として渋々部屋に戻った。
109 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:41

普段のプレイボーイっぷりとは反転して、家では大人しめの青年の吉澤。
相変わらずのナルシストは変わりないのだが、一人きりの広い部屋の中では大きいダブルベッドでごろごろと暇を持て余すばかり。
大学生という身ではあるが殆ど学校には行かず、父親の仕事を手伝っている。
父親はそれを黙認しており、私生活について口を出す事も滅多になかったのだが、夜遊びばかりは許してはくれない。

それは吉澤を心配してでのことではなく、あくまでも世間体を気にして、ということだ。
薄々勘付いてはいたが、母親が亡くなってから父親は自分に興味がなくなったと感じていた。
仕事一本で家にいることは余り無いが、いたとしても吉澤と会話をすることはない。それは仕事でも同じだった。
血が繋がっているとか、親子だとか。そんなことを考えた事は、吉澤も父も一度もないという。
110 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:41


「梨華ちゃーん、亜弥ちゃーん、カオリーン、美貴ぃー、愛ちゃーん、…真希ちゃーん」


お気に入りのホステスの名前を次々と叫ぶ。
お気に入りと言っても、店では吉澤の瞳にうつる女は全て美しいものでしかない。
この暇を持て余している時間すら勿体無い。クラブで遊びまくって、ホステスと戯れあうのが吉澤の生き甲斐なのだ。

ゴロゴロしている間に、良い事を思い付いた。
部屋の扉から出られないなら、窓があるじゃないか、と。
111 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:42


どこからか長い丈夫そうなロープを取り出し、窓を開けて地面に垂らす。
無茶言うな、ここは4階だと誰かが止めても、吉澤の決意は変わらなかった。もしこれが誰かに見つかって、父親に報告されてしまったら。怒りはしなくても、無期の自宅謹慎処分が下るだろう。
なんせ自分は成人していない身で、一人暮らしもさせてくれない。
普通大学生なら一人立ちをして、マンションをかりて優雅な一人暮らしを送るだろう。だが、吉澤の父は厳格な性ゆえ、なかなか自分を自由にさせてくれない。
好き勝手をさせてくれる分、縛り付けられていることには変わらない。

ぐっと縄に力を込めてするすると地面まで降りて行く。
こういうアグレッシブな体験はまずしないであろう、まして資産家のボンボンである吉澤ならば。


「誰もいないよな…っと」


無事に裏庭に降りる事ができた。縄をぽいっと投げ捨て、正門からでは監視カメラに見つかり兼ねないので裏口を飛び越えて車庫のパスワードを入力する。
ここで大きなシャッター音が響くので、どうか誰にも気付かれませんようにと吉澤は両手を合わせた。
112 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:42


ブンッ



「…んはは、だいせいこー♪」



――こんな家でじっとしてられるかっ。


無事エンジンをかけ、夜道でもぴかぴかと光り走り出す。
もちろん行き先はクラブ『ムーンライト』。
夜遊びこそ命。年を誤魔化してまで出会いを求める吉澤には、何か理由があるに違い無い。
でもそれは、ホステス達にも、唯一の父親にも分からない。

何かを探して、今日もベンツは走る。

113 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:43


*    *    *    *    *
114 名前:3、それぞれの〜×× road 投稿日:2005/08/30(火) 22:44


*    *    *    *    *
115 名前:さくしゃ 投稿日:2005/08/30(火) 22:47
増えました男役。ああもうグダグダです。マサオはきっとこんなんじゃない。

>84 すいません前回返レス忘れてましたorz…よっちゃん、誰を選ぶんでしょうね。それは作者にも不明。

>94 レスありがとうございまーす。あやごまはやっぱガチ。あやみきに負けずガチ。
116 名前:7氏飼育 投稿日:2005/08/30(火) 22:49
更新乙です
まさかここであの方が登場とは・・・・・サイコーですw
今の髪型ってどんななんですかねぇ

よっちゃんのアクティブな行動には脱帽です

次回更新期待して待ってます
117 名前:はち 投稿日:2005/09/17(土) 23:48
更新乙です
今のあの人の髪型は最上級にかっけーですw
ごっちんのポジションがさりげなく大好きです
よっちゃんに幸せにしてもらってw
118 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/06(日) 22:28
お待ちしとります
119 名前:さくしゃ 投稿日:2005/11/21(月) 17:07
早く終るとかほざいておいて長らく放置してしまいました。
何分わたくし受験生なもので、執筆にちと時間がかかってしまいました。
おそらく今月中には話をうpできると思いますので、しばしお待ちを。
レスを下さった読者さま、感謝です。
120 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/11/21(月) 23:08
> 119
当然受験優先でw

気長に待ちますよ
121 名前:名無飼育さん 投稿日:2005/12/12(月) 03:33
突然失礼します。いま、2005年の飼育を振り返っての投票イベント
「2005飼育小説大賞」が企画されています。よろしければ一度、
案内板の飼育大賞準備スレをご覧になっていただければと思います。
お邪魔してすみませんでした。ありがとうございます。
122 名前:けん 投稿日:2006/01/10(火) 22:47
一気読みしてしまいました。
かなりハマってます。
次回を期待しています、学業優先は勿論
焦らず自分のペースで書いて下さい。
自分も同じ立場なので、ちょこちょこ覗きにます。
123 名前:さくしゃ 投稿日:2006/03/14(火) 21:46
皆様御無沙汰してます。長い間放置してしまい本当にお待たせしました。
今回はちょっと違った感じで、藤本さん主体のお話。
誤字脱字等大アリでしょうが見逃して下さい。では、どうぞ。
124 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:47

ずーっと、一人だったワケよ。誰にも頼らないで、ずっと一人で生きてたんだ。
寂しくなんて無かったよ。だって、生まれた時からずっとそうだったんだもん。
人からもらう愛情も知らなきゃ、人にあげる愛情も知らなかった。ていうか、知りたくも無かった。
このまま一人で生きて、死ぬ時も一人なんだって思ってた。

だから『此処で働かないか』って拾ってもらった時、死ぬ程嬉しかったんだと思う。
本当は泣きたくてすがりつきたくてしょうがなかったんだって、気付いたんだ。




125 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:48

トランクの中に詰められた、白い粉が入った袋。
それに触れた瞬間、周りの大人達に思いきりぶたれた記憶がある。
『がきがさわるもんじゃねぇ』って、血管を剥き出してすごく怒っていた。
それが覚醒剤だったことなんて五歳の女の子が知る訳ないでしょ?それ位、酷い世界だった。
派手なスーツを着ていかつい格好をした男の人に囲まれて育った美貴にとって、殴られる事くらい日常茶飯事だった。
此処で泣いたら負け。だから美貴は、周りのちいさな子と比べて負けん気の強い子供だったと思う。

両親共にヤクザの幹部で、学校へ通ってても友達はなかなか出来なかった。
世間体。親の存在が知られる度に転校ばっかりして、満足に親友と呼べる友人は作れなかった。
家に帰っても煙草の臭いが充満していて、お母さんはろくに美貴の相手もしなかった。
唯一覚えている事と言えば、毎日のように美貴を無視し続けていた事だ。
126 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:49


『どけよ、クソガキ』


剥き出しになった腰のあたりに、熱い感触がじわじわと広がった。
大声を上げれば誰かしらが駆けつけに来て、美貴はボコボコに殴られる。
だから喚き散らして泣きじゃくることも、その場から逃げ出す事もできなかった。
煙草の火がオレンジ色に光って、じゅうっと肉の焼ける臭い。

127 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:49



「今でもたまに思い出すんだ。客が…お母さんと同じ煙草吸ってる人見るとさ、なんか恐くなっちゃって」


それでも、そんな生活の中で楽しいこともあった。
お父さんの存在。どんなに周りが美貴を虐めようと、お父さんだけは優しかった。
美貴が酷い事をされている事にも気付かないで、たまに帰って来ては頭を撫でてお土産をくれた。
背中には大きな虎の入れ墨が彫られていた。何故だかその入れ墨が誇らしくて、ほんとうは友達に自慢したかったくらい。けど、そんなこと言える訳ないじゃん?うちの親父はヤクザです、って言いふらすなんてさ。


『いいこにしてろよ。今度帰って来た時は、何処か行こうな。美貴は、どこに行きたい?』
『みき、焼肉食べに行きたい!お父さんとふたりで行きたい!』
『そうか、二人でか。じゃあ約束な』
『うん!!』


128 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:50

ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。
ゆびきった。

129 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:50

ギャグじゃないけど、その後ホントにお父さん指切っちゃって、びっくりした。
美貴を焼肉に連れて行く約束をしてから暫く経って、お父さんは左手の親指を失っていた。
この世界で言うケジメをつけるための証だった。どこか痛々しい包帯を見て、美貴は悲しくなった。
結局お父さんは約束を守ってくれなかったし、破るだろうってことくらいは何となく分っていた。
年の割にしっかりしてたと思う。人に構ってもらえない分、やらなきゃいけないことはちゃんと理解してたから。

130 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:51

美貴が中学を卒業して、あっけなく逝ってしまったお父さん。
別の組合と縄張り争いの喧嘩に巻き込まれた上、酷い薬物中毒の症状が現れていた。
悲しいとかそういう気は全く起こらなくて、自分でも信じられなかった。
可愛がってもらった筈なのに、どうしてなんだろう。今でも、よくわかんないや。

結局、『家族』っていう印も無かったし、優しくしてくれた赤の他人だったのかもしれない。
そんなもんだった。美貴にとっての家族=赤の他人。おかしいでしょ?でもこれが美貴なんだよ。


お父さんが死んで、すぐに家を出た。
すごく大変な計画だった。中学生になってからは、時間があれば家を出る事ばかり考えてた。
高校に進学する事や就職する事なんて考えもしなかったな。なんでかって、生きる事だけで精一杯だったから。
学校の先生なんか頼りにならなかったし、美貴が虐待されてることにも気付かなかったんだ。
あんな大きい傷付けて歩いてたのにね。多分、見て見ぬフリしてたんだろうな、きっと。
131 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:51

まだ寒い三月の半ば、計画は実行に移された。
真夜中にそっと家を抜け出し、消息を知られないように家の持ち物は殆どカバンに詰めて行った。
お母さんはきっと美貴を逃がしたく無かった。自分が死んだ後、組合の座を継いで欲しかったんだと思う。
追ってくる幹部の男達から、必死の思いで逃げた。
来た事のない街や、通った事のない知らない道の裏へも駆け込んだ。美貴は、汚れていた。


煙草は勿論、酒でも窃盗でもなんでもやった。
だけど、どうしても街で売っているクスリには手を出す事が出来なかった。
何故かって考えてみたら、薬が身体にどんな影響を与えるか知っていたから。
実際に父親がそれで死んだ事もあるし、組合が売っていた覚醒剤や麻薬が身近にあったし、
『良いモノ』っていう印象はなかった。

132 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:52



「みんな狂ってた。美貴の周りにいた大人も、同い年の子も使い回して結局サツに捕まったし…死んじゃった
子もいた。なんかさ、目の前で人が死ぬのって何回見ても慣れないんだよね…まだ人のにおいとか、残ってて」



そんな時だった。
組合の人間や警察から逃げ回っていたそんな時、美貴を拾ってくれた。


『なんや、君かわいいやん。オレの店近いんやけど、ちょっと付き合わへん?』


派手なスーツに、派手な色の髪。
美貴にとっちゃ見慣れたそこらへんヤクザに見えたけど、なんか少し違う。
へらへらした顔で美貴の手を掴んで、ずるずると連れ回された。
なんでかなぁ、抵抗出来なかった。悪い人に見えなかったし、別にヤり逃げされてもお金くれそうだったし。
別になんてことはなかった。少しでも触らせてあげれば、此処に居る人間は金をくれる。
133 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:53


看板がちかちかと点滅して、男は立ち止まった。
相変わらずニヤニヤと笑い続けるその人は美貴の手を解き、店の中へ入って行ってしまう。
まるで、美貴を試しているかのようだった。
『入るか入らないかは、君の自由やで』
下手にウィンクをされ背筋が凍ったのと、半信半疑の気持ちが入り混じる。

気が付くと、美貴の手は店の扉にあった。


134 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:53


「それから寮に入れてもらって、基本から飯田さんに全部教えてもらって…大変だったけど、楽しかったよ。
意外と良いモンでさぁ、今までみたいにオッサン達と喋ったりお酒注いだりしてるだけで金ががっぽがっぽ手に入るし。大金入ったら最初はすぐ辞めるつもりだったんだよね。でも、なっかなか辞められなくてさ」


ホステスの接客業なんて、お触りさせりゃ金くれるもんだと思ってた。
ラブホとか連れて行かれて成りゆきで押し倒される事もあるんだろうとか、汚いイメージばっか。
でも、そんな事なかった。お客として美貴に会いに来てくれる人や、入ったばかりで慣れない新人に優しくして
くれるお客もいた。
水商売だからって、身体を許す仕事じゃない。仕事を始めて1年が過ぎた時、とうとう店のナンバー2まで上り詰めた。

135 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:54


「嬉しかったなぁー、あの時は。金儲けてお終いにしようって思ってたのに…ハマッちゃってて、次の給料もらったら辞めてやる、また来月の給料もらったら辞めてやるって、どんどん辞められなくなっちゃうんだ」


こうなったら、飯田さんを抜いてナンバー1のホステスになってやる。
絶対誰にも追い抜かされない女になってやるって、闘志剥き出しで接客やってた。
もちろん、それは今もだけど。残念ながらまだナンバー2止まりだけどさ。


この仕事をやってたから仲間もたくさんできて、自分が変わったような気もする。
生まれてから死ぬまで一人で生きて行くんだって、寂しいまま死んで行くんだって確信してた
美貴に、生き甲斐が出来た。
まぁ、今はナンバー1の座に着くまで死ねないって思う。売り上げも伸ばさなきゃいけないし。

136 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:54


「たまに、ほんのたまーにね。お客に外食奢ってもらったりすると、お父さんともこういう事出来たのかなぁって。でも、なんか変だよね。死んだ時はあっさりしてたくせに、お父さんと近い年の客に情湧いちゃうんだもん」


美貴が働き続けてる理由。たぶん、親孝行したいって、心の隅っこで思ってるから、かな。


137 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:55





「…っ…ひっくっ…うわぁぁぁぁーー!!!」
「まっ…麻琴ぉ…っく…泣きすぎやよぉ…」
「っ…愛ちゃんだって…泣いてるじゃん…エック」
「そーゆーまっつーだってっ…ない、泣いてるじゃんよぉぉ」
「美貴ちゃんにそんな過去があったなんてっ…知らなかったよぉ」
「だって言ってなかったもん。てか皆感情高ぶり過ぎだから」
「落ち着いていられますか!?ふじもとさんの生い立ちが余りにもひどすぎてっ…グスッ…」
「酷いってなんだよ酷いって。ほら、みんな帰ろうよ。店閉めなきゃいけないし」
「うあぁぁぁん」
「…あーもう、話さなきゃ良かった」


頭を項垂れて肩を落とす藤本の背中からぎゅうぎゅう抱きついてくる愉快な仲間達。
おかげで新調したばかりの服が涙でビショビショである。
138 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:55


「…っごめんね美貴ちゃぁん!私が『美貴ちゃんの家族ってどんな風だったの?』なんて聞くからぁぁぁ!!」
「べ、別に良いってばもう昔の事なんだし。話し過ぎたの美貴が悪いんだから」
「ぼ、ぼくもすみませんでした…『藤本さんはどうしてこの仕事に着いたんですか?』なんて聞くからぁぁ!」
「だ、だから良いってば。そういう話に持って行ったの美貴からだし」
「僕なんて…ぼくなんてただ親元から離れたいってだけの理由なのに…うわぁぁぁん!!」
「……あーっるせえな、もういいっつってんだろがよ」


過去の事をぐだぐだと言われるのは好きじゃない。照れ隠しの代わりに、美貴は小さく呟いた。
しがみついてくる仲間をひっぺがし、泣きじゃくる後藤と松浦をなだめ、その日は珍しく皆と一緒に帰った。

139 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:56


「え、なに」
「いいじゃない、たまには手繋いだって」
「キショッ。離してよ」
「んはは、ミキティってば素直じゃないんだから」
「え?ちょ、ごっちんまで」
「えへへぇ、あたしもー。愛ちゃんも」
「うん!」


五人の影が、街灯に薄暗く照らされる。

美貴の手を握って歩くたびに、照れて離れようとする意地っ張りな抵抗。
それでも繋いだ手を無理矢理に解く事はなく、仲良く寮へと続く家路を歩いて行く。


140 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:56


「ねー、ミキティ」
「…な、なに?」
「一人じゃないよ。ごとー達がいれば、寂しくないでしょ?」
「そうだよ。美貴ちゃんには、私達がいるんだよ」
「意地張ってないで、もっと頼って欲しいんやで?」
「うじうじしてっと、ナンバー2はあたしが奪っちゃうからねん♪」


思わず、目頭をおさえたくなる。だけど、泣いたら負け。そのルールは、昔も今も変わらない。
繋いだ手をぶんぶんと振って、泣きそうになる自分を知られたくなくて、美貴は俯いて歩いた。
頭を撫でられるのもいつもは嫌いな筈なのに、今日だけは許してしまうのだ。

一人じゃない。寂しくなんか、ないんだ。




141 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:57


「…っ…上等じゃん。それじゃ、寮まで競走」
「へ?ああっ、ミキティずるい!」
「ちょっとぉ、そのカッコで走る気!?ごっちん待ってよぉー」
「よーしっ、負けないがし」
「愛ちゃんまで!?私そんな元気ないよぉー」



深夜にぎゃあぎゃあと騒ぐ女、五人。
街灯の明りに照らされて、美貴は上を向いて走り続け、涙を堪えて思いきり笑った。




142 名前:番外編 〜家族〜 投稿日:2006/03/14(火) 21:58


〜飯田宅〜


「外が騒がしいね。カオ、見て来る」
「猫か何かでしょう。御心配は要りませんよ」
「そうかな。なんか聞き覚えあるような声だったけど」
「…そらみみ、でしょうな」
「ううーん、そうかな」


美貴達が寮へ向う途中通り過ぎた大豪邸は、飯田宅であった。
不審に思い窓から覗いて見ると、ミュールを脱ぎ裸足で走る見覚えのある背。


「……美貴達だけでずるいな。カオも混ぜてよー」


もちろんその声は、美貴にも後藤達にも、聞こえない。




143 名前:さくしゃ 投稿日:2006/03/14(火) 22:07
あ…finっていれるの忘れたorz
いつのまにか板が統合されてたりハローさんが色々目まぐるしく活動してらしたりと大変ですね。
近況だとDIF.DIVAの皆さんが再び始動だとか。あ、あやごま再来…(*´∀`)ポワワ   

たくさんのレスありがとうございました。更新出来ず申し訳orz


>116 お待たせしてすいません。何ヶ月経ってるんだろ…・゚・(ノД`)・゚・
よっちゃんは後日また素敵な登場をする予定なのでしばしお待ち下さいませ。

>117 おぉう、よしごま希望ですか?どうなるんでしょうねぇ(他人事

>118 お待たせしました。御期待に添えられずorz

>120 なんて心優しい読者様でしょう(´Д`)少しづつですが更新出来る様にしたいと思います。

>122 同志発見(マテ 結局更新出来ずじまいでゴメンナサイです。


144 名前:さくしゃ 投稿日:2006/03/14(火) 22:10
某番組でののが出演しているのを見て少し胸が傷みます。
いつか帰って来ると信じてヲタやっていこうかななんて思います。
たっぷりと残されている春休みを有効に使って更新速度も上げたいです。

…今週のハロモニでオトコマエなよっちゃんを見て色々妄想しちゃいます。
なーんであんなカッコ良いんですかね。

マターリがんばります。
145 名前:名無飼育さん 投稿日:2006/05/02(火) 17:38
待ってますよ
146 名前:けん 投稿日:2006/07/11(火) 17:41
久しぶりに覗いてみました
待ってるよ。
147 名前:名無しのナナ 投稿日:2006/07/12(水) 01:16
もどってこーい。
148 名前:通りすがり 投稿日:2006/07/12(水) 07:46
落として

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